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[14218] 【とらハ・多重クロス】高町静香のTS人生【ネタ】
Name: 陣◆cf036c84 ID:8db74bb9
Date: 2013/05/02 10:31
この作品(旧タイトル:【ネタ】嫌いな要素を詰め込んでみた実験作【基本とらは】)は地雷成分で出来ております。
注意書きを一読なさってからお読みください。
作品に対する批判は真摯に受け止める所存です。

・男性→女性からTS&転生・憑依したオリ主作品である。
・精神的BLかも知れない。
・主人公は才能チート、ただしそれを活かせているかは別。
・多重クロスである。
・ネタ満載で世界観の統一は余りなされていない。
・地雷要素を増やす事が生き甲斐のような作品。
・作品を超えたカップルが誕生する。
・追加作品の登場キャラ総てが出演する訳ではない。
・恋愛要素は多め。
・好きなキャラが理不尽な目に遭っても泣かない。
・そもそもなかった事にされてるイベントやキャラもあるが泣かない。
・更新速度遅くても文句言わない。
・女性キャラの身体的特徴やスリーサイズ等は私的解釈と推測によるモノ、
 調べられる範囲で公式のものがあればそれを採用。
・番外編は特に恋愛要素多め。

以上に納得出来る方には、出来る限りの努力で楽しんで頂けるよう頑張る所存です。

なお、大部分がネタバレで構成されていますが、気になる方はあらすじとキャラ紹介をお先にどうぞ。

pixivにてillust_id=27375782
高町静香とライキのイラストを描いて頂けました。
ありがとうございます。

yxmzte3iz2.doorblog.jp/
載せていたつもりで載せていなかったブログアドレスです。
生存報告と使い道のないネタを放出する位の大した事のないブログです。
頭を付け足して下さい。
或いは「 チラ裏の隅っこで 」でググるとトップで出るハズです。

2013/05/01
本編更新
2013/05/02
訂正



[14218] 【ネタ】嫌いな要素を詰め込んでみた実験作【基本とらは】
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2012/06/06 21:50
TS・多重クロス・オリキャラメイン・憑依・転生その他色々な要素を混ぜてみた実験作です。
よほどウケれば続きも書くかも知れませんが今のところは一発ネタです。

*****

皆さんは自分の不運を呪った事はお有りだろうか?
俺は今現在進行系で呪怨中である。

二次創作大好きですよ? 憑依系とか現実来訪系とか転生系とか大好きでしたよ?
逆行系も再構成もどんと来い、でも多重クロスとTSは勘弁な! でしたよ?

でも自分が体験したいとはあんまり思ってなかった訳で。

死んだ後――だと思う、主観的には――神様とやらが現れて。
そこはたとえるなら星一つない宇宙空間ような上下左右も光さえない場所で。
しかしその人――いや神?は自ら光ってたのかその周りだけ明るくて。

暇つぶしにつきあってもらおう。

そう曰ったのだ。


******

「おはよ-、静香お姉ちゃん」

 我が妹、高町なのはが朝を告げる。
 
「…ああ、おはよう」

 多少、ぶっきらぼうになったのは寝起きだから、という事もあるが、概ね別の理由である。
 この少女――たとえるなら「冥王なのは9歳Ver.の完璧にして究極たるコスプレ少女」であろう。
 実写版デビルマンだのドラゴンボールだの北斗の拳だのとは比較にならぬ、月と鼈どころか月とミトコンドリアほどは違う、それほど完璧な、「高町なのはが実在の人物だったらこういう少女であろう」という俺――高町静香――の想像通りの少女である。
 そして19年、いやなのはが生まれてから今年9年目なので9年間、共に家族として過ごした少女でもある。
 
 このような言い回しをおかしく思った人もいるかも知れない。
 
 しかしこの俺は所謂、「転生系主人公」と同時に「憑依系主人公」でもある「オリ主」なのだ。
 19年間の記憶、そして人格を持った高町静香――恭也の双子の兄妹――に、冒頭で神様にアホな宣告された俺が憑依、人格融合を果たした結果が今、ここでなのはの頭を手をやりベッドから起き上がった俺である。

 自分で自分の事をオリ主とか言っちゃう痛い人生に用はなかった筈なのに…
 そら思わずため息も出ようと言うものだ。
 
「静香お姉ちゃん?」

 捨てられた子猫も斯くやという瞳で俺を見上げるなのは。

「気にするな、悩み多き年頃なのだよ、19歳で高校三年生というのは」

 恭也もそうだが、父・士郎の内縁の妻・香織(旅先で知り合ったらしい)に捨てられた、或いは金で売られた俺たち双子は父の武者修行に付きあって全国放浪の旅に出ていたのだ。6歳の頃、秘密結社『龍(ロン)』の爆弾テロで一族ほぼ皆殺しにされた後――金がなくて放浪先の青森から、俺たちは戻れなかった為助かった――、熱出して入院していた3歳の美由希を、美由希の付き添いで病院にいて助かった士郎の妹・美沙斗から預かり紆余曲折の後、海鳴市に定住を始め、そのうち士郎と桃子が結婚、現在に至る。

 その頃のツケで、俺と恭也は一年留年しているのだ。ついでにどちらが先に腹から出てきたのかも分からんという。
 なにせ生みの母、香織は産んで数日しか経っていない俺ら双子を士郎の部屋に置き去りにし、預金通帳ほか当時の士郎のほぼ全財産かっぱらって書き置きが一つ。

 名前は恭也と静香がいいと思います。 香織
 
 実母香織、この時から今を以て消息不明である。

 確かに「とらハ3」の設定では恭也は上記の生い立ち――勿論静香の部分は除く――だけどさぁ…と思わず愚痴をこぼしたくなる俺の気持ちは間違いではないと思う。

「姉の着替えなんぞみてて楽しいか?」

「うん」

 他の家族といる時は普通になのちゃんとなのはちゃんを行ったり来たりな雰囲気なのだが、俺と二人きりの時は構って欲しそうな子猫のようだ。

 原因を過去に探るとどうも、この高町静香は御神流に興味がなく――健康の為、護身術程度は習っているらしい――士郎が下手打って入院してた時もアホみたいに修行している恭也を横目に遊び呆けていたようだ。その当時から美由希の面倒(修行)は恭也、なのはの面倒は静香と何となく役割分担していたらしい。

 こんな言い方になるのも俺が「高町静香」と憑依・融合したのがつい先日だからだ。
 主観的な時間では死んだ直後に憑依・融合させられたと言った感じなので日々違和感ばりばりである。尤も客観的には違和感など感じられてはいないようだが、周りの反応を見るに。
 自身の事よか風ヶ丘高校へ行けば行ったであり得ない世界が広がってるのが問題だ…いやこれは嫌でも後ほど遭遇するが。

「待たせたな、朝ご飯と行こうか」

 風ヶ丘の制服に着替えて、最後に伸び放題に伸びて腰まで届く黒髪を持ち上げ、所謂ポニーになるよう適当に結わき、なのはを促し部屋を後にする。
 当然なのはも私立聖祥大学付属小学校の制服に着替えている。

 髪を伸ばしているのは短髪だとどうも恭也との区別が付きづらく、間違えられるのを嫌ったかららしい。
 鏡を見れば、なるほど恭也女版、というより美由希の実母、美沙斗に似てる俺の顔。えらい美形ではあるが、どことなく険のある表情と男言葉、そして基本的に無表情という点が大いに減点対象になっている。
 我が事ながら笑えば可愛いだろうなと思わせる顔である。スタイルも良い、ブラのカップはEカップでトップが90㎝を軽く超えていた。しかしウェストは60㎝を下回ってるという。なんというモデル体型。身長は170㎝ジャスト。
 以前の俺は確かに巨乳好きであった。しかし自分の胸が大きくなって欲しいとは欠片も考えた事はない、当然だが。
 何が違和感があるって胸が重いのと股間がすーすーするのが一番キツい…泣きたい。
 女体化したらまずやるであろうアレも非常に気持ちよかった事も鬱になる原因だ、色んな意味で。
 マジで泣きたい、というか最初の数日は独りになるとガチで泣いた。
 家族に無駄に心配かけたようで、そのせいもあって先ほどのなのはの態度な訳だが…
 人生ままならんにも程がないか? 全く…
 
 
「おはよう」

 居間に入り挨拶。
 士郎に桃子、恭也に美由希、全員揃っていた。
 定位置に座り朝のニュースを見ながら食事と雑談。
 
「――光の歌姫フィアッセ・クリステラの来日公演が――」

「ああ、もうニュースになったんだな」

 なのはのトラウマ発生事件たる士郎の負傷、長期入院の原因はこのフィアッセをテロから守った事が原因である。桃子と士郎が結婚する前からの付き合いな上、去年までは喫茶翠屋でチーフウェイトレスとして働いてくれていたり。そんな訳で今でも彼女は日本に来るたび、うちに寄って泊まって行く事を習慣している。
 まあとらハ3設定という奴である。
 ちなみに恭也は忘れ果てているが昔、彼女と結婚する約束もしていた。今、恭也は月村忍と付きあっているが折を見て盛大にバラしてやろうと思う。
 
 それにしても見事にリリカルなのはととらいあんぐるハートの設定が融合してるなぁ…はぁ…
 まあ融合してるのはリリなのととらハだけじゃないんだが…

「フィアッセお姉ちゃん、凄い人気なんだよー! アリサちゃんやすずかちゃんも大ファンなんだから」

 フィアッセによく懐いていたなのはが、我が事のように嬉しそうに話す。
 アリサ・ローウェルではないので注意。
 暫く、美由希のクラスでもファンが、だの忍はSEENAのファンだとか取り留めのない話題が続く。
 
「ほらほら、もうバスが来ちゃうわよ」

「はにゃ!」

 ああ、もうそろそろ家を出ねばならぬ時間である。
 ちら、と恭也に視線を送ると小さく頷いた。この兄妹、他人とはいざ知らず兄妹同士だと極端に会話がなくなるというか、視線だけで意思疎通出来る桃子曰く悪癖がある。
 他人事のような書き方だが、実際今の一瞥で恭也の次の行動がほぼ読めた、或いは読めた気になれる辺り俺も大概である。厨二病乙と言わざるを得ない。
 
 心で小さくため息を吐くと、ご馳走様と一声かけて立ち上がる。ほぼ同時に恭也と美由希も続いた。
 
「にゃっ!? お兄ちゃん達、ちょっと待ってよぅっ!」

「慌てずゆっくり急いで食べるが良い」

「え? えぇ?」

 よく分からなくなったらしい。
 
「静香、なのはで遊ぶな」

 士郎から一声。まあ笑いをかみ殺したような口調では何ほどの意味もないが。
 
「ほら、早く食べて一緒に行こう?」

 美由希がお姉さんぶってなのはの頭を撫でる。
 その間、食い終わった食器をシンクに放り込む俺と恭也。
 
 
 なのはをバスに送り込んだ後、俺達三人は私立風ヶ丘学園に足を運ぶ。
 桜が舞い散る海鳴の道路は美しく、柄にもなく良いなぁ…などと思ってしまう。
 そう、季節は四月。ついこないだ始業式が終わり学年が繰り上がったばかり。
 
 つまり、りりかるなのはが始まる時期というわけだ、この世界がそうであるならば、だが。
 まあ静香の過去を振り返ってみても、クロノ=ハーヴェイとの邂逅はなかったみたいだし、なのはの誕生日が3月15日でない事からも、りりかるなのは寄りの世界なんだろうとは思われるが。

 ユーノとジュエルシードが舞い込んで来たとして…どーすっかね?
 もう頭がパンクしそうですよ…
 死んだと思ったらアニメの世界を元にしたような世界に憑依融合とか訳ワカメな状態で、更にその世界はカオスも良いところだし…
 
「よお、高町兄妹!」

 こんな風にな。

「…おはよう、乾有彦」
 
 おそらく俺は('A`)みたいな顔で返事をしたであろう。続けて恭也と美由希も挨拶をした。割とどうでもよさげだが。

「珍しいな、有彦がこんな時間に学校に行くなんて」

「ホントホント、雪でも降るんじゃない?」

「いやいや、最近物騒だからな。
 変な化け物が現れたとか妙な噂が流れてるし。金もねーし暫くは健全な高校生でいようかと」
 
「変な化け物、ねぇ」

 美由希がうさんくさそうな目で有彦を見る。まあ実際うさんくさい男だが、マジで頭がオレンジ色だし。
 マジパネェっす有彦さん。
 と、いうか。
 「有彦」が「変な化け物」って[吸血鬼フラグ」じゃねーの? ホントマジ勘弁して欲しいぜ…
 
「おっはよーみゆきちー!」

 後ろから声がかかる、脳天気を具現化したような声。

「おはよー、こなたー」

 美由希の脳天気な声が続く。
 そう、泉こなた高校一年生である。
 
 春日部に帰れ! と俺的な意味で初対面の時に叫びそうになった俺は悪くないと主張する。

 言っておくが別に青い髪ではない。長さは俺と負けず劣らず長い上に寝癖なのか常にアホ毛が飛び出ているが、真っ当な黒髪である。
 というか、アニメ的記号でしかない青髪だのピンク髪だのを実写で再現しようとする方が間違ってる訳で。茶髪程度ならまだしも。
 
 話がずれた。兎も角…多重クロスは嫌だって言ったじゃないですか!

 この後教室に入ると担任は知恵留先生だわ遠野志貴とか横島忠夫とかクラスメートだわ、隣のクラスには黒羽快斗とか中森青子とかいるし…ワールドカップには日本代表として高杉和也とか騎馬拓馬とか出てたしな! マジ格好良かったぞ和也! 愛子ちゃんラブリー! ちなみに柔道78㎏級日本代表は粉川巧だったぜ! 笑うしかねぇ!
 美由希(高校一年)の方には天河明人とか高良みゆきとか柊つかさとかいるしっ!
 
 別にどうでもいいけど美由希のクラスメートで委員長の高良みゆきは「みゆきさん」と呼び、うちの美由希はみゆきちと呼ぶのがこなたクオリティ。たいていの人は名字で分けて呼ぶが。

 閑話休題。

 さらには海鳴市を記憶頼りにふらついてたら金髪紅瞳の白い外国人とクラスメートの志貴が腕組んで歩いてたり、ちょっと裏路地行ったらマッコイ・カンパニー直販店とかあるし…この感じだと柳生新陰流や二天一流の継承者がいてもちっともおかしくないな…しかも女性で。
 
 全く…世界はこんなはずじゃなかった事ばかりだよ…
 割と本気でそう思う。
 俺の明日はどっちだ……

****

ちなみに続き書くとしたらユーノは逆行者決定です。
あとどんな要素がありますかねぇ…ヘイト・アンチ以外で。
くすりとでも笑って頂ければ歓喜コレに勝る事なしです(・∀・)
20091125ちょっと訂正



[14218] まだまだ増える地雷要素
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2012/11/20 19:19
感想が予想よりいただけたので頑張ってみましたw
原作キャラへの弾劾とかアンチとかヘイトとかまずやりませんが、これからも地雷要素を増やしていけたらと思いますw

****

 ところで身体のもやをみてくれ。こいつをどう思う?

 すっごく…念能力です……

 っざっけんなっ!!
 なんでとらハorリリカルなのは世界で念能力やねん!!
 思わずキャラ崩壊してしまうわっ!!!!


 …落ち着け、落ち着くんだ高町静香。
 この世界がカオスに理不尽なのは分かってた事だろう、今更じゃないか…
 しかし…朝起きたら念能力に目覚めてましたってどんだけ-?

 ああ、最強系か…
 オリ主、TS、憑依、転生、多重クロス、再構成に最強系か。
 後は逆行系とハーレムくらいか? 俺が関わってない二次創作要素は。
 …いくらなんでもこの人生がループしますとかないよな…ないよな?
 考えて無駄な事は考えないようにしよう…怖いし。
 ハーレム…ねぇ。相手あっての事だしなぁ。レズハーレムとかマジ勘弁。
 けどまだ女として男を受け入れるというのも…
 棚上げしておこうか。今悩んでも仕方ない。

 とりあえず念能力か…スタンドじゃないだけマシなんだろうか…
 というかなんで意識もせんと纏が出来てるのだろう?

「クリリンの事かぁっ!」

 ごうっ!
 音を立てて吹き飛ぶ掛け布団! そして部屋に溢れる圧倒的なパワー!
 
「…ふう…」

 気を抜くと練も解けて部屋に静寂が戻る。
 修行一つしないで練が出来るとか。もう笑うしかない。HAHAHA。
 …最強系も嫌いだったんだけど、俺。
 世界はこんな筈じゃなかった事ばかりだ、特に俺にとっては!
 
「やれやれだぜ…」

 とりあえず学校行く為着替えますかね…やれやれだぜ…
 なのは? 昨日、美由希と一緒に寝てたからまだそっちだろう、多分。
 
****

「また明日な」

 無口・無愛想な俺たち高町兄姉だが別に口が利けない訳ではない。
 恭也と共に教室を後にすると、忍が追従してきた。
 どうやら恭也と帰りたいらしいな、一瞥をくれ、先に帰るぞ、と一言告げて廊下を進む。

 正直とらハ3では那美が一番だと思うんだが…まあ兄姉とは言え他人の趣味に口を出すつもりはないが。
 そういえば城島晶と鳳蓮飛がいないのは……アレか、リリカルなのは優先、つまりスバル・ナカジマ、八神はやてとしてこの世界では生きている、という事なんだろうか。
 ああ、そういえば闇の書とかどうしよう…知らなきゃ無視するが結末まで知ってて無視するのは人道的にどうなのか…いやしかし、放っておけばなのはがハッピーエンドまで――――まてまて、この世界は既に原作(笑)状態だ、放っておいてハッピーエンドになるとも限らん…
 
 それにしても美男・美女が多いな、この学校は。
 おお、一年の天河アキトが巨乳ねーちゃんに連れ去られていく。もしかしてアレは御統ユリカか?
 オマエモナー、などと言われそうだがえらい美人さんだ。
 …ところで四つ年上(原作)設定が正しければ大学生だよね、ユリカさん。
 ……わざわざ高校まで……
 
 グランドを歩いていると、部活動に精を出している連中の声が響いてくる。

「夢を見る奴が球を蹴る! それがサッカーじゃないのか!!」

 (∩゜д゜)あーあー聞こえなーい
 俺は何も聞いてない! 見てもいない!
 
 それより念能力どうにかしないとな…
 とりあえず練を何時間持続出来るか、そして水見式をしないと。
 まさか特質じゃないよなぁ?
 マジで勘弁してくれよ、最初のプレイでPAR使うようなマネはしたくないんだからさぁ、今更だが。
 激しく今更だが。
 
「シンジー! 今日は翠屋でパフェ奢ってくれるんでしょ!
 速く行くわよ!」
 
「待ってよアスカ…綾波も一緒に行くよね?」

「碇君のいる場所が私のいる場所だもの」

「えー、レイはこないだシンジとデートしたばっかじゃない。
 ちょっとは遠慮しなさいよ!」
 
「私の事よりこないだの転校生に注意すべき。彼女は危険」

「確かにね…あの目は獲物を見る猛禽類の目だわ」

 …あと身体能力のスペックを全力で計り直した方がいいな、戦闘能力的な意味で。
 「護身術程度しか習ってない」くせに実は恭也と互角とかマジであり得そうだ。
 得意技は飛針と鋼糸みたいだが、暗殺者としてはそれだけで十分な気もするな…
 …というか念で強化した針飛ばすだけである意味無敵な気もするな……

 言っておくが何も見てない聞いてない。
 中等部の制服着てるガキどもが両手に華とか見てない聞いてない。
 
 平和が欲しい、ぎぶみー平和。
 心の平安も合わせて募集中。


*****

「ルリちゃん、また明日ねー」

 御統家の養女だそうです、今、うちの妹が手を振って見送ってる相手は。
 はい、星野ルリというそうで。
 ちなみに有間都古ちゃん、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンちゃんという同級生もいるそうです。
 
 …もうあきらめたけどね。
 聖祥のなのはのクラスが変形して基地になったりしなきゃもうどうでも良いです。
 そういえば天河がいる割にロボットも宇宙戦艦も出ないな…でなくてもいいけど。
 まあネルガル重工はあるみたいだけど、うちの高校に配布された就職パンフがあったし。

 そういえば就活もしないといかんのか……
 こんな世界でどんな職業につけば良いと言うのだ!?
 
 あ、そうか。
 高町母の後を継けばいいのか!
 美由希は料理は殺人級だし、忍とくっつくなら恭也は婿養子だし、なのはは魔法と出会えば最終学歴・中卒で魔法の世界へ行っちゃうし!
 
 …聖祥って大学付属だから、エスカレータなんだよね、大学まで…
 勿体ないにも程がある…父・士郎だってなのは位は苦労しないで育って欲しくて、頑張って大学付属小学校に入学させたのにねぇ。
 ほら、俺も恭也も美由希もちょっと所じゃない位、波瀾万丈な人生だし、さ。
 
 魔法や教導隊に入隊とかは兎も角、なのはにも大学まで行ってもらいたいもんだ、両親の気持ち的に。
 まあそれは兎も角、パティシエの専門学校にでも行こう、そして二代目翠屋パティシエとなろう。
 前世も含めて俺は料理結構好きだしな、うむ!

 こんな事(転生その他)になって始めて気分が軽くなったぜ!
 
「どうしたの? 静香お姉ちゃん」

「なに、気が軽くなっただけさ。悩み事が解決するというのは良い事だ」

 ちっちゃななのはと手を繋いで、バス停から家までの道を歩く。
 そうだよな、念能力もってようが暗殺者ちっくな武器持ってようが、使わなきゃいいだけだしな。
 いやいや、スタンドじゃないんだ、念はむしろ生活に役立つ能力にしてしまえば良いのだ。
 うは、夢がひろがりんぐwww
 …そんな風に考えてた時もありました。
 
「今日ねぇ、学校で将来の夢って作文の宿題が出たの」

 あれ? 第一話フラグ?

「ほう。なのはは将来何になりたいのかな?」

「…わかんない。アリサちゃんはお父さんの跡を継ぎたいんだって。
 すずかちゃんはお姉ちゃんの手伝い。
 都古ちゃんとルリちゃん、イリヤちゃんはお兄ちゃんのお嫁さんだって」

「…なのはは恭也のお嫁さんじゃダメなのか?」

 なんつーませたガキどもだ、ホントに小学校低学年かこいつら。
 というか天河アキトも、イリヤの兄貴――まあ多分正義の味方志望の馬鹿だろうが――も一級フラグ建築士の資格所持者か。羨ましくないけど。

「お兄ちゃんは私と結婚するんだって忍お姉ちゃんが言ってたよー」

 将を射んとせばまず馬を射よですね分かります。
 つか忍もこんなガキに何話してるんだか…

「翠屋の二代目は?」

「それは静香お姉ちゃんでしょ」

「なのはと一緒ならそれは楽しいと思うけどな、私は」

 当然、口に出す一人称は私ですから。俺とか言う女は許しませんよ、俺的に。

「うーん…映画監督とかー、カメラマンとかもいいなぁとか思うんだけど」

 ちなみに、翠屋のメニューに記載したり、広告に載せたりする写真は全てなのはさんが激写、編集した写真ばかりです、マジパネェっす。
 小学3年にしてこの技術とかマジあり得ないんだけど。将来カメラマンで喰えるって。

「確かになのはのカメラワークは大したものだからな、その道で食べるのもいいかも知れん」

 というか個人的にはそうして欲しい。
 家族として付きあって数日、そして人格融合を果たしたおかげで以前の記憶も体感として想起出来る身としては、魔法使いなんぞにはなって欲しくはない、正直なところ。
 こんなちっちゃくて可愛い子が戦いなんてするもんじゃないよ、ホント。
 
 ぞわっ!
 なにこの背中の毛ががそそげ立つ感覚!

「はにゃ!?」

 考えるより速く、御神流に鍛えられたこの身体はなのはを抱きかかえていた!
 
 ざしゅう!
 
 なんじゃこりゃ!
 
 なのはを強く抱きかかえながら転がり、その殺気と地面を削る音の方へ身体を向ける!
 
 うわーい、明らかにジュエルシードの暴走体。
 なのはがフェレットに出会ってもいないのにかよ…

「離れてろ!」

 なのはを離し、懐から飛針と鋼糸を取り出す俺。
 …自宅まで後数十M。ただし恭也は忍と放課後デート、父は翠屋で仕事中。
 頼みの綱はうっかり美由希だけとかどんな罰ゲームだよ。

「え? ええ?!」

 大絶賛混乱中のなのはを背後に感じながら油断なく前方の化け物を睨む。
 もしかして、アニメ第一話でユーノが封印しようとした奴、か?
 だとすると近くにユーノがいる筈なんだが。
 
「疾っ!」

 飛針を飛ばし、距離を詰める!
 体術も飛針も鋼糸は「静香」が身体で覚えている!
 
「きゃぁぁ!」

 なのは!?
 しまっ! 前方の奴以外にもう一匹いたのか!
 素人の浅はかさかくそったれ!!
 
「ストラグル・バインド!」

 なのはを襲わんとする化け物に絡みつく翡翠の縄!
 それを見て安堵すると同時に鋼糸で化け物を拘束する俺。
 身体が勝手に動くんだわ、やっぱ戦闘民族高町家って凄いわ。

「なのは! 大丈夫!?」

 はて? この水橋かおりヴォイスは間違いなくユーノ。
 だが、名乗ってもいないなのはを呼び捨てに…?
 あとストラグル・バインドって俺の記憶が間違いなきゃAsで初使用だったような…
 
「レイジング・ハート!」

「stand by ready」

「妙(たえ)なる響き、光となれ! 赦されざる者を、封印の輪に!
 ジュエルシード・封印!」

「sealing.receipt number XVI.」

 ふむ、背後では無事封印が終わったらしい。
 
 ぶちんっ!

 はい!? 人間や動物に取り付いた訳でもないのにこんなに強いのか!?
 今縛ってたのは9番(0.9㎜)鋼糸だぞ!
 と脳内でテンパりつつも回避行動を取れる静香の身体。マジ有り難い。
 が、裏目に出た。
 
 避けた俺を無視してなのはに襲いかかりやがった!

「なのは!」

 声をかけるが、この時点でただの小学三年に過ぎないなのはでは身動き一つ出来ない!
 横っ飛びで回避行動中の俺も動けん! 飛針を飛ばすが意にもかえさねぇ!
 
「バリア・バースト!」

 襲いかかる化け物――シード・モンスターだっけ?――にバリア魔法で動きを止め、バリア表面を爆発させて化け物を吹っ飛ばすユーノ。
 
 強くね? いやユーノはリリカルなのは随一のやれば出来る子だってのは知ってたけど、それにしても記憶にある姿とはズレて見える。いや可愛いけどね、実物の方がアニメよか。

 それは兎も角!
 化け物をもう一度9番鋼糸で拘束! そして化け物となのは達の間、ユーノが爆発によって稼いだ空間に身体を割り込ませる!

 ちらっと背後を窺うとなのははほぼ思考停止状態か、まあ無理もないが。
 
「レイジング・ハート!?」

「え?!」

 ユーノとなのはの声。気になるが後ろを向いてるヒマはない。
 更に残り3本の9番鋼糸を全て使い、化け物を拘束する!
 飛針が牽制にも使えないのが痛いな。
 というか暇人美由希は何してるんだ! 今こそその無駄な戦闘力が役に立つ時なのに!

「もう巻き込みたくないのに!」

 肺腑を抉るような響きを持つユーノの叫び。
 「もう巻き込みたくない」という叫び。
 そして名乗る事もなかった「なのは」の名前を知っていた事。
 逆行系主人公はユーノ君でしたか。
 「何時から戻ってきたのか」にもよるが、俺の記憶にあるソレより強くても当然というわけだな。

「…いいかい、なのは。
 君にはアレを何とか出来る力がある。
 …力を、貸して欲しい」
 
 苦渋そのものを声にしたようなユーノの声。
 
「…うん! 教えて、どうすればいいの!?」

 そこでYESと言えちゃう貴方が素敵ですなのはさん。
 初対面の人物が自分の名前を知ってる事はスルーですか。
 まあこういう状況だから仕方ないかも知れんが。
 
「いいかい、僕の言う言葉を繰り返して」
「うん!」

 おお、有名シーンktkr。
 しかし何があったんだ? 「二度目」のユーノならなのはを巻き込みたくない筈。
 少なくとも先ほどまでの会話も聞く限りはそうとしか思えない。
 なのにレイハさんをなのはに託した? 辻褄が合わないな…

「我、使命を受けし者なり」
「我、使命を受けし者なり」

「契約の下、その力を解き放て」
「契約の下、その力を解き放て」

「風は空に、星は天に」
「風は空に、星は天に」

「そして、不屈の魂(こころ)はこの胸に」
「そして、不屈の魂(こころ)はこの胸に」

「この手に魔法を」
「この手に魔法を」

「レイジングハート、セット・アップ!」
「レイジングハート、セット・アップ!」

「stand by ready. set up」

 天を突く光の柱!
 その光量が背中を向けている俺にも分かる!
 くぅ、生で見られないとは勿体ない!
 
「ふぁぁ…!?」

「やっぱり凄まじい魔力だ…」

 ぼそりと呟くユーノの声。
 逆行する前は相当色んな魔法使い見てきただろうに、それでもなのはの魔力は別格な訳か。
 まあ9歳でここまで放出出来るのは流石に滅多にいないんだろうな。

「落ち着いてイメージして!
 君の魔法を制御する、魔法の杖の姿を!
 そして君の身を守る強い衣服の姿を!」

 急に言われたってイメージ出来るもんじゃないよなぁ。
 めちゃくちゃ戸惑ってるなのは。しかし即断即決に定評あるなのはさん。

「とりあえずこれで!」

 どうでもいいが速くしてくれ!
 9番鋼糸に8番鋼糸重ね掛けで拘束しても鋼糸が悲鳴あげてるから!
 どう考えても強すぎワロタww いやちっとも笑えないけど!

「ストラグル・バインド!」

 翡翠の縄が化け物を拘束し弱らせる!
 そう言えばストラグル・バインドは魔法強制解除という副次効果があるから、魔法生物には有効なんだっけ。

「助かる」

 背後からバインドしてくれるユーノに声をかける。

「いえ…巻き込んですいません…」

「気にするな、遅かれ速かれこうなる運命だった、誰にとってもな」

 実際そうとしか思えん。
 前倒しの形にはなったが結局レイハさんはなのはの手に収まったみたいだしな。
 
「なんなのこれぇ!?」

 そら戸惑うわな。
 
「なのは! 杖をこいつに向けて!
 心を澄ませて! 君の心に浮かぶ、君だけの呪文を唱えるんだ!
 シード・モンスターを封印する呪文を!」

 俺の隣でバインドを操作しながらなのはを叱咤する。
 なんか格好良いぞユーノ!

「――リリカル・マジカル!」

「封印すべきは忌まわしき器!
 ジュエルシード!」
 
「ジュエルシードを封印!」

「sealing mode.set up.stand by ready.」

 お、化け物の額にXXIのローマ数字が浮かんだ。

「リリカルマジカル!
 ジュエルシード、シリアル21。
 封印!」

「sealing.」

 化け物が消滅し――

「receipt number XXI.」

 レイハさんの中へジュエルシードが格納され。
 とりあえず一段落ついた、か。
 さて、やることはまず。
 
「なのは、ユー――そこの少年、ついてこい」

 逃げる!
 アニメの初戦闘ほどじゃないにしろ地面は抉れてるし、そもそもこんな昼間じゃ誰に見られてるか分からん! 逃げるに如かず!
 なのはは足が遅いから抱える! なのはも俺も背負うタイプのカバンで助かったな。
 手持ちタイプだとぼろぼろになってたかも知れん。
 それにしても戦闘方法がアニメと違ったような気がするんだが、あの化け物ども。
 まあどうでも良い事か。

 とりあえず士郎に頼んで警察に手を回してもらうか。警察署の剣道道場に指導しに行ったりして顔が利くからな、あの童顔親父。
 小脇に抱えたなのは、背後を追いかけてくるユーノと共に自宅玄関に飛び込みながら、そんな事を思う俺であった。
 ユーノが逆行系主人公だとして、なーんでまた海鳴にジュエルシードがばらまかれたんだろうかね。
 同じミス(いや別に最初の時すらユーノは悪くないけどね)を二度繰り返すほどマヌケだとは思えないんだが…
 まあ後で訊いてみれば良い事か。
 あ、後で美由希はシメねーと。戦闘民族のくせに有事に遅れるとは何事か。
 
 平和が欲しいなぁ、ぎぶみーほのぼの。
 後で聞いた話じゃユーノが封時結界張ってたから誰にも見られなかったらしい。
 これはマジで助かった。やれやれだぜ。

*****

思いついたままを熟々と。
続きくかどうかは分かりません。
一笑に付して頂ければ幸いです(・∀・)



[14218] 分からないようなマイナーネタ、だがそれが(・∀・)イイ!!
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2011/03/01 22:00
設定ミス発覚_| ̄|○
恭也は大学一年なんですね、なのはが3年生なら。
年齢設定は兎も角(とらハ3だと恭也20歳、りりなのだと恭也19歳で大学一年)、リリカルなのは及びとらハ3、両方とも上記の設定みたいです。
なのにこの作品中ではなのは小学三年、恭也(静香)高校三年設定。
このまま流してください。余り本筋に影響はありませんので、多分。

****

「(・∀・)大トロ」「ハイ(`・ω・´)」
「(・∀・)中トロ」「ハイ(`・ω・´)」
「(・∀・)イントロ」「ハイ(`・ω・´)」
「(・∀・)チャゲアスの万里の河」「通ですねお客さん(`・ω・´)」
 
 …なんでこんなのがアニメになってんだこの世界は…いや元ネタの漫画は大好きだけどさ…
 万人受けする漫画でもねーだろこれ…。
 この世界作った神様とかマジ頭イカレてるよ…
 
 居間である、今は夕方17時。
 テーブルに向かい合って座り、テレビつけっぱなしでユーノから状況の説明を受けているなのは。
 そしてそれを眺めながら、冷蔵庫の中のモンで夕飯を作る最中な俺。
 ぶっちゃけ知ってるから状況説明はいらんのだ、むしろ俺がこの世界の現状を説明して欲しい。
 
 そして冷静に考えたら「殺人貴」だの「真祖」、「正義の味方志望――剣製の魔術使い」や「文珠使い」だのいるんだから、別にジュエルシードや闇の書が暴走しようがどうって事はない気もするがな。
 いやいやまてまて、もしかしたらそいつらも「普通の一般人」かも知れん、たまたま名前や姿や性格や生い立ちが俺の知ってるアニメや漫画やゲームのソレとほぼ同じなだけの。
 …自分で言ってて説得力のなさにワロタ。
 いやいやこの世界が俺が主役かヒロインの物語の舞台装置みたいなもんだとしたら、それもあり得るか?

 とりあえず物は試しだ。
 直死の魔眼で闇の書のバグだけ殺してもらおう。
 志貴はクラスメートだからな、マジで頼んでみるか。
 
 それより問題は各々の作品の敵対勢力だよなぁ…大聖杯が海鳴にある訳もない――よな?――から戦争は起きないにしても、転生する吸血鬼やその支配下の出来損ないが彷徨いたりされるのは困るんだが。
 悪霊や妖怪に関してはとらハシリーズじゃ基本的存在だから今更だな、うん。
 使徒とか襲われたら人間サイズじゃ何も出来んから対策練るだけ無駄だし。
 サッカーとかスポーツ関係は敵も何もないしな、ところで日本フェザー級チャンピオンは幕の内だった、こいつをどう思う? 凄く…もうどうでもいいです。

 クラスメートと言えば横島もだが、アレ、もしかして優良物件じゃね?
 商才ありあり、霊能力高し、レアスキル持ち、無限の体力と精力、黙って立ってればそれなりに見える顔。
 どーせ女として生きて行かなきゃ行けないなら、横島と付きあうというのも有りと言えば有りかも知れん。
 元男としてああいう男は好感が持てるしな。正直あそこまでスケベだと、いっそ清々しい。
 見てて飽きないしな、ああいう男は。
 しかしそれも「漫画」だからかも知れん、実際に「女」の立場からやられてみないことにはどうだろうか。
 
 とりあえずこいつも能力の有無は確かめておかんと…何がどう転んで俺に返ってくるか、分かったもんじゃない。

「と言うわけで…
 …巻き込んでしまって、ごめん。
 でも、なのはに、手伝って欲しい」

 そろそろ話が纏めに入ったか。
 苦虫をかみつぶしたような口調だが、ユーノが自分からなのはに協力依頼するとはな。
 一種の諦めの境地か。
 そらそうかもな。あの強さなら間違いなく独りででもどうにか出来ただろ、一匹ずつなら。
 或いはなのはに襲いかかったりしなければ。
 つまり「記憶通りに物事が進めば」ユーノは独りで事を終えるつもりだったに違いない。
 
 予想以上の化け物の強さや、大小あれど様々な差異、更に「高町静香」というユーノにとっての異分子。
 こんだけ揃えば確かに諦めも着く、か。
 
「うん!
 あたし、頑張るね!」
 
「なのは、頑張るのはいいが、この後は家族会議だからな。
 お前やユーノみたいな子供だけを危険な目に遭わすつもりはないぞ」
 
「え? それは…魔法が余り他人に、多くの人に知られるのは…」

「安心しろ、うちは皆、口が固い。
 それにうちで一番弱い私でさえアレ位出来たんだ。恭也や美由希なら足手まといにはならんさ。
 と、自己紹介がまだだったな」
 
 俺が促した事もあるが、ユーノはなのはに逢えたのが嬉しかったのか、家についてから今までずっとなのはに説明しっぱなしだったからな。

「私は高町静香。
 なのはと美由希の姉で、恭也とは双子の兄姉にあたる」

「そうでしたか…僕はユーノ・スクライアと言います。
 すいません、こんな事に巻き込んでしまって…」
 
「気にするな、さっきも言ったが、どのみちこうなる運命だったんだろうさ」

 なのはは首を傾げるが、ユーノは察しが付いたんだろうな、目つきを鋭くこちらを睨んでくる。
 まあ可愛らしいもんだけどな、ユーノマジプリティ。
 
「そんなに見つめられると照れる訳だが」

 口調も表情もちっとも照れてない俺。
 高町家――というか恭也の双子は伊達じゃないぞ、殆ど無表情で怖いったらないんだからな。

「ユーノ君!」

「え、あ、ごめんなのは」

 いきなり頬をふくらませぷんぷんとでも言った感じでユーノを叱るなのは。
 アレ? もしかしてフラグ立ちましたか?
 まあせっかく手に入れた玩具取られるかもって恐怖が一番近いんだろうけど。
 
「ところで、ユーノ。そのリンカーコアとやらは私にもあるのか?」

「そうですね……ないみたいです。
 聞こえませんよね、僕の念話…距離を限定して全方位発信してるんですが」
 
「わ! なにか頭に響いてきた!」

 ふむ、なのはは反応あって俺はなし、か。
 流石に魔法使いにはならない、か。変な風に最強フラグが立ったもんだから魔法使いにもなれるかと思ったんだが…まあどうでもいいか。空は飛んでみたいが、飛べなくても死にはせんからな。

 そして嬉しそうにするなよ、なのは。
 まあ自分だけのモノが見つかったのが嬉しいのは分かるがね…お姉さんはそんなもの捨てて欲しいんだがなぁ…

 まあ、いい。
 ユーノとはなのはが寝てからゆっくりと話合えば良い。

「よし、後は仕上げだけだな」

 米も研いで炊飯器に突っ込んだし、ハンバーグも焼いた。余ったハンバーグの種は冷凍庫に突っ込んでおけば良いだろ。サラダも作り終えたし。

 ちょっと意地悪してやるか。

「なのは、ついでにユーノもお風呂入りな。私も一緒に入るから」

「はーい」

「えええ!?」

 おー、テンパっとるテンパっとる。
 この大人びた感じから、StS以降からの逆行じゃないかと当たりを付けてたが、どうやら間違ってなさそうだな。そりゃ真っ当な大人の良識持ってたら、なのは位の少女ならまだしも、恋人でもない女子高校生とのご入浴は色んな意味で遠慮したがるだろう。
 
「あのその! 男女が同じお風呂に入るのはどうかと!」

「『子供』が生意気いうもんじゃない。
 ほら、なのは。ユーノ連れて先入ってろ、もうお風呂湧いてるだろうし」
 
 反論出来まい。
 
「はーい。ユーノ君行こう?」

「え? いや、だからその! ちょっ! 待ってなのは!」

 引きずられるように風呂場へ連行されるユーノ。
 なかなかパワフルだな、なのは…運動音痴のくせに。
 
 まあ優しい姉としてユーなのフラグ成立の為、一緒に入らずにいてやろう。
 なのはとの入浴プレイを存分に楽しむが良い!
 まあ幾らなんでもお互い子供が産める身体じゃないだろうし、大丈夫だろ。
 なのはもお赤飯はまだ炊いてないしな。
 
 そーいやまだお月様とは遭遇してないんだが…今から鬱だ。
 軽いといいんだけどなぁ…はあ……TSなんてふざけんなよホントに。
 
****

「なるほど…そういう事情があったのか」

 一頻り馬鹿騒ぎした後、ユーノによるジュエルシードや魔法に関しての説明会終了後、士郎の一言。
 馬鹿騒ぎとは勿論、なのはとユーノが偉く仲よさげで、高町母が「なのはがボーイフレンドを連れてくるなんて♪」とか言うもんだから暴走したとかそれを収めた恭也と美由希とか。まあそういう類である。
 ちなみに夕食はまだ食べてない。

 とりあえず魔法の存在に関してはなのはが目の前で変身して見せた事と、ユーノがフェレットになって見せた事、うちの近くの道路がそれなりにダメージ受けてる事や俺の口添えで信用してもらえた。
 まあうちの家族どもは悪霊・妖怪退治とか普通にしちゃう家系だからな、今更魔法如きで、と言ったトコか。
 あー妖怪といえば久遠はいるのかな。後で探してみよう。とらハ3の癒し役は是非とも欲しい。
 もふもふしたいぜ。

「ユーノ君、それはなのはじゃなきゃダメなのかね?」

「はい。シードモンスターとの戦闘、という意味では静香さんでも問題なかったです。
 ただ、ジュエルシードの発動の察知や封印は僕かなのはじゃないと出来ません。
 それに封印する為にはレイジングハート――なのはの手にある紅い球です――で行わないと駄目なんですが、レイジングハートがもうなのはを持ち主に選定してしまっているので…
 本当に申し訳ないんですが最低でもなのはに封印作業をしてもらわないと……」
 
 どうも話を聞くと、ユーノ自身はレイハさんをなのはにあげるつもりはもうなかったらしい。
 が、勝手にレイハさんがなのはの元に走ってしまい、致し方なくマスター登録及び発動コードを教えざるを得なかったというのが真相らしい。
 どんだけなのは好きなんだレイハさん。
 レイハさんマジパネェっす。

「大丈夫だよユーノ君! あたし頑張るから!」

 任せてと言わんばかりに胸を張るなのは。

「しか――」

「貴方」

 高町母が士郎の声を遮る。
 なのはさんの事一番理解してるからなぁ、桃子さんは。もはやテコでも動かんという不退転の決意を理解しちゃってるんだろうな。
 あんまり反対して冥王光臨を早めるのだけは勘弁して欲しいし、ここは桃子さんを援護すべきか。
 
「父、美由希と恭也と私で出来る限りなのは達の側にいる。
 戦ってみた感じとしては私でもタイマンなら問題ない位だった。
 それで良かろう?」
 
 むむ、と唸る士郎。まあホントなら自分がつきっきりで守ってやりたいんだろうが。
 親ばかだし。しかし喫茶店の仕事もあるしな、仕方なかろう。
 まあ手抜きな修行しかしてない静香でもタイマンならどうにかなる以上、恭也と美由希がいれば問題ないのは確かだが。
 ンな事考えてるとまたぞろアフォな事が起きそうで怖いぜ。
 口には出さないがね。
 
「分かった。休みの日は出来る限り俺も協力する」

「ユーノ、なのはの事を宜しく頼む」

「はい! 必ず守ります!」

 うーん、士郎の眉がぴくぴくしてるぞぉ。
 逆行者確定と俺は分かってるから? どんな理由で戻ってきたにせよ「ユーノ」が「なのは」を守らないなんて事はないから、その意気込みは理解出来るけどね?
 知らん人間が見たら、なのはに懸想してるんじゃね? とか思われるわなぁ。
 事実懸想してるのはホントだろうし。
 
 おー、恭也も仏頂面しおって。このシスコン。
 美由希と高町母はアレだ、「にんまり」って感じで笑ってやがる。
 なのははなんか頬染めてまんざらでもなさそうだ。そらそうだわな、ユーノ美形だし、いちいち振る舞いが大人びてるし、優しいし、危ないトコ助けてくれた上に魔法なんて凄いもんくれたし。
 なのはにしてみれば王子様だよなぁ。
 フェレット姿で初対面じゃないとこんな事になるのか。
 
「話は終わったんだ、飯にしよう。
 ユーノも今日から高町家の一員なんだ、遠慮せずに食うが良い」

 空気を読まずに場を流す俺。
 ついでに話合ってもいないユーノの下宿先を決定してしまおう。
 空き部屋もあるしな。

「あ、はい。頂きます」

 夕食を食べながらユーノはとりあえず空き部屋を宛がう事が決定した。
 その間、自分の部屋で一緒に過ごしたがるなのはと、出来る限り引きはがしたい士郎とのアフォみたいな口論があった事をここに記す。
 というか、小学三年の子供相手にマジで口論するとかどんだけ大人げないんだ。
 恭也と美由希が空き部屋(兄姉が五人もいる高町母の親戚が来た時やフィアッセ来日時に使う)を掃除している間、なのはの部屋でお話しているユーノ。
 そしてそれをジャマしに行こうとする士郎、止める高町母。
 …男親ってこんなもんかね? ちなみに俺はプリン作ってます。
 とりあえずレシピは高町母秘伝のソレだから、量と手順さえ間違えなきゃそれなりの物が出来る筈。
 まあプリンなんて難しいデザートでもないがね。
 あ、今、高町母が士郎を引きずるように寝室に消えた。
 まだ一番下の子供すら起きてる時間に、夫婦揃って寝室に閉じこもるのは如何なものか、教育的に考えて。
 夫婦仲が宜しくて大変結構ですが、なんでなのはに下の弟妹が出来ないのか不思議で仕方ないです。

 しっかし…素直にリリカルなのはをなぞるとは思ってなかったが、こんな事になるとは。
 まあ、ユーノとなのはが不純異性交遊しようがそれはどうでもいいんだが。
 問題は他の作品の連中がどう絡むかだ…エロゲー出身もいやがるし。
 なのはが触手でらめぇとか全力で阻止しなければ、流石に。

 あ、念能力試さないと。もはや四の五の言ってられん。
 ジュエルシードの暴走体だけで手こずってるようじゃ、生物を取り込んで暴走した場合、俺じゃ足止めも出来ない事になるからな。使えるものなら何でも使わねば。
 理想は強化系。楽だからな。
 考えず練を続けて応用技を使いこなせればそれで必殺だし。界王拳みたいなもんだな。
 頼むから特質は勘弁だぞ…
 
 プリンをレンジに突っ込んでっと。後は40分待ち。
 さて、キッチンペーパーを千切りコップの水に浮かべてと。
 
 クリリンの事かぁ!
 
 イメージしやすくてこの台詞あるのとないのじゃ全然やりやすさが違うな。
 …ん? コップの色が紫色に…
 まて、これは孔明の罠だ。色が変わりつつ味とか温度とかが変わってるに違いない。
 ぺろり、と一舐め。味も変わってないし、指突っ込んでみたが温度も変わってなさそう。
 放出系、か。特質でない事を喜ぶべきか。
 念能力の師匠がいればいいんだが――いやいなくていいや。
 そんな人間がいるという事はある程度普及している能力→死亡フラグの目白押しだからな。
 念能力は俺だけの能力であってくれ。蜘蛛とかマジ無理だから。蟻とかもっと無理だから。

 とりあえず独学、というかなけなしの知識で鍛えていくしかないか。
 とりあえず練を三時間しっぱなしを目指そう。
 
****

 草木も眠る丑三つ時――つまり午前二時頃。
 恭也と美由希も夜練からとっくに帰って来て寝てる時刻である。
 見よう見まねで『絶』をしつつユーノに宛がわれた部屋の前、小さくノック。

「どうぞ」

 小さく返事が返ってくると同時にするりと部屋へ身体を潜り込ませる。
 豆電球一つ点いていない部屋の窓際に佇む少年。月明かりが差したその姿は非常に絵になる。

「やっぱり起きてたか、ユーノ・スクライア無限書庫司書長殿」

「…貴女は何者ですか?」

 ここでオリ主ですとか言ったら敵性存在認定されそうな気がするな、言ってみたいけど。

「高町静香、19歳。なのはの姉さ。
 ただ、ちょっとばかり昔や未来の事が見えたりする特技があるだけの、な」

 これが一番納得しやすかろ。この世界は元々アニメとして云々なんて、説明しても証明しようがないし。

「少なくとも、ユーノの敵じゃない。まあ、あり得ない事ではあると思うが、ユーノ・スクライアが高町なのはや高町ヴィヴィオの敵だというなら、まあ私にとっても敵だろうが」

「ヴィヴィオの事まで…」

「フェイトの事やはやての事もある程度は説明出来るがね」

 むう、と考え込むユーノ。
 ここは追撃の一撃をたたき込むべきか。

「正直、私も自分の見た「映像」と「現在の状況」の差に戸惑っている。
 ユーノがなのはと出会うのは最初はフェレットの姿のはずだし、全方位救難念話でなのはに呼びかけてからの筈。そもそもこの時点でユーノが使える筈もない魔法も見たし」
 
「僕が未来から戻ってきた人間だという事も気づいてる、という訳ですか」

「じゃなきゃ「もう巻き込みたくない」はないだろう?
 気づいてないかも知れないが、なのはが名乗る前に君はなのはと呼び捨てにしていたし、な」
 
 がんっと殴りつけられたようだ、ユーノが受けたショックはでかかったらしい。
 というか気づいてなかったのか、ホントに。

「まあ…一番違和感があるのは自分自身なんだがな」

 全くの本音だ、色んな意味で。
 
「少なくとも私の見た「映像」では「高町静香」なんて人間は存在しなかった」

 目線をくれると、ユーノも小さく頷いた。

「ええ、僕の体験した未来の知識でも、恭也さんに双子の妹なんていないです」

「私の存在自体がイレギュラーなんだろうな。
 或いはよく似た平行世界か」
 
「難儀なものですね…お互い」

 まあそれから知ってる情報を交換しあった結果。
 このユーノはSts後、ヴィヴィオが生きていれば15歳位の時から戻ってきたらしい。
 当然ながら余り語りたくない事なので言葉少ないが、どうもなのははSts後は色んな後遺症でどんどん魔導師のランクが下がっていって、遂には教導官も止めて家庭に入ったらしい、勿論ユーノと。
 が、紆余曲折後テロで二人とも守ることが出来なかったようだ。まあどんな凄腕の魔法使いだろうと側にいなきゃ守るも何もないわ。久しぶりに遺跡発掘でもと意気込んだ時に襲われたらしい。
 
 だが逆行自体は偶然の産物だったようだ。形見として常に身につけていたレイジングハートと共に戻れたのは幸運だったとユーノは語る。
 なのはやヴィヴィオが死んだ後の状況は詳しく聞かなかった。口にしたくもないだろうし。 

 なお、俺の事は完全に信用する訳ではないが、とりあえず共闘するという事で決着が着いた。
 まあ俺が嘘吐いてる可能性だってあるし、妥当なトコだろう。尤も口で言う程疑ってはなさそうだが。

 やはりDO☆GE☆ZAをしてなのはを頼んだのが良かったのだろう。ふ、お人好しめ。
 なのはの為ならこの程度何でもない事よ。それにこっちでプッシュして行かないとなのはから距離とりそうだからな、自分がいるから~とか見当違いの後悔によって。
 
 そんな事はさせんぞ!
 ユーノ×なのはを生で見る為、俺は頑張ってしまうから覚悟しろ(`・ω・´)
 
 
 ………俺も大分このゆがんだ世界になじんでしまったようだ…鬱打視能。
 

****

桃子さんが数人以上の兄姉も持つ末っ子というのは公式設定で確認出来たのですが、何人いるかは確認出来なかったのでとりあえず五人としました。どうでもいいといえばいい設定ですがw

しかし年齢設定はやっちまったって感じです…
どうも「リリカルなのは」の方では「19歳で大学一年で実の兄」らしいんですが、変な風に混ざった模様。
でも桃子さん無印時は33歳らしいんで、りりなの設定でもまず自分の腹の子じゃないですね、恭也は。
15歳からイタリア・フランスにパティシエ修業に出かけてたみたいですし。
影響はないけど些細な設定ミスが気になりつつ、次もがんばります、適当に(・∀・)



[14218] 地雷作品なので設定のすりあわせなんて考えません(・∀・)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2011/01/02 01:49
 長女ですが実家の空気が最悪です、甘ったるい意味で。
 
 士郎×桃子、忍×恭也×美由希、ユーノ×なのは、そして俺は独り余る。
 いや余る事はこの際どうでもいい、なんなんだこの空気は。

 どいつもこいつもいちゃいちゃしやがって……
 く、俺も恋人作るしかないのか、まだ男とそういうことする気にはとてもなれん、しかしレズなど論外だ!
 ユーノめ…逆行者だからなのはから距離を取るかと思ったら逆にがんがん攻め込んできやがった。
 訊いたら「もう二度と手放したくないから」とか真顔でいいやがって! 可愛いじゃねーかコンチクショウ!
 美由希も美由希だ、何を恭也と腕組んでやがる! 忍も反対側で恭也の腕抱いてるし!
 
 なんなんだこの空気は!
 どいつもこいつも朝っぱらからいちゃいちゃしやがって!!
 てか忍は一体いつの間にうちに来たんだ! 昨日の夜(3話参照)は間違いなくいなかったはずだ!

 イヤガラセしてやる!!

「ふむ、恭也、昨日寝ながら思い出したんだがな、主に夢の中で」

 朝食の最中である。両腕を両サイドから押さえられた恭也が首を傾げる。勿論、食べる時はあーんである。
 両親と兄姉がやってる→なのはも真似するコンボですね分かります。
 ユーノもまんざらじゃなさそうな面しやがって…

「フィアッセとお前の婚約はどうなったんだ?」

 ピシ!
 おお、間違いなく空間にひびが入ったなこれはw 幻聴じゃないぞ今の音。

「な、何を言ってるんだ?」

「ふむ、小さい時、そう、アルバートおじ様の家に遊びに行った時だったか?
 フィアッセを貰うって、結婚しようって約束してたじゃないか」
 
「……あ」

 思い出したらしいな。
 そして時は動き出す!
 
「あらあら、恭也も隅に置けないわねぇ」

「うーむ。恭也、二股はいかんぞ」

 他人事のように全開の笑顔の両親。
 
「恭也……」「恭ちゃん…」

 地獄の底から響き渡る二人の声。というか美由希、本気なのか? 単に忍に対するイヤガラセ程度だと思ってたんだが、本気で好きなんだろうか? いや血統的には従兄弟同士だから問題ないといえばないんだが。
 というかオマエら、小学校以前の約束を本気にするなよ……まあフィアッセはかなり本気で待ってるけど。
 
 ちなみに美由希が俺を呼ぶ時は静ちゃんである。
 身長は若干低いけど俺の方が美人だぜ? いやどうでもいいけど。

「ユーノ君、二股ってなに?」

「…独りで二人以上の人と恋人になる事、かな?」

「お兄ちゃん、そんな…!」

 お兄ちゃん大好きっ子なのはに衝撃が走る!
 恭也ざまあwww
 
「さて、なのは、バスに行く時間だろう。このような浮気者は放って行くぞ。
 ユーノは留守番頼む。なんなら翠屋の手伝いしてくれても良いぞ」

 元大人だからな、ウェイターくらい出来るだろう、魔法もあるから重量物ですら持ち歩けるし。

「あ、じゃあ手伝わせてください」

「じゃあ学校終わったらお店寄るね!」

「うん、待ってるね」

 こっちのは初々しいねぇ。
 向こうは視線だけで人が殺せそうな勢いになってるが、まあ丁重に無視させて頂く。

「恭ちゃん…後でゆっくりお話しようね?」「恭也…後で言い訳聞いてあげる…」

 怖い怖い。
 恨みがましい恭也の視線を軽く受け流し、玄関に向かう俺となのはとユーノ。
 く、玄関先までいってらしゃいの挨拶だと、ユーノめ…なかなかやる!
 

****

 つまらん授業を受けながら、次の展開を考える。
 ユーノによると神社とプールで発生するはずだったジュエルシードは昨日、既に封印済み。
 つまりユーノが二個封印した後、二個のジュエルシードが俺となのはに襲いかかったという事らしい。
 
 となると原作通りなら数日は間が空く、或いは予想外の展開が発生するかの二択、か。
 海に散らばった分が減って街に降ったと考えると、原作通り展開しても辻褄が合わないでもないな。
 ユーノが細かいトコまで覚えていてくれて助かったぜ。流石にそこまで覚えてられんよ。
 
 とりあえず再来週、日曜のサッカーの試合の前に、ジュエルシードをカツアゲだけは確定だな。
 フェイトが出てくるのはその次の週末、忍の家で巨大ネコと対戦時か。
 
 そういえばクロノとか管理局組はどうなんだろう…フェイトもそうだがここまで変な世界であいつらが変になってないとも限らん訳で。今のところ「とらハ」「りりかるなのは」系の人間は俺の知ってる原作とそう大差ない奴らばかりだから逆に気になるな…
 とりあえずフェイトが男だったりクロノがオカマだったりしても驚かないように覚悟しておこう。

 正直プレシアとかは手の出せる次元の話じゃないしな、なのはとユーノに頑張ってもらうしかない。

 後は闇の書か。今日の放課後付きあうよう、声をかけておかないとな。
 うーん、バグを殺せても根本的に直さないとリインⅠ(アインス)は結局消滅しちゃうんだよな、確か。アレは本体である夜天の書の破損が酷かったからだっけ? 直死ならバグだけ狙い撃ち出来るから問題ない?
 仮にバグだけ取り除けなかったとしてもンなもん直す技術などない訳で。
 これはアレか、アースラが来てからの方が良いのか。うーむ、悩みが尽きん。
 

「遠野、これから時間はあるか? 少し付きあってもらいたい」

「え…ああ、構わないよ高町さん」

 こいつも可愛い面してるよなぁ…メガネ属性はない筈なんだが、俺には。
 そして何故か教室中がざわめく。俺が男に声をかけるのが珍しいんだろう、放っとけとしか言えないが。
 恭也も目を見開いて驚いてやがる。まあ確かに今まで静香は恭也と士郎以外の男はそこらに生えてる木位の認識だったのは認めるが。

「じゃあ…そうだな…」

 屋上は常に開放されてる風ヶ丘学園なので、他の連中に見られる可能性あり、か。
 なら山の上の神社まで行くか。あそこならそれこそ久遠くらいしかいないだろ。

「ついて来てくれ」

「分かった…」

 当たり前だが不安というか疑問顔だな、遠野も。

「いけません! 不純異性交遊は校則で禁止されてます、遠野君!」

「知得留先生、唐突に現れて何いってるんですか」

 冗談抜きにどこから現れたんだシエル先輩。

「いえ、高町さんが遠野君を捕食すると聞いたので」

 そいつ連れてこい。

「先生…」

 遠野も頭抱えてるわ。気持ちは分かるが。

「安心してくれ、遠野の恋人は俺じゃなくアルク――」

「ちょっ!?」

 女性の口をふさぐのはマナー違反ではないかね、遠野志貴。
 
 と、同時にきゅぴーんとシエルの目が光った。
 
「遠野君…? まだあのあーぱー吸血鬼と付きあってるんですか…?」

 あーもーうっおとしいなこの人は!

「先生、うち(翠屋)で特製カレーを作ろうかという話があるんですが」

「え!? 本当ですかそれは!」

「詳しくは恭也に訊いてください。では」

 よし、志貴の手をつかんで高速離脱! 教室に恭也が残ってるからシエルはそっちに絡む筈!
 忍もいるから上手い事ごまかしてくれるだろう! まあその話はなかった事にで済む程度だしな。
 それで怒りを買ったら志貴を生け贄に捧げれば良い、流石俺。

 後ろで志貴が何か言ってるような気がするがワカラナイ。
 
****

「とりあえずここまでくれば大丈夫か」

「はあはあ…こんなトコまで連れてこなくても…」

 体力ないな、志貴は。原作通りと言えばそれまでだが。
 まあここまで上ってくるのは俺でも疲れたから無理もないか。
 
 ここは八束神社、通称西町の神社。とらハ3で久遠の生息地である。
 尤も神社の境内ではなく、少し外れた森の中、早朝と深夜に恭也達が修行している場所だ。人目につきたくないからな。
 
「まあ、少し落ち着いてからにしようか」

 常備しているペットボトルを志貴に放り、適当な木に凭れるように座る。
 戦闘民族としては常に水の携帯は欠かさないのだ。冗談抜きにいつ戦闘が発生するか分からんからな、色んな意味で。
 
「サンキュ」

 ていうかホントに美形だらけだな、この街。ドキッ! 主人公だらけの海鳴市ってか。
 志貴もでかい丸メガネは個人的には微妙だがイケメンだしなぁ。早く殺人貴名乗って忌呪法の包帯で目隠ししてくれ。そっちのがイケてるから、個人的には。
 というか月姫2プレイしたかったな…いやこの志貴の行く末が月姫2かも知れん。は、アルクと志貴にひっついてればリアルで月姫2体験出来る?! いやいやないわ。そんな危険な目には遭いたくないです。
 そもそも他の吸血鬼とかどうなってるんだ、忍は吸血鬼じゃないのか、もしかして。
 
「おーい、高町さん」

「はっ…ああ、すまない。少々考え事に没頭してしまったようだ」

 どうでも良いが口調が堅いよな、俺。「静香本来の口調」みたいだから意識しないとこうなるのも仕方ないんだが。

「それで、まず確認したい事があるんだが――」

 さて、どう切り込むか。

「君の恋人はアルクェイド・ブリュンスタッド、という事で良いのだろうか?」

「…高町さんが知ってるとは思わなかったけど、その通り」

「その筋では有名人だからな。ではミハイル・ロア・バルダムヨォンは滅んだのか?
 いや君が殺したのか?」
 
 目線はしっかり志貴の蒼い目を見据える。視線をそらしたら負けだ。
 というかこぇぇぇ! 何この殺気は!
 怒ってるというよりはこっちの意図が読めないってのがホントだろうが。
 後どうでもいいが何故かロアはフルネーム覚えてるんだよな、何故か。

「…ああ、俺が殺した」

 うーん、口調から遠慮が消えたぞぉ。こぇぇ。
 転生前の俺ならまず小便もらしてるな、これは。
 まあいい。ロアを殺せたならまず間違いなく直死の魔眼持ちだ。
 であれば対応は一つ。

「伏してお願い申し上げる。
 その眼で殺して欲しいモノがある。呪われた魔法のアイテムを」
 
 DoGeZa! プライド? ナニソレ美味しいの?
 守護騎士どもが現れる前にネコ子さん達をぶっ倒して夜天のバグを殺す。
 まあそれで守護騎士が生まれなくなっても知ったこっちゃないわ。なのはから蒐集するなんて俺が許さん。
 多分バグだけぶっ壊せるだろうし、そうなれば管制人格――リインⅠが色々してくれるだろう。

「え? いや、ちょっと話が見えないんだけど!?」

 いきなり殺気も緊張も霧散させて慌てる志貴。
 こいつも大概お人好しだよな。そんなトコは確かに好感持てるが。

「とある少女の人生が尽きようとしている。呪われた道具のせいで。
 その魔道具は通常壊す事は不可能、持ち主である少女が死ねば別。
 そして少女の命を吸い取り莫大な破壊をもたらし、そしてまた道具は生け贄を求めて転生する、蛇のように」
 
 まあ正直はやて一人の命だったら放置する事だって選択肢だけど、二次災害が半端ないからなぁ。

「だが元々その道具はそんな事に使われるものではなかった。
 理由は省略するがバグらされてしまったのだ。そのバグを君の魔眼で殺してもらいたい。
 バグさえ殺せれば、少女は道具から力と家族を授かるのだ、頼む」

「分かった! 分かったからまず顔あげてくれ!」

 ふ、計画通り。
 
 ……失敗フラグなんて立ってませんよ?

****

 上手く志貴の協力を取り付けられた後、山を下りて翠屋へ。
 まあ正直今はジュエルシードをどうにかする段階だからな。
 志貴以外もそうだが、空飛べないとあんまり役立たないんだよね…地上戦って余りないし、リリなのだと。

 ま、ソレは兎も角、志貴に必要な情報を与え、議論した結果。
 出来れば守護騎士ども出現の後の方が良いだろうという事で暫く静観する事になった。使い魔(レンだろう、多分)に軽く監視させておくと言ってたので、はやてはとりあえず大丈夫だろう。ネコ同士、ネコ姉妹と宜しくやって欲しいものである。
 まあ俺の情報に嘘がないか確認する猶予期間でもあるんだろうが。
 志貴に関してはアルクも側にいるだろうし、問題なかろ。

 で、山を下りて商店街。翠屋を手伝う為、てくてく歩いていると――

「おぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇ!!!」

 ――地獄の底から響いてきたような声を絞りながらうち(翠屋)の窓ガラスにへばりついている物体A。
 …横島忠夫、こんなトコで何してる。商店街の皆様から注目を集めまくってるぞ。
 
 横島の後ろから中をのぞいてみると、忍と恭也、仲良く並んでケーキを食べているユーノとなのは。あと向こう側にいるパツキンねーちゃんとうちの学生は――あのアホ毛はもしかしてアレか、大食王、もとい騎士王と正義の味方か? そう思ってみると確かにそういう風にも見えるな。士郎の方が風ヶ丘の制服着てるから違和感あるが、セイバー(仮)の方は本人じゃなかったらセイバーのコスプレですかというLvでイメージ通りの金髪女性だ。あと皿の数がパネェ。どれだけお食べになられましたか大食王様。

 まあ、ソレは兎も角。

「横島、気持ちは理解出来ないでもないがうちに対する営業妨害は止めてもらおうか」

 気持ちは元男として理解出来るが余りにみっともないぞ、全く。

「はっ! 静香ちゃん!」

 キサマにちゃん付けで呼ばれる筋合いはないんだが。毎度毎度声かけるたびセクハラしおって。保健委員なんです、俺。そしてセクハラ男横島。答えは分かるな? まあ冗談みたいな回復速度だから応急手当もいらんとは思うんだが。
 セクハラと言えば他にも忍とかシエルは結構されてるみたいだが。こいつの親しさのバロメータだからな、セクハラは。
 しかし反撃出来ない女性にはセクハラしないってポリシーはどうなんだろうなぁ。そりゃ確かにみゆきさん(うちの愚妹に非ず)とかつかさとかにセクハラしたら最低って感じなのは確かだが。
 なら最初からセクハラなんかするなと突っ込まれてもやむなしだな。

「うち?」

「なんだ、知らなかったのか? この店はうちの両親が経営してる喫茶店だ」

「へー、知らんかったっす」

 近所どころか全国紙で紹介されるような喫茶店とは言え、横島のようなタイプには縁がないのは確かだろうし知らなくてもおかしくはないか。

「…まあいい。
 キサマとも少し話があったんだ。付きあえ」
 
「いきなりホテルでオッケーです(`・ω・´)」

「コロすぞ?」

 ちなみになのはに頼んで自分の声録音して聴いてみたら低めの閣下の声が一番近かった。こんな美声になれるとはびっくりだ。
 目つき鋭く声低い俺がこういう台詞を放つと、

「すいませんでしたぁ!!」

 こうなる訳だ。
 なんという素早い土下座。天下の往来でそういう事は止めてほしいんだが。
 ただでさえヤンキー姉ちゃんっぽいんだからな、俺は。
 む、店の中から何事かとこっちを見てるな……しかしこいつとの会話を他人に聞かれたくはないな、色んな意味で。
 ああ、ユーノに頼むか。
 
「さっさと立て。飯ぐらい奢ってやる」

「ま、マジっすか!」

 …泣くなよ、たかが一食奢る位で。
 もしかしてアレか? バイトしてないのか? 美神除霊事務所…そういえば原作通りならTVでCMしまくってるはずだが一回も見たことないな……
 もしかしてGSという職業はないのかも知らん。

「マジだ。ついてこい」

 翠屋の中へゴー。
 しかし自分も志貴相手にやったとは言え、道ばたで土下座する奴と家族の前に出るとか何の罰ゲームだ一体…

「あら、静香、もしかしてかれ――」

「違う」

 妙に嬉しそうな高町母を最後まで言わせず断る。

「私と恭也のクラスメートだ」

「よー恭也、ここお前んちなんだってな」

「……ああ。しかし、珍しいな?」

 俺が恭也以外の男と一緒なのは確かに珍しいが、忍といちゃついてる奴に言われたくはないな。

「手伝うか?」

「大丈夫よ」

「父は?」

「ちょっと足りなくなった材料を買い出しにね」

 ふむ、いたらまたぞろ面倒くさいからいなくてちょうど良かったな。

「横島、奥の席に座っておけ。他の客に迷惑かけたら殺す。ちょっと待ってろ」

 全力で横島をびびらせておいて、ユーノとなのはの所へ。
 ラブリーなのはの頭を撫でつつ、ユーノへ囁く。

「会話が聞こえない程度でいいから結界を張ってくれないか、あの馬鹿はロストロギア級のレアスキル持ちの可能性がある。確かめたい」

「分かりました」

 にゃにゃ言うなのはは可愛いのう。小動物的可愛さの小宇宙だな。これが後の冥王様とか嘘みたいな話だよな。
 さて、ユーノの承諾を得られたので、コーヒーを二つ自分で用意する。制服のままカウンターに入るがまあよかろ。
 


 ん、結界が張られたみたいだな。まあ目の前の物体はサンドイッチを食うのに忙しくて気づきもしないみたいだが。

「…飯食わせてもらってない子みたいだな」

「ほーなんれふ」

「飲み込んでから喋れ」

「ふぁい」

 マジで飯食ってないのか?
 しかしGSがないならないで美神令子位いそうなもんだが、このカオスな世界なら。
 で、美神がいるなら前世でアホほど因縁あるこいつが出会わない訳がないんだが。

 いないのか、美神令子。別に好きでも嫌いでもないからどうでもいいっちゃ良いけど。
 まあGS美神の世界ほどは悪霊とかは跋扈してないし当然かも知れんな。
 …ふむ、久遠捜索にこいつ使うか? 曰く化け物に好かれる男だし。
 神崎那美は美由希のクラスにいたし、間違いなく久遠もいるだろ。

「ふう、ごちそう様っす」

「…飯食ってないのか?」

「うっす。うちのババアがホントに最低限の生活費しかおいていきやがらなかったんで。
 あ、ナルニアとかいう国に飛ばされたんすよ、オヤジが。で、お袋はついていったんですけど」
 
 ふむ、そのイベントは高校一年の時のじゃないのか。やはり細かい点が色々違うな。

「バイトはしないのか?」

「そろそろしようかとは思ってるんすけど。
 楽出来て三食ついて時給千円以上のトコってなかなかないっすね」
 
「そんなに死にたいか?」

「ひぃ!? すいませんすいません!!」

 ったく。夢見過ぎだろう、常識的に考えて。
 しかし参ったな…美神事務所で働いてるなら文殊も期待……
 ………妙神山、あるのか? この世界に。あっても行けるのか?
 行かないと文珠ゲットフラグ立たないよな………
 
 …こいつ、役立たずじゃね?
 いやいやまてまて高町静香。勝手に期待しておいて勝手に使えないとか酷すぎるだろう、色んな意味で。
 とはいえ戦力としては期待薄くなってしまったな。

 こいつが強くなる可能性は確かに残ってるが、鍛えるのもメンドイな。
 
 まあこうなった以上は仕方ない。とりあえず利用としようとしたわびにバイト位紹介してやるか。
 手をひらひらと振ってユーノに合図。ほぼ同時に違和感が消える。

「高町母、この馬鹿を雇ってみないか? 時給は500円で良いそうだ」

 皿を下げに来た高町母に持ちかける。

「ちょっ!?」

「高町桃子33歳、美味しそうだろう? 妹のみゆきや私もウェイトレスでよく出るんだがな?」

 そっと耳を寄せて悪魔の囁き(笑)
 
「誠心誠意頑張らせて頂きます!」

 やっぱ馬鹿だこいつw 最初に「両親が経営してる」って言ったの忘れてやがる。

「家庭の事情で飯を定期的に食えないらしくてな。最低でも夕飯は賄いで出してやってくれ」

「静香ちゃんありがとー」

 マジ泣きするなみっともない。他に客がいるんだぞ全く。
 しかしなんだってこいつは俺をちゃん付けなんだ? なんかあるのか、こいつの中で。

「そうねぇ」

 む、流石に経営者としてはそう簡単に雇わんか。
 しかし時給500円でこいつが使い潰せるならかなり美味しいんだがな。
 色んな意味で有能だし。

「いいじゃないか、高町母。俺からも頼む」

 意外な所から援護射撃。恭也、お前、彼女にセクハラした事もある相手によく援護する気になるな。

「恭也も人がいいわねぇ」

 忍も呆れ半分だな。今朝の夜叉が嘘のようだ。
 なのはとユーノは大人しいが、多分念話で話してるんだろうなぁ。表情変化だけは面白い位忙しいし。
 まあ放っておこう。
 
「父さんに監督してもらえばよもや間違いもあるまい」

 流石にクラスメートの事だけあってよく分かってるな。

「宜しくお願いします!」

 こういう呼吸は外さないんだな。有無を言わせず頭を下げる横島。

「まあ士郎さんと相談させてね」

 ま、妥当かな。
 
 しっかし当てにしてた訳ではないにしろ、万能兵器文珠がなくなったのは痛いな。
 まあ何もかも上手く行くとは限らんという事か。

 しかし空気を読んでるのか抱きついてきたりしないな。
 ん? もしかしてGSのバイトしてない→身体能力が鍛えられてない→そこまで出来る体力がない、という事か? あり得そうだが。
 
 …大食王まだ食べてるよ…お金大丈夫なのか? ギャル○○みたいだな…ギャル○○の100倍可愛いけど。

「シロウ、このシュークリーム、お土産に持って帰りたいのですが」

「20個食べてまだ足らないのか…」

 騎士王マジパネェ。

****

冗談抜きにその場の思いつきだけで書いてるんで、設定ミスとかおかしいとかは突っ込みは歓迎しますが訂正は期待しないでください。
次はどんなネタ仕込もうか考え中。
フェイトとかは決まってるんですけど、フェイト登場までもう少しかかりますし。後、横島はGSにならない方が幸せになれると思ってます。まあそれ言ったら大概の作品の大概のキャラはアレですけどね。



[14218] ( ^ω^ )どうしてこうなった!?
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/11/29 19:17
「どうしてこーなった」

「横島君、ご家族が今いらっしゃらないそうじゃない?」

 うん、何故か横島がうちにいるんだ。夕飯食ってるんだ。
 士郎も反対しろよ、仮にも娘が三人もいる家なんだぞ……うん、貞操の危機という単語とは世界で一番遠い家なのは自覚してる。
 
 とりあえず、なのはに手を出すような奴じゃないのは間違いないしな。
 …下手な手の出し方したら冥王光臨フラグが立つだけだが、逆行系主人公なユーノも側にいるし大丈夫だろ。二人は今箸の使い方上手だねーとか固有結界:二人の世界を展開しております。
 今日は魔法の訓練して来たんだと。で、ユーノ君教え方が凄い上手なのとかもうハイテンションですなのはさん。
 尤も、横島が来てからは念話で魔法関係の話をしつつ、口では横島に俺や恭也の学校での事を訊いたりと器用この上ない事してたり。
 なんで分かるかって? たまに逆になるからだ、口と念話が。横島は気づいてないけど。

 まあ、一週目バッドエンドとはいえクリア済みなんだから、なのはの魔法の癖位覚えてるわな、ユーノの頭なら。そしてソレが分かってて伸ばし方が分からない程無能な訳もなく。
 原作よか何割増しで強くなるのかね、なのはさん。
 
 
 それは兎も角。
 この馬鹿どうしてくれよう。いやいや有能なのは間違いないんだ、むしろ使いこなす方向で行くべきじゃないか? そう横島育成計画だ、ごめん嘘。
 しかし商才は誰よりあるんだよな、個人的には全国展開よかワンオフ、世界一の喫茶店の方が好きだが、どちらを目指すにもこいつは便利、だよな。いや人を機能だけで判断するのはイクナイ事だが。

「ん? ほっふぁの?」

「だから口に物入れたまま喋るな」

 とりあえずこの下品なトコ矯正しないとどうにもならんな、中身と将来性は高いのに。
 ……そういえば、念能力使えるんだよな、俺。
 凝で拳にオーラ集めてぶん殴れば念能力者YOKOSHIMA爆誕? それなんて最強系主人公?
 
 よし、この線で行こう。ぶっちゃけこいつ程使いやすい戦力もないし。
 志貴は嫌いじゃない、むしろ好きだが型月系主人公だけあって根本的な意味でアレだし実家の遠野家もアレだし。
 現状の俺自身が最強系とはほど遠い以上、手持ちカードは増やしておくべきだよな。うん。
 俺、横島嫌いじゃないし。まあ嫌いだったら家で飯食ってる背中から飛針ぶっさして殺してるけど。

 とりあえず飯を食べてしまおう。
 ちなみに夕飯の料理当番は俺と高町母と交代である。美由希は殺人料理人だし。
 

 夕食後。
 
「これ静香ちゃんが作ったの!? マジうまいっす!」

「黙って喰え」

 昨日の晩、俺が作っておいたプリンを皆で食す。
 まあこんなものだろ、少なくとも不味くないし鬆(す)も入ってないしな。
 というかお前図々しいだろ、何食後のプリンまで……もういいや。
 
 なのははユーノ引きずってお風呂に行きましたよ。
 あの年代だと遠慮がないねぇ、ユーノは嬉しいやら恥ずかしいやらと言った風情だが。

「父、ちとこの馬鹿を鍛えてみないか?」

「む?」

 食後の食器洗い担当の父と美由希。まあ士郎(と恭也)は普通に料理上手いけどな。

「鍛える?? なんすかそれ?」

「…ふむ、いいかも知れんな。歪んだ性根をたたき直すという意味でも」

 甘い物苦手な恭也はお茶すすってる。

「性格はまあちとアレだが。ちとアレだが。ちとアレだが」

 大事な事なので三回言いました。
 
「才能だけは恭也を超えるモノを持ってるぞ、こいつは」

「?」

 さぱーり分からんと言った横島と、ハァ?と言わんばかりの恭也と美由希。
 まあそうだわな、特に美由希はいきなり恭也以上の男がいるなんて認められんよな。

「横島、うちは、というかうちの親父は古流剣術の師範なのだ。
 で、お前さんはあくまで私の主観だが才能あるから鍛えてみないか、という訳だ」
 
 まあ才能はあるよね、何処まで伸びるかは知らんけど。
 
「横島、ちょっと道場来い」

 恭也、大人げないにも程があるぞ。

「ええ!? 俺なんてそんな強くないですたい!?」

「鍛えてもいないのに強い訳がないのは当たり前だろう」

 あー、お茶が旨い。プリンも旨い。

「ちょっ!? まっ! アッー!!」

 やかましい。
 あ、今のは横島が恭也と美由希に引きずられて言った時の声なんで悪しからず。
 とはいえ追いかけないと不味いか。タダでやる気を出す程、今の横島は強くも何ともないしな。

「静香、ホントに彼に才能があると?」

「ああ、才能だけは間違いなくある。少なくとも私なんかよりは遙かにな」

 なんせYOKOSHIMAですからー。

「時間をかければ恭也は超えるぞ、間違いなく、な」

 まあ恭也もKYOUYAとかになってしまえば無敵モードだろうが、今のところその徴候は見られないし。
 そういえばU-1はいないのか? この世界。探す気にもならんけど。

「ただし、現状ではただのセクハラ高校生にしか過ぎん。
 ま、原石だな、それもアレキサンドライトクラスの」
 
 アレキサンドライトとは滅多に取れない事で有名、人工製造も可能だがコストが割に合わないので市場には出回らない。紫外線吸着効果があるからNASAとかで作られてるとかなんとか。

「とりあえず、背中押してやってくるか。
 やる気出させないといじめにしかならん」
 
 両親ども、その目は止めろ。別に横島とはそういう関係じゃないんだからな。
 しかし現状、そういう対象になりそうなのは確かに横島しかいないかも知れん。美神がいないという点も含めて。
 まあ10年後にいい男になってたら考えてやろう。
 

 さて、道場である。
 
「静香、こいつはホントに強いのか?」

「……あのな、現状ではただの素人だぞ? いくら才能があっても戦いにすらならんだろうが」

 というかもはやいじめだなこれは。
 
「横島」

 ちらり、とスカート(まだ制服のままなのだ)の端を持ち上げてみる、かなり際どいラインまで。
 
「おおおおお!!」

 死にかけて道場の床にぶっ倒れていた筈の横島が凄まじい勢いで迫る!
 
「サービスはここまでだ」

 突っ込んでくるのに合わせて前蹴りのカウンター。まあ足を出しただけの蹴りだが。

「うう、静香ちゃん、恭也と美由希ちゃんが苛めるとです。苛めイクナイ」

「まあ待て横島。
 賭けをしよう」
 
 ま、やる気出させるには餌が一番だよね。
 
「これから恭也と試合をしてもらう。ただし恭也は素手、その上で殴ったり蹴ったりなどの攻撃は禁止。
 あとついでに神速も禁止だ。
 横島は一時間以内に恭也を三回ぶん殴れたら勝ち。
 勝ったら美由希と俺と一緒に風呂に入ってやろう、水着着用だが」
 
「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

「ちょっ! 静ちゃん!?」

「恭也が負けなきゃいいだけの話だろう?」

 という風に言われると何とも言えなくなるわけだ、恭也の強さを知ってるから。
 
「まあいいだろう。やろうじゃないか」

「忍と付きあってる上に金髪外人とも婚約してるような奴だ、横島、思い切り殴ってやれ」

「誤解だそれは!」

 この情報で火が点いた横島。さあ見物だな。ついでに美由希にも火が点いたが俺には関係なかった。

「では俺が審判してやろう」

 いつの間にか入り口に立っていた士郎。どうでもいいが、なのはに彼氏が出来るのは嫌だが俺や美由希ならいいのか。この駄目親父め。
 
「静香ちゃんと美由希ちゃんとの混浴の為! やったるでぇ!!!」

 異様に燃えてるなぁ。まあいいけど、どうせ無理だし。

****

 ふう、良い湯であった。
 うちの風呂はでかくて良いね。士郎の趣味なんだろうけど。
 前世じゃ男だったから風呂上がりはTシャツにパンツ一丁ですんだが、女だと面倒やね。
 とりあえずTシャツの上にパジャマ着こんでたり。パジャマだけだと怒られるのだ、美由希や高町母に。
 Tシャツとパンツ一丁で家の中彷徨かないだけでも褒めて欲しいもんである。
 あと髪切ろうかなぁ…長すぎて風呂上がり重いんですけど。なんせポニーに纏めても腰まで届くしな、長さ的に。似合うし格好良いしで気に入ってはいるんだが、風呂上がりと朝起きた時がなぁ……


 まあ、兎も角、涼みがてら道場の方へ足を伸ばす。
 予想通りぶっ倒れてる横島と、意外と息の荒い恭也の姿。というか恭也の息を乱せたのか、凄くね?

「まあ、恭也の勝ちなのは分かってたが。
 何発殴られた?」
 
「…一発だ」

「確かに横島君には才能があるのかも知れん」

 士郎も認める逸材。ところで士郎って書くけど正義の味方じゃないので悪しからず。
 あいつもSIROUとかになっちゃうんだろうか。どうでもいいけど。

「恭也、修行不足なんじゃないか?」

 ( ´,_ゝ`)プッ って感じで笑ってやると思い切り顔を歪ませる恭也。ざまぁ。

「横島、褒美に美由希の下着をプレゼントしてやろう」

「静ちゃん!」

 おわっ! おまっ! 木刀で殴るな馬鹿! 辛うじて避けたけどねっ!

「自分の下着をあげればいいでしょ!」

 それもどうなんだ、妹の発言としては。

「下着!」

 がばっと起き出す横島。ホント性欲が絡むと体力無限大だなこいつ。
 
「うむ、美由希が嫌なら仕方ない。後で美由希のブラジャーをだな」

「し・ず・ちゃ・ん!??」

 そんなに怒るな、下着ぐらいで。

「しかしだな、美由希、私のブラは大きすぎて市販品じゃなかなか売ってないんだ、そう他人にやるわけにはいかんのだよ」

 美由希の84㎝(Cカップ)は普通に売ってるから補充効くし良くね?
 ところでさっき胸計り直したら100㎝に到達してたぞ、バストトップ。成長期? でかすぎね? いや男だった頃の俺ならむしろ好物だったんだが。体重自体は1㎏も変動してなかったし。

「きぃぃぃ!!」

 というような事を伝えたらマジギレされました。理不尽な。大体84㎝もあれば普通に大きい方じゃないのか? よく分からんが。

「100㎝…」

 何想像して鼻血出してやがる横島。というか恭也も士郎もとめろ馬鹿。せっかくお風呂入ったのに。

 かんっ!

「それまで!」

 無刀取りか、士郎。素手で天井まで美由希の木刀跳ね上げやがった…化け物め。

「とりあえず横島君に見込みがあるのは分かった。
 だが本人にやる気がないとこういう事は意味はない。
 そこら辺どうなんだ? 横島君としては。
 勿論、稽古受けないからバイトはクビだ、なんて事にはしないから安心して欲しい」

 ふむ、どうするか。パジャマの上のボタンでも外してやればうなずくんだろうが。

「あの、静香ちゃんもやっぱり強いんすか?」

「静香はそこまで熱心じゃなかったからそうでもないが。
 それでもそこらの男が数人がかりでも負ける事はそうないだろうな」
 
 まあその程度だな、俺の実力は。
 美由希なんか数人が十数人でも問題ないけど、弱そうに見えるくせに。

「…宜しくお願いしまっす!」

 ……あれ、もしかしてコレ、フラグ立ってね? 俺か? 俺なのか。

 美由希、恭也、その目は止めろ。というか士郎もなのはの時と違い過ぎるだろその目は。


****

 とりあえず今日は何もなかった。まさかこんな深夜に起きないと思うし。
 何かあるかと思って一応、ユーノの部屋にいったらいない、のでなのはの部屋に忍び込んだら一つのベッドに枕は二つ。
 ……いいけどさ別に。デジカメ取りに戻って、写真撮った俺は悪くない。

 しかし高町家の倫理観がおかしい、あのセクハラ男を同居させるなんて……
 ターゲットは間違いなく高町母と俺だろう、美由希の強さも分かったようだから美由希もか?
 
 美由希辺りは流石反対してたが、高町母があっさりOK出したから決まってしまったんだよな。流石高町家の頂点。
 俺? 高町母が賛成した時点で諦めた。とりあえず自分の部屋の窓とドアの強度をあげて、鍵を二、三個増加しておかねば。

 恭也も恭也だよなぁ。反対くらいしろよ馬鹿たれ。
 なのはに手を出すような奴じゃないのが分かってるからってお前の態度は酷いと思うぞ、全く。
 
 しかしホント、原作(笑)状態だよ…ホント。
 とりあえず今日は例のオンボロアパートに帰ったけどな。
 ドクターカオスとか貧乏神とかいるのかなぁ……あれ? カオスは別のマンションだっけ?

 はあ、寝るか。
 
****

 翌日の放課後。
 大して荷物もないという横島の為に車を出した士郎と付きあう恭也。まあ引っ越しの手伝いだな。
 なので美由希と俺は必然的に翠屋の手伝いだ。ついでにユーノもな。
 というか有能過ぎるぞ、ユーノ。ユーノだけに。

 ご近所のおばさま方のアイドルになってしまった。ウェイターやってるだけなのに。
 なのはは今日は塾ですよ、アリサとかすずかとかと一緒に。
 ユーノも塾行こうとか誘ってたが、大学出てるユーノに隙はなかったと教えてたやったら流石ユーノ君ときやがった。どんだけユーノ好きなんだ。

 で、俺と美由希は店の前でお土産用のシュークリームなどの販売中。
 
「10個、シュークリームをもらおうか」

 サングラスかけたひげのやくざキター。
 こえーよ、このオッサン。

「ありがとうございます、1800円です」

「うむ」

 まあどんなであれ客には変わらん。
 手早く箱詰めしてドライアイスを詰めてと。
 
「「ありがとうございましたー」」

 あの服とか趣味の悪いグラサンとかアレだよね、多分。
 まあどうでもいいけど。やっぱり家ではまるで駄目な男、略してマダオなんだろうか。
 
「イチゴ! シュークリームが売ってるぞ!」

「うるせぇ! 道ばたで騒ぐな!」

 ……何という見事なオレンジ頭。
 地毛か、地毛なのか? こなたとかみゆきさん(愚妹に非ず)ですら普通に黒髪なこの世界でお前の髪はなんなんだ!
 
「あー…シュークリーム、五個もらえるか?」

「待て、それでは一人一つずつしか食べられんではないか!
 私はもっと食べたいぞ!」
 
 テンション高いですね、死神貴族様。
 
「やかましい! 五個で」

「ありがとうございますー、900円になります」

 二人とも普通に県立城西高校の制服着てるな。あ、城西は隣町にある普通の高校だぞ、念のため。

「ここのシュークリームは旨いのだ!」

「ありがとうございます」

 甘い物そんな好きだったっけか?
 
「ほれ、けーんぞ」

 殆どチンピラだな、イチゴなんて可愛い名前の割に。
 
「「ありがとうございましたー」」

 ここに立ってるだけでカオスな世界だと痛感させられるぜ、全く。


「あー、シュークリームを10個ほどくれ」

 やぶにらみのつり上がり気味の目、上から下まで黒一色の皮系の服、赤いバンダナに首から提げた「剣に絡む竜の紋章」風のペンダントのついたネックレス。

「……? どうかしたのか?」

 身長180㎝に届く長身、何より身のこなしに隙がないやくざ。
 これはアレか、借金魔術士なのか、この世界は何処と繋がってるんだ一体…

 しかし、だ。
 なんで金髪幼女と手を繋いでるんだ? というかこの子、フェイトだよね?
 ツインテールの金の長髪に黒ずくめだし。
 隣に額に宝石はっつけた美人のお姉さんがいるのもポイント高いよね、うん。

 どうしよう?

「? はい、1800円になります」

「えーと…はい」

 ウェストポーチから一万円札を取り出す少女。
 しまったな、固まってる間に美由希が対応してしまった。
 いやしかしこの状況はどう判断したらいいんだ? 引き留めるのが正解なのか?
 それとも泳がせる? 追う手段がないのに?

 そもそもフェイト何してるのこんな所で? プレシアの命令で集めてるんじゃないのか??
 いやいやその前になんでこんなやくざみたいなのと一緒に歩いてるのさ。
 
 いやいやいやいや。その前にホントにこの少女がフェイトかどうか、この黒ずくめがオーフェンがどうか確かめるべきか?
 しかし不必要に警戒心を持たれてしまう事を考えると――あーもーどうすりゃいいんだ?!

「フェイト、ドッグフード買って帰ろう、ドッグフード」

 はい、フェイトさんケテーイ。
 という事はこのお姉さんもアルフ決定か。まあ額に宝石なんて斬新なファッションだし間違いないのは確定的に明らかなんだが。

「はい、お釣り。なくさないようにね」

「あ、ありがとうございます」

 受け取ったお金を無造作にポーチに突っ込むフェイト。
 お金の使い方も怪しそうだな。
 
「ドッグフードはコンビニとか言うトコだったか、売ってるの」

「昨日の行ったトコでいいだろ」

 何のかんのと話し合いながら去っていく黒ずくめ達。

 何もしてないのにえらい疲れたぜ……

「どうかしたの? 静ちゃん」

「…何でもない」


****


 深夜、自部屋。
 ユーノに相談する事も考えたが、原作と違い過ぎるからなぁ。それにオーフェンの情報は、当たり前だがユーノが知る筈もないからな…

 そもそも何でオーフェンがいるんだ? この世界、カオスはカオスだが「元ネタが日本が舞台」な作品のキャラしか今の今まで遭遇した事ないから、完全にそうなのかと思ってたんだが。

 仮説1:実は俺の知らない所でもっと色々活躍・暗躍してる奴らがいっぱいいる。
 →お手上げ。俺に出来る事は何もない。

 仮説2:次元漂流者オーフェン。
 →どちらかといえばこっちが可能性高いと思うが、希望的観測である事は否めない。

 というか、オーフェンの出自がどうあれ、人見知り激しいフェイトが懐いてたってのもポイントだよな…

 ふむ、次元漂流者であるオーフェンを拾ったプレシアが一目惚れ、他の事がどうでもよくなり、オーフェンにいい顔する為にフェイトにも優しくするうちにフェイトがオーフェンに懐いた、とかどうだろう?
 
 ないないw ヤバい薬でもやってんじゃねーの的狂信プレシアが一目惚れとかワロスww

 とりあえずオーフェンなら桃缶で釣れるだろうし、出たとこ勝負でいいかなぁ。
 フェイトさんとはなのはと喧嘩してもらわんといかんし、なのはの成長フラグ的な意味で。

 この世界、ホントに平和で終わるんだろうな? なんか戦争起きたら確実に行くトコまで行きそうなんだが。
 死神いるから死んだ後でも大丈夫とかそういうLvじゃねーぞ。
 
 はあ、幸せが欲しいわ。平穏とセットで。


 翌日、ボロ雑巾のようになった横島が庭で見つかった事をここに記す。

 というか、鍵三つも付けた(うち二つは内側からしか触れないタイプ)のにどうやって入ってきたんだこいつは…おかげで寝不足だわ、全く……

****

フェイトさん前倒し登場。
ユーノが強すぎて暫くジュエルシード集める必要ないんで、間がもたなくなったとかどうとかw
しかし作者の好きなキャラを贔屓する、これも一つの地雷要素(`・ω・´)



[14218] 会話が厨二くさい、でも謝らない(`・ω・´)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/11/30 23:04

 なのはがフェイトと友達になりました。
 
 何を言ってるのかわからねーと思うが俺も何が起こったか分からない。
 嘘です、分かります、別の意味で納得出来かねるけど。
 
 順を追って話そう。
 まずこの数日、ジュエルシードの反応は今日の一回あったきりだ。つまり随分間が空いた。
 ちなみに現在、横島がうちに同居してから数日ほど経っている。その間にくだらない事は色々あったが割愛。
 明日、士郎が監督を務める少年サッカーの試合がある、と言えば分かる人は分かるかも知れない。
 
 尤も夜ではなく昼間に堂々とジュエルシードが発動したもんだから、初期被害がでた。
 場所が場所だけに、即俺も恭也も参戦出来たから人的被害は大した事なかった(美由希はとっとと帰宅したおかげで参戦出来なかった)のと、ユーノが駆けつけた後の封時結界のおかげで建物などへの被害が抑えられたのも良かったが。

 計算外と言えば、フェイトが早々に参戦してきた事だ。
 
 先に結論を言ってしまえばどうもなのは(と俺たち)をジュエルシードを狙って襲撃した「犯人」の方だと思ったらしい。
 どうしてそういう結論に至ったのかは兎も角、ドンパチやらかした後、へへやるじゃねーか的展開、ではなく双方が疲れるまでやらせておいて、ユーノが自分の身分とジュエルシードの回収を頼んだ事を告げて戦闘終了。
 ユーノとしてはプレシアをどうにかしないと、(いきなり)フェイトとは友達になれないと思い込んでいたから対応が遅れた、という事らしい。

 と、いうのもだ。
 どうもプレシア、善人っぽいのである、話に聞いた限りでは。
 まあそれはいい、正直可能性としてはあり得ない事ではないと思っていたし。
 
 問題は金欠金貸し魔術士の参戦だ。
 恭也と互角に戦えるとかどんだけ高スペックなんだ、魔術というチートがなしで。
 
 ちなみにユーノはアルフの抑えに回っていた。こっちはむしろ楽勝だったようである、まあアルフとも付き合い長いだろうし、それは納得なんだが。

 ところで、何故金欠魔術士が魔術を無しで戦ったか? 俺がユーノに「無音結界」を作成するよう依頼、それを今回投入した結果だ。
 フェイトと一緒にいる以上、いつ敵に回るか分からんかったからな。
 戦いは勝形を備え、然るべき後に戦うべし、だ。

 音声魔術は音が出なきゃそれで終わりという脆い欠点があるから出来た事。
 まさかこんな早く役立つとも思ってなかったが。
 魔術という魔術士の最大の武器奪われて恭也と互角とか、どんだけチートなんだこいつは。
 尤も、恭也は右肋骨を二本ほど骨折と打撲多数、オーフェンは右の上腕骨骨折及び全身に裂傷と双方かなりの大ダメージを受けているが。
 
 ちなみになのはとフェイト、アルフとユーノは無傷である。勿論非殺傷設定でやり合っていたから。
 まあそれなりに魔法どかすか撃ったり喰らったりしてたから疲れてはいるみたいだが。
 
「しかし牙の塔のキリランシェロにこんな所で逢えるとはな」

 後の為にフラグを立てておく俺。

「――てめぇ!」

 釣れやす杉w
 まあこんな異世界で自分の事知ってる奴がいるとは思わんだろうよ。
 ちなみに次元漂流者でプレシアに拾われたそうだ。

「オーフェン、まだ動いちゃ駄目」

「ユーノ君の結界凄いね! お兄ちゃんもオーフェンさんもどんどん怪我が治ってる!」

 フローターフィールド・エクステンドというそうだ。
 アニメで気絶して落下するなのはを受け止めたあの魔法である。それにフィジカルヒール(即効性の回復魔法)の効果を足したユーノオリジナルの結界魔法の一種らしい。
 そういやAsでも防御用結界に回復効果付け足してなのはに使ってたっけか。
 もう戦闘は起こってない&けが人が複数いるから防御用ではない結界魔法に効果付与したって所か。
 
 ちなみにここは風ヶ丘高校の屋上である。
 全く、こんなトコで暴れてくれるなと言いたい。ちなみにユーノに封時結界を張ってもらっているので、人外とか魔法使いとかじゃない限りは入ってこれないし認識も出来ない。
 この街では本当に気休めにしかならない、という事である。
 
 横島? ウェイターとして頑張ってる筈。なんせ俺と恭也がここにいる以上、バイト頑張ってもらわねば。

「しかし…ユーノの魔法は素晴らしいな、もう殆ど痛みがないぞ」

 折られた肋骨をさすりながら恭也が感嘆する。
 確かに素晴らしい効果だわな。ユーノに言わせると大した事ないらしいが、この世界でなら十分大した事あるわ。

「後十分ほどはじっとしていてくださいね」

 学校全てを覆う封時結界を維持しつつ、恭也とオーフェンを癒すサークル系結界を展開。
 さらになのはとフェイト、アルフの質問に答えているユーノ。
 これからはもっと全力で修行出来そうだな……とか怖い事呟いてる恭也。まあ単純な骨折程度なら問題なく直せてしまう以上、その発言は間違いじゃないけど怖いぞ。

「これから一緒に頑張ろうね、フェイトちゃん!」

 魔法少女仲間が出来て嬉しいのか、やたらハイテンションななのは。
 ちなみにアニメだと最初はボロ負けに近かった筈の初対戦、今回はほぼ互角で終了。ユーノの教え方がよかったらしい、まあそらそうだ、最初の対人戦が誰と戦うか分かってれば対策も立てるわ。

 で、フェイトとアルフも、なのはが魔法手にして一ヶ月どころか一週間程度しか経ってないのに、と大層驚いていた。
 ユーノ君の教え方が良いからだよぉとふにゃあと笑うなのは。ふにゃあ。

「とりあえず、プレシアさん、だっけ?
 フェイトのお母さんに連絡とりたいんだけど…出来るかな?」
 
 うん、大人の対応だ。これはポイント高――くなさげだな、なのは。うーん?
 ああ、自分の事放って余所の女に~か? 仕事の話してるだけだろっていうのは、多分男性的な考え方なんだろうな。

 さっきから俺を睨み続けるオーフェンなんだが……こんなトコでバラしていいのかね?
 ちなみに俺はアルフ狼Ver.の毛皮に顔を埋めてもふもふしてます、もふもふ。ああもふもふ。

「プレシアなら家に帰ればいるんじゃないか?」

 家と言ってもアニメでフェイト達が使ってた、あのマンションらしいが。
 時の庭園はどうしたんだか。

「念話で呼び出してみるね」

 フェイトはアニメの性格そのもの、か? 何かフェイントがあるかも知れんがとりあえずは問題なさげ?
 アルフはもふもふしながら耳の後ろとかしっぽの付け根とか掻いてあげてるから気持ちよさげである。
 もふもふ、ああもふもふ。

「しかし…静香がここまで動物好きだとはな…」

 黙れ恭也。もふもふの前には全てが無意味なのだ。

「今から来てくれて大丈夫だって」

「まあ待て。
 これからと言っても戦闘後だし皆大なり小なり疲労している。
 とりあえずは一旦、皆自分の家に帰って一休みした方が良いだろう。
 そのあと、翠屋に招待した方が良いんじゃないか?」
 
 本拠地にお邪魔するとかお互いにとっても良くないだろうし。
 特に逆行前にあれだけ狂気に踊らされたプレシア見てるユーノとかは、否応なく緊張せざるを得ないだろうし、一旦間をあけるべきだ。
 明日に、と言わないのは明日サッカーの試合があるからだ。
 シード暴走の現場で話し合いもなかろう。
 
 という事を目線のみで話しかけると小さく頷き返すユーノ。
 そしてぷうとむくれるなのは。可愛いのぅ。
 そしてフェイトはずっとオーフェンの手を握ってる。
 オーフェン×フェイトとかどんな新ジャンルだ。

「もうそろそろ大丈夫ですか?」

「ああ、俺はもうすっかり良い」

「こっちもだ。ありがとよ」

 しっかし黒ずくめ、目つき悪い、身長高い、良い男×2とか結構壮観かもな。
 サークルが消えると同時にすくっと立って身体を動かし、ボディチェックに入る二人。

「昨日、シュークリーム買った場所、分かるか?」

「ああ、問題ない」「分かります」

 ぶっきらぼうなのとおどおどしたのと、二種類の同じ返事が返ってくる。

「そうだな、午後七時頃、翠屋に来てくれ。
 夕飯を馳走する。桃缶もつけてやろう」
 
 くくっと笑うと、更につり上がるオーフェンの眦。
 どうでもいいけど無表情に近い美人な俺がやるとホント挑発にしか思われんな、狙ったんだけど。

「私たちも一度家に帰ってお湯の一つも浴びたいからな」

 名残惜しいがアルフから顔を上げる俺。
 前世では動物アレルギーだったからこんな事は出来なかったのだ、始めて転生して良かったと思えたぞ、心から。
 
 その後、転移魔法でユーノがフェイト達を送り、更にモノは試しと俺たちも転移魔法で飛んでみた。
 ポゾンジャンプキタコレww やっぱ魔法は便利だねぇ、リンカーコアあればよかったのに。

 俺たちの到着場所は自宅の庭――ではなく道場の中。誰に見られるか分からんしな、庭先だと。

「さて、一っ風呂浴びるとするか。なのはも入るか?」

「うん! ユーノ君も一緒!」

「えええ!?」

 今度は流石に汗を流したいからな、まあ俺は裸見られる位何ともないけど、ユーノは気まずいだろうなぁ。
 だが一緒に入れる。
 
「恭也も一緒に入るか?」

「断る!」

 つまらん奴だな。
 

****

「むう…静香お姉ちゃんおっぱいおっきい…」

 なのはよ、色気づくにはちと早いぞ。
 そして居心地悪そうにそっぽ向いてるユーノ。三人、湯船に浸かってます。子供二人と大人一人、でももう二人くらい入れる程度に余裕。でかい風呂はいいねぇ、人類が生み出した文化の極みだよ。
 そういやあのホモはいるのかね。どうでもいいけど。
 
「私としては別に必要のないものだが、まあ大きい方が世の男性諸君は喜ぶ事が多いな」

 俺も前世でこんだけの巨乳&美人な彼女がいたら泣いて喜んでたよ、全く。
 しかし自分のじゃなあ…揉んで気持ちよくない訳でもないが、むしろむなしいしなぁ。

「おっぱいがお湯に浮いてる…」

 ちなみに大きい乳房はマジでお湯に浮く。ある程度大きさが必要だけどね。

「あたしもお姉ちゃん位大きくなるかなぁ?」

「ユーノが好きな大きさなら小さくても大きくてもいいんじゃないか」

「そっか! ユーノ君はおっぱいは大きい方が良い? 小さい方が良い?」

 何という拷問ww

「えーと…あの…好きな人のおっぱいが一番好きになれるかと…」

 優等生やね。顔まっかだけどw
 
「まあ、なのははアレだ、母さんの子で私の妹なんだから、放っておいてもそれなりに大きくなるさ」

 確か結構なサイズになってた筈、Stsでは。このなのはがどうなるかは知らんけどな。

「うん!」

 まあ巨乳は巨乳で苦労するんだがな。何処行っても視線感じるわ下手に運動すると胸が痛いわ(下手すると胸の毛細血管が切れて真っ青になる、ガチで)可愛い下着はないわ(元男としては別に構わんけど)でまあ良い事はあんまりないんだよな。男と付きあえばまた別の意見も出るだろうが。
 
「わっ! ユーノ君が真っ赤に!」

「のぼせたか」

 やれやれ。逆行してきた割にはうぶだねぇ。それも魅力といえば魅力だが。
 とりあえず温めの水シャワーで攻撃か。
 

****

「お兄ちゃんあがったよー」

 湯上がりぽかぽかななのはが居間のソファーに座ってテレビを見ていた恭也に抱きつく。

「なのは、髪を乾かしてからにしろ」

 ほれ、と複数あるドライヤーの一つをユーノに放る。
 俺も自分の髪を乾かさねばならんのだ。始めての頃、寝る前に風呂入って面倒くさがってドライヤー当てずに寝たら布団が凄い事になった過去が忘れられん。朝起きたら子供のお漏らしなんて目じゃない位濡れてたぜ、布団が。

「ほらなのは、こっちにおいで」

「はーい」

 ユーノの前にちょこんと座るなのは、そして大事そうになのはの髪にドライヤー当てるユーノ。
 なんというラブラブ空間。恭也も大人げなく睨むな。

「早く入れ馬鹿兄」

 俺もテレビを見ながら髪を乾かす、その時衝撃の映像が!
 
「赤コーナ~~! 355パウン~~~!
 ザ・グレート~~~~~ベンッケ~~~~!!」

 はああ?!

「続いて青コーナ~~! 245パウンド~~~!!
 モモォ~~~タロォ~~~~!!」

 は、ビデオ録画されてやがる! いやいや問題はそこじゃない!
 マジでモモマスク被ってるプロレスラーが…相手はまさにベンケー! どっかのボクサー免許もったプロレスラーとは訳の違う本物さ! と言うかでかすぎごつすぎだろ! ホントに日本人かこいつ!
 
 てゆーかこれアースクラッシュトーナメントか!
 
「あつっ」

 余りの驚きにドライヤーを動かす手が止まってしまったぜ……
 なのは達がきょとんとしてこっちを見てるがどうでも良い!

 今画面に映ったちっちゃいのはもしかして牛馬鹿丸!? というか普通に天狗の面被った行者姿のおっさんが空飛んでるんですけど!? いやいやプロレスなのに機銃装備したカラスとか排除しとけよ!
 
 
「わっ! 魔法もなしに変身した?!」

 それはもんがーと言って別に変身……変身?
 というかリアルで見るとキモいな、もんがー。知ってなきゃ特撮じゃねーかと思う位一瞬でモモタロウからもんがーに切り替わるし。アレどう考えても反則だろうに。

 いやしかしこれは燃えるわ。
 クラスで盛り上がってなかったのが不思議だが……プロレスだから?
 しかしリアルで牛馬鹿とか鋼鉄朗のギャグを見るとえぐいななかなか。
 これ、なのはに見せて良いLvじゃないぞ。

 と、思ったら興味ないのか知らんがフェイト戦の反省会をしてた、なのはの髪を弄りつつ。
 正直魔法に関しては門外漢なんで口も挟めん。挟む気もさらさら無いが。

 とりあえず録画してるしチャンネル回すか。
 ところでチャンネルを回すという言い方もそろそろ通じない世代が増えてるんじゃないかとかなんとか。
 
「宝珠天身!
 天の光もて 身に纏わせよ 七つの宝珠!
 一心 二天 三神 四界 五色 六光
 七つのパステル その身にまとえドミニオン!」
 
 ぶつん
 俺はもう――テレビは見ない。

「どうかしたの? 静香お姉ちゃん」

「世の中の理不尽とこの世界の混沌具合について脳内会議中だ」

 リアルで魔法少女が身内にいるのにアニメで魔法少女とかどうなんだ、全く。
 まあパッパラ隊よかこっちアニメ化するという点だけは評価してやろう。見ないけど。


****

 夕方。

「じゃあちょっとオーフェンだけ借りるぞ」

 大量の桃缶をコンビニ袋にぶら下げ、翠屋の入り口の前。
 事前にプレシアと交渉するのはユーノ、オーフェンと話し合うのは俺と決めておいたのだ。
 プレシアがのほほんと翠屋まで来るようならもはやユーノの「逆行前の知識」も俺の「知識」も無駄だからな。
 とすれば「ジュエルシードの管理責任者」としてユーノがビジネスライクに交渉した方が良いという判断。

 オーフェンに関してはユーノにだけはその生涯を知ってる限りでバラした上で、俺に話し合いを任してくれるよう頼んだのだ。
 まあ本音トークじゃないと味方に引き入れるのは難しいからな、へそ曲がりだし。

「え、オーフェン何処行くの?」

 オーフェンの手を握り、不安そうに見上げるフェイト。
 その肩にそっと手を置く知らん人。話に聞くリニスとやらか?
 まあプレシアが善人で健康なら契約切る必要はないのは確かだが。
 アルフは俺が頼んでおいたステーキの匂いに心惹かれてそれどころじゃないようです。
 そしてそんなフェイトを「にこにこ」しながら見守っている、プレシアと思われる女性。

「すまんなフェイト嬢、オーフェンは少し借りていく」

 うーん、どうも懐くというか依存してね? アニメではなのはに依存気味だったのが前倒しでオーフェンに?
 しかしこんな懐くもんかね?
 
「えー、オーフェン何処行くのぉ?」

  ( ゚д゚)



  ( ゚д゚ )
  
  
 プレシア? だよね? いやなんか予想より若いけどこんなリリカルな世界じゃそれは仕方ないとして。
 え? なんでそんな鼻にかかったような甘えた声出してんの?
 ユーノの呆然顔とかかなりレアな表情です、よ?

「すまんな、プレシア。ちとこの女につきあわねーといかん」

「高町静香だ。すまんな、プレシアさん」

 こういう時表情筋の能力が乏しいと便利だな、俺。
 
「早く帰ってきてねぇ」

 プレシアが語尾伸ばして……

 どうしてこーなった(AA略

 後ろ髪引かれるように振り返りつつ、翠屋の中へ消えていくテスタロッサ一家。

「それじゃあプレシアの方は頼む。
 なにか本当にアレだが、頼んだ」
 
 予想外にも程があるが、どうも魔力的には逆行前に戦ったプレシア以上のものがあるらしい、ユーノ曰く。
 病気になってないとかそういう事なのか?
 そんな事よりどうしてああいう性格になったのかが気になる。普通にフェイトの手を握って歩いてたし。

「ええ、そちらもお気を付けて」

 オーフェンに軽く頭をさげ、翠屋の中へ。
 
「さて、それでは少し付きあってもらおうか。
 鋼の後継殿」
 
「…ちっ」


 さて、微妙にぎすぎすした雰囲気を引きずりつつ、近所の公園、風ヶ丘中央公園へ。
 ベンチに腰掛ける俺と、側の外灯に凭れつつ突っ立ったまま腕を組むオーフェン。

「そう警戒しないでも良いと思うんだがね、キリランシェロさん」

「オーフェンだ」

「はいはい」

 ほれ、と桃缶と缶切りを放る。

「始祖魔術士結界は壊した後か?」

「……何者だ? てめーは」

「ただの女子高校生さ。まあちょっとばかり――大分、変わった人生歩んでるかも知らんがな」

 うん、確かに人より変わった人生だと思うけど、この街で出会ったりした色んな人達よりは大分普通な人生だと思うよ。
 たとえば目の前にいる黒ずくめやくざとかよりは普通普通。

 せっかくだし俺も一個開けて食べるか、桃缶。

「訊きたい事がいくつかあるんだが。
 次元漂流の原因は天人の遺産とやらか?」
 
「…ほーら」

「だから口にモノを入れたまま喋るな」

 桃うまー。

「ふむ……キエサルヒマ大陸には戻れそうなのか? プレシアの意見でも良い」

「無理みたいだな、現状のままでは。
 こっちからも質問させてもらうぜ、なんでお前はそこまで知ってるんだ?」
 
 こえー。殺気がびしばし飛んでくるぜ。

「レアスキルで未来や過去が見えるのだ、限定的かつ不随意ではあるがな」

「レアスキル…特定の個人に極まれに発生する特殊技能、だったか」

 フェイト・プレシアの電気変換なんとかもレアスキルだったな、そういえば。

「そう。だから、私はクリーオウの事もマジクの事も知ってるし…マリアベルが今なお誰かさんに懸想してるという事も知ってる」

「…嫌な能力だな」

「同感だ」

「で、なんでこんなトコに二人きりで会う必要があるんだ?」

「この能力は家族にも秘密にしてるからだ。その上でお前と敵対したくはないからだ」

 こんな能力持ってたら当然だろう、オーフェンもそれでとりあえずは納得してくれたようだ。

「で、未来が見えるってなら俺はキエサルヒマ大陸に戻れるのか?」

「知らん。限定的かつ不随意と言っただろう。見たい奴の未来が自由に見られる訳じゃないんだ」

「役立たないな」

「否定はしない」

 食い終わったようなのでコンビニ袋ごと放ってやる。

「明日俺は死ぬかも知れん」

「死んだら桃缶で棺桶埋めてやろう」

 桃缶如きでガチで泣くなよ。

「プレシアのトコじゃまともに飯食わせてもらってないのか?」

「……愛情いっぱいの手料理とか毎日出てくるんだ」

「………マダムキラーオーフェン爆誕」

「嘘かほんとかまだ25だと言い張ってるぞ」

「……無理だろ?」

「否定し切れん、色んな意味で」

 確かに見た目は凄く若いんだが…というかホントに若いのかも知れんと思う位には若いんだが。うちの高町母も含めて。

「そういえばフェイトにも随分懐かれてるな? このペドフィリア」

「誤解だ! 人をシリーズ人間のくずと一緒にするな!」

「フェイトは確か9歳だろう? お前は20歳じゃないのか?」

「21だ」

「なら12歳差か、余裕だな」

「あり得ん」

「別に良いけどな」

 確かオーフェンの女の趣味は「自立して他人に頼る事ない年上の女性」だったか? 作者のインタビューかなんかで見た覚えがある。
 明らかにシスコンの変形だよな、こいつの恋愛観は。そして異世界まで来て女性に振り回されてるわけか。

「ああ、ジュエルシード集めてる理由、プレシアから聞いてるか?」

「放っておいたら97管理外世界の人が困っちゃうからと言ってたぞ」

 ………ホントにプレシア・テスタロッサなのか? そいつは。

 まあ、良い。そっちはユーノが担当だ。正直ユーノに丸投げして良かったと思えてしまう、ユーノには悪いが。

「まあ良い。敵対しないなら、帰る方法が見えた場合教える」

「分かった。まあ話聞く限りじゃ敵対する理由もないだろうしな」

 尤も、お前さんが帰る方法を俺が見つけるなんてまず不可能なんだけどな。
 オーフェン×プレシアorフェイトか。なんという新ジャンル。

「ところでお前も巨大な猿の化け物を素手で殺せたりするのか」

「…なのはの姉だが、私はそこまで人間は辞めてない」

「そうか…」

 お前の姉貴と一緒にするな、全く。

****

KYOUYAじゃないので魔術使われると100%負けます<対オーフェン



[14218] 戦闘らしい戦闘は始めてかも?(´・ω・`)難しいね
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/02 21:59

 桃缶を抱きしめて泣き濡れたオーフェンに最後の質問。
 
「重要な質問なんだが、スウェーデンボリーの力はどうなった?
 正直、魔王の力があれば自力でキエサルヒマ大陸にも戻れそうな気がするんだが」
 
「……消失した。詳しくは言う気はない」

 何かを思い出したのか、暗い……違うな、喜びたいけど躊躇ってる?

「じゃあ単なるオーフェンな訳だな、今は」

「ああ」

 うーん、郷愁漂ってるな。魔王の力なら何とか戻れそうな気もするけど。
 まあ別にオーフェンが戻れようと戻れまいと俺の人生には影響ない…といいな。
 ないと言い切れない俺の人生が悲しい。

 話し合いが終わったので、涙を拭きつつ歩くオーフェンと連れだって翠屋に戻った俺。
 
 
 ( ゚Д゚)ポカーン
 
 
 あ、ありのまま起こった事を話すぜ。
 オーフェン×フェイトとかプレシア×オーフェンでプレオーフェンとかアホな事考えてたらなのは×ユーノ×フェイトだった。
 何を言ってるのか分からないと思うが(略

 どうでもいいけどこのフレーズ便利すぎる。荒木先生もまさかポルポルの名台詞がここまで流行るとは思わなかったに違いない。まああり得ない事が起こりすぎるこの世界が一番間違ってる訳だが。

「…どうしてこうなった?」

 既にclosedの札は下がっているので、店に残ってるのは身内とフェイト一家、そして横島くらいである。
 で、ユーノの右腕をなのはがこれでもかといわんばかりに抱きしめ、頬染めつつユーノの左手をそっと握っているフェイト。

「酷いんだよユーノ君! フェイトちゃんにキスしたんだよ!」

 ぷんぷんと怒ってますと言わんばかりの表情でなのはが吼える。そして言ってる割には怒ってないのは多分――
 
「なのはだってキスしたじゃない……ユーノは私の旦那様なのに」

「違うもん! ユーノ君はなのはの王子様なの!」

 何らかのラッキースケベ発生→ユーノとフェイトがキス(単に倒れ込んだ先にたまたま唇が触れた程度じゃね?)→なのは激怒→なのはから、もしくは怒りを宥める為ユーノからなのはにキス→現在に至る。
 
 詳しい話を聞かなきゃ分からんが概ねこんなトコだろう。
 付け加えるとプレシアかリニス辺りが貞女は二夫に見えずをおもしろおかしく適当に教えてたみたいな事が化学変化起こしてこの結果とかだろうな。
 オーフェンも呆れてた顔して、肩を竦めた。まあ子供の恋愛なんてある意味こんなもんかもね。
 
 プレシアは高町母と気があったのか士郎も交えて談笑している。もはや俺の知ってるプレシアじゃないのは確定的に明らかだな。
 美由希と恭也は並んでユーノ達を肴に食事を楽しんでいるようだ。オーフェンが恭也のトコに合流したか。
 神速の事をさっき俺に訊いてきたから、恭也に訊けと振ってやったフラグをさっそく回収かね。
 リニスは何故かビデオを回してる、対象はフェイト。
 …このリニスも性格変わってるんだろうか。正直アニメはそれなりに覚えてるがリニスがまともに出たトコは覚えてないからどうとも言えん。しかしこのリニスは間違いなくフェイト好きだろう。口元をにやけさせながらビデオ回す位だしな。
 アルフは店の隅で狼モードで寝てる。口の周りの汚れ具合から相当食べたんだろう。後でもふもふせねば。もふもふ。
 
 ……横島は何処だ?

「…何をしてる?」

「はっ!? え、いやその、おかえりなさいっす」

 柱の陰からこっちを覗いてたから何かあるのかと思ったが…?
 まあ良い。適当に残ってる料理を持ってくるよう頼んで、ユーノ達の前の椅子に座る。

「助けて…」

 涙目のユーノ。ちょっと可愛いじゃないか。

「事情は知らんが自業自得だと判断する。自分でどうにかしろ」

「酷い!」

「はい、ユーノ君、あーん」

「ユーノ…その、あーんして」

 全力全開と言わんばかりのなのはに、照れはあるが頑張ります的なフェイト。
 微笑ましい情景だね、本人は兎も角。

「で、プレシアとの話し合いはどうなったんだ?」

「頭痛くなりましたがまあ何とか…
 とりあえず共闘・協力です」

 なのはとフェイトから出されるスプーンを交互に銜えながらこちらに報告するという器用な真似。
 
「分かった」

 つまり他人に聞かれたくない話で頭が痛くなるような事があったと。
 あのプレシアなら問題なさそうだけどなぁ。
 
 ……大人組は酒飲んで騒いでやがる…明日も仕事――じゃないな、サッカーの試合だわ。
 あ、オーフェンも巻き込まれたぞ。あんまり酒飲んでるイメージないのは貧乏のせいだな。
 実際は強いのか弱いのか…とりあえずプレシアに抱き抱えられるようにされてるのは羨ましいと言えば良いのか? 元男として。
 あんまり暴力ふるわないオーフェンというのも違和感があるが、これはアレだな、無能警官とかのせいであってオーフェン自体は別に暴力的じゃないという証左? うん、無理がある。なんか弱みでも握られてるのかね?

 ま、見てて楽しいといえば楽しいが助けてやるか。
 もう八時回ってるし子供はそろそろ寝る時間だ。

「なのは、そろそろ帰るぞ。明日はサッカーの応援行くんだろう?」

「はーい」

 そう、明日はジュエルシードカツアゲ作戦……オーフェンにやらせれば完璧じゃね?
 通報されてしまう事請け合いだが。
 
「父も明日二日酔いでグラウンドに出るつもりか? いい加減きりあげろ」

「もう静香のイケズ」

「いけずぅ~」

 プレシアさんマジ勘弁してくたざい。
 あと高町母も33歳なんだからいい加減可愛い子ぶるのはどうかと。似合うのがまたアレだ。

「横島、構わんから片っ端から片付けろ」

「イエス・マム!」

 ホント便利な奴だなこいつ。
 いやいやそういう風に人を見るのはいかん、いかんぞ俺。
 ギブアンドテイクという事で後でなんかしてやろう。

「リニスさんもカメラ回してないで帰る支度してください」

「今日は良いシーンが撮れたし、切り上げ時ね。分かったわ」

 ホームビデオの録画と編集に命賭けてる人なんだろうか。

「アルフ、起きろ。起きないと逆モヒカンに刈り上げるぞ」

 御神の一族として刃物の携帯は基本ですよ?

「アルフ、起きて」

 自分の食べた食器を片付けた後、アルフを起こしに来るフェイト。
 何という良い子。ホントにプレシアの子か、これ。

「父母共に使い物にならんか。
 仕方ない、私達が片付けをしておく。
 ユーノ、なのはを頼む」

 恭也と美由希に視線を送るとやれやれと言った風ではあるが頷く。
 父と母は酔ってても家に帰る位出来るだろ、ユーノもいるし。
 
「なのはずるい!」

 いきなり何ですかフェイトさん。
 そしてすかさずビデオを回さないでくださいリニスさん。

「ずるくないもん! なのははユーノ君と一緒の布団で寝るって決まってるんだもん!」

「最近、妙にユーノの部屋が静かだと思ったら…」

 美由希のあきれ顔。恭也・士郎の忌々しげな顔。
 桃子・プレシアはあらあらとでも言いたげなニコニコ笑顔。怖いよ色んな意味で。

「ずるい! わたしもユーノと一緒に寝たい!」

 一歩間違えるととんでもない台詞ですね、年齢的に間違ってる気がしないでもないけど。
 
「あらあら。じゃあ、プレシア達もうちに泊まればいいじゃない」

 高町母…

「おお、それは良い。うちに帰ってから飲み直そうじゃないか」

 父…
 
「旨いモン喰えるなら付きあうぜ」

 金欠魔術士め…
 
「仕方あるまい」

「恭也と美由希で部屋用意してやってくれ。
 フェイトはなのはの部屋で良いだろ、ユーノが使ってる部屋をプレシアとリニスで使ってもらえ。
 アルフは私の部屋だ」
 
 もふもふでもしないとやってられん。

「え? 僕は?」

「当然なのはとフェイトと一緒の部屋だ」

「うー…」

 不満だけどお泊まりに来た友達を邪険に扱うのも嫌という葛藤、と言ったところか。
 
「フェイト、なのはちゃんにお礼はぁ?」

 酒臭いですよプレシアさん。
 
「なのはありがとう!」

 満面の笑顔。コレは堕ちるだろ常識的に考えて、男ならな。
 もはや俺には可愛いという愛玩的な感情しか浮かばんが。
 大分女的になってきたという訳か? あんまりぞっとせんな。

「もう、仕方ないなぁ、フェイトちゃんは」

 相好崩れてますよ、なのはさん。

「仕方ないのはなのはもだろう…?」

 そんな小さな声じゃ誰にも届かんよ、ユーノ。

「横島、片付け付き合え。恭也と美由希、ユーノは皆連れて早く帰れ」

「ああ、分かった」

「ごめんね、静ちゃん」

「静香ちゃんと二人きり! フラグKtkr!!」

「殺すぞ?」

 キタコレとか言うな。というかまさか2chでスレ立ててないだろうな。
 【同級生】惚れた女性の家に下宿させてもらった【同居】とか。
 …とりあえず家帰ったらネットに繋がねば。

「すいませんすいません」

 今の動き、まるで見えなかったぞ…土下座だから意味はないけど。

 全く、こんなんだったら最初から自宅に呼んでおけば良かったぜ。
 いやしかしあんなプレシア誰が予想するというのだ…全く。
 しかもまだなんかあるみたいだしなぁ、ユーノの話じゃ。

 しかも真夜中に起こすのもアレだな…明日のジュエルシード片付けてからになるか。

 やれやれだぜ。

****

「ふう…便所掃除も終わったっすよ」

「ご苦労」

 22時である。
 つい気合い入れて掃除してしまった。まあ衛生管理しっかりしてるから、基本的に綺麗なんだが細かいトコとか気になってたんだよね。で、横島もいるしついつい熱が入ってしまった。

 しかし薄情な奴らだな、恭也と美由希め。酔っぱらいと子供達を家に置いてきたら手伝いに戻ってくる位してもよかろうに。
 まあこの時間なら既に深夜の修行に出かけてるんだろうが。

 窓も拭いたしテーブルも椅子も拭いた、床もモップかけたし窓のさんも掃除した。観葉植物や展示物も埃を落とした。
 流石に食器の類まで洗うのは時間かかりすぎるから辞めたが、まあこんなもんだろう。
 あ、勿論さっきまで飲み食いした分のは洗ってあるぞ。
 
「じゃあ掃除用具片付けてこい。軽く作ってやる」
 
 流石に明日休みだけあってあんまりモノがないな…
 ああ、桃缶が残ってたか。買いすぎたな、桃缶。
 んじゃこれで手抜きピーチパイでも作るか。
 
「手料理!」

「いいから早くしろ」

 こいつはホントにわかりやすいな。
 とりあえず小麦粉を捏ねてと。



「旨いっす! 感激っす!」

「黙って喰え」

 珈琲を啜る俺。紅茶の方がうちは有名だが珈琲もあるのだ。
 俺はどちらかというと珈琲党なので自分で淹れて、飲んでるというわけ。
 まあ横島は紅茶だろうが紅ヒーだろうが気にしないんだろうが。

「あの、オーフェン?とか言うやくざと何話してたんすか?」

「否定はせんが本人には言うなよ、命が惜しければな」

 まあ控え目に言ってやくざだしな、アレは。
 プレシアと腕組んで歩くオーフェンとか始めて見たわ。いや色んな意味で。
 オーフェンの方ももしかしてまんざらでもないのか? よく分からんな。
 
「で、何の話してたんすか!」

 うるさいなこいつは。
 こいつホントに俺に惚れてんのか? 別に今更男とは嫌だなんて言うつもりはないけど、率先して誰かと付き合いたいとかいう気持ちはこっちにはないんだが。
 あ、でもトレーズ閣下(GW)かカトル様なら今すぐこちらからお願いしたいところな。
 でもガンダム系はいなさそうだよね、この世界。まあ基本未来の話だからかな。
 しかしホント男が少ない気がする、男女比が問題だ。一夫多妻制がそのうち施行されるんじゃないか?
 まあ桜蘭高校みたいな学校があるのかも知れんが…

「…何故胸を揉む」

 横島の手では収まらない我が巨乳。重いだけだが。

「あ、考え事してたみたいだからリラックスしてもらおうかと…」

 正直呆れるよか感心するわ、自分が男だった頃を鑑みてもこんな行動、間違えてもとれん。
 しかもまだ胸から手を離さないとか動きが止まらないとか。
 どれだけ下半身の命令に忠実なんだこいつは。ちょっと気持ちよいのが腹立たしい。

「遺言は聞いてやろう」

「すいませんすいません」

 土下座早いよ。
 意識してなかったけど、凄む時どうも練やってたみたいだ。道理で横島がビビる訳である。H×Hのゴンキルですらビビり入ってたしな、念使えない頃は。

 あ、ぶん殴るか? 今。
 しかし、そうするとこいつと二人きりで修行とかになるんだよな…
 
 ちなみに念発動から今まで描写はしなかったが修行続けた結果、纏、絶、練、発(水見式の結果が顕著になるようにって言う修行)に加えて凝、陰、周、円、堅、硬、流と一通り出来るようになった。
 比較的簡単だったのが円と周、逆にキツかったのが陰だな。絶も上手いとは言えない。堅は一時間前後が限度。
 そろそろ発を完成させる時期という訳だ。
 たかだか一週間とちょっとでなんという上達速度。やはり俺は最強系なのか。今更どうでも良いが。どうせオーフェン辺りにも負ける。
 
 閑話休題。
 
 別に嫌いじゃないけどこいつと二人きりはなんかな…まだ俺も男としての意識が、ちょっとは残ってるという事か?
 別に今胸揉まれたのだって気持ち悪いという感覚は薄いが……何処か他人事と言ったような……よく分からんな。
 誰か相談出来る人がいればいいんだが、TS経験者とか。
 ………いたらいたで嫌だな、それも。
 
 保留しよう。
 とりあえずこの馬鹿に今喰った手抜きピーチパイと珈琲の片付けをさせるとして。
 明日のジュエルシードの事でも考えておくか。
 
 
****

「どうしてこうなった!?」

 もう半ば口癖になってるのかも知れない。しかし悪いのは世界であって俺ではないぞ!
 
「な、なんすかこの化け物!?」

 あーもー! 鍛え始めたとは言えまだ足手まといなんだからどっか逃げろ!
 
 そう、帰り道にシードモンスターが現れたのだ!
 しかも「明日のサッカーの試合」に出てくるタイプじゃなく、記憶漏れがないなら俺の知らない奴!
 あーでもこの世界で「あんな目立つ」事されたらどうなる事やら――ってそんな事考えてる場合じゃない!
 
「短縮番号3番!
 恭也の携帯につながる! 呼べ!」
 
 懐から取り出した携帯を横島に放る。
 そして「周」で覆った飛針!
 
「ぐぉぉ!?」

 よし、きっちり刺さってダメージもあるみたいだな。
 人型、だな。大きさは3mもあるが。
 というか!
 
 斬!
 
 速い! 練使って凝使って身体能力アップしてる筈の俺がギリギリとか!
 こいつ人が発動させたタイプだろ、中身透けて見えるしな!
 
「殺す殺す殺す殺す――」

 快楽殺人者か?!
 とりあえず避け続ける! 飛針を飛ばす! 同じく周で強化された鋼糸で動きを縛る!

 速いわ強いわ! なんでこういう時に限ってオーフェンとかいないんだよコンチクショー!
 文珠覚えてないとごろか修行始めたばかりの横島じゃ足手まといにしかならん!
 
 ユーノ達魔法使い組は発動を察知出来たろうから、そのうち来ると思うが!
 それにしても何で俺の周りばかりでこいつらは発動するんだ馬鹿たれ!
 
 視界の端に携帯に怒鳴っている横島を捉えつつ、そちらへ意識を向かないよう飛針と鋼糸で牽制し続ける。
 人間に取り付いて「殺人願望」の発動とかヤバいにも程がある。助かった点は手に持ったナイフで殺したいという願望があるのか、魔法じみた方法では攻撃してこない点か。

 速さも強さも尋常じゃないが対応出来ない程でもない。周りに人外じみたのばかりだからこの程度、というわけだ、ちっとも嬉しくないが!

 そしてやばい! めちゃくちゃ疲れてきた!
 修行時の一時間の堅=実践の十分ってマジっぽいな!
 しかし防御の堅や移動時に足に集める凝は兎も角、飛針と鋼糸は正直周で覆わなきゃ通用しないんだが!
 あとご近所の皆さんが通報しないか怖いぞ!
 
 そもそもなんでこんな強いんだよ!? どう考えてもアニメの五割増しは強いだろ?!
 そういや人に取り憑いた例はサッカーのアレ位かよく考えたら?! そりゃ殺人願望とか黒い願いを魔法少女モノ(笑)で出すわけないですよねぇ!

「まだか!?」

 飛針も尽きたしいい加減疲れて――

 ズルっ!
 
 足を取られた! ヤバい!!
 
 避けられん! 凝――いや拳に硬で迎撃する!

「静香ちゃん!」

 ちょっおまっ!? この状況で俺に覆い被さるとか脳みそに皺がないのか!?
 あーもー左手じゃどかせないけど右手だといくら何でも横島死ぬし!
 
