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[16427] 【習作】 マブラヴ オルタネイティヴ~我は御剣なり~(現実→オリジナル主人公・チート気味)
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2012/08/13 20:03
初めまして、あぁ春が一番です。

マブラヴ・オルタネイティヴ 公式メカ設定資料集を読んで、興奮のあまりこんな物を書いてしまいました。
今回が初投稿になりますので、文章力にはあまり期待しないで下さい。
徐々に、改善していく予定ですが、皆様からご指導いただければ幸いです。
また、私としては故意に変更した設定以外は原作に準じる予定ですので、設定におかしな点があればご指摘下さい。

それと、ご感想・ご提案の返事は、基本的には感想板にて行いたいと考えています。
ただし、しっかり検討したい事や皆様に広く知っていただきたい事などは、最大三つ程度後書きにて採り上げさせて頂きたいと思います。

皆様の書き込みを選択して返事の方法を変える事は、失礼に当たることかもしれませんが、
物語を楽しんでいただく上で必要な事であると判断し、この方法を採用いたしました。
誠に恐縮ではありますが、今後もご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

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お知らせ31(2012/07/23)

こんばんは、あぁ春が一番です。

下記ニ示す内容につきまして、修正を行いましたのでお知らせ致します。


1.外伝 TE編・上 修正
篁唯依へのユウヤのタックネームを原作に合わせ、
『人形→日本人形』
に変更しました。

スカーレットツインとタリサ・マナンダルの戦闘中に、
ソ連軍がその行動を黙認しているという表現を追加しました。

吹雪の登場シーンで正体不明の機体と相手が認識するシーンを、
外見の類似性から吹雪と思われる機体へと変更しました。

タリサ・マナンダルの用いる一人称が混在していたのを、
原作どおり『アタシ』に統一しました。

>An-225ムリーヤのパイロットを、軍曹からより現実に近い少佐相当の扱いとし、
機長と表現する事で微妙なニュアンスにする事にしました。

吹雪出撃時には、まだSu-37UBチェルミナートル及びF-15・ACTVアクティヴ・イーグルとの距離があったという表現を追加しました。

その他、誤字脱字の修正など


2.注意事項
3番の注意事項に
『アニメ版トータル・イクリプスの内容より、原作ゲーム及び小説の設定を重視します。』
という文言を追加しました。
これは、アニメ上の表現が優先された結果か、原作設定と乖離が見られるための措置です。
如何扱って良いか考えた末に、この様な内容となってしまいました。
この内容について、ご不快に思われる方が居れば、申し訳ありません。


お知らせは以上です。

上記で変な内容を書いていますが、私はアニメ版トータル・イクリプスが、
原作に囚われず気持ちをおおらかにして見れば、映像作品として楽しめる内容になっていると考えています。
作画は若干あれですが・・・。
毎度更新が不定期になってしまい、皆様をお待たせしているこの作品は、
皆さんがアニメを楽しんだ合間に、少しお時間を頂けるだけでも幸いと思います。



お知らせ30(2012/04/05)

こんばんは、あぁ春が一番です。

2012年度を向かえ、時間の余裕が出来たので、
五ヶ月ぶりに更新をと考えていたのですが、突然引越しをする事になり、
ネット環境を喪失する事になってしまいました。

ネット環境が回復しだい、更新を再開いたします。
まだ、更新を期待されている方が居るかは分かりませんが、
細々と続きを書かせていただきます。
また、感想板への返信もその時にさせていただきます。

P.S.
現在の投稿内容は改定作業に合わせて、一度削除させていただきますので、
ご了承ください。

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以下にこの作品の注意事項を書きます。

1.現実からマブラヴ・オルタネイティヴのオリジナルキャラクター(男)への転生物です。
2.主人公は、他作品のFate/stay nightの一部能力を保有するチートです。
  (ただし、魔術・宝具は出てきません。)
3.なるべく原作に沿う形の設定を行っていますが、記載の無い点は独自設定で埋めてあります。
 (アニメ版トータル・イクリプスの内容より、原作ゲーム及び小説の設定を重視します。)
4.原作開始前までに、いくつかの歴史改変を行います。
5.複数のオリジナルキャラクターが出現します。
6.オリジナルの戦術機・兵器が出現します。
  (ただし、原作から大きくかけ離れた超兵器は出現しません。)
7.主人公が原作キャラクター(最大で5~6名程度)と恋人関係になる可能性があります。
8.原作開始前後まで、ダイジェスト気味で話が進行します。
9.多分に原作のネタバレが含まれます。
10.作者はマブラヴ・エクストラ,マブラヴ・アンリミテッド,マブラヴ・サプリメント,マブラヴ・オルタネイティヴ,マブラヴ・オルタードフェイブル,
マブラヴ・オルタネイティヴ クロニクル01・02,をプレイし、
マブラヴ・アンリミテッド マンガ版,マブラヴ・オルタネイティヴ マンガ版(01~07),マブラヴ・オルタネイティヴ 公式メカ設定資料集,
マブラヴ・トータル・イクリプス(01~05)・マンガ版(01~03),シュヴァルツェスマーケン 小説(01~02),
『トータル・イクリプス』&『TSFIA』総集編 Vol. 01~04を読みましたが、その他のサイドストーリーの知識はネット上に転がっている程度しか知りません。

以上の注意事項に問題があると感じた方は、この作品を読まないほうが幸せかもしれません。
注意事項に問題が無いと感じた方は、本編へ御進み下さい。


更新
注.データ量が多くなって気ましたので、修正や改定情報は半年以内のものしか書いていません。

2012/07/23 外伝 TE編・中 投稿
2012/07/23 外伝 TE編・上 修正
2012/07/18 外伝 TE編・上 微修正
2012/07/09 外伝 TE編・上 投稿
2011/10/24 第38話 投稿
2011/08/15 第37話 修正,戦術機設定集(簡易)・兵装・その他の装備設定集(簡易) 改定
2011/08/09 第37話 修正
2011/08/01 第37話 投稿
2011/07/11 本作歴史年表 改定,第36話 微修正
2011/07/04 戦術機設定集(簡易)・兵装・その他の装備設定集(簡易) 改定
2011/06/30 第36話 投稿
2011/05/25 第33・34・35話 修正
2011/05/16 第35話 投稿,戦術機設定集(簡易)・兵装・その他の装備設定集(簡易) 改定
2011/05/15 第15・22・25・27・28・29・30・31・32・34話 微修正
2011/05/07 前書きの改定
2011/05/06 第34話 投稿
2011/05/05 第33話 改定
2011/04/18 第33話 投稿
2011/03/29 第32話 投稿
2011/01/30 第31話 投稿
2011/01/27 本作歴史年表 投稿
2011/01/05 第30話 投稿
2010/12/12 戦術機設定集(簡易)・兵装・その他の装備設定集(簡易) 投稿,人物設定集 削除
2010/12/06 第29話 投稿
2010/11/21 第28話 投稿
2010/10/31 第27話 投稿
2010/10/18 第26話 投稿
2010/09/28 第25話 投稿
2010/08/31 第24話 投稿
2010/08/22 第23話 投稿
2010/07/30 第22話 投稿
2010/07/12 人物設定集 投稿
2010/07/10 第21話 投稿
2010/06/21 第20話 投稿
2010/06/13 兵装・その他の装備設定集 投稿
2010/06/01 第19話 投稿
2010/05/23 戦術機設定集 投稿
2010/05/17 第18話 投稿
2010/05/08 第17話 投稿
2010/04/26 第16話 投稿
2010/04/12 第15話 投稿
2010/04/04 第14話 投稿
2010/03/28 第13話 投稿
2010/03/21 第12話 投稿
2010/03/14 第11話 投稿
2010/03/07 第10話 投稿
2010/03/06 第09話 投稿
2010/02/28 第08話 投稿
2010/02/21 第06・07話 投稿
2010/02/14 第05話 投稿
2010/02/13 プロローグ・第01・02・03・04話 投稿



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[16427] 本作歴史年表
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/07/11 21:36
本作歴史年表

戦術機設定集と同様に、設定が分からなくなった時の確認用としてご使用下さい。
また、話の進行よりも改定が遅れる場合があると思いますが、ご容赦下さい。
記載されているのは点線の上部分がオリジナル設定で、下の部分が押えて置きたい原作設定の部分となっています。
なお、原作設定部分は、『「マブラヴ オルタネイティヴ」まとめWiki』『マブラヴ・オルタネイティヴ 公式メカ設定資料集』
の内容を使わせて頂いています。
詳しい原作の設定はWikiなどでご確認下さい。

注:部分が原作と矛盾する部分です。今後の改定にて修正する事を計画中です。


設定カバー話数:第01話~第36話

年表

1977
御剣商事の売り上げが、急激な上昇に転じる。
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日本、77式(F-4J) 撃震の実戦配備開始。
米国、A-6 イントルーダーを配備開始、戦術機史上初の水陸両用機。

1978
1月14日、名門武家である御剣家次期当主の長男として、御剣 信綱が生まれる。
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東欧州大反攻作戦・パレオロゴス作戦
NATO・ワルシャワ条約機構連合軍によるミンスクハイヴ(H5:甲5号目標)攻略作戦。
2ヶ月の激戦後、全欧州連合軍を陽動に、ソビエト陸軍第43戦術機甲師団・ヴォールク連隊が、
ミンスクハイヴ地下茎構造への突入に成功するも数時間後に全滅。
後に「ヴォールクデータ」と呼ばれる貴重なハイヴ内の観測情報を人類にもたらす。
米国、A-10A サンダーボルトを実戦配備

1980
欧州、ECTSF(European Combat Tactical Surface Fighter)計画始まる。
米国、LWTSE計画始動、この計画によりYF-16,YF-17が開発された。
ソ連、MiG-23 チボラシュカを配備開始

1981 (~第01話)
御剣 信綱(3歳)、無現鬼道流の鍛錬を開始。
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日本、81式(A-6J) 海神を配備開始
仏、ミラージュ2000を配備開始

1982
米国、ソ連のアラスカ租借を議会承認 期限は50年間、当該地域住民の移送が始まる。
日本、82式(F-4J改) 瑞鶴を配備開始
米国、F-14 トムキャットを配備開始、本格的な第二世代戦術機の実戦配備が始まる。

1983 (~第02話)
御剣商事、急激な事業拡大を行う。
近年の目覚しい成長によって、日本国内において商社としてはトップクラスの規模となり、
その他に、電気、科学、医療、繊維、食品、金融 等のグループ会社を持つまでになる。
12月16日、名門武家である御剣家次期当主の長女として、御剣 冥夜が生まれる。
同時期に、煌武院 宗家に女児が誕生、名前は煌武院 悠陽となる。
御剣 信綱(5歳)、BETAとの戦いを本格的に意識する。
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帝国国防省、極秘裏に第三世代主力戦術機の独自開発を決定
米陸軍よりATSF──先進戦術歩行戦闘機計画が提案、BETA大戦後の世界を見越した次世代戦術機の開発が米国で開始される。
ソ連、MiG-27 アリゲートルを配備

1984 (~第03話)
4月、御剣 信綱(6歳)、小学校入学。
月詠真耶・月詠真那、無現鬼道流の鍛錬を開始。
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喀什のBETAが本格的な南進を開始、ヒマラヤ山脈を迂回した大規模BETA群がインド亜大陸に侵入。
日本、非炭素系疑似生命の基礎研究開始
米軍、F-15C イーグルを配備開始

1985
4月、御剣 信綱(7歳)、小学2年生に進級。
小学校と交渉し出席日数を制限、自分の任されている範囲で御剣グループの拡大に着手。
各種兵器の研究開発に投資する一方で、大型の企業買収を次々と行う。
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日本、オーストラリア、オセアニア諸国と経済協定締結
日本政府は西日本が戦場になった場合を想定し、国内の主要産業、各種重工業や製造業等の生産拠点を海外に新設する方針を固め、
オセアニア圏、ニュージーランド、オーストラリア等の各国に工業プラントを相次いで建設。
EU、BETA侵攻により、西独、仏が相次いで陥落。
パリ攻防、ダンケルク撤退戦に続いて英国本土攻防戦始まる。


1986 (~第04話)
御剣グループ、戦術機主機やES(強化外骨格)の開発・生産ノウハウを持つ、遠田技研の買収に成功。
この事を切掛けに、御剣重工は本格的な戦術機開発に乗り出す。
米国軍で制式採用された第二世代戦術機F-15『イーグル』の開発もとであるマクダエル・ドラグム社から、
同機の生産ライセンスを取得。
御剣重工、遠田技研で得た技術を応用して、イーグルの帝国軍仕様への改良に着手。
4月、御剣 信綱(8歳)、小学3年生に進級。
御剣 信綱・月詠 真耶・月詠 真那、戦術機のシミュレータ訓練を開始。
帝国国防省が御剣重工のイーグル改修機を陽炎(仮)として12機を試験導入する事を決定。
8月18日、日米合同演習での82式瑞鶴とF-15CイーグルによるDACTの結果を受け、
陽炎(仮)はF-15J/86式戦術歩行戦闘機『陽炎』として制式採用が決定。
ただし、最大100機までの限定生産とする事と、陽炎で第二世代戦術機の生産・改修技術を確保した御剣重工と御剣電気が、
日本帝国の次世代戦術機開発プロジェクトに参加することが条件とされた。
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08.18:日米合同演習にて、82式瑞鶴とF-15CイーグルのDACTが行われる。
米軍、F-16 ファイティングファルコンを配備開始
日本、帝国本土防衛軍を創設
スウェーデン、JA-37 ビゲンを配備開始
EU、米国からのF-15、F-16輸出攻勢が強まる。

1987
4月、御剣 信綱(9歳)、小学4年生に進級。
御剣グループが、10大財閥、16大財閥とも言われた財閥群に対して買収工作に乗り出す。
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7月:米国、五次元効果弾(通称G弾)の爆発実験に成功
11月:米国、HI-MAERF計画の中止を決定
日本、琵琶湖運河の浚渫工事が始まる
大阪湾-伊勢湾-琵琶湖-敦賀湾を結び、帝国海軍が保有する紀伊級戦艦(基準排水量70,000t級50サンチ砲戦艦)や、
30万tクラスのタンカーも通行可能とするため再整備が行われる。
米国、F-18 ホーネットを配備開始
ソ連、MiG-25 スピオトフォズを配備開始
国連、日本帝国及びオーストラリアの常任理事国入り。常任理事国が米英仏ソ中日豪の7カ国になる。
但し、日豪の拒否権は20年間(2007年まで)凍結。

1988
御剣財閥の誕生。
御剣グループが仕掛けた買収合戦の結果、財閥群は再編成されその数を6個まで減らし、
御剣財閥は上から5番目の地位を占める事となる。
(三囲(三井)≧光菱(三菱)≒住宏(住友)≧安多(安田)>御剣≧大空寺)
御剣重工、御剣財閥の力を背景に次世代戦術機開発プロジェクトへの影響力を増す。
御剣重工、メインの次世代戦術機開発とは別に、戦術機開発を行うことを許可される。
2月、御剣 信綱(10歳)、教育基本法全面改正を機に、一気に進級を進める事を決める。
4月、小学5年生に進級。
9月、小学6年生に進級。
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日本、教育基本法全面改正
衛士の育成を主眼に置いた全面的な法改正が行われ、義務教育科目の切り捨てや大学の学部統廃合が始まる。
米国、国連に次期オルタネイティヴ計画案を提示
オルタネイティヴ3に見切りを付けた米国が次期予備計画の招集を待たず、
新型爆弾(G弾)によってハイヴを一掃する対BETA戦略を計画案として提示。
香月夕呼14歳、因果律量子理論の検証を始める

1989
3月、御剣 信綱(11歳)、小学校卒業。
4月、中学校へ入学。
9月、中学2年生に進級。
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国連、米国が提案した次期オルタネイティヴ計画案の不採用を決定
これによって米国は国連に深く失望し、独自の対BETA戦略を強行する方針を固める。
帝国国防省、第二世代戦術機F-15イーグルの試験導入、ライセンス生産を開始
純国産戦術機開発計画の停滞を打開するため、技術検証を目的とした試験導入。
予定調達機数は120機


1990 (~第05話)
4月、御剣 信綱(12歳)、中学3年生に進級。
6月、煌武院 悠陽(6歳)と御剣 冥夜(6歳)を面会させる事に成功。
9月、中学校を卒業し、高校へ入学。
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帝国陸軍、90式戦車を制式採用。※注目
カシュガルハイヴから出現した大規模BETA群が東進を開始。
米国次期主力戦術機がYF-22(F-22A)に決定。
ソ連、MiG-31 ブラーミャリサを配備開始

1991 (~第06話)
4月、御剣 信綱(13歳)、高校2年生に進級。
帝国内で、第3世代国産戦術機のトライアルが行われる。
富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社合同で開発した『不知火』と、御剣財閥で開発した『吹雪』が量産機の座を争う。
その結果、不知火をエース・特殊部隊用、吹雪を一般衛士用として採用するという結論が出された。
各企業の共同提案により、各社で開発した兵器を実戦で検証する実験部隊の設立を打診。
9月、高校3年生に進級。
香月夕呼が帝国大学・応用量子物理研究室に編入したのを受け、御剣 信綱は私財を投じて研究開発費を提供。
12月16日、御剣 信綱(13歳)・御剣 冥夜(8歳)、煌武院 悠陽(8歳)の誕生日に出席。
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日本、帝国議会が大陸派兵を決定
G弾実用化。それに伴いF-22懐疑論が発生。
香月夕呼17歳、帝国大学・応用量子物理研究室に編入
弱冠17歳の学徒が説いた独自理論「因果律量子論」の論文がオルタネイティヴ計画招致委員会の目に止り、
次期計画案の基礎研究を進める帝国大学・応用量子物理研究室への編入が認められた。

1992
帝国軍、TSF-TYPE92-B/92式戦術歩行戦闘機『不知火』及び、TSF-TYPE93-B/93式戦術歩行戦闘機『吹雪』を制式採用。
3月、御剣 信綱(14歳)、高校を卒業。
4月、大学へ入学。
9月、大学2年生に進級。
帝国大学・応用量子物理研究室、研究成果として高性能CPUの基礎理論を御剣 信綱へ報告。
その研究報告を受け、御剣電気は高性能CPUの開発プロジェクトと戦術機用新OSの開発プロジェクトを発足させる。
御剣 信綱、帝国大学・応用量子物理研究室への年間提供資金を2倍に増額。
帝国軍技術廠にて、戦術機甲試験中隊が発足。
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新宮司まりも、帝国陸軍衛士訓練校入校
日本、92式戦術機管制ユニットをを制式採用。※注目
印度、インド亜大陸反攻作戦・スワラージ作戦発動
宇宙戦力が初めて投入され、軌道爆撃や軌道降下部隊など、その後のハイヴ攻略戦術のセオリーが確立。
オルタネイティヴ3直轄の特殊戦術情報部隊が地下茎構造に突入、リーディングによる情報収集を試みるも成果はなく、ほぼ全滅した。
ソ連、Su-27 ジュラーブリクを配備開始
月詠真耶、搭乗機はType-82F 高機動型瑞鶴(92年当時)。まとめWikiに記述あり。
1998年に、帝国議会が女性の徴兵対象年齢を16歳まで引き下げる修正法案を可決とあるので、
この時点で月詠真耶・真那が16歳以上で、軍に所属していないとおかしいかもしれない。

1993
帝国議会において、TSF-TYPE92-B/92式戦術歩行戦闘機『不知火』を改修した機体を、斯衛軍で採用する事が事実上決定する。
3月、御剣 信綱(15歳)、大学3年生に進級。
9月、大学4年生に進級。
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BETA、全欧州大陸を完全制圧
中国、九-六作戦発動
大連に向かう大規模BETA群の殲滅を目的とした中韓連合軍の要撃作戦。
日本帝国の大陸派遣軍も側面支援として参戦。
神宮司まりも19歳、死の8分を越える

1994 (~第07・08話)
1月、御剣 信綱(15歳)、無現鬼道流免許皆伝を得るための山篭りを開始。
修行に期間に問題あり。
御剣電気内の戦術機用新OSの開発プロジェクトにて、EXAMシステムの基本概念が始めて提唱される。
御剣重工において、新型強化外骨格WD第一弾の開発が完了する。
F-4J 撃震の改修プランについて、報告書が作成される。
3月、御剣 信綱(16歳)、大学を卒業。
4月、斯衛軍訓練校入学、基礎訓練課程。
9月、小隊が編成され、小隊長となる。士官教育課程。
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BETA、インド亜大陸占領
日本、帝国議会で徴兵対象年齢の引き下げを柱とした法案を可決、後方任務に限定した学徒志願兵の動員を開始。
国連、オルタネイティヴ4予備計画招集、香月夕呼20歳、国連に招聘され因果律量子論の検証を進める
2月に第三世代国産戦術機「不知火」の量産1号が初の実戦投入
米国、F-18E/F スーパーホーネットを配備開始
統一中華戦線、殲撃10型を配備開始
ソ連、MiG-29 ラーストチカを配備開始
EU、ユーロファイタス社、ECTSF技術実証機、ESFP(Experimental Surface Fighter Program)を完成。
各国へのアピールを目的とした技術実証機運用部隊"レインダンス"中隊を編成し、英国政府の支援の下で国連欧州方面軍へ派遣する。

1995
不知火・斯衛軍仕様試験型の戦術機甲試験中隊への配備開始。
同時に、EXAMシステムver.2の供給が開始される。
4月、御剣 信綱(17歳)、斯衛軍訓練校衛士課程へ進む。
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兵士級BETAが初めて確認される
国連、オルタネイティヴ4に日本案の採用を決定 オルタネイティヴ3を接収へ
香月博士はオルタネイティヴ4の総責任者に就任。
AL4、00ユニットの開発に着手
選定候補者の受け皿として、接収を予定していた帝国陸軍白陵基地に計画直属の衛士訓練学校を設立。
日本、オルタネイティヴ4の招致決定に伴い、更に多くの帝国軍施設を国連軍に開放
日本、18歳以上の未婚女性を徴兵対象とする修正法案可決
国連、世界人口がBETA大戦前の約50%まで減少したと国連統計局が発表
米国、F-15E ストライクイーグルを配備開始

1996 (~第09-13話)
富士教導隊へEXAMシステムver.2の配備開始。
3月、斯衛軍訓練校衛士課程修了、御剣 信綱(18歳)首席卒業。
卒業前に海外研修プログラムを受ける必要があるかもしれない。(クロニクル02より)
斯衛軍、TSF-TYPE92-1B/96式戦術歩行戦闘機『不知火壱型乙』を制式採用。
御剣重工、マクダエル・ドグラム社買収に乗り出す。
4月、斯衛軍への入隊後、帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊(ロンド・ベル隊)へ出向。
モンゴル領ウランバートルハイヴ(18番目のハイヴ)の間引き作戦に参加、初陣をむかえる。
その後の活躍で、光線級殺しの異名を得ることになる。
御剣電気、次世代CPU(量子コンピュータ?)の開発に成功。
コンピュータの開発成功を受けて、2系統で進められていた戦術機用新型管制ユニット開発プランについて、
メインとする方式を決定、開発資源を集中させて開発速度を加速させた。
日系企業連合、大東亜連合設立を支援。
日本帝国は大東亜連合諸国と良好な関係を維持する事に成功。
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モンゴル領ウランバートルハイヴ(H18:甲18号目標)建設開始
アジア各国がオセアニア、オーストラリア各地に臨時政府を樹立。
東南アジア、大東亜連合設立
領土を失った国々の多くは、国連軍の直接的な指揮下に編入されることを良しとせず、大東亜連合を結成して間接的に連携する道を選択した。
国連、オルタネイティヴ5予備計画招集
国連、先進戦術機技術開発計画(Advanced Tactical Surface Fighter/Technology And Research Project) 通称 プロミネンス計画を発動。
アラスカの国連軍ユーコン基地が本拠地に決定。基地の拡張工事が開始。
日本、帝国議会が男性徴兵対象年齢の更なる引下げを含む修正法案可決、事実上の学徒全面動員へ。
日本、北九州を始めとする九州全域に第2種退避勧告が発令。
統一中華戦線、殲撃11型を試験配備
スウェーデン、第三世代戦術機、JAS-39 グリペンを配備開始

1997 (~第14・15話)
御剣食品、味覚を重視した合成食品の量産に成功。
2月、御剣重工、ボーニング社と分割する形でマクダエル・ドグラム社の買収に成功。
3月、日本、プロミネンス計画への参加を表明。
日本帝国は、御剣重工が提案した撃震・改修型、後の98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』の開発を承認し、改修計画のプロミネンス計画への参加を表明した。
6月、帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊(ロンド・ベル隊)、長春(旧満州の新京)防衛戦にて、大損害を被る。
部隊は不知火を駆る6名を残して、部隊長を含む不知火・斯衛軍仕様試験型を駆るベテラン衛士6名が戦死。
御剣 信綱(19歳)、野戦任官により臨時中尉に昇任、第13独立戦術機甲試験中隊(ロンド・ベル隊)の中隊長に就任。
御剣重工、欧州で配備され始めたラインメイタル Mk-57中隊支援砲の生産ライセンスを取得。
各独立戦術機甲試験中隊での試験運用が開始。
御剣電気、戦術機用新型管制ユニットの開発に成功、各独立戦術機甲試験中隊での試験運用が開始。
9月、ピョンヤン(平壌)陥落
10月、韓国領鉄原ハイヴ(H20:甲20号目標)建設開始を確認
第13独立戦術機甲試験中隊に第11独立戦術機甲試験中隊残存戦力が合流。
御剣 信綱(19歳)、斯衛軍から帝国軍へ異動し、臨時大尉に昇任。
12月、ソウル陥落
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ソ連領ブラゴエスチェンスクハイヴ(H19:甲19号目標)建設開始
BETA、アラビア半島を制圧、10年以上BETAの侵攻を持ちこたえていたアラビア半島の戦線が瓦解。
アフリカ連合軍と中東連合軍はスエズを渡って前線を再構築し、アフリカ大陸への侵入を辛うじて食い止めた。
欧米、ダイダロス計画成功 NASAがイカロスⅠの信号を受信、蛇遣い座バーナード星系に適合度AAの地球型系外惑星を発見。
これを受けて米国はユーラシア各国の主張に配慮し、系外惑星への避難を加えた次期オルタネイティヴ計画修正案を提出。
国連、オルタネイティヴ5予備計画が米国案に確定
AL5、ラグランジュ点での巨大宇宙船計画がスタートする
AL4、A-01連隊、オルタネイティヴ第四計画直属の特殊任務部隊が発足。
日本、97式 吹雪を配備
ソ連、Su-37 チェルミナートルを配備
韓国領鉄原ハイヴ(H20:甲20号目標)建設開始

1998 (~第16-30話)
1月、朝鮮半島撤退支援作戦・光州作戦発動。
日本帝国軍が国連軍の承認を得ず部隊を動かした為に被害が拡大したと米国が主張する、彩峰中将事件が発生。
日本帝国軍、撃震・改修型(後の98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』)を同作戦に試験的に参加させる。
3月、光州作戦終了、帝国軍大陸派兵部隊の本土への帰還が完了する。
御剣 信綱(20歳)臨時大尉から中尉へ降任、大陸で活躍を評され功四級金鵄勲章を授与される。
日本帝国陸軍、F-4J-E/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』を制式採用。
日本帝国軍、98式管制ユニットを制式採用。92式戦術機管制ユニット及び米国マーキン・ベルカー社についての記述が必要。
富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社共同出資で、戦術機関連の輸出会社を設立。
国連軍太平洋方面第11軍に所属する特殊部隊(A-01部隊)に、CPU換装管制ユニット+EXAMシステムver.2を搭載した機体が配備される。
九州全域に発令された第2種退避勧告が、第4種に引き上げられる。
御剣財閥、西日本から東日本及び海外への生産拠点の移設を加速させる。
日本帝国軍、TSF-TYPE92-2A/99式戦術歩行戦闘機『不知火弐型(甲)/先行試作不知火弐型』,TSF-TYPE92-C/92式戦術歩行戦闘機『不知火改』及び、
『吹雪改(仮)』の試験運用開始。
4月、御剣 信綱(20歳)中尉から大尉へ昇任。
5月、彩峰中将公開軍事裁判にかけられる。光州作戦時の帝国軍の運用に対する責任を取り、禁錮10年の刑に服する事になる。
6月、中国地方に第2種退避勧告が発令。
7月7日、超大型台風が九州及び中国地方全体を覆う。
韓国領鉄原ハイヴから南進したBETA群が、対馬を陥落させ北九州地区に上陸するも、帝国軍 西部方面軍 九州地区部隊の活躍により、
上陸した師団規模のBETA群を僅か数時間で撃破する事に成功する。
7月9日、韓国領鉄原ハイヴから南進したBETA群の第二波及び、中国領重慶ハイヴから東進したBETA群の第一波が、
九州及び山陰地方への上陸を開始。
九州全域及び山陰地方に第5種退避勧告、山陰地方以外の中国地方に第4種退避勧告が発令される。
7月10日、山陰地方へ上陸したBETA群が、日本海側は鳥取県西部、瀬戸内海川は広島市まで迫る。
7月11日、BETA群岡山県倉敷市を突破、帝国軍瀬戸大橋の破壊に成功。
7月14日、BETA群が姫路(ひめじ)防衛線にまで達する。
7月15日、BETA群が日本海側の防衛線の一つであった福知山・綾部ラインを突破。
7月16日、BETA群が京都盆地に侵入。
第13独立戦術機甲試験中隊を中核とした、第13独立機甲試験大隊(仮)が設立。
7月末、帝国陸軍、F-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震(れっしん)』を制式採用。
8月9日、九州陥落、全ての帝国軍部隊が九州からの撤退を完了させる。
8月13日、
近畿地方は、芦屋,京都,滋賀県北部(賤ヶ岳)
北陸地方は、石川県中部(金沢市)
四国地方は、香川から徳島県にかけての県境
にて防衛戦が続けられる。
8月16日、日本帝国は首都の放棄を決定、京都からの撤退開始。
その後、琵琶湖運河にて防衛線が展開される。
京都撤退作戦時、第13独立戦術機甲試験中隊により、御剣電子製の量子コンピュータと
EXAMシステムver.2.5を実装したYF-23 ブラックウィドウⅡが試験投入される。
8月26日、北陸地方を侵攻していたBETA群が新潟県上越市を突破後、海を渡り佐渡島を占拠。
この日を境に、帝国領内でのBETA群の活動が沈静化を見せる。
9月9日、佐渡島ハイヴ(H21:甲21号目標)の存在を確認。
佐渡島ハイヴへの対応をめぐり、日本帝国と米国との間にあった軋轢が顕在化。
帝国軍、第二琵琶湖運河(敦賀湾-琵琶湖ライン)の奪還に成功。
10月、米国が日米安保条約を破棄し、在日米軍の撤退を開始。
11月第2週、BETAの活動が再開され、中国領重慶ハイヴから増援が到着。
11月第4週、帝国軍、第一琵琶湖運河と徳島での防衛を断念、防衛線を第三琵琶湖運河(伊勢湾-琵琶湖ライン)まで後退。
12月4日、佐渡島ハイヴから新潟沿岸にBETA群が侵攻。
佐渡島ハイヴから侵攻したBETAは、数日後には長野県・山梨県を抜け、神奈川県にまで達する。
BETA群は北への侵攻を多摩川、西へは相模川、南へは三浦半島を境に停止、帝国軍とBETAは両河川を挟んで膠着状態となる。
この時点でBETAの占領地域は、三重県北部及び滋賀県東部を除いた西日本、石川、富山、長野、新潟、山梨、神奈川東部、東京の一部にまで達し、
BETAの本土侵攻から出た犠牲者はおよそ2500万人となる。
12月24日、横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)の建設開始が確認。
日本帝国は、仙台第二帝都への首都機能移設準備を始める。
帝国領内でのBETA群の活動が沈静化。
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日本、朝鮮半島撤退支援作戦・光州作戦発動
1998年1月、国連軍と大東亜連合軍の朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦。
後に光州作戦の悲劇と呼ばれる彩峰中将事件が発生する。
夏:重慶ハイヴから東進したBETAが日本上陸
北九州を初めとする日本海沿岸に上陸し、わずか一週間で九州・中国・四国地方に侵攻
犠牲者3600万人 日本人口の30%が犠牲となる。
(この時点で世界人口の60%が死滅している)
一ヶ月に及ぶ熾烈な防衛戦の末、京都陥落。首都は京都から東京に移される
米軍は日米安保条約を一方的に破棄して撤退
BETA、東進再開、首都圏まで侵攻し、西関東が制圧下に 。帝国軍白陵基地壊滅
BETA群は帝都直前で謎の転進。伊豆半島を南下した後に進撃が停滞、以降は多摩川を挟んでの膠着状態となり、24時間体制の間引き作戦が続く。
仙台第二帝都への首都機能移設準備が始まる
BETA、横浜にハイヴを建設開始
香月夕呼博士、国連に横浜ハイヴ攻略作戦を提案
国連司令部は即時承認。大東亜連合に参戦を打診。
日本、帝国議会が女性の徴兵対象年齢を16歳まで引き下げる修正法案を可決
国連、アラスカ州ユーコン基地の拡張工事が完成する
EU、ECTSF先行量産型「EF-2000 タイフーン」の英国陸軍試験部隊へ引き渡し開始。
仏、独自開発の第三世代戦術機、ラファールを実戦配備開始
米、F-22A ラプター先行量産型の実働部隊での運用を開始

1999 (~第31-36話)
日本帝国軍、TSF-TYPE92-2B/99式戦術歩行戦闘機『不知火弐型(乙)』及びTSF-TYPE92-C『不知火改』を制式採用。
4月、斉御司殿下が政威大将軍の地位を奉還、皇帝により煌武院悠陽の政威大将軍任命式が行われる。
日本帝国、大東亜連合へのEXAMシステムver.1搭載型撃震及び鞍馬の供給を開始。
日本帝国、国連軍へ帝国軍が保有する全ての陽炎(EXAMシステムver.1搭載型)を譲渡。
日本帝国製戦術機の性能に、各国の注目が集まる。
帝国軍、90式戦車改,試験型自走砲及び新型の強化外骨格を実戦投入。
7月、各国が最新型戦術機を日本帝国領内での戦闘に投入。
日本帝国、TSF-TYPE92-2B『不知火弐型』,TSF-TYPE92-C『不知火改』
EU連合、EF-2000『タイフーン』
フランス、『ラファール』
スウェーデン、JAS-39『グリペン』
アメリカ、F-22A『ラプター先行量産型』,F-15E『ストライク・イーグル』
統一中華戦線、J-11/Su-27SK『殲撃11型』
ソ連、Su-37『チェルミナートル』
御剣 信綱(21歳)、大尉から少佐へ昇任。
日本帝国軍、第13独立機甲試験大隊を正式に発足させる。
8月5日、国連、明星作戦(横浜ハイヴ攻略及び日本本州奪還作戦)を発動。
軌道降下部隊がハイヴ内に突入するも、ハイヴ攻略に失敗。
8月6日、国連軍及び帝国軍が戦闘継続中に、米軍がG弾の使用を宣言。二発のG弾が使用される。
作戦継続中だった部隊に被害が出るも、地表のBETAに大きな被害を与えた上、BETAが謎の活動停止を行う。
各国でG弾脅威論が噴出する。
8月9日、国連軍部隊ハイヴ突入、国連軍司令部は建設されたハイヴの世界初となる占領を発表。
8月、国連軍、明星作戦の終結を宣言。日本帝国は佐渡島以外の領土奪還を達成。
日本帝国、BETAの本土侵攻から明星作戦終了までの約13ヶ月の間に帝国が被った人的被害は、
軍人・民間人合わせて2600万人(総人口の約21%)を超え、1967年以来初となる人口一億人割れとなる。
1991年の大陸派兵決定以来人口の偏在化が進んだ事と世界的な食糧難もあり、人口は自然減となった。
国連、横浜ハイヴ跡地に国連軍基地の建設を決定し、米軍に即時撤退命令を下し鹵獲品の接収を禁止。
日本帝国軍、第13独立機甲試験大隊の目標を達成したとして部隊を解体。
AL4、オルタネイティヴ第四計画直属の特殊任務部隊にTSF-TYPE92-C『不知火改』とEXAMシステムver.2の供給が開始。
9月、日本帝国内で新型戦術機開発計画の報告会が行われる。
第壱グループ(富嶽重工,河崎重工)から『武御雷』、第弐グループ(御剣重工,光菱重工)から『八咫烏』の仕様説明が行われる。
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日本、99式衛士強化装備を制式採用。
帝国陸軍、99式自走155mmりゅう弾砲を制式採用。※注目
国連、本州奪還作戦・明星作戦を発動。
08.05:米軍が二発のG弾を使用する。
08.09:人類史上初ハイヴの奪還に成功。
各国でG弾脅威論が噴出する
香月夕呼博士、オルタネイティヴ4の本拠地として、横浜ハイヴ跡地上に国連軍基地の建設を要請。国連は即時承認。
横浜基地建設着工と同時に国連軍司令部は米軍に即時撤退命令を下す。
10月、国連横浜基地建設着工
米・ボーニング社、フェニックス構想始動、F-15強化策の実証実験がユーコン基地で始まる。
ソ連、Su-47 ベルクートを開発
スフォーニ設計局が独自開発したSu-37の強化試験機。
米国、A-12 アベンジャーを配備開始



[16427] 戦術機設定集(簡易)
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/08/15 13:48
戦術機設定集(簡易)

戦術機設定集は、この作品のオリジナル設定を確認するためにまとめていた資料の一部です。
設定が分からなくなった時の確認用としてご使用下さい。
また、必要最低限の情報にまとめていますが、多くのネタバレを含みますので、初見の方はご注意下さい。
なお、話の進行よりも改定が遅れる場合があると思いますが、ご容赦下さい。



設定カバー話数:第01話~第37話

目次

1-1  F-4『ファントム』
1-2  F-4J/77式戦術歩行戦闘機『撃震』
1-3  F-4J改/82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』
1-4  F/A-4J-E/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』
1-4-a F/A-4J-E(FS)/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬・支援装備』
1-4-b F/A-4J-E(I)/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬・迎撃装備』
1-4-c F/A-4J-E(C)/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬・輸送装備』
1-4-d F/A-4J改-E/??式戦術歩行攻撃機『鞍馬型瑞鶴(仮)』
1-5-a F-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震』
1-5-b F-4F『スーパーファントム』

2-1  F-15J/86式戦術歩行戦闘機『陽炎』

3-1  TSF-TYPE92-B/92式戦術歩行戦闘機『不知火』
3-1-a TSF-TYPE92-B(R)/92式戦術歩行戦闘機『不知火・強行偵察/支援偵察装備』
3-1-b TSF-TYPE92-C/92式戦術歩行戦闘機『不知火改』
3-2  TSF-TYPE92-1B/92式戦術歩行戦闘機『不知火壱型乙』
3-3-a TSF-TYPE92-2A/92式戦術歩行戦闘機『不知火弐型(甲)/先行試作不知火弐型』
3-3-b TSF-TYPE92-2B/92式戦術歩行戦闘機『不知火弐型(乙)』
3-3-c 『不知火弐型(丙)/技術試験用不知火弐型』
3-4  『試作型武御雷』

4-1  TSF-TYPE93-B/93式戦術歩行戦闘機『吹雪』
4-1-a TSF-TYPE93-B(R)/93式戦術歩行戦闘機『吹雪・強行偵察/支援偵察装備』
4-1-b TSF-TYPE93-N/93式戦術歩行戦闘機『吹雪・海軍仕様』
4-1-c TSF-TYPE93-A/93式戦術歩行高等練習機『吹雪・高等練習仕様』
4-1-d TSF-TYPE93-C/戦術歩行試作戦闘機『吹雪改(仮)』
4-1-e 『吹雪・国際標準仕様(仮)』
4-1-f 『吹雪・国際標準仕様改(仮)』

5-1  YF-23『ブラックウィドウⅡ』

6-1  『試作型八咫烏』



登場機体

1-1
F-4『ファントム』(第1世代機)
 F-4E『ファントム』(第1.5世代機)

1974年米軍に制式採用された人類初の戦術機。
1997年、開発元であったマクダエル・ドグラム社が御剣重工とボーニング社に買収された際、
既に米国での生産が終了し、米軍でも全機が退役しているため、ファントムのライセンスは御剣重工が所有する事になった。
1998年から生産拠点をオーストラリアに移し、アビオニクスの刷新と装甲材の軽量化、跳躍ユニットのエンジン換装により、
準第2世代の性能が付与された改良型であるF-4Eが、主にアジアやアフリカ地域への供給されている。

1-2
F-4J/77式戦術歩行戦闘機『撃震』(第1世代機)
 →後期生産EXAMシステムver.1搭載型『撃震』(第1.5世代機)
 
1977年に帝国軍で実戦配備が開始された、F-4 ファントムの日本向け改修機。
1998年時点で、撃震の生産は補修部品の生産がメインになっており主力量産機の座を吹雪に譲っているが、
依然として帝国軍が保有する戦術機全体の57%を占める主力戦術機である。
近代化改修によって第二世代機と同等の性能を確保する予定だったが、吹雪の制式採用で撃震へ配分される予算が削減されたため、
撃震のハード面からの改良が一部凍結される事になった。
その結果、近代化改修を受けた撃震は第二世代機に迫る性能に留まっている。
ただし、撃震の30%に導入されたEXAMシステムver.1により、一部の性能で第二世代機を上回る事になった。

1998年、BETAの本土侵攻以降の消耗とF-4JF/TSF-TYPE98/98式戦術歩行戦闘機『烈震』烈震の制式採用により、
撃震は2000年中に、全機が烈震もしくは吹雪に置き換えられる事が決定する。
1999年、明星作戦に参加する大東亜連合へ、若干の調整が加えられたEXAMシステムver.1搭載型撃震が供給された。
主な理由は、帝国内だけでは衛士の供給が追いつかない事とされている。
ハード面ではF-4Eに劣っているとされた撃震だったが、生み出す戦果がF-4Eに劣らない事を目の当たりにした各国は、
日本帝国が有する技術力の高さを大きく評価する事になった。
烈震の登場後、帝国軍内で全機が置き換えられる事が決定した撃震だったが、退役後も輸出や鞍馬への改修が行われており、
今後も活躍が期待される戦術機である。


1-3
F-4J改/82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』(第1.5世代機)
 →後期生産EXAMシステムver.2搭載型『瑞鶴』(第2世代機)

1982年に斯衛軍で配備が開始された撃震の改造機。
1996年に斯衛軍で制式採用された不知火・壱型乙の出現によって、生産数が縮小されている。
制式採用後、撃震と同様に装甲の軽量化・アビオニクスの刷新・小型可動兵装担架システム・対レーザー蒸散塗膜加工装甲の導入などの近代化改修が行われ、
CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2が導入された瑞鶴は、第2.5世代機とも戦える機体となった。


1-4
F/A-4J-E/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』(第1世代機)
 開発時の名称:『撃震・改修型』

1998年に、帝国軍に制式採用された撃震の改修機。
1994年から御剣重工により極秘裏に改修計画が進められ、1997年先進戦術機技術開発計画 通称「プロミネンス計画」に日本帝国が参加した際に、
初めて公にされる事になった。
1998年、朝鮮半島撤退作戦(通称:光州作戦)に参加した鞍馬(当時:撃震・改修型)を運用する第03独立戦術機甲試験大隊が大きな戦果をあげた事で、
国内外から注目が集まっている。
その後の日本帝国本土防衛戦でも活躍を見せ、国内での配備が急がれる事になった。
1999年、明星作戦に参加する大東亜連合へ、若干の調整が加えられた鞍馬が、F/A-4J-E『クラマ』として供給を開始された。
同年、欧州連合への試験導入も開始される。
型式番号のEは、馬の学名である『Equus caballus(ラテン語名:エクゥウス・カバッルス)』から付けられた。

この機体は、フェイアチルド・リムパリック社(米)が開発した戦術歩行攻撃機A-10『サンダーボルトⅡ』を意識して開発された機体である。
鞍馬は、サンダーボルトⅡを上回る火力と機動力を確保する事を目標に計画されていたが、
早い段階から二足歩行ではそれを実現することが難しいと考えられていた。
そのため鞍馬は、前部ユニットになる撃震の臀部に、新しく作られた動体ユニットと撃震の下半身がセットになった後部ユニットが
取り付けられ、二足歩行から四足歩行へと形態を変化させる事になった。
その外観は、ギリシャ神話にでてくる上半身が人で下半身が馬の姿をしたケンタウロスを彷彿とさせるものとなっている。

四足歩行への改修は、強力になった火力の反動を二足歩行では支えられないと判断されたため導入されたものであったが、
結果として四基の跳躍ユニットが第3世代機に迫る機動力を生み出すし、四速歩行により主脚歩行時の振動が低減されることになった。
主脚歩行時の振動低減により必要な衛士適正が低くおさえられたため、衛士適正ではじかれて戦車兵になった者や、
年齢で予備役に入ったものも搭乗できる可能性が出てくることになる。
ただし、四足歩行の欠点とされたのが、旋回性能及び運動性の低さと整備性・輸送等の運用面での問題であった。
旋回性能及び運動性の低下については、対戦術機戦ではいい的になるだけだと評価を受けることになったが、
その点はサンダーボルトⅡも同様であり、むしろ第三世代機に負けない前進速度と反応速度により、
正しい運用方法を行えばサンダーボルトⅡよりも使い易いとも考えられた。

鞍馬には、戦車部隊に随伴し護衛と戦術機への支援を行うための支援装備と、拠点防衛や戦術機部隊に随伴し支援を行う迎撃装備がある。
いずれの装備にも共通するのは、サンダーボルトにも搭載されているガトリング砲(GAU-8)二門である。
また、メインアームは完全にフリーになっているため、戦術機の装備をそのまま装備ができる。
近接武器には、撃震と同様に装備されているナイフシースに搭載されている65式接近戦闘短刀で対応するとされているが、
その他にも前面装甲に施された反応装甲を爆破することでクレイモアのように散弾をばら撒く事ができる追加装甲が装備されている。
しかし、基本的には近接武器を使用する距離までBETAに接近される前に、退却する事が想定されている。
またその仕様や、四足歩行の制御の難しさから管制ユニットは複座のみを採用することになった。

帝国軍のF-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震』制式採用後は、F-4J/77式戦術歩行戦闘機『撃震』の部品比率を徐々に烈震へ変更し、
機体の強化を図っている。


1-4-a
F/A-4J-E(FS)/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬・支援装備』
支援を英語ではFighter Supporterとされ、略称にFSを用いる。
装備 GAU-8 Avenger(ガトリング砲)×2(予備弾倉×2),OTT62口径76㎜単装砲×1


1-4-b
F/A-4J-E(I)/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬・迎撃装備』
英語で迎撃を表すInterceptorの頭文字Iを用いる。
装備 GAU-8 Avenger(ガトリング砲)×2(予備弾倉×4),30連装ロケット弾発射機×2
馬の背中にあたる部分に、GAU-8の予備弾倉と30連装ロケット弾発射機が搭載されている仕様である。
これにより予備弾倉分まで全て使用すると、GAU-8は一度の戦闘で砲身の寿命をむかえるまで砲撃が可能となると計算されている。


1-4-c
F/A-4J-E(C)/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬・輸送装備』
英語で輸送を意味するCargoの頭文字Cを用いる。
大型のコンテナを装備し、兵装は通常の戦術機が主腕(メインアーム)に装備する事の出来るものだけである。
緊急時、前線に展開する戦術機に物資を届けることを目的としている。
また、ハイヴ内での物資輸送という任務でも、その性能が注目されている。


1-4-d
F/A-4J改-E/??式戦術歩行攻撃機『鞍馬型瑞鶴(仮)』
1999年、瑞鶴を高機動・高火力化した機体として、鞍馬の機構を採用した瑞鶴の開発を開始。
鞍馬の仕様に対して、単座,高い近接格闘能力が加えられており、その仕様を満足させる為に、
『コンボ』機能を有するEXAMシステムver.3を標準搭載する方向で、計画が進行中。
多くの新機軸を盛り込んだ事で、開発コストが上昇する懸念がある。

この計画は裏でいくつかの憶測が飛び交うことになったが、
瑞鶴を長年使ってきた将校が酒の席で『俺の考えた最強の瑞鶴』を披露した所、なぜかその話が城内省へ行き、
鞍馬導入を真面目に検討した斯衛軍の企画書もほぼ同時期に城内省へ出されていた為、その両方を見た役人が、
『上手く合わせれば、両方の要望を満足させられるし、予算も増える』と考えてしまった事で起きた、
偶然の産物だった。

斯衛軍での最大運用数は2個大隊程度になると目されているが、帝国軍内にも鞍馬の単座仕様を望む声があるため、
何処まで生産数が伸びるかは未知数である。



1-5-a
F-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震』(第2.5世代機)
 開発時の名称:F-4JX『撃震改(仮)』

1998年に光菱重工が提案した撃震近代化計画により作られた機体で、開発完了と同時期に本土防衛戦で消耗した帝国軍によって、
制式採用される事になった。
1999・2000年の帝国軍における最多調達機種は、烈震となった。
2001年以降は、調達数が削減される予定である。

撃震近代化計画とは、EXAMシステムver.1搭載型の撃震と、撃震の改修機である瑞鶴のEXAMシステムver.2搭載型が想定以上の性能を示した事により、
撃震を第三世代機に準じた装備にし、EXAMシステムver.2を搭載するという計画である。
OBLと電子装備(アビオニクス)が刷新されEXAMシステムver.2を搭載した撃震は、2.5世代機クラスの性能を発揮すると試算されていたのだが、
これらの改修によって製造コストが上昇した撃震は、現行の主力生産機である吹雪と比較すると、開発するほどのメリットがあるか疑問視されていた。

帝国軍の支援を受ける事ができなかった光菱重工は、EXAMシステムを開発した御剣電気と撃震(F-4J)のライセンスもとである
御剣重工(マクダエル・ドグラム社の一部吸収合併)に支援を求める事になった。
それに対して御剣側は、撃震の基であるF-4『ファントム』がアビオニクスの近代化と装甲の軽量化、
跳躍ユニットの強化によって準第2世代まで引き上げられたE型が現在でもアフリカ戦線等で運用されている事や、
第3世代機を導入する余力がない国にとっては、導入コストも低く抑えられる計画である事から、輸出用とする事を前提に開発に協力する事になる。

しかし、1998年から始まったBETAの日本本土への侵攻で、戦術機の欠乏に喘いだ帝国軍に98式戦術歩行戦闘機『烈震』として、
制式採用される事になる。


1-5-b
F-4F『スーパーファントム』(第2世代機)
1999年、EXAMシステムver.1搭載型のF-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震』をE型の上位機種として、JFE社より海外販売が開始された。
主な輸出先は大東亜連合だが、供給数はコストの問題ゆえか帝国軍から退役後、定期修理(アイラン)された撃震に負けているのが実情である。



2-1
F-15J/86式戦術歩行戦闘機『陽炎』(第2世代機)

1986年に帝国軍に制式採用された戦術機。
1999年にEXAMシステムver.1搭載型陽炎(一部の機体は管制ユニットを交換してver.2からver.1へダウングレードされている)が、
明星作戦に参加する国連軍へ譲渡され、帝国軍内で陽炎を運用する部隊は消滅することになった。

1986年当時、マクダエル・ドラグム社が欧州に対してF-15 イーグルの輸出攻勢を行っている情報を入手した御剣財閥がライセンス生産を持ちかけ、
接近戦闘能力を強化し伝送系を全て御剣電気製に交換した、日本向けのイーグル改修機である。
御剣重工がイーグルのライセンス権を獲得したという話を聞きつけた帝国国防省は、
順調なイーグルの改修と進まぬ次世代戦術機開発プロジェクトの事を考慮し、帝国国防省は御剣重工のイーグル改修機を陽炎(仮)として、
12機を技術検証を目的に試験導入する事を決定した。

その後、マクダエル・ドラグム社からの要請とアメリカ政府からの日本帝国政府への圧力もあり、陽炎(仮)の本格量産の話が持ち上がる事になる。
その話は、当然のことながら次世代戦術機の開発を行っていた他の企業(富嶽重工、光菱重工、河崎重工)からの猛烈な反発にあい、
日本帝国政府内も米国派と国産派に分かれて対立する事となった。
そんな中、1986年8月18日 日米合同演習にてF-4J改 瑞鶴とF-15C イーグルのDACT(異機種間戦闘訓練)が行われ、
巌谷大尉が乗る瑞鶴がイーグルに勝利するという驚くべき結果がもたらされる。
結局、陽炎(仮)は86式戦術歩行戦闘機 陽炎として制式採用するものの、最大100機までの限定生産とする事と、
陽炎で第二世代戦術機の生産・改修技術を確保した、御剣重工と御剣電気が日本帝国の次世代戦術機開発プロジェクトに参加する事になった。

世界的には、幅広く採用された最強の第二世代機と言われるイーグルだったが、日本帝国ではあまり広がる事はなかった。
ただし、不知火・吹雪が制式採用されるまでの間に、現場からの要求を断りきれなかった結果、総調達数は100機を越える結果となっている。
1998年時点で陽炎は、30%がCPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2,70%が第三世代機用CPU+EXAMシステムver.1の改修が施されている。
これによりEXAMシステムver.2搭載の陽炎は、F-15E ストライク・イーグルに匹敵する性能を有する事になった。



3-1
TSF-TYPE92-B/92式戦術歩行戦闘機『不知火』(第3世代機)
 先行試作時の名称:TSF-TYPE92-A『不知火・先行量産型』

1992年に、帝国軍に制式採用された戦術機。
不知火の開発には、富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社が参加している。
1991年に吹雪とトライアルが行われ、機体性能は吹雪に勝っていると評価されたが、
帝国軍の仕様要求を満たすために突き詰められた設計がされていたため、量産機としては生産コストが高くなった。
これを受けて、撃震に変わる主力量産機の座を吹雪に譲り渡す事になる。

原作に比べ、内蔵式カーボンブレード,小型可動兵装担架システムが搭載された事で、汎用性が増している。
ちなみに、先行量産型は上記の二つの装備が無いため、外観からも見分ける事が可能である。
EXAMシステムが導入された不知火は、EXAMの特性によりフレーム及び関節の消耗が激しくなる事が報告され、問題となっている。


3-1-a
TSF-TYPE92-B(R)/92式戦術歩行戦闘機『不知火・強行偵察/支援偵察装備』

偵察を意味するReconnaissanceの頭文字を意味する。
主に、試験部隊の情報収集とCPの役割を担うために、特別なユニットが取り付けられた機体である。
不知火の両肩に大型のレドームが、可動兵装担架システムには情報処理装置として大型のバックパックが装備されている。
これにより、各機体のセンサーから得られたデータを収集し、そのデータを持ち帰る事が可能となり、
他の機体はデータ収集のために余計な負荷をCPUにかける必要が無くなった。
また、腰部にある小型可動兵装担架システムには小型ドロップタンクが装備され、稼働時間の延長が図られている。

武装
強行偵察 装備 87式突撃砲×1(36mm/ガンカメラ・予備弾倉4),レドーム×2,情報処理用大型バックパック,65式近接戦闘短刀×2,92式多目的追加装甲×1
支援偵察 装備 Mk-57中隊支援砲×1,レドーム×2,情報処理用大型バックパック,65式近接戦闘短刀×2


3-1-b
TSF-TYPE92-C/92式戦術歩行戦闘機『不知火改』

92式戦術歩行戦闘機『不知火』を強化するために、新型機である弐型のパーツが一部導入された機体。
現在配備されている不知火を、比較的容易に強化出来ると言う企業側の提案で実験が行われていた。
1999年時点では、富士教導隊に代表される複数の精鋭部隊にて運用中である。
99式戦術歩行戦闘機『不知火弐型』の制式採用に合わせて、こちらも制式な改修機として登録されている。
帝国軍の不知火は、機体の定期修理(アイラン)時に、全機不知火改への改修が決定している。
また、斯衛軍から帝国軍へ移管された不知火壱型乙も同様の扱いとなる。

その仕様は、不知火弐型の下半身との置き換えと98式管制ユニットが標準装備としたものとなっている。
今までの不知火にはなかった、腰部装甲ブロックへの小型推力偏向スラスターの搭載によって癖のある機体となっていたが、
実戦経験を多く積み戦術機の操縦に余裕が生まれているベテラン衛士にとっては、大きな障害とはならないというデータもある。
また、脛・膝・足の甲・踵部の外装にスーパーカーボン製ブレードが装備された事で、近接格闘能力も向上している。


3-2
TSF-TYPE92-1B/92式戦術歩行戦闘機『不知火壱型乙』(第3世代機)
 先行試作時の名称:TSF-TYPE92-1A『不知火・斯衛軍仕様試験型(壱型甲)』

1996年に不知火・壱型乙として、斯衛軍に制式採用される。
斯衛軍専用ならTSF-TYPE96とし、不知火とは別名を与えられるべきだが、事実上斯衛軍専用機となっているものの、
形式的には通常の量産機となっている。
1Aとなっているのは、城内省のせめてもの抵抗であるとも考えられている。
1995年より不知火・斯衛軍仕様試験型の実戦テストが行われ始める。
1992年より、帝国軍で制式採用された不知火・吹雪は、その性能により帝国軍の中で高い評価を得ていた。
しかし、吹雪に量産機の座を奪われた形となった不知火を開発した、御剣重工以外の三社(富岳重工,光菱重工,河崎重工)は、
不知火の生産台数を増やすために斯衛軍に不知火を採用するよう、強力な働きかけを行うことになる。
斯衛軍を管轄する城内省は、瑞鶴の後継機としてまった別の戦術機を開発する事を計画していたが、
帝国議会が早急に瑞鶴に変わる機体を求めた事や、様々な方面からの説得を受け、不知火の改修機を採用する事が決定された。
1999年、本土防衛戦・明星作戦と続いた戦力の喪失に喘ぐ帝国軍から、不知火弐型の配備優先権を斯衛軍へ譲渡する事と予算を引き換えに、
衛士付で不知火・壱型乙 一個連隊の譲渡を打診された斯衛軍は、不知火弐型の制式採用と不知火・壱型乙の譲渡を決定した。
その後、有力武家出身ではない衛士と一般衛士へ配備されていた不知火・壱型乙が帝国軍へ移管され、
山吹以上の色を持つ少数の不知火壱型乙のみが、新型戦術機の配備と生産が安定するまで維持する事となった。

斯衛軍の仕様要求は、帝国軍以上に難しいものだったが3年の時間をかけ、その要求を全て満たす事に成功する。
その機体性能は、総合的な能力で不知火を上回るものになり、接近格闘能力では不知火を圧倒するまでになっていた。
ただし、増設されたバッテリー及び燃料タンクでも稼働時間の低下を補うことはできず、
統計的に見て稼働時間が不知火の80%ほどになってしまう問題点もある。
さらに、大幅な製造コストの上昇と整備性の悪さや、高い衛士適正を必要とする点も問題とされたため、
導入された時点では少数精鋭の斯衛軍くらいしか運用する事ができない機体となっている。
(原作の不知火・壱型丙と武御雷の中間のような機体、その性能は原作武御雷よりも劣っている。)
瑞鶴と同様に機体の仕様により、Type-92-1BRの紫(将軍専用機)と青(五摂家用),Type-92-1BFの赤(五摂家に近い有力武家用)と黄(譜代武家用),
Type-92-1BAの白(武家用),Type-92-1BCの黒(武家以外の一般衛士用)に分けられている。

余談だが不知火・斯衛軍仕様試験型のデータにより、対レーザー蒸散塗膜加工装甲の有効性が証明され、
機体EXAMシステム搭載を前提とした機体開発の必要性が判明するなど、多くのデータが収集され新型機の開発に反映される事になった。
また、不知火で問題になったフレーム及び関節の消耗は、強化されたフレーム・関節と十分な整備が受けられる環境である事から、
問題となっていない。


3-3-a
TSF-TYPE92-2A/92式戦術歩行戦闘機『不知火弐型(甲)/先行試作不知火弐型』

1999年に、帝国軍に制式採用された戦術機の先行試作型。
1998年に実機テストが開始される事になった、不知火を全面改修する事により次期量産機を開発すると言う計画により、開発された機体である。
この計画には、不知火の開発に携わっていた富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社が引き続き参加している。

不知火は、EXAMシステムの導入という想定外の出来事があったとはいえ、僅か5年で再設計を行う必要が出るほど、拡張性が確保されていなかった。
そのため不知火の改修計画では、実に不知火の60%を再設計する程の見直しが行われ、
今後10年以上現役で使う事が可能なように拡張性が確保される事になった。
またそれと同時に、不知火開発から積み重ねた六年間の技術と各国の戦術機のデータを元に改良が加えられ、不知火は正常進化する事になった。
似たような事例で、米国においてF-15CイーグルをF-15Eストライクイーグルに改修したというものがあるが、
基礎構造が優秀だったイーグルの改修とは異なり、開発する余裕が残されていない不知火の改修は、メインフレームの検討から行われる事になった。
メインフレームから検討するという改修案に、一から新型機を開発したほうが良いのではないかと企業側が提案したが、
不知火・吹雪の実戦での運用が良好だった事と、導入・運用コスト削減の為に不知火・吹雪との互換性を確保したいという軍の要望に応えることになる。
不知火・斯衛軍仕様試験型 後の不知火壱型乙で初めて実装され、実戦証明を行ったEXAMシステムver.2が大きな戦果をあげた事を受け、
急遽ver.2搭載を前提に設計が行われる事になり、不知火の改修機だった弐型はEXAMシステム対応のテストベッドとしての側面も持つ事になる。
EXAMシステム搭載の決まった段階で弐型の開発はかなり進んでいたが、修正できる範囲でEXAM特有の急激な機動変化により発生するフレーム及び、
関節部の負荷を考慮した設計がされる事になった。

この計画により不知火弐型は、機体性能が不知火・壱型乙高機動仕様と同等で、
量産が開始されれば不知火の二割増し程度のコストまで圧縮できるとされている。
また、本土防衛戦が近づく1998年時点で最も重視されていた不知火系統三種類の強化は、
この機体で使われているモジュールの一部を搭載する事で行われる予定となっている。
このように、一見成功しているように見える弐型であるが、試作型の段階で連続稼働時間が不知火と同等である事に対し、
一部の現場に近い衛士から更なる延長を求める声が上がっているなど、問題点も指摘されている。
1998年7月時点で、不知火弐型の試験結果は、良好なデータを残しており、優秀な機体である事が伺える。
一部の情報では、斯衛軍も採用する可能性があるという噂もある。

先行試作不知火弐型の仕様は以下のようになっている。

メインフレーム及び関節部の強化:
メインフレーム及び関節部を再設計した事により、今後も機体各部に新たな装備を追加できる余裕が確保された。
また、高められた強度によりEXAMシステムver.2の機動でも、十分に実戦を戦い抜ける耐久力が確保された。

機動力の向上:
主機・跳躍ユニットの出力を上げると同時に、空気抵抗を低減するために装甲形状が変更された。
これにより、最高速度・巡航速度共に上昇する事になった。

運動性の向上:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、腰部装甲ブロックへ小型の推力偏向スラスターが搭載され、
肩部にはJ-10 殲撃10型を意識した複数の噴出口を持つ、大型の推力偏向スラスターを搭載する事になった。
また、肩部の大型の推力偏向スラスターは下方や後方の噴出口から推力を取り出す事で、跳躍ユニットの補助としての役割を果たし、
機動力の向上や跳躍ユニットが一基1機破損しても跳躍が可能となる等、運動性の向上以外にも様々な部分に影響を与えている。
更に、頭部や肩部に空力機特性を改善するためにカナードが追加され、ナイフシースも大型化する事になった。

近接格闘能力の向上:
不知火・壱型乙で採用された、ナイフシースの外装カバーと脛部分のスーパーカーボン製ブレード以外にも、膝・足の甲・踵部の外装に
ブレード機能が施された。

可動兵装担架システムの増設:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、今まで小型可動兵装担架システムと併せて2+1個だった可動兵装担架システムを、4+1個に増設する事になった。
肩部に増設された2つの可動兵装担架システムは、87式突撃砲程度の重量を搭載するのが限界であったが、
突撃砲を多く装備できるだけでも大きなメリットが有った。

電子装備(アビオニクス)の強化:
頭部に搭載された、新型アクティブレーダーやデータ通信装備の増設により、目標の捕捉能力と部隊内の連携能力が向上した。

98式管制ユニットの標準装備:
EXAMシステムver.2を標準装備する98式管制ユニットを採用する事で、機体性能の向上を図ると同時に衛士の安全性を確保した。
また98式管制ユニットには、ボタン一つの操作で搭乗制限を30秒間限定解除し、機体性能を10%押し上げる通称『フラッシュモード』が搭載されている。
フラッシュモードは主に緊急時の対応に使う事を想定されており、再使用に3分間のインターバルが必要という制限が付く。

汎用性と稼働率の向上:
機体各部をモジュール化を進めたことで、補給・整備が迅速に行えるようになったため、大幅な汎用性と稼働率の上昇が見込まれている。

オプションパーツの装備:
機体各部のモジュール化により、各種オプションパーツを取り付けることが可能になった。

稼働時間の確保:
フレーム強化と拡張性の確保、バッテリー、燃料タンクの増設により、機体がやや大型化(太くなっている)している。
ただし、それ以上に主機及びスラスター出力が向上しているため、機動力・運動性は向上している。
また、新型の電磁伸縮炭素帯の採用によって、出力効率が上昇した事で消費電力は低減されており、バッテリーの増設は最小限に抑えられた。
これにより、連続稼働時間は通常の不知火と同等が確保される事になった。

生産・導入コスト:
不知火系統と呼ばれる不知火,不知火・壱型乙,吹雪と共通するパーツが40%、新パーツが残り60%となっている。
弐型の制式採用後も、撃震が完全に退役するまで不知火・吹雪とも生産が続けられる計画のため、
不知火系統の機体と共有できるパーツが確保された事は、大幅なコストダウンにつながっている。
更に、機体のモジュール化を進めた事で、モジュールごとに生産を行い最後に組み立てる事で、製造時間とコストが圧縮される事になった。
また、全高が不知火と同じである事も整備用の器具が不知火と共有でき、導入コストを低減する事に一役買っている。


3-3-b
TSF-TYPE92-2B/92式戦術歩行戦闘機『不知火弐型(乙)』

1999年に、帝国軍に制式採用された戦術機。
同年、斯衛軍も92式戦術歩行戦闘機『不知火壱型乙』との入れ替えを目指して、制式採用を決定する。
2000年の生産数は、100機以上となりその内90機が、斯衛軍に配備される予定となっている。

制式採用の不知火弐型タイプBになる際には、整備性を上げるために改良された部分や細かな装甲形状、センサーのレイアウト変更以外に、
以下のような改修が施される事になる。

・大型の可動兵装担架システムの配置を、従来の戦術機の仕様に両肩部サブハードポイント2基を追加した仕様から、
 ブラックウィドウⅡの仕様を部分的に採用し、両肩部メインハードポイント2基・背部サブハードポイント2基という仕様に変更。

・背部可動兵装担架システムを小型の物にした事で余裕の出来た、二基ある可動兵装担架システムの間にマガジンラックを増設。
 様々な機動を行った場合でも、比較的動揺が少ない胴体部にマガジンラックを設置した事で、弾倉の交換が素早く安定的に行えるようになった。
 またこれにより、腰部装甲ブロックへの小型推力偏向スラスター追加によって、除かれた予備弾倉分を補う事に成功した。

・サイドのスカートの増設。
 今までに無かった腰部の左右に装甲を増設する事で、そこに予備弾倉修める事になった。
 予備弾倉を搭載できる数が増加した事で、弐型になって増加した兵装に応えられる弾薬を保持できるようになった。

また、ローラーブレード及び、フロントドロップタンクというオプション装備も制式採用される運びとなり、
総合的に見ても以前の不知火よりも稼働時間が延びることになった不知火弐型は、ベテラン衛士達が求める要求をほぼ満たす機体となっていた。
今後も様々なオプションパーツが開発される予定とされている。

3-3-c
『不知火弐型(丙)/技術試験用不知火弐型』

制式採用機である不知火弐型タイプBを基に、様々な最新技術が試験的に投入されたテスト機。
そのカラーリングは赤と白のツートンカラーとなっており、一部の関係者からはタイプCと呼ばれている。

不知火弐型タイプCでは、俺の要求である戦闘継続時間を削らない、信頼性を可能な限り確保すると言う意見に沿った範囲で、
受動型低反発磁気軸受,脚部スラスターモジュール,肩部機関砲,超音波振動ナイフ等のテスト運用が行われている。


3-4
『試作型武御雷』(タケミカヅチ)

ハイヴ攻略用コンセプト第三世代戦術機『武御雷』は、富嶽重工と河崎重工を中心とする第壱グループが、
新型戦術機開発計画に従い、YF-23の解析結果と不知火弐型の開発データを基に開発した機体である。
武御雷は、現行のハイヴ内戦闘理論に従い、補給線を確保する為に必要な最低限度の戦闘いつつ、反応炉を目指すという戦術を採用した。
その結果武御雷は、脚部を大型化する事で重武装と戦闘継続時間の向上を両立させ、ハイヴ内戦闘に必須の超接近戦闘が可能な戦術機となった。
機体の完成度は非常に高く、2000年に先行量産型生産開始というスケジュールが提出されている。

武御雷は、弐型よりも積載重量と連続稼働時間が増加させた上に、軽量化に成功しているなど、開発者の意地が窺い知れる機体で、
武士もののふを戦術機として具現化したようなその洗練されたフォルムからは、
色気すら感じられ見たものの多くが息を呑む事になる。
下記に、試作型武御雷の仕様をまとめる。

全高:19.4m
86式戦術歩行戦闘機『陽炎』の18mよりは大型であるが、92式戦術歩行戦闘機『不知火』の19.7mとほぼ同じである。

装甲:
空力特性の更なる向上を目指して、装甲形状のほぼ全てが見直され、特徴的な烏帽子のような前頭部大型センサーマストや、
流線型を多用した装甲が取り入れられる事になった。
ただし、近接格闘能力を向上させる為にBETAと接触する可能性が高い部位には、カーボンブレードエッジ装甲が積極的に使われた結果、
一部には鋭角の装甲が採用されている。

機動力:
主機・跳躍ユニットはライトチューンが施された程度で、極端に出力を上げることは無かったが、
装甲形状の見直しと軽量化により、懸架重量が増したにも拘らず、最高速度・巡航速度共に上昇している。

運動性:
装甲形状の見直しによる空力特性の改善と、腰部装甲ブロックの小型推力偏向スラスター及び、
複数の噴出口を持つ肩部大型推力偏向スラスターの配置を見直す事で、大幅な改善を確認。
その結果、運動性向上の為に大型化されていたナイフシースを排除する事で、機動力向上へ力を振り分けることになった。
また、肩部の大型推力偏向スラスターが、跳躍ユニットの補助としての役割を果たし、跳躍ユニット一基での跳躍を可能とする点に変更は無い。

懸架重量:
両肩部2基と背部2基の合計4基のメインハードポイント,腰部に小型可動兵装担架システムを有し、国産機では最大の懸架重量を誇る機体となった。

脚部:
脚力は弐型の30%増しとなっているが、脚部のサイズは一見不知火弐型と変わらないように見える。
これは、内部構造に沿うように形作られた装甲による成果である。
また、接地面圧を上げる為に靴型の足から2本の爪の様な形状となった。

稼働時間:
脚部の強化と機体の軽量化により主脚走行速度が向上した事で、戦闘中の主脚走行時間の割合を増やすことに成功、
結果的に、弐型と比べて連続稼働時間を20%増やす事にとなった。
また、弐型に使われたドロップタンクの装備が可能であるため、連続稼働時間の更なる向上が可能である。

近接格闘能力:
ナイフシース部のカーボンブレードは排除される事になったが、前腕外側部に内蔵する飛び出し式カーボンブレードを大型化し、
高周波発生装置を搭載した事に加え、機体各部にブレードエッジ装甲を施した事で、弐型と比べても大幅に近接格闘能力が向上している。
腕部ナイフシースの廃止に併せて、ナイフシースは吹雪で実績の有る脇腹部へ変更されている。

管制ユニット:
98式管制ユニット(EXAMシステムver.2)の性能を最大限に引き出すため、戦術機の通常戦闘によるデータと搭乗制限を限定解除するフラッシュモードのデータを検証し、
機体と衛士が許す限り最大の反応速度と加速度と成るように設定がされた。
事実上、高レベルの衛士適正を持つものしか、戦闘機動が行えない機体となった。
帝国軍衛士の上位10%という試算が確かなら、帝国(明星作戦前の戦術機:約5000機)には武御雷に乗れる衛士が500人(約5個連隊分)いる事になる。

電子装備(アビオニクス)の強化:
烏帽子のような前頭部大型センサーマストの採用により、不知火弐型よりも索敵・通信能力は向上している。

コスト:
メインフレーム,主機,跳躍ユニット,電子装備(アビオニクス)は、不知火弐型のものを流用しているが、
装甲形状,部品配置,部品精度が異なる事から、パーツ共有率は40%に止まった。
したがって、その調達コストは不知火の2倍(不知火弐型の1.7倍)となり、運用にはきめ細かな整備が必要であることから、
運用コストは不知火の3倍になると試算されている。
ただし、フェイズ3のハイヴ突入部隊を全て武御雷とした場合、1個連隊(108機)での攻略が可能という試算がある事から、
通常の戦術機甲部隊4個連隊(432機)を投入するよりも、コストパフォーマンスの点で優れている。



4-1
TSF-TYPE93-B/93式戦術歩行戦闘機『吹雪』(第3世代機)
 指揮官ヘッドの型式:TSF-TYPE93-B(C)『吹雪(指揮官ヘッド)』 commanding officerの頭文字から。

1992年に、帝国軍に制式採用される。(形式が不知火とかぶるため、93式となっているが採用は不知火と同時期)
先行量産型と制式量産型に大きな変更が無かった珍しい戦術機としても知られている。
不知火の試作機を基に、御剣重工が開発した『低コスト第三世代機』で、開発計画時から不知火と『Hi-Low-Mix』で運用する事が前提とされていた。
その性能は、不知火に劣りギリギリ帝国軍の仕様要求を満たすものであったが、紛れも無く第三世代機としての性能を有しており、
1991年に行われた不知火とのトライアルでは、当初こそ不知火に性能が劣る事が問題にされたが、
コストを同じにした中隊規模のトライアルにおいて、不知火を中心とする部隊を圧倒する成績をたたき出す事に成功した。
(中隊規模のトライアル:吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火8機,
           吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火6機+撃震6機の2パターンが比較された。)

吹雪が不知火に対して評価された点は、極限まで無駄を省くことでパーツ数を減らし、
一部の機構に第一世代機や第二世代機に使われている信頼性の高いものを採用した事による高い稼働率と整備性,
パーツ簡略化によりコスト削減と生産期間の短縮に成功した高い生産性,
主機・跳躍ユニットの出力低下を軽量化で補う事により機動力と運動性を確保した事で得られた低い必要衛士適性,
の三点である。
その結果、撃震に変わる主力生産機の座を手に入れ、1995年にはついにその生産台数において撃震を上回る事になった。
1999・2000年、烈震に主力生産機の座を奪われる事になるが、2001年には返り咲く予定となっている。
ただし、不知火弐型の制式採用によって、最終的には可能な限り不知火弐型へシフトする事も帝国軍内部で決められていた為、
この事が足かせとなり吹雪に関する大幅なアップデートが妨げられる事態となる。

不知火と同様にEXAMシステムが導入された吹雪は、EXAMの特性によりフレーム及び関節の消耗が激しくなる事が考えられていた。
しかし、予想に反して装甲の簡略化により軽量化されていた吹雪は、不知火よりフレーム・関節強度に余裕があったため、
EXAMの悪影響は最小限に抑えられている。
ただし、不知火同様に現場からは改修を行なう要望が出されている。

通常の不知火に対し吹雪は、以下のような部分が異なっている。

装甲形状の簡略化:
上半身の装甲は簡素な形状に変更され、肩部装甲は限界まで切り詰められている。

主機・跳躍ユニットの変更:
主機・跳躍ユニットに使用される部品の材質を見直すことで、コストダウンを図った。
これにより主機・跳躍ユニットの出力が8%ほど低下している。

電子戦装備の制限:
指揮官用の頭部ユニットを持った機体と情報をリンクさせることで、通常の吹雪に搭載されるセンサー類,対電子戦装備を必要最小限に抑えた。
指揮官用の頭部ユニットとの情報リンクは、不知火との情報リンクで代用可能。

ナイフシースの変更:
不知火で前腕外側部に装備されている接近戦闘短刀格納モジュール、通称ナイフシースの場所を脇腹部に変更。
脇腹部より飛び出したナイフを、鞘から抜くようにして取り出す簡易な機構とした。
ナイフシースが有った部分には、小型のカナードが装備され、複雑な取り出し機構を簡略化したことでコストが削減された。
総合的に前腕部の重量は軽減され、これにより前腕の稼動速度が向上した。

内蔵式カーボンブレードの搭載:
前腕外側部に飛び出し式のカーボンブレードを装備。
65式接近戦闘短刀を抜く暇も無いときに使用される、補助的な役割を持つ。
収納時にはそれ自体も装甲として機能するように考えられており、重量増加を最小限に抑えている。
後に、不知火にも同様の機構が採用された。

小型可動兵装担架システムの搭載:
背面に2基搭載されている可動兵装担架システムを小型化したものを腰部に搭載。
これにより、予備弾倉や小型ドロップタンク(使い捨て外付け小型燃料タンク),新開発の手榴弾・スタングレネード 等小型で軽量の物を
搭載することが可能になった。
後に、不知火にも同様の機構が採用され、日本帝国に採用された戦術機の標準装備となる。


4-1-a
TSF-TYPE93-B(R)/93式戦術歩行戦闘機『吹雪・強行偵察/支援偵察装備』

不知火・強行偵察/支援偵察装備を吹雪に置き換えたものである。
詳しくは、不知火・強行偵察/支援偵察装備偵察を参照。


4-1-b
TSF-TYPE93-N『吹雪・海軍仕様』

不知火と同じ跳躍ユニットを搭載する事で跳躍距離を伸ばし電子戦装備を充実させるために、
指揮官用の頭部ユニットを標準装備とした海軍仕様の吹雪である。
海軍は、戦術機揚陸艦から発進し橋頭堡を確保するための戦術機として撃震を採用していたが、
戦術機揚陸艦がなるべく陸地に近づく必要が無くなるように跳躍距離を伸ばす事を求めていた。
吹雪が採用された理由は、軽量化によって搭載重量に余裕があり、海軍が求める装備を搭載し跳躍距離を確保するには、
不知火よりも吹雪が良いと判断されたためだった。
しかし、1998年時点で海軍は吹雪の更なる軽量化と跳躍ユニットの強化を求めた改修案を提案しているが、未だ計画は進行していない。
その一番の理由は、改修に見合ったコストの増加を求める企業側と、大陸で戦っていた陸軍に比べて予算が減らされていた海軍との間で、
意見が一致しないためである。


4-1-c
TSF-TYPE93-A/93式戦術歩行高等練習機『吹雪・高等練習仕様』

主機と跳躍ユニットにリミッターをかけ、出力を低下させた吹雪が第三世代高等練習機。
型式番号は、不知火と同じくBタイプを量産型としたために、練習機がAタイプとなった。
後に、EXAMシステム練習機としても運用される事になる。


4-1-d
TSF-TYPE93-C『吹雪改(仮)』

93式戦術歩行戦闘機『吹雪』を強化するために、新型機である不知火・弐型のパーツが一部導入された機体。
現在配備されている吹雪を、比較的容易に強化出来ると言う企業側の提案で実験が行われている。
高性能な機体を要求する優れた衛士は、不知火への機種転換が行なわれている為、不要だと言う声も有ったが、
吹雪を主力戦術機とする海軍と御剣重工のある思惑により、開発が決定したと言う噂もある。

不知火弐型の制式採用に合わせて、不知火改が制式な改修機として登録されたが、
海軍が要求する全ての仕様を飲んだ場合に、コストが掛かり過ぎるとして陸軍が採用を断念し、
吹雪改が制式な登録を受けることは無かった。


4-1-e
『吹雪・国際標準仕様(仮)』

1999年、日本帝国のプロミネンス計画第二弾(XFS計画)として、開発が計画されている機体。
開発は、御剣重工がメインとなり、各社がサポートに回る体制で行われている。

不知火弐型を次期主力量産機とする動きに対して、吹雪の更なる量産体勢を確立し、早期に撃震・烈震を第3世代機に置き換える事を望む陸軍内のグループと、
改めて低コストで調達可能な吹雪の強化型を望む、諸所の事情により陸軍と比べ戦術機用の予算が不足している海軍が結び付き、
烈震の開発経緯を参考にして、輸出の為の仕様変更を名目に予算獲得へ動いた事でこの計画は動き出す事になった。
吹雪世界標準仕様(仮)販売の初期ターゲットは、ローコスト第3世代機の導入を検討していると噂のある欧州連合とされ、
アジアや中東・アフリカ諸国に対しては、烈震というステップを踏む事で順次吹雪へとシフトさせて行く事としている。

紆余曲折の末、帝国陸軍(本土防衛軍)及び輸出用の標準機,高性能化を求める帝国海軍にはオプションパーツ搭載と小規模改修だけで、
標準機を海軍の仕様に合わた機体を供給するという計画に書き直された後、計画は正式決定される事となった。
また、ライバルと成り得る戦術機の開発を主導するアメリカに対して、明確に敵対する事を避ける為に、
ボーニング社及びノースロック・グラナン社との技術提携を模索中である。
帝国政府は、計画の実行に併せて米国議会でのロビー活動、帝国と関係が深い大東亜連合への先行量産機一個大隊の無償供与、
欧州連合へは過去の技術支援,制御OSの教導及び先行量産機の一部を無償供与する事を打診する等、様々な方面への呼びかけを行う事になった。

1999年時点で、吹雪世界標準仕様のライバルと考えられていた機体は、以下の様な低コスト第三世代機や2.5世代機と呼ばれる戦術機群である。

①米,ボーニング社(マクダエル・ドグラム社を吸収合併)製 F-18E/F『スーパーホーネット』
②米,ボーニング社製                        F-15E『ストライクイーグル』
③米,ボーニング社製                        F-15・ACTV『アクティヴ・イーグル』
④米,ロックウィード・マーディン社製               FX-35『ライトニングⅡ 』
⑤ソ連,スフォーニ設計局製                    Su-37『チェルミナートル』
⑥ソ連,ミコヤム・グルビッチ設計局製              MiG-29OVT『ファルクラム』(後のMiG-35)
⑦スウェーデン王国,サーブ社製                 JAS-39『グリペン』

これらの中で注目されているのは、欧州連合,アフリカ連合が参加しロックウィード・マーディン社(米国)を中心に、
国際共同開発が進められている最新鋭第3世代戦術機 FX-35『ライトニングⅡ 』と、
米 ノースロック(現ノースロック・グラナン)社製のF-5フリーダムファイター/タイガーⅡを発展改良し開発された多任務第3世代戦術機 JAS-39『グリペン』である。
これらの戦術機に対して導入時期が古い吹雪は、ステルス性を有し近接格闘戦を考慮に入れているとされているライトニングⅡにカタログスペックで負け、
総合評価で近い性能とされるグリペンにコストで劣っているとされていたが、EXAMシステム搭載の優位性を活かしたドッグファイトでの性能評価と、
その信頼性において優位に立っているとされている。
ただし、ライトニングⅡの配備がこれ以上先延ばしになった場合、低コストと汎用性の高さを武器にしたF-18E/Fや、
数多く居るイーグルユーザーへのF-15E供給開始の方が、手ごわいライバルとなる可能性もある。


4-1-f
『吹雪・国際標準仕様改(仮)』

吹雪・国際標準仕様をオプションパーツで強化した、海軍仕様の機体となる予定。



5-1
YF-23『ブラックウィドウⅡ』(Black Widow II)

米国で行われていた次期主力戦術機を開発する計画、通称ATSF(先進戦術歩行戦闘機)計画で最終選考に残った2機種のうち、
ノースロック社(現ノースロック・グラナン社)がマクダエル・ドグラム社(ボーニング社と御剣重工に分割買収される)の協力を得て開発した試作戦術機。
ブラックウィドウⅡは、競合相手のロックウィード・マーディン社が開発したYF-22や、
それ以前の米国製戦術機が遠・中距離砲戦能力を重視していたのと対照的に、
長刀・銃剣の標準装備などの対BETA近接戦闘能力を設計段階から考慮されていたのが特徴の機体である。

YF-22との間で熾烈な実機模擬戦闘試験が繰り広げられた結果、対BETA近接格闘戦能力に於いてはYF-22を遙かに上回り、
総合性能でもYF-23が優位にたっていたと噂されていたが、調達コストと性能維持に不可欠な整備性、
何よりもその開発コンセプトが米軍の戦闘教義(ドクトリン)と合致しないと判断された為、
ATSF計画は1990年にYF-22 現在のF-22A『ラプター』を次期主力第3世代戦術機とする事を決定、不採用となった。

だが、ブラックウィドウⅡが調達コストと整備性といった部分に問題を抱えているものの、その機体性能の高さと開発コンセプトは、
帝国軍の戦闘教義(ドクトリン)と完全に合致していると判断した御剣重工が行動に出る。
開発終了から七年後の1997年、機体の開発に協力していたマクダエル・ドグラム社の買収を切掛けとして、
博物館に収蔵されそうになっていたブラックウィドウⅡの取得に乗り出した。
マクダエル・ドグラム社の買収に関しては、ボーニング社と御剣重工が分割買収する事で決着。
そして、第3世代戦術機開発に乗り遅れたノースロック・グラナン社が欲していた、第3世代戦術機の運用データを提供する事を条件に、
YF-23 ブラックウィドウⅡは帝国内持ち込まれる事となった。

御剣重工の工場に搬入された2機のブラックウィドウⅡ(試作1号機 通称:スパイダー,試作2号機 通称:グレイゴースト)は、
ステルス機能を除く為に電波吸収塗装が完全に削り取られ、装甲の一部も詳しい形状が分からないように処理された結果、
装甲の地金がむき出しとなっていた。
2機は、一度完全に分解して実物と提供された図面に差が無いか調べられ、8年間の歳月により時代遅れになった部分や、
伝送系を最新の日本製のものに交換され、調整が行われた後データ取りの為のテストを受ける事になる。

ブラックウィドウⅡは御剣重工での改修により、納品前に装甲が削られていた事と帝国軍の仕様でステルス性能が求められていなかった事が影響し、
対BETA近接格闘戦能力とステルス性を同時に高める目的で多用されていた直線的な装甲の一部が、
近接格闘能力に影響が出ない範囲で空力特性の高い曲線を使った装甲に変更される事になる。
また、ATSF計画の仕様ではステルス機能と並んで、相手の火器管制網を麻痺させる事を目的とした対電子戦装備が組み込まれる事になっていたが、
国家機密であるその機能は、御剣重工がブラックウィドウⅡを買取る条件の中で外されており、
その空きスペースにはEXAMシステムver.2.5をテストする目的で、新型の演算ユニットが搭載される事になった。
ただし、完全な帝国軍仕様とは成っていないため、使い方によっては切り札に成り得るS11を搭載していない。

その中身を最新の物に置き換えられたブラックウィドウⅡは、結果としてATSF計画の最終段階と比べて若干装甲形状が変更されたものの、
第3世代機特有の空力特性を追求した装甲形状と、廃熱処理なども考慮するステルス対策の部品配置が生み出した特徴的な外観を多く残した機体となり、
各国で開発中の第3世代戦術機の中でもトップクラスの性能を有する事となった。
その後のテストで、優秀な成績を叩き出したYF-23 ブラックウィドウⅡは、試作2号機,通称グレイゴーストが実戦テストの為、
とある試験部隊へ配備される事になったが、僅か一日で大破する事になる。
しかし、グレイゴーストが残した実戦データは、今後の戦術機開発に大きな影響を与える事となった。
その後、修復されたグレイゴーストを含む2機のブラックウィドウⅡは、新技術のデータ取り用の機体として利用される事になる。



6-1  『試作型八咫烏』

ハイヴ攻略用コンセプト第三世代戦術機『八咫烏』は、御剣重工と光菱重工を中心とする第弐グループが、
新型戦術機開発計画に従い、今までの戦術機開発の経験を全てハイヴ攻略という命題に集め開発した機体である。
八咫烏は、現行のハイヴ内戦闘理論とは異なり、補給線を確保するという手間を可能な限り省き、最短時間で反応炉を目指すという戦術を採用した。
これは、戦術機を反応炉破壊兵器の輸送手段としてとらえ、ある一定の懸架重量以上にする事とハイヴ内平均移動速度を最大化する事、
この二点のみが求められた機体とも言い換えることが出来る。
その結果八咫烏は、大幅に小型軽量化が行われ、ハイヴ内での道程の殆どを長距離噴射跳躍によって移動するとしており、
汎用性を捨て去った分、限定された空間での戦闘では世界最高峰の機体性能を有する事になった。

御剣重工は1996年末頃から水面下で、従来からの戦術を採用したハイヴ攻略用戦術機の本体設計を始めていた。
この当時のメイン計画は、YF-23 ブラックウィドウⅡの解析結果を反映する計画だったが、
運用思想の変更により、サブ計画であった元遠田技研出身の技術者が中心となって設計していた小型超高機動戦術機が、
メイン計画に昇格する事になった。
この計画は、世代を跨ぐ毎に大型化の一途を辿っていた戦術機開発のトレンドに逆行する異端とも思えるモノであり、
買収までしてYF-23の入手に動いた御剣重工が、最終的にブラックウィドウⅡのコンセプトを捨て、他のグループが参考とした事は、皮肉と言うより他無かった。
この開発計画の変更による遅延を取り戻しきれなかった第弐グループの開発計画は、先行量産型生産のスケジュールが武御雷よりも1年遅い、2001年となっている。

その空力を最優先させた飾り気の無いその意匠は、武御雷よりもさっぱりとしている為、
不知火に対する吹雪の様に、如何しても地味な印象を受けてしまい、あまり一般受けしそうに無かったが、
装甲の細部に渡って複雑な曲線を描く部分がある事を確認した一部の将校には、
忍者ニンジャの様だと評され、受け入れられた様子である。

下記に、試作型八咫烏の機体データをまとめる。

全高:15.8m
92式戦術歩行戦闘機『不知火』より4m近く全高の低い八咫烏は、制式採用されれば世界最小,最軽量の戦術機となる。

装甲:
空力特性が最優先された結果、センサーマストの極小化,肩部装甲の小型化,ナイフシースの廃止が行われ、
各関節部には凹凸が無いように稼動装甲が施された事で、空力制御用のフィン以外の突起は最小限に抑えられた装甲形状となった。
また、カーボンブレードエッジ装甲は、不知火弐型で採用された部位以外への追加は見送られている。
ただし、ハイヴ地下茎構造内での高速移動を考えた場合、壁面やBETAと接触する可能性が高い事から、
機体の防御性能を犠牲にするという選択肢は採用しなかった。

機動力:
小型の機体にも係わらず、主機は不知火弐型に使用された物と同じ性能が要求され、
素材変更による効果もあり、性能をほとんど落とす事無く主機は機体に収められた。
また跳躍ユニットは、小型化と燃費が優先され結果、メインフレームとの比率的には大型化し、最大出力が15%低下したものの、
機体軽量化の効果が大きいため、その重量推力比は現行の戦術機を圧倒している。
肩部小型推力偏向スラスターと脹脛(ふくらはぎ)部に装備された推力偏向スラスターを駆使する事で、
八咫烏は長距離噴射跳躍では無く、短距離飛行が可能となっている。

運動性:
複雑なハイヴ地下茎構造内において、巡航速度を最大化する為には、機動力の向上と合わせて運動性の向上が必要不可欠だった。
機体の軽量化と腰部小型推力偏向スラスター,肩部複列小型推力偏向スラスター及び、脹脛部推力偏向スラスターを搭載した上に、
手足の角度を調整する事で空力特性を大きく変えるという特殊な姿勢制御を行うことで、驚異的な運動性が達成された。
これにより、ハイヴ内での高速巡航移動が可能とされている。
ただし、この特殊な姿勢制御による機動は、八咫烏が巡航時両手に武装を持たないことを前提としている。

懸架重量:
背部に3基のメインハードポイントを有しているが、帝国軍機の標準になりつつあった腰部の小型可動兵装担架システムは廃止された。
また、運用思想とは異なるが、手腕にも装備を行い出撃する事は可能である事から、不知火と同等以上の懸架重量は確保されている。

脚部:
機体が小型化されたにも係わらず、不知火弐型と同等の強度とパワーが確保されている。
足先は、鳥のように前に3本、後ろに1本の指を有する形状になっている。

稼働時間:
八咫烏は、フェイズ3ハイヴの反応炉まで無補給で到達し破壊後、帰還する事がコンセプトに組み込まれている為に、
跳躍ユニットを多用する事を前提としていながら、不知火弐型と同等の連続稼働時間が確保されている。
また、フェイズ3以降のハイヴ対策として、臀部に尻尾のように装備する事ができる専用のドロップタンクが計画されている。

近接格闘能力:
脛部・膝・足の甲・足先の外装にスーパーカーボン製ブレード、前腕外側部に内蔵する飛び出し式カーボン高周波ブレードを搭載した事で、
弐型と遜色無い近接格闘能力を有している。
腕部ナイフシースの廃止に併せて、ナイフシースは吹雪同様に脇腹部へ変更されている。

管制ユニット:
98式管制ユニット(EXAMシステムver.2)の性能を最大限に引き出すため、戦術機の通常戦闘によるデータと搭乗制限を限定解除するフラッシュモードのデータを検証し、
機体と人類の限界に挑んだ設定がされている。
事実上、最高クラスの衛士適正を持つものしか戦闘機動が行えない機体となった。
帝国軍衛士の上位2%という試算が確かなら、帝国(明星作戦前の戦術機:約5000機)には八咫烏に乗れる衛士が100人(約8個中隊分)いる事になる。

電子装備(アビオニクス)の強化:
不知火弐型より、性能を落とすことはされていない。
機体の反応速度と情報処理能力の向上を目指した結果、サブ情報処理装置が搭載されることになり、腰部が膨らむ事になった。
このサブ情報処理装置の採用により、小型可動兵装担架システムは廃止されている。

専用武装:
反応炉破壊用S11バズーカ砲(装弾数5発),防風カバー付XAMWS-24B 試作新概念突撃砲改良型,XCIWS-2C 試作近接戦闘長刀改良型の開発。

コスト:
ほぼ全てのパーツ及び武装が新規開発部品であるため、量産したとしても生産コストは不知火の4倍(武御雷の2倍)になる。
また、運用に専属に教育された整備部隊が必要である事から、運用コストは不知火の6倍になると試算されている。
ただし、フェイズ3のハイヴ突入部隊を全て八咫烏とした場合、2個中隊(24機)での攻略が可能という試算がある事から、
通常の戦術機甲部隊4個連隊(432機)を投入するよりも、コストパフォーマンスの点で優れている。



[16427] 兵装・その他の装備設定集(簡易)
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/08/15 13:47
兵装・その他の装備設定集(簡易)

戦術機設定集と同様に、設定が分からなくなった時の確認用としてご使用下さい。
また、話の進行よりも改定が遅れる場合があると思いますが、ご容赦下さい。
なお、記載されているのはオリジナル設定の部分だけですので、原作の設定はWikiなどでご確認下さい。



設定カバー話数:第01話~第37話

目次

1.戦術機の兵装
1-1  98式中隊支援砲/98式支援砲
1-2  GAU-8 Avenger
1-2-a ガトリングシールド
1-3  OTT62口径76㎜単装砲
1-4  30連装ロケット弾発射機
1-5  パンツァーファウスト/ロケットランチャー
1-6-a 試作大剣(振動剣)
1-6-b 超音波振動ナイフ
1-7  電磁投射式速射機関砲
1-8  肩部機関砲
1-9-a XAMWS-24 試作新概念突撃砲 & XCIWS-2B 試作近接戦闘長刀
1-9-b XAMWS-24B 試作新概念突撃砲改良型(防風カバー付) & XCIWS-2C 試作近接戦闘長刀改良型
1-10 反応炉破壊用S11バズーカ砲(仮)

2.戦術機の装備
2-1  EXAMシステム
2-1-a EXAMシステムver.1
2-1-b EXAMシステムver.2
2-1-b´EXAMシステムver.2.5
2-1-c EXAMシステムver.3
2-2  小型可動兵装担架システム
2-3  追加装甲
2-4  98式管制ユニット
2-5  ローラーブレード
2-6  フロントドロップタンク
2-8  反発型磁気軸受
2-9  脚部スラスターモジュール

3.その他
3-1  WD
3-2  一輪バイク
3-3  チェインソー車両
3-4  90式戦車改
3-5  試験型自走砲



1.戦術機の兵装

1-1
98式中隊支援砲/98式支援砲

1998年帝国軍に制式採用された戦術機用の兵装。
1997年に欧州で配備され始めたラインメイタル Mk-57中隊支援砲を御剣重工がライセンス生産する事で供給が開始された。

Mk-57中隊支援砲は、BETA群に突入する戦術機部隊を支援するために開発された戦術機用の支援重火器である。
散弾・多目的運搬砲弾も使用できるMk-57中隊支援砲は、57mm砲弾の場合で最大120発/分の制圧射撃を行う事が可能であり、
要撃級,戦車級に対して極めて有効な兵装であると考えられていた。
それを受けて、御剣重工では将来的にライセンス生産を行うことを目標に、西ドイツのラインメタル社から
57mm,76mm,90mm,105mm砲弾を発射できる4種類のMk-57中隊支援砲を購入し、各種の運用データを取る事になる。

数ヶ月間行われる事になったMk-57中隊支援砲の運用試験で、最終選考まで残されたのは57mmと90mm砲弾を使用するタイプだった。
57mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、中衛が装備することを考えた時取り回しに難があるとされたが、
前衛が空けた穴を拡大するために必要な面制圧能力を十分に発揮した。
そして、90mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、57mm砲弾仕様より重たくなったが単発でもBETAの動きを止めることのできる威力(ストッピングパワー)が、
後衛から援護を行うときに有効な兵装であるとされた。
これらのMk-57中隊支援砲は、他の試験中隊での運用データとも比較検討され、銃身がやや切り詰められた57mm砲弾仕様が98式中隊支援砲、
90mm砲弾仕様が98式支援砲として帝国軍に制式採用される事になった。


1-2
GAU-8 Avenger

A-10 サンダーボルトⅡに装備されているジネラルエレクトロニクス社製36㎜ガトリングモーターキャノン。
サンダーボルトⅡが大砲鳥(カノーネンフォーゲル)、戦単級駆逐機(タンクキラー)などの俗称を与えられる原動力となった武装である。
1998年、98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』の登場によって、帝国軍内で運用される事になった。
その威力は、1998年に行なわれた光州作戦に参加していた鞍馬1個大隊が、圧倒的な戦果をもたらした事で帝国軍内でも評価されるようになる。


1-2-a
ガトリングシールド

ガトリングシールドは、A-10 サンダーボルトⅡやF-4J-E/98式戦術歩行攻撃機 鞍馬に搭載され、
大きな戦果を挙げている36㎜ガトリングモーターキャノン"GAU-8 Avenger"を通常の戦術機が運用するために、
92式多目的追加装甲(盾)と併せる事で開発が進められている武装である。
これは、36㎜ガトリングモーターキャノンを守る盾としての役割を多目的追加装甲に求めたと同時に、
その質量により反動を抑えようとした工夫の結果である。
しかし、その重量ゆえに射撃を行なう為には、ガトリングシールドの搭載に必要な1本のメインアームと一本の可動兵装担架システムに加え、
更に一本のメインアームが必要があった。
武装が減る事に対して、批判的な意見もあったがA-10 サンダーボルトⅡやF-4JF(98式強襲歩行攻撃機)鞍馬にしか搭載されていなかった、
36㎜ガトリングモーターキャノンは圧倒的な火力を見せつけ、この武装が通常の戦術機に搭載しても有効である事が証明される事になる。


1-3
OTT62口径76㎜単装砲

本来は、日本帝国海軍最大の戦艦『紀伊級』に搭載されていた艦砲であったが、鞍馬の登場によって戦術機でも運用される事になった。
主な運用方法は、戦車及び自走砲の護衛に付く鞍馬が行なう支援砲撃、戦術機に同行した場合のAL(アンチレーザー)弾の発射と光線級の狙撃である。
その砲撃性能を時間当たりに換算すると、90式戦車(120mm滑空砲)の3.5台分、155mm砲の自走砲の1.5台分の投射量を誇る。
また、鞍馬が携行できる弾薬の量や展開能力を考えた総合能力は、一個小隊で戦車部隊二個中隊に匹敵する戦力となると考えられている。


1-4
30連装ロケット弾発射機

多連装ロケットシステムMLRSの配備により、一度退役した装備である。
92式多目的自律誘導弾システムを有していない30連装ロケット弾発射機だが、光線級の影響を受け難い水平発射方式の採用と、
OTT62口径76㎜単装砲との組み合わせた砲戦仕様の鞍馬が、AL(アンチレーザー)弾を発射可能である事から、
再び制式装備とされる事になった。
92式多目的自律誘導弾システム及びMLRSの登場以前は、戦術機の装備としても用いられた事があった。


1-5
戦術機用パンツァーファウスト/ロケットランチャー

この装備は、戦術機により要塞級を撃破する装備の開発要求が陸軍から出されていたため、御剣重工が提案する事になった装備である。
要塞級はその大きさと耐久力から、通常戦車や自走砲等の援護砲撃により撃破することが多く、
戦術機で要塞級を撃破出来るのは一部のエースに限られていた。
帝国陸軍は、それを戦術機が携行する火器で撃破する事を可能にしたかったのだ。

初期の陸軍案では、ロケットランチャー(噴進弾発射器)による物だったが、搭載重量と携行弾数の事を考え、こちらが提案される事になった。
パンツァーファウストとは、パイプ状の発射筒に簡素な照準器と引き金を持ち、その先端に安定翼を折り畳んだ棒を備えた、
成形炸薬弾頭が取り付けられており、引き金を引く事で発射筒内にある火薬が爆発し弾頭を目標物まで飛ばす事ができる、
携帯式対戦車用無反動砲用とも言われる歩兵の装備である。
パンツァーファウストがロケットランチャーに勝る点は、携行が容易なことと製造コストが低くなる点である。
その代わり、ロケットランチャーと比べて射程距離が短くなっており、発射筒は基本的に使い捨てになってしまうという問題も抱えている。
また、陸軍案のロケットランチャー型は、弾頭をS11等の強力な物にすれば、ハイヴ内で使える兵器となる可能性が残されていた。

使用頻度が高くないわりに重要となる要塞級へ対応できる武装として、小型・軽量でありながら高い威力を持つこの兵器は、
衛士たちに受け入れられつつあった。
初期段階では、筒をメインアームで保持し発射するタイプだったが、命中率が問題となったために、
現在は突撃砲の120mm滑空砲の砲身にセットする事で運用する形となっている。


1-6
試作大剣
試作大剣は、英国軍が制式装備としている大剣型の近接戦闘長刀 BWS-3 GreatSword を参考に御剣重工が独自に開発した戦術機用の大剣である。
グレートソードは、アメリカのCIWS-2Aを元にして開発され、斬撃よりも機動打突戦術を重視した設計がされた兵装で、
その性能は『要塞級殺し(フォートスレイヤー)』などの異名で呼ばれるほどの威力を有してはいたが、
未熟な衛士にとってはその重量が仇となり、上手く運用できない場合が多くある事が報告されていた。
そこで、御剣重工はグレートソードをそのまま導入するのではなく、威力を維持したまま軽量化する事で、
取り回しと斬撃を重視した帝国向きの大剣を開発する事を計画する。

軽量化を行った上で威力を落とさない、この矛盾を解決する方法として御剣重工が出した結論は、大幅な切れ味の向上であった。
そして、切れ味の向上の為に超音波カッターと呼ばれる刃物の原理を採用した事で、この大剣は開発チームの中で『振動剣』と呼ばれる事となる。
超音波カッターとは、刃を一秒間に数万回もの回数振動させる事で、
・切断抵抗の低減と、柔らかいモノを押し潰すことなく切断する。
・油分が刃に付着し難い事により、切れ味が長持ちする。
・大型化が困難であり、刃よりも堅いモノとぶつかった時に、大きく消耗する。
という特徴を獲得した刃物である。

開発開始当初は、大型化の目処が立たなかった振動剣だったが、振動発生装置の小型・高性能化に成功した事と、
振動を増幅するために形状の工夫がされた事で、漸く実戦証明を行なう段階まで漕ぎ着ける事になった。
振動剣の外観は、グレートソードと比べて重量を半減させる為に、意匠がシンプルにされた事で、遠目から見ればただの幅広の金属板の様に見えるが、
実際は普通の大剣に見える刀身の中央部には、先端から鍔元にかけて僅かな切れ込みが入っており、音叉のような形状となっていた。
この音叉のような形状が振動を増幅・安定させる肝であった。

京都防衛戦最終日に参加した試験部隊が、振動剣を実戦で運用し、数体の要撃級をまとめて切り飛ばすという、驚異的な威力を見せる。
ただし、音叉の形状を採用した振動剣は、鍔元で最も力が集中しやすく成るために通常の形状よりも壊れ易いという事実を露呈し、
刀身が根元から折れる事になった。

その後、使い手を選んだとしても、もう少し大型化させて耐久性を上げるか、一般の衛士が使いやすいように、
大型ナイフに高周波機能をつけるという提案が出される事になる。


1-6-b
超音波振動ナイフ
別名高周波ナイフと言われるこの装備は、振動剣(試作大剣)と平行して作られていたもので、
主兵装で無いことから開発が遅れていたが、耐久性が不足しているという振動剣の問題点が解決するまでの間、
超音波振動を利用した武器のデータ収集のために試験運用が行われている兵装である。
振動発生装置の搭載により、ナイフとしては大型化してしまったという問題点が指摘されているが、
現時点では耐久性と実用性を考えた場合、収納スペースで通常のナイフ2本というサイズに収めるのが技術的限界とされている。


1-7
電磁投射式速射機関砲
試作型は、その砲身と砲弾以外にも冷却用と電源用に2種類の電磁投射砲用大型バックコンテナを持ち歩く必要があるなど、
運用する為に鞍馬を2機必要とする馬鹿げたサイズと重量となっている。
放たれる120mm砲弾の貫通力と毎分800発にも達する連射性が相まって、想像以上の威力を発揮することになったが、
外部からの衝撃で冷却機能が機能不全を起こし、砲身の寿命も想定より短くなる事、
そのサイズとケーブルで2機の鞍馬を繋いでいる事で取り回しが困難になっているなど、
運用面での問題点も露呈する事になった。
今後は、実用に耐えうる仕様に変更するか、更なる改良が必要になると思われる。


1-8
肩部機関砲
小型可動兵装担架システムに搭載されて運用することが多い、対戦車級用装備である小型ショットガンの問題点であった、
主兵装から武装を交換する手間があると言う問題点を解決する為のオプションパーツ。
首と肩パーツ中間にある襟のような部分に取り付けられたその装備は、肩部ガンポッドとも呼ばれ、
その運用思想により装弾数は多くないが、戦車級に取り付かれ味方機を救出するのには十分な量が搭載されている。
また、ショットシェルの使用をメインとしているが、それ以外の砲弾も使用可能である。


1-9-a
XAMWS-24 試作新概念突撃砲 & XCIWS-2B 試作近接戦闘長刀
各種専用装備は、その性能及び耐久性に問題は無く、特にXAMWS-24 試作新概念突撃砲は弾数が増加したことを考えると、
優れた兵装である事が確認できた。
ただし、試作新概念突撃砲は現在の兵装とマガジン(弾倉)の形状が異なる為、補給をあわせた軍全体体制を整えるのには時間が掛かる事、
XCIWS-2B 試作近接戦闘長刀はCIWS-2A 74式接近戦闘長刀と比べて、飛びぬけて優れた点が無い事から、
特殊部隊へ供給するなどの少数配備が望ましいと考えられている。


1-9-b
XAMWS-24B 試作新概念突撃砲改良型(防風カバー付) & XCIWS-2C 試作近接戦闘長刀改良型
八咫烏用武装として、開発中。


1-10
反応炉破壊用S11バズーカ砲(仮)
八咫烏用武装として、開発中。



2.戦術機の装備

2-1
EXAMシステム

EXAMシステムは、1994年 御剣財閥内で行なわれていた対BETA戦プロジェクトで提唱され、御剣電気によって実用化された戦術機制御用OSである。

対BETA戦プロジェクトの戦術機用新OS開発部門は、一部ブラックボックス化していた戦術機の制御システムを解析し、
経験が浅い衛士でもベテランやエースの行う機動ができるようにする事を目標に、発足された部門であった。
この部門の努力によって、エースやベテラン衛士が行なう操縦方法の解析が完了し、
第一段階として従来のOSと同等の性能を持ったOSの開発に成功する事になった。

現行の戦術機で使われている姿勢制御方法は、大きく分けると操縦桿やフットペダルなどの操作による直接入力による制御と、
強化装備というインターフェイスを介した間接思考による制御の二種類に分類されている。
そして、大まかな動きを直接入力し、細かな動きを間接思考制御によりを指示する事で、衛士は人型を模した戦術機を自分の手足のように扱えるというのが、
戦術機制御の基本的な考え方だった。

しかし、実際にはその考え方通りになる事は無かった。
大まかな動作の入力に関しては現状のシステムでも支障は無かったが、細かな姿勢制御や急激な運動変化を行おうとすると問題が生じていたのだ。
これは、間接思考による制御方法では、どんなに思考の読み取りが高速化しようとも戦術機の実際の動きと思考との間のタイムラグがある為、
それを違和感として感じてしまう衛士の反応により引き起こされる現象だった。
もしここで、衛士が感じる違和感がなくなるまで戦術機を高速で動かしたとすると、その慣性力(G)に衛士が耐えられず即死する可能性が高い、
そのため現在の科学力ではタイムラグを無くすことは不可能とされている。
したがって、このタイムラグが原因となり、間接思考制御による完全な姿勢制御が妨げられ、完全な姿勢制御が行えないことから、
行動の合間に自動で転倒防止のために不自然な姿勢制御が行われる事になったのだ。
また別の問題として、自動姿勢制御が行なわれている間に行動(コマンド)を入力できないという、弊害も存在していた。

ベテラン達は、このタイムラグを長年の経験により把握し、行動の合間に入れられた自動の姿勢制御を間接思考制御に置き換える事で、
硬直を緩和する技術を身に付けていた。
これを発展させ、思考と戦術機のずれを完全に補正するまで、戦術機の操縦に習熟した衛士がいれば、
完全に硬直を打ち消す事が可能であるという研究結果も残されている。
この理論を一部実現した者が、エースと呼ばれる衛士たちである事は間違いなかった。

しかし、これらエースやベテラン衛士と言われる者たちが持つ技術を、新人の衛士が身に付けようとすると膨大な時間が必要であり、
人類にはそれらの職人を育成する余裕は残されていなかったのだ。
これらの問題を解決すべく、戦術機用新OS開発プロジェクトが提唱した、新しい戦術機制御方式をまとめると以下のようになる。

先行入力:
ベテランが行う、自動姿勢制御を一部キャンセルすることで、行動の合間に発生する硬直を緩和させる技術。
                       ↓
行動(コマンド)をあらかじめ先行して入力を行う事で、行動の間にある自動姿勢制御を行動の一部として取り込む。
そうする事で、結果的に行動の合間に有った硬直を無くすことが可能。

キャンセル:
エースが行う、一つの行動を細かく分割し、不意の事態でも直ぐに対処することができるようにしている技術。
                       ↓
行動を途中でやめ、新たな行動を強制的に行わせるシステムを導入することで、代用することが可能。

コンボ:
エースが行う、細かな姿勢制御によって戦術機の限界機動を引き出す技術。
                       ↓
あらかじめ、行動の全てを指定した通りに行わせるようにすれば、動きを真似ることだけは可能。

開発当初この概念を実現したシステムは、とても戦術機に載せられるサイズではなかったが、別チームで進めていた高性能次世代CPUの開発によって、
段階的ではあったが戦術機への搭載が行なわれるようになった。

このEXAMシステムに対して、国連軍から配備を要請された事があったが、実際に配備されたのは国連軍太平洋方面第11軍に所属する特殊部隊に、
CPU換装管制ユニット+EXAMシステムver.2を搭載した機体が配備されただけで、1998年時点ではそれ以外に供給はされていない。
更に、国連軍に配備された管制ユニットは、CPUと記憶媒体周辺をブラックボックス化しており、
制御データ等の情報が外部へ流出することを防ぐ処理も行われている。


EXAMシステム配備状況

1998年:

1996年から本格的に導入され始めたEXAMシステムver.2と1995年導入のver.1は、大きく分けると以下の四つのルートで配備が行われている。
ver.2
1.98式管制ユニット搭載型の不知火・吹雪の生産。
2.既に生産された不知火・吹雪を、高性能CPUに換装。
ver.1
1.不知火・吹雪用のCPUを搭載した第1・2世代機を生産。
2.CPU換装の際に不知火・吹雪から外された第三世代機用CPUを第1・2世代機に搭載。

これによって、現時点のデータで次のような広がりを見せていた。
新型管制ユニット + EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%及び、不知火の5%
CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%,不知火の80%,吹雪の60%,陽炎の30%及び、瑞鶴
第三世代機用CPU +  EXAMシステムver.1  不知火の15%,吹雪の40%,吹雪・高等訓練機,陽炎の70%,海神の30%,鞍馬及び、撃震の30%
ver.2とver.1の二つを併せると、日本帝国が保有する戦術機の半数がEXAMシステムを搭載している計算となる。


2-1-a
EXAMシステムver.1

概念を提唱した1994年時点では、不知火・吹雪に搭載されているCPUでは、行動の先行入力を3つまで入るようにするだけで精一杯であったが、
それでも行動の合間の硬直を消せることに、テストの段階から大きな反響を得ることになった。
後にEXAMシステムver.1と名付けられるこのOSは、試験部隊に従来の戦術機制御OSと入れ替えで配備されて行く事になった。
そして、EXAMシステムver.2が配備されてからは、その廉価版として広く帝国軍内で広がる事になる。

EXAMシステムver.1は、先行入力により各行動を一つの動きとして処理することで、姿勢制御を機体側で行う事を可能にした。
これにより、一般衛士でもベテランと遜色ない動きが約束される事になる、まるでベテラン衛士たちが蓄積した情報に導かれるように・・・。
そして、ベテランやエースはこれを切掛けにして、間接思考制御を別の部分に振り分けることで、更なる高みへ上ることになる。
1998年時点でEXAMシステムver.1は、テキストと併せてデモ演習の画像と操作履歴が公表されているため、
それを参考に各部隊で訓練が行なわれている。

1999年、明星作戦に参加する大東亜連合及び国連軍に対して、帝国製戦術機に付属される形で供給が開始される。


2-1-b
EXAMシステムver.2

1995年、開発が行われてきた不知火・斯衛軍仕様試験型(後の不知火・壱型乙)に初めて搭載されてこのOSは、戦術機に劇的な変化をもたらす事になった。
その変化は、後に『EXAMショック』とも呼ばれ、日本の戦術機に関る者全てが驚かされる事になったのだ。

以前から行われていた戦術機の開発は、機械的な部分や電子部品の改良が主となっており、戦術機を制御するOSの改良を行うという発想が乏しかった。
そこに登場したEXAMシステムver.2は、戦術機の動作後の硬直を取り除き、動作を中断し急激な機動変更を可能とした改良により、
実質的な機体性能をOSの改良で大幅に上昇させられる事を証明する事になる。
この段階で、既に戦術機の常識の一つが打ち破られた事になった。

また、EXAMシステムver.2は大きな戦果を上げると同時に、戦術機側にも大きな傷跡を残していた。
戦闘後のオーバーホール時に、フレームや関節部に大きな磨耗が発見されたのだ。
この磨耗は、EXAMシステム特有の急激な機動変化に機体側が追従できなかったために発生したものである事が分かると、
戦術機の開発者は更なる衝撃を受ける事になる。
EXAMシステムver.2登場以前は、機体に合わせてOSを調整する事が普通だったが、EXAMシステムver.2登場以後には遥か先に進んでしまったOSに会わせて、
戦術機を開発する事が求められるようになった。

ver.2を搭載するために不可欠な高性能CPUは、1993年に帝国大学・応用量子物理研究室が確立した基礎理論の一部を取り入れたものを、
1995年に入り御剣電気が量産に成功したものである。
このCPUの処理能力は、量産品としては桁違いの性能を有しており、これによって最大10個の先行入力による動作の演算と、
キャンセルによる急な動作変更でも硬直を最小限に抑える事が可能となった。
1996年、EXAMシステムver.2は次世代CPU第一弾の開発が完了した事を受け、次の段階に進む事になった。
(この次世代CPUは、帝国大学・応用量子物理研究室からもたらされた基礎理論を、当時の技術で可能な限り再現したものである。)
次世代CPUを搭載することで管制ユニットを小型化し、その空きスペースに衛士の生存性を高める装置を搭載する事が決定。

より高度な訓練を必要とするEXAMシステムver.2については、富士教導隊が中心となって各部隊への教導を行う必要があった。
1998年時点でver.2の普及は、教導する部隊の人数が限られる事からあまり進まないと考えられていたが、富士教導隊から教導を受けた部隊が、
更に他の部隊へ指導を行いだすと、ver.2の運用思想は帝国内で急速に広がり始める事になっていった。
また、本土防衛戦で改めて生存性に注目が集まった結果、計画を前倒しにして帝国軍が運用する戦術機全機へ、
EXAMシステムver.2搭載が決定する事となる。

1999年、明星作戦後オルタネイティヴ第四計画直属の特殊任務部隊に対して、TSF-TYPE92-C『不知火改』と同時にEXAMシステムver.2の供給が開始される。


2-1-b´
EXAMシステムver.2.5

グレイゴーストにて、対電子戦装備の替わりに搭載された新型演算ユニットを使って、動作確認が行われる。
EXAMシステムver.2.5を機能させるために搭載された新型演算ユニットは、新型管制ユニットと同様に御剣電子製の量子コンピュータを採用していたが、
学習機能を搭載するに当たり、ソフトにバイオコンピュータの理論を応用した制御手法を採用した点が従来とは異なっていた。
バイオコンピュータの理論を応用し、生物の脳を構成する神経細胞回線網モデルを制御手法を導入した事で、
生命が行う反応に近い処理を擬似的に行う学習機能を獲得した最新の量子コンピュータ、別名『学習型コンピュータ』となっていたのだ。
この制御手法による学習機能は、一回の戦闘中に数個のコンボ設定が完了するほどの適応能力を発揮した事を考えると、
数時間かけて最適化を行っていく従来のシステムと比べると、十分評価できるものである。

EXAMシステムver.3に搭載予定のコンボ機能に必要不可欠な、その場に応じた判断を行う処理を最適化するための学習機能も予定通りに機能した結果、
投入された作戦の中盤から限定的であったがコンボの発動に成功する事になる。
その結果、経験の浅い衛士への補助機能としての役割のほかに、ベテラン衛士においても操縦の負担軽減が出来る事を考えると、
コンボは今後必要になる機能である事を再確認するに至った。

ただし、単純な演算能力では他にも優れたコンピュータが戦場に存在したにも拘らず、グレイゴーストをBETAが特別扱いし集まった事を考えると、
コンピュータの学習機能にBETAが反応した可能性が高いものと思われる。
その点に関しては今後も調査が必要であるが、もしこの仮説が正しかった場合、後方でコンボ機能を設定した後、学習機能に制限をかける等、
何らかの対策が必要になると思われる。


2-1-c
EXAMシステムver.3
ver.3に搭載される予定のコンボ機能は、本来本人にできない機動や難しい入力が必要な機動を実現するためのものである。
しかし、搭乗する衛士の能力を超える事も出来る反面、保護する機構がなければ多用できる機能ではなかった。
したがって、1996年の次世代CPU第一弾では、ver.3が採用される事はなかった。
ただし、ver.3採用が廃棄されたわけではない。
このまま継続して開発を進め、次世代CPUの第二弾が完成した暁には、改良した管制ユニットにver.3が搭載される予定である。
また、早期のver.3導入の為に、コンボを2・3個だけ設定することができるver.2.5が1985年に実戦投入された。


2-2
小型可動兵装担架システム

小型可動兵装担架システムとは、一般的な戦術機の背面に2基搭載されている可動兵装担架システムを小型化し、一基を腰部に搭載したものである。
これにより、予備弾倉や小型ドロップタンク(使い捨て外付け小型燃料タンク),新開発の手榴弾 等小型で軽量の物を搭載することが可能になった。
更に、スタングレネード、小型ショットガン等の装備も開発される事になった。

衛士救出用として戦術機の補助兵装に、小型可動兵装担架システムに装備できる小型のショットガンが新しく配備されており、
至近距離でも戦術機の装甲に殆どダメージを与えることが出来ない威力に作られたショットガンは、
戦術機に群がる戦車級を効率的に排除する事が可能になっていた。
戦車級に取り付かれる頻度を考えると、この威力と小型可動兵装担架システムに装備できるという携帯性が、衛士に受けたのだった。

このシステムは、吹雪で初めて搭載される事になり、不知火にも同様の機構が採用される事になった。
その後に開発された、帝国軍の戦術機にはほぼ全て搭載される事になって行く事になる。


2-3
追加装甲

鞍馬の装備されている前面装甲に施されたクレイモアのように散弾をばら撒く事ができる追加装甲。
ただし、鞍馬の基本コンセプトとしてはBETAに接近される前に距離を取る事が求められているため、BETAの地下進行以外の場面で使われる事はあまり無い。
また、重量の関係から鞍馬以外の戦術機に搭載される事は見送られている。
ただし、拠点防衛に限れば撃震に搭載する事も検討されている。
この案は、鞍馬と撃震の全面装甲の形状が完全に一致している事から、導入コストも抑えられると考えられている。


2-4
98式管制ユニット

1998年に帝国軍及び斯衛軍に制式採用されたこの98式管制ユニットは、次世代CPUの開発により既存のシステムを小型化し、
空いたスペースに衛士の生存性を高める新機能を搭載する事に成功した新型管制ユニットである。
1999年時点では、世界共通規格となっている米国マーキン・ベルカー社製の92式戦術機管制ユニット(日本帝国名)との特許問題に阻まれ、
国外への供給開始の目処が立っていない。

また、98式管制ユニットは小型化によって完全ブロック化を実現する事になる。
ブロック化により、独自の装甲を有することになった98式管制ユニットは、装甲を爆薬で強制排除した後、
98式管制ユニットに取り付けられたグリップをメインアームで掴むことにより、戦術機で管制ユニットを容易に回収する事が出来るようになった。
98式管制ユニットは稼動兵装担架システムに搭載する事が出来るため、一機の戦術機が最大4人の衛士を管制ユニットごと救出する事が可能である。
そして、管制ユニットのブロック化は予備機があれば、管制ユニットを乗せ替えるだけで再出撃すら可能という、
整備に関しても劇的な変化をもたらす可能性すらあった。

98式管制ユニットの特性は、ブロック化だけに留まらず、慣性力(G)を低減するための機構を搭載することに成功していた。
この機構は、他人の戦術機機動にあわせて強制的に揺さぶられる事になる救出された衛士の事を考え搭載が検討されたものであったが、
実装された時には予想以上の性能を見せ、通常の戦闘時にも衛士の負担を軽くする事を可能としていた。
その特性に着目した御剣電気は、98式管制ユニットに搭乗制限を限定解除するショートカットコマンドを装備することを提案した。
搭乗制限の解除はある意味ドーピングのようなもので、衛士と機体の負荷をかけることを引き換えに、
一時的ではあるが機体の性能を上げる事ができる設定だった。
それが、98式管制ユニットによる慣性力の軽減で、衛士の負担が緊急時に使う短時間なら十分許容できる範囲に収まると考えられたのだ。
この提案によって装備される事になったシステムは、通称『フラッシュモード』と呼ばれ、ボタン一つの操作で搭乗制限を30秒間限定解除し、
機体性能を10%押し上げる事に成功した。
ただし、フラッシュモードは主に緊急時の対応に使う事を想定されており、再使用に3分間のインターバルが必要という制限が付く。
一部の技術者からは、たかが10%の性能向上をたった30秒間だけで何ができると言う意見の者もいたが、
この僅かな差が生死を分ける場面において重要な役割を果たす事になって行く。


2-5
戦術機長距離移動用新型装備 通称『ローラーブレード』
ローラーブレードとは、自走可能な動力源を持つ5個のローラーが縦に並べられたブレードと呼ばれる部分を、
靴状のユニットに取り付けた装備である。
この装備を脚部に取り付ける事で、戦術機は移動時の推進剤及び消費電力を大幅に抑える事が出来るようになった。
ローラーブレードは、舗装の行き届いた都市部でしか使えない上に、市街地戦を行うほど習熟するのには時間が掛かるなど問題点も多い装備だが、
日本国内で長距離移動を行なう事だけを考えると、自動制御で運用可能な範囲であると判断され投入される事となた。


2-6
フロントドロップタンク
フロントドロップタンクはランドセルを前側に装着しているような、少し間抜けとも思える状態で装備する戦術機用ドロップタンクである。
連続稼働時間延長のための対策は、戦場に駆けつけるまでの間に消費する推進剤や電力を外部のパーツから供給する事で、
戦場に着いた時には本体に残る推進剤や電力が満タンの状態にするという案である。

前面装甲に装備する形式の追加増槽であるため、先頭突入前に廃棄する事を推奨されている。
ドロップタンクは、航空機では使い古されたアイデアだったが、戦術機においては武装を圧迫する事もあり、あまり普及しているとはいえない装備である。
フロントドロップタンクには、独自の推進ユニットが装備されており、機動力を確保する目的のほかに着地時のバランスを取る事も考慮されている。


2-8
反発型磁気軸受
磁気による反発力を用いて、軸を安定極に止まらせようという考えによる軸受を各種関節に採用するという案。
制御システムを必要としない受動型低反発磁気軸受として試験が行われる事になった。
低反発とはいえ関節にかかる負荷を軸受全体に分散させ、面圧を低下させた事で、対荷重が増加し摩擦を低減することに成功。
また、追加の試験で対荷重を通常の軸受と同レベルに落とす事と引き換えに、軸受に送る潤滑油が低粘度の物に交換した事で、
摩擦力をさらに低下させると同時に、各種油圧配管や油圧ポンプのサイズダウンする事が可能となった。
結果として機体重量は、受動型低反発磁気軸受採用前より低減され、機体の反応速度は大きく上昇する事になる。
今までの実験により、戦闘機動時の消費電力は電磁石による増加と、機体重量の低下による減少が釣り合う事が分かり、
コストを度外視すれば有効なシステムであるとの結論が出されている。


2-9
脚部スラスターモジュール
現状の戦術機には無い、脚部スラスターを追加することで、戦術機の巡航速度及び長距離跳躍距離を大幅に伸ばそうという野心的な案である。
不知火弐型タイプCには現時点で、人間で言うふくらはぎの部分にドロップ方式のスラスターモジュールが取り付けられている。
戦術機下半身を完全に覆う飛行用ユニットを取り付けると言う案もあったが、戦術機が戦闘機になる必要は無い、
移動するだけなら輸送機に載せれば良いと言う案が出たため、現状のプランに落ち着いたという経緯がある。



3.その他

3-1
WD(War dress)

1994年、御剣重工が開発した新型強化外骨格。
この新型強化外骨格の開発コンセプトは『着る強化外骨格』で、今までの強化外骨格に比べて大幅に小型化された物である。
本来は、対兵士級を想定して考え出したものであるが、開発当時は兵士級が確認されていないため、
室内での戦闘や戦場に出る全ての歩兵が装備することを前提にすることで本来の目的をごまかし、開発が進められる事になった。

新型強化外骨格の外観は、衛士強化装備の一部に外骨格が張り付いている程度の状態から、追加装甲で古の鎧武者のような状態まで変えることもできた。
その運動性は、追加装甲搭載時に装備の重さを実感させない程度のものであったが、装甲に関しては顔面や首周りの強化が施されているため、
闘士級の攻撃により一撃で戦闘不能になる事が無いように設計されている。
また、小型化により人間に近い動きが可能となっており、時間制限はあるが狭い空間での移動や匍匐前進等も問題なく行えた。
この新型強化外骨格は、WDと呼ばれ一般兵や室内での護衛任務につく者に親しまれることになる。


3-2
一輪バイク
大型のタイヤの中心設けられた座席に戦術機が乗り込み、高速で移動すると共にBETAを轢殺すという別名『一輪バイク』
要撃級に受け止められてしまった上に、光線級のレーザー照射への対応が難しくなる事、
既にローラーブレードという安価な高速移動手段があった事からお蔵入りになる。


3-3
チェインソー車両
周りを高速の刃が旋回し、小型種を排除する機構を設けた装甲車。
音と振動が邪魔で小型種の探査に支障が出る事や、重量と整備性に問題がある事、
それよりも機銃を多く設けたほうが良いと意見が出たため廃案となった。


3-4
90式戦車改

90式戦車の問題点であった、砲身の角度を付けた場合に自動装填装置が作動しないという問題点を改良した新型自動装填装置を搭載し、
威力と射程距離を伸ばすことを目的とした砲身の延長を行う為に砲塔部分を交換した90式戦車の改良型。

価格:7億円(量産効果による単価減少を含む)
全長:9.80 m
車体長:7.55 m
全幅:3.40 m
全高:2.30 m
重量:50.2 t
速度:70 km/h(整地)/50 km/h(不整地)
最大航続距離:400 km
主砲:44→55口径120 mm 滑腔砲
有効射程:4500m
発射速度:毎分15発程度
最大乗車定員:3名


3-5
試験型自走砲
現行の自走砲の強化と合わせて、データリンクを行う為の外部ユニットが取り付けられた試験用自走砲。

価格:??億円
全長:11.3 m
全幅:3.2 m
全高:4.3 m
重量:40.0 t
速度:49.6 km/h
最大航続距離:300 km
主砲:52口径155mm榴弾砲 ×1
最大射程:約30km
乗員:4 名




[16427] プロローグ
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/03/08 18:31



「ふー、また一つの世界を制覇してしまった。

 しかし・・・」


私はそう言って、メガネをいじりながら、今までやっていたゲームの画面を眺める。

パソコンの液晶画面に映るゲームの題名は、『マブラヴ オルタネイティヴ』。


このゲームを大雑把にいうと、BETAと呼ばれる地球外生命体に侵略されつつある世界で、主人公たちが戦術機と呼ばれる人型ロボットに乗って戦うというものである。

その他にも色々重要な設定があるが、その部分は実際にゲームをプレイしてみる方が良いだろう。

とにかくここで重要なことは、燃える展開に人型ロボットとつぼにはまる内容ではあるのだが、エンディングを迎えても救われる要素があまり見られないと言う事である。

物語の最後は、めでたしめでたしで終わることが信条の私としては、不完全燃焼とも思える終わり方だったのだ。


「アーー、くそう。どーにか何ねーのかな。」


そう声を出してみても、物語の結末が変わる訳も無く、液晶画面はゲームのスタート画面を映し出していた。


しばらくの間ゲームで疲れた目を閉じていたが、唐突に面白いアイデアが浮かんで来たためそれを実行に移すことにした。

そのアイデアとは、自己満足で終わるかもしれないが救われそうなオリジナル設定を考える事だった。

私は、何かに取り付かれてしまったかの様な衝動に突き動かされ、設定を考えていった。


「だめだ、妄想が止まらない。何かのために書きとめておこう。」


そして、メモ帳を起動し設定を書き出した。

私が考えた設定のコンセプトは以下のようなものである。

・今、流行り?のオリジナル主人公で行こう。
・主人公は、ハッピーエンドで終われそうなギリギリの能力にする。
・歴史の改変が狙えるように、ある程度の金と権力を持たす。


設定を考える途中で、何度か手が止まる事があったが、ネットで調べた公式設定を参考にすることで問題を解決した。

その後、一時間ほど作業をして仮決定した主人公の設定がこれである。


国籍:日本
所属:武家(赤の色を許される家柄)
年齢:23(2001年時点)
身長:180㎝
体重:72㎏
属性:中立・中庸

ステータス(能力):筋力 D/魔力 E/耐久 C/幸運 A/敏捷 B/宝具 -
スキル:
騎乗 B ・・・騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
直感 A ・・・戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。
カリスマ B ・・・軍団を指揮する天性の才能。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
透化 B+ ・・・明鏡止水。精神面への干渉を無効化する精神防御。
黄金律 A ・・・人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。


能力は、分かりやすくF○te方式で書いてみた。


荒筋は、
この主人公が本編開始前に起業し、戦術機等の兵器を改良。
無理の無い範囲で、実戦に参加し軍事的な名声を得る。
本編開始後は香月博士に協力して、横浜基地の戦力を強化。
本編主人公たちの部隊(A-01)にかかわり、戦闘力の向上を図る。
そして、最後の戦にA-01部隊全員が生存状態で突入できれば、何とかなるかな?
という内容だった。



「うーむ、この能力で本当にギリギリか?」


一応、アサ○ンのステータスを少しいじり、ラ○サーと同じ数のスキルを持たしてみたのだが、宝具が無いとはいえ少し優遇しすぎなのかもしれない。

原作中で、約一名互角以上で戦えそうな人物がいるが・・・、やはり歴史に名を残す英雄の能力をランクダウンさせずに使うのは、問題が多そうだ。

しかし、これ以上弱くすると燃える展開になった時、主人公が空気化or死んでしまう恐れが・・・。


いや、ギリギリを攻めると誓った事を忘れてはいけない。

そう、初心を忘れるのは良くない事だ。


「よし、ここは幸運と敏捷をワンランクダウンした上で、騎乗とカリスマを削除すれば・・・。

 どうだ、この設定ならギリギリだろう!」


無駄に気合の入った独り言を言い、キーボードを操作し設定変更をしようとした・・・その時。

急にパソコンの画面が真っ青になり、続いて奇妙な文字が流れだした。


「何だこれは?」


キーを何度か操作するが、まったく操作を受け付けない。

奇妙な文字の中に、先ほど書き込んだ設定が含まれているような気がしたが、私はパソコンを再起動させる事を優先することにした。


そして、私が電源ボタンに手をかけようとした時、


私は液晶画面に吸い込まれてしまったのだった。























液晶画面に吸い込まれてしまってから、どのくらいの時間がたったのだろうか・・・。

私はまるでまどろみの中にいるような、はっきりしない頭の中でそう考えていた。


しかし、このあやふやな感覚は突然終わりを迎える。

目を刺すような強烈な光を受け、私は意識を取り戻した。

その時私は、何かの衝動に駆られるように大声を出して泣き出してしまった。


「オギャー、オギャー、オギャーー。」


体が・・・、思うように動かない・・・、どうなっているんだ?

本能にしたがってだろうか・・・泣き続ける自分の声が頭の中で反響する中、私の耳元で自分とは明らかに違う人間の声が聞こえた。


「見てください。御剣さん、元気な男の子ですよ。」


私はその声に驚き、まぶしさと全身に掛かる倦怠感、それと本能に逆らい、目を開けようとした。


すると、一瞬だけ眼をあけることに成功する。

目を開けた時、大粒の汗を額に流している女性が微笑みながら私に向かって、手を伸ばしている光景が写りこんだ。

私は何が起こったのか分からず、混乱する事になった。


何だ、さっきの光景は?
どうなっているんだ?
さっきの台詞とあの光景を総合して考えると、出産直後の分娩室?


だとすると、誰が生んだんだ? さっきの女性?
そして、生まれたのは私か? 私なのか?


私は思考の海に沈んでいたが、包み込まれるような温かみを感じ思考を中断した。


「ありがとう、坊や。無事に生まれてくれて…。」


私はその言葉を聴いて、なぜか心が安らぐのを感じると同時に、現状では何も手が出ないという事だけは理解する事ができた。



そして…、

私はどうしようもない睡魔に襲われ、再び意識を手放したのだった。




[16427] 第01話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 12:15



1981年、私がこの世界で目を覚ましてから3年の月日が流れた。

目を覚ましてから今まで、この世界のことを調べていて分かったことがある。

それは、この世界が『マブラヴ』の世界と大変似通っていると言う事である。


しかもほのぼの学園ものでは無く、地球外生命体に侵略されている方の『マブラヴ』に・・・。





1978年1月14日、私はこの世界に誕生した。 

生まれてから今まで、私がどの様に過ごしていたかは聞かないでほしい、精神年齢2○才の大人が意識のある状態であんな事をされていたという事実を、
黒歴史として葬り去りたいからである。

ともかく、生まれてからしばらくの間は倦怠感がひどく、深く思考するとすぐ睡魔に襲われる事になった。


それでも3ヶ月が過ぎるころには、この世界に来る前と同程度の思考ができるようになっていた。

そこで大人たちの目を盗んで、新聞 等を見てこの世界のことを学んでいった。

調べた限りでは1900年代半ばまでの歴史は、人物名が異なるなどの多少の差異はあるが、十分誤差の範囲内だと感じられるほど、私が前の世界で
学んだ事と近い歴史を歩んでいたようである。


しかし、ある時期から大きく歴史に変化が起きていた。

なんと、1950年代に米欧共同で月に基地を建造していたのだ。

しかも、火星を探索中に発見した生物が月基地を陥落させ、現在その勢力を地球まで伸ばしてきている。

そして、その生物に対抗するために開発された人型兵器の名が『戦術機』であることを知らされ、私はこの世界が『マブラヴ』であるという事を
理解したのだった。



この世界の現状を知る前の私は、1978年の生まれという事だけを頼りに、未来知識を生かして小金を稼ぎ、美人の奥さんでももらって優雅に楽に暮らす、
という間抜けな計画を立てていた。

しかし、この世界の現状を理解した時、それ以前に立てていた計画を破棄し、生き残るための計画を立てることになる。

なぜならこの世界が、原作にある2通りの流れのうちどちらに近い流れになろうと、遊んで過ごす事と死亡がイコールで結ばれてしまっているからだ。

ただ、幸いにも私は恵まれた環境に生まれていた様で、何も出来ないで死ぬことは免れそうだった。

この世界での私の名前は、御剣 信綱 (みつるぎ のぶつな)、名門武家である御剣家の長男として、この世界で生を受けたためである。




まず、この世界における私の立ち位置を詳しく説明したいと思う。


始めに、私が生まれた日本帝国についてだ。

日本列島と呼ばれる島国で発生したこの国家は、1867年に江戸幕府第15代将軍 煌武院 慶喜が統治権を皇帝に返上するという大政奉還が行われ、
国号が大日本帝国となり近代化の道を歩みだす。

国家体制は皇帝を大日本帝国の元首とし、皇帝より任命された政威大将軍(将軍)が、政務と軍の指揮権を委譲される形で国家運営を行う体制になる。

政威大将軍には、五摂家と呼ばれる五つの力のある武家から任命される事が決定。

その内訳は、早めに大政奉還を行うことで力を維持していた煌武院(こうぶいん)、倒幕派の最有力の武家であった斑鳩 (いかるが)、
有力公家としての歴史もある3家の斉御司 (さいおんじ)、九條(くじょう)、崇宰(たかつかさ)となっている。

首都は大政奉還後も京都に置かれ、東京(旧江戸)は経済の中心地として発展していった。


そして、先の大戦である第二次世界大戦(大東亜戦争)において大日本帝国は敗戦を迎え、1944年条件付き降伏を行い国号を日本帝国と変える。

日本帝国は降伏をしたものも、大戦中から顕著化していた米ソの対立(資本主義と社会主義の対立)により、米国の最重要同盟国として戦後復興を
遂げるこの事になる。

日本帝国の体制は、将軍の政務を補佐するはずの内閣総理大臣が事実上実権を握り、国の統治を行うという体制に変わった。

ここで、将軍の影響力は大きく減じる事になり、現在も政治・軍事共に影響力は回復していない。




次は、この世界の私の実家である御剣家と家族についてだ。

御剣家は、代々の党首がその名の通り剣によって武名を轟かせて来た有力武家である。

御剣家が伝えてきた武術を修めた者が、代々の皇帝や将軍,五摂家の護衛に付いていた事や、数代前の当主が煌武院家当主の妹を娶った事などから、
最も青に近い赤といわれる家である。

しかし、大政奉還で決着した1800年代半ばの幕府と他大名の争いに中立を貫いた事、大政奉還後も特定の派閥に属さない事、代々の当主が殆ど権力に
興味を示さなかった事で、現在まで大きな権力を持ったことがないようだ。

ただ、権力を持つたない代わりに、時の権力に左右されない独特の家風を維持している。



現在の当主は私の祖父がなっており、貴族院の議員を務めると同時に御剣本家にある道場の道場主も勤めている。

年の半分ほどを帝国議会出席のため京都で過ごしてので、不在の間の道場は母が管理しているようだった。

道場の流派は無現鬼道流、原作においてヒロインの一人 御剣 冥夜が収めていた流派である。

始めは気のせいだと思っていたが、グレン○イザーもとい紅蓮 醍三郎が道場に入るのを見かけたので、おそらく間違いないであろう。


そして私の父は、日本帝国斯衛軍の大尉を勤めており、最近は戦術機『撃震』に乗っていると自慢をしていた。

また、父は母の名前を使ってのサイドビジネスを行っており、それなりの成果を出しているようである。

父のサイドビジネスのことは詳しくは知らないが、たびたび私を会社に連れて行って社長室で遊ばせてもらえる事がある。

何でも、私が会社に居ると何故か売り上げが伸びるらしい。


最後に私の母についてだが、ある意味御剣家においてこの人物が一番重要人物なのかもしれない。

御剣家の裏方を取り仕切り、道場の中でも上位に名を連ね、表向きの会社社長として普段の社長業務も行う等、事実上御剣家のヒエラルキーの
頂点に君臨する人物である。

ただ、夫婦の仲は大変良好で見ているこっちが恥ずかしくなるほどである。




この環境で出来ることを最大限行い、生き残ってみせる。

そう心に誓ったのだが、正直言って何から手を付けたら良いのか分からない。


未来についての知識を暴露する?

なんら証拠がない中で、そんな事を言っても頭がおかしいと思われるだけだ。


香月 博士を頼る?

現時点で香月 博士は、おそらく7~8歳くらいで小学生のはずだ。
 
相談するだけ無駄である。


科学技術を未来知識を使って発展させる?

技術的なことはさっぱり分からない上に、話を聞いてもらえるほどの実績が無い。

 
 さて、どうしたものか。

















3択―ひとつだけ選びなさい

答え①ハンサムな信綱は突如必勝のアイデアがひらめく。
答え②異世界から仲間が来て助けてくれる。
答え③何も出来ない。現実は非情である。


















 はっ、こんな馬鹿な3択を考えている場合じゃない。


とりあえず出来る事から始める事にしよう。

私は体を鍛え、知識を蓄え、金を集め、いざと言う日に備える事にしたのだった。







自室で生き残るための計画を考えていると、祖父から呼び出しが掛かった。

何でも祖父が話したいことがあるらしい。

しかも祖父の書斎ではなく、道場の方へ来いというのである。


はて、何の用事だろう。

今日で3才の誕生日を迎えた私に、プレゼントでもくれるのだろうか?


私を呼びに来た母に連れられ、道場に行くことになった。

そして、今まで近づく事を許されていなかった道場に、初めて入ることになる。


母は道場への入口で、


「頑張ってくださいね。信綱さん。」


と声をかけてくれた。

何のことだが分からなかったが、取り敢えず


「分かりました、母上。」


と答えておいた。

しかし、道場に入った瞬間そう答えたことを少し後悔することになる。




私は初めて見る事になった道場周辺を見ながら、真直ぐ道場の入口まで歩いていった。

そして道場の入口についた後、


「御剣 信綱 です。失礼します。」


そう言って道場の扉を空け、中に入る事にした。

道場の中は数十人の大人が並んで座っており、異様な雰囲気を漂わせていた。

その雰囲気に気圧され一瞬立ち止まったが、道場の一番奥に座っている祖父を見つけ道場の奥へと足を進めた。

道場の中には、今日は遅く帰って来るはずの父や、先ほど道場の前で別れたばかりの母、道場に通う紅蓮 醍三郎 等の弟子が勢ぞろいしている様だった。


そして祖父の前で座り挨拶をする。


「御剣 信綱、ただいま参上いたしました。 」


「うむ 、信綱 面を上げよ。」


その声に促されて、私を顔を上げ祖父の顔を正面から見る。


「信綱 今日お前を呼んだのは他でもない。お前に、無現鬼道流について話をしようかと思っての。」


そういって、祖父は私を見て一瞬微笑んだ様に見えたが、すぐに厳しい顔つきとなって言葉を続けた。


「無現鬼道流は誰にでも教えると言うものではない。才無き者が学ぶには苦痛にしかならず。

悪意あるものが学ぶ事は、悪鬼を生み出すのに等しい。

今まで見た所心根の方は問題なかろう。後は、学ぶ才能が有るかどうかだが・・・。」


祖父が次に何を話し出すのだろうと思った次の瞬間、全身に悪寒が走りだした。




始めはこの全身を駆け巡る悪寒が何なのか分からなかったが、本能で祖父が放つ殺気の所為であるという事に気が付いた。

しかし、突然殺気を向けられる理由が分からない。

もしかして、これは才能が有るかを見るための試験なのだろうか?


生まれて初めて自分に向けられた殺気に、私の頭の中は混乱してしまっていた。

しかし、私の体は殺気に反応して殺気を放つ人物をにらめつけ、直ぐに動き出せるように腰をわずかに浮かした体勢を取っていた。


「ほう、本気では無いにしても、ワシの殺気を受けてにらみ返す胆力。これはなかなか・・・。」


しばらくの間、私と祖父はにらみ合っていたが、祖父が唐突に右手を上げた。

その瞬間、道場の両脇に座っていた人たちが一斉に立ち上がり、私に向かって殺気を放ってきた。


「さて、この状況、如何にして切り抜ける?」


そう言って、祖父は上げた右手を前に振り下ろした。



すると、立ち上がっていた大人たちが一斉に私に向かって動き出した。

しかし、睨み合いの間に冷静さを取り戻していた私は、祖父が手を振り下ろすより一瞬だけ早く、祖父に向かって駆け出したのだった。


「面白い、老人一人なら打倒できると考えたか。」


祖父は、駆け出した私に向かってそうつぶやき立ち上がる。


「うぉぉぉっ!!! 」


私は、気合を入れるために声を上げた。

その声を聞いて、祖父はニヤリと笑みを浮かべるのだった。

・・・おそらくこの声で祖父は、私が戦う事を選んだと思ったであろう。


祖父の出したこの考えは、一つの答えではある。
大人に囲まれた、この道場の中ではどの様に戦っても、勝てる要素が見出せない。
この中で私は最弱である上に、多勢に無勢であるためだ。
しかし、私が祖父に向かって駆け出した事で、少しの間だけだが一対一の状況に持ち込むことに成功する。
今の位置関係が、祖父と私の位置が一番近く、他の大人たちとは若干はなれているためである。
 

祖父は後ろに架けてある刀を手に取る暇は無いと考えたのだろうか。

その場で、私を迎え撃つために構えを取った。


座っている祖父の顔面に飛び膝蹴りでも叩き込んでやろうと考えていたのだが…。
ここにいたって、私の勝機は0になったといってもいい。
油断しているならともかく、しっかりと構えを取った祖父を打倒できると考えるほど愚かではない。


しかし、この窮地にも私の頭はすっきりと冴え渡り、最善の道を導き出していた。


この現状をひっくり返して、勝利を得る事が出来なくなった今、やることは唯一つ。
勝利が望めぬなら、負けないようにする。
そう、最善の道とは逃げることである。逃走こそが私に残された最後の道なのだ。


では、馬鹿正直に入ってきた入口に向かっていればよかったのだろうか?
いや、それでは道場を出る前に、確実に大人たちに捕捉されてしまう。


始めから逃走する事を考慮に入れていた私が、入ってきた入口とは真逆の祖父に向かって理由はただ一つ・・・。



そこに出口があるからである。



この道場に生まれて初めて入った私が、道場の奥に出口が有ると考えた理由、それは母の存在にある。

道場への入口で分かれたはずの母が、私を追い抜いて道場の中にいたという事実がその根拠だ。


そして、私は眼前に迫ってきていた祖父の拳に向かって突っ込み・・・・・・。


私は、祖父の股の下をスライディングですり抜けたのだった。






「「「「「「なっ!」」」」」」


大人たちの驚く声が聞こえたが、それ無視して私は次の行動にでる。

出口があるのは、恐らく左右のどちらか片方のみ…、どちらかは分からない。


なら、・・・後は本能に任して、突き進むのみ!


私は、スライディングの勢いを殺さず立ち上がり、右に向かって駆け出した。

そして、その先にある扉に手をかけたのだった。







祖父side


「うーむ、そろそろ信綱が来る時間ではないか?」


「父上、その様に心配しなくても良いではないですか。今、妻が呼びに行っておりますゆえ。」


「それもそうじゃが・・・。」

 
「お義父様、そろそろ信綱さんが参られますよ。」


道場に入ってから、何度目か分からぬやり取りを息子と交わしている時、ワシの左側から息子の嫁の声が聞こえてきた。


「おぉ、そうか。では、所定の場所に戻りなさい。 」


「承知いたしました」


そう言うと、息子の嫁は息子の隣に座る。



すると外から、元気な声が聞こえてきた。


「御剣 信綱 です。失礼します。」


そう言って、孫が道場の中に入って来る。

孫は扉を開けた瞬間、道場に居並ぶ大人たちに目を真ん丸くしていたが、直ぐに気を引き締めなおし、わしの前まで進んで来た。

そして、わしの5mほど手前で正座し挨拶をするのだった。


「御剣 信綱 。ただいま参上いたしました。」


「うむ 、信綱 面を上げよ。」


わしの声に促されて、孫が顔を上げる。


「信綱 今日お前を呼んだのは、他でもない。お前に、無現鬼道流について話をしようかと思っての。」


そういって、わしは今までの孫との思い出を反芻していた。

そこで、一瞬表情が緩んでしまった気がしたが、今日は御剣家に取っても無現鬼道流にとっても、大切な日である事を思い出し、気を引き締めなおした。


「無現鬼道流は誰にでも教えると言うものでもない。才無き者が学ぶには苦痛にしかならず。」


そう、才能が無い者にとってこの流派は、学ぶことは酷である。

もし、才能が無いのであれば他のことで、才能を発揮できるようにするのが孫のためでもある。


「悪意あるものが学ぶ事は、悪鬼を生み出すのに等しい。」


どうなるかは今の段階では分からないが、おそらくこの孫なら大丈夫であろう。

贔屓目かもしれないが、しっかりと志を持った良い目をしている。

最も、もし道にそれようとしてもわしが全力で性根を叩きなおして見せるがの。


「今まで見た所、心根の方は問題なかろう。後は、学ぶ才能が有るかどうかだが・・・。」


そう言って、わしは孫に殺気を叩き付けた。



すると孫は、直ぐに動ける体勢を取った上で睨み返してきた。

立ち上がるのではなく、やや前傾姿勢にして腰をわずかに浮かしている。

この体勢なら、相手に強い警戒を抱かせることがない上に、瞬時に動くことが出来る。


「ほう、本気では無いにしても、わしの殺気を受けてにらみ返す胆力。これはなかなか・・・。」


この段階で、わしは合格を決めた。

この炎のような闘志があれば、無現鬼道流の鍛錬に支障はないし、とっさに取った体勢からも武術の才能もうかがえる。



しばらくの間わしと孫はにらみ合っていたが、これ以上殺気を叩き付けても進展はないと考え、次の段階に進むことにした。

わしはこの試験を次に進める合図のために右手を上げる。

すると、道場の両脇に座っていた弟子たちが一斉に立ち上がり、孫に向かって殺気を放ち出した。

合格は合格だが・・・、後は孫の器がどの程度のものであるか見極めるとしよう。


「さて、この状況如何にして切り抜ける?」


そう言って、上げた右手を前に振り下ろす。

しかし、わしが右手を振り下ろすより一瞬だけ早く、孫がこちらに向かって駆け出して来た。


「面白い、老人一人なら打倒できると考えたか。」


わしは、駆け出して来た孫に対応するため立ち上る。


「うぉぉぉっ!!!」


そして、孫が放つ気合に思わず笑みを浮かべてしまっていた。


この状況で諦めずにわしに向かってくるとは、見上げた根性だ。
 
これは、明日からの鍛錬が楽しみで仕方が無いの。

しかし、現実の厳しさを教えるために、ここは痛い目に合わしておかねばなるまい…。


そう思いわしは、迎撃のための構えを取った。

そして、突っ込んでくる孫に対して拳を突き出した次の瞬間・・・・・・

孫は、わしの股の下を倒れながら滑り込むようにして、すり抜けて行ったのだった。




「「「「「「なっ!」」」」」」


わしと弟子たちは、思わず驚きの声を上げてしまった。

そして、わしは慌てて後ろを振り向いた。

そこには、今にも裏口に向かって駆け出そうとする孫の姿があった。


しまった、まさか逃げる事を考えていようとは。

孫は気配の遮断が上手く、隠れられると探し出すのが面倒になってしまう。

これは今日の試験は中止かの。

わしはもう追いつく事は難しいと感じながらも、孫を追いかけようとした。





しかし、孫の逃走は終焉を迎える。

裏口の扉に手をかけた孫の手を掴む者がいた為だった。


「あらあら、信綱さん、今日は大事な日なのですから。
お義父様のご用件が終わるまで、道場を出ることは許しませんよ。」


息子の嫁、つまり自分の母親に捕まってしまったのだった。


孫はしばらく暴れていたが母親に間接を決められ、元の位置に正座させられる事になる。


「ふー、まさか逃走する事を考えるとは・・・。信綱、もう何もせんから大人しくせよ。」


わしがそう言うと、孫はやっと大人しくなった。

孫の拘束を解き、皆が元の位置に戻ってからしばらくの間、道場には沈黙が流れていが孫がそれを破りわしに話しかけてきた。


「祖父さん、結局何がしたかったんだ?」


「いや、お前も今日で3歳になるじゃろう。見込が有るのなら、そろそろ鍛錬を始めても良い歳じゃ。

そこで伝統に則り、試験をしてみようと思っての。」


わしがそう言うと、孫は嬉しい様な困った様な、複雑な顔でこちらを見つめ返してきた。


「では、結論を出す前にいくつか、わしの質問に答えてもらうとしよう。

まず始めに、わしの殺気を受けてどう感じた?」


「・・・始めは何をされているのか、全然分からなかった。

でも、体が急に熱くなってきて・・・、爺さんの殺気に対応してた。」


「あそこで、始めから立ち上がらなかったのはなぜじゃ?」


「・・・あの時は体が勝手に動いて・・・、でもあの時は何をされるのか分からなかったから、立ち上がるのは不自然かなって思って…。」













それからいくつか質問を重ね、最後に一番気になっていたことを質問することにした。


「最後の質問じゃ、何故逃げる事を選んだのじゃ?」


「祖父さんが立ち上がった時点で、勝てる見込が無くなったから。

 道場の外に出れば逃げ切れる自信があったし・・・。」


ふむ、一応勝つ気ではいたのか・・・、しかもしっかりと彼我の戦力さを理解し、冷静な判断力も有るようじゃな。

普段は外で遊ぶ時意外は書を読むことしかしない、頭でっかちかと思っていたが・・・、本当に将来が楽しみであるの。


しばらく沈黙が流れたが、わしは結論を皆に伝えることにした。


「この者、無現鬼道流を修めるに申し分無き才を示した。

 明日から、無現鬼道流の鍛練に入りたいと思う。

 皆のもの、相違無いか!」


「「「「「「相違ございませぬ!」」」」」」


弟子たちの唱和を聞いて驚きの表情を見せる孫に、ワシは御剣家の将来は安泰であると確信するのであった。





[16427] 第02話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 12:20


1983年、私が無現鬼道流の鍛練を許されてから2年の月日が流れた。

この世界の体は非常にハイスペックで、子供としては動ける上に異常にカンも働く。

そのため、兄弟子達の予想を上回る事がたびたびあるのだが・・・。

本気になった祖父の攻撃は何故か避ける事が出来ない・・・、普段よりもカンが働かなくなるのだ。

有得ん・・・、私のカンは早々破られるものではない筈なのだが・・・、無現鬼道流は化物か?

