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[17377] 【ネタ】異世界から帰宅した男
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/18 22:17

前書き
特に書くことがない(´・ω・`)

##########

苦節300年、ついに魔王を倒した俺は地球に帰ることになった。

魔王を倒したおかげで力が膨れ上がり異世界転移の魔法を修得できるようになったからである。



300年前、わけもわからず日本から勇者として召喚された俺はどこぞやのRPGみたく戦わされ、時には死にかけ、時には生きていることに感謝し、時にはガチで死んだ。

それでも戦い続けられたのは魔法という技術を覚えるのが楽しかったり、周りが美女ばかりだったり、どことなくゲームをしているような感覚があったりしたからだろう。

特に美女ばかりという点は他の理由と比べると頭が一つ抜けている。

地球で「ブサイク」だの「美人」だの言ってるのがあほらしくなるほどだ。

「地球人=ブサイク」で決めつけてもいいようなレベルだった。

だから俺も召喚されたときはかなり陰口を叩かれていた。

「あんなブサイクが勇者とかwwwwどっちかって言うと魔王じゃね?www」

「やだww魔王に失礼よwwww」

こんな感じである。本気で魔王と手を組もうかと思った。

まぁそういった陰口は召喚されて数日経つと俺の魔力が桁違いに大きく、かつ、さらに膨張していることがわかったおかげで次第に収まり、俺は一応崇められた。

耳に入らないようにされていたかもしれないので陰ではまだ言われ続けていたのだろうが。

しかし1年かそこらで人々の大半は俺の顔に慣れたらしく、曰く

「よく見るとそこまでブサイクじゃないかもしれない。」

だとか。深く傷付いた。

そんなこんなで300年、俺は色々寄り道をして魔王を討伐したわけだ。

当然女の子たちとはXXXなことしたよ? 美少女たちとのXXXはなんていうか『異世界って最高!』の一言でした。

でもさすがに300年も経つと、懐かしいなんて陳腐なものじゃなく、「どんな世界だったかなー」という純粋な興味で地球に戻りたくなるものだ。

「じゃあ行ってくる。」

「気をつけて行ってきてくださいね。」

「おみやげよろしくー」

「また100年後にー」

「あぁ、またな。」

その言葉を最後に俺は300年前の地球、俺が行方不明になった直後に転移した。




[17377] 第1話:帰宅
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/18 23:22

転移した俺はさっそく自分の家に帰ることにした。

日本に設定したのにインドに着いたのは予想外だったが。

随分アバウトな転移である。

だがステルスしつつ飛翔魔法で音速の20倍まで達することのできる俺にはそう大したことではない。やっぱり魔法は凄かった。

まぁ実際生身で音速超えるなんてどう考えても粉塵と化してしまうので、防御魔法を視野に入れると5倍程度になってしまうのだがそれでもすごいものはすごいのである。

日本に着いた俺は東京の西にある田舎町に人知れず着陸した。

俺の住んでたところは確か……

まぁいいや。新宿にでも行けば思い出すだろう。

そう思いお金を出そうと……うわこれ日本のお金じゃないどうしよう。

まぁいいか。警察にでも駆け込んで家に送り届けてもらおう。ちょうど近くに駐在所があったしな。

『すみませーん。』

「ん?」

おぉ間違えてあっちの言葉を使ってしまったよ。日本語、日本語っと。

ちなみに服装はしっかりと現代人なので不審に思われることはない。というか久しぶりに日本人見た。

ぶっさいくだなぁ……

「あぁすみません。えとですね。僕お金が無くて家に帰れないんですよ。」

「えっ」

「えっ」

「あ、でしたら電話貸しましょうか? 親の方か知り合いの方に連絡するくらいなら構いませんよ。」

「伝輪……? あー電話のことか。いえそれが電話番号忘れちゃいまして。」

電話番号どころか電話のことすら忘れていたのは秘密だ。

「ふむ。住所はわかりますか?」

「23区のどこかにあるぐらいは覚えてるんですけど。」

警官が吹いた。

「……そ、そうなのか。名前はわかるかい?」

「北条勇樹です。北条政子の北条に勇ましい樹林の勇樹でほうじょうゆうき。」

「わかった。ちょっと待っててね。捜索願い出てないか確認するから。」

そう言って奥に引っ込んだ警官。鼻をほじりながら待っているとすぐさま帰ってきた。

「一週間前に捜索願いが出ていたらしいですね。本部が親御さんに連絡すると言っていたので、とりあえず近くの警察署まで送りますよ。」

「わざわざありがとうございます。」

「いえいえ、これも私の仕事ですから。」

一週間前に捜索願いってことは転移する時間ミスったな……。それにしても日本の警察って意外と優秀なのね。

警察署に着いた俺は休憩室のような所に放り込まれ休むように言われた。一応事情を聞きたいらしいのだが記憶の欠如が見られるとのことで後日聞くのだとか。

途中色んな人を見掛けたがどれもブサイクだった。つーか見分けつきにくすぎる。

あっちの世界に召喚された当時は美人すぎて見分けがつかなかったがこっちに帰ってきたらそれはそれで見分けがつかん。

例えるなら「このオークとあのオーク、どっちが綺麗でしょう?」といった感じだ。

かろうじて年齢が分かる程度だ。これって結構キツい。

「あと10分ほどでみえるみたいですよ。」

「ありがとうございます青木さん。」

「や……僕は田中なんですが……」

え、なんだって。さっき青木って言ったじゃねーか!

「すみません田中さん。ちょっと記憶が混乱してて。」

大嘘である。悪いのはお前らの顔が似すぎだからだ。ちゃんと目立つとこに名札つけないとわからないだろ。

しばらく田中さんとやらと会話しているとものすごい勢いでドアが開き俺に近寄ってきた。

おそらく状況から予測してこの人間の雌が俺の母親なのであろう。

「ゆーき! ゆーき! ゆーき!」

めちゃくちゃに涙を流して俺を抱き締めた俺の母親。顔がぐちゃぐちゃで気持ち悪い。

正直母親じゃなければファイアボールをぶつけたいところだ。察しの通り、オークの弱点は炎なのである。

母親の名前はとうの昔に忘れてしまったので誠に遺憾なのだが「母さん」と呼ぶことにした。あくまでも仕方なくである。というか俺もオークっぽいってことかよ畜生!

