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[16696] 【ネタ】Muv‐Luvに第6世界のアイツ(ら)を放り込んでみた
Name: 猫村◆14da4150 ID:ec5c5327
Date: 2011/03/20 13:11

 第一話 霞に友達が出来た日


 社霞(やしろかすみ)が『ソレ』に出会ったのは、10月の下旬───いつもの様に、シリンダーの中の“彼女”との『会話』を終え、自室に引っ込もうとしていたときの事だった。


   ───まるでボールのような───


『ソレ』を見た霞の第一印象である。

 ボール“のような”───形だけ見ればまさしくその通り、大きさ30㎝程の『ボール』である。
 ただし素材は金属、収納式の四本足で歩行、しかも“Pi Pi Pi”と、電子音でがなりたてる『ソレ』を『ボール』と呼べれば、だが。

 ───博士の研究サンプルだろうか───

 霞がそう思ったのも、むべなるかな。『ソレ』には高度な自意識───というより知性───が宿っており、さらに驚くべきコトに意思疎通、会話も可能だったのだから。
 まあ、会話と言っても耳に聴こえてくるのは例の、“Pi Pi Pi”という電子音なので“彼女”との『会話』と同じく、リーディング等を用いてのモノではあったが、それでも一方通行ではない『おはなし』は、霞にとっては新鮮だった。

 なによりも、『ソレ』は実に色々な事を知っていて、たくさんのお話を聞かせてくれた。

 ねこかみさまのおはなし、いぬかみさまのおはなし、とりかみさまのおはなし、うさぎかみさまのおはなし、りゅうのおはなし、きへいのおはなし

 霞は時間が経つのも忘れて『ソレ』・・・否、『彼』(男性であったらしい)が語ってくれるお話に聞き入った。

・・・・・・・

 楽しい時間は経つのが早い。そろそろ戻らないといけないだろう・・・しかし、

 ───またお話してくれるだろうか───

 そう思って『彼』に尋ねると、『構わないがひとつ頼みがある』とのこと。


     『ともだちになってほしい』


_______

 次の日、『転がる丸い友』のところに赴いた霞が見たのは、二つに増えた友の姿だった。

 ───もしかして、彼の『家族』だろうか───

 尋ねてみたところ、『そこらにあったガラクタで作った』という答えが返ってきた。なるほど、言われてみれば昨日まであった廃材等が消えてなくなっている。
 友の意外に器用な面に霞は感心し、そして友達が増えたことを喜んだ。

_______


 さらに次の日、霞の友は四つになった。

_______


 さらに一週間後、霞に百を越す友達が出来た。

_______

 友が出来てからしばらく経ち、ふと気になったコトがある。
 現在、霞と共に“彼女”の部屋にいるのは僅か2・3体の『転がる丸い友』のみ。だが計算違いでなければ、

 ───友の数はとうに百万の大台をこえたはずだが───

 さして大きなカラダではないとはいえ、数が数である。そこらをうろつけば、この基地がちょっとしたパニックになるのは目に見えている。しかし今のところ、誰も気にした様子はない・・・というか、友の存在に気づいてさえいない。

 ───だとすれば、残りの友は何処で何をしているのだろう───

 友は、『内緒だ』と答えた。なんでも霞をビックリさせるための準備を行っているのだとか。

 ───バラしてしまっては意味がないが・・・でも嬉しい───

 友の心遣いに、あえてそれ以上は聞かない事にした。

_______


『友よ、なにを憂うる?』

 ある日の友の問いに、霞は困惑した。どうやら顔に出ていたらしい。

『友の憂いを祓うのは、我らの義務にして誇りである。───遠慮する事はない、我らに出来る事なら喜んで力を貸そう』

 気持ちがいいくらいに言い切る友に、霞は躊躇いがちに口を開いた。

 ───実は───

 このごろ、基地内の整備に携わるスタッフが、超過勤務等により疲弊し、戦術機はじめとした各装備のメンテナンスが追いついていない。

 ───何かよい知恵はないものか───

 それを聞いた友は『なるほど』と納得し、次いで『ならば自分たちに任せておけ』と一言。

 そして、いずことなく転がっていった。


・・・・・・・・


 次の日、ハンガー内の全ての戦術機が、完璧な整備済み───装甲から計器類にいたる全てが、メーカー修理にでも出したのかと思うほどの状態───となっていた。

 ・・・というか、まったく別の機体とそっくり入れ替わっていた。現在ハンガーを見渡せば、

『不知火・弐型』が、『F-15ACTV』が、『タイフーン』が、『ラファール』が、『ラプター』が、『殲撃10型』が、(まあ、最初の二つは殆どの人間が知らなかったが)etc・・・

