<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[16584] 【習作】『Doggy Boy & Clay Girl』(ゼロの使い魔・ただし壊れ&TS)
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2010/02/17 23:33
 某所に掲載した「もし、ハルケギニアが魔法少女の国だったら?」というIF物SSに関する冗談企画(ちなみに本編の方は一応ルイズルートで進む予定でした)を、正規に続けてみることにしました。
 正直、「ゼロ魔じゃなくてもいいのでは?」という気もしないではないのですが、作者の中でキャラクターのイメージが彼・彼女らで固まってしまっているため、一応「ゼロの使い魔」二次という体裁をとります。
 しかしながら、全体の8~9割はオリジナル要素てんこ盛りなので、前述のとおり原作ファンほどおススメできない作品になるものと思われます。
 以上をご了解いただいた方のみ、この先をお読みください。



[16584] Doggy Boy & Clay Girl 第1話.使い魔は退役済み
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2010/02/17 23:43
 「ふわぁ~あ、やっと終わったか」
 6時間目の授業が終わり、退屈そうにあくびをこらえながら、鞄を持って教室から出ようとする少年。
 「おーい、平賀ぁ、これからゲーセン行くんだけど、つきあわね?」
 「んーーー……わりぃけど、パス。今日は気分のんねぇし」
 クラスメイトの誘いに、ちょっと考えるそぶりを見せたものの、そのまま少年──平賀才人は、教室をあとにした。
 (今日は気分のんねぇ、か……)
 学校からの帰宅途中に、人気の少ない児童公園でベンチに寝ころび、空を眺める。
 先ほどの言葉は嘘ではない。が、同時に正確でもない。
 ただしくは、「日本に帰って来てからずっと」才人のテンションは上がりきらないままなのだ。
 普通の人間にとっては信じ難いことだろうが、彼はそう遠くない過去に、異世界に召喚され、半ば強制的にひとりの少女の「使い魔」として暮らしていたのだ。

 * * * 

 「あんた、誰?」
 出会いがしらのその言葉からして、彼女の当初の印象は最悪に近かったと言えるだろう。
 修理したてのネットブックを抱え、秋葉原の街角をホクホク顔で歩いていた、当時17歳の才人は、注意散漫だったせいか突然道端に現れた銀色の鏡に、「アッ」と思う間もなく突っ込み、奇妙な空間へと引きずり込まれたのだ。
 その挙句、近世ヨーロッパかと見まがうような異世界に有無を言わさず連れて来られただけでも、こちの心象は限りなくマイナス方向に振れているのだ。
 たとえ、目の前にいるのが中学1、2年生くらいのかなり可愛い美少女であろうと、ロリコン趣味のない才人にとっては、さしてプラスにはならない。
 しかも、「あ~、ハズレ引いたなぁ」という顔つきの少女が何やら呪文のようなものを唱えてキスした途端に、自分の姿が子犬に変わってしまったとあっては、なおさらだ。

 少女の説明によると、ここは、地球の「鏡」をはさんで裏側の次元に存在するハルケギニアと呼ばれる異世界らしい。
 「始まりの女王」と呼ばれた偉大なる魔女ブリミルの娘達が6000年前に建国した4つの王国と、幾つかの公国からなるこの世界は、魔法使いや妖精、精霊たちが実在するいわゆる「魔法の国」だとか。
 地球に比べると人口は少なく、また文明や技術も決して進んでいるとは言えないが、この世界は数多の魔法使い達の手によって、人々には快適で平和な暮らしがもたらされている。
 もっとも、ハルケギニアの住人全員が魔法を使えるというワケではない。むしろ、魔法使いと呼ばれる人材は希少で、それ故に人々から敬われ、感謝される存在らしい。
 日本で例えるなら、医者や弁護士、大学教授くらいのステータスだろうか。それも、モラルが低下した21世紀現在ではなく、古き良き日本におけるそれだ。
 また、魔法使いの9割以上は「高貴な血を引くうら若き女性」、つまり貴族の娘達にほぼ限られる。
 男性や平民の中から魔法使いになる例も皆無ではないが、割合は少なく、またその力も魔法の道具製作や秘薬の調合などに適している者が大半だ。
(もっとも、逆にそれゆえに庶民──ハルケギニアでは平民と呼ばれることが多いが──の暮らしに密着し、感謝される機会も多いのだが)
 一方、女性の魔法使いの中でも特に優れた者は、王宮から「魔法少女(メイデン・オブ・マジック/略してメイジ)」と認められる。メイジは、ただでさえ社会的地位の高い魔法使いたちの中でも花形とされ、多くの民衆からの崇敬と羨望を得るのだ。
 また、メイジは見目麗しい少女がほとんど(というかほぼ全員)なため、地球でいうアイドルなぞメじゃない人気を得、ファンがつくことも多い。もっとも、華やかな見かけに反して、じつは意外に危険を伴う任務も多いのだが……。
 そして、ここ「王立トリステイン魔法少女学院」は、そんな魔法少女(メイジ)を育てることを目的とした国立の学府だ。
 卒業生の95パーセントが優秀な魔法使いとなり、さらにそのうちの約3割が魔法少女の資格を得ているエリート校だ。
 名前に「少女」とはついているものの、一応男女共学。とは言え、前述のような理由から、全校生徒200人足らずのうち、男子はせいぜい十数人しかいない。
 入学資格は満12歳から14歳。大半の生徒は13歳で入学することが多いようだ。
 教育課程は3年間で全寮制。ただし、2年生の進級時に大事な「ある試験」があり、これに合格できなければ落第、たいていの落第生は留年することなく自主退学していく。
 その「昇級試験」とは──魔女少女につきものの「お供の小動物」を見つけること。いわゆる「使い魔の召喚と契約」だ。「お供」がいてこそ、魔法少女は万全の力を発揮できる。それはブリミルが定めたもうたハルケギニアの大法則であった。
 ちなみに、3年時のカリキュラムは、ハルケギニアと表裏一体の関係にある地球へと1年間赴き、そこで「魔法少女見習い」として実習に励むこと。
 とは言え、細かい判断は現場に任され、要は「周囲の人たちに多くの夢と希望を与える」ことができれば合格となる。これは、地球の人間の心が豊かになることにシンクロして、ハルケギニア住人の魔力も強まるかららしい。
 実習に合格すれば晴れてメイジとして認定され、ハルケギニア中を飛び回って、さまざまな役目を果たすことになるのだ。

 ……と、そんな内容を、少女は目の前のイスの上にチョコンとお座りした仔犬(言うまでもなく才人だ)に語った。
 「──それで、今、俺がこんなところにいてこんな格好してるのと、そのヨタ話にどう関係があるんだ?」
 普段なら眉唾物と一蹴するような話だが、現在進行中で我が身に起こっている異変と考え合わせると、ある程度は納得せざるを得ない。
 それでも、才人はあくまでうさん臭そうな表情を浮かべて、そう言い返した。
 「呆れた。今の話を聞いて理解できないの? まさか、脳味噌まで本物のイヌ並なんじゃないでしょうね?」
 「うるせー、ほっとけ!」
 体つきの関係か、いつもより声が甲高いのが情けない。
 「つまり、アレだろ。俺に、そのお供だか使い魔だかをやってくれってことか」
 「そ」
 きわめてそっけなく肯定した少女は、だが一瞬後にニヤリとたちの悪い笑みを浮かべた。
 「ああ、ひとつ訂正ね。「やってくれ」じゃなくて「やりなさい」、これは命令よ。あなたに選択権は事実上無し」
 「な……」
 そんなフザケた話があるか、と抗議しかけた才人だが。
 「けど、もしわたしの使い魔にならないなら、あなた、どうやってココで暮らして行くつもりなのかしら?
 トリステインは他の王国と比べても割とのんびりしたお国柄だけど、身分保障も常識も、おまけに知恵も力もなさそうな異邦人が、独力で暮らしていくのは結構大変だと思うわ」
 などと、目の前の性悪娘は、トンデモないことを言い出すではないか!
 「ちょっ、おま……責任とって、俺を地球に……元の世界に戻せよ!」
 「無理ね。異世界への転移なんて高度な魔法は、まだ習ってないし、そもそも学生がチキュウに行けるのは、3年生の実習の時だけって決められてるしね。
 もし、あなたが使い魔にならないなら、わたしは落第して2年生にもなれないし……そうなったら学院を辞めて故郷に帰るわ」
 気のない素振りでそう告げる少女。
 もっとも、後日聞いたところによると、平然と居丈高に振る舞いつつも、内心はハラハラものだったらしい。なぜなら、使い魔の契約は双方向性。つまり、才人からの了解を得なければ、正式に契約締結をできないからだ。
 姉ふたりの雪辱を果たすために、ぜひとも魔法少女になることを切望している自分にとって、最初の最初で躓くワケにはいかないから、ちょっと無茶しちゃったのよ。ゴメンね~、というのが本人の談。
 そのころにはある程度親しくもなっていたので、才人も苦笑して許したのだが、この場で怒り心頭といった状態だった。
 「くぬぅ……」
 柴犬の子が眉をしかめて考え込んでいる様子ははたから見ていればなかなかラブリーではあったが、今の才人は、そんな自分の姿に気づく余裕はない。
 「……確認するけど、3年生になったら、つまり1年後には地球に行けるんだな?」
 「ええ。言ったでしょ、見習い魔法少女として地球で実習するって」
 「当然、お供も連れて行く?」
 「当たり前よ。お供の小動物のいない魔法少女なんて、クックベリー抜きのパイみたいなものだわ」
 澄ました顔でのたまう少女の顔を、しばらくニラみつけた後、才人は唸るように口から言葉を押し出した。
 「……った」
 「──え?」
 「わかった! 使い魔だかお供だか知んないけど、やってやるって、言ってるんだよ!」
 彼が、そう叫んだ瞬間。
 ピカ~~ンと桃色の光が、少女の体から漏れ出して、子犬に降り注ぐ。
 やがて光が収まったとき、イスの上には人間の姿に戻った才人が、ブスッとした顔つきで胡坐をかいて座っていた。
 「じゃ、これで契約成立ね。長……くなるかはわからないけど、ま、当分よろしく」
 出会ってから初めて無邪気な満面の笑顔を向けてくる少女に、才人は、ちょっと(あくまで、ほんのちょっぴり、だ)ドキリとする。
 「あ、あぁ……その、よろしく。えっと……その、なんて呼べばいいんだ? あ、俺は才人、平賀才人」
 「あら、コントラクトの時に名乗ったと思ったけど……ま、いいわ」
 自分の椅子からスルリと滑り下りた少女は、ゴスロリ風のフリルの多いドレスの裾を翻して、優雅に一礼した。
 「ようこそ、ハルケギニアへ、我が戦友にして相棒たる使い魔サイト。
 あなたの主人の御名を、その心にしかと刻みなさい。
 我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ヴァリエール公爵家の三女にして、未来の大魔法少女(アークメイジ)よ!」
 ないムネを張って、そう言い放つルイズだったが、当の才人は話半分に聞き流している。
 「ふぃーーっ、ようやっと人間の姿に戻れたぜ」
 椅子から降りて、肩をクキクキと回す才人の姿に、ちょっとムッとしたルイズだったが、いきなり犬にしてしまったのは自分なので、ここは癇癪を堪える。
 「ふーん、よかったわね。じゃ、さっそくだけど、こっちへいらっしゃい」
 ルイズは自室のドアを開けると、ズンズンと廊下を進んで学生寮の外に出ていってしまった。
 「え? お、おい、ちょをっと待てよ!」
 こんな女だらけのところにひとり放置されてはたまらない。
 無論、才人とて年頃の男の子だから、女の子に興味はあるが、さすがにこんな勝手のわからぬ異郷の地の(しかも、いわゆる魔法使いの卵らしい)女の子たちに、ちょっかい出す気にはなれない。
 何より……聞いた話によれば、この学院は、日本でいえば中学校に相当する年齢の子が集まるらしい。一応高校2年生の健全なる男子としては、女子中学生に手を出すのは、何となく犯罪ちっくではばかられる。
 「はぁはぁ……お前、足速いな」
 「──ルイズよ」
 「は?」
 「だから、わたしの名前。お前じゃなくて、ルイズと呼びなさい。
 感謝してよね、名前を呼び捨てすることを許すなんて、普通の平民にはないことなんだから」
 ほんの少しだけ頬を染めてそう言うルイズを不覚にも可愛いと思いながら、才人は、「こいつもしかして俺に……」とヘンな妄想のスイッチが入りかけた。
 「……何か勘違いしてるみたいだけど、わたしがあなたに名前を呼び捨てることを許したのは、それが魔法少女とお供のあいだにおける不文律だからよ」
 デレッと鼻の下が伸びた才人の顔を見て、おおよその意図を察したのか、軽蔑したような呆れたような目で、ルイズは鼻をならした。
 「フブンリツ?」
 「そ。いい? 魔法少女、いえすべての魔法使いにとって、使い魔ってのは生涯の大事な相棒(パートナー)なの。
 まして、重要任務に就く機会も多い魔法少女にとっては、使い魔=お供とは、ただの従者じゃない。戦いにおいては自らの背中を守る盾ないしアドバイザー、冒険においては苦楽をともにする戦友なのよ。
 命の危険が迫っている時に、「●●お嬢様、危うございます。3時の方向にお逃げください」なんて、まどろっこしくて言ってらんないでしょ。
 だから、どんなに位の高い魔法使いであっても、その使い魔だけは、対等な口をきくことが許されてるわけ。それが偉大なる「始まりの女王」ブリミル様の定められた決まりなの」
 「ふーん。魔法少女とかって、もっとファンシーでリリカルでメルヘンチックなものだと思ってたぜ」
 平和な日本で生きてきた才人にとっては「戦う」だの「命の危険」だのは縁の遠い言葉だったが、どうやら「魔法少女のお供」とは予想外に大変な仕事らしい。
 内心ビビりながらも、才人は軽口を叩く。
 「まぁ、確かに歴代魔法少女の中には、戦闘がそれほど得意ではない人もいることはいたみたいね。でも、わたしのお母様は、あの「ウィンディ・カリン」、当然その跡を継ぐ以上、そんなこと言ってらんないわ!」
 「ゲッ……」
 生粋のアキバ系というわけではないが、多少はアニメに詳しい才人には、ルイズが口にした名前に心当たりがあった。
 もう10年くらい前だろうか。夕方のテレビで再放送しているのを母が懐かしそうに見ていた番組のタイトルが、たしか『魔法のつむじ風☆ウィンディ・カリンちゃん』だった気がする。
 彼が生まれるより前に放映されたアニメとは思えぬほど、女の子たちの造形は可愛かったが、物語中で繰り広げられるのは、ミラクルとかファンタジーという言葉とは無縁な、ガチの魔力(ちから)のぶつけあいだった。
 ──まぁ、ある意味、(個人の戦闘能力とは思えぬほど)奇跡的(ミラクル)であり、(指輪物語やロードス的な意味で)ファンタジーではあったが。
 そう言われてみれば、眼前の桃色の髪の少女には、どことなくあのヒロイン「カリンちゃん」の面影があるような……。
 (魔女っ子アニメって絵空事だと思ってたけど、もしかして全部実在のモデルがいるのか? ……いや、まさかね)
 一瞬、そんな考えが浮かんで、才人はあわてて否定するが、実はそっちが正解だったりする。
 ──ちなみに、肖像権その他の権利にまつわる収入は、後輩の魔法少女見習いが地球に滞在する際の費用として積み立てられているらしい。
 その話を聞いたとき、あまりの世知辛さに才人は思わず涙したものだ。。