「ごめん母さん心配かけて。」

ヘドが出そうだが仕方ない。仕方ないことなんだ。これが母さんなのは事実で真実で一つなのだ。

「か……母さんね。心配で……あ、ううん。でもゆーきが帰ってきたからそれでいいの。」

そう言ってまたわんわん鳴き始めた。そっか、まだ40歳手前のガキなのか。そう思えば、オークの子供と思えば我慢できる。

名前がたまたま「カーサン」だっただけだと。俺はそう思い込むことにした。

それから一時間、俺が何をしていたかなど話していたが気が付いたらこの辺にいた。何をしていたかよく覚えてないし俺が誰で友達が誰だったのかもあまり覚えてない。そんな話。

途中から非戦闘型オーク♂・トーサンが乱入したが、彼はうっすらと涙を浮かべるだけでしばらく立ち尽くしていただけだった。

俺は「そういえばこれは家族の再会なのかー」なんて他人事のような感想を抱きながら300年ぶりに帰路に就くことになった。



[17377] 第2話:登校
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 00:30

帰宅した家は一言で言うと狭かった。

3LDKらしい。LDKなんて言葉を覚えてるのは向こうの世界でもよく使っていたからだ。俺がよく使っていたから向こうの世界でも広まったというのはどうでも言い話だ。

俺が使っていた家は349LDK35という広さだ。

349個の部屋と35個のLDKという意味である。簡潔に言うとデカい。

そして300年ぶりの自分の部屋に入ったら狭すぎて泣いた。俺の家のトイレより狭かった。

夢でたまに自分の部屋を思い出すことはあったが年々美化されていたんだなー。

それといちいち向こうの世界の家とか言うのがめんどくさいので向こうを俺の家、こっちをトーサンの家と命名する。

まず、自分の部屋が狭いのは落ち着かないので部屋の中に魔法でミニチュアな家と庭を作ることにした。

俺ほどの大魔法使いになると家くらい簡単に作ることができる。

所要時間3秒。立派な家が誕生した。この世界にいる間はおそらくこの家を使うことになるだろう。

当然見られるとややこしいので常時ステルス及び接触不可魔法をかけておく。

作った家の大きさは1LDK。その1が東京都と同じくらいあるのだが。

以後これを別荘と呼称することにする。

そろそろ夕飯時だそうで別荘から出てリビングに行くと、結構なご馳走が並べられていた。なんでも帰ってきてすぐ買ってきたらしい。

うまそうなピヨム……あぁ違ったトンカツか。豚は久しぶりに食べるからな。

「「いただきます」」

両親がそんな言葉を放ちご飯を食べ始めた。

いただきますなんて200年以上使ってなかった気がする。箸は使ってたけど。

俺はなんだかんだ言ってやっぱ故郷なんだなと思いつつ少しだけ涙を流してご飯を食べた。

ご飯の味が向こうとさほど変わらなかったのは救いだ。まずかったらいますぐ世界転移を考えたところだ。



翌朝早く、トーサンと共に学校に向かうこととなった。

俺学生だったっけ? 中学生なのか高校生なのかどっちだったろうとか思いながらトーサンのあとをついていくと

『私立山形高校』

と表札に書かれた高校に辿り着いた。東京にあるのに山形とはこれいかに。

山形高校に入り、さらに職員室に入るとスラッとしたスーツを着た細くて小さいオークが話し掛けてきた。

「北条くん久しぶり! 元気だった?」

怪訝な顔をしているとトーサンが俺に挨拶を促した。

「お前の担任の白川先生だ。覚えてないのか?」

誰だよ。

「お久しぶりです。白川先生。今日も綺麗な服ですね。淡い青ですか。僕も好きですよ。」

向こう流の挨拶は何かを褒めることから始まる。向こうでは美人ばかりだったため褒めるところはありすぎて困るぐらいだったがこの白川とやらは服のセンス以外褒める所がない。

少し白川とやらの顔にヒビが入った気がしたが気のせいだろう。

「勇樹……。何言ってるんだお前。すみません。こいつちょっと記憶抜けてしまったみたいで。」

「そ、そうなんですか。大丈夫なの北条くん?」

あなたの顔よりは大丈夫ですよという言葉が出そうになったがすかさず喉元で我慢する。

「えぇ大丈夫です。気にしないでください。」

「いや記憶喪失を気にするなって言われてもねぇ。」

「それでは先生、私はこれで。勇樹、ゆっくりでいいから記憶取り戻せよ? 今のお前は失礼すぎる。」

「はい。任せてください。」

トーサンが帰ると白川が話し掛けてきた。

「教室は……どこかわかる?」

「というか僕は何年生なんですか?」

ぶっちゃけ1年も3年もそう変わらないだろう。

「1年生よ。そんなことまで忘れてるなんてことは色々大変ねぇ。北条くんは1年C組だけど……案内しましょうか?」

「いえ、場所さえわかれば大丈夫です。まだ早いしどこに何があるか見ておきたいので。」

「なんだか編入生みたいねぇ。まぁ迷うほど広くないしいいよ。私の仕事も減るし。」

「仕事頑張ってください。」

「言われなくてもそうします。じゃあまたあとでね。」

職員室では微妙に奇異の視線を向けられていたが職員室を出ると別に視線はこちらに向かない。

『みてあの人すごいブサイクー』

『やめろ! あれは勇者だ! 殺されるからブサイクなんて言うな!』

『でもモガッ』

なんて指をさされることもなくなったことは大変なメリットである。すばらしい。泣きたくなってきた。

うろちょろしていると校内図を見かけたので見ると1年生は6階と一部5階、2年生は一部5階と4階、3年生は3階と2階なんだと。

職員室やその他購買などは当然1階だ。

エレベーターはないらしい。ふざけんな。

本棟の隣に実験棟があり、実験するときは連絡橋を使って移動するんだろう。

実験棟にはエレベーターがあった。教師専用っぽい。ふざくんな。

1年C組は5階にあったのがまだ救いだ。1階違うだけで年間で約500回上り降りするのはぶっちゃけ悪魔じみている。

校内図なんて見てもおもしろくないしそれにもう全部覚えてしまったので早速教室に向かうことにした。

てか本気でエレベーターよこせ。300歳に歩かせる距離じゃないぞ……身体強化使わなかったら結構キツいかも。




[17377] 第3話:HR前
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 01:42

C組に辿り着くと早くから登校していたオークたちが……

今思ったがオークって言うと俺もオークになるんだよな……

それでクラスメイトたちがこっちを見ながらなにやらひそひそ話をしていた。

雌……じゃなかった女子はたくさん来ていたが雄はまだ一人も来ていなかった。

陰口は慣れっこだしさっさと席につこうと思ったが俺の席どこだよ?