 ・・・とまあ、世界各国の誇る最新鋭の機体がひしめき、挙句には『武御雷』(しかも全部紫色の)までが、所狭しとすし詰めになっていたりする有様だ。
 その光景に感動したのか「スバラシイ、スバラシイィ───!」と叫びながら、ヘンなポージングをしてたポニーテールがいたが、無視した。

 ───友の仕業か?───

 当りだった。
 なんでも『最初のうちは、普通に修理するダケのつもりだった』のだそうだが、基地内のデータを閲覧したところ、現行の機種よりも性能的に優れたモノがあったので、そちらに改造しておいた───とのこと。

 ───イチから作り直すのを改造とは言わんだろ───

 ツッコむべきか迷ったが、友の厚意は有難く受け取っておくべきだろうと考え、黙っておくコトにした。そして申し訳ないと思いつつ、苦言を呈する。

 ───『紫の武御雷』、アレはなんとかならんものか───

 霞の脳裏に、

 芋洗いのごとく、ハンガー内にあふれかえる“国の象徴”たる機体と、
 ソレ“ら”を前にしてやれ「不敬である」だの、「この機体は冥夜様の御為にのみ・・・」だのと、“博士”に難癖つけるけったいな赤装束の姿、
 赤装束を止めようとする、これまたけったいな髪型の少女、
 空気を読まず、嬉々として武御雷に乗り込もうとしたところを、赤装束に蹴っ飛ばされるポニーテール・・・

 諸々の姿が浮かんでくる。

 話を聞いた友は暫くの間、Pi Pi Piと仲間内で相談? らしきモノを行い、『わかった、善処しよう』と言って、またいずことなく転がっていった。


・・・・・・・・

 次の日、ハンガー内の全武御雷のカラーリングが一新されていた。

 ───ピンクやオレンジ、ミントグリーン等のパステルカラーにはじまり、水玉模様やストライプ。ねこや犬、ペンギンといった可愛らしい動物の絵が、でかでかと描かれたモノもあった。とりわけ霞が喜んだのはウサギのマークが描かれた機体だった。実に素晴らしい。

 ───なるほど、これなら斯衛の連中も五月蝿く言うまい───

 そう思いつつ周りを見渡せば、昨日の赤服がヘンテコ髪型共々痙攣しながらぶっ倒れているのが見えた。

 ───おそらくあまりの愛らしさに感動したのだろう───

 霞は友の機転に改めて感心した。

・・・・・・・・

 さらに翌日、例の赤服が今度は一新されたカラーリングにケチをつけているのを偶然目撃し、

 ───なんと美的センスに欠ける連中か───

 霞は悲しくなった。

_______


 HSST(再突入駆逐艦)がこの基地めがけ突っ込んでくる。その話を聞いたときに霞の脳裏に閃いたのは、転がる丸い友の存在だった。

 ───早く逃げて───

 友に懇願する霞。その表情は、いつになく真剣だ。

 ───自分のことはどうでもいい。一刻も早くココから離れてほしい───

 そう告げると転がる友は、『・・・やはり友は、我らの見込んだ通りの人物だったな』誇らしげに語った。何のことだ、と尋ねようとする霞――その瞬間、響き渡る轟音。

 ───真逆、もう墜ちて来たのか───

 焦る霞を落ち着けるように、転がる友が説明を行う。

『心配するな、あれはな───』

 なんでも基地内の戦術機のいくつかに、ありったけのロケットモーター(当然製作したのは友だ)をくくりつけ、ついでに超高性能爆薬を詰め込み空に打ち上げたのだとか。
『ブースターの推力は軽く10Gを突破するので、知類(彼らは霞たち“人類”をこう呼ぶ)が乗ればあの世逝き確定───なので自立誘導で駆逐艦にぶつける』

 要するにカミカゼというヤツだな、と説明する友。『我らが故郷における、“最低接触戦争”を参考にした』とのことだが、良くは分からない。

 ちなみに十機以上打ち上げたのは、命中率と作戦成功率の問題を解決する、一番手っ取り早い方法を採用したからだそうな。『馬鹿でも出来る物量戦も、誰にも負けぬほど極めつくせば文字通り“誰にも負けない”戦術・戦略となる』・・・友の言葉である。