 「さ、着いたわ。ここよ」
 考え事をしているあいだに、どうやらルイズの目的地に着いたようだ。
 「こりゃ、また、ボロ…あ、いや、由緒ありそうな建物だな、おい」
 もっぱら貴族の子女(女性の方が圧倒的に多い)が通う学校だけあって、現代人の才人の目から見てさえ、豪華で清潔そうな建物ばかりが目につくこのトリステイン魔法少女学院だったが、目の前の建物だけは別だった。
 木造二階建てなのはともかく、その壁の作りがきわめて簡素だ。防水防腐用に最低限のニス程度は塗ってあるようだが、装飾らしい装飾もなく、何よりかなりの年月を経ていることがわかる。
 (ニュースでやってた京大吉田寮とか、こんな感じだったような……)
 嫌な予感に冷や汗が止まらない。
 「ふふん……”ボロい”と言わなかった心遣いは褒めてあげる。でも、そんな遠慮は無用よ。
 トリステイン魔法少女学院・男子寮ウルカヌス。今日から、あなたはココで暮らすんだから」
 「や、やっぱり、そうくるか……」
 ガックリと地面にorzの姿勢で膝をつく才人。
 ルイズが扉の外に備えつけられた紐をグイッと引くと、頭上でカランカランと意外に澄んだ鐘の音がして、入口のドアが開かれた。
 「おや、ミス・ヴァリエールじゃないか。意外に早かったね」
 中から顔を見せたのは、パッと見、男か女か判別しづらい優男(もっとも、シャツの胸元をはだけているので、乳房がないことがわかったが)だった。
 「ええ、素直というか考えなしと言うか……いずれにせよ、物分かりのいい使い魔で助かったわ」
 そう言うと、ルイズはいまいち事態を把握していない才人の腕を引っ張った。
 「ほら、いくら平民でも、初対面の人への挨拶くらいはできるんでしょ?」
 「あ、ああ。えーと、初めまして、日本から来ました平賀才人です」
 言いながら、「なんで異世界人に転校生みたいな挨拶してるんだ、俺は」とげんなりする。
 しかし、最初に顔を見せた少年その他の反応は予想外のものだった。
 「なんと! 名前からもしやとは思っていたが……サイトくん、君は日本人なのかね?」
 「あ、アキハバラとか行ったこと、あるかい?」
 「最近の日本のアニメで好きなのは何?」
 「携帯ゲーム機とかノーパソ、持ってきてない?」
 次々に玄関から顔を出すここの住人と思しき男子生徒達の迫力にたじろぎつつ、才人は答える。
 「その通り、日本人だ。アキバは月1くらいで行く。最近のマイブームは『けいおん』。リュックの中には修理したてのネットブックが入ってる」
 律儀に全部の質問に答えたのち、どうしたものかと傍らのルイズを見……ようとしたところで、彼女がスタスタと来た道を帰ろうとしているのに気がついた。
 「ちょっ、おま…じゃなくて、ルイズ、どこ行くんだよ?」
 「どこって……帰るのよ、自分の部屋に。今日はいろいろあって早く寝たいし」
 振り向いて不思議そうな顔をするルイズに駆け寄り、肩に手を……やろうとしてかろうじて思い留まる。
 3つも年下の女の子にすがりつくというのは、さすがにカッコ悪く思えたからだ。
 「いやいや、だから。俺はどうすればいいんだ?」
 「言ったでしょ、この男子寮で暮らしなさいって。心配しなくてもいいわよ。ウチの男子連中は、ちょっと変わり者が多いけど、基本的には気のいい人ばかりだから。それともまさか、あなた、女子寮で暮らすつもりなのかしら?」
 マイナス273度の視線に「この変態、ド変態、大変態」という侮蔑の色を乗せて、ルイズが才人を睨んでくる。
 「ち、違うって。そのぅ……夜はここで寝るとして、朝になったら俺、どうしたらいいんだ?」
 チラリとそんなことを考えないでもなかったのだが、慌てて否定しつつ、才人は別の疑問を口にする。
 「ああ、なるほど。そうね……男子寮の早起き組がいるはずだから、その人達と一緒に起床して、そのあとすぐにわたしを起こしに来なさい」
 げぇ~、お嬢様付きの執事みてぇだな、と思いつつ、ハイハイと安請け合いする。
 「じゃあ、頼んだわよ?」
 ルイズは、多少うさん臭げな視線を向けつつも、自分の部屋に帰っていった。
 「はぁ……それじゃ、俺もココに世話になるか」
 夕闇とともに、あたかも戦前の廃病院か旧校舎のような趣きをかもしだす古びた男子寮に視線を向けながら、才人は男子寮生とおぼしき少年たちのもとに足を向けるのだった。

-つづく-
-------------------------------------------------
はい、「こんなのゼロ魔じゃねぇーー!」と感じたお方は、素直にここで読むのをやめて、回れ右してください。
逆に、イカモノゲテモノ好きな方は、続きを読むと楽しめるかもしれません。



[16584] Doggy Boy & Clay Girl 第2話.使い魔と少年魔法使
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2010/02/17 23:36
 寮の内部は、ボロ…いや、簡素で古びた建物のわりに、よく整備されており、雨漏りでもするのではないかと戦々恐々としていた才人も少しだけ安心した。
 「やぁ、改めてこんにちは。僕はギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。今年度から、ここの寮長を務めさせてもらっているよ。ふたつ名は、「青銅像のギーシュ」さ」
 「ぼ、僕はマリコルヌ・ド・グランドプレ。ふたつ名は「神風」。よろしく、サイトくん」
 「あ、ああ……よろしく」
 全員貴族かつ魔法使いのはずの男子寮生たちは、意外なほどフレンドリーで、才人としてはちょっと戸惑ったが、ギーシュと副寮長のマリコルヌに、ある部屋に案内されたことでその謎が解けた。

 男子寮生共有の娯楽室だというそこは、日本で言う10畳ほどの広さがあった。
 現在の寮生は、今日からここに住む才人も含めて計15人だと言うから、全員集まるのも、多少窮屈だが不可能ではないだろう。実際、休日の午後などは、ほとんどの者がここに集まってお茶しているらしい。
 ただし。
 「魔法の国の貴族の子弟たちのお茶会」なぞという言葉から連想される優雅でハイソなイメージとは程遠い光景であろうことは、才人にも断言できる。
 なぜならば。
 壁面に所狭しと貼られたアニメ絵のポスター。
 部屋の一角には昔懐かしい14型ブラウン管テレビが鎮座し、そのテレビ台の下には旧型PS2と白サターンが置いてある。隣りの角にある木製の棚には、才人にも見覚えのあるDVDやコミックスがビッシリ詰め込まれている。
 テレビの前には、4畳半分ほどの畳が敷かれており、その中央には一辺120センチくらいのコタツが置かれている。ご丁寧にも、天板の上には盆ザルに積まれたミカンまで完備されているのだ。
 「ひとり暮らしの日本のアニヲタの部屋かよ!?」
 「はっはっはっ、”本場”の人にそう言ってもらえるとは光栄だよ」
 ニコやかにギーシュが笑いつつ、右拳を突き出してサムズアップする。
 「本当に白い歯がキランと光るヤツっているんだな~」と密かに関心しつつ、才人はふたりに説明を求めた。
 「ふむ……ミス・ヴァリエールから、ハルケギニアと君たちの住むチキュウの関係について、説明は受けたかい?」
 「あぁ、一応な」
 「ならわかるだろうけど、ハルケギニアから赴く”魔法少女”達のチキュウでの活躍は、こちらの人間にとっても注目の的なんだよ」
 なるほど、たとえて言うなら、イチローみたく日本からアメリカに渡ってメジャーリーグで活躍してる選手のようなものか。いや、聞いた話から想像する限りでは、ステータスや人気はもっと上なのだろう。
 「幸い近年のチキュウには、記録媒体として磁気を利用した「ビデオ」や、電気信号による「デーヴイデー」があるからね。しかも、彼女たちの活躍を娯楽仕立てにまとめて見られるという神仕様だ!」
 「さすがに貴族も含め一般家庭ではおいそれとチキュウの品は手に入らないけど、ここは”魔法少女学院”だからね。お金とコネさえあれば、なんとかなるんだよ」
 ギーシュの言葉をマリコルヌが補足する。
 「なるほど、それで魔法少女アニメのDVDが大半なのか」
 しかし、「プリキュア」や「しゅごキャラ」レベルならともかく、「セーラームーン」や「東京ミュウミュウ」まで、魔法少女に含めてよいものだろうか?
 「それも理想的な魔法少女となるための資料だよ。現地でどのようなヒロイン像が望まれているのかに関する研究も大切だろう? 知ってのとおり、チキュウの人々の心を豊かに、幸せにすることで、我々ハルケギニアの地も、より大きな魔力を授かることができるのだからね。
 同様の理由で”魔法”とか”奇跡”とかが関係する作品も集めてある」
 一連の京アニkey作品や、「レイアース」、「チャチャ」などを指さしつつ、ギーシュが真面目くさって言うが、才人はジト目で突っ込んだ。
 「──で、建前はともかく、本音は?」
 「い、いちごタン萌え~! ご奉仕してほしいにゃん」
 「何を言うか、萌えの基本にして元祖はセーラーサターンこと土萌ほたるちゃんじゃないか!」
 あまりにアレすぎるふたりの返しに苦笑する才人。彼自身、ライトヲタであり、2ちゃ●ねるのアニメ板なども時々のぞいてはいたが、さすがにここまでディープな問答を、異世界くんだりまで来て聞くハメになろうとは思ってもみなかった。
 本当にココは異世界なのだろーか? 「ドッキリ」と書いた看板を持ったADが入って来ても、今なら信じられる気がする。
 「はいはい、萌え談義はそこまで。まぁ、大義名分のほかに個人的な趣味嗜好も関連してるってことだよな。
 でも、この世界にはモノホンの魔法使いや魔法少女がいるんだろ? ……て言うか、そもそもお前さんたちも、魔法使いの卵なんじゃないのか?」
 才人のもっともな問いに、フッ、と黄昏るギーシュ達。
 「確かに、僕ら一部の貴族の男性も、魔力を扱うことは可能だ。しかし……魔法使いと言うにはあまりにも”地味”、地味なんだよ!!」
 「サイト、きみに想像がつくかい? 来る日も来る日も、森や野原をうろついて、魔力の豊富な土壌や薬草などを探し回り、採集する日々を!
 そうやって集めた素材から、魔力をいくつかの器具にかけて少しずつ濾過し、分離し、結晶化させる退屈な作業の時間を!」
 「さらに、その結晶化した各属性の魔力を用い、教本に載ってる基本に個人のインスピレーションに基づくアレンジを加えつつ調合し、あるいは魔法陣上で熟成させ、あるいは魔法炉で精錬していく行為の単調さを!」
 滝のような涙を流す男ふたりに詰め寄られ、タジタジになりながら、かろうじて答える才人。
 「あ~……聞いてるだけだと、魔法使いって言うより、錬金術師みてーだな」
 「そう、まさにそのとーり!」
 才人の言葉に、得たり!と頷くギーシュたち。
 「そりゃあ、「アトリエ」シリーズは名作だよ? でも、アレはまだ、仲間と冒険の旅に出て、強力な攻撃アイテムを使ってバンバン敵を倒したり活躍もできるじゃないか」
 「もし、アレが調合&販売だけを繰り返すゲームだったら、はたしてあそこまで人気が出ただろうか? 否!」
 どうやらサターンやプレステ2を如何なく活用しているらしい。
 「えっと……そーゆーの、しないの?」
 恐る恐る尋ねる才人の質問に対して、ドヨ~~ンとしたふたりの眼が、答えを物語っていた。
 「う……りょ、了解。つまり、男性の魔法使いは総じて地味で、あまり華々しい活躍をする機会はないと。でも、それがどうして魔女っ子アニメ偏愛に結び付くんだ? 同級生とかもいるだろうに」
 フッと、寂しげな微笑みを浮かべるギーシュ。
 「三等星のごとくささやかな光しか持たない僕らにとっては、彼女たちの太陽の如き輝きは、眩しすぎるのさ」
 マリコルヌもしたりげに同調する。
 「そうそう。だから、せめて魔法少女の戦いの記録を収めた作品を見て、彼女たちの活躍をしのぶしかないんだ」
 「……要するに、言い寄って、相手にしてもらえる自信がない、と」
 彼女いない歴=年齢の才人としては、わからないでもない気持ちだが、あまりに屈折し過ぎてないだろうか?
 (でも、コイツらもアレな趣味のおかげで、日本から来た俺に友好的なんだろうから、別にとやかく言う筋合いはないけどな!)
 と、軽く現実逃避する才人。
 「と、ところで、さっき自己紹介の時、ふたつ名とか言ってたけど、アレは何なんだ?」
 あまり深く追求すると藪蛇のような気もしたので、話題を変える。
 「ああ、あれは僕らの魔法使いとしての特性や特技を、簡潔に表しているんだよ」
 「たとえば、このマリコルヌは、男性魔法使いでありながら、祖母からの遺伝か、ほんの一瞬だけごく小規模なつむじ風を起こす魔法が使えるんだ!」
 「いやいや、僕なんて。たかだか紙や軽い布を僅かに持ち上げる程度の、風とも言えぬ程度の代物だしね」
 謙遜しつつ、微妙に自尊心をくすぐられたのか、鼻孔をピクピクさせるマリコルヌ。
 「は、はぁ」
 確かに凄い……かどうか、よくわからない能力だ。大体、使い道があるのだろうか?
 「ふぅ~、キミには失望したよ、サイトくん」
 さすが外人(異世界人?)、「やれやれだぜ」という風にギーシュが肩をすくめる姿は、なかなか様になっている。
 「いいかい? 逆に言いかえれば、彼の魔法は、軽い紙や布程度なら持ち上げられるんだよ?」
 ────! まさか。
 ある可能性について戦慄する才人。
 「気づいたようだね。そう、彼の力を使えば……女子のスカートをごく自然にめくることができるんだ!!」
 「な、なるほど……それで「神風」か」
 確かに、居合わせた男子一同にとっては恵みの神風に違いあるまい……対象とされた女子には、いい迷惑であろうが。
 「でも、バレないのか?」
 「フッ、そう簡単に尻尾をつかませるようなヘマはしないさ」
 そうアッサリ言ってのけるマリコルヌ。小柄でやや小太りな彼の体から、別人のような自信に満ちた気配が感じられて、才人は思わず気圧される。
 ……いや、やってるコトは、ただのスカートめくりなのだが。
 「そ、そうか。で、ギーシュはなんだ、”ブロンズ”だっけ?」
 まさか聖闘士の真似事できるのかと思いきや、ギーシュは笑って否定した。
 「いやいやいや、僕にできるのは、コレくらいさ」
 懐から太さ2センチ、長さ10センチくらいの金属製の丸棒を取り出すと、器用にコタツの天板の上に立てる。
 さらに、指揮者のタクトのようなモノを片手に目をつぶって何やら口の中でモゴモゴ唱えたあと、ギーシュはカッと目を見開いた。
 「キたッ、”錬金”!!」
 不可視(なはずのに、なぜか才人には見えた)の力がギーシュのタクトから金属棒に流れ込み、モコモコと形を変え始める。
 変形終了までおよそ1分あまり。そこには、ゴスロリちっくなミニドレスに身を包んだ、美少女の姿が再現されていた。
 「おおおーーーーーっ」パチパチパチ
 思わず手を叩いてしまう。
 「ふぅ、ザッと、こんなところかな」
 「うわ~、これって、ルイズだよな?」
 8分の1サイズとは言え、髪型や顔つき、身体つきまで本物そっくりによく出来ている。
 「なぁ、もしかして、これ動かせるのか?」
 「ん? いや、それは無理だ。F●gmaのごとく関節可動性を持たせたものも作れないことはないけど、今の僕の実力では十倍以上の時間と魔力が必要だしね」
 なんで、Fi●ma知ってんだよ……と思いつつ、才人は首を横に振った。
 「いや、そうじゃなくて、歩いたり踊ったり……」
 「?」
 「ああ、ギーシュ、サイトが言ってるのはこういうことだよ」
 どこから取り出したのか、紙切れをもじぴったんのごとき簡易な人型に切ったものをペタペタと畳の上で歩かせてみせるマリコルヌ。
 「うん、それそれ!」
 「なぁんだ、そう言うことか。はっはっはっ……そんな魔法のようなこと、ムリだよ」
 「え? そんなアッサリ……」
 つーか、お前、今自分の存在意義を否定しなかったか? と心の中でメタな突っ込みをする才人。
 「確かにごく軽いものなら動かすことはレビテーションの応用で不可能ではないだろうけどね。僕ら男性魔法使いには、それでさえかなりの難行なんだよ。
 比較的その方面が得意なマリコルヌさえ、紙切れを歩かせるのがやっと。某ハラペコ人形使いみたく、踊らせたり宙返りさせるなんて至難の業さ」
 「まして、ギーシュの青銅人形はそれなりの重量もあるからね」
 「そりゃあ、僕だって、ホイホイさんとか武装神姫のごとく、愛らしい我が作品達に飛んだり跳ねたりしてほしいさ。でも……ムリ、無理なんだよ、サイトくん」
 血の涙を流すギーシュを見て、「悪いコト言ったかな~」と才人は後悔する。
 「ま、まぁ、たとえ動かなくても、このブロンズ像が精巧でよくできた代物であることには変わりないって。だから、元気出せよ!」
 「うぅ……そう言ってくれると、多少は気が楽だよ。いや、キミはいい人だね、サイトくん」
 今度はうれし泣きか。どうやらこの少年、美形な外見に反してやたら感情の振幅が激しいようだ。むしろ、お笑い方面でなら成功できるかもしれない。
 「──ギーシュ、そろそろいいんじゃないかな?」
 「ん? ああ、そうだね。それでは、サイトくん、そろそろキミの部屋に案内しようか」
 正直、才人としても、いろいろあって今日は疲れたので、休憩できるのはありがたかった。
 連れて行かれたのは、2階よりさらに上にある狭くて埃っぽい屋根裏部屋……などでは決してなく、ごく普通の2階の一室だった。しかも……。
 ガチャッ。
 「へぇ、ここが俺の…「「「「「サイトくん、入寮おめでとう!!」」」」」…うわっ、なんだなんだ!?」
 ドアを開けた瞬間、中から彼を歓迎する声が聞こえてきたため、面食らう。
 「僕らで君を誘導しているうちに、皆にちょっとした歓迎会の用意をしておいてもらったのさ」
 見れば、部屋の中には大きめのテーブルが持ち込まれ、その上に所狭しと食べ物や飲み物が並べられている。
 「はは、まぁ、こんな時間だし、たいしたものは用意できなかったんだけどね」
 寮生の中でも年かさと思しき少年が穏やかに笑う。ギーシュとはタイプの異なる、ちょっとインテリ風のこの美形が、昨年の寮長のベリッソンだと後で聞かされた。
 「お、俺のために、わざわざ?」
 小・中・高校とも転校などしたことがない才人だが、いまどき日本の学校でも、こんな粋な心遣いをしてくれるところは稀だろう。ちょっと感激してしまう。
 「なーに、いいってことよ。このウルカヌス寮に住むからには、俺達は仲間じゃねーか」
 貴族にしては柄の悪い物言いをする少年が、バンバンと才人の肩を叩いた。少し馴れ馴れしいが、決して悪い気はしない。ギーシュたちと同級で、ギムリというらしい。
 そこからは、乾杯とともに無礼講の時間となった。
 寮生たちは、「貴族」という言葉から想像されるようなイヤミで高慢な性格とは程遠い、気さくで親切な人間ばかりだった。それでいて、ギムリのような一部例外を除いて、礼儀正しく上品な物腰は、育ちの良さを感じさせる。
 後日、一番の親友となったギーシュに聞いてみたところ、彼は優雅に肩をすくめた。
 「”貴族であること”自体を自慢するなんて、よほどの三流貴族か昨日今日に貴族の位を得た成り上がりくらいのものだよ。
 ああ、誤解しないでくれたまえ。別に成り上がり自体が悪いと言うんじゃない。実際、1、2代前に貴族となった家系でも、立派な人間は沢山いるからね。
 僕が言いたいのは、つまり大事なのは「貴族として何を為すか」だ、ということなんだ。僕ら貴族は、確かに自らの血統に誇りを持ち、おおよその平民よりも財力があり、また魔法使いを輩出する機会も多い。
 だけどね、「どんな力を持つか」ではなく、「どういうことをして、国や領地を豊かに、周囲の人々を幸せにしたか」こそが、貴族の値打ちを量る目安となる──この学院の院長先生は、そのことを僕らに教えてくださったんだ」
 なるほど、コレが本物の上流階級のご令息と言うヤツなのか……と、才人は感心したものだ。