「ストラグル・バインド!」

 おお、頼もしき水橋かおりヴォイス。

「ディバイン・バスター!」「フォトンランサー!」

 そして続けて妹とその友達の声。
 ふぅ、助かった……
 この時点で気が抜けた俺の意識は闇に堕ちた――

****

冒頭のアレは魔王オーフェンだと正直異世界にとどまってる理由も思いつかないし冗談抜きに強すぎるのであんな感じ。
脱魔王化の理由とかもちゃんと考えてます、けど出てくるかは謎。

そして若干短いけどバトル入ってるし良いよね(・∀・)
それにしても一週間で念の殆ど使えるようになった割に弱いですねぇ。
余所に持って行ったら一週間で念(笑)とか言われてしまうような設定ですがw

あ、今回新たなクロス先は出てませんね、そういえば。



[14218] 可愛いは正義(`・ω・´)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2011/03/01 22:00
主人公が特定のキャラに対する好悪を地の文で告げてますが、アンチヘイトの意図はございませんのでご注意ください。

****

「知ってる天井だ」

 まあお約束と言う奴だ。自分の部屋だし知ってて当然。
 
 で…んと……? ああ、シードモンスターにやられそうになったんだっけ、あのアホのせいで。
 いやまあ横島的に俺を助けたい的な動機で庇う的な行動を取ったという点は否定しないし、結果足手まといにしかならなかったとしてもまあ感謝してやってもいいんだが。
 自分の力量考えて行動してくれ、割と切実に。あの状況は確かに王手かも知れんが別に詰んだ訳じゃなかった、いくらでも挽回しようはあったんだよな。横島に分かれというのも無理なのは分かるが。
 まあ……恭也か士郎に説教かまされてるだろうから俺からは言わんけどさ。

「…ん?」

 おいおい、もう15時かよ……ってジュエルシード発動、どころか事件解決してないか下手したら!?

 がちゃ
 
「おはようございます、静香さん」

「ユーノ?」

「先に言っておきますけど、今日は月曜日ですよ」

 日曜オワタ。

「ジュエルシード、いくつゲット出来た?」

「静香さんと戦ってた奴で一つ、士郎さんのサッカーチームの子が持ってた奴が一つ、その後衛宮さんに取り憑いた奴を封印して一つ。静香さんが寝てる間に三つです」

 衛宮さんちの士郎さん何ジュエルシードに取り憑かれてるんですか。
 高良さんちのみゆきさんといい同名の人、多すぎですね、この街。
 いやいやそんな事はどうでもいい。
 
「あー……とりあえずシャワー浴びてくる。
 なにか腹に入れる物用意しておいてくれ」
 
「分かりました」

 プレシアとの交渉の話も聞かなきゃいかんし、なんなんだいったい…
 シャワーでも浴びてすっきりしないと気分悪いぜ。髪の毛もぼさぼさだし。
 まあユーノが俺の面倒みる為に家にいるっていう事はとりあえずは大丈夫なんだろう。


****

 ユーノ料理上手いな、普通あんな頼み方でスパゲティカルボナーラが出てくるとは思わんぞ。
 で、ユーノに髪乾かしてもらってるけど確かに気持ち良いわこれ。
 きっと昨日辺りはフェイトもやってとせがんだに違いない。
 
 そしてドライヤーで水気を飛ばしながらユーノの話が始まる。
 
「とりあえず経緯が簡単な奴から。
 日曜に発動する予定だったサッカーチームの子のジュエルシードですが、幸い僕が覚えてましたからね。
 暇そうにしてたオーフェンさんに協力してもらって問題なくゲット出来ました」
 
 チンピラがカツアゲしてる情景しか見えないんだが…まあ良い。そう乱暴な事はしてないだろう、ユーノが主導したみたいだし。

「次、土曜の夜です。
 静香さんを襲っていたシードモンスターはあの後、封印する際にオーフェンさんが魔術とやらをぶっ放したせいで中の人が大怪我をしました。
 まあ場所を移した後、適当にフィジカルヒールをかけておきましたので命に別状はありません。
 オーフェンさんがフェイトに説教されてましたがどうでも良いですね。
 問題はその中の人が恭也さんのクラスメートに似てるとなのはが言い出して、恭也さんに確認してもらったんですが」

 オーフェン自重w まあ手伝えと言われて面倒ながらも手伝ったというのが真相なんだろうけど。
 で、手伝えと頼んだ方は「非殺傷設定」が当たり前な魔法使い達で、オーフェンはそんな便利設定のない黒魔術士。
 まあオーフェンが悪い訳じゃない。

「で、若干遅れて到着した恭也さんと美由希さんに確認してもらった所、似てるけど違うんじゃないか?
 電話で確認してみようというわけで携帯でその人――遠野さんの自宅に電話しました。
 本人が電話に出たので、じゃあそっくりさんな犯罪者という結論に達し、縛ったまま交番突き出して、その日は終わりです」

「犯罪者?」

「ええ、血のべったりとついたナイフが服の裏側からいくつか出てきましたし、ニュースとか見るとちょうど近くで殺人が起こったみたいですよ、多分静香さんを襲ったのと同一犯でしょう。
 時間的には余所で犯罪起こしてテンション上がって、それに応じてジュエルシード発動、静香さんを襲ったしたという感じですね」

 志貴そっくりの殺人犯…ねぇ。どっかで聞いた話だな。
 あ! 幻視同盟! 瀬尾晶!
 
 晶ちゃん好きだったなぁ、そういえば。志貴はアルクと晶を侍らすべき、秋葉は要らない子とか妄想してたっけ。
 ……晶ちゃんはこの世界に存在するのだろうか? 志貴に訊いてみよう。
 
「士郎さんの話じゃ恭也さんが警察から表彰されるらしいですよ、殺人犯捕まえたから」

「恭也がいやがりそうだが、仕方ないな」

 むしろ積極的にスケープゴートになってもらいたいところだ。
 
「後、横島さんに魔法がバレましたね。
 日曜日にきっちり説明して、秘密にしてもらうよう頼みましたけど。
 横島さん、僕の事嫌いなんですか? なんか目の敵にされてるみたいです」

「ああ、そういう時はだな。
 『非モテ・童貞・負け組乙』と言って笑ってやれば良い」

「はあ…」

 他人の恋愛に関しては極端に器が小さい男だな、全く。ユーノが両手に華状態なのが気にくわないだけなんだろうが。

 考えてみると、ユーノはなのは・フェイト・はやて程突き抜けてなくても十分天才と称して良い程の魔法使いで7歳で大学出て、15歳の時に無限書庫司書長で20歳の頃は新進気鋭の考古学者として有名になってて、その上美形。性格もお人好しのきらいはあるが十分優良。

 うーん、今のユーノは肩書きとかはないにしろ、人生二週目というチートに9歳にして大人の配慮が出来る良い子で美形だし、魔法使いとしても優秀だし、フェイトは兎も角なのははもうベタ惚れだし、横島が嫉妬感じるのも無理ないと言えば無理ないかもな。

「そういえば横島は落ち込んでなかったか?」

「恭也さんと美由希さんと士郎さんに説教されて落ち込んでましたけど」

 フルボッコですね、分かります。
 まあアレは最悪手だからな…まだ直接相手をぶん殴る方が良い、今の横島程度じゃ効かないだろうけど。

「ふーん」

「結構落ち込んでましたから。後でフォローしてあげてください」

 お前も大概お人好しだな、さっき嫌われてるとか言ってた相手なのに。

「自分で立てない男に興味はない」

 とか格好良い事言っておけばユーノが適当に伝えるだろう。それにあいつの場合、心配するだけこっちが馬鹿を見る可能性高いしな。
 
「次、衛宮がどうなったって?」

「アルトリアさんと海鳴臨海公園でデートの最中に拾ったらしいんですが、その場で発動したらしくて。
 後から聞いた話だとなにやら悩んでたそうで、それに反応して即座に発動したと思われます。
 で、僕達はオーフェンさんやプレシアさん達と一緒にサッカーを気楽に見てたんですが、発動に対応して結界張って転移したんです。
 そうしたらアルトリアさんがシードモンスターと戦ってたんですね」
 
 アルトリアってアレだよね、アーサー王様だよね……分かってはいたけどなんなんだこの世界。

「とりあえず動き止めて、アルトリアさんに味方だという事と状況を好転させられる事を伝えて。
 後はまあ…オーフェンさん、プレシアさんとリニスもいましたからね」
 
 何という最強布陣。
 海鳴臨海公園でシード発動か…海に堕ちる筈だった奴が街に近い場所にたまたま堕ちた、とかか?
 しっかし俺の時だけ独りで他は集団でとかなんか悪意を感じるぜ、誰が悪い訳でもないが。

「…しかし、面倒な事になってるな」

 衛宮士郎か…性格的に黙ってろとかこのまま干渉しないでくれとか言っても無駄だろうなぁ。

「プレシアさんが記憶を操作しようかと提案してくれたんですけど、なのはとフェイトが反対したし…
 正直僕も諸手を挙げる気にはなれません。それで一通り説明したら協力してくれるそうです。
 特に衛宮さんは誰も傷つけずに済んだとはいえ、アルトリアさんに刃を向けたのを酷く後悔していまして」
 
 やっぱり。面倒くさい奴なんだよなぁ…だから嫌いなんだあいつは。でもセイバーたんは俺の嫁。
 ……自分で言ってて盛大に違和感があるな…大分「高町静香」として馴染んできたという事か?

「はい、終わりました」

 いつものようにポニーにまとめ上げてくれるユーノ。上手いわ。
 そしてちょうど良く俺も食べ終わった。
 
「馳走さん。で、次は予定通りなら忍の家だっけか?」

「そうですね、何もなければ忍さんの家、巨大猫ですね。
 今回フェイトが既に仲間ですから、そう問題はないと思うんですけど……
 正直分かりませんね」
 
「今まで『余分』に集まった分は海に堕ちた六個なのか?」

「それもあるんですが、前回はフェイトに何個か盗られてましたからね、そっちも」

 うーん……次のイベントが分かると言っても確実に分かる訳じゃない以上、逆に不便だな、こうなると。

「で、最後。土曜の夜、プレシアとの交渉だが…
 アレ、本物のプレシアなのか? イメージ違い過ぎるぞ」

「それなんですが……どうも根本的に何かが違うようです、この世界」

 席に座ってるよう促し、珈琲こぽこぽ。
 店で余ったケーキが残ってる筈だからそれを出せば良いか。

「アリシア・テスタロッサ」

「プレシアの娘で5歳の時死亡、以後プレシアは狂ったように娘の復活に人生をかける、だったか」

「……前回はそうでした、今回は違います。
 アリシア・テスタロッサは生きてます」
 
「……何でもありだな」

 珈琲のカップとケーキをユーノの前に、そして自分の席において着席。

「続き聞けばもっと驚きますよ。
 アリシアはもう就職しているらしいんですが、勤務先は時空管理局・巡航L級8番艦」
 
「アースラ?」

「アースラです。プレシアから魔法的な素質は殆ど受け継がなかったものの、天才的頭脳は受け継いだらしく、デバイスなどの技術将校としてリンディ内務統括――リンディ提督の右腕だそうですよ」

「…プロジェクトF.A.T.E.は?」

「存在しないようです。
 データベースにアクセス出来た訳じゃないので、プレシアさん達が嘘吐いていたらそれまでですが」
 
「…エロオ・モンデヤルだっけ? あの子はどうなるんだ」

 確かプロジェクトF.A.T.E.で生まれたクローンだよな。

「エリオ・モンディアルです。正直検討がつきません」

「じゃあホントにフェイトはプレシアの?」

「ええ、腹を痛めた子供、だそうです、本人曰く」

 しばし居間を支配する沈黙。
 正直どう反応していいんだ、これは。
 
「父親は誰だ?」

「本人はオーフェンさんだと言い張ってて、オーフェンさんは勝手に手を出した事にするなと怒ってましたが…」

 つまり言う気はないという事か。
 大体オーフェンが年齢詐称してない限り、フェイトの父親なんてあり得んし。
 別にフェイトがクローンだろうがアリシアが生きてようが俺には関係ない。
 関係ないがどうなんだこれは。こんな筈じゃないにも程があるだろうに。

「裏は取れるのか?」

「取れる訳ないでしょう、ここは管理外世界で、本局に戻っても僕は嘱託魔導師ですらないんですから」

 ですよね-。

「そういえばアースラは地球に来るのか?」

「僕は救難信号出してませんが、輸送船の誰かが出しててもおかしくないですね。
 あとプレシアさんがアリシアに連絡取っててもおかしくないです」
 
 となると来るか、管理局。

「アリシアは今年いくつだって?」

「18歳だそうです」

 アニメの設定じゃ放送時を現在とした場合、30年近く前だった気がするんだが、ヒュウドラの事故。
 30年前だと仮定してアリシアが5歳で死亡したんだから大体35+15だよね、50歳なのにあんな若いのかプレシアさん。
 んー、「生き返らせる魔法」が成功したのが13年前、という事なんだろうか。アリシアさえ生きていれば別段フェイトにキツく当たる事もない普通の母親してられるだろうし。
 たがそうするとますますフェイトは誰の種だよという事になるな。まさか今更離婚した旦那(設定ですら見た事ないが)と子作りするとも思えないが。
 というか若すぎて何が何だか。アレは絶対50とか60とかじゃない。

「……前回の知識とか未来視とか余計なもんなきゃ悩まずに済んだのかもな」

「同感ですけど、なのはに余計な苦労は背負わせたくないですから、これで良いんです」

 ごちそう様というべきか。

「で、なのは達は学校か」
 
「そろそろ帰ってくると思いますけどね」

 そーいや何しに来たんだろうな? プレシア達は。
 旅行か? プレシア達が地球にいるのはある意味予想通りだったから疑問にも思わなかったが、アリシア生きててジュエルシードに興味ないのに、なんで地球にいるんだろうな?

「なんでプレシア達が地球にいるのか、訊いたか?」

「旅行の最中にうちの輸送船が襲われてるのを見て助けようとして地球に来たそうですけど」

 何処まで本当か確認しようないなそりゃ。

「とりあえず今週末まで気を抜かずに息を抜こうか」

「なかなか難しいですね、それ」


*****


「はっ!」

 堅の修行しながら考える、今後の事を。
 アニメで描写されてないフェイトのジュエルシード回収が今回ないからなぁ。
 その分喧嘩はしなくて良いんだが、なのはの手間は増える訳で。
 それとも本格的に回収始めればあっという間に見つかるのかも知れん。プレシアとリニスもいるし。

 あと、輸送船の事故って原因はなんだろうな。
 ユーノは事故と言い、プレシアは襲撃されたという。で、ユーノは輸送船に乗ってた訳で、逆に言えば事故を防ぐ努力も襲撃に対する備えもしていたんじゃないのか、ユーノは。
 で、ユーノほどの人間がそうしてて事故が起こったというならもう運命としか言いようがないし、襲撃されたならユーノを出し抜ける何らかの手段と頭脳がある相手な訳だ。
 が、襲撃者がいるなら今までなのはとかち合わなかったのが不思議なんだよな。

 状況に整合性が取れないというのも落ち着かないが、仕方ないか。
 
 次は忍の家だが、あの時点でフェイトがいくつジュエルシード集めたかなんて覚えてない訳で。
 つまり今週末までに途中、何かしらイベントがある可能性は否定出来ない。
 
 がまあ、フェイトもなし崩しにうちに同居するようになったみたいだし、大丈夫かな。
 ちなみにさっき家にユーノしかいなかったのは服とか生活用品買いに行っていたんだってさ、テスタロッサ一家は。
 アリシアが生きてるのはいいんだが、なんで生きてるのかは気になるよなぁ…あとフェイトの父親マジで誰だ。
 
 ちなみにここは恭也達も使ってる神社の近くの修行場である。
 他は兎も角、練とかやると周りに迷惑だしな。
 
 で、忍の家の次は温泉か。
 温泉入ってゆっくりしたいなぁ……平和が欲しいよ。
 
 ピピ
 セットしたアラームが一時間を知らせる。
 まだ行けるな。
 しかし10分伸ばすのに一ヶ月とか嘘だろ、もう一時間半は余裕っぽいんだが、俺。
 とはいえ、堅は一日一回全力で維持が限度だな。
 ロリババアがいれば倒れては休んで復活しては倒れてと出来るんだろうけど。
 具現化系能力だったらベッドとか作ってそういう能力にするんだけどな。一分で一時間の睡眠が取れるとか最高じゃね?

 
 あ、そういえばシードモンスターが『強すぎる』事相談するの忘れてたな。
 なんであんな強いんだか。そして俺が戦わない時に限って数の暴力とかズルいにも程がある。
 俺の苦労を返せ。
 
 あと発どうするかなぁ。
 放出系は決め手に欠けやすいからな、レイザーみたいな馬鹿威力があれば別だけど。
 縁の下の11人とかどう見ても弱すぎだしなぁ、14人の悪魔と大差ない能力なのに強さが段違いとか。
 かといって俺の両手はマシンガンはアレだ、色々キツい。
 瞬間移動は放出系に属するから使えると便利だろうけど。

 悩むぜ。出来れば生活に役立ち戦闘も強い能力がいいんだよな。ゴンのジャジャン拳とか普段使えないにも程がある。
 キルアの電気は便利だけどね、充電とか。

 操作と強化を両方使って遠距離に特化した能力ねぇ。
 ンな都合の良い能力がそう簡単に思いつくかってんだ。
 操作、操る、か。具現化系だったらジャックオーランターン(からくりサーカス)を具現化するのにな。
 可愛いし強いし最高じゃね? ミサイルとかは忍に手配してもらえば良いし。
 スカーレットザバブルって伸縮自在の愛に似てるし。
 
 思考がそれたな。
 操作して強化すると強い武器ってなんだろうな。まあその両方出来れば大概の武器は強くなる訳だが。
 ん? 強化して操作すると強力な武器、しかし何もしないと武器でも何でもない、とか隠密性高くて良くね?
 だからそんな都合の良いものが早々簡単に見つかるかという話。

 とりあえず人間を直接操作する系統は却下、好きくない。
 単に念弾放出する系の攻撃も却下だな、レイザーやフランケン(名前忘れた)より強くないと意味ないし。

 ナイフ投げ? なんかそういう戦闘機人がいたような。カブるのはいくないな。
 飛針や鋼糸の強化はむしろ当たり前すぎて必殺にならないしなぁ。

 あう…、一時間35分で堅終了か。
 だーるーい-。誰か桃色吐息をかけてくれ。
 フィジカルヒールって疲労回復にも効果あるのかしらん。あるなら頼みたいところだ。
 
 適当な樹に凭れるように座り、ペットボトルの水を呷る。
 五臓六腑に染み渡るってか。あー水が旨い。

 がさがさ

 休憩している俺の背後で、葉擦れの音。
 動物…久遠か!?
 
「ラぁイ?」

「…ライチュウ?」

 ヤバい可愛いどうしよう。
 落ち着け高町静香、落ち着いてこのライチュウを口説くのだ。

 ポケモンが何故とか考えるのは後でいいんだ!

 全力警戒中のライチュウに視線を合わせつつ、持ってきたバックから油揚と甘酒を取り出す。
 うん、久遠対策に持ってきたんだ。まさかポケモンにあげる事になるとは思ってもみなかったが。
 ところでこのライチュウ、どこから来たんだろうか。まさかこの世界は普通にポケモンが生きてて動物園にはポケモンがずらりとかなんだろうか。

「甘酒だが…飲むか?」

 これまた用意してきた皿に甘酒を注いであげる。
 そして数歩後ずさってから腰を降ろし、自分も瓶から甘酒を一口。

 矯めつ眇めつしながら、おどおどとライチュウが甘酒をぺろり。
 はう~お持ち帰りぃ…いやいやないわ。ライチュウのあまりの可愛さに電波まで受信してしまったか。
 一口、口を付ければ後は一気にぺろぺろと美味しそうに甘酒を喰らい、油揚を食すライチュウ。
 可愛いにも程がある。しかもぷっくりした両手を使って皿を持ち上げてる辺り、侮れん。

 しかし冗談抜きに持ち帰りたい、割とマジで。
 モンスターボールないと流石に捕まらんだろうし、普通の犬とか猫のように連れて帰るとかすると、命が危ない可能性高し。ライチュウはインド象一撃で気絶させられるらしいからな……
 ああ、しかしもふりたい! あのぽってりしたお腹に顔を埋めたい!

「まだ飲むか?」

「ライ!」

 可愛ええええ(´¬`*)ハァハァ
 あ、携帯携帯! 携帯にカメラなんかいらねーよもっと安くするか他の機能充実させろとか思ってごめんなさい!

 カシャカシャ

 新たに注いであげた甘酒を美味しそうに飲むライチュウをあらん限り激写!
 ああ、至福……

「ライ! ライ!」

 飲み終えた皿を突き出してくるライチュウ。可愛いにも程がある!
 
「すまん、もうないんだ。
 家に帰ればまだあるが……ついてくるか?」
 
「ライ!」

 大きく頷くライチュウ。ああああもう死んでもいい!

「お前、誰かに飼われてるのか?」

 ポケモンって飼うって表現するのか分からん。

「ライライ!」

 大きく横に首を振るライチュウ。可愛いよぉぉぉぉ。
 だがポケモンは頭よいのが多すぎだろう、常識的に考えて。
 まあ常識ってなんですかって感じだが。

「では私のパートナーになってくれ。
 名前は……雷の貴き鬼でライキでどうだ!」

「ライ!」

 嬉しそうに頷いて飛びかかってきた!
 受け止めて抱きしめる! うわふわふわのもこもこ!
 
 バチィ!
 
 …静電気が痛い、今もバチバチ言ってるもう春だというのに…
 
「とりあえずライキ、身体の余分な電気を逃がそうか」

 確かライチュウは尻尾を地面に刺してアースするんだよな、そのおかげで自分は感電しないとか何とか。
 の割には電気技喰らうとダメージ受ける辺りポケモン図鑑の説明適当すぎ。
 お、尻尾の先が欠けてないからこいつは♂だな、ポケモンマニアなめんな。
 
「ライ♪」

 地面に尻尾刺すとすうっと静電気が消えていく。便利だなこれ。おかげで思う存分撫でまくれるぞ。
 
 そして俺はライキに促されるまで思う存分もふり倒したのであった。
 
****

作者はアンチ・ヘイトを書くつもりは一切ございません。
ライチュウ可愛いよ可愛いよライチュウ
ライチュウヾ(o゚ω゚o)ノ゛ぷにぷに



[14218] 番外:横島の憂鬱
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/10/24 22:05
パパっと番外。
早々簡単に人間成長しませんし強くもなれませんて。普通は。
番外なんで短いです。
あと一応三人称、所謂神視点で書いてます。

**** 

 海鳴臨海公園。
 
 下校後、バイトもない月曜日なので彼、横島はここで海風に当たりながら、盛大に落ち込んでいた。
 理由は色々あるが、結局のところは――

「場違いというか…なんか世界が違うよな」

 確かに幼い頃から修行をしている彼らと今まで遊び呆けてた自分とを比べるという事自体烏滸がましいのは理解している。
 だが良かれと思ってやった事まで否定されるのは幾ら楽天的な彼とて辛かった。ましてや反論出来る根拠もなく、向こうが正しいのだから。
 そしてその後、隣のクラスの衛宮のデートを目撃して――じゃなく、化け物をもそれを軽々と打ちのめすやくざとプレシア、そしてなのは・フェイト・ユーノを見て、壮絶に打ちのめされた。
 
 追いつけない。魔法が使えるとかそういう次元じゃない。ついでに衛宮の彼女が可愛らしい金髪外人腹立たしいとかそういう次元でもない。
 
「はぁぁぁぁ……」

 盛大なため息。
 彼女は疲れ切ったせいが、昨日一日起き上がる事はなかった。大丈夫だと皆に言われてすごすご登校したが正直家にいたかったのが本音である。
 しかし、起きた彼女と顔を合わせるのも今はキツい。
 
 彼女の性格上、自分に対する恨みも愚痴もないだろうが、横島としては文句の一言位言ってくれた方がどれだけ気楽かと思う。
 彼女は許してくれるだろう、正確には気にもしないだろう、それが非常に悔しくやるせない。

「けどなぁ、あの乳尻太もも二の腕脹ら脛は俺のもんだしなぁ」

 別に横島のでもなかろうが、あの魅力的な身体を諦めるとかいう選択肢も横島の中にはない。
 この期に及んでそういう事言える辺り、まだまだ余裕ありすぎる為トドメを誰かさすべきである。
 
「ああ! あのはち切れんばかりの巨乳! Iカップ! 抱きしめたら折れそうな腰! ポニテ萌え属性は俺にはないがあのポニテはヤバすぎる! 制服という名の凶器に包まれたおっぱい! 引き締まったカモシカのようなおみ足! あの身体は俺のもんじゃああああ!!」

「やかましい!!」

 バチンっ
 
「痛ぅ!?」

「ちょっと! 落ち込んでますって顔してるのがいるかと思ったら何セクハラ全開な事叫んでんのよ!
 せっかく遊びに来たのに気分台無しじゃない!!」

「なんでいきなりセクハラ扱いされて殴られなきゃならんのだこのクソガキ!」

 弱い奴には強い男、横島忠夫。
 ひっぱたいてきたのが小学生の子供と見るや強気で怒鳴り返す。

「今のがセクハラじゃなかったらこの世に性犯罪なんて存在する訳ないでしょうが!」

「やかましい! 思春期の少年の熱いパトスが迸っただけだろうが! 赤飯前のガキにがたがた言われる筋合いはねぇ!」

「せっ!? こ、この不細工…っ! 顔だけじゃなくて性格まで歪んでるようね!」

「誰が不細工じゃこのクソガキ!」

 暫く小学生vs高校生による口汚くもあほくさい口論が続く。

「あの…アリサちゃん?」

「何よすずか! あんたもこの馬鹿になんか言ったげなさいよ!
 全く! 恭也さんと同じ風高の生徒とはとても思えないわね!」
 
「あん? 恭也の事知ってんのか?」

「そこのすずかのお姉ちゃんの彼氏よ! 文句あるの?!」

「はぁ!? じゃこの子月村の妹? そーいや似てるかな…つーか美人なんだなぁ」

「あ、ありがとうございます」

「こんな奴に褒められて照れない! すずかも!」

「あの、だからね、アリサちゃん。
 注目を集めちゃってるから、ちょっと静かにした方が良いと思うの」
 
 昼下がりの海鳴臨海公園は絶好のデートスポットであり、この街を訪れる観光客にも人気の観光地でもある。時期的に旅行シーズンという訳でもないが、それでも地元の人間も含めてそれなりに人がいるのだ。

 金持ち御用達とこの近辺で有名な聖祥の制服を着た小学生と、海鳴中央と合併され、近隣で一番のマンモス校となった風ヶ丘の高校生が口論していればかなり目立つ。
 というか、普通に目立つ。それも大概、高校生である横島の方が悪く見られる意味で。

「……ところでここであたしが痴漢よーと大声出したら貴方どうなるのかしら」

 にやり、と年に似つかぬ悪い笑顔を浮かべるアリサ。

「すずか、お腹空いたわね! あら、偶然にもあそこにタイヤキ屋さんがあるじゃない?」

 偶然も何もここ、海鳴臨海公園の名物屋台である。カレーチーズたい焼きが恭也のフェイバリット。
 
「アリサちゃんってば…」

「こ、このクソガキゃあ…っ!」

 顔中の筋肉をひくひくさせながら呻く、がどうにもならない。

「あ、逃げようとしても無駄よ。
 逃げたら忍さんと恭也さんにとっつかまえてもらうから。
 あんたみたいなセクハラ男、風校でもさぞ有名でしょうし」
 
 小学生の割に強気で正確な洞察力とか、正直ホントに小学性かと言いたくなる横島であった。
 下宿先のなのは・ユーノ・フェイトも含めて、であるが。

「…何味?」

「そうね、アンコとカスタード二つずつ。あ、コーラも二つね」

 とぼとぼ…
 哀愁漂わせながら、たこ焼きの出店に向かう横島であった。
 
「らっしゃい」

「えーと、あんこの奴とカスタードの奴二つずつとチーズの奴とコーラ三つください」

「はいよ! しかし兄ちゃん、あんな科白をあんなばかでかい声で叫ぶのは辞めた方がいいぜ?
 全力で本音だったみたいだけどよ」
 
 くくっと小さく笑うタイヤキ屋。

「うるへー。青少年の熱いリビドーを叫んだだけじゃ」

「ま、若いうちは馬鹿やった方がいいぜ。後悔しないようにな」

 ほらよ、と紙袋に包んだたいやきとコーラのペットボトル三つを放るタイヤキ屋。

「うっす」


****


「ふーん、貴方がなのはの言ってた『新しく来た面白いお兄ちゃん』ね」

「すずかちゃん達がなのはちゃんの同級生だったとは…」

「お姉ちゃんと同級生なんですか。お姉ちゃん、学校ではどうですか?」

 タイヤキをいくつか買い与えて、自分もぱくつく。
 この横島、どこかの平行世界と違ってちゃんと給料ももらってる為(下宿先がバイト先な為安めではある)小学生に奢る位は稼いでいるのだ。

「しかしなのはも静香さんも美由希さんもこんな変態とよく一緒に暮らせるわねぇ」

「おめーみたいな口も性格も悪いのとよく友達やってられるよな、なのはちゃんもすずかちゃんも」

 げしっ! アリサの脛蹴り!
 
「っだぁ! なにしやがる!」

「あーらごめんあそばせ。タイヤキ美味しいわね」

「もう、アリサちゃんってば」

 はぐはぐとタイヤキを啄む小学生×2。それはそれで可愛らしいのかも知れないが。
 
――こんなんがなのはちゃんと友達だってんだから世の中間違ってるよな、全く」

「口に出てるわよ」

「しまった!?」

「別に良いわよ、で、そのなのはなんだけど、最近付き合い悪いのよね。
 なんか悩んでるかと思えば急ににたにたし出して怖かったりするし。なんか知らない?」
 
「アリサちゃん、なのはちゃんだって色々あるんだろうし、悩みがあるなら相談してくるよ」

「そんな事分かってるわよ! わたしはなのはが心配なだけよ!」

「悩みねぇ…ユーノと仲良すぎてにやにやしてるだけじゃねーの」

 そんな事より俺の悩みをどうにかして欲しいぜ、とは流石に口にしないが。

「ユーノ?」

「なのはちゃんの彼氏」

「え、なのはちゃん…もう彼氏とかいるんだ…」

「横島……詳しく話しなさい……あたしにこれだけ心配させておいて彼氏…?」

 怖さとは年齢に関係ないんだという事を今日、横島は知る。


****


「ふーん、フェイトって子の事は聞いてたけど、まさか彼氏まで同居してるなんてね…」

「変な声出すな! 最近のガキは怖いなまったく」

「今週の土曜日は恭也さんがうちに来る筈だから、皆でお茶会しよう?
 フェイトちゃんにユーノ君だっけ? その子達もなのはちゃんに連れてきてもらって」

 大人しそうに見えて、すずかも興味津々のようである。

「よし! 横島、あんたが責任もってそのフェイトとユーノを連れてくるのよ!」

「なんで俺がそんな事を――」

「わ・か・っ・た・わ・ね?」

「いえっさー!」

 横島忠夫、強気な女に逆らえない性質を持つ男。
 そんな自分が嫌いじゃない18歳の春だった。

****

次も番外編かな? 本編かも。
まあ書けた方をアップします。
20091205ちょっと修正。



[14218] ららいらーいらいららーいヾ(o゚ω゚o)ノ゛
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/06 21:55

「ただいま」

「ライ♪」

 30㎏と意外と重いライキ、だが俺、高町静香の鍛えられたボディにそんな事は関係なかった。
 まあ殆ど人間の子供サイズ(平均80㎝)だから見た目通りちと重いのは確かだな。
 
 だがそれが(・∀・)イイ!!
 
 可愛らしくて重さなんて感じないね、全く。
 
 …はて、そういえばうちは食品を扱う家業だから、動物は禁止だったんじゃなかろうか。
 ……フェレットユーノがオッケーだったんだからライキも大丈夫。
 駄目なら家出でもしよう、幸い俺は美人なので声をかければ誰かしら泊めくれるだろう。
 …こんな世界じゃ普通に死亡フラグな気もするがライキもいるし大丈夫だろ。

「……?」

 誰もいないのか?
 時間は――18時か。なのはとユーノ辺りはいておかしくないんだが…ああ、塾か。
 じゃあユーノは翠屋で働いてるのか。ん?シフトは横島休みじゃなかったか? 月曜だし。
 まあいないならいないで良いけど。
 
「あ……あの、お邪魔してます」

「静香かい、お帰り」

 フェイトと大人verのアルフが居間で珍しそうに世界不思議発見の録画を見ていた。
 フェイトは兎も角、アルフはもふもふしまくってたからすっかり仲良しである。
 ライキをぷにぷにしながらアルフにもふもふしたいものだ。

「ただいま」

 フェイト、おどおどしすぎだろう。お前さんが本気出したら恐らく一分もしないうちに俺なんかこんがり焼けましたーとなる事請け合いだというのに。
 
「ライ♪ ライ♪」

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 甘酒要求のコッペパンチですね、分かります。
 はあああ…可愛いにも程がある。
 ちなみにコッペパンチとはライチュウのぷっくりおててでぺしぺしと叩く事である、語源はライチュウの手がコッペパンに似てるトコから。

「あの…その子は?」

「拾った」

 だからどうして普通に答えただけなのにそんなびくつくのか。そんな怖いですか俺。
 ガラスのハートが傷ついちゃいますよ、防弾防刃性だけど。

「ライキ、電化製品が山とあるのでむやみにそこらの物を触らないように」

「ライ!」

(o゚ω゚o)ゝ

 可愛いにも程があるだろ常識的に考えて。
 ライキを椅子に降ろして、甘酒を用意。まさか久遠対策に用意した甘酒をライチュウに振る舞う事になるとは、この世界マジで何が起こるか分からんね。
 
 あとフェイトそんな居心地悪そうにすんな。
 別に何も言ってないだろ俺は。
 フェイトが借りて来た猫よりおどおどしててかわいそうやら鬱陶しいやら。
 アルフのように自分の家だぜって感じでくつろいでくれて構わんのに。

「堪能するがいい」

「ライ♪」

 マグカップに注いでやった甘酒をふうふうしながら飲むライチュウ。
 こう、ぷっくり両手で挟んでふうふうって! あーもー萌え殺す気ですねライキさん!!

「ほら、フェイトとアルフも飲め、甘酒だ」

「あ、ありがとう…」

 もーいいです、慣れるまでおどおどしててください。
 
「なんだい? これは」

「甘酒。成分は点滴用の栄養剤に類似。甘みがあり若干アルコール含有。
 まあ子供用の酒もどきだ」
 
 ビーフジャーキーを皿にぶちまけアルフの前へ。

「お、肉肉♪」

「あ、美味しい…」

 ふう、やれやれだぜ。
 新聞でも見ますかね……
 
――太陽系に新たな惑星発見! 命名候補に魔王星、雷王星など…

 ぱしっ
 新聞を閉じた俺は二度と新聞も開かない事を心に決めたのであった。

「ライ?」

「気にするな、色々あるのだよ」

 さて、晩飯の支度でもしちゃいますかね。
 アルフがいるなら肉でいいか。にくにく。

「フェイト嬢」

「はい! なんですか?!」

 軍隊じゃあるまいし起立して振り向かんでよろしい。
 
「夕飯の支度するから手伝え」

「あの…ごめんなさい、料理した事ない…」

 まあリニスがいればそうだろうな。いなかったらいなかったであの母親が教えてる姿は想像できんな、意外に料理上手そうなイメージだが。あの間延びした声とか。

「そうか。なら教えてやる。
 …誰かに自分の作った料理を食べてもらうと言うのは良いものだぞ」
 
 ここで「ところでユーノがそろそろ帰ってくるな」とか言うべきやいなや。

「えーと……」

 アルフ、お前はフリーダム過ぎ。フェイトが迷ってるのにビーフジャーキー喰いながら料理番組見てるんじゃない。

「ユーノもうちで夕飯食べる訳だが」

 ここまで言わんと分からんのか全く。
 
「お願いします」

 恋愛が絡むと即断即決なのか?
 違うか、指針とかを決めてくれるなら迷わないけど、決定権を委ねられると迷うタイプで、現在は母親もリニスもいないからふらふら迷いまくりで、ユーノラブだけはその例外、か。
 なんでそこまでユーノの事好きになったのかはちょっと知りたいな。

「料理というのは難しくやろうとすれば難しく、手を抜こうと思えば何処までも抜けるものだ。
 まあ、今日の料理は難しくない。とりあえず、手を洗ってこい」

「はい」

 鶏肉のソテーとか考えてたが変更だな。
 鶏肉の餃子にしてしまおう。餃子なら言われた通りやるだけで「作った」気になれる。
 後は……豚バラ肉があるがこの量で何をしろと…サラダの添え物にするか。もやしが大量にあるから、これにゆでた豚肉混ぜて、ポン酢かけた奴で良いか。
 適当な残り野菜を冷蔵庫から出してっと。
 大蒜がないな、餃子に大蒜いれるのは日本だけらしいが。

「ライ♪」

 ん、マグカップを下げに来たか、えらいなこいつ。
 そしてそのままふらふらしながらソファまで行って丸くなってしまった。眠いらしい。
 可愛いのぅ可愛いのぅ。
 
 ま、それは兎も角。

「アルフ、買い物に行ってきてくれ」

「えー」

「アルフ、お願い」

 手を洗ってきたフェイトが戻ってきた。

「しょうがないねぇ」

 フェイトの言うことは素直に聞くんだな、当たり前といえば当たり前か。
 では必要な材料、と言っても足らない大蒜を含めて数点だけだが。スーパーとか行かせられないしな、怖くて。
 で、お金は…万札渡さないと使い方分からんのだったか、こいつらは。後でお金の使い方教えなきゃな。

「翠屋がある商店街の、野菜売ってる店にこのメモとお金渡せば良い。
 向こうが包んで渡してきたものを全て受け取って帰ってきてくれ」
 
 全く、なのはに買い物頼むよりメンドイな。

「寄り道厳禁、早く帰ってきてくれ」

「りょーかい」

 行動するとなると速いな。
 ああ、よく考えたら狼Verになってもらって、首から籠ぶら下げて八百屋に突っ込ませればよかったか。
 まあいいや。
 
「ではフェイト、今日は餃子を作る」

「餃子?」

「簡単に言うと、肉と野菜を混ぜた物を小麦粉の皮で包む料理だ。焼いたり煮たり蒸したりして食べる。
 今日は焼いて食べるがな。
 まず野菜を切ってみようか」
 
 静香のお料理教室始まるよー。
 
 ふむ、フェイトとーなのはのーりりかるクッキングー
 とかも良いかもな。もし撮ったらニコ動にうぷしよう。
 
 
****


「へー、これフェイトちゃんが作ったのか。旨い!」

 お前に褒められてもそう嬉しく――という訳でもないのか、まんざらでもなさそうだな。
 ああ、人付き合いが足らないから褒められた経験も少ないんだな、フェイト。
 
 そして横島の膝上で手づかみで餃子を食べるライキ。こいつらポケモンって主食はなんなんだろうか。
 ゲームとかアニメじゃポケモンフードとか売ってるみたいだが。あとポフィンか? あれは明らかにお菓子だが…
 まあ美味しそうに食べてるから問題はないんだろう、きっと。
 しかし横島はやはり動物に好かれるタチなのか、あっという間に懐いてしまった。一番懐かれなかったのは士郎というのだから笑える。
 そんな士郎は昔ポケモントレーナーだった事もあるらしい、死別したから辞めたとかなんとか。
 あとオーキド博士の護衛もした事あるんだと。士郎パネェ。
 
 そしてこの世界、というかこの世界の日本、関東地方と九州地方、そして近畿地方を中心に「ポケモン」は当たり前に存在する動物らしい。
 ここ海鳴市は関東に近い中部地方に位置する為、そこまでポケモンは生息していない為かなり珍しい存在だが、東京や京都、函館など生息地域の主要都市ですら普通にポケモンが生息しているらしい。
 それを聞いてポケモンマスターを目指す為、さっそく出かけようとしたが止められてしまった。
 ジュエルシード集めるよりポケモン集めたいと言ったらユーノ涙目。そしてなのはとフェイトに説教された。
 OHANASIされなかっただけマシか。
 
 とりあえずポケモン飼うのもトレーナーの資格がいるから市役所行ってもらって来る事に。
 ポケモン図鑑も講習受けるともらえるらしい。
 まあそうだわな、漫画じゃ勇者の証的扱いされてる事もあるが、それじゃ図鑑の意味ないしね。
 講習自体は二時間位で終わるらしいから明日行ってこないとな。
 あ、学業免除なんて社会基盤崩壊フラグはないらしいよ、当たり前だが。
 
 後は忍がこういう事詳しいらしいので相談する事に。
 ブイズやニャース、エネコロロなどがいるらしいですよ、月村家。
 お茶会に参加フラグktkr。
 とするとアレか、バニングス家にはガーディやウィンディがいたりするのか。
 楽しみ過ぎる。
 
 まあそれはそれとして飯を食わねば。
 
「むー…」

 なのはよ、視線でお姉ちゃんの意地悪、などと言われてもどうしようもないんだが。

「フェイト、美味しいよ」

 女殺しの笑顔だな、おい。アレか、やはり精神年齢は顔に表れるのか。まあ確かに大人っぽいってだけで格好良く見えたりする事はあるが。
 フェイトはもう真っ赤になって縮こまってしまった。可愛いのぅ。
 そしてなのは、ふくれっ面してもどうにもならんぞ。
 
 高町母も父もフェイトを褒めまくりである。

 一方アルフは骨付き肉にかじりついていた。狼Verだが。
 肉を勝手に買ってきやがったのである、こいつは。お金の使い方もあやしいくせに良く買えたな。
 言われたもの以外を買ってくるのは小学生までにしとけってんだ、全く。

「…小学生3年でもこれだけ出来るのにな」

「うう…フェイトちゃんにまで負けた…」

 涙目の美由希ざまぁ。

「静香、また料理教えて…?」

 顔赤いまま上目遣いとかヤバいんですけど、可愛いすぎて。
 しかしまあ計画通り(ニヤリ)だな。共同作業すれば大概仲良くなれるもんだ。

「静香お姉ちゃん! 私にも教えるの!」

 勢いよく立ちすぎだ、ユーノが吃驚してるぞ。
 高町母は微笑ましいとばかりにニコニコだが。士郎と横島は今にも赤い涙を流しそうだ。
 美由希は不景気な面して飯を食べるな全く。恭也はそろそろ達観して来たな。

「分かったから黙って飯喰え」

「ライキ、あーん」

 高町母もライキを気に入ったようだ。まあ可愛さポケモン界No.1だからな、異論は認めない。


****

「なるほど、一緒に風呂入るのは辞めた方が良いか、やはり」

 携帯電話で忍にポケモン育成の相談である。ゲームでなら幾つものポケモンを育てた覚えはあるが生ものは初めてだ、当たり前だが。
 なので経験者に相談というわけだ。
 ちなみにアルフは俺の頭の上で睡眠モード、ライキは俺に添い寝してくれている。マジラブリー。

 ベッドの上で寝ながらお喋り、全く便利な時代になったもんだ。

『講習受けたら図鑑もらえるでしょ? それがトレーナー資格の証明書になるから、そうしたらデパートでポケナビ買いなよ。ポケモンのコンディションとか調べられるしね』

 なるほど、確かにそれは大事だ。ライキが病気になどなったらたまらん。

『あとボールマーカーは付けておきなさいよ。付けてなかったら野生のと勘違いされても文句言えないんだからね』

「ボールマーカー?」

『一度モンスターボールにしまいなさいって事。それで外に出せば図鑑やポケナビに反応するようになるの。
 ちなみにゴージャスボールお勧めよ。既に懐いてるなら『捕まえやすいボール』より『ポケモンが喜ぶボール』にすべきだわ』
 
 はて? もしかしてライキはマーカー付きなのだろうか?? まあそうだとしても、もう俺のモンだが。
 
「了解した。後は家の耐電処理頼めるか?」

『はいはい、それは明日にでもノエルとやってあげるわ』

「頼む」

 充電具合や大気の状態にもよるが、ライチュウなど電気ポケモンが家にいるだけで家電製品全滅とかあるらしい。電気ポケモンマジパネェ。

『じゃあ静香、また明日。お休み』

「ああ、助かった。お休み」

 これでオッケー。
 とりあえず俺の部屋の家電製品(パソコンくらいしか壊れて困るものはないが)をなのは部屋に移動させてある。
 
 ちなみに部屋割はユーノが独り部屋、フェイトがなのはの部屋、アルフは俺の部屋、という感じ。
 フェイトとなのはの口論の末、この配置に決まった。まあ抜け駆けは出来ないわな、お互い見張ってれば。
 ユーノが絡まなきゃ仲良いんだけどな、たまにユーノが絡んでも凄い仲良いけど。

 食後、以前と同じようにプリンを、今度は三人で作ったのだが、流石になのは。
 以前から母や静香に手ほどきされてるだけあって相当上手かった。
 フェイトは一度覚えた動きの再現は流石だが、初めてやる手順はおっかなびっくり過ぎだな、慣れがなさ過ぎるから仕方ないかも知れんが。
 次は何作るかね。まあ適当でいいやね。
 
 目覚ましのスイッチ入れてお休み、ライキ、アルフ。
 



「らぁぁぁぁぁぁぁいっっ!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 バリバリバリバリ!
 
 何事!?
 跳ね起きるとそこにはこんがり焼けた横島の姿が。

 はあ…別に夜這いしなくても押し倒せばいいんじゃね? 抵抗はするけど、ライキとアルフが寝てるトコ襲うよか学校で強姦した方が速いよ? 多分。
 夜這いはありで強姦は駄目って価値観もよく分からんな。
 ひょっとして押し倒すんじゃなく寝てるトコ見る為だけに部屋に侵入してくるのか?
 下着泥棒なら洗濯機の方狙った方が良いしな。よく分からん。
 
 あとまともに告白された事ないんだけど? 正直夜這いとかする前にやることあるだろうが、俺の事好きなら。
 間違いなく振るけどな。
 
「アルフ、そこのゴミ外に捨てておいて」

 しかし…未熟とは言え御神の剣士たる俺が気付かないうちに部屋に入るとかどんだけスネークスキル高いんだこいつは……

「あいよ」

 ぽいっと魔法を使われて宙に浮いた横島が窓から捨てられる。生きてるのかね、アレ。
 どうでも良いけど。

「ライキ、よくやった。褒めてつかわす」

 なでくりなでくり。可愛い上に強いとか最高じゃね?

「ライ♪」

 でもお前横島に懐いてたよね、結構。そしてその割には容赦ない電撃攻撃。
 いやいいんだけどさ、別に。



[14218] 三人称注意
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/07 21:59
読みやすくしてるつもりですけど、読みづらかったらごめんなさい。

****

「ユーノ君! 今日も頑張ろーね!」

「なのはは魔法の特訓、好きだよね」

 苦笑気味のユーノと手を繋ぐなのは。
 
 朝4時、恭也と美由希、そして横島の三人と玄関先で朝の修行の準備をしていた。

 魔法の訓練を始めるに当たって、恭也と美由希の修行に同行する形をとるよう指示したのはユーノである。
 前回は「魔法バレ厳禁」だった為、色々気を遣わざるを得なかった。
 しかし今回はどっかの無機物や静香の申し出もあって、最初からバレてしまってるので逆に開き直れるのだ。
 つまり魔法使いに必要な体力作りを恭也達に協力してもらう。

 単純に身体を鍛えるとなれば、恭也は美由希の師匠だけあってその手の指導力は疑う余地はない。
 シスコン気味の彼はなのはの身体の負担にならない、それでいて確実に身になるカリキュラムを組んでくれた。
 
 なのはを『二度』と墜とさない為にも、体力作りは必須事項であると言える。
 身体の鍛えが違えば疲労の蓄積も抜けも違うだろうし、自分以外の身内の目があれば無理や無茶はしないだろうというユーノの計算だった。
 
 尤も、今のなのはに無理をして、ユーノや家族に心配をかけるというつもりは全くないが。
 これは魔法と自分と家族を取り巻く状況が『前回』と余りにも違う為だ。
 
 『前回』はユーノのサポートがあるとは言え、何もかもをなのはが背負わなければならなかった。
 更にユーノが負傷していたため(魔力適合とかAs以降では触れもしなかった謎設定の為)実戦のサポートとしてはかなり役に立ちづらかった。
 正直、最初から人間Verで実力全開出来てたら、フェイト達出てくるまでなのは要らない子だったのは誰も否定出来ないはずである。
 
 考えても見れば良い、如何に精神年齢が高かろうと当時、なのははただの小学三年生なのだ。
 それを街の破壊などを見てその強い精神力で決意を固めてしまった事がなのは第一の不幸と言える。
 
 つまり、『自分』が何とかしないといけなかったのだ、ユーノのサポートのみで。
 
 しかし今回は違う。まず家族全てがなのはとユーノの事情を知り、その上で協力してくれている。

 更にもユーノが負傷していないどころか『前回』より技術的に遙かにパワーアップして戦闘をサポートしてくれる上、魔法の教導も『元々十二分に分かりやすかった前回』より遙かに分かりやすく緻密である。(前回のなのはの実力を見れば、ユーノの教え方が上手かった事が分かる、勿論教えもしない新しい魔法を組むなど、なのはの才能が頭一つ抜けていたのも事実だが)
 なのはの魔法の癖や魔力の質、個人の性格や肉体的特徴など、様々なパーソルデータを頭にたたき込んであるユーノならでは、である。
 
 最後にフェイトの存在である。『前回』は始めて逢えた同種、しかし敵であった。
 その寂しがり屋な本性が引き合った結果、敵対せざるを得ない状況。
 いくら非殺傷設定があるとは言え、ジュエルシードなんて危ないモノを賭けて同年代の少女との喧嘩は基本的には優しいなのはにとってどれだけ負担だったか。

 今回、初めて逢った魔法使いの少女とは確かに最初は喧嘩だった。
 しかしなのはにとって最初に喧嘩は友情フラグである。アリサもそうであった。
 そして予想通り、そして期待通り『すぐ』にフェイト仲良くなれた。
 誰かがいれば苦労は減らないとしても気苦労は確実に減るのが人間というものだ。
 
 そして最大の要素、「なのはは魔法にそこまで執着していない」事がでかい。
 最初に静香という姉がいつでも側にいてくれた事、そして今は自分の何もかもを理解して支えてくれるユーノという存在。
 まあ逆行して二回目のユーノなのだから、ある意味当然ではあるが。

 つまり寂しさを魔法で埋める必要がないのだ。

 その命の恩人であるユーノから与えられた力である以上、大事にして『ユーノの役に立ちたい』という願いはあってもあくまでユーノ>魔法である。

 そう、今のなのはにとって、魔法は『自分にしか出来ない、自分だけの力』ではなく、『ユーノ君の役立つ為に必要な力』であり、『ユーノ君が教えてくれるから頑張る』のだ。
 
 ここまでユーノにベタ惚れなのは、知れば知るほど、付き合えば付き合う程何もかも理解して支えてくれるという少女特有の思い込み(だけではないが)と、実際になのはを陰に日向に支えているユーノの気遣い、最初に命を助けられたという刷り込み(助けた、ではないのがポイント)、魔法という力を教えてくれた事、大人と対等に渡り合う毅然としたユーノの態度、更になのはの学校の勉強まで教えてくれる頭の良さと見目の良さなど、様々な原因が重なり合った結果である。
 
 恋は盲目、しかしユーノのなのはに対する想いは本物なのだから、これはこれで良いのだ。
 
 そう、なのはにとって今問題なのは友達だった筈がいきなりライバルに格上げされたフェイトの存在である。
 勿論、恋のライバルである。
 
 自分より先にユーノにキスした上に旦那様などという裏切り者である。(直後になのはもユーノとべろちゅーしました、所謂ディープキス)
 その上、何故だか知らないうちに社会勉強と表してフェイトとアルフの同居が決まってしまった。
 恐らくプレシアはオーフェンと二人きりを体験したかったんだと想われる。リニスは手放すと自分たちの生活がヤバくなるので手放せないのだ。
 
 ただ、フェイトは今までの人生で他者との触れあいが少なすぎるのは事実なので、一概に自分の色恋を優先した訳ではない、プレシアも。
 
(ふ、フェイトちゃんには朝の練習は教えないの。二人きりになってユーノ君と仲良くなるのはなのはだけで十分なの)

 まあ実際、今更フェイトに基本的な特訓は必要は必要ないよね、とユーノも考えた為教えてないのだが。
 その証拠に夜の訓練時にユーノはフェイトとなのはの模擬戦を行わせたり、フェイトの魔法を真似させたりしている。
 
 こんな事考えてるなのはだが、フェイトの事はもうアリサ・すずか並に親友だと想っている。
 ただし、美由希曰く「恋は戦争、親友でも後ろから刺して足蹴にすべし」という教えを実戦しているだけである。
 事実、美由希は学校の友人を一人も一回も自宅に連れ込んだ事はなかった。
 
 こんな事を言ってる辺り、まだ恭也を諦めていない美由希の諦めの悪さを伺えると言えよう。
 その科白を側で聞いていて、美由希さんってこんな性格だったかなーなどとユーノが考えたりしたが無害である。

 ちなみにユーノのスクライア族は放浪の民であり、婚姻も通い婚に近い。つまり既成事実がそのまま結婚である。
 そう、一夫多妻も容認されている部族なのだ。まあ少数民族にはありがちでもあるが、学者肌の人間が多いのでそこまで一夫多妻が流行ってる訳でもない。

 ユーノとしては別になのは以外と付き合うつもりはないが、まあ話の流れ次第かなと達観していたりする。
 小学生の肉体に引きずられて、性欲が湧かないというのもあるのだろう。
 むしろユーノにとって問題なのは二人が言い争ったりする事なのだが、模擬戦を行うようになってからはそれも減ったようだ。万事順調という奴である。

「準備出来たか?」

「問題ないです」

 ちなみに西町神社まで走るのだが、律儀にユーノも走っていたりする。

「うー…美由希ちゃん眠いー、その胸で安らかに眠らせてくれ!」

 ばしっ!
 
「み、鳩尾はキツかとですたい」

 これから走って神社の長い石段を登らねばならないというのに鳩尾を殴る男、恭也。
 
「もう忠夫お兄ちゃん、エッチなのは駄目なの!」

「うう、なのちゃんにまで怒られた」

 ちなみに昨日も寝ている静香の部屋に忍び込んで番犬代わりのアルフに噛まれて、ライキの十万Vを喰らい、たまたまトイレに起きてて駆けつけたなのはにOHANASIされたマヌケがこいつである。

「行くぞ」

 一斉に走り出す高町家+α。
 流石に速い恭也と美由希、遅れてユーノとなのは、横島である。特になのはは運動神経が繋がりづらい性質なのか、魔力を展開していないとのび太並に運動出来ない子なので走るのも一苦労である。
 ちなみに上の兄姉は全力疾走しながら先に消えて行った。
 なのはの為にユーノが「疲労回復効果付与」のフローターを開発した為、全力でぶっ倒れる事が出来る、とは恭也の言。

 眠いせいもあろうが小学生とほぼ同じスピードでしか走ってない横島こそ誰かケツを叩くべきではあるのだが、この場に静香はいないので無理であった。


****


――ほら、今レイジングハートに入れたプログラム、起動してみて。

――うん。

 周囲には恭也達が砕いた親指大の小石達。
 距離を取ったユーノに向けて、集中するなのは。
 ちなみに魔法特訓中は全て念話で会話するのが二人で決めた約束である。これもまた練習。

 なのはの魔力が展開すると、小石を環状魔法陣が取り巻き渦巻き始め、宙にいくつか浮かび始める。

「貫いて! スターダストフォール!」

 かかかか!!
 小気味良い音を立てて、宙に浮いた小石達が高速でユーノに襲いかかる!
 
「ラウンド・シールド!」

 ユーノの突き出した手から翡翠の魔法陣!
 それは全ての小石を受け止め揺るぎもしなかった。
 
――凄いね、なのは。
  始めて教えた魔法をここまで使えるなんて。
  
――えー、簡単に防がれたのに?

――今のは練習だから小石だったろう?
  この魔法は、岩とか鉄塊とか、でかくて硬くて、そこら辺に落ちてる物体を使う事に意味があるんだ。
  勿論、重ければ重い程威力は上がるし、硬ければ硬い程貫通力が上がる。
  けどいきなり練習でそんな重いのは使わせないよ。
  
――じゃあ、今度はもう少し大きいので試してみる!

――うん、いいよ。今度は一個、大きいの飛ばしてみて。

 気になる人がいるかも知れないので補足しておくと漫画Stsでなのはがこの魔法を使用した時はカートリッジ二個使用したが、今回は「使えるようになる」練習である。ぶっちゃけ威力は必要ないのだ。
 ただユーノとしては色々食い違いやバタフライが起きすぎてる為、念のためAMF対策として教えているに過ぎない。
 あとこの魔法は「物体操作」の練習にもぴったりだという点も見逃せない。
 目指せ生活に優しい魔法使い。



「魔法って凄いなぁ」

 石が宙を舞ったり打ち落とされたりするのを横目で見ながら、横島がぼやく。

「否定はしない。だが所詮は人の使う技だ。
 俺たち御神に倒せない相手じゃない」
 
 空飛ばれても倒す自身があると言い切る御神の剣士、恭也。

「それよりも素振り200回までまだ半分だぞ。
 うちの妹が欲しければ根性出してみせろ」

 美由希に教えられて朴念仁の恭也も横島の恋慕には気付かされている為、この科白である。

「ういっす」

 ぶんっぶんっ
 
 特訓用にわざと重く硬く作られた特製の木刀を振り上げては振り下ろすを繰り返す。
 その側で、木刀同士で打ち合いを始める恭也と美由希。
 
 割と当たり前に見られる、高町家の朝の風景である。
 

****

「むー…むー…」

 私立聖祥大学付属小学校、3-2の教室。
 休み時間となれば小学校である、金持ち御用達とは言えそれなりに騒がしい。
 そんな中、頭を抱えている我らがなのはちゃん。

「なのはちゃん、どうしたの?」

「額に皺が寄ってるわよ」

 すずかとアリサが心配そうな顔で、おもしろがっている。
 勿論、横島から事実を聞いている為だ。

「何でもないの…」

 全然なんでもなくないのだが、流石に口には出せない。
 『学校行ってる間、なのはのユーノ君と、フェイトちゃんが二人きり』
 今のなのはの悩みはこれである。この世界の人間ですらない為、義務教育とか以前に戸籍すらないので当然と言えば当然である。
 この状況で自分が学校にいる間にジュエルシードが発動してフェイトがゲット、ユーノ君が惚れちゃうとかどうしよう、などと実に平和な悩みである。本人は至って真面目だが。
 
 ちなみにフェイトとアルフはプレシアの所へ行っていて、ユーノは翠屋を手伝ってる為なのはの心配は無意味である、あくまで今日は、だが。

「ふーん、何でもないの…」

 人の悪そうな笑みを浮かべるアリサ。
 今週末のお茶会で逃げられないようにしてからきっちりと問いただすつもりなのだ。学校では時間制限がありすぎる。
 仕方ないなぁ、と言わんばかりの微笑を浮かべるすずかも何も言わない。
 
「そうそう、今日、服買いに行きたいのよね、付き合いなさい」

 有無を言わせぬ命令形。流石お嬢様というべきか。
 
「うん、いいよ」

「え…今日はちょっと――」

 ユーノ君(+フェイトちゃん)と魔法の訓練があるの、とは言えず。
 一瞬言葉が詰まったのをアリサは見逃さない。

「最近、なのは付き合い悪いからね、今日は付き合いなさいよ?」

 そう言われると確かに最近はユーノと魔法の訓練しつつデートしたりしてるので何とも言えない。
 ちなみにその内容はステルス機能追加のサーチャーを複数飛ばしてジュエルシード探しつつウィンドショッピングとかである。明らかにアニメのそれより、技術的に向上しているなのはであった。
 
「うん、分かった。何処にお洋服買いに行くの?」

 友達が大事ならばこういう事はちゃんと付き合うべきである。
 ユーノ君には新しい洋服で新たな魅力を見せつけるのとか考えてるが、ユーノ以外には無害である。

「あ、そうだ。フェイトちゃんも一緒にいい? こっち来たばかりでお洋服もあんまりないみたいなの」

 フェイトの交友関係広げつつ、ユーノとのフラグをへし折る策略である。

「フェイトちゃんとお友達になるチャンスだね」

「いいわ、是非連れてきなさい!」

「じゃあフェイトちゃんにメールしておかなきゃ」

 携帯を取りだし、メールを打つ振りをして念話を飛ばすなのは。

――フェイトちゃん、今大丈夫?

――大丈夫だよなのは。なにかあった?

――あのね。今日、学校終わったらお洋服買いに行こうって話になって。
  フェイトちゃんも一緒に行こう?
  
――服? バリアジャケットがあれば別に着替えなんて…

 だめなのこいつ…速くなんとかしないと…
 なのはがそう思ったかどうかはさておいて、流石に9歳の少女の考え方としては適当でないのは確かだ。

――じゃあ新しいお洋服で着飾った姿を、ユーノ君に褒めてもらうのはなのはだけで良いんだね。
  ありがとうフェイトちゃん♪

――行く。何処に行けば良いの?
  
 手っ取り早く釣る事にして、成功させる。

「フェイトちゃんと何処で待ち合わせするの?」

「そうね…学校終わる30分位前に翠屋の前にいてくれれば、鮫島に車回させるわ。
 一応、鮫島にはなのはのおばさんに声かけるように伝えておくから」
 
「オッケーなの」

――15時頃になったら翠屋の前にいて。そしたら鮫島さんって執事のおじさんが車で迎えに来るから。
  わたしのお母さんが知ってる人だから、声かけられたらお母さんに声かけてね。
  
――分かった。じゃあまた後でね。

「翠屋の前で待ってるって」

「オッケ、鮫島に伝えておくわ」

 ちなみに私立聖祥大学付属小学校、敷地内に普通に駐車場がかなりの数完備されている。
 すずかやアリサのような車通学の子の為である。

(ユーノ君にもお洋服買ってあげようかな♪
 身長は同じ位だから取っ替えっことか楽しいかも♪)

 一気ににやにやし出したなのはを横目にアリサとすずかは呆れた風に苦笑する。

 さて、お金持ちの二人は兎も角、何故なのはが学校帰りに服を買えるほどお金を持ってるのか不思議に思った方もおられるかも知れない。

 実は桃子からちゃんと給料をもらっているのである、主にPOPやメニュー用の写真作成の報酬として。
 プロのカメラマン顔負けの技術で撮るなのはの写真は、商店街の他の店からも依頼が来る事もあるほどなのだ。
 勿論、身内も身内なので、外注するよりよほど安く出来あがる。
 つくづく魔法なんてものに出会わなきゃ良かったのにと思わせる才能である。

 更に物欲の少ないなのはは余りお金を使う機会がないので、貯金額も小学生の額ではないのだ。
 これは親戚がいっぱい存在する高町家のお年玉のおかげもあるのだが。
 まあそういう訳で洋服の一着や二着は問題ないのがなのはさんなのである。

 フェイトは何故かお金持ちなのでこれまた服を買う程度は問題ない。
 金の出所は考えては行けない。
 まあミッドチルダに戻ればプレシアはお金持ちの筈なのだが、あれだけの技術と大魔導師と呼ばれる魔力があれば。

「さ、どんな服買うか考えておかなきゃ♪」

 授業開始前の予鈴が鳴り響く中、不真面目な事をほざきつつアリサとすずかは自分の席に戻っていった。


****


「フェイトちゃん黒ばっかりは駄目だよ、オーフェンさんみたくなっちゃう」

 何もしないのに子供に泣かれる男、オーフェンもなのはにかかれば形無しである。
 ユニクロなどとは一線を画したブティックに小学生が四人も子供服を見てあーでもないこーでもないと言い合うのは物珍しいのか、店員もいぶかしげな視線で放置している、勿論、側に鮫島が立っているという事もあろうが。

「オーフェンって誰よ?」

 服を身体の前に持ってきながら、アリサ。服の方に興味が移ってる為か、どうでもよさげではある。

「えーと、静香お姉ちゃん曰く、フェイトちゃんの保護者代理代行補佐で、モグリ?の金貸しで万年貧乏の元エリートの落ちぶれやくざ、だって」

 保護者云々は兎も角概ね間違っていない。魔術とか次元漂流者とかそういう話を抜くとどうしてもこういう表現になってしまうのだ、彼の場合。
 
「…オーフェンは優しいよ?」

「人間としての優しさが、必ずしもしゃかいてきひょーかやきひんに影響する訳じゃないって静香お姉ちゃんが言ってたの。意味がよくわかんないけど」

「ふーん? フェイト、ちょっとこの服着てみなさいよ」

「え、うん…」

「もう、アリサちゃん。それで10着目だよ? フェイトちゃんも疲れちゃうでしょ」

 まあ女三人で、とはよく言うが少女でも四人も集まればそれはやかましい。
 
「いいじゃない! フェイトは可愛いんだから黒一色なんて退廃的な服を着てちゃ駄目よ!」

「でもそろそろ買うもの買ってマックでも行きたいかな。ちょっとお腹空いちゃった」

 薄手の淡いグリーンのジャケットと、ピンクのワンピースを抱えたなのは。

「そうだね。アリサちゃんもそれでいい?」

 こちらもワンピースやジーンズを数着抱えたすずか。
 フェイトも殆ど押しつけられた形でいくつか服を抱えていた。

「そーね。これぐらいで今日は勘弁しておいてあげるわ」

 鮫島が抱えてる服はどう見ても10着じゃ足らなさそうである。


「ありがとうございましたー」

 店員の声を背中に店を後にする四人+執事。
 少し郊外にある店な為、駐車場スペースは広い。それでもそこそこ車は駐まっているが、人はまばらであった。

「さて、何処で食べようかしら?」

「フェイトちゃん何処か行きたい所ある?」

 洋服の入った紙袋を抱えながら、同じように紙袋を抱えているフェイトに尋ねる。

「んと、お土産が買える所なら何処でも――」

 キキィ!
 
「え――? きゃぁ!?」

「え!? アリサちゃん!」

「お嬢様!?」

 服を放り出して、アリサを押し込めた車に駆け寄る鮫島――
 
 だん! だん!
 
「ぐっ!?」

 鮫島の腹と太ももから血が吹き上がる!
 そしてアリサを拉致った車が音を立てて走り去っていく。

「鮫島さん!?」

「バルディッシュ!」

「え――もう! レイジングハート!」

「え? ええ?!」

 一人展開について行けないすずかはおろおろするばかり。

「ちっ!」

「え?」

 後ろで舌打ちが聞こえた事に反射的に振り向くと、そこにはどこかで見たような男――いや青年がかなりでかいハーレーにまたがり、エンジンをかけていた。
 そしてそのまま爆音をあげて走り出す――誘拐犯の逃げた方へ。

「行くよ! なのは!」

「うん! すずかちゃん、忍お姉ちゃんに連絡して鮫島さんお願い!」
 
 バリアジャケットに身を包んだ二人はそのまま飛び上がる!
 
――Flier Fin

――Blitz Action

 二つのデバイスが声を上げ魔法を展開したその瞬間!
 
――なのは! フェイト! ジュエルシードが反応した! なのは達の結構近くみたいだ!

「えぇぇぇぇ!?」

 なのは絶叫フェイト絶句。間が悪いにも程がある。

――そんな! 今、アリサちゃんが誘拐されたの! 鮫島さんも撃たれて動けないし!

――Protection

 きん! と音を立てて弾丸が跳ね返された。レイジングハートがオートで展開した魔法で防いだのだが、そんな事に構っていられる状況ではない。

――なんだって!?

――私がアリサを助ける! なのははジュエルシードを!

――分かった! なのは、携帯を恭也さんのにつなげたまま、フェイトに渡して!

――うん!

『フェイト、聞こえるか?』

「大丈夫」

『ならまず追いかけてくれ! 高々度から追跡すれば気付かれずに追えるはずだ』

「はい!」

「ディバイン・シューター!」

 光の先で拳銃を持った黒服がぶっ倒れる!

「なのはちゃん!? フェイトちゃん!?」

 鮫島の腹と足を今日買ったばかりの服で押さえながら、いきなり光放ったなのはと空に飛び上がったフェイトに戸惑いを隠せない。

「ごめん! すずかちゃん、説明は後!」

「行くよバルディッシュ! 友達を…助けるんだ!」

――Blitz Action

 轟! 音を立てて黒い閃光のように消えるフェイト。

――なのは、ちょっと動かないで!

――うん!

 そして数瞬後、翠の魔法陣と共に現れるユーノと静香とライキ。

「妙なる響き、光となれ! 癒しの円のその内に鋼の守りを与えたまえ!
 ラウンドガーダー・エクステンド!」
 
 地に描かれた翠の魔法陣が半円の球を作り、鮫島とすずかを覆う!
 
「これでそこのおじさんは大丈夫! なのは、飛ぶよ!」
 
「こっちは任せておけ」

 抑揚のない声で静香が請け負う。

「ライ!」

「急いで片付けてきてよ!」

「お姉ちゃん、お願い! 行こうユーノ君!」

――Flier Fin

 そして空を駆けるなのはとユーノ。
 何故転移魔法で飛んで行かないか? 座標の目印となる人物や建物が分からないからだ。
 
 
(違いすぎるな…アニメと。今更というのも今更だが)

 遠ざかる二人を見ながら、余り意味のない事を考える。
 この時期こんな場面(勿論描写されなかっただけかも知れないが)でジュエルシードが発動するなど覚えていないし、そもそもアリサが誘拐されるとは二次創作なら兎も角アニメでそんなエピソードは覚えていない、少なくとも静香は。

「さて……ライキ、鮫島さんとすずかに誰も近寄らせるな。守れよ」

「ライ!(o`ω´o)ゝ゛」

「一匹見たらじゃあるまいし…」

 眼鏡を外し、御神の剣士としての顔で、黒ずくめの車から降りてきた黒服達を睨む美由希。
 足止め要員なのか、それとも別系統の組織のバッティングなのか判別付かないがそれは二人にはどうでも良い事である。
 二人とも腕は未熟なれど御神の剣士。
 守る御神に敗北はあり得ない。

****

『今どの辺りだ』

 愛刀・八景を研ぎに出している為、待機に回らざるを得ない恭也の苛立ち混じりの声。

「えと…」

 一瞬で通り過ぎる交通案内を読み取り――
 
「国道××号線を――海鳴市から遠ざかる方向に走ってます!」

『分かった。その方向にSPを配置するよう、バニングス家に連絡する。そのまま追跡を頼む』

「はい!」

 勿論隙あらば助ける気満々のフェイトである。

「あれ?……」

 足下――と言っても上空100mは上からなのだが、目標の車に近づくでっかいバイクが見える。
 そしてほぼ並走に近い状態になると、バイクに乗った青年は両手を離した。

 魔力と違う、しかし確かな「力」の発動をフェイトが感じたその瞬間!
 アリサが青年の腕の中に『顕れた』!

 しかしこれで容赦はしなくて良い! 急ブレーキをかけ、車との距離が一気に開くバイクを尻目に、友達を誘拐しようとした車に全力で裁きを下す!
 
「行くよ――バルディッシュ!」

――Photon Lancer Multishot

 七つのフォトンスフィアがフェイトの周囲に生成され――フォトンランサーが幾条もの閃光となって突き刺さる!
 「車」については勉強済みな為、『非殺傷設定』の上で乗車席×4を狙って打ち抜いた為、爆発炎上する事もなかった。その上、「いきなり奪い返された人質」を取り戻す為、急ブレーキをかけていたのが周囲に被害を与えずに済んだ要因である。

 尤も、車体越しに非殺傷設定だった為か気絶はさせられなかったようで、壊れた車から這い出るように三人の男が現れる。

『どうした?!』

 恭也の声、しかし答えてる暇は今はない!

「バルディッシュ!」

――Scythe Form

「行くよ!」

 雷纏う刃が奔る!
 そしてそれは一瞬で終わる。その場の男達全てを切り伏せ、気絶したのを確認すると、軽く飛んでバイクの青年に向かい合う。

「へっ…最近のガキは空まで飛ぶのか。大したもんだな」

 バイクを寄せ、気絶しているアリサの縄を解きながら降りてきたフェイトを茶化すような物言い。
 
「あの、アリサを助けてくれてありがとう。
 ……あの、貴方は?」

 ぺこりと頭を下げ、その何処かオーフェンに通じる容姿を持つ青年を見る。
 
「通りすがりの…たいやき屋さんよ」



[14218] だが私は謝らない(`・ω・´)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/09 20:04

 俺が転生・憑依してから一ヶ月も経っていない。
 だというのになんなんだこのエンカウント率の高さは!
 横島鍛えるとか人の事気にしてる場合じゃねーぞ、割とマジで。ああ、はやての方も自分で確認もせんと志貴に放りぱなしだった。
 あと自分の念能力、思いついたんだが試す時間を寄越せ、割と切実に。
 こんだけ立て続けに事件起こされたら生活の時間さっ引くと殆ど何も出来んだろうが常識的に考えて。
 

「ライ?」

 口元に手を当て、こてんと首を傾げるライキ。暴れるだけ暴れてすっきりしたのかどことなくすっきりした風である。

「悩みが多いのがこの年頃なのだよ」

 一頻りなでくり回しすと、嬉しそうにライライ鳴くライキ。癒されるぜ。
 
 で、ここは郊外のそれなりに有名で高額なブティックの駐車場である。

 やくざだか何だか知らんが、如何にも普通に生活してませんとでも自己主張している連中をなぎ倒し、鋼糸で全員の親指同士結んだ後、全員を一つに纏めて拘束したところでバニング家のSPどもが到着。
 襲撃犯どもを片付けつつ、警察の対応したりしていた(と言っても警察は現場に入らせていない、何という権力)。
 鮫島のじいさん57歳は実はまだ地面に倒れている。と言ってももう血は止まってるし、傷口も殆ど見えなくなってるのだが。ちなみに弾丸は二発とも抜けてるらしく、ユーノが張った結界の外に転がってたのをSPが回収した。

 何故いまだこんなトコで寝てるのか? ユーノの張った結界が硬すぎて誰にも壊せないのだ。
 
 ちなみにライチュウが剣の舞を踊った後ボルテッカーぶちかましても、小揺るぎもしなかった。
 バリア貫通とか破壊とかそういう属性攻撃がない場合、「インド象を一撃で気絶させる電撃」を放つライキがブースト(剣の舞は自身の攻撃力を約二倍に上げる技)した上で放つ最強雷撃以上の攻撃力が必要というわけだ。
 関係ないけど剣の舞を踊るライキはすげー可愛かった。剣の舞踊ってる最中に攻撃してくる奴に人の心はないんだと確信出来る位には。
 
 それは兎も角、ユーノの魔力総量って自己申告でB+(総合Aだっけ?)だった筈(なのは・フェイトはAAA+)なのにこの堅さ。目立たないけどやっぱユーノも天才だわ。

 ちなみにすずかも外に出られないのでちょっと困ってる。
 なのはの携帯はフェイトに貸した為、なのはに連絡も取れないしなぁ。
 
「誘拐だなんて物騒な話だよね…」

 フェイト→恭也→俺の携帯という経路でとりあえずアリサの無事は確認された為、美由希も多少は安心した風に話しかけてくる。
 勿論、俺は飛針を、美由希も龍鱗を鞘に収めてはいないが。

「だからと言って小学生のアリサに、デビットのおっさん並のSPを常時貼り付けるのもアレだろう」

 デビット・バニングス。アリサのパパである。
 なのはが小学一年の頃、アリサをひっぱたいた件でうちの父と共に学校に呼び出された事が切っ掛けで、飲み友達だったりする。趣味のサッカーで気があって飲みに行ったりするようになったとか。
 
 で、そんなデビットも普段はムサいSPに囲まれて生活している訳で。
 それを娘に押しつけたいかというと、なあ。アリサも性格上、そういうのは嫌がりそうだし。
 まあ所詮他人の家庭事情だが。 

 しかし鮫島のじいさん、普通の人だったのな。
 こんな世界だから流派東方不敗の使い手でもおかしくなかったのに。
 …こんな世界に普通のじいさん付けとくだけで娘放っておけるってのはやっぱそれなりに平和なのか? この世界。
 
「なのは達大丈夫かな」

「ユーノが死ぬ事はあってもなのはが死ぬ事はあり得んよ」

 これは割と本音。
 逆行までしておいて(意図した事でないにしろ)なのはを守れませんでした、等という漢ではないのだ。
 まあユーノがジュエルシードで死ぬ状況ってのも想像……出来るな割と。
 吸血鬼とか死神とか虚とかポケモンとかetc、割と死亡フラグが転がってるからなぁ、この世界。
 
「もう! そういう事言うの、静ちゃんの悪い癖だよ!」

 ライキを抱っこする美由希。ライライ言いながらされるがままのライキ。
 ホント可愛くてズルいぞ、全く。

「別にユーノが死んで良いとか言ってないぞ?」

「分かってるわよ!」

 何をそんなに怒るのだ妹よ。
 カルシウムが足らないのか、そうか、あんなに牛乳飲んでた時期があったのにな。

 ぶろろろろ…

 なんだ今時爆音上げてバイクとか馬鹿じゃねーの。
 スピードの向こう側でも見てこいってんだ。
 
 そのバイク――やたらでかいハーレーの後部座席にアリサとフェイトが乗ってるとかどういうジョークだ。
 お、SPともめてやがる。まあ見ようによっちゃあのバイクの男が誘拐犯だし、フェイトはバリアジャケットのままだから良く言ってコスプレ状態だしな。
 
「美由希」

「もう、静ちゃんの面倒くさがり屋!」

「この後夕飯の支度をする私によくぞ言えるな?」

 ライキを受け取り抱っこする俺。もふもふだぜ、静電気痛いけど。

「ごめんなさい」

 最近の高町母は家事を俺に任せまくるから困る。その分、翠屋の売り上げも結構な事になってるらしいが。
 美由希がメシマズじゃなかったら楽なんだけどなぁ。カレーを不味く作るとかどんな魔法だ全く。
 
 お、ユーノの結界が消えたぞ。
 
「すずか、尋ねるまでもないが大丈夫か?」

 ユーノの回復魔法の中にいて怪我なんぞしようがないしな。

「はい、大丈夫です。あの、なのはちゃんは?」

「そろそろ戻ってくるだろう。まあ、今週末にでも纏めて説明する、今は訊くな」

 メンドイからな。
 色々訊きたそうな顔をしてこっちを見てから、鮫島のじいさん、アリサと共にSP達に連れられリムジンに乗せられたすずか。

「静香、この人がアリサを助けてくれたの」

 ハーレーのエンジンを切って、こちらに寄ってくるチンピラ風の青年。

 ん? 何か妙な…?
 今の俺はポニーを更に纏めてシニョン風にしてある、セイバーのお団子と一緒。理由は戦闘になるの分かってて腰まである髪を放置とかあり得ないだろ。
 で、服は黒ずくめの皮の上下、キエサルヒマ大陸の黒魔術士の戦闘服といえば分かるかな。美由希も一緒である。
 まあ荒事となるの分かってれはそれなりの装備で突入するという話。ちなみにもう最近物騒なんで、士郎の分も含めて翠屋のスタッフルームのロッカーに突っ込んであるのだ。

 で、この兄ちゃんはなんでまじまじと俺にガンつけてるの?
 お前さんの方が変な格好だよね?

 というかこいつの服装ありえなくね?
 肩のメタリックなのとかベルトのどくろとか、そもそもなんでジャケットの中にシャツ着てねーんだよ。
 まだ春だぞ。しかも思い切り額と胸に傷跡あるし、めちゃくちゃ立ってるし。今日俺の伊藤かお前は。グローブもズボンも鋲が打ち込まれまくってて痛そうですね!
 何というセンス。これが噂の暴走族か? 特攻の拓でももう少しまともな格好してね? いや有刺鉄線を腕に巻かれても困りますが、見た目的にも。
  
 まあいい。
 
「高町静香だ、協力感謝する」

 アリサを助けてくれたというなら悪い奴ではないんだろう、多分。

「ライ♪」

 俺の腕の中からフェイトに飛びかかるライキ。
 30㎏って子供にはちと重くないかね、ライキさん。案の定受け止めきれず尻餅をつくフェイトも可愛いな。

「あ…いや、大した事はしてねぇさ。
 たまたま通りすがったから手を出しただけだしな」
 
「でもタイヤキ屋さん、こんなトコへ何を?」

「ああ、妹が誕生日が近いんでな。服を買いに来たんだ」

「タイヤキ屋?」

「静ちゃん覚えてない?
 臨海のタイヤキ屋さん。チーズカレータイヤキとか変なの売ってる」
 
「…ああ、そういえばタイヤキ屋があったな? ここ数ヶ月行ってなかったが」

「その数ヶ月の間に、二代目タイヤキ屋さんってわけだ」

 しかし美由希、本人目の前に変なのとか言うな。
 
「タイヤキ…ってなに?」

 小動物よろしく俺の陰にいて、ライキと手を繋いでいたフェイトが尋ねる。

「お菓子だ。今度食べさせてもらおう」

「ああ、待ってるぜ……ところで、俺はアキラ、田所晃だ」

「改めて言うが、助かった。
 日を改めてバニングス家からも挨拶に来るだろうが、今日は無理だろうな。
 執事長が負傷してるし彼女の両親も海外に出張中だしな」
 
「ンな事はどうでもいい!」

 いやどうでもいいのは分かったが怒鳴るなよ? あ? たどころあきら???
 田所晃! タイヤキ屋! ライブアライブか! 一番主人公ぽく、かつ一番弱いと評判の主人公!
 大好きでしたよ、あのゲームは色んな意味で! ブリキ大王の格好良さに俺涙目でしたよ!
 まああのゲームは最高のトラウマ発生ゲームの一つだったけど。
 
 …そーいやこの世界のゲーム事情なんて調べもせんかったな…テレビも見ない事に決めてるし。
 ちょっと調べてみるか。まあLiveALiveを超えるゲームなんてもう出ないんだろうけどな、衝撃的に考えて。
 ポケモンのゲームはありそうだよな、遊戯王のカードゲームもDSとかで出てたし、前世の世界でも。

 ふう、落ち着け。この世界じゃよくある事だから。
 あれ? こいつ読心術使えなかったっけ? ヤバくね?

「ふむ? 何か問題でもあったか?」

「――くっ!」

 苦悶しながら頭を振り、がしっと俺の両手を取って、俺とアキラの胸の前で、自分の両手で包むように握るアキラ。
 痛いんですけど?
 
「惚れた! 俺と付き合ってくれ!」

 ( ゚Д゚)ハァ?

「えええ!?」

 美由希ウルサい。
 えーと、SP達もほぼ撤収準備が終了したみたいだな。
 アキラとの交渉は俺らに任せてもらうらしいから、先に帰ってくれて結構。
 バニングス家に恥はかかせないという事でSP達には帰ってもらおう。

 後は、ああ、なのは達に連絡取らないとな。フェイトの念話で連絡取ってもらわねば。
 そーいやアルフは何してるんだ? なに、プレシアの手伝いで朝からいないとな。
 なんか悪巧みしてんのか? まあオーフェンが側にいるなら悪い事じゃないのかも知れんけど。
 
 という指示を、がしって両手を包むように握られたまま、美由希とフェイトに出す俺。

 うん、ちょっと現実逃避したかったんだ。
 しかし律儀に待ってたもんだな、顔赤いぞアキラ。

「で、熱でもあるのか? それともマタンゴでもキメたのか?」

 あくまで本気にしない俺。当然だろう、常識的に考えて。
 あと手を放せ。
 
「いや本気だ! やっと理想の女に出会えた!」

「静香! ユーノが怪我したって! なのはの所へ行ってくる!」

 ええい、放せ!

「待て! ライキ!」

「(o`ω´o)ゝ ライ!」

 敬礼しつつウィンクとはおぬしやるな。可愛いじゃねーか。
 それは兎も角!
 音を立てて懐から取り出したゴージャスボールに戻るライキ。そしてそれをそのままフェイトへ放る!

「真ん中のボタンを押せば中から出てくる!」

「うん!」

 受け取ると同時にブリッツアクションでかっとんでいくフェイト!
 アルフがいれば直接転移出来たんだがな。アルフがいない以上、使える戦力は使うべきだ、こういう時ポケモンは便利だな、バッチがなきゃ言うこと聞かないなんてゲーム的な制約はない訳だし。

 あ、ポケモン図鑑はゲットしたぜ? 勿論、最初から全データ揃ってるし、ネットに接続して最新の状態維持出来たりするのだ。簡単なポケモンの性格診断も出来て、それによるとライキは「やんちゃ」らしい。物理型?
 あと「ポケモンの公式試合」では各出場ポケモン毎に使用する技を四つ提出して云々と制約があるらしいんだが、別に普通にポケモンに命令する分には「四つ」以外にも覚えている技をがんがん命令して大丈夫らしい。
 ま、明らかにゲーム的だしな、技が四つというのも。
 勿論、ライキが覚えてる技も、図鑑で確認出来る。凄いハイテクだよな、この図鑑。ポケモンに向けるだけで色々分かるし。
 
「もう! 静ちゃんがあんな事言うから!」

「別に私のせいじゃないだろう」

 いらんフラグ立てたのは自覚した、だが謝らない!
 そんな事よりこの男どうするべきか。

「あー、田どこ――」

「アキラだ」

「た――」

「アキラだ」

「…アキラ、とりあえず君がマタンゴをやってもなく、別に脳みそが溶けた訳でもないと仮定して返事をするが。
 少なくともそのファッションセンスをどうにかしてから出直して来い」
 
 ジャケット羽織っただけでシャツも着ないで裸とか何考えてんだ。セクハラじゃ。
 いや俺には別にセクハラじゃないですよ? 前世の自分の身体で見慣れてるし。
 しかし、こんな奴と並んで歩きたいとは思わない訳で。
 というか、こんな奴からよくタイヤキ買えるな。怖いぞ、結構。

「なら! 服を変えればいいんだな!」

 一目惚れは原始人担当だったはずなんだがなぁ…凄い熱意だぞこれ。
 あと俺の心読めるんなら本気で付き合う気がない事位分からんのか。
 
「いや別にそういう訳じゃない。
 そもそも私には男と付き合うという意思がない」
 
「一目惚れなんて信じてなかったが! 一目惚れした上に俺の能力が効かない相手は初めてなんだよ!」

 
 またなんか勝手にフラグが立ってたのか。勘弁してください。
 読心術無効化とかどんだけ。俺は、少なくとも主体的には、能動的には何もやってないんだが。
 そりゃあ必死にもなるかもな、一目惚れした上に、自分で心読めない相手とか。
 
 心読めるって言えばHGS患者達もそうなんだが…フィアッセとかリスティとか知佳とか。
 ああ、さざなみ寮見に行ってないな、そういえば。せっかくこんな世界に来たんだし一目くらいは見に行かねば。
 
 しっかし…どうしよう?
 そら美由希も困って呆然とするわ、しかしこいつもエロゲのヒロインのはずなのに浮いた話がないな。
 恭也の事は正直諦めた方が良いと思うぞ?

「とりあえず落ち着け」

「落ち着いてらぁ!」

 落ち着いてる奴は怒鳴らない。
 俺が巨乳でポニーな美人なのは分かるが、声は低いわ背は高いわ無愛想だわ男っぽいわで魅力相殺してると思うんだが。
 あと基本無表情だしな、怖いぞ正直。肩の後ろの二本の牛蒡を思い出し笑いしてたらフェイトにマジ泣きされたしな!

 そしてユーノとなのはに詰め寄られて無罪を勝ち取るのに無駄な手間かかったわ! 全く。

「とりあえず、こんな状況だ。
 その話は後で聞くだけ聞いてやる」

「おう!」

 今はここらが落としどころか。
 ユーノの事だからなのはの怪我は心配ないんだが…というか今のユーノがいてなのはが怪我するような状況じゃ誰がいてもなのはは怪我してるだろうし。
 フェイトにライキもつけたし、アルフもフェイトが呼べば飛んでくるだろうし、心配は要らんはずなんだが。
 要らないハズ、なんだが盛大に心配だな。

「へー、HGS患者なんだ、アキラも」

 美由希が気楽にアキラと雑談してる。いい気なもんだ、いきなり告白された身にもなってみろってんだ全く。

「ああ、尤も医者にかかった事はねぇけどな。
 俺の場合、知り合いの発明家が身体の検査とかしてくれたんだが、HGS患者にはあり得ない程力が安定してるんだと。薬も飲んでねぇし。
 で、実験台にでもされたらかなわんからってその発明家が色々やってくれたって訳よ」
 
 その割に藤兵衛に実験台にされてたような。
 
 HGS――高機能性遺伝子障害者の英語読みの略称。
 分かりやすく言うと超能力者になってしまう、或いは超能力者として生まれてきてしまう病気で、大概の発病者は実験所とか病院で生涯飼い殺しらしい。とらハ設定では確かそう。
 社会的な影響や差別を防ぐため、病気自体の内情が世間には公表されていない、って話でフィアッセとかも世間には隠してるみたいだが。勿論、うちの家族はフィアッセも含めてHGS患者は数人知り合いにいるので、今更心が読まれる程度では騒がない。普通は恐がりそうなもんだがな。
 …ところで超能力を持った子供が刑事のまねごととか特殊部隊みたいな事してそうなこの世界で、世間的に隠す意味とかあるのか? いやまあそれ言ったらうちのなのはさんとかもそうだが。

 というか、だ。
 ポケモンが火を噴くのは有りで人間は駄目ってその基準もあやしいよな、というかフェイト、普通に魔法隠す気ないだろ、そういえば。
 口封じはバニング家にやってもらうしかないが…

 あーもー考える事が多すぎ。
 せっかくだからポケモンマスターになるぜとか気楽に言いたいぜ。
 まあポケモン使って虚退治とかさせられそうではあるが。

「で、静ちゃん。どうするの? ここでなのは達を待つ? それともアリサちゃんトコの人に連れてってもらって帰る?」

「流石に俺のバイクでも大人三人はキツいな」

 別に乗せろとは言ってない。

「そうだな。ちょっと待ってろ。五分待たせとけ」

 なのはの携帯へ短縮ダイヤル、と。で、ワン切り。
 戦闘中なら無視するだろうし、終わってるならこっちの携帯鳴らすだろ。

 じゃじゃじゃじゃーん!
 俺の携帯の着信音、みんな大好きベートーベンの運命が鳴る。という事は戦闘は終わってる、か。

「もし――」

「お姉ちゃん! どうしよう、ユーノ君が! ユーノ君が!」

 おろ、錯乱してるな。なのはを庇ってユーノ負傷、フェイト(+ライキ)参戦で撃退、しかしユーノ負傷で動けず?
 とするとなのはやフェイト程度の回復魔法じゃ追っつかない程度には大けがって所か。
 まずは落ち着かせるか。

「喝!」

「ひっ!」

「ユーノはフェレットになってないのか?」

 確かあいつは怪我でぶっ倒れたらオートでフェレットになるようレイジングハートに設定してるハズ。じゃないとアニメ一話が納得出来んからな。側にレイハさんがいないってなら兎も角、なのはも一緒だしな…
 
「そうなの! フェレットになっちゃったの! どうしよう?!」

 ……

「とりあえず、フェイトが場所知ってるから戻ってこい。今すぐだ!」

「はいっ!」

 ぴっ
 あれーおかしいなーフェレットVer見せなかったっけなぁ? 確か魔法の説明する時、家族皆の前でフェレットになって見せたような覚えがあるんだが……
 …ユーノが怪我した事で落ち着きを無くして、トドメにフェレットに変わったという異常事態で錯乱?
 
 可愛いっちゃ可愛いがマヌケだな。まあいいけど。

「ユーノ大丈夫?」

「とりあえず命に別状はなさそうだ。多分な」

 死ぬんだったらむしろフェレットにならず死ぬだろうし。
 
「とりあえず車一台と運転手セットで置いておいてくれるよう頼んでこい。
 後は撤収してくれていい」
 
 ちなみにアリサ達を乗せたリムジンはとっくにここから立ち去ってるので念のため。
 今残ってるのはアホども収容したトラックとか現場を封鎖してる連中とかだけだ。
 ユーノがフェレットモードだと転移魔法で帰るのは厳しそうだし、足は確保しておかねば。


「怪我人なら俺が治せるぜ?」

 そういえば白魔導師ポジションでしたね、アキラさん。

「頼む」

 ホント回復系の発にしたいんだが放出系じゃなぁ。強化80%まで極められるとは言え、せいぜい自己治癒能力上げる位しか無理だろ、回復系の発は。
 医者並の人体への理解があれば「相手の怪我している部位」を「細胞の増殖などを操作」しつつ「増殖スピードを強化」して「回復」とか出来そうだが、ンな知識はないしな、当然のことながら。

 あ、今考えてる能力なら似たような事は出来るか。
 色々試すかねぇ。制約と誓約は作った後からでも設定出来るみたいだし。

****

うーん、地雷地雷。
まあいいよね、実験だし(`・ω・´)地雷だし!
それはそれとして先に進まないのは勘弁です(´・ω・`)



[14218] 名前決めが難しい(´Д`;)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/11 23:44

 さて、俺らは翠屋に一旦帰還。
 こっちからユーノの魔法で直接飛んだからな。
 それにしてもうちの妹はホントに魔王になる予定なんだろうか? いやならなくて良いけど。
 フェレットになる魔法は一回見ただろう? と尋ねたら顔真っ赤にして俯いてしまった。
 いやまあ可愛いけどね。フェイトは初めてフェレットユーノを見たので喜んで撫で回していた。
 
 ユーノの怪我は腹が抉られて、かなり心地よい風穴が空いた位らしいのだが、流石LALの白魔導師、ヒールタッチで魔力を回復に回さず、怪我状態のユーノの傷をあっという間に癒してしまった。
 で、フェイトとなのはに撫で回されてるうちに気がついたユーノ。ちょうど良いのでそのままバニングス家のSPの車にアキラ以外が乗って、今翠屋の前である。
 フェイトとなのはがフェレットユーノを可愛がってる間、俺はライキを可愛がっていたので問題なかった。
 と、ライキをボールに戻してっと。流石に飲食店だからな。ちなみにユーノももう人間の姿に戻ってる。

「アキラは表から客として入れ。適当に注文してちょっと待ってろ」

「おう」

 からんころん

 さて、俺らは裏口から入りますかね。

「ああ、静香達か。お疲れ様。着替えて来なさい、お茶でも入れよう」

「頼む」

「私は珈琲ね。なのは達は?」

「オレンジジュース!」「紅茶をお願いします」「なのはと一緒で良い」

「分かった」

 で、ひょいっと顔を出してきた赤髪の男。

「高町か。今日から厨房で働かせてもらう事になった。宜しくな」

「…何をしてる正義の味方」

「なんで俺が昔、正義の味方になりたかった事を知ってる!?」

 …まさに厨二病ってか。もう疲れたよライキ…

「…今は正義の味方じゃないと?」

「この年までそんな事本気で言ってたらかなり頭おかしくないか? そいつ」

 なんというお前が言うな。

「なんでまたうちで?」

「なのはちゃん達にも迷惑かけたからな」

 照れたように頭を掻く衛宮。

「衛宮先輩が悪い訳じゃないんですから、気にしなくて良いんじゃ」

「そうですよ、別に衛宮さんが悪い訳じゃないんですから」

 何という良い子達。フェイトは俺の陰に隠れるな。全く。

「まあ良い。松尾さん達に迷惑かけるなよ」

 松尾さんとはうちの厨房を預かるチーフパティシエ。
 うちはお茶系と軽食は士郎、デザート系は高町母と松尾さんがメインで料理を作ってるのだ。
 ちなみに高町母より三歳年下で一児の母。

「お前達は早く客席行ってろ」

「はーい」
 
 買ったばかりの洋服達を控え室に置いて、三人揃って出て行く。
 可愛いもんだね、全く。さて、一応鍵掛けて、と。
 
「この服って動きやすくて頑丈で色々隠せるのは分かるんだけど。
 着づらいし脱ぎづらいよねぇ」
 
「愚痴るな。便利なんだからな」

 ばさぁ…
 シニョンほどくと少し頭が重くなるが、ポニーの方が髪型として好きだしなぁ、俺は。
 ところで天井裏に気配を感じるんだ、こいつをどう思う?
 
 上から覗いたって肝心なトコが見られないだろうに。
 黙っててやるか、俺は。別に見られて恥ずかしいもんでもないし。
 トップレスなんて男なら別に恥ずかしいとかそういうもんじゃないしなぁ。
 男女の機微というか、羞恥心の感じるところがいまいち曖昧だな、俺は。
 
「そこ!」

「ぎゃぁ!?」

 …普段抜けてる癖にこんな事には鋭いんだな愚妹。

「仕事はサボるな、馬鹿が」

 と声をかけておいてやろう。

「もう! 横島先輩! 後できっちりお仕置きさせてもらいますからね!」

「堪忍やー! 出来心やったんやー!」

 なら早く天井裏から消えろと。
 そもそもどうやって天井裏に上ったんだこいつは。
 相変わらず訳の分からないところで妙なスペックの高さを見せつけるな、こいつは。


****

 翠屋ですが空気が微妙です。

 別に騎士王様がウェイトレスしてるのは良いんだ、衛宮がいる時点で読めてた事だし。
 
 ところで、最近増やしたバイトは皆安上がりなんだよな。
 ユーノ→お小遣い程度らしい。まあ衣食住保証だしな。服は恭也のお古とか上げてる。
 横島→マジで時給500円。ただしこっちも衣食住保証だし、セクハラされまくってるから(主に俺が)むしろこっちが金要求してもいいんじゃないかとは思う。
 衛宮・アルトリア→ジュエルシードのせいとはいえ迷惑かけた事、衛宮を助けてもらった恩から翠屋で働きたいとの事。時給700円。安い。ちなみに賄いは一律半額設定なんだが。なんか騎士王様は時給全部賄いに消えそうなイメージだな。

 そもそも殆ど身内だけで回してたんだよね、高町母が意外と人格は兎も角能力面で厳しいから。
 特に気が利かない女はすぐ辞めさせられる。中途半端なバイト入れる位なら俺や美由希、恭也(+たまに忍)だけで回した方が楽らしい。まあ気持ちは分かるが。フィアッセがいた頃はチーフウェイトレスとして頑張ってくれてたんだが今は外国だしな。
 
 うん、現実逃避位させろ。
 俺の隣で子供×3が空気を読まずにきゃっきゃっうふふしてるのは良いんだ。
 向かいの席に座るアキラと、仕事もせんと睨み合ってる横島が悪いんだ。
 美由希はアキラの隣に座って、こっちもケーキを食してる。
 恭也? すずかが心配だという名目で忍のトコ行った。
 
 ちなみに先ほどバニングス家から連絡あってアリサが意識を取り戻した事とアキラにお礼したいから連れてこいというものだった。翠屋にいるから迎えに来いと返してやったが。
 というかデビットのおっさん、わざわざ専用機――コンコルドとか何とか――でアメリカから戻ってくるとか凄いな。娘可愛さとは言え仕事もあるだろうに。
 という訳で、SPの車なりリムジンなりが来るのを待ってる訳だが。
 
「…とりあえず横島、働かないなら追い出されても文句は言わさんぞ」

「でもこいつ――」

「横島?」

「うっす!」

 やれやれ。というかてめぇら(両親)、おもしろがってないでどうにかしろってんだ。アルトリアも興味津々ですって面しない!

「アレがあんたの男か?」

「冗談。ま、あいつやお前じゃなくても、今は誰とも付き合うつもりはない」

 自分が美人の範疇なのは理解するがなんでこうもモテるんだ…鬱陶しい。今の俺にはライキさえいればいいんだ。
 今は翠屋だからボールから出せんしな。あ、公共マナーとして飲食店ではボールから出しちゃいかんらしいよ、ここら辺は。関東や北海道、九州などポケモンがいっぱいいるトコは別らしいけど。

「まあいいさ。誰が相手でも引く気はねぇぜ」

 こいつも押して駄目なら押し倒せのクチか。
 どうせならエミリオ・ミハイロフとかブリジットとか緋雨閑丸とかそういう美少年系なら今からでも受け入れられそうな気はするが、なんでこんな男くさいのなんだ、全く。

「鬱陶しいから引いてくれ」

「やなこった。大体、静香だって口で言う程いやがってないだろ?」

 心読めないとか言ってた割によくもまあ。
 そらゲームの中の主人公でしかなかった人間に直接会えるとかどんなご褒美だよ? それ考えたら多少興奮するのは仕方ないだろう、うん。そもそもLALの主人公の中じゃレイ・クウゴと並んで大好きだったキャラだし、アキラは。
 ところで「そうだろ、松!」をリアルで聴かせてくれんかね。いや口には出さないけど、一度はリアルで聴いてみたい。アニメ化とかしなかったしなぁ…あれだけ神作品な割に発売当時は人気なかったみたいだし。

「お迎えにあがりました、田所様はどちらですかな?」

「こっちだ、鮫島のじーさん。
 この馬鹿が田所晃」
 
「別に礼なんて言われる事はしてねーよ」

 手をひらひらさせながら、心底どうでもよさげなアキラ。まあ本心なんだろうが、それではバニングス家の体面、そしてなにより家族として納得出来んだろ。
 で、こいつは無理を通して道理を突き抜ける奴だからな、援護してやらんと。
 
「アキラ、お前に弟か妹か…まあ両親でもいいんだが。
 家族の命を助けてくれた奴相手に『何もしない』でいられるのか?」
 
 まあ妹がいるのは知ってるんだけどな。
 
「――ちっ。わーったよ、じーさん。車で先導してくれ、俺はてめぇのバイクでついてくからよ」

「畏まりました」

 恭しく一礼する鮫島のじーさん。
 しかしうちの客はよく訓練された客だな。執事がこようがアキラみたいなコスプレ野郎がいようが平気でお茶してやがる。
 まあそろそろ夕飯の時間だが。
 
「美由希、お前がついていって俺たちの方の行動を説明して来い」

「おいおい、そこは静香が付いて来てくれるトコだろ?」

 横島、唸るな五月蠅い仕事してろ。

「私はこれから夕飯の支度をしなければならない」

「はいはい、私がいけばいいんでしょ」

 呆れたというか諦めた感じで立ち上がり、アキラの腕を取って立たせ、引きずるように鮫島の後をついて行く美由希。

「いってらっしゃい、美由希お姉ちゃん、アキラさん」

「また来るぜ」

「二度と来るな」

「仕事しろ」

 何の漫才だこれは。あと横島、わざわざ塩撒かなくてよろしい。
 
「さて、高町母。
 夕飯の買い物して帰るぞ」
 
「はいはい、宜しくね」

「私も手伝う」

「わたしも手伝うの!」

 分かったから店内では静かにしろ。


****

「では今日はハンバーグでも作るか」

 こないだ作った気もするがまあよかろ。
 近所のスーパーで買い物である。
 つーか…所帯じみてるな、俺。小学生の子供三人連れて夕飯の買い物とか何処のヤンママだ。
 しかもなんかハマってるというか、違和感のない自分が怖い。
 
「ハンバーグ好き♪」

「静香さんのハンバーグは美味しいですからね」

「ハンバーグ?」

「挽肉を固めて焼いてソースをかけて食べる料理だ」

 ミッドチルダの料理事情ってどうなってんだろうね。スバルとか日本人が先祖もいるみたいだし、日本料理がない訳でもなさそうだけど。
 ああ、そもそもフェイトは何とか地方って田舎も田舎で過ごしてたんだっけか。

「すっごい美味しいよ!」

「まあ作り方自体は簡単だ。教えてやるさ」

「はい!」

 んー、心開いた相手には素直すぎ、見知らぬ相手には臆病すぎる、と。ちょっと人見知り傾向が強すぎるのは学校行ってないせいもあるかもな。
 …はて、アニメではフェイトはAs編終了後聖祥に編入したよな、確か。
 ………プレシア、どうするんだろうか? 帰るの? いつ?
 しかしこれ、フェイトはこのまま学校も行かなかったら将来的にヤバいと思うんだが。
 今のうちだけだぞ、矯正が効くのは。プレシア達の地元に学校があるなら行かせてるハズだしな。
 今度プレシアに相談する必要があるな。
 
 ……なんで俺が自分の子供でもない子の将来まで心配しなきゃならんのだ。
 思考がブレるというか、女性的になって来てるのか? これは。まあフェイトは確かに可愛いから心配する気持ちが俺の中で発生してもおかしい訳じゃないんだが。
 
「ユーノ、牛乳1パックと食パン一袋持ってこい。
 なのはは好きなアイス、一箱持って来い。
 フェイトはとりあえず付いてこい」
 
 「はい」×3
 
 素直な良い子達だよホント。まあ若干一名中身は子じゃないかも知れんが。
 
「さてハンバーグと…もう一品欲しいか」

 ドリアでも作るか。

「あ、高町先輩」

「こなたか。夕飯の買い物か」

 しかしちびだな、こなたは。
 下手したらなのは達の同年代と見られちゃうんじゃないか?
 まあそれも可愛いといえば可愛いけどな、所謂合法ロリという奴か。

「はい。高町先輩もですか」

「うちの美由希が料理の一つも出来れば私がやらんでも良いんだがな」

「あははは。みゆきちはかがみん以上に料理下手ですからねぇ。
 ところでその子は先輩の子供ですか?」
 
「聖母マリアじゃあるまいよ。なのはの友達でうちで預かってる子だ。
 フェイト、挨拶」
 
「フェイト・テスタロッサです、初めまして」

 おどおどしながらもちゃんと挨拶出来たフェイト。ただし俺の足にしがみつくようにしながら。

「はいはい、泉こなただよー。よろしくね」

 なでなでとフェイトの頭を撫でるこなた。
 一応、絵的には姉と妹程度には見えるが、下手したら普通に同級生だなこいつら。

 世間話しながらもスーパー内を彷徨き必要な材料のゲットの手を緩ませない俺とこなた。
 流石に主婦歴長いだけはあるな、こなた。
 ……そーいやかなたさんって憑いてるのかね、やはり。

「こなたのトコは今日はビーフシチューか」

「高町先輩のトコはハンバーグとグラタンですか?」

「ドリアだな」

「高町先輩の家は人数多いから大変でしょうねぇ」

「ああ、しかも四人も居候が増えたからな、翠屋も繁盛してて両親も忙しい」

「ホント大繁盛ですよねー、私のバイト先のメイド喫茶も顔負けの美人揃いですし」

「否定はしないが別にそれで売ってる訳じゃないぞ」

「あはは。翠屋のシュークリームは絶品なのは分かってますって」

 そして妹――まあゆたかだろう――を家に待たせてるからと早々にレジに向かうこなた。
 入れ替わりでアイスを持ってきたなのはと牛乳と食パンを持ってきたユーノが合流する。

「後は鮮魚コーナーか」

 買い物をするのに一周見回ってから買い始めるタイプもいるだろうが、俺はめんどくさいので欲しいものだけパパっと揃えてしまう方だ。大概、買い物時には子供引き連れてるしな。

 鮮魚と言えば刃物の扱いは上手いんだよな、フェイト。逆になのはの方が包丁持たせるのは怖い。
 ユーノはアホかって位上手い、肉とか魚とか捌くのが。サバイバル知識が豊富らしい。

「で、鮭でも買うか」

 んー、うちの連中は喰うからな。三平汁と後はサラダでいいか。
 野菜はまだあるハズだし。こんなもんかね。
 後は……クッキーでも作るか。小麦粉、そろそろ買い足すか。
 しかし最近は100円ショップとかでクッキーの元とか売ってるから作るだけならホント簡単だよな、誰が失敗するのかってLvだし。つかわねーけど。
 チョコチップクッキーは正義。誰にも譲らないぜっと。
 そういや仕込んでたアレもそろそろか。
 
「これ、何?」

「ポケモンの人形がおまけでついてるお菓子だよ、ほら、箱に写真が載ってるでしょ」

「アルフのはないかな」

「ポケモンは使い魔という意味ではないよフェイト」

 ……使い魔契約ってポケモンと出来るのかな? そうするとライキとかも人間Verとかなれるの?
 すっごい興味津々なんですけど、それ。
 く、俺にリンカーコアがないのがつくづく惜しまれるな。

「静香お姉ちゃん、買っていい?」

 三人揃って上目遣いとかやめろ、可愛いじゃないか。
 お菓子くらいいいけどさ。あ、ライチュウの人形のは俺のだから。
 …これだ!
 とりあえずお菓子コーナーに売ってるポケモン人形(プラスチック製)のお菓子をあるだけ全種買い占める俺であった。
 

****

 さて、夜、0時前後。
 夕食作成を子供達と作ったり夕食後子供達とクッキー作ったりしてから、ライキをお風呂で洗ってあげたり(ゴム手袋填めた上で)、フェイトとアルフと風呂入って覗かれたり、直後、美由希と恭也となのはに吹っ飛ばされた横島を放置したり、夜の訓練に恭也と美由希、横島が出かけたり。

 今、キッチンにいたりする俺。

 発を試す時が来たのだ。
 まずは昨日から朝からずっと水につけっぱなしだった黍(きび)から黍団子を作る、それもずっと材料である黍を周で覆ったままで。
 ミキサーで砕いて挽いて、晒し布で水を切って、砂糖を加えてよく練って――
 まあ詳しい行程はググってくれ。それを黍に周の状態を維持したまま作ったと思ってくれて構わない。

 ラスト、きな粉と砂糖を混ぜたのをまぶして完成!
 で、ここからが勝負だ、発の完成的な意味で。

 まずは出来た黍団子を適当に袋詰めして、外へこそこそと出ていく。
 あ、今はパジャマじゃなく、普通にTシャツにジーンズだぜ。胸が普通じゃないが。自分の身体ながら何という胸。
 まあ今はどうでも良い。
 近くの風ヶ丘中央公園までささっと移動し、ライキをボールから出して、と。

 ボールから出た途端、ぺたんと床に座って眠そうに目をこする、可愛いじゃないか。

「すまんな」

「ラぁイ」

 出来た黍団子をとりあえず味見。うむ、旨い。普通に旨いな、これ。
 とりあえず不味くないのでオッケー。

「ライキ!」

「ライ♪」

 俺が投げた黍団子をぱくりと食べるライキ。
 そして俺が練をする!
 
「ライ!」

 おお、ライキの身体からスーパーサイヤ人的なバリバリが!
 一気に毛も逆立って目つきも鋭くなってる、所謂帯電状態になるライキ。それも普段の帯電状態なんてもんじゃなく、ライキの身体から放電されている余剰電力が火花を散らすように激しく明滅していた。
 
 練を維持したまま、図鑑を向けて状態確認。
 うお! 全能力が六段階(約四倍)アップ状態になってる! 凄まじいな、これ。

「ライキ、動き回れ!」

「ライ!」

 おお、残像が見える程速い! 深夜の公園とは言え爆音を立てて近所迷惑になる訳にもいかんから技の方は試せないが、こいつは凄いな。
 更に感覚の共有が出来ているのがいい。
 ライキの五感を俺も体感出来る。
 
「ライキ! ひとっ走りして家まで戻ってみてくれ!」

「ライ!」

 ライチュウもネズミなので、本気で走る時は四つ足で走る。まあ二足で走ってもかなり速いが。
 それにしても速いな、あっという間に見えなくなった。
 だが、視覚も聴覚も共有出来ているから、ライキの見ている風景や風を切る音まで感じる事が出来た。
 それこそあっという間に家に着くと、テレパシーでも送るつもりでライキにこっちに戻るよう命令してみる。
 
「ライ♪」

 たたたっと、これまたあっという間に戻ってくるライキ。
 ふむ、大方、予想通りの結果か。
 後は実際にどの程度攻撃力があがってるのか等実戦的な事を調べたいが、まあ今日はこの程度かな。

「ふむ…ライキ、身体の調子はどうだ? 違和感はないか?」

「ライライ♪」

 首を横に振るライキ。それにしても戦闘モードのライキは凛々しくて実に良い。

「では練を解くぞ」

 ふ、と吹き出したオーラが纏状態に戻る。

「ライ?」

 きょろきょろと自分の身体を見回すライキ。
 俺の練が解けた事で、発の効果も切れた。これも予想通りだな。
 まあ手間暇掛けただけの効果はある。後はライキ以外で効果があるかも試したいところだ。

「今はどうだ? 平気か?」

「ライ♪」

 気楽に手を挙げるライキ。まあ平気そうだな。
 図鑑で調べてみても異常はなし、と。
 筋肉痛にでもなるんじゃないかと思ったがそんな事もなし、と。逆に制約で使用後のデメリット増やせばもっと強力になるかも知れないが、ライキにそんな事させたくないしなぁ。
 ふむ、人間に使う場合は、という条件で使用後のデメリット増やすとか。
 まあ、横島辺りで実験してからで良いか。
 
「次、行こうか」

 取り出したるはポケモン人形。今日の夕飯の買い物の時のアレである。
 スカタンク、マタドガス、ゴローニャ、フワライドの五体。正直ラインナップが訳分からない。ライチュウ人形は机の上に飾ってあるからここにはない。
 まあそれは良い。

「ライキ、ちょっと待ってろ」

「ライ♪」

 ちょこんと座って、毛繕いを始めるライキ。あーもー可愛いに程があるだろ常識的に考えて。
 
「名前考えるの苦手なんだよな…」

 とりあえず六体のポケモン人形達(全長3㎝前後)のうち一つ、フワライドの人形に周をして。

「はっ!」

 鳴きこそしないものの、本物のポケモンのように動き始めるフワライド人形。
 そのままふよふよと宙に浮いているの思念で命令する。
 
「さて…どうするか」

 とりあえず自在に動かせるかどうか試す。ま、楽に動かせるな、この程度なら。
 続けて視界から消える程度には遠くへ飛ばす。
 そこでフワライド人形を周しているオーラを円の要領で広げる!
 うっく…慣れないと制御自体に相当神経使うな…だが、これで自分自身から離れた場所への円による索敵・偵察が可能になった訳だ。
 ちなみに近所の野良猫が珍しげにフワライド人形にちょっかいだそうとしているが、届かない場所まで上昇したので問題なかった。
 円の半径は今の所、半径10m前後か。俺自身が円した時は半径200mまで伸ばせた事を考えると、劣化してると言わざるを得ないがこれも訓練次第かな。
 うーん、陰の応用で、ポケモン人形自体を見えなくするとか出来そうだが、要修行か。
 将来的には何十体も人形を操作して情報収集したいものだ。
 
 さて、フワライド人形を戻して念を解除。
 人形達と片付けて、ライキを抱えて公園のベンチに座り、余った黍団子をライキと共に食す。
 旨い。が、保存は利かないな、この作り方だと。いっそスモークチーズにでもするか?
 ライキがにょろーんとか言うのか。それはそれで可愛いかも知れんが。

 具現化系が反対側になきゃ念で人形なり作るんだけどねぇ。
 人形以外だと折り鶴とかも考えたけどね、アレっぽくてなんか嫌。まあこんな世界だしパクったって問題はないかも知れないけど。

 ポケモン人形だと効率悪いなぁ。思い入れから念は込めやすいし動かしやすいけど、それだけだし。
 忍に高性能な無線通話装置付きのポケモン人形でも作ってもらうか? いやいやそれだと「大爆発」使用可能ポケモン人形だけ手元に集めた意味がないしな。残りの人形はなのは達にあげたし。

 うーん、最初は火薬詰めて「強化」して「操作」して「大爆発」を再現する自爆可能な探査用念能力のつもりだったんだが、使い捨てだと操作系は厳しいんだよな。かといって爆発能力ないと攻撃力不足する、何より俺自身の。
 これも要検討か。
 今日は火薬なんて用意出来なかったから爆発もさせられないしな、深夜でもあるし。

「さて、帰るか」

「ライ♪」

 ひょいっと俺の体から離れて先を歩き始めるライキ。でっかい稲妻型のしっぽがふりふり揺れて実に可愛い。
 途中、恭也達と合流したが、横島がかなり本腰入れて修行し始めたらしい、良い傾向ではあるが。
 そして同時に美由希に対するセクハラの度合いもあがったらしい、まあお互い奇襲の訓練にはなるからいいんじゃね。

 名前どーすっかなぁ。能力名とか厨二くさいのは考えるのが苦手だし。でも念は名前とか付けないと思い込みとか思い入れとか重要だからな。やれやれだぜ。


****

この世界の衛宮君は別に厨二病患者ではないという話。
聖杯戦争はあったのかなかったのか、とりあえずアルトリアこと騎士王様とラブラブな様子。

一つ訊きたいんですが、日常シーンは多すぎるとやはり嫌気が差しますかね?
料理するシーンとか全面カットしたんですが、ああいうなにげない日常シーンが書くのも読むのも好きなものでして。
でも当然のことながら、話が進まないんですね、そういうの入れてると。

割合が難しいですねぇ。
まあ所詮は好き勝手やるだけなんですけど。



[14218] 主人公っぽくない能力やね(´・ω・`)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2011/01/02 02:23
チートブースト黍団子シンクロ・パートナー

前提条件→材料に周をしつつ黍団子を作成する事。
対象は比較的人間に近い動物か人間でなければならない。

対象に黍団子を食わせ、同時に本体が練をする事で効果発動。
対象の能力を全能力を約四倍まで引き上げ、対象の身体から練のようなエフェクトが発生する。
同時に対象と五感を共有し、テレパシー的な意思疎通が可能になる。
効果時間は堅と同時間。
発動中のダメージは常に対象と本体とで分け合う。つまり、片方が100ダメージ喰らった場合、対象50本体50のダメージを受けるし、怪我した場合も同じ場所に同じだけの怪我を自動で負う。回復する場合も同様に対象の腕を癒せば本体の腕も癒える。
一日に使用出来るのは三つまで。
対象が既に黍団子を食していた場合に追加で食べさせると対象の体力が回復し、怪我も全て回復する。(所謂仙豆の効果)
この追加効果での回復は本体にも影響するが、本体が食べた場合は対象にも本体にも効果はない。

世界は地雷で出来ているワールド・イズ・マイン
 
対象はポケモン(フワライド)を象った人形でなければならない。
対象に火薬を詰めて周する事で発動。本体の任意で爆発させる事が可能な探査機・爆弾と化す。
対象操作範囲・索敵能力・最大同時操作可能数は本体の操作系・放出系技術に依存、爆発の威力は強化系技術に依存する。

なお本体は能力の精度上昇の為、使う人形の種類の限定と、ポケモン人形を「自らの為『だけ』に特注してもらう」事を行う。製作は月村工業株式会社専属の下請け業者に依頼。

フワライドは2,4,6-トリニトロトルエン(TNT)を搭載。
これらは月村家が闇ルートから手に入れたノエルの装備用資材などの横流し品であり、忍と恭也の仲を取り持つ、最低でもジャマしないという協約の元、もらい受ける事が出来た。

****

――名前も付けたし制約と誓約も付けたし、忍のトコにも協力要請は終わった、と。

 学校の授業中。
 正直簡単過ぎるので授業中はひたすら妄想タイムだ。今日は午後から月村家でお茶会だし。
 参加人数は馬鹿みたいに増えてるが。
 月村家の人間、俺とユーノ、フェイトとアルフ、アキラと横島、あと恭也。
 魔法の説明もしなきゃならんし、面倒な事だ。あとポケモン巨大化は勘弁して欲しいところだぜ。
 
 それより近接戦闘系の念能力も一つくらい欲しいトコだよなぁ。
 世界で一番お姫様ワールド・イズ・マイン は戦闘補助用であってガチ向きじゃないし。
 ライキの技のトレースは考えたが正直、アレだ。キルアのイメージが強すぎて電気椅子拷問なんてやった事ない身では怖くて使いたくない。
 オーフェンみたいな近接格闘技術があればこんな悩む必要もないんだろうが。
 …? オーフェンみたく、か。これはイケるか? メモリの残量も余裕だし(誓約と制約付けると一気にメモリが空いた、勿論感覚的なもんだが)試してみる価値はあるか。
 
 あと明日からの連休は温泉行くんだよな、これもアニメと違ってえらい大所帯だぜ?
 高町家+ユーノ・横島、月村家、バニングス家、ゲストにテスタロッサ家+オーフェン、松尾さん一家だ。
 なんという人数、総勢23人もの大所帯だ。よく部屋取れたなと感心する。
 まあ、それはそれとして楽しみではあるのだが、温泉大好き日本人だし。
 
 ん? 横島がこっち見てるな…なんだってんだ一体。
 いや見られてると鬱陶しいんですけど。あ、黒井先生に拳骨落とされた。ざまぁ。
 しかし黒井先生もよくやるな、このご時世に。別に教師が生徒殴る事なんざ悪いとも思わんがね。


****


「ほらほら、乗って乗って」

 忍の家のでかいリムジンに乗り込む、俺と恭也、横島。
 こっちはノエルが運転している。聖祥の方へはファリンが運転しているのを回していて、翠屋の方へユーノとフェイト、アルフを迎えに行ったのはイレインというメイドらしい。
 大丈夫なのかと思ったがまあ大丈夫なんだろう。

「アキラは自分の足で来るって?」

「ああ、月村の家はでっかいから案内はいらんそうだ」

「オノレ…」

 お前のその余裕のなさはどうかと思うぞ、別に俺がアキラと付き合うと決まった訳でもないのに。
 だから車の中で五寸釘をわら人形に打ち付けるな、全く。あ、ノエルのロケットパンチがテンプルを打ち抜いた。
 …どうして生きてるんだこいつは。
 
 …というかやはりノエルはアレか、夜の一族とやらのロボットか。そうするとイレインは間違いなく、ファリンも怪しいなぁ。月村重工は有栖川重工と提携してるんだっけ、そーいや。
 美少年型のロボット作ろうぜ、マジで。もう美少女型は飽きたよ、正直。
 美少年にメイド服着せて恥ずかしがってる姿がいいんじゃないか、全く。
 
 というような事を後で忍に伝えておこう。作ってくれるかも知れん。
 お、横島が復活した。しかし横島、なかなかやるんだよな、主に商売で。まず過日、従業員の制服の案を出した。これが意外とまともだった、というか普通に格好良い。メイド服かと思ったら、逆に俺やセイバーによく似合う『執事服』が一番近いイメージ。メイド服で男狙うより、まず『格好良い女性』で女性客を引っ張ってきて、それに付随してくる彼氏どもに金を落とさせる戦略らしい。
 そもそも俺や美由希、セイバーも普通に美人なのでそれだけで男どもは釣れる訳だし、下手に媚びた服より颯爽としたイメージで、というのは確かに良い案だろう。今までの制服がそれなりに長い間使われてた事もあって、早速知り合いのデザイナーだか服飾家だかに注文したらしい。
 
 後はケーキ類の販売でいくつか案を出して高町母や父士郎を唸らせてるらしい。まあそっちは俺の関知するトコではないのでよく知らんが。

 と言うわけで実は両親からは横島の評価は意外に高いんだよな、間違えて高町母となのはが風呂入ってるトコ覗こうとして肉塊に変わったりしたことはあるけど。
 あとなのはとフェイトも恭也なんかよりよほど遊んでくれる横島には懐いてるっぽい。よく一緒にポケモン(やはりあった携帯ゲーム)とかで遊んでるらしい。
 逆にユーノは苛められてるらしい、なのはやフェイトがそのたびに庇って横島を撃退してるが。非殺傷設定のせいか横島には遠慮なく魔法ぶつけるようになったのは止めるべきなのかどうか悩む所である。
 まあ横島のアレは苛めというかコミュニケーションの一種なんだろうけど。時間があえばユーノと風呂入ったりもしてるらしいし。

 うーん、セクハラ癖さえなきゃまあ確かに優良物件なんだよなぁ。だからそういう機能だけで人を判断するのはイクナイ事だと言ってるだろう俺。自戒せねば。
 好きか嫌いかで言えば好きなんだが、男と女としてはなぁ…こっちも元男として色々思う所はある訳で。
 悩むぜ。つーか嫌えたらいっそ楽なんだろうなぁ。
 こんな事されてもな。

「…止めろよ、恭也」

 人が考え事してる最中によくも尻に手を伸ばせるな。
 というか、俺が集中しすぎてるのか? しかも今に至っても尻を揉む手が止まらないとかどんだけ。

「気付かなかったんだ」

 嘘吐け。

「ああ、その蔑むような視線!」

 とりあえず握力80㎏のこの手で思い切りつねってやる、腹を。
 
「ぎゃぁあああ!?」

 練状態だと軽く壊れるんだがな、握力計が。
 暫くつねったままでいてやろう。
 
「横島様、車中ではお静かに願います」

 無理だと思うぞ、ノエル。
 そして横島の絶叫を響かせたまま、車は一路月村家へ。

****

「何うずくまってるのよ横島」

 流石アリサ、相手が高校生でも格下には遠慮がない。
 一歩下がった背後から、そんなアリサをニコニコ顔で見ている鮫島のじーさん。

「もう、アリサちゃんったら」

 忍と違ってマッドにはならないで欲しいけど無理だろうな、すずか。
 
「よぉ、静香」

 なれなれしく肩に手を置くな、アキラ。

「ライ!」

 ライキを外に出すとアキラに対して威嚇し始めた。嫌いなのか?

「わー、またポケモン増えてるねー」

「凄いねぇ」

 なのはは兎も角、以前とまるで様相が変わってるユーノは驚くこと頻りか。

「可愛い…」

 ニャースとは良い趣味してますねフェイトさん。

「こいつらも良いもん喰ってるねぇ」

 ちょうど餌をもらってるエネコロロを見て、アルフ。
 しかしドックフードをスナック菓子のように袋抱えて食べるのは辞めてもらいたい。

 恭也と忍はなんか二人の世界なんでとりあえず放置。
 
 で、どっから出したのかでっかい円卓にずらっと並んで座る俺たち。
 ちなみにバニングス家の両親も来たかったらしいが、明日の温泉旅行に加えて、誘拐事件でさっさと帰ってきてしまった影響を片付けるのにここに来られなかったんだってさ。

「それではまず――
 魔法の説明からしていくか。ユーノ」

 というかなんで俺が議長とか委員長的な仕切りをしてるんだ、全く。

「はい、初めましての方、初めまして。ユーノ・スクライアと言います」

 魔法世界の事、ユーノの仕事、ジュエルシードの発掘と輸送と事故か事件か、海鳴にばらまかれた事。
 なのはに魔法の力がある事やフェイト達との出会いなど。
 いちいち驚いたり自分には魔法の力はないのかと尋ねてみたり。アリサにもすずかにもリンカーコアはないらしい。二次創作だと結構あるんだがな。まあない方が楽に生きられると思うが。
 
 そういえば今幾つたまってるんだっけか、ジュエルシード。
 えーと、まず最初にユーノと出会った時に二つ、後はオーフェン達と初めて会った時のが一つ、横島にバレた時のが一つ、サッカーチームのアレが一つ、衛宮に取り憑いたのが一つ。誘拐事件の時のが一つで七個か。
 プレシア達も勝手に拾ってる可能性もあるが、今日ここで何かしら起これば八個かな。

「まあジュエルシードはもう全部集まってるので、皆さんにご迷惑をかける事はないと思います」

 マテ
 
「いつの間に集めたんだ?」

「なのはや静香さん達が学校行ってる間に、フェイトとアルフ、プレシアさんとリニスに頑張ってもらいました。
 僕が構成した広域探査魔法をバルディッシュ達にインストールしたので楽勝だったみたいですね」
 
 この野郎、こっそり『前回』ジュエルシードがあった場所をフェイト達に探させてやがったな!
 という事は今日ここで猫がでかくなる事も温泉で見つかる事もない訳か。
 キサマなんか一晩中抱き枕の刑だちくしょー! なのはとフェイトに嫉妬されまくるが良いわ!