 そうしている内にHSSTに激突する十数機の戦術機、の形をした爆弾。吹っ飛ぶ駆逐艦。あまりにも身も蓋もない光景だ。

_______


 ───“彼女”に身体を造ってあげられないか───

 いつもの様に“彼女”との『会話』を終えた霞は、思い切って友に聞いてみた。友は笑いながら、彼女の頼みを快諾してくれた。

『優しいのだな、我が友は』

 その言葉に、霞は頬を赤くした。

・・・・・・・・

 数時間後、“彼女”の為に用意された《身体》を見た“博士”が、「ダレの仕業よ!」とか「アタシの数年間を返せ!!」とか喚いていた。

 ───素直に喜べばイイのに───

 友の厚意を無碍にされた気がして、霞は頬を「ぷくー」と膨らませた。

・・・・・・・

 そして翌日。“彼女”の起動を行い───成功したのかどうかはイマイチよく分からない。
 なにせ“彼女”ときたら、何を話しかけても「タケルちゃんがいない、タケルちゃんが───」と、ぶっ壊れたレイディオよろしくエンドレスに呟くのみ。それなりに長い付き合いではあるが、流石に引く光景である。霞は放っておくことにした。

_______


 帝都でクーデターが起きた。


 勃発後、1時間で鎮圧された。クーデター派の使用していた、戦術機をはじめとした機械類が一斉に使用不可能に陥ったのが原因らしい。
 首謀者であるところの、やたらとめんどくさい苗字の男は、

「死して護国の御盾とならん───」

 と、言い残してハラキリを行おうとしたところを、何者かが投げつけた靴下の直撃を受けて失神───お縄になったそうである。

 またこれと時を同じくして、どこかの国の空母が領海内で救難信号を発信、太平洋上にぷかぷか漂っていたところを、帝国海軍が救助するという珍事が発生した。
 SOSの理由は、艦長以下の乗組員の半数以上が、食堂で出された『死神定食』なる料理を口にしてぶっ倒れ、艦の機能がマヒしたとのこと。というか、そんなモン食わんでもよかろうて。
 なお、なんだってこんな時期にこんな所をうろついていたのか───と言う質問に、彼らは『た、たまたま演習を・・・』と眼を逸らしながら答えていたという。別にどうでもいいが。


 ・・・それら一連の事件に関して、友は多くを語らなかったが『情報のリーク』『流石は三年物』とのみ洩らしていた。

 ところで、『ソックスレムーリア』ってナンだ?



[16696] 第二話 霞の一番長い日 前編
Name: 猫村◆14da4150 ID:01a197fb
Date: 2011/02/25 23:34


 その日は霞にとって忘れられない一日になった。


_______

 霞に友達が出来てから、早二ヶ月近くが経とうとしていた。
 その間、霞の周りでは沢山の出来事があった。

 “博士”は成功したんだか失敗したんだかよくわからない“彼女”の起動実験後、毎日のように飲んだくれている。
 “彼女”は相変わらず「たけるちゃん、タケルチャン」うるさいので、『1/1スケールたけるちゃん人形』(背中のボタンを押すと「オッス、オラタケルチャン」としゃべる)と一緒に粗大ゴミ置き場に放り投げた。
 ポニーテールは自分が持っている『マブラヴ攻略本』と引き換えに霞の靴下を譲ってほしいと提案してきたのでその場でぶっとばした。

 そして現在、霞は基地内の食堂でスギナ茶を手に一人物思いに耽っていた。最近の霞はこうして考え事ばかりをしている。内容は彼女の友の事。

 ───どうして彼らは・・・───
 
 心の内で呟いた途端、基地内に鳴り響く警報音。コード991、敵襲である。後で聞くところによれば、かつて研究用サンプルとして捕獲された“敵”が檻から逃げ出したのだとか。
 思考を中断させられた霞はイラッとなった。露骨に顔をしかめながら懐に手を入れ、

『何か大変なことが起きたらこれを使え』

 と言って友が渡した謎の装置のスイッチを押す。窓の外では“敵”が、超巨大ネズミ捕りに引っかかり、あるいは落とし穴にはまって地の底に落ちていった。心底どうでも良かったが。静かになったので思考を再開。