 もっとも、年齢に似合わずよくできた少年たちだが、そうは言ってもやはり若い男の子。日本人の才人より体格がよい者が多いので忘れがちだが、彼らは全員中学生くらいなのだ。
 アルコールが入るにつれて、多少はハメを外し気味になったのも無理はなかろう。
 「そ、そう言えばサイト、確かパソコン持ってきてるって言わなかったっけ?」
 「ん? ああ、確かにあるけど……」
 マリコルヌの何気ない(風を装った)質問に、気軽に応えた才人だが、その途端、部屋の中の喧騒がピタリと止まる。
 エアリード能力の低さには定評がある才人だが、さすがにここまで露骨だと一拍遅れてだが、気がつく。
 「えーっと……もしかして、みんな見たい?」
 ブンブンッ!
 14の首が一斉に縦に振られる様は、ある意味圧巻であった。その迫力に押されて、「仕方ないなぁ」と頭を振りながら、もったいをつけて肩にかけた鞄から愛機を取り出す。
 コンパクトモバイルEX6K●16MA。知り合いの先輩から、ほとんど新品に近い品を安く譲ってもらった代物だ。
 モニターはワイド11.6型と少々小さいが、機能的には数年前のノーパソに準じるレベルで、才人のようにインターネットとせいぜいギャルゲーくらいしかしない人間は、これで十分こと足りていた。
 「ど、どんな美少女ゲームをインストールしてあるんだい、サイトくん?」
 (鼻息荒いぞ、ギーシュ。それにどもるな!)
 「それより、画像! エロ画像はないのか?」
 (ギムリ、もうちょっと言葉をオブラートに包め)
 「まぁまぁ、諸君、落ち着きたまえ。……それで、18禁の二次創作SSとかを保存してあると、個人的にはうれしいんだけど?」
 (S・H・I・T! ベリッソン前寮長、アンタも、ムッツリか!)
 心の中でいちいちツッコミは入れているものの、才人とて友人達とする猥談やバカ話の類いが嫌いというわけではない。
 夜中近くまで、ウルカヌス寮のメンバーとモニターを囲みつつ、ハイテンションに盛り上がった。
 勢いで、男子寮生全員(プラス女子や教職員数名)から成る、「現代地球文化を研究する会」、略して「げんちけん」というサークルにも、才人は加入してしまったのだった。
 ……自分でも、異世界くんだりまで来て、何をやってるという気がしないでもなかったが。

-つづく-
---------------------------------------------------
男子寮の面々の濃さ、どんだけ~!
いろいろパロってますが、自重はしませぬので、あしからず。


<オマケ>
 「あ、そろそろバッテリーがヤバいかも」
 「うむ。夜も更けたことだし、それならお開きとしようか。サイトくん、そのノートを充電したいなら、娯楽室にコンセントがあるから使ってくれたまえ」
 「……ん? そういえば、機械の電源はどうしてるんだ?」
 「ああ、君も”げんちけん”のメンバーとなったんだから、知る義務と権利があるね。こっちだよ」
 ギーシュに案内された娯楽室の一角には、ジムなどで見かけるトレーニング用のエアロバイクのような器具が置かれていた。ただし、後部からは太いケーブルが延びて屋外キャンプなどで使うバッテリーにつながっているが。
 「も、もしかして……」
 「うむ、我らげんちけんのメンバーは全員、週に1度はコルベール先生謹製のこの”エレキテルなヘビくん”を1時間漕いで、蓄電する義務があるのだよ」
 「じ、人力……魔法の国なのに、人力で発電かよ……」
 この世界に来て何度めかの価値観崩壊の危機にさらされる才人であった。



[16584] Doggy Boy & Clay Girl 第3話.使い魔は歴戦の勇士
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2010/02/17 23:37
 ハルケギニアで過ごす最初の一日が終わり、まさに日付が変わったばかりの深夜。
 寝付けない……と言うか、正確には一度は眠りについたものの、喉の渇きと頭の痛みで才人は目を覚ました。
 「うぅ、み、水が欲しい……って、イタタタ。これが二日酔いってヤツなのか?」
 子供のころからワインを水同然に飲み慣れているハルケギニアの少年達と異なり、才人は今日初めてアルコールを口にしたのだ。飲んだ量が少なかったとは言え、軽い頭痛程度で済んだのは僥倖だろう。
 「水道は……あるわけねーか。確か裏庭の方に井戸があるって言ってたよな」
 ベッドから起き上がったサイトは、水を求めてフラフラと寮の外へと歩き出した。
 幸い今夜は満月のおかげか辺りは明るく、さして迷うこともなく井戸端まで来れた。
 慣れぬ手つきで釣瓶をとって桶に水を汲み、井戸水をがぶ飲みすると、才人もようやく人心地ついた。
 「しっかし、なぜか言葉通じるし、魔法の国の住人にしては会うヤツみんな妙に現実くさいから、内心ドッキリ疑惑が抜けなかったんだけど、コレを見たらさすがにここが異世界──少なくとも地球じゃないと、信じるしかないよな」
 そのまま何とはなしに井戸端に腰かけて夜空を見上げた才人は溜め息をつく。
 「きゅい? どうしてなのね?」
 「そりゃ、地球にふたつ月があるはずが……」
 何気なく答えかけて、才人はピタリと口をつぐむ。
 (い、今の腹ペコシスターっぽい女の子の声、後ろのかなり高い位置、明らかに空中から聞こえなかったか?)
 そう、まるで幽霊か何かの如く宙に浮いてるような。
 (……って、そっか。ここは魔法の国だっけ)
 大方、女子生徒の誰かが夜の空中散歩でもしてて、自分を見とがめたのだろう。
 思い切って後ろを振り向く才人。
 やはり真後ろには誰もいない。うん、ここまでは予想どおり。
 さらに視線を上の方に上げていくと……いた!
 どのような理屈からか、ほとんど翼も動かさずに上空5メートルほどの位置にホバリングしている全長6メートル近くありそうなドラゴンが。
 「う゛え゛ぇぇぇぇーーーーっ!?」
 今日一日で、いい加減非常識には慣れたつもりだったが、さすがにビビった。
 (あぁ、モンハンでクック先生討伐に失敗する初心者ハンターを馬鹿にしてたけど、反省する。この大きさでも、マジこぇ~! こんなんとガチでタイマン張れば、そりゃ負けてもしょーがねぇよ)
 何やら視線の焦点が定まらずブツブツ言ってる才人。そのままなら、下手したら精神崩壊の危機に陥ったかもしれないが、背後から聞こえる優しい女性の声が彼のピンチを救ってくれた。
 「大丈夫ですよ、少年。彼女はおとなしくて賢い竜です。それに、貴方と同じくこの学院の生徒の使い魔になりましたから、そんなに怖がることはありませんよ」
 穏やかで温かみに満ちた、まるで慈母か女神のようになその声に、なんとか才人も自分を取り戻す。
 「あ…ああ、そうなんですか。すみません、つい慌てちゃって」
 決まり悪げに頭をかく才人を見て、声の主がクスクスと上品に笑う。
 「いえ、少年はチキュウから来たのでしょう? ならば無理もありません」
 どうやら年上──声の調子や口調からして、おそらく20代半ばくらいだろうか?──らしい彼女は、彼の事情を知っており、馬鹿にしてはいないようだった。
 声の印象からは、清楚で知的な眼鏡美人を連想させる。
 「お、お見苦しいところをお見せしました。俺の名前は、才人。平賀才人です」
 美人の前で醜態をさらしたのは少し決まり悪かったが、才人はある意味、恩人ともいうべきお姉さんにお礼を言おうと振り返る。
 「サイトさん、ですか。不思議な響きの名前ですね」
 しかし、才人の背後には誰もいなかった。
 「え!?」
 まさか、本物の幽霊? とパニックになりかけた才人だが、その声が、目線よりもっと下の方から聞こえていることに気がつく。
 「わたくしは……そうですね、主がつけてくれた「ヴェルダンデ」という名前で呼んでください。本当の名前は人間の方には少々発音しづらいでしょうから」
 才人に話しかけ勇気づけてくれたのは、つぶらな瞳が愛らしいジャイアントモール──地面から顔を出した巨大なモグラだったのだ!