「おはよう。ごめん、そこの君、俺の席どこかわかる?」

ちょうど新しく教室に入ってきた小さいオー…人間にかなり近いゴブリンっぽい子に話しかけると彼女は「確かあそこだけど……」なんて自信が無さそうな声で呟いた。

「ありがとう。あ、てかその髪飾り可愛いな。うん、さらさらな髪とマッチしていいと思う。」

挨拶も忘れない俺。向こうで挨拶を忘れると殴られた経験が活きている。

「え、あ、は、ありがとう。」

何やらゴブリンは真っ赤になっているようだが怒ったのだろうか? まぁ怒ったゴブリンなぞ俺の敵ではないのだが。

「おはよー」

ゴブリンと俺がいない間どうだったか話をしていると新しいまものがガラリと戸を開けて教室に入ってきた。

今度は雄らしい。そいつは俺の方を向くと目を見開いて突撃してきた。

だが俺はひらりとみをかわした。

「勇樹! お前今までどこ行ってたんだ!」

どうやら友人のようだ。顔を見ると人間に近いオークだった。

ふと気が付いたが人間(向こう基準)に近いやつらはイケメンだったり美人だったりするのだろうか。

ということは俺にはイケメンの友人がいたことになるのか。なんでイケメンが俺なんかとつるんでいるのか。

「おい、聞いてるのか!」

「あーごめんごめん。ちょっと記憶欠如しちゃってさ。お前が友達なのはなんとなくわかるけど名前が出てこない。」

「は?」

口が半開きになる友人(仮)。まぁ驚くわな。

「俺のこと知らんの?」

「知らん。」

「またまたぁ……冗談だろ?」

「知らん。」

「ええええっ」

「うるさいやつだな。」

「病院には行かなくていいのか? 記憶喪失ってヤバくね?」

「記憶喪失っていうかただ単に忘れてるだけだぞ。」

「それを記憶喪失って言うんじゃないか?」

そうとも言う。

「あ、でさ名前を教えてくれ。」

「……そうか。まぁお前は記憶がなくなっても友達だからな。俺は南条祐介だ。祐介でいいぞ。」

「南条とか祐介とかなんか俺に名前が似てるな。」

「そうだぞ。だから入学式のときに話しかけたんだぜ?」

「なるほど。」

「てかお前性格変わりすぎだろ。なんかすげー偉そうだぞ。」

「そう見えるか?」

「あぁ。偉そうだ。」

まぁ勇者とか言って祭り上げられてたからな。最初はびくびくしていたような気がする。「もっと威厳を持てこのブサイク!」とか言われたなぁ。

「そうか。気を付けるよ。」

「まぁいいけど。」

久しぶりに人間らしい人間と会話をしていると他にも友人(旧)が入ってきた。

友人たちは元気そうな俺を見て心無しか嬉しそうだった。今までオークとか言ってて正直すまんかった。

それと会話しているとこのクラスの男たちはみんな仲がいいらしいことに気付いた。グループっぽいのは人間の習性上できているが全員が全員仲がいいとはなんとも不思議な光景である。

逆に見回しているだけでわかったが女は凄かった。

女20人中、おおまかに言うと勢力が3つに分かれており、勢力に名前をつけるとすれば

「廊下藩、7人」「窓際藩、8人」「C組幕府、3人」

といった感じだ。そして「浪人」と呼ばれるどこにも属していない人間が2人いる。

さっきのゴブリンは浪人である。

今のところの展開はパッと見たところこうだ。

C組幕府がクラス内の女子を何かのイベント時に逆らえないように牛耳っている。

そして『廊下藩:7人』は人数が奇数であるため1人浮いているような状況。

話を盗み聞きするに「彼氏がいない」とのことで若干仲間外れにされているらしい。

ちなみに魔法で調べたら3人しか彼氏がいなかった。

他の3人は嘘をついているらしい。意味不明な嘘だ。

この仲間外れの主な理由は廊下藩主の左腕の女の「こいつ気に入らない。」というものである。彼女の目がそう言っていた。

このように廊下藩はやや内乱状態だが『窓際藩:8人』は逆に平和なようだ。

理由は人数が偶数というものもあるが、彼女たちが平和な理由はクラス内にいる浪人の1人(ゴブリンじゃない方)をイジメているからである。

まさに敵の敵は味方。共通の敵を作り同盟を組むという手法だ。

だが良心ゆえかあまり気の進まないというのが5人もいるので束の間の平穏として後に崩壊するだろう。

そんなことを考えていると横から声が掛かった。

「お前なんで女ばっかジロジロ見てるんだ?」

「なんとなく。」

「ふーん。」

向こうの世界統一よりも難しそうで面白そうなので、俺は馬鹿馬鹿しいと思いながらもC組統一を行う決意をした。


##########

後書き

なんじゃこれ(´・ω・`)

感想掲示板見ましたが主人公が最悪に見えるのは仕様です。

気を悪くした方すみませんでした。



[17377] 第4話:初日
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 02:26

がやがや騒いでいると白川とやらが教室に来た。

授業の前のホームルームだ。

「えー。見ての通り行方不明だった北条くんが帰ってきました。彼は少し記憶喪失らしいので手助けしてあげてください。」

ざわざわし出す教室。記憶喪失なんかテレビとか漫画とかじゃなきゃ見れないからな。

「大丈夫なの?」

これはC組幕府の長、ハイオークの言葉である。なんという偽善。当然シカトする。

俺のシカトを聞こえてなかったのかと好意的解釈をしたハイオークは少し憮然とした顔で席についた。

俺は机にふせてぐうぐう寝ているふりをしているので当たり前と言えば当たり前だ。

なぜ寝ているのに周りが見えるのかと言うとそれは魔法のおかげである。

白川とやらはなんとなく納得していないような顔をしてそのままホームルームを始めた。



昼食時までぐーすか寝ている俺が怒られていたらしいこと以外は別にこれと言った問題もなかったのだが、祐介が唐突に話したことが問題となった。

「このクラスの中で一番可愛い子って誰だと思う?」

彼が口火を切った瞬間、約2秒ほど教室が天使が通ったときのように静かになった。

ただ口に出しただけならともかく、その後静かになったのが一大事だった。

なんとクラス中がこちらに耳を向けていたのだ。偶然とはおそろしいものだ。

鈍感なイケメンオークの祐介はそんなことには気付かず、

「俺は谷口さんが一番可愛いと思う。」

とあろうことか浪人であるゴブリンを指し示したのだ。

こいつはバカか。あれか。バカなのか。このままだとゴブリンちゃんがイジメられてしまうぞ。

『テメェ調子乗ってんじゃねぇぞ。』

ってハイオークとかがイジメ始めるだろ。ゴブリン可哀想だろ! ゴブリンは最大でもHPが200しかないんだぞ!