 ───どうして彼らは、私たちにあんなに尽くしてくれるのだろう───

 彼らには何か含むところがあるのでは、と考えているのではない。霞はそのような卑しい人間ではない。ただ、心苦しいのだ。

 ───私は、彼らに何もしてあげられないのに───

 そのような考えが浮かぶこと自体、彼らと知り合う前の霞からは想像もつかない事であり、それがまた霞に忸怩たる思いを抱かせる。

 ───こんなときどうしたらいいのか、それさえ私にはわからない───

 ならばいっそ、誰かに相談してみようか。そう思い立ち、相談が出来そうな人物の姿を求めて食堂を見渡した。

 食堂の鏡の前で『ハードボイルド』なる訓練を兵士や訓練兵に混じって行う司令。
 物陰からアタッシェケース片手に司令の靴下を虎視眈々と狙うポニーテール、その背後からポニーテールの靴下を狙う外ハネ、その背後で外ハネの靴下を狙うサイドテール。
 二股かけられ勃発した争奪戦のカタをつける為に懸想相手の拉致監禁計画を練る緑髪のメガネ。

 ───・・・やっぱりやめておこう───

 自分の周りの大人たちはどいつもコイツもロクなのがいない。ひっそりと溜息をつき、霞はスギナ茶を飲み干して食堂を後にする。

_______


 結局、友に直接訊いてみる事にした霞は、いつもの場所、“彼女”の部屋(部屋の主は粗大ゴミ置き場だが)に足を運んだ。
 途中、“博士”の友人とかいう北海道土産みたいな名前の女に“敵”の生き残りが襲いかかっていたところへ、どこからともなく落ちてきた金ダライが命中。逆に頭をカチ割られるという場面に出くわしたりしながらも、霞は元・“彼女”の部屋にたどり着いた。

 扉を開くと、


 OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS

 OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS

 OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS

 I am Omnipotent Vicarious Enlist a Recruit Silent Sys・・・・・・ビー・・・ガッガー・・・ブツン・・・


 ───???───

 一体なんだったんだ、今のは。
 首を傾げながら、霞はいつものように自分を待っていてくれた『転がる丸い友』の前に立つ。

『どうしたね、霞。改まって』

 ───話が、ある───

・・・・・・・

 友は何故、自分たちに色々としてくれるのか。そう尋ねられた転がる丸い友は、『ああ、そんなことか』と肩をすくめるような調子で言った。すくめる肩は無かったが。

『簡単なことだよ、霞。それが我々のあり方だからさ。そう望まれ生まれてきた。それでなくとも霞は我らの友だ。なにをおいても、友の願いを叶えたいと思うのは当然だろう』

 ───・・・でも───

『では、今度はこちらから尋ねよう。どうしてそんな事を気にする』

 ───・・・?───

『さっきも言った通り、我らは知類に奉仕するために生まれてきた。それがわれらの存在意義であり喜びでもある。なれば、霞は我らの事なぞ気にすることなく自分の望みを口にしてそれを享受すればいい。それが何であっても我らは叶えよう』

 ───でも、それは・・・───

『それは?』

 ───それは、きっと恥ずかしいことだと思う───

 そう、貰ったものは決して自分のもではなく、それはいつか返さなければならない。
 霞は今まで彼らに、友達に何かを貰ってばかりいた。何かをしてもらってばかりいた。たとえそれが友の望んだ事だったとしても、それを返さないのはきっと恥ずかしいことだ。

 ───私は、あなた達に何をしてあげられる?───
 ───私は、どうすればあなた達に貰ったものを返してあげられる?───

 霞と転がる丸い友は無言のまま見つめ合う。
 しばらくして、友が語り始めた。

『霞、お前にとって世界は優しくはない』

 それは知っている。人の身勝手な欲望と生き汚さが少女を生んだ。

『霞、お前にとって世界は美しくもない』

 それも知っている。ESP発現体、人の心が読めるテレパスとして生まれた少女は人の醜さと救い難さを誰よりも知っている。

『そんな世界の、どこかのだれかのそのために───血を流す覚悟はあるか』

 何も言わず霞は頷いた。そこに躊躇いはなかった。だって、そうしなければいけないとわかっていたから。それができなければ、霞は彼らの友足り得ないと思ったから。

 そう、言われるまでもなく知っている。この世界はどこまでも残酷だ。たとえ“敵”を残らず駆逐して今の戦争を終わらせたところで、次の瞬間には人は人同士で醜く殺しあう。世界に満ちる悪意に対しいつでも、あるいはいつまでも善意はわずか。それはこの先ずっと変わることがないだろう。