 「う、うーーーん……」
 夕方の酒が抜けきっていなかったのと、精神的ショックのダブルパンチで、ついに目を回してしまった才人だが、気がつけば、何やらあたたかい物の上に寝かされているようだった。
 「大丈夫ですか、サイトさん?」
 どこかで聞き覚えのある優しい声にまぶたを開けると、横になった彼の顔を切れ長の目をした美女が上から覗き込んでいた。
 「え? あれ??」
 一瞬、自分の状況がわからず、戸惑う才人。
 「ごめんなさいね、最初からこの格好でお話すればよかったんですけど……」
 申し訳なさそうに謝る美女。位置関係から、どうやら自分が彼女に膝枕されているらしいことに、才人は気づいた。
 (す、するとこの後頭部に感じる柔らかい感触は……)
 もちろん、彼女の太腿である。視線を上げれば、彼女の顔とのあいだにたゆんと揺れる双つの物体も確認できる。
 (ちょ……これ、なんてエロゲ!?)
 生まれて初めて触れる成熟した女体の感触は心地よかったが、さすがにこの状態をキープしたまま、平然と話ができるできるほど才人は枯れてはいない。
 「えっと、どうも有難うございました。あの……どちら様ですか?」
 名残惜しかったが、礼を言いつつ身体を起こす。
 「あら」
 20代半ばくらいの土色の髪をした美女は目をパチクリとさせたのち、ワザとらしく目を伏せる。
 「サイトさん、ひどいです。わたくし、先ほど名乗ったばかりですのに」
 (え? え?)
 そう言われても心あたりがない。しかしながら、彼女は自分の名前を知ってるようだし……。
 !
 「も、もしかして、ヴェルダンデ、さん?」
 まさかと思いつつ、おそるおそる尋ねる。
 「はい♪ よくできました」
 頼む、外れていてくれという才人の祈りは、どうやら神には届かなかったらしい。
 ヴェルダンデによると、魔法使いのお供/使い魔となった動物は、ほぼすべてが人間の言葉をしゃべれるようになるのだとか。また、その中でも比較的魔力が高いお供は、サイトが子犬の姿になったのと逆に、人間の姿をとることができるそうだ。
 言われてみれば確かに、そのテのアニメの小動物達は皆しゃべったし、人に化けられるタイプもいたと思う。
 (は……はは、なんだ。意外にセオリー守ってるんじゃねーか)
 と、その時、
 「きゅいーーー! ふたりばかりお話してて、ズルいのね!!」
 サイトの頭のあたりにツィーーッと飛んできた小動物が、不満の声をあげた。
 「えっと、コイツってまさか……」
 「ええ、先ほどサイトさんが見て驚かれた、風竜の娘です」
 「シルフィードなのね! よろしくなのね」
 「あ、ああ、よろしく」
 しかし、本当にこの30センチくらいの大きさの、ぬいぐるみみたいなファンシーなチビ竜が、先ほどのドラゴンと同一人物(竜物?)なのだろーか? 
 なんでも、あまり大きい使い魔は、ふだんから魔法少女の傍にいるには不便なので、こういう小型化するための術もあるとのこと。
 「サイトさんは主殿ともご友人になられた様子。同じ使い魔同士、わたくしも以後よろしくお願いしますね」
 聞くところによると、ヴェルダンデの主はギーシュらしい。
 「ええ、もちろんです。よろしくお願いします、ヴェルダンデさん」
 彼のことは良いヤツだと思うし、ヴェルダンデには色々世話になったから、才人にも異論はなかった。
 「きゅい? なんかサイトの態度が違うのね!」
 「へ? いや、別にそんなつもりはないんだけどな」
 ──もっとも、いかに本体はモグラとは言え、いま目の前でニコニコしているのは年上の優しいお姉さんにしか見えない美人なのだ。女慣れしていない才人が、つい丁寧な口調で対応してしまうのも、無理のない話であった。
 そのあたりの対応の差を敏感に感じ取ったのだろうか。竜の仔といえど、立派な女(メス)ということか。
 「ヒドいのね! しょせん男(オス)は見かけが大事なのね~!」
 プンスカ怒るシルフィードをなだめようと、目の前にふわふわ浮かんでいる彼女の頭を右手でポフポフと撫でてやる才人。
 その瞬間、彼の右手の甲に刻まれた紋章のようなものが、淡く光った。
 「あ……」
 途端にしおらしくなるシルフィード。
 いきなりもぢもぢし始めたかと思うと、クルンと空中でトンボ返りした瞬間、17、8歳くらいの青い髪の美少女に変化した。
 「サイトの手、気持ちいいのね。もっと撫で撫でして?」
 「うわっ、ちょっ、おま……やめてくれ、離れろって!」
 ──ただし、布一枚まとわない全裸姿ではあったが。
 あられもない姿の美少女に抱きつかれて、才人とてうれしくないわけではないのだが、さすがに刺激が強すぎる。
 「あらあら……シルフィーちゃん、サイトさんが困ってますから、少し落ち着いて、ね?」
 見かねたヴェルダンデが間に入ってくれる。
 本来、人化の際に使い魔は、通常はきまった服装(たとえばヴェルダンデなら毛皮でできたワンショルダーのワンピース)になるのだが、シルフィードがまだ若い竜で未熟だったことから、どうやら服の形成にまで魔力がうまく回せなかったらしい。
 「それに、服着るの嫌いなのね~!」
 ──むしろ、確信犯なのかもしれない。これがせめて、3、4歳くらいの幼児なら、ヤンチャでほほえましいと笑って見逃せないこともないが……いや、やっぱ無理か。
 やたらとじゃれつきたがるシルフィードを何とか押しとどめながら、才人は自分の右手をじっと眺めた。
 「うーーむ」
 シルフィードの様子が一変したのは、彼がこの手で彼女の頭を撫でてからだ。その時、彼自身も、何か”力”のようなものが掌から流れて行ったような気はしていた。
 「サイトさん、どうかされましたか?」
 ひとりで悩んでいても仕方ない。サイトは先ほど自分が感じた疑問をヴェルダンデに明かしてみた。
 「それでしたら、実験してみてはいかがでしょう?」
 「え? どうやってです?」
 けげんそうな顔で問いかける才人に、彼女はニコニコ笑って自分の顔を指差した。
 「ええっ、まさか……」
 「はい、わたくしの頭を右手で撫でてみてください。もしそれでわたくしまでサイトさんにメロメロになったら、サイトさんの右手に特殊な能力があるとわかるでしょう?」
 本人の了承を得ているとはいえ、さすがに人体(動物だけど)実験のような真似ははばかられる。
 「大丈夫ですよ。それに、もし万が一のことがあっても、わたくし、サイトさんなら、そうイヤじゃありませんから」
 「万が一って何!?」と思いつつ、それでも好奇心に負けて右手をヴェルダンデの頭に伸ばす才人。
 土の中から出てきたはずなのに、サラサラでしなやかな彼女の髪に触れ、ゆっくりと頭頂部を撫でる。
 先ほど同様、紋章──使い魔のルーンが淡く輝き、同時に目を閉じたヴェルダンデの表情が、いかにも気持よさそうな安らいだものに変化する。
 「ほんと……きもちいい、ですね……」
 そう呟く彼女のほんのり紅潮した頬が、なんだか色っぽい。
 このヘンで止めないと、本気で「万が一」の事態に及んでしまいそうなので、才人は慌てて手を離した。
 「あ……」
 僅かに残念そうな声を漏らしながら、ヴェルダンデは目を開いた。
 「コホン……しかし、これでハッキリしましたね。サイトさんの右手には、撫でた相手をリラックスさせ心地よい気分にする効果があるようです」
 たぶん、それが貴方の使い魔としての特殊能力なのでしょう、と告げるヴェルダンデ。
 「でも、それって役に立つのか?」
 「焼きたてジ●パン」の”太陽の手”の方が、まだ使い勝手がよさそうだ。
 「でもでも、サイトに撫で撫でしてもらうと、疲れがとれて、すっごく元気になるのね!」
 ──マッサージ師か整体師の真似事くらいはできるのかもしれないが、ファンタジー世界の特技としては、なんだか微妙である。
 まして、”魔法少女のお供”としては、どうなのだろうか?
 (戦いとか魔法の使い過ぎで疲労したご主人様を、「俺がこの黄金の右手で癒してあげます!」ってか? ……ちょっとイイかも)
 年齢もあってまだ女らしさにはイマイチ欠けるが、それでも申し分のない美少女であるルイズの肢体を思い浮かべて、つい頬が緩む才人。
 「──サイト、鼻の下が伸びてるのね。浮気者、浮気者!」
 「こらこら、誰が浮気者か。第一、おまえと恋人同士になった覚えはねー!」
 「はいはい、ふたりとも落ち着いて。
 シルフィード、殿方というのは、まことに色欲関連の誘惑には弱いのですから、あまりサイトさんを責めるのは酷というものですよ。
 サイトさんも、くれぐれもその右手を悪用するような真似は、謹んでくださいね」
 「「はーーーい」」
 ともあれ、そろそろ遅い時間だ。
 明日は朝早くに起きて、自分を起こせと言われている才人は、ふたり(2体?)と別れ、自分の部屋へと戻り、ベッドに入る。
 激動のハルケギニア一日目が終わろうとしていたが、才人は、それがこれから始まるとんでもなく騒々しい日々の始まりであると、その時は気づいていなかった。

 * * * 

 (ホント、いろんなコトがあったよなぁ……)
 モンモンとギーシュの決闘騒ぎ、偽フーケ来襲事件、秘密のアルビオン行、謎の秘密結社との戦い、半妖精の少女との出会い、暗躍する教皇……などなど。あわただしくも愉快な日々の思い出が、才人の胸に去来する。

 彼の主となった少女ルイズは、彼を召喚した翌年、見事に魔法少女見習いの資格を得て、地球に降り立った。無論、使い魔である彼もそれに同行している。
 ルイズの受け持ち区域は残念ながら日本ではなくパリの北部ではあったが、それでも同じ地球に帰って来れたことは、才人のストレスを大幅にやわらげてくれた。
 一度だけ、フランスから実家に手紙を出すこともできた。
 そして、一年間の見習い実習を終えて一人前の魔法少女(メイジ)となったルイズは、再びハルケギニアに来ないかと彼を勧誘した。
 「始祖の伝説の使い魔」と同じルーンを持つ優秀な使い魔として、才人の名はハルケギニアでも主ともどもそれなりに有名になっていたのだ。
 才人自身、希少な人間の使い魔(犬にも変身できたが)ということで、一部トラブルはあったものの、それなり以上にルイズの助けに(とくに地球に実習に来てからは)なれたと思う。
 しかし、彼はハルケギニアではなく地球での暮らしを望んでいた。
 ルイズが彼のことを、いつしか兄のように頼りにしていることは知っていたし、彼自身も彼女のことを妹のように大切に思っていた。
 実際、パリのとあるアパートの一室に下宿している間は、周囲には異母兄妹だと説明してあり、ルイズも彼のことを「お兄ちゃん」と呼んでいたのだ。
 だが、それでも彼女と一生を共にする覚悟はまだなかったし、彼女の方もそれは同様だろう(と彼は考えていた。真相はルイズのみぞ知る、だが)。
 幸い地球(こちら)でルイズは2体目の使い魔と契約できている。自分がいなくても、なんとかなるだろう。
 戦友にして相棒、そして兄代わり(もしかしたらそれ以上)の少年との別れを惜しみつつも、ルイズは当初の約束どおり使い魔契約を破棄し、彼に感謝しながら、ひとつの魔法をかけて、ハルケギニアに帰っていった。

 そして、気がつけば、才人は2年前まさに召喚された場所、秋葉原に戻されていたのだ。
 逸る気持ちを懸命に抑えつつ、才人は懐かしき我が家へと帰る。
 この2年間で多少背が伸び、体も幾多の戦いを経験したことで鍛えられてはいたものの、それでも別人というほどではない。
 両親や知人たちは驚きいぶかりながらも、2年ぶりに帰還した彼の存在を(1年前地球に来たとき、手紙は出してあったこともあり)受け入れてくれた。
 さすがに留年した形になる元の高校へは少々行きづらく、才人は転入試験を受けて別の高校で2年生からやり直すこととなった。
 幸いにして転校先の高校は、のんびりしたいいところで、それほど違和感なくなじめた……はずなのに、どこか才人は物足りなさを感じていた。
 向こうにいたころはあれほど帰りたいと思っていた日本の日常なのに、いざ帰ってみればそこに戸惑いを覚えている自分に、才人は苦笑する。
 (まぁ、それだけ刺激的で濃い2年間だったってことか……)
 ギーシュ、マリコルヌ、ギムリといった、一緒にいろいろな馬鹿をやりつつ、親交を深めた男子生徒達。
 主のルイズをはじめ、キュルケ、タバサ、モンモン、シエスタ、アンリエッタといった、個性的でやや扱いづらいが皆根はいい子で、妹のように思っていた女生徒達。
 優しいお姉さん格のヴェルダンデや、元気で明るいシルフィー、厳格ではあるが頼りになる兄貴分のフレイムといった使い魔仲間達。
 愉快なコルベール先生。歳のわりにお茶目なオスマン学院長と、その有能な秘書のミス・ロングビル。いろいろ気を使ってくれたミセス・シュヴルーズに、高飛車だけど実は生徒思いなミス・ギトー。
 ハルケギニアで会ったさまざまな人々の顔が、時折脳裏に浮かんでくるのだ。
 「やべぇ……俺、なんだかホームシックみたいじゃん」
 自分の家はココにあるはずなのにな……と、苦笑いを浮かべる。

 ──それでも、二度と会えない、会うはずのない人々。彼らのことを忘れるつもりはないが、それにとらわれずに前を向いて歩いていこう。

 そう、自分に言い聞かせながら、才人はベンチから身を起こし、家に帰ろう……としたところで、身を強張らせた。
 「! この感覚は……魔力の”匂い”? しかも、この気配、誰か魔法少女候補生が近くで戦ってるのか?」
 使い魔契約を解除し、「伝説の使い魔ヴィンダールヴ」ではなくなったとは言え、訓練も含めて2年間に蓄積された戦闘経験は、今も才人の身に宿っている。
 魔法に関する研ぎ澄まされた勘や感覚はいまだ健在だった。
 何をどうするという意図もないまま、それでも才人は”気配”の方へと駆け出していた。
 「あった!」
 魔法少女が、地球に於けるその”敵”との戦闘時に、一般人が入れないよう展開するBS(ブリミック・スペース──結界のようなもの)は、すぐに見つかった。
 「間違いないか。……ん? ココから入れるな」
 幸か不幸か、このBSを張った主がまだ未熟だったため、才人は何とかBSの隙き間(比喩的な意味だ)を見つけ、半ば無理やり結界内に侵入することができた。

 そこでは、予想した通り魔法少女(見習い)と思しき金髪の女の子が、翼の生えた山猫のような”敵”と戦っていた。
 夕日に煌めくエメラルドグリーンのフリフリドレス(さすがに動きやすさのためかスカート丈は短めだったが)を着た女の子は、懸命に魔法を使って、山猫モドキを空から落そうとしているのだが、BSを見てわかるとおり未熟なのか、イマイチ効果的な攻撃ができていない。
 よく見れば、彼女は背後に別の少女を庇っているようだ。その事実もまた、彼女の集中力を奪っているのだろう。
 「チッ、しょーがねーよなぁ」
 口ではそう言いながらも、どこか嬉しそうに才人はポケットから革製のバンドのようなものを引っ張りだす。
 否──それは本来、首輪だった。
 いまの彼の首にはめるには小さすぎるそれを右手首に巻くと、才人は深呼吸して、変身のためのキーワードを唱える。
 「──レナ・ニ・ヌイカデ!!」
 ボムッ! という爆発音ともに、彼の姿が白煙に包まれ、やがて煙が晴れた時、そこには精悍な面持ちの大きな犬が立っていた。
 一見、秋田犬と似ているが、体長は一回り以上大きく、また四肢が若干太く短めだ。毛並みは金に近いキツネ色で、胸から腹にかけてのみ雪のような白さを保っている。
 これこそが、才人がハルケギニアにおける1年あまりの修練を経て、地球での実習で手に入れた、使い魔としての戦闘モードだった。
 本来、変身には主の魔力による助けが必要なのだが、ルイズから贈られたこの首輪に込められた魔力の助けを借りて、短時間に限り現在の才人にも可能なのだ。
 (まずは、空から引きずり下ろすか)
 ウォオオオオオーーーン!
 サイト犬が空に向かって遠吠えをあげると、それだけで山猫モドキは、たちまち飛行のコントロールを失ってフラフラとよたつき始める。
 ヴィンダールヴとして以外に才人が得た数少ない特技が、この「抗魔の咆哮」だ。犬形態の才人のハウリングは、レーダーに対するジャミングの如く、声が響いた空間の魔力制御を数秒間乱すのだ。
 魔法使いや魔力を行使中の魔物と敵対するときには、かなり有効な手段だった。
 「え? えぇ!?」
 「見知らぬ少女よ、いまだ、とどめを!」
 思わぬ援軍に、ちょっとしたパニックになっている魔法少女候補生に向かって、サイト犬は、かつての同僚フレイムを真似た「渋い歴戦の勇士」口調で声をかける。
 「は、ハイッ! ──”スケッギョルド”!!」
 少女の詠唱とともに、虚空から現れた3つの斧が、回転しながら山猫モドキの背中に深く突き刺さる。
 『GYaeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!』
 聞くに堪えない叫び声をあげながら、山猫モドキは絶命して墜落し、まもなくその亡骸は虚空へ溶けるように消滅した。
 「ふむ。やはり、マガモノの類いであったか。む……どうした?」
 腕の立つ流浪人の如き演技(もっとも、実際サイトは実戦だけでも50を越える修羅場を乗りきっており、その意味ではあながちウソでもない)を続けつつ、サイト犬は、気が抜けたのか地面にヘタリこんだ少女に話しかけた。
 「あ、あのぅ……」
 「もしかして、命のやりとりは初めてか? 腰でも抜けたか?」
 「え、ええ……あ、いえ、初めてじゃなく2回目ですし、一応、腰は抜けてません!」
 「そうか。うむ、その気丈さは、なかなか好ましい」
 興がノッてきたのか、「戦士としての先輩格」な演技に入り込むサイト犬。
 「あ、ありがとうございます! それで、えっと、貴方は……」
 「フ……なに、名乗るほどの者じゃない。通りすがりの、元・使い魔さ」
 「カッコよく決まった」とサイトは思ったし、実際、目の前の少女も尊敬するような眼差しで彼を見ている。
 だが……。
 「えーと……せっかくカッコつけてるところ申し訳ないんですけど、あなた、サイトさんですよね?」
 「「!?」」
 少女の背後から、苦笑するような女性の声が聞こえてきた。
 「「ヴェルダンデ!?」」
 異口同音にふたりの口から、女性の名前が飛び出す。
 「え、サイトさん……って、もしかしてサイトくん!?」
 「ん? ヴェルダンデさんがココにいるってことは……まさか、お前、ギーシュか!?」
 互いを指さし(いや、サイトの方は前足指しだが)て、先ほどの山猫モドキに劣らぬ大声をあげるふたり。
 ──ポンッ!
 ──シャラ~ン!
 ちょうど時間的な限界が来たのか、サイト犬が人間の姿・才人に戻り、一方、ギーシュ(?)は、魔法少女のコスチュームから、白いブラウスにクリーム色のジャンパースカートを着た16、7歳の美少女にしか見えない姿に変わる。
 「ぎ、ギーシュ、その格好は……」
 「あ、いや、そのぅ、ボクにも色々あってだね……」
 姿が戻っても硬直したままの、友人と主に苦笑しながら、ヴェルダンデは、BSを解いて、どこか落ち着ける場所で話をすることを提案した。