「なんだ、じゃあもう問題ないのね」

「ジュエルシードね…ちょっと調べてみたいけど、駄目なんでしょう?」

「良かったね、ユーノ君」

 ちょっと寂しそうななのは。きっと自分よりフェイトの方がとか考えてるに違いない、愚妹め。
 しかしまあ、実際暇なフェイトの方がユーノとしても効率的に動かせるのは確かなんだよな、どうしたってなのはは学校とかあるし。

「ありがとう、なのはのおかげだよ」

 心底そう思ってるんだろうなぁ、ユーノは。なのはがどう思うかは別にして。

「ううん、フェイトちゃん達の方がいっぱい集めたし――」

「なのはの、おかげなんだよ」

 すっとなのはの手を握るユーノ。天然ですか? 計算ですか?
 姉ですが周囲の空気がピンクです。
 
「ユーノ君…」

 お前ら小学生だろうが、自重しる。

「ユーノ、私、いっぱい頑張ったよ?」

 ぐいっとなのはを押しのけるようにユーノの手を取るフェイト。

「うん、ありがとうフェイト」

「――で、これからユーノはどうするの? 帰るの?」

 アリサのいらだたしげな声。気持ちは分かる。そして横島は五寸釘とわら人形はしまえ。

「プレシアさん――フェイトの母親です――にも訊いてみましたけど、次元空間が大荒れみたいですから当分帰れませんね、スクライア一族としてはとっとと管理局に買ってもらって現金に換えたい所ですが」

 両腕をなのはとフェイトに取られながら肩を竦めるという器用な事をするユーノ。明らかにほっとするなのは。
 さて、嘘かほんとか? まあどのみちジュエルシードが片付いたなら闇の書どうにかしないと落ち着かないだろうけどな、俺もユーノも。
 ンでアキラは難しい顔してるな、これは後で何か言われそうだ。まあ今のユーノが嘘八百吹かしまくってるとしても驚くには値しないが。
 
「とりあえず僕からはこれ位ですか。何かありますか?」
 
 とりあえず一瞥くれて黙ってろとアキラに伝える。通じてるかどうかは知らんがここでユーノに訊く気はないらしい。
 というか横島とガンのつけ合い飛ばし合いの最中。どーせ横島がアフォな事考えてたせいだろうな。

「そういえばプレシア達はどうするんだ? ミッドの方へ帰るのか?」

「母さんが(第97管理外世界)ここが気に入ったから暫く居着くって。
 学校も、行かせてもらえるんだ」
 
「ふむ、それでは編入試験頑張れとしか言えんな」

「心配いらないわ、あたしとすずかで完璧になるまで教えてあげるから!」

「え、わたしも教えるの!」

「なのはちゃん、最近成績下がってるじゃない…ユーノ君と仲良いのは分かるけど、ちゃんとしないと。
 フェイトちゃんと一緒に教えてあげるからね」
 
「全く、恋愛もいいけど学生の本分は勉強なんだからね!」

 しかしモラル意識の高いお子様達だこと、無謀にもアキラに喧嘩売ってのされてる横島にも見習って欲しい位だわ。
 だいたい読心術がある以上、普通の速度でしか動けない横島が勝てる訳なかろうに。
 
「ライ!」

 横島を庇うようにアキラの前に立ちふさがるライキ。分からん関係だなぁ、ライキと横島も。
 俺の命令とか夜這いの時とかは容赦ないんだが。あと横島もあれだけされたら含むトコがあってもおかしくないのにな。
 
「ちっ、動物苛める趣味はねーんだ」

 律儀にもヒールタッチで横島を治すアキラ。一瞬金色に染まるアキラの姿は流石に超能力っぽいな。

「ところで温泉行くそうだな」

「耳が早すぎるにも程がある」

「俺も連れてけ」

「今から予約は変えられない」

「よし、横島を入院――冗談だ」

 まあ入院でもさせておいた方が平和なのは否定しないが。

「まあ、今回は諦めるさ。お土産宜しくな」

「さりげなくないからな」

 すっと手を伸ばして引き寄せようとするのを躱す俺。なんでこんなナンパなんだ、アレか惚れたら人は性格かわるのか。

「さて…仕事手伝わねばな。横島、帰るぞ」

「うっす」

 ライキと一緒に他のポケモンと追いかけっこをしてた、させられてた横島が急ブレーキと共に返事。
 そして追いかけるのを辞めるポケモン達とライキ。良く訓練されてるなぁ。

「なのは達はゆっくりしていけ」

「はーい」

「わかりました」

「分かった」

「お腹空いたねぇ。肉はないのかい?」

 アルフ自重。プレシアがああだからか知らんがアルフが本能優先で生きてる気がするな。
 可愛いといえば可愛いけど。
 で、お子様達は屋敷の中へ入っていき、俺らはでかい門の方へ。
 今日は夕食なにすっかねぇ。


****

ジュエルシード編、完ヽ(´ー`)ノ
有能な人は実に有能だった、人使い的な意味で。
だいたい設定したはいいけど使うのかもあやしい。
温泉行ったら闇の書片付けてフリーシナリオ突入ですかね。



[14218] なんかこう書いてて違和感が…?
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/19 23:03
 こちら高町家他貸し切り専用バス車内ですが五月蠅いです。
 
 大人連中は酒も軽く飲み始めてるし、子供達+横島はわいわい五月蠅いし。
 美由希と恭也と忍、衛宮とアルトリアは比較的静かだが、放っておくべし。
 俺は騒ぐ気にもならないのでライキを腹に抱えて寝てる。こういう時は貸し切りだから便利だよな、バスの中で座席を全開まで後ろに倒しても文句言われないのは。
 
「らぁぃ」
 
 ぽわっと欠伸をするライキ。着ている服にアホみたいに強力な静電気対策施してるから全然痛くない。月村工業の新技術の実験台なのでタダでもらった。デザインが無難、色も濃い青なので問題ないが、俺の場合、胸の部分がすぐに伸びてだらしなくなるのが玉に瑕だな。販売される時は安く買えるといいんだけど。
 
 しかしライキは暖かいな。ぷにぷにのもふもふだし。
 アルフは今、人型でドッグフード食べてるのでもふもふ出来ないのだ。
 
 念能力を生かす意味でもせめてもう一体はポケモン欲しいなぁ。ムクホークとかギャラドスとか。
 ギャラドスって常時宙に浮いてるイメージだが鱗が乾いたり生臭かったりしないのかな。
 ライキはちゃんと清潔にしてるからかあんまり獣臭くないんだけど、マタドガスとか凄そうだ。
 オオスバメとか足でトレーナーの肩捕まえて空飛んでる漫画があったけど、すげー痛くね?
 あとオオスバメって平均全長70㎝だから無理じゃね? とか思ってたらこの全長って嘴から尻尾までの長さであって、足から頭までの高さとか羽を広げた時の端から端の長さとかは関係ないんだってな。
 だからシラサギとカルガモが同じ平均全長60㎝とかになる訳だ。初めて知った時は目から鱗だったわ。
 対してムクホークは1.2mなので、ゲットするならムクホークがいいなぁ、上に乗れそうだ。アニメでは普通に乗ってたし。
 
 手持ちを増やすと言えば海鳴ではポケモンゲットは買うしかないが、前世での影響かあんまりポケモンを買うとかしたくないんだよね。ネット通販もあるけど。
 あとパチンコ屋でポリゴンゲット出来るかと思ったら出来なかった。というか、トレーナー資格とは別に、猟銃所持的な免許が必要なんだと、ポリゴンとその進化形は。勿論、電脳犯罪対策である。
 諾なるかな。ポリゴン一匹手懐ければそれだけで美味しいもんな、犯罪的に。
 他にも色々ポケモン所持に関する法律とかがあって、もらったポケモン図鑑には一匹ずつどんな対応法律が配布されてるとかも書かれてる。
 ゲームのようにはいかないねぇ。

 あとポケモンバトル(勿論ゲームではなく現実のスポーツとして)をネットで見たけど、トサキントとかネオラントとか、所謂魚類系は水フィールドじゃないとバトルしないらしい。宙に浮くのはゲーム的演出で、何処でも戦闘出来るのもゲーム的バランスの問題なんだろう。
 よって、無制限ポケモンバトルだと飛行系と陸上を普通に走れるポケモンが人気で、前述のネオラントやケイコウオなどはペット感覚で金持ちの池にいる場合が多いらしい。
 余談だけどチャンピオンはレッドさんだった。日本人の名前じゃねーよとか突っ込んではいけない、今更だから。もしかしたらリングネームとかかも知らんけど。

 それにしてもライキは可愛い。暖かい、眠い……
 
 ぐう。 
 

****

 海鳴一の温泉旅館、海鳴温泉『鶴来屋』に到着。
 仲居さん達がずらっと並ぶ中、バスから降りて中へ入る俺たち。横島や衛宮が挙動不審なのは根が庶民だからなんだろうなぁ、高そうだし。
 そしてなにより女将が俺らと殆ど大差無い柏木千鶴さんっていう方だし。
 
 まあいいや。気にしない方が幸せになれるってばっちゃが言ってた。
 ま、兎も角ノエルの運転するバスが到着したのが昼前だったのでそのまま昼食へ。3Fの小さい方の宴会場にずらっと山海珍味が並ぶ様は流石に絶景だった。アルトリアが呆然とする程には。

 後は昼過ぎだというのに飲めや騒げやの大騒ぎ。高校生に飲ますな、衛宮は酔うと抱き癖でもあるのかアルトリアにずっとひっつきぱなしだった。それを物ともせず食べ続けつつ衛宮に飲ませて食べさせるアルトリアパネェ。
 父・士郎とデビットのおっさん、それから鮫島のじーさんと松尾さんの旦那さん、オーフェン、横島と恭也は普通に飲んで騒いでる。しかしオーフェンが普通に食事してる様というのは違和感があるな。
 アルフはフェイトと隣に蟹の甲羅割ったり食べ方の分からない料理を教えてあげたりしてる。意外と食い物の事はフェイトより詳しいアルフであった。
 フェイト隣に座るユーノとなのはもピンクな雰囲気にはならず、すずかとアリサとお喋りしたり、松尾さんの子供(5歳)に食べさせてあげたりと楽しそうである。

 その様を余すトコなくビデオに撮るリニス。
 余談だが車中、フェイトが結界も張らないでフォトンランサー乱れ撃ちした件でリニスに偉く怒られていた。管理局法に触れるとか何とか。そもそも先に結界張るべきとか。まあ終わった事でもあるし、アリサが謝ったりしたからそれで話は終わったが。まあわざわざアリサの前で説教する辺り、甘いと言わざるを得ない。
 その間プレシアは若さを保つ健康法について高町母と松尾さん、忍と美由希に対して大いに語っていた。
 魔法を使うと云々でなのはにも教えてやってくれとかどうとか。
 俺は寝てたので後から聞いた話だけどな。

 俺か? 酔って横になってる。
 前世では酒豪とまでいかないまでも普通に飲める人だったから完全に不意打ちだったわ。ビール一杯で頭がくらくらする。一方ライキは湯水のように日本酒の辛いの飲んでいた。大丈夫なのか知らんが楽しそうにライライ歌まで歌う始末。子供達大喜び。ほっぺが真っ赤になって可愛いったらありゃしない。俺は気持ち悪いが。
 ところでポケモンの技・歌うの「命中率」が50%なのは納得いかない俺であった。
 どうでも良い事は兎も角、マジで頭くらくらするというか意識が朦朧とするというか。トイレでリバースするべきか?
 こんな弱いとは思わなかったぜ。
 
「あの、大丈夫ですか?」

 従業員であろう兄ちゃんが料理運んだ後、声を掛けてくる。

「大丈夫だ、放っておいてくれ」

 大体顔が熱くて真っ赤になってるんじゃないか俺。どんなに驚こうと殆ど無表情だった俺が。
 むう、なんか恥ずかしくなって来たな、後で横島の携帯は破壊しておかないと。

「そうですか。薬もございますので、何かあったらお呼びください」

「ありがとう」

 一応礼は言っておく。
 出て行った後でやっぱり巨乳がとか言う言い争う声は聞こえなかった事にしておいて。
 身体を起こして…水を、水、水……

「はい、静香お姉ちゃん」

「ああ、ありがとう」

 水が旨いよ全く。
 酒弱い奴に飲ませるのはイヤガラセだという事を実感で知ったわ、全く。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、まあこんなに自分が酒に弱いとは知らなかったが」

「無理しないでね」

 わらわらと集まる子供達。可愛いのぅ。というかこいつら子役として俳優にでもなったらいいんじゃね。美形過ぎて笑うんだが。将来的な意味でも。

「ちょっと動かないでくださいね――妙なる光よ」

 辺りを一回り見回してから、小さく呟いて手をこちらへ翳すユーノ。翠の光が俺の周囲を覆うように小さく輪を作り、消えた時にはさっきまでの不快感は何処へやら、気分爽快である。
 
「驚いたな、もう大丈夫だ」

「うちの一族は飲兵衛が多いんでこういう魔法も需要があるんですよ」

 まあ傷を癒せるなら応用で肝機能とかブースト出来るんだろうな。生活に実に優しい、魔法ウラヤマシス。
 
「ありがとうユーノ」

「あー!?」

 ちゅっと頬にキスしてやる、と目をつり上げてユーノの引っ張っていくフェイトとなのは、そして今度は真っ赤になったユーノ。

「ユーノ君はなのはのなの!」「静香でもユーノは渡せない」

 そして呆れるアリサに平然とニコニコしているすずか。
 ユーノからかうと面白いなぁ、普段は兎も角、こういう事の耐性なさ過ぎる。無限書庫なんかに何年も籠もってたから女性との触れあい少なかったのかもな。なのはとは(設定的には)一週間に一度は直接会う位には連絡取ってたようだが。
 
 む?
 
「天ちゅぅぅ!」

 横島の飛び蹴り!
 
「ラぁイ!」

 ライキの電光石火!

「ぐはっ!?」

 ホントに速いな、これ。実質的には単なる体当たりなんだが。
 横島と折り重なるように床にダイブしたライキはそのまま横島にしがみついた。何がしたいのか、稲妻型の尻尾でぺしぺしと横島を叩く。痛くはなさそうだが。
 
「オノレユーノ許すまじ! 放せライキ! この世の不条理というものを――」

「黙れ」

「はい」

 何という弱さ。

「ユーノのおかげで食事ももう少し取れそうだ。付きあえ」

「イエッサー!」

 ライキは横島の腹にしがみついたまま尻尾まで身体に巻き付けて寝始めた。
 オノレ横島め。

「もう! 忠夫お兄ちゃん、ユーノ君を苛めちゃ駄目!」

「いじめは駄目なんだってリニスが言ってた」

「分かったから散れ。飯が喰えん」

「おう、ガキども。温水プールがあるらしいから行くか?」

 オーフェンが例によって黒ずくめなんで雰囲気がめちゃくちゃ違和感感じるようになってるな。
 こいつは酒飲んでないっぽいな。まあ暗殺者として躾けられてる訳だから飲まないだけかも知れんが。
 
「いいじゃない、行きましょ!」

「水着も持ってきてるしね」

 スク水なのかなとか一瞬思った。そして、ふと思う。
 俺も夏の体育でスク水着るのか? このバスト101㎝Iカップで?
 自分の事ながら何という違和感。むしろコスプレのようだ。まあエロゲのヒロインなんてみんなそんなもんなのは否定出来ないが。
 今日は俺はプールは最初から興味の範囲外だったから用意しなかったけど、風高の指定水着ってどんなんだ。
 いやどんなんでもこの胸一つでエロいんだが。まあ腰も足も綺麗な自信はあるがこういう風に考える辺りそろそろ元男としては終わってる感があるな。

 …というか今気付いたが頬とは言え、ユーノにさらっとキスしてる辺りもう終わってるな。
 考えても仕方ないからやくざでも弄ろう。

「しかしオーフェンが子供の引率とはな」

「俺は子供好きのナイスガイなんだ」

 はいはいと軽く流すと、荷物を置いた部屋へ移動する子供達についていくオーフェン。

「アルフはいかんのか」

「泳ぐなんて何が楽しいんだい?」

 まあ心底不思議そうですな。狼ってどうなんだろうね、水入るの。
 
「静香ちゃんは――」

「水着がない、入る気もない」

「ですよねー」

 くっと涙を払う横島。そして八つ当たりのように料理に手を付け始める。
 
「ウマいウマい」

 しかし腹をライキに抱きつかれたままよく食べられるな。ちょうど胡座かいた横島に対面の形で横島の足に座って抱きついている。小さく寝息が聞こえるとか酒に酔って頬が赤いとかもー可愛いにも程があるな。

「落ち着いて喰え馬鹿者」

 ん、恭也達は酔い覚ましかデートか、どっか行くみたいだな。
 衛宮はセイバーに抱きついたまま寝こけてるし。

「ふむ、食事を済ませたら散策でもするか」

「付き合うっす!」

「要らん。独りにさせろ」

「えーえーえー」

 ウザい。
 縋り付く横島を軽く投げ飛ばそうとしてライキが寝てるのでそれもならず。
 とりあえず頭引っぱたいておいた。

****

書くペース自体はそう大差ないんですけど、年末という事もあって書く時間自体を取りづらくなってきましたね。
温泉編はまだ続きます。



[14218] かよ子さん大好きです(`・ω・´)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2011/01/02 02:29
「ホントにこんなトコに泊まれるの? カーメンマン」

「マジだって」

 横島と玄関付近の土産物屋を冷やかしていたら、聞き覚えのある名前、というか声。
 思わず振り向くとミイラとジェイソンっぽいのとうさぎのぬいぐるみが受付で手続きしていた。
 …フロシャイム海鳴支部ってあるのか? もしかして。
 
「はー、静香ちゃん怪人っすよ怪人。海鳴じゃ珍しいっすね」

 海鳴じゃって事は日本全国普通に存在する訳かあいつら。という事はサンレッドとかサキューンとかアバシリンとかもいる訳か。
 どうせいるならゴルゴムとRXにして欲しかったがあいつらはマジでヤバいので(今更と言えば今更だが)いなくてもいいや。

「俺が小学校の頃大阪に住んでたんすけど、ヤスシーンとかロッキーマンとか結構いましたよ、色々と」

 その名前は色々ヤバいんじゃないのか。

「海鳴にはいないのは何故だ?」

「さあ?」

 怪人が住むには危険な街とかか。まあ分からんでもないが。
 しかしその割には普通に温泉に来てるとかよく分からんな、まああれらは原作からしてよく考えると訳分からん設定だったが。
 しかしアレだな。ぬいぐるみが普通に怪人と一緒に動いてる姿を見ると実にシュールだ、こんな世界では本当に今更だが。

「まあ良い。ぶらつくか。近くに足湯が湧く川があるらしい」

「了解っす」

 あいつらは本当に悪事とはほど遠い悪の組織だからなぁ。
 

****


「足湯もなかなか気持ちが良い」

「そーっすね」

 と言いつつ胸元に視線釘付けなのは…もういいや。熱くなってきたから一つ上脱いでキャミソールだけな俺も悪いんだし。
 俺の巨乳でキャミ着ると凄いぞー薄着だとバーンって感じ。いや何のことだか分かりませんが。
 そして胸の下、臍の上辺りがすーすーするんだよね、裾を仕舞いきれなくて。無理に仕舞うと伸びるし。旅行から帰ったら服を大量購入するかなぁ等という事は兎も角、俺も前世じゃ巨乳には釘付けだった事だし、見るくらいは許してやるから鼻の下を伸ばすなみっともない。
 しかし見る側から見られる側にシフトチェンジとかどんなギャグだ全く。
 
「らぁい」

 足湯に身体全体浸すように仰向けで寝てるライキ。気持ち良いのは良いんだがこれはどうなんだろうな公序良俗的には。
 温泉に猿が入るのは認められてるんだからポケモンも有りなのか? そもそも「足湯」というカテゴリー付けだって人間が勝手に決めたもんだしなぁ。
 とりあえず俺ら以外が来たらボールに仕舞えは良いか。
 川の一部を石で囲ってるだけあって動物が入る分には誰にも文句言われなさそうだしな。
 感電に対しては十分気をつけないといけないが。

「少しは強くなったか?」

「全然強くなった気しないっす。恭也はおろかなのはちゃんにも負けてますよ、俺」

「なのはのは魔法だからな、文字通りの意味で土俵が違う」

「でも徹は教えてもらったっすよ。なかなか上手く出来ないけど」

「ふむ」

 やっぱ才能あるんじゃねーか。
 もう徹とかどんな冗談だ。
 
「あと飛針は兎も角、鋼糸は結構上手く使えるっぽい」

「鋼糸の方が扱い難しいと思うんだがな」

「どうも威力が出すのが難しくて、飛針は」

「ライライ!」

 がばっと跳ね起き、大きく天を仰ぎ耳を立てるライキ。
 同時に俺が勢いよくバックステップで足湯から抜け、横島がびりびりと痺れる。ライチュウが臨戦態勢に入ると空気中の静電気を吸収して電気をため込むのだよ。

「ぎゃあ!」

 叫びながら転げる馬鹿は置いておいて空を見上げると、真っ白いハングライダーが落ちてくる!
 ってよく見るとアレは――シルクハットにタキシードが真っ白、モノクルだと!?
 そーいやルパン三世もいるらしいねこの世界! あれは間違いなくアレだろうけど!

 黍団子を放りライキが食べると同時に練!

チートブースト黍団子シンクロ・パートナー

 素早さも跳ね上がってるライキの行動は、その全身が光り輝いてる事もあってまさに電光石火!

 同時に試作品のフワライド人形三匹に周!
 世界で一番お姫様ワールド・イズ・マインでアレを撃墜した奴の出方を探る! ひゅんっとフワライドらしからぬ速度でハングライダーの飛んできた方向へ飛ぶフワライド人形。

「ライキ! 身代わり!」

「ライ!」

 念で出来た人形のような『身代わり』が四つ足で大地を蹴って前方十数m先に墜落せんとするハングライダーを受け止め――
 
「電磁浮遊!」

「ライ!」

 飛び上がりハングライダーの搭乗者――キッドを受け止めると、そのまま『身代わり』が浮遊し勢いを殺す!
 そして同時に俺の側でふよふよと宙に浮かぶライキ。尻尾をプロペラ回転する事でゆっくりと動く事が可能らしい、高速移動する時はリニアの如く電磁力を操作してかっ飛ぶように動けるらしいが、浮遊中でも。
 まあゲームのように浮いてる時と浮いてない時とで全く同じ行動が出来る訳ではないという事か。

 勢いを殺し切ったらハングライダーの装着ベルトを全て『身代わり』の尻尾から放つアイアンテールでぶった切ると、どさりとハングライダーが河原へ落ちた。
 
「そのまま連れてこい!」

「ライ!」

 それこそあっという間に宙を滑るようにキッドを運んでくる『身代わり』。
 俺の目の前で止まり『身代わり』が消えると、とさっとキッドの身体が河原に落ちる。
 足切れかかってますな、これ。そのせいだろうが意識も失ってる。
 何という非現実感溢れる光景。キツく縛ってるせいか出血は殆どないけど、これそうとう上手く縛ってる、のか?

 そして俺を扇の要にセンター、ライト、レフト方向へ200m程まで飛ばしたが動植物以外反応なし。川を隔てた向こう側の森の方から飛んできたんだと思うんだが…

「うわ!? 何すかこれ!!」

 驚くのは分かるが隣のクラスの奴だぞ、とは言わんでおく。
 あーもー仕方ない。

「ライキ、喰わせろ!」

 練状態で俺が近づくと精孔開いちゃうかも知らんからね、ライキに黍団子を投げ、ぷっくりお手々(ただし発光している)で器用に受け取るとそのまま手ごと食べろと言わんばかりに、ライキの手が黍団子を口に突っ込む。

チートブースト黍団子シンクロ・パートナー

 横島の前で見せるのもなぁ、とは思うが仕方ない。
 キッド――黒羽快斗の身体が練状態になるのと同時にもう一つライキに黍団子を放る。
 そしてもう一度口に手を突っ込むように食べさせるライキ。どうでもいいけど直径2㎝ほどの黍団子を丸呑みってのもなかなか難儀な気がする。大きさ方が纏まりやすい作りやすいからなんだが、こういう時は小さい方が良いかもな。

「おおお!?」

 横島が驚いてるがそれも当然か。切れかけてた足が繋がったんだからな。
 練を解くと同時にライキとキッドの状態も元に戻る。
 
「ライキ、騒ぐ!」

「ライライ♪ ラーイ♪」

 俺ですら思わず耳をふさぐ程大音量で『騒ぐ』ライキ! てかマジ五月蠅い!

「のぉぉぉ!?」

 耳を押さえて叫ぶ横島、だが気にしない!

「――っっ!?」

 余りの五月蠅さに跳ね起き、俺達の姿を見るや大きく跳躍するキッド。
 起きると同時にライキをボールに戻す俺。ポケモンは騒ぎ始めると数分騒ぎ続けるからな。
 一度ボールに戻せば落ち着くらしい。
 元々、ボールに入るのは生命危機に陥った時の緊急避難なんだってな、ポケモンの生態研究者が手違いでポケモンを瀕死に近い状態にしてしまった時、たまたま側にあった箱だかにちっちゃくなって入ったのがポケットモンスターの名前の由来だとかなんとか。だからか大概のポケモンはボールに収めてしまえば大人しくなるんだよね。
 
「怪我なら治しておいた、速く逃げるんだな、キッド」

「え!? こいつが怪盗キッド?!」

 横島気付いてなかったんかい。

「ハングライダー自体は壊れてなさそうだからな、飛ばしてやる」

 あ、世界で一番お姫様ワールド・イズ・マインに反応あり。人、なのかこれは? 明らかに3mはある人型とその肩に座る子供、だろうな。
 やけにゆっくり歩いてるな、尤も歩幅がでかいから遅いって訳でもないんだが。
 まあ片足千切れかけててあんなので飛び上がったからって逃げ切れるもんでもないって分かってるって事か。実際、気絶して落ちたみたいだしな、ハングライダー自体は特に損傷ないみたいだし。
 
「追っ手が迫ってるぞ、早くしろ。ライキ!」

 もう一度ボールから出し、ハングライダーを取りに行かせる。

「ライ!」

 たたっと四つ足で走るライキ。可愛いのぅ、こんな時だが。

「え、捕まえないんすか?!」

 そういや犯罪者だっけ、キッドは。
 まあそんな事はどうでもいい。と、念弾をふよふよとキッドの前へ飛ばす。
 
「知り合いなんでな、怪我人でもあるし捕まえる気はない」

「っ!――失礼、美しいお嬢さん。
 貴方の言う通り追われているのです。お礼もせずに消える事、心苦しく思いますが――ではっ!」
 
 ぽんっと煙玉がはじけたかと思うとその場から消えるキッド。すげぇ、とっさに目に凝をした俺でもどうやって消えたか分からなかったぜ。

「ライキ、戻ってこい」

 軽々とハングライダーを頭の上に担いだライキが、ぽいっとハングライダーを投げ捨て戻ってくる。
 アレ、誰が処理するんだろうな? 俺は知らんぞ。

「けっ、きざな奴」

 横島の一番嫌いそうなタイプだよな、特にキッド状態の快斗って。まあ幼なじみの彼女持ちってだけで横島としては不倶戴天なんだろうが。
 
 まあ兎も角、 『念能力者ではない対象が、この能力(チートブースト黍団子シンクロ・パートナー)によって念に目覚める事はない』という事はほぼ確定だな。
 文字通り目の前を念弾がちらちら飛んでて視線すら動かないとか、目覚めたばかりならまずあり得ん。
 制約掛けた時はすっかり忘れてたんだよね、『非念能力者に黍団子喰わせた場合』の事。まあ無意識にでも『むやみに念能力者を増やすべきではない』と考えたんだろうけどな、俺的に。
 
「しっかしキッドがなんでこんなトコに落ちてきたんや?」

「それはこれから来る追っ手が説明してくれるだろうよ」

 そろそろ川向こうの森から姿を現すころだ。
 もう調べる必要もないので大きく迂回させるようにフワライド人形たちを戻るよう操作する。

「追っ手?」

「盗みに入って成功したのか失敗したのかは兎も角、警備に反撃されたからああなったんだろうさ
 ――兎も角…足湯という気分でもなくなったな」

「っすね」

「らぁい」

 ライキも良い気分だったのを害されたのが残念そうに口元に手をやる。
 そしてライキが身体をぶるぶると震わせて水を払った時、川向こうの森から姿を現したのは――

「あら、なのはのお姉様だったかしら? 御機嫌よう」

 川のこちら側からあちら側まで十数mあり、しかもあちらは土手の先がそのまま森になっているような高さ、対してこちらは川辺である。自然見上げるような形で、その少女を見やる。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。なのはの同級生で――恐らく腰掛けてる巨大な物体、バーサーカーのマスターであろう少女。
 そーかー…こんなのに迎撃されてよく生きてたな、怪盗キッド。流石だぜ。





[14218] 遅れてごめんなさいなんです(><)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/30 19:03
 エステ気持ち良いわぁ。
 前世が男だったからこういうものとは無縁で過ごしてたが、こりゃ気持ち良いわ、正直舐めてた。
 
 イリヤとバーサーカーと連れだって鶴来屋まで戻った後、玄関先で鉢合わせた恭也と忍、美由希に誘われ、忍と美由希の三人でエステに。横島はイリヤ、バーサーカーと恭也と一緒に子供達がいるプールの方へ。
 それにしてもバーサーカーに驚かないとか恭也や横島も含めてこいつらの頭の中は一体どうなってるのか。
 鶴来屋の従業員も普通に対応してるし…驚いてる俺が馬鹿みたいじゃないか、全く。
 


「エステも終わったし、夕食まで少し間があるわね…露天温泉の方、行ってみる?」

「良いだろう」

「混浴とかじゃないよね?」

「見られたって減るものじゃなかろうよ」

「そういう問題じゃないでしょ! もう静ちゃんはそういうの気にしなさ過ぎ!」

 別に裸見られても死ぬ訳じゃないしなぁ。前世と違って粗末なものぶら下げてる訳でもないし、いや何のことだか分かりませんが。

「だいたい混浴じゃなかったら横島のアホが覗きに来そうではあるが」

「恭也が一緒にいるんだから大丈夫でしょ」

 ふむ、ならば大丈夫か。
 念能力に関してはもう教えてやるしかないだろうと割り切って教える事にしたが、文珠って念で作ろうとすると凄まじい才能が必要な気がするんだが、どんなもんだろうな。
 とりあえず、先ほどは旅行から帰ったら教えてやると茶を濁した訳だが、そんな事に気を取られて覗きをしない男でもあるまいし。ま、まだ恭也を出し抜ける事もないだろ。
 
「あ、そこの人、露天風呂は何処?」

 忍が重ねた膳を運んでいる従業員に声を掛けた。

「へい! 今案内させやす! マーイク!」

 うーん、角生やした赤ら顔の異国人、ちょっと太め。こんなのが従業員というのもアレだな…というかこいつ、赤鬼トムだろ。プロレスはどうしたんだ。
 
「なんだい兄さん?」

 ひょいっと掃除中の札を掛けた部屋から出てくる、ひょろながのこれまた異国人、どちらもアングロサクソンだな。
 そしてこいつは角が二本。うん、青鬼マイクだね。
 意外と声が渋いな、Cv二○一○ってか。

 しっかしこいつら、異人さんのくせしてやけに浴衣が似合うなぁ。
 日本に染まりきってるわ。
 それにしてもどうして忍も美由希も平気の平左で対応出来るだろう…普通に外国人が従業員してるってだけで俺なんか吃驚なんだが。
 
「このお客さん達を露天へ案内して差し上げろ!
 俺はこれを片付けなきゃならん!」
 
「分かったよ兄さん。さ、お客様方、こちらです」

 きっとこいつら、貧乏してたトコを千鶴に拾われたかなんかしたんだろうな。
 アースクラッシュトーナメントも終わったしなぁ。モモタロウマジパネェ。1000年生きたシュテンドルフも凄まじいが。
 
 てくてくと施設案内をしながら歩くマイクの後ろをついて行く俺ら。
 茶室もあるんか、凄いな。
 そういや和服も着てみたいかも。せっかく美人になったんだし。あ、年始には振り袖着られるのか、なのはとか美由希も着てたしな、原作では。
 それにしてもプールは屋上にあって、海を一望出来るとか金かけてるなぁ。
 …前世じゃこんな高級なトコついぞ縁がなかったからなんか逆に落ち込むぜ。
 
「こちらでございやす。ではごゆっくりどうぞ」

 一礼して去っていくマイク。いや礼儀正しい外国人だわ。
 とても兄貴と一緒に下着ドロしてた奴とは思えん。女将の教育のたまものか?
 あー、そういや黒鬼ジョニーは見かけなかったが…きっといるんだろうなぁ。
 
「さー露天風呂よー」

「温泉♪温泉♪」

 テンション高い二人。まあ俺もゆっくりと楽しみますかね。

 と、中に入ると浴室サロンという場所、まあ気の利いた銭湯ではよくある待合室のような場所か。ジュースやカミソリなどの自販機やマッサージ機などが置いてある。
 あ、入浴道具一式は美由希に持たせてるから問題ないぜ?
 
 自販機で一本、ペットボトルを落とし二、三口飲んでから美由希に放る。エステの後だし水分補給は大事だぜっと。
 ん? どたどたと走る音が――
 
「あ、お姉ちゃん達!」

 お、なのは達か。
 
「キサマら、廊下は走るもんじゃないだろう」

「う、ごめんなさい」

 なのはフェイトアリサすずかイリヤの五人がぞろぞろと入ってきた所で一言注意。
 
「ユーノは?」

 美由希が手にしたペットボトルを忍に渡し、妹達の為だろう新しく自販機にお金を投入した。

「恭也さん達と男風呂の方へ行ったわ」

 恭也さん、ねぇ。アリサも面食いというかませてるというか。まあ一人の男取り合ってるうちの妹どもよかマシなんだろうが、年上のお兄さんに憧れるというのは。

「そういえばイリヤは衛宮君のトコに行ったんじゃなかったの?」

 月村工業のスポンサーの一つだってさ、アインツベルン家は。だから忍とイリヤは顔見知りというわけだ。
 余談だがイリヤのアインツベルン城はこの近くにあるらしい、露天風呂から見えるとか何とか。あの城を移転するだけの土地が海鳴市内にはなかったからここまで遠くになってしまったがセラとリズが免許持ってるから何とでもなるらしい。
 まあバスで混んでなきゃ1時間ちょいで着くからな、市内には。
 
「シロウったら完全に酔っ払ってて起きやしないんだから!」

「まああれだけ飲まされて喰わされればな」

「おまけにセイバーと抱き合ったまま寝ちゃってるし! もう!」

 まあセイバーでもアルトリアでも俺は構わんがね。
 やっぱり聖杯で喚ばれたのか? でもなーんでここにバーサーカーやらがいるのやら。
 霊体化して側にいるらしいんだが……全く分からんな。

「まあ良い。ガキども、入るぞ」

「はーい」×5

 美由希に買ってもらったジュースを手に全員の声。元気があってよろしい。
 
****

「凄いわ!」

「ホントにね~」

「何が入ってるのかしら…」

 おまいら自重しる。
 アリサすずかイリヤに胸をまさぐられながら露天風呂に浸かって海を一望している静香です、こんにちわ。
 なのはとフェイトは海の方をずっと眺めてて海がどんなものかとか美由希と話している。夕日が眼に眩しいぜ。
 フェイトは海のない地方の子らしいからな。夏になったら海水浴でも行くんだろうな。

「いい加減にしないか」

「えー」

「はーい」

「減るもんじゃないし、けちくさい事言わないでよ」

「そうか。では胸を揉まれるという事がどういう事か教えてやる」

 逃げようとしたアリサをとっつかまえて思い切りくすぐってやると暫くアリサの笑い声が開けた空の上に響いた。
 全く、ちょっと気持ち良くなっちゃうだろうが、胸揉まれたら。

「ご、ごめんなさい…」

 あんまりやるとマジでのぼせるので一分ほどで開放してやるとしおらしく謝ってくるアリサ。
 
「珍しいのは分かるがな、限度は弁えろ。オマエらもだ」

「「はーい」」

 やれやれ。これで落ち着いて浸かってられる、と言いたい所だが流石に少しのぼせたな。
 髪でも洗うか。

「なのは、髪の毛を洗うから手伝え」

「はーい」

 一人で洗うの大変なんだよ、腰まで伸びてる上に髪の毛が太い質なのかやたらボリュームあるし。
 ちなみに俺と美由希、忍は髪の毛をアップして頭の上でタオルで纏めている、ま、皆それぞれそれなりに長いからな。
 ざばっと音を立てて俺となのはが風呂から上がる。うーん、海風が涼しくて気持ちが良いぜ。
 しかし自分の裸も大分見慣れたな……高町静香の記憶あれど最初はそれこそどう扱って良いものやら分からんかったが、慣れるもんだね。バスト1mを超えてる割に垂れてないとか凄まじいにも程がある、普通に足下見えないしな、胸のせいで。その代わり肩こり凄いけど。

 びしゃぁん!
 
「…今のは雷か?」

 流石に思わず足がとまる程の落雷音。

「外の方だよね?」

 アリサ以外は肝が据わってる子供達だなぁ…今のかなりの轟音だったが、ビビりもしないぜ。

「静ちゃん、ライキはどうしたの?」

 フェイトの髪の毛をツインテールにして遊んでいた美由希が声を掛けてくる。

「外で遊んでこいと放ってあるが?」

 ああ、そういう事なのか? もしかして。
 
「また忠夫お兄ちゃんかな?」

「そうかもな」

「静香お姉ちゃんが悪いんだよ?」

「何故」

「お母さんが言ってたの」

 何故俺が悪いのかさっぱりだ。
 まあとりあえず髪の毛を洗いますかね。洗うのは兎も角乾かすのはユーノの魔法で一瞬だから助かる。

****

「ふー」

 良いお湯であった。
 浴室サロンでうぃんうぃんうなりながら俺の肩を揉んでいるマッサージ機。テレビを見ながらコーヒー牛乳。
 うーん、贅沢って感じ。ちなみに浴衣だがブラもしてるしTシャツも着てるぜ? この大きさだと冗談抜きにポロリもあるよになってしまうからな。風呂上がりに一枚二枚多く着なきゃならんのは女の面倒なトコだな。あと頭な、風呂入ってる時同様アップしてタオルで纏めてる。ドライヤーで乾かすと30分位かかるからな、後でユーノに水分飛ばしてもらうのさ。
 なんて生活に優しい魔法使いなんだろうか。ユーノ愛してるぜ。

『ヴァンプと――』

 ん?

『ラクスの――』

『さっと一品~』

 ぶふぉっ!?

「大丈夫? 静香お姉ちゃん」

 ぼへーっとコーヒー牛乳を飲みながら扇風機の前に座っていたなのはがタオルを持って駆け寄ってくる。
 ちなみにまだ素っ裸である。そろそろ浴衣でも着ないと風邪引くぞ、ガキども。扇風機の前であーとかしてないで。

「ああ、すまん」

 うー…鼻にも入ったぜ……まさか実物のヴァンプ将軍とラクス=クラインを見るとは…確かに小さめだが貧乳って程じゃないな、ラクス。いや俺と比べれば確かに無乳だけど。

『はい、このコーナーではわたくし、ラクスが悪の秘密結社フロシャイム川崎支部の将軍であられるヴァンプさんと、手軽にさっと作れる料理をご紹介するというコーナーですわ』

 乳酸菌取ってるぅって言ってくれないかなぁ。
 まあソレは兎も角、かよ子さんではなくラクスとか斜め上にも程がある。まあアイドルやってるみたいだしこういう事もあるかも知らんが…それにしても……

 「悪の秘密結社フロシャイム」
 「悪の秘密結社」
 「秘密結社」
 
 テレビに出てるじゃん。全然秘密じゃないじゃん!
 ……突っ込むだけ無駄だとは知ってるよ、うん。
 
 ほう、春巻きの皮で刻んだトマトとハムとチーズを撒いてフライパンで焼いて…あ、焦げ目だけか。
 で、電子レンジで中に火を通すと。ちょっと旨いかも。覚えておこう。

 簡単釜玉うどんはマジで旨かったなぁ。久しぶりに作るか、なんせ前世ぶりだぜ。
 
 しかしラクスの手つきの危なかしい事。
 まあお嬢様だし自分では作らないのかもな。
 
 ふーん、毎週やるんだ、これ。チェックしとくか。
 
「あ、ヴァンプ将軍」

「知ってるのか忍」

 髪の毛にドライヤーを当てながら忍が答える。

「うん、うちのお得意様。まあ将軍が、というよりフロシャイムが、だけど」

 なるほど、月村工業がフロシャイム脅威の科学力を支えていたのか。
 もう突っ込まないぞ。それにしても忍のトコは色々やってるな。
 それにしても悪の秘密結社に売るのは死の商人とか言わないのか、言わないんだろうなこの世界では。
 
「美由希、携帯取ってくれ」

「ほい」

 ひゅっぱしっ
 スケジューラーにこの時間と曜日をセットしておいて、と。
 しかし生ヴァンプは怖いな、夜道に出会ったら悲鳴あげそうだ。
 あ、忘れてた。
 
「そういえばイリヤ嬢」

「なにかしら? 静香お姉ちゃん」

 こちらもドライヤーあてられ中のイリヤ。当ててるのはフェイトである。
 なので少々声が大きくなるのはご勘弁を。

「キッドには何盗まれたんだ?」

「エイジャの赤石って古い宝石。大きく傷が入っちゃってるから価値は殆どないんだけど、不老不死が手に入るとかなんとか曰く付きの宝石ね」

 ……弓と矢もあるんですね分かります。

「え、イリヤのトコに来たの!?」

「いいなぁイリヤちゃん! ね、ね! キッドに逢えた?!」

 髪を乾かし終えたアリサとすずかがイリヤに詰め寄る。ファンだったのか。

「はい、おしまい」

「ありがとう美由希お姉ちゃん」

 こっちは姉妹でドライヤー当てっこしてた二人。興味なし、か。

「キッドってなに?」

「犯罪者ね」

 身も蓋もないなイリヤ、事実だが。

「はい、おしまい」

「ありがとう、フェイト」

 仲良きことは美しきかな。
 
『スポーツの話題です、ジャイアンツの二代目長嶋茂雄こと長島茂雄が昨晩放った逆転ホームランで新人選手のホームラン記録を――』

 ベーブルースのバットとか。あ、アレは折れたんだっけ? 結局実力で打ってたみたいだしな。

「では夕食の時間までホテルの中でも散策するか」

「はーい」

「カラオケ部屋とかあったよね、確か」

「温泉来てまでカラオケ?」

「でもこんな人数で歌うのは滅多にないよー」

 やれやれ姦しい事で。
 そういや大人連中は酔いつぶれてるのか露天じゃない方の大浴場にでも行ってるのか。
 従業員に確認しておくか。あと横島の生死も。



[14218] 更新は不定期になります(´・ω・`)元からともいう
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2009/12/30 22:12


「バーサーカーさんって凄いの!」

「当然よ」

 ふふんと言わんばかりに賛辞を受け取るイリヤ。
 夕食というか第二次宴会というか、まあそんな中、子供達がプールでバーサーカーと遊んだ事とかを親に話してる最中である。
 バーサーカーに「投げて」もらっての飛び込みとか、バーサーカーによる無理矢理流れるプールとか。ちょっと楽しそうとか思ってしまった。10畳ほどの小さい宴会場の端、壁に寄りかかるようにどっかと胡座を掻いて座っているバーサーカー。食べなくても良いらしい、お酒だけはちょこちょこ飲んでるみたいだ。ただ、ピッチャーがおちょこに見えるのが何とも言えん。

 そんなバーサーカーによじ登り滑り落ちてはまたよじ登るライキ。まさにバーサーカー登り。なんという可愛さ。
 バーサーカーの無骨で厳つい顔が逆にライキの愛らしさを無限倍だぜ。

「凄いわねぇ」

 話半分なのか頬を染めてにこにこと笑っているプレシアと高町母。プレシアは当然の如く隣のオーフェンに腕を絡ませて酌させたり酌したりしている。
 オーフェンの異性観は兎も角、こういちゃついてるシーンはついぞ思い出せないから違和感があるな。人前でいちゃつくのなんか嫌がりそうなタイプだと思ったんだが。まあ今もあんまり良い顔はしてないが、仕方ないなって感じで。

 父士郎とデビットのおっさんはサッカー談義で盛り上がってるな、あと意外にも衛宮も加わっている。
 なんというか……普通の青年だな、衛宮。話に聞く限り魔術は使えるっぽいんだが。
 あとアルフとセイバーはバーサーカーの小食っぷりを見習うといいよ。
 大食い競争とかすんなアホ。
 
「横島、もう少し落ち着いて喰え」

 大食いといえばこいつもだが。
 あーもーぼろぼろ零しやがって。手近な布巾を取って口元に押しつけてやる。
 
「うっう。 ありがとー」

 全く。
 …………マテ、ナニ自然に「男」の口元ぬぐうとかしてるんだ俺!?
 箸を置いて顔を覆う俺。
 あんまり自然過ぎて自分でも気付かなかったわ! どんどん雌化というか女性そのものになりつつあるのか!?
 そしてオマエら視線がうっおとしいぞ!(誤字に非ず)

「…なんだその眼は」

「べーっつにぃ♪」

 殺すぞ愚妹。
 忍も恭也もなんだその眼は。

 というか、なんでアルフとセイバー以外全員こっち見てやがる! こっち見んな!
 バーサーカーすらこっち見てるってどんだけ!?
 
「? なんだい?」

「何かありましたか?」

「…何でもないよ、セイバー」

 アルフとセイバーが素っ頓狂な声を上げたところで空気が元に戻った。
 助かったぜ……
 当の本人は分かってるんだが分かってないんだか、前にも増して勢いよく食べてやがる。
 二匹目の泥鰌はいないぞ。

 そして再び皆の世話を焼き始める鮫島のじーさん、ノエル・ファリン・エレインのメイド三姉妹にリニス。
 オマエらも休めよこんな時位。まあ何もしてない方が落ち着かないんだろうけど。

「ねーねぇ! 横島と静香さんって今どうなってるの?」

 嬉しそうになのはに尋ねるアリサに、興味津々のガキども+母親ども。

「アリサ、そういう話は本人のいない所してもらおうか」

 練をしそうになる位にはキツく睨み付ける。そしてバーサーカーの頭の上で唸り始めるライキ。
 主人想いなのは嬉しいがそこで発電するとバーサーカーが危ない気がするんだが。まあ一度喰らったら二度目は利かないとかチートボディだけども。
 そういや12個の命って補充出来ないのか? 宝具なんだから時間かけるなりなんかすれば補充出来そうな気もするんだが。
 まあそれは兎も角。

「は、はい…」

「ライキ」

 怯えるアリサを尻目に顎をしゃくると、ぴょんっとバーサーカーの頭から飛んで俺の腕の中へ収まるライキ。
 そして一頻り撫でてボールに戻す。

「全く…別に横島とは何でもないぞ、私は」

 横島、(|| ゚Д゚)ガーン!!とか口に出さなくて良いから。
 というか、お前は俺に好かれるような事なんもしてないだろ、多分、覚えてる限り。
 まあ翠屋の売り上げが上がった事とかなのは達の遊び相手してくれたりとかは評価しても良いが。

「えー」

「そんな事ないよねぇ」

 高町母、いい歳して(33歳)そんな事言っても可愛く…可愛いけど可愛くないぞ。そして愚妹は黙れ死ね。

「学校でも肩揉ませたりしてるじゃない?」

「肩こりは持病だから仕方ない」

 重いんだぞ、マジで。忍、お前だってかなり大きい方だというのにこの気持ちが分からんのか。

「お弁当も手作りだし?」

「逆に横島にだけ作らなかったらイジメだろうが」

 次から美由希のだけ作ってやらねーからマジで。
 俺はほぼ毎日両親以外の全員の弁当作ってるわ。
 ユーノとかなのは、フェイトも手伝ってくれるけどどっかの愚妹は手伝おうともせんなぁ?

「登下校も一緒なの!」

 同じ家に住んでて同じ学校に通ってて登下校が同じなのは当たり前だからな、なのは。

「仕事中も横島さんのフォローは静香さんばかりですよね」

「それは仕事だから当たり前だろう」

 何故か横島と同じ時間に外立たされたり中で料理配ったりする事が多いからな、厨房要員の俺が。

「というかお前ら、よくそんな他人事で盛り上がれるな」

「全くだ」

 呆れたようにオーフェンの声。くいっとビール…じゃないな、アレ。烏龍茶か? 酒飲めなかったっけ?

「色恋は人生の一大事なのよぉ?」

 違和感ありありの、相変わらず間延びしたプレシアの声。

「なら娘の心配してやれってんだ。今から三角関係とかどうなってんだよ」

 うーん、オーフェンが凄く常識的だぞ。

「大丈夫よぉ、スクライアは一夫多妻制だしぃ」

 流石に博識ですね。

「いっぷたさいせいってなに?」

 すずかとアリサが顔を見合わせてる。なのは達も字面が思い浮かばないのかさっぱりな顔。
 まあイリヤとユーノは分かってるみたいだが。

「一夫多妻制というのは一人の男性が、たくさんの女性と結婚出来る制度ですね。
 日本やミッドチルダの基本的な結婚観では一夫一妻制が基本ですが、ミッドチルダはその土地その部族の風習には関与しませんから。
 スクライア一族は伝統的に一夫多妻制なので確かにユーノと結婚するというのならはなのはちゃんとフェイト、二人でダブルウェディングというのも問題なしですね」
 
 ま、話を聞く限り、スクライア一族でも一夫多妻な家族は珍しいらしいけどな。
 理由? 一人の女相手するのだって面倒なのに好きこのんでなんで集団を相手にしなきゃとかそんなのらしい。
 発掘と研究が趣味で仕事な一族だからなぁ、基本が。

「じゃあフェイトちゃんとユーノ君を取り合う必要はないの!」

「良かった…」

 諦めたというか受け入れたというか、嬉しいんだけど納得いかないというか。
 そんな顔で片手ずつなのはとフェイトに握られているユーノ。

「あらあら」

 高町母、嬉しそうな顔してますが父士郎が後ろで唸ってますよ、娘の結婚とかデリケートな話題のせいで。
 
「最近の小学生は進んでるんだなぁ」

「世の中には色々な風習があるものですね」

 衛宮の何とも言えない表情に、セイバーがこくこくはむはむしながら同意する。器用だなおい。

「くーっなのはに先超されるなんてっ!」

「アリサちゃん、まだ小学生なんだからそんな事考えなくても大丈夫だよ」

 大人だなぁ、すずかは。

「しょうがないわね、私もセイバーと一緒で良いわ」

「いや訳分かんないから、イリヤ」

 すかさず衛宮にすり寄るイリヤ。

「イリヤスフィール、シロウと妻は私だけで十分です」

「ふふん、料理一つ出来ない貴方が妻とか笑っちゃうわね」

「そんな事は障害にはならないのです! そうですよね?! シロウ!」

「どうでもいいけどシロウシロウ連発されると妙な気分だね、どうも」

「同じ漢字で士郎同士ですものねぇ」

 話題が俺から他所に移った隙に、こっそり席を立つ俺であった。
 やれやれだぜ。
 
****

「何故お前がついてくる」

「お腹いっぱいになったし」

 訳分からんし。
 ポンっとライキを出して自販機で落としたカレージュースを開けて渡すと美味しそうにごきゅごきゅ飲み始める。
 …誰得なんだろうか、このカレージュースは。しかも結構辛いし。

 まあそれはさておき、横島と一緒にロビーで休憩中。あれ以上いて玩具にされるのも業腹だからな。
 だというのにこいつが一緒について来たらまた噂話に華が咲くだけじゃねーか。
 全く気が重いぜ。

「静香ちゃん、卓球やろう卓球!」

「だが断る」

 目的が見え透き過ぎて怒る気にもならん。
 だいたいスポーツブラ無しで運動すると凄いんだぞ、色々と。激しく揺れすぎて胸の毛細血管ぶちぎれまくって胸が真っ青になるわそもそも揺れが激しすぎるからモゲるか思う程痛いわ、揺れが激しいせいで運動の邪魔にしかならないわ。
 ロクなもんじゃないな、うん。

「この格好でンな事出来るか」

「浴衣だからいいのに」

「スポーツブラもないのに運動とか出来ない」

「ちぇー」

 拗ねる横島に空き缶をちゃんと捨てに行って戻ってきたライキが飛びつく。
 痺れるんじゃ! とか騒ぐ割にちゃんと受け止める辺り人が良いよな、大概。
 浴衣だから俺には抱きつくなとちゃんと指示してあるのだ。まあ横島に抱きつくなとは言わなかったが。
 
「で、いつ教えてくれるっすか?」

「むちゃくちゃ嬉しそうだなお前…」

 個人的には凄く教えたくないんだが。
 うーん……だってなぁ、別に敵とかそういうのもないし、そもそも横島が強くなきゃいけない状況でもないし。
 そもそもこいつなんで強くなりたいんだ? 原作じゃ努力とか面倒なタイプだったと思うんだが。
 そりゃ例の蛍とか美神とかが強烈に絡んだ時は自分から努力もしてたが。
 ソレより何より念とか教えたら最強YOKOSIMAとかに化けそうで嫌。
 大体俺自身欲しくて手に入れた能力でもないしな……
 
 しかし、だ。ここでやっぱやーめたとかそれはそれで酷い気がする。
 うーむ……

「正直言って、教える事は可能だが、誰にも教えたくない。特に身内にはな」

 どれほど都合悪い真実でも嘘よりはマシだろ。

「…なんで?」

「なのはの魔法だってそうだ。あんなもんに手を出して欲しくはない。
 状況と当人の意思がアレだったから今更文句も言えないが、魔法だのなんだの…
 余計なものは要らない、と思う。俺のアレだって欲しくて手に入れた能力じゃない。
 横島には、そのままでいて欲しい、と思う」
 
 明確な敵や危険があるならまだしも、な。
 いや危険と言えば危険なフラグだらけだけどさ、この街は。

 ライキが俺の背に負ぶさり、慰めるように頭を撫でてくる。
 ちなみに二本の三つ編みにしたのをシニョンでお団子二つに纏めてるぜ。
 うん、気持ちは嬉しいけどぱちぱち静電気で髪の毛が凄いから。辞めろと言える雰囲気でもないし、嬉しいは嬉しいんだが。
 
「大体、そこまでして強くなって何になるというのだ?
 自分の身を守れる程度でいいし、それなら恭也に教えてもらえば、お前なら一年も要らんだろうよ」
 
 なんだかんだ言って才能はあるからな、色んな意味で。
 うーん、納得いかなそうだな。
 
「約束破るような真似をしてる事は謝る」

 ぺこり、と身体を折るように頭を下げると、ずるっとライキが落ちて床にころんと転がった。

「たが、少なくとも今はまだ教えたくはない」

「うー……」

 納得しがたいが頭まで下げてる相手に我が儘言うのも、という所か?

「とりあえず頭上げてくださいよ!」

「…それはいいが。なんで敬語なんだ? 同い年だろうに」

「あんま同い年って感じしないっすよ? 年上っぽいっつーか。そこが良いんだけど」

 意外と勘が鋭いな、こいつ。
 頭を上げると横島の背中によじ登るライキの姿。バーサーカーで味を占めたか?
 しかし普通の人間は頭に乗られると重いと思うが、30㎏だし。大体小学生3~4年の体重か。
 つまりなのは達と同じくらい重いと。…急にライキがデブく思えてしまうな、なのは達と比較すると。
 そんな所も可愛いんだが。

「詫びと言ってはなんだが、言う事一つ聞いてやる」

「なんと!? じゃあ――」

「一発ヤらせろとか言うなら言ってみろ?
 ヤらせてやるぞ?」

「――ちょっと考えます!」

 横島の考えは分かりやすいから困る。いやあんまり困らないけど。
 大体こういう時にヤろうって奴を誰が好きになるというのか分からんかね?

「じゃあこれから名前で読んで欲しいっす!」

「その位なら――なに?」

 忠夫と呼べと?
 
 ……
 
 …………

 ……………………
 
 ないわ! いやしかし言う事聞くって言ってしまったし…
 いやいやいや! お前、高町母とか愚妹とかに聞かれたら赤面するどころじゃないだろうそれは?!
 
 …まて、落ち着け。男の友人を下の名前で呼ぶ位何でもないはずだろう?
 前世じゃ当たり前だったハズ、だ。
 ……なんだこの座りの悪さは!?
 ……うー、是非も無しか。
 
「…分かった」

「じゃあ早速カモン!」

 ライキと共に踊り出しそうな勢いの横島。殴りてぇ…!
 というか本気で小躍りし始めやがった! ライキが可愛いぞ畜生!

「ライキ! 忠夫に電気ショック!」

「ライ!」

「ちょっ!? ぎゃー?!」

 くっ! 顔から火が出そうな位こっぱずかしいぞ!?
 たかが下の名前を呼んだだけだというのに!
 まあ例によって殆ど顔には出てないだろうが。鉄面皮ってのもこういう時だけは便利だな。
 



[14218] 先進まない(´Д`;)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/01/07 23:46

 あーもー散々だ!
 
 現在、同じ大部屋に美由希、忍とアルトリア、アルフとリニス、子供達とメイド三姉妹がいて、オーフェンとプレシア、松尾さんご一家、父士郎と高町母、バニングス夫妻は各々個室、鮫島のじーさんと横島、衛宮、恭也、ユーノの男連中が纏めて一部屋。ちなみにイリヤとバーサーカーは自宅というか自城に帰ったさ。
 部屋割は常識的かも知れんが金かかってるよなぁ…まあ俺の財布じゃないが。
 まあ殆ど寝てる訳だが。もう0時近いし、色々あって疲れてるからな、俺も皆も。
 
 それにしてもオマエら他にすることないのかという位、たかが名前呼びに変えた程度で騒ぎおって!
 忠夫と呼ばされるたびに妙に浮ついた表情する横島にも腹立つ!
 俺はまだ誰とも付き合う気がないというのにもー! なのはなんか忠夫お義兄ちゃんとか言いそうな勢いだ!
 ロリコンじゃないくせにやけに子供受けいいからな…いやだからこそかも知れんが。
 フェイトなんかも今じゃすっかり懐きまくりだ…アルフが手出したらどうなるか的いちゃもん付ける位には。

 ふう…落ち着こう。こうなった以上、周りが慣れるのを待つしかない。
 その前に俺が慣れるかどうかだが……あんまり慣れたくもないがいちいち動揺もしてられないしな…まあ時間が解決するか。
 
 ライキもボールの中で寝てるし(耐電仕様の部屋ではないし、自分自身の静電気対策も等閑な為)、大人しく寝るか?
 一っ風呂浴びたい気もするがなんかフラグ立ちそうだしなぁ。
 しかし現実でフラグとか言い出すようになったらある意味おしまいだよな、俺も大概。

 …温泉浸かってくるか。気分落ち着けたいし。
 もう大概のイベントじゃ驚かねぇぜってなもんだ。
 
 さて、入るとなれば円を広げるぜ。横島辺りが夜這いに来ないとも限らん。
 俺の円は最大半径1㎞を超えたからな。どうも俺の才能は遠距離方向に特化しているらしく、体感では1㎞どころか地球の裏側まで伸ばせそうな勢いだった。無論、そこまで無意味な事はしないが。
 よってこの鶴来屋を包み込む位は余裕なのだ。あと円に触れても一般人は何も感じないらしい。
 恭也とか一部の馬鹿とかは違和感を感じる程度には感じるらしいが。
 厨房とか掃除中か…ご苦労様だぜ。露天も大浴場も今は人っ子一人いないようだ。
 男性陣が寝ている部屋は、と。
 横島が簀巻きにされて転がされてるのか、これ。で、紐の先は鮫島のじーさんが握ってると。またなんかやらかそうとしたんだろうな。
 恭也と衛宮も寝てるし、問題ないか。女性陣もほぼ全員夢の中だし。
 
 ふう、円解除と。動きながらの円は当社比三倍増しで疲れるから解除して行くのだ。まさか襲われやしないだろう。
 
****

「春は花、か」

 四月も終わりもう五月という時期だが流石に山に囲まれてるだけあって、未だ花びらを残す桜もちらほら見下ろせる。
 月も星も綺麗だし、遠くに見下ろす海鳴市の電灯も綺麗だし。贅沢だねぇ。
 風呂は良いね、人類が生んだ文化の極みだよ。
 
 俺独りしか入ってないから思いっきり手足を伸ばせるしな。しかし裸になるとたびにこう…自分の胸のでかさに複雑な気持ちを覚えてしまう。
 昔の自分の彼女にこれだけのスタイルがあったらなぁとか。重いし脂肪吸引手術でも受けようかとか。
 それを捨てるなんて勿体ないとか電波が聞こえてきたりとか。
 客観的に見て神業作品的スタイルだからな、俺の身体は。正直日本人の体型じゃないわ、顔は和風美人だが。
 
 ゴージャスボールを入れた桶がぷかぷかと湯の波に揺れて、中にいるライキがすやすやと眠っているのが見える。
 可愛いのぅ。それにしても80㎝30㎏のライキがよくもこんな小さい、子供の握り拳程度のボールに収まるもんだわ。
 これを可能にしている遺伝子とか発見出来たら人類史上燦然と輝く大発見になりそうだなぁ。

 がらぁっ
 
 む? 誰か入ってきた? この時間にか? ちなみにこっそりと混浴らしいぞ、この時間は。
 まあカップルがイチャつく専用だな。
 だが、うちの連中は全員寝てるハズだ。混浴だとジョニー99から聞いた時に再び円を展開して確認したし。
 となるとたまたま入りに来た他所のカップルか? 凄い気まずいぞそれは。

 しかし先に入ってたのは俺だしもう少し入ってたいし。
 むう。まあ相手がアレそうならさっさと上がる事にしよう。

 「……ヴィレッタ先生?」
 
 「た、高町?! 何故こんな所で!?」
 
 いっそ不自然な程驚いてますね、ヴィレッタ・バディム英語教師。所謂外国人教師の独りである。
 尤も、俺や恭也達高等部ではなく中等部の教師だが。
 ちなみにイングラム・プリスケンはテスラ研にいるらしいぞ、何を研究しているかは聞かなかったが。

 がらぁっ

「うちの喫茶店、翠屋の社員旅行ですが何か」

 む? ヴィレッタ先生の彼氏登場か。

「なんと…!」

「先生、どうかした?」

 …む? この声は……

「た、高町!?」

「…伊達隆聖か。そうか付き合ってるのか」

 不倫旅行、ではないか。別にヴィレッタ先生は結婚してないしな。
 だがそれにしたって10近く年離れてそうだけどなぁ。

「…とりあえず、入ったらどうだ? 風邪引くぞ」

 流石にいたたまれないのだろうがそれはこっちとて同じだ。どうしろっていうだこんな場面。
 互いに顔を見合わせ、諦めがついたのかおずおずと身体を湯につける二人。
 しっかしこれで俺よか10近く年上とも思えんな、ヴィレッタ先生の身体も。外国人はこういっちゃなんだが劣化が激しい人が多いというのに。

 ちなみに濁り湯なんでちょっと距離とり、湯に浸かったお互いの身体は余り見えないのだ。
 深く考えてはいけないぞ、カップルが濁り湯とか。

「…ヴィレッタ先生にも言ったが、私がここにいるのは翠屋の社員旅行みたいなものだからな。
 月村や横島、恭也達に見られたくないのであれば気をつけて行動する事だ」
 
「マジで!? 折角の旅行なのについてないぜ…」

 隆聖…いやリュウセイの方がこいつの場合は収まりが良いか。
 目に見えて肩を落として落胆するリュウセイにしな垂れかかり、ことんと頭をリュウセイの肩に預けるヴィレッタ先生。

 確かラトーニとマイ=コバヤシに懸想されてたんだっけ、ゲームじゃ。で、てんで気付かないラノベ主人公的鈍感野郎、かと思わせておいて、俺の記憶が確かなら、新SRWで初対面のアヤ=コバヤシに「美人」と褒めたり、兎に角初登場だった新SRWとその後のシリーズとの性格の落差が激しい奴だった。新じゃ年上キャラの砂原某をデートに誘ってたりしてたハズだしな。ちなみにアヤ=コバヤシもアムロ=レイに懸想しててチェーンと三角関係だったりするから新SRWは面白い。東方先生が宇宙人設定だったりな。
 
 で、リアルの肉を持った普通の人間として、伊達隆聖とヴィレッタ・バディムが目の前にいる訳だが。
 やっぱ恋愛に興味ないと見せかけておいて年下が完全に射程外なだけの男だったか。
 横島に通じるものがあるな、まあ横島は色事は万事にガツガツしてるけど。
 とりあえず10年早いんだよ! と叫んでもらおう、いつか。
 てかこいつもいい身体してるよなぁ…ロボットオタクのくせに。俺の前世は……泣きたくなるから考えるのを辞めよう、今は人後に落ちない美形なんだし、女になっちゃったけど。
 
「まあ別に私個人としては誰が誰と付き合ってようが孕まそうが気にもしないが。
 世間的には別だろう? 大丈夫なのかその辺は」
 
 うーん、好奇心半分老婆心半分。

「お袋は認めてくれてるし、先生のトコは身内ったらイングラムしかいないしな」

 心の広いお母様だな。普通、高校生のガキが10近くも年上の女と付き合うとなったらアホみたいに反対しそうなもんだ。
 まあ実際の所幾つ離れてるかは聞いてないので知らないが。

「そういう訳なのだ、高町。その…」

「分かってます。黙ってますよ。
 ただ、横島だの衛宮だのにばれないよう、気をつけてください」
 
 まあ帰るのは明日の夕方なんだが。
 明日は昼飯に河原でバーベキューの予定でその後帰宅だ。
 昼飯までの自由時間と帰宅する為河原から鶴来屋に戻ってくる時が一番ヤバいな。
 今日はもう皆寝てる事やそれぞれの部屋番号などを教えておく。まあ鉢合わせて一悶着でも起きたらお互い鬱陶しいしね。

 まあ横島は俺が言えば黙ってるだろうし衛宮もこんな事言いふらす事もなかろうが。
 忍や美由希が問題だな。あいつらに、というか女性に内密の話なんてあり得ないとどれほど思い知ったか。男か女かで分けられる問題じゃないのかも知れないが、秘密厳守を期待するのは無謀だ。気付くと知られてるんだよな、何故か。

 その後、暫く一緒の湯船に浸かって世間話。なれそめとかその辺。流石に気になるし?
 どうもヴィレッタ先生、イングラムと双子で普通の人間だからか知らんが、自分から告ったらしい。クールに見えて意外と情熱的だな。
 アダルトビデオにでもなりそうなシナリオだがしかし、大した勇気と言わざるを得ない、9歳離れてるらしいしな。今、リュウセイは俺らと同い年なハズなので18歳だから27歳か。
 イングラムは好きにしろと言わんばかりの放任らしい。まあ日本に住んでない上にイングラムは日本語話せないらしいし。
 普通の人間だからな、そしてこの世界に同時他言語翻訳装置などない訳で。
 まあそんなものかと思うばかりである。
 
 そしてこいつらも横島と俺との関係を訊いてきやがる!
 なにか?! そんな噂になってるのか!?
 どれだけ否定しても「またまたご冗談を(AA略)」と言わんばかりの暖簾に腕押し。
 まあ必死になりすぎると肯定しているようなものだと経験上分かっているので、適当に流してはいるのだが。
 学校の方でも噂になるとか。
 しかし横島がうちで働くようになってから確かに学校でも一緒にいる時間が増えたのは事実だな。

 便利なんだよなぁ、横島いると、色々と。 
 まあそう酷い扱いはしてないつもりなんだが……
 …そういう適度にあしらってるから変な噂が立つのか?
 美神ばりにコキ使えば……今度は女王様と奴隷だな、間違いなく。

 やれやれだぜ。
 横島の事が嫌いという訳では決してないんだが、こう…女としての意識が日々強くなっていく中で男の部分が抵抗するというか。
 浮気癖とセクハラ癖さえなきゃむしろ良い奴だとは思うんだがな、うん。
 うーん、普通は許し難い悪癖だと思うんだが……横島だから仕方ない的に許せてしまうのがいかんのだろうか。

 まあそんなこんなでじっくり温泉に浸かりながら雑談する事数十分。勿論、途中で何回か湯船から身体出して涼んだりもしたが、その間はリュウセイだけ背中向けさせていたから問題なし。それにしてもヴィレッタ先生も良いスタイルだわ。
 で、流石に逆上せてきたし上がる事に。先に二人を上がらせて、暫くしてから俺も上がる。
 まあ俺の裸を眼にしたらリュウセイは気まずいだろうしな。裸を見られる事に大して羞恥は余り覚えない俺としてはどうでも良いと言えばどうでも良いのだが。ここら辺も男性的思考が強い気がする。

 脱衣所で軽く下着を軽く着てからドライヤーを当てる俺。流石にこの時間にユーノに頼るのは可哀想だしな。
 どうでも良いが下着の付け方一つもなかなか奥が深い、下着というかブラジャーだが。ちなみに俺のブラジャーは、なのはなら頭に被れる。なのはとフェイトは面白がって被ってたがでかすぎワロタ。あとユーノの照れた所在なさげな顔もグッドだった。
 最初の頃どうにも収まりが悪くて色々調べたのが懐かしいぜ、まだ一ヶ月ちょいしか経ってないけど、主観時間で。
 話を戻すと乳房の収め方もなかなか芸がいるというかコツがいるのだ。無駄にでかいせいで。
 
 まあこんなところで詳述するような内容でもないが。
 しかし髪が長いとマジで乾かすの時間かかるわ。もう20分はドライヤー当ててるのにまだ濡れてるトコあるとか。
 それともなんかコツがあるのか? うーん、念でなんか能力作っちゃうか? まだメモリーは余裕っぽいし。
 バンジーガム的なオーラ――違うか、操作系なら椿油みたいな「髪に塗る薬」が触れた生物から水分を奪い空気中に放出する能力とか。
 違うな、「オーラが触れたH2Oの分子運動を操作して、その環境で空気中に蒸発する温度まで温度を上昇させる能力」か。
 制約として「これによって発した熱で人体を傷つける事は出来ない」とか付ければいいか。あと誓約として「自分以外に使わない」とか。
 うーん、これだとあらかじめ『髪』に凝をしておいてからじゃないと皮膚という皮膚から水分が抜ける可能性もあるか。『熱』で傷つかないだけであって『肌荒れ』だので酷い事になりそうだな。それに髪にだって適度な水分は必要な訳だし。
 「人体の表面に付着しているH20を空気中に放り出す」だけだとどうだろう。
 いっそ「H2O」を操作するか? 恐ろしく強力だろうな、使い物になるLvで使えれば、だが。

 念能力は何が楽しいってこの自分の使いたい能力を妄想するのが一番楽しいんだよな。
 そして俺はそれを実践出来る身分にあるんだからある意味最高の贅沢者ではある。H×Hのキャラには今まで遭遇してないし。
 まあ管理外世界のどっかにはありそうだが、管理局とは本気で関わらずに済みそうだ。ユーノと人が変わりまくったプレシアのおかげで。
 平穏無事であればもう何でも良いよ、全く。
 プレシア達は地球に居着くみたいだが、ユーノはどうするんだろうかね、そういえば。闇の書片付いたら帰るのか?
 放っておいてもなのはの管理局行きはなさそうだしなぁ。まあそれはそれで修羅場というか愁嘆場というか、一悶着ありそうだが。
 帰らないで翠屋の支店でもなのはとフェイトと開いてくれると個人的には嬉しいが。
 さて、部屋に戻って惰眠を貪るか。
 
 脱衣所を出た後、サロンでひとまず合流したヴィレッタ先生達とはメルアド交換して、逐一こちらの情報を伝えるというスパイみたいな約束をしてから別れた。
 女性・子供用に取った部屋まで戻るまで、途中仲居さんとかとすれ違うもの何事も起きなかった。
 部屋に入ってから円を展開してみると、男子用の部屋で人間大の簀巻きがベランダに吊されていた。
 …根性あるよなぁ。性欲という動機は兎も角、正直そこまで行動出来るという点でのみ尊敬に値するわ。
 
 細々としたものを片付けて水飲んで。あ、円展開してだぜ? 皆寝てるのに電気付けるのは可哀想だからな。
 アルフも人間Verで寝てるしライキは出せないし。
 久しぶりになのはを抱き枕に寝ようかね。ではおやすみー。


****
温泉編が終わらない_| ̄|○
あとこれ大分カットせざるを得なかったで短めです。
ヴィレッタ先生と女性ならではの悩みとか苦労とか巨乳に関する悩みとか色々あったんですけど、18禁の方に移動でもしないと掲載不能かなと判断しました。

けど正直TSなんてしたらその位は悩みますよねぇ、多分。



[14218] 最長すぎた(´Д`;)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/03/07 19:04
若干駆け足&推敲不足はお許しください。
誤字脱字はいつもなら殆どないのですが(アインツベルンとか根本的な勘違いは別としても)今回は推敲する時間も殆ど取れなかったのでちょっと不安ですが。

****

 旅行二日目の朝。
 
「朝から温泉なんて贅沢よねぇ」

 それには同意するが何という若々しい身体。プレシアマジパネェ。
 というか俺の周りの女性は皆若すぎる。なんなんだこれは。高町母もそうだが何か秘訣でもあるのか。
 プレシアは本気で何歳なのか分からんな…本気で肉体年齢は25歳かも知れん。
 
 朝風呂から上がったら子供達がウサコッツに群がっててワロタ。カーメンマンとメダリオは土産物屋でインスタント食品だの見てるだけだった、まあウサコッツが騒がれるのは慣れてるだろうしな。
 見てるだけでも楽しかったがバーベキューの時間が迫って来たので子供達を止めるとウサコッツに大変感謝されてしまった。
 ウサコッツは可愛いなぁ。
 
 で、バーベキューを楽しむ為皆で河原へ移動。
 そこにまた遊びに来たイリヤとバーサーカーと合流。子供達がバーサーカーに人間お手玉で遊んでもらってる間に用意したりして、その間にヴィレッタ先生にメールしたりして。
 横島を適当にあしらって焼き肉を食して。
 後片付けの段階で再びメールしておいて片付けが終わってからバスに移動して。ちなみにこの時間で余計な荷物は鶴来屋側がバスに突っ込んでおいてくれた。

 現在、死屍累々のバスの中。
 まあはしゃいだし温泉に浸かりまくったし当然と言えば当然か。
 かく言う俺も些か疲労感に襲われてるのは事実。椅子を倒し、ライキを腹に抱えるようにして寝ているのだが。

 とりあえず帰ったら片付けして明日の仕込みしないといかんのか。
 で、学校始まったらキッドこと黒羽の奴と話し合って、志貴とも話し合わねばならんな。後はそれこそ後回しで良いだろ。
 ユーノも闇の書どうにかするまではこっちいるみたいだしな。
 まあ原作通り進めばリンカーコア狙われるのは分かってるんだから、ユーノが心配になるのは当然だが。
 フェイトもいるけどまず先にプレシア狙いそうな気はするな、魔力量的に考えて。
 まあそもそも蒐集してくるかどうかも怪しいが、こんな世界ではな。
 
 いっそ原作知識なんてなきゃ楽だったかも知れんな……明日の仕込み云々は兎も角、なんでこんな先の事まで心配しなきゃならんのだ
 先の事と言えばドクタースカも放っておけないのかもしかして。揺りかごはStSの作画崩壊の方が記憶に残り過ぎてていまいちディテールを思い出せないんだが、確か次元攻撃とか何とかで他所の世界まで破壊しまくれるんじゃなかったかアレ。

 …めんどくせぇ。大体だな、死神だの魔王星だの次元の番人だの死亡フラグ満載のこの世界、今更揺りかご一つ心配するのは間違ってる気がするぞ、しかも手の届かない範囲だし。
 そら闇の書は極論、はやて一人どうにかすれば終わる話だから良いようなものだから手を出してるんであって。
 見捨てるという選択肢だって十分有りなんだよな、俺は正義の味方でも何でもないんだから。
 ……まあ性格的に見捨てるという選択肢を本当に選べるかどうかは自信がないが。
 見捨てる気だったらそもそも暗殺すべきだよな、御神不破流的に考えて。
 
 まあはやてと闇の書の事は良い。志貴がどうにかしてくれる、きっと。主人公的に考えて。
 揺りかごはまずユーノの意見を聞くべきだよな、うん。当事者の一人だったんだから、というか無限書庫知識がなかったら解決しなかったんだから。
 で、揺りかごはユーノの意見聞いてからで良いとして。
 
 専門学校の下見に行かねばな。
 調理師免許に関して調べた限り、まあ前世の世界と大差ないんじゃないかと思われる。
 学校卒業後自動でもらえるパターンと試験受けて合格するパターンだな。
 前者は時間と学費がかかり、後者は試験合格しなきゃもらえないのと2年以上の実務の経験が前提となるわけだ。
 ぶっちゃけ親がアレだから、今すぐ試験受けようと思えば受けられるんだが…悩むぜ。
 専門学校行くとなると海鳴にない以上、東京の「味王料理会公認の学校」へ通いたいところだ。
 ちなみに二代目味王、ではなく三代目味王が今仕切ってて、味吉陽一が三代目なんだとさ。もう突っ込まないぞ。
 
 これは後日判明した事だが、家庭料理部とかも出来てて主任のトコにヴァンプ将軍の名前があった時はくそ吹いた。

 試験問題の過去問みたら、まあ解けないLvじゃない程度だったから後者でもいいんだが。
 こんな機会でもなきゃ親元離れられそうにないしな。正直、味王料理会にも興味はある、まして味王が陽一ならなおさらだ。
 あと海鳴には支部はないんだよ、まあ県庁所在地にはあるみたいだが。
 東京行ったら、新宿の駅の伝言板探すか? まあ何となくだが向こうから寄って来そうな気がしないでもないが。

 学費はバイトするなりすれば間に合うだろ、正直なのはじゃないが俺もそれなりの額貯金してるし、何なら奨学金借りれば問題ないしね。味王料理会はその辺しっかりしすぎてる程しっかりしてるから助かる。
 恭也と忍は海鳴大学辺り行くだろうが、横島とかどうすんだろうな? 衛宮はもう既に調理師免許持ってるらしいから、就職なんだろうな。
 
 ああ、調理師免許だけとっとと取って、高町母よろしく海外へパティシエ修業に出るというのもありか。
 ちなみに高町母は15歳でイタリアに飛びイタリア・フランスと渡り歩いて20歳で帝国ホテルのパティシエに、22歳でパティシエ長になったという天才パティシエなのだ。父士郎と出会ったのが23の時で一年後なのはが生まれました、現在33歳の高町母です。
 本気でパティシエやるならそれくらいすべきかなぁ……
 問題は英語は話せるけどイタリア語もフランス語も話せないという点だな、俺が。
 英語話せるのは前世の知識な、普通にビジネスマンしてたし。

 料理とかさ、まあお菓子でも何でもいいんだけど。
 有名どころって軒並み英語圏じゃないのが何ともはや……イギリスに至っては某王様が雑でしたと嘆くLvだしな……
 まあ諸々含めて、先達――高町母に相談するか。
 
 しっかし高町祖父母も良い度胸だよなぁ…今ですら何処か幼く見える高町母を15歳の時に海外修行に許可出すなんて。
 普通の親ならせめて高校行ってからとか言いそうなもんだが。
 まあ高町母なら笑顔で押し通しそうではあるが。
 
 あー…視線感じるけど無視だ無視。胸くらい好きなだけ見るが良いさ。気持ちは分からんでもないからな。
 流石に疲れたしな、お休み……
 
****

 夕刻。
 バスの中で一眠りしたせいかすっきりした俺。
 そして各々の家を回り、恭也以外を高町家の前で降ろすとバスはそのまま月村家へ向かっていった。
 ちなみに今日はテスタロッサ家も高町家泊まりである。

「楽しかったね!」

「うん」

 フェイトとなのはがユーノを挟んで仲良く頷いている。間にユーノがいなきゃ微笑ましいで済むんだが。
 まあ別にいいけどね。俺自身は一夫多妻制だろうが一妻多夫制だろうが好きにしてくれって考えだし。

「こっちは人数的に問題なかろう? 高町母と私は翠屋で仕込みをしてくる」

 俺の腕の中で丸まって寝てるライキテラカワイス。一通り撫でまくってからボールに仕舞う。
 うーん、ポケモンってマジで便利だな、こういう点は。それでいて普通に犬猫とか動植物が存在する点は訳分からん。
 まあその手の、それこそオーキド博士とかの著書でも見れば分かるかも知らんが。

「そうね。じゃあ忠夫君、オーフェンさん、宜しくね」

 横島、オーフェン、美由希、アルフ、リニスもいるしな。プレシアは知らん。
 飯は美由希には期待してないが…リニス辺りか?

「あいさー」

「りょーかい」

「アップルパイのお土産よろしくねぇ」

「アレだけ飲んでまだ食べる気ですかプレシア」

「なのははどうするの?」

「早速ビデオを編集するの! ユーノ君が組んでくれたプログラム使ってレイジングハートでいっぱい撮影したから!」

「バルディッシュの中のデータもあるよ」

「サーチャー使ってまで撮影してたよね、わざわざサーチャーにステルス機能付与とか器用な事して」

 どう考えてもアニメの十割増しで技量が上です、本当にありがとうございました。

「魔法ってそんな事も出来るのね、便利ねぇ」

「ユーノと付き合うようになってからフェイトの魔法も精密さが増して来ましたね、良い傾向です」

「なのはちゃん! 是非焼き増しを!!」

「ちゃんと静香お姉ちゃんに許可取ってからなら良いよ!」

 騒がしい事で。しかしサーチャーにステルス付与……
 どんな写真撮ってるんだ? 俺に許可? もしかして入浴シーンすら?
 ……ここはなのはの良心を信じよう。ユーノもいるし。
 
「夕飯は……どうする?」

「たまには店屋物でも良いんじゃない?」

「ピザ頼もうピザ! 美味しいんだって!」

「アルフがピザ知ってるとは……まあピザでも何でも構わんが」

 まあ好きにしてくれ。だからそんなピザ好きな人と知り合った話とかしなくて良いから、俺の精神衛生の為に。
 
「私たちの分は残しておかなくても良いからね」

「はーい」

 と言うわけで高町夫妻と俺は翠屋へ。
 しっかし若いと言えば父士郎も若いというか童顔だよな。次は大学かってガキがいるのに自分自身が大学生と間違われるとかどんだけ。
 まあ高町母も高校生に間違われた時あるけど。ありえねぇ。
 プレシアは顔はそれなりだからな、いや予想される年齢――恐らく40~50歳――からしてみたら遙かに若い方だけど。身体はもっと若かったけど。
 ……この世界の空気には若返り促進効果が含まれておりますってか。
 アニメなら原作者が年寄り描くの苦手なんだろプギャーで済むんだが。
 自分の身内というか両親が若すぎるとなんかもにょもにょするな。
 そんな事をつらつら考えつつ歩いていると程なく商店街へ入り翠屋の前へ。

「先に軽く埃を飛ばして掃除機掛けるか」

「掃除なんて士郎さんにやらせなさいな」

「その言い方は傷つくぞ桃子…」

「ふむ」

「厨房で仕込み手伝って頂戴」

「了解した」

 ふむ。高町母と二人きりというのは珍しい。
 …まあ憑依というか転生というか、こんな事になってから一ヶ月とちょっとだが誰かしら側にいたしな、基本的に。

「最近ね、静香、変わったなって思うの」

「…自分ではそんなつもりはないがな」

 ピンポイントな話題を…すげービビったわ。
 とりあえずプレシア用のアップルパイの為か生地を練りながら話しかけてくる高町母。
 そして俺はモーニング用の水出し珈琲でも作っておくか。モーニング限定メニューで結構な人気なんだぜ。
 
「忠夫君と付き合うようになってからね、少し優しくなったというか、人間らしくなったというか。
 今までの貴女、何処か冷めてたからね。自分を客観視しすぎてる所があって、心配だったんだけど」
 
「横島とは何でもないぞ」

「忠夫君、でしょ」

 く、性格悪い母親め…

「まあ、良い傾向だなって思うわ」

「知らん」

 まあ、異物と言えば盛大な異物が混じってるからな、今の高町静香は。もはや一体化してどっちがどっちか分からないが。
 ……ああ、かなり混じり合ってるというか馴染んでるな、一ヶ月前は感じてた自分の行動や肉体、考え方に対する違和感とかもう殆ど感じない、ただし異性関係を除く。こうなった以上男と付き合うのが正しいと頭では理解も納得もしてるんだが……
 その相手が横島かアキラか、他の誰かかどうかは兎も角、本気で男に惚れるような事があればもっと変わるかもな。
 少なくとも今はそんな事考えられないが。

「二つ林檎剥いて。八つに割って半分」

「了解」

 水出しコーヒーの用意が終わったところで林檎の皮むき命令。まあ大した事ないぜ。
 ところで手にちょっと凝をしてそこから円をやりつつ皮むきすると果肉と皮を100%完全に切り分ける事が出来るという大道芸じみた真似も出来たりする。皮を透かして見ると向こう側が見える程綺麗に剥けるぜ。
 まあそんな無意味な事はしないが。
 練と円は同時に出来ないが、周と凝と円(使用例:耳かきに周、先っぽに凝した上で円で広げ耳の中の様子を探りながら耳掃除。子供達に大好評)とか出来たりする。正直放出系と操作系はバトルより日常生活や商売、情報戦向けだな。

「それに最近は特にお店の手伝い頑張ってくれてるでしょう?
 何かあったのかなって思うわ」
 
「…高町母のように海外に修行しに行くのと、味王料理会麾下の専門学校へ通うのと。
 迷ってる所だ」
 
「…嬉しいけど、翠屋を継ぐなんて考えなくても良いのよ?
 私も士郎さんもまだまだ若いんだし」
 
「そうだな、来年辺りなのはに妹か弟か出来てもおかしくない程度には若いな」

 そして生まれた子も異世界転生者とかだったりしてな。ちっとも笑えないが。

「もう! 嫌な子ね」

「…割と本気なのだが。
 それは兎も角、別に流されてるわけじゃない。高町母と同じ道を歩きたくなっただけだ」

 戦闘とか厨二バトルとかマジ勘弁だし。
 ……海外行くとX-MENとかいるんだろうかとは思うが考えるだけ無駄だしな。

「そうねぇ…私としては大学で栄養学学ぶってのも有りだと思うけど?」

「ふむ。海鳴大学にあったかな?」

「焦る事はないわ。まだ時間はあるんだし、本気でやるなら遅いなんて事はそうないもの」

「中学卒業直後に海外へ飛び出した方に言われてもな」

「若かったわねぇ、私も」

 今も十分若いです。
 冷蔵庫の材料は特に痛んでるものとかはなし、が、ガムシロとかそろそろ心もとないか。メモメモ。。
 まあ朝一で朝市から食材は持ってくるけどな、サラダ用の野菜とかは。
 ああ、コーンスープも作っておくか。

「それに忠夫君も離ればなれじゃ可哀想じゃない?」

「…どうしてそこまで奴に肩入れする」

「そりゃあ、静香があそこまで心許してる男の子なんですもの。応援位するわよ」

 いつそこまでの仲になったんだ俺と横島は。
 俺と家族との間に日本海溝並の溝がありそうだ、横島に対する認識に関して。
 
「と言うかね、あれだけセクハラされて許せるって凄い事よ?」

「そのセクハラ男を娘が三人もいる家に同居させてる母親っていうのもどうなんだ」

「なのはにセクハラするような子じゃないし、美由希も静香もちゃんと自衛出来るでしょう?
 と言うより、自衛出来るような相手にしかセクハラしないというべきかしら。
 なのはやフェイトちゃんの面倒もよく見てくれるし。セクハラ癖はそのうち治るでしょう?」
 
 まあ彼女でも出来れば止まるかもな。
 それにしても…別に許してる訳ではなく諦めてるだけなんだが。
 というか個人的にセクハラしない横島は横島じゃないというか。自虐島とか聖人君子最強YOKOSIMAとか何が楽しくて横島がそんな…
 いやいや考えると実現してしまうかも知れんからそういう事は考えてはいかん。

 ともあれ、他所からだとセクハラ許す→気があるんじゃ? と見えるのか。
 …冷静に考えると風呂や着替えを覗かれるわ夜這いしに来るわ下着をガメるわ。
 ……………警察に連れて行かないのがおかしい位だな、確かに。

 下着ドロも個人的にはよく分からんのだよな。下着盗む位なら強姦した方がよくね?
 そもそも俺の下着盗んでもなぁ……いや美人だよ? 自分で言うのもアレだけど美人だよ?
 けど中身はアレだよ? 元男だよ?
 まあ他所から見た俺は兎も角、TSなんてモノの影響か、俺自身、確実に世の女性と倫理観とか男の行動に対する好悪とかがズレてる気はする。
 別に困らんけど。
 
 ともあれここでだ。『横島とは何でもないんだからな!』 などと強く発言をすればする程ツンデレ乙になってしまうじゃないか。
 くそ、なんて時代だ。

「…納得いかん」

「まあそういう可愛い所が見られるようになっただけでも、忠夫君には感謝よね」

 憮然とした顔してるハズなんだが。可愛い顔って俺みたいなキツい美人には使われない表現なハズなんだが。
 と、視界の端に厨房に入って来づらそうにしている父士郎の姿。
 ああ、女同士の会話には入りづらいかもな。

「父、掃除は終わったのか?」

「ああ、ハタキも掛けたし掃除機もな。後はテーブルを拭くのと窓拭きだ」

「窓は俺がやろう。高町母、ざっと見た上でメモしておいた。確認を頼む」

「はいはい」

 これ幸いと話を打ち切る。
 全く。女というのはすぐ誰かと誰かをくっつけたがるというのは本当かもな。

****

「流石にちょっと遅くなったわね」

「恭也達には悪いが何処かで食べて帰るか」

「なら雪谷食堂へ行こう」

 と言うわけで仕込みや掃除が終わった俺達は一路雪谷食堂へ。
 久しぶりにテンカワ特製ラーメンwktk。あ? 勿論雪谷食堂を確認した時点で食べに行ったわ。
 とりあえず携帯で確認してみたが向こうも店屋物で夕飯は済ませたらしいし、問題なし。たまに喰うと旨いよね店屋物も。

 ちなみに雪谷食堂はうち(翠屋)と同じ商店街に存在するぞ。この世界マジパネェ。
 なので移動に大して時間かからず到着。

「「いらっしゃいませー」」

 む? 女の声が二つ? 片方はユリカ先輩(風校の卒業生)だとして?

「あ、高町先輩、チワっす!」

「静香ちゃんいらっしゃい! サリーちゃん、席案内してあげて!」

「はい! こちらにどうぞ!」

「相変わらず才蔵さんトコは流行ってるなぁ」

 アキトと一緒に鍋を振るってるおっさん。これで商店街の顔役でもある。人が良いって事なんだろう。

「ホントねぇ」

 翠屋も十分流行ってるけどな、東京の方から取材が来る事もあるし、全国版のそういう雑誌には殆ど毎回載るし。

「新人か?」

 満席寸前の店の中、進められるまま席について水とお絞りを運んできた新顔のバイトに声をかける俺。

「はい! 先日からバイトで雇ってもらいました! 吉永サリーです、宜しくお願いします!」

 ぶほっ
 
「あ! 大丈夫ですか?!」

「何やってるんだ静香」

 黙れ父。お前に俺の気持ちが分かるまい。
 ここはヌーベルトキオシティじゃないんだぞ全く……旋風寺財団とかあるのかな……路線図見た限り、俺の前世のソレと大差なかったハズなんだけど…
 しまったな、昔過ぎて余り覚えてない……スパロボのトウマ並にバイトしまくってた貧乏少女で最終話でイケメン金持ちのマイトと結婚した現代版シンデレラだというのは覚えてるんだが、なんで貧乏だったんだっけか。定番の身内の入院だっけ? まあ、この子自身は普通…だったような気がするから問題なしか? そもそもこの子よかマイトが存在する方が死亡フラグに近い気はするが。
 
「ああ、大丈夫だ」

 お絞りで口元を拭う俺。お冷やに口を付けた瞬間吹かされるとは思わなかったぜ……
 両親がいぶかしげな面してるが無視だ無視。
 まあどうにかなるだろ。ならなかったらならなかった時考えよう。
 
「半チャンラーメン」

「酢豚定食で」

「チャーシュー麺と餃子一皿」

「はーい、少々お待ちください」

 しっかし大学は良いのかね、放課後はアキト見かけるたびに何故かユリカ先輩が側にいる訳だが……
 まあ他人事だが。
 
「碇君、チャーシューあげる」

「ありがとう綾波」

「肉嫌いって珍しいわよね」

 ん? 閣下の声が。
 と、某声優の声が聞こえた方を向くと予想通り、両手に華状態の碇少年。
 まあ向こうは俺の事は知らない訳だし声を掛けるつもりはないが、美少年だな、シンジ君は。
 と言っても普通に道歩いてそうなLvではある。アルクェイドとかありえねぇぞ、美しさ的に。

 がらぁ

「らっしゃいっ!」

「いらっしゃいませーっ! 3名様ですか?」

「あら、高町じゃない」

 む?
 
「……北川、鈴木先生か」

「あわわ。高町さんこんばんわ」

「先生?」

 高町母がこてんと首を傾げる。我が母ながらなんて可愛らしい。というか33歳じゃないだろ絶対。

「ああ、隣のクラスの担任だ、鈴木みか先生。
 なのはと同い年のような外見だがこれでも30歳だ」
 
 所謂合法ロリだな。
 身長147㎝(小学六年女子の全国平均146.9cm)の小柄な身体で来ている服は子供服。大人用のはオーダーメイドでもしないとまともに着られないらしい。

 隣のクラスの生徒である北川理央は俺の親友の一人である。(ちなみに俺は2組、北川達は3組)
 身長175㎝、バスト96㎝、ウエスト58㎝のHカップ。
 うん、モデル体型仲間なんだ。他にも胸がでかいのならクスハ(葛葉。リュウセイの幼なじみ)とかもいるけど、身長と乳とスタイルのバランスがそっくりなのだ、俺と北川は。なのでよく下着とか買いに行く時とかは北川に付き添ってもらってる次第。
 ちなみに初めて女性用下着売り場に「自分のモノを買いに行った」時の恥ずかしさと居たたまれなさったらなかったぜ……
 男として、下着売り場で彼女の買い物待ちしてる時以上に恥ずかしかった、何というかイケナイ事をしているような感じが。

 まあそれは兎も角。この世界で珍しく漫画だのアニメだののキャラじゃないくせに俺と互角のスタイルと美形度と成績と運動神経を持つ北川なのであった。

「静香ちゃんの同級生? なら席は一緒で良いね!」

 流石ユリカ先輩。こちらの意見も聞かずにささっとテーブル二つくっつけて並べやがった。
 
「あの、高町さんのお姉さんとお兄さんですか?」

 おずおずと鈴木先生が尋ねる。とある理由で俺は彼女から大層恐れられてるからな。
 
「いえいえ、私、静香の母で桃子と言います」

「静香の父で士郎と言います」

「えー!?」

「鈴木先生、五月蠅い」

「だってこんな若いんだよ!? どう考えても兄姉!」

「高町士郎、37歳。高町桃子、33歳だ」

「若っ! 若ーっ?!」

 バカみたいに騒ぐ鈴木先生。全く落ち着きのない人だ。
 だいたい若いとかいうなら鈴木先生も十分若いだろ。正確には幼いだが。外国人に「小学校」の場所訊かれて困る程度に。

「大丈夫ですよ、みかセンセ。みかセンセも十分幼いですから♪」

「ううー、北川さんがイジめる~」

「面白い先生ね」

 落ち着きがないだけだろう、鈴木先生は。見た目通り子供っぽいから困る。
 
「とりあえず注文したらどうだ」

「あ、そうね」

 やれやれ。やかましい連中だ。
 
「ご注文はお決まりでしょうか?」

「チャーシューメンで」

「半チャンラーメンと餃子ー」

「はーい。アキトさん、店長-、チャーシューメンと餃子、半チャンラーメン追加ですー」

「りょーかい!」

「学校でもこんな調子なのかな? このバカ娘は」

「言っておくがそこの北川と私は学年20位以内キープしてるからな」

 3年は全部で200人弱。このご時世になんというマンモス高校。昨年、近隣の高校が潰れてそっちの生徒も受け入れた影響もあるらしいが。

「そうですよー、高町さんは頭よいし運動神経凄いし何やらせても上手だし胸もおっきいし背も高いし足も長いし美人だし」

 と、ここで影を落とすように口ごもる鈴木先生。
 
「ズルい」

「そう言われてもな」

 俺にどうしろというのか。

「みかセンセ、本音だだ漏れですよ? 親御さんの前で」

「はっ!?」

「学校生活、楽しそうですな」

 どう対応して良いのか分からない父士郎。まあそうもなるか。

 その後、注文した料理が来たり美味しかったりしながら、学校の生活とか海鳴大学の事とかつらつらと話しつつ。
 
「馳走さん」

「ありがとーございましたぁっ」

 威勢の良い声を後ろに店を後にする俺ら。

「また明日な、北川、鈴木先生」

「おやすみなさーい」

 去って行く鈴木先生と北川を見送る俺ら。どうでも良いが姉妹にしか見えんな、妹が30歳の。

「良い先生ではあるんでしょうけど…」

「静香達の担任でなくて良かったな」

「同感だが口にするもんではないな」

 良い人ではあるんだけどね、教え方は上手いかも知れないけどね。
 決定的に威厳とか教師らしさとかそういうのが欠けてる人だからなぁ。生徒受けは良いけど保護者受けは微妙な教師なんだよな。

 そして家に帰ったら簀巻きの横島が庭先にぶら下がっていたが丁重に無視し、居間に入ると温泉旅行の思い出試作一号と書かれたアルバムが置いてあった。
 子供達は就寝、プレシアとオーフェンは風呂、リニスは店屋物の片付けをしていた。
 
「訊くまでもないがよこ――……忠夫の奴はどうした?」

 約束は約束だからな! ……誰に言い訳してるんだ俺は。

「ヒント1、写真」

「もう良い」

 進歩のない奴だ。
 
「リニスさん、ごめんなさいね、片付けまでやらせてしまって」

 プレシア所望のアップルパイを冷蔵庫に仕舞いつつ、高町母。
 俺はとりあえず紅茶を四人分用意する事に。

「いえいえ。うちのフェイトがお世話になってる事ですし、こちらこそありがとうございます。
 おかげでフェイトも少しは物怖じしなくなってきたようですしね」
 
「最初の頃は借りてきた猫宜しくオドオドすること甚だしかったからな」

「俺は今でもちょっとびくびくされてるぞ」

「すいません、フェイトは余り大人の男性には慣れなくて」

 父士郎、ざまあと言わざるを得ない。まあオーフェンはどうなのかは兎も角、フェイトは人見知り激しそうだし実際激しいし。
 しょぼんとしながらアルバムを手繰る父。

「なのははカメラワークが上手いなぁ」

「ふむ?」

 紅茶を運びつつアルバムに目をやると、確かに良い写真ばかりだ。
 特にユーノの表情とかな。選び抜いた一枚って感じだ。勿論他の写真、アリサ達やうちの両親、バーサーカーやライキなども良い写真ばかり。サーチャー使ったせいかアングルが斬新なのも良いな。
 流石レイハさんとバルディッシュさん、マジパネェ。
 各人一枚ずつは独り立ちの写真があり、グループショットも多彩だ。
 ……これ小学生の撮った写真じゃねーぞ。プロだと言われても俺は納得する。
 特にグループショットが凄いな。高町夫妻と恭也・忍の親子カップル同士の写真とかオーフェンがライキにご飯食べさせてるシーンとか、よくぞ撮ったわと言いたい位だ。
 とりあえずバーサーカー登り中のライキの写真は焼き増し…いや携帯待ち受け画像に加工してもらうとして。
 
 まあそんなこんなでプレシアとオーフェンが風呂から上がって来たので、アップルパイを食しつつ、なのはとフェイトが撮った写真を肴に盛り上がりつつ、翠屋の社員旅行は終わりを告げるのであった。

 追記、俺と横島のツーショットは総て処分した。…まあレイハさんごと処分しない限り何度でもよみがえるんだろうが。なのはに言っておかねばな。

****

鈴木みか&北川理央→原作、ももせたまみ「先生のお時間」です。
静香が知ってる作品からばかりクロスするとは限らないんです。



[14218] 復活(`・ω・´)復活なのでさらっと短編
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/03/09 15:15
「こないだなんてさぁ、あいつったらヴァンプさんトコの怪人さんの催眠術とかにかかっちゃって。退行催眠? とかいうので赤ん坊に精神が逆戻りしちゃって」

「まあ。それではレッドさん負けてしまわれたのですか?」

「いや、何かよく分からないけどあたしが家帰ったら暫く催眠術解けなくなっちゃったって謝られて」

「そのままレッド様をやっつけなされば良かったのではありませんか?」

「ほら、ヴァンプさんに無断であの人に催眠術かけちゃったからじゃない?」

「ヴァンプ将軍は部下の方に慕われておりますものね」

「それから数日、ずっと赤ん坊状態だったからもう。仕事休まざるを得なかったし、大変だったわぁ」

「それは大変でしたわねぇ…具体的にはどうでしたの? あのレッド様が赤ん坊状態など、ちょっと想像しづらいですわ」

「ラクスさん、かよ子さん。おやつ食べませんか?」

「あ、パンの耳揚げた奴ね。懐かしいわぁ」

「まあ、パンの耳をこのように食すのですか。初めて知りましたわ」

「お昼にサンドイッチ作った残りなんだけどね。たまにはこういうのも美味しいでしょう?」

 ここは悪の秘密結社フロシャイム川崎支部。
 神奈川県川崎市は今日もサンレッドのおかげで平和である、多分。

「あ、ラクス様とかよ子さんだー!」

「あら、ウサコッツ様。今日も可愛らしいですわ」

「ウサちゃん、こんにちわー」

 今日も平和である。
 
****

「クロノ君クロノ君、今度の休みに、デートに行かないかい?」

「今度の休みは第97管理外世界でAPECホモ会議に出席しなければならないから無理だな」

「にょろーん」


****

今回の投稿は本編とは何の関係もないかも知れない事をお詫びしておきます。
で、ついsageチェックしちゃったのでageるんだぜ。



[14218] 閑話的な感じで
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/03/16 18:34
諸事情により途中で一人称と三人称が切り替わってます、ご注意。

****

「キツい…」

 TSなんて望みもしない事を押しつけられて以来、最大呪怨中の高町静香(19)です、こんにちは。
 ただいま俺こと高町静香さんはベッドの上に横たわっています、キツいです、生理痛。
 枕元でライキが頭撫でてくれてます、静電気で腰まである俺の黒髪が凄い事になってますが嬉しいので無害です。
 
 前に2○hとかで金○蹴られる痛みと生理痛どっちが辛いかとかアホな質問があった気がしたんだが…
 その答えをリアルで体験出来るとは思わなかった、そんな答え知りたくなかったけど。
 ちなみにどっちが辛いかといえば生理痛、痛いのと怖いのは蹴り上げられる方。後者は機能停止の危険があるから怖い。
 生理痛は基本的には正常な生体反応だからな……あと生理の前~最中はエッチな気分になるってのはマジだった。今もだが。
 もう横島でも良くね? とか元男の俺が真面目に考える程度にはそういう気分になった、これも個人差があるみたいだが…勿論、独りで処理したし横島にも近づけさせなかったけどな、ライキマジプリティ。
 
 つーかマジつらいんですけどっ! 小錦が腹の上に乗っているかのようだ。
 生理痛と言いつつ痛いというよりは重苦しい感じだが……これ、俺が――中の人が慣れてないせいなのか?
 高町静香の赤飯は小学6年の時だからもう数年来の付き合いのハズなんだが…
 そして記憶にある限りではここまで酷いのは初めてだぞ。
 人間の防御的反応として、酷い痛みや苦痛は脳内再現出来ないようになっているという。
 それなのか? それとも単に体調的な巡り合わせなのか…

 温泉旅行中じゃなくて良かったと言えば良かったが……そんな訳で旅行から帰ってきてから数日後の今日、目出度く生理痛で学校どころか朝の修行も朝食の支度も弁当作りも午後のバイトも総てオフとなりました。
 
 前世では、女は生理痛で休めて良いなぁとかバカな事考えて、ホントごめんなさい。

 黒羽とはきっちり話をつけたのでとりあえずこっちは問題ない。元々俺にとってはどうでも良いしな、泥棒なんぞ。まあイリヤの為に赤石は返してもらったが……そもそもなんでイリヤのトコにあったのかは気になるがな。
 あーこれがあるって事はジョースターの一族が存在すると言うことで、即ち宮城県の方へ行けば「何でも治せるスタンド使い」がいる訳だ…この赤石、治してもらいに行くか? GWが始まったら、というか世間的には明日から始まるんだが。
 …まあこれは持ち主のイリヤに返す事になるから良いか。
 俺が変化系だったらオーラを波紋に変えて赤石で増幅とかやるんだけどなぁ。放出じゃ相性悪い。
 
 遠野の奴がイギリス行ったとか琥珀さん(遠野家に電話したら出たのが琥珀さんだった)が言ってたのが気になるが、現状何も出来ん。
 確かギリアムだかグレアムだか、ネコ姉妹の主人がイギリス在住なんだよな……
 なんか伸展あったんだろうけど、何も出来ん。遠野の携帯なんぞ知らんしそもそも持ってるかどうかも解らん。
 発信器なら付けられてそうだけどな、遠野家的に考えて。

 しっかし、観光地でもあるここ、海鳴で全国でも有名な喫茶店経営してるというのに、このかき入れ時に寝っ転がってなければならないとは……情けないにも程がある。辛いにも程がある。
 妊娠すれば生理自体なくなるんだよなぁ…とかアホな事考える位だ、全く。
 …生理痛でこれなら出産ってどんだけ痛いんだろうな…スイカを耳から出す痛みとか聞いた事あるが…こえぇ。
 
 こんこん
 
「静香、大丈夫? お薬持ってきたよ」

「ラァイ」

「人間は不便だねぇ。あたしはそんな事ないけど」

「まあアルフは狼だからね、基本は」

 ホント狼とか羨ましいぞ、こんな時は。
 で、学校行ってないフェイトとユーノと、フリーダム無職使い魔ことアルフがうちで俺の看病してくれるらしい。
 別に生理なんだから要らんとは思うが……
 ちなみになのはも学校休むと騒いでたが、珍しく高町母に説教されて渋々学校へ行った。
 なのは自身が生理痛なら兎も角(まだ赤飯前だが)、ここは高町母が正しいと言わざるを得ない。
 なのはとフェイトもあと二年、下手したら一年で赤飯か……そういやユーノってもう男なのかな。俺の前世の時は小六位だった気がするけど…

 横島はセクハラ自重しようとして手だけ自重出来なかったり美由希にぶっ飛ばされたり…まあ通常運転だった。
 心配そうにしてたのは確かだがね。
 恭也? 心配するハズがない。病気なら兎も角。その点は美由希や両親も同様だが、むしろ正しい反応だ。

 しっかしこんだけ辛いと病気なんじゃなかろうかと考えてしまうが…まあ次の生理の時次第か。

「はい、お薬。ご飯は食べる?」

「食欲がないな。薬飲んだら寝る」

「ライ!」

「大丈夫だ、独りで飲める」

 意外とお節介な、薬を飲まそうとするライキをユーノに押しつけてから、半分が優しさで出来てる薬を飲む俺。
 ちなみに魔法でどうにかするのはお勧めしないそうだ、ユーノ談。
 疲れてるんで細かい理由は聞いてないけど、まあイヤガラセでそんな事する奴じゃないからホントに駄目なんだろう。

「まあ今日が過ぎればどうにかなるだろ。別に病気という訳でもない、構わんで良いぞ」

「ライ!」

「どうしたライキ」

 ぺしぺしとベッドの端をぷっくりお手々で叩くライキ。怒ってますと言わんばかりだ。

「ライキも心配なんだよ、きっと」

「そうだよ、心配だよ」

 く、可愛いじゃないか…ライキはマジ可愛い。
 そういやポケモンの生態ってどうなってるんだろうな……ゲームの卵云々は間違いなくお子様に配慮した結果だろうし…
 まあ深く考えるのは辞めよう、マジでダルいし。

「まああたしとライキがいるからフェイト達は外行っても構わないさね」

「ライ!」

 敬礼するかのように手を挙げるライキ。
 
「ううん、今日はうちでお菓子作るんだ」

「僕も手伝うから大丈夫ですよ」

「…火と刃物には気をつけてな」

 雷とか武器とかで戦闘してるようなのには無駄な注意かも知れんが。

「じゃあ何かあったら呼んでください」

 そういってフェイトとユーノが出て行き、アルフが子犬モードになってライキと共にベッドに潜り込んでくる。
 なんという至福…!
 動物は良いのぅ。
 ま…とりあえず寝るか。生理痛がどうにかなったら、生理とか女性の身体についてマジで勉強しないと不味いな、色んな意味で。
 
 
****

「という訳で今日はコンビニ弁当な訳だが」

 昼休みの風ヶ丘高校の風景は雑然としていた。屋上や裏庭、校庭に一部の特殊教室、学食と各クラスの教室と生徒達は思い思いの場所で食事を取る。昨今の学校では珍しく、屋上も開放されている為、横島達はここで昼食を取るのが習慣になっている。

「しかしあの高町と一緒に暮らすとかよくやるよな、お前も」

「羨ましいかゆっきー」

「アホか。あんな怖い女はお断りだ。まあスタイルだけはママに似てるが」

「確かに怖いかも知れませんね、目つき鋭いし、背は高いし。何より雰囲気というか、プレッシャーが凄まじいですから。
 正直、横島さんはよくつきあえるなと感心しますよ。恭也さんとかは家族だからと納得出来ますが」

「そーじゃノー。こないだ、高町サンが睨んだだけで犬がお腹見せたのを見たケン。高町サンは恐ろしい人ジャー」

「お前ら表出ろ」

「ここは屋上ですけどね」

 横島、そして同級生のピート(月村家に居候中)と雪之丞、そしてタイガー寅吉である。
 仲良し四人組、という程でもないが、男同士でつるむ時、横島はこいつらと付き合う事が多い。
 衛宮とかは周りに女性がいすぎて付き合いづらいのだろう。まあ、この学校で目立つ生徒は大概カップル成立しているのだが。

「しかしコンビニ弁当は不味いな。味気ねぇ」

 往年の貧乏キャラ代表の舌も肥えたものである。

「そりゃ高町さんのお弁当は美味しそうですしねぇ」

「料理上手なのは認めるがなぁ」

「それで横島サン、何か進展があったんですカノー?」

 明らかに手作りな弁当を食す雪之丞。そしてもらい物、というか貢ぎ物の弁当を食すピートにお零れに預かるタイガー。

「全然ないわ! あ、でも昨日、風呂場から下着は盗めたぜ、ふへへへ」

「…そういう事やってるから進展ないんじゃないんですか? そのうち追い出されますよ」

「ちゃんと洗って返すから大丈夫!」

 下着が綺麗になって返ってくるなら気にしない辺りが高町静香という女性の異常性の一つと言える。

「いや下着盗む位なら押し倒せよ、男らしく。返り討ちだろうが」

「うーん、静香ちゃんは常にライキとアルフが一緒に寝てるから、夜這いも成功せんのだ」

「だから追い出されますって普通は」

「高町サンちは変わってるケン」

「あー、それは確かにそう思うわ。俺が言うのもなんだけど」

「恭也さんと忍さんもよくよく変わってますからねぇ。
 こないだ、デート行くと言って出てって、帰ってきたら盆栽抱えてましたし。忍さんの部屋に飾ってありますが…」
 
「ああ、恭也の趣味なんだよな、盆栽」

「またえらい渋い趣味だなおい」

「何が楽しいのかノー、さっぱりジャ」

「俺もそう思う。まあ別に恭也の趣味なんざどうでも良い。
 静香ちゃんの趣味がいまいち解らんのだ」
 
「そもそもアレに何かを愛でる習性があるとは思えん」

「雪之丞は自分より背が高い女には厳しいですよね」

「うるせぇ」

「大概の女性は雪之丞サンより背が高いケンノー」

「おめーが無駄にでかすぎるんだよタイガー!」

「ゆっきーはまだまだだな! 翠屋のケーキより甘い! この写メを見よ!」

 横島の携帯に写るのは、ライキに激辛カレーをあーんしている静香の姿。協力・高町なのは。

「ペットに餌やる時もこの無愛想ヅラか」

「お前の目は節穴さんか! 目尻が下がってデレデレだろ!」

「そう言われると確かに普段より柔和な顔には見えますが…」

「ぶっちゃけ大差ないケン。無愛想なのは変わらんのジャ-」

 間違い探しのレベル以上に大差ないと言わざるを得ない。この写真はなのは経由なので静香本人も知っているので無問題である。

「お前らの見る目のなさにはがっかりだ!」

「ああ、話は変わるがお前らGWはなんか用あるのか?」

「僕は特に予定もないので、忍さんのファリンおもしろ改造計画の手伝いでもしようかと思ってますが」

「ワシも予定はないノー」

「俺は翠屋でバイトじゃ」

「んじゃ他所当たるか…」

「なんかあったんか?」

「いや福引きで海馬ランドの無料チケットがあたったんだがな。葵の奴がちょうど試合でいけねーし、売りつけようかと思ってたんだが」

 風ヶ丘一年、松原葵はエクストリームという格闘技の新進気鋭である。ついでに雪之丞とは格闘マニア同士なかなか良い関係。

「買った!」

「…横島さん、高町さんが付き合ってくれるとは限りませんよ?」

「高町サンが遊園地……果てしなく似合わないノー」

「えーい黙れ! 土下座して頼めば付き合ってくれるさ!」

「土下座って発想が既に負け犬ジャノー」

「まあらしいと言えばらしいですけど」

「まあ使い道がないからな、俺には。金さえもらえれば文句はないが」

「さあ、考えろ俺! 静香ちゃんを海馬ランドに誘う方法を!」

「ところで横島が無事デートにこぎ着けるか賭けないか?」

「無理に五百円ジャー」

「いや…意外に乗ってくるに千円」

「ほう、ギャンブラーだな。じゃあ俺が無理に五百円。勝った方が千円だな」

「最近の高町さんは以前より横島さんに甘くなってますからね、やりようによってはイケるんじゃないでしょうか」

「それは無理なんじゃないかノー。高町さんが遊園地とかあり得ないケン」

「いやお前の場合、横島がデートすんのが腹立つだけだろ」

「彼女持ちの雪之丞サンに言われたくないケンノー!」

「ばっ!? 葵とはそんな関係じゃねぇって!」

「くっ! リア充になる為にも頑張るぞ俺! 負けるな俺!」

「ところで無料チケットの期限、どうしてそんなギリギリなんですかノー?」

「ホントは出すつもりがなかった特別賞で、タンスの底から出てきたから景品にしてしまえという経緯らしい、よく分からんが」

「まあ応援してますよ。そろそろ昼休みも終わりですね」

「んじゃ眠りに行くか」

「雪之丞サンは寝過ぎジャノー。追試大丈夫ですカイ?」

「試験なんてのは赤点取らなきゃそれで良いんだよ」

「それを公言して実施出来てる雪之丞は大したものですねぇ」

「遊園地……お化け屋敷…ジェットコースター……うへへ…」

「横島さんどうします? 完全にイっちゃってますが」

「放っとけ」

「そのうち気がつきますケン」

 その後、横島は放課後まで妄想の世界から戻ってくる事はなかったので――
 結果的にサボった事になり桃子に説教される事になるのだが、それは完全に余談である。


****

「珍しいねぇ、みゆきちがコンビニ弁当とか」

「そうね。いつもは高町先輩が作ってくれるんでしょ?」

 こちらは一年の教室。
 こなた、つかさ、みゆき×2と隣のクラスからかがみが集まって食事中。
 
「うん、静ちゃんが生理痛で寝込んじゃって」

「みゆきちはかがみん並に料理下手だもんねー」

 そういいながらハンバーグを口に放るこなた。勿論自家製である。

「くっ…言い返せない…!」

「高町先輩でも寝込む事があるんだねー」

「生理痛は酷い人は本当に酷いらしいですからね。私はそうでもありませんが…皆さんはどうです?」

「私もそんな酷くないかなぁ」

「わたしもー」

「私は徹夜とかランニングとかすると酷い時はあるけどね」

「かがみんの場合はダイエットとリバウンドが原因でしょー」

「うっさいわ! 高町はダイエットとか無縁で良いわねぇ」

「そりゃ毎朝四時から六時と夕方、夜中と修行修行だもん。太ってる余裕はちょっとないよ」

「お姉ちゃんもたかちゃん位頑張れば痩せられるよー」

 たかちゃん=美由希である。高良みゆきと高町美由希で「たか」「みゆき」と共有している為、つかさとしてもかなり頭を悩ました結果、美由希=たかちゃん、みゆき=ゆきちゃんに落ち着いたらしい。

「無茶言うな」

「かがみさんの場合、気になさる程太ってるとは思えないんですけど」

「みゆきさんが言うと嫌みだよねぇ」

「え? そうなのですか!? そういうつもりはなかったのですが…ごめんなさい、かがみさん」

「いや良いから。気にしてないから。てーかこなたが自重しなさいよ」

「みゆきちー、高町先輩もやっぱり修行とかしてるの?」

「無視かコラ」

「してるけど、静ちゃんのは護身術メインだから内容は私たちとは別だよ。それに朝だけだし」

「古流武術というのも大変なんですね」

「凄いよねぇ、わたし、朝四時とか絶対無理だよ~」

「つかさは朝弱いもんねぇ」

「流石に小学生の頃から続けてれば慣れるよ」

「やっぱり痩せるにはそこまでしないと駄目かしら…」

「まあ食事量>運動量のうちは痩せられないだろうねぇ」

「色々なダイエット方法が取り沙汰されてますが、やはり基本は運動する事ですからね」

「高町先輩と言えばさぁ、横島先輩とはどうなのさみゆきちー」

「そうそう! 去年までは横島先輩の一方通行っぽかったけど、最近は一緒にいる事も多くなったって!」

「横島先輩ってセクハラで有名な人なんだよね~?」

「余り良い噂がある先輩じゃないのは確かですね。高町先輩も似たようなものですが…」

「ああ、高町先輩が一睨みしただけでやくざが泣いて謝ったとかでしょ?」

「実はやくざの娼婦とかじゃなかったっけ?」

「わたしは援交で月100万稼いでるとか聞いたけど」

「静ちゃんはそんな事しないよ!」

 だが静香と目があっただけの、通りすがりの子供が泣いた事はあるのを美由希は知っている、言わないが。

「わたしらは解ってるって。高町先輩優しいもんね、見た目に反して」

「そうそう。スタイル良くて背が高くて美人だから、逆に優しくされると印象強いわよ。こないだ、翠屋でケーキ奢ってもらっちゃったし」

「かがみんは餌に弱すぎー」

「でも高町先輩は無愛想というか口数少ない人ですから、誤解されやすいんでしょうね」

「まあやくざの女親分って感じ? 或いは女スナイパーとか」

「有名人なんだね~、高町先輩って」

「まあアレだけ美人でスタイル良いしね。北川先輩と並ぶとアニメでも滅多にないようなモデル体型が並ぶから圧巻だよ」

「北川先輩も変人で有名だけどね」

「そうそう、ガチレズなんでしょ、あの人」

「あー、それはホントっぽい。静ちゃんが「北川はレズ趣味は兎も角、マニアックなのがなぁ」ってライキに愚痴ってたし」

「狙いが鈴木先生ってのがマニアよね」

「じゃあこなちゃんも危ないんじゃ!」

「つかさ、それはわたしに対する挑戦かい?」

「大丈夫じゃない? こなたはロリっぽいけど鈴木先生とはタイプ違うし」

「あんまり安心出来ないのは何故だらう」

「それより横島先輩と高町先輩でしょ。どうなのよ高町」

「まあ確かに一緒にいる事は増えた感じだけど……どうもご主人様と下僕って感じが…」

「あー、解るかも」

「威厳ありますものね、高町先輩は」

「静ちゃんの態度も分かんないのよねぇ。優しくするかと思うと突き放す、そうかと思えば普通に接してるし…」

 ここでため息を大きく一つ吐く美由希。
 
「昔からさ、静ちゃんは自分のスタイルとか美貌とかそういうのに無頓着で、恭ちゃんや父さんの前でも平気で…その、お風呂上がりに裸で冷蔵庫まで飲み物取りに行くような子だったんだけど…
 風呂上がりにバスタオル巻いただけで居間に入ってきた時は流石に母さんと二人で説教しちゃったよ」
 
 勿論、横島は即座に飛びかかろうとしてなのはに撃墜されたので無害である。
 
「それは…」

「ちょっと、あの横島先輩と一緒に住んでるのにソレ? マジで?」

「流石高町先輩、そこに痺れる憧れず!」

「フェイトちゃんとかユーノとか、なのはと同い年の子も預かってるって言うのにね……」

「ああ、ユーノ君ってアレでしょ、なのはちゃんの彼氏。こないだ買い物の時会ったよ」

「え!? 小学生でもう彼氏がいるの?!」

「まあ、最近の小学生は進んでるんですね」

「なのはちゃん凄ーい」

「ホント、こっちは良い出会いもないっていうのに…ソレは兎も角。
 母さんも注意してるんだけどねぇ…でもそういう風に振る舞ってる割にはノゾキとか夜這いとかは即反撃して比喩表現でなく潰してるんだけど。
 で、そういう事があった翌朝も普通に横島先輩に接してて、普通にお弁当作ってあげてたりするのよ」
 
「えーと、結局、高町先輩は横島先輩の事好きなのかな?」

「どうでしょうか? 少なくとも嫌ってはなさそうですが…」

「ああ、こないだなんて家帰ったら横島先輩が騒いでるから何かと訊いてみたの。
 そしたら静ちゃんが横島先輩の部屋に勝手に入って、そのエッチな本を読んでたらしくて」
 
「…コメントに困るわね」

「たまにエロ本の一つも読みたくなるんだとかなんとか言ってたけど…」

「あー、ちょっと分かるかも。男性向けには男性向け独自のおもしろさがあるもんね、エロゲーもエロ本も」

「うちは女ばっかりの姉妹だから分かんないけど、そういうのってお互い気を遣うもんじゃないの?」

「そうだねぇ、うちはお父さんが普通にエロ本買って資料とか言い張ってるからなぁ。普通にエロ雑誌が積まれてるし」

「あんたんトコはホントアレだな…」

「私たちの家族は父親を除くと女性ばかりですからね。そういうのはちょっと実感しづらいです」

「恭ちゃんはそういうの全く興味ないって顔してヤる事やってたわけだけど…」

「みゆきち、顔怖い」

「たかちゃん落ち着いてー」

「大丈夫、落ち着いてるから。
 でも前より静ちゃんもちょーっと横島先輩には優しくなってるのは確かなのよね。
 静ちゃん達が二年の時からずっと、横島先輩の事はタダのクラスメートとしてしか対応してなかったハズなのに、三年になってからはちょっとずつ距離が近づいてる感じはするよ、確かに」
 
「あたしゃ別に驚かないけどね~、あの二人が付き合っても。
 高町先輩、優しいからきっと見捨てられないんだよ、ああいう駄目男」

「横島先輩って割と一途なのかしら、噂だと下着泥棒の常習犯とか町内の銭湯を総て制覇したとか凄いのばっかりなんだけど」

「横島先輩って銭湯好きなんだね~気が合うかも」

「流石つかさ、ボケてくれる!」

「え? ボケ?」

「そういう意味じゃないわよ! というかつかさに近づいたらぶっ飛ばす!」

「かがみさん、落ち着いてください」

「大丈夫だよ、かがみ。横島先輩のタイプってグラマーで年上っぽい人だから。
 まず間違いなくこなたとかつかさはタイプじゃないよ」
 
「貧乳は貧乳で需要があるから問題なし! 貧乳はステータスだと偉い人も言ってるし!」

「どう考えても負け惜しみにしか聞こえないけどね」

「むう、かがみんのお腹には負けるよ」

「つまむな! 気にしてるんだから!」

「つままれたくなかったら痩せたまへ~」

「ぐぬぬ…」

「前に横島先輩のセクハラについて、思う所はないのかって訊いたのよね、恭ちゃんが」

「そしたらー?」

「『男子高校生がエロ本一つも持ってないとかよりよほど健全だろうが、常識的に考えて』だって」

「高町先輩はその、変わった方ですね」

「どう考えても横島先輩のは行き過ぎだと思うんだけどなー」

「男の子ってエッチな本持ってるのが普通なんだ~」

「懐が広いというべきか大ざっぱに過ぎると言うべきか…」

「静ちゃんの考えは未だによく分かんないよ。昔っから何考えてるか分からないお姉ちゃんだったけど」

「綺麗だけど無口だとあんまり笑わない人だしね、凄い笑みなら見た事あるけど、ニヤリって感じの」

「私の近所に住んでる子も高町先輩と同じようなタイプで、やはり誤解されやすくて苦労されてるみたいです」

「高町先輩の話?」

「あ、那美」

「那美ちゃん、何処行ってたの? もうお昼終わっちゃうよ?」

「理事長先生とちょっとお話してたの」

「理事長と? ちょっと穏やかじゃないんじゃない?」

「私のバイトの件でね」

わーかめーわーかめー

「…このチャイム何とかならないのかしら」

「校長先生の趣味ですからねぇ…」

「さあ午後の授業も頑張るぞっ」

「あんたは寝るだけでしょうが」

「ご飯食べた後は眠くなっちゃうよねぇ」

「気持ちは分かるけどね」

****

TSモノを書く上で外してはならない点だと思います、生理は。
未体験の苦痛やそれにより精神状態の変移などは、男から女へ変わったら普通に色々あって然るべきですから。
それにしても今回は…嫌いなんですがやむを得ませんでした、一話内の途中で人称変更。
まあ後半は蛇足に近いものがありますが…



[14218] 夕方、なのは帰宅後からスタート(・∀・)
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/03/25 19:19
カード事情に関しては超・適当な設定です、突っ込まないでください。
というか原作の設定の方がてk(ry

****

 壁を背に胡座を掻きライキを抱っこしつつ、重い胸を丸くなって眠るライキに乗せ、テーブルカードゲーム『デュエルモンスターズ』をユーノと対戦中。

 しかし転生というか憑依というか、こんな事になって大ダメージだったのがゲーム関係のデータだよな…
 俺の物理ライチュウと狂戦士型テッカニン他十数体が…厳選にアホほど時間をかけた、時間カンストプラチナが…うう、思い出すとまた泣けそうだぜ。
 カードゲームもそうだ…モンコレとかギャザとかガンダムとかポケモンとか、全部パーだもんなぁ。泣きたい。
 そういうゲームがこっちで販売されてなきゃ諦めも付くが、普通に売ってるから困る。ポケモンとかは実際に存在する関係上、色々違ってたけど。伝説ポケモンに「このエンテイはスタッフの想像上の姿であり、実際に云々」とか注意書きがあったりな。そら滅多に見られないから伝説であるわけだし、当然と言えば当然だが、製作スタッフのスペシャルアドバイザーにオーキドユキナリの名前がある辺り、レッド達の図鑑参照にしてるんだろう。ゲーム中の伝説ポケモンも前世でのソレと大差あるようには見えなかった。まあ完全に余談だが。

「よし、モンスターを裏表示でセット、更に魔法&罠カードゾーンに2枚セット、手札から手札抹殺発動!」

 手札がゼロになるのは結構当たり前だから遊戯王は困る。まあこの世界の遊戯はプロデュエリストで世界チャンピオンな訳だが。ソリッドビジョンマジ凄かった。ユーノも一流の幻影魔法使いでもここまで出来るか分からないとか驚いてたし。
 デュエルディスクも二個買ったけど流石にいちいち家でプレイするのに起動するのもな、という訳で普通にデュエルしてる訳だ。
 ちなみにプロのデュエリストとかプロ野球選手並に稼いでるぞ。ありえねぇ。流石にライディングデュエルはないみたいだが。

「賄賂発動でキャンセルです。ドローどうぞ」

「ち…まあ良い。ドローしてターンエンド」

「危なかったねぇ、ユーノ君」

「ドロー。スタンバイフェイズ――」

 と、10分ほどやりあって俺の負け。敗因はダークシムルグ。
 この世界、一部のカードは本気で世界に一枚しかないから困る。コピーカードはデュエルディスクには通らないとか海馬コーポレーションの技術力はマジパネェ。
 ちなみになのはのお気に入りはブラマジ軸の魔法使い、ユーノは苦痛ハーピィダクシム軸のイヤガラセデッキ。性格悪いにも程がある。
 まあその一部のカード、青眼白竜とかブラックマジシャンとかはプロデュエリストが持ってる『本物』と一般に市販されてる『量産カード』とあるみたいなんだが、量産カードの方ですらシングルで買うと結構な値段なんだよな。なのはは自力で引き当てたらしいが。
 まあそういう事情なんでアニメや漫画みたくデッキテーマが決して被らないなぞという事はなく、プロですら普通にライロ・ライコウやエアーマンを混ぜたりしてるし複数のデッキ使うのも当たり前な訳だ。遊戯とか社長とか一部のプロ以外は前世でのゲーム同様、普通に回るデッキ使ってるしな。
 遊戯とか社長のデッキはアレだ、あいつらのドロー力(欲しい時に欲しいカードを引き当てる力)があってこそだよ……

 まあそんな訳なんで「折角だから俺は海馬プロの使ってるカードを選ぶぜ」という感じで量産カードでデッキ組んだりする訳だ、プロ野球の選手と同じメーカーで揃えるとかそんなイメージだな。青眼白竜だけは冗談抜きに量産カードも作らない辺り、社長の嫁愛が見て取れる。マジで世界にただ一人の青眼白竜使いな訳だ。

 そして現実というか前世というか、兎に角以前の世界にあったネズミ王国はこの世界にはなく――
 
 同じ場所に海馬ランドというテーマパークがあるのだった。
 海馬ランドで正義の味方カイバーマンと握手だ。海馬ランドには専用デュエルスペースがあり、カレンダーの赤い日にはプロデュエリストが何人か常駐して相手してくれるというサービスっぷり。
 休日にはブルーアイズホワイトトレインが舞浜の駅に到着だ。子供に大人気らしい。ちょっと調べて見たらカイバーキャッスルとかがど真ん中に社長の巨大像と共に建ってる辺り、社長の自意識過剰っぷりが凄まじいにも程がある。
 
 更に言えば世界海馬ランド計画は順調に進捗中らしく、日本の隣二国以外の先進国と呼ばれる国には一国一カ所以上建設・運営されてるとか。社長マジパネェ。
 
 がちゃり
 
「お菓子出来たよ」

「あんた、寝てなくて良いのかい?」

「ああ、薬飲んで一眠りしたら一気に収まった」

 流石半分が優しさで出来てる薬。まあ薬慣れしてないからだろうけど。それとも俺が慣れてないだけであの程度は普通なのかも知れん。今は下腹部に違和感あるけど平常運行のレベルだ。

「静香、どうかな?」

「ほう、ライキの形のサブレか。ライチュウサブレ、上手いじゃないか」

 耳、目、口などはチョコをかけて描いたのか。多分、ユーノが下絵を描いてあげたんだろうな、フェイトの画才はスプー並だったし。
 味の方は若干舌触りが悪いが、十分及第点だろ。小学3年でここまで出来れば大したもんだ、ユーノが口出したとはいえ。

「フェイトちゃん凄い!」

「ライ♪」

 見ようによっては共食いだな…いや良いんだけどね、美味しそうに食べるライキ可愛いぜ。静電気に負けずなでなでするぜ。

「ありがとう、なのは、ライキ」

「フェイト、今度はドッグフード作っておくれよ」

「え? 静香、教えてくれる?」

「残念ながら専門外だ。というかドッグフードは買うものであって作るもんじゃないな」

 ねこまんまとかなら作れるけどな。
 そういやドッグフードが出来る前って犬は何食ってたんだろうか。やはり残飯か?

「なのは達は何やってたの?」

「カードゲーム! おもしろかっこいいんだよ!」

 と、決闘盤を取り出してブラックマジシャンを召喚して見せるなのは。
 これ、単体で海馬コーポレーションの衛星にアクセスしてKC本部のサーバから映像情報引っ張ってきて映し出すって仕組みらしいんだが……どんだけハイテクなんだこの世界は。まあ結構な値段したけどな、ガキの玩具って額じゃなかったぞ。
 
「凄い…!」

「ね! 格好良いでしょ!」

「凄いねぇ、これ幻術かい?」

 ブラックマジシャンに手を入れて、実態がない事を確認するアルフ。
 
「ミッドでなら確かに幻術のカテゴリーに入りそうですけど、魔力は使ってない、そういう技術らしいですよ」

 続けてダークシムルグを召喚して見せるユーノ。

「で、これで何が出来るんだい?」

「ゲームなの!」

「…こんだけの技術を遊びの為だけに…呆れて良いやら感心してよいやら」

「同感ですけど、これ、結構面白いですよ」

「あたしゃパス」

「ユーノ、なのは。私もそれやりたい」

「いいよ! まずはわたしの余ってるカード上げるね」

「どうせならストラクチャー買って来い。これでな」

 と諭吉さんを取り出す俺。
 ちなみに海馬プロデッキとかチャンピオンデッキとか城之内デッキとかあるんだぜ。ネタでなく。
 
「ユーノとなのはも一つずつ買って良いぞ、フェイトは適当にな」

「ありがとう静香!」

「すいません、静香さん」

「ありがとうお姉ちゃん! 行こう!」

 と、片付けもせんと二人の手を取って廊下へ飛び出て行くなのは。
 子供らしいトコが見られると嬉しくなるね、何とも。玩具やゲームを楽しまないで何が子供かってんだよな、全く。

「で、あんたは寝てなくて良いのかい?」

「ライ!」

「もう殆ど違和感ないしなぁ」

「ライライ!」

 ぺちぺち

「分かったから叩くな」

 焼きたてのコッペパンのような柔らかい手で叩かれると気持ち良いだろ、常識的に考えて。
 しかしこれが雷パンチをぶっ放す時は厚さ20㎝のコンクリ位平気でぶち抜く威力だから怖い。スタンガンなんて目じゃない程スパークするし。どうなってるんだか。

「アルフ、このサブレをプレシア達に届けてやれ」

 側にあった適当な紙袋にライチュウサブレを突っ込み、アルフに押しつける俺。

「ん。分かったよ」

「狼モードで走るなよ」

「大丈夫だって。心配性だねぇ」

 前科持ちだからな。このバカ狼は通常モードで散歩しやがった事があるのだ。全長2mの狼が彷徨いてればそれは騒ぎになるというものだ、全く。

「ライライ!」

「分かったから引っ張るな」

「じゃあ行ってくる」

「ん」

 アルフが部屋から出て行くと、ライキに引っ張られるようにベッドの方へ移る俺。
 意外と過保護だな、こいつも。可愛いから良いけど。
 まあ基本的に365日殆ど休みなしで働かざるを得ない身分である事だし(翠屋に定休日はない)たまにはのんびりさせてもらうかね。

「らぁい」

 あくびも可愛いから困る。そして眠気が――

****

「静香お姉ちゃん! 遊園地のチケットが当たったの!」

「遊園地って面白い所なんだってね」

「ただ、カップル用の二枚セットなんですよね、当たったの」

 お前ら帰ってくるなり騒がしいわ。

「大丈夫! もう一枚買えば問題ないの! ねえねえ! 海馬ランドへ行って良いでしょ?!」

「なのは、おちついて」

「そんなに楽しいトコなんだ」

 ふむ、田舎育ちのフェイトは遊園地がどういうものか分からず、中身が大人のユーノと同じで落ち着いてるが、うちの妹はなんかやたらとテンション高いな。

「まあGWだから別段、行くのは問題なかろうが。
 誰がついていくんだ? まさかお前らだけで行かせる訳にもいくまい?」

 ちなみに夕飯の支度中である。
 ライキは俺の足下で護衛中だそうだ。

「大丈夫だよ! ユーノ君とフェイトちゃんがいれば殺人犯とだってやりあえるよ!」

「落ち着け、心配してる方向が違う」

 あと包丁使ってんだから近寄るな。
 と、ユーノに視線をくれると察したのか、テンション高いなのはの片腕を抱き抱えるようにしてテーブルまで引き戻してくれた。

「とりあえずそこの林檎でも食べ落ち着け」

 わざわざプレーンヨーグルトまで掛けてあるのは自分で食べる為だったのは内緒だ。

「しかし何に当たったんだ、それは」

「福引きなの!」

 フォークで細かく割った林檎を刺しながら、なのは。

「カード買ったら福引き券っていうの、お店の人がくれて」

「で、フェイトが特別賞の海馬ランド無料チケットを手に入れたというわけです」

 ふーん。うちの商店街もなかなかやるな。期限がやたら短いのは気になるが。
 
 今日はおでんだぜ。ちなみに高町母は関西生まれだが東京育ちなので昆布は入れるのだ、父士郎は放浪しまくってる男だから味に拘りはないしな。ちなみに俺の前世も東京育ちなので問題なく昆布が入る。
 しかし料理が楽しいな。前世じゃ嫁さんなんぞもらわなかったから、滅多に誰かに喰わせる事もなく独り暮らしで自炊能力を上げてきた訳だが…ガキどもが旨いって食べてくれるのは、何というか幸せだ。
 思わず気合いも入るというものだ。まあおでんに気合いも何もないんだが。基本的には出来合の材料突っ込んで出汁とか調整するだけだしな、家庭料理としてのおでんでそこまで凝ったもん出す訳ない。
 あ、でも餅巾着は中に五目野菜と一緒に入ったのと餅だけの二種類入れてるぜ、俺の趣味で。

 で、飯の方は筍ご飯だぜー。
 ……振り返って見ると随分、女である事に違和感感じなくなって来てるな、まだ一ヶ月ちょい過ぎたばかりだと言うのに。
 それとももう一ヶ月も過ぎたというべきなのか。難しいトコだ。
 そもそもこんな体験、他の誰がしてるというのか。相談も出来んしなぁ。

「ご馳走様ー」「ごちそう様です」「ごちそうさま」

「ん。飯が出来たら呼ぶから遊んでろ。
 海馬ランドの件は高町母に相談するんだな。反対はされないと思うが…」

「はーい。いこ、ユーノ君、フェイトちゃん。デュエルしよー」

「うん」
 
 どたどたどた
 
 しかしかき入れ時といえばかき入れ時なこの時期に、保護者として付き添える奴がいるか?
 横島だって結構戦力だしなぁ。まさか小学三年、9歳のガキだけで東京に放り出すとかしないだろうし。
 
 ん? ライキは何処行った?
 