それとも何だ。お前は実は谷口さんに惚れてて

『何やってんだお前ら! 谷口さんをイジメる奴は俺が許さねえぞ!』

なんてかっこよく登場してフラグを立てるつもりなのか。貴様策士か。やるな。


「谷口さんって言うのかあの子。」

この思考時間僅か0.2秒。達人は心の中を顔に出さない。さすがだ。

「そうだ。で、お前は誰が一番可愛いと思うんだ?」

「どれも似たようなもんだろ。」

反射的に答えてしまった俺は激しく後悔した。心の中で思った瞬間に、それはすでに口に出されていた。さすが達人である。

なんか知らんがクラスの女の大半を敵に回してしまったようだ。

「お前……」

平和ボケした日本でこんな殺気が出せるのかと言うほどの凄まじい殺気が俺に襲いかかって来たが俺は達人なので気にしない。言ってしまったものはしょうがないのである。

しばらく男たちは硬直状態にあったが、ちょうど昼休みが終わりとなったので殺気からはやや解放されたようだ。

その後の授業は背中に殺気を受けながら寝ていたが特に害はなかった。

久しぶりの学校だったがぶっちゃけ寝るしかしていないので久しぶりも糞もなかったけど、それなりに楽しかったのでよしとしよう。

全授業が終わり下校時刻になったのでさっさと帰ろうと下駄箱に向かうと漫画に出てくる不良っぽい奴等が俺を待ち構えていた。

「ちょっとツラ貸せや。」

まもののむれがあらわれた!




[17377] 第5話:戦闘
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 04:09

まもののむれは全部で5人。

誰が誰かよくわからんから全部オークで統一することにした。

リーダーオークは体育館裏にフィールドを変えたいため、ついてきてほしいらしいのだがさっさと帰りたいので無視して校門に行くことにする。

オークたちは何やら喚いて追いかけてきているようだ。オークごときが俺の歩行速度に追い付けるわけないだろう。

だがしかしなんということだろうか。途中、律儀に信号待ちをしている俺はオークたちに追い付かれた。

「ひぃ……ひぃ……テメ…タダじゃ………すまねーから…なっ」

「大丈夫? なんか死にそうだけど。救急車呼ぼうか? 番号何だったかなぁ。991だった気がする。」

「ふざけんなっ……!」

オークCがふらふらな状態でとびかかってきた。

横に避けるとオークCは倒れふしてしまった。どうやらひんしのようだ。

そうこうしているうちに信号が青になったのでオークたちを振り切り再び歩行する。

リーダーオークはまだ体力が残っていたようで追いかけてきたが、途中で転けてひどく悔しがっていた。

接触したこともない不良に何の理由で絡まれたのか思案しつつ帰宅し、すぐ寝ることにした。最近眠すぎて困る。



翌朝、学校に着くと下駄箱に虫っぽい何かが入っていた。ひどい嫌がらせである。

俺は適当にサイズの合いそうな上履きを他の下駄箱から取り、変わりに虫が大量についた上履きを入れておく。

どちらの上履きにも名前が書かれていないので特に問題はなかった。

教室に着くと今度は机に落書きされていた。そして椅子がなかった。なんだこれは。ひどすぎる。

「おい勇樹! お前の机が……」

祐介が現れた。なんだ? 俺の机とお前の机を交換してやってもいいぞ。

「まぁもちつけ祐介くん。俺の机が落書きされた。それはなにで落書きされたのか?」

「……?」

「答えは水性ペン。ペンは油性と水性では全く違うのはご存知の通りだから説明は省くが、驚くことにこの文字は素人目にもわかるものだ。つい先程、1時間以内書かれたもののようだ。」

「それがどうしたんだ?」

「つまり実行犯は今このクラスの中にいる確率が極めて高い。」

「そりゃまぁわざわざ人のクラスに入ってまで落書きなんかしないからな。」

ククク……甘いな祐介。甘すぎるぞ! 韓国産キムチよりも甘い!

「祐介、お前が学校に来たときは既に落書きはあったんだな?」

「そうだけど。」

「お前が学校に来る前にクラスには誰がいた? 目立つやつでいい。」

「あー。山口がいたな。」

「山口って誰だ?」

祐介はハイオークを指してあいつだと答えた。

「あぁあのハイオークか。」

「「は、ハイオーク…!?」」

しまった。また口を滑らしてしまったようだ。まぁいいか。

「気にするな。ただの渾名だ。おいハイオーク、お前がクラスに来たとき他に誰がいた?」

「誰がハイオークだって!?」

「騒ぐなよ不細工が余計に不細工になるぞこの豚野郎。で、質問に答えられないってことはお前が犯オークでいいんだな?」

「不細工って! あんたの方が不細工でしょ!」

そうだそうだと野次が上がる。言われ慣れている俺にはダメージなどないに等しい。

「ふっ。ハイオークの感性ではそうなんだろう……」

「だ、誰が!」

「大体目元が気持ち悪いんだよ。何考えてるのかようわからん顔しやがって。髪の毛も金髪近くまで染めてプリンになってるし、耳の形も悪い。化粧も下手くそでそのせいか皮膚がざらざら。これでハイオークじゃなきゃ何なんだ。人間様を嘗めるなよ。」