そして、今日も私は攻撃をかわしきれず空を飛ぶことになる。







「信綱 様、朝でございます。」


私の一日は、女中の声で起きることから始まる。

時間は午前5時、私はその声に軽く返事を返すとすばやく服を着替えはじめる。

そして、女中にわたされる濡れ手拭いで顔を拭くと、急いで道場へ向かう事になる。


「おはようございます。」


「「「「おはよう。」」」」


私が朝の挨拶をして道場に入ると、既に数名の兄弟子達が柔軟運動をしていた。

兄弟子達は、鍛錬の開始より早く起きて道場の清掃をし、師匠が到着するのを待っているのだ。

本来なら私も掃除に参加するべきなのだが、まだ子供であるためしっかりと睡眠時間を確保するようにと言われ、不参加になっている。

また、醍三郎さん等の高弟の鍛錬は私の鍛錬とは異なる時間帯に行っているようで、私の普段の鍛錬は十名ほどの人数で行われている。


午前5時半、私も兄弟子達に倣い柔軟運動をしていると、師匠である祖父が現れた。

そして、全員そろって神棚に向かって礼をしてから朝の稽古が始まるのだった。



私が学んでいる無現鬼道流、それは古くから御剣家に伝わる武芸に、戦国時代により発達した多くの諸派を取り込むことで形作られ、
江戸時代に入り正式に体系化された流派である。

また、特に剣術を重視しており無現鬼道流剣術を収める者の中には、斬鉄を可能とする者もいると言われる程鍛練が行われる。

先の大戦である第二次世界大戦(大東亜戦争)において、諸派の多くが後継者を失い断絶・失伝する流派が相次ぐ中で、
無現鬼道流はそれを免れ現在まで伝承されてきた。

それはその伝承が一子相伝ではなく、その時の当主が見込みある者を選んで伝承してきたためである。

ただし、無現鬼道流の歴史上で御剣家以外の者が免許皆伝に至った例は、たったの3例しかない。

この事について、御剣家の者を贔屓しているのではないか?と言われることもあったようだが、歴代の免許皆伝者がその実力を見せることで、
それが事実とは異なっていると認識されるようになった。

無現鬼道流の名は武術家の中では有名であり、その実力が認められ無現鬼道流を修めた者(免許皆伝の者とは意味が異なる)が、
代々の皇帝や将軍,五摂家の護衛に付いてきた歴史がある。

ただ、無限鬼道流を修める者は裏方に徹するものが多く、露出が少ないため一般人も知っているというメジャーな流派ではない。



無現鬼道流には、一般的に武芸十八般と言われる武士が戦場で戦う術が伝えられている。

実際には細かく分けるとそれ以上の数があるが、主な内容としては、柔術・剣術・短刀術・抜刀術・薙刀術・槍術・弓術・砲術・馬術・水術・隠形術 等 がある。

無現鬼道流では、これらの内の一つないし複数の術を、平行して学ぶことになる。

ちなみに私は現在、柔術・剣術・砲術をメインに、短刀術・抜刀術・弓術・隠形術をサブとして学んでいる。

学んでいる数は多い気がするが、私の体は廃スペックもといハイスペックなので、この様な無理が成立しているのだ。

また、将来当主になるためであろうか、全ての武芸に関して奥義以外の型を一度はやったことがある。




朝の鍛練は、型を中心に教わり7時に終わりを迎える。

その後は食事の休みをかねて2時間の休憩を取り、9時から12時までさらに鍛練が行われる。

兄弟子達は休憩時間にも型稽古をやっているようだが、私の場合はその間、書庫に入り本を読む時間として使っている。

そして、9時からの鍛練は組み手中心の鍛練となるのだが、私は体が出来ていないため最後の30分だけしか組み手を許されていない。

この組み手の間、私は持てる限りの力を使って、兄弟子に挑んでいく。

どうせ何をやっても効きはしないと、開き直っているというのもあるが、正直に言うとどうにかして勝ちたいとむきになっているのだ。


今日の組み手の相手は、祖父である。

祖父を素手の組み手において打倒するのは至難の業である。

まだ、子供の私ではたとえ全力の打撃を叩き込もうと、鋼の様な体にダメージを与えることは出来ない。

また、間接技に持ち込もうとしても、技も力も向こうが上。

唯一の可能性は、顎に打撃を与えて脳を揺さぶる事だが・・・身長の関係でまったく届かない。


「うぉぉぉっ!!!」


そして今日も果敢に挑み掛かり、何時ものように天高く打ち上げられることになる。






「あーもー、もう少し背が伸びれば選択肢が広がるのに・・・。」


「こらこら、そんなに急いても仕方が無いじゃろう。

 今は基礎固めの時期じゃ、勝負の勝ち負けを論ずるには十年早いわい。」


「それでも、負けるのは悔しいじゃないか・・・。

 それと、祖父さんの攻撃は何故か反応が出来ないんだ・・・。

 兄弟子方の攻撃は、避けられないまでも反応することは出来るのに。」


私はそう言って、自分の感じている『カン』について、祖父に説明をした。


「ほう、お前にそのような力が備わっていたとわ・・・。

 しかし、他の者と違ってわしの攻撃を感じるのは、難しいじゃろう。

 武の境地には、無拍子や無念夢想といったものがあるゆえな。

 それに、牽制に面白いように反応するようでは、まだまだじゃ。」


祖父はそう言った後、大きな声を出して笑うのだった。




鍛練が終わり昼食を取った後は、座学や習い事の時間となっている。

家庭教師が付き、様々な事について教わる事が出来るのだ。

子供の体と大人の思考を持つことになった私は、異常に高い記憶力を持つことになったが、習い事において自分の能力を隠す事は一切していない。

この世界で教わることは、前の世界で教わった事と分野が大きくずれていたため、相手に警戒されることよりも、知識を蓄えることを優先したのだった。

そのお陰で神童や天才などと呼ばれる事になってしまった。

私としては子供の脳で大人の思考を繰り返した所為で、異常に記憶力がよくなっていると感じる程度で、決して自分が神童や天才と
呼ばれるべき存在では無いと認識しているのだが・・・・・・。

ともかく、自分の能力を隠していないお陰で、様々な家庭教師を呼び勉強に励むことが出来ていた。

そして今、一番力を入れているのが兵学の講義だ。

兵学の知識を、対BETA戦に生かせないか検討するためである。

あまりに兵学の講義が面白かったので、次回の講義がある前に武経七書のいくつかを読破してきた時には、さすがの家庭教師も目を丸くしていた。

その他に、母が茶道・和歌・音楽 等を学ばそうとする事があったが、私はそれを逃げ出し書庫に篭って読書を始めるので、
学ばす事を諦めてくれたようだ。

ただし、月に一回ほど、母の茶道に付き合わされることがある。


しかし、本日の午後の予定は何時もと異なり、父の会社に行く日になっている。

父の願いで週に一度、会社の方に顔を出すことになっているためだった。

私が会社に行く理由はただひとつ、何故か私がかかわった部門が急成長するからである。


例を挙げるとすると、ある社員が言った、


「最近、小麦の価格が高騰して、大変なんですよ。」


という言葉に対して、面倒くさくなり、


「小麦が無いなら、米を食べれば良いじゃないか。」


と適当に返答すると、その社員は、奇声をあげたかと思うと、


「そうかー、そうですよ。

 確かに、米の生産量には余裕があり価格もそれほど高騰していない。

 しかし、米をそのまま輸出してもヨーロッパや中東ではあまり好まれない。

 だが米を米粉にして、そのままか小麦粉とブレンドして輸出すれば・・・。
 
 御剣商事における現在の米の在庫は・・・、協力会社に・・・ ・・・、
 
 はっはー。いける、いけるぞー。」


勝手に結論を出して走り去ったと思えば、数日後に母から米粉の輸出プロジェクトが動き出した事を聞かされた。

そして、数ヵ月後に輸出が軌道に乗り、大きな利益を出すことになるのだった。

そのほかにも、「パソコン等への投資」「海水淡水化技術への投資」「水耕栽培による植物工場」「ヒート○ックモドキ生産」
「プラモデルの発売」「対にきび用洗顔料」「今までに無い、新しい音楽」「新キャラクター、電気ねずみ」等がある。



会社に到着し、車から降りると会社の前に立っていた、お姉さんが近づいてくる。


「こんにちは~。」


「お待ちしておりました。信綱 様。」


「別に、外で待ってなくても良いよって言ったのに・・・。」


「いえいえ、しっかりとお出迎えしませんと、社長に怒られてしまいますから・・・。

 それに、今回は私一人でのお出迎えにきました。

 以前に比べたら、各段に少なくなりましたでしょう?」


「確かにそうだけど・・・。」


以前私が会社に来た時、事業が行き詰っている複数の部署から人が集まり、私が自分の部署に来るように、あの手この手で誘うという騒ぎがあった。

それ以降は秘書が出迎え、社長室まで直行する事になったのだ。


「今日も、何時も通りでいいの?」


「はい、今頃は社長も首を長くして待っている事でしょう。」


その後、何時も通り秘書のお姉さんと軽い会話を交わしながら、社長室まで向かう。





 コン コン


「失礼します。社長、信綱 様がいらっしゃいました。」


「母上、こんにちは~、お仕事どうですか?」


「いらっしゃい、信綱 さん。仕事の方は、順調ですよ。

 今は大きな問題を抱えている部署も無いので、軽くお茶を飲んでから会社内をお散歩することにしましょう。」


母がそう言うと、さっきとは別の秘書の方がお茶と茶菓子を持ってきてくれた。

私はお礼を言ってお茶と茶菓子を受け取り、母と向き合ってお茶を飲むことにした。



私の母が社長を務める御剣商事は、元々は曽祖父が始めた会社である。

御剣家は、代々受け継がれてきた土地や財産があるため、特にお金には執着していなかったようであるが、先の大戦後海外に流出して行く
貴重な文化財や骨董品を回収・保存するため、曽祖父の代から貿易商を営むことになったようだ。

曽祖父は、骨董品以外はあまり興味が無かったようだが、周りの勧めもあり食料・資源・雑貨 等の輸出入を始める。

そして、祖父と父が事業規模を拡大させていき、父が結婚後は社長の名義を母に変更、株式のほぼ全てを御剣家が所持する形となる。

社長が母になった時点では、会社の規模は中堅といえる程度だった。

しかし、ある時期から急に会社の経営が順調になり、大手と肩を並べるようになる。

一時期、成長に限りが見え始めるが、私が会社に顔を出す日に限って、重要な取引が成功するというジンクスを発見。

ゲン担ぎに、特別顧問に私の名前を載せた所、会社が再度急成長を始めたのだった。

現在、日本国内において商社としてはトップクラスの規模となり、その他に、電気、科学、医療、繊維、食品、金融 等の
グループ会社を持つまでになった。

近頃は、10大財閥の仲間入りを果たすのではないか?

自動車、重工業、兵器 等の分野にも参入するのではないか?

と恐れられているようである。



小さなお茶会を楽しんだ後、私は母と一緒に会社の中の各部門を巡る事にした。

母が最初に言った通り、大きな問題がある部署は無かったようだが、私が行った部署では必ず元気な奇声が聞こえることになった。


「ヒャホー。」

「ゲッチュー。」

「まだだ、まだ終わらんよ・・・。フィーッシュ!」














各部署を巡り終わった私は、残りの時間を社長室でつぶし、就業後母と一緒に屋敷に帰り夕食を摂ることになる。




そして、夕食後から就寝する8時半までの間、普段なら軽い運動や読書をする所なのだが・・・。

今日は、以前から先延ばしにしていた自分の異常な能力について、そろそろ結論を出すことにした。


私が、持っている異常な能力。

それは、鍛錬中に起こる高い危機察知能力であろうか?

いや、この世界には俗に言う超能力者がいることだし、カンが良い事を異常だとは言えないだろう。


では、私が居るだけで会社が急成長するのは?
会社が急成長を始めた時期と、母が妊娠した時期が調度重なるという事は異常では無いのだろうか?

いや、ノーマルの『マブラヴ』において、御剣家は財閥を形成するほど大金持ちだった。
この世界では、ノーマルの『マブラヴ』における御剣家が、煌武院家と御剣家に分割されている様だが、私が知らなかっただけで
この世界の原作でも、御剣家が財閥を形成していた可能性は捨てきれない。















では・・・、私が乗り物に乗るだけで、その乗り方や乗り物の能力・特性を理解する事ができるという能力はどうだろう?

私がこの能力に気が付いたのは、馬術の鍛錬の時である。

私が初めて馬に跨った時、馬の乗り方と乗っている馬の能力と特性を全て理解してしまったのだ。

そして、師範がする馬術の説明についても、知らない事など何一つ出てくることは無かった。

もちろん、前の世界においても乗馬をした経験は無い。

さらにそれ以外でも、車・バイク・船 等の様々な乗り物で、私が知るはずの無い知識が流れ込んでくるのだった。


このような異常なことは、普通起こりえるはずが無い。


そして、私はある可能性に気づく・・・、気が付いてしまったのだ。

それは、自分がパソコンに吸い込まれる前に書いていた、『マブラヴ オルタネイティヴ』のオリジナル主人公に設定した内容と、
今の自分の現状が酷似しているということに・・・。


そう考えれば、私の異常な能力についても全て説明することが出来る。

そう、私が乗り物に乗るだけで、その乗り方や乗り物の能力・特性を理解できるのは、恐らく騎乗という能力のおかげ。

会社が急成長し金持ちになったのは、黄金何とかがあるおかげ。

カンが良いのも、直感?とか危険察知?とかのスキルを設定したせいだろう。

そのほかにもスキルを設定していた様な気がするが、すっかり忘れてしまっていたので確認が出来ない。

しかし、それでも十分異常・・・いや、チートとも言える能力を持って生まれたことだけは間違いない。




この時の私は、なぜもっとチートにしなかったのだろう、そうすれば悠々自適の生活を送れたのに・・・。

等とくだらない事を考えてしまっていた。

しかし、私はこの事を後に後悔する事になる。

私はまだ、『マブラヴ オルタネイティヴ』の世界で生きるという意味を実感できていなかったのだ。




[16427] 第03話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:03



1983年5月

この日、御剣家はあるニュースによって、大騒ぎとなった。

なんと、母に妊娠が発覚、既に妊娠三ヶ月目に入っている事がわかったのだ。

私が生まれてから早5年がたち、一向に次の子供が出来ないことから、新しい子供を半ば諦めていたため、
今回の出来事で皆が大騒ぎしているのだった。

私はこのニュースを聞いた時、純粋に弟か妹が出来ることを喜び、新しい子供を待ち望んでいたはずの母が、三ヶ月目になってようやく
妊娠が発覚したという事を全然気にも留めていなかったのだ。


私はその後、少しでも母の負担を軽減しようと無現鬼道流の鍛錬と小学生生活の合間に、出来る限り会社の手伝いをすることにしたのだった。

始めは、会社の規模が大きくなり私の事を噂でしか知らない人も増えたため、私が会社の経営に参加する事を良く思わない人もいた。

しかし、私が生まれた時から会社にいる人たちのサポートを受け、実際に利益を出していくと会社経営の一部を任されるようになる。

私は将来を見据えて、自分に与えられた権限の中で事業を拡大し、自動車・造船・重工業 等の兵器産業につながる業種を取り込む準備を始める。

手始めに主要重工業メーカーにあまり影響の出ない、下請け業者や小規模の企業を中心に買収を開始した。

これは、戦術機開発計画に変な影響が出るのを避けると同時に、将来御剣グループ単体で戦術機を開発するための基礎を作るためである。

私は徐々に拡大していく買収に満足し、余剰資金を基礎技術の研究開発費に投じていくのだった。






そして、運命の12月16日。


母が女児を出産し、母子共に健康であるという報告が私の耳に入ってきた。

私は何故か、病院に入ることを許されず、その報告を会社の執務室で聞くことになる。

しかし、この時の私は妹の誕生よりも、『煌武院 宗家に女児誕生! 名前は煌武院 悠陽』という衝撃的なニュースに意識を奪われていたのだった。



12月20日、母が退院し妹を連れて御剣家に戻ってきた。

愛すべき、新しい私の妹の名は『御剣 冥夜』。

原作における、ヒロインの一人である。

原作では古より煌武院家に伝わる、『双子は世を分ける忌児』という言い伝えにより、引き離され御剣家に養子に出される事になる人物である。

つまり、御剣 冥夜と煌武院 悠陽は実の姉妹として世間に知られるはずだったのだ・・・。




私の想定では、冥夜が御剣家に養子に来るのは、もっと後だと考えていた。

ではなぜ、初めから御剣家の子供として、誕生したという状況になったのだろうか?

ここからは私の推測でしかないが、妊娠検査の段階で双子であることが発覚した煌武院家は、様々な議論の末原作通りに他家へ
養子に出すことしたのだろう。

しかし、実際に子供が生まれたという事実があると、単純に養子に出しても後々後継者問題が発生する恐れがある。

そこで、

煌武院家との親交が篤い家

後継者問題に介入する恐れが無い家

子供が出来てもおかしくない年齢の夫婦いる家

煌武院家と何らかの血縁関係があり、顔が似ていることをごまかせる家

等の条件から御剣家が選ばれ、偽りの妊娠を行い、偶然にも同じ日に生まれた他家の子供とすることで、存在自体を無かったことにしようとした…。


といったところでは、無いだろうか。

華々しく誕生を祝われる姉 悠陽と、世間に知られること無くひっそりと祝われる妹 冥夜。

なんとも、対照的な二人である。

私は、冥夜に対し軽い同情の念を感じながらも、将来この二人に対しどのように対処するべきかを考えていた。

なぜなら、将来この二人は世界の運命に影響を与えることになるかも知れない、重要な人物になるからだ。

原作では、御剣 冥夜に兄がいたという記述はどこにも無い。

だからといって、まったく関りを持たないようにすると、原作を見る限り「何故、私は兄上に嫌われているのだろうか?」とか言って、
冥夜は勝手に傷つくのだろう。













私は、上手い対応策を見つけることが出来ない中、スヤスヤと眠る冥夜を眺めていた。


「これがあの御剣 冥夜か…。

 こんな赤ん坊が、将来すごい美人さんになるのだから、人間は不思議だな…。」


そう言いながら、ほっぺたを触ってみたり、頭をなでてみたりしてみる。

そして、冥夜の手に指を入れた時… …、冥夜が無意識の内に私の指を握り返して来たのだった。

自分の指を握り返してくる姿とその感触に、血はつながっていないが、確かに私はこの子の兄になったのだという事を実感する。


しかし次の瞬間、将来この冥夜がBETAと戦い死ぬ可能性が高い。

という事に気がつき、愕然とするのであった。

そう、原作にある最良のシナリオでは、わずか8名で敵根拠地に突入し壮絶な死を迎える事になるのだ。



私の頬には、知らず知らずの内に涙が流れていた。


「はは、情けないな。
 初めて出来た妹が死ぬかもしれないと考えただけで、これか… …。」


原作通りにすれば、少なくとも自分は死なないかも知れない…。

原作通りにしなければ、人類はBETAに勝てないかも知れない…等と考えた時もあったが… …。


「もう、私は…、いや、俺は迷わない。
 だって、妹を守るのが兄の役目だもんな・・・。」


そう言って、俺は冥夜をいつまでも見つめていた。




その日の晩、俺は家族の前で自分がこれから何をし、何を成したいのかを話すことにした。

家族に対して、全ての事を話すことは出来なかったが、

昔から日本がBETAに飲み込まれる夢を見ることがある。

夢とは若干ずれてはいるが、BETAの侵攻が確実に広がっている事実がある。

俺は、それに対抗するため力を蓄えることにした。

という内容の話をしたのだ。

家族、特に母はなかなか納得してもらえなかったが。

『俺は、BETAを…我が人生を賭して、倒すべき敵だと決めたのだ。』

と宣言をすると祖父と父が理解を示し、最終的には三人の説得により母も納得することになる。

この日から、御剣 信綱の激動の人生は幕をあげたのだった。













1984年、覚悟を決め様々な分野に手を出してきた俺だったが、今年で肉体年齢6歳で精神年齢は三十路 一歩手前になった。

精神年齢的にはそろそろ結婚相手を決めたほうがよい時期なのだが・・・。

現在、俺が自宅に次いで最も長い時間を過ごす場所は・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 小学校。

そして、当然のように周りに居る女性は・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 小学校一年生・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 。

これでは、女性と言うより幼女だ。

どうすればいいのだろ・・・若干、精神が肉体に引っ張られている感じがあるが、肉体年齢が適齢期を迎えたとき精神が枯れていないかが
心配になってきた・・・。

結論が出ぬままに、今日も昼休みにクラスメイトを率いて、外に遊びに良くのだった・・・。







春…、それは出会いの季節、そして多くの人が新たな人生の門出を迎える季節でもある。

俺も今日、新たな人生の門出を迎えた一人である。

現在俺は、とある小学校の入学式に出席している…、自分が小学校に入学するために…。

周りの子供達が、皆緊張した様子で校長先生の話を聞いている中で、ただ一人俺だけが緊張とは無縁のだらけた表情を浮かべていた。

俺としてはこの様な式に出席する気は無かったのだが、初孫・子供の入学式にはしゃぐ家族を見て、家族の記念になるならと思い、
出席する事にしたのだった。



退屈な入学式がようやく終わり、各クラスに別れ教室に移動した後、生徒達の自己紹介が始まる。

俺が入学した小学校は、俗に言う名門小学校…俺のクラスメイト達の名を聞いていると、その殆どか有力者の子女だという事に気がつく。

俺はクラスメイト達の名前を、将来何かに使えるかも知れないと考え、邪な思いで記憶に留めようとしていた。

しかし、次の瞬間…、俺はある二人のクラスメイトの自己紹介によって、大混乱に陥ることになる。


「次、月詠真那マナさん。」


「はい! つくよみ まな です。
 こんごも、よろしくおねがいします。」


 パチ、パチ、パチ


そうか、あの子の名前はつくよみ まなと言うのか…、月詠 まな…月詠真那マナっと。

あれ… …?

月詠ツクヨミ…?、真那マナ…?

月詠真那マナだと!

なんか、知らんけど原作キャラ来た~~~~。


「次、月詠真耶マヤさん。」


「はい…。 つくよみ まや です。
 よろしくおねがいします。」


 パチ、パチ、パチ


しかも、姉妹?付きで~~~~。



原作キャラと会うとしてもまだ当分先だろうと考え、会った時の対応をまったく考えていなかった俺は、このショックのおかげで一時、
思考停止に陥る事になる。

自分の自己紹介の前に何とか復帰し、自己紹介を型通りの挨拶で終わらせたのだが…、その後も思考がまとまらず、先生の話す注意事項も
上の空で聞き流してしまうのだった。


その後の小学生活だが…、それなりに充実した日々が続いていく事になる。

内容は既に理解してしまっている授業も、教科書の丸暗記や持ち込んだ本を読むことで時間を有効活用しているし、
休み時間も周りの子供と遊ぶついでに、人脈を広げる活動に使っている。

子供達の考えることは単純だ…、上級生も知らない遊びや見たことも無いおもちゃが有れば、自然に集まってくる。

その後、力とほんの少しのユーモアを見せることで、俺は今や1年生グループの最大勢力のリーダー的存在になっていく事になる。


そして、小学生生活で一番懸念していた、二人の月詠さんについては… … … … …。

なるべく関らないようにしようという計画を立案したのだが…、その日の晩


「信綱、明日から月詠家から2人、無現鬼道流に入門することになった。
 二人ともお前と同級生じゃから、お前が面倒を見るように。」


と言う、祖父の一言により計画は破綻することになったのだった。

祖父は、変な悟りを開いたかの様な乾いた笑みを浮かべる私に、


「信綱、良かったの。
 二人とも将来美人になりそうな、きれいな顔立ちをしておるし、先方もどちらか一人なら嫁にやっても良いといっておる。

 これで、御剣家の将来は安泰かの~。」


と続け、満面の笑みを浮かべるのだった。






翌日


「「ほんじつより、むげんきどうりゅうににゅうもんした。」」

「つくよみ まや です。」

「つくよみ まな です。」

「「よろしくおねがいします。」」


「うむ…。二人とも元気があってよろしい。
 今後の指導は、各武芸の師範が行うことになるのじゃが、
 普段は信綱の指導に従うように。」


「「はい。」」


「信綱、昨日言ったように、二人の世話はお前に任す。
 しっかり、面倒を見るように。」


「はい…承知いたしました。
 真耶マヤさん、真那マナさん、御剣 信綱です。
 今後とも、よろしくおねがいします。」


「「よろしくおねがいします。」」


その日の鍛錬は、二人に基本的な型をいくつか覚えてもらった後、兄弟子達の型や組み手を見る見取り稽古をしてもらう段階で終わる事になった。






鍛錬後


「二人とも、御疲れ様。」


「おつかれさまです。ノブツナ くん。」


「おつかれさま。ノブツナ…くん。」


「二人とも初日にしては、ずいぶんきれいに動けていたけど、何か家の方でやっているの? 」


「そ そんなことはないよ・・・。そういえば、ノブツナ クンのかた、とってもきれいだったよ。
 ね、マヤもそうおもうよね。」


「そうかな? おししょうさまとくらべれば、あまりきれいとは… …。」


「あー、マ マヤそういうのは、だめだよ~。」


二人とも、というか真那マナさんだけだが…、家での習い事の話題をそらそうと必死になっていたので、適当に思いついた話題に話を切り替えることにした。


「あ、そういえば、真耶マヤさん、真那マナさんって呼びにくいんだよね。」

「せっかく、同じ流派を学ぶ事になったんだから、真耶マヤ真那マナって呼んでいい?

 俺の事は、信綱で良いからさ。」

 (出来れば、月詠さんが良いけど此処には、月詠さんが二人いるから、この呼び方が言いやすいな)


「うーん、でもノブツナ くんはあにでしだから… …。」


「マナはあたまがかたいな、ノブツナがいいっていうだから、ノブツナでいいんだよ。」


「マ マヤ、マヤがノブツナってよぶなら、わたしもノブツナってよぶ!」


「え~と、二人の結論は真耶マヤ真那マナって呼んでいいって事だよね?」

「「うん。」」



二人は、私の問いかけに笑顔を浮かべ、元気よくOKの返事をしてくれた。

俺はその二人の笑顔に、一瞬目を奪われることになる。



そして意識を取り戻した瞬間、一瞬でも目を奪われたという事実に俺は戦慄を覚えたのだった。

馬鹿な…、年々、女中や秘書のお姉さん方に興味が無くなってきたと思っていたら…、自分がロリコンになっていたなんて~~~。


「そ そうか…。二人ともありがとう…。あっ、あー…、そういえば、真耶マヤ真那マナって姉妹なんだよね?」


「ちがうよ、ノブツナ。しまいじゃなくて、いとこだよ。」


「そうだぞ、ノブツナ。どうみたらたらしまいにみえるのよ?」







俺が、適当に受け答えをしながら心の中で身もだえしている間に、真耶マヤ真那マナの二人は俺と一緒に御剣家で食事を取り、同じ車で小学校まで通学することになってしまっていた。

この日を境に、俺たち三人は学校でも、道場でも同じ時間を過ごすことが多くなっていくのだった。



[16427] 第04話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/05 00:07


家族の前でBETAと戦う事を宣言した日から、俺は本気で歴史(原作)を変えようと動き始めていた。

まず、考えついたのが原作で遅れていた新型戦術機の開発を加速させる事だった。

その目標を達成するため、御剣グループをさらに強化していき兵器産業に参入し、戦術機開発に名乗りを上げる事にした。

小学生2年生になっていた俺は、会社経営に時間を割くために、小学校と交渉し出席日数を半分程度にすることを決める。

これは、小学校に多額の寄付をすると同時に、絶対成績を下げないという契約の基に実行された。

そして、各種兵器の研究開発に投資する一方で、大型の企業買収を次々と行っていった。

ターゲットとなったのは、技術はあるが経営が拙く、業績が伸び悩んでいる企業。

そういう企業を買収後、御剣グループの経営ノウハウを活かし、経営をスリム化。

御剣の財力と俺の不思議能力で、新商品・新規事業を立ち上げ、会社を無理やり成長させていくのだった。











1986年、BEATと戦うことを決意してから2年と少しの月日が流れた。

ここで、BETA戦の状況を確認しておこう。

ヨーロッパ
1985年にヨーロッパへのBETA侵攻により、西ドイツ、フランスが相次いで陥落。
その後パリでの攻防、ダンケルク撤退戦に続いて、英国本土攻防戦が始まる。
そして、今年フランス領リヨンに12個目のハイブ建設が確認される。
現在、イギリス・スペインの国境沿いで防衛戦を実施中。

中東諸国
1984年にアンバールハイブ建設された後、現在エジプト国境沿いで防衛戦を実施中。

亜細亜
1984年に喀什(オリジナルハイヴ)のBETAが本格的な南進を開始し、大規模BETA群がインドに侵入する。
現在インド周辺の各国軍は、ヒマラヤ山脈を盾に東南アジア諸国と緊密な連携を保ちながら戦闘を続けている。

中国
核による焦土戦術のためか、現在本格的な侵攻を受けず、防衛に成功中。

ソ連
政府機能をアラスカに移すも、シベリア東部で防衛戦を実施中。


結論を言うと、既にユーラシア大陸の半分をBEATに占領されていることになる。



俺はこの状況を打開すべく、戦術機のパーツ生産を行いながら、戦術機開発に名乗りを上げるチャンスを虎視眈々と狙ってきた。

そして、今年に入りようやく戦術機主機やES(強化外骨格)の開発・生産ノウハウを持つ、遠田技研の買収に成功したのだった。

この事を切掛けにして、御剣重工は本格的な戦術機開発に乗り出すことになる。


しかし、思ったように戦術機の開発は進まなかった。

どうしたものかと悩んでいると、そこに耳寄りな情報が入ってきた。

それは、1984年に米国軍で制式採用された、第二世代戦術機F-15『イーグル』の開発もとである、マクダエル・ドラグム社が輸出を開始し、
ヨーロッパへの輸出攻勢を行うが、EU独自の戦術機開発の話もあり、現在のところ大きな進展が無いというものだった。

俺は知識の中で、今後F-15『イーグル』が広く世界で使われることになる傑作機である事を知っており、
EU諸国が輸入を渋っているのは今だけだと考え、マクダエル・ドラグム社にライセンス生産の話を持ちかける事になった。

ライセンス生産には様々な条件が付くものの、次世代機の開発には必要だと考え、すぐさま導入を決定した。

そして、遠田技研で得た技術を応用し『イーグル』を日本向けに改良することにするのだった。










ある日、俺は道場脇にある射撃場で砲術の鍛錬をしていた。

この射撃場は普段弓術の鍛錬で使われる事が多い、その理由は砲術があまり学ぶものが多くないというのもあるが、
火薬を使っての砲術訓練がご近所のことも考えて出来ないからである。

したがって、現在俺は弓術に使う的に対して、エアライフルによる砲術の鍛錬を行っている。

このエアライフルは、競技用に作られたもので、調整することで子供でも使える低反動の練習銃として使える優れものだ。

火薬の爆発音や匂いも無いので、道場付近で砲術の鍛錬をするにはこのエアライフルを使っている。

また実銃での鍛錬は、月に数回狩りに出かける祖父についていった時に行うことにしている。

まだまだ未熟者だが、だんだん弾丸の軌跡を感じられるようになってきた。

後は、標的の動きを感じ取ることが出来れば、それなりの狙撃手になると師匠に言われたこともあった。


「フフフッ。」


俺は鍛錬後に予定されている仕事のことを考えると、こみ上げてくる笑いを抑えることが出来ず、
鍛錬中から奇妙な笑みを抑えることが出来なくなっていた。

その事に気がついた人物が、私に声をかけてきた。


「どうしたのよ信綱? 変な顔をして…。」


真那マナ、どうせ信綱のことだ。
 ろくでもないことを思いついたのよ。
 多分、私たちの知らない所で、新しい遊びを見つけたんじゃないか?」


「そうなの? また、一人でどっかに行っちゃうんだ…。」


どうやら、早めに今日の鍛錬が終わったために俺の様子をのぞきに来たのだろう。

そして、最近一緒に遊ぶ時間が取れないことに、大変立腹している様子だった。


「え…、べ 別に遊びに行くわけでは…。
 仕事に行くんだよ、仕事に…。」


「そうなんだ…、お仕事に行っちゃうんだね。
 今日も私たちとはあそべないんだ…。」


真那マナ、母上がこういう時になんと言えば良いのか教えてくれたわ。
 たしか、『わたしと仕事、どっちが大事なの?』よ。」


「う…、そ それは…。」
 (まさか、こんな所でそんな御決まりの台詞を聞く破目になるとは… …)


「「どっちなのよ、信綱。」」


「二人の方が大事です… …。
 で でも、今日はどうしても外せない用事があるか………ら…。」


「「信綱~。」」


「は はい。今日は、二人をお誘いして、出かける予定でした。
 どうか、わたくしと一緒にお出かけしていただけませんでしょうか。」
 (もう、どうにでもなれ…俺は知らん。)



「いいの? 信綱。」


「しかたない、つきあってあげる。」





鍛錬の終了後、簡単に食事をすませ三人で家の前に止めてあった車に乗り込むことになった。

その後私たち三人は、家から1時間ほど離れた御剣重工のとある工場に到着する事になる。

そして、様々なセキュリティーを抜け入った工場の中には……。

様々な配線やアクチュエータがつながれた、大きな鉄の箱が並んでいた。


「「信綱、あれはなんなの?」」


「ああ、あれは戦術機のシミュレータだよ。
 あれで、戦術機に乗る訓練をするんだ。」


俺の説明を上の空で聞いていた二人は、しきりに凄いという発言を繰り返していた。


「二人とも…、次のブロックに行くよ。」


そう声をかけて、私は次のブロックへ足を進めることにした。

後ろから慌てたように、私の後を二人がついて来る音が聞こえる。

そして、重厚なドアが音をたてて開くとそこには… …4機の第二世代戦術機 F-15『イーグル』がハンガーに並んでいた。



「す、すごい! 信綱、あれはなんなの?」


「あれはなんだ? 信綱」


「あれは、『イーグル』っていう戦術機だよ。
 今度、御剣重工で研究のために生産することになったんだ。

 4機ある内の半分は、米国製で残りの半分は日本製になっている。
 これから、不具合のチェックとか、米国製と日本製で性能に差がでないかとかの実験するんだ。」


「「ふぅ~ん。そうなんだ… …。」」


「やぁやぁ、御坊ちゃんと御譲ちゃん方、どうかしましたか?」


私たちが、『イーグル』を眺めていると、不精ひげを生やした中年のおじさんが声をかけてきた。


「ああ、親方。
 今日は初めて実機の戦術機が工場に届いたと聞いたんで、出来れば実機に乗ってみようかと思ってね。」


「坊ちゃん… …、いくら会社の重役だからって、こいつに乗せることは出来ませんぜ?」


「はは、わかっているよ。
 ただ、シートに座るだけで良いんだ。
 その後は、おとなしくシミュレータで遊んでいるよ。」


「そのくらいなら何とかなりますが…、坊ちゃんあまり長い間シミュレータを占領しちゃいけませんぜ。
 なんせテストパイロットの奴らが、坊ちゃんがなかなか替わってくれないと嘆いてましたんで。」


「わかった、これからは程ほどにしておくよ。」



そう言って、私と親方は戦術機のコックピットへ歩いていった。

後ろで真耶マヤ真那マナが騒いでいる声が聞こえたが、私は初めての戦術機の魔力に負けコックピットに乗り込んだ。

そして、コックピットの入口を閉じ、戦術機の電源を入れる。

そこで、俺の体にありとあらゆるイーグルに可能な動きとその操縦方法の知識が流れ込んできた。


やはりそうか、シミュレータは厳密には乗り物とは違うから、騎乗の能力が発動することは無かったが実機に乗れば… …。


俺は、今までのシミュレータ訓練では感じることの出来なかった感覚に、大きな歓声をあげた。


「ヒャッホー、やった やったぞ!」

「これで、御剣は後三年は戦える。」











俺が、戦術機の中で騒いでいると、外から大きな声が聞こえた。


「坊ちゃん、いい加減出て来てくだせい。これ以上は、約束違反ですぜ!」


俺は親方の声に、我を取り戻し戦術機のコックピットから出ることにした。

コックピットを出た先には、怒った顔で親方と真耶マヤ真那マナの三人が待ち構えていた。


「「「信綱ッ(坊ちゃんッ)!」」」
 

「いや~、すまん、すまん。つい興奮してしまって… …。

 そうだ!真耶マヤ真那マナ、シミュレータに乗せてやる。
 ついて来い!」




そう言って、俺はその場を切り抜けるのだった。

俺用に作られた子供用の強化服に着替えた後、真耶マヤ真那マナの二人を近くにいたテストパイロットに適正試験を行うように伝え押し付け、
俺はシミュレータ訓練に挑むことにした。

俺は、先ほど感じ取ったイーグルの操縦を一つ一つ試していく。

始めは、今まで行ったことの無い機動に戸惑うこともあったが、次第に俺の操縦は滑らかになっていった。

そして、短時間ながらイーグルで出せる理論限界機動を出すことも出来た。

俺は最終的に、以前までの記録を大幅に上回るスコアをたたき出し、シミュレータ訓練をする事が道楽ではないことを証明する事に成功したのだった。

この日を境に、俺がシミュレータ訓練を行うことを止める者はいなくなり、その後専用のシミュレータが用意され、
シミュレータでの動作試験を一部任せてもらえるようになっていく。


そして、本日の真耶マヤ真那マナの適正試験結果だが……思いっきり、戦術機酔いに苦しめられることになった。

Gの負荷は堪えるが振動がまったく問題にならず、戦術機酔いを経験した事が無い俺は、二人の様子に困惑するだけだった。

こんな状況では、二人がしばらくシミュレータに乗ることは無いだろうと考えていたのだが・・・、俺が乗れるんだから私も乗ると持ち前の
負けん気を発揮し、今後も訓練を続ける事になる。

原作の月詠 真那マナを見る限り、二人に戦術機適正があることは間違いないので、
今から訓練を行うことは将来きっと役に立つだろう。

さらに、俺が一人でシミュレータに乗るより三人で訓練することで、二人に遊ぶ時間が減ったと文句を言われなくなる事を考えると、
歓迎すべき状況なのだが……。

衛士訓練に力を入れないと、将来二人の後ろで逃げ隠れする破目になる俺の姿を感じ取り、
どうやって衛士訓練の時間をひねり出すか必死に考えるのだった。





御剣重工によるイーグルの改修は、マクダエル・ドラグム社からの協力も有ったため、順調に進む事になる。

また、真の目的であったと戦術機開発ノウハウの蓄積についても、同様に進められていった。

そんな最中、イーグルのライセンス生産の話を聞きつけた帝国国防省は、技術検証を目的とした試験導入を検討する動きを見せ始める。

そして、順調なイーグルの改修と進まぬ次世代戦術機開発プロジェクトのことを考慮し、帝国国防省は御剣重工のイーグル改修機を陽炎(仮)として、
12機を試験導入する事を決定した。

しかし、ここに来て大きな問題が生じ始める、俺としては本格的な量産をするつもりは始めから無かったのだが、
マクダエル・ドラグム社からの要請とアメリカ政府からの日本帝国政府への圧力もあり、陽炎(仮)の本格量産の話か持ち上がってきたのだった。

その話は、当然のことながら次世代戦術機の開発を行っていた他の企業(富嶽重工、光菱重工、河崎重工)からの猛烈な反発にあう。

また、日本帝国政府内も米国派と国産派に分かれて対立することになった。


国内での意見の対立が深まっていた1986年8月18日、日米合同演習にて82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』対 F-15C イーグルという組み合わせで、
DACT(異機種間戦闘訓練)が行われたというニュースが飛び込んできた。

驚く事にその戦闘訓練の中で、巌谷大尉が乗る瑞鶴がイーグルに勝利するという結果が得られたというのだ。

偶然にもこのニュースを聞いた日は、接近戦闘能力を強化し伝送系を全て御剣電気製に交換した、
日本向けのイーグル改修機である『陽炎(仮)』の開発に成功した数日後のことであった。

その後の話し合いの末、陽炎(仮)はF-15J/86式戦術歩行戦闘機『陽炎』として制式採用するものの、最大100機までの限定生産とする事と、
陽炎で第二世代戦術機の生産・改修技術を確保した御剣重工と御剣電気が、日本帝国の次世代戦術機開発プロジェクトに参加することが決定した。

これにより、戦術機の量産を行うという御剣の野望を挫くことが出来たと、他の企業は考えこの結果に満足する事になる。

しかし、御剣グループは米国側からの量産の圧力を政府の決定に従うと突っぱねることで、陽炎本格量産への設備投資を、
次世代戦術機の研究・開発資金に振り分け、戦術機開発を一気に加速させるのだった。



[16427] 第05話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/05 00:24


御剣重工が日本帝国の次世代戦術機開発プロジェクトに参加して以降、企業間の足の引っ張り合いや意見の不一致を目の当たりにした、
俺はストレスを溜め込んでいた。

そして、プロジェクトに参加してから三ヶ月がたったある日、俺の戦術機改良案を御剣重工で検討し、その中でいけると考えたプランを
いくつか次世代戦術機開発プロジェクトで提案してみたのだが… …。

一から戦術機を開発したことも無い企業が… …。

新参者の癖に… …。

といった、くだらない意見で十分に検討もされず却下されてしまったのだ。

その話を聞いた時、俺の怒りは頂点に達した。

そしてその事が、

国連において、日本帝国及びオーストラリアの常任理事国入りが決定(但し、日豪の拒否権は20年間凍結)。

琵琶湖運河の浚渫工事始まる。

に続く、その年に国内で起きた3大ニュースに数えられる出来事に繋がることになる。


その事件とは御剣グループが、10大財閥、16大財閥とも言われた財閥群に対して買収工作に乗り出す、というものだった。


始めは静観の構えを見せていた各財閥も、グループ企業がいくつか買収され始めると、反御剣同盟を形成しだす。

しかし、元々あった財閥間の対立につけ込み仲違いさせると、御剣グループは一気に攻勢に出るのだった。

この買収劇は、会社関係者に俺の名前を入れておけば、大きな損失を出すことは無いだろうという、賭けだったのだが… …。

その賭けは見事に成功を収め、買収合戦が泥沼化する前に事態は収束していく事になる。

結果いくつもの財閥が解体・再編され、日本の経済界における勢力図は大きく変わることになった。

1988年2月現在ではまだ決定ではないが、恐らく日本の財閥は6個まで数を減らすことになるだろう。

その中で御剣財閥は、上から5番目の地位を占めることになりそうだった。

そう、上から5番目だ。

けして下から2番目では無いのだ、ここは重要なので覚えておくように…。








御剣グループが財閥群に対して、買収合戦を仕掛けそれに勝利し、御剣財閥と呼ばれるようになったことは、
次世代戦術機開発プロジェクトにも大きな影響を与える事になる。

次世代戦術機開発プロジェクトに対する協力を今まで通り続けることを条件に、次世代戦術機開発プロジェクトの技術を生かした、
別の戦術機開発を行うことを許されたのだった。

俺がここまで新たな戦術機開発にこだわった理由は、このままではBETAが日本に侵攻してくる前に、
現行の次世代戦術機開発プロジェクトで生み出されるであろう、第3世代国産戦術機『不知火』の本格量産が間に合わないことを確信したためだった。

86式戦術歩行戦闘機『陽炎』の早期導入と御剣財閥の参加で、開発速度は加速するだろうが、元々高機能,高コスト,低発展性の機体ゆえ、
現行案の不知火の仕様のままでの本格量産には問題が多すぎたのだ。

また、イーグルを導入したアメリカでさえそのコストゆえに、F-16『ファイティングファルコン』を導入し、
「Hi-Low-Mix」のLowの部分を担わせざるおえない状況に落ちいっていた。

ファイティングファルコンが導入されたのは、イーグル開発完了から2年も後の話なので、不知火の生産開始後から低コスト機を開発しても、
BETAの日本侵攻前に十分な数の次世代戦術機を揃えることは不可能に近い。

つまり、日本帝国は多くの第1世代戦術機『撃震』を抱えた状態でBETAの侵攻を受けることになるのだ。

無論、撃震が役立たずというわけではない、防衛線を構築した上での戦闘や市街地戦 等、BETAの進行をある程度拘束した状態でなら、
まだまだ活躍の場が期待されている。

しかし、原作で語られたような電撃戦に近いBETAの進行の前では、機動力の低さが致命的な問題になってくる。

撃震では戦場に取り残され、補給に戻ることすらかなわず撃破される恐れがあるのだ。

俺はそうした問題点を解決する手段として、原作で存在しないはずの御剣財閥を使って、
この時期に不知火の低コスト機として第3世代国産戦術機『吹雪』を開発することを決めたのだった。

そして、これらの買収劇や戦術機開発への大規模な介入は、俺の心境にも大きな変化をもたらしていた。

財閥解体と御剣独自の戦術機開発を指示してから、俺の中である思いが膨れ上がってきていたのだ。

それは、本当に自分の選択が間違っていないのか?という思いである。

自分が、御剣財閥を指揮して世界を引っ張っていく事に、不安を感じ始めたのだった。

ただ・・・、これは未来を変える事自体への不安ではなく、俺が主導する事が正しい向きになっているか?という不安である。

正直に言って、今の俺が企業を経営していくにふさわしい能力を持っているとは思えない。

また、2000年ごろまでなら未来知識で正しい経営の方向性がなんとなく分かるが、それ以降の経営方針が俺には無い。

この状況で、世界を導くという立場に収まることは問題では無いだろうか…。

あくまで俺は、お金が集まる事を除けば身体能力が高く記憶力が良いだけで、まったく新しい発想で戦況を覆すような天才ではない。

最近は、天才の名は香月博士にこそふさわしいと、つくづく実感する日々だったのだ。

では、自分が世界を導く才能がなければ、どのように対処すればよいのか?

俺の出した結論は、自分で全ての事をやらない、わからない部分は他人に任せるというものだった。

計画の作成はあくまで俺以外の天才・秀才たちに丸投げして、俺はその話を聞きながら最終的な決定だけをすればよい。

まるで、どこかの王様のような考え方だったが、その考えは俺が積極的に指導するより、よっぽど上手くいきそうな気がするのだ。

更に、これからは軍の改革も必要になるだろう。

軍は外部から改革しようとすれば、武力で訴えてくる可能性がある厄介な組織だ。

軍の改革はあくまで、軍内部から行わなければなら無いという事だろう。

現在、父親や醍三郎さんのように斯衛軍の知り合いは多いが、帝国軍や国連軍に所属している大物の知り合いはいない。

そして、これから帝国軍や国連軍で大物になりそうな知り合いも無し…。

これは、自分で動き回ってコネを作るしかなさそうだ。

俺はこれらの結論に達してから、本格的に御剣財閥以外の力を求める事を考えるのだった。








2月中旬

帝国議会で、衛士の育成を主眼に置いた全面的な法改正が可決され、義務教育科目の切り捨てや大学の学部統廃合が始まる。

というニュースが飛び込んできた。

この事は以前から噂になっていたのだが、ここに来て急に法案が可決されることになったのは、
恐らくインド亜大陸の戦況が思った以上に悪かったためだろう。

それを示すかのように昨年から日本帝国軍は、国内展開専任部隊として本土防衛軍を創設するなど、軍の再編を急いでいるようだった。

俺はこの教育基本法全面改正を機に、一気に進級を進め社会的な足がかりを作り、将来的に軍に入隊することを家族に伝えることにした。

そして、御剣財閥は急に大きくなりすぎた事と、俺のワンマン気味の経営が今後問題となる可能性があるため、
段階的に俺が関る比重を削減していき、しばらくの間御剣財閥での仕事を最小限に抑えることを宣言するのだった。



今回の教育内容改訂で、進級するチャンスが年二回となり予定通りに進級が進めば、4月に5年生,9月に6年生,
来年3月には小学校を卒業出来るはずだった。

今の知識量を考えると小・中学校を卒業することは問題が無い、したがって高校入学までには時間的余裕がある。

そこで、俺は今まで暖めてきたある作戦を実行に移す事にしたのだった。


俺は今まで、ありとあらゆる伝を使って煌武院家に出入りできるよう話を進めていた。

俺が、煌武院家に出入りしたかった理由…それは冥夜と悠陽を仲良くさせたかったからだ。

妹を幸せにする事は、兄として避けては通れない道なのである。

そして、1990年6月になってようやく悠陽と面会する事が許されるようになった。

そこで俺は護衛や侍女に見えないように、妹である冥夜の写真を見せる事に成功する。

まだ6歳であったが聡明な悠陽は、自分と驚くほど似ている他人に強い興味を持ったようだった。

その後、会う度に護衛や侍女に気づかれないように冥夜の事を少しずつ話していった。

また、それと同時に妹の冥夜にも家族に隠れて悠陽の事を話していった…。









そして、俺を通じて手紙のやり取りを始めた二人は、次第に会いたいと言い出すのだった。

この状況は、ある程度予想していたことだったが、実際に二人を会わせる計画を立案するにあたって、大きな困難があることに気づかされる。

今の冥夜の能力では、煌武院家のセキュリティーを抜くことは難しく、悠陽を御剣家に呼ぼうにも冥夜が居るために
煌武院家が首を立てに振らないのだ。

そこで俺は一計を案じる事にした、夏休みを利用して冥夜が母親と一緒に、県外へ旅行に行ったように偽装したのだった。

それと同時に、悠陽に一日の休みが有るように取り計らう。

この偽装と悠陽の御剣家訪問には、まるで蛇のコードネームを持つエージェント並みの涙ぐましい努力があったのだが、ここでは割愛させてもらう。

ともかく、あらゆる人脈と裏工作のお陰で、悠陽を御剣家に連れて行くことに成功したのだった。




俺は、何がなんだか分からず呆然としている冥夜を、俺の部屋の押入れに押し込み御剣家に到着した悠陽の迎えに出ることにした。

俺が門を出たとき、丁度御剣家前に止まっていた大きな車から悠陽が下りてきた。


「お久しぶりです。悠陽様。」


「ノブツナ さま…、そのようなよびかたはいやともうしましたのに…。」


「はは、すまん。でも、悠陽が初めて御剣の家に来たんだ。
 最初だけでもカッコ付けさせてくれよ。」


「まあ、そうなのですか? 
 これが、おとこのかいしょうとおっしゃるものなのでしょうか?」


「いや…、それとはだいぶ違う気がするぞ。」


俺たちは、この様な会話をしながら御剣の屋敷に足を進めた。

こんな時でも、悠陽にはしっかりと護衛を兼務する侍女がついてくるのだが…、普段よりも護衛の数が圧倒的に少ないようだ。

それはそうだろう、御剣家と煌武院家の仲はいたって良好だ。

御剣家にも警護の者はいるので、信頼の証として最小限の護衛にすることにしたのだろう。

こちらの悪巧みに気づくことなく・・・・・・。


そして、悠陽お付の侍女への対処は家の女中達に任せることにした。

日ごろから、この侍女に大変御世話になっているという話を広めておけば、家の連中が接待攻勢にでることはわかりきっていた。

この接待攻勢により、見事に侍女を排除することができた。

これにより全ての障害は取り除かれ、ついに俺は無事に悠陽を俺の部屋に招き入れる事に成功したのだった。






「まあ、ここがノブツナさまのへやなのですか?」


「ああ、そして此処にいるのが妹の冥夜だ。」


俺はそう言って、おもむろに押入れの襖を開けた、すると中から冥夜が勢い良く飛び出してくる。


「あにうえ! なぜ、このようなばしょにかくれなければならぬのです……か…?」


押入れに入れられたことを怒る冥夜だったが、俺の隣にいる悠陽に気が付き怒りが尻窄みになっていく。


「あにうえ? こちらのかたは?」


「ああ、前から言っていた煌武院 悠陽だ。
 どうだ、お前に似てかわいいだろ。」


俺はそう言って、冥夜に悠陽を紹介する。


「あなたが、ゆうひさまなのですか?」


「そなたが、めいやなのですか?」


初めての対面に戸惑う二人だったが、直ぐに何かを感じたのか少ないながら会話をするようになってきた。

その様子を見て安心した俺は、見張りもかねて外で待機しようと思い、部屋から立ち去ろうとした。


しかし、俺は両方の袖を捕まれ、立ち去ることが出来なくなってしまった。


「「あにうえ(ノブツナさま)、どちらにいかれるのですか?」」


「いや~、後は若い二人に任せてといいますか、なんと言いますか…。」


「ほんじつは、ノブツナさまとあそぶということで、みつるぎけにまいったのです。
 それなのにノブツナさまは、わたくしとあそんではくださらないのですか?」


「さいきんのあにうえは、つくよみたちとあそんでいるときも、こうやってにげるのです。
 わたしとあそぶのが、おいやなのでしょうか…。」


「まあ、そうなのですか?
 ノブツナさま・・・、いもうととあそぶのも、あにとしてのやくめですよ。」


今日始めて会うはずなのに、なんと息の合った連携なのだろう。

双子、畏るべし!

これではまるで、俺がだめな兄貴みたいじゃないか。

そう思い、一応反撃を試みてみることにした。


「今日は二人を会わすことが目的だったんだ。
 だから、今日は二人で思いっきり遊んでもらわないと…。

 あまり、言いたくは無いが二人を会わすのを良く思わない人たちもいるんだ。
 だから、見張りとして外で待機しておくよ。」


「そのことは、うすうすかんじてはいたのですが・・・・・・、ですがノブツナさまをそとにまたすというのも……。」


「しかしあにうえ、あそぶといってもあにうえのへやには、あそびどうぐがありません……。」


「馬鹿な、この兄をなめるな。
 こんなこともあろうかと……、あろうかと……。」


俺は自分の部屋を見て愕然とした、そこには本が積み上げられているだけで、どこにも遊ぶ道具が見当たらないのだ。

これから、三人で御勉強というわけにもいかないし…。

まさか、二人に木刀を渡して遊びなさいと言うわけにも……。

数年前の俺の部屋は、新作のおもちゃで溢れていたのになんてざまだ。

絶望した! 二人を会わせるのに必死で、会わせた後の事を忘れていたなんて…。

自分の才能の無さに、絶望した。


俺がその場に崩れ落ちると、二人がやさしく励ましてくれるのだった。


「あにうえ、あにうえがいるだけで、わたしはうれしいです。」


「そうです、ノブツナさまはよていどおり、わたくしたちとあそべばよいのです。」


「そうかぁ、ありがとう二人とも。俺は全力でお前達と遊ぶことにするよ。」


俺達三人は、悠陽が偶然持っていた小さな人形を使って、ままごと遊びに興じることになる。




そしてその2時間後、再び二人は別れる事になった。

二人は別れを惜しんでいるようだったが、俺が再び会える機会を用意する事を約束すると、二人はようやく笑顔を取り戻してくれた。

俺は二人の笑顔に安堵しながらも、今度はどの様な手段で会わせようかと必死に知恵を絞ることになるのだった。

















 そういえば、俺が冥夜の部屋に遊び道具を取りに行けば、二人で遊べたんじゃないか?


「「だめです。」」


俺はその息の合った返事と、笑顔で怒るという二人の表情に戦慄を覚えるのだった。




[16427] 第06話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/05 00:35


御剣財閥誕生から、3年程が経過した1991年。

昨年より始まった大規模BETA群の東進により、ユーラシア北東部,東アジア,東南アジアは主戦場と化していた。

そして日本帝国は、BETAの東進を自国の危機と判断し、東アジア戦線への帝国軍派遣を帝国議会で決定する。

そんな激動の時代に、いよいよ第3世代国産戦術機のトライアルが行われ、富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の
四社合同で開発した『不知火』と、御剣財閥で開発した『吹雪』が量産機の座を争う事になった・・・。






現在俺は13才という年齢ながら、高校2年生をやり無現鬼道流を学び、会社の重役も務めるという多忙な日々を送っている。

そして、夏休み明けには高校3年生に上がり、来年の春には大学生をしている予定だ。

そんな俺が今いる場所は御剣重工の会議室、ここでは後二週間に迫った第3世代国産戦術機トライアルで行われる事になっている、
プレゼンテーションの対策会議が行われていた。

俺は吹雪の開発での苦労を思い出し、プレゼンテーションの内容を感慨深い思いで聞いていたのだった。

吹雪の開発に関して、当初の俺は開発を指示するだけで余り深く関るつもりはなかったのだが、
吹雪開発には予想以上の大きな困難が待ち受けていたために、深く関らざるおえない状況に陥る事になる。

開発が難航した理由は、不知火の開発にメインの人材が投入されていたために残っていたのが、
経験はあるが考えが古いベテランと知識はあるが経験が浅い若者が殆どだったためだ。

つまり、俗に言う油の乗り切った世代が不在だったのだ。

俺は人員不足をカバーするために、グループ各社から使えそうな人材を集めると共に、自分の特殊能力をフルに活用する破目になる。

俺が持つ特殊能力とは、乗り物に乗るだけでその乗り方や乗り物の性能・特性を理解する事ができる騎乗という能力だ。

俺は日々改良を加えられる不知火のコックピットに座ることでその性能や特性を感じ取り、
それを吹雪と比較してどの部分がどれだけ異なっているかを吹雪の開発者達に報告をするのだった。

これは、吹雪の開発には不知火というベースが有るからこそできる裏技に近いものだったが・・・。

ともかく、俺が指摘した所は多岐にわたり、それを抜粋すると以下のような事があった。


「不知火に対して、膝関節がふにゃふにゃしすぎじゃないか?
 具体的に言えば、強度が30%ダウンくらい。
 テストパイロットに、この程度の強度で実戦で通用するか確認してきて~。」


「この間不知火で導入したパーツを吹雪に導入すると、反応速度が3%ほど上昇するけど、コスト的にいるの?」


「このモーションをすると、ここの装甲が干渉しているんだけど大丈夫?」


「昨日交換した低コストのパーツだけど・・・、性能低下は1%以下だからそれほど性能には響かないよ。」





俺に深い工学知識が無いので具体的な利用は説明できていないが、実際に耐久試験やモーションチェックを行うと、言った事に近い結果が出るのだった。

そのため開発者たちから、コックピットに乗せるだけいい万能センサーやスカウターの様に扱われる事になる。

また、実機に乗らない場合でも実機とシミュレーターの違いを指摘し、吹雪のシミュレーターデータを揃えていった。

このことが、どれほど開発に影響を与えたかははっきりとはしないが、トライアルまでに吹雪を満足できる状態に仕上げることが出来ていた。

また、戦術機に乗っていると興奮してしまい、色々なお願いをしてしまう事があった。

それらは、開発者やテストパイロットの意見を聞いたうえで、一部が採用されることになる。







「他の企業からは、以上のような不知火についての報告が行われるはずです。
 次に、吹雪についての説明に入りたいと思います。

 吹雪は、不知火の低コスト生産機というコンセプトの基、開発された機体です。
 それゆえ、機体の60%は不知火のパーツをそのまま使用しております。
 したがって、今回は不知火とは異なる部分を抜粋してご説明します。」


1.装甲形状の簡略化
特に、上半身の装甲は簡素な形状に変更され、肩部装甲は限界まで切り詰められている。

2.主機・跳躍ユニットの変更
主機・跳躍ユニットに使用される部品の材質を見直すことで、コストダウンを図る。
ただし、これにより主機・跳躍ユニットの出力が8%ほど低下。

3.電子戦装備の制限
指揮官用の頭部ユニットを持った機体と情報をリンクさせることで、通常の吹雪に搭載されるセンサー類,対電子戦装備を必要最小限に抑えた。
指揮官用の頭部ユニットとの情報リンクは、不知火との情報リンクで代用可能。

4.ナイフシースの変更
不知火で前腕外側部に装備されている接近戦闘短刀格納モジュール、通称ナイフシースの場所を脇腹部に変更。
脇腹部より飛び出したナイフを、鞘から抜くようにして取り出す簡易な機構とした。
これにより、複雑な取り出し機構を簡略化しコストを削減、ナイフシースが有った部分には、小型のカナードが装備された。
総合的に前腕部の重量は軽減され、これにより前腕の稼動速度が向上した。

5.内蔵式カーボンブレードの搭載
前腕外側部に飛び出し式のカーボンブレードを装備。
65式接近戦闘短刀を抜く暇も無いときに使用される、補助的な役割を持つ。
収納時にはそれ自体も装甲として機能するように考えられており、重量増加を最小限に抑えている。

6.小型可動兵装担架システムの搭載
背面に2基搭載されている可動兵装担架システムを小型化したものを腰部に搭載。
これにより、予備弾倉や小型ドロップタンク(使い捨て外付け小型燃料タンク),新開発の手榴弾 等小型で軽量の物を搭載することが可能になる。


「以上の変更により、主機・跳躍ユニット出力の低下を機体の軽量化により相殺し、機動力・運動性の低下を最小限に留めることができました。
 したがってギリギリではありますが、帝国軍の要求と第3世代機の仕様を満たす機体となっております。

 ただし、ギリギリとはいえ紛れも無い第3世代機である吹雪は、現在帝国軍で配備されている戦術機をはるかに上回る性能を有していることは
 間違いありません。
 また、機体制御システムの改良により性能の底上げが可能、という報告も上がってきている事や、不知火とは異なりある程度の発展性を
 確保している事から、今後の性能向上が期待できます。

 そして一番重要な生産コストですが、現在予定されている不知火の調達枠の半分をいただけるとして、不知火10機のコストで吹雪は
 15機揃えることが可能です。
 もし、吹雪が現在のF-4J『撃震』と同数の生産台数が確保されるなら、不知火10機のコストで吹雪は18機調達できるという試算も出ています。

 御剣重工といたしましては、吹雪と不知火のどちらかを選択するのではなく、二機をアメリカのF-16『ファイティングファルコン』と
 F-15C『イーグル』の関係・・・。
 つまり、『Hi-Low-Mix』での運用を前提に次期量産機として提案したいと思います。」


開発者による吹雪の報告が終わり、質疑応答の時間に入った。

様々な意見が飛び交う中、俺はトライアルでどうしてもやりたいことがあり、この場にいた御剣重工幹部に対して要求を突きつけることにした。


「俺は、吹雪の完成度に大変満足しているが、このままじゃ不知火に一方的に負ける可能性がある。
 なぜなら、有視界での撃ち合いや一撃離脱の戦闘なら性能はほぼ互角だが、それ以外の性能では不知火に劣っているのが現状だ。
 コスト以外でインパクトに欠ける吹雪は、頭のいい人たちなら重要性がわかると思うが、
 頭の固い連中にはまったく相手にされないかもしれない。

 今回のトライアルでは予定されていないが、同程度のコストで揃えた中隊規模でのトライアルを提案できないか?
 具体的に言うと吹雪12機対不知火8機もしくは、吹雪12機対不知火6機+撃震6機でだ・・・・・・。

 私見だが、面白い結果が得られると考えている。」


始めは、中隊でのトライアルの提案を渋っていた幹部だったが、中隊規模の第3世代機を揃えることで得られる戦闘能力の話を行い、
もし中隊規模でのトライアルで吹雪が負けるようなことがあれば、責任は俺が取ると話すと素直に了承してくれたのだった。









トライアル当日、俺は特別に招待されトライアル会場に来ていた。

しかし、トライアル中に行われる会議に参加する予定はない。

軍人さんは、こんな子供がいる事をよく思わないだろうし、何かあった時に俺自身が会議中に爆発してしまいそうだからだ。

会場をぶらぶらしていると、厳ついおじさんに出会う。

俺の方には、用事がなかったので会釈して立ち去ろうとしたところ、向こうから声をかけてきた。


「君が御剣 信綱君かね。私は巌谷というものだ・・・。」


何でも、この巌谷さんは帝国軍の大尉で衛士をしているらしい。

俺はその珍しい名字と衛士という話を聞いて、ある人物を思い出した。


「間違っていたらすみません、もしかして瑞鶴でイーグルを落とした巌谷さんですか?」


「ああ、私がその巌谷で間違いない。」


「あなたに会ったら、是非お礼を言いたいと思っていたのですよ。
 ありがとうございます、あなたのお陰で陽炎を本格量産せずにすみました。」


私のその発言に、巌谷さんは軽く驚いた表情を見せた。


「まさか、その事で礼を言われるとは・・・・・・、もしかしてそれは君なりの皮肉なのかね?」


「いえ、本心ですよ。

 元々、陽炎は研究のつもりで導入した機体だったので、量産の検討すらしていませんでした。
 それを、米国の方が乗り気になってしまって・・・。」


「そうか・・・、そう言ってもらえると気が楽になる。
 これでも戦術機の開発に携わっていたことがあってね。
 戦術機の開発の苦労を知っているだけに、イーグルを改修した者達の努力を無駄にしてしまったのでは無いかと、心配していたのだ・・・。」


「陽炎に対する投資が少なかった分、今回トライアルに出した機体たちに力を注ぐことが出来ました。
 ところで巌谷さん、今回のトライアルに参加した戦術機について、戦術機開発の先人として何か意見はありませんか?」


「それは、不知火に関してかね?
 それとも君が主導して開発した吹雪に関してかな?」


巌谷さんはそう言って、こちらを厳しい目で見つめてきた。


「もちろん、吹雪に関してのことです。
 現時点でも、不知火は疑いようが無いほど優秀な機体ですから・・・。」


「では、その不知火に全ての点で劣る戦術機を開発した理由は何かね?
 それを聞かないことには、私から言う事は何も無いな。」


「巌谷さん、訂正して下さい。
 何点かにおいて、吹雪は確実に不知火を上回っています。」


「ほう、ではその点を言ってみろ。」

 
「吹雪の開発コンセプトは低コスト第3世代機です。
 その吹雪が不知火に勝る点は大きく三つあります。

 まず一つ目は、稼働率と整備性です。
 吹雪は、その開発過程において極限まで無駄を省くことでパーツ数を減らし、一部の機構に第一世代機や第二世代機に使われている
 信頼性の高いものを採用しています。
 それにより、整備時間の短縮やパーツの確保が容易になりました。

 そして二つ目は、必要とする衛士適正が低い点です。
 不知火はその高い性能ゆえ、衛士に高い技量と適正を要求しています。
 このままでは、不知火に機種転換が行えず撃震に乗り続ける衛士がでてくる恐れがあります。
 それに対して、主機・跳躍ユニットの出力を抑え、軽量化により機動力と運動性を確保した吹雪は、衛士にかかる負担が軽減されています。

 最後が、生産性です。
 吹雪はコスト削減と同時に、生産に要する時間も大幅に削減することに成功しています。
 今後の対BETA戦では、優秀な戦術機を数多く揃えることが必要になります。
 そのことを考えると、撃震と入れ替えで導入するには、吹雪が最適な機体であるといえます。

 以上が、吹雪が不知火に勝る点です。
 したがって、吹雪は戦術機としての性能は不知火に劣っているものの、兵器としては上回っていると考えています。」


俺は、ここまでの内容を一気に喋り終えた。

巌谷さんは、俺の説明に少し考える様子を見せた後、さらに質問を投げかけてきた。


「君がそこまで、戦術機の量産にこだわる理由は何だね?
 幸い、帝国は対BETAの矢面に立っているわけではない。
 不知火でも十分数を揃える事ができると思うのだか・・・。」


ここで、未来知識から10年以内に帝国はBETAの進行を受け、国土の半分が蹂躙されることがわかっている事や、不知火の量産が思ったほど進まず、
多くの衛士が撃震で戦い命を落としていくことを知っているなどと言えるわけがない・・・。

俺は開発当初の理由を誤魔化しながらも、BETAが東欧に侵入してからヨーロッパを席巻しイギリスに進行するのに10年ほどしかかからなかった事から、
去年から始まったBETAの東進も10年ほどで帝国に到達する可能性がある事。

大陸に派兵が決定した今、帝国は不知火にだけ資金を注入することもできず、このままでは量産が中途半端なもので終わってしまう恐れがある事を
話していくのだった。

その後、話題が吹雪開発秘話に及んだところで、巌谷さんを呼びに士官の方が来た。

どうやら、これからトライアルの会議に出るらしい。

俺は去り行く、巌谷さんに対して声をかけた。


「巌谷さん、結局のところ吹雪はどうなのですか?
 教えてください。」


「実際に乗ったわけではないのでなんとも言えないが・・・、君の話を聞く限り悪くは無いと思うよ。
 なかなか面白い話が聞けた、信綱君 ありがとう。
 今度会う時は、戦術機以外の話が出来るといいな。」


そう言って、巌谷さんは去って行ったのだった。



この時の巌谷さんとの会話が、その後の会議にどのように影響を与えたか分からなかったが、この日のトライアルの結果は結論を先送りし、
後日行われる中隊規模での再トライアルで結論を出すことに決まった。

後日行われたトライアルでは、吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火8機と吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火6機+撃震6機の2パターンが
比較された。

吹雪12機対不知火8機のトライアルでは、運動性及び短距離の噴射跳躍を行う戦闘機動では互角の性能を有するため、
戦闘地域が限定されたトライアルでは単純に数が多い吹雪が勝利する形になる。

吹雪12機対不知火6機+撃震6機トライアルでは、第3世代機の不知火と第一世代機の撃震という、戦闘機動力がまったく異なる機体を中隊規模で
運用・連携することの難しさが浮き彫りになり、連携の隙を突かれ撃震が全滅すると後は数に勝る吹雪の独壇場となって行く。

そしてトライアルの結果は、すべての対戦で吹雪を駆る中隊が勝利するという圧倒的な差を見せ付ける事になった。

その結果を受け、不知火をエース・特殊部隊用、吹雪を一般衛士用として採用するという結論が出された。

また、吹雪の独自装備となっていた内蔵式カーボンブレードと小型可動兵装担架システムについて、トライアル中に有効に活用される場面が
多くあったため、不知火への搭載が検討される事になる。

不知火の量産時には、不知火と吹雪の設計が近かった事と重量の増加が大きくなかった事から、不知火にも内蔵式カーボンブレードと
小型可動兵装担架システムが搭載される事になった。

今年中にも不知火の先行量産型40機、吹雪の先行量産型60機が帝国軍に納入され、実戦に投入される予定になっている。



俺は第3世代戦術機の実戦投入を機に、各社で開発した兵器を実戦で検証する実験部隊の設立を帝国軍に提案する事にした。

その話は各企業の共同提案という形で、帝国軍に打診された。

実験部隊は各企業の意向が強く反映するものだったが、戦闘員は帝国軍に所属する事,かかる費用は全て企業が持つ事,
検証結果を全て帝国軍に報告する事を条件に、帝国軍は承認を出すことになった。

各企業はこの実験部隊を使い、合同で新兵器・他国の戦術機の実戦データを取っていくことになる。







12月16日

本日は俺の妹である御剣 冥夜と双子の姉である煌武院 悠陽の誕生日である。

俺は悠陽からの招待で、煌武院家で開かれる悠陽の誕生日を祝う宴に参加することになっていた。

悠陽の誕生日を祝うと同時に、この宴の間に冥夜と悠陽を会わせるために、決して煌武院家の敷居をまたぐことを許されないはずの冥夜を、
俺の友人という設定で男装を施し煌武院家に進入させる事になった。

冥夜がばれずに煌武院家に入れる事になったのは、残念ながら俺の力ではない・・・、俺の母が協力してくれたためだ。

俺と冥夜が母に連れられて煌武院家まで来ると、悠陽の母親に出迎えられノーチェックで煌武院家の中に入ることができたのだった。




母が冥夜と悠陽の面会に協力してくれるようになったのは、俺が必死に説得したからだ。

俺が母を説得した理由?

何のことは無い、初めて冥夜と悠陽を会わせた次の日、旅行から帰ってきた母に二人を会わせた事が即効でばれ、説得するよりほか無い状況に
追い込まれたからだ。

幸いにもあの時点で、悠陽と冥夜の面会の事実を知っているのは母だけだった。

俺は、当時10歳だったのでギリギリいけるだろうと思い、母に甘えながら説得を開始する。

なかなか納得してくれない母に対して、最後の方は熱くなってしまい、


「本当の姉妹が離れ離れなんておかしいよ!」

「冥夜と悠陽には、必要なことだ・・・・・・。」

「俺は、冥夜と悠陽を幸せにするんだ!!!」(兄として)


とか適当な事をまくし立てたら、何故か協力してくれることになっていた。

何故だろう?

母は話の最後に、


「信綱さんと悠陽さん,冥夜さんは6歳も年が離れているのですよ?」


と良くわからない確認をしてきたが、俺はその問に自信満々で返事を返すのだった。


「それが、どうしたというのです。

 些細なことです。」(だって、兄妹だからな)


その後、母は悠陽の母親を説得することで、年に2回二人を会わせる事が出来るように取りはからってくれたのだった。




宴の中で目立たない位置にいた俺と冥夜は、頃合を見て悠陽とアイコンタクトを取り、悠陽の部屋へ向かう。

悠陽の部屋に到着すると、二人は互いの誕生日を祝うと共に久々の再開を喜び合うのだった。

そしてしばらくすると、俺も二人の会話に参加することになった。


「信綱様、冥夜の習い事は順調なのでしょうか?
 冥夜に聞いても、最近は詳しく教えてくれないのです。」


「ん? 最近の冥夜か・・・?
俺が直接見たわけではないが、無現鬼道の鍛錬に積極的に取り組むようになってきたらしい。
 祖父さんは、何か目標が定まったからだと言っていたが・・・。
 
 どうなんだ冥夜?」


「兄上! 私は普段通りに鍛錬をしているだけです。
 悠陽さまこそ、最近は習い事についての話を誤魔化すようになりました。」


「ん? ・・・悠陽も順調に習い事を修めているらしいぞ、特に最近は神野無双の鍛錬に力を入れていると聞いた。」


「信綱様・・・、冥夜には内緒にするようにと申したでは無いですか・・・。」


冥夜も悠陽も最近、のびのびと修行をするようになり、実力が上がっているようだ。

やはり、ライバルがいるということは、成長を促すいい材料になるのだろう。

俺はその後、何時ものように二人の遊びに参加していく事になる。

この時の俺は、この時間帯なら悠陽の部屋に誰かが来ることは無いだろうと油断していたのだった・・・。

これがある悲劇キゲキを生む切っ掛けになるとは、想像もしていなかった。




コンコン


「失礼します。悠陽様、こちらに信綱殿が来ていなでしょ・・・ ・・・。」


俺達が悠陽の部屋で遊んでいると、突然真耶マヤが部屋にやってきた。

そして、遊んでいる俺達の顔を見て驚きの表情を浮かべるのだった。


「信綱、どうして冥夜がここにいる!

 貴様は煌武院家からの連絡を・・・・・。」


俺は真耶マヤの声で女中が駆けつけるのではないかと考え、慌てて手で真耶マヤの口を塞ぎ、体を拘束しようとした。

しかし、真耶マヤも無現鬼道を修めている猛者だ、当然のように抵抗することになる。

そしてもみ合いの末、気が付いたときには俺が真耶マヤの上に馬乗りになり、手首を一本ずつ押さえつける態勢になっていた。


真耶マヤ、説明するから静にしてくれ・・・。」


「私は月詠だ・・・。五摂家からの要求には可能な限り応える義務がある。
 貴様の話は聞けないぞ・・・・・・。」


そう言って、真耶マヤは大きく息を吸い込んだ・・・。
どうやら大声を出して応援を呼ぶ気らしい。
どうする・・・、俺は真耶マヤを圧倒できる実力が無いため、手で口を塞げば拘束を解かれる恐れがある・・・。
そうなったら、真耶マヤが応援を呼ぶことを防ぐことが出来なり、もう二度と冥夜と悠陽を会わせる事が出来なくなる・・・・・・。

俺はこの一瞬の間に、恐るべきアイデアを閃き、深く考えることなくアイデアを実行した。

アイデアが閃いた瞬間だけは、天啓だと思ったんだが・・・・・・。


「誰・・・。んっんーーーー。」


俺は、叫ぼうとする真耶マヤの口を自らの口で塞ぐのだった。

急に抵抗が激しくなった真耶マヤに焦り、真耶マヤの息を吸出し酸欠にさせるという行動にでる。

真耶マヤは混乱していたためか、鼻から呼吸が出来ることに気が付かず、次第に抵抗する力をなくしていき、ぐったりとなった。

俺はその隙を突き、ベッドのシーツで真耶マヤの体と口を縛る事に成功する。



しかし、悲劇キゲキはここで終わらなかった。


「悠陽様、どうかされましたか?
 部屋の扉が開きっぱなしに・・・。

 信綱! 何をやってしているのだ!」


何と、真那マナまで悠陽の部屋にやってきたのだ。

悠陽の部屋に来た真那マナが見た光景・・・、それは真那マナをシーツで縛り上げた直後の俺の姿だった。

その後真那マナがどうするかは、分かりきっていた・・・。

俺は叫ぼうとする真那マナに飛び掛かり、もみ合いの末、手首を一本ずつ掴み壁に押し付ける態勢に持ち込んだ。

そして、真那マナの口を塞ぐために真耶マヤと同様の口封じをするのだった。



真那マナ真耶マヤと同じようにシーツで縛り上げた後、正気を取り戻した俺は後悔の念に苛まれていた。

俺は、なんてことをしてしまったんだ・・・。

緊急時とはいえ、真耶マヤ真那マナに無断で二人の唇を奪う結果になってしまった・・・、もしやこれは強姦罪が適応される事例ではないか?

さらに、真耶マヤ真那マナ以外の二人の少女にも深い心の傷を負わせたかも知れない・・・。

俺が頭を悩ましていたところ、先ほどまで呆然としていた冥夜と悠陽が興奮した声で話しかけてきた。


「兄上! さっきの技は無現鬼道の奥義の一つなのですか?
 月詠たちが成す統べなく無力化されるとは・・・、恐ろしい技です。」


「冥夜、侍女から聞いたことがあります、あれは『接吻』というものです。
 侍女がいうには、殿方との接吻は時に気を失うほど恐ろしいものなのだそうです・・・。」


どうやら、二人の少女は心に傷を負うことは無く、逆に興味津々のようだ。

俺は8歳の少女に対する、接吻についての上手い説明が思いつかず、女中達の方が詳しいと誤魔化すことにした・・・。

冥夜と悠陽の接吻についての質問は誤魔化せたが、真耶マヤ真那マナに対する説明を誤魔化すことは出来ない。

接吻については、土下座でもして謝れば許してくれる可能性が残っている。

しかし、冥夜と悠陽の面会については煌武院家の問題であるために、俺の説得でどうにか成るものではなかった。

冥夜と悠陽の面会についての説明をするのは俺よりも、母達の方がが適任だろうと考えた俺は、悠陽に俺の母と悠陽の母親を呼んでくるようにお願いする事にした。

母達が悠陽の部屋に来た時、シーツで拘束されている真耶マヤ真那マナに唖然としているようだったが、俺が簡単な状況説明をすると
直ぐ二人を説得してくれることになった。

俺も一緒に二人を説得しようとしたのだが、何故か母達に悠陽の部屋から追い出されてしまい、仕方なく再度宴に参加することにした。

その後、宴の会場で真耶マヤ真那マナに会うことは無く、家に帰るまでの間の時間は多くの名士たちに囲まれて過ごすことになった。



後日、接吻の件を謝るべく真耶マヤ真那マナに会ったのだが・・・、二人の機嫌は悪くなっておらず、むしろ機嫌がいい様子だった。

俺は二人の様子に、母達はどんな説明をしたのかと首をかしげながらも、機嫌がいいならこのままでいいかと考え、そのままにする事にしたのだった。





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コメント

初投稿後、トータル・イクリプスを4巻まで読みましたが、巌谷さんの登場シーンが少ない上に細かな設定がわからないため、
殆ど描写の修正が出来ませんでした。

巌谷さんには、渋いおじさん分を補ってもらおうと登場させたのですが・・・。

また、唯衣も出そうと考えたんですが、この時点での巌谷さんと唯衣の関係がわからず断念。

トータル・イクリプスの新刊が出れば、もしかしたら書き直すことがあるかもしれません。


最後のキス?シーンに関しては、妄想が爆発してしまったとしか言いようが無い。

今の私には、この程度が精一杯です。



[16427] 第07話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/05 00:45


1993年、俺のもとにあるニュースがもたらされた・・・、それは斯衛軍の第3世代戦術機導入に関するものだった。

昨年(1992年)より、帝国軍で制式採用され量産型の生産が開始された第3世代国産戦術機「不知火」「吹雪」は、
その性能により帝国軍の中で高い評価を得ていた。

また吹雪にいたっては、撃震の生産枠が一部振り替えられた結果、年間生産台数において撃震をしのぐ数が確保される事になった。

そして、跳躍ユニットを不知火と同じものを搭載し、跳躍距離を伸ばした海軍仕様も生産される事が決定している。

これは、軽量化によって搭載重量に余裕があり、海軍が求める装備を搭載するのには、不知火よりも吹雪が良いと判断されたためだった。

更に、吹雪の開発時に試験的に使われていた、主機と跳躍ユニットにリミッターをかけ出力を低下させた吹雪は、
第3世代高等練習機として生産され、運用されるまでになっている。

吹雪に量産機の座を奪われた形となった不知火を開発した御剣重工以外の三社(富嶽重工,光菱重工,河崎重工)は、
不知火の生産台数を増やすために斯衛軍に不知火を採用するよう、強力な働きかけを行うことになる。

御剣重工としては、不知火の生産拡大だけを見ると大きなメリットは無かったが、吹雪では斯衛軍の要求を満たすことは難しかった事や、
パーツを共有している吹雪の事を考えると量産効果によるコストダウンが計れる事から、この動きを後押しすることになった。

俺は会社を使って表から斯衛軍に連絡を入れると共に、父や無現鬼道の兄弟子たちといったコネを使い斯衛軍の内部からの説得を開始する。

そして、最後の一押しになったのは祖父が帝国議会の貴族院にて、

「閣下や五摂家の方をお守りする斯衛が、いつまでも旧式の装備を使い続けるのはいかがなものか?」

と発言したことであった。

今まで、政治的なメッセージを発信することが余り無かった、御剣家当主の突然の発言に議会は大慌てになる。

御剣家は政治的分野において、支配力を有していたわけではなかったが、その積み重ねてきた歴史と近年成長が目覚ましい経済力は、
議会内においても無視する事が出来ない影響力を持っていたのだ。

その後、斯衛軍内からも第3世代戦術機を調達すべきだという議論が沸き起こった事を受けて、
最終的に帝国議会は、二年以内に新規の第3世代戦術機が開発できないのならば、
現行の第3世代戦術機を斯衛軍用に改修し使用する事を定めた法案を可決するに至った。

斯衛軍の独自性を理由に、議会の決定に難色を示していた城内省だったが、様々な方面からの説得により今年に入ってついに、
斯衛軍に不知火を採用することを決定するのだった。








今年で15歳になった俺は、現在大学生をやっている。

大学に進学してからの俺は、快適な学生生活を過ごす事は出来ず、かなり無理をしてカリキュラムを組み、
来年の3月には大学を卒業する事を目標に勉学に励んでいる。

本来ならもう少し時間が取れるはずなのだが、会社の方で新型戦術機の開発と平行して、対兵士・闘士級用の強化外骨格(ES及びFP),
新兵装,戦闘補助兵器 等の戦術機以外の開発にも力を入れる事になり、それらプロジェクトの監修に時間を割かれていた。

さらに、1991年に香月夕呼が帝国大学・応用量子物理研究室に編入した事を察知した俺は、私財を投じて研究開発費を提供していたのだが・・・。

応用量子物理研究室は、研究成果として高性能CPUの基礎理論を報告してきたのだ、俺はその理論を使ったCPUの量産を御剣電気に要請し、
戦術機用新OSの開発プロジェクトの監修まで手を出していくことになる。

香月夕呼への資金提供は、もっと先の事を考えた投資だったのだが・・・。

ともかく高性能CPUの基礎理論を得た俺は、嬉しさの余り次年度から応用量子物理研究室への研究開発費を倍増させるのだった。




こんな多忙な日々を送っていた俺だが、一月末にあった大学の試験を終わらせ、一時御剣財閥での仕事を全て停止し、
冬の雪山へ篭ることになった。

俺が雪山に篭る事になった理由、それは無現鬼道流免許皆伝を得るためだった。

始めは祖父からの要請だったのだが、今を逃すと免許皆伝を得るための試練を受ける時間を、しばらく取ることができないと思い
それを了承することにした。



雪山に篭ってからの始めの一月は、ひたすら技の反復練習となった、最初の一週間で奥義の型を教わり、
後はひたすら型の繰り返しを行うのだった。

許される休憩は食事・排泄・気絶した時のみ、刀を振り続け腕が上がらなくなれば歩法の練習を行い、足が動かなくなれば拳を振る・・・。

本当に体が動かなくなるまで、ひたすら反復練習を繰り返し体を極限まで追い込んでいく。

そうしていると、この世には自分しかいないような不思議な感覚を覚え、次に自分の感覚が外側に広がっていくような錯覚を感じ、
気絶する事になる。

気絶する過程では、必ず同じような感覚に囚われることになり、その感覚はついに自分自身を空から観察するというところまで進んでいった。

自分自身を空から観察する感覚を感じ出した頃には、既に一月が経過していた。



そして次の一月は、サバイバルをするようにと言われ、刀一本のみを渡されテントを追い出されることになった。

俺は、幸運にも初日に寝床に使えそうな洞窟を発見する事ができたので、そこを中心にサバイバルに挑むことにした。

サバイバル初日は、寝床を整え木材を調達した時点で終わりをむかえる。

その日は周りが完全に暗くなる前に、何とか火を起こしその火で暖を取りながら、三週間ぶりのまともな睡眠を取ることになった。

しかし、久しぶりの睡眠も長くは続かなかった、寝始めてからしばらくたった時、若干の気配と空気の乱れを感じ、
目を覚ます事になったのだ。

俺は対応するのが億劫だったので、ギリギリまで寝たふりを行うことにした。

気配の相手は狸寝入りに気が付かず、無造作に俺の間合いに入ってくる。

俺は間合いに入った相手に飛び掛かると、カニバサミで相手の足を挟み、体を捻ることで相手を転倒させる。

それと同時に自分はその反動で上半身を持ち上げ、相手の背後から覆いかぶさり首を絞める事で気絶させた。


「何だ、よく見たら兄弟子じゃないか。」


何故、兄弟子がこんなところにいたのかは知らないが、俺の様子を見に来たにしては、気配を消すなど怪しい動きを見せていた。

もしかして、サバイバルの妨害でもしに来たのだろうか?

その後、兄弟子の懐をあさり、ナイフ,ワイヤー,携帯食料2食分を手に入れる事に成功した。

さすがの俺も、兄弟子を褌一丁にして雪山に放り出すことは出来ないので、服を着せたまま洞窟の入口近くに放置し、
再度寝ることにしたのだった。



サバイバルが開始されてからは、兄弟子たちの襲撃を撃退しながら、食料の確保に奔走する毎日だった。

兄弟子たちの襲撃は、危機を察知することに長けている俺にとって、大きな障害になることは無かったが、
冬の雪山で食料を確保するのは困難を極めた。

ウサギの通り道に落とし穴を仕掛け、ワイヤーを弦にて自作した弓と矢を持って狩りに挑み、自作の川でガチンコ漁を行うなど
必死になって食料を探すのだった。

ある日、人とは異なる気配を察知した俺は、風下から対象に接近してみる事にした。

そこにいたのは、大きな角を持った鹿だった。

そろそろ魚を食べる事に飽きていた俺は、久しぶりにまともな肉を食べるチャンスに狂喜するのだった。

そして、弓を構え鹿に向かって矢を放とうとした瞬間・・・殺気を感じその場を飛び退いた。

するとそこに、吹き矢の針が飛んできた。

俺は追撃が無いことを確認した後、慌てて鹿の方を見るが飛び退いた時の音に反応したのだろう、鹿は逃げ去ってしまっていた。

獲物に集中する余り、兄弟子たちの存在を忘れてしまうミスを犯してしまったことを反省した俺だったが、
次の瞬間にはどうにかして肉を食べるチャンスを奪われた仕返しをしてやろうと考え出すのだった。



鹿を取り逃がした後の俺は、食料と木材の確保が終わると型の練習や瞑想に時間を割くふりをして、兄弟子たちの動向を探っていた。

気配を消している使い手の気配を、離れた距離から察知するのは困難を極めたが、修行の間に感じた自分を空から観察する感覚が
次第に拡大していき、気配を察知できるようになっていった。

そしてついに、兄弟子たちが交代する時間や帰っていく方向を掴むことに成功する。



サバイバル最終日、残り時間があと数時間に迫り、夜が明ければサバイバル終了となる時に、俺は作戦を決行することにした。

俺が洞窟で寝たふりをしていると、予定通り見張りの交代の時間が来る。

そして、兄弟子たちの気配が重なった瞬間、木材と上着を使って作った人形と入れ替わり、気配を自然に同化させ洞窟の外にでた。

俺はこの日の為に睡眠場所を洞窟入口付近に変更し、風除けに木や石で低い壁を設け、極力気配を消して睡眠を取ってきたのだ。

俺のもくろみは見事成功し、見張り役がこちらの変化に気が付く様子はなかった。

交代した兄弟子が遠ざかったことを確認した俺は、木の上に待機していた見張り役を背後から奇襲し気絶させる。

見張り役を木の上に縛りつけ懐をあさると、通信機を持っていることがわかった。

俺は通信機に発信機がついていることを考慮し、通信機を確保せず、見張りを交代し待機所へ向かう兄弟子の後を追う。

しばらく追って行くと、兄弟子が向かっている方向に山小屋が見えてきた。

その山小屋から人の気配を感じた俺は、先回りを行い先ほどまで追っていた兄弟子を木の上から襲い、絞め落とした。



絞め落とした兄弟子を木に縛り付けると、慎重に小屋のへと足を進めていく・・・、中からは光が漏れ人間の気配を二つ感じた。

二人に会話は無く、かすかな寝息が聞こえることから、どうやら一人は寝ているようだった。

俺は、小屋の扉を軽くノックすることにした。


 コンコン

 
 「ん! ・・・気のせいか?」


 コンコン


 「ん! 誰かいるのか?」


そう言って男が扉を開けた瞬間、半分空いた扉を思いっきり蹴飛ばし小屋の中へ進入する。

小屋の中には予想通り二人がいて、一人は悶絶しておりもう一人は慌てて飛び起きていた。

俺は悶絶している男に拳を叩き込み、相手が気絶したことを確認した俺は、先ほどまで寝ていた人物と相対する。

相手は寝起きで頭が回らないのだろうか、動きに繊細さが欠けていた。

結局、最後の一人もまともな反撃を受けることなく、無力化する事ができた。

その後、二人を縛り上げると小屋の中にあった食料で料理を行い、久しぶりにまともな食事を取ることにした。

そして、サバイバル終了まで小屋にあった布団に包まり寝ることにしたのだった。








「ふん、確かサバイバルの修行をしていると聞いていたが・・・。
 まさか、監視小屋で寝ているとは・・・。」


久しぶりに会った、紅蓮 醍三郎はそう言って声をかけてきた。


「この者たちを責めないで下さい。
 後数時間で見張りが終わる状況に、気が緩んだのでしょう。」


「いや、その程度で油断するとは言語道断! 再修業を申し付けておく。
 信綱・・・、これからはわしの事を師匠と呼ぶようにしろ・・・。

 それでは、修業を開始する!」


サバイバルの次の一月は、紅蓮 醍三郎から試練を受けることになった。

てっきり祖父から試練を受ける事になると考えていたのだが・・・、どうやら甘えが入ることを嫌った祖父は、現在最も優れた
無現鬼道流の使い手で、歴史上三人しかいない御剣家以外の免許皆伝者である師匠に、試練をゆだねる事にしたらしい。

斯衛軍に所属している師匠は、この試練のためだけに特別に一月の休暇を取ったのだった。



師匠は俺の型を見た後、なにやら納得し質問をぶつけてきた。


「其は何ぞや!」


そんな事を聞かれるとは考えていなかった俺は、一瞬戸惑ったが何とか応えを返した。


「我はBETAを滅する者也。」


「BETAとは何ぞや!」


「人類を滅亡の危機に陥れるもの、即ち人類共通の敵也!」


「其はBETAを滅し、何を成す!」


「そ、それは・・・・・・・。」


「もう一度問う、其はBETAを滅し、何を成す!」


「・・・・・・。」


「愚か者ものぉぉぉッ!!!

 BETAを滅した後はどうするのかと聞いておるのだ。
 戦うことだけを考え、その後の目標がないのでは、戦うことしか知らぬ悪鬼羅刹を生み出すだけよ!

 頭を冷やして、もう一度考えてみよ。」





俺は、とっさにこの問に対して返事をする事が出来なかった。


「まさか、この様な問答を受けることになろうとは・・・。」


そういえば、原作のサイドストーリーにこの様なものがあったなと思い出す。

しかし、こちらに来る前の記憶はだいぶ薄れてしまった。

今では、この世界に関係ある重要なこと以外は、殆ど思い出すことが出来なくなってしまった。

ただし、この世界で生まれてからの記憶は鮮明に思い出す事が可能だったが・・・。

それに、もし原作の内容を思い出したとしても、それは俺が出した答えではない。

自分が出した信念を師匠にぶつけるしか方法は無いのだが・・・。



もちろん、BETAを滅した後やりたい事は有る。

しかし、その事を本当に実行して良いのかどうかで迷っているのだ。

俺の迷い・・・、それはどこにでもある単純なものであり、人類始まって以来の命題・・・男女関係に関する悩みだ。

この世界生まれから早15年の月日が流れていた、その中で正常な人間なら恋の一つや二つはするものだろう。

しかし、俺は本来この世界にいるはずのない存在だ。

存在しないはずの俺が女性と付き合い始めたとき、彼女らが本来付き合うはずだった者との出会いを引き裂くことになるのではないか?
もし付き合い始めても俺に、彼女らを幸せにすることが出来るのだろうか?
偶然やってきたこの世界から、原作の主人公の様に立ち去らなくてはならない時が来るのではないか?

この様な疑念が頭をよぎり、俺は男女の付き合いの始めのステップすら踏み出せずに、ここまで来ていた。


「はははっ、笑ってしまう。」


惚れた女たちの為に、世界と歴史を変えようとした男が、肝心の女に手を出す勇気が無いとは・・・。







結局その日は、型の稽古をしただけで終わることになる。


「今日はここで終わりだ、小屋に戻るぞ。

 そもそも、お主は何故BETAと戦うことにしたのだ・・・、それを考えれば自ずと答えは出てくるのかも知れんな。」


その後も、結論を出せぬまま修行が続いていく。

ひたすら瞑想と組み手を繰り返す日々、そして師匠は毎日のように問を投げかけ、俺はひたすら自問自答することになる。

師匠が言うには、俺には心技体のうち心が欠けているらしい。

師匠の問に浮き足立つ俺は、まったく反論する事が出来なかった。




最終日前日・・・ついに俺は、師匠が言っていたBETAを倒したいと思った最初の理由を思い出すことができた。

問題なんてものは答えが分かると、途端に単純に思えてしまうもので、俺が出した今回の答えも出して見れば笑ってしまうほど
単純なものだった。

俺は迷うものがなくなり、心がさえわたるのを実感した。

そして、この修行中に感じていた不思議な感覚が再び起こり始める。

一気に意識が外に広がり、自然の気配、空気の流れようを感じるだけでなく、それらがこれからどのように変化するかさえ
捉えることが出来るようになる。





いよいよ師匠による試練の最終日、ここに来て迷いをなくした俺の五感は冴え渡っていた。

風を感じ、木々の鼓動を感じ取れるようになった俺にとって、奇襲を行うために潜んでいる者たちの存在は筒抜けだった。

俺はいまさら戦う必要も無いと感じ、隠れている地点とどの様な構えで、どう襲うつもりなのかを的確に言い当てた。

そうすることで複数の待ち伏せ以外から、攻撃されることは無く、師匠の待つ祠の前まで進むことが出来た。


「師匠、雪の下にいる事はわかっています、出てきてください。」


そう言って、5mほど離れた雪に覆われた地面をにらみつけた。


「ふん、気配を自然に同化させたわしによく気が付いた。」


そう言って、雪の中から師匠が出てくる。


「まだ、完全に師匠の気配に気づくことは出来ませんが・・・、
風の流れからは師匠を感じ取れませんでしたので、そこからたどりました。」


「その様子だと迷いは吹っ切れたようだな・・・。
 それを問う前に、その心技体・・・とくと拝見するとしよう。」


師匠が刀を抜き、構えを取る、俺もそれに合わせて刀を抜いた。

軽いにらみ合いの後、始めに仕掛けたのは私からだった。

師匠の攻撃は巧みで、こちらが守勢に回っては何時か守りを突破されることになる。

身体能力で勝っているのは瞬発力ぐらいのものだ、ここは手数を頼りに攻めに出て、チャンスをうかがうしかない。

その思いから怒涛のごとく攻めるのだが、全て師匠に捌かれてしまっていた。


「どうした信綱、お主の本気はその程度か!
 ここからは、わしも攻める。見事受けきって見せよ!」


そこからの師匠の攻めに、俺は次第に押されていくことになる。

やはり、剣術の腕では未だに師匠を凌駕する域まで達していないようだ・・・。

さらに、例の感覚を使いすぎたせいか、段々頭痛が酷くなってきていた。

俺は、斬り合いから勝利を得る事を諦め、一気に師匠の間合いから離脱した。

そして、刀を鞘に収め抜刀術の構えを取る。


「ほう、抜刀術か・・・・・・、それで勝てると思うたか!」


「残念ながら、斬り合いでは師匠に一日の長がありますが・・・。
速さだけなら師匠に勝っていると自負しております。

ここで・・・、己の最速の業に全てを賭けます!」


俺と師匠は睨み合いながら、次第に距離を詰めていった。

そして、先にリーチの長い師匠の間合いに俺が入った瞬間、師匠からの斬撃が放たれる・・・・・・
そこから俺はさらに左足で一歩踏み込み、自分の間合いに師匠を納め抜刀を行う。

ここに互いの持つ最速の一撃が放たれたのだった・・・。


「はぁぁッ!」


師匠の斬撃に合わせるように放たれた俺の斬撃は、的確に俺の刀を捉えることに成功する。

俺の最速の動きと近すぎる間合いに対応し切れなかった師匠の斬撃と、会心の一撃を放った俺の斬撃では、
刃筋やミートポイントがまったく異なっていた。

そして、当然のように俺の刀は師匠の刀を断ち切ることになった。


「ぬかったわぁぁっ! 刀がっ。」


「師匠おぉッ!」


そう言って、師匠に向かって刀を振り下ろそうとしたその時・・・。


「反重力乃嵐ィィィィィッ!」


俺は勘にしたがって距離を取ろうとしたが、師匠の胸から放たれる波動を完全に避ける事が出来なかった・・・。

そして、崩れたバランスを立て直そうとしていた俺は、この場面になってようやく師匠が無現鬼道流以外の
不思議な技を使うことを思い出し、転がるようにその場を離れた。


「宇宙乃雷ィィィィィィィィィィッ!」


そして転がる俺を掠めるように、師匠の額あたりから放たれた波動が通り抜ける。

かろうじて直撃を免れた俺だったが、左半身は麻痺し右手に持った刀を杖代わりにして立ち上がるので精一杯だった。


「不完全とはいえ、初見でこの技を避けるとは・・・。」


「師匠?」


「自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ。

 我流で研ぎ澄ました技にしては・・・・・・なかなかのものであろう?」


気・・・・・・だと?

まさか本当に、そんなものが存在していたとは・・・。


「お主も先ほど面白技を見せていたな、抜刀術を左足で前に踏み込んで放つとは・・・。

 無現鬼道には無い動きだ・・・我流か?」


「はい。お褒めいただき、ありがとうございます。」
 (まさか・・・、子供の頃からこっそりマンガの技を練習していたなんていえるはずが無い・・・・・・か。)

「しかし、師匠の技・・・畏れ入りました・・・・・・、あのような技がこの世にあるなど考えもしませんでした。
 やはり、未だ師匠には及ばぬようです。」


「・・・それがわかっていればよい。
 誰も考えもしないことが、間々起きるのが戦場というものだ、そう心に刻んでおけ。
 反重力乃嵐にせよ宇宙乃雷にせよ・・・・・・、お主なら同じ技が通用する事はあるまい。」


「師匠?」


「・・・なれば剣の技、精神に於いて、最早お主に教える事は無い。」


「え?」


「では、最後にそなたに問う。」







「其は何ぞや!」


「我はBETAを滅する者也」


「BETAとは何ぞや!」


「人類を滅亡の危機に陥れるもの、即ち人類共通の敵也!」


「其はBETAを滅し何を成す!」


BETAを倒したいと思った最初の理由。

それは、この世界に来る前に抱いていた、物語はハッピーエンドでないと嫌だという単純な思いだ。

これは、ただの己のわがままだ・・・、それをいつの間にか女を理由に使っていたとは・・・。

俺は彼女達が欲しかったのではない、ただ守りたいだけなのだから・・・。

今後、彼女達とどの様な関係になるかは分からない。

分かっているのは、どの様な結末になろうとも、俺は彼女達を愛しているという事だけだ。

なら、俺が成すことは簡単だ、



「ただ、己が道を突き進むのみ!」



これ以上の答えは、今の俺には無い。

俺はその気持ちで、師匠を見つめた。


「見事なりッ!」


「ありがとうございます。」


「その答え・・・・・・待ちわびたぞ・・・・・・。」


「師匠・・・。」


「うむ・・・、さあ、祠に入り最後の試練に挑むがよい。
 そして、見事試練を乗り越えて見せろ。
 さすれば、晴れて無現鬼道流免許皆伝となり、名実共に御剣の後継者と相成る。」


「はい! 師匠、それでは行って参ります。」


「うむっ!」






俺が、祠に向かって歩いていると、誰かが走って近づいている音が聞こえた。

「信綱 殿~、一大事でございます。

 信綱 殿を応援したいと申して、山に向かっていたご母堂と妹御が途中で交通事故に会い、意識不明の重体となっていると報告がありました。」


「なっ・・・なんだと!?」


「急ぎ、ふもとに車を用意させていますが、いかがいたしましょう。

 もし病院に行かれるのでしたら、今すぐ行かないと間に合わないかも知れません。」


「馬鹿な・・・、母上と冥夜が・・・。」


「信綱、祠の試練、費やす時はお主次第。
 半時か十日か・・・それとも一年か・・・・・・。」


「全てを己に背負い、全てを己で決断するのだ。」



「・・・・・・・・・・・。」



「連絡ご苦労、急ぎ下山いたすゆえ皆にそう伝えてはくれぬか?」


「は・・・、分かりました。
 では、先に小屋まで行きますので、御早めに合流してください。」


そう言って、男は立ち去っていった。


「お師匠様・・・、今日までの数々のご指導、誠にありがとうございました。」


そう言って俺は、師匠に頭を下げた。


「・・・・・・・・・・・」


「無現鬼道流・・・・・・、何よりも変えがたいものと考え修行に励んでまいりました。」


「・・・・・・・・・・・」


「しかし、守ると誓った者たちが陥った窮地に、何かをせずにはいられないのです。」


「ひとたび山を下りれば、お主は祠に入る資格を永久に失うことになる。良いな?」


「はっ! 無現鬼道流を捨てることで、この先如何様な困難が待ち受けていようと、己が選んだ道です。
 甘んじて受け、乗り越えて見せます。」


「・・・・・・・あいわかった。
 面をあげよ。
 お主とわしはもはや師弟ではない。」


「は・・・・・・。」


「戦場のどこかで会える日を楽しみしている・・・、それまで、達者で暮らせ。」


師匠はそう言って、立ち去っていった。







師匠と別れた俺は急いで小屋まで戻った、そして荷物を置くために小屋に入ると・・・







そこには、祖父と重体のはずの母が座っていた。


「は 母上? 何故ここにいらっしゃるのですか?」


何だこれは? どういうことだ。

余りの事態に混乱してしまった俺に、祖父が持っていた刀を押し付け、声をかけてきた。


「信綱、些細なことは気にするな。
 それより、それが御剣家の宝剣・・・・・・皆琉神威じゃ。」


「・・・どう言う事です、俺は最後の試練を放棄したんだ・・・、受け取る資格が無い。
 それなのに、何故?」


疑問をぶつける俺に祖父は、これが最後の試練でその精神を試したと返答してきた。


「御剣家の当主とは、常に戦うことを宿命付けられる人間じゃ、それゆえ心無き者が成れば災いしか生まん。
 修行の最後に、御剣を継ぐに値する者か・・・、自己犠牲の精神はあるか試すのじゃ。」


そして、その試練にどうやら俺は合格したらしい、だから今免許皆伝の証として皆琉神威を手にしているのだと祖父は応えた・・・・・・。

俺は感激の余り涙が溢れそうになったが、今回の試練で気が付いた己の心に従い、免許皆伝だけを受け皆琉神威を祖父に返上することにした。

皆琉神威を返上することに戸惑っていた祖父に対し、


「私は、近いうちに大陸に渡りBETAと戦うことを決心いたしました。
 戦うと決めた以上、たとえ生身だけになったとしても、戦う事をやめることはありません。

 したがって、皆琉神威が血で穢れる可能性がある以上、御受けするわけには参りません。
 BETAどもの血を吸うには、それにふさわしいものが他にあるはずです。

 BETAと戦いが落ち着いた時、まだ私に御剣を継ぐ資格があるのなら、
 その時に、御受け致したいと思います・・・。」


俺の答えに、納得してくれた祖父は、後日改めて別の刀を用意してくれた。

祖父が用意してくれた刀には、『安綱』と銘が彫られてあった。

祖父は、現世の魑魅魍魎といえるBETAと戦うのに、『鬼を斬った』という話が残るこの刀以上に相応しい物は無い、と語るのだった。


俺は祖父から送られた刀と師匠から送られた文を持ち、戦場を駆けていく事になる。

ちなみに、師匠から送られた文には、この様な事が書かれてあった。




『其は己が為の刃に非ず。ただ牙なき者の為たれ。』




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コメント

エクストラをやっていて面白さの余り暴走してし・・・、主人公がパクリ技を出すようになってしまった。

最初のプロットでは、剣の才では冥夜に及ばず、技の数と経験で強くなる予定だったのに・・・。

このままでは、眠っている人体の潜在能力を100パーセント引き出し闘気を操ることになり、

刀有りの一対一という状況なら、生身で闘士級に勝ってしまう、とんでも人間になるかもしれません。

それでも、生身ではBETAの群れの前では無力も同然ですが・・・。



[16427] 第08話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/06 23:42


無現鬼道流の免許皆伝を得てからの生活は、日が出る前に起きて無現鬼道流の鍛錬、日が出ている間は大学、日が落ちると会社の報告書を読み、
休みの日に卒業論文を作成するなど、休む暇が無く山に篭っていたほうが幸せだったと、錯覚するほど多忙な日々を送ることになった。

そんな中でも、俺は無い時間を振り絞りある技の鍛錬をしていた・・・。


 自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ・・・か・・・。


自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込めるまでは、免許皆伝の試練で身に着けた感覚と近い気がするのだが・・・、
それを放つことがなかなか出来ていない。

しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

なぜなら、俺が・・・男だからだ。

俺は丹田に込められた力を、手のひらに集めるようにし、一気に前方へ押し出す。


「か
 
 め
 
 は
 
 め
 ・
 ・
 ・
 は
 ぁ
 |
 !」


俺が放とうとした技は、外界になんら影響を与えることなく、声だけがむなしく響いていた。


「兄上、このような場所で何をされているのですか?

 ・・・まさか、新たな技を開発しているのですか!?」


冥夜よ、兄をそんな純粋な目で見ないでくれ、心が・・・・・・折れてしまいそうだ。









1994年、大学へ提出する卒業論文を何とか完成させ俺は、卒業する見込が立ったことに安堵していた。

俺が書いた論文の題名は、『歴史で見る兵器の発展と戦術歩行戦闘機の発展について』というもので、

その内容は、

鉄砲が発明された当初は鎧を分厚く強固にすることで対応した歴史が、
光線級の出現により重装甲で固めたF-4『ファントム』に代表される第1世代戦術機の開発に類似している事、

鉄砲の発展で装甲の無意味さが分かると鎧が使われなくなった歴史が、
重装甲をやめ機動力と運動性を高めたF-15C『イーグル』に代表される第2世代戦術機にも当てはまっている事、

その後の戦争が通信機器の発達や戦車等の登場によって、小規模の集団が綿密な連携を行う形態に変わってきた歴史が、
最新の第3世代戦術機が更なる運動性の強化と、データリンクによる正確な情報伝達と戦術機同士の連携強化が求められた事実と共通する点がある事、

以上の戦術機の発展経過を考えると、次の第四世代戦術機も歴史の中からその方向性を見つけることができるのではないか。

といったものだった。

この論文は、前々から悩んでいる第四世代戦術機の考察に、歴史的事実をすり合わせただけの、対して時間のかからない内容であったが、
無事に論文の審査を通過し、卒業できることが確定した。



そして卒業論文提出後は、貯まっていた御剣財閥での仕事を集中的に行うことになった。

俺が監修を行っていた対BETA戦プロジェクトの報告は、俺がやってきた事が無駄ではなかったと確信させる内容となっていた。

その中で、特徴的なものをいくつかあげることにする。


一つ目は、今まで蓄積してきた各種データから、戦術機のソフト面での強化が実現したという報告だった。

これは、一部ブラックボックス化していた、戦術機の制御システムを解析し、経験が浅い衛士でもベテランやエースの行う機動が
できるようにすることを、目的としていたプロジェクトで開発されたものだ。

このプロジェクトは、


ベテランが行う、姿勢制御を一部キャンセルすることで、姿勢制御の問題で発生する行動の合間の硬直を緩和させる技術。
                       ↓
行動をあらかじめ先行して入力を行うことで、行動の間の姿勢制御を行動の一部として取り込むことができ、
結果的に行動の合間の硬直を無くすことが可能。


エースが行う、一つの行動を細かく分割し、不意の事態でも直ぐに対処することができるようにしている技術。
                       ↓
行動を途中でやめ、新たな行動を強制的に行わせるシステムを導入することで代用することが可能。


エースが行う、細かな姿勢制御によって戦術機の限界機動を引き出す技術。
                       ↓
あらかじめ、行動の全てを指定した通りに行わせるようにすれば、動きを真似ることだけは可能。


という解決策を示してきた。

この概念を実現したシステムのハードは、とても戦術機に載せられるサイズではなかったが、別チームで進めている高性能次世代CPUが完成すれば、
戦術機への搭載も可能になるとのことだ。

現在の不知火・吹雪に搭載されているCPUでは、行動の先行入力を3つまで入るようにするだけで精一杯との事だが、
それでも行動の合間の硬直を消せることに、テストの段階から大きな反響を得ることになった。

その新システムは、タワーのようなハードで再現された完全版のシミュレーターテストを見た俺の呟きによって、EXAMシステムver.1と名づけられ、
試験部隊に現行の戦術機制御OSと入れ替えで配備されることになっている。


二つ目は、新型強化外骨格の開発完了の報告だった。

この新型強化外骨格の開発コンセプトは『着る強化外骨格』で、今までの強化外骨格に比べて大幅に小型化されたものになった。

本来は、対兵士級を想定して考え出したものであるが、現在は兵士級が確認されていないため、室内での戦闘や戦場に出る全ての歩兵が
装備することを前提にすることで本来の目的をごまかし、開発が進められたものである。

新型強化外骨格の外観は、衛士強化装備の一部に外骨格が張り付いている程度の状態から、追加装甲で古の鎧武者のような状態まで変えることもできた。

その運動性は、追加装甲搭載時に装備の重さを実感させない程度のものであったが、装甲に関しては顔面や首周りの強化が施されているため、
闘士級の攻撃により一撃で戦闘不能になる事が無いように設計されている。

また、小型化により人間に近い動きが可能となっており、時間制限はあるが狭い空間での移動や匍匐前進等も問題なく行えた。

この新型強化外骨格が後に、WDと呼ばれ一般兵や室内での護衛任務につく者に親しまれることになる。


そのほかにも、F-4J 撃震の改修プランや現在開発中の戦術機に関する報告など、重要な報告書も届けられていた。








喀什から南進したBETA群は、この年インド亜大陸を完全に支配下に置き、東進の勢いを増していた。

それにより、中国戦線は泥沼の様相を呈していった。

それを受け帝国議会は、徴兵対象年齢の引き下げを柱とした法案を可決し、帝国軍は後方任務に限定した学徒志願兵の動員を開始するのだった。

そんな激動の中、俺は大学卒業後の進路を衛士になることに決め、斯衛軍訓練校の衛士課程を受験していた。

はじめは陸軍に入る事も考えたが、父の求めと香月博士と将来出会う事を考えると、一時的にせよ斯衛軍に席を置いた方がこちらの自由が利くと考え、
斯衛軍から衛士になる事を選択したのだった。

無論、BETAと戦う方法は衛士になって戦術機を駆ることだけではない事は理解している。

その事を考えて、わざわざ大学まで進学することにしたのだ・・・。

このまま、御剣財閥の幹部として優秀な兵器を揃えることに力を注ぐ事や、政治家を目指して国の方針を考える事、
軍に入るとしても幹部候補として後方で軍を整える事も、BETAと戦う手段としてあるのだろう。

もしかしたら、人類全体を考えると俺が後方に残ることの方が、良い結果を導き出すのかも知れない。

しかし、俺は衛士になり前線でBETAと戦うことを選択した・・・、これは単なるわがままだ。

惚れた女たちを守るなら、その隣で・・・できるならもっと前で・・・・・・。

彼女達を後方にとどめるという選択肢は無い、彼女らの高潔な精神がそれを許さないからだ。

これでは、いつまでたっても彼女達とのんびり過ごすという、俺の野望が果たされることは無い。

なら、俺がやることはただ一つだ・・・・・・、

俺のこの手でオリジナルハイヴをぶっ潰し、無理やり世界を平和にしてやるのだ!



斯衛軍に入るにはいくつかのルートが存在する、一つ目は帝国軍から移動して斯衛軍に入るルート、そして二つ目が俺の受験した斯衛軍訓練校に入り、
優秀な成績で卒業することで斯衛軍に入るルートだ。

斯衛軍訓練校には様々な課程が設けられているが、最も若年で高い階級を得ることができるのが、俺が受験した衛士課程と士官課程である。

その受験には16歳から19歳の年齢制限があり、最初に身体検査、運動機能検査、学術試験の後に面接試験が行われ、優秀な者が選抜されることになる。

その在校期間は中学卒業で入校した者は4年、高校卒業の者は一部学科が免除され2年となっている。

訓練校卒業生はどの課程でも、短大卒業と同等の資格を得ることが出来るため、高校から編入で入校し卒業後に大学に編入することが、
今までエリートと呼ばれる者がたどってきたルートになっている。

元々人気がある所だったが、徴兵制が始まった現在において、後方に残る可能性が高い斯衛軍は更に人気が出てきており、
厳しい選抜が行われる事が予想された。

しかし、基本的には中学校卒業もしくは高校卒業で、受験する所なので大学卒業した俺が入学できなかったら、笑い者になるに違いない。

私の試験結果がどうだったかというと、入学式で代表として宣誓を行う事になるのだった。



その後、斯衛軍訓練校合格発表から入校までの間に、俺は会社の仕事の引継ぎを終わらせる為に、さらに仕事にのめりこむ事になる。

なぜなら、普通の学校ならともかく全寮制の訓練校では、会社の仕事をする暇はほぼ取れそうに無かったからだ。




また、入校した後に教官から聞かされた話なのだが、そもそも訓練校では大卒者を受け入れることを前提とされていなかったらしい。

それが、戦時教育による進級制度で大卒者にも受験資格を有する者が発生してしまい、その前提が崩れる事になる。

19歳までに大学を卒業する学力がある者が軍に進むことは珍しかったため、俺は訓練校を受験した初の大卒者で、訓練校初の大卒入校者となった。

そのため、カリキュラムの編成で揉める事になるが、結局通常は高卒者たちと合同で訓練を行い、既に習得している学科の時は、
個別に対応をすることに落ち着くことになる。












春になり、ようやく斯衛軍訓練校に入ることができた俺たちは、入校式を終えると教室へと集合することになった。

俺が今いる場所は、高卒の入学者が集まる教室の入口だ、教室の中には何名か見たことがある人物を見つけることが出来た。

確か、あそこに座っている連中は、小学校で同じ学年だったはずだ。

数名だが知り合いを見つけ、俺はなんともいえない感慨を覚えた。

小学校以来、同じ学年には半年ほどしか在籍していなかった事と多忙だったために、余り多くの友人を作ることができなかったのだ。

俺はこの訓練校での仲間が、これからずっと続く友人になってくれればと願うのだった。


俺が教室の入口で突っ立っていると、後ろから声をかけてくる人物がいた。


「こんな所に突っ立ってないで、早く中に入らないか。」


「ああ、おはよう、真那マナ

 なんか知っている奴が何人かいたから、驚いてしまってね…。」


「・・・貴様が驚く事があることに、私の方が驚いた。」


「そんな事は無いと思うよ、結構驚く事はたくさんある・・・。
 ただ、驚きを顔に出さない努力はしているけどね。」


「・・・それに気が付かない私が悪いと言いたいのか?」


真那マナは俺の発言に対し、ドスのきいた声で返事をしてきた。

俺は、何とかなだめようと言葉を続けた。


「そういうお前こそ、どんな時でも堂々としていて、慌てた姿を見ることが無いように思えるんだが…。

 昔のお前は、もっとかわいらしかったよ。」


「な 何を言っているのだ貴様は… …、もしかして、小さい子供のほうが好… …。」


「え、真那マナ、何か言った?
 
 聞こえなかったんだけど。」


「なんでも無い、貴様が気にすることではない。」

 
「それなら、いいんだけど…、どうして今日は貴様だなんて他人行儀なんだ?

 いつものように、名前で呼んでくれよ。」


「訓練校にいる間は、あまり親しくするべきでは無いだろう。

 そろそろ教官が来るはずだ、早く席に着け。」


真那マナの発言に余り納得できなかった俺は、すれ違いざまに耳元で


「二人きりの時は、名前で呼んでくれよ。真那マナ。」


とささやくのだった。

この時、真那マナの耳が赤くなっていた様な気がしたのだが、確信は持てなかった。

その後、教室に入った俺は真耶マヤの姿を見つけ、軽く手を振って合図を送った。

しかし、真耶マヤはフンッと鼻を鳴らして顔をそらし、こちらに返事を返す様子は無かった。

どうやら、真那マナと同じように訓練校では親しくしてくれないようだった。



 これが、御年頃というやつなのだろうか?

俺が席に座って真耶マヤ真那マナのことを考えていると、教室に教官が現れた。


「起立!敬礼!」


「よし、座ってよろしい。」


「着席!」


こうして、士官学校での日々が始まった。






士官学校が始まってからの半年の間は、徹底的に兵士としての戦い方を叩き込まれることになった。

始めはランニング,格闘,射撃など基礎的なものだったが、最終的にはそれらを複合した、総合的な訓練や模擬演習などが行われた。

俺はこの訓練のほぼ全てで、トップの成績を収めることになる。

それを見て、教官も俺に対して特別厳しい内容の訓練を言い渡すのだが、肉体を破壊する程の訓練ができないため、
結局一度も俺が訓練に屈することは無かった。

兵士としての基礎技術を始めから備えていた俺は、後に教官から最も鍛えがいの無かった訓練兵と言われる事になった。





格闘訓練


「本日は、格闘の訓練を行う。

 使う武器は自由、ただしここに用意されたカーボン製の物を使ってもらう。

 また、御剣訓練兵は常に1対3で訓練を行うこととする。
 
 それでは、各自事前に通達した通りの相手と、訓練を開始せよ。」


教官からの温かい言葉と共に、格闘訓練が開始される。

俺が1対3で訓練を行う事になった理由、それは格闘訓練初日に教官を叩きのめしてしまったからである。

教官としてはその前に行われた訓練や、訓練兵の中での勝ち抜き制の対戦により疲労が溜まっていた事を考慮するとで、
俺に敗北することは考えていなかったのだろう。

その後、格闘訓練の教官が何人か代わることになったが、結局どの教官も俺に勝つことは出来なかった。

俺が最後の教官に勝った時にした、


「紅蓮 醍三郎より弱い。」


というコメントにより、それ以降の格闘訓練教官が俺に挑んでくることは無くなった。

最終的に俺の格闘訓練は、複数の訓練兵を同時に充てることで、落ち着くことになる。

月詠 真耶マヤ真那マナの二人同時なら、俺と互角以上で戦うことが出来るのだが、
他の候補生だと1対3から1対5くらいでようやく、釣り合いが取れるのだ。

訓練という限られた武器とスペースを使っての戦いなら、今のところ1対5くらいが俺の能力の限界であるが、
無現鬼道流の業を駆使しゲリラ戦に徹すれば、100人とだって戦ってみせる自信はあった。

これでも、ここにいる訓練兵達は実家で武道の鍛錬をした経験があり、決して弱いと言える者たちではない。

それでもこれだけ格闘能力に差があるのは、もって生まれた能力のおかげか、それとも無現鬼道流のおかげなのか……。



ただ、俺がこの訓練に退屈しているかというと、そうでもない。

相手の攻撃を紙一重でよける練習をしたり、目を閉じて相手が出す気や音、空気の流れを頼りに戦ってみたりと様々な鍛錬をすることが出来ている。

また、免許皆伝の修行で身につけた、自分を空から見下ろす感覚(取り敢えず『心眼』と名づける事にした)を使ういい練習になる。

心眼は、脳にかかる負担が大きいため多用できないが、持続時間はだんだん延びてきていた。

免許皆伝の特訓で鍛えられたとはいえ、まだまだ鍛える余地が残っているのだ。



それに、他の訓練兵に戦い方を教えることも意外と楽しい。

まるで、自分が師匠になった錯覚を覚えることが出来る。

そしてついつい、
 

「貴様らの攻撃はその程度か!」

「甘い、甘いぞ。」

「考えるんじゃない、感じるんだ。」


等の発言をしてしまうのだった。







兵士の基本は走ること、俺は今50kgの装備を付け、全長5kmにも及ぶコースを走っている最中だ。

今日の訓練は、5kmのコースを4往復する間に設けられた各地点で、300m離れた場所の射撃を行いそのタイムと射撃の精度を競う訓練となっている。

最も、俺以外の奴は30kgの装備で射撃は100m離れた場所となっている。


50kgの装備は、俺の体重の70%ほどの重さではあるが、重いものを背負って走るコツを掴むことができれば、
体力的に辛いだけで背負っている重量はそれほど問題にはならない。

それよりも、射撃位置が200mも差がついていることの方が、問題であろう。

300mはなれた位置の標的を狙う事は、射撃ではなく狙撃の部類に入ってしまう距離だ。

それを同じ銃を使って撃ち、的は同じ大きさで採点方法も同じとくれば、教官が俺を勝たす気が無いのは明白だった。

間違いなく、俺に追加訓練を課す腹積もりなのだろう。

それでも、俺は自分が持てる全ての力を使って、訓練に取り組む。


「どうした御剣! 走るペースが落ちているぞ、もうバテたのか!」


「いいえ、教官殿!」


「なら、もっとペースを上げろ! 早く、早く走れ!」


「はい、教官殿」


ここまでの30kmのランニングは、俺から想像以上の体力を奪っていたようだ。

前半の走りは他の訓練兵と同等のタイムで走れている自信が有ったが、残り10kmになってから目に見えて、走る速度が遅くなってきているのだろう。

しきりに、教官から早く走れという指示が飛んでくる。

全力で走っているつもりなのだが、疲労のせいか他の訓練兵が走っているペースも分からず、教官に促されるまま走り続けることになる。



そして、ようやく最後の狙撃地点にたどり着く、どんなに疲労していても狙撃の体勢に入れば思考が冴え渡り、心なしか心臓の鼓動も小さくなる。

昔の偉人には、スコープなしの300mの狙撃でほぼ確実にヘッドショット(頭部を打ち抜く射撃)を決めていた人だっているんだ。

子供の頃から無限軌道流砲術の鍛錬をしてきた俺には、高い射撃の技量が見についているという自負がある、
スコープなしの300mの狙撃だからって他の訓練兵に…、いや・・・こんな設定をした教官たちに負けるわけにはいけない。

俺は、長年の鍛錬で修めた感覚を頼りに弾道を予測、予測した弾道とターゲットが重なった瞬間、突撃銃の引き金を引いた。

この時の結果は総合評価で5位の成績を収める事になり、俺を含む1位以外の全員はもう一往復のランニング訓練が課せられることになるのだった。








これらの兵士訓練後、各小隊が作られ座学、士官教育を受けていくことになる。

そして、一年の締めくくりに課程を超えて、訓練兵同士の特別訓練が行われることになった。

その内容は、三日間の間山中で4人1組、計30組の小隊が、各組の小隊長に渡された札を奪い合うというものだ。

さらに、訓練兵には知らされていない、教官の中から選抜された2組の小隊が訓練に加わる事になっていた。

俺はこの訓練の内容を、事前に張り巡らしていた情報網から、開催場所,各小隊の出発地点,教官の小隊の参戦などの情報を知ることが出来た。

そこで、俺は自分とは異なる小隊の小隊長をやっている、真耶マヤ真那マナを呼び出し、この訓練で3小隊の同盟を取り付ける事にした。

始めはこの情報に、真耶マヤは関心し真那マナは呆れた表情を浮かべていたが、3小隊で教官の小隊を叩いてやろうと提案すると、
二人とも見た者の背筋がゾクゾクする、すばらしい笑みを浮かべ同盟を了承してくれた。

この特別訓練の打ち合わせで、俺達三人は今まで以上に頻繁に会うことになったため、周りから付き合っているのでは?と噂が流れることになったが、
俺はこの噂が良いカモフラージュになると判断し、その噂が教官の耳に入るように仕向けるのだった。


そして特別訓練初日、予定通り合流した3小隊は、教官の小隊二つを包囲殲滅することが出来た。

後は、地形を把握しているため、食料、水が補給できる地点を確保し、のこのこやって来る各小隊を血祭りに挙げていく事になる。

途中で、新たな教官の小隊が乱入してくるハプニングもあったが、最小限の犠牲で返り討ちにすることが出来た。

結局、特別訓練で訓練終了まで生き延びた小隊は、俺達の3小隊を含むたったの8小隊だけであった。





「御剣、今回はお前達にやられたよ。まさか、他の小隊と同盟を組む手に出るなんてな。」


「はは、偶然にも始めの方に、真耶マヤ真那マナの小隊に出くわしてさ・・・。」

 俺は他の奴らから目の敵にされているだろう?
 1小隊だけだと、最後まで生き残れないと思って、必死に説得したんだよ。」


「あぁ、確かに御剣の小隊は一番、札のポイントが高かったな。
 でも、良くあの二人が同盟の話しに乗ったな、・・・これが愛の力ってやつか?

 これは、三人が付き合っているって嘘も… …。」


「はは、どうだろうね…え~ぇ~。」


俺は話をしている途中で後ろから襟をつかまれ、それ以上の会話をすることが出来なくなった。


「近藤殿、話の途中で申し訳ないが、少し御剣訓練兵に聞きたい事があってな。」


「そういう事だ、すまないが御剣訓練兵を借りていくぞ。」


「あぁ、こんな奴でよければ御好きにどうぞ。」


「「そうか、それでは失礼する。」」










「信綱、先ほどなかなか面白話を聞いてな・・・、何でもお前と私と真那マナの三人は恋人関係になっているらしいぞ。」


「そ そうだ。信綱、どうしてこんな話になっているのだ!」


「あぁ、その噂か、今回の特別訓練の打ち合わせを誤魔化せると思って、大いに広めておいた… …。

 二人とも… …、嫌だったか?」

 
「い 嫌と言うわけでは… …」


「問題ない、むしろもっと広めても良かったくらいだ。」 


真耶マヤ! 何を言っているのだ。」


「ははははは・・・、ありがとう二人とも・・・、

 俺のためにも、もっと噂を広めておくことにするよ。」


小学校以来久しぶりに机を並べることになった訓練校で、急に他人行儀になった真耶マヤ真那マナに不安を覚えていた俺は、
この時の真那マナの赤くなった顔と真耶マヤの自信満々の笑みで、男としてか幼馴染みとしてかは分からないが、
好かれてはいるようだと感じ安堵するのだった。







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コメント

頑張って、主人公の思いを文章にしたつもりになっている作者です。

また、主人公の恋愛状況も軽いジャブの打ち合いで、なかなか進展しないのは、
主人公の性格設定の所為というか、作者の経験値が足りない所為かもしれません。


主人公一人の描写でもこんなに難しいのに、複数のキャラクターを書き分ける作者様たちには頭が下がる思いです。

特に異性の心理描写ってどうやって書けばいいのだろうと、首を傾げる毎日を送っています。


こんな拙いSSですが、最後まで付き合ってくれる人がいたら・・・うれしいな。



[16427] 第09話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/01/27 22:47


2年前から開発が行われてきた不知火の斯衛軍仕様は、帝国軍の不知火の運用報告及び斯衛軍の要求とは別に、
各企業主導で帝国軍に作られた実験部隊から得られる他国の戦術機のデータも取り入れられるかたちで、開発が進められていた。

そして今年に入り、ようやく試験機による実戦テストが行われる段階になった。

不知火・斯衛軍仕様試験型は通常の不知火に対し、以下のような改良が施されている。

機体の即応性向上について
機体主機の換装により、容量の拡大と出力の向上が行われる。
それにより、電磁伸縮炭素帯のレイアウト変更と使用量の拡大が行われる事になった。
また、CPUの換装によりEXAMシステムver.2の搭載が行われたことも、機体の即応性向上に貢献した。
EXAMシステムver.2は先行入力機能に加え、行動のキャンセル機能が追加されたものである。

機体の機動力と運動性向上について
跳躍ユニット主機の高出力化と肩部に姿勢制御用小型スラスターが増設される事になった。
また、戦術機の基本動作及び姿勢制御システムに改良が加えられたEXAMシステムver.2により、頭部にある大型センサーマスト及び、
ナイフシースなどを積極的に制御することが可能になり、空力制御による運動性向上も図られた。

近接格闘用装備の追加
ナイフシースの外装カバーにスーパーカーボン製ブレードを採用し、脛部分の外装にもブレード機能が施された。
また、不知火・吹雪では補助的な役割として搭載された、前腕外側部にある飛び出し式のカーボンブレードは、その有効性が実証されたため、
さらに大型化されることになった。

機体本体の強化
各種改良により機体にかかる負荷が増大したため、それにあわせて基礎フレーム及び各部関節の強化が行われた。
また、稼働時間の低下が予想されたため、バッテリー及び燃料タンクを増設するために外装が一部大型化する事になった。

装甲の改良
この機体には、新開発の対レーザー蒸散塗膜加工装甲が搭載されることになった。
その試験結果を得て、通常の不知火と吹雪にも装備されることになる。
しかし、不知火は重要部分,吹雪はコックピット周りのみに限定で施されているのに対し、青色以上の仕様の機体には全ての装甲に
対レーザー蒸散塗膜加工が施される事になっている。

この様な改良により、不知火という枠の中では、ハード面でこれ以上性能をあげることはできないと言われるほど、突き詰められたものになった。

その機体性能は、総合的な能力で不知火を上回るものになり、接近格闘能力では不知火を圧倒するまでになっていた。

ただし、増設されたバッテリー及び燃料タンクでも稼働時間の低下を補うことはできず、統計的に見て稼働時間が不知火の80%ほどになっている。

さらに、大幅な製造コストの上昇と整備性の悪さや、高い衛士適正を必要とする点も問題とされたため、
現時点では少数精鋭の斯衛軍くらいしか運用する事ができない機体となっている。

この仕様を見た俺は、不知火とマブラヴの世界の武御雷を混ぜたような機体だなという感想を持った。

これは、余談だが不知火・斯衛軍仕様試験型のデータにより、EXAMシステム搭載を前提とした機体開発の必要性が判明し、
新型機の開発に反映される事になるのだった。








斯衛軍訓練校で一年を過ごした俺は、その後の衛士適正試験で過去最高の適正を示し、正式に衛士課程へ進むことになった。

過去何十回も戦術機に乗ったことがあるのに、いまさら適正検査を受ける事に苦笑を禁じえなかったが・・・。

ただ、初めて乗ることになる瑞鶴への対応が上手くいかず、動作教習課程のスコアは思うように伸びなかった。

それでも、他の訓練兵と比べると圧倒的な成績を出してはいるが、瑞鶴を上手く扱っているという感覚が無いのだ。

やはり、高い機動力と運動性が求められた第2世代機の陽炎,第3世代機の不知火・吹雪らと、重装甲で固めた第一世代機の名残が残る1.5世代機の瑞鶴では、
機体の動かし方に大きな隔たりがあるのだろう。
 
不知火では少しのミスは、持ち前の機動力と運動性で誤魔化すことが出来たが、瑞鶴ではそれが出来ない。

小さなミスでも、それがじわじわと傷口を広げて行き、それが結果に大きく響いてくるのだ。


俺のシミュレーターでの成績が思ったほど良くないのを見た教官は、基礎動作訓練終了後嬉々として瑞鶴同士のシミュレーター対戦を挑んできた。

そこで俺は、教官の巧みな操縦について行けず、久しぶりに敗北の味を味わう事になる。

そして、この出来事を切掛けとして、今までの鬱憤を晴らすかのように、毎日の用に入れ替わり立ち代り現れる教官たちとの対戦訓練をするはめとなった。

シミュレーター訓練の最後は、俺が教官と対戦し敗れるというのが日常になっていったのだ。

以前から分かっていたことだったが、シミュレーションでは殺気を感じに難いし、乗り物と認識出来ていないためか、
騎乗(乗り者の乗り方やその能力・特性を理解できる能力)の特殊能力が働く事は無い。

俺は教官の説明,瑞鶴の解説書,小隊内や他の訓練兵との議論を参考にしながら、少しずつ瑞鶴に最適な操縦法と限界性能を学んでいくことになる。





シミュレーターでの訓練が一段落したところで、ようやく実機訓練を行うことになった。

訓練校にある瑞鶴は、小隊での対戦ができるように8機が揃えられていたが、訓練兵の人数と比べると圧倒的に数が足り無いのが現状だった。

俺は、他人の操作記録ログが残っている機体に不満を感じながらも、初めて触れる瑞鶴に狂喜する事となる。

そして、実機に乗り騎乗の能力を発動させた俺は、瑞鶴の操作感覚を掴みそこから更に大きく成績を上げることになった。

訓練の最中に噴射跳躍で空に跳び上がる事を、


「貴様は、光線級の恐ろしさを知らんのか?」


と窘められることがあったが、


「この訓練の設定では光線級の存在は設定されていませんし、
 第三世代機なら光線級の照射を避けることができるため、この訓練は無駄にならないと判断します。」


と返答するなど、教官の指示する以外の訓練も行うようになっていった。

この事は、教官の不評を買い教官と実機を使った一対一対戦に発展していく事になる。

その対戦結果は、シミュレーター対戦とは逆に俺が勝利を収める形となった。

俺は教官の奇襲やトラップを持ち前の勘で察知し、それを逆手にとって不意打ちを喰らわせ、教官を撃破したのだ。

その後、格闘訓練時と同様に幾人かの教官と対戦を行うが、実機対戦では全勝、シミュレーター対戦では5分の成績を収める結果となった。

まともな対戦となれば、一対一で戦う事に慣れている俺に分があり、戦術機の操縦テクニックも8歳からシミュレーター訓練を行ってきた俺に分があるためだ。

教官には、シミュレーター訓練の時でさえ、奇襲やトラップしか有効な選択肢が残されていなかったが、俺の奇抜な機動を捉える事が難しく、
実戦経験の差を見せ付ける事が出来ずにいたのだった。




次に行われたのが、統合仮想情報演習システム『JIVES』を使った、対BETA戦のシミュレーター訓練だった。

今日行われたJIVESでのシミュレーション設定は、小隊での拠点防衛。

午前中に行われたシミュレーター訓練では、多くの小隊が先行する突撃級を処理している間に、要撃級と戦車級に囲まれ、
一度も補給を受けることなく、撃破されていった。

俺が小隊長を務める小隊も同じような経過をたどり、何とか包囲を突破するが拠点にBETAが侵入し、開始30分ほどで終了となっている。

このシミュレーション設定では、BETAは谷のある方向からのみ進行してきており、光線級の存在も設定されていないことから、
こちらに十分な装備と数がそろえば、防衛は可能であると考えられる設定だった。

しかし、支援砲撃も無く小隊規模でトラップの使用が許可されているのみでは、歴代の訓練兵の最長防衛記録が40分程度だという事からも、
現状の瑞鶴の性能ではこの程度の防衛が精一杯であると考えられていた。

午後からも同じ設定でシミュレーター訓練が行われることを聞かされた各小隊は、個別に集まり対策会議を行うこととなる。


「隊長、午後からのシミュレーター訓練どうしましょうか?
 流石の隊長でも、今回は厳しいと思うのですが・・・。」


そう言って、小隊内で俺とエレメントを組んで前衛を務めている、斉藤が話しかけてきた。


「ああ、確かに今回は厳しい状況だ。
 前のように、友軍が湧いてくることは無いしな・・・。」


俺が、軽く斉藤に返事を返し考え込んでいると、後衛を務める二人が話し出した。


「ええ~、隊長に頼めばどこからか増援や超兵器が湧いてくるもんだと・・・・・・。」


「前田、何を言っているんだ、
 隊長がいつもやっているのは、裏技や将棋の盤をひっくり返す類のものだ。
 勝手に援軍が湧いてくるものか。」


「高杉~、もっと夢を持とうぜ夢をよ~。」

 
「ふぅ・・・、二人の希望に沿うかは分からないが、一つアイデアがある・・・。」


そう言って俺が話し出したアイデアとは、機体の設定をいじろうというものだった。

三人は始め、何を言っているのか分からない様子だった。

それは俺が言っている機体をいじるということが、普段行っている個人で許された範囲の制御設定だと勘違いしたためだ。

ここで俺が言いたかった機体をいじるとは、機体の性能自体を変えてしまおうというものだったのだ。

もちろん、ありえない性能に設定するのではJIVESのシステムに弾かれてしまう。

しかし、逆に言えばありえる設定ならば、問題なく動くというという事でもある。

俺はシステムの中に、今の俺たちが乗っている一般向けの瑞鶴以外にも、有力武家や五摂家の者が駆る高機動型の設定が、
裏に隠されている事を知っていた。

さすがに、高機動型の設定をそのまま使うことは問題だが、そのデータを参考に一般向けの瑞鶴のデータを極限まで軽量化し、
機動力を高めた機体設定で、シミュレーター訓練に挑むことを提案したのだ。

その理由とは、今回は拠点防衛という設定ながらも、機動力にものをいわせ積極的に攻勢にでる以外に打開策が見つからなかったからだ。

この軽量化を施した設定では、機動力の向上に反比例して防御力が低下するため撃破される危険性が増すことになる。

したがって、戦力的に他小隊と差はついていないはずである。

この話を聞いた小隊の連中は、また裏技を持ってきやがったと発言するのだが、それを楽しみにしている節があるので、
他の小隊のまじめな雰囲気からはだいぶ離れた連中だった。

その後、機体の設定変更の裏コードとパラメータデータを渡した後、装備の設定・陣形の確認を終え、
午後のシミュレーター訓練に挑むことにした。









「こちら01(御剣)、小隊各機に告ぐ、作戦開始直後より全力で匍匐飛行を行い、一気にBETA群との距離を詰める。
 その後は作戦通りだ、好きに動け! 以上」


「「「了解!」」」 


今回俺たちの小隊が設定した装備は、強襲前衛(87式突撃銃×2,74式接近戦闘長刀×2,65式近接格闘短刀×2)装備が2機に、
制圧支援(87式突撃銃×1,多弾頭ミサイルコンテナ×2,92式多目的追加装甲×1,65式近接格闘短刀×2)装備が2機だ。

制圧支援装備の2機が装備する、多弾頭ミサイルコンテナのミサイルは自立回避をする機能が搭載されていないため、
光線級が存在する地域では無力化されてしまう装備である。

しかし、今回の作戦では光線級の存在が確認されていないため、補給を確保する事ができれば、その威力を大いに発揮する事になるだろう。

俺たちの小隊は、機体の軽量化によって他の小隊を圧倒する速さでBETA群の先鋒まで到達した。

この時点で、教官たちに機体設定をいじっていることがばれてしまったはずだが、特に指摘を受けることは無かった。

こういった設定変更が教官の想定内だったのか、現役の衛士も取る作戦として認識されたのかは分からなかったが、
俺たちは始めの難関を突破したのだった。

BETA群と接触直後、後衛より先行していた前衛の俺と斉藤は、危険とされる空へと舞い上がる・・・、迫り来る突撃級の上を飛び越えたのだ。

そして、突撃級の軟らかい背面を取った二機の瑞鶴は、突撃砲の正射を開始する。

突撃級は、一瞬速度を落とし反転するようなしぐさを見せたが、遅れてやってきた後衛に気づいたからなのだろうか、
面白いようにその背面をさらし続ける事になる。

やがて合流してきた後衛は、前衛と同様に突撃級を飛び越え突撃級の背後を取り、突撃級が反転する前に装備されているミサイルコンテナを全て発射した。

2機から発射された数十発のミサイルは、突撃級の背面に突き刺さり内部に溜め込んだ力を解放する。

ミサイルの放った閃光の後には・・・、無残に骸をさらす数十体の突撃級が残されていた。


「はははっ、凄い凄い、隊長~。
 こういう時、何て言ったらいいんでしたっけ?」


「04(前田)、たしか『汚い花火だ・・・』でよかったはずだ。」


「おお、それだよ高杉~。」


後衛の二人は無駄口を叩きながらも、立ち止まることはなく、撃ち洩らした突撃級への攻撃を続けるのだった。





後衛がミサイルを発射してから2分ほどたった時、中衛にあたる要撃級と戦車級の群れが接近しているという情報を捉える事ができた。

ここで、装備されているミサイルを全て発射していた後衛は、ミサイルコンテナの補給の為に後方の防衛拠点に後退を開始する。


「こちら04(前田)、隊長~後は頼みましたよ~。」


「01(御剣)了解。

 02(斉藤)・・・そろそろ要撃級どもが来るぞ、覚悟はいいな。」


「ええ、隊長の無茶に付き合うのが私の役目ですから。」


斉藤は苦笑しながら、俺の問に答えた。

斉藤が言う無茶とは、これから迫り来るBETA群をたったの2機の戦術機で対応する作戦に対しての発言だった。

幸いにもこの段階で、100体以上いた突撃級はほぼ掃討し終えていた、これなら後衛が補給から戻ってくるまでの残り10分間ほどなら、
持たせることができるはずだ。


「02(斉藤)、無理に倒そうと思うな、落とされなければいい。
 それだけでも、BETAを拘束することはできるんだからな。」


ここに、瑞鶴2機による連隊規模のBETA群に対する遅滞戦闘が行われる事になる。

この一見無謀かと思える作戦も、軽量化された瑞鶴の持つ運動性により、一撃でも貰えばアウトという綱渡りのような状況ながら、
一応の成功を収めることになった。

何とか後衛が合流するまで生存し続け、部隊の合流後は02(斉藤)が補給のため拠点へ後退していく。

その後、俺が囮役を務めることで、制圧支援装備の後衛が乱戦に持ち込まれることが無いようにしながら、遅滞戦闘は続けられていった。

そして、02(斉藤)が補給を終えて合流した直後に、俺と02(斉藤)の立場を入れ替え、俺が補給へ向かうのだった。


作戦では、このローテーションを繰り返し、拠点に到達される前にBETA群を殲滅することになっていた。

俺が補給に向かう途中、大きな花火が上がる。

これは、どうしても俺と02(斉藤)には技量の差が有り、02(斉藤)の支援をするために後衛が俺と組んで戦う時に禁止していた、
ミサイルを使ったためだろう。

そのほかにも戦力を補うため、俺が補給中にBETAが進行してくると予想された地点には、与えられたトラップを配置していた。


この戦い方で、俺は補給と移動に必要な時間の3回分を戦い続ける事になり、他の隊員は2回分の間戦うことになる。

俺が連続で戦う時間が長い事になるが、衛士としての能力差があるので仕方が無い事だった。

尤も、他の隊員が衛士としての能力が劣っていると言う訳ではない、他の小隊と比べても俺の無茶な戦い方についてこられる事からも、
その優秀さが伺える。

しかし、始めは上手く機能していたローテーションも、疲労の蓄積によりミスが目立ち始めトラップが尽きた時、崩壊を始める。

俺が補給をしていた間に囮役をしていた、02(斉藤)が撃破されてしまったのだ。

残りの二機は、その時点で撃ち尽くしたミサイルコンテナを破棄し、運動性を上げる事で何とか持ちこたえることに成功するが、
ここで強力な火力を失うこととなる。

そして、補給を終えた俺が駆けつける寸前、俺の機体の横を光線が通り過ぎ、残りの二機が相次いで撃墜されたことが告げられた。

何と・・・、想定していなかったBETAの増援が出現し、そこには要塞級と光線級も含まれていたのだった。





俺はそれから撃破されるまでの間、最後の足掻きに戦い続ける事になる。

BETAの群れに対応するのは、絶え間なく襲っている訓練兵を相手にしていた、格闘訓練の時と似ている等とくだらないことを考えながら・・・。

何とか光線級を全滅させるまで粘ることができたが、最後は要撃級の攻撃が掠り転倒したところを、戦車級に群がられ呆気なく撃破されることになった。

あのじわじわと瑞鶴の装甲を食い破ってくるシーンは、できることなら二度と見たくは無いものだった。

しかし、俺の望みとは裏腹に、ほぼ100%の確率でこの戦車級に俺は撃破される事になっていく。

他の種類のBETAから致命傷になるダメージを受けることが無いため、何らかの理由で動けなくなった時点で、奴らの餌食になるのだ。

シミュレーター訓練が終わり、外に出た俺たちに教官が声をかけてきた。


「おめでとう。
 要塞級と光線級が出現するまで・・・、つまり防衛開始から一時間超えをした訓練兵の小隊は、貴様らが初だ。」


この教官の発言を聞いた俺たちは、喜ぶよりも攻略の目処が立ってきた作戦が振り出しに戻された事を感じ、肩を落とした。

この日はシミュレーター訓練とはいえ、改めてBETAの物量の恐ろしさを実感する日となったのだった。






衛士課程に進んでから10ヶ月以上が経ち、衛士課程の最終試験に現役部隊を仮想敵とした実機訓練があると噂され始めてから
しばらくたったある日、俺はその噂の全容をつかみ小隊内の対策会議で報告することにした。


「皆、今日は良い話と悪い話が一つずつあるんだが、どっちから聞きたい?」


「では・・・、セオリー通りに、悪い話からお願いします。」


俺は、冷静な斉藤の言葉に促されて話をする事にした。


「最終試験で、噂されていた仮想敵の正体が判明した。

 対戦する相手は・・・、国内最強部隊の富士教導隊だ。」


俺の言葉に、小隊の全員が息を呑むことになった。

富士教導隊とは、現役の衛士を教導するために作られた最精鋭部隊である。

常に他の部隊と演習を繰り返している彼らは、対人戦のエキスパートであると同時に、最新の装備を運用する試験部隊としての側面を持つ。

そして当然のように、運用する戦術機は全てTSF-TYPE92-B/92式戦術歩行戦闘機『不知火』で揃えられているのだった。


「はぁ・・・、隊長~良い話の方も聞かせてください。」

 
「喜べ前田、最終試験二週間前になる明日、訓練兵全員分の瑞鶴が配備される事になった。
 各部隊から提供されて、二週間だけだが初めて自分たち用の戦術機が手に入ることになる。」


「隊長・・・、不知火相手じゃ、余り良い話とは言えませんが?」


「そう言うな高杉、これでもましになったほうだ。

 それと、日本人としては喜ばしいが、富士教導隊と戦う者たちにとって悲しい知らせがある・・・。
 オフレコになるが、近日中に富士教導隊の不知火がCPUを交換し、最新のOSが搭載されると報告を受けた。」


「それは・・・、隊長の家で開発された、戦術機の硬直を無くす事が出来るという噂のOSですか?」


「ああ、それも最新型のver.2だ。
 教導隊の不知火には、硬直がまったく無くなると考えてもらっていいだろう。」


「「「はぁ・・・。」」」


三人は俺の話を聞き、一斉に肩を落とした。

俺はかまわず、話を続けていく。


「今回は、裏技も卓袱台返しも無しのガチンコ勝負だ。
 俺たちは今後、配備される瑞鶴を自分用に慣らしていくことになるだろう。
 上手く瑞鶴を調整する事ができれば、今まで有った他の衛士が残した操作記録ログログによる違和感も無くなるはずだ・・・。

 後は、教導隊を少しでもてこずらせる為に、他の小隊にこの情報を流すことぐらいしかない。」



この会議の後、他の小隊で仮想敵の相手が富士教導隊であることが噂され始める事になった。

そして俺たちは、今まで以上に整備兵と情報交換を行い機体の設定を煮詰めていくのだった。




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コメント

皆様、ご感想ありがとうございます。

皆様の応援のお陰で、今まで最長で1話一年だったのが、ついに2話で一年となりました。

この調子で、原作に追いつく頃には、細かな描写ができるようになっていればいいなと、考えています。


それと、ご感想・ご提案の返事を感想板に書き込むと、作者の投稿で感想板が溢れてしまう可能性があるため、
誠に恐縮ではありますが、ご感想・ご提案の返事は今後、後書きで触る程度にさせていただきたいと思います。

ただし、ご指摘への返事は後書きで書いても感想板を見ない人が楽しめないため、
今まで通り感想板に返信させていただいたいと思います。




本編で書いた教導隊への新OSの配備・・・、どうしましょう?
ますます、将来のイベントが怖くなっていました。
しかし、日本帝国と民間人を守るためには新OSの普及が必要だし、
その過程で、教導隊に配備されないのはおかしいし・・・、
悩みが絶えません。



返事

現段階での設定では、原作の戦術機を少し改良した程度の機体となっております。
この話で出てきた試作機も、その性能で原作武御雷を超えることができていません。
後、何機か戦術機を開発していくと、明確に原作と異なる戦術機となっていくと思います。


それと、おそらく同じ方より二度目の提案があった、二次創作で大人気らしい「世界一高価な鉄屑」の件ですが。
原作ではこの話の五年前の1990年に、鉄屑が決定してしまわれたようです・・・。
ただ、大々的に手を出し鉄屑さんの開発元を儲けさせると、技術が流入しなくて困る国が出てきてしまうかもしれません。
ある国の戦術機も好きな、私としてはどうにかそれは避けたいのです。
また、国内の反発も懸念しています、TEを読むとやはり国粋主義者が多いようですし。

二枚舌交渉でどうにでもなるだろ、とか
米軍撤退前なら何とかなる、
と言われればそれまでではあるのですが・・・。

今後の展開しだいではどうなるかわかりませんので、慎重に検討したいと思います。




[16427] 第10話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/04/20 00:59

突然だが、ここで戦術機で使われている姿勢制御システムについて説明したいと思う。

現在の戦術機は、大きく分けて二種類の制御により動かされている。

その二種類とは、操縦桿やフットペダルなどの操作による直接入力による制御と強化装備というインターフェイスを介した間接思考による制御だ。

つまり、大まかな動きを直接入力し、細かな動きを間接思考制御によりを指示する事で、
衛士は人型を模した戦術機を自分の手足のように扱えるようになるというのがこのシステムの売りだったのだが・・・、実際にはそうはいかなかった。

大まかな動作の入力に関しては現状のシステムでも支障は無いが、細かな姿勢制御や急激な運動変化を行おうとすると途端に問題が出てくるのだ。

これは、間接思考による制御方法では、どんなに思考の読み取りが高速化しようとも戦術機の実際の動きと思考との間のタイムラグがある為、
それを違和感として感じてしまう衛士の反応により引き起こされる現象だった。

もしここで、衛士が感じる違和感がなくなるまで戦術機を高速で動かしたとすると、その慣性力(G)に衛士が耐えられず即死する可能性が高いため、
現在の科学力ではタイムラグを無くすことは不可能となっている。

したがって、このタイムラグが原因で間接思考制御による完全な姿勢制御が難しくなり、完全な姿勢制御が行えないことから、
行動の合間に自動で転倒防止のための不自然な姿勢制御が行われることになっているのだ。

ベテラン達は今まで、このタイムラグを長年の経験により把握し、行動の合間に入れられた自動の姿勢制御を間接思考制御に置き換えることで、
硬直を緩和してきたのだ。

それをEXAMシステムは、実際の動きより先行して直接入力の命令を受け付ける事で、今まで一つ一つの動作で完結していた動きを、
一つの連続した動きとして処理するようにシステムが変更した。

これにより、ある程度の姿勢制御を機体側で行う事が出来るようになり、動作の合間の不自然な姿勢制御を無くす事を可能にしてしまった。

一般衛士でもベテランと遜色ない動きが約束されたのだ。

まるでベテラン衛士たちが蓄積した情報に導かれるように・・・。

そして、ベテランやエースは間接思考制御を別の部分や更に細かな制御に振り分けることで、更なる高みへ上ることになる。

しかし、ここで一つの疑問が湧いてくる、

もし思考と戦術機のずれを完全に補正するまで、戦術機の操縦に習熟した衛士がいれば、EXAMシステムがなくても、
完全に硬直を消すことができるのではないだろうか?