「ライ!」

 ああ、貯まった電気を出しに行ったのか。災害緊急用の大容量バッテリーを庭先に設置し、日々貯まるライキの電気を蓄電させているのだ。ライチュウは体内に電気が貯まり過ぎると性格が好戦的になり面倒だからな。
 これで大災害が起きてもうちは問題なく電化製品が使えるというもの。飼ってて良かった電気ポケモン。
 そのうち一家に一匹Lvで普及しそうだな。まあ、うちは魔法使いがいるから電気なくても何とかなりそうな気はするが。

「後は減圧すべしっと」

 減圧加熱調理器という便利なモノが手に入ったからには使いたいのだ。新し物好きな俺です。
 100人近くもの諭吉さんが必要なのだが、作ってるのが月村工業だからな。もう知り合いに社長とかいると大助かりだわ。
 所詮世の中金とコネってか。試作品だから爆発しても云々言ってたがまさか爆発すまいよ。

「さて、明日の朝飯の仕込みでも――」

「よう、静香。邪魔するぜ」

「お前はインターフォンの意味を辞書で引いてこい」

 黙って上がってくるな、不法侵入だろうに、全く。

「土産にタイヤキ持ってきたぜ」

 どさっと十数個入ってるであろう紙袋を放るアキラ。

「まあ良い。茶位出してやる」

 受け取り、電子レンジの上に置いておく。流石に夕飯も前だしな。
 ちなみに冷めたタイヤキは霧吹きで裏表、軽く水気を付けてからレンジで温めると皮もパリっと復活するんだぜ。
 
「おう、すまねぇ。
 ちょっと相談があるんだよ」
 
 どっかと居間のソファーに腰掛けるファッションセンスがズレてる男、アキラ。

「今日はまた随分可愛い格好してるじゃねーか」

「さっきまで寝てたからな」

 ちなみにたれぱんだ柄のパジャマにエプロン、髪は頸の後ろで結わいてるだけという簡単なもの。寝起きだしこれから飯喰って風呂入ったらまた寝る時間だしな、寝られるかどうかは別として。どうでも良いけどネグリジェってあんまり着る意味無くないか、寝心地的に。一回で辞めたわ、見せる相手もいないし。
 
「なんだあの日か」

「殺すぞ」

 デリカシーの無い奴だな、全く。
 どんっとわざとらしく音を立てて湯飲みをテーブルに置く俺。

「ライ! ラーイ!」

「相変わらず嫌われてんな。さっさと帰れだとよ」

 なんだライキ。放電しに行ったかと思ったら毛を逆立てて居間に入ってきたぞ。
 しかしこいつ動物の心も読めるのか…まあポケモンなら人間並の感情持ってておかしくないけどさ。

「まあ待て、ライキ。こんなんでも客は客だ。落ち着け」

「らぁい」

 ぷうっと頬をふくらませるライキが愛おしい。茶を置いた後そのまま明日の朝飯(と弁当)の仕込みを始める俺と、アキラとの間にでんと座ってアキラを睨んでる。そんなに嫌いか。
 
「で、相談とは? 妹さんか?」

「おう、カオリの事だ。
 実はよー、ちびっこハウスに海馬コーポレーションから招待状が届いたんだわ、海馬ランドのな」
 
 んー、あ、社長の夢か。確か自分達みたいな親無しの子供を無料で、自分の作った遊園地に招待するという。
 で、詳しく話を聞くとどうも別にアキラのトコが特別な訳でなく、月に一回のペースでランダムに選出された孤児院などの施設に保護されてる子供達全員の宿泊料や飲食代も含めた完全無料招待と、その孤児院の存在する街へ規模に応じた無料パス(勿論海馬ランド内での飲食を含めた買い物やランド内にあるKCオフィシャルホテルの宿泊料は別)の無料配布など行っているらしい。
 どうせ慈善事業するなら徹底的にという社長の思想も見え隠れするが、「俺に常識など通用せん!」と言い切る社長の割に素晴らしい事業だ。金に執着心がなく、若いから出来る芸当だろうが、素晴らしい事には変わりない。
 道理で海馬コーポレーションの諸外国における評判がやたら良い訳だ。それで招待された子供達がデュエルモンスターズにハマれば二度美味しい訳だしな。強力なシングルカードに固執しなきゃそれなりの金で遊べるしなぁ、最終的には運だしね、勝利の鍵は。

 なるほど、なのは達が福引きで当てたってのもソレか。
 期限が極端に短いのは「とっとと来い! そして思う存分楽しむが良い!」という訳か。この期間中、一般人の入園は人数制限されてる可能性すらあり得そうだ。

「で、なんでカオリは行きたがらないんだ?」

 チケットはタエコやアキラ、院長の分も用意されてる所か、新幹線のチケットまで用意されてるらしい。
 ここまで来ると「来い!」という脅迫めいたものも感じるが、あの社長の自尊心を考えれば当然かも知れん。

「車椅子でしか行けない、お兄ちゃんに迷惑になる、お兄ちゃんは彼女誘って行くべき。だそうだ」

「突っ込み所は兎も角、そんなに悪いのか、カオリの体調は」

「良いとは言えねぇ。けどホントの所はよく分からん。あいつの心は読めないしな」

「…カオリもHGSか」

「多分な。てか最近になってからなんだが、読めなくなったのは。
 それは良いんだが、カオリ残してったら俺もタエコも、院長だって気になって他のガキどもの引率してらんねーしよぉ」

 多分じゃなくて医者に診せろってんだ。まあ金がないんだろうが…
 それとも実験台にされる方を恐れてるのか? どっちもあり得そうだ。

「それは分かったが、私に相談してどうなるというものでもなかろうよ」

「カオリを説得してくんねぇか? 正直困ってる」

「ふむ」

 まあ一人だけ残して行く訳にもいくまい。その場合はアキラ一人残って面倒見るんだろうが…
 
「遺憾ながら私がアキラと行く事を望んでるのだろう?
 私が説得してどうにかなるものでもないと思うが?」

「ンな事ぁねぇよ。勘だけど」

 勘かよ。
 面倒だなぁ。海馬ランドは行きたいが、このGW中とかあり得ない上にこいつの妹のチケットで行くとかあり得ない。
 学校サボらせて遊園地行くのもアレだが実家の家業サボってとかかなりないわ、俺的には。

「ラァイ!」

「別に困らせたい訳じゃねーから落ち着け」

 なるほど、俺が困った様子だから威嚇か。ライキはホントに良い子だな。
 後でハバネロスナックを上げよう。
 それにしても相談に来るなら来るでもっと早く来いってんだ。ギリギリまで自分でどうにかしようとした結果だろうが。

「ライキ、落ち着け。
 とりあえず分かった。飯喰ったらちびっこハウスに行く事にしよう」
 
 アキラはどうでも良いが、カオリが行けないというのは可哀想だしな、話の限りじゃ健康的にはさほど問題もないみたいだし。

 ん、まあこんなとこか。後は明日の朝に仕上げだな。

 どたどたどた…
 
「あ、アキラさんこんにちわー」

「アキラ、いらしゃっい」

「こんにちわアキラさん」

「おう、ガキども。タイヤキ持ってきたから後で喰わせてもらえや」

「わーい♪ ありがとう、アキラさん」

 ガキどもは素直で宜しい。

「静香お姉ちゃん、テレビ見て良いでしょう?」

「構わんぞ。アキラ、飯はどうする? 喰ってくか?」

「お、静香の手料理か。ゴチになるぜ」

 手料理って程でもないがな、おでんだし。まあ餅巾着以外にも色々作ったが半分位出来合のだし。

「スーパー1格好良いのっ!」

「滝の人間ゆえの強さは惹かれるものがあるよね」

「ストロンガー…」

「ライ! らぁい!」

 ライキ、それはストロンガーの変身ポーズか。
 というか。
 
 仮面ライダーSPIRITSアニメ化してるのかよ!!
 
 今世紀最大のショックだ、これだけでこんな馬鹿げた世界に生まれ変わった甲斐があると言い切れるぞ。

「おー、うちのガキどもにも人気だぜ、これ」

 なんとぬるぬる動く事か。アニメ黄金期90年代の動きを超えてると言って良いアニメーション!
 やべ、超見たい。OPだけで引き込まれたわ。
 番組欄見たらどうも月一回の月刊、一時間放送みたいだな。流石テレ○系、やってくれる。
 正直毎週やらんで良いからクオリティ高めて維持すべきだよな、うん。

「なのは、録画してあるのか?」

「勿論なの!」

 なら後で纏めて見るか。

「ん? 何処行くんだ?」

「食事の後出かけるんだろう? 着替えてくる」

「ラァイ?」

「ああ、見てて構わん」

 そんなにストロンガー好きか。親近感感じるのか。フェイトもだけど。
 フェイトのバリアジャケット装着時に変身ポーズとかハマるかもな。

 さて、着替えるか。



[14218] 黒髪ポニーで料理上手でクールな美人お姉さんは好きですか
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/04/13 23:21

「ねーこねこ、ねーこねこロケンロールっと」

 なのはのお気に入りで気付くとサビだけ口ずさめるようになっていたんだが…
 この歌を聴くとなのはルートor桃子ルートを探して序章を彷徨った思い出が蘇るんだよな、とらハファン的に考えて。
 血の繋がらない義母とか我々の業界ではご褒美ですって思ったのになぁ。
 まあ身内になってみれば、家族内でそんなキモい事して欲しくはないのは事実だが。

 現在パジャマから着替え中な訳だが一向にスカートは履く気にならん……ならんが、俺みたいな美人がスカート履かないとか犯罪な気もする。見せびらかしたい程長く綺麗な足だし。うちはみんな毛が薄いのか首から下の体毛はかなり薄いのばっかりでお手入れとやらが楽でよい。
 しかし制服のスカートですらこう頼りない。感覚的にはパンツ一丁で外出歩いてるのと大差無いのだ、元男としては。
 すーすーして涼しいし。これから夏になる時期だから良いけど、冬は寒かろうなぁ……
 スーツに合わせたタイトスカートとかデニムスカートとか似合いそうだけど、ただでさえでかい胸常備してて視線集めやすいというのに。見られたいか見られたくないかと言えば見られたくはない訳で。
 日常生活動作的な女らしさは身についてきた――ような気がするが、こういうのは慣れんなぁ。
 忍とかヴィレッタ先生とかエクセレン先生とか、よく平気で振る舞えるよな、あんな注目される程の美人なのに。

「ま、こんなトコか」

 ジーンズのズボン、薄手のトレーナーの上にジージャンという素っ気ない着こなしだが別にデートに行く訳でないのでこれで良いのだ。
 そろそろ横島達も帰ってくるだろうし、夕飯の仕上げもしないとな。

 がちゃ
 
「おお!?」

「で、キサマは何をしてる」

 確かに円なんてやってなかったけどさ、俺に、戦闘民族高町家の無駄にハイスペックな感覚器官に察せられない隠行とかこいつはどれだけ可能性を秘めてるんだ。

「帰ったらすぐ静香ちゃんと話したくて!」

 だったらノックして入ってくるなりすれば良かろうが。ドアノブに耳を付けてたから倒れ込んだんだろうに。

「静香ちゃん、海馬ランド行こう海馬ランド!
 こないだ行きたがってたっすよね!」
 
 おまえもか。
 サザエさんかこの家は。どいつもこいつも一つの話題に終始しおって。

 いやまあ確かにこないだの「プロジェクトX~挑戦者達~」に出演した海馬瀬人社長には感動したが、色んな意味で。
 一応、社会人(アメリカの大学生兼任だけど)として普通に司会者と接してたけど(社長が敬語とかそれだけで笑えるが)、デュエルシーンになると全力全壊の社長節だもんなぁ、ありゃ惚れるわ。

「チケットの期限は?」

「GWまでっす」

 やっぱりか。

「行けるか阿呆」

「なんで!?」

 がーんと口に出して打ちひしがれる横島。
 とりあえずお前は立て。

「あのな、うちはスイーツ(笑)で全国的にも有名な喫茶店だぞ、しかも海鳴市は観光地。
 稼ぎ時に遊園地で遊んでられるか」
 
 全く。これだから高校生はいかん。遊びたい盛りなのは分かるが仕事は仕事だろうに。
 ……俺も高校生なんだよな、そういえば。
 まあ跡取りとして家業に精を出すのは間違いではないから良いけど。

 ところでスイーツってなんだかなぁと思わないか? 普通にデザートでいいじゃんね。
 全く流行を作らなきゃ死ぬとでも言わんばかりで鬱陶しいぜ。
 
「やだー!! 一緒に行きたい行きたい行きたい!」

「更に行く気が失せるから黙れ」

 頭痛ぇ。廊下に寝転がってじたばたとか幼稚園児かこいつは。
 
 どぉんっ!
 
「おおお!?」

「下からだ!」

 円!
 ぐわっと広がりあっという間に広がる念。同時に廊下を走り階段を駆け下りる!
 
 アキラが手に鍋を持って……ユーノか? なのは、フェイト、ライキを背に、両手をキッチンの方へ向けているのは。
 ……まさかホントに爆発したのか? 爆発はロマンだとか言い出したら張っ倒すぞ?

「なにがあった?!」

 部屋に飛び込むと同時に円を解除。
 概ね円で得た情報と同じだな。怪我はなさそうだ。

「あ、お姉ちゃん!」

「ビビったぜ、そこの機械が爆発したんだわ」

「ユーノがとっさにプロテクション張ってくれたんだ」

「ライ! ライ!」

「ライキもリフレクターを張ってくれたんだよ!」

 なるほど、なのは、フェイトの前、ユーノの後ろにライキがいるのはそういう訳か。
 そしてテーブルの上に鍋を置くアキラ。

「怪我は?」

「誰もしてません。けど、機械は完全にお釈迦ですね」

 なるほど、居間を見渡せばなのはとフェイトを気遣うユーノ。
 どうでも良いが外国人の割にお釈迦とか良く言い回せるよな、ホント。ミッドの共用語って日本語なのか。 その割には金髪外人が多い描写だった気がするが。
 ま、兎も角、視線を動かすと、爆発音の原因のなれの果て…?

「アキラが中身をアポート(引き寄せ・物体転移)させたのか」

「おう、晩飯は死守したぜ」

「よくやった、うちの妹をファックしていいぞ」

「…ふぁっく?」×2

「知らなくて良い言葉だよ…というか静香さん…」

「勿論上の愚妹の事だ」

 頭痛そうな顔するな、軍隊的冗句だ。

「遠慮しとくわ」

「……で、爆発した割には被害がない、な?」

 減圧加熱調理器が爆発した割に、天井どころか側にあった炊飯器や他の食器も焦げ一つないぞ。

「ユーノ君がね! とっさにその機械を『包んだ』の! プロテクションで!」

 なるほど、爆発をプロテクション内で完結させたのか。

「なんか変な音してたからな、全員でおかしいって言ってたのが良かった」

「そうか。月村には後で謝罪と補償を要求するとして。
 怪我がなくて何よりだ」
 
 間取り的に台所と食事場所(食堂という程ではないがかなりでかいテーブルが鎮座している)、居間が繋がってるんで対処出来たんだろうな。

「静香ちゃん大丈夫っすか!? あとアキラは死んでないか?!」

 救急箱(これも一般家庭にあるそれより遙かに巨大で一抱えほどもある)を道場から持ってきたんだろう、横島が駆け込んできた。
 ふむ、無意味に終わったとは言え気が利いてるではないか。
 
「死んでねーよ。まだまだやり残した事があるんでな」

 苦笑しつつつまみ食いを開始するアキラ。躾がなってないな。まあ毒味と思ってやるが。
 つまんでないけどつまみ食いとはこれ如何に。超能力をンな事に使うな。

「ちっ……で、なにがあったんすか?」

「月村からもらった調理器具が爆発した。
 ユーノとアキラのおかげで被害ゼロ。
 で、だ。
 なのは達も怪我はないのならテレビの続きを見ると良い。
 アキラ、すまんがその残骸を庭に放り出してくれ」

「おう」

「はーい」×3

「よ――忠夫はそれ片付けてこい。すまなかったな。
 そういえばうちの両親はまだか?」
 
「あ、そうそう。帰り遅くなるって。町会長さんに呼ばれたとか何とか」

「ふむ? 美由希はこなたのトコへお泊まり会だったな」

「恭也は月村んちっすね。ねたましい」

「では片付けてこい」

「うっす」

 おでんの方は問題ないし、飯も炊けたな。蒸らす時間が必要だが。
 ふむ、孤児院に行くなら手土産は必要か。
 この時間に他所様のお宅へお邪魔するのだしな。
 
「おう、適当に置いてきたぜ」

「ご苦労」

「アイスラッガー! セブン格好良い!」

「ライ! ライ」

「なるほど、光線をこう使うのか…」

「なのはにも出来そうだよね、アレ」

「ウルトラマンかぁ。俺がちぃせぇ頃は特撮でやってたなぁ」

 フロシャイムから怪人役で出演ですね、分かります。

 ……ウルトラマン・ゼロもアニメ化か。
 前世より遙かに充実してるな、この世界のアニメ事情は。少なくとも見るだけなら。
 全体的に作画関係が神だから困る。海馬コーポレーションがてこ入れしてんじゃないかと邪推してるんだが。
 まあ良い。ちゃんと録画されてるみたいだし、後でゆっくり見よう。
 それにしてもテレビに夢中な子供ってのは和むな。可愛いぜどいつもこいつも。ライキもな。

「片付けてきたっすよー」

「うむ。飯が出来るまで待ってろ」

「うっす」

「ライライ!」

「分かったからひっつくな! 痛いんじゃ静電気が!」

「懐かれてんなぁ。横島も一緒に見ようってさ」

「動物語が分かるかい!」

 やかましい奴らだな、全く。しかしポケモンは動物に分類されるのかね?
 さて、トリュフチョコでも作るか。手順だけは覚えてるが自作は初めて、だがしかしこの程度に失敗はない。
 というか来るなら来る、呼ぶなら呼ぶで前もって言えばもう少しまともな物を用意出来ようが、全く。
 お気遣いの紳士を見習えってんだ。
 
****

「大根うめぇ」「餅巾着美味しーの!」

「ちっちゃい卵…」「ウズラって言う鳥の卵だね」

「黙って喰え。横し――忠夫はもう少し落ち着いて喰え」

 ガツガツしすぎだ。
 ちなみに両親は町会長のトコで飲んでると連絡があったので先に頂いてる訳だ。

「フェイト、フォークを使っても構わんぞ」

 ウズラの卵は日本人でも下手な奴はつまめないからな。
 むしろ平気で箸でウズラの卵を掴めるユーノの方が異常なのだ。まあ元々放浪する一族の出だから、色んな風習に親しみがあって、その上逆行者だからなぁ。魔法以外でも地味にチートだよな、こいつ。

「ううん、頑張る」

「フェイトちゃんファイト!」

「後でお箸の練習しようか」

 しかしうちのガキどもは良い子ばかりだな。
 疲れないかねぇ、とか考えてしまう俺はきっと汚れた大人なのだ。

「静香ちゃんお代わり!」

「あ、俺も」

「三杯目はそっと出せ」

 よく喰うよ、ホント。
 まあうちは人数が多いからご飯が足らなくなるなんて事はないんだが。
 アキラも大概だが横島もなぁ、こいつら良く太らんな。
 と言いつつそういえば俺も前世でこいつらと同世代の時は食事量に対して体重の変動が少なかったかな。
 そういう時期なのかね。三十路になってメタボるがよいわ。
 などと考えつつ、大盛りにご飯をよそってやる俺。

「タケノコ美味しいね」

「混ぜご飯好き! キノコご飯とかも美味しいよ!」

「ホント、この国はご飯の国なんですね」

「外国人っぽい意見だなぁ」

「ユーノは外国人やろが、見た目も」

「早く喰え黙って喰えとっとと喰え馬鹿者ども」

 あ、まっくんが「○のさん」と討論してる。
 まっくんとは国民的ファンシーキャラ……アレだ、ウサコッツたちの親戚だ。
 クマのぬいぐるみ型怪人…? とりあえず下は幼稚園児から孫がいる年寄りまで幅広い年齢に支持されてるぬいぐるみ生物なのだ。
 これも漫画かなんかのキャラか? 幾ら前世で隠れオタやってたからって俺が知らない作品なんぞ山程あるしなぁ。
 
 生きたぬいぐるみといえば。
 天気予報とかの定点カメラでスクランブル写すだろ? 渋谷とか新宿とか。
 アレに普通に仮面ライダーに出てきそうなのとかガチ○ピンの親戚みたいのがサラリーマンや学生たちと混ざって歩いてるからな…東京とか都会は恐ろしいトコだ…

「まっくんが何を言ってるのか分からないの」

「私も…」

「これは…政治討論番組なのは分かるけど…
 この見た目で未熟な親への教育とか言われるとインパクト凄いね」
 
「小難しい事ぁいいんだよ。ガンモうめぇ」

「馬鹿野郎、牛すじのうまさを知らんのか」

「やれやれ…」

 意外と仲良いんじゃないかこいつら。
 まーアキラみたいな心読める人間にとっちゃ裏表ない奴が一番気楽だろうしな。

「ただいまー」

「アルフだ」

 あ、忘れてた。
 爆発だのですっかりアルフの事忘れてたな。
 まあ良い。ガキどもが腹を空かすのはいけない事だからな、先に食べさせてもらったのだ、うん。
 
「なんだい、人を使いっ走りさせておいて先に喰うなんて薄情じゃないかい?」

「すまんな、これから用事があるんで先に喰わせてもらった」

「まあ良いさ。フェイト、なのは、ユーノ。
 プレシアが用があるから後で来いってさ」
 
「なんだろうね?」

「分かんない。ユーノ君知ってる?」

「多分――まあ行ってみれば分かるよ」

 ユーノが知っててプレシアが関係してそうな事ねぇ。
 アルフの為にご飯をよそいながら考えてみるが、全く思いつかん。
 アニメだと今頃なのはとユーノがアースラに寝泊まりか? それともクロノ参上の頃か?
 まー今更だな、うん。前倒しにも程があるしな、色々。
 
「なんかあるんすか? これから」

「ああ、アキラのトコの妹に会いに行く――「却下ぁっ!」――人が喋ってる最中に叫ぶな馬鹿者」

「こんな夜中に男の家行くとか何考えてるんすか!」

 まだ夕方二十時前だが。
 閉店の早くね? とか思った奴、ここは東京みたいな大都会じゃないし、うちの店は駅前でもないんだ。
 まあ腰の重い客とかがいれば多少は伸びるがたいていは十九時〆だな。
 朝昼は兎も角、夕食喰うような店でもないしな。
 
「小学生じゃあるまいしこの時間で夜遅くとかないだろう」

「男の家に行くってのがダメなんや! 嫁入り前の娘がはしたない!」

 テンパると関西弁が出るなこいつ。
 それにしてもいつもお前がしてる事はなんなんだと小一時間(ry

「あのな、アキラは施設に住んでるんだぞ? 孤児院だ、所謂。
 つまりなのはと同じ位のガキどもが雁首揃えてるトコで、何程の危険があるというのだ?
 大体ライキも一緒にいて私がどうこうされる訳なかろう、強さ的に」
 
 念無しでもまだ横島には負けないしな。
 苔の一念かどうかは兎も角、徹とか貫とか基本に関しては既に背中にいそうだが、まだまだ実戦的には負けないぜ。

「気持ちは分かるがよぉ、横島。
 ぶっちゃけ今回はそんな色っぽい話じゃねぇんだよ」
 
 かくかくしかじかうまうま
 
「つまり妹を出汁に静香ちゃんを籠絡しようという作戦な訳だなこのヤンキーが」

 ちょっとは強くなった自信でもあるのか最近強気だなこいつ。

「てめぇ人の話聞いてんのかコラ」

「止めろ阿呆ども」

「わー、これが修羅場って奴なの。昼ドラなの」

「もう夜中だよね? 昼?」

「なのは、フェイト、部屋に戻ってプレシアさんのトコへ連絡しようか」

「うん」「そうだね」

 流石空気の読める男、ユーノ。
 一つ目線をこっちにくれるとそのまま二人の手を引いて部屋へ戻って行った。
 良い子過ぎるがな。中身知ってる俺は兎も角、うちの両親なんか心配してたし。
 まーなのはやフェイトに献身的過ぎると言われれば――と思考が逸れたな。
 今はこの馬鹿どもの相手だ。
 
「ガキが遊園地に行きたくないという。
 それは少なくとも本人にとってはのっぴきならぬ事情があるんじゃないのか?
 博愛主義を気取るつもりはないが、話を聞くだけでも救いになるならすべきだ」
 
 客観的に見て心配性に過ぎる、横島のはな。
 俺に惚れてるんだから当たり前な気もするが……男に惚れられてもな、いや女に惚れられるのももっと困るが。いやいや、男に惚れられるのが当たり前なんだよ、なんだが…なぁ。

「うー…妹に甘いっすね」

「否定はしない」

 あんな可愛いの妹(上は兎も角、下はな)が唐突に出来たら誰だって可愛がる、俺だってそうする。
 ついで魔王にならないよう教育もする、無駄かも知れんが。
 砲撃魔にならなくても高町母の子だしなー、色んな意味で怖くなりそうだよな、なのはは。
 ま、ソレは兎も角。
 
「分かったら大人にしていろ」

「ったく。気持ちは分からなくもねぇが、こっちは色恋なんて浮ついてる場合じゃねーんだよ」

 喰うに困ってはなさそうだが、金がありそうにもないしな。こんな機会でもなきゃ滅多に海馬ランドなんて行けないだろ。
 ちょっと調べてみたがかなり高いぞ、高いけど納得の値段って評価ばかりだったが。子供料金はかなり安いんだがな。

「ライキ」

「ライ!」

 食事を終えたアルフに毛繕いをしてもらってるライキを呼びボールに戻す。
 
「アルフ、忠夫、うちの両親が帰ってきたら適当に頼む。
 あとガキども風呂に入れとけ」
 
「あいよー」

「了解っす」

 やれやれだぜ。
 あー、行く前にフィアッセの私物探さないとな…俺の予想通りならこれで解決するんだが。

****
 
 で、孤児院に着いたわけだが。通称、ちびっ子ハウス。
 
「また2ケツしようぜ。峠攻めとか」

 バイクを庭先に移動させながら嬉しそうにのたまうアキラ。

「黙れ」

 バイクで二人乗りする場合、後ろに運転しない方が座り、運転する奴にしがみつくのが普通。
 そして俺の胸はメロン並だ。割と本気で林檎より大きいから困る。
 カーブを走るたびにしがみつく力を強くしないと危険だしなぁ……
 恥ずかしいなんてレベルじゃねーぞ!
 
 _| ̄|○
 
 ↑のような精神状態を無理矢理立て直す俺。
 帰りは歩こう、ちょっとあるが今日は全く運動してないからな、ちょうど良いし。

 しかしバイク自体は確かに良かったな、前世じゃもっぱら車だけだったし、自分で運転するなら恥ずかしくもない。
 でもなぁ、ZⅡとかCB400F(フォア)とかもう売ってないしなぁ。悪魔の鉄槌とイカス。
 アキラのもそうだがくそ五月蠅い音はちゃんと対策すれば静かになるみたいだし。
 なんで爆音たてて走らないと満足出来ないんだろうね、こういう奴らは。

「おう、帰ったぜ」

「アキラ! こんな遅くまで何を――」

「お邪魔する」

 このお姉さんがタエコさんか。タエコのパンチじゃねーかはちょっと笑ったぜ。懐かしい。
 まあ普通お姉さんだな、取り立てて美人でもないが、普通に可愛い。
 
「アキラ、そちらのお姉さんはどなた?」

「喫茶・翠屋の娘で高町静香という。
 夜分遅く失礼。
 これはつまらないものだが皆さんで」
 
 つまらなくはないけどな、翠屋謹製の包装紙で包んであるし。

「わ、翠屋の! ちょっとアキラ、お客様がいらっしゃるなら先に連絡しなさいよ!」

「うっせー。静香、こっちだぜ」

「長いするつもりはないのでな、少々騒がしくなるかも知れないが、ご容赦願う」

「はあ…」

 まあ、もう21時直前だしガキどもは寝てるだろうしな。
 しかし…あのトラウマゲームの舞台をリアルで生身の身体でお邪魔する事になるとは。
 本当、あり得ないなんて事は絶対にあり得ないを地で行く人生だよな、俺の人生。
 玄関からまっすぐ入って丁字路の廊下を左に曲がって左手の部屋が、アキラとカオリの部屋だったかな?
 ビンゴ! よく覚えてなぁ、俺。
 トラウマゲーだが神ゲーだったよなぁ…あの頃の四角はまさに神だった…
 ところで海馬コーポレーションがスクエ○を傘下に収めてるとか何のギャグだと思う?
 
「カオリー、入るぜ」

 ドアを開けるとぬっと顔を出す変な緑。
 ビビったわ! 改造人間…いやアレか、たろいもか。
 リアルで見ると何というか不気味だ。背も俺やアキラより頭二つ高いし。

「あ、お兄ちゃん、遅かったのね」

「お邪魔する」

 さて、予想通りだと話が早いんだが果たして。

****

「ただいま」

「お帰りなさいっす」

「ガキどもは寝たか?」

「今日も三人で仲良く寝てましたよコンチキショー!」

 相変わらず五月蠅い奴だ。
 
「ライ!」

「で、結局なんだったんすか?」

 飛びかかるライチュウを受け止めながら、横島。

「プライベートな話だ。まあ問題は解決したんだが」

 まあ一番悪いのは病院連れて行かなかったアキラなのかも知れんが……
 HGS患者は下手な医者連れて行くとそのまま隔離施設行きもあり得るからなんともな…
 それにコネでもなきゃ海鳴中央にHGSの専門家がいる事も知らないだろうしな。
 とりあえず、フィアッセが使っていた抑制ピアスで能力抑えられたんで、ピアス付けてる限り普通に生活出来るだろ。矢沢医師への紹介状も書いてやったし、学校に通う位は問題ないはず。
 当然、海馬ランドもな。

「そうそう、静香ちゃんも海馬ランド行けって店長と桃子さんが言ってたっすよ」

 は?

「…二人は?」

 この稼ぎ時に何を考えてるんだ。
 いや子供(この場合はなのは達だけだろうが)を遊ばせてやろうという意図は分かるが。

「酔って帰ってきたんでもう寝てるかヤってるかじゃないっすか?
 チケットも町会長から分けてもらったらしいから買う必要もないそうっす」

「ヤってる言うな」

 親のそういう話は聞きたくもないわ。
 しかしこれでは行かないとか言えんな…なのはに泣かれそうだ。
 まあ現実問題、なのは達を東京まで行かせるとしたら、誰か保護者が必要なのは確かなんだが…

「とりあえず風呂入って来る、ライキを洗っておいてくれ」

「うぇー、電気怖いんすけど」

「らぁい」

「分かったから頬叩くな、痛気持ち良いんじゃ」

 やれやれ。
 明日が土曜日で日曜から水曜まで連休、か。
 土曜の授業が終わったら仕事して東京遠征の準備か。
 やれやれだぜ。


****

遅くなりましたが投稿。
新生活&身内の不幸のダブルコンボです。
更新頻度は落ちるものと思ってください。
楽しみにしてくださってる方に申し訳ない以上に書きたい物書けない事に対する苛立ちがっ!
次は社長のターンなのにっ!
そんな訳で今回のラストは駆け足にも程がありますがご容赦。



[14218] 俺のターン!ドロー!なんだこのカードは!?(|| ゚Д゚)ガーン!!
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/05/29 23:15

「やれやれ…」

「テンション低いっすよ静香ちゃん」

 テンション上がる道理がない。
 ただいま新幹線で移動中。ついたら東京駅で海馬ランドまで直通電車、SR(旋風寺レール)のな。
 JRじゃない事に初めて気付いたわ、新幹線のチケット取ってから。海鳴じゃ滅多に電車乗らんからなぁ…
 それは良い、正直海馬ランド自体は――まあ苦手なアトラクションはあるが――楽しみなんだがなんで横島となんだ。嫌いじゃないけど。
 別に横島がどうのじゃなくて、単に男とデートしてるという自分がアレなんだ、言えないけど。
 男だった頃は別に女友達と遊んでても=デートって気はしなかったんだが(無論相手次第ではあるが)、女になってからはどーもなぁ…

 それにも増して仕事放り出して遊ぶ感覚がツライ。うーん、ここら辺は前世の俺、仕事人間だった頃の影響でかいなぁ。働かずに喰う飯は不味い事不味い事。
 GWなんだからさぞ海鳴には人が来るだろうに…温泉もそうだがうちのシュークリーム以外にも色々あるしなぁ。
 
 温泉と言えばオンセンマンに遭遇したぜ! 昨日うちの風呂に浸かってた!
 意外と可愛かったぜぇ。オンセンボコボコしてもらった後入ったらもー極楽なんてLvじゃねーぞって位気持ち良かったぁ。やべ、思い出したらまた蕩けそうだ。
 風呂上がりに高町母と美由希から追求される程肌が綺麗になってたしな、美人湯にしてくれたんだろう、特にリクエストはしなかったが。
 また来てくれるよう頼んでおいたけどどうだろうか。近所に銭湯がないからな…クアハウスとかスーパー銭湯的なのはあるんだが…
 一日経っても肌艶が凄いんだよなぁ。横島どころか恭也すら今日はいつもと違うぞ的な発言する位に。
 
「きゅいきゅい!」「きゅー!」「きゅい!」

「静かにしないか」

 窓際に座る横島の膝の上にでんっと乗る、ペット持ち運び用の箱、キャリーケースとか言うのか。
 それの中に三匹のフェレットと子狼が一匹。流れる窓の外の景色を見てきゅいきゅい鳴いたりお互いの毛繕いしたりして遊んでいるこれらは勿論、うちの妹と彼氏と友人である。はて、この場合、フェイトは義恋人とでも言うのだろうかね、なのはから見た場合。限りなくどうでも良いが。

 新幹線代浮かす為――ではなくフェレットになって遊んでたんでそのまま持って来ました、別に新幹線代を浮かせる為でなく。大事な事なので二回言いました。
 
 それにしてもフェレット可愛いなおい。アルフも可愛いけど。
 ユーノは普通に黄土色というか茶系の毛に翡翠の瞳。瞳ったってよーく見ないと分かんないぞ、これ。フェレットの目すら大きく書くアニメ技法恐るべしってか。
 なのはは純白の毛に桃色、フェイトは茶褐色というか黒系の毛に金色の瞳。どうも魔力光が瞳の色になるっぽいな。

 通路歩く人達からも可愛い的な視線で注目されたり子供達が通るとわいわい騒がれたりしてるぜ。
 なのは達の荷物は全部横島のでかいリュックに入ってるから問題ないしな。
 まあ最悪、ユーノとアルフに転移魔法使ってもらえばいつでも取りに行ける、全く情緒のない話だが。
 ユーノが東京行った事ないから転移魔法使えなかったんだが、帰りは出来そうだなぁ……
 
 ま、兎も角。
 テンション下げてても仕方ない。
 楽しむか。
 まあ、横島と仕事云々を除けば理想的な話だしな、海馬ランド行けるし東京の旨い店喰いに行けるし。
 日の出食堂wktkだぜっ! 味皇料理会も見てみたいなぁ。
 後は浅草の満月堂とか、横浜の五番町とかな。もしかしてこれ料理? を生で見られるかも知れん!
 後、東京で見てみたいのはアキバだよな。どんだけ俺の記憶にある世界と変わってるのか楽しみ過ぎる。
 新宿で伝言板見てくるのも忘れないぜ。あるかどうか知らんが。
 あとあとアカギの墓も見てこないと。ギャンブラーの聖地として○chでスレが立ってた!

 テンション上がってきたかも。
 しかしガイドブックがカオスだな…普通に怪人とかぬいぐるみ生物とかポケモンとか写真で登場してたりするし。
 特撮の特集本とかじゃないから困る。この世界はホント地獄だぜフゥハーハー。

「う? 楽しそうっすね?」

「ああ、割り切って楽しむ事にした」

「そーすっよね! 楽しまないとね!」

「お前はテンション高すぎだ、落ち着け。あと頬に米粒付いてるぞ」

「取って――自分で取るっす」

 ったく……

「きゅい!」

「あ? ああ、お前らも食べたいか」

「きゅー!」

 こくこくと頭を上下させるフェレット可愛いなぁ。

「お握り一個で十分そうっすね、アルフ以外」

「ああ、一応肉も用意してあるがな…」

 期待の視線も可愛いけどな。まさに目は口ほどに物を言う。
 ちっちゃいアルフも可愛いなぁ。
 もふもふしたいぜ。
 一つのお握りを三匹で食べるフェレットどもも可愛いが。

「俺も腹減ったっす」

「今お握り喰ったばかりだろうが」

 まあそんなこんなで新幹線の旅は過ぎて行き――
 
****

「やって来ました海馬ランド!」

 駅を降りてハイテンションな横島である、まだ駅から出た段階なのだが。
 ちなみに子供達は駅のトイレで元の姿に戻り、キャリーケースは大型コインロッカーに突っ込んできた。
 屋内型アミューズメントパークだった初代海馬ランドだが、周辺の土地を更に買い上げて拡張、遊園地型のテーマパークに大改造、という経緯らしい。確かに双六の青眼白竜を破った時はナンジャタウンのような屋内型だったな。多分、モデルがナンジャタウンなんだろうけどね。

「この世界の、遊びに掛ける情熱って凄まじいですよね」

「青眼白竜がいっぱいだ…」

「はしゃぐなガキども。まずは――入園時間前だが…ふむ、案内によると入園ゲート前に集合らしいな、何かイベントでもあるのだろう」

 まああの社長の事だからど派手な挨拶かましてくるんだろうが…
 舞浜の駅からてくてく歩く高町家ご一行。周囲にはちらほらと海馬ランドに向かう人、人、人。
 殆ど静岡県人なんだろうな、今回の招待的に考えて。
 
 しっかし歩道がかなり整備されているのは良いんだが……駅からこっち、何処を見渡しても青眼白竜だらけだな…案内図から誘導の矢印、信号機もそういう風にデザインされてるのは有りなのか? 法律的に。
 この世界の法律がどうなってるのか今更な気もするが。
 
「遊園地なんて何年ぶりやろーか」

「私だって同じだ。というか行った覚えがない」

 前世はまあ…多分、高校生くらいの時に行った覚えがなきにしもあらずだが、高町静香は本気で行った事ないな。恭也達も同じだが……あの馬鹿親父め。
 そんなんだからなのはがなのはさんとか冥王計画ナノライマーとか呼ばれるようになってしまうんだ。
 
「私も初めて!」

「まあ僕達も当然初めてですね…管理世界でも、こういうアミューズメント施設がここまで充実している世界はありませんから」

「楽しみだね、アルフ」

「あたしゃバイキングの方が楽しいけどねぇ」

「色気より食い気は分かるがな…」

 ホントプレシアがまともだからか腑抜けてるな、アルフ。まあそこが可愛いと言えば可愛いんだが。意外にも部屋の片付けとか掃除とかちゃんとしてくれるしな。
 ああ、でもStSじゃ何故か幼女姿でユーノの手伝いとかしてたからそういうのも得意なのか?
 しかしあの設定も謎だよな…フェイトに負担かけないとかいう理由ならむしろ子供時代の時こそ負担かけちゃダメだろ、体力的な意味で。クロノの子供達の面倒見るなら大人姿の方が都合が良いハズだしな。
 まあ既存のキャラを空気にしたかっただけなんだろうな。
 
「プロのデュエリストとのデュエルも出来るらしいし、楽しみだね!」

 そう、このイベントの最大の目玉がプロのデュエリスト達とのデュエルである。
 誰がどのデュエリストと対戦出来るかはランダムなのだが、運が良ければキングとすら対戦出来るのだ。
 ちなみに武藤遊戯である。相棒か闇王様かは知らんが。
 本日の参加プロデュエリストはキング、城之内、孔雀、羽蛾、エド位だな、俺が知ってるのは。
 エドとか名前しか知らんけど、D-HEROは好きなのだ。原作しか知らんから知ってるのは名前だけだけど。
 羽蛾がプロとかびっくりだ。けど一度はチャンピオンになった事もあるんだしある意味当然なのか?

 そういやアニメの方だとペガサス生きてたらしいんだが、この世界だとどうなのか。遊戯王原作だと暗殺されたって話だが。
 死んでるっぽいかなー、I2はKCに吸収合併されたらしいし。

「やっぱりキングと戦いたいよね!」

「そういや横島はヤるのか?」

「DMは好きっすけど別にプロと戦いたいとかはないっすねぇ。
 まあ話のタネと思って参加はする予定っすけど」
 
「似たようなもんだな」

 正直キングとは戦ってみたいのは確かだ。
 DMやってて相棒or闇王様と戦ってみたくない奴などおるまい。

「私はブルーアイズ ジェット・コースターって乗ってみたいな。自分で飛ぶのとどう違うのかな」

「DEATH・T体感シアターって面白そうだねぇ。敵をやっつけるんだろ?」

「バトル・シティ ザ・ムービーだな」

 生の王様vs社長とかマジパネェ。実写ドラマ(笑)なんて目じゃないぜ。
 というかあの髪型があり得ないんだが。とがりすぎです、リアルで見ると笑いがこみ上げてきます。
 あの染め方も謎だ…地毛か? 地毛なのか? まあこの世界でそんな事言っても始まらんが。

「未来館は興味ありますね…あそこまでの技術、それの先が見られるんですから」

「カイバーマンショーを生で見れるの!」

 全開の笑顔のなのははマジ可愛い。ユーノと手を繋いで歩いてると魔法少女なんて嘘みたいだな…ちなみにユーノの反対側の手はフェイトと繋がってる。
 
 しっかし流石社長と言わざるを得ない。カイバーマンまさかのカード化、しかも青眼白竜がガチで3枚+双六じいさんのトコしかないこの世界ではコレクターカードとしての価値しかないという。
 正直何の為に流通してるのか分からん、そこまでするならレプリカでも良いから青眼白竜も流通させろと。
 
「あ、飛行船! アルーアイズ!」

 なのはの声に空を見上げると確かに青眼白竜を模した飛行船。もしかしてバトル・シティ決勝戦のアレか?
 低空飛行なのか、かなりでかく見える。すげー。

「この世界はホント、多様性という点では全次元世界一かも知れませんね」

 感心したように言うユーノの声。内容が酷く子供らしくないのが頂けないがまあ中身は大人だしな。

「アレ乗ってみたい…」

「自分で空飛べるだろうに」

「アルフ、お前には情緒というものがないのか」

 まあ、ないとは思ってたけど。

 まあそんな風にだらだらと他愛ないお喋りしつつ、入園ゲート前。
 かなりの広さがあるが、イベント用に開けてあるんだろうか。中を広く取るなら兎も角、入り口前をここまで広く取る必要は一見なさそう、だがこの人数を入り口前に留めるなら必要かもな。
 見渡す限り人人人。
 コミケのようだ。アレよりは少ないだろうが。確か50万人とかだったからな、アレは。
 まさか静岡県からそこまで人が来るハズもないだろうし、そもそもいくら何でも収容人数オーバーだろ。
 
 後に聞いた話じゃそれでも3万人はいたそうで。パネェ。
 まあ静岡県は孤児院などの完全無料招待客(移動費から宿泊費までKC持ち)と無料チケット配布客がメインで2万人、残りは協賛企業や協力財閥などにばらまいた無料チケット持ちらしい。
 まあ横や縦の繋がりも大事だしね、社長ではなくモクバの発想っぽいが。
 
 そういえば社長が大学生って事はもうモクバも中学生辺りだよなぁ。
 社長はプロジェクトXで見たがモクバはどうだろうか。社長は結構イケメンだった。やっぱこの世界ちょっとおかしいわ。
 頭よくて金持ってて天才なイケメン多すぎだろ。男女問わず。

 イケメンと言えばうちの親父とかどうなってんだろうな。イケメンとか以前に若すぎる。40過ぎてるハズなのに未だ30代の若造と見られる。下手すると俺の兄貴扱いだからな…この世界の空気は何か老化防止の成分でも混じってるに違いない。

 ああ、関東に入ったのにこの辺り、ポケモンいないな、そういえば。新幹線からは空飛ぶポケモンは見えたけど。
 草むらがないからか? まあここらは町中というより郊外も郊外、それも完全に人の手の入った、整備された場所だからポケモンがいなくてもおかしくはないが。
 しかし草むら云々はゲーム的な理由だと思うんだが…単純にゲットされたポケモン以外は人の生活圏内には余り入ってこないのかも。マンホール開けたらベトベトンとかいそうだが試す勇気はない。
 それはそうと毒ポケモンはもう少し優遇されるべき。というか水に抜群じゃないのが納得いかん。鋼も腐食されろ。
 鋼は雷も弱点であるべきだろ、常識的に考えて。

 そうそう、ポケモンも増やして帰りたいところだな。理想は飛行系と四つ足系の大きめなのが良い。
 移動の足として使えるしな。町中では当然の如く禁止だが、法律的に。

「で、これから何が始まるんすかね?」

「知らん。が、黒服どもが人を誘導してるな?」

 ふむ、そうこうしているうちに俺らの前にも黒服――磯野さんがやってきた。
 入場制限らしい。ゲートが幾つかあって、静岡県の何処何処から何処何処の人はAゲートから、Bゲートからと振り分けて混雑を避けようという意図らしい。
 あとAゲート、つまり俺らはプロデュエリストとのデュエル会場へ最初に入り、後はB、Cと通ったゲート別に順次、時間が来たらアナウンスでデュエル会場入りするらしい。
 
 よく考えられてるな、これなら比較的待たずに済む。
 
「全く! 海馬の傲慢男は何してるのかしら! こんなトコで人待たすんじゃないわよ!」

 …? 妙に聞き覚えのある声だが…
 しかし傲慢とは良く言う。いや傲慢だけどね、こんなトコで良く言えるわ。

「園子、ちょっと落ち着きなさいよ」

 …そのこ、だと?

「園子お姉ちゃん、もう少しで開場だから我慢だよー」

「大人なんだから静かにしてなよ」

 ………
 どう聞いても高山みなみです本当にありがとうございましたぁ!?
 
 存在する死亡フラグ、名探偵死に神 コナンだとお!?
 
 ヤバいヤバい! 俺達の命がマッハでヤバい!
 殺人事件が起こってしまう!
 確かに園子なら財閥のお嬢様だからなぁっ、社交界で社長と交流があってもおかしかないが!
 今日この日に来るなよ! なのは達は子供だから死なないかも知らんが俺や横島は普通に死ぬだろ!
 
 ………落ち着け、念能力があってライキまでいて、なのは達のサポートが受けられる。
 この状況で俺を殺すのはまず不可能、なハズ。ゴルゴとか依頼される覚えもないしな。
 とりあえず殺人事件でなく爆破事件や誘拐事件である事を祈ろう…あいつがいる場所で事件が起きない訳がないしな……
 ユーノにも後で警告しておこう…子供は死なないが巻き込まれる事はあるし……

 くそっ楽しいハズのテーマパークが一転リアルDEATH・Tに早変わりかっ!

「あ、飛行船…」

 フェイトの声に空を見上げるとなるほど飛行船。でかいってーか低空飛行しすぎっていうか。

 ぱーんっと盛大な音を立てて飛行船から花火が上がり――

 あ?
 
 飛行船から何かが落ちて――ソリッドビジョンの青眼白竜を三匹、従えるかのように一緒に降りてくるアレは――

「ハーッハッハッハッハ!」

 ぼんっと小気味良い音を立ててパラシュート(勿論青眼白竜を模した奴)が開き、ゆっくりと降下するソレの回りを踊るように回るソリッドビジョンの青眼白竜。

 そして入園ゲートの上に着地するソレ――そう、海馬瀬人社長その人。
 同時に、恐らくソリッドビジョンであろう巨大に投影された社長のビジョンが青空に映る。当然、青眼白竜を従えて。

「ようこそ! 海馬ランドへ!」

 無意味にすげー…感動モンだわ、色んな意味で。
 なのは達なんか声も出ない程感動してるわ。
 やれやれだぜ。

****

遅くなった上に遊戯王知らんと今回は厳しいかも?
社長MADは原作知らなくても一見の価値有りのが多いですよ。

お待たせしてホントすいませんがペース掴めるまで厳しいです。
とりあえず六月中に一本は上げるつもりで頑張ります。



[14218] 遊戯王知らん人は飛ばしても大筋問題ないですたい
Name: 陣◆e4fce16c ID:3668b7d3
Date: 2010/09/05 19:10
 さて、俺らが本日の最初のプロデュエリストとのエキシビションデュエルするのだが、Aゲートを通った人間だけでも200人以上はいるっぽい。
 プロデュエリストも30人はいるみたいだが…これは凄いイベントだな。

 ヘキサゴンっぽいドーム状の施設の中は観客席を周囲に取り巻いた舞台がいくつもあり、それぞれチケット番号によってあがる舞台を割り振られる。そしてデュエル待ちは待合席が千席ほど飲み物とともに用意されていた。
 さらに全デュエルをリアルタイムで見ることが出来るテレビが舞台の数分あり待合席のあちこちにセットされている。結婚式の席の配置に近いか。主役の席が30舞台以上あるが。
 イメージ的には東京ドームでイベントといった風情か。パネェな、海馬コーポレーション。

 そしてたまたま俺らの中から最初のデュエルに選ばれたのがユーノだった。

「デュエル!」「デュエル!」

 舞台に上がったユーノと孔雀舞が、デュエルディスクを構えて叫ぶ。

「今日のイベントでは挑戦者側、つまり坊やの先攻でデュエルするよう海馬から言われてるからね。
 先攻をどうぞ、坊や」

 ちなみにプロ側はシンクロ召喚禁止だそうで。チューナーの使用は有り。
 昨今のシンクロ優遇を鑑みれば相当挑戦者側に有利だな、この特例は。
 尤も、うちの天才ども並に頭が良い小学性がどれほどいるやら。さらにプロ連中は大なり小なりチートドロー(積み込みのように欲しい時に欲しいカードを引いてくるドロー)の使い手だからな。

「ではドロー! ………」

「どうしたのかな? ユーノ。難しい顔してる」

「手札事故かなぁ」

「…メインフェイズ、まず手札断札! 互いのプレイヤーは手札から二枚墓地に送り、デッキから二枚ドローします。
 チェーンありますか?」
 
*作者注意:以降、チェーン確認省略します。実際のOCGでは一々チェーン確認するのが基本ですが、SSや漫画でそれやると煩雑に過ぎるので。
 更に実際のOCGでのデュエルでいちいちカード効果を説明するとかあり得ませんがしないと分からない読者の方もいらっしゃると思われますので一々説明させてます。見苦しいでしょうががご了承ください*

「ないわ。いきなり手札交換ね……」
 
 ユーノの手札:□□□+□□
 墓地ゾーンへキラートマト/ドラゴンフライ
 
 舞の手札:■■■+■■
 墓地ゾーンへハーピィ・レディ/ハーピィ・レディ
 

「もしかして手札が良すぎた?」

「闇と風のコストが手札から落とすという事は、準備だからな、召喚の」

「墓地よりドラゴンフライとキラートマトを除外!
 煌めきたる黒鳥よ! 今導きの元、舞い来たれ! 喰らうは闇、纏うは風!
 ダーク・シムルグ、特殊召喚!
 ダムルグは表側表示で存在する場合、相手プレイヤーのセット(裏側表示のカードを場に出す事)を禁止します!」
 
「先攻1ターン目からダムルグとか鬼過ぎる…」

「あの口上、もしかしてバルディッシュのアレか」

 ソリッドビジョンがあるからあの口上は輝くんだよなー。ないとただの厨二病だぜ。
 いつも思うが、どういう仕組みで動いてるんだ? あのソリッドビジョン。

「ユーノ…」

「うー、フェイトちゃんだけズルいの。ユーノ君、スタダ出してくれないかなぁ」

「魔法・罠エリアに三枚セット、モンスターをセット、ターン終了です」

 ユーノの手札:満足
 → 罠・魔法ゾーン:□□□
 →モンスターゾーン:□□(?/ダムルグ)
 → 除 外 ゾーン:ドラゴンフライ/キラトマ追加

「私のターンね! ドロー!」

「そのドローに対して罠発動! 魔封じの芳香! このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、互いのプレイヤーは魔法カードをセットして1ターン後からでないと使用出来ません!
 では改めてスタンバイフェイスどうぞ」

 ダムルグで「相手のセット」を禁止し、魔封じの芳香で「魔法カードをセットしないと使えない」状態にする、所謂アロマダムルグロックである。

「くっ…なんてロック…!」

 ユーノの手札:無し
 →罠・魔法 ゾーン:□□□(?/?/芳香)
 →モンスターゾーン:□□(?/ダムルグ)


「積み込みのような手札だなぁ。初手からダムルグアロマロックが完成するとは」

 序盤でこのロックが決まったらよほど手札がよくないと崩せない。

「攻撃力2700以上を召喚出来ればとりあえずロックは崩せそうだが…
 ダムルグアロマはスキドレを使えない以上効果モンスターでもどうにか出来る可能性は十分ある」

 サイドラから帝シリーズとかでも何とかなるな、今なら。

「とは言え、孔雀プロお得意のハーピィの狩り場は事実上不可能っすよね」

「そうだな…ユーノのEXデッキには星屑竜が入ってるからな、出てきたらほぼ勝利確定だろう。
 今ならならず者の傭兵辺りでロックを崩せるが…」

「サイドデッキなら兎も角、孔雀プロのデッキに入ってる可能性は少ないの!」

「有名な人なんだ?」

「うん、女流デュエリストとしてはトップランカーなんだよ!」

「異次元の女戦士を召喚! バトルフェイズ、ダーク・シムルグに攻撃!」

「攻撃にチェーン! 罠発動、くず鉄案山子!」

「うわ、えげつねぇ」

「ユーノ君がダムルグと案山子揃えた時の勝率は七割超えるんだよねぇ」

「ユーノのデッキ、ロック系ばかりだから大変なんだ、戦うの」

「くっ…! ターン終了よ!」

舞の手札:■■■■
モンスターゾーン:■(異次元の女戦士)

「では僕のターン! ドロー! セットモンスターをリバース!」

「メタモルポッド!?」

 ユーノの手札:□
 →罠・魔法 ゾーン:□□□(?/芳香/案山子)
 →モンスターゾーン:□□(メタポ/ダムルグ)

「メタポの効果発動! お互いに手札を全部捨て、五枚ドローですね」

ユーノの手札:+□□□□□
  墓地ゾーンへレベルスティーラー
 舞 の手札:+■■■■■
  墓地ゾーンへハーピィの狩り場/ゴッドバードアタック/万華鏡/風帝ライザー/継承の印

「可愛い顔してやる事がえぐいわね…」

「初手から手札も巡りも良すぎて、僕自身驚いてます。
 とりあえず続けます。
 墓地のレベル・スティーラーの効果発動! ダムルグのLvを1つ下げて攻撃表示でフィールドに蘇生!
 伏せていた魔法カード強制転移発動! お互いが選んだ自分のモンスター同士を交換です!
 こちらはレベル・スティーラーです」

「こっちは異次元の女戦士しかないわ」
 
 ユーノの手札:□□□□□
 →罠・魔法 ゾーン:□□-□(芳香/案山子/強制転移)
 →モンスターゾーン:□□(女戦士/ダムルグ/メタポ)

 舞 の手札:■■■■■
 →モンスターゾーン:スティーラー

「続けて霞の谷の戦士を通常召喚! そのまま異次元の女戦士にチューニング!
 風は天空そらに、
 星は宇宙てん
 ――不屈のこころはあの胸に…!
 この手に護りの力を! スターダストドラゴン、シンクロ召喚!」
 
「えぐい程回るなおい」

 横島の呻き声と共に派手に登場するソリッドビジョンの星屑竜。

 ユーノの手札:□□□□
 →罠・魔法 ゾーン:□□(芳香/案山子)
 →モンスターゾーン:□□□(メタポ/星屑竜/ダムルグ)

「もうユーノの勝ちだろ。ダムルグにフェイト、スタダになのはのセットアップの口上か」

「ユーノ君凄いの…!」

「ユーノ格好良い…」

「バトルフェイズ!
 まずメタポでスティーラーを攻撃!」

舞:LP8000-(700-600)=7900

「続けてダイレクトアタック×2!」

「くぅっ!」

 舞:LP7900-2500-2700=3200
 
「罠・魔法ゾーンに三枚セットし、ターンエンド!」

 ユーノの手札:□□
 →罠・魔法 ゾーン:□□□□□(?/?/?/芳香/案山子)
 →モンスターゾーン:□□□(メタポ/星屑/ダムルグ)

「バウンス、除外か溶岩魔神か…帝系はリリース要員がいないから厳しいか。
 サイドラやトリッキーでも入ってれば別だが」

「溶岩魔神でどけてもダムルグは戻ってきそうっすけどね。墓地からでも手札からでも特殊召喚出来るし」

「そもそも溶岩魔神なんて孔雀プロのデュエルで見た事ないの」

「今日はいつにも増してユーノの手札が回ってるね」

「今日の回り具合だと天罰と神宣位伏せてそうだな、あの三枚は」

「聖杯辺りも可能性としては高いっすね」

「私のターン! ドロー!」

 舞 の手札:■■■■■+■

「ハーピィレディ3を召喚! ターン終了よ」

「まあ攻撃しても案山子どうにかしないと無効化されるしな」

 舞 の手札:■■■■■
 →モンスターゾーン:□(ハーピィ3)

「僕のターン、ドロー!」

 ユーノの手札:□□+□
 →罠・魔法 ゾーン:□□□□□(?/?/?/芳香/案山子)
 →モンスターゾーン:□□□(メタポ/星屑/ダムルグ)

「伏せていた月の書発動! メタポを裏側表示に! そしてそのまま反転召喚!」

「なんてこと…!」

「回りすぎだろ」

 ぼやきながらデジカメのシャッターを切る横島。別に写真撮影禁止ではないしな。
 ところでそのデジカメどこから出てきた横島。

「あ、プレシアさんから頼まれたんすよ。今まで忘れてたけど」

「ああ、デバイスどもはプレシアに預けてるんだっけか」

 今レイハさんとバルディさんはプレシアのトコでメンテ中らしい。
 デバイスがなきゃ魔法が使えない訳じゃないみたいだが、わざわざ頼むって事は写真撮ったりは出来ないんだろうな。でなきゃなのはがサーチャーで写真・動画撮影してるだろうし。

「それにしても今日のユーノはツキまくってるな…」

 そして興味ないのか机に突っ伏して寝ているアルフ。この駄犬め。
 寝顔が可愛いぞ。

ユーノの手札:-□□□+□□□□□
  墓地ゾーンへネクロガードナー/儀式魔人リリーサー/疾風鳥人ハリケーン・ジョー
 舞 の手札:-■■■■■+■■■■■
  墓地ゾーンへハーピィの狩り場/ハーピィズペット仔竜/トライアングルXスパーク
        /風帝ライザー/ヒステリックパーティ

「そしてメタポをリリース、神禽王アレクトールを召喚! 効果発動! 神禽王は表側表示のカード一枚を選び、その効果を1ターンの間無効にする事が出来ます! 対象は僕の魔封じの芳香!」

「なんで?」

「魔封じは自分の魔法も1ターンロスさせられるからな。アレなら相手のターンには魔封じの効果は元に戻る訳だし、即魔法使いたい場合は有効だろう」

「続けて手札からエンド・オブ・ザ・ワールドを発動!
 墓地の儀式魔人リリーサーを除外し手札のThe・トリッキーを墓地に送り!
 黄昏を告げる鐘の音よ、鳴り響け! 儀式召喚! 終焉の王デミス!」

 ユーノの手札:□□□-□□
 →罠・魔法 ゾーン:□□□□(?/?/芳香/案山子)
 →モンスターゾーン:□□□□(デミス/神禽王/星屑/ダムルグ)
 → 墓 地 ゾーンへトリッキー追加 リリーサー除外
 → 除 外 ゾーンへリリーサー追加

「リリーサーを使っての儀式召喚、つまり相手は特殊召喚不可能になる…
 魔法・罠・カード破壊系・攻撃に特殊召喚までロック…えぐすぎる」

「普通に使ったら友情終わるっすね、そのままリアルデュエルに移行しそうな勢いで」

「えー? ユーノ君、ロックが決まった後、凄い優しくしてくれるから好きだよ?」

「こないだ耳掃除してくれたもんね」

「わたしは一緒に飴舐めたよ!」

 なん…だと?

「いいなぁ、なのは」

「……突っ込むなよ、横島。知らない方がきっと幸せだ」

 普通に同じ袋から取り出した別の飴を舐めてたという事にしとけ。
 うちの両親なら――…やってそうだからマジで困る。
 両親の行動が子供の教育に対して如何に影響力があるか思い知る日々です。

 とりあえず帰ったら家族会議だ。いやいや今晩なのは達が寝たらユーノに説教だ。
 中身が大人なんだから子供の押し位跳ね返せと言いたい。ユーノからってのはないだろうし…多分。
 …無理かもなぁ、ユーノ、アニメじゃなのはの背中押す事はあっても押しとどめる事は滅多になかったし…押しに弱いのかなのはに弱いのか。多分両方だろうが。

「うう…石投げたろか」

「なんかね、ユーノ君とキスするとね、ほわぁってなるの」

「唾がぐちゃぐちゃってなってね、気持ち良いんだよね」

「とりあえず黙れ」

「はーい?×2」

 ……信じてるぞユーノ、頼むから。
 うちの性教育のせいでストレスがマッハだ、親父の怒りが有頂天かも知らん。
 
「勝者! ユーノ・スクライア!」

 あ、最後見逃した。歓声が同時にわき上がる。
 まあプロ相手にあそこまで完璧なロック決めればな。
 あの状況だと、2700以上の打撃を特殊召喚とアドバンス召喚なしで呼び出して、かつ二回以上攻撃してダムルグを片付けないとな…特殊召喚まで封じられたからもう何も出来なかったろう。

 ユーノじゃなきゃ積み込みを疑うLvだな…お互いにシャッフルしてるんだから積み込みようがないとは思うんだが。

 お、ユーノが戻ってきたな。
 
「お疲れ様、ユーノ君」

「凄かったね、ユーノ」

「いやいや、こっちの回りが良すぎただけだよ」

「確かにな。初手で孔雀プロにサイクロンが手に入っていれば違った結果になってたろうが」

「ユーノ、それなんだ?」

「ああ、記念品だそうです。オリカですね。
 青眼白竜のレプリカカードで公式大会以外ならデュエルディスクも通るそうですよ」

「わ! フェイトちゃん! 静香お姉ちゃん忠夫お兄ちゃん!
 何が何でも勝つの!」

「次はなのはだよね」

「うん! 武藤チャンプか海馬プロと戦いたいな!」

「私は誰でも良いけど…」

「カード目当てなら弱小プロのが良いんだろうが…まあ記念だし、出来ればチャンプだよな」

「武藤プロっすね。あの髪型はあり得ん」

「言うな」

「えー? 格好良いよ、ねーフェイトちゃん」

「うん? なのはがそういうなら格好良いと思う」

「なのはのセンスが分からん…」

「さ、次はなのはの番だろう?」

 どうもうちらは早い方らしいな、殆ど連戦で順番が回ってくる。
 まあ都合がよいのは確かだ。
 で、なのはの相手は……社長かよ。
 
「やった! 海馬プロとだ!」

「なのは頑張って!」

 頑張っても勝てる気がしない。
 
「なのはちゃんの負けっすね、こりゃ」

「公式戦ではチャンプの武藤プロ以外には一度も負けてないしな」

 この世界にペガサスがいたとしても読心術で勝利とか俺は認めない。
 ましてやあれは公式戦じゃないしな。
 
「絶対に勝つの!」

 さてさて…意気込みだけは勇ましいが。

****

ユーノが使用したデッキは僕が実際使用している紙束がガチ周りした時を想定しています。
孔雀舞のデッキは遊戯王オンラインの孔雀舞CPUデッキを元にしています。
遊戯王二次創作してる人はマジ尊敬です(´Д`;)これだけで力尽きました。



[14218] 本編的な。暑すぎて死ねる
Name: 陣◆e4fce16c ID:3668b7d3
Date: 2010/09/05 19:30
「悔しいっ! あそこで千本ナイフが通れば勝てたのにっ!」

「惜しかったね、なのは」

「まあ社ちょ――海馬プロ相手にあそこまで善戦出来れば御の字だろう」

 この世界じゃ社長の愛称は通らないらしいからな、社長のくせに。
 まあMADで流行ってるとかそういう事はなかったらしいから当然かも知れんが、普通にあのパフォーマンスやってるらしいし、元テニスプレイヤーのような扱い受けてもおかしくはない気はするんだが。

「ユーノは凄かったな、孔雀プロ相手に完璧にロック決めたし」

 そういう横島も羽蛾プロに勝ってるがな。それよりアレと、なのはとフェイトが戦わなかった事が嬉しい。
 ちなみに勝ったのはユーノ、横島、俺。なのはとフェイトは相手が悪かった。
 なのはは社長と、フェイトは凡骨とだからな…ユーノは舞、俺は天馬とかいう知らんプロ。

「あれは手札とデッキの回りが良かっただけですよ。孔雀プロの初手にサイクロン辺りがあれば抜けられてましたし…まあ運が良かったんですね」

「謙遜する事ないのに…ね、なのは」

「うん! ユーノ君凄いの!」

「そうだな。今日この場で、あそこまで完璧なロックを決める事が出来たという事自体凄いな」

 ダムルグ+リリーサー使用のデミス+星屑竜+芳香、案山子、神宣、天罰を並べるとか何のイジメだ、リアルデュエルに移行しかねんわ、友人同士でここまで決まったら。
 分からない人はああユーノったら酷いのね、と理解してくれれば結構。
 カードゲームにおいて、まともにモンスターを召喚する事も出来無い状態に追い込んだと言えば分かる人は分かるかも知れん。
 1ターン目からアロマダムルグロックとか鬼引きにも程がある、うむ。

 デュエル・スタジアムを出てぶらぶらと歩く俺達。
 とりあえずユーノに名探偵死に神 コナンの事は伝えたから、なのは達は大丈夫だろう……元々子供に対するフラグは立たないアニメだったしな、基本的に。
 未来知識があると説明してあるからこういう時はスムーズに納得してもらえて大変有り難い。
 まるっきり嘘でもないし。

「ね! 次は何処行こうか!?」

「なのは、落ち着いて。テンション高いよ」

「ジェットコースターが良いな」

「まあフェイトが行きたいトコで良いんじゃないかい」

「っすね。んじゃあ静香ちゃん、ジェットコースターの方へ行こう」

「うむ」

 とりあえず殺人事件だの誘拐事件だの起きない……と良いなと思いつつ楽しむか。
 ……はあ。
 しっかし今日は暑いな…まだ五月だぞ。

「あ、風船配ってるの!」

「青眼風船!」

 コスプレにしか見えない…はて、ああいう人達はなんて呼ぶんだろうか?
 まあ多分バイトのお姉さんだ。ブラックマジシャンガールのコスプレをしてる、ように見える。他にも霊使いシリーズのコスしてる姉さんとかな。オッサンが闇霊使いの格好すんな殺すぞ。(注:美形ショタのイラストで有名なカード→闇霊使いダルク)
 ブラマジガールが多いのはチャンプのカードだからだろうなぁ。ちなみに男性のバイトはブラックマジシャンのコスというか制服でも働いてるぜ。他にも色々いる。コスプレ衣装とかも売ってそうだな、この分だと。

 そしてくそ厚い中平気で駆け回って風船もらいに行くなのはとフェイト――と遅れて付き合うユーノ。
 
「子供は元気っすねぇ」

「否定はしないがな」

 年寄りくさい事言うな。
 
「よ――忠夫、そこの売店で飲み物買ってこい」

「ういっす」

「あたしも行くよ。お腹空いちまったし」

 良く喰うなぁ。フェイトからの魔力供給たらんのか?
 子供姿にしても良いんだが大人が多い方が楽なんだよな。子供が三人いるし。
 
 しかし慣れんなぁ。
 大体横島は横島だからなぁ、作中の愛称が。忠夫って呼んでたのほんの一部だけだし、両親抜かすと。
 ……横島の両親か…いつか会うんだろうなぁ。父親の方は兎も角、母親の方は怖いなぁ…

「ふむ」

 と、道ばたで独り待ってるのもあれだから端に寄る。
 某ネズミ王国もアレだがチリ一つ落ちてないな。流石だ、テーマパークとは斯くあるべし。
 
「暑いな…」

 空を見上げればそこそこを飛び回る青眼白竜や紅目黒竜、星屑竜etc…
 ソリッドビジョンのバーゲンセールか。
 玩具・ゲーム産業を一手に掌握するKCの実力パネェなぁ。
 今日は客層が客層だから、ナンパもなくて実に良い。

「買って来たっすよー」

「ブルーアイズ・サイダーとブラマジ・コーラ、どっちが良いっすかね?」

「サイダーで」

 いちいちブルーアイズとか付けないと気が済まないのか。
 中身は普通に……青いけど普通のサイダーだった。青色一号とかじゃないだろうな、これ。

「ケバブってのは旨いけど、野菜多すぎじゃないかい?」

 焼いた食品食うんだから生野菜は多量に取らんといかんだろ。
 アルフの胃がどうなってるか知らんが。

「静香お姉ちゃん貰ってきたー!」

「…そっちはもけもけか」

 芸が細かいなぁ、海馬ランド。

「うん! ユーノ君のが怒れるもけもけでフェイトちゃんのがキングもけもけ!」

 嬉しそうに見せてくるなのはとフェイト。ユーノは微妙な顔をしていた、然もありなん。
 とりあえず、三つの風船の差が分からん。喜んでるから良いけど。
 フェイトとなのはに飲みかけのサイダーを渡し、再び歩き始める一行。
 悪魔の調理師の格好してるケバブ屋さんってのもなぁ…そもそもなんでケバブ。好きだけどさ、後で買うとしよう。

「今日は一日海馬ランドで明日は東京巡りっすよね」

「ああ、行きたい店は山程あるからな」

 日の出食堂とかな。

「ポケモン見たいの」

「ちょっと郊外行けばいるらしいし、見られるだろ。ポケセンも行くつもりだし」

 オーキド博士への紹介状とアポまで取ってもらったからな、父士郎に。
 ヒトカゲくれないかなぁ。

「ぷは~暑いねー」

「水分補給はしっかりしないとね」

「ユーノ、はい、サイダー」

 ふっ…五月というのにバカ強い日差し、しかし俺には通じん!
 なぜなら曲がり角無き美肌スキン・ガーディアンがあるから!
 望んだ物でないにしろこの美しい肢体、肌を損なうのはいろんな意味でもったいないからな。
 このような日に備えて作っておいたのだ。
 纏に諸々の余計な肌トラブル回避効果を持たせただけだからメモリーの消費はかなり軽い。
 日焼けしたきゃ能力を切れば出来るし、日焼けした後でも能力を発動させればあっという間に真っ白い卵肌に!
 素晴らしい!
 そんな訳で紫外線なんて大気圏をすっ飛ばして宇宙から直接降り注がない限り何の意味もないのだよ。
 とはいえ、だ。

「おまえら、そこの売店で帽子買うぞ」

「?」

「この日差しだ、熱中症になられても困る」

 ガキどもは違うわな。というか俺もだが。熱中症対策なんて忘れてたから組み込んでないし。
 飲み終えたサイダーとコーラの紙コップ一つずつを手近なゴミ箱に放り、売店へ足を向ける俺たち。

 売店にはいわゆるキャラクターものの帽子もいくつか売っていた。売店というよりはキャラクターショップの方が正しい表現かもな、それなりに広いし。
 しかしまー見事に青眼白竜ばっか。赤眼黒竜の形をした帽子や黒魔術師が被ってるあの帽子とかも売ってるが…見事に青ばかり。
 某ネズミ王国並だな、建ってる場所が同じだからか知らんが。

「三人でブルーアイズ帽子♪」

「ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴンだねー」

 ブルーアイズ帽子を被った三人が顔突き合わせて笑いあう。
 実に和む。
 そんな様子を写真に撮っていた横島に、

「忠夫お兄ちゃんちゃんと撮っててよ?
 帰ったら学校持ってってアリサちゃんたちに見せるんだから」

「いいなぁ…あたしも学校行きたい」

 ユーノは今更小学校もないだろうが、フェイトはそりゃ行きたいわな。
 原作だと確か闇の書事件が終わったらなのは達と同じ学校へ行ったんだっけか。
 さて、プレシアは行かせる気があるのかないのか。

「あれ? プレシアさんがGW明けから学校行かせるような事言ってたんすけど?」

「死ね!」

「げぼぁっ?!」

 ぼすっという音と共に、横島に突き刺さる俺のボディブロー。
 あーもー氏ねじゃなくて死ね、マジで死ね。

 慌てて駆け寄ってくる店員を適当に言いくるめながら、倒れた横島を蹴る蹴る蹴る!
 親のサプライズな楽しみ奪いやがって。原作通りの屑なら兎も角、ちゃんと親やってるプレシアなのに、全く…
 うちに預けっぱなしじゃなくて、ちょこちょこリニスがおかず持って見にきたり(そしてうちの夕飯のおかず持って帰ったり)念話だかなんだかでなのは達を交えてフェイトと話もしてるみたいだし。
 ずっとまっとうな親だよな、うん。別に独身ではあるんだからツバメ飼ってたって問題ないない。…そーいやあのシリーズ人間のクズは働いてるんだろうか? 働く必要があるかどうかは置いておいて。
 そもそもプレシアはどうやってフェイトにあれだけの大金持たせたんだ? そもそも持たせる意味が…ガキの小遣いなんざ五千円でも多いだろ常識的に考えて。

「良かったねフェイトちゃん!」

「おめでとう」

「うん、嬉しい!」

 ほら見ろ、滅多に見られないような嬉し顔しちゃってまぁ…しかし可愛いな、我が妹も含めて。
 とりあえずぶっ倒れた(そしてアルフに足蹴にされてる)横島からデジカメ取り上げて連写する俺。
 三人で抱き合うようにして喜んでる辺り微笑ましくて仕方ない。

「ユーノ君も一緒に学校行こう?」

「ユーノも一緒♪」

「いやいや親もいないし、僕は良いよ」

 確かに日本の法律では『親には子供を学校に行かせる義務』はあるが子供自身に行く義務はなく、ましてユーノは大学院出てるどころか遺跡発掘調査で立派に働いてた社会人でもある。更に二度目の人生。そら行く気はないわな。

 そーいやスクライアの部族は探しに来ないもんかね。
 …というかジュエルシードはどこ行ったんだ? プレシアが研究用に持って行ったような気はするが…
 …そもそもジュエルシード探しにこないな、管理局…今度訊いておくか。

 それはそうとランドセル背負った制服ユーノはちょっと見てみたいかもな、野次馬的に。
 不満そうな顔してユーノに駄々こねるなのはとフェイトを促し、レジまで連れて行き買う物を買う俺。
 横島はアルフが引きずっている。しばらくはこのままでイイやね。

 凄い迷惑そうな視線を背中に受けつつ売店を出る俺ら。
 うーむ、外に出るとやはり暑いな。

「静香お姉ちゃん、ユーノ君と学校行きたいのっ」

 それを俺に言ってどうなるというのだ。

「そういう事は家に帰ってから高町母に相談しろ」

「わかった!」

「わたしも手伝う」

「いや僕は別に行く必要ないんだって」

 諦めろユーノ、なんか変なスイッチ入っちゃったみたいだし。

「とりあえず後でプレシアに謝っとけよバカ野郎」

「へーい…あー死ぬかと思った」

「つくづくあんたも頑丈だねぇ」

 確かにな。
 常時纏状態の俺の拳受けて、この時間で立ち上がれる辺りたいしたもんだ。
 まあ俺が貧弱なだけかも知れんが、恭也達に比べれば。
 いやでも俺、普通にリンゴジュースを生から作れるぞ、握りつぶして。
 普通の林檎を、大体人差し指と親指で作った丸位の大きさまで絞れる、無論纏なしで。
 …高町家のパネェ。少なくとも18歳の女子高生の握力じゃないわ。
 
 さて、程なくブルーアイズ・ジェットコースター乗り場に到着した訳だが。

「並んでるねー」

「ねー」

「ちょっと時間取られそうですね」

 待ち時間20分なら短い方だろう。

「まあ良い。大した待ち時間でもないさ」

「しかしたかが高速移動する乗り物に並んでまでねぇ」

「この世界の人間は普通、高速移動も空中飛行も出来ん」

 まあポケモンに乗って飛ぶとかは出来るみたいだがな。

「だから初めて魔法で空飛んだ時は感動だったの! ユーノくんありがとう!」

「…うん、どういたしまして」

 いちいち考えすぎだよ、ユーノ。
 まあ、複雑だろうとは思うがな、いろいろと。

「わたしもリニスと一緒に初めて空飛べた時は嬉しかったな」

 まあ思い出話に花咲かせるのも良いが。

「なのは達、私たちが並んでるからトイレ行ってこい」

「はーい」×3

 仲良く手を繋いでトイレまで駆けて行く三人。
 しかしトイレの上にも青眼白竜の像押っ立ててあるのはなんなんだ。
 わかりやすいといえば果てしなく分かりやすいが、そんなに好きか。
 …人間相手になったらストーカーレベルで愛しそうだな、社長。

「しっかし…初めて来たけど、見事に青眼白竜ばかりっすねぇ」

「よっぽど好きなんだろうさ」

「静香、腹減ったよ」

さっきケバブ喰ってただろうが。

「ジェットコースター乗る前に物は食わん。後でにしろ」

「ケチだねぇ」

「ケチとかそういう問題じゃない。
 が、まあアルフなら喰っても問題ないか。
 ついでだ、横島。アルフと一緒に飲み物、ポカリ系統のペットボトル買ってこい」

 水分補給は大事だぜ、特にガキと年寄りはな。

「うーっす」

「肉肉♪」

 フェイトが絡まん時はホント食欲優先だよな、アルフは…
 ふむ、列が進んだか。ま、この規模のアトラクション施設なら待ち時間は短い方だよな。
 しかし腰まで髪があると、ポニーにしてるとはいえ暑いし重いな…好きだから我慢出来るが。
 なにより似合うのが良い。男だった頃はさすがに長髪はなぁ…
 別段着飾るつもりはないが、やはりポニーテールが似合うのは良い、実に良い。
 至高の髪型だよな、女性の髪型としては。

「あー、結構並んどるなぁ」

「なに、20分くらいすぐだろう」

「アイス買ってこようぜ! はやても喰いてぇだろ!」

「主、車椅子ならすぐ乗れるのでは?」

「あかんて。こーゆーのは並ぶんも楽しみのうちや」

 …聞き覚えがある声に名前…だな?

 そーいやさ、海鳴市を含む静岡の「孤児」とか「親無しor片親の子」とか対象に招待チケット配ったんだよね、社長。
 うん、いてもおかしくなかったわ、はやてとヴォルケンズ。
 とりあえず、俺自身は彼女らと接点ないからな、このままスルーで良いよね、面倒だし。
 志貴を紹介しただけで何もやってないのに感謝とかされても困るし。
 見慣れない、というか明らかに守護騎士四人とは違う銀髪の姉ちゃんが一緒にいるが、たぶんリインフォースⅠなんだろうな。これでⅡが作られる理由は存在しない、か。
 
 あ? 志貴もそういや孤児というか親無しだよな、たぶん。でも高校生はどうなんだろう…
 いるのかな、海馬ランドに。アルクェイドとデートとかしてるのか…羨ましい。
 あーアルクェイドには会ってみたいなぁ、どんだけ美人なんだろ。
 俺の初恋だからもー思い出補正かかって仕方ない。初恋といっても二次元嫁のだが。
 アルクェイドのモデルになった金髪女性の写真(マジか嘘かは兎も角)も見たことあるが、あれより美人なんだろうか

「お姉さん、進んどるで」

「…ああ、ぼうっとしていたらしい。すまんな」

 この思考が没入する癖は何とかせんといかんかもな…馬鹿に胸もまれたし。
 思い出したら腹立たしくなったので後でぶん殴ろう。

「買って来たっすよー」

「ここのジャンクフードは旨いねぇ。良い肉使ってるよ」
 
「ほどほどにしろよ」

 言うだけ無駄なのはわかるがな。

「いやでもマジ旨いっすよ、ハングリーバーガーセット」

 むしろこっちが喰われそうだ。

「まあこれに乗ったら飯喰うとして。
 なのは達が遅いな?」

「並ぶのに時間かかるのは分かってっから、どっかで時間潰してるんじゃないっすか?」

「まあ良い。よこせ」

 アルフは兎も角横島まで喰ってるとは…リバースしても知らんぞ、全く。
 横島からペットボトルを受け取ると早速喉を潤う。ポカリうめぇ。
 ポカリとかスポーツ飲料は実は濃すぎるから水で半分薄めるのが良いらしいが、それじゃまずくね?

 で、リインフォースが生存して普通に生活してる以上、はやて側は何もかも上手くいってるんだろうが肝心の志貴はどうしたんだか。
 後回しにするのは悪い癖な気もするが、後で良いよね。
 はやてがここにいるって事は英国から帰国してるって事だからな、学校で訊けば良い良い。

 それはそれとして後ろの会話が気になるな、どうしても。他愛もない会話ばかりだが…
 こんな人混みじゃそうそう魔法関係の話題が出るとも思えんがなー。
 なんせ闇の書はA級だかS級だかの危険なロストロギアだし、そこはユーノにも確認したし。
 ユーノも生まれ変わってからいろいろ調べたらしいから、そこは間違いない。
 まあプレシア事件も起きてないから、クロノ達が介入してくる事はないんだろうが、はやて達からすれば用心するに越したことはないハズ。
 ん? ジュエルシードの方はどうなったんだ? まさかユーノが回収して終わりなのか…まさかなぁ。

「静香おねーちゃーん!」

「やかましい。天下の往来で騒ぐもんじゃない」

 暑い中嬉しそうに駆けてくるなのはを抱き留める俺。

「みてみてープリクラとったのー! ブルーアイズデコレーション!」

 俺の腰にしがみつくようにしながらプリクラを貼った携帯を見せてくるなのは。
 どんだけ嫁好きなんだ社長。

「ほー、やっぱりフェイトは可愛いねぇ」

「くー! 美少年は写真に写っても美少年か! 絶望した!」

 それはキャラが違うだろう。
 まあ確かにユーノもフェイトも綺麗だしなのはも可愛いが。

「三人でいろいろ撮ったんだ。 後で静香も撮ろう?」

「海馬ランド限定のプリクラ手帳も売ってましたよ。
 凄いですね、ホントこの国は」

 それについては同意せざるを得ない。
 フェイトの手にあるそれが手帳なんだろう、嬉しそうに新しく貼られたプリクラを眺めている。

 しかしま、さすがにユーノもはやて達に気付いたか。
 ちらりと一瞥をくれると、素人どころか玄人でも、一見では分からない程度に警戒しているのが分かる。

 ん? 微妙な顔つきではやてがプリクラを見てはしゃいでいるなのは達を見ているな…ああ、羨ましいのか。
 然もありなん、はやては学校行けなかったから家族どころか友人が殆どいないんだよな。
 いてもグレアムの猫二匹が遠ざける位はしてそうだし、後の被害考えたらそれはそれで正しい訳だし。

 さて…どうすっかね。
 別に無理してはやてと友人付き合いさせる義務はこっちにはない。
 まして闇の書の持ち主ともなれば、管理局に目をつけられやすいだろうしな。

 なのはがどう思うかは兎も角、なのはの方は極論すればユーノのせいで巻き込まれたある意味被害者だし、フェイトに至っては単なる旅行者、もしくは移住希望者だからな。
 正直俺の妹どもは管理局と縁がないと言って良い。

 ジュエルシードの件で遅かれ早かれ関わるとは思うが、StSを考えるに辺り、このまま管理局とは他人でいてほしいのが正直な感想だ。

 この世界の管理局が原作通りかどうかはかなり謎だがな。
 がまあ…最初に首突っ込んだの俺だしなぁ…だって助けられるのに見捨てるなんて主に俺の精神の健康に悪いし。

 しゃーないか。

****
お待たせしました!
障害者さんだと無料とか介護者一人まで無料とか障害者専用パンフレット(どのレベル、どの部位の障害ならどのアトラクを楽しめるとか書いてある)をもらったりするらしいです。
まあその辺の描写は流してください。
次は未定、なるべく早くあげるつもりであります(ノー`)



[14218] わたしのアルフは凶暴です(せいてきな意味で
Name: 陣◆1ab6094b ID:a851a7ea
Date: 2011/03/01 21:44

 ジェットコースターの後、俺からまずユーノが魔法(ミッドチルダ)関係者である事と俺が志貴の友人である事を打ち明け、後はなのは、フェイトとはやてが仲良くなった、あとアルフとザフィーラが肉の焼き方で熱論を交わしてた。
 シャマルは瀬尾あきら、パトリシア・マーチン(共にうちの中等部)とという子と緑屋というBL系サークルで活動しているらしいぞ、心底どうでも良いが。
 俺が志貴にバグを殺すよう頼んだ事は言わなかった、面倒だし恩着せるつもりもないしな。
 
 で、今現在何をしてるかというとだ。

「はやてちゃん何とかして!」

「ユーノから離れて!」

「ふん、如何なる妨害をも乗り越えるのがベルカの騎士のつとめなのだ!
 ユノユノー! 愛してるぞー」

 今、そこで、ユーノの頭にひっついて騒いでる二頭身のぬいぐるみめいたナマモノが烈火の将だと誰が分かろうか。劣化の将ですらないわ。
 というかなんで『はやてがくしゃみしたら小さくなる』んだよ。
 ツイン・シグナムってか面白くないわ!

 リインフォース曰くバグを殺した後の補修作業に手違いがあり、本来、管理者たる夜天の書直轄の機能である回復・再生用の超防御力を得る特殊な形態変化機能が変な風にシグナムにだけ発現したとか何とか。
 しかも防御力はなのはのディバインバスター(レイハさん無しでだが)を受けてもケロっとして髪が焦げた程度、再生能力の方は怪我しないから分からんというでたらめっぷり。話を聞く限りヴィータの全力全開・光になれーを受けても一秒後に回復するという無敵モードらしいがマジあり得ん。そのまま盾にしようぜってレベルだろ。
 まあ、その分知能が極端に落ちて幼児化――通称・しぐしぐ――しているらしく、一目惚れしたユーノの頭にひっついてユノユノと騒いでるのが現状である。
 
 何という馬鹿な話だ、今まで色々あり得ん事を体験してきたがホントあり得んわ。
 
 あ、現在時刻19時前後。
 海馬ランドにあるKCホテルの2F、大広間のバイキングを味わってる最中だ。
 いやいや、一日遊園地で遊ぶというのも大概疲れるものだな。ガキどもはまだまだ元気だがたぶん風呂入ったら電池が切れるんだろう…それくらいはしゃいでたからな、今もだが。

「しかしリーダーがあんな風になる事に思うところはないのかヴィータよ」

「ありえねーことなんてありえねーんですよ、はやての持ってる漫画に載ってた」

 さすが八神家最後良心、割り切り方が半端ないな。
 アイスを中心に甘い物をがっつきながらもしぐしぐを放置だ。

「まあ別に害があるわけではないし、はやてちゃんには忠実だから問題ないわよ」

 と言いつつビデオにシグナムとユーノ達の馬鹿騒ぎをきっちり収めている。
 曰く、しぐしぐの時の記憶はシグナムにはないらしい。なので記録を見せて反応を楽しむんだと、シャマルまじ外道。シグナムの時は、まあ概ね俺が知ってるシグナムと大差なかったから、これは恥ずかしいだろうなぁ。まさに黒歴史生産形態というべきか。

 はやても慣れたものなのか、リインフォースの世話を受けつつにこにことユーノ達の反応を楽しんでいる。

「もー! はやてちゃん何とかして!」

「二人を引きはがせるモノはナニもないのだユノユノー!」

「痛いから! 髪の毛掴まないで!」

 阿鼻叫喚、というほどではないが軽くカオスだな…ローストビーフうめぇ。
 
「静香ちゃんスープ持ってきたっすよ……まだやってんのか」

「ご苦労」

「ほんならそろそろ止めよか。
 リイン」
 
「はい、主よ」

 どこから取り出したのかティッシュで作った紙縒ではやての鼻を擽るリインフォース。
 くしゅん、と可愛く嚔をするとぼうんっと音を立ててしぐしぐがシグナムに戻った、ユーノの頭の上で。
 どうも質量すら変化するらしく一気に大きく重くなったシグナムを支えきれず、どんっと音を立てて倒れ込むユーノとシグナム。見ようによっちゃシグナムが押し倒した形だな、ちょーど胸の谷間にユーノの顔が埋まってるし。
 なんというラッキースケベ。
 
「もー! ユーノ君から離れて!」

「ユーノ、取っちゃダメ!」

 ふらつくのか頭を押さえつつ立ち上がろうとするシグナムの下から、ユーノを引っ張り出す二人。
 サンドイッチうめぇ。乾いてないってのはいいな、いちいちラップするのも大変だろうに。
 
「押しに弱すぎるな、ユーノは」

「いやあ、アレって押しが強いっていうんすかね」

「普段は子供っぽくなるだけなんだけどな、よっぽどユーノを気に入ったんだろ」

 ハンバーグにかぶりつくヴィータまじ幼女。夜天の書だか蒼天の書だか、何考えて子供を騎士にしたんだろうな、あと男女比率おかしいだろ、騎士なのに。
 まあメタな話、原作がエロゲじゃなかったら、或いはロードス島辺りの時代だったら女なのは湖の騎士だけだったんだろうな、時代背景的に。

「その、すまない、スクライア、タカマチ、テスタロッサ。どうも小さくなってる時は、自分でも訳が分からなくてな」

「ユーノ君はなのはとフェイトちゃんの彼氏なんだからシグナムさんにはあげません!」

 ユーノの右腕を抱き抱えつつシグナムに宣戦布告するなのはに、反対側でぎゅっとユーノの腕を抱きかかえるようにしてシグナムを睨むフェイト。

「いや、私としてはそんなつもりはないんだ、信じて欲しい」

 説得力ねーなぁ。案の定なのはもフェイトも疑わしそうだし。

「まあまあ、二人とも。
 シグナムはうちがちゃんと面倒見ておくから、堪忍したってや」
 
「ならユーノに抱きつく前に止めるべきじゃね」

「えー、それじゃつまらんやん」

 ヴィータのツッコミ、しかしはやてには効果がなかった。

「ほら、なのはども。向こうのケーキいくつか取ってこい」

「はーい、いこ、ユーノ君、フェイトちゃん、はやてちゃん」

「いってらっしゃいませ、主よ」

 やれやれだ。
 まあはやても嬉しそうだしこれはこれで良いのかも知れんな、さっそくビデオをシャマルに見させられて落ち込んでるシグナム以外は。
 
 全くやれやれだぜ。
 
****

「はやてちゃん達とお風呂行ってくるの!」

「ああ、気をつけてな」

 ぼふ

 ふかふかのベッドへ倒れ込む、風呂入るよかこのまま寝たい静香です。
 さすがに大浴場の女湯にユーノは誘わなかったなのは、当然だが。
 横島とザフィーラの二人と連れだってユーノは歩いて行きました。
 
 久しぶりの独りだな…なんだかんだ言って家だろうと翠屋だろうと常に誰かと一緒だったし…
 
 バイキング会場を後にして宛がわれた自部屋に入ると、俺を除く四人は早速大浴場へ向かった。
 横島がアホなことをしないよう、ユーノとザフィーラに注意した上で、だ。
 俺は疲れたんでもう動きたくない、なんでお子様はあんな元気なの馬鹿なの死ぬの。
 
 あーシャワー位浴びた方が……もういいや。明日の朝で。
 明日は東京近辺旨いモノ巡りだ……日の出食堂だ五番町飯店だ――
 
 …………
 
 ふと気付く。どうやら寝てしまったらしい。
 まあ遊園地なんぞそれこそどれくらい久しぶりかって話だったし、その後もはやて達とうちの子供らが騒がしかったしな。
 枕元の時計を見るとそれでも日付はまたいではいなかった。

「おはようございます」

 視線だけ声の方へ向かわせると、ソファーに腰掛けて、ノートパソコン相手になにやら書き物しているユーノ。

「なんだ、起きてたのか」

「ええ、なのは達はもう寝てますけどね」

 隣のベッドを見れば確かになのはとフェイト。二人折り重なるように仲良く寝ていた。
 体を起こし一つ伸びをしてから立ち上がる。
 
「横島は?」

「そこですけど」

 ベッド同士の狭間、丸まって寝ているライキの下、黒こげになった物体。
 
「うう…マッサージしてあげようとしただけなんやぁ…」

 それは性的な意味か?
 全く懲りない奴だな。

「マッサージ店もホテルの中にあるみたいですけどね」

「もっと早く言ってくれ、そういう事は」

 まあとりあえず汗を落とすか。寝汗まで混じってかなり気色悪い。

「ユーノ宜しく」

「はいはい」

 書き物に集中しているからか割と素っ気ないユーノ。
 何書いてるんだろうかね、論文か?
 


 シャワーで軽く汗を流し、風呂場から出てみたら黒こげが更に焦げてて翠の輪っかで蓑虫になっていた。ライキは俺が寝ていた方のベッドの上で丸くなっていた。
 
「何というか、つくづく阿呆だなお前は」

 ゆったりとした俺のバスローブ姿に視線釘付けな横島。
 うーん、確かに世の女性達がじろじろ見られるのをいやがる気持ちも分からんでもないな、これは。

「静香ちゃんが悪いんやー! 健康な青少年の前でシャワーを浴びるとか! このイケズ!」

 お前が自制すれば良いだけの話だろうに。

「騒ぐな、なのは達が寝てる。ユーノ、頼む」

「はいはい」

 パソコンから目を離さず何やら呪文を唱えると、俺の髪を緑色の光が包む。
 ホントユーノは生活に優しい魔法使いだわ。

「私にも魔力があれば是非とも習得したんだがな、この魔法」

「大したプログラムは組んでませんからね、確かに少しでも魔力があれば出来たでしょう」

 鏡台の前に座り、あっという間に乾いた髪を三つ編みに編み始める俺。
 ストレートのままだと朝悲惨になるからな、緩くでも良いからある程度纏めておかないと。

「ユーノは何書いてる?」

「闇の書に関する論文ですね。 
 ギレアム提督から管理局に手を回してるとは思いますけど、一応もう安全だと言う証拠の一つ位は作っておこうかと」
 
「律儀な奴だな…」

 しかしあのしぐしぐとかホントタチの悪い冗談にしか思えないんだが、どう説明するのやら。

「闇の書?」

「お前は知らんで良い」

「ひどっ!」

 翠の光鎖で蓑虫状態のままもごもごと動く横島。
 
「差別やー贔屓やー」

「なのは達が起きるだろうが。黙れ。
 私は寝るが、ユーノはどうする?」

「もう少し書いてから寝ます。お先にどうぞ」

「そうか。じゃあ私はなのは達のベッド使わせてもらう。
 ユーノは一人でそっちのベッド使ってくれ」
 
 この部屋のベッド数は二つ、共にダブルサイズで、余裕で大人二人以上寝られるでかさ。
 まあなのはとフェイトと一緒に寝ても俺一人なら問題ないというわけだ。
 そういえばアルフは何処へ行った? デート中だろうか?
 
「ちょっ!? 俺は?!」

「床で寝とけ」

「ひどっ!?」

「貴様のような覗き魔と一緒の部屋で寝てやるというだけ有りがたく思え」

「せめてベッドで寝かせてー!」

「騒ぐな」

 唯一露出している顔を踏んで黙らせる俺。
 あんまり楽しくないな、人を踏んづけて楽しい気分とはどんなものだろうか。

「ちょっ踏まないで! しかし静香ちゃんの生足がっ! てか見えそう!――ぷぎゃっ!!」

「ホントにキモイなこいつ…ユーノ、外へ放り出せ」

 改めて目の辺りを念入りに踏みつぶす。さすがに気分悪いぞ、そんなトコをまじまじ見られるのは。
 まあ下着は着てるから丸見えという訳でもないんだが。ところで俺はブラジャーをして寝る派だ。
 してないとむしろ寝づらいんでな、大きいから。

「あ゛あ゛あ゛――すまんせん! 出来心やったんです!」

 お前はいつだって出来心100%だろうが。
 
「まあ良い。ユーノ、この馬鹿を宜しく頼む」

「分かりました」

「ユーノお願い助け――ふごふご!」

 ついに翠の光鎖で口まで拘束される横島。その上で半円状の光が横島を包むと静かな夜の部屋が戻ってきた。

「ではおやすみ。ユーノなら添い寝してやっても良いぞ」

「遠慮しておきます」

 集中力が書き物の方へいってるからか、やたら素っ気ないなぁ。
 でも真面目な顔してキーボード叩いてる姿はなかなか格好良いな、さすがユーノマジ美形。
 ライキは――まあいいか。横島は床で寝るだろうし、ユーノは俺となのは達が寝てるベッドに来ても良いしな。
 ではおやすみ――

****

遅れに遅れましたが漸くアップです。
どうも登場人数が多すぎるシーンが進まないみたいです。
精進が足りませんね…頑張ります。
番外編、没作品についてもご意見・ご感想お待ちしております。
感想くれないと暴れちゃうぞ☆

…スレイヤーズも随分昔の作品になってしまいましたねぇ(遠い目



[14218] 初代ポケ以外も好きだけど(`・ω・´)世代的に思い入れがね
Name: 陣◆e4fce16c ID:a851a7ea
Date: 2011/05/29 20:33
目が覚めた。
習慣というものか、身体に染みついたものはなかなか落ちないものらしい。
枕元の時計を、首だけ動かして見ると、4時数分前。

 まあ東京来てまで走ったり修行したりするつもりはないし、朝飯もホテル持ちでバイキングが食べられるし、余り早起きする意味はないな。
 故にもう一度寝直そうと思ったのだが、その前に花摘みと行こうか。
 なのはとフェイトの布団を直して、と――



 ウォッシュレットを開発した人にはノーベル賞を受賞させるべきだと思うんだ、割とマジで。
 
 
 しっかし…いつまで経ってもトイレだけはなれねーなぁ。
 
 いや、『女の身体』には比較的早く慣れたよ、うん。
 風呂とかベッドとか、色々触る機会も多いし、自分の身体なんざ毎日見る訳だし。
 しかしトイレだけは何故か慣れん、普通に恥ずかしい、未だに。
 男の時と違ってちゃんと拭かないとアレだし。どうも、アレだ。
 未だにトイレだけは『自分の行為を女に見られてる感覚』と『女性の行為を見ている感覚』が同居しているような気恥ずかしさを感じてしまう。
 難儀なものだ。

 ふと思い出した。
 
 どうでも良い話だが、トイレの便座をさ、『男』は上げてするだろ?
 で、普通は上げっぱなしな訳だ、常識的に考えて。
 男の場合、『座る時に便座を降ろす』という常識があるからだ。
 (友人宅でリトル・ジョーの時も座るよう注意された時は本当に驚いた)

 で、な。

 夜中に響き渡る美由紀の悲鳴。
 
 思いっきりワロタ。
 女の場合、『掃除の時以外便座を上げる必要ない』と思い込んでるらしい。
 
 便座上げっぱなしにしたのが横島だったらしく、正座で長々と説教してたぞ、美由紀と高町母が。
 恭也と父士郎が生暖かい目でソレを眺めていたのが印象的であった。
 これが男が圧倒的に多い家族――母親しか女がいない等――の場合はそうでもないんだろうが、うちの場合は女の方が多いし、高町母の圧倒的存在感がなー。

 まあ俺の場合、中身が男混じりだから便座を下げ忘れるミスは余りない。
 大抵、スカート履いてる時にチャックやベルト緩めようとして、自分の性別に気付くからだ。
 しかしズボンを履いてる時に立ったまま致そうとして洒落にならなくなった事がある。
 あの時は色んな意味で情けなかったぜ…
 
 なんて事を考えつつ、身体を動かしたら眠気も失せてしまったな…なんて健康的。
 男だった頃は怠惰スーツマジ欲しいって位だらけてたもんだが。

 それにしても流石一流ホテルだけある。
 部屋も綺麗ならトイレも綺麗だわ。
 朝も早いから静かだし。

 ………
 
 トイレから戻ってみれば、ユーノの上に変な物体が乗っていた。

「ユノユノ~」

 掛け布団に潜りこもうとしているトコを捕獲。
 猫をつまみ上げるように二頭身のそれを掴むと――
 
「何をするキサマ! べるかの騎士をそのような――」

 鍵を開け窓から捨てる。
 常識も投げ捨てた方が幸せかも知らん。
 音を立てて窓を閉め鍵を掛ける。

 全く朝から変なモン湧いてでおってからに。
 というか何処から入ったんだ。
 入る時、ドアの鍵も閉まっていたし、窓の鍵も捨てる時に開けたんだから閉まっていたハズ。
 一流ホテルと言って良いこのホテルの部屋で、そう簡単に進入できるとも思えん――
 
 …どうでも良いか。
 
「助かりました、静香さん」

「寝たフリか」

 身体を起こさず――まだ窓の外にシグナムがいるからだろう――目も閉じたまま、こちらに小さく声を掛けるユーノ。

「下手に反応すると馬鹿騒ぎされそうですからね…はぁ…」

「まあそうだろうな…」

 窓を見ると、外でうろうろと飛んでいる小さくなったシグナム。
 大きめのぬいぐるみが空飛んでるようで、それはそれで可愛らしいと言えなくはないんだが、なあ。
 流石に窓ガラスを叩くなど迷惑行為に走る気はないようだ。
 とりあえずはやての部屋に内線を掛ける。
 出てきたシャマルに引き取るよう伝えて受話器を置くと、カチャリと音を立てる窓の鍵。

「ふははははは、ユノユノへの愛を妨げるモノなどなにもないのだ!」

 ピッキング魔法とか器用な事しやがった。
 なのはとは違った意味で大砲ぶっぱ的大味な魔法しか使えないイメージだったんだが、小さくなると得手が変わるのか?
 俺が驚いてる間に窓を開け部屋に飛び込み、ユーノの布団の上にダイブし、もそもそと布団へ潜りこもうとするしぐしぐ。
 迷惑そうに眉間に皺を刻みながら寝たフリを続けるユーノ。

「やれやれ…」

 むんずとシグナムの頭を握り込む。
 凝をしながら。
 
「おおおおお!? 頭が割れるように痛い!?」

 纏無しでパイナップルを握り砕く俺の握力が凝でパワーアップだし、当然だな。
 というかなんで砕けないのこの頭。
 練してないが、この状態でも野球ボール大の鉄球くらいパチンコ玉に変える握力はあるハズなんだが。
 プログラム生命体とかだったハズだからまかり間違っても精孔が開く事はなかろうとやってみたんだが、思った以上に頑丈だなこいつ。

「離せーっおっぱい魔人しずしずっ! ぶっとばすぞぉおおぉ痛い痛い!?」

 誰がおっぱい魔人かっ。全く失礼な。
 というかお前の方こそおっぱい魔将だろう、烈火の将的に。
 ……まあシグナムよりでかいのはでかいな、俺の方が。一回り以上。
 それは兎も角、このままシャマルが引き取りに来るまで握り込んでいても問題ないんだが――

「うー…なーに?」

 ガキどもが起き出してしまったではないか。
 全く迷惑な話だ。
 
「おおおおお!? 頭が割れるっ光がちかちかするぅぅぅ?!」

 凝を解除、そして練!
 右手に集まっていたオーラが全身に戻り、全身から一際強く吹き出す。
 そしてそのまま振りかぶり、リリースの瞬間、9割のオーラを右腕・右手に凝!
 外へ放り投げる!
 
 ぶぉんっ!
 
「ひゃっ!?」「らいっ!?」「ひぅ!?」

 なのはとフェイト、そしてライキが驚きの声を上げる程のソニックブームを起こして澄み切った青空へ消えたしぐしぐ。
 部屋の中の軽いモノがかなり舞い上がってしまったな、次があれば気をつけるべきか。

「……とりあえず、おはよう、なのは、フェイト、ユーノ、ライキ」

 そしてとりあえず窓を締め鍵を掛ける。意味はないのは百も承知だが。

「おはよー…何があったのー?」

 半身を起こし目尻をこすりながら尋ねてくるなのは。

「なにか…五月蠅かったね…?」

「らぁい」

 ピョンとベッドから飛び降り、横島を覆う結界の上に飛び乗るライキ。
 アレ、乗れたのか。

「ああ、気にしなくて良い。なのはとフェイトが気にしなくて良いものだ」

 しかし中途半端だな。
 4時10分過ぎ、か。
 眠気は完全に飛んだし、こんな時間じゃホテルの施設も何もやってないだろう。

 シャワーでも浴びるか。
 幸い、ユーノが張った結界はまだ維持されてるようで、横島は翠の光の中だし。
 しかし、今起きたとはいえ、寝ながら維持してたんだからユーノも凄まじい技量だよな、これ。
 ライキは結界の上で丸くなってるし。
 ネズミというか猫に近い気もするな、丸まってるトコを見ると。

「なのは、フェイト。シャワーでも浴びるか」

 備え付けの冷蔵庫を開け、中に入っていたオレンジジュースの口を開ける。
 今日もいい天気だなぁ。

「はーい」「うん…ふぁ…」

 フェイトの欠伸は可愛いな。

「横島さんどうします?」

 ベッドから降りて、着替え始めているユーノ。

「もう少し転がしておけ。
 具体的にはシャワー浴び終わって着替えるまで」
 
「あー! 静香お姉ちゃん! また下着姿で歩いて!
 ちゃんと服きなさーいっ!」
 
「いやTシャツ着てるぞ?」

 まあ下は確かにショーツ一枚だが。

「そーゆー問題じゃありませんっ!」

 ベッドの上で、私怒ってますと全身で表現するパジャマ姿のなのは。

「お母さんとか、いつも寝起きは裸だったよ?」

 同じくパジャマ姿のフェイト、全身真っ黒のパジャマってどうなの、デザイン以上に趣味的な意味で。
 情操教育に悪そうだな、テスタロッサ家は。

「お母さん達は良いのっ! お姉ちゃんはダメっ!」

「何という差別」

 パジャマとかメンドイじゃん。
 男はTシャツどころかトランクス一枚で寝て文句言われないのにずるくね?
 ユーノだって昨日はTシャツにトランクスだったのになぁ。

「分かった分かった。善処する」

「お役所仕事はいけませんっ」

 ベッドから飛び降り、むぎゅうっと腰の辺りに抱きついてくるなのは。

「分かった分かった」

「分かってないの! つつしみが足りないのっ」

 そんなやりとりをしつつシャワールームへ。
 朝から元気だな、お子様は、全く。


****


 朝風呂は気持ち良いねぇ。
 浴槽も余裕で大人三人は入れる位大きいし。
 KCコーポレーションって儲けてるんだなぁ。
 
「大きいおっぱい」

「ふにふになの」

「お前らも好きだな…」

 まあいいけどさ…こそばゆいだけだし。
 こいつらの手じゃ強く握るのも難しいだろうし、大きさ的に。
 ぬるめのお湯に浸かりながら、俺のおっぱいを揉んでる二人。
 横島と違ってホント揉んでるだけなんだよな。
 あいつの場合はなんかこう、手つきがいやらしいというか。
 まあ嫌らしいと言えばクラスメート(ただし女子)とかもだが。
 流石にはやてのような堂々としたセクハラは滅多にないがたまに頼まれるからなぁ、揉ませてくれと。

「なのは達もおっきくなるかなぁ?」

「なるぞ」

 特にフェイトはな。

「ねぇ、今日は何処行くの?」

「東京の旨いモノ巡りだな」

 今日・明日はがっつり喰うぜ。

「パンダ見たいの、上野動物園~」

「パンダ?」

「可愛いんだよ~」

「ふむ、アメ横で買い物は行くつもりだったが…」

「パンダ見たいのっ」

「分かったから力入れるな」

 お湯に浮く俺のおっぱいをたぷたぷもてあそぶなのは。
 …甘えん坊のレベル上がってないか? 別に悪い事だとは思わんが。
 将来はやてのようなセクハラ娘にならないか凄い心配だが、まあ俺相手だけなら構う事でもないか。
 
「さて、とりあえず上がるか。
 にしても中途半端な時間だが…」
 
 大体四時半過ぎである、朝の。

「ホテルの公園にね、ポケモンが放し飼いになってるんだって」

 下からのぞき込むようなフェイトの視線。

「散歩がてら行ってみるか」

「うん!」

「ポケモン…」

 意外と可愛いモノ好きなフェイトがうっとりと新しい出会いを妄想し始める。

「では上がるか」


****

「ユーノ君、どお?」

 淡いブルーのワンピース、共布ベルトで腰を締めた、脛の半分辺りまで隠れるロングタイプ。
 胸元も背中も適度に空いて涼しげである。
 フェイトも揃いで色違いの、淡いイエローのワンピースを着ていた。
 今日の為に購入したらしいそれを、二人でユーノに見せている。

「うん、可愛いよ。似合ってる。なのはも、フェイトも」

 なのはは兎も角、フェイトも黒ばかりじゃあれだしな。
 似合うっちゃ似合うが、あんまり女の子らしくないのは戴けない。
 ユーノは小学生らしくTシャツに短パン、ニーソックスである。
 ショタ可愛いという奴だな。

「お姉ちゃんもスカート着れば可愛いのに」

「動きづらいから好かん」

 いくら中身が男混じりとは言え、自宅ならまだしも外でそう下着見える格好を喜ぶ趣味はない。
 というかホント、ミニスカとか無理無理。
 似合う似合わない以前に、下着が気になって落ち着かないのだ、アレは。
 妙に涼しくて落ち着かないしな…冬にミニスカとか女子高校生マジパネェ。
 俺も一応女子高校生だが。
 制服着てる時ですらホント落ち着かん。
 膝まで隠れる長いの来てるけど。
 いや女性はスカート履くべきだと思うよ、思うけど慣れん。

 という訳で俺の方は普通にTシャツにジーパン、ビニールだかポリエステルだか分からんし何処のメーカーかも分からんような薄手の黒ジャケットに袖を通した格好に、ウエストポーチである。
 
「うー、身体がいてぇ」

「まあ一晩中あの体勢で転がされてればそうだろうよ」

 ベッドに腰掛けて伸びをしたり足を曲げ伸ばししたりしている横島。
 背中でライキが横島登りを敢行中。

「シャワーでも浴びてこい」

「へーい。
 ……覗いてもいいっすよ?」
 
 ばふっと音を立てて、俺の投げた枕が横島の顔に衝突する。

「ねぇ、なんでタダオは女の人の裸を見たがるの?」

「………フェイトちゃんが大人になったら分かるさ」

 枕を片付けながら、遠い目をして窓の外を見る横島。
 性欲の対象とか言っても理解出来ないだろうしなぁ。
 まだ赤飯前だし。
 流石に呵責を覚えるのか、一筋たらりと汗が流れてる辺り中途半端に善良なトコあるよな、こいつ。

「アルフは帰ってきませんでしたね」

 ユーノが荷物や着替えを片付けながら、話を逸らす一言。
 
「ん…ザフィーラと一緒にいるみたい」

「リア充消滅しろっ」

「仲良しさんだね~」

「うん、もう少し一緒にいるって」

「ならば放っておくか。
 よ……忠夫、私たちはホテルの公園を散歩してくる」

「へーい」

「ユーノ君、ポケモン~♪」

「ポケモン~♪」

「らぁい♪」

 横島の背中を蹴って俺の胸元へ飛びついてきたライキを受け止め、そのままボールへ戻す。
 流石にホテルの廊下を、なぁ。

「では行きましょうか」

 ちなみにしぐしぐを引き取りに来たシャマルは俺達が風呂に入ってる間に来たらしい。
 ユーノが対応してくれたので、部屋に戻ってから旅の鏡で取り寄せバッグすると思われる。

****

「わぁっ! いっぱいいるぅっ!」

「凄い…っ」

 壮観だな。
 広さは大体都内の学校の校庭位で池や小さいが山になっている区画もあり、ちょっとしたサファリパークになっている。
 イメージとしてはウラヤマさん家の自慢の裏庭か。
 案内板にはここに放し飼いになっているポケモンが列記されていて、人を襲うような気の強いポケモンは放し飼いしていないようだ。
 例えばマンキーとかスピアーとかな。

「お姉ちゃん図鑑出してっ」

「ああ」

「アレはなんて名前?」

「ちょっと待ってね…フシギソウだって」

「名前の通り、不思議な造形だね。生態的にどういう構造してるんだろう?」

「可愛い…」

 俺のポケモン図鑑をひったくるように奪い、そこらを彷徨いているポケモンを一匹一匹調べては歓声を上げる三人。
 こうしてみるとユーノも十分年相応に見えるな…まあ発言内容は子供っぽくないが。

 フシギソウ、サンドなど関東地方のポケモンだけでなく、ポポッコやウパー、ブイゼルなど他地方のポケモンも数種飼ってるらしい。
 
「あ、ピチューだって! ライチュウの進化前!」

「あ、逃げられちゃった」

「ネズミに近い習性を持ってるからな、そうは懐かんよ。
 ライキは別だ別」
 
 餌付けしたからとは言えあっという間に懐いてくれたからな…相性が良かったのかも知れん。
 
「池の中にニョロモだって」

「可愛くない…」

「いやいやホント不思議ですね、ポケモンって…」

「あー!!」

「おっきいな」

「見事な竜だね。この世界はホント凄い」

 空を見上げつつ、それは俺もそう思う。
 
「えーとっカイリューだって! すごーい!」

 ちなみにカイリューはかなり珍しいらしい、この世界でも。
 レベルで最終段階まで進化するポケモン系統の最終段階は軒並み珍しいんだけどな。
 トレーナー同士ならそれなりに普通だけど、それでもカイリューやリザードンクラスのポケモンはやはり扱いが難しいらしい。
 ポケモンリーグの新人戦でカイリュー出したは良いが指示受け付けなくて負けるようなのも結構いるし。
 国営放送の目玉番組だぜ、ポケモンリーグ放映権。

「あー、行っちゃった」

「誰か乗ってたよね?」

「しゃ――海馬プロだったりしてな」

 そうだとしたらNNはキサラだな、間違いない。

「可愛いのっ」

「えーと、オタチ、かな」

「可愛い…」

 うむ、可愛いけど弱いポケモン代表選手・オオタチの進化前か。
 まあマッスグマがいる限り永遠に芽が出る事はないんだろうなぁ。可愛いんだけど。
 ちなみにマッスグマにユーノとNN付けたのは俺だけじゃないハズだ、口にはださんけどな。
 
「可愛い~」

 それこそ可愛く鳴き声を上げつつ、なのはに、そしてフェイトに抱かれているオタチ。
 ユーノもオタチの鼻先で指を振ったりしてあやしている。

 かしゃ

「…いきなり無礼な奴だなお前は」

「いやいやこういうシーンを見逃したらもったいないっすよ」

 デジカメをかしゃかしゃ言わせながら、いつもの格好の横島。
 そういえばこいつ、同じバンダナいくつ持ってるんだろうな。
 どうでも良い事だが。

「まあ良い。ちゃんと撮っておけよ」

「ぶらじゃー」

「殺すぞ」

「冗談っすよ」

 全く。
 
「あ、横島さん」

「タダオ、オタチだよ」

「あ、カモネギが歩いてる!」

 オタチを抱いたまま、カモネギの後ろを小ガモ宜しくついて行くなのは。
 ユーノはユーノで、突如足元に沸いて出たディグダとサンドに興味津々である。
 フェイトもオタチを抱いたまま、ウパーが列を成して池に潜って行く様に心奪われている。
 横島はそんな子供達の姿をかしゃかしゃとデジカメに納めていた。

「やれやれ、朝から元気な事だ」

 目に入ったベンチに腰を掛け、空を仰ぐ俺。
 幾種類かの飛行ポケモンが飛んでいる。

「お?」

 太ももの上に、何処から沸いて出たのか、何かが膝の上によじ登ってきた。
 よく人に懐いてるポケモン達だな、ここのポケモンは。

「ふむ、サンドか」

 可愛いなぁ、こいつも。
 ゲームではいまいち使い出がないポケモンだったが、ナマモノは有り得ない位可愛いな。
 ちょいちょいっと鼻先で指を使ってあやしたりすると鳴きながら手を伸ばしたりしてきてもうね。

 かしゃかしゃ
 
「撮る時は一言言え」

 視線を腿の上に落としたまま注意する俺。
 しかしこの体勢、自分の胸のせいで太ももの上が見づらい。
 肩こりや不躾な視線もそうだが、胸が大きいっていうのも良い事ばっかでもないねぇ。
 
「それじゃ自然な感じにならんっしょ」

「ふん」

 しかしサンド、背中かてぇ。
 まさしく岩って感じ、しかも意外と重いな。
 大体10㎏前後か?
 膝の上というか腿の上で大人しく撫でられてるサンドマジプリティ。
 引っ繰り返してお腹を撫でて見ると普通に柔らかい。不思議なもんだ。
 撫でると気持ちよさげに鳴く。
 こそばゆいのかもぞもぞと身をよじって、背中の硬いのがジーンズ越しに擦れてちょっと痛い。
 だが許せる。なんだこの生き物わ。
 ライキの時も感動したがサンドもまた別格の可愛さだな。
 どっかでとっつかまえて帰るか? まじめに。

 仰向けのまま、裾を締まっていない俺のTシャツに腕を伸ばしてじゃれるサンド。
 普段、裾を仕舞わないのは、胸の部分が伸びてだるだるになるのを少しでも防ぐ為である、文句あっか。
 胸のせいで、そして女性にしては背が高い事もあって、裾を仕舞うとパッツンパッツンになるせいもあるがな。

「お、へそチラ」

 かしゃ

「撮るな」

「いやいやこれは永久保存モノっす」

「忠夫お兄ちゃんこっちもっ」

「へいへい」

 やれやれ。
 
 そんな風にして、朝食までの時間を過ごした俺らであった。
 

*****

お待たせしましたっ。
初代ポケ以外も好きですよ、ドサイドン先生とか。
問題は明らかにぶっ壊れてきてる強さのバランスです、今回のBWで種族値全面改定とかしても良かったとおもうんですけどね…

没案として最後の公園の場面で社長と木馬に口説かれるシーンとかあったんですが、あんまりその手の話ばっかりでもという事で没。
この世界の社長は既に成人なされてるのでそろそろ結婚を意識せざるを得ないのです、大企業の社長的に。
アリサとすずか経由(所謂社交界的なお付き合いで木馬とは仲良し)で木馬(TSで♀)が静香に目を付けててみたいな裏設定だけは無駄に考えてました。

それはそうと、投稿時のプレビュー機能が反応しないんですが…僕のパソだけなんですかね?
投稿前の確認がしづらいんです。



[14218] おーまーたーせーしーまーしーたーすーごーいーやーつー
Name: 陣◆cf036c84 ID:751d9215
Date: 2012/02/17 09:47
 一頻りポケモン達と戯れた後、朝食である。
 これもバイキング形式で、大広間だが大食堂だかで時間内なら各々好きな時に食べる事が出来るらしい。
 
 まあその前に粘着テープ――通称コロコロ、これ正式名称なんて言うんだろうな?――でポケモン達の抜け毛を落としてからだけどな。

 で、食事中である。

「でねっオタチとかサンドとかもーとっても可愛いのっ」

「ええなぁ、私も見たいわぁ」

 はやて達にポケモンの魅力を語りながら食事を取るなのは達。
 
 昨晩は流石に体力限界だった事もあってやれなかったから、今日はちょっと張り切って見るか。

 大皿にケーキ、フルーツ・ゼリーの類を綺麗に配置、フルーツソースやチョコレートソース、スプレー、粉砂糖etcで彩るだけでバイキングのデザートには見えない程の進化である。
 味に関しては今まで食べた事のあるどのバイキング形式のソレより旨いが、やはり見た目のグレードを上げるだけで一つ味が進化した気さえするな。

「おお、綺麗っすね」

 ふん、伊達で働いてる訳ではないのだよ。
 デザートは特に見た目が大事だしな。
 同じように大皿(と言っても直径30㎝に足らない位)にケーキやら何やらを盛り付けてっと。
 あっという間に五皿分完成。

「ほれ、ガキども」

「静香お姉ちゃん、口悪いのダメっ」

「ならやらんぞ」

「もっとダメなのっ!」

 やれやれ。

「静香さんおおきに。綺麗やわぁ」

「おうっありがとな」

 はやてとヴィータにも配る。
 何処まで飛んだか知らんがいつの間にかシグナムも食事に参加していた。
 まあ旅の鏡があればどっからでも引っ張ってこれるんだろうが。
 
 視界の端ではザフィーラとアルフがバカップル化してるし…
 なんでそんな仲良いんだよ一目惚れかよ訳わかんねーよあーんとかしてんなヴォケ。
 大体フェイトの護衛はどーしたってんだ。
 
 全く護衛の必要はないけどな、こんな世界じゃ。

「静香お姉ちゃんっ! はやてちゃん達も一緒に上野動物園っ」

「唐突になんだ」

「静香様、八神家も今日、上野動物園に足を運ぶ予定なのです」

「それならってなのはちゃんが一緒に行こうって誘ってくれたのよね」

 リインフォースとシャマルの状況説明。

「それは構わんが」

「静香お姉ちゃんと忠夫お兄ちゃんはデートしてて良いからね!」

「なぬ?」

「シャマルさんやリインフォースさんもいるし、大丈夫なのっ」

「僕もいますから…まあ、そういう心配は要りませんよ」

 保護者的な意味では『ユーノ』がいる以上、心配する気にもならんが。

「今日の予定はどうなってるんだ? 八神家は」

「本日は上野動物園を楽しんだ後、アメ横・秋葉原にて買い物。
 その後、庵様のライブへ招待されているので、六本木まで足を運ぶ予定になっております。
 ライブ後、予約してあります東京駅付近のホテルへチェックインする予定です」
 
「………庵…だと…?」

「はい、主はやての又従兄弟(またいとこ/はとこ)殿です」

 一応説明すると、親が従兄弟同士の場合、その子供同士が又従兄弟になる。

「すげーっ! KOFの常連じゃないっすか!」

 ここ数年開催されてないが、何年か前までは結構な頻度で開催されていたらしい。

「ってこたぁ、はやてちゃんも炎出せるの?」

 ホットドッグをがっつきながら、興味津々な横島。
 まあ、確かに炎出せるってのは厨二病に犯された心をダイレクトに擽ってくれる設定だが。

「いやあ、うちは無理や。血が薄すぎるんよ、本家から大分遠いし」

 こんな時どんな顔して良いのか分からん。
 もう大概驚かんと心に決めたハズなんだがなぁ。
 
 しかしあの庵がどんなツラしてはやての相手するんだろうな…
 気になるぜ。
 
「残念ながらライブの方はチケットが当日分が無く、既にソールドアウトしておりますのでなのは様達をお連れする事は出来かねますが、15時頃までは動物園内で過ごし、その後は買い物巡りを行う予定ですので、概ね17時頃までは静香様と横島様に於かれましてはお二人でご緩りと過ごして頂けるかと」
 
 めっちゃ腹立つなリインフォースめ。
 目が笑ってやがる、絶対に志貴辺りから何か吹き込まれてるぞ。
 とは言え、ガキども連れて東京中ぐるぐる回るよりは大分楽なのは確かだな。

「お前らはそれで良いのか?」

「うん! はやてちゃんと遊びたいしね」

「パンダ見たいんだ」

「…まあ逆らっても無駄ですし、個人的にも興味はありますしね」

 三者三様。ふっと肩を竦めるユーノが年不相応で可愛いな。
 
「まあ、なら良い。
 横島も動物園な」
 
「なんでっ!?」

「いやたまには独りが良いし」

「いやじゃー!」

「おお!? 血の涙とか初めて見たで!」

「忠夫お兄ちゃんは割と気軽に流してる気がするの」

「うん、シズカと一緒にいる時は結構流してるよね」

「騒ぐなみっともない。…阿呆な事はするなよ」

 ナンパ避け位にはなるだろ。

「ツンデレって奴ね」

 黙れ腐女子。

「兎も抱かせてもらえるらしーし、楽しみだよなっ」

「パンダ♪ パンダ♪」

 口元にチョコソースとかヴィータマジ幼女。
 フェイトのテンションも上がりっぱなしだ。
 
「シグナムが大人しいな?」

「いや…そのなんだ。スクライア達に迷惑かけないようにな…」

 なんつーか、普段は常識人なだけに哀れだな、シグナム。
 端っこの方でこそこそしなくてもよいだろうに。
 まあ俺としてもこそこそしたい気持ちはあるんだが。
 なんせ視界の端に死神名探偵コナン達が朝食取ってるからなぁっ!
 昨日、何もなかっただけに怖くて仕方ないわ、全く。

 コナンの場合は身内は殺さないが金田一は容赦なく美雪・剣持・明智以外の誰でも殺す、という差はある。
 あるがどのみち他人の俺にしてみれば大差ないわ。
 いつか確実に当たる宝くじを買い続けるようなもんだ、こいつらと同じ場所で同じ時間を過ごすというのは。



****

「さて、浅草だ」

 正確には松屋・仲見世通り入り口前辺りだ。

「いやあ、人多い。俺は東京初めてっすけど、静香ちゃんは違うんすかね?」

「違うと言えば違うし、初めてと言えば初めてだな」

 前世では東京の下町生まれの下町育ちだしな、浅草なんざ自転車で通える距離だったし。

「なんすかそれ」

 しかし、普通に怪人やらヒーロー? やら歩いてる辺り、かなりシュールな光景だ。
 イメージ的には秋葉原のメイドさん程度には怪人だのが歩いてる感じか。
 空を見ればポケモンも飛んでるし、シュールだな、今更だが。
 外国人も多いが、そこは観光地だからだろう。
 
 まあどうでも良いわ。
 満月堂で和菓子買わんとな。

「味皇料理会発行、今年度のグルメマップによると満月堂は浅草寺の側らしいな。
 ついでに参詣してくるか」

 五番町飯店とかもしっかり載ってるが日之出食堂は載ってないな。
 味皇の実家になる訳だし、載せない方が無難なのかも知れんが。
 まあ、場所は調べがついてるから別に載ってなくても行けるし、問題はない。

「了解っ。で、美味いんすか?」

「不味かったら味皇料理会の出すグルメマップに載る訳がなかろう」

「まあそれもそっか。そういえばそれの静岡県版に、翠屋も載ってるんすよね」

「ああ。味皇が復帰してから方針が変わってな、傘下以外の料理店にも星配ったりちゃんと紹介したりと昔のような空気に戻って来てるという話だ」

 味皇帝のじーさんが復活するとはこのリハk(ry

「さて、行くぞ」

 いやしかしこの空気・雰囲気は東京だよな、雑然として、歩くの速くて。
 人混みが凄くて、うん、なんか帰って来たって感じだわ。
 やっぱ店開くなら東京でだよなぁ。
 正直翠屋はアレだ、跡継ぎが必要な年じゃねーしな、高町母が。
  
 
 仲見世通りを適当に冷やかしつつ通り、浅草寺にお参りをして。
 到着しました満月堂。
 まあ店構えは普通にそこらに一束いくらで並んでる程度には普通な和菓子屋さんである。
 
「ふむ、間違いないな」

 ガイドブックに照らし合わせて最終確認。
 
「邪魔をする」

「どーでも良いっすけど男前すね、静香ちゃん」

 やかましい。

「いらっしゃいませー」

 店内は混んでる、という程でもなく閑散としており、身なりのこざっぱりとしたじーさんが独り茶を啜ってる程度。
 あまり広い店でもないし、どちらかというと販売がメインか。
 そして笑顔全開で接客しているのが安藤奈津、か。向こうに女将さんも見えるな。

「朝飯後だが少し喰って行くか」

「うーす」

「適当に頼むか」

 和菓子は詳しくないからな、それこそ見た目で綺麗なのを千円ほどとお茶を頼む。
 …あのじーさんなんか…なんだっけ? なんかあんどーなつと関わりがあったような…?
 単行本買ってた訳でもないからなぁ、ビックコミックの流し読み程度だ。忘れてもしかたねーか。
 
「おお、こりゃうめー」

「洋菓子にはない美しさと美味さ、だな。一概に上だの下だのは言えんだろうが」

 練り物にしろ打ち物にしろ、洋菓子とは根幹の発想が違うからな。
 にしても久しぶりに喰う和菓子は旨い。
 落雁( ゚Д゚)ウマー

「お姉さんも作ってるんすか?」

 モテないだの騒いでる割にこいつのコミュ力は結構高いんだよなぁ。
 セクハラと妄想の暴走がいかんのだな、うむ。

「はい、まだまだ未熟ですけど、幾つか作らせて頂いてます」

 人当たりの良い性格、お人好しな性格、美人でないにしろ愛嬌のある優しい笑顔。
 まー、嫌な奴は嫌だろうな、鼻につくというか、お人好し過ぎるというか。
 万人に好かれるなんてあり得んし。

「土産の配送はやってるのか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 と、実家にいくらか送るよう手配して、絶品の和菓子に舌鼓を打つ俺と横島であった。
 和菓子うめぇ。
 

****

短いけどこれで。
時間たちすぎですね、申し訳ない。待っていてくれた人、ありがとうございます。
ぼちぼち更新頻度あげていければと思ってます。
ハンターがこんな連載再開して続くなんて思わなかった、ミスター味っ子Ⅱも連載終了しちゃうし。
いやはや…

注意1:作者の中ではオロチ編でKOFは終了してます、続きなんてなかったんです。
    というか格ゲーについて行けません、年取りました…なのぽGODも苦労しました…
    
注意2:無意味に裏設定ではいおりんとはやての曾祖父母が同じで、曾祖父母の長男(炎出せる)がいおりんの祖父、次男(炎出せない)がはやての祖父とか何とか。最初はいおりんの妹設定流用しようとしたんですが、両親死んだ時点でいおりんと一緒に暮らさないのはおかしいですし、猫姉妹と喧嘩位しそうですしと考えると却下でした。

注意3:ミスター味っ子。日之出食堂は『関陽地区』という架空の区――或いは独立行政区? そもそも地区ってなんだ地区って――に存在するのですが流石に面倒なんで東京の下町・台東区・墨田区・葛飾区・荒川区辺りのどっかに適当に放り込む予定です、悪しからず。

原作で味皇のじーさん復活とかもうね(´Д`;)
年取らなさすぎだろ、ミスター味っ子時代と見比べて老けた感じしないんですけどー(´Д`;)
イブニングHPでの後日談でのじーさんも老けてないんですけどー(´Д`;)
あのパツキン娘が11歳とかね(´Д`;)
あと満月堂で落雁扱ってるかどーかなんてシラネ(゚⊿゚)僕が好きなだけですw




[14218] 「\ルナ!/\トリガー!/」
Name: 陣◆1ab6094b ID:751d9215
Date: 2012/02/25 10:54
「旨すぎる…」

「はぐはぐはぐはぐ――うめぇ!」

 二度揚げカツ丼旨すぎだろ常識的に考えて。

「止まれバカ」

 横島が喰ってるのはリンゴのオムライス――つまり陽太の料理で、俺が喰ってるのが隆夫氏の料理である。
 下町の包宰が生きていたっつーのも驚いたが、陽一がまた旅に出てたのには呆れたな、今度は嫁さんと一緒らしいが。
 …俺の朧気になってきた記憶じゃ味王トーナメントの途中だったからなぁ、味っ子Ⅱ。
 
「う?」

「ほれ」

 一切れ、俺のカツを皿の端に乗せてやる。
 
「何これうめぇ! さくさく感パネェ!」

 二度揚げ、しかも時間をそれなりにかけてるからか、衣のサクサク感が無くならないんだよ、これ。
 これだけでも旨いのに、肉が厚くて豚のくせに柔らかくてなぁ。

 ちょっと考え込む仕草してから、オムライスの乗せたスプーンを差し出してくる横島。
 を無視して腕を伸ばし、直接皿から横島のオムライスを一口戴く俺。

「うむ、旨いな」

 箸で喰うオムライスというのも違和感あるな、日本人だけだろうが。
 
「シドイ!」

「黙れ」

 泣くな鬱陶しい。
 リンゴに浸けた鶏肉なんて甘くなりそうだがそうでもないんだなぁ、てか旨ぇ。

「焼き肉定食上がりっ!」

「はーい!」

 戦場だよなぁ、昼飯時の定食屋なんて。
 うちの喫茶店も似たような感じだが、客層は大いに違うな。
 定食屋だけあって、つなぎ着た如何にも工場で働いてますなおっさんや法被着た大工っぽいじいさんやら、全体的におっさんばっかだ。
 うちは若い兄ちゃん姉ちゃんがメインだし、この雰囲気は久しぶりだよなぁ。
 前はよく定食屋巡りしたもんだ、昼休みにな。

「ビール入りまーす」

 しかし法子おばあちゃんも若ぇなおい。
 厨房の旦那と一緒にまめまめしく働いちゃってさあ。
 アニメ版の丸井のおっちゃんとのラブストーリーはやはりこの世界じゃなかったんだろうか。
 いつの間に生き返ったんだろうか、それともこの世界じゃ最初から死んでなかったのか…
 まあ他人の家庭事情に首突っ込む気はないけどさ。

「陽太ちゃん餃子頼むわ-」

 てげぇ声で直接注文するおっさん、なんか良い雰囲気だよなぁ、如何にも下町って感じで。
 つか陽太の嫁さんってアレか? ネギ農家の子だっけ? 黒髪だし。
 陽太が赤ん坊背負いつつ料理してるのがなんか良いな。
 
 …陽太も俺と大して変わらん年頃に見えるんだが、まあ大した事ではないか。
 それよりアンナはやはり現地妻なんだろうか、フラれた?
 普通に考えたらあんな炸裂弾のような外国人よか大和撫子選ぶか。
 単純に過ごした時間の長さかも知れんけどな。

 むしろ陽一だわ、父親として最低だろ、いろんな意味で。
 孫が生まれたってーのに放浪中……
 いや他人の家の事情だから突っ込まないけどね、人としてどうなのそれは。
 
「ふう、馳走さん」

「ご馳走様」

 俺も横島も食べ終わる。
 いやマジで旨かった。
 これはうちに帰ったら作ってみるしかねーだろ位には。
 レシピくれって言ったらくれねぇかな。
 …昼飯時にそんな事頼まれたら頭に来るだろうし辞めておくか。
 まあ概要は覚えてるから何度か試行錯誤すれば作れるだろ。

「流石は日の出食堂ってトコか」

「有名なんすか?」

「次の味皇候補の生家だからな」

「ふーん」

 まあ料理人でもなきゃ興味ないかもな。
 俺としてはあの旨いぞーがどういう風になるのか、実物を一度見てみたいもんだが。


****


 お代を置いて外へ出ると日が高い。
 つーか暑い、五月だってのになぁ。

「次は何処へ行くんすか?」

「スカイツリー見に行くぞ」

 ちょうど家と家の隙間からスカイツリーが見える。
 開場はまだ先らしいが、外見は殆ど完成してるからな、とりあえず見ておこう。
 余談だがバトルフロンティアも併設されるらしいぞ、中か外かは知らんが。

「さらば東京タワーってトコっすかね」

「まあ観光客の流れは変わるだろうな、多少は」

 東京タワーといえばレイアース。光ちゃんマジ天使。
 味皇料理会ビルも見てみたい気はするが、どうするかねぇ。

 腹ごなしにてくてくと歩く歩く。
 なんというか、下町特有の雑多な感じが良いよなぁ。
 なんと言っても東京は人が多いわ。
 海鳴も地方都市としては大分栄えてる方だが、やはり東京と比べるとな。
 コンビニがいっぱいあると無意味に嬉しい。
 
「なのはちゃん達は動物園っすよね」

「ちょくちょくメールが来てるぞ」

 パンダ可愛い
 フェレットさんもいた
 ウサギって結構重い、でも可愛い
 全体的になんか臭う。
 etc
 おまえは俺の彼氏か彼女かという位にはちょくちょくメールが来る。
 なのはだけでなくフェイトからもな。
 勿論、ウサギを抱っこした写真や象を背景に撮った写真やらと一緒に送られてくる。

「今度は水族館とか行きたがるんじゃ?」

「海鳴帰ったら魔法で海に潜ってこい、じゃダメだろうか」

「ダメっしょ」

「ダメか」

 水系のポケモンも欲しいな。
 ちょこちょこラッタっぽいのが走ってるような気がするのは目の錯覚だろうか。
 まあ空にはピジョットとか飛んでる訳ですが。
 個人的には草むらから鳥ポケモンが出てくるのはどうかと思う。
 後、普通は気絶させてから捕獲だよね、気絶させられるなら。
 
 あ? この世界じゃ普通にバトル無しで説得してゲット出来るぞ、ライキの時みたいに。
 むしろそうするのが普通っぽい。いやだって、ポケモンって動物的ではあるが凄く頭良いし。

「水族館行ったらマグロ見て旨そうと思う」

「烏賊とか海老とか、普通に食えるの泳いでますからねー」

 そーいや昔サンシャインの水族館でイルカに触らせてもらったなぁ。
 ゴムみたいな手触りだった。
 
「そーいや静香ちゃんのメールは顔文字多いっすね」

「絵文字は嫌いだからな」

 機種依存だしね、絵文字は。
 (`・ω・´)は至高、(´・ω・`)は究極、キタ━(゚∀゚)━!は黄金体験、異論は認めるが反論は許さない。

「ギャップ萌えだったなぁ、最初に静香ちゃんからメールもらった時は」

「悪かったな似合わなくて」

「\シズカチャン!/\カワイイ!/」

 なんだそれは。

「阿呆」

 よし、今度は水族館に行こう、とメールした。
 しかし子供がそうなのかなのはがそうなのか、こっちの返事待たずにがんがん来るからなぁ。
 …ユーノも大変だな、全く。

「おお、工事現場」

「珍しいもんでもない――いや珍しいな」

 カイリキー一族を始めとした力自慢的ポケモンが働いてる。
 重機の類も動かしてるが人力が必要な部分の半分以上ポケモンが肩代わりしてるな。

「自分の家の近所でもなきゃ工事現場なんて見られるもんじゃないっすからねぇ」

 そう、重機+ポケモンパワーのおかげで、この世界の工期はかなり短い。
 気づくと新築に変わってましたみたいな事がよくあるのだ。
 建設スピードもそうだが破壊スピードも凄まじいのだ。
 その重機自体もよく解らん新技術でパワーが凄い。
 月村重工だのネルガル重工だのセベクだのが篠原重工だのとそりゃ新技術のバーゲンセールにもなるわ。
 なんでまだコロニー作ってないの? というかよく平和だよな、この世界と言わざるを得ない。
 
「行くぞ」

「ういーす」

 PiPiPiPi…

「む」

「メールっすか」

「ああ、母からだ。
 …なのはと別行動取るとは何事だとお叱りだな」

 誰がデートを優先させただ。
 させられたんだよバーロー。
 まあ本気で怒ってる類ではないが。
 一応アルフもいるしな。
 
「ユーノがいるから大丈夫だ、心配ない、と…」

「静香ちゃんはユーノ贔屓っすよねぇ」

 視線を移すと、アレだな。
 西条とか大樹とかが絡んだ時の顔っぽい。
 …10近く年下のガキ相手だぞ、全く。
 まあ中身は俺と同じで30、40代に近いかも知れんが。
 
「…弟はいなかったからな、私には」

「まあそうーっすけど」

 分かりやすい表情しやがって、なぁ。
 喜怒哀楽が分かりやすいのは長所かね、短所かね。

「…俺の何処が良いんだろうな?」

「? なんか言った?」

「何でもない」

 まあ客観的に見てキツい印象はあるが顔は美形だし、スタイルはグラビアモデルかAV女優かってLvなのは否定せん。
 家の事は料理も含めて家事一切切り回してるし、客観的に見て働き者だよな、うん。


 あれ? エロゲーのヒロイン並の良属性持ちじゃね?
 性格がキツい位か、つーか口が悪い。基本的に男っぽい話し方だし。
 うん、人によるけどご褒美ですね、分かります。
 
 うーん、横島が惚れても仕方ない、のか?
 いやいやいや。だからって俺が応じる理由もないし。
 いや嫌いじゃないけどね、嫌いじゃないけど、男と付き合うなんて考えたくないし。
 
 …誰に言い訳してるんだ俺は。

****

 スカイツリーはあの左右非対称が年寄り受け悪いんだろうな。
 近くに流れてる川に掛かってる橋のいくつかは絶好の撮影スポットらしく、渡るのに苦労する程だった。
 
「まあ中に入れないならそれだけの話っすけどね」

 写真も一応撮って、その辺りをぷらぷらして。

「押上から錦糸町経由で秋葉行くぞ」

「メイドさんっすね」

「月村の家やアリサの家で見てるだろうに、本物を」

「ノエルさんやファリンちゃんは兎も角なー」

 うん、40代とか多いからな、アリサの方は。
 鮫島のじーさんも大分年寄りだし。
 
「なのはちゃん達はまだ動物園っすか?」

「ああ。パンダがお気に入りらしいな」

「アルフみたいな獣耳っ子は好きだけどなぁ」

「アルフにも春が来たからなぁ」

 やっぱ良いよなぁ、東京。
 久しぶりに歩くから懐かしくて仕方ない。
 よく分からん地名とかあるけどな。なんだ、CLAMP学園駅って。
 …そーいや1999年はとうに過ぎたがXはどうなったんだろうか。
 懐かしいなぁ、レイアースの光とか大好きだったなぁ、後サクラのレニ。

「気が変わった、東京タワー行くぞ」

 光ちゃんランドにいけるかも知れん。
 CLAMPと言えば東京タワーだよな。

「えー?」

「メイド服位帰ったら着てやる」

「さあ今すぐ東京タワーでダイブ!」

 見せてやるとは言ってないからな。
 
 想えば東京住んでたのに東京タワーは一回も行ったことなかったしな!
 ちょっとテンション上がってきたぜ。

「押上からだと大門まで一本だから楽だな」

「…静香ちゃんやけに東京の路線詳しいな?」

「勉強したからな。
 翠屋2号店は東京に私が出す」
 
 新宿とか絶対嫌(変態スナイパーとかいそう)だが、それなりに人が多くて電車でも車でも便利な場所が良いなー。
 夢がひろがりんぐって奴だな、うむ。
 
「お供します!」

「別に要らんけど」

「ひどっ!」

 元気だなぁ、全く。


 がたんごとん…がたんごとん…

 地下鉄に乗るのも久しぶりだぜ。
 うーん、懐かしい。満員電車が我が人生だったからなぁ。
 
「満員電車でなくて助かったな」

「静香ちゃんに痴漢する奴ぁ殺す! 俺のじゃ!」

「別におまえのでもないが」

 時間帯的には座れる程度には空いてて当然なのだが。
 まー視線が集まる事集まる事。
 仕方ないけどな、俺だって男だった頃なら間違いなくガン見するわ、こんな美人でおっぱいな女いたら。

 だからって見られたい訳じゃないが…どうしようもないしなぁ、これは。

 む?