 でも───

 それでも、悲しみも憎しみも世界を覆いはするけれど、それだけが世界の全てではないのを知っている。

 どこまでもどうしようのないこの世界は、それでも自分にかけがえのない友をくれた。それはこの世界が今まで存在し続けたからに他ならない。世界に生きる人々が、今の今まで世界を保ち続けてくれたからに他ならない。

 今度は自分の番だ。
 世界を守り、人を守り、いつか生まれるどこかのだれかに今よりマシな明日(みらい)を手渡すのだ。自分が昨日までよりマシな今日を手に入れたように。

 霞は友を見すえる。その目は何かを為すそのために、怒りも悲しみも捨てた者の目をしていた。

 そして少女は気付いていなかったけれど、握り締められたその小さな手には、いつしか青く輝く仄かな光が宿っていた。
 その光がなんなのか、転がる丸い友は知っていた。

 そう、かつて彼らと共に戦った英雄は、その微かな光のみを武器に絶望の夜を駆け抜けて、ついには誰も見たことのない夜明けを呼んでみせたのだ。
 それはちっぽけで儚い、弱弱しい光。何の力も持たない微かな灯明。
 だが、小さくとも光は光。その輝きは闇夜を照らす星の瞬き。夜空を切り裂く天の花。

 彼らの小さな友が手にしたその輝きこそまさに、人の最後にして最強の武器───


 名を『希望』という。


 転がる丸い友は『・・・そうか』と、頷いた。なにかを哀れむように、喜ぶように。
 転がる丸い友は『そうか・・・』と、もう一度頷いた。なにかを悲しむように、誇るように。

『ならば、何も言うまい。霞、我らの友にして誰より恥を知る者、拳に希望を灯す勇気の子。
 お前はこの世界最後の守り。我らは世界の守りの守り。
 お前が諦めないその限り、我らは決して諦めぬ。我らが負けを認めぬその限り、世界も決して負けはせぬ。たとえ今がどれほど暗い闇の中でも、我らが膝を屈さぬ限り必ず朝はやって来る。
 そう、お前と、我らで───』

 ───・・・・・・・───

『夜明けを、呼びに行くぞ』

 ───うん───

_______


『ついて来い、霞』と言って、友は走り出した。「ごろごろ」と走る友。その後を「とてとて」と走る霞。その後を「ごろごろごろごろ」と走る百を越す転がる丸い友。

それからしばらくの後、「ごろごろ とてとて ごろごろごろごろ」という、夜明けを告げる者達の騒々しい足音は基地の第4ハンガーで止まった。

 ───ここは・・・確か使えない資材の置き場のはずだが・・・?───

 疑問を口にする霞に応じるように扉が開き、内部に納められていた『モノ』が露になる。

 見たこともない形をした一機の戦術機がそこにあった。それを目の当たりにして、霞は思わず「大きい・・・」と目を見張る。
 確かにでかい。一般的な機体の優に倍以上はありそうなその威容は、もはや戦術機というより要塞のようである。「これは一体・・・」と、半ば呆然とその機体を見上げる霞に、友は誇らしげに答えた。