-つづく-
-----------------------------------------------
3話にして、ようやく本作のヒロイン(?)登場。人によっては大爆笑、いや大惨事かもしれませんが。
ちなみに、ギーシュ魔法少女形態は、某魔砲少女の「湖の騎士」のスカート丈を膝下3センチくらいにすれば、おおよそ近いかと。



[16584] Doggy Boy & Clay Girl 第4話.使い魔としての再契約
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2010/02/17 23:38
 「ただいまー」
 「お邪魔しまーす」
 「お、お邪魔、します」
 落ち着ける場所と言っても、話の内容はハルケギニアがらみであることは間違いなく、たとえばマックの片隅などで話すわけにもいくまい。
 仕方なく、才人はふたりを自宅へと連れてくることにしたのだが……。
 「あら、可愛らしいお嬢さん達ね。才人のガールフレンドかしら?」
 さりげなく自室に連れ込む前に母親に見つかってしまったのは、才人一生の不覚だった。
 才人母の好奇心に満ちた追及にシドロモドロになるギーシュ(?)。
 ちなみに、年の功かヴェルダンデの方は、上手くかわしている。
 苦労の末、ようやく母を引っぺがした才人は、自分の部屋にふたりを連れて行き、現状に至る成行きを聞くことができた。

  *  *  *  

 一言で言うなら、事の起こりは「事故」だったらしい。
 学院卒業を間近に控えたギーシュたち3年生男子4人が、久々に近くの森へピクニックに出かけた際、偶然空を通りがかったワイバーンに運悪く目をつけられてしまったのだ。
 既述のとおりハルケギニアにおける魔法使いは、女性に比べて男性は戦闘力が格段に低い。
 無論、男性でありながら、剣術を極めることで魔法騎士隊の副隊長にまでのし上がったワルドのような強者も稀にいるにはいるが、それこそ例外中の例外だ。
 その点、この4人──ギーシュ、マリコルヌ、ギムリ、レイナールは、本当にごく普通の男性魔法使いだった。
 いや、ワイバーンが相手では、メイジレベルに達していない女性魔法使いでも、追い払うことは難しかったたろう。
 それでも、彼らは頑張ったのだ。
 幸いここはそれほど魔法少女学院から離れているわけではない。誰か学院の実力者が気づいて来てくれれば、助かる見込みは十分あるはずだ。
 2年前、彼らが1年生のころなら、きっと簡単にあきらめてしまっただろう。2年分の成長、そしてなにより才人たちと過ごした激動の1年間が、彼らにいい意味での「あきらめの悪さ」と「しぶとさ」を与えていた。
 ギーシュが青銅の武器をワイバーンの頭上に「錬金」して落とし、マリコルヌが胡椒を巻き上げたつむじ風で目潰しを試み、ギムリが熱した石をレビテーションで浮かせて投げつける。唯一帯剣していたレイナールは、3人の護衛を兼ねた牽制役だ。
 もちろん、使い魔たちも主を守ろうと必死だった。しかし、相手は空を飛ぶワイバーン。ヴェルダンデの丈夫な爪も、ヘラジカのルーガ(ギムリの使い魔)の大きな角も届かない。
 マリコルヌのクヴァーシルはフクロウで戦闘向きではないし、レイナールのミランダ(紫極楽鳥)も同じ。それでも、かく乱のために懸命に飛び回ってはみたのだが、さしたる効果はなかった。
 ヴェルダンデが退避壕でも掘れればよかったのだが、あいにくと泉の近くは岩場となっており、時間をかければともかく簡単には穴をあけられそうになかった。

 全員の魔力も気力も尽きかけ、もはやこれまでか……と思った時、マリコルヌが先日下町で手に入れたあるポーションのことを思い出したのだ。
 なんでも、これを一滴飲めば一時的に潜在能力が覚醒するが、死ぬほどマズいうえ、寿命が僅かに縮んでしまうとのこと。
 そう聞いて、さすがに一瞬躊躇する少年たちだったが、ギーシュは悲壮な顔をして薬瓶をとりあげた。
 「たぶん、いまのところ、僕の武器錬金による攻撃が、アイツにいちばん利いてると思う。だから、僕が覚醒するのが一番効果的なはずだ」
 グラモン家を盛りたてるため、そして異世界へと帰った親友といつの日にか再会するという誓いのためにも、こんなところで自分は死ぬわけにはいかない。
 そう覚悟したギーシュは、間違いなく”漢”と言えるだろう。
 ただ、やはりテンパっていたのだろう。一滴でよいところを彼はググーーッとひと瓶丸ごと飲み干してしまったのだ!
 途端に、それまでとは桁違いの膨大な魔力が彼の体からあふれ出す。
 熱に浮かされたような目になった(実際、ひどく発熱していた)ギーシュは、先ほどまでの短剣や包丁、彫金用ハンマーなどではなく、身の丈を超える長さの槍や、肉厚のマサカリ、巨大な分銅などを次々に錬金。
 さらに、それらを一斉にレビテーションで浮き上がらせ、人の投げるよりも速いスピードでワイバーンに投げつけ始めた。
 先ほどまでとは段違いの危険な攻撃にワイバーンは怯み、ついにはもっと食べやすい獲物を求めて、彼らの前から去って行った。
 「た……助かった、のか?」
 ホッと一息ついた少年たちをしり目に、ドサリと崩れ落ちるギーシュ。
 おっとり刀で駆けつけて来たコルベールとロングビルは、彼が危険な状態と判断し、すぐさま学院の医務室へと運んだ。

 半日後、入念な検査の末に診断結果が下されたのだが……。
 それは、「ギーシュに魔法少女の資質あり」という予想外のものだった。
 精密検査の結果判明したのたが、本来、ギーシュは女性としてこの世に生を受けるはずだったのだが、男系の強いグラモン家の血の影響か、なぜか外見的に男として生まれてしまう。
 それ故、本来の女性である時のような強い力は発現しなかったが、多少魔力自体が残ったため、珍しい男性の魔法使いになれたらしい。
 現在、例の薬によって、本来ギーシュが女であれば発現したはずの膨大な魔力が彼の体内で荒れ狂っているのだと言う。
 当然、体──とくに今の男性の体にとっては悪影響をもたらし、このままでは衰弱して最悪死ぬことも考えられる。

 解決する方法はふたつ。
 ひとつは、コルベールが教え子のモンモランシーと協力して開発した「消魔薬」を服用すること。その名のとおり、服用者の体内から魔力を消し去るこの薬を何回か飲むことで、ギーシュの体内から魔力が消え、命は助かる。
 ただし、おそらくはギーシュは魔法使いとしての力まで失くしてしまうだろう。運よく魔力が残ったとしても、以前の1割あるかないかだろうとのこと。
 もうひとつは、学院の宝物庫にしまわれた秘薬「ケタン・テンハーツ・ベーゼ」を使うこと。男性を女性に、女性を男性に変えるその秘薬の使用を学院長は、特別に許可してくれると言う。これを飲めば、体内の魔力を制御することが、ギーシュにも可能となるだろう。

 もちろん、ギーシュは悩んだ。
 いくら、本来は女性として生まれるはずだったと言われても、今まで15年間、男と信じ、暮らして来た日々を消せるわけも、消したくもない。
 しかし、同様に「魔法使いとしての自分」も様々な面で大切なものだ。
 とくにグラモン家は、久方ぶりに一族に出た「魔法使い」に期待している。
 先ほどもチラと述べたとおり、グラモン家は男系な家系であり、生まれる子はほとんどが男性だ。ゆえに、魔法使いはめったに出ないし、女性の魔法使いがいた記録などは、少なくとも300年以上遡らなければならない。
 そのうえで、自分が魔法使いどころか「魔法少女(メイジ)」に届く素質があると知れたら、両親や兄たちはどう思うだろう?
 否が応でも期待するだろう。無論、最終的な判断は自分に任せてくれるとは思うが、それでも無意識に期待してしまうに違いない。
 そういえば、他家から嫁いできた母も「あと僅かの差で正規の魔法少女になれなかった」と悔しい想いをしたと聞いている。
 女友達のルイズを例にとるまでもなく、メイジになれなかった母や姉が、自分の娘や妹にかける期待の大きさは、想像がつくつもりだ。
 半刻あまりの苦悩の末、ついにギーシュは決断を下した。
 「オスマン学院長、お願いします」

  *  *  *  

 「──で、結局、女になることを選んだんだな?」
 「うん、色々考え併せると、それが最良の選択だと思ったしね」
 とは言え、女性化してからもひと波乱あったんだよ、と笑うギーシュ。
 家族に関しては、ギーシュが女になることを驚くほどアッサリ受け入れた。むしろ、父母には「実は娘もひとりくらい欲しかった」と喜ばれ、兄達も「こんな可愛い妹ができてむしろ鼻が高い」と大乗り気。
 学院もできる限りの助力を約束してはくれたのだが、その際問題になったのは、「彼女の生徒としての扱いをどうするか」という点だ。
 男性魔法使いとしてのギーシュは、中の上程度の成績で卒業が決まっていたが、「魔法少女」を目指すなら、そのまま卒業させるわけにはいかない。
 しかし、ここでさらに2年生から再度在籍させるのは無駄も多いし、時間がもったいない。
 そこで、前代未聞だが「ブッつけ本番で地球で実習」という処置がとられるコトになったらしい。
 「ヲイヲイ、それってかなり無茶じゃねーか?」
 「そうだね。とは言え、一応1ヵ月近くかけて最低限の「魔法少女見習い」としての常識は叩き込まれたし、ヴェルダンデは魔法少女のお供としてもかなり強力な部類に入るからね」
 確かに、ジャイアントモール形態時のヴェルダンデは地上での白兵戦に限れば、非常に心強い味方だ。
 土の精霊の加護を受けているため、体表は極めて頑丈。また、その強靭な前肢と鋭い爪は、普通の野犬くらいなら一撃で絶命させる。その上、土が露出した地面なら、地中からの奇襲という手も使えるのだ。
 逆に人間形態の時は、その豊富な知識と落ち着いた思慮深い性格が助言者として頼りになる。
 「とは言え……ボクもうっかりしてたんだけど、地球の都会は、たいていアスファルトかコンクリートに地表を覆われているんだよね」
 先ほども、無理やりアスファルトの道路を掘りぬいたところで疲労困憊し、なんとか人間形態になって地上に逃れたという経緯らしい。
 「地球では、精霊の加護も弱まりますし……主殿、あまりお役に立てなくて申し訳ありません」
 すまなさそうにヴェルダンデは頭を下げた。
 「ううん、これはボクのミスだよ。それに、キミには戦い以外でも本当にいろいろな面でお世話になってるしね」
 使い魔思いな主は、あわてて首を振る。
 微笑ましい主従関係というべきだろう。だが……。
 「でも、そうかぁ。うーん、ちょっと心配だなぁ」
 お人好しな才人は、腕組みして、首をひねっている。
 自分も1年間、ルイズのお供をしていただけあって、「魔法少女見習い」という立場が、華やかな外見に比して実はかなり危険なものであることを熟知しているのだ。
 「そのコトなんですけど……」
 チラと才人の方に意味深な視線を向けるヴェルダンデ。
 「じつは、学院長先生が、主殿のために、わざわざこの地を担当地区として斡旋してくださったんです。いざとなったら、強力な助っ人がいるからとのことで……」
 「こ、こら、ヴェルダンデ……」
 「ん? もしかして、それって俺のコトか?」
 鈍い才人でも、ふたりの様子から、さすがにその意味に気がつく。
 「な、何言ってるんだよ、ヴェルダンデ。サイトくんは、せっかく故郷に帰って平和な暮らしを営んでいるんだから…「いいぜ」…え?」
 途中で才人に遮られて驚くギーシュ。
 「ギーシュは(親友として)かけがえのない存在だからな。及ばずながら、俺が守ってやるよ」
 「(か、かけがえのない存在だなんて……ポッ)サイト、くん……本当にいいのかい?」
 才人の言葉に、ちょっと目を潤ませる。元々感激屋なタチだったのに加えて、女性になったことでさらに感受性豊かに、涙もろくなったようだ。
 「あ、ああ、任せろよ。それに、ほら、可愛い娘が困ってたら、手を貸すのが男の義務ってヤツだろ?」
 「か、可愛いって……そんな」
 綺麗な瞳をウルウルさせたギーシュに見つめられて、ちょっと照れた才人が柄にもなくキザな台詞を吐いてしまったのだが、それがまた、部屋に微妙な沈黙をもたらしてしまう。
 「……」
 「……」
 (よしよし、これでサイトさんの協力は確保できましたし、主殿にサイトさんを意識してもらうことも、その逆も上手くいってるようですね)
 その一方で、内心何気に黒いヴェルダンデさん。いや、私利私欲ではなく、すべては主のためなのだろうが……。

 「そ、そうだ! たださ、俺があの姿に変身できる時間って、結構限られてるんだよ。なにせ、今の俺はただの高校生で、主との契約を結んでないからな」
 居心地の悪いようなさほど悪くないような不思議な空気を破って、才人が自分の現状を説明する。
 「(キタ!)ああ、それでしたら、サイトさん。いつでも魔力を補給できる状態になればよろしいんじゃ、ないでしょうか?」
 パンと手を打ち合わせて、ニコニコと何げないフリを装って、ヴェルダンデは告げる。
 「魔力を補給?」
 聞き返す才人。ギーシュも首をかしげている。
 「ええ、おふたりともご存じなはずですよ。使い魔の契約です」
 「「!」」
 確かに、主と使い魔のあいだには、その不思議な繋がりによる共感や魔力のやりとりが存在する。しかし、それを可能とするためには……。
 「お、俺とギーシュが、その……コントラクト、するのか?」
 使い魔になるということ自体には、現在の才人にさほど抵抗はない。
 「主」と「お供」とは言え、実質的には相棒、パートナーに近い関係であることは、すでに身をもって知ってるからだ。
 しかし……その方法が問題だった。
 才人はチラと横に目をやると、バッチリ、”彼女”と目が合ってしまう。
 真っ赤になって俯く”彼女”。
 (か、かわえぇ~……ハッ! 何馬鹿なこと言ってるんだ。ギーシュは大事な友達なんだぞ! それに、元は男なんだし……)
 「あ、あの……ボクの今の名前は、「グレース」っていうんだ。なんでも、母上が、もし女の子が生まれたらつけるつもりだった名前だそうで……」
 おずおずとギーシュ改めグレースが口を挟む。
 そう、「元は」男。言い換えれば、今はれっきとした女の子ということだ。
 つい、グレースの胸の膨らみあたり(何気にシエスタやアンリエッタに近いレベルであった)をチラ見してしまい、何とも言い難い罪悪感に囚われる才人。
 正直、今のグレースの容姿は、相当なレベルの美少女だと言ってよい。
 肩を覆うくらいの長さで、緩やかなウェーブのかかったセミロングの金髪。
 以前から、男には見えないほど整った目鼻立ちをしていたが、女になったことで、ペールブルーの瞳はより優しく、薄紅色の唇は少し小さくなり、さらに可憐さを増している。
 スタイルについては、前述のとおり才人が身近に知るナイスバディ娘の二大巨頭に迫る勢い。
(胸の大きさだけなら半妖精娘のひとり勝ちだが、彼女とはあまり親しいとは言えないので除外)
 ちなみに、実年齢は15歳なのだが、例の薬で寿命が2年ばかり減った分、急速成長して今の彼女は17歳に相当するのだ。
 性格については言わずもがな。1年間、ひとつ屋根の下で暮らしてきたのだ。いいところも悪いところも、十分に心得ている。そのうえで、互いに親友と呼ぶに足る堅い絆を育んできたのだ。
 (──あれ? もしかして、グレースって、何気に俺の好みにピッタリマッチング?)
 ……危険な方向に思考が突っ走りそうだったので、頭を振り、あえて戦いのことに目を向ける才人。
 「そうだな。ギーシュ、いやグレースに異論がないなら、俺はコントラクトしてもいいぜ。大事な友達を護る手立てがあるのに、それをやらないなんて俺としては我慢できねーし」
 「う、うん……(友達、かぁ)」
 嬉しいような落胆したような複雑な表情を浮かべる主の耳に、こっそりと悪魔の囁きを漏らす使い魔。
 (主殿、今は友達でもいいじゃないですか。「まずはお友達から」という言葉もあることですし、焦らなくても1年間ありますよ)
 (な、何を言ってるんだい、ヴェルダンデ?)
 「コホン! それ、じゃあ……お願いしようかな。本当にいいんだね?」
 「おぅ! パパーッとヤってくんねぃ!」
 ワザとおどけて江戸っ子みたいな口ぶりでそう言うと、才人は腕組みしながら目を閉じた。
 「じゃあ……」
 グレースは口中で呪文を紡ぐと、才人の唇にチュッと口づけた。
 「グッ……」
 ルーンが刻まれる痛みに耐える才人。以前ルイズの前では七転八倒したというのに、気になる娘の前で痩せ我慢できるようになったとは、彼も成長したものだ。
 「お? 今度のルーンは左手に刻まれたみたいだな」
 「うーん、以前のものとちょっと似てるね。また、始祖ブリミルに連なるものなのかな?」
 「ははっ、まさか。さすがにそんな偶然は何度もないだろ?」
 そう言って笑う才人を眩しそうに見るグレース。だが、傍らのヴェルダンデがニコニコしているのに気がつくと、コホンッ!と咳払する。
 「じゃ、じゃあ、これから大変だけど、よろしくね、サイトくん」
 「ああ、こちらこそ、よろしくな、グレース!」