「東京だとあんまり人から見られなくて良いね、だと」

「あー、東京は普通に外人歩いてっから。
 うちは学校だと結構外国人教師とか留学生とかいるけど、街中だとそうでもないし」

 勘違いしてはいけない、俺の周りで金髪率が高いからといって別に海鳴全体が金髪外人ばっかりではないのだ。

 ぷしゅー…『浅草ー 浅草ー』
 
「…何処から湧いてくるんすかね、この人数…」

「それが東京と言うものだ。
 大阪だって似たようなもんだろうが」
 
「大阪住んでたのは小さい頃であんま覚えてないんだよなぁ」

「の割にはたまに関西弁出るよなおまえ」

「まあおかん…おふくろが関西弁使うんすよ、説教する時とか」

 説教される→びびる→テンパって話す→何度も怒られてるうちに関西弁が移る、と言った感じか。

「しかし慣れないと異様な光景に見えるな」

「全くっすね」

 釣り皮に捕まって新聞読んでる蛾の怪人とか椅子で寝てる特撮ヒーローっぽいのとかな。
 普通のサラリーマンやら子供に交じって普通に存在するから怖いわ。

 と、ポケモンを外に出してる奴こそいないが、老若男女問わずポケモントレーナーっぽいのが増えてきたな?
 具体的にはモンスターボールのマークが入ったバッグやら使ってる人が多くなってきた。
 
 んー…あ、浜松町にポケセンがあったわ。
 という事はあそこがやはりポケセンなのか、この世界でも。
 浜松町には都営浅草線大門駅から出て歩いてすぐだぞ(宣伝)。

「東京タワーの前にポケセン行こうか」

「りょかー」

 さてさて、何があるかね。

****

だらだらしてます。
番外編と比べるとアレですねー
友人以上恋人未満な感じ?
友人というか下僕な感じもしますがw

しかし仕事中に隠れて書いてるとここまで筆が進むものなのか…
ちゃんと仕事はしてますよ?(・∀・)



[14218] 原作なにそれ美味しいの?
Name: 陣◆1ab6094b ID:7d0b3044
Date: 2012/03/01 19:01

****


「こんなのってないよー(棒)」

「何が?」

「お約束という奴だ」

 まあ光ちゃんランド(命名:○錯)に行こうとは思ってないけど。

 というわけで東京タワー、カフェテリアである。
 まあ別段騒ぐ程旨くもなし不味くもなし。
 ただポケモン――ピンクの悪魔ラッキーとハピナスが店員やってる事位か。
 金銀時代からこっち本当にアレなポケモンだったなぁ…現実なこの世界じゃどうか知らんが。

「ランティス、こっちだよ」

「ああ」

 うーん…この世界やっぱおかしいわ、うん。
 お下げの女子中学生? 高校生か? が、明らかに2m近くある長身の男の腕に、ぶら下がるかのように腕組んで歩いていた。

「でけー…」

「アレと並んで歩けば私でも小柄に見えそうだな」

「むっ」

 横島が唸るが無視無視。
 俺は女のくせに身長175㎝もあるからなー、別段コンプレックスなど持ち合わせていないが、それでもねぇ。
 しかしまあ、相変わらず呼吸と同じ位自然に『誰か』とすれ違う世界だよ、全く。

「カップルか家族連ればっかっすねー」

「独りでここに来ても楽しくなかろうよ」

 まあ基本的には景色楽しむだけだしな。
 あ、プテラが外飛んでる。

 ん? プテラって化石からの復元だよな、普通は。
 まあもしかしたらレッドさんが繁殖成功させただけかも知れんが。
 古代ポケモンも一般人にゃ伝説並の遭遇率な気がするが、どうなんだろうな。
 
「しかしまあ、凄い光景っすよね、ビル乱立の中、トキワの森だけは鬱蒼と茂って」

「まあな」

 元の世界だと神宮の森がトキワの森に当たる。
 あそこはピカチュウとかいるんだろうか。
 
「ポケセンは凄かったっすねー、ポケモンだらけで」

「なのは達と来れば良かったな、アレは」

 ポケセンの周囲何百mだか知らんがポケモンを外に出してて良いスペースらしく、野良試合とかやってる奴もいた。
 イーブイ初めて見たけど可愛いなアレは。
 
 エーフィとか可愛いんだろうなぁ…ブースターはカワイソスなんだろうか…
 見た目だけなら一番好きなんだけどな、暖かそうだし。
 新作じゃもう少し優遇されたんだろうか、前世の地球に残した未練。

「そーいやポケモン増やさないんすか?」

 やたらと懐かれた店員のラッキーの頭を撫でながら、横島。
 雌のみだっけ、ラッキーとかは。

「増やすつもりはあるがね」

 帰りはマサラ町によるつもりだし。

「む。またメールか」

「ポケモン喫茶とやらで飯を食ってるらしい」

「ここと似たようなもんすかね」

「ルカリオとかラルトス、キルリアみたいな比較的人間に近い体型のポケモンがメインみたいだな」

 ほれ、と送られてきた写真を見せる。
 
「なのはちゃん達楽しそうっすね」

「ふむ」

 パシャっと横島とラッキーを写してメール、と。

「まあアレだな、なのは達が楽しんでくれてればそれで良いんだが。
 帰った後どれだけ修羅場っているかね…」
 
 今年も海鳴に向かう観光客は右肩上がりだからな、緩いけど。
 うちはどれだけ混雑してるやら。

「後で考えましょーよ、そういう事は」

「トキワの森でも行ってみるか」

「ういういー」

 最後の一口を呷り、私たちは席を立つ。
 どーでも良いけど、仕事しろよラッキーども。
 いや子供と戯れるのも仕事のうちなのか?
 
 
****


「すげぇ…」

「ああ…」

 今、トキワの森にいる。
 当然というか何というか一般人立ち入り許可区域だが。
 
 よく考えてみましょう、ポケモンと対話し心を通じ、癒し、そして能力を引き出し増幅させる事が出来る「トキワの子供」が生まれてくるような場所である。
 この世界のワタルが悪役かどうか知らんが、サカキは間違いなく悪役だろう、ロケット団のボスだし。
 イエローはまだしも、その二人が力を持てた原因であると言える場所。
 
 俺がポケモン協会の責任者なら間違いなく一般人を入れるなんて真似せんわ。
 
 まあ一部でも開放されてるのは有りがたいけどね。
 そういやシルバーはサカキと仲直り出来たのかねぇ?
 
「なんつーか、神社とかお寺とか…そんな感じっすね」

「ああ、神聖なんて言葉がチープに感じる程にな」

 この感覚は、良いな。
 自分より遙かに大きいモノに包まれているような錯覚すら覚える。
 そして涼しい。
 周りが木々で覆われ空も薄暗く翳る程だからか、五月にしては暑い陽気だった東京とは思えない程、快適に涼しい。
 
 てくてくと歩いていると、バタフリーが目の前を横切って行った。
 
「でけー」

「あのサイズだとちとビビるな、流石に」

 慣れれば、まあポケモンだし、平気なんだろうが。
 
「ライキの親戚っぽいのも見えるね、隠れてるけど」

「あいつらは基本警戒心の塊だからな」

 そのくせ都市部に遊びに来ては悪戯するという。
 可愛いというのは得である。
 
 ポンっとライキを外に出す。

「らぁい」

「ピカ!」

 流石同族。横島の背中に負ぶさったライキの声にわらわらと出てくるピカチュウども。
 何処から湧いたんだ――大体10匹ほどか。
 
 横島と二人木陰に寄ると、わらわらとカルガモの親子のように後ろからついてくるピカチュウ。
 なにこれ可愛い。
 手頃な大木に背を預けて座ると、
 
「やめっ! 嘗める噛むな!」

 ピカチュウの群れに集られる横島に、ピカチュウ数匹と寝転がったり頬擦り合ったりするライキ。
 何という桃源郷、まさになにこれ可愛い。
 
 おおう、胡座かいた俺の膝上にピカチュウが。
 あ、こら。俺のポニーで遊ぶな。

「ピカ!」

 ドヤ顔かそれは。なんだそのしてやったりみたいな顔は。
 というか旨くないだろ髪の毛は、噛むな。
 
 俺達は忍に作らせた特製の対静電気対策の服を着てるから平気だが、これ普通にしてたら相当痛いんだろうなぁ。
 しかし可愛い。
 頭を撫でて顎を掻いて尻尾の付け根を掻いて。
 気持ちよさそうに目を細めるとかもうね。

 パシャ

「撮る時は一言言え」

「いや自然体が一番っすよ」

 横島のデジカメは耐電仕様らしい、月村重工パネェ。
 と言うかよくあんだけ趣味に金注ぎ込めるよな、全く。

「らぁい!」「ピカ!」

「おおう!?」

 ライキにのしかかられ更にピカチュウどもに追撃され押し倒される横島。
 電気ネズミの山の下からデジカメをひったくって写してやる。
 うむ、ピカチュウの貴重な生態を明らかにしたぞ。
 
 見渡せばのそのそとキャタピーが這っていたりコクーンがぶら下がってたり。
 ポケモンだらけだ、全く。
 それらをゲットしにきたトレーナーもちらほらいるが、流石珍しいのかガン見したりひそひそと語り合っていた。
 流石に話しかけてくる程度胸もないようだが、確かに珍しい光景には違いない。
 
「どけー!」

「おお、ピカの山が吹き飛んだ」

 勢いよく起き上がった横島に、その上から転がり落ちるピカ達。
 起き上がる前にライキが俺の方へ移動していたので、横島は起き上がる事が出来たのだ、重いからな。
 まあピカチュウも大概だが。平均6㎏だからな。
 明らかにポケモンは体重設定がおかしいわ、ホエルオーとか張りぼてか中身って感じだし。
 
「ピカ」「ピカ」「ピカ」「ピカ」

「ピカチュウは警戒心の強いポケモンなハズなんだがな」

 横島登り選手権と言わんばかりにピカチュウ達が横島の身体にくっついていく。
 フェロモンでも出してるんじゃね? 動物限定で。

「ちっと離れろっ」

 ちぎっては投げちぎっては投げ。
 だが遊びだと思ってるのか楽しそうに投げ飛ばされては空中で姿勢制御し着地し、横島に駆け寄ってくるピカチュウ。
 
「らぁい」

 ライキも可愛いなぁ。頭を撫でてやる。
 なんでポケモンがいる地方といない地方があるんだ、不公平な話だ、全く。



「そろそろなのは達と合流するぞ」

 写メ送ったり送られたり返信したりされたりしつつ、小一時間ほどピカチュウ達と戯れていたが流石にそろそろな。

「うーっす…」

「お疲れだな」

 笑ってやる。
 随分懐かれたせいで、ピカチュウの毛だらけだった、俺も横島も。

 森を出る為歩き始めた俺ら、の後ろを並んで歩くピカチュウ達。

「ライキ、ちょっと説得しろ。いくら何でも連れていけない」

「らぁい」

 横島の背中が気に入ったのか、ずっと負ぶさってたライキが降りてピカチュウ達を説得し始めた。
 少し距離を取り足を止め、ウェストポーチからコロコロ(粘着シートのアレ)のちっちゃいのを取り出し、服の上をコロコロする。
 動物飼ってたら当たり前の用意だよな、うむ。
 
「デッパイの上を下をコロコロコロコロ…!」

「やかましい」

 俺がマッサージローラーで胸揉んでるみたいだろうがそれじゃ!
 まあ俺くらいでかいと普通にへこんだり変形したりするけどな、コロコロ押し付ければっ!

「おまえには貸してやらん」

「ひどっ?!」

 横島の方が遙かに毛だらけだからな、ざまぁ。
 髪の毛に絡んだのは櫛通さないとな…やれやれ。
 
 よっと。
 ポニーの後ろ毛を前に持ってきて、ブラシをかける。
 こういうさ、ブラシだのウェットティッシュだの持ち歩くのって女の子っぽいよなぁ。
 てぃもてーてぃもてーって昔アニメでこなたがやってたような。
 まあそんな感じでブラシをかけてピカチュウ達の毛を外していく。
 
「忠夫、背中の毛を取ってくれ」

「うい」

 コロコロと背中の毛を取らせる。
 ちょっとこそばゆいがマッサージって程じゃないよな。
 む、頼みもしないのに腰から尻まで――
 
「誰が尻に頬寄せろと言った」

「この尻がいかんのや! 俺を誘ってるんやぁ!」

 叫びながら腰に手を回し尻に頬ずりする横島。
 がすっ
 拳を落とす。
 
「ってーっ!」

 直接手を出してくるセクハラは久しぶりだから油断してしまったな、全く。

「らぁい!」

 説得が終わったのかライキが飛びかかって抱きついてきた。
 それを受け止めて、頭を一撫で。

「分かってくれたか?」

「らい!」

 頷くライキに一列になって寂しそうな顔――なんだと思う――をするピカチュウ達。
 可愛いがこればかりはな…

「また来る」

「らぁい!」

 手を挙げ挨拶。ぴかぴか大合唱を背中に、俺達はトキワの森を後にしたのであった。


****


 東京来たらアメ横で買い物しないとなぁ?
 買うかどうかは兎も角、この混雑具合が良い。
 人混みって結構好きなんだな、俺は。
 
 そろそろ動物園からなのは達が出てくる頃なので、先んじてウィンドーショッピングに興じている訳だ。

「静香ちゃん歩くの速っ!」

 お前が遅いだけだ。
 俺は円で人混みの流れを読んで隙間を縫うように歩いているから速いのは当然だが。
 うん、円は便利だな。こんな使い方する奴は俺くらいかも知れないが。

 仕方ないので、魚屋の前で足を止める。
 うーん、旨そうだ。肉も良いけど魚も良い。
 好き嫌いする奴は人生損してるね、全く。
 
「ねーちゃん、良いタコあるよタコ!」

 威勢の良い濁声。
 確かに旨そうなタコだが、流石に生ものを買うのはな。

「カレイも旨いぜ、ねーちゃんは美人だから大負けしちゃうよ!」

「有り難いが旅行客なのでな。生ものは無理だ」

 美人てな得だね、全く。
 
「人大杉」

「遅いわ」

 俺の側までやってきて一息吐く横島。

「おお兄ちゃん、美人な彼女捕まえたじゃねーか」

「いやいやそれほどでも!」

「彼女じゃないし彼氏でもないな」

「酷っ!」

「ほら、行くぞ」

 店先で値引き交渉とかするのも楽しいけど仕方ないな。
 チョコレート1000円の店とかなら買っても良いかな。
 後はケバブでも久しぶりに喰うかなー、こんな事になってから食べてないし。
 海鳴にもケバブ屋出来ないかね? 好きなんだけどな、ヨーグルトソース。
 砂漠の虎は任せろーバリバリ。
 よく分からん電波を受信したようだ、なんだっけ虎って?
 
「む」

「はぐれるといけないからねっ!」

 鼻息荒く俺の手を握ってきた横島。
 こいつはスカート捲る度胸はある癖にこういう事する度胸はない奴だと思ってたんだが。
 まあ手を繋ぐ位良いか。
 俺も昔は恋人でもない友人の女性と手を繋いで街を歩いたもんだ。

 振り払われないかドキドキなのだろう、顔を赤くしてこっちを見ている横島。
 ガキだなぁ。
 たかが手を繋ぐ位にな。
 
「行くぞ」

「うっす!」

 やれやれ。
 尻尾が幻視できる程喜んでるわ。
 これ位普通だと思うんだけどな、別に嫌いな相手でもないんだから。
 あー、年代的に高校生と30代じゃ感覚違うのかも? 俺が男だった頃は30半ばだったしな。

「ケバブ買うぞ」

 まあそんな風に手を繋いで雑踏をかき分けて。
 ケバブ喰ったりアイス喰ったりパイナップル食ったりチョコレート買ったり服にアクセ見て回ったりして、なのは達と合流したのであった。

****

ポケモンは四国地方や東北地方その他をやってからイッシュ地方やるべきだったと思いませんか。

あと分量的にどうでしょうかね、短い? 長い?



[14218] 先に進まない、先の事なんて考えてないが
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/10 08:40
「お姉ちゃん分ほじゅ~」

「えっ、と。ほ、補充?」

 SR上野駅構内、切符売り場付近のスペース。
 よく分からない事をほざきながら妹とその親友に抱きつかれる俺。
 
 主要駅の一つだけあって人人人だねぇ、懐かしい。
 
「お姉ちゃん分ってなに?」

「静香お姉ちゃんから吸収するの。足りなくなると寂しくなるの」

「そうなんだ」

 フェイトが信じちゃったぞ、チョロい。
 なのはとフェイトの頭を撫でてやりつつ、お疲れ気味なユーノに声をかける。

「ご苦労だったな」

「ええ、ホントに…女の子の、というか子供のパワーって凄まじいですね…」

「お前も子供やろが」

 横島のツッコミ。

「あのねあのね、パンダの玄ちゃんが可愛かったの」

「タイヤ乗りの曲芸とかしてたんだ、凄かった」

「…パンダが曲芸…?」

「ホントですよ」

 ユーノの携帯には確かにタイヤに曲乗りしつつ番傘広げて下駄を回しているパンダの動画が移っていた。
 上野動物園パネェな。

「静香ー、お腹空いたよー」

 アルフ自重。
 ザフィーラはどうした。
 
「はやて達はどうした?」

「シャマルさんがライブの時間ミスったとか騒いでましたよ。
 挨拶もそこそこに六本木の方へ行っちゃいました」
 
 何してるんだシャマルは。うっかりか、うっかりなのか。

「さて、どうするか」

 夕飯には早い上にさっき色々喰ってしまったからな、俺と横島は。

「あ、国立博物館行ってみたいんですけど」

「今何やってる?」

「ドナウ文明起源説の可能性を探るとか言うタイトルですね」

 上野駅構内のそこここに置いてあるパンフを見ながら、子供らしい表情でユーノが語る。
 考古学者だからな、こいつは。
 なになに、ヨーロッパ文明の源流として云々。
 この世界だと四大文明じゃないのか? 古代文明のメインは。
 ドナウ川って何処だ?

「アメ横でお買い物はー?」

 ま、なのは達の反応が普通の子供かね。
 
「なら二手に分かれるか?
 ユーノと私、なのは達と横島とで」
 
「「「えー!? やだ!」」」

 なのは、フェイト、横島の声が重なる。アホか。
 
「お前らなぁ…」

「静香ちゃんと一緒が良い!」

「ユーノ君とお姉ちゃん、一緒が良いの!」

「今度は静香と一緒が良いな」

「お腹空いたよー静香ーご飯はー?」

 うるせえアルフ。骨っ子ぶつけんぞ。

「じゃあユーノと一緒に博物館だな」

「楽しくなさそーなんだけどなぁ」

「ユーノと一緒なら楽しいよ、きっと」

 うちのなのはは我が儘だから困る――いや困らないけど。
 ガキってのはもっともっと我が儘だよな、理不尽に。
 訳分からん事よく言うし。
 そう考えたらうちの子供らは利口だし物わかり良い方だよ、うむ。
 
「では博物館へ行くぞ。
 時間的に急いだ方が良いな」
 
「はーい×3」

「ごーはーん」

「…横島、売店でビーフジャーキーでも買って来い」

「うーす」

 こう、アレだな。
 幼女モードのアルフは可愛いな、うん。
 しかし脳まで子供に戻ってるんじゃないか? これは。

 
****


「凄かったですね!」

「ユーノ君嬉しそう」

「行って良かったね」

 両手に花状態のユーノのテンションが高い。
 日が暮れてきて少しは涼しくなってきた上野駅構内である。
 不忍池口から入ると色々キヨスクというか土産物屋が多くてな、昔は帰りによってゴマ玉子とか買ったもんだ。
 
 不思議だよなぁ? ポケモンだの魔法騎士だの英霊だのいて、それでいて俺の前世と同じ食い物が普通に売ってる。
 ホントよく分からん世界だよ、全く。
 
「明日は、というかこれから横浜行くからな。
 東京土産はここで買っていくぞ」
 
 五番町飯店と関帝廟・中華街がメインだぜ。
 葛葉キョウジは横浜じゃないんだっけ、関帝廟あるくせに。
 そういやデビサマの続き出たのかなぁ。
 この世界、怖い事に「株式会社アトラス」がないんだよな…
 
「はーい」

 なのはの返事。
 片方の手でユーノを引っ張るように歩きながら、店先を覗いている。

「川っていうのは大体の古代文明、それも管理局法で定義されている近代から現代文明と比較すると影響は大きくてね。
 昔、この東京と言う都市が江戸と呼ばれてた時代は交通の要、つまり水路として川を江戸中に張り巡らせたって話だけど、古代文明の場合は貿易路としての機能もそうだけど何より農業と密接に云々――」
 
 …ユーノのスイッチが完全に入ってしまった。
 これだからオタクはウザいと言われてしまうんだぞ、全く。
 
 なのはに手を引かれながら反対の手を繋いでるフェイトにぺらぺらと話しかけている。
 
「うんうん」

 ユーノに引っ張られるように歩きながら、よく分かってなさげなフェイトが頷きながら聞いていた。
 良い子だね、全く。

「横島ーアレ喰おうアレ。スライム肉マンだって」

 横島に負ぶさって、てか肩車させて頭を叩き、色々と横島に買わせているアルフ。
 親子か、全く。
 バンダナを手綱のように握ってるのが可愛いな、おい。
 
「やかましい! 頭叩くな!」

「やれやれ」

 割とカオスだな、人が多いが目立つからはぐれる程じゃないが。
 ん?

「リュウさん! 次は何食べましょうか?」

「まだ食べるのか?」

「えー? そんな食べてないですよ?」

 目の前をいちゃつきながら、道着に裸足の男と鉢巻き巻いたセーラー服が歩いて行った。
 …裸足かよ。飯食う前に靴買えよ。
 金持ちだとしても貧乏人だとしても人格に多大な欠陥があると言わざるを得ないと思うんだが、俺より強い奴に会いに行くって何さ。

「お姉ちゃん、これ買ってー」

 パンダの玄ちゃんとやらの人形か。

「静香、これ…」

 おずおずとフェイトも同じモノを手に取ってきた。
 お前ら結構な額の小遣いもらってんだろうに…全く。
 
「ほれ、買ってこい」

 とユーノに諭吉さんを渡す。

「ユーノ君もお土産買うの!」

「え、いいよ僕は…」

「良くないの!」

 うちのなのはは凶暴です。
 ユーノごとフェイトを引きずるように売店のレジまで一目散に駆けて行った。
 
 まあ子供が我が儘言わない方がおかしいんだしな、適宜手綱を締めればよかろ。
 
「静香ーメタルスライムあんまん買っておくれー」

「いてーっつのっ! 降りないならせめて大人の方になれ!」

「大人の方はザフィーラだけのモノさー」

「お前は食い過ぎだ馬鹿者」

 メタスラあんまんってなんなんだ一体。
 この分じゃバブルスライムスープとか有りそうだ…絶対喰いたくないが。
 
「なのは達が戻ったら荷物取りに行って新幹線乗るぞ」

「うーす」

「今度は狼にならなくて良いのかい?」

「構わん」

 何度も動物のままで新幹線では面白くないだろうしな、なのは達も。

 む。
 横島の頭の上で喰うものだから、肉マンやら鳩サブレやらの食べかすが面白い事になってるな。
 横島は気付いてないようだが。
 
「ちょっと動くなよ」

 横島の髪を払う。
 髪質は意外と柔い。俺の髪は硬い方だからなあ。
 
「アルフも食べ滓を気にしてやれ」

「はいよー」

 ダメだな、期待出来ん。
 なんか横島は感動してるっぽいし。
 
「お姉ちゃんありがとー!」

「ありがとう、静香」

「ありがとうございます」

 俺の腰に抱きついてくる二人と一歩引いて頭を下げるユーノ。
 まあユーノ的には微妙だろうが。
 
「では行くぞ」

 五番町飯店にな。


****



「新幹線はやーい」

「大きいと見え方が大分違うんだ」

 なのはとフェイトは窓際に張り付いて外の景色にご満悦である。
 ユーノは横島にもたれるようにして目を閉じてる、眠ってはいないようだが。
 アルフは横島の膝の上に座って眠っていた。
 
 完璧保父さんだなこれは。

「動けねー」

「じっとしてろ」

 微笑ましすぎる。
 
 カシャ

 む?
 
「ユーノ君とアルフさんの寝顔可愛いー」

「…眠ってはないけどね」

 目を閉じたままユーノが答える。
 無限書庫で鍛えられた精神を持ってしても、体力の方はまだまだ年相応でしかないからなぁ、鍛えてる分平均よりは上だろうが。
 要するにお疲れモードなのだ。
 なのは達はアレだ、おそらく飯喰ってホテル入ったら電池が切れるんだろうな。

「あれ?」

「あ…」

「あ、ルリちゃん!」

「あ、ども、なのはちゃん」

「どーしたルリちゃ――あ、高町先輩?」

「あー静香ちゃんだ!」

 天河明人、御統百合香、星野瑠璃が三人がオプション連れて新幹線の通路をやってきた。

「ほほう、いつの間に子をこさえていたのか…なかなかやるな天河明人」

「いや違うから。
 ルリちゃんの妹だけど俺の子じゃないから」

「ラピスちゃんは可愛いけど私たちの子じゃありません!
 あ、アキトが欲しいならいつでもオッケーだよ!」
 
「静かにしろバカ!」

 ルリの手の先に、ルリより更に小さい――大体6歳位か?――の女の子を連れていた。
 そういやいたな、全然ナデシコらしくない映画で。

「とりあえず通路にいられたら邪魔だ。席へ着け」

 騒がしい連中だよ、全く。
 
 
 
「人の事は言えんがこのかき入れ時にな」

「サイゾウさんも墓参りに行くとか言ってましたけど」

 何というか、ご都合な事にアキト達四人の席は通路を挟んで俺達の反対側の席だった。
 で、せっかくなのでなのはとフェイト、ユーノとルリがワンセット、俺とアルフON横島、ユリカとラピスONアキトがワンセットで席を交換しあって談笑中。

「それにしても静香ちゃんと横島君がデートする程ラブラブだったなんて!
 これは私たちも負けてられないよアキト!」
 
「別にデートではないしラブラブでもないが」

「…クールすっね、高町先輩」

「まあ恋の一方通行って奴だねえ」

 ハグハグと車内販売で買ったガインパン(新幹線の形してるパン)を喰ってるアルフ。
 その隣でラピスが欲しそうな目でアルフを見てる。
 
「食べるかい?」

 食べかけをちぎって差し出すアルフ。

「あ、ありがと…」

 うーむ、ちっちゃいからかやたらと人見知りするな。
 大きさ的には今のアルフと変わらんだけに凄く臆病にも見える。
 
「で、お前らはこれから帰るのか?」

「横浜で降りて五番町飯店ってトコでご飯食べる予定だよ!」

「お前らもか」

 …なんだこれ。
 
****

いつまで東京にいるのかって感じですなー。作中時間はそこまで経ってないんですけど。
まあぼちぼち行きます。



[14218] 強いられてるんだ!(色々と)
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/16 18:38
「人がいっぱーい」

「はぐれるなよ」

 しかしなんだろうな…
 中華街は前世でも来たことはあるが、何というか…
 なんで中国人――と思われる人達――全員人民服か道着っぽい服かスリットの深いチャイナ服――しかも不細工がいない――ばっかりなんだ?
 いや良いけどさ、服位。
 普通に怪人が満ち歩いてたり飯喰ってたりするのはもう許すが、怪人が人民服着て歩いてるのは一体どういう事だ、普段裸――だと思うが――のくせに。
 
 …怪人によるコスプレだろうか?
 …まあどうでも良いけど。

「おー旨そうなのがいっぱいだねぇ」

「たかーい」

 アルフにならってアキトに肩車してもらっているラピスはご満悦である。
 これから普通に育てれば映画みたいな無表情無感情系少女にはなるまい。

「アキトー、肉マン美味しそうだよー」

「ユリカさん、声大きいです…」

 アキトと手を繋いだルリの恥ずかしそうな顔。
 萌えるねー。

「ユーノ君、関☆羽ってどんな人?」

「三国志の英雄だね。
 時代的には日本の弥生時代に当たる――」
 
 なのはもフェイトもユーノの扱いが分かってきたというか。
 オタクは語れないと発狂するからなぁ。←偏見
 特にミリオタと歴オタはどうして他人の間違いにあそこまで狭量なのかね。
 まあ俺も歴女とか呼ばれる連中は嫌いだが。
 何故なら俺はお兄ちゃん(真田信之)のファンだからな。
 
 ん?
 
「ご主人様!」

 …なん…だと?
 
「コラ愛沙! 街中で叫ばない!」

「しかしご主人様! 人が多くてはぐれそうです!」

 ………えーと、あれか。なんだっけ。
 輝くような白ランに長身美形の高校生くらいのにーちゃんが、同じ学校の制服だろうサイドポニーの黒髪巨乳美少女と手を繋ぐところだった。
 …知ってる気がするんだが。
 誰だっけ?
 
「手を繋げばいいだけだろうに」

「そんな…ご主人様と手を繋ぐなんて恐れ多い…」

「いやこんな所で叫ばれる方が恥ずかしいから」

 寸劇のようになってるぞ。
 俺達以外も足を止めて見ている連中がいる。
 それに気付いたのか、ばつの悪そうな顔して少女の手を掴むと、逃げるように早足で関帝廟の方へ――

 あ、あれ関雲長じゃね? もしかして。
 ……あんな美少女が戦国乱世を駆け抜けるとか割と気が狂ってる気がするな。
 あ、げぇ! 関羽!!と言うのを忘れてたわ。
 
「綺麗なお姉さんだったねー」

「うん、静香に似てたね」

「確かに静香さんと同じタイプでしたね…胸も、おっきかったし」

「大丈夫なの! わたし達には未来があるの!」

「…行くぞガキども」

 ユーノが居たたまれないだろうが。

「お姉ちゃん口が悪いのダメなの!」

 俺以外の女性家族全員で「静香を女性らしくする会」とか結成しやがったからなぁ、こいつら。
 北川とか参加してる辺り本気度が高いのがうっおとしいぜ。

「アキト、私たちも負けてられないよ!」

「むしろ勝ってるっすよ先輩」

 がっちりとアキトの左腕をその胸の谷間に挟むように腕を組んでるユリカ。
 ラピスを肩車しつつルリと手を繋ぎユリカと腕組んで歩いてる辺り、見た目より体力があるのかも知れん。
 まあそうでなきゃ中華鍋は振るえないだろうが。

 忘れがちだがユリカはアキト(16)の四つ上、横島の二つ、俺の一つ上である。
 …まあ俺が一番年上に見えるのは自覚してるよ、うん。

「それで関羽の神様は何の神様?」

「商業――お仕事の神様だね」

「翠屋の商売繁盛をお願いしておくの!」

「うん」

「アキトさん、私たちも雪谷食堂の商売繁盛をお詣りしておきましょう」

「おまいり?」

「神社・仏閣に行く事ですね」

「?」

「神様仏様に会いに行く事さ」

「神様?」

「ふ、最初に罪を考えたくだ――痛っ」

「アホな事言うな」

 ラピスに説明するルリとアキト、そして最後に阿呆な事をほざいた横島。

「まあ話の種だ、関帝廟に寄って五番町へ向かうか。
 時間は大丈夫だしな?」
 
 偶然にも程がある、予約した時間が変わらないなど、な。

「横島ー、大魔術熊猫豆腐ってどんな豆腐だい?」

 通りすがりの店の看板のメニューを読み上げるアルフ。

「知るか。というかなんじゃ魔術って」

 ………特級厨師?
 あれは時代が100年前後違うハズだが???
 西太后とか現役の頃の話だろ…
 …子孫???
 
 思えばあれもミスター味っ子並に凄かったな…
 後で寄ってみる、か?

「お姉ちゃん!」

「…大声を出すな馬鹿者」

「あれあれ!」

 貸衣装屋…というかコスプレ写真館、と言った風情だが。
 
「…で?」

「撮りたいの! チャイナ服なユーノ君可愛いよきっと!」

「おー、フェイトが着たら可愛いだろうねぇ」

「アキト!」

「ちょっと待て」

「諦めろテンカワ。
 忠夫、人数分予約入れてこい、飯喰った後な」
 
「ご飯食べた後、でしょ!」

 おかんかおのれは。

 こうして食後にコスプレする事が確定してしまったのであった。
 俺もするのかなぁ…するんだろうなぁ…。
 やれやれ。
 

****


「うめーっうめっ!」

「はぐはぐはぐ――」

「もー! 忠夫お兄ちゃんもアルフさんも落ち着いて食べなさーい!」

 こうやって年上叱るトコなんか『なのちゃん』っぽいよな、うん。
 大テーブルに合計11人ほど腰を掛けて、思い思いに箸をスプーンを、手を口を踊らせている。
 
 横島じゃねーがマジ旨い。
 特にこの蒸し魚なんざ凄まじいな。
 火の通った生というか。
 これは作れるようになりたい料理だわ。

 酢豚にしろ海老チリにしろ外れが一つもねーし。
 日の出食堂もそうだったがこれは流行る訳だわ。
 
 どうでも良いが俺が一番覚えているジャンの名台詞は「もしかしてこれ料理?」だったりする。
 アレはインパクト強かったなぁ。
 続編のRだっけ? あれはなんか連載始まったな、単行本になったら読もう→え、連載終了? だったからなぁ。
 なんであんな高速終了だったんだか…メイドとかアホかとは確かに思ったけど。
 
「ラピス、口元が汚れてます」

「ん」

 ルリがお姉さんしてるのを見ると妙に嬉しいな。
 そしてどうでも良いが美形率高すぎだろ、このテーブル。
 子役で喰っていけるよな、うちのガキどももそうだが。
 
「ん? ふぉーふぃふぁっんか?」

「飲み込んでから喋れ馬鹿者」

 子供かこいつは。

「ユーノ君、あーん」

「あーん」

 慣れたなぁ、ユーノも。
 流されたなぁ、かも知れんが。
 なのはに取ってこれやるのはむしろ当然だからな、親が親だし、兄も兄だし。
 …実はうちは教育に凄く悪いんじゃなかろうか?
 いや両親の仲も兄妹の仲も良いんだが…うーむ。

「あ、あーん…」

 それはそれとして恥ずかしげにスプーンを差し出すフェイトが可愛いです。

「ん」

 中身が大人だと割り切るのも速いんだろうか。
 右から左からスプーンを差し出されるユーノ。
 そして右や左にスプーンを差し出し返す。
 
 炒飯うめぇ。

「アキト! アキトもあーん!」

「――先輩なんとかしてください」

「諦めろ」

 親がやってるの真似してる以上、そうそう辞める訳がないし。
 子は親を写す鏡とはよく言ったものだ。
 
「ルリ姉、あーん」

「あーん」

 こっちは微笑ましいし。
 それにしても…なんだこの空間、ピンク色か。

「静香ちゃん、あーん」

「ふむ。デザートはどうする?」

「スルー!?」

 パクっ
 横島のスプーンを銜えるアルフ。
 
「うん、旨い旨い。
 横島ー、魚切り分けておくれ」
 
「やかましいわ!」

 騒ぎつつも切り分けてやる辺り、ホントお人好しではあるよな、こいつは。

「しかし美味しいっすね。流石五飯町飯店といううか」

「レベル高いな、確かに」

 アキトもそうだろうが、料理作るような仕事してると単純に旨いと言ってるだけではなくなるからなぁ。
 職業病かね、これも。

「ごま団子ー!」

「団子ー」

「だ、団子ー」

「だんごー?」

 なのは、フェイト、ルリ、ラピスの順。
 何故叫ぶ? 何故掲げる?
 可愛いけど訳分からん。

「まあごま団子は旨いよな、うん」

 中華餡の風味は良いよね、うむ。好きだ。

 んー、本物のキリコやジャンに逢ってみたいが、味皇のじーさんや大谷のジジイじゃあるいまいし、呼びつけるのはなぁ。
 ましてくそ忙しい夕方にな、いやもう夜半か。
 ま、諦め、かな。

 これまでの経験上、誰かが「この炒飯は出来損ないだ、食べられないよ」とか「この海老チリを作ったのは誰だぁっ!」とか、店内で遭遇しそうなイメージがあったんだが、普通に繁盛して雑然としてる店内だ。
 つまらんと言えばつまらんが、こっちが普通なんだろうな。

「そういえばテンカワ達はこの後どうするんだ?」

「東京の方に戻って温泉入ります」

「混浴だよ! やったねアキト!」

「だまっとけ!」

 ユリカは本当に阿呆だなあ。微笑ましいけど。
 こんだけ好き好きされたらやはり落ちるもんなんだろうか。
 まあスペックだけで考えてもそうそうユリカに勝てる女もいないだろうが。
 
「温泉いいなー」

 横島が羨ましそうな声。
 膝の上の幼女アルフがなんかもう可愛いんだが。

「何処の温泉だ? 有名なのか?」

「多摩の方の、ふんばり温泉? とか言う旅館っすね」

 おい――おい!
 
「多摩じゃなくて新座市栗原です、埼玉県ですね」

 遠くね?

「遠くないっすか、こっからだと」

「大丈夫! ね、ルリちゃん!」

 ぶいっと指を立てるユリカに、ルリ。
 ……ジャンプでもするのかね? まあ大丈夫なら別に良いけど。
 
「…そうか」

 …よく考えたら別に俺達が行く訳でもないわ。
 頑張ってサムラーイと握手でもしてこいや。
 
「イズミさんに紹介してもらったんだよねー」

「誰?」

「うちの常連さん。スナックのママさんなんだって」

 なんだろうね、キャバ嬢とかのラーメンで締め的な人気なのか? アキトの店は。
 にしてもやっぱりいるんだ…リョーコが何してるか一番気に掛かるといえば掛かるが。
 ヒカルはアレだ、漫画家か同人作家だな。

「とっても楽しいらしいですよ」

「楽しみ」

 そうだね、トラウマにならないと良いね。

「静香ちゃん達はどうするの?」

「横浜で泊まって、中華街回って、帰る」

 途中、マサラ町寄るけどな。

「明日も美味しいものいっぱいだね、なのはちゃんフェイトちゃん!」

「うん!」

 ユリカは本当に子供っぽいな…年上にはとても思えん。

「ほら、写真撮るんだろう? 速く喰ってしまえ」

「はーい」

 やれやれ。
 しかしふんばり温泉ねぇ…ぜってー行きたくねぇわ。
 幽霊でも気合いでぶった切るのが御神流だけどな。


****


「…おかしいだろ?」

「いやいや全っ然! 似合い過ぎだろ常識的に考えて!」

 何処の白長かこいつは。
 
 アキト達四人と別れて、写真屋だかコスプレ屋だかに入った俺達は、全員着替えていた。
 店員代わりのラッキーとハピナスに手伝われて、だ。
 こいつら万能過ぎだろ。嫌いじゃないが。
 
 教室程度ある部屋は小物や椅子、テーブルや屏風などが部屋の隅に纏めておいてあり、この部屋の中で自由に配置して自由に写真を撮って良いシステムらしい。
 着替えも隣の更衣室に色々あり、貸し出しも無料だ。
 まあ着替える手間がかかる上に胸の問題もあるからこれ以外着る気もないが。
 さらに隣はスタジオになっていて、成人式だの七五三だのと言った感じの記念写真も撮れるとか。
 
 面白い商売だと思うが儲かるのかね?
 余計なお世話だけど。

 
 横島の人民服はやけに馴染んで見えるから不思議だ。
 ユーノのはなんか芸能人が演技してるようにも見えるのにな。
 しかし金髪人民服+ロイド眼鏡のユーノとか分かってるじゃないか、ここの主人。
 
 なのはとフェイトは対になった柄のチャイナドレスだ。
 スリットが意味もなく深い辺り、これ作った人間の性格が分かるな、腕は良いっぽいが。
 ちなみになのはが黒地に白虎が巻き付いたような柄、フェイトは白地に青竜が巻き付いている。
 白と黒のイメージをわざと逆にしたのか?
 二人は頭に簪を付けていて、それぞれが虎と竜の象眼が彫られている。
 
 ちなみに俺は、同じくスリットが深い、つーかスリットが腰のくびれの上まであるのは意味ないだろ。
 柄は赤の地に玄武がお腹にいる。胸が計ったようにぴったりなのはなんでだ?
 自慢じゃないが100㎝越えのバストなんざ、そうはないだろうに。
 訊いてみたらこの世界じゃ爆乳は珍しくないんだと。
 ついでに俺の簪は蛇だな、モチーフは。多分、玄武が蛇を尻尾に持つ亀だからだろうか。

 大人アルフのチャイナドレスが青地に朱雀が舞っている。
 こっちもウェストからバストサイズまでささっと合ってしまった。
 犬耳出てるけど…まあここならコスプレで通じるか。
 
 アルフ自身は余り興味もないようで、なのは達をデジカメで写している。
 横島? 阿呆みたいな勢いで爺さん店主と一緒に、俺達を写真に収めてるぞ。

「扇子ー」

 小道具の扇子で仰いだりしてるのは微笑ましいが。
 爺さん店主は年の割にはハイカラな格好だがまあ、こういう商売だからかも。

「お客さん達はどちらから?」

「海鳴でーす!」

 模造の青竜刀をユーノに構えさせて喜んでいるなのはとフェイト。
 瀟洒な椅子に俺とアルフを座らせ、膝を組ませ、背後に立つ横島。
 アレか、セレブなお嬢様と使用人か?
 テーマは兎も角、店主がカシャカシャとシャッターを切る。
 
「そうですか…海鳴は良い街でしたね」 

 方天画戟だの蛇矛だのを構えて写真に収めてとフリーダムななのは達。

「お爺ちゃん、海鳴知ってるの?」

 ラッキー達と写真撮ったり、セクシーポーズ(笑)で写真撮ったりとなのは達も楽しげだ。

「うん、まあ若い頃は何度か足を運んだものさ」

 この世界の昔というのも想像がつかんな…
 というか、第二次世界大戦負けないだろ、これ。
 あったかどうかも知らんが。
 
「静香お姉ちゃん構えて!」

「はいはい」

 2m近くある青龍偃月刀を軽々と振り回す。
 というかホントに軽い。
 当然と言えば当然だが、金属ではなく発泡スチロールの加工品である。
 
「…静香? お姉ちゃん?」

「うん? なのはのお姉ちゃんだよ?」

「…いや、美人さんだね」

「うん!」

 なんでなのはとフェイトが嬉しそうなんだよ。
 
「お姉さんは一人だけかい?」

「あとね、お兄ちゃんと美由希お姉ちゃんがいるよ!」

「そうかい…」

 店主の探るような視線と目が合う。
 なんだこの爺は。

「フェイト、これで良いのかい?」

「うん」

 こっちはドラクエの鉄の爪を両手に装備したアルフ。

「ユーノ君、どう?」

「うん、良いじゃないかな」

 俺vsアルフで双方武器を構えてポージング。
 俺とアルフの生足に興奮気味の横島がいろんな角度からシャッターを切っている。
 鼻の下ってホントに伸びるんだなぁ…
 
 生足見る時だの足に頬ずりする時だの、胸揉む時だの尻を撫でる時だの、いちいち鼻の下を……
 ぶん殴った方が良い気がしてきたんだがどうだろう?

「アルフさんも顔引き締めて!」

 ついになのは自身が横島のデジカメを取り上げて写しに来た。
 デジモノ娘だからなぁ。
 帰ったら編集作業で徹夜しない様注意しないと。
 そんなトコで高町家の高スペックを発揮して欲しくないもんだ。

「はいはい」

 ぎんっと殺気を飛ばしてくるアルフ。
 こっちも殺す気で対応。
 
「すげ」

 ま、アルフは獣だしこっちは戦闘民族だし。

「二人とも格好良いのっ!」

 なのはの指示でポーズや立ち位置を変え、時にパートナーを変え。
 いい加減疲れた頃、デジカメのSDカード32G×3が尽きてお開きである。
 店主が店内販売のSDカード売ろうとしたが断った。
 
 これ、本気で何枚撮ったんだ?
 結局着替えまでさせられて、今の女子は全員メイド服なんだが。
 結構ミニだから、というか腹出し? ヘソ出しってレベルじゃないぞ。
 無意味に背中に羽とか付いてるし。
 なんだ堕天使エロメイドって。
 アルフはアレか、堕天使犬耳エロメイドか。

 凄まじく恥ずかしいんだが…なのはとフェイトに強請られたらなぁ。
 二人は結構なハイテンションだがユーノは目の置き所がないって感じだなぁ。
 横島は離した伸ばしてんじゃねーぞ。

 という訳でさっさと着替えたい。

 横島とユーノは山賊風の服。なんか、アレだ。
 三国志とかノブヤボとかで出てくる端役のような感じ?
 なんだこの取り合わせ。
 横島は下っ端然として異様に似合ってるが、ユーノはむしろ誘拐されて変装してる子女って感じだぞ。

「さて、着替えるか」

「最後に、記念写真はいかがですかな?」

「撮りたいな」

 フェイトがもじもじと自己主張、可愛いな。
 白系メインのメイド服、なのはは黒系メインのメイドで小悪魔可愛い。
 つまり、なのはの着てるメイド服の白部分はフェイトの着てる方の黒になってるって意味で対になってるのだ。
 アルフが黒、俺が白でそれぞれなのはとフェイトとお揃いだから、俺はかなり恥ずかしい。

 胸も谷間を強調する形だしなぁ。
 これ、どう考えても見せる目的の方が強いだろ…全く。

 ユーノと横島以外に見てる男は爺くらいだから良いけどさぁ。
 全く…とっとと集合写真撮ってホテル行くか。


****


 写真屋から出たら子供二人が寝だした件。
 手を繋いだユーノがいぶかしがる程ふらついてたから、横島とアルフにそれぞれ背負わせたらそのまま寝た。
 
 俺達はそれぞれジーンズにTシャツだぞ。
 土産にって押し付けられたが、あんな格好で外でられるか、全く。
 なんなんだろうか、あの店主。
 妙に優しいっつーかなんつーか。
 
 …まあいいや。
 なのは達が可愛いからいかんのだな、うむ。
 
「お疲れだったな、ユーノ」

 並んで歩く。
 夜の中華街は不夜城の様相を呈していて、人通りは多い。

「いやまあ、楽しかったですよ」

 苦笑。
 こっちは中身が大人だけあって、疲労はそれなりらしい。
 子供のアレはペース配分が出来ないから、だよなぁ。

「まー寝顔が可愛いからいいんじゃないっすか」

「フェイトは寝てても可愛いからねっ」

 横島の背中で涎垂らして寝てる妹が可愛いのは否定しないけどさ。

「それより何処のホテルっすか?」

「横浜プラトン」

「…結構有名なトコじゃないっすか」

「なんか親父の知り合いがえらい人らしい」

 ま、サービスが良ければなんでも良いさ。
 明日は中華街回るぜ。


****


神様転生モノのこの作品の作者である僕ですが、そこまで叩かれた覚えがないのだから幸せなモノです。
18禁版の方が筆が進んだ&予想外に長くなったもんで本編がちょっと遅れました。
申し訳ない。

次の更新は番外編&18禁版ですよー。



[14218] 追投稿と全削除の位置が誤爆しそうで怖い
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/23 19:04


「ふう……良い湯だった」

「横島さんが覗こうとしてたんで縛っておきました」

「ご苦労」

「ふごー! ふがー!」

「五月蠅い」

 ベッドの隙間に転がった横島を蹴飛ばそうとして止まる。
 流石にバスタオル巻いただけの姿でそれは出来んな。
 ふ、女らしくなったものだ。
 
 若干頬を染めて本を読んでいるユーノが可愛いぜ。
 ちなみになのはとフェイト、アルフは団子状態で寝てる。
 これはこれで可愛いな、うむ。
 
「ユーノ、風呂入ってしまえ」

「はい」

 魔法で一瞬のうちに俺の髪を乾かしてくれると、そのまま風呂場へ行くユーノ。
 足取り重そうだったな。
 とりあえず、寝間着に着替えてと。
 
 ま、こんなトコか。
 だぼたぼのTシャツにハーフパンツ、そして美由希のように編み込んだ三つ編みである。
 胸大きいと太って見えるんで普段の服はぴっちりしてるのばかりだからな、やはりこういうラフな格好のが楽だわ。
 自分で言うのもアレだが、だぼだぼのTシャツっとか袖が余ってるセーターとかって萌えだよな、うむ。
 
 とは言え疲れたしなー、寝るだけか。
 明日は中華街回ってマサラ町寄って。
 明後日からは平常運行か。休みなんて過ぎてしまえばあっと言う間だな、全く。
 
 眠い。
 流石に慣れない、いやある意味慣れてるけど、ある意味初めての街を歩き回ったしな。
 寝る、おやすみ。
 
 
 
 朝。
  
 それにしてもユーノと付き合いだしてからうちの妹が日に日におっぱい星人になってる気がする。
 一緒に風呂やシャワーを入りたがるのは兎も角、以前より確実に俺の胸に興味津々っぽい。
 …放っておいてもなのはとフェイトはそれなり以上に大きくなると思うんだけどね、俺ほど大きくなるとは思えんけど。
 
 朝から妹達にセクハラされた、死にたいってか。
 そんな事よりむしろ、妹達が買って来た服に文句言いたいが。
 ロングスカートのワンピース、色は白。あとなんかシンプルで鍔が広い帽子。
 何処のお嬢様の服だこれは。
 
「着て欲しいの」

「着て欲しいな」

 なんかシンクロして遊ぶのがマイフェイバリットになってないかこいつら。
 いちいち可愛いんですけど。

「ま、似合うと想いますよ、静香さん本人がどう想うかは別として」

「ふがー! むがー!」

 目隠しされた上で翡翠の鎖に縛られて転がされてる横島は兎も角、朝のシャワーから上がると、なのはとフェイトに服を押し付けられたのだ。
 バスタオル一枚の俺、そしてジーンズだのTシャツだのは土産などと一緒に纏めて、実家に宅配便としてホテルの人に送ってもらったという。
 何という策士、間違いなくユーノが助言したな、これは。
 
 つまり、俺はこのワンピース以外着る服がないのだ。
 人がシャワー浴びてる間によくもまあ……なのは達が妙に構って構ってと五月蠅かったのはコレのせいか、畜生。
 というか実行犯ユーノじゃねーかこの野郎。

「それ以外服を処分しておいてお前ら…」

 人、それを脅迫という。
 横島の服着ようかなぁ…胸以外はサイズはぴったりなハズだし、身長はほぼ同じだしな。

「横島さんの服も一緒に送っておきましたから、大丈夫ですよ」

「なら横島がワンピース着れば解決だな」

「えー!?!」

「それは酷いよ?」

「ふがーっ!」

 とりあえず横島黙れ。
 俺も横島がワンピース着た姿なんて見たくないけどさ。
 仕方ない、か。はあ…妹に甘い姉というのもなんだかなぁ。
 兄弟姉妹ってこんなもんかね? 前世の頃は一人っ子だったし、よく分からん。


 …下着の下に何も履いてない感覚はすーすーするよなあ…別に初めてでもないが。
 制服はスカートだしな…
 でもやっぱりアレだ、デザインが恥ずい。
 なんだこのお嬢様然とした服は。
 姿見見て思ったんだが、アレだ、マクロス7の花束少女っぽい。
 帽子が麦わらじゃない辺りもそうだし。
 …何の慰めにもならんな。
 
「似合うっ! お姉ちゃん綺麗!」

「静香綺麗だよ」

「ええ、似合いますね」

 苦笑気味なユーノをぶん殴りたい、出来れば硬で。
 ポニーよりはこっちと髪型もストレートに降ろし、首の後ろで結ぶだけにさせられてしまった、フリルなリボンでな。
 身長175㎝もなきゃなぁ、10㎝低いだけでも大分違うだろうに。
 165㎝でも大きい方かも知れんが。
 
「お揃い-♪」

「お揃い♪」

 なのはは桃色、フェイトは黄色の、それぞれ俺と同じ柄の大きさが違うワンピースを着てくるくる回ってる。
 こう、アレだよな。
 女ってなんかお揃いとかにしないと死ぬの? 一緒にトイレ行かないと爆発でもするの?
 ホントよく分からん性質だ…

 胸がぴったりなのはどういう魔法使ったんだか。

「ふぁー」

 欠伸しながら幼女なアルフが横島のバインドを解く。

「ああ、着替えシーンが…しかしワンピース最高! いつもと違って清楚な感じがベルィィィグぅぅぅっ!!」

 スーパーハイテンションって感じだな…うぜー。

「さあ、横島! 朝ご飯だよ!」

「おめーは降りろ」

「嫌だね」

 昨日と同じように肩車状態のアルフ。
 気に入ったんだろうか。

「フェイトもなのはも似合うねー、可愛いよ」

「お姉ちゃんも可愛いの!」

 いやそういうフォローは要らんから。

「まあ今日一日の話だ。行くぞ」

 余計な荷物は全部宅配便で片付けたらしいから、手軽なもんだ。
 有能なのは良いんだがなー、なのは達に変な知恵付けないで欲しいモンだ。
 
 
****


 遅めの朝飯をホテルで軽く済まし、軽く運動――しようと思って服装を顧みて、辞めた。
 鼻の下伸ばしてる横島を軽く吹っ飛ばして憂さ晴らししようと思って、辞めた。
 が、スカートを捲ろうとしたので引っぱたく、うむ、正当防衛だ。
 
 スカートが長い程捲りたくなるとか力説されて、どう答えろってんだこの馬鹿は。

 ホテルを出て、朝と昼の狭間の時間を歩く。
 GWの最中という事もあってそれなりに盛況で、人通りも多い。
 
 見られてるなぁ…うー…いつもの格好なら平気だが、この格好は落ち着かない。 

 制服もスカートだが、慣れないというか落ち着かないよなぁ…スースーするし。
 はあ…似合わないコスプレさせられてる気分だぜ。
 頭はポニーにしてないから軽いけどな、アレは結構重いんだ。
 支点力点作用点ってな、相当重さが変わるから、分からん奴はカツラでも付けて試してみると良い。
 不思議なもんでお団子にして纏めておく方が軽いんだよな、ポニーは重いのだ。
 まあ好きだし似合うから基本はポニー続けるけど。
 
「似合うから大丈夫だって」

 隣を歩く横島が気楽に声を掛けてくる。
 そういう問題じゃねーんだよヴォケ。

「そうですよ、綺麗ですよ、静香さん」

「ユーノ君、なのはとフェイトちゃんは?」

「うん、二人とも可愛いよ」

「ぶー! 可愛いじゃなくて綺麗なの!」

「ありがとう、ユーノ」

 顔と口に乖離した行動をさせつつユーノの左手を取るなのはと、照れ照れと頬を染めながら右手を取るフェイト。
 なんだこの生物ども、可愛いんですけど。

「白いワンピース! ロンスカ! 素晴らしい!」

 阿呆なテンションのこいつをどうしてくれよう。

「横島-、飴ちゃん買っとくれー」

 …飴ちゃんって何処出身だお前は。

「うるせー」

「あーめーあーめー」

 アルフがマジ幼女なんだが。
 やはり身体の大きさによって知能Lvが上下するのかも知れん。

 今、思ったんだけど、俺母親で横島旦那で、アルフが末っ子の子供達。
 ……親子っぽくね?
 ……いや大丈夫だ、いくら年より上に見られるとは言え、こんなばかでかい子供がいる程じゃあない。
 なんつーか無意味な心配ばかりしている気がするな、全く。

 で、気になるので昨日の、大魔術熊猫豆腐とか看板に書いてあった店に寄った。

 店名『中華一番』
 
 どう判断すれば良いのだろうか、これは。
 パクリ? 偶然? いやいや偶然はないだろ、大魔術熊猫豆腐で中華一番だぞ。
 うーん、ご同輩か? それともガチで子孫?
 
「どうしたの?」

「いや、何でもない。入るぞ」

「いらっしゃいませー」

 店員の明るい声。
 昼前の、開けたばかりの時間だからか、客は俺達以外は一組カップルがいるだけだった。
 店内はそれほど広くないが、それでも30人位は席に着けそうだ。
 
「おお!? 西川真樹! 日本初の女性F1レーサーの!――ぐぼぁっ!?」

 いきなり叫びだしたアホを吹っ飛ばす、割とガチで。
 器用にも横島が殴られる瞬間に飛び降りて一回転し着地したアルフ、そして吹っ飛んだ方向へ回り込んでこっそり魔法使いつつ横島を受け止めたユーノ。
 店の中だというのにかなり力入れて殴ったからなぁ…オーラは篭めてないけど。

「すまんなユーノ――プライベートの時に騒ぐのはマナー違反だろうが? あァ?!」

 がすっとぶっ倒れたままの横島を足蹴にしつつぐりぐりしつつ。
 
「さっ…サーセンっした…」

「…お姉ちゃん、お店の中で暴れるのは良いの?」

「……」

 なのはのプレッシャーから逃れるように視線を逸らす俺。
 
「けんかはいけませーん!」

「はい、サーセン」

「なのは、なのはも五月蠅いよ。
 外出てからにしよう」
 
 両手振り上げて俺を叱るなのはの腰を取ってユーノが抱き寄せる。
 何というジゴロ。
 それにしても俺が勢い謝るしかないとは、伊達に魔王だ冥王だと言われる訳じゃないってか。
 
「っつー…サーセンっしたー」

「いえ…あの、大丈夫ですか?」

「あ、日常ちゃめしごとなんで」

「茶飯事だ。騒がして済まなかったな」

 店員にボケた事抜かす横島の尻を蹴っ飛ばしつつ、ゾロゾロと外へ出る俺達。
 ……喰い損ねたなぁ…

「お前のせいで折角旨そうな店喰い損ねたぞ?」

「はい、すいません、ごめんなさい、許してちょんまげ――いてっ!」

 ごんっと頭に一発。

「おねぇちゃんっ! 暴力はいけませんっ! お姉ちゃんも悪いにょ!」

 あ、噛んだ。
 かーっと赤くなるなのはが可愛い。

「あれ? アルフは?」

 そういや何処行った?

「あ、あの、お客様方、大丈夫ですよ?」

「む?」

 外に出ると、後ろから店員が声を掛けてきた。

「西川さんも気にしないとおっしゃってましたし、お食事頂いても大丈夫ですけど、いかが致しますか?」

「…では世話になる」

「この店気にしてたからねー、静香ちゃん」

 俺の立場なら間違いなく気にすると思うけどな。
 ぞろぞろとまた店内に戻ると、アルフが既に肉マン囓ってた。

「アルフー…」

「この黄色い肉マン美味しいねぇ」

 幼女なアルフが満面の笑みだとホントに微笑ましいんだが、大丈夫かこの駄犬。

「とりあえずお前は謝ってこい馬鹿者」

「うーす」

 しかしF1レーサーに女性がいたとは…
 これもゲームか漫画のキャラか? 知らんなぁ。
 まあいいけど。

 横島と付き添いでなのは達が付いて行ってる間、メニューを見る。
 …黄金開口笑、大豆肉の麻婆豆腐、梅干し炒飯、国士無双面……

 …喰ってから考えるか。


****


 旨すぎる…
 
 レシピよこせ言ったら大概出てきたけど、これは家でも作るべき。
 どれもコレも旨いにも程がある。
 朝ホテルで軽く喰った事なんてなかったかのように喰ってしまった…阿呆だ。

「満腹ー」

「美味しかったねー」

「この世界は美味しいモノいっぱいだね」

「Zzzz…」

「…喰ったら寝るとか子供か、いや子供だけどさ」

 横島の膝の上で寝るアルフ可愛い。
 あとユーノ、この世界とか言うな。
 
 で、なんでこんな完璧な再現料理出てくるのか。
 
 1:ガチで特級厨師の子孫。先祖伝来のレシピ。
 可能性はなくはない。清朝末期っつー事は日本で言えば幕末から明治初期だし、日本ならその頃から続く家なんざ掃いて捨てる程あるしな。
 かくいう不破・御神だって数百年続いてる家だし。滅びそうだけど。

 2:店主か調理人かが俺と同じ憑依・転生・トリップのどれか。
 これも今更否定出来ん、実体験が俺だし。

 3:偶然の一致。
 これはないと思いたい。
 というかあってたまるか。

 ちょうどなのは達も食べ終わってデザートのごま団子掲げてるトコだし、客も俺達以外はいない。
 例のF1レーサーとその彼氏? は帰ったし。

「済まないが、このレシピは誰が考えたものなのだ?
 随分と、独自性に溢れていて気になるのだが」

「ああ、それはですね、うちの高祖お爺ちゃんが特級厨師の先生から教わったものを元に、代々その時代に適した形になるよう手を加えたりしてます」

 …高祖おじいちゃん(祖父母の祖父)とやらは『シロウ』か? もしかして。

「元々うちのご先祖様は中国に住んでたらしいんですけど、高祖お爺ちゃんが日中のハーフだった縁で晩年、こっちに移り住んで、特級厨師の先生に仕込んでもらった腕でこの店を始めて、大層流行ったそうですよ」

 特級厨師の子孫じゃなくて弟子の子孫か。
 まあこんな世界だし有り得なくはないか。

「ああ、そうそう。
 高祖お爺ちゃんからの遺言で、『自分の事尋ねた客に触らせろ』って包丁があるんですけど、触ります?」
 
「なんだそれは?」

「さあ? 伝説の調理器具とか何とか…家族じゃもう誰も信じてませんけど、凄い包丁らしいですよ」

 伝説の八厨具キター、とでも言えば良いのか…
 あれらは確か厨具自身が使い手を選ぶって話だから、別に子孫が使えるって訳じゃないのは分かるが…
 こんだけ旨い料理作れて選ばれないんじゃなぁ。

「ま、話の種だ、お願い出来るか?」

「はいはい、お待ちあれ」

 しかし店員さん、中国人なのか日本人なのか微妙な顔つきだな、どっちにも見えるというか。
 ハーフかね?
 
「はい、どうぞ」

 時代を感じさせる古ぼけた木製の箱の蓋を開けると、今し方研ぎあげたばかりのような輝きの中華包丁が姿を現した。
 顔が写って見えそうだ…話に聞いた感じじゃ手入れなんてしてなさそうな感じだが…
 
「では失礼して――」

 パァー!!
 四方八方に店内を切り裂く光と共に、白銀の身に映し出す竜の姿!
 
 おい――おい!?
 
「うそぉっ!?」

 驚く店員の声と共に、少しずつ光が収まり。
 確か、覇龍紋だったか。それは浮かびっぱなしだ。
 というかこれ、永霊刀か!

「すごーい! お姉ちゃん何それっ!?」

「なに、今の? ユーノ?」

「いや、魔力は感じなかった…ハズ」

「なんすか今のは」

「…ちょ、お客さん、ちょっと待って下さいね!」

 準備中の札を玄関先につるしたかと思うと厨房の奥へ引っ込んだ店員の娘さん。
 …どうすんだ、この覇龍紋浮かびっぱなしの包丁。
 これ、俺が継承者なの? もらって良い…もんじゃないよな、単純に歴史的遺物としての価値から考えても。
 
「凄いですね、これ。組成成分は隕鉄が主みたいですが、どうやって鍛えたのかさっぱり分からない…」

 ささっと精査魔法? を使って調べる辺り、学者だな、こいつも。

「お父さん! 見て!」

「お客さん――おおお!? 本当に覇龍紋が浮かび上がってる!」

 ちょっとでぶった、如何にも中華料理人なおっさん奧から出てきた。

「済まないが、何なのか説明をしてくれ。訳が分からん」

 主に俺が手にとって覇龍紋が現れた辺りが、だが。

 説明中――
 概ね原作の八厨具の説明だ。

「で、その伝説の厨具とやらがどうしてここにあるのだ?」

「劉師父から託されたそうです、当時は清朝末期で中国大陸は動乱の世でしたし」

 作中はまだマシな頃なだけで、確かに清朝末期は中国大陸にとって碌なもんじゃなかったのは確かだろうが。

「じゃあお姉ちゃんは伝説の厨具に選ばれた料理人なの! 凄ーいっ!」

「そんなモノが実在してる事がすげー…」

 言うな横島。俺もそう思うが。

「そうだとしてもこれはこの店のモノだろう」

 別に必要でもないしな、不老不死になんぞ興味はないし。

「いえ、差し上げます。
 高祖祖父からの遺言ですし」
 
「覇龍紋を浮かび上がらせた奴にくれてやれと?」

「はい。後はこの遺言状も」

 蜜蝋で厳重に封印された封筒。
 差し出されたソレを、永霊刀をテーブルに置いて手に取る。

「では開けさせてもらう」

 正直、別に必要ないから要らんって突っぱねても良いんだが。
 期待に満ちた親子の視線と妹どもの視線が…オノレ。
 こんなの持ってても厄介ごと引き寄せるだけだと何故分からん。
 
「…………」

「どうっすか?」

 ……出だしが、というか一枚目が。
 
 『うはっww これ読めるとかww マジワロスwww』
 
 …破って良いか?
 流石にコレをこの親子にそのまま伝える勇気はないぞ。
 …この『シロウ』って間違いなくチャンコロかVepperだろこれ…
 あ、二枚目はまともだ。
 
 『これを読んでるという事は永霊刀に覇龍紋を浮かび上がらせたという事でしょう。
  おめでとうございます、別に八本揃わなきゃ凄い包丁というだけなので、気にしないで使って下さい。
  こんな時代にこんな風になってしまった以上、これを読んでいる人がそうでない事を祈りつつ――シロウ』
 
 …つまりこいつもアレか、憑依か転生か、だな。『シロウ』って名乗ってるし。
 そうでないならまさかあの時代に草生やした手紙は残せない、と思いたい。
 というか、現代仮名遣いで『左から右に』横書きしてる時点で、中身は現代人だろ。
 
 …んーむ…よく考えると、『現代』で良かったな、とは確かに思う。
 大戦中の日本とかイタリアとかマジ勘弁だしな。
 
「どういう意味でしょうかね? そうでないとは…?」

 親子で不審な顔をするが、答えようがあるまい。
 
「さあ、な」

 残念ながら、そうであった訳だが。
 どうしたもんかね、これ。

「しかし、これはどうしたものか。
 はっきり言って割と歴史的価値のあるものだと思うが…」
 
「いえ、貴女がお持ちになって下さい。
 先祖伝来の遺言の通りになった以上、そうすべきですから」
 
 こっちの都合は無視か。

「それに、残念だけど私たちじゃ単なる包丁以下だしね」

 まあ選ばれないとそうだろうが。

「ちゃんとした継承者が現れた以上、お渡しするのが筋というものです」

 なんというか欲のない人達だな。

「そこまで言うなら戴いて行こう。
 これが私の実家だ」
 
 翠屋の名刺を出す。

「パティシエですか」

「うむ」

 正直パティシエを選ぶ永霊刀マジ節穴。


****


天空闘技場の八百長ってーか勝ったり負けたりして金稼ぎに関しては次回の番外編で答えます。

それにしても今回でマサラ町に行ってオーキド博士に会う予定だったのにどうしてこう…
筆が乗るとなんか異様に勢いよく長くなるんですよねー、一シーンずつが。



[14218] ○と女のぱぴぷぺぽ~♪
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/04/18 21:44


 高町静香は永霊刀を手に入れた!
 ちゃらちゃらっちゃちゃー♪

 五月蠅え、馬鹿か!
 こんな厄介なモン押し付けやがって…
 あの店主達もきっとコレで迷惑したに違いない!
 具体的には料理勝負とか料理勝負とか!

 そもそもパティシエ志望だぞ俺は…
 ジャン辺りにくれてやりたいが、永霊刀の方が認めないと単なる包丁以下だからな…
 なんというふざけた包丁、鋳直して俺用の短剣にしてやろうか、全く……

 とりあえず近場のコンビニで宅配便として実家に配送した俺。
 持ち歩いて捕まったら馬鹿だしな。
 ポケモン連れ歩いてる時点で危険とかそういうのは余り意味ない気もするんだが、気は心である。


****


「ここがマサラ町か」

 地味に新幹線停止駅、マサラ町である。

「…まあふっつーの田舎町っすね」

「まあな」

「でもポケモンがいっぱいなの!」

「可愛い!」

 普通にポケモンがいる町といない町と、差は何なんだろうか。
 ラッタが走り抜けて舗装路から森へ飛び込む姿はシュールだな、たぬきみたいなもんかも知れんが。

「ほら、行くぞ」

 目指すはオーキド研究所だ。
 レッドさんいないかなー? イエローハグしたいぜー。
 
 紹介状と共に父に描いてもらった地図を見ながら、閑散とした田舎町を歩く。
 長閑と言えば長閑なんだが、人いなさすぎだろ。
 この町から何人もポケモンマスターやチャンピオンが生まれてるってのが不思議だ。

「あっ! バタフリーだ!」

「大きいね…ちょっと怖いかも」

「モスラって蛾はもっとでかいよ」

「でかいスズメだねぇ」

「ありゃポッポってポケモンだ」

 がやがやと騒がしい一行だな、全く。

「お姉ちゃん、ポケモン達と遊んでて良い?」

 目の前に広がる公園と遊んでいるポケモン達と子供達。
 大人もいるし野良試合やってるのもいるな。

「ああ、構わんぞ。横島は目付な」

「えー?!」

「知らん土地でガキどもだけにしておけるか。
 すぐ戻る、と思う」
 
「へーい」

 存外素直だな? まあいいや。

「あの、僕も付いて行って良いですか?」

「構わんが…」

「えー」

 横島の真似は辞めろっての。

「なのは」

「あ、うん。そうだね…行ってらっしゃいユーノ君!」

 うん?
 フェイトと相談したかと思うと、一転物わかりがよくなったな。

「お姉ちゃん気をつけてね」

「ユーノもね」

「うん」


****


「妙に物わかり良かったな?」

「はやてとシャマル先生に何か吹き込まれたみたいで…」

 ああ、良い女がどうのとかそういう話か。
 どっちも20過ぎて彼氏一人いなかったハズだがな、この世界でどうなるか知らんが。
 …はて、シャマルは一体何歳で計算すれば良いんだろうかね?

 殺気!?
 
「プロテクション!」

 俺が後ろへ飛ぶと同時に横にいたユーノの魔力障壁が展開する!
 
「ぐぉぉぉ!!」

 青い竜!?

――野生の???が現れた!! ってか!?
 どう考えてもおかしいだろ!

「っざけんな! ライキ!」

 ぽんっ
 同時に円!
 ちっ! 家屋の中以外はボール投げられる距離に人がいないだと!?
 
「らぁい!」

 静電気をバチバチを発しながらライキが向かい合う!
 草むらじゃねーってのに、全く!
 そして旅行中だから黍団子が作ってない!

 が、負けようがないな。

「ライキ! 電撃波!」
 
 
 胸が揺れないように左腕で抑えつつ、右手で飛針を飛ばす!
 予想通り、上空へ飛んだよく分からんのに電撃がヒット!
 
 ばちんっ!
 
 電撃が弾ける音と共に落ち――ない!? 飛んでる癖に電気は今ひとつか青い竜!
 
 ちっ!

「ユーノ、手を出すなよ」

 ライキの後ろ、ユーノと並んで声をかける。
 さっきのプロテクションはもはや言っても仕方ないが、人目が何処にあるかも知れんのに魔法は使わせられんわ。

「はい!」

 俺の後ろへ回りながら、素直なユーノ。
 多分いざとなったら問答無用で魔力障壁張るんだろうなっ!

「ライキ、影分身!」

「らいっ!」

 青い竜の吐き出した玉状の何かを軽く躱すライキ。
 とりあえず図鑑を広げ――…あれ?
 
 ……あ、海馬ランドで貸したままだったわ、なのはに。
 
 …多分竜タイプ、飛行ではないが空飛んでる、なら浮遊か?
 図鑑がないと使われた技もよく分からんのが困るな、トレーナーが叫んでくれるならまだしも。
 
 影分身して増えてみえるライキが可愛いと思いつつ。
 両手が頭で合計三つ頭があるとか、ドードリオみたいだな。喧嘩するのかな、やっぱり。
 
「電磁波!」

「らい!」

 とぅっと飛び上がって両手から薄く光る電気を放出するライキ。
 ばじぃっ! と焦げるような音を立てて身じろぐ青い竜だが、強引に攻めてきた。
 三つの首が三方向から別々のライキの影へ噛みつく! 空振った一番太い首へ尻尾を絡ませ、勢いを付けて地面へ着地するライキ。
 
 ターン制などと言う事はないので問答無用で攻められるし攻め立てられるのが生のポケモンバトルの醍醐味だな。
 青い竜の攻撃を躱しまくり隙を窺うライキ。こちらの指示がなくとも電撃を発して牽制したり、やはりポケモンは頭が良いな。

「今! 気合いパンチ!」

 腰溜めに構えるライキに襲いかかる青い竜。
 しかし6も的が分散して電磁波で麻痺っていれば、三つの顎で別々に噛みつこうともそうそう当たるものではない!
 噛みついてきたのを躱し、泳いだ青い竜の胴体にライキの可愛い拳が突き刺さる!
 
「ぐぉぉぉ!?」

 どぉぉぉんっ!

 おお? 意外な程苦悶の表情を浮かべて地に落ちた。
 竜は格闘弱点じゃなかった気がするんだがな? まあ良いけど。
 そしてゲームではないのでぶっ倒してからでもゲットは出来るのだよ。

 ……図鑑がないからマーカーが出てるかどうかも分からん。
 竜っぽいのと俺の知らん地方のポケモンって事位か、分かるのは。
 
 とりあえず空のボールを投げてみる――反応なし、かんっと音を立てて青い竜に当たった後、ころんっと地面に転がった。
 それをライキが取って来て手渡してくれる。可愛い。
 もうね、両手でこっちにボール手渡してくれるライキが可愛くて可愛くて。
 ボール受け取る前に頭を撫でぐりしまくってたら、ユーノがしげしげと青い竜を観察している事に気付いた。
 
「珍しい形態ですね…本来両手となるべき所に頭があるとは…
 ひょっとしてこの生物は、どれか一つでも頭が残っていれば生命活動に支障はないとか?」
 
 知らんがな。
 というかポケモンの不思議な生命に突っ込んでたらキリがないぞ、それをするのが学者なのは分かるが。
 
 大体2mの大きさか、長さ的には。太さはまた太いというか、落下音からすると相当重そうだな。
 ライキを抱っこしながらユーノと一緒に観察する俺。

 しかし可愛くないな、何処の地方のポケモンか知らんが。
 やはりライキが、ライチュウが世界一可愛いというのは不変の真理という事だな、うむ。
 
 で、目が覚めてまた暴れられたら問題だし、田舎とは言え町中だからな、何事かと家から覗いてるようなのや通りすがりが足を止めて始めてる。
 さてどうしたものか。


****


「いやあ、迷惑をかけたが流石士郎君の娘じゃ!」

 ただいまオーキド博士の研究所の応接間。
 
 アレはイッシュとか言うトコから研究の為運んできたポケモンでロケット団(残党)のテロに遭って逃げられたそうな。
 グリーンがたまたま研究所に用があって滞在中だった為、あっと言う間に蹴散らしてしまったそうでそいつらは警察の世話になっているんだってさ。
 
 ……なんでニュースにならんのか。圧力でもかかってるのかね?

「いえ、貴重なポケモンとバトル出来て幸運な位ですよ」

「オーキド博士、サインもらえますか?!」

 うちの子達はポケモン大好きなんだがユーノだけ方向性が違ってて、研究家的に好きなんだよな。
 で、持ってきたオーキド博士の著書をサインを強請ってる訳だ。
 
「おお、それは構わんが。
 士郎君の子かな?」
 
「あのボケ親父が何処で隠し子拵えてようと驚くには値しませんが、この子は私の妹の彼氏です」

「ほほう! 最近の子は進んでおるのぉ」

 サインをさらさらと書きながら大して驚いた風でもない博士。
 まーオタクんトコは11歳から大人顔負けの恋愛事情なカップルばかりですしおすし。
 
 おすしってなんなんだろうか?
 
「して、静香君はわしに頼み事があるとか?」

「はい、リザードンの谷は何処にあるのでしょうか?」
 
「ふむ……リザードンをゲットしたいのかな?」

「欲を言えばヒトカゲから育てたいと思いますが、なかなか…」

「伝説級とは言わんが、それでもピカチュウクラスより珍しいポケモンじゃからな」

 ユーノで論戦したいのかそわそわしてるし。
 それはそれとしてゲーム的な事情は兎も角、最初の三匹はどういう経路で手に入れたんだろうか、それぞれの博士は。

「ふむ、確かうちのグリーンのリザードンが卵を産んだとか言っていたな」

 マジで?
 
「他ならぬ士郎君の子の頼みじゃ。グリーンの奴に譲るよう頼んでおいてやろう」

「ありがとうございます!」

 思い出すぜ、最初のポケモンで格好良いからとヒトカゲ選んでニビジム・ハナダジムと無駄に苦労した事を……
 子供の頃は補助技の大事さや相手によって手駒を切り替えるという発想がない力押しばかりだから困る。
 その後ハナダはライチュウで惨殺空間だったけどなっ! あれ? ピカチュウだったっけ?
 まあ後のライキである、きっと。

「オーキド博士、僕が書いた論文を読んで下さい!」

 …お前いつの間に……いやいいけどね。
 タイトルは『ポケモンの分布実態と変遷』ねぇ。

「ほほう…まだ小学生に見える君がこれを?」

「はい!」

「あー…研究所の中、見学させてもらっても宜しいでしょうか?」

「ああ、構わんよ。なにかあったら職員に相談しなさい」

「はい」

 話が長くなりそうだからな。
 興味深そうにユーノの論文に目を通す博士と楽しげにそれを待つユーノを放置して席を後にするのであった。



 それなりに広いんだな、この研究所。
 妙に狭い印象があったのは何でだろうな、ゲーム補正?
 旅立ちのイベント以外は特に用があった覚えもないから、小さくても問題はないんだろうが、ゲーム的には。
 
 おお、剥製コーナー。
 ゲームとかだと出てこないが普通はあるよな。
 おお、こっちはプトティラ――ではなくプテラとカブトの復元標本か。
 他地方……なんだっけ、ルビサファで出てきたのとダイパで出来た化石ポケモンの復元標本もある。
 アレは…なんだろう? 同じ陳列コーナーなんだから化石ポケモンなんだろうが、全然分からんのがあるな。
 
 田舎町の研究施設にしては所員も見学者の子供も結構いるな。
 二、三人に話を聞いてみるとこの町の子供で将来はポケモンマスターになりたいんだと。
 夢を見るのは自由だけどね、うむ。この町に産まれた辺りチャンスは十分あるしな。
 
「だーかーらー! 東京はこの中じゃねーっつの!」

 …ポケモンの研究所でめぐさんな声。
 ムサシキター?!
 ばっと振り向くと俺と比べて大分小柄なな赤い道着姿の赤い三つ編みのお下げの少女。

 お下げの少女。
 
 やべ、可愛い。
 いや違う、なんでここにいるんだ早乙女らんま!
 乱馬だと男姿なのでらんまなのだ、いや懐かしい、我が青春。
 エロかったよなー、らんまは。
 
 …まあ自分でああいう体質になりたかった訳でもないのだが。
 
 じーっと俺が見てるのを気付いたのだろう。
 虎柄のバンダナにばかでかいリュック? 登山用のか? まあ馬鹿でかい荷物を背負って番傘までリュックに差し込んである。
 うん、アレだ。
 ピーちゃんだわ。
 
 ……東京か海鳴にいるなら兎も角、なんでこんなトコに――ああ、方向音痴か。
 
「なんだよ?」

「…いや、失礼。仲が良いな、と思ってな」

 うむ、恋人つなぎで手を繋いでる辺りとかその左手と右手が手錠で繋がってる辺りとかな。
 
「分かるか? 俺らラブラブだしな!」

 うーん、心底嬉しそうならんまの顔。綺麗より可愛い寄りだが、美人が笑うと絵になるな、元男だけど。
 いや肉体的には男が女に化けてるというべきか?
 いやそもそもなんで『ラブラブ』? こいつらデキてるの?
 …あれ? らんま1/2ってそんな話だったっけ?
 
「誰がだ! 俺はあかねさん一筋なんだよ!」

「バンダナ、声がでかい。
 ここは研究施設も兼ねてるのだ、静かにしろ」

「そうだぜ、全く。大体俺を傷物にしておいてそんな言い訳通じるかよ」

「ほう。それは酷いな、そんな可愛い彼女がいて本命は他にいる等とは」

 とりあえず話には乗っておこう。
 
「おりょ、美人に褒められちったぜ♪」

 しかし元男なのか現役で男なのか知らんが、らんまが良牙とイチャついてるのを見ると色々と我が身につまされるというか、明日は我が身かと恐怖を覚えるというか。
 
 ……男と付き合う自分、ねぇ?
 無理無理。当分いらんわ。
 
「きずッ!?――そっそれは! お前が!」

「良牙ったらケ・ダ・モ・ノ♪」

 茹で蛸のように顔を真っ赤にする辺り、ホントに喰っちまったのか?
 
 いやまあ中身は兎も角、らんまは確かに美少女だしスタイルも良いけど。
 小さいしなー、小柄な美少女、スタイルも良し。
 俺より確実に20㎝は低いからなぁ。
 
 
 ……あれ? 男溺泉がこの世界にはある、という事か?



****

ちょっと短いですかねー。
念の考察にハマってしまい本編が遅くなってしまいました、申し訳ない。

そして折角だから俺はこのらんまを選ぶぜ。
エロかったですよねー面白かったですよー、最後ら辺は兎も角。

yxmzte3iz2.doorblog.jp/

こちらで念の考察とか作中では長すぎて、あるいは静香の知識不足で考察出来無いような事も書いてます。
頭に付け足してください、どうも禁止ワードが…



[14218] 安藤奈津は洋菓子の専門学校での同級生にすれば良かったかも
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/05/07 19:43



「…ふん…」

「どったん?」

「何でもないさ」

 わざわざフェレットになってゲージに収まり、アルフと四匹で丸まって寝ているなのは達と。
 隣に座って俺の横顔を眺めている横島を適当にあしらう。

 新幹線の中、物思いに耽る俺。
 
 女になってから、高町静香になってから未だ2ヶ月弱だ。
 怒濤のような出会いとイベントをこなして今、東京への帰途についている。
 
 男に戻れる、というのは魅力的だ。
 正直、この姿で男性になると父士郎か恭也の双子状態になるのは目に見えてるから見た目の問題はどうでも良い。
 今でさえ美由希よか美沙斗さんに似ている程だしな。
 
 だが、もう既に中身も外見も「俺」じゃない。
 外見は高町静香のモノだ、外見的特徴に「俺」だった頃の要素は日本人的共通項位しかない。
 中身に関してだってそうだ、「俺」の自意識が最前面に出ているだけであって、むしろ無意識の領域は「静香」の部分が多い。
 まあ融合率というか、「俺と静香の境」なんてもはやあってないようなものだが。
 それでもこの身も心も「俺」独りのものじゃない。
 
 更に言えば家族だ。
 長女がいきなり次男になりました。
 有り得ない話ではないだろうが、受け入れがたい現実である事は想像に難くない。
 身内からしてみればなんでわざわざ、という考えるのが当たり前だ。

 逆に俺自身の視点で見てみよう。
 なのは(19)がいきなり男になって「ヤらないか」とか言い出す。
 
 
 ……ないわ。
 全力でないわ。
 殺してでも止めるね、俺は。
 
 
 
 …これ、俺と家族の大戦争にならんか? 無理を通そうとすれば。
 一対一の連続ならなら全員に勝てるだろうが、一対全員とか絶対勝てん。
 正義の為なら鬼となるし、うちの一族は。
 ずるいとか卑怯とかないんだよな、好き好んで使わないだけで。
 
 それに高町母に睨まれたら何も言えなくなりそうだ。
 
 つまり、男に戻るなら身内全部捨てて別の町で別の人間として別の人生を歩む訳か。
 嫌だよバカ野郎。
 折角家族なのに、なんで離れなきゃならんのだ。
 ついでに言えば漸く女である事に慣れてきたというのもある、まだまだだろうが。
 
 とは言えなぁ……男に戻れるなら戻りたいと思う程には未練がある。
 未練はあるが家族を悲しませてまで必要か? と言われると微妙。
 ……女であるという事より家族なんだよなぁ……
 いやここでさ、「男になるの? いいんじゃない?」とか軽く許可されてもそれはそれで微妙だけどさ。
 
「悩むな……」

「くーかー…」

 太平楽に鼾かいて寝てた、隣席の横島。
 ……男になれば男から言い寄られる事はないんだよな。
 ついでに不躾な視線に晒される事もないし同性から嫉妬と好奇の視線で見られる事もない訳で。
 
 いやいや……うーん……

「忘れるか…な…」

 受け入れるしかないよな、家族が大事なら。
 個人個人の考えで言えば性転換だろうが好きにしたら良いとは思う。
 だが家族を泣かせてまで選ぶべきかと言われればそれはNOだろう、少なくとも俺にとっては。
 
 まだ2ヶ月とは言え、女である事に違和感を感じる事が少なくなってきた所だから、もし戻るなら今しかないのかも知れんが。
 
 諦めるべぎだろう。
 正直、なのは達に泣かれたらと思うとやってられん。
 
「ぐごぉぉ……」

 横島の頭を軽く指で動かして鼾を止める。
 何故か頭を動かしてやると鼾が止まるんだよな、理屈は知らんが。
 
 悩みがないってのは羨ましいな、ホント。
 いやこいつの現在の悩みは俺をどう堕とすかなんだろうが。
 
 ……こいつの行動のせいで無理矢理女を意識させられてるという面もなくはないんだよな…
 堂々と覗くし、色んなモノを。
 その点だけは尊敬に値するわ、少なくとも真似は出来無かったろう、俺が男の時は。
 
 あーあ。
 折角、男に戻れるチャンスなんだがな。
 いっそ前世と同じく殆ど身内のいない世界だったら戻ってただろうか?
 その前に元の世界へ戻る努力してたかな、それなら。
 
 女として生まれたんだから――望んだ訳でないにしろ――女として生きていこう。
 前世は前世、拘っても仕方ない、ハズだ。
 これから先、拘らないで生きていける自信もないが。
 
 豊かな自分の胸に手を添えると、ずっしりと重さが実感出来る。
 
 自分のじゃなかったら最高だったんだけどな……
 今更他の女の胸揉む気もないが。
 
 ま、考えてても仕方ない。
 頭を軽く振って、背もたれに身を委ねる。
 ままならないのが人生と思いつつも、あの時聞いた神とやらの声を恨む位は許されるハズだ。
 
 切り替えて帰った後の仕事の段取りを想定しながら、いつしか眠りに就いていた俺であった。
 

****


「あのな、忠夫よ。
 人の胸を勝手に触るのは辞めてもらいたいんだが」
 
 横島の頭にアイアンロックしながら説教する俺。
 海鳴駅へ到着してからすぐこんな事をするとは思ってもなかったが。
 
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!?」

「おっぱいなんて邪魔なだけだろうにねぇ」

 アルフも呆れている。その科白が言えるのは俺達が巨乳だかららしいぞ。
 全く……いや、油断してた俺も悪いのかも知れんが、普通は横で寝てる女の胸を揉まないだろ、恋人でもあるまいし。
 いや恋人だって新幹線の中で揉んだりしないハズだ、多分。
 ……若い頃――もとい、前世で10代後半の頃はやってたような気もするな、当時付き合ってた彼女に。
 ……俺は横島と付き合ってる訳ではないのでこの怒りは正当なモノだ、うん。

「まあ良い。とっとと帰って一休みしたいしな」

「あ゛あ゛あ゛……あああ……脳みそが破裂するかと思ったわ。つーかまだ痛い」

 手を離すと暫く呻いて地べたを這いずり回って、その後蹌踉めきながら立ち上がってくる。

「ほれ、持ってろ」

 でかいのや量の嵩張るお土産は現地から発送済みだが、やはり手荷物は増えるもので、横島と人型に戻ったアルフの両手は一杯である。
 まあ三匹のフェレットをケージごと運ばねばならないというのもあるのだが、これも立派なお荷物だよな。やれやれ。 
 
「しかし、帰ってきたーって感じっすね」

「まあな」

 やはり風の匂いも空気の温さも東京とは違うのがよく分かる。
 人多いだけやはり東京の空気は濁ってると言わざるを得ない、嫌いじゃないけどね。
 
「フェイトも楽しんでたみたいだし、良い旅行だったさね」

「うむ」

 色々と衝撃的だったけどな、俺限定で。
 ホント死神に出会って巻き込まれなかった幸運を感謝したい、神以外に。
 
「人は少ないっすねー、東京に比べると」

「あそこは日本一だからな、色々と」

「でもあたしはこっちの方が好きだねぇ。
 東京は人も多すぎるし、雑多なモノが多すぎる」
 
「野生の獣には生きづらいかもな」

 ポケモンは進化してしまうんだろうけど。
 つかベトベトンとか明らかに人の存在前提のポケモンだが、産業革命以前は存在したのかどうか疑問である。
 あー、昔は毒沼とか限定だったのかな?
 考えるときりがないけどさ。

 旅の思い出というには色々濃かった気もするが、それぞれ体験した事を話ながら、未だ慣れぬ、それでも旅路で歩いた道の何処よりも慣れた道を歩く。
 夕焼けで照りかえる静かな田舎の街並みを三人で歩く。
 
 どうも、アレだな。
 都会育ちの前世の割に、この空気が心地良い。
 染まったというか、『高町静香』の要素がそう思わせるのか。

「さて、家に着いた訳だが」

「まずは荷物片付けと、ガキども起こして風呂にでも入れますか」

「お土産も山になってるねぇ」

 玄関へ入ると案の定誰もいない。
 勝手知ったる我が家である、居間へ向かうと端に送っておいた土産が山になっている。
 従業員や友人連中、教師達と送る相手には事欠かないからな。
 そして贈り物そのものも事欠かないのだ、スカイツリーのおかげで。
 猫も杓子もスカイツリーである。
 
「ほれ、おきろ」

 ケージから引っ張り出してテーブルの上に三匹並べると、ユーノが起き出して大きく伸びをし、なのはとフェイトの頬をちろちろと舌で舐めて起こし始めた。
 字面にするとエロいが普通にフェレット同士だからな、むしろ可愛いもんだ。
 
「さて、横島は荷ほどきと片付けをしておけ。
 アルフはガキどもの世話を頼む。
 私は翠屋の方へ顔出してくる」
 
 この時間が混むのはお約束だからな。
 尤も休日の、GWの真ん中の日でどれだけ人が来るか来ないかは予測不能だが。
 
「了解ー」

「あいよ」

 人間の姿になって未だ寝ぼけているフェイトとなのはをユーノとアルフがあやしているのを背にして居間を出て、外へ向かう俺。
 どうもな、仕事人間な所があるな、俺は。


****


「いらっしゃいませー――おお、シズカではありませんか」

「ああ、ただいま、アルトリア。
 店は――大分混雑してるな」
 
 少なくとも平日の混み具合ではないな。
 
「ええ、どうもお客が多くて嬉しい悲鳴と――はい、ただいま参ります」

 目線で挨拶をくれて客の方へ向かうアルトリア。
 うーむ、メイド服っぽい制服が似合う事。
 アルトリアは美人だからなぁ。
 
 ちらりと視線を動かすと美由希もフロアで立ち働いていて、カウンターで親父殿が珈琲を淹れている。
 それを無視して厨房へ。
 
「ただいま帰った」

 厨房には母桃子と衛宮と松井さんが大回転中。

「あら、お帰りなさい。
 もう一日くらい遊んできても良かったのよ?」
 
 確かに休日は後二日ほど残っているが。
 
「余り遊びほうけるのも趣味ではないのでな。手伝うか?」

「そうね、お願い」

「では着替えてくる」

 アンドーナツといい陽太といい、ああやってさ、一生懸命働いてる姿は良い。
 ましてある意味、憧れの人達だからな、俺からしてみれば。
 まあ料理人としての憧れの一番だった陽一が人間としてかなり駄目な部類になってたのは兎も角。
 
 うむ、エプロンを着ると身が引き締まるね。
 俺と母がタキシードっぽい服にエプロンに対して松井さんは白衣にエプロン。
 厨房の外でウェイトレスの仕事もする俺と母に対して松井さんは厨房専門である。
 衛宮も厨房専門なのでコックな格好で、現在は菓子類以外のハンバーグ等メイン料理担当。
 悔しいが一歩上である、俺より。

「待たせた」

「下拵え宜しくね」

「うむ」

 ちなみにウェイターの服は適当なワイシャツ姿にエプロンであるのに対し、現在のウェイトレスの服装はメイド服っぽい、横島の趣味が透けて見えよう。
 まあ恭也とかたまにピートとか使う時は衛宮も交えて執事服っぽいのを着てやるのだが、横島が凄まじく対比用のショートホープになってしまうのが笑える。

 高速撹拌~脳みそこねこねコンパイル~ぷよぷよの会社は潰れしてしまったのであった。
 懐かしいね、アルル。
 さて、卵を撹拌したらそのままスライドして母へ。
 次は――生クリームが切れてるな。
 ミキサーの類を使うまでもなく自力でやった方が速い自分が怖い。
 
 次々に下拵えをこなす俺。
 下っ端も下っ端だしねー、実は何とかの資格持ってる衛宮よか下っ端である。
 …そういうのも調べないと駄目だよな、うむ。

 しかしまあ、アレだわ。
 母の手元を盗見つつ、仕事をしてるが。
 何故同じ材料と同じ機材、同じ手順で作ってるハズなのに最終的な味が変わるのか。
 技術の差というばそれまでだろうが。
 
 あと手際が違う。これは年季の差だろうなぁ。

 ま、そのうち追いつくさ。
 こうやって仕事してるのが幸せなんだから、安いもんだな、俺も。

 しかしアレだ、外でアルトリアが喰ってるんじゃねーかって位ケーキが捌ける捌ける。
 後で聞いた話じゃ味皇が来店してからやたらと混んでるらしい。
 東京の方で会わなかったと思ったらこんなトコに出てきやがって……

「閉店の時間ね、後少しよ」

 ここからは店内に残っている客ではなく、明日の仕込みの時間だ。
 俺のやる事は変わらんが、更に倉庫から足りない具材やガムシロなどを出してこないとな。
 食い物を扱う作業を全て終わらせたのを確認して、追加の仕事がないか母に確認して、倉庫と厨房を往復する俺。

 がちゃがちゃと椅子をテーブルに上げる音が店内から響く。
 客が引けたらしい。

 こっちはこっちで厨房の掃除開始。

「なのは達は?」

「アルフと横島に任せてる。今頃風呂から上がった辺りか、土産の整理しているトコか」

「そ。楽しかったみたいね?」

「それなりにな」


****


「お帰りフェイトちゃーん」

「た、ただいま母さん」

 むぎゅっとプレシアの豊かな胸に埋もれるフェイト。
 これで推定50~60だってんだからパネェ。腰も細いわ背も高いわ。
 ミッドチルダ人は化け物か? いやうちの桃子母も変わらんっちゃ変わらんよな…
 33歳で未だ大学生どころか高校生に間違われるからな……
 
 
 さて、仕事も捌けて自宅に全員集まりただいまパーティ的な夕食である。
 プレシアとオーフェン、リニスも参加し、玄関へ迎えに行ったフェイトがごらんの有様だよ。
 
「プレシア、続きは飯喰ってからにしてくれ」

 フェイトを離してオーフェンの方へ背中を押すプレシア。

「はぁい」

 ……良いけどね、別に。この違和感感じるのは俺とユーノだけだろうし。

「オーフェンあのね、東京でね――」

「落ち着けって――」

 しかし黒魔術士が幼女と手を繋いで廊下を歩く姿もシュールだ。
 小説の挿絵のような戦闘服ではなく、普通にTシャツにジーンズ、ただし黒ずくめに首から竜の紋章にバンダナ。
 ……チンピラそのものだな、目付き悪いし。人の事は言えんが。

「シズカ、フェイトの面倒を見て下さってありがとうございます」

 先に歩く三人の親子を見ながら、俺の隣のリニスに礼を言われた。

「大した事はしてないさ」

 言葉通りである。
 そうして玄関先まで出迎えた俺と共に居間へ向かう。
 居間には恭也以外の家族が揃っていた。
 恭也? お泊まりでデートだろ。

 桃子母と美由希、ユーノ、アルフがテーブルに料理や酒を並べている中、なのはは父相手に色々と思い出話を語っていた。

「でね! ポケモンがいーっぱいでね!」

「ほうほう――」

「はやてって子と友達になったんだ。オーフェンにも会わせてあげるね」

 テーブルに座りながらも話を辞めないフェイト。

「そりゃどうも」

 適当だなぁ、特にオーフェン。
 慣れてるのか気にもしないで、どちらかというと引っ込み思案なフェイトががんがん話し続けてる。
 
 そんな様子を見ながら俺も料理を並べていた。
 と横島はどうした?
 
「忠夫はどうした?」

「ご近所にお土産配ってもらってるわ」

「そうか」

 それにしても一般家庭の食事風景じゃねーな。なんだこの豪華な夕食。

「さ、ユーノ君もアルフも座って」

「たでーまー。配ってきたっすよー」

「ほら、さっさと座れ」

 大人連中にはアルコールも配って、と。

「では、いただきます」

「いただきます」×11


****


悩んで悩んで結局諦めました。
静香的には自分<家族なのですね。

それにしても入ると鳳凰や竜になれる泉というのは色んな意味で利用価値は高そうですが、単純に完全な性転換出来るというだけでも相当価値はあるでしょうねぇ。


そして大幅改訂。
今回のツッコミはぐさっと来ました刺さりました。
無論感謝してますけど! いやいや、精進が足りません。
短くなっちゃったし……まあ仕方ないので今後の糧とする事で納得します。

そして感想速いよ! ありがとう!



[14218] 違和感感じてるのは静香だけ
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/05/18 07:40



「なのは、醤油取って。あ、この写真は良いね」

「はい、お父さん。じゃこれも印刷するね」

 テレビにデジカメ繋いでスライドショー中のなのは。

「それでね、パンダがね――」

「その前にパンダとはどういう動物ですか?」

「っ美味しい! 静香さんまた一段と腕を上げましたね」

「いや包丁のおかげだ」

「あの光ってたのはいったいなに? 静ちゃんが手品するとも思えないけど?」

「覇龍紋とか言う、包丁に選ばれた人が手に持つと出てくる紋章の光らしいよ」

「……ホントだ」

 俺の持つ永霊刀の覇龍紋に驚きを隠せない面々。

「なんでただの中華包丁にこんな仕掛けが……」

「ちょっと興味深いわぁ。見せてちょおだい?」

「隕鉄で作られてるらしいぞ」

「へえ。凄いわね、この鯛の刺身。適度な歯ごたえがあるのに旨味が濃いわ、まるで1週間も低温熟成させたみたい」

「そもそも隕鉄で調理器具作ろうって発想が凄いですよね、普通は武器とかになりそうじゃないですか」

「鯛茶漬けうめぇ」

 第一回高町家主催、誰が何を喋ってるか当ててみようクイズ。
 
 と言ったノリも通用しそうな程カオスだ。
 まあオーフェンとリニス、プレシアとアルフ、フェイトで5人、うちはユーノと俺を含めて7人、合わせて11人だ。
 そしてそれぞれ好き勝手話して飯喰ってしてるのだ、騒がしいにも程がある。
 
 しかし永霊刀は凄まじいな。こっちの意志を無視して勝手に魚を解体していくかのような切れ味、そして旨さを凝縮する能力。
 腐りかけだろうが熟成前の身肉だろうが問答無用で最高の旨さを発揮させてしまう。
 
 たまに使う分には良いかも知れないが、毎日使ってたら確実に腕が錆びるなこれは。
 カレイの煮付けも作ってみたがもはや今まで食べていたのはなんだったのかって位旨くなってしまったし。
 タレの染みこみ具合が半端ないのだ、明らかに時間と釣り合っていない。
 つまり煮崩れなど間違ってもおきようのないしっかりとした形で、一分の隙もなくタレの色に染まった煮付けが出来てしまった。
  
 怖えええ! いやアレだ、あの色男が迦楼羅刀を滝壺に沈めた気持ちが解る。
 これは麻薬だ、必要な時以外使わないにこしたことはない。
 料理人の努力とか全てすっ飛ばす勢いだ、料理版PARだ。
 
 ここにいる皆から絶賛されたが魚関係に関しては永霊刀の力で旨くなったようなものだしな、あんまり嬉しくないぞ。
 例えるなら独りチートで俺Tueeみたいな。
 ……俺の人生も似たようなもんかもな。
 
 テンション下がるから余計な事は考えないようにしよう。
 俺と横島がホスト役として料理やら肴を作ったりカクテルまで作らされたりしているのでそれなりに忙しい。

 プレシアとフェイトの仲が良いと嬉しくなるしね。
 それにしても性格が違うと病気もしなくなるのか?
 はっ、何とかの事故以前はこんな性格でアリシアを亡くしたせいであんな性格になったのかも知れん。

 ……ないない。やっぱ憑依とかなのかなー、プレシアとか。
 まあ単なる平行世界ゆえの人格変化なのだろう、別に憑依でも転生でも構わんが。

 オーフェンも強さとか行動はそれっぽい、しかし妙な違和感を感じないでもない。
 ただまあ、こっちの場合は小説で読んだだけだしなぁ。
 脳内補正が効いてるせいで違和感感じてるだけかも知れんし。
 はぐれ旅にアニメなんてありませんよ?
 
「ほれ」

 台所で次々と新しい肴を作る俺。
 なのは達はご飯だけだろうが、酒の肴はご飯のおかずになるものが多いし問題ないわ。

「ういっさ」

 納豆を油揚げに包んで爪楊枝で止めて、トースターで焼いた奴を皿に盛って横島に渡す。
 名前あんのかな? 俺の前世の定番の酒の肴だったんだが。
 やたらプレシアにウケてるな、酔ってるのかなアレは?
 
 冷蔵庫を開け、ふと、目にとまった食材を出して切る。
 
 ……
 
 うめぇ。
 試しに竹輪を永霊刀で切ってみたら滅茶苦茶旨い。
 醤油も何も付けてないのに味が濃いわ歯ごたえも歯を押し返しながら潔くぷっつりと切れる快感。
 勿論、出来合の普通の、スーパーで買ったような竹輪である。
 有り得ないにも程があるだろこれは、元が魚ならなんでも良いのか。

 まあ旨い分には文句言われる訳もないので良いけどさ。
 竹輪を切って適当な大きさにしてグラタン用の皿へ乗せ、上から蕩けるチーズを乗せる。
 そしてレンジの中へゴー。
 ヴァンプ将軍の料理番組でやってた奴を作ってみました。
 多分アホかって程旨くなってるだろうなぁ。
 
 なのは達三人は食事を終えて、テレビの前で取りまくったデジカメの画像を次々とスライドさせて、親たちに思い出話を語っている。
 
 ちらりとテレビの画像を見て思いを馳せる。ホントに濃いGWだよ…あと二日あるけど。
 
 
****


「おおーへぇぇん、すぅきぃぃぃ」

「へいへい、オレモダヨ」

「なってないぞオーフェン君! 妻とはっこうするものだっ!」

「やん♪ 士郎さんったらぁ」

 ………うぜぇ。
 酔っぱらいのテンションが激しくうぜぇ。
 
 なんかもう可愛い貞子みたいなプレシアがオーフェンにしがみついてる。
 ウィスキーを片手に適当にあしらうオーフェン。
 原作のようなドレス姿ではなく、至って普通にトレーナーにジーンズという格好なのだが、なんかもうエロい。
 ホント年齢不詳にも程がある、うちの親父もだが。
 
 で、親父は親父で母桃子といちゃいちゃとしまくってるし。
 
 俺と横島は酔っぱらいどもをソファーの方へ移動させて、洗い物やら片付けの最中。
 ガキどもは喰ったら眠くなったらしくリニスとアルフをお供に寝室だ。美由希はシャワー中。

「オーフェン飲ませてぇ」

「はいはい」

 わざわざグラスを取って両手のふさがったプレシアに飲ませてやるオーフェン。
 両手ともオーフェンの腕に絡まってるからなんだが。
 うーむ、オーフェンがどちらかと言えば年上好きなのは感じてたが、ここまで世話好きだったかな?
 というか年の差ありすぎだろ、20は確実に離れてるハズ…ハズ……滅茶苦茶若く見えるけど、どうみても母桃子と同世代だけど。
 
 ドラゴンボールで若返ったりしたのかな?

 酒入ってる上にガキどもがいないから容赦なくいちゃついてるなぁ。
 もはや18禁まであと一歩だぞ、トレーナーがはだけてプレシアが色っぽい事この上ない。
 
 おー、口移しで酒飲ませて。

 実の両親のキスシーンとか割とガチで見たくないんだけど。
 美形同士だから様になってるのがまた腹立つ。
 ……そーいやクロノとくっつく、所謂原作版のりりなのだとなのはは小学生にして両親の初エッチを見せつけられるという割とトラウマものな体験させられるんだったよなぁ……
 それに比べたらこの程度とは思わんでもない。

「エロぉ…」

「手を休めるな」

 涎たらさんばかりの表情で見入ってる横島に注意。
 確かにエロい。別に胸まさぐってる訳でもなきゃ股間に手突っ込んでる訳でもないんだがな。

 まあなのは達の前でしないなら良いけどさー。
 テンション上がりすぎだろ自宅なのに。
 
「静ちゃん上がったよー」

 湯上がりパジャマ姿の美由希が入ってきた。
 冷蔵庫を漁ってジュース出してとそれは良いんだが。

「……なんで上がったばかりで暑いのにフル装備なんだ?」

 風呂上がりはパンツ一丁ではないのか?

「静ちゃんと違って恥じらいがあるのっ!」

 ……別になぁ?

「……お前の裸見て喜ぶのは横島しかいないだろこの家に」

 家族相手にそんな気にせんでもなぁ?

「その横島先輩に見られたくないって言ってるの!」

「いつでも見せてくれて良いn――ぶべらっ!」

「コップ位避けろ馬鹿者」

 美由希の使い終わったプラ製のコップを顔面で受け取る横島。
 修行が足りんな、修行が。
 夏休みは間違いなくキャンプという名の修行だわ。
 うちの家族は平気で夏休み全部潰すからなぁ、山ごもりで。

「あ、そうそう。忠夫君」

 父士郎の腕にすっぽりと収まって、酒のせいか頬を染めてる母親が有り得ない位可愛らしい。

「あ、なんすか桃子さん」

 コップを流しに放り込んで、追加のカクテルを四人分運ぶ横島。

 どうでも良いけど、普通友達の親って誰々のおばさんとか呼ぶよね。
 世界一おばさんって単語が似合わないうちの母親である。

「ご両親が来週、顔を見に来るって連絡があったからそのつもりでね」

「げぇっ!?」

 じゃーんじゃーんじゃーん
 
 なんだ今の脳内に響いた効果音は。
 
 親たちの前でムンクの叫びのような顔して立ちすくむ横島が面白い。
 
 まー、あの父親と母親が来るとなると確かに大変だよなぁ。

「後、旅行から帰ってきたら電話するように言われてたから、今日でも明日でも電話しなさいね」

「うええええ」

 心底嫌そうな横島を横目に洗い物を続ける俺。

「横島先輩のご両親ってどんな方なの?」

 片付いて綺麗になったテーブルに腰掛けて、うちわ片手に美由希が尋ねる。

「あー…お袋は普通の主婦だけど、親父は敏腕サラリーマンらしい。
 昔っから女にモテて浮気ばっかしてるイメージしかねぇなぁ」
 
 更に昔はモテなかったんだけどな、横島の親父は。
 一声掛ければ億単位の金が動く女が普通に主婦してる辺り、世の中不思議だらけだ。

「へー、流石横島先輩の父親だね」

「どういう意味なの美由希ちゃん」

「え? そのまんまだけど? あ、でもモテないもんね、横島先輩。そこは違うかぁ」

「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!」

「家の中を走るな」

 廊下の方へ行ったから電話するんだろうな、来るなと。
 無駄だろうが。

「さて、私も風呂へ入るか。酔っぱらいの面倒頼むぞ」

「はーい」

 うちの子達は基本的に良い子ばかりだから困る、いや困らないけど。


****


「いらっしゃいませー」

 今日も大盛況の翠屋である。
 今日からアルトリアと衛宮と美由希が休みで、俺と横島、忍と恭也が代わりに入るのだ。
 両親に休み取らせたいが、うちは母のケーキと父の珈琲他で持ってるようなもんだからな、なかなか難しいな。
 
 ちなみに今日は朝から俺と母が厨房、親父がカウンター、忍と恭也、横島がウェイターだ。
 
 横島なー、細かいトコに気がつくというか。
 うちのCM(なのは作成)入りポケットティッシュを駅前で配ったり、そのポケットティッシュを各テーブルに数個ずつ配備したり。紙ナプキンもちゃんと配備しているが、意外と重宝されているようだ。
 
 うちは全席禁煙だが外のカフェテラスは灰皿常備なので、煙草も一通り揃えている。
 その煙草にマッチをサービスでセットにしたりしている。
 勿論なのはが図面引いて月村のトコの下請けに作ってもらった特注で、これが意外とウケていた。
 マッチ集めを趣味にしている人は勿論、最近では見た事もないという人もいて意外な人気なのだ。
 
 他にもテーブルの下に大きめの籠を置いたり、トイレの芳香剤(ボタン式で押さないと匂いが出ない奴)を数種類置いてみたり。
 トイレ掃除も一番熱心にやってるのが横島なんだよな。トイレが汚い店はリピーターになってもらいづらいし印象悪いとさ。
 
 横島の商才はなかなか侮れん。
 
 そういう訳で今日も今日とて大盛況。
 ちなみに俺が出した「ライキを店の前で躍らせる」という案は却下された。何故。
 ついでに説教までされた。
 どうも商才というモノは俺にはないらしい。
 横島に説教されるとやたら頭に来るな、横島のくせに生意気だ。
 でもライキ型ケーキの作成はオッケーらしいので今度作って売ろうと思う。
 

 一心不乱にスポンジを焼きフルーツをカットし生クリームを作り牛乳や小麦粉を計量し卵を割る。
 一通りケーキ系の雑用が片付いたら、今度は俺が肉焼いたりスパゲティ作ったりだ。
 うちは喫茶店の形ではあるがメインはケーキ類の販売なのでそこまで食事類が出ないのだが、それでも昼飯時は違う。
 比喩抜きで厨房は戦場なのだ。
 
 なのは達は三人でGW中の宿題を片付けている、正確にはなのはの宿題を一緒に手伝っている。
 その後はフェイトとユーノの小学校へ行く準備と撮りまくった写真を編集するのだそうだ。
 いつの間にかユーノの制服まで用意してる辺り、うちの親パネェな。
 イギリス国籍もいつの間にか取得させられていて、イギリス人という事になっているそうだ。
 
 スクライアに帰らんで良いのかと俺が聞いたら、すげー怖い顔でニコっと笑われたのでそれっきり訊いていないのだが……
 何かあったのか?
 
 

 そして嵐のような時間を過ぎて14時過ぎ。
 漸く一段落した客足に一息吐き、順次昼食を済ませていた。

 忙しい時だけ人数を増やすとか出来んもんかね、全く。
 昼食を済ませた後は概ね暇になる、少なくとも四六時中手と足を動かさなくても良い。
 
 一頻り休憩した後、忍と俺、恭也と横島の順で外での販売を開始する。
 カフェテラスの方でケーキを食べている人間が実演となって、割とよく売れるのだ。
 まあ、俺と忍、恭也が突っ立ってるというのも理由だろうが。

 横島は子供相手に売るのが上手いのだが、どう見ても子供連れの母親の方が目当てだよなぁ。
 どうせモテる訳もないし売り上げになれば良いけどさ。

 その後は客足が途切れる事もなく、波のように押し寄せてくる事もなく。
 それなりに忙しく過ぎていった。


****


「で、それが新しくなったレイジングハートか」

 見た目は変わらんな、待機状態だから当然だが。
 居間、そのソファーの上に転がってい赤い玉と黄金の三角。
 
「そぉよぉ」

 それを前に、オーフェンの隣でソファーに座り売れ残りのケーキをパクつくプレシア。
 
 自宅にてテスタロッサ家と共に夕食を済ませ、漸く改良が完成したというレイジングハートとバルディッシュのお披露目である。
 そう、なのはがデジカメを駆使してたのもレイジングハートの補佐がないからビットを構成・操作して写真を撮れなかった為なのだ。

「ね、プレシアさん試して良い?」

「どぉぞ~。んー♪ 美味しいわぁ」

「駄目です。なのはさん、手に取るのはちょっとお待ちください。
 プレシアの頭が砂糖まみれなので、私が説明しますね」

 ため息と共にリニスが後を取る。

「今回の改修はまずレイジングハートを完全になのはさんの魔力性質に合わせる事。
 ユーノ君の持って来たままでも相性は良いのですが、細かい点の使い勝手をよりなのはさんに合わせるようカスタマイズしました。
 分かり易く言うとレイジングハートを構成するメインプログラムをよりなのはさんの魔力性質に合うよう無駄をそぎ落としたという感じです。
 これによってより滑らかに魔力の放出や操作が可能になるハズです」
 
 ふむ、相性が良かったとは言え元々なのは用に作られたモノではないから、その辺りの調整という事か。
 続けてリニスが言うにはカートリッジシステムの搭載を行い、エクシードモードとやらを含めた新たな形態の追加と既存の形態の改修を行い、その上でカートリッジシステム自体に封印処理をしてレイハさんが許可しない限り使用不可能にしてあるらしい。
 カートリッジシステム自体はレイハさんたっての希望だと、まあこいつも一緒に戻って来たクチだし当然かも知れん。
 
 封印処理についてはなのは(とフェイト)の身体が未だ発育途中で成長期も来ていない為、使うどころか搭載自体リニスは嫌がったらしいのだが、本人――レイハさんとバルさんが是非にと懇願した結果、搭載するけど封印もするという所に落ち着いたようだ。
 後で聞いた話だが、俺のうろ覚えのアニメではレイハさんがカートリッジを搭載希望した時技術者が難しい云々言ってた気がするので尋ねてみた所『カートリッジシステムを後付けで搭載する位何とも有りませんよ?』と不思議そうな顔をされた。
 リニスパネェなのかこれは。

 ともあれ、封印処理を聞いてうちの両親が喜んで感謝したのは言うまでもない。
 そもそも魔法を、戦う力を与えるという事自体消極的反対なのだ、現状では明確な敵も危険もないから持たせるのを許しているようなものである。ジュエルシードはあっと言う間にユーノが集めちゃったし闇の書は志貴が殺してくれたしな。

 リニス先生の長い説明ををふんふんと神妙に聞いてる子供ら。
 これを見ているとプレシアはフェイトの育成に関してはリニスに丸投げで、可愛がる専門のようだな。
 この扱いを見てると実はプレシアの娘じゃなくてアリシアの娘、プレシアの孫なんじゃね? と思わなくもないが黙っておこう。
 年齢的には孫でおかしくない、ハズなんだがなぁ?

 ふと、エクセリオンではなかったかなーと思ったが口には出さない俺。
 改造した人が違うから名前も違うんだろう、多分。

 俺は全員の紅茶を淹れてながらそれらを聞き流し、横島はさして興味ないのか売れ残ったケーキをプレシアやオーフェンに配っていた。
 美由希も興味は余りないのか、子犬のアルフを抱っこしたユーノを抱っこしようとして嫌がられている。
 
 気持ちは分かるぞ、弟いないもんな、俺らは。
 
「レイジングハート・エクシードでユーノ君に勝つの!」

 数日ぶりに首に戻ったレイジングハートとバルディッシュの居心地は良さそうである。
 …なんで美由希がユーノ弄るのはスルーで俺が弄ると怒られるんだろう? 差別か?
 性的な意味で可愛がってる訳でもないのにな?
 
「うん! ユーノに勝つんだ!」

 普段大人しめなフェイトもやる気十分である。
 一対一でお互いの戦績はトントンなのに、ユーノ相手になると負けっぱなしなので悔しいのだろう。
 そのうちはやてやしぐしぐ達も加わりそうではある。

「はあ…なのはも士郎さんの子って事かしらねぇ」

 今日は流石に酒ではなくお茶を飲みながら、母が呻く。

「運動神経が繋がってないからな、魔法で戦えるようになって嬉しいのさ。
 なんせ恭也や美由希と同じ土俵に、漸く立てた訳だしな」
 
 一人だけ戦いに関しての才能、というか運動関係の才能がないのは、きっと劣等感コンプレックスだったのだろうな。
 未だ自転車に乗れないのだから、割と困った問題である。
 そのうちユーノとフェイトと色違いの自転車与えてみるか。。
 
「二人とも、まずは新しくなったデバイスに慣れる事から初めてくださいね。
 いきなり模擬戦などしないように」
 
「はーい」×2

 リニスの科白に出来の良い生徒の返事。

「静香ちゃん、理解出来た?」

「安心しろ、魔法の事なんぞ解らなくても人は殺せる」

「コラ! 子供の前でそういう事言わないの」

「解った、すまん」

 美由希に怒られてしまった。
 新しく手に入れた玩具を試したくてうずうずしているなのは達に苦笑するユーノ。

「ちょっと試してこようか?」

「うん!」

「うんじゃない。もう遅いんだから明日しなさい!」

 父の一喝。
 遅いと言っても20時過ぎたトコなので言う程遅いとは感じないのだが、まあ小学生だしね。

「だって。明日の朝の訓練の時ね?」

 なのはの頭を撫で、ついでおずおずと側に寄ってきたフェイトの頭を撫でるユーノ。

「さて、美由希、横島。そろそろ行くぞ」

「うへーい」

「やる気をだせ」

「うう…静香ちゃんと一時でも離れるなんて」

「嘘泣きは辞めろ」

 なんだこの茶番は。
 
「恭也君、オーフェンも連れて行ってください」

 ぶっ!
 思い切り紅茶を吹いたオーフェンの顔が濡れた。
 カップの中へ吹き込んだせいだな、というか思い切りタイミング見計らったな、リニス。
 
「たまには動かないと豚になりますよ、いえヒモでしたっけ」

「誰がヒモか」

 そういえばオーフェンが働いてるなんて聞いてないな。
 プレシア自体金持ちだから働く必要がないのかも。

「シリーズ・人間のクズか」

「借金して金を返さないような奴らと一緒にすんな! いやしかしヒモ? ヒモなんて――」

 ぶつぶつ言って悩み始めてしまった。

 懐かしいなシリーズ・人間のクズ。
 あの頃のラノベは俺の青春だったからなぁ。
 おお、やぶにらみと言うべき半眼がこっちを睨んでる。

 働く必要があるかは別としてオーフェンは普段何してんだろうか?
 リニスに聞いてみると、以前はプレシアの研究の手伝いとフェイトの訓練や子守、時の庭園にたまに迷い込んでくる魔法生物の類の退治などを仕事としていたという。
 ……地球にいてフェイトが高町家にいる以上、プレシアの手伝い位か。それも大した事が出来る訳でもないだろうし。
 ヒモだな、うむ。
 人間は堕落するのだ、オーフェンもかつてあれほど嫌っていたヒモに堕落してしまったのだ。
 
「なに見てんすか」

 オーフェンを微笑ましい気持ちで見てたら横島の不機嫌そうな声で我に返る。

「ふ、とっとと用意して叩きのめされてこい」

 水を入れた水筒を放り投げると、軽く受け止められた。

「いいなぁ、お兄ちゃん達。ずーるーいー」

「オーフェンと修行…」

「……さ、お風呂の時間だよ」

 バトルジャンキーになりそうな科白に頬をひくつかせるユーノ。
 激しく同意だ。

「うん、一緒に入ろ」

「いやだからね、男女六歳にして同衾せずと言ってね?」

「どうきん?」

 よく知ってるな、論語なんぞ。

「しずかちゃあん、おかわり~」

「プレシア、食べ過ぎです、身体に悪いですよ」

 太りますよと言わないのは太らないからか?

「ちっ…折角補給したカロリーを無駄使いさせるなよ」

「うう…うちで食べさせてないみたいな事言わないでぇ」

 シュークリームを頬張りながら唸るプレシア。
 とは言えやる気にはなったようでのろのろと恭也達の後ろについて外へ出て行った。
 着替えて荷物を持ってくるのだろう。

「じゃ静香お姉ちゃん一緒に入ろっ」

「アルフもね」

「解ったから引っ張るな」

「風呂なんて毎日入らなくてもと思うんだけどねぇ」

「日本人はこの世界でも有数の綺麗好きな民族だからな」

 世界的に見ると割と異常なレベルで清潔だからな、この国は。

「しーずーかーちゃーん、おーかーわーりー」

 ……この世界の若いお母さんはアレか、甘い物を摂取する事によって若さを保っているのか?
 リニスの申し訳なさげな視線を受けながら、なのはとフェイトとプレシアの為に本日最後のケーキをソファーの前のテーブルに並べる俺であった。
 

****

デバイス技師としては
リニス>壁>他の技術者
というイメージ。
地球に来てから急速にヒモ化進んだオーフェンという話。
オーフェンにはヒモの才能があると思うんだ、きっと。

それにしても正直、魔王術とかどうでも良いから無謀編のノリで書いてくれねーかなとは思います。




[14218] 書きたいモノを完璧に書ける人はプロでも少ないハズ、ハズ……
Name: 陣◆cf036c84 ID:b4350134
Date: 2012/05/30 10:57

 そもそも、だ。
 
 人が人を好きになるというのは本能である。
 誰を好きになるかはその人のそれまでの人生と、それ以前の肉体的な本能に依るだろう。
 しかし男が女を好きになるのも、女が男を好きになるのも本能的な欲求である。
 
 同性愛者というのはその本能を上回る何かがそれまでの人生であったか遺伝子以上のレベルで本能が壊れてるのではないか。
 動物ですら同性愛、というか同性同士の性交は認められているし、俺としても別段同性愛を否定するつもりはない。
 
 例えば戦国時代からこっち、男性同士の同性愛は非難される類ではなかった。
 現在の同性愛忌避の感情は明治時代に諸外国の影響を受けた事が大きい。
 しかしそういう時代であってすら普通は男は女を、女は男を好きになるのが当然であり、社会常識であった。
 でなければ社会というより人間という種そのものが維持出来なくなってしまう。
 個人的には同性愛は数が増えすぎた人間という種に対する調整だと思っている。
 
 
 繰り返すが普通は女は男に惹かれるのが当然である。
 よく男が女の匂いを良い匂いと称して喜ぶが、同性である女から見れば単なる体臭であり良いも悪いもない、正確に言うと良い匂いであっても興奮とは無縁だ。
 そして匂いを感じて本能を刺激されるというのは、ホルモンなどの肉体を維持、構成する要素に依る所が大である。
 また視覚的にも女性が性的魅力を感じるのは男の裸であり、男性が性的魅力を感じるのは女の裸であるのが当たり前なのは、肉体的にそのように決められているからだ。
 勿論同性として羨ましい、或いは勝ったという感情、可愛いや綺麗と思う感情は否定しないが。
 
 実験動物に女性ホルモンを投入しつづければ雌的な行動を取るように、精神は肉体に支配されている。
 そもそも男が女を好きになるのは社会常識や人生観以前に本能なのだから、仮に俺のような阿呆な程有り得ない転生とか憑依とかしても、即座にとは行かないまでもジョジョに、違う徐々に性的嗜好や趣味、或いは立ち振る舞いも変わっていって当然であろう。
 前世では俺はゲイでは、同性愛者ではなかったし高町静香も同様だ。
 であれば俺が同性愛者に、レズビアンになるという事は有り得ない、つか気持ち悪い、ホモもだけど。
 いや他人がどうであろうと口を挟む気はない。
 勿論、そうかと言って今すぐ男と付き合うとかいう気にはならんが。
 正確にはセックスや性的接触をするつもりもさせるつもりもないが。
 なんだかんだ言って横島と遊ぶのは楽しいからな、男友達と遊ぶ方が楽しいのだ。
 まあ友達自体少ないけど、口悪いし目付き悪いしで。

 うーん、怒りや困惑に任せてつらつらと考えてみたが、やはり纏まりがないな。
 何が言いたいかと言うと――
 
「すまんがお断りする。私はレズではないのでな」

「そんなっ!?」

 うん、GW開けそうそう、下級生に告られたのだ、女子生徒だけど。
 久しぶりの学校、という程でもないかも知れんが、やはり高校生の今と社会人の昔とでは同じ1週間でも体感する長さが違う気がするぜ。
 
 五月晴れな晴天の屋上に放課後呼び出されて来てみたらこれだ。
 勘弁して欲しい、いや男に告白されてもそれはそれで鬱陶しいがなんで女子生徒に、ここは共学校ですよお嬢さん。
 まあ女子校がレズの巣窟って訳でもないんだろうけどな。そうであるなら男子校はホモばかりでないとおかしいだろ。

 レズにしろホモにしろ、その手の漫画や小説を見かけるたびに、そんなに同性愛を流行らせたいのかと思う俺であった。
 
 って現実逃避してどうする。
 うーん、泣きだしそうだ。取り立てて不細工という程でも美人という程でもないが、小柄な割にスタイルの良い、男好きのする体型の彼女。
 こういう科白をスタイル抜群な俺が言うのも上から見ているようでなんだかなと思わんでもないが。
 
「そもそも何故、私が同性愛者だと思ったんだ?」

「北川先輩と仲良いですし、横島先輩の告白とか、その、殴り飛ばしてるじゃないですか。
 格好良いなって……」
 
 そんな殴ってるかなぁ? それにしても北川と友達だと同性愛者なら富永とか小林とかみんなレズだろうが。
 それとも特別仲良いように見えたか? そこまでべたべたと馴れ合ってるつもりはないんだが。
 うーん、解らん。

「北川と仲が良いのは事実だろうが、少なくとも私にそういう趣味はない。
 横島に関してはセクハラに対する報復であって別段嫌いという訳ではないからな」
 
「えー? アレを嫌わないなんておかしいですよ」

 ふん、見る目のない女なのだな。
 原作ですら結構な女子に密かにモテていたというのに。
 まあ目立つのは人外か規格外の女性ばかりだった気もするが。

「まあ良い。私は女性と付き合うつもりはない」

 話はそれだけだと一方的に打ち切って屋上を後にする。
 全く……何という無駄な時間だ。

 屋上から続く階段を下りながらぼやく俺。
 どうせならユーノとかエミリオとか閑丸とか、美少年に告白されるなら良いのに。
 TSなんて阿呆な事になって数少ない嬉しい事だよなー、美少年を愛でても文句言われないのは。
 美少年と美少女は国の宝なのだよ、うむ。

 なのは達は深く狭い範囲で付き合うタイプだからなー、つかもっと男友達増やせよと言いたい。
 人の事は言えないか。俺も友達多くないしな。

 廊下に出て教室へ向かう途中、

「む」

 避け――なくても良いか。

「わっ!?」
 
 曲がり角から飛び出てばふっと俺の胸に顔を埋める下級生。
 廊下は走るな、よそ見をするな。
 まあこの程度の衝撃は喰らってから流す事すら簡単だから怪我などしようはないが。
 
「おい」

「はっ!?」

 がばっと顔を上げて俺から距離を取る下級生。
 ちなみに何故解るかと言えばうちの学校は各学年ごとにスカーフの色が違うからである。

「す、すいませんでした先輩!」

「まあ、気をつけてな――それはギターか?」

 そう、背中にギターケースを背負ってぶつかってきたのだ、この女子生徒は。
 俺じゃなかったら怪我してたかも知れんな、これは。
 
「はい! 軽音部です!」

「うちに軽音部は無かったような気がするが?」

「作りました! 正確には復活させました!」

 昔あったのか? まあどうでも良いか。
 
「そうか。頑張ってな」

「はい!」

 すげー緊張してますって顔で応対されてしまった。
 別に取って喰いはしないぞ、全く。
 
 そこで立ちすくんでいる下級生を放って教室へ向かう。
 後ろから先ほどの下級生の声と他の人間が騒ぐ声が聞こえたがどうでも良かろう。
 というかでかい声で人の名前呼ぶんじゃない、全く。
 
「おかー。なんだったん?」

「なに、つまらん事さ。とっとと仕事へ行くぞ」

「ういー」

 教室に残っていた横島に声をかけて鞄を受け取る。
 ちらほらと残るクラスメートを無視して、横島と連れ立って教室を出る。

 うーむ、別に文句がある訳ではないがこれでは付き合ってないと言うのが嘘くさいというのは理解出来るな。
 かと言ってなー、どうも友達作るの下手みたいだし。
 正確に言うと近づいてきてくれないからな、近づけば逃げられるし。
 うう、孤独だぜ、嘘だけど。
 
「そーいや知ってる? 郊外に巨乳専門の服屋が出来るんだって」

 まだまだ生徒がそれなりに残っている廊下を歩く。

「……なんだそれは」

 経営者は馬鹿なのか?
 