という疑問だ。

これは、EXAMシステムとは真逆の考えであるが、どちらに行っても行き着く先は同様の答えが得られる気がした俺は、この疑問の答えを得るため、
残された時間を使って小隊の連中を巻き込み、間接思考制御による姿勢制御の割合をどんどん増やしていく事にした。

この実験に付き合わされた小隊の連中は、硬直時間の短縮を実現するまでの成果を出す事になる。

小隊の連中はこの実験の感想を、自転車の乗り方と同じで、慣れればもう少し間接思考制御の割合を増やせると語っていた。

そしてこの実験は、機体側の処理能力の限界もあったが、硬直を取り除く一歩手前まで成功するという結果を俺にもたらすのだった。







いよいよ富士教導部隊を仮想敵にした、最終試験が行われる日となった。


「隊長~、ここで勝てば女にモテますよね?」


「前田、その短絡思考を何とかしろ。」


「何だよ高杉~、せっかく斯衛軍は帝国軍より女性比率が高いんだ、夢を見ないとだめだろう、夢をよ。」


「二人とも、そういう事は勝ってからにしてください。」


「斉藤、それぐらいで許してやれ、緊張で動けないよりだいぶましな状況なんだ。

 それと前田、俺が惚れた女以外なら好きにしていいぞ。

 最も・・・、相手が応えてくれるとは限らんがな。」


「ご安心下さい隊長殿~、

 あの要塞の様に堅牢な女を口説く変わり者は、隊長くらいしかいませんから。」


今回の試験で一番始めに試験に挑むことになったため、硬くなっていた小隊の空気が、前田のこの発言によりいい意味で和らいでいった。

こうやって、場を和ませるのは俺には難しいなと感じ、前田の存在に感謝するのだった。









「くそ、こいつら訓練兵だと思って遊んでるのか?」


俺は、2機の不知火を相手にしながらそうつぶやいた。

俺たちの小隊がこの日の為に建てた作戦は、訓練兵がよく使う市街地の演習場という地の利を生かして、俺が駆る瑞鶴1機で不知火2機の
エレメントを拘束し、残りの隊員の瑞鶴3機で不知火2機と戦う状況を作るという、ごく単純なものだった。

そして、小隊の装備もオーソドックスに、

俺と斉藤が突撃前衛(87式突撃銃×1,74式接近戦闘長刀×2,92式多目的追加装甲×1,65式近接格闘短刀×2)装備、

高杉が砲撃支援(87式支援突撃銃×1,74式接近戦闘長刀×1,65式近接格闘短刀×2)装備、

前田が強襲掃討(87式突撃銃×4,65式近接格闘短刀×2)装備となっている。



現在はその作戦通りに、俺1機で不知火2機を拘束することに成功していた。

通常は油断することもなく、容赦なく相手を葬ることで有名な富士教導隊であるが、斯衛軍とはいえ訓練兵を相手にすることに
気分がなえているのではないかと感じるほ、どEXAMシステム搭載機にしては余り動きがよくなかった。

俺はそこで、EXAMシステムを完全にものにしていない可能性に気が付いた。


「一番手の試験だと聞いて、疲労の無い教導隊と戦う破目になると考えたが・・・、意外と最良の順番だったのかもしれないな。」


俺は教官に教えられた一般的な第一世代機の戦い方とビル群を上手く使うことで、盾にダメージを追いながらも時間を稼ぐ事に成功していた。

するとそこに、04(前田)が撃破されたという報告が入ってくる。


「このままじゃ、完全に負けてしまう・・・。

 みんな頼む・・・。」


俺がそうつぶやいた時、02(斉藤)が相打ちながら不知火を1機撃破したと報告が入ってきた。

俺は相打ちをしてまで、小隊を勝ちに行かせた斉藤に感謝しながらも、盾を捨て間髪いれずに反転し、残り1機となった不知火に向かって、
噴射跳躍で移動を開始する。

俺と戦っていた2機の不知火は、突然空へ跳び上がった瑞鶴に対応が遅れたようだった。

しかし、遅れたといっても不知火と瑞鶴の機動力の差を考えると、それほど影響があるとは思えないほどの僅かな時間だった。

すぐさま、噴射跳躍で追撃してきた不知火は、完全に背面をさらしていた俺に対して突撃砲による攻撃を行ってくる。

俺はここに来て始めて、心眼(自分を空から見下ろす感覚)を発動させ、姿勢制御を7割がた間接思考制御に切り替えて操縦を行う設定に変更した。

後は勘を頼りに回避を行い、心眼の能力で感じた方向に対し、瑞鶴の腕を背後に向け突撃砲を乱射していった。

するとそれを脅威に感じたのか、不知火が噴射跳躍でこちらを追撃することを諦めてくれた。

これは後に分かったことだが、この時に放った突撃砲の乱射は的確に不知火を捕らえ、片側の跳躍ユニットに命中し、
一機の不知火から機動力を奪っていたのだ。

また、それを見た僚機は3機目の瑞鶴撃破の報もあり、噴射跳躍による追撃を中止したらしい。

この判断は、もう一機の不知火を信頼しての判断だったのだろうが、これにより俺たちに勝機が生まれた。







2機の不知火を振り切った俺は、進行方向にいた不知火を捕捉したが、その不知火から突撃砲による迎撃を受けることになった。

俺はそれに対して、空中から突撃砲で応戦しつつ不知火の直上を確保した。

そして、突撃砲を破棄し長刀を抜刀すると、不知火の直上からバレルロールで襲い掛かかる。

俺の放った直上からの長刀による斬撃は、バックステップを取った不知火によって回避されてしまったが、
着地からの硬直を感じさせない動きで再び放った斬撃により、不知火の突撃砲を弾き飛ばす事に成功する。

突撃砲を弾き飛ばされた不知火は、左手から内蔵式カーボンブレードを出し、右手で長刀を抜こうとしていた。

俺は長刀で内蔵式カーボンブレード受け流し、左肩から体当たりを行う。

質量では瑞鶴が大きい事と、相手が距離を取ろうと後方に重心を移動していた事から、不知火は無様に転倒することになる。

しかし、転倒する前に小型可動兵装担架システムを起動させていた不知火は、筒状の物を空中に放り投げてきていた。

それがどんなものか分からなかったが、小型可動兵装担架システムが搭載できる兵器を考えると、瑞鶴の装甲に致命的なダメージを
与えられることは無いと判断した俺は、倒れている不知火に対し長刀を振り下ろした・・・・次の瞬間。

不知火が放り投げた筒状の物は、強烈な光を放ち瑞鶴のカメラを焼きつかせ、一時的に視界を奪っていった。




俺が振り下ろした長刀は、相手の腕部に中った感じはしたが、相手に致命傷を与えることはできていないはずだ。

ただし、この強烈な光は不知火にも同様に降り注いでおり、こちらよりも短い時間ではあるが不知火のカメラも麻痺している可能性が高かった。

逆にそうでないとスタングレネードの意味が無い、本来スタングレネードは障害物を挟むか後方に投擲する等、
機体との間に遮蔽物を挟むことを前提に作られているからだ。


俺は心眼の能力により、相手が跳躍ユニットを起動し距離を取ろうとしている事を察知する。

一度距離を取られたら、残りの不知火と合流するまでに撃破することが難しくなると感じた俺は、賭けに出る。

心眼と勘を頼りに振り下ろした長刀を切り返し、跳躍ユニットを全開にして前進しながら、
不知火のコックピットめがけ左腕一本による突きを放った。







視界が回復した俺の目に入ったのは、コックピット付近の装甲が僅かに陥没し、横転している不知火の姿だった。

その直後、俺の耳に敵の不知火が行動不能になったことが告げられた。


「これで、1対2だ・・・。」


俺は長刀を背面の可動兵装担架システムに戻すと、砲撃支援装備の03(高杉)が装備していた87式支援突撃砲を回収後、
極静穏モードに切り替えて移動を開始した。

本来の予定では、03(高杉)が生き残り狙撃を行い、俺が囮役を務めるはずだったのだが・・・。

小隊単位の訓練に入ってから、余り狙撃を行う機会がなかったが、何とかするしかない。

幸いにも、予定通り87式支援突撃砲には半分ほどの残弾が残されていた。

俺は不知火を撃破した地点から、800mほど離れた地点に伏せ狙撃の体勢に入る事になる。







不知火を撃破した地点に到着した不知火のエレメントは、立ち止まり周囲の警戒を行っている様子だった。

どうやら、近接格闘で一機を撃破した俺が、奇襲を行うと思って警戒しているのだろう。

俺が2機を相手にしている時も、ワザと格闘戦に持ち込もうとしている動きを見せていたことも、奇襲があると判断した理由の一つかもしれない。

不知火のセンサーにいつ引っかかるか分からないので、相手が動きを止めた瞬間にセンサーを使わない目視のみで照準を合わせた俺は、
支援突撃砲のトリガーを引き、すばやく対象を切り替えて再度砲撃を行う。

俺が始めに放った弾丸は、見事に不知火のコックピットを捉え戦闘不能に追い込んだ。

しかし、遅れて放った弾丸の対象になったもう一機は、完全のこちらの弾丸を回避していた。


この段階で、俺の位置が完全にばれたのだろう、不知火は細かな軌道修正を繰り返しながらも、こちらとの距離を急激に詰めてきていた。

もうこちらには残された作戦は無い。

それに、相手もこちらを完全に敵と認めてくれたのだろう、不知火の纏う雰囲気が変わっていた。

ここから正真正銘の瑞鶴と不知火によるドックファイトが始まる事になった。


相手は不知火の機動力を活かし、一撃離脱を繰り返す戦術を取ったため、戦闘は不知火に最も有利な位置での射撃戦となっていく。

戦い始めて数分で、弾切れにより支援突撃砲を破棄せざる終えなくなり、こちらには長刀2本とナイフ2本が残されるのみとなっている。

それに対し、相手の不知火は強襲前衛(87式突撃銃×2,74式接近戦闘長刀×2,65式近接格闘短刀×2)装備を完全に残している状態だった。

俺は隙を窺い続けていたが、いくら粘っても懐に入る隙を見つけることができなかった。

そうしている間にも、相手の不知火はEXAMシステムに慣れ始めからだろうか、どんどん動きが滑らかになっていった。

俺はそれに対応するために、余っている長刀と可動式懸架システムを破棄することで機体の軽量化をはかり、ドックファイトに使わない
センサー類の機能を停止させたことで浮いた処理能力を、機体の制御に回すことで即応性を高めるなどの手段を取っていた。

そして仕舞いには、搭乗員保護のためのリミッターを解除し、機体性能ギリギリの動きができるような設定変更まで行うことになる。

この設定は衛士の負荷もさることながら、機体にかかる負担も大きくなり、いつ壊れてもおかしくない機体にしたという意味だった。

しかし騎乗(乗り者の乗り方やその能力・特性を理解できる能力)の能力がある俺は、本当の限界点を感じ取り機体が破損しない操縦ができるため、
壊れるという点は心配していなかった。


こういった俺の努力も状況を好転させることができず、次第に追い詰められていくことになる。

そして、心眼の反動である頭痛が於き始めた事と、瑞鶴が金属疲労により悲鳴を上げ始めた事を受け、最後の突撃を敢行しようとした時、







時間切れによる試験終了の合図が送られてきた。

俺はこの合図を聞き、思わず大きなため息をついてしまっていた。

己と機体の限界に挑むことで達成した機動を、EXAMシステムは難なくこなしてしまう事に、
改めて凄いものを開発したことに気付かされたからだった。

この最終試験終了後、俺たちの小隊は唯一富士教導隊に負けなかった小隊となり、訓練校に伝説を一つ作り上げる事になる。

そして俺は、一回の実機演習で瑞鶴をスクラップにした愚か者として、名前を刻むことになった。









最終試験終了後から数日たったある日、俺は教官と進路に関する面談を行っていた。

これは、斯衛軍訓練校を出た者が全て斯衛軍に所属できるものではなく、成績優秀者から順番に志願していき、定数が埋められて時点で、
残ったものは予備役や帝国軍への編入、大学への進学を勧められるための措置だった。


「御剣訓練兵、貴様の進路だが・・・
 
 斯衛軍第16斯衛大隊や帝国軍富士教導隊から名指しで、入隊の誘いが来ている。
 その他にも、精鋭部隊に入ることを前提に各方面軍から・・・、果ては海兵隊からも誘いが来ている。

 まるで昔の、ドラフト一位指名争いのような状況だ・・・。」


「はぁ、そうでありますか。」


「何だ? ドラフトを知らんのか?
 最近、野球をやる若者が減った所為かな・・・。

 まぁいい。これが誘いのあった部隊のリストだ。
 確認しろ。」


「はっ。」


俺はリストの中に、予定通りの部隊名を発見し、それを教官に伝えた。


「教官殿、帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊に入隊したいと考えております。」


「・・・・・・中隊名まで指定する勧誘が来るとは、おかしいと感じていたが・・・。
 
 選んだからには、この中隊がどこを活動拠点にしているか知っているのだろうな?」


「はい、私は試験中隊を提案した者の一人ですから、
 試験中隊が常に最前線で、運用されていることも知っています。

 確か、現在の第13部隊は北京に拠点を置いて活動していると聞いています。」


教官は、俺の答えを聞いて呆れたような表情を浮かべた。


「御剣・・・、何故そこまで生き急ぐ。」


「時の流れが、休むことを許してくれませんので・・・。

 それに一般の将兵に比べて、信じられないほど整えられた環境で戦えるのです。
 後は、自分の実力しだいとなります。

 安心してください、決して死ぬ為に大陸に渡るわけではありませんので・・・。」

 
「そこまで言うなら、これ以上何も言わないが・・・。

 第16斯衛大隊の誘いを断る者が出るなど、前代未聞だ。
 報告書に何と書くかで、今から頭が痛くなる。」


「申し訳ありません教官殿、報告書には己を試すために大陸に渡ったとでも書いておいてください。」


面談から数週間後、小隊解隊式と衛士徽章授与が行われ、教室にて任官式が行われることになった。

それぞれの任官先が伝えられ、歓喜と落胆が入り混じる中、ようやく俺の配属先が伝えられる番が来た。

今期の首席がどこに配属されるか、皆が注目しているのだろう、心なしか教室が静かになった。


「御剣 少尉殿、帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊への配属となります。」


周りからはしきりに、どこの部隊だ?と疑問の声が上がっていたが、次の軍曹の言葉により一気に疑問が氷解する事になった。


「これから大陸に渡ることになりますが、訓練校で学んだことを忘れないでいただけたら幸いです。

 少尉殿の武運長久をお祈りいたしております。」


斯衛軍に入ることが決まっており、後はどこの部隊に入るのかと注目されていた今期の首席が、
よりにもよって大陸に渡ることになった結果に、教室内がざわめきに包まれたのだった。







任官式が終わった後、俺は元小隊の連中に囲まれることになった。

他の連中に話を聞かれたくなかった事もあり、校舎の裏側に移動した俺は、三人から一斉に質問攻めを受けることになる。


「隊長、どうして大陸に行くことにしたのです。」


「・・・昔、『人斬りは何故人を切るのか』という本を読んだことがある。

 そこには、ある剣豪が二人の弟子をまったく異なる方法で鍛える話が書かれてあった。
 一人は、基礎を教えた後に『斬りを覚えよ』と伝え旅に出し、もう一人は実戦をせずに剣豪の知りうる限りの全ての技を教えて鍛え上げた。
 やがて、二人の弟子は死合いをやることになるのだが・・・・・・、

 死合いに勝ったのは、実戦を戦い抜いた方の弟子だった、というものだ。

 別に、これが全てということではないが、前から実戦をしたいという思いがあったからな・・・。」


「それでも、一言相談してくれも!」


「よせ前田、俺たち三人は斯衛軍に任官すると前から言っていたんだ。

 隊長から相談されても、俺たちが如何こうする話じゃない。」


「二人とも、ここは一旦下がろう、私たちより隊長を心配している人がいるようですから・・・。

 隊長、この件に関しては今度しっかりと説明していただきますから、そのつもりで・・・。」


少し離れた所にいた真耶マヤ真那マナを見つけた俺たちは、軽い挨拶と互いの健闘を称え合った後、俺を残して分かれることになった。

三人が立ち去ったことを確認した真耶マヤ真那マナは、不機嫌な態度を隠すことなく俺に話しかけてきた。


「何か言いたいことはあるか?」


「・・・、斯衛軍への任官おめでとう。
 俺は大陸へ渡る事になったから、しばらく会えそうに無いな。」


「それだけか・・・?」


「あぁ、今のところは・・・。」


「では、私から聴きたいことがある。

 ・・・どうして、大陸へ渡る事にした。
 国内ではだめなのか?」


「・・・実戦を知る必要がある。
 初の実戦が本土防衛になり、初めてだから上手くできませんでした。
 という状況は避けたいんだ。」


「なぜ、私や真耶マヤに一言相談してくれなかった。」


俺はどう返事をしようか迷ったが、正直に答えることにした。


「・・・・・・俺は、自分で考えて今の道を選んだ。
 そこには、誰の意見も意思も存在しない。
 したがって、たとえ犬死しても誰かが気に病む必要は無い。」


俺が言った言葉で、表情を一変させた二人の反応にやばいと感じた瞬間、

2つの拳が、俺の頬を捉えていた。

俺は、たまらず一歩後退した。


「いてぇ、怒られるとは思ったが、まさか殴られるとは・・・。」


そう呟くが、二人の悲しそうな表情を見た俺は、


「すまん。」


と謝ることしかできなかった。

俺が漏らした謝罪の言葉に、二人が言葉を続けることはなかった。

俺もこれ以上語るべき言葉を見出せず、三人の間に沈黙がながれた。







どれくらい時間がたったのだろうか、俺が気が付いた時には、


「信綱にとって、私たちはその程度の存在だったと言う事か・・・。」


「お前は、子供のときからそうやって私たちを置き去りにしていく・・・。」


と二人が呟いた後、踵を返し立ち去ろうとしていた。

俺はここで別れたら、一生後悔することになると感じ、一世一代の賭けに出ることにした。


真耶マヤ!、真那マナ!」


俺の呼びかけに、二人は振り替えらず立ち止まっただけで返事を返した。


「「なんだ?」」


「・・・・・・、愛してるよ。」


二人の息を飲むような音が聞こえたが、二人は俺の愛の告白に対して軽口を返してきた。


「・・・ふん、この状況で愛の告白か?

 しかも二人同時とは・・・。」


「信綱・・・、時と場合を考えろ。

 愛の告白なら、もっとふさわしい雰囲気があるだろ?」


二人は顔を見合わせた後、こちらを振り向き言葉を続けた。


「もし、大陸から帰ってこられたら・・・、」


「少しは考えてやる・・・。」


「「だから・・・、必ず帰って来い。」」


そう言い、二人は立ち去っていった。

振り返った、二人の顔には涙が流れ、目が赤くなっていた。

俺はその言葉が、ただただ嬉しくて・・・去り行く二人に対して、一言声をかけることしかできなかった。


「あぁ・・・、分かったよ。

 真耶マヤ真那マナ。」




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コメント

皆様、ご感想ありがとうございます。

元々一話だった物を分割しただけのため、早めに投稿することができました。

前話と一緒で楽しんでいただけたら幸いです。


この話では、戦術機同士の対戦や、愛の告白など色々挑戦した話となりました。

私の脳内にある映像を、10%でもいいので文章にできたらもっといい戦闘描写ができるはずなのにと悔しい思いをしております。

また、こんなの告白で女性が振り向くかは甚だ疑問ではありますが、暫定的にどうにかなってしまった事にしておきましょう。


これからも改善に勤めて行きたいと思っているので、ご指導のほどよろしくお願い致します。



返事

皆様が心配してくださった、教導隊の強化で将来のイベントがあ~~、
という話ですが、今の段階でどうなるかは私にも分かりません。

原作をやり直して、話を書こうと考えていたため、
現段階で私のプロットにはその件に対して、『主人公、何とかして戦う』としか書かれていません。

1話毎に、新しい設定とイベントが飛び込む現状ですので、この件がどう響いてくるのやら・・・・・・。



新兵器の開発ですが、調べれば調べるほどBETAの脅威が身にしみている今日この頃、
ついつい、注意事項6番を破って超兵器導入が頭を過ぎってしまいます。

同様に、新兵装に関しても検討を重ねているのですが、人物の動きがリアリティーに欠ける分、
設定だけでもリアリティーを出そうと頑張っております。
それがなければ、高周波振動剣も斬艦刀も、果てはビームサーベルだって出したいところではあるのですが・・・。



ここで不躾ですが、皆様にご質問があります。

原作の凄乃皇を改良すれば、スーパーロボット大戦のグランゾン モドキを作れる気がするのですが、
これは超兵器に入るのでしょうか?

ここで書いたという事は、出すつもりが無いということなのですが、
超兵器の定義を決める参考にしたいと考えているので、書き込みをいただけたら幸いです。




[16427] 第11話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/03 18:17


1996年3月に斯衛軍訓練校を卒業した俺は、直ぐにでも大陸に渡る事になると考え、身辺の整理をしていた。

だが、思わぬ横槍が入り国内でしばらく足止めされる事となる。

足止めされることになった理由の一つ目は、俺用の不知火の調達に時間がかかった事、二つ目は斯衛軍へ任官する事になったからだった。

不知火の調達が間に合わなかった件については、諦めるしか無い事だが、斯衛軍へ任官する件はまったく想定していなかった事態だった。

何でも、斯衛軍訓練校始まって以来の成績で卒業した者が、直接帝国軍に行くことに斯衛軍の上層部及び城内省から物言いがついたらしいのだ。

紆余曲折の末、俺は斯衛軍に任官した後帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊に出向する事になっていた。

斯衛軍訓練校卒業という看板だけでよしとしていた俺は、こんな茶番に付き合う破目になったことに不満を感じないわけではなかったが、
こちらの方が将来香月博士に対するアドバンテージの一つになるかもしれないと考える事にしたのだった。










俺は国内で足止めされている間に、一度家に戻り正式に大陸に渡る事になったと家族に伝える事にした。

祖父と両親には事前に伝えていたため、それほど驚かれることはなかったが、唯一教えていなかった冥夜は戸惑っている様子を見せていた。

俺は試験中隊がほかと比べると充実した装備で戦える安全な部隊である事を伝え、大陸でどれほどの激戦が行われているかを誤魔化して
冥夜に伝えた。

その話を聞いて、冥夜がどう思ったのかは分からなかったが、その日はここで話題を変え普段の家族の会話に戻っていった。

そして、残された数日間の休暇中は会社の仕事をする事にした。

訓練校にいる間は、あまり時間が取れず簡単な報告書のやり取りが中心になり、セキュリティーや意思疎通の問題上、
重要な案件の決定が難しかったのだ。

俺はこの期間にまとめて様々な報告を受け、提案書の作成をする事にした。

今受けている報告内容は、今まで独立戦術機甲試験中隊で試験を行ってきた、海外の戦術機のリストとその測定データについてだ。

手に入れることができた海外の戦術機は、第1世代機と第2世代機の旧型が殆どで、最新の2.5世代機や第3世代機についてはガードが固く、
機体其の物はおろか情報すら殆ど手に入らない状況となっていた。

また、非公式のルートで手に入れた他国の戦術機については、堂々と実戦での試験を行うことができないので、試験部隊では装甲形状を偽装し、
他の部隊とは離れた場所での試験を行っているようだったが、運用データの不足は否めなかった。

そして、試験データを元に進められていた計画についてだが・・・、現行兵器の改修計画は順調に推移していたが、
新型戦術機の開発は現行の戦術機を大きく上回るものができずにいた。

おそらく国内だけの技術・設計思想では、大きなブレークスルーが得られず、開発が難航しているのだろう。

これらを補助するために行ってきた、他国の戦術機の研究だったんだが・・・。


「そうだ・・・、第3世代機といえば、米国のF-22『ラプター』に敗れた、YF-23『ブラックウィドウⅡ』は入手できないのか?
 運用思想に齟齬があっただけで、機体性能自体は高かったと記憶しているが・・・」


「・・・難しいでしょうね、米国の最高機密に属する装備が満載してありますので・・・。
 最低でもステルス機能と対戦術機電子戦装備は外されることは確実です。
 それに、管制ユニットも抜かれた状態になる可能性も有ります。
 そうなるとあだ名通り『世界一高価な鉄屑』になってしまいますよ。」


会議室の中にいた重役達は、俺の発言の真意がつかめず、ヒソヒソ話に花を咲かせていた。

中には、そんな分かりきったことを・・・等の発言も聞こえてきたのだが、俺はそれを無視して話を続けることにした。


「・・・・・・ブラックウィドウⅡの開発に協力していたマクダエル・ドグラム社だが・・・、
 相次ぐ開発計画の失敗で会社が傾いているのではないのか?
 それに対して、既にボーニング社が買収にやる気を見せているという情報もある・・・。

 そして、開発元のノースロック社もノースロック・グラナン社に成った後、ブラックウィドウⅡを海軍に提案したが、
 A-12『アベンジャー』の優先を理由に断られ、現在は経営資源を他に振っているようだ。」


「そ、そのような情報をどこから手に入れたのです?」


戦術機開発の経過報告をしていた、主任が思わず俺に質問をしてきた。


「俺にも独自の情報ルートはある・・・。」
(業績については調べればなんとなく分かるが、マクダエル・ドグラム社やYF-23に関しては異世界で同じような事例があったしな・・・。)


俺の発言に、重役達は必死に涼しい顔をしようとしているようだったが、気配から動揺が伝わってきた。

どんなことであれ、18歳の若造が経営の手綱を握るには、力を見せておく必要がある。

今回の件で、改めて俺の力が健在であることを示したかったのだ。

俺の発言を受け、マクダエル・ドグラム社買収の話は具体的な内容に移っていく。

マクダエル・ドグラム社は去年制式採用された、F-15E『ストライクイーグル』により若干持ち直してはいるが、
完全に立ち直るのは厳しい状況のようで、おそらくボーニング社との買収合戦に発展すると考えられた。

そしてボーニング社との買収合戦では、ボーニング社側に米国政府が付くことで、御剣財閥によるマクダエル・ドグラム社の完全買収は、
不可能になる可能性が高いため、交渉の中で何を優先的に入手するかに話が切り替わっていった。

俺たちがターゲットにした順番は以下のようになった。

1.YF-23『ブラックウィドウⅡ』
・・・新型戦術機開発の研究材料として入手する。
  YF-23のステルス機能及び対戦術機電子戦装備は入手しなくてもよい、ただし管制ユニット(制御データ)は手に入れたい。
2.マクダエル・ドグラムが携わっていた、極秘プロジェクトの開発データ
・・・米国外に持ち出す事ができる可能性は低いが、米国の戦略方針の転換により重要度が低下している可能性がある。
3.F-4『ファントム』
・・・F-4のバリエーション機開発の目処が立っているので、ライセンスを完全に取得しておきたい。
4.航空機
・・・御剣財閥には航空機部門が存在しないため、ここで技術を入手したい。
  既存の機体のパテントは手放してもいい。
5.F-15C『イーグル』及びF-15E『ストライクイーグル』
・・・表向きは、F-15J『陽炎』で入手したデータを下に、改修を行い準第3戦術機にする計画があると伝える。
 

また、ボーニング社との交渉の際には、一番目以外の順番が逆になるように要求が出されるアイデアが出された。

このアイデアは、米軍の主力になっているイーグルを入手するのは不可能に近いため、イーグルを改修して準第3世代機にするプランを
提示することで本気を見せ、それを餌に本来欲しい技術が入手できるよう、ボーニングに譲歩させるために出されたものだった。

またブラックウィドウⅡについては、米国が手間取っているF-22の開発の為に、基礎技術力が上の米国に対して数少ない日本優位となっている、
第3世代機の運用データを提出することを引き換えにしてでも、入手する方針となった。

正直にいうと、各国の第3世代機開発状況を見るに、今後5年以内に第3世代機の配備が予想されているため、
今が一番第3世代機の運用データを売れる時期だと考えたのが、運用データ提供を考えた一番の理由だった。

それに、こちらにはソフト面でブレークスルーがあり、その情報さえ守り抜ければ大きな損は出ないという判断もあった。

その後、買収の話は各企業及び日本政府との連携についての話となり、そちらについてはマクダエル・ドグラム社から得られる技術や
新型OSの開発状況を説明することで何とかすることになった。

そして、マクダエル・ドグラム社買収の件は、全会一致で可決されることになるのだった。








俺は日本にいる事ができる最後の日に、前々から先延ばしにしていた大切な話を伝えるために、冥夜の部屋を訪ねた。


「冥夜、信綱だ。
 少し話したいことがある、入ってもいいか?」


「どうぞお入り下さい、兄上。」


俺が部屋に入ると、冥夜はなにやら手紙を書いているようだった。


「手紙を書いていたのか・・・、邪魔したか?」


「いいえ、調度書き終えましたので・・・。」


どうやら、冥夜は悠陽への手紙を書いていたらしい、俺が忙しくなってからは、母を介して文通を続けているのだ。

俺が始めに文通を進めたくせに、今は全て母に任せていることに申し訳ない気持ちになる。

しかし、今日はそれよりももっと大切なことがあったので、それを冥夜に伝えることにした。


「冥夜・・・、今日はどうしてもお前に言わなければならないことがある。」


「兄上・・・、どうしたのですか?
 そのように、改まって・・・。」


「今日はとっても真面目な話になるからな・・・。
 冥夜と悠陽の顔が似ている理由についてなんだが・・・。」


俺は、冥夜と悠陽が本当の双子の姉妹であり、煌武院の都合で養子に出されたことを伝えた。

それを聞いた冥夜は、うすうす感じていたと返事を返した。

しかし、ショックは隠せないようで、今にも崩れ落ちそうになっていた。

やはり、俺か母から事実を伝えないと冥夜をしっかりとフォローできないと思ったことは正しかったようだった。

残念だが家を守るという考えにおいて、この件については煌武院の行動に賛成している、祖父や父はまったく役に立ちそうに無いのだ。

俺は肩を落とした冥夜を抱きしめ、俺の思いを伝えることにした。


「冥夜は、決していらないから養子に出された訳じゃない。
 煌武院の都合と、生まれた順番だけで決められた話だ・・・。
 今でも、お前が家に来た日のことを覚えている。
 嬉しくて嬉しくて、厭きもせずに一日中お前を眺めていたよ・・・。」


「あ 兄上・・・。」


「お前は皆に必要とされている・・・。
 それは煌武院の娘だからじゃない。
 お前が御剣 冥夜だからだ。
 日本中が何と言おうとも、俺は冥夜自身のことが大好きだぞ・・・。」


俺の思いを聞いた冥夜は、大粒の涙を瞳に溜め今にも泣き出しそうな表情になっていた。

俺は忙しくて一緒に遊ぶ時間が取れなかったことをわび、静に冥夜を抱きしめた。

すると、冥夜の押し殺したような泣き声が胸に響き、俺は冥夜が泣き止むまで抱きしめ続けることになる。

泣き始めて10分ほどたってから、落ち着きを取り戻した冥夜だったが、服を汚したことを謝ってきた際に、
泣き付かれるのも嬉しいものだと返事を返すと、顔を赤らめて再び顔を俺の胸にうずめる事になった。

その後他愛も無い話をしていると、いつの間にか話題が大陸へ派兵される件になっていた。


「兄上は、どうして大陸に行かれることにしたのですか?」


「・・・俺にはやりたいことがある。
 それをやるためには、世界が平和じゃないといけないらしいんだ。

 だから戦う事にした・・・、冥夜にも何かやりたいことがあるだろ?」


俺の問いかけに、冥夜は首を立てに振って返事を返した。


「兄上ほど立派なものではありませんが、私にもやりたいことがあります。」


「そうか・・・、それを大切にしろよ。
 ・・・目的があれば、人は努力できる・・・か。」


「兄上?」


「冥夜が己の道を見つけたのならそれでいい・・・。
 お前は悠陽の影じゃないのだからな。」











不知火が調達できたと報告を受けた俺は、いよいよ大陸に出立する事になった。

俺は赤い斯衛軍の制服を身に纏うと、再び冥夜の部屋を訪れ俺が書いた悠陽への文を持たせ、今度会ったときに渡してくれと頼んだ。

やはり悠陽にも、俺から真実を伝えたほうがいいと思ったからだ。

そして冥夜に、文を渡すときにたとえ悠陽と冥夜が逆になっていたとしても、俺の思いは変わらないと伝えてくれと頼み、家を後にした。

御剣重工の工場で不知火を受け取るよう指示を受けた俺が工場を訪れると、工場の前では陽炎開発の時から御世話になっている親方が出迎えてくれた。

挨拶もそこそこに、親方は今回調達された帝国陸軍カラーの不知火について、説明を始める。

親方の説明によると、用意された不知火はCPUを中心とした演算ユニットとOS(EXAMシステムver.2),測定用センサー以外は、
本当に普通の不知火と同じらしい。

また、機体のカラーリングが斯衛軍仕様で無く帝国陸軍カラーなのは、不知火が斯衛軍で制式採用されていない事と、
部隊の統一性を出すためと言う事だった。

ただし、精度のいい部品をえりすぐって組み立てたため、僅かながら性能が上がっていると親方は語っていた。

どうも、祖父が手を回して作らせていたとの事で、若干の後ろめたさもあったが俺はありがたく不知火を受け取ることにした。

不知火を受け取った俺は、陸路で博多まで移動し、そこから船で大陸へと渡る事になった。

陸路と船での移動時間は、全て機体の調整に費やすことにした。

不知火に乗るのは久しぶりだったために、少しでも慣れておきたかったからだ。

大陸に渡った俺は、旧満州周辺に展開しモンゴル領ウランバートルハイヴ(18番目のハイヴ)の間引き作戦に参加していた、
第13独立戦術機甲試験中隊に無事合流することができた。


「帝国斯衛軍から出向して参りました、御剣 信綱 少尉です。」


「第13独立戦術機甲試験中隊長、本郷 岳史 大尉だ。
 第13試験中隊 通称『ロンド・ベル』へよく来てくれた、御剣少尉。」


試験中隊設立時に俺が提案した部隊名が、正式に採用されていたことに内心驚いていたが、中隊長から部隊の概要説明があるとの事だったので、
気を引き締めなおして説明を聞く事にした。

第13独立戦術機甲試験中隊が運用している戦術機は、俺が入隊した時点で不知火・斯衛軍仕様試験型が6機、通常の不知火が6機となっている。

この中隊で運用されている不知火・斯衛軍仕様試験型とは、今年より斯衛軍で配備され始めた不知火・壱型丙の実験機で、
斯衛軍の仕様に合わせて改良された不知火である。

特に第13試験中隊が運用している不知火・斯衛軍仕様試験型は、特別な改良が加えられているようだった。

隊長機と突撃前衛長機の2機は、青の色が塗装される機体の装備に準じており、残りの4機は高機動タイプの不知火・斯衛軍仕様試験型となっていたのだ。

現在はさらに衛士からの要望や、各国で採用されている戦術機の機構・パーツの中から、不知火に搭載可能な様々なパーツが取り付けられており、
各隊員が乗る不知火・斯衛軍仕様試験型及び不知火は、殆どの機体が若干異なった外観になっている。

そして、2機だけ残された通常の不知火は、兵装の試験を行った際の基準として使われているようだった。

この独立戦術機甲試験中隊は、複数の企業が出資して作られた部隊のひとつで、帝国軍に所属しているものの独自の裁量権を持っている。

その代わり、常に最前線に出ることが要求され、その多くの場合試作品を装備して戦うことになる。

試験運用前に様々な試験が行われているものの、実際に動作不良によってひやひやさせられたことがあるらしい。

ただ、この様な試験運用はどこかで必要とされることであり、大変重要な任務であると説明を受けた。




中隊の概要説明の後、人員に空きがあったことと訓練校での成績から、突撃前衛小隊に配属が決まった俺は、
突撃前衛小隊の隊員に紹介されることになった。


「こいつが今回配属された、御剣 少尉だ。」


「このたび、第13独立戦術機甲試験中隊 突撃前衛小隊に配属になった、御剣 信綱 少尉です。
 よろしくおねがいいたします。」


俺が挨拶の後敬礼を行うと、小隊の隊員はそれぞれ異なった態度で敬礼を返してくる。

その態度を見ていると、どうやら俺の配属をあまり歓迎していない雰囲気が伝わってきた。


「では、突撃前衛小隊の隊員を紹介しよう。
 南 孝太郎 中尉だ。突撃前衛長を勤めている。」


「突撃前衛長の南 孝太郎 中尉だ。よろしく。」


「次、沖田 宗一郎 少尉だ。南 中尉とエレメントを組んでいる。」


「沖田 宗一郎 少尉です。御剣 少尉。」


「最後に、貴様とエレメントを組むことになる、佐々木 浩二 少尉だ。」


「佐々木 浩二 少尉だ……、中隊長こいつは使えるんですか?
 嫌ですよ、前のように勝手に死んだからって、小言をもらうのは…」


「……使えるかどうかは実戦にならんとわからんが、斯衛軍訓練校での成績は優秀みたいだ。
 死の八分を生き延びれば、それなりにモノになるだろう。」


「ふぅーん、まぁ、よろしく。御剣 少尉。」


各隊員が歓迎していないのは、佐々木 少尉の言った俺に実戦の経験が無い事が理由のようだった。

また、一人だけ色もデザインも違う斯衛軍の軍服を着ていることも、相手が受け入れ難い理由の一つかも知れないと考えた俺は、
少しでも早く部隊に溶け込む為に、着任時に支給された帝国陸軍の軍服を着用する事を心に決める事になる。


「他の小隊は、今は払っているので、後日紹介することになる。
 では、南 中尉後はよろしく頼む。」 


互いの挨拶がすんだ後、俺の実力を見るため突撃前衛の小隊内だけのシミュレーター訓練を行う事になった。

本来は実機で演習をやりたかったらしいのだが、最前線で消耗したパーツと整備の関係からシミュレーターでの訓練が選択されたのだ。

今後自分が乗ることになる不知火を選択した俺は、連携の訓練時間も考え制限時間15分で各隊員と一対一で戦うことになる。




始めに対戦したのは、J-10 殲撃10型に乗った佐々木 少尉だった。

殲撃10型は、実戦に於いて高い機動力,運動性による近接格闘戦で評価の高い、軽量戦術機であるF-16 ファイティング・ファルコンの改良型である。

ファイティング・ファルコンより近接格闘戦を強化された機体は、ローコスト第2世代機ながら高い性能を持っている。

しかし、殲撃10型より高い機動力を持つ第3世代機の不知火なら、距離をとって蜂の巣にすればそれほど脅威となる機体ではない。


「くそやろう! 御剣! 正々堂々、戦わねーか!」


「いえいえ、佐々木 少尉殿。
 機体の性能を活かした、正しい戦い方だと思いますが……?」


俺はそう言って、佐々木 少尉に対して余裕の笑みを浮かべる。


「佐々木! 愚痴を言ってないで、実力でどうにかしろ。
 先任の実力を見せると言って、殲撃を選んだのは貴様だろう。」


「わかりましたよッ! 」


そう言って、佐々木 少尉は弾幕を潜り抜け、一気に距離をつめてくる。

俺はそれに対して距離をとる振りをしていたが、しだいに殲撃10型に距離を詰められていった。

接近した殲撃10型が不知火を長刀の間合いに入る直前……、俺は突撃砲を殲撃10型に向かって放り投げた。

そして、放り投げるための動作がそのまま長刀の抜刀モーションへとつながっていく。

稼動兵装担架システムにより背面から肩越しに移動してきた長刀の柄を握った不知火は、殲撃10型に向かって振り下ろした。

佐々木 少尉は突撃砲を長刀で払いのけた直後、不知火の抜刀に気が付き殲撃10型の上腕部に装備されたカーボンブレードで受け流そうとする。

しかし、不知火の放った斬撃はカーボンブレードごと殲撃10型を切り裂いた。


「くそやろう! いやらしい攻撃ばっかりと思ったら、格闘も上手いじゃないか。」


「ええ、これでも斯衛軍訓練校 衛士課程の首席卒業ですから……。」


「……まあいい、相棒が強いのは良い事だ。
 これからよろしく頼む、御剣。」


「よろしくおねがいします、佐々木 さん。」




次の対戦相手はSu-27 ジュラーブリクに乗った沖田 少尉だった。


「御剣 少尉……、もしかして斬鉄が出来るんじゃないか……。」


「さぁ、どうでしょうね。

 もし、出来るといったらどうします?」
(条件が揃えば、できないことも無いが・・・)


「ふっ……、お前と格闘戦で戦ってみたくなった。
 どうだ、御剣。」


「わかりました。最初から全力で行きます。」


「来い!」


その掛け声と共に、戦闘が開始される。

ジュラーブリクは近接格闘能力に特化した機体で、各部に装備されたカーボンブレードと上腕部に内蔵されたモーターブレードを用い、
他を圧倒する手数を持つ。

そして沖田 少尉は、長刀一本を両手で保持して格闘戦を挑んでくる。

俺もそれに対して、長刀一本で対処する事にした。

始めは軽い打ち合いから始まり、その戦いは次第に激しさを増していった。

俺は長刀の間合いで戦うことで、ジュラーブリクの特性であるカーボンブレードやモーターブレードを用いた、
超接近戦に持ち込まれないように戦っている。

少しでも懐に入られれば、すぐさま敗北することになるからだ。

俺は、ジュラーブリクから繰り出される斬撃を長刀で捌きながら、どうやって対処するかを考えていた。

沖田 少尉の技量とジュラーブリクの性能を考えると、これ以上打ち合ってもジリ貧になるだけだ。

手数で圧倒されるのなら、圧倒される前に相手の得意な間合いの外から一撃で決めるしかない。

そう結論を出し数回長刀を打ち合わせた後、一旦間合いを離し向かい合う状態に持ち込んだ。

そして、俺は長刀を頭部の右側に持って行き、剣先を上に向けた構えを取る。


「…その構え、示現流 蜻蛉の構えに似ているが、どこか違うな。」


「ええ、この構えに名前はありません。
 ただ刀を早く振り下ろそうとしていたら、こんな構えになっていただけですので……。」


「そうか…、一撃で決めるつもりか。だが、易々とやられはせんぞ。」


そう言い、沖田 少尉は長刀を下段に構える。

次の瞬間…、不知火とジュラーブリクは同時に動き出した。

それは互いに跳躍ユニット全開にしての飛び込みとなった。

そして、下段から長刀を振り上げるジュラーブリクだったが、不知火は跳躍ユニット前方に向け噴射をする事で、
急激な減速を行うと同時に上半身を後ろにそらした。

ジュラーブリクの放った斬撃は、不知火には当たらず直ぐ傍をすり抜ける事になり、
間髪いれず不知火が振り下ろした長刀によって、ジュラーブリクは切り裂かれる事になった。




最後の対戦相手は、不知火・斯衛軍仕様試験型に乗った南 中尉となった。


「遊びはなしだ、本気で行かせてもらう。」


南 中尉のこの発言により始まった戦闘だが、始めは距離をとっての銃撃戦を行う事になった。

しかし、射撃の腕は俺の方が高いらしく、少しずつ不知火・斯衛軍仕様試験型の装甲を削っていく事になる。

そして、射撃戦では勝てないと判断した南 中尉が間合いを詰めたため、戦闘は近接格闘戦に移行していった。

接近しての射撃と凄まじい斬り合いをしていたが、相手の機体性能が上のためなかなか攻めきれない状況だった。

EXAMシステムver.2の特性であるキャンセルを使ってフェイントをかけるも、高い運動性のおかげで反応が少し遅れる程度なら対応されてしまう。

近接格闘能力は沖田 少尉の方が上だが、なんと言うか南 中尉は戦うことが上手いのだ。

そのため、沖田 少尉の時のように一撃で決めるような状況に持ち込めない。

結局、15分と決められていた制限時間いっぱいまで、俺と南 中尉は、戦い続ける事になった。


「こんな新人が入隊するとは、俺達は幸運だな…。
 御剣 少尉、これからよろしく頼む。」


この対戦によって、一応の信頼を得ることができた俺は、その後小隊の連携訓練を行う事になり、そこでその日のシミュレーションは終了となった。






シミュレーションの後、俺の特異な戦術機動とEXAMシステムver.2を利用した機動について質問を受けることになる。

どうやら、配備されてから3ヶ月程たった今でも、試験中隊ではver.2を使いこなす段階には至っていないようだった。

特にver.2で搭載したキャンセルは扱いが難しいらしく、キャンセル時に発生する硬直を今までのように、自動姿勢制御システムをオフにして
間接思考制御で機体のバランスをとる事で緩和しようとしているのだが、高速化した動きに衛士が付いていけないため間接思考制御が難しいらしい。

キャンセル時の硬直への対応は、キャンセルされない機動を設定したり、先行入力されたコマンドのみをキャンセルしたりすることで動きをつなげる等、
その時の状況によって対応方法は異なっている。

そして、間接思考制御による硬直の緩和についても、今までと感覚は異なるが一応行うことは可能なのだが・・・。

小隊全員にver.2についての説明をした俺だったが、ここで一番問題なのはしっかりとしたマニュアルが存在しないことである事を実感していた。

マニュアルの作成は、EXAMシステム稼働中の部隊からの情報も取り入れ、富士教導隊と協同で製作中という現状だったため、
俺ができた対応は部隊レベルで情報を共有するという事が精一杯だった。

また、その後の訓練の中、不知火・斯衛軍仕様試験型にシミュレーターで乗る機会があったが、性能の高さよりも稼働時間の低下に不満を抱き、
通常の不知火の方が自分に合っていることを実感した。

上手い戦い方をする者なら、不知火と同等の稼働時間を確保できるが、その衛士が不知火に乗れば、もっと長い時間戦えることは明白だったからだ。

そして、試験中隊に合流してから2週間ほどたったある日、俺はモンゴル領ウランバートルハイヴの間引き作戦に参加し、
そこで初陣を飾ることになるのだった。





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コメント

皆様、ご感想ありがとうございます。
投稿開始から一ヶ月が経過しましたが、だんだんプロットの内容が薄くなってきたため、
話を作るのに時間がかかるようになってきました。
どこまで、毎週投稿が可能かは分かりませんが、いけるところまで行きたいと思います。

そして今回、とんでもない部隊名を採用してしまいました。
これは、私があまりにも名前を決めるのが遅いために行った苦肉の策です。
どこまでが許されるのかは分かりませんが、皆様が受け入れていただけるのでしたらこのまま進めたいと思います。

それと、悠陽と冥夜や他の原作キャラクターの扱いをどうするか、いまだに迷っております。
注意事項7番に『主人公が原作キャラクター(最大で5~6名程度)と恋人関係になる可能性があります。』
と書いたのに、本文を書き始めてから主人公が口説くor惚れられる理由を作る技量が、私に無い事に気が付きました。
注意事項7番…・・・、守れるといいのですが。



返事

前回私が、皆様に質問させていただいた、『グランゾン モドキは超兵器に入るのか?』
に、沢山のご返答をいただき誠にありがとうございます。

皆様のご返答を総合すると、
凄乃皇自体が超兵器だから、凄乃皇の様に制限があるのならグランゾン モドキが出て来ても、何とか許せる。
というご意見と理解していいでしょうか。

前回書いた通り、グランゾン モドキを出すことを考えてなかったのですが、
皆様のご意見を聞き、原作後の話を書くところまで進めば検討してみようと思います。
それと扱いに困っていた、凄乃皇にも何とか光明が見えてきました。
細かな内容は今後考えるとしても、方針が決まっただけでもやりやすくなってきました。
これをヒントに兵器の改良or新開発に励みたいと思います。

また、既存兵器の有効利用や、知識による戦略展開ができないかと私も頭を悩ませているのですが。
いいアイデアが思い浮かびません・・・、主人公は原作開始後からの知識が殆どですし、
使えそうな戦術を考えても、それをするための兵器があるのか分からないため、兵器開発をせざる終えない状況になっています。
私としても、既存兵器が量産できて成果が出るのならそれが最高と考えているのですが・・・。
ただ、兵器開発に偏りすぎたことは反省していますので、現代兵器を勉強してアイデアを考えたいと思います。




[16427] 第12話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/07 22:29


モンゴル領ウランバートルハイヴの間引き作戦への参戦にあたり、中隊長よりBETAについての説明を受ける事になった。

斯衛軍訓練校時代にも説明を受けたが、ここで再度確認をしたいと思う。

BETA(ベータ)とは Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race の略で、人類が火星で始めて発見した、
人類に敵対的な地球外起源種のことをさす。

BETAの生態系についてはほとんど解明されておらず、外見や戦闘能力に応じて便宜的に区分されているのが現状である。

既知の8種は以下のようになっている。
光線属種
光線(レーザー)級,重光線(レーザー)級
大型種
要撃(グラップラー)級,突撃(デストロイヤー)級,要塞(フォート)級
小型種
戦車(タンク)級,闘士(ウォーリアー)級,兵士(ソルジャー)級


光線(レーザー)属種
光線属種は重光線級と光線級の2種が確認されている。
光線属種が放つレーザーは光線属種の種類によって異なるが、長距離での驚異的な命中精度と味方への誤射は絶対にしない等 共通する点もある。
また、標的を捕捉し照射準備に入ると動きが止まり、標的の追尾以外行動をとらなくなる。
レーザー照射にはインターバルがあるが、各個体がレーザー照射間隔をずらす事で、レーザーを絶え間なく照射する行動を見せることが確認されている。
1990年代に入ってからは、AL(アンチレーザー)弾の被撃墜による重金属雲の形成によって光線属種の無力化を図り、
支援砲撃部隊が光線属種の殲滅を目的とした面制圧を実施、その後戦術機を主力とした制圧部隊を投入する戦術が主流になっている。

光線 (レーザー)級
全長:1.2m,全幅:1.6m,全高:3m,俗名:ルクス
最小の二足歩行型光線属種でその動作は比較的俊敏であり、戦術機や戦車を十分に破壊可能な高出力レーザーを照射する。
高出力レーザーは、高度1万メートル程度であれば30kmも離れた標的を撃ち落す程の威力を持つ
(それよりも低い高度だといくらか大気による減衰が加わるため有効射程は短くなる)。
レーザー照射のインターバルは約12秒となっており、短時間で再照射することが可能である。
なお、最新の対レーザー蒸散膜をコーティングした耐熱対弾装甲材を使用した対レーザー装甲で、最高出力照射を約5秒間無効化できる。
防御力,耐久力は低く、36㎜突撃砲による砲撃が有効であり、接近できれば戦術機四肢による打撃でも充分殺傷可能である。
一般的に光線級という場合は、重光線級を含めた光線属種のことを指す。

重 光線 (レーザー)級
全長:15m,全幅:11m,全高:21m,俗名:マグヌス ルクス
最大の二足歩行型光線属種で、光線級に比べて遥かに高出力のレーザー照射が可能であり、その出力は大気,
天候による減衰が全く期待出来ないほどである。
高出力レーザーは、高度500mで低空進入してくる飛翔体を約100km手前で撃墜することが可能で、
戦艦の耐熱対弾装甲をも10数秒で蒸発させる威力があるが、その分再照までのインターバルは36秒と長い。
動作は緩慢だが防御力が高く、唯一の弱点とも言える照射粘膜にも瞼状に展開する保護皮膜を有するため、
攻撃に際しては100mm以上の砲弾、戦術機に於いては120mm砲での攻撃が推奨されている。


大型種
全高が10mを超える大型種は、小型種に比べて対人探知能力は低くなっているが、ダイヤモンド以上の硬さとカルボナード以上の
靭性を持った外殻(前腕や装甲殻や衝角等)を持つため、その攻撃力は極めて高い。

要撃 (グラップラー)級
全長:19m,全幅:28m,全高:12m,最大全幅:39m,俗名:メデューム
BETA群に於ける大型種の約6割を占める多足歩行種であり、比較的高い対人探知能力を有する。
二対の前腕衝角による打撃を最大の武器とし、直径39mにも達する前腕攻撃範囲と驚異的な定常旋回能力を有するため、
確認されている中では最強の近接格闘戦闘能力を誇る種である。
前腕衝角部の硬度はモース硬度15以上、ダイヤモンド以上の硬さとカルボナード以上の靭性を誇り、
その前腕で殴られると戦術機といえども一溜りもない。
また、前腕衝角は対弾防御力にも優れているため、側面及び後方からの攻撃が推奨されている。

突撃 (デストロイヤー)級
全長:18m,全幅:17m,全高:16m,俗名:ルイタウラ
BETA群の先鋒を担う多足歩行大型種、要撃級の前腕と同様の極めて強力な前面装甲殻を持つため、面制圧での生存率が高い。
また、装甲殻は驚異的な再生能力を有しており、目玉状の模様は全て再生した砲弾痕である。
平坦な直線であれば時速170km/hの長時間走行が可能であり、自身を対象物に衝突させる突撃戦術が主な攻撃手段となる。
その突撃戦術は、戦術機でもまともにぶつかれば大破、即死は免れない。
また、BETA中で最速の走行能力を有するためか、対BETA戦では必ず突撃級が先頭にいる事になる。
だが、旋回能力や俊敏性は著しく低く、装甲殻のない本体は比較的脆弱であるため、背後からの攻撃が推奨されている。
背後からの攻撃ならば36mm弾での撃破が可能であるが、前面からでも36㎜の一点集中攻撃や120㎜の連続攻撃により、
前面装甲を貫通させ撃破することが可能である。

要塞 (フォート)級
全長:52m,全幅:37m,全高:66m,俗名:グラヴィス
要塞級は地球上で確認されている中では、最大の多足歩行大型種で、10本の足を有しているがその体構造は昆虫に似ている。
主な攻撃方法は、要撃級と同様の硬度と靱性を誇る装甲脚による踏撃に加え、尾節に収容された全長約50mのかぎ爪状の衝角付き触手による鞭撃と、
その先端から分泌される強酸性溶解液となっている。
10本の脚による打撃は要撃級の攻撃に勝るとも劣らないうえ、先端が鋭くなっているため踏みつけられると戦術機といえども串刺しとなる。
そして、触手を器用に振り回して攻撃してくるため、側方・後方にも死角は存在しない。
動作自体は比較的緩慢であり対人探知能力も高くはないが、防御力・耐久力共に非常に高く、有効な攻撃ポイントは三胴構造の体節接合部に限定される。
36mmではほとんど効果がなく、120㎜砲もしくは近接戦闘で、三胴構造各部の結合部を狙うのが効果的とされる。
また、胎内から光線級を含む小型種が多数出現した例も確認されているため、撃破後の安全確認にも十分配慮しなければならない。


小型種
全高が3m以下の小型種は、対人探知能力は極めて高く、動きも俊敏であるが攻撃力と防御力は大型種と比べると高くはない。
しかし、大群で群がることで種類によっては戦術機にとっても十分な脅威となる。

戦車 (タンク)級
全長:4.4m,全幅:1.9m,全高:2.8m,俗名:エクウスペディス
BETA群中最大の個体数を誇る中型の多足歩行種で、極めて高い対人探知能力を有する。
浸透力と機動力に優れ、不整地であっても時速約80km/hでの走行が可能である。
金属やコンクリートをかみ砕く強靭な顎が最大の武器であり、装甲車輌や戦術機ごと喰われた兵士の数は計り知れない。
ちなみに、もっとも多くの衛士を戦術機ごと喰らっているのがこのBETA種である。
防御力自体は低く、歩兵が携行する重火器でも対処は可能であるが、常に数十から数百以上の群体で行動するため、
近接格闘は可能な限り回避する事が推奨されている。

闘士 (ウォーリアー)級
全長:1.7m,全幅:1.5m,全高:2.5m,俗名:バルルスナリス
確認されているBETA中最小の二足歩行種で、防御力は低いが対人探知能力と俊敏性が非常に高く、象の鼻を想起させる前肢は
人間の頭部を引き抜くほどであり、歩行部隊による近接格闘では大きな脅威である。
闘士級は俊敏だが戦術機にとって驚異ではなく、戦術機相手には敵わない。

兵士 (ソルジャー)級
全長:1.2m,全幅:1.4m,全高:2.3m,俗名:ヴェナトル
兵士級は1995年に初めて確認された最小の多足歩行種で、既知のBETAの中では最も対人探知能力が高く、平面移動の静粛性と速度、
人間の数倍~十数倍に及ぶ強力な前肢と顎は、歩兵に対する十分な脅威となる。
しかし、全BETA中で一番弱いため、戦術機や機械化強化歩兵の相手ではない。








第13独立戦術機甲試験中隊が間引き作戦に参加する事になった、モンゴル領ウランバートルハイヴ(18番目のハイヴ)は、
今年に入って建造が確認された新しいハイヴで、現在フェイズ2の規模になっていると考えられている。

既に数回にわたって間引き作戦が行われているが、他のハイヴから増援が来ている為であろうか、一向にBETAが数を減らす気配を見せていない。

このウランバートルハイヴに対する間引き作戦が俺の初陣となった俺は、第13試験中隊の出番が来るまでの間、
コックピットの中で搭乗機である不知火の最終チェックを行っていた。


「こちらベル9(佐々木 少尉)、御剣聞こえるか?」


「こちらベル12(御剣 少尉)、聞こえていますよ佐々木さん、
 どうしたんですか?」


「これがお前の初陣だ、震えてないか確認してやろうと思ってな・・・。」


「震えはいないと思いますが…、もし震えていたとしてもそれは、ただの武者震いですよ。
 これでも、10年以上奴らと戦う事を考えながら生きてきたんです。
 戦闘開始が待ち遠しくて、仕方ないんですよ。」


「ひゅ~・・・、流石斯衛出は言うことがちがうな。」


佐々木 少尉は、俺とエレメントを組んで突撃前衛小隊を務めている人で、年齢は俺の二つ上の20歳である。

戦術機の操縦では高機動戦闘を得意としており、特殊な場合を除いて隊内の不知火を駆る者の中で、
唯一俺の機動についてくることができる腕前を持っている。

そして、佐々木 少尉が俺を心配していたのは、エレメントを組んでいるというだけではなく、
今回第13試験中隊に合流した新人が俺だけだったためだろう。

つまり、中隊内で初陣を迎えるのは俺一人なのだ。


「貴様ら、もう作戦は始まっているんだ、無駄口は慎め。」


「「は、申し訳ありません。」」
 

「今回は多めに見るが…、次は無いぞ。

 ベル12(御剣 少尉)、貴様は今回が初陣だったな。
 貴様の訓練を見る限り、問題は無いとは思うが…、もしもの時は先任たちが援護する。
 気楽に行け。

 残りの者はベル12(御剣 少尉)を注意してやれ…、こういう時に実力を見せておかないと先任としての面目が立たんぞ。」


そう言って、本郷 大尉は笑みを見せる。

2週間の間に行われたシミュレーター訓練で、俺に対して負けが込んでいる先任たちをからかったのだろう。


「それと、最終確認だ。
 いつも通り、最優先目標はベル7の生存確保だ。
 たとえ自らの命が犠牲になろうとも、ベル7の生存を優先しろ。」


本郷 大尉が言ったベル7の生存を最優先目標とする理由とは、ベル7が搭乗する機体が中隊内で特殊なポジションについているためだ。

その機体はTSF-TYPE92-B(R)/不知火 強行偵察装備と言われ、情報収集能力を高めるために不知火の両肩に大型のレドームが取り付けられ、
可動兵装担架システムには情報処理装置として大型のバックパックが装備されている。

この装備により、各機体のセンサーから得られたデータを収集し、そのデータを持ち帰る事が中隊の最優先の任務となっているのだ。

また、この機体のお陰で各機はデータ収集のために余計な負荷をCPUにかけることなく、BETA戦に集中することができるようになった。

その武装は生存性が最優先に考えられ、87式突撃砲×1(36mm/ガンカメラ・予備弾倉4),65式近接戦闘短刀×2,92式多目的追加装甲×1となっており、
腰部にある小型可動兵装担架システムには小型ドロップタンクが装備され、稼働時間の延長が図られている。

この強行偵察装備の不知火に搭乗する武田 香具夜 少尉は、部隊の中で若手ナンバーワンと言われる実力者である。

その実力は戦術機の操作だけではなく、他の試験中隊では簡易のCPとしての役割を持たすために、複座になっている強行偵察装備の不知火を
一人で操縦し、CPの役割も果たすなどマルチな才能も備えている。

しかし、能力とは裏腹にその外見は、長い黒髪がよく似合う少女である。

佐々木 少尉と同期の20歳になるはずだが、身長が145cmで童顔なこともあり、どんなに見積もっても中学生にしか見ることができないのだ。

そんな彼女に始めてあった時、思わず持っていた飴玉をあげて頭を撫でてしまったとしても、誰も俺を攻めることはできないだろう。

ただ、彼女の方は撫でられることに関してはご立腹だったようで、すぐさま反撃をしてきた。

あの時は、追加でチョコレートをあげて何とかしたんだが・・・、許してくれているだろうか?





俺が機体の最終チェックを終えくだらない事を考え始めた頃、ようやくロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)の出番が来た。


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 HQより間引き作戦の目標撃破数に足したため、予定通り戦車連隊を後退させるとの事じゃ。
 HQは他の戦術機部隊と合同で、戦車連隊の退却完了までBETA群の足止めすることを要請しておる・・・。」


「ベル1(本郷 大尉)了解。
 それでは、これよりロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)は、BETAとの戦闘を開始する。」


AL弾を光線級がレーザー照射したことで発生した重金属雲によって、光線級の脅威度が低下している間に行われた支援砲撃を受けたBETA群は、
その数を減らしながらも戦術機部隊が展開する地点より2000mの位置まで接近していた。

BETA群の先頭に立つ突撃級の最高速度が170km/h(巡航速度120km/h)で、中衛の要撃級や戦車級で最高速度が100km/h(巡航速度60km/h)なので、
整地での最高時速が70km/hの戦車部隊では退却することは事実上不可能である。

そのために、戦術機部隊がBETA群を拘束するために戦う必要があるのだ。

幸いにも匍匐飛行が可能な戦術機は、俺が乗っている第三世代機の不知火で最高速度700km/h(巡航速度170km/h)の速度を出すことが可能であり、
第一世代機は最高速度400km/h(巡航速度110km/h)であるが、第三世代機が殿を務めれば戦術機部隊が退却することは十分可能だった。

俺たち戦術機部隊は、戦車部隊よりも射程距離が長い自走砲やMLRS(自走ロケット砲車)からの砲撃支援を受けながら、
この地域に進出してきた旅団規模(3000~5000体)BETAと戦闘を行うことになった。


「ベル1(本郷 大尉)より、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)各機へ、
 敵は砲撃支援によって隊列を乱している、このまま楔壱型(アローヘッド・ワン)で突っ込むぞ。」


「「「「「了解!」」」」」


こうして戦闘を開始した、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)は突撃前衛長であるベル2(南 中尉)を先頭にして、BETA群に突入していった。

BETA群は、中隊長が言った通り群れの密度が低下していたため、戦術機が比較的自由に平面機動を取れる状況になっており、
ベル2(南 中尉)が先頭の突撃級の足をすれ違いざまに切り落とし、BETA群に突入した後は突撃砲をばら撒くだけだった。

初めての実戦に最初は興奮して頭に血が上っていた俺だったが、頭の中ではどこか冷静に考えている部分があり、
俺が操る不知火は確実に一体一体BETAにとどめをさしていった。

俺は予想以上に心が落ち着いていることに、前の世界で設定した能力の一部では無いかという思いが頭を過ぎったが、
もはやどうでもいい事だと考え、戦闘続行する事にした。

俺がBETAと戦い始めてからの数分は、自分でも分かるほど動きがぎこちない戦い方だった。

そのぎこちなさは、戦術機の戦闘機動よりもその攻撃に顕著に現れていた。

例えば、突撃砲の砲撃で相手が動かなくなるまでBETAに36mm弾を叩き込み、長刀での攻撃でBETAの四肢を切断した後も斬りつけるなど、
過剰とも言える攻撃を繰り出してしまっていたのだ。

しかし、そのような過剰な攻撃も、BETAの戦闘能力喪失を見極める事ができるようになると、一気にスマートになっていく。

BETAが動かなくなるまで撃ち込んでいた突撃砲も、急所に6発ほど叩き込むだけで要撃級を撃破できるようになり、
長刀での攻撃もどこを斬れば効率的に無力化できるかを理解しだしていた。

また、戦いの中でBETAに対しての小さな発見をした事も収穫だった。

それは、BETAにも個性というものがあり、個体によって体格や動きの癖が異なっているということだった。

この発見によって対BETA戦が、始めにイメージしていた機械と戦うルーチン的な戦闘というより、
一種の猛獣と戦うような気の抜けない戦闘になることを理解したのだ。

そう理解した時、俺は戦術機の戦闘機動を切り替えることにした。

第2・3世代機の特性である、機動力と運動性を生かした戦闘機動から、斯衛軍訓練校で乗っていた瑞鶴ら第1世代機に近い戦闘機動に切り替えたのだ。

これはBETAの動きに集中していれば、主脚による運動や体捌きを重視して最小限の動きでBETAの攻撃を回避する事が可能であり、
そうした方がすばやく攻撃に移れると感じたためだった。

そして、次第に動きを滑らかにしていく俺の戦闘機動を見た他の隊員から、

『新人なんて絶対嘘だ。』

『少し戦場から離れていた、ベテランじゃ無いのか?』

等と言われる事になった。

正直にいれば、BETAと一対一なら確実に勝てると考えていた俺にとって、このくらいのBETAの密度ではそれほど脅威を感じていなかったのも事実だった。

だから、跳躍ユニットを多用しない第1世代機の戦闘機動を行えるのだ。

第1世代機と第2・3世代機の戦闘機動の大きな違いは、跳躍ユニットと主脚走行を使用する割合にあると俺は考えている。

重装甲の第一世代機は、跳躍ユニットを多用しすぎると直ぐに推進剤切れになってしまうため、一番推進剤を消費する初期加速を主脚走行で補うことで、
推進剤の消費を抑える技術が求められている。

それに対し、軽量化と出力の向上した跳躍ユニットを持つ第2・3世代機は、初期加速に使う主脚走行の割合を減らすことで、
より滑らかな機動を取る技術が優先されている。

無論、どちらの戦闘機動が優れているかを論じるつもりは無い、なぜなら主脚走行により燃費を優先することも大切だが、
主脚走行による照準のブレや、上下運動による衛士への負担増も戦場では問題になってくるからだ。

したがって、第1世代機の機動は必要が無い限りは、本来行う必要が無い機動なのだ。

しかし、俺はあえてこの戦闘では主脚走行の割合を極端に増やした戦闘機動を選択した。

それは、俺が主脚走行による揺れを問題としない事や、突撃砲の照準をマニュアルで行うため照準のブレを無視できることだけが理由ではない。

移動の70%を主脚走行で行うことになると言われているハイヴ突入時の事を想定して、この戦い方を実戦で試したかったという事も理由の一つだった。

今回のBETAの密度は、ハイヴ内と比べ物にならに程低いことは理解しているが、今後も激化が予想されるBETA戦の中で、
戦闘方法を試す機会がそうあるとは思えなかったため、余裕があるうちにと考えたのだ。

俺がこうして自分の実力を試している間に、衛士の壁と言われる死の八分はいつの間にか過ぎ去っていたのだった。








順調に進んでいた戦術機部隊によるBETAとの戦闘は、戦車部隊の退却完了の報を受け、戦術機部隊の退却へと段階が移り変わっていた。

第1世代機の部隊が退却した後、第2世代機の部隊と同時期に退却を開始しようとしたロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)だったが、
俺の進言によりその場に一時留まる事になった。


「ベル12(御剣 少尉)・・・、急に停止を進言するとはどういう事だ?」


「嫌な予感がしまして・・・、それに今なら退却するにしても時間の余裕が有りますので・・・。」


「予感だと?
 
 そういった、勘を否定するわけではないが…。」


「子供の時から、危険には敏感でしたので・・・。

 ・・・来ました、BETAが地中を進行する時の振動パターンと一致する波形です。」


「何だと!」


中隊長の驚きの声と同時に、他の隊員からも息を呑む声が聞こえてきた。

そしてその数瞬後、


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、

 偵察装備の振動センサーでも、地中進行時の振動パターンを感知したようじゃ。

 その出現予測地点は・・・真下っ!?」


その報告を受けた中隊長は直ちにHQに報告を行ったが、その回答を待っている間に震源はかなり浅い所まで移動してきていた。

そして、HQの回答が間に合わないと判断した中隊長が全回線(オープンチャンネル)で各部隊に警告を発した直後……、

地獄の蓋が開けられた。

地中から湧き出たBETA群によって、第三世代機で構成されたロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)を含む3個中隊は、
完全に包囲される事になるのだった。



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コメント

皆様、いつも御世話になっております。
皆様の声援に支えられ頑張ってみましたが、今週はここで打ち止めです。
今回は、設定を色々調べる事に時間を割いてしまった事と、文章量が多くなってしまった事から、
この様なところで、話を区切ることになりました。


また、本文の半分近くを占めるBETAの設定は、

「マブラヴ オルタネイティヴ」のまとめwiki
ウィキペディア(Wikipedia)
マブラヴ オルタネイティヴ インデックス ワークス(公式メカ設定資料集)

に書かれていた内容をまとめ、戦術機での戦闘に使われる知識を抜粋したものですので、
私の書いた文章と言えるものでは有りません。
しかし、BETAの説明(特に光線級での記述)が一定していない部分がある事や、
BETAの特性を再確認してもらいたかった事から掲載することになりました。


更に、戦術機の移動速度についても具体的な数値を調べようと思ったのですが、なかなか出てきませんでした。
不知火の最高速度が600km/h位と、どこかで見たことがあるような気がしたので、それを参考に巡航速度を考えてみました。

第一世代機:撃震  最高速度360→460km/h位(巡航速度140→170km/h位)
第二世代機:陽炎  最高速度500→600km/h位(巡航速度200→240km/h位)
第三世代機:不知火 最高速度600→700km/h位(巡航速度250→300km/h位)

一応、ある程度の距離を離さないとBRTAは追っかけてくるということで、搭載燃料の関係もあり第一世代機では、
逃げられないと考えているのですがどうでしょう?

原作の詳しいスペックをご存知の方がいらっしゃれば、教えていただけると幸いです。
皆様のご指摘により、戦術機が意外と早いことが判明しました。
後書きで書いてある値は暫定値です、どのように扱うか次回までに考えたいと思います。



返事

皆様のご感想を原動力に動いている私としては、出来得る限りご要望には応えたいと考えているのですが、
恋愛に関しては、理由が納得できないとくっつけないように、厳しく行きたいと考えています。

事実、フラグを立て忘れたキャラクターに関しては、大幅な改定を出さない限りそのままスルーして、
物語を進行しています。

しかし、マンガ版も購入した事で増えた知識や、恋愛表現を学ぶ事で私の技量が上がった暁には……、
だめだ…妄想が止まらない、ここはメモをしておこう。



[16427] 第13話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/07 23:04


ウランバートルハイヴに対する間引き作戦は、戦術機及び戦車部隊等の大規模な戦力がハイヴより約20km地点まで接近しBETA群を誘き出した後、
支援砲撃を中心とした戦果により予定の撃破数に達した。

そして、BETAを誘き出すためにハイヴに接近していた戦力から戦車部隊が退却した後、
残すは戦車部隊の退却までBETA群を押し留めていた戦術機部隊の退却だけとなっていた。

戦術機部隊の殿を勤める事になった第3世代機を駆る部隊は、700km/hにも達する最高速度を活かし一気にBETA群と距離とった後、
退却速度を巡航速度に切り替えハイヴから約50km離れた地点まで退却する予定だった。

この退却地点が決められた理由は、ハイヴの大きさによって異なるが人類側がハイヴを攻撃した際に、ある程度の距離を取るとBETAが追撃を
諦めることが分かっており、フェイズ2のウランバートルハイヴの場合では、その距離が約50kmであるためだ。

この退却距離の約30kmは、不知火なら通常10分ほどで移動できる距離なのだが、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)を含む3個中隊が
退却を開始する前に、地中から湧き出たBETA群及びそれに含まれる光線級によって、移動することも困難な状況に陥る事になった。

今回の作戦では、フェイズ2ハイヴの地下茎構造物の到達半径が約2㎞であることから、地下から攻勢を受けることは想定されておらず、
HQの対応も後手に回っているようだった。

この地下からのBETA出現は、ウランバートルハイヴが予想以上に拡張されていたためなのか?

それとも、現時点で俺しか存在を知らない母艦級の仕業であろうか?

疑問は尽きないが、現状では疑問について考える暇も取れそうになかった。

今俺たちが陥っている事態は、普通の戦術機部隊なら全滅する可能性が高い状況だ。

しかし、光線級さえどうにかすれば第三世代機で構成された今の部隊なら退却も不可能ではないと、必死に生還する方法を考えるのだった。








BETA群によって包囲された戦術機部隊であったが、幸いにも全回線(オープンチャンネル)での事前の警告により回避機動に入っていたため、
現段階での戦術機部隊への直接的な被害は軽微だった。

しかし、BETA群の密度が増した事と地中より出現したBETA群の中に光線級が含まれていたため、退却が困難な状況に陥ってしまっていたのだ。

しかも、光線級は要塞級の下に集まっており、狙撃による撃破も難しい状況だった。


「ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)は、ベル7(武田 少尉)を中心に円壱型(サークル・ワン)を組め!」


ロンド・ベル隊(第13独立戦術機甲試験中隊)は中隊長の命により、ベル7(武田 少尉)を中心に二重の円を作った陣(円壱型サークルワン)を構築し、
急ぎ対応を決めることになった。


「すみません、俺が止めたばかりに、ロンド・ベル隊(第13独立戦術機甲試験中隊)全体を危険にさらしてしまいました。」


「ベル12(御剣 少尉)・・・、貴様の警告によって他の二個中隊が撃墜なしで生存していることは誇っていい事実だ。
 それに、最終判断を下したのは私だし、退却する時間も十分にあった。
 自分を攻めることは無い。

 ベル7(武田 少尉)、AL弾の砲撃支援をHQに要求しろ!」


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 AL弾は、重金属雲を再形成するために必要な残弾がなく、
 通常弾による砲撃支援の再開も、後10分以上かかるそうじゃ。」


「・・・光線級の事を考えると、3個中隊での敵中突破しか手は無いか。」


こうして話をしている最中にも、BETAは絶え間なく押し押せており、一番外周の戦術機は群がるBETAの処理を続けていた。

刻一刻と状況が悪化していく中、俺は決意を固めBETAを攻撃の手を休めることなく、中隊長に進言をする事にしたのだった。


「ベル12(御剣 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 俺がBETA群を単機で突破して、光線級を撃破してきます。
 許可をいただけませんか?」


「御剣! 何を考えているんだ。
 新人のお前がそんなことを考える必要は無い、俺たち先任に任せておけばいい。」


俺と中隊長の通信に、佐々木 少尉が割り込みをかけ俺をいさめてくれた。

しかし、こちらもここで引く訳にはいかない、ここで光線級を如何にかしないと戦術機は匍匐飛行で退却するしか方法がなくなる。

そうすると、他のBETAの攻撃がとどく高度を移動することになり、退却する間に戦術機部隊の半数以上が撃破される恐れがあるのだ。

それに目標となる光線属種は現在確認されている数で30体、それを守る要塞級も10体ほどだった。

白銀 武(マブラヴの主人公)は、もっと絶望的な状況で戦うこともあったのだ・・・、この程度の逆境で俺が屈するわけには行かない。


「佐々木さんが言いたいことも分かりますが・・・、俺が行くのが一番成功する確率が高いと判断します。
 俺はシミュレーター訓練でだけですが、光線属種のレーザー照射を空中で回避することに成功しています。
 EXAMと不知火の力が有れば、実戦でもできることを証明して見せますよ。」


戦術機には、レーザー照射回避用の乱数回避プログラムがあるが、どう回避するかが衛士自身にも分からないため、
乱数回避中に狙撃などの正確な攻撃を行うことには無理がある。

そこで、自らレーザー照射を回避するか、タイミングを見計らって乱数回避をキャンセルする技量が求められる事になるのだが、
他の隊員ではEXAMシステムver.2の力を完全に引き出しているとは言いがたいため、現時点でこれらの操作を行える者は部隊内には俺だけしかいないのだ。


「中隊長、お願いします。
 吹雪で構成されている他の中隊は、これ以上持ちそうにありません。」


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 推進剤の残量は、ベル12(御剣 少尉)が一番残っているようじゃ。
 ここで、失敗しても強行突破に移る余裕は十分にあるじゃろう。」


「ベル2(南 中尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 悔しいですが、現時点で戦術機の機動に関してはベル12(御剣 少尉)が一番優れています。
 ここは任せてもよいと思いますが・・・。」


「・・・分かった、ベル12(御剣 少尉)お前の判断で突入を開始しろ!
 ただし、残りの隊員は他の中隊と合流を図る・・・、本格的な援護は無いと思え。」

 
俺は中隊長の指示を受けた直後、跳躍ユニットを全開にした噴射跳躍を行い、BETA群の突破を開始したのだった。








俺が空へ跳び上がった瞬間から、うるさいほどの照射警告のアラームが鳴りだし、光線級の眼がこちらを捉えている事を実感した俺は、
背筋に悪寒が走るのを感じた。

光線属種が俺を狙うのは当然だろう、BETAが優先する攻撃目標である飛翔物体・高性能コンピュータ・人間の存在の全てを満たしているのが今の俺だ。

それをBETAが見逃す筈が無い。

しかし、ここで俺が光線属種を引き付けておく事で、他の戦術機が攻撃される可能性が下がり、動きやすくはずだった。

また、俺にとっても始めから狙われていることが分かる今の状況は、たとえ30体の光線属種に狙われていようとも、
不意打ちで照射を受けるよりもやり易い状況だった。

俺は不知火に細かな軌道修正を入力しながら光線属種の群れへの接近を図った。

そして、初期照射が開始される事を感じ取った俺は、すぐさま地面にいる戦車級の群れを36mmの正射しつつ、地面に降下を開始した。


「このタイミングなら・・・ッ。」


俺はコンマ数秒の間初期照射を受けることになったが、肩部の装甲を焼いただけで機体を地上にいるBETAの影に入れることができたていた。

つまり、初めての実戦でレーザー照射の手動回避に成功していたのだ。


「照射本数は光線級4に重光線級1・・・、次はもっと上手くやってみせる。」


俺はそうつぶやくと、光のカーテンが無くなった事を確認後、再び噴射跳躍を行い空へ跳び上がった。

空と地上を行き来しながらも、不知火は確実に光線属種の群れへと接近していく。

しかし、数回目に地上に降り立った直後、目の前のBETA群が今までに無かった動きを見せた。

俺を中心として、BETAの群れが左右二つに分かたのだ。

それは、モーゼの十戒により海が二つに分かれたとされる神話を彷彿とさせる出来事だった。

俺はその出来事の後に起こる事象を資料から得た知識として知っていたため、着地後に直進するように先行入力していたモーションをキャンセルし、
二つに分かれようとするBETA群に合わせて、サイドステップを行う。

決して味方を誤射しない光線属種が地上を照射する時、BETA群はその射線上から退避する行動を取る。

その行動が、多数のBETAが一致した行動を取ることで、まるで海が割れていくように見えるのだ。

二つに分かれたBETA群の間を、重光線級が放った巨大な光の柱が通過していくのを確認した俺は、再び空へ上がる。

当然のように照射警告のアラームが鳴ったが、今回はそれを無視することにした。


「この距離なら・・・、見える。」


光線属種は高性能な遠距離射撃ができる変わりに、接近した物体が急激に軌道を変化させると、それを追尾しきることができなくなる。

俺はついに、空中でレーザー照射を回避し続ける事が可能な距離まで、光線属種の群れへの接近を果たしていたのだ。

アフターバーナーも使用しての全力の噴射を行った不知火は、一気に最大戦速に迫る450km/hをたたき出す。

その直後、跳躍ユニットの噴射方向を調整し、腕のナイフシースや頭部のセンサーマストの動きにより空力特性を変化させられた不知火は、
まるで空に舞う木の葉のように不規則に動きを変化させ、5本のレーザー照射を回避する。

そして、断続的に放たれるレーザー照射を回避した不知火は、ついに光線級の直上まで到達した。

光線属種の群れの直上、それは光線級を守るために展開していた要塞級が盾となり、光線級が照射ができない場所だった。

俺は要塞級に対して上から襲い掛かり、右手に保持した74式接近戦闘長刀で足の付け根を2本切り落とす。

要塞級の足の間に着地した不知火は、近くにいた光線級に対して36mm弾を乱射していく。

光線級を撃破した後は、要塞級が対応しようとする前に、再び跳躍すると同時に長刀で足の付け根を切りつけた。

要塞級はその直後に、片側の足を全て失い地響きを立てて転倒する事になった。

動けなくなった要塞級を後ろにするように立ち回り、俺は要塞級の傍にいた重光線級へ一直線に向かう。

常に転倒した要塞級をレーザー照射線の上に来るようにしているため、これ以降光線属種の照射を受けることはなくなった。

途中にいたBETAへの対応を必要最小限に留め、重光線級へと進んでいくと、要塞級の触手が伸びてきた。

それを、機体を捻ることで回避し、触手が元の位置に戻る前に要塞級の懐に飛び込む。

そして、要塞級の脇に居た重光線級に対して、接近すると同時に長刀による抜打ちを放ち、その体を両断した。

後は、先ほどと同じように突撃砲の36mmで光線級を攻撃しつつ、要塞級の四肢を解体することで、光線属種への新たな盾を作りだした。

この後同じような突撃を数回繰り返した時点で、周りにいる要塞級と光線属種を全滅させることが出来たのだ。


「ベル12(御剣 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、

 目標の光線属種群を撃破しました。

 BETAが出現した穴を確認しましたが、新たな光線属種が出現する可能性は低いと思われます。」


光線属種の撃破している間にBETAが出現した穴を確認する事で、小型種を吐き出すだけでこれ以上光線属種が出てくる気配が無いことを感じていた俺は、
光線属種の撃破の報告と同時にその事も報告した。


「ベル1(本郷 大尉)、了解。
 ベル7(武田 少尉)、そっちのレーダーに光線属種は映っていないか?」


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 光線属種の存在を確認できず、光線属種の脅威は無いと考えてよいじゃろう。」


その報告を聞いた中隊長は、この場にいる全ての戦術機に対して通信を行う。


「こちらは、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)の本郷 大尉だ。
 ロンド・ベルは光線属種がいない間に、跳躍噴射でBETA群から離脱する。
 各中隊も、同様に離脱することを願う。
 以上だ。」


「「「「「「「了解!」」」」」」」

 
その通信の後、噴射跳躍で空へ跳び上がった戦術機たちは、そのまま長距離跳躍に入り退却を開始した。

最終的に3個中隊の戦術機部隊の被害は、多くの少破・中破が出たが未帰還機は吹雪3機という、
BETAに囲まれた状況から脱出した割には軽微の損失に収まったのだった。









殿を務めていた戦術機部隊は、基地に帰還した時多くの人に迎えられて整備用ハンガーに収まることになった。

今回の被害が、今までの間引き作戦の中で最も少なくなった上に、BETAに包囲された状況から帰還したことを称えているのだろう。

また、空中でレーザーの照射を回避し、30体もの光線級と10体の要塞級を単機で撃破したことに、基地の皆が興奮しているのかもしれない。

その後、前線基地では珍しくなってきた天然物の酒を振舞われ、宴会が開かれることになった。

最初の方は付き合っていた俺だったが、未成年であることを理由に酒を断り、宴会の半ばにひっそりと会場を後にした。

そこに、御剣重工から派遣されているメカニックが声をかけてきた。

どうやら御剣財閥から報告したいことがあるとの通信が入ったとの事だった。

俺は何かトラブルでも発生したのだろうかと考えつつも、大陸からも会社と通信することが可能な専用設備を使って連絡をとることにした。

本来この通信設備は、現場の意見を設計部署に伝えるための手段だったのだが、それに更なる暗号化処理を施した通信ができるようにし、
会社と俺が通信できるようにしているのだ。

これは企業の意向が反映される、独立試験中隊ならではの裏技的な行為だった。


「御剣 信綱だ。
 報告したいことがあると聞いたが、どんな用件だ?」


「信綱 様、先ほど御剣電気で開発を進めていた次世代CPU第一弾の開発が完了したと報告がありました。
 これで、予定通りに進めば半年程で量産体制に入る事ができると思われます。
 つきましては、次世代CPU開発に伴う開発プランについて、どちらを実行するかを決める必要があります。
 プランAとB、どちらを先に実行すればよろしいでしょうか?」


ここで言われた、次世代CPU開発に伴う開発プランとは、

プランA:高速化された処理能力を利用して、EXAMシステムにコンボ機能を搭載したver.3に進化させる。

プランB:次世代CPUを搭載することで管制ユニットを小型化し、その空きスペースに衛士の生存性を高める装置を搭載する。

といったものだった。


「・・・Bでいく事にしよう。」


「よろしいのですか?
 信綱 様は始め、プランAを推していたようでしたが・・・。」


「あぁ、そうだったな。
 しかし、現場を見てはっきりと分かった。
 ver.2でも、現場の衛士は戸惑っているのが現実だ・・・。
 この状況でver.3を導入したところで、使いこなせるのは一部のエースだけだ。

 それなら汎用性が高いプランBを実行する方が、結果的に多くのベテラン衛士を作り出すことができるだろう。」


プランAは、衛士が直ぐにEXAMシステムに対応できるであろうと想定して立てられたプランだった。

それにコンボ機能は、本来本人にできない機動や難しい入力が必要な機動を実現するためのもので、
衛士を保護する機構がなければ多用できる機能ではないのだ。

したがって今回はver.3の搭載ではなく、ver.2のままで管制ユニットを改良するプランBを採用した。

ただし、プランAが廃棄されたわけではない。

このまま継続して開発を進め、次世代CPUの第二弾が完成した暁にはプランBで改良した管制ユニットにver.3が搭載されることになるだろう。

また、まだこの段階でのver.3(コンボ機能)搭載を完全に諦めたわけではない、コンボを2・3個だけでも設定することができる容量さえ確保されれば、
ver.2.5として搭載することも検討されているのだ。

その日の通信は、富士教導隊と協同で製作中であるEXAMシステムver.2訓練マニュアルの現状報告を聞いた後終わりになった。










今回の間引き作戦での活躍により、俺は部隊内で一目を置かれるようになった。

しかし、この作戦ですらこれから続くBETA戦の中では、楽な作戦であったことを、この時の俺には知る由もなかった。

その後数回にわたり、ウランバートルハイヴの間引き作戦に参加していたロンド・ベル隊であったが、他のハイヴから援軍があったのだろうか、
突然の侵攻を受け戦線と共に次第に東へ後退していく事になった。

アジア各地で続く戦線の後退を受け、領土を失ったアジア各国はオセアニア,オーストラリア各地に臨時政府を樹立を開始し、
国家機能の移転を開始し始めた。

そして領土を失った東南アジア国々の多くは、米国の影響力がある国連軍の直接的な指揮下に編入されることを良しとせず、
大東亜連合を結成して間接的に連携する道を選択した。

米国との付き合いもある日本帝国は、政府による支援は大々的に行うことができなかったが、その代わり御剣財閥等の企業が中心となって
支援を行ったため、日本帝国は大東亜連合諸国とも良好な関係を維持する事ができていた。

後退が続く中でもロンド・ベル隊は、専用の整備チームの活躍と試験中隊に補給が優先的にまわってくるという事もあり、
ほぼ完全な状態で戦うことができた。

そのかわりに、ロンド・ベル隊は防衛戦や撤退戦の間、常に最前線に立つことになる。

度重なる戦闘で本格的な整備を必要としたロンド・ベル隊は、一時前線を離れ朝鮮半島への入口に近い都市である長春(旧満州の新京)まで後退する事になった。

俺が合流してから長春に後退した時点で、ロンド・ベル隊は不知火を3機失っていたが、いずれの場面でも衛士の救出に成功したため、
人員損実0の『奇跡の中隊』と呼ばれるようになっていった。

そして俺は、激戦の中でも機体を失うことなく生き残り、光線属種や要塞級が出現した時は真っ先に撃破していったため、
いつしか『光線級殺し』の異名で呼ばれるようになるのだった。





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コメント

皆様、いつも御世話になっております。
今回は戦闘描写を頑張ってみたのですが、皆様に私が想像している状況が少しでも伝わればいいなと思っています。
この後の返事が長くなるため、コメントはこの程度にしたいと思います。


返事

TEにて、第三世代機不知火の長距離跳躍の速度が700km/h以上になると書かれてありましたが、
その後、不知火壱型丙を使った兵装開発計画に携わっていたと書いてあるので、
この700km/h以上の速度を出した時に乗っていたのは、不知火壱型丙だと考えました。
したがって、不知火の最高速度を700km/hと仮定しました。

巡航速度やそれ以外の戦術機についての記述が見当たりませんでしたが、
戦術機の巡航速度については人型であることと、
巡航速度では原作の吹雪のように一定距離ごとに地面に着地する、蛙飛びのような動きになると考え、
戦闘機より悪い、最高速度の2.5割~3割程度と仮定していました。

そこで、原作をやってみると、
敵部隊が接敵後が最大の能力で移動していると考え、
補給を行った亀石峠から、護衛対象が加速度病で倒れ休憩した丸野山周辺までが約11km、
移動時間は短く見積もっても20分ぐらいなので、
その時速は・・・・・・『33km/h』、
・・・彼らはスクーターで移動したのでしょうか?
他にも経過時間が分かる部分で計算してみましたが、概ね時速30km/h以下という結果でした。

原作をプレイしてみて更に分からなくなった戦術機の移動速度についてですが、戦術機は恐ろしいほど燃費が悪いor燃料タンクが小さいため、
最高速度と巡航速度に大きな開きがあると結論付けました。
もしかしたら、本体には一切燃料がなく跳躍ユニットだけに燃料タンクがあるのかもしれません。
そして、原作ではそのために跳躍ユニットを多用することができず、護衛対象に大きな負担をかけてしまったと解釈することにしました。

したがって、戦術機の移動速度は色々考えてみましたが以下のような値に設定しました。
最高速度と巡航速度の割合、の2割~2.5割程度
第一世代機 最高速度460km/h前後(巡航速度95km/h前後)
第二世代機 最高速度600km/h前後(巡航速度140km/h前後)
第三世代機 最高速度700km/h以上(巡航速度170km/h前後)
また、予想以上に戦術機の巡航速度が遅くなったため、BETAの移動速度についても普段は最高速度を出すことは無いと設定を変更しました。
(突撃級の巡航速度120km/h)
原作で明確にされるか新たなアイデアが浮かばない限り、この設定で行きたいと思います。



[16427] 第14話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/03 18:19


俺が大陸に渡ってから一年程がたったある日、本国にいる家族から手紙が届いた。

その内容は、筆不精な兄に対して冥夜が家族と自分の近況を伝えるというものだった。

相変わらず堅苦しい文章で話あったが、そこからは充実した日々を過ごしていることが伝わってきた。

また、それに添えられた家族の写真には、成長した彼女の姿が写し出されていた。

たった一年見なかっただけだが、思春期をむかえた彼女にとっては、その短い期間でも成長するには十分な時間だった。

そして、今年で中学校に入学した彼女は、これからもっと女性らしく成長していく事が容易に想像できた。

そう思うと小さい頃の冥夜の姿が頭を過ぎり、成長の嬉しさと共に少しの寂しさを感じる事になった。

俺はこの感情をどう処理していいのか悩み、しばらくの間冥夜の写真を眺めることになった。


「見ろ皆、御剣が女の写真を眺めているぞ!」


俺が写真を眺めていると、佐々木 少尉が声をかけて来た。


「違いますよ佐々木さん、妹の写真ですって!」


「何? 確かに女と言うには幼すぎるか・・・。」


俺の持っていた写真を覗き込んだ佐々木 少尉はそう呟き、十年後が楽しみだとコメントをした。


「しかし、御剣のような変態にこんな将来有望な妹がいるとは・・・。
 今から、お前の肩でも揉んでおこうか?」


「佐々木さん、その変態というのをやめてもらえませんか?
 それと、肩を揉まれた位で冥夜は紹介しませんよ!」


「十数本のレーザー照射を空中で避ける事ができるのは、お前が変態だからだ。」


「そうじゃ、突撃前衛の癖に後衛へ正確な援護射撃が出来る者に対して、
 変態以外の表現はできんじゃろう。」


佐々木 少尉の言葉に続けて、近くにいた武田 少尉も俺が変態であるという話に参加してきた。

突飛な戦術機動をとる原作主人公が変態扱いされたことがあったが、まさか俺がその立場になるとは思ってもいなかった。

確かに空中でレーザー照射を避けることや、後ろを見ずに後衛の援護ができる自分の能力に対して上手く説明できず、
勘や殺気を感じた等としか説明していないのは悪いとは思うが・・・。


「酒も飲まないし、歓楽街に誘ってもいつも断る・・・。
 男として間違ってるだろう。」


「歓楽街に行かない事には好感が持てるが、禁欲的過ぎるのも問題じゃ。
 ・・・・・・大人の女が怖いわけではないのじゃろう?」


話が戦術機の機動から日常生活に移っている気がするが、二人が俺を変態扱いする会話はまったく終わる気配がなかった。


「佐々木さんも武田さんも酷過ぎますよ。
 こんな真面目で純情な青年に対して、そろって変態だなんて・・・。」


二人の会話に戸惑っていた俺は、少し離れていたところにいた南 中尉に助けを求めることにしたのだが・・・。


「私からは何も言うことは無いよ。
 ただ・・・、戦術機の振動センサーより先にBETAの地下侵攻を察知できる者を、世間は何と呼ぶのだろうな?」


「しょ 小隊長まで俺を変態扱いなんですか・・・。」


俺の求めた助けは、予想とは真逆の敵側についてしまいったのだ。

皆からの扱いの悪さに思わず膝を着いた俺は、それを遠目から見ていた中隊の皆に笑われることになった。

俺はその事に傷ついたように振舞いながらも、異常とも思える行動を見せる俺のことを変態の一言で片付け、
受け入れてくれる中隊の皆のことがたまらなく好きになっていたのだった。











1997年、日本国内では有名な御剣財閥が欧米の一般人に広く知られるようになる出来事が起こった。

昨年から進められていた、F-4『ファントム』やF-15C『イーグル』を開発したことで有名なマクダエル・ドグラム社買収の件が、
ついに公にされたのだ。

経営危機に陥っていたマクダエル・ドグラム社の買収には、御剣重工の他に米国最大規模の航空機メーカーであり、
巨大軍需企業であるボーニング社が名乗りを上げていた。

当初の予想通り、マクダエル・ドグラム社を日本企業が買収する事に難色を示した米国政府は、ボーニング社を全面的に支援することになった。

しかし、御剣財閥側にも日本政府が味方した事やマクダエル・ドグラム社の抱える負債が、ボーニング 一社だけでは賄えないほどに
膨れ上がっていたこともあり、マクダエル・ドグラム社を二社で分割買収することで話し合いが行われることになった。

全米がこのニュースに注目する中、ついに買収されるそれぞれの部門が発表されることになった。


御剣重工

1.F-4『ファントム』部門:
既に米国での生産が終了し、米軍でも全機が退役しているため、まともな製造部門すら存在しなかった。
また、未だにF-4を生産・運用している国も多くあるが、開発から30年以上が経過しているため、
特許切れの部分が多く、大きな利益を生み出す可能性が低いと考えられている。

2.YF-23『ブラックウィドウⅡ』
F-22『ラプター』にトライヤルで破れ制式採用が見送られた機体。
マクダエル・ドグラム社は、ノースロック社(現ノースロック・グラナン社)に協力する形で、開発に携わっていた。
御剣重工への譲渡の際には、最重要機密であることからラプターを超えると言われていたステルス機能が取り外される事になった。
ステルス機能のほかにも、米国の最新技術を集めて作られた機体であったため、
開発から7年が経過した今でも第3世代機の中で最高クラスの性能を有している。
しかし、米国軍の戦術機運用思想と異なる仕様である事や、ステルス機能が外されることを受け、
米国内ではこの機体の重要度は低いと考えられていた。
また、開発元であったノースロック・グラナン社も海軍への売り込みに失敗した事もあり、
第3世代戦術機の実戦での運用データの提供を前提に、有償での買取に応じることになった。

3.航空機部門:
米国軍から退役するか、調達数が少ない航空機及び民間向けの航空機のライセンスと製造部門を取得。
(航空機には、ヘリコプターを含む)
今後も、軍からの受注増や民間部門の活性化が見込めない事から、不採算事業と考えられていた。
また、ボーニング社自体にも既に巨大な民間部門を抱えていることも影響したようだ。


ボーニング社

1.F-15C『イーグル』及びF-15E『ストライクイーグル』部門:
二年前にF-15E『ストライクイーグル』が米軍に制式採用されたことや、現在でも最強の第二世代機と呼び声が高い機体であるため、
これからも多くの利益を出すと考えられている部門である。

2.航空機部門:
国防上の理由もあり、現在米国軍で制式採用されている全ての航空機に関するライセンスと製造部門をボーニング社が独占することになった。
(航空機には、ヘリコプターを含む)

3.ミサイル製造部門
ハープーンミサイル、トマホークミサイル等の優秀なミサイルを開発した部門であり、
国家間の戦争を想定した場合に手放す事のできない部門でもある。
また、多目的自律誘導弾システムという光線級のレーザー照射を不規則な機動で回避しながら、
目標を追尾するシステムの搭乗によって、対BETA戦でも有効であると考えられている。


公にされた内容を見た世間は、御剣財閥側の惨敗と捉え米国民の多くが胸をなでおろし、日本国民の多くが落胆することになった。

また、公にできない極秘事項である極秘プロジェクトの開発データは、ある程度の情報は開示されたが、
その心臓部である機体主機に関するデータは一切得ることができなかった。

こうして、欧米の一般人にまでその名を知られるようになった御剣財閥であるが、同時期にアジアでもその名が知られるようになっていた。

それは、前線で活躍する第3世代機の不知火・吹雪の製造元の一つが御剣重工であることや、アジア各国がオセアニア、オーストラリア各地に
臨時政府を樹立した際に行った支援企業の中に御剣商事があったことではなく、軍人や難民キャンプで広く親しまれるようになった、
美味しい合成食品を製造する御剣食品としてその名前が知られるようになったのだ。

御剣食品は、栄養が取れることを最優先した軍のレーションに近かった一般的な合成食品に対して、その味も楽しめるように
かつての宇宙ステーションでの食事に近いコンセプトで合成食品を開発し、それに成功したのだった。

その新しい合成食品群は若干製造コストが高くなったが、その味が認められ最前線や難民キャンプでお祝いの時に食べられる名物となっていったのだ。

前線での食事に飽き飽きした俺が、試作品を取り寄せ前線でばら撒いたことがここまで発展する事になるとは、始めは思ってもいなかった事だった。




マクダエル・ドグラム社の買収工作に失敗したと思われていた御剣財閥だったが、日本政府から要請された先進戦術機技術開発計画
(Advanced Tactical Surface Fighter/Technology And Research Project),通称「プロミネンス計画」に一年遅れで参加した事で、
マクダエル・ドグラム社の買収で得た部門が、意図的に行われたのではないかと専門家の間で噂されることになる。

プロミネンス計画とは、拡張工事が開始されたユーコン基地を拠点に、国連主導で世界各国が情報交換や技術協力を行う事で、
より強力な戦術機を開発するための計画である。

また、競争原理の導入によって各国の戦術機開発を促進する一方で、東西陣営を超越して協力しあう体制を世界に示すという政治的意味をも持っていた。

しかし、その話が最初に出た時日本の戦術機開発メーカーである富岳重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社は、
次期主力量産戦術機の開発に全力を注いででいることを理由に参加を見合わせる事になった。

そして、今年になってマクダエル・ドグラム社の買収が決定した直後の御剣重工が、現在採用されている機体の改修機で参加することを打診したのだった。

最初は改修機の内容に懸念を示していた日本政府だったが、国連の要請を完全に無視することもできず、御剣重工の案を採用することになった。

御剣重工の参加を聞いた各国は、世界で初めて第三世代機を量産し実戦配備した日本帝国が、どの様な機体を持ち込むのかと期待していたようだったが、
その機体の計画書を見て愕然とすることになる。

なぜなら、第2・3世代機ではなく第1世代機の改修プランだったからだ。





撃震・改修型

この機体は、フェイアチルド・リムパリック社(米)が開発した戦術歩行攻撃機A-10『サンダーボルトⅡ』を意識して開発された機体である。

サンダーボルトⅡは、重火力・重装甲という、第1世代機のコンセプトを極限まで突き詰められた機体で、その生産性の高さにより
短期間で複数部隊の運用が可能となった事はあまりにも有名である。

欧州のNATO軍へ供給された当初は、運動性と機動性の低さに不満を持つ衛士が大勢いたが、密集近接戦での生存性の高さと
F-4一個小隊を上回る単機火力は都市防衛戦にあたる東西ドイツ軍から高く評価される事になった。

そして、その運用戦術が各戦線に浸透した後は、開発から三十年たった今でも大砲鳥(カノーネンフォーゲル)、
戦単級駆逐機(タンクキラー)などの俗称を与えられる程の絶大な信頼を獲得している優秀な機体である。

撃震・改修型は、サンダーボルトⅡを上回る火力と機動力を搭載することを計画されていたが、
早い段階から二足歩行ではそれを実現することが難しいと考えられていた。

そのため撃震・改修型は、前部ユニットになる撃震の臀部に、新しく作られた動体ユニットと撃震の下半身がセットになった
後部ユニットが取り付けられ、二足歩行から四足歩行へと形態を変化させていた。

その外観は、ギリシャ神話にでてくる上半身が人で下半身が馬の姿をしたケンタウロスを彷彿とさせるものとなっていたのだ。

撃震・改修型の開発に二年以上の年月がかかったのは、この四足歩行モーションの作成に時間がかかったためだった。

四速歩行の採用で、サンダーボルトⅡよりも運動性が低下する事になったが、
予定通りサンダーボルトⅡを上回る積載能力と直線の機動力を獲得することに成功していた。

またその仕様や、四足歩行の制御の難しさから管制ユニットは複座のみを採用することになった。

撃震・改修型は、その砲撃能力を利用して拠点防衛や戦車部隊に随伴し護衛と戦術機への援護を行うための支援装備と、
その機動力を利用して戦術機部隊に随伴し援護を行う迎撃装備が考えられていた。

いずれの仕様にも共通する装備は、
サンダーボルトⅡにも搭載されているガトリング砲(GAU-8)二門,
可動兵装担架システムとフリーになっているメインアームに装備される、通常の戦術機の装備,
撃震と共通のナイフシースに搭載されている65式接近戦闘短刀,
前面装甲に施されたクレイモアのように散弾をばら撒く事ができる追加装甲,
である。

GAU-8単体の重量は681kgであるが、給弾システムや砲弾を満載したドラムマガジンなどを含めた全備重量は片側で2,830kgにも達していた。

しかし、GAU-8は初弾発射まで0.5秒のタイムラグがあるものの、最高発射速度で毎分3,900発という圧倒的速度で、
ドラムマガジンに搭載された6750発もの36mm機関砲弾を発射する事ができるという、圧倒的な火力を有していたのだ。

そして近接武器には、65式接近戦闘短刀と追加装甲で対応するとされていたが、基本的にはBETAに接近される前に退却する事が求められていた。

支援装備

馬の背中にあたる部分に、海軍の日本帝国海軍最大の戦艦 紀伊級にも搭載されている、
OTT62口径76㎜単装砲の搭載される予定の仕様である。
OTT62口径76㎜単装砲は、全体の総重量が7500kgに及ぶが、12kgもの砲弾を毎分85発(100発/分まで向上可能)発射する能力を有しており、
最大射程が16,300m(ただし、突撃級の正面装甲を貫通することのできる有効射程は、5,000mほどである。)もあり、80発もの砲弾が搭載されている。
そして、砲塔を旋回させることで、全方位に向けて射撃することが可能であった。
その砲撃性能を毎分あたりで換算すると、OTT62口径76㎜単装砲で90式戦車(120mm滑空砲)の3.5台分の投射量を有している。
また、保有できる弾薬の量や展開能力を考えた総合能力は、一個小隊で戦車部隊二個中隊に匹敵する戦力となると考えられていた。

迎撃装備

馬の背中にあたる部分にGAU-8の予備弾倉と30連装ロケット弾発射機が搭載される予定の仕様である。
これにより予備弾倉分まで全て使用すると、GAU-8は一度の戦闘で砲身の寿命をむかえるまで砲撃が可能となると計算されている。
また、30連装ロケット弾発射機(総重量:3.2t,弾薬:75式130mmロケット榴弾)は、多連装ロケットシステムMLRSの配備により
一度退役した兵器であった。
多目的自律誘導弾システムを有していない30連装ロケット弾発射機だが、光線級の影響を受けにくい水平発射方式での採用となった。



撃震・改修型の最大の特徴である四足歩行への改修は、本来強力になった火力の反動を二足歩行では支えられないと判断されたため
導入されたものであるが、それにより従来の第一世代とは異なった性能を示す戦術機となった。

その利点とされたのは、四基の跳躍ユニットが生み出す第3世代機に迫る機動力と、四速歩行による主脚歩行時の振動低減であった。

この機動力により、燃料タンク(推進剤)が増設され、OTT62口径76㎜単装砲や予備弾倉とロケット弾発射機の変わりに、
大型のコンテナを搭載する事で、前線の戦術機部隊へ確実に武器・弾薬を届けるという任務も可能であると考えられるようにもなっていた。

また、主脚歩行時の振動低減により必要な衛士適正が低くおさえられたため、衛士適正ではじかれて戦車兵になった者や、
年齢で予備役に入ったものも搭乗できると考えられていた。

そして、四足歩行の欠点とされたのが、旋回性能及び運動性の低さと整備性・輸送等の運用面での問題であった。

旋回性能及び運動性の低下に対して、対戦術機戦ではいい的になるだけだと評価を受けることになったが、その点はサンダーボルトⅡも同様であり、
むしろ第三世代機に負けない前進速度と反応速度により、正しい運用方法を行えばサンダーボルトⅡよりも使い易いとも考えられた。

また、二足歩行の戦術機を想定した整備用ハンガーや輸送装置が使用できない点は、前部ユニットとなる撃震のメインアームで、
前部ユニットと後部ユニットを分離・接続できる事から、整備時には従来の戦術機と同じ整備用ハンガーを使用できるとされた。

ただし、輸送装置に関しての御剣重工の回答は、輸送トラックに足を折りたたむ馬の座り方で積載することが可能としたが、
輸送機や空母での輸送は難しいと回答するに留まった。

さらに、一機あたりの整備コストの増加が考えられたが、四足歩行により一本あたりの負荷が低減したことや、多少整備が悪くても
運用が可能である事もあり、整備方法を確立すれば効率的な整備が可能であると判断されることになった。

そして、撃震・改修型生産コストは、現段階で撃震の1.5機分とされたが、F-4『ファントム』のライセンス料金がかからなくなることや、
輸出による量産効果も考えられたため、最終的には撃震1.2機分のコストで生産が可能であると考えられていた。

更に、構造上GAU-8を搭載する肩部装甲と管制ユニット及び後部ユニットを接続する臀部装甲を交換するだけで、既に生産されている撃震や
ファントムを前部ユニットとして使用できるため、既存機の改修であれば生産コストは撃震1台分以下の価格と計算されている。

様々な問題を抱えている撃震・改修型だが、その殆どを撃震のパーツの流用や既存兵器を採用していることから早期導入が可能である点や、
圧倒的な火力の割には生産コストが抑えられる点は評価され、今後の改良が期待される事になった。








ソ連領ブラゴエスチェンスクハイヴ(19)建設開始が確認された今年に入り、朝鮮半島へのBETA侵攻の圧力が一気に増す事になった。

しかし、BETA侵攻による相次ぐ撤退にも関らず俺が所属するロンド・ベル隊は、
一人もかけることなく長春(旧満州の新京)防衛戦まで戦い抜くことができていた。

そして、いつしか『極東最強の中隊』『奇跡の中隊』と呼ばれるまでになっていた。

この呼ばれ方は、ロンド・ベル隊全員の誇りでもあったが、それと同時にそれに見合う戦果が求められるようになって行くのだった。

この事は何時しか慢心を生み、独立部隊にあった自由を拘束する戒めとなっていたのかも知れないと、後になってから気付かされることになるのだった。



長春防衛戦に参加していたロンド・ベル隊が、HQの要請により帝国軍主力を迂回するような動きを見せいていたBETA群に対処していた時、
ロンド・ベル隊の後方に位置していた戦車部隊が、地下から出現したBETAの奇襲を受けるという出来事が発生した。


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 HQより後方に出現したBETAへの対処要請が来た・・・。
 迂回部隊を牽制しつつ、戦車部隊を救援せよという無茶な要請じゃが?」


ここに来て各国軍の消耗は激しさを増しており、この戦域には戦車大隊を救援に動ける部隊が、ロンド・ベル隊以外に存在しなかったのだ。

HQからその要請を受けたロンド・ベル隊は、急遽部隊を半分に分けて対処する破目になるのだった。


「ベル1(本郷 大尉)、了解。
 ・・・ベル1(本郷 大尉)よりロンド・ベル各機へ、部隊を二手に分けて対処する。

 ベル12(御剣 少尉)、貴様がベル7から11を率い戦車大隊の支援に向かえ。」


「ベル12(御剣 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 先任を差し置いて俺が分隊長を務めるのは、問題があると思いますが?」


「ふん、普通の衛士ならそうなのだろうが・・・、
 個人的な技量もそうだが、前衛の癖に後衛の支援をするほど視野が広いうえ、支援の要請も的確だ。
 何より、誰も文句を言わないという点でお前が分隊長に最も相応しいと思っているのだが・・・?」


「ここで問答をしても始まりません、これもいい経験です。
 ベル12(御剣 少尉)、分隊長を務めて見せろ。
 無理なようなら、ベル7(武田 少尉)が任を引き継げばいいのです。」


俺は、中隊長と小隊長の二人に促される形で、臨時に編成された分隊の隊長に任命される形になった。

この任命は、同じ機種で隊をまとめた方が効率のよい運用ができるという判断から、少尉だけの不知火部隊を編成したために行われたものだった。

俺はその任を受けた後、すぐさま反転した不知火6機を率いて、戦車大隊の救援へ向かうことになった。

この時俺は初めて、ロンド・ベル隊で隊員を率いる立場に付くことになったのだ。

その事について、中隊長が行ったように先任たちから否定するような言葉はなく、逆にやっと隊長職につくようになったかと言われるほど、
分隊内での評価はいいようだった。

俺が率いるロンド・ベル分隊が戦車部隊の救援に駆けつけたとき、既に戦車部隊の1/3が撃破されている状況だった。

それに対応するため、光線級が出現していなかったこともあり、突撃前衛の二機を低空飛行させることでBETAを引き付け、
小型種を掃討するために作られた小型の鋼球をばら撒く手榴弾等用いて、残りの四機が戦車に取り付いているBETAを掃討する作戦を取る事になる。

俺は空中からBETAのみを素早く狙撃することで、効率よくBETAを撃破していったが、結局戦車部隊が安全圏に退避した時には、
その戦力を半数以下に減らす事になっていた。

もっと効率のいい戦い方がなかったかと考えつつも、ロンド・ベル本隊との合流を指示しようとした時、
再び地下からBETAの増援が出現することになった。

しかも、その出現位置はロンド・ベル本隊と分隊の中間に位置しており、これにより本隊と分断され合流が困難になることが予想された。

そして俺たちが、BETAの増援を突破して本隊に合流する動きを見せいていたとき、更なる不幸がロンド・ベル隊を襲う。

何と防衛線の主力部隊が崩壊したために、ロンド・ベル本隊へ多数の光線級を含む大量のBETA群が襲い掛かることになったのだった。



「クソッ、光線級さえいなければ直ぐ合流できる距離だというのに・・・。」


佐々木 少尉が洩らしたこの言葉通り、本隊との距離は最大戦速で1分半ほどの距離しか離れていなかった。

しかし、光線級の存在が跳躍することを許さず、匍匐飛行をしようにも本隊との間には未だに増援がやまないBETA群が邪魔をしており、
合流は遅々として進んでいなかった。

光線級を撃破しようにも、光線級は本隊を挟んだ向こう側に存在しており、砲撃がとどく距離ではなかった。

また、戦線が崩壊しつつある今になっては、多数の部隊から寄せられる支援砲撃の要請により、
こちらへ支援砲撃が開始される可能性は極めて低くなっていた。

しかも、最後の手段である単独での突入も50以上の光線級により阻まれ、今の俺が突入できるほど生易しい状況ではなかったのだった。

更にもし突入に成功したとしても、それまでの時間に最優先護衛目標であるベル7(武田 少尉)を抱える分隊の方が、壊滅させられる可能性も有った為、
BETA群の中を亀の歩みの様に進んでいくしか方法が残されていなかった。

分隊が本隊まで残り5000mに迫った時、非情な勧告が俺に通達すられることになった。


「ベル7(武田 少尉)よりベル12(御剣 少尉)へ、
 HQより全軍に対して長春より退却するようにと命令が発せられたようじゃ・・・。」


「武田さん、どう言うことです?
 ロンド・ベル以外にも、前線で戦っている部隊がまだ沢山あるんですよ。
 それなのにHQは何を考えているんだ!」


俺の怒りの声と同様に、他の隊員も怒りをあらわにした。

しかし、それに対して武田 少尉は冷静に答えを返した。


「主力部隊が退却を開始した今となっては、どう叫ぼうが現実は変わらん、
 それよりも、生き残ることを考えたらどうじゃ、お主は分隊長なのじゃろう?」


その言葉を受けた後も、本隊と合流して退却する方法を考えていた俺に、中隊長からの通信が入って来た。

どうやらそれは、武田 少尉が不知火・強行偵察装備を使って無理やりつなげた通信のようであった。


「ベル1(本郷 大尉)よりベル12(御剣 少尉)へ、
 本隊との合流は不要だ、即時退却に移れ!」


「中隊長!?
 俺たち分隊が合流しないと、今の本隊では確実にやられてしまいますよ。」


本隊の隊員が乗っている不知火・斯衛軍仕様試験型は、その性能と引き換えに稼働時間の低下をもたらしており、
BETAに半ば包囲されている現状を考えると、不知火が護衛することで最短ルートを退却する以外に推進剤が持つ可能性が低いと考えられていたのだ。


「御剣 少尉・・・、そろそろ不知火も撤退の限界点に達するようじゃ。
 試験型の稼働時間を考えるともう既に・・・。」


俺は自分の推進剤残量を基準に考えていたが、思った以上に分隊の不知火も推進剤を消耗していたのだった。

 しかし・・・、だからと言って・・・・・・、


「俺は・・・、俺はこんな状況をひっくり返すために強くなると誓ったんだ。」


頭では退却するべきと判断していたが、感情がそれを許容できずその思いが思わず口から漏れることになった。


「御剣 少尉・・・、判断を誤るなよ。
 最優先目標を思い出せ、それにここで貴様らも死ねば、誰が民を守るのだ・・・。
 誰が、この中隊の事を語り継ぐのだ。
 自らの死が、無駄では無いと思えるからこそ、こんな状況でも笑って戦えるのだ!」


中隊長の搾り出すような声と共に、先任たちの笑い声が耳に入って来た。


「うぉぉぉーーーーー。」


雄たけびと共に、目の前にいた数体の要撃級を切り刻んだ俺は、ついに決断を下した。


「ベル12(御剣 少尉)よりベル7からベル11までのロンド・ベル 分隊に告げる、
 これより我々は退却を開始する。」


俺は、そう言って分隊の皆に命令を出した後、先任たちとの最後の言葉を交わすことになった。


「中隊長・・・、先任の皆さん、
 今までありがとうございました。
 俺も・・・何時かそちら側へ逝くので・・・、その時まで・・・・。」


「あぁ・・・、今まで貴様らと戦えたことを誇りに思う。
 御剣・・・、ロンド・ベルは貴様に任せた。
 先に地獄に逝って待っているが、あまり早く来るなよ・・・
 では、その時まで・・・」


「「「「さらば!」」」」

 
この通信を最後に俺たちは退却を開始し、中隊長以下6名は最後の力を振り絞りBETAへ特攻をかけることになった。

俺たちはベル7(武田 少尉)を中心に円壱型(サークル・ワン)を組み、推進剤の余裕のあった俺がその殿を勤める事になった。

中隊長達がどのように戦ったかははっきりと分からないが、不知火・強行偵察装備には6つのS11による爆発が観測されていた。








長春から退却した後のロンド・ベル隊は、一気に平壌(ピョンヤン)近郊まで後退し、そこで補給とつかの間の休憩を取ることになった。

俺は、生き残った隊員達からの了解を取った上で、分隊長としての最後の役目を果たす為に、
帝国軍に報告書を提出し人員と物資の補給を要請を行う事になったのだが、
その要請は結局少しばかりの物資の補給以外は、全て断られる事になる。

そして、人員の補給変わりに渡されたのが、野戦任官による臨時中尉の肩書きと、あまり聞かない臨時中尉での中隊長就任命令だった。

この一連の出来事からは、帝国軍も消耗が激しく対応ができない事、解体し吸収すれば企業と面倒が起きる可能性がある事、
補給は軍から出したくない事といった様々な理由から、生き残りに部隊運用を一任し、要請を無視したいという意思が働いているようにも取れた。

あくまでも可能性の範囲だが、あえて先任ではなく斯衛軍からの出向組みである俺を臨時中尉とした事も、
帝国軍との関係性を薄めようとする手段の一つ、とも考えられたのだ。

俺はそっちがそのつもりなら、こっちも好き勝手やらせてもらおうと考え、御剣財閥の力やコネを使って様々な補給物資の手配を行っていく。

しかし、補給物資はどうにかなりそうだったが、人員の補充はそう簡単にはいかなかった。

一瞬、御剣所属のテストパイロットを引き抜く事も考えたが、それでは兵器開発が遅れてしまうと思い、考え直したのだ。

また、補充人員は誰でも言いというものでもなかった、ある程度の腕が無いとただの足手まといになってしまうからだ。

俺が特別に与えられたテントの中で、夜になっても書類の作成に励んでいると、外に気配を感じた。


「その気配は武田 少尉だろう。
 今はお菓子を持っていませんよ?」


俺の言葉を受けて、武田 少尉がテントの中に入ってきた。

お菓子云々の俺の発言に、幾分気分を害した様子を見せた武田 少尉だったが、その感情を抑え込んだ様子を見せた後、俺に話しかけてきた。


「また、今日も寝ないつもりじゃろう?」


「分からない、全然眠くならないんだ・・・。」


「嘘をつくでない、そんなに目の下に隈を作って眠くないじゃと?」


「ふぅ~、しっかりと化粧はしたはずなのにばれたか・・・。」


俺のそのコメントに対して、武田 少尉は化粧で女の眼を欺こうと考えるとは片腹痛いと返し、俺を無理やりベッドの方まで引っ張っていくのだった。

俺はベッドの端に腰掛けた後、正直な思いを武田さんに話すことにした。


「・・・・・・正直に言うと、寝ていると嫌な夢を見る・・・・・・。

 俺がもっと上手くやれば、どうにかなったんじゃないかって・・・。

 どうしようもないと分かっていても、考えずにはいられない。
 こういう時は、酒に溺れられない自分が損をしている様に思える。」


そう言って、自嘲的な笑みを浮かべた俺の頭を、武田さんが優しく抱きしめてくれた。


「お主はよくやっている・・・、
 お主以上の部隊長など早々いるものではない。
 今はゆっくり眠る事じゃ・・・、ワシがついておるから悪夢もどこかへ逃げ去るじゃろう。」


武田さんに抱きしめられていると、どういうわけか心が安らいでいくのを感じた。

これが、女性の魅力というやつなのだろうか?

この暖かさを感じるために、男は女性を求めずにはいられないのかも知れない・・・。


「女の人に抱きしめられるのは、いつ以来だ・・・ろ・・・・・。」


俺は次第に意識を混濁させていき、武田さんにも胸が有ったんだと馬鹿なことを考えている間に、
ついに眠気に負け意識を手放す事になったのだった。




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コメント

皆様、いつも御世話になっております。
今回設定が登場した撃震・改修型ですが、投稿する当日になって整備性に問題があると気が付いてしまいました。
戦術機に随伴できる支援砲撃が必要と考えたことや、人型兵器と同様に男のロマンである多脚型兵器を
登場させたかったことから、そのまま投稿することにしました。

そして、初期段階では本土決戦まで殆どが生き残る予定だったロンド・ベル隊員ですが、
強くなりすぎた主人公を一度挫折させるために、半数がお亡くなりになりました。

挫折に人の死亡は必要ではない事や、もっとエピソードを挟むべきとも考えたのですが、
今回は他の部隊ではよく起こる悲劇が、ついにやってきたという話になってしまいました。

人の生死を考える難しさを痛感した話となりましたが、今後もよく考えて展開を決めて行きたいと思います。



返事

なんてこった・・・・、一月近く悩まされた移動速度について原作でしっかり表記されているとは・・・、
まったく気が付きませんでした。
書き込み、ありがとうございます。

原作を確認してみたところ、どの場合の速度か分からない場合もありましたが、
戦術機の速度は以下のようにまとめました。

主機出力の低い訓練用の吹雪及び撃震
主脚走行速度が70~90km/h,
短距離跳躍で瞬間的に150km/h程,
中距離跳躍で160~190km/h程,
最大戦速では216~218km/hでの長距離跳躍。
(ラプターの推進剤を心配していることから、吹雪は最高速度を出していないと思われます)

不知火の主脚走行速度は吹雪と同程度
短距離跳躍で瞬間的に238km/h程,
中距離離跳で260~281km/h程,
匍匐飛行292~330~360km/h,
最大戦速では463~468km/h,
不知火壱型丙の最高速度が746km/h。

ここまで移動速度がばらばらだと、巡航速度を決めるのが無駄なような気がしてきましたが、一応決めておきたいと思います。
ハイヴ内での移動が主脚走行70%なので、陸上での巡航時の割合を適当に決めると、
第一世代機 主脚走行50%,短距離跳躍50%, 40+ 70=110km/h位
第二世代機 主脚走行45%,短距離跳躍55%, 36+110=146km/h位
第三世代機 主脚走行40%,短距離跳躍60%, 32+132=164km/h位
としました。

結果は以下のようになりました。
第一世代機 最高速度460→400km/h前後(巡航速度95→110km/h前後)
第二世代機 最高速度600km/h前後(巡航速度140→150km/h前後)
第三世代機 最高速度700km/h以上(巡航速度170km/h前後)
これを見ると、適当に考えていた時の値は、私が納得できる範囲に収まっていたようです。
これからは、この設定を基に話を続けて行きたいと思います。
皆様のご協力ありがとうございました。




[16427] 第15話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 23:49


「んん・・・・・・んぁ~~~。」

俺はその日、長春防衛戦が終わってから初めて悪夢を見ることなく、しっかりと睡眠を取る事ができた事に、幸福感すら感じていた。

こうして、気持ちいい朝を迎える事ができるのも武田さんのご利益なのだろうか?

女性に抱きしめられただけで安心して眠れるなど、我ながら単純なものだと考えなくはなかったが、あのまま睡眠不足が続けば
部隊の崩壊に繋がる可能性も有った事を思うと、素直に感謝する気持ちになっていた。

そこで俺は、ベッドの中で久しぶりに感じた気持ちよさを満喫しようと、睡眠で硬くなった体を軽く伸ばすことにした。

しかし、動き出して直ぐ、自分がなにやら軟らかいものを抱きしめて寝ている事に、気が付くことになった。

俺はそれが何だか分からなかったが、目を開けるのも億劫だったので、手でそのものを弄る事にしたのだ。


「こら、御剣。
 そのように強く抱きしめられては、痛くてかなわん。
 女子を抱きしめる時は、もっと優しくするものじゃ。」


「・・・・・・え?」


俺は突然かけられた声に驚き、眼を開けると同時に間抜けな声を発していた。

そして、自分が抱きしめていたものの正体に気が付き、大いに混乱することになる。


「た 武田さん、どうしてこんな所にいらっしゃるのでしょうか?」


「・・・やっと起きたようじゃな。
 お主が寝入った時に、ベッドに押し倒されてしもうたのじゃ。
 しかも、離れようとすると軽く関節を極めてくるから始末におえん・・・。」


「は~、そうなのですか。」


「そうなのじゃ、じゃから仕方なくここで寝ることにしたのじゃ。
 し 仕方なくじゃぞ。」


そう言われた俺は、始めて聞く自分の寝相の悪さと女性と一緒に寝ていたという事実に驚愕し、ベッドから離れることも出来ずに、
武田 少尉としばらくの間見つめ合う事になった。

そして二人の沈黙は、突然の来訪者によって終わりを告げることになる。


「う~す、御剣起きてるか?
 今日の訓練についてなん・・・だ・・・が!?」


この時の俺は、自分の胸の高さ程の身長しか無い女性に抱きついている体勢・・・、見方によれば少女にも見える女性をベッドに
押し倒しているようにも見える状況だった。

この光景を目撃することになった佐々木 少尉は、驚きの表情の後に妙に納得した笑顔を見せた。


「お前が歓楽街に行かない理由がようやく分かった・・・。
 まさかロリ・・・、いや人に嗜好をとやかく言うと、碌な事が無いな。
 では、急いで皆に知らせて来るか・・・。」


そう呟いた佐々木少尉は、親指を上に立てた拳を前に突き出し、満面の笑みを浮かべた後、足早にテントから立ち去っていくのだった。








その日慌しい朝を過ごした俺は、ロンド・ベル隊全員で隊員が6人になってから何度目かになる、シミュレーター訓練を行っていた。

前回の戦いから前衛・中衛・後衛のバランスが取れた隊員が生き残ってはいるが、12人から6人になった影響は大きく、
昨日まで今まで通りのポジションでシミュレーター訓練を続けていたが、思うような結果が残せていなかった。

思うような結果が残せない一番の理由は、打撃力不足であった。

反応炉到達が第一目標になるハイヴ攻略では、BETAを回避する事が可能であるためそれほど打撃力は重要視されないと俺は考えていたが、
俺たちが主に従事することになる間引き作戦や防衛戦ではそうは行かなかった。

特に防衛戦では、いかにBETAを効率よく大量に殲滅するかが求められるため、打撃力不足は深刻な問題になるのだった。

更に、試験中隊であるロンド・ベル隊は戦闘を行いながらも不知火・強行偵察装備を守りきり、
戦術機及び兵装の運用データを持ち帰ることが最優先目標である事も影響していた。

運用データを持ち帰るために偵察装備の護衛に力を入れると、どうしてもBETAに与える力が不足し、
BETAに包囲殲滅されるという結果になってしまうのだった。

その事にここ数日頭を悩ましていた俺は、副官に任命していた武田 少尉と相談して、思い切ったポジション変更を行うことにした。

新しく考えた編成は、俺と武田 少尉の二人でエレメントを組み後衛となり、残りの四人をアロー隊形とし前面に立たせると言うものだった。

これによって、偵察装備の護衛を行う機体を俺一機とし、偵察装備の不知火も87式突撃銃と92式多目的追加装甲を持つ安定したスタイルから、
より攻撃的で前衛を援護できる装備に変更したのだった。

そして、後衛に下がる事になった俺の不知火と武田 少尉が乗る偵察装備の不知火には、最新のラインメイタル Mk-57中隊支援砲の
大口径タイプが装備され、中衛の強襲掃討装備には通常口径の中隊支援砲が装備されることになった。

この中隊支援砲は、BETA群に突入する戦術機部隊を支援するために開発された戦術機用の支援重火器で、
1997年の今年に入り欧州で配備され始めた兵装である。

欧州各国軍では戦術機が携行する大口径支援砲が標準装備されており、Mk-57中隊支援砲は通常使われる57mm砲弾以外にも、
220㎜や105㎜砲弾に対応した数種も存在している。

散弾・多目的運搬砲弾も使用できる本砲は、57mm砲弾の場合で最大120発/分の制圧射撃を行う事が可能であり、
要撃級,戦車級に対して極めて有効な兵装であると考えられていた。

これらの大口径支援砲は、欧州において戦車や自走砲の代用として運用されており、戦術機に装備されている事で機動性や、
地形に影響されない展開能力が評価されているのだ。

今回、御剣重工では将来的にライセンス生産を行うことを目標に、西ドイツのラインメタル社から57mm,76mm,90mm,105mm砲弾を発射できる
4種類のMk-57中隊支援砲を購入し、各種の運用データを取る事になった。

その関係で、不知火での実戦時の運用データを取るために、ロンド・ベル隊に配備されてきたのだ。

御剣重工がこの4種類の砲弾を選択した理由は、戦術機の一般的な兵装である87式突撃砲の36mm砲弾を上回る火力が求められた事と、
120mm以上の砲弾では、その反動や携行できる弾数が制限されることが問題になったからだ。

57mmより口径の大きくなった種類の中隊支援砲は、一発の威力が増加した分57mmよりも発射速度が低下する事になった。

それによって面制圧能力が低下する事になったが、欧州で求められていた面制圧能力は、戦車や自走砲が担うことが帝国軍の方針であり、
御剣重工としても将来的には撃震・改修型が担うという構想であったため、必ずしも必要な能力ではなかったのだ。

俺はこの四種類のMk-57中隊支援砲に対して、57mmは欧州で使われている面制圧として運用し、76mm,90mm,105mmは87式支援突撃砲の変わりに
後衛から前衛を援護するための支援砲として運用する事を考えていた。

現在、アジアや帝国で戦術機の支援火器として主に使われている87式支援突撃砲は、87式突撃砲に専用バレルを取り付けた物であるため、
87式突撃砲と同じ36mm砲弾が使われている。

しかし、36mm砲弾では支援砲撃を行っても、命中した瞬間にBETAを行動不能にするほど威力がないのだ。

それを不満に思っていたところに配備されたMk-57中隊支援砲は、命中すればほぼ確実にBETAの動きを止める威力を有しており、
部隊の支援砲としても非常に有効な兵装であると考えられていたのだ。



この新しい編成と装備を試そうと提案した時、各隊員は新しいポジションと部隊連携の方針に戸惑う事になった。

今回編成された陣形は以下のようになっている。

ポジション
ベル1 御剣 信綱 臨時中尉  前衛→後衛   (突撃前衛装備→砲撃支援装備)
ベル2 武田 香具夜 少尉   後衛→後衛兼中衛(強行偵察装備→支援偵察装備)
ベル3 佐々木 浩二 少尉   前衛→前衛   (突撃前衛装備→突撃前衛装備)
ベル4 宮本 隆志 少尉    中衛→前衛   (迎撃後衛装備→強襲前衛装備)
ベル5              中衛→前衛   (強襲掃討装備→強襲前衛装備)
ベル6 竹下 少尉        後衛→前衛兼中衛(打撃支援装備→強襲掃討装備)

装備内容
突撃前衛 装備 87式突撃砲×1, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
強襲前衛 装備 87式突撃砲×2, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2
強襲掃討 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1,87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
砲撃支援 装備 87式突撃砲×1, Mk-57中隊支援砲(90or105mm砲弾)×1, 74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2
支援偵察 装備 Mk-57中隊支援砲(76or90mm砲弾)×1, レドーム×2, 情報処理用大型バックパック, 65式近接戦闘短刀×2

部隊陣形
         前
         ▲←ベル3(佐々木 少尉)
  ベル4→■   ▲←ベル5
ベル6→■  
         ● 
         ↑  ●←ベル1(御剣 臨時中尉)
     ベル2(武田 少尉)
         後



新しいポジションについては、精鋭が集められた部隊であった事と、近接格闘を苦にしない隊員が多くいた事も幸いし、
大きな問題にはならなかった。

問題になったのは、他の隊員が初めて後衛に徹することになった俺の実力を信用できず、動きが消極的になってしまうという事だった。

今までも守られる立場で有りながら、的確な援護射撃ができていた武田 少尉は、他の隊員から信頼されていたのだが、
いくら腕が良くても実績が無い俺は、完全な信頼を得ることが難しかったのだ。

しかし、連携訓練を繰り返す中で後衛の俺からも的確な援護が来ることが分かると、隊員はしだいに動きがよくなっていった。

また、俺と武田 少尉のエレメントも相性が良く、初めての連携においても不知火・支援偵察装備の護衛は、上手く機能していたのだった。

結果として一日の訓練で、今までで最も良い成績を残すことができていた。


「朝から見せ付けてくれたのは、エレメントの予行演習だったのか?」


訓練の後、佐々木 少尉はそう言って朝の出来事を蒸し返してきた。

佐々木 少尉の発言に合わせる様に他の隊員からも冷やかしの声が聞こえてくる。

しかし、その中には無理して明るく振舞おうとする雰囲気も感じ取ることが出来るのだった。

久しぶりの明るい話題に、無理にでも明るく振舞っているのだろうが、ネタの内容を考えるとネタにされる方としては、
たまったものではなかった。

俺はすかさず反論を行うことにしたのだった。


「佐々木さん、それはもうやめてもらえませんか?
 それに、佐々木さんが思っているような事はしていませんよ。」


「だが、ベッドで抱き合っていた事は事実だろ?」


「確かに、寝ぼけて武田さん押し倒しましたが、それ以上の事をするつもりはありませんでした。
 何しろ寝ぼけていたもので・・・。」


押し倒した後に一晩同じベッドで寝ることになったが、俺自身にはそれを実行しようとする意思が無かったので、
今の発言は嘘を言っているわけではなかった。


「御剣はそう言っているが、武田からは何か言う事は無いのか?」


「御剣がそういうのなら、そうなのじゃろう。」


どうやら、俺の発言に気に入らない部分があったようで、武田 少尉はそう言って不機嫌そうに顔をそらす事になった。

その顔を見た俺は、なんとも言えない罪悪感に駆られる事になった。


「皆さん、15:30よりブリーフィングを始めます。
 遅れないようにブリーフィング用車輌に集合してください。
 では!」


これ以上この場にいても墓穴を掘るだけだと判断した俺は、ブリーフィングを理由にその場から逃げ出すことにするのだった。








本日行われたブリーフィングにおいて、今日行った連携訓練についての分析が行われ、
ポジションと陣形の変更が有効に機能していたと判断される事になった。

そして、皆の賛同が得られた事で、しばらくこの編成で行くことが決定された。

次にブリーフィングで議題に上がったのが、機体の整備についての問題だった。

それについて、整備主任から現状の報告がされることになった。


「ロンド・ベル隊で運用している不知火は、今まで帝国軍から補修パーツが供給されていたのですが、
 長春防衛戦での損害により、帝国軍内でもパーツが不足している状況ですので、
 こちらに供給されてくるパーツも当然のように、減少しています。
 したがって、このまま行けば2ヶ月ほどで補修パーツが底を付くことになります。」


この発言を受け、俺はこの数日で考えていた計画を皆に通達することにした。

それは、独自に調達し6機分の補修パーツがあった不知火・斯衛軍仕様試験型のパーツを使い、前衛の不知火4機の補修を行うというものだった。

不知火・斯衛軍仕様試験型のパーツがここまで豊富にある理由は、この世で不知火・斯衛軍仕様試験型を運用するのが
ロンド・ベル隊だけであったからだ。

つまり、先の防衛戦にて不知火・斯衛軍仕様試験型は、御剣重工の倉庫に眠るプロトタイプを残すのみとなり、
完全に戦場から姿を消すことになったのだ。

そして、後衛の2機は残った不知火のパーツと前衛から外された消耗の少ないパーツを使って、補修を行うという計画だった。

不知火と不知火・斯衛軍仕様試験型のパーツには、ある程度の互換性が確保されていたが、単純に組み付けただけでは制御系に不具合が発生するため、
その部分の調整が必要である事が問題にあげられる事になった。

また、互換性が無いパーツは試験中隊にある工作機械を使って、追加の加工を施す必要があったのだ。

しかし、それ以外にパーツを調達する方法が無かったため、結局俺の計画がそのまま採用されることになった。

「次に、先日到着した新型管制ユニットに付いての説明に移りたいと思います。
 この新型管制ユニットは、次世代CPUの開発により既存のシステムを小型化し、
 空いたスペースに衛士の生存性を高める新機能を搭載する事に成功したもので・・・・・・。」

この後、数十分にも渡り新型管制ユニット開発主任から、新型管制ユニットとそれに伴う兵装と運用方法についての説明がされる事になるのだが、
それを要約すると以下の用になる。

次世代CPUの開発により、管制ユニットの小型化に成功。
          ↓
それにより、管制ユニットを完全ブロック化する事が可能になった。
          ↓
ブロック化により、独自の装甲を有することになった管制ユニットは、
装甲を爆薬で強制排除した後、管制ユニットに取り付けられたグリップをメインアームで掴むことにより、
戦術機で管制ユニットを容易に回収する事が出来るようになった。
更に、管制ユニットを稼動兵装担架システムに搭載することも可能で、
一機の戦術機が最大4人の衛士を管制ユニットごと救出することも可能である。

また、衛士救出用として戦術機の補助兵装に、小型可動兵装担架システムに装備できる小型のショットガンが新しく配備されており、
至近距離でも戦術機の装甲に殆どダメージを与えることが出来ない威力に作られたショットガンは、戦術機に群がる戦車級を効率的に
排除する事が可能になっていた。

そして、管制ユニットのブロック化は予備機があれば、管制ユニットを乗せ替えるだけで再出撃すら可能という、
整備に関しても劇的な変化をもたらす可能性すらあった。

開発主任は、この装備がいずれ全ての戦術機に採用されることになるだろうと熱く語った後、ようやく話を終えたのだった。


「え~と・・・、結論から言うと救出や整備が容易になっただけで、
 性能は上がっていないと考えていいのか?」


開発主任の長い説明に頭を痛くしていた隊員たちを代表して、佐々木 少尉が質問を行った。

それに対して、開発主任は先ほどの説明よりも熱く、その質問についての返答を返すことになる。

開発主任が熱くなった理由とは、ブロック化だけに留まらず新型管制ユニットには、
慣性力を低減するための機構を搭載することに成功していたからだった。

これは、他人の戦術機機動にあわせて、強制的に揺さぶられることになる救出された衛士のことを考え、搭載が検討されたものであったが、
予想以上の性能を見せ、通常の戦闘時にも衛士の負担を軽くすることに成功していたのだ。

それに着目した俺は、新型管制ユニットに搭乗制限を限定解除するショートカットコマンドを装備することを提案したのだ。

搭乗制限の解除はある意味ドーピングのようなもので、衛士と機体の負荷をかけることを引き換えに、
一時的ではあるが機体の性能を上げる事ができる設定だった。

それが、新型管制ユニットによる慣性力の軽減で、衛士の負担が緊急時に使う短時間なら十分許容できる範囲に収まると考えたのだ。

これにより新型管制ユニットは、機体側への負担も考え常に搭乗制限を限定解除を行う事出来なかったが、一回30秒間,
再使用に3分間のインターバルという制限が付くものの、ボタン一つで搭乗制限を限定解除し機体性能を10%押し上げる機能が
装備されることになった。

たかが10%の性能向上をたった30秒間だけで、何ができると思う人もいるかもしれないが、
この僅かな差が生死を分ける場面において重要になってくるのだ。

俺は新型管制ユニットの開発に携わった事もあたため、開発主任の熱い思いに大いに賛同していた。

そして、開発主任の熱い説明で武田さんに関する追求が逸れればいいなと、淡い期待を抱くのだった。




「信綱様、試験型のパーツの件は、よろしかったのですか?」


ブリーフィング終了後、御剣重工から派遣されていた整備担当者がそう話しかけてきた。


「俺の機体は、それほどガタはきていないはずだ。
 パーツ交換が必要の無い機体に試験型のパーツを取り付けるほど、整備員は暇では無いだろう。」


「・・・信綱様の戦い方が特殊なのです。
 普通なら消耗するパーツは、衛士によって偏りが生まれますが、全ての関節を満遍なく磨耗させているのは貴方だけですよ。
 このまま行けば、パーツを交換するより管制ユニットごと入れ替えた方が整備を楽に出来そうです。」


人間には利き腕があるため、戦術機のメインアームにも使用頻度の差が発生し、それが関節部の消耗が左右で異なっている原因になる。

そして、腕と同様に足にも左右で利き足と軸足という使い方の差が発生してしまう。

制御的に左右の差が無いように調整してはいるが、サイドステップの使用頻度が左右で異なることもあり、
左右の足で消耗する関節が異なる場合が多くなるのだ。

それに対して、騎乗(乗り者の乗り方やその能力・特性を理解できる能力)という特殊能力により、関節部の消耗がなんとなく分かる俺は、
それを調整し左右の関節部が同じように消耗させることが可能だった。

この乗り方自体は、直ぐに整備を受けられる状況ではアドバンテージになるものではないが、最前線であまり整備時間が取れない時などに、
大きな差となって出てくると考えたのだ。


「その言い方だと、素直に喜んでいいのか微妙な表現だな・・・。
 ともかく、前衛の整備を頼む。
 多少互換性があるとはいえ、残り1週間で4機の不知火に試験型のパーツを付けるのは骨だろう。」


ロンド・ベル隊に通達された予定では、10日後には前線行きとなっているため、実機訓練の時間も入れると整備には一週間しか使えない計算だったのだ。








長春防衛戦後、二週間の間機体整備と部隊連携の訓練を行ったロンド・ベルは、再び最前線での任務に従事することになった。

その任務は、主に戦車や自走砲などの支援兵器の退却時や、突出したBETA群に対して遅滞戦闘を行い、可能なら殲滅するというものだった。

この内容を見ると、ロンド・ベル隊には戦力を半減させる前と変わらない任務と負荷が、割り当てられた事に気が付く。

この事からも帝国軍及び各国軍が疲弊しており、半分に数を減らした中隊の戦力でも活用せざるおえない、今の窮状が伝わってくるのだ。

俺たちは度重なる要請に対して、現状の部隊にできる範囲で答えて行くことになる。

俺が執った部隊指揮の方法は、大まかな目標だけを指示するだけで細かな指揮は一切行わないというものだったが、
各隊員がBETA戦というものを理解しており、経験豊富であることもあったため、息のあった連携を見せる事になった。

個人の活躍としては、ワントップという重要な役目を担うことになった佐々木 少尉がその実力を遺憾なく発揮し、
前衛の経験が浅い隊員に対しては、武田 少尉がしっかりとカバーを行う事ができていた。

そして、俺は武田 少尉を守りながらも、部隊全員を見回し満遍なく援護を行うことになった。

俺と武田 少尉の後衛が的確な支援を行うことによって、背後を気にする必要がなくなった前衛は、
次第に水を得た魚のようにその実力を発揮することになる。

普段の俺は左で突撃砲を保持し、右の稼動兵装担架システムを動かして右の脇の間から前に持ってきた中隊支援砲を、
右手で保持するというスタイルで各隊員の援護を行っていた。

俺が中隊支援砲から放った砲弾は、ある時にはBETAの隙間を縫い光線級の照射粘膜を捉え、ある時には前衛に殴りかかろうとしていた
要撃級の腕を根元から吹きとばす事になった。


「中隊支援砲のこの威力・・・、なかなか使える。
 個人的には105mmの威力が魅力的だが、90mmの方が取り回しを考えると一般受けするかな?」


俺はこの中隊支援砲から放たれる砲弾の予想以上の威力に、突撃前衛として最前線で戦えなくなった不満を忘れるほど興奮する事になる。

しかし、順調であった部隊連携も光線級の出現に対しては、なかなか上手く機能していなかった。

少数の光線級なら中隊支援砲で対処できたが、数が多くなった時には戦車部隊や自走砲部隊などに砲撃支援を要請するしか手が無かったのだ。

そんな状況の中でも、少しずつ前衛部隊を連携させることで光線級を撃破する事ができるようになっていった。

そしてこの事を切掛けにロンド・ベル隊員は、空へ跳び上がる事への恐怖を克服し、第3世代機とEXAMシステムの相乗効果により可能となった、
三次元機動の基礎を身に付ける事になった。

前衛部隊が安定したことで、俺が単機でBETAに突撃する機会は、次第に減って行くことになる。

ただし、完全に前衛というポジションから離れた訳ではなかった。

部隊が包囲されそうな状況に陥った場合に限り、部隊の指揮を武田 少尉に任せ俺が先頭に立つ陣形に移行する場合があったのだ。

この陣形により、ロンド・ベル隊は総合的な力が低下する変わりに突破力を最大化させ、BETA群の真只中を突破する事すら可能になるのだった。








こうしていくつもの激戦を潜り抜けていったが、所詮中隊の半分しかない人数のロンド・ベル隊では、戦況を変える力があるはずも無かった。

そして、ついにピョンヤンが陥落し、人類は朝鮮半島の半ばまで押し込まれることになる。

各国軍の奮闘もむなしく、韓国領に鉄原ハイヴ(20番目のハイヴ)の建設が確認された時、朝鮮半島に住む者達から発せられた絶望の声を、
俺たちは胸を締め付けられる思いで聞くことになるのだった。

こうした状況の中において、帝国内からは前線でも不足している不知火を、国内のある基地に集中配備したという情報が、
不知火の生産に携わっている御剣重工の裏情報として伝わってきた。

この情報により俺は、帝国が招致し香月 夕呼 博士が総責任者を務めるオルタネイティヴ第4計画の実働部隊として、
A-01連隊が発足した事を察知することになった。

また、御剣商事からも宇宙への不自然な物資の輸送があるとの報告を受けていた。

俺はこの事に、いよいよ対BETA戦における運命の分かれ道が近づいている事を実感するのだった。




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コメント

皆様、いつもご感想ありがとうございます。
だんだん投稿が遅くなってきましたが、仕事に支障が出ない範囲で頑張りたいと思っています。


この話の始めのエピソードは、朝起きてプロットに書き加えたものだったのですが、
その日の夜に改めてみてみると、原作のオープニングに似ている事に気が付きました。

今回は原作のエピソードでしたが、この間まで私が読む専門だった事を考えると、
いつか無意識のうちに他の作者様のネタを使ってしまうのではと、心配になってきました。

今のところ、怪しいエピソードは無いと思っているのですが・・・。


そして今回は、色々な装備を登場させました。
中隊支援砲は調べている間に、日本で標準口径である57mmが使われている形跡が無いことに
気が付いてしまいました。
無視してもよかったのですが、中隊支援砲が他の種類の口径に対応していることや、
あまり多くの種類の砲弾を使用したくなかった事もあり、76mmを使用する事に設定しました。

もし、57mmも日本で使われているという情報を持っている方がいらっしゃれば、
感想板に書き込んでいただけたら幸いです。


修正により、中隊支援砲の口径を4種類に変更いたしました。

これらの兵器を上手く活用して、BETAと戦って行こうと思っていますが、
部隊の人数を減らした事や、性能のいい方の機体を全滅させた事を今更ながら後悔しています。
このままでは、まったく活躍できずに戦場で埋もれてしまいそうです。
さて・・・、どうしましょうか。



返信

前回登場した多足歩行型の戦術機(撃震・改修型)が、思っていた以上に受け入れられて
大変嬉しく思います。

私はあまりACをやったことがないので、多脚型で思い浮かぶのがFMの機体になってしまいます。
また、この多足歩行型戦術機はゾイド程激しく動きませんが、その代わりに四基の跳躍ユニットで
通常の戦術機同様 長距離の跳躍が出来ます。
そのうち、戦闘シーンでも出てくると思いますので、その時に多脚型の火力と装甲,機動力を生かした
表現が上手く書けたらいいなと思っています。

その他にも多くの感想をいただきましたが、その事については今のところ検討中であります。
二話以上先は私にも分からないため、検討が終了するか本編で採用した時点で、
返信をさせていただきたいと思います。



[16427] 第16話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/03 18:22


1997年12月、ついにソウルが陥落した。

ソウル防衛に力を注いでいた各国軍は、防衛の失敗により戦力を大きく減少させる事になり、
その後のBETAの侵攻を防ぐ余力が残されていなかった。

これを受けて、帝国は前線への補給よりも本土防衛のために国内の戦力増強に力を入れ始める事になる。

それに合わせるように前線では、『朝鮮半島から軍が撤退するのでは?』と噂がされるまでになった。

そして、ソウル陥落から僅か1ヵ月で戦線を300km後退させることになった翌年の1月、朝鮮半島撤退作戦(通称:光州作戦)の実施が、
各部隊へ通達されることになった。

その作戦は、軍事力を温存したい国連軍の意向もあり、軍関係者の避難が優先された作戦であった。

それに対して、まだ多くの民間人を残している現地の国及び、それを支援する大東亜連合諸国は反発し、独自に民間人の避難を行っていった。

この様な追い詰められた状況になっても、人類は一つにまとまる事は無く、各国の対立を浮き彫りにするのだった。

その両者の間に挟まれることになった日本帝国は、国連軍の作戦を指示しながらも大東亜連合の民間人避難に支援を行うという、
玉虫色の対応を取ることになる。

この頃のロンド・ベル隊は、長春防衛戦からソウル防衛戦の半年ほどの間にの戦果が認められ、
俺が正式な中尉になり武田 少尉と佐々木 少尉の二人も中尉に昇任していた。

俺の昇任に際し、斯衛軍からは本土へ戻るように指示があった為、そんな暇は無いと言って俺が正式な異動願いを提出するというごたごたが起こったが、
斯衛軍司令官である紅蓮中将の口添えがあったおかげか、俺は速やかに斯衛軍から帝国軍へ所属を移す事と成功していた。

斯衛軍という安全な殻を得るとうメリットは、元々手に入れるつもりが無かったものだったので、俺はあっさりと皆と戦う事を選択したのだ。

また、手放しで喜べる理由ではなかったが、戦いの中でロンド・ベル隊が待ち望んでいた人員の補充も行われる事になった。

ピョンヤン陥落時に壊滅状態になり、不知火4機が生き残るのみとなっていた第11独立戦術機甲試験中隊と合流する事ができたのだ。

それを受け、充足率が80%を超えたロンド・ベル隊を指揮するために、俺はソウル防衛戦の直前に臨時大尉の階級を得る事になる。

臨時とはいえ大尉への昇進に対して、周りの隊員は喜んでいるようだったが、自分の能力が認められたというより、
人員の不足が主な昇進理由である事を考えると、複雑な心境になってしまい素直に喜ぶことができなかった。

ソウル陥落以後の戦闘では、人類側が圧倒的に不利な状況に追い込まれていたため、
ロンド・ベル隊が救援に駆けつけても多くの部隊が壊滅していくという結果が続くことになる。