泣き出した。さらに気持ち悪くなる顔。もう勘弁してくれ。

「ちょっと山口泣いちゃったじゃん! 最低! なんであんたなんか帰ってきたのよ!」

「あん? 元はと言えばこいつが悪いんだぞ。人間様の机に落書きなんてしやがって。オーク族のくせに生意気だぞ。」

「落書き落書きって山口がやったなんて証拠ないじゃん!」

「あるぞ。そいつ服に水性ペン入れてるから。」

「そんなもん私だって入れてるし!」

「ふむ。共犯者か。」

「ちげーよ! 証拠にならねーってことだよ!」

「まぁ落ち着けよ。そろそろホームルーム始まるぞ。」

「ぐあああああああ!」

ハイオークの子分Aが殴りかかってきた。すかさずカウンターを入れる。顔が若干凹んだようだが俺は達人なので仕方ないし気にしない。

「男女差別反対派。」

周りは女を殴るなんて……というような目で俺を見ていたがオーク退治なんて当たり前だろ。なんなんだお前ら。今のは殺さなかった俺の慈悲深さに感動するところだろう。

しばらくすると担任の白川とやらが教室に入ってきて何事かとあたふたしはじめた。

その日俺は一週間の停学を食らった。

理不尽だ。




[17377] 第6話:停学
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 05:44

停学を食らったのちリョーシンにこっぴどく叱られた。

記憶喪失だから仕方ないにしてもとか言われたが、別に悪いことをしたような意識もないので説教の途中からは魔法で作った自分の分身を置いて別荘に退避した。

「停学を食らうと学校に行かなくても済むので基本的にとっておくべき」というのは祐介の言葉である。

停学を食らった日の放課後、俺に教えていた。記憶と常識がかなり抜け落ちている俺から見れば、それは当たり前のことで「何を今さらなことを」な言葉であった。

停学が一週間と短かったのは落書き事件の犯人が限りなくハイオークに近かったからと担任オークの白川が言っていた。

また、風の噂で聞くところによるとハイオークは『私は美人』だと思ってたのにボロクソに言われたせいで自信喪失したらしい。

俺が貶したところは完全にコンプレックスになってしまったとかなんとか。

ハイオークの子分Aは未だに殴られたことを根に持っていて俺の机やロッカーをいじってるらしい。

噂になるほどなのに教師がなぜ止めないのか、と祐介に聞いたら

「あの3人の親はPTAの会長と副会長がデカい会社の社長で、寄付とかたくさんしているからじゃね。」

なんだって。どこのマンガの世界だよ。

「俺ならスキャンダルとしてライバル企業に売るが。」と言うと祐介は俺を天才扱いしてどこかへ連絡しはじめた。

こいつ最悪だな。



そんなこんなで停学3日目。

そろそろ魔法の研鑽だけするのも面倒になったので出掛けることにした。

ある日突然魔法を修得した人間が何をするのかと聞かれたらそれすなわち銀行強盗である。

一切の証拠なしにわんさかお金を手に入れることができるとはまさに夢のようだ。

そしてそうやって手に入れたのがこの100億円である。

札には通し番号が振ってあるためそのまま使えば足がつくが、コンビニなどで細かく使うには問題ない。

早速強盗帰りに札幌のコンビニでポテチなどのスナック類を大人買いしてしまった。

店員と後ろの客に睨まれたが知ったことか。

停学中は連日やっている『銀行から煙のごとく無くなった100億円』とかいうニュースを見ながら好物ののりしお味のポテチを食べていた。

停学が開け、再び学校に登校することとなった。

リョーシンは俺が問題を起こさないか不安になっているようだが、俺が問題を起こしたことなんて生まれてこの方300年、一度とない。

あるとすれば勇者として召喚されたことだが、それも受動的なもので俺が起こしたものではないのだ。

失礼なリョーシンオークだ。

とにかくまぁ学校というものはなかなかに愉快な場所なので今日も元気に登校することにした。



教室に辿り着くとホームルーム直前だった。途中のコンビニで飴の大人買いをしたのが仇となったようだ。

ちなみにこのコンビニで1万円札を使うようなことはしない。なぜならこの周辺で盗んだ1万円札が大量に見付かると困るからだ。さすが達人は違う。

そしてホームルームの前に女の勢力を確認する。停学中もっとも気になっていたことだ。wktk

勢力はこうなっていた。

『廊下藩:7→6人』『窓際藩:8→6人』『新朝廷:0→4人』『元C組幕府:3→2人』

そして浪人が2人である。

予測通り、廊下藩から仲間外れにされていた1人が抜けて窓際藩に寝返っていた。

窓際藩からは浪人イジメの筆頭であった3人がC組幕府にいたハイオーク子分Bをトップに据えて、新たに新朝廷を立ち上げた。

これによりC組の覇権が交代してしまうことになる。

廊下藩は1人抜けたことでバランスがよくなったが、『ひょっとして彼氏いるって嘘ついたの? 友達に嘘ってどーゆーことかなぁ? 疑惑』により緊張状態へと推移している。

窓際藩は浪人イジメ事件の終焉と同時にゆるやかに平和が訪れたが、今までの圧政では気づかなかった微妙な価値観の違いにより、近い将来内乱の可能性がある。

元C組幕府は悪政と性格の悪さが露見し、名声が地に落ちた。だが彼女たちを敵とすることで他の勢力が無事保たれているので潰すと大変なことになる。

ゴブリンじゃない方の浪人はイジメに耐えきれず引き込もってしまったらしい。

ゴブリンはなんにもわかってなさそう。しかし全勢力から愛玩動物扱いされているという極めて安全な位置にいる。

また、C組全体から俺が敵視されているのは衆知の事実である。

「な、なぁ勇樹……なんでまたそんなに女子の方見てるんだ?」

「あぁ藩が変わったりして面白いからな。」

「班? グループのことか? そういえば女子はなんであんな風なんだろうな。俺たちはそんなことないのに。」

「不思議だよな。」

実は男も20人いるのだが4人×5ですばらしくバランス良く藩分けされている。

そしてその4人がうまい具合に均等になっているので内乱がなかなか起こらないし、起こっても他の4つの勢力の介入があるのでそうそう崩れることはないという連盟制共和民主主義だ。