「会員制で体型とか審査通らないと駄目やってん」

「それは採算が見込めるのか?」

「さあ? 通販とかも展開するみたいだし、金持ちとスタイル良い美人の多いと有名な海鳴なら成功すんじゃね?」

「ふん」

「静香ちゃんもババっぽい下着はいや――あぐっ!?」

「阿呆な事口走るな」

「いきなり殴らんといて」

「黙れ」

 後で北川に突っ込まれたのだが、こうやって気軽に横島を殴ってるから近寄りがたいんだと。
 そらそうだわな、思い切り納得だわ、くそう。


****


「ユーノ君、フェイトちゃん、明日の予習しよー」

「良いよ、部屋戻ろうか」

「勉強って大変だね」

「外国人のくせに英語苦手って言われちゃうからね」

「大変だな、異世界人も」

「む、ユーノ君とフェイトちゃんの学校生活を聞きたかったんだが」

「あなた、転校生の外国人なんですもの。初日は物珍しさで囃し立てられるだけでしょ」

「そーだねぇ。アルフ助けてとか念話が来る位には大変だったみたいだねぇ」

「骨っこ美味しい?」

「そうなの! みんなユーノ君とフェイトちゃんに群がって大変だったの!」

「まあ、アリサとすずかもフォローしてくれましたし、大丈夫ですよ」

「ユーノ君、フェイトちゃん。なのは達以外の友達も作りましょうね」

「ああ、狭い範囲で付き合うのも良いが、学校行ってる間だけだからな。
 損益関係なく幅広い関係を作れるのは」
 
「たまに分別臭い言い方になるのはなんで?」

「恭也、美由希、忠夫は速く修行に行ってしまえ」

「今日は俺も行こう」

「うへ、師匠が一緒っすか」

「気合い入れないとね、恭ちゃん」

「ああ」

「みんな、怪我しないようにね」

「なのは達も速く勉強終わらせてしまえ」

「はーい。いこー」

「うん」

「うう、英語大変だよ」

 ぞろぞろと部屋から出て行く皆。
 残った俺と母、そしてアルフの骨っこを囓る音だけが残る。
 
「そういえば今週末いらっしゃるみたいね、忠夫君のご両親」

「二人一緒に来られるのか、単身赴任だと聞いたが」

 テーブルに座り二人で顔付き合わせて食後の紅茶を啜る。

「忠夫の親なんだからさぞ変態なんだろうねぇ」

 子犬モードで俺の足下にいるアルフの背中を足で撫でる俺。
 うーむ、毛がこそばゆい。
 
「父親に関しては否定出来んな、ただし敏腕サラリーマンでもあるが。
 有能すぎて飛ばされたパターンだからな」
 
「あら、ご両親の事をそこまで聞いてるなんて。
 やっぱり彼のご家族の事は気になるかしら?」
 
「そういう訳ではないが」

 ……俺の馬鹿!
 ここまで詳しかったらそら興味あっていっぱい訊きましたって受け取られるに決まってるじゃん!
 思いっきり失敗したわ!
 普通ここまで知らねーわ、よく考えたら。
 
「まあ良い傾向よね、恭也も忍ちゃんと付き合うようになって丸くなったし」

「人間味が出てきた、というべぎたな」

 修行僧の趣きがあったからな、アレは。

「貴女も同じでしょう? それは」

「そうでもない」

 そう、俺が俺になったのはついこないだの予期せぬ阿呆なイベントのせいであって、横島のせいではない。
 が、横島のせいでもタイミング的にはおかしくないんだよな、客観的に見ると。
 というかあの朴念仁の修行狂いと同じように見られていたのか、ショックだ。
 いや俺に、今の高町静香になる前なんだろうけどさ。

「まあ良いわ。先にお風呂戴くわね」

「ああ」

 含み笑いムカツク!
 しかし今は言い返せばそれだけ自分に跳ね返ってくるし耐えるしかない。
 あれだけやかましかった居間が今はアルフの骨っこを囓る音しか響いていない。
 
「まー嫌な奴じゃないけど、格好良くはないよねぇ。やっぱりザフィーラみたいにがっちりしてないと」

「お前の男の趣味はよく分かった」

 ぐりぐりと背中を足で撫でてやる。
 きっとこいつは上腕二頭筋がどうのとか言う奴なのだな、きっと。
 最近は意外と締まってきてるんだけどな、横島も。
 あの修行馬鹿どもの修行は並じゃないからな。

「そーいや美由希はつがいはいないのかい?」

「本人に言うなよそれ」

 うちの兄妹揃って恋人がいると想われてるのか、美由希以外。
 俺だって別に横島だのアキラだのと付き合ってる訳ではないんだが、口には出すまい。


****


「では授業を始めちゃったりしますの」

 相変わらず日本語がバグってるな、ラミア先生は。
 この世界じゃ人造人間って訳でもないんだと思うんだが、そうでもないんだろうか。
 うぐぅっとか言うキャラ付けする痛い人なんだろうか。
 ちなみに担当は英語だ、姉貴分に当たるヴィレッタ先生と同じ。
 エクセレン先生と三人、ハイスクール時代からの義姉妹らしい。スールとか言う奴か?
 なんで日本来たのかね? エクセレン先生はまあ男――南部先生を追っかけてきたでも納得出来るが。

 退屈な英語の授業を聞き流しながらくそったれな程青い空を眺める。
 英語で喧嘩オッケーなサラリーマンな俺の知識を持ってすれば学校の英語など聞き流してすら満点は固い。
 数学や科学・化学などの方がよほど面倒だな、公式だの覚えてなきゃ何も出来んし。

 ああ、今日はこの後体育だ。胸が無駄に揺れるバレーだ。
 つーか胸が邪魔でレシーブの形を作りづらいとか阿呆か。
 そしておっぱいを机の上に乗せるよう腰をずらして背を丸める。
 とても楽である。はああと思わずため息が出る程。
 巨乳でも爆乳でもなんでも良いけど自分がなるもんじゃねぇなぁ。
 
 GWが空けて、暫くすれば梅雨、そしてプール開きか……
 
 はぁぁぁ……
 
 前世では好きだったんだけどなー、スキューバとかもう一度行きたいと思ううちに死んでしまったようだが、水の中というのぱ良い。
 
 良いがなー、この『女という性別』がなー。
 じろじろ見られるの必至だわハミ乳ハミ尻に気をつけないと行けないし。
 ………というかスク水着られるのか? バランス良くない程度には胸が大きすぎるんだが……
 後で北川に相談するか。
 あいつは見られるって事に嫌悪はあんまなさそうだなー、男はカボチャってノリなのか告白する奴もいるらしいが全て玉砕だし。
 同性愛なんてキモいだけだと思うんだけどねぇ、他人に強要するつもりはないが。
 
 あーそーいや今週末はグレートマザー来襲だった、メンドイ。
 敵対されるのも認知されるのも面倒だ嫌だ。
 逃げたら追ってきそうだしな、逃げても仕方ないが。
 そういや『両親』が来るんだっけ、大樹? だったっけ、にセクハラされんよう気をつけねば、主に横島の父親の命の心配的な意味で。
 
 横島本人は親父も恭也もそれなりに認めてるから良いけど、その父親が俺にセクハラなんぞしたらアレだ、修羅が顕現するわ、海鳴受胎してしまう。
 まあその前に両方の母親が鬼になりそうだが。
 しっかし本人も色んな意味で規格外だが、両親もなぁ。
 特に父親だ、原作じゃ普通に令子にモーションかけてさ、息子より年上とは言え殆ど娘みたいな年なのにね。
 俺だったら考えられんわ、息子と雇い主の関係が壊れるとか全然考えないんだもんねぇ。
 
 ま、ギャグ漫画というかコメディというかそういうのだったからだろうけど。
 あのおっさんで印象に残ってるのはアスタロトの宇宙改竄機で再生悪魔いっぱいの時に百合子かばって傷だらけになってた一コマなんだよなー、そういうトコは親子なんだなと妙に印象に残ってる。
 
 などとボーっと外を見てたら当てられてしまった。
 尤もバイリンガルに英訳も英作も問題がある訳ではない、ささっと答えてまた空を見る。
 校庭ではサッカーを体育の授業でやっている。
 静岡だからでもなかろうが割とレベルは高いようだ。

 っと。
 紙縒が隣の横島から渡された、てか机の上に置かれた。
 視線を送ると恭也の前に座る忍かららしい。

――なにしてんの?

 放っとけ。
 再び空を見る。背中の方、少し距離の開いたトコから恭也の苦笑する気配。
 イタリア語でも習おうかなぁ。海外修行はやはり心惹かれるよなぁ…パティシエとして箔が付くし。
 まー箔と言えば東京の帝国ホテルのパティシエ長も凄い箔だよな、うちの母親だけど。
 ついでに一年で辞めたけど。最年少かつ最短記録だそうだ。
 
 しかしま、学生ってのは幸せな身分だな。
 決してブラックって訳ではないが死ぬ程忙しかった前世の死ぬ間際を思えば、バイト程度に放課後を拘束されるのなんぞ気楽なもんだわ。
 なんせ貯金を使う暇がなかったからなぁ……ああ、死んだ後のお金はどうなってしまったのか。
 どうにもなりはしないのは解ってるけどね。
 
 あー、免許取り直し――もとい、免許取らないとな。
 前世はMTで取ったけど、ATでも良いよなぁ、前世の教習所以外でMTを一度も触ってないし。
 電気自動車も良いなぁ、後ろにライキ乗せておけばバッテリー切れはなさそうだ。
 
 恭也も免許は必要だろうし誘ってみるかね、幸いな事に俺の貯金もその程度はあるし、年齢も19歳なら問題ない。
 ついでに月村に電気自動車でも作らせるかね?
 
 なんつうかなのはもそうだが、金持ちな兄妹だな、うちは。その割に質素だけど。

 あ、授業が終わった。
 やれやれ、次は体育か。


****


「シャワー浴びたい」

「あるわけないでしょ」

 ウェットティッシュで脇やら乳房の下やら谷間やら、汗の溜まる場所を拭う俺と忍。
 忍は自分から人を遠ざけてるのは解るが何故俺まで遠巻きにされねばならんのだ。
 目付き鋭いからって差別はいかんぞ、全く。
 
 それなりに広い更衣室でそれぞれ制汗剤だの何だのと使う為異様な匂いが漂ってる。
 しかし窓開けたら流石に怒られるだろうなぁ……
 部活用にはシャワールームあるんだが、体育の授業には解放されないのだ、時間的な意味で。
 
 そんな事を思いつつ運動用のがっちがっちに固めるブラを外す。
 ぽにょんっと圧迫から解放された胸が揺れて、空気に触れた開放感が心地よい。
 運動する時はコレ付けてないとマジで痛いからなぁ……全く。
 
「次は昼飯か」

 普通のブラを付けて胸を押し込みつつ、忍とだべる。
 ハミ乳がなー、かと言って機能性だけ優先するとババ臭いのしかないし。

「その口の悪いの直したら? 恭也も嘆いてたわよ」

「考えておこう」

 こちらも汗を拭き終わったのか、ウェットティッシュを片付けて制服を着始める。
 周りをちらりと見渡せば概ね着替え終わったようだ。
 しかしま、女なんて男の見てないトコじゃアレだってのがよく解る光景だこと。
 異性の同性愛に幻想を抱くのはなんなんだろうねぇ。
 
「今日のお昼ご飯は何かなー」

「たまには自分で作れ、全く」

 ちゃんと忍からは弁当代ももらってるし横島は給料から差っ引いてるので問題ないのは確かなのだが。
 恭也と忍の二人前、横島、俺、美由希の分、そしてなのはとフェイト、ユーノの分と朝は大忙しなのだ。
 まあ要領良くやれば大した手間ではない、特になのはとフェイトが手伝ってくれるようになったし。

 どうもユーノの弁当に自分の作ったおかずを入れたくて仕方ないようだ。
 ちなみに恭也と忍、なのは達三人はおかずが一緒、ごはんが人数分というもはや夫婦かというお弁当だ。
 もはや何も言うまい。何という独占欲。
 忍は兎も角、なのは達には一言言う必要がありそうだ。
 あまり独占欲が強いと男は鬱陶しがるからな、ソースは俺。

「さ、行こう」

「うむ」

 スカートのホックを止めて、体操着入れを引っかけ更衣室を後にする。
 教室で忍と別れて昼時の雑然とした廊下を渡り隣の隣、北川の教室へ。つまり鈴木先生の教室へ入る。
 
「あら」

「おう」

 シュタっと手を挙げ、北川の隣の席に座っていたチャラいのを睨むと快く席を譲ってくれた。

「こ、こんにちわ高町さん」

「――こんにちわ、鈴木先生」

 マジで気付かなかった。
 ちょうど入ってきた扉からだと北川の体越しで見えなかったんだな。

「飯喰おう」

「あら、高町のお弁当をご相伴頂けるのね」

 綺麗に笑う北川。これでレズじゃなきゃなぁ……
 まあ別に俺が対象というわけでもないから良いんだが。

「先生もどうぞ」

「あ、そんなあたし――」

「あ?」

 はっきり言えはっきり。

「すいません! 頂きますぅっ!」

「あんまり先生脅しちゃ駄目よ?」

「別に脅してない」

 目が思いっきり良いモノ見たって感じで言われてもな。
 子犬のようなおびえ方をされても、こっちが困る。
 普通にしてるだけなのに怯えられるとかもうね。
 まあそれを狙って北川は呼んだんだろうが。

 通称ミカクラスの連中もそれなりにこっちをちらちら見てるが、気にもしてないのは末武だけだな。
 眼鏡の何とか(名前忘れたというか多分知らん)は別の意味で気にしてるようだが。アレは漫画用紙か?
 
「そういえば先ほど聞いたのだが」

 逃げ出しそうな雰囲気の鈴木先生の前にずらっと北川に依頼された弁当三人前を広げる。
 おおっと先ほどとは一変して視線を食い付かせる鈴木先生。

「何を?」

 弁当を広げるのを手伝いつつ相づち打つ北川。

「郊外に巨乳専用の服屋が出来るらしいぞ」

「……便利になるのは否定しないけど、儲かるのかしらね?」

「横島の話じゃ採算取れる程度には儲かるらしいがな」

 あいつの商才は親譲りだからな。

「いただきます――先生もどうぞ」

「いただきます!」

 餌を与えられてない子犬のような勢いで食べ始める先生を、恍惚の表情で見とれている北川。

「開店したら一緒に行こうか」

「ええ、良いわよ。ミカ先生も一緒にね♪」

「ええ?!」

 本当に好きなんだなぁ……よく解らんわ、ホント。
 遠巻きにしている連中が何か言っていたのでそっちを向いて殺気を飛ばす。
 ひっと悲鳴を上げて黙ったのを見てから弁当に向き合うと、北川が苦笑していた。

「大人げないわね」

「大人ではないんでな」

 まだ19歳ですから。

「美味しい!」

「ほら、ミカ先生。ほっぺにご飯ついてますよ」

 嬉々としてご飯を取って食べる北川。
 ……ちっとも心躍らんな、やはりレズは駄目だ。
 他人がやる分には構わんが。
 
 ……いかんな、告白なんぞされたせいか思考がそればかりだ。
 それにしても先ほどまで笑える程ビビってた先生が飯を食べ始めると、何という幸せな笑み。
 北川じゃないがこれは可愛いと思えるな、三十路だけど。
 なのは達に同級生扱いされるけど。
 ま、料理人としては光栄と言ったところか。
 

****


「転校生だと?」

「そ。うちのクラスにねー」

 美由希と一緒に柔軟。
 週に二度位はこうして夜間訓練に俺も参加する。
 運動不足は駄目だ、せっかくスタイルも良いのだしな。
 側で腹筋したり背筋しようとしたりするライキの可愛さよ。
 
「女の子なんだけどね、名前がちっと古風なんだ」

 体を伸ばしながら、世間話。
 恭也と横島は奧の方でバチバチやりあってる。
 実力的にはまだまだだが、意表を突くのが兎に角上手いので恭也も気が抜けないらしい。

「ふむ?」

「氷室キヌって言う子。横島先輩の事訊かれたけど、静ちゃんの事も話したよ」

 ――なん、だと?


****

ルシオラだと思った? 残念っ! おキヌちゃんでしたっ!!

まあ、ライバルになれるかどうか……
原作でも良いトコまで行ったのにルシオラに出番喰われてフェードアウトな印象ですからねぇ。
とは言え幽霊になった後も一緒にいる位縁は強いんでしょうが。

次はグレートマザー登場です、多分。
余計な電波を受信しなければ……



[14218] 横島が爆乳音頭と静香を見比べています。コマンド?
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/06/08 12:11


「はぁぁぁぁ……」

 帰り道、翠屋へ向かう途中で、横島の盛大なため息。

「なんだ、その大仰なため息は」

「これから店行ったらお袋がいるかと思うと……はあああ……」

 まあ気持ちは分からんでもないが。
 貧乏ではあるが気ままな一人暮らしから惚れた女の家に居候という幸運な状態なのだ。
 下手に親に突っつかれてこの状態がご破算になるのが怖いのだろう。
 
 俺としては別にどうでも良い事だが。
 居候の件はもしかして咎められるかも知れん――異性と同棲的な意味で――が、バイトの方は横島の境遇ならしない方がおかしいし、成績だってむしろ上がってるのだ。
 士郎が怖いからである、うちの親父殿は自分が中卒なのを気にしてか、子供達が学業を怠るのを酷く嫌がるのだ。
 原因は隠しているが、原作を知っている俺は今までの士郎の態度や死んだ一族に対する想いからそれを推察している。
 
 簡単に言えば劣等感コンプレックスと家族愛に自縄自縛になってしまったのだろう。
 なにせ自分で言う程ではないがそれでも才能がないとされる父に対して、実の弟不破一臣と義理の弟御神静馬が揃って一族始まって以来の天才と持て囃される程の強さの持ち主だったのだ。
 そして二人とも兄と本気で慕ってくれる、ついでに妹の美沙斗は純情を越えて娘殺そうとする程、静馬に対してヤンデレさんである。
 ゼロ魔のガリア王族じゃないが、これでは少年だった父の心が歪まない方がおかしいのだ。
 そして年が重なるにつれ荒れてついに放浪の旅に出て、紆余曲折して俺と恭也が産まれた。
 こんな人生歩んでれば、子供達の教育に関しては一言言いたくなるのが当然である。
 人間、誰だって自分が犯した失敗は繰り返して欲しくないものだ、それが子供ならなおさら。
 
 中卒といえば母桃子もそうなのだが、アレはイタリアだのフランスだの渡り歩いてきた猛者なので別格だろう。
 
 という訳でなのはが大学までエスカレーターな聖祥に入れたのに、原作じゃ中学で辞めてしまうというアレな事になってさぞがっかりしただろうなぁ。
 ま、うちのなのはにそれはなさそうだが、中学からは女子校になる聖祥には行かないで共学の風中に行くかもな。

「とりあえず先に言っておこう、さらば忠夫」

「ひどっ!?」

 生活環境が改善されて、成績が上がり、バイトという社会活動もまともに初めて、身体も鍛えられている。
 これだけ揃えば、別段余所の家に同居する事自体を文句言う程、頭が固い母親ではないハズだが。
 うちは女性が多いからなぁ。そこだよね、問題は。
 
 割と許容されてるのはなのはに手を出す程倫理観が欠如してる訳でもなければ、桃子に手を出す程無謀でもないからだ。
 むしろなのはとフェイトに関しては恭也が妬く程には仲が良い。
 Wiiとか一緒になって遊んでると精神年齢疑うわ、滅茶苦茶上手くて俺も勝てん。
 関係ないけどレースゲームで身体が動くなのは達が可愛い。
 
 そして美由希の訓練になると考えてるからだろう、父が放置しているのは。
 気配を殺すのが何より上手いのだ、この馬鹿は。
 恭也も横島が来てから気配を察知する能力が確実に上がってる、なんだかんだ言ってシスコンだからな、あいつは。
 どう考えても異常だ、俺達不破の人間から気配隠して行動出来るなんて。
 ま、横島はいざとなるとヘタレるだろうから最悪の心配なんてしなくても良いから俺は気楽だが。
 
「そういえば転校生に告られたらしいな?」

 こないだは俺、今日は横島が呼び出されたのだ。

「嫉妬してくれないのね」

「嫉妬なぞするか。で、断ったのか?」

「んにゃ、断るとか以前にこう……前世がどうのとか幽霊があすたろうがどうの言ってて。
 あ、これは電波だ。
 そう思って、逃げた」
 
「………そうか」

 何らかの形で、原作かそれに近い記憶を持ってるんだろうか?
 横島の周りに男連中以外は見あたらないからチャンスだと思ったのか、単純に会いたかったのか。
 
 しかし初っぱなからそんな出会い方しちゃ駄目だろおキヌちゃん……
 横島も同じような記憶持ちだと思ってしまったんだろうか?
 だが美由希は横島に関してどういう話をしたんだ?
 俺に惚れてる云々は伝えたのかどうか。焦りか?
 
「静香ちゃんには負けるけど、可愛い子だったんすけどねー。
 ああいうのを残念美人っつーんすかねー!
 折角美人に告白されたのになー! 静香ちゃんさえいなきゃ電波でも受けてたけどなー!」
 
 チラっとこちらを見る横島。
 ハっと鼻で笑っておいて呟く。

 明らかにがっくりした風を装う横島を放って歩を早める。

「……そうか」

 知らぬ間に、小さく呟いていた俺。
 残念美人扱い。哀れだ……

「まっ! おっぱいは静香ちゃんの圧勝だったけどねっ!」

「往来で阿呆な事抜かすな」

 ゴンっと鞄を振って、胸に伸びてきた手を払う。
 油断も隙もない奴だな。

「いてっ――今日はアルトリアちゃんと衛宮の奴だっけ」

「ああ」

 うーむ。
 仕事に修行に学業に、全てをそれなり以上にこなしてる横島だが、何言われるのだろうかね?
 セクハラさえなきゃ完璧だがセクハラしないと横島じゃないよなぁ。
 
 
****


「ふへ~~……疲れるっ!」

 厨房の入口と対面になってるバックヤードの入口に寄りかかってペットボトルを煽る横島。
 その表情は確かに気疲れしていた。
 ま、自分の母親が客として来ているとなれば当然か。
 
 翠屋に着くと既に横島百合子――旧姓紅百合子さんが陣取っていた。
 どうも、紅姓時代、つまり伝説のOL時代に護衛をした事があったらしい父と昔語りをしていたのだ。
 当初は横島姓だった事もあって、忠夫の母親が紅百合子である事を父の方は気付かなかったが当然百合子さんは気付いたので、不破ちゃんならとりあえず問題なしと預けたらしい。
 
 当然預かる側として主に母桃子が横島の成績や教師や俺、恭也から聞いた学校での生活、翠屋での仕事ぶりや高町家での態度などそれなりに細かく報告し、横島の給与明細も報告していたそうだ。
 その上で横島大樹の部下にも色々とこちらの事を調べさせて殆ど差異がないと解ったので、このたびナルニア支社の営業成績が爆上げした事の報告を本社に出す為に帰国予定だった大樹にひっついて、わざわざ直接お礼を言いに来た、というのが百合子さんの言い分である。
 聞く限り、少なくともムリヤリ翠屋を辞めさせるだの高町家から引っ張り出すだのはなさそうだ。
 
 筋は通ってるしね。
 どうも母とはメル友で俺の事もそれなりに知っているらしく、見透かすような目で微笑まれた。
 
 こええええ!!
 
 というのがその時の感想である。
 
 とりあえず厨房に引っ込んで、外はアルトリアと横島、美由希で回している。
 夕方なので帰りのOLさん狙いでアルトリアと横島が外で販売しているが、意外とアルトリアが人気なのだ。
 曰く本当に美味しそうに食べた感想を力説してくれるだそうだ。
 
 ま、売れればなんでも良いわ。

「静香、休憩入って良いわよ」

「了解」

 生クリームのボウルにラップを掛けて冷蔵庫へ放る。
 
 狭い廊下に横島と二人でペットボトルを煽った。
 並んで座ると流石に狭いが、なんとか人一人は通れるか。
 
「で、外はアルトリアだけか?」

「騎士の名にかけてとか言ってたよ」

 …何があったんだろうか。

「ま、授業参観じゃないが疲れるわな」

 親の前で働くとか拷問だよね、恥辱系の。
 
「もーね! 声かけてこないだけマシだけど視線がね!」

 思い出すのは原作のガンの飛ばし合いだ。
 神通根を通してバリバリ電撃のようなエフェクトが出てたしな……ありゃ怖い。
 
「まあ頑張れ」

「ひどっ」

 ペットボトルを横島に押し付けて休憩終了。

「お前も休憩終わりだろ」

「ういー……あーもう帰ってくんねぇかなぁ…」

「……今日はうちに泊まる予定なハズだが? 親父さんも来ると仰ってたぞ」

「うえぇぇぇぇ!? 勘弁しろよマジで……」

 頭抱えてしまった横島を放って厨房へ戻る。
 気持ちは分かるが如何ともし難いしねー。
 他人事だし?
 
 いやだってさ、雇い主はうちの両親だし同居認めてたのも両親だし、俺自身は友人程度の同居人だし。
 原作の――こういう言い方もいい加減アレだが、兎も角原作のおキヌちゃんと違って別に秋波出してる訳でもなきゃ美神さんのようにツンツンしてる訳でもないしね、目上の人には礼儀正しくですよ。
 目を付けられるような事はないのだよ。
 

 と思っていた時期が俺にもありました。


****


 どうしてこうなった?!
 暮れ泥む町並みを、商店街を歩く。
 いつものように荷物持ちの横島を連れて、八百屋で野菜を、魚屋で魚を購入し酒屋で家に届けるよう依頼して。
 そう、いつものように行うつもりだった。

「忠夫お兄ちゃんは昔から忠夫お兄ちゃんなんだねー」

「なのは、その言い方はちょっと……」

「いいのよ、昔からあの馬鹿息子は宿六に似て馬鹿ばっかりでねぇ」

「宿六?」

「旦那、夫って意味だよフェイト」

 翠屋でお茶していた制服姿の三人をお供に、晩飯のおかずやら朝食の準備やらの為買い物に出かけた俺。
 勿論、三人が着いてくるのは想定内、百合子さんが着いてくるのが想定外だ!
 
「ユーノ君は物知りね?」

「うん! ユーノ君、色んな事知ってるの!」

「英語喋れるんだよ、凄いよね」

 ……フェイトの外見で喋れない方がおかしいからな、フェイトが悪い訳ではないが。
 
「なんなんすかねー、これ」

 子供達ときゃいきゃい言ってる百合子さんを背中に感じながら、横を歩く横島がぼやく。
 
「知るか」

 ぼやきながら歩いて着いた八百屋の前。

「ラッシャイ! おお、高町んトコのねーちゃんか! 今日は妹さん達も一緒かラッシャイ」

 今日も八百屋さんは元気だね。

「ああ」

 店先に並んだ野菜を一通り見渡す。
 仕方ないが野菜は高いんだよなぁ、うーん。
 春巻き、ロールキャベツ、グリンピースや空豆、エンドウ豆か。
 豆ご飯でも作るかね。
 青物と言いつつ緑なんだよねー、何故か。
 多分色に対する言葉が変遷した結果なんだろうけど。
 
 青と言えば原色の青色してる食い物は日本人にとって基本的に喰う気にもならない色だけど(例:ポーションで炊かれたご飯)アメリカだと『美味しそうな色』らしくて、ショートケーキの色が青、クリームもスポンジも真っ青なケーキとか普通にあるんだよね。
 つーか向こうのケーキはカラフル過ぎて引く。
 逆に『黒』は向こうでは『不味そうな色』らしくて、海苔巻きとかも逆巻きにして見えないようにとかするらしい。
 
 この話を知った時はアメリカ人と飯喰える気がしなくなったもんである。

「今日は菜の花が入ってるぜラッシャイ」

「なのはが?」

「菜の花だよ。黄色い花を咲かせる、食用にもする花」

「わたしの名前は、お母さん達の思い出の、菜の花畑から取ったんだって!」

 行儀良く店先の商品に触らないようにしながらきゃいきゃい騒ぐガキどもと、それを後ろからにこにこ見守っている百合子さん。
 なんだこのプレッシャーは?
 睨み付けられてるでもないんだが、妙に圧迫感感じるぜ……

「ほー、ロマンチックやねぇ、桃子さんには似合うけど」

「うちの親父はなぁ……
 お前達、新しいお母さん欲しくないか?! 欲しいと言ってくれぇ!(棒)
 と私らに泣きついてくる奴だからな」
 
「……対応に困るっすよ」

「ぷっ! 不破ちゃんがそんな事言ったの!? これは良い事聞いたわ」

 うーむ、語尾に草でも生やしそうな勢いで笑われてしまった。
 アルのおっさんに出されたデザートを毒味のつもりで完食しそうになったりな。
 よく考えると割とファンキーな親父だ、SPだの古流剣術の武芸者のくせに。

「新玉葱も美味しいぜラッシャイ」

「そうだな、玉葱とキャベツ、アスパラと菜の花をくれるか」

「静香お姉ちゃん苺食べたいの」

 鞄を持っている反対側の腕にぶら下がるように抱きついてきたなのは。
 ま、可愛いおねだりだし、構わんか。

「では苺も3パックほど頼む」

 苺ジャムでも作りますかね。

「ラッシャイ!」

 なんで魚屋だの八百屋だののおっさんは声がでかいだろうね、全く。
 ぶっとい指の割にてきぱきと包んで纏めていくおっさんを横目に視線をずらす。
 
 やはり見られていた。
 にこりと微笑まれたが、これはいったいなんだろうか?
 俺は美神令子のように虐待混じりの躾けなんぞしてなければ、おキヌちゃんのように横島に懸想している訳でもないのに。
 まあ、悪意も殺意も感じないから問題ないっちゃないが、見られてるってのは神経すり切れるぜ……
 
「ほれ兄ちゃん! 落とすんじゃねーぞラッシャイ」

「落としたら飯抜きだっての」

「おば様の前で笑えない冗談を言うな」

「いいのよ、その程度のお使い出来ないんじゃ、穀潰しだものね?」

「はあ…」

 妙に理解されてるっつーか、受け入れられてるっていうか。
 気に入られるような事はした覚えもない、逆もないが。

「次はお魚屋さーん」

「お魚嫌い……」

「好き嫌いはいけないよフェイト」

 フェイトのは食べられないという意味ではなく死んだ魚の目が怖い的な嫌いなんだが。
 魚捌くの見せて練習させようとしたらご覧の有様だよ。
 食べる分には問題ないらしいけどね。
 こういうのはどうやって慣れさせれば良いんだろうね?
 ユーノに美味しそうに食べさせるか? その上でなのはの作った刺身が食べたいとでも言わすか?
 負けず嫌いだからな、意外と。
 
「なのはちゃんはお魚捌けるのかしら?」

「出来るよ! いっぱい練習したの!」

 事実だが割と骨に身が残る程度ではある。
 小学生3年なんだからそれでも十分凄いとは思うが。

「まあ、凄いわね」

「……あたしも練習する」

「フェイトちゃんも頑張ってね」

 百合子さんに頭を撫でられ、猫のように頬をゆるます二人。
 
 ……解ってるし納得もしてるが、どうしても原作なんてものと比べてしまうからか、あの苛烈なイメージとのギャップが凄い。
 普通に、小さな子供に優しい主婦にしか見えないし。
 
「静香お姉ちゃんは料理上手なんだよ! あたし達の先生なの!」

「うん、静香は料理上手」

「へぇ、どうなの? 忠夫」

「あん? 静香ちゃんの料理は旨いぞ? 少なくともそこらの料理屋なんて相手じゃねー位には」

「毎日やってれば、それなりにですよ」

 野菜を抱えながら歩く横島。
 どうでも良いが、なんか商店街中から注目されてる気がするぞ、自意識過剰か?

 親子連れには見えないハズだ、うちの両親は商店街の顔だし。
 うーむ、百合子さんの意識が俺からちっとも外れねーし、なんだってんだ。
 
 連れ立って歩いて魚屋『魚安』に到着。
 
「ラッシャッーセー! あ、高町の姐さん、よーこそ!」

 いつもながら不思議な店だ、フグが宙に浮かんで客引きしてるんだからな!

「ああ」 

「こんにちは! ハチちゃん!」

 なのは達に挨拶を返すフグを横目に店を眺める。
 
「あら、いらっしゃい、静香ちゃん」

 耳の長い、所謂エルフ耳の奥さんが声を掛けてくる。
 気にしたら負けだ負け。

「店長の奴はいないのか?」

「へい、奧でマグロ捌いてまさぁ」

 フグが喋る事に誰も、商店街の誰も気にしないという理不尽!
 今更だけどな!
 百合子さんも気にしないで店の中を眺めているし。
 日本の魚を見るのは久しぶりとの事、然もありなん。
 
「そうか。今日は何が入ってるんだ?」

 喰いたい物が特にないなら店の人間に訊くのが一番だからな。
 面倒臭くないし。
 何喰いたい? という質問に何でも良いと答える奴は皆死ねば良いと思うよ。

「今日は大将が奮発してマグロのでかいの買い付けてきやしたから、それが一番でげす」

「マグロ、良いわねぇ」

 ふむ、ナルジェリアだったか。
 そっちで海産物は食えないんだろうか?
 
「ではマグロの中落ちと、中トロ、赤身を適当に見繕ってくれ。
 ふむ、カブトは買えるか?」

「売れやすけどいーんでやんすか? 負けるのも限度あるでげすよ?」

「構わん」

「なるほど、静香ちゃんは口が悪いわね」

「そうなの! 直すよう注意してるんだけどなかなか直らないの!」

「口調ってのはなかなか直るもんじゃないし、静香さんも敬語の時は普通に話せてるんだから気にする事はないと思うけどね」

「ああじゃなきゃ静香ちゃんじゃねーし」

「ふむ」

「おば様も何か買われますか?」

「いいわよ。お土産はうちの宿六が用意してるでしょうし」

「では。ハチ、さっきのと鯛を一匹くれ」

「大盤振る舞いっすねー」

 横島の呆れた声。
 
「お前のご両親の事だろうが」

「あらあら、そんな気を遣わなくても良いのに」

「いえ、滅多に出来ない帰国ならば、おば様には美味しい物を食べて欲しいですから」

 これは本当。
 少なくとも俺は無理だしな、ネットどころか水道すらあるか怪しいような場所へ行く、しかも連れ合いの為に。
 今の俺には出来る気がしない。
 まあ今の俺は色恋だの結婚だのというのは遠いイメージしか持てないからかも知れんが。

「あら、良い子ね」

「もうすぐ二十歳ですが……」

「私からしてみたら子供でしょう?」

 くっ、なんだこの溢れんばかりの余裕は。
 というか何で俺がプレッシャー感じなきゃならんのだ!
 
 まてまて、落ち着け。
 今までの俺の対応は何も間違ってない、最悪でも無礼ではないハズ。

「はい、おまけにシャコ入れておいたわ」

「すまんな」

「…ふむ」

 エルフの奥さんから魚の包みを受け取り横島に渡す。
 一抱えもあるそれを軽く持ってバランスも崩れない横島の姿に百合子が眉を上げた事に誰も気付かない。

「横島さん、手伝います」

「忠夫お兄ちゃん手伝ってあげるね」

「ちょっと重いね」

 それぞれ野菜や魚をコンビニ袋のようなものを分けてもらって、横島から荷物を奪い始めた。

「良い子達ね」

「自慢の妹達ですから」

 これは本当。
 正直賢すぎるだろってのはあるが、概ね問題ない程度に自慢の妹達である。

「解ってると思うけど、シャコはさっさと食べるか茹でるかしてね」

「ああ、ありがとう」

「ありがとーございましたっ」

 ガキどももお礼を言って、帰路へ着く。

「今日は宴会だねー」

「うん、ご馳走楽しみだね」

「あ、静香さん、湯霜作りって作れますか?」

「前作ってなかったか? あと肉は良いんすか?」

「鴨肉が冷蔵庫に突っ込んであるハズだからそれを使うさ」

「かもなんばーん!」

「オレンジソースがけー」

「僕はコンフュが良いですね」

「贅沢言ってんじゃねーや」

「鍋とかの方が良いだろ、人数多いしな」

「お鍋っ!」

 多人数で喰う事が前提な鍋はなのはの好物の一つだ。
 一歩引いて見守ってるのか監視してるのか、百合子さんの意識を感じながら夕暮れの町を帰る俺達であった。
 

****


 小さめに丸めて葱も混ぜ込んだ鴨のつくね、その上から海苔で包み鴨蕎苔団子完成。
 鴨肉自体に濃い目に下味も付けてるので普通におかずにも肴にもなる。
 こういう創作料理とも言えない小料理は良いなぁ、心が洗われるぜ。
 
 鯛やらマグロやらを片端から永霊刀で斬り飛ばし刺身に汁物に煮物に焼き物にと作りまくると、味に感動した大樹が勢いこんで口説いてきたのだが、うちの父と百合子さんと横島に吹っ飛ばされた。
 酒入ってたから自制心飛んだかね? それとも持ちネタのつもりか?
 年下趣味のなかった俺からしてみれば、40にもなって女子高生とか手を出す気持ちが分からんのだがなぁ。

 まあ料理自体は百合子さんにも大好評だったので良しとする。
 残った食材をヅケにしたり汁物に放り込んだりして、後片付けをして。
 横島と美由希に洗い物を任せて一休みである。

「あの、おば様、プリン作ったの」

「あら、フェイトちゃん凄いわねぇ」

「むー! なのはも手伝ったのにその言い方は駄目ー!」

「まあまあ。ほら、速く食べよう?」

「なのは、お父さんになのはの作ったプリンを食べさせてくれ!」

「良いですなー娘さんというものは! 母さんうちも頑張るk――ぐべらっ!?」

「あ・な・た? 子供の前で何を言うのかしら?」

 カオスだ。

「……親同士の仲が良いのは良い事だな?」

「まあ仲が良い割に弟とか妹は出来なかったみたいっすけどね」

「うちも不思議よね、なのはの後に一人二人生まれてもおかしくないのに」

 洗い物しながら器用にセクハラしようとする横島と身のこなしだけで躱し続ける美由希。
 馬鹿らしい事に割と高等技術の連発だ、する方も避けてる方も。
 洗い物が終わればぶっ飛ばされるんだろうけどな。
 
「そうだな、弟欲しかったな?」

「ユーノが来てくれてホント嬉しいよね」

「可愛がり過ぎちゃうん?」

「横島先輩だってなのはとフェイトちゃん構い過ぎだと思うけど?」

「そうかぁ?」

「こいつは中身が子供だからな、子供に好かれるのさ」

「ひどっ!」

「父さん、持って来たぞ」

「おお! ではくれな――もとい、百合子さん、大樹さん、これから忠夫君の修行の様子をお見せしましょう」

 何処からかDVDを持って来た恭也とビデオデッキの前でガチャガチャしている親父。
 どうでも良いがいつまで名称は『ビデオデッキ』なんだろうな?
 まあ親父の世代にしてみればいつまで経っても『ファミコン』なのと同じなんだろうが。
 
「……いつの間に撮ったん?」

 洗い物を終えて、俺が座ってるソファーに腰掛けてくる横島。

「なのはの魔法」

 もはや戦闘とは無縁の所でチート成長しているうちの妹である。
 フェイトも家電製品を手から出す電気を信号レベルまで出力絞り、スイッチ類に触れずに操作するとか凄いんだか凄くないんだかよく解らん事して遊んでるし。

「いつの間に……」

「一度術式を組んで魔力流した後ならレイハが自動操縦出来るらしいからな、ビットだかファンネルだかは」

 それなりに大きな液晶プラズマテレビの前のテーブルを囲むように座る大人達と子供達。
 それを離れた台所のテーブルに座って眺める高校生組。
 
「忠夫、珈琲淹れてくれ」

「俺も頼む」「私も御願いね」

「うい」

 暗いハズの夜中の訓練、或いは早朝の訓練を基本的には恭也を写し、その後横島を写す形で画面が流れていく。
 これは実力差を比較する事によって、時間が経つにすれそれなりに横島が成長しているのを分かり易くする為だろう、ユーノの入れ知恵かな?
 横島の淹れた珈琲を飲みながら俺達もテレビを見続ける。
 恭也や美由希も比較対象として写されるが、改めて横島と比較される事によって気付く事もあるのか予想よりも真剣に見ていた。
 
 興味がないのが俺と横島である。
 今更自分の稽古姿見ても恥ずかしいだけなのだろう、だからお前は阿呆なのだと言わざるを得ないが。
 
 看取り稽古ってのは自分の姿見ても十分有用なのだ、馬鹿め。
 勿論俺は強さなんぞ興味ないので、どうでも良い訳だが。
 
 フェイトの所から寄ってきたアルフを抱え、子犬アルフをもふもふしつつ珈琲を啜る。
 新種のポケモンですと強弁出来そうだが喋らせなければ良い事である。もふもふ。
 そもそも魔法を隠す必要があるかあやしい気もするが、隠すことに意味はあるのだろうもふもふ。

 魔法と言えば管理局来ないなとこないだユーノに聞いたら来る訳ないですと言われた。
『次元震一つ起きてない管理外世界にどうしてアースラが立ち寄らなきゃならないんですか?』
 だそうだ。巡回ルートではあるがとっくに通り過ぎたらしい。
 ついでにジュエルシードはプレシア名義で担当部署に送り返したそうだ。
 
 そもそもなんで地球にばらまかれたのか訊いたら嫌そうに顔を歪めながらも答えてくれた。
 部族内の嫉妬と権力争いの結果だそうだ。
 前回より10割増しで優秀なユーノは今回の人生ではジュエルシードが初仕事ではなく、次期長老の試験的な発掘だったらしい。
 また前回の人生では友人だったり良き隣人だった人が敵意を見せられたりと、二度目の人生、なのはに出会うまでは割とさんざんな人生だったようだ、主に人間関係的な意味で。
 なのはを巻き込みたくないという叫びは、一方でなのはにも嫌われたらどうしようという恐怖だったようだ。
 まあレイハさんが台無しにしてくれたが。
 ついでに嫌われるどころか凄いラブラブだし。
 
 前世の記憶を持ってるというのも楽ではないなという話だな、全く。

「くぅん」

 五月蠅いと言わんばかりの不満げな声で鳴かれたもふもふ。
 耳の裏や尻尾の付け根を強めにもふもふ。
 人間状態で毎日風呂へ入ってるからか匂いからして野生のとは違うもふもふをもふもふ。
 骨っこを囓ってるアルフをもふもふ。

 もふもふしながらぼーっと横島達の修行風景を見ていると、割と死にそうな目に遭うシーンでも大笑いする大樹さんに眉一つ動かさず注視している百合子さん。
 殺気は出てないし不快感は観て取れないんだが、どんな気持ちで見てるのかねぇもふもふ。



[14218] P4Gを買ったがVITAを所持していない
Name: 陣◆cf036c84 ID:960878c7
Date: 2012/06/16 08:50



「♪~」

 風呂は良いねぇ、リリンが産んだ文化の極みだよ。
 そんな渚カヲルもうちの中学に通ってる辺りこの世は本当に有り得ない事ばかりだ。
 
 漸く一日を乗り切った。
 酔っぱらいどもの後始末を横島と恭也、美由希に押し付け、洗い物や朝食の仕込みを済ませた俺はゆっくりと湯に浸かってる最中。
 なのは達はとっくに寝たし、気楽に独りで風呂で身体を伸ばすのも良いものだ。
 ライキも入れればいいんだが、自殺願望はないしなぁ。

 うちの風呂は親父の趣味で無意味に広いので、俺が大の字になって浮かぶ事すら可能なのだ。
 流石に両手両足を広げれば縁に触れなくもないが、まっすぐにしてぷかぷか浮かぶ分には問題ない。
 
 浮かばないけどね、やりたいけど。
 髪の毛が悲惨な事になるのだ、今はタオルで一纏めにしてるが重い重い。
 具体的にはライキが乗ってるんじゃねって位重い。
 腰までの長さの長髪だから仕方ないんだけどね、アニメの主人公とかよくあんな軽々動けるなと感心するわ。
 ポニーにしてると首が重いんだぞ、アレ。
 支点力点作用点の関係で、ストレートに降ろしてる時は大して重く感じないのにポニーにすると倍率ドンで重く感じるという。
 
 しかし切る気にならないのはアレか、神様的な力なのか単にポニーフェチなのか。
 女性の髪型で一番なのはポニーテールというのは譲れんし、単なるフェチかな。
 
 ……しまったな、美由希でも連れ込まないと髪の毛洗うのが面倒だ。
 いつもは誰かと一緒に入るからなぁ、たまに独りで入るとこれだ。
 なのは達と一緒に入ればなのは達がやってくれるんだが。
 ……流石にこの髪の毛を自分で洗うのはしんどいんだが……うーむ。
 仕方ないから洗うか、面倒だな全く。
 
 ざばーっと音を立てて湯船から上がる俺。
 うーむ。
 大分見慣れたとは言え、下を向いてもおっぱいで足下が見えないとか巨乳過ぎる。
 一応谷間のトコは見えるけどさ。
 腰もくびれてるし足も長いし。
 スタイルの比率が日本人体型じゃないよな、これ。
 
 鏡に映る俺は大層美人でため息が出るわ、全く。
 
「ホント、若いって良いわねー」

「……武術か何か嗜んでましたか? おば様」

「いいえ?」

 不思議そうな顔をされてしまった、突然現れた百合子さんに。
 勿論裸なのだが……年不相応に若々しいな全く。
 勿論、母桃子より大分年が上な事もあって、それなりに年を感じさせなくもないが、平均値より遙かに若い身体である。
 
 確かに鏡に映る自分の姿を注視していたのは否定しないが、それでも俺に気付かれる事なく風呂場に侵入するなんてどういう技能だ?
 おかしすぎるだろ……
 
「シャワー貸してくださる?」

「どうぞ」

 シャワーヘッドを渡して、風呂の椅子――ケロタンを譲る。
 もう一度湯船に浸かって、何しに入ってきたのか解らん百合子さんをポーっと眺めていた。
 
 身体を洗う百合子さんをぽーっと眺める。
 異性じゃあるまいし目を逸らしたり身体を反転させるのは変だしねぇ。
 
「忠夫の事、ありがとうね」

「はい?」

 身体を洗いながら独り言のように呟きが漏れた。
 
「最初はね、とっとと泣きついてくるかと思ったのよ。
 アパート代と光熱費、学費以外は入れてあげなかったからね」
 
 ナルニアだかに飛ばされた時の話か。
 
「売り言葉に買い言葉でねぇ。
 もう少し下手に出てくれれば金銭的に余裕あげられたかも知れないんだけど。
 あの時は宿六がハメられて腸が煮えくりかえってた時だったし……」
 
「一つ疑問なんですが。
 おば様なら、おじ様が飛ばされるのが決定しても、いくらでもひっくり返せたのでは?」
 
 紅百合子なら、あの影響力なら出来そうだと思えるんだよね、正直。
 なんせ一つ書類に目を通しただけで億単位の金が出てくるんだぞ? 錬金術か、全く。
 
「……忠夫の喧嘩に助太刀するかしら? 貴女なら」

「……しませんね。修行つけてやる程度なら、まあ」

 要するに男のプライド守る方選んだという事か。
 手を出せばひっくり返せた盤面をそのままにして、それで日本からみたら地の最果てのような辺境までついてきてくれるんだから果報者だな、大樹さんは。
 
「話を戻すけど、それで高校での2年間は割と苦労してたでしょ、あの子は」

「苦労している割にセクハラされましたが」

「そういうトコ父親そっくりで嫌になるわね、全く」

 ざぱーと泡を流して、湯船に入ってくる百合子さん。
 
「旦那の部下のクロサキ君にも調べさせたけどその日暮らしというか、バイトも日雇いのような仕事、短期で稼げるのばかりで長続きしないようなのばっかり選んでたみたいなのよね。
 勿論生活レベルは最低な感じ。
 まあ、それはそれで良いんだけどね、若い頃の苦労は年取ってから身になるものだし」
 
 何という厳しさと優しさの融合体。
 今時の親ではあり得ん態度だな。

「で、今年の春になっていきなり女の家に引越、バイトも変えて更に武術の修行。
 これで出席率が下がらない上に成績まで上がった。
 クロサキ君から報告聞いた時はどれだけ吃驚したかわかってもらえるかしら?」
 
「……おじ様にそっくり、という事でしょうか」

「そうね、女の為なら何でも出来る辺りは血筋ね。
 流石に不破ちゃんの息子と曲がりなりにも打ち合える程強くなってるっていうのは驚いたわ」
 
 まだまだ恭也は手加減してるけどね。

「それだけではなく、翠屋の売り上げも2割は引き上げてます、忠夫の販売戦略で」

 元々黒字経営だったうちの売り上げを上げるんだから実は大した経営コンサルタントになれるんじゃね?
 と言ったところか。

「あの子は商才あるもの。
 ふとした一言に驚かされる事が多いわ。
 普段は父親そっくりの馬鹿な行動しか取らないけど」

「血は水より濃いというか……遺伝子にでもみ組み込まれてるんでしょうかね、女好きという」

「亡くなられたお義父様もそういう人だったらしいわ」

 前世の高島も女問題で処刑されそうになる位阿呆だったしなぁ。
 然もありなんと言ったところか。

「まあ、そういう訳でね。
 静香ちゃんには感謝してるの」
 
「私は別に何もしてませんが」

「そうかしら? クロサキ君からの報告だと、この春からの貴女は少し忠夫に優しくなったようだけど、何かあったんじゃないの?」

 ぎくぅっ
 うーん、前世の記憶が蘇って融合合体なんて電波な事は信じてもらえんだろうなぁ。
 言う気もないが。

「……特に何かあった訳ではないです。むしろ同居したから、ではないでしょうか?」

 同じ飯喰って仕事して寝起きすれば、多少なりとて情が移るのは当然だよね、多分。
 事実を言えば、前世でのGS横島忠夫に対する好意が多分に影響したのだろう。
 俺の世代でポップと横島を嫌いな男はそうはいないハズだと信じているのだ。

「長くいれば情も移るかしらね?」

 疑わしそうだなぁ。
 追求はされないと思うが。

「……気付くと懐にいるのがあの親子の怖い所だと思います」

「……そうかもね」

 思うところがあるのか、黙ってしまう百合子さん。
 まーこの人も最初は大樹さんとくっつくとか考えてもいなかったろうしなぁ。
 
 ………ちゃんと反面教師としなければ。
 

****


 翌日は何を気に入られたのか、百合子さんの買い物に連れ回された俺と横島。
 翠屋の方は俺と横島は休みにされたので、横島はぶつぶつと文句言いながらも荷物運びを行い、俺は始終百合子さんの話し相手やら着せ替え人形やらを勤めた。
 これが一番疲れたよ……服なんて見苦しくない程度に着られればそれで良いと思わんかね?
 
 横島としても久しぶりの親子の付き合いだし、口で言う程嫌がってる訳でもないのだろう。
 ちなみに大樹さんの方はとっとと仕事へ向かったようだ。挨拶回りとからしいが。



「静香ちゃん。忠夫の事、宜しく御願いね」

「なに、頑丈だから壊れるまで殴ってくれても全然構わんですよ!」

「親父は黙っとけ!」

 海鳴駅でお見送りである。
 ぞろぞろと家族全員で来る訳にも行かないので俺と横島、子供達のみだが。
 
 夕方の海鳴駅、改札前の広場はそれなりに人通りも多い。
 雑然とした騒音の中、なのは達が横島の両親に挨拶していた。
 
「また来てね」

「お土産ありがとうございました」

「またね」

「なのはちゃん達も忠夫の事宜しくね?」

「大丈夫なの! お仕事とか意外と真面目だし」

「手を抜くのは上手いですけど、サボったりはしないんですよね、横島さんは」

「タダオと遊ぶの楽しいよ?」

「全く子供にだけはモテるんだな、忠夫は」

「っかましいわボケ親父! とっとと帰れ!」

「そろそろ時間でしょう」

「そうね。じゃあまた会いましょうね」

「おじ様、おば様も息災で。次は本社重役の椅子に座ったらお会いしましょう」

「おお、なんと出来た嫁! 忠夫には勿体ない!」

「いえ、嫁じゃないです」

「照れなくても良いよ静香ちゃん」

「いえ照れてないです」

 ……転校でもしようかな、東京で独り暮らしとか。
 あーでもなのは達に会えないのは嫌だなぁ、かと言って今更横島追い出せないだろうし。

「静香お姉ちゃんは頑固なの」

「お前にだけは言われたくないぞ、なのは」

 頑固者の代名詞だからな、管理局の白い悪魔は。
 うちのなのはが管理局入りする事はなさそうだが、というか管理局が地球に来る事もなさそうだが。
 この場合、ゆりかごで攻撃受けたりするのかなぁ?
 プレシアにスカの事訊いておくか? 確かプロジェクト・フェイトで付き合いがあったような気がするんだが。
 ま、後回しだな。
 
「忠夫もこんな可愛い妹と弟が出来て良かったわね」

「あー……」

 お、照れてる。

「キモイな忠夫」

「どやかましいわっ!」

「横島さんはお父さん似ですね」

「コピーかって位に似てるな」

「「似てない!!」」

「新幹線来ちゃうよー」

「そうね。ほら、行くわよ」

「こっコラ!? 首根っこ掴むな! みんなありがとーな!」

 百合子さんに引き摺られて改札の向こう側へ消える大樹さん。

 嵐は去った、か。

「ああいうのをカカア天下って言うんだよ」

「へー」

 ユーノはホント変な事を知ってるな、全く。
 
「シズカ、これから帰るの?」

「今日は一日休みで良いと言われてるからな、何処か行きたいか?」

 と言ってももう夕方だが。

「カラオケ!」

「からおけ?」

 こてんっと首を傾げるフェイトがらぶりー。

「歌を歌う場所、だな。
 アニメの歌やドラマの主題歌、軍歌に演歌、民謡など万を超える歌が選べる」
 
「ストロンガー!」

「あるぞ」

 うちの子達は平成より昭和ライダー好きなんだよな、主にスピリッツのせいで。
 何処かの金持ちが阿呆みたいな金額出したとかアニメーター達の給料を倍上げしたとか真しやかに噂が流れているが。
 個人的な予想というか妄想だと、俺と同じような立場の金持ちに産まれた、或いは金儲けしたオタクな誰かが金出してやらせてるんじゃね? というものだが如何なものか。
 特撮ファンとして、村枝ファンとして、俺フィとスピリッツのアニメ化はまさに夢だったからなぁ、前世の俺も。
 あんな素晴らしいアニメを見てファンにならない子供はおらんわな、俺も毎回楽しみにしてるし。

 ちなみになのははV3、ユーノはライダーマン、フェイトはストロンガーが贔屓である。
 俺? RXしかないだろ常識的に考えて。
 横島もRXなんだよなー変なトコで気が合うから困る。
 
「ふ、この美声で静香ちゃんを酔わせる時が来たか」

「吹いてろ馬鹿が」

 歌が上手いのは否定しないがな、なにげにこいつは器用だし。

 思えばカラオケも前世から併せて随分久しぶり、という訳で子供三人連れてカラオケへゴー。
 カラオケ屋で吉永サリーが店員してたが掛け持ちだそうだ、大変だね。
 
 
****



「む?」

「お、高町か」

 久しぶりに独りで帰宅する為に下駄箱で靴を履き替えていた俺。
 そして声を掛けてきた遠野志貴。
 
「ふむ、そちらは妹さんか」

「ああ、秋葉だ。こっちは同じクラスの高町」

「初めまして、兄がいつもお世話になっておりますわ」

「こちらこそ八神の件では世話になった」

 下駄箱で繰り広げられる社交辞令。
 というか、秋葉さん、人の胸元凝視するのは辞めて下さい。

 日本人形みたいで綺麗なんだから良いじゃんねー?
 胸なんて大きくても男が喜ぶ位だろ、全く。
 口には出しませんが。

「翠屋の跡取りなんだぜ」

「跡取りはなのはだと思うがな」

 なんとはなしに歩き始める。

「まあ。翠屋のケーキやシュークリームはいつも戴いてますわ。とても美味しいです」

 猫かぶってるなぁ?
 
「ありがとう。今度遠野と――兄貴と一緒に来るが良い。サービスさせてもらう」

 まあ猫かぶってるのは俺もだが。
 女って怖いねー、今では俺も女だが。

「ああ、今度寄らせてもらう」

「ああ、ではな」

 さらっと交差点で逆方向へ。
 後ろの方から聞こえてくる巨乳がどうとかはきっと幻聴。
 そんな劣等感コンプレックス抱かなくてもねぇ? シエル先生もアルクェイドも巨乳だが。

 今日は横島が雪之丞達と遊びに行ってるので独りなのだが。
 どうでも良いが伊達雪之丞って凄い名前だよな、タイガー寅吉もアレだが。
 
 さて、どうするかな。
 たまには独りゲーセンでも行くか。
 というかこう、高町静香として自覚してからこっち、独りの時間が少ない気がするな。
 前は孤独な独身貴族だったのになぁ。
 変われば変わるものだ。
 
 
 と言う訳でゲームセンター、その名もゲームセンター嵐山。
 ……海鳴市にあっても嵐山。別に店長はぼっちじゃないし火も出せない。
 単に嵐山出身のおっさんだという話だ、訳が分からん事に。
 
 良いけどね、別に。
 という訳でプライスゲームコーナーへゴー。
 俺の中でビデオゲームコーナーは95で終わってます。
 コマンド入力が面倒過ぎるだろ最近の格ゲーは……
 
 この『なめこシリーズ』は誰得なんだろうね、可愛くないんだけど。
 定番のポケモンや青いハリネズミ、ピンクの悪魔などこのゲーセンのラインナップ自体誰得って感じだな。
 ぷらぷらと筐体を眺めて――お?
 
「こら、帰りにゲームセンターに寄るのは不良の始まりだぞ」

 と小学生集団に声を掛ける俺。

「あ、静香お姉ちゃん」

「こんにちわー」

 なのは、フェイト、すずか、アリサにルリ、イリヤである。

「ユーノはどうした?」

「図書館でお勉強だって」

「担任の鵺野先生といきとーごーしちゃったの」

「そ。私たちみたいな美少女の誘い断ってね」

「女の子ばかりだから嫌がるのが普通な気もしますが」

「……そうか」

 ………担任ぬーべーなんだ……
 ま、なのはとフェイトは魔法があるから何とかするだろ、アリサはアレだ、きっと炎とか出すよ。
 すずかとイリヤは心配するだけ無駄だしルリはきっと黒いのが守るさ、何かあっても。
 
 まあ冷静に考えればぬーべーの生徒でどうにかなかった奴はいない、きっちり守ってるから心配するだけ無駄か。
 しっかしおキヌちゃんに続いてぬーべーか。
 そのうち鬼太郎や悪魔くんが引っ越してきそうだな、全く。
 
「静香お姉ちゃん、これ取れる?」

 と、筐体に張り付いたなのはが指さすのはドラゴンボールのマスコット、プーアルの人形だ。
 ちなみにちゃんとアニメ化も単行本化もしてるのでこの世界にドラゴンボールとかサイヤ人とかは存在しないハズである、多分。
 しっかし、ウーロンの人形とか誰得だこれは?

「取れるぞ」

 100円入れてスタート。
 そして周!
 クレーンのパワーを強化、更に操作性も倍率ドン! 更に倍!
 クイズダービーとかはらたいらさんに3000点とかいい加減知らない世代もいそうだなぁ?!
 
「あっ取れた!」

「静香さん凄い」

「おかしいです、このUFOキャッチャーがこんなパワーを出せる訳がないんですが」

「なんか変な力の流れが……」

 ルリとイリヤは細かい事を気にしすぎだ。
 見ろ、フェイトとなのはなど感動の余り常識外の事が起きているのにスルーだ。
 まあキャッチャーのアームのパワーが強すぎるのが常識外かどうかは議論が待たれる所ではあるが。
 
「やったっありがとっお姉ちゃん!」

 取り出し口からプーアルを取り出して抱き締めるなのは。

「シズカシズカ、あたしにも取って!」

「はいはい」

「あ、あたしも欲しい」

「御願いします」

「以下どーぶーん」

「お願いしまーす」

 よってそれぞれ一個ずつ人形をゲットするまで続けた、大した手間ではないし、一個100円だしね。
 二個取りとか昨今珍しい技術まで披露してしまったぜ。
 最近はヒモすら出してないトコ多いしねぇ。

 それにしても人形の種類がよく分からんな。
 前世ではアニメとかで人気だったようなのがこの世界だと普通に存在してて、そういうのが人形として存在していない上に、スピリッツのような向こうではアニメ化していないのがしていて、人気になっていると――
 
「V3人形取ってー」

「ストロンガー……」

「スーパー1お願いね」

「1号お願いします」

「アーマーゾーン」

「いっそ全部取ってもらったら?」

「そうしよう!」

「……良いけどね」

 大人気だなスピリッツ。

 この後、ライダー全種類集めた後にカイバーランドの人形、まあ要するにデュエルモンスターのデフォルメ人形と店にあったポケモン人形も全種揃えてなのは達と買い物しつつ帰宅したのであった。
 なのはとフェイトは大喜びである。女の子はいつまでも人形という物が好きらしい。
 俺は欲しかったのが特になかったからなぁ……ライチュウの人形くらい置いておけよな、全く。


****


 昼休み。

「呼び出されても話すような事はないと思うのだがな? 氷室キヌさん」

「高町先輩は、横島さんの事どう思ってるんですか?」

 そんな必至な顔して訴えられてもねぇ。
 ついでにらきすた四人組と那美と美由希が屋上の入口から覗いてる上に、誰だか知らんが階段ホールの屋根の上に誰かいるし。
 
 こんな覗き魔が多いトコで何を言えと。
 訊かれて困る関係ではないのは確かだが、別に惚れてはいないしねー。
 友人的な意味で仲が良いのは否定しないが。
 
「何とも? 友人としてそれなり?
 むしろうちの家族が気に入ってる感じだな、美由希以外」
 
 ま、美由希が気に喰わない理由も理解出来るけどな。
 最近は気配消すのが上手くなったのか、察知仕切れてないからな、美由希は。
 親父公認で横島の覗きが修行になってる辺り、なのは以外は女扱いしてねーよ、あのヴォケ親父は。
 確かに敵が護衛対象の入浴中に襲ってくるってシチュエーションは有り得なくはないんだけどね。

「まあ、横島本人は私に惚れてるのは確かだな」

 別に鈍感系主人公ではありませぬ故。
 勿論、それに付き合ってやる義務はないが。
 というか打算的なんだよな、俺自身の横島と仲良くしている理由が。

 商売関係に強くて俺がどんだけ怖がられてても気にせず馴れ馴れしくしてくるトコとか、交友関係が無意味に広くて割と好かれてるトコとか。
 俺の為に頑張って修行してるトコなんかねー、割と好感度高いよね、客観的に見たら。
 
「じゃあなんでバイト断ったりするんですか!」

「涙目にならなくても良かろうに。
 単純に高校生のバイトはもう必要ないからだ」
 
 衛宮とアルトリア、俺達三兄妹に横島の六人だ、十分過ぎる。
 うちの兄妹は兎も角、衛宮もアルトリアもある意味規格外の優秀さだし、横島は言わずもがなだし。

「むしろ午前中に働けるバイトなら即採用だろう」

 役立たずなら即切られるだろうがな。
 うちの母はそういうトコは本気で厳しいのだ。

 午前中といえば、衛宮が葛木メディアさんを雇ってくれないかと言ってきたがどうなるかね。
 旦那が学校行ってる間に花嫁修業として料理覚えたいんだそうだ。
 うちの母の判断次第だがどうなるかねぇ。

「じゃあ学校辞めて働きます!」

「よし、まずは落ち着こうじゃないか」

 なにこの近視眼的即断即決。
 
「そもそもなんで転校してきたんだ? 地元の高校で十分だろうに」

 風高は別に有名進学校という訳ではないからな。
 尤も、割とスポーツも進学率も優秀な部類ではあるが。

「ええと、六道女学院に入学したんですけど」

 ああ、あるんだ。
 という事はあの式神娘もいるんだ、迷惑な事に。

「占いの得意な子が同級生にいたんですけど」

 誰だ? 占いというとネオンしか思いつかないんだが。

「横島さんがここにいるって解ったんです」

 何という無意味に積極的に行動力。

「……はあ、ご両親は一体なんて仰ってたのかね?」

「サイポリスのお仕事で転勤しないと駄目だと言ったら納得してくれましたよ」

 サイポリス………あ、鬼になる主人公の漫画……だっけ?
 俺が――前世で小学校くらいの時の漫画だった気がするんだが……
 
 それは兎も角、この世界の霊能事情ってどうなってんだ?
 近所にオレンジ髪の死神代行はいるし、ここで覗き魔してる神咲家の人間もいるし、なのは達の担任はぬーべーだし。
 訳分からん。
 
「それで、どうする? 別段邪魔はせんぞ、横島をどうしようと」

 既に電波扱いされてるからまともに対応されるとも思えないがな。

「手伝ってくれないんですか?!」

 なにその図々しい思考は。
 おキヌちゃんってこんな性格だったっけ?

「手伝ってやる義理はないな、邪魔されないだけ有り難く思え」

 ちょっと練して脅すと涙目になって後ずさった。
 やはり霊感が強いとオーラに反応しやすいみたいだな。

「で、いつまで出歯亀してるつもりだ?」

 くるりと身体を回して出入り口とその天井へ向けて声を掛ける。

「バレテーラ」

 ぞろぞろと出てくるらきすた四人と美由希と那美、そして上から降ってきた北川。
 お前何してんの? と訊けば上に鈴木先生を連れて行って高い所に昇って喜ばせた後に置き去りにして涙目計画だそうだ。
 阿呆か、いや確認せんでも阿呆だった。
 
 何となく流れでその場の全員で異性関係論議をしながら屋上で昼飯を食べましたとさ、階段の屋根の上に鈴木先生を乗せたまま。
 北川が腕を広げて飛び降りて来てってなぁ、なんて良い笑顔だ
 鈴木先生も子供みたいに泣くし、全くもう……アレで三十路だってんだから親御さん涙目だな。


****

オチが弱い!



[14218] OG2を買ったがPS3がない
Name: 陣◆cf036c84 ID:06b72be3
Date: 2012/12/04 18:18

 世は全て事も無し。
 平和だ。
 
 日常的にセクハラされたり横島ぶっ飛ばしたり、翠屋を手伝ったりと色々忙しないが平和だ。


****


「プールか」

「み・な・ぎっ・て! キター!!」

「やかましいわ」

 六月も半ばに入ると体育の授業に水泳が加わる。
 男女別じゃないんだよな、うちの学校は。
 つまり男子の視線が鬱陶しいという訳だ、鬱だな、全く。

 茹だるような熱光線を浴びながら、翠屋への帰り道。
 横島と恭也、忍と四人で連れ立って歩く。

「今年は水着どんなのにしようかな」

「む」

 忍の独り言のような科白に反応する恭也。
 うちの学校は何年前からか水泳での授業の水着は自由になったからな、布面積に制限はあるが。
 つまりあんまり露出が激しいのは駄目だという位で、柄やワンピース、ビキニなどの制限はないのだ。
 昨今のスタイルが良すぎる女子に対する配慮らしく、男はトランクス型のスク水一択である、然もありなん。
 
 とは言えデザインは自由だしビキニもありだ、恭也としては心配なんだろうな。
 横島ほどではないにしろ、男って奴ぁなぁ。
 いや解るけどね、チラ見してたよ、俺も。
 女の立場になって、見られる側になってよく解る。
 見られる方にはバレバレだから、俺の胸元に視線釘付けだから。
 こっそり見ててもバレてるからな? というか男のチラ見って殆どガン見なんだよ、女からすると。
 巨乳の女性が男に苦手意識持つのもよく分かるってもんだ、俺はそういうもんだと流せるけどさ。
 
 そして存外、横島の方がましなんだよ、気分的に。
 チラチラ見ながら見てませんよってフリしてる奴よか、ガン見された方がましだわ。
 TPOさえ弁えればな、小突いても、かなり力入れて殴っても文句言わないし。
 
「やれやれ。毎年の事だが面倒な話だな」

 主観的には余り恒例という気はしないんだが、高町静香としては毎年の事だからなぁ。
 ややこしいわ。
 水着を買い換えるのもそうだが、プール自体も面倒だ。
 泳ぐのは構わんが髪の毛が重くて洒落にならんのだ、あんな小さな帽子に入りきる訳ないのだ。
 こちとら腰まで伸ばしてるというのに。
 アニメだと水泳帽被ってない事多いけど、見た目の問題なんだろうな。

「毎年同じ水着なんて恥ずかしいでしょ」

 その感覚は分からん、が女性としては普通の感覚らしい。
 さっぱりだ。
 まあ去年の水着は無理矢理着たら壊れそうだしな……主に胸が。
 買い換えざるを得んわ。

「今度の日曜にでもみんなで買い物したらええんちゃうか。
 なのはちゃん達も買うだろ」
 
「小学生は流石にスク水だろうに」

「海とか遊びにいくっしょ」

「まあ横島、お前が夏休みに遊びに行けるとは思わん事だ」

「なんでじゃ」

「毎年恒例、山ごもりでの修行だからな、楽しいぞ」

 一応川があるから泳げるけどね、夏でもかなり冷たいが。
 勿論鍛えてる俺らには普通に泳げる程度だが慣れてないと拷問だろうな、あの水温は。

「いやじゃ!」

「強制参加だ、当然だな」

 父士郎と恭也、美由希と横島の四人だな、今年は。
 そして持って行くのは恐らく、各人ナイフ一本ずつというガチ仕様だろう。
 マラリアの予防接種とかも受けてから行く辺り本気度が伺える。
 
 親父楽しそうなんだよなぁ、横島鍛えるの。
 アレだ、息子は才能ない方だし――ないのにあの強さとか怖い話ではあるが――俺はやる気がないし。
 美由希は恭也が育ててるようなもんで横から口出す位だし。
 なにより横島の場合は叩けば叩く程伸びる上に俺という餌ぶら下げれば幾らでもついてくるからな。
 こんな面白い素材はそうはないわ。
 
 翠屋としてはバリスタの親父がいなくなるから珈琲の売り上げは落ちるんだが、毎年の事だし仕方ない。
 学生と剣士を両立させようとすると長期休みが犠牲になるわ。

「毎年の事ながら遊ぶ時間が減って悲しいな」

 彼女としては然もありなん、忍が嘆くのは同情できる。
 この世界では高校一年の頃から付き合ってるらしいので交際三年目だってさ。

「ま、帰ってきてから遊べば良かろう。
 夏休みはそれなりに長いさ」
 
 流石に疲労抜きもあるため、夏休み全て山に籠もっている訳ではない。
 大体夏休みが終わる一週間前には帰ってくるのだ。
 親父抜きで行かせるとギリギリまで帰ってこない修行馬鹿ばかりだがな、全く。
 
「そうね、とりあえず今度の休みに子供達誘って買い物かな」

「うむ」

「お供します!」

「要らん」

 女の買い物に付き合っても楽しくないだろうに。
 俺は違うが、買いもしないのに試着しまくったり見て回ったり当たり前だからな。



****


 その日の夕方。

「ふふん、よく似合うぞ」

「あ、ありがとう」

「や、照れますね、流石に」

 明日からなのはと同じ聖祥付属に通う事になっているユーノとフェイトの制服、初お目見えである。
 
 フェイトのトコの家族もうちに来て、ちょっとしたパーティだな。

「フェイトちゃん可愛い!」

 プレシアがフェイトを抱き締めて窒息させんとばかりに胸の谷間に顔を埋めさせるのはイジメではなかろうか。
 オーフェンも呆れているが止める気はないらしい、リニスに至ってはビデオ回して録画中だしな。

「ユーノ君もフェイトちゃんも可愛いの!」

「あんまり嬉しくないよそれは」

「えー?」

「ほら、晩ご飯食べるんだから、着替えてきなさい」

「はーい」

 母に言われて素直に部屋に戻る三人。
 良い子だわ、全く。
 
「さ、プレシアさんもオーフェンさんもどうぞ」

 と注ぎ始める親父。
 良いけどね、こいつらは酔ってもべたべたとバカップルするだけだし。

 しかしまあこういう時はさらっと裏方に回れるうちの兄妹達も年不相応に大人であるな。
 俺は反則みたいなもんだが。
 美由希達が酒だの皿だの用意してる間に、酒のつまみを作る俺。
 ヴァンプ将軍のさっと一品も便利だがネットの情報もあなどれんよ。
 AAスレとかで紹介されてる奴とか、ホント手軽と美味しいからなぁ。
 
 ネットと言えばVIPでスレ立て。
 『生まれ変わったら黒の長髪爆乳長身の美人になったんだけど質問ある?』とか。
 速攻荒らされてDAT落ちだな、確実に。
 そして最近気に入ってるのは『女難の相を持つ者集まれ』スレだな。
 超電磁砲ぶっぱなされる男とか宇宙改変機能付きの女に振り回される男とかの苦労話をつらつらと書き込むスレなんだが。

 さて、ヴァンプ将軍のさっと一品で生レバーがどうので紹介された奴。
 鰹にゴマ油絡めるアレはがちで旨いぞ、全く。
 今出してるが、大人どもに大好評だ。

 っと、子供達の料理も用意しないとな、もうできあがってるようなもんだが。
 カレーって便利だよね、作り置きしておいて旨くなるし一週間に一度のペースなら平気で出せるし。
 そして今焼いてるハンバーグを皿に盛ってハンバーグカレーだぜ。
 ハンバーグ入れる分だけ香辛料とか足してっと…子供と俺ら高校生と味付けの配分は変えないとな。
 特になのはは辛いの好きじゃないし。
 後から細かい味付けを変えやすいのもカレーの利点だよな。

「静香お姉ちゃんごはーん」

「なのは、お父さん達が食べ終わった皿片付けて来い」

「はーい」

「フェイトは冷蔵庫からビール持ってこい」

「うん」

「ユーノはアルフに肉与えておけ」

「肉肉ー」

「野生の欠片もないねアルフは」

「肉が食べられるなら何でも良いさね」

 転がってお腹見せるアルフ可愛いなぁ。
 リニスの足下で転がってるので、お腹を足で撫でられているぞ。

 っと、ハンバーグが焦げるぜ。
 二度挽きの柔らかハンバーグだから、気をつけてっと。

「カレー皿並べたけどこれで良い?」

 皿出しをしながら、横島の声。
 
「おう――恭也、これ持ってけ」

 大根おろしで煮た豚肉を深皿に盛って恭也へ。
 メニュー考えるのメンドイ時の味方すぎるだろヴァンプ将軍。
 フロシャイムが日本征服する日は近いな。

 世界征服と言えばショッカーだが、昔国民背番号制度とかショッカーが計画してた奴。
 あれまんま現代日本の住基ネットだよな。
 日本はいつの間にかショッカーに征服されていたらしい。
 冷静に考えると怪人なんぞ量産してないで、国の要人誘拐しまくって脳改造だけして放出を繰り返せば日本くらい征服出来たんじゃなかろうか。
 
 ま、どうでも良いけどさ。

「はい、アルフ」

「んむ、くるしゅうないぞユーノ」

 尻尾全力で振りながら骨付きの生肉に齧り付くアルフ。
 
「全く、アルフはたるんでますね」

「はっ、四六時中フェイトの動画ばかり見てる猫に言われたくないね」

「失礼な! 生のフェイトを見る為に遠視の魔法も使ってます!」

 聞き捨てならん科白を聞いた気がするが無視。
 
 美由希がご飯をよそった皿にハンバーグを載せていく俺。
 続けて横島がカレールーを掛けていく。

「恭也ー、酒切れたぞー」

「叫ぶな」

「お父さん、はい」

「オーフェンもビール」

 なのはもフェイトも可愛いなおい。
 酔ってるせいか二人の頭を撫でまくる馬鹿親。
 まあフェイトの方はオーフェンじゃなくプレシアな訳だが、うちの桃子さんもプレシアも普通にジーンズにトレーナー着てるだけなのになんであんなエロいのか、横島の鼻息荒くなる位には。
 そして綺麗に谷間に収まるフェイトの頭。
 死因は過度の抱擁による窒息死ですってか。

「ほら、飯喰うんだからこっち来い」

 大人どもはリビングで飲み会、俺らは台所の前のテーブルで夕食だ。

「はーい」

「フェイトーハンバーグだけおくれー」

「え、駄目だよアルフ。私も食べたいもん」

「ユーノーハンバーグだけおくれー」

「玉葱だけ上げようか?」

「静香ー」

「うるさい」

 ますます駄目犬化してるな、どうも俺らが家にいない昼間はひなたぼっこで昼寝してるらしいし。
 いやまあ掃除とか洗濯物、洗い物とかは終わらせてからっぽいから文句言うつもりはないんだけどな。
 おかげでうちはかなり綺麗だし俺も料理以外の家事に時間取られなくて助かってるんだけどさ。
 
「ほれ」

「ありがとよー」

 食い終わってもなお囓ってた骨を放り出し、俺の差し出したハンバーグの皿に食い付くアルフ。
 ちゃんとアルフの分作ってやる辺り俺って優しいなと自画自賛する事にしよう。
 そもそも使い魔って飯喰う必要あるのか? フェイトから魔力もらってるから喰わなくても生きて行けそうなイメージがあるが。
 …今その疑問を口に出すとアルフをイジメてるように受け取られるな、後で訊こう。
 アルフ可愛いから喰う事自体は別に良いんだけどさ。

「さ、私達も食べちゃおう」

「ああ」

「ケーキも用意してあるからな」

「お姉ちゃんありがとー!」

「静香、ありがとう」

「あ、はい、ありがとうございます」

 中身が大人だから気持ちは分かるが子供らしくしとけってんだ。


****


「静香ーほねっこ何処だい?」

「ほら、アルフ」

「お、美由希ありがと」

「うーん、もふもふ」

 ほねっこ囓ってるアルフを抱っこしている美由希がもふもふしている。
 そうやって甘やかすから駄犬化が進むんだ、まったく。

「ご馳走さまー」

「ご馳走様」

「ご馳走様でした」

 食べ終わったケーキ皿を台所の洗い場まで持って行くなのは達。うむ。
 うちでは余りケーキが売れ残らないから、デザートに出すのは珍しいんだよね。
 まあ今日のは俺が練習として作った奴だけど。
 厚さ1㎜のスポンジと2㎜の生クリームのミルフィーユだぜ。
 あえてクレープ生地ではなく普通のスポンジで作る辺り、俺の技術が冴えるぜ。
 
「忠夫お兄ちゃん、はい」

「お願いします」

「ん、そっち置いとけ」

「はい」

 洗い場に立つ横島。
 うちの男どもは言わんでも家事やってくれるから有り難いね、躾が出来てるとも言う。

 俺はその隣りで肴作ってるんだけどな、たまにしか飲まないから飲む時は鯨飲馬食なんだよ、うちのどもは。

「ユーノ君宿題手伝ってね」

「それは良いけど、フェイトの学力確認しておかないとね」

「ちゃんと通信教育受けてたもん、大丈夫だよ」

「いや流石に歴史と国語は難しいと思うよ」

 ちゃんと自分から宿題やる子供とか理想的過ぎる良い子だ。
 相変わらず大人どものつまみを作りつつ眺めていた俺であった。
 仲良い子供達とか見てるだけで和むな、全く。
 どたどたと音を立てて自分達の部屋へ戻って行くと台所が少し広くなった。

 そーいや翻訳魔法とか使ってるんだっけ? 英語とかも大丈夫かね?

「洗い物終わったっすよ、とりあえず」

「ご苦労。恭也、これ持ってけ」

「ああ」

「さて、始めるか」

 皿を拭き終えた恭也に作った肴を持って行かせて、どんっと小麦粉の袋を取り出す俺。

「…? 何してんの?」

「明日の朝のパンを作ってるのだ」

 小麦粉と水と、あと何を入れれば良いのかなっと。
 人数が人数だからそれなりに大量に使うな。

「ああ、月村のトコの試作品、また貰ってきたんすか」

 いわゆる家庭用パン製造機だが、これを手作りと言って良いものかどうか悩むところである。

「…気をつけろよ」

 そんな心配そうにしなくても良いだろうになぁ、恭也も。
 たかが家庭用電源で動く機械が爆発した程度じゃ何ともないし。
 まあそもそも爆発する方が基本的には珍しいんだが。
 
 前世の頃から使いたくてさぁ。
 でも一人暮らしだったから流石に手を出すの躊躇われてた訳で。
 こんだけ家族がいるなら容赦なく使えるというものだ。

「…では父さん達の面倒は任せたぞ」

「ああ、行ってこい」

 毎日頑張るね、こいつらも。

「めんどくせぇー」

「なんだ辞めるのか?」

「見てくださいこのヤる気に満ちあふれた瞳!」

 性欲に満ちあふれてるようにしか見えんがな。
 
「美由希、行くぞ」

「はーい」

「行ってらっしゃい――はぐはぐ」

「アルフ、人型になって手伝え」

 主に酔っぱらいの相手を。

「へーい」

 ぽんっと音を立てて女性の姿になるアルフ。ほねっこを咥えたままというのは如何なものか。

 さて、これでスイッチを入れれば朝には食パンができあがってるハズ。
 新しい玩具はわくわくするねぇ。
 
「静香ー、ツマミだってさー」

 酔っぱらいどもめ。
 酒に弱いこの身体では付き合えもしないし、ちっとも楽しくないぞ。
 ライキも寝てるし、明日の朝飯の支度して風呂入ってとっとと寝るか。
 横島が修行で外出てる時は覗かれないしな。
 
 食パンを作ってるんだから、ヨーグルトに――んー、苺が中途半端にあるな、ジャムにしてしまうか。
 後は、ハンバーグの種(焼く前の状態)が残ってるから肉団子でも…量が足らんな。
 うーん、今度大量に放り込んだ方が良いかな、大分すかすかな冷蔵庫だ。
 野菜室に入ってるの全部ぶった切ってサラダにする、いや適当に鍋に突っ込んでポトフにしてしまうか。
 ふむ、……牛乳が賞味期限近いな。
 恭也と横島の奴に明日の朝飯喰う前にバター作らせるか。
 
 ホーロー鍋を用意して苺の水洗い開始っと。

「静香ー、日本酒何処だい?」

「そこの戸棚の奧だ」

 リニスも結構飲むなぁ、猫の癖に。アルフは肉と骨だけあれば良いって感じだが。
 オーフェンも喰えれば良い飲めれば良いって感じか。
 最近アレの中身が実は俺と同じ本物のオーフェンじゃないような気がしてるんだがどうだろうか。
 どうでも良いと言えば果てしなくどうでも良いんだけどね、俺に迷惑かかる訳でなし。

「アルフ、風呂の準備してくれ」

「あいよー」

 すっかり高校生主婦してるな、俺は。
 いやすげー充実してるけどね。

 あんな可愛い妹どももそうだが、自分自身超美人だしな、胸が大きすぎるのと目付き鋭いのが欠点っちゃ欠点だが。
 あと女は得だねー、買い食いとかも店員が男だとサービスしてくれる事多いし。
 なにより嫌な上司とか使えない部下とか足引っ張るかうわさ話しか能のない同僚しかいない会社で働かないでも良いって実に清々しい気分だね、うむ。
 バイトも実家だから気心知れてるし、実家の手伝いとは思えない程度には給料もらってるし。
 なにより高校生は自由時間多すぎワロタって感じ?
 翠屋で働く時間と家事――と言っても買い物と料理位だが、アルフのおかげで――に費やす時間を差っ引いても暇が出来る。
 念に関しては本読みながら練とかでも十分修行になるしね。あれ、やればやるほど素の体力も増えるっぽい。

 なによりライキ可愛いだしなー、転生してよかった。
 前世は身内の縁が薄くて孤独だったし、友人もそれなりにいたけど深い仲って程でもなかったし、恋人もいたりいなかったりだしなぁ。そういや死んだ後の貯金とかどうなるんだろう? 血の繋がった身内はいなかったハズだし、国や銀行に接収されるのかな。
 今更どうでも良い事だけどさ。
 
 今なら神様に感謝してやれるぜ、性転換以外は。
 いつか折り合いつくんだろうけどな、つーか付かなきゃストレスでぶっ壊れそうでもある。
 あと視線がなぁ、横島ほどではないが――あいつはかぶりつかんばかりのガン見だ――男も女もじろじろ見てくるし。
 睨んでやると大抵視線逸らすんだよな、ンな怖いなら最初から見るなってんだ。
 
「風呂のスイッチ入れてきたよ」

「すまんな」

「アルフ~、おビール様ちょ~だぁい」

 おビール様ってなんだよ。

「全く酔っぱらいは仕方ないねぇ」

 愚痴は言ってもちゃんとビール運んであげるアルフはマジ忠犬だな。
 さて、朝飯の支度も終わったし、風呂入るかね。
 
「ではアルフ、風呂入ってくる」

「あいよ」


****


 さてさて。
 家族全員から大好評だった朝食を終え、ユーノとフェイトが初登校を送り出して学校へ向かう。
 まー、イジメられたりはしないだろうとは思うが、どうであろうか。
 唯一の懸念と言えば、なのはとフェイトがべったりしすぎて、ユーノが男子からイジメられるパターンかな。
 年齢が二桁になる頃から男女差を意識して、イジメとまでは行かなくてもちょっかい出したり無視したりと、当たり前だしな。
 そういう意味ではなのはが自重すると良いんだが…さて、どうなる事やら。
 
 その日の昼。

「タカマチさん、くのいちってホントですカ!?」

 昼休み、恭也と忍と三人で飯を食べている所に来た金髪の学生。
 鈴木先生のトコの留学生のアンソニーだな、割とディープなオタクで、漫研の眼鏡と仲が良いハズ。
 まあ漫研つながりでひより達とも仲が良い、パティともな。
 そしてどうでも良いがパトリシアの愛称はパットじゃないのかスパロボ的に考えて、と最初らきすたで読んだ時は思ったものだ。
 
 さらっと思い出せるだけの情報を思い出してから、興奮に頬染めている外国人を見る。

「アンソニー、それは誰から聞いたのかしら?」

 呆れている忍。
 恭也も似たようなものだ、当然俺もだが。
 
 教室に残ってる連中からも注目浴びてるぞ、なんだこのイジメは。
 
「キタガワさんから聞きました! くのいち!」

 思春期真っ盛りの中学生を風俗に連れてっても此処まで興奮しないだろって位はしゃいでるな。
 外人の忍者に対する盛り上がり方は異常じゃね?
 まあ聖剣だのドラゴンだのに騒いでる日本人に言われたくはないのかも知れんがな。
 
 そして俺の中で最高の忍びは甲斐の六郎(原作版)、異論は認める。
 SAKONだとなんかもうアレな事になってたが、超能力バトル漫画にしなきゃ気が済まなかったのかねアレは。
 
「それで私が忍者だったとしてお前に何の得があるんだ?」

「忍術が見てみたいデス!」

「アホか」

 いやホント、アホか。
 念能力使えば操作系も得意な方だし、心の一方は出来そうだけどさぁ。

「とりあえず帰れ」

「そんな、ひどい――で、くのいちなんデスか? 忍法使えマスか?」

「なんでそんなネタ知ってるんだ」

「ニンテンドーはアメリカでも人気デシタよ?」

 ファミコンで良いものを何故ニンテンドーとか言う名称になったんだろうか。
 
「ったく…仕方ないな」

 箸を置いて立ち上がる俺。
 飯の途中だと言うのに迷惑な野郎だ。

 ちらりと恭也に視線を送ると、恭也もおもむろに箸を置いた。
 椅子を引き、動く準備をする。
 窓までの距離は約3歩。窓際という訳でもないからな。
 ただ一番後ろの席ではあるので、途中に邪魔な机はない。
 
 パァン!
 
 ッ――!
 
 足にオーラを集めて一歩で窓の外へ飛び出し、周で覆った一番太い鋼糸で上の窓枠を引っかけ身体を持ち上げ、ロッククライミングの要領で一気に屋上まで上り、屋上の柵の上に腰掛ける。
 うーん、絶景だぜ。ちなみに柏手打ったのは恭也だぜ、以心伝心。
 麻雀でコンビ打ちとか出来るかもね、俺の場合円で相手の手牌だの探った方が速いだろうが。
 
 そして円で教室の様子を探ると、アンソニーらしき人型と教室のクラスメート数名が慌てている様子が窺える。
 悪戯成功だぜ、ふふん。
 
 ホントなら後ろからこっそり髪の毛好いてトリートメントしてるかって言いたいトコだが、周りに人がいるとあんまり驚異度が低いかなと教室から消えてみたのだが。
 まあこんなトコだろう。
 いや超人的な身体能力手に入れたら一度はやってみたいよね、きっと。

 おー、外国人はいちいちオーバーアクションだな。腕振り回してなんか騒いでるわ。

 ……冷静に考えたら快斗の奴ならこの程度簡単なんだよな……
 そして志貴とかでも余裕そうだな……
 人外連中は言うに及ばず。テンション下がるなぁ、別に俺より強い奴に会いたい訳でもないんだが。
 
「……静香ちゃんあにしてんすか?」

「ん?」

 首だけ後ろを向くと、柵の下、向こう側に横島の姿。
 
「ああ、ちょっと遊んでみただけだ」

 よっと柵から飛び降りる、船の縁からダイバーが落ちるように背中から。
 くるりと一回転して着地。
 ま、男だった頃は考えても出来なかった事が出来るってのも得した事だよね、うむ。
 …厨二病は早めに治そうな、俺。

「おお、黒――っ痛っ! 殴らんでもええやないか」

「黙れ」

 一瞬だったろうによく見たもんだね、全く…
 とりあえず横島を小突いてから伊達、タイガー、ピートの三人のトコまで連れ立って歩く。
 ち、屋上で飯喰ってた他の生徒達にも見られたか……まあ仕方ないね、やってみたかったんだから仕方ない。

「よお、高町。
 ハデな登場だったな」
 
「まあな」

 伊達――そういやリュウセイもダテだったな。どうでも良いが伊達って名字の奴ぁ厨二病患者ばかりだわ、初代伊達藩主からして。
 で、伊達雪之丞が弁当箱を抱えつつ声を掛けてきた。
 とりあえず横島と共に腰を降ろす。
 …そーいや飯の途中だったな、昼休みは――あと30分はあるから大丈夫か。
 恭也にすぐ戻るとメール打ってっと。
 
「なんでまた外から上ってきたんです?」

「ちょっと忍者ごっこを強要されてな――もう喰い終わったのか?」

「あ!? 俺の飯が無くなってる?!」

「ゴチソーサマじゃー横島サン」

「おう、高町の弁当はうめぇな」

「僕は止めたんですけどね」

 なるほど、俺の方へ向かってる間に食い尽くされたか。
 イナゴかこいつらは。

「てめぇぇぇらぁぁぁ!?」

「いやホント高町サンは料理上手デスノー」

「そりゃどうも――まだ私の弁当が残ってるから食わせてやる。
 とっとと教室戻るぞ」
 
「静香ちゃん愛してる!」

「はいはい」

「それじゃ僕らも教室戻りますかね」

「ソージャノー」

「おう」

 なんかアレだな、ドロンジョ様とボヤッキー・トンズラーみたいな。
 美形の三人目が出てくるのはなんだっけ、トンマノマントだっけ?


 教室に戻るとテンションageageなアンソニーをいなしつつ、横島に半分弁当を分けてやった。
 泣いて感謝されたので殴っておいた。

 やれやれだぜ。
 その後、何処から聞き付けたか神社の裏手での修行を覗きに来たアンソニーが、美由希を見てサムラーイとか美少女剣士とかやかましかったらしい。
 エクセレン先生とかはそこまでじゃないんだが……なんなんだろうか、あのテンション。
 こんな世界でもサムライ・ニンジャは大人気なんだなぁと変な感心をしてしまった。
 
 
****

静香にとって「ハルヒ」と言えば「藤岡春日」の方。
そして超電磁砲も禁書目録もも知らない人。
元の中身が30代後半の社会人なので小説やゲームに割けるリソース自体が少なかったという、無意味にリアルな裏設定。
実際、社会人になってからは積みゲー積み本を崩す暇がない……

意外と早く仕上がりました、書き始めてからは。
はい、お待たせしました本編です。

ネタ的には本編の方が結構ストックされてるんですけどねぇ…
そこに到達するまでが時間かかるというか…
本編・番外編ともに書き溜めが尽きているので次回は未定です。
ネタというかプロットはあるんですが…年末だし。

大掃除は夏やりたい陣でした。

12/04
前話までと大きく矛盾する部分を修正×2



[14218] 露骨な伏線、こなたは便利
Name: 陣◆cf036c84 ID:d95f87c9
Date: 2013/05/02 10:30
「釣れねぇなぁ、おい」

 ざばーん
 波打ち際に腰掛けた、割とイケてる青い彼。

「カッカッカ、釣りとは己との戦いよ、焦り乱れた心では釣れる物も釣れなくなるわ」

「そうは言うがな……てめぇの針じゃ釣れるもんも釣れねぇだろーが」

「良いんじゃよ、ワシは生臭は食わぬからの」

「じゃあなんで糸垂らしてんだよ――っと来たぜぇ!」

「うむ、釣りというのは考え事をするのにちょうど良いからの。黙然としていても誰も文句言わぬし、自然の気を身体で取り込めるというものよ」

「そういうもんかねぇ……けっ、雑魚か」

「雑魚という魚はない(キリ」

「やかましい」

「む、そろそろ行かねばならん。では達者での、光の御子よ!」

「……空飛んで行きやがった……にしても何モンだあいつ。
 俺の正体を知ってやがった事もそうだが……このご時世にどうやってあれほどの神性を溜め込んでやがった…?
 金ぴかより上だったぞ、確実に――ん?」
 
「あのー、ちょっといいッスか?」

「……おいおい、今度は空飛ぶカバかよ。何の幻獣だ?」

「失礼な! 見れば分かるように竜ッスよ!」

「見て分かんねーから突っ込んだんだろうが……で、何の用だよ」

「師匠見かけませんでしたか? こういう人なんですけど」

「仙人、いや天然か? どちらにせよ俺も含めて、そういう類が写真だの現代技術にどっぷりってのもアレな話だな……
 そいつなら今し方、向こうの方へ飛んで行ったぜ」

「またしても出し抜かれたッス!」

「今なら追いつける! いくよ四不象! 情報提供ありがとうございました!」

「おう――ってはええなおい。
 あの蛇の天馬よか速ぇんじゃねーかあれ――お、来たぜっと。急に来だしたな」
 
「釣れますか?」

「おぅ、美人のねーちゃんが一人、な――っと」

「相変わらず口だけは上手いのですね、ランサーは」

「ま、今日の晩飯には困らんぜ」

「それは重畳」

「ンだよ…また面接落ちたのか?」

「いえ、落ちるというか……
 キャスターとセイバーがバイトしている翠屋という喫茶店へ行ったのですが。
 壊れ物が増えるから雇ってはいけないと二人にオーナー殿へ嘆願されてしまい……
 嫌われているのでしょうか、私は。セイバーを雇うようなお店なら私も雇ってもらえると思ったのですが」
 
「割と妥当な判断だと思うがな――別に嫌われてるって意味じゃねぇよ」

「…はあ…日本は就職不況です…」

 なら本国へ帰れば良いじゃねーか、とは言わないランサー(五次)であった。
 尤も帰ったところでまともな仕事があるとも思えないが。
 

****


「これで良しっと」

 美由希が何か悪戯していた。

「なんだそのポスターは? あまみはるか?」

 所謂アイドルという奴か?
 うちの窓にポスターなんぞ貼るなよ。

「ん、最近売り出しのアイドルで、私の同学年。クラスは違うし話した事はないけどね。
 地元の星って奴? うちの商店街だけじゃないよ、海鳴市全体で推していくみたい」
 
 ある意味晒しもんじゃね? いやまあアイドルなんて自分から晒し者になるようなもんだが。

「まあ良い。
 店頭販売行くぞ」
 
「はーい」



 そして、ヒーローに出会った。
 店先で美由希とシュークリーム他の店外販売中だった。

「サンレッド――だと?」

 額の黄色い太陽のマークや緑のバイザー、赤のマスク、そして妙に良いガタイ。
 隣りにいる妙齢の佳人はかよ子さんであろうか。
 普通に店冷やかしたり飲み食いしたり、商店街をぶらぶらしてるんだが……
 ヒーローがいないここ静岡県ではやはり珍しいからだろう、かなり注目度が高い。
 そのせいかかよ子さんは兎も角、サンレッド本人は居心地が悪そうである。
 
 しかしTシャツの文字『かわさきだいし』ってなんなんだ?
 いや川崎大師なのは分かるんだが。
 
「凄いねー、ヒーローって初めて見たよ私」

「東京では普通に街歩いてたぞ」

 怪人もな。
 俺の知ってる東京はもはや過去と平行世界に消え去ったわ。
 
 と言う訳でシュークリームやらケーキやらの街頭販売しつつ、目の端でサンレッドを観察する俺と美由希。
 視線を動かさず対象を観察するなんざ基本技能だしな。
 暗殺技能を平和に無駄使いだ。

「うむ、一護。シュークリームを買ってくれ、ここのシュークリームは実に旨いのだよ」

「自分の金で買え」

「泣きながら警察駆け込むぞ」

「…誰だこいつに変な知恵付けた馬鹿は」

 面白い漫才だなオレンジ頭、店先ですんな。

「はい、六つで1080円になります」

「おう、ありがとよ」

 オレンジ頭って斬新だよな……根本まで黒い部分ないし、きっと地毛。
 遺伝子仕事しろ。

「あの、翠屋ってここかしら?」

「あ、ヒーローの人――あいた」

「失礼、ここが翠屋ですが、何か御用でしょうか?
 お食事と休憩なら中でどうぞ」
 
「あ、いえ。友人に美味しいお店だって聞いたものですから。
 さ、入りましょ」
 
「おう」

 友人ねぇ……んー、アレか。
 フィアッセとラクスがこないだ合同のCD出したから、その辺りか?
 天然同士ウマが合うらしいぞ、俺としては種死のイメージが強いんで何考えてんのかわかんねー感情だけで動く女ってイメージしかねーけど。
 というか、種も種死も基本的に敵側の方が言ってる事正しいようにしか聞こえないんだよな、言い過ぎとやり過ぎはあっても。
 まあ、この地球はあんな沸点の低い世界じゃないみたいだし、別に戦争が起こってる訳でもないし宇宙にコロニーが浮いてる訳でもないからな、案外普通に暮らしてるのかも知れんが。
 
 ふむ、ヴァンプ将軍と一緒に仕事してる=かよ子さんと仲が良いってのは単純過ぎるか?

 からんからん
 
「馬鹿か」

 こっちでは珍しいからっていきなりヒーローの人はないだろうに。

「うう…だって珍しいじゃない」

「そうかも知れんが考えて喋れ」

 全く美由希は抜けてるな。
 高良んちのみゆきも天然で抜けてるトコあるし、そういう名前なんだろうかね。

「あの、シュークリーム残ってますか」

「いらっしゃいませ、まだ残ってますよ」

 俺が敬語使って、出来る限り柔らかい声で返事するだけでうわって顔する妹には後でキツいお仕置きをせずばなるまい。
 具体的には洗濯前の美由希の下着を横島にプレゼントしてやる。

 って、シンジ君ではないですか。
 中等部だから確か、こなたの妹分とかと同級生なハズ。
 そして側にいるアルカイックスマイルはカヲルか、流石の美形コンビだわ。
 横島は普通の顔つきだね、こうやって見ると。
 恭也も普通寄りかね、ユーノは美少年。
 
「あの…?」

「失礼、おいくつですか?」

「何個買っても全部食い尽くすと思うけどね」

 やはりカヲルはそうなのだろうか、言葉に刺があるぞ。

「まあ、確かにアスカも綾波も食べる方だけどね――じゃあ20個下さい」

「はい、ありがとうございます」

 買いすぎだろ、いやうちも大家族だから何とも言えんが。

「おじさんが一番食べるんだけどね、翠屋のシュークリームは」

「父さん甘い物好きだから」

 ……似合わねぇなぁ、誰得だそれは。
 まあおまけ位してやろう、チェーン店では出来ないサービスという奴だな。
 
「はい、お待たせしました」

「いつもありがとう、ちょっと多め目に、ね?」

「あ、ありがとうございます」

 ふふん、ちょっとウィンクしたら顔を赤くしおって、可愛いじゃないか。
 顔が良いと言うのは実に得だな、それだけで人生イージーモードって訳にはいかんが。
 妬み嫉みがひどいからなぁ、おまけに俺の場合はスタイル良すぎだし。

「静ちゃんって可愛い子に弱いよね…」

 失礼な。

「うん、シンジ君は可愛いからね」

「カ、カヲル君ってば…」

 なんだこのイチャラブは。
 BLにハマる腐女子の気持ちがちょっと分かったぞ。
 つーか普通に女顔だな、シンジは。

「こんちわー、先輩、シュークリームおくれ」

「ああ、こなたか。幾つだ?」

「では失礼するよ、行こうシンジ君」

「うん、ありがとうございました」

「やー、先輩は可愛い子好き? ショタ?」

「誰がショタコンか」

 こなたが買い物袋ぶら下げて登場。
 私服だとホント小学生でも通じそうだなこなたは。

「いや割と本気で心配なんだけど…大丈夫?」

 こいつとは一回決着を付けるべきか?
 というか美少年・美少女が嫌いな奴はおらんだろうに。
 
「うるせぇ。で、幾つだ?」

「あ、六個ください」

「うむ、1080円な」

「どーもー。あ、うちで作った肉じゃがどうぞ」

「夕飯は決まってるのか?――ふむ、じゃあカレー持ってけ」

「ああ、昨日食べた羊のカレーね。美味しかったなぁ――はいはい、取ってくるね」

 からんからん

「羊? 珍しいですねぇ、ご馳走様です」

 月村経由で結構上等なマトンを手に入れたからな、割と贅沢なカレーだぞ。
 
「羊肉って臭くないんですか?」

「ラムは普通に旨いが、マトンは臭いぞ? だから一工夫は必要だな」

 美味しんぼでもやっていた、ぱさぱさになるまで火で炙ったのだ、ある程度脂を掃除してからだけど。
 で、肉汁を漉したり色々してカレールーに混ぜた。
 マトンの脂と肉汁を冷凍して分離して凝固した後の脂を切り外し、肉汁とマトンをルーに突っ込んで煮込んで冷凍して一晩放置する。
 そして解凍した後のルーに新鮮な野菜と一緒にラムを突っ込んだりな、肉らしい食感を出す為にラムの方もサイコロステーキ状態にした後の奴を入れる、こっちも普通に旨かったぞ。
 パサパサな肉にパルミジャーノ・レッジャーノを多めに溶かし込んだルーがよく絡んでかなり旨かった、自画自賛である。
 まあチーズのせいで若干甘めになってしまったので、男連中はソースなりタバスコなり入れてたが、子供達には好評だったぞ。
 
 蛇肉も有名だが、臭いがキツい肉はカレーで誤魔化すのが一番手っ取り早いのは確かだな、うむ。
 俺の調理は漫画の知識から構成されています。
 何が良いって絵付き、かつかなり簡潔な文で説明と分かり易いんだよね、下手な料理本が文字ばっかりで写真も殆どないとか地雷かって位なのに比べれば、よほど分かり易いわ。

 実際に作ってみるとツッコミ所しかない料理もあるけどな……
 粒胡椒そのまま山ほどくっつけたパン包みの串焼きハンバーグとかな。
 普通に粒胡椒を粉に挽いてから、適量に調整したら旨かったけどさ。
 トマトの味噌汁……は実は旨かったが南部煎餅が……
 トマトの味噌汁は普通に美味しく作れたが、南部煎餅入れる位なら麩とかクルトン入れるわってレベルだった。
 あとバナナソースのハンバーガーな、アレはどう考えても日本人の舌には合わないと思うんだが……
 怖くて作る気にもならんが。

「さすが先輩、手間かけてますな~」

「ま、趣味の範囲だから出来る事だな、正直。
 普通の主婦がここまでやってたら怖いぞ、エンゲル係数的に」

「確かに。最近は野菜が高くて困りますよねぇ」

 しかしうちのエンゲル係数はそれなりだったりする
 
 月村んトコから食材のお裾分けもらったり、そもそも業務用――要は翠屋で客に出す奴――のカレーと纏めて作ったり、色々経費削減してる。
 そもそも翠屋の経費として落とせたりするから色々一般家庭とは金銭の使い方が違うってのもあるしな。
 それなりに儲かってる喫茶店な上に親父の昔の稼ぎが貯金として残ってるから、金銭的には不自由してないってのもあるんだろうが。
 
 そして他人事ながら山岡さん家はエンゲル係数高すぎだよな……こっそりツンデレ爺が嫁に金回してても驚くに値しないが。
 
 んー、もう少し家庭を預かる主婦としてはエンゲル係数削減を考えるべきか、金使って旨い料理作るのは大概誰でも出来るし。
 ゲームみたいなもんだと思えばこれも楽しという奴だな。
 
 からんからん
 
「はい、お待たせ」

「おう、ありがとーみゆ吉」

「ところでこなたって敬語使えたんだね」

「先輩! みゆ吉が失礼です!」

「安心しろ、後でお仕置きしてやる」

「ひどっ?!」

「あの、シュークリームありますか?」

「いらっしゃいませ、大丈夫ですよ」

「じゃ、先輩、ご馳走様でしたー」

「おう」

 さー商売商売と。


****


 久々の休日にて、郊外に出来た巨乳専門と横島が言っていた下着屋、正確には服装関連の総合ショップに足を運んだ俺と北川と忍。
 あと下着の必要はないだろうがノエルが運転手として付いてきた。

「最高品質を貴女に、ねぇ」

 測定室と書かれた部屋から出て、如何にも男性立ち入り禁止的な雰囲気の店内に入る。
 それこそ手に入らない服はないんじゃないかという位種類があるな、案内板を見る限り。

「会員登録するのにスリーサイズから体重身長まできっちり計られるとは思わなかったわね」

 気に入った服があり、サイズが合わなかった場合、その服を店員に渡すと会員証のQRコードで店員がスタイルを確認し、身体に合うサイズの同じ服を用意してくれるらしい。
 勿論オーダーメイドもやってるぞ。
 そして二階はカフェとエステ『スマイリー熊本・海鳴支店』が営業している。
 ……まあ良いけどね、腕は確かなのは確かだろうし。

「北川はちょっと大きくなった?」

「96㎝のままよ?」

 忍も91㎝のGカップだけどな。

「羨ましい話だな、私は胸がでかすぎる。AV女優かっての」

 100㎝ってなんだ、もはや1mと言えてしまうぞ、全く。

「そこはグラビアモデルかって言っておきなさいな、というかそこまで行ったら北川も静香も大差ないわよ」

「ま、うちの学校だけでも同じ位スタイルの良い子や胸がおっきい子はいるけどね」

「まあな」

 一年の大谷姉妹とかな。
 双子なのに妹は俺と同じ位、姉は板という何のイジメかって言う姉妹である意味有名なのがいるし、外国人教師連中は軒並みモデル級の美形とスタイルばかりだし。
 ななこ先生だって正直見た目とスタイルはかなり上の方のレベルだしな、シエル先生もそうだし、鷹城先生もな。
 見た目で教師選びすぎだろ、男性教師も南部先生とかイケメン過ぎる、無愛想なのがマイナス点だが。



「あ、城西の織姫も来てるわね」

 ぶらぶらと服を見たり試着したりしながら広い店内を練り歩いてると、北川が声を上げた。

「ああ、ミス城西か」

「そ。それなりに流行りそうね、ここは。ま、ちょっとお高いけど、正直私達が買う大きさだとむしろ安い位だし」

「そういえばミカ先生は連れてこなかったの?」

「法事だって」

「まあ私はどうでも良いが――水着も売ってるのか、何でもありだな、全く」

「去年はビキニタイプだったし、今年はワンピにしようかしら」

「このブラジリアンタイプは誰が着るんだ…?」

 裸の方がましってのも普通に並んでるんだが…
 つーかこっちのVの字の殆どヒモ……水着の機能は何処行った。
 
「あら、横島君とか喜びそうじゃない?」

「あいつは何を着てようが喜ぶだろ」

「可愛いわね」

「ならやるわ」

「私は先生一筋だから」

「北川もよく分かんないわよね……まあ同性愛がどうのとは言わないけど……」

「そう意味では月村の方がよく分かんないわよ、高町――恭也君、恋人にして楽しいタイプじゃないんじゃない?」

「言えてる、アレは無口無愛想だからな、私と同じで」

「良いのよ、ああ見えて優しいし面白いんだから」

「まあ趣味が盆栽と釣りと散歩ってのは面白いな、おっさんくさくて」

「釣りは兎も角、盆栽って面白いわね」

「横島が修行中に盆栽の枝折った時は鬼神かって位怒ってな、アレは見物だった」

 おっと、名前で呼び忘れた。まあいないからいいや。

「あらら…横島君もご愁傷様ってトコね」

「あ、こっちのスカート、静香に似合わない?」

「待て、スカートは買わんぞ」

「貴女ね、一枚や二枚は持ってないと不便でしょ」

 力入れると筋肉えくぼが出来るんですが俺の太もも。
 二の腕とか腹筋も似たようなもんだが。

「高町も足太い訳じゃないんだから、スカート位平気でしょうに。
 関なんて常時スカートよ?」
 
「あんなイカれてる奴と一緒にされても困る」

「そうねぇ…こういうワンピースタイプの方が似合うかも。
 髪も降ろして首の後ろで結うだけにして」
 
「良いわね、麦わら帽子とかと似合いそう」

 白いワンピースに麦わら帽子とか何処のお嬢様だ。

「この目付きの悪さをどうにかしない限り、似合うもんでもないと思うがな」

「伊達眼鏡でもかけたら? 雰囲気大分変わるわよ」

「そこまでしてワンピースなぞ着る気はない」

「勿体ないわね、高町は綺麗なのに」

「まあ素材が良いから適当でも見栄えはするけどね」

「お前らと家族位だがな、そんな事言うのは」

 まあ綺麗は綺麗だと自分でも思うけど、目付き悪ぃし雰囲気も悪いし。

「こっちのハーフパンツはなかなか涼しそうだな」

 黒地に黄色のラインが入ってるシンプルなデザインで、汗が蒸発しやすい、ユニクロとかで売ってる新素材の奴。
 TシャツもYシャツも、腕の長さはM~Lなのに胴体部分はLL~XLという巨乳用としか思えない、需要があるんだかないんだか分からんのばっかりだ。
 
 逆にズボンやスカートは普通なのばかりだな。
 乳袋――まあ要するにブラジャーのように胸に沿って形作られている上着の事だが、それもオーダーメイドで作ってくれるらしいぞ、需要は知らん。
 だが、正直最初からそういうデザインで作ってくれた方が、セーターも胸の部分だけ伸びるという事もなくなるし、Yシャツのボタンが糸が切れて弾けたりボタン自体が割れたりする事もなくなるんだよな。
 そもそも普通の服だと胸に合わすと腕や丈がだぼだぼで腕や丈に合わすと胸の部分が伸びるというのがなぁ……
 ホント巨乳というのは不便だ。
 特に制服のブレザーやらスーツみたいに、上着をもう一枚着るような服ならむしろ最初から胸の部分だけ特別製の服の方が長持ちしそうだな。

「下着はさすがにお高いわねぇ」

「通販で買うよか安いわ、ボりすぎだろって位のもあるし。海外のはまだ安いんだが、色々面倒だしな」

 マジでたけーからなぁ…サイズのでかい下着は。
 まあ安いのはデザインがババくさいってのもあるんだが。

「ところでノエル、その山はなんだ」

「はい、お嬢様と静香様、北川様の試着用の衣服ですが」

 おい、一抱えってレベルジャネーゾ。
 一番でかいゴミ袋二つ分くらいはあるな、いやこいつは前が見えようが見えまいが関係ないのは知ってるけど。
 一応スーパーのカートのようなモノに積んであるんだが、よく崩れないな……

「というか俺はまだ何も選んでないんだが」

「はい、お嬢様がどうせ決め打ちで試着もせずに買おうとするからこっちで選んでおくと仰ってました」

「おい」

「試着するのが楽しいんじゃない?」

「そうよねぇ」

 俺はちっとも楽しくないぞ。
 服を脱いだり着たり面倒だろうに、どうせ何着ても胸しか誰も見んわ。
 しかし反論はしない俺、どうせこの手の言い合いで勝てる訳がないからな、女ってめんどい。
 ……ショーツの試着はしないよね?
 つか水着の試着ってどうするんだろう……あんまり人の着たのって着る気にならんが…
 
 店を練り歩きながら試着する服を増やしながら、試着用の箱? が並んだブースに到着。
 トイレの個室の入口がカーテンになってるような感じ?
 それがいくつも並んでいた。
 当然と言えば当然だが、各コーナーごとにいくつか試着室は用意されている。
 忍みたいにいくつも纏めて試着する人用にブースを設けてあるんだろうな。

「試着室もちょっと広めに取ってあるわね」

 室って言うか、天井が抜けてる箱が幾つも並んでる感じだけどな。
 『水着や下着の試着の際はご用命下さい、紙ショーツをご提供します』の注意書き。
 なるほど、その上から履けばとりあえず問題ないのか。
 ブラと水着は兎も角、そこまでしてショーツを試着する必要があるのか謎だ。

「さっ、試着するわよー」

「高町は化粧も覚えないと駄目よね」

「じゃこの後はコスメ行かないとね」

「要らんわ」

「駄目よ勿体ない」

「そうそう、折角綺麗なんだからね」

「鏡見て言え」

「だから化粧くらいしないとね」

「聞け」

「さ、まずは試着よ」

 こいつら人の話聞かないにも程があるだろ……
 
 試着に午前中いっぱい使って、午後も化粧品屋で遊ばれて、散々な休日だったぜ、全く……
 俺は着せ替え人形じゃねーっつーのに。
 まあ化粧に関しては助かったけど。
 いや個人的には化粧なんて要らんと思うよ、若さ的にも美貌的にも。
 だが、化粧してないってのは社会人女性的にはすっげー駄目な事らしいからなぁ。
 
 女ってめんどくせぇ…


****


 新しい服やら化粧品やら抱えて帰宅すると、アルフとフェレット三匹だけがいた。
 まあ横島達はシフト入ってる時間だし当然か。

「シズカー、届け物が来てるよー、部屋に置いておいた」

「ああ、ありがとう――で、お前ら何してるんだ?」

「躍ってみた動画の作成だってさ」

「らい?」

 荷物を背中に括ったライキが声を上げる。

 翠屋からの帰り道に買い物をして家に戻ると、居間でフェレット三人が二足立ちで躍っていた。
 それを椅子に腰掛けながらほねっこを囓りつつ眺めているアルフ。
 なるほど、サーチャーが空に浮いてるが。

「結構な人気なんだってさ」

「……そうか」

 フェレットが三匹、息を合わせて躍ってる動画とか割と人気になりそうな気はするけどさ……

 サーチャーからステージライトのようなレインボービームも出てる上に、余計な背景を映さないよう屏風のようなモノを背中に置いて、小学生のやる事とは思えない程手間が掛かっているな。
 まあフェイトも楽しそうだし、いいけどね。
 ユーノはほら、大人だしね、中身は。

「それ終わったら夕飯の支度するぞ」

 返事はない、録画最中だからだろうか、集中しているからか。

「らい」

 ライキもテーブルに乗っておやつを食べ始めた、俺に荷物を押し付けてからな。
 太るぞ、全く。
 まあ良い、部屋に戻って片付けついでに荷物とやらを確認するか。



 おお、ポケモンの卵か。
 オーキド博士が送ってくれたみたいだな、感謝。
 お礼のメールを送っておかないとな……
 うむ、ヒトカゲ。名前はイチローで決定だな。
 しかしポケモンの卵を孵すってどうやるんだ?
 
 ゲームだと手持ちに入れた状態で歩き回り、一定数の歩数を稼ぐと孵化。
 漫画だとどうだったかなぁ……ポケスペ位しか覚えてないが、アレもゴールドが特殊能力で孵化させてたようにしか覚えてねーし。
 とりあえず、肌身離さず動いてるしかなさそうだな。
 ……廃人ロードは海鳴にはないよなぁ……いやゲームと同じ事して孵化するか分からんが。
 懐かしいな、シンオウのズイロードは何度駆け抜けた事か。
 
 ま、兎も角。
 問題は大きさだな、バレーボール位の大きさだからちょっと携帯に不便だわ。
 腰に巻き付けておく、ウェストポーチ状態のは邪魔だな…背負うしかなさそうだ。
 
 重さは大した事ないんだがな。
 登下校、朝の修行、家事の最中は兎も角、ウェイトレスの最中にこれを携帯するのは無理があるか。
 孵化にどれだけ時間かかるやら。
 休みの日はサイクリングに精を出すかねぇ?

 というか、これ……
 重さが大した事ないって、ホエルコとかどうなってんだろうな……いや考えてはいけない部分か?
 
 学校にこれ持ってって良いのかな?
 まあ鞄にしまっておけばバレないか、うちの学校に持ち検はないしな。
 ……冷静に考えると制服に仕込んでる飛針や鋼糸の方が問題な気もするがスルーしよう。

「デイパックかなにか、なかったかな…?」

「らい!」

「む、どうしたライキ?」

 居間で甘酒啜ってたハズのライキが俺の部屋へ侵入してきた。

「ライ!」

「いや、別に暖めなくても孵化するぞ?」

 机によじ登って、卵を抱っこするライキは可愛いな。

「卵を孵化するには四六時中トレーナーの側に在る事、トレーナーが出来る限り歩き回る事、と博士の手紙には書いてあるが」

「らい!」

 ドンと胸を叩くライキ。
 これはあれか、自分が面倒見るぞって意味か?
 
「まあ良いけどな。学校行ってる間は兎も角、翠屋で働いてる時や家事してる時は頼むぞ」

「ライ!」

 鼻息荒いライキが可愛いなぁ、全く。
 
 
****

お待たせしました。
感想ありがとうございます、牛歩とは言えエタらずに済んでいるのも皆様の感想のおかげです。

この服屋さんは、登録した会員情報から欲しい服を購入者に合わせてサイズ変更してくれるサービスとかしてくれます。
採算とれるとは思えませんが。

それにしても日常生活前面に出そうとするとこなたが便利過ぎる。

おキヌちゃんが出てこない理由としては、色々あるけどファーストインプレッションに失敗したのが……
普通に電波な出会いでしたしね……なかなか絡ませづらいキャラだったりします、特に静香と一緒に出しづらい。
いっそ横島の日常編とか……うーむ……これ以上手を広げるのも…

あと今回、ハンター編の方の予定でしたが、余りにヒソカ戦の描写を手間取っていたため本編の方を掲載させて戴きました、ハンター編の方を期待してくださった方には申し訳ありません。



[14218] あらすじとキャラ紹介
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/04/04 15:26
あらすじ

神様の気まぐれでオリキャラに転生・憑依してしまった主人公・高町静香(19)♀。
その世界はありとあらゆる漫画・アニメ・小説などの登場人物が普通に生活しているカオスな世界であった。
そんな中で、自分の立ち位置や何をすべきかを考えながら日々を送っていると、シードモンスターの襲来。
精神逆行して中身が大人の少年・ユーノが颯爽と参上、同じく逆行してきたらしいレイハさんが勝手になのはをマスター登録。
目出度く静香の前で魔法少女なのは爆誕。
しかしこの世界の「なのはさん(小学三年生)」は「なのちゃん」の成分も多い上、様々な家庭事情の差(主に甘えられる姉・静香のせい)と「ユーノを助けた」ではなく「ユーノに助けられた」という差もあり、魔法使いである事に固執はしておらず、「ユーノ君を手伝う」という名目でジュエルシードの封印を行う事に。
 この時点で高町家全員の協力とユーノの居候が決定。
 続きはwebで。

キャラ紹介

高町静香 ♀ 十九歳 風ヶ丘高校三年
主人公。前世では隠れオタなサラリーマン(♂)であった。
女性として生まれ変わったからには出来る限り女性らしくすべきとある意味、常識的な考えの持ち主。
前世での座右の銘「同性愛はいかんぞ、非生産的な」

所々に元男性としての意識が邪魔をする場面もあり、なかなか前途多難である。
現在の悩みは一部の奇特な男性に言い寄られる事。
美形、巨乳(爆乳?)、黒髪長髪(降ろせば腰まである)、料理上手とモテない方がおかしい外見だが、
無愛想・無口(必要な事は喋る。イメージ的には魔術士オーフェンのチャイルドマンが近い)に加えて、目つき鋭く視線が強烈でプレッシャーを感じる人が続出、余り親しい友達もいないし口説かれる事も少ない。
親しい人間には慕われ、疎遠な人間には嫌われるタイプ。

前世で独り暮らしが長かった事もあり、一通りの家事スキルは万能。
最近では殆ど高町家の家事を一手に賄っている。
特に下の妹の高町なのはからは絶大な信頼を寄せられており、高町士郎が入院している頃から今まで、なのはが唯一何の遠慮もなしに甘えられる相手である。
作中の静香本人は記憶でしかソレを知らないが、なのはの事は可愛いと思っており、ひいき目に見ても恭也・美由希とは扱いが違う。

戦闘民族高町家の一員らしく、それなりに身体は鍛えているが御神流をどうこうしようとは思っておらず、護身術程度と飛針と鋼糸の扱い位で当人は刀を握った事はない。
更に現在の主人公が憑依してからは何故か念能力に目覚めたり目覚めた時既に練が出来たりと、本人も嘆く程チートな状態。
ただし強さ的には最強にはほど遠い。作中の最強キャラはアルクェイド・ブリュンスタッド辺りで、仮にアルクェイドとガチバトルになった場合、状況次第では手こずらせる事も可能、程度。状況次第では瞬殺。

念能力なんて得た以上、使いこなせておくべきと修行中に出会ったポケモン・ライチュウのライキとは肝胆相照らす仲。
前世でもポケモンのゲームは大好きだった事もあり(当然ながら生まれ変わったこの世界にデータが持ち越せる訳ではないので、高町静香となってからはポケモンゲームには手を出していない)即座にゲット、以後ライキも高町家の一員に。

現在、静香に言い寄っている人間は横島忠夫と田所晃の二人くらいで、どちらも静香からは友人程度しか考えられていない。
横島が現在のところは有利だが、この先何がどうなるかは作者も分からない。



[14218] 番外編:ユーノの休日・その一
Name: 陣◆e4fce16c ID:8db74bb9
Date: 2010/07/18 12:28
時系列的には七月半ば。
本編が五月GW最中なので、こちらの方が進んでますが気にせずお楽しみください。

****

 ユーノの一日は早い。
 朝四時過ぎには目を覚まし、自身の両腕を抱いて寝ている二人の少女、なのはとフェイトを起こさぬよう、そっとベッドから抜け出す所から始まる。尤も本日は休日なので現在時刻は朝の六時頃だが。
 元々漂泊民族スクライアの出であり発掘調査などで地面に雑魚寝やハンモックに慣れているユーノは、両腕拘束されていても問題なく安眠できる。基本的に腕枕は寝返り出来ないので、眠りが浅くなったり寝られなかったりする事もあるのだ。
 そして窓を開け空気を入れ換え、二人を起こす。

「おはよう、なのは、フェイト」

「ふぁ…ユーノ君、おはよー」

「おはよう、ユーノ」

 二人とも寝起きは良い方なので助かっている。
 そして三人で着替える。未だ九歳のなのはとフェイトに異性に対する羞恥心など殆どなく――『好き』という感情に対する照れはあるが――中身が大人のユーノにしても今更小学生の真っ平らな身体なんて見ても何の感慨もない。至って普通に、ただしなのは達に背を向けるようにしてユーノは着替えていた。
 
 そもそも年齢が二桁にも到達していないような男子女子が、それも当人同士が気にもかけていないのに一緒に風呂入ったり着替えたりする事に騒ぐ方がどうかしている。父親が騒ぐならまだしも。
 これでユーノが横島並にセクハラでもすれば話は変わるだろうが、元より礼儀正しく気の優しいユーノにそのような思考パターンは存在しない。よって三人が同じ部屋で寝泊まりする事には誰も気にしておらず、三人は仲良く日々を過ごしていた。

「今日はお休み! 映画見に行くの!」

 ごそごそと着替えながら、今日の予定を話し合う三人。

「映画、楽しみ」

「アリサとすずかも誘ってるんだろう?」

「うん! 皆で行くの!」

 ♪女のなかぁにー男がひとぉりー
 という奴である、今更だが。この街、海鳴は男女比率が少々おかしいのだ。

「お揃いなの」

「まあこれなら」

「お揃い♪」

 三人ともジーンズの短パンにハイソックス、ジージャンにTシャツ(ただし色は桃・緑・黒)と同じ服を揃えて着ていた。
 なのはも大概美少女だが、ユーノとフェイトは西欧系の顔立ちをしている事もあって殆どファッションモデルの如し。
 横島が嫉妬の炎を燃やすのも宜なるかな。
 
「あ、ユーノ君、おはようのチュー」

「私も…」

 勿論、なのはは両親の真似をしているだけである。そしてフェイトはなのはがやってるからやってるだけであり、やるのが当たり前的ななのはの表情と比べ、フェイトの顔は全力で赤かった。
 両方の頬にキスを受け赤く染まったユーノも、お返しとばかりになのはとフェイトの頬に軽く口づける。

「ちくしょおー! ちくしょおー!」

 どたどたどた…

「また忠夫お兄ちゃんが叫んでる」

 鏡台の前に座り、髪の毛をユーノとフェイトに梳かしてもらいながらなのはがぼやく。

「何なんだろうね」

 同じ男として、そして精神年齢的には横島より上のユーノは横島の叫びが何処に由来するのか分からないでもないが、どうにもしようがないので無視するしかなかった。
 まさか静香におはようのチューくらいさせてやれとも言えまい、言ってもやらないだろうが。

「はい、おしまい」

「次はフェイトちゃんね」

 鏡台の前の椅子をフェイトに譲るなのは。

「たまにはポニーテールにしてみたいな」

 料理上手で強くて誰にでも強気で接する事が出来て綺麗で格好良い静香は、気の弱い所があるフェイトに取って理想の女性なのだ。

「じゃあ私もポニーにするの!」

「君たちね…」

 どうして女の子はすぐ周りに同調するのかなぁ、等と考えても無駄な事を考えつつフェイトの髪をポニーに纏めるユーノ。
 この辺り、髪の扱いが異様に上手いのは色々あったからであろう。色々。

「はい、次はなのはね」

「ありがと、ユーノ」

「はーい」

 再び場所を交換すると、手早くなのはの髪もポニーにまとめ上げるユーノ。慣れた手つきである。

「ユーノ君、どぉ? 似合う?」

「うん、可愛いよ。なのはもフェイトも」

「ありがとう」

 実際可愛いのだから他に言いようもないとも言う。
 だが好きな相手に褒められればテンション上がるのが世の常。

 一日の始まりを最高の気分でスタートする二人であった。

****

 朝から高町家は騒々しい。十人も住民がいれば当然であるが、朝は居間に誰かが入るたびにおはようの連呼である。

 厨房に立つのは桃子と静香。基本的にはこの二人が高町家の食事係である。尤も美由希以外は多少の差異はあれど皆、料理は出来るのだが。

「今日は髪型を弄ってるんだな、二人とも」

 原作、アニメなどで髪型を弄らないのは記号的な意味があるからであろう。
 普通に生活していれば、ましてや女の子が気分に合わせて髪型やアクセを変えるなど当たり前の事である。
 イラストにしてお見せできないのが筆者的にも非常に残念である。

「うん! ユーノ君にやってもらったの!」

「静香とお揃いなんだ」

「ああ、可愛いぞ。二人とも」

「なのは、ユーノ君、フェイトちゃん、顔洗ってらっしゃい」

「はーい」×3

「なのは達は今日は映画行くそうだな」

 士郎が新聞に目を通しながら、誰ともなく呟く。
 勿論、自営業な大人組は全員仕事である。

「今日は月村もシフトに入るんだろう?」

「ああ」

「衛宮君達が休みだからな」

「ちくしょー! ちくしょー!」

「朝から五月蠅いねぇ、横島は。
 あ、静香、朝飯は肉かい?」
 
「朝から肉を喰う程、日本人の胃は丈夫に出来ていないのでな」

 朝食はトーストとビーフシチュー、シーザーサラダとバターやジャムなどである。
 朝から肉などと言いつつビーフシチューにかなりでかい肉が入っているのは内緒だ。
 
「映画行くんだっけ? なのは達は」

「うん! アリサちゃんとすずかちゃんと一緒にポケモンの映画見るの!」

 アニメではなく実写版ドラマに近い。なんせトレーナーの手持ちつかえば特殊撮影など要らないのだから。

「伝説の帝王サトシ、だっけ。ポケモン映画も長いよね」

「父さんが仕事中、三人で映画行った事もあったな」

「美由希が泣いて騒いだからな、私も恭也もそういうのは興味なかったが」

「なのは達より小さかった頃の話じゃない…」

「まあ、ユーノ、頼むぞ」

 静香からの信頼は厚い。まあ中身を知っていれば当然だが。
 
「はい」

「なのは達も気をつけてね」

「はーい×2」

「静香ちゃん俺らもデートしよう!」

「仕事だ馬鹿者」

 高町家の朝は慌ただしく過ぎて行く。

****

続く。



[14218] 番外編シリーズ2-1
Name: 陣◆e4fce16c ID:a851a7ea
Date: 2011/03/01 22:03
 どぉぉぉんっ!

「ぉぉおおおぃぃぃぃ?!」

「やかましい」

 ったく…朝っぱらから他人の部屋の天井裏で騒ぐなよ。
 あくびをかみ殺しつつ身体を起こす俺。
 朝の四時前か。起床時間には若干早いが、問題はないな。
 布団の中で丸まっているライキの背を一つ撫でてから身体を起こしベッドから降りる。
 今日もいい天気だな…やけに小鳥の声が部屋に響いてるのが気持ちよい。
 朝って感じだ…ぜ…?