 ──と、そこで終わっておけば綺麗に話が収まったのだが、お茶を持ってきた才人の母親が、間の悪い?ことにふたりがキスしているシーンを目撃してしまったのだ。
 すっかりグレースを才人の恋人だと勘違いした母親は、好奇心全開でグレースとヴェルダンデに色々問い詰め始める。
 どうやら先ほどの玄関での問答は、序の口、軽いジャブ程度だったらしい。
 とりあえず才人は、彼女達は自分がフランスにいたころ働いてた先の娘さんで、自分の話から日本に興味を持って留学しに来たのだ、と告げた。
 ちなみに、才人の2年間の失踪は、「海外の人身売買組織に誘拐されたものの、その先で逃げ出し、ヨーロッパ方面を転々として旅費を稼いで、密航して日本に帰って来た」……ということにしてある。
 そのせいか、「フランスでは、彼女達にすごく世話になったんだ」という才人の言葉に、彼の母は大変感激した様子だ。
 そして、彼女たちがまだ落ち着く下宿先が決まってないと知ると、無類のお人よしっぷりを発揮して「ウチに住みなさいよ」と熱心に薦めてきた。
 グレースは遠慮したのだが、(グレースの姉ということにしてある)ヴェルダンデが妙に乗り気なのと、才人もそれを控えめながら支持したことで、結局彼女達は平賀家の世話になることになったのだった。

-つづく-
-------------------------------------------------
本作におけるヴェルダンデさんは、必ず「さん」づけで呼ばれるような腹黒……もとい、深謀遠慮にして神算鬼謀なお方です。
ハルケギニア時代から才人くんのことを気に入っており、この機会に彼を主殿と「ふたりで分け分け」するのが彼女の秘かな野望だったり。



[16584] Doggy Boy & Clay Girl 第5話.乙女は使い魔に○してる?
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2010/02/20 05:23
 とりあえず今日はもう遅いので、グレースたちはこのまま平賀家に泊まり、明日一時滞在しているホテルに荷物を取りに行くという形に、話が決まる。
 4LDKの平賀家では、2階の3部屋のうち、才人の部屋と平賀夫妻の寝室のほかに、半ば物置兼書庫のようになっている部屋があり、グレース達にはそちらを整理して使ってもらう予定だが、今晩のところはとりあえず1階の客間に泊ってもらうことになった。
 「ごめんよ、サイトくん。なんだかご家族にまでご迷惑かけることになって……」
 まだ申し訳なさげなグレースの言葉に、ふたりを客間に案内していた才人は笑って手を振る。
 「いやいや気にすんなって。それに、「例の件」のためにも俺達が同居してる方が都合がいいだろ?」
 無論、「例の件」とは魔法少女(見習い)としての実習活動のことだ。大抵は人々が寝静まった深夜に動くことが多いため、確かに使い魔とは同居していることが望ましい。
 「それは、そうなんだけどね……」
 まだ納得がいかない風なグレースだったが、ヴェルダンデの耳打ちを受けて、急に顔を真っ赤にしてコソコソと客間へと消えて行った。
 「? 何を言ったんです、ヴェルダンデさん?」
 才人の問いに曖昧に微笑むヴェルダンデ。
 「いえ、たいしたことは……(サイトさんと「同棲」するのがお厭ですか、って聞いただけなんですけどねー)」
 どうやら、ウブな主をからかい倒す気満々らしい。
 「??? まぁ、いいですけどね。ヴェルダンデさんがアイツのことを心底大切に思ってることは、俺も知ってますし」
 「(う……) は、はい、もちろんですとも」
 ストレートな信頼を寄せる才人の言葉に、さすがに多少罪悪感を煽られたらしい。
 「じゃあ、俺、隣の部屋から布団取ってきますよ」
 「あら、それには及びませんわ。わたくしが……」
 「まぁ、ヴェルダンデが力持ちなのは重々承知してますけど、今日のところはお客さんってことで、俺に任せてください」
 もちろん、これは才人なりの女性に対する不器用な優しさだ。たぶん、この家に下宿するようになっても、彼は何のかんのと理屈をつけて力仕事を自分にさせようとはしないだろう。
 (わたくしは、ただの使い魔なんですけどね。この姿は仮初のものですし)
 そういうことに頓着しないのが才人の美点でもあり弱点でもある……と、以前から彼女は感じていた。
 無論、使い魔として知性と知識を得て以来、(完全とは言えないが)ある程度”人”としてのメンタテリティーも備わっているため、女の子扱いされるのが嬉しくないわけではない。
 ただ、戦いの中でいつかそれが命取りになるのでは……と懸念しかけて、ヴェルダンデは首を振った。
 こう見えても才人は、ルイズとともに1年間この地球で魔法少女のお供として戦ってきた”先輩”なのだ。危機に瀕する場面も皆無ではなかったろうし、それでも彼がその態度を変えないのなら、それは彼なりの「信念」と言うべきなのだろう。
 口元に自分でも気づかぬくらい薄く笑みをたたえたまま、才人に「では、またあとで」と告げて、ヴェルダンデはグレースのあとを追って客間へと入っていった。
 「? なんだろ。ヴェルダンデさん、なんだか嬉しそうだったけど……グレースもなぜか顔赤かったし」
 一年間のルイズとの同居生活のおかげか、女の子の表情を読むことに関してだけは長足の進歩を遂げた才人だったが、相変わらず女性心理の機微を把握することについてはヘッポコなままらしい。
 明日から一緒に暮らすことになった女性陣の様子に首をかしげながら、才人は自分の部屋に戻った。

 * * * 

 才人が無意識に新たなフラグを立てたり強化したりしていた、ちょうどその頃。
 「──なんだか、お兄ちゃんが浮気してるような気がするわ……」
 次元を隔てた遠く彼方の魔法の世界ハルケギニアで、ひとりの少女がベッドからムクリと起き上って呟いていたりする。
 言わずとしれた、元・ご主人様のルイズである。
 実は、このルイズ、才人との使い魔契約を「いったん」解除したとは言え、彼のことを全然あきらめてはいなかったりする。
 魔法少女実習の終了時は、才人の望郷の念や、彼がまだ高校2年生であるという事情を考慮して、あくまで「一時的に」才人を日本の元の暮らしに戻したが、内心は2年後の春、才人が高校卒業する頃に彼を改めて迎えに来る気満々だ。
 また、現在は「妹」としか見られていないが、2年も経てば、ちぃ姉さま……まではいかなくとも、それなりに女らしく成長して「お兄ちゃん」に異性として意識させられるだろうという計算もあった。
 だが。
 今日の夕方ごろから胸騒ぎがしており、さらに今ルイズの心の奥でひっきりなしに警鐘が鳴り続けているのだ。彼女の脳裏には、格闘ゲームよろしく「Here come a new Challenger!」と言う文字が表示されている。
 「冗談じゃないわ! せっかく誘惑てんこ盛りのハルケギニアから隔離して、ライバル達を遠ざけてほとぼりを冷ますつもりだったのに、まさかアッチの世界で伏兵が出現するなんて!!」
 げに恐ろしきは恋する乙女の勘。
 自らの恋の障害となるであろう人物の出現を早くも察知したらしい。
 スタッとベッドから降り立つと、手早く着替えてからベッドのそばの敷物で丸くなっている子犬(犬化した才人とは逆に真っ黒だ)に声をかける。
 「ゲンナイ、姫様に会いに行くから起きて」
 「……ん~、どうしたんやルイズ姉ちゃん、こんな遅ぅから」
 目をしばたたかせながら、それでもモゾモゾ起きだしたのは、ルイズの現在の使い魔ゲンナイ(命名者は才人)。才人とは反対に、犬が本体で人間の姿(11、2歳の少年)にも化けられるタイプだ。
 ゲンナイの言う通り、すでに日が暮れており、王宮での謁見の時間は完全に過ぎている。
 「非常事態よ。いいから来なさい!」
 普通なら、いかに優秀な魔法少女と言えど王宮の規則を破ることはできないが、ルイズの場合、加えて「公爵家の娘」で「王女の幼馴染にして親友」、かつ「伝説の再来」と言う3つの要素がある。
 多少無理すれば横車を押しとおすことも十分可能で、王宮に着いてまもなくアンリエッタ王女の私室へと通された。
 幸い、アンリエッタは突然の親友の来訪に驚きはしたものの、柔らかな笑みとともに快く迎えてくれた。
 「姫様、私を地球に派遣してください!」
 しかし、挨拶もそこそこにルイズがそんな言葉を発すると、さすがに戸惑ったようだ。
 「る、ルイズ、少し落ち着いてちょうだい。ね?」
 何気に親友がテンパっているのを見てとったアンリエッタは、お茶を飲みながら詳しい話を聞いてみたが、何のことはない。
 想い人に「悪い虫がついてるような予感がした」という他愛ない理由だ。
 「ルイズ……さすがにそれだけでは地球への赴任は認められないわよ」
 ここで少し説明しておくと、正式にメイジとして認められた者は、制度上、各国の王宮に所属している。
 魔法少女と表現するとファンシーなイメージだが、これまで何度も言及してきたてとおり、その任務は決して楽なものではない。
 もっとも一般的な仕事は、犯罪性の高い事件の捜査および犯人の捕縛と起訴。辺境に派遣されている場合、簡単な裁判&懲罰権すら認められる。警官と検察官に保安官を足したような権限を有しているのだ。
 また、時には災害救助活動にも従事し、有事には王家の親衛隊としての役目も果たす(その意味では自衛隊に近いか?)し、国外に特使として派遣されることもある。
 これらの各種業務については、王宮の宰相レベルから任命されるのが通例だが、ルイズの場合、その「始まりの魔女の力を受け継ぐ者」というステータスから平時は基本的にフリー(悪く言うとお飾り)で、形式上は王都の巡回と王宮の警護を担当していることになっていた。
 確かに、地球との関係上、実習生以外にも、ハルケギニアから地球に赴いて活動を行っている魔法使いは少なからずいるが、そこにルイズを割り込ませるだけの正当な理由がなかった──いや、ないはずだったのだが……。
 (! そうだわ!!)
 「実は、いま少々政治的にも微妙で厄介な問題を抱えてるの。その厄介事を引き受けてくれるなら、貴女を地球に派遣しましょう」
 形式上、ルイズは王女直属メイジということになっているため、相応の理由さえあれば、融通を利かせることは可能なのだ。
 もちろんルイズはふたつ返事で引き受けた。
 本来聡明であり、こういう裏がありそうな依頼に関しては、慎重に対処するのが常なのだが……どうやら「恋は盲目」を地で行ってるようだ。
 後に、ルイズはこの時の即断を後悔するハメになるのだが……。
 ともあれ、「伝説の再来」、「爆裂魔法少女」、「エネミーゼロのメイジ」、「破壊魔ルイズ」など数々の(物騒な)異名を持つ少女が、遠からずふたたび地球の土を踏むことは、ほぼ確定したようだ。

-つづく-
--------------------------------------------------
本作における人化可能な使い魔たちの精神構造は、本来の獣としての本能・習慣は色濃く受け継いでいるものの、人としてもそれなりに自然に振る舞い、また思考できます。(某魔砲少女の使い魔とかに近いかも)
また、ハルケギニア、とくにトリステインに於けるメイジは、某ネギ●の「立派な魔法使い」的な働きを期待されます。

ちなみに、以下はオマケ。「キャラクター解説」は本作の時間軸でメインにからんでくる人々、「サブキャラ解説」はハルケギニアなど過去に関わりがあった人を中心に紹介する予定です。

<キャラクター解説1・才人(物語開始時点)>
●本名:平賀才人
・年齢:19歳
・ふたつ名:狗神のサイト/神の右手(ヴィンダールヴ)
・立場:高校2年生/ルイズの使い魔→グレースの使い魔
・能力
 (1)犬化
 ……小犬の姿に変身可能。見かけに反して戦闘力は意外に高い(新米兵士複数を翻弄できる程度)。魔力の消費効率がよく、長時間維持できる。
 (2)狗神化
 ……大型犬の姿に変身可能。戦闘能力は大幅に上がり、原作で言うラインメイジとも肉弾戦のみでわたりあえるほど。ただし魔力の消耗が激しく、長時間は難しい。
 (3)馴魔の右手
 ……右手で触れた相手を味方につける。いわゆる「魅了」に近い能力で、ゲーム風に言うと友好度を100にする感じ(また、相手が異性であれば恋愛度も50くらい上がる)。ただし、人(亜人や妖精を含む)には効果なし。他人の使い魔に対しても効果は半減する。また、副作用として対象のストレス・疲労を軽減する。ヴィンダールヴとしての基本能力であり、犬化しなくとも使用可能。
 (4)抗魔の咆哮
 ……遠吠えによって、一時的(数秒間)に周囲の魔力の制御を乱す(ただし、主は影響を受けない)。対魔法使い戦の切り札。犬化ないし狗神化している時のみ使用可能。
 (5)破魔の光弾
 ……主の魔力の援護を受け、魔力光をまとって敵に突進、撃破する。いわば「サ●スピ」のラッシュドッグ。犬化ないし狗神化している時のみ使用可能で、小犬状態でも偽フーケのゴーレムに一撃で風穴をあけるほどの威力。反面、格ゲーのような「無敵時間」は当然ないため、攻撃されるとダメージは普通にくらってしまう。

<サブキャラ解説1・オールド・オスマン>
言わずとしれた王立トリステイン魔法少女学院の院長にして、伝説級の魔法使い。
性別は女性で、もちろん若かりしころはメイジ(魔法少女)として大活躍していた。
本来、メイジは20歳前後を境に急速に魔力が衰え、子供を産むころには平均的な男性魔術師並の力しか持たないが、オスマンは今だに全盛期の半分近い力を保持しているバケモノ(ちなみにカリーヌは3割程度で、それでも十分驚異的)。
200歳とも300歳とも言われる現在の姿は、パッと見は10歳前後の幼女にしか見えないが、口を開けば老人口調と下ネタが飛び出す「セクハラロリババァ」。彼女の正体を知らない人間のことを、無邪気な女の子を装ってからかうのが趣味。