「こいつ……今度は男をジロジロ見始めやがった……」

ちなみにこのバランスはC組の男がC組の女に手を出すとあっけなく崩れ、男女乱れる酷い戦争に突入する可能性がある。

嫉妬派の台頭により友情が崩壊するからである。

「ニヤニヤしてやがる……おーい大丈夫かー? 帰ってこーい。」

ククク……これだから戦争はやめられない……




[17377] 第7話:昼食
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 06:28

停学明けの昼休みのことだ。

なぜか祐介がニコニコしながら携帯を手にしていた。

ぶっちゃけオークがニコニコしているのは気持ち悪いと思う。

「祐介どうしたんだ。顔面が酷い神経痛を起こしてるっぽいぞ。醜くて見たくない。いい整形科紹介しようか?」

「お前いつから人の顔をそんなにボロクソに言うようになったんだよ。」

「知らん。」

「まぁいいけど。これはあれだな。前言ってたスキャンダルのことだ。」

あれか。

「あぁ祐介の彼女に子供ができたってやつか。男か女かどっちだ? 名前決まったのか?」

周りから悲鳴が上がる。お前ら盗み聞きしてたのかよ。オークのくせに耳はいいんだな。

「ちげーよ! 何でそんな話になるんだよ! そもそも彼女いないし!」

「なるほど。孕ませたのは彼女ではなく女友達ってことか。」

またも悲鳴が上がる。サイテーという言葉があちらこちらから上がる。サイテーなのはお前らの頭の中身だ。

「違うわ! 山口だよ!」

「ハイオークとヤったのか!」

「違う! 違うって!」

辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図となったが追撃をやめないのが俺。達人は止めを刺すまで手を抜かない。

「すまなかったな……お前が好きなやつなんて知ってたらハイオークなんて呼ばずしっかり山口と呼ぼう……」

「違う! 孕ませてないし子供もできてない!」

「まぁそれはどうでもいいけどどれくらい金もらえることになったんだ?」

「おま……分かっててやってたのかよ……」

「当たり前だ。」

「ふん……聞いて驚くなよ……? 500万だ!」

「何! 山口と別れさせるために500万で釣られたのかお前は! しかも堕胎だと! 貴様それでもオークか! 恥を知れ!」

「ちっがーう! それにオークじゃねーしふざくんなよお前!」

「で、500万ってのはドルか? ユーロか?」

「お前……あとでボコるからな……ドルじゃねーよ。円だ。」

「えっ」

「えっ」

「何、祐介お前たった500万円ぽっちであのスキャンダル売ったの?」

「500万円ぽっちて……大金だろう?」

「大企業のスキャンダルなんだからもっと高値で売れるだろうJK」

「い、いやぁでもなぁ……」

「まぁいいや。別に俺の金じゃないし。よかったな500万円手に入って。」

「そうだな……損したって言っても0やマイナスってわけじゃないしな。」

「代わりにお前に関する噂は最悪だけどな。」

「それはお前が流したからだろ!? うわなんかメールにサブアドで『死ねよ不細工気持ち悪いんだよ』とか来てるし! 最悪だ!」

「あぁそれはさっき俺が送ったんだ。」

「お前が送ったのかよ! ブチ殺すぞ!」

「なんだよ逆ギレかよ!?」

「お前が逆ギレしてるんだよ!」

「そういえばこのハムサンドうまいなぁ。そうだゴ……谷口さん、よかったらハムサンド一つ食う? うまいよ。」

「へ? あ……ありがとう……」

「何無視してんだ! しかも谷口さんにサンドイッチあげるなんて……しかも谷口さん食べてる! 谷口さんがサンドイッチを食べているぞ!」

「祐介。ハイオークがいるのに谷口さんに手を出すなんて雄として最低だぞ。」

「勇樹! 貴様とは相容れないことがわかった! 放課後ちょっと顔を貸してもらおう。いいな?」

「謹んでお断りだ。」

「うるせー。放課後すぐ、この高校の屋上に来い。」

「俺今日掃除当番だからなぁ。」

「~~~っ! 掃除が終わってから来いよ。わかったな?」

「谷口さんこっちのコロッケサンドもおいしいんだよ。」

「ちょ……それ俺のコロッケサンドじゃん! しかも谷口さん食べてる! 谷口さんが俺のサンドイッチを食べているぞ!」

ぎゃーぎゃーうるさい祐介を宥めつつ、昼休みは過ぎていった。

なんといううるさいやつだ。だがそれを完全に受け流すのが俺である。さすがの達人だと自負できる。

そうして放課後になった。




[17377] 第8話:決闘
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 08:18

掃除当番が終わり屋上につくと何やら人だかりができていた。

ギャラリーに囲まれている祐介を見ると、彼はニヤリと笑って叫んだ。

「諸君! 決闘だ!」

「決闘?」

「そこの北条とやらは、俺に謂われ無き罪を被せひどい風評被害を与えてくれた。」

周りから自業自得だろーと叫ばれる。正直可哀想になってきた。

「自業自得ではない! 彼が流した単なる噂だ! 彼があの噂を流さなかったらこんなことにはならなかった!」

がんばれ北条ー。と応援する声。嫉妬団のものだ。

「そこで、名誉をかけた決闘として君を倒すことにした。」

とどこからともなく豚バラ肉が入ったパックを取り出し近くに置いた。

するとギャラリーから背の高い喧嘩の強そうなオーク♀が現れた。

「彼女の通称はワルキューレ。身長190cmジャストであること(190→/90→÷90→ワルキューレ)、喧嘩が強く、たくさんの子供を養って行かなければならないため日々金欠なシングルマザーだ!」