「おいよ――忠夫、お前何かしたか?」

 窓の外は森、だった。
 森以外表現しようがない程木々が生い茂っている。
 熱帯系の植物はなさそうだから、やはり森が正しい。
 いつからうちの庭は森になったんだろうか。そもそも木の根っこが殆ど視線の平行線にある、というのは如何なものか。
 俺の部屋は二階にあるハズなんだが。
 
「俺がこんな事出来る訳ないじゃないっすか!
 静香ちゃんの寝顔見に天井裏に潜んで、気づいたら天井が無くなったんすよ!
 で、周りが一面木ばっかの森の中! どういう事っすか!?」
 
 それは俺が訊きたいトコだが。
 
「とりあえず降りて来い。扉の外からな」

「うっす」

 とりあえず敵意はない、殺気もな。円を広げた感じ、十数M範囲には動物はいるみたいだが近づいてくる様子もない。とりあえず遠巻きに様子をうかがっているという事か。
 パジャマから御神の戦闘服へ着替えながら円を広げた結果、間違いなくうちの庭でない、どころか『俺の部屋以外高町家が存在しない』という事が判明した訳だ。
 もっと正確に表現すると『俺の部屋だけが物理的に切り取られて森の中へ放置されている』というのが正しい。
 
 どういう事だ、いつの間に俺はドロシーになったんだ、オズの魔法使いか、MEIZU爆熱時空か。
 …まあどんな事態であれ、ライキを筆頭にポケモンが六匹手元にあるんだからそうそう酷い事態にはならんだろうが。

「よし」

 身体の各所に飛針、鋼糸、刃止剣(ソードブレイカー)飛刃(スペツナズ・ナイフ)、さらに腰のポシェットにポケセンで購入しまくったポケモン用の回復アイテムとブーストアイテム、前日作っておいた黍団子が三つ。腰のベルトにモンスターボールが五つ。ライキはベッドの上で欠伸してる。世界は地雷で出来ている(ワールド・イズ・マイン)用のフワライド人形が6個もベルトに装着。予備は30個部屋にあるだけか…キビダンゴ用の黍どう調達するかだな…
 腰まである髪の毛を三つ編み×2に纏めてさらにシニョンでお団子×2にして、戦闘準備完了。
 無駄にでかすぎる胸は巨乳用のスポーツブラの上にワイヤーや耐刃・耐火繊維でがちがちの戦闘服で抑えられてるから、この状態だとバスト102㎝であろうと殆ど揺れないのだ、ザマーミロ。
 胸が圧迫されて苦しいのは仕方ない、うむ。

 そして部屋の様子を確認。
 窓の外以外は昨晩寝る前と何ら変わらず。
 
「着替えるの早っ!?」

「お前が遅いだけだ」

 横島もこの後、朝練する予定であった為、戦闘服を着ている。武器は持ってないだろうが…
 ちなみに着替えから髪の毛纏めるまで五分。外で子供か何かと話してたっぽい横島に経過を問う。

「いやマジで外は森の中っす。
 ちょうど静香ちゃんの部屋だけ、高町家からくりぬいて外に放り出したって感じで。
 んで外に子供がいたんでちょっと話したんすけど、全然話が通じなくて。いや言葉は通じるんだけど」
 
「とりあえず、その子供とやらと話すか」

 ライキをボールに戻す。『オズの魔法使い』よろしく異世界乃至遠い異国に飛ばされたんだと仮定した場合、ポケモンが認知されていない可能性もあるからな。
 ……子供相手にフル武装で相対するのもどうかとは思うがこんな異常事態にのほほんと制服で外に出るのもどうかとは思う、難しい所だな。
 まあ横島が戦闘服で会ってる以上今更か。
 
「では会うか。忠夫、油断するなよ」

「いや普通の子供っすけど?」

「阿呆」

 こんな事態で子供だからとか理由になるか。

 しっかし自分の部屋の中で靴まで戦闘用の履いて歩くって日本人としてはすげー変な感覚だな…ホテルとかでやらないでもないが。

 ガチャリと音を立てて扉を押し開け、森の中へ一歩踏み出す。
 間違いなく森ってのが何とも言えん。凄まじいフィトンチッド臭、いや良い匂いなんだけど。
 そして目の前にいかにもわくわくしてますと言った風情の黒髪の少年。
 見たところなのは達と同年代、大体10歳前後か。ランニングシャツに短パンと言った森で遊んでました的な格好をしている、普通の少年。ただし、髪の毛は少々特徴的か、何せ今日から俺はの伊藤の如く髪の毛がツンツンである。
 …嫌な予感がしつつも口を開く俺。

「……おはよう、で良いのか分からないが、今何時だろうか、少年」

「今は朝の四時頃かな。俺、朝食の魚を釣りに来たんだ。
 そしたら森の方でどおんって音がして、気になって来てみたらお姉さんの部屋があったんだ」
 
 音がした割に俺の方で振動とかは感じなかったのがおかしいと言えばおかしいが。
 
「ふむ…質問ばかりで申し訳ないが、ここは何処だろうか」

「くじら島だよ」

 ……平島か…? 沖縄県名護市に存在する無人島………
 うん、現実逃避は辞めようか。

「……私の名前は高町静香、いや家名の方が高町だから、こちら風に言うならばシズカ・タカマチ、だ。
 こっちはタダオ・ヨコシマ」
 
「俺、ゴン・フリークス! 二人はどうやってここに来たの?」

「それは私も知りたい」

 いろんな意味でな。
 
****

剣客商売の世界に憑依ネタとかこんな妄想ばかり浮かぶから困る。
時系列は本編より進んでる設定です、ポケモンとかソードブレイカーとかね。

ケッシテハヤテガカキヅライカラトカジャナイデス



[14218] 番外編シリーズ2-2
Name: 陣◆1ab6094b ID:a851a7ea
Date: 2011/03/01 22:03
 とりあえず、着替える。
 
 ここがハンター×ハンターな世界でくじら島だというなら、とりあえず安全だからだ、危険な念能力者がいないという意味で。
 あととりあえずミトさんに会うつもりだからだ。
 
 着替えながらゴンに訊いてみたが、未だ8歳らしいゴン=フリークス。
 あ、勿論横島はふんじばって外放り出したぜ、上で覗いてるけど。
 まあゴンはこういう事は気にしなさそうだし、実際8歳ならこんなもんだろう、多分。

 で、8歳って事は、だ。
 原作のハンター試験が12歳の時の奴(のハズ)だから、受けようと思えば都合三回は受けられるのか。
 受ける気はないが、今年の試験は既に終わってるので受けられないのだ、今は9月らしいからな。しかしこの世界は新年早々血なまぐさいよなと思わんでもない、毎年1月が試験だもんな。

 受けるしても試験内容が大部分分かっている、第何回か忘れたがゴンが合格するハズの試験を受けるのが正解だろう、原作知識有りのオリ主としては。
 つまり約3年と3ヶ月の間に試験合格する為の準備をしなければならない。勿論平行して帰る方法(最低でも何故異世界転移してしまったかの理由)を探らねばならない。前者に比率を置かない為に原作試験を狙うつもりだが、折角時間に余裕がある以上鍛えたいんだよな、こんな危険な世界だし。

 で、それまでの足がかりというか生活の場というか、ぶっちゃけ金を稼ぐまでの当座の凌ぎをミトさんに相談させてもらおうという訳だ。
 勿論、稼ぐには天空闘技場だ、今更戦いがイヤだのという性格も神経も育ちもないからな。
 というか、こんな世界に放り出されて天空闘技場如き嫌がってたら帰るモンも帰れないと思うんだが。
 
 部屋も貸してもらうなり紹介してもらうなりしたいな。
 俺の部屋の荷物だけでもどっか避難させたい、大した私物がある訳でもないが。
 使ってるパソはノートだし、本の類は高町家の書庫に纏めて突っ込んであるし。
 私服関係とベッド、学校の教材位か。

 …はあ。
 なんでこんな事になったんだろうな…全く。
 何が原因であれ――特に念能力の暴走とかだと――一年やそこらで帰れる気がしないから困る。

「シズカ、どうかしたの?」

 早速ライキと仲良くなってしまったゴンが、ライキを抱っこしたまま声をかけてくる。

「いろいろあるんだ」

 ホントにな。

「らぁい」

 こてんと首をかしげるライキ。可愛いけどそんな気分でもないぜ…

****

 あの後ゴン少年の案内で、ミトさん(28)の家、つまりゴン少年の自宅へ行き、横島と二人で事情を説明した。

 この世界の住民だからか――何が起こってもおかしくない世界であるからかミトさんもゴンも納得してくれたみたいだ。勿論正直に全てを話した訳ではないにせよ、お人好しだなとは思う。有り難い上に他人の事は決して言えんが。
 
 出稼ぎの漁師どもが集まり季節が過ぎれば帰るというくじら島ゆえに、唐突に現れた旅人二人も余裕で受け入れてくれたのかも知れないが、これは本当に有り難かった。
 ミトさんに飛び掛かる前に撃墜しておいて本当によかった、何をとは言わんが。

 それにしてもあの馬鹿はその辺り、なかなか進化しないな…もう22にもなるというのに。他は大分成長してるが。具体的には恭也と互角。その恭也も父士郎と美由希を同時に相手にして引き分けまで持って行ける化け物ぶり。ちなみに俺では、念能力使わない(せめて練状態)限りもう美由希にも横島にも勝てん。

 まあ俺の本領は複数ポケモンを同時使役する事による独り軍隊だから悔しくないけどなっ!
 ライキなんか特に強くなったぞ、対人戦。ポケモンに何教えてんだと言われても俺の環境ではポケモンバトルよかVs人間の方が多かった訳で。
  
 兎も角、それだけ付き合ってても未だに忠夫ではなく横島と言いそうになる辺り、俺もなかなか慣れないもんだなとは思うが。
 
 とりあえず色々ミトさんと話し合った結果、ミトさんの家業である酒場を手伝う事で食住を手に入れられた。有り難い事だ、主にミトさんに対する横島のセクハラだけが心配だが。
 
 そもそも純粋な島民というのが100人もいないからなぁ。過疎地域まっしぐらだ。まあ出稼ぎの受け入れ先としての面を持つ性質上、人がいなくなるという事はなさそうではある。
 ちなみに俺の衣に関しては既に部屋から運送済みである、ポケモン達ありがとう。横島の服はまあ買い足せば良いし、ジーンズとかは殆ど体型変わらんからお互い着回せるしな。

 そして今、森の中に放り出された俺の部屋からめぼしいモノは宛がわれたミトさんの家の一部屋に収納し終わったところだ。大体昼過ぎか…
 ぼふん、とベッドに体を投げ出す。外からライキと横島とゴンのはしゃぐ声が聞こえる。
 多少古ぼけてはいるが、清潔さがそこそこに漂う良い部屋だ。ミトさんの人柄が偲ばれるね。

 横島といえばあいつ、順応性高いよなぁ…開き直ってるだけかも知れんが。
 ゴンと楽しげに遊び回ってる、まあ本能的にゴンと仲良くしなきゃ不味いと感じてるのかも知れんが。そういう勘は無駄に凄いよな、なんだかんだ言ってバッドエンドに行く選択肢は絶対に選ばないというか。

「らぁい!」

 ぼすっ
 …お前どこから…ああ窓からか…
 
 というか腹に飛び乗るな、お前体重30㎏あるんだから大分重いんだぞ。

 まあとっさに凝したけどな。
 この手の修行は我流だが大分こなしたし今や熟睡中でも円しつつ、何かが飛び込んできたら凝に切り替えるという器用な事も出来るようになってしまった。

「昼寝ですか?」

 いつの間にか部屋の入り口に突っ立っている横島。
 こいつも22歳という事で随分大人びた顔するようになったよな…精神年齢的にはどうだろうといったトコだが。

「色々考えざるを得ないからな、こんな事になって」

 なんでこんな事になったかも不明だが、どうやって帰るかも不明だしなぁ。
 
「大丈夫、何とかなりますって」

 どうでも良いけどこいつ、微妙に敬語だよな、俺に対して。
 てくてくと歩いてきて、俺の横、ベッドに腰掛ける横島。
 そのまま俺の腹の上のライキを自分で抱き抱え、話しかけてくる。

「ユーノだって異世界からやってきたって話だし、なんとかなるっすよ」

 まあ確かにそういう考え方もある、か。
 ここが第いくつか知らんが管理外世界という解釈もありではある。尤もその可能性は薄いと思うが。
 念なんて質量兵器や魔力なんて目じゃない程の汎用兵器に成り得るからな。

「だから、泣くなら俺の胸でぇぇぇ!」

 ぽいっとライキを放り出して俺の上に覆い被さる横島。
 ぐにっと俺の胸が横島の胸で潰れぎしりと古そうな木製のベッドが反抗の声を上げた。
 
「…あれ?」

「…気遣いは感謝してやる」

 別に泣いてないけどな。

「デレキター!」

 誰がツンデレだ、誰が。

 まあ…これまでの数年間一番側にいた他人ではあるし、その…なんだ、転生前に割と好きなキャラだった事もあって、うん、俺も大分女らしくなってしまった訳だが。
 
 どうも――こいつとそういう風に振る舞うのは、その、なんだ。
 
 照れる。

 人前でいちゃつく趣味は前世の頃からない。みっともないからだ。
 というか人前でいちゃついてる奴って顔偏差値がアレな奴らが多かった気がするんだが、前世では。
 海鳴市は美形のバーゲンセールだからそんな事もなかったがな。
 
 とはいえエクセレン日本史教諭と南部体育教師や遠野とアルクェイドetcのように人前でいちゃつく趣味はない、繰り返すが。

「とりあえず離れろ馬鹿者」

 横島の奴は気にもせず俺を抱きしめ、胸や尻を揉んだり頬ずりして俺を堪能している。横島の背中の上で同じように、横島に頬ずりしたりしているライキを乗せたまま。
 
 まあ、なんだ。
 
 こういう事されて嫌じゃないって事はやはりそうなんだろうと、今更といえば今更ながら冷静に自分を俯瞰していると、

「何してるの、タダオ、ライキ」

 で、いつの間にか――俺は気づいてたけど――部屋の入り口に立っているゴン。

「子供は――いつぅっ!?」

「ああ、ちょっと私がホームシックにかかってしまったのでな、慰めてくれたんだ」

 言うと同時にライキに視線を合わすと、横島の上でバチィっと弾けるライキの体毛。
 
「わっ! ライキが光った!」

 ああ、電気鼠はいないんだっけ、この世界。
 ぐったりした横島を自分の上からどかして床に転がし身体を起こし、飛びかかってくるライキを抱きしめる。

「電気ネズミのライキだ。全力で放つ電撃でクジラ位でかい生物をも焼き殺す事も出来る」

「らぁいっ!」

 ベッドに腰掛ける俺に抱き抱えられながら、胸を張って息巻くライキ。

「へー! 凄いね、ライキ!」

 はっきりと人間くらい焼き殺せるって言ったのにこの反応。分かってないのか天然なのか。
 まあ天然なのだろうが。

「らいっ」

 ぴょんっとゴンの胸に飛び込むってーかゴンに飛びかかるライキ。
 ライキは80㎝、ゴンは大体120㎝前後か。でかいペットといった風情で実に可愛らしい。
 うーむ、なのはがこの位の時を思い出してしまって、気持ちが下降しそうだ。
 今じゃなのは達も中学生だからな…なのはもユーノもフェイトもはやても皆制服姿が可愛らしかった事。
 予想通りなのはとフェイトの将来の夢はお嫁さんでユーノは学者として既に管理局のある世界へ論文を発表したりして博士号取ってたり。
 
 しかし、どうしたもんかねぇ……文殊はどう考えてもメモリが足らん上に、念能力は他人から教えてもらったのをそのままってのは酷く相性悪いんだよな(良くなりようがないというべきか)…いくら俺が横島=文殊って概念を持ってたとしても、横島本人がソレをもってなきゃ意味ないし――

「考えて無駄な事は考えない方が良いですって」

「…ふん」

 長いポニーをくすぐったそうに避けて俺の肩を抱き寄せる横島。横島の胸元にこてんと頭を寄せる俺。
 自然な成り行きと言わんばかりに抱き寄せている方の手で胸を揉むのはどうかと思うが。
 
「さて、仕込みの手伝い位してくるか」

「えー――いえすまむ」

 横島の腕を払い立ち上がり、部屋を出る俺。追従する横島、ゴン、ライキ。
 一抱えはあるであろライキを抱っこしながら歩くゴンもなかなか可愛いぜ。

****

「はーっ疲れたぁ」

「さすがにな…」

 ミトさん宅の居間でソファーに体を投げ出す俺と横島。

 ヒント1:この島の住民はとても少なく入れ替わりも殆ど無い。
 ヒント2:若くて美人な女給さんが登場
 ヒント3:飲みに来るのは殆ど出稼ぎの漁師とこの島在住のおっさん

 うん、どこから聞きつけてきたのか新しい女給が来ると知ってわんさか押し寄せてきたわ。
 急遽、横島とゴンで外に古いテーブルを並べて立ち飲みさせた程にな。ミトさん曰く自分が切り盛りするようになってから初めての大売り上げだそうだ。ちなみにミトさんのお祖母ちゃんも料理作るのを手伝ってた。ネイさんというらしい。
 
 いやはや…さすがに慣れない店でこの仕事量は堪えた。島中の男が集まった感すらあるぞ。
 横島を彼氏と若干照れながら紹介したせいか多くは無かったが、セクハラもされたし。
 まあ目の前で口の開いていないビール瓶二本を手刀ですぱっと切って、目の前のコップに注いでやったらセクハラは止んだけどな。

「お疲れ様ー。今日はもう休んで良いわよ。明日からも宜しくね」

 何が嬉しいのかにこにこと、疲れてるのに爽やかな笑顔のミトさんの声を受けて部屋に戻る俺たち。
 ゴンはライキを連れてとっくに夢の中さ。
 
 あー、疲れた…風呂入って汗流さないとな…服もタバコくさいし…なんで酒飲む奴は煙草を吸いたがるんだ、煙に巻かれて噎せて死ねっ、全く。
 
 とりあえず給料もらったら空気清浄機を一台お店に設置してやるぜ。
 
****

番外編シリーズその2の続き。
その場のノリで書いてますので静香22歳とか横島と恋人状態とか、この話を書いてる最中に決まりました、異論は認めますが反論は認めません。
本編で恋人同士になるかどうかは別ですね、いわゆるIFモノとして読んでください。

横島の念系統について意見ください。
原作の能力だけ見れば具現化系だと思うんですが、サイキックソーサーは思い切り放出系、栄光の手は変化系、文殊は具現化or特質…どうしろと。
そして性格判断的には(個人的には)強化系なんじゃないかと…悩んでます。



[14218] 番外編シリーズ2-3
Name: 陣◆e4fce16c ID:a851a7ea
Date: 2011/04/26 20:51
今回は改行の入れ方を少し多めに変えてみました。
読みやすくなってれば良いんですけど、読みにくい場合はおっしゃって下さい。

****

 ゴンがライキを連れ去ってから、深夜。
 風呂からあがって横島に俺のアホみたいに長い髪を乾かせて。
 パジャマに着替えて肩を揉ませてからベッドにイン。
 異世界に来てまで働かなきゃならないってのはアレだな、割と世知辛いぜ。
 
 ユーノ達がいないから大分時間喰ってしまったが…髪の毛切るかな…降ろすと踵辺りまで届くほど長い俺の髪。
 正直戦いが必ずある事が確定しているようなこの世界では邪魔でしかないのは確かだ。
 ポニーが普通に出来る程度に切ろうかな。
 
 でもなぁ、腰より下に伸びる黒髪のポニーとか最強過ぎるだろ常識的に考えて。

 まあ保留としておこう、とりあえず。
 いきなり髪の毛切ったらなのは辺りに怒られてしまうかも知れん。
 思えば遠くにきたもんだ。

「はぁぁ、やーらかいなーあったかいなー」

「五月蠅い黙れ」

 空き部屋に余裕はあるが――なにせ亡くなられたジンのご両親・ミトさんのご両親、併せて四人分の空き部屋がある――俺の方で一つの部屋で良いと断ったのだ。
 どのみち横島の私物は全くない訳だし。
 
 まあ夜も遅いし別に誰がいる訳でもないが、べたべたとしおってからに。
 殆ど抱き枕状態だ、全く。
 俺の首筋に顔埋めてくるからくすぐったくてかなわん。
 シングルサイズだから二人で寝るには密着せざるを得ないから仕方ないんだが。

「今日はやらんぞ」

「分かってますって」

 ホントに分かってるのかこいつは。
 太ももの間に膝入れて来るな胸を揉むな首筋に顔を埋めるな。

「なんで女の子ってこんな良い匂いがするんすかね」

「黙れ」

 全く、恥ずかしくなるような事を。
 大体23歳にもなって女の子とか有り得んだろ。
 世の中には不惑過ぎて女の子(笑)とか自称する輩もいるらしいが、理解に苦しむわ。
 
「擽ったい、手を動かすな」

 さっきからひっきりなしに身体をまさぐってくる横島の手。
 俺も前世じゃ似たような事してたからなぁ…まあ交際始めてから最初の数ヶ月程度は。
 結局若い男なんて皆同じという事だろうか。
 …まあ未だに女的な恋人としての振る舞いに照れを感じる俺が言うのもなんなんだが。

 それにしてもこいつとはもう恋人として数年経過してるんだが、いつまで経っても俺の身体に飽きるという事はないらしい。
 別に浮気して欲しいとかそういう意味ではないが、意外ではある。
 俺と付き合いだしてから、何故か知らんが普通にモテ始めたんだがな、横島は。
 アレか、結婚するとモテるとかそういう事か。
 
「いい加減寝るぞ」

「ういっす」

 まさぐる手が止まり、一際強く俺を抱きしめる横島。
 うー…嫌じゃないんだが。嫌じゃないんだがどーもなぁ…照れる。
 誰が見てる訳でもないんだが。

「とりあえず、明日以降暫く、ゴンと全力で遊ぶぞ」

「? なんすかそれ」

「やれば分かる」

 そう、この世界の人間の理不尽な体力とかな。
 一次試験のマラソン、メンチに殴られたデブとかなんで走破できるのか不思議で仕方ないだろ、体格的に考えて。
 走破距離80キロは超えてたろうに。


****


 半年経ちました。


 海で遊んだり山で遊んだり森で遊んだり。
 酒場での女給や調理の仕事手伝ったり。
 ネットで色々と調べたり。
 
 結論から言うとゴンパネェ。
 なんだあの体力は。

 ライキ達ポケモンと一日中鬼ごっこして平気な顔してるとか有り得ん。こっちには飛行ポケもいるのに。
 横島ですら普通に体力負けするとか今までどういう生活だったんだマジで。
 予想はしていたが半年前の俺だと勝負にもならかった。
 そりゃフルマラソンを完走出来る程度の体力はあるがそんなんじゃ全然足らん。
 纏状態で纏してないゴンと互角とかもうね。
 元々、垂れ流しとは言えゴンのオーラの量が半端なかったのは確かだが、それにしても凄まじい。

 で、円したり色々したりくじら島歩き回って調べて。
 この世界の住人の成長率とか、主に肉体的な面での異常さの原因が掴めた気がする。
 この世界、植物までうっすらと念を垂れ流していた。
 勿論、凝した上で注意して見ないと分からない程だとしても、海鳴市では凝で見ても植物に念があるようには見えなかった以上、有と無の差はかなりでかいハズ。
 
 この世界の植物は念能力を持てる可能性がある、という仮説。

 これだと何とか湿原の馬鹿馬鹿しい植物どもの進化も説明つくんだよな、念能力の不可解さ的に。
 で、その垂れ流しのオーラを自然に身体に取り込んでいるから、ゴン達のような成長率や筋力と見た目、体力のアンバランスが発生する訳だ、多分。
 ミトさんとかが若く見えるのも、イネ婆さんが長生きなのも(もう100超えてるらしい)これが原因じゃないだろうか?
 普段生活しているだけで体内に取り込むオーラの量が桁違いなのは間違いない。
 更に言えばカイト達があほな数の新種を見つけていたが、これも念による進化の加速が起こっているとしたら、納得出来ない話ではないのだ。あと単純に世界が広い。多分地球の10倍位この星は大きい気がする。じゃなきゃハンターがこれだけ歴史築いていて未だに未発見の古代都市とかが出てくるとか信じられん。

 まあもっと驚きなのは半年間、ゴンと付き合って走ったり泳いだりしてたら、普通にゴンと同じ位の体力が付いた事だが。
 しかも見た目の筋肉量は殆ど変わってない。
 まあ元から腹筋は少しだけど割れてたし太ももなんか筋肉えくぼとか出来てたけどな…流石にボディビルダーほどではないぞ、ボ帝ビルとか微妙過ぎる。
 それでも流石女の身体というべきか、横島なんぞ涙流さんばかりに「やーらかいなー!」と喜んで抱きしめたり撫で回したりしていた、というか今もしている。
 うーん…不思議だ。見た目の筋肉量と実際の筋力の差がよく解らん。オーラの差だけなのか?
 レオリオが試しの門開けた時なんか、見た目殆ど変わってなかったしなぁ。というか見た目の問題ならゴンキルがあれだけ筋力あってあんな細いのはいったい。ビスケ(本性)ならまだ話は分かるが。
 やはりこの世界、見た目の筋力量≠実際の筋力なのか。ビスケの例だけじゃ判断出来んなぁ。
 
 体力が付いたと言えば、ポケモン達も体力、というかレベルが随分上がったぞ、具体的にはライキLv143。
 技使わずにゴンと対戦、技ありで横島と対戦とかしてたからな、強くなる分には文句ないんだが。
 図鑑がバグったのかと思ったが、他のポケモンも似たようなもんだった、つまり全員Lv100越え。
 図鑑バグってない、と思う。レベル表示以外は特におかしい所はないし。
 流石に現在位置とかはノーデータとしか出なかった。
 まあ地図データ突っ込んだら普通のGPS程度には使えるようになったけどな。
 何気に凄いぞポケモン図鑑。

 そして半年経った今、横島も俺も、ゴンと一日中走り回って汗かいた程度で済む程になった。
 横島に未だ念は教えていない、念使えるようになると意識的に纏を解かないと体力が逆につきづらいからな、というのも理由の一つだが、ぶっちゃけて言えば怖いからだ。
 
 言うまでもなく、俺の念能力は我流である。というか気付いたら纏・練が出来てたという気違いっぷり。
 しかも今では大分抜け落ちが多い原作漫画の知識を元に、我流で練習しているに過ぎない。
 操作系の練習方法なんてさっぱり分からんしな。放出系と強化系はちょっとは覚えてるが。
 一応、念でライキや飛針、鋼糸を踊らせたりして操作系の練習(もどき)はしてる。更には周した飛針をラジコンの飛ばしたりな。周した物体を、オーラ維持しつつ身体から切り離すのはコツを掴むまでちょっと悩んだが今では楽勝だ。
 
 まあ、そんな俺が横島を中途半端に育ててしまって、海鳴市に戻れませんでした、戻れる能力を覚えませんでした、では泣くに泣けん。
 なので今は横島に教えていない。多分これからも俺が教える事はない。
 お金貯めてロリババア辺りを探して師匠になってもらうのだ。
 何とか会とかクラピカがそうやって師匠を捜してた、はず、大分怪しいが…

 絶対に海鳴市に戻る。

 そしてそれ以前の問題として絶対に五体満足な状態で生き残る。
 その為にも横島には強くなってもらわねば。
 死んだら、多分泣くしな。泣くだけで済まないかも知れん、いやきっと済まない。
 
 この上横島やライキ達を失うとか地獄過ぎる。
 よって頑張って強くならないとな…はあ、平和な海鳴が懐かしいよ。
 妖怪とか幽霊とか吸血鬼とか色々いたけど平和だったし。

「最近涙もろいっすね?」

「懐郷病だ」

 ちょっと涙ぐんでしまった。
 
 昼飯兼夕飯の調達兼仕入れ代わりの釣りの最中である。
 横島と二人、丸まって昼寝しているリザードンのイチローを背もたれに、釣り竿を垂らして太公望だ。
 もう一匹、メタモンのロデムが俺の腕に絡みついてうにょうにょしている。
 ちなみに名前の元ネタはヒ「トカゲのイチロー」とバビル2世である。

「もうそろそろ半年かって感じですからねぇ」

 海である。まあ四方を海に囲まれているくじら島では余り泳ぐ事を趣味としている人はいないらしい。
 なにげに荒い海だしな、俺たちにとってみれば大した事ないが。
 波乗りを楽しんでいるライキとゴンを遠くに見ながら、砂浜に座っている俺たち。
 もう3月だがくじら島では別段泳げない程寒くはない。
 大分南に位置している島なのか、海鳴市(静岡県太平洋沿岸部地域)の六月相当の気温位だろうか。
 俺も横島も、Tシャツにハーフパンツというラフな格好である。
 俺の場合は下に水着を着込んでいるけどな。
 
 しかし水着代馬鹿にならんかったなぁ…
 ワンピースタイプは論外なスタイルのせいで、ビキニタイプしか選べん。
 バストが大きすぎるとこんな事でも悩まなきゃならんのだ、理不尽だ。
 ワンピタイプを買うと、胸に合わせると尻がぶかぶかで尻に合わせると胸がきつくて入らないという…ふっ…
 ビキニタイプはビキニタイプでお腹が…少し力を入れると割れて恥ずかしいんだが。
 男ならむしろ格好良いのになぁ。

「と言いつつ肩を抱くな」

 まあこいつはそんな事気にしないんだろうけど。

「いいじゃないっすか。自重して胸もお尻も揉んでないんだし」

「黙れ馬鹿」

 ちなみにライキの波乗りは自分のしっぽを巨大化させてボード状にして波に乗っている、ゴンと相乗りだ。
 アイアンテールとかの要領だろうか。
 ポケスペみたいに身代わりを使って云々ではない。文句がある訳ではないがアレだと波乗りするたびにHP持っていかれる訳で、効率悪いよな…まあ元々水上移動用で、ポケスペのポケモンは1匹たりとも攻撃技としては使用していないけど。
 よく考えると大分無理があるよな、バトレボとかで大波呼んで攻撃するが、アレじゃ波乗りというより『津波』と呼ぶ方が相応しいし。
 まあどうでも良い事だが…ゲームと違って、そしてポケスペ同様、波乗りは攻撃技にはならんという事だけ分かれば。
 ちなみにゴンなら兎も角、俺や横島みたいな大人は相乗り不可能だそうだ、残念。
 まあ飛行用のポケモン・リザードンのイチローがいるから概ね問題はないが。
 
 まあそれは兎も角、合計3匹連れている、利便性と好みの妥協点だな。
 ゲームの6匹というのはゲーム的な事情だろう、ポケスペではオーキド博士気が上手く説明していたが、それでいてブルーは7匹目を隠し持ってたりしたしな…別にどうこういうつもりはないが。

 10匹でも20匹でも連れ歩けばいいじゃないかと思った奴ぁ表出ろ。
 オーキド博士の言う事に加えて、余り多いとまずえさ代が馬鹿にならんのだ。
 そういう意味でカビゴンとかは不人気だな、強いけど。というか設定的に日本以外だと屠殺されんだろうか。
 一日400㎏の食餌ってどう考えても地球環境の敵だと思うんだが…まあ深く考えるのはよそう。
 ライチュウだって大分アレだしな、初代は特に。
 
 何より――ペット飼っている奴なら分かるだろうが――あんまり多いと手間がかかる、色々と。
 そういう訳で、ポケモンバトルをメインでトレーナーしている奴やジムリーダーを除けば、俺がいた世界じゃ精々2~3匹、一番多いトレーナーが1匹のみだった。例外はバニングス家や月村家などポケモン屋敷にしてる金持ちの家な。

 そして俺も3匹飼ってる訳だ。所持してるというと物扱いしてるようで何か嫌。
 イチローもライキも体格相応にしか食べないし、ロデムは体格に比べれば確かに食べる方だが、それとて精々ライキ並である。しかしこいつ、リザードンどころかホエルオーにすら変身出来るんだが、どこからその質量をひねり出しているのやら。

「ふぃーっしゅ」

 イチローの欠伸と同時に横島の声。

「…何気に卒がないよな、忠夫は」

 本日7匹目の魚をバケツに放り込む横島。
 俺の方はオケラである。

 悔しいので、周を使う。文句は言わさん、バレないだろうけど。
 釣り竿と糸と針を周し、釣り竿の弾性を強化、餌の付いた針の部分のオーラを円――イメージ的にはガラス細工の花瓶を作る感じで――で膨らませ海中を探る。そして餌の付いた針を操作して魚の前にちらつかせる。
 列記するとなかなか高等技術に見えるから不思議だ。まあ針操って直接魚の口に針を引っかけてもいいんだけどな。
 そして程なく1匹目がヒット。

「しかしグロいな」

「まあゴンが食えるって言うんだから食えるんじゃないすか」

 まあこの世界の生物は色々おかしいからな、主に見た目が。
 富樫ワールドな上、主人公どもも特殊だから仕方ないが、漫画に出てくるような奴らも皆大概考え方がぶっ飛んでたりするしな。
 レオリオとかセンリツとか常識的なキャラが本当に少ない作品だったなあ…
 前世の俺が死んだのが確か2009年の終わり頃、あれから4年と半年。
 今頃連載終了…してなさそうだな、数年経ってるけど。


****


「ふむ。こんなもんか」

「十分っすね」

 合計30匹も釣れば十分だろう。
 ゴンとライキは砂浜で棒倒しをしていた。仲良いなお前ら。
 
 昼頃なのでゴンとライキを呼んで浜辺で焼き魚のみのバーベキューにしよう。
 と思ったら森の中から食べられるキノコをいくらかゴンが拾って来た。野生児パネェ。
 水着の短パンのみで上も裸なら下も素足でよく森の中走れるもんだ。しかも持ってくるキノコがまた色々ある事。
 いやね、自分の世界だったらある程度分けられるよ? 食べられるのと食べられないのと。
 だがこの世界のキノコはよく分からんのが多い。
 見た目で判断付かないのはキノコの常だとしても、種類が俺らの世界の十倍はあるんじゃなかろうか。
 
 イチローの尻尾の炎を移して起こした焚き火の周りに、俺が内臓を処理した魚を飛針に刺して焼いていく。
 キノコも同じように焼く。
 飛針は針と言っても普通の菜箸の片方位の大きさはあるからな、問題ない。

「らぁい♪」
 
 塩水被ってるライキに抱きつかれたら死亡しそうなので自重してもらっているが、焚き火の前で楽しそうに身体を揺らしている。
 
 さて、円の出番だ。
 根性入れて集中すれば大気の揺らぎや加熱による蛋白質の熱変性すら察知可能になったのだ。
 恐らく操作系の特性が円に付加された、というか無意識的に付加する事を望んだのだろう。
 こうなると円じゃなくて名前を付けて発にまで高めた方が効率も上がりそうだな…考えておこう。
 最終的には血管の拍動や『空気が割れる音』すら聞き分けられそうだ。梁老師の強さは異常。
 拳児とか読んでたからそれほど梁老師の強さに違和感がないから困る。ジーザスとか好きだったなぁ。
 …ジーザスとか拳児辺りはいそうだけどな、俺の世界なら。
 
 そしてどうでも良いが盲目のキャラで弱い奴っていないよな、普通に考えたら目が見えないって最悪のハンデだと思うが。
 特に虚空とか黄泉とか強すぎじゃね。
 
「シズカ?」

「…ああ、すまん」

 つい懐かしさで思索に耽ってしまった。

「イチロー達にも食餌をやらねばな」

「ちょっ!? 尻尾こっち向けるな馬鹿たれ!」

 ライキと同じ位横島に懐いているイチローが早速横島を構い始める。
 リザードンの平均身長1.7mを大きく上回る2mのイチローである。勿論翼や尻尾を入れれば計測値はもっと伸びるだろう。そんな巨体のトカゲ(或いは竜)が抱きついてくるのである、横島ザマァ。

「メタメタ~」

 メタモンの鳴き声だけじゃないが、ポケモンの鳴き声って無茶なのが多い気がするぜ。
 ライチュウとかピカチュウはまだしもドサイドンとかエルレイドとか無理があるだろ。
 リザードンは比較的怪獣っぽいというかゴジラっぽい鳴き声だが。
 
 まあそれはそれとして、俺の腕に巻き付くように身体を固定して焼けた魚を丸呑みするロデム。
 こいつの消化器官ってどうなってんだろうな…バクテリアの類と同じなのだろうか。

「はい、イチロー」

 横島に抱きつくイチローに魚をあげるゴン。
 対抗するようにライキも、横島の胡座を背もたれにするように座って魚を囓っている。

 見た目グロいが旨いなこの魚。秋刀魚を無理矢理深海魚にしたようなデザインなんだが、味はどちらかというと鯖か?
 塩振って(と言うか海水を適当にぶっかけた)焼いただけでこれだけ旨いんだから大したもんだ。
 まあ俺が円で焼ムラ無しで均一に焼いたというのもあるんだがな。きちんと火の通ったレアは肉でも魚でも旨いものだ。
 元々サバイバルには自信がある方だったが、くじら島に来てから相当LV上がったぞ、全く。
 
「何度喰っても旨いっすねー」

「シズカが焼くとホント美味しいよ!」

「まあな」

「静香ちゃんの料理は世界一やぁ!」

 興奮すると中途半端な関西弁が出るよな、こいつは。
 
「食べたら一泳ぎするか」

「静香ちゃんの水着キター!」

「そんなに嬉しいの?」

「当然!」

「まあ男ってのはこういう馬鹿なもんだと思っておけ」

 前世から俺は余りコスプレに萌えるという事はなかったからなぁ、いまいち理解してやれん。
 いやまあそれこそ巫女服だとかナース服だとかウェイトレスの制服とか、可愛いのは理解出来るけどさ、それが性欲に直結しないんだ――しなかったんだよな、俺の場合。
 しかもこいつは何度も俺の裸を見てるし触ってるハズなんだが…別腹なのか、よく分からんが。
 しかしまあなんだ、こいつが俺の身体に飽きる事ってあるのかね。なさそうだが、というより性欲が尽きなさそうだよな、こいつ。女冥利に尽きる、のか? よく分からん。

****

「ふぅ、流石に波が荒かったな」

 しかしまあ綺麗な海だこと。
 海鳴の海も綺麗な方ではあったがここは別天地だな。
 素潜りすると綺麗なのからグロいのまで色々な魚がいるわ珊瑚だのよく分からない海草だのと、賑やかな海。
 俺も横島も素潜りで5分前後はいけたが、ここへ来て10分近くまで伸びた。
 なので酸素ボンベなんぞ無くてもダイビングが楽しめると言うわけだ。

「海中で靡く黒髪…実にイイ!」

「シズカは綺麗だもんね」

「やかましい」

 ゴンの場合は下心がないから困る。照れるぞ、全く。
 
「かーいいなぁもう!」

「抱きつくな馬鹿者」

 こいつはこいつで年々歳々遠慮がなくなってくるし。
 まあ…そう思いながらも無理に振りほどかない辺り俺も大概だな、全く。

「ほら」

 三人で浜辺に上がり、三匹固まって昼寝をしている処へ戻る。
 荷物からバスタオルを出して横島に放ってからゴンを抱き寄せて頭を拭いてやる。
 
「もー自分で出来るってば」

「いいからやらせろ」

 見た目に反して意外と柔いんだよな、ゴンの髪。どういう理屈であそこまで立ってるのか不思議だ。
 
「最近の静香ちゃんは構いたがりっすね」

 ベッドでもとか言いそうな横島に全力で殺気飛ばして黙らせつつ。

「よし、終わったぞ」

 まあ応急手当みたいなもんだけどな。
 そもそも塩水にどっぷり浸かった以上、風呂なりシャワーなりで洗い流さないと色々笑えない。
 
 俺が指示するまでもなくてきぱきと片付けている横島と二匹。
 ロデムはなんか横島の腕に巻き付いている。
 まあロデムにそんな期待はしていないが。
 ゴンも片付けを手伝い始めるのを横目で見つつ俺も髪を拭く。少しでも水気を飛ばさないと頭が重すぎる。
 で、適当に首の後ろで結わいて、と。水で濡れた髪をポニーとか重すぎて疲れるんだぜ。
 まあポニーテール自体、自己満足の度合いが高い髪型だけどな、普通に重いし肩凝る。
 梃子の原理は知っててもなんか理不尽だよな、同じ髪なのに纏め上げる場所と、降ろすか纏め上げるかが変わるだけで重さが変わるってのは。
 
「静香ちゃん片付け終わったっすよ」

「ああ、分かった」

 三匹をボールに戻してポーチに仕舞う。
 魚籠と竿、着替えその他の入ったバッグをそれぞれ分担して帰途につく俺たち。
 まあ歩いて数分の距離だけどな。
 
「帰ったらミトさんと少し話し合いだな」

「何かありましたっけ?」

「ああ、そろそろ島を出る時期だ」

 体力的にゴンと互角になった上、天空闘技場までの旅費が余裕で貯まったからな。
 いつまでもここでのんびりしている訳にもいくまいよ。
 まあいきなり天空闘技場じゃなくキルアの実家でバイトしようかなと思ってるが。
 あそこで手に入る筋力は今後、どう考えても必要だし。
 嫌な現実だが死体慣れもしなきゃならないし、な。今から凄まじく憂鬱だが。
 ちなみに俺はそういう意味ではバージンだ。恭也や美由希、横島が殺ったのを見た事は何度かあるが。
 横島は嫌だと喚きながらも恭也と美由希に引き摺られて香港やドイツで色々やらされてたからな。
 
 …手を汚したくない、というのは我が儘なんだろうなぁ…
 
「え、シズカとタダオ、出て行っちゃうの?」

「ああ、私は、家に帰りたいからな。くじら島が嫌いな訳ではないが、な」

「そっか…」

「帰るっつったって帰り方も分かんないすからねぇ。
 まあまだ当分先の話っすね~」
 
 足を止めてしまい俺たちから遅れたゴンを、戻って小脇に抱えて来る横島。

「癪だが忠夫の言う通りだ。
 まあ、旅に出ると言っても、精々半年か一年ぐらいでくじら島に顔出すさ。
 ちょくちょく電話もするしな」

 横島の小脇に抱えられたままのゴンの頭をくしゃくしゃと撫でる。
 うーん、何故こんな柔らかいのに立つのか。
 実写版今日俺の伊藤とか見窄らしかったが、ゴンのは凄まじいな。

「それに、だ。
 ハンターになれば出会いと別れの繰り返しだぞ?」
 
「え? …俺、話したっけ?」

 ミトさんがああだからな。
 フリークス家でハンター関係の話題は厳禁、という程でもないが喜ばれないのだ。
 ミトさん自身ハンター大嫌いと公言してるし。
 まあ、そんな事言いつつジンの写真の前で独り酒したりする辺り、ミトさんもなかなかツンデレであるかも知れない。

「姉は何でも知っている」

 横島と二人でコンの面倒見てたりな。
 俺が近づくと出て来ない辺り腹立たしい。
 全く許し難い所行だ、もふもふさせろ。
 どうもコン的に俺は許し難い匂いの人間らしい。
 まあミトさんも同じようだから人間の雌はダメだという理由なのかもな。

「いつゴンの姉貴になったんすか」

「黙れ」

 話の流れを切るな、全く。

「ま、ミトさんの前では言わないから安心しろ」

「ハンター嫌いっすからねー、まあ逃げた旦那が悪いんだけど」

「でも俺は――」

「黙っておけ。ミトさんの思惑は兎も角、なりたいモノになるのが正しいのだ」

「そうそう、諦めなきゃどうにかなるって。
 俺も諦めないで良かった!」
 
「一歩間違えなくてもストーカーレベルだった事は忘れんからな」

 まあそれを許してしまう辺り、それこそアレなんだろうけど。

「――うん!」

****


デレ杉じゃね? という疑問は封殺します。
ツン期が長かった反動と思ってくださいw



[14218] 番外編シリーズ2-4
Name: 陣◆1ab6094b ID:751d9215
Date: 2012/02/21 08:50
XXX板で投稿しました18禁版の続きになりますが読んでなくても殆ど影響ないはずです。
2-3→18禁版の一話→2-4ですね、時系列的には。


****


「どうするんすか?」

「…黙ってろ」

 マジで困った。
 よもや空港でこんな足止めを食らうとは…完全に想定外だ。
 
「よく考えりゃ当然っすよねぇ。
 俺ら風来坊も良いとこで、パスポートなんて取れる訳がないんだから」
 
 そう、「飛行船に乗れない」という緊急事態である。
 よく考えたら当然だわ、迂闊な話だが。

「…うむ、とりあえず飯でも食べながら考えよう」

「考えてどーにかなるとも思えんけどなぁ」

 やれやれと頭を振る横島。
 正論だがぶん殴りたい。

****

 ザバン市に着いた後、最寄りの空港までの電車を調べてから飯を済ませ、ラブホで色々溜まってたモノを吐き出して。
 次の日電車を乗り継いで夕方、今ここ――空港である。
 
 なんかいちいち時間かかる割に、乗り物自体の速度とかそんな日本と変わらんのよな。
 やはりこの世界は地球より面積が物理的に広いと思わざるを得ない。
 
 まあそんなこんなで早めの夕食である。
 空港の飯屋はなんか充実してる事多いからな、困る事はない。

 かちゃかちゃとハンバーグを切るナイフと鉄皿の擦れる音。

「密航は却下だな、リスクばかりでメリットがない」

 護衛のハンターの一人雇っててもおかしくないしな。
 
 まあ、船や飛行船の護衛程度しか出来ないハンターなら俺が負けるとも思えんが、勝負の問題ではないのだ。
 …戸籍も国籍もないんだから犯罪し放題ではあるんだよなぁ…やらねーけど。

「イチローで飛んでくしかないんじゃ?」

 キリコに空飛んで運んでもらったシーンは覚えてるからな、不可能ではない。
 ただし、向こうはナビゲーター、つまり協会の雇われ職員でその権限を持ってると思われるのに対して俺らはというと、だ。
 
 ……ふう。
 
 夢小説の主人公はいいなぁ!
 いきなりジンとかヒソカとかクロロとかに出会えて気に入られて!
 地に足つけた苦労なんてしなくていいんだもんなぁ!
 
 …嘆いていても仕方ない。
 だいたい冷静に考えれば、色々と俺もひどいし…
 …尤も、この世界で法律を守る意味があるのか、必要があるのかと言われれば疑問だが。 

 たん、と一息で飲み干したアイスティーのテーブルに置く俺。

「イチローとロデムに頑張ってもらうしかあるまい。
 ただし、準備がいるな」
 
 お空の交通事情の調査である。
 イチローで飛んで行ったら墜とされました、じゃ笑えん。
 必要なら新しい発も作るしかないし。
 

****

 
 そして再びザバン市である。
 時間的にはもう日が沈む頃、繁華街が最も賑わう時間帯。
 
 途中、コンビニで世界地図を確認したが、ここは南アフリコ大陸(仮)で、原作でのゴン達が合格したハンター試験の最終会場があった大陸っぽい。
 と言ってもザバン市は南の端に近いのに対して、最終試験場は北、即ちパドキア共和国がある大陸から左下に存在する大陸である。
 確か最終試験場があった場所から飛行船で三日とクラピカが言ってたので、ぶっちゃけここからイチローで飛んで行くのは無理がある。

「くじら島しか知らなかったけど、やっぱこっちの世界もそれなりに普通なんだ」

「ま、言葉が通じるのは有りがたかったな。
 この世界は世界共通語が存在して、並列するように英語や日本語が存在するみたいだが」

 とりあえず開き直って観光中。
 と言っても街中をぶらつくだけだが。
 金銭的にはラブホで泊まり続けて一ヶ月程度は持つ位の現金がある。
 つまり当分金銭的にどうこうする必要はない、余裕があるという程でないにしろ。

「ヌメーレ湿原にビスカ森林公園がこの国ってか、ザバン市の目玉観光地みたいっすね、このガイドによると」

 右手だけで器用にガイドを手繰る横島。
 左腕は俺の右腕に絡まってるので使えません。
 腕組むのは良いんだが、胸がなぁ…むにっと横島の腕に当たるというか押し付けるのがな。
 横島は喜ぶし別に嫌じゃないんだが、ただでさえ大きい胸というだけで視先が集まりやすいのに、そういう事してると倍率ドンなのがな…
 ま、今更だわ。

「入るのにプロハンターの同行やこの国の職員(多分軍隊関係)の同行やらなきゃいけない場所が観光地とはな」

 この世界の金持ちは頭のねじが飛んでるのが多いし、よくある事だろう。

「ハンターの人たちの修行場としても開放してるみたいっすね。
 てか広すぎ? この国の半分位その二つなんだけど」

「まあギアナ高地とか、似たようなトコは地球にもあるだろ」

 そういやギアナ高地って勝手に入って良い場所なのかどうか。

「入れない場所よりも今夜の宿探しだ」

「昨日のトコで良いんじゃないっすか。安かったしそれなりに設備は良かったし」

「まあ、それで構わんか」

 メモってて良かった電話番号。
 一応、公衆電話で予約して、と。
 携帯? 国籍も住所すら不定の俺らが契約出来るとでも?
 …不便過ぎる。ハンター試験前倒しするか?
 しかしなぁ…ほぼ確実に合格出来る試験が3年後に存在するのに、無駄に危険に飛び込むのもな…
 試験内容知ってるから簡単なのであって、他の年だとキルアが合格した年の試験みたいに簡単にいくとも思えないし。
 あれ、ヒソカとかイルミクラスの人間いたらキルアオワタだったよな…運が良いやら。

「お、露天商もこの世界にはあるんだ」

「いちいちこの世界とか言うな、中二病患者みたいだぞ」

 実際の所はハンターの殆どが中二病患者みたいなのは秘密だが。
 そして特に意味もなく足を止め、ふらふらとシルバーアクセを眺めて見る。

「お、美人のねーちゃん! いらっしゃい」

 軽薄そう、かつ薄汚れた感じのするボンバーヘッド、というか汚い天パなおっさんである。
 …ん? なんか気になる、な?
 
 ま、品揃えはアレだな、普通。
 普通に日本の繁華街でやってる露天のアクセ屋と同じ感じ。
 造形や色使いに独特なものもいくつかあるが、それだけだな。
 凝して見ても普通に………おい、模様が神字だぞ、彫り込んでやがる。
 
「記念になんか買う?」

 なんつーか、漫画で読んでた横島とは別人の観があるな、当たり前だけど。
 ちゃんと気遣い出来るようになったしな、横島は私が育てた。
 と、それどころじゃねぇぞ。

「いや、良い。シルバーは手入れが面倒だしな」

 ふん、凝に気付いたな、お互い様だが。
 ちなみにザバン市に来る前、船に乗ってる最中から纏すらしていない。
 ヒソカみたいなのに目を付けられても困るからな。
 
 しかし露天商でそんなん売って大丈夫なのか?
 いや、能力者以外には単なる模様でしかないんだろうが。

「そんな事言わずにさぁ、この指輪とか姉ちゃんにはお勧めだぜ?」

 俺には、ときたか。
 見た目は単なるアラベスクリング、ただし溝その物が神字になっていてびっしりと書き込まれている。
 GI編の指輪よりももっと細く、幅は5㎜程か。GI編のは1㎝以上幅があったような気がする。
 
 このおっさんが悪人だった場合、洒落にならないぞ、これは。

 原作じゃ神字が使われたのは、天空闘技場での誓いの糸、GI編での指輪辺りがぱっと思いつく。
 というか他に思い出せん。
 漫画読んでたのが4年前くらいでその間は念能力関係で思い返す程度だったしな…
 
 …ふむ、よほど悪意がない限り、「念を発動出来ない人間」に害を与える効果を神字に持たせるのは難しそうだな。
 使いこなせれば便利そうだし、神字についても勉強するつもりでいよう。

「どうお勧めなのだ?」

「似合う」

 と言いつつ指輪を小指に通してぷらぷらさせるおっさん――と見せかけて空中にオーラ文字。

『オーラを通常の六割までしか出せなくする効果。簡単に言えば念能力者養成指輪』

「……」

「………」

 なんでそんなもん売ってるんだよ、こんな街中で。
 嘘付いていない、という保証はない。
 ないが、正直魅力的な商品ではある、本当ならば、だが。

「じゃ二つくれ」

「おい」

 待てや。
 
「いいじゃないっすか。
 婚約指輪って訳じゃないっすけど、お揃いでさ」
 
「…はあ、金が余ってる訳じゃないんだがな…」

『非念能力者が付けても平気だろうな?』

 横島と組んでいる反対の左腕を、更に横島から見えないよう気を遣いつつ空中で文字を描く。
 変化系能力者なら、ゴンの修行の時のように外に出したオーラを変形させまくって文字を書けるんだろうが、俺は放出系だからそれは苦手なのだ。
 よって指で文字を描きつつオーラを放出する以外、オーラ文字は書けない、不便だが。

「よっしゃ! 姉ちゃんは美人だしボインだし、大いにまけてやるぜ!」

『それは問題ない。無意識に念能力使ってる奴でもない限り、自覚なしの奴に効果はないぜ』

 それならまだ良いが。
 つーかボインって。ボインってなに。古いぞ表現が。

「いくらだ?」

『…名前を訊かせてもらおうか?』

「二つで2100ジェニーでどうよ」

『ドゥーンだ、これでもプロハンターなんだぜ?』

 …思い出した……おい、こんなトコで何してる、GIの管理者。
 

「まあその程度なら良いか」

 財布からジェニーを出す。
 大体2000円ってトコだし、安いと言って良いんじゃないか?
 相場なんて知らんがな、シルバーアクセなんて買った事ないし。

「はい、静香ちゃん」

「こんなトコで填めるなバカが」

 腕をほどくと抵抗する間もなく、薬指に指輪を填められてしまった。
 うおっ! 体感できる程オーラが減った!

 そして期待するような横島の目。
 やれやれ…

「ほれ」

「いいねぇ、若いってのはよぉ」

 ドゥーンに茶化されつつ横島の指にも填めてやる。
 …お互い左手の薬指だ文句あるか。

『アンテと呟けば外れるようになるぜ。壊れたりもしねーから安心しな』
 
 それから、ドゥーンのおっさんに礼を言い、横島と腕を組み直してその場を立ち去る。
 
 これ、纏してないとキツいな…街中でする気はないが、意地でも。
 見た感じ、垂れ流し状態でも一般人と比べてかなり多い俺だったが、指輪付けてからはほぼ同等か一般人よか少ない位になった。
 ヒソカみたいなのに目を付けられる事考えたら僥倖だな。
 
 デザインもあのおっさんが作ったとは思えない程度には良いし。
 お揃い、かぁ。

「気に入ったみたいっすね?」

「黙っとけ」

 …ま、歩きながら左手を上へ掲げて眺めてたりすれば、な。
 
 その後、ケーキ屋でデザート喰ったり、安売り店でラブホ入ってからの飲み物とツマミを確保したりと、恋人らしくぶらぶらした俺らであった。

 あ、ドリーム小説の主人公の皆さん、すいませんでした。
 俺も割となんか補正がかかってるみたいです、超が付くほど要らないけど、望んでないけど。
 
 にしてもなんであのくさそーなおっさんなんだ、全く。
 まあジンならまだしも、ヒソカやクロロに会いたいとは欠片も思わんけど。

 ……夢小説とか所謂最低系SSとかだとあのおっさんに弟子入りとかするんだろうか。
 普通、縁もゆかりもない相手を弟子にしたりしねーと思うけど。
 

****
 
 
 そして再びラブホである。
 
 ベッドに腰掛けてバトルポカリを一口。
 一息吐いて、左手を翳して指を眺める。
 …割と嬉しいらしい、なんか悔しいが。

 とりあえず国境超える為の念能力はいくつか候補が出来た、頭の中でだが。
 問題は修行時間がない事だな、金もそう長くラブホにいられる程余ってる訳でもない。
 しかし今更くじら島へ戻るのもなぁ…

 いや、そもそも飛行生物に乗って空路を行くのにパスポートが必要なのか?
 頑張って思い出してみて、そういう描写はなかったような…いや、あれだ。
 シルバとゼノ、ジン位じゃないか、飛行生物に乗ってたの。
 …パスポート何それ美味しいの? だな…
 
 念能力が必要な場合は、横島になんて説明しよう?
 正直、試しの門開けられないLvで念を教えたくないんだよな、俺が素人みたいなもんだという点を差し引いても。
 ああ、でも文珠作る為にも、どのみち説得は必要か。

「しーずーかーちゃんっ」

「む?!――」

 バフォっとラブホのむやみにでかいベッドに押し倒される俺。
 考え込むと注意散漫になる癖はなかなか抜けないなぁ…相手が横島だからかも知れないが。
 
「忠夫、何をする」

「考え過ぎっすよ、静香ちゃんは。
 俺ぁ別に強いて戻らなきゃいけないなんて思ってないし」
 
「それは――ふっ!?!」

 この野郎、舌入れてきやがった。
 あー、ぬるぬると気持ち良いわ。
 なんでこいつ、いちいち上手いんだ俺が筆おろしだった癖に。
 最初からキスだけは上手かったなぁ…
 てか横島の癖に生意気じゃね?
 バカみたいな顔してルシオラに迫って拒否られてた癖に!
 いやまあ俺と出会って色々有って大分女慣れしたからだと思うけど。
 
 っていかん、話を逸らされるトコだった。
 舌を弄ばれながら強く睨む。
 名残惜しげに離れた口からしみじみと横島が喋る。

「そりゃ俺だってなのはちゃん達にもう逢えないのは嫌っすよ?
 でも静香ちゃんがいればとりあえず問題ないし。
 無理はしないで欲しいってところ?」
 
「…んっ…痛いぞ、力ゆるめろ」

 俺の頭を抱え込むように抱きしめてくる横島。
 やべえな、意味もなく安心してしまう。
 惚れてるなぁ、なぁ?
 
「分かった、無理はしない。
 だが帰る努力はするし、手伝ってもらうからな」

 ふん、と一息吐いて俺も、両腕を横島の背中に回して抱きしめ返す。
 一日過ごした男の匂いが良いモノに思えてくる辺り、重傷だわ、全く。

「へーい。それは勿論。
 でも一番は静香ちゃんの安全っすよ?」

「ああ」

 抱きしめ合ったまま腰のポーチからボールを三つ放り出す。
 ぽんぽんぽんと音を立てて俺の仲間が現れた。

「らぁい!」

「メメタぁ」

 ライキとロデムが仲間に入れろと飛びついてくるのを上手く避けて横島との間に挟んでやる。
 そしてロデムよ、なんか鳴き声変じゃなかったか?
 
「相変わらず変な触感」

 横島の首筋にマフラーのように巻き付くロデム、俺と横島の間でもぞもぞと動くライキ。
 そして一人澄ました顔してベッドの脇で丸くなって休んでいるイチロー。
 こっそりベッドに出来るだけ寄ってから丸くなってる辺りツンデレかと言わざるを得ない。
 
 一度身体を起こし、ベッドに腰掛けながらイチローの頭を撫でる。

「ちょっと長い距離飛んでもらわざるを得ない。頼む」
 
「がぁう」

 小さく一声鳴くと目を閉じてしまうイチロー。
 性格が冷静で昼寝をよくするだけあって基本的には物静かなイチローはあまり鳴かない子だ。
 リザードンといえば初代ポケ赤でヒトカゲ選んでタケシ→カスミと苦行を積んだ俺である。
 ま、それは兎も角。

 マジでどーすっかね。
 国籍がないってのは意外とキツいなぁ?

****

おまけというか蛇足

「よぉ! 帰ったぜー」

「お帰りなさい、ドゥーンさん」

「今日はよく売れたぜっ! いやあ、あのボインの姉ちゃんに感謝だな!
 あの姉ちゃんが買ったからってノリで若い連中が食いついてよぉ」

「はいはい。がらくたが売れて良かったですね」

「がらくたとはなんだ!
 精魂込めて念入れて刻んだんだぞ!」
 
「大した効果でもないでしょうに。
 大体、二束三文で売ってどうするんですか全く…」

「いいじゃねぇか。別に儲けようって訳じゃねぇんだし。
 大体俺もお前も普通に億万長者だろうよ」
 
「まあそれはそうですけど。
 それよりそんなもの作るヒマあったら掃除の一つもしてください」
 
「んじゃ疲れたから寝るわ。
 いやあ、あの姉ちゃんは強くなるな、才能の固まりのようなオーラしてやがった」

「やれやれ」


 G・I管理人、円にて魔法システムを管理する双子以外は結構気軽に外へ気張らしに出て行けるとか何とか。


****

富樫先生本気出し過ぎワロタ。
ゴトーが凄まじく犬死になトコ以外は凄い感動と感激の嵐でした、会長選挙編。
とりあえずジンがロクデナシだった事に安心していいやら何やらw
まあゴンも割とあれですけどw



[14218] 番外編シリーズ2-5
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/03 17:36


「すまない、アルバイトとして雇ってもらえないだろうか」

「はあ?」

 骨をバケツに放り込んでいるゼブロのおっさんが、間が抜けた声を出した。
 当然かも知れないけどな、普通はこんなトコでバイトなどせんわ。


 メタモンのロデムにリザードンのイチローに変身させて、二匹交代で空路を行き、見事捕まりもしなければ注意もされなかった俺達。
 まあ、ちょっと空気も凍りそうな高さで飛んだ為、横島が臍曲げたが今は問題ない。
 むしろ今はご機嫌なモノだ、調子の良い奴め。
 まあ、シルバとゼノはパドキア共和国から東ゴルドー共和国まで龍みたいな生物乗って移動してる訳だし、この世界に領空侵犯とか余り意味ないのかも知れん。
 飛行船はあっても飛行機は見た事ないしなー。
 戦争とかどうすんだろうね、この世界。
 必殺ゾルディック家依頼で戦争前に片が付くのかも知れんけど。
 
「嬢ちゃん、嬢ちゃんみたいな若い子がするようなバイトじゃないよ。
 そっちの兄ちゃんも止めなさいよ、ここが何処だか知ってるんだろう?」
 
 観光バスに乗ってきたからには何処だか位は解ってるわな。
 
「いやー、静香ちゃんは決めたら動かないっすから。
 説得は無理無理。あ、理不尽じゃないから、雇い主がダメだっての無理押しはしないっすよ。
 とりあえず面接なりしてくれないっすかね?」

 よく分かってるな、流石に。

「しかし…なんだってこんなトコで働きたいんだい?」

「試しの門をな、まともに開けられるようになりたい」

 と、言い捨てて試しの門へ向かう俺。
 あー…指輪どうしよ。
 外さないと垂れ流し状態のオーラが一般人並なんだが。
 まあ良い、纏状態でやれば良いか。
 垂れ流しだと動かせる気が全くしないし。
 
「せいっ!」

 ゴゴ…ゴゴ…
 辛うじて動くが、一の門(2t×2)両方を開けるのは無理みたいだ。

「…ふっ!」

 気を取り直して一の門の片方だけに両手を添え、押し込む。
 ズズズズ…
 引きずった音を発して、門が開いた。
 限界まで開けた所で、バックステップ。
 がんっと音を立てて、門が閉まった。
 
 指輪を填めたままでも練で一の門は完全に開けられそうだな、感覚としては。
 
「片方だけとは言え開けるとは…大した嬢ちゃんだ」

「横島やって見ろ。相当重いぞ」

「へいへい」

 どさっと大きめのリュック――飛ばされた俺の部屋から持ってきた戦闘服含む着替えから日常品など色々入ってる――を降ろし、門の前に立つ横島。
 
「ふんっ!」

 当然、動かない。
 
「…もっかい!」

 今度は片方だけに両手を添えて押し始める――が無理…! 不動…! 圧倒的存在感…!!
 …アカギは鷲頭様にとどめさせたのかなぁ。
 主観的にはもう4年以上前の事だけどさ、漫画で読んでたのは。
 
「ちょっと待てや! 静香ちゃんが動かせてなんで俺が動かせへんねん!」

 おお、本気で焦ってる。
 普通に纏無しなら横島>俺だしな、腕力なら。
 戦闘能力となると練をやってどうにか互角と言った所か。
 普段は恭也=横島=>(士郎+美由希)>俺な、ランク的に。
 この半年で体力的にはあり得ない程伸びたし、隠れん坊的な能力も上がったが、根本的に戦闘能力となるとなぁ。
 こんな事になると知ってればもちっと真面目に御神流修めてたのにな、後悔先に立たずだが。

「おかしいやろ絶対!」

 騒ぎながら門を押す横島。
 ただでさえ動かないのに焦りと苛つきで集中が乱れてたら無理だろ。
 これが戦闘なら意識的に冷静な自分に切り替えてるんだろうけどな、その辺りは親父が徹底的に仕込んでたし。

「まあ、という訳で。
 せめてまともに一の門以上開けられるようになりたいのだ。
 頼めないだろうか?」
 
「数日待って下さい。執事邸の方へ連絡しますので」

 やれやれ仕方ない、と言った態度ではあるが、請け負ってくれた。
 これでお金稼ぎと修行を両立させられるな。
 
「ちっくしょーっ! 動かねえ!」

 汗だくで、吐き捨てるように叫んだ横島が側に寄って来る。
 この12月も終わりの寒空の下とは言え、本気で力入れて押し込もうとしたんだろうな。
 半分は見栄とか殆ど意味もないプライドとかなんだろうけど。
 まあ、男は見栄と体裁で生きる生物だからな、この程度なら可愛いもんだ。

「了解した。
 麓の街で時間潰していよう。
 携帯は持ち合わせていないので、三日後またここに来るという事で良いだろうか?」
 
「はい、それで構いません」

「では邪魔をした。失礼する――
 ほれ、忠夫、行くぞ」
 
「どーすんすか帰り」

 リュックを背負い直した横島の手を取って歩き始める。
 どーでも良いけど履歴書とか用意させないのか?
 住所不定流星街出身くらいしか書けないけど。

「歩け歩け」

「うへぇ」

 たかだかバスで30分程度だから、歩いても2時間もかからんわ。


****


 キング・クリムゾン!
 過程は吹っ飛び! 結果だけがこの世に残る!
 
 メイドインヘブンVSキンクリさんならキンクリさんが勝つんじゃなかろうか。
 無敵のスタプラさんは足手まといのせいで負けすぎである、康一君とか徐倫とか。
 
 まあそんなこんなで、横島と麓の街――通称ゾルディック街、誰だこんな名前付けたバカは――をぶらぶらしたり、自部屋から持ち出さなかった調理器具を買い足したり、恋人っぽい事したり、と色々して時間を潰していた。
 流石に12月、しかも北半球にあるパドキア共和国の冬は寒いので野宿という訳にも行かなかったから、観光客用のホテルに泊まった。
 まあ三日も泊まるなら、ラブホよりは安いしね、食事も付くし。

 二日目の昼である。
 明日の朝にはここを発って試しの門守衛小屋へ行く予定。
 まあ断られるハズはないと思うけど、ゼブロのおっさん達の事情考えれば。

「…なんかなぁ」

「らぁい?」「めためたー?」

 胡座座に座り、ライキを抱っこしつつロデムを頭に乗せている俺。
 こいつらは下手に外に出すと未確認生物として捕獲されてしまう可能性があるのだ。
 ライセンス取れば色々融通も利くだろうが、今の状態だと強引に持って行かれる可能性はある、地球の法律的には、だが。
 というわけでホテルとかくじら島とかある種の隔離空間でしか出してあげられないのが辛い所だ。

「甘えたがりになってないか、俺」

「らぁい」

 困ったものです、とか言いそうなライキの仕草。

「やはりか」

「らい」「めた」

 ロデムは首筋が好きだな、こそばゆいんだが。
 ライキは抱っこされたまま、俺の頭を撫でてくれた。

「思ってもみなかったな…こんなに人恋しい性格だったとは」

 なのは達に逢いたいな…中学の制服可愛くてさ。
 ユーノと一緒が良いからって公立行こうとしてさぁ、家族総出で説得したのも懐かしい。
 聖祥はエスカレーターだが共学なのは初等部までだからな。
 必然的にユーノは風が丘に通う事になったのだ。
 ま、本来学校なんて通う必要はないんだけどな、ユーノは。
 
 本格的に懐郷病だわ…
 ライキのお腹に顔を埋める様にして、俯せにベッドに倒れ込む。
 もふもふもふもふ。
 
「らぁいらい」

 両の手で俺の頭を撫で撫でしてくれる。
 ロデムはよく分からんが俺の首を回ってる、撫でてるつもりなのだろうか。

「…寂しいな…」

 母さんの作ったシュークリームが食べたいな…
 親父の淹れたコーヒーが飲みたい…
 なのはとフェイトに料理教えてあげたいしユーノの背中におっぱい当てて遊びたい…
 アルフのお腹ももふもふしたい…ザフィーラは毛が硬かった…

「なーに黄昏れてんすか」

「――っ!?」

 俯せになっていた俺の身体、その腰の上に座って来た横島。
 そのまま横乳に手を当ててきた。俯せになると乳が横からはみ出るんだよな…仰向けでもそうだが。

「どけバカ」

「はいはい」

「――くっ」

 上から退くと同時に仰向けにひっくり返され、更にのし掛かられた。
 うーん、ライキのお腹が枕状態。

 そのままロデムごと俺の首を抱き寄せて腕枕状態に。
 反対の左腕も腰に回って、抱きしめられている、向かい合って抱きしめている。
 ライキも俺と横島のお腹の間にもぞもぞと移動し、挟まれてご満悦だ。
 胸の下でもぞもぞ動くライキを感じながら、横島の肩口に顔を埋める。

 買い物から帰ってきた横島の身体は、少し汗の匂いがした。

「大丈夫だって、なあ?」

「らいらい」「めためた」

 横島の手は大きいな…
 ポニーを解いて頭を撫でてくる横島の手が気持ち良い。
 どうでも良いがポニー解くの好きなんだよなこいつ。
 ふぁさってなるのが良いらしい…よく分からんが。

 そのまま髪を撫でつけるように、横島の手が上下に動く。
 頭撫でられて安心するなんざ、子供かよ全く…

「余計な事考える位ならゴンにでも電話してやったらどーっすか?」

「別に話す程の事なんてなかったし…」

「いや結構あったと思うんだけど。
 俺とか死ぬんじゃねって位寒かったし」
 
 しつこい男は嫌われるぞ、全く。

「独りでもんもんとしてる位なら吐き出すもん全部吐き出した方が楽だって」

「っ!?」

 後ろ頭の髪を掴んで上を向かされる――と同時に横島の舌が口内に乗り込んできた。
 最近の横島はすぐキスをしてきて困る。
 キスが好きなのがバレてるのだろう、隙有れば舌を潜り込ませてくる。
 あれ? 昔からだっけ? いやいやここまでキス魔じゃなかった気がするけど。
 落ち込んでたり悲しんでたりすると問答無用でキスしてくるようになりやがって。
 
「独りでため込むのは静香ちゃんの一番の悪い癖だな。
 何がしたいのか言ってくれれば、シてあげられるのに」
 
「忠夫に何が出来る」

 文殊目当てにしてる女の言う科白じゃねーわ。

「静香ちゃんの為なら魔王だって倒せる自信がある」

 お前にメルエム倒せるとは思えねーけどな。
 つかアレはDB世界並の実力ないと無理。
 
 でもこいつは――

「静香ちゃんはどうしたいんよ?」

 アスタロトの野望をぶっ潰した、最強のワイルド・カード、だ…
 分かってる、アレは漫画でここは現実で。
 何もかも同じ訳でもない、それでも――

「――帰りたいんだよ!
 嫌なんだよもう!
 なのは達に逢えないのが寂しいんだよ!」
 
 戦いたくなんかないし危険な目に遭うのも嫌だ!
 家族に会えないのも友達に会えないのも嫌だ!
 こんな世界で死ぬなんて絶対に嫌なんだよ!

「――帰りたいんだ…! 忠夫と一緒にだ!」

「俺が何とかする!」

 目元にキスをして、涙を拭ってくる横島。
 そのまま何度も顔中にキスの雨。

「だから、安心して、帰る方法を探せば良いじゃん。
 大丈夫、何とかなるし何とかするさ」
 
 涙が止まらない。
 横島の胸元に頬寄せて涙を拭う。
 
「らいらい! らぁい!」「めめたー」

 俺のお腹に顔を押しつけてぐりぐりしてくるライキに、うにょーんと横島の首に巻き付いていた体を伸ばして、頭を撫でてくるロデム。
 
 カタカタとボールホルダーのモンスターボールが、つまりイチローが騒いでいる。
 
「ま、なのはちゃん達がいなくて寂しいのは分からんでもないっすけど、ライキ達だっているし、帰る方法だって見つかるさ」

「うん…」

 独りじゃなくて良かった――
 心から、そう思う。
 
 そうこうしてるうちに意識が沈んだのだろう、次に気づいた時は朝だった。
 
 
****


 バイト料は一日5000ジェニー+住居(おっさん二人と同居だが)と食事三回、買い出しは順番。
 ボーナスとして襲撃者どもの財布と、ミケが食い残す貴金属の類を集めておいて、今までは二人で、これからは俺達含めた四人で山分けするとの事。
 本物のプロハンターが喰われた場合、ライセンスカードは執事邸に送るらしい。
 金銭的にはこれ一枚盗むだけで解決するが、出所が分かり易すぎてなぁ。
 
 あと、銀行口座作ってもらったぜ、ゴトーさんに。
 正確にはゼブロのおっさんが口座ない事知ったら気を利かせて作ってくれたのだ。
 
 これは本当に助かった。
 別に現金払いでも今は困らないが、天空闘技場に行ったら持ち歩ける額ではなくなる。
 しかし戸籍も何にもない俺達ではハンターにでもならんと口座すら持てなかったのだ。
 
 しかしゴトーさんどうやったんだろうか?
 通帳を見ると住所がククルーマウンテンになってる辺り、何とも言えん気分になるが、気にしないでおこう。
 
 そんなこんなで、俺達の修行が始まったのだ、精神的な意味でも。

 
 アルバイトを初めて2日後。
 自称プロハンターが観光バスに乗ってやってきた。
 そしてソレをを見た、横島と一緒に。

「っぇぇぇぇっっうぇっ――」

「全部吐いちゃった方が楽っすよ」

 森の木陰で飲み会の帰り道宜しく盛大に戻している俺。
 四つん這いで吐いている背中を横島が摩ってくれている。
 長いポニーの尻尾もちゃんと汚れないよう持ち上げてくれてる辺り、芸が細かくなったな…有り難い。

「お、前は平気なん――うぇっ…平気なんだな…」

「そりゃね。美沙斗さんに連れられて、恭也や美由希ちゃんと色々やらされたし」

 一時期修行と称して香港に連れて行かれてたからな、こいつは。
 きっと人も殺してるんだろうな、別に気にもならんが。
 
 しかし自分がこうまで人の死に弱いとは思わなかった。

 具体的には掃除夫として門の周りを箒で清めたり、見栄えの悪いトコに生えてる雑草引っこ抜いたりしてた時にやってきた、自称プロハンターの白骨死体だ。
 確かにミケが咀嚼してる音にはちょっとキタが、それ以上にミケが外へ放り出した白骨死体の方が吐き気を催した。
 
 グロ中尉とかいうレベルじゃなかったな、全く。

「ふう…流石にもう吐けん…と思う」

 流石に門周辺で吐く訳には行かないので、練まで使って中に入り、道というのも申し訳ない程度の道から外れた、多少奥まった場所でリバースしたという訳だ。

「はい、口濯いで」

「ん」

 横島の差し出したミネラルウォーターで口を濯ぎ吐き捨てる。
 何回か繰り返してから水を飲み込んで食道を落ち着けて、鼻をかんで、と。
 
「気持ち悪いが、ちょっとは落ち着いた、な」

 吐いた場所から少し距離を取って、適当な樹に寄りかかった横島の前に座り、横島の胸を、身体全体を背もたれにする俺。
 抱きしめるように回ってきた横島の腕が俺の前で交差する。
 横島の両の手に重ねる、俺の手。

「助かった。ありがとう」

 事前にゼブロかシークアントか、話を聞いていたのかペットボトルやタオル、ティッシュなどを既に横島が持っていたから助かったのは確かだ。
 
「うい。俺達も最初はアレだったしね」

「迷惑かける」

「別に良いっすけど、こんなトコでバイトする意味あるんすかね?」

 ちなみに俺達は原作のゴン達が来てるようなベストに腕輪に足輪を計50㎏付けている。
 まずはこの程度という事だ。
 大分辛いがそれでも動けない事はない。
 纏無しでも普通に動ける、辛いけど。
 ゴン達は2週間でこれ150㎏だっけ…こんなの絶対おかしいよ、全く。

 どうでも良い余談だが。
 修行に際して一番俺が困ったのが、胸だ。
 ゴン達の修行の際にも来た重り付きのベストを俺が着用とすると、胸が潰れる、てか痛い。
 試行錯誤の結果、胸の部分だけくりぬいた感じで、お腹、胸の下(肋骨周辺)を中心に重りを付けた。
 見た目は重りの上に胸を乗せている感じだろうか。
 なんにせよ無意味に胸を強調してるせいで、酷く居心地悪いのは確かだ。
 そのうち慣れるだろうけどな。

「ゴンのおかしい程の体力とか、試しの門を軽々開ける化け物とか。
 この世界はおかしいんだよ」

「ま、それはそうっすけど」

 たまたまなー、シルバが帰ってきたトコに出くわしてさ。
 軽々と7の扉開けて入りやがった。
 なんなのあのパワー、変化系だから強化は比較的使えるとかそういう次元ですらないわ。
 
 イルミの嫁にとか言われたらどうしようかと思ったがそんな事はなかった。
 イルミとかヒソカとか恋人として最低の部類だと思うんだけど、トリップとか夢小説とかああいうのだと、クロロヒソカイルミの恋人率たけーってレベルじゃねーぞ、なんだよな。
 本気で何処が良いのか分からん、レオリオとかの方がよっぽど良い男だと思うんだが。
 クラピカならまだ分かるけどな。
 
 まどうでも良い話だ。
 
「帰る方法の当てはあるんだ…だから、付き合ってくれ――ひうっ!?」

 この野郎、耳にキスしやがって!
 耳は弱いの知ってるだろうに。

「大丈夫だって。俺が静香ちゃん見捨てるなんて絶対ありえねーから」

 俺を抱き寄せる腕に力が入る。重い。

「ん。頼りにさせてもらう」

「とりあえず身体動かすか。
 当座の目標は150㎏来て自由に動き回れるようになる事」
 
「何ヶ月かかるんすかそれ…」

「大丈夫だ、問題ない」

 ゴンで2週間なら最悪でも2ヶ月くらいでどうにかなるだろ。
 

****


なんつーか、夢小説とか最低系(このSSも分類はこれでしょうが)とかで「普通」に死体とかと接してたりすると凄いもにょりますね、個人的には。
戸籍もないのに天空闘技場のお金、何処の口座に突っ込んだの? とか。
前回のパスポートもそうですけど、トリップ系でそういう「当たり前」の事を「当たり前に出来ない不自由さ」を表現するのって大事なんじゃねとか思ったり。
リアルな小説は要らんけどリアリティのない小説はもっと要らん、と言った感じでしょうか。



[14218] 番外編シリーズ2-6
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/10 08:44
今回は三人称です。

****

 この世界に来てから、半年以上が過ぎ頓に静香が横島にくっついてくるようになった。
 
 手を繋ぐ、腕を組んで歩くのは当たり前で、寝る時も腕枕でなきゃ寝ないし、与えられた自部屋で特にする事もなく過ごす時もお互いの背中を背もたれにしたり膝枕したりされたり胸枕したりと、大凡漫画のような恋人同士と言った風である。
 以前は人前で恋人らしい振る舞いをする事を嫌がってたとは思えない程、積極的であるとさえ言える。

 横島的にはむしろ大歓迎であるのだが、同時に涙を流す事が多くなった。
 有り体に言えば、情緒不安定悲しくないのに涙が出ちゃうという奴だ。

 この二つの現象の原因ははっきりしていた。
 横島のようにあまり人の気持ちを顧みず、自分の意志を最優先して突っ走るタイプの男でもはっきりと分かる。
 『不安』である。

 そもそもの話、高町静香という人物の周りには常に誰かがいた。
 妹のなのはやフェイト、ユーノだったり、横島忠夫だったりとその時によってメンバーは違うものの、誰かが側にいた。
 一人になっても、別に孤独という訳ではない。
 帰宅すれば、常に何人もの家族がいる。
 
 だが、この世界で一人になるという事は即ち孤独である。

 彼女自身自覚してはいないが、酷く孤独を恐れるのが彼女の本質シャドウである、一度『死』を経験しているが故に。
 便宜上、ハンター世界と呼ぶこの世界では横島忠夫とポケモン三匹以外、『身内』が存在しない為に、彼女は支えが足りない建築物のような精神状態なのである。
 ゆえに、自分でもある程度自覚出来る程、元の世界でも恋人として自身を陰に日向に支えてくれた横島忠夫に縋り付くようになってしまった、精神的にも、肉体的にも。
 
 それでも最初はミトとゴンがいた。
 特に弟的存在であるゴンは常に横島か静香のどちらかにひっついて、遊びに誘っていた。
 妹分は――フェイトやはやてを含む――多いが弟分はユーノしかいない彼女にとって、ユーノとはタイプの違うゴンの存在は新鮮で可愛かった。
 また、ミトの母性と寛容さ、ある種の厳しさは母というより姉に近く、年上の兄姉を持たない静香にとって、やはり新鮮で、暖かい関係を築けた。
 
 だが今は横島とポケモンを除けばゼブロとシークアントの二人しかいない。
 これでは静香にとって横島にしがみつくなという方が無理である。
 横島としては何の問題もないどころか、このままでも良いじゃないかとさえ思う。
 
 よって今日も横島は甘えたさんになってしまった静香と可愛がるのであった。
 まあ二人っきりの時限定ではあるのだが。


****


「この世界はおかしい」

 約一ヶ月、ククルーマウンテンに滞在している二人。

「何度目だその科白は」

 全身合計150㎏の重り付きで腕立て伏せをしている横島の上で、同じ重りを身につけた静香が座禅を組んでいる。
 横島は知らないが、燃の点――心を1つに集中し、自己を見つめ目標を定める――を行っている。
 想いは一つ、必ず帰る、である。
 
 不安定に揺れる横島の体の上での座禅はバランス感覚を大いに養う。
 ちなみにこれは昔、恭也がなのはを上に乗せて同じように修行していた。
 終わった後なのはは目を回していたがそれなりにバランス感覚はあるようだ、基本的には割と運動神経が繋がってない子であるハズなのだが。

「だってさー、地球じゃこんなスピードで超回復なんて絶対にあり得ねーっすよ」

「まあな」

 静香の声は淀みない。
 話しかけるなという事だろうが、横島のようなタイプからすればただひたすら単調な腕立てを続けるだけの修行は正直飽きる。
 お話しながらやっても良いじゃないかと思うのだ。
 おまけに重りが各所にくっついてる為、静香の尻の柔らかさすら味わえないという、何ともつまらん状況である、横島的には。
 
「うっし、500回終了」

「では交代だな」

 横島の上から退くと、側に纏めてあった荷物から腰痛ベルトのようなモノを取り出して胸に巻く静香。
 上下運動繰り返す為の揺れ対策――ではなく、腕立て伏せすると胸を何度も押し潰す事になるのでそれを防ぐ目的である。
 さらに念を入れて静香が腕立てする時はタウンページのような雑誌を両手の下に一冊ずつ、足元に一冊置いてその上で行う。
 高さを出して胸が潰れたりしないようにしてるのだ。
 形が崩れるとか見た目上の問題もあるが、それ以上に単純に痛いのだ、潰れると。
 つくづく巨乳――いや爆乳、魔乳クラスか――というのは戦いや運動に不向きなのが分かる。
 世の中そんなの関係ねぇとばかりに乳揺らして戦うゲームもあるが、その内千切れるんじゃないかと心配になる位だ、激しくどうでも良い話ではあるが。
 パイロットスーツなどは特に防弾・防刃・防塵・耐火など様々な人体を保護する機能が凝縮された、着心地が決して良いとは言えない服である。
 にも関わらずあそこまで柔らかく揺れるとかどういう素材で出来ているのだろうか。
 
 更にどうでも良い話だが静香はみっともなく乳が垂れるのを恐れてる為、クーパー靱帯を強化し、再生機能の乏しい靱帯である故に再生機能を操作・強化する時間を寝る前に取っている。
 

「では乗れ」

「うい」

 大体腰の上、肩胛骨の下辺りで胡座をかいて座る。
 多少苦悶の表情を浮かべるが、誰に気づかれる程でもない。
 そのまま腕立てを開始した。
 横島は揺れる静香の上で瞑想する、下手にお喋りすると静香が後で五月蠅いからだ。
 尤も、瞑想内容は18歳未満はお断りせざるを得ない内容なのだが、問題はなかった。
 瞑想の要点――というか燃の点の要点は一つの目標に心を集中する事である。
 そしてエロい妄想で他人の言葉や外界の情報が入らない程集中するのは横島の18番である。
 
 腕立てをしながら、時が過ぎる。
 時折横島の笑い声が口から漏れる以外は、風と森が声を上げる程度の、静かな世界。

 守衛のバイトも基本的には3交代で、静香は横島と一緒に守衛室に入る。
 その代わりに夜食も含めて食事の準備をするのは静香の仕事になった。
 勿論、静香としては望む所である。
 夜中だろうが時間がくれば小屋に戻り、食事の支度をして、岡持に横島と自分の分の食事を入れて守衛室に戻る。
 あるいはゼブロかシークアントが守衛室にいる時は、食事を横島が持って行く。
 
 二人からはいっそここで一生働かないかと誘われる位、静香の食事は好評であった。
 最初のうちは嘔吐感と戦いながらの料理で有りながら絶賛された程である。
 二人とも大人だからだろう、静香が嘔吐したり夜中横島にしがみついて啜り泣いて響く声もなかったように振る舞ってくれていた。
 料理を褒めたのもその一環だろうか。
 尤も、料理に関しては静香にとっても予想だにしないイベントを引いてきたのだが…
 
「うーっす。シズカーご飯作ってくれー」

「また来やがったこのくそガ――ぼっちゃん」

 横島の首に背後から触れる金属質。
 変な髪型と言わざるを得ないがこの世界では大分普通でもある少女、カナリアの剣が上下に動く横島の喉に当たる。
 本気ではないのは丸わかりなのだが、基本的に横島はへたれであるからして――

「すんませんカナリアさん、ナマ言いました」

「タダオもいい加減懲りろよなー」

 ケタケタと笑う銀髪の少年――キルア。
 
 そう、何考えているんだか、キルアは静香の料理を気に入ってしまい、ちょくちょく遊びに来るようになったのだ。
 原作からして、ゼブロのゾルディック家そのものに対する口調や意見と、キルアに対して命まで張ってその友人を守ろうとした態度から、個人的な交流があった事は十分に推測が可能である。
 勿論、静香はそんな細かい所までは覚えていないが。
 
 ゆえに、初めて守衛用住居で彼の姿を見た時は心臓が止まる思いをした。
 このアルバイト滞在中にゾルディック家の人間に接触するつもりは欠片もなかったからだ。
 特にキルアと接触した場合、とんでもない方向へ話が飛んでいく可能性も高い。
 
 イルミと出会って結婚させられるという展開お約束も静香的には大分嫌なのだが、常識的に考えればそうそうあり得ることではない。
 少々、二次創作の読み過ぎである、まあこんな事態になれば宜なるかなと言った所か。
 まあ、それも横島と離れたくないからという口には出されない本心からなのかも知れない。
 
「…もう、少し、お待ち、ください、後、100、回程、で、切り上げ、です、キルア、坊ちゃん」

「それ辞めろって言ってんべ」

 無視し黙したまま、腕立て伏せを続ける。
 ちぇーっと舌打ちて、適当な樹に寄りかかるように腰掛けるキルアと、その側に立って身じろぎもしないカナリア。

 カナリアが付き添っているのは、シルバの命令である。
 正確には静香がキルアに、自分たち二人に接触する際に執事一人を連れて行かなきゃ許さない、とシルバに許可を取らせたのだ。
 正直、シルバ・ゼノの二人はたかだか一の門開けられるかどうかの守衛に会ったからキルアがどうこうなるとは思ってもいない、と静香は考えた。
 同時に、イルミとキキョウの二人は花に付く害虫許さんとばかりに排除する可能性も、だ。
 
 その結果がキルア本人にシルバの許可を貰いに行かせるという行動だ。

 キキョウやイルミがどうこう言った所でゾディアック家では家長の発言は絶対である。
 ついでにコミュ不足な親子の触れあいの一旦にでもなれば良いと思って行動した事である。
 しかし、これが後に、静香当人にとって割と洒落にならない事態を引き起こすことになるのだが…

「ああ、そうだ。卵、殆ど、切れてる、んです。2パック、ほど、買って、きて、おいて、くれません、か?」

 流石に150㎏×2+横島の体重を乗せた腕立て伏せの最中では息も切れる。
 同じ事をキルアが軽々とやって見せた時は才能の差というものに対して絶望に唸りそうではあった。

「おう、いいぜ」

 カナリアは何も言わない。
 こうやって静香に買い物へ行かされる事すら、キルアの息抜きになっているのを熟知しているから。
 正直、買い物へ行かせるのは兎も角、カナリア付きとは言えよく外出許可が出るものだと思うが、近所へ――と言ってもバスで片道30分かかるが――行く程度なら良いという事なのだろうか。

「行くぞカナリア」

「はい、キルア様」

 言うが早いか、あっという間に走り去って言った二人。
 
「はえぇぇ…」

「言っておくがあの二人は、この世界じゃ割合、下の方に位置する強さだからな」

「…あり得ねぇ」

 頭を振って否定するが、横島自身も七の門を軽々と開けた化け物を見ている。

「気合い入れて鍛える事だ」

「ういー」

 鍛えてどうにかならんやろか、とか考えてるんだろうな。
 静香の予想通りではあるが、横島の場合は鍛えれば鍛える程何とかしてしまう雰囲気がある。
 それに賭ける以外、今のところ帰る当てなどないのだ。
 
 
****


「ふう…」

 汗だくの身体で料理するなんてとんでもない。
 キルアが騒ぐのを尻目にざっとシャワーを浴びてすっきりした静香。
 横島は濡れタオル一つ渡されて身体を拭いていた。
 勿論、横島は一緒に入りたがったが、ここは共同生活の場である。
 いくら何でもその手の事を許す静香ではない。
 
 しかし重りを150㎏もくっつけた服は脱ぐのも着るのも一苦労である。

「忠夫、卵を10個。
 白身と黄身に分けて、その後メレンゲを作れ」
 
「りょかー」

 キルアが買ってきた――お金はゼブロからもらった――卵を、先ほどの重りを付けたまま器用に割り、セパレーターの上に卵を落として行く。
 
 静香は2㎏は有ろうかという大きな豚バラから、重さ10㎏の包丁――というかもはや鉈か――で脂身と肉を切り分けていた。
 フライパン三つ――重さ20㎏――に水を張っておく。
 
「メレンゲ完了-」

「次は黄身」

「うっす」

 重さ5㎏の泡立て器で今度は黄身をぐりぐり回していく。

「肉は夕飯にするか」

 脂身を完全に切り分けられた肉をラップして冷蔵庫へ戻し、牛乳パックを取り出す。
 脂身を賽の目状に切り刻んで熱湯寸前の中フライパン三つそれぞれ投入。
 火を付けてラードの作成開始である。

「黄身も混ぜ終わったっすー」

「メレンゲと合わせろ」

 長年静香のサポートし続けた横島とのコンビネーションは流石である。

「ほい」

 ちなみにカセット式のコンロが一基しかなかったのを、わざわざ静香が用意させた四つ口でガスバーナー並の火力も出せる、かなり高級なガスコンロである。
 まあお金は意外と金持ちなゼブロとシークアントの財布から出たのだが。
 
「はーやーくー」

「黙ってろ」

 守衛小屋に入ればとりあえず監視の目はないはずなので、ため口もありである。
 なによりキルアの方が敬語を嫌がるので、小屋の中にいる間は普通に接する事にしている二人。

 ジャッ!
 牛乳がラードに投入され跳ねる。
 そして十分に油を吐き出した脂身をかす揚げで拾い集め、二つのフライパンの火を弱めておく。
 
「はっ!」

 横島の手で五等分された卵液の一つを火がガンガンに焚かれたフライパンへ投入する、同時に円!
 
 静香の円はネフェルピトーに似て、一部分だけ伸ばせる。
 円に触れても別段念に目覚める事はないようだが、念のためにフライパン周囲にだけオーラを伸ばす。
 
 余談だが彼女は円と周は原作中の誰より得意だか硬が致命的に苦手である。
 全身に対する絶は兎も角、一部分を残して絶となると何故か上手くいかないのだ。
 
 静香としては後に判明する事だが、念の修行に於いて基本の四大行は遅い早いを別とすれば目覚めた人間の大半が修める事が出来る。
 しかし応用となると途端に習得率が下がる特徴があった。
 つまりそれほど念に於ける応用技術が難しいという事であり、あっさりやって見せるゴンキルコンビがおかしいという事でもある。

「いつ見てもすげー」

 カナリアを背に立たせて、静香の手元を覗き込むキルア。
 その目の前で綺麗にオムレツが形成されていく。
 
 気付いてる人は気付いてるこのオムレツ、元味皇・葛葉保名が年齢詐称フランス人・アンナに作ったオムレツである。
 静香が男性だった頃に何度か挑戦して、すべて出来損ないの卵焼きに化けた難しい料理だった。
 円を使うようになって初めて高確率、そして練習を経て完璧に作れるようになった料理で、なのは達お子様に大人気だった料理である。
 当然の如く、キルアも大好きになった。

「シロップかけろ」

「うーい」

 わずか十数秒で完成したオムレツを皿にあげると、すかさず横島がメープルシロップをかける。
 
「よっしゃっ!」

 横島からかっさらうように皿を奪って、居間まで駆け込むキルア。
 横島からしてみれば暗殺者とか何の冗談だという位には子供っぽい。
 既に二の門まで軽々と開けられる10歳を見ているので、納得できない事もないのだが。

「はっ!」

 そうこうしているうちに二枚目、三枚目、四枚目の皿が次々と完成した。
 これはゼブロとシークアント、カナリアの分である。
 カナリアは当初、職業意識から断ったのだが、喰わねばキルアにも喰わせないと脅した結果、同じ席に着いて食べるようになった。
 竃の神に勝てる存在はそうはいないのである。

「忠夫、シークアントに持って行ってやれ」

「うい」

 岡持に皿を入れて外へ走る。
 今日の昼の当番はシークアントである。

 最後にもう一度、脂身を切り出す所から初めて、メレンゲを立てて卵液を作って、五枚目の皿を完成させた。
 これは横島と自分の分なので、他の皿よりも大きい。

「うめー!」

「いやあ、シズカちゃんは料理上手だ」

 キルアがバカみたいな勢いで食べれば、ゼブロもカナリアもゆったりとしたペースで味わっている。
 
「ただいまっと」

 空の岡持を放り出して席に着く横島。
 一の門の片側だけに限ればもはや片手でも開けられるようになったのだ。

「では食べるか」

 フライパンすべてを浸け置きしておいて、席に着く。
 体中を重りで鍛えてる事を除けば、概ね良好な職場である。


****


「さてミケの散歩と毛繕いだ」

「ういすー」

 洗い物を済ませ一休みしてから、並んで小屋を出る二人。
 本来、ミケの世話係が主なのだからこれは当然の仕事である。
 毛繕いする必要があるかどうかはミケにしか分からないが、散歩の――というか命がけの追いかけっこはする必要がある。
 静香達が来てから既に十数人腹に収めているのだ、人間一人分のカロリーなんて計算したくもあるまいが、運動の必要はある。

「なーなーそんな事よりプレイキャスト64で遊ぼうぜー。
 タダオに負けっぱじゃ悔しーしさー」
 
 カナリアを従え、二人の後ろを付いて歩くキルア。
 キルアは以前、横島がゲームの達人と知って、拉致って無理矢理遊んだことがある。。
 その時、キキョウがたまたま外出中だったらしいのだが、一緒にいたカルトにじー…と無言で見つめ続けられて死にそうであったと横島は語った。
 その状態でもキルア相手に格ゲーと落ちモノで共に横島がトータルで勝ったので、キルアのゲーマーとしての腕はそこまでではないと思われる。
 
 その後、頼むからいちいちシルバに許可を取ってくれと静香がキルアに頼んだのは言うまでもない。
 こんな所で働いていれば、屋敷の人間を垣間見ること位ある。
 そしてキキョウやイルミを間近に見た感想と原作の記憶と併せれば、もはや語るまでもあるまい。

 もはや静香の中でシルバだけが常識人枠であった。
 
 実際のところ、そんな事は静香の思い込みに過ぎない。
 ただしイルミ・キキョウと違い、シルバとゼノは「キルア本人の意向」を可能な範囲で融通してるだけである。
 
 まあ、たとえ理由がなんであれ、自分の所の従業員に問答無用で発砲する奥方を静香が怖がるのも無理はないのだが。
 
「坊ちゃん。私たちはお仕事中です」

「そーそー。お前は一人で遊んでな。俺らは喰う為に仕事せなあかんの」

「別に食事代くらい出してやるからさー」

 そういう意味じゃねーよ。
 奇しくもカナリア、静香と横島、三人の心の声が一致した瞬間であった。

「頼みますから、旦那様か、せめてゼノ様の許可を取ってから誘ってください。
 本音で言わせてもらいますが、私は死にたくないし旦那にも死なれたくはありません」

 大旦那様だとゼノとマハのどちらか分からなくなる為、こういう言い方になる。
 そしてどうでも良い事だが静香に旦那扱いされてテンションage状態の横島。
 カナリアが一歩引く位にはキモい。

「大げさだろー?
 いくらお袋でも一緒にゲームした位で殺すかよ」
 
「奥方様もそうですが、イルミ坊ちゃんが何より怖いんです」

 これは本気である。
 正直、原作からの情報でしかないがヒソカの方がまだ怖くない。
 あれはアレなりに遊んでるだけだからだ。
 そして自分と横島なら遊び相手になる程度の実力はあるつもりだ、今は兎も角。
 
 だがアレには理屈は通じない。
 そもそも闇人形だの阿呆な事言ってる辺り中二病MAXで怖い。
 シルバやゼノ、或いはミルキを見れば別に仕事は仕事、趣味は趣味と割り切ってる。
 つまり、キルアに自分の理想を押し付けている教育ママみたいなモノだ。

 何よりイルミの「友達は要らない」発言がある。
 『一緒に遊んだ=友達』理論を持つゴンやなのはなどを身内に持っている静香としてはドキドキである。
 そしてそんなスリルを楽しむ程、酔狂ではない。

「カナリアさんもそう思われますよね?」

「…キルア坊ちゃま、静香さんの言う通りかと」

 言葉少なに肯定してくれる。
 はっきり言って、庭の何処で何を発言してもあのメカメカしいキキョウのゴーグルで盗視・盗聴されるかと思うと気が気がでない静香である。
 こんな事で撃たれたら目覚めが悪いったらない。
 撃たれる可能性に関しては静香と横島もどっこいどっこいだが。

「…わーったよ。今日は諦める」

「ありがとうございます」

「だから敬語辞めろっての」

「分かりました、キルア坊ちゃん」

 そんな風に談笑しながらある程度開けた場所まで歩くと、ミケを呼ぶ。
 これは賢い猟犬で、試しの門から初めて入った匂いがある場合は言われずともそちらへ行くし、森の何処でも呼べばやってくる。
 呆れる程巨体で俊敏、かつ強力な事を除けば正しく猟犬の鏡である。

「では始めるか」

「ういー」

 横島が重りを50㎏ほどに外し、目の前に聳える巌のようなミケを見上げる。
 
「ミケー、追いかけっこすんぞー!」

「よーい、ドン!」

 静香の声かけでほぼ同時に走り始める横島とミケ。
 ミケの方が巨体である為、木々を縫うように走る横島の方が若干速い。
 
「速くなったなー、タダオも」

 適当に車座に座る三人。

 ちらり、と木製の、瀟洒なアナログの腕時計を見る静香。
 横島が誕生日にプレゼントしたもので、戦闘になる可能性がある時などは付けない事にしている。
 つまりそれだけ大事にしているという証左である。
 一応、月村忍に頼んで耐電処理もしてある一品だ。
 
「ま、五分が良いところ、か」

「根性ねーの」

 なにせ50㎏抱えた上に纏もしていない横島ではそんなものだろう。
 ミケの戦闘能力は正直多少の念使いでは勝負にならない程強いのだ。
 そうでなければ、念能力者からも襲撃される可能性があるここで番犬はやってられない。

 というか、50㎏も重り抱えて四足動物から5分逃げられれば大したものだと思うのだが。
 やはりこの世界はおかしい、というかジャンプの漫画は大概おかしいと静香は思うのだった。


****


「いやしかしシズカちゃんもタフになったねぇ」

 食後のコーヒーを啜りながら、ゼブロが独り言を言うように呟いた。

 ミケの散歩というなの逃走劇と毛繕いを終わらせ、再びシャワーを浴びた二人は、ゼブロの入れた。
 ちなみにキルアが試しにとミケの散歩をしてみたのだが、5分どころか30分は捕まらず、もういいやと適当なところで切り上げてしまった。
 強さ青天井過ぎて涙が出そうな話である。

「…まあな」

 慣れれば慣れるもので、もはや静香が食事を戻す事はなくなった。
 それどころかミケが食事しているシーンをナマで見ても平気になった。
 最初はそれこそ夢に見るほどであったが、人間は目に見える恐怖には慣れる事が出来るのだ。
 
 ちなみに初めてここにやってきた時から1ヶ月経過している。
 暦は7月だが割と緯度の高い所にある上に、標高自体も高いここククルーマウンテンはむしろ快適な位であった。
 
「俺にはよく分かんねーや」

 育ちが違うからな。
 そう言おうとして、辞める。
 キルアが自分の家と家業を好いていない事はよく知っているから。

「それよりさー、またシズカの妹とかゴンの話してくれよ」

「キルア様、そろそろお戻りになられませんと、奥様が…」

「もうかよ。あーあ、いっそこっちに住みたい位だぜ。あっちは息苦しくてさぁ」

「ゼブロさんが胃痛で倒れるから辞めておいてやれ」

「いやいや、キルア坊ちゃんがお望みなら、私は良いんですけどね」

「奥方がどう暴走するか見物だな」

「へいへい。んじゃ帰るぞ、カナリア」

「はい、キルア様」

「また喰わせてくれよ」

「では…」

 言うが早いか外へ出て行ったキルア。
 
「お? あのガキ帰ったんすか?」

「タダオ君、誰かに聞かれたら冗談抜きに殺されるからね」

「いやあ、あの我が儘っぷり見てるとどうしてもなぁ」

 頭を拭きながら居間に戻ってきた横島に、無言でコーヒーを淹れる静香。
 横島の気持ちはよく分かる。
 口は悪いし基本的に我が儘だし、下手なこというとお付きのカナリアが刃光らせるし。
 横島にとってみればくそガキそのものだろう。

「まあ許してやれ。
 生まれた時から人殺しの修行させられれば、愚痴の一つも我が儘も言いたくなるだろうさ」

「ホント、変わった家っすよね。
 別に人殺しじゃなくても稼げそうな感じだけど」
 
「人それぞれさ」

「…寂しい家ですよ、キルア坊ちゃんのようにまっすぐ育ってしまえば、相応にね…」

 そう、キルアはゾディアック家では異端な程、普通なのだ。
 イルミは言うに及ばずミルキやカルトですらああなのに、キルアだけは普通の少年のように生きている、色々歪んではいるが。

「そう言えばそろそろアルバイトの期限が切れますが、どうしますか?」

「ああ、世話になったが、そろそろ旅立つ時期だな」

 既に二人とも全力で挑めば二の門まで開けられるようになったので当然である。

「漸くこのくそ重たい服から逃げられるんすねー」

 逃がさねー、ちゃんとゼブロさんにお持ち帰りの承諾は得てるからな。
 静香が胸の内で呟くが口には出さない。
 後でショック受ける横島が可愛いからだ。

「まあ、キルアに挨拶してから、だな。
 後でどんな恨み言言われるか知れん」
 
「キルア坊ちゃんはシズカちゃんの家族の話が何より好きですからねぇ」

 自分の家族がああだからか、キルアは静香の家族の話を好んだ。
 その勢いでゴンの話まで出してしまったのは静香の勇み足である。
 この事でゴンとの出会いに悪影響が出ないと良いが、等と心配してみても始まらないのは当人が一番分かっている事なのだが。
 
「次は何処へ行くんすか?」

「天空闘技場」

「またやくざな所に行くもんだ」

 ゴンの顔を見に行きたい所だが、国境越えがまた面倒過ぎる。
 くじら島までイチローで飛ぶのも現実的ではないし、正直、今年の試験受けておいた方が良かったと思わないでもないのだが…
 交通手段、というより戸籍がない事が現状、静香達にとって最大の足かせである。
 
 次のハンター試験はヒソカが試験官を半殺しにした回、その次がゴン達が合格した回である。
 予定通り進めば、であるが。
 
「なかなか難しいもんだ、な」

 ふう、と一息吐いて、静香は窓の外のミケの欠伸を眺めた。
 操作系の犬使いとかミケ使えば最強だったんじゃね? とかどうでも良い事を考えながら。

****

放出系でバランスの取れた能力って難しいですねー。
具現化と特質が一番楽なのがよく分かりますw



[14218] 番外編シリーズ2-7
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/20 23:34


「目の前で見ると、なぁ」

「うむ」

「…この世界の人間ってバカばっか?」

「…否定も肯定もしかねる。
 これで世界四位の高さだからな」

手元のパンフレットによると、地上251階、高さ991m。
阿呆だ、作った奴も作ろうとした奴もみんな纏めて阿呆だ。
電波塔なら兎も角、中でヒソカクラスが阿呆みたいに暴れるとかもうね。

「アホや…」

 目の前にそびえ立つ天空闘技場を見上げながら、参加待ちの列に並ぶ俺達。
 スカイツリーよりたかーい、と言ったら横島に辞めてと懇願された。
 お前もプレイしたのか? アレを。

 ククルーマウンテンを下山し、密入国を二回繰り返して漸くここ、天空闘技場に到着したのだ。
 方法はライキとロデムに穴を掘らせる。以上。
 空路で行っても良かったんだが、海を越えなくて良い以上、空路より地下の方が見つかりにくいと判断した。
 服やリュックが汚れたのとそれなりに時間がかかった事を除けば概ね順調だった。
 
 そーいや昔ダイ大でポップがメラゾーマで地下掘り進んだシーンがあった気がするが、マグマで灼熱地獄にならなかったのかねぇ?

 しっかし…密入国する事数回…立派な重犯罪者だ…と思ったが、よく考えたら国籍も何もないんだから入国も出国もないんだよな、データ上では存在しない人間なんだから。
 だからといって捕れば多分流星街か刑務所か、ろくな目に遭わないのは目に見えてるけど。

 それにしてもライキ達様々だわ。
 ライキ達がいなかったらくじら島で立ち往生か…試験開始まで無為に日々を過ごすしかなかっただろうなぁ。
 100階以上の部屋を確保したら毛繕いをしてやらねばな。

 天空闘技場を主要産業とするこの街は公営ギャンブルで成り立っていて、競馬場や競輪場のノリをもっと仰々しくしたような感じだ。
 さらに観戦客をメインの顧客としてる為、宿泊施設も外食産業も充実している。
 見た感じ、○のハナマサみたいなスーパーもそれなりにあるっぽい。
 納豆喰いたいなぁ。
 この世界、米もそれなり――多分イタリア位には――食べるくせに和食が普及してなくて困る。
 その癖、所謂『アキバ』的な商業もそれなりに発展してるし、ジャポン人っぽいのはそれなりに見かけるんだよな、よく分からん。
 ジャポンは一体どうなってるんだろうか。

 
 で、到着した日に普通のホテルに入って数日分予約を取り、恒例のように一試合やって息抜きにデートして。

 デート内容?
 思い出したくもないわ、この阿呆!
 

****


「…やっぱり恥ずかしいぞ…」

 一ヶ月お預け食らわせたから『お願い』聞いてやるなんて言わなきゃ良かった!

「似合う! 可愛い!」

 うー…フリルたっぷりゴスロリ服とか何処で買ったんだこのバカ!
 しかも基本色が白とピンク!
 フリルいっぱいとか裾の広がったスカートとかもう絶望的に似合わないだろ俺には!
 こういうのはロリな子が着るのが良いんであって!
 身長175㎝もある俺が着るもんじゃねーだろ!
 ヒールまで履かせやがって…大女にこんなの履かせるな、いじめか?
 いじめだな?
 ガチで泣くぞ良い年した女(24)が泣き喚くぞ!

「プリンセスキュートリボンロリータって言うらしいっすよ、それ」←作者注:ggrks

 こんな服を着せられて街に連れ出されるなんて、まぢで涙が出そうだ。
 カフスだのドレスキャップだの膝上からの長いソックスも全部フリルいっぱいリボンいっぱい。
 ポニーを纏めるリボンもいつもの紐を取り上げられて無意味やたらと長いフリルのリボンだし、そもそも服にもなんかフリルで出来たピンクのバラっぽいのがたくさん付いてるし!

 クローゼットの中の鏡で見ても、似合わない事甚だしいぞ。
 うう、顔が紅い。
 そらそうだ、めちゃくちゃ恥ずかしいし。 
 目付き悪いし、表情だって強ばってて、ダメだろこれは。

「忠夫、やめよ? 恥ずかしいぞ…」

 正直、裸で放り出された方がまだ恥ずかしくないと思う。

「大丈夫! 滅茶苦茶可愛い!」

 ダメだこいつの目は節穴さんだ。
 下着もテニスのアレっぽいし…ペチコートだっけ?
 Tバックの上に見せパンなんだろうがそれを履かされて。

 うー…
 
 ぽんっ!
 
「ライキ助けてくれ!」

「らい?」

 ベッドの上に着地したライキが、小首を傾げる。
 そのまま丸まって、寝始めた――おい!

「ライキ!」

「らぁあい」

 欠伸をかみ殺すようなライキの声。
 眠いから邪魔すんなと言わんばかりだ。
 
「裏切り者めぇ」

 ライキをボールに戻す。
 イチローはでかすぎて出せないしロデムはこんな時はくその役にも立たん。
 …くその役に立つってどんな状況だろうな?
 兎も角――

「さあ、デートっすよー」

「嫌だっ」

「ダメ」

 横島に腕を掴まれ引き摺られるように部屋から連れ出される俺。
 
 続きが読みたい奴はワッフルワッフルと言っても絶対見せてやらねー!


****


 その二日後。
 …思い出したらぶん殴りたくなったがとりあえず寛大な俺は我慢してやる。
 有り難いと思え。
 横島はスケベで仕方ないな、全く。
 
 で、横島と俺は二人とも武器は全て外した戦闘服でここにいる。
 ちなみに俺はいつものポニーじゃなくお団子二つ頭に乗せてるぜ。
 春麗みたいなのな。
 
 合計400㎏を超える荷物だのはホテルの金庫にしまっておいてある。
 個室を手に入れるまでは大部屋で雑魚寝らしいからな、天空闘技場は。
 
「それにしても何人いるんすかこれ?」

「毎日何千人かが参加するらしいぞ」

 五千人だっけ? 一万は行ってなかった気がするが。
 こんな細かいトコまで覚えてない、というかむしろ大筋以外覚えてないというか…
 
 ハンター試験はなー、最初の方だしよく覚えてるけど、天空闘技場辺りからはストーリーよか念の設定とか修行法とかはよく覚えてるという。

 確かスカトロとかいう美形がヒソカに殺されて、新人つぶしがゴン達に返り討ちになってヒソカとゴンが戦ってくじら島だっけ。
 勝敗は兎も角内容なんて思い出せねぇな。
 ヨークシン編に至ってはもうクラピカがウボォー倒して団長に鎖刺してパクノダが死んだ位しか覚えてない。
 G・I編はアレだ、ビスケたんとの修行だけは覚えてる。
 蟻編も似たようなもんだな。女王だけは登場と同時に潰すつもりだが。
 
 これには理由があって、ぶっちゃけ念の修行法の方が大事で、ある程度繰り返し思い出していたからなんだが。
 いきなり念が使えるようになったからな、本人もよく分からんうちに。
 こんな事になるんならメモでもしておけば良かったぜ。
 
 今からメモっても意味ないだろーしなぁ。
 …まあ行き当たりばったりでいいや。
 
 天空闘技場編は危険ないし、ヨークシン編に至っては必殺技があるしな。
 GI編は、アレだ。ゲンちゃん倒せるレベルまで横島を強くすれば良いんだしな、うむ。
 レイザーはゴンぶつければ満足するだろうし。
 むしろ、確かうろついてるハズの旅団と衝突するかも知れんのが怖いわ。
 
 横島育成計画の第一段階はゴンに比肩しうる体力作り、第二段階は試しの門で筋力作り、第三段階がここ、天空闘技場でお金作りだ。
 GI落札出来る額は稼がないとな。第四段階の為にも!

 で、いくらだっけなーGI落札価格。
 ミルキが150億シルバに借りてたのは覚えてっけど、手持ちいくらもってたんだろう、あのデブ。
 まあ多めに見繕って全部で300億だとして、全く勝負にならなかったんだから、倍――いや3倍の900億位用意すべきか。
 190階で2億くらいだっけ? 1億だっけ?
 二人がかりでも相当時間かかるなこれは…
 2億だとしても900÷2で一人450億稼がなきゃいけないんだから、一日2回戦えたとしても最短で225日かかるのか。
 途中に休憩日が必ず出るハズだし、実際はもっとかかるだろうか。
 …とりあえず2倍の600億を目指そう。これなら最短300÷2=150日くらいでどうにかなる。
 
 取らぬ狸の皮算用だなあ。
 とりあえず190階で勝ったり負けたり……勝ったら上がる以上、適度に負けなきゃいけないのか。
 あーでも、200階上がったら報酬無いけどええのんかって訊かれてた、気がする。
 となると、じゃ190階でうだうだしてます、もありかも?
 うーむ、ともあれこれは300億稼ぐのも大分手間取るかも知れん。
 総資産的に考えて300億じゃ太刀打ちできんしなぁ。

 保険的な意味でバッテラ? に雇われるという手段もあるから、そこまで無理する必要はないんだけどな。
 
「……今更身体に触るな等言わんが、せめて場所をわきまえたらどうだ?」

「考え込むと没入する癖、直さない方が悪い」

 それはその通りかも知れんが尻を揉むな尻を、胸なら良いと言うわけでもないが。
 月村脅威の技術力・牛皮三枚重ねに耐刃・耐火他様々な防御能力を付与した戦闘服越しに揉んで面白いのか? 
 というか夜とか、ベッドとか風呂場で、散々なあ?
 なんで路上で触られねばならんのだ。
 
「…仕方のない奴だな」

 こてん、と横島の肩口に頭を乗せるように寄り添う俺。
 こういうバカなトコを可愛いとか思えるようになってしまった辺り、色々終わってるなぁ。
 良いけどさ、別に。

「静香ちゃんが可愛いのが悪い、ついでに気持ち良い」

 その理屈じゃ強姦魔だって悪くないだろうが。
 大体周りの視線に気付いてないのかこいつは。
 ただでさえ俺みたいな妙齢の佳人がこんなトコで並んでるのがおかしいというのに、明らかに普通なにーちゃんである自分がイチャついてたら、どう思われるか位考えられんのかこいつは。
 
 はっきり言ってリア充師ね的な視線がガンガン突き刺さってるぞ、俺達に。
 つーか横島に。
 周りがなー、明らかに俺モテないぜって宣言してるようなゴツいのばっかだしなー。

 まあ、こんな分かり易く貧弱な殺気飛ばしてる程度の奴じゃたかが知れてるが。
 シルバの旦那様見習え。
 路傍の小石見てるような目で見られただけで失禁しそうになったわ。

「こっちへ来て大体八ヶ月、か」

「くじら島に墜ちたのが12月頃で、今8月に入ったトコすねー」

 特質だか具現化だか兎も角、移動系の能力もってる奴は羨ましいな、全く。
 移動だけで時間と手間を大分取られるのが痛いぜ。
 
 放出で瞬間移動は出来るんだろうが、距離はどうなんだろうなぁ。
 短距離瞬間跳躍だと戦闘の役には立ってもなー。
 目印を作って置いておくとかやれば飛べるかな。
 神字覚えられればなぁ。教科書とか売ってないものかな。
 
「漸く受け付けか。
 格闘技経験は20年にしておけ。
 とっとと稼げる階まで行きたい」
 
「ういー」

 さてさて。
 どんなもんかね。
 俺も横島も本来的には武器使う人だから正直190階までは不利なんだが、この程度の不利はひっくり返さないとな。
 
 ちなみに描写してないだけで、ちゃんと定期的に横島と組み手も武器ありの模擬戦もしてるから勘違いしないように。
 まあ実戦からは大分離れてるのは否定しないけど。
 

 
****


「下品なヤジだったな」

 こんなトコで俺みたいなのが出てくれば当然かも知れんけどな。

「色男って言われてもなぁ」

 観客席には、既に俺達がイチャつきながら受付済ませたのを見た奴がいたらしい。
 心ないと言うか何というか。
 横島が負ければ自分達に彼女の一つも出来るとでも思ってるのかね?

 当然の如く背後を取っての一撃で片付けた俺達は、ファイトマネーでジュースを買って、控え室で一息吐いていた。
 勿論、一気に50階である。
 エレベーターガールが美人だった。
 横島が目移りする程度には女性職員のレベルが高いんだけど誰の趣味なんだろうか。
 全く。

 初戦の相手は、正直くじら島に来た時の俺達でも楽勝な程だった。
 まあこの世界の上の方がおかしいだけで、元の世界でもそれなりに強かったのだから当然である。
 アルクェイドとかならこの世界で戦えるのかな?
 
――シズカ様、54階A闘技場までお越し下さい。

「ふむ、では行ってくる」

「気をつけてねー」



《さあ、次の組み合わせは珍しく女性闘士の登場です!》

 やっぱり女はこんなトコこねーよなぁ。
 バトルマニアはいないでもないんだろうが。
 会場全体が汗臭い気すらするぜ。

《女性ながら鮮やかな手刀で対戦相手を気絶せしめたその速さは閃光の如く!
 この試合でも――》
 
 司会うるせーなぁ…早くしてくれ。
 投票率は…まあ俺に賭ける奴が少ないか。
 対戦相手のカストロは何やら虎咬拳の達人らしいしな。

 ん? 何か気に掛かった、ような――?
 
「始め!」

 構えからも分かる。強いな。
 けどまあ、やる事は変わらん。
 
 ガス!
 
「――っ!?」

 防がれた!?
 …なんというか、ゾディアック家で色々と上見すぎたせいで下が余計に下に見えて仕方ない。
 つまり――侮りすぎた!
 
「ひゅ――っ!」

 バックステップで一旦距離を取る。
 司会が何か喚いてるが耳に入れる気にもならんな。

「強いな」

「ふん…」

 こっちの科白だ。
 そして漸く思い出した。
 カストロ――ヒソカに殺されたダブルの使い手。
 
 短髪だわ服も乱馬が着てるような道着だわで、美形位しか見た目に共通点がなかったから気付くのが遅れた。

 ともあれ強さはヒソカが才能を認めただけはある、か。
 念無しでも、現段階で本来の実力差だけなら俺の方が上だが、こちらは武器が一切使えない上に向こうは素手が武器。
 200階でなら負けない自信があるんだが。
 
 まあ良い。
 こっちに来て、横島以外の相手と本気――念無し+制限の指輪装備でだが――で戦うのも良いさ。
 
 素手で出来る技は徹と神速・神速二段掛け位しかない、か。
 徹さえ通れば、今の俺の筋力なら洒落にならん威力になるだろうが…
 
「はっ!」

 徹で威力は底上げされるとはいえ、今は普通に殴る蹴る投げるしかないな。
 隙を見て二段掛けで一気に決める。

 しかし本気で攻め手が足らなすぎる。
 念無し武器なしポケモン無しだと、素人よりはマシな格闘術しかないからな…

 ブォン!
 音を立てて、爪のような拳が襲いかかってくる。
 ぎりぎりで躱す、受け流す!
 
 戦闘服の襟の部分が裂けたんだがどういう手をしてるんだろうか?
 剃刀で斬りつけても斬れない耐刃繊維で加工してあるのに。
 ぎりぎりで避けた頬から血が流れたんだが真空でも作り出してる?
 
 反撃の蹴りも拳も躱される。
 受け止められないよう注意しつつ適度に手を出す。
 基礎体力・運動能力はこっちが上でも格闘術そのものは向こうがかなり上だから、まともに戦えばこっちの攻撃は当たらんわな。

 パンっと音を立てて一度距離を取る俺とカストロ。

 カストロの垂れ流しのオーラが、揺れた。

「コォォォ…」
 
 虎咬拳を構えた時だけうっすらとオーラが拳を覆ってる辺り、才能があるという事なんだろうな。
 あと司会が五月蠅い。
 まあ良い。状況は整った。
 後は――
 
 襲いかかってくる猛虎!
 
 神速――!
 
 世界がモノクロに染まる――そして神速二段掛け!
 
 全てが止まる世界――
 修練せずとも天賦の才のみで為し得た、不破の証――
 
 もはや虎咬拳は威勢猛るだけの当たらぬ大砲!
 両の手で模した牙をかいくぐり、心臓を徹にて殴り――
 動きが完全に停止したカストロの腹を思い切り押し出す――!
 
 そして世界が動き出す――
 
 どぉぉん!!

《おおおっ! 一瞬でカストロ選手が場外だぁぁ!?》

 余人に分かるわけねーわな、今のは。
 人間である以上、心臓に強い衝撃を受けたら動きが止まるさ。
 ウボォーギンみたいな筋肉ダルマは衝撃自体が心臓に届かなさそうだけどな。
 
「勝者! シズカ選手!」

 念の為、心臓殴る時だけ流で拳を絶に近い状態で殴ったから命に別状はないハズ。
 纏状態でも徹使って心臓殴ったら文字通り心臓が壊れてハート・ブレイクしまうしな、相手は垂れ流しだし。
 余計な手間だったかも知れん、よく考えたら試しの門開けられるゴンが全力で殴って人死にが出なかったんだし。

 しっかしまあ…疲れた。
 真剣勝負は疲れるね…久しぶりの実戦だからってのもあるんだろうけど。
 
 久しぶりに使った身体を労るように軽く柔軟しながら、リングを後にする俺であった。


****


 60階クラスの参加者休憩所である。

「疲れた、なぁ?」

「っすねー。静香ちゃんの相手はそれなりに強かったみたいだし」

 体育館位はある大広間で、地震の後の避難民のように雑魚寝したり参加者ども。
 壁際を取れるとラッキーですって感じで、俺と横島も部屋の中央付近で身体を休めていた。
 100階から個室なぁ…これじゃしがみつくようになるのも無理はないかもな。
 正直気が休まらんぞ、ここ。
 
 ゴンやキルアみたいな大雑把な精神はしてないし、俺は。
 食事も外食オンリーだし。
 一応コンビニや食堂も中にあるし、下へ降りて街にいけば色々あるけど。
 自炊出来ないのは嫌だね、全く。
 
 毛布とかは貸し出してくれるみたいなんだが…借りたくねぇし。
 シャワールームとかもあるから一応浴びて来たけど、戦闘服のままでいるしかないかこれは。

「落ち着かないっすね。ホテルに戻った方が良いんじゃね?」

「そう、だな」

 うん、そうする。
 落ち着かないにも程がある。
 大体カップルでいるってだけで親の仇を見るような目の奴や如何にも早く始めろとでも言わんばかりの好色な目の奴とか。
 視線が鬱陶しすぎる。

 携帯がないからなぁ…受付の姉ちゃんと相談するか。
 
 そうして俺達は手荷物だけ持って受付へ寄ったのだが。
 試合は深夜には特殊な事情がない限りはやらないらしい。
 そして基本的にその日一番の試合は朝7時頃から始まるという事だ。
 なら6時過ぎに控え室まで来れば問題ないんだな。
 
 流石に女性職員だけあってこっちの事情を理解してくれたらしい。
 ホテルの電話番号と部屋を伝えると、何かあったら連絡するよう請け負ってくれた。
 人の情けが身に染みるねぇ。


 そんな風にして、天空闘技場での最初の一日が過ぎていった――
 
 とはならなかった。
 
「弟子にしてください!」

 うん、天空闘技場を降りて、外に出て。
 二人で腕組んで歩いてたら、呼び止められた上に土下座された。
 誰?
 
「誰だ?」

「あー…あ、確か二回目の対戦相手、かな」

「そうです! サダソって言います!」

 ……んー?
 サダソ、だと――?
 
 確か…車椅子、独楽野郎、腕がない仮面みたいな顔、だったか、新人つぶしの三人は。
 ……普通の兄ちゃんなんだけど? 顔も普通。腕があるのは当然かも知れんが。
 確かキモい顔してたと思うんだけど…漫画だからかなぁ。

「…とりあえず立て。無駄に注目浴びてる」

「はい!」

 なんだこいつ。あ、思い出した。
 サダソって人質取った野郎だ。
 …そんな風には見えないけどなぁ。

「静香ちゃんどーする?」

「どうするも何もなぁ…」

 どーすんだよこれ?

 
****

一人称の欠点というか難しいトコの一つは、主役がわかりきってる事は考えないし、主役が見えない点は勝手に動くというトコで。
GIに関しては次か次の次で理由が判明するという事で。

で、美人だし肌も白いしスタイル抜群なんで実はよく似合うと思うんですけどねー静香のゴスロリ。
アレですね、女教皇さんの堕天使エロメイドとか、なんていうんですかね。
女らしい格好なんて似合わないとか言うその幻想をぶち壊す!って感じ。
似合わないとか言いつつ実は似合ってて照れ照れしてる大人の女性が大好きです。

あとカストロさんが短髪で道着姿なのはダブルを使用する際の死角を増やす為に、ひらひらの服を着てついでに髪を伸ばした、という設定です。
サダソに関しては確か腕と一緒に視力も弱くなったとかなんとかという設定なのでいっそ顔面整形レベルだったという発想から、逆に普通の兄ちゃんになりました。
バトルシーンに関して、特に感想ください。これからバトルは増えますし、少しでも良くしたいです。

あと原作知識に関しては、最後に読んだのが「見せてやるぜ百式の零を!」のシーンで、かつ転生後から累積で6年以上経過している為、抜けがあったり勘違いがあったりしてます。



[14218] 番外編2-8
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/26 07:37


 初戦から2週間経過し、現在180階である。
 
 やはり女性の選手、かつ200階まで上がってくる奴は珍しく、受付や案内係、つまり闘技場の女性職員達から大人気になってしまった俺。
 現在170人位200階にいて、女が10人位らしい。
 これだけなら大した事ないが、登録だけしてなかなか試合しない人、特に女性はその傾向が強いらしい。
 何の為に200階まであがったんだろうか…?
 障害持ちになってリハビリ中?
 あと200階クラスは別に毎日はやってないらしい。
 だからこそ原作のヒソカvsカストロみたいな盛り上がりを見せるらしい、アレは純粋にヒソカ人気もあったんだろうが。
 
 あと、俺が言うのもなんだけど美人が少ない、女性選手には。
 漫画じゃないんだから当然だけどなぁ。
 自慢げに聞こえるが、多分天空闘技場の女性選手じゃ一番俺が美人だわ、俺の調べた範囲では。
 
 それはそれとして。
 戦うのを見るのが好きで強い人が好きという女性職員ばかりなので、割とすぐ職員の女の子達とは仲良くなった、全員ってわけじゃないが。

 タイプは違うとは言え、女性職員の人達も美人多いのはなんでだろうな?
 選手と付き合ってるのもいるらしい。中には結婚まで行ったって話も。
 野蛮人の聖地なんて言うが、金稼げて結婚チャンスまであるなら、そら流行るわな。
 ゴンキルはそんなの興味ないだろうから描写されなかったんだろうか?
 
 ちなみに俺の試合の動画はそういう意味で大人気らしいぞ、阿呆ばかりだ。
 流出画像・動画はすぐ消されるけどな。
 過去の試合の動画に関しては運営から貸し出しもあるけど、人気の試合はやはり順番待ちらしい。
 ま、テレビ放映もちゃんとやるから、録画すれば良い話なんだけど。
 
 で、仲良くなった受付や案内のお姉さん方に色々尋ねてみた所。
 夢小説とかハンター二次創作のお約束、190階クラスで負けて180階クラスで勝っては駄目っぽい。
 一回位なら兎も角、余程上手くやってもペナルティが付くし、最悪二度と参加出来無くなるって脅されてしまった。

 計画が崩れ去った音が聞こえた、この瞬間に。
 別にGI自体が帰る為に必要と思ってた訳でも、同行アカンパニーで帰れると思ってたわけでもないから、それは良いんだが、手に入らないとなるとなぁ…どうしようかね。
 
 とは言え金は金で必要なので、GIに届かないと知りつつも頑張るしかない。
 
 200階以下の場合、試合の回数自体は原作でのゴンキル初戦のように、午前の試合で無傷かそれに近い状態なら午後もう1試合という感じで、強い奴は一日2回がデフォ。
 負け方次第では負けても2試合目がある。
 つまり一日一回はファイトマネーが貰える。
 基本的にはな。

 で、俺と横島は『出来るだけゆーっくりと上がる事』にした。
 具体的には飛び級しない。これは選手側の権利として認められている。
 不戦勝――つまりバックレも状況次第で許される。ただしクラス自体は下の階に下げられるが。
 何回もやると問答無用で一階or二度と参加不可能になる。
 
 で、現在の貯蓄は2億3160万位。
 今日のこれからの試合で勝てば3億突破だ。
 実は一回、190階クラスで負けてるのだ、無論わざとだが。
 一回位ならバレないだろうしね。
 
 自分に賭けるのって有りかなぁ…駄目だろうか?
 対戦相手に賭けるんじゃなきゃ許されそうなんだけどな。
 でも元の世界じゃ馬の関係者は全部問答無用で駄目だったっけ?
 うーむ…。
 
 時間的には今、1997年8月だ。
 ゴンに電話して年訊いたりハンター試験受けるのかどうか訊いたりして確認したが、試験自体は1999年の一月のを受けるっぽい。
 時間的には1年4ヶ月位は確実に残ってる訳だ。
 一年も稼げばGI買えたのにな、等と死んだ子供の年を数えていても仕方ない。
 とりあえず、イネさんとミトさん、ゴンにプレゼントでもするか。
 天空闘技場饅頭って作った奴誰だ、ジャポン人はどれだけ世界に散らばってるんだよ、ジャポン自体は閉鎖空間なのに。
 
 目論見崩れてテンション下がったが、今は200階行きたくないしなぁ。
 200階で戦わないのかとお姉さん方に訊かれたが。

 何故かって?
 今ヒソカが200階で暴れてるからだよ!
 原作だと10勝目がゴンだったような気がするんだが、勝ち星の最初はこの頃から稼いでたらしい。
 まあ一回登録だけでもすれば3ヶ月ほど開けられるから、3敗全部不戦勝につぎ込めば9ヶ月は戦わなくて良いし、聞いた話じゃネットからも対戦登録は可能らしいし。

 つまり、こないだ俺と戦ってなかったらカストロは多分、今頃200階でボコボコだったんだよ、ヒソカにやられて。
 200階到達は実力から言えば当然だろうが俺と横島に一回ずつぶつかったせいもあって、今は180階のご同輩である。

 ヒソカとぶつからなくて良かったかどうかは分からんけど、ダブルはなー。
 能力としては凄いし独学であれだけ覚えてたのはもっと凄いけど、融通が効く能力じゃないし。
 ぶっちゃけレイザーと14人の悪魔の方が遙かに優秀だよな、似たような使い方出来るし。

 何にせよこれ、200階行かせない方が死亡フラグ立たなくて良いよな?
 今日の横島の180階クラスの相手がカストロ(二回目)なんだが。
 神速無しでやらせて勝っても負けても良しと指示するか?
 ただなぁ…アイツの手怖ぇよ。
 下手な負け方したら腕とか使えなくなっちゃうぞ。
 負けなくて良いや。怪我しないように頑張ってもらおう。
 
 怪我と言えば、新人つぶし(原作)の三人は今、リールベルトは横島が、ギドはカストロが吹っ飛ばして150階クラスにいる。
 二人はもともと俺らが来た時は100階クラスにいたんだけどね。
 150階から上は実力違うし当然かな、あっさり通り抜けた俺が言うと嫌みだが。
 神速がある以上、念有りの相手でもぼこぼこにしてポイント稼いで勝てるしね。
 ヒソカクラスになると別だが、というか怪我しないように負けるが。

 リールベルトに至っては、試合前に俺をナンパして来たせいで横島にボコボコにされたからなぁ。
 アレは笑った。
 元々キックボクサーかムエタイとかの選手だったっぽいな、構えとか動きとかから見たら。
 それで足やられて電気鞭とか泣きたくなる凋落ぶりではある。
 
 ギドは覆面と足が独楽の印象が強すぎて名前訊いても顔見ても分からなかった。
 マジで気付かなかった。
 気付いたのはサダソとリールベルトと、三人で仲良さげに飯喰ってるトコ見て脳裏に電流が走った時だった。
 別に印象薄かったつもりはないんだけどね、どうでも良いキャラではあったが。
 なんか補正でもあるのかね、いつの間にか普通に友達になってたけど。

 で、サダソである。
 弟子入り志願してきた馬鹿。
 原作ではどう捻くれたのか、今は大分熱血漢で突っ走る性格だった。
 あの後、ホテルまで付いてきて土下座でホテルの前で待ち続けるという無意味に根性発揮したせいで、ホテルの人から俺達が怒られてしまった。
 
 しょうがないので、鍛えるだけの価値がある事を証明して見せろ。
 具体的には200階まで到達して、一度辞退しろ。
 それが出来たら弟子にしてやると。
 
 これ、200階クラス、そしてフロアマスターとバトルオリンピア目指してる人間には過酷な条件だと思ったんだけど。
 快活に頷くと、元気に駆けだして行ったサダソ。
 今は160階クラスらしい。
 
 俺の手持ちが今日で3億5000万前後、横島がカストロぶっ飛ばして3億程度。
 ちなみに俺らの差額は賭け金によって出るボーナスの差額な、女性選手の方が人気だし、美人だし。
 美人は特だよ、うむ。目付きキツいのなんてこんな場所じゃメリットにすらなるしねー。
 とは言えサダソの金巻き上げても10億行かないんじゃなぁ…

 …弟子からお金取るのは師匠の特権だよね?
 実際はどうなんだろ? そういやウィングさん、ズシとかから金取ってるのかなぁ?
 ズシの闘技場での稼ぎじゃ喰えない気がするから意外と金持ちなのかも?
 ビスケたんの場合はブループラネットで良かったんだろうけどね。
 

****


 そして更に2週間が過ぎた、現在9月の半ばで200階である。
 その間、色々あった。
 サダソが本当に弟子のようなモノになってしまったのと、お金が二人合わせて、13億位貯まった程度だ。
 
 そう、200階到達したら、俺と横島は一回拒否ったのである。
 で、二週目も『ゆーっくり上がった』のだ。
 カストロは怒ってたけどなー、そんな事知るか、そんな事よりお金儲けだ。

 で、今は200階、一昨日の夕方、準備期間90日もらって、横島と二人のんびり修行しつつサダソの修行をつけてやっている。
 サダソも一応一度200階行けたので、拒否らせた。
 正直200階到達以前の体力だしね、ハンター世界を漫画として読んでいた人間からすれば、だが。
 
 あ、あと俺にはどうでも良い事だったが、二週間前にカストロが、一週間位前にリールベルトとギドは200階まで上がって、結局洗礼を受けたらしい。
 思うところがない訳ではないが、二人には一応サダソを通して一回、直接会って一回警告はしたのだ。
 その上で突き進んで自爆したんだからな、俺らが何の痛痒を感じる必要はないのだが、横島はちょっと落ち込んでた。
 大した付き合いがあったわけでもないのに、な。そういう甘い所は変わらない、可愛い奴め。

 カストロの相手はやはりヒソカだったらしく、自身の強さもあってカストロだけは障害を負わなかった。
 こっそり探ってみたが、病院のベッドの上、寝たきりだったが纏は出来るようになってたな。
 …ダブルは駄目だよって教えた方が良いのかなぁ…

 あとサダソなんかは泣きながら「姐さんの言う通りにしてれば!」と二人に説教したらしいが。
 独りだけ無事なのを妬んだのかこないだ見舞い行ったら拒絶されたと凹んでいた。
 そんな性根だからそんな目に遭うのだ、全く。
 
 で、そんなサダソは50㎏の重りを付けた服着て走り回ってる。
 基礎体力が違い過ぎるんだな、原作の一線級と雑魚は。
 その差を埋める為の第一歩だ。
 最初そんなの付けて走れる訳ないとか騒いでたが、200㎏付けて横島と組み手してやって走り回って見せてら納得したのか、今は黙々と走り込んでいる。
 ちなみに自前で用意させた重りをつけて、だ。何処から買って来たんだろう?
 サダソの反応を見ると、割と常識自体は大差ないのかもな、漫画に出てくるような連中の方がおかしいだけで。
 
 ちなみに、今サダソは街のホテルに住んでおり、横島は俺と闘技場の用意した個室に二人で住んでいる。
 試合しながら体力付けるのは無理がある、特に190階クラス以下は毎日試合あるし。
 200㎏で天空闘技場の非常階段を上から下まで、全力で走り抜ける事が出来るまで試合禁止というルール。
 251階991mの階段上り下りは俺と横島も200㎏つけてやったがそんな大変でもなかったけど。
 
 やはりゴン達主人公組や俺と横島は才能があるというか異常らしい。
 50㎏付けて走り回るのなんて俺達は一週間もかからなかったが、サダソはまともに走れるようになるだけで二週間はかかったし。
 
 俺達は俺達で木刀とか使って模擬戦とかしまくってる。
 横島の奴はどんどん強くなるし。
 飛針や鋼糸も、刀捌きも凄い勢いだ。
 俺も飛針や鋼糸の扱いは自信あるけどね。
 
 こっそり横島が寝た後に堅を限界までやったりは続けてる。
 ついに5時間位出来るようになったぜ。
 流石に睡眠時間足らなくなるから、昼寝確保するようにしている。
 
 正直具現化系ならベッドとか枕を作りそうな自分がいる。
 睡眠時間を一時間一分にする効果でな。
 
 加えて、毎日という程ではないが、誰に気兼ねなくそういう事出来るようになったから結構な頻度で押し倒してくるバカがいるし。
 全く…

 いつまでもこっそりという訳にも行くまい。
 纏だけでも覚えさせるべきかどうか。
 これが今現在、夢にまで見そうな程悩んでる事だ。

 生兵法は怪我の元とは言うが、念無しで200階クラスの試合に参加させたり死の元にしかならん。
 サダソですら生き残ったんだから横島なら平気だろうが、変な障害もたれたらたまったもんではない。

 と言うか、金儲け目的だったんだからもう天空闘技場に用はないんだよな、正直。
 ただ強さ自体の底上げはしておかないと色々不味い。
 特にGIの為雇われるのにも強さが必要だし、この世界は人の命が安すぎるからな。
 よって、暇を見ては何とかか会とか探してるんだけど、見つからない。
 クラピーはあんな簡単に見つけたのにな。やはり補正か、主人公だからか。
 
 

「とりあえず今日の修行は終了か」

「っすね。シャワー浴びて下降りる?」

「そうだな」

 何処で写真撮られるか分からんし、殆ど戦闘服で過ごす日々である。
 少なくとも闘技場内ではな。
 平気で盗撮する奴いるしな…円で出来る限りそういうのは潰すようにしてるけど。
 部屋の中の盗撮器具なんざライキが放電すれば大抵壊れるしな、ザマァ。
 
 ちなみに下とは闘技場周辺の街を指す。

「一緒に入ろ~」

「変な事するなよ」

「変な事ってどんな事っすか!」

「阿呆が」

「いて」

 ホントに馬鹿なんだからな、こいつは。
 
 
****


「あ、シズカさん、タダオさん」

 横島と二人、個室から出てエレベーターへ向かう。
 200階ともなればエレベーター無しだと特訓になるよなぁ。

 ぷしゅー
 ちょうど下りのエレベーターが来ると先客が乗っていた。

「む。テレラか」

 女性職員の一人で、主に場内の案内と観客席会場受付などがメインの人。
 他にも解説とか場内放送係、天空闘技場内売店などが人目に付く仕事らしい。
 審判は危険だから男性職員にしかやらせないんだってさ。
 
 童顔で背の低い、女の子らしい女性だ。
 …俺とは正反対だよ、全く。

 挨拶もそこそこに、乗り込む。
 全長991mのエレベーターだけあって、見晴らしは大変よろしい。

「そういえばヨークシンへは行かないんですか?」

「なにそれ?」

「世界最大のオークションが開催されている街だ」

 そういえば、9月だったな、今は。
 国境越える行為は面倒だからなぁ…マジで移動用の念作るかなぁ?
 ヨークシン行けば、凝でオーラ見て儲けられるし。まあGIには手も届かない額だろうが。
 バッテラ? は兎も角、まともに離脱も手に入れられないあの辺のへたれはどうやってこんな金稼いだんだろうかさっぱり分からん。

「へー…ちょっと行ってみたいかも」

 横島に金持たせれば稼いできそうな気はするが、身分証明が出来ないんじゃなぁ。

「200階クラスの方は結構出かけてるみたいですよ」
 
「まあ時間はあるがな…」

 移動手段…面倒な制約と誓約で誤魔化せるかなぁ…うーむ。
 拳だけならあんな雑魚でも出来るんだし、不可能ではないのは確かだけど。
 とは言え折角放出系でメモリに余裕もあるしな…というか感覚的にはどれだけ覚えても不足になる気がしないんだが。

 ちーん

「じゃあこれで」

「うむ。仕事頑張ってな」

「じゃーねー」

 事務所の方へ向かうテレラに別れを告げると、その足を玄関まで向ける俺達。

「で、どうするの?」

 腕を組んで歩きながら、街へ向かう。
 流石に最近はそこまであからさまな視線は減ったな、見慣れただけだろうが。

「とりあえず、食材確保だ」

 200階クラスの個室となると台所もかなり充実していて大変よろしい。
 自炊出来ないとストレス溜まるよ、うむ。

「後はサダソの様子でも見に行ってやるか」

 あんな装備付けて走り回れる場所は流石に闘技場内にはないからな。
 非常用階段はたまになら兎も角、毎日走ってたら間違いなく文句言われるわ。
 
 よって近くの公園を走ってると言っていた。

 走り込み自体は俺も横島もやっているぞ、200㎏付けて毎朝。
 正直念無しでフルマラソン1ダース位出来ないとヒソカクラスと勝負にならないんじゃないかと思ってる。
 キルアとかどういう筋トレしてたんだろうね。


****


 久しぶりにポニーを結んで、ジーンズにTシャツという姿だが公園でお弁当を食べようという事になったのだ。
 買った弁当だが、たまにはお外で食べるのもよかろう、横島にしてはナイスな提案だ。
 
 という訳で。
 この街で一番でっかい公園の真ん中の時計塔の下のベンチに座ってたんだけど。
 荒くれ者どもが集う街にしては緑豊かで良い環境なんだけど。
 サダソが走ってるハズなんだけど。
 
「やあ♠」

 ……あれれー? おかしいなー?
 俺の前に横島やサダソじゃなくて変な死神がいるぞぉ?
 