そして、常にその戦場で最も危険な場所に配置されることが多かったロンド・ベル隊は、いつしか『死の鐘』と呼ばれるようになり、
味方から不吉の象徴の様に言われるようになるのだった。








ロンド・ベル隊に合流した第11試験中隊の生き残りは、中衛2人と複座の偵察装備を含む後衛3人,合計4機の不知火だった。

俺は合流後、第11試験中隊で運用されていた偵察装備についての扱いに頭を悩ますことになったが、偵察型とエレメントを組む俺との相性を考え、
第11試験中隊のオペレーターだった中里 優希 少尉と武田 中尉を、複座の偵察装備に乗せて運用することにした。

これにより、武田 中尉は戦術機の操縦に専念することができるようになり、ロンド・ベル隊は人数が増えたことでようやく、
中隊としての機能を発揮できる陣形を取る事ができるようになったのだ。

現在編成している部隊陣形は以下のようになっている。

ポジション
ベル1 御剣 信綱 臨時大尉  後衛→後衛兼中衛 (砲撃支援装備)
ベル2 武田 香具夜 中尉   後衛兼中衛→中衛 (支援偵察装備)
ベル3 佐々木 浩二 中尉   前衛         (突撃前衛装備)
ベル4→5 宮本 隆志 少尉  前衛         (強襲前衛装備→突撃前衛装備)
ベル5→7            前衛         (強襲前衛装備)
ベル6→8 竹下 少尉     前衛兼中衛→前衛 (強襲掃討装備→強襲前衛装備)
新加入
ベル4 黒木 重基 中尉    中衛       (迎撃後衛装備)
ベル6              後衛       (強行偵察装備→打撃支援装備)
ベル9              中衛       (強襲掃討装備)
ベル10              後衛       (制圧支援装備→打撃支援装備)
マザー・ベル 中里 優希 少尉 CP

装備内容
突撃前衛 装備 87式突撃砲×1, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
強襲前衛 装備 87式突撃砲×2, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2
強襲掃討 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1, 87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
迎撃後衛 装備 87式突撃砲×1,74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
砲撃支援 装備 87式突撃砲×1, Mk-57中隊支援砲(90mm砲弾)×1, 74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2
打撃支援 装備 Mk-57中隊支援砲(90mm砲弾)×1, 87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
支援偵察 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1, レドーム×2, 情報処理用大型バックパック, 65式近接戦闘短刀×2

部隊陣形
         前
   ベル5→■ ▲←ベル3(佐々木 中尉)
 ベル8→■     ▲←ベル7

  ベル9→△ 
ベル4→△   ●  ●←ベル1(御剣 臨時大尉)
         ↑ベル2(武田 中尉), マザー・ベル(中里 少尉)
   ベル10→□  □←ベル6
          後



数ヶ月間行われていたMk-57中隊支援砲の運用試験だが、最終選考まで残されたのは57mmと90mm砲弾を使用するタイプであった。

57mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、中衛が装備することを考えた時取り回しに難があるとされたが、
前衛が空けた穴を拡大するために必要な面制圧能力を十分に発揮した。

そして、90mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、57mm砲弾仕様より重たくなったが単発でもBETAの動きを止めることのできる威力(ストッピングパワー)が、
後衛から援護を行うときに有効な兵装であるとされた。

これらのMk-57中隊支援砲は、他の試験中隊での運用データとも比較検討され、後に銃身がやや切り詰められた57mm砲弾仕様が98式中隊支援砲,
90mm砲弾仕様が98式支援砲として帝国軍に制式採用される事になる。

この98式中隊支援砲と98式支援砲は、帝国軍では主に後衛の兵装として運用されることになって行く。

それに対して現在のロンド・ベル隊では、取り回しがしやすいように現地改修で2/3ほどに銃身が切り詰められ、狙撃を行う際に用いられる
二脚(バイポッド)が外された57mm砲弾仕様を中衛の装備とし、通常の90mm砲弾仕様を後衛の装備として運用していた。

これは機動力を重視する俺の部隊運用により、制圧支援装備で使われる92式多目的自律誘導弾システムを有する機体が存在しないため、
打撃力を補う事を目的とした苦肉の策だったのだが、この装備と隊員たちの相性は良かったようで、思った以上の戦果を挙げることになった。




1月下旬、光州作戦の発動にあわせて大隊規模の戦術機試験部隊が、ロンド・ベル隊と戦闘を共にする事になった。

その部隊の正式名称は第03独立戦術機甲試験大隊と言い、撃震・改修型36機により構成され、正式に組織されてから僅か3ヶ月という部隊だった。

プロミネンス計画に参加していた撃震・改修型は、半年に及ぶユーコン基地周辺での試験運用を終え、
大隊規模での実戦運用が行える段階まできていたのだ。

そして今回は、撃震・改修型の製造元である御剣重工の要請で、第03独立戦術機甲試験大隊はロンド・ベル隊の要請を最大限受け入れる形で、
運用されることになっていた。

これは、事実上第03独立戦術機甲試験大隊がロンド・ベル隊の指揮下に入ることを意味していた。

通常はこの様な事を行うことは無いのだが、撃震・改修型が今まで帝国軍で運用したことが無いタイプの戦術機である事と、
俺が撃震・改修型の初期段階から関わり、運用方法を煮詰めていた事が表向きの理由とされた。

実際のところは、俺が手持ちの戦力を増やすことで、光州作戦の悲劇として原作で書かれていた出来事を、
未然に防ぐことができるのではないかと考えた事が一番の原因だった。

俺がここで想定していた光州作戦の悲劇とは、光州作戦に参加していた彩峰中将率いる帝国軍が、
脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍の支援のために所定の位置から動いた事で、
結果的にその隙をBETAに突かれる事になり、指揮系統が混乱した国連軍が多くの損害を被る事になるという内容の事件である。

その後、国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍が勝手に動いたことが悲劇の原因であるとされ、
国連からの抗議に対し日本帝国政府は彩峰中将の処罰を行う事になった。

その処罰がどのようなものであったのかは詳しく分からないが、結果として彩峰中将は歴史の表舞台から去ることになる。

そして、彩峰中将は帝国軍の中でも人気・実力共にある人物だっただけに、この処罰に反発する者も多く、
それが国連軍への不信と後の軍事クーデターへ発展することになって行くのだ。

この事件について、彩峰中将へ伝え説得する術を持たず、現地住民の避難救助に失敗した場合のマイナス要素を補う方法を思いつかなかった俺は、
一時的に戦力を増強し不測の事態に対応するという、強引な事に手を出すことしかできなかったのだ。

俺は強引なことをした事への謝罪と今後の打ち合わせのために、大隊の指揮車輌に顔を出すことになった。


「初めまして、帝国軍技術廠所属 第13独立戦術機甲試験中隊 中隊長の御剣 信綱 臨時大尉であります。」


「同じく、第13独立戦術機甲試験中隊の武田 香具夜 中尉です。」


「私が、帝国軍技術廠 第03独立戦術機甲試験大隊 大隊長の秋山 好孝 少佐だ。
 そして、私の後ろにいるのが・・・。」


「副隊長の栗林 忠典 大尉です。よろしくおねがいします。」


俺たちの敬礼に対して、秋山 少佐は柔和な笑みを浮かべて答礼を行い、簡単な自己紹介を始めた。

この秋山 少佐は、大陸で帝国軍の戦車部隊を率いて幾度となく戦闘に参加し、少なくない戦果を上げている人物で、
その地形を生かした巧みな待ち伏せとBETAの動きを読んでいるかのような退却は、芸術的とさえ表現される優れた指揮官である。

特に有名なのが、ある戦闘において待ち伏せに適した地形が無いことを覚った秋山 少佐(当時大尉)は、工兵部隊に依頼し人工的に土塁を造り、
その場所でエンジンを切り伏せいていた戦車中隊が、通過して行く突撃級の群れに対して背後から強襲し、多大な戦果を上げたという戦いだ。

この戦果は、戦車部隊が受ける被害が甚大だった欧州を中心に、東洋の奇跡とも言われ多くの戦車兵を勇気付けることになった。

御剣重工は、そんな秋山 少佐の能力と戦術機の適正試験で僅かな差で落ちたという経歴に目に付け、帝国軍との交渉により
帝国軍の戦車部隊から引き抜き、撃震・改修型の国内での試験運用と部隊訓練を指揮させることにしたのだ。

俺たちは、互いの部隊の状況を再度確認した後、最も重要な指揮権の問題へと話を移していった。


「強引な要請により、我が隊の事実上の指揮下に入る事になった件・・・、
 ご不快とは思いますがご容赦下さい。
 また、階級が下の私からは要請という事になりますが、
 実際は命令として受け取り行動していただきます。」


「兵の命を預かる者として、いくら企業側からの要望を受け入れるようにと命令を受けていたとしても、
 受け入れられないこともあるが・・・。」


話が指揮権の問題へと移ると、秋山 少佐は静に俺を見つめてきた。

この表情からは感情を読み取る事が出来なかったが、場を支配する空気からは秋山 少佐が相当怒っている事が感じられ、
いざと言う時は要請を無視すると語っているようでもあった。


「最も、撃震・改修型は戦術機といっても戦車に近い部分が多いので、
 細かな運用は秋山 少佐にお任せします。」


「・・・聞いていた事と話が違うな。
 企業側から撃震・改修型の実戦運用は、貴官と相談して行うようにと言われたが?」


俺が部隊運用を任すという提案に、秋山 少佐は警戒を緩めることなく質問を返してきた。


「・・・秋山 少佐、戦術機とはどの様な兵科だと考えていますか?」


その問に対して、俺は更なる問を投げ掛けることにした。

俺の問に考えるそぶりを見せる秋山 少佐に対して、横に座っている栗林 大尉は『関係の無い話で誤魔化すのか?』と、睨みつけてきた。

ただ、二人ともこちらの質問の真意を掴みかね、戸惑っている雰囲気は感じることができた。


「私は過去の歴史を見るに、騎兵が最も戦術機に似ている兵科ではないかと考えているのです。」


俺は戦術機が持つ高い機動性と火力、それに対してBETAの攻撃を防ぐにはあまりにも薄い装甲の事を考え、今の結論に至ったのだ。

特に、光線属種に支配されている戦域で長距離跳躍が禁じられた戦術機は、その色合いがより一層濃くなる。


「日本騎兵の父と呼ばれた故 秋山 好古 陸軍大将は、騎兵の特徴である高い攻撃力と皆無に等しい防御力を説明するために、
 素手で窓ガラスを粉砕し血まみれの拳を見せ『騎兵とはこれだ』と語ったと聞きます。」


「つまり、貴官は何が言いたいのだ?」


「私が第03独立戦術機甲試験大隊に望むのは、機動力を生かして不知火に追従する支援部隊としての役割と、
 塹壕や山影に隠れながらの防衛戦であり、決して最前線で戦って貰う事を考えている訳ではないという事です。

 近接格闘戦を行うには、撃震・改修型の性能と装備では力不足ですから・・・。」


一概に騎兵とっても、その中で様々なバリエーションがある。

第2・3三世代機は、その戦い方が竜騎兵(小銃等の火器を主兵装とし、機動力が重視されたため装甲がヘルメットのみまで簡略化されていた騎兵。
小銃の他にはサーベルやピストルも携帯した。)に似ており、第1世代は作られた目的と廃れていった経緯が、胸甲騎兵(胴体に鎧を装備し、
敵陣へ突撃するすることを主な任務にする騎兵。)に似ていた。

そして、撃震・改修型は運用思想が騎砲兵(馬で砲を牽引し、兵士はその馬に跨って移動を行う砲兵で、騎兵に準ずる移動速度の獲得を目指して
編成された砲兵部隊)や、牽架機関銃と工兵部隊が配備されていた騎兵集団に近いと考えていたのだ。

俺は、これらの事を丁寧に秋山 少佐に説明する事になった。


「・・・貴官の考えはよく分かった。
 秋山 の名を出してのご機嫌取りかと思ったが、貴官の考えは私の考えに近いものがあるようだ。
 全てを鵜呑みにする訳にはいかないが、貴官の要請は最大限受け入れるようにしよう。」


「ありがとうございます。」


「正直に言うと、支援砲撃を行うのが精一杯で、接近された後に戦闘ができるほど錬度が高くないのだ。
 何しろ、衛士の殆どが戦車兵から転向した者達で構成されているからな・・・。

 だが、あまりこの事を語るべきではない。
 帝国軍の戦術とは考え方が違いすぎる。」


確かにこの考え方は、近接格闘戦を重要視する帝国の戦術とは真逆の考え方だった。

むしろ考え方としては、射撃戦を重視する米国に近い考え方であり、軍部で未だに残っている国粋主義者達の事を考えると、
あまり声高に言える内容ではなかった。


「しかし、帝国軍も一度は採用した戦い方です。
 恒常的に斬り込み戦術を使用するには、戦術機は人間と同様であまりにも脆い。」


しかし、俺はそう言った危険性よりも、正確に自分の考え方を伝えることを優先したのだ。

最も事前の調査で、それほど嫌悪感を抱くことは無いと予想はしていたが・・・。

また、戦術機に無敵の巨人としての役割を担わせるのには無理があるとは考えているが、近接格闘を完全に排除しようと考えている訳ではない。

その理由は、BETAの拠点であるハイヴ攻略では、近接格闘を重視する必要があるという事実から眼をそらす事ができないからだ。

俺は話の最後に、防衛時の戦術とハイヴ攻略時の戦術が、まったく異なる方法になると想定していることを伝え、今回の会談を終えたのだった。








ついに、光州作戦が発動となり、約一ヶ月にもわたる朝鮮半島撤退作戦が開始した。

光州作戦の初期段階で行われたBETAとの小競り合いにおいて、ロンド・ベル隊と第03独立戦術機甲試験大隊は、
初めてとは思えない整然とした連携を見せ、それにより互いの部隊に信頼関係が生まれる事になる。

そして、国連軍に所属する直接的な戦闘員以外がほぼ撤退し、いよいよ主力部隊の撤退が開始されようとした日、
突如として大規模なBETAの侵攻を受けることになった。

ただし、このBETAの侵攻はあらかじめ予想されていた範囲に収まっており、このまま推移すれば問題ないと思われていた。


「帝国軍が動き出しました。」


そこに、突然帝国軍が移動を開始したという連絡が飛び込んできた。


「帝国軍の指揮官は、彩峰 萩閣 陸軍中将か・・・。」


「ベル2(武田 中尉)よりベル1(御剣 臨時大尉)へ、
 どうしたのじゃ、難しい顔をして・・・。」


「この状況で、どう動こうか考えていた。」


「どうするのじゃ?
 このまま此処に居ても、BETAとの戦闘はなさそうじゃが・・・。
 いっその事、帝国軍に同調するというのも手じゃぞ。」


確かに、帝国軍が移動を開始した後の戦域マップを見ても、俺たちがいる地域にBETAが侵攻してくる兆候はない。

今まで帝国軍が展開していた地域は、国連軍主力部隊も展開している上に、BETAの予想侵攻ルートからも外れている状況であり、
防衛に関して問題は無いようには見えた。

しかし、帝国軍が抜けた事と国連軍主力も他の方面へ援軍を送った事で、この地域の防御が薄くなっており、
BETAの理不尽なまでの物量と光州作戦の悲劇の事を考えると、油断できない状況だった。

しかも、この地域が抜かれれば一直線に国連軍司令部が強襲されるという、おまけも付いているのだ。


「いや、この場所で待機する。
 この程度なら、独立部隊の裁量権でどうにかなる範囲だ。

 ベル1(御剣 臨時大尉)よりマザー・ベル(中里 少尉)へ、
 秋山 少佐にもその場で待機するよう要請してくれ。」


「マザー・ベル(中里 少尉)了解いたしました。
 秋山 少佐に、その場で待機するよう要請します。」


俺が待機を命令してから20分後、俺は背筋に悪寒を感じることになった。


「来た・・・、BETAの地下進行だ。」


「確かに微弱な振動を感知していますが、砲撃による振動の可能性が高いと思われます。」


俺の発言に対して、中里 少尉が慌てて反論してきた。

しかし、俺が感じているのは振動ではなく、BETAの気配なのでどうしても口に出して説明できる類のものではなかった。

俺がどう説明したものかと考えていると、佐々木 中尉から微妙なフォローが入ってきた。


「中里・・・、うちの隊長は変態だと教えただろ?
 以前もBETAの地下進行を言い当てたことがある。
 それに関しては、偵察装備のセンサーよりも正確だ。」


「そんな非科学的な事、信用できません!」


この佐々木 中尉と中里 少尉のやり取りの数秒後、偵察装備のセンサーが僅かな違和感を捉えることになった。


「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 臨時大尉)へ、
 微弱ですので、BETAの地下進行とは断定できませんが、
 砲弾の爆発振動以外の振動を確認しました・・・。」


「分かった。
 中里 少尉・・・、そのデータと共にBETAの地下進行の可能性がある事を、
 国連軍及び帝国軍に報告しろ。」


「・・・了解しました。国連軍及び帝国軍へ情報を転送します。
 ・
 ・
 ・
 情報を転送しましたが、どちらも回答を保留しています。」


素直に反応してくれるとは思っていなかったが、完全に無視されたようだった。

確定的な情報で無いと動かないというこの対応を、もどかしく思いつつも冷静に対処している事に関しては安心できると感じるのだった。


「そういえば、帝国軍には予備兵力として、斯衛軍の部隊が参加していたな。
 一応、地下進行の可能性がある事を伝えておいてくれ。
 動いてくれるとは思わんが、実際に現れた時に少しでも早く対応してもらえれば儲けものだ。」


国連軍と帝国軍へ振動情報を送ってから数分が経過したが、震源はゆっくりと地表に近づいており、
BETAの地下進行である確立は時間と共に高まってきていた。

そして、第03独立戦術機甲試験大隊とも連絡を取り合っていたロンド・ベル隊は、既に万全の態勢を整えBETAを待ち構えていたのだ。


「もう一度聞く、最新のデータを送った後の国連軍及び帝国軍の回答はどうなった?」


「相変わらず、保留しています。」


「やむなしか・・・。
 全回線(オープンチャンネル)を最大出力にして、全軍に通達する。」


振動データから算出したBETAの地下進行の確率は、良くて五分五分と言ったところだったが、俺はここで大きな賭けに出ることにした。


「それは越権行為です。」


「命令を出す訳ではない、ただの警告だ。
 これこそ、ロンド・ベルの名にふさわしい行いだと思うが?」


俺はそう言って、中里少尉に対して意地悪い笑みを浮かべた後、呼びかけを止めようとする部下の声を無視して、
全回線(オープンチャンネル)での呼びかけを開始した。


「全軍に通達する、私は帝国軍 第13独立戦術機甲試験中隊の御剣 臨時大尉だ、
 現在我が部隊は国連軍司令部より北へ10000の地点で展開中、
 そこでBETAの地中進行の振動を感知。
 繰り返す、国連軍司令部より北へ10000の地点でBETAの地中進行の振動を感知。」


「誰かこの通信を止めろ」


どこからか俺の呼びかけに対し、悲鳴にも似た怒声が聞こえてきた。

しかし、俺はその声を無視して、警告を続けていった。


「震源の上昇を確認、3・2・1・・・0。
 30秒後、我らロンド・ベルは帝国軍 第03試験大隊と協力しBETAとの戦闘に入る・・・。
 以上、通信終わり。」


俺が通信を終えた直後、各国軍でも振動がBETAの地下進行であることに気が付いた様で、急に通信が活発になった。

そして、慌しく部隊が展開していく事になったが、地下から出現するBETAに対応するには、残された時間はあまりにも短かったのだ。


「ロンド・ベル隊の皆、休憩はこれで終わりだ。
 ここで全軍の体勢が整うまで、第03試験大隊と協力して遅滞戦闘を行う。
 見渡す限り、敵だらけになるだろうが・・・、やることは普段と変わらない。
 俺が後退を指示するまで、好きに動け。」


そして、俺の予告した時間通り、光の柱が地面を突き破り聳え立った。

その数は数十本に達し、光線属種のレーザーにより空いた穴からは、無数のBETAが出現することになった。

観測されたBETAは師団規模以上、つまり10000体以上のBETAに対して、僅か46機の戦術機部隊が戦いを挑むことになったのだ。




BETAの出現直後から開始された、第03独立戦術機甲試験大隊の撃震・改修型 支援装備のOTT62口径76㎜単装砲によるAL(アンチレーザー)弾の砲撃は、
光線属種級に迎撃されたことで局所的ではあったが、重金属雲を形成する事に成功していた。

重金属雲の形成を確認した後、複数の撃震・改修型がOTT62口径76㎜単装砲による超低空の遠距離射撃を、光線属種がいる区画に叩き込んでいった。

撃震・改修型から放たれた砲弾は、途中で要撃級などに当たる弾もあったが、半数以上の弾が光線属種のいる区画に到達し、見事光線属種を撃破していく。

この撃震・改修型による光線属種の撃破方法は、対人戦のスナイパー対策を思い浮かべさせる戦い方だった。

そして、撃震・改修型の砲撃と入れ替わる形で、ロンド・ベル隊の不知火は空中へ跳び上がり、後衛がAL弾へ対応している光線属種に対して、
Mk-57中隊支援砲による狙撃を行い、前衛と中衛が着地する地点にいるBETAを殲滅していった。

しかし、この戦い方も要塞級が光線属種の盾になる行動を取り出すと、上手く機能しなくなった。

そこで、第03独立戦術機甲試験大隊は、撃震・改修型の砲撃を光線属種が迎撃しやすい高度に設定し、再びAL弾の砲撃を開始した。

撃震・改修型の支援砲撃の間に、要塞級へ接近する事に成功したロンド・ベル隊は、要塞級を無視して要塞級の足元にいる光線級に対し、
全力射撃を行っていった。

この部隊連携により、はじめ100体以上確認されていた光線属種は、最初の重金属雲の発生から僅か5分ほどの間に、
十数体へとその数を減らすことになった。

だが、殆どトリガーを引きっぱなしで戦っていたロンド・ベル隊の不知火は、保有する残弾が20%を切るという事態に陥ってしまっていた。

そこで、弾薬を補給するために一旦、後ろに下がる事にしたのだった。




第03独立戦術機甲試験大隊は、ロンド・ベル隊が後方に下がることで本格的な移動を開始したBETA群に対して、
正面から扇型の陣で受け止めることになった。

この状況に対応するため秋山 少佐は、事前に92式多目的追加装甲とスコップ代わりにして塹壕を掘り、92式多目的追加装甲を前面に並べることで、
撃震・改修型が外に露出する部分を頭部と砲のみとなる状況を作り出していた。

そして、ロンド・ベル隊は第03独立戦術機甲試験大隊が作り上げた防御陣を噴射跳躍で飛び越え、
防御陣の中に置かれていたコンテナから弾薬の補給を開始した。

それに対し、BETA群は防御陣のことなどお構いなしに距離を詰めて来る。

しかし、距離1000からガトリング砲による砲撃が始まると、2個連隊の戦車部隊に匹敵するといわれる火力が、
狭い防御陣に集まる事でもたらされた高い面制圧力により、BETAは防御陣の手前で足止めされる事になった。

ガトリング砲から、毎分3,900発という圧倒的速度で発射される36mm機関砲弾は、ある程度減衰されるものの、
例え突撃級の正面装甲でも防ぎきることは不可能だったのだ。

更に、本来のBETA群なら装甲の厚い突撃級を先頭に迫ってくる筈だが、今回は地下からの出現したために、
多くの要撃級を含む乱れた隊列で接近してきた事も幸いし、BETA群に大きな出血を強いる事ができた。

撃震・改修型が予備弾倉を使い切るまでガトリング砲を撃ち、ロンド・ベル隊が補給を終えた頃には、
防御陣の前にはBETAによる肉の壁が出来上がっていた。

残弾が無くなった第03独立戦術機甲試験大隊は、一気に3kmほど下がった第二防御陣で弾薬の補給を行うため、後退を開始した。

そして、ロンド・ベル隊は第03独立戦術機甲試験大隊が補給を終え、支援砲撃が開始されるまでの間、時間を稼ぐための遅滞戦闘を行うことになった。

戦闘を開始から今までの20分ほどの間に、小型種を含めて4000体近くのBETAを撃破していたが、BETA群は一向にその数を減らす気配が無かった。

遅滞戦闘を行っていたロンド・ベル隊だったが、絶え間なく現れるBETA群によって、次第に戦域を後退させることになる。

補給を終えた撃震・改修型からも支援砲撃が行われているが、焼け石に水の状態だったのだ。


「このままじゃジリ貧だ、援軍は来ないのか?」


「国連軍は、既に他の地域で戦闘を開始しており、援軍を抽出するのに手間取っています。
 帝国軍も現在位置から離れているため、早期の援軍は難しいと思われます。」


国連軍からの遠距離支援砲撃も行われているが、砲撃は散発的なもので本格的な支援とは程遠いものだった。

その結果、ロンドベル隊はBETA群の外周部を削っていくだけになり、第03独立戦術機甲試験大隊が立てこもる第二防御陣も
BETAの進行方向からずれていたため、BETA群を拘束することが難しくなっていった。

そして、BETA群の半数がこちらを無視して、国連軍部隊へ向かい出したその時、待ちに待った一報が入る事になった。


「驚異的な速度で、接近する戦術機部隊があります。
 これは・・・、斯衛軍の第16大隊です。
 隊長、友軍が駆けつけてくれました。」


俺が向けた視線の先では、様々な色をした36機のTSF-TYPE92-1B/不知火・壱型丙が青色の機体を先頭にして、BETA群に襲い掛かろうとしていたのだ。


「どうやら間に合ったようだな。
 私は、斯衛軍少佐の斑鳩だ。
 これより、第16斯衛大隊は貴官らを支援する。」


「どうしたのだ、御剣 大尉。
 もう疲れたのか?」


「ここは、我々に任せて休んでいても良いのだぞ。」


斑鳩 少佐の頼もしい声に続いて、第16斯衛大隊に所属している真耶マヤ真那マナが俺に対して軽口を叩いてきた。


「鳴り始めた鐘は、戦いが終わるまで止まることは無い。
 そっちこそ、俺たちの戦いについてこれるかな?」


俺は、それに対して照れ隠しに気障な台詞で反すことにしたのだった。


「・・・三人とも積もる話があるのだろうが、この戦いが終わってから存分に話すがよい。
 これより、我らは鶴翼複五陣ウイング・ダブル・ファイブでBETA群を押し留める。」


「は! ホーンド2より、第16斯衛大隊各機に告ぐ。
 鶴翼複五陣ウイング・ダブル・ファイブで戦闘を開始せよ。」


「うむ・・・、では参るぞ。皆の者続けぃ!!」


これを合図として、本格的な戦闘を開始した第16斯衛大隊を見た俺は、再度自分の部隊に気合を入れる事にした。


「ベル1より、ロンド・ベル各機に告ぐ。
 斯衛軍に遠慮することは無い、俺たちで全て平らげてやるぞ。」


師団規模のBETA群を30分にも亘り、不知火一個中隊・鞍馬一個大隊で拘束することに成功した俺たちは、斯衛軍大隊と協力して更に30分間、
BETA群の半数を釘付けすることに成功したのだった。








結局この戦いは光州作戦最大の激戦となり、地下進行により出現したBETA群が拘束されている間に、態勢を整えた帝国軍及び国連軍によって、
BETA群が殲滅されたため、国連軍司令部が戦闘に巻き込まれる事態は避けられた。

この戦闘により、予定より被害を受けることにはなったが、民間人及び軍人の退却に必要な時間を稼ぐことに成功したのだ。

光州作戦は、戦艦による砲撃が行われる中、最後に残った戦術機部隊が跳躍噴射によって戦術機揚陸艦に乗り込んだ時点で終了となった。

帝国本土に帰還したロンド・ベル隊と第03独立戦術機甲試験大隊は、光州作戦での功績もあったが戦意高揚のプロパガンダとして、
大きく取り上げられ世界各国にその名を轟かすことになる。

そして、ロンド・ベル隊の部隊長を務めていた俺は、勲章を授与されることになり、帝都城で行われる式典に参加することになった。

しかし、光州作戦の余波はその程度で収まる筈もなかった。

国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍が、勝手に動いたことが光州作戦で被害を受けることになったと、国連が主張し始めたのだ。

そしてこの問題は、

『もし厳罰が下されないのなら、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求することも有る。』

という声明を、国連が発表する所まで発展していくのだった。


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コメント

皆様、いつもご感想ありがとうございます。
また、先週は更新を休んでしまい、申し訳ありませんでした。

今回は、戦闘シーンのほかにも様々な戦術や戦術機に対する考察を交えた話となりました。
特に戦術機が騎兵に近いと思ったのは、私のにわか軍事知識と稚拙な考えの所為なのかもしれません。
この事について、どう思ったか簡単でいいので感想板に書いていただけたら幸いに思います。

また、光州作戦の経緯に関しては、ただBETAが迫ってくる状況で、軍を動かす理由が考え付かなかったため、
今回の様に軍を動かした後に、不意打ちでBETAが出現したという事にしました。
この方が、彩峰中将が無能ではなく、誰も予想できなかったBETAの動きにより受けた被害の責任を取らされた事になり、
彩峰中将を尊敬する将校が多く残っていた理由になると思いました。

しかし、思いっきり活躍させたはずのロンド・ベル隊ですが、原作ヴァルキリーズの佐渡島での半分以下の
活躍しかしていない事にびっくり・・・。
改めて、原作キャラたちの凄さを痛感し、チートのレベルが足りないかもしれないと心配になってきてしまいました。


返信

ゾイドにでてくるコマンドウルフさんを採用するのはどうか、というご意見がありました。
ゾイドはあまり知らないのですが、ガンダムSEEDにでてくるバクゥに似たものだと考えていいのでしょうか?

コマンドウルフさんの機体設定は、撃震・改修型の所為で需要が低下すると考えているため、
主力兵器として登場させる予定はありません。
ただし、現在アメリカ軍が研究している、犬型のロボット(気になった方は個人的にお調べ下さい。)的な
使い方なら出す可能性があると考えています。
どうなるかは流動的なため、あまり期待しないでお待ち下さい。

また、撃震・改修型の変形や戦車・自走砲の改良、センサー類の散布など様々なご提案が寄せられています。
これら全ての提案を『御剣財閥脅威のメカニズム』で解決するわけには行きませんので、説得力のある設定が思いつき次第、
使えそうな場面があれば登場させたいと考えています。
登場する確率は、今のところ五分五分ですが、登場するその時までまったりとお待ち下さい。



[16427] 第17話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/03 18:23


光州作戦で彩峰 中将が犯した罪、それは国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍を、国連軍の承認を得ずに動かしたことにある。

その結果、帝国軍が空けた地区にBETA群が現れた時、対応が遅れ国連軍が余計な被害を被ったと国連軍は主張したのだ。

確かに、地下進行してきたBETA群の一部が国連軍の陣地まで到達し、被害をもたらした事は事実であり、帝国軍がその場に待機していれば、
完全に防ぐことができた可能性は否定できない。

しかし、帝国軍が移動を開始した後、国連軍は自らの戦力を他の戦域に振り向けていたのだ。

このことからも、この段階でBETAの地下進行を予測している者はおらず、国連軍がこの地域の重要性を軽視していたことが伺えるのである。

また、BETA群の一部を拘束できなかったとはいえ、BETAの地下進行に始めに気が付いたのが帝国軍所属の部隊であり、
最初に援軍に駆けつけたのが帝国軍の予備兵力として作戦に参加していた、斯衛軍であることは消し去ることが出来ない事実である。

この時の国連軍は、司令部を後退させる事で混乱した為か、他の戦域から予備兵力を抽出する事に手間取り、
まとまった戦力をこの戦域に送ることが出来たのが、より遠くに展開していた帝国軍より、後になるという失態を犯している。

ここで注目すべきは、大東亜連合軍と協同で民間人の避難を援護しつつも、予備兵力を抽出する事に成功し、
斯衛軍に次いで援軍の送ることが出来た帝国軍の動きの早さだ。

この事からも、彩峰 中将もしくはその周辺の幕僚が無能ではなかったと証明しているのである。

したがって、本来帝国軍が被る筈の被害を国連軍が被っただけで、帝国軍がどちらの選択を選んだとしても、
光州作戦に参加した部隊全体の被害は変わらないというのが、光州作戦に関係していない国の軍関係者が持つ認識であった。

これらの事を考えると、情状酌量の余地があると思われていたが、国連軍から通達された内容は、

『もし厳罰が下されないのなら、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求することも有る。』

というものだった。

この通達は、この戦闘で被害を受けた米国が国内の非難をそらす為に行った、パフォーマンスに過ぎないという意見もあったが、
無視出来るほど簡単なものでも無かった。

また、光州作戦に参加していた帝国軍の部隊や大東亜連合軍から助命を嘆願する動きも出始めていた事も、事態を複雑にしていく事になる。

日本帝国政府は、表向きにはうやむやな対応を取りつつも、裏では政治家が活発に動き出したことで、
一部の関係者は大きな危惧を持つ事になるのだった。








1998年 3月

光州作戦後、国内に帰還した帝国軍の部隊は、多くの歓声を受けると共に悲しみの声で迎えられる事になった。

対BETA戦が始まってか数十回目になる、合同での葬儀を終えた帝国軍は、戦力を回復することに注力していくことになる。

それに対し俺たちロンド・ベル隊は、光州作戦での活躍を国民から賞賛される事になったが、国際的には全回線(オープンチャンネル)での警告が問題にされ、
部隊長であり実際に警告を行った俺が、処罰を受けることになった。

この時俺が最も恐れていたのは、ロンド・ベル隊と引き離されるということだったが、実際に下された処罰は臨時大尉の階級を剥奪し、
中尉へ降格するという内容だった。

臨時大尉という階級は戦地での臨時職のため、戦地から本土に戻れば取り消される可能性が高かった階級なので、
心配していたほど厳しい処罰ではなかったのだ。

また、勲章を授与すると言う話も取り消される事がなかったことからも、この処罰が形だけのものだと言うことが伝わってきた。

そして、俺は勲章を受け取るために横浜に向かう隊員とは別れ、副隊長の武田 中尉を連れて帝都(京都)に向かうことになった。

この時の俺は、帝都(京都)に行くことをそれほど深く考えていなかったが、勲章を受け取るために帝都(京都)に向かうという事は、
大変珍しいことだった。

なぜなら大戦が行われている最中は、数多くの将兵に勲章が授与されることになるため、通常は基地司令などを通して渡されることが多いのだ。

俺は、実際に授与式に参加する段階になって、驚かされることになる。

なぜなら、政威大将軍自ら勲章が渡される事になっていると説明されたからだ。

しかも、勲章の授与式はテレビ中継が入り、国の要人が列席するほど大規模なものになると言うのだ。

もちろん、今回勲章を受け取る事になったのは俺だけではなく、数人の人物が招待されていた。

しかし、いずれも佐官以上の階級を持つ者で、尉官で招待されたのは俺だけだったのだ。

俺は、こんな面倒な事を企画した人物を軽く恨みながらも、政威大将軍から直接勲章を授与されることになった意味を考えさせられる事になる。

真っ先に思い浮かんだのは、政府がプロパガンダに使いたいという思惑を働かせているのではないかという事で、
次に疑ったのが御剣家の機嫌を取りたい政治家が、裏から手を回したのではという事だった。

御剣家の長男という武家出身の青年が、最前線で戦って活躍したというストーリーは、美化させやすい話になると思えたし、
献金の事や帝国議会で強い発言力を持ち出した祖父の事を考えると、どちらにせよ有り得ない話ではなかったのだ。

しかし、この考えは勲章を授与される場面になって、杞憂であった事が分かっていくのだった。





「帝国軍 技術廠 第13独立機甲試験中隊 中隊長 御剣 信綱 中尉、
 右の者が武勲抜群の成果を示したことを認め、ここに功四級金鵄勲章を授与するものとする。」


「はっ、ありがたき幸せにございます。」


俺は緊張に包まれながらも、事前に確認した動きに合わせて勲章を受け取る事に成功した。

ほっと一息つこうとした俺だったが、勲章を受け取った直後将軍から声をかけられることになった。


「最前線で戦っていたそなたの活躍は、私の耳にも届いています。
 その功績に報いるために、私に何かできることは無いだろうか?」


俺は、驚きのあまり一瞬思考が停止してしまっていた。

今代の政威大将軍である斉御司 (さいおんじ)家当主は、国民から慕われるおっとりとした性格の翁であるが、その性格と高齢というのもあり、
戦時下の将軍としてはいささか頼りないと言う意見も出ている人物である。

悪く言えば、政治家や役人の言いなりになっている様にも見える将軍から、労いの言葉としてこの様な内容の言葉を
かけてもらえるとは思ってもいなかったのだ。

しかし、この将軍について後で聞いた所、公家の血が濃い斉御司家の出身にも関らず、若い時には斯衛軍に所属し
戦闘に参加していたという経歴を持つ等、一部の関係者には強い意志を持った人物として知られていたのだ。


「・・・殿下から、そのようなお言葉をかけて頂けただけで、ありがたき事と思います。
 しかし、もし許されるのなら、一つだけお願いしたい事がございます。」


俺は直ぐに意識を切り替え、自らの意思を伝えることにした。

この俺の行動に対し、近くにいた政治家が一瞬不快そうな顔をしたが、城内省長官の視線を見た彼は直ぐに笑みを浮かべることになった。

その様子を横目で確認していた俺の動きを感じ取った将軍は、再び俺に声をかけたのだった。


「よい、ここにそなたを呼んだのも、
 こうして話をするのも、私がそうしたいと言ったからだ。」


「・・・それでは、お言葉に甘えさせていただきます。
 私が望むことは、光州作戦に参加されていた彩峰 中将の件についてです。

 彩峰 中将は、光州作戦において国連に無断で帝国軍を動かすという罪を犯し、
 国連より厳罰に処すよう要請が来た事を受けて、現在謹慎されております。
 無断で軍を動かす事は厳罰に値する事ではありますが、
 帝国軍の働きにより多くの民間人を救うことが出来た事も事実です。

 しかし、この件は軍の命令と民間人を守るという軍の使命を秤にかける事になった重大な事件にも関わらず、
 国民の間ではあまり話題にされておらず、国内に残っていた軍関係者は揃って口を閉ざしています。
 これらの動きを見ていると、私はこの件を闇に葬り去ろうという意思が働いているのではないかと、
 邪推してしまうのです。

 私は彩峰 中将の処罰を軽くする事を望んでいる訳では有りません。
 ただ、公正な処罰を行いそれが正確に国民へ伝わる事を切に願っているのです。」


「・・・私は、政府には国民に真実を伝える義務があると思っています。
 私が言えることは、これだけです。
 これで、そなたの思いに応えることが出来たかはわかりませんが・・・。」


「ありがとうございます、殿下。
 そのお言葉が聴けただけで、私は嬉しく思います。」


先の大戦以後、政治に直接関ることが出来なくなった将軍だったが、未だに国民に与える影響は計り知れないものがあった。

その将軍が、テレビ中継される公の場で間接的ではあるが、政府に対し光州作戦の真実を偽ることが無いようにとコメントしたのだ。

これにより、今後政府が光州作戦の事を偽るようなことがあれば、光州作戦に参加していた軍関係者から不満が出ることは確実で、
国民からも何らかのアクションが起こることが予想できる状況が作られる事になった。

将軍のコメント一つで、政府は事実をうやむやにするという選択を取る事が難しくなったのだ。

その結果として彩峰 中将の処罰は、公開での軍事裁判により決定されるという運びになって行く。

この対応は、国連への配慮だと政府高官からは説明されていたが、将軍の発言がこの対応をさせたと国民は認識する事になる。

そして、クーデターが発生する事を未然に防ぐために、彩峰 中将が原作のように闇に葬られるという処分のされ方を避けたかった俺は、
公開軍事裁判の決定により裏工作を行う必要が無くなった事を受け、漸く胸をなでおろす事が出来たのだった。









将軍と俺との会話の後、勲章の授与式は恙無く進行し、舞台は晩餐会へと移って行くことになった。

晩餐会へ参加させられることになった俺は、久しぶりの天然食材による料理に舌鼓を打ちつつも、多くの名士と話をする事になる。

俺が話をする事になった名士の割合は、経済界7割,政界2割,軍人1割というもので、参加している関係者の事を考えると異常な割合だった。

俺はこの晩餐会で、改めて御剣家のネームバリューの凄さを感じることになったのだ。

最近の御剣財閥は、俺が関る比率が下がったことで以前のような飛躍的な成長はしていないものの、安定した成長を続ける事で、
最早新興企業ではないという事を内外に示していた。

更に、国外にも大きく展開しだした御剣財閥は、グループ全体の売り上げが日系財閥の中でも3番目の地位を手に入れるまでになっていたのだ。

しかし、ゆっくりと食事を楽しみたかった俺としては、大勢の人に話しかけられるこの状況はあまり楽しいものではなかった。

そこで俺は、この囲いから脱出するために、会場で発見した知り合いをダシにする事にした。


「すみません。人を待たしているので、
 今日のところはここで失礼します。」

真耶マヤさん、真那マナさん、御久しぶりですね。」
 

俺はそう言って、晩餐会に参加していた真耶マヤ真那マナに声をかけたのだ。

晩餐会に参加していたと言っても、二人の服装は通常斯衛軍で使われているコートの様な形の制服姿である。

また、僅かに感じた違和感から気が付いた、御剣重工が開発した小型強化外骨格WD(War dress)を着用しているという事実から、
二人が会場を警備するために参加していた事は、容易に想像ができていたが、そこはあえて無視する事にしたのだった。

声をかけられた二人は驚きの表情を見せた後、無言で俺の腕を引っ張り、文字通り俺を会場の隅へ運んで行く事になった。


「信綱、殿下に対してあのような事を要求するとは・・・」


「普通なら、一度辞退するのものだと言うのに・・・。
 真那マナ、そういった事を信綱に期待した私たちが間違っていたようだ。」


「もし辞退して、そのまま終わりになったらどうするんだ?
 俺は貰える物は、貰っておく主義だ。
 それに、悪い内容ではなかっただろ?」


そう言って俺は、肩をすくめワザと気楽に返答を返した。

俺の態度に、二人は呆れたような表情を見せる事になる。


「しかし、久しぶりに会ったにしては色気の無い会話だな。
 もっと艶っぽい会話が楽しみたいところだ・・・。」


「私たちには会場の警備という仕事がある、お前と遊んでいる訳にも行かない。」


「だったら、話し掛けるのは迷惑だったかな?」


「いいや・・・、私たちはただの飾りだ。
 会場内の警備は有力武家の子女が良いだろうと言われ、あてられた配置だ。
 最も、その話を持ってきた斑鳩 少佐は会場の外からモニターで監視をしているようだが・・・。」


真耶マヤ、私達は飾りではない。
 これも重要な任務だ。」


自分たちに対する真耶マヤの評価に憤りを見せる真那マナだったが、俺にはそれが正しい評価であるように思えた。

なぜなら、二人とも無現鬼道流の使い手であり、軍事教練も受けてはいるが、今のところ衛士としての任務が優先されているため、
会場警備などのシークレットサービスとしての腕は、専門の部隊と比べると劣っていることは否定できない事実であるからだ。


「御剣、光州作戦の時も思ったのじゃが、この斯衛の二人とは知り合いなのか?」


三人での会話を会場の隅で楽しんでいた俺たちに、人ごみで逸れていた武田さんが合流し声をかけてきた。


「知り合いというか、幼馴染の月詠 真耶マヤ 少尉と月詠 真那マナ 少尉だよ。
 斯衛軍訓練校の同期でもある。」


「ふーん、そうじゃったのか・・・。」


「御剣 中尉、この者は何者だ?」


「確か、お前の部下だったと思うが・・・。」


「ロンド・ベル隊 副隊長の武田 香具夜 中尉だ。」


互いを俺が紹介した後、三人の視線が絡み合うことになる。

そして、次の瞬間互いに何かを感じ取ったのだろう、その場にいる者に火花の様なものが飛び散る錯覚を感じさせる視線を、ぶつけ合う事になる。

俺たちがいた会場の隅は、急速に険悪な空気が流れだしたのだ。

俺は、穏便にこの場が収まる事を信じてもいない神に祈らざる終えなかった。


「信綱、斯衛は会場の警備で忙しいようじゃ。
 ワシと一緒に向こうへ行くとしよう。」


しかし、俺の願いは完全に裏切られる事になる。

なんと、普段は名字で俺を呼ぶ武田さんが、俺を名前で呼び腕に抱きついて来たのだ。


 やばい、肘になにやら柔らかい感触がーーー。


「武田さん!? どうして急に名前で呼ぶんですか?」


「信綱・・・、これからは、ワシの事を香具夜と呼べ。
 前から名字で呼び合うのは、他人行儀過ぎると思っておったのじゃ。」


その武田さんの発言に、真耶マヤ真那マナは激しく反応し、俺の両肩をつかんで問い詰めてくる。


「信綱、どういうことだ。
 まさか部下に手を出しているのか!?」


「しかも、年下とは・・・。」


真耶マヤ真那マナにつかまれた俺の肩は、WDによってアシストされた二人の力により、悲鳴を上げていた。

武田さんの発言に対して、真那マナは怒りの表情を見せ、真耶マヤは怪しくメガネを光らせていた。


「ぶ 無礼者、ワシは信綱よりも年上じゃ!」


その一方で、武田さん方も真耶マヤの年下発言に怒り心頭のようであった。

俺は、艶っぽい会話がしたいと言ったが修羅場を求めていたわけではないと、人が大勢いる会場で真耶マヤ真那マナに声をかけた事を
後悔することになった。

そうしている間にも、互いに向かい合った三人の会話は、次第にヒートアップして行き、会話の内容がどんどんきわどい部分へと突入していった。


「いくら立派な体をしておろうとも、傍にいなくては無用の長物じゃ。
 信綱はよく枕元で『情熱を持て余す。』と嘆いておったわ。」


「「信綱~、大陸で何をしていたのよ。」」


初めて同じベッドで睡眠を取ってから、なかなか睡眠を取らない事が有った俺を心配した武田さんが、
無理やり寝かしつけた後そのまま同じベッドで寝るという事が度々あった。

確かにその場面で、寝ていると思っていた武田さんに対して、そう呟いたこともあった。

普段の俺は、武田さんに対して姉の様だと感じる部分があったのだが、一度だけの呟きを何度も言っているように表現すると同時に、
枕元で会話をする怪しい関係である事を匂わすという意地の悪さに、彼女が真実女で有る事を実感したのだ。


「え~と、前線での禁欲生活で情熱を持て余していた事は事実でありますが、当方といたしましては、
 なんら直接的な行動をしていないことから、情状酌量の余地が残されているものと思います。」


俺は心の中で、悲鳴を上げつつも必死に言い訳をする事になった。

三人を説得する事に必死だった俺は、周りが俺たち以外のことで騒いでいることに気が付いていなかった。


「申し訳ありませんが、信綱様をお借りします。」


そして、三人が落ち着きを取り戻しかけた時、その言葉と共にいきなり第3者に腕を捕まれた俺は、会場の中央まで連れ去られることになった。

三人が俺を呼んだような気がしたが、俺は自分の腕を掴んでいる人物を見た瞬間に意識を奪われてしまったため、
それを確認する事が出来なくなっていた。


「えっと・・・、もしかして、悠陽か?」


その人物とは、晩餐会のために美しく着飾った煌武院 悠陽だったのだ。


「はい、御久しぶりです信綱 様。
 ・・・信綱 様、どうされたのですか?」


「いや・・・、悠陽がこの会場に居た事に驚いている。」


「会場に参った時に、大きな拍手をいただけたのですが・・・、
 信綱 様には気付いていただけなかったようです。」


そう言って、悠陽は少し落ち込んだような表情を見せた。

この時の悠陽は、普段の和装とは異なる白いドレス姿をしており、まだ可愛いという比率が高かったが、
十分女性としての魅力を感じるレベルになっていたのだ。

その成長した姿と一瞬見せた表情に、俺は再び意識を奪われることになった。

どうしたんだ俺は、まだ悠陽は14歳・・・今年の冬にやっと15になるんだぞ!?

しかも以前は、妹のように感じていた悠陽に対して、反応してしまう自分に気が付いた事も、大いに混乱する原因となっていた。


「信綱 様、私と踊っていただけませんか?」


俺が混乱している間に、悠陽に連れられた俺はダンスホールの中央まで移動してきていた。

修羅場から逃れる事ができたと思ったら、ダンスをする破目になるとは・・・。

俺の社交用スキルは、簡単な食事のマナーと茶会での振る舞いぐらいで、本格的なダンスを習得しておらず、
基本ステップを見た事があるという程度のものだったのだ。


「殿方とのダンスを断るためにも、協力してください。」


ダンスを踊ることに躊躇していた俺に、悠陽は小さい声でそう囁いた。

その言葉を聞き、初めて会場のいたるところから俺たち二人に注がれる視線の意味を理解することになった俺は、
悠陽を助けるために必要な事と考え、ダンスを踊る決意する事になる。

普通、ダンスを習った経験が無い者が早々踊れるものではないが、俺には悠陽に恥をかかせる事が無いようにダンスを行う秘策が有ったのだ。

その秘策とは、無現鬼道流で培った業と先天的な技能を融合させる事だった。

曲の演奏開始と同時に心眼を発動させた俺は、心眼で悠陽と周りの動きを把握し、先天的な直感と積み重ねた武術の経験による先読みを使う事で、
限定的ではあったがコンマ数秒先の未来を感じ取っていった。

後は、悠陽とその場の流れに身を任せる事で、外側から見ればダンスを踊っているように偽装する事に成功したのだ。

この時の俺は、今までの人生で一番精神を研ぎ澄ませており、まるで明鏡止水の境地に至っていると錯覚するほど、真剣にダンスを踊っていた。

内心ではふらふらになりながらも、3曲分のダンスを踊りきった俺は、曲の変わり目を利用してこの場から脱出する事を決意した。

悠陽を連れて移動を開始した俺に対して、多くの声がかけられる事になったが、愛想笑いを浮かべて素通りし、何とかバルコニーに出る事ができた。

しかし、バルコニーにも俺の安息の地は無かったのだ。


「信綱さん、悠陽さんとのダンスはお見事でしたが・・・、その事よりも聞きたい事があります。
 会場の隅で真耶マヤさんたちと話していた時に居た女性は、信綱さんの新しい花嫁候補なのでしょうか?」


何と、御剣商事社長として晩餐会に出席していた俺の母が、バルコニーで待ち受けていたのだ。


真那マナさんたちも、ここに来るよう声をかけてあります。
 あなたの大陸での素行・・・、包み隠さず話して貰いますよ。」


「信綱様、その話私も詳しく伺いたいのですが・・・。」


ここでの会話は、晩餐会終了まで終わることが無かった。

その結果として、帝都(京都)城ではしばらくの間、バルコニーから聞こえる男のうめき声が、怪談として語られるようになってしまったのだ。









勲章を受け取り、晩餐会を何とか乗り切った俺は、強制的に休暇を取らされる事になった。

俺はこの休暇を利用して、御剣重工帝都支社で御剣財閥関係の仕事をする事にした。

御剣重工帝都支社に出社した時、社内は先日たらされたニュースの話題で持ちきりになっていた。

そのニュースとは、光州作戦で活躍した撃震・改修型を日本帝国軍が正式に採用する事が決定し、
先行して生産し保管されていた一個連隊規模の撃震・改修型を、帝国軍陸軍が購入するというものだった。

撃震・改修型の正式名称は、F-4J-E/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』となり、全国に配備が急がれる事になって行く。

鞍馬生産の拠点は、元マクダエル・ドグラム社社員を中心に、オーストラリアに置かれていた。

また、国内では撃震を改修することで鞍馬の生産を行っており、改修の為に必要な撃震の数が確保されれば、直ぐにでも改修作業に入れる体制になっている。

そして、退役していく撃震を帝国軍から買取り、機体の整備を行った後で機体其の物や補修用パーツとして輸出する会社を、
富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社共同出資で設立するという計画も実行に移されようとしていた。

この会社で買取られた撃震の一部が、国内での鞍馬への改修にまわされる事になっていたのだ。

中古撃震の海外への輸出事業は、複雑に絡み会う戦術機の利権を調整するためにこの様な形となったが、今後協同開発した戦術機を輸出する場合にも、
この会社を窓口として使う事を考えると、今後も事業規模が大きくなりそうだった。

鞍馬の状況を把握した後は、BETAの日本侵攻に備えて俺が一番力を入れていた戦術機について、
帝国軍と斯衛軍を併せた日本帝国が保有する戦力を確認する事にした。

本来なら容易に入手できるデータでは無かったが、戦術機の生産台数や補修部品の受注状況を見るとおおよその数字が出てくるのだ。

撃震導入の1977年半ばから現在の1998年頭までの約21年間で、帝国が生産及び輸入した戦術機の総数は27000機に達しているが、
現在保有する戦術機の総数は、導入した総数の18%である約5000機となっている。

つまり、21年間で約22000機の戦術機が失われ、ほぼ同数に近い衛士の命が失われている事になる。

これにより、戦術機に搭乗することが出来る衛士の才能を持つ者が少ない事もあり、衛士の数は次第に不足するという事態を招いていた。

そして、御剣重工が調べた帝国軍と斯衛軍を併せた日本帝国が保有する戦術機戦力の割合は、

不知火 全体の6%(1997年に108機を国連軍に提供)
吹雪  全体の22%
撃震  全体の57%
其の他 全体の15%(陽炎,吹雪・高等訓練仕様,瑞鶴,不知火・壱型乙,鞍馬 108機納品予定,海神 等)

となっている。

これを見ると、第3世代機の比率が三割近くに達している事が分かる。

第2・3世代機合計の比率こそ米国軍に負けているものの、日本帝国は保有する第3世代機の割合と総数で世界のトップに立っていたのだ。

また、御剣重工が独自開発を行わず、吹雪・鞍馬が制式採用されていなかった場合の試算では、

不知火 全体の12%(1997年に108機を国連軍に提供)
撃震  全体の76%
其の他 全体の12%(陽炎,吹雪・高等訓練仕様,瑞鶴,不知火・壱型乙,海神 等)

となり、第3世代機の比率が現在の半分に達しないという試算が出ていた。

この試算を見た俺は、歴史に介入した成果が出て来た事を改めて実感したのだ。

更に、1996年から導入され始めたEXAMシステムver.2と1995年導入のver.1は、大きく分けると以下の四つのルートで配備が行われていた。

ver.2
1.今年採用された新型管制ユニットである『98式管制ユニット』搭載型の不知火・吹雪の生産。
2.既に生産された不知火・吹雪を、不知火・壱型乙や富士教導隊で採用されていたCPUに換装。

ver.1
1.不知火・吹雪用のCPUを搭載した第1・2世代機を生産。
2.CPU換装の際に不知火・吹雪から外された物や生産した第3世代機用CPUを第1・2世代機に搭載。

これによって、現時点のデータで次のような広がりを見せていた。

新型管制ユニット + EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%及び、不知火の5%
CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%,不知火の80%,吹雪の60%,陽炎の30%及び、瑞鶴
第3世代機用CPU +  EXAMシステムver.1  不知火の15%,吹雪の40%,吹雪・練習機,陽炎の70%,海神の30%,鞍馬及び、撃震の30%

ver.2とver.1の二つを併せると、日本帝国が保有する戦術機の半数がEXAMシステムを搭載している計算となる。

また、EXAMシステムに対応するための衛士訓練も各地で活発に行われていた。

EXAMシステムver.1については、テキストと併せてデモ演習の画像と操作履歴が公表されているため、それを参考に各部隊で訓練が行われていたが、
より高度な訓練を必要とするEXAMシステムver.2については、富士教導隊が中心となって各部隊への教導を行う必要があった。

ver.2の普及は、教導する部隊の人数が限られる事からあまり進まないと考えられていたが、富士教導隊から教導を受けた部隊が、
更に他の部隊への指導を行いだすと、ver.2の運用思想は帝国内で急速に広がり始める事になったのだ。

戦力を戦術機のみで測る事はできないが、これにより戦力が増強された事は間違いなかった。

ただし、吹雪及びEXAMシステム導入に対するマイナス面も存在していた。

一番問題にされたのが、予算の関係で帝国軍の主力戦術機である撃震のハード面からの改良が、一部凍結されてしまっているという事だった。

これにより、性能の大幅な向上が見込めなくなった事で、一時的に衛士たちの不満が高まる事になったが、
EXAMシステムが導入された撃震が普及していくにつれて、当初の改良計画を上回る性能を発揮しだした撃震の話が広まり、
次第に衛士たちの不満は次第に解消されつつあった。

したがって、撃震の戦力が向上しないという問題は、EXAMシステムが普及すれば解決できる問題であるというのが、調査チームの見解だったのだ。

このEXAMシステムに対して、国連軍から配備を要請された事があったが、実際に配備されたのは国連軍太平洋方面第11軍に所属する特殊部隊に、
CPU換装管制ユニット+EXAMシステムver.2を搭載した機体が配備されただけで、それ以上普及させる予定は無かった。

更に、国連軍に配備された管制ユニットは、CPUと記憶媒体周辺をブラックボックス化しており、
制御データ等の情報が外部へ流出することを防ぐ処理も行われていた。

概念さえ知っていれば、ある程度の技術レベルの国であればEXAMシステムをまねる事は可能だったが、今まで積み上げてきた機体制御データと
戦術機に搭載可能な高性能CPUの量産技術の両方を入手しないと、実用化までこぎつけるには5年以上かかると考えられていたのだ。

5年あれば更に上のOSとCPUを開発する事も可能であり、戦術機制御技術における日本帝国と御剣電気の優位は、
早々揺らぐものでは無いと判断されていた。

最もCPUに関しては、不知火部隊の指揮権限を持つ香月博士からもたらされた基礎理論を基に作られた物なので、隠し通せるかは疑問であったが・・・。








その後も様々な資料をチェックし、資料に対する意見書を書く事になった俺は、その日も夜遅くまで部屋に篭る事になる。

現在の日本帝国は、半島から押し寄せた難民への対応と、1996年に北九州を始めとする九州全域に発令された第2種退避勧告が、
第4種に引き上げられた事を受けて、人の大移動が起こっており今後も大きな混乱が続く事が予想されていたのだ。


「香具夜さん、御茶をくれな・い・・・か。」


いつもの調子で御茶を貰おうとしたのだが、声をかけようとした相手が一足先に横浜へ向かった事を、俺はすっかり忘れてしまっていた。

彼女が傍にいる事を当たり前のように思っていた事を実感し、どうしたものかと考えさせられる事になる。


「それにしても・・・、前線に居た時の方が自由な時間が多かったのかも知れないな。」


うず高く積まれた報告書の山を見て、俺はそう呟くのだった。



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コメント

皆様、いつもご意見やご感想を書き込んでくれて、ありがとうございます。

自らの文章作成能力を過大評価していた事と、設定で悩むところがあったため、
予定を大幅に過ぎての更新になってしまいました。
申し訳ございません。

今回、主人公に勲章を与えるという馬鹿なことを考えた私は、勲章について調べるのに四苦八苦してしまいました。

主人公が受け取った金鵄勲章(きんしくんしょう)は、第二次大戦後廃止された軍人向けの勲章で、マブラヴ世界では
軍が残っている事から廃止されていないことにしました。
また、叙勲対象は
“将官の初叙は功三級から、佐官は功四級から、尉官は功五級から、准士官及び下士官の初叙は功六級,兵は功七級からとされていた。”
とされ、
“特に武勲抜群のものに対しては、それより1級上位の勲章が授与された。”
ということなので、主人公に授与されたのが功四級金鵄勲章となりました。
私が調べた限りでは、これが妥当であると考えていますが、間違っていると思われる方がいれば、指摘して頂けると
幸いです。

それと、現在帝国軍が保有する戦術機の割合(不知火・吹雪92年採用の本作品)
不知火 6%
吹雪  21%
撃震  59%
其の他 14%
について、裏で無駄に計算をしていますが、不知火94年採用(原作)を、
不知火 7%(300機程度)
撃震  81%
其の他 12%
位だろうと仮定した所から決めた数字であるため、私の感覚のよる部分が大きい設定と思われます。
皆様の感覚と大きなずれが無いか、心配しているところです。

毎回、手探りで設定をしている部分も多くあるので、ついつい皆様に質問をしてしまいます。
皆様に質問ばかりしているうえに、投稿が遅れる駄目作者ですが、
これからもこの作品を読んでいただけたら幸いです。


P.S. 
この話を推敲する段階で、自分が大きなミスを犯している事に気が付きました。
それは、2001年(原作開始年)の12月に御剣冥夜が18歳となるには、1983年に生まれる必要がありますが、
この作品では生まれた年が1984年(主人公が6歳の時)となっています。
つまり、原作ヒロインたちの生まれた年を、一年間違っていたのです。
応急措置として、この話から1983年生まれとしましたが、それ以前の話も変更する必要があります。
修正が完了するまで、しばらくお待ち下さい。



返信

主人公はいつから戦術機に乗っているんだと質問がありました。

主人公が初めて戦術機のコックピットに座ったのが、1986年(第四話)となっていて、そのあたりで実機を乗り出したと考えて
書いているので、主人公は92式管制ユニットが採用される前の古い形式の管制ユニットから戦術機に乗っている設定を取っています。

明確に乗り出した時期を書いていませんし、古い形式の管制ユニットがどういったものであるかも書いていませんので、
疑問を持たれたのかも知れません。

今までは詳しく考えてはいませんでしたが、いい案件だと思うので機会があれば考えてみたいと思います。


その他に、新機体の提案がありました。

残念な事に、フルメタとガンダムの方は知っていますが、コードギアスの方は名前だけしか知りません。
ガンタンクR-44 or ザウート モドキなら・・・『90式戦車、大地に立つ!』が出来る気がしますが、
どうなるかは分かりません。

私の頭の中には、四足歩行の戦術機くらいしか新しいアイデアが浮かんでいませんでしたが、原作開始前に
一年以上の開発期間が取れるので、原作の改良で無い機体を登場させる事を考えてもいいのかもしれません。
ただ、登場させるとしても他作品から直輸入するのではなく、オリジナル設定を加えたいとは考えています。



[16427] 第18話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/03 18:24


御剣重工帝都支社の一室で引篭もりを始めてから三日目、俺は相変わらず資料と報告書の山に埋もれていた。

そこに、俺が御剣重工帝都支社の一室に引篭もっているという情報を得た、帝国陸軍の巌谷 少佐が訪ねてきた。


「久しぶりだね、信綱君・・・、いや御剣 中尉と言った方がいいかな?」


久しぶりに会った巌谷さんは、初めて会った時と変わらない調子で声をかけて来た。

巌谷さんと俺は、不知火と吹雪のトライアルが行われていた会場で初めて出会ってから、年に2・3回ほど手紙のやり取りをする程度だったが、
連絡を取り合う関係を続けていた。

ただ、ここ2・3年は互いに大陸へ渡っていたため、互いに連絡をする暇は無かったのだが・・・。

久しぶりに再開した巌谷さんは、顔に以前には無かった傷が付き、その表情も記憶よりも厳しさが増しているように感じられた。

そして、巌谷さんからは僅かに疲労感が漂っていた。

この表情と雰囲気は、大陸で長く戦っていた者が持つ独特のもので、国内に帰還してから数日の間で拭い去る事ができるものではなかった。

この事からも、大陸での戦いがいかに厳しいものであったのかが窺い知れるのだ。


「ここに来た理由が、個人的な事なら階級はいらないと思いますが?」


ため息をついた俺は、三日間で溜まった疲労を隠すことなく、あまり軍関係の長話はしたくないという思いを込めて返事を返した。


「そういえば君は、休暇中だったな。
 では、信綱君・・・。
 個人的に、戦術機の話がしたいのだがどうだろう?」


「今度会う時は、戦術機以外の話が出来たらいいと、
 言っていたのは巌谷さんでしょう?
 まぁ、あなたと戦術機の話をするのは嫌いではありませんが・・・。」


「そんなに褒めても、何も出ないぞ。
 ただし、君の話が面白ければ私がどこかで話す機会があるかも知れないがね。」


「・・・そうですね、以前はそれで良い事がありましたので、
 今回もそれに乗る事にしましょう。」


俺の希望とは真逆の答えが返ってきたが、戦術機の話をするのは嫌いでは無いし、不知火と吹雪のトライアル会場での事を考えると、
真剣に対応した方が良いと判断した俺は、休憩もかねて巌谷さんと雑談という名の話し合いをする事にしたのだった。








二人分のお茶を用意し、ソファーに向かい合って座った俺たちは、早速雑談を始めることにした。


「そういえば、戦術機の話と言っても取り扱っている案件が多すぎて、
 何から話していいのか分かりませんよ。」


「その案件を全て聞きたいところだが・・・、あまり時間が取れ無いのでね。
 不知火の改修計画についての件はどうだね?」


「その件なら、かなり開発が進んでいますので、
 技術廠経由で聞いた方がいいと思うのですが・・・。
 そっちのコネは巌谷さんの方があるでしょう?」


「私が大陸に行っている間に、あまり喜ばしく無い方向に計画が進んでしまったようなのでね。
 計画の修正を行うには、一人では難しそうなのだよ。」


「いかに伝説のテストパイロットであり、大陸で成果を上げた巌谷さんとは言え、
 走り出した計画を変えるのは難しいですか・・・。」


そんな事を言われても、俺から出来る働きかけは微々たる物で、もし企業側を説得できたとしても、企業側から軍を説得するのにも限度があった。

その事を指摘すると、巌谷さんはロンド・ベル隊がその機体の実戦証明をする事になっているという話を持ち出してきた。

自分たち実戦経験者とテストパイロットの両方から、似たような意見が出れば計画が軌道修正される事も有り得ると言うのが、
巌谷さんの考えだったのだ。

まだごく一部の者しか知らない、機密事項を知っている事に驚かされたが、その機密事項を知っている自分の事を考えると、
あまり文句を言う事が出来ない話だった。

俺は、どう対応するかは確約できないと前置きをしながらも、問題点を洗い出すために現状の改修計画を確認する事にした。

不知火の改修計画とは、不知火を全面改修する事により次期量産機を開発するという計画である。

この計画には、不知火の開発に携わっていた富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社が引き続き参加していた。

そして、この計画で開発された通称『不知火・弐型』と呼ばれている機体は、政府の要求により開発期間が制限されたため、
機能や拡張性が制限された不知火の問題を解決するために作られた機体でもあった。

つまり、この機体こそが本来企業側が開発したかった不知火の真の姿とも言えるのだ。

現在の不知火は、EXAMシステムの導入という想定外の出来事があったとはいえ、正式配備から僅か5年で再設計を行う必要が出るほど、
拡張性が確保されていなかった。

そのため不知火の改修計画では、実に不知火の60%を再設計する程の見直しが行われ、
今後10年以上現役で使う事が可能なように拡張性が確保される事になった。

またそれと同時に、不知火開発から積み重ねた六年間の技術と各国の戦術機のデータを元に改良が加えられ、不知火は正常進化する事になっていた。

似たような事例で、米国においてF-15CイーグルをF-15Eストライクイーグルに改修したというものがあるが、基礎構造が優秀なイーグルの改修とは異なり、
開発する余裕が残されていない不知火の改修は、メインフレームの検討から行われる事になった。

メインフレームから検討するという改修案に、一から新型機を開発したほうが良いのではないかと企業側が提案したが、不知火・吹雪の実戦での
運用が良好だった事を受け、今後不知火・吹雪量産の事を考えるとある程度の互換性を確保しておきたいという軍の要望に応えることになったのだ。

企業側同様に難色を示していた開発関係者だったが、開発中に起こったある出来事によって、軍の要望を聞いていた事に安堵する事になった。

その出来事とは、日本の戦術機に関る者全てが驚く事になった『EXAMショック』と呼ばれる事件である。

ver.1が配備された当初こそ、便利になったと考える程度で気にしていなかった開発チームだったが、
後に不知火・壱型乙として配備さた機体の実験機である不知火・斯衛軍仕様試験型で初めて実装され実戦証明を行った、
ver.2の戦果に大きな衝撃を受ける事になったのだ。

以前から行われていた戦術機の開発は、機械的な部分や電子部品の改良が主となっており、戦術機を制御するOSの改良を行うという発想が乏しかった。

そこに登場したEXAMシステムは、戦術機の動作後の硬直を取り除き、動作を中断し急激な機動変更を可能とした改良により、
実質的な機体性能をOSの改良で大幅に上昇させられる事を証明してしまったのだ。

この段階で、既に戦術機の常識の一つが打ち破られた事になる。

また、EXAMシステムは大きな成果を上げると同時に、戦術機側にも大きな傷跡を残していた。

戦闘後のオーバーホール時に、フレームの歪みや関節部の異常磨耗が発見されたのだ。

この歪みや磨耗が、EXAMシステム特有の急激な機動変化に機体側が追従できなかったために発生したものである事が分かると、
戦術機の開発者は更なる衝撃を受ける事になる。

今までは、機体に合わせてOSを調整する事が普通だった所に、今後は遥か先に進んでしまったOSに会わせて、
戦術機を開発する事が求められるようになってしまったのだ。

この出来事で、EXAMシステム搭載を前提とした新型機の開発が検討される事になり、
急遽EXAMシステムを搭載する事を前提に弐型の開発が進められる事になった。

不知火の改修機だった弐型は、EXAMシステム対応のテストベッドとしても使えると考えられたのだ。

もし、不知火の改修ではなく新型機の開発を選択していたら、その時点で新型機は陳腐化し開発が見送られる事になった可能性が高かったと、
弐型の開発関係者は後に語っている。

EXAMシステム搭載が決まった段階で、弐型の開発はかなり進んでいたが修正できる範囲で対応される事になった。

また、EXAMシステムを搭載した現行の戦術機は、機体の軽量化や主機出力の関係でフレーム及び関節に余裕があった撃震・吹雪系統には、
大きな問題が発生しなかったが、不知火についてはそうはいかなかった。

ただし、不知火がエース及び特殊部隊用の機体である為、補修部品を多く確保する事で当面の運用には支障がないとされている。

そして、テスト機として作られた不知火・弐型の現時点での仕様は以下のようになっている。


不知火・弐型

メインフレーム及び関節部の強化:
メインフレーム及び関節部を再設計した事により、今後も機体各部に新たな装備を追加できる余裕が確保された。
また、高められた強度によりEXAMシステムver.2の機動でも、十分に実戦を戦い抜ける耐久力が確保された。

機動力の向上:
主機・跳躍ユニットの出力を上げると同時に、空気抵抗を低減するために装甲形状が変更された。
これにより、最高速度・巡航速度共に上昇する事になった。

運動性の向上:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、腰部装甲ブロックへ小型の推力偏向スラスターが搭載され、
肩部にはJ-10 殲撃10型を意識した複数の噴出口を持つ大型の推力偏向スラスターを搭載する事になった。
また、肩部の大型の推力偏向スラスターは下方や後方の噴出口から推力を取り出す事で、跳躍ユニットの補助としての役割を果たし、
機動力の向上や跳躍ユニットが1機破損しても跳躍が可能となる等、運動性の向上以外にも様々な部分に影響を与えている。
更に、頭部や肩部に空力機特性を改善するためにカナードが追加され、ナイフシースも大型化する事になった。

近接格闘能力の向上:
不知火・壱型乙で採用された、ナイフシースの外装カバーと脛部分のスーパーカーボン製ブレード以外にも、
膝・足の甲・踵部の外装にブレード機能が施された。

可動兵装担架システムの増設:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、今まで小型可動兵装担架システムと併せて2+1個だった可動兵装担架システムを、4+1個に増設する事になった。
肩部に増設された2つの可動兵装担架システムは、87式突撃砲程度の重量を搭載するのが限界であったが、突撃砲を多く装備できるだけでも
大きなメリットが有った。

電子装備(アビオニクス)の強化:
頭部に搭載された、新型アクティブレーダーやデータ通信装備の増設により、目標の捕捉能力と部隊内の連携能力が向上した。

98式管制ユニットの標準装備:
EXAMシステムver.2を標準装備する98式管制ユニットを採用する事で、機体性能の向上を図ると同時に衛士の安全性を確保した。
また98式管制ユニットには、ボタン一つの操作で搭乗制限を30秒間限定解除し、機体性能を10%押し上げる通称『フラッシュモード』が搭載されている。
フラッシュモードは主に緊急時の対応に使う事を想定されており、再使用に3分間のインターバルが必要という制限が付く。

汎用性と稼働率の向上:
機体各部をモジュール化を進めたことで、補給・整備が迅速に行えるようになったため、大幅な汎用性と稼働率の上昇が見込まれている。

オプションパーツの装備:
機体各部のモジュール化により、各種オプションパーツを取り付けることが可能になった。
オプションパーツの案には、ナイフシースと交換で小型ガトリング砲を搭載するまともな案や、肩部に装備するスパイクやドリルで格闘能力を
向上させるという趣味に走った案、全てのオプションパーツをつなぎ合わせてフルアーマーにするといった狂気とも思える案まで、
多くの提案がされているがどれを採用するかは未定である。

稼働時間の確保:
フレーム強化と拡張性の確保、バッテリー、燃料タンクの増設により、機体がやや大型化(太くなっている)している。
ただし、それ以上に主機及びスラスター出力が向上しているため、機動力・運動性は向上している。
また、新型の電磁伸縮炭素帯の採用によって、出力効率が上昇した事で消費電力は低減されており、バッテリーの増設は最小限に抑えられた。
これにより、連続稼働時間は通常の不知火と同等が確保される事になった。

生産・導入コスト:
不知火系統と呼ばれる不知火,不知火・壱型乙,吹雪と共通するパーツが40%、新パーツが残り60%となっている。
弐型の制式採用後も、撃震が完全に退役するまで不知火・吹雪とも生産が続けられる計画のため、
不知火系統の機体と共有できるパーツが確保された事は、大幅なコストダウンにつながっている。
更に、機体のモジュール化を進めた事で、モジュールごとに生産を行い最後に組み立てる事で、製造時間とコストが圧縮される事になった。
また、全高が不知火と同じである事も整備用の器具が不知火と共有でき、導入コストを低減する事に一役買っている。


不知火・弐型は、機体性能が不知火・壱型乙高機動仕様と同等で、初期生産では不知火・壱型乙と同程度の価格になると予想され、
量産が開始されれば不知火の二割増し程度のコストまで圧縮できるとされている。

そして、本土防衛戦が近づく現段階で最も重視されている不知火系統三種類の強化は、
この機体で使われているモジュールの一部を搭載する事で行われる予定となっている。

今後の予定は、最近完成した試作型の2号機を数日中にロンド・ベル隊に引き渡し、そこで実戦証明を行い制式採用が検討される事になっていた。


「不知火の2割増しのコストで、不知火・壱型乙高起動仕様と同等・・・、
 課題だった拡張性も確保されているので、大きな問題は無いように見えますが?」


「本当にそう思っているのか?」


「いえ・・・、不満が無いと言えば嘘になります。
 ですが、いつも私から話しをするのではつまらないでしょう。
 今回は、巌谷さんから話をするというのはどうです?」


「ふん・・・、仕方ない今回は私から話す事にしよう。

 私が不満に思っているのは、連続稼働時間の事だ。
 大陸での経験から言うと、不知火の現状維持では短すぎる。
 最低でも、不知火の三割増しの連続稼働時間を確保したいところだ。」


「確かに戦場で、稼働時間がもっと長ければと思ったことは多々あります。」


「開発段階から機体性能や武装の追加に目が行き過ぎて、
 連続稼働時間という重要なものが、軽視されているように思えるのだ。
 不知火・吹雪ら第3世代機の導入と、新OSの登場によって生き残る衛士が増えた事で衛士全体の質が上がっている今、
 前線の衛士が求めているのは、戦場でもっと長く戦える機体だと私は考えている。」


「その考えには賛成ですが、今のバランスを崩さずに連続稼働時間の向上を狙うのは難しいかもしれません。
 機体側に余裕があるといっても、燃料タンクやバッテリーを増設すると重量がかなり増加しますからね。」


巌谷さんの考えは納得できる物だったが、画期的な技術革新がなされない限り、これ以上連続稼働時間を伸ばすには、
燃料タンクやバッテリーの増設が不可欠だった。

そして、燃料タンクやバッテリーは重点的に防御する必要があるため、予想以上に重量が増加する部分であり、
増設するほど連続稼働時間増加率が減少するという厄介な問題も抱えていたのだ。

その事を考えると、大陸帰りの衛士から見ると不満がある機体だが、今の仕様が一番バランス取れているとも言えるものだったのだ。


「機体内部に搭載するのが難しいのなら、オプションパーツとして、
 新型のドロップタンクか使い捨ての跳躍ユニットでも作りますかね?」


「ほう、それはどういった形になるんだね?」


俺が出した連続稼働時間延長のための対策は、戦場に駆けつけるまでの間に消費する推進剤や電力を外部のパーツから供給する事で、
戦場に着いた時には本体に残る推進剤や電力が満タンの状態にするという案だった。

ドロップタンクは、航空機では使い古されたアイデアだったが、戦術機においては武装を圧迫する事もあり、あまり普及しているとはいえない装備だ。

俺がその場で書いて巌谷さんに見せた落書きでは、戦術機の武装を減らす事が無いように戦術機がランドセルを前側に装着しているような、
少し間抜けとも思える状態でドロップタンクを搭載する戦術機が書かれていた。

このランドセルには、独自の推進ユニットが装備されており、機動力を確保する目的のほかに着地時のバランスを取る事も考慮していた。

専門家に見せないとなんとも言えないと言いながらも、巌谷さんは俺の提案に興味を示している様子だった。

その後、30分ほど連続稼働時間延長に関する話し合いをした俺たちは、互いに弐型の連続稼働時間延長を訴えていくという結論を出したところで、
戦術機に対する話を終える事にしたのだった。








巌谷さんが帰った後も、俺の作業は終わる事がなかった。


「これは、光菱重工からか・・・。」


光菱重工から提案あったとされる計画の報告書には、撃震の近代化計画についての報告が書かれていた。

撃震の近代化とは、最近配備され始めたEXAMシステムver.1搭載型の撃震と、撃震の改修機である瑞鶴のEXAMシステムver.2搭載型が、
想定以上の性能を示した事により、撃震を第三世代機に準じた装備にし、EXAMシステムver.2を搭載するという光菱重工の計画であった。

OBLと電子装備(アビオニクス)が刷新されEXAMシステムver.2を搭載した撃震は、2.5世代機クラスの性能を発揮すると試算されていたのだが、
これらの改修によって製造コストが上昇した撃震は、現行の主力生産機である第3世代機の吹雪と比較すると、
開発するほどのメリットがあるのかと疑問視されていた。

更に、撃震の生産は補修部品の生産がメインになっているため、空いた工場をそのまま利用できるという話だったが、
それほど多くの戦術機を生産する予算も無い上に、衛士の供給が間に合わないというのが現状だったのだ。

光菱重工のこの計画は、こういった理由により帝国軍の支援を受ける事ができず、焦った光菱重工がEXAMシステムを開発した御剣電気と、
撃震の基になったF-4『ファントム』のライセンスを持っている御剣重工(マクダエル・ドグラム社の一部吸収合併)に支援を求めてきたのだ。


「本土防衛で消耗する戦力を早期回復する手段として使えなくは無いが・・・、
 海外への輸出用として開発する方が有意義だろう。」


撃震の基であるファントムは、アビオニクスの近代化と装甲の軽量化、跳躍ユニットの強化によって準第2世代まで引き上げられたE型が、
現在でもアフリカ戦線等で運用されている。

これら第3世代機を導入する余力がない国にとっては、第1世代機を2.5世代機にするこの計画は導入コストも低く抑えられる事から、
受け入れやすい機体であると考えられたのだ。

無論、国内への配備と機密の問題で、今すぐver.2を輸出する事はできないが、ver.1なら改修にかかる時間経過を考慮すれば十分輸出が可能だった。

また、中古撃震の海外への輸出事業の事を考えると、そのまま輸出するよりオーバーホールと同時に改修を行う事ができれば、
付加価値が高まり主力商品になる可能性もあると考えたのだ。


「ver.1で第2世代クラス、ver.2で第2.5世代クラスにして、
 輸出メインなら受け入れても良いと考えます・・・と。」


次に処理する事になったのは、海軍用に吹雪を本格改修を行う計画書だった。

現在、海軍がメインに運用している戦術機は、潜水母艦より発進し揚陸地点の橋頭堡を確保するための海神と、
戦術機揚陸艦から発進し、海神と連携して橋頭堡を確保すための撃震と吹雪である。

そして、海軍用の主力生産機となっていたTSF-TYPE93-BN/吹雪・海軍仕様は、跳躍ユニットを不知火の物に換えて跳躍距離を伸ばし、
電子戦装備を充実させるために指揮官用の頭部ユニットを標準装備とした以外は、陸軍用の吹雪と大きな違いはなかったのだ。

ここで海軍が吹雪の本格改修を求めている理由は、戦術機揚陸艦がなるべく陸地に近づく必要が無くなるように、
更に跳躍距離を伸ばしたいというのがメインの理由だった。

その改修計画では、吹雪の更なる軽量化と跳躍ユニットの強化が求められていたのだが、それに見合ったコストの増加を求める企業側と、
大陸で戦っていた陸軍に比べて予算が減らされていた海軍との間で、激しい意見のやり取りが続けられていたのだった。

俺はこの終わらない論争に終止符を打つために、海軍に対して御剣重工で開発が進められていた、
弐型用のオプションパーツを提案する事を思いついたのだ。

その計画書には、まるでサーフボードを使って波に乗っているような、不知火の挿絵が描かれていた。

吹雪よりも重量がある不知火・弐型で採用する計画だったので、搭載重量的には十分すぎる余裕があったのだ。


「上陸用のオプションを開発中なので、それを投入する事を検討してください・・・と。」


次は、戦術機により要塞級を撃破する装備の開発要求が、陸軍から出されていたという報告書だった。

要塞級はその大きさと耐久力から、通常戦車や自走砲等の援護砲撃により撃破することが多く、
戦術機で要塞級を撃破出来るのは一部のエースに限られていた。

それを、戦術機が携行する火器で撃破できるようにしたいらしい。

陸軍の提案では、ロケットランチャー(噴進弾発射器)による物だったが、搭載重量と携行弾数の事を考えると必要性が高いとは言えない案件だった。


「要塞級に対応するには、パンツァーファウスト型が良いと思われます。
 ロケットランチャー型はもっと威力を高めて、ハイヴ内で使用する事を考えてはどうでしょうか。
 十分社内で検討し、陸軍へ提案してください・・・と。」


パンツァーファウストとは、パイプ状の発射筒に簡素な照準器と引き金を持ち、その先端に安定翼を折り畳んだ棒を備えた
成形炸薬弾頭が取り付けられており、引き金を引く事で発射筒内にある火薬が爆発し弾頭を目標物まで飛ばす事ができる、
携帯式対戦車用無反動砲用とも言われる歩兵の装備である。

パンツァーファウストがロケットランチャーに勝る点は、携行が容易なことと製造コストが安くなる点である。

その代わり、ロケットランチャーと比べて射程距離が短くなっており、発射筒は基本的に使い捨てになってしまうという問題も抱えている。

これらの事を総合的に判断すると、地上で要塞級を撃破するにはパンツァーファウスト型の方が運用がし易く、ロケットランチャー型は
弾頭をS11等の強力な物にすれば、ハイヴ内で使えるのでは無いかと俺は考えたのだ。

こうした歩兵の装備を戦術機用に再開発するといった事は、御剣重工内で盛んに行われており、既にそれに近い形のものが出来上がっていた。

俺は、それを陸軍の要求に合うように改良すれば良いという意見書を書き、その案件をまとめる事にしたのだった。








その後も、複数の案件について意見書を作成した俺は、三日ぶりにまともな睡眠を取る事にした。

なぜなら、明日は元教官から大陸での話を聞きたいという誘いを受けていたため、疲労感を漂わせている状態で会う訳にはいかなかったのだ。

話し合いをする場所は、EXAMシステムが訓練校でどう扱われているかを俺が見たかったと言う事もあり、斯衛軍訓練校で行われる事になっていた。

俺は、約2年ぶりに斯衛軍訓練校をたずねる事に懐かしい気持ちになりながら、久しぶりの睡眠を楽しむ事にしたのだった。





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コメント

皆様、いつもご感想ありがとうございます。
予定より一日遅れましたが、何とか新話を投稿する事ができました。
最近投稿が遅れ気味になっている事を改めてお詫びしたいと思います。
すみませんでした。
既に隔週投稿のようになってしまっていますが、最低でも毎週何らかのアクションを取る事を目標に
今後も頑張って行きたいと思います。

巌谷さん再登場
巌谷さんに指摘させた連続稼働時間の部分は、原作の弐型に要求された仕様に対して、
私のプロット時に欠けていた部分でした。
そのまま修正しても良かったのですが、ただ戦術機の説明をするのも味気なかったので、
巌谷さんを登場させて指摘させる事になりました。
今のところ、戦術機関係の話しをさせる事以外で活躍の場がありませんが、それ以外でも
活躍させたいと思わせる渋オジキャラです。
しかし、この人が戦うシーンが上手く思いつかない・・・、思いついたら書きたいと思います。

話の最後は、皆様の意見を受けて作成した部分です。
全てを網羅する事は出来ませんでしたが、それなり上手い設定が出来たと自画自賛しております。
そう感じるのが自分だけでない事を祈っていますが・・・。

皆様の意見に刺激を受けて、新しい設定が思いつく事もありますので、これからも気の向くままに
感想板にご意見を書いていただけると幸いです。



返信

皆様から、様々なご意見をいただいておりますが、あまりに多すぎて返信だけで字数を稼いでしまいそうなので、
控えめな返信にさせていただきます。


ガトリングシールドですか・・・、私も大好きです。
しかし、いい設定のアイデアが思い浮かばない・・・。
返信を書いている時に思いついたので、そのうち登場するかもしれません。

不知火・吹雪の増産や避難状況については、今の段階で説明する事は出来ません。
あと2・3話進めば、その部分に達しますのでそれまでお待ち下さい。

TEで登場したレールガンですが・・・、この作品でも欲しいところです。
あれが有るだけで色々戦術が広がりますので・・・。
ただ、香月博士を説得する方法とG元素の取り扱いが難しいので、登場は未定です。
しかし、レールガンを二門搭載した鞍馬を想像すると・・・、巨神兵バリに活躍してくれますかね?

YF-23は、とっても使える設定なので、今後いろいろな場面で登場すると思います。

ガンタンク、私はまだ諦めていません。
モドキでもいいので、いいアイデアさえ降って来れば書くのに・・・。

吹雪の輸出廉価モデルについては、撃震の改修機を輸出する事で対応する事にしました。
なにぶん、ヨーロッパや途上国の事を考えると、吹雪をグレードダウンする
設定での輸出は難しいと考えましたので・・・。

短めの返信でしたが、この程度でご容赦下さい。



[16427] 第19話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/03 18:29


四日ぶりに外に出かける事になった俺は、久しぶりの太陽光に目を細めた。

己の不摂生を軽く後悔しながらも、御剣重工の送迎車に乗せられ、俺は京都にある斯衛軍訓練校を訪れる事になった。

約2年ぶりに訪れた斯衛軍訓練校は、外側から見ると大きく変わっているようには見えなかったが、その中には大きな変化が起こっていた。

度重なる人員の喪失によって補充の人員が急がれていたため、陸軍と歩調を合わす形で去年から訓練校の受験対象の年齢が一年繰り下げられ、
15歳以上とされていたのだ。

また、受験対象年齢の引き下げより先行して、士官課程以外の訓練期間が短縮されるという措置も行なわれていた。

それでも、半年間短縮されたとはいえ一年半の訓練期間を取る斯衛軍訓練校は、最短6ヶ月で訓練終了となる陸軍と比べると、
長いと思えるものだったが・・・。

更に、衛士訓練課程では帝国軍の標準装備となりつつあるEXAMシステムを、シミュレーター訓練の段階から使用する等、
新しい試みも行われているという話も聞いていた。

俺は久しぶりの雰囲気に懐かしい気持ちになりながらも、元教官に案内され訓練校内を視察する事になる。

いくつかの施設を見学した後、最後に衛士課程の訓練兵による実機訓練を見学する事になった。

実機訓練で使われていたのは、瑞鶴と吹雪・高等訓練仕様の2機種で、訓練用瑞鶴にはEXAMシステムver.1が、
吹雪・高等訓練仕様にはver.2が搭載されているとの事だった。

短縮された訓練期間と訓練終了まで残り半年もあるという事で、戦術機の機動が粗い者が多く見受けられたが、
EXAMシステムへの対応は十分なされており、動作の合間で戦術機が硬直するという動きは殆ど見られなかった。


「御剣中尉、今年の訓練兵の動きを見てどの様に思われましたか?」


「動きが粗い者もいますが、約1年という錬成期間を考慮すれば、悪く無いと思います。
 それより、EXAMシステムへの対応が出来ている事に安心しました。
 これは、実戦経験者の話を聞きたがる勉強熱心な教官のお陰ですかね?」


「そう言っていただけると幸いです。
 やはり、始めから新OSで訓練を行っていますので、
 旧OSから転向する衛士と比べると習熟が早いのでしょう。」


「確かに・・・、EXAMしか知らないなら旧OSの癖が出ることがありませんからね。
 後は、残り半年でどこまで実戦への対応を済ませるかが課題でしょう。

 そういえば、この後の予定はどうなっているんですか?」


「午前の予定はこれで終わりです。
 これからPXで昼食を取っていただいた後、午後から大陸での話を伺いたいと思っています。
 
 それでは、私は少し用事がありますので一旦失礼します。
 後からPXで合流しましょう。」


「分かりました。
 PXでの食事を久しぶりに堪能していますので、お忙しいなら急がなくて結構ですよ。」


各施設を視察した後、訓練の感想を元教官に伝えた俺は、昼食を取るためにPXへ向かった。

PXで料理長を務めるおばちゃんに軽く挨拶して食事を受け取った俺は、以前よく使っていた席で食事を取ろうとしたのだが、
其処には既に訓練兵が座っており、なにやら食後の会話を楽しんでいる様に見えた。

俺は訓練兵の話を聞く事も面白いと考え、その訓練兵たちに声をかける事にしたのだった。








「皆、知っているか?
 ロンド・ベルの光線級殺しが、今日訓練校にきているらしいぜ。」


「光線級殺しって、この間殿下から勲章を直接授与された、
 御剣 中尉の事か?」


「そう、その御剣 中尉が訓練校を見て回っているらしいぞ。」


「それが、本当なら握手でもして貰いたいな。」


「何を言っているんだ、貰うならサインだろう。
 その内、必ず価値が上がるって。」


「貴様ら・・・、戦術機の操縦について聞きたい事があるとか、普段している鍛錬の事を聞くとか、
 他にすべき事があるだろうに・・・。」


「隊長は真面目過ぎます。
 衛士ならともかく、普通の訓練兵ならそう言った物を求めても仕方ないと思いますよ。
 でも隊長は、本当に御剣 中尉の握手やサインが欲しくないんですか?」


「雨宮・・・、そんな物を貰って私にどうしろというのだ。」


「そんな物扱いは少し傷つくが、人に会うたびに握手やサインをするのは面倒なので、
 黒髪が綺麗な君の意見に賛成だ。」


「「「はぃ?」」」


訓練兵たちに近づいた時、話の対象が自分の噂話だった事に少し戸惑ったが、俺は当初の予定通り訓練兵に話しかけたのだ。

俺が話に割り込んだ事で戸惑いを見せていた訓練兵の小隊は、俺の階級に気が付いたのだろう、
一斉に立ち上がり小隊長らしき少女の合図で、俺に対して敬礼を行ってきた。


「中尉殿に対して、敬礼。」


訓練兵達の敬礼に応えるために食事のトレーを机に置いた俺は、大陸では殆どやる機会が無かったなと、場違いな事を考えつつ答礼を行った。

そして、訓練兵達の直ぐ隣の席に座り話を再開するように促したのだが、訓練兵たちは緊張しているのかなかなか会話が弾む事は無かった。

俺は、この場の雰囲気を如何にかするために、人間関係の構築に必要な第一歩を踏み出すと同時に、新たな話題を提供する事にしたのだった。


「緊張するのは相手の事が分からないからだと思う。
 取り敢えず気を楽にして、自己紹介から始める事にしよう。

 俺の名は御剣 信綱。
 斯衛軍の訓練兵時代に、一回の実機訓練で瑞鶴をスクラップにしたという伝説を持つ男だ。」


俺の自己紹介を聞いた訓練兵たちは、なにやら心当たりがあったのか驚きの表情を見せた。


「斯衛軍訓練校を卒業後は、帝国軍技術廠所属の独立機甲試験部隊に所属し、二週間ほど前まで大陸での作戦に参加していた。
 大陸での事は・・・、話が長くなるし、噂である程度知っているようなので省略する。

 今日は、大陸での戦いを君達の教官と話し合うために訓練校に来ている。
 そのついでに、訓練兵から面白い話が聞けないかと思い、君達に声をかけた。
 世間話をするつもりで、気楽に話をしてくれると助かるよ。」


俺はそう言って自己紹介を締めくくった後、緊張をほぐす為に微笑を浮かべ訓練兵を見回した。

それを見て安心してくれたのだろうか、訓練兵達から感じる緊張が幾分和らいだように感じた。

やはり過去にとは言え、同じコミュニティーに属していたという事実は、心の壁を越え易くするモノなのかも知れない。


「俺への質問は後で受け付けるとしよう。
 次は、小隊長の君からどうぞ。」


俺は、和らいだ雰囲気が変わらない間に、小隊長らしき長い黒髪が綺麗な少女に自己紹介を行うよう促した。


「はっ、斯衛軍訓練校 衛士課程に所属する篁 唯依 訓練兵であります。
 高名な衛士である、中尉殿と会えて光栄です。」


「・・・・・・どこかで聞いた事がある名前だ。」


俺は少女の堅い挨拶に苦笑した後、篁 唯依という名前が、つい最近聞いた事がある名前だと感じ、首を傾げて考える事になった。


「中尉殿?」


「・・・。」


考え込んでいる俺の様子に、篁さんは戸惑い他の訓練兵はにわかに騒がしくなっていく。


「中尉殿、それはうちの隊長をナンパしているんですか?」


「な 何を言っているんだ貴様は!」


「別にナンパしている訳ではないのだが・・・。」


そうしている間に、小隊のムードメーカーらしき隊員が、場の雰囲気を盛り上げるためか、俺の不信な行動を見てからかいの言葉を発した。

確かに、俺が呟いた台詞はナンパの手段としてよく使われている手なのかも知れない。

その後に、『もしかして、どこかで会った事ない?』とか続けば、より完璧になるだろう。

俺はくだらない思考を行っているうちに、頭の隅に残っていた記憶が急に蘇って来た。

しかし、思い出した事をそのまま伝えても面白く無いと考えた俺は、ナンパだとからかってきた事への反撃も兼ねて、返事を返すことにした。


「そうだ・・・、巌谷少佐に見せられた御見合い写真の娘だ。」


「「「「中尉!?」」」」


一瞬呆けた表情を見せた後急に顔を赤らめた篁さんと、冗談で言った事がそれを超える現実を告げられ驚く他の隊員の姿は、
見ていてとても楽しいものだった。


「そ、そんな・・・。
 おじ様からは、そんな話は一言も・・・。」


「御剣家と篁家を継ぐ二人が婚約!?
 ・・・ありえ無い話じゃない。」


「この情報を新聞に投稿すれば、金一封かも・・・。」


「隊長・・・、宜しければ我々も式に呼んでいただけないでしょうか?」


「まだ、婚約と決まったわけでは無い!」


俺は混乱してうろたえる訓練兵の様子に満足し、篁さんがこれ以上は無理だろうと言うほど顔を赤くした段階で、真実を伝える事にした。


「冗談だ。」


「「「「えっ!?」」」」


「昨日、巌谷 少佐と会って話をしていたのだが、そこでたまたま家族の話しになった時に写真を見せられただけだ。
 その時の写真が、少し前の写真だったので気が付くのが遅れてしまったが・・・。

 それと、巌谷 少佐が見合い相手を探しているという話は、今のところ聞いた事が無いぞ。」


「「「「・・・・・・。」」」」


「あれ?
 ここは笑うところ・・・だ・・・ろ!?」


訓練兵達が押し黙った事に違和感を感じた俺は、道化になることも覚悟で軽口を叩こうとしたのだが、
喋っている途中で直ぐ傍から妙な圧迫感を感じ、慌ててその方向を見る事になった。


「御剣中尉殿・・・、冗談も程々にしていただきたい。」


其処には、微笑を浮かべ怒りのオーラを撒き散らす黒髪の美少女が居た。

そして、その顔に浮かべてた微笑は、俺が先ほど浮かべたものとは違って、相手を威圧するものだったのだ。

他の訓練兵はこの威圧感に負け、何もアクションを取る事ができなかったのだろう。

しかし、上官である俺が訓練兵如きの威圧感に負けるわけには・・・、負けるわけには・・・。


「すみません、つい出来心で・・・。
 今は反省しています。」


結局、篁さんの圧力に屈した俺は、平謝りするしか選択肢が残されていなかったのだ。

訓練兵に頭を下げる情け無い俺の姿に、訓練兵の間に残っていた緊張が一気に解けていく事になった。

そして、他の隊員の自己紹介が終わった後、話の話題は俺の事に関するものになっていった。








「中尉は、大陸での二年間で光線級の撃破数が2桁を超えているという話がありますが、
 本当ですか?」


「正確に数えている訳ではないが、たしか一年目で3桁に突入しているな。」


「凄い・・・。
 では、200回以上の出撃で被撃墜が0というのはどうですか?」


「あぁ、メインアームが何回か吹き飛んだ事はあるが、全て自力で帰還している。」


「で では、あの噂は・・・・・・・・・。」


訓練兵達の数々の質問に対して俺が応えた戦果は、質問をした訓練兵はおろか真面目だと思っていた、篁さんでさえ興奮の色を隠せないほど、
刺激的な内容だった様だ。

これは、実機に乗り始めた訓練兵によくある、エースパイロットへの憧れのためだろうか。

俺は、個人としての戦果に感心を寄せる訓練兵に懸念を覚え、それについて釘を刺しておくことにした。


「言っておくが、これらの戦果は優秀な仲間と性能のいい戦術機に支えられて達成した数字だ。
 俺は、決して自分一人で達成できた事だとは思ってもいない。
 もし称賛したいなら、俺個人ではなく整備兵を含む部隊全体を褒めてくれ。」


「ですが、要塞級の単独撃破数や出撃回数は部隊内でも格段に多いと聞きました。
 中尉が部隊内でも突出しているのは、間違いありませんよ。」


確かに、ソウル陥落後は部隊の疲労を考えて、2交代で任務に当たる必要が有るほど頻繁に出撃する必要に迫られ、
戦術機に乗ることがさほど苦痛にならない俺は、交代なしで任務に従事する事になったため、他の隊員と比べて戦果が多くなっている。

しかし、俺が本当に大切に思っている事は、それらの戦果とは異なっているため、明確にそれを指摘する事にした。


「・・・俺が最も誇っているのは、撃破数といった個人的な戦果ではない。
 僚機の被撃墜数が0、部隊長になってからは隊員の死亡が0である事だ。

 俺が単機で動くのは必要な時の数分間だけ、それも仲間が援護してくれるから可能なんだ。
 それに仲間がいなければ、戦場では補給もままならない・・・。
 俺が言いたい事は分かるか?」


「「「「はい・・・。」」」」


「それに、他の隊員と比べて技量が高い事は認めるが、
 それもそれに見合った訓練を行なう事で、得たものにすぎない。」


「では、中尉がどの様な訓練を行なっているか教えていただけないでしょうか?」


ここにきて、一度も質問する事がなかった篁さんから初めて質問が来た。

その表情からは、真剣を通り越して必死さすら感じられ、一瞬どの様に返事をしようか迷う事になったが、
結局は包み隠さず自分が普段やっている事を伝える事にしたのだった。


「別に特別な訓練をしているという認識は無いが・・・。
 ただ訓練時間が化物だとよく言われる。
 大陸では一日平均4時間、多い時で一日10時間の訓練をほぼ毎日やっていた。」


俺の発言を聞いて、息を呑む音が聞こえた。

この訓練時間は、過酷と言われる陸軍の衛士課程で行なわれる訓練時間を、実戦に関わりながらも毎日行なっていた事に驚いたのだろう。

俺は時間があればこの訓練を、実戦があった日も行なっている事で、化物と言われている訳だが・・・。


「ですが・・・、お体は大丈夫なのですか?
 訓練での戦闘機動は一日2時間、長くても4時間までにするようにと指導されていますが・・・。」


「長時間に渡る訓練は、戦術機酔いをしないほど高い戦術機適正に支えられての事だが、
 小言を言う副隊長のお陰でバイタルデータを使った疲労のチェックはしっかり行なっている。
 それに、休暇中の今は訓練を休んでいるぞ。

 もちろん、同じ訓練を隊員に求めた事は一度も無い。
 訓練による疲労で、実戦中にミスをしましたでは、救いようが無いからな・・・。」


「そうなのですか・・・。」


「君達に俺が言いたかった事は、どんな衛士でも仲間がいなければ戦場では生き残れないという事と、
 訓練を行なう事が強くなる最善の手段だという事だ。

 そして君達が今できる事は、仲間を大切にする事と短時間の訓練でも成果を出せるように、
 その内容・意義をよく理解して訓練を行なう事である。
 ・・・と言えば分かり易いかな?」


「「「「はっ。」」」」


「其処まで畏まらなくてもいいんだけど・・・。

 それに、君達には今までの衛士に無かった良い物が配備されている。
 EXAMシステムと言う新OSの開発理念を知っているかな?」


「「「・・・。」」」


「確か・・・、全ての衛士にエースやベテランと言われる衛士達と同じ動きを可能とするというのが、
 開発理念だと聞いています。」


「篁さんは凄いね。
 其処まで勉強してくれていると開発に関った者として、とても嬉しいよ。」


「いえ、巌谷少佐から伺った事がありましたし、教官も少しだけですがその話に触れた事がありましたので・・・。
 中尉は、新OSの開発までされていたのですか?」


「いや、御剣の人間として少し関係があっただけだよ。」


実際には、プロジェクトの監修を行なう等深く関っていることだったが、あまり詳しく話すと面倒な事になるので誤魔化すことにした。

それに開発したのは、開発担当者で俺が開発したというわけではないので、嘘をついている訳では無い。


「御剣としての俺は、エースパイロットと言われる者達がいなくなる事が、
 兵器開発における究極の目標だと思っている。
 その手段の一つが、新OSであるEXAMシステムなんだ。
 これにより、エースやベテランにしか出来なかった一部の技術と同じ事が、新人の衛士でも可能になった。
 そして、今後の開発で新人衛士も操縦技術だけは、以前のエースと同レベルにまで高める事が出来るだろう。」


「確かに、旧OSと比べると格段に扱いやすくなったと聞きますが・・・。
 それでも、エースやベテランと言われる衛士に追いつけているとは思えません。」


「そうだな。
 現在でも、君達とエースやベテランと言われる衛士との間には、大きな差がある。
 そして、俺は新OSの投入で、旧OSが使われていた時のエースやベテランに対して、追いつけると表現した。
 
 この二つの事が、何を意味しているか分かるか?」


「エースやベテラン衛士は、新OSを取り入れ、更なる高みを目指している。
 と言う事ではないでしょうか。」


「正解だ。
 事実、新OS導入の初期こそ衛士間の技量差は縮まったが、最近はエース達が新しい戦闘方法を
 確立し始めたという話も聞くようになった。」


「本当ですか?
 それなら、何時までたっても追いつけそうにありませんよ。」


一人の隊員が、俺の言葉に対して弱音とも取れる発言をした。

それに対して、部隊長である篁さんはご立腹の様子だった。


「何を言っているんだ貴様は、それを乗り越える事に意味があるのだろう?」


「そんなに怒らなくても大丈夫だよ。
 しばらくすれば、エース達が考えた新しい戦闘方法も陳腐化する技術が導入される。
 そうなれば、立ち位置はエースも新人衛士も同じになる。
 其処からは個々の衛士しだいだ・・・。

 もしかしたら、若い君達が次代のエースになるかもしれないぞ。」


俺はそう言って、挑戦的な笑みを浮かべ訓練兵達を見渡した。


「この中から、俺の好敵手が現れる事を願っている。」


訓練兵達は、俺の発言に対して一様に感心し、決意を新たにしたような表情を見せていた。

俺は、その表情を見て彼等が道を誤ることは無いと感じたため、話題を切り替えることにしたのだった。








「俺個人の話はここまでにして、EXA「御剣中尉!」」


俺の言葉に被さる様に、背後から俺に対して声がかけられた。

俺がその声に反応して振り向くと、PXで合流する予定だった元教官が背後に立っていた。


「訓練兵時代に独断専行をする事があった貴方が、其処まで成長していた事を元教官として嬉しく思います。」


「そ そうですか・・・、ありがとうございます。」


俺は戸惑いながらも、教官に返事を返した。

確かに、俺の中で衛士に対する考え方は、訓練兵時代と変わっている。

特に隊長になってからは、個人的な強さよりも部隊全体での強さを求めるようになった事が一番の影響だろう。


「つきましては、他の衛士課程の訓練兵にも是非、先ほどのお話をしていただけないでしょうか?」


「えっ・・・、午後からは軍曹たちと話し合いをする予定だったのでは?」


「その話し合いを訓練兵も交えて行なう事を提案しているのです。
 話し合いのために資料も用意されているのでしょう?」


「確かに映像資料もそろっているし、話をする事は可能ですけど・・・。
 訓練を中止する事になりますし、現役衛士が勝手に訓練に関る事が可能なんですか?」


「個人的な戦果を強調する衛士ならともかく、
 中尉のような衛士の話なら、訓練を中止してでも聞く価値があります。
 それに、今から校長に掛け合って許可を取りますので問題はありません。」


「しかし、心の準備が・・・。」


まさか、衛士課程の訓練兵全員の前で話をする事を提案されるとは夢にも思っていなかった。

会社の関係で、少人数との会話や会議には慣れているが、多くの人の前で話をする経験はそれほど多く持っているわけではなかった。


「篁 訓練兵!」


「はっ。」


「1300より、衛士課程に所属する訓練兵全てを集め、特別講演を行なう。
 貴様は小隊を率いて中尉殿を大講堂に案内し、講演に必要な準備を整えろ。」


「はっ!」


「また、貴様には特別任務として、講演開始まで中尉殿が逃げ出さぬようにする任を与える。」


「教官殿、発言を許可していただけないでしょうか?」


「許す。」


「ありがとうございます。
 教官殿や私達訓練兵には、中尉殿を拘束する権限がありません。
 どのようにしたらよろしいのでしょうか?」


「ふむ、いい質問だ。
 確かに権限は無いので、こちらからはお願いをする事しかできない。
 だが中尉殿とて人間であり、男だ。
 可愛い後輩の願いを無碍に出来るはずは無い。
 万が一、任務に失敗した場合は、貴様等に辛い罰を与える事になる。
 よく考えて行動しろ。」


「了解いたしました、教官殿。」


そう言って、元教官は足早にPXから立ち去っていった。

教官が言い残した『よく考えて行動しろ。』は、訓練兵に対してというより俺に向けた言葉だったように感じた。


「御剣 中尉、私達について来ていただけませんか?」


俺は、篁さんの困りきった表情でされたお願いに抗う気力が湧かず、おとなしく講演の準備をする事にしたのだった。










俺が行う講演は簡単な自己紹介を行なった後、大陸での戦闘映像を映し出す事で始まっていった。

その映像では、広報で採用された見栄えの良い華々しい活躍では無く、大量のBETAに押されて後退を続ける戦術機部隊が映し出されていた。

この映像は、主にソウル陥落後の絶望的な撤退戦のもので、訓練兵用に音声がカットされているとはいえ、
訓練兵に衝撃を与えるには十分な迫力を持っていた。

この時初めて、大陸での戦闘がシミュレーターで行なわれる訓練以上に理不尽なものである事を、訓練兵達は認識する事になったのだ。

そして、映像は光州作戦での戦闘に移っていく。

この時の映像は、よく広報に使われる戦闘であったが、俺の用意した物は広報の物と比べると違和感があるものだった。

その違和感の正体は、俺が活躍する部分よりもロンド・ベル隊の部隊連携や鞍馬の運用とその戦果に大きな焦点が当てられていたために起きるものだった。

俺はこの部分で、BETAとの戦争で重視すべき事が、組織された部隊がいかに連携して戦闘を行なうかであり、
過度に個人的な技量を重視すべきではない事を伝えたかったのだ。

ショッキングな映像が終わった後、大規模戦闘の映像を始めてみる訓練兵はもちろんの事、一部の教官でさえ言葉を失っていた。

それを見た俺は、15分の休憩を入れることにした。

そして、休憩の後は主に教官から出される質問に俺が応える形で話が進んでいく。

その内容は、戦術機の戦術論・部隊運営・大陸での戦術機の整備状況・訓練方法等、多岐に渡っていた。

その対話方式の講演に、講堂の中は次第に熱気に包まれていった。

それもそうだろう、この講堂には衛士課程の訓練兵以外にも噂を聞いて駆けつけた、他の課程に所属する訓練兵や教官も来ており、
立ち見も出ている状況だったのだ。

また、PXでした時よりも熱の入った話に、一度その話を聞いているはずの篁さんの小隊でさえ、目を輝かせて聞いていた。

そして話題は、衛士の命題の一つである『死の八分』についてのものに移っていく。

そこで俺は、朝鮮半島撤退作戦に参加した斯衛軍部隊が、半数以上の対BETA戦初参加の者を抱えていたにもかかわらず、
新人の8割が死の八分を超えるという快挙を成し遂げたという話をする事になった。

そして、これを手本にする事ができれば、多くの衛士が死の八分を越える事が可能になると提言をしたのだ。

しかし、この事は全ての部隊が斯衛軍部隊と同じ事をするのは、不可能である事を伝える事と同義でもあった。

斯衛軍部隊に所属していた新人の多くが、死の八分を越えられた理由は以下の3点にある。

1.部隊が精鋭で知られる斯衛軍の中でも最精鋭と言われる部隊であった。
2.BETA戦経験者が部隊の要所に配置されていた。
3.運用する戦術機が、現時点で国内最強の不知火・壱型乙であった。

陸軍では、新人の衛士のみで構成された部隊すら存在する中で、これらの条件をクリアする部隊は早々あるものではなかった。

したがって、この事が現状では不可能であると考えられていたのだ。

しかし、今後衛士の帰還率が上昇し、ベテランを数多く確保する事ができ、優秀な戦術機が全ての衛士に行き渡る事になれば、
死の八分を越える事が不可能ではないと言う事も同時に示していた。

そして、最後の質問となった訓練兵からの質問は、俺が死の八分を超えた時の事を聞かせてほしいという事だった。

俺は自分が特殊な環境で育ったため、あまり参考になるとは思えないと前置きをした上で、自らの体験を語る事になる。


 「当時の私は、噂に聞く死の八分を超える事は可能であると考えていました。
 もちろん、その自信を身に付けるに足る、長きに渡る鍛錬を積み、高い水準の操縦技術を会得していると自負していました。
 
 そして私が死の八分を超えた時、当時の自分の感覚としてはあっけなく終わったと感じる程度のものでした。
 初陣の私は、頭に血が上りながらも、体は確実に目の前にいるBETAに攻撃を加えていたのです。
 私は、興奮状態でもそれになりに動けており、冷静さを取り戻した後は、訓練の時と変わらない動きが出来ていたと認識していました。

 しかし、帰還後の戦闘履歴を見ると戦闘開始後の数分間は、まったく動けていなかった事に気付かされたのです。
 その間の私は、目の前のBETAを攻撃する事に夢中で、其の他のBETAが目に入っておらず、
 先任の援護により危ないところを助けられていた事にすら、気が付いていなかったのです。
 その事を先任に告げ礼を言うと、『動けなくなる奴や味方を撃つ奴と比べると大分ましだった。』と返されました。

 私は自らの実体験と各種統計から、先ほど話したように死の八分を超える為には、
 新人衛士を援護できる位置にベテランの衛士がいる事の重要性と、
 新人衛士が最低限戦えるための技術と精神力を身につけている必要があると思ったのです。
 そして、其処に優秀な戦術機がそろえば死の八分を超える可能性は飛躍的に高まるでしょう。

 君達訓練兵が今なすべき事は、いかに訓練で身に付けた事を実戦で発揮できる状況を作り出すか、
 と言う事に尽きると思います。
 訓練と同じような動きを実戦で行う方法は、二通りしかありません。
 一つ目は、自らの精神力で恐怖と緊張に勝つ方法。
 二つ目は、脊髄反射で行動するようになるまで、訓練を行うという方法です。
 
 一つ目の方法は、ベテラン衛士でもなかなかできる事ではありません。
 したがって、訓練兵の君達には事実上、二つ目の方法しか残されていないのです。
 
 もちろん、君達が全力で訓練に取り組んでいないと言うつもりはない。
 しかし、『まだやれる。』と少しでも感じたのなら、迷わず立ち向かって欲しい。
 訓練の間だけでも、訓練のみが己と回りにいる仲間を救う手段だと考えて欲しいのだ。

 これから厳しい戦場に立つことになるだろう。
 そこで貴様等が生き残り、次の代を導く存在となる事を願い、俺の話は終わりにする。

 御清聴ありがとうございました。」

俺はそう言って、講演を終えたのだった。








俺は見送りをするという元教官の申し出を断った後、精神的な疲労を感じながら訓練校を後にする事になった。

そして、訓練校の外に待機していた車に向かう途中、グラウンドで複数の訓練兵が教官と格闘の訓練をしている姿が見えた。

その様子からは、おそらく今年入校した人物であることが推測された。

俺がそのグラウンドをと通り過ぎようとした時、どこかで聞いた事がある声が聞こえた。


「こうなったら、あれ行くよ~」


「「おーーッ!!」」


「「「絶技! 噴射気流殺ゥ~~~!!」」」


「「「わ~~~!!」」」


「馬鹿者! わざわざ技の名前を叫んで攻撃するな!!」


「「「うあ~~~っ!」」」


教官に容易に蹴散らされた、三人の訓練兵が知り合いであった事に気付いた俺は、思わずため息交じりの独り言を呟く事になった


「何をやっているんだ、あの三馬鹿は・・・。」




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コメント

皆様、いつもご指摘・ご感想・ご意見を投稿板に書いていただき、ありがとうございます。
先週は、戦術機設定集の作成に予想以上の時間を取られてしまったため、新話の更新ができませんでした。
また、諸所の事情により時間が確保できなかったためにこの話投稿が遅れてしまいました。
申し訳ありません。

そして、今週も忙しい状況が続きますので来週の投稿は絶望的です。
感想板に書き込む程度の時間は確保できるかもしれませんが、返信が遅れてしまうかもしれません。

当初の予定より、投稿が遅れてご迷惑をお掛けしています。
しばらくこのような状況が続く可能性も有りますが、この作品を忘れないでいただけたら幸いです。


この話で初登場した篁唯依さんですが、この作品での設定では速瀬・涼宮姉と同世代で
2001年(オルタ開始時)に20歳、2000年(TE時)19歳という設定になっています。

訂正して、宗像さんと同世代の2001年(TE&オルタ開始時)に19歳、という設定になっています。

そして、3馬鹿は原作主人公達の一つ上、風間さんと同世代の2001年(オルタ開始時)に18~19歳
となっています。
特に3馬鹿の年齢が不詳のため、これでいいのか不安です。

そして、私の持っている資料では篁さんの父が死亡した時期が分からないため、
訓練兵時代の篁さんが鬱状態である可能性も残されています。
早くその部分がTEで描写されて単行本にならないかと期待しています。

主人公の長話・・・上手く思いが伝えられたか心配ですが、今の私にはこれが精一杯です。
もっと腕を上げる必要があると痛感しております。


返信

今回も皆様から、様々なご意見をいただいておりますが、あまりに多すぎて返信だけで字数を稼いでしまいそうなので、
いくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、全てのご意見・ご感想に目を通していますので、
その点はご理解いただけたら幸いです。


大空寺ですか・・・。
初期のプロットでは、オリジナル主人公(御剣とは無関係)がお金を稼ぐ手段として、大空寺財閥に関って行くという設定を考えた事がありました。
アユマユ オルタネイティヴの存在と君望andアユマユ系をやっていない私としては手を出し難い部分です。
公式に設定されていない部分ならいくらでもいじれるのですが・・・。
アユマユ独自の特殊な設定を取り入れると可笑しな事になりそうなので、特殊な設定を除く事で大空寺系統を出す事が出来るかもしれません。
今後の課題として、真剣に検討してみたいと思います。

政治への介入・・・
榊おじさん以外にあまり政治家が居ないのでどう扱うか難しいところです。

戦術機の兵装・・・。
対人戦やエース用を意識すれば、色々な装備が採用できるのですが。
誰でも使えて物量に対抗できるという事を意識すると、あまりいいアイデアが浮かびません。
何とか皆様の意見も参考にしながら考えて行きたいと思います。

戦術機以外の兵器・・・。
考えてはいるのですが、今のところ革新的な開発プランが思い浮かびません。
歩兵装備・強化外骨格・船舶・戦車 等色々やらねばいけないことが山積しております。
御剣財閥は、戦術機系統以外はあまり強くないとかで逃げる事もできますが・・・、何とか知恵を搾り出したいと思います。

F-5の四足歩行化・・・。
小型・軽量のF-5では、重装甲のF-4と比べてフレーム・関節強度の関係から、重装備が難しいかも知れません。
それに欧州には、A-10 サンダーボルトⅡが居ますし・・・。

近・中・遠距離に特化した機体・・・。
コストの事を考えると、どの局面でも装備を変えるだけで対応できる現状の戦術機は、それなりに出来た原作設定だと思います。
敵の数が少ない対人戦なら特化型の機体もいいかもしれません。
ただし、オプションバーツを駆使して簡易改修を行う案は面白かもしれません。

海神近代改修案・・・
原作であまり日の目を見る事の無かったA-6・・・、上手く使えばいい設定が出来るかも知れません。
水陸両用は男のロマンの一つでもありますしね。

ボール,ローラー,チェーンソー・とうもろこしの刈入れ機・・・
混ぜると面白いアイデアが降臨しそうです。

武御雷・・・
このまま進めば原作とは異なる形になるとは思うのですが、詳しい設定はまだ煮詰めていません。
少しアイデアは出来たので、それが採用できないか検討中です。

X-29・・・。
設定的にかなりアンダーグラウンドな開発だったようなので、拾うのは難しそうです。
それに、個人的に好きなSu-37,Su-47の事を考えるとスルーしたい気もします。

陽炎・・・
この作品では、殆ど試験導入だけで大きな広がりを見せていません・・・。
早めに吹雪が量産されてしまったので、扱いに悩んでいます。



皆様が頑張って感想板に書き込んでくれた物の中に、やりたかった事が幾つか書かれていて焦っています。
私がもっと早く、本作を書き進める事が出来ていれば、こんな事にはならなかったのですが・・・。
しかし、皆様の想定以上の事を考えてこそ、真の物書きに成れると思っています。
これからも無い知恵を絞って何とかして行きたいと考えていますので、気侭に感想板への書き込みを
続けていただけると幸いです。

P.S.
拾いきれなかったご意見の中には、やりたかった事に近いため、あえて拾わなかったご意見もあります。



[16427] 第20話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/10 00:41


俺が横浜に移動した部隊と離れ、京都で軍から与えられた休暇を過ごしていた事には、それなりの意味があった。

その意味とは、大陸に渡る前にしたある約束の返事を貰うため、という酷く個人的なものだった。

ただし、仕事を滞る事無く進めているし、この休暇逃すと一年以上会う時間が取れそうにないのだから、情状酌量の余地はあると思っている。

もっとも、部隊の皆には京都にある御剣財閥関連の部署や、斯衛軍訓練校に行くとだけ説明していたが・・・。

今日は、その相手が漸く休暇が取れたというので、昼から都内を観光し夕食を共にする事になっていた。

しかし、俺には昼までに残された6時間の間に、御剣重工帝都支社の一室に積まれた資料の山をどうにかして、
処理するという試練が待ち受けていたのだ。

幸いにも初日と比べて量が1/5になり、優先順位を決める時に内容を軽く見るついでにメモを貼り付けているので、
何とか時間内に終える事が出来そうではあった。


「出来れば早めに終わらせて、
 仮眠を取ってシャワーを浴びたいところだが・・・、厳しいかな?」


「・・・これが話に聞いた、信綱の引篭もりか。」


「信綱・・・、少しやつれていないか?」


今、室内には俺しかいないはずなのに、他人の声が聞こえたのは気のせいだろうか。

俺は、慌てて気配を探ると同時に、PCの画面から目を離し室内を見渡した。


「・・・真耶マヤ、・・・真那マナ
 会うのは昼からの約束じゃなかったか?」


「今日と明日の二日間は、休暇になっているので時間があったのだ。
 それに、お前が無茶をしているという情報を得たのでな・・・。」


「そこで予定より早く来て見れば・・・。
 予想通り、信綱は無茶をしていたと言う訳だ。」


何と、室内に侵入していたのは真耶マヤ真那マナだったのだ。

どうやら俺の事を心配して、態々約束よりも早く御剣重工帝都支社に来てくれたらしい。

俺は、まったく警戒していなかったとはいえ、室内への侵入に気が付かなかった事に、勘が鈍ったかなと考えながらも二人の言葉に返事を返す事にした。


「無茶をしている認識は無いぞ。
 一日の徹夜ぐらいでどうにかなる体ではないからな。」


「確かに、一日の徹夜でどうにかなることはないと思ってはいるが・・・。」


「では休暇に入ってから合計で、何時間の睡眠を取ったのだ?」


「・・・・・・。」


ここで俺が出すべき答えは、六日間で合計9時間,一日平均で一時間半だ。

更に訓練校に行く事がなければ、もっと睡眠時間は短くなっていた事だろう。

俺は、その事がばれると後々面倒な事になると考え、何とか誤魔化すべく言葉を発した。


「そう言えば、よくこの部屋まで入れたな?
 それなりにセキュリティーが厳しい筈なんだけど・・・。」


「・・・昔横浜に勤務していた社員と偶然入口で出会ったのだ。
 その人が快く案内してくれた。」


「子供の頃は、三人でよく会社に顔を出していたからな。
 そこで私達の顔を覚えてくれていたのだろう。」


「じゃあ、どこ・・・「「信綱!!」」


「「一日、何時間寝ていたのよ!」」


「すみません。一日、一時間半くらいです。」


俺は、二人の放つ雰囲気と言葉に反応して、条件反射的に正直な答えを返してしまっていた。

これが男なら問題なく誤魔化せる自信があるのだが、どうやら俺は女性に強く迫られる事になれていないらしく、
どうしても誤魔化す事が出来ないのだ。

俺はこの時、失敗したという感情が表情として出ていたため、更に二人の感情を逆なでする事になったのだった。








真耶マヤ真那マナは睡眠時間が短すぎると怒った後、今している仕事を早々に終わらせて睡眠をとらすという結論に至ったようだった。

幸いにも、機密の高いものは優先して終わらせているので、この場所にあるのは外部に盛れても問題の無い書類しか残っていなかった。

俺は早速、二人に資料とメモ,御剣電気が開発したノート型PCを渡し書類の作成と添削をしてもらう事にした。

俺達は所々に会話を挟みながらも、作業を行なっていった。


「そう言えば、俺が引篭もりをしているなんて、どこからその情報を得たんだ?」


「香具夜さんから聞いたのだ。」


「信綱との連絡が取れなくなったから、また引篭もりをしているはずじゃ・・・とな。」


質問をした俺は、薄々情報源に気が付いていたがどうしても聞かずにはいられなかったのだ。

その理由は、俺が次に発した言葉に全てが込められていた。


「何時の間に連絡を取り合う仲になったんだ?
 まだ、一回しか会っていない筈なのに・・・。」


「互いに思うところがあったのだ。
 詳しくは聞くな。」


「色々あって、今の所は情報の共有を行なっているのだ。
 互いに、信綱が変な事をしないか監視する事にもなっている。」


真耶マヤッ!」


真那マナ・・・。
 香具夜さんの方が普段から近くにいるのよ・・・。
 私達は、少し自己主張する位で丁度いいのよ。」


二人が軽く睨み合いを始めたのを見た俺は、意識をこちら側に向けさせる事で睨み合いを止めさせようと、
二人の間に割り込むようにして話しかけた。


「別に監視なんてしなくても、自分の限界は理解しているつもりだ。
 心配しなくても、大丈夫だよ。」


「「(私達が心配しているのは、それ以外の事なのだが・・・。)」」


「・・・どうしたんだ二人とも。」


「「お前は、気にしなくてもいい。」」


俺は二人の言葉に従い、再び資料に対する意見書をまとめる事に取り掛かった。

今見ている資料は、戦術機の生産状況に関する資料だった。

現在、国内で一番生産数が多いのは、岐阜・愛知・静岡県にまたがる中京工業地帯である。

おおよそ国内生産の半分が集中する事から、もしこの地域に被害が及ぶと帝国は一気に苦しくなると考えられていた。

俺はこの危険性を指摘し、以前から千葉・茨城等の太平洋に面する東関東地方や福島などの南東北地方で、
戦術機等の兵器類や工業製品の生産を行なうように指示をしてきたのだ。

ただし帰国して調べてみると、今年に入り漸く福島県の戦術機生産工場が完成したという段階で、
思っていたより生産拠点の移動は行なわれていなかった。

しかし、それも俺の帰国と九州の警戒レベルの引き上げで、一気に流れが変わる事になった。

明確なBETAの脅威を感じる事になった幹部が、一斉に生産拠点の移動に賛成したのだ。

その議決を受けて、この度九州にあった工場は社員とその家族と一緒に、全て福島県に移転させる事が決定した。

俺はこの決定に満足し、中国・四国地方の工場移転も検討する事と、社員への十分な保障を行なうようにという意見書を書く事になる。

また、戦術機の生産は、F-4E/ファントムとF-4J-E/鞍馬の生産がオーストラリアで拡充されるなど、活発に行われている。

このオーストラリア工場拡充計画は、本土防衛戦の時に発生するであろう国内の避難民を、本格的に移民させるための下地作りにもなっているのだった。


「そう言えば、私達がお前の仕事を手伝ってもいいのか?」


「・・・拙いかもしれない。」


「「なに!?」」


「だが・・・将来嫁になってくれるのなら、大丈夫になるかもしれないぞ?」


俺は意地悪そうな顔をして二人を見つめた。

二人は俺の表情と台詞から冗談である事が分かったのか、怒りの表情を見せいていた。

ただし、可愛らしく頬を赤らめて怒っていては、今一迫力に欠ける怒り方ではあったのだが・・・。

俺は二人を何とかなだめると、次の資料に目を移した。

最後の資料は、食糧生産についてのものだった。

元々食料自給率が低かった日本帝国内では、国民を全て満足させる食料を生産する事は難しかった。

更に、九州地方の警戒態勢が引き上げられた事を受け、今後食料生産に支障が出ると考えられていたのだ。

それを補うための切り札が、以前から取り組んでいた工場での食糧生産だった。

御剣財閥はオーストラリアで日本からの移民を募って、食糧の生産を開始していたのだ。

財政上豊かな土地を購入するほど潤沢な資金が有る訳ではなかったが、工場での食糧生産を行なう予定だった御剣財閥が購入したのは、
地価の安い砂漠地帯と沿岸部の一部であったため、投資する資金を減らす事が出来たのだった。

これを聞いた者は一様に、飛行場や兵器工場を建設すると考え、誰一人として食糧生産工場を作ると考える者はいなかった。

それもそうであろう、当時の常識では砂漠で食料を生産しようなどと誰も考えつかなかったのだ。

通常は食糧生産に適さない砂漠だが、御剣財閥がこれまでに蓄積してきた技術の粋を集める事で、
この地域は合成食料の一大食料生産工場になっていく。

御剣財閥が始めにしたのは、真水生成工場をオーストラリア沿岸部に建造する事だった。

この真水生成工場は、昔から行なっていた海水淡水化技術への投資が実を結んだ結果である。

そして、次に行なったのが其処から得られる水を使って、水耕栽培による植物工場を稼動させる事だった。

砂漠という環境は、雨や曇りの日が少ない事で多くの採光を取り入れる事が出来き、
夜間は昼間の太陽光発電で溜めた電力を使い人工光を発生させ植物の成長を促す事で、非常に効率よく植物を栽培する事が出来たのだ。

後は、海から得られる魚介類などの水産資源と合成たんぱく質を混ぜ合わせる事で、御剣財閥の合成食料生産工場は稼働して行く事になった。

なお、ここでは贅沢品として穀物や野菜の生産も行なわれており、余った水を使って砂漠地帯の緑化にも勤めている。

現在、合成食料の供給はアジア地域を中心に行なわれており、日本帝国内にはあまり輸入されていない。

これらの工場は、移民のオーストラリア国内での雇用を確保する事にも役だっており、使い道のなかった砂漠が金を生む事からも、
現地政府の受けが良い事業だった。

日本がこれらの行動によって、アジア・オセアニア地域と強い友好関係を結ぶ事を、米国やソ連は面白くないと思っているようだったが、
彼等が食料や移民の問題を解決する事が出来ない以上、他国への強力な介入が出来るものではなかった。

俺は、食糧生産の更なる拡充を狙って、西日本を中心に国内で移民を募る事や、国内に残る耕作放棄地を大規模に運用する事を提案し、
必要なら政治家に働きかけ法律を整備する事も考えるように、という意見書を作成する事になった。

この意見書をまとめ終え、二人が作ってくれたものに一通り目を通し終えた時、時間は10時丁度を指していた。

二人の補佐によって、当初の予定より二時間ほど早く仕事を終わらせる事ができた俺は、仮眠室で睡眠をとる事になった。


「約束通り昼まで仮眠を取るから、昼になったら起こしてくれ。
 それまでは好きにしてくれていいよ。
 ・・・何なら誰かに社内を案内させようか?」


真那マナと一緒に御茶を楽しませてもらうから問題はない。
 お前は気にせず寝ていろ。
 ・・・真那マナもそれでいいわよね?」


「あぁ、それで問題ない。
 信綱・・・時間が無いから早く寝ろ。」


「じゃあ、お休み~。」


俺は二人の言葉に甘えて、そのまま仮眠室のベッドに倒れこむように寝転んだ。

仮眠室に漂う男臭い空気の中から、かすかに女性の匂いを嗅ぎ取った俺は、その匂いに興奮するよりも先に心が落ち着くのを感じ、
意識を手放す事になった。








次に俺が意識を取り戻した時、俺は真那マナに膝枕をされている状況に陥っていた。

一瞬何が起こっているのか分からなかったが、頭と首筋に感じる柔らかさに、このままでもいいかもしれないという思考に捕らわれる事になった。

その間の俺は、二人の入室に気が付かなかった事と今回の膝枕に反応できなかった事から、
親しくなった者に対しては極端に警戒心が薄くなるのでは無いかと、真剣に考える素振りを見せながら真那マナの膝の感触を楽しんでいたのだった。

しかし、何時までもこのままにしておくわけにも行かないため、真那マナに声をかける事にした。


真那マナ・・・、足は痺れないのか?」


声に反応し俺の顔を凝視した真那マナは、その数瞬後小さな悲鳴を上げて急に立ち上がった。

真那マナが立ち上がった事で体を押された俺は、見事にベッドの上から転落する事になった。


「痛いじゃないか、真那マナ。」


「きゅ 急に起きる信綱が悪いのよ。
 起きる前に一言言ってくれてもいいじゃない。」


「さすがに寝ている時に、『そろそろ、起きますよ。』と喋れるほど人間やめてないぞ。」


「それでも、私にも心の準備というものがある!」


「それはそうと・・・、どうして膝枕をしてくれていたんだ?」


「それは・・・、それは・・・・・・、「ずれた布団を直してやろうと近づいたら、無理やりベッドに引き込まれて膝枕を強要されたのだ・・・。
(尤も、その後膝枕の役割を一時間毎に交代していた事は教えられないが・・・。)」」


「はぁ!?」「真耶マヤ!?」


「信綱・・・、寝ている間のお前は、何かに抱き付く癖があるのだろう?
 (真那マナ・・・、こう言えばいいのよ。)」


「(そ、そうね……。)」


俺は真耶マヤから告げられた事実に驚愕する事になった。

それは、驚きのあまり二人が何かを囁きあっている事もまったく気にならないほどだった。

香具夜さんの時も似たような事があった事を思い出した俺は、自分の駄目さか加減に頭を抱える事になる。


「安心しろ・・・、今のところ男に抱きついたという報告は受けていないし、
 お前を誰かが訴えようとする動きも無い。」


真耶マヤさん、その言い方だとまったく安心できないのですが・・・。」


真耶マヤの余計な補足説明に更に頭を抱える事に俺だったが、重要な事を思い出した事で、
気を引き締めて話題を切り替えることにした。


「そういえば・・・、今は何時だ?
 そろそろ出かける時間になっていると思うのだが・・・。」


「何を言っているんだお前は、もう16時を回っているぞ。」


「えッ・・・、もう一度お願いします。」


「だから、もう午後4時を回っていると言っている。」


 なんてこった・・・、睡眠時間6時間オーバー・・・。

 昼から都内を観光しながら昼食を取り、気分を盛り上げた状態でメインイベントに突入するという俺の完璧なプランが・・・。

「完璧なプランが、始まる前から崩壊してしまった・・・。」


俺は予定が大幅に狂った事を認識した時点で、崩れ落ち床に膝を付いてうな垂れる事になった。


「完璧なプランが何かは知らないが・・・、まだ今日が終わったわけではないわ。」


「お前に誠意があるのなら、精一杯それを見せてくれればいいのよ。」


「ありがとう二人とも・・・。」


「「信綱は、ずぼらだから仕方ないわ。」」


俺は二人の納得の仕方に引っかかるところがあったが、それを無視して行動を急ぐ事にした。

急遽計画を変更した俺は、二人を連れて最終目的地であった京都の老舗旅館に足を運び、そこで風呂に入り軽く汗を流した後、
早めの夕食を取る事になった。

そして、食事を楽しんだ後はいよいよ今日の目的である訓練校での告白の返事を聞くことにしたのだった。


「二人とも・・・、単刀直入に言うよ。
 大陸で二年間を過ごした今でも、二人への気持ちは変わらない。
 真耶マヤ真那マナ、訓練校で別れる時に言った事の返事・・・・・・聞かせて貰えないか?」


俺は、真剣な目で二人の瞳を交互に見つめた。

それに対して、旅館に入ってから口数が少なくなっていた二人が、ゆっくりと言葉を発した。


「・・・信綱の告白に答える前に、いくつか質問がある。」


「・・・それに答えたら、私達も返事を返そう。」


「そうだね・・・、聞きたい事があるなら何でも質問してくれ。
 出来る限り答えるから・・・。」


「どうして、私か真那マナのどちらかではなく、二人なのだ?」


「正直に言うと自分でも良くわからない・・・。
 気が付いたら二人の事が好きになっていたし、一人を選ぶなんて考えられなくなっていたんだ。
 複数の人を同時に好きになる事が、良くない事だというのは理解出来るけど・・・、
 諦められるほど人間が出来ていないんだよ。」


俺の返事に対して、真耶マヤは呆れたような深いため息をついた。

先ほどの発言通り、二人を好きになった理由は良くわからない。

顔が可愛いとか、性格が好みだとかいくらでも理由を付ける事が出来るが、どれも後付の理由に思えてしまうのだ。

しかし、一人を選択できなかった理由には心当たりがあった。

様々な兵法書を読んでいく中で身に付けた、正攻法が無理ならその前提条件からひっくり返す事で状況を打破するという思想が、
二人と同時に付き合える可能性を導き出していたため、本気で一人を選ぼうという気持ちになれなかったのだ。

尤も、ここで導き出した方法は、相手の同意や法律などの問題があり、自分でも可能性が高いと思えるものでは無かった。

そして次は、真那マナからの質問に答える事になった。


「・・・、私達以外に好きな女はいないと断言できるか?」


「今のところはいないよ。
 ただ・・・、二人を同時に好きになったという前科がある以上、将来の事を断言する自信はない。
 俺が胸を張って言えるのは、他の誰かを好きになったとしても二人への気持ちは変わらないという事だけだ・・・。」


「信綱・・・、本気で言っているのか?」


「あぁ。
 余りほめられたものではないという自覚は有ると言っただろう。
 今の俺は、嘘をつかない事でしか誠意を見せられない・・・。
 後、他の人に手を出さない事は約束できるよ。」


「当然だ・・・、もしそうなった時は・・・・・・、
 命は無いと思え。」


真那マナはそう言って俺を睨み付けてくる。

互いの実力差を考えると、もし真那マナ単独に命を狙われた場合なら生き残る事は可能だろう。

だが、其処に真耶マヤが敵として加わるとすると、生き残る可能性は五分五分だ。

いや、二人を傷つける覚悟が無い自分では、真那マナの言葉通り確実に殺される事になるだろう。

俺はその真那マナの真剣な眼差しを正面から受け止め、自分に嘘が無い事・・・やましい気持ちが無い事を伝える事にした。

しばらくの間俺の目を見つめ続けていた真那マナだったが、急に頬を赤らめ顔をそらす事になった。

顔をそらした事についてたずねようとした俺に、真耶マヤからの質問が投げかけられる。


「もし、三人で交際を始めようとしても、父上達が許してくれないぞ。」


「記憶が確かなら、二人が無現鬼道流に入門した当初、
 月詠家の当主・・・二人にとっての祖父は、『どちらか片方なら嫁にやってもいい。』と言ったらしい・・・。
 それに俺の祖父さんもその話に乗り気だった。

 心変わりしていなければ、御剣家と月詠家の婚姻は問題ないだろう。
 後は、相手が二人になった事だが・・・。
 如何にかして説得するしかないだろう。
 幸いにも、月詠家には真那マナの兄さんが残っているから、跡継ぎ問題にはならないよ。」


「「御爺様・・・。」」


二人は、祖父がそのような時期からそういった事を考えていた事に驚きを隠せない様子だった。


「正面から行って駄目だと言われたら・・・、搦め手で行くしかない。

 世界を平和にした後にイスラム圏に引っ越すか、
 法律を改正して結婚という既成事実を作るというのはどうだ?

 さすがに其処まで話が進めば、誰も反対できないはずだ。」


「できるなら、国外に永住する事は避けたいわね・・・。」


「そうよね、改宗する事にも抵抗があるし・・・。」


「なら法改正しかないのか?
 誰か上手く話をまとめられそうな政治家がいたかな・・・。

 そう言えば・・・、
 さっきから質問が付き合う事を前提としたものになっている気がするのですが・・・。」


二人は俺の発言に対して、ばつが悪そうな表情を見せた後、取り繕うように反撃してきた。


「信綱の事だ、法律を改正しようというのも、合法的に他の女に手を出すための口実作りだろう。」


「そうだ、堂々と複数の女性に手を出そうと考える男にそう易々と惚れるほど、私達は易い女では無いぞ。」


そして、二人は俺に対して『馬鹿につける薬は無い。』と言ってきた。

しかし、二人の様子を良く見てみると本気で怒っている雰囲気ではなかった。

どちらかと言えば、拗ねているとも取れる二人の反応に、後一押しが有れば何とかなるかもしれないと感じた俺は、
これで上手くいかなければしばらく付き合うのはお預けだろうと考えつつ、小さな箱を取り出した。


「どちらか一人を諦めるとか、両方と付き合わないという選択肢は俺にはない。
 俺が出来るのは、二人と付き合うに足る漢となるように、努力し続ける事だけだ。

 ・・・聞いた話だと、欧米では婚約や結婚の証に指輪を送るらしい。
 本当は正式な結納を交わしたいところだけど、今はこれが精一杯だ。
 真那マナ真耶マヤ、俺と結婚しよう。」 
 

そう言って俺は、箱の蓋を開けこの日の為に用意していた指輪・・・、俗に言う婚約指輪を二人の前に取り出した。

その指輪は、指輪の内側に文字が彫られているだけの飾り気の無い銀色のリングだった。

始めは宝石を散りばめる事も考えたのだが、いつも身に付けておいて欲しいという願いを込めて今のような形に落ち着いたのだ。

俺は無言でこちらを凝視する二人の左手を取り、恐る恐るその薬指に指輪をはめていった。

その指輪は、目測で指のサイズを測った割には、きれいに二人の指に収まってくれた。

二人は呆けていたためだろうか、嫌がる素振りを見せず素直に受け取ってくれたのだった。


「俺は欲張りなんだ、一人に決めるなんて事はできそうに無い。
 もう一度言うよ、御剣 信綱は月詠 真耶マヤと月詠 真那マナの事を愛している。」


二人は俺の言葉に返事を返すことは無く、しばらくの間顔を俯けたままだった。

あまりにも反応の無い二人の様子に、恋愛経験が豊富とは言いがたい俺は狼狽する事になった。


 やばい・・・、焦りすぎたのか?
 いきなり婚約や結婚の話をしたのは早かったか・・・


俺の焦りをよそに、二人は漸く口を開き喋りだした。


真耶マヤ・・・。
 何れ決着を付けると言っていた話・・・、一時休戦というのはどう?」


「そうね・・・、真那マナとの決着を先送りにするのは残念だが・・・。
 信綱がだらしないせいで、決着はしばらく付けられそうに無いし・・・。」


「えっと・・・、二人の言いたい事がよく分からなかったのですが・・・。
 二人の結論は?」


「「婚約の話・・・、お受けいたします。」」


二人はそう言って、三つ指をついて俺に対する返事を返してきたのだった。


「・・・・・・。」


「「・・・・・・。」」


「うおぉぉぉぉー、やった、やったぞー!!」


俺は、二人の返事に思わず歓喜の声を挙げることになった。

この時が、この世界で生まれて苦節20年、初めて恋人がいない生活から脱出した瞬間だった。

この時の俺は、出来たのが恋人を通り過ぎた婚約者であると言う事にも、まったく気が付かないほど感激する出来事だったのだ。

昔は心が枯れる事を心配していたが、精神が肉体年齢に引っ張られているのか、特に恋愛感情は他の20代の男と変わらなかったようである。

僅かに冷静さを取り戻した俺は、いつも持ち歩けるように指輪をネックレスとして身に付けるために使う、銀製のチェーンを二人にプレゼントをした。

その時に、いつも身に付けておいてほしいと顔を覗き込みながらお願いすると、二人は頬を赤らめて『仕方ないな』と返事してくれたのだ。

その返事を聞いた俺は、対BETA戦と平行して、真剣に議会工作による法律の改正を真剣に検討し始めたのだ。


 正直に言うと、余り政治に介入する事は避けたかったのだが・・・、今の俺は昔と比べると一味違う!
 それに、現在の若者における男女の比率を考えると、一夫一妻制は維持するのが難しくなりそうだし・・・。


また、最終手段としては妾という日本で古くから伝わる風習が残されていた。

偉い者ほどその血を絶やさぬようにと言って行なわれていたこの制度は、生まれてくる子供を養子とする事で、
正妻と妾が同意していれば現在でも実行可能な方法では有った。

それで、正妻と妾が一緒の家に住むと側室となるわけだが・・・、二人の事を思うとこの手段を取るという選択肢は俺には無かった。

思考の海に沈みそうになった俺だったが、二人の声を聞いて意識をそちらに向ける事になる。


「そう言えばこの指輪・・・、見た目よりも重く感じるわね?」


真那マナ、恐らくこの指輪は白金プラチナで出来ているのよ。」


真耶マヤ、残念ながら白金プラチナでは無くイリジウム合金製だ。」


「「イリジウム?」」


「イリジウムは全元素の中で一番重いとも言われ、融点は二千度以上、金や白金プラチナも溶かす王水にも耐えられるんだ。
 これ以上強靭な金属は早々ないと思うぞ。」


残念な事にイリジウム自体は金よりも安い素材だったが、一般に出回る事が少ないうえ加工が難しいために、指輪にするには意外と高くついている。

それに指輪に込めた願いを考えると、それほど悪い指輪ではないと俺は考えていたのだった。


「質実剛健をむねとする御剣家らしい指輪だと思っていたが・・・。」


「その凝り方は信綱らしい発想だな・・・」


互いの思いを確認し合い婚約をしたと言っても、長年築いてきた関係が急に崩れる事はなく、いつもと変わらない雰囲気で俺達は会話を再会していった。

そして、その日の晩・・・

三人は同じ部屋で夜を過ごす事になるのだった。








旅館で一晩を過ごした俺は、それ程長い睡眠時間をとった訳ではないのに、妙にすっきりとした朝を迎えていた。

それに対して真耶マヤ真那マナの二人は、俺が起きた事にも気が付かず、暫く時間が経った今も夢の中の住人だった。

俺はまだ寝ている二人に書置きを残した後、御剣重工帝都支社で荷物を受け取り帝都駅に向かう事になった。

こうして、忙しい帝都(京都)での日程を終えた俺は、部隊と合流するために高速鉄道で横浜に向かう事になったのだ。

その日の昼新横浜駅に到着した俺は、出迎えに来ていた香具夜さんから部隊の現状報告を受けると同時に、一つの辞令を受け取る事になる。

その辞令には、本日付で俺が大尉に昇進したという事が書かれてあった。

休暇が空けた俺は、いつの間にか大尉になっていたのだ。

臨時大尉の肩書きが外されてから、僅か二週間後に正式に大尉となっているのだから、茶番と言ってもいい人事である。

しかし、今のところ高い階級が邪魔になる事は無いと考え直した俺は、素直に受け入れる事にしたのだった。

そして、基地に到着した俺を待っていたのは、ハンガーに並ぶ新品の戦術機達であった。

其処には、不知火弐型のパーツを一部使った不知火・吹雪の改造機、通称『不知火改』『吹雪改』が並び、
一番奥には俺の愛機となるはずのデモンストレーター用の赤と白のツートンカラーに塗装された不知火弐型もいた。

俺は、その光景に対BETA戦の準備が整い始めている事を確信し、決意を新たにする事になった。

俺が戦術機を見つめている様子に気が付いた、ロンド・ベル隊で突撃前衛長を務める佐々木 浩二 中尉と、
俺の副官を務める武田 香具夜 中尉が声をかけて来る。


「どうした隊長?
 この間までと雰囲気が違うな・・・。

 もしかして、京都で大人に成って来たとか?」


「何を馬鹿な事を言っておるのじゃ佐々木は・・・。
 信綱もこの馬鹿に何か言ってやるのじゃ。」


「・・・佐々木さん、・・・香具夜さん、実は婚約者が出来たんですよ。
 雰囲気が変わったといえば、そのせいですかね?」


「何っ!?(何じゃと!?」


「だ 誰と婚約したのじゃ!」


「残念ながら今は言えません。
 まだ、互いの親から了解を得たわけではありませんから・・・。
 正式に結納を交わした時に教えますよ。」


俺は婚約者が二人である事を正直に伝える事に躊躇した事と、互いの親から許可を得ていない本人同士だけの約束であるため、
婚約者が出来たと言う事だけを目の前にいる二人に伝える事にしたのだった。

それに対して、二人は複雑な表情を見せていたが、最終的にはお祝いの言葉をかけてくれる事になった。

こうして短い間であるが、俺とロンド・ベル隊の横浜での新しい生活が始まるのだった。


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コメント

皆様、いつもご意見・ご感想・ご指摘・ご質問の数々を感想板に書き込んでくださり、ありがとうございます。
時間が取れなかった事と、台詞に悩まされる部分が多かったため投稿が遅れる事になりました。
毎度の事ながら、お待たせする事を心苦しく思っています。

今回、主人公と月詠さん二人が正式に付き合い始める事になりました。
少し展開が速いような気もしますが、このまま放置すると二十歳を過ぎても彼女なしという悲しい事態になるので・・・、
仕方がありませんよね?
自分の中の全力を振り絞って書き上げましたが、上手く書けているか心配です。
恋愛の方程式でもあれば楽なのにな・・・とついついアホな考えが頭を過ぎってしまいます。

そして、インターミッションが終わらない・・・。
早く話を進めたいのですが、ネタが思い浮かぶのでどうしようもありません。
ここは思い切って、次の話は不必要な話題を後に回して本土防衛戦突入・・・まで行きたいなと考えています。

この作品の投稿ペースは、始め毎週更新だったのが隔週更新になり、今月はまだ二回しか新話の更新が無い状況に陥っています。
その事を考えると、他の作者様の更新ペースに脱帽しております。
この後は、何とか時間が確保できる予定ですが、世間はあるイベントの話題で持ちきりになっている様子です・・・。
私もこの雰囲気に飲まれる可能性を否定できずにいます。

そうなった場合、来週はもしかしたらまた設定集で御茶を濁す可能性があります。
その時は、すみません。
ただし、設定集のネタはそれほど多くないので、直ぐに誤魔化しが出来なくなりそうです。
それまでに、公私共に時間の余裕が生まれるといいのですが・・・。


返信

皆様からいつも様々なご意見をいただいております。
あまりに多すぎるため、今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


A-10 サンダーボルトⅡ、4脚化・・・。
少し考えただけでも圧倒的な火力が搭載される事が想像され、実にうらやましい設定です。
作るとしたメーカー的に米国になるのでしょうか?
米国ではそれ以上の火力を搭載する事になりそうなA-12 アベンジャーを開発中ですから、
それを改修するのが正等のような気がします。
後は、○○の動向しだいですので、少し検討してみたいと思います。

鎧 左近・・・
存在を忘れかけていました。
主人公の行動から考えると、今のところ接点は皆無だと思われます。
陰謀が渦巻く時に出番があるかも知れません。

スーパー系を引っ張って・・・。
むむむむむ・・・、そう言った作品は大好きなのですが、自分が書くとなると上手く想像が出来ません。
無駄にリアル系に走りたい年頃なのでしょうか?
ですが、戦術機の乗り物として馬を採用するとなると・・・、夕日に映えそうなシーンが完成しそうです。

戦術機のカラーリング・・・。
戦意高揚のためにも専用カラーがあると、話的にもおいしいのですが・・・。
斯衛軍に好きな色を取られている事と、富士教導隊のように対人戦を考えたカラーリングが有る事を考慮すると、
少し難しいかもしれません。
しかし、デモカラーを使い続けるという裏技が・・・・・・。
ちなみに、二式のデモカラーは原作と、ある作品の大尉が使用したデモカラーを参考にして妄想をしています。

ザクタ~ンク・・・。
最高の脇役かも知れません。
普通のショベルカーやブルドーザーでいいとは思うのですが、ついつい惹かれてしまいます。
ただし、原作で塹壕を掘るのは盾装備の戦術機も行なっているそうです。

対レーザー蒸散塗膜加工装甲とかバッテリーなどの改良・・・。
香月博士の性格を考えると友人は少なそうですが、知り合いは多いのかもしれません。
今のところCPU等の博士自身の研究成果の一部と引き換えに、資金を提供しているという関係ですが、
原作を考えると必然的に接近する必要が有ります。
其処からどうなるかは、今後のお楽しみという事で・・・。
(注.私自身もエンディングに至るまでの詳しい過程はまだ考えていません。)

遠田の技術者の鬱憤が溜まっていそうな気がします・・・
なんてこった・・・、其処まで考慮して話を進めていませんでした。
一応今の時点で、買収から12年の月日が流れていますが、活躍する場を与えていないと
会社を辞めてしまう可能性もありそうです。
少し、プロットに書き加えたので今後、こっそりと活躍するかも知れません。

A-12 アベンジャーの共同開発・・・
しまった、奴の配備は1999年だった。
今から介入するのは難しそうですので、共同開発には何か良いアイデアをひらめく必要が有りそうです。

パンツァーファウスト式よりかRPG式・・・
RPGについて少し調べてみましたが、やはり大きさと重量が問題になりそうです。
要塞級の出現率が其処まで高くないと思っているので、デッドウェイトはなるべく少なくしたいと考えています。
ただし、パンツァーファウスト式は相手に命中させるのがRPG式よりも難しそうなので、
少し検討する必要が有りそうです。


しばらく更新をしていないのにも関らず、皆様からいつも多くのご感想やご指摘をいただけている事に、
感謝の念が絶えません。
本当に、ありがとうございます。
これからも、少しでも皆様に期待に応えられる様にしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。



[16427] 第21話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/11 00:05


ロンド・ベル隊の横浜での任務は、弐型のパーツを一部使った不知火・吹雪の改造機、通称『不知火改』『吹雪改』と不知火弐型に、
テストパイロットでは難しい実戦で使われる機動データを蓄積する事である。

これらの機体は、今までの機体にはなかった補助スラスターの搭載によって癖のある機体となっていたが、
実戦経験を多く積み戦術機の操縦に余裕が生まれていたベテラン衛士にとっては大きな障害とはならず、
その運動性に隊員達は魅了されているようだった。

そういう俺も、弐型が生み出す運動性が予想以上だった事もあり、テストの合間にかなり無茶な機動をとってしまうほど取り付かれる事になった。

最高速度から失速機動により空中で倒立し、突撃砲の射撃を行ないながら地面へ急降下。
そして、殆ど減速なしに機体を無理やり縦回転させて地面に着地し、片手を地面につき屈伸でもしたかのように足を曲げた状態から、
間髪いれず側転に移行し突撃砲の射撃といったアクロバットの様な機動。

通常は出来ない機動を実現するために、腕や足をあえて障害物にヒットさせる事で姿勢制御の切掛けを作り、
その動きに追従できなかった対戦相手に急接近し、その後機体各部のスーパーカーボン製ブレードを使った攻撃に移るといった荒っぽい格闘戦。

果ては、不必要と思えるほど奇妙な機動の反復練習まで行なったのだ。


「機体の限界を測るためとは言え…、無茶をしすぎたかな?」


「流石に、高速回転しながらの体当たりや斬撃なんて練習する必要無いだろ・・・。
 遊びすぎじゃないか?」


「そう言う佐々木さんだって、対BETA戦では使わない高度な三次元機動を試していたじゃないですか。
 浮かれているのは御互い様でしょう?」


「まぁ、お前ほどじゃないが皆浮かれているよ。
 不知火や吹雪の改造機は、今までの不満を吹き飛ばす良い機体だからな。
 喜ばない衛士はいない。
 ただし、弐型と同様に耐久性があればという注釈がつくが・・・。」


俺の弐型は全身に警告のアラームが出たため、今は完全にオーバーホールを行う破目になり、
不知火改と吹雪改の多くは、パーツの交換をする事になってしまったのだ。

これが、僅か数日で陥ってしまった状況だと考えると、これらの機体は実戦で行なわれる蛮勇に耐えるには、
まだ各部の耐久性と機体への負担を軽減する制御機構が、甘いと言わざるを得なかった。

俺は、弐型のオーバーホールが休日と重なっていた事もあり、午前中に部隊関連の書類整理を終わらせ、
久しぶりに実家で休日を過ごす事にしたのだった。








まったく予告せずに実家に帰る事になった俺だが、家の者達は暖かく出迎えてくれた。

残念ながら、祖父は東京で会合があり、父は京都で斯衛軍の仕事、母は会社に出社しているとの事だったので、
屋敷の中にいる家族は冥夜だけという状況だった。

夕食の時間には祖父と母が帰宅するという話だったが、帰宅するまではゆうに6時間以上の時間が残されていたのだ。

俺は、家族との語らいにはサプライズも必要だという事で、冥夜には帰ってきた事を内緒にするようにと女中達にお願いした後、
冥夜を探す為に家の中を歩き回る事にした。

そして、道場に差し掛かった時、聞き覚えがある声が聞こえたのでそちらに足を向けると、冥夜が一人で刀を振るっているのを目撃する事になる。

俺は冥夜がどのくらい強くなっているのか気になった事もあり、鍛錬を行っている冥夜に対して気配を消して背後から接近し、軽く殺気をぶつけてみた。

冥夜はすぐさま俺の殺気に反応し、背後に向かって刃を返した状態の斬撃を放ってくる。

俺はあらかじめそういう反応を予想していた事もあり、冥夜の峰撃ちを見切った上で上体を僅かに反らし、紙一重で避けてみせたのだ。

突然湧いてきた殺気によって鍛錬を中断させられた冥夜は、不満げな表情で後ろを振り返った。

俺は後ろを返った冥夜に対して、殺気を放った事や鍛錬を中断させた事などおくびにも出さず声をかけた。


「ただいま…、冥夜。」


「兄上!
 兄上、何時戻られたのですか!?」


「戻ったのは、つい今しがただよ。
 それと、そんなに畏まらなくてもいい。
 久しぶりの再会なんだ、昔みたいに抱きついて来たりしないのか?」


「兄上…、今年で私も15…、
 兄上が免許皆伝を受けた歳と一つしか変わらなくなります。
 私は、もうそのような事をする歳では有りません!」


俺の発言に、笑顔だった冥夜は拗ねたような表情に変わり、俺から顔を背けた。

そうした冥夜の態度に、これが思春期と言うものなのかという考えが頭を過ぎ、冥夜の成長を感じると共に、
自分が妹離れを上手くできていない可能性に気が付く事になった。

そして、改めて成長した冥夜の姿を見て、悠陽の時と同様に驚かされる事になる。

今年で15歳になる冥夜にとって、俺が大陸に渡ってからの二年間は大きく成長する期間だったのだろう。

写真で成長を見ていたとはいえ、我が妹ながら成長した体を見ると妙な感情が湧いてくる。

マブラヴの世界では紅蓮師でさえ鼻血を流し、冥夜の体つきを絶賛していたような記憶がかすかにあるので、
まだ若い俺が反応してしまうのも無理は無い事だが…。

二人の婚約者と冥夜が妹である事を思い出した俺は、そのような感情は不要だと気合をいれ、
子ども扱いをした事を謝りつつ話題を切り替えることにした。

そして話は、せっかく鍛錬をしていたところと言う事もあり、冥夜と試合を行なうという流れになっていった。

俺たちは道場に置いてあった木刀を手に取り、道場の中央で向かい合った直後、開始の合図も無しに互いに木刀を振るっていた。

俺は試合の開始直後から、体を慣らすように冥夜の動きを完璧にトレースした動きを行なった。

その動きは、まるで合わせ鏡の様な動きで、相手の動きを完璧に先読みする事が出来ないと不可能な動きだった。

そして、同じ技を同じタイミングで繰り出せば、技量と力がある方がおのずと勝利を収めることになる。

ただし、剣術の技量という点だけを考えると、冥夜は今の俺とかなり近いレベルを有しているようで、俺が剣術で冥夜に勝てるのは肉体的強さと、
膨大な戦闘経験による差があるだけだった。

つまり、同じ年齢の時の自分と比べると、技の切れという点では冥夜の方が上回っていたのだ。

ともかく、こうして確実に小さな勝利を積み重ねていった事で、冥夜は次第に追い詰められて行く。

追い詰められた冥夜は、一度距離を取った後、瞳を閉じ心眼の構えを見せた。


「あえて五感を封じる事で、心眼の精度を高めるか…。
 それが、冥夜にとっての全力なのかも知れないが、それは悪手だ。
 殺気の出所を正確に把握できなければ、実戦で使えるものではないぞ!」


「それでも、今の私には後の先を取る事でしか、兄上の技を破る術がありませぬ…。」


「同じ武器を使用するなら、攻撃の間合いはそう大きく変わることは無いと考えたのだろうが…。
 世の中にはこういった技もある!」


「ーー!?」


 自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ…、
 どんなに忙しい日々が続いても、欠かさずやってきた鍛錬の成果を今見せる時。
 これが四年間の集大成だ!