『勇者《武勇号》。お前が振るうべき銀の剣にして、お前を護る妖精だ』


 ───・・・武勇号───

『大きい分出力も桁違いだ。一千万馬力ある。それに見ろ───目も光るぞ!』

 ───それはどうでもいい───

友の言葉に応え目を光らせる武勇号に、霞は素っ気なかった。

『ウサミミもついている』

 ───よし、早く乗り込もう───

 霞はこの機体がとても気に入った。

・・・・・・・

 機体に乗り込み各計器のチェックを行う。ふとモニターに映る外の景色を見ると、

 ───・・・機体の肩の辺りに、誰かが腰掛けているようだが・・・?───

『ああ、あれは正義の女神さ。コイツがこんなに大きいのは、その肩に正義の女神を乗せる必要があるからだ。小さい機体では乗っけてやることなぞ出来んだろう?』

 成程、正論である。

 ───操縦法は?───

『本来なら“ウォードレスコード”が必要なのだが、友にはそんな物はないからな。可能なかぎりは我らがサポートする。それでも足りない分は気合でなんとかしろ』

 ───わかった。全チェック完了、オールグリーン。いつでもいける───

 霞の報告に友は頷いた。

『勇気発電システム、システム良好。直列に接続された我らから湧き上がる勇気こそがこの機体のエネルギーだ!! エネルギー充填120パーセント、放電開始!!』

 瞬間、基地内全ての電気系統が吹っ飛んだ。だが霞は気にしない。細かい事を気にしていては立派な勇者にはなれない。

『起動コマンドを読み上げるのだ、霞!』

 おう、と応えて霞は大きく息を吸い込む。


 ───スタンダーップ、武勇号!! レディー、ゴー!!!───


 勇ましく声を張り上げる霞。意外にノリノリである。

_______



 霞の長い一日が始まる。



*******

 あとがき

希望が乗るなら《希望号》なんでしょうが、、霞にアノ台詞を言わせたかったから《武勇号》に決定。あと《無名世界》絡みのソースは、基本『絢爛舞踏祭』のゲーム本編とドラマCDに準処となっております。あしからず。

次回、『霞の一番長い日 後編』。いよいよ決戦です。やっぱ『絢爛』おもろいわー。



[16696] 第三話 霞の一番長い日 中編
Name: 猫村◆14da4150 ID:8166cc9b
Date: 2011/03/20 13:15

 《武勇号》を託された霞は、転がる丸い友から『まずは宇宙を目指せ』と告げられた。そこに霞に会わせたい者達がいるのだとか。

 慣れぬ操縦に戸惑いながら武勇号を“えっちらおっちら”動かしてシャトル打ち上げ用のカタパルトに足を運ぶ。
 カタパルトには既に打ち上げ準備を済ませた船と・・・なぜかポニーテールがいた。なんでコイツが? 不審に眉をひそめる霞に気付いたポニーテールは「・・・クックック・・・フッフッフ・・・イーヒッヒッヒ!」と、高笑いもといバカ笑い。


「そうです、私がこのSSのラスボスです! さあ、カモンカモン!!」


 そう叫んでファイティングポーズをとる彼女を霞は思いっきりぶん殴った。血を吐いてぶっ倒れるポニーテール。これでせかいはへいわになったのよ。めでたしめでたし。

『一応断っておくが、ラスボスでもなんでもないからな。彼女は』

 そうだと思ったよコンチクショウ。話を聞けば、なんでも彼女が霞達を宇宙まで運ぶそうだ。シャトルを操縦するために必要な『操舵技能』を持っているのが基地内ではポニーテールしかいなかったらしい。
 ・・・コイツに舵を握らせるのか、はなはだ不安だ。霞は遺書を書くべきかどうか真剣に悩んだ。

・・・・・・・

 数時間後、霞は宇宙にいた。

 道中、案の定というべきか「素晴らしい、私の操縦は素晴らしいィイィ───!!」と調子に乗ったポニーテールが最大加速を行ったせいで死にかけたりしながらも、衛星軌道上に到達した霞を待っていたのは───とんでもない数の戦術機の大群だった。
 いったいどれ程の数がいるのだろう、正に空を埋め尽くすほどの数だ。しかもそのほとんどが衛星軌道降下用の再突入殻(リ・エントリーシェル)に身を固め、地上へ降下するのを今か今かと待ち構えている。

 その光景に圧倒された霞へ、友が『驚いたかね?』と、意地悪く聞いてきた。「・・・ああ、驚いた」そう答えるのが精一杯だ。ちなみにポニーテールは飛行長席に縛り付けてある。そこでずっと気絶してろ。

『それはなによりだ。この日に備えて少しづつ用意してきた甲斐があったというものだな』

 ───・・・そうか、かつて友が言っていた『私をビックリさせる準備』というのはこの事だったんだな───

 そう、彼らはずっと待っていてくれたのだ。霞がいつか、どこかのだれかのそのために拳を握ると。信じていてくれたのだ。霞がきっと自分達と一緒に戦う日がくると。
 友が示した友誼に目頭が熱くなった。だが決して泣かない。溢れそうになる涙を歯を食いしばって堪える。今の霞には安易に涙を流す事さえ許されない。泣けば皆が不安になる。周りが不安になればそれだけ勝率が下がるのだから。
 そんな自分の様子を満足そうに見守る友に、霞は気分を紛らわすかのように話題を振った。