ギャラリーからどよめきが聞こえる。なんでこんな所にママさんがいるんだ的な意味の。

「今、俺には金があるが力はない。この豚バラ肉はワルキューレの参加料代わりすなわち今日の彼女の家の晩御飯は二年ぶりのカレーだ!」

「久しぶりに……子供たちにお肉を……」

「よって、力ない僕は彼女を決闘に参加させることにする。」

『卑怯だぞ南条!』とか『貴様それでタマキンついてんのか!』と、喚き声が上がる。祐介は完全に悪者扱いだった。

「ククク……勇樹? 何か言い残すことはあるか?」

「祐介、お前が豚バラでおいしいカレーができる魔法を使うと言うのならば俺は『けん』を使おう。」

「剣だって? なんだどこにあるんだそんなもの。銃刀法違反だぞ。」

「違うな。間違っているぞ祐介。けんはけんでも剣ではない。券、すなわち映画のチケットだ!」

「映画のチケットがなんだというのかね?」

「聞いたことはあるだろう。これは近々放映されるガンダムのルーンチケットというものだ。」

「ルーンチケット……?」

「ルーンとは『秘密の』と言う意味でルーンチケットとはつまり『秘密のチケット』。いわゆるV.I.P.しか見ることができないものを見ることができる。」


『うぉーくれー!』『よこせー!』との声が遠くから届く。

「それが何だと……はっ、まさか!」

「そう、その券をそこのワルキューレにあげればどうなるのか。賢い君にはわかるはずだ。」

「君は卑怯だ! 間違ったやり方で得た結果に意味はないのに。」

「ふん。せいぜい喚くがいい。」

「うおおおおおおお!」

そこで目が覚めた。



「あれ?」

「何寝てるんだよ。折角今から喧嘩しようとしてたのにニヤニヤしながら寝てるとか……」

あー。掃除当番が終わったから喧嘩しに屋上来たけど誰もいなかったから寝たんだっけ。

「気にするな。じゃあ今から喧嘩するか?」

「いやなんかめんどくさくなったからいいや。久々に一緒に帰ろうぜ。」

「そうだな。」



俺と祐介は2人で300年ぶりの商店街をぶらつくことにした。

「なぁ、500万円ってどうなったんだよ?」

「今から行くところで渡すんだってよ。」

「俺も行っていいのか?」

「知らんがな。」

「知らんのか。」

「そういやお前ってなんで人のことオークって言い始めたんだ?」

「だってオークに似てるじゃん。」

「似てないと思うぞ? てか山口のことはハイオークって言ってたけどなんでだ?」

「オークのとりまとめ役だったからだ。」

「なんじゃそれ。」

「ちなみにお前はイケメンオークだ。」

「嬉しくねぇよ! じゃあ谷口さんはなんていう渾名なんだよ?」

「お前の愛しい愛しい谷口さんはゴブリンだ。」

「ゴブリン……? オークじゃないんだな。」

こいつ『愛しい』ってところ否定しなかったな……。

「あぁ。オークより人間っぽいからな。」

「人間だろ!」

「えっ」

「えっ」

「ゴブリン族は街でたまに見かけるんだよな。たまにだが。」

「ゴブリン族ってなんだよ……じゃああの人は?」

「オークだな。」

「じゃああっちの人は?」

「オークだ。」

「……じゃあお前は?」

「一応人間のつもりだが怪しい。」

「お前もかよ! 人のこと言えねーじゃねーか。」

「気にするな。」

「でも何がゴブリンとオークの決め手なんだ? よくわからんが。」

「顔だ。」

「顔って……千差万別だな。」

「どれも似たり寄ったりじゃないか。」

「似たり寄ったりって似てねーよ全然!」

「俺には白川と山口の差がわからん。服の違いだなありゃ。」

「同じ所なんて髪型しかなくね?」

「同じ顔だろ。」

「……」

「まぁ想像してみろよ祐介。」

「何をだ。」

「目の前にハムスターがいます。ハムスターの両隣にはまた違ったハムスターがいます。そのハムスターの横にもまたハムスターがいます。そうしてどんどん続けてください。」

「ふむ。で? それがどうしたんだ?」

「これが癒し空間である。」

「何の説明だよ!」

「まぁまぁ。がなるなよ。ほら500万円受けとる場所ってここだろ? たかが500万。」

「ったく……たかがーってお前そんな金持ちじゃないだろ。俺にとっては大金だからいいんだよ。」

「んじゃあほれ。500万。」

そう言ってさっきまで持っていたバッグを祐介に渡す。

「は? なんだよこの鞄?」

「中に500万円入ってる。」

「はぁ? うわっなんじゃこれ。なんでお前が持ってんだ。」

バッグの中に入っている金を見ている祐介。なんという小市民なのだろうか。

「ヒント:売り込みを提案したのは誰でしょう。」

「……いくらで売ったんだ。」

「オークのくせに察しがいいな。」

「オークじゃねーし。てかお前絶対がめんてんだろ! 半分よこせ!」

「それが半分だ。」

「嘘つけ!」

「嘘なぞついたことすらない。」

「よく言うわ。」

「まぁ落ち着けよ。今日はその金でパーッと遊びに行こうぜ。」

「こんだけあればキャバクラでも問題ないくらいだな。」

「なんでオークの巣窟に金払ってまで行かなきゃならないんだよ。むしろ倒して金奪いたいぐらいだ。」

「オークオークうるさいな。勇樹の言う人間ってのはどういうやつなんだよ。」

「そうだな……例えば祐介のかっこよさを5とすると。」

「すると?」

「2000くらいじゃね?」

「違いすぎだろ。てかそんなかっこよかったり可愛かったりする人間がいるわけねーよ。」

「哀れなオークだな。」

「てめ! この!」



#########

後書き
会話文主体になってきてるというか頭がとぅっとぅるーなことになってる。

最初の夢落ちはゼロの使い魔のギーシュ・ド・グラモンと平賀才人との決闘を元にかなりこじつけてます。

書きながら気付いたんですが、グラモンって順番入れ替えるとモグランになるから使い魔がモグラなんですかね?




[17377] 第9話:戦争
Name: うなぎ◆3a370d1f ID:9aebbd29
Date: 2010/03/19 11:04

翌日、教室に着くとカオスっていた。

オーク♂連盟制共和民主主義の崩壊がそこにあった。

昨日の『南条祐介風評被害事件』によりモテない男(笑)たちの不満が爆発したようだ。

ただちに男はモテる男とモテない男(笑)に二分され勢力を争うことになった。

世はまさに戦国時代!



言ってなかったがこれらはすべて水面下で起こっているものであり、表面では仲良しこよしなクラスであることはわかっていただいていると思う。

現在C組の勢力図はこのようになっている。


・中立系モテない男A派(4人)

二次元しか愛していないので別にモテなくていい。むしろモテたくないという集団。オークの中でもさらに不細工なやつが集っているのは気にしてはいけない。

・中立系モテる男派(6人)

なぜ恨まれてるのかよくわかってないので、とりあえずことなかれ主義でいつも通りの男たち。麻雀が好き。

・開戦Ⅰ系モテない男B派(8人)

モテる男を許さない完全無欠のアホたち。自分たちがモテないのは顔のせいであり、イケメンは全人類の敵であると宣言するオーク集団。実はひそかにこのメンバーの中の1人を好いている可愛いオーク(可愛いとはあくまでオーク基準である。)がいることはあまり知られていない。

・開戦Ⅱ系南条祐介(1人)

誰かが流した心無い風評被害により敵視されている可哀想なイケメンオーク。昨日の所持金は500万円だったがゲーセンで早くも5万円使っちゃった猛者。今日も行くらしい。

・開戦Ⅰ系廊下藩(6人)