「石
 破
  
 天
  
 驚
  
 拳
 ぇ
 ぇ
 ぇ
 |
 ん
 ッ
 !!」


以前練習していた技は、宇宙人が使うイメージが強く、初めて見た技もロボットが放つものだったため、
相性が悪かったのか上手く技として完成しなかった。

だが、子供の時にやっていた遊びの中から最強の漢達(人間)が使っていたこの技を思い出した事で、
俺の中で気を使った技がついに完成を向かえたのだった。

冥夜は俺の技に反応し木刀を振るったが、気を操る事が出来ない冥夜の木刀では、俺の技に干渉できる筈もなかった。

そして、手ごたえが無い事に驚いて目を開けた冥夜に俺の技が直撃すると、冥夜は苦悶の表情を見せ、口からは叫び声があがった。


「くぅぅ……、ああああぁぁぁぁッ!!」


冥夜は数瞬の間耐えていたようだが、力尽きたのか次の瞬間仰向けに倒れだした。

俺は慌てて冥夜に駆け寄り、転倒する前に何とか抱きしめる事に成功したのだった。


「大丈夫か冥夜!?」


十分に手加減をしたつもりだったが、人に向けてこの技を使った経験が少ないため、失敗したかもしれないという嫌な考えが一瞬頭を過ぎる。

たとえ全力で放ったとしても、兵士級一体を一時行動不能に陥らせるのが精一杯という威力のこの技は、
思い描いていたものと比べて威力は低いものの、冥夜に対しては強く放ち過ぎたのではないかと考えたのだ。

慌てて冥夜を床に寝かせ呼吸と脈拍の有無を確認した俺は、冥夜の体に異常が無い事に気が付き、安堵する事になる。


「・・・・・・は・・・い、体は思うように動きませんが、大丈夫だと思います。
 それよりも兄上……、無現鬼道流に……あのような秘奥義が?」


俺は、冥夜の体調を気遣いながらも、紅蓮師と自分との会話を思い出しながら冥夜に技の事を語る事になった。


「自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ。
 紅蓮師が見せてくれた技を我流で身に付けたものだ・・・・・・。

 上手くできていなかったが、冥夜も一度だけ鍛錬を見た事があっただろう?」


「……、畏れ入りました。
 この冥夜、剣術でも戦う術でも、未だ兄上の足元にも及びません。」


「気にするな、俺の方が六年近く早く生まれているんだ。
 同じ歳の時と比較すれば、それほど大きな違いは無いよ。」


「そのような事はありません!
 兄上は幼き頃から無現鬼道流以外にも、財閥の仕事や勉学にも励んでおられたではないですか。
 それに比べて私は…、私は…。」


「財閥の手伝いはさせてもらえず、漸く大学に上がったばかりだと言いたいのか?」


俺の言葉に冥夜は小さく頷いた。

確かに14・5歳の時の俺と比較すると、冥夜は総合的な能力では劣っていると見えるかもしれない。

しかし、俺自身がチートとも言える能力を有して生まれてきた事を考えると、家系が少し特殊なだけの冥夜と俺を比較する事自体が間違いだと思うのだが、
そのような説明をするわけにもいかないうえ、生真面目な冥夜ではその事を伝えても納得してもらえないだろうという事は容易に想像できた。

俺は少し考えた後、言葉を選びながら冥夜に自分の思いを伝えて行った。


「冥夜…、俺を目標にする事は構わない…。
 でも、俺と同じになろうと言うのならそれは間違いだ。
 人はどんなに努力しても、他人には成れない。
 成れるのは自分自身だけだ。

 それに、一つの結果を目指すにしても、その過程には色々な選択肢が存在するんだ。
 そこで、偉い人が言うのだからと言って、全ての人が同じ過程を歩みだしたらどうするんだ?
 もしその選択肢が間違っていたら…、そこで全てが終わってしまう。
 そうならない為の多様性であり、生物は多様性を持つ事で生き残り、繁栄を続けてきたんだ。
 つまり、俺には出来なくても、冥夜にできる事が必ずあるはずなんだ。

 それと、俺は世間が言うような天才じゃない。
 俺が思うに・・・真の天才とは、まったく新しい発想で常識を覆すような事が出来る者の事を指すんじゃないかな。
 俺がやっている事は、世界に溢れている現実の中から、使えるものを拾い集めているだけで、
 まったく新しい発想をしているんじゃないんだ。」


「それでも・・・冥夜は、少しでも早く兄上のようにこの国を守る力と成りたいのです。
 ・・・そう考える事は、いけない事なのでしょうか。」


「冥夜は、自分が努力を怠っていたと感じる事があるのか?」


冥夜は突然の問いかけに、一瞬戸惑いの表情を見せていたが、直ぐに首を大きく横に振った。


「・・・願いは思うだけじゃ叶わない。
 それに向けて行動を起こした者だけが、願いを叶える事が出来るんだ。
 なら、既に行動に移している冥夜が焦る必要は無い。
 大丈夫・・・、直ぐに努力に見合った結果が出るよ。」

 
「はい・・・、兄上。」


冥夜は俺の話を聞いて、幾分落ち着きを取り戻した様子だった。

俺は、この様な内容の話を、更に十分近く話し続けた。

冥夜は、俺の話に対して静に相槌を打ち、飽きる様子も見せずに最後まで話を聞いてくれた。

そして、俺は最後に自分の話をまとめる事にした。


「色々言ったけど、俺が言いたい事を簡潔にまとめると……。

 俺は冥夜自身の事が大好きだから、他人の事をあまりを気にせず、ありのままの自分でいて欲しいと言う事だ。

 それに……、俺が心眼を使えるようになったのは15の時だから、それより早く使えるようになった冥夜は俺より才能がある……。
 自信を持っていいと思うぞ。」


俺は、締めくくりの言葉を言うと同時に、真剣な目で冥夜を見つめた。

冥夜の返事を待つ間、悠陽も同じ事になっていないかという心配が頭を過ぎる事になった。

悠陽と直接会うのは早々出来そうではないので、手紙でも書こうと考え始めた所で、冥夜が動き始める。


「兄上、ありがとうございます。
 なにやら胸のつかえが取れた気がします・・・。」


冥夜はそう言いって体を起こした後、静かに静に立ち上がった。

冥夜が立ち上がる時に見せた顔は、頬が赤く染まっており、兄とは言え異性に抱きしめられていた状況に、
恥ずかしい思いをしていた事が容易に想像できた。

俺は、腕にかかっていた温かみと重みが無くなった事と、冥夜がこれ以上の自分との接触を避けた事に寂しさを感じながらも、
冥夜に合わせる様に立ち上がる。

そして、改めて向かい合った俺たちだったが、次の瞬間冥夜は俺に対して頭を下げてくる。


「兄上、ご挨拶をするのを忘れておりました・・・・・・。
 お帰りなさいませ。」


「ただいま・・・、冥夜。」


冥夜の言葉を聴いて、改めて実家に帰ってきた事を実感する事になった俺は、緊張が和らぐ瞬間を実感する事になった。

その後、俺たちは一度汗を流す為に分かれ、再び合流した後は夕食が始まるまでの間、互いの生活についての会話を楽しんだのだった。









祖父と母が帰宅した後、冥夜と俺を含めた4人で夕食を取る事になった。

夕食の間は、互いの近況報告や世間話が中心の会話が行なわれ、まさに一家団欒の場という言葉が相応しい食事風景となった。

そして、食事が終わった後の時間を利用して、俺は祖父に対して政治的なお願いをする事にした。

実家に帰ってきたのは、家族と過ごす時間を取りたかった事もあったが、祖父にやって貰いたい事があったのだ。

その場には、夕食の直後と言う事もあり、祖父以外にも母と冥夜がいた。

経済界の重鎮である母と一般人である冥夜の前で、政治的な話をするのは問題かと思ったが、聞かれては拙い内容では無かった事と、
冥夜にとっては勉強にもなるだろうという思いもあり、祖父の許しを得た上で母と冥夜が同席するこの場で、話し合いをする事になった。


「…信綱、お前がワシに頼みごとすると言うのは珍しい……。
 孫の頼みを聞くのはやぶさかではないが、事が政治的な意味を持つものであればそうはいかん。
 ワシに出来るのはお前の話を聞き、良いと思った事をするだけじゃ。」


「お願いする相手は慎重に選んでいるから、祖父さんが受け入れられない話を持ってくる事なんてしないよ。
 それに以前も言ったように・・・・・・、
 賛成してくれるまで説得を続けますのでご安心下さい。」


祖父の言葉に対して、おどけた様に言った俺の言葉に祖父は、一瞬だが嫌そうな表情を見せた。

その瞬間の祖父は、以前斯衛軍の戦術機選定の件で行なわれた長時間に及ぶ説得の末、御剣家が積極的に行なう事がなかった、
政治への介入を行う事になった件を思い出していたのかもしれない。

御剣家が歴史上政治への関心を示さなかった事に対して、そういう処世術だったのだろうと納得できる部分がある一方で、
歳費をもらっていないとは言え、貴族院に名を連ねている者として仕事をする必要はあるだろうという考えも有った俺は、
たまにこうして政治の話を祖父に振るのだった。


「まず一つ目は、九州と同じように中国地方も避難勧告を行えないか? という話です。

 1996年に行なった九州全域に対する第2種退避勧告は、重慶ハイヴ(中国領)のBETA群が太平洋沿岸に到達した事を受けて発動したもので、
 今年に入り光州作戦によって大陸から戦力が撤退したため、第2種から第4種に危険度が引き上げられました。
 それに対して、99年初頭まで鉄原ハイヴ(韓国領)からの侵攻は無いという予測により、中国地方への勧告が未だに出されていませんが…。
 俺は、早めの勧告を行った方が良いと考えているのです。」


「だが、勧告を出せばその地域の経済活動が滞る上に、民にとっても大きな痛手となる。
 帝国も民も長年の戦争に疲弊して余裕が無い状況じゃ、慎重に対応する必要がある・・・。
 それに、対応するにしても勧告を出すのは内閣の仕事じゃから、ワシが出来る事は限られておるしの。」


「…勧告を出しても半年以内にBETAの侵攻があれば、経済的損失は最小限に抑えられます。
 この勧告は軍事的な面で自由度が増える効果を狙ってはいますが、最も重要なのは民の被害を最小限に抑えられるという事です。
 経済的損失なら、最短で4~5年ほどで埋め合わせが出来ますが、人的損失を取り戻すのにはその10倍以上は時間がかかります。
 それを考えれば、少し早いかも知れませんが退避勧告を出すのが最善でしょう。」


「信綱が言いたい事が分からないわけでは無いのじゃが……。
 お前はBETAが西から…、それも予想より早く侵攻してくると考えているようじゃな。
 お前がそう考えた根拠を申してみろ。」


ここで祖父が言いたいのは、帝国は樺太でもBETAと対峙しており北から侵攻される恐れもある事と、重慶ハイヴ(中国領)から侵攻を受けた場合は、
九州が盾になる事で中国地方の避難が間に合うという試算があるため、建造されて間もない鉄原ハイヴ(韓国領)からの侵攻が無い限り、
中国地方の勧告は必要ないという事なのだろう。

ここで、未来がそうなるのだからそうした方が良いと言えれば、どれほど楽だろうと頭の中で愚痴をこぼす事になった俺だったが、
病院のベッドに縛り付けられる可能性がある選択をする訳にはいかず、以前からそろえていた資料を頭に思い浮かべながら説明を行なう事になった。

俺がこの場で説明した内容をまとめると以下のようになる。

1.日本帝国本土へのBETA群の侵攻ルート

 重慶ハイヴ(中国領)から九州の西側への侵攻:
 建造が開始されて5年がたっている上に、1995年にマンダレーハイヴ(ビルマ領)が建造された事を受けて、
 海を挟んだ台湾と日本のいずれかにしか侵攻ルートが無いため、今のところ帝国軍が最も警戒しているハイヴ。

 鉄原ハイヴ(韓国領)から北九州及び中国地方の日本海側への侵攻:
 日本に最も近いハイヴであるが、建造されて間もないためこのハイヴからの侵攻は、まだ時間があると考えられている。

 ブラゴエスチェンスクハイヴ(ソ連領)から樺太への侵攻:
 鉄原ハイヴ(韓国領)より一つ前(19番目)に建造されたこのハイヴは、日本帝国の本土が始めて相対する事になったハイヴであるが、
 まだそれほど大きくなっていない点や、BETAが海を渡るよりも地続きに侵攻する事が多い事から、まだソ連が大陸でBETAとの戦闘を続けている間は、
 大規模侵攻を受ける確率は低いと考えられている。

 欧州での英国へのBETA侵攻時の状況を参考に考えると、BETAは地続きに侵攻する事を優先し、海を渡る行為は侵攻する順番として高いわけではない。
 そして、海を渡るにしても陸地からの距離が近い場所を優先している事が分かっているのだ。
 したがって、帝国軍の考えとは異なり、俺が考えた危険度は①鉄原ハイヴ(韓国領),②重慶ハイヴ(中国領),
 それから大きく離れて③ブラゴエスチェンスクハイヴ(ソ連領)という順番となっている。

2.日本帝国本土へのBETA群の侵攻時期
 
 BETAの侵攻は、その支配地域の拡大と共に早まってきており、もし後方のハイヴからの増援があれば、
 鉄原ハイヴ(韓国領)は建造開始後間もない事が災いし、保有BETA数が直ぐに臨界に達する事で、BETAの侵攻が開始される懸念がある。
 そのため、99年初頭まで鉄原ハイヴ(韓国領)からの侵攻は無いという帝国軍の試算は、鉄原ハイヴ(韓国領)の成長だけを考慮したものである事から、
 楽観論に過ぎずその予想は大きく外れる可能性があった。


こうやって、いくつか理論的な意見や統計から分かる事を並べていったが、結局の所は勘と応えるしかなかった。

しかし、光州作戦でも勘でBETAの地下進行を見つけたという噂がある事や、子供の頃から驚異的な危機察知能力を持っている事を家族全員が知っていたため、
呆れられると同時に妙に納得したと言われる事になった。

この説明の結果、経済的な面や防衛に関する問題であるので、全てを鵜呑みにする事は出来ないと言いながらも、
中国地方も段階的に警戒レベルを上げるように働きかけると言う約束を、祖父から取り付けることに成功したのだった。


「二つ目は、開発中の不知火弐型が思った以上に優秀な機体である事が分かったので、斯衛軍で採用してもらえないか?
 という話です。

 その理由は、以前の不知火壱型乙と同じになりますが、あの時と比べると一つだけ違う要求があります。
 それは、不知火弐型乙を開発するのでは無く、そのまま採用して貰いたいというものなのですが・・・・・・。」


「・・・・・・信綱、それは流石に難しい話じゃ。
 ワシも、斯衛軍専用戦術機について思うところはあるが、瑞鶴以降 斯衛軍の戦術機は専用の機体を開発するという、
 暗黙の了解が出来てしまった・・・・・・。
 不知火の改修機が決まった後、せめて名前だけでも不知火から変えようとする愚か者がおったほどじゃ。
 それに専用機の廃止は、斯衛軍自体からの反発も予想されるだけに、なかなか根が深い問題じゃ・・・・・・。」


「しかし、壱型乙の事を考えると弐型の改修に踏み切れば、制式採用まで二年以上の月日が必要になります。
 それでは、高機動型の壱型乙と同等性能でコストを安く抑えられる、という利点が生かせない・・・。
 更に生産が軌道に乗るまでに人と時間,資金が必要になる事を考えれば、斯衛軍専用機を開発する余裕など日本には残されていません。
 
 不知火や吹雪の時と同様に、何れ弐型の優秀さは世間に知られる事になります。
 斯衛軍に対しては、専用色と色に合わせた改造が許可されれば、大きな反発は無いでしょう。
 彼等も優秀な機体が多く配備される事を望んでいるのですから・・・・・・。
 それと、予算が減る事で反発するであろう、官僚に対しては、別で行われている戦術機開発計画に参加するために、
 予算を付けるという対応も可能です。
 幸いにも、予算をどの省から分配するかで、もめていると話を聞きましたし・・・。」


ここで、上げた別で行われている戦術機開発計画とは、ある事を目的とした専用の戦術機を開発する為に、
御剣重工と光菱重工,富岳重工と河崎重工の2チームに別れて開発が行われている極秘計画の事であった。


「そう言った小細工は好かんのじゃが・・・。
 いかにも榊が喜びそうな話じゃから、そっちに話を振るのが最善か・・・。」


「榊?」


俺は、祖父の言葉を聞いて疑問に思った単語を何時の間にか呟いていた。

それに反応して、祖父は内閣総理大臣の榊だと返してきた。

そこで榊総理の事を尋ねると、どうやら以前の斯衛軍主力戦術機選定の件で接触があり、予算を浮かしたかった榊総理と共闘する事になった話や、
最近も彩峰 中将の件で思うところがあったのか、俺が勲章の授与式で殿下と話した内容を暗に評価していたという話を聞く事になった。

榊総理は、クーデター事件の事を考えると下士官に受けが悪い、軍に対して批判的な堅物の政治家としてのイメージが定着していた。

しかし、祖父の話を聞くとどうやらそうでもないらしいという事が分かる。

榊総理は、政治に対して柔軟な考えを持ち、人の意見をしっかりと聞くリベラルな思想の持ち主であったのだ。

尤も、政威大将軍を政治に参加させないという考えや、軍事以外の政策にも力を入れている事や、
既得権益を認めないという頑固な思想を持っている事から、旧来の勢力に属する者や一部の軍関係者からの受けは悪いようだった。

つまり、頑固な点は共通しているが、保守的な印象があった娘とは逆の考え方だったと言う事だ。

いや・・・、どっちらかと言うと、父に反発して娘が保守的な考え方になったと見るべきなのだろうか。

どちらにしろ、俺としてはこういう大物の協力を得る事ができれば、話が早いので大助かりだった。

それに・・・、


「将来の事を考えると……、仲良くしておくのが吉か?」


「どうしたのじゃ信綱、急に黙り込んだと思ったら突然・・・。」


「いや、何でも無いよ。
 個人的な事でちょっと・・・・・・。

 俺からのお願いはこれで終わりだよ。
 資料は後日祖父さんの部屋に送れば良いだろ?」


「そうじゃな、そうしてもらえると助かる。
 特に榊と話すには資料が無いと始まらんからの・・・。」


「じゃあ、そういう事で政治家の方は祖父さんに任せるよ。
 俺は、地道に知り合いに手紙を書くくらいしか出来ないからね・・・。

 そうだ冥夜、さっきまでの話で何かわからない事は無かったか?
 俺が特別に教えてやろう。」


俺の言葉で和やかな雰囲気に戻った部屋では、その後冥夜から次々と出される質問に対して、
機密を誤魔化すために必死になって言葉を選びながら受け答えする俺と、それを楽しそうに眺める祖父と母の姿が有った。

こうして夜は更けていき、夜遅くまでこの団欒の場が解散する事は無かったのだった。








1998年 5月

横浜で不知火弐型のテストパイロットとして忙しい毎日を送っていた俺に対して、軍事法廷から召喚状が届いた。

もちろん俺が被告人としてではなく、数日前に始まった彩峰 中将に対する軍事裁判に証言人として呼ばれたのだった。

俺は多くの傍聴人が見つめる中、検察官役の人物と弁護士からの質問に答えていく事になった。

二人から問いかけられた内容をまとめると、『BETAの地下進行は、貴方以外でも察知できる可能性があったのか?』
という一つの事に集約する事が出来た。

これに対する俺の応えは、

①共同作戦を取っていた部隊の錬度を考えると、積極的に前に出ることは躊躇われたため、試験部隊の独自権限で初期展開位置に待機していた。
②初期展開位置でも、数時間以内に共同作戦を取っていた部隊の射程圏内にBETAが侵攻してくると予想していたため、
 実戦データの収集に支障は無いと考えていた。
③時間の余裕があった事で、各種センサーのデータを見ていた時、違和感を覚える振動波形を確認。
④BETA出現の十分前に、最新のセンサーを持つ機体が砲弾の爆発とは異なる振動波形を感知。この時の地下進行の可能性20%。
⑤感知と同時に、国連軍及び帝国軍に対して報告を行なう。
⑥BETA出現二分前、地下進行の可能性が50%程になった事を確認後、再度報告を行なう。
⑦BETA出現一分半前、報告が黙殺されていると判断し、全回線(オープンチャンネル)での警告を開始。
 この時、報告が司令部まで届いている事は確認できず。
⑧BETA出現30秒前、一般のセンサーにも分かる、明確なBETAの地下進行による大規模振動波形を感知。
⑨大規模振動波形の感知と同時に、全回線(オープンチャンネル)での警告を中止し、臨戦態勢へ移行。

したがって、作戦当初の予測ではBETAの地下進行は無いと判断されていた事、
地下進行の振動波形を捉える事が出来たのは部隊が最新のセンサーを有し、多くの振動波形を見てきた経験を持つものが居た事、
作戦行動を取っていない待機状態で有ったため、センサーの性能を最大限発揮できる状況だった事から、
我が部隊が光州作戦に参加した部隊で、唯一地下進行を察知できる部隊だったと結論付ける。

と言うものだった。

この中には、未来を知っていたとか勘で当たりをつけていたといった余分な内容や、彩峰 中将を擁護するための嘘は一切無く、
まさに真実しか語っていなかった。

俺の証言は、検察官と弁護士双方にとって満足する内容ではなかったようだが、一瞬目を合わせることになった彩峰 中将は、
他人に気が付かれない程度に頭を傾け僅かに目を閉じた。

俺はそれを見て、これで良かったのだろうと心の区切りを着ける事が出来たのだった。

1998年6月、全国民が注目していた公開軍事裁判の判決がついに出される事になる。

その判決は有罪。

彩峰 中将は、国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍を、国連軍の承認を得ずに動かした事が、抗命罪(こうめいざい:軍人、軍属が上官の命令に反抗し、
または服従しない罪)に当たると判断され、禁錮10年の刑が言い渡される事になった。

刑罰の求刑前に裁判長役の国防大臣より発言を促され、彩峰 中将は静かに語りだした。

軍を動かすと決めた時点で銃殺刑を受ける事も覚悟していた事、自らの力不足によりBETAの侵攻が読めなかった結果、
国連軍の将兵に犠牲が出ることになった事に対して謝罪を行いたいという事を語った後、こう言って話を締めくくった。


「人は国のために成すべきことを成すべきである。
 そして国は人のために成すべきことを成すべきである。」


この時、彩峰 中将が何を思ってこの言葉を発したのか、後に議論が巻き起こる事になったが、
一般的には複数の意見に別れ、結局結論が出ることは無かった。

ただ、彩峰 中将に近い人たちは静に涙を流したという話が伝わっているだけであった。

彩峰 中将に判決が下された後、銃殺刑を免れた事に安堵する俺に、多くの関係者から手紙が届けられた。

その内容は、俺に対して肯定的なものも否定的なものもあったが、全ての手紙に対して自らの考えを綴った手紙を返信していった。

これで俺の知っている未来と大きく変わってしまい、クーデターの件がどうなるのかは予想できなくなった。

しかし、事が起こるなら裁判に関った俺に対して、何らかのアクションがされるはずだと考え、
この件に関してはしばらく放置の構えを取る事にしたのだった。




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コメント


皆様、いつもご意見・ご感想・ご指摘・ご質問の数々を感想板に書き込んで下さり、ありがとうございます。
設定集の投稿すらできず、三週間近く更新が無かった事、申し訳なく思っています。

今週は、有休の力を借りて何とか新話の投稿にこぎつける事ができました。
ただし、前回予告していた本土防衛戦突入ですが、最低限必要な描写を絞り込む事が出来ず、
突入の手前までしか話を進められませんでした。
しかし、次回からは間違いなく突入できそうですので、ご安心下さい。

今回漸く、光州作戦の悲劇に一区切りを付ける事が出来ました。
彩峰 中将への判決は、敵前逃亡で銃殺刑ではなく抗命罪での禁錮10年としました。
敵を目前にしての抗命罪は、最低禁錮10年最高死刑も有り得る重い罪状です。
原作を考えると刑が軽すぎる気もしますが、国連軍への被害が大きくない事と、
光州作戦で帝国軍部隊が活躍した事を考えると、これくらいで妥当ではないかと考えました。

それと、旧日本軍の軍刑法を調べてみて思ったのですが、主人公が行なった警告はもしBETAが現れなかった事を想定すると、
予想以上に重い刑が課せられる行動だという事が分かりました。
必死に部下が止める描写が必要かと検討している所です。

次回の投稿ですが、2週間以内に出来る予定です。
最近投稿が遅れる原因を考えてみたのですが、
1.アニメに気を取られる→投稿当初からアニメは見ていた。
2.プロットが尽きた→投稿当初からプロットは極薄。
3.文章量が増えた→初期はtxtデータで15KBだったのが、前回と今回は30KB・・・。
どうやら3番目に原因がありそうです。

投稿ペースが落ちた事で、じっくり考えているせいか勢いが無くなっている気がしています。
チラシの裏への投稿だという事を考えると、もう少し冒険する事も大事だと思うので、
今後は考えを切り替えて、早めの投稿を心がけたいと思います。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


ナイフシースを廃止して固定武装・・・。
武御雷にナイフシースやそれに変わるカナードが取り付けられていない事を考えると、
それも一つの手段なのかもしれません。
今後どのように扱うか考えてみたいと思います。

対レーザー蒸散塗膜加工装甲を跳躍ユニットに広げる・・・。
コスト的に難しそうな事と、足がないと結局バランスが取れず跳躍できそうにありません。
私が弐型で出した回答は、肩のスラスターを大型化して跳躍ユニットが一基1機破損しても跳躍が可能にする、
と言う物でした。
何処を優先的に守るか、コストはどうするのか、色々検討する課題が多そうです。

ヘリコプターを機械化歩兵装甲化・・・。
ヘリコプターの方式では、光線級が出てきた時に空を飛んでいると瞬殺されてしまいそうです。
低空だと要撃級の餌食ですし・・・。
しかし、大空寺とES(Exoskeleton)の開発をすると言うのはありかもしれません。
検討した事がなかった課題ですので、少し考える時間をいただきたいと思います。

究極のワンオフ機・・・。
基本的に数は力なりを実践したい主人公ですので、よっぽどの事が無い限りワンオフ機を作る事は無いと思います。
そう・・・、よっぽどの事が無い限りは・・・。

F-23の魔改造&武御雷モドキ・・・。
何処で登場するかは明言できませんが、YF-23はどこかで登場する予定です。
そこで魔改造をしているという設定を着ける事は可能なのですが・・・。
どのような事になるか楽しみにお待ち下さい。
それと、武御雷モドキは登場させる事は有りません。
その理由は・・・・・・、この話の中にヒントが隠されているのかもしれません。


更新がよく遅れる私ですが、これからも頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。



[16427] 第22話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 23:50

1998年6月

横浜で機体のデータ取りと問題点の洗い出しを行なっていたロンド・ベル隊に対し、
帝国軍から山口県の瀬戸内海側に面する防府基地に移動するよう命令が下った。

テストで得られるデータをある程度取り終え、実戦に投入する事を検討し始めた時に出されたこの命令は、
色々な思惑の末に出されたものだった。

始めは、北九州地区や山口県にある最大の基地である岩国基地への移動が検討されていたが、
前者はこれからも機体の開発が続けられる事を考えると、多くの研究員を最前線になる九州に置く事に難色を示す者がいた事、
企業を通して俺が同じような理由で反対の意見を出した事で却下され、後者は在日米軍も利用する施設であるため、
情報が流出する事を恐れた政府の要望で却下される事になった。

そこで、陸上及び海上ルートの両方で九州への移動が容易である事、中国地方にBETAが侵攻してきた時に上陸地点と予想される日本海側から距離があり、
BETAの直接侵攻を受けない事から、機材を避難させる事が出来る事が評価され、防府基地への移動が決定されたのだ。

防府基地への移動が決定したロンド・ベル隊は、運用する機体の種類を減らすために吹雪改のデータ収集を他の部隊へ移管し、
移管した吹雪改と同数の不知火改の補給を受ける事となった。

そして、正式に防府基地へ移動した後は、現地で対戦術機戦のデータ収集の名の下に他の部隊との演習に明け暮れる事になる。

また、6月に入った時点で中国地方には第2種退避勧告が発令され、民間人の避難が一部で開始されるという動きも始まっていた。

この一連の流れは、俺にとって喜ばしい事の連続だった。

なぜなら、後の歴史を考えると九州でどんなに足止めしようとも、日本帝国の首都である京都を守る事は出来ないという結論を出していた俺は、
中国地方への配属と同地区の部隊強化及び、民間人の避難を望んでいたからである。

そう、この時の俺はBETAの本土進攻を京都以西で抑え込み、日本帝国の工業力と日米同盟を維持しようと考えていたのだ。

この考えは、これからの未来がわからなくなる事と、オルタネイティヴ4成功の可能性が下がるという2つのデメリットを抱えていた。

だが、使えるか分からないが一応作っていたクソゲー集が完成した事、順調に日本帝国が戦力を整えていた事、
新型戦術機の開発が予想以上に進んでいた事、光州作戦の結末が記憶にある歴史とは変わった事等、
様々な要因が重なった事で、ここが未来を大きく変える時だと覚悟を決めていたのだった。

俺はその考えに沿って、九州・中国地方から御剣財閥の関連会社を他の地域に移転させる事で、その会社に所属する社員及びその家族の避難を促し、
西日本を中心に実験部隊を配備する事で、それを口実にして西日本の戦力を充実させるように軍に対して働きかけを行なっていた。

始めは御剣財閥単独だったこの動きも、あからさまな動きに危機感を覚えた他の財閥から一部で同調する動きも出てきたため、
予想以上のスピードで準備が整えられつつあったのだ。

しかし、この時の考えがまだまだ甘いモノであった事を、俺は後に思い知らされる事になる。

ロンド・ベル隊が防府基地に移動してから一月が経ち、隊員が自分達は教導隊ではないのにと愚痴をこぼし始めていた7月7日、
まったく想定していなかった九州への超大型台風の上陸と共に、対馬へのBETA侵攻が開始されたのだった。









7月7日

この日のロンド・ベル隊は、強風下における機体の運動性の変化に関するデータを取るため、模擬戦を中止し慌しく準備を進めていた。

其処に、軍団規模のBETA群が対馬に接近しており、約二時間後に対馬への上陸が開始されるという情報が舞い込んできた。

対馬は、朝鮮半島と九州の丁度中間に位置する大きな島で、朝鮮半島から北九州地区・中国地方にBETAが侵攻してきた場合に、
真っ先に戦場になる事が予想されていたため、帝国軍もそれなりの戦力をそろえてBETAの侵攻に対する防御を固めていた場所である。

しかし、それでも衛星等でBETAの侵攻を事前に察知し、北九州地区や中国地方の基地から援軍を出す事が対馬防衛の前提となっており、
今回の様に超大型台風が九州及び中国地方全体を覆い、援軍はおろか艦艇による支援すら出来なくなる状況は、まったくの想定外であったのだ。

まさにこの報せは、凶報と言ってもいい最悪のものだった。

唯一の救いは、数日前から台風の雲に覆われていたため衛星による偵察が不可能であったが、
事前に海中にばら撒かれていたセンサー網がBETAを感知した事で、対馬への上陸が開始される前にBETA群の接近を察知できた事である。

対馬に所属する部隊は、援軍が絶望的な状況に陥っている事を理解しながらも、残された時間を使って防衛線を構築、
圧倒的な数で押し寄せるBETA郡に対し、実に半日の間対馬を防衛する事に成功する。

この対馬での攻防は、対馬に所属する部隊が消滅するという悲惨な結果と引き換えに、帝国軍が予想していた防衛可能時間に対して、
倍以上の時間を稼いだのだった。

そして、対馬を突破したBETA群は、数時間後にはその数を師団規模に減じながらも、長崎及び佐賀県に上陸を開始した。

それに対して、対馬の敵討ちに燃える帝国軍 西部方面軍 九州地区の部隊は、
上陸した師団規模のBETA群を僅か数時間で撃破するという圧倒的戦果を収めることに成功する。

この圧倒的戦果は、海中のセンサー網と対馬の部隊によってもたらされた16時間近くの貴重な時間を使って、
今回のBETA侵攻にあわせた戦線を構築できた事で得られた結果だった。

このBETA群の侵攻の間、俺達ロンド・ベル隊は防府基地内のブリーフィングルームで待機していた。

台風の影響で九州への移動が容易ではなかった事と、中国地方北部(山陰地方)にBETA群が侵攻する可能性が0ではなかった事から、
待機命令が出されていたのだ。

九州地区の防衛成功の報を受けた俺は、対馬に所属していた人の冥福を祈りながらも、防衛が成功した事に対して安堵する事になった。

しかし、安堵したのも束の間、嫌な予感が頭に浮かぶ。

それは、未来知識とBETA戦での経験から、不知火の早期導入や吹雪の制式採用があったとはいえ、
『マブラヴ』において数日間で西日本が壊滅したBETAの侵攻が、この程度で有った筈が無いと感じていたからだった。

俺は自分の考えと勘を信じ、研究チームを一時退避させる事を決定した。

基地に残すのは、機体の整備に必要な人と機材を中心にして、データ収集に必要なものは最低限にし、
それ以外は更に後方の基地に移動させる事にしたのだった。

その後は、台風の影響が残る中で再びBETAが侵攻する事が無いようにと、半ば祈るような気持ちになりながらも、
俺はロンド・ベル隊による強風下における機体の運用データの試験を再開したのだった。






7月9日

BETAの対馬侵攻と九州での迎撃成功から二日後、貴重な機材の積荷が完了し、台風の中準備が出来た人から後方の基地へと移動が開始した時、
九州の西と山陰地方の北の海域でBETA群の接近が感知された。

海中のセンサー網から得られた情報を解析すると、接近するBETAの戦力は両方とも軍団規模以上を示しており、
その上陸予想時間は3時間後にほぼ同時に行なわれるという事が分かった。

この情報は、帝国軍に二日前のBETA侵攻以上の衝撃を与える事になった。

九州西部へのBETA侵攻に関して同地方の帝国軍は、二日前のBETA侵攻により九州北部に集中させた戦力の再分配が完了しておらず、
残り3時間では有効な戦線を構築できる状況では無かった。

そして、山陰地方へのBETA侵攻に関しては、山陰地方には九州ほど戦力が配置されていなかった事から、台風によって海上戦力が無力化された今、
戦線を維持できる可能性は極めて低くかった。

更に、沿岸部を突破された後は、九州とは異なり第2種避難勧告に止まっていた事ために、内陸部では未だに多くの民間人が居住している事から、
民間人保護を考えると戦術の自由度が大幅に制限される事が予想されていたのだ。

帝国軍は、各地域で防衛線の構築を開始すると共に、内閣に対して民間人の避難を開始と国連軍及び在日米軍に協力を求めるよう、要請を出す事になる。

BETA上陸まで残り2時間を切った時、日本帝国政府から九州及び山陰地方に対して、民間人の完全避難を行う第5種避難勧告、
山陰地方以外の中国地方に対しては第4種避難勧告を発令、それと同時に国連軍及び在日米軍に出動要請を行なった事が、国民に対して発表されたのだった。

これらの動きは、素早い対応と評価できる動きだった。

しかし、政府がいくら素早い対応をしても、現場はその要請に応える事が出来なかった。

1996年に第2種,1998年に第4種,そして今回の第5種と段階的に避難勧告のレベルを上げていた九州地区では、避難する人数が減っていた事もあり、
台風による暴風雨の中でも比較的順調に避難が行なわれる事になったが、僅か数ヶ月の間に勧告のレベルが急激に引き上げられた中国地方では、
多くの混乱が生じていた。

中国地方では、我先にと非難を開始する人が出た事、家財道具を運び出そうとした人がいた事、車の乗り合わせをせず一人で一台の車に乗る者がいた事、
台風で寸断された道路が有った事、その他様々な要因が重なり、中国地方各地の道路で大規模な渋滞が起こったのだ。

そして、その渋滞は民間人の避難が遅々として進まないどころか、軍の車輌の移動すら遅れるという状況を生み出す事となった。

その頃、防府基地に所属していたロンド・ベル隊は、島根県西部(山口県との県境近く)を中心とした山陰地方のBETA上陸地点へ移動し、
迎撃を行なう作戦を立てていたのだが、道路の渋滞によって車輌での戦術機の輸送が不可能な状況に陥っていた。

そのため、台風による強風で跳躍による戦術機の移動が困難である事から、戦術機の走行による移動を行なっていたのだが、
時間までにBETA上陸地点に到着する事は絶望的だった。

其処で俺は、同じく時間までにBETA上陸地点に到着出来ない部隊と合流し、臨時の部隊を編成する事にした。

ロンド・ベル隊は、この地域で多くの演習を行なっていた事から、合流した部隊とも顔見知りの事が多く、問題なく溶け込む事が可能だったのだ。

臨時部隊が移動を再開し、上陸予想地点まで直線距離で残り40kmに迫った時、BETAの上陸予想時刻を迎える事になった。







山陰地方に上陸するBETA群の迎撃作戦は・・・・・・、
大きな戦果を残す事無く、迎撃作戦に参加した部隊の壊滅という結果を迎える事になる。

上陸するBETA群の迎撃は、二日前に九州北部で行なわれたように、十分な戦力を配置して完全な迎撃を行なうか、
戦力が整っていない状況でも、迎撃しきれない一部のBETAを侵攻されても問題ない地域に導く事が求められている。

しかし、今回山陰地方に上陸したBETA群に対しては、様々な理由により必要な戦力の1/3程度しかそろえる事が出来ず、
民間人の避難が間に合わなかった事とBETAを誘導する地域も存在しなかった事から、
上陸開始前に事実上の失敗が決定していたと言ってもいい状況だったのだ。

案の定、山陰地方では戦力の薄い地域が真っ先に突破され、突破したBETA郡が迎撃部隊の背後に展開した事で、迎撃部隊は半ば包囲される事になる。

そして、包囲が形成された事を切掛けに、戦線は崩壊し僅か2時間余りで迎撃部隊は壊滅する事となった。

BETA群が防衛線を突破したとの報を受けたロンド・ベル隊を含む臨時部隊は、HQの指示に従いすぐさま迎撃に有効な戦域の選定に入り、
その場所で退却する迎撃部隊の受け入れと、BETA群に対する遅滞戦闘を行なう事が決定した。

山間部という地形を生かして先行する突撃級の背後や側面に回り、攻撃した後ですぐさま後退する事を繰り返す事で、
この戦域の遅滞戦闘は上手く機能していた。

ただし、もう一つの目的であった退却する部隊の受け入れは、まったく果たす事が出来ていなかった。

今展開している場所は、車輌が退却ルートとするには難があったが、戦術機の退却ルートとしては最適であるため、
それなりの数が退却してくる事を期待していたのだが、その思いに反して退却してくる部隊はまったく現れなかったのだ。

その事に戸惑いを感じている隊員の声を聞きながら、俺は退却してくる部隊が無い理由について、一つの仮説を立てていた。

その仮説とは、戦術機の天敵である光線属種がこの地域に進出しており、戦術機の狩場になっているのではないか、というものだった。

要撃級に囲まれたとしても、直立すると上半身を丸々さらすほど大型である戦術機にとって、
台風の影響で運動性が低下した今の状況で光線級と戦う事は、自殺行為とも思えるほど最悪な事であった。

そして、俺の仮説の裏付けるように中衛と思われる要撃級や戦車級の群れが現れると、その中には十数体の光線級が含まれていたのだった。

光線級の出現によって、山陰に隠れようとしていた戦術機がレーザー照射で破壊され、
それに慌てて噴射跳躍で移動した戦術機が着地に失敗し転倒したところを、戦車級が襲い掛かるという負の連鎖が始まっていた。

この混乱によって、瞬く間に中隊規模の撃震部隊が撃破されてしまったのだった。

撃震が撃破された理由・・・、それは機体の性能差だけの問題では無かった。

この強風下では、重い機体である撃震の方が性能低下が少なく、むしろ不知火との性能差は縮まっていたのだが、
問題は撃震に搭乗する衛士にあったのだ。

現在帝国軍では、第3世代機である不知火,吹雪への機種転換が進められており、撃震に乗る衛士の多くが、
熟練した者か新人の二種類にはっきりと分けられていたのだ。

今回は、その新人衛士達が未熟さゆえに犠牲になってしまった、というのが混乱の始まりだった。

俺はその実情を見て、光線級を撃破する必要があると感じ、隊員に通達する事にした。


「ベル1(御剣 大尉)よりロンド・ベル各機へ、
 俺が斬り込み、今見えている光線級を全て潰す!
 A小隊(突撃前衛小隊)は俺の援護、
 他の小隊は作戦行動を維持しつつ、ベル2(武田 中尉)の護衛に当たれ。」


「「「「「了解!」」」」」


「ベル3(佐々木 中尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 戦いはまだ長く続きそうだ・・・、序盤から飛ばし過ぎるなよ。」


「どうしたんですか佐々木さん、訓練で強風下でも戦える事は証明してるでしょう?」


「いや・・・、こういう時に真っ先に注意する筈の武田が何も言わないから、
 釘を刺しておこうかと思ってな。
 早く仲直りしたらどうだ・・・いくら婚約者が出来たからって、
 全ての女を避ける必要は無いだろ?」


「仲直りって・・・、別にケンカをしている訳じゃありませんよ。
 それに、避けてるというか避けられているのが現状ですから・・・。」


「そういう時は、男からなんとかするもだと思うが・・・。」


「その事は、この戦いが一段落したら考えましょう。
 
 ベル1(御剣 大尉)よりロンド・ベル各機へ、
 そろそろ行くぞ・・・・・・、3・2・1・・・ゼロ!」


俺は自らのカウントの後に、噴射跳躍で空に跳び上がった。

強風下での戦術機の噴射跳躍が難しい理由、それは風が吹く方向や強さは一定では無いため、不意に風向きが変わった時に、
姿勢制御が追いつかない可能性があり、下手をすれば即失速や転倒を招くからだった。

つまり、常に正面から風が吹いているのであれば、第3世代機でいうと最大戦速時の風の抵抗が一割り増しになるだけで、
姿勢制御自体が難しくなる訳ではないのだ。

この風向きの変化によって、一般の衛士では噴射跳躍する事も難しくなっていた。

更に、光線級のレーザー照射の回避に欠かせないのが、常に加速度を変化させる事でレーザー級の照準を外すという事だが、
ただでさえ難しい加速度のランダム変化を、姿勢制御が難しくなる強風下で行なうのには、かなり高い技量が求められるのだ。

残念ながら、他の隊員では強風下でレーザー照射を回避出来るほど、環境と機体に適応できた衛士はいなかった。

俺の場合は、生まれ持った騎乗の才能と勘、そして無現鬼道流の修行で身に付けた心眼の能力を使って、機体の状態と風の動きを読み取る事で、
無理やり環境と機体に自分を合わせ、邪魔にしかならないはずの風を味方につけることに成功したのだ。

空に跳び上がった赤と白のツートンカラーの不知火・弐型は、風に翻弄される訳でも、無理やり押し進む訳でもなく、
まるで風に乗っているかの様に変幻自在の機動見せる事になる。

普段は姿勢制御のスラスターを作動させる必要がある動きでも、時に風の後押しを受け,時に風に逆らう事で急加速と急減速,急旋回を繰り返し、
放たれるレーザー照射を装甲に影響がでないように、距離を取って回避して行く。

こうした余裕が有るのも、ワザと光線級に迎撃させるように砲弾を放っているA小隊の援護のお陰でもあった。

俺は着実に光線級へ接近しつつも、他の戦術機にとって脅威度が高い順に、レーザー照射の切れ目を狙って98式支援砲を斉射する事で、
強風下でありながら遠距離の射撃を成功させ、光線級を撃破していった。

光線級の直上まできた俺は、急降下で地面に着地すると同時に光線級を踏み潰し、
周囲にいた要撃級の攻撃を弐型の腕部に内蔵されているカーボンブレードを使って受け流す事で、BETAの群れの中に進入を果たしたのだった。

そして、動きを止めずに動き出した俺は、機体各部に装備されているカーボンブレードを使って、移動と同時に要撃級や戦車級を切り刻みながらも、
87式突撃砲の120mm滑腔砲から散弾を放ち、光線級をまとめて撃破していった。

突入からたったの一分ほどので、十数体の光線級を撃破する事に成功した俺は、光線級殺しの異名が伊達ではない事を証明し、
部隊の士気を上げる事に成功したのだが、迫り来るBETAの大群にとっては、ほんの些細な出来事に過ぎなかったのだ。









山間部を抜け、瀬戸内海側の平野部に達するまで、BETAに対する遅滞戦闘を行なっていた俺達だったが、
平野部に達した後もBETAの勢いは止まる事がなかった。

何とか部隊を補給が可能な位置まで下げようと、退却ルートの選定を行なっていた俺達に対して、HQから非情な命令が下された。

その命令とは、民間人の避難を支援するために、周囲にいる部隊と合流後、その場に留まって防衛を行なえと言うものだった。

戦線は崩壊しろくな補給も出来ず、民間人の避難の混乱に巻き込まれ部隊の移動もままならない状況に、
軍はこの地区での戦線の構築を諦め、もっと後方の地域で防衛線を構築する事を決定したようだった。

つまり、BETAから民間人を守る・・・文字通り盾と成る事を建前に、戦線構築までの時間を稼げと言いたいのだろう。

事実上、死ぬ事が決定したこの命令に従い、臨時編成の部隊は移動を開始したのだった。


「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 お分かりとは思いますが、先ほどの命令は独立試験部隊の権限で無視できる範囲です。
 ですので・・・。」


「中里 少尉・・・、弐型と不知火改の活動限界にはまだ余裕がある。
 それに、強風下でのデータがそろってきたから、巡航速度程度でなら噴射跳躍も可能になっているはずだ。
 ギリギリまで、彼等と共に行動しよう。」


「隊長・・・・・・。」


「中里 少尉、活動限界点の見極めは君に任せるよ。
 俺だと本当に限界まで粘ってしまいそうだからな・・・。

 ベル1(御剣 大尉)よりロンド・ベル各機へ、
 厳しい状況だが、大陸での戦いとそれほど状況は変わらない。
 なら・・・・・・、問題は無い。
 限界まで戦った後で退却を開始する。
 分かったか!?」


「「「「「了解!」」」」」


ロンド・ベル隊が合流していた臨時部隊は、周囲の部隊と合流し4個中隊と戦車中隊を有するまでに戦力を膨らませていた。

しかし、その戦力で果敢に防衛を行なうも、数万のBETAの群れに対してはあまりにも無力で、蟻に群がられた食料のように、
どんどんその戦力を削られていった。

ロンド・ベル隊は臨時部隊の主力として戦闘を行なっていたが、退却可能な限界点をむかえた時、防衛を続ける味方を置き去りにして、
退却を開始する事になった。

実戦の運用データを持ち帰るという最優先命令に従い退却を開始したロンド・ベル隊に対し、理解を示す者もいたが一部の者からは、怨嗟の声が届けられた。

俺はその声を聞いた時、それに対し隊員に無線封鎖を指示し、全ての責任は隊長である自分にあると隊員に念を押した。

その一方で、自らはその罪を心に刻み付けるように、その怨嗟の声を最後まで聞き続けたのだった。









退却開始後、ロンド・ベル隊は退却ルートに配置されていた補給コンテナから補給を受けるたびに、
可能な限りその場に留まって遅滞戦闘を繰り返しながら、一路岩国基地を目指していた。

岩国基地を目指す理由、それは戦線の崩壊を受けて防府基地から移動していたロンド・ベル隊の整備チームが、
岩国基地に移動したという報告を得ていた事と、山口県における最大の戦力が集中する基地に合流しようとしていたのだ。

岩国基地まで残り10kmのところで、前方に防衛線が築かれ多数の機影が存在している事を、視界に捉える事ができた。


「こちら、アメリカ太平洋軍 岩国基地所属のエドワード大尉だ。
 日米安全保障条約に従い、貴官らを援護する。
 基地へ急げ!」


「こちら、帝国軍 第13独立戦術機甲試験中隊 御剣 大尉。
 貴官らの援護に感謝する。」


俺は前方の防衛線から届けられた通信に対して、国際共通語である英語で返事を返した。

その後、ロンド・ベル隊、立ち並ぶ米国軍カラーのF-15C『イーグル』を飛び越え、岩国基地を目指すのだった。





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コメント

皆様、数日間に及ぶネット断ちの末、何とか更新する事ができました。
しかし、結局二週間以内と言う予告を破る事になってしまいました。
申し訳ありません。
そして、予告した更新日を守れない私に、いつもご感想・ご意見を下さる皆様に感謝したいと思います。
ありがとうございます。

最近仕事が急に忙しくなったり、定時に帰れる週があったりと、
この作品を書く時間が安定して確保でき無いために、
予定が狂ってしまいました。

毎回謝るのもあれなので、達成可能な更新頻度を目標に立てて、
それを超える更新があればラッキーというスタンスが、良いのかもしれません。
目標(仮):一月で2話の更新とかなら可能だろうか・・・。
趣味や仕事の事を考えて、目標設定をしておきたいと思います。

今回は、いよいよBETAの本土侵攻が開始されました。
原作で、九州が一月も戦えた理由と、中国地方が数日間で抜かれてしまった理由が、
しっかりと書けたら良いと考えています。

また、いくら主人公がチートとは言え、ご都合主義が過ぎれば興ざめし、
足りなければ鬱になるので、これからの舵取りが大変になりそうです。

よく更新が遅れる駄目な作者ですが、この作品を忘れずにいていただけたら、
幸いです。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


主人公の能力活用で機体にセンサー付けて出来るだけ損耗の少ない動きをさせ他の機体に反映・・・。
このご意見を見て、マブラヴとは違うアニメの設定を思い出してしまいました。
ちょっとこねた程度に仕込めば、機体の消耗を低下させる事が出来るのではないかと、
検討中です。


人間の軟骨に当たる部品を作れればいいが・・・。
動物としては、そういった部分を備える事が正しいと思いますが、
あくまでも機械である戦術機で柔らかい素材を間接に用いると、
再生しないため逆に消耗が激しくなるのではないかと考えています。
また、軟骨は機械においては油(潤滑剤)にあたるのではないかとも思っています。
しかし、何らかの方法で関節部の保護は必要ですので、よく考えたいと思います。


ナイフシースはもうカーボンブレードが多くなってきたのでBETA戦ではあまり困らないと思います・・・。
確かに武御雷では、廃止されているようです。
不知火に残っているのは、古くからの流れという事で、今後の新型機で検討してみたいと思います。


ムアコックレヒテ機関を用いてスサノオではなく、御剣の技術とオルタ計画の技術、さらに主人公のチートでグランゾン・・・。
かなり前に書いた事を再び感想板で見ることになろうとは・・・・・・。
でも、以前書いたようにグランゾンは無理ですよ・・・多分。
個人的に言うと、一騎当千は楽しいが、万夫不当とかだと飽きてしまうと考えています。


エヴァのコード・ビーストみたいなのを考えました・・・。
パニクって死ぬより敵を出来るだけ殺して死ぬほうがいい、との事ですが。
催眠等を行なったお陰で、味方を攻撃したら目も当てられないことに成ります。
それより、強制脱出→回収・機体は爆破→再起を図るといった方が、現実的だと思います。
そういった場合の処置は、原作に則った形で行きたいと考えています。
ところで、エヴァのコード・ビーストとは新劇場版・破で出て来る設定でしょうか?
残念ながらエヴァはTV版しか見たことが無いので・・・・・・。


フェニックスミサイルなどみたいに面制圧するフルオートのグレネードランチャーを作ってみては・・・。
フェニックスミサイルがどのように使われていたかが分かる資料が手元に無いため、
多くのコメントは出来ませんが、92式多目的自律誘導弾システムよりも、
面制圧能力が高い火器を戦術機に持たせたいという事でしたら、私も欲しいと考えていました。
少しだけこの作品で書いた設定で代用できると考えていましたが、もう少し検討してみたいと思います。


試作99式電磁投射砲の様な戦術機が扱うサイズだと技術的にかなり厳しいのなら巡洋艦以上の戦艦に載せる規模なら・・・・・
電磁投射砲は男のロマンですので、必ず登場させたいと考えていましたが、まさか戦火に搭載するとは・・・・・・。
たしかに現実でも、実験で船にレールガンを搭載して試射をしたという話が有りますので、
問題ない気がしますが・・・・・・、どこで活躍させるかが問題ですね。

XAMWS-24試作新概念突撃砲・・・・・
皆様、かなりお気に入りの武器のようですね。
現実でも銃剣が使われている以上、有効な兵器だという事は間違いありません。
ただし、外見から見ただけでも87式突撃砲と比べると機構や給弾方式が異なっている事が想像できます。
その点を踏まえて、本格的に検討に入りたいと思います。


皆様のご意見で、検討中のものがどんどん貯まっていっています。
どの程度採用できて、上手く話しを作れるかはわかりませんが、思いつくままに感想板に書き込んでいただけると幸いです。



[16427] 第23話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/11/11 23:29
7月9日 海底のセンサー網により、九州西部の海域で発見されたBETA群は、同日熊本県から九州への上陸を開始した。

この時九州に在住していた民間人は、二年前から自治体が準備していた複数の避難計画のうちの一つに従って、
鹿児島・宮崎・大分県への避難を開始する事になる。

九州全体が台風の影響下にある事や、山陰地方へのBETA侵攻により中国地方への避難ができない状況である事など、
避難が困難な条件が重なり合っていたが、九州に在住していた民間人が就労についている者しか居なかった事が幸いし、
一部の地域で民間人がBETA群に包囲されて全滅するという悲劇もあったものの、避難状況は中国地方よりも順調に推移して行く。

この民間人の避難が成功した事で、九州の帝国軍はある程度自由な戦略を取る事が可能となった。

そして、九州を守る帝国軍はBETA群を発見した時点で、二日前のBETA侵攻に合わせて移動させていた戦力の再編成を行い、
迎撃態勢の構築を急いでいた。

戦力の再編成を行なう中で、BETA群の九州への上陸開始時刻、熊本県の海岸沿いに展開可能と考えられていた部隊数では、
迫り来るBETA群を迎撃するのには明らかに戦力不足であることが判明する。

そこで帝国軍は、迎撃に参加する事が出来る熊本・鹿児島・宮崎県の所属部隊でBETA群の南下を食い止め、
その間に北九州に展開していた主力部隊を用いて、熊本県内で拘束されているか北上を行なうBETA群を叩くという作戦を採用する事になる。

作戦の第一段階であるBETA群の南下阻止は見事に成功し、BETA群は何かに引き寄せられるかのように北上を開始した。

しかし、作戦が順調に推移していると思ったのも束の間、作戦の第二段階の要である北九州に展開していた主力部隊が編成を整えた時、
山陰地方での迎撃が失敗し中国地方から北九州へBETA群が侵攻してくる可能性があるという報が舞い込んでくる。

北九州に展開していた帝国軍は、この挟み撃ち似合うかもしれないという状況に、
戦力を二手に分ける二面作戦を選択せざる終えなくなった。

その結果、中国地方からの侵攻を辛うじて阻止する事に成功するも、熊本から北上してきたBETA群の迎撃に失敗、
日本帝国は僅か数日間で熊本県北部・長崎・佐賀・福岡県西部を失う事になる。

その後、九州の帝国軍は台風の影響が残る間に、福岡・大分県を放棄するまでに追い詰められていった。

だが、台風が去った後九州の帝国軍は驚異的な粘りを見せる事になる。

それまでに民間人の後方への避難を終えていた事で戦術の幅が広がった帝国軍は、徹底した遅滞戦闘と塹壕戦、
活用できるようになった海上戦力を駆使し、民間人が船に乗り九州から脱出するまでの時間を稼いで行ったのだ。

帝国軍は、九州の領土が鹿児島県東部の大隈半島周辺だけという状況にまで追い詰められる事になったが、
台風が去って以降に生存していたほぼ全ての民間人を避難させる事に成功する。

最終的に一ヶ月に及んだこの九州での戦いで、日本帝国は九州に残っていた人口のおよそ2/5に当たる250万人の民間人と、
九州に所属する帝国軍の8割近くを失う事になったのだった。








7月10日

BETAの侵攻を受けた中国地方の状況を簡単な言葉で言い表すと、「最悪」の一言だった。

避難が間に合わなかった民間人、一部で残っていた大陸難民を戦闘に巻き込んだ結果、
統計データ上では既に200万人近くの民間人が犠牲になっているとされ、これからBETAが侵攻してくる地域の避難も完了していない事から、
更に多くの犠牲者が出る事が予想されていたのだ。

そんな状況の中、有効な戦闘が出来ない帝国軍は早々に山口・島根両県での防衛を断念し、日本海側は鳥取県西部にある米子(ヨナゴ)基地での防衛、
瀬戸内海側は山口県東部の岩国基地で時間を稼ぎ、広島市周辺で防衛を行うという作戦を立てる事になる。

その頃、岩国基地で簡易整備と補給を受けたロンド・ベル隊だったが、整備と補給を終えた時点で岩国基地西部の防衛線が崩壊、
可能な限り岩国基地で時間を稼いだ後、広島市の防衛線まで下がるようにと指示を受ける事になる。

ロンド・ベル隊は岩国基地防衛に参加後、退却する在日米軍機を守る殿として戦い、
無事に部隊を広島市の防衛線まで下げる事に成功する。

広島市内に入った部隊を迎えたのは、帝国軍の部隊と一向にその数を減らす気配の無い避難を行う民間人の群れだった。

ここでも、民間人の避難が成功していなかったのだ。

この状況を作り出した原因は、避難の態勢が整っていなかったとか、台風の影響があるという事も有っただろうが、
初めてのBETA侵攻を容易に退けたと世間に認識させてしまった事により、人々の中で妙な安心感が生まれていた事も、
避難が遅れている原因の一つになっていると考えざるを得なかった。

民間人の避難が遅れた事で道路の閉鎖が出来ず、広島市周辺に敷かれていた防衛線には大きな穴が開けられていた。

これを見てBETA戦の経験が豊富な者の多くが、広島市周辺には岩国基地を上回る戦力が展開しているにもかかわらず、
ここでの防衛は岩国基地と同程度の時間を稼ぐのが精一杯であると考える事になる。

もっとも、陣形が乱れているものの、漸くまとまった戦力を見る事になった実戦経験の少ない部隊では、
反撃に出ることも可能だといった内容の話が交わされている様だった。

広島市周辺で開始された防衛戦は、双方の予想を裏切り岩国基地での防衛戦の倍近い、5時間に及ぶものとなった。

防衛時間が岩国基地を上回った理由、それはこの防衛戦に4個中隊分の鞍馬が参戦し、予想以上の戦果を挙げた事にあった。

通常の戦術機が行なう二足歩行では、強風下において姿勢制御が難しくなる場合が多いが、
四足歩行を行い跳躍もその質量を動かすために四基の跳躍ユニットを使う鞍馬は、
安定性において他の戦術機を圧倒しており、なおかつ高い機動力も維持する事が出来ていたのだ。

つまり、細かな運動を行なう事で攻撃を回避するのではなく、直線の機動力と火力によって自らを守るというシンプルな戦い方が、
強風下での戦闘に適していたと言う事なのである。

その機動力を用いて、穴の開いていた防衛線を戦車部隊の援護を受けながらも素早く埋める事に成功した鞍馬部隊は、
他の戦術機部隊には無い圧倒的な火力を見せつけ、BETA群の勢いを止める事にも成功する。

結局、鞍馬が弾薬の補充を行なっている間の火力が低下する時間帯に、防衛線をBETA群に突破される事にはなったが、
BETAの勢いを一時止めた事で余裕が生まれた部隊によって、BETAの足が鈍る市街地戦を成功させた事で予想を超える防衛時間となったのだった。




広島市周辺での防衛戦の後、帝国軍は次の防衛線の構築とその時間を稼ぐための遅滞戦闘に力を注ぐ事になる。

しかし、その両方とも芳しい成果を上げる事が出来なかった。

台風と交通渋滞の影響で輸送に手間取り、次に計画された防衛線が広島市よりも100km近く後退した岡山県倉敷市周辺となったのだ。

そして、広島市防衛戦の残存部隊が遅滞戦闘を行ないながら退却を行なうも、BETA群の勢いに抗し切れず予想を上回る速度での後退となり、
ついに広島県東部で避難する民間人にBETA群が追い着くという事態を招いてしまう事となる。

その後の民間人を巻き込みながら行なわれた戦闘は、まさに地獄だった。

交通渋滞により退路を塞がれ、迫り来るBETA群の圧力に耐え切れなくなったある部隊は、BETAに対し無謀な突撃を行い、
同じ状況に置かれた他の部隊は民間人を押し退け退却を計るなど、各地で混乱が発生する事になる。

だが、どんな選択肢を取ったとしても戦術機部隊を除く多くの部隊は、等しく民間人ごとBETAの群れに飲まれていったのだ。

戦術機部隊が生き残る事ができた理由、それは道の無い場所や渋滞する道を文字通り飛び越える事が可能な兵種であるためだった。

しかし、戦術機部隊が民間人や他の部隊を無視して退却をしたかと言うとそうではなかった。

後方で補給を受けた戦術機部隊は、再度最前線へ戻りBETA群に攻撃を行なう事を命じられていたのだ。

この状況で活躍したのが、技量の高い衛士を集めて編成された不知火を駆る部隊と、安定性と高い機動力を兼ね備えた鞍馬の部隊だった。

それに対して、多くの犠牲を出す事になったのが衛士の技量不足により、強風にあおられて噴射跳躍後に転倒する事が多かった吹雪の部隊と、
そもそも退却する為の十分な機動力を持たない撃震の部隊である。

特に第1世代機である撃震は、本来なら第2・3世代機に先んじて退却する事で機動力不足を補うのが基本とする運用方法だったのだが、
第2・3世代機を温存するという軍上層部の命令により、撃震の退却が後回しにされた事で被害が拡大して行くのだった。








7月11日

広島県東部にある福山市を突破したBETA群は、岡山県まで到達し倉敷市周辺に構築された防衛線に迫った。

倉敷市周辺には、中国地方所属の部隊以外にも強風の中危険を承知の上で瀬戸大橋を渡って来た四国地方の部隊や、
遅滞戦闘を行なう帝国軍よりも一足先に倉敷市に入り防衛の準備を行なっていた、岩国基地所属の米国軍戦術機部隊も展開するなど、
予想以上に大きな戦力が集められていた。

そして、余り数は多くはなかったが、この防衛線の後方には山口・広島県での戦闘に参加し生き残った部隊も存在しており、
その生き残り部隊の中には、普段と様子が変わったロンド・ベル隊の姿もあった。

正式名称 第13独立機甲試験中隊であるロンド・ベル隊の設立理由は、最新もしく試験用に作られた戦術機及びその武装を実戦で運用し、
その運用データを収集する事である。

その部隊の中に第1世代機である撃震が紛れ込み、作戦行動を共にする戦術機が中隊の規模を超えていた事が、普段と違って見える原因だった。

ロンド・ベル隊は、これまでの戦闘で部隊長を失ったり、構成する人員が大幅に少なくなったりした部隊を援護する過程で、
それらの部隊を一時的に指揮下に置く事があった。

その中で、構成する人員が大幅に少なくなった部隊について、再編を行なうまでの間ロンド・ベル隊で預かっていたのが、
その数がいつの間にか増えてしまっていたのだ。

現在、ロンド・ベル隊とそれに同行する戦力は以下のようになっている。

機体:
不知火弐型 1機
不知火改   8機  2機小破,1機大破(機体は、衛士を管制ユニットごと救出後、S11により爆破処理済。搭乗していた衛士は軽傷。)
吹雪      6機  3機小破,1機中破
撃震      3機  2機小破

合計      18機


ロンド・ベル隊以外の者は、本来なら後方に下がって部隊の再編成を行なうべきなのだが、
その時間が無かった事や指揮系統が混乱していたため、表面上は部隊間で協力しているという事になっていた。

しかし、その中身は各部隊の最上位階級の者との話し合いより俺に指揮権が委ねられており、
実質的には一つの部隊として運用されていたのだ。


「しかし・・・、激戦区での戦闘任務が多いロンド・ベルに同行したがる部隊がいるなんて、
 思っても見なかった。」


俺は、ロンド・ベル隊所属の整備士から応急処置を受けている戦術機の列を眺めつつ、偽らざる本音を吐露した。

ロンド・ベル隊は他の部隊と比べて、偵察装備の不知火改が配備され自前のCPを抱えている事から、指揮系統や周辺情報を確保しやすい事、
整備や補給を優先的に受けられる立場である事など、所属すると大きなメリットもある。

だが、一般的に見て激戦区に投入される事を考えると、メリットを差し引いてもデメリットの方が多いと思っていたのだが・・・。


「皆、お前達の事を信用しているのだ。
 そろそろ自分の力というものを認識したらどうだ?」


俺は気配を察知していた事もあり、背後から突然投げかけられた言葉に対して平然と返事を返した。


「八木大尉・・・、そうやって持ち上げてもこれ以上出せるものはありませんよ。」


八木 岳史 大尉、今年で36歳になった撃震を駆るベテラン衛士である彼は、大陸に派兵され生き残った経歴を持つ猛者である。

しかし、入隊当時の衛士適正が高くなかった事と年齢の関係で、機種転換の優先度が低く設定されていたためその機会を与えられず、
撃震部隊の中隊長としてBETAの本土進攻を迎える事になっていたのだ。

本来なら、先任である八木大尉に指揮を取る優先権が有るのだが、第3世代機の指揮をした経験がない事と、
大尉を含む2機を残して部隊が壊滅した事を理由に、俺に指揮の優先権を譲っていた。

現在は、他の中隊から合流した撃震1機と複数の部隊の寄せ集めである6機の吹雪を一つにまとめて擬似的な中隊を編成し、
ロンド・ベル隊を支援する後衛部隊の指揮官という立場となっている。

彼の彫りの深い顔と鍛えられた肉体,短く切られた髪や日に焼けた肌からは、まさにベテランという雰囲気が漂っており、
若手が多い吹雪の衛士たちは仮の指揮官である俺よりも、彼を慕っているようである。

ちなみに、吹雪に乗る衛士たちは中尉1人,少尉5人という構成だったため、中隊規模の部隊を任せられる人材が八木大尉以外におらず、
大尉が中隊長役に納まっていた。


「軍以外に、民間からも物資を調達するお前の事だ、
 煽てれば一つや二つは何かありそうだが?」


その言葉に、俺は肩をすくめることで返事をする事しかできなかった。

俺は不足する弾薬や補修部品を調達するために、軍以外にも御剣財閥を使ったルートから得られる情報を基に、
正式にはまだ軍に納品されていない倉庫に眠る部品までかき集め、部隊の補給に充てていたのだ。

そのため、専用の整備士がいる事も手伝い、他の部隊と比べて充実した補給や整備が行なわれていた。

更に、試作品であるが新しい武装も補給物資の中に入っていた事で、八木大尉が他にも何かありそうだと考える事になったのだろう。

しかし、俺にはこれ以上打てる手は持ち合わせていなかったため、八木大尉にだけ聞こえるようにして、
現状でこれ以上物資を集める事が困難である事を伝えた。

八木大尉は、一瞬真剣な顔つきになり、そうかと一言だけ呟いた。

その表情を見た俺は、物資の話を打ち切るように話題を切り替えた。


「どうして、皆は・・・。
 いえ、八木大尉は俺たちについてこようと思ったんですか?
 退却の時に援護した事を理由にするには、ロンド・ベルが行く戦場は厳しいところですよ・・・。」


「たしかに、お前が言う通り命を救ってもらった恩がある。
 だが、それ以上にお前たちといれば生き残れると思ったからこそ、付いて行く事を決めたのだ。
 それなのに、指揮官であるお前が自信を無くすようでは皆が動揺するぞ。」


「分かってはいるんですがね・・・。
 戦闘中は冷静になる事が出来ても、それ以外の時にふと考えてしまうんですよ。
 自分が仲間の命を預かる部隊長という任に応えられる人間で有るか、という事を・・・・・・。」


俺の言葉を聞いた八木大尉は、俺の肩に手を置き小さな声で語りだした。


「御剣 大尉・・・、お前はまだ二十歳という年齢を差し引いても良くやっている。
 機体と衛士が優秀である事も影響しているだろうが、山口に配属されていた戦術機部隊で、
 死者が出ていないのはお前の中隊だけ・・・。
 それだけでも、中隊を率いている者の実力が分かるというものだ。

 それに、『死の鐘』と言われて嫌われていた事を気にしているかもしれないが、
 お前の部隊に所属する者は生き残った者が多いのだろう?
 なら、同じ部隊に入ってしまえば、不幸が訪れるのは敵だけだ・・・。
 そうだろ?」


そう言って八木大尉は、自信満々の笑みを浮かべた。

俺はその表情を見て、これが隊長と言うものが取るべき行動なのだろうと感じると同時に、
大陸で散って行ったロンド・ベル隊の隊長や先任たちの事を思い出すことになった。

しかし、そういう風に振舞えない自分への苛立ちが、言葉として口からこぼれ出るのだった。


「そうは言っても、ロンド・ベルと合流した後で落とされ、死んで行った衛士が何人もいます。
 それに、急造の部隊ではどうしても連携に隙が生まれます。
 大陸で挙げた戦果のように、皆を生きて返せる自信は有りませんよ。」


「そうかもしれん。
 だが、ロンド・ベルと合流してから圧倒的に被害が減っているのは事実だ。
 その事実だけで、皆は安心できる。
 ついて行く価値があると考えられる。

 それに、やられたのは独断専行をした者や既に機体が大破していた者たちが大半だ。
 そういった者たちまで守れるほど、人間は万能では無い。」


「そうかも知れませんね。
 でも・・・、人が死ぬ事に慣れる事は出来ないんですよ・・・・・・。

 すみません、愚痴はこれだけにします。
 先ほども言いましたが、戦闘中にこういった感情は持ち込まないので安心してください。」


この会話の後、俺たち二人はブリーフィングルームとなる車輌に隊員たちを集めて簡単な打ち合わせをし、
倉敷市周辺で行なわれている防衛戦に参加したのだった。





倉敷市周辺で行なわれている防衛戦に途中から参加することになったロンド・ベル隊は、市の南側に位置する戦域で戦闘に参加する事になった。

人数が増え二個中隊程度の戦力を抱える事になったロンド・ベル隊は、中隊毎に運用される事が多い他の部隊とは異なり、
2つの中隊が徹底的に互いを援護するという独特の戦術を採用する事で、これまでの道中で大きな戦果を挙げていた。

BETAと接敵した時、第一段階で行なわれるのが第1中隊(正式な第13独立戦術機甲試験中隊)によるBETAの前衛部隊である突撃級の排除である。

第1中隊は、噴射跳躍や群れの中を縫う様に進む特殊な平面機動を用いる事で、突撃級の背後に回りこみ、迅速に突撃級を撃破して行ったのだ。

その間に、第2中隊(合流組)は第1中隊が討ちもらしたBETAの処理や、次の戦闘の準備を行う事になる。

そして、第二段階は要撃級や戦車級が多くいるBETAの中衛部隊への攻撃である。

この時に重要になるのは、戦術機の機動力でも衛士の技量でも無い・・・、単純な火力である。

俺は第1中隊が誘導したBETAを、第2中隊(合流組)がメインとなって弾幕を張る事で撃破するのが効率が良い戦い方だと考えていたのだ。

そのため第2中隊は、運動性が犠牲になることを承知の上で火力を重視した兵装を採用している。

更に3機の撃震には、機動力を確保する為最低限必要な装甲以外を外して軽量化を計ると同時に、ある試作兵器が装備されていた。

その装備とは、ガトリングシールドと呼ばれる試作兵器だった。

ガトリングシールドは、A-10 サンダーボルトⅡやF-4J-E/98式戦術歩行攻撃機 鞍馬に搭載され、
大きな戦果を挙げている36㎜ガトリングモーターキャノン"GAU-8 Avenger"を通常の戦術機が運用するために、
92式多目的追加装甲(盾)と併せる事で試作段階まで開発が進められた武装である。

このような形状となったのには様々な理由があるのだが、一番の理由として説明されたのは、
36㎜ガトリングモーターキャノンを守る盾としての役割を多目的追加装甲に求めると同時に、
その質量により反動を抑えようとした工夫の結果であると言う事だった。

しかし、その重量ゆえに射撃を行なう為には、ガトリングシールドの搭載に必要な1本のメインアームと一本の可動兵装担架システムに加え、
更に一本のメインアームが必要である事から、戦術機に搭載する武装が減る事を懸念する報告も上がっていた。

だが俺は、火力が必要となる状況において、現時点で最も有効な武装の一つが36㎜ガトリングモーターキャノンであると認識していたため、
3機の撃震に搭載する事を決めたのだった。

また、八木大尉の乗る撃震には、左のマニピュレータが損傷していたため、シールドガトリングの装備が出来ないと言われた所を、
シールド部を左腕装甲に溶接し、装備を緊急排除するための爆薬を仕掛けるなどの措置を行なう事で、半ば無理やり取り付けられている。

米軍が好みそうなこの戦い方を説明した時、始めは反発も出ていたが、吹雪に乗る衛士が強風下での噴射跳躍や近接格闘を行なえるほど技量が高くない事や、
損傷を受けている機体が多い事、同じようなコンセプトを採用した鞍馬の活躍を話す事で、なんとか衛士たちを納得さる事ができたのだった。

これらの工夫で、火力を重視した兵装の第二中隊は、要撃級や戦車級に対して高い打撃力を持つ事になり、大きな戦果を挙げる事になる。

こうして、第2中隊が前に出ている間、第1中隊は弾薬の補給や第2中隊の援護,射線から外れたBETAの処理などの補助的な役割を行ない、
第二中隊がBETAの接近を許した時や第2中隊の弾倉交換時,光線級が出現した時のみ、第2中隊と入れ替わるように全面に展開し、
事態への対処を行なうのだった。








倉敷市周辺で行なわれた戦闘は、半日の防衛に成功するもついに戦線が崩壊する事になった。

米軍所属の部隊が優先的に退却していく中で、帝国軍も会わせる様に所属する部隊と担当した戦域によって、
岡山に向かい近畿地方に退却するルートと瀬戸大橋を渡って四国方面に退却するルートの二手に別れ、
退却を開始する事になる。

それに対しBETAも群れを二つに分け、それぞれ退却する部隊に襲い掛かって行く。

いや、群れを二つに分けたと言うよりも、退却する部隊に引き寄せられて二つに分かれたと言うのが正しい表現なのかもしれない。

兎も角、退却を開始した軍の動きに合わせて、ロンド・ベル隊も退却を開始する事になったのだが、
俺たちが居た戦域の防衛が比較的上手く行なわれていたため、他の部隊と比べて退却を開始するのが遅くなってしまっていた。

気が付いた時には、近畿地方に退却する部隊と合流するために、BETA群の只中を抜ける必要がある事態に陥っていたのだ。

俺は部隊を近畿・・・京都になるべく近づける事を考えていたため、損傷が激しい機体と撃震を比較的安全な四国方面に退却させ、
BETA群を突破する事が可能な機体と衛士だけで近畿地方に退却する事を決めたのだった。

そして、ロンド・ベル隊は以下のように素早く分かれることになった。

近畿地方行き
機体:
不知火弐型  1機
不知火改   8機  2機小破
吹雪      2機 

合計      11機

四国地方行き
機体:
吹雪      4機  3機小破,1機中破
撃震      3機  2機小破,1機中破

合計      7機



「八木大尉、短い間でしたがありがとうございました。
 ここで分かれる皆をよろしくお願いします。」


「残念ながらお前等についていくには、俺たちでは力不足のようだ。
 だが・・・、瀬戸大橋から退却する力くらいは持っている。
 心配するな。」


「あとガトリングシールドは、試作品ですが完全に新規の兵器では有りませんので、
 いざという時は廃棄してしまってもかまいません。」


「安心しろ、こんな面白いものを捨てられる訳がない。
 この武装の量産を少しでも早くするためも、意地でも確保しておく。

 届け先は、帝国軍技術廠でいいのか?」


「はい、それでかまいませが、くれぐれも無理はしないで下さい。

 それと、皆・・・別れる前に一言。

 貴様等と共に戦えた事、嬉しく思う。
 戦いが終わったら、飯でもおごってやる。
 いつでも会いに来い!!」


「「「「「はっ!!」」」」」


俺は手短であったが皆と別れの挨拶を済ませた。

俺の言葉を聴いて、中には高い酒を奢らせてやるとか言う発言や、ロンド・ベル隊からはいつもこき使われる自分たちに、
最優先で飯を奢るべきだろうと言う発言も出ていたが、とりあえずこの場は適当な相槌を打って受け流す事にした。

このやり取りの中からは、これから退却する事に対しての悲壮感は、まったく感じる事はなかった。

この時俺たちは、自分たちが挙げた戦果に自信を持ち、全員が生き残る事が出来る・・・そう思い部隊を二つに分け退却を開始したのだ。

ロンド・ベル隊が分かれてから十数分後、近畿地方に退却する部隊がBETA群を無事に突破し、岡山に向かおうとしていた時だった。

部隊のCPを勤める中里少尉の下に、四国方面に撤退した帝国軍が撤退完了後の瀬戸大橋爆破作業に失敗したと言う情報が入ってきた。

どうやら、瀬戸大橋の爆破によって早期にBETAが四国に進行する事を阻む計画だったのが、起爆装置が小型種の攻撃により損傷し、
動作不良を起こす事態となった様だった。

しかし、その数十秒後、1機の撃震がS11を使っての自爆攻撃を慣行、その爆発により橋解体用の爆薬が誘爆を起こし、
瀬戸大橋が解体されたという追加情報がもたらされた。

俺は、その情報を聞いた時に胸騒ぎを覚えていたのだが、その時は気のせいだと言い聞かせ、退却に意識を集中させていった。

だが俺の胸騒ぎは現実のものと成る。

後日、帝国軍技術廠には爆発により溶接部が破壊され、一部が損傷した一台のガトリングシールドと、
使い込まれた二台のガトリングシールドが届けられたのだった。



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コメント

皆様、御久しぶりです。
盆休みを満喫しすぎたせいか、更新が遅れてしまいました。
更に、夏の暑さにやられて、全体的にやる気は降下気味になっていますが、
皆様のご感想に後押しされ、何とかこの作品を作っております。
感想板に書き込んでくださる皆様、そしてこの作品を見ていただいている皆様、
本当にありがとうございます。

今回は、書きたかった新装備が一つ登場し、中隊よりも人数が増えた場合の戦い方も少し書く事ができました。
物語の進行を優先させる為に、不知火改が大破した時の話や瀬戸大橋解体シーンは、殆どスルーする事に成りましが・・・。
時間と気力が湧けば外伝として書くのもいいかもしれません。

今月は、これで一回目の更新・・・・・・。
八月は残り一週間少しという状況で、もう一回更新ができるのか?
夏休みが開ける直前の学生の気分を再び味わう事になろうとは、夢にも思っていませんでした。
確実に更新できるかは不明ですが、出来るだけ頑張ってみたいと思います。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


XAMWS-24試作新概念突撃砲について・・・。
多くの方から様々なご意見をいただきました。
その中には、現実の突撃砲の役割に近い形で作られているのが、このXAMWS-24試作新概念突撃砲だというものも有りました。
確かに、乱戦時に銃剣としての役割を持たせている点を見ると、納得できるご意見です。
ただ少し思った事として、対人と対BETA戦を同じに考えて良いのか?
と言う疑問が残ります。
BETAは人間と違って、多少の傷では怯みもせず攻撃を繰り出す事ができるようです。
これを考えると、普通の人よりも痛覚が麻痺した狂人との戦いを考えたほうが良いのかもしれません。
そうすると突き刺すような攻撃より、斬撃により筋繊維を切断したほうが確実な手段である事が考えられ、
長刀が有効である説明にもなります。
斬撃にも耐えられる構造や強度を持った突撃砲・・・、ロマンではありますが量産を考えると、
いま少し検討が必要かもしれません。
あと、米国軍でXAMWS-24試作新概念突撃砲が採用されなかった理由は、皆様のご意見によりだいぶ固まってきました。
ありがとうございます。


フェニックスは弾頭も装置も高いので、ローコストのグレネードランチャーをフルオート化・・・。
有効なローコスト兵器を大量配備・・・、最高ですね。
グレネードランチャーをフルオート化出来るほど積載量を持った兵器には限りがありますが、
検討してみても面白いかもしれません。
ところで、砲戦仕様の鞍馬に装備してある30連装ロケット弾発射機では駄目でしょうか?
その辺りも検討してみます。


オルタ計画と別に御剣社自身でBATEが本当に生命体なのかを前提で行動予測や分析をさせたら面白い・・・。
なんと言う禁断の領域。
現時点で、炭素生命体である人間にとって、BETAは生命体以外の何者でもありません。
私も原作の最後まで、昆虫のような社会構造を持つ異性人だと信じていました・・・・・・。
少し危険な香りがする手段ですので、できれば避けたい・・・です・・・。


陳腐化したF-14を鞍馬みたいに4脚に出来ないでしょうか・・・。
戦闘機の場合でF-14 トムキャットの価格を少し調べてみたところ、
F-15E ストライクイーグルと比較してもかなり高価な機体である事が判明致しました。
確かに、積載能力と機動力には惹かれるものがありますが、制式採用はコスト的に難しい気がします。
お金持ちの、米国がテストで作るという手段は・・・・・・有りか?


凄乃皇って構造的にはリオン、武装・運用目的はジガンスクード・ドゥロだと思う・・・。
うーん、言われてみればそういう気がしてきました。
ジガンの堅さと広域攻撃には結構助けられた記憶があります。
凄乃皇が活躍すると戦術機が目立たないのであれですが、兵器としては使えるんですよね。
もちろん、味方を巻き込んで自爆しなければと言う注釈は付きますが・・・。


皆様のご意見で、検討課題やアイデアがどんどん浮かび上がってきています。
本当に、感謝の念が絶えません。
これからも時間が許す範囲で、思いつくままに感想板に書き込んでいただけると幸いです。



[16427] 第24話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/12/12 15:48


7月12日

岡山市に到達したBETA群は、帝国軍による必死の抵抗にもかかわらず、翌日には兵庫県内に侵入し、赤穂(あこう)市を突破する事になった。

そして14日には、広島から数えて3個目になる大規模防衛線、姫路(ひめじ)防衛線に食らいついたのだ。

姫路市に敷かれた防衛線には、瀬戸内海側で台風の影響が弱まった事を受け、今までの防衛戦には参加していなかった、
戦艦を含む打撃能力を持った艦艇が姿を現わしていた。

この新たな戦力の登場に、今まで退却を続けていた帝国軍部隊は大いに喜ぶ事になるのだが、
海上戦力の参戦よりも帝国軍部隊を喜ばした事があった。

それは、兵庫県を境にして避難する民間人の姿を見かける事が無くなった事だった。

ここに来て漸く、日本帝国はBETAに対する反撃態勢を整えつつあったのだ。

だが、山口県から始まった五日間にも及ぶ退却戦に参加していた部隊は、流石に消耗が激しかったこともあり、
姫路防衛線に参加する事を許されていなかった。

山口・広島県の基地に所属していた部隊の多くは、姫路から60kmほど東にある神戸(こうべ)まで下がり、補給を受けるよう命令が出ていたのだ。

そして、神戸まで下がった部隊の中には、損傷を受けながらも9機の戦術機を保持して退却戦を戦い抜いたロンド・ベル隊の姿もあった。

他の戦術機とは明らかに異なる外観をした、赤と白のツートンカラーの戦術機を見た人たちは、
これが光線級殺しが乗る噂の最新鋭戦術機かと、羨望のまなざしで見つめていたのだった。









神戸に到着したロンド・ベル隊と、隊に合流した部隊で構成された臨時部隊は、ロンド・ベル隊所属の整備士に機体を預けた後、
各部隊の代表者を集めて打ち合わせが行なわれた。

その中で、退却戦の間に構築された協力体制を解消し、部隊ごとに司令部に指示を仰ぎ今後の方針を決める事を確認した事で、
臨時部隊はその日の内に解散する事になった。

俺は臨時部隊の解散を受けて、基地司令の許可を得た上で生き残った臨時部隊の隊員たちを集め、
ささやかながら食事会を催す事を計画する。

ロンド・ベル隊以外の部隊は、機体の修理が終了次第、後方にて部隊の再編成が行なわれる可能性が高かった事から、
この機会を逃すと皆で集まる場は二度と無いと考えた事で、計画を実行に移すことになった。

俺は、食事会の物資を自分たちで調達する事を条件に、基地司令とPXの担当者に話をつける事に成功した。

その後、隊員の中で元気がある者たちを動員して車に乗り込み、基地の近くにあった御剣食品の倉庫に向かった。

民間人の避難が完了し、人気の無くなった御剣食品の倉庫には、未だに多くの食品群が残されていたのだ。

このように輸送が間に合わなかった食品の在庫は、このまま放置したとしてもBETA侵攻により停電となった後は、
腐敗し価値を失ってしまうものである。

そこで御剣財閥は、食品のように時間とともに価値が目減りするものを政府に寄付する事で政府に恩を売ると同時に、
民間人に対して会社を挙げてBETAと戦っているという印象を与える事を考えていた。

これらを運び出す事が出来ない以上、ゴミを作り出すよりも有意義だし、徴収される可能性がゼロでは無いため、
自主的に行なう方が民間人にも政府関係者にも受けが良いとされ、重役会議でも承認される事になった。

そして、現在は政府に寄付を打診している段階であるため、御剣食品が正式な手続きで寄付を行なう前に、
食事会の物資だけでも確保しようと俺たちは動いていたのだ。

その後、食事会を開催するのに十分な物資を調達する事に成功した俺たちを、基地に残っていた者たちは驚きの表情で迎える事になる。

予定よりも少し大規模になった食事会は、急いで計画されたもののわりに、好評を得ることになった。

食事会には、休憩の合間を縫って出席したロンド・ベル隊所属の整備士や、まったく関係の無い部隊の者も参加したため、
ちょっとした騒ぎとなったが、基地司令の許可を得ていたこともあり、駆けつけた憲兵は俺のお願いと差し入れの約束をする事で、
大人しく退散する事になる。

隊員たちは、退却戦の中で死んでいった仲間の事を語り合い、互いの労をねぎらうことで心の整理をつけて行くのだった。

しかし、俺たちには余り悠長に時間を過ごす暇は残されていなかった。

ここは、最前線から60kmしか離れていないのだ。

食事会は3時間ほどで閉会し、隊員たちは食事会の後、思い思いに休憩を取る事になった。

俺は他の隊員たちがそうして休憩している間に、自分の権限から集められる正規の情報と、
個人的な伝を使って集めた非合法の情報を見比べ、分析を開始して行く事になる。

それらの情報により、九州は宮崎・鹿児島県を残すのみとなり,四国は辛うじて上陸地点での迎撃が成功中,中国地方は完全に陥落し,
近畿地方の瀬戸内海側は兵庫県姫路市で、日本海側は京都西北部の舞鶴(まいづる)と福知山(ふくちやま)・綾部(あやべ)ラインに構築された防衛線にて、
戦闘が行なわれているという現状を知る事になった。

俺は各戦域の戦況や物資の輸送状況から、これから取るべき行動を模索するのだった。








7月15日

神戸到着から48時間後、優先的に整備が行なわれていた不知火改の整備が終了、各部の消耗が部隊の中で一番激しかった不知火弐型は、
新型管制ユニットの特徴である管制ユニットの取り外し機構を使って、予備機と管制ユニットを交換する事で、
不知火改よりも早期に整備が終了していた。

これを受けて、ロンド・ベル隊は防衛戦二日目となった姫路へ、戦術機長距離移動用新型装備 通称『ローラーブレード』を装備し、
移動を開始する事になる。

ここで始めて投入される事になったローラーブレードとは、自走可能な動力源を持つ5個のローラーが縦に並べられたブレードと呼ばれる部分を、
靴状のユニットに取り付けた装備である。

この装備を脚部に取り付ける事で、戦術機は移動時の推進剤及び消費電力を大幅に抑える事が出来るようになったのだ。

ローラーブレードは、舗装の行き届いた都市部でしか使えない上に、市街地戦を行うほど習熟するのには時間が掛かるなど問題点も多い装備だが、
日本国内で長距離移動を行なう事だけを考えると、自動制御で運用可能な範囲であると判断され、今回投入する事となっていた。

この装備が上手く機能すれば、舗装されている道が多い欧州での戦いでも、使われる事になるだろうと予想されていた。

ロンド・ベル隊が、加古川バイパスを西進し、姫路まで残り20kmに迫った地点で緊急の連絡が入った。

なんと、先日BETA群に突破された舞鶴に続いて、福知山・綾部ラインもBETA群に突破されたと言うのだ。

これにより、日本海側のBETA群が兵庫県の北から侵攻してくる可能性がでてきた事で、軍は姫路の防衛線を破棄し、
姫路から40kmほど東にある明石(あかし)まで、防衛線を下げる事を決定する。

この時、整然と退却を開始すれば大きな被害を出すことなく、明石まで引く事が出来たのだろうが、ここで誤算が発生する。

一部の米軍部隊が帝国軍の計画より早く退却を開始し、情報の共有が遅れた帝国軍部隊が前線に取り残されるという混乱が、各地で発生したのだ。

この時早期退却を行なった米軍部隊は、姫路で始めて防衛戦に参加した対BETA戦の経験が無い部隊であった。

この事から、経験が無い部隊が過剰反応したのか、新しく着任した米軍の司令官から指示があったのかは不明だが、
目の前には戦場に混乱が起こったという現実が横たわっていた。

防衛線の各所がBETA群に突破されて行く中、ロンド・ベル隊は取り残された帝国軍部隊を救出するために、各戦域を転戦する事となった。

防衛線にロンド・ベル隊が取り付いた時、ローラーブレードの使用に慣れる事が出来た俺と余り激しい機動を行なう事がない香具夜 中尉以外は、
これを破棄し長距離移動モードから通常戦闘モードに移行する事になった。

その後、無事に明石まで退却する事ができるかわからないが、前線に取り残された戦術機20機あまりを救い出す事に成功する事になる。

そして、ロンド・ベル隊は把握する限りで取り残された最後の部隊の救出に向かって行った。


「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 救出目標の撃震部隊のマーカーが一つ消え残り4機。
 依然として、多数のBETAに囲まれており、大変危険な状況です。」


「このままじゃやばいな・・・。
 俺が突っ込む!
 ベル1(御剣 臨時大尉)よりベル2(武田 中尉)へ、
 部隊の指揮と援護をお前に任せる。
 俺は一足先に撃震部隊の救出に向かう。」


俺は香具夜 中尉の返事を聞く間も惜しんで、通信を終えると同時に2基の跳躍ユニットと肩に装備された2基の大型スラスターを全開にして、
不知火弐型を一気に跳躍させた。

赤と白のツートンカラーの不知火弐型は、容易に最大戦速の時速460km/hから最高速度に近い760km/hまで加速していく。

光線級の存在がこの戦域では確認されていないとは言え、運動性が低下する最高速度を出すという事は、
光線級のレーザー照射を回避するための機動が難しくなる事を意味し、ある意味自殺行為とも言える行動であった。

しかし、俺は自身の危機察知能力と戦術機の操縦技術,対G耐性にモノを言わせ、躊躇無く機体を最高速度まで持っていくのだった。

撃震部隊に接近した俺は跳躍ユニットを停止させ、機体制御を行いエアーブレーキで減速すると同時に、
右腕の98式支援砲と左腕の87式突撃砲を使って、撃震部隊に群がるBETAの中で危険度の高そうな個体に対して狙撃を行った。

撃震部隊は、突然の援護に一瞬戸惑っているような動きを見せたが、ベテランの衛士が多いのだろう、
直ぐに態勢を立て直し、援護を受けやすくするためにBETAから距離を取る動きを取り出したのだった。

不知火弐型は、着地と同時にローラーブレードによる走行を開始し、道路を滑るような動きでBETA群と撃震部隊の間に機体を割り込ませ、
近くにいた要撃級を支援砲と入れ替えて右腕に装備した74式接近戦闘長刀で斬りつけて停止した。

俺は、接近するBETAへ攻撃を行ないながら、撃震部隊と交信を開始したのだった。


「こちらは、第13独立機甲試験中隊 中隊長の御剣大尉です。
 この戦域にいるのは、あなた方の部隊だけになりました。
 援護を行ないますので、直ぐに退却の準備に入ってください。」


「やはり、その機体色は・・・。
 こちらは、第686戦術機甲中隊 中隊長の高畑大尉。
 貴官の援護、感謝する。
 噂に聞くロンド・ベルの光線級殺しとお会いできて光栄だ。
 
 しかし、貴官の要請を受ける事はできない。
 撃震の機動力では退却する前に、包囲されるのが落ちだ・・・。
 それなら、少しでもこの場に留まり、友軍が退却する時間を稼ぐ!」


「何を言っているんですか、その役目は本来なら第3世代機が勤める役割です。
 ロンド・ベル隊と合流次第、皆さんには退却していただきます。」


「・・・正直に言えば、私以外の機体は跳躍ユニットが破損しているのだ。
 彼らを見捨てて逃げる事は、私には出来無い。

 それに・・・、本土に侵攻されてからのBETA戦は電撃戦になっている。
 その中で、撃震ができる事はあまりにも少ない。
 撃震を救出するよりも、不知火・吹雪を温存する事を優先すべきだ。」


「しかし・・・、それでも俺は出来る限り、多くの人を助けたい。
 そのために…、こんな状況を切り抜ける為に、俺は強くなると誓ったんだ。

 (本郷 大尉たちや山口からの退却戦の時とは状況が違う!
 まだ、全員が生きて帰る可能性があるはずだ…。」



俺の言葉を聞いた高畑大尉は、一瞬考える素振りを見せるも、直ぐに表情を引き締めると拒絶の言葉を口に出した。


「安心しろ、伊達に貴官より歳を取っているわけではない。
 貴官が退却する時間程度なら、今の撃震だろうと稼いでみせる。」


俺は高畑大尉の言葉を聞き、こういった気骨のある人物を死なせるべきでは無いと思い、如何にかして助ける方法がないかと思考を巡らせた。

そして、一つの結論に達したところで、接近するロンド・ベル隊へ指示を出した。


「ベル1よりロンドベル各機へ、
 ロンド・ベル隊は、この地で留まっている撃震部隊の援護を行なう。」


「「「「了解!」」」」


ワザと通信をつなげていた高畑大尉にも俺の指示が聞こえており、予想通り高畑大尉から抗議の声が届けられる。


「どういうつもりだ、御剣大尉!」


「生き残る自信があるからに決まっているでしょう。
 もちろん、我々が退却する時は皆さんも一緒です。」


「撃震の機動力と今の損傷状態では、退却は無理だと言ったはずだ!!
 英雄と持てはやされて、何でも出来る様になったとでも思ったか!?」


「自惚れているつもりはありませんよ…。
 我に秘策あり、です。
 奇跡が起こらないなら、自分で場を整えて状況を変えるだけです。」


「・・・・・・、其処まで言うのならやって見せろ。
 まったく…、これが若さと言うものなのか。」


「高畑 大尉、こちらの指示にしたがって頂ければ、
 あなたの部下も含めて全員無事に帰還させて見せますよ。」


「分かった、我々の命を貴官らに預ける。

 マイク1より686中隊各機へ、ロンド・ベル隊の支援の下、退却を開始する事にした。
 686中隊各機はこれより、ロンド・ベル隊の指示に従え。
 分かったか!」


「「「了解しました!」」」


この通信の後、ロンド・ベル隊各機は4機の撃震を囲むように展開した。

俺は高畑大尉らの安全を確保した上で、バッテリー残量が多く残っている撃震に乗っていた高畑大尉に、
機体を仰向けに寝かせ、残りの撃震に乗っていた3人の衛士を搭乗させるように指示を出した。

そして、4人が乗り込んだ撃震を必要最低限の機能だけを起動するセーフモードで起動させると、
撃震の四肢と頭部を長刀で斬りつけ、管制ユニットが搭載された胴体部分だけが残るまでに解体していった。

これは、機体の構造を完全に把握している知識を持っている事と、長刀で戦術機を解体する腕がないと出来ない行為だったが、
幼い頃より剣術と戦術機に慣れ親しんでいた俺にとっては、造作も無い事だった。

俺は後衛の不知火改2機に、撃震の胴体部を運ぶように指示を出した。

2機の不知火改が撃震の胴体部を素早く持ち上げると、残りの不知火改は撃震の胴体部を運ぶ機体と武田中尉の機体を囲むようにして陣形を整え、
退却を開始する。

そして、退却を開始した直後、中里少尉に指示を出していた仕掛けが起動した。

3機の撃震に搭載されていたS11が一斉に爆発し、ロンド・ベル隊を追撃しようとしたBETAを吹き飛ばしたのだ。

一度加速した第3世代機の戦術機を追えるほどの機動力を持った個体は、BETAには存在しない。

俺は戦力が低下したロンド・ベル隊の殿を務め、安全圏に脱出した後からは香具夜 中尉が駆る不知火改・強行偵察装備と連携して、
撃震の胴体部をローラーブレード装備の機体を使って運ぶ事で、無事にロンド・ベル隊を明石まで帰還させる事に成功したのだった。








姫路防衛線の崩壊から数時間後、日本海側のBETAに背後を突かれる心配の無い場所である明石で、帝国軍と在日米軍の連合軍は、
現時点で可能な限り集めた火力を持ってBETA群を迎え撃った。

明石で行なわれる事になった防衛戦は、今までの防衛線で行われた戦闘と同様に激しいものになって行く。

その頃、明石に到着したロンド・ベル隊は、撃震の管制ユニットにすし詰めにされていた高畑大尉たちを現地の部隊に預け、
機体の補給を行った後、直ぐに明石の防衛戦に参加することになった。

降り注ぐ砲弾の雨に対抗するように、BETA群は光線属種によるレーザー照射を開始し、砲弾を迎撃していく。

軍もBETAの行動を予測しており、攻撃を行なわず後方に待機していた艦船からAL(アンチレーザー)弾が発射されると同時に、
先ほどまで通常の対地砲弾で砲撃を行なっていた艦船は、急ぎAL弾への切り替えを開始した。

程なくして、AL弾がレーザー照射で迎撃された事で発生した重金属雲が、レーザーの威力を減衰させた事で再びBETA群に砲弾が降り注ぐ事になる。

しかし、数多くの砲弾を叩き込むも、BETAの数の暴力の前には勢いを弱める事しか出来なかった。

BETA群は、その物量にものを言わせて戦車や自走砲といった陸上戦力に急接近してくる。

このBETA群の接近によって、戦車や自走砲は一時的な後退を開始し、それと入れ替わるように戦術機部隊が前面に展開した。

このように戦術機部隊が陸上戦力を守るために展開した場合、機動力と火力を使って機動防御を行なうのが、通常の防衛戦での戦い方である。

だが、ここで活躍する事になったのは、不知火・吹雪などの第3世代機ではなく、
従来よりも圧倒的に火力を重視した機動防御を行なう新型第1世代機の鞍馬だったのだ。

鞍馬は、事前の十分な砲撃によりあまり得意ではない突撃級の多くが傷を負っていたことで、その火力を十分に発揮する事が出来、
多くの日本人が姫路やここでの戦いで、欧州でジネラルエレクトロニクス社製36㎜ガトリングモーターキャノンを有するサンダーボルトⅡが、
戦単級駆逐機(タンクキラー)と呼ばれているかを漸く実感する事になったのだ。

そして、鞍馬と争うように戦果を挙げたのが、空母から発進し防衛線に展開した、在日米軍の海兵隊に所属するF-14『トムキャット』だった。

トムキャットの兵装であるAIM-54『フェニックス』は、長距離誘導大型クラスターミサイル とも言われ、
母機から発射後、レーダー管制官による電波誘導と内蔵センサーによる地形参照,GPSによる位置確認を使って目標に接近し、
目標上空で子弾を展開する事で広範囲を攻撃するという物である。

トムキャットは、フェニックスを使う事で比較的安全な距離から攻撃が可能であり、一機のF-14で最大6発のフェニックスが搭載可能で、
一個中隊分に当たる最大72発のフェニックスを同時発射する事により、光線属種を含む旅団規模(3000~5000体)のBETA群に、
打撃を与える事が可能とされていたのだ。

しかし、このフェニックスという兵器は、米国軍が提示する情報には書かれていない問題点も存在した。

それは、低空から目標に接近するというフェニックスの特徴により、光線属種のBETAにも迎撃され難いとされているが、
BETAは光線属種を守る行動を取る場合が多く、光線属種に打撃を与えられる確率はそれほど高いものではなかったのだ。

また、クラスター爆弾は必ずといっていいほど不発弾が付きまとう兵器で、この不発弾の処理が必要である事から、
一度使用した戦域は綿密な調査を行う必要が有り、戦後に悪影響を与えるという問題も抱えていた。

だが、これらのデメリットを差し引いたとしても、小型種には大変有効な兵器であるという事は確かであり、
戦場で味方となった場合は、素直に頼もしいと思える兵器だったのだ。

このように、撃震・吹雪・イーグルなどの戦術機が、大きな戦果を挙げた鞍馬とトムキャットの陰に隠れる形となったのは、
近接格闘戦の能力が低い鞍馬とトムキャットを補助するために、BETAが接近すると被害が出ることを覚悟で積極的に打って出るなど、
自分たちの戦果よりも全体を重視した戦闘行動を行なっていたためだった。

そして、BETAの撃破数こそ鞍馬やトムキャットに叶わないものの、大きな戦果を挙げた部隊があった。

それは、BETA群を防衛線から引き離すための後方撹乱及び、足を止める支援砲撃部隊の天敵となる光線級を排除するために、
奇襲的突破を行なう事になったロンド・ベル隊を含む不知火を駆る精鋭部隊だったのだ。

こうした戦術機の運用と、各種戦力による支援砲撃を駆使する事で、BETA群の侵攻を頓挫させる事に成功したのだった。








その後、瀬戸内海側の防衛線は、一日平均1km程度後退するも、頑強に防衛を続けて行く事になる。

そうした中で、山口からの退却戦でロンド・ベル隊に同行していた戦術機部隊の扱いについて、ロンド・ベル隊に連絡が入ってきた。

これらの生き残り部隊を集めて再編される事は予想出来ていたのだが、その再編先が帝国軍技術廠の独立機甲試験部隊となった事は、
まさに寝耳に水の出来事だった。

しかも、再編した部隊を山口からの退却戦の時と同様に、ロンド・ベル隊と協力体制を組む事で、大隊規模の臨時部隊を編成すると言うのだ。

帝国軍技術廠とは、御剣財閥の関係や俺個人からアイデアや資材を融通している事から、懇意にしている事は事実であるが、
このように俺の近くに戦力が集まるようなあからさまな出来事に、御剣の関係者が裏取引でも行なったのではないのかと、
疑わずにはいなれなかった。

その事について軽く調べてみたのだが、どうやら帝国軍は独立機甲試験部隊の取り決めを利用して、
戦術機を企業側の負担で用意させ衛士を帝国軍が提供する事で、早急に戦力を回復させたいという思惑と、
ロンド・ベル隊を中心とした臨時部隊が、異なる世代の戦術機を同時に運用していたのに、
従来よりも効率的な部隊運営を行う事ができたという報告の真偽を確かめたいという意見により、
今回の様な人事が決定したという事が分かった。

その証拠に、今回編成される2つの部隊のうちの一つは、不知火と吹雪の混成部隊となり、
もう一つの部隊は、F-4JX『撃震改(仮)』により編成される事になる。

また、部隊協力の中心となると名指しされた俺に対して、臨時部隊をまとめる為に戦時昇進を行なうという話も有ったが、
尉官と佐官の間には大きな壁がある事を理由に、臨時少佐への昇進の話が立ち消えたという情報を得る事になる。

俺はこれらの出来事に何者かの意思が反映されているような感じを覚えたが、とりあえず自らの関係者が黒と分かる情報を得られなかった事から、
忙しさに流されてそれ以上の追及をやめる事にしたのだった。







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コメント

皆様、こんばんはです。
私の拙い文章を毎回のように読んで下さっている皆さま、ありがとうございます。

ギリギリですが、なんとか新話を投稿する事ができました。
しかし、月に二回の更新・・・意外と大変でした。
来月は仕事が忙しくなりそうなので、月に二回の更新は難しいかもしれません。
ここは有休を使って・・・・・・何とかできないかな~、と計画中です。

今回は、岡山から兵庫にかけての事を中心に書きました。
その中で、F-14『トムキャット』・・・というかAIM-54『フェニックス』の事も書けましたし、
ローラーブレードという新装備を書く事ができました。
また、弐型の活躍する場面も書けたので、話の流れには満足しているのですが、
考えていた事を上手く書けたかと言われると・・・、何時も頭を抱えています。

次回は、神戸辺りの防衛戦か京都の防衛戦に突入する予定です。
皆様を満足させる事が出来るかはわかりませんが、出来る限り頑張っていますので、
何か気が付いた事がございましたら、ご指摘頂ければ幸いです。

PS 来週は用事が立て込んでいますので更新は無理そうです。再来週の更新は・・・五分五分と言った所でしょうか。
  気長にお待ちいただけると助かります。


返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


鞍馬とガトリングシールドのせいで格闘用と射撃用の2タイプの開発が起こりそう・・・。
射撃用と申しますか、火力重視の戦術機として、私は鞍馬というオリジナル戦術機を設定しました。
そして、格闘用の戦術機ですが・・・未だに登場はしていません。
これは、格闘戦を行なうにはかなりの習熟が必要で、そういったベテランの数が多くなかった事で、
採用が見送られている事にしています。
今後は、EXAMシステムや新型管制ユニットの影響でベテランの数が増えることが予想されているので、
格闘重視の戦術機もしくは格闘用装備が出てくることになると思います。

F-14の運用は日本では無理そうだけど、フェニックス用ハードポイントは何かに利用できそう・・。
何かに・・・ですか、どうしましょう。
新型戦術機には肩部にスラスターを取り付けているので、その部分に装備をつけるのは難しいかもしれません。
しかし、古いタイプの戦術機になら・・・。
フェニックス自体を運用するには、専用の火器管制システムがいる様なので、
帝国軍で採用する事はひとまず見送っています。

突撃砲に手を加えて、地面におくと自動射撃を行ってくれるという機構があれば・・・。
つまり、戦術機が持ち運び出来る砲台があれば、戦術機は設置する事に集中する事で、
楽に戦える様になるというご意見だと理解しました。
確かに、機関砲などを固定して、射手は遠距離から操作するといった兵器は現実にあるようです。
しかし、大量のBETAを相手にした時、位置を固定してしまうとBETAの死体に阻まれて、
有効に機能しない気がしてきました。
そこで、BETAの死体すら吹き飛ばす兵器なら・・・とか考えてみました。
この作品は、一応人型ロボット兵器ものなので、リアルを重視するとともに、燃えも重視しております。
この2つの按配を考えて、採用の有無,採用する場面や頻度などを決めたいと思います。

他国による戦術機の4脚化・・・。
ある国は旧式化した戦術機の更新に忙しいようなので、旧型戦術機を四脚化によるアップデートを、
有効な手段と捉えるかもしれません。
もう一つの国は、新型をどんどん開発するほど資金が潤沢だったのですが、
最近は別のところにお金を使っているようなので・・・。
意外と採用先は多いのかもしれません。
説得力のある設定が思い浮かべば、という注釈は付きますが前向きに検討したいと思います。

磁気浮遊型ベアリング・・・。
以前にも皆様から同様のご意見がありまして、現在磁気軸受の勉強をしています。
しかし、現実はいい部分だけではないようです。
勉強した部分も取り入れながら、作品を面白く出来たら良いと考えています。

光コンピュータ・・・。
簡単に調べてみた限りですと、計算処理は早いようですが、メモリなどの周辺装置の開発がまだ進んでいないようです。
理論的にはかなり高性能な物のようですが・・・、香月博士から得られるモノを考えると・・・。
いざという時の取引に使えるかもしれません。
しかし、私自身が光コンピュータの事をよく理解できていませんので、どのように扱うかは未定です。

メモリの容量・転送速度の上昇も視野に入れた改良が本来必要だと思います・・・。
確かにメモリなどの周辺パーツの事をすっかり失念していました。
私もメモリ不足に喘いでいると言うのに、どうして今まで気が付かなかったのでしょう。
時間があるときに、修正もしくは補足説明を行いたいと思います。

F-14を重装機にして後方支援に特化させたらどうでしょうか・・・。
元々、射撃を重視する米国群向けの戦術機である事と高コストのため、帝国軍で採用する事は考えていませんでした。
米国の開発に口を出すという設定は難しいので、米国が独自で考えたプランの一つとして採用できる可能性があります。
しかし、F-14は米軍では退役していく存在ですので、どのように扱うかは未定です。

戦艦などに装備されているロケット砲弾・・・。
設定だけで戦闘にはあまり出ていませんが、鞍馬に30連装ロケット弾発射機と言う物がついています。
これだけですと余り活躍する機会が無い事に気が付いてしまいました。
複数の方よりご意見がありましたので、30連装ロケット弾発射機以外の物も考えてみたいと思います。

跳躍ユニットの補助と姿勢制御の向上を兼ねて脚部にスラスターはおけませんか・・・。
ガン○ム好きとしては、是非とも採用したいプランではありますが、
歩行による衝撃が激しい脚部にスラスターをつけるのは・・・・・・。
ここはリアルよりロマンを取った方が面白いかもしれません。
真剣に検討してみたいと思います。

皆様、多数のご意見ありがとうございます。
最近忙しくて、ご意見について考え設定を練りこむ時間が余り取れていませんが、
メモは残していますので、時間を見つけて検討して行きたいと考えています。



[16427] 第25話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 23:51


7月15日に日本海側の防衛線の一つであった福知山・綾部ラインを突破したBETA群は、
瀬戸内海側から侵攻したBETA群と合流する為に南下するという軍の予想に反し、進路を南東方向に向けた。

BETA群が進むその方向は、山陰本線と呼ばれる鉄道が通る細長い盆地が続く地形が続く地形となっていた。

そして、山陰本線の行き着く先には、・・・・・・日本の首都である京都が存在していたのだ。

平地を移動する場合が多いBETA群が、多少の平地が有るとは言えこのようなルートを進行するというこの動きに、
帝国軍は大いに慌てる事になる。

山陰本線が敷かれたルートは、大規模侵攻を予想していなかった事から、迎撃の為に十分な戦力を配置できていなかった。

更に、その地形の特性と内陸である事から、海上戦力による支援も難しかったのだ。

その頃、BETA侵攻の可能性が高まった京都では、数日中に首都である京都を放棄し撤退すると言う意見と、
首都を死守すべきと言う意見が対立し、政府内はおろか実行部隊の軍ですら意見をまとめられないでいた。

この時米国軍は、京都が防衛には不向きな地形である事を理由に、首都を放棄する事を提案している。

歴史を紐解いて見ても京都を守って勝てたためしが無いため、米国軍の提案は当然の事なのだが、
その国に住む人々にとって精神的な支柱でもある首都を放棄する意味が理解できていないと、
少なくない数がいる反米感情を持つ者を刺激する結果となり、米国の意思に反して議論が長引く結果となっていく。

結局、京都を出る事に応じようとしない政威大将軍の態度に折れる形で京都の防衛が決定、
在日米軍は帝国軍に付き合う形で、京都防衛に参加することになった。

福知山・綾部ラインが突破されてから約24時間後、BETA群はついに京都盆地に進入を果たす事になるのだった。








7月16日

BETA群が京都に迫っているという情報を聞き、俺は京都以西でBETAの侵攻を抑え込むという当初の考えが、
完全に崩壊した事を理解する事になった。

この情報を得た時京都へ移動する事も考えたのだが、時既に遅くBETA群の京都盆地への進入は不回避という状況にあり、
混成試験大隊の運用を考えた場合、自由度の少ない京都市街地での防衛戦よりも、瀬戸内海側での防衛戦継続を採用する事にした。

しかし、今後の方針を即断した事とは裏腹に、内心では上手く進まないBETA戦への焦りを消せないでいた。

また、京都が戦場になるという事は真耶マヤ真那マナが所属する第16斯衛大隊が戦場に出ることを意味しており、
その事も感情を抑えられない理由の一つだったのだ。

護衛対象のいる京都を戦場にした斯衛軍は、場合によっては全滅する可能性があったとしても引くことが許されない立場にある。

いくら装備が充実していようとも、自由度の少ない戦場に立つ事ほど嫌な事も無い。

俺は、マブラヴの世界でも同様の事が有った筈だ、それと比べれば京都防衛の戦力も時間も稼げていると自分に言い聞かせ、
仲間たちの前では普段以上に強気な態度に出ることでしか、湧き上がる感情を取り繕う事が出来ないでいたのだった。

焦りを押し殺し、明石から堅調に推移する防衛戦にロンド・ベル隊を率いて参加していた俺は、
毎日複数回に亘って行なわれる出撃と、混成試験大隊の設立の準備に追われることになる。

設立許可から一週間のハイペースで編成された部隊は、俺の意見もある程度反映された結果以下のようになった。


第13独立機甲試験大隊(仮):あくまでも三つの中隊が協力するという形のため、正式な大隊では無い。

第13独立機甲試験中隊(ロンド・ベル隊):中隊長 兼 臨時混成大隊優先指揮官 御剣 大尉
不知火弐型 1機
不知火改   6機     一時離脱していた隊員が復帰。3名が第25試験中隊へ編入。
不知火    2機(+1機)  1機は衛士の確保未定で修理中。不知火改へ改修予定有り。

第25独立機甲試験中隊:中隊長 黒木 臨時大尉(元第11独立戦術機甲試験中隊員,ロンド・ベル隊から編入)
不知火改  3機     ロンド・ベル隊から編入組。
不知火    1機     不知火改へ改修予定有り。
吹雪     4機(+2機)  2機は衛士の確保未定で修理中。吹雪改へ改修予定有り。

第26独立機甲試験中隊:中隊長 高畑 大尉(姫路防衛戦後に合流済み)
撃震改(仮) 8機(+2機) 2機は衛士の確保未定。機体は搬入済み。

合計    25機(+5機)



損傷により修理を受けている機体も有る上に、衛士の数が確保できていない為、大隊の定数を満たすまでには至っていないが、
少しでも戦力が欲しい状況で、25機の戦術機という戦力は貴重だった。

しかし、部隊の編成は成されたが、機体操作と部隊連携の習熟度を考えると直ぐに大隊で運用を行なう事には無理があった。

そこで、各中隊の部隊長だけで協議を行い、部隊運営の方針を決める事になった。


「今回の話し合いの目的は、第13独立機甲試験大隊(仮)の設立理由を共有する事と、今後の方針を決める事だ。
 混成試験大隊の指揮権は俺が持つ事になっているが、大隊を指揮する経験が豊富な訳ではない。
 また、このような部隊運営についてもあまり例が無い。
 何か疑問に思うところや改善した方が良いと思う事が有れば、遠慮なく言ってくれ。」


俺は協議を始めるときにこう前置きした後、自らの考えを語りだした。


「俺が考えている陸上の対BETA戦で有効な戦術は、広い空間を利用し物量に勝るBETAに対し、
 局地的に有利な状況を作り出す事。
 つまり、極めて高い機動力を有する打撃戦力により、BETA群に対して機動戦を仕掛けると言う、
 極めて単純で使い古された戦い方だ。」
 

戦いの基本は、相手より多くの数を揃える事である。

もし人類がBETAと同数の戦車や戦術機を運用する事が可能であれば、
対BETA戦はもっと違う形になっていた事が容易に想像できるのがその証拠だ。

しかし、人類が数十万の機甲部隊を同時に運用する事が出来ない以上、この考えは絵に描いた餅である。

だが、古来より数で劣る側が勝利した例が無い訳ではない。

その歴史的事実と、現時点で人類がBETAに対して、保有する戦力(物量)と戦闘継続能力という点では負けており、
光線属種を除いた場合の火力と一部の兵器が持つ機動力では勝っているという現実を認識する事によって、
まだ人類には取るべき手段が残されている事が分かるのだ。

そして、対BETA戦が一度の局地的な戦闘での勝利が、最終的な勝敗に結び付かない事も理解していた俺は、
この混戦大隊が示す事になるであろう、戦い方を軍全体が取り入れる事、
つまり戦闘教義「ドクトリン」を変更するまでの大改革が必要になってくると、密かに考えていた。


「要となる機動戦を仕掛けるのに必要な高い機動力を確保する方法として考えているのが、
 他の兵科で編成された部隊の援護を必ずしも必要としない、戦術機だけで構成された部隊運用だ。
 過去にこの戦い方を対BETA戦で使用し、成功した例は少ないため広く使われていないのが現状だが、
 当時と今では状況が異なってきている。
 戦術機の運用が開始され始めた創成期には存在しなかった、第3世代機とそれに準じる戦術機の登場により、
 前提条件が大きく変わったんだ。」


この考えの実行例の一つに、光州作戦でロンド・ベル隊と鞍馬で編成された第03独立戦術機甲試験大隊が行なった、
持ち前の火力による面制圧と機動性を生かして素早く拠点を移すことで、BETA群の圧力を直接的に受けない様にするという戦い方がある。

そして、一般的に行なわれる他の兵科と戦術機部隊が連携した機動防御戦術もこの思想に近いものがあった。

しかし、光州作戦での戦い方や機動防御戦術には弱点も存在する。

それは、BETAの動きをある程度予測して、陣地の構築を行なう必要性が有ることと、
どちらの場合も一時的に敵戦力を自陣に引き入れる戦い方のため、予想を上回る戦力の攻撃を受けた場合は、
対処が間に合わず大きく後退する可能性が高いという点だ。

そのため光州作戦では、戦場として使える範囲がBETAの数とこちらの戦力に対して狭かった事と火力不足によって、
完全にBETA群を引き付ける事が出来ず、有効性の一部が証明されるに留まっている。

俺はこの問題点を解決する方法として、より攻撃的な機動戦術も併用する必要があると考えていた。

BETAに攻撃を仕掛けた戦術機は、従来通りにBETAを引き連れて後方の陣に下がるので無く、防御陣と離れた地点に誘導した後、
機動力でBETA群を振り切る事や、始めから防御陣とは正反対の位置から出撃し、陽動をかける事も必要になると考えていたのだ。

これらの作戦行動は、下手をするとBETA群の中に孤立し包囲殲滅される恐れもあるが、僅かな戦力で多くのBETAを引き付ける事に成功した場合、
貴重な時間を稼ぎ防衛線に掛かる圧力を低減できる事を考えると魅力のあるものだった。

そして、この作戦を成功させる上で前提条件になると俺が考えたのが、今回組織された大隊規模の戦力を整えた精鋭部隊である。

中隊では根本的に火力が不足している事や、包囲された場合にBETA群を突破可能な火力を保持し続ける事を考えると、
戦闘継続時間が極端に短くなる事が予想された。

また、大隊以上の戦力では陽動などを行なう際に防衛線から抽出する戦力が多くなる上、
場合によっては遊兵化してしまう可能性もゼロでは無いため、大隊以上の戦力を運用する事は考えられなかった。

もちろん、部隊は必ずしも単独で運用されるわけでは無い。

部隊が援護を受けられる状況なら、援護部隊と連携しBETA群を火力地点に誘導するなどの戦術も考えられるのだ。


「第3世代機の登場で変わった前提条件とは、既存の戦術機よりも高い機動力だけではない。
 データリンクシステムの精度が向上したことで、部隊間の連携が容易になった事も重要な要素の一つだ。
 これにより、大隊規模で戦術機部隊を運用する事が可能となった・・・。

 欧州ではその事を見越して、戦術機部隊だけで編成した部隊運営を検討しているという情報も入ってきている。」


戦術機の連携には中隊規模が最適だとした理論は、戦術機の性能が低かった時に作られた物である。

しかし、第3世代機の戦術機が持つ情報処理能力により、個々の兵器が収集した情報を統合運用するデータリンクシステムの精度が増した結果、
前線でも高い精度で運用できるようになり、条件を整えれば大隊規模で部隊を効率的に運用する事も不可能では無くなっていたのだ。

大隊規模で戦術機を運用する上で重要となって来るのは、戦域管制や機体の状況といった情報処理を行なう専任士官、つまりCPの存在だった。

これまでの経験上、前線と後方では情報の伝達に齟齬や遅れ、通信の途絶などもあるため、
部隊にも最低一人は従軍しバックアップを後方に置く事が求められる事になると考えている。

もっとも完全な遊撃部隊となると、中隊毎にCPを置いたほうが確実ではある。

その事を考えると、第3世代機を運用しているとは言え、CPや特殊な情報処理を行なう機体が存在しなくても、
大隊規模の連携を行なえる斯衛軍第16斯衛大隊の錬度の高さは、驚嘆に値するものがあった。

そして、戦闘のすべてを戦術機で行なうという試みが欧州で始まっているようだが、俺の場合はそれほど戦術機の能力を過信してはいない。

搭乗者に高い適正を求める今の戦術機では、何処まで汎用性が高まろうとも特殊部隊用、
もしくは通常戦力の補助戦力に落ち着くしかないと考えていたのだ。


「大隊を混成部隊としたのには、いくつか理由がある。

 1.大隊を一つの部隊として運用する事を考えると、前衛と後衛では求められる機体の能力が変わってくる。
 2.求められる機体能力の違いを同一機種で満たせるほどの余裕が、現在の主力第3世代機である不知火・吹雪には無い。
 3.精鋭部隊にはベテラン衛士の存在が不可欠だが、ベテラン衛士の数と機種転換訓練の時間を考えると、
   撃震を準第3世代機に改修した機体を運用し、それにベテラン衛士を乗せる必要がある。

 火力の事を考えると、鞍馬が6機ほど欲しかったが・・・、それは欲張りすぎか。」


これらの混成部隊が分業する事によって、互いの劣っている部分を補う方法は、ロンド・ベル隊とそれに合流した部隊が山口からの退却戦で、
その有効性を示していた。

ただし、戦術機間の機動力の差を埋めるために、撃震には軽量化が行なわれていた事は忘れてはならない。

混成試験大隊は、今まで挙げた考え方が正しい事を実戦で証明する事が求められていたのだった。









混成部隊設立の目的を聞いた二人の大隊長と俺が話し合って出した結論は、やはり現状の衛士の錬度と急ごしらえの部隊の状況を考えると、
到底実現する計画では無いと言うものだった。

しかし、この戦術を確立する事の意義は、隊長間で共有する事は出来たようだった。


「急ごしらえの部隊で楽に達成できるほど甘いものではないという事は重々承知している。
 この計画の企画書を提出した段階では、BETAの本土進攻は考えられていなかったし、訓練を最低三ヶ月間行なう事になっていたんだ・・・。
 それが、上からの命令で一月以内に結果を出せという話になるとは想定外だった。」


「隊ちょ・・・いえ、御剣大尉。
 部隊の中でベテランが占める割合は、他の部隊と比べても高い水準にあります。
 それに、常に成果を挙げてきた御剣大尉に率いられているという事で、士気は上がっています。
 決して不可能というわけでは・・・。」


「黒木 臨時大尉、貴官の気持ちも分からんではないが、士気だけでは埋まらないものもある。

 それに、貴官が率いる第25試験中隊の半数を占める実戦経験が不足している衛士たちの士気は、
 BETAへの恨みによる所が大きい。
 暴走する危険が高い者たちの存在は、いざという時に部隊崩壊の切掛けとなるぞ。」


「お言葉ですが、高畑 大尉。
 第26試験中隊の方こそ、新しい機体に戸惑っている衛士が多いように見受けられました。
 このままでは、実戦で部隊の足を引張る事になるのではないですか?」


高畑 大尉の発言にすかさず反論した黒木 臨時大尉は、そのままの勢いで高畑 大尉を睨みつけた。

しかし、その視線を受けた高畑 大尉はそれを無視するかのように静に受け流すのだった。

この真面目な発言が特徴の黒木 臨時大尉は、第11独立機甲試験中隊の生き残りで、合流後は中衛として活躍してくれていた人物である。

もし部隊長となれる人物が確保できなかった場合の候補として俺から推薦状を出していたのだが、
その影響もあってか今回の部隊編成で戦時昇進を果たし、第25試験中隊の中隊長を勤める事になったのだ。

そして、高畑 大尉は姫路での戦闘で救出した撃震部隊の中隊長を務めていた人物である。

俺は、二人の様子に軽くため息をついた後、二人の間を取り持つ事にした。


「黒木 臨時大尉。
 高畑 大尉は、部下の掌握が出来ていないとお前を攻めているわけではない。
 全ての部下の現状を把握できるような時間はなかった事は承知しているし、
 短時間でこういった事を感じ取れるように成る為には、多くの経験が必要だという事も理解できている。
 お前は、初めての部隊長としては上手く部隊をまとめられているよ。

 高畑 大尉。
 新人の面倒を見ることも先任の仕事だと思います。
 大尉の懸念は分かりますが、少し間の猶予とベテランの力を貸していただけませんか?」


「・・・すまんな、黒木 臨時大尉。
 新型への習熟訓練が思うように進まなかった事で、気が立っていたようだ。」


「こちらこそすみませんでした。
 初めて率いる事になった中隊の隊員の事を悪く言われたと思って、頭に血が上ってしまいました。
 高畑 大尉が仰るとおり、訓練で前に出すぎる事が多い隊員が何人かいます。
 私はそれを士気が高い証拠だと思っていたのですが・・・。
 高畑 大尉、精神が不安定な部下の錬成に第26試験中隊の力を貸していただけませんか?」


「黒木 臨時大尉・・・、我等の経験が若い者達に役に立つのであれば嫌は無い。
 微力ではあるが力を貸そう。」


年齢差のある二人の中隊長は、どちらからともなく手を差し出し、握手を交わしたのだった。

その光景から、少しではあるが中隊長間の理解が深まった事を確認した俺は、話をもとの話題に戻した。


「御二人の仲が深まった所で本題に入ろうと思う。
 結果を出すまで期限を考えると、訓練に割ける期間は二週間だけだ。
 もちろんその間にも、防衛戦に参加する必要がある。
 この期間で、大隊での最低限必要な連携を身に付け、遊撃部隊として出撃する事になる。

 各部隊の状況報告を聞いた上で、二週間の間の戦い方と訓練方法を決めたいと思う。」


「では、第26試験中隊から報告しよう。
 所属する8人の衛士の中で、経験の浅い者は2人。
 残りの6人はBETA戦を10回以上経験したベテランだ。
 経験の浅い2人を援護しながら通常戦闘をこなす事は可能だ。
 中隊内での連携も、一週間もあれば形にしてみせる。

 ただし、撃震改の性能を引き出すには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
 特に、準第3世代機としての機動力を生かした戦闘と連携についての経験が不足している。」


「第1世代機から準第3世代機への乗り換えが大変な事は分かります。
 しかし、撃震改が持っている根本的な機動の癖は、それほど大きく変わっていません。
 第3世代機の機動に関しても、模擬戦等で見た経験や機動を真似た経験はお有りなのでしょう?」


「確かに、陽炎や不知火に撃震で勝てないかと足掻く過程で、上の世代の戦術機の機動を試した事はあるが・・・。
 
 それと、確かに不思議な事に撃震改は撃震と比べて、体への負担が大きくなっているとは感じていない。
 新OSの第二段への対応が終われば、撃震と比べて感覚が変わった部分の情報を部隊内で共有する事で、
 早く錬度が上げられる可能性もある。

 御剣 大尉・・・、前に撃震が時代遅れと言った事が有っただろう?
 悪いがあの発言は訂正させてもらうよ。
 やはり、撃震はいい機体だ。」


高畑 大尉はそう言って、撃震改(仮)の感触を思い出したのか、満足そうな表情を見せていた。

F-4JX 撃震改(仮)は、更に突き詰めれば第三世代機と同等の性能を確保する事も不可能では無いという能力を秘めていた。

しかし、搭乗する衛士の事と使い勝手の事を考慮して、機体の耐久性と生存性,積載能力を優先した事で、
準第3世代機という性能に落ち着く事になった機体である。

また、その操作性も瑞鶴の経験を生かして軽量化と調整を行なった事で、撃震と比べて大きく操作特性が変わらない味付けとなっていのだ。

そのため、既存の第三世代機に機種転換できない撃震を駆るベテラン衛士が、短期間で機種転換を行なう事も可能となっていた。


「次は、第25試験中隊から報告します。
 第25試験中隊は、元ロンド・ベル隊の私を含む3人以外は、この度の本土防衛戦が初陣であるため、
 実戦経験が十分であるとは言えないのが実情です。
 特に、吹雪に搭乗している4人を前衛として使うのは、困難であると考えています。
 
 また、高畑 大尉が指摘されたように、一部の者は昔の仲間がやられた怒りで感情的に成っており、
 実戦で自制が利かなく成る可能性もあります。

 ただし、第26試験中隊と比較して、機体への習熟はある程度済ませていますので、その点の心配はありません。」


第3世代機、特に不知火を駆る実力のある衛士たちは、所属する部隊が解散した場合、戦力を手元に置いておきたい司令官が、
優先的に自分の所属する部隊に編入させるか、軍本部の意向で臨時の指揮官になる事も多かったため、
第3世代機を駆るベテランの新規加入は無く、そう言った意味ではロンド・ベル隊の者は貴重な存在だった。


「11試験中隊がロンド・ベルに加入してきた当初と、今の第25試験中隊の雰囲気は似通っている。
 自分たちが経験したことの中に、彼らに接する方法の答えが隠されている筈だ。

 ・・・黒木さんは中隊を率いるのは初めてなんですから、全てを一人で背負う必要は有りません。
 周りには俺たちが居る事を忘れずに、可能な範囲でやって見て下さい。」


「やはり隊長には敵いませんよ。
 既に、ロンド・ベルへ加入した二人は、部隊に溶け込んでいるように見えました。
 これで私より年下なのですから信じられません。」


「・・・訓練校時代に身に付いてしまった習性なのかも知れんが、軍人というのは部隊に鬼軍曹と優しい先任が居れば、
 自然と優しい先任の下で団結するものだ。
 この状態を第一段階として、次は鬼軍曹は意外といい人だった!?などの段階を踏めば、
 よっぽど個性的な奴でない限り、何とかなるものだ。

 それと、昔から落ち着きが有るとは言われているが、これでもまだ二十歳ですので・・・。
 (精神年齢的には一応高畑 大尉より年上になるのだが・・・、なんと言い返せば良いのかわからん)」


この後も続いた話し合いにより、二週間は従来通りの作戦で行なわれる防衛戦に、第25試験中隊と第26試験中隊を交互に参加させ、
ロンド・ベル隊は護衛兼教導部隊として、それぞれの中隊に部隊の半数を出す事になった。

そして、残りの二週間のうちの前半を大隊での連携訓練に使い、混成大隊設立の目的である遊撃部隊としての初陣を、
後半の数日間で飾る事に決定したのだった。








実戦の中で訓練を行なう事になった第13独立機甲試験大隊(仮)だったが、その歩みは順調とは行かなかった。

高畑大尉の第26試験中隊は、動きがぎこちない場面も見られたが、互いにフォローする事でミスを打ち消しあい、
ベテランの貫禄を見せ付ける様に安定した成績を叩き出していたのだが、黒木 臨時大尉の第25試験中隊の方は、
ロンド・ベル隊の隊員が終始援護に回る必要が有るほど、連携が取れていなかったのだ。

それでも死者を出すことなく全員が戦闘に参加出来ていたのは、全ての衛士がBETA戦の経験が有った事や、
新型管制ユニット搭載済みの機体であった事、衛士の加入待ちだった機体が結果的に予備機となった事など、
様々な出来事が積み重なった結果によるものだった。

しかし、部隊結成から一週間がたったある日、事態は一変する。

前線に真新しい戦術機と共に、大量の新人衛士が投入される事になったのだ。

そして、その新人衛士たちは当然のように第13独立機甲試験大隊(仮)にも加入する事になる。

これにより、精鋭で大隊を編成するという当初の予定が大きく狂う事になった。

確かに我々の部隊に配属された衛士は、訓練校での成績優秀者が選ばれているようだったが、
今から新人の衛士を鍛え上げてBETAの大群と向き合う事が出来るようにするほど、訓練に費やす時間は残されていなかったのだ。

この時投入された新人衛士たちのあまりにも高い損耗率を知らされた日本帝国政府は、
国内での戦闘でも大陸で出した被害と大きく変わらない事を認識し、改めて対BETA戦の恐ろしさを実感する事になった。

この出来事を切掛けとして、改めて兵器の生存性に注目が集まり、その中でEXAMシステムver.2を搭載した撃震の生存率が、
新人衛士の場合でも非搭載型と比べて大幅に改善している事が分かると、計画を前倒しにして帝国軍が運用する戦術機全機へ、
EXAMシステムver.2搭載が決定する事になる。

そして、失った戦力を補うために、更に各兵科の訓練課程が短縮される事になり、調達が容易な兵器として制式採用された物の中には、
F-4JX後の制式名称 F-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震(れっしん)』が含まれる事になった。

烈震の制式採用後、撃震は急速な勢いで前線から姿を消す事となる。

しかし、これらの出来事で前線の環境が少しは改善されてくる可能性も有ったが、それはまだまだ先の話であり、
促成栽培の兵士では戦場の過酷さに耐えられず、この後も多くの命が散って行く事になるのだった。







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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
月に二回は更新すると言って置きながら、それを守れなかった私ですが、
まだ私の拙い文章を読んでくださる人はいるのでしょうか?
読んでいただいた方には、改めに感謝させていただきたいと思います。
本当にありがとうございます。

湿っぽいのは、これまでにしてこの話の話に入ります。
今回はハッキリいいますと文章が短くなった上に、殆どが設定を詰め込んだ文章となっています。
それなりに会話も入れてみましたが、説明口調なのでキャラの描写が不足しているかと思います。
次の話で、キャラの描写を増やすように努力しますので、それで勘弁してください。

それと、多機種運用の妙が見れるのか?という事が感想板で書かれていましたが、
概要だけ説明して次回へ持ち越しとしました。
未だに頭を抱えていますが、表現したかった描写の一つですので頑張ってみたいと思います。

F-4JX 撃震改(仮)の正式名称は、蒼蛇 さんが書き込んで下さった『烈震(れつしん)』を採用する事にしました。
その経緯は、撃震改のままだと分かりやすい反面、F-4J改『瑞鶴』と被る部分がありましたし、
『震電』とかも考えましたが、『烈風』という艦上戦闘機に思いをはせて、この名前に落ち着いたというものでした。
蒼蛇 さんどうもありがとうございました。

次回こそは、神戸辺りの防衛戦か京都の防衛戦に突入する予定です。
時間という難敵との戦いに四苦八苦していますが、今後も出来る限り頑張りますので、
何か気が付いた事がございましたら、ご指摘を頂ければ幸いです。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


『S-11』を弾頭にしたミサイル・・・。
ガン○ム SEED D の大量破壊兵器を装備した機体をイメージしてしまいました。
S-11は打ち落とされた場合にどうなるか分からないので、乱発した場合の扱いに少し困っています。
バランスを考えて登場させるか検討してみたいと思います。

弐型にて、腰部装甲ブロックへの小型推力偏向スラスター搭載により、廃止された腰部のマガジンラックについて・・・。
確かにこれを補うための設定が必要でした。
少し設定を考えてみたのですが、このまま設定を直すよりも、現在主人公が乗っている弐型がテスト用だという事を利用して、
量産を目標にしたタイプでは改良されたという流れにしたいと思います。
この設定がでてくるまで、しばらくお待ち下さい。

光コンピュータorバイオコンピュータ・・・
新型情報処理装置の必要性は、以前から考えていましたが、具体的な参考を教えていただきありがとうございました。
私の個人的な感想を言いますと、バイオコンピュータの方が00ユニットとの親和性を考えると、
設定として使いやすいと感じました。
ただし、両方とも耐久性を考えると戦場で使う事に躊躇してしまいました。
そこで、広義的にはバイオコンピュータに含まれるある物が見つかりましたので、それを基本に設定を作りたいと思います。

地面におくと自動射撃を行ってくれるという機構で、自動擲弾による曲射・・・
少し考えてみたのですが、いかに多くの火力を安全な地点から叩き込むか、という事を対BETAの基本概念だとすると、
光線属種に迎撃されやすい曲射弾の発射装置を、戦術機に運ばせる事は効率的で無いように思えました。
これなら、自走砲などで遠距離から砲撃したほうが楽ですので・・・。
しかし、この書き込みで新しい設定が思い浮かびました。
迎撃されやすいなら、それを利用して・・・。
ネタ帳には書き込んでおきましたので、機会があればでて来るかもしれません。

担架と担架の間に空間がありますがそこに増槽を・・・
残念ですが、その部分には既に予約が入っていました。
色々考えるお陰で、スペースの確保が大変になってきています。
増槽の追加場所として採用するかしないかは未定ですが、参考させていただきたいと思います。

ゴキブリホイホイみたいな物質を散布したり、地盤を液状化・・・
ついでにシビレ罠と落とし穴も考える必要があるのでしょうか?
上手く行き過ぎるとただの狩りになってしまいますので、パワーバランスを考えた上で、
取り扱いをどうするか決めたいと思います。


皆様、多数のご意見ありがとうございます。
最近の忙しさのせいで、話を書く事で精一杯となっているのが現状ですが、
10月を過ぎれば定時に帰られるようになる可能性があるので、それを信じて頑張っています。
余り多くの返事が書けなくて恐縮なのですが、今後も気軽に感想板にご意見を寄せていただければ幸いです。



[16427] 第26話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/12/12 15:48


「田村ぁぁぁーっ!」


4門の87式突撃砲から36mm弾を放ち、BETAへ攻撃を行なっていた不知火の横から接近していた要撃級に対し、
36mm弾を叩き込んで沈黙させた直後、俺は感じ取った危機感に従い叫び声を上げていた。

自ら発した叫び声に反応して視線を動かした時、俺は先週搬入されたばかりの吹雪が、要撃級の振るう前腕衝角の直撃を受け、
胸部を潰される瞬間を目撃する事になる。

俺は視線を動かすのと同時に弐型を振り返らせており、右側の可動兵装担架システムに搭載していた98式支援砲を展開し、
新人衛士の田村少尉が搭乗する吹雪に更なる追撃をかけようとしていた要撃級に対して、
おおよそ理想の射撃体勢からかけ離れた、機体側面向けた状態から射撃を行なった。

不知火弐型が放った3発の90mm砲弾の直撃を受けた要撃級は、絶命すると同時にその動きを止めた。

その後転倒した吹雪に群がろうとする戦車級を、小型可動兵装担架システムから取り出し左腕に装備した小型のショットガンで撃破して行く。

この小型ショットガンは、衛士救出用時に戦術機に群がる戦車級を排除する為に開発された補助兵装で、
至近距離でも戦術機の装甲に殆どダメージを与えることが出来ない威力である事から、乱戦下においてBETAの小型種を排除するのに最適だった。


「ベル1(御剣 大尉)よりマザー・ベル(中里 少尉)へ、
 ブラスト9(田村 少尉)のバイタルデータはどうなっている?!」


「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 ブラスト10(田村 少尉)の生存を確認しました。
 しかし、意識を失っている上に出血も診られ、救出を急がないと危険な状況です。」


「ベル1(御剣 大尉)よりブラスト1(黒木 臨時大尉)へ、
 ブラスト10(田村 少尉)の回収後、損傷のある機体を下がらせろ!
 ロンド・ベルからは、ベル 5(宮本 臨時中尉)とベル 6(竹下 少尉)を護衛に付ける。」


「ブラスト1(黒木 臨時大尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 ブラスト7とブラスト8・・・、ブラスト10を下がらせます。」


「ベル1(御剣 大尉)より混成大隊各機へ、
 今までの通信は聞こえていたな?
 ここからが正念場だ。
 ゴチャゴチャと細かい命令は出さない。
 任務を遂行した上で、生き残って見せろ!」


「「「「「了解!」」」」」


この後、田村少尉が搭乗する新型管制ユニットを回収することに成功した第25試験中隊とそれを護衛するロンド・ベル隊は、
部隊を二つに分け機体に損傷がある者や気が動転してしまった者に護衛をつけて撤退させ、残りの8機で戦闘を継続する事になった。

技量が未熟な者たちが部隊から抜けたことで、部隊内に広がりかけていた動揺は辛うじて抑えられた。

戦闘を継続した部隊は、戦力不足に悩まされながらも戦場に展開し続け、堅実な戦いでBETA群を押し留める事に成功する。

一ノ谷での本日2度目になるBETAの攻撃は、各部隊の活躍と補給を終えた後方部隊からの援護砲撃が始まった事で、無事に撃退する事が出来たのだった。








8月5日

第25試験中隊に吹雪に搭乗する者が2名、第26試験中隊に先日制式採用が決定し『烈震』と名付けられた戦術機に搭乗する者が2名、
合計4人の新人が合流してから6日が経過し、新人たちの出撃回数は既に10回を越えていた。

その出撃の中で、死の八分を越えられず命を散らした新人衛士が1名、新人を庇って重傷を負った衛士が1名、
合計2名が部隊から離れる事となっていた。

今回、田村少尉が要撃級の攻撃で撃破されてしまったのは、彼が不用意に前に出てしまったこともあったが、
依然として部隊連携が確立されておらず、援護の手が回りきらなかった事に最大の原因があった。

前線でBETAに近接格闘戦を仕掛けている限り、このように不意を衝かれてBETAの接近を許すという事態はどうしても発生してしまうものである。

では、射撃戦のみを行なっていれば良いかと言われるとそうでもない。

我々の今の目的は、ただBETAを撃破することではなくて、BETAの侵攻を遅らせる事である。

したがって、より長時間戦場に留まり、BETAを引き付け、BETAの数を減らす必要があるのだ。

その為には、弾薬を節約し長刀により撃破することも求められてくる。

俺たちに今出来る事は、連携を密にし援護に回す戦力を充実させる事で、近接格闘を仕掛ける戦術機の安全性を少しでも高める事しか無かった。

俺は田村少尉の容態を確認するため、治療を行なっている病院の施設を利用して臨時に作られた帝国軍病院内の手術室前に佇む人物に声をかけた。


「黒木 臨時大尉、田村 少尉の容態はどうだ?」


「・・・不幸中の幸いで、命に別状は無いようです。
 これも新型管制ユニットのお陰でしょう。
 辛うじてコックピットブロック内に生存できるスペースが残されていたようです。

 ただ、・・・もう衛士として戦場に出る事は難しいと思います。
 疑似生体との相性もありますが、両足は切断する事になりましたので・・・。」


「そうか・・・。
 なかなかの腕の持ち主だったんだがな。
 また一人新人(ルーキー)が去る事になってしまうか・・・。

 黒木 臨時大尉そろそろ体を休めるんだ。
 お前には、田村少尉以外にも残された部下が居るのだから。」


「分かっています・・・。
 ただ・・・、もう少し此処に居させてもらえませんか?」


「・・・・・・分かりました。
 黒木さんの気が済むまで居てください。
 でも、明日も恐らく出撃になります。
 それだけは覚いておいてください・・・。」


「了解しました。隊長・・・。」


ロンド・ベル隊に黒木臨時大尉が居た時の呼び名で呼ばれた俺は、全ての事が上手くいっていたように思えたBETAの本土進攻前の事を思い出し、
一瞬思考が停止してしまった。

しかし俺はその直後、既に思い出になってしまった時の事を振り払うように、踵を返し歩き出した。

そして、通路の角を曲がった所で、ずっとこちらの様子を伺っていた気配に対して声をかけた。


「佐々木さん、病院内で気配を消しても誰も咎めませんが、
 騒がしくすると病院から叩き出されますよ。」


「ばれてたか・・・。
 安心しろ、騒ぐのは病院を出てからだ。
 それなら問題ないだろう?」


黒木さんと佐々木さんは歳が近い事もあり、普段から仲が良かった。

その事もあり、佐々木さんは黒木さんを心配して様子を見に来たのだろう。

俺は、部隊長や財閥の仕事に力を入れていたため、隊員から軍人としては尊敬されているようだったが、
個人として最も慕われている人物を隊内で挙げるとすると、真っ先に候補に挙がるのがこの佐々木さんだった。

ロンド・ベル隊内では、争い事は俺、私生活と遊びは佐々木さん、困った時に香具夜さんという住み分けが出来ていたのだ。

恐らく他の隊員たちへのフォローは、香具夜さんや第26試験中隊のベテランたちが行なっている事だろう。

俺は、隊長としてまだまだ未熟な己に恥じながらも、足りないものは他所から持ってくるのも指揮官としての素質の一つと割り切り、
佐々木さんの助力を請うことにした。


「佐々木さん・・・。
 黒木さんの事、お任せします。」


「任された。
 だが、お前の方は大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。
 戦場には余計な感情は、持ち込みませんから・・・。」


「・・・・・・そうか。」


「では、まだやる事があるので。」


俺の返答に反応して、一瞬表情を歪めた佐々木さんを置き去りにして、俺はその場を立ち去ったのだった。








明日からは、いよいよ中隊毎での連携の確認を終え、大隊での部隊運営を行なう予定となっていた。

俺は、部隊の戦力を確認するために、試験部隊専用のハンガーを訪れ、整備主任と打ち合わせをする事にした。


「主任、回収した田村少尉の吹雪はどうだ?」


「信綱様・・・、田村少尉の吹雪は胸部の損傷が激しいため、修理を行なうのも困難です。
 胴体部を新品と入れ替えるか、四肢を取り外し予備部品とする、というのが妥当でしょう。」


「そうか・・・、残念だが田村少尉は後方に下がる事になりそうだ。
 田村少尉の吹雪は、予備部品として使える部分の解体に入り、
 胴体部は研究所へ送るようにしてくれ。」


「そうですか・・・、残念ですが時間を見つけて解体作業に入ります。」


「頼んだ。
 それと、明日の出撃に耐えうる機体を教えてくれ。」


「では、こちらの資料を見てください・・・・・・。」


整備主任から見せられた資料を見ると、第13独立機甲試験大隊(仮)の戦力は以下のようになっている事が分かった。


第13独立機甲試験中隊(ロンド・ベル隊):中隊長 兼 臨時混成大隊優先指揮官 御剣 大尉
不知火弐型 1機(+0機)   関節部の磨耗が見られるため、予備機を要求中。
不知火改  8機(+1機)   衛士の技量と部隊連携を考え、全ての不知火が不知火改に改修される事になる。
                 1機が予備機となっているが、中破した機体と交換済みのため、ただいま修理中。

第25独立機甲試験中隊:中隊長 黒木 臨時大尉
不知火改  4機(+0機)   衛士の技量と部隊連携を考え、3機の不知火が不知火改に改修された。
吹雪     5機(+0機)   新人の配備に合わせて1機追加。3機が大破により部品取りにまわされている。

第26独立機甲試験中隊:中隊長 高畑 大尉
烈震     8機(+1機)   新人の配備に合わせて1機追加。2機が大破により部品取りにまわされ、
                  予備機の2機は、大破もしくは中破した機体と交換済み。中破した1機が修理中。

合計     26機(+2機)


第13独立機甲試験大隊(仮)発足から約2週間が経って、新人が持ってきた吹雪と烈震が配備された事で、一時的に実働戦力29機,
予備機をあわせると32機が配備されていた部隊は、実働戦力26機,予備機をあわせた機体数が28機とその数を減らしていた。