[16584] Doggy Boy & Clay Girl 第6話.使い魔イン・ホリデー
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:251c7024
Date: 2010/02/20 05:33
 翌日。才人の通う高校は土曜日も半日授業があるため、学校が終わって急いで帰ってきたのだが、すでにグレースたちはホテルをチェックアウトして平賀家に戻って来ていた。
 しかも、まだ昼過ぎだと言うのに、すでに物置部屋から荷物を運び出す作業は、ほとんど終了しているらしい。
 手伝う気満々だった才人は拍子抜けした気分だった。
 父は普通に出勤(某衣料品メーカーの広報部長)しているし、女手3人で、よく片付いたなぁ、と感心したのだが、昼食の際に母の言葉を聞いて納得する。
 「才人、やっぱり外人さんって体格いいせいか、力持ちなのねぇ。ヴェルダンデちゃんは平気でタンスを持ち上げるし、グレースちゃんとふたりでベッドも楽々運んじゃうんだから」
 ジャイアントモールの化身であるヴェルダンデの怪力は別格としても、グレースもつい一月ほど前までは男子学生として鍛練に励んでいた身だ。決して体格のよいほうではなかったが、日本の男子高校生の平均程度の体力は持っていたはずだ。
 魔法使い候補生と聞くと、ヒョロヒョロの頭でっかちのように思えるかもしれないが、実態は決してそんなことはない。
 学院では貴族の生徒が大半を占めることもあって、剣や杖を用いた護身術の授業が日本の学校の体育と同じようにカリキュラムに組み込まれていたし、剣術や乗馬といった体を使う競技のサークルも存在している。
 とくにギーシュたち男性の魔法使いは、魔力が少ない分、自分の身を守るには体術のスキルを磨かざるを得ないし、初級魔法と剣技を組み合わせることで魔法騎士隊の二番隊隊長(副隊長から最近昇任したらしい)にまで上り詰めたワルドのような例もある。
 女性に変わってからも、今度は魔法少女見習いとして鍛錬していた──「魔法さえ使えればOKなどと言うのは三流の証」というのが、学院長オスマンの口癖だ──だろうし、現に体力は落ちてはいないらしい。
 とは言え、口には出さないが、才人としては「待っててくれたら、俺も手伝ったのに……」と少々残念に思っていたりする。
 そんな息子の気持ちを汲み取ったのか、母は才人にグレースたちを連れて近所を案内するように命じる。
 「ここで住むからには、商店街とかいろいろ知らないと不便だろうしね」
 もちろん、才人も、そしてグレースとヴェルダンデにも異論はなかった。

 「ここが、ウチの近くで一番大きなスーパー。食料品から日常雑貨まで、大概の品は揃うかな」
 ふたりの異邦人を連れて才人がまず向かったのは、近所の西●だ。
 「サイトくん、こういうのは「スーパーマーケット」じゃなくて「デパート」って言うんじゃないのかい?」
 もともと学院の「げんちけん」に加盟していただけあって、グレースは地球……というか日本の習俗に比較的詳しい。主な情報源がアニメとゲームなので、多少偏っている傾向はあるが。
 「お、いいところを突くな、グレース。ここみたいに3階建てクラスの店は、正直、スーパーとデパートの中間的な位置づけだろうな」
 「えっと……”でぱーと”の方が大きいんですか?」
 「ええ、そんなところです、ヴェルダンデさん。それと売ってる商品も比較的高級なイメージがありますね」
 などと説明しつつ、店内をざっと見て回る。中の電器屋と玩具屋の前でグレースの足が緩まりがちだったのは、げんちけんメンバーとしては致し方ないだろう。
 お姉さん代わりのヴェルダンデとしては、どうせなら婦人服コーナーに興味を示してほしかったようだが……。
 グレースの名誉のために一言言っておくと、ギーシュ時代の「彼」はなかなかの洒落者だった。ただ、性別が反転したうえに、ファッションの基準が大きく異なる日本に来たことで戸惑い、方針を決めかねているという面が大きいのだろう。
 ちなみに、今の彼女は白の長袖ブラウスに黒いハイウェストのスカート姿。ただし、襟元を始めあちらこちらにフリルとレースの飾りがついた、いわゆるゴスロリ風のいでたちだ。金髪美少女だけあって、実によく似合っている。
 ヴェルダンデの方は、白の袖なしワンピースの上に水色のサマーカーデガンを羽織った「清楚なお姉さん」といった格好で、こちらも彼女の魅力をうまく引き出している。

 スーパーを出ると、今度は駅前近くの商店街を案内する。
 肉屋に魚屋、八百屋に雑貨屋に文房具屋、大衆食堂といった、絵に描いたようなありふれた店ばかりだが、異邦人(実は異世界人)の女の子ふたりの目には、それなりに物珍しく映ったようで、好奇心に目を輝かせていた。
 才人の住む町は、都内23区とは言え高層ビルなどとは無縁の住宅街であり、古きよき下町風の人情味が多少は残っている。ゆえに……。
 「あれ、久しぶりだね、才人君」
 ──こんな風に馴染みの店(たとえば古本屋)に入ると声を掛けられることもあるわけだ。
 「あ、店長、御無沙汰してます」
 この古書店「山昇堂」は、才人にとっても縁の深い場所だ。マンガや文庫本の売買にちょくちょく利用していたのみならず、ルイズに召喚(よ)ばれる前の春休みには、ここで短期のバイトをしてたこともあるのだから。
 「しばらく、海外をフラフラしてたって聞いたけど……そちらの女の子達は、その時にできた彼女かな? もしかしてデート中かい?」
 眼鏡をかけた人のよさそうな青年店主に、そう問われて、才人は慌てて首を横に振る。
 「ち、違うっスよ~。いえ、向こうでの知り合いってのは間違っちゃいないですけど……」
 「お初にお目にかかります、ミスター。グレース・門倉と申します。おっしゃる通り、才人くんとは故国で知りあいました」
 「ヴェルダンデ・門倉と申します。以後お見知りおきを」
 外国人の美人姉妹に流暢な日本語とともに優雅に一礼されて、店主は慌ててカウンター奥の椅子から立ち上がり、腰を折った。
 「いやいや、これはどうもご丁寧に。僕はこの店の店長をやってる山内登と言うものです。こちらこそよろしくお願いします」
 ペコペコ頭を下げる腰の低い店長を押しとどめて、才人は、海外放浪中(表向きは、そういうことにしてある)にフランスで彼女達の父親に雇われてしばらくアルバイトをしてたのだ……と、昨晩両親にしたのと同じ説明を繰り返した。
 「で、俺が色々日本について話したら興味が湧いたらしくて、1年間日本に留学に来たんスよ。ふたりとも今日から俺ん家にホームステイするんで、ただ今近所を案内中」
 と締めくくる。
 「ほうほう、それはまたおもしろい縁ですね……ウチはしがない古本屋ですが、若い子の興味を引きそうな本や漫画も多いんで、よかったらまた見に来てください」
 と人の良さそうな笑みを浮かべる店長に見送られて店を出た3人は、再び商店街探索に戻った。

 ひととおりの案内が終わったところで、才人達は缶ジュースを手に通りの外れにある公園のベンチでくつろいでいた。
 「お、そうだ。大事なことを聞き忘れてたぜ」
 ポンッ! と手をうつ才人。
 「ん? 何だい、サイトくん?」
 「えっと、本題に入る前に……グレース、ここでBS張れるか?」
 「ちょうど人気もないし大丈夫だと思うけど……どうしてだい?」
 才人の質問に、けげんそうな顔でグレースは問い返す。
 「いや、互いの戦力の確認は必須だろ。そのためにも、できればBSを展開してもらえると助かるんだが……」
 「確かに、サイトさんの言われる通りですわ、主殿」
 ヴェルダンデも賛成したため、グレースも納得してBSを展開する。
 「偉大なる「始まりの女王」、魔女ブリミルよ。今ささやかなる奇跡の顕現を我にもたらしたまえ──ブリミック・スペース!」
 グレースが膝まづいて祈りを捧げることで、彼女を中心に虹色の光が広がり、その光に照らされた範囲が、周囲とは微妙に位相がズレた場へと変わっていく。
 公園をすっぽり包む込む半径およそ10メートルほどの空間がBSに覆われた。
 「うん、これでいいな。まず、言いだしっぺの俺から申告するけど……」
 と、才人は自分の持つ使い魔としての能力を説明していく。
 と言っても、「犬化」と「馴魔の右手」は、学院時代も既に使えたから、彼女達もよく知っている。そこで、「狗神化」と「抗魔の咆哮」について実際の使用も交えて詳しく解説する。
 また、狗神状態での「破魔の光弾」も、小犬時とは威力が段違いなので、グレースに等身大の青銅人形を作ってもらって披露した。
 小犬状態では、綺麗に直径20センチほどの風穴が胴体に空く程度(それでも十分凄いが)なのだが、狗神状態で「破魔の光弾」を使うと成人男性を模した金属製の人形の大半が消滅し、僅かな残骸しか残らない。
 「ふぅ……こんなところか」
 狗神化を解き、少年の姿に戻って額の汗を拭う才人。
 「す、凄いよ、サイトくん!」
 「ええ、なまじな女性魔法使い……いえ、メイジ見習いクラスでも、一撃でこれほどの破壊力を持つ魔法を使える者は、半分にも満たないでしょう」
 グレースとヴぇるだんでは主従揃って目を丸くしている。
 「はは、そいつはどーも。ただ、かなりの魔力を消耗するから、連続使用は無理だぜ? それに、一直線に突っ込むという技の性質上、かわされたり、迎撃されたりと隙も大きいしな」
 小犬状態の時は、才人も多少軌道をズラすことでそれらに対抗することができるようになったのだが、狗神状態だと身に纏う魔力が大きすぎて、細かい調整がまだ効かないのだ。
 「なるほど、つまり相手の動きを一時的にでも止めてから使用するのが好ましいわけだね」
 グレースはふむふむと頷く。もともと軍人の家系だけあって、戦術勘は優秀なのだ。
 「その意味では、魔法少女としてのボクとの相性は悪くないと思うよ」
 と、グレースも自らの持つ戦闘用の魔法について説明していく。
 「なるほど。グレース自身はヘルヴォル(軍勢の守り手)で防御を固めつつ、ゲイルスケグル(槍の戦)で相手の動きを牽制、隙あらばヘルフィヨトル(軍勢の戒め)で相手を拘束し、スケッギョルド(斧の時代)でトドメか」
 「それが理想のパターンだね。もっとも、短時間に連続してそれだけの魔法を使うと、さすがにボクの魔力がもつか微妙だけど」
 「まぁ、トドメに関しては、さっきみたく俺が破魔の光弾で担当することは可能だぜ?」
 「主殿の守りについては、わたくしが肩代わりできますしね」
 そう考えれば、この3人は極めて優秀なチームかもしれない。
 「それにしても、ギーシュ、もといグレースも、「聖」の属性を持ってたとはなぁ」
 「あはは、ボクも自分で意外だったよ」

 ここで、ハルケギニアの魔法使いたちが使う魔法について、少し解説しておこう。
 ハルケギニアにおける魔法使いの99%以上が、「火・水・風・土」の4つ属性のいずれかの魔法を使う。半数程度はどれかひとつの属性のみに特化した「ドット」と呼ばれるタイプだが、3割程度はふたつの属性を使える「ライン」、2割弱程度が3つの属性を使える「トライアングル」で、四属性すべてを使える「スクウェア」は魔法使い全体の1%にも満たない。
 さらに、同じ「ドット」であっても、たとえば火と火を重ねてより強力な火属性の魔法を使える者は「火のダブル」と呼ばれる。同属性3つなら「トリプル」だ。4つ重ね掛けできたのは「始まりの女王」ブリミルだけと言われている。
 仮に、火・火・火の「ドット・トリプル」なメイジと、水・風・風の「ライン・ダブル」なメイジが戦えば、はたしてどちらが有利なのか……これはなかなか微妙な問題と言えるだろう。
 しかしながら、ごくごく稀に「聖」や「魔」、「光」、「闇」などといった四大属性のいずれにも属さない、レアな属性の魔法を使える者も存在するのだ。
 レアスキル持ちは珍重される反面、四大属性と異なり効果的な育成方法が伝わっておらず、独学でそのスキルを伸ばすしかないと言うハンデもある。もっとも、逆に本人の努力次第とも言えるが。
 ちなみに、魔法少女となったルイズは「光」「聖」「極」というレアスキルのみのトライアングルであり(それ故、四大属性をベースにした学院の魔法実技では失敗続きだった)、「光」「聖」「極」「空」のスクウェアだったブリミルの後継者と目されているのだ。
 グレースの場合、男性(ギーシュ)だったころは土のドットだったが、女性になってからの測定で、「聖」属性の素質も認められている。
 現に、彼女が戦闘時に錬金で作り出す武具は軽度ではあるがすべて「聖」属性を帯びており、「闇」や「魔」に属する相手に多大なダメージを与えるのだ。
 それ故に、彼女のふたつ名は「青銅像」から「聖銅」へと変わっている。

 「へぇ、それじゃあ、グレースの作った武具って、結構高値で売れるんじゃないか?」
 「ああ、それは無理だよ。聖属性が宿っているのは即時錬金したものに限られるみたいだからね。作り出してから最長10分くらいで元の金属棒に戻っちゃうんだ。
 永続錬金で作ったものは、いまだにただの青銅製さ」
 「ふふ、そうそううまい話は転がっていないということですわね」
 「世の中、そーいうモンだよな……おっ?」
 才人が嘆息するのとほぼ同時に、空間がゆらいでBSが解けた。
 BSは20分から30分程度で自動的に解除されてしまうのだ。
 「そういや、もう30分経ったのか。ま、お互いの戦闘方法については、それなりに理解できたし、ちょうどいい頃合いだな。そろそろウチに戻ろうぜ」
 才人の言葉に女性陣も同意してベンチから立ち上がり、「我が家」へ「帰る」のだった。

 そして翌日の日曜は、ふたりの娘さんも含めた平賀家総出で新宿の百貨店にお買い物に出かけることとなった。
 「母さん、実は娘も欲しかったのよね~」とお約束な台詞をのたまう平賀冴子夫人に、グレースのみならず、あのヴェルダンデまでが次々に着せ替え人形にされていく。
 しかも、平賀家の大黒柱たる平賀才蔵氏までも、親馬鹿(娘バカ?)丸出しのニヤケ顔でそれを暖かく見守っている。
 どうやらふたりの中では、「ふたりのどちらかが未来の才人の嫁=義理の娘」という公式が早くも成立しているらしい。
 (さ、サイトくん、そろそろ助けてくれないかい?)
 すがるようなグレースの眼差しからついと目を逸らす才人。
 その態度は雄弁に「俺じゃ無理っス」と語っていた。
 嗚呼、死して屍拾う者なし。
 ちなみに、ヴェルダンデは主を積極的に平賀夫人へのイケニエに差し出すことで、自分への「被害」は最小限に食い止めていた……使い魔として、それでいいのだろうか?
 薄情な「親友」に腹を立てたグレースは、彼を女性用下着売り場にまで無理矢理同行させたうえで、試着室のそばに立たせるという羞恥プレイを敢行し、見事報復を果たした。
 もっとも、未だ精神的には少年の心を色濃く残す「彼女」自身も、少なからず恥ずかしさに身をよじることとなったのは、まぁ、お約束というヤツだろう。
 夫人に買ってもらったグレース&ヴェルダンデの衣服が入った袋の山の大半を、才人が抱えてよたよた歩くハメになったのも、これまたセオリー通り。

 そして……。
 「フランスより参りました日系3世のグレース・門倉です。本日より、こちらのクラスでお世話になることになりました。
 なにぶん不慣れなことが多いため、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします!」
 ──翌日の月曜日、こうやって才人のクラス2-Bにグレースが転入してくることも、ある意味、お約束なのだろう。

-つづく-
---------------------------------------------------
以上。本人はあまり意識してないけど、才人、両手に花状態? マリコルヌあたりが知ったらしっとマスク化しそうです。いや、ルイズに知られるほうがヤバイかも。
ちなみに、才人の家は、三軒茶屋付近を想定……って、東京以外の人にはわかりませんね。