 ───それにしても、これだけの数をいつの間に、一体どうやって宇宙に運んだんだ?───

 運搬自体は大した問題ではない。その莫大無比な生産能力によって、つい数ヶ月前まで目の玉が飛び出るほどだった戦術機の価格を、いまや自転車程度にまで下落させた張本人であるところの友ならば、シャトルでも何でも作って次から次へと打ち上げればいいだけなのだから。
 しかし問題はその量。一度に運べばすぐにバレるし、少しずつ運ぶにしても打ち上げの回数を重ねればそれだけ露見する率は高まる。ましてやさっき述べたとおり、文字通り『空を埋め尽くすほど』の大軍団。それを秘密裏に打ち上げようとするからにはその労力はお察しください、だ。

『そんな非効率的なことはせんよ。コストも馬鹿にならんしな。我らだけを貨物にまぎれて先行させ、数カ月がかりで宇宙で増殖。そうやって十分な数が揃った後に、材料を調達して一気に作ったんだよ。我らの元々の運用方法もそれだったしな』

 ───・・・・・・あー?───

 霞は首を傾げた。
 なるほど、確かにその方法なら効率的に、しかも誰にも知られることなくこれだけの軍団を作り上げることが出来るだろう。しかし友とて万能ではなく、材料も何も無い所から戦術機は造れない。一体どうやって材料を調達したのやら。

 『む? 材料ならそこらに浮かんでいたぞ』

 そこらにって・・・。ますます判らなくなった。まさかに人工衛星や宇宙開発競争時代のスペースデブリでもかき集めたんじゃなかろうな。

『違う違う。この辺りの宙域で“宇宙コロニーかと見紛うほどに巨大な宇宙船”を建造している連中がいてな、それを頂戴したんだ』

 ───巨大な宇宙船? どこかで聞いたような話だな・・・───

 ちなみに邪魔になりそうな作業員達には、片っ端から催眠ガスをかがせて脱出ポッドへ押し込み地上へ退去願ったらしい。
 そして余談ではあるのだが、この衛星軌道上における会話の同時刻。地上では、“とある国の主導で行われていた計画”に携わっていた連中の、それこそ一番上から下にいたる全員が一足遅いハロウィンの格好でヤケ酒を呷っていたりするのだが、それは霞達の知り得るところではなかった。

『とはいえ、明るい話題ばかりでもない。材料の問題から用意できた機体の数は予想より少なくてな』

 ───そんなに少ないのか───

『ああ、ざっと4万機ほど造ったところで材料が打ち止めになってしまった。本当にすまない』

 悪い報告はさらに続く。突貫作業が祟ったせいで、一部の装備が行き渡らないという不備が生じていると言うのだ。実に由々しき事態である。

『具体的には全軍の3割程がウサミミを装備できなかった』

 ───そうか、残念だ・・・───

 戦争はいつでも、人から、世界から、大事なものを奪っていく。その無情さに霞は目を伏せた。

・・・・・・・

 その後、幾つかの打ち合わせを行って作戦をまとめた霞達は、衛星軌道から地上へ───敵の本拠地に向け突入する運びとなった。
 再突入部隊へのナビゲート等はポニーテールが担当するらしい。ていうかコイツって確か名うてのパイロットじゃなかったっけ。アンタは来ないの?

「いやいや、私に出来るのはここまでです。このおはなしの主役はあくまでも貴方。そして、これから先のすべての時間は貴方だけのものです。どうか存分に舞踏を楽しんできてください。御武運を祈っています、夜明けを呼ぶ人・・・・・・しまった、久しぶりにマトモなことをしゃべってしまったアァァ──────ッ!」

 わめきながら「うねうね」と、おかしなポーズをとるポニーテールをよそに、いよいよ作戦開始である。

_______


 さて、『再突入殻』という装備は読んで字の如く、成層圏から地上へのスムーズな突入作戦を支援するための装備だ。しかしてその安全性は実に91%。突入した100機の内、9機が敵の対空砲火や予期せぬアクシデント等で戦うことさえ出来ずに落されてしまうのだ。『空飛ぶ棺桶(フライング・コフィン)』などと呼ばれる由縁である。

 それは今回も例外ではなく、すでに幾つもの味方が敵に迎撃されてしまう。

『だが今回、我々が投入する数は桁が二つばかり違う』

 なにせ4万だからねえ。霞が相槌を打っている内にも、撃ち洩らした突入殻がちょっとした質量爆弾として次々と敵陣に突き刺さる。それにより武勇号が地面に到達した頃には、“敵”には既に2割近い損失が出ていた。