更に、予備機が全て修理中である事や、運用している機体も細かな損傷や関節部の磨耗が報告されており、万全といえる状態では無くなっていた。

ただし周りに居る他の部隊の中に、部隊解散まで戦力を消耗させた部隊もある事を考慮すると、
この整備状況も衛士の損耗率も、かなり良い状態であると言えた。

しかし、この状況も長く続かないだろう。

今までのように、ローテーションで第25試験中隊と第26試験中隊部隊を出撃させ、ロンド・ベル隊から疲労の少ない者を選んで護衛とするやり方なら、
俺の援護もある程度有効に機能させる事ができるが、部隊が大隊規模となると攻撃の手数が足らなくなる上に射線を確保する事が難しくなるため、
援護を行き届かせる自信がないのだ。

また、消耗した現状の戦力では、求められている戦果を達成するために、未熟な衛士の護衛に回っていたロンド・ベル隊が、
積極的に前に出る必要が出てきた事も、被害が拡大すると思えた理由の一つだった。


「所詮自分は一人。
 一人でいくら足掻こうとも、今の己の実力と機体性能では、中隊程度の人数を援護するのが限界か・・・。
 (何とかして部隊全体のレベルを上げなくてはならないが、時間が足りない!)」


「どうされたのですか信綱様?」


「いや・・・、なんでもない。
 それよりも、機体整備に必要な人や物資は足りているか?」


「不知火・吹雪系統の部品は、軍から優先的に回ってきていますので、今のところ問題は有りません。
 烈震の部品は、企業側で用意する事に成りますが、生産工場がある名古屋からは、滞りなく補修部品が届けられています。
 弐型と不知火改の部品と人員については、余裕があるとは言えませんが、何とかしてみますよ。」


「そうか・・・。
 何か問題が起きた時は、報告をくれ。」


そう言った後、ハンガーに置いてある機体と整備士達の作業を軽く見て回った俺は、現状の戦力で少しでも良い結果を残すための戦術の思考と、
戦力を底上げする物の調達の為に、足早に自室へ向かう事になるのだった。








8月12日

九州から帝国軍が退却してから3日が経ち、各戦線へのBETA群の圧力が日増しに高まっていた。

その中で第13独立機甲試験大隊(仮)は、後衛となる第25試験中隊の吹雪と第26試験中隊の烈震半数に、
ガトリングシールドと98式中隊支援砲を装備させる事を選択していた。

そして、火力を優先した事で運動性が低下した後衛部隊の周りを、98式中隊支援砲もしくは98式支援砲を一門装備した、
第25・26試験中隊の不知火改・烈震を駆るベテラン衛士達が中衛として護衛を行い、ロンド・ベル隊が前衛として戦うという体制で、
BETA群の物量に対抗しようしたのだ。

この部隊編成は、鞍馬部隊の運用法を一部に取り入れた単純な連携を行なうためのものである。

連携の精度が低い混成部隊にとって、この火力に頼る編成は有効に運用できる数少ない選択肢の一つだった。

独立試験部隊の権限を使って集めた武装によって成り立つ事になったこの部隊運用は、それなりに有効に働き、
複雑な連携が出来ない結成から間もない部隊でありながら、多くの戦果を残す事になる。

しかし、それでも機体の損傷、それに伴う衛士の死傷は避ける事ができなかった。

他の部隊と比べて損耗率は低くなっているが、衛士は死んでいくのだ。

衛士こそ無事救出できたものの、弾倉の交換時の火力が低下した時のカバーが間に合わず、無理をした護衛役の烈震がやられ、
次に弾倉補給するための退却時に強襲を受け、不知火改に乗り換えて間もない前衛の1機が落とされた。

そして、第25試験中隊所属で元ロンド・ベル隊員の不知火改までもが、光線属種への対応時にバランスを崩して墜落し、
BETA群の中で孤立してしまったために戦場で散る事となった。

後に不知火改・強行偵察装備に残されたデータを解析して、レーザー照射に対してランダム回避を行なっている最中に、
跳躍ユニットへレーザー照射を受けたために跳躍ユニット1基が破損、その急なバランスの変化に対応できず墜落に至った事が分かった。

第13独立機甲試験大隊(仮)は、一週間の間で1人の衛士を失い、3機の戦術機を失う事になったのだ。

これで予備機なしの戦術機25機という戦力となった第13独立機甲試験大隊(仮)だったが、
それでも他の部隊よりは損耗の少ない部隊として認識されているためか、激戦区への参戦要求が日増しに強まっていく事となる。

更に追い討ちをかける様に、瀬戸内海側の近畿地方の防衛が成功を収めていると過信をしたのか、
この地域の防衛よりも京都の防衛を優先したのか分からないが、1週間ほど前から戦力が引き抜かれ京都の防衛に当てられていたのだ。

その結果、次第に防衛線の維持が困難になって来ており、第13独立機甲試験大隊(仮)が抜けることが戸惑われるほど、戦況は逼迫してきていた。

唯一の好材料と言えば、旧型の撃震がハイペースで入れ替えられる事になった事ぐらいだろう。

BETAの本土進攻から4週間以上が経ち、BETAの侵攻直後から企業側だけで動き始め、後に正式に政府に認められる事になったF-4JF『烈震』の量産計画と、
撃震の鞍馬への改修作業がここにきて効果を見せ始めていたのだ。

しかし、俺たちはその効果を実感する間もなく、まったく余裕の無い戦場で戦い続け、徐々に追い詰められつつあった。


「冗談じゃない・・・。
 神戸にいる戦力で、この規模のBETAを防げる筈がない。」


「ベル 9(岡田 少尉)、大陸ではこの程度の戦場は珍しくなかった。
 むしろ、海上からの援護が受けられる分、まだマシだ。」


「しかし、隊長・・・。」


「部隊の半数は大陸帰りだ。
 いつも通りにやれば今回も生き残れるさ・・・。
 
 混成大隊各機に告ぐ。
 この後、後方からの支援砲撃が有り、後方へ下がれば補給物資も有る戦闘が開始される。
 戦場で孤立する確率が高い遊撃部隊として集められた俺たちにとっては、まだまだ恵まれた戦場だ・・・。
 なら、ここにいる全員が力を出せば何も問題は無い。

 多くの部下を死なせた俺からは、お前たちに死ぬなとは言えん。
 だから俺はお前たちに命じる・・・、生き残れ!」


「「「「「了解!!」」」」」


俺は、不安に陥っていた隊員を軽口で励ました後、隊員全員に対し檄を飛ばした。

しかし、俺自身この事が詭弁だと言う事は分かっていた。

大陸でこの規模侵攻を現状の戦力で受けた時、多くの場合で戦線が崩壊し、防衛線が大きく後退する困難な状況に追い込まれていたのだ。

この事は、大陸帰りの者なら分かっている事だが、経験の浅い者たちを奮い立たせるためか、その事を指摘するベテランは一人もいなかった。

こうして、隊員と期待の状況を確認している間に、BETA群がセンサーと無人の火器が配備された第一陣を突破したと情報が入ってくる。

戦術機部隊はその情報を受け、戦車や自走砲などから行なわれる援護砲撃の効果が薄い、BETAの前衛部隊となる突撃級を足止めし、
可能なら排除するためにBETA群の進行方向に急進する。

戦術機部隊が展開した戦域に、後方の援護砲撃や海上からの艦砲射撃で若干乱れた隊列の突撃級の群れが到達した。

第13独立機甲試験大隊(仮)は、前衛部隊であるロンド・ベル隊が突撃級の隙間を縫うように浸透し、隊列の内部から突撃級の隊列を食い破った。

次に、吹雪・烈震で構成された後衛部隊と共に、その護衛を行なう中衛の不知火改・烈震が突撃級の群れの中に乱入する。

そして、突撃砲と中隊支援砲・支援砲を使って、突撃級の群れを撃破していったのだ。

これにより第13独立機甲試験大隊(仮)がいる戦域は、予定より早く突撃級の排除に成功、他の部隊にこの戦域を任せ、俺は部隊を他の戦域に移動させた。

俺たちが向かった戦域では、要撃級や戦車級などのBETA群の中衛とも言える部隊が接近しているにも関らず、
未だに突撃級の処理に手間取っている様子だった。

突撃級の群れと中衛の合流を許すと、驚異的な数を持つBETA群の中衛への援護砲撃の効果が薄くなってしまう。

また、再び前衛の突撃級と中衛が分離するのを待つには、多くの距離が必要になるため、BETAの侵攻を押し留めたい今回の作戦では、
選択する事が出来ない戦術だった。

俺は、面倒な事しか起こらないBETA群の合流を阻止するために、混成部隊をBETA群の前衛と中衛の中間に鶴翼参陣に近い陣形で布陣させた。

そこで、戦闘が始まってから今まで温存していたガトリングシールドを、第25試験中隊の吹雪5機と第26試験中隊の烈震4機に展開させ、
混戦部隊の全力射撃を接近してきたBETA群の中衛に叩き込んだ。

ガトリングシールドに取り付けられているGAU-8 Avengerを2基搭載している戦術歩行攻撃機A-10『サンダーボルトⅡ』は、
単機火力でF-4一個小隊を上回るとされている。

そのガトリング砲に突撃砲や中隊支援砲・支援砲を合わせた混戦大隊の火力は、瞬間的に定数を満たした戦術機大隊を上回っていた。

戦術機大隊を上回る火力でさえ、カバーできる戦域はそれほど大きなものではなかったが、こうしてBETA群の中衛を押し留め、
10分ほどの時間を稼いだ事で、その間に突撃級の排除が終わった部隊が参戦し、後方からの援護がとどき始める事になる。

防衛部隊は、辛うじて戦線を維持することに成功したのだ。

しかし、これで終わらないのが今回の様なBETA群の大規模侵攻である。

あまりにも多い数に対処していく中で、BETA群を足止めしている戦術機部隊の弾薬が欠乏しつつあった上に、
光線級の出現で、後方からの援護砲撃の効果が低くなってきていたのだ。


「ベル1(御剣 大尉)より混成大隊各機へ、
 後衛部隊を弾薬の補給の為に一旦下げる。
 中衛部隊はその護衛だ。」


俺の命令に従い、部隊は二手に別れ移動を開始した。

BETA群を足止めするために残った、不知火弐型と不知火改で構成されたロンド・ベル隊(前衛部隊)は、AL砲弾により重金属雲が形成された事を確認すると、
長距離と短距離の噴射跳躍を駆使する事でBETA群中衛を突破し、その後方に移動する事に成功した。

BETA群中衛の後方には、多くの光線級が配置されていたのだ。


「重金属雲さえ形成されていれば、光線級が相手なら・・・。

 ベル1(御剣 大尉)よりロンド・ベル隊各機へ、
 光線級を一気に平らげるぞ!」


ロンド・ベル隊は、残された弾薬を惜しみなく使って目に留まる範囲で光線級を排除していった。

光線級は、ロンド・ベル隊に対しレーザー照射をしようとする個体もいたが、接近した後のレーザー照射は、
第3世代機にとって初期照射の段階で射線から逃れる事が可能な攻撃で、それほど脅威と言えるものではなかった。

しかも、重金属雲の影響で初期照射は機体に殆ど危害を加える事が出来なかったのだ。

ロンド・ベル隊が所持する弾薬に底が見え始め、部隊を弾薬の補給に戻った後衛部隊と合流させようと考えた時に嫌な連絡が入る。


「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 多数の重光線級と要塞級で構成された、BETAの後衛が接近しています。」


「・・・部隊を下げる時に、重光線級に後ろから狙われるのはいい気分じゃないな。」


俺はそう言って、BETAの後衛をレーダーで確認した。

BETAの後衛は、重光線級への攻撃を警戒しているのか、戦闘が始まる前から要塞級を前面に押し出しており、
重光線級は上空から飛来する砲弾に向かって、レーザー照射を行なうのに力を注いでいるようだった。


「ベル1(御剣 大尉)よりロンド・ベル隊各機へ、
 一旦BETA後衛に接近し、パンツァーファウストで要塞級を牽制。
 その後は、全力でBETA群から脱出し、補給に戻った部隊と合流する。」


パンツァーファウストとは、携帯式対戦車用無反動砲用とも言われる歩兵の装備を戦術機用に大型化したもので、
要塞級を撃破を容易にするために開発された兵装である。

使用頻度が高くないわりに重要となる要塞級へ対応できる武装として、小型・軽量でありながら高い威力を持つこの兵器は、
衛士たちに受け入れられつつあった。

初期段階では、筒をメインアームで保持し発射するタイプだったが、命中率が問題となったために、
現在は突撃砲の120mm滑空砲の砲身にセットする事で運用する形となっている。

最大戦速で要塞級に接近していた1機の不知火弐型と8機の不知火改は、
速度を落とすことなく120mm滑空砲に取り付けられたパンツァーファウストを発射する。

戦術機の速度が合わさる事で速度を増したパンツァーファウストの弾頭は、要塞級に対応する間を与えることなく命中し、
要塞級の頭部や脚部の付け根を吹き飛ばした。

要塞級の触手が届く50mに接近する前に、1機あたり4発、合計36発のパンツァーファウストを放ったロンド・ベル隊は、
全ての弾頭の行方を直接確認する前に反転し、BETA群から脱出を図っていた。

パンツァーファウストの直撃を受けた要塞級は、頭部を失い地面に横たわりながらも、しばらくの間生き続けるほど生命力が強い。

だが今回はその事が仇となり、生きた要塞級を排除する事ができない重光線級は、緩慢な動きで20体以上に上る要塞級の壁を越える事になった。

その時間を利用し、他の部隊が引いたことを確認したロンド・ベル隊は、光線属種が攻撃できないBETA群の只中を突破し、
分かれた部隊と合流を図るのだった。









九州の帝国軍部隊が撤退した事で始まった各方面への大規模侵攻により、神戸の防衛線は一気に芦屋まで下がり、
更に24時間後には尼崎まで後退する事になる。

その他に、
近畿地方は、京都,滋賀県北部(賤ヶ岳)
北陸地方は、石川県中部(金沢市)
四国地方は、香川から徳島県にかけての県境
で防衛戦が継続されており、各防衛線共に苦戦を強いられていた。

特に日本帝国の首都である京都の防衛戦で支払った帝国軍及び在日米軍の代償は大きく、防衛に不向きな京都の街中で戦闘が行なわれた結果、
千年続くと言われる都は灰塵に帰そうとしていたのだった。

神戸の防衛戦が抜かれた事で、南からの侵攻を受ける可能性が高まった京都では、度重なる犠牲に耐え切れなくなった事もあり、
これ以上の防衛は困難であるという議論が沸き起こる。

京都へ侵攻してきているBETA群は、日本海側を東進していたBETA群の半数ほどで、残りは依然として日本海側を東進している。

ここに、瀬戸内海側のBETA群から侵攻を受ける事になった時、帝国軍は防衛を続ける自信が持てなくなってきていたのだ。

そして、防衛戦で出る多くの犠牲と防衛を続ける意味を秤にかけた結果、ついに政威大将軍は首都京都を放棄する事に同意する。

それを受けて、軍部は戦力を集中させるため戦線を縮小する事を決定した。

軍は防衛に不利な京都を放棄し、1987年より浚渫工事が行なわれた琵琶湖運河の一部である大阪湾-琵琶湖ライン(旧淀川水系)を、
大きな堀として見立てて防衛線を構築する事が決定、それに合わせて琵琶湖運河以西を放棄する事も決定する。

戦艦を浮かべる事ができる琵琶湖運河は、海上戦力も有効に活用する事ができる防衛線と成り、
アフリカ大陸を守るスエズ運河防衛線に匹敵する防御力になると、軍部は自信を見せていた。

ただし、琵琶湖の北に位置する敦賀湾-琵琶湖ラインの琵琶湖運河については、戦力不足により既にBETA群に突破されているため、
滋賀県北部での防衛線は、琵琶湖に展開する海上戦力の援護を受けやすくするため、長浜まで下げられる事になる。

この計画の実行は、皮肉にも京都防衛開始から丁度一月となる8月16日に決行される事になるのだった。








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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
何とか月半ばの更新・・・、ギリギリ月に二回の更新ができるペースで新話の投稿が出来て、
一安心しております。
隙を見て他の方のSSや小説を読んで、自分の文章力の無さに打ちのめされていますが、
書き始めたからには切れの良い所まで更新を続けたいです。
それまで、御付き合いしていただければ幸いです。

今回は、神戸周辺でも防衛戦をメインに書きました。
戦場での犠牲をどの様に表現すれば良いのか悩んだ結果が、上で書いたモノです。
また、今回は以前から出したかったショットガンや、パンツァーファウストを漸く登場させる事ができました。
特にパンツァーファウストの部分は、多くのご意見を受けて設定を煮詰めた部分だけに、
上手く表現できたか気にしている部分です。

人の感情やしぐさを表現しきれていないかもしれませんが、今のところこの程度の表現が限界でした。
もう少し時間を置いて、成長してから見るともっと良い表現が出来るのでしょうか?
時間を見つけて、今後も足掻いてみたいと思います。

次回は、京都の退却戦を書くことになると思います。
月末の更新を目指して頑張っていきますので、気が付いた事をご指摘頂ければ幸いです。


返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


単分子カッター・・・。
単分子(1分子で構成されている)刃でカッターを作るというのは、あまり感覚的に理解し難いものがありますが、
とっても刃が薄くて切れ味がいい武器と認識すればよいのでしょう。
いくつかの設定を見て、個人的には単分子ワイヤーなら現実味が有りそうだとは感じましたが、
カッターにする設定にしっくり来なかったので、今回は採用を断念させていただきたいと思います。
ただし、こんなやり方もあるとご意見を頂ければ考え方が変わる可能性もあります。
頭の固い私を説得する御時間が有りましたら、ご意見をいただけると幸いです。


レーザー種の目玉のレンズを使ってレーザー兵器として、戦艦に乗せる・・・。
良いアイデアだと一瞬思いましたが、BETAとレーザーの打ち合いをした場合、
同じ威力だとすると圧倒的に人類が不利になってしまうことに気が付きました。
ここは、地平線の先からや障害物の裏から砲弾を撃ち込む方式をしばらく続けたいと思います。
後・・・、このレーザーって他の部分で使う事が出来ないものか・・・・・・。


S-11って威力は高いけど爆発範囲が狭いってイメージが……
確かにS-11は、指向性を与えているという原作設定が有りますので、
その威力は限定的です。
しかし、設定次第で無指向性爆弾として使う事も可能という事ですので、
そうすれば小型戦術核並みの威力を存分に発揮してくれる事でしょう。
ただ・・・、戦略核を使っても侵攻を防ぎきれないBETA群へ与える影響を考えると・・・。
群れを成したBETAって、強すぎですよね。


ゾイドのザバットのような自走型ボム……
画像を検索すると、妄想していたようなタイヤの付いたミサイル(爆弾)が出てきました。
ザバットさんの形状ですと、不整地の走破性が低そうなので、ご意見にあったようにバイク型が良いのかもしれません。
しかし、これが上手く機能しすぎると戦術機がいらなくなるような・・・。
S-11の量産に問題があるとか理由をつけて、数を制限するのもいいかもしれません。
また、BETAに迎撃されない高威力の兵器が他にないか、今後も検討したいと思います。


難民などから衛士を募ったほうがいいのでしょうか?・・・
人員不足は私も悩んでいます。
ご意見にあった、ゲームなどで人材発掘・・・。
様々なアニメで、主人公が掘り出される切っ掛けとなるあれですね。
娯楽が発展していないという原作設定もありますので、もう少し捻った設定が必要かもしれません。
しばらくの間、検討する時間を頂きたいと思います。


量子コンピュータとバイオコンピュータ・・・
原作の設定を私なりに解釈したところ、香月博士が開発していた量子電導脳は、
高温超電導物質を使っていると言う説明から、ハード的には量子コンピュータの仲間に入ると考えました。

そして、原作でこのコンピュータが完成していなかった(香月博士が使用したい域まで達していなかった)のは、
ハードに問題があるのではなく、ハードを運用するためのソフトに問題が有った為で、
とあるヒントによりそれが一気に解決したと考えた方が、物語のつながりが自然だと思えました。
ハードを一から生産するには、与えられた時間が短いと思ったのも理由の一つです。

したがって、現実ではどちらが実用化する可能性が高いかは議論せずに、原作の流れとこの作品で、
香月博士の所属する研究室から得た理論で作ったコンピュータは何かを考えるとすると、
古典的な手法で運用される量子コンピュータとするのが良いだろうという考えに至りました。

結論としては、予算と人員不足を理由にして、バイオコンピュータを作ると言うご意見は不採用という事にしたいと思います。
しかし、前回書きましたように、広義的にはバイオコンピュータに含まれ、量子コンピュータと反発しないものが見つかりましたので、
それを設定に生かしたいと考えています。


皆様、多数のご意見ありがとうございます。
皆様のご意見で、かなり設定を考えることが出来ました。
今後も、御力添えをいただけたら幸いに思います。



[16427] 第27話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 23:51

8月14日 

九州戦線の消失によって各線への圧力が増したBETAの侵攻により、12日の一の谷から始まった本州瀬戸内海側防衛線の後退は、
現在25km東の芦屋(あしや)まで進んでいた。

防衛戦に参加していた部隊の多くが戦いの中で傷つき、特に損耗が激しい部隊は、芦屋から東に10km移動した尼崎(あまがさき)、
もしくは芦屋から北東に13km移動した伊丹(いたみ)にて、補給と修理を受けていた。

ロンド・ベル隊を含む混成大隊は、所属する多くの戦術機が機体各部から損傷を現わす警告が出ていた事と、
バイタルデータが安定していな衛士が複数名いた事を受け、尼崎にて簡易修理と休憩を取る事となった。

尼崎に到着後、直ぐに隊員たちの様子を確認した俺は、疲労の回復を図るため隊員全員に仮眠を取るように命じる事になる。

若くBETA戦の経験が豊富な者の中には戦闘を続けられる者もいたが、新人やベテラン勢からは数日間の休息を必要とする者も居たためだった。

そして、隊員が仮眠室に向かったのを確認した後、部隊の戦力を確認するために、簡易ドッグで戦術機の簡易検査を行っていた整備主任に声をかる。


「主任!
 隊内に使える戦術機は何機有る!?」


「重要部品のみの点検・整備で、今まで何とか誤魔化してきましたが・・・、もう限界です。
 全機オーバーホールを必要としています。
 そのような状態で皆さんを送り出すわけにはいきません。

 尤も時間を頂ければ、補修部品が豊富な吹雪なら、この場でも辛うじて出撃できるまで直す事は可能ですが・・・。」


俺の問いかけに対して、整備主任は表情を曇らせて返答を返した。

余り好い返事が貰えなかった俺だったが、怯むことなく整備主任に己の要求を押し付けた。


「全機を修理する必要は無い。
 当面は2個小隊分、8機の戦術機だけでも確保できれば良い!
 それ以上機体があっても、衛士の方に出撃に耐えうる者が居ない・・・。

 弐型1機,偵察装備を含む不知火改2機,吹雪5機で、丁度2個中隊。
 如何にかできないか!?」


整備主任は、俺の要求に対して更に表情を歪め、大きく首を横に振った。

そして、普段は見せない厳しい表情で、メガネを指先で押し上げた後、その理由を語りだす。


「消耗の少ない偵察装備の不知火改なら何とかなるかもしれませんが、弐型は無理です。

 ・・・信綱様は警報装置を切り、操縦の腕で誤魔化そうとしていたのかもしれませんが、私達の目は誤魔化せませんよ。
 先ほどの検査で、弐型の性能は各部の消耗により、吹雪を下回るまで低下している事が判明しています。
 何時壊れてもおかしくない機体に、貴方を乗せる事などできません。」


これまでの戦闘による消耗で弐型の補修部品は底をつき、最後のパーツも各部に磨耗や金属疲労が溜まり悲鳴を上げている事は、
俺にもわかっていた。

しかし、そんな状況でも己の体が無事で機体が動く限りは戦う事が出来る、機体性能が低下しようとも其の中で限界を見極めて戦えるのが、
俺の騎乗と言う能力なのだ。


「吹雪を1個小隊・・・、いや吹雪1機でも良い。
 直ぐに出撃出来る機体を用意してくれ。

 今この時も・・・、戦っている友軍がいるんだぞ!!」


「いい加減にするのじゃ信綱!
 たかが戦術機1機で、戦場に出て何になると言うのじゃ。」


己の感情を抑えられず整備主任に詰め寄った時、仮眠を取っていると思っていたロンド・ベル隊隊員から声がかけられ、
その行動を引き止められたのだった。








俺が武田香具夜中尉の怒鳴り声を聞きその顔を真正面から見た時、始めに感じた事、それは喜び、そして懐かしさだった。

こんな感情を持ったのは、この2・3ヶ月の間必要最低限の事以外では避けられていたのが主な理由だと思うが、
今の俺には己の感情に構っている余裕は無かった。


「武田中尉・・・、仮眠を取るようにと命じていた筈だが?
 俺は話し合いで忙しい、用事があるなら後にしてくれ。」


俺はそう言って、香具夜さんに向けていた視線を整備主任に戻した。

しかし、香具夜さんから視線を外した瞬間、腕をつかまれ強引に向き合う形に持ち込まれてしまう。


「お主にこそ休息が必要じゃ。
 無茶をする隊長の手綱を握るのも副官の務め、なら・・・お主が休むまでワシも休まん!」


「何を言っているんですか!?

 俺のバイタルデータに異常が無い事は、香具夜さんもチェックされている筈でしょ!?」


「確かに戦闘中のバイタルデータからは異常を見つけることは出来なんだ。
 じゃが、帰還直後のデータからは極度の疲労状態である事が分かっておる。
 しかも信綱・・・、お主は多忙な事を理由に血液検査を拒否しているそうじゃな。

 もう誤魔化しはできん、そんなお主がたった1機の戦術機で出撃して何が出来ると言うのじゃ!」


武術を学ぶものが目指す境地の一つに、『明鏡止水』といモノがある。

明鏡止水とは、くもりのない鏡と波立たない静かな水の意で、転じて研ぎすました鏡の如く、又静止した清らからな水の如く澄み切って、
どんな小さなものをも心に写す心境を指している。

爆発的な力を生み出す集中力による緊張と、一つの事柄に捕らわれない平常心を保つ脱力を併せ持ったこの状態を、
武術を学ぶ者たちは己の実力が発揮できる最高の状態と考えていた。

俺は生まれた時に身に付けた能力なのか、鍛錬で身に付けた能力なのかは分からないが、その境地にまで至る事が可能だった。

尤も、未だに瞬間的に心が強く揺さぶられた時に、明鏡止水の心境を維持することは難しいと言う注釈は付いていたが・・・。

兎も角、戦闘状態に入ったと体が認識した時点で、どんなに疲労が蓄積されていようとも、直ぐに臨戦態勢に入れ心を研ぎ澄ます事が出来た。

そして、それを使えば血液検査を用いないバイタルデータ(血圧・心拍数・脳波)のみの判断なら、健康状態を誤魔化す事が可能だという事も、
これまでの経験上認識していて、上手く使い分けていたのだ。

今回は、戦術機を降りる前に明鏡止水の状態を解いてしまった事で、バイタルデータに異常が残ってしまったのだろう。

俺は、己の失敗と思うようにいかない現状への苛立ちを隠す事ができないまま、
自分を見上げるようにして睨み付けて来る少女のような外見の香具夜さんに対して、声を荒らげた。


「戦闘中のバイタルデータに異常がないという事は、戦闘行為に支障がない証拠です!
 それに、たとえ1機の戦術機でも出来る事があるはずだ。
 
 出撃したとしても、一人や二人の命を救う事しかできないかもしれない。
 でもそこで救えた命が、更に他の命を救うかもしれない・・・。
 そうやって、ひとつの事が切掛けとなって、戦いの流れが・・・未来だって変えられるかもしれない!
 そうでしょう!?」


「・・・確かに、今お主が出撃する事で、少しは良い未来が手に入るのかもしれん。
 じゃが、お主が万全の態勢で部隊を率いれば、100人だって救う事が出来る筈じゃ。

 それなのに、何時倒れてもおかしくない体で戦って、命を危険にさらし続けて!
 このままでは・・・、戦局を変える前にお主が死んでしまう・・・・・・。」
 

「俺はまだ戦える!

 ・・・

 それに・・・、今も戦場で戦っている者たちに、疲れたから戦えませんなんて言える訳が無い。
 俺なら・・・」


 パァーン


言葉を発している間に冷静さを取り戻した俺が、苛立ちを押え説得に移ろうとした瞬間、簡易ドッグ内に大きな音が響き渡り、
俺は頬に大きな痛みを感じる事になった。


「え・・・?」


そして、俺の口からは今の状況をまるで理解出来ていないような、間抜けな声が漏れる。

瞳に涙を溜めて平手を振りぬいた香具夜さんが目の前に立って居る事を認識した俺は、頬の痛みの原因は彼女にあることだけは、
思考が停止しかけていた中でも辛うじて理解する事ができた。


「信綱・・・、お主は疲れておるのじゃ。
 周りも見えず、女子であるワシの平手打ちに反応できぬほどに・・・。

 それに、大隊内でシフトを組んでおる時も必ず出撃し、最近は正規の出撃以外にも機体調整と称して出撃しておる。
 この一月の間で、お主の総出撃回数を越える者は、日本国内・・・いや世界中を探しても恐らく居らんじゃろう。
 其のお主が体を休める事を責める者など・・・、居るものか。」


「・・・・・・。」
 

「・・・信綱が戦う目的は何なのじゃ。
 武家としても義務を果たすためか? 男として名誉を得るためか? それとも戦い其の物か?」


「俺は・・・、俺の目的は・・・。」


香具夜さんの問に答えるために自問自答した俺は、目の前の霧が晴れるような感覚の後、忘れかけていた戦う理由を鮮明に思い出した。

一月前までははっきりと自覚できていた事すら直ぐに応えられないほど、思考が狭まっていた事にショックを受けながらも、
俺は晴れやかな気分で香具夜さんの問に答え始める。


「香具夜さんの言う通り・・・、俺は疲労で冷静な判断力を失い、戦う目的も忘れかけていたようです。

 俺は・・・、俺の大切な人たちとその人たちが住む世界,共に過ごす時間を守るために戦う道を選んだ・・・。
 BETAとの戦いは目的を達成するための障害の一つでしかありませんし、目的の為には自分も大切な人たちも失う事は出来ません。

 守るべき対象に、自分自身が含まれていた事を失念していました。」


「信綱・・・、分かってくれればよいのじゃ。」


「香具夜さん、もう大丈夫です。
 本来の自分を取り戻せた俺は・・・、そう易々と負けませんから。」


俺はそう言った後、香具夜さんの今にも零れ落ちそうな涙を指先で拭き取り、
息を呑んでこちらの様子を伺っていた整備主任と整備士の皆に声をかけた。


「皆、すまないが少し予定を変更する。
 隊内に戦闘に耐えうる戦力は残されていない事がわかった。
 
 次の戦いに備えるために・・・、明日を勝ち取るために、琵琶湖運河を渡った大阪まで下がり、部隊を立て直す。

 香具夜さん、各中隊への連絡と移動準備の指揮を頼みます。
 機体と機材の輸送に必要な人材を残して、それ以外の者は直ぐに大阪に移動させるようにしてください。
 俺は、司令部へ連絡して調整を行うことしますので・・・。」


簡易ハンガーに来た時よりもしっかりとした足取りで歩き出した俺は、そのまま通信施設へ向かう事になった。

司令部への連絡の前に、帝国軍技術廠や企業側に状況を説明し、大阪まで下がって補給を受ける事を了承してもらった俺は、
その後の司令部との交渉を有利に進め、機体の損耗と衛士の疲労により部隊が破綻する可能性がある事を盾に取り、
半ば脅しをかける形で部隊の後退に同意を得ることが出来たのだ。

尼崎に後退してから、それほど時間が経過していなかった事が幸いし、部隊の移動はスムーズに行われる事になる。

機体よりも先行して大阪に移動していた衛士を含む混成大隊の関係者は、夜までに大阪に到着し、
久しぶりに安心できる後方で睡眠を取る事となった。

その中には、もちろん部隊長である俺も含まれていた。

大阪で確保した元ホテルの一室で、久しぶりに香具夜さんと今後の打ち合わせが半分、世間話が半分の会話を楽しんでいたところ、
睡魔に負け彼女の目の前でベッドの上に倒れこんだのだ。

次の日の朝、意識が浮かんできた俺が感じた事は、なんだか暖かく久しぶりにグッスリ眠れたという事だった。

しかも、有る筈の無い抱き枕の感触に、懐かしさを感じるというおまけ付きで・・・。

俺はこの感覚をもっと楽しむため、抱き枕に顔を埋め深呼吸をしようとした時、短い掛け声と共に、脇腹に鈍痛を感じて飛び起きる事になる。


「フッ!

 いい加減にせよ!
 寝起きの女子を抱きしめて、深呼吸をするのは無作法じゃと、何度言えば分かるのじゃ!?」


なんと、抱き枕だと思っていたのは、武田香具夜中尉だった・・・。

こうして、起こされるのは何度目になるのだろうか?

大陸に居た時は度々起こった事だったので、漸く対処出来る様になってきていたのだが、本土に帰ってきてからは一度も起こらなかった為か、
寝ぼけた頭では直ぐにその答えに行き着くことが出来なかったのだ。

俺はその後、小柄な体格のわりに体にダメージが蓄積される打撃を、複数回受けるという散々な朝を向かえたのだった。








8月15日 

ロンド・ベル隊と入れ替わりに、富士教導隊の部隊が尼崎まで進出する事になったと連絡が入る。

以前から、戦力不足により教導隊を琵琶湖運河防衛線(大阪湾-琵琶湖ライン)に配備するという話が出ていたが、
それを前倒して投入する事になったのだろう。

俺は、ある事を思いつき移動中の富士教導隊の部隊に、通信を入れた。


「始めまして、第13独立機甲試験中隊 中隊長 御剣 大尉です。
 お急ぎのところと思いますので、手短に用件をお伝えします。

 我が隊が得た、最新の戦闘データをそちらに送ります。
 普通の部隊なら上手く使えるか分かりませんが、
 我が隊と装備も錬度も近い教導隊なら、有効に使えるはずです。」


「こちらは、富士教導隊 第3中隊 中隊長の前田 大尉だ。

 こちらにとっては、始めてとは思えんな。
 貴様のお陰で、教導隊はむちゃくちゃな三次元機動を身に付ける破目になった。
 それに・・・、訓練兵時代の貴様に土を付けられなかった事も、我等は忘れていないぞ。」


俺が通信を入れた富士教導隊の部隊長は、30歳に届いていない様に見える年齢ながら、強い意志を持った瞳でこちらを見つめていた。


「教導隊が最強なのは平和な時だけ・・・、
 新しい戦術は常に前線で試され、磨かれるものです。
 
 新しい血が入った事を喜べなければ、教導隊の名折れですよ。
 それに、訓練兵に土を付けられなかった事で、危機感は高まった筈ですが?」


俺は、その視線を正面から受け止め、正論と同時に挑発するような視線を返した。


「・・・まぁ、良いだろう。
 その話題は、時間が有るときにもう一度しよう。
 
 戦闘データの件は、ありがたく頂戴する・・・、正直に言えば不知火改での実戦データが不足していたのだ。
 しかし・・・、よいのか?」


前田 大尉の疑問は、独立試験中隊に付きまとうある噂から出た言葉である事は、容易に想像できた。

その噂とは、企業間の開発競争の激化で、正確な情報を隠す事を目的に、全ての戦闘データの提出を企業側が行っていないのではないか、
というモノである。

この噂は、半分正解で半分は間違っていた。

企業側は、始めに交わされた全ての戦闘データを提出するという契約を守りつつも、データの解説書にフィルターをかける事で、
国や他社が真に重要なデータに気が付かないか、気が付くのを遅らせる工作を行うこともあったのだ。

つまり、この兵器は数千回に一回不具合を起こす事は報告するが、その原因と解決策に対して御茶を濁す場合があるという事である。


「私自身、企業側の立場も分かる人間ですので、多くを語ることは出来ませんが、
 全ての戦闘データを帝国軍に提出する事は守られていますし、戦術や新兵装の有効性の判断を歪めるほど、
 企業側は腐っていません。

 今回は、技術廠への報告と同時期に教導隊にも情報が流れたという事にしておきましょう。
 こちらとしても、多くの部隊で実戦証明がいただけると、今後が楽ですので・・・。
 この情報をどうするかは、そちらの判断にお任せします。」


俺はそう言った後、全てを語れない事に対する謝罪の意味を込めて、僅かな間だったが目を伏せた。

こちらの対応に考える素振りを見せていた前田 大尉だったが、俺の意思が伝わったのか、次の瞬間には笑みを浮かべ、
挑発的な言葉を投げ掛けてきた。


「・・・お前等ができた事を、我等が出来ない筈はない。

 次の演習を楽しみにしておけ、この借りは必ず返す。
 さっさと戦力を整えて、前線に復帰しろ!!」


「機体の調達に最低でも一週間・・・、それに機体調整と再訓練の時間が要りますので、
 二週間で復帰できれば御の字でしょう。
 無論、全力でその期間の短縮に勤めますが・・・。

 それと、借りをなにで返すのかについても、そちらにお任せます。
 私達としては、貴方達と轡を並べて戦える日を楽しみにしています。」


俺と前田 大尉は、互いに声を掛け合った後、短めの敬礼を交わした通信を終えることになったのだった。








8月16日

この日、ついに近畿地方で戦闘に関っていた部隊に対して、一ヶ月に及ぶ熾烈な防衛戦の末、
京都を放棄し首都を京都から東京に移す作戦の全容が明かされることになる。

本州瀬戸内海側ルートの足止め成功にも関らず、マブラヴの世界と同じ期間で、京都は陥落する事となったのだ。

大阪で補給を受けていた第13独立機甲試験大隊にも、もちろんその情報は開示される事になり、
俺はそこで始めて斯衛軍第16斯衛大隊が京都撤退の殿を務めることを知る事になる。

斯衛軍に瑞鶴以外にも多くの不知火壱型乙が配備されている事や、真耶マヤ真那マナの実力を考えれば、二人が生き残る事は難しい事ではないと計算しながらも、
俺は自身が介入した事で第16斯衛大隊が殿を務める事になったのでは、という考えを振り払う事ができずにいた。

俺は、半ば答えを知りつつも、こう確認をせずにはいられなかったのだ。


「主任、
 京都へ援軍に行く為に、戦術機を使いたいのだが?」


「ご指示が有ったとおり、全機オーバーホールを行っています。
 出撃が可能な戦術機はありません。」


「・・・、そうか。」


俺の突然の問いかけによってブリーフィングルーム内には奇妙な沈黙が訪れた。

その空気に耐えられなくなった佐々木さんは、俺に対してからかう様な調子で声をかけて来る。


「どうしたんだ急に、お前らしくない。
 まさか・・・、京都に女でもいるのか?」


俺は、隊員全員が集まる中で不用意な発言をしてしまった事に軽く後悔しながらも、佐々木さんの問いかけに対し、取り繕う言葉を返していく。


「琵琶湖運河の防衛線が上手く機能すれば、一番活躍する事になる戦術機は、圧倒的火力を持つ鞍馬だ。
 そして、第1世代機の撃震も一定の活躍を見せる事が出来る戦場となる。
 したがって、第3世代機の多くは、まだ侵攻が続く地方に戦場を移すことになるはず・・・。

 言い方は悪いが、それでは第3世代機が活躍しているという印象を、国内外に与え辛くなる。
 その結果、第3世代機の開発予算が削られる事になれば目も当てられない。

 もちろん、京都からの撤退戦で俺たちが第3世代機の有効性を改めて示せるとも限らないし、
 斯衛軍がそれを示す事になるかもしれない。
 だが、少しでも可能性を高める手段として、どの戦線にも戦力として考えられていない俺たちが京都で戦う事に意味は有る筈だ。

 それに・・・、日本人として首都の最後を見届けたいという思いが無い訳ではない。」


苦しいながらもそれらしい理由を並べる事ができた俺は、これで誤魔化す事が出来たと考え隊員を見渡した。

だが、隊員の中に約1名、俺の応えに対して不信そうな表情を浮かべる人物がいた。

俺は、慌ててその場を解散させようとしたが、後一歩及ばず、その者の発言を許す事になった。


「信綱!
 昨日は、補給を受ける間は大阪から動かんと申しておったじゃろう。
 それがどうして、今のような発言となるのじゃ。
 
 斯衛軍第16斯衛大隊・・・、そこにお主の婚約者が居ると聞いた事があるが!?」


部隊の雰囲気を大事にする香具夜さんが、大勢の隊員がいる前で部隊長である俺に対して声を荒らげる事は、大変珍しかった。

怒りを前面に押し出しつつも、どこか不安げな香具夜さんの表情からは、余裕の無さが感じられたのだ。

俺には、香具夜さんの言葉を否定し、この場を解散させるという選択肢も残されていたのだが、結局それとは違う選択肢を選ぶことになった。


「確かに、第16斯衛大隊に婚約者が居る事は否定できない。
 そして、婚約者を守る為に京都に行きたいという思いがあることも事実だ。

 だが、部隊がおかれている状況、己の体調、軍規。
 何に照らし合わせても、俺が一日の間、隊から外れる事に問題があるとは思えない。
 仲間に迷惑をかけることが無い以上、俺は己の信念に基づいて動く。」


俺はそう言い放ち、隊員一人ひとりの目を見つめていった。

そして、みんなの視線を集めた後、こう締め括ったのだ。


「俺に隊長を名乗る資格が無いと思ったものが居れば、遠慮なく言え。
 上の判断によっては、俺が隊長の任を解かれる事があるかもしれん。
 
 そうなった時に俺がする事はただ一つ。
 実力で信頼を取り戻し隊長の座に返り咲く、それだけだ。」


「信綱・・・。」


香具夜さんは、俺の発言に呆れてしまったのか、諦めとも取れるような表情を見せた後、深いため息をついた。

そして、婚約者発言からの急な話の展開に、他の隊員たちからは戸惑いの空気が流れていたが、話の意味を理解し佐々木さんの発言を切掛けに、
一気に明るい空気に包まれた。


「婚約者を助けに行くなんて、くさい事がよく言えるよお前は・・・。
 行くならさっさと行っちまえ。
 特にやる事はないが、その間は俺が部隊をまとめておいてやるよ。」


「何を言っているのだ、浩二は。
 階級に沿えば、部隊をまとめるのは高畑 大尉の役割だろう。」


「黒木 臨時大尉殿は、こんな時でも真面目でいらっしゃる。
 少しは、俺にも花を持たせろよな。」


「隊長・・・、残念ながら我々は付いていく事はできませんが、
 例え一人でも貴方なら何か出来る・・・、そう私たちは信じています。」


「そうです。隊長ならやれますよ~。
 いつもの機体調整の時間が、少し長くなるだけでしょ?
 そうだろ皆!」


「「「「その通りで有ります!!」」」」


ある隊員が発言した、馬鹿みたい詭弁に応えて起こった唱和の後、ブリーフィングルーム内は大きな笑い声に包まれる事になった。

この笑顔と雰囲気は、まさに一月ぶりの出来事だった。


「でも隊長、足(戦術機)はどうするんですか?」


「「「「あっ。」」」」


「心配するな。
 近日中に届く事になっていた試験機が1機有った事を、先ほど思い出した。
 
 主任、例の機体は何処まで来ている?」


俺の問いかけに、軽いため息をついた後、主任ははっきりとした口調でこう答えた。


「YF-23 ブラックウィドウⅡ 試作2号機、通称グレイゴーストは、本日大阪府内に入る予定です。
 早ければ、一時間後には搬入作業が開始される筈です。」








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コメント

皆様、こんばんはです。
私の拙い文章を毎回のように読んで下さっている皆さま、ありがとうございます。
ギリギリですが、なんとか新話を投稿する事ができました。
Arcadia自体が止まっていた事には、大変驚かされましたが・・・・・・。

今回は、前回とは一変して会話と心理描写が中心の回となりました。
ここから少しずつこういった描写を増やしていけば、それなりの物書きになれるのでしょうか?
手探り状態ながら何とか更新を続けているのが現状です。

また、前々から出そうと考えていた富士教導隊やYF-23『ブラックウィドウⅡ』が、
少しだけ出てきました。
両者とも何処まで活躍させられるかは未知数ですが、個人的に好みの設定ですので気合を入れて行きたいと思います。

次回こそは、京都での戦いになる予定です、・・・多分。
まだまだ未熟者ではありますが、これからも頑張っていきますので、
気が付いた事がございましたら、ご指摘頂ければ幸いです。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回は、時間の都合でここに返信を書く事が出来ませんでした。
その代わりに、感想板への書き込みを普段より多めに行いますので、ご勘弁下さい。
次回は、きちんとここにも返信を書き込む事を予定しております。



[16427] 第28話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 23:52


「すみません。ブラックウィドウⅡって何ですか?」


俺と整備主任の会話を聞いて、若い隊員が疑問の声を上げた。

隊員の不用意な発言を切掛けに、怪しげにメガネを光らせた整備主任は、これから搬入されてくる戦術機について、
聞いてもいないことも説明しだす事になる。


「話し合う内容も無いようですので、搬入開始時間までの間、YF-23 ブラックウィドウⅡ について説明を致しましょう。

 YF-23 ブラックウィドウⅡとは、米国で行われていた次期主力戦術機を開発する計画、
 通称ATSF(先進戦術歩行戦闘機)計画で最終選考に残った2機種のうち、
 ノースロック社 現ノースロック・グラナン社がマクダエル・ドグラム社の協力を得て開発した試作戦術機です。

 ブラックウィドウⅡは、競合相手のロックウィード・マーディン社が開発したYF-22や、
 それ以前の米国製戦術機が遠・中距離砲戦能力を重視していた事と対照的に、
 長刀・銃剣の標準装備など、対BETA近接戦闘能力を設計段階から考慮されていたのが特徴の機体でした。

 YF-22との間で熾烈な実機模擬戦闘試験が繰り広げられた結果、対BETA近接格闘戦能力に於いてはYF-22を遙かに上回り、
 総合性能でもYF-23が優位にたっていたと噂されていましたが、調達コストと性能維持に不可欠な整備性、
 何よりもその開発コンセプトが米軍の戦闘教義(ドクトリン)と合致しないと判断された為、
 ATSF計画は1990年にYF-22 現在のF-22A『ラプター』を次期主力第3世代戦術機とする事を決定しました。
 ブラックウィドウⅡは計画終了後、エドワーズ空軍基地に一定期間屋外係留される事になり、『世界一高価な鉄屑』などと揶揄される事になります。

 しかし!
 ブラックウィドウⅡは、調達コストと整備性といった部分に問題を抱えているものの、
 その機体性能の高さと開発コンセプトは、帝国軍の戦闘教義(ドクトリン)と完全に合致していると判断した御剣重工が、ある行動に出ます。
 
 開発終了から七年後の1997年、機体の開発に協力していたマクダエル・ドグラム社の買収を切掛けとして、
 博物館に収蔵されそうになっていたブラックウィドウⅡの取得に乗り出したのです。
 マクダエル・ドグラム社の買収に関しては、皆様のご存知の通り、ボーニング社と御剣重工が分割買収する事で決着しました。
 そして、第3世代戦術機開発に乗り遅れたノースロック・グラナン社が欲していた、第3世代戦術機の運用データを提供する事を条件に、
 YF-23 ブラックウィドウⅡはついに帝国内持ち込まれる事に成ったのです。」


整備主任はその後、御剣重工の工場に搬入された2機のブラックウィドウⅡ(試作1号機 通称:スパイダー,試作2号機 通称:グレイゴースト)が、
ステルス機能を除く為に電波吸収塗装が完全に削り取られ、装甲の一部も詳しい形状が分からないように処理された結果、
装甲の地金がむき出しとなっていた姿に涙した話や、一度完全に分解して実物と提供された図面に差が無いか調べる事に奔走した事、
8年間の歳月により時代遅れになった部分や、伝送系を最新の日本製のものに交換し調整を行った事などの苦労話をノンストップで語り続けた。

そして、その語りはYF-23 ブラックウィドウⅡ 試作2号機,通称グレイゴーストの搬入が開始されたという報告が有るまで続けられるのだった。








ロンド・ベル隊に搬入されたブラックウィドウⅡは、ATSF計画の最終段階で撮影された写真と比べて、若干装甲形状が変わっているものの、
第3世代機特有の空力特性を追求した装甲形状と、廃熱処理なども考慮するステルス対策の部品配置が生み出した特徴的な外観を多く残しており、
一目見ただけで今までに無い異質な戦術機で有る事が分かる機体だった。

装甲形状が一部変更された理由は、納品前に装甲が削られていた事も有ったが、帝国軍の仕様では戦術機にステルス性能を求めていなかった事が、
一番大きく影響していた。

ステルス性能を犠牲にする事を前提に、対BETA近接格闘戦能力とステルス性を同時に高める目的で多用されていた直線的な装甲の一部が、
近接格闘能力に影響が出ない範囲で空力特性の高い曲線を使った装甲に変更される事になる。

また、ATSF計画の仕様では、ステルス機能と並んで相手の火器管制網を麻痺させる事を目的とした対電子戦装備が組み込まれる事になっていたのだが、
国家機密であるその機能は、御剣重工がブラックウィドウⅡを買取る条件の中で外される事となっていた。

そして、その空きスペースに何を搭載するかで揉める事になったのだが、御剣電気の強い要望によりEXAMシステムver.2.5をテストする目的で、
新型の演算ユニットが搭載されていた。

ただし、今のところコンボに登録されている動作は無く、これから戦う中で登録していく必要が有る上に、登録可能なコンボも三つだけとなっていが・・・。

兎も角こうして、その中身も最新の物に置き換えられたブラックウィドウⅡは、
各国で開発中の第3世代戦術機の中でもトップクラスの性能を有する事になったのだった。

今回は、米国軍で制式採用されているF-22A『ラプター』と同じ跳躍ユニットエンジンを搭載している事から、
試作2号機である通称グレイゴーストが実戦テストに選ばれ搬入されていたのだが、グレイゴーストを見て興奮する隊員たちとは裏腹に、
ATSF計画時のグレイゴーストの写真を見た事があった俺は、素朴な疑問を口にする事になる。


「たしか灰色に塗装された機体だった筈だが・・・。」


「確かに、ATSF計画時も御剣重工でのテストの間も灰色が塗られていましたが、
 今回実戦テストを行うにあたり、再塗装の必要が有りましたので、
 赤と白のツートンカラーを採用する事になりました。」


「・・・、理由を聞いてもいいか?」


俺は嫌な予感を覚えながらも、そう尋ねずにはいられなかった。


「赤と白のツートンカラーは、日本の国旗を肖った試作機用の塗装だったのですが、
 ロンド・ベル隊の不知火弐型に採用してからと言うものの、
 とあるエースパイロットの搭乗機を現わす記号のように扱われる事が多くなりました。
 その話を聞いた塗装部門が、気を利かせてくれたのでしょう。」


不知火弐型の内部は機密であるものの、戦意高揚や他国を牽制する意味もあり、その外観は一般にも広く知られていた。

また、現時点で赤と白のツートンカラーの不知火弐型を駆る衛士は、確かに俺だけである。

これだけなら、赤と白のツートンカラーの試作機に乗る衛士として認識されるだけだろうが、
本土防衛戦開始から続く敗走で広がった厭戦気分を紛らわすために、各地で活躍する軍人の活躍が宣伝され始めた事で状況は変わる事になる。

軍人達の間でしか知られていなかった異名や過去の経歴が、一般人の間にも広く知られるようになった結果、
単なる部隊章が特定の個人を現わす物として認識される事になるなどの混乱を招いていたのだ。

どうやらその中の一つとして、赤と白のツートンカラーを特徴とする衛士が試作戦術機に乗って活躍しているという誤解が生まれ、
一般人の間で広まってしまったようなのだ。

もちろん、帝国軍は専用の機体色というものを認めていないし、斯衛軍でさえ色で個人を特定できる機体は、紫色の政威大将軍専用機だけである。

現場で機体の一部に部隊章や特殊なペイントを施す程度が許された限界であり、
カラーリングの変更は試作機を運用する部隊にのみ許された特例だったのだ。

対BETA戦に影響が無い範囲で自由にやらした方が、部隊の雰囲気が明るくなると考えた俺は、制式機体に乗る場合には許されない対応である事や、
遠くからでも見つけやすいカラーリングよりも、対人戦を考慮した迷彩柄の方が実用的だという言葉を飲み込んだのだった。

その後、グレイゴーストに乗り込み着座調整を行うと同時に、武装の搭載などの出撃の準備が急ピッチで進められて行く事になる。


「これが、不知火から転送された情報を、グレイゴースト用にコンバートするツールです。
 しかし・・・、これだけでは完全とはいえませんよ。」


「大丈夫だ、問題ない。
 移動中に修正すればいい話だ。
 
 それよりも、装備はローラーブレードとフロントドロップタンク(前面装甲に装備する形式の追加増槽)を併用した長距離移動用装備。
 武装は、87式突撃砲2門,試作突撃砲2門,98式支援砲1門,試作長刀1本,試作大剣1本で頼む。

 半数以上が試作品なのは不安だが・・・、実機テストを行うという名目上、仕方が無い。」


ブラックウィドウⅡは、両肩にハードポイントが4基、背中にサブのハードポイントが2基、合計6基の兵装担架を有する機体で、
主腕を含めると現時点で普及している戦術機と比べて、倍の武装を積載する事が可能な能力を有している。

俺はその機体に、専用に作られた突撃砲と長刀を搭載し、使い慣れた武装として主腕に87式突撃砲,
一基の可動兵装担架システムに98式支援砲を搭載する事を選択した。

最後の試作大剣は、弾薬の補給が出来ない事も考えた近接格闘用の切り札で、
稼動範囲が制限された背中のサブハードポイント2基を使って搭載する事となった。

出撃準備完了まで残り10分を切った時、突然強行偵察装備の吹雪が随伴する事が告げられた俺は、通信を使って外部の整備主任に呼びかけた。


「どう言う事だ!?」


「1機だけですが、吹雪の修理が間に合いました。
 武田中尉が出撃するとの事でしたので、複座の管制ユニットの搭載と強行偵察装備への換装も終えています。
 また、CPとして中里少尉も搭乗するようです。」


俺が整備主任と問答をしていると、それを見計らったタイミングで、吹雪・強行偵察装備から通信が入る。


「戦闘データの収集を口実にするつもりなら、随伴機(チェイサー)が必要じゃろう?
 お主だけ行っても、疑われるのが落ちじゃ。

 それに、こちらでデータの処理をすれば、グレイゴーストへの負担も減る筈じゃ。」


「私も、御手伝いします。
 隊長は、戦う事だけに集中してください。」


「・・・・・・、分かった。
 二人の力を、俺に貸してくれ。」


長距離移動用の装備を施した2機の戦術機は、大阪城近くに急遽用意された基地から、勢いよく飛び出して行った。








琵琶湖運河(大阪湾-琵琶湖ライン)に掛かった大型橋梁の一つである近畿自動車道を使って、対岸に渡ったグレイゴーストと吹雪・強行偵察装備の2機は、
近畿自動車道と交差した山陽新幹線の線路に進入し、一路京都を目指していた。

BETAの侵攻により機能が停止している山陽新幹線は、何にも邪魔される事がない最高の移動ルートだったのだ。

そして、2機はスーパークルーズ能力(空気抵抗を低く抑え、跳躍ユニットの特性を調整した結果、アフターバーナー無しの高速移動を可能とした能力)
を有するグレイゴーストが、上体を水平に保つというローラーブレードを使用した高速移動時に使われる独特の体勢を取り、
その後ろにはぴったりと吹雪・強行偵察装備が張り付くという奇妙な隊列を形成していた。

この隊列は、先頭以外の機体の空気抵抗を低減する事で推進剤を節約し、時折先頭の機体が入れ替わる事で、
結果的に部隊全体の推進剤を節約するという隊列である。

しかし、この隊列は一歩間違うと部隊全体を巻き込んだ大事故を引き起こす恐れがあることから、
よっぽど信頼できる者同士でないと出来ないものだった。


「なかなか、いい機体だ・・・。
 コストと整備性を除けば、地上戦で求められる性能を全て満たしている。」


移動中の俺は、動かす中で感じていた不知火弐型とグレイゴーストの違いを調整する傍らで、少し強引だが重装備の機体を大出力にものを言わせて、
軽快に動かすという米国仕様の機体特性に、素直な感動を覚えていた。

現在帝国軍で制式採用されている機体では、これほどの重装備を行った上で運用する事には無理があった。

重武装をした上で機動力・運動性を失わないという事実は、YF-23 ブラックウィドウⅡ及びF-22A ラプターが、対BETA戦においても高い性能を有しており、
米国軍が求めた仕様が今後の戦術機開発のトレンドにもなる可能性を示していたのだ。

50kmほどあった距離を僅か20分ほどの時間で走破した2機は、京都内に突入後移動を停止し、情報収集に務めることになった。


「どうしたのじゃ、信綱。
 京都に入った後は、真っ先に斯衛軍と合流するものと思っておったのじゃが?」


京都内に突入後、停止する事を命じた俺に、香具夜さんはキョトンとした表情で疑問を口にしたのだった。


「俺たちは所詮、招かれざる客。
 突然合流したところで、場を混乱させるだけだ。

 今は情報収集を優先し、援護が必要な時と場所を見極める。」


戦況を見極めてから参戦するという俺の考えは、的確な判断であるとあると同時に、救援のつもりで駆けつけておいて、
助ける必要が無いのに助けに来たでは格好が付かないという、僅かな羞恥心からだした答えだった。
 

「どうやら、ちゃんと冷静さが残っておった様じゃな。
 突撃するようなら無理やり止めるつもりだったのじゃが・・・。

 情報収集なら、こちらの偵察装備の方が優れておる。
 優希、戦況はどうなっておる?」


「もう少し御時間を下さい・・・。

 でました。
 殿を務めている斯衛軍のうち、中央に展開している第16斯衛大隊がやや突出していますが、
 何とか持ちこたえているようです。
 それよりも、数が多い筈の左翼に展開する瑞鶴編成部隊の後退が気になります。」
 

中里 少尉の報告通り、吹雪・強行偵察装備より転送されてきた情報を見ると、左翼に展開する瑞鶴編成部隊の後退が早すぎて、
他の部隊との足並みが揃っていない様に見受けられた。

そして、俺はそれらの瑞鶴の動きから、左翼部隊が初陣の割合が高いか、訓練校から繰上げ卒業して投入された新人が編入されている可能性を思いついた。

戦況を確認した以上、ここで待機する意味もなくなったと判断した俺は、素早く行動を開始する事を決めた。


「・・・左翼の瑞鶴隊を救援後、左翼と中央の連携が確保されるまでの間、瑞鶴隊と連携して戦線を維持する。
 
 ベル1(御剣 大尉)よりマザー・ベル(中里 少尉)へ、斯衛軍及び帝国軍への通達を頼む。
 必要ならグレイゴーストの情報を出しても良い、友軍誤射(フレンドリーファイヤ)だけは避けるようにさせてくれ。

 ベル2(武田 中尉)は、データ転送可能距離を維持しつつ、後方からの援護に徹してもらう。
 それ以外は自由にしていい、瑞鶴隊に紛れて戦うのも一つの手だ。」


「「了解(じゃ)!」」


ローラーブレードを起動し、斯衛軍左翼部隊へ向かった俺の目の前に、レーダーでは分からなかった瑞鶴隊の現状が見えてきた。

ベテラン衛士が搭乗していると思われる機体が奮戦しているものの、一部の機体が孤立し救援を求めているなど、隊列が乱れ混乱も生じていた。

軽く跳躍すると同時に、フロントドロップタンクをパージした俺は、87式突撃砲の攻撃が有効に機能するギリギリの距離から瑞鶴隊への援護を開始した。

突然の援護に戸惑いを見せる機体もあったが、俺はそれを無視し一気に戦線の最前列へと向かった。

最前列へと到達した俺は、BETAに長刀で挑み悪戦苦闘する小隊長機と思われる黄色の瑞鶴を発見し、その瑞鶴の背後に迫った要撃級を、
120mm滑空砲で攻撃した。


「―フォックス2―
 
 こちらは、ロンド・ベル隊隊長 御剣大尉だ。
 そこの瑞鶴隊、援護する。
 もし補給が必要なら、一旦後方に下がれ!」


「御剣大尉!?
 どうしてこんな所に?」


「その声は・・・、篁さんか!?
 俺が居る理由を気にするより、部隊の現状を把握する方が先だぞ!」


混乱している様子を見せる対BETA戦の初陣であろう篁さんに対して、俺はあえて高圧的な態度を取る。


「はっ!
 
 ・・・小破1機,予備弾倉は十分です。
 このまま戦闘を継続します。」


篁さんは、一瞬悔しそうな表情を見せた後、隊長機に表示される隊内の戦術機の状態を素早く報告してきた。

俺は、思考が停止していない事に安堵した後、BETAへの牽制を行いながらも言葉を続ける。


「・・・それで良い。

 早速だが君の質問に答えることにしよう。」


そう言って、俺は周辺の瑞鶴だけに伝わるように範囲を絞った通信を入れる。


「こちらは、帝国軍 技術廠 第13独立機甲試験中隊の御剣 大尉だ。
 試作機の実戦データ収集のため、御邪魔させていただく。
 斯衛にも言い分は有るだろうが、独立部隊の裁量権内の活動である。
 抗議は、戦闘終了後に受け付ける予定だ。
 以上、通信終わり。」


俺はそう言って通信を終えた後、篁さんたちの部隊に通信を入れる。


「と言う事だ。
 俺がここにいる理由が分かってもらえたかな?」


「はぁ・・・。」


「何、気のない返事をしてるんですが隊長は。
 あの御剣大尉と同じ戦場に立てるなんて、名誉な事ですよ。」


「名誉かどうかは知らんが、可能な限り君達を守る事は約束しよう。

 そういえば、篁さんは突撃砲を失っているようだが?」


「お言葉ですが、長刀さえ有れば何とかして見せます。
 それと、コールサインはホワイトファング1(篁 少尉)です。」


俺の心配する言葉に対して、篁少尉は気丈に振舞って見せていた。

しかし、僅かに震える唇からは、未だに緊張が取れず、余計な力が入っている事が伝わってきたのだった。


「君らの動きはまだ堅いようだ。
 ホワイトファング1(篁 少尉)には俺の突撃砲を渡そう。
 しばらくは射撃戦に徹して、BETAの生の動きを観察するんだ。」


「しかし、それでは大尉の武装が。」


「この試作機が持っている予備弾倉は、87式突撃砲とは型が異なっている。
 したがって、87式突撃砲は弾切れになれば捨てるしかない武装だ。
 予備弾倉が残っているなら君の方が有効に使えるだろう?

 それと、こちらのコールサインはベル1(御剣 大尉)、後ろの吹雪がベル2(武田 中尉)だ。」


俺はそう言って、87式突撃砲2門を黄色の瑞鶴に押し付けた。

黄色の瑞鶴が87式突撃砲を受け取ったのを確認した俺は、XCIWS-2B/ 試作近接戦闘長刀 という74式接近戦闘長刀の反りを極端に浅くし、
先端を尖らせ直刀に近い形状となった試作長刀を展開し、BETAの群れへと切り込んで行く。

そして、1km程はなれた後方からは、俺と瑞鶴部隊を援護するように、吹雪・強行偵察装備から98式支援砲による射撃が開始された。


「切れ味と強度はこちらの方が良い筈なんだがな・・・、いつもの長刀と勝手が違うか!?」


実戦で始めて試作長刀を振るった俺は、その特性を把握仕切れておらず、カタログ値と比べて低すぎる切れ味しか引き出す事ができなかった。

そもそも刃物と言う物は、ただ押し当てただけで切れるというものではない。

刃を対象に直角に当てて、押すか引くかしない限り、その真の切れ味を発揮しないものなのだ。

そして、刀の反りはただ振るうだけでも引く動作が出来るようにする処理で、その結果刃が直線になっている剣よりも、
刀は斬撃の切れ味が鋭くなるなるとも考えられている。

日本刀の歴史の中にも反りを浅くして作られた刀が有り、その刀が突きを主体に作刀された事や、反りの浅い刀用の斬り方を知っていた俺は、
数回切りかかった段階で通常の斬撃モーションに見切りを付け、試作長刀用の動きを探る事にしたのだった。


「訓練校を出たばかりとは言え、少尉の肩書きはただの飾りか?
 この程度の戦場なら、訓練で習った常識がまだ通用する範囲だぞ!」


俺はそう言って、可動式担架システムに搭載されたXAMWS-24/試作新概念突撃砲で、篁少尉が率いる部隊の援護を行う。

本当は、弾倉形状が異なっている事で、コンテナ等の現地調達で補給を受ける事ができないこの武装は、最後まで取っておきたかったのだが、
見方を援護するためには仕方の無い行為だったのだ。


「ベル1(御剣 大尉)よりホワイトファング小隊各機へ、
 指揮系統は違うが、ここは君達の力を俺に力を貸してくれ。

 ・・・援護方法はホワイトファング1(篁 少尉)に任せた。」


「「「「大尉!?」」」」


ホワイトファング小隊の返事を聞く前に、俺は再び近接格闘戦を再会した。

近接格闘戦を再開してから、数体のBETAを切り伏せた俺は、74式接近戦闘長刀と試作長刀の間にあった差を修正し、
ついに試作長刀にあわせた斬り方を身に付ける事になる。

そして、試作長刀用のモーションが固まった所で、試作長刀を左手,ナイフシースから取り出したマチェットタイプの大型近接戦短刀を右手に装備した、
二刀流スタイルの超接近戦闘へ戦い方は移行していく。

近接格闘を行なうという事は、機体がBETAに包囲される危険性が高くなる事を意味している。

包囲の危機を心眼の力と勘で素早く察知出来る俺は、包囲される前にすかさず後方のホワイトファング小隊が援護できる位置まで下がり、
仕切り直しを行って攻撃を仕掛けるという行為を繰り返すのだった。

少しでも弾薬を節約するために、普段にも増して近接格闘を行う必要に迫られた俺を、ホワイトファング小隊は持てる力を全て使って援護してる事になる。

そして、例え俺がBETAから守る楯と成っていたとしても、彼女等は無事死の八分を越えを果たす事となった。








「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 帝国軍の援護を受け、斯衛軍左翼持ち直しました。

 斯衛軍中央部隊、光線属種の攻勢により損害を受けている様ですが、
 戦線の維持には成功しています。」


第16斯衛大隊も展開している斯衛軍の中央部隊は、左翼が一時崩れた事と光線属種が周辺に多く展開していたこともあり、
左翼に次いで損害がでているようだった。

ホワイトファング小隊が他の斯衛軍部隊に合流したのを確認した俺は、再び行動を開始する。


「この規模の光線属種なら普段とやる事は変わらない。
 俺が切り込んで数を減らすぞ。」


「何を言っておるのじゃ。
 無理をするほど、劣勢ではないぞ。」


「将来を考えると、精鋭部隊はいくらあっても足りないぐらいだ。
 被害は少しでも少ないほうが良い。」


「じゃが・・・。
 信綱、話は終わってないぞ!」


俺は香具夜さんの制止を振り切って、BETA群へ突入を開始していた。

後になって思えば、この時の俺はグレイゴーストの性能に入れ込み、自信過剰になっていたのかも知れない。

いつものように、短距離噴射跳躍を繰り返して光線級に近づき、光線級を蹴散らした後の俺を待っていたのは、
京都外周に新たに出現した重光線級の群れが、一斉に俺に照準を合わせたという警告と、
戦域内の1/3のBETAが俺を包囲するように動き出したという報告だった。

危険を察知した俺は、素早く短距離噴射跳躍を行い、BETA群からの離脱を図るが、すぐさま重光線級の照射により地面に落とされ、
地上で待っている高密度のBETA群を相手にせざる終えなくなった結果、戦場で孤立し移動する事すらままならなくなってしまったのだった。

この現状を把握した俺は、思わずこう呟く事になる。


「これは・・・、詰んだか?」


俺は呟きと同時に、自分の名を呼ぶ複数の声が聞こえた気がしたのだった。




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コメント

皆様こんばんは、仕事以外の社内コミュニケーションの企画という雑務を押し付けられ、
更に時間がなくなってしまった、あぁ春が一番です。
いくらコミュニケーションが大事だと言われても、土日にまで頭を悩ます事になるのは、
反則だと感じる今日この頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか・・・?
更新が遅すぎるせいで、忘れ去られていない事を祈っています。

今回は、漸く京都での戦いを・・・途中まで書く事ができました。
ブラックウィドウⅡの雄姿は、上手く表現できているでしょうか?
また、ブラックウィドウⅡの和名を考えると言っておきながら、結局思いつかず、原作のままの名前を使用する事になりました。
分かりやすいのが一番だという事にして、ご勘弁頂きたいと思っています。

ピンチに陥った所での話を区切る展開は、読み手の時には悶える事が多かったのですが、
書き手に回ってはじめて作者の気持ちが分かった気がします。
文章量と時間的にここで区切るしかないのです・・・。orn

疲れた頭で、主人公を追い込んでみましたが、どうやって攻略するかは考えていません。
強すぎず弱すぎず、いい塩梅の展開が思い付けばよいのですが・・・。


返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
皆様のご意見ご感想の中から、広く知ってもらいたい事や、意見を聞きたい事を抜粋して、
ここに返信させていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


>F-4J『烈震』 吹雪の扱いやすい第三世代機って売りが大きく薄れてしまったような……
2.5世代機である烈震の登場で、確かに吹雪の存在価値は一時的ではありますが薄まっています。
しかし、何処まで頑張ったとしても烈震が第1世代機の改造機である以上、
長期的な運用を考えた場合には、問題点が出てくるものと思われます。
ただし、ベテラン衛士への対応やコスト・調達スピードを考えると、まだまだどうなるかは分かりません。
なにか、いいアイデアが湧けばよいのですが・・・。

>YF-23 ブラックウィドウⅡの装甲形状について、
帝国軍の運用思想が異なっている事と電波吸収塗装が無い状態ですので、ステルス性を犠牲にしても問題無いと私も考えました。
ただ、個人的にはステルス性を追求した結果として、あのビジュアルに成っているとも考えられましたので、
完全に取り払うという選択は採りませんでした。
また、対電子戦装備の空きスペースには、新たな演算ユニットを突っ込みました。
この結果、おそらく対戦術機戦では大幅な戦力ダウンとなりましたが、対BETA戦ではかなり強化されていると思います。
これが今のところの、帝国軍仕様ブラックウィドウⅡの現状です。
原作の弐型制式採用の背景から見て、こんなものだろうと考えているのですが、どうでしょうか?
ご意見をいただけると幸いです。



[16427] 第29話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 23:53


「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
 このままでは、BETA群に包囲されてしまいます。
 早く、現地点からの離脱を図って下さい!」


ローラーブレードを使った高速の平面機動で、押し寄せるBETA群から逃れようと足掻いていた俺に、
中里 少尉の悲鳴のような通信が届けられた。


「ベル1(御剣 臨時大尉)よりマザー・ベル(中里 少尉)へ、
 光線級に頭を抑えられた。
 平面機動で逃れようにも、BETAの密度が次第に高まっている。
 今の状況で、BETA群からの離脱は不可能だ。」


今はまだローラーブレードで移動する空間が確保されていたが、BETA密度の上昇に伴い数分後には、
ローラーブレードでの走行は困難な状況に陥ることが容易に想像できた。

そして、このままBETA群が俺の周囲に集まり続ければ、ハイヴ内に近いBETA密度となり、噴射跳躍を使わない限り、
前に進む事が出来なくなると予想を立てていた俺は、中里 少尉を宥める様に冷静な口調で返事を返したのだった。


「信綱・・・。何故そんなに冷静でいられるのじゃ!
 こんな状況で笑みを浮かべるなんて・・・、諦めるのはまだ早いじゃろ・・・・・・。」


中里 少尉との通信に割り込む様に、香具夜さんからも通信が届けられたが、その声は次第に勢いが無くなり、
最後には聞き取れないほど小さな声になってしまう。

俺は、香具夜さんの通信を聞いて始めて、自分が笑みを浮かべている事に気が付いた。

追い詰められ、生還するのが絶望的と思われる状況での微笑・・・、人が見ればそれは死を覚悟した者の表情に見えるのかもしれない。

事実、俺自身も大陸の各地で笑みを浮かべながら死んでいった者たちを目撃した事があった。

うつむく香具夜さんと心配そうな表情の中里 少尉に、俺は微笑を浮かべたまま二人に通信を返す。


「部隊連携が大切だと言って置きながら、独りでBETA群に挑んだ愚か者が、
 手痛い反撃にあった・・・、と言う事だ。
 
 弐型の開発が順調に進み、EXAMも有る。
 俺が居なくなったとしても、日本人は早々負けやしない。」


俺の介入によって、御剣財閥が形成され、弐型の開発やEXAMシステムの早期投入など、マブラヴの世界よりも明らかに戦力は充実している。

それに、弐型とは別に新型の戦術機の開発にも着手しており、この流れは俺が死んだ場合でも変わることは無いだろう。

これらの戦力が、物語の脇役である俺では無く、主人公たちの手に渡れば、もっと未来は良くなる筈だ・・・。

BETAを捌きながら未来へ思考を向けていると、急に意識を現実に引き戻す叫びが聞こえてきた。


「ワシが聞きたいのは、そんな台詞ではない!」


俺は自分を心配してくれている二人を安心させようと、網膜投射で映し出された映像に向かって、自分すら信じ込ます事の出来ない言葉を紡ぐ。


「ただで死ぬつもりは無いさ。

 それに先ほど言った通り、自力での脱出は不可能だが・・・。
 光線級さえ無効化できれば空へ上がれる。
 脱出する事も難しくは無くなる筈だ。

 先ほどから支援砲撃が弱まっているのは、AL砲弾への換装が始まった証拠。
 AL砲弾の一斉砲撃が始まり、重金属雲が形成されるまでの十分強・・・。
 生き残る可能性は、ゼロじゃない。」


この作戦においてAL砲弾発射の役割を担っていたのは、琵琶湖に展開していた海上艦艇群である。

其の中で、戦艦は自動装填システムを採用しているため、弾頭の種類を変えるのに二分程度で行うことが出来るが、
一斉に弾頭の切り替えを行って、支援砲撃を絶やしてしまうと、光線級が地上部隊への攻撃を開始する恐れがあった。

また、光線級のレーザー照射を一時的に無効化する重金属雲の形成には、AL砲弾の飽和攻撃が必要不可欠という原則を考慮すると、
艦隊は上陸支援艦のコンテナ換装を待ってから、AL砲弾による砲撃を開始する事になると予想できていたのだ。

しかし、この作戦は旅団規模のBETAに戦術機が単機で包囲され、生き延びた者がいないという現実、
統合仮想情報演習システムを使ったシミュレーションでも設定され事がないほど、試す事が馬鹿らしい戦況である事を考え、
早々に現実的ではないと結論付けたものだった。


「これから先は、BETAへの対処で忙しくなる。
 次の通信は、支援砲撃開始後だ。」


俺はそう言って、この数のBETAを相手に生き残れる自信が有る訳ではない事を悟られる前に、強制的に通信を終えたのだった。








BETA群の密度が、まだ深刻でない事を確認した俺は、余裕がある間にまったくの試作兵器である試作大剣の運用データを収集しようと考え、
使っていた試作長刀を可動式懸架システムに戻し、背中のサブ可動式懸架システム2基を動かして試作大剣を両手に装備した。

試作大剣、この武装は英国軍が制式装備としている大剣型の近接戦闘長刀 BWS-3 GreatSword を参考に、
御剣重工が独自に開発した戦術機用の大剣である。

グレートソードは、アメリカのCIWS-2Aを元にして開発され、斬撃よりも機動打突戦術を重視した設計がされた兵装で、
その性能は『要塞級殺し(フォートスレイヤー)』などの異名で呼ばれるほどの威力を有してはいたが、
未熟な衛士にとってはその重量が仇となり、上手く運用できない場合が多く報告されていたのだ。

そこで、御剣重工はグレートソードをそのまま導入するのではなく、威力を維持したまま軽量化する事で、
取り回しと斬撃を重視した帝国向きの大剣を開発する事を計画する。

軽量化を行った上で威力を落とさない、この矛盾を解決する方法として御剣重工が出した結論は、大幅な切れ味の向上であった。

そして、切れ味の向上の為に超音波カッターと呼ばれる刃物の原理を採用した事で、この大剣は開発チームの中で『振動剣』と呼ばれる事となる。

超音波カッターとは、刃を一秒間に数万回もの回数振動させる事で、
・切断抵抗の低減と、柔らかいモノを押し潰すことなく切断する。
・油分が刃に付着し難い事により、切れ味が長持ちする。
・大型化が困難であり、刃よりも堅いモノとぶつかった時に、大きく消耗する。
という特徴を獲得した刃物である。

開発開始当初は、大型化の目処が立たなかった振動剣だったが、振動発生装置の小型・高性能化に成功した事と、
振動を増幅するために形状の工夫がされた事で、漸く実戦証明を行なう段階まで漕ぎ着ける事になった。

振動剣の外観は、グレートソードと比べて重量を半減させる為に、意匠がシンプルにされた事で、遠目から見ればただの幅広の金属板の様に見えた。

しかし、近くで見ると普通の大剣に見える刀身の中央部には、先端から鍔元にかけて僅かな切れ込みが入っており、音叉のような形状となっていたのだ。

この音叉のような形状が振動を増幅・安定させる肝であった。

開発者の苦労話が一瞬頭を過ぎった俺は、余計な思考を隅に追いやると、直ぐに戦闘を再開する。

ローラーブレードを駆動させて、要撃級に急接近した俺は、グレイゴーストの両手に保持していた振動剣を、機体の力に任せて振りぬいた。

・・・すると、振動剣は正面にいた要撃級を容易く切り裂き、その横にいたもう一体の要撃級まで斬り飛ばしたのだった。


「ははっ・・・。」


振動剣が生み出した予想以上の結果に、俺は思わず笑い声を発する事になる。

その後も振るうたびに複数のBETAを切り分ける事になったが、振動剣は一向に切れ味を落とす気配を見せなかった。

超音波振動の作用によって、刃に脂肪分が付着しなくなる事で、切れ味を持続させることができると開発者が示した実験データを、
実戦でも証明し続ける振動剣に、俺は僅かながら生き残る可能性が高まった事を感じたのだった。








BETA群の密度が高まってきた事で進路を阻まれ、まともに平面機動を取る事が出来ない状況に陥っていた俺は、
ついにローラーブレードを切り離しBETAとの乱戦へと突入していく。

振動剣の寿命が縮まる事を承知の上で、俺は動き回る空間を確保するために、振動剣を真横に振りその場で一回転を行う。

切る場所を考慮しない力任せの太刀筋は、BETAの柔らかい肉体の他に、要撃級の前腕等の強固な外殻も捉える。

振動剣は、堅い物に刃が接触した時に生じる摩擦による火花を散らしながらも、BETAの外殻を両断していく。

その時に振動剣が発した火花と異音は、まるで振動剣が上げる悲鳴のようにも感じられた。

回転切りにより周囲の要撃級を沈黙させた俺は、要撃級の死骸と戦車級の群れに埋もれる前に、
EXAMシステムver.2.5の搭載によって、始めて実戦で使われる事になった機能を発動させた。

即ち、この戦闘中に設定した一つ目のコンボが発動したのだ。

要撃級の死骸を踏み台にして短距離噴射跳躍を行った直後、試作新概念突撃砲の正射で着地場所を確保したグレイゴーストは、
反転降下を開始し着地地点のBETAの死骸を踏みつける。

そして、グレイゴーストは着地度同時に目の前に居た要撃級を、振動剣の振り降しにより一刀両断にした。

俺はこの一連のコンボの最中に、コンボ成功の是非と次の行動を判断するために、めまぐるしく変わる周囲の状況に意識を向ける。

今までのOSなら、戦術機を動かす事に集中して、周りを確認する暇も無い筈の状況だが、コンボの導入によって複雑な操作を必要とする機動を、
難なくこなせるようになった事で、次の一手を考える思考の余裕が生まれていたのだ。

BETA群の間の僅かな空間を見つけた俺は、グレイゴーストをサイドステップさせて直角に軌道を変え、機体を右方向へ流した後、
再び主脚走行と水平噴射跳躍を使って前進を開始した。

機体がBETAの大型種とすれ違うたびに、機体各部に設けられたブレードエッジ装甲で足を中心にダメージを与え、
機動力を奪う事で生きた壁を作って行き、小型種に対しては、脚部に取り付こうとする相手を足の裏で踏みつけ、
跳躍して飛び掛ってくる相手を主腕と体捌きで叩き落して行った。

そして、再び平面機動を取れない状況に陥ると、振動剣を一回転させ、短距離噴射跳躍をする事になる。

BETAの密度が上がってからというもの、グレイゴーストは一度も動きを止める事が無かった。

逆に言えば、動きを止める事がすぐさま死に直結する事を理解していた俺は、休む間もなく己の全ての力を使って戦場を駆け続けていたのだ。

次第に疲労が蓄積され戦況が悪化していく中、不知火弐型の機動データとグレイゴーストの動きのすり合わせが終わったのか、
俺は漸く普段と変わらない感覚で機体を操れるようになっていく。

こんな乱戦の中でも、僅かに東の見方側へ戦域を移す事に成功して俺だったが、それと同じかそれ以上の速度で斯衛軍部隊も退却していたため、
見方との距離は次第に広がって行く事になる。

そして、ついにBETAの後衛部隊が追い付き、俺の傍に要塞級も出現するようになった。

要塞級の存在は、跳び上がった時に光線級からの盾にする事が出来るという利点がある反面、BETAの密集地帯では自在に操る触手が脅威であった。

通信終了から7分後、8体目の要塞級を振動剣で開きにした時、ついに振動剣が限界をむかえた。

大きな音を立てて、根元から刀身が折れてしまったのだ。

音叉の形状を採用した振動剣が、鍔元で最も力が集中しやすく成るために、通常の形状よりも壊れやすく成っている事を承知していた俺は、
何時か折れることを覚悟して無理な使い方をしていたのだが、折れたタイミングが悪かった。

要撃級の手腕を回避していた時に、自身が発する振動によって前触れ無く刀身が折れた事で、急激な質量の変化が生じ、
その急な変化についていけなかった俺は、僅かにバランスを崩しグレイゴーストの動きを止めてしまったのだ。

そこに、要塞級の触手が背後から迫っている。

要撃級の触手の動きを心眼で感じていた俺は、搭乗制限を30秒間限定解除し機体性能を10%押し上げるフラッシュモードを起動させ、
研究資料として持ち帰ることを期待されていた振動剣の残骸を躊躇無く放棄し、振り向きざまに右腕を振り上げ触手を迎撃する。

実戦で使用した振動剣の実物を持って帰りたかったのだが、最も重要なのは振動剣を実戦で使った機体のモーションデータである。

耐久試験ならBETAの死体を使っていくらでも出来ると、俺は割り切ったのだった。

まともに受ければ大破が確実な要塞級の触手だったが、ナイフシースに付けられブレードエッジ装甲で触手先端にあるかぎ爪状の衝角を受け流し、
グレイゴーストの右腕を巻き取ろうとする動きを見せていた触手を、受け流す動作を使って切り飛ばした事で、
右腕フレームの歪みと強酸性溶解液による装甲の腐食だけという被害に留める事に成功する。


「くっ!

 右腕にダメージ、右ナイフシースのブレードが死んだか!?」


素早く体勢を整えた俺は、再び繰り出された要撃級の攻撃をサイドステップで回避すると同時に、
試作長刀を展開し攻撃の為に延びた要撃級の腕を、ひじ関節にあたる部分から切り飛ばした。

右腕フレームの歪みによる動きの変化を、騎乗の能力と経験で感じた俺は、斬撃モーションの修正が終わるまでの間に、
触手の射程圏内である50mm以内に要塞級の接近を許し、複数の触手に襲われる危険性を排除するために、
今まで温存していた試作突撃砲の120mm砲弾と98式支援砲の90mm砲弾を使って要塞級を掃除を行うことを決めた。

近くに居た複数の要塞級を試作突撃砲の120mm砲弾で沈黙させて空間を確保した俺は、支援砲で遠くに居る要塞級の足の付け根を狙撃していった。

複数の90mm砲弾が中った事で、片側の足を全て吹き飛ばされ機動力を奪われた要塞級は、遠くの重光線級から身を守るための生きた壁となったのだ。

要塞級を狙撃している間、接近するBETAへの対処を二門の試作突撃砲から放つ36mm砲弾で行っていたのだが、
50体目の要塞級を狙撃した時点で、ついに36mm・120mm共に弾切れを迎える事になる。

試作突撃砲には、銃剣として使える可能性も残されていたのだが、機体を軽くする事を優先した俺は、
可動式担架システムごと試作突撃砲をパージした。

この時点でグレイゴーストに残された装備は、弾数が残り30%となった98式支援砲一門,使いかけの試作長刀1本,大型近接戦短刀2本,
機体各所に設けられたブレードエッジ装甲だけであった。

また、グレイゴーストは完全な帝国軍仕様とは成っていないため、使い方によっては切り札に成り得るS11を搭載していなかった。

これ以上の要塞級への狙撃を諦めた俺は再び移動を開始、着地地点を確保する手段を試作突撃砲から支援砲による正射に切り替え、
短距離噴射跳躍を繰り返して戦場を駆けて行くのだった。








通信終了から9分が経過し、俺が設定したタイマーはAL砲弾発射開始予想時刻まで残り1分を示していた。

だが、生き残る希望が見えてきたと感じた矢先、ついに俺の戦いが崩壊する時を向かえた。

限界を迎えたのは、グレイゴーストでも試作長刀でも無く、俺の体だった。

俺は、戦術機一機 対 師団規模のBETAとの戦いを成立させるために、
己の居る空間を中心に意識を拡大させて存在を感じる事のできる心眼と名付けた力を使っていた。

心眼の範囲を遠距離に居る重光線級の狙撃に合わせて、射線確保の為に動くBETA群を感じて反応できる最低距離に限定し、
明鏡止水の境地に至る事で心眼の反動を軽減するなどの対策もしていたのだが、認識範囲内にいるBETAの数が膨大だった事で、
己の限界を予想より早く超える事になった俺は、処理限界の証である頭痛に苛まれる事になったのだ。

心眼の反動で意識が飛ぶ事を恐れた俺は、心眼の範囲を縮小する事を選択する。

そう、俺はこの時BETAという存在を恐れ、決して守りに入ってはいけない状況で、守る事を選択してしまったのだ。

思うに、この時の俺は明鏡止水の境地からも外れていたのかもしれなかった。

そうした心と体の乱れに、偶然にもBETAの動きが呼応してしまう。

俺の背中に悪寒が走り、グレイゴーストからは初期照射を知らせる警告音が鳴る。

なんと俺の背後で、行動不能に追い込んだ要塞級から複数の光線級が出現し、密集状態では攻撃できる手段を持っていないと高を括っていた存在が、
他のBETAが存在しない斜め上に射線を取る事でグレイゴーストを照射圏内に捉え、レーザー照射を開始していたのだ。

足元はBETAの死骸で満たされ、飛び退くほど回りに空間が残されておらず、上に跳び上がろうにも、直ぐ傍にいる光線級にとって、
空は追撃し易い空間である上に、遠距離にいる重光線級にとっても、最高の狩場となっている空へ逃れる事は、出来ない選択肢だった。

絶体絶命の危機を感じたのか、俺の体は勝手に走馬灯のような情景を映し出した。

自分がこの世界で生まれてからの出来事が流れた後、情景は俺が想像するだけだった未来へと移って行く。

そこでは、俺が守りたいと感じていた皆が、一様に満足そうな笑みをたたえていた。

ただし、その中に御剣信綱の姿は無い。

まるで、始めから存在していないかのように・・・。

この情景を見た時に己が感じた事、それは怒りでも哀しみでもない、ここで消える訳には行かないという感情の爆発、生への衝動だった。


「まだだ!

 まだ、貴様等に遣られる訳には行かないんだー!!」


脳裏に映る情景を振り払って叫び声を上げた俺は、意識を飛ばすことも覚悟の上で、再び己の持つ力の全てを開放、
フラッシュモードを起動させ、グレイゴーストをうつ伏せに倒れこませる。

本格照射が始まる中、複数のレーザー照射により対レーザー装甲を焼かれながらも、辛うじて地面に伏せる事に成功したグレイゴーストだったが、
伏せる速度を上げるために体とは逆に振り上げられた二基の跳躍ユニットのうち、右側は完全に破壊され、
背面の肩部に装備されていた支援砲は、可動式担架システムごと失われる事になった。

更に、上半身前面の対レーザー装甲は、再照射を受けられる状態では無くなっていたのだった。

包囲されていた直後に見せていた微笑とは異なり、俺の表情はいつの間にか自覚できるほど口角は上がり、犬歯を剥き出しになっていた。

俺は、その獰猛な笑みを浮かべたまま大きく吼える。


「たかが、跳躍ユニット1基と射撃兵装が無くなった位でっ!」


肩部に残されていた可動式担架システムの残骸を切り離した俺は、見方誤射を絶対に行わない光線級が決して照射出来ない位置を維持するために、
伏せたままの体勢で地を這う蜘蛛のようにグレイゴーストの四肢を動かして光線級に接近し、試作長刀の斬撃で光線級を沈黙させた。

近くの光線級が撃破したことを確認した俺は、グレイゴーストを立ち上がらせ、機体に取り付いた戦車級を、他のBETAに押し付けて潰して行った。

再びグレイゴーストが自由を取り戻した時、グレイゴーストはBETAの血の色で真っ赤に染まっていた。

俺は、押し寄せるBETAを処理しながらも、僅かな時間を見つけて機体の設定を変更、
機体を保護するために有ったフラッシュモードの制限時間を取り払う事に成功する。

満身創痍では有ったが、ここからがグレイゴーストと俺がみせる事が出来る最高の戦いの始まりだった。

機体各部を軋ませながらもグレイゴーストは、俺の無理に答えてくれた。

近接格闘戦を想定した強固なフレームが、破綻せずに付いてきてくれたのだ。

時間の経過と共に、更に滑らかさを増していく機体に、俺は己自身がグレイゴーストと成ったかのような一体感を感じていたのだった。








通信終了から12分後、漸くAL砲弾の飽和射撃が始まった。

重金属雲の発生を確認した俺は、すぐさま長距離噴射跳躍の準備に入っていた。


「「信綱!(隊長)」」


そこに、吹雪・強行偵察型に乗る二人から通信が入る。

吹雪・強行偵察型からは、俺の機体の情報が丸見えの為、跳躍ユニットが1基破損している事も分かっているのだろう。

先ほどよりも疲れた表情でありながらも、二人は心配な目でこちらを見つめていた。


「大丈夫だ。
 弐型で、跳躍ユニット1基での噴射跳躍をする事が有っただろ?
 それをグレイゴーストでやるだけだ。」


俺は、自信満々の笑みを浮かべた後、地上で戦う事を考え、バランス取りの為に残していた右の跳躍ユニットを廃棄し、
機体の力も使って大きく跳躍すると同時に、左の跳躍ユニットを全力運転させた。

肩部のスラスターと四肢を使ってバランスを取り噴射跳躍を続けるが、出力不足により次第に高度は落ちていく事になる。

グレイゴーストは、失速して高度が下がるたびにBETAを踏み台にして跳躍し、噴射跳躍を行う。

それを八回ほど繰り返した時、乱戦の中で調子を悪くしていた左の跳躍ユニットからオーバーヒートのメッセージが届けられる事になる。

しかし、騎乗の能力で感じる情報を信じてその警告を無視して長距離噴射跳躍を続けた結果、
辛うじて自身を囲んでいたBETA群と殿の斯衛軍部隊と交戦しているBETAとの間に降り立つ事が出来たのだった。


「そなたと戦場で会うのもこれで二度目だな、御剣大尉。
 いや、ロンド・ベルの光線級殺しと呼んだ方が良いかな?」


「御久しぶりです、斑鳩中佐・・・。
 私はその呼ばれ方よりも、御剣という名の方が気に入っております。
 できるならば、そちらの名でお呼び下さい。」


「分かった、以後そうする事にしよう。

 御剣大尉、斯衛軍第16大隊の一部をそちらに向かわせる事にした。
 上手く合流するのだ。」


「斑鳩中佐!
 この状況なら、自力で斯衛軍と合流する事も可能です。
 
 こちらに戦力を割くよりも、戦線の維持に注力してください。」


「よい。
 これは、そなたが多くのBETAを引き付けてくれた事に対する礼だ。
 気に病むことはない。」


「・・・はぁ。」


斑鳩中佐の言葉に毒気を抜かれた俺は、思わず間抜けな声を上げていた。


「それに、出さねば武田や月詠らも煩いしからな・・・。
 詳しい事は、戦いの後で話をするとしよう。」


光州作戦での功績により、一つ階級が上がった斯衛軍第16大隊隊長の斑鳩中佐からの通信は、こうして一方的に切られてしまった。

最後に斑鳩中佐が発した言葉に疑問を覚えつつも、気を引き締めなおした俺は、着地の体勢から上体を起こした。

そして、赤と白のツートンカラーのブラックウィドウⅡは、残っていた一基の跳躍ユニットを切り離した後、
少しでも早く援軍と合流するために、援軍が向かってくる方向に向けて、全力の主脚走行を開始した。

全力の主脚走行により、時速にして90km/hに達したグレイゴーストを追う事は、包囲網の外側に居たBETAの小型種には無理な事だった。

俺は、斯衛軍と戦闘を行っていたBETA群に対して背後から突入を行う。

BETAの隙間を縫うように移動したグレイゴーストは、無事赤い不知火壱型乙2機,白い不知火壱型乙2機,
吹雪・強行偵察装備の合計5機で編成された部隊との合流を果たす事になる。


「「「信綱!」」」


そして、合流直後に三機の機体から、怒声が届けられる。

俺は、その声の主である真耶マヤ真那マナと香具夜さんの三人に対して、平謝りする事しかできなかった。


「すまん、心配をかけた。
 後でいくらでも話し合いの時間を作るから、
 ここは本隊との合流を急ごう。」


「その口ぶりからは、全く反省の色が見えんな。
 この馬鹿者が!」


「BETAに単機で挑む様な愚か者が、帝国軍の衛士を勤めているとは・・・。
 信綱、もう一度訓練校からやり直すか?」


「馬鹿に付ける薬は無いとは、まさにこの事じゃ。」


俺の言葉に反応して、真那マナは更に怒りの声を上げ、真耶マヤは冷たい視線と共に痛烈な一言を発し、
香具夜さんは心底呆れたような声を上げた。

三人の様子に、もう一度謝罪の言葉を口にした俺は、気持ちを切り替えて斯衛軍本隊との合流の指示を出した。

白い不知火壱型乙から突撃砲を一門譲り受けたグレイゴーストを中心に、5機の戦術機が円形の隊列を構築すると直ぐに移動を開始、
数分後には、無事斯衛軍本隊との合流を果たす事となる。

跳躍ユニットと可動式担架システムの全てを失っていたグレイゴーストでは、戦闘の継続を難しいと判断した俺は後方に下がり、
事前に準備していた87式自走整備支援担架にグレイゴーストと吹雪・強行偵察装備を乗せ、
琵琶湖南部にある近江大橋(おうみおおはし)から、琵琶湖運河(大阪湾-琵琶湖ライン)を渡り、安全圏まで退避したのだった。







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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
更新が遅れて申し訳ありませんでした。
最早、1ヶ月に2回の更新ではなくなり、2ヶ月に3回の更新となっているようですが、
まだこの作品を続けて行く気力は残っています。
ただし、気力は有っても時間は無く、時間を作ってもこの作品の執筆以上に遣りたい事が有れば・・・。
目下の敵はモン○ン・・・、では無く己自身なのかも知れません。

今回は、調子に乗って突入したら包囲殲滅されそうになった主人公が必死に逃げ回るという話でした。
包囲されてしまった理由は、次の話で書きます・・・。
試作大剣(振動剣)とEXAMシステムver.2.5を実戦で使うなど、新しい設定も出てきました。
両方ともかなり始めから皆様のご意見と共に煮詰めてきた設定ですので、
個人的には満足したものに仕上がっていると考えています。

ただ・・・、この話はこんな展開で良かったのでしょうか。
チートが酷すぎて、テンションが↓とかになっていませんか?
皆様が、熱血してくれていれば、最高なのですが・・・。

これからも時間を見つけて、構成や表現方法を改善して行きたいと考えています。
何処まで足掻けるかは分かりませんが、行ける所まで行きますので、
皆様の貴重なご意見をお待ちしております。



[16427] 第30話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 23:53


グレイゴーストと吹雪・強行偵察装備を乗せた87式自走整備支援担架は安全圏に脱出した後、一路大阪に向かい原隊へ復帰する事になった。

そして、部隊に合流した俺を待っていたのは・・・、歓声では無く悲鳴だった。

それは、数時間前まで新品同様の綺麗な外装をしていたグレイゴーストが、スクラップ寸前にも見える無残な姿になっていた事で、
ブラックウィドウⅡの改修に携わっていた者達が上げたものだった。

俺はグレイゴーストをハンガーに固定した後、あえてその者たちと視線を合わせないようにして機体を離れようとしたのだが、
そこを佐々木さんに見つかり、足を止められる事になった。


「御剣!
 どうやら、大戦果だったようだな。
 これで日本中が、お前を変態と認識する事間違いなしだ。」


「大戦果ですか・・・・・・、俺にとっては最悪の戦いでしたけどね。
 BETA群の只中で孤立するなんて、愚か者以外の何者でもない・・・。

 それに、生きて帰っても怒られるんじゃ、割に合いませんよ。」


真面目な台詞の後、俺はおどけた様に言葉を続けた。


「武田に絞られたか?
 じゃあ、俺は褒めておこう。
 良く生き残った。

 ついでに、整備主任が呼んでいたから、一声をかけておけよ。」


そう言って、素早く佐々木さんはハンガーから離れて行き、それと入れ替わるように現れた整備主任に、俺は30分もの間小言を言われ続ける事になる。

その小言が終わったのは、グレイゴーストの操作ログを確認した整備士が、異常な機動を連続して取っていた事に気が付いたからであった。

俺は検査入院のために病院に直行する事になり、その後入院と言う名の強制休養によって、
10日間の間三重県鈴鹿市にある病院に留まるよう要求される事になるのだった。








病院に入院してから3日の間、俺は体の隅々まで検査される事になったのだが、
出てきた結果は目が若干充血している意外は身体的な以上は無いというものだった。

普通の衛士なら内蔵機能がやられてもおかしくない加速度が連続してかかっていた事を考えると、
異常が無いという検査結果こそが異常な事だったが、医者達が苦悩する問題に対して、俺自身も不可思議な加護が付いているのか、
本々の肉体のポテンシャルが高いのか、原因を掴みかねており、体の鍛え方が違うとしか言う事が出来ないのだった。

検査結果が出た後、俺は現場に復帰するために直ぐにでも退院することを考えた。

しかし、俺が京都で戦った時の状況が、誇張されて前線を中心に噂話として広がっているという話を聞いて、考えを変える事になった。

俺は、BETA群の中に孤立した愚か者が直ぐに現場復帰したと言う噂が広まり、その行動を真似する者が出ることを恐れ、
それと同時に俺や俺が所属する部隊が無理な運用をされて磨り潰される事を恐れたのだ。

愚か者の末路として長期入院を強いられたという事実を作る事が、自分にとっても他の衛士にとっても今後のためなると考え、
俺は当初の予定通り10日間の間病院内に留まる事を選択した。

また、グレイゴーストが部品の磨耗状態を調べるためにオーバーホールされる事になり、他の隊員の機体も調達が遅れているため、
部隊の編成にまだ時間が掛かるという現実も、この地に留まる事を選択した理由のひとつだった。

病院内で個室を与えられた俺は、軍や軍事関係に関る企業側の人物との面会や、帝国軍技術廠への報告書の作成に時間を割くことになる。

この時の面会では、京都での戦闘経過報告でBETA群に単機で突入した無謀な行いに対する判断を、
戦闘データの収集という目的と機体性能の観点から言えば妥当な判断であったとされ、BETA群の中で孤立した事に関しても、
BETAが今までに無い行動を取った事によって起きた事故であると処理される事が早々に決まったため、戦術機開発に関する事がメインとなった。

この無謀な行いに対して御咎めなしという判断は、一般人にも広く知られている衛士を貶めたくない軍部と今後も戦術機開発に俺を使いたい企業側、
さらに今回の戦闘で改めて個人の力の限界を感じて、軍の力も利用したいと改めて考えた俺の意志が絡み合って出た奇妙な結論だった。

兎も角、俺は新型戦術機の運用データの収集という独立機甲試験部隊の目的を達成するために、今後も邁進して行く事になったのだ。

そして、帝国軍技術廠への報告書は、今回京都で行われたブラックウィドウⅡとそれに付随する新兵装及びEXAMシステムver.2.5に関する事であった。

その内容を簡潔にまとめると以下のようになる。

YF-23『ブラックウィドウⅡ』について
機体性能及び機体特性は、現在帝国軍の運用するどの戦術機よりも優れており、帝国軍のドクトリンにも合致するため、
戦場に投入した場合にその有効性が発揮される事は確実である。
しかし、量産する事が難しいほど高コストである事と、現在進められている新型機開発の事を考えると、
制式採用するほどのメリットが有るとは言えない。
また、機体の部品及び兵装が特殊なため、採用するにしても量産するまでに時間が掛かる事が予想される。
以上の事を考慮すると現状の方針通り、新技術のデータ取り用の機体として利用するのが最善である。

各種専用装備及び試作大剣について
各種専用装備は、その性能及び耐久性に問題は無く、特にXAMWS-24 試作新概念突撃砲は弾数が増加したことを考えると、
優れた兵装である事が確認できた。
ただし、試作新概念突撃砲は現在の兵装とマガジン(弾倉)の形状が異なる為、補給をあわせた軍全体体制を整えるのには時間が掛かる事、
XCIWS-2B 試作近接戦闘長刀はCIWS-2A 74式接近戦闘長刀と比べて、飛びぬけて優れた点が無い事から、
特殊部隊へ供給するなどの少数配備が望ましい。
試作大剣は高周波機能の搭載による切れ味の増加と、懸念されていた取り回しに関して問題は見受けられなかったが、
耐久性が不足している事は大きな問題である。
そして、衛士の腕に性能が大きくされる点はBWS-3 Great Swordと同様であり、一般の衛士が要塞級へ攻撃する場合を考えると、
パンツァーファウストのような射撃兵装の方が有効であると考える。
今後は、使い手を選んだとしても、もう少し大型化させて耐久性を上げるか、
一般の衛士が使いやすいように大型ナイフに高周波機能をつける事を提案する。

EXAMシステムver.2.5について
対電子戦装備の替わりに搭載された新型演算ユニットの動作を確認。
EXAMシステムver.3に搭載予定のコンボ機能に必要不可欠な、その場に応じた判断を行う処理を最適化するための学習機能も予定通りに機能した結果、
戦闘の中盤から限定的であったがコンボの発動に成功した。
経験の浅い衛士への補助機能としての役割のほかに、ベテラン衛士においても操縦の負担軽減が出来る事を考えると、
コンボは今後必要になる機能である事が再確認できた。
新型演算ユニットの量産及びコスト等の問題点もあるが、可能な限り早く前線へ配備される事が望まれる。

追記
EXAMシステムver.2.5を機能させるために搭載された新型演算ユニットは、新型管制ユニットと同様に御剣電子製の量子コンピュータを採用していたが、
学習機能を搭載するに当たり、ソフトにバイオコンピュータの理論を応用した制御手法を採用した点が従来とは異なっていた。
この制御手法による学習機能は、一回の戦闘中に数個のコンボ設定が完了するほどの適応能力を発揮した事を考えると、
数時間かけて最適化を行っていく従来のシステムと比べると、十分評価できるものである。
ただし、単純な演算能力では他にも優れたコンピュータが戦場に存在したにも拘らず、グレイゴーストをBETAが特別扱いした事を考えると、
コンピュータの学習機能にBETAが反応した可能性が高いものと思われる。
その点に関しては今後も調査が必要であるが、もしこの仮説が正しかった場合、後方でコンボ機能を設定した後、学習機能に制限をかける等、
何らかの対策が必要になると思われる。

今回の報告書で一番ページ数を割いたのは、ブラックウィドウⅡや武装についてではなく、
EXAMシステムver.2.5を機能させるために搭載された、新型演算ユニットに反応したと思われるBETAへの考察だった。

表向きは、従来のように高性能コンピュータを優先的に攻撃するBETAが、新型コンピュータに過剰反応を示したとしていたが、
『マブラヴ』の世界を知る俺は、BETAが00ユニットに近い興味を新型演算ユニットに持った結果ではないかと考えていた。

今となっては『マブラヴ』の世界の香月博士が開発していた00ユニットがどの様なモノだったかを知る事はできないが、
この世界の彼女が行っている研究を調べる限り、00ユニットの脳にあたる部分のハードは、
高温超電導物質を使った量子コンピュータである事が推測されている。

00ユニットと比べると圧倒的に性能が劣っているとは言え、同様のハードを使用する新型管制ユニットの実践投入時に、
BETAが何らかのアクションを見せるのではないかと期待していた俺は、特別な反応を見せることが無いBETAの動きを見て、
量子コンピュータ自体にはBETAが興味を持つのに必要な何かが足りない事に気付かされていた。

そして、今回の戦闘でのBETAの動きを見た俺は、新型演算ユニット搭載した機能によって必要な何かが補完され、
それにBETAが反応したのではと考えたのだ。

それが、バイオコンピュータの理論を応用し、生物の脳を構成する神経細胞回線網モデルを制御手法を導入した事で、
生命が行う反応に近い処理を擬似的に行う学習機能を獲得した最新の量子コンピュータ、『学習型コンピュータ』の存在だった。

BETAがどうやってコンピュータを見付け、その性能を判断しているのかは未だに不明であるが、
ある意味でハイヴとつながっていた00ユニットとは異なり、完全にBETAとは隔離されていた学習型コンピュータに、
BETAが強い興味を持ち接触しようと行動を起こしたという俺の仮説は、厳密に言えば間違っているだろうが、
それほど大きく外れてはいないように感じられた。

ただし、この学習型コンピュータや一つの部屋を完全に占拠するような大型の最新型量子コンピュータでさえ、
人間の脳の代わりを果たすにはまだ演算能力が不足しているのが実情である。

この事から、『マブラヴ』の世界で00ユニットに搭載するコンピュータが香月博士の考える域まで達していなかったのは、
とあるヒントによりそれが一気に解決した事を考えると、ハード的な問題では無くソフト側に何らかのブレイクスルーがあったと、
俺は結論付ける事になった。

おそらくは、因果律量子論に関連する事が切掛けになっているとは思うが、因果律量子論の意味を理解できない俺には手を出すことが出来ない領域である。

結果的に対BETA戦で大きな成果を挙げることになるであろう、オルタネイティヴ4に対して、香月博士に十分な研究時間を与えて開発を待つか、
『マブラヴ』の世界の設定に頼ってクソゲー集を渡すか、『白銀武』の登場を待つ意外に計画を進展させる手段が無い事を悟った俺は、
改めてオルタネイティヴ4以外にBETAに対抗する手段が無いかと思考を巡らすのだった。








8月26日

薬と消毒液の匂いが鼻に付く病院での入院期間を終えた俺は、外の空気の清々しさにもかかわらず、朝から頭を痛めていた。

その原因は、京都放棄から一週間がたった日に、日本海側を東進し新潟県上越市を突破する事になったBETA群の一部が、
突如海中に消えたという報告が有ったのだが、その足取りが先日のBETAによる佐渡島侵攻という形で判明した事に有った。

佐渡島侵攻という形で、始めてBETAの足取りをつかんだ帝国軍は、当然のごとく佐渡島の防衛に失敗した。

BETAによる佐渡島占領後、それにひきつけられる様に北陸地域に進出していたBETA群は、佐渡島への移動を開始、
その結果北陸でのBETAとの戦闘は散発的なものへと変わっていくことになる。

そのBETAの行動を聞いた人々は、ある種の不安を抱えると同時にBETAとの戦闘が収まるのではという期待を持っていたのだが、
俺はBETAにとって基地であるハイヴの建設が始まったのだと、確信を持ってその話を聞いていたのだった。

今後の方針に頭を悩ませながらも、俺は退院直後病院と同じく鈴鹿市内にある御剣重工の工場を訪れる事になった。

オーバーホールされていたグレイゴーストは、全ての部品調査を終えるためには3ヶ月以上の時間が掛かる上に、
本格的に実戦投入するほどの補修部品を抱えていなかった事から、今後も実戦に投入する目処は立っていなかった。

そこで、鈴鹿工場で新型の不知火弐型を受領する事になったのだ。

この新型不知火弐型は、ロンド・ベルや他の独立試験部隊で運用されていた、弐型タイプAもしくは弐型甲と呼ばれていた機体の運用データと、
各種テストから得られたデータを反映させる事で、制式採用に向けての改修が施された機体である。

不知火弐型タイプBは、整備性を上げるために改良され部分や細かな装甲形状、センサーのレイアウト変更以外に、以下のような改修が施されていた。

・大型の可動兵装担架システムの配置を、従来の戦術機の仕様に両肩部サブハードポイント2基を追加した仕様から、
 ブラックウィドウⅡの仕様を部分的に採用し、両肩部メインハードポイント2基・背部サブハードポイント2基という仕様に変更。

・背部可動兵装担架システムを小型の物にした事で余裕の出来た、二基ある可動兵装担架システムの間にマガジンラックを増設。
 様々な機動を行った場合でも、比較的動揺が少ない胴体部にマガジンラックを設置した事で、弾倉の交換が素早く安定的に行えるようになった。
 またこれにより、腰部装甲ブロックへの小型推力偏向スラスター追加によって、除かれた予備弾倉分を補う事に成功した。

・サイドのスカートの増設。
 今までに無かった腰部の左右に装甲を増設する事で、そこに予備弾倉修める事になった。
 予備弾倉を搭載できる数が増加した事で、弐型になって増加した兵装に応えられる弾薬を保持できるようになった。

この不知火弐型タイプBを最終的な量産対応機種であるとして、現在企業側は先行量産機によるの運用データの収集を急ぎ、
帝国軍と制式採用に向けての調整を行っている最中である。

また、ローラーブレード及び、フロントドロップタンクというオプション装備も制式採用される運びとなり、
総合的に見ても以前の不知火よりも稼働時間が延びることになった不知火弐型は、ベテラン衛士達が求める要求をほぼ満たす機体となっていた。

ただし俺個人の意見としては、可動兵装担架システム4基分の武装と弾薬による重量増加を補う程度しか、
機体の推力を上げる事が出来なかった点を考えると、可動兵装担架システム6基を有するブラックウィドウⅡより、
機体性能で劣っていると感じずにはいられず、辛口の評価となってしまっていた。

この事は、試作機とは言え8年前に基本設計を行った機体を、最新の量産機が超えられないという現実に、
改めて米国の技術力の高さを実感させられた瞬間でもあった。

不知火弐型タイプBを受領した後、鈴鹿工場近くの演習場で機体の慣らし運転を終えた俺は、大阪にいた部隊に合流し、
新たに機体を与えられた隊員と共に琵琶湖運河での防衛戦に従事する事になる。

しかし、琵琶湖運河での防衛戦は、防衛線開始直後のものと比べると散発的で小規模のものとなっていた。

BETAの佐渡島占領後、他の防衛線でもBETAの活動が次第に緩やかになってきていたのだ。

そして、9月に入り束の間の平穏が訪れていた日本帝国に激震が走る。

9月9日、人類は漸く21個目のハイヴ、佐渡島ハイヴ(H21:甲21号目標)の存在を確認する事になったのだ。

この報告を受けて、帝国軍は一度BETAに突破され壊滅していた琵琶湖の北に位置する敦賀湾-琵琶湖をつなぐ第二琵琶湖運河を奪還し、
これ以上西からBETAが佐渡島ハイヴへ合流しないように防衛線の再構築を急いだ。

更に帝国軍は、三本ある琵琶湖運河防衛線の再編を行うと、そこから抽出した戦力を使って佐渡島奪還への準備を始める。

しかし、佐渡島ハイヴ攻略作戦は計画の段階で大きなつまずきを見せる事になる。

高密度のBETA群を有する建設開始間もないハイヴ攻略の難しさを指摘すると同時に、独自の作戦を立案しているとした米国が、
日本が主導する作戦への不参加を表明したのだ。

その結果、奪還に十分な戦力が集まらなかった事で計画は頓挫、戦力の不足する日本帝国には新潟県沿岸部で防備を固める以外に、
取れる手段は残されていなかった。

そして、この出来事を一つの切掛けとして日本帝国と米国及び帝国軍と在日米軍の関係は、目に見えて悪化して行くことになる。

表向きは、核兵器の使用の是非や帝国軍と米軍の指揮系統・作戦立案の主導権争いとされていたが、
とあるルートから入手した情報によると、対BETA戦略の根幹を成すオルタネイティヴ計画の主導権争いも、
関係悪化の一因となっているという事だった。

日本防衛には、米国軍の戦力が欠かせないと以前から考えていた俺は、大きな反発を招かないように地道な活動で、
二国の緊張緩和を図る工作を行っていたのだが、その活動もこの急激な関係悪化を止めるほどの力を持ち合わせてはいなかった。

10月に入り、ついに米国は日米安保条約を破棄し、在日米軍の撤退を開始する事になる。

俺が主導して行っていた工作の成果らしきものは、米国の反主流派に属する野党議員数名から、
議会内において一方的な日米安保条約破棄を遺憾に思うというコメントを引き出せたぐらいだった。








11月に入り帝国軍は、在日米軍の撤退によって低下した国内の士気と、外国から日本帝国に向けられる信用度低下に歯止めをかける事を目的に、
なんらかの軍事的な成果を上げる必要があるという政府の考えに応える為に、BETAの活動が低下している事を利用し、西日本奪還の準備を行っていた。

無論この西日本奪還計画は、西日本を完全に復興させるというものではなく、防衛拠点として使える地域を再占領し、
前線基地を構築するというもので、帝国軍単独でも可能な範囲の限定的攻勢作戦であった。

そして、その作戦計画に従い琵琶湖防衛線に戦力が集められ、いよいよ反抗作戦の第一歩が始まるものと誰しもが考えていた11月の第二週目、
重慶ハイヴ(中国領)からのものと思われるBETA群が九州に上陸を開始した事が確認される。

二ヶ月前の唐突な侵攻停滞と同じように、侵攻の再開も何の前触れも無く突然始まったのだ。

無人の野を駆けるように西日本を移動したBETA郡は、上陸開始から36時間後、琵琶湖防衛線にまで到達する事になる。

琵琶湖運河防衛線に自信を持っていた帝国軍だったが、防衛線の長さに対して集められた戦力は少なかった。

やはり、在日米軍が抜けた穴は大きかったのだ。

2週間あまりの間、第一琵琶湖運河(大阪湾-琵琶湖ライン)及び第二琵琶湖運河(敦賀湾-琵琶湖ライン)にて防衛を行っていた帝国軍だったが、
BETA群の攻勢に抗し切れず第一琵琶湖運河及び徳島の放棄を決定する事になる。

帝国軍は、第一琵琶湖運河と四国の徳島で防衛を行っていた部隊を第三琵琶湖運河(伊勢湾-琵琶湖ライン)まで下げ防衛戦を再開する。

第三琵琶湖運河は、三重県津市の南に位置する湾にもつながっている河川から伊賀の地を通って琵琶湖につながる運河で、
大阪湾-琵琶湖ラインが一級河川を利用し、敦賀湾-琵琶湖ラインが最短距離で結ばれた事を考えると、距離・地形的にも一番難しい工事ではあったが、
工事着工から11年の年月をかけて何とかBETA侵攻前に完成させる事が出来た運河だった。

第三琵琶湖運河を越えた先は、戦術機生産の拠点ともなっている中京工業地帯となっており、同地域は帝国がなんとしても防衛したい場所であった。

帝国軍はこの事態に対して、後方とされている地域から予備兵力を抽出し、増援として派遣する事を決定する。

この増援と部隊が配置されている場所が減り補給が楽に行えるようになったことで、第三琵琶湖運河での防衛は辛うじて成功を収めることになる。

第一琵琶湖運河から第三琵琶湖運河に続く防衛戦参加し、その戦況が安定し出した事を実感した俺が、
これで多くの戦力を残したまま未来に望みをつなげる事が出来ると思った矢先・・・、事態は更に急展開をむかえる。

BETA群の再侵攻開始から丁度一月、新潟沿岸にBETA群が上陸、南下を開始し長野県へ侵攻を開始したのだ。

鉄原ハイヴのハイヴ建設確認後、8ヶ月程度という期間での侵攻開始でも不意打ちだった事を考えると、
佐渡島ハイヴ建設確認から僅か3ヶ月後というこの大規模侵攻は、誰もが予想していない事態だった。

少ない戦力にも関らず善戦した帝国軍は、長野県と山梨県の県境付近でBETAの侵攻を一時的に留める事に成功するが、
やがて予備兵力の不足により防衛線が崩壊、BETA群は山梨県を突破し神奈川県内になだれ込む事になる。

既に、一部またはほぼ全ての避難が開始されていた長野県や山梨県に対して、避難体制が確立しておらず事態の急変に対応し切れなかった神奈川県では、
沿岸部の人口密集地域にまで達したBETAによって、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される結果となった。

その後BETA群は北への侵攻を多摩川、西へは相模川、南へは三浦半島を境に停止、帝国軍とBETAは両河川を挟んで膠着状態となり、
帝国軍はこれ以上のBETAによる都市部への侵攻を防ぐ為に、24時間体制の間引き作戦が続く事になる。

これによって、事実上横浜を中心とした神奈川県東部は、BETAによって占領される事となった。

この時点でベータの占領地域は、三重県北部を除いた西日本、石川、富山、長野、新潟、山梨、神奈川東部、東京の一部にまで達しており、
7月から開始されたBETAの侵攻によって出た犠牲者はおよそ2500万人、この数字は日本人口の20%が犠牲となった事を意味していたのだった。








佐渡島ハイヴから侵攻したBETA群が神奈川県東部を占領したという情報を俺が入手したのは、
防衛戦に参加することが出来ない長時間の機体整備が行われている最中に、御剣財閥経由で得た情報を極秘裏に受け取った時の事だった。

この時点で、その出来事が発生してから丁度24時間が経過しており、俺が手を出そうにも既にすべてが終わった後となっていた。

これは、琵琶湖防衛線に動揺が走る事を恐れた帝国軍が、前線への情報封鎖を行っていたために起こった情報伝達の遅れであった。

BETAの日本侵攻を琵琶湖運河と新潟県沿岸部で抑え込み、人類初のハイヴ攻略とオルタネイティヴ4の拠点を佐渡島ハイヴとする事を考えていた俺は、
突然の佐渡島ハイヴからの侵攻と横浜占領という現実に、強い衝撃を受ける事になる。

『マブラヴ』の世界と変わらず、国内に2つのハイヴが建設されてしまった。
やはり、運命は変える事が出来ないのかと・・・。

また、多くの犠牲が出たにもかかわらず、横浜に住んでいた家族が無事に帝都へ逃れる事が出来たという情報に、
思わず安堵してしまった事も俺を悩ます原因となった。

確かに俺が前線に立つことで救われた命も有るだろうが、後方で働いていたほうがもっと犠牲を少なく出来る可能性が合ったのではないかと、
己の限界を知りつつも考えずにはいられなかったのだ。


「所詮俺は、物語の主人公にはなれないということか・・・。」


俺の呟きは、12月の寒空に飲み込まれるように消えていった。

BETAの神奈川県東部占領後、再び各戦線でのBETAの攻勢は停滞して行く事になる。

そして12月24日、偵察衛星の情報により横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)の建設開始が確認され、
その報を受けた日本帝国は仙台第二帝都への首都機能移設準備を始める事になるのだった。







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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
年明け前に投稿の予定が、様々なイベントに時間を取られたうえ、文章の構成に悩んだ結果、
この時期の投稿となってしまいました。
申し訳ありません。

こんなダイジェスト風味の文章に、ここまで時間が掛かるとは考えていなかったのですが、
プロット上の学習型コンピュータの設定がおかしい事に気が付いたり、
京都放棄時点でかなり戦況が改善している予定だったのが、原作と殆ど変わらない事に気が付いたりするなど、
いくつかの問題を見つけてしまった事で、設定を改めて練り直すのに四苦八苦してしまいました。

今回は駆け足で話を進め、そこに今まで暖めていた様々な設定を織り込んでみました。
ブラックウィドウⅡの今後・学習型コンピュータの設定・不知火弐型の改良・琵琶湖運河の設定・横浜侵攻の経緯 等
皆様に納得していただけるという確信はございませんが、
最低限自分を納得させる事ができる設定にはできたと思っています。

ここから、いよいよ日本の反抗作戦が本格化するわけですが・・・、
1000万人の犠牲者の減少と維持された中京工業地帯の工業力のメリット・デメリットを表現しつつ、
どうやって原作開始時期に突入するかで頭を悩ましております。
何処まで上手くやれるかは未知数ですが、正月休みで溜めたエネルギーを使って、頑張ってみたいと思います。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


>アンビルセル製法(常温加圧)で加工されたダイヤモンドはハイパーダイヤモンドといって
 モース高度が30以上あるらしいから同じ炭素系装甲の戦術機に応用できないか・・・

もしかして、スーパーカーボン製と原作で設定されている74式近接戦闘長刀で、
突撃級の正面装甲を切り裂けるとされているのは、このハイパーダイヤモンドのおかげでしょうか?
もしそうなら、ブレードエッジ装甲とかの原作設定の補則にしか使えないのですが・・・。

それと、硬度と防御力は必ずしも直結しないものです。
そのほかに靭性や疲労強度、耐熱性、対化学反応性など様々な要素が絡んできます。
ハイパーダイヤモンドは天然ダイヤモンドよりもこれらの点でも優れているようですが、
装甲材としては、使い難いように思えます。
関連項目で出てきた、超硬度ナノチューブをつかった複合装甲の方が良いもかもしれません。

それと、戦術機の装甲に炭素系装甲が使われているというのは何処からの出展でしょうか(汗
一応、現在の戦闘機では、チタン系,アルミ系とならんで、炭素繊維が入った複合装甲も使われている事は確認しています。
ご存知の方が居れば、ヒントを頂ければ幸いです。


>オリ展開ばかりで分かりにくい為、年表等を作って頂けないでしょうか?
上記のようなご提案を頂きましたが、『設定ばかりを書き連ねて何が楽しいの』とご指摘を頂いたばかりですので、
対応方法について悩んでおります。
私の取るべき手段としては、
①主人公が関連した項目だけの年表を作成(必要最低限)
②本作品における年表を作成
③本作品と原作を比較した年表を作成
の三つがあると考えています。
設定大好き人間の私としては、時間が掛かっても③が嬉しいのですが、
皆様が求めているのは6:3:1の割合で、少し②に寄った①ではないかと想像しております。
今後の方針を決める目安にもしたいので、どの対応が好みか数字だけの書き込みでも結構です。
書き込みをいただけたら幸いです。




[16427] 第31話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2011/05/15 01:42


1999年1月

横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)の建設開始後、BETAは再び日本全土での侵攻を停止した。

日本帝国は、この奇妙な侵攻停止に戸惑いながらも、厳しい現状に対応する体制を整えて行く事になる。

この部隊再編に合わせてロンド・ベル隊を含む混成大隊は、琵琶湖運河防衛線から東京方面の多摩川防衛線へ、戦場を移す事となった。

ロンド・ベル隊などの独立機甲試験部隊としては、戦闘頻度が激減した琵琶湖運河防衛線よりも、
定期的に戦闘がある横浜ハイヴ周辺の方が、戦闘データ収集には都合のいい場所だった。

そして、24時間体制の間引きが行われる中で、帝国軍は多摩川を渡り川崎市に前線基地を築くことになる。

帝国軍は、即座に東京などの都市部へBETAが侵攻する事がないようにする防波堤としての役割と、
BETAの侵攻ルートを限定させる誘蛾灯としての役割を、この前線基地に求めていたのだ。

また、同様の理由で横浜ハイヴ西部では、茅ヶ崎に前線基地が築かれている。

BETAはそれらの前線基地に対して、今のところ積極的な攻勢をかける様子を見せてはいなかった。

帝国軍は、横浜ハイヴが飽和し侵攻が再開されないように精鋭部隊による限定侵攻も行なう一方で、
横浜ハイヴ攻略の為の戦力を確保する事に奔走するのだった。








琵琶湖運河防衛線から多摩川防衛線へ戦場を移した俺たちロンド・ベル隊を含む混成大隊は、防衛体制が確立する一ヶ月間、
連日の出撃要請に答える多忙な日々を過ごしていたのだが、それを過ぎる頃になると間引き作戦のローテーションも確立され、
僅かながら休日を過ごす余裕も生まれてきていた。

ただし、俺に限っていえば休日を過ごす余裕など殆ど有りはしなかった。

昨年の琵琶湖運河防衛線での活躍が評価され、俺の少佐への昇進とロンド・ベル隊(第13独立機甲試験中隊)を中心とした混成大隊が、
正式な独立機甲試験大隊とする事が内定した事で、横浜ハイヴへの間引き作戦に参加する合間に、
佐官へ昇進するための特別教育と新たな部隊の編成を行わなくてはならなくなったのだ。

更に、休日とされている日に軍や財界の関係者に会う一方、御剣財閥が関連する軍事事業部にも顔を出しているので、
休んでいるという感覚を覚える暇も無いというのが現状である。

副官である香具夜さんに度々体調を心配されているが、本土侵攻時と比べて戦術機に乗る時間も減り、
安全な後方で睡眠を取る事ができる多摩川防衛線でなら、十分な睡眠時間さえ確保すれば俺の体は疲労とは無縁だった。

しかし、健康な体とは裏腹に、ある意味戦う事だけに集中していれば良かった前線と比べて、
様々な意思がうごめく後方と数kmしか離れていない多摩川防衛線での生活は、精神的な負担が大きくなっていた。

俺としては、自分の決めた方針にさえ沿っていれば、その他の細々とした内容や誰がそれを実行するかなど興味は無いのだが、
各分野で俗に言う派閥と言われるモノに所属する者たちから、様々な忠告やお願いが俺の下へ届けられる事があるのだ。

しかも、俺に対する悪意が有れば問答無用で排除できるのだが、純粋に俺の事を心配している様子なので始末に終えない。

名門武家出身で新鋭財閥の後継者、軍内部でも五摂家を除けばほぼ最速の速さで昇進を重ねる俺に、
嫉妬や敵意を持つものも少なくないと思うのだが、何故か子供の頃から多くの者は俺に対して好意的だ・・・。

これも、俺が忘れてしまった特殊技能の影響なのだろうか?

俺は、誰も答えの出すことのできない疑問を頭に浮かべながら、普段通り自分がする必要があると思えない派閥の利害関係の調整内容を、
意見書という形で書き上げた。

休日にも関らず、数々の打ち合わせと書類の作成が終わった時、時間は既に午後の3時を過ぎていた。

予定のギリギリだったなと呟いた後、移動中の車内で書き上げた書類を鞄にしまった俺は、運転手に礼を言い、車を降りた。

この瞬間の俺は、これから過ごす時間に期待を膨らませていたのだが・・・・・・。


「はぁ?」


車を降りた直後に俺が発した言葉は、この一言だった。

俺の本来の目的地は東京にあるホテルであって、けっしてこのような日本家屋ではなかった。

多忙な日々の数少ない癒しとなっている、二週間に一度確保できるか出来ないかの真耶マヤ真那マナとの逢瀬を過ごす筈が、
何故か良く見知った屋敷の前に立っているのだから、俺が呆然となるのも仕方の無い事だと思う。

俺は答えを求めて自分が先ほどまで乗っていた車を振り返るが、車は既に走り去った後だった。

未だに混乱のさなかに居る俺を尻目に屋敷の門が開かれ、そこから真耶マヤ真那マナが現れた。


真耶マヤ真那マナ
 何でこんな所に居るんだ?」


俺は、二人に会うという約束を破らずにすんだという安堵の思いを込め、笑みを浮かべながら当然の疑問を二人に投げかける。


「御剣大尉・・・、御館様がお待ちになっております。
 どうぞ、中へお入りください。」


しかし、返された言葉は予想と反して事務的なものであり、言葉を発してくれた真耶マヤはまだしも、真那マナにいたっては、
口を真一文字に閉ざすだけで、こちらと視線を合わそうともしなかったのだ。

そんな二人の態度に頭の中で警鐘が鳴り響いたが、俺はそれを抑え込み案内されるままに煌武院家の屋敷に足を踏み入れたのだった。








簡単なボディチェックの後通された部屋には、煌武院家当主の煌武院雷電,御剣家当主の祖父,そして月詠家当主の真耶マヤ真那マナの祖父が、
険しい表情で俺を待ち受けていた。

体格の違いは有れども何れの人物も、年齢のわりに肌につやがあり、体から発せられる気迫からは、
彼らが未だに現役の怪物で有る事が伝わって来る。

三人から感じる緊張感から、何か重要な話し合いがこの場で行われ、その内容の一部が俺に伝えられる事になるのだろうと考えた俺は、
促されるままに用意された椅子に座った。

俺をこの場に案内した真耶マヤ真那マナが、己の背後にまわった事を確認した煌武院雷電は、
堅く閉ざしていた口を開いた。


「信綱君、休日の最中に突然呼び出してすまないと思う。
 だが、そなたも係わる帝国の命運が掛かった大事な用件が有ったのじゃ。
 戸惑う事もあるかもしれんが、心して聞いて欲しい・・・。

 今代の政威大将軍である斉御司殿下の体調が優れぬ事は、そなたも聞き及んでいる筈じゃ。
 殿下は、今の自分では帝国を導く事は到底叶わぬと仰られ、ついに奉還を行うことを決められた。
 そこで次代の政威大将軍を決めねばならんのじゃが・・・・・・
 話し合いの末、わしの孫娘である煌武院悠陽が、政威大将軍と成る事に内定した。
 今後、皇帝陛下の執り行う儀によって、正式に任命される事になるじゃろう。」


煌武院雷電の話しを聞いた俺は、僅かな驚きの後、若すぎるといってもいいマブラヴの世界の煌武院悠陽が、
軍や民間人問わず強く慕われていた謎が解け、やはりこのタイミングだったかと、逆に納得する事になった。

今、帝国は形振り構わぬといった姿勢で、戦力の増強を進めている。

昨年末、帝国議会は女性の徴兵対象年齢を16歳まで引き下げる修正法案を可決し、BETAの本土侵攻で失った帝国軍の人員の補充を急ぐと同時に、
国内はもちろんの事、国外にある日系企業に対しても可能な限りの増産を呼びかけ、物資の確保に奔走している。

また、帝国軍で運用されている陽炎を全て国連軍へ譲渡する事を引き換えに、新たな国連軍部隊を帝国内で活動させる話をまとめ、
技術及び食料の提供と引き換えに大東亜連合へ戦力の提供を呼びかけ、米軍の帝国へ直接又は国連軍を仲介して間接的に派兵する法案を採択するよう、
米国内で様々なロビー活動を行うなど、国外からも実働戦力を集めようとしているのだ。

さらにここで、ハイヴ攻略作戦が民間に知られる前に次代の政威大将軍が現れ、その後人類初のハイヴ攻略を成し遂げれば、
新しい政威大将軍の価値は飛躍的に高まり、形式上は政威大将軍に仕えている政府も、相対的に支持率が上がる事になるだろう。

ここまで見ると、良い事しかないように思うが、このシナリオを書いた者が誰かを考えると急にキナ臭い雰囲気となる。

確かに、斉御司殿下の体調が優れず、本人もそれを気に病んでいた事は事実だろうが、積極的に他人に責任を押し付ける性格ではない事を考えると、
この案を提案した者が何処かに居る可能性が高かった。

そして、帝国政府の横浜ハイヴ攻略への動きを見る限り、ハイヴ攻略に政府が相当の自信を持っている事に気が付くと・・・・・・・・・。

直接的な手段を用いていないとしても、政府の思惑で政威大将軍の進退が影響された可能性に、僅かながら嫌悪感を覚えたが、
個人の意思よりも全体の利益を優先するといったこの一連の動きを、俺は責める気にはならなかった。

俺は返ってくる答えが半ば分かっていながらも、確認の為に目の前に座る雷電公に疑問を投げかけた。


「雷電公が政威大将軍に成れないのは、力が強すぎるから・・・・・・、
 という事で間違いないでしょうか?」


「・・・・・・あぁ、出来得るならわしも悠陽にこのような重荷を背負わせたくは無い。
 しかし、協議の中で一度もわしの名が出ることは無かったのじゃ。
 BETAの侵攻で民心が離れつつある今の政府では、わしを制御しきる自信が無いのじゃろう。

 それに、歳を言えば殿下とわしの歳はそう大きくは変わらん。
 ・・・・・・息子は既に鬼籍に入っておるしの。」


雷電公の言葉とその表情からは苦悩の色が感じられ、最後の言葉を発した前後では、直前まで感じていた気迫がなりを潜めていた。

雷電公が苦悩する理由には、幾つか思い当たる事があった。

政威大将軍は、五摂家の当主が就任する役職である。

つまり、それは近い内に雷電公は当主の座を悠陽に譲る事が決まっているという事と同義だった。

過去の苦い経験から、一度引退した者が政治の表舞台に立つ事が難しい制度になっている現在では、
雷電公には悠陽を表立って補佐する手段が殆ど残されていなかった。

そして、その後三人が語った煌武院悠陽の政威大将軍内定の経緯を聞き、俺は頭を抱える事になる。

政府や議会が煌武院悠陽を担ぎ出したい理由、それを一言で表すとすると『験を担ぐ』という言葉に集約されたのだ。

帝国が過去に行った大きな戦争で勝利した時の政威大将軍は、偶然にも五摂家の中で武家出身である煌武院と斑鳩の2家のみである。

斑鳩は最終的に先の大戦で敗れた事で土が付いている上に、対米交渉を行う際にも悪影響が懸念された事で見送られ、
煌武院にお鉢が回ってきたということだった。

また、裏の理由を挙げるとすれば、斑鳩の現当主は既に数多くの武勲を挙げており、雷電公と同様に扱い難い人物であると見られている上に、
歳も若いことから次代を引き継ぐものがおらず、当主の座から降りる訳にも行かなかったのだ。

しかし、これらの話を聞いても、俺がこの場に呼ばれた理由が皆目見当付かない。

御剣の協力が得たいだけなら、祖父に話を通せばすむ話である。

俺は、これ以上悩むのも時間の無駄だと思い、素直にその事を口にする事にしたのだった。








「すみません。
 ここまで説明されても、私がこの場に呼ばれた理由が分かりません。
 雷電公は、私に何を御望みなのですか?」


「そなたには・・・・・・、

 悠陽の副将軍と成り、悠陽を支えて欲しいのじゃ。」


雷電公は、一呼吸置いた後、重苦しい調子で理由を話した。

俺はその言葉を聴いた瞬間、雷にでも打たれたような衝撃を受ける事になった。

副将軍とは、政威大将軍と成った者の縁者が、将軍の足りない部分を補うために任命される役職で、
過去には年齢や病気などで体が弱った将軍に代わって戦場に立ったり、常に戦場へ赴く将軍に代わり政務を代行したりした記録が残っている。

しかし、先の大戦後は置かれる事が無くなっており、既に死んだ制度だと認識されていたものだったのだ。

そして、血縁者でない俺が副将軍になるには、婚姻もしくは最低でも婚約が必要となってくる。


「月詠家の当主がこの場にいるという事は・・・・・・、俺と真耶マヤ真那マナがどんな関係かも知っていて、
 その要求をしていると理解して、宜しいのですね。」


体の底から湧き出てくる、怒気を抑えきる事が出来ないまま、俺は言葉をつむぎだしていた。

俺の問い掛けについて、月詠家の当主が静に話し出す。


「無論、貴様が二人と男女の仲となっている事は知っている。
 二股を掛けている事は、この際何も言わない・・・・・・が、
 国を守るためならば個人的な感傷は、無しにしてもらう。

 二人は貴様と別れることに、同意してもらっている。
 万が一、子が出来ていた場合、月詠家で育てる事を条件にだ・・・・・・。」


雷電公の背後で一瞬体を震わせた二人を視界の隅に捉えつつ、月詠侯の眼光を俺は真正面から受け止めた。

二股を掛けていると思われている事に対して、少し思うところはあったが、合意の下で二人と婚約していると自信を持って言い切る事のできる俺としては、
月詠侯の視線から逃れるという選択肢は無かったのだ。

数秒後、自然と視線が別れたところで、俺は怒りの矛先を祖父へ向ける。


「祖父さん、
 これは御剣が方針を変え、権力を取りに行く事を決めたと認識しても宜しいのですね。」


「しかり、この国難を乗り切るには、これが一番良い方法じゃと考えておる。
 しかし、それも一時の事じゃ。
 御剣の名を冥夜が継ぎ、今後御剣が政治に係わらないようにすれば、それで良い。」


数秒の間、睨み合いを続けた俺と祖父だったが、俺は話を進めるために雷電公に視線を移した。


「俺が副将軍になることが、悠陽の為、国の為になると御思いか。」


「その通りじゃ。
 これは、国の為であり、悠陽の為でもある。
 そなたの個人的武名,人を引き付けるカリスマ,大会社を運営する経営主腕,
 何よりもBETAと戦う強い意志は、この国に必要なのじゃ。
 
 さらに、政威大将軍と成った後で婚姻相手を決める事は困難。
 仮に出来たとしても、政治的な意味しか持たない人選が行われることになるじゃろう。
 しかし、政威大将軍と成る前に婚約さえしていれば、それを阻む事は出来ん。
 悠陽も憎からず思っておる事や、能力から考えてそなた以外には頼めんのじゃ。」


五摂家の婚姻は、他の五摂家以外の名門武家出身としか認められていない。

さらに、対BETA戦の影響で若い男が減り、婚姻年齢が下がってしまった今となっては、選択肢が大きく狭められてしまっている。

だから、俺のような目立つ存在が注目される事になったのだろうが・・・・・・。

己の中で渦巻く感情を、漸く制御下に収めた俺は、この状況を打開すべく、瞳を閉じ思考をめぐらせる事になる。

今後の俺の行動方針、副将軍になる事で得られるメリットとデメリット、あらゆる考えが浮かんでは消えていく。

しかし、己の最終目標を5年前に決めていた俺は、その他の余計な感情に流される事無く、己の信じる道を進む事を選んだ。

己の体感で1分ほどの沈黙が経過した後、俺は徐に口を開く。


「・・・・・・この場に私が呼ばれ、説明がなされる以上、
 まだ私の意思が介入する余地が有ると考え、返事をさせて頂く。

 確かに、私が副将軍になれば数年の間に政威大将軍の地位を向上させ、
 権限・人・予算を取り戻し、対BETA戦を有利に進める事が出来るようになるかもしれません。
 たとえそうならないとしても、軍や政府の上層部と既知を得て、意思の疎通ができるようになれば、
 今までと違った政策が実行できるとは考えます。

 しかし・・・・・・、私が出す答えは否です。
 貴方達の決断は、5年遅かった。」


「信綱!!」


俺の答えを聞いた祖父が、間髪いれずに俺に怒声を浴びせた。

しかし次の瞬間、雷電公は祖父の動きを手で制し、俺に話の続きをするように促した。

俺はその場で、今から3年以内に戦況を一変させる成果を上げなければ、人類に未来は無いと断定し、
戦況を一変させる力を生み出すことになる国連軍へ、一年後には入隊する予定である事を告げた。

俺の言葉に納得出来ないという表情の三人に、俺は『第4計画と第5計画』という言葉を呟いた。

その言葉を聴いた三人は、思い当たる節があったのだろう、苦虫を潰したような表情を見せ、押し黙った。

そして、5年前の時点なら、今まで戦場で得た名声を斯衛軍を率いて戦った副将軍の功績とする事が出来、
それをつかって徐々に政威大将軍の復権を行い、今の時点で先の大戦前の権力基盤を握っていれば、
自ら国連へ行かなくても計画に深く係わる手段が有ったと俺は三人に告げた。

確かに俺も、過去に自分が日本帝国の権力者となり、御剣家が財閥を形成するまでに成長させる事が出来た理由である異常に高い金運と、
未来の大まかな流れ、後に発展する産業の知識を使えば、帝国はもっと強い国になれるのではと考えたことがあった。

しかし、今の俺はそれが間違いであると確信している。

たとえ金があっても、地球全体で生産力が低下し物資が不足した場合や、一国が大量に買い付けを行えば外交問題となる場合には、
いくら金が有ったとしても、物を買うことはできないのだ。

更に、呪いとも言ってもいいほど高い俺の金運は、思い過ごしかもしれないが、俺が大損をする場合それに合わせるように、
他人を大損させて釣り合いを取ろうとする作用があるように感じる事がある。

これらの事を総合して考えると、俺個人が儲けるだけで世界経済全体のパイを広げる事ができない俺の金運では、
戦いがBETA対人類という構図となった場合、意味がある能力とは言えなかった。

対人間の戦争や経済戦争なら無敵のように感じる能力にも、大きな欠陥が有ったのだ。

また、未来の大まかな流れ、後に発展する産業の知識についても、御剣財閥が成立した以上、政府中枢に所属したとしても、
出来る事は大きくは変わらないというのが、俺の出した結論だった。

その後、反論する様子の無い三人を見た俺は、これ以上話す事は無いと思い、一言断った後席を立つことにした。

席を立つ時に、雷電公の後ろに控えていた真耶マヤ真那マナが怯えている表情を見せているのを目撃した俺は、
複雑な心境ではあったが、二人の心が少しでも軽くなればと思い、二人に一言声をかける事にした。


真耶マヤ真那マナ
 君達が何を思って決断を下したのか・・・、俺が全て理解出来ているとは思わない。
 でも、これが俺の進むと決めた道だ。
 
 俺はこの道の先で、皆と笑って過ごせる世界が作れると思っている。
 その時・・・、君達が俺の傍で笑ってくれていたら・・・・・・、俺にとって最高の日常が過ごせると思うんだ。」


俺は苦笑いと共にそう言い残した後、煌武院の屋敷を後にしたのだった。








祖父side


「・・・これは完敗かの?」


孫が部屋から立ち去った後、沈黙を破るように言葉を発したのは、以外にも要求を突っ撥ねられた雷電公だった。

わしもその言葉につられるように、己の意見を述べた。


「雷電公、わしはまだまだ若いつもりでおりましたが、
 どうやら耄碌しておったようです。

 一度でも領域を侵した者を、誰も信ずる事は出来ないという事も忘れる始末・・・・・・。
 もう少しで、御剣の名を地に貶める事になる所でした。」


「確かに・・・、更にかの者は帝国では無く人類と言い切りました。
 我々とは見ているところが違うのだろうと、感心したのですが・・・・・・、
 最後に孫の事を気にしてかけた言葉のなんと甘いことか。

 どう評価していいのか判断しかねますが・・・・・、
 個人的には見ていて気持ちの良い若者に育った事は確かです。」


わしの言葉に続いて、月詠の当主も言葉を続ける。

この時の場の雰囲気は、話し合いの前の緊張感が嘘のように、和らいだ雰囲気となっていた。

わしは、可愛い孫が巨大な力を持つ人物から、敵意を持たれる危険性が無くなった事に安堵しながらも、
気を引き締め雷電公の言葉を待った。


「老兵は死なず、ただ去り行くのみ・・・か。
 どうやらわしらが戦う戦場は、既に無くなってしまったようじゃ。
 
 御剣侯、月詠侯、予定より早いがわしは今日限りで隠居する事にした。
 今後は若者の活躍を見守り、求めがあるまで後ろで控えて居ろうと思うのじゃ・・・・・・。」


「・・・・・・」


雷電公の言葉を切掛けに、再び室内に沈黙が訪れるが、それは今までのような重苦しいものではなく、
同じ思いを共有するというある種神聖な雰囲気だった。


「しかし・・・・・・、最後の最後で大魚を逃したか・・・。
 そうは思わぬか悠陽よ。」


雷電公の言葉に促され、話し合いの後わしの孫と面会する予定で隣室に控えていた悠陽嬢が室内に入ってくる。


「・・・失礼致します。
 
 御爺様・・・、
 信綱様を評するなら、大魚と言うよりも麒麟と呼んだ方が良い、と私は思うのですが・・・・・・、
 如何でしょう。」


「「「ほぅ?」」」


そしてわしら三人は、悠陽嬢が入室してから答えた言葉に、関心の声を上げる。

その声は、世間一般で剣鬼とも言われる事もある孫に対して、心優しいと言われる麒麟を当てはめる悠陽嬢の考え方が、
とても興味深いと思った事から出たものだった。


「先ほど信綱様は、廊下ですれ違った私に、
 『己を幸せに出来ない者は、他人も幸せに出来ない。
  たとえ将軍でもその事は変わらない。』
 と声を掛けて下さいました。
 
 そして、気に入らない殿方と婚姻させられそうになった時は、
 仮の婚約者として自分の名を使っても良いと・・・・・・。
 信綱様の性は、幼き時から変わらず心優しいままでございました。

 それに、麒麟も妖魔を相手とするおりは、果敢に戦うという話を聞いた事があります・・・・・・。」


わしらの疑問に対して、孫の本質はそういったものだと、悠陽嬢は嬉しそうに語った。

悠陽嬢のその意見は、まるで始めからそう思っていた事のように、綺麗にわしらの胸に収まっていた。


「ははははは・・・、そうか、わしらは麒麟を逃したか。
 だが、それほど大きな獲物と分かれば、諦める事が出来そうにないの。」


「残念ながら雷電公・・・、まだどちらを選ぶのか決めかねているようですが、
 月詠が既に先約を入れております。 
 副将軍の件がご破算になった以上、これを譲る事はできそうにありません。」


威圧感を漂わせた二人の老人がわしを見つめるが、わしが出来る返答は一つしかなかった。


「わしでも、信綱を如何こうする事はじゃろうて・・・・・・。
 じゃが、孫は子供の頃から、女子には滅法弱い。
 どうなるかは、孫娘たちの今後の努力次第と言ったところでしょう・・・。」


その後わしら三人は、3名の女子の怪しげなヒソヒソ話を思考の隅に追いやり、杯を酌み交わす事になるのだった。






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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
結構ギリギリですが、月2回の更新ができました。
次の月も同じ事が出来る保障はありませんが、何とかがんばって見ます。

今回は、横浜ハイヴ攻略作戦に向けての準備と合わせて、煌武院悠陽が政威大将軍となった理由を、
自分なりに解釈して書いてみました。
ついでに副将軍という余計設定を思いついてしまったため、話がわき道に逸れてしまいました。
最近テンポが悪いとご指摘を受けています。
本来ならもっと詳しく書きたかった部分もあるのですが、表現で悩んでゴチャゴチャするよりも、
少しお茶を濁して文章を簡潔にするという手段をとりました。
それでもだいぶ、文字数が多いですが・・・・・・。
まだ、テンポが良いと言うほど、軽快な文章ではありませんが、今後も改良を続けていきますので、
ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。

PS
最近PCの調子がよくありません。完全に逝かれる前に新しいPCを買う予定ですが、
間に合わなかった時は、1~2週間ほど書き込みが出来なくなる可能性があります。
これは・・・・・・、いつも通りの事でしたね、遅筆ですみません。


返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


<BETAがコンピュータに引き寄せられる又は、優先攻撃目標となっている理由
感想板へのご意見も参考に、考えてみた設定もしくは考察のようなものを、下に書かせていただきます。

・BETAはコンピュータを構成する素材が、BETAを生み出した珪素系生命体に近い関係にある可能性に気が付いている。
しかし、人類の運用するコンピュータは、BETAの創造主と比べ圧倒的に劣っている上に、思考しているように感じられない。
・BETAはコンピュータを創造主とは関係の無いものと断定
今後の時間経過によって創造主に近い段階まで進化する可能性が0ではない為、一応潰す事にした。
もしくは、創造主に対してBETAの攻撃が無意味である事を前提に、試している可能性もある。
・電子機器の急激な進化とそれを使用する人類に興味を持つBETA
創造主に近いところまで珪素系化合物が進化した場合、BETAにそれを排除する権限が無かったため、
それらが何処まで進化するのか横浜ハイヴを餌にそれらを調べる事にした。
人類に対する調査は、その調査のついで。
・00ユニットの登場に意思疎通を図ろうとするBETA
BETAから情報を抜き出し、BETAの攻撃を物ともしない00ユニット(凄乃皇搭乗時)という存在に関心を抱き、
最終的に重頭脳種による直接的なコンタクトを測る。
学習型コンピュータへの反応は、戦闘力の調査の一環。

私の足らない頭では、この程度の理由を考え付くのが、精一杯でした。
BETAがコンピュータに引き寄せられる又は、優先攻撃目標となっている理由自体は、
本作品の内容にはそれほど影響しない筈ですが、皆様のご意見も伺いつつ、もう少し考察を続けて行きたいと考えています。



[16427] 第32話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:b29373f4
Date: 2011/05/15 23:54


真耶マヤ真那マナ
 今帰ったぞ。」

仕事を終え自宅にたどり着いた俺が玄関を開けるなりそう声を発すると、俺の声を聞きつけた二人が僅か数秒で玄関まで駆け付け、
俺を迎え入れてくれた。

これで服装が普段着ている斯衛軍の服なら、足音もたてずに一般人が走っている時と変わらない速度で駆けつけたその体捌きを賞賛するところなのだが、
どこかで見たことがあるような錯覚を覚える、メイド服と割烹着を合わせたような形状の服装を着ている二人を見た俺は、
一瞬言葉を失いなんとも落ち着かない気分になってしまう。


「「お帰りなさいませ、信綱様」」

「ご飯になさいますか?」

「それとも、御風呂がよろしかったですか?」

「「それとも・・・・・・。」」


同棲を始めたばかりの男女が行う定番とされているやり取りを、本気で実行しようとする二人の努力に敬意を払いたくなったが、
最後まで台詞を言えていない所はマイナス点・・・・・・いや、若干頬を赤らめて恥ずかしがる様子にグッと来てしまったので、
俺に限って言うとこの対応が正解なのだろう。

二人の突然の行動に、冷静な様で冷静ではない思考を巡らせていた俺は、心を揺さぶられながらも出迎えに対する返事を返す。


「・・・腹が減っているから、飯を先にしよう。」


「「・・・・・・・・・、分かり・・・ました。」」


俺の真面目な返答に不満があったのか、真那マナは怒った顔を、真耶マヤは不満そうな表情を見せた。

そして、表情を曇らせ後ろを振り返ろうとする二人の姿からは、そこはかとなく哀愁が漂っているようにも感じられた。

俺としては『腹が減っては戦が出来ぬ。』という気持ちで返答したのであって、最後の選択肢に惹かれなかった訳ではなかったのだが・・・・・・。

ただ、エネルギーを補給したいという感情が勝っていたのは、二人が振り向く直前までの事だった。

服装に合わせる様に髪を纏め上げていた二人が背中を見せたことで、普段見ることの出来ないうなじが顕わになっていたのだ。

真耶マヤ真那マナのうなじを目撃した俺は、二人が近づいた時に感じていた男を興奮させる香りと相まって、
脊髄反射的に彼女等の首筋へ顔を埋める為に体を動かしていた・・・・・・・・・。


真那マナ! 真耶マヤ!
 ・・・・・・・・・あぁっ?」


しかし、俺が抱き寄せる事が出来たのは、自分が寝ている時に使っている掛け布団。

気が付いた時・・・・・・・・・俺は家の玄関では無く、基地にある自室のベッドの上で布団を大事そうに抱きしめていたのだった。

俺は自分の仕出かした事に自己嫌悪に陥りながらも、煌武院家の警護の為に転属し、慌しくなった悠陽の傍に付っきりになっている二人に対して、
何も知らなかった時ならまだしも、今になって2ヶ月以上の放置は辛すぎると、頭の中で愚痴をいう事になる。

だが、こんな馬鹿な思考も長くは続かなかった。


「婚約者が決まったと言うておったのに、寝言とはいえ二人の女子の名を呼ぶとは・・・・・・、
 いったいどう言う事じゃ?」


上半身を起こして掛け布団を抱きしめる姿の間抜けな俺を、京都からの戦いの後で再び親しく話をするようになった香具夜さんが、
冷め切った目で見下ろしていたのだ。


「・・・・・・はははっ、何のことでしょう?
 私は婚約者・・・(達)・・・に対して、誠実であろうと努力していますよ。」


「誠実か・・・・・・、じゃが他の女子に現を抜かす事もある・・・と言う事じゃろう?
 この・・・女の敵が!」


そう叫んだ香具夜さんの表情は、単純な怒りというよりも、もっと別な複雑な感情が篭ったものであったように、
そのときの俺は感じていた。

しかし、怒声と共に放たれた一撃で、俺はそんな事もすっかり忘れて、再び夢の中へ旅立つ事になったのだった。








1999年4月

斉御司殿下が政威大将軍の地位を奉還することが国民に伝えられてから1週間後、
不安な日々を過ごしていた国民に新たな政威大将軍の任命式が執り行われることが伝えられた。

政威大将軍を継ぐ者の名は、煌武院悠陽。

この名を聞いた人々は、年若い少女であることを不安に思いながらも、約50年振りとなる武家出身、
それも日清・日露戦争の勝利が思い出される煌武院家出身の政威大将軍就任に、日本国民の殆どが小さくない期待を寄せる事になる。

そいて、ついに煌武院悠陽の政威大将軍任命式が、日本国中にテレビ中継される中、執り行われることになった。

太陽を象った冠を付け、神官の様な服装をした悠陽がテレビ画面に映し出されると、
固唾を呑んでその様子を見守っていた日本国中から歓声が上がる。

・・・・・・いや、実際にはPX内でテレビを視聴していた者達から歓声が上がったのだが、おそらく同様の事が日本国中で起こっている事が、
容易に想像できたのだ。

悠陽のその格好は、彼女自身のカリスマ性も手伝って、天照大神を連想させるに十分な雰囲気を作り出しており、
それに気が付いた者達が中心となって上げた歓声だろうと、俺は一歩下がった位置に居るような気分で、それらを眺めていた。


「どうしたんだ御剣。
 新しい殿下の門出なんだ、もう少し喜んでもいいんじゃないか?」


任命式を微妙な空気をまとって見ていた俺に気が付いたのだろう、佐々木さんが声をかけてきた。


「昔、一緒に遊んだ思い出がある娘が政威大将軍になるなんて・・・・・・。
 今一、実感が湧かないんですよ。
 
 それに、斉御司元殿下の事を少しでも知っていれば分かる。
 実権の無い将軍が変わった所で、皆が期待するような変化は無い。」


「まあ、その話題は一旦脇に置いておこう。
 
 御剣・・・・・・、殿下と知り合いとはいいご身分だな。
 その幸運を俺にも分けてくれ・・・・・・。
 具体的に言うと、彼女の親戚に美人のお姉さんは居ないのか?」


俺の首に腕を回して、首を絞めようとする佐々木さんの動きを手で制して、俺は返答を返す。


「周りと同じように就任を喜べない微妙な気分も味わう事になる程度の幸運ですが、それでも要りますか?
 