<キャラクター解説2・グレース>
●本名:グレース・ド・グラモン(日本では、「グレース・門倉」と名乗る)
・年齢:15歳(外見年齢17歳)
・ふたつ名:聖銅のグレース
・立場:高校2年生/魔法少女見習い
・能力:属性「土・聖」の魔法使いであり、とくに錬金に長けている。ポケットに隠し持った青銅製の棒(直径1センチ/長さ5センチほど)を素材に、以下のような武具を作って敵と戦う。
 (1)スケッギョルド……多数の回転する斧を作り出して飛ばし、敵を切り刻む
 (2)ゲイルスケグル……鋭い槍で、敵の頭上、あるいは足元から串刺しにする
 (3)ヘルヴォル……簡易的な防護柵を作る。物理、魔法両方に効果あり
 (4)ヘルフィヨトル……金属製の投網を投げて、敵を絡め捕る
 (5)ランドグリーズ……小型の破城槌をもって、敵の防御を打ち砕く
 (6)アルヴィト……被ることで幻覚や精神系の魔法を無効化する帽子を作る。
 (7)レギンレイヴ……自分とよく似た姿のゴーレムを作り、戦わせる。
 ※物語開始時点でグレースが使えるのは(4)まで。(5)以降については随時習得していく。

<サブキャラ解説2・コルベール>
男性には珍しい火属性の魔法使い。かつては軍にいたらしいが、とある理由から現在は退役し、学院の教師として教鞭をとっている。
魔法とは直接関係ない、さまざまな発明品を作るのが趣味でありライフワーク。
「親切でいい先生なんだけど、発明はちょっと……」と言うのが大方の生徒の評価。
魔力は平均的な女性魔法使いの2割程度(それでも男性としては非常に高い)だが、老練な歴戦の古兵であるため、いざ戦いになれば新米メイジに勝つことも可能。



[16584] Doggy Boy & Clay Girl 第7話.使い魔と転校生
Name: KCA◆f4e2dba4 ID:f24ef23a
Date: 2010/02/22 17:36
 「フランスより参りました日系3世のグレース・門倉(かどくら)です。本日より、こちらのクラスでお世話になることになりました。
 なにぶん不慣れなことが多いため、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします!」

 さて、中高生の諸氏にお聞きしたいのだが、そんなふうな挨拶をした転校生がいたら、皆さんのクラスでは、いったいどのような事態が発生するだろうか?
 しかも、その転校生が、飛びっきりの美少女で、多少緊張はしているものの、決して無愛想ではなく、むしろ好奇心旺盛に目をキラキラ輝かせていたとしたら?
 よほどのヒネクレ者でもない限り、それなりに注目し、興味を抱くのではないだろうか。

 (――母さんが、朝イヤに上機嫌で早めに学校に行くことを薦めたのは、このためかよッ!)
 教壇に立ってニコニコしている親友の「少女」(正直、そう表現することに、未だ慣れないのだが)を見て、才人は頭を抱える。大方、才人をビックリさせるため、彼に気づかれないようグレースをコッソリこの学校に送り届けたに違いない。
 しかも、それだけではすまなかった。
 「あ~、門倉は平賀の家にホームステイしてるんだったな。ちょうどいい、平賀! お前が面倒見てやれ」
 ……などと担任教師の後藤がのたまったものだから、今度は才人にクラスメイトの視線が集まることとなったのだ。
 (ジーザス! 後藤センセー、アンタ俺に恨みでもあるのか!?)
 ただでさえ、「19歳の高校2年生」ということで、微妙に浮いた感のある自分をこれ以上目立たせないでくれ、と切に願う才人だった。
 とは言え、グレースの面倒をみること自体には彼も異論はない。
 ハルケギニアの学院の男子寮では随分と寮長だった彼女(当時は「彼」だったが)に随分お世話になったのだし、その恩返しをするいい機会である。
 「やぁ、済まないね。改めて、よろしく頼むよ、サイトくん」
 「おぅ、任せろ、グレース」
 隣席に座ることになったギーシュの挨拶に、力強く頷いてみせたのだった。 

 さて、後藤先生がHRを終えて教室を出た途端、グレースの席の周りにはいきなり人だかりが出来る……というのが学園マンガの定番だが、生憎と彼と入れ替わりに入って来た数学の教師は新任2年目の堅物で、転校生の存在にもさして注視するわけでもなく、すぐに授業を始める。
 そのおかげで、才人とグレースはしばしの相談タイムを持つことができたので、多少は幸運と言えるかもしれない。

 ところで、ハルケギニアの魔法使いと使い魔のあいだには、アニメやラノベでありがちな「念話」や「テレパシー」のラインなどというものは存在しない。
 いや、正確には、「伝心」という魔法もあるにはあるのだが、魔法使いなら誰もが習得しているわけではなく、習得難度もそれなりに高い。さらに言えば、魔法なので多少なりとも魔力を消費する。
 反面、心の通ったパートナー同士であれば、細かい意思疎通はともかく、互いのピンチを察するくらいはできる。実際才人も一度ならず、それでルイズの危地を救ったことはある。
 つまり、ふたりが授業中にどうやって相談したかと言えば、「教科書を見せるフリで机を近づけつつ、こっそりノートで筆談」という原始的な手段をとるしかないのである。
 しかし……想像してほしい。
 欧州から来た転校生の美少女と、クラスでもちょっと目立つ存在である少年が、仲睦まじく(はたからはそう見える)体を寄せ合い、何やらコソコソしている風景を。
 ブッちゃけ、物凄く周囲の注意を引いていた。
 ぐーたら凡人を自認し、あまり目立つことを嫌う才人だが、実はクラスでの注目度は何気に高かったりする。
 「17歳の時から2年間海外を放浪してたため、現在19歳だが高校2年生」という偽装プロフィールを転入してきたときに披露したのだが、高校生くらいの少年少女にとって「海外放浪」という行動は憧憬に値する経歴だろう。
 また、実際年上であることに加えて、才人自身、日本にいては到底遭遇しえないだろう様々な経験に揉まれて、色々な意味で人間的に成長している。とくに、くぐった修羅場──戦闘的な意味でも色恋的な意味でも──の数は伊達ではない。(もっとも、後者については才人自身はルイズたちをあくまで「妹」として見ていたため、あまり意識してなかったりするのだが)。
 不良じみた生徒にからまれてもアッサリこれをいなし、逆に視線でビビらせたり、クラスメイトの女子にちょっとした気遣い(これは、主にパリでのルイズとの同居生活で身に付けたものだ)が出来たりしたため、転入からひと月経たないと言うのに、男女問わず「頼れる兄貴分」的なポジションで一目置かれているのだ。
 そんな少年が、ひとつ屋根の下で暮らしているらしい謎の転校生と親しげにしていれば、そりぁ邪推のふたつやみっつを呼んでも無理はないだろう。
 よって、グレースは才人との筆談で、彼女の表向きのプロフィールと、才人との「向こう」での関係を確認していたのだが、次の休み時間に噂好きのクラスメイト達から思いがけない方面の質問を多数受けて慌てるハメになった。
 しかも、「その気」がないわけではないから言動にもそれがあからさまに透けて見え、何人もの女生徒から「がんばってね、門倉さん!」と激励を受けたのである。
 ……まぁ、結果的に彼女自身のプロフィールに深く突っ込まれなかったのだから、ある意味結果オーライかもしれないが。

 そんなこんなで迎えた昼休み、教室では落ち着いて弁当を食べられないと見た才人は、グレースと連れ立って屋上にやって来ていた。
 召喚される前は学食派だった才人だが、日本を離れて過ごした2年間で和食(ないし家庭料理)への執着心が生まれたのか、現在は母の作った弁当を有り難く持参して登校している。無論、グレースにも同じ内容の弁当が渡されていた。
 「あ! グレースさん、才人さん、こっちです!」
 屋上には、驚いたことにヴェルダンデの姿まで見える。それもこの学校の女子制服を着て!
 「いいっ!? ヴェルダンデさんも、この学校に入ったんスか?」
 「はい、実はそうなんです♪」
 制服の学年色から見て、どうやら才人たちのひとつ上の3年生のクラスに転入したらしい。

 積もる話もあるが、とりあえずまずは昼食をとることにする。
 弁当の中身は、チーズ入りポークカツレツ、イワシのフライ、プチトマトとキャベツのサラダ、箸やすめのオリーブのピクルス……と、グレースたちのことを考慮したのか洋風の献立だった。
 貴族だけあって舌が肥えているはずのグレースも美味しそうに食べているのを見て、才人もホッとひと安心だ。
 なお、げんちけんOBの「お土産」で、ギーシュもカップ麺などを何度か食べており、一応箸を扱うことはできたりする……多少手つきがあやしいが。

 「て言うか、そもそも、グレース自体、高校に通うとは思ってなかったよ、俺は」
 弁当箱が8割方空になった段階で、ヴェルダンデが差し出す水筒のお茶をすすりながら、才人は肩をすくめた。
 昨年のルイズの実習時は、ちょうど住んでいたアパートの1階がカフェ&レストランになっており、彼女は日中そこでウェイトレスとして働いていたのだ。
 なにぶん魔法少女見習いへ支給される地球での生活費は、貴族の子女に対するものとは思えぬほど慎ましい金額なので、本業に差し支えない範囲でこういうバイトも認められているとのこと。
 ちなみに、才人自身は同じカフェの厨房で働いていた。主に下ごしらえや雑作業担当ではあったが、門前の小僧なんとやらで、喫茶店で出すようなメニューをいくつか作れるようになってたりする。
 「しかし、また、なんで?」
 「ああ、それはね……」
 グレースの場合は赴任地が日本と言うことから、昼間は学生をしていることが推奨されていたらしい。無論中卒で働いている子もいないわけではないが、やはり目立つのは確かだ。
 「才人さんのお家に下宿させていただくことで、随分やりくりが楽になりましたしね」
 平賀家という格安の下宿(ふたり合わせて月1万円で、食費・光熱費も不要)が見つかったことで、大幅に経済的な余裕が出来たそうだ。
 ちなみに、地球での滞在費に関しては、ヴェルダンデが主をさしおいて財布を預かっている。もっとも、グレースに渡すと無駄遣いして金欠になってる光景が容易に想像できてしまうため、正しい判断だと言えるだろう。
 「そこで、(使い魔は)できるだけ近くにいたほうがよいとの判断から、浮いた分のお金を使ってわたくしもこうして転入させていただいたんです」
 「ま、確かに、それは道理か。某ゲームのごとく、使い魔のルーンで瞬時に召喚できるとかならよかったのにな」
 「おいおい、才人くん、それじゃあルーンが3回で消えちゃうよ。むしろ、ここはカードで「アデアット!」じゃないかい?」
 「「ネ●ま!」かよ!?」
 残念ながらハルケギニアの使い魔契約にそんな便利機能はなかった!

 それにしても、ヴェルダンデさん、3年とは言えよく生徒として潜りこめたな~と、ボヘーッと彼女の制服姿を見ながらヘンな方向に感心する才人。
 彼女の人間時外観は、普段はパッと見21、2歳といったところ。正直、女教師のほうが無理なかったのでは……。
 「──才人さん、失礼なことを考えていませんか?」
 彼女が妙にサワヤカな笑顔を浮かべたたため、ブンブンッと激しく首を横に振る。
 「い、イエイエ、トテモオニアイデス、ハイ……」
 ロボ口調で称賛する才人に、プクーッと頬を膨らませるヴェルダンデ。
 「もうっ、わかってますよ! わたくしだって、さすがに17歳とか言い張るのが無茶だってことは自覚してるんですから」
 「いやいや、ヴェル…姉さん、よく似合ってると思うよ」
 スネる「姉」をなだめるグレース。ここらヘンのフォローができるのは、ギーシュ時代からの変わらぬ美点であろう。
 設定としては、「実年齢は20歳だが大学には行っておらず、妹と同じ学校を体験してみたいので3年生に編入した」、ということにしたらしい。
 「まぁ、そのあたりは海外からの留学生だから融通が効……!!」 「「!」」
 才人が唐突に言葉を切るとともに、ハッとしたように傍らの女性ふたりもあらぬ方向に目をやる。
 「……これって、間違いなくアレだよな?」
 一応、周囲を慮って、才人は直接口にするのは避けたが、ソレは紛れもなく、一昨日倒したのと同種の「魔物」の気配だった。
 「でしょうね。先日よりは小物のようですが……」
 「やれやれ、転校初日から午後の授業をエスケープするハメになるとはね」
 言いながらも弁当箱を片づけて用意をするグレースたち。
 「才人くんはどうする? この気配から判断して、ボクらだけでも何とかなりそうだけど……」
 「──ばーか、お供が主の身を放っぽり出して、自分だけ安穏と授業受けてるわけにもいかねーだろ」
 躊躇はほんの一瞬で、才人もまた戦いを覚悟した空気をその身にまとう。
 「さ、「聖銅のグレースと陽気な仲間たち」、出動するとしようぜ!」

-つづく-
---------------------------------------------------
以上です。なお、ヴェル姉さんの制服姿をコスプレとか言うの禁止。
(まして、イメク●とか言うとヌッ殺されますよ?)
ちなみに、ヴェルダンデはグレースのことを一般人の前では「グレースさん」と呼びます。妹に対する呼びかけとしては微妙ですが、「自分は妾腹の子で、グレースさんのほうが正式な家の跡取りですから」という説明で納得させてたり。
次回は「聖銅の戦乙女」団の初出陣ですが、以外な弱点が露呈することに……?

<キャラクター解説3・ヴェルダンデ>
●本名:ヴェルダンデ(通称。本来の名前は人間では発音不可。日本では、「ヴェルダンデ・門倉」と名乗る)
・年齢:?歳(外見年齢20代前半/日本では「20歳」ということにしてある)
・ふたつ名:潜行のヴェルダンデ
・立場:高校3年生/グレースの使い魔
・能力:土の精霊の加護を受けたジャイアントモール(大モグラ)。本性のモグラ時には、地中・地上ではかなり強力な肉弾戦闘能力を有する。
 (1)土精の加護:地中ないし地上にいる限り、精霊の加護で表皮の防御力が大幅に上昇する(常動型)。また、土中を馬の並足程度の速さで掘り進める。土系攻撃魔法も利きづらい。ただし、水中、空中では無効化される。
 (2)怪力:元々優秀なモグラの全身の筋力が、使い魔として魔力を受けたことでさらにパワーアップ。パンチ一発で分厚い鋼板もねじ曲げ、体当たりで身長5メートル近い鉄のゴーレムを転ばせたことがある。また、人間形態でも、その筋力はある程度引き継がれている。
 (3)陥没:地面に立っている敵を前触れなしで地中に引きずり込む、ヴェルダンデの決め技。下半身のみ土地に埋めて上半身を地上の主たちの攻撃に任せることも可能。ただし、地面が露出した場所でないといけないため、日本ではこれを使えない状況が多い。
 ※人間時のボイスイメージは井上喜久子(エレオノール声ではなく某女神様の雰囲気で想像してください)

<サブキャラ解説3・ロングビル>
トリステイン魔法少女学院の超有能な院長秘書。本名がマチルダ・オブ・サウスゴータなのは原作と変わらず。
30サントから10メイルまでの大小様々なゴーレム作りとその操作が得意だが、複数同時制御はやや苦手。
ティーンの頃はアルビオンで「人形遣い(ドールマスター)・レディ=マチルダ」として活躍していたが、引退を目前にした20歳の誕生日に起きたある事件により、故国より逐電。その後、「魔法の怪盗・フーケ」と名乗ってトリステインを中心に義賊活動をしていたが、2年半ほど前にオスマン院長の手で密かに捕縛され、以来彼の監視下のもと、秘書業務に励む。
学院では、(元怪盗にも関わらず)はっちゃけ気味なオスマンに対する「外付け良識回路」としての働きを期待され、文句を言いながらもよくこなしている。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.058241128921509