顔面醜悪なんちゃってスイーツ。スイーツでオークなダブルで最悪なオークたち。種族はダブルダーク。風評にまともに感化され祐介を敵視している。

・開戦Ⅱ系窓際藩(6人)

『祐介くんがそんなひどいことするはずないよ』をモットーとする祐介の味方軍。種族はノータリン。雄の影もかけらもないオークが多い。

・開戦Ⅱ系新朝廷(4人)

合言葉は『廊下藩まじうぜー』なオーク衆。完全版スイーツ。種族はトリプルバカ。全員年上の彼氏がいて週1や2でXXXなことや、はたまたXXXなことをしているのだが、実はその彼氏たちが毎日のように可愛いオーク(※)をナンパしているのは気付いていない。

・中立系旧幕府(2人)

中立というか何故か俺を敵視している2匹のオーク。ハイオークは最近経営難に陥ったらしく、元子分Aと仲違いぎみ。金の切れ目は縁の切れ目なのだ。

・中立系ひきこもり浪人(1人)

ひきこもり。

・中立系ゴブリン(1人)

クラス唯一のゴブリン族。こんな状況でも愛玩動物と化している彼女のその策略や恐るべきものがある。本名は谷口さん。種族はワワワ。

そして俺である。

また、外部勢力も存在するのだが、外部はあくまで進級まで直接的には関わらないので割愛する。

以下に大まかな今日の彼ら及び俺がとった行動を記す。



前日≫廊下藩が風評被害を広めるべく『これはここだけの話だから誰にも言わないでね作戦』を開始。瞬く間に噂は尾びれをついて広まる。

0810≫いつのまにか『祐介が女を堕胎させた』から『そのせいで女は自殺した』へと進化した噂を聞き付けた廊下藩はその噂で激怒。ますます敵意を抱くようになる。

0820≫祐介くん風評被害によりモテない男B派(以下、×B)も大激怒。中には『待て、これは孔明の罠だ。』と一瞬考えたオークもいたが、イケメン許すまじで固まる。

0830≫ホームルームで風評被害について取り沙汰されることに。俺はこのとき頭痛のため保健室にいた。(※事態の把握はステルスの分身体によるものである。)

0850≫祐介くん大尋問会勃発。事態は平行線となる。俺はこのとき腹痛のためトイレにいた。(※)

0950≫祐介くんの友軍、新朝廷及び窓際藩が登場。『証拠がない噂だけで人を責めるなんてそれはどうなのよ』や『火のないところに煙は立たぬ』とさらに平行線が続くが先程よりは良好の様子。俺はこのとき腹痛のため近くのラーメン店にいた。(※)

1050≫新朝廷が噂の発端の俺がいないからそれまでお預けの一時停戦を提案する。両軍ともに渋々だが納得する。俺はこのとき眠かったので寝ていた。(※)

1250≫昼飯時ということで外部勢力からの凄まじい攻勢を30分近く飯も食えずに受ける祐介。謂れのない罪でサイテーと罵られている姿はまさにメシウマであるwwww

1440≫俺学校に再び舞い戻る。昼に駄菓子屋で買ったどら焼きを食べながら教室に入ると祐介に掴みかかられた。しかしそのまま授業へ突入するので解放される。

1550≫帰りのホームルーム。俺による『あぁ、あれのことか? あんなの嘘に決まってんだろ。それがどうしたんだ? 発言』で事態は一件落着となった。この件により廊下藩、×B派勢力は勢いを失うこととなった。

おわり。



「おわりじゃねーよ! お前のせいで退学させられそうだったんだぞ!」

「まぁ一件落着したからいいんでないの。」

こまけぇことをぐずぐずと……。それでも人間か! オークでしたねすみません。

「よくねーし元はと言えばお前が変な噂流したからだろ。」

「俺は悪くないし悪いのはお前だ。」

「大体お前なんで今日朝から夕方までいなかったんだよ?」

「夢で『今日は朝から夕方まで教室にいてはいけない』って死んだばーちゃんが言ってたんだ。」

「何そのピンポイント爆撃な嘘!? つかお前のばーちゃん両方生きてるだろ!」

「な、なんだってー!」

「あぁそういえばお前記憶喪失なんだっけ? 都合の悪い記憶は忘れてるんだなぁ。」

「そりゃ人間だからなハハハ。」

「何だその『あなたとは違うんです。』って目は。」

「そういえば慰謝料とか請求しなくていいのか?」

「は? なんで?」

「風評被害で心身共に傷付いたんだから取れるところから取った方がいいと思うぞ。」

「ほう……」

なんだそのニヤニヤ顔は。気持ち悪いからやめろよカス。

「ちなみに俺から取ろうとすると、なぜか俺に【『俺は祐介から脅されて風評被害を止めた』と勇気を持って告発してしまう呪い】がかかるからやめた方がいいぞ。」

「ひどい脅迫を見た!」

「で、どうするんだ?」

「別に気にしない。金に困ってるわけでもないしな。」

「ふーん。意外と優しいんだなお前。」

「はははー! 南条祐介は誰にだって優しいんだぜ!」

「お前って時々気持ち悪いよな。」

「何爽やかな顔で気持ち悪いとか言ってるんだ! 謝罪と慰謝料を要求するニダ!」

うわぁ……

「じゃあ俺こっちだしまた明日な。」

「……そうだな。また明日な。」

なぜかよくわからないが祐介は疲れた顔をしていたように見えた。

オークの顔がどうなのか判断できるようになるとか俺もこっちに慣れてきたんだろうかね。

そんなことを思いながら帰り道へと歩みを進めた。



#########


後書き

クラス内戦争を書いてみました。
こういうことって現実でも実は起きてると思うんですよ(・ω・)

いつのまにかあのグループが変わってたとか。なんか居たたまれなくなって他のグループに行ったとか。あっという間に孤立していたとか。進級時に同じクラスに友達がいないとか。なんとなく仲間外れにしたりされたりとか。

いわば自分の立場を確立したいがための一人を一国とした社会的大戦争ですね。

中高生の方はクラス内で冷戦が起こっていると仮定して、勢力を把握してみると面白いかもしれません。(巻き込まれなければですが)

戦争シミュが好きで学校がつまんねとか言う方にはおすすめな暇潰しです。



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