 それと、彼女の血縁で結婚適齢期の女性には覚えがありませんよ。」
 
 
「いや・・・、美人のお姉さんが居ないのなら、態々堅苦しそうな事に巻き込まれるのは遠慮したい。

 御剣、見て分かるように殿下は、国民の気持ちを掴みつつある・・・。
 皆がこういったことに過敏になっている時期に、それに水を注すような言動はお前の不利になるぞ。
 ふりでもいいから賛成しておけ。」


佐々木さんは、俺をからかう様なふざけた態度から一変し、顔を近づけ声のトーンを落とした後、
俺に忠告をしてきた。

俺はその忠告に対して、悠陽に過剰な期待を寄せる世間に対して文句言いそうになったが、
その気持ちを押さえ込みその場は軽くうなずくことで返事を返した。

佐々木さんが立ち去り、盛り上がっている隊員の輪に入っていく所を一瞥した後、視線をテレビ画面に戻すと、
任命式の場面から映像が移り変わり、政府の広報官が横浜ハイヴ攻略へ準備を行うことを発表していた。

この横浜ハイヴ攻略作戦は、実際には既に準備が始められており、一部の者は知っていた事だったが、
多くの国民はこの発表を聞いて知る事のなったのだ。

また、気になっていた副将軍任命の是非については、俺の意思を酌んでくれたのか、報道を聞く限りまったく話題にも出ていない様子だった。

俺は、僅かな安堵のため息を洩らした後、可憐な少女がBETAに立ち向かうというストーリーに興奮する周囲とはかけ離れた感情で、
帝都城に架かる橋の上から手を振る政威大将軍となった煌武院 悠陽と、その後ろで控える真耶マヤ真那マナの姿を、
テレビの中継が終わるまで、見届けたのだった。








1999年7月

戦線が安定してから数ヶ月が経過し、横浜ハイヴ攻略及び日本本州奪還作戦:通称 明星作戦発動まで残り1ヵ月をきった横浜ハイヴ周辺は、
防衛開始当初とは異なり、まるで兵器の見本市の様相を呈していた。

当初は、明星作戦に参加する国連軍や大東亜連合軍が展開したことで、世界各国の兵器が集まったという程度の意味であったのだが、
各国から最新鋭機が投入されると、周囲の様子が一変することになる。

事のきっかけは、衛士の供給が追いつかない事を理由として、帝国が大東亜連合へEXAMシステムver.1搭載型撃震及び鞍馬の供給を開始し、
国連軍へEXAMシステムver.1搭載型陽炎(一部の機体は管制ユニットを交換してver.2からver.1へダウングレードされている)が譲渡された事にあった。

定期的に本国へ持ち帰られる帝国軍の兵器に関する報告書を見た先進各国は、
大東亜連合へ供給されたF-4J撃震と自らが把握しているF-4ファントムの性能差と、
ハード的にはF-15Cイーグルと大きく変わらないはずの陽炎が、F-15E『ストライク・イーグル』と同等の戦果を出していることに、
驚かされることになったのだ。

更に、定期的に戦闘が行われる事と補給線が比較的安定している事に着目した帝国の企業が、試作機を挙って持ち込み運用試験を行い、
帝国軍が各国軍に対して惜しげもなく最新鋭機を見せ付けるように運用している事を知ると、
兵器開発能力を有する国々はついに、帝国に兵器産業のシェアを奪われることを恐れ始める事になる。

各国は、国の威信と利益を守る為に試験部隊として精鋭部隊と最新鋭機の投入を決定し、試験部隊のデータを集めるためと称して、
不必要なまでに高性能かつ大量の情報収集用機器と技術者を帝国内に持ち込むという行動を開始する。

各国のこの動きに対して、帝国政府は戦力を集めることを優先したためか、過剰な情報収集用機器に対して形ばかりの抗議をするだけで、
持込を制限するような処置をとる事はしなかった。

もっとも、自国内であるという地の利を生かして、裏では様々な諜報合戦を展開し、偵察装備の戦術機を使ってさり気なくデータ収集も行われていることから、
世間で言われているように帝国の一人負けという状態にはなっていなかった。

そして肝心の戦況だが、横浜ハイヴ北部は防衛開始当初と変わらず帝国軍(本土防衛軍 東部方面軍)を主力とする部隊が多摩川及び川崎市周辺に展開、
南部は帝国海軍,国連軍,米国軍が横須賀基地周辺に展開、西部は帝国軍(本土防衛軍 中部方面軍),大東亜連合軍,ソ連・統一中華戦線を中心とした義勇軍が、
茅ヶ崎から東進し境川及び藤沢市周辺に展開している。

この布陣を新型戦術機の配備状況だけに限って書くと、以下のようになっている。

北部
日本帝国   富嶽・光菱・河崎・御剣製   TSF-TYPE92-2B『不知火弐型』:1999年に制式採用された機体。
                                            生産数の関係で、帝都周辺の精鋭部隊と試験部隊にのみ配備されている。
         光菱・御剣重工製       F-4JF『烈震』         :1998年より配備開始。第1世代機・F-4Jを3世代仕様にアップグレードした戦術機。
                                             EXAMシステムver.2との相乗効果により、2.5世代機と同等の性能を発揮。

南部
EU連合    ユーロファイタス社製   EF-2000『タイフーン』      :1998年よりECTSF先行量産型が試験部隊への引渡し開始。
                                          イギリス、西ドイツを始めとするNATO加盟各国が共同開発した第3世代戦術機。
                                          イギリスが主導して明星作戦への参加が決定。
フランス    ダッスオー社製      『ラファール』          :1998年より配備開始。
                                          ECTS計画から撤退したフランスが独自開発を行った第3世代戦術機。
スウェーデン サーグ社製        JAS-39『グリペン』       :1996年より配備開始。スウェーデン王国の第3世代戦術機。
アメリカ    ウィード・マーディン社製  F-22A『ラプター先行量産型』:1998年、米国にて実働部隊での運用を開始した第3世代戦術機。
                                         ※明星作戦へ参加するという噂がある。
        ボーニング社製      F-15E『ストライク・イーグル』 :1995年より配備開始。1999年時点で米国と一部の国連軍でのみ運用中の2.5世代戦術機。
        (旧マクダエル・ドグラム社)                 1・2年以内に他国への輸出が決定済み。

西部
日本帝国   富嶽・光菱・河崎・御剣製   TSF-TYPE92-C『不知火改』  :1992年に制式採用された機体を、新型戦術機開発の過程で作られた部品で強化した機体。
                                            富士教導隊に代表される複数の精鋭部隊にて運用中。
統一中華戦線                  J-11/Su-27SK『殲撃11型』  :1996年より試験配備開始。第2世代戦術機であるSu-27のライセンス生産機。
ソ連      スフォーニ設計局        Su-37『チェルミナートル』  :1997年より配備開始。第2世代機・Su-27を2.5世代機へアップグレードした戦術機。
                                           現在、更なる強化型を開発中との噂ある。

横浜ハイヴ周辺が兵器の見本市のようになっているといっても、残念ながら首都東京の目と鼻の先にある川崎基地では、
帝国軍以外の機体を見かけることは出来ていない。

また、帝国側も各国にアピールする自信がある物は南か西部へ持っていかれ、北側の独立試験部隊へ回ってくるのは、
本当の意味での試作品やなぜこのような兵器が開発されたのか思わず頭を捻る様なゲテモノが殆どだった。

一番記憶に新しい物を挙げるとすると、大型のタイヤの中心設けられた座席に戦術機が乗り込み、高速で移動すると共にBETAを轢殺すという別名『一輪バイク』や、
周りを高速の刃が旋回し、小型種を排除する機構を設けた装甲車などがあった。

前者は、要撃級に受け止められてしまった上に、光線級のレーザー照射への対応が難しくなる事、
既にローラーブレードという安価な高速移動手段があった事からお蔵入りになり、
後者は、音と振動が邪魔で小型種の探査に支障が出る事や、重量と整備性に問題がある事、
それよりも機銃を多く設けたほうが良いと意見が出たため廃案となった。

ただし、こういった試作品の中には、駄目な物も多いが光る物を見せる兵器もいくつか発見できた。

その代表が、突撃級などの強力な装甲と高い機動力を持ったBETAを、ハイヴ内で戦術機が撃破するための切り札として日本帝国国防省が発注し、
帝国軍技術廠によって試作された電磁投射式速射機関砲(レールガン)である。

この電磁投射式速射機関砲は、その砲身と砲弾以外にも冷却用と電源用に2種類の電磁投射砲用大型バックコンテナを持ち歩く必要があるなど、
運用する為に鞍馬を2機必要とする馬鹿げたサイズと重量の試作兵器だったが、そこから放たれる120mm砲弾の貫通力と毎分800発にも達する連射性が相まって、
想像以上の威力を発揮することになる。

しかし、その威力とは裏腹に戦果はそれなりと言える程度のものでしかなかった。

ちょっとした外部からの衝撃で冷却機能が機能不全を起こし、砲身に異常発熱が見られた為に試験を中断した事が、成果を上がらなかった主な原因だったが、
実験結果より砲身の寿命が想定より短くなる事や、そのサイズとケーブルで2機の鞍馬を繋いでいる事で取り回しが困難になっているなど、
運用面での問題点も露呈したのだ。

機動力が命とも言える戦術機に固定砲台としてしか使えない兵器を持たせる事は、ハッキリ言って最悪の選択肢と言えた。

俺は、まだ研究段階の域を出ていないように思えるこの試作兵器に対して、実用に耐えうる仕様に変更すれば、
まだ使い物になる可能性が秘められていると考え、いくつか提案書を提出する事にしていた。

この提案が受け入れられるかは未知数だが、企業側から資金と技術者の支援をしていることを考えると、
提案に沿った試作品をまわしてくれる可能性はかなり高いと言えた。

またその他に、砲身をどの角度にしていても給弾できる新型の自動装填装置を搭載し、
威力と射程距離を伸ばすことを目的とした砲身の延長を行う為に砲塔部分を交換した90式戦車の改良型や、
データリンクを行う為の外部ユニットが取り付けられた試験用自走砲、新型の強化外骨格など、
戦術機の影に隠れがちだが重要な戦力である通常戦力についても、様々な改良が行われ戦場に投入されている。

さらに、99式衛士強化装備といった付属装備についても、随時投入されていることからも、
帝国が正常な判断の下、戦争を続けているという事が伝わってくるのだった。








7月に入り俺の周辺の状況も、大きく変わることになった。

それは、俺の少佐への昇進と第13独立機甲試験大隊(ロンド・ベル隊)の発足である。

独立機甲試験大隊は13部隊も存在している訳ではなかったが、縁起を担ぐ為に中隊から13という数字を受け継ぐ事になった。

また、部隊の正式な発足に伴い、久しぶりに部隊は定数を満たすことになる。

もっとも、新人衛士の加入は数名に止まっており、その殆どが指揮官として帝国軍に中・大尉が引き抜かれた後に残った、
他の独立機甲試験中隊の少尉達を吸収する形で人数をそろえる形となっていた。

この頃になると、壊滅と再編成を繰り返しながらも最盛期で15個中隊もあった独立機甲試験中隊は、現在 実質5個中隊まで数を減らしていたのだ。

戦場が国内に移り、試験を行う部隊に事欠かなくなったというのもあるが、企業側も部隊を維持する為の負担に耐え切れなくなり始め、
各社協力の下、統廃合を行い始めた事が主な原因だった。

ただし、維持する部隊数が減ったことで、部隊に供給される衛士と兵器の質は大幅に上がってはいたが・・・・・・。

俺は、配属されてくる人員の適正を考えつつも、ロンド・ベル大隊の存在意義にしたがって部隊編成を行った。

ロンド・ベル大隊の存在意義、及び明星作戦で果たすべき役割、それは地上での対BETA大規模戦闘において、
最適な規模・機種・装備の遊撃戦力の調査し、その成果を持って友軍の被害を最小限に抑えることである。

これは、本土防衛戦のおりに俺たちの部隊が有効な戦術である事を証明した、極めて高い機動力を有する打撃戦力による機動戦術を、
攻撃の場合でも有効である事を証明せよ、とも言い換えることが出来た。

そのために考え出された部隊編成は、前衛の第一中隊 不知火弐型 6機,不知火改 6機、中衛の第二中隊 不知火弐型 2機,不知火改 10機、
後衛の第三中隊 烈震 4機,鞍馬 8機となっている。

この編成で、機動力は不知火の部隊と同等で、その火力は瞬間的に通常の戦術機二個大隊を上回る予定である。

残念な事に、今後も制式採用される予定の無いYF-23『ブラックウィドウⅡ』のグレイゴーストは、俺の手元から離れ、
他のテストパイロットが各種の試験を行う事になっていた。

その後行われた正式なロンド・ベル大隊の発足と俺の少佐への任命式には、多くの関係者が詰め掛ける事となった。

帝国の最新鋭機だけを集めた混成戦術機大隊の発足は、それほどまでに注目を集めていたのだ。

俺はこの部隊の発足が、帝国にとっての福音になること願って、明星作戦の開始までの間を過ごす事になるのだった。






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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
この度の東北・関東大震災で被災された方に、心よりお見舞い申し上げます。

私は、幸いなことに停電と一時食糧難になったこと意外は、大きな問題は起こっておりません。
問題が無いのに二ヶ月もこの作品を放置してしまった事は、誠に遺憾に思っています。
仕事や週末が忙しかったこともありますが、途中まで書いたデータが消えてしまって、
一時期不貞腐れてしまったことが主な原因です。
本当に申し訳ございません。
こんなだめ人間が書いている作品ですが、今後も御付き合いしていただければ幸いです。

今回は、煌武院悠陽 政威大将軍 就任と明星作戦までの準備を書きました。
細々と設定を散りばめていますが、すべてを回収するかは未定です。
次回はいよいよ、明星作戦となります。
今回無駄に考える時間がありましたので、比較的早く書くことが出来ると思いますが、
・・・・・・気長にお待ちください。

感想へのご返信は、後日改めてさせていただきます。


PS
2.5世代機と準第三世代機って、もしかして別物なのでしょうか?
ストライク・イーグルやチェルミナートルの事を考えると、
準第三世代機≒2.8世代機くらいなのかな~と思えてきてしまいまして・・・・・・。



[16427] 第33話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:b29373f4
Date: 2011/05/25 00:04

1999年8月5日

常任理事国(米国・英国・中国・フランス・ソ連・日本帝国・オーストラリア)の代表者によって構成される軍事参謀委員会の助言に従い、
国連の安全保障理事会で出される事になった横浜ハイヴ攻略議決は、国連軍総司令部の基本戦略であるカムチャツカ-日本-台湾-フィリピンから、
アフリカ-イギリスに至る防衛線によってユーラシア大陸にBETAを封じ込めるという考えに基づき、
明星作戦(横浜ハイヴ攻略及び日本本州奪還作戦)という形で実行される事になった。

ハイヴ鹵獲品を国連管理下とすると規定し、国連統合軍指揮権の優先原則を規定するバンクーバー協定に従い、
明星作戦参加国は、国連軍へ自国の戦力を一時的に国連軍指揮下へと移す。

この明星作戦発動前には、米国と帝国の間で作戦の指揮権をめぐり激しいやり取りが行われていたが、
結局最も多くの兵力を派遣した国が指揮権を持つという原則に従い、太平洋艦隊を投入し最大の海上戦力を派遣した米国が指揮権を握る事となった。

米国軍,帝国軍及び大東亜連合軍及び主力とする国連軍が明星作戦の為に投入した戦力は、
アジア方面では最大、対BETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ規模となっていた。

この作戦の成否が、帝国存亡に直結すると息巻く隊員達を尻目に、明星作戦の結末を凡そながら知っていた俺は、
隊員達とは異なる思考に囚われていた。

オルタネイティヴ計画、BETAとのコミュニケーション方法を模索する国連主導のこの計画は、
莫大な予算と強力な権限が与えられる対BETA戦略の肝とも言えるものである。

細かな話は忘れてしまったが、意思疎通と情報収集を目的とした第3計画は、BETAにも意思がある事を証明するも、
ESP能力という言語を用いない意思の読み取り・伝達が出来る少女を残し、失敗。

第3計画を引き継ぐ形となった香月博士率いる第4計画は、人間に反応を示さないBETAに対して、
ESP能力を有するアンドロイドのような存在である00ユニット用いて、意思疎通と情報収集を行う為に計画を遂行中。

更に予備計画として、米国主導で第5計画も並行して進められており、その計画では人類の一部を地球圏から脱出させると同時に、
地球に残った人類はG弾を使って複数のハイヴ同時攻撃による最後の決戦に打って出るとしていた。

ちなみに、俺個人としては『マブラヴ』を知る限り、唯一BETAを駆逐する可能性のある第4計画を支持している。

そして、俺の知る『マブラヴ』で語られた歴史がまだ有効だとすれば、この作戦の肝は地上戦力の活躍というよりも、
第4計画への牽制と第5計画の優位性を誇示する為に投下が行われたとされる、G弾に有ると言っても過言ではなかった。

記憶の片隅に残る知識を総合すると、G弾とはグレイ11というBETA由来の元素を反応させることで、
ブラックホールもどきを作り出し、広範囲にダメージを与えるという広域殲滅兵器である。

・・・・・・何か間違っている気がするので、今度専門家に在った時に尋ねてみるのも良いかもしれない。

ともかく、その威力は絶大でグレイ11を使った動力機関であるML機関を暴走させて、G弾と同じ作用をさせた状況において、
佐渡島を海中に沈めてしまったという事が語られていた。

それに対して、同じ広域殲滅兵器である核兵器では、地上をなぎ払うことは可能でも、陸地を消すというような被害を出すことは難しい。

このG弾の使用によって、BETAの巣である横浜ハイヴ内での大規模戦闘が避けられた結果、
明確な描写は無かったが国連軍及び帝国軍は、横浜ハイヴ攻略に伴う戦力の損失を大きく減らす事が出来たはずである。

ただしG弾は、核兵器と比べて放射性物質を撒き散らすことが無い替わりに、被爆地域に重力異常を引き起こし、
長期に渡り植生を妨げる事も語られていたため、生物に対しても何らかの影響が出る事が予想されている。

また、明星作戦後の展開で、G弾の威力とG弾の残した傷跡に脅威を覚えた各国がG弾への批判が高まったことで、
G弾否定派や反第5計画派が増加したことは、帝国及び香月博士といった第4計画派にとって好材料とも言えた。

さらに、このG弾を切掛けに、誰にも想定出来なかった運命の歯車が回りだす可能性も・・・・・・。

ここまでの事を総合して、軍人もしくは第4計画を支援する者の立場で考えれば、明星作戦中にG弾が使われることは好ましい事の様に思える。

しかし、被爆地域に住む人間、一人の人間として考えると、自らの故郷を訳の分からない物で汚される事に、
強い嫌悪感を覚えることも事実である。

こういった複雑な感情をG弾に対して持ってしまっている事、G弾の所在や本当に使用されるのかといった情報が入手できていない事もあり、
G弾への対応は正直に言うと上手くいっていなかった。

不確かな情報で動くには、リスクが高すぎたのだ。

G弾を使用させない唯一の手段は、米国がG弾を使用することを発表し、正式な手段で使用を諦めさせる事だったが、
今のところG弾の使用に関する発表などは行われていない。

もっとも、G弾使用禁止を理由に米軍の参戦規模を縮小された場合、帝国にその不足分を補う余力は残されていないため、
たとえG弾使用の発表があったとしても、帝国は使用禁止を強いる事が出来ない立場にあったのだが・・・・・・。

結果として俺が出来たG弾への対策は、突然の投下が決定された場合でも混乱が起きないように、出所不明の戦場で飛び交う噂の中の一つとして、
新型の大量破壊兵器が投入される可能性があるというものを流す程度しかなかったのだ。

そして、第4・5計画派以外にも各国の思惑が錯綜した結果・・・・・・、明星作戦は世界中のどの人間にも全容が分からない事態へと進んでいく事になるのだった。









フェイズ2まで成長していた横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)への攻撃は、1990年代前半に確立されたハイヴ攻略のセオリー通り、
陸上戦力が接近した事に反応したBETAがハイヴから這い出てきたことを確認後、衛星軌道上からのAL弾の軌道爆撃から始まった。

ここに、明星作戦の幕が上がったのだ。

高度100kmにおいて、駆逐艦から切り離されたMRV(多弾頭再突入体)は、自機に取り付けられているロケットモーターを使って加速し、
大気による減速を緩和、マッハ20という速度で地上めがけて落下を開始した。

だが、マッハ20という速度をもってしても、レーザー属種からの攻撃を完全に逃れることは出来ない。

重光線級のレーザー照射によって、いくつかのMRVは撃墜される事になったが、MRVの外郭と内部に搭載されているAL弾は問題なく機能し、
重金属雲を発生させる。

そして、高度3~4kmに達した多くのMRVは、内部に保持していた多数のAL段を吐き出す。

細かく分かれたAL弾の多くは、光線属種によって迎撃され、地上に到達する物は少なかったが、こうして光線級に迎撃させることで、
光線級のレーザー照射を減衰させる重金属雲を形成する事がMRVの主な目的であったため、まったく問題にはならなかった。

重金属雲の発生を確認した国連軍は、国連・帝国海軍部隊に相模湾からの上陸開始を命じ、
更に続けて、ハイヴから北部の帝国軍,南部の帝国・大東亜連合・ソ連・統一中華戦線を中心とした混成部隊,
相模湾の上陸部隊に向かって進軍するBETA群の中衛に対して、帝国海軍連合艦隊と国連太平洋艦隊による太平洋側からの艦砲射撃と、
新潟沖に展開する帝国海軍からの援護攻撃を命じた。

この交差射撃によって、後続から一時的に切り離された突撃級を主力とするBETA前衛は、勢いをそのままに前線に接近する。

だが、横浜ハイヴ北側の帝国軍が展開する戦域では、戦術機部隊が待ち構える数km手前で、
進軍するBETA群の足元が突如弾け、突撃級の進軍を阻んだ。

戦術機部隊よりも先行して展開し、既に後退した工作部隊が設置していた地雷が発動した瞬間だった。

地雷といっても地表にむき出しで置かれ、BETAに踏まれる以外にも赤外線センサーにより、上部を通過するだけで爆発する仕掛けとなっており、
突撃級の柔らかい下腹部分を攻撃し、突撃速度を鈍らせる程度の威力しかない。

しかし、数体の突撃級の動きが鈍るだけでも、その後方に位置する突撃級は軌道変更を余儀なくされ、
隊列は乱れ渋滞を引き起こす事は可能だった。

戦術機部隊は地雷と自走砲による援護射撃で僅かに行き足が鈍り、隊列が乱れたことを確認した後、
センサーに映る生き残った地雷を警戒しつつ突撃級との戦闘を開始する。

戦術機部隊は被害を出しながらも、見事に突撃級の進撃を食い止め、後方部隊の後退にあわせてBETAを誘引する事に成功しつつあった。

一方で、各地で激戦が繰る広げられる中、俺達ロンド・ベル大隊は、一連の流れを主戦場から少し離れた地点で観察していた。

そこに、少尉から中尉に昇進し、中隊毎に配置された偵察装備の機体に搭乗しているCPを束ねる正式なリーダーとなった中里 中尉から通信が入る。


「マザー・ベル1(中里 中尉)より、ロンド・ベル隊各機へ、
 各戦域とも戦況は順調に推移、ロンド・ベル隊が前線に出るような状況は見受けられません。」


「こちらベル1(御剣 少佐)、了解した。

 ベル1(御剣 少佐)より、ロンド・ベル隊各機へ、
 出撃するまでまだ少し時間が有りそうだ、現状維持で待機せよ。」


俺は各隊員に気を引き締めるように通信をした後、己の機体に視線を移した。

俺が今搭乗している不知火は、制式採用機である不知火弐型タイプBを基に、様々な最新技術が試験的に投入されたテスト機、
一部の関係者からはタイプCと呼ばれている機体である。

つまり、不知火弐型の制式採用で、ようやく通常の機体色になると喜んでいた俺を見事に裏切り、未だにテスト機なのだからと言われ、
カラーリングは赤と白のツートンカラーである。

不知火弐型タイプCでは、俺の要求である戦闘継続時間を削らない、信頼性を可能な限り確保すると言う意見に沿った範囲で、
以下のような機構が試験されている。

反発型磁気軸受:
磁気による反発力を用いて、軸を安定極に止まらせようという考えによる軸受を各種関節に採用するという案。
戦闘継続時間を優先させた為、電力不足により電磁石のパワーが不足し、制御に使う情報処理装置のソースも確保できなかったが、
完全な磁気浮上を諦め通常の軸受を併用したうえ、制御システムを必要としない受動型低反発磁気軸受として試験が行われる事になった。
それでも、低反発とはいえ関節にかかる負荷を軸受全体に分散させ、面圧を低下させた事で、対荷重が増加し摩擦を低減することに成功。
また、追加の試験で対荷重を通常の軸受と同レベルに落とす事と引き換えに、軸受に送る潤滑油が低粘度の物に交換した事で、
摩擦力をさらに低下させると同時に、各種油圧配管や油圧ポンプのサイズダウンする事が可能となった。
結果として機体重量は、受動型低反発磁気軸受採用前より低減され、機体の反応速度は大きく上昇する事になる。
今までの実験により、戦闘機動時の消費電力は電磁石による増加と、機体重量の低下による減少が釣り合う事が分かり、
コストを度外視すれば有効なシステムであるとの結論が出されている。
現在は、もっと低コストで同様の効果を及ぼす方式、磁気を帯びたコーティングなどで代用できないか研究中である。
磁気を帯びたコーティング・・・・・・、略してMC。何か心に響くものがあるのは気のせいだろうか。

脚部スラスターモジュール:
現状の戦術機には無い、脚部スラスターを追加することで、戦術機の巡航速度及び長距離跳躍距離を大幅に伸ばそうという野心的な案である。
不知火弐型タイプCには現時点で、人間で言うふくらはぎの部分にドロップ方式のスラスターモジュールが取り付けられている。
戦術機下半身を完全に覆う飛行用ユニットを取り付けると言う案もあったが、戦術機が戦闘機になる必要は無い、
移動するだけなら輸送機に載せれば良いと言う案が出たため、現状のプランに落ち着いたという経緯がある。

肩部機関砲:
小型可動兵装担架システムに搭載されて運用することが多い、対戦車級用装備である小型ショットガンの問題点であった、
主兵装から武装を交換する手間があると言う問題点を解決する為のオプションパーツ。
首と肩パーツ中間にある襟のような部分に取り付けられたその装備は、肩部ガンポッドとも呼ばれ、
その運用思想により装弾数は多くないが、戦車級に取り付かれ味方機を救出するのには十分な量が搭載されている。
また、ショットシェルの使用をメインとしているが、それ以外の砲弾も使用可能である。

超音波振動ナイフ:
別名高周波ナイフと言われるこの装備は、振動剣(試作大剣)と平行して作られていたもので、
主兵装で無いことから開発が遅れていたが、耐久性が不足しているという振動剣の問題点が解決するまでの間、
超音波振動を利用した武器のデータ収集のために試験運用が行われている兵装である。
振動発生装置の搭載により、ナイフとしては大型化してしまったという問題点が指摘されているが、
現時点では耐久性と実用性を考えた場合、収納スペースで通常のナイフ2本というサイズに収めるのが技術的限界とされている。

俺は、この機体が作られることになった経緯と、機体に嬉々として群がっていた研究員達の事を思い出して、
人知れず何度目かに分からないため息を漏らしたのだった。








地上での戦闘開始から30分ほど経過した時、世紀の大作戦に参加できないことに焦れたのか、若い隊員から通信が入る。


「隊長。
 友軍が戦っている時に、このまま待機していて良いのでしょうか?」


俺は、逸る気持ちを抑えきれないでいる隊員を諭そうとして口を開こうとするが、
それよりも先に普段部隊の雰囲気を和ますことの多い佐々木さんが口を開いた。


「士気や補給といった概念の無いBETA相手で遊撃部隊が活躍する時は、戦況が苦しいときだと教えただろ?
 俺達が投入されないのならそれはそれで良い事だ。」


大きな責任を負うようになった事で、何か心境の変化があったのだろう。

佐々木さんは、大尉に昇進した時からふざけるだけでなく、こうして落ち着いた発言をする事が多くなっていた。

俺は佐々木さんの言葉によって、若い隊員が若干落ち着きを取り戻した事を確認した後、
他の隊員がどのように待機しているか確認する為に、各隊員の画像を呼び出した。

呼び出した画像の中では、多くの戦闘を経験した古参の兵は余裕そうに各員なじみの行動をとることで、
気持ちを落ち着けているようだった。

他の隊員焦りが伝染していない事を確認した俺は、静かに口を開いた。


「安心しろ、俺もこのまま遊兵となるつもりは無い。

 ・・・・・・そろそろ戦況が動くぞ。」


戦場に漂う雰囲気から違和感を覚えた俺がそう発言した直後、間髪いれずに通信が入る。


「マザー・ベル1(中里 中尉)より、ロンド・ベル隊各機へ、
 左翼側のBETA数が急激に上昇、おそらく地下進攻によるものだと思われます。
 このまま行けば、左翼に多くのBETA群が取り付くことになりそうです。」


この通信により、空気が一気に引き締まるのを感じた俺は、CPより送られてきた戦況を確認すると同時に、
今後採るべき行動をすばやく導き出した。


「ベル1(御剣 少佐)より、ロンド・ベル隊各機へ、
 これよりロンド・ベル大隊は、右翼側へ展開を開始する。」


「「「「了解!!」」」」


左翼が危ないと言う情報を受け、間逆の戦域へ行こうとする俺の命令に、
隊員は一切戸惑うことなく肯定の返事を返し、部隊を命令通り移動開始させていた。

俺は、その素早い動きに満足しつつ、補足の説明を隊員達に入れた。


「左翼への戦力抽出は、混乱無く行われている。
 つまり、我々が今から参戦してもあまり効果が無いということだ。
 
 それより、戦力の抽出と援護砲撃の低下で厚みの減った右翼が気になる。
 ・・・・・・根拠は無い、いつもの勘だ。」


「そのいつもの勘にどれほど救われたことか。
 お前は予知能力でも持ってるんじゃないか?」


「佐々木さん、そんな上等な力が俺に有る訳無いでしょう?

 俺に有るのは高い危機察知能力・・・・・・、危機に直面しないと何も感じられない程度の力、
 だから必要以上と言われても、力を求めて来たんです・・・よ!」


俺の言葉に合わせるように、右翼側でもBETAの増援が発生する。

しかし、その時点でロンド・ベル大隊は、後退する右翼前線部隊を入れ替わるように、最前線へ躍り出ようとしていたのだった。

斯衛軍部隊と抽出に成功した戦力の援護を受けた左翼、遊撃戦力よる穴埋めが間に合った右翼共に、BETA群前衛の迎撃に成功、
戦術機部隊が火力のメインである後方部隊へのBETA群浸透を阻止できた事で、戦況はその後順調に推移することになる。

ここで特筆すべきは、帝国軍戦術機部隊の奮闘であった。

帝国軍戦術機部隊が他と異なる部分を挙げるとすると、士気の高さ・機体性能差・EXAMシステムによる高い操作性
・98式管制ユニットによる生存性向上と言った物があるが、この戦果を説明するのにはそれだけでは不十分だった。

帝国軍戦術機部隊が他国と決定的に違う点、それは様々な改良点が複合された事で生み出された、
新たな戦術機機動にあるのではないかと俺は感じていた。

この明星作戦こそが、独立機甲試験部隊や富士教導隊が考え出し、各部隊に伝えられた三次元機動という新たな戦術の芽が、開花した時だったのだ。

BETA群を横浜ハイヴの南北に誘引した事でハイヴ周辺から引き剥がす事に成功した。

更に、地上に展開していた光線級の多くが排除出来たことで、作戦は最終局面である軌道降下部隊によるハイヴ突入作戦に移ろうとしていた。

米国がG弾を使うならそろそろ通告があるはずだと考えていた俺は、部隊の弾薬が心もとなくなっていた事を受け、
部隊を後退させ本日2度目になる補給を行っていた。

しかし、俺が考えていたG弾使用に対する予測は、直ぐに間違いだと言うことに気づかされる事になる。

予定よりも遅れていたが、軌道降下部隊の再突入が開始され、ハイヴ地下茎構造への部隊突入が成功したという報が入ってきたのだ。

俺は補給を終えた部隊を率いて、再び前線へ復帰すると同時に、この戦闘の推移を注意深く見つめていた。

軍が想定するハイヴ内のBETA個体数が、甘い予測の基で作られている事を痛感している俺は、軌道降下部隊の戦力,今の戦術機の性能,
ハイヴ内戦闘の戦術では、ハイヴ攻略は非常に困難だと考えていたのだ。

案の定俺の予測は当たり、突入部隊は大きな犠牲を払いながら、横浜ハイヴの規模が地表構造物から推測されたフェイズ2規模が誤りで、
想定を大きく上回っていた事を地上部隊に伝えただけで、肝心のハイヴ攻略に失敗する事となる。

ハイヴ突入部隊が破れた事で、軍上層部はハイヴ突入部隊を再度編成し挑むか、再起を図って撤退するかの判断を迫られた。

どちらを選択するかは分からないが、このままだらだら戦闘を続けるのは得策ではなかった。

なぜなら、ハイヴ攻略戦の基本戦略が、人類がBETAを上回っている数少ない点である瞬間的な火力を使って有利な状況を作り出し、
ハイヴ中枢を精鋭部隊で強襲するというものだからだ。

結局、早朝から始められたこの戦いは、次第に戦線を後退させていき、BETA群が追撃を打ち切った昼過ぎの時点で、一時中断を余儀なくされる事になる。

皮肉にも各部隊は、作戦開始前の位置までBETAに押し戻される事となった。

各国軍は、部隊の再編を急ぎ今後の方策を練ることになるのだった。







歴戦の勇士が揃っているとは言え、基地に戻ったロンド・ベル大隊の雰囲気は、決して良いものではなかった。

乾坤一擲の思いで出撃したにも係わらず、その目的を果たせなかったのだ、気落ちするのも無理は無い。

しかし、俺は明日もまだ戦いは続く、休んでいる暇は無いと言って、率先して再出撃の準備を進め、
最低限の休憩を挟んだだけで、気落ちする暇を与えないほど隊員たちを働かせた。

そして、翌日の8月6日 午前5時 一会戦分の物資が残っている事が確認できたとして、夜明けと共に横浜ハイヴ攻略作戦は再開された。

俺は、一抹の不安を覚えつつも、皆にそれを気が付かせないように、出撃を命じる。

BETAの総数が減っているためか、前日よりもハイヴに接近する必要があったが、AL弾の軌道爆撃が無く援護砲撃の密度が落ちているという状況ながらも、
BETAの誘引は遅滞無く進んでいく。

その後、横浜ハイヴ西部から帝国軍精鋭部隊が急進、先日の機動爆撃で空けられた地下茎構造の入り口である門(ゲート)の確保に成功する。

帝国軍部隊が押さえた門は、横浜ハイヴから2km付近の3箇所、そこから精鋭部隊突入し、
後続に補給コンテナを抱えた鞍馬・輸送装備が続く事で補給線を確保、ハイヴ最奥部にある反応炉を目指すというのが、
今回の作戦だった。

この時ロンド・ベル大隊は、横浜ハイヴから最も離れた門からハイヴへ突入する部隊の護衛として随行しており、
護衛任務の終了後には門の確保を任されていた。

更に、この帝国軍の動きに会わせる様に国連軍部隊も動いており、帝国軍と同様に門を確保するところまで成功していた。

この時の人類側には勢いがあったのだ。

しかし、第一陣が突入して10分後の午前8時 国連軍司令部から奇妙な命令が飛び込んでくる。

それは、横浜ハイヴ攻略作戦を中止し、0800までにハイヴを基点として半径10kmの範囲外へ退却しろ、という内容だった。

作戦が順調に進んでいる中での突然の命令に、現場は戸惑い大きな混乱が生じる。

特に、士気が旺盛だった帝国軍部隊はそれが顕著だった。

俺は、この突然の退却命令がG弾を使うという米国の宣言に因るものだと確信し、
ハイヴ突入部隊を含む周辺の部隊に俺の名前を使って退却開始を要請した。

始めは混乱していた部隊も、光州作戦でBETAの地下進攻を見破った俺のネームバリューと、新型爆弾の噂があった事が効いたのか、
直ぐに冷静さを取り戻し退却に賛同の意を示す事になる。

俺達ロンド・ベル大隊は、先行してハイヴ突入を行った部隊を待つと言うハイヴ突入部隊と別れ、
門の直ぐ傍まで迫っていた鞍馬・輸送装備部隊と合流後、輸送部隊を援護しつつ後退を開始した。

安全圏までの8kmという道程は、何の障害が無ければ、1分もかからず踏破できる距離である。

しかし、背後や側面からBETAが迫り、援護する部隊も少ない状況では、無限とも思える距離だったのだ。

俺は半径10km圏外へ部隊を退避させた時点で、高畑 大尉に10km圏の境目ぎりぎりで援護砲撃を行うように命令し、
一個中隊を腕に自信がある者から選び、再び10km圏内への突入を行い逃げ遅れた部隊の救出へ向かった。

ロンド・ベル隊の他にも、多くの部隊が最後の最後まで救出活動を続けたが、ハイヴ突入に係わっていた多くの部隊を10km圏内に残して、
指定時刻の8時15分を迎える事になるのだった。








指定時刻を超過した事を示すブザーが鳴り響く中、横浜ハイヴ上空で起きた奇妙な光景が視界の隅に入ってくる。

再突入殻が僅かな時間差をつけて2個という、あまりにも少ない数で落ちてきたのだ。

そしてその直後、光線属種が慌てた様に地中から出現し、重金属雲が広がる中で必死に再突入殻へ照射を行おうとする。

数本のレーザー照射が重金属雲を突き抜ける事に成功するも、再突入殻前方に展開した不可視の幕によって弾かれてしまう事となる。

俺は、その光景と頭の中に残っていた画像が結びついた瞬間、声を張り上げた。


「総員、対ショック防御!」


そう叫んだ直後、空に黒い太陽とも思える漆黒の玉が二個出来上がり、視界の前方に広がった。


「・・・・・・・・・。」


「何だあれは・・・、モニュメントが・・・・・・、無くなっている。」


強風と土埃が収まった事であらわになった光景を見た隊員がつぶやいたその言葉は、
二つのG弾によって引き起こされた出来事を端的に表していた。

俺は米国が帝国の承認無しにG弾を使うことを読めなかった己の無能に、心の中で悲鳴を上げながらも、
すばやく命令を出していた。


「ベル1(御剣 少佐)より、ロンド・ベル隊各機へ。
 自機の状態を確認、CPは戦況を報告しろ。」
 
 
俺の命令によって、思考停止に追い込まれていた部隊は、行動を再開する。

歓声と悲鳴が入り混じった通信が飛び交う中、CPが集めた情報からは驚くべき結果が示されていた。

半径5km圏内で活動していた全てのものは、G弾の爆発に巻き込まれ壊滅的被害を受けていたのだ。

特にハイヴとの距離が近かった2つの門から突入を予定していた帝国軍部隊は、戦況を有利に進めていた事が災いし、
ハイヴ周辺に多くの部隊を展開させていた為に逃げ遅れた部隊が多かった。

ただし、想定していたほどG弾の影響範囲が広がらなかった事で、最前線に展開していた戦術機部隊以外は、
急激な後退により隊列が乱れた程度で、大きな被害を受けている訳ではなかった。

各部隊は、G弾の影響が無いことを確認しつつ、再度前線へと展開を急ぐことになる。

そして、前線に出た各部隊を待ち受けていたのは、視界に映る全てのBETAが活動を停止しているという奇妙な光景だった。

なんと、G弾の爆発圏外にいた横浜ハイヴ周辺のBETAが活動を停止したと言うのだ。

その報を受けた国連軍は、新たなBETAの出現と地上にいるBETAの再起動を警戒しつつ地上のBETAを排除した後、
被害を受けた部隊の救助を行う事を決定する。

この時、情報を分析する限りでは、地上にいた米国軍はG弾による影響を受けている様子は無かった。

数時間に及ぶ救助活動が一段楽した時点で、各国軍へ国連軍から本日のハイヴ突入作戦が中止する事が通達される。

憶測だが、G弾の影響が分からない事や、突然の広域殲滅兵器の使用で、上層部で揉め事が起こっているのだろう。

国連軍の通達に従い基地に戻った俺達は、機体を整備士達に預けた後、隊内での打ち合わせをする事になった。

そこで俺達は、更に不可解な情報を聞く事になる。

G弾の使用直後から、それに呼応するように西日本を制圧していた残存BETA群が一斉に大陸に向け撤退を開始、
戦術機甲部隊による追撃戦、艦砲射撃などによって敗走するBETA群に大損害を与えつつあり、歴史的な大勝利となる事が予想されるというのだ。

俺は、隊員達の疲労を理由に打ち合わせを手短に終わらせると、急ぎ自室へ戻った。

この時、香具夜さんから意味有り気な視線が送られていたような気がしたが、今の俺には構っている余裕は残されていなかった。

部屋に入った直後、俺は自分の中にある苛立ちを発散させる為に、虚空に向けて右手を突き出した。


「たしかに、今回の場合はG弾を使った方が、被害を少なく出来るのかも知れない。
 ・・・・・・だからと言って、いきなり友軍と思っていた奴に背後から撃たれて、
 納得出来る人間がどれくらい居ると思っているんだ。」


苛立ちが幾分和らいだ後に、俺を襲ってきたのは大きな戸惑いと不安だった。

G弾二発の使用は、『マブラヴ』の世界でも起こった事なのか?
横浜ハイヴ攻略戦での被害は多いのか?それとも少ないのか?
G弾の人体への影響は、どの程度なら問題ないのか?
安全性を担保出来ないG弾の爆心地で、隊員を活動させる事は正しい判断なのか?

様々な考えが頭に浮かんでは消えて行く。


「全てが終わった訳じゃない。
 まだやり様はあるはずだ・・・。」


俺は、湧き出てくる不安を押しつぶす様に声を吐き出したのだった。








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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
隙を見て他のジャンルのSSや小説を読んで、自分の文章力の無さを痛感する日々を送っています。
ただ、文章力の無さを嘆いていても仕方ないので、これからもこの作品を書き続けることで、
力をつけていきたいと考えています。
まだまだ未熟者ですが、確りとした文章が書けるようになるその日まで、御付き合いしていただければ幸いです。

今回は、横浜ハイヴ攻略開始から米軍のG弾使用、横浜ハイヴ攻略作戦2日目までを書きました。
明星作戦の経緯について色々調べてみたのですが、謎が深まるばかりです。
※後日、感想板への書き込みで、明星作戦の概要が分かりました。
8月5日にハイヴ地下茎構造への突入に成功するも、反応炉への到達に失敗。
          ↓
作戦の継続か撤退かを検討中に、米国政府よりG弾使用の通告が来る。
          ↓
日本政府は、その通告に対してG弾使用の中止を求める。
          ↓
8月6日早朝、米国政府より最後通告が出され、G弾2発を軌道上から投下。
          ↓
地表構造物の全てと、地下茎構造の一部を破壊し、生存していたBETAは謎の活動停止を行う。
というのが原作の概略らしいです。

横浜ハイヴ攻略は、艦砲射撃から始まったと書いている所も有れば、
軌道爆撃から始まるのがパレオロゴス作戦以降の攻略手順のセオリーと書いている所も有りました。
また、G弾を事前通告無しに使用した事も大きな謎です。
発射数分前に通知するとかごまかす手はあったでしょうに・・・・・・。
もしかして、政府レベルで直前に通告した為に、前線まで通達が間に合わなかったのかも知れませんし、
第4計画に真っ向から逆らう力が無かっただけかも知れませんが・・・。


次回は、ハイヴ攻略完了とその後を書く予定です。
更新は来月になると思います。
GW中の更新を目指して頑張っていきますので、気が付いた事をご指摘頂ければ幸いです。

また、感想へのご返信は、後日改めてさせていただきます。

P.S. あ~、ヘタレさんの生存フラグを立てるのを忘れました。
   死亡を確定させた訳ではないので、どうとでも出来るのですが・・・・・・。

   改定で、ヘタレさんの死亡フラグを立ててしまいました・・・どうしよう。



[16427] 第34話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:b29373f4
Date: 2011/05/25 00:05

1999年8月7日

国連軍参加国への指揮権を持つ米国軍によって行われた、現地政府の同意無きG弾使用は、爆心地である日本帝国内に止まらず、
世界各国に大きな反響と混乱を引き起こしていた。

G弾の威力と使用後に残される影響について情報が錯綜する中、横浜ハイヴ攻略は一時棚上げされ、突入の日程も分からない有様となる。

この横浜ハイヴ攻略延期は、俺にとって予想外の出来事だった。

G弾使用を推進する立場である第5計画(オルタネイティヴ5)推進派にとって、各国が混乱の最中にある今の内に、
G弾の原料となる物質が在るハイヴ中枢を確保することは、最優先事項のはずである。

それなのに、G弾の使用を事前に知っている第5計画推進派が、G弾使用直後は無理にしても、
翌日になっても横浜ハイヴに突入しない理由が分からなかったのだ。

これは、第4計画(オルタネイティヴ4)推進派やそれ以外のグループだけでなく、第5計画推進派にも混乱が生じているとしか考えられない事象だった。

可能性は低いが、第5計画推進派の中にも強引なG弾使用に疑問を感じる穏健派が居るのかもしれない・・・・・・。

詳しいことや今後の流れが確定している訳ではないが、このG弾使用が日本国民の心に日米安保条約破棄に匹敵する深い反米感情を刻み込んだのは確実であり、
それは今後の舵取りが一層難しくなったことを意味していた。

この不意に出来た空白期間を使って、今回の戦闘で帝国が受けた被害を帳消しに出来る何かが出来ないかと、
いくつかの計画に思考を巡らせていた俺は、一つの選択肢を見出した。

それは、第4計画直轄部隊を補助すると同時に、帝国にとって貴重なハイヴ内での戦闘データと経験を入手できないかというものだった。

通常、ハイヴ内での戦闘はバンクーバー協定によって、国単位で勝手に行う事が禁止されている為、
これ以上不利な立場に追い込まれる事が許されない帝国は、国連の承認を得ない限りハイヴ内へ立ち入る事が出来ない。

これだけ聞けば、国連内部で横浜ハイヴ攻略の主導権争いが行われている中、帝国軍が参戦する事は難しい事のように思える。

だが、第4計画派が第5計画派に先んじて、横浜ハイヴを占領したいと考えていた場合は、少し話が変わってくる。

その場合、先のG弾使用によって第4計画派が少なからず被害を受けている可能性が高くなり、第5計画派との戦力差を補いたい第4計画派にとって、
こちらが切ることが出来る数少ないカードである実行戦力の提供は、大きな価値を見出す事も有り得るのだ。

また、横浜ハイヴ攻略の最終段階において、門を確保していたロンド・ベル隊が地下茎構造内へ突入する作戦が立案されており、
企業からの提案で帝国が国連に打診していたという事も好都合だった。

しかし、国連軍へこの計画の実行を打診するよう帝国軍に依頼した後、ハイヴ突入準備を進めていたのだが、
帝国軍からはまったく音沙汰が無く、むしろ馬鹿な事は考えるなと、暗に説得される事となった。

どうやら、俺の提出した計画について、第4計画と第5計画が綱引きをしているのかもしれない中に、
帝国が表立って参戦する事を避けたいという政治的判断が働いている様子だった。

あるいは、第4・5計画派にとっても、これ以上事態をややこしくする事は、望んでいなかったのかも知れない。

横浜ハイヴ攻略再開まで、時間が限られていると考えた俺は、各方面へ呼びかけを強めていたが、
参戦する糸口すら見え無い状況に追い込まれていた。

家の力を使えば交渉の場を用意できる可能性もゼロではなかったが、強権を発動した場合の弊害と得られる利益を考えると、
今その力を使う事は出来なかった。

完全に手詰まりの状況に、俺は頭を抱える事になる。

俺は焦りを隠すように、統合仮想情報演習システム『JIVES』を使ったハイヴ攻略演習(ヴォールクデータ)の結果を、
ミーティングで総括をした後、足早にその場を立ち去り自室へと向かった。

しかし、自室に入ろうとするところを、香具夜さんに止められ、渋々自室へ招き入れることになるのだった。








様々な資料が無造作に置かれた俺の部屋は、お世辞にもきれいと言えるものではなかった。

香具夜さんは、俺の部屋の現状を確認し一瞬眉をひそめるが、その事には触れず別の話題を切り出した。


「信綱、
 どうしてそんなにイライラしておるのじゃ。」


何を言っているのか見当が付かないといった様子を装った俺は、ベッドに腰をかけ香具夜さんに椅子に座るように促した。

更に、話題を変えようと部屋に置いてあった御菓子を進めるが、彼女はそれらを無視してそのまま話を続ける。


「戦いを続けているとお主は次第に、落ち着かなくなる。
 大きな戦いがあった後は、特に顕著じゃ。
 まだ、先が見えぬほど目が曇っている様子ではないが・・・・・・。
 
 信綱、ここにお主が安らげる場所は有るのか?
 心労は・・・、どこかで吐き出さないと毒になる・・・・・・。」


安らぎ・・・か。

それは確かに、ここ最近は感じることが無かった感情かもしれない。

常に張り詰めた弦は、直ぐに切れると例えられる事もよく知っているし、
緊張と脱力のバランスが戦う者にとっても重要だという事は理解できる・・・・・・。

しかし、今は緊張を解く時ではないと考えていた俺は、彼女を拒絶するつもりで、段使うことの無い選択肢を選んだ。


「俺が安らげるようになるのは、家族との団欒か女性の胸の中に居る時だけですよ。

 戦いが続いている限り、ここには背中を預ける戦友は居ても、安らぎを得る人は居ない。
 それとも・・・、貴女が俺の安らげる場所になってくれるとも言うんですか?」


俺の強引な拒絶に対し、香具夜さんは覚悟を決めるように瞳を閉じた後、言葉を紡いだ。


「・・・・・・それで、お主の気が治まるのならそれでも良い。」


そう言って香具夜さんは、ベッドに座った事で位置が低くなっていた俺の頭を抱きしめてきた。

突然の出来事に、俺の体は金縛りに遭ったかのように動かなくなる。

ただ、体の反応とは逆に思考と五感は鋭敏になり、人の暖かさを感じた心は次第に落ち着いていった。

しかし、心が落ち着いたのも束の間、体の奥底からは沸き立つ様にある衝動がこみ上げて・・・・・・。

この衝動が示すものは、俺が生きていて、どうしようもなく男だということなのだろうか。

表向きは誠実さを装っていても現実は変えられない。本当に、自分のこの部分には呆れてものが言えなくなる。

再起動を果たした俺は、これ以上この体勢でいるのは互いに不幸と成るだけだと思い、
慌てて香具夜さんを引き剥がそうとする。


「俺には、婚約者が居るんですよ!?
 これ以上やられると、押さえが利かなくなる。
 早く離れてください。」
 
 
「抑えきれないなら、抑えなくて良い。
 たとえ一時の気の迷いだとしても・・・・・・、今ワシに心引かれているのは事実じゃろう?
 
 ワシはそれだけでも十分じゃ。」
 
 
まったくこちらをからかう様子の無い真剣な言葉に、俺は再び呆然としてしまい香具夜さんを引き剥がす事ができなくなっていた。

そして、しばし部屋に沈黙が流れる。

だが、性根の腐っている俺は、真耶マヤ真那マナと過ごしている時と同様に、
香具夜さんと過ごすこの瞬間に、安らぎを感じてしまっていたのだ。


「・・・・・確かに、この瞬間俺は貴女に心を奪われている。
 これは浮気かな?
 
 でも、俺はただの浮気程度で終わらせる気は無いよ。
 俺の命が尽きるのが先か、彼女らを説得するのが先か・・・・・・。」


「な、何を言っておるのじゃ・・・、お主は。」


「俺は、君を三人目の伴侶にしてみせる。

 ・・・・・・お前が欲しい。」
 

「三人目って・・・・・・。」
 
 
俺は、呆然とし力が抜けた香具夜さんの腕からすり抜けると、逆に彼女の頭を抱きしめるように包み込んだ後、
その額にキスをした。

こうして香具夜さんに諭されるのは今回で3回目・・・・・・、俺はもう一生彼女に頭が上がらないかも知れないと、
ふわふわした思考をする一方で、頭の中は急速に冷静さを取り戻し、現状を見つめ直していた。

俺は何処かで、原作の世界の流れから外れて、自分が無力なるのを恐れ、焦っていたのかも知れない。

だから、大きな被害が出ると『マブラヴ』の世界では起こらなかった事なのではないかと考えてしまい、
結果それを正そうと必死になってしまう。

この時、昔から思っていた考えが不意に俺の頭をよぎる。

俺は天才じゃない、凡人は凡人らしく地道に道を歩んでいくしかない・・・・・・。

そう、俺はこの世界に生きている、凡人が出せる全力程度で世界の運命が変わるなら・・・・・・、それこそが運命なのではないか。

己が進む道を決めた俺は、心が晴れやかになるのを実感した。

そして、冷静に考えれば、今回の横浜ハイヴ突入作戦参加の件は、必ずしも達成すべき事ではない事に気が付く。

ハイヴ攻略完了後に侵入する事や、横浜基地建設に関わる可能性もある御剣建設を使って場所を確保し、
ハイヴ内(地下茎構造部)での戦闘データを収集する事でも、データを補う事は可能なのだ。

後は、可能なら香月博士と直接交渉し、面識を得て俺の目標達成確率を上げるくらい・・・・・・。

今までの思考が曇っていた訳ではないが、それでも俺は自分が一段上の段階に上がれた気がしたのだった。








心が澄み渡るのを感じてから数瞬後、今までなら気が付くことがなかったと思えるほどかすかな違和感を、
己の部屋の扉の前から覚えた。

ただ、扉の前に居るその存在は、こちらに敵意を持っている様子は無い。

俺は、何か進展があるかもしれないと期待をよせつつ、腕の中でもぞもぞと動く香具夜さんを無視して、その存在に声をかけた。


「扉の前で、こっちの話を聴いている人、
 部屋の中に入ってきてくれませんか?」


「・・・・・・。」


俺の問い掛けへの返事は沈黙だったが、僅かに空気が揺れる気配がした。

そこに、俺の拘束から脱出した香具夜さんが話しかけてくる。


「何を言っておるのじゃ、信綱。」


「いえ・・・、扉の向こうにこちらに意識を向ける人が居るので・・・・・・。
 
 警告はここまでです。
 貴方の気配の消し方、心音、呼吸音を覚えました。
 私が扉を開けるまでの1秒と一寸の間に、今の状態を維持したまま50m以上離れる自信はありますか?」
 
 
俺の言葉を聴いて観念したのか、基地内では珍しい背広を着た中年の男が、扉を開け部屋に入って来た。


「驚かせてすまなかった。
 いやはや、偶然通りかかった時に、声が聞こえてね。
 夜のとばりに失礼かと思ったが、ついつい聞き耳を立ててしまった。」
 
 
「とりあえず、自己紹介をしましょう。
 私は、帝国陸軍少佐 御剣信綱です。
 こちらが・・・。」
 
 
「帝国陸軍大尉 武田香具夜じゃ。」


俺達は、不思議な空気を纏った男の動きを警戒しつつ、名乗りを上げた。


「警戒しなくても大丈夫だよ。私は微妙に怪しいものだ。
 その微妙さ加減をたとえるなら・・・・・・。」


「・・・・・・名乗る気が無いのなら、そこまでにしてください。
 帝国情報省の方が何のようです?
 
 まさか、浮気調査でもないでしょう?」


俺は、独特の気配と言葉のイントネーションから、国内にある諜報機関の人間であると考え、
今一番俺に注目していると予想していた組織の名前を口に出した。

帝国情報省、帝国内外の情報を集め必要なら独自の権限を持って活動する組織が、俺を探っていた理由とは何か・・・・・・。

活発にハイヴ突入を訴える俺を警戒し、探りを入れてきたのだろうか?

いや、もしかして俺が国連軍・帝国軍に係わらず流した例の噂の真相を探っている可能性もゼロではない。

確かに、あの噂の内容と発生のタイミングは、オルタネイティヴ計画を知る者にとって、反応せざるを得ないものと言えた。

ただ、この人を食った様な態度と容姿はどこかで見たことがあるような・・・、そうこの世で生まれる前に・・・・・・。


「鎧衣・・・・・・?」


「・・・・・・、何処でその名前を?」


自身が放った突然の呟きに内心驚いていた俺と、こちらを問い詰めるような男の視線が交わり、しばらく睨み合いが続いた。

この時、俺は自分の呟きと相手の反応から、相手の名が鎧衣である事に確信する事になる。

彼は『マブラヴ』の世界の中で、第4計画の責任者である香月博士と直接コンタクトの取れる数少ない人物の一人として登場し、
その類まれな情報収集能力と行動力を使って、様々な助言を行っていた人物である。

そして、最終的にオリジナルハイヴに突入する事になる少女の父親でもあった。

鎧衣さんは、香月博士との直接交渉に必要な手札の少ない俺にとって、帝国に不利益な行動を起こす事が無いと確信できる分、
我侭を言い易い都合の良い交渉相手だった。

また、俺が意味深長な発言をすれば、勝手に情報の裏を取ってくれる可能性もあり、
その結果しだいでは世界の流れに影響を与える可能性もある重要な人物であるとも言えたのだ。


「そんな事はどうでも良いでしょう?
 ここから俺は、貴方が鎧衣さんという事を前提に話を進めます。
 
 盗み聞きしていた件を、すまないと思っているのなら、
 どこかで国連軍の偉い方と会えるように調整してくれませんか?
 可能なら、横浜ハイヴへ突入する部隊の決定権を握っている方だと嬉しいのですが・・・・・・。」


「それは難しいな。
 私はしがないサラリーマンにすぎないのでね。」


「では・・・、そのお仕事のついでに、手紙を配達するというのはどうでしょう?
 手紙を届けるだけで、交渉の場を設ける事を貴方に望む訳ではありません。
 もちろん、手紙の内容を確認して、上に報告していただいても構いませんよ。」


こちらが自分の所属と仕事内容について情報を得ている事を確信したのか、鎧衣さんは飄々とした表情を変え、
真剣な口調で話し始めた。

俺は、この時初めて彼を交渉のテーブルに付ける事に成功したのだった。


「私は、帝国情報省 外務二課 鎧衣だ。
 ここには、国連及び帝国軍内で話題になっている、新型爆弾投入の噂の出所を探しに来たのだが・・・・・・。
 もっと面白ものが見つかったようだね。」


「その噂は私も聞いた事がありますが・・・・・・、何処にでもある眉唾物の噂ですよ。
 結局爆弾は使われましたが、その威力も・・・、どの段階で使うのかも不明のままでした。
 
 それより、手紙の件はどうなんですか?
 手伝っていただけると、帝国の新型戦術機開発が早まるかもしれません。
 これは、この星にとって有意義な事かもしれませんよ。」
 

「この星ときたか。
 わははは・・・・・・、面白い男だ。
 初対面の相手に、そんな重要な役割を頼むとは・・・・・・。」


「別に、この手紙が外部に漏れたとしても、俺に不利益はありませんし、
 成功すればこちらの計画に弾みが付くというもので、計画の成否関わるような致命的なものでもない。
 それに貴方の立場を考えると、帝国が不利となる流れには・・・、成らない。」
 

「余計な事をしないように躾けられているので、それは難しい・・・・・・。
 まあ、預かるだけなら問題無いだろう。」
 
 
真面目な態度から一転、鎧衣さんは急に声色をふざけたものに変えた。


「こちらの情報を鵜呑みにする訳ではないでしょうから、新型機の詳細が知りたいのなら、
 ご自分で調べて判断してください。」
 
 
「ほう・・・、その内容によっては考え込んでいる間に、
 手紙をどこかで無くしてしまうかもしれないな。」
 

「では、俺は国連軍の香月博士の所に忘れる事を願っていますよ。」


香月博士の名を聞いた鎧衣さんは、一瞬眉を潜めたような気がしたが、何も言わず交渉条件を箇条書きにした手紙を受け取って、
部屋から出て行った。

この不思議な話し合いに同席していた香具夜さんは、何か聞きたそうにしていたが、結局何も言わず静かに見守っていたのだった。









鎧衣さんが立ち去った後、俺は隊員達を集め緊急ミーティングを行い、そこでハイヴ突入計画の概要とハイヴ周辺及びハイヴ内での問題点、
並びにG弾が人体に与える影響について、知りうる限りの情報を説明し、そこから志願によって作戦に参加する人員を選ぶことにした。

G弾の影響や一時的に国連軍の傘下になる可能性もある事から、一個中隊でもそろえば良い方だと思って志願者を募ったのだが、
どうやら俺にも人並みの人徳が有ったらしく、俺が作戦の現場指揮を執ると言った時点で、全員が参加を表明してくれたのだった。

この時、不覚にも目頭が熱くなってしまった事は、一生の秘密である。

尤も、古参の隊員達は俺の方を見て照れくさそうにしていたので、隠し通す事が出来たかは不明である。

その翌日となった8月8日の朝、国連軍から突然の出頭要請が来る。

不知火用の補修部品の流れから、本部を移したと考えていた仙台の国連軍基地では無く、横須賀基地への呼び出しである事から、
香月博士は明星作戦に合わせてその成否を見届ける為に移動していたものと思われた。

俺は、同行するという隊員たちを宥めると、急ぎ書類をまとめ一人で車に飛び乗り東京港へ向かった後、海路から横須賀基地へ入った。

船を降り横須賀基地へ入った俺は、案内されるままにいくつかの検査を受けた後、基地内にある一室へと通された。

この部屋に案内されるまでの間に、香月博士以外の重要人物に会える事を期待していたのだが、どうやら思惑は外れてしまったようだった。

室内で数分待たされた後、僅かに毛先を内側にカールさせたロングヘアを持つ白衣を着た女性と、
若干ウェーブのかかったショートヘアの中尉、二人の女性が入室してくる。

俺は、二人の人物から感じる独特な雰囲気と奇妙な懐かしさから、白衣の女性が目的の香月博士であると確信し、敬礼を行った。


「初めまして、帝国軍技術廠 第13独立機甲試験大隊 隊長 御剣 信綱少佐です。」


所属は違えども、香月博士は将官待遇を受けている人物なので、礼を失する訳にはいかないと考えての行動だったのだが、
面倒くさそうな表情で答礼をした様子を見ると、御気に召さなかったらしい。


「初めまして、私は香月 夕呼。
 国連太平洋方面第11軍 仙台基地の副司令なんてものをやっているわ。
 
 で、こっちが副官の・・・・・・。」


「伊隅 みちる中尉です。
 ご高名な少佐とお会いできて光栄です。」
 

香月博士に促されるままに席に着いた俺は、二人の重要人物に会えた喜びを味わうと同時に、
博士が不機嫌な態度を隠そうとしない事に戸惑っていた。

普通ならこういう態度を取る人間は、こちらを取るに足らないものと見下しているか、親しみを持って自分をさらけ出しているかのどちらかだが、
それが普通とはかけ離れた思考回路を持つ、俗に天才と呼ばれる彼女に当てはまるかどうか、確信を持てずにいたのだ。

こうして、交渉の場を設けてくれた時点で、こちらの提案に興味を持ってくれていると考えていたのだが・・・・・・、
初顔合わせの段階から美人にこのような態度をとられると、自分が悪い事をしてしまったような錯覚に陥ってしまう。

彼女が敬意を払うべき人に対しては、それ相応の態度が出来る人だった筈だ、
単純にこういった堅苦しい挨拶が苦手なだけかもしれない、と自分に言い聞かせた俺は、何食わぬ顔で話を続ける事にした。

ただし、本題に入る前にどうしても知りたい事があった俺は、御剣電気の関係でお世話になっていると礼を言う事で時間を作り出し、
すばやく周囲の気配を探った。

そして、その結果は直ぐに判明する。

人数にして一個中隊規模の人間が部屋の周囲に展開しており、その中にこちらへ今まで味わった事に無い意識を向ける小さな気配を感じたのだ。

その小さな気配の持ち主は、気配を隠している感覚が無い事と、この気配の大きさからおそらく子供だと思われた。

カスミ・・・・・・だったか?

俺は、第3計画の成果の一つである、ESP能力を使ったリーディングという相手の思考を読む力を持った少女の事を思い出し、
香月博士が既に第3計画の接収を終えている事を確信した。

しかも、こちらが気配を察知した時に気配に乱れが生じた事から、何か感づかれた可能性が高い事に思い至り、
これで交渉の難易度が跳ね上がってしまったと心の中でため息をついたのだった。


「堅苦しい挨拶はさっさと終わらせて、本題に入ってくれないかしら。
 私はそれほど暇じゃないの。」


「ああ、すみません。

 私が今まで貴女に出資していたのは、貴女が研究している技術が利益を生むと思ったからで、
 別に恩に着せようと思って居た訳ではありません。
 その対価は十分に受け取っていますしね・・・・・・。
 
 今回は、その件とは別にお願いがあって来ました。」


俺は努めて平静を装い、心を落ち着かせた後、ハイヴ攻略に参加し戦闘データを得る事が帝国にとって必要なことであり、
それ以外には興味が無いという思いだけを意識の表層で考えるようにし、交渉を続ける事となった。

ESP能力者に対して嘘を言うことは最悪の手段、嘘を知られた時、俺は交渉する価値の無い人物として認定されてしまうだろう。

この場面での最善は、交渉の成否に係わらず双方の計画に支障が無い様にするというスタンスを崩さないことだったのだ。

俺は微笑を浮かべていた表情を切り替え、正面から香月博士を真剣な眼差しで見つめ、本題を切り出した。
 
 
「・・・・・・横浜ハイヴ突入作戦、ロンド・ベル隊を使って頂けませんか?」
 

「ッ・・・」


室内に伊隅中尉の息をのむ音が響いたが、それに対して香月博士はまったく動揺する事無く、冷静な態度で返答を返した。


「その要求・・・、一介の基地副司令に言うような事じゃないわね。」


「私は、権限の無い人にお願いには来ませんよ。
 貴女が強力な権限を持っている事は知っています。
 1997年の不知火108機の国連軍への納入と、その後の補修部品の流れ・・・・・・、
 情報を集めるのは、何も諜報機関だけでは無いということです。」


「それで?
 部隊を持っている事と、ハイヴ突入の権限はイコールじゃないわ。」


「不知火108機より派手に物資を動かしている人たちがいるでしょう?
 しかも、4(フォー)は静かなものですが、5(ファイブ)は資金と協力者を集めるのに必死なようですので・・・・・・。」


俺は権限を握っている事を知っているとアピールする為に、オルタネイティヴ計画について多少情報を持っていると明かし、
わざとらしく唇を歪めるパフォーマンスまでして見せた。


「ーーーー! 伊隅っ!」


だが軽いジャブのつもりだった俺の想いに反して、俺の言葉と仕草は香月博士の逆鱗に触れてしまったようで、
彼女が発した言葉に合わせて動いた伊隅中尉に、ハンドガンの銃口を向けられる事になった。


「・・・・・・御剣少佐、手を上げてください。」


「美人に真剣な目で見つめられるのは嫌じゃないが、銃口がセットではね・・・・・・、
 別の意味で心臓が高鳴りそうだ。」


俺は緊張する様子を見せる事無く、伊隅中尉の求めに応じて両手を顔の直ぐ横の高さまで上げた。

俺が抵抗する様子が無い事を確認した香月博士は、俺に質問を投げかけてきた。


「その話、何処で知ったの?」


「香月博士、私はこの話を誰かから聞いた訳ではありません。
 資金・物資の流れ、御剣財閥の社員が集めたそれだけでは取るに足らない情報を集め、
 分析した結果をお話しているに過ぎません。
 
 まあ、5(ファイブ)からの接触が切掛けでは有りましたがね・・・・・・。」


御剣財閥には、政府や他の大型企業グループと同様に、投資や企業運営の方針を決める為に情報を集め分析し、
提言を行うための独自の機関、俗に言うシンクタンクのようなものが存在をする。

そこで、集められた様々な情報をチェックする機会が有った俺は、『マブラヴ』で起こった事が起こるという前提の下に情報分析を行い、
それらしい活動が行われているという情報を入手するにいたっていたのだ。

ただし、その情報や第5計画からの接触も、予備知識が無い状態で見ても気が付く事ができない些細なもので、
俺の心の中を完全に覗かない限り、表装の情報しか知らないと結論付けるしかない程度のものだった。


「・・・・・・なら、ここであなたが死ねば情報の流出は防げるという事ね?」


香月博士の言葉に合わせて、伊隅中尉からかけられる圧力が増していく。

しかし、数多くの猛者と戦ってきた俺にとっては、命の危機を感じる状況ではなく、いまだに平静な態度で会話を再開した。


「私を殺しても貴女にメリットはありませんよ。
 むしろデメリットの事を考えると・・・・・・、同情したくなるくらいです。
 
 御剣財閥の力と御剣家の人脈を舐めて貰っては困ります。
 私が死ねば、御剣との全面戦争は必至。
 貴女は、帝国内で活動する限り身動きが取れなくなるでしょう。
 全面戦争を回避するには・・・・・・、御剣への情報開示しかない。
 
 哀れ香月夕呼は、人一人を殺してまで秘密を守ろうとした結果、
 計画の頓挫か、殺した相手に知られた以上の事を複数人に対して説明するかを選択する事になりました・・・・・・とさ。」


「ーーーー!」


「ああそうだ、証拠を隠滅するという手段もありました。

 横須賀基地へ俺が向かった事は、ロンド・ベル隊の者全てが知っています。
 御剣家へ連絡が行く前に、衛士・歩兵・整備士・研究者、
 大隊を運営する全ての人を拘束出来れば貴女の勝ちです。
 ・・・・・・試して見ますか?」
 
 
「そんな易い挑発には乗らないわ。
 
 そうね・・・・・・、横須賀基地を訪れた帝国軍人が、新型爆弾投下に関係した人物と勘違いをして、
 国連軍関係者に暴行を加えたため、やむを得ず射殺・・・・・・、
 という事も有り得る話だわ。」
 
 
訂正、どうやら俺の口は、体の態度とは裏腹に饒舌すぎたようである。

そのため、香月博士と伊隅中尉から発せられる空気は、更に悪い方向に向かってしまったようだ。

俺は最悪の事態に備え、この部屋から脱出するルートを検討しながら、説得を試みる事になる。


「確かに・・・、私を悪人に仕立て上げる事に成功すれば、
 問題を許容範囲内に収める事が出来るかもしれませんね。

 あぁ、困った。
 最後の手段を除けば、後は泣き落とし位しか手がありません・・・・・・。
 
 私の泣き落とし、聞いて見ますか?」
 
 
「・・・・・・本来ならあなたに構っている暇は無いんだけど、
 若干21歳で帝国陸軍少佐にまで上り詰めた男がどんな言葉を残すのか・・・・・・、興味はあるわね。」
 
 
「では、お言葉に甘えさせていただきましょうか。」


俺はそう言うと、可能な限り奥底の心境を隠す為に鏡のように研ぎ澄ましていた心を、感情をむき出しに成るように誘導し、
香月博士の瞳を正面から見据え、思いの丈をぶちまけた。


「夕呼さん、俺は貴女の味方です。

 新型爆弾の事に関しては、確かに憤りを感じていますが、そんな事は問題になりません。
 なぜなら、俺は貴女が新型爆弾を積極的に運用する派閥でない事を知っているからです。
 
 俺は己の目的の為に、BETAを地球圏から排除する必要があると考えています。
 その為に俺が想定したデッドラインは、残り3年。
 その期間内に大きな切掛けを起こす事が出来なければ、人類は20年後には滅亡する事になる・・・・・と。
 
 だけど、BETAに逆襲する切掛けを俺だけで作るなんて事は、口が避けても言えませんし、
 想像も出来ません。
 だから俺は、切掛けを作る事ができそうな人を探していました。
 
 ・・・・・・5(ファイブ)が作っている物は、BETAと戦う為の物ではないというのは、おぼろげながら分かっています。
 ・・・4(フォー)についての全容は分かりませんが、少なくともBETAと戦う意思を持っている事は理解出来ます。
 
 夕呼さん、もう一度言います。
 俺に貴女のお手伝いをさせて頂けませんか?」
 
 
「呆れた・・・・・・、この期に及んで何を言ってるのよ。
 まあいいわ。
 一応あなたの目的とやらも最後に聞いておこうかしら。」
 
 
「俺の目的ですか?
 
 うーん、あまり大きな声で言うのは恥ずかしいんですが・・・・・・、
 一言で言うと・・・・・・『俺がそうしたいから』でしょうか。
 
 実は、惚れた女達が出来れば今後も日本で住みたいと言っていまして・・・・・・。
 勝手に全ての問題を解決した後でその成果を報告すれば、
 少しはクラッと来てくれるのではないかと考えているんです!」
 

俺は全てを話し終えると、一仕事終えたと満足するような満面の笑みを浮かべた。

俺の返答を聞いた香月博士は、意識を一瞬外へやった後、心底呆れたような表情を見せつつ、
面倒くさそうに・・・本当に面倒くさそうに言葉を紡ぎだした。


「まったく・・・・・・、こっちを口説いているのかと思えば、
 最後は惚気話・・・。
 
 伊隅、もういいわ。
 こんな馬鹿・・・いえ、大馬鹿を警戒するなんて、脳のソースの無駄よ。」
 
 
「よろしいのですか、博士?」


「こいつは、本心でさっき言った事を考えている・・・・・・。
 私と敵対する気が無いなら、人の恋路を邪魔する必要は無いわ。
 それとも・・・・・・、あなたは馬にでも蹴られてみたいのかしら?」
 
 
「いえ、博士の判断に従います。」


伊隅中尉はそう言って、一瞬微笑を見せた後、ハンドガンをホルスタに戻した。

俺は、大馬鹿と言われたことに文句を言いたくなったが、それよりも交渉が続けられる事を喜ぶ事にしたのだった。








「それで、話の続きだけど・・・・・・、
 要求は手紙の通りでいいのね?」


一瞬緩んだ空気が広がった室内だったが、香月博士の一言で再び緊張を取り戻した。

俺は、再び明鏡止水の心境へ移るように意識を切り替えた後、交渉を再開した。


「はい、新型戦術機開発のために、
 ハイヴ内戦闘の実測データと経験者を確保したいと考えています。

 一個大隊・・・・・・正確には先の戦闘で損傷した機体があるので戦術機30機、
 貴女が計画しているハイヴ突入作戦に参加させて下さい。」


「残念・・・・・・その程度の戦力なら、国連軍から直ぐにでも出せるわ。」


挑発的な笑みを浮かべて、香月博士はこちらを探るような視線を投げかけてくる。

それに対して、俺は毅然とした態度で言い返した。


「先ほども言ったでしょう?
 物資の流れを把握していると・・・、つまり貴女が自由に動かせる戦力を私は把握しているということです。
 
 ・・・・・・5日と6日の作戦後、どれほど戦力を残しているかは分かりませんが、
 明星作戦開始前の時点で、1.3~1.5個大隊規模(47~54機)といったところでしょう。
 
 今の横浜ハイヴに突入する場合、2個大隊は欲しいところです。
 米国軍が大量に居る横須賀で、尚且つ近日中に、信用できる部隊をそろえる事が出来ますか?」
 
 
半分ほどは勘で答えた保有戦力だったが、伊隅中尉の反応を見る限り、当たらずとも遠からずといったところだったのだろう。

しかし、あくまで冷静な態度を崩そうとしない香月博士は、興味が無いという態度を取っていた。


「二個大隊あれば良いと言うけど、別にあなたが言った戦力でも不可能じゃないわ。
 それに、あなたの部隊の中に国連軍の邪魔をしようとする者が居る可能性もあると思うけど・・・・・・。」


「その様な者が居た場合、被害が出る前に私が直々に手を下します。
 心配なら、ロンド・ベル隊は地上と突入部隊を繋ぐ中継地点を確保する役割で結構です。
 入り口から1km以上奥へは進まないと確約しましょう。
 これなら、監視役を含めたとしても、ハイヴ最奥部へ投入する戦力を増やせるはず。

 貴女方が自らの戦力で反応炉を確保できれば、交渉しだいで今後有利な展開に持っていく事が可能です。
 それに、せっかく反応炉を確保しても、あまり戦力に差が有ると中で喧嘩が起こってしまうかもしれませんしね。」


俺はここまでの会話の最中、決して凝視するわけではなく静かに香月博士の動きを観察していて、
彼女が先ほどから幾度と無く一瞬意識を外へやっている事に気が付いていた。

どうやら、香月博士は何らかの方法で外と情報のやり取りをしているものと思われた。

だが、その彼女から若干の焦りを感じるのは、気のせいだろうか?

もしそのことが本当なら、リーディングのジャミングに成功していることになるのだが・・・・・。

俺は、香月博士の真意を測るために、少し揺さぶりをかけて見る事にした。


「この条件でも駄目ですか・・・・・・、これは当てが外れたかな。
 戦力提供が必要ないとなると・・・、上層部の中で妥協案がまとまりつつある、
 ということですか?」


「何を言っているのか分からないわね。」


「機体は接収した、衛士の名は軍機だから言えない、
 とか言って上手く使って頂けると考えていたんですが・・・・・・。
 
 あっ、香月博士の部隊での運用に限るのなら、不知火改を正式に接収していただいても・・・・・・。」


俺はこの時の発言にあわせて、6日のハイヴ突入の際に多くの物資を失っている可能性の高いA-01部隊が求めそうな、
補給物資、機材、戦術機を思い浮かべて見たのだが・・・・・・。


「いやよ、今はそこまでしてリスクを冒す場面じゃないもの。」


香月博士は、それをあっさりとスルーした。

俺は、本当に物資を必要としない可能性も残しつつも、本音をぶちまけた時との反応の違いを感じ取り、
リーディングが読み取れる思考の範囲には限界がある事を再度意識していた。


「いやって言われると、もう手の出しようがないんですが・・・・・・。

 そう言えば、私が推進している計画ついて、スーツ姿の使者から聞いているでしょう?
 あの話は貴女にとっては投資のようなものです。
 それも考慮に入れて、もう一度考え直していただけませんか?」


帝国軍の最新戦術機開発計画は、上位情報開示権限を与えられている者には開発を行っている事自体は知られているが、
そのコンセプトは殆どの場合知られてはいない。

これは、コンセプトが極秘という訳ではなく、夢想とも思える開発案に、関係者の誰もが対外的に言わない事が原因だった。

その開発コンセプトとは、戦術機部隊によるハイヴ攻略を行うために、ハイヴ内戦闘のみを想定した専用戦術機を開発するというものであった。

御剣重工に端を発したこの計画は、水面下での争いの末、日本帝国及び国内の四大戦術機生産メーカーである富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工を二分し、
ハイヴ攻略と2001年までの実用化いう以外に明確な仕様が無いまま、静かな開発競争へ突入していた。

以下に開発プランの概要をまとめる。

開発プラン壱
プロジェクトコードネーム:『武御雷』(タケミカヅチ)
メーカー         :富嶽重工,河崎重工
設計思想        :現行のハイヴ内戦闘理論に従い、補給線を確保する為に必要な最低限度の戦闘を行いつつ、反応炉を目指す事に適した機体の開発。
              脚部を大型化し、重武装と戦闘継続時間の向上を目指した、超接近戦用戦術機となる予定。
              YF-23『ブラックウィドウⅡ』が京都防衛戦で見せた戦果が大きな影響を与えたものと思われる。
              第3世代機開発のトレンドに沿ったベーシックな計画である。
             
開発プラン弐
プロジェクトコードネーム:『八咫烏』(ヤタガラス)
メーカー         :御剣重工,光菱重工
設計思想        :現行のハイヴ内戦闘理論とは異なり、補給線を確保するという手間を可能な限り省き、最短時間で反応炉を目指す事に適した機体の開発。
              戦術機を反応炉破壊兵器の輸送手段としてとらえ、ある一定の懸架重量以上にする事とハイヴ内平均移動速度を最大化する事、
              この二点のみが求められた機体。
              その結果、機体は大幅に小型軽量化が行われ、ハイヴ内での道程の殆どを長距離噴射跳躍によって移動するとしている。
              第3世代機開発のトレンドに逆行する異端とも思える計画である。

前者の開発プランは、力攻め・正攻法と言った手段でハイヴを攻略し、後者の開発プランは暗殺あるいは強襲と言った手段で、反応炉を破壊するものであったのだ。

香月博士は、考えるような素振りを見せた後、静かに口を開いた。


「あの開発計画・・・・・・、本気だったの?」


「はい、他が何処まで本気かは明言できませんが、
 少なくとも私は本気で考えています。
 
 この計画、貴女の計画の予備として使えませんか?
 ハイヴの最奥に行くには、今の戦術機を使うより安全になるはずです。
 
 尤も、貴女が賛同しなくても私は自分の計画を進めるだけですが・・・・・・。」


俺は自分の計画の一つを披露した時点で、ここでもう話をする事が無いと話を打ち切ることを決めた。

力の小さな凡人に過ぎない俺が、BETAと言う強大な敵に対抗する為に取るべき行動、
それは、人を集め、数多くの策を張り巡らせ、その内のいくつかが成功すれば、最終目標まで達成するように仕向ける・・・・・・、
これこそが俺の戦い方だった。

交渉の結果がどうなろうとも、今回は香月博士に話を聞く価値のある人物と思わせる事が出来ただけで、十分な成果と言えたのだ。


「夕呼さん、いかがですか?」


「・・・・・・まあ、いいわ。
 面白そうだから使ってあげる。
 (まったく・・・・・・、相手は年下だって言うのに・・・・・・。)
 
 伊隅、後は面倒だから説明しておいて。」


こちらが出せるカードを全て出し切ったと装い、交渉の結論を出すように迫った事で、香月博士はこれ以上の譲歩は難しいと判断したのか、
仕方ないからこれくらいで勘弁してあげるとも言わんばかりにため息を付いた後、ハイヴ突入の許可を出してくれた。

少し小声で呟いた部分が気になったが、その点を指摘する間も無く、話し合いを終えた香月博士は、実働部隊の折衝を全て伊隅中尉に投げ渡し、
部屋から退出していく事になったのだった。








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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
GWを利用して、本作を一気に進めようとしていたのですが、
今までの話の問題点を指摘されて、もだえる事になってしまいました。
GW中、総外出時間は3時間・・・・・・、ヒャッホー これこそが充実したGW・・・・・・ですよね。

今回は、ギリ横浜ハイヴ攻略後まで行く予定でしたが、届きませんでした。
原因は原作キャラの登場に張り切りすぎた事でしょうか?

テンポ良く話を進めて欲しいと言われて、気をつけてはいましたが、
短すぎると夕呼先生がただのイエスマン?になってしまいそうでしたので、ここまで交渉が長引いてしまいました。

また、この話で香月博士の護衛として、始めは神宮司軍曹に登場していただく予定だったのですが、
恐らくこの時は仙台で涼宮・速瀬を任官に向けて扱いている時だと思いましたので、お流れに・・・・・・。
オリキャラを考える時間が無かったのもあり、伊隅大尉(この時点では中尉)に登場していただきました。

伊隅大尉は1996年訓練校入校との事ですので、2年半で中尉・・・・・・、これは昇任としては早い方なのでしょうか?
ちなみに、伊隅大尉と同い年と設定している主人公は、斯衛軍訓練校への自主参加なので、
1996年卒業後3年半で少佐・・・・・・、こちらがバグだったか。

その他には、香具夜さんとの関係&主人公強化フラグ、鎧衣課長の登場、伊隅さんは中尉でいいのか?、
カスミらしき存在の発見と、忘れかけていた『透化』スキルの効果、新型戦術機開発プラン発表、
等のテンコ盛りでお送りいたしました。


前回、新話投稿後に本作のおかしい点を皆様に幾つも指摘して頂きました。
今後も可能な限り本作に反映させますので、他にも違和感を覚える部分があれば、
どんどんご指摘していただけると幸いです。

次回の投稿は、早めに行いたいと考えているのですが、
GW明けの仕事がゴタゴタしている様ですので、今までよりも投稿ペースが落ちる可能性があります。
もしそうなった場合でも、忘れずにいてくださればうれしいな。

P.S. データ容量37KBだと・・・・・・大丈夫か?


返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回は、本作の大きな問題点が一つ指摘されましたので、その事について返信させていただきます。

<主人公は、斯衛軍からの出向だとすると今の昇任スピードはおかしい。

上記のようなご意見をいただきました。
その事に関する私の意見は、下記のようになります。

斯衛軍と帝国軍の階級及び、主人公の昇任について

斯衛軍への入隊方法
1.斯衛軍の訓練校を優秀な成績で卒業する。TE 2巻にて、篁唯依が斯衛軍の衛士訓練課程を受け、自らを訓練兵だったと回想している。
2.帝国軍の訓練校を優秀な成績で卒業する。オルタの世界では不明であるが、現実の世界では過去に行われていた方法。
3.帝国軍から斯衛軍へ移籍する。       帝国軍と斯衛軍の間で、人材交流が盛んだと書かれている。
                        また、現実の世界にあった近衛師団でも近い状況にあった。
                    
斯衛軍は、その性質上帝国軍よりも昇任試験が厳しい上に、
ポストが少なく、人員の消耗も少ない、成果を上げるのも難しいため、
五摂家などの場合を除いて、昇任が遅れる事は多いと思われる。
ちなみに、現実世界の近衛師団を調べる限り、通常の部隊と比べて求められる能力が高い上に、
皇族方との会話の為に和歌などの日本文化に精通する必要が合った事も、昇任が遅れる原因となったらしい。

そして、現実の近衛師団が陸軍省の管轄であったのに対して、マブラヴでの斯衛軍は城内省の管轄となっているため、
完全に階級を一致する事は、組織上難しいと思われる。
ただし、原作を見る限り保有する権限は、同階級なら帝国軍斯衛軍共に変わらないようである。
また、最大で方面軍という規模であることから、斯衛軍司令官の階級は中将とした。(2001年時点で二個師団・四個連隊)

下記に、帝国軍から斯衛軍へ移籍した場合の階級の変換を示す。

         帝国軍→斯衛軍
          大将→中将    (紅蓮醍三郎 斯衛軍司令長官)
          中将→少将or中将
          少将→大佐or少将(師団長)
          大佐→中佐or大佐(御剣父  連隊長)
原作巌谷榮二 中佐→少佐or中佐(原作斑鳩家当主 連隊長or大隊長)
御剣信綱    少佐→大尉or少佐(光州作戦時斑鳩家当主 大隊長or中隊長)
原作沙霧尚哉 大尉→大尉    (中隊長or小隊長)
          中尉→中尉    (月詠真耶・真那 小隊長)
          少尉→少尉    (三馬鹿 小隊長or一般衛士)

帝国軍で昇進した者が、斯衛軍出身の者を飛び越えて、斯衛軍で高い階級を得ることを防ぐため、
帝国軍の者が斯衛軍に移籍する時は、少佐以上の階級の場合、一階級下の位となるのが慣例である。
ただし、多くの功績が有る場合に限り、佐官は階級がそのままとされる事はあるが、
将官でその様な事が行われた例は無い、という裏設定つくりました。

これは、帝国軍による斯衛軍支配を防ぐことを目的としたシステムです。
このシステムとポストの関係から、斯衛軍司令長官になるには、
斯衛軍大尉以降を斯衛軍で過ごす必要があると思われます。
それ以上になると、移籍が許されない場合や、降任がきつ過ぎると思いますので・・・・・・。

また、斯衛軍から帝国軍への移籍の場合は、基本的に階級の変化は無いものとします。
例外として、斯衛軍への移籍で階級が下がった者が帝国軍に復帰する場合、
斯衛軍での階級より移籍前の階級が高い時は、階級が高い方を優勢とします。


結論
名目上、しばらくの期間斯衛軍の衛士が大陸で戦っていた事で城内省とは手を打ち、
正式に中尉となる段階で、昇任の妨げとなる斯衛軍を離れ、主人公は完全に席を帝国陸軍に移した、という事に致しました。

この件は、大変考えさせられる案件でした。
そのおかげで、また少し良い作品に近づいたと感じております。
ご指摘、どうもありがとうございました。



[16427] 第35話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:b29373f4
Date: 2011/05/25 00:05

8月8日

香月博士との直接交渉の末、横浜ハイヴ突入作戦への参加許可を手に入れた俺は、伊隅中尉と情報の交換を終えた後、
急ぎロンド・ベル大隊が待つ川崎基地へと戻った。

結局、A-01部隊の保有する戦力についての情報を得る事はなかったが、それでもハイヴ突入に必要なデータは提供されている為、
自部隊を守りながら地上と中継地点を繋ぎ、補給線を確保するくらいなら問題はなかった。

川崎基地へと戻った俺は、隊員へハイヴ突入日時が決まった事を伝えると同時に、急いで整備士達にある事を伝える事になる。

俺が整備士に依頼した事・・・、それは機体のカラーリング変更だった。

対外的には、国連軍に接収されたとする事が求められていた為、帝国軍カラーの機体では問題があったのだ。

尤も、今回は時間が無かった事もあり、出撃可能な機体の右肩装甲をUNブルーとし、大きく『UN』という文字を入れるだけとなった。

俺が数日振りに指揮を執ることになった、シミュレーターによるハイヴ攻略演習の結果に満足した俺は、
『女の匂いがする』と詰め寄ってくる香具夜さんをかわして、帝国軍技術廠の独立試験部隊の担当官と面会を行った。

担当官は、国連軍に一時的に接収された事を告げた後、明日午前6時の出撃・・・準備時間が12時間しかない事を心配して、
上層部と交渉することも提案してくれたのだが・・・・・・。

既にその時には、ロンド・ベル大隊はハイヴ突入準備の80%が終了していたのだ。

作戦準備が整っている事を不思議がる担当官に、独自に立案したハイヴ突入作戦の計画書を提出した段階から、
上から何を言われても準備を中断しなかったと俺が伝えると、

「彼方なら、そうしますか・・・・・・。」

という台詞と共にため息をつかれる事になった。

俺はその台詞をあえて無視し、国連に譲渡する事が許される物資と情報の線引きを明確にする調整作業へと、話題を切り替えた。

この打ち合わせの後、早朝ミーティングの準備を整えた俺は、自室で一人短めの睡眠をとる事になるのだった。








8月9日

「貴官らの支援を感謝する。」

A-01部隊の指揮官から、顔の表示が無い上に声もメカ的な音声に変えられた通信が入った後、
A-01部隊とロンド・ベル大隊と奇妙な合同作戦が始まった。

まず始めに地下茎構造内に進入したのは、A-01部隊の小隊が監視に付いたロンド・ベル隊第一中隊だった。

これは、ロンド・ベル大隊を露払いに使って、A-01部隊の被害を減らすという考えが煤けて見える布陣だったが、
門(ゲート)より1km以上奥へはロンド・ベル大隊が進まない事を考えると、俺は文句を言う気分にはならなかった。

ロンド・ベル隊第一中隊は、俺を先頭に地下茎構造内を傘壱型(ウェッジ・ワン)隊形で突き進んで行く。

地下茎構造内は、思っていたよりも広い空間となっていたが、クネクネと曲がった構造となっている為に、
決して視界が良好とは言えないというのが、統合仮想情報演習システム『JIVES』と共通する感想だった。

しかし、シミュレーションであるJIVESでの戦闘が、反射神経に頼らざるを得ないのに比べて、
実際の戦闘だと俺の感覚も鋭敏になるのか、視界から隠れている地下茎構造の形状と活動を停止したBETAの位置が、なんとなく分かる気がするのだ。

俺はその感覚を補助とし、弐型と不知火改・偵察装備の高性能センサーが情報を集め、
各機の余剰情報処理能力を不知火改・偵察装備が集約して解析した結果をメインに使う事で、
計画より早いペースでの進軍を成功させる事になる。

だが、地下茎構造内に点在する活動を停止したBETAに、87式突撃砲の36mm弾をプレゼントしつつ足早に部隊を進めていたところ、
監視役のA-01部隊の戦術機から通信が入る。


「ヴァルキリー2よりベル1(御剣 少佐)へ、
 作戦は順調ですが、少し部隊の進軍が早い様です。
 もっと周囲を警戒して下さい。」
 
 
どうやらA-01部隊からの参加者にとって、俺の部隊指揮は警戒不足・・・・・・、言い換えれば無謀な指揮のように見えたらしい。

俺はその事に反論する事無く、部隊に進軍停止を命じた。

そして、小型可動兵装担架システムに懸架していたパンツァーファウストを取り出し、120mm滑空砲の砲身にセットした俺は、
射撃の警告を発した後、80m先にある地下茎構造の壁めがけて、パンツァーファウストを発射した。

俺の行動に驚いたA-01部隊の隊員が、言葉を発する間も無く放たれた弾頭は、地下茎構造の壁にあった窪みにきれいに収まり、
その力を解放する。

爆発による閃光と土煙が収まった後に残ったのは、大きく口を開けた偽装横坑(スリーパー・ドリフト)だった。


「ベル1(御剣 少佐)よりベル3(佐々木 大尉)へ、
 前衛を率いてスリーパー・ドリフト内の索敵を行え。
 時間は10分間、中継基地設置終了までには戻って来い。」
 
 
「ベル3(佐々木 大尉)、了解。

 聞いていたなお前ら、行くぞ!」


佐々木 大尉が偽装横坑に入った事を確認した俺は、続けて後衛部隊に輸送してきた中継基地設置を命じた。

中継基地設置の間、周囲を警戒していた俺に、先ほど警告をしてくれたヴァルキリー2から通信が入る。


「ヴァルキリー2よりベル1(御剣 少佐)へ・・・、
 スリーパー・ドリフト・・・・・・、気が付かれていたのですね。
 こちらのセンサーでは異変を察知できませんでした・・・・・・。」
 
 
機械音声ながら聞こえてきた音声からは覇気が感じられない。

どうやら、ヴァルキリー2は先ほどの警告が杞憂で、確りと警戒を強いていた事を知り、落ち込んでいる様子だった。

ロンド・ベル隊が地下茎構造内の索敵範囲や偽装横坑の発見能力が高いのは、改良されたセンサーと高度な情報処理能力によって得られた結果で、
通常の不知火を駆るA-01部隊が察知できないのは当たり前、そこに落ち込む要素は無かったのだが・・・・・・。

俺は、警戒の為に無口になっていた事が、A-01部隊の技量を疑い無視していると誤解されるのは拙いと考え、
ヴァルキリー2の気持ちを和らげる事もかねて通信を入れることにした。


「ベル1(御剣 少佐)よりヴァルキリー2へ、
 こちらのセンサーはまだ外に出回っていない特別製だ。
 そちらがスリーパー・ドリフトに気が付かないのも無理はない。
 
 むしろこちらは、ノーマルの不知火で弐型や不知火改に付いてこられるそちらの技量に感心している。
 教導隊も居ない中でよくそこまで、EXAMに習熟した・・・・・・。
 
 追伸、せっかく国連軍と帝国軍が協力して作戦に当たっているんです。
 もっとフランクに行きましょう。」
 
 
「ヴァルキリー2よりベル1(御剣 少佐)へ、
 お褒め頂光栄です。
 少佐に褒められたと知れば、他の隊員も喜ぶでしょう。
 
 ・・・・・・追伸、可能な限り・・・善処します。」
 
 
ヴァルキリー2の声色に元気が戻った事を確認した俺は安堵の笑みを浮かべた。

しかし、そこに場の空気を読めない愚か者からの通信が割り込んでくる。


「隊長殿~、センサーが優れていると言っても、半分はいつもの勘でしょ?
 しかも、相手が女性と見ると直ぐに口説こうとする。
 そこに痺れる、あこが「うるさいぞ、山田!」」
 
 
俺は、山田少尉の部隊内通信を一時的に強制封鎖し、彼の言葉を封殺した。

個人的に微妙なこの時期に、この手の話題は禁句だった。

この時点での、ヴァルキリー2と言えば『マブラヴ』の知識を参考にすると、伊隅 みちる中尉である可能性が高い。

彼女のような美人に、ほいほい声をかけていたと知られれば、本気で俺の命が危なくなる。

清水の舞台から飛び降りるような覚悟で女性を口説いた場合と、何時でも気楽に手を出している場合、
結果は同じだが相手に与える心証が違う・・・・・・と思う。

この通信封鎖は、99%死亡を120%死亡としない為には、仕方ない行為だったのだ。

俺が無駄に自分の行いを正当化している間に前衛部隊が合流した事で、中継地点が機能している事を確認した俺達は、
更に奥へと歩を進める事となる。

発見した偽装横坑と偽装縦坑(スリーパー・シャフト)をパンツァーファウストで開放しつつ、
地下茎構造の入り口である門から1km程進んだ俺達を待ち受けていたのは、
いくつかの地下茎構造が集合した広い空間、今までの道程で最大の広間(ホール)だった。

深度にして700mを示していたそこは、BETAの集合場所になっていたのか、おびただしい数の活動を停止したBETAが居たのだ。


「ヴァルキリー2よりベル1(御剣 少佐)へ、
 この数のBETAが万が一再起動した場合、今の戦力では支えられません。
 迂回路を選択する事を提案します。」
 
 
「迂回路か・・・・・・、確かにそちらの方が安全だが、
 時間がな。」
 
 
これまでの道程は、中継基地の設置に手間取った場面もあったが、思ったより進軍速度が上がった結果、
計画の102%という時間に収まっており、いたって順調だった。

しかし、第5計画派とのレースを考えると、一旦道を引き返し迂回路に進む事によるタイムロス発生は、
苦しい選択肢と言えた。

しかも、ハイヴ内では反応炉に近づけば近づくほど、BETAとの遭遇確率が高まる為、
迂回路を進めばBETAの集団に会わないと言う保証は何処にも無かった。

俺は、強行突破と迂回案の両方をすばやく検討しつつ、CPへと通信を繋げる。


「ベル1(御剣 少佐)よりマザー・ベル1(中里 中尉)へ、
 タイムスケジュールでは、10分後に補給物資を運ぶ第三中隊と1km地点で合流する計画だったはずだ。
 第三中隊の位置は分かるか。」
 
 
「マザー・ベル1(中里 中尉)よりベル1(御剣 少佐)へ、
 第三中隊及び同行する国連軍機の進軍速度は、計画通りです。
 このまま行けば、9分40秒後には合流できます。」
 
 
中里 中尉の報告を聞いた俺は、後続部隊の戦力を利用して強行突破を図る方法が最も効率の良い作戦と判断し、
部隊に待機を命じた。


「ベル1(御剣 少佐)より各機へ、
 我が隊は後続部隊と合流後、強行突破を図る。
 それまで待機だ、各自警戒を怠るな。」
 
 
第三中隊、鞍馬を中核とするこの部隊は、鞍馬の半数が補給物資の運搬のため、
主腕(メインアーム)に装備する武装以外の火力を持たない輸送装備となっていたが、それでも残りの半数には迎撃装備が採用されていた。

つまり、合計8機のGAU-8 Avenger(ガトリング砲)と30連装ロケット弾発射機を有しているこの部隊が合流すれば、
同行してきたA-01部隊とあわせると、一個大隊をはるかに上回る火力を有することになるのだ。

第三中隊と護衛のA-01部隊一個中隊が合流し、先行していた俺達への補給が終わった後、
不知火弐型 6機,不知火改 4機,不知火 14機,烈震 2機,鞍馬 8機,合計34機の戦術機部隊は、
4機の鞍馬を先頭に広間へと突入していった。

先制攻撃として放たれたロケット弾の雨は、身動きしないBETAをたやすく吹き飛ばし、GAU-8 Avengerと87式突撃砲による36mm砲弾の壁が、
BETAを押しつぶしていく事となる。

第三中隊の保有していた火力は圧倒的で、後衛に位置したA-01部隊がろくに攻撃をする間も無く、
広間(ホール)の制圧はほぼ完了してしまったのだった。

第三中隊に同行してきたA-01部隊一個中隊は、広間の制圧と中継基地の設置を確認した後、
ロンド・ベル隊が立ち入ることの出来ないハイヴの奥へと、進軍していくことになる。

A-01部隊にハイヴ制圧を託した事となった俺達は、まず始めに第一中隊から一個小隊、護衛のための人員を割き、
弾薬の枯渇した第三中隊を地上へと帰還させた。

そして、次に行った事は、第一中隊と合流した第二中隊を使っての広間(ホール)周辺と補給ラインの警戒だった。

その間、第三中隊はA-01部隊への補給物資を輸送するために、1km地点である広間(ホール)と地上を往復する事となった。

2時間に及んだハイヴ攻略戦の間、補給線と退路を確保し、次々と現れるA-01部隊に必要な補給物資を供給し続ける事に成功したロンド・ベル大隊は、
最終的に無事任務を完遂し、人的な被害を受ける事無く、貴重なハイヴ内での活動経験を得る事となった。

一方のA-01部隊だが、彼らが横浜ハイヴの反応炉制圧に成功したのか、ハイヴの奥で何を見たのか、
硬く口を閉ざした彼らが語る事は無く、こちらからはうかがい知る事が出来なかったのだった。








8月9日未明、国連軍司令部は建設されたハイヴの世界初となる占領を成功させた事を発表した。

そして、更に数日後、西日本のBETA占領地域を開放したことを伝えた国連軍司令部は、明星作戦の終結を宣言する事になる。

世界中の人がハイヴ攻略と人類の失地回復に沸き立つ中、その裏では一部のもの達が既に利権確保の為に動き出していた。

世界は、大きく動き出したのだ。

まず活発に動き出したのは、横浜ハイヴ攻略作戦中に当該地域の政府に承認を得ず、作戦開始前の通告すらなくG弾を使用した米国だった。

人類最大の戦力を有し、国連の安全保障理事会にて常任理事国でもある米国政府は、G弾の威力とBETAの活動停止現象を前面に出し、
G弾の使用が国連軍の指揮権を有していた米軍が采配出来る範囲のものだったとして、自らの正当性を主張していく事になる。

確かに、世界初のハイヴの完全攻略という成果はG弾によるものが多く、『G弾無しではG弾がもたらした被害以上の戦力をすりつぶさない限り、
ハイヴ攻略は成し得ない。』というのが中立的な軍関係者の意見だった。

G弾の成果の前には、日本帝国政府が主張するG弾投入経緯の倫理的問題点と、重力異常による植生異常の発生は封殺されるかのように見えた。

しかし、後にG弾の威力と効果範囲が理論値を大きく下回っていた事,BETAの活動停止現象を予見できていなかった事を、
米国が隠蔽していたという証拠が流布すると、世界の流れは大きく変化する事になる。

G弾の驚異的な威力を目撃し、自らが命の危機に直面した大東亜連合軍関係者を多く抱えるユーラシア各国ばかりではなく、
アフリカ諸国の一部でもG弾脅威論が噴出し始めたのだ。

それに対して、米国と米国を元々支持していた国々は、G弾の威力が実証されたとして、より強硬にG弾の使用を主張し始め、
G弾に対する積極的な発言を控えていたソ連は、同じく失地回復を狙う欧州連合との協調姿勢を見せていた。

人々の思想は、G弾容認派と否定派に大きく二つに分断され、安全保障理事会は日本帝国・大東亜連合(計5票,拒否権0),
米国・中国・オーストラリア・南アメリカ(計6,拒否権2),英国・フランスを含む欧州連合・ソ連(計6,拒否権3)をメインとする三つの勢力に分かれることになる。

その結果、7つの常任理事国と国際連合加盟国の中から総会で選ばれた10の非常任理事国(アジア2、アフリカ3、中南米2、西ヨーロッパ2、東ヨーロッパ1の配分)、
計17ヶ国から構成されている安全保障理事会は、意思決定の目安となる9つ以上の賛成票を容易に集める事が出来ない事態となっていたのだ。

誰もが世界の行く末を心配している中、国連軍司令部から新たな発表が行われる事となった。

その内容は、横浜ハイヴ跡地に国連軍基地の建設を決定し、米軍に即時撤退命令を下し鹵獲品の接収を禁止した、という二つのものだった。

これだけ聞けば、特に真新しい事は無い様にも思えるが、オルタネイティヴ計画を知る者にとっては、大きな衝撃をもたらす内容だった。

横浜ハイヴ跡地への国連軍基地建設と米軍への即時撤退命令は、安全保障理事会の議決を必要としない範囲で可能な国連軍司令部の力を使って、
米国が主導する第5計画を国連が退けた事を意味し、鹵獲品の接収禁止は米国がBETA由来の何かを入手した事を示していたのだ。

俺はこの決定に、積極的にG弾への発言をしないソ連・欧州連合の中にも、米国が強引に推進する第五予備計画に対するG弾脅威派が居る事を確信するに至った。

更にこの流れが、自らの計画に支障が無い事を確認した俺は、今後の身の振り方を考えることになる。

帝国軍の所属のままでは、ハイヴ攻略に参加する事自体が難しい事を痛感した俺は、国連へ移籍する時期を探り始めたのだった。








米国と国連を同一視する風潮のある帝国内において、国連軍への風当たりが日増しに強まる中、
俺は明星作戦の成果を報告するために、帝国軍技術廠を訪れていた。

俺が呼び出された独立試験部隊結果報告会は、帝国初のハイヴ内戦闘が聞けるという事もあり、
報告を聞く権限と時間がある者が根こそぎ集まったと言わんばかりに、狭い室内にひしめき合っていた。

この結果報告会で俺が行った報告内容は、下記のようになる。

1.混成大隊の火力の評価
 部隊の総合火力は、最大火力を有する鞍馬の比率をいかに高めるかが課題だった。
 近接格闘能力が低い鞍馬は、BETAに接近された時点でその能力が大きく制限されるため、
 防衛戦で遮蔽物の隠れるならまだしも、攻勢に出た場合には護衛が欠かせない。
 前線での鞍馬の護衛は、鞍馬と同数の護衛機に加え、部隊内に遊撃戦力を有する事で、飛躍的に護衛成功率が高まる事が分かった。
 したがって、現時点においては護衛機の補給を考えた場合、『通常の戦術機28機:鞍馬8機(3.5:1)』という比率が、
 最も遊撃部隊としてバランスが取れているという結果になった。
 この比率における部隊の火力は、瞬間的に通常の戦術機二個大隊を上回る事が、実践でも証明された。
 
2.遊撃戦力としての機動力評価
 混成部隊の機動力については、カタログスペック上では通常の第3世代機による戦術機部隊と同等ということだったが、
 実戦ではBETA群に飛び込んだ時、鞍馬がBETAの残骸を回避する為に、速度を落とさざるを得ない事態が度々発生した。
 これは、高速移動時の旋回能力が低いという鞍馬の特性が原因であり、機体の改造や衛士の技量では解決できない問題だった。
 そこで、鞍馬の護衛に必要な部隊を除いた機体で先行部隊を形成、鞍馬の通る道を事前に確保する事を試みた。
 その結果、障害物となる存在の多くを事前に認識できる事になった鞍馬は、最善の進攻ルートの選定に成功、
 混成部隊の機動力がデータ通りである事を証明するに至った。
 また、遊撃戦力として必要な機動力を有しているかの評価は、混成部隊の運用が実戦においても有効に機能していた事、
 航空機による輸送を除けば帝国軍内で最高クラスの機動力を有している事から、現段階の基準を満たしている事が分かる。
 
3.総合評価
 第3世代機戦術機(もしくは同等の機動力を有する機体)と鞍馬の混成部隊であれば、
 遊撃戦力として十分な火力・機動力を、大隊という戦力単位で有する事を証明した。
 ただし、この部隊を実戦で機能させるには、有機的な部隊連携が必要不可欠であり、
 大隊の中に専用の管制官を有する必要があることも分かっている。
 運用にかかるコストは、通常の部隊よりも高額になるが、それに見合う成果を残しており、
 対費用効果(コストパフォーマンス)を疑う余地はない。
 今後は、正面戦力と遊撃戦力の比率を検証し、それに見合った数の遊撃混成部隊の育成が望まれる。
 
4.その他(ハイヴ内戦闘)
 8月9日に行われた横浜ハイヴ攻略戦では、部隊が進入した門から1km地点までのBETAが活動を停止していた為、
 本格的なハイヴ内戦闘は行われなかった。
 ただし、1km地点までの道程で、ハイヴ内には帝国軍が予測した以上に、BETAが存在する事を確認することができた。
 その数のBETAが進攻を阻む為にハイヴ内各所から集まり、補給線を寸断する為に動く事を考えれば、
 現行の戦術機による横浜ハイヴ攻略で必要最低限のBETAを排除するとしても、
 2個連隊一会戦分の物資を全て有効に使う必要があったと予測される。


確定情報とそれを分析した結果のみとなった混戦大隊の報告内容は、盛り上がりに欠ける分、
誰もが納得せざるを得ない内容であり、混成大隊の評価について異論は少なかった。

したがって、この場の話の中心は、自然とハイヴ内戦闘へと移っていく事になる。

俺の試算した2個連隊一会戦分の物資とは、あくまで有効に使えた場合の話で、実際の戦闘と補給物資の運搬を考えれば、
横浜ハイヴの場合でも戦力が充足した戦術機甲部隊4個連隊が、ハイヴ内に突入しなければ攻略は難しかったと思われる。

パレオロゴス作戦(ヴォールクデータ)で、ソ連軍第43戦術機甲師団がミンクスハイヴ(H05:パレオロゴス作戦時,フェイズ3)に投入され、
最大到達深度511mmまでしか進めなかった事を考えると、4個連隊という戦力は戦術機の進化を含めたとしても、多すぎると言うほどではない。

しかし、この戦術機甲部隊4個連隊という戦力は、明星作戦に参加した帝国陸・海軍の戦術機総数の二割にも及び、
ハイヴ攻略にはBETAの陽動作戦が不可欠である事を考えれば、今後のハイヴ攻略でこの戦力を抽出する事は難しかった。

そこで、ロンド・ベル大隊がもたらしたこれらの情報を検討していく中で、報告会の参加者が注目したのが、
鞍馬・輸送装備の輸送能力とGAU-8 Avengerの火力だった。

ハイヴ内の輸送は、米国が使っている無人の多足歩行輸送機の輸送成功率と量を考えると、
戦術機に頼らざるを得ないというのが、帝国の考えである。

その考えで言うと、鞍馬・輸送装備が運べる物資積載量は魅力的だったのだ。

ただし、人命を考えれば、この選択は決してコストが安いとは言えなかったが・・・・・・。

また、ハイヴ内で鞍馬・迎撃装備やガトリングシールドを有した機体の火力は魅力的だが、
偽装縦坑・横坑からの奇襲を受けた場合は、その脆さを露呈する事が用意に想像できた。

やはり、これらの機体には護衛が必要なのだ。

この場で話し合われているどの着目点も、決して画期的と言えるほどの効果は無く、いずれの意見も現行の作戦の延長上にあるだけで、
発展性の無い意見だった。

極論を言えば、ハイヴ攻略の戦力を帝国が用意できるのか、その出血に耐え何個のハイヴが攻略できるか、という視点が抜けているのだ。

俺は、議論が白熱している事をいい事に、室内の喧騒とは離れて、自らの思考に落ちて行く事になる。

ハイヴ攻略に使う戦力が人類に無い以上、少ない戦力での攻略法を考えなければならない。

その為には、物資輸送の手間とそれの護衛に回す戦力を考えると、ハイヴ突入部隊への補給回数は可能な限り少なくする事が求められ、
補給線の維持を考えれば、作戦時間も短いほうが有利だと言う事が分かる。

つまり、ハイヴに突入する戦術機は、ハイヴ内での平均移動速度(アベレージスピード)を上げる必要がある、と言うのが俺の結論だった。

平均移動速度向上には、巡航速度向上はもちろんの事、複雑なハイヴ地下茎構造内を高速移動する為に、運動性を高める必要があり、
センサーの精度と情報処理能力を上げ、地下茎構造の早期把握と偽装縦坑・横坑・BETAの発見する事も重要となる。

やはり、現行のどの戦術機もハイヴ攻略に適しているとは言えないのだ。

自分の構想を再度検討し終わり周囲を見回すと、室内は次第に落ち着きを取り戻し始めていた。

その後、報告会は順調に進み、途中で非友好的な視線を隠そうとしない連中が、俺に対して国連軍へ協力した事を野次り、
自分の計画に基づき準備していたものが国連軍に使われる事になるとは考えもしなかったと、俺が苦笑混じりに話す場面があった以外、
特に波乱も無く閉会となったのだった。








独立試験部隊結果報告会の数日後、ロンド・ベル大隊に対して解散命令が下る。

この解散命令は、第13独立機甲試験大隊の目的であった、混成部隊による大隊規模の高機動遊撃戦力の有効性が実証された事で、
その役目を終えたとされた為の措置とされた。

また、企業側としても横浜ハイヴ攻略戦の様な大規模戦闘を、帝国軍が1年以上行わない可能性が高い事を知ると、
中隊規模で運用したほうが機動的に動けると考え、大隊の解散に賛成していた。

今後、高機動遊撃部隊の運用方法の確立は、教導隊に引き継がれる事となっていた。

しかし、ここで俺も想定していなかった事が起こる。

国連軍と帝国軍の双方が、元第13独立機甲試験大隊の隊員に対して、強力な引き抜き工作を開始したのだ。

独立試験部隊は活躍しすぎた上に、所属する衛士が帝国軍とは言え、機体・物資・整備士 等を提供しているのが企業側、
と言うのがこの様な争奪戦となった原因だった。

国連軍の香月博士ら第4計画派にとって独立試験部隊は、直接帝国軍から人材を引き抜くよりも、楽に有用な戦力を整えられる存在に見え、
帝国軍内の国連軍を疎ましく思っているグループと、目下の脅威が取り除かれ、戦力が枯渇状態にある中で、
完全に自由に動かせる訳ではない部隊を疎ましく思う派閥から見ると、独立試験部隊は不要な存在だったのだ。

いつの間にか、帝国軍内での独立試験部隊容認派は、少数勢力となっていたのだ。

この流れを見た俺は、今後独立試験部隊一つの規模が、中隊以上に拡大される事はなくなると考え、
混乱する隊員たちを説得して、完全に解体される前に自分から動き出す事を提案した。

これは、相手が配属先を決める前に自ら異動する事で、ある程度まとまったグループを維持する事が目的だった。

その後の話し合いの結果、元第13独立機甲試験大隊の隊員達は、4つのグループに分かれる事になる。

その内訳は、
旧第一・二中隊混成中隊:帝国軍技術廠所属の独立試験中隊として、今後も新型機の開発及び実践証明を続けるグループ。
旧第三中隊       :教導隊へ異動し、大隊規模の高機動遊撃戦力の研究を進めるグループ。
二個小隊        :帝国軍の各部隊に小隊長もしくは中隊長として赴任する者達。
一個小隊        :国連軍へ移籍するグループ。
と言うものとなった。

この時の俺は、帝国軍内で最低限やるべき事が終わっていないと考えていたため、国連軍行きを選択することは無かった。

そして、懸念事項だった国連軍への移籍組みは、一度共同作戦を行ったと言っても、隊員達の心は国連軍へとは向かっておらず、
予想以上に少ない参加者となっていた。

しかし、国連軍行きを希望した4名の衛士と整備士達は、香月博士が帝国政府へ打診し許可を得た、
国連軍所属の不知火を不知火改に改修する作業に先行する形で、4機の不知火改を持って行くという重要な任務を負っていたのだ。

この不知火改への改修とあわせて、A-01部隊の不知火運用データが入手できれば、帝国としても悪い条件ではなかった。

完全に散り散りになる事なく大隊を解散させた俺は、国連と帝国の間にある溝の深さを実感しつつ、
独立試験中隊の運営と新兵器開発に注力していく事になるのだった。






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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
GWの力の残滓と新たな資料を入手した事で上がったテンションを利用して書き進めていましたが、
どうやら今週はここまでのようです。
この勢いが何処まで続くのか、私にも分かりませんが、少しがんばって見たいと思います。

今回、ハイヴ内戦闘はサラッと流す予定だったのですが、原作キャラらしき人物の参戦を思いついたせいで、
横浜ハイヴ攻略とその評価までしか進みませんでした。
すみません。orz
また、原作において横浜ハイヴ内部で何が行われたのかは、想像する事しか出来ませんが、
第4計画派の実働部隊が第5計画派と横浜ハイヴ攻略競争を演じれたこの世界の流れは、
第4計画派にとってそれほど悪くない結果だと思います。

次回は、今度こそ新型戦術機の開発状況と今後の方針を決めるところまで、進めたいと思います。
感想板で書き込み下さった方、今しばらくお待ちください。




[16427] 第36話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:b29373f4
Date: 2011/07/11 21:25


第13独立機甲試験大隊解散による残務処理を終えた俺は、今後のスケジュールを煮詰める前に、
どうしても解消しておきたい懸案事項を解決する為に時間を設ける事にした。

その懸案事項とは、ひどく個人的で対BETA戦には関係の無い事柄、・・・・・・つまり俺の男女関係の話だった。

始めは直接の関係者だけが集まって、人気の無い場所で話し合おうとしたのだが、
真耶マヤ真那マナが帝都城から離れられないと言って、その提案には応じてくれなかった。

二人が一日の間抜けられないほど、斯衛軍の人材が欠乏している筈は無いのだが・・・・・・、
俺には分からない特殊な事情があるのだろうか?

俺が痺れを切らして、帝都城に乗り込み二人に面会する為の準備を始めていた所、漸く二人から連絡が入る。

どうやら二人は、帝都城内の一室で立会人を含めた話し合いを望んでいるようだった。

俺は深く考える事も無く、二人の提案に従って香具夜さんを連れ、帝都城へ向かった。

帝都城に到着した俺と香具夜さんは、表門からではなく警護の者や使用人が出入りする通称裏門に案内され、
そこから帝都城内の一室に通される事になる。

俺たちが通されたその部屋には、俯き暗い表情を見せる真耶マヤ真那マナ・・・・・・、それと政威大将軍 煌武院悠陽が居たのだった。









立会人が誰になるかを知らされていなかった俺は、一瞬怪訝な表情を表に出してしまう事になったが、
直ぐに表情を切り替え挨拶を行う。


「お久しぶりでございます、殿下。」


たとえ非公式の場といえども、何処に他人の目が有るかは分からない以上、不敬な態度をとる訳にはいかなかった。

周囲の気配を探りつつ挨拶を行った俺の動きに合わせて、香具夜さんも挨拶を続けた。


「お目にかかれて光栄です・・・、殿下。」


「信綱 様はお元気そうで何よりです。
 武田さんの方も、昔お会いした時とお変わり無い様で・・・・・・。
 
 堅苦しい挨拶はこの程度にしておきましょう。
 此度は公式な場では無いゆえ、普段通りに接してはくれぬでしょうか?」


悠陽の言葉を信じるなら、ある程度の配慮がされていると言う事なのだろう。

確かに、話し声を聞き取る事の出来る範囲に、人の気配は感じられなかった。

俺は緊張を解き軽くため息を付いた後、政威大将軍になる前の悠陽に接していた時と変わらない態度で言葉を発した。


「この部屋では、気兼ね無く話が出来る事は分かった。

 それはいいが・・・、何で立会人が悠陽なんだ?
 俺はてっきり小父(義父)さんでも呼ぶもんだと思っていたんだが・・・。」


俺はそう言った後、真耶マヤ真那マナの二人を見つめた。


「それは・・・・・・。」


俺のその疑問に対して、真那マナは何度かそう言って言葉を紡ぎ出そうとするが、失敗し俯いてしまう。

また、真耶マヤの方は、不安そうな表情で俺から目を逸らし、助けを求めるように悠陽へと視線を送っていた。

二人の様子を伺っていた俺だったが、どうにも話し合いが進まないと思い悠陽に視線を移すと、悠陽が俺の問いに対する答えを返してきた。


「信綱様・・・、お爺さま達では如何しても政治的な話になってしまいます。
 この場は、そう言った事を話し合いたいのでは無いのでしょう?」


「だが、そこで年下の悠陽を選ぶのは、どうかと思うんだが・・・。」


「こうみえても私は、何度か真耶マヤさん達から相談を受けた事があるのです。
 この場に立ち会う資格は十分にあります。

 それに小母さま達の中から一人を選ぶと、喧嘩になってしまいますもの・・・・・・。
 それとも信綱様は、4人の小母さま達に立ち会って頂いた方が良かったのでしょうか?」


「4人・・・か、男女比が1対7では歩が悪すぎる。」


悠陽が言う小母さまとは、真耶マヤ真那マナのそれぞれの母親、そして俺の母親の3人は決定のはずだ、
最後の一人は・・・・・・煌武院・・・ではなく武田の方だろうか?

兎も角、恋愛事に母親が来られては、バツが悪すぎる。

小首を傾げるという可愛らしい態度で恐ろしい事を提案してくる悠陽に、俺は戦慄を覚えながらも会話の軌道修正を図る。



「まあ、いいか。
 悠陽が迷惑じゃないなら、俺に不満は無い。
 
 ・・・・・・真耶マヤ真那マナ、直接会うのは久しぶりだね。」


「ええ。」


俺の言葉に返事をしたのは真那マナだけで、その声色にはまったく力がこもっていなかった。

多摩川防衛線での活動の間、直接会う機会はなかったが、電話で話をした時にはこうして二人が気落ちした態度を見せる事は無かったのだが・・・・・・。

今回の話し合いの内容を考えると、一方的に罵倒される事はあってもこういう態度を取られることは無いだろうと思っていた俺は、
内心の焦りと戸惑いに突き動かされるように、直ぐに本題を切り出すというあまり良い手段とは言えない行動をとってしまう。


「時間稼ぎも誤魔化しもしない。
 単刀直入に言おう。
 俺は・・・・・・浮気をした、まだぐっ・・・。 」


俺の発した言葉に反応して、暗い表情から一変し、眉を吊り上げた真那マナが放つ拳に対応する為、
俺は頭の中で考えていた言葉を話しきる事が出来なくなってしまった。

更に、真那マナの放った拳を受け流した俺は、身の危険を感じて間髪いれず、一歩後方へ後退する事になる。

次の瞬間、つい先ほどまで俺が居た空間には表情の消えた真耶マヤからの前蹴りが放たれていた。

ここから、逃げ道が制限される室内での二対一という戦いへと移っていく事になったが、小さく円を描くような足運びと受け流し技術を駆使する事で、
俺は壁際に追い込まれる事なく、均衡を保つ事に成功する。

彼女らの動きは、以前手合わせした時と違って直線的で狙いが分かり易く、一撃の重さを重視している上に、
斯衛軍が警護時に着用しているWD(War dress)着用していなのだろう、スピードの面でも対処できる範囲のものだった。

だが、彼女らの攻撃には手加減と言うものが欠落しおり、危機感を感じた俺は危険な攻撃を続ける二人に対して、思わず抗議の声を上げる事になった。


真那マナ真耶マヤ
 幾ら・・・なんでも・・・・・・、目突きや金的狙いは酷過ぎるぞ!」


俺はそう叫ぶと同時に、真那マナが放った拳に手を沿え、力のベクトルを逸らしつつ脚を払う事で、
真那マナを背後から迫る真耶マヤの方に放り投げた。

互いに接触して体勢を崩した真耶マヤ真那マナの隙を突いて距離を取った俺は、注意深く二人の出方をうかがう。

すると、膠着の間を埋めるように、二人から怒りの声が発せられた。


「性欲が有り余っているお前なら、それが半分に成ったとしても問題無い!」


真那マナの言うとおりだ・・・、ついでに目を潰せば他の女に目移りしなくなる・・・・・・。」


「お前ら・・・・・・。」


二人が発した言葉に一瞬怒りを覚えるも、二人の表情を見た瞬間俺は、何も言えなくなってしまう。

真那マナは、目に涙を浮かべてこちらを睨み付けており、真耶マヤは無表情を装いつつもその目は悲しみに暮れている事に気が付いてしまったのだ。

その様子に呆然とする事になった俺の視界の端に、心配そうにこちらを見つめる悠陽と、下を向いて体を緊張させている香具夜さんの様子が映りこんでくる。

そして、一瞬の沈黙状態が訪れた室内に、緊張した声色の声が響く。

この時俺は、好きな人たちを傷つけてしまった己の行いに言葉を失い、二人に対する謝罪の言葉を香具夜さんに言わせてしまう事になった。


「二人とも、すまない。
 ワシはお主らが婚約者と成った事を知っても、己の心を止められなかった・・・。
 
 じゃが、信綱はワシに何もしておらん!
 怨むなら・・・ワシを怨むのじゃ・・・・・・。」


香具夜さんは、己の服の裾を振るえる両手で握り締めながら、そう言葉を紡ぐ。

その声を聞いて一瞬体を振るわせた真耶マヤ真那マナは、俺に対する構えを解き搾り出すような声で、俺に問いかけてくる。


「・・・・・・信綱、私達では駄目だったのか?」


「・・・・・・私達を捨てるのか?」


香具夜さんの気丈に振舞おうとする様な声で冷静さを取り戻した俺は、真那マナの悲しげな声に彼女らの痛みを感じ、
真耶マヤの寂しげな声で、己の不明に気付かされた。

俺は、問題の内容や言い訳をする前に、始めに大前提を話し、ここに居る皆を安心させる必要があったのだ。

そう思った瞬間、恥ずかしいと感じる感情が一色の感情で塗り潰された俺は、身体の命じるままに自分の気持ちを大声で叫んでいた。


真耶マヤ、愛してるぞ!
 真那マナ、大好きだ!
 香具夜さん、結婚を前提にお付き合いしてください!
 
 俺は・・・、お前達と生涯を・・・・・・共にしたいんだ!!」


今までの人生で、最大級の雄叫びを上げた俺は、言い終えた瞬間から悶えそうになる気持ちを抑え、思いを届けた人たちへ視線を送った。

俺の突然の大声に驚いたのか、キョトンとした表情を浮かべていた三人だったが、次第に言葉の意味を理解するにつれて、頬を赤らめる事になる。

俺は己の顔も赤くなっている事を感じながらも、彼女らの様子から悲観的な思考から開放されと考え、話しを元の軌道へと戻していった。


真耶マヤ真那マナが駄目なんて事は無いし、
 俺の方から二人の前から立ち去る事も無い。
 
 常識で考えるなら一人の女性を愛するものだが・・・、俺は自分の心の弱さに負けた。
 更に・・・、戦場で誓い合った人以外の温もりが欲しくなってしまったんだ・・・・・・。
 そして、これからの日常でも3人の温もりが欲しいと思っている。
 
 本当に我ながら、度し難い人間性だ・・・。
 愛想を尽かされても、文句は言えない。」
 
 
俺がそう話すと、いち早く思考を取り戻した真耶マヤが返事を返してくる。


「私と真耶マヤは、半年前の件で愛想を尽かされたのかと考えていた・・・。
 信綱が大陸に居た時より距離は近くなったはずなのに、お前は直接会いに来ないし・・・・・・。」


確かに互いに忙しかった為、直接会う機会はなかったが、それでここまで不安に思わせていたとは考えてもいなかった。

いや、俺自身も不安に思った事が無いと言えば嘘になる・・・、彼女らがそうなっても不思議では無いのかもしれない。

この場面で、『少しは会いたいと言ってくれれば・・・』等と言う事が、流石の俺でもマナー違反だという事が分かったので、
俺は言葉ではなく今度は行動で気持ちを伝えることにした。

真那マナ真耶マヤの傍まで無造作に近づいた俺は、次に香具夜さんを手招きで呼び寄せた。

そして、俺が何をしたいのか分からないという表情の三人の頭を、包むように両腕で抱きしめた。

すると、先ほどまでのギスギスした空気から打って変わって、部屋にはゆったりとした時間が流れることになる。

俺が三人を抱きしめ始めてから体感で5分ほどたった時、今の体勢が恥ずかしくなったのか、暑苦しくなったのかは分からないが、
三人は俺の腕から逃れるかのように体を小さく動かし始めた。

俺としては、もう少し抱きしめていたかったという思いもあり、抱擁から開放する条件を三人に提示する事にした。


「なあ・・・、抱きしめるのをやめる代わりに・・・・・・、キスしてもいいか?」


俺の出した条件への返事は・・・・・・、腰の回転を生かした3発のゼロインチパンチ、しかも下腹・みぞおち・肝臓への同時攻撃というおまけ付だった。


「「「馬鹿! 悠陽様(殿下)の前でその様な!!」」」


「このタイミングでこれか・・・・・・。
 認めたくないのもだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを。」


完全な不意打ちを受けることになった俺は、現状を把握し切れず馬鹿な事を言ってしまった格好悪さを誤魔化す為に、
それと無く格好よさそうな台詞を呟きつつ、床へと崩れ落ちる事になった。

その後三人は、俺の事を放置してヒソヒソ話を始める事になる。

この時、床に崩れ落ちていた俺は楽しそうな表情を浮かべる悠陽に、膝枕で介抱されていた。

苦痛が和らぎ己の状況を再確認した俺は、悠陽の行動と『真那マナさん達に、念の為WD(War dress)を脱いでおくように言ったのは私です。褒めて下さい。』
という台詞に少し困惑する事になり、苦笑を浮かべて時間を過ごす事しかできなかった。

そうしている間に、三人の話し合いが一区切りしたのか、ある条件が提示される事になる。

それは、三人を平等に愛する事と定期的に会う時間を設けるというものだった。

どうやら真耶マヤ真那マナは、俺と香具夜さんの関係を受け入れる事にしたらしい。

ただし、これから本当の意味で許させるかは、俺の努力しだいと言った所だろうか。

俺はこの後より、ロンド・ベル中隊 隊長として忙しい日々を送ることになったが、帝都周辺で活動している間は御剣の実家に帰って寝泊りをする事になり、
御剣家にはその日に時間の有る人が訪れる事が日常と成って行く。

そして、なぜか今回の仲裁の報酬として、定期的に帝都場内で悠陽らとの食事会が催される事になる。

この時の俺は、これらの行動がどのような結果をもたらす事になるのか、考える事もしなかったのだった。








この日の俺は、帝国軍技術廠内で行われた新型戦術機開発計画の報告会に出席した後、ある人物と今後の事について相談したい事があった為、
技術廠内の一室に侵入し、相手が来るまでの間仮眠を取っていた。

そして、この部屋の主が入室してくる気配を感じた俺は、時計を見て15分ほど仮眠が取れた事に満足すると、ソファーから立ち上がり敬礼を行う。


「お久しぶりです。巌谷中佐。」


「久しぶりだな御剣少佐、先ほどの報告会はご苦労だった。」


そう言って、巌谷中佐は俺に対して答礼を行った。

先ほどの報告会に参加していた者は、民間人を除くと少佐である俺と巌谷中佐が、最も階級の低いグループに属しており、
気苦労の多い会議で会った事には間違いない。

ただし、戦術機開発に関する多くの実績を残し、明星作戦においても前線部隊の指揮を行っていた二人の意見は貴重で、
会議中に無視される事は無かった為、決して不快に感じるようなものではなかった。


「それで、何の様だ・・・御剣少佐。
 貴官が私を話しに誘う時は、いつも面倒ごとばかりだ。」


「すみません。
 戦い以外の事を話せるのはいつの事になるのか・・・・・・。」


俺は苦笑と共に軽いため息を出した後、真剣な表情に切り替え、国連軍への移籍についての相談を行う事になる。

そして、俺の話を聞き終えた巌谷中佐は、眉間に深い皺を造ることになった。


「貴官が国連へ映ろうと考える意味、理解できない訳ではないが・・・・・・、
 帝国にとって損失が大きすぎる。」
 
 
「一介の少佐に対して、過分なお言葉ありがとうございます。
 
 しかし、ロールアウト直後の戦術機の初期トラブルを潰して、安定させる能力が飛びぬけている事は認めますが、
 開発を軌道に乗せてしまえば俺は必要なくなるでしょう。」


「少なくとも帝国は、新型戦術機開発計画が軌道に乗るまで、貴官を手放す事は考えられんな・・・。」


俺は巌谷中佐の発言を受けて、先ほどまで行われて新型戦術機開発計画の報告会での出来事を思い起こすことになった。

新型戦術機開発計画とは、1993年に斯衛軍が制式機として不知火壱型乙を採用した事で、『マブラヴ』の世界で2000年に採用され活躍した、
斯衛軍制式機『武御雷』が登場しなくなる可能性に気が付いた俺が、密かに御剣重工内で開発を進めていた計画が基となって始まった計画である。

その計画の本来の中身は、『マブラヴ』の武御雷のような、コストを度外視して機体性能を高めた戦術機を開発し、
第4計画の成功確率を高めようというものだったが、いくら俺でもコストを度外視した物を開発しろと、企業である御剣重工に言うことは出来なかった。

そこで考え出されたのが、今の計画である『ハイヴ攻略用戦術機の開発』だった。

人類が未だ成し得ていない通常兵器によるハイヴ攻略に成功すれば、その成果・利益は計り知れない。

俺は、人類の悲願を掲げる事でコストではなく投資だと言い切り、計画を始めたのだ。

しかし、その計画も決して順調とは言えるものではなかった。

帝国から来る様々な開発案件によって資金と人的資源を奪われた事で、基礎技術の習熟は進む事になったが、
肝心の機体設計に遅れが生じたのだ。

更に、起死回生の策としてYF-23『ブラックウィドウⅡ』を入手する事に成功するも、
大陸での実戦経験を得た俺は、YF-23の設計思想を流用し『擬似・武御雷』を作る事に疑問を持ってしまう事になる。

現行の計画を推し進める事に不安を感じた俺は、新型戦術機開発に予算が取られている事に不満を持つ人間をたきつけ、
大陸からの帰還後の1998年にYF-23の研究結果報告と合わせて、この計画の情報を他の企業が入手するように仕向けた。

この計画を嗅ぎ付けた他の企業グループは、帝国政府に計画を暴露すると同時に、資金を得るための手段として正式な開発計画を打診、
その結果、富嶽重工,河崎重工を核とする第壱グループと御剣重工,光菱重工を核とする第弐グループによる開発競争をする事になったのだ。

明星作戦後初となったこの報告会は、米国のG弾使用の影響によってハイヴ攻略用戦術機に注目が集まっている事と、
帝国軍だけでなくスポンサーの一つになる可能性が高い城内省と斯衛軍からも出席者がいた事もあり、異常な緊張に包まれる事になったのだ。



始めに報告を行ったのは、第壱グループのプロジェクトコードネーム:『武御雷タケミカヅチ』だった。

ハイヴ攻略用コンセプト第三世代戦術機『武御雷』は、富嶽重工と河崎重工がYF-23の解析結果と不知火弐型の開発データを基に開発した機体で、
提出された資料を見る限り、一年と少しという開発期間の関係で、基礎フレームには不知火弐型の物が使用されているようだった。

ただし、不知火,不知火壱型乙,不知火弐型という兵器開発の流れが、技術の流用を容易にした事を考えると、
御剣重工と同様に水面下で研究が行われていた可能性が高かった。

その結果として、機体の完成度は非常に高く、2000年に先行量産型生産開始というスケジュールまで、提出されていたのだ。

下記に、試作型武御雷の仕様をまとめる。

全高:
19.4m
この全高は、92式戦術歩行戦闘機『不知火』の19.7mとほぼ同じである。

装甲:
空力特性の更なる向上を目指して、装甲形状のほぼ全てが見直され、特徴的な烏帽子のような前頭部大型センサーマストや、
流線型を多用した装甲が取り入れられる事になった。
ただし、近接格闘能力を向上させる為にBETAと接触する可能性が高い部位には、カーボンブレードエッジ装甲が積極的に使われた結果、
一部には鋭角の装甲が採用されている。

機動力:
主機・跳躍ユニットはライトチューンが施された程度で、極端に出力を上げることは無かったが、
装甲形状の見直しと軽量化により、懸架重量が増したにも拘らず、最高速度・巡航速度共に上昇している。

運動性:
装甲形状の見直しによる空力特性の改善と、腰部装甲ブロックの小型推力偏向スラスター及び、
複数の噴出口を持つ肩部大型推力偏向スラスターの配置を見直す事で、大幅な改善を確認。
その結果、運動性向上の為に大型化されていたナイフシースを排除する事で、機動力向上へ力を振り分けることになった。
また、肩部の大型推力偏向スラスターが、跳躍ユニットの補助としての役割を果たし、跳躍ユニット一基での跳躍を可能とする点に変更は無い。

懸架重量:
両肩部2基と背部2基の合計4基のメインハードポイント,腰部に小型可動兵装担架システムを有し、国産機では最大の懸架重量を誇る機体となった。

脚部:
脚力は弐型の30%増しとなっているが、脚部のサイズは一見不知火弐型と変わらないように見える。
これは、内部構造に沿うように形作られた装甲による成果である。
また、接地面圧を上げる為に靴型の足から2本の爪の様な形状となった。

稼働時間:
脚部の強化と機体の軽量化により主脚走行速度が向上した事で、戦闘中の主脚走行時間の割合を増やすことに成功、
結果的に弐型と比べて連続稼働時間を20%増やす事にとなった。
また、弐型に使われたドロップタンクの装備が可能であるため、連続稼働時間の更なる向上が可能である。

近接格闘能力:
ナイフシース部のカーボンブレードは排除される事になったが、前腕外側部に内蔵する飛び出し式カーボンブレードを大型化し、
高周波発生装置を搭載した事に加え、機体各部にブレードエッジ装甲を施した事で、弐型と比べても大幅に近接格闘能力が向上している。
腕部ナイフシースの廃止に併せて、ナイフシースは吹雪で実績の有る脇腹部へ変更されている。

管制ユニット:
98式管制ユニット(EXAMシステムver.2)の性能を最大限に引き出すため、戦術機の通常戦闘によるデータと搭乗制限を限定解除するフラッシュモードのデータを検証し、
機体と衛士が許す限り最大の反応速度と加速度と成るように設定がされた。
事実上、高レベルの衛士適正を持つものしか、戦闘機動が行えない機体となった。

電子装備(アビオニクス)の強化:
烏帽子のような前頭部大型センサーマストの採用により、不知火弐型よりも索敵・通信能力は向上している。

コスト:
メインフレーム,主機,跳躍ユニット,電子装備(アビオニクス)は、不知火弐型のものを流用しているが、
装甲形状,部品配置,部品精度が異なる事から、パーツ共有率は40%に止まった。
したがって、その調達コストは不知火の2倍(不知火弐型の1.7倍)となり、運用にはきめ細かな整備が必要であることから、
運用コストは不知火の3倍になると試算されている。

武御雷は、弐型よりも積載重量と連続稼働時間が増加させた上に、軽量化に成功しているなど、開発者の意地が窺い知れる機体で、
その洗練されたフォルムからは、色気すら感じられ、見たものの多くが息を呑んだ。

俺は劣化していた記憶が鮮明に蘇るような感覚に、思わず『これが武御雷だよな』と、思いを吐露してしまう事になる。



次の報告は、第弐グループのプロジェクトコードネーム:『八咫烏ヤタガラス』だった。

ハイヴ攻略用コンセプト第三世代戦術機『八咫烏』は、御剣重工と光菱重工が今までの戦術機開発の経験を全て、
ハイヴ攻略という命題に集め開発した機体である。

御剣重工は1996年末頃から水面下で、従来からの戦術を採用したハイヴ攻略用戦術機の本体設計を始めていた。

この当時のメイン計画は、YF-23 ブラックウィドウⅡの解析結果を反映する計画だったのだが、
高い機動力を持つ戦術機部隊単独でハイヴを攻略という戦術が採用された結果、
その運用思想に近いサブ計画であった元遠田技研出身の技術者が中心となって設計していた小型超高機動戦術機が、メイン計画に昇格する事になった。

この計画は、世代を跨ぐ毎に大型化の一途を辿っていた戦術機開発のトレンドに逆行する異端とも思えるモノであり、
買収までしてYF-23の入手に動いた御剣重工が、最終的にブラックウィドウⅡのコンセプトを捨て、他のグループが参考とした事は、皮肉と言うより他無かった。

この開発計画の変更による遅延を取り戻しきれなかった第弐グループの開発計画は、先行量産型生産のスケジュールが武御雷よりも1年遅い2001年となっている。

下記に、試作型八咫烏の仕様をまとめる。

全高:
15.8m
この全高を見ると、77式戦術歩行戦闘機『撃震』が17.1mよりも大幅に小型化されたことが分かる。
また、92式戦術歩行戦闘機『不知火』より4m近く全高の低い八咫烏は、もし制式採用されれば世界最小,最軽量の戦術機となる。

装甲:
空力特性が最優先された結果、センサーマストの極小化,肩部装甲の小型化,ナイフシースの廃止が行われ、
各関節部には凹凸が無いように稼動装甲が施された事で、空力制御用のフィン以外の突起は最小限に抑えられた装甲形状となった。
また、カーボンブレードエッジ装甲は、不知火弐型で採用された部位以外への追加は見送られている。
ただし、ハイヴ地下茎構造内での高速移動を考えた場合、壁面やBETAと接触する可能性が高い事から、
機体の防御性能を犠牲にするという選択肢は採用しなかった。

機動力:
小型の機体にも係わらず、主機は不知火弐型に使用された物と同じ性能が要求され、
素材変更による効果もあり、性能をほとんど落とす事無く主機は機体に収められた。
また跳躍ユニットは、小型化と燃費が優先され結果、メインフレームとの比率的には大型化し、最大出力が15%低下したものの、
機体軽量化の効果が大きいため、その重量推力比は現行の戦術機を圧倒している。
肩部小型推力偏向スラスターと脹脛(ふくらはぎ)部に装備された推力偏向スラスターを駆使する事で、
八咫烏は巡航時に長距離噴射跳躍では無く、長距離飛行での運用が容易となっている。

運動性:
機体の軽量化と腰部小型推力偏向スラスター,肩部複列小型推力偏向スラスター及び、脹脛部推力偏向スラスターを搭載した上に、
手足の角度を調整する事で空力特性を大きく変えるという特殊な姿勢制御を行うことで、驚異的な運動性が達成された。
これにより、ハイヴ内での高速巡航移動が可能とされている。
ただし、この特殊な姿勢制御による機動は、八咫烏が巡航時両手に武装を持たないことを前提としている。

懸架重量:
背部に3基のメインハードポイントを有しているが、帝国軍機の標準になりつつあった腰部の小型可動兵装担架システムは廃止された。
また、運用思想とは異なるが、手腕にも装備を行い出撃する事は可能である事から、不知火と同等以上の懸架重量は確保されている。

脚部:
機体が小型化されたにも係わらず、不知火弐型と同等の強度とパワーが確保されている。
足先は、鳥のように前に3本、後ろに1本の指を有する形状になっている。

稼働時間:
八咫烏は、フェイズ3ハイヴの反応炉まで無補給で到達し破壊後、帰還する事がコンセプトに組み込まれている為に、
跳躍ユニットを多用する事を前提としていながら、不知火弐型と同等の連続稼働時間が確保されている。
また、フェイズ3以降のハイヴ対策として、臀部に尻尾のように装備する事ができる専用のドロップタンクが計画されている。

近接格闘能力:
脛部・膝・足の甲・足先の外装にスーパーカーボン製ブレード、前腕外側部に内蔵する飛び出し式カーボン高周波ブレードを搭載した事で、
弐型と遜色無い近接格闘能力を有している。
腕部ナイフシースの廃止に併せて、ナイフシースは吹雪同様に脇腹部へ変更されている。

管制ユニット:
98式管制ユニット(EXAMシステムver.2)の性能を最大限に引き出すため、戦術機の通常戦闘によるデータと搭乗制限を限定解除するフラッシュモードのデータを検証し、
機体と人類の限界に挑んだ設定がされている。
事実上、最高クラスの衛士適正を持つものしか戦闘機動が行えない機体となった。

電子装備(アビオニクス)の強化:
機体の反応速度と情報処理能力の向上を目指した結果、腰部にサブ情報処理装置が搭載されることになった。
このサブ情報処理装置の採用により、小型可動兵装担架システムは廃止されている。

専用武装:
反応炉破壊用S11バズーカ砲(装弾数5発),XAMWS-24B 試作新概念突撃砲改良型(防風カバー付),XCIWS-2C 試作近接戦闘長刀改良型の開発。

コスト:
ほぼ全てのパーツ及び武装が新規開発部品であるため、量産したとしても生産コストは不知火の4倍(武御雷の2倍)になる。
また、運用に専属に教育された整備部隊が必要である事から、運用コストは不知火の6倍になると試算されている。

八咫烏は、ハイヴ攻略のみが考えられた機体と言えるモノで、汎用性を捨て去った分、限定された空間での戦闘では、
世界最高峰の機体性能を有する事になった。

そして、空力を最優先させた飾り気の無いその意匠は、武御雷よりもさっぱりとしている為、
不知火に対する吹雪の様に、如何しても地味な印象を受けてしまい、あまり一般受けしそうに無かったが、
装甲の細部に渡って複雑な曲線を描く部分がある事を確認した一部の将校には、受け入れられた様子だった。








「誰が評したのかは忘れましたが・・・、『侍 対 忍』でしたっけ?」


「ん? 
 あぁ、武御雷と八咫烏との比較の事か・・・、言い得て妙だな。」


どちらが侍でどちらが忍かと言う事は、誰の目から見ても明らかなので、ここでの説明は省くとして、
新型戦術機開発計画が軌道に乗るまで、俺が帝国を離れられると困ると巌谷中佐が言ったのは、各機の仕様説明の後に起こった事が原因だった。


「まさか御剣以外の企業が、俺をテストパイロットに指定してくるなんて、考えてもいませんでした。」


なんと、第壱グループと第弐グループの両方が、メインテストパイロットとして、俺を指名してきたのだ。

俺が、純粋にハイヴ戦闘経験を高く評価してくれているのかもしれないと呟くと、巌谷中佐は苦笑した後に、
YF-23の情報提供の正確さと誠実さが高く評価された結果だと言って来た。

どうやら、巌谷中佐には第壱グループのテストパイロット指名に関する情報が入ってきていたようだ。

俺としては、小さい頃から戦術機開発に携わり、様々な機構や素材を使った経験から導き出された考察を伝えているだけで、
専門的な知識を豊富に持っていると言う訳ではない。

それなのにも係わらず、帝国軍にエースパイロットは多く居ても、テストパイロットとして機体の性能限界を引き出す能力、
機体特性を一般衛士向けに調整できる能力、工学知識に基づいて正確に助言が出来る能力を、高い次元で持っている数少ない衛士の一人として見られていた事に、
俺は戸惑いを隠せないでいた。


「この話は、帝国軍と企業がいかに君を信頼し、期待を抱いているかを示すものだ。

 しかし・・・、新型戦術機の性能に文句は無いが、あのコストと要求衛士適正の高さは問題だな。」


「まあ・・・、現時点であの性能を出すには、斯衛のRタイプ(紫もしくは蒼)の生産に匹敵する手間と、
 最高クラスの衛士が必要という事です。

 ただ、私の試算ですがフェイズ3のハイヴ突入部隊を全て武御雷もしくは八咫烏とした場合、
 武御雷は1個連隊(108機)、八咫烏は2個中隊(24機)での攻略が可能だと考えています。
 これなら、通常の戦術機甲部隊4個連隊(432機)を投入するよりも、コストパフォーマンスの点で有利です。
 
 それに・・・、人的被害も少なくなる筈です。」


巌谷中佐が何気なく話題を変えた一言に反応して、俺が発した言葉によって室内に一瞬の沈黙が訪れる。

BETAの本土侵攻から明星作戦終了までの約13ヶ月の間に帝国が被った人的被害は、軍人・民間人合わせて2600万人(総人口の約21%)を超え、
日本人は1967年以来初となる人口一億人割れを経験する破目となっていたのだ。

しかも、1991年の大陸派兵決定以来人口の偏在化が進んだ事と世界的な食糧難もあり、人口は自然減の方向にすら傾く始末である。

その中で、人的被害を減らす事が出来るという事は、有る意味最大のコストダウンとも言えるのだ。

また、武御雷と八咫烏が要求する衛士適正は恐ろしく高くなってはいるが、武御雷で帝国衛士の上位10%、八咫烏で2%衛士という試算が確かなら、
帝国(明星作戦前の戦術機:約5000機)には武御雷に乗れる衛士が500人(約5個連隊分)、八咫烏に乗れる衛士が100人(約8個中隊分)いる事になる。

今後の開発で習熟していけばハードルを下げる事が可能である事を考えると、運用が不可能と言う数字ではなかった。


「・・・今回の新型戦術機開発計画で、制式採用される事になるのは、おそらく武御雷の方です。
 残念ながら、ハイヴ攻略戦以外の戦闘でも対応しやすい武御雷に比べて、
 八咫烏をそれ以外の用途で使うには、コストパフォーマンスが悪すぎました。」


八咫烏は、武御雷と比べて火力と戦闘継続能力で劣る為、地上での対BETA戦が得意とは言えない機体である。

尤も、対戦術機戦なら有効に機能すると考えられていたが、帝国にそちらを意識する余裕は無かった。

精鋭部隊の強化を選択するなら武御雷、ハイヴ攻略のみを考えた部隊を作るなら八咫烏と言った所だろうか。


「残念ながらと言いながらも・・・、全く悔しそうに見えないのは気のせいかな?」


「分かりますか?
 私は八咫烏のコンセプトが間違いだとは思っていません。
 ハイヴ攻略へのより強い意思を持ち、多くの人材が集まる場所なら、採用される可能性が高いと確信していますので・・・。」


確かに、武御雷に敗北する可能性が高いが、俺もここで開発を終わらせる気は、さらさら無かった。

実機試験の結果が出る半年後までに、両機の更なる改良を行い、成果を上げることが出来れば、
八咫烏の方は帝国の実情には合わないが、世界にとっては必要な機体となる筈である。

また、その後なら俺は自由に動けるようになるのだ。


「その意味も含めて、国連軍と言う訳か・・・・・・。
 
 残念だ、新型戦術機開発が軌道に乗った後は、こちらを任そうと考えていたのだが。」


巌谷中佐は、決意を変えない俺の様子にため息をついた後、俺に書類の目録を差し出した。

そこには、『瑞鶴の高機動・高火力化の検証』,『斯衛軍の不知火弐型採用の検討』,『量産型電磁投射式速射機関砲(レールガン)の開発』,
『吹雪強化型海軍仕様機の開発』,『不知火弐型追加装備の検証』,『吹雪の世界標準機化の可能性(プロミネンス計画第二弾)』等々、
これでもかというほど多くの開発案件が並べられていた。

全ての案件を知っていたわけではなかったが、8割がた何らかの意見報告書を提出した事がある案件だった。


「巌谷中佐、これは何です?
 もしかして、これ全てを俺にやれと言うんですか?」
 
 
俺の言葉からは、敬意と言うものがすっぽりと無くなってしまっていた。


「全てと言うわけではないが、貴官にその何割かはまとめて欲しいと考えていたものだ。
 帝国軍内では、貴官の戦闘能力と指揮能力に目が行くようだが、技術廠内では先見性と開発力、発信力の方も評価しているのだよ。
 
 ・・・・・・まあ、信綱君の実家から協力を引き出せれば予算も浮くからな。」
 
 
気のせいか、最後に言った台詞が、主な意見のように思えてきてしまう。


「だが、君は有名になりすぎたのだ・・・・・・国連軍への移籍をよく思わない者も多くなるはずだ。
 特にG弾使用の経緯と、人間の生殖機能に影響がある可能性が高い残滓が残るとなると、最悪な流れだ。
 
 自らの意思で異動したと思われると、いらぬ誤解を生み、争いの種になるかもしれない。」


俺は、その言葉で改めて自分の重要性に気が付かされる事になる。

巌谷中佐は、言葉の後に静かに『瑞鶴の高機動・高火力化の検証』という部分を指差した後、
『吹雪の世界標準機化の可能性(プロミネンス計画第二弾)』を指差した。

そして、その後ならば自然に国連軍へ移ることが可能だと言うのだった。




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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
一ヶ月ぶりの更新となりました。
毎度お待たせして、すみません。

今回は、最も時間を掛けて考えた恋愛関係の話と、武御雷と八咫烏の対比という話となりました。
前者の話については、3回ほど書いたり消したりしてひねり出した内容です。
現時点の私のふやけた脳では、この程度が精一杯でした。
また、この話で再び巌谷中佐を登場させました。
主人公と戦術機談義が出来る人が、この方しか居ないので、仕方ないですよね・・・・・・、たぶん。
ついでに、重要な助言もしていただきました。

ちなみに新型戦術機について、武御雷のOSを除いた機体性能は原作のF型相当とし、
バリエーションを増やさないなら、年間60機程度の生産が出来ないかと考えています。
八咫烏につきましては・・・・・・、ここで書くのは卑怯かも知れませんが、
原作武御雷Cタイプと吹雪を足した様な形と考えて頂ければと思います。(汗

次回は、上手く行けば第一部完となるかもしれません。
今後も、原作突入に向けてがんばっていきますので、よろしくお願いいたします。

P.S.
クロニクル02の中に、斯衛軍衛士育成学校の士官候補生が、卒業予定者に課せられる海外視察研修で、
ヨーロッパに行くという話があるらしいです。
この作品と大きく設定が違っていそうな予感がします・・・なんてこった。/(^o^)\
クロニクル02・・・・・・、買ったほうが良いのか!?
とりあえず明日は、漸くシュヴァルツェスマーケンを読み始める事にします。



[16427] 第37話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:b29373f4
Date: 2011/08/15 13:46


1999年9月

俺が国連軍へ移籍した場合に生じる帝国軍内への悪影響を懸念する巌谷中佐が俺に示した案、
それは斯衛軍主導の開発計画に携わる事で帝国への貢献をアピールした後、国連軍と帝国軍の共同プロジェクトへ参加、
国連軍へ移籍という3ステップを踏むというものだった。

その場は検討する時間が無かった事もあり、企画書の内容を吟味して方針を決めると返すに留め、俺はその話を持ち帰る事にした。

企画書を読むと、どちらの案件も前段階は有意義な内容・・・だったのだが、俺はその計画案を読み進めて行くにつれて、
書類を預かった事すら後悔する事になる。

第一ステップである『瑞鶴の高機動・高火力化の検証』とは、瑞鶴を鞍馬型(四脚歩行型)に改修する事で機体の延命を図るというもので、
俺が把握している限りでこの案件は、

①烈震の登場によりほぼ全ての面において劣る事になった瑞鶴を、これ以上現行のまま長期運用する事は難しいと考えた斯衛軍が、
  城内省に瑞鶴の大幅な改修か新型機の早期導入を促す動きを見せている。
②それ自体で完結した作戦遂行の力を持つという斯衛軍の運用思想上、鞍馬のような高機動・高火力戦術機を一定数以上保有すべきという意見が、
  斯衛軍内で高まっている。
③斯衛軍は本土防衛戦・明星作戦と続いた戦力の喪失に喘ぐ帝国軍から、早期に正面戦力を整える案として、
  不知火弐型の配備優先権を斯衛軍へ譲渡する事と予算を引き換えに、衛士付で不知火・壱型乙 一個連隊の譲渡を打診されている。
  不知火・壱型乙は、調達・運用コストにおいてほぼ等しい性能を持つ不知火弐型に劣る事から、
  斯衛軍としては不知火弐型への切り替えを行いたいとしているが、不知火弐型の戦力化までに低下する戦力を懸念する意見がある。
  ただし、城内省は現行の調達計画を継続したいとしており、その点で斯衛軍とは会見が異なっている。
④帝国軍から配備優先権を獲得し不知火弐型の制式採用を決めた場合、1999年度は20機程度だがそれ以降は年90機程度の調達が可能で、
  2003年には移行が完了する計画が有力であるが、更に帝国軍との交渉を有利に進める為の手札としても、瑞鶴の改修計画が支持を受けている。
  現行の不知火・壱型乙の場合では、年40機の生産で2004年に完全移行する計画だが、長期運用を考えると維持コストが問題となっていた。

といった斯衛軍の内部事情が関係している事が分かっている。

もちろん、このような動きに対しての反対意見が無い訳ではないが、城内省の予算配分に意見を挟める斯衛軍上層部は、
瑞鶴の高機動・高火力化計画に乗り気のようである。

これだけなら、量産・整備・補給の観点からこれ以上戦術機の機種を増やしたくない俺としても、通常の鞍馬よりも烈震の部品割合を上げ、
装甲の一部と頭部に瑞鶴の物を使った機体を作る位なら、開発期間も量産コストも掛からないので、良いかとも考えた。

だが、機体の仕様に単座,高い近接格闘能力という部分を書かれている事が分かると、状況は一変する。

鞍馬が現行で複座のみとなっているのは、四脚歩行型の機体では間接思考制御による姿勢制御の比率を上げられなかった事で煩雑になった操作を、
二人に分散する事で衛士にかかる負荷を軽減する為である。

そして、近接格闘能力の向上については、直感的に動ける分単座の方が有利ではあるが、四脚歩行型の機体で近接格闘戦に有用な機動を行おうとすると、
殺人的に複雑な操作が必要となってしまうのだ。

したがって、これらの用件を満たすには機体の操作を大幅に簡略化する事が必要不可欠で、
それこそ『コンボ』機能を有するEXAMシステムver.3でも搭載しない限り、無理な注文だったのだ。

しかも、瑞鶴の烈震部品による近代化,鞍馬型(四脚歩行型)への改修,EXAMシステムver.3の搭載,これらが合わさるとなると、
一大プロジェクトが立ち上げられてもおかしくないのだが、それに対して与えられた予算・人員・期間は、余りにも少なかった。

更に、第二ステップである国産の低コスト第三世代機である吹雪を世界標準機とする事を目指すという、
『吹雪の世界標準機化の可能性(プロミネンス計画第二弾)』の案件も、

①帝国軍としては、総合的なコストパフォーマンスで勝る第三世代機の保有率を上げたい。
 したがって、低コスト第三世代機吹雪の調達コストを更に圧縮する事が望まれている。
②日本帝国政府としては、撃震・烈震・鞍馬に続く、外貨獲得手段として前向きに検討中である。
③F-35の開発が遅れている中で、吹雪が低コスト第三世代機としてのシェアの確保ができれば、
  日本帝国の国際的発言力が大きく高まる事が予想される。
④吹雪の供給とあわせて、海外で運用されている戦術機等の対BETA兵器と戦術論を取り込む事で、
  日本帝国の戦力の底上げを図る。
⑤海外へ避難した国民の失業対策としても、この計画が成功すれば有効である。

という素晴らしいお題目が付いており、俺も吹雪の輸出を過去に検討した事があった事から強い期待を寄せていた計画ではあった。

俺は、不知火のフレームを採用した事によって生じている積載量(ペイロード)の余裕を使って、海外向けに吹雪を再調整すれば、
短期間で達成できるのではないかと、安易に考えていたのだが・・・・・・。

実は吹雪改の採用が見送られた事で、主力戦術機改良の目処が立たなくなった海軍の要求で、ちぐはぐな仕様の計画となっている事に、
書類の後半部分で気が付く事になる。

海軍は、性能を求めすぎた結果吹雪改の導入コストが上がりすぎ、陸軍との折衝が上手く行かなかった事をもう忘れてしまったのだろうか?