『普通の戦争ならここで敵軍が退くのだがな。まあ知性体というのもおこがましい、ネットレースもどきでは戦争の常識など理解できんだろうよ』

 友にしては珍しく、吐き捨てるような口調だった。
 なんでも、彼らに言わせれば霞たちが戦っている“敵”というやつ、与えられたプログラムに沿って動くだけの機械のようなモンらしい。今まで知類が行ってきた交渉の全てが無駄に終わったのも、「自分が相対しているのは知的生物ではない」という思考に縛られているからに他ならないそうな。

『連中の思考は完全なループに陥っているのだ。その『外側』があるなどとは端から考えてなぞいない。考える事さえできない。したがってプログラミングされた事柄以外には理解も共感も及ばないのだよ。そんな代物、知性などとは言わんよ。タコなら「シブースト」と言って嘆いたろう。あれは《太陽系の豊かな味》を殊の外、貴重に思っていたからな』

 ───なんだよタコって・・・───

『その内に説明してやる。それよりも、今は戦いに集中しろ。頭頂部アンテナ展開、変形シーケンス完了、次元接続終了───来るぞ!』

 鋭い警告。遥か彼方から武勇号めがけて敵の攻撃───戦艦の装甲すら打ち抜くレーザーが襲いかかる。

 ───了解だ。シールド展開、戦闘展帳!───

 霞の指示と共に武勇号の前面を半球状の『何か』が包み、その『何か』にぶつかった敵の攻撃が四散、いや消滅した。
 これこそが《シールド》。この世のありとあらゆる物理的存在───熱、光、音、電磁波、挙句に重力。その全てを無効とせしめる絶対無敵の防壁である。そのデタラメな性能に霞は溜息をついた。友の技術力にはほとほと感心させられるばかりだ。

『お褒めにあずかり恐悦至極、と言いたいところだが実はこの武勇号、半分ほどは君たち知類が造ったものだ』

 ───そうなんだ───

『ああ。この機体はな、元々は『ある国の地下でほこりを被っていた機体』をベースにした物なのさ。おあつらえ向きに《シールド》のデッドコピーのようなシステムを搭載していた事もあったしな。一から作るよりも手っ取り早いという事で近くにあった《星のかけら》モドキと一緒に拝借したんだ』

 ・・・これはまったくもって余談なのだが、今友が口にした『ある国』では、モスボール処置(冬眠のようなものだが)を施されていた『戦略航空機動要塞』なる兵器と、その燃料ともなる国家戦略上において非常に重要なウェイトを占める『ある物質』が、何者かの手によって根こそぎ持ち去られるという事態が発生、国の大統領をはじめとした関係閣僚連中が一足早いクリスマスの格好でヤケ酒を呷っていたりするのだが、それは霞達の知りうるところではなかった。

『次元接続よし! シールド内の別世界より武器転送、開始』

 ───了解、トポロジーレーダー投影!───

 自機と周囲の敵味方の位相を示すレーダーがスクリーンに投影される。中心部に自分を示す青い三角形、その周りに敵を示す赤い三角のマーカー。
 ・・・レーダーが真っ赤に染まっていた。どこに何がいるのかもサッパリだ。とりあえず四方八方が敵まみれというのだけは判った。

『喜べ、どっちを向いても敵ばかりだ。攻撃は外れようがないぞ!』

 ───コッチもな───

 あくまで気楽な友に苦笑して、霞は操縦桿を“ぎゅっ”と握る。小さな拳に宿る輝きは、未だ夜空の星のように頼りない。でもそれで十分だ。希望なんてものは所詮どこまでいってもそんなもの止まりだ。ちっぽけで儚くて何の役にも立たないが───それでも、それがそこにある。

 弱くはかなく頼りないが、それがたしかに存在する。どこかのだれかのそのために影で人知れず、あしきものどもと戦っている。いつかくたばるその時まで。
 それを見た誰も彼もが思うだろう。弱い自分だが、我もだれかのために戦おうと。それがいつかくたばったその時には、自分が後を継いで戦おうと。

 その程度のものなのだ希望なんてものは。


 ───すべてはただ、明日はきっといい日だと証明するそのために───

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 霞の長い長い一日はこうして始まった。


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 あとがき

 とりあえず生存報告がわりの投稿です。相変わらず短くてすいません。あとウソついてごめんなさい。「次回は決戦」とか言っときながら終わってないし。


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