しかも、技術流出の懸念、F-35の開発を主導する米国との関係悪化の可能性、吹雪の仕様が海外で受け入れられるのか、
輸出は撃震(ファントム)・烈震・鞍馬だけで十分、等という意見も根強く、政府と議会内に存在する親米国派と、
帝国軍内の国粋主義の連中を説得しない事には、立ち消えになる可能性もある計画だったのだ。

このような複雑な案件を、『武御雷』と『八咫烏』のテストも行いながら1年程度の期間で達成するなど、普通なら考えもしないような内容である。

一瞬、国連に移籍させないための罠なのではないかとも考えたが、政治的・軍内部の派閥的にも中立な人物が係わるのが望ましいという意見がある事、
『マブラヴ』の世界で軍部によるクーデターが起こったという記憶が脳裏を掠めた事もあり、完全に無視する訳にもいかなかった。

そして、俺と御剣家は中道勢力の最大派閥であると内外で認識されており、俺が係わる事で不要な波風を立たなく出来る事も・・・・・・、
残念ながら事実ではある。

俺は久しぶりに実家で再会した斯衛軍大佐の親父と拳を交えながらの話し合いをした上、巌谷中佐を通して技術廠に最大限のサポートを要求、
斯衛軍と帝国軍から譲歩と協力の約定を取付け、企業側に余力がある事が確認できた事で、一連の案件を受け入れる事とした。

これにより、俺の国連軍への移籍は一年半後の2001年初頭になる事が決まったのだった。








当初の予定よりも長く帝国に縛られる事にはなったが、若干の軌道修正を行い今後の工程を定めた俺は、戦術機開発の合間を縫って、
国力の充実と戦力の充実に時間を割くと同時に、間接的に国連軍への支援も行う事となった。

国連軍への支援過程で、何回か香月博士からの直接の呼び出しがあったが、そこで話し合われたのは一部の技術を都合し合う事と、
不知火改改修のために送った人材を常駐させる事を決めた位で、俺の国連軍への移籍は時期が来たらと言って断っている。

今頃になって、俺に国連軍入隊の誘いが来た事に対していくつか疑問もあるが、以前のA-01連隊発足時に俺に声が掛からなかったのは、
おそらく御剣家に配慮した結果だろう。

その証拠に、香月博士が大きな力を握り、帝国内の協力者を味方に付けたという噂が立ち始めた近頃は、
国連軍による帝国要人の子弟に対する勧誘活動が活発になってきている。

それを思えば、今回俺の国連軍移籍を延期したいという要望が受け入れられたのも、俺を衛士として確保する事以上に、
帝国を通して俺が提供できるものを香月博士が重要視したに、過ぎないのかもしれない。

香月博士は、帝国の不知火改提供を受けた後、不知火弐型や帝国軍制式採用装備である98式管制ユニット(EXAMシステムver.2標準搭載)の提供を求めている様だが、
この辺は様々な思惑が錯綜し流動的な問題となっているので、どの様な決定がなされるかは不明である。

最新型である不知火弐型の提供は、政治家が人気商売である以上、今の国連軍への不信感がぬぐえない限り、堂々と行うのは難しく、
以前国連軍へ提供した不知火の内、残存する全機を不知火改にする事が、今の政府に出せる最大限の協力だったのだ。

また、98式管制ユニットに関しても、世界共通規格となっている米国マーキン・ベルカー社製の92式戦術機管制ユニット(日本帝国名)との特許問題がある為、
今直ぐ帝国外へ持ち出される可能性のある国連軍への提供は、難しいと言わざるを得なかった。

その他の国連軍の強化策は、通常兵器を開発して帝国経由で提供されるのを待つという程度しか考え付かなかった。

次に国内の戦力増強に関してだが、戦術機を含む正面戦力だけを考えると、2001年末までにBETAの本土侵攻前まで戻すという計画の下、
帝国は活発な活動を行っている。

この急激な戦力回復策を戦術機の生産計画で説明すると、1998年に帝国軍が最も多く調達した戦術機が吹雪だったのに対して、
1999・2000年の最多調達機種は烈震となっており、量産性と調達コストを優先した事が如実にあらわになっている。

企業側も、第三世代機群の生産性向上に取り組んではいるが、帝国を満足させるには至らなかったのだ。

戦術機の優先調達機種に吹雪を選択出来ないほど、帝国が被害を受ける事を予想できていなかった自分に腹が立ったが、
1.5世代機相当の撃震でなく2.5世代機の烈震が量産機に選ばれた事は、うれしい誤算だであり、
烈震開発計画の切掛けを作った光菱に、思わず感謝の手紙を出してしまうほど、俺にとっては幸運と言える出来事だった。

尤も、第3世代機と2.5世代機の間には、性能において明確な差がある事は分かっているので、
BETAから大きな侵攻が無ければ、2001年には吹雪が最多調達機種に返り咲き、烈震の国内配備数は順次縮小させていく計画とされている。

このように、帝国は現行兵器の改良型を量産する事で正面戦力を揃え、後に新型兵器を導入していこうと考えているのだ。

そして俺は、この新兵器投入が一巡した期間を利用して、各種兵器の生産性を上げる為に、
機種の統合と共用化を進める事を提案し、各所に働き掛けを行っていた。

何時もの如く戦術機を例に挙げて説明すると、帝国が現時点で運用している機体は、以下のような5系統12機種になっている。

帝国軍
F-4J/77式戦術歩行戦闘機『撃震』
F/A-4J-E/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』
F-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震』
TSF-TYPE92-B/92式戦術歩行戦闘機『不知火』
TSF-TYPE92-C/92式戦術歩行戦闘機『不知火改』
TSF-TYPE92-2B/92式戦術歩行戦闘機『不知火弐型』
TSF-TYPE93-A/93式戦術歩行高等練習機『吹雪・高等練習仕様』
TSF-TYPE93-B/93式戦術歩行戦闘機『吹雪』
TSF-TYPE93-N/93式戦術歩行戦闘機『吹雪・海軍仕様』
A-6J/81式強襲歩行攻撃機『海神(わだつみ)』
斯衛軍
F-4J改/82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』
TSF-TYPE92-1B/92式戦術歩行戦闘機『不知火壱型乙』

更に、これ以外にも制式採用の決定はされていないが、4機種の開発が進められているので、
下手をすれば将来的に16機種を運用する事になる可能性がある。

そこで、機種の統廃合と部品の共用化なのだが、一番手を付けやすいのは第一世代機のF-4系統である。

撃震に関しては2000年中に全て烈震に置き換えられ、烈震に関しても正面戦力が整った後は、生産を吹雪へシフトしていく計画であるので、
俺が態々出しゃばる必要は無い。

ここで問題となるのは、斯衛軍が運用している瑞鶴で、烈震の登場によってその意味を失った事を考えると、早期の機種転換か改修が望ましかった。

今更ながら、様々なしがらみに囚われた末の瑞鶴の高機動・高火力計画だが、瑞鶴の退役を考えるとベストでは無いが、ベターな選択だったのかもしれない。

この計画で作られる戦術機の仕様を考えると、斯衛軍での最大運用数は2個大隊程度になると親父が言っていたが、
帝国軍内にも鞍馬の単座仕様を望む声もあるので、何処まで生産数が伸びるかは未知数である。

俺に出来た事は、可能な限り鞍馬・烈震の部品を使用する事で瑞鶴の部品を減らし、生産コストを圧縮する事くらいだった。

ちなみに、鞍馬型瑞鶴(仮)の試作機の開発状況だが、撃震を鞍馬や烈震に改修した経験がある御剣と光菱の技術者タッグを組んで順調に進めており、
EXAMシステムver.3に関しても、『武御雷』と『八咫烏』にて試験運用する予定だったver.3搭載型管制ユニットの生産数を調整し、
鞍馬型瑞鶴(仮)に搭載する事は可能となっているので、計画に遅れはなさそうである。

次に問題なのは、機種が増えてきた不知火系統についてだ。

生産性を考えるなら不知火弐型一本に絞りたい所だが、現在配備している不知火の事を考えると、不知火を順次不知火改へと改修し、
不知火の生産を必要最低限の補修部品に絞り込む事がコスト的に、無難な選択肢だと思われる。

その点は不知火壱型乙も不知火と同様で、この間一個連隊分の機体とその約1/3の衛士が帝国軍への提供が正式に決まり、
帝国軍内のエース部隊へと機体が引き渡され始めたので、不知火の改修が始まれば同様の流れになるはずである。

そして、肝心の不知火弐型は、帝国軍の次期主力戦術機として制式採用された上に、斯衛軍と城内省が新型戦術機採用に帝国軍が協力する事を条件に、
不知火壱型乙と瑞鶴の代替として不知火弐型を選択した事で、飛躍的に生産数が伸びる事が決定している。

これら流れが最後まで止まらずに進めば、5系統9機種まで統合されるので、新型戦術機を採用する十分な余力が生まれる筈だが、
予算や既得権益の問題がある為、確実に実行できるとは言えないのが実情である。

後は、いい加減古くなってきた海神の大規模改修も行いたい所であるが、残念ながら今の所予算が付けられる様子は無かったのだった。








兵器の統廃合の次に帝国軍の戦力増強に欠かせないと考えていたのが、第三世代機とEXAMシステムver.3の普及促進である。

どちらも対BETA戦の要である戦術機の戦力を強化する手段ではあるが、俺が重要視しているのは戦術機部隊を維持する上で度々問題になる衛士の確保という点を、
衛士の生存性を高めるという観点で是正しようとしている事だった。

戦術機自体の強化,衛士育成プログラムの改善,その他装備の改良といった部分からも影響を受けてはいるが、
両者が合わさった時、統計学的に見ても明らかに衛士の帰還率が上昇している事から、
問題解決の有効な手段の一つである事は帝国軍及び政府の共通認識となっていた。

そこで両者の状況について説明すると、EXAMシステムについては、2000年中にver.3搭載の改良型管制ユニットを量産するという計画が進んでおり、
第三世代機普及についても、2000年には100機以上の不知火弐型と500機前後の吹雪の生産が確実となっているので、一定の目標を達成していると言えた。

ただし、吹雪に関しては、帝国軍の戦力回復と第三世代機への移行が完了するまで量産を続けられる予定であるが、
最終的には可能な限り不知火弐型へシフトする事も帝国軍内部で決められていた為、
この事が足かせとなり吹雪に関する大幅なアップデートが妨げられる事態となっていた。

こうした帝国軍内の動きに対して御剣重工は、政府の懐事情を考えると今後も相当数の吹雪が帝国軍内で運用され可能性が高い事、
不知火弐型からでも利益を確保できる事、国内の調達数削減後から輸出許可を引き出す公算がある事から、大々的に反対はしていない。

だが、アップデートの計画が萎縮してしまった事に対しては、調達コストの上昇を嫌悪して、
吹雪に不知火弐型のパーツを大量に使って強化する海軍案の吹雪改を量産機とする事に、
陸軍に歩調を合わせて反対の立場を取っていた俺も危機感を覚えていた。

そこで対策として、EXAMシステムver.3の搭載に併せて前腕外側部の飛び出し式カーボンブレードの強化や、
超音波振動ナイフ及び大型近接戦短刀を搭載出来るようにする等、安価ながら近接格闘能力が強化できるプランを提案しようと考えていたのだが、
俺が動き出す前に大きな流れを作り出したグループが現れる事になる。

不知火弐型を次期主力量産機とする動きに対して、吹雪の更なる量産体勢を確立し、早期に撃震・烈震を第3世代機に置き換える事を望む陸軍内のグループと、
改めて低コストで調達可能な吹雪の強化型を望む、諸所の事情により陸軍と比べ戦術機用の予算が不足している海軍が結び付き、
烈震の開発経緯を参考にして、輸出の為の仕様変更を名目に予算獲得へ動いたのだ。

それが吹雪の世界標準機化計画へとつながる訳だが、先の大戦以後は是正されたとは言え、一部の陸軍(現本土防衛軍)と海軍の連携では、
吹雪改(仮)の開発時同様に、一体感に欠けていると言わざるを得なかった。

それは、海軍が改修後の吹雪が積載量(ペイロード)を強化される事を見越し、その拡張性を生かした強化計画も示す必要があると主張している事からも明らかである。

また、本土防衛戦から明星作戦までを乗り切った帝国製戦術機は、その力を目の当たりにした海外から輸出要請が来ており、
欧州には鞍馬がF/A-4J-E『クラマ』として試験投入され、アジアと中東では烈震(EXAMシステムver.1搭載型)がF-4F『スーパーファントム』として、
鞍馬と併せて導入が開始された事で、各地域で日本製戦術機の人気が出てきているのだが、
この動きに気を良くした一部の政治家や官僚が勝手に騒ぎ立てくれたお蔭で、この計画が政治的に注目された事も問題の一つだった。

実に動き難くなってしまった計画であったが、結局俺は海軍と陸軍(本土防衛軍)の間を行き来し、意見の集約を図ると共に、
富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社共同出資で設立した輸出会社(JFE社)を通して、
海外で通用する仕様の再調査を行うという基礎固めから行う事となった。

この時点で、吹雪世界標準仕様のライバルと考えられていた機体は、以下の様な低コスト第三世代機や2.5世代機と呼ばれる戦術機群である。

①米,ボーニング社(マクダエル・ドグラム社を吸収合併)製 F-18E/F『スーパーホーネット』
②米,ボーニング社製                        F-15E『ストライクイーグル』
③米,ボーニング社製                        F-15・ACTV『アクティヴ・イーグル』
④米,ロックウィード・マーディン社製               FX-35『ライトニングⅡ 』
⑤ソ連,スフォーニ設計局製                    Su-37『チェルミナートル』
⑥ソ連,ミコヤム・グルビッチ設計局製              MiG-29OVT『ファルクラム』(後のMiG-35)
⑦スウェーデン王国,サーブ社製                 JAS-39『グリペン』

その他に各国で第三世代機が開発されているが、そのいずれも生産コストが高い高性能機か、高くなる予定の第三世代機なので、
直接のライバルになる可能性は低いと考えられている。

そして、上記のうちF-15・ACTV『アクティヴ・イーグル』及びMiG-29OVT『ファルクラム』は、吹雪のテストが行われる予定のユーコン基地で、
開発が行われているという情報があり、不確定情報ながらSu-37『チェルミナートル』の強化型も話題に上がっている。

これらの中で俺が注目しているのは、欧州連合,アフリカ連合が参加しロックウィード・マーディン社(米国)を中心に、
国際共同開発が進められている最新鋭第3世代戦術機 FX-35『ライトニングⅡ 』と、
米 ノースロック(現ノースロック・グラナン)社製のF-5フリーダムファイター/タイガーⅡを発展改良し開発された多任務第3世代戦術機 JAS-39『グリペン』である。

これらの戦術機に対して導入時期が古い吹雪は、ステルス性を有し近接格闘戦を考慮に入れているとされているライトニングⅡにカタログスペックで負け、
総合評価で近い性能とされるグリペンにコストで劣っているとされていたが、EXAMシステム搭載の優位性を活かしたドッグファイトでの性能評価と、
その信頼性において優位に立っているとされている。

更に、他国にEXAMシステムの配備が始まった場合でも、システムのバージョンが上がるほど機動データの蓄積の点で吹雪が有利になり、
ver.2までなら機動特性に合わせた調整を既に終えている事から、細かな改修を怠らなければ早々に優位性が失われる様なものではなかった。

ちなみにこの試算は、共同開発による研究開発コスト削減効果により、グリペンよりもライトニングⅡが低コスト量産機になるとしていた過去の情報では無く、
肝心の共同開発が仇となり仕様の決定に時間が掛かった結果、研究開発費が高騰し価格が上昇傾向にあるという情報を基にしている。

ただし、ライトニングⅡの配備がこれ以上先延ばしになった場合、低コストと汎用性の高さを武器にしたF-18E/Fや、
数多く居るイーグルユーザーへのF-15E供給開始の方が、手ごわいライバルとなる可能性もあった。

JFE社の調査結果によると吹雪世界標準仕様(仮)は、現地改修が容易となる様に拡張性を確保する事で各国が求める仕様の違いに対応し、
強化要請には不知火弐型のオプションパーツを流用する事で対応、可能な限り人件費の低い海外で部品の生産を行う事で、
量産効果と合わせて1-2割のコストダウンを行い、EXAMシステム搭載機という点で一気に攻勢に出る方法が有効と判断されていた。

また、現地改修が低レベルであった場合に限り、吹雪のアップデートに合わせて純正部品による改良が可能である事から、
長期運用にも対応可能としている。

JFE社は、低コストで基礎が優秀であれば、後は現地の好みに合わせて改良出来る拡張性を確保するだけで、素早く普及した過去の事例を持ち出し、
吹雪なら大きな仕様変更無しでも、グリペンを押し退けFX-35の量産開始前までに、第三世代機としてある程度のシェアを確保できると結論付けたのだった。

そして、俺はこれらの調査と並行する形で、ライトニングⅡ を主導するアメリカに対して、明確に敵対する事を避ける為の裏技を考え、
その実現性についても見当を行わせていた。

その裏技とは、米国企業の吹雪世界標準機化計画への参画である。

この事が実現すれば、米国議会での工作もやり易くなると同時に、吹雪及び不知火弐型のオプションパーツ開発に弾みが付くと考えていたのだ。

技術提携は、協力会社に直接技術が渡ると同時に、間接的に他の企業及び国へ技術が流れる危険性はあるが、
吹雪を構成する技術には枯れた技術とされているものが多くある上、コア部分や管制ユニット(EXAMシステム)以外の部品については、
ライセンス生産も視野に入れている事から問題は少ないはずである。

取引相手としては、ボーニング社,ロックウィード・マーディン社,ノースロック・グラナン社の三社が考えられたのだが、
ロックウィード・マーディン社は、FX-35『ライトニングⅡ』を開発中の上に、ラプターの制式採用でこちらの相手をする意味は無かったため、
現時点で計画を打診しているのは残りの二社となっている。

協力を依頼している二社のうち、ボーニング社は、F-18E/F『スーパーホーネット』があり、F-15・ACTV『 アクティヴ・イーグル』を開発中ではあるが、
次期量産戦術機を軍需専門メーカーとも言えるロックウィード・マーディン社に奪われ、吸収合併した企業の戦術機を改良する事で、
戦術機部門を維持している状態となっており、戦術機部門は好調な航空宇宙部門等の他部門から疎まれ始めているようである。

また、ノースロック・グラナン社は、F-14Ex『スーパートムキャット』という機体が辛うじてプロミネンス計画に残ってはいるが、
その他に本格生産機や開発機が不足している等、強大な力を持つ船舶部門と比べて、戦術機部門の勢いが無くなっており、
ソ連への技術提供という事も考えると、戦術機開発能力の維持に必死になっている事が分かる。

その後、JFE社の調査結果と不知火弐型のオプションパーツ開発成果を盾に、海軍と粘り強い交渉を続けた俺は、
根強い反対意見を持つ国粋主義者を協力して黙らす事を条件に、オプションパーツ搭載と小規模改修だけで、
標準機を海軍の仕様に合わせるという計画への合意を取り付ける事に成功する。

俺は返す刀で直ぐに陸軍の説得を開始、帝国陸軍参謀本部付き中佐と激論を交わす場面もあったが、
肯定的な海軍幹部の意見や巌谷中佐の技術廠としての見解,不知火弐型の量産が軌道に乗りつつあるという事実,
順調なEXAMシステムver.3と新型戦術機の開発状況を全面に押し出し、何とか計画の承認を勝ち取ったのだ。

これにより、吹雪世界標準機化計画(プロミネンス計画第二弾:XFS計画)は、紆余曲折があったものの御剣重工がメインとなり、
各社がサポートに回る体制で取り組む事が決まる事になる。

これは、吹雪の開発元である国内最大の戦術機メーカーとなっていた御剣重工単独ですら、現時点で開発を行う余裕が無かった為の措置とされたが、
単独で量産機開発を行う事を警戒した他メーカーと国粋主義者の矛先を鈍らす事も大きな目的だった。

吹雪世界標準仕様(仮)販売の初期ターゲットは、ローコスト第3世代機の導入を検討していると噂のある欧州連合とされ、
アジアや中東・アフリカ諸国に対しては、烈震というステップを踏む事で順次吹雪へとシフトさせて行く事とされた。

ただし、個人的な意見としては、生産工場や訓練及び運用情報を合わせたパッケージごとライセンス輸出するくらいの積極性がないと、
本格導入はまだ先になる可能性が高いと考えていたのだが・・・・・・。

後日、御剣重工が各社に協力を打診し不知火開発に係わった技術者を集め、プロジェクトチームを立ち上げを確認した帝国政府は、
計画の概要と他国企業が参画する事を、機密に触れない範囲で徐々に流し、国内外に計画を受け入れる下地を作り出すと、
米国議会でのロビー活動、帝国と関係が深い大東亜連合への先行量産機一個大隊の無償供与、
欧州連合へは過去の技術支援,制御OSの教導及び先行量産機の一部を無償供与する事を打診する等、様々な方面への呼びかけを行い、
各国のFX-35『ライトニングⅡ』陣営の切り崩しを図る事になるのだった。








10月

瑞鶴の高機動・高火力計画及び吹雪世界標準機化計画は、ただ今全力で試作機を開発中の為、
俺は今の所『武御雷』と『八咫烏』のテストパイロットとして全力を注いでいた。

現時点では、虱潰しに初期トラブルを潰している段階だが、俺の仕事がそれだけで終わる訳も無く、
同じくテストパイロットして活動しているロンド・ベル(第13独立機甲試験中隊)隊の隊員を集めて、
合同訓練を行ったり教導隊の真似事に借り出されたりと大忙しである。

更に、他の開発案件にも顔を出さざるを得ない状況もあり、この間は海上から戦術機を揚陸させる手段として提案していたサーフボード(別名:ゲタ)について、
戦術機がサーフィンなんて出来るはずが無いと言う者を説得する為に、デモンストレーションとデータ収集を兼ねて、実証試験を行う事までやらされてしまった。

こうして忙しい日々を送る俺が、辛うじて家に帰る時間を作れるのは、帝国軍技術廠から派遣された秘書官たちのお陰である。

今日も、武御雷の試験運転中に口頭で話した感想を、テープレコーダーを聞いて報告書にまとめる作業を任せてしまった。

俺は罪悪感に囚われながら普段通り家に・・・・・・は帰らず、香具夜さんを連れて帝都城にて定期的にひっそりと行われている食事会に出席していた。

始めは、たびたび悠陽に会う事に複雑な思いがあった俺だったが、護衛の真耶マヤ真那マナ,同行する事が多い香具夜さんとで、
今は開き直って好きな事を話すようになっていた。

この場での話題は、もっぱら日常生活を題材としたものだったので、仕事に明け暮れる俺が楽しい話題を多く提供できる筈も無く、
かなりの割合で彼女達の話を聞く方に回る事が多かった。

しかし、極まれに政治的な話題がでる事もあり、この間遠まわしに政威大将軍として独自に行動できない事や経験不足を嘆いている悠陽を見た俺が、
政治・経済活動を学ぶ為には、資産の一部を自分で運用する事が有効であると提案するという珍しい話題に発展した事があった。

五摂家や武家は、仕事に就かない限り国から給与が支払われる事はないので、インサイダー取引には気を付ける必要があるが政威大将軍であろうとも、
個人で資産運用が出来ない訳ではない。

その時、幼少の頃より御剣財閥の運営に参加していた俺の個人資産がどう運用されているかという事も話題になり、
時間があれば研究開発予算確保の為に投資や投機を繰り返しているが、今の所大損をする事は一度も無く、生活費は軍人としての給料で賄えているので、
資産に余裕がある事を話した。

そして、この間は予定より資金が集まったので、長期運用資金と併せて個人資産の一割を国債の追加購入に回したと話すと、
俺以外の4人からなんとも言えない視線を受ける事になった。

俺は4人から送られてくる視線に慌てて、通常の投資以外にも慈善事業も兼ねて避難民から人員を集め農作放棄地を開墾し、
そこで作った食料を使って炊出しを行うといった事業もしていると話題を切り替える事になる。

これは、BETAの本土侵攻で住処と職を奪われた人たちに対して、彼らが今までやってきた仕事を用意する事で、
社会に貢献できていると実感してもらうと言う事業の一環だった。

この活動には御剣家も出資しており、俺はほとんど顔を出せないものの、本人の意思に反して徴兵免除がされている冥夜は、
学業の合間に炊出しの準備から会場の片付けまで行うほど、熱心に参加していた。

冥夜ががんばっている様子や嬉しそうに報告してくれた事を話している間に、部屋は次第に暖かい雰囲気となり、
国民生活は一応の安定を取り戻しつつある事、誰もが戦場で戦える訳でも、工場で働ける能力と意欲を持っている訳ではないという現実を、
真剣に話している間は感心されたのだが・・・・・・。

自分の個人資産は世界長者番付でいうとベスト50にギリギリ引っかかる程度だとか、この慈善事業は失業者対策と国民の士気高揚にも効果があるとか、
ブラックジョーク的な笑いを取りに行こうとすると、再び微妙な視線を投げかけられてしまう事となってしまった。

今更だが・・・、俺の笑いのセンスは・・・・・・どこかずれているのだろうか?

余計な事は兎も角として、こうして軽い気持ちで俺が提案した事は、悠陽の心に響くものがあったらしく、
次に会った時には政威大将軍であると同時に煌武院家の家長でもある悠陽は、その権限を使って出来る範囲内で資産運用を開始していたのだった。

その後、政威大将軍が自ら国債の購入を行い慈善事業にも出資しているという噂が流れ、富裕層・民間人を問わず国債及び戦時債の購入が流行する事態が発生、
400兆円に及ぶという日本の個人金融資産を原動力に、日本帝国政府は国際戦時開発銀行の手を借りる事無く、当面の資金調達を終える事にとなる。

その他に、ここでの会話中に悠陽の衛士訓練の話が出た後日、悠陽に対してOSの指導を行うという名目で斯衛軍に呼び出され、
悠陽への指導後、斯衛軍での不知火弐型の披露を行う破目になった事もあった。

その時、紅蓮中将が駆る赤い不知火・壱型乙と、ノーマル不知火弐型で模擬戦を行うことになった事は余計だったが、
様々なルートを通じて斯衛軍の弐型採用を画策している俺は、文句を言える立場に無かったのだった。

ただ・・・、俺のこの努力は、斯衛軍の弐型採用に多少の影響を与える事が出来たはずである。

そして後日、不知火弐型の配備優先権を帝国軍から獲得した斯衛軍は、有力武家出身ではない衛士と一般衛士への配備を優先し、
山吹以上の色を持つ少数の不知火壱型乙の運用を、新型戦術機の生産が安定するまで維持する事となる。

斯衛軍専用戦術機の思想は、瑞鶴以降 斯衛軍に根付く事になったが、兵器全体の性能が向上してきた事と予算の逼迫を受け、
性能が満足するなら妥協する事を覚えてきたようで、近年は順調にその考えは薄れてきている様である。

その証拠に、この後に予定している新型戦術機の採用についても、帝国軍と足並みをそろえる事で、
城内省が調達コストを抑えようとする意思まで働き始めていたのだ。

今の所、斯衛軍による不知火弐型の運用は始まったばかりで、機種転換訓練が行われている最中だが、
斯衛軍の衛士ならそれほど時を置かずとも乗りこなし、戦力化して見せるだろう。

帝国軍と同様に、第一世代機を主力とし、精鋭部隊のみに第三世代機を採用するといった『マブラヴ』世界の編成から斯衛軍が脱却し、
戦力として大きく期待できる存在となった事に、俺は密かに安堵する事となった。

しかし、これら食事会の会話を切掛けに起こった出来事は、裏で政威大将軍が動いていたという噂が付きまとい、
ごく一部で政治的混乱を引き起こした事で、次第に国内外に政威大将軍の影響力が健在である事を示す結果となって行く。

俺は、気が付かない内に悠陽を政治的に利用してしまった事により彼女の立場が脅かされないか、
御剣家による強引な政治介入と受け取られないかと気を回す事にもなったが、今の所国民生活にプラスとなり、
悠陽が嫌がる様子を見せていないので、短期的には問題は起こっていないと結論付けるしかなかったのだった。








「信綱・・・、御代わりだ。

 疲れているのは分かるが、食事中に呆けるものではないぞ。」


俺が食事中に妙な回想に浸っていると、お姉さんを気取る事があった子供時代を思い出させる態度の真那マナが空になった茶碗にご飯を盛り、
諭す様な言葉と共に御代わりを差し出してくれた。

俺は差し出された茶碗を見て、政治的な思考から急に現実へと引き戻された事が面白くて、思わず苦笑してしまう事になる。


「何を笑っているのだ、信綱。」


俺は、不貞腐れた表情の真那マナを宥めた後、政治的な事を考えていたと言って表情を曇らせるより、
今は皆に笑顔でいて欲しいと考え、頭の中で思いついて言葉を並べて誤魔化す事にした。


「ご飯をありがとう、真那マナ

 それと、さっきのは別にお前の事を笑ったんじゃないよ。
 差し出された茶碗を見て、唐突に昔見た物語の一説を思い出したのが面白くて・・・。」
 
 
「それは、どういった話なのでしょうか?」


俺の話に興味を覚えたのか、悠陽がすぐさま俺の話に乗ってくる。

俺は、その場の注目が自分に集まっている事を確認し、かすかな記憶を頼りに話を始めた。


「確か・・・伊勢物語の一説に、
 ある男が、幼馴染と一緒になったにも係わらず、外に女を作った挙句に、
 ご飯を手ずから盛る姿を見て幻滅し、幼馴染の下へ戻る・・・
 といった話が有った気がする。」


「・・・もしかして、伊勢物語 第二十三段の事を仰りたいのでしょうか?」


悠陽は、自信なさげに隣に立つ真耶マヤに問いかける。


「話の流れは異なりますが、登場人物と内容の整合性を考えると、その話で間違いないかと・・・。
 
 だが、信綱その話と今の状況に何のつながりが・・・・・・、もしかして、真那マナの事を無作法だと言いたいのか!?」
 
 
「信綱! お主は本当にそう思っておるのか・・・・・。」
 
 
俺は、怒り出した真耶と硬い表情を見せる3対の瞳を見て、慌てて言葉をつむぐ。


「いや、そうじゃない!
 好きな人にご飯を装われる事が、純粋に嬉しいと感じる世代になったのに、
 結局男は色んな女性に手を出す事を止められない、馬鹿な生き物だと考えただけだって。」


「つまり信綱様は、どんな事になっても最後は幼馴染の下へ戻る・・・、と言いたかったのでしょうか?」


悠陽のその言葉を聴いた俺は、一瞬で頭が沸騰してしまう。

時代によって細かな所作は変わっても、色恋に関しては現代と余り変わらないと言って上手くまとめるつもりが、そんな話の飛躍をするなんて・・・・・・。

俺は自らの顔が赤くなって行く事を自覚しながら、真耶マヤ真那マナも同じく顔を赤くして、
口をパクパクさせ言葉を上手く発することが出来ずにいる様子を眺める事になる。

しかし、俺が呆然としていられるのも、極僅かな時間だった。

今度は、香具夜さんから寂しげな視線と共に、言葉が投げかけられてきたのだ。


「信綱・・・、悠陽様が仰るように、最後には二人の下へ去ってしまうのか?」


「いや!
 あの話の男には幼馴染の女が合っていたと言うだけで、俺の気持ちとは全く・・・関係ない・・・・・・はず。」
 

俺は、その問いかけに対して、間髪いれずに返答をしたのだが、次の瞬間から何かを期待する様な、4人の視線が俺に突き刺さってくる事になった。

少し前までの和やかな雰囲気は何処に行ったのだろうか?

しかも、悠陽まで熱い視線を送ってくる意味が分からない、冗談でもやりすぎだぞ・・・。

俺は、一秒でも早くこの混沌とした空気から抜け出す為に、直感に頼って適当な言葉を紡ぎ出す。


「ヤッパリ、ジッカノミソシルガイチバンネ~。」


俺の不思議な呪文を聞いた4人は、集まって妙な会議を始める事になったが、どうやら混沌とした空気からは抜け出す事が出来たようである。

俺は、楽しそうに話をする彼女らを見て、改めて自分が生きている意味を実感する事になるのだった。





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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
前回、今回で第一部完とするかもしれないと書きましたが、話が膨らみすぎたせいか、
一話に収まりきらなかったので、分割することになりました。
クロニクル02はもうしばらくお預けのようですね・・・・・・、残念です。

今回は、戦闘は一切無しで説明文ばかりの話となりました。
畳み掛けるような設定の羅列は、小説として褒められたものではありませんが、
次回に人物の描写を多めに入れる予定なので、ご勘弁ください。

今回は、軍事系設定を中心に、『瑞鶴の高機動・高火力化の検証』『吹雪の世界標準機化の可能性(プロミネンス計画第二弾)』といった部分について、
概要説明を行いました。
瑞鶴からの派生で、斯衛軍の状況を書けましたし、プロミネンス計画に吹雪を投入する事でどの部分が変わるかといった部分は、
個人的にニヤニヤしながら書かせていただきました。
また、一部政治経済の話を入れましたが、久々に主人公のチート能力全開のご都合主義展開となりました。
世界長者番付でベスト50とか、本土侵攻後も日本経済が落ち着きを取り戻しているって、どんだけ素敵設定なのだろうか。

最後に入れたエピソードは、唐突に思い出した伊勢物語の事を使いたくて、無理やり入れてみました。
微妙に古風な主人公や『オルタ』の世界観には合っているとは思ったのですが・・・、どうでしょう?

次回は、今度こそ第一部完とします。
今月半ばには盆休みがありますが、色々用事があるので、投稿ペースが速まる事は無いかもしれません。
いつもご迷惑をかけていますが、気長にお待ち頂ければ幸いです。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回は久しぶりに皆様にお伺いしたい事がありましたので、ここで感想板への書き込みの一部を書かせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


核融合炉の可能性について

核融合炉・・・、それは私にとってガンダムから受け継がれる素敵設定。
可能であれば、核融合炉搭載戦術機なんてものを開発したい所ではあるのですが、
ここではマブラヴの設定と合わせて、可能性を検証したいと思います。

問題1.マブラヴの世界で核融合炉は実用化されているのか?
答え 不明
劣化ウラン弾が大量に使われている点から見るに、核分裂炉で発電している事は確かなのですが、
A-12の動力は原子力機関,電磁投射砲は赤外線エネルギーを転換して発電、
というように原作では核融合炉とも取れる設定をしている部分があります。

問題2.リアルっぽい核融合炉の採用は、何処までが可能か?
大規模発電施設ならグレー,大型戦術機なら黒に近いグレー,武装なら限りなく黒、というのが
今の時点での私の考えになります。
ただし、G元素を使えば核融合炉だろうが、電磁投射砲だろうが、容易にその設定を覆す事ができます。
「戦いは数だよ、兄貴。」という感じが好きな私としては、数が限られるG元素の多様は避けたいところです。

ソ連の科学者が亡命後、不思議な粒子を発見したというオリ設定?は可能ですが、
2003年以降までは小型核融合炉の小型化は無しという方向で書き進めたいと考えています。
とても悩ましい問題ですので、何かご意見がありましたら、感想板で助言していただけると幸いです。



[16427] 第38話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:2aed1bf6
Date: 2011/10/24 00:46




1999年12月

この日の俺は、改良型電磁投射砲の良好な試験結果を受け、鼻歌交じりで帰宅の途についていた。

改良型電磁投射砲とは、機体主機より直接電力を取り出し、新開発の大型コンデンサーを用いて蓄電・昇圧することで、
機体を静止させた状態でなら120mm砲弾を毎分80発の速度で投射する事を可能とし、主機からの電力供給が抑えられる戦闘機動時でも、
コンデンサーに貯められた電力で20発までなら投射可能であるという仕様の超電磁砲である。

試作型電磁投射式速射機関砲に対して投射量が1/10に制限された上に、電磁投射砲を使用できるのは鞍馬系統だけで、他の戦術機に搭載した場合、
冷却と電力供給が追いつかなくなる恐れが有るなど数多くの問題を抱えてはいるが、戦術機が携行出来る兵装では、
遠距離から突撃級の正面装甲を打ち破る事が難しかったのに対し、それを可能にしたという事だけでも、欠点を補って余りある利点があると考えられていた。

また、これにより当初予定していたハイヴ内戦闘での効果は限定的となったが、陸上での戦闘においては数を揃える事で十分な火力が得られるとされている。

この兵器が普及すれば、電磁投射砲搭載機が突撃級を排除した後、通常の鞍馬や戦車・自走砲などによる射撃で、BETA群を叩くという戦術も可能となるのだ。

だが俺が浮かれていたのは、そういった対BETA戦が楽になりそうだという事だけが理由だけではなかった。

今日は真耶マヤと御剣本家で時を過ごす予定となっており、真耶マヤとの技術談義が楽しみの一つであるからだった。

話す内容は、如何しても制限される事になるが、電磁投射砲の開発については斯衛軍も一部出資しているので、
軍内部で流布されている情報程度の話なら問題ない筈だ。

昨日は真那マナと訓練の話になって組み手をし、その前は香具夜さんに茶を立ててもらった。

こうして、彼女らの油断を誘・・・もとい緊張を解さないと、俺の家族も住む実家では周囲を警戒して、キスもさせて貰えないのだった。


「ただいま、真耶マヤ
 門まで迎えに来てくれるなんて珍しいね。」
 
 
俺が御剣本家の門を潜ると普段出迎えてくれる女中さんたちでは無く、真耶マヤが白い息を吐きながら、
物憂げな表情で庭の木に触れている姿が目に入ってきた。


「お帰り、信綱・・・。

 か・勘違いするなよ、私は庭の樹木が気になっただけで、貴様を待っていた訳では無い。」


視線を逸らし、あくまで偶然だと言い張る真耶マヤの様子に、説得力が無いんだが、と思いながらも素直な気持ちを乗せて俺は返事を返す。


「偶然だったとしても、俺は嬉しいよ。
 ありがとう。」


「あぁ、分かれば良いんだ・・・。」


俺はそう言うと、寒さの為か若干頬が赤くなった真耶マヤの冷えてしまった手を強引に取り、屋敷へと歩を進める。

しかし、俺が屋敷の扉を開けた直後、真耶マヤと繋いでいた手の反対側の腕を捕まれ、無理やり屋敷の外への引っ張られる事になった。

その動きに驚いたのか、すばやく俺と繋いでいた手を離した真耶マヤの行動を寂しく思いつつも、その場に立ち止まった俺は、
俺を拉致しようと奮闘する人物に声をかける。


「母上・・・、どこに俺を連れて行こうとしているのですか?」


「信綱さんに頼まれていた、例の協定を結ぶ会合にこれから出席します。
 付いて来てください。」
 
 
どうやら、俺がお願いしていた件について、嫌な予感がするので俺を連れて行きたいらしい。

母のこういった勘が良く当る事を知っている俺は、深くため息を付いた後、腕を引く力に抵抗する事を止め大人しく同行する事にした。


真耶マヤさん、御免なさい。
 この埋め合わせは必ずさせますから・・・、今晩は信綱さんを借りていきますね。」


「・・・信綱。 私が作った・・・・・・夕餉は如何する気だ!」


「すまん、真耶マヤ
 明日の朝食は一緒に食うから許してくれ!」


恨めしそうにこちらを見つめる真耶マヤに別れを告げた俺は、母に腕をつかまれたまま車に乗り込み、ホテルへ直行する事になるのだった。









会合へ向かう道中、事前に言って欲しかったと母に抗議をしてみたが、彼方が色々引っ掻き回している皺寄せが来ていると言われると、
俺は何も言えなくなってしまう。

だが、会社の仕事が忙しいと文句を言いつつも、俺の女性関係に関する話題に対して、暑苦しいくらいの満面の笑みを絶やさない様子を見ると、
本当に忙しいと思っているのかは疑わしい所である。

もしかして、将来を見据えて俺に経験をつませようといった親心もあるかもしれないが、本日の会合に出席するそれぞれの代表者の面子を考えると、
面倒如しか思い浮かばなかった。

御剣財閥が過去に仕掛けた買収合戦の結果、財閥群は再編成されその数を6個まで減らし、御剣財閥は上から5番目の地位を占める事となった。

当時は、三囲≧光菱≒住宏≧安多>御剣≧大空寺という規模で、売上高もそれに比例していた。

だが、1998年の売上げベースで見ると、御剣≧三囲≧光菱>大空寺≒住宏≧安多という順番となり、今年も同じ結果となる事が濃厚となっている。

これは、本土防衛戦から明星作戦までの間で、最も被害が少なかった財閥が御剣財閥だったという事に起因している。

御剣財閥が東日本を中心に発展し、近年西日本の拠点を東北地方に移転してきたのに対して、大阪を中心に発展してきた住宏、
金融機関に強みを持っていた安多等は大きな被害を受け、三囲と光菱も少なからず被害を受ける結果となった。

ただし、西日本に勢力を誇っていた大空寺財閥は、上手く活動拠点の移転が行われたようで、地位を保全する事に成功している。

各財閥と御剣財閥との関係をまとめると、友好関係にあるのは光菱と大空寺で、特に大空寺は1987~88年に行われた財閥再編で共に大きく力を伸ばした事から、
ライバルと認識しつつも新興財閥として仲間意識が芽生えるという奇妙な関係となっていた。

そして、中立の立場を取るのが三囲と住宏で、関係があまり上手く言っていないのが安多であった。

安多は、財閥再編時に大きく力を削がれた事から、一方的に嫌われていると言ってもいい。

ただし、余り財閥の仕事に時間を割けない俺程度では全ての利害関係を把握しきれるはずも無く、利権がぐちゃぐちゃに入り組んでいるため、
部門毎で様々な対立や友好関係を築いており、先に挙げた関係も大体の方向性でしかない。

こうした複雑な関係を持つ日本経済界のトップが集まった室内は、異常な空気に包まれていた。

しかし、その中で俺だけは話に耳を傾けながらも、席についた時点から腹の探り合いには興味が無いと言わんばかりに、料理に手を伸ばしていく。

しばらくそうした態度を取っていると、部外者のような気楽な感覚で食事を楽しむ俺の態度に腹を据えかねたのか、停滞気味の話し合いが中断され、
三囲翁から俺に声が掛かられる事になった。


「信綱君、君は何のために来たのだね。」


邪魔だから帰れと言わんばかりの三囲翁の言葉に、自然とその場はシンと静まり返る。

俺を静かに威圧する行為は、流石に大財閥の長と納得させるものがあった。

しかし、俺はかの人物が御剣と本気で敵対する気は無いという己の分析と勘を信じ、あえてゆったりとした動きで茶をすすり、
己の間を確保するとおもむろに口を開いた。


「彼方達こそ、ここに何をしに来たのです?
 
 事前の連絡で、御剣は日本を立て直す為に全力を尽くすという姿勢を見せた。
 もし、この会談を腹の探り合いで終わらせる積もりなら・・・、御剣は単独でも活動を始める用意がある。」
 

この発言は、以前から行われてきた御剣財閥内での話し合いで決まっていた事で、御剣財閥の総意と言っても良い内容である。

俺の実直な物言いに、その場に大きな緊張が走った。

御剣財閥と友好的な光菱財閥トップの石崎翁や大空寺翁がその場を落ち着かせようと動く、だが母が我関せずとニコニコと笑い不介入を決め込むと、
同レベルの偉人である三囲・住宏・安多の三名に押され、場の緊張が緩む事はなかった。


「この若造が、ワシ等に喧嘩を売っておるのか?」


「喧嘩もなにも、俺は事実を言っているだけです。

 それと一つ言っておきますが、この件で御剣が短期的な利益を得る事は無い。
 むしろ単独で活動を続け、再度の本土侵攻を短期で撃退するか、佐渡島ハイヴ攻略といった大きな成果が得られなければ・・・・・・、
 5年以内に御剣財閥は破綻するでしょう。」


俺は浴びせられる圧力を受け流し、ただ事実のみを冷徹に話す。


「だが、長期的に見れば大きな利益が見込めるという事だろう。
 最後に御剣だけが生き残る算段を整えていないと証明できるのか?」
 
 
「住宏翁の言う事は尤も・・・、ですが無いものを証明する事は不可能。
 
 私にできる事は、御剣財閥が日本を牛耳る腹積もりは無いと言うことと、
 BETAの脅威が無ければ、国内で競争が行える今の様な状態を御剣は歓迎していると伝えるだけです。
 
 それと、成功の成否を別にすれば、過去に御剣が宣言を行って実行に移さなかった事は無い。
 これを持って・・・・・・俺が生きている間、この約定が守れられると信じていただきたい。」


俺はここに来て初めて、不遜な態度を改め深々と頭を下げた。
 
俺が突然態度を翻した事に戸惑ったのか、三囲・住宏・安多の三名は気勢をそがれた様子で口をつぐむ事になる。

そこに、大空寺翁から俺を試すような、問い掛けが投げかけられる。


「御剣の覚悟は分かった。
 だが、それに付き合わされる社員やその家族の事を考えたことはあるのか?」
 
 
「心配無用、仮に破たんするとしても社員とその家族が半年は過ごせる資産は残します。
 優秀な御剣の社員達の事です。半年もあれば、容易く職を見つけられるでしょう。
 
 それに、各種権利や蓄積されたノウハウの事を考えると、企業買収が行われる可能性が高い、
 そうなれば社員はもちろんの事、御剣本家にも其れなりの資産が残りますよ。」


そう言うと俺は、その場にいる5人の翁に微笑を見せた。

俺の態度を見た大空寺翁は、心配して損したと言わんばかりに、鼻を鳴らして視線を逸らす。

他の4人も、孫の様な年齢の俺が笑みを浮かべるのを見て、思うところがあったのか、視線が急に軟化していく。


「この協定が目指す一番の利益は、50年・100年後にも日本という国が存続し、
 そこに人が生き続け、自由に経済活動が出来ると言う事です。
 
 ・・・これは、リスクに見合った最高の報酬だと思いませんか?」


俺が話す事が彼らの考えにどれほどの影響を与えられたかは分からない。

もしかしたら全て内々で決まっており、ここでの協議は象徴としての意味合いでしかなかったのかもしれない。

だが、笑みを絶やさず、やる気が無いなら一人で楽しみますという俺の態度に感化されたのか、
5人の翁達が積極的に自分の意見を言い出したという変化があった事は確かだった。

その後の話し合いの結果、以下の様な基本方針が決められる事になった。

①統合整備化計画の提案
 いくつかの規格に分かれている兵器の体系を纏めて、生産と開発の効率化を図る。
 また、可能なら国際規格となるように、共同で活動を行う。
②資源調達部門の協力体制強化により、調達コストを圧縮し、最終生産品のコストを削減する。
③研究部門の集約と情報開示、学術研究都市の提案(候補地・第二首都 仙台郊外)
④発電所を共同で建設し、不安定になりつつある電力の安定化を目指す。
⑤国債の共同購入。共同声明を出し、一定量の国債購入を行う。
⑥この協力体制は五年間とし、五年後に見直しを行う。
 ただし、本土侵攻が可能なハイヴが全て陥落し、安全が確保された時点で更新は行わない。
 
日本の6大財閥が協力すると言っても、全てを合わせて漸く世界の大財閥と戦えるレベルで、この場に出席した人物の中には、
財閥全体に指導できる立場でない人も居る事から、この協議によりどれほど歴史の流れに抗えるかは分からない。

だが、それでも俺がこの世に存在しない場合と比べたら、格段に良くなる筈であった。

この日を境に、企業間の協力体制強化が進められ、様々な兵器・物資の供給がスムーズになり、
各社で技術を持ち寄った共同開発も格段に増加する事になる。

また、全くの予断になるが、5人の翁達からしきりに孫娘を紹介されたり、冥夜の事を聞き出そうとされたりする様になったのも、
この日が境だったように思われる。

会う度に、半ば見合いの打ち合わせのようになるが、俺は毎回全力で断りを入れている。

冥夜の結婚相手は、俺を超える男でないと認められんのだよ。

・・・兎も角、この日を境に統一感の無かった日本経済界は、大きく動き出す事になるのだった。








1999年12月16日

政威大将軍である悠陽の誕生日を祝う祝賀会に参加するため、俺は帝都城を訪れていた。

従来の祝賀会と比べて、帝国の現状を考え小規模になっているが、帝国の中枢を担う人物が勢ぞろいしている会場を見渡すと、
壮観としか言いようが無い気分になる。

俺は会場で父と母と合流した後、悠陽に挨拶をしに行き、御剣家として戦術機用の薙刀を献上する事になった。

この戦術機用薙刀は、74式接近戦闘長刀の柄を延長し、刃を薙刀の長さに切り落とす事で作られた鞍馬型瑞鶴(仮)用の試作兵装の一つで、
試験で予想以上に高い耐久性が有る事が示されたが、実戦で使えるほど薙刀に熟練した者が少数派であることから死蔵される事になった品を、
御剣家で引き取り多少の装飾を施した物である。

神野無双流を学び、生身では薙刀を用いる悠陽にはピッタリだと考えた事と、贈り物に関しても実用品を好む御剣の気性にも合っていた事から、
今回の献上品に選ばれたのだが、他家から送られた物の中で御剣の品は、何時も通り一つだけ浮いてしまう事となる。

だが、それを全く気にしないのが、御剣が御剣である所以であるので、考えるだけ無駄な事だった。

悠陽に挨拶をした後、その場はそれで退散となったが、俺は去り際に祝賀会の後に定例の食事会に変わり話し合える場を設けていると、
侍従長から耳打ちされる事になった。

俺は時を見てその場を離れ指定された部屋に入る事になったのだが、そこには次代へ党首の座を譲った雷電翁や月詠翁といった人物以外で珍しい男性で、
かつまったく想定していなかった人物・・・・・、日本帝国総理大臣 榊 是親が待ち構えていたのだった。

1996年から総理大臣の座に就任した榊は、政威大将軍を政治に参加させないという方針を取っている事や、軍事以外の政策にも力を入れている事、
既得権益を認めないという頑固な思想を持っている事から、旧来の勢力に属する者や一部の軍関係者からの受けが悪い人物である。

軍事費以外にも予算を積極的に振り分けている事実から、一つの事を偏って重視しないリベラルな思想の持ち主である事が知られており、
上手くバランスを取っていると評価する者が居る一方、官僚出身であること上げて省庁に配慮していると、
対BETA戦に消極的であると非難する者人物も居るなど、今の所評価は二分されている状態である。

だが、BETAの本土侵攻時における国民への避難指示発動の迅速さや、その後の経済の建て直し、明星作戦の準備を整えた調整能力と、
海外との話し合いを纏めた外交手腕を思うに、決して無能ではなかった。

並みの宰相なら、国家が破綻してもおかしくないほど、日本は追い込まれていた事を考えると、むしろ非常に優秀だと言っても良い。

ただし、近頃は国会が空転気味で、避難民対策が後手に回る事が有り、支持率は低下気味となっている。

その榊総理に対して俺自身はと言うと、ただの帝国軍少佐にしては力を持っており、御剣家と御剣財閥の力を用いれば、
それなりに大きな勢力を作る事が出来るという程度の自己評価に落ち着いていた。

その俺と、国の上層部との認識の違いが生まれた場合、そこから生まれる衝突により対BETA戦での力が削がれる可能性もゼロではない。

そのような事態は可能な限り避けたいと考え、いつか意見のすり合わせをする必要があるとは思っていたのだが・・・、
それは政治工作が得意な三囲や光菱、経団連を通しての意見交換であり、俺自身が国のトップと話をする事は全く考慮していなかった。

いや・・・・・・、形式的には内閣総理大臣より上位に位置する政威大将軍と度々あっているのだ、
今更俺が厄介ごとから逃れるのは無理な事なのかもしれない。

思考の中ではこうして諦めに似た境地にたどり着く事になった俺だったが、感情的には納得し切れないものがあり、
俺を積極的に厄介事に巻き込もうとしている節の有る悠陽に対して、思わず非難する様な視線を送ってしまう事となる。

しかし、俺の視線に対して俺が政治に係わりたくない事を知っている筈の悠陽は、笑みを浮かべるばかりで全く反省の色を見つける事は出来なかった。

俺は悠陽に反省を促す為に、榊総理に目礼すると笑みを浮かべる悠陽に近づき、耳元で言葉をささやいた。


「悠陽・・・、お前は最近狙って俺を政治に絡ませようとしているだろう。
 無闇に厄介事を持ってくる娘には、お仕置きが必要か?」
 

「御剣信綱・・・、政威大将軍として命じます。
 民とこの国を守る為に、彼方の力を貸しなさい。
 
 ・・・その後であれば、どの様なお仕置きであれ、受け入れます。」


だが、軽い気持ちで声をかけた俺に帰ってきたのは、悠陽からの強烈なカウンターだった。

政威大将軍として威厳を持った声色で俺に命を下した後、可愛らしく謝罪されてしまう事態に、俺の鼓動は跳ね上がり、
なんとなく無条件でお願いを聞いても良い様な気分になってしまう。

何だ、この強烈な誘惑・・・抗いがたいオーラは・・・・・・。

手痛い反撃に一瞬心をかき乱される事になった俺は、俺以外の男にどんな事でもするなんて言うと変な誤解を受けると忠告をしつつ、
何食わぬ顔で悠陽から距離を取った。

離れた後で、さっきの台詞が悠陽を独占するのは俺だという風に取れなくは無いとも考えたが、榊総理の眉が逆立ってきた事を確認していた俺は、
悠陽に敬礼を行った。

そして、悠陽から答礼を受けると、直ぐに向き直り榊首相へ敬礼を行う。

榊総理が答礼を行った事を確認した悠陽に促されるがまま俺が席に着き、お茶と茶菓子が侍従により運ばれた後、
会談が始まった。


「榊総理、殿下との会談の場に、一介の少佐が同席しても宜しかったのですか?」


「なに・・・、気にする事は無い。
 この場は殿下が私と御剣少佐が会談する場として設けて下さったものだ。

 それに、私も君とは少し話をして見たいと、以前から考えていたのだよ。」


榊総理はそういうと、俺が軍内部で調整役として若手としては大きな役割を担っており、斯衛軍の戦術機選定や専用機廃止の動き、
戦術機や各種兵装の統廃合と、海外への輸出に積極的な意見を持っていることを知っていると語った。

確かに、俺は中堅と上層部を繋ぐパイプラインの一つとなっている事は確かで、最近は鞍馬・烈震・撃震(烈震や鞍馬への改修後に余った撃震の部品)
・F-4E/ファントムの輸出による外貨獲得により、国内の戦力を充実させるという政府・経済界の方針に同意するよう帝国軍内で動いてはいた。

しかし、御剣財閥に注目が行く事はあっても、俺自身が注目される事が無いように動いている事もあり、
軍外部の者が武力以外で俺を評価する事は少ない。

榊総理が最低限は軍内部にもアンテナを張り巡らせている事を感じ取った俺は、そこで『マブラヴ』の世界でも何らかの考えが有って、
クーデターの発生を容認した可能性に思い至ると、榊総理の評価を更に上方修正させる事になる。


「所で御剣君、先日経団連から書簡が届いたのだが、別ルートで君から補足説明を受けても良いと連絡があってね。
 書かれていること以外に言いたい事が有れば意見を聞こうじゃないか。」


軽い挨拶を交わした後、榊首相は軍の階級を付けず俺の名を呼び、話を振ってきた。

ここで態々そう俺を呼び直したのは、公的な身分に関係無い俺個人の言葉を聴きたいという意思の表れなのだろうか?

厳格な意思を見せるその表情からは、経験の浅い俺では榊総理の深い考えを読みつる事はできなかった。

だが、不快な感じはしないという直感を信じ、俺は6大財閥の統一見解に一部私見を交え、考えを述べることにした。




6大財閥が調整した意見の中で、最優先で実施すべきだと感じていた政策は、規制緩和の一点であった。

今企業側が国内再興の一番の妨げとなっていると考えたのは、国内に張り巡らされた各種の規制である。

平和な頃なら企業の暴走を食い止めると言う点で有用な規制ではあったが、戦時中の今となっては仮設住宅を建設するにも工場を新設するにも、
発電施設を作り送電するにも・・・・・・、ありとあらゆる全ての行為に膨大な書類を用意し、許可を求め監査を受け入れる体制は、
非現実的となってしまっていたのだ。

その証拠として、企業側・役所側双方に書類整理だけでパンク状態と成っている部署からは、毎日悲鳴が聞こえてくる有様だ。

そこで、規制緩和を行い、復興作業を迅速化させ、更に余った人材を必要な部署、特に輸出入の窓口となっている税関に人員を振り分け、
各種作業時間を短縮する事を企業側は切望していた。

また、経済特区の設置により局所的に規制を緩和する方策も有効な手段の一つである。

これにより、企業の集約と生産の効率化を行うと同時に、統制経済に傾きつつある現状を打破し、限定的にでも自由経済圏を作り出す事で、
国内に蔓延した閉塞感を取り除く事に役立つと考えていたのだ。

これらの政策を実行すれば、良い事も悪い事も含めて国内に劇的な変化が訪れる事は確実だった。


「私の話は以上です。

 ・・・・・・ご質問が無いようなら、榊殿のお考えをお伺いしたい。
 無論、可能ならばではありますが・・・。」


「いや、一方的に話をするだけと言うのは、健全な話し合いとは言えない。
 私の考えもここで話そう。
 
 規制緩和・・・か、経済の活性化策の常套手段であると同時に、大きな予算を必要とはしないが・・・・・・、
 現時点では企業側の暴走を招きかねない。
 それに企業と軍が結んで、かつてのように軍閥や軍需産業が台頭し、文民統制が失われる可能性もある。」
 
 
榊総理はそういって、通常の不況と異なり戦時下で有る今、政府の統制が崩れるような事態は控えたいという意見を述べた。

だが、会話を交わしていくと、他の政治家や官僚の反対にあう可能性が高く、空転が続く今の国会で実施するのは難しいというのが、
彼の本音のようだった。

俺は、そこで各財閥が政治工作を行われる可能性を榊総理と再確認すると、公務員のリストラにより退職する事になった人が出た場合は、
優秀な者と言う但し書きは付くが、積極的に雇用する事で失業率を抑える用意がある事を告げる。

実は、世界共通規格となっている米国マーキン・ベルカー社製の92式戦術機管制ユニット(日本帝国名)と、
御剣電気が改良を施した98式管制ユニットの特許問題が解決し輸出規制が解かれた事で、今後の日本製戦術機の輸出増加が見込まれており、
国内の戦力が整う予定である3~4年後も現状の生産体制を維持もしくは増産する公算が立っていたのだ。

そこで生まれる関連事業を含めれば、直接的な作業者はおろか管理者や事務員も不足する事が確実視されており、
公務員定数が削減される事は、規制緩和の意味も含めて大歓迎だった。

更に、俺が国内の脅威が取り除かれた後、軍縮の方針を採るなら協力は惜しまないと言うと、
榊総理は初めて大きく表情を崩し、目を見開く事になる。


「規制緩和に関しては、もう少し国内が落ち着いてからと考えていたが・・・、
 時期を早めても良いのかも知れんな。」


そして、一瞬瞳を閉じて考える素振りを見せた榊総理は、内閣の基本方針に逆らわない範囲で、規制緩和に舵を切ると発言する事となる。

会談の時間が終盤に差し掛かるここに来て、漸く互いの意見を近づける事に成功した事の喜ぶ事になった俺だったが、
それと同時に強烈な疑問が沸き起こる事になる。

それは、榊総理が俺に会って何がしたかったのか? という疑問だ。

残念ながら、俺の話した程度の意見なら、各財閥幹部と打ち合わせをすれば出てくる様なものばかりである。

急激に背筋が寒くなる感覚を覚えだした俺を無視して、悠陽と一瞬視線を合わせて軽くうなずき合った榊総理は、
俺の人生の仲で最大級の爆弾を投下してくるのだった。







「御剣君、君を信じて話す。この事は他言無用に願いたい。

 私は・・・、今の国家体制に限界を感じ始めている。
 空転を続ける国会、権益を守る為に全力を注ぐ官僚、戦う事が優先と言い後方の事を顧みない軍人、
 無論全ての人間がそうであるとは言わない。
 だが、国の体制が極めて不安定な状態であるのは紛れも無い事実。
 今の状態を是正しない限り、帝国の存続は危ういのだ。
 
 私の中に腹案はある。
 だが、それを実行する前に一つ聞いてみたくなったのだ。
 私が未来を託すことになる若者達の意見と言うものを・・・・・・。」
 

なんだ、このまるで『マブラヴ』の世界で起こった軍事クーデター後の、政威大将軍復権による体制の変化を暗示させるような発言は・・・、
もしかして聞いた側も言った側も逃れ難い強烈な死亡フラグか! 

背筋に走った悪寒の意味を悟った俺は、一縷の望みを掛けて話を逸らす事を考えるが、悠陽と榊総理の真剣な眼差しと、
会談の始めに悠陽とした約束に縛られた俺には、逃れるという選択肢は残されていなかったのだ。


「・・・・・・ここで俺が話す内容を墓まで持って行く事、
 万が一俺の意見を取り入れる場合でも自らの考えとして世間に話す事、
 以上の二点を約束して下さい。
 
 守っていただけるのであれば、御剣の家訓と己の心情には反しますが、
 考えうる限りの意見を出し、自分の弁には責任を持って協力は致しましょう。」
 

御剣一族が、政治に係わらず大きな権力を求めなかった理由、それは処世術や欲が無く高潔だからではなく、
単純に政治に割く時間が煩わしかったからでは無いか? というのが最近の俺の意見である。

極端な言い方になるが、だから弱き者を守ると言いつつも、御剣は私財を投げ打って救済に走る事もせず、
大きな権力を求め人々を救おうとは考えないのだ。

世に言う戦国時代の間に、天下を得る機会が有ったとされるにも係わらず、専守防衛に徹し挑戦する気配すら見せる事無く、
煌武院家の支配体制を受け入れた経緯からも、その考えを窺い知ることが出来る。

こんな性格で大名が務まったのは、人柄にほれ込んで集まった家臣団が優秀だった事と、浪費を行わなかった為だろう。

過去の御剣一族を於いて置くとしても、俺自身もなぜか自ら政治家となろうと考えた事は無かった。

しかも、積極的に政治家になる者は、本当に真面目な奴か、腹黒い奴だけだという偏見すら持つ有様である。

通常の報酬と仕事内容を考えると、政治家と言う仕事はこれほど割に合わない仕事は無く、自己満足の世界としか思えないのだ。

こんな俺の意見を聞いて如何するんだと考えつつ二人を見つめると、二人はすぐさまその場で約束を守ると宣言していた。

俺は、自分の意見が極端で余り参考には成らないと前置きした上で、意見を訥々と語りだした。


「日本が現状を打破する最良の方法は、国を無理やりにでも一つにできる優秀な指導者が誕生し、
 国民の持つ力を一つにする事だと、私は考えます。
 ですが残念な事に、現時点で日本に人々をまとめるカリスマ性を持ち、かつBETA戦を乗り切れる優秀な人材は・・・・・・居ません。
 
 では如何すればいいか? 
 二つを有する者が居ないのならば、外から持ってくるか・・・二人の人物が役割を分業するしかない。
 だが、外から人を持ってくる事は、日本人の気性や緊急性を有する事である以上不可能。
 二人の人物が役割を分業する体制は、政威大将軍と総理大臣に期待すべきなのでしょうが、現状ではこれも難しいでしょう。
 前者は実力が無いと思われ、後者には信が無いと思われるが故に・・・・・・。
 
 しかし、分業体制は改革さえ行えれば、まだ望みはあります。
 しかもこの改革は、日本人が大好きな前例主義にも沿ったもので、あったものが・・・。」
 

俺は自らの話を一旦区切り、二人の表情を見渡す。

二人とも現状の体制を維持する事は出来ないという俺の考えに異論が無いのか、静かに話を聞く様子を見せていた。

俺は、この続きを言うとかなり面倒くさい事になると重いながらも、重たい口を開く。


「国の体制を大きく変える。その為に・・・・・・大政奉還、いや厳密に言えばその形を取った日本帝国憲法の改定といったところだろうか?
 兎も角、俺は恒常的に政威大将軍を置く現行制度を終わらせる事を提案する。 
 そして、皇帝を精神的宗教的柱とし、実働部隊の長を皇帝が代理を任命、これが平時においてはそれが内閣総理大臣となり、
 緊急時に呑み内閣総理大臣及び議会にも影響力を持つ政威大将軍が任命され、国の指揮を執る体制としたい。
 
 これにより、直接皇帝から任命される総理大臣の権威が高まると同時に、改めてその総理大臣を政威大将軍が指揮下に置く事で、
 元の権勢を取り戻す事が出来るだろう。
 それに、皇帝も今より世間への露出が多くなるはずだ・・・、英国王室ほど積極的でなくとも、その事には十分な価値がある。
 
 また、絶大な権力を取り戻す事になるであろう政威大将軍が、今後も密室の相談で決まるのは避けるべきだろう。
 代案としては、有資格者の中から国民投票で直接選ぶと言うものもある。
 そして、任期についても終身制は避け、4年程度の任期で区切る必要があると考えてはいるが・・・、その辺は調整が必要でしょう。
 
 とりあえず、私の案だと今は強権を振るってでも政威大将軍が国をまとめる方が効率的ではあるが、
 世界大戦やBETA戦規模の異常事態とならない限り、政威大将軍の必要性は無いという事です。」


俺の皇帝や政威大将軍を敬わない態度に怒りを覚えたのか、榊総理は厳しい表情をみせ、悠陽は戸惑いの表情を見せる事になる。

俺は、不敬な行いであるとは感じつつも、努めて冷静に言葉を続ける。


「貴方達と私とでは大きな認識のずれがある。 そこをまずはっきりとさせましょう。
 
 法治国家で最も重視すべきは何なのか? それは法律だろうか?
 法律は憲法に沿う事が決められている以上、憲法が上位にくると考えるのが一般的だ。
 では、憲法が絶対なのか?
 これも違う。憲法は、国民投票によって変えられると、憲法自体に明記されている。
 
 また、立憲君主制の国家において、皇帝や王,政威大将軍の地位は、憲法によって規定されており、
 その事を考えると近代国家では、国民こそが最も力を持った存在と言う事も出来るというのが私の考えだ。
 無論、国民が近視眼的になることが多く、重視し過ぎると問題も起こると言う意見には賛同する・・・が、
 それを理由に国民と国の守るべき優先度を違える事も、国民に同調して近視眼的になる事を指導者は許されはしない。」
 
 
突然国家ビジョンを尋ねられて困るというのが正直な思いだったが、現時点で考え得る限りの構想を話した後、
俺は具体的な手段についても言及した。


「次にそれらを成す手段ですが、たくましくも今の国会は、残った地域で議員定数を満たすように選挙区を割り振っています。
 つまり早期に・・・、今年度末を狙って衆議院の解散に打って出ても、法律上の問題は有りません。
 そこに先ほどの件を上手く会わせ、外圧を押さえ込めれば自然と流れを作り出せるでしょう。
 
 それと、戦時下に解散総選挙を行う事は不謹慎だという意見もありますが、その様な意見を聞いていては、
 本当に何も出来なくなってしいます。
 BETAが動く時期なんて誰も分からない。 明日なのか? それとも一年後なのか?
 分からないなら、大規模戦闘後の今の方が確立は低いし、現時点でも佐渡島ハイヴの戦力のみなら、
 選挙中であっても防衛は可能です。
 
 なら、交渉の道具にするなり、手段として行使するなりして、国の方針をいち早く決めるべきでしょう。」




榊Side

国会の空転と官僚たちの独走を見て、己の思想に反する劇薬の処方により、政威大将軍に権力を集中させて国をまとめる事まで考えていた私にとって、
御剣少佐の話す考えはまさに寝耳に水の考えだった。

明確な工程や手段を示すことが出来ないまま、予算を増やせとしか言わない旧態依然とした軍人達と違い、
具体的な手段を期限を区切って話し、将来の軍縮をすら考慮する目の前の男は、国家に対する思想は別にして信頼できるという点で、好感が持てた。

そして、彼の話は私が思考する間にも止まる事は無かった。


「改革の引き金を自分で引く事は確かに怖い。
 私自身も進んでそのような立場に立ちたいとは思わない。
 ですが、もしその場に居合わせてしまっているのだとしたら、決断は下さなくては成らない。
 
 彼方が信じる道を進んでください。
 願うなら彼方が進もうとしている道が、俺の進む道と衝突しないことを・・・。」


私が視線でその場に留め更に話を誘うも、御剣少佐はもう話す事はないと言って、最後に孫を抱く時まで死ぬ事も隠居する事も許さないという、
冗談の様な台詞を残して席を立った。

そして、御剣少佐は殿下に分かれの挨拶を行うと同時に、30cmほどの殆ど装飾の無い木製らしき棒を渡した・・・、
いやあのこしらえは短刀だろうか。


「悠陽の意見も聞きたかったが、悠陽が国家体制について言及するのは本当に拙いからな・・・。

 それと改めて言うよ、誕生日おめでとう。
 こんな無骨な物を送る様な感性の無い男だが、今はそれでよかったと思うよ。」


そう言った彼は、次にとんでもない言葉を続ける。


「本来はただのお守りのつもりだったが・・・・・・俺が道を誤った時はこれを使え、真耶マヤ達にも渡してある。
 皆が力を合わせれば、俺ごときならしくじる事もないだろう。
 
 尤も・・・そうなる前に隠居する予定だがな。」
 

若者はそう言って立ち去っていった。


「榊総理、己が成すべき事を成しなさい。
 私も・・・、自らが成すべき事を成そうと思います。」


私は別れ際に殿下にかけられた言葉を胸に、尽きかけていた心の炎を再び燃やし、新たな改革に向けて動き出す事になるのだった。







2000年04月

任期満了を待つかに見えた榊総理が、突然の憲法改定に伴う国民投票と議員定数削減を求める法案の提出に動いた。

そしてそれに反発する衆議院解散、その混乱が収まった4月末日、粛々と行われた選挙により、支持率が低下気味だった榊 是親率いる与党が議席数を堅持し、
国民が事実上の信認を与えたことで、国政は一時的に倦怠から抜け出したかのように見えた。

そんな国内が揺れ動く中、瑞鶴の高機動・高火力化計画によって製作された試作機に初めて乗り込むことになった俺は、
試作機の試運転を行い初期不良がない事を確認した後、四脚歩行という特殊な機体で近接格闘戦を行う技術を確立する為、
同系統の機体である鞍馬には無いモーションを繰り返し、動きを最適化させていく事となった。

俺が試作機の試運転直後に近接格闘戦のモーションを行う事ができたのは、計画の当初から瑞鶴・烈震・鞍馬でテストした項目は省略し、
新規導入部分と動作のみを調整する事で、開発期間を圧縮する事になっていたからだった。

鞍馬を駆る衛士たちは、機体の操作感覚を戦車が運転と射撃が分かれている感覚と変わらないと語る事が多く、一般的にもそう説明される事が多い。

しかし、上半身(火器管制)を司る者は騎馬武者に、下半身(機動制御)を司る者は騎馬にでもなった気分になった感覚と、一部の衛士が語る事も有り、
日本帝国軍では一般的に搭乗員が3人となっている戦車とは異なっているという意見も存在している。

馬術を習ったことが有り、僅かながら戦車にも搭乗した経験の有る俺としては、近接格闘戦という状況下で衛士同士の息を合わせる感覚に限定すれば、
後者の意見が荒唐無稽であるとは言えないと感じていた。

様々な意見の有る鞍馬型の操縦特性に関する説明であるが、ここで重要な事は人型とは異なる骨格を持つ機体の姿勢制御と上半身の火器管制を一人で行うには、
従来では考えられなかった異次元レベルの操縦技能が要求されると言うことだ。

生憎、馬術では馬がバランスを取る行為を騎手が行う事を要求される事は無く、戦車はそもそも近接格闘戦を行う事は無いのだ。


「全く・・・、長年使っている機体に愛着が湧く親父たちの気持ちが分からない訳ではないが、
 この機体に乗れば、鞍馬の単座仕様が開発されなかった理由も、
 この計画に俺が乗り気じゃなかった理由も直ぐに分かるだろうに・・・よ!」


俺はそう言うと同時に、跳躍ユニットの逆噴射を使って機体を減速させると、機体を大きく傾け四本の脚が生み出す脚力を使い、機体の進路を急激に変える。

跳躍ユニットが向きを変えロケット推進が再点火する僅かな間を使い、進路変更により正面に捉える事になった障害物の合間に見えるターゲットへ、
87式突撃砲による射撃を加えた鞍馬型瑞鶴(仮)は、次の瞬間には機体を再び切り返し、ビルの合間を抜け次のターゲットに向かって一気に加速、
射撃によるターゲットの破壊をレーダーで確認した直後、すれ違いざまに放った長刀の斬撃により、ターゲットを両断した。

この機動テスト中に俺が行った稲妻の軌跡を連想させる鋭角な進路変更を初めて見た開発者らは、当初馬と言うより鹿の様な動きだと呆れていただけだったのだが、
その機動を実現した動作入力の速度と間接思考制御による複雑な姿勢制御を確認すると、突然頭を抱える者が続出する事となる。

その様子を見た俺は、古の武士の言を引用し、同じ四足なら鹿を思わせる今の機動も鞍馬型で出来ない動きじゃないと、軽く受け流していたのだが、
一般の衛士と比べて技量の高いロンド・ベル隊の衛士たちから、急激な方向転換と火器管制を同時に行う事は困難だと言われた上に、
二足歩行に慣れた人間が脊髄反射としか思えない反応速度で、四脚歩行である機体の姿勢制御を平然と行う非常識を開発主任に指摘され、
改めて機体の操作性に関する問題点と己の異常性に気付かされる事となった。

結局EXAMシステムver.2搭載の鞍馬型瑞鶴(仮)では、俺以外の衛士には扱いが非常に困難で、俺に次いで高い操縦技術を持つ香具夜さんでさえ、
長期の訓練を行わないと機動データの蓄積と単座に最適な兵装の選定作業が出来ないとさじを投げてしまう事になる。

そんな機体だったが、2000年量産開始予定となっていたver.3搭載改良型管制ユニットの先行量産型を搭載すると、開発作業は一気に加速する事となる。

ver.2でテストした時のデータがコンバートされたver.3は、ver.3特有の機能である『コンボ』を使って簡単な入力で複雑な機動を実現したのだ。

機動制御の煩わしさから開放され火器管制に集中できるようになった事で、初めて鞍馬型瑞鶴(仮)をまともに動かせるようになった隊員からは、
久しぶりに笑みがこぼれる事になった。

こうして基礎機動データを固める事に成功した鞍馬型瑞鶴(仮)の開発は、この時点でロンド・ベル隊の手を離れる事になる。

今後は、個々の衛士による癖を機動データの蓄積により平均化して薄め、斯衛軍内にて搭乗予定の衛士たちによる微調整が行われ、量産開始の予定となっていた。

ロンド・ベル隊から他の部隊へ開発が引き継がれた段階での鞍馬型瑞鶴(仮)と鞍馬の差異、
及びver.3搭載改良型管制ユニットの仕様は、下記のようになっている。

名称:
試作戦術歩行攻撃機『鞍馬型瑞鶴(仮)』
装甲:
頭部及び胸部の装甲は瑞鶴の物が使用され、他の部分は烈震の物に置き換えられている。
機動力:
不知火系統で使われた技術を使って改良した烈震用跳躍ユニットを4基搭載。
運動性:
EXAMシステムver.3から実装されたコンボ機能により、複雑な機動を実現できるようになった事で、
近接格闘戦を選択肢に入れられる程度には向上している。
武装:
第一案 GAU-8 Avenger(ガトリング砲)×2(予備弾倉×4),可動兵装担架システム2基及び主腕に搭載可能な武装。
第二案 可動兵装担架システム6基及び主腕に搭載可能な武装。(90mm砲弾仕様の98式支援砲を二門搭載するか、ガトリングシールドを搭載する事を前提。)
稼働時間:
烈震のパーツを多用した結果、軽量化により鞍馬と比べて10%ほど延長を達成。
近接格闘能力:
EXAMシステムver.3搭載と単座への仕様変更により向上した部分以外に特筆すべき点は無い。
管制ユニット:
EXAMシステムver.3搭載型98式管制ユニットを搭載。
グレイゴーストにて、空きスペースに新型演算ユニットを追加搭載する形で動作確認が行われたEXAMシステムver.2.5と比べ、
管制ユニットに搭載していたメイン演算ユニットを御剣電子製の量子コンピュータに置き換えた事で、処理能力,登録可能コンボ数は共に大きく向上している。
ただし、EXAMシステムver.3の肝であるコンボ機能に必要不可欠な、その場に応じた判断を行う処理を最適化するための学習機能を司る、
バイオコンピュータの理論を応用したソフトには調整が加えられ、学習機能は低下している。
その代わり、基地毎に設置される予定の統合仮想情報演習システム『JIVES』の機能も兼ねた大型コンピュータに接続する事で、
最適化を一気に進めるという仕様となった。これは、グレイゴーストをBETAが特別扱いした事に対する処置である。
電子装備(アビオニクス):
烈震と同様、第三世代機に順ずる仕様となっているが、瑞鶴に使われている大型のセンサーマストを採用した事で、
烈震と比べてレーダーの性能は向上している。
コスト:
可能な限り、烈震と鞍馬のパーツを使いコスト削減に努めたが、導入コストは鞍馬の1.3倍という第三世代戦術機である吹雪に迫るコストとなった。
ただし、烈震(スーパーファントム)及び鞍馬のコストダウンと、この機体の生産数が増えれば、もう少しコストは抑えられるという試算もある。

烈震の部品を使う事で鞍馬の性能が向上している中で、斯衛軍専用機を開発する事は、無駄と言ってもいい行為だ。

だが、帝国軍内でもエース用やCPを同行させるために、操縦系を単独で行う事ができる仕様が求められている事も有り、
開発の成果を普及させて行くことが出来れば、今回の開発全てが無駄とはならない筈である。

また、最新装備が斯衛軍でのみ使用される事に、帝国軍から不満が出ないかという事も心配の種である事からも、
早急に鞍馬の単座仕様について普及手順を決める必要に迫られていた。

実は、佐渡島ハイヴの間引き作戦に試作型武御雷及び試作型八咫烏にて参戦した結果、両機が当初の予想を上回る成果を上げた事で、
総合評価で勝った武御雷の斯衛軍への供給開始が6月からと決定したのだが、それに対抗する帝国軍は、
光線級の破壊任務で武御雷を上回る成果を出した八咫烏による特殊部隊創設を打ち出すも、予算の関係上厳しいと言わざるを得ず、
事実上最新鋭機を斯衛軍が独占するという事態が起こっていたのだ。

俺は、斯衛軍の専用機廃止の流れを加速させるという観点からも、今後の日本にとって利益になると考え、
各団体間の意見調整に奔走する事になるのだった。








2001年3月

昨年末に俺も同行する交渉団が渡米し、ボーニング及びノースロック・グラナンの二社との打ち合わせを行った結果、
日本帝国はより好条件を提示したボーニング社と『国際標準型吹雪』に対する技術供与の契約を結ぶ事に成功していた。

交渉の最中の俺は、2000年8月からの3ヶ月間欧州に渡っていた間に、米国でも名前が知られるようになったためなのか、
しきりに戦術機に乗るように進められる事になる。

俺は、二社の技術力を確認する意味もあり、促されるままに複数のテスト機に搭乗し、その機体が持つ歴代のハイスコアを塗り替え、
開発者らと戦術機談義をして友好を深める事になる。

それがどの程度影響したかは不明だが、日本が保有する第三世代機の技術と運用データの提供及び、
御剣電気製EXAMシステム搭載型管制ユニットの情報は、戦術機の運用思想が異なる上に技術先進国である米国にとっても、
衛士の生存性に直結する部分だけに魅力的だったらしく、交渉はいたって順調に推移したのだ。

そして、国会の承認を得て国連軍が主導する先進戦術機技術開発計画に持ち込まれた吹雪の改修計画は、日本政府の後押しと米国政府の黙認により、
受け入れが決定されアラスカ・ユーコン基地にて開発が行われる事となった。

俺は当初の予定通り、吹雪の改修計画に紛れ込み国連軍への出向が決定、現場指揮官という立場で、今月中にアラスカへ行く事となっていた。


「次に日本に戻る時まで、俺は国連太平洋方面軍への働き掛けが難しくなる。
 すまんが、香具夜には先に横浜に行って準備を頼みたい。」


「分かっておる。
 じゃが、これで貸し一つじゃぞ。」
 
 
この日の為に、俺は香具夜さんと中里中尉に国連軍での基礎固めをしてもらい、佐々木さんにロンド・ベル中隊を任せる手筈を整えていた。

アラスカへ同行する事を主張する香具夜さんの説得には骨が折れたが、貸し一つと言う事を条件に出すと、先ほどのように快く引き受けてくれたのだった。


「お転婆な悠陽と頑張りすぎる冥夜の事は、真耶マヤ真那マナに任せる。
 それとついででいいから国内の事も頼む。」
 

近々、史上初と成る憲法改正に伴う国民投票が行われると噂されており、国内の動乱が収まる気配は無い。

だが、誰しもが国の停滞を訴える事は無く、以前より良いほうに動かそうという活気が見えてきたように思われる。

この外にも様々な思いは有るが、俺は自分と自分の居る世界を守る為に必要な道を、今颯爽と歩き出そうとしていた・・・・・・のだが。


「信綱。
 ユーコン基地に赴くお前に副官が付かないという話を聞いて、心配になってな。
 
 悠陽様に願い出て、この度の戦術機開発に斯衛軍から人員を派遣する事になったのだ。」
 
 
真耶マヤ、そんな話は初耳だぞ。」


「今回ユーコン基地へ送られる人員は、戦闘部隊が殆ど含まれていない。
 その為の保険だ。私達も日本も、お前を失う訳には行かないのだ。」
 

「そうじゃな、かの者ならワシも実力を知っておるから安心じゃ。」


真耶マヤに続き、真那マナと香具夜さんまで、護衛を兼務する副官の話を振ってくる。

俺の事を心配してくれるのは嬉しいが、慎重すぎるのではないだろうか。

三人の真意を掴みかね頭を捻る俺に、悠陽から言葉が掛けられる。


真耶マヤさんと真那マナさんが言った事も重要な事ですが、
 ・・・・・・浮気防止も兼ねているのだそうです。
 
 海外では、ハニートラップ?というものが流行っているとの事ですので、信綱様も気を付けて下さいませ。」
 

悠陽の言葉に、男女関係の事に弱みのある俺は、ぐうの音も出す事ができなかった。


「斯衛軍から派遣した副官は、現地の状況を確認するために既に現地入りしています。
 信綱様とも面識が有るようなので、直ぐお分かりになられるでしょう。」
  
  ・
  ・
  ・

世界はここを機転に、大きく変動する。

女性達の殺気混じりの笑顔を背に受けるという間抜けな状況ながら、俺は大きな希望を持ち、
明日に向けて今度こそ、大きく足を踏み出したのだった。




第一部完




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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
もっと早く更新する予定だったのですが、様々な事情により己の体力と相談しながら書いていたら、
こんなにも時間をかける結果となってしまいました。
毎度の事ながら、申し訳ありません。

今回は、政治?的な話を中心に盛り込んで見ました。
かなり戦闘とは離れた話ばかりとなりましたが、帝国の実情を知ってもらう為には外せない内容でした。
そして、推敲のつもりが文章が増えて、txtファイルで42kb・・・過去最大、全然サクサク進んでませんね。orz

後、大空寺財閥とか名前を出しましたが、私の知らない作品中での原作設定ですので、
原作と合っているかは不明です。
これ以上この件を膨らます為には、更なる調査が必要になってくると思われます。
欧州に渡る時間も有りましたので、TE編と合わせてその内外伝がかけるかも知れません。

最後の方は、第一部のプロローグとなります。
こういう話は、如何しても書くのに神経を使いますが、どんなものでしょう。
ご感想をお待ちしております。

第一部はこれで終了となります。
次回は、少し充電期間とゲームをする時間を頂いて、外伝でSSの書き方を検証した後に、
第一部改定と第二部(原作時間)の投稿を行いたいと考えていました。
しかし、残念な事にこの三ヶ月ほど、在宅時間より在社時間の方が長い週が続き、
その間食料品の購入以外に購入した物は片手で数えられるという状況となっています。
したがって今年度中は、感想板への返信以外のアクションを起こす事は難しいかもしれません。
申し訳ありませんが、ご理解頂けたら幸いです。

ただ、二部を完結させる事を諦めたわけではありません。
まだまだ未熟ではありますが、第二部からの正規の板への書き込みも検討中です。
第二部の開始が何時頃になるか検討も付きませんが、それまで忘れずにいて頂ければ幸いです。




[16427] 外伝 TE編・上
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:9219949f
Date: 2012/07/23 11:57

2001年3月


周囲の静けさを感じ、睡眠から目覚める前のまどろみを楽しんでした俺は、
静けさが一変し周囲が騒がしくなった事を感じ取り、眠気を振り払うように目を見開いた。

その眼前に映るは、薄暗い空間に浮かび上がる様々なボタンが配列されたパネル類と灰色の壁・・・、
最早日常となってしまった戦術機の管制ユニット内での目覚めだった。

アラスカ ユーコン基地で行われている次世代戦術機開発、通称『プロミネンス計画』に参加する帝国軍部隊へ、
巌谷榮二 中佐の助言に従いオブザーバーとして出向出来るよう働きかけを行っていた俺は、
XFJ計画試験部隊の活動開始から2週間遅れではあったが、試験部隊への参加を勝ち取り、
新基準で作られた吹雪二機を載せた大型輸送機『>An-225ムリーヤ』に便乗する事に成功していた。

そろそろユーコン基地に到着する時間のはずだが、と考えながら自分の直感を確かめるためにコンソールを操作する。
すると、網膜投射により輸送機パイロットの顔が眼前に浮かび上がり、かすかな作動音が通信開始の合図を送ってきた。


「こちら御剣、機長少しいいか。
 何か外が騒がしい様だ。待機中の吹雪では、カーゴ外の様子がつかめない。
 そちらのレーダーで何か確認できないか?」


「御剣少佐!?
 本機は順調に航行中、今の所これと言った異常は・・・。」


「機長、後方から接近してくる機影の機動が変です・・・。
 このままだと、こちらの飛行ルートに重なるぞ!」


その声を境に、操縦室内は喧騒に包み込まれる事となった。

>An-225ムリーヤのパイロット達はしきりに管制塔と連絡を交わしている様だが、管制塔側も慌てるだけで一向に事態が収集する気配は無い。

どうやら管制塔は、訓練区域を外れて接近する2機の戦術機の行動を掌握出来ていないようだ。

俺は焦るパイロット達を尻目に、新基準対応型吹雪を待機モードから戦闘モードに移行させるシーケンスを開始する。

そして、吹雪を起動させた俺の耳に、センサーが捕らえた輸送機に接近する戦術機主機の音が入ってくる。


「備えあれば憂い無し、と言うが面倒事は遠慮したいものだ・・・。」


伝わってくる音から、二機の戦術機が明らかな戦闘機動を取っていると判断した俺は、
移動時間を機体のチェック当ててしまう自分の仕事中毒が幸いする事態に悪態をつきながらも、
次第に冷静さを失いつつあるパイロットに最善と思われる要請をする。


「機長!
 俺が搭乗する吹雪を、カーゴごと切り離してくれ。
 万が一に備え、俺が貴官らの護衛に入る。
 
 カーゴの投下後、進路は変えずそのまま基地へ突っ込め!!」


突然の命令に、一瞬戸惑った様子を見せていたパイロット達だったが、自らの命も危うくなっている事を悟ると、
ユーコン基地管制塔に一報を入れた後、直ぐに切り離しのシーケンスを開始する。


「御剣少佐! カウントダウン行きます。
 3・2・1・・・GO!!」


「機長、良い空の旅をありがとう。
 
 ・・・御剣 信綱、出るぞ。」


輸送機から切り離されたカーゴは、一瞬空を舞うかという機動を見せるも、すぐさま真っ逆さまに落下を開始する。
しかし、次の瞬間その鉄の箱の蓋が開き、赤と白のツートンカラーに彩られた吹雪が空に解き放たれたのだった。






東西陣営の最新鋭機であるソ連製のSu-37UBチェルミナートルと米国製のF-15・ACTVアクティヴ・イーグルによるプロミネンス計画の広報撮影は、その開始直後破綻を迎えていた。

F-15・ACTVアクティヴ・イーグルのロックオンにより放たれた攻勢レーダーに反応したSu-37UBチェルミナートルが、瞬く間に戦術機にとって死角となる後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーンを掌握し、
火器管制を戦闘モードに移行させてしまったのだ。

そして、己が置かれた状況を理解したF-15・ACTVアクティヴ・イーグルは、Su-37UBチェルミナートルを振り切り、隙あらば己が有利な位置を掌握する為に戦闘機動を開始。
Su-37UBチェルミナートルも、その機動に誘われるかのように動きだす。

事態は、管制塔と撮影用に用意されていた輸送機『>C-130ハーキュリーズ』を置き去りにし、訓練可能区域を離れユーコン基地へ着陸する輸送機の航路近くまで、
侵入する事態となってしまう。

ああ、なんて幼稚な・・・。 わざわざ『見る』までもない。
F-15・ACTVアクティヴ・イーグルが必死に繰り返す戦闘機動を見ていたソ連軍衛士は、そう心の中で呟いた。
後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーンを取られたF-15・ACTVアクティヴ・イーグルに搭乗する国連軍衛士が焦っている事は、
一目瞭然だった。

急減速と横軸反転による進路の迂回で私を追い抜かせ、横軸反転をそのまま続ける事により、
元の進路に戻った奴が私の後ろを取る気なのだろうが・・・、分かっていれば対処は容易だ。
こちらはただ減速するだけで良い。そうすれば、敵は目の前で無様な軌道を描くだけで何も得る事が無いままで終わる。

F-15・ACTVアクティヴ・イーグルによる木の葉が舞うかのごとき三次元戦術機動が終わった時・・・、Su-37UBチェルミナートルとの位置関係に変化が起こる事は無かった。

勝利を思い描いた直後の失望。絶望に値するものなのかもしれないが、それではつまらない・・・・・・。
まあいい、私に敵意を向ける奴・・・私の任務を邪魔する奴・・・それはみんな敵だ。
それを殺す。・・・もう殺して良いんだ、なんて素敵なんだろう。

楽しむ事を止めたSu-37UBチェルミナートルが36mmチェーンガンを構え、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルに狙いを定める。
F-15・ACTVアクティヴ・イーグルからは先ほどまでの戦意が失せており、その攻撃を受け入れるかに見えた。


「クリスカ!」


Su-37UBチェルミナートル内、タンデム式複座シートの前席に座るイーニァ・シェスチナ少尉から発せられた警告の直後、管制ユニット内にロンクオン警告音が響く。
近くを航行していた輸送機から出現し、数分前から輸送機を護衛するかのように、こちらの進路を制限する以外の動きを見せなかった戦術機が、
生意気にも私たちに敵意を見せた瞬間だった。

傍観者の唐突な心変わりにより、数瞬の間Su-37UBチェルミナートルを駆る衛士の意識が奪われた事で、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルは最悪の危機を脱する事になる。

戦意の失せた敵より、優先すべき者が現れた事を感じた私は、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルへの攻撃を中断し、
新たな敵・・・日本帝国製第三世代機『吹雪』に酷似した機体へと標的を定めた。

Su-37UBチェルミナートルが正面に捕らえた敵機は、突撃砲はおろか可動兵装担架システムすら装備されておらず、
固定武装と思われる右腕の内蔵式固定砲を構えて直進してくるだけで、
広報撮影用にフル装備で出撃しているSu-37UBチェルミナートルと比べると、固定武装のみの敵機は丸腰と言ってもいい状態だった。

そんな装備で私に敵意を向けるなんて・・・、馬鹿な奴だ。
調査対象でもあっちびの機体は遠ざかってしまったが、作戦中止の命令が無い以上このまま好きにして良いと言う事なのだろう。
それなら、さっきのちびが大人しくしている間に、こいつは早く終わらせてしまおう。

Su-37UBチェルミナートルは赤と白でツートンカラーに塗装された吹雪をロックオンすると同時に、正面から迫る敵機の照準を外す為に細かな進路変更を開始。
しかし、敵機はそれを無視し更にこちらとの相対距離を詰めてくる。

米国軍の最新鋭戦術機の一つであるF-15・ACTVアクティヴ・イーグルを容易に破ったSu-37UBチェルミナートルへ、正面から戦いを挑んだその戦術機の行為は、
この事態を見届けていた者たちの誰の目にも、無謀であるかのように見えた。
だが、戦いは意外な展開を見せることになる。

接近する戦術機に向けてSu-37UBチェルミナートルが先に36mmチェーンガンによる発砲を開始するも、相手は一切発砲する事無く接近を続け、
レーダー上で無傷と思われる両者が交差した後、相手の後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーンを奪っていたのは、謎の戦術機だったのだ。



なんだこいつは、正面からロックオンされているというのに、恐怖も焦りも『見えない』。
まるで、こちらの攻撃が当たる訳が無いと思っているかのようだ。
私たちがこの距離で攻撃を外すなど有り得ないのに・・・、本当に馬鹿な奴だ。

そう考え跳躍ユニットに照準を合わせて放った攻撃は、ものの見事に外されてしまう。

それを三度繰り返した後で、私は始めて気付かされる事になる。
敵が私たちの攻撃が当たらないと思っているのでは無く、完璧に避けられると確信している事、
そして、私の戦術機動に関係無く、一定時間ロックオンした後に相手がワザと照準を外している事に・・・。

その動きに、相手が自分よりも強力なESP能力者である可能性が頭をよぎる。
ESPとは超感覚能力の事をさし、かつてソ連主導で行われていたオルタネイティヴ第三計画(BETAとの意思疎通・情報入手計画)では、
相手の思考を読み取るリーディング、相手に自分の思考を伝えるプロジェクション能力を有する人工ESP発現体が投入されたという経緯が有る。

その計画で造られた姉妹たちが相手であるなら、この事態も説明できた。
しかし、私は直ぐにその思考を振り払う。

相手が、私と同じ能力者ならこうも容易く思考を読み取れるはずが無い。
そう・・・、相手の思考は読めている。

感情は、怒りを示す薄い赤色の表面を冷静さの青が包み込んでいる。
次の瞬簡にやろうと考えている思考も、おぼろげながらイメージとして見えており、
私より強い力を持つイーニァなら、更にはっきりと見えているはずである。

今までの敵や先ほどまでのちびなら、このアドバンテージを生かし全く問題なく対応が出来ていた。
だが、この敵は違っていた。
こちらが少しでも機体を動かした瞬間には思考が切り替わり、殆どタイムラグ無しに機体がその考えに追従しているのだ。

先ほどまでの敵と比べると、段違いの強さだった。

その動きに、Su-37UBチェルミナートルが追従できない。
ソ連の軍事技術の粋を集められて造られたこのSu-37UBチェルミナートルの機体性能が、相手より劣っている筈が無い。
しかし・・・、ならばどうして奴はこうも複雑な機動修正を、容易く繰り替えす事が出来るのだ・・・・・・。

そして、また私の思いをあざ笑うかのように、相手の思考が移り変わっていくのだった。



なおも接近を続ける敵機、初めて出会う種類の敵の出現に焦りを覚えた私に、敵からの通信が飛び込んでくる。


「こちらは日本帝国陸軍所属 御剣少佐だ。
 ソ連軍機、直ちに戦闘行動を停止せよ。」


「うるさい!先に敵意を向けたのはそちらだ。
 それに、西側からの命令に従う必要は感じない。」


「クリスカ・・・いいの。」


「大丈夫、私が守るから。 」


心配そうに声をかけてきたイーニァを宥めるように声をかける。
同時に、イーニァを不安がらせる敵に対しての嫌悪感が、更に強まるのを私は感じていた。


「管制塔からの再三にわたる命令を無視するんだ。
 俺の説得に応じる訳が無い・・・か。

 ならば、貴官らを無力化させてもらう。
 貴重な実験機がスクラップになっても悪く思うなよ。」


警告らしき相手の発言を残して、通信は途絶える。この時、相手との相対距離は300mを切っていた。

許さない!私たちに敵意を向けた上に、西側の人間が命令するなど、許されるはずが無い。
しかも、この敵からはちびが遠ざかって以降、本気で射撃をする意思を見せないという余裕すら見せているのだ。

馬鹿が・・・、貴様の腕は確かだが思考は見えている。
先手を取れるのは私の方だ、対応する暇も与えない接近戦なら私たちが負ける筈は無い!

Su-37UBチェルミナートルが、36mmチェーンガンの照準を敵の管制ユニットに合わそうと動く。

さあ、私はこれから射撃を行うぞ・・・、貴様は何処に逃げる?
私はそこにモーターブレードを叩きつけてやる。
ああ・・・、早くその澄んだ青色が濁る瞬間を私に見せてくれ・・・・・・。


「何だそれは!!」


36mmチェーンガンの銃口の動きに合わせたかの様に、相手の思考が見えなくなり、
感情を表す色が急速に消えていく瞬間を目撃した瞬間、私は思わず声を荒げさせる事となった。

相手に感情が有る事は分かる・・・。
だが、そこに有る筈の強弱や方向性といった揺らぎが感じられない。
まるで、コップの中に入った静止する水を眺めている気分だった。

しかも相手は、ご丁寧にスモークまで焚いて視界を奪ってくる。

・・・・・・だが、私がここで負ける訳にはいかない。
ここで負けたら、イーニァが・・・。

気が付いたとき、私はがむしゃらに36mm弾をばら撒き、前腕部のモーターブレードを展開した左腕を振り下ろしていた。






最近部隊に合流したユウヤ・ブリッジス少尉が習熟訓練を行っているTSF-TYPE93吹雪と思われる機体が現れてから、
アタシは唐突に命の危険から救われた事に呆然としていた。
しかし、次第に安堵感は消えうせ、怒りが湧き起こってくる。

それは、戦いを諦めてしまった自分への怒りであり、アタシがまだ動けるにも係わらず無視してSu-37UBチェルミナートルが新たな敵を選んだ事であり、
戦いに乱入してきたTSF-TYPE93吹雪への怒りでもあった。

機体の体勢を整えたアタシは、隙があれば参戦する事も考慮し、一定距離を維持しながら二機の戦闘を観察する立場に回る。

しかし、アタシの思考に反した形で、参戦する間も無く戦闘は終結してしまう。

Su-37UBチェルミナートルの射撃を物ともせず接近したTSF-TYPE93吹雪が、スモークグレネードを投擲。
そして、相手の射撃をサイドステップと左腕の内蔵式ブレードを盾にする事で最小限の被害で切り抜け、Su-37UBチェルミナートルのモーターブレードによる斬撃を、
機体に張り付くかの様な接近機動で脇をすり抜けて回避。そのまま背後を取る事に成功したのだ。

なおも戦闘を継続するSu-37UBチェルミナートルは、何度かTSF-TYPE93吹雪を己の後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーン外に追いやる事に成功するも、その度に武装を削られていく。

そして、僅か数分の間に近接格闘兵器しか武装が残されていない状況まで、Su-37UBチェルミナートルは追い込まれてしまう。


「これ以上、戦闘行動を取るのなら、ソ連に対して正式な抗議をする事になる。
 この意味が分かるか・・・。」


「くっ・・・、うるさい。
 西側に居る貴様の言う事が信用できるか!」


「大丈夫だよクリスカ。ノブツナは、何もしないって。

 ・・・あっ、私はイーニアだよ。」


この会話の前後に奇妙な違和感があったが、オープンチャンネルで交わされたこんな間抜けな会話が、
終了の合図となった。


「機体は壊さなかったけど、中尉に怒られる・・・。」


事態が収束したのを見届けたアタシは、元々国連の広報活動に積極的では無かった事も有り、任務の失敗を悔やむ気持ちは無かった。
唯一の心配は、直属の上官であるイブラヒム中尉を失望させたかも知れないという点だった。

だが、この事件はこれで終わりではなかった。

機体を切替し帰路に着こうとしたアタシに、帝国軍からの要請に応える形で国連軍から命令が下り、あのすかしたソ連軍衛士と共同で、
赤と白でツートンカラーに塗装された吹雪の運搬に使用し、雪原に落とされたカーゴの輸送をさせられる事になったのだ。

しかも、東西の協力を表すのにこれ以上絵になるものは無いと言われ、輸送の様子を撮影までされてしまった。

東西の最新鋭機が一つのカーゴを運ぶ・・・、前線で戦術機がその様に運用される事が有るとは言え、
後方で目撃すると感動よりもシュールさが先行し、悲しくなってくる光景である。

一面銀世界の中で、強く人工物を意識させる除雪されアスファルトがむき出しとなっている滑走路にカーゴを置くと、
Su-37UBチェルミナートルは何も言う事無く、ソ連軍基地へ飛び去ってしまう。

その光景に再び感情を爆発させたアタシは、悪態をつく事になる。

感情が納まらぬ中、管制塔からの指示を受けハンガーへの移動を開始すると、なぜか後から先ほどのTSF-TYPE93吹雪が追従し、
同じ区画のハンガーにそのまま収まってしまう事になった。

アタシは、戦術機の管制ユニットから飛び出しタラップに降り立つと、そのままTSF-TYPE93吹雪の前まで走り、
降りてきた衛士に向かって怒りに任せて拳を突き出す。


「お前が邪魔しなくても、アタシは大丈夫だったんだ。」


しかし、相手は軽く受け止め、アタシの言葉にも特に驚く様子も見せず、うっすらと笑みを浮かべてみせた。


「元気の良いお嬢さんだ・・・。
 意気消沈していると思っていたら、そうでは無いらしい。」


アタシが輸送機の航路に進入した事を咎める様子も無く、子供をあやす様な態度を取る目の前の衛士に、
アタシはますます行動をエスカレートさせていく事になる。

しかし、この一方的な攻防も長くは続かなかった。

帝国軍から派遣されて来ていた篁中尉が、衛士の迎えに来たのだ。


「御剣 少佐、お待たせいたしました。
 司令室までご案内いたします。」


「少佐!?」


御剣少佐はアタシの頭の上に手を置いて、また後でという台詞を呟き、後はよろしく頼むと整備兵たちに声をかけた後、
その場を後にする事になる。

そしてアタシは、イブラヒム・ドーゥル中尉に捉まり、コッテリ絞られる事になるのだった。






ブリーフィングルーム

「オープンチャンネルの交信を聞き逃すなんて、
 間抜けすぎるだろ。」


VGヴィージー、うるさい! アタシはその時忙しかったんだ。
 それに・・・、何がまた後でだ。
 すかしやがって、気に入らないな!」


「どうした?
 ユウヤが新しい日本人の参加に機嫌を悪くするなら分かるが、お前まで如何した?」


ブリーフィングルームでの待機中、ラテン系のノリなのかウェーブのかかった長い黒髪が特徴のヴァレリオ・ジアコーザ少尉が、
勇猛な山岳民グルカ出身の元気すぎる少女、タリサ・マナンダル少尉の愚痴に乗っかる。
そして、そのやり取りを切っ掛けに、隊員間で会話の花が咲き始めた。


「少佐だからって、アタシの勝負を邪魔したのは許せない。」


「負けそうだったのに、何を言っているんだか・・・。
 それに、訓練区域を抜けて輸送機に接近したのは拙かったな。」


「輸送機のことだって分かってた、まだ余裕があったのに・・・」


勢い好く叫んでいたチョビ(タリサ)だったが、イブラヒム中尉に怒られた事を思い出したのか、声が尻すぼみに小さくなっていく。

それにしても、俺の到着から1週間遅れでオブザーバーの合流か・・・。


「若くして少佐だって言っても、どうせ血筋で階級が上がっただけだろ。
 乗ってたTSF-TYPE93吹雪も、テスト機と言っても派手すぎるしな。」


チョビの話では、合流するとされていた御剣少佐の年齢は20代前半ぐらいらしい。
普通の軍隊でその年齢なら、中尉でも出世している方だ。
如何考えても、あの国特有の血統主義が生んだ結果に違いない。

そう一人で納得していた俺の脳裏には、アメリカ人である母を見捨てて、日本に帰った顔も知らない日本人の父の虚像が映し出されていた。
だが、他の隊員は多少御剣少佐の事を知っているのか、俺の意見に疑問を挟んできた。


「ソ連の紅の姉妹スカーレット・ツインの背後を取ったんだぞ。
 機体性能だけじゃないのは確かだ。
 それに、少佐の衛士としての腕は、極東では噂になってるようだぜ~。」


「そうだな、技術屋の意見として言うと、
 あの機体はフレーム剛性と拡張スペースの拡大、固定武装の変更が改良の中心で、
 基本性能が現行タイプの吹雪より大幅に上がっている、と言うことは無いと思うぜ。」


マカロニ(VGヴィージー)は、独自のルートで行っていた情報収集の成果を得意げに語り、
米国軍時代からの付き合いのメカニック、ヴィンセント・ローウェル軍曹が、その意見に肯定の意思を示す。


「そうね、御剣少佐の話は私も聞いた事が有るわ。
 それに、彼は衛士として以外にも有名人よ。
 タリサ・・・あまり御剣少佐の事を悪く言っていると、大変な目にあうわよ。」


「アタシはそんな事気にしないね!」


「・・・権力者が嫌がらせでもしてくるのか?」


プラチナブロンドの髪とその美貌が印象的なスウェーデン王国出身の女性、ステラ・ブレーメル少尉が発した言葉に、
俺は眉をひそめ吐き捨てるように言葉をつむぐ。


「御剣と言う名字セカンド・ネームは、日本国内でも多くないらしいの・・・。
 日本のミツルギというと、貴女はいつもすごいって言っていたじゃない。」


「そんな奴知らな・・・。
 あっ! ミツルギ・フーズ!!」
 

「それよ・・・、欧州でもあそこの合成食品は美味しいと評判だったもの。」


「ユウヤすまない。もし本当なら、アタシは少佐に逆らえない・・・。
 あの食べ物が食べられなくなるくらいなら、アタシは光線級の群れにだって飛び込むね。」


くそ、このチョビは、好き勝手言いやがって。
ついさっきまで不機嫌だったのに、何でお前が得意げな顔してんだよ。
しかも、ギガ美味いって何だ? 本当に意味が分からない。

この場で、御剣少佐を認められないのは、どうやら俺だけのようだった。

俺が沸き起こる不満に眉を潜め、ミツルギ・フーズ談義で盛り上がる前線出身の三人の衛士を眺めていると、
中東出身で前線からの叩上げの仕官であるイブラヒム・ドーゥル中尉が現れ、その後に話題の御剣少佐と篁中尉が続いて室内に入ってきた。


「総員傾注。
 本日より、本計画にオブザーバーとして日本帝国陸軍から参加する事になったノブツナ・ミツルギ少佐だ。
 
 少佐、ご挨拶を・・・。」


「御剣信綱だ。
 帝国軍技術廠で第13独立機甲試験中隊の指揮を執っていたが、
 この度のXFJ計画にオブザーバーして参加する事になった。
 
 諸君らが優秀であるという事は、話には聞いている。
 今の調子で、XFJ計画に従事する事を期待する。」
 

「「「イエス、サー」」」


身長は180cm程度、日本人としてはがっちりとした体格と精悍な風貌、その黒髪は無造作に肩口で切りそろえられており、
まったく手入れをしているようには感じられない。
しかし、その髪には独特の艶が有り、育ちの良さを感じさせるものだった。

そして、特筆すべきはその存在感だ。
タリサから聞いていた雰囲気とは異なる威圧感に、反感を覚えていた俺も皆と揃っていつの間にか敬礼をしていた。

御剣少佐は、きれいな所作で答礼を行うと、唐突にその表情を弛緩させアルカイク・スマイルと俗に言われる胡散臭い笑みを浮かべる。
そこからは先ほどまでの威圧感は無く、スポーツが得意な大学生と言われても信じてしまいそうな雰囲気の男が佇んでいたのだった。


「皆、楽にしてくれ。

 プロミネンス計画を主導するクラウス大佐が普段言っているように、
 上官への敬意は必要最低限で良い。」


そして、少佐の口からXFJ計画発足の経緯が説明される。

XFJ計画・・・、それは日本帝国の主力量産第三世代機である吹雪を、戦術機の世界展開に実績の有る米国のボーニング社と協同で改修し、
海外仕様への対応及びオプションパーツの搭載による拡張性を確保した、国際標準機とする計画である。

これにより、日本帝国内の需要を満たし、且つ米国主導の下、各国が共同参画して開発が進められているFX-35『ライトニングⅡ』
(ロックウィード・マーディン社)の開発が遅れている中で、ライトニングⅡの生産開始までの期間を埋める必要に迫られた、
欧州を中心とする海外の第三世代機の需要を満たす代行機の座を狙っているとの事だった。

この日本帝国の動きに、合衆国内では過去の貿易摩擦といった苦い経験が頭をよぎり、主力産業を奪われるのではないかと言う意見が噴出する。
一方、日本がもし単独で計画を実行し成功した場合、本当に目も当てられない事態になるという不安もあった。
後者の意見は、現にF-4F『スーパーファントム』及びF/A-4J-E『クラマ』の輸出がアジアを中心に好調で、
全くの妄想と言い切ることが出来ないものだ。

そして、計画に協力することで日本の最新技術を盗み、自国の戦術機開発に弾みをつけたいという積極的な意見や、
少しでも日本の仕事を合衆国内で取れるならそれもありという自虐的な意見が出た事で、合衆国政府は消極的賛成の立場を取る事になったのだ。

この基地に来る前の俺は、日本人に学ぶ事など無いという意見だったが、実際に吹雪に搭乗した者としては、
一部の技術では米国を追い抜いている事を認めざるを得ず、今でも複雑な心境ではあるが計画に参加する意義はあると結論付けていた。

俺が思考をめぐらしている間に、少佐は説明を簡潔に終え、最後にこう締めくくった。


「貴官らには、わが国が本気を出している事を理解してもらいたい。
 つまりこの計画は、国際協力を分かり易くする示すポーズとしてやっている訳では無いのだ・・・。
 
 最後に、私は帝国軍で運用されている戦術機なら、全てに搭乗経験が有り、海神と瑞鶴以外は実戦経験済みだ。
 今後の開発を行う上で、帝国の戦術機運用が知りたければ、遠慮なく聞いてくれ。
 
 以上だ。」






話を終えた御剣少佐・・・、俺のいつもの癖でタックネーム『ペテン師トリックスター』を贈った人物は、視線をイブラヒム中尉へ送る。

すると、イブラヒム中尉が話を引き継ぎ、新たな案件についての説明を始めた。


「早速だが、CASE:47(戦術機を使用するテロリストとの戦闘を想定したカリキュラム)にて実機演習を行う。

 これは、御剣少佐の提案で特別に行われる事になったもので、新型OSの教導もかねている。」


新型OS・・・、1週間前に初めて触れた『EXAMシステムver.2』と呼ばれる日本帝国製の戦術機制御用OSは、
良い意味で俺の今までの常識を打ち砕いてくれたものだった。

操作入力間のタイムラグを無くす先行入力と、事態の変化に柔軟に対応する為の入力キャンセル機能。
この二つのシステムを搭載した戦術機、現時点ではF-15Eストライク・イーグルTSF-TYPE93B吹雪の二機種に搭乗して、現行OSとの比較も行ったが、
今までのOSが玩具であったのかと錯覚させるほど、劇的な改善をもたらしていたのだ。

現在、アルゴス小隊内の全機が新型OSへの換装を完了しており、帝国軍内で配られているという教本の英訳と篁中尉の助言を頼りに、
他の隊員も習熟に励んでいる。
そして、毎日個人的に集まって意見交換をするほど、皆この新型OSに熱を上げていた。

この事自体は、一人の衛士としては喜ばしい限りで、俺個人としても正直に言えば楽しくて仕方が無い。
しかし、アメリカ人としては、日本帝国に出し抜かれたという想いがどうしても拭えない。
この思いは、この間までテストパイロットとしてグルームレイク基地で任務に従事していた俺が、日本帝国の新型制御OSの登場以前まで、
合衆国が制御OSの開発を重視していなかった事を知っているだけに、余計だった。

俺が新型OSへの複雑な思いを胸にしまいこみ、イブラヒム中尉の説明に耳を傾けると、今回の演習にイブラヒム中尉も参加する事が告げられた。
中尉の戦いを始めて見られるという事に、一瞬俺の心は躍りだしたが、次の瞬間自分がペテン師トリックスターの指揮下に入ると言われた事で、一気に心が冷めてしまう事になる。


「俺は、今回持ってきた吹雪で出る。
 俺が搭乗する戦術機は、この演習後にオーバーホールされ、ブリッジス少尉に引き継ぐ事になっている機体だ。
 ブリッジス少尉には、申し訳ないが今しばらく借りさせてもらう。」


俺はその言葉に、あえて無視をした。
この不遜な態度は、軍隊なら本来許される筈が無い態度だったが、ペテン師トリックスターは苦笑するだけで、追求するような態度は見せなかった。

その態度が、余計に癪に障るんだよ。
やはり俺は、この日本人特有の薄ら笑いをやはり好きになる事が出来ない。

だが、俺の感性とは異なりペテン師トリックスターの苦笑を横から眺める事になった篁中尉は珍しく柔らかい笑みを浮かべていた。

あの日本人形ジャパニーズドール(篁中尉)が笑うなんて、珍しいな・・・。

俺の想いとは裏腹に、その後もブリーフィングはつつがなく終了、各員は演習を行うために所定の位置へと散っていく事になるのだった。






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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
もっと早く更新する予定だったのですが、遅くなってすみませんでした。
決して、TEのアニメ放送に焦ったわけではありませんよ・・・。

今回は、TEの導入部分を書きました。
前後編の予定が、上中下巻になった挙句に、本当に導入部しか書けていない事に、愕然としてしまいましたが、
気にするほどの事ではないでしょう。

何より問題なのは、アニメの放送で設定に大きな変更が必要な部分が多く発生した事です。
本当に、どうしよう・・・。

今回、本来の主人公の立場を食ってしまいました。こんな導入しか思い浮かばなくてすみません。
しかし、今後全てのイベントを独占するという事はありませんので、その点はご安心下さい。

次の更新は未定ですが、サマータイムの期間中は少し余裕がありますので・・・。
・・・兎も角、結果を出すべく頑張りたいと思います。



[16427] 外伝 TE編・中
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:9219949f
Date: 2012/08/13 20:03


CASE:47を前提とした実機演習は、俺を隊長とするα小隊とイブラヒム中尉を隊長とするβ小隊に分かれて行われる事になった。

α小隊
吹雪(新基準型)TSF-TYPE93C:御剣 信綱 少佐
吹雪(現行型)TSF-TYPE93B:ユウヤ・ブリッジス 少尉
F-15Eストライク・イーグル:ステラ・ブレーメルザ 少尉
β小隊
F-15・ACTVアクティヴ・イーグル 1号機:イブラヒム・ドーゥル 中尉
F-15・ACTVアクティヴ・イーグル 2号機:タリサ・マナンダル 少尉
F-15Eストライク・イーグル:ヴァレリオ・ジアコーザ 少尉

表面的な戦力評価を考えれば、機体性能が高いF-15・ACTVアクティヴ・イーグルを2機有するβ小隊が有利ではあるが、
EXAMシステムに習熟した俺の存在を考えれば、α小隊に勝ち目が無いと言うほど戦力差は無いと言えた。

演習の序盤、俺は積極的に近接戦闘を挑まず、エレメントを組んだブリッジス 少尉の援護に徹する事にし、
各員のEXAMシステムへの習熟度を見ると供に、XFJ計画の要であるブリッジス 少尉の戦術機動を観察する事にした。

新型の戦術機制御OSであるEXAMシステムへの習熟は、旧OSに触れた期間が長いほどその癖を引きずり、遅れる傾向がある。
また、感性を大事にして機体を操る者は、初期段階では他者よりも早くEXAMシステムに習熟する事が多い。
ドーゥル 中尉、マナンダル 少尉、ブリッジス 少尉の三者の熟練度は、これらの例に漏れずにいる様であった。

そして、肝心のブリッジス 少尉の戦術機動は、米国製戦術機とは異なる仕様の吹雪(現行型)の機体特性を、
完全には把握出来ていない様子が見て取れる。
だが、それでも上手く米国陸軍の操作技術を応用し、ある程度戦場で使えるレベルにまで吹雪を掌握していた。

新OSという要素があったにも係わらず、一週間という短期間でこのレベルにまで機体に習熟できるスキルを有する者は、
最前線で鍛えられた日本帝国軍の衛士の中でも、早々居るものではない。
更に、彼の論理的に新OSを使いこなそうとする試みは、基本的な部分の習熟ではマナンダル 少尉に劣るものの、
いくつかの部分ではEXAMシステムの応用編まで足を踏み入れている様である。
まさに、賞賛に値する能力を有していると言ってもいい。

やはり、ブリッジス 少尉の存在は、この度のXFJ計画に必要不可欠な存在だ。
米国の陸軍戦闘技術研究部隊に配属されるほど習熟した技術と知識を持つ者が、最前線で培った日本帝国の技術を学んだ時、
何を生み出すのか・・・。
それこそが、この計画で俺が最も重要視している事だったのだ。


「だから・・・、今のままでは困るんだよ。」


だが、現時点でブリッジス 少尉は米国陸軍の技術に拘り、日本帝国の技を吸収しようという段階まで進んでいない。
このままXFJ計画が進めば、俺が望んだ事の半分も達成されるかが怪しい状況だった。


「能力が有るのに、感情が邪魔をしてその能力を発揮しない・・・。
 篁 中尉を苛立たせているのは、たぶんこの部分だろう。」


XFJ計画の日本帝国側開発主任兼、ユーコン基地内での俺の副官らしきポジションに収まった篁 中尉と、
米国軍から出向しXFJ計画の主開発衛士となったブリッジス 少尉の仲が上手く行っていないことは、
ブリッジス 少尉に対する説明を求めた際の篁 中尉の厳しい表情から察している。

俺は、どうすれば二人の仲を取り持つ事が出来るのかと考えを巡らせる。
しかし次の瞬間、自分が久しぶりに若者を心配する年配の思考をしている事に、思わず苦笑する事になった。


「ふっ、最近年上ばかりを相手にし過ぎたか?

 俺らの年なら、利害なんかじゃなく、
 互いの本音をぶつけ合うだけで事足りるだろうにな・・・。」


もう思い出す事も少なくなった向こう側の世界での記憶のおかげで、自分自身の精神年齢が高いとは感じているが、
肉体年齢的にそれほど自分と変わらないブリッジス少尉の様な若者に対して、あまり年上として策を弄すると、
上から目線過ぎると思われ、余り良い方向には行かない事が多いのだ。

こうして俺が余計な思考を巡らしている間にも、戦況は動く。
F-15・ACTVアクティヴ・イーグルの機動性を上手く使ったドーゥル 中尉とマナンダル 少尉のエレメントに、俺とブリッジス 少尉のエレメントは、
追い詰められつつあったのだ。

そして、ジアコーザ 少尉の姿が見えない事実が、この先の逃走経路上に罠が仕掛けられている事を暗示していた。


「ブリッジス少尉。
 既に気が付いていると思うが、B1区画に追い込むように誘導されているぞ。」


「分かってます!!」


軌道変更に伴う加速度変化にさらされている為か、ブリッジス少尉から苦しさを押し殺すような返事が返ってくる。
網膜投射に映されたブリッジス少尉の表情からは、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルへの対処に追われ、否応無く誘導されている事が読み取れた。

だが、こちらもブレーメルザ 少尉を伏せており、これは相手にもまだ補足されていないはずである。


「罠は、かかる寸前に食い破った方が、
 相手に与える精神的ダメージが大きくなる。
 二番機(タリサ機)を単独で押さえられるか?」


F-15Eストライク・イーグルならまだしも、こんな機体だと無理です。
 性能差がありすぎる。」


平原での戦闘ならまだしも、ビル群の中なら機動性よりも運動性が重視される環境である。
それなら、F-15Eストライク・イーグルよりも、吹雪の方が扱いやすい筈だった。

これが、機体性能を上手く引き出せていないという事だろう・・・ならば。


「フラッシュモードを使え。
 先ほどのソ連機との戦いでマナンダル 少尉の戦術機動を見ていたが、
 フラッシュモード使用中の吹雪なら、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルの運動性を上回れる。」


フラッシュモード、それは慣性力(G)を低減するための機構を有する98式管制ユニットに採用された、
ボタン一つの操作で搭乗制限を約30秒間限定解除し、機体性能を10%押し上げる機能である。
これは、主に緊急回避時の対応に使う事を想定して採用された機能だが、それを用いて攻勢に出る事も可能だった。
残念な事にF-15・ACTVアクティヴ・イーグルは、92式戦術機管制ユニットのCPUを含む情報処理装置を換装してEXAMシステムver.2がインストールされている為、
フラッシュモード及びそれに類似する機能は搭載されていない。

ブリッジス 少尉と同じ開発衛士でもあるマナンダル 少尉なら、このモードの存在も時間制限と言う欠点も知っているだろうが・・・。


「それと連続使用では無く、制限時間を細分化して使え。
 使用時間を錯覚させられれば勝機は有る。
 後は・・・自分で考えろ。」


「くっ、やってやる・・・。やって見せれば良いんだろ!」


教導の一環として手短にアドバイスをしただけのつもりだったが、ブリッジス 少尉は衛士としての技量に俺が疑問を持っていると受け取ったのか、
投げ遣りな言葉を返してくる。

純粋に使いこなせると思って教えたんだが・・・、なぜか知らないが嫌われているな。

ブリーフィングルームでの初顔合わせ以来、どうも嫌われている感が有るブリッジス 少尉に、俺は内心ため息を付く事になるが、
表情には出さず別に倒してしまっても良いと伝え、再び意識を戦闘に集中させた。

そして、誘いに乗りビルの角を曲がった直後、俺は今までの地上のビル群の合間を這うような機動から一転、小さく空に飛び上がる。
すると、飛び上がった俺が駆る吹雪の下を36mm砲弾が通過した。
攻撃のタイミングと方向から考えるに、砲撃手はジアコーザ 少尉以外に考えられなかった。

俺は、先ほどの攻撃から得られたジアコーザ 少尉の位置をブレーメルザ 少尉に伝えると同時に反転し、
F-15・ACTVアクティヴ・イーグルの一号機(イブラヒム 中尉)へと襲い掛かる。
そして俺の視界の端には、事前の打ち合わせ通りにF-15・ACTVアクティヴ・イーグルの二番機(タリサ機)へ攻撃を仕掛けるブリッジス 少尉が映るのだった。






私が割当てられたアルゴス小隊αチームの隊長となった日本帝国軍の少佐が行った事は、TSF-TYPE93吹雪でエレメントを形成して先行、
敵機のあぶり出しを行う事、私のF-15Eストライク・イーグルが姿を隠してエレメントに追従し、隙を見せた敵を狙撃するという、
酷く単純な方針を示しただけだった。

私の経験上、成り上がり者は細かく指示を出して自分の力を証明する事に躍起になるものだ。
それに対し、前線での経験が豊富な衛士は、現場の判断を重視する。

私たちに自由度を与えてくれる点とこの落ち着き様を見ると、ミツルギ 中佐が明らかに後者であることが分かる。
また、戦術機の開発に余計な邪魔をされないだろうという確信にも似た予想ができ、私は好感と同時に安心感を覚えていた。

スウェーデン王国のサーブ社が製造する第三世代戦術機 JAS-39『グリペン』の事を考えると、
そのライバルとなるTSF-TYPE93C吹雪(新基準型)F-15・ACTVアクティヴ・イーグルに係わる私の立場は複雑だ。

それでも・・・、祖国を取り戻すためなら、使う武器は少しでも強いほうが良い。

祖国がどの機体を本格採用する事になるかは不明だが、今はこの戦術機開発が私にとって重要な事だったのだ。

戦闘は、先行したTSF-TYPE93吹雪のエレメントが相手のF-15・ACTVアクティヴ・イーグルのエレメントに捕捉されたところから始まった。

後方から戦場を観察する私からは、TSF-TYPE93吹雪を操る二人の戦術機動の差もよく分かる。
ミツルギ少佐は積極的に前に出ず、ブリッジス 少尉の援護に重点を置いて行動し、自身は巧みな機動で攻撃を回避している。
それに対して、ブリッジス 少尉はなんとか反撃を行おうと試みているが上手く行かず、逆に機動性の差を生かしたF-15・ACTVアクティヴ・イーグルの連携に、
次第に押され始めてしまう。

ブリッジス 少尉が特別悪い戦いをしている訳ではない。
むしろ機種転換をして間もないTSF-TYPE93吹雪を駆って、開発が先行し習熟が行われているF-15・ACTVアクティヴ・イーグルと戦いが出来ている次点で、
十分褒められるべきことである。

それなのに、隊の中でも高い操縦技術を持つと認識していたブリッジス 少尉の機動と見比べても、
ミツルギ少佐が無駄の無い動きをしていると感じられる・・・、
つまり私たちの知らない新OSを使う事で編み出された新技術、戦術論がまだまだ有ると言う事だろか?

私は自身がまだ強くなれる可能性を感じ、思わず唇がつり上がるのを感じていた。

そうしている間にも、二機のTSF-TYPE93吹雪は敵エレメントの巧みな誘導に引っかかり、罠が仕掛けられているであろう地点に差し掛かる。
だがこの流れに身を任せるほどTSF-TYPE93吹雪を駆る二人は易い者たちではなかった。
二人の戦術機動が急激に荒荒しいものに変わったかと思うと、若干二機連携の距離が開き、
相手のエレメントに対して一対一になるように踊りかかったのだ。

そして、少佐の通信からジアコーザ 少尉の位置、そして予想される進攻ルートが告げられた。
どうやら、少佐は一番機(イブラヒム 中尉)の拘束とブリッジス 少尉の援護を行いながらも、
動き回るジアコーザ 少尉の攻撃地点を制限する自信があるようだった。

私たちアルゴス小隊αチームにとっては、TSF-TYPE93吹雪F-15・ACTVアクティヴ・イーグルの戦いは若干不利だが、一方で位置を悟られていないという有利な条件で、F-15Eストライク・イーグルの同機種による一対一という状況が生まれた訳だ。

ここで、私がTSF-TYPE93吹雪を撃墜される前に、ジアコーザ 少尉を撃墜できれば、こちらの小隊が大きく有利になる。
ここまでお膳立てされた状況で、負ける訳にはいかなかった。


「期待には、応えるようにしないとね。」



「何じゃそりゃ」

TSF-TYPE93吹雪を始めて視界に捕らえた直後に、F-15Eストライク・イーグルが放った突撃砲による改心の一撃を回避された俺は、思わずそう呟いていた。

F-15・ACTVアクティヴ・イーグルが上手く相手を誘導していたのにも係わらず、罠にかかる寸前で回避された事に、
気落ちしないではなかったが、直ぐに意識を切り替え攻撃地点からの移動を開始、再度攻撃のチャンスをうかがう事にした。

俺たちアルゴス小隊βチームの最優先目標は、最も脅威と成り得るミツルギ少佐、
少佐の行動を阻害するビル密集地点への誘導と火力の集中により、早期に撃破する事だった。
ミツルギ少佐がこの演習に参加した建前として、新OSへの教導と言うものが有ったが、俺たちは始めからそれを無視していたのだ。

だが、数少ないチャンスをものにできなかった事で、前回のトップガン(ユウヤ)の歓迎演習にて、
美味しい所を奪っていった射撃技術を持つステラのF-15Eストライク・イーグルが未だに姿を見せていない事が大きな意味が出始め、
F-15・ACTVアクティヴ・イーグルTSF-TYPE93吹雪による本格的なドッグファイトが始まった今、
俺には周囲を警戒しつつ援護射撃を行う事以外の選択肢を無くしていた。
俺たちβチームは、見事に始めの論見を外されてしまう事となった。

その後、俺は幾度と無く少佐への射撃を行うも、絶妙なタイミングで軌道を変え物陰に隠れるTSF-TYPE93吹雪に有効な攻撃を加えられず、
時間を無意味に費やすしてしまう。
イブラヒムの旦那のF-15・ACTVアクティヴ・イーグルを押さえ、トップガン(ユウヤ 少尉)への援護を行っているにも係わらず、
俺の存在にまで気を配るミツルギ 少佐の手の広さに、俺は驚きを隠せないでいた。

これは、女の子たちから聞いた噂以上かもしれない。

そうしている間にも、TSF-TYPE93吹雪がビルの陰に入り、F-15Eストライク・イーグルの視界から外れる。
俺はそれを追って射線を確保する為に機体を移動させた。

しかし、その先にはこちらに向けて突撃砲を構えたTSF-TYPE93吹雪が視界に入ってくる。
そして、そこからほぼタイムラグなしに中距離射撃が行われるが、俺が咄嗟に回避行動に移った事で、
右腕に装備していた突撃砲を失うだけの被害で止まる事になった。


「やってくれるじゃないか・・・。
 女の尻を追っかけている時ほどじゃないが、だんだん燃えてきた。」


これは、直接少佐に打撃を与えないと、気が収まらない。
そう考えてTSF-TYPE93吹雪に強襲をかけようと、軌道変更をしようとしたその瞬間、CPより管制ユニットに直撃を受け、
自機が大破した事を告げられる。


「何でだ!?」


驚く俺に、ステラからオープンチャンネルで、最高の位置に飛び込んできてくれてありがとうと優しく言葉がかけられた。
機体を一切静止させていないにもかかわらず、狙撃を成功させる腕に改めて感心すると供に、俺は悔しさに頭を抱えるのだった。



私の隙をついて、ミツルギ 少佐はまた私とは全く異なる方向へ射撃を行う。
またマナンダル 少尉への牽制を許してしまったのかと私は考えたが、どうやら今回の射撃はそれとも違う方向だった。

もしかして、ジアコーザ 少尉の援護にじれて牽制を行ったのか?

ミツルギ 少佐の今までの機動を考えると、不必要に思えるその動きに不信感を覚えた私に、CPからジアコーザ 少尉を撃墜された事が告げられた。

あの射撃を行った時点で、ジアコーザ 少尉とミツルギ 少佐との距離は、ギリギリだが狙撃の範疇に入る程度には離れていた。
その距離からの射撃を、相手の位置が分かっていて回避できないほどジアコーザ 少尉の腕は悪くない。
タイミング的にも第三者の存在が濃厚・・・、つまりジアコーザ 少尉は、ブレーメルザ 少尉にやられたとみて間違いないだろう。

これで、ブレーメルザ 少尉が援護を行える距離まで接近する事を許せば、こちらの勝ち目は無くなる。
βチームが勝利を得るには、それまでにTSF-TYPE93吹雪を最低1機、落とす必要に迫られる事となった。

どうする?
マナンダル 少尉が攻撃を仕掛けているブリッジス 少尉のTSF-TYPE93吹雪の方が撃破できる可能性が高いが・・・。

マナンダル 少尉にブレーメルザ 少尉の狙撃が30秒間は無い事と、ブリッジス 少尉の早期撃破を目指すよう通信を入れた後、
マナンダル 少尉とブリッジス 少尉を完全に1対1とする為に、私はミツルギ 少佐へと意識を集中させた。

一回だけで良い、ミツルギ少佐の目を盗んで、なんとかマナンダル 少尉を援護したいところだが・・・。

そう考えた私だが、同時に相手がそう易々と援護を許すはずが無い事も予想できてしまっていた。
ミツルギ少佐の戦術機動に隙が無い訳ではない。私は、長年の経験からいくつか弱点に成りそうな機動を見つけていたのだ。
だが、先ほどの狙撃の時にそれが一つ覆された。
その事から導き出される応えは、どうやら意図的に隙を作ってそこに攻撃を誘い込む事で、こちらの動きをコントロールしているという驚愕の事実だった。

こうなると、どれが本当の隙なのか、誘いなのかが分からなくなる。

それに、ミツルギ少佐は年若いのにもかかわらず、第一世代機で使われる機動制御も調所に盛り込んだ戦い方をしてくる。
私自身、第一世代機で学んだ操縦技術を応用する事で、第三世代機の機動をより滑らかにできるという思いがあり、その技術の習熟を行ってきた。
だが現時点で、その操縦技術をこの準第三世代機であるF-15・ACTVアクティヴ・イーグルで全て応用できるている訳では無い。

そんな私に対して、目の前で繰り広げられるTSF-TYPE93吹雪の機動は衝撃的で、且つ第一世代機から衛士となったたちの理想と言っても良いものだった。
一瞬、第二世代機以降を中心に搭乗することが多い若い衛士たちに、未完成の考えをどう伝えるかを悩んだ事もあった私をあざ笑うかのようにも見えた。
だが、TSF-TYPE93吹雪の機動を見つめる私の中には、不思議と不快な気持ちは無かった。
むしろ、自分の経験が無駄にならない事の確信を掴み、気分が高揚してくるのを感じていたのだ。

衛士としての技量は、現時点では負けているかもしれない。
だが、それでも機体性能ではこちらが有利だ・・・。

私は、多少の危険を覚悟で積極的な攻勢に出る事を決意する。
大型跳躍ユニットをフル稼働させTSF-TYPE93吹雪へ急接近、そこから肩部及び背部のスラスターを駆使する事で、
第三世代機と同等の運動性を見せ付けたF-15・ACTVアクティヴ・イーグルは、この演習で初めてTSF-TYPE93吹雪に近接格闘戦を強いる事に成功した。

今はこれが精一杯だ。
ブレーメルザ 少尉が合流するまでに残り20秒・・・、残り時間は少ない。
だが、ブリッジス 少尉への援護さえ無くなれば、マナンダル 少尉なら十分やれるはずだ。

しかし、今まで見てきた二人の技量と機体への習熟度から勘案して導き出された私の予想は、見事に裏切られる事になる。
なんと、マナンダル 少尉とブリッジス 少尉が相打ちになったのだ。

私はその後、ブレーメルザ 少尉が合流するまでの僅かな時間を使って再度攻勢に出たが、ミツルギ 少佐に逃げ切られる事になる。
そして、ブレーメルザ 少尉との二機連携に攻め立てられると如何する事もできず、最後はミツルギ 少佐の長刀による斬撃により、
撃破される事になるのだった。






あのペテン師トリックスターとの初顔合わせから2週間、俺は帝国から搬入されたTSF-TYPE93C吹雪(新基準型)に搭乗し、現行機との仕様変更点の確認と習熟訓練、
機体の動作チェックを行っていた。
このスケジュールは、新たにTSF-TYPE93C吹雪(新基準型)へ搭乗することになったステラも同様だった。
そして、イブラヒム中尉とタリサはEXAMシステムver.2使用時のF-15・ACTVアクティヴ・イーグルの動作試験が本格的に始まり、
VGヴィージーはそれらにEXAMシステムver.2搭載型F-15Eストライク・イーグルで参加し、各機とF-15Eストライク・イーグルのデータ収集に明け暮れている。

しかし、ステラはよくあのピーキーな機体特性を扱えるものだ・・・。

今まで行われていた試験では、俺とステラの差が顕著に現れる事は無く、むしろ全体的なスコアは俺の方が上回っていた。
しかし、先日行われたソ連軍との統合仮想情報演習システム『JIVES』を使った合同演習で行われた対BETA戦闘で、
近接格闘戦を強いられた時、明らかに俺の方がBETAの処理に手間取っている事に気が付いたのだ。

それは、米国軍機なら問題の無い機動で手間取り、新OSのキャンセル機能で度々救われる場面が有った事からも明らかだった。
だから俺は、その後吹雪TSF-TYPE93の高い運動性に対して、機動性が蔑ろにされている機体特性をどうにかしたいと考え、
その事をXFJ計画の日本帝国側開発主任である篁中尉に要請をしたのだが・・・。

その要請は、ハンガーでひと悶着の末、見事に突っぱねられてしまう結果となる。
この事は、単独撃破数こそソ連軍の紅の姉妹スカーレット・ツインに奪われたものの、部隊撃破数でソ連軍のイーダル小隊をアルゴス小隊が上回れた成果に喜ぶ皆の輪に、俺が素直に入れない原因ともなっていた。

不機嫌な俺を気遣ってか、イブラヒム中尉を除くアルゴス小隊の隊員が集まった朝食中、普段以上に騒がしいタリサを眺めていた俺たちの所に、
味噌汁付の和風定食とスパゲッティーモドキという異色の組み合わせのトレーを持った御剣少佐と、和風定食のみをトレーに載せた篁中尉が現れた。
二人は、俺達に軽く挨拶をした後、アルゴス小隊と隣り合う様に席に座り朝食をとり始める。

このペテン師トリックスターは、本当に謎だらけだ。
XFJ計画に専念する様子は無く、篁中尉を置き去りにして様々な部署に顔を出して話をして回り、空いた時間は基地内の訓練施設を訪れ身体を鍛え、
その他には通信施設に篭る事が有る以外の話しか、皆の話題に上がらないのだ。
アルゴス小隊が運用を始めた、日本帝国製の新型OSの話とそれを持ってきた日本人である御剣少佐の噂で、
ユーコン基地内が持ち切りに成っているにも係わらずだ・・・。

もちろん、その間に繁華街へ出かけた様子は無い。
基地に到着した当初は、多くの場合共に時間を過ごしている日本人形ジャパニーズドール(篁中尉)とできていると噂も出たが、
ヴィンセント曰く誤った情報である可能性が高いらしい。
明らかにワーカーホリックの様だが、会話を交わせば確りと仕事以外の言葉も出てくる。
いや、むしろ勤務時間外では仕事の話をしない様に努めている方だろう。

本当に、こいつらは何を楽しみに生きてんだか・・・。

頭の中でVGヴィージーやヴィンセントが話していたゴシップが過ぎったが、自分には関係の無い話だったと俺は頭を振るった。


「相変わらず、奇妙な取り合わせ・・・。
 だが、本日の目玉である我が祖国の食事を選択するとは、
 さすがは少佐、お目が高い。」


「米とパスタを一緒にするなんて有り得ない。
 アタシは、賛成できないね。」


「日本ではなかなか味わえない物だ、つい手が出たとしても仕方あるまい。
 それにご飯を大盛にするより、他に一品追加した方が味に変化が有って良いだろ?」


そういって少佐ニヤリと笑い、篁中尉はこめかみに指を押し当ててうなった。
どうやら、篁中尉も思うところがあるらしい。

上官にも係わらず気取らずに小隊の仲間たちと馬鹿話に興じる姿に、この変な男に俺たちは完敗したのか、という悔しさと供に、
篁中尉と俺との関係に対して中立の態度を崩さず、この場でも変な話題にならないようにしているらしい皆の動きに自然と乗っかる男に、
俺は奇妙な戸惑いを感じていた。

食事中の話題は俺の思考を置き去りにし、その後最近の御剣少佐の基地での生活へと移って行く事になる。
どうやら少佐は、アルゴス小隊が上げる目覚しい成果に、国連軍から新OSの提供と教導を迫られ、その調整に忙しいらしい。

俺は、適当に周りの話に相槌を打ちつつも、今までの演習での出来事を考えていた。
初めての演習後、様々な場面で俺たちは少佐と戦う事になったが、敵になると押さえ込まれ、味方になると戦果をお膳立てされている。

特に厄介だったのが少佐とステラが組んだ時で、狙撃手が二人になると想定していなかったこちらは、
その影すら見つける事が出来ずに終わってしまう結果となった。
その時の戦術は、相手の狙撃の腕をよっぽど信用していないと採用できないものだったが、少佐は付き合いの浅いステラの腕を信用して、
それを実行に移したのだ。

思えば、当初から少佐は妙にステラの腕前を信用している節があった。
その事を、ステラ自身が少佐に理由を尋ねた事があったが、その応えはスウェーデン陸軍を発祥とされる猟兵部隊を持ち出して、
狩猟が盛んな地域である国柄と性格、狙撃ができるかと言う問いかけに、明確に出来ると答えたことから、間違いないと信用する事にしたらしい。
余談だがこの時、隣国ではあるが国家的にもスウェーデン王国とのつながりが深いフィンランド人の狙撃手を尊敬して事も語っている。

また、俺を含む米国軍の弱点と言われたナイフや長刀を使った近接格闘で、戦術機にも係わらず投げ技を使って沈められたのは嫌な思い出だった。
更に、今の所少佐が率いる部隊が出した最大の被害は、自小隊の戦術機一機の撃墜だけで、誰も御剣少佐を沈めていない事も悩みの種だ。
整備兵連中の中では、早くも誰が一番初めに少佐を撃破するのかの賭けが行われ、誰もできないが、一番オッズが低く成っているらしい。

色々思うところはあるが、教導という面で見れば少佐の機動は基本から応用まで網羅されていて、悔しいが優秀な手本と言えた。
数回の演習で、ベテランであるイブラヒム 中尉を含む隊内の技量が、見えて進歩した事は間違いなく、大きな成果を収めているといえるだろう。

それより問題なのは、新OSに慣れてきた事で気が付いた機体側の問題点を指摘するも、日本帝国側が一向に改善する意思を見せない事である。
自分が吹雪TSF-TYPE93を上手く使いこなしつつある中で、この事が俺の最大の不満だった。


「まだ不満が有るのか、ブリッジス少尉・・・。」


考え事をしている間に不快な事を思い出したのが、表情に出たのだろうか。
篁中尉が俺にそう話を振ってくる。


「そんな事は有りませんよ中尉。
 こいつはまだ、日本の戦術機になれていないだけで・・・。」


ヴィンセントが俺を気遣ってか、フォローを入れようとするが、俺は構わず苛立ちをぶちまけた。


「吹雪はもっと、機体出力を上げる余地があるはずだ。
 なぜそうしない。
 日本側でできないならボーニングでも・・・。」


「現時点で、帝国は通常装備の吹雪に、これ以上の機動性及び運動性の向上を望んでいない。
 それに貴様の戦い方は、いたずらに推進剤を使用するだけだ。
 これでは、我々が望んだ戦闘継続時間が達成されない。」


篁中尉が俺の言葉を遮って、型通りの意見を言ってくる。


「こら!ユウヤをいじめるのはゆるさ・もが・・もが・・・。」


タリサが何かを叫ぼうとしていたが、素早くVGヴィージーとステラに押さえつけられた。
頭に血が上っていた俺は、それを気に留める事無く日本人形ジャパニーズドール(篁中尉)に反論をする。


「燃料をケチって、衛士が死ぬ方が良いと言うのか!?」


「そうではない・・・、も「篁中尉そこまでだ。」。」


篁中尉との言い争いがヒートアップしようとした時、篁中尉の言葉を御剣少佐が遮った。


「ブリッジス少尉の吹雪に対するレポートは読ませてもらっている。
 帝国としての意見は、篁中尉が先ほど言ったと通りだ。

 帝国内でも必要が有れば、推進剤を多用する戦術機動を取る。
 しかし、通常戦闘の段階から使うような思想で運用している訳ではない。
 
 少尉の要望を短期間で実現する為には、外部タンクの増設という手があるが、それでは根本解決にはならない。」


「近接格闘を重視する日本帝国の戦闘教義ドクトリンと、俺たち米国の戦闘教義ドクトリンが一致しない事は知っている。
 なら、なぜ俺を主開発衛士にしたんだ?
 主開発衛士の意思を汲み取らないで、どうやって開発を続けるつもりだ!?」


たとえ軍隊における階級が上でも、年も殆ど変わらない男に、こうまで上から目線で指摘されると腹が立つ。
俺は、気が付いた時にはハンガーで篁中尉に言った事を、目の前の男にぶつけていた。


「先日、手痛い教訓を得たはずだが・・・、意見は変わらないか?」


俺がぶつけた問い掛けに対する少佐の答えは、先日の演習で最終的に、弾切れによる突撃砲の喪失後、
それほど間を置かずに要撃級の手腕に撃破された件を上げてきた。

米国軍の基準では、あの数を相手に補給無しで戦う事は考慮されていない。
あんなものは無茶苦茶な設定だという思いが無い訳ではなかったが、一定時間の間戦線を維持するという作戦目標だった事と、
欧州やアジアの前線では普通であるというアルゴス小隊内の実戦経験者たちの言葉が頭を過ぎり、俺は口をつぐむ事になる。

俺の撃墜は、単に俺が長刀の扱いに慣れず使用を躊躇した事が原因で、あの演習中隊内の連携が悪かった訳では無かった。
また、同じ機体に乗っているはずのステラの方が推進剤の減りは少なかった事も分かっている。
これは前衛と後衛という役割を差し引いても、俺の戦い方に無駄がある事を示していた。


「そこまで言うなら、なぜあんたがやらない・・・。」


結局、俺が搾り出す事が出来た反論は、こんな情けないものだった。
俺は、思わず不貞腐れて視線を逸らす事になったが、以外にも篁中尉が俺の意見に同意を示した事で、事態は更にややこしくなった。

篁中尉の言葉を聴いた御剣少佐は、盛大なため息をつく事になる。


「これ以上気を使うのは面倒だ。
 少し時間をくれ、互いに話せる範囲で納得できるまで話し合おう。
 ただし、・・・場所を移してだ。」


そして、考えた末に出された御剣少佐の事を受け、俺と篁中尉の二人は、そこで初めてPXで目立った存在になっていた事に気が付き、
声のトーンを落として同意の言葉を発する事になるのだった。





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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
部屋が暑くなると思考が鈍り、上手く筆が進みません。
やはり、季節は春が一番過ごしやすいです。

外伝を使って、ユウヤを中心にアルゴス小隊各位の心理描写を練習中ですが、如何でしょうか?
自分では雲を掴む思いで、確信して筆を取れていないのが悔やまれます。
何時まで練習が続くのか・・・、未だに先が見えてきません。

今回は、一話にまとめるはずだった内容を、諸般の事情で今週時間が取れない為、
半分に分割して投稿する事になりました。
おかげさまで、話数が更に増える事になりそうです。
また、アニメの放送に追い抜かれてしまった気がしますが、気にしない方向でお願いいたします。

次に余談ですが、電撃マブラヴという雑誌を購入してしまった事で、
篁唯依がTE(2001年八月)開始時点で、17歳である事が確定いたしました。
どうやら、原作ヒロインと同世代らしいです。
また、御剣家と月詠家の設定もチラッと出てきました・・・。
本当に今から、本編の改定が楽しみです > OTZ

では皆様、次の投稿までマッタリと過ごして頂ければ幸いです。
あぁ春が一番でした。


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