「………」

「ツれないなぁ♡ 返事位してくれても良いじゃないか♥」

 バササササ…
 近くで遠くで、鳥や獣が逃げる音。

「…生憎と待ち合わせ中だ。何処かへ消えてくれ」

 なんつーオーラ。
 粘液のプールに沈められたかのような粘つき、オーラに温度なんて存在しないのに感じる生ぬるい感覚。
 俺を対象に周されてる訳でもないのに全身を嘗め回されてるかのようだ、気持ち悪い。
 多分、興味だけだからこの程度なんだろうが…本気で欲情されたらこのオーラがどれほど邪悪に燃え上がるんだか。
 
 これは念無しゴン達が一歩も進めないのも無理ないわ。
 とっさに纏しなかったら俺もどうにかなってたかも知れん。
 ボールの中でがたがたとライキ達も騒いでる、警告か、或いは俺を守ろうと戦わせろと主張してるのか。
 
 まあ原作読んでれば、こいつはそこまで危険じゃないのは分かるんだけどな。
 イルミもそうだが、こいつが気に入らない態度や行動を取らなきゃ別に殺したりしないんだよね。
 それも俺が相応の強さを持ってるからだけど。ま、今この場で殺される事だけはない。
 よって恐怖と嫌悪は感じても、及び腰になる事はないのだ。

「で、何の用だ?」

 というかさりげなくベンチの隣に座るな。
 すすすっと出来るだけ距離を取る俺。
 流石に間を詰めてくる事はなかった、良かった。
 …逃げ出してぇ、キモい。

「君と、恋人のタダオクンだっけ? 興味深くてねェ…♧」

「そうか」

 ため息を吐く。
 いやもうホントマジ勘弁して欲しい。
 俺はこんなイカれた男に欲情する趣味もなきゃ恋人にしようなんて酔狂な事を妄想した事もないんだ。
 この世界にもきっといるだろうドリームな人と付き合ってやってくれ、俺の知らないトコでひっそりと。
 
 などと考えても仕方ないのは分かってるんだが。
 正直カストロで興味もたれる以上、俺や横島じゃ仕方ないかも知れない。
 知れないが嫌だよやっぱり。
 
「これからデートなんで何処か消えてくれないか、そして二度と会いたくないな」

「くっくっく…♥」

 いつ伸縮自在の愛バンジー・ガムひっつけられるかドキドキだぜ、ちっとも楽しくないが。
 救いなのは隠で隠そうが何しようが、『飛ばすモーション』が必要という点だな。
 腕や足に注目してれば『ついでに飛ばせるモーション』を見逃さずに済む。
 変化系は苦手な放出系、だが強化系は比較的得意、刃止剣ソードブレイカーで周してやれば斬れる。
 こんな街だし、常に武器は携帯してるぜ。

 弁当買いに行かせた横島、遅いなあ…でも来ない方が安全かも知らん。
 …もしかしてこいつが全方位に向けて発情してるから来られないのか?
 原作のゴンキルみたいに。
 
「とりあえず、そのオーラを収めろ。気持ち悪い」

「酷い言い草だ♣」

 わかりづらいが苦笑しつつ、オーラを纏状態まで落ち着かせたヒソカ。
 …纏状態でも怖いわやっぱ。

「で、用があるなら早く言え、そして巣にカエレ」

 何処に巣を持ってるか知らんけどな。
 個人的には根無し草だと思うが。

「特に用という程じゃないさ♥
 たまたま街で見かけたから声を掛けようとした、それだけ♣」
 
「嘘吐け。私たちのせいで有望な選手が上がってこなくなってきたから文句の一つも言いに来たんだろうが」

 カストロさえ2週間前に漸く到達だからな、実力的にはもっと早くてもおかしくはなかったんだが。

「それは誤解だ、前々から気にはかけていたのさ♠
 で、街で見かけたから声を掛けたというのが本当♦
 暫く天空闘技場から離れないと行けないし♣」
 
 旅団活動かね? それともハンター試験か?
 9月だからまだ早いか。あ、オークションか?
 …毎年旅団に狙われるんじゃやってられないと思うんだが…

「静香ちゃん!」

 …もう少しで帰りそうだったのにこいつは…全くなぁ。
 
「姐さん浮気は駄目ですよ!」

 しかもサダソまでいるし。
 ちなみにこいつ、17才だってさ。
 
「誰が浮気か。タチの悪いナンパだ」

「おやおや…確かに彼女は魅力的だけど、そういうつもりはないな♥」

 うすら寒くなるような笑みで見られる、嘘吐けと突っ込みたい。
 背骨が悪寒で軋む。横島に背中をつつーっとされた時のような、それでいて真逆で強烈な不快感が俺を襲う。

 こいつの性欲ってどうなってるのかなぁ?
 マチやカルト相手に欲情してたのは確かだけど、殺し合いたいのか犯したいのか、よく分からんのよね。
 大分抜けがある原作知識だけじゃ判断しようがないか。
 どちらだと言われても納得出来る程、怖えよこれ。

「ふぉっ!?」

 こいつ、挑発する為だけに練状態になりやがった。
 流石に戦闘慣れしてるだけあって、横島は大きく後ろへ飛び去る。

「サダソは感じないのか?」

「何がすっか?」

 念使えなきゃ怖いなんてLvじゃない、ハズなんだが?
 んー…感じる事も出来無いLvなのか?
 
 刺激しないよう静かに立ち上がり、横島の前へ立つ俺。
 念は精神的要素が多分に影響するが、同時に物理学的要素にも大きく影響されるから、これで風除けと同じ効果が出る訳だ。
 多分、念使い本人が人生の中で実感してきた物理学的影響を無意識に念に反映させちゃってるんだろうとは思うんだが。

「な、なんすかこいつ…」

「死神ヒソカ。200階クラスの人気闘士。戦績は2勝無敗。
 サダソ、実力差は兎も角、これでまともに立ってられないようなら200階では勝負以前の問題だ。
 その結果があの二人だからな」
 
 ま、横島に念を実感させられる機会があったのは良い事だ。
 サダソの方は涼しい顔というか、何が起こってるか分かってないな…
 どうしたもんか?

 最悪、あの二人がサダソを嫉んで襲撃してこないとも限らないのになぁ。
 今はリハビリと念の使い方に四苦八苦してるようだが。
 円は便利だよ、うむ。鍛えれば唇の動きから何喋ってるかまで何となく分かるようになったし。
 
「ふぅん…そっちの彼は兎も角、タダオの方は――イイねぇ…♥」

 じゅるりとでも音を立てそうな邪悪な笑顔。細められた目は狩人のソレだ。
 そして一気に膨れ上がる欲情!
 オーラってのはここまで精神状態反映するのか――!

「こ、こいつまさか…!?」

「男も女も関係ないぞ」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 おお、取り乱しとる。
 そして俺にしがみつく。人前でくっつくな。
 ヒソカのせいで動物はいないけど、人はそれなり?
 200階クラスの選手が揃ってるからか、遠巻きにはされてるね、うむ。
 
 しっかし…
 元男の俺からすれば、今更男に犯される位なんだという感じだが、普通はこうなるよなー。
 最初は俺もこうだったよ、いやここまで取り乱しはしなかったかな?
 
 なんつーか、男はアレだよな、自分に向けられる意に沿わない相手からの性欲に弱いというか。
 スーパー銭湯のサウナでケツ触られた位でガチ泣きするからな、こいつも。
 とは言え、このオーラの風ごとセクハラされたら、感じる奴なら誰だって取り乱すかも知れん。
 
 …俺が高町静香として生き始めた最初の頃、セクハラしてくるのが横島じゃなかったら男性恐怖症になってたかもね。

「…そうだ」

 サダソはよく分からんなりに傍観している、ヒソカの形相には恐怖してるようだが。
 正直こういう態度は助かるな。

「ん?」

「情報屋に伝手はないか? 人を探したい」

 どうせ喰うなら美味しく育ってから喰った方が良いだろう?

 念文字でそんなような事を書くと、ニタァともう身の毛も弥立つ笑顔。
 元が美形なんだか普通にしてりゃいいのに。
 
 休みのたびに街を探してみたが、何とか会は見つけられなかったんだよね。
 勝って負けて稼ぐ手段もポシャった上にその金で行うハズの第四段階も始まる前に終わりそうだったが。
 こいつが教えてくれれば取り返せるかも知れん。

「いいよ、君たちには期待してるからね♠」

 何処からか取り出したメモにさらさらとペンを走らすヒソカ。
 どうでも良いが練状態辞めろってんだ。横島もサダソも動けやしない。

 書き上げたのか、ピっと音を立てて飛ばし――周で覆った刃止剣ソードブレイカーで紙の後ろを切ってから、受け止める。
 
「へぇ…よく分かったね♥」

「ふん…用を済ませたら速く消えろ」

 案の定、伸縮自在の愛バンジー・ガムを引っ付けてやがった。
 凝しなくてもバレバレだっての。
 200階クラスでの試合はちゃんと見てるからな、名前は分からなくても――俺は知ってるが――内容は洞察力さえあれば分かるし、ヒソカも隠す気ないしね。

「はいはい…じゃあね♦」

 わざとらしくオーラでハートマーク飛ばしてから背中を向ける。
 そして漸く、横島が呪縛から復帰した。
 
「なんすか、アレ…」

 身体を起こして、俺の肩を抱くように密着してくる。
 人前では辞めろと言ってるんだがあれの後ではな…

「この世界でも最強クラスの殺人狂さ。
 俺より強い奴を会いに行く、がモットーだ」
 
 まあ、道着に裸足に鉢巻きの人から比べると大分斜め上だが。
 というか人格面から言うと月と鼈だが。

「さて弁当買って来たんだろう? 喰ってしまおう」

「…アレの後でよく食欲あるね…」

 横島が呆れつつ、芝生の上に弁当を並べ始めた。
 それを横目に、ヒソカのよこしたメモを見る。
 千耳会という団体名っぽいのと、個人名がいくつか並んでいて、それぞれ住所が記されていた。
 …有り難いが気遣いされればされるほど嫌な気分になるな…
 
 体感したが、実力差がまだまだあるわ、当然だが。
 
 ビスケたんか、ウィングさん、ノヴかモラウ辺り、師匠に出来ると良いんだが、さてさて…
 ビスケたんにブループラネットゲットの旅In GIの権利を送って育ててもらおうと思ったんだが、なぁ。
 育ててもらえるか以前に師匠として雇えるか不安だ、金銭的な意味で。
 そういう意味じゃ他の三人も不安だ…10億程度で足りるかなぁ?
 

****


200階登録をその日に、拒否ると一階から、二回目拒否ると登録不可能になる。
これ、個人的には、どう考えてもスムーズにゴンキルの精孔開く為の設定だと思うんですよ。
二回目拒否したら云々が特に分からないんですよねー。
ただ、これないとずっと190階のターン! になって200階行けよゴルァ!になるんですが。

しかし買って負けて荒稼ぎ、ハンター二次創作じゃ割とお約束だと思ってましたが、感想欄見ると結構疑問に思ってた人多数だったようですね。
出来ると楽というか、出来ないとGI買う為のお金を別方面から工面しなければならない為、原作沿いだと結構必須なお金が必要ですからね。
まあこっちは原作沿いとかそういうんじゃなく、最後の一言の為だったり。

この時期はまだビスケがブループラネットの情報を得る前という前提です。

そうでない場合、1988年(原作10年前・この作品の現在時間軸は1997年)にバッテラが掛けた本体に170億/クリアデータロムに500億の時からバッテラが行動しているとして、ブループラネットの情報を得たのが1997~1998年頃よりもっと早い時期であるならば、原作よりもっと早い時期に行われたバッテラ大量雇用の一員になってないとおかしいと思うからです。
まあ毎年GIがオークションに賭けられる訳でもなく、毎年手に入る訳でもないから、チャンスを狙って待ってただけなのかも知れませんが。

ゴンキルがヒソヒソのオーラで先進めなくなった時、美人の女性職員さんは平気の平左でしたね。
アレは
1:ヒソカがわざとオーラを当てないようにしてた。
2:才能がない人には感じる事が出来無いのがオーラだから。
  ただし無理矢理精孔を開けてしまえばその限りではない。
3:女性職員が凄まじいまでの使い手かつ名女優並の演技力
  
で、2を僕は推奨しますね。
ピトー以外はあんな人を避けてオーラ飛ばすなんて出来無いみたいですし。
3はねぇ…あの人好きなんですけどね、女性職員の中で一番美人というか好みですw



[14218] 番外編2-9
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/03/26 07:46

 …金が足らん。
 天空闘技場に来て金が足らないとか新しすぎんゾ?
 
 千耳会へ行ってみて、色々話をした結果。
 ちなみに練して見せたらハンターでなくても紹介してくれたぞ。
 仕事でなくて師匠捜しだからかも知れんが。
 
 『ビスケたん、モラウ、ノヴ』→三人ともシングルハンター
 →居場所教えてもらうだけでほぼ全財産飛ぶ。
 ウィングさんは三人に比べればタダみたいもんだったが、連絡したら「初めて取った弟子に集中したい」との事。
 これだけ訊くのに一億飛んだし…泣ける。
 
 弟子とはズシの事だろうが、彼と天空闘技場来たのが再来年のハンター試験後+ゾルディック家滞在後だから、2月か3月?
 半年かかったんだっけ? 纏習得に。
 えーと、確かキルアに練しようとして怒られてたから、最低でも練覚えてから天空闘技場来襲。
 纏で半年なら練も半年か?
 今九月で再来年の1月が原作のハンター試験の月。
 ズシのスケジュールが来年の今頃=八~九月頃纏習得して再来年の二~三月までの間に練習得、と考えると大体、一年六ヶ月後、再来年の3月頃が原作の天空闘技場編開始か。とりあえず極端な矛盾はない、ハズ。
 
 多分、ズシでも練をすれば殺される事も障害を負う事もない、と判断したから天空闘技場に来たんだろう。
 実際、纏状態のズシでもキルアが殺せなかった、まあキルアが念使えなかったからだけど。

 うーん、今ズシが『念』の存在すら知らない頃となると、確かに天空闘技場には来たくないかもな。

 天空闘技場のレベル確認…しに来ないだろうなぁ、ウィングさん…
 だって数年前に200階登録してるもん、対戦成績もゴンキルと似たようなもんだから、多分ビスケたんが修行に使ったんだろうな。
 つまり、自分で体感して熟知してんだから今さら調査に来るなんて展開はない。
 ウィングさんに教わりたかったら試験合格してから、という事になる。
 
 あと師匠なキャラって名前も顔も覚えてないクラピカの師匠くらいなんだが。
 名前も覚えてないなんてどういう事だろうと自分の忘れっぷりに苛立つが仕方ない。
 名前も覚えてないんじゃ探してもらいようがない。
 
 千耳会の人には一応金額に応じて、それなりの念の師匠になってくれる人は紹介出来るし、億単位出せばシングルハンターとは行かなくても相当に優秀で実績のある人を紹介出来るよ、とは言われた。
 …金も勿体ないのもあるが、外れが怖い。
 しかし億単位出しておいて外れを引かす程、千耳会はだめな組織じゃないだろう、ハンター協会とも提携してるらしいし。

 と言うわけで育成に関して有能である事前提に、話が通じる比較的常識人な念の師匠を紹介してもらった。
 紹介料と仲介料併せて4億もかかった、泣きたい。
 能力はまだしも人格面で常識人はハンターに少ないんだと説教されれば、ぐうの音も出ないんだが。
 
 ともあれ、天空闘技場まで来て貰える事になった、到着は一週間後。

 実際に育成してくれるか、その際の師匠としての雇用代はどうするか等は実際に会ってから交渉という話になった。
 …不安だ…今更漫画のキャラだと、世界だと思う程阿呆な人生送ってないが、それでも全く知らない人間に今後の人生委ねる形になるのは非常に不安だ。
 
「お、静香ちゃんどうかした?」

 よって鼻の下伸ばして抱き締めてくる横島の胸に顔を埋めても、それは不安ゆえ仕方ない事なのだ、うむ。
 最近気付いたけど、横島とベッドで抱きしめ合って考え事すると捗る。
 その間、こいつも好き放題してるみたいだけど、まあいいやね。

 どうでも良いけど千耳会の人って奇抜なファッションじゃなきゃダメなのか?
 頭に埋め込んだネジがいくつも飛び出てるユーノばりの金髪美少年とか微妙過ぎる。
 念覚えてるようだし、見たとおりの年齢ではないんだろうけど。
 
「あ、そうだ。明日、サダソに会ったら昼飯喰いに来るように伝えておいてくれ。
 昨日のヒソカの事で話がある、とな」

「アレなんなんすか? 魔法とかと違うし」

「明日話すよ、纏めてな」

 横島の胸板厚くなってるなぁ…すりすり。
 GIは正直ビスケたんゲットの為に必要だったから金貯めてた訳で、逆に言えばビスケたんとの出会い前倒しにしないなら必要ないのだ。
 現状でも残高8億余りあるから、生活費さえ残るならほぼ全額師匠代に化けても構わない。
 …問題ない人だといいなぁ……でもハンター世界、というかハンターでまともなのってレオリオとミトさん位しか知らんしなぁ…
 『魅力的な人』と『まともな人』はイコールじゃないのがこの世界だし…
 
 横島の撫でる手が気持ち良いなぁ…
 子供になったみたいだが、撫でられるのは本当に気持ち良い…
 ま、なるようになるさ。

「それが、隠し事?」

「うむ」

「そっすか」

 ぎゅーっと抱き締められる。ぐぇ。
 男の時とは全然違うよなー、同じ事してても。
 裸で抱き合うだけでこんな気持ち良いし。

 ま、ケセラセラ。おやすみー
 
――大丈夫…

 ん?


**** 


「という訳で、講義を始める」

 朝の修行を済ませ、組み手他で汗を流し。
 外走り回ってたサダソを呼び戻して昼食の準備して。
 食べ終わってまったりして。
 
 今ここ、である。
 ちなみに馬鹿みたいな格好ではあるが、全員相応の重り付きの服を着ている。
 継続は力なりだよ、うむ。

「まず、サダソ。
 一昨日のアレは覚えているな?」

「師匠が異様にびびってたというか、ヒソカが凄い顔してた奴っすか?」

「200階クラスの選手は皆アレを使えるし、使えない奴は無理矢理使えるようにさせられる。
 別に死んでも構わないという方法でな。アレのせいで、リールベルトとギドはああなった訳だ」
 
「そうすか…」

 わざわざ正座せんでも良いんだが、テーブルの前に正座して、拳を強く握り込むサダソ。
 部屋の内装は選手の自由にして良いとの事なので、出来る限り居心地良くさせてもらってるのだ。

「という事は静香ちゃんと俺は使える?」

「お前は使えない。
 洗礼、と200階クラスでは読んでいるその行為は大抵、200階クラス最初の試合で行われるから」

 激戦だった190階をクリアして、自分の強さ噛みしめてるトコでアレだからな。
 正直、纏状態と垂れ流し状態の差だけで、大人と子供、いや子犬と狼より酷い差だ。
 
「ちょっとやってみせよう」

 クリリンのことかぁーっ!
 割と分かり易いイメージってのは大事、今はこんな事考えなくても普通に出来るけどね。
 
「ふぉっ!?」

「?」

 横島は逃げ出したり腰が引けたりはしていない。
 サダソに至っては感じてもいないか。

「コレに悪魔的な劣情と興味をブレンドするとヒソカのようになる」

「確かに一昨日のに比べると全然違うね」

「? 姐さん何かしてるんすか?」

「手の先を見てろ」

 どんっ!
 念弾で壁を壊す俺。
 壊してから思ったが、これ良いのだろうか?
 …まあいいや。

「おお!?」

「何もしていないのに!?」

「見えないだけで、感じないだけでしたんだよ」

 サダソは才能ねぇのか、今までの環境が悪かったのか。
 思い返せば、ゴンキルは環境的に『気配』とかに敏感にならざるを得ない環境だったな。
 自然に絶が出来る程に。
 そう思えばサダソが感じられなくても、それはそれで普通かもな。

「で、コレは基本的に誰でも使える。
 『念』といい、『オーラ=生命エネルギー』を自在に操る力だ。
 誰でも使えるが故にそう簡単には教えてはならない事になっている。
 まあ、私は自然に目覚めて使えるようになってしまった口だが」

 正直、ネフェルピトー並にいきなり使えてたからなぁ…俺の場合は。
 神様が設定でもしてくれてたのかね? あれから一度も接触した事はないが。

「俺でも使えますか?」

「使える。ただし、必要な時間は分からん。
 忠夫が一日で出来るようになる事を1年掛けて漸く出来るようになるかも知れない。
 逆にサダソが一週間で出来るようになった事を忠夫が半年掛けても出来ないかも知れない」
 
「才能の差って奴?」

「それだけではないがな。育ってきた環境や今現在の心境、両親の血統などありとあらゆる情報がこの能力を作用する。
 だが一番大事なのは強い意志だ、強く想う力ほど早く身につき強力になる」
 
「で、どうやったら使えるようになるの?」

「『ゆっくり起こす』か『ムリヤリ起こす』か」

「ゆっくり起こしていってね!」

 サダソがキョトンとした顔をしてる、分からんわな、こんなネタ。

「ああ、『ゆっくり起こす』ぞ。横島なら一週間かからん。サダソは早くても半年かかるだろうが」

 確かズシが半年だったからな。
 100万人に独りだっけ、ズシの才能は。

「俺、才能あるの?」

「ある上に、私が『ゆっくり起こす』為に必要な修行をつけていたからな」

「なんか変わった事やったっけ?」

「点・心を1つに集中し、自己を見つめ目標を定める。
 修行の合間合間にやってただろう?」
 
 何に『心を一つに集中し』てたかは兎も角、垂れ流しのオーラが日に日に綺麗になって行くのは見て取れたからな。

「今お前は念の存在を知った。今オーラを感じた。
 後は自分の身体中を覆っている『オーラを感じ』とり、身体中の細胞にある『精孔=オーラを吹き出す孔を開いていく』事だ」

「『ムリヤリ起こす』起こすのはどうやるんすか?」

「リールベルト達がやられた方法だ。
 『オーラを篭めた攻撃で吹っ飛ばす』
 未熟な者や悪意ある者がやれば死に至るし、死なないまでもああなる」

 ごくり、と唾を飲むサダソ。
 
「カストロもヒソカに同じように洗礼を受けたが、死にもしなければ障害も持たなかった。
 何故か? ヒソカが念能力者として一流であり、殺意も悪意も持ってなかったからだ」
 
 『精孔』を開くだけの勢いで『念を篭めて』殴り、なおかつ『試合続行不可能な程度にダメージを与え重大な身体的障害を発生させなかった』というのは、カストロが達人と言って良い強さを持っていたとしても、割と凄い技術だと思う。
 
「アレが悪意を持ってないってのは…」

「事実だ。あいつは強くなると感じた存在を、興味を惹かれた人間を殺す事はない。
 もっと強くなったその相手と戦いたいからだ。
 あいつ流に言えば、『美味しくなるのを待って、熟してから食べる』んだよ」
 
「うへぇ…」

「逆にリールベルト達がやられたのは、新人潰しという屑どもだ。
 念を覚えてない奴、念に慣れていない奴だけを狙って勝ち星を稼ぐ奴らだな。
 あいつらは念能力者としても戦士としても二流以下だが、何より悪意に満ちている。
 『自分がこうなったんだから、こいつもこうなるべきだ』という悪意にな」

 200階クラスで、障害者発生しまくってる一番の原因はこの悪意だろうなぁ。
 まあ、人間にキメラアントのような頑丈さを求めるのも酷なんだが。
 
 念能力者としては師が存在しない為、壁にぶち当たり。
 戦士としては障害を持ってしまったが為に伸び悩む、障害を持つ以前が強ければ強い程、な。
 ろくなもんじゃねーな、よく考えると。
 
「で、だ。
 念の師匠は探してある。一週間ほどでここに来てくれる予定だ」
 
「静香ちゃんが教えてくれるんじゃないの?」

「忠夫、機械が壊れたらその持ち主の私と、作った忍。
 どっちに尋ねる?」

「餅は餅屋ね、りょかー」

「?」

「忍というのは私の義理の姉で機械関係の仕事に就いている」

「ああ、使ってるだけの人より作ってる専門の人に訊けって事ですか」

「そうだ。師匠になってくれる人が到着するまで、今までの修行に加えて点を多く行い、自分の周りを覆うオーラを感じとれるようになってもらう。
 一週間で出来るようになるかは分からんが」

 ま、これだけなら危険はないし、一番時間かかるトコの一つだからな。
 でもオーラ感じるだけなら毎日側で練してやれば、そのうち感じ取れそうな気もするけどどうだろう。

「瞑想だの座禅だのは士郎さんにも散々やらされたし、オッケーオッケー」

 とかく欲情に支配されてたからなー、高校の時のこいつは。
 精神修養が何より大事なのはどんな武術でも一緒だわ。

「姐さん、俺も?」

「お前もだ。
 正直に言って、コレが出来るようにならない限り200階へは絶対に行かさんぞ。
 お前の場合、リールベルトやギドから狙われそうだし」
 
「…そこまでしますか?」

「自分が片腕無くしたり目が見えなくなったり足が動かなくなったりしたら、ただ独り五体満足な友人を妬まずに済むかどうか、座禅しながらよーく考えろ。
 弱い心、悪意。そんなモンは誰だって持ってるぞ?」

 持ってなかったら新人潰しになんてならないだろうけどな。
 俺の言葉に思うところがあったのか、うつむき加減で静まるサダソ。
 
「あ、横島は指輪を外せ。
 実はそれ、『オーラを抑制する機能』を持ってる。所謂大リークボール養成ギブスに近い」

「懐かしいっすね、巨人の星っすか。あの時代の巨人は強かったなー」

 ちなみに俺達の世界では普通に巨人の星がいた。
 大リーグボール一号ってどう考えても打てないし、そもそもあいつらおかしいよ。
 なんで球種が分かったらホームランなんだか、全く。
 
「あれ、外れない…?」

「『開錠アンテ』と呟け。じゃなきゃ外れん」

「あ、『開錠アンテ』? おお、外れた――う?」

「師匠、どうしました?」

 別に一緒に修行してるだけなのに師匠なんだよなー、こいつ。
 今度来る念の師匠は先生とでも呼ぶんだろうか?

「いや、身体に違和感? よく分からんけど」

「今まで抑制されていたオーラが開放されたからな、断然感じやすくなってるハズだ」

 今までのオーラが水道水を一捻りした垂れ流しなら、今は二捻りした程か。
 大分オーラが増したな。
 
 よく考えたらこいつ、今までオーラ四割減状態で普通に修行してたんだよな…
 …そういえば。

「付けた時、何も感じなかったのか?」

 オーラが四割も減れば身体に違和感感じそうなもんだが。

「あー、そういえば何か感じたような気もする。
 けどお揃いの指輪で舞い上がってたからなぁ。
 静香ちゃんが薬指に填めてくれたのも嬉しかったし」
 
 …顔が紅くなった気がする、全くもう…
 
「サダソ、付けてみろ――嫌そうな顔するな忠夫、実験だ」

「ぶーぶー」

「すいません師匠――うぇ?!」

 付けた途端、顔を変えるサダソ。
 ただでさえ、俺や横島の『オーラ四割減状態』の垂れ流し時よりも少ないオーラが更に減った。
 うーん、横島や俺はやはり天才とか才能ある方なんだなぁ…サダソがいて初めて実感出来るというのもサダソに悪い話だが。

「ちょっ重っ!?」

 指から外そうとして外せず焦るサダソ。
 オーラの量が減ったから重りがより重くなったのだ、というか重く感じるのだ。
 
「『開錠アンテ』と呟いて外せ」
 
「『開錠アンテ』! っ外れたっ」

 と同時にオーラの量も回復、重くもなくなったみたいだな。
 念で一番難しいのがオーラを実感する事だと思うんだ。
 だって今までそんなの感じた事もないのに、人の身体には未知の力が秘められてるとか言われてもねぇ。
 という訳で指輪と重りでオーラが身体に与える影響を実感してもらったが、成功みたいだな。

「オーラの存在が身体に影響する事を実感できたか?
 半信半疑だったろう? お前は」

 横島に指輪を返すサダソに語りかける。

「…っす! 参りました!」

 土下座するサダソ。別に良いんだけどね。
 才能ない奴が纏以前の段階で伸び悩むのって、『オーラの実在』が信じられないからなんじゃね?
 等と考察してみたり。
 まあ才能ないと感じる事すら出来無いみたいだし、それはそれで仕方ないのかも知れんが。
 
 メルエムとか会長とかモラウやシルバ、ヒソカとかイルミとか知ってると、『ハンター』になるなら兎も角、『強くなりたい』なら諦めた方が良くないかなーと、サダソを見て思わんでもないんだが。
 割とまっすぐに夢追っかけてるし――天空闘技場の最上階だと――応援してやりたい気持ちもあるんだよ。
 難しいもんだ。

「忠夫はとりあえず指輪は外しておけ、オーラを完璧に実感出来るまでな」

「ういっす」

「纏めるぞ。
 まず、点を、心を1つに集中し、自己を見つめ目標を定める瞑想・座禅を行い、身体中に溢れ出ているオーラを実感出来るようになる事。
 そして実感出来るようになったら精孔と呼ばれるオーラを吹き出す穴を広げて行く。
 それが出来てから、次の段階だ」

「次の段階はどんなのっすか?」

「目の前の課題片付けてから言え。
 では重りつけたままで点の修行に入る――」

 さ、一週間で纏まで行くかなー?


****


ノヴがシングルハンターなのはこの作品のみの設定です。
まあシングルでないと逆におかしい気もしますが。
後シングルハンターとか星基準で見ると強さは本当に関係ないっぽいですよねー。
キューティー=ビューティーとかがモラウと互角の戦いするとか考えると泣けてきそうです。



[14218] 番外編シリーズ2-10
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/04/25 00:47

 師匠、来日。
 ここは天空闘技場だが。
 
「ふふん、貴様が儂の弟子となりたいと言う者か」

「はい」
 
 小柄だ。
 身長150位のお爺ちゃん。
 道着姿、というか着流しに近いのか。
 ネテロのじーさんとお揃いな感じである。
 亀仙人も斯くやと言う禿げっぷり。
 お禿げ様と呼ぶと宇宙が全滅エンドである。
 
 というか凄い。
 ヒソカと違い悪意も欲情も感じられないが、纏でまとっているだけのオーラが凪一つ立たない湖を思い起こさせ、存在するだけでこちらに訴える何かがある。
 けど強そうではないな。育成専門で自分は強くない人なのかな?
 弟子は無意味に強そうだが……
 
 ここは天空闘技場の俺の部屋。
 今、部屋にいるのは、俺と横島、サダソと師匠っぽい人とその弟子。
 …うん、兄弟子になる人。

 テーブルに四人腰掛け、俺が紅茶を入れて回り。
 俺が席に着いたところで、先ほどのお言葉。
 
 横島とサダソが全力で目を逸らそうとしている弟子の人は置いておいて。

「自己紹介と行こう。
 儂が心源流師範代、シン=シューザンである」
 
 シンさんというとあの伊藤勢のグラサンかガンダム一の悲劇の主人公(現実的な事情という意味で)を思い出す。
 着流し姿に杖を突いた姿が妙に粋である、普通に格好良い爺だ、うむ。
 杖は椅子に立てかけてるけどな。

「わたしの名前はゴーリキ=ワカモート。貂蝉ちょうせんって呼んでちょうだい、うふっ♪」

 キモいっ!
 
 顎髭に耳毛の三つ編み、筋骨隆々な身体にビキニパンツ一丁、妙に巻き舌っぽい喋り方の、身長3mに届くんじゃねーかというおっさん。
 そう、数年前に横浜で見かけたハーレム王の仲間というか下僕の一人。
 アレにそっくりなのだ、声も見た目も。
 御大なら酎とか破壊神シヴァの世代なんだけどなー俺は。
 間違ってもこんなトコで出会って良い人じゃないと思うんだ、嫌いじゃないけど。
 
「何故、貂蝉…?」

 この世界に貂蝉がいたかどうかは兎も角、三国志くらいは知っている横島が尋ねる。
 正直、俺の科白だろそれはと言いたい。

「絶世の美女の名よん、私にこそ相応しいんじゃないかしらぁ!?」

「あ、そうっすか…」

 俺も横島もサダソも、テーブル越しに見下ろされてる。
 俺が少女な身長に思える位差があるとかこの世界パネェ。
 はっきりとテーブル越しに向かい合って、この部屋の誰より背が高い…座高だけじゃないんだろうが。

「静香ちゃん怖いっ!」

 耐えられなくなった横島が抱きついて来た。
 気持ちは分かるが抱きつくな馬鹿者、俺だって怖い事は怖いけどな。
 引きはがすと、キュピーンと目が光る、貂蝉の。

「だぁれが二目と見られぬ化け物面ですってぇぇぇ!!?」

 言ってねーし。

「ひぃぃぃぃ!?!」

 サダソと二人で抱き合って震える横島。
 気持ちは分かるけどな、ヒソカのオーラ並にこえー。
 他人事だから平気だけど。

「よさぬか貂蝉」

「ンもう! センセも甘いんだらぁ!」

 …その乙女口調辞めてくださいませんか、御大の声で。
 好きですけどね、好きだったけどね。
 …これはアレか、秋本羊介声が師匠でない事を感謝すべきか。
 その場合、卑弥呼が出てきそうだしな……
 同じヒミコなら創界山から連れてきて欲しい、割とマジで。
 
「…ではこちらも。シズカ=タカマチ。24歳」

「よこ、違う、タダオ=ヨコシマっ、23歳」

「ささささ…サダソ=ガイル。17歳で、す」

「うふふ…良い男の子が二人も…ドゥフフフ…」

 こええ……悪い人ではないのはオーラの澄み切った感じを見れば分かるんだが。
 流石にアレだわ…
 というかヒソカと違って澄み切ってるのが逆に怖い。
 欲とか悪意とかじゃなく、純粋に褒めてるだけなのか。
 ……目がキュピーンとか光ってるのは念? そんな事の為に…いやいや。
 これホントに邪念はないんだろうか?
 
「ふむ。各人、それぞれ、相応に鍛えておるな。
 これならば弟子にしてやってもよかろう」
 
 なんという上から目線、しかし逆らえない。

 というかね、この二人、特に貂蝉のオーラが半端無いのだ。
 アルクェイドとか、元の世界の一部の強者も凄かったが、あれらは大概カテゴリー的に人間じゃないのだ。
 それでアルクェイドやギルガメッシュ、アーカードに匹敵する威圧感とかもうね。
 メルエム、空想具現化マーブル・ファンタズムとかなら殺せるかなぁ…?
 ちなみにうちの近所に住むギルは衛宮の親友である、セイバーが焼き餅焼く程の。

「ありがとうございます!」

 しかしまあこれは本当に嬉しい。
 今まで独学でやってた上に年齢的にそろそろ修正が効くか怪しいからな。
 50過ぎても成長出来るのかも知れんが、鉄は熱いうちに打つものだ、曲がっているならなおさらだ。
 
「俺は静香ちゃんの言う通りにするだけだし。
 宜しくお願いしまーす」

 その辺の割り切り方は本当に凄いと思う、俺なんか大した事なく右往左往してるだけなのに。
 
「俺は――」

「ゴーリキ――いやさ貂蝉殿、私と一試合、舞ってくれませんか?」

 目をキュピーンと光らせるのは辞めて頂きたい。

「うふっ♪ いいわよぉン」

 サダソのような人間は見たものしか信じられないんだよな、思い切りこいつら信用出来るのかって目をしてたし。
 俺の方も初めて念能力全開で戦える相手と出会えた訳で。
 ちょっとやってみたいよなあ。
 まあライキ達使えば負けないけど、数の暴力的な意味で。
 ……ライキ達使って負けないよね?
 
「ふむ、まあ良かろう。おぬしの実力、見せてもらう」

 悠然と頷く先生。
 この人は普通なんだよな、少なくとも見た目と言動は。
 

****


「『開錠アンテ』」

 呟いて指輪を外す。
 勢いを増すオーラを留める纏。

「あらン。そんな隠し球があったのねぇ」

 練!
 ゴウっと音を立てる錯覚と共に吹き上がるオーラ。

「ほう」

 顎を扱きながら、唸る先生。
 ちなみに横島とサダソの三人はこの部屋、トレーニングルームの中、模擬戦用のフロアの側でパイプ椅子を並べて座っている。
 それぞれ得物を持ってこさせたのはそういう事なんだろうな。
 
 部屋は広く、実に観客席を含めた闘技場ほどもある。
 それもそのはず、ここは206階ほぼ全てが、200階クラスの闘士専用のトレーニングルームであり、部屋の総てが念能力を基準として作られている為、相当頑丈に出来ている部屋だ。
 注意深く探れば神字すらそこそこに書き込んである、書いたのは誰か知らんが。

 トレーニングに勤しんでいる選手はぽつりぽつりとしかいない。
 念を手に入れると格段に力が増す。
 するとトレーニングをしなくなる馬鹿も結構いるのだ、馬鹿らしい事に。
 手だの足だの無くしてる奴ほどトレーニングサボる傾向にあるから救えねぇよな、割とマジで。
 よって、総勢170名越えるハズの200階クラスのトレーニングルームもこんなモンである。
 ヒソカみたいに出かけてていないのも多いんだけどね。
 
 今日はカストロがいない、か……ここの主みたいな顔してトレーニングしてるんだがな、いつもは。

「はじめ!」

 頭を下げ、構える。

「ふぅぅぅ――!!」

 足に流でオーラを溜めて蹴り出しダッシュする――!
 攻撃と防御以外にも流の使い出はあるのだ。

「ぶるぁっ!」

 風すら纏って撃ち込まれる拳を躱し、左の刃止剣ソードブレイカーと右の飛刃(スペツナズ・ナイフ)に周をして切り込む。
 
「甘いわよン!」

 オネエ言葉辞めてくれ割とマジで!
 こちらの周をした刃物を凝をした腕で受け止め流す貂蝉。
 一応、掠り傷程度はついたみたいだけど有り得ない強度の防御力!!
 
 そのまま流を使い、ナイフを覆ったオーラをヒットの瞬間だけ増幅させ、蹴りと体捌きにも流を使い。
 もはや無意識の領域で流をして必要な部位のオーラを増幅させて攻防を行う俺と貂蝉。



「師匠、見えます?」

「辛うじて何やってるか分かる程度に。お前は?」

「光が走ってるようにしか見えねぇっす」

「ふむ、もう念能力者としてはほぼ完成してるの、シズカは」



 向こうの雑談も殆ど耳に入らん程集中して行う攻防に、精神がごりごりと削られていくのが分かる。
 向こうの拳も足も風を纏って衝撃波が余剰攻撃として襲ってくる程だが、こちらはナイフに周して凝してダメージが発生しない時もある位だ。
 つまり単純に攻撃力の差で、負ける。
 速さ自体は互角、いや僅かに俺の方が速い。ゆえに一見互角に見える。

 しかしこちらの攻撃がほぼ通用しない。

 飛刃(スペツナズ・ナイフ)に全力で凝して突き立てても同じLvかそれ以下の攻防力で防がれている上に、フェイントに引っかからないのにこっちは引っかかりまくるという現実。
 鋼糸に周をすれば、指くらい切り取れるかも知れんが――

「ふんむっ!!」

 流石に指切り取ったら目覚めが悪いなんて話じゃなくなるので、一番太い鋼糸で腕を絡める!
 周をしてなお動きを止める程も出来ないが、鋼糸を引き寄せてバランスを崩す――!
 ぶおんっと音を立てて宙を舞う俺! そりゃ基本のパワーが違うから引っ張られたらこうなるわ!
 
 内心でツッコミつつ、併せて放たれたアッパーを足と膝裏、背中からオーラを吹き出して一気に空中移動し躱す!
 鋼糸から手を放した俺の身体はオーラによってアッパーを躱し一気に貂蝉の背後を取り――取りすぎた!
 距離が空いてしまったので逆さに宙に浮いたまま飛針を背中に叩き込む!

 巷に針の降る如くファントム・レイン!!

 俺の両手から放たれた周状態の飛針が『螺旋』を描いて飛ぶ! 六本のうち『何本かが不可視状態』で貂蝉を襲った!
 ナイフ持ったままだろうが刀持ったままだろうが飛針と鋼糸を操るのが御神流だぜ?

「ふんっ!」

 アッパーの為、振り上げていた右腕の勢いそのままに身体を回して左腕で飛針を払う!

「っ!?」

 『見えない飛針』が一本、肩を突き抜ける!
 が、気にせずダッシュかよ!?!
 
「はあっ!」

 身体を回して着地すると同時に、オーラを溜めた足で踏み込みバックステップ!
 直後腕にオーラを移動!
 溜め撃ちロックバスターのイメージでナイフを握ったままの右拳から念弾を発射!
 どぅんっ! と音を立てて発射されたソレは突進する貂蝉の拳に叩き落とされた!
 
 が、予想外の威力だったのか体勢が崩れる!

 再びオーラを溜めた足で前へ踏み込み! 続けざま背中からオーラを吹き出し加速を付けて!
 出来る限りの凝でほぼ全てのオーラを突き出した飛刃(スペツナズ・ナイフ)に纏わせ、貂蝉の下腹部へ――
 
「そこまで!」

 喝!
 オーラさえ含んだ一喝に、俺と貂蝉の動きが止まる。
 ちょうどこちらのナイフが腹に刺さる寸前、そして貂蝉が振り上げた右肘が俺の背中に触れる寸前だ。
 ……背骨砕けてたかもな……怖ぇぇ!!

 そしてどちらかともなく体勢を戻して向かい合い、頭を下げる。
 がくっと、力が抜け膝を突く。纏状態は維持してるが……
 予想以上に疲れてるっぽい?

 とりあえず飛針拾っておかないと……

「大丈夫かしらン?」

 軽々と俺の腕を引いて立たせる貂蝉。
 手には拾っておいてくれただろう、飛針が数本。

「大丈夫だ」

 ま、女に欲情する奴じゃないから異様に雄臭いトコ除けば普通に付き合えるか。
 それにしても汗一つかいてないって…こっちは汗だくだぞ、全く。
 受け取った飛針を手首の収納場所に仕舞う。
 
「肩、平気なのか?」

「あたしの鍛え抜かれた身体には何の問題もないわよン」

 ……ここまで効かないとか想定外過ぎる…
 針と言っても普通の箸よか長いし太いんだけど…なぁ?
 
「言っておくけどぉ、アレなら中堅クラスのハンターもぉ当たり所次第じゃ硬で防御しても穴が開くわよォん?」

 なんであんた肩に穴が開いて平気なのか、そっちの方を訊きたい。
 あー…ウボォーギンが肩を盛大に噛みつかれて普通に殴ってた気がする。
 強化系って極めるとこんなんばっかか。
 

****


「実戦経験が足らんな、シズカは」

「はい」

 肩で息する俺。
 横島の用意したパイプ椅子を二つ、俺と貂蝉が腰掛け、椅子を円に並べて反省会である。
 
 なにげにここまでオーラを使いまくって戦うのは初めてだからな…
 200階クラスで戦う必要ないと考えてたが、考えを改める必要があるかも。
 
「その割に流によるオーラの移動速度は見事。
 まあ攻防力自体の数値の割り振りは兎も角としてな」
 
 うーむ、数値化というか必要なトコに必要なだけ流すというのは面倒なのだ。
 よって80~90位を移動させまくり、ダッシュに攻撃に防御にと使っていたのだが。

「必要な部位に必要なだけのオーラ量を移動させれば、その疲労はもっと軽減するじゃろう。
 特にダッシュなど移動の為のオーラが無駄使いが激しかったの」

「アレはいざという時のみにした方が良いわぁ、その方が緩急が出るものン。
 うふ♪ 単調な攻めじゃ満足なんてさせられないわよぉ」

 汗もかいていない貂蝉がキモイポーズを取りながら合いの手を入れてくる。
 言ってる事は兎も角そのポーズに意味はあるのか。
 
「空中移動は大したもんだったが、あれなら瞬間移動を発で覚えた方がオーラ消費の効率は良いな。
 おぬしなら難しい制約無しでも瞬間移動位出来るようになると見たが。
 後は単純にパワーが足らん。
 今のままでは貂蝉が垂れ流しか絶状態の時しかダメージを与えられそうにないぞ。
 まあ、貂蝉が世界トップクラスの強化系というのもあるだろうが」
 
 うおい。
 瞬間移動云々は兎も角、こっちは練して周したナイフに凝して斬りつけてるってのに垂れ流しか絶状態でしか効果ないとか泣けてくるんですけど。
 
「後はフェイントなどの駆け引きの技術じゃな。
 実戦経験の無さもあって、拙い」
 
「何処に攻撃が来るのかが見え見えよォ?
 でなきゃいくらあたしが強化系で美しい肉体を持ってるとしても、あの量の念とナイフで刺されたら怪我しちゃうわぁ」

 ああ、見え見えの攻撃だったから防がれてたのか。
 前世の世界でも鍛え抜かれた身体でタイミングを合わせれば刃物や弾丸も防ぐとか言う話もあったし、この世界じゃなおさらか。

「その割には流の移動速度、堅のオーラの量と維持時間等は上級ハンターレベルと言って良い。
 念弾の威力もなかなかのものだったが、使いどころが甘いな。
 目眩ましやフェイントなど他にも用途はあろう」

 チートな部分はチートなんだな、やはり。
 便利だから今更どうとは言わないが、ズルしてる気分にはなるぜ…
 
 念弾に関しては細かく発射しても効かないからと思ったんだが、フェイントとかは確かに考えてなかったか…
 もう一つの発に関しては威力的な意味で模擬戦になんか怖くて使えないし。
 …効かないかも知れんのが怖いな、アレは現状、俺単体で出せる最高攻撃力なんだが。
 
 堅に関しては7時間到達したのだ。
 横島やサダソにバレても問題なくなったから遠慮無く出来るし。

「その指輪、ちと見せなさい」

「はい」

「……ふむ。オーラ抑制の神字か。これを付けて日常生活を送りかつ修行したというなら、その若さでそのオーラ量も納得というものか」

 あ、やっぱオーラ量とか規格外なんだ、俺。
 返してもらった指輪を再び薬指に填める――ふおっ!? オーラ出し尽くした訳ではないが、流石に疲労感はそれに匹敵するな…
 さっきまでも十分疲れていたが、抑制の指輪填めたら当然ながら疲労度が増した感じだ。

「とは言えおぬしは温室の薔薇じゃな。
 今、おぬしに必要なのは実戦じゃ」

「分かりました」

 確かになー、念の修行だけはこっち来る前からずっと続けてたけど、念使って実戦なんてなぁ。
 ポケモン達は戦わせてたけど、自分はと言われれば確かに思い出せる程の実戦もない。
 戦い自体は全くない訳でもないけど、念使って本気で戦った覚えはないな、うむ。

「ふう…」

 指輪を填めると一段と疲労感が増す。
 やはり身を纏うオーラが減ると色々と身体に影響があるな。

「大丈夫?」

 横島がタオルで汗を拭ってきた。
 なかなか気が利いて宜しい。

「まあ、ちょっと疲れただけだ」

 こいつはこいつで美沙斗さんにムリヤリドイツや香港連れていかれたりして、実戦慣れしてるんだよな…
 むう。

「タダオ、サダソ。
 二人の戦いをどう見たか?」
 
「…いやもう…何が何だか」

「凄いっすねー、身体からなんか吹き出て、色々こう…ちょっと訳分からん」

「ふむ、タダオの方は精孔が開きかけてるようじゃの」

「サダソちゃんの方はちょぉっと時間かかるわねぇン」

 ま、そりゃそうだわ。
 かなり大目に見てズシと互角の才能としても半年かかるらしいしな。

 クラピカとかハンゾーは半年位で殆ど完成したみたいだし、やはり才能か。
 レオリオは……どうだったっけ?
 2月ごろゴン達と別れて、9月に再会だから、どっちでもおかしくないんだが。
 勉強しながらゆっくり起こして、かつ大学に合格とかレオリオも大概チートだな……
 あ、アメリカとかと一緒で入るのは簡単なのかも?
 どっちにしろ半年近くで起こしたんだから、才能的にはズシと同じか?
 
 そう考えるとサダソは……うーん、可哀想とか思うのすら上から目線で傲慢なんだろうが。
 まあ出来るだけ手伝ってあげよう。

「次はタダオとサダソ、戦ってみせい」

「うっす」

「いや、まだ師匠の足下にも及ばないっていうか」

「そんな事は分かっとる。良いから全力でやってみせい」

「うっす」

「あとサダソちゃあん? 慕ってるのは分かるけどぉ、師匠はないんじゃないかしらん?」

 だんっと音がしたと思った瞬間、サダソの目の前に立っているソレ。
 大胸筋ぴくぴくさせつつ、凄まじい笑顔で両手をわきわきさせている。
 これから抱き締めちゃうぞ☆って感じだろうか。
 
 それにしても、視線は貂蝉に向いていたのに、音がしたと思ったらもうサダソの前にいた。
 疲れて気を抜いてたのは事実かも知れんが……
 実力差なのか経験の差なのか慣れなのか。先は長そうだ。

「いやいやいやいや!? あーとそのーえーっ!??」

 おお、混乱しとる。
 目の前で筋骨隆々、身長3mクラスのオカマ? が筋肉ぴくぴくさせつつ頬染めて――
 もう見たくないんですけど。

あにさん、で良いんじゃないか」

 俺の事、姐さんだしな。
 …なんで俺は姐さん呼ばわりが多いんだろう?

「じゃ、それで!」

「良い子ねぇ♪ お姉さんが可愛がってあげちゃうわン♪ ドゥフフフ…」

 いつから筋骨隆々なアナゴさん声のおっさんをお姉さんと呼ぶ時代になったんだろうか。

「ひぃぃぃ!!?」

 パイプ椅子に座ってるのに後ずさろうとして後ろに転けて、そのまま転がるように逃げるサダソ。

「貂蝉、模擬戦をやらせるんだろう?」

「あらやだ♪ そうだったわねぇン」

 いちいちポージングしないで欲しい、キモイから。
 普通のマッチョとかボ帝ビルなポーズじゃなくて、むしろぶりっ子とか可愛い女の子なポーズだからダメージでかい。
 ――俺じゃなくて横島とサダソにな。
 いやあ、対岸の火事と分かってると余裕が持てて良いね、うむ。
 こいつは意外と女性には紳士だしな、うむうむ。

「は、速くやるぞサダソ!」

「うっす!」

 やる気になって、というか早く逃げたくてサークルの中央付近に移動する二人。
 到着するや否や一礼し、横島は木刀を、サダソは空手か何かの型を構えた。
 共に念無しとは言え、サダソと横島じゃまだまだ勝負にならんと思うんだが。
 
 天空闘技場、基本的には素手で戦う選手の方が有利なのだ。
 200階クラスまでは武器禁止だからである。
 俺や横島などはある意味規格外だから割と楽に上れたが、剣術や或いは飛び道具で戦うようなのは200階クラスまで上がれまい。
 そういう連中がこんなトコに上ろうとするかは微妙だが。
 
 してみると200階クラスの武器解禁は特に具現化系・操作系に対する処置と見た方が良いかも知れない。
 障害持ちになるのが前提みたいなトコだから、それに対する補填もあるか。
 あ、一度200階から落ちると、ギドもリールベルトも二度と戻ってこられないのか、武器使えないから。
 原作の人質だの使ってまで勝とうする執念の一因を見た思いだな……
 


「そういえば先生」

「なんじゃ?」

「貂蝉は念能力者の中じゃどれくらいのレベルなんでしょうか?」

「状況や相性次第ではあるが、トップ3から10は確実じゃ」

 世界最強クラスって事じゃねーか。
 …でっかいビスケとがち喧嘩できそうだし、当然かも。

「ああ、おぬしの攻撃が殆ど効かなかったのは仕方ないと思え。
 念の総量、練でのオーラ量、堅の維持時間、凝による攻防力の多寡。
 『攻撃力』を左右する要素はまだまだあるが、おぬしと貂蝉との決定的な差は『根本的な筋力の差』じゃ。
 貂蝉は絶状態で100t位は平気で持ち上げるし、纏状態でならトラックがぶつかってきても平気な面してるであろうな」

「どんな化け物だ……」

 げんなりする程、力が違うってか。
 やっぱ強化系がバランス良いというか強くなりやすいのは事実だな……
 戸愚呂じゃないが、技を越えた純粋なパワーってか。
 
 絶状態にしてぶん殴るとか、クラピカやなんだっけ、あのリーゼントの取り立てとかが必要。
 …相当難易度高いんじゃね?
 リーゼント名前なんて言ったっけなぁ…
 とりあえずアレは、『使う必要がない敵には緩く、使う必要がある敵には半端なくキツい上に手間がかかる制約』なんだよな。
 親衛隊クラスで相当難儀な事になってたし。
 クラピカのは完全に『破ろうと思えば破れる制約に命を賭けた』から出来るんだろうし。
 アレ、勘違いというか、ヒソカに仕掛けたらどうなってたんだろうなぁ?

「おぬしはまだまだ伸びる。大丈夫じゃ」

「そうだと良いんですが…」

 確かに強くなってるのに強くなった気がしないって泣けてくるね、全く。
 
 ああ、貂蝉は二人の模擬戦に黄色い(かつ野太く巻き舌)な声援を送ってるぜ。

「…ところで先生はどれ位強いんですか?」

「うむ、世界ランキングで100位は確実じゃ」

 …前に色々調べた時にハンターの数が600人だったハズ。
 念能力者の数>プロハンターなのは確定的に明らかなので、念能力者は大体…何人だろう?
 
「念能力者って世界でどれくらいいるんでしょうか?」

「大体2000人位とは言われとるな、事実かどうかは知らんが」

 世界人口自体は地球と変わらんので70億と仮定して、7000万が1%の人口だから。
 世界人口の0.0001%以下?
 
 作中ガンガン念能力者、それも強いのやら凄いのやらばっか出てくるから、錯覚してたぜ……
 冷静に考えれば、そもそもGIから出てこれない連中みたいなのが大半なのかも知れん。
 そもそもゴンキルが才能の塊だからなぁ…仕方ないけど。
 
 天空闘技場にしたって200階クラスは在籍数が180前後で上下してるだけって事は、下から上がって来ても洗礼でそのままあぼーんか、10勝する前にあぼーんかの二択が多いんだろうなぁ…新人潰しもいるし。
 まだリールベルト達は実戦に出てないみたいだけど、原作の格好にはなってたぜ。

 と言うことは確実に先生の方が弱いんだな、貂蝉より。
 
 あ、横島が勝った。
 武器は木刀一本の横島から大体1分保ったのは大した進化だな。
 体力含む基礎能力は確実に向上してるね、うむ。

 客観的に見て、ハンター試験時のキルアvsトンパくらい差があったのが、ゴンvsヒソカ(何とか島時)位には縮まったかな?
 …あんま縮まってないように思えるのはヒソカが強いからだぜ。
 横島が手を抜けば勝負の形にはなるしな、とりあえず程度だが。
 
 貂蝉をここまで鍛えたのか勝手に強くなったのかは兎も角、師匠としては問題なさげだ。
 師範代としての実力に問題のある人間をネテロのじーさんが資格与えるとも思えないしな。
 人間として問題がある場合はスルーしそうなのが怖いが。
 
 ま、本格的な修行開始と行きますか。
 
 
****


絶状態のウボォーさんは、凝か硬したクラピカさんのボディーブローを食らっても『むせっただけ(骨折はしてたかも?)』で済みました。
絶対時間で強化系は最大Lv6ながら精度10割で強化出来る&恨み節全開のクラピカさんの凝か硬を。
……ウボォーさんありえねぇ肉体防御力すぎる…
同じ硬が基本(のハズ)の主人公の必殺技受けたゲンスルーは『内蔵破壊、血反吐吐いて気絶程度』、恐らく纏状態で。
ナックルは硬で受けてそれでも気絶。
…超破壊拳ってとんでもない威力だったんですねぇ…アレで辛うじてとは言え生きてた蚯蚓も大したモンですけど。

まあそんなイメージです、貂蝉は。
……病犬ってウボォーさんの肩を喰らえる程の攻撃力……
陰獣は陰獣でそれなりに強かったんですね、やはり。

ハンター世界へ来る前に、この作品での横島並に修行して基礎体術(てか御神流)を向上させていたら間違いなく最強オリ主だったでしょうねー。
流の速度はビスケたん並なのに、フェイントに弱い&フェイントが下手という、非常にバランスが悪い仕上げになってます。
格下相手だとフェイントに引っかかった上で該当箇所の攻防力移動が間に合うというチート仕様。
格ゲーで例えると技の入力とコンボ自体はミスらないけど、フェイントや引っかけの技術が足らないので力押しみたいな。



[14218] 番外編シリーズ2-11
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/04/25 00:48
4:00
 目を覚ます、俺の纏が解けていない事を二人で確認。
 横島は未だ無意識には出来ない。
 キスしようとしてきたのでぶっ飛ばす。
 
 横島と一緒に顔を洗ったり着替えたりしてからキス、五月蠅いからな、してやらないと。
 その後、トマトジュース(最近のフェイバリット)を飲んでランニングwih200㎏。
 ただし走ってる最中は『絶』状態。
 絶状態だと相当辛いね。そして横島は絶は一瞬で出来るようになっていた。
 というか多分、ゴンキルと同じだ、これ。
 覗きの為に絶を知らずに覚える……馬鹿だろこいつ。

5:00
 自部屋に戻りシャワーを二人で浴びる。
 その後朝食の準備。
 日によって先生や貂蝉、サダソも一緒に食べるがこの日は横島とだけだったので、ライキ達と一緒に食事。
 目玉焼きにフレンチトーストと野菜たっぷりのポトフとトマトジュースがメニュー。
 
 美味しい米が食べたいなー、米は売ってるけど味が微妙。
 炒飯とかごまかす分にはそう不味くないけどね、おにぎりとかさ。
 外国行って米食えない日本人みたいだ。
 それにしてもご飯の匂いが不味い、あきたこまちが食いたい。

6:00
 昼飯の仕込みを済ませた後、胃の中身の消化の為も兼ねて点の修行。
 ライキ達は膝の上で寝てたりベッドで丸まったり。
 海鳴に必ず帰る。

7:00
 本格的に修行する。
 横島は纏の修行の続行、サダソは点の修行。
 俺はトレーニングルームで貂蝉と模擬戦開始。

8:30
 一時間半でオーラが尽きる。
 戦闘の余韻もあってフロアの床に横たわるというかぶっ倒れる。
 強くなってる気がしない。

 オーラの消費量は基本的にどんな人間も1秒ごとに決まっているが、応用技を使えば使う程、発を使う程消費する率は上がる。
 その流とか堅とか凝とかの応用技を使用する際、どれだけ『余計なオーラ消費』を抑えられるかが念同士の戦闘でのキモなんだってさ。
 同じ量のガソリン積んで同じエンジンとタイヤ周りの同じ車乗って、同じコース走ってタイムやガソリン消費量が違ったら、それは運転技術の差だわな。
 貂蝉と比べたらガソリン量以外は殆ど負けてるんだけど。
 そういえばこっち来てから車運転していない、ちょっとしたい。

9:00
 先生の念で急速回復した後、普通に水分摂取や花摘みなどを済ませて流の修行。
 移動速度は問題ないので、主に数値の割り振り具合とフェイントの掛け合いを貂蝉と流流舞。
 横島とサダソは纏・点の修行中。

 あと堅の修行は俺はもう必要ないらしい。
 というか時間効率が悪いんで模擬戦で使い果たす、念弾をいくつも作り出す、水見式による発の練習の方が良いってさ。

10:00
 次は系統別修行。
 強くなりたかったら苦手系統の系統別修行もそれなりにやらないとダメらしい。
 そういえばビスケたんも普通に浮き手とか出来たな…
 まあまずは自系統とその両隣がメインだが。

 ちなみに操作系だと放出系と具現化系で、具現化系だと変化系と操作系だって。
 特質系は修行のしようがないから特質系。
 上級能力者の『放出系・操作系・具現化系』のバランスの取れた『念獣』はちゃんと修行してる&才能が能力と合致したから出来るんだって。
 操作系だと具現化するより愛用の品使った方が強くなりやすいし、具現化系だと手元から離さない方が強くなりやすいのは当たり前という前提だけどね。

12:00
 先生の念で再び急速回復後、昼飯を作り皆で食事。
 トマトゼリーも好評だった、主に貂蝉に。
 
 料理を褒められるのは普通に嬉しい。

 愛用の包丁は自分の部屋に置いてあったので、この世界に来てからは常に携帯。
 周した時の切れ味が素晴らしい、まな板にも周をしていないと触れただけで真っ二つだが。
 永霊刀? 神棚に預けてあったのでこの世界には来てないのだ。
 あんなん普段使いしてたら腕が錆びる。
 味皇でなくても涙流す程旨くなるんだぞ、アレで刺身作っただけで。

13:00
 晩飯の仕込みをしてから、横島とポケモン達とお昼寝。
 サダソは貂蝉と一緒に重り付きランニング。
 トレーニング用に半ズボンを着るように言われたサダソの貞操は如何に。

14:00
 起床後、身だしなみを整えて再び修行。
 横島とサダソは貂蝉と組み手という名の弱い者イジメ。
 俺は先生の講義。硬しながら。
 最近出来るようになりました、油断すると凝になるけど。
 先生の教えは凄いのかも知れない。
 というか独学の限界か?
 威力的には遙かに凝を越えるんだな、硬は。

 先生は具現化系で、戦うのは得意ではないという。
 ちなみにサダソと横島を一瞬で叩き伏せたけど、持っている杖で。
 要するに念を覚えてない奴や纏しか出来んようなのは相手にならんという事なんだろうが。
 と思っていたら貂蝉の言うには『絶状態同士なら先生には勝った事がない』との事。
 ……なんだそれは。

15:00
 流の修行。再び貂蝉と流流舞。
 横島とサダソは先生の念で回復後、先生と組み手。

 講義内容はウィングさんやビスケたん達がゴン達に説明してたような事ばかり、だと思う。
 知ってる内容が殆どだが細かい抜けが結構あって有り難い。

16:00
 先生にぶっ飛ばされた横島達。
 横島は先生の念で回復後、纏・点の修行。
 サダソは重り付き筋トレ。

 そして俺も回復後、組み手。

 弱い念能力者の一番の原因が『基礎身体能力不足』らしい。
 特に中途半端に才能があると『纏』を覚えた時点で筋トレや走り込みの類をしなくなるケース多数。
 結果、才能より知識と修練不足で四大行までしか出来ず、『基礎身体能力不足』で格上とまともに戦えず。
 という念能力者が多いんだとか。
 時間さえかければどんな人間でも四大行は修められるらしい、GIから出られない奴らがその代表だな。

 よってサダソはまず『基礎身体能力』を中心に鍛えつつ、ゆっくり念を起こす方針。
 ま、格闘技術だけなら俺よりあるしね。武器使えばまた話は違うけど。
 単に『基礎身体能力』が戸愚呂(弟)と武術大会編前の桑原位差があったから俺とも勝負にならなかっただけだし。

 天空闘技場の場合は更に『障害持ち』になったせいで既存の戦術が取れなくなる。
 →結果、新しく武器や戦術から覚え直さねばならない。
 というコンボで、ヒソカのように最初から念使える奴やカストロのように運があって(ヒソカに五体満足で負ける)才能がある奴以外は、念能力者としても戦士としても殆ど初級レベルなんだってさ。
 サダソは幸運にも障害持ちにならなかったんだから壊さずゆっくりやるのだ。

17:00
 俺は貂蝉と堅をしてからの硬の練習。
 硬同士で殴って蹴って防御しての訓練なので非常にスリリング。
 横島達は先生と纏・点の練習。

18:00
 修行終了。
 先生の念で再び回復後、横島と一緒にお風呂。
 相変わらず横島は俺の身体を洗いたがる。不思議。
 気持ち良いし嫌いではない。
 たまに泡だらけにして身体で身体を洗ってやると泣いて喜ぶ。
 感激屋という奴か。
 油で、とか。何処で覚えてきたんだか。

19:00
 晩ご飯を作って食事。
 やはり皆で食べたり横島とだけだったりその日によって、たまに貂蝉と二人だけの日もある。
 男ども三人が飲みに行く、今日はその日だ。

 天空闘技場の選手は殆ど男ばかりでしかも金回りも良い、つまり必然的に飲み屋と風俗が流行る。
 ついでにギャンブルの街でもあるから観光客などの金払いも良いし。
 しかし国営の風俗というのはどうなんだ…いいけどさ。

 キャバクラや風俗は浮気にならないさ、男の付き合いというものは大事なのだ。
 自分でも忘れかけてるが元男だしな、その辺で無意味な嫉妬はしないのだ。
 というかアレだよね、男に取って彼女・妻を愛してるのと外で女と遊ばないはイコールじゃないんだよな、限度はあるし人によっても違うけど。
 ま、寂しい事には変わらないので行って欲しくはない。うむ、女になってしまったものだ。

 という訳で貂蝉と差し向かいで食事。
 こいつの舌は無駄に的確にこっちのミスを指摘してくるから侮れん。
 トマトをメインに混ぜたカレーは甘すぎると言われた、美味しいのに。

20:00
 まったり。
 小説読んだり(やたら分厚いくて大きい、漢字がないから)テレビ見たり、ライキの毛繕いしたり。
 横島がいればベッドの上で運動会だけどな。
 くじら島や守衛小屋ではエッチな買い物を出来なかったのと金があるからか、結構なグッズが揃ってしまって困る。
 飲んだくれて帰ってくる馬鹿の為に夜食の準備と朝食の仕込み。

22:00
 大抵この時間前後に寝る。
 先生の念で寝まくってる割に決まった時間にちゃんと眠くなる辺り、先生の念を使用しての睡眠と普通の睡眠は別ものなのかも知れない。
 宿六が酔っぱらって帰ってきた、酒臭い上に抱きついてきて鬱陶しい。
 ん? 香水の臭いがしないな?
 いつにもまして愛してる連発。
 鬱陶しいのでバトルポカリを飲ませた後にシャワールームへ蹴り飛ばす。

 その間にトマトスープのラーメンと、手ずから絞ったグレープフルーツの果汁に蜂蜜を溶かしたジュースを用意。
 握りつぶしてパチンコ玉位まで圧縮出来る俺の握力マジパネェ、一番外の厚い皮はちゃんと剥いたからな?
 そしてライキが拍手をする程の高速撹拌。もはや俺にミキサーは要らんって感じ?

 テーブルに並べるだけ並べて、先にベッドでおやすみー。
 暫くしてもぞもぞと潜り込んできた、酒臭い。
 寝てんだから胸握るな抱きしめるな足絡めるな、全く。
 

****



「始めての実戦ってトコっすかね」

「念を使っての殺し合いは初めてだな」

 控え室。
 200階クラスの選手には一人一部屋ずつ、控え室が与えられる。
 試合前の一時しか使わない部屋だが、ホテルの一室程度には色々と物が揃っていて、直通の廊下を使えば試合場まで一分もかからない場所に有りながら防音は完璧である。
 
 豪奢なソファーに身体を沈み込ませて、隣に座る横島の胸元へ顔を埋めている俺。
 横島の背中を撫でる手が気持ち良い。
 あまり、触られてる感覚はないんだけどね、既に戦闘服装備だし。
 あう、今度は後頭部を撫でてきた。
 くそ、こんなんで嬉しい自分が憎い。
 
 ホント、重傷だよなぁ…横島の匂いと体温に、本当に安心する。
 横島は普通にTシャツとジーパンだからな、寝てても驚いても纏が解けずに維持出来る程度にならないと試合どころじゃないしね。
 
「ちょっと怠そうだけど大丈夫?」

「そう、か?」

 実はちょっと気怠いのは事実だ。
 例えるなら日曜にはしゃいだ後の月曜の朝位だが。

「棄権しても良いんじゃない?」

「この程度なら平気だ。
 大体、絶好調の時だけ戦えるなど考える方がおかしい」
 
 選べるなら無論、体調が良い時に戦うべきだけどね。
 ヒソカ辺りが相手ならまだしも、天空闘技場の有象無象相手に体調不良で引いてたら今後の鬼のような悪役どもとどう渡りあえるというのか。
 
――シズカ選手、入場してください。

 無機質なアナウンスの声。
 そういやたまに『オーラが云々』という科白を言う実況の姉ちゃんがいるが、アレは念能力者なんだろうか?
 念能力で医療行為している医者とかいてもおかしくない気もするけどね。
 ……そういう奴から、習うのかもね、200階クラスの選手は。
 
 と、鋼糸、飛針、ナイフ二本。武装周りを確認して。

「うい、髪の毛も大丈夫っすよ」

 くそ長いからな、俺の髪は。
 ちゃんと団子にしておかないと、戦闘どころか運動の邪魔だ。
 最近髪を伸ばし始めたカストロとか、長髪で戦える奴は結構凄い気がする。
 普通に天然目隠しになるんだけどなぁ、俺の場合。
 後は大きすぎる胸だ。ちゃんと抑えておかないと千切れんばかりに痛い。
 アニメとか漫画とかゲームとかでたゆんたゆん揺らしてるの見るたびに阿呆かと思うようになってしまった。
 元々男なのになぁ?
 
 一通りのチェック終了。
 
「では行ってくる」

「うい、怪我しないようにね」

 ちゅっと唇同士が触れあうだけのキス。
 死亡フラグっぽい?
 ま、ヒソカレベルでも死にはすまいよ。
 オーラ飛ばして空まで飛べる放出系は逃亡に有利だし。


****


「さあ、始まりました!
 本日のメインイベント!
 シズカ選手の入場です!」
 
 やれやれ…とんだ客寄せパンダだな。
 うろ覚えだがカストロvsヒソカ戦くらい人が入ってるんじゃねーかこれ。

「珍しい女性選手という事もさる事ながら、1階からここまでほぼ負け無しの実力派!」

 何回かわざと負けたけどな、お金の為に。
 
「対するはここまで6勝1敗の強豪選手!
 シヨウリ選手です!」
 
 戦闘経験を積む為と称して事前研究させてもらえなかったからこれが初お目見えなんだが。
 明らかなパワーキャラ、つーかマッチョ。頭に穴開いてるんじゃねーの位マッチョ。
 更に武器は3mの長さ、刃の部分も縦横2mはありそうな大斧。
 ……やられキャラ? いや富樫世界なら武威の例もある。武装闘気格好良いよね!
 
「くっくっくっ……試合とは言え美人を嬲れるとツイてるなぁ?」

 ブォンと示威行為のつもりか大斧を片手で一振り。というか片腕しかないんだけど。
 武器選び直した方が良くないか?

 あ、もう駄目ぽ、笑いそう。
 何という二流悪役三流やられキャラ。
 凝で見ても何も変わらんし、隠で何かを消しているというのはなさそう。
 相手の隠>こっちの凝だと見破れないらしいんだけどね-。
 そもそも纏ってるオーラの流れや量もそれほどでもない。
 
 指輪付けて四割減の俺より少ないんじゃなぁ。
 油断大敵だがね、こんな態して操作系とかならこっちにダメージ与える必要ないんだし。
 
「ふん、気取りおって」

 こっちが無言で両手に短剣を構えたのを見てつまらなそうに吐き捨てる。
 如何にもなおっさんと口も利きたくないだけである。

「はあ!」

 ハンター世界では珍しいかなり頑丈そうな全身鎧が現れ装備した、具体的には顔も見えない西洋系の奴。
 …何もないトコからアニメの聖闘士のようにがしゃんがしゃん鎧纏ったら、具現化系ですって宣言してるようなもんじゃね?
 というか隠で隠しておけば色々捗るんじゃない?
 
 でたーとか実況五月蠅い。
 『切り札は最後まで見せるな、見せるなら更に奥の手を持て』って昔のえらい人も言ってるだろ、全く。
 
「始め!」

 さて、審判の声と同時に攻め込んでくる――来ないな?
 
「ふんっ!」

 練?
 ああ、天空闘技場でやる奴がいるとは思わなかったが堅で戦うのか。
 鎧と堅で相当硬い防御りょ――あ、あれ? もう終わり?
 
「ふふふふ…見たか我がオーラを」

 ……痛い、心が痛いよママン。
 自分の実力を見せつけたつもりかも知れんが、練のオーラ量(AOP)も多分、四割減の俺の半分位だぞ。
 しかも一瞬で終わらすって事は長時間やってられないと言い切ってるようなもので。
 
「ふぅぅぅぅ……」

 溜息ついでに意識を切り替える。

 6勝という事はこいつが仮に新人狙いのクズだとしても油断だけは禁物。
 しかし片腕無くしたら普通は原作のサダソみたいな能力にならんかね?
 キメラ編のビビリの何とかって奴でも良いけど。
 
「ふん! すぐに吠え面かかせてやるわ!」

 そもそもべらべら喋れば喋るだけ情報が漏れるという発想はないのかこいつは。
 ヒソカなんてオーラ別性格診断とかしちゃうのに。
 系統が分かるって便利なんだぞ。まあこいつが具現化系以外だったら逆にびびるけど。
  
 とりあえず、こっちから動けんのがもどかしいな。

 先生との約束1:先手は取らせる。

 実力差があってこっちが先手取れたら勝負自体にならんのは確かだけどね。
 
「いくぞ!」

 ダッシュ――遅い。
 振りかぶった大斧――変化なし。
 左腕が生える事もない。
 身に纏うオーラもさしたる変動なし。
 ついでにいえば周もしていない。
 
 ……こいつらどうやって念を覚えるんだ? 精孔開くのは兎も角。
 心源流師範代崩れでも闘技場にたむろしてて、金取って教えてるとか?
 
 おっと、汗臭ぇ身体が直前まで迫ってきましたよ。
 しかしトロいな。
 この世界来る前の横島よか遅い、得物が違い過ぎるにしても。
 
 一寸の見切り――
 皮膚の手前3㎝で大斧の刃先を躱す。
 わざと限界まで近づかせて躱したが、何もないな。
 こいつの能力は一体なんだ?
 
 ま、何もしないのも可哀想だし、右の飛刃(スペツナズ・ナイフ)の柄頭でこいつの鎧を叩くか。
 これで倒すつもりはないので実力が違うという事を示すだけ、つまり軽く叩くだけのつもりだったが――
 
 ごぅんっ!
 
 手が痛ぇ!?

 一気に距離を取る俺。
 不可解なダメージを受けたら距離を取る、逃げるは当たり前!
 と言ってもホント吃驚する程度に痛かっただけのダメージだな。
 短剣を取り落とす程ですらない。
 
 ちなみにこの間僅か0.3秒である。
 ホント遅いんだよこいつ。
 

「ふふん、我が防御は鉄壁よ」

 嘘吐け。
 数mの距離をおいて対峙する俺と全身鎧。
 鎧の方は恐らくダメージ反射能力か。

 なるほど、新人潰し。
 念に対する知識がなかったら大斧を躱しきれなくなるか反射のダメージで負けね。
 纏のあるだけでキルアがズシを殺せない程だし、才能が溢れてたってゴンみたいに初心者じゃ勝負にならないのが念だけどさ。
 
 でもアレだねダメージ反射ってのは負け能力だよね、実際は強いんだろうけど。
 
「む?」 
 
 両手で短剣を構えたままの姿勢で、握った手から念弾を適当な威力で発射、隠してな。
 隠すると発射音まで消えるのは不思議だ、まあそもそも念弾に発射音があるのも不思議だが。
 
 お、鎧に当たった念弾が有らぬ方向へ飛んで行った。
 こっそり操作して手元に戻す。
 兜と庇で表情は伺えないが、困惑してるというか判断に迷ってるんだろうな、凝してる様子がないって事は、こっちがやってる事が分からないって事だし。
 威力も弱くしてあるしね
 
 念弾を四つに増やして発射。
 この間に再び振りかぶってきたが何の問題もなく避ける。
 あれだけの大斧を全身鎧装備で振り回して身体の軸がぶれないってのは大したもんではあるんだが、常人レベルでは。
 纏出来てアレじゃショボイぞ、実際。
 
 大斧を躱しつつ適当な部位に4発『同時』に着弾させる――
 すると4発、それぞれ有らぬ方向へ飛んで行った。
 再び操作して頭の上辺りに戻す。
 隠で見えないようにしているとは言え、頭の上に念弾がふよふよ浮いてるのはシュール。
 
 で、念弾にスーパーボールな性質を付ける程容量の無駄使いをする俺ではない。
 という事は、アレの能力は『物理衝撃はそのまま対象に跳ね返し、念属性は適当な方向へ弾く』かな。
 或いは『近距離攻撃は近くに存在する対象へ返し、遠距離攻撃はランダムに弾く』かも知れん。
 複数対象でも反射してくる辺り、高性能といえば高性能だな。

 再び一寸の見切りで大斧を躱す。
 なんか今、違和感があったような?

「ん? 何かしたか貴様」

 隠で隠してるからには凝してないこいつが見破れ――斧がでかくなってる?
 
「なるほど、こそこそと小細工して――おったかっ!」

 この上から目線なんとかならないのかね、俺も大概上から目線だけど。
 んー、速さや重さが変わってる訳でもなさそうだし、単純に大きさが増えてるだけか?
 原因は何処だ?
  
 今度は4発を『同じ場所に連続着弾』させるっと。
 ふむ、1発目だけあらぬ方向へ走り、大斧がちみっと大きくなって、残りは反射されず微小ダメージを発生して消滅。
 ついでに1発目以降、大斧の巨大化は認められず。
 つまり、『弾いた攻撃or念の威力に応じて巨大化』かな?
 正直、大きくなるだけなら速くなる方が遙かに強いイメージあるんだが……
  
 ……気付いて降参してくれると有り難い。
 既に開始30秒、大斧10回振り回して一度も当たらず、能力を解析されているという事に。
 というか、ここまで解析されて気づいてもいないって致命的だよね、俺が殺る気ならもう終わってるに等しいんだし。
 
 んー、練のレベルから判断すると、あの鎧が『どんな攻撃でも反射出来る』のも『斧がダメージを無限に蓄積出来る』のもおかしいな。
 反射ダメージの限度は必ずあるハズ、ついでに大きくなる限度もな。
 が、そんな痛いかも知れない方法よか、連続念弾で片付けるか?
 巷に針の降る如くファントム・レインでも抜ける気はするが。
 
 
 アレを試してみるか。
 
 
 生まれ変わってというか憑依・人格融合してというか、兎も角こんな事になってからすぐの頃。
 念能力がいきなり使えた頃にオーフェンに出会った。
 
 前世での俺の世代はライトノベルの走りでロードスで火が付いてスレイヤーズ、オーフェンが爆発させた頃だった。
 正直言って滅茶苦茶ハマってた訳だ、特にスレイヤーズとオーフェンは呪文まで暗記したもんだ、流石に今は殆ど忘れたが。
 呪文といえばバスタードも覚えたけど、アレ終わったのかなぁ?
 
 と、それどころじゃないな。
 大斧を躱しつつ、適当に距離を取る。
 念無しの横島でも正直キツいだろうな、反射はずるいだろ。
 それに根本的なレベルが違うから俺には雑魚だが、サダソとかなら十分驚異の速度とパワーだ。
 つくづく念による加算乗算がズルいんだよな、この世界。
 
 で、まあオーフェンに会って、念能力の開発の切っ掛けになったんだよな。
 しかし、あの世界の物理法則はよく分からんな、未だに。
 『空間に波紋を走らせ』とか『情報因子の消滅』とかどうなってるの?
 あと『殺意の波動』とかあった気がするがどんなんだったっけ?
 
 ま、そもそも念能力だと『破裂の姉妹』だの再現しきるのは難しい、放出系じゃな。
 『大空の壁』はアレだ、空気操るの大変そう。
 そんな簡単に空気操れるなら、操作系・放出系によるウェザーリポート大流行だと思う。。
 『天の楼閣』は普通の瞬間移動になりそうだし。
 
 しかしアバンストラッシュを真似したように霊丸を真似したようにかめはめ波を真似したように。
 やってみたいじゃん? 折角こんな力手に入れたんだし。
 かめはめ波は素で出来るけど、恥ずかしくて二度ととやる気にはなれんな。
 
 
 ちょうどその時はチートブースト黍団子シンクロ・パートナー世界は地雷で出来ているワールド・イズ・マインの二つしかなかった事もあって、一個作ってしまったんだよなー。
 ちょうどオーフェン本人に会った事もあってな。
 
 若気の至りだが、威力は数年前に実験済み。
 ちなみに練習は月村の屋敷の地下でばっかんばっかんやってたぜ。
 実戦で使うのは開発から五年越し? 位で初めてだが、実戦訓練にはちょうど良かろう。
 
 大斧を躱すと同時に足にオーラを溜めて距離を取る!
 フワライド人形用のポーチから取り出して硬で周!
 そして!


「我は放つ光の爆刃!!」


 キュゴゥ!
 音を立てて『剣の形に近い白光』が全身鎧の『大分手前の足下』に迫る! 着弾と同時に爆発!
 
 轟!!
 
 なんつー威力……噴煙が晴れると、大きく抉れた闘技場と場外までぶっ飛ばされて倒れている全身鎧、でなくおっさん。
 つか観客席の壁にめり込んでる辺り、具現化系能力者としては優秀だったのかも知れん、とりあえず生きてるっぽいし。
 そして予想通りだが限界以上のダメージには耐えられない仕様っぽいな、斧も鎧も消滅してるし。

 しっかし…作った当時の倍以上の威力になってるぞ、同じフワライド人形撃ちだしてるのに。
 闘技場に舞台にクレーターが出来てしまった、というか舞台上が半分になってしまった。
 闘技場が1辺15m位の正方形だから相当な大穴が空いたイメージだな……大体、半径50mクラスか?
 うお、場外の土の方までえぐれてるし。
 
 …ここって200階以上の建物な訳で。天空闘技場頑丈すぎる……
 
 それにしてもこの威力。
 『基礎念能力の底上げ』か? ジャジャン拳のパーが豆粒から拳大に進化みたいな?
 修行って大事ですね、そして天空闘技場でこれ使う事はもうないな。
 残弾数29個だし……『月村謹製』が条件な上にこんなんこの世界じゃ何処で作ってくれるのかも分からん。
 きっと残弾数も威力に影響してるな、これは。
 大分手前で爆発させておいて良かった、殺さないで済むならそれの方が良いしな、うむ。
 
 
「勝者! シズカ選手!!」

 どうでも良いけど、電気鞭だの爆弾だの使って格闘のメッカというのもいかがなものだろうか?
 

****


「お疲れ様」

 なんだ、控え室で待ってたのか。
 まあ一応、観戦用のテレビもついてるが。

「ああ……疲れたよ」

 俺一人で本気で戦うのなんて、それこそ始めてな気がする位だしな。
 あう、ぎゅっと抱きしめられた。

「はなせ、汗臭いだろ」

「良い匂い。今すぐ押し倒してぇ」

 匂いフェチなのかなぁ?
 あ、でも昔、俺も女の子の匂いはなんでこんな良い匂いなんだろうとか思った事はあったから、男ってそういうもんなのかも知れん。

 いやいやよく考えたら俺だって横島の匂いで安心したりしてる訳だから、そういうもんなんだろうな。
 
「とりあえず、次の試合は今日はなかったハズだが、部屋に戻るぞ」

「ういうい」

 こうして、俺の初めての念を使っての試合は終わった。
 まあ結果としては楽勝だったのだが。
 
 この後横島とお風呂入ったり色々した後の話なのだが、師匠にしこたま怒られてしまった、あの威力はなんだと。
 アレだ、10の力の相手に100の力でぶつかったら云々という闘将拉麺男的な説教だった。
 然もありなんとは思うが、あの威力は正直俺も意外だったので勘弁して欲しいとは思ったのであった。

 どんぴこからりん、すっからりん。


****



我は放つ光の爆刃ワールド・イズ・マインⅡ
制約:発動時に日本語の方、「我は放つ光の爆刃」と叫ばなければならず、「飛ばせる範囲も声も届く範囲」限定である。
   月村謹製のフワライド人形を使用しなければならない。
   
転生・憑依をしたばかりの頃、世界は地雷で出来ているワールド・イズ・マインの次に開発した発。

開発動機は『傘でアバンストラッシュ』

ただし、強化系なら兎も角放出系で全てを再現しきるのは難しいので、フワライド人形(2,4,6-トリニトロトルエン(TNT))を『白い光』を放って標的に直撃させると『念で強化された爆薬』が『衝撃を起動スイッチにして爆発』するという手順で『光の白刃=熱衝撃波』を再現した。
本来的には放出した念を『白色光っぽく変色させる&剣・帯っぽい形に変える(=変化系能力)』必要はないのだが『その方がらしい』ので頑張って白く光ってるように、帯・剣っぽい形に変えた。
結果、フワライド人形が一見見えなくなり『光の奔流そのもの』に見えるようになって威力も上がった。
隠は不可能ではないがフワライド人形だけが見えてしまうので余り意味はない。

現状の威力は超破壊拳並だが、これは残弾数も影響している。
→この世界では月村工業が存在せず補充が効かない為。
更にキメラアント編導入部で『探索の為』使いたいというジレンマも影響している。


天空闘技場の舞台の広さは7巻のゴンvsヒソカの回で、ゴンが石版を引っぺがして蹴り飛ばす瞬間のコマで、ヒソカと石版がちょうど並んで比較出来るのでそこから一辺が約2m30㎝~3mの正方形で、5×5の石版が敷き詰められてましたので、まあこん位だろうと。
ヒソカって189㎝もあったんですねー。



[14218] 番外編シリーズ2-12
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/04/24 08:53


「いやー! 修行の後の酒が旨いっすね! 兄さん」

「うむ、ビール最高っ!」

「静かにせい、全く」

 男三人、場末のうらぶれた酒場に腰掛けて思い思いの肴を相手に杯を傾けている。

「けどいいんすか? 姐さん放って飲んでて」

 色白な顔を赤く染めて、ビールを煽るサダソ。

「別にいいって。静香ちゃん酒弱いし、男心のよく分かる出来た嫁さんだからっ!」

 静香の根が寂しがり屋な事をよく知っている横島は、そう頻繁でないこの飲み会を好んでいた。
 酒が旨く感じられるようになったというのも一因だが、根本的には静香が可愛いからだ。
 静香は頭が良く理性的で、独善的な言い方をすれば『分ってくれる』女性である為、飲み会がキャバクラだろうと別に文句言う女ではない。
 しかし本心は飢えると言って良い程寂しがり屋である静香は、我慢してるだけで寂しがるのは間違いない。 

 そしてその寂しがりな心につけこむのが横島の快感だ。
 帰ると口では何を言おうと甲斐甲斐しく世話してくれるし、翌朝も出来る限り側にいようとする。
 常より強く求められるのは、横島のような男の本能だけで生きてるような男にとってはそれだけで快感であるし、何より可愛いのだ。

 とは言え横島としては男同士の付き合いも十分楽しめる物であるのは間違いない。
 幾ら愛してあっているとは言え、始終顔を突き合わせているのはお互いの精神活動に良い事ばかりではない。
 高校の頃はひたすら女の乳尻太ももを追いかけていた横島も、極上の美女を手に入れた事によって男性同士の付き合いを楽しめる程には成長していたとも言える。

「まーそれは認めますけどねー。
 姐さんの料理めちゃウマだし、お茶とか差し入れとかの気遣いも絶妙だし」

 静香の料理の足元にも及ばない乾き物を口に放るサダソ。
 というより、サダソとしては天空闘技場界隈で静香が作った物より旨い食い物を食べた事がないのだが。

「確かにシズカの心遣いというか、男を分かっている態度は見事だな。
 ああいう女は滅多におらんよ」

 ある意味男心を熟知している静香としては、褒められたとしても嬉しくないであろう。

「おっおっ! 先生に褒められっと嬉しいねぇ!
 おっちゃん生チューもー一杯!」

「しかし兄さんが羨ましいなー、姐さんみたいなのどっかに落ちてないっすかねー」

「落ちてたら怖いわ」

 ふへへへとだらしない笑みで枝豆を剥いて皿に貯める横島。

「ま、おぬしらの年で色恋に現を抜かすなとは言わんが、節度は守る事じゃな」

「いやーうちは静香ちゃんがそういうの厳しいっすからだいじょうぶいつー! なんてなーっ!!」

 完全にできあがってる横島であった。
 
「せんせー、俺はいつ使えるようになるんすかー」

 ぐでぇっとテーブルに突っ伏すサダソ。
 やはり一人念が使えない状況というのは辛いらしい。
 使えなかったハズの横島が1週間で精孔を開き、極度に集中してる時なら――つまりエロい事考えてる時など――即座に纏出来たのも堪えたのだろう。
 一方サダソは未だ精孔を開ききっていない。辛うじてオーラは感じ取れる程度だ。
 ヒソカの練、つまりオーラを受けて欠片も感じなかった当初に比べれば格段の進歩ではあるが、赤ん坊が寝たきりから寝返りうちましたというレベルなのは否定できない。

「ふむぅ…余り焦ることはないんじゃがな。
 まだ20にもなってない若造なんじゃ、先は長いぞ」
 
「そうは言ってもぉ姐さんも兄さんも出来て俺だけ出来ないって辛いっすよー」

「焦ると碌な事がないぞ、特にお前は才能がある方じゃないしな」

「ひどっ!」

「まあ最終的に強くなれるかどうかは努力し続けられるかどうかじゃ。
 才能というのは究極的には足の速さの差であって、何処まで行けるかは自分次第。
 努力し続けられる才能こそ最も重要と心得よ」
  
「それはそれとして楽したいっす」

「気持ちは分かる!」

「貂蝉と一晩同じ部屋で過ごしたら考えてやる」

「せ、先生は鬼やー!」

「キツいっす!」

 たんっと空になったジョッキをテーブルに置く横島。

「あ、梅酒ロック追加ー」

 カウンター越しに店員へ頼む。

「貂蝉っていやあ、なんであんなの弟子にしたんすか?
 悪い奴じゃないのは分かるっすけど、正直最近一人の時間が欲しいっす!」
 
 サダソを一人にさせないのは、新人潰しが未だ戦っていない横島の星を狙って仕掛けてくるかも知れないという静香の気遣いからなのだが、サダソがそれに気付くことはあるまい。
 常にいるのが貂蝉では余計な気遣いだと怒るのが関の山である。

「常に念能力者の側にいる事は精孔に良い影響を与える、はっきり言えば知覚しやすくなる。
 我慢のしどころじゃ」
 
 水と1:1に割った常温のウィスキーを傾けるシン。
 実際、精孔を開く段階で修行を投げて、手っ取り早くムリヤリ起こして事故死するケースも相当数ある。
 また精孔を開いても纏で留められなければ意味ないが、ゆっくり起こした人間とムリヤリ起こした人間とでは纏の習得期間も大分差が出る、無論ムリヤリ起こした方が纏を習得しづらい。
 原作のゴンキルのような状況でない限り、ムリヤリ起こすのを好む師範代はいないのだ。
 またムリヤリ起こして纏を習得出来てしまうと調子に乗って、それこそ原作のゴンのように無茶をして壊れてしまうケースもある。
 ムリヤリ起こすのは誰にとっても良い事ではないのである。

「まあ貂蝉に関してはちゃんと釘を刺しておくから心配するな。
 それにアレでアレは一途じゃからな、洒落でからかう事はあっても本気ではないよ」
 
「先生に?」

「いや、50人近くいるハーレムの主、じゃったかな?」

「殺す!」

「手伝うっすよ兄さん!」

「……サダソはまだしもタダオはアレだけの女がいて何が不満なのだ?」

「不満なんてちっともないけどハーレムとか男の夢やってん!」

「そーっすよ!」

「やれやれ…」

「の割には余り他の女には色目使わんな?」

「いやあ、昔はよくやってさー、静香ちゃんによお怒られて。
 でさー、最近は怒られるどころか悲しい眼で見られるようになってん。
 アレは無理無理ー」

 大分酔いが回ったのか標準語と関西弁が適当に回っている横島。

「ちくしょー! やっぱいいなーっ羨ましいなーっ!
 ウーロンハイ追加で!」

「先生はそういうのないんすか? もう良い年だし惚れた腫れたの一度や二度はあるっしょー、渋いし」

 男を褒められる程度には精神的に成長したんだなあと静香がいれば感慨に耽ったかも知れない。
 
「ふむ、あったな。苦い、思い出がな…」

「どんな?」

「兄さん、それ訊きますか普通」

「まあ、ワシが間抜けだったというだけじゃ、誰が死ぬという話ではないわ…」

 遠い目をするシン。
 風貌と相まって、とても絵になる。
 
「昔からワシは強くなりたかったし楽したかった」

「よく分かるっす!」

「まあだからあんな能力を作った訳だが」

「アレ便利っすねー」

 一つの布団に枕は二つ(ドリーム・プロジェクト)というベッド他を具現化する能力で、ビスケの桃色吐息と似たような効果を発揮する。

「単純に武器だのを具現化するより、よほど使い出があるでな」

「っすねー。好きなだけ寝られるし寝なくても良いし。
 まさに夢のベッドだわ」
 
「戦闘に使わない・使えない念能力の方が強力な能力を有する場合が多い。
 これは覚えておくべき事じゃぞ。
 子供の念能力者が結構多いのはこれに由来する」
 
「子供がこんなん覚えちゃうんすか?」

「うむ、『これがしたい』という情熱や欲望が強く有り、その上で念能力の才能が人一倍ある子供は目覚めやすい」

 原作でのネオンがこれに相当する、恐らくクロロやメレオロンも。
 というか特質系ってこんなのばかりな気がするがいかがな物だろうか。
 クラピカも『必要な能力を恨み節全開で望んだ結果』絶対時間を手に入れたと言えなくもない。
 そして絶対時間自体は戦闘を左右する能力ではない。
 あくまで強化系能力が向上する故に戦闘力が高まるだけである。
 クラピカの強さは旅団限定の恨み節という精神性だろう。
 証拠の一つに、原作では蜘蛛と初めて相まみえた時、蜘蛛と気付くまでは口には出してないがスクワラやバショウ同様、恐怖していると受け取れるように描かれている。

「まあ子供に限らんが、具現化系は特に深層心理に関わってくる系統じゃ。
 欲しい物・必要な物を夢に見れないなら具現化するのは難しいと言われる」
 
「ふーん」

 酒が入りまくってる事もあって聞き流す阿呆ども。

「で、話は戻るけど先生の恋ってどんなんよ?」

「兄さんストレートすぎっす」

「うむ。20位年下の娘に恋してな」

「このペド野郎!」

 立ち上がろうとした所を杖で制される横島。
 ここら辺は年季の差か、肩先を抑えつけられただけなのにぴくりとも動かせない。
 サダソも、動きを止められた横島本人ですら止まってから漸く杖で止められた事に気付いた程だ。
 
「落ち着け、ワシが60過ぎ、向こうが40過ぎの頃じゃ」

「老いらくの恋って奴っすか!」

 サダソや横島ほど若いとなかなか想像も付かないだろうが、人に惚れるのに年は関係ないのだ。
 成就するのにはある程度年齢も関わって来ざるを得ないが。

「うむ、こっぴどく振られたがな。
 そもそも向こうも若いのが好きだというし、なかなか前途多難であったわ」
 
「そりゃまあ男だって女だって若い方が良いって言やあ良いに違いないわ」

 くびぐびと梅酒を飲み込む。

「そもそも惚れ込んだ理由がアレじゃ、実年齢にそぐわぬ若さだった訳だが。
 なんせ見た目だけで判断すれば10歳から15歳位の少女じゃった」

「実年齢40過ぎで見た目10代って……」

「それも念っすか?」

「ああ。ワシも見た目は50代位に言われるが、実際は80も過ぎとる。
 念を覚えるだけで若さは保ちやすいが、アレはそういう能力だったんじゃな」

「先生の見た目が40後半だとしても、見た目10代はねーわ、犯罪っしょ」

「結婚に年齢制限付けてない国も結構多いっすけどね」

「あ、そうなん?」

「当人同士、或いは家族同士の話っすから」

「ふーん」

「しかしのー、あいつの好みが若い男でのー、なかなか苦労したわ」

「その言い方だと上手く行ったん?」

「うーむ、それなりに上手く行ったんだがのぅ。
 あいつがなぁ…じゃあホントの姿を見せるとか言って…」

「ホントの姿?」

「…あー、念で変身とかしてたかというオチ?」

「変身というか若返りというか…どうも念能力で極端な若返りが出来るらしくてな、あいつの場合。
 ホントの姿を見た瞬間に思わずなぁ…「ゴリラ?」と口に出してしもうた」
 
「…は?」

「……つまりだ、10代の少女が目の前で貂蝉のようなの女に化けた、いや元に戻ったというわけだ」

「…………詐欺?」

「それは先生じゃなくても……」

「…まあワシとて本気でそう思った訳ではない。
 ではないがあの時の衝撃は思わず口に出てしまっても仕方ないじゃろ。
 貂蝉を美人、というか美形? な女性にしたような女になってしまったんじゃぞ、目の前で、見た目10代の少女が」

「身長も?」

「うむ、アレは3m近かったな」

「先生は小柄っすからますますでかく見えたっしょ」

「うむ」

 と、残り少なくなったグラスを干して、追加を頼むシン。
 
「まあ、向こうが怒るのも無理はないと思う。
 普通、例え見た目がそうであっても口に出して良い言葉ではないと今なら思う。
 じゃが言い訳するつもりはないがアレは正直、なぁ…」
 
「ん? じゃあなんで貂蝉なんて弟子にしたんすか?」

「そりゃ慣れる為じゃ。アレで慣れれば大概の筋肉お化けなど恐るるに足らず」

「…あー、諦めてないんだ?」

「おぬしだってシズカにもフラレたら、諦めるか?」

「んーな訳ないっしょー。世界を敵に回しても奪い返す!」

「姐さんが兄さんと別れるっつーのもなかなか想像つかないけどなぁ」

「まあベタ惚れじゃな、アレは。
 こいつの何処が良いのかいまいち分からんが」
 
「ひどっ!?」

「…つーか先生はロリコンだった訳っすね」

「いや昔から人と変わった女性の好みをしててな。
 念能力で性別を女性に変えた男とかに惚れたりもしたぞ」
 
「それはそれは……」

「別に中見がどうだろうと見た目が美人ならイケるって」

 誰も気付けないだろうが横島が言うと説得力がある言葉である。

「アレに惚れたのは見た目に似合わぬ腹黒さと強さ、そして口が悪い癖に情に脆かったり腹黒い割に誠実だったりと。
 なかなか飽きさせない女でなぁ」

 二人して趣味わりーなーと思ったかどうかは定かではない。

「先生の恋が叶うと良いっすね」

「老いらくの恋にかんぱーい!」

「やかましいわ」


****

酒飲みに話の脈絡とか期待しちゃダメですよ。
あと作中のシン先生が惚れた相手は原作のあの人です、アレ。

シン=シューザンの能力
 一つの布団に枕は二つ(ドリーム・プロジェクト)
 ダブルベッド、枕二つ、目覚まし時計、コース名を記した札とメモ帳をセットで具現化する能力。
 
 疲労回復コースと熟睡快眠コースがあり、それぞれの札をベッドにセットする事で切換が可能。
 疲労回復コースは睡眠による疲労効果と超回復の効果をほんの少し高め、1時間の睡眠を1分間に短縮する。
 ただし睡眠欲が解消される訳ではないので、起きると疲れは取れたが滅茶苦茶眠いという状況もあり得る。
 
 熟睡快眠コースは快眠出来て『ある程度自由な夢』を見られる。
 普通に睡眠欲も解消されるが特殊な回復効果はない。
 見たい夢はメモ帳に『単語』を書いて破り、枕の下に置いて眠るとその単語に由来した夢が見られる。
 ただし本人の希望する形であるかどうかは運。(食料と書くと嫌いな食べ物が夢に出る場合もある)

制約:平穏で安眠出来る環境でない限り具現化出来ない。
   『眠る人が自分で』目覚まし時計に起床時間をセットしない限り、特殊効果が発揮されない。
   (単純に寝ただけになる)
   ダブルサイズなので、1度に二人まで使用可能。
   その場合のコース選択と起床時間は二人とも同じものとなる。



[14218] 番外編シリーズ2-13
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/05/11 09:09

「キモいからその表情辞めろ」

 手の中の水晶玉を強く握る。

「げへへへ…」

 静香ちゃんの膝枕が気持ち良すぎるのが悪いんや。俺は悪くねぇ。
 
 現在、ソファーの上、俺は静香ちゃんの太ももに頭をして横になっている。
 ソファーの端っこに静香ちゃんが座って、そこに俺が頭乗せて横になってる、上にライキが丸まってる。
 鍛えたからには30㎏のナマモノが乗ってようと全然へっちゃら大丈夫だけどさ、寝るなら余所行けと言いたい。
 纏、というか念ってすげーなぁ。まだ油断すると解けてまうけど。
 
 ま、そんな事もノーブラの静香ちゃんの胸を見上げるとどうでも良いけどね!
 しかも頭を優しく撫でてくれてる!
 もー堪らんねっ!
 部屋の中ではノーブラの方が気楽というのは本当だった!
 
 まあそれでもあんま外さない方だけどな、垂れるのが嫌って。
 垂れた乳は男でも嫌な奴は嫌だって言うし、無理ないけどー。
 静香ちゃんのなら例えピーでも愛せるぜ!
 けどいろんなおっぱいを(グラビア写真とかエロ雑誌とかエロサイトとかAVとかで)見てきた俺としては、静香ちゃんのおっぱいは全然垂れてない、てか綺麗、格好良い、びゅーてぃほー! だけどね、やっぱ気になるらしい。

「菓子食べるか?」

「およ? なんすかそれ」

 自分で大概全部作ってしまう人なのにな?
 念弾数個を器用に飛ばして俺の胸の上に、チョコロボ君とかかれた子供向けのお菓子の箱が落とされた。

「なんすかこれ?」

「ファンからの差し入れって奴だな。
 ちなみにパッケージされているそれ以外は全部捨てたぞ」
 
 こえー。
 アイドルか!
 そーいや銀ちゃん(俺の幼なじみのジャニーズアイドル、リア充は師ね)も髪の毛入ったチョコとかもらうのが怖いとか言ってたなぁ…
 カストロの野郎もこの前テレビに出てたし、ここの強豪選手は意外とそういう意味で地位が高いのかも?
 美形だけか、そうだとしても。
 
 ちくしょぉぉぉ! と昔の俺なら叫んでたろうが、今の俺には静香ちゃんがいるもんね!

「これ、一つっすか?」

「ああ、それ以外は色々と問題があったんでな」

「ちなみにこれくれたのどんな奴?」

「忘れた。子供だったと思うが……ああ、自分もバトルオリンピアに出るとか言ってた…ような?」

 膝の上から見上げる静香ちゃんの顔は本気で覚えてないと言っている。
 いちいち覚えてられんって事かも知れんが、俺は知ってるぞー。
 ショタコンの気がある静香ちゃんが覚えてないという事は美少年ではなかったという事を。
 ユーノばりの美少年だったら間違いなく覚えてるハズだしな。
 全く中坊になったユーノは男でも下手したら落とされそうな色気振りまいてたからなぁ…
 まあそれ以上になのはちゃんとフェイトちゃんがヤバかったが。
 中学にして既に女だったからなぁ…こわっ!

「ほら、あーん」

 空を飛んでる飛針で器用に封を切って、一つ摘んで俺の口へ入れてくれた。

 いやっふぉぉぉ!!

「っん…嘗めるな、バカ」

 静香ちゃんの白魚のような指まで嘗めてやったぜぇ!
 チョコロボ君はそれなりに旨いな、それはそれとして。

 いやいや長い道のりだった。
 恋人として付き合い初めてもう4年近く経つが、静香ちゃんの身体には一向に飽きない。
 最近はやたら甘えたさんになってますます可愛い。

 ソファーに身体を預けるように座り宙に浮かせている料理雑誌を読んでいる静香ちゃん。
 その膝に、太ももに頭を乗せて、纏の維持をしながらチョコを喰わせてもらう俺。
 そして俺の上で丸まってるライキは静香ちゃんの腕を支えてつつ眠っている。

 こんな事してくれなかったもんなー、昔は。

付き合う前

「あ?」←人も殺せそうな冷たい目

付き合い初め

「馬鹿か」←身内と俺以外解らない程微かに染まる頬
 勿論あーんしてくれない。



「ほら、あーん」←自然な笑顔、ただし身内と俺以外には無表情に見える

 って感じ?
 

 本当に付き合ってるのかと疑った時もあった!
 しかし!
 もう過去の全てが許せるねっ!
 おっぱいに手を伸ばしても揉んでも怒られない!
 おっぱい柔らかい良い匂いだぐへへへ。
 
 環境の変化ってやっぱ影響でかいんかねー?

 つきあい始めから『こっち』に来るまでの数年は、あまり甘えてくれんかった。
 えっちの時も俺のしたい事は殆どさせてくれたし、フェラとかも一生懸命やってくれたけど。
 頼っても甘えてもくれなかったんだよねー。
 本人的には甘えてるつもりだった行為は、こっちからすりゃ甘やかされてる行為って感じ?
 男に頼るのは格好悪いとかガチで考えてたよな、ありゃ。
 
 しかし『こっち』に来てから、特にくじら島出た後はもうね!
 たまらんね!
 思い出しただけで滾る!

 というか手に当たる胸の柔らかさと頭を撫でてくれてる手の柔らかさだけで滾る。
 良い匂いだしおっぱい柔らかいし。
 それはそうと『最近おっきくなってる』気がするんだが。
 静香ちゃん専門のおっぱいマイスターとしては気になる所だ。

 20も半ばになって増量中とか胸がない事で有名なアイドルとかが絶叫しそうやな、72さんだっけ?
 そういやあのグループはまだアイドルしてるんかな?

「鼻息荒いぞ」

「静香ちゃんの顔を思いだし――いて」

 宙に浮いて躍っていた飛針が頬を引っぱたいた。

「阿呆」

 全く、俺にだけは簡単に手を挙げるんだからなー、静香ちゃんは。
 まあ俺だけだけどなっ! なのはちゃんやユーノにも滅多に手を挙げないし。
 俺だけだぜー、ふへへへ。
 
「静香ちゃん愛してるっ」

「はいはい、私も愛してるぞ」

 棒読みだけど、これって随分進歩だぜ?
 二人きりの時でも滅多に言ってくれなかったしなぁ、昔は。
 
 右手で静香ちゃんのノーブラなオパーイを服の上から楽しみつつ、腹の上のライキの上に乗せた左手で水晶玉を握ったり回したりしている俺と、料理雑誌を宙に浮かせて読みながら俺の頭を撫でている静香ちゃん。
 週一のオフの日、俺達はまったりしてるのだ。

 まったりしながらも飛針と鋼糸も空で躍らせてるし、念弾とやらも大小併せて50近く浮いている。
 バスケットボールよかでかい玉もあれば、ビー玉よか小さいのもあるしアn――もとい、パールネックレスのように連なってるのも。
 フワライドの人形もいくつか浮いてたかな?
 
 で、ソレらを空で躍らせてる、これも念の力らしい。
 超能力とどう違うのかよく分からんが、オーラに覆われてるのは分かる。
 
 正確にはオーラで動かして遊んでいるというべき?
 オーラに覆われたネックレスがうにょうにょ揺らしたり躍ったり回転したり。
 手は一切動かしてないのに動くもんだねぇ。
 何が器用って宙に浮かしてる雑誌読みながら、宙に浮いてる奴らを見もせずに動かし、ページ捲るのにネックレスに捲らせたりしてるトコだよ。

 実にシュールだ。
 念弾と飛針と鋼糸、そしてフワライドが宙を躍っている様はゲームの一場面のようやね。
 時に規則的に、或いは不規則的に俺達の部屋を躍り続けてる。
 幻想的だけど別になー、俺、グラフィックにこだわるタイプのゲーマーちゃうし。
 隠とかいう念を見えなくする技術使ってるらしいがよう分からんて。
 
 まったりしてる時間にそんな事しなくても良いと思うんだけどねぇ。
 まあ胸の谷間に手を入れて乳の感触楽しむのに忙しいからどうでも良いけどねっ!

 今までは俺に隠してたが、もう隠す必要ないからこんな事してるらしいぞ。
 俺に水晶玉弄くらせてるのも含めて今後に必要な事なんだってさ、よお分からんけど。
 というわけで俺は手の中で水晶玉を弄びつつ、頭に感じる太ももの柔らかさと手でおぱーいに感じる柔らかさと暖かさを満喫するのだ。
 ぐへへへへ。
 
「動くな」

 ぐさっ
 
 おおおお!? 飛針がさくっと額にっ! バンダナ越しに刺さった!!?
 
「い、痛い…」

「もぞもぞされるとくすぐったくてかなわん。おとなしくしてろ」

「ういー」

 ちぇー。
 仕方ないので纏を維持するのに全力を尽くす。
 簡単っちゃ簡単だがまだまだ無意識に出来ないしな。
 最低、寝ながらこれが出来ないとダメらしい。

 静香ちゃんは宙に広げている料理雑誌に目を通す。
 しかしハンター文字ってのは読み辛くないんかね、俺は読み辛い。
 
 ひらがなみたいなもんだから読めないって事はないんだが、漢字に相当するモンがないからひたすら読み辛い。
 一応、ジャポンとか日本語が使用されている国もあるみたいだが、基本は世界共通語という変な世界なんだよなー。
 よくも世界統一語で運営出来ると感心するわ、マジで。

 あと漫画もあんまり面白くないんだよねー。
 静香ちゃんが言うには「日本が異常なだけだ」という事らしいが。
 割とマニアックな趣味なのかね? ゲームとかアニメとかも。
 

 ん? 今ならコスプレエッチとかしてくれるかも?
 なんだかんだ言ってゴスロリも着てくれたし。
 恥ずかしがってただけで嫌がってはいなかったもんね、アレは。
 うーん、股間がいきり立つ。

 おうっ?! ライキの尻尾がちょうどよく擦ってくれたぜ、ビビったわ。
 うーむ、ちょっと集中を解くと纏が解けるね。
 まだまだ静香ちゃんみたくはいかんか。
 
 もっかい纏と。
 今日は休養日って事で別にゆっくりしてて良いんだけどね。
 静香ちゃんがゆっくりしていながらも修行っぽい事してるから、こっちもあんまりねぇ。
 尻に揉みながらで良いんだから修行という程でもないけどなっ!

「んっ――こら、尻を揉むな」

「ええやないか減る物で無し」

 ふふん、右手は自由に尻も揉むぜ太ももも撫でるぜお腹も撫でるぜ。
 お腹はつまめる程余ってないのがちょっと残念なんだぜ、口に出すと本気で殴られるけど。
 抱き心地の良いスレンダーも良いけどちょっと余り気味も良い、ああなんて贅沢なジレンマ。
 裾の隙間から服の中へお手々が遊びに参りますよー♪
 
 ぴるるるる…
 
「む? 横島、電話だ」

「ゴンかな?」

 ライキをどかし、よっと身体を起こして壁にくっついている電話を取りに行く俺。
 折角のいちゃいちゃタイム邪魔しおってからに。

「もしもし?」

「あ、タダオ選手でいらっしゃいますか?」

「そーだけど? どちらさん?」

「私はテンクージャーナルのドイトと申します。
 シズカ選手はおられますか?」

「いるけど何の用だよ?」

「あの、ご本人様でないと――」

「そのご本人様から訊くように言われてるんだがな?
 まあ言えないなら聞く必要もないな」
 
 がちゃ
 
 ふー、思わずキレちまったぜ、屋上行こうや。
 天空闘技場の屋上はさぞ見晴らしが良いんだろうなぁ。
 
「何の電話だ?」

 雑誌から目を離しもしないで尋ねてくる。
 まあ興味はないんだろうな、ゴンじゃないのは解りきってるし。

「テンクージャーナルとか何とか」

「…ああ、雑誌の取材だよ。お前がいない時にも一回あった」

「初耳っすよ!?」

 雑誌の取材! アイドルか!
 
 …冷静に考えたらこの美貌と爆乳と強さで話題にならんというものおかしい気はするな、テレビ放映もされてるらしいし。
 まあ爆乳に関してはプライベート画像でも見ないと解らんだろうけど。
 戦闘服はがちで戦闘用なので、中の下着も含めて絶対揺れないように出来てるから必然、かなり中に押し込める形なんだよ。
 よって試合が終わって脱ぐと汗でぬれぬれな――は、いかんいかん。
 思い出すと押し倒してしまいそうだ、自重する。
 静香ちゃんは我が儘だからな、自分がヤる気にならない時は何してもしてくれないし。
 スイッチが入るとこっちが修行でぶっ倒れてようが潤んで濡れた目で、本来釣り目気味な目を垂れさせて撓垂れかかってくるのだ。
 
 反則過ぎる。
 普段はボーイッシュを通り越して男っぽい態度が、餌を強請る子猫のようにすり寄ってくるんやぞ!?
 耐えられるかっちゅーねん!
 
 あれ? 
 まてまてプライベートが流出するという事かそれは!?

「ゆゆしき問題っすよ!?」

「前にテレビの出演の依頼もあったぞ。女性闘士は少ないからな」

 本気で興味ないのか、膝の上で丸まってるライキの背中を撫でつつ、念で操作して料理雑誌から視線を逸らさない静香ちゃん。
 しかし心配だ、ヒソカみたいなのに狙われたらどうしよう!?
 しかもあんな強ぇなんて反則やろ!?

「安心しろ。断った」

「安心出来るわきゃねーでしょ!?」

 あああ俺の静香ちゃんが誰とも知れん変態に犯されてしまうかも知れん?!
 
 べしん!

 あいた!?
 オノレ念弾め!
 
「阿呆な事考えてないでそろそろ――…ちょっと退け!」

 おおっ!?
 いきなり立ち上がる静香ちゃんに、ライキが床へ転げ落ちる――
 いや落ちなかったけどね、器用にソファーの上へ着地しまた丸まってしまった。
 うーむ、肝が据わってるというべきか。
 
 と文句を言う間もなくトイレへ行ってしまった。
 
 花摘み?
 
 お? お?
 これは……花見に付き物、必殺モンジャストーム?!
 酒、は静香ちゃん飲まないし。
 病気か? 病気なんか?!
 
「おおお?! ライキ起きろ静香ちゃんが病気じゃ!」

「らい?!」

 ぴょこんっと耳を立て顔上げ、視線が交差するとぴょんと床へ飛び降りた。
 この反応の早さは凄いよな、今まで寝てたのに瞬きする間もなく臨戦態勢だ。

「どうするどうする!?」

 もちつけ俺! いや落ち着け!
 病気だとしたら、何したら良いんだ?!

「落ち着け馬鹿者」

「あいたっ!?」

 気付かぬうちに立ってライキの周りをうろついていたらしい俺の頭に、念弾が一個ぶつけられた。

「…どうも体調が良くないのは事実だが」

 口をタオルで拭いながら、空いたソファーへ座り直す静香ちゃん。

「騒ぐ程じゃない。見ろ」

 と視線を動かせば、自動だが手動だか動きまくってる飛針だの鋼糸だの念弾だの。

「そいつらを維持出来る程度には平気だ。騒ぐ程じゃない」

 嘘や-。
 いや、そこまで酷くないのはホントだろうけど、はっきりと青ざめてるべ、静香ちゃんの綺麗な顔が。

「らい! らぁい!」

 ライキも静香ちゃんのだぼたぼなハーフパンツの裾を咥えて引っ張って、ベッドへ行けと怒っている。

「分かった分かった、横になるからそう急かすな、ライキ」

 抱きかかえようとして? 一瞬身体を曲げようとしてそのままベッドへ向かい、横になる。
 よく分からん。
 そしてベッドの側、静香ちゃんが転げ落ちたら受け止められる場所へ陣取るライキ。
 忠犬ならぬ忠ネズミの鑑やな、全く。ふっといネズミだけど。
 
「すまんがトマトジュース持って来てくれ」

「ういー」

 最近よく飲むよな、トマトジュース。
 料理にもトマト関係が必ず並ぶし。
 いや身体に悪いもんじゃないし、俺も好きだから良いけどさ。
 
「らい!」

 と尻尾と手で念弾だの宙に浮いてるのを指し、怒鳴るライキ。

「分かった分かった」

 苦笑しながら静香ちゃんが手を伸ばすと、念弾が次々に手に吸い込まれるようにして消えて行き、フワライド人形と鋼糸、飛針が最後に纏めて手の中へ収まった。

「片しておいてくれ」

「うっす」

 受け取る俺。
 
「寝間着に……着替える必要はないか」

「このまま寝るさ」
 
 今の静香ちゃんはだぼだぼのハーフパンツにだぼだぼのオフショルダーのシャツ、そしてキャミソールのヒモがエロい!
 で、三つ編みのお下げと大分ラフな格好だ。
 ノーブラのおっぱいが揺れるぜ、可愛いぜ。仰向けに寝るとね、おっぱいがでれっと横に垂れる、エロい!
 服越しでも分かるってんだからなーエロスだなー静香ちゃんの身体は。

「トマトジュースは?」

「あ、今持ってくる」

 いかんいかん、見とれてしまった。
 もう数え切れない程裸だって見てるんやけどね、まだまだ見飽きない。

 居間まで行ってとりあえず手に持ってる色々をテーブルに置いてっと。
 …内線で先生達に連絡しておくか。

 あ、床に散らばったチョコロボ君をライキが食べてる、意地汚いぞ!
 まあ捨てるのも勿体ないから良いか。
 

****
 

「この――」

 ベッドの側で大きく息を吸い込む先生。

「大馬鹿者がぁぁぁ!!!」

 うおう!
 とっさに耳を塞ぐテーブルを囲んで座る俺とサダソ、貂蝉と、ベッドの上、先生の前で正座中の静香ちゃん。
 ……それなりに長いが、静香ちゃんが頭から怒られて反論一つしないで唯々諾々としてるのは珍しいな。
 ライキはボールの中だよ、説教の邪魔だから。
 
「おぬしがこんな阿呆な事するとは、流石に思わなかったぞ」

「いや、その……確信がなかったし……」

「では何故調べんのだこの馬鹿弟子がぁっ!」

 何故か師匠ぉぉ! という声が聞こえたが幻聴だろう。
 それにしても何に怒ってるんだ?

「先生、何をそんな怒ってんすか?」

 ……おい、サダソにまでこいつ何言ってんだって目で見られてるんだけど。
 
「最近トマト関係ばっかっすよね? 姐御」

「うむ」

「米料理の頻度が減ったのは匂いが気になるようになったからぁ、だったしからぁん?」

「ああ、そう言ってたな」

「で、お酒も飲まない姐御が吐き戻すようになったんっすよね?」

「うん。別に食い過ぎてないんだけどね、見てる限りじゃ」

「で、最近気怠げな感じだったかしらぁ?」

「色っぽいよね! 美人が気怠げにしてると!」

「……シズカ、こいつ馬鹿じゃろ」

「言われなくても知ってます……」

 なに、この集中視線の痛さ。

「……シズカ、月のモノは何ヶ月来てない?」

「2ヶ月ほど……」

「はい、どぉぞん」

 貂蝉から何か手渡されると、少し引いて、おずおずと受け取り立ち上がりトイレへ向かう静香ちゃん。
 凄いアレな顔してたな、そう、例えるなら赤点確実の試験を受ける直前の顔みたいな。
 
 ちなみに俺は高校三年、そして専門学校と赤点1度もないぜ。
 士郎さんが怖かったからなー。
 
 
 そして暫くして。
 
 
「……陽性、でした」

 喜んでるのか悲しんでるのか分からない、というか自分がまず分かってなさそうな静香ちゃん。
 全員でテーブルを囲む。
 ちなみに俺がコーヒー淹れた。ちょっとしたもんだぜ? 士郎さんに鬼のように仕込まれたからな。

「……とりあえず、おめでとう」

「はい……」

「……マジで?」

「ああ」

 えーと、おめでたという事はあーと、じゃない、えーと。
 あーと……
 
「いやっほぉぉぉぉぉ!!?」

 子供! 俺と静香ちゃんの子供!!
 
「マージーデー?! いやっふぅぅぅぅ!!!」

「落ち着け馬鹿者」

 痛ぇっ! しかしこの痛みすら今は喜び!
 テンション上げすぎて部屋の中飛び回ってたら杖で引っぱたかれてしまった。
 とりあえず気を落ち着ける為に椅子に座り直す。

「で、いつ産まれるの? 名前なんてつけ――ぶべらっ!?」

「落ち着けと言っておる」

 頬を突かれて超痛い、横島です。
 纏しててもこの痛さって、というか痛みを感じるまで何されたか分からない辺り、やっぱすげーわ先生は。

「で、シズカは何を悩んでいるのかしらン?」

 俯いたまま押し黙る静香ちゃん。

 これはアレだな、どうでも良い事とかどうにもならない事とかで悩んでるな。
 というか、静香ちゃんが顔や態度に出す悩みってそういうのばっかなんだけど。
 そしてなんで悩まないで即断するの? というような事は大抵終わってから聞かされる。
 なんという我が儘お姫様。
 
「あー、ちょっと席外してもらって良いっすか?」

「……まあよかろう」


****


「まさかデキ婚する事になるとは思わなかったすねー」

 椅子をくっつけて並んで座る俺と静香ちゃん。

「…うむ、余りみっとも良くないが、ここに至っては仕方有るまい」
 
 このアマ、俺が子供出来たから別れるとか言い出さないか、かなり真面目に怖がってたな。
 いつもならコレを出汁にエッチなお仕置きと行くが流石に今日はな。
 というか、妊娠初期は過激な運動だって駄目らしいのによくもまあ殺し合いの見せ物なんぞに参加したわ、全く。

 とりあえず精神的に不安定すぎる静香ちゃんの肩を抱き寄せ空いてる手で、服越しにお腹を摩る。

 しかし一昔前は「別れるなら好きにしたら?」と言わんばかりの態度だった事を思うと感慨深いモノがあるな。
 子供が出来たという事は、だ。
 天が裂けようが地が割れようが静香ちゃんが俺と別れる事はないという事なのだよ、ふふん。
 一部の根性あるタイプ以外の子供からは怖がられるけど、子供好きだしなー、まかり間違っても自分から離婚しようなんて言えないタイプだと言うのはお見通しなのだよ。
 だからってそんな阿呆な事はしないけどねっ!

「子供か~…想像もしてへんかったわ」

「…それは私も同じ事だ。
 ヤる事ヤってたのだから、出来て当然なのにな。
 安全日だからと言って妊娠しない訳ではないのだというのがよく分かったよ」
 
「イキが良すぎたかなー」

「…バカが」

 静香ちゃんから馬鹿戴きました! 我々の業界ではご褒美です!
 にしても声に力ないな。
 俺の肩に首から上を預けるように寄り添って、お腹を摩るのを許してくれているのだが。

「なーにが気にくわないんすか?」

「……その、私にまともな子育てが出来るかどうか…そもそもちゃんと産めるのか?
 もし、変な障害持ってたら……そもそも私が親になって良いのか?」

 うん、ホントどうでも良い事で悩んでた。
 正確にはどうにもならん事で悩んでた。
 なんだろーねー? 普段は即断即決速戦速攻で竹を割ったような性格してる癖にドツボにハマるとうじうじと。
 可愛いけどねー、憂い顔の静香ちゃん可愛い!
 
 だが一流の静香ちゃん研究家である俺は見抜いている。
 もっと別の何かで悩んでる事を。
 いや正確に言うとさっきのもホントだろうが、その根本的な原因を語ってない感じか?

「静香ちゃん――」

「んっ――」

 お腹を摩る手を顔に添えてキス。
 うむ、上手く行った。
 つきあい始めは(顔が)気持ち悪いわと殴られたりな……唇突き出したらあかんらしいわ。
 いやー静香ちゃんの口の中は旨いなー柔らかいなー。
 舌を絡ませるとおずおずと返してくれる、気持ち良いし美味しいし。
 トマトジュースの味がします。

 キスすると目を瞑っちゃう静香ちゃん可愛い。
 どうでも良いけど可愛いばっかだな、可愛いから仕方ないけど。
 一昔前は綺麗とか格好良いとかばかりだった彼女が可愛い! この感動を自慢したい。
 
「ふいー。静香ちゃんのキスは旨いなぁ」

「…ふん」

 ぷいっと顔を背ける静香ちゃん可愛い!
 と、いい加減マジにならんと。
 静香ちゃんは鋭いからな、こっちが洒落や本気にならずにやってる事にはまず本気になってくれる事はないのだ。
 逆に言えばマジで話せば本気で話してくれるのだ、話せる事なら。

 両手で静香ちゃんの頬を挟んで、こちらへ向かす。
 目を見る、綺麗な黒曜石の様な目。

「隠し事はなしよ? 大丈夫、静香ちゃんを嫌いになる事だけは絶対有り得ないから」

 じーっとこちらの目を見つめてくる。
 沈黙と視線が痛い、目を逸らしたくなる誘惑に耐えて見つめ合う。
 静香ちゃんの瞳がぶれる、揺れる。
 迷ってるなぁ。
 
 どれだけ見つめ合ってたか。
 ぽつり、と静香ちゃんのハスキーな声。

「………前世って信じるか?」

「…んー? まあ有っても良いし無くても良いし。今が大事なんで正直どーでも」

「あるんだ、少なくとも私には……前世の記憶が、ある。
 生々しく死ぬ瞬間までの記憶がな――」
 
「泣かんでもええがな」

「五月蠅い――お前に解ってたまるかっ! いきなり理不尽に殺されて!
 気付いたら今の私で! 前の人生を全て否定されたようなもんだ!」
 
「はいはい、落ち着いて。で、それがどうしたの?」

 ぎゅっと抱き締めると向こうからも抱き締め返してくれた。
 うほっ、ノーブラの胸が押し付けられてたまらん!
 アレだね、おっきくなったかもってマジだわ、妊娠のせいだ。

 うひっ首筋に噛みつかれた、てかキスされた。
 こそばゆいな。
 
「……前世の記憶があるんだ」

「うん、それで?」

「………」

「………?」

「前世の――俺は男だったんだ」

「それがどうかしたんすか??」

 がばっと俺の首筋に頭を預けてた静香ちゃんが身体を起こして、こっちをまじまじと見た。
 
「……男だったんだぞ?」

「前世はでしょ?」

 まー正直前世云々眉唾だが、念能力なんぞ見ればなぁ?
 元の世界でだって幽霊やら化け狐やらいたわけだし、あり得るかもとは思える程度の経験はしてる訳で。
 異世界とやらにも来てしまった。
 
 つかさー?
 中身が男だったとしても肉体は普通に女なのは俺がよーく解ってる事だし?
 だいたい中身にしたって前世って事はもう20年以上女の子してる訳で。
 ボーイッシュ通り越して男らしいトコあるなと思ってた謎は解けたけどねぇ?

「別に今更男になりたいとか言うんじゃないんでしょうが」

「そりゃあな……」

 ポッと頬を染める静香ちゃん可愛い!
 これはエッチぃ事考えた時の顔だな、誘ってるつもりはないんだろうけどさ。
 どう考えても押し倒してくれって言ってるよね、しないけど。

「だったら問題なし! 俺のお嫁さんなんだからそんなどーでも良い事気にしなくて良いっすよ」

 ぎゅーっと抱き締める。
 うーん、ノーブラの胸がけしからん程に気持ち良い。
 あれだけ筋力があってこんなに柔らかいんだから女の子…って年でもないけど、女の身体って不思議やねぇ。

 お、一度腕を解いて? おお、静香ちゃんが俺の太ももの上に座って来たー!
 しかし俺も強くなったもんだ、昔なら重くて呻いていたかも知れん。

 対面座位そのものな姿勢で、しがみつかれる俺。
 服越しでも感じるノーブラの胸の柔らかさとジーンズ越しに感じる尻の感触がたまらん!
 しかしここで押し倒したら色々台無しや。

「まあ……その、アレだ……
 色々思う所がないではないが……うん……」
 
「なんすか?」

 耳に齧り付いたら怒るやろーなぁ、耳は弱いからなぁ、静香ちゃん。
 部屋ではポニーでなくお下げにしたり、首の後ろで結うだけにしている綺麗な髪に手を通す。
 こんだけ長いのに一度も引っかからずにすーっと流れる辺り、凄いよなぁ。
 髪の毛の匂いもええ匂いやぁ…シャンプーの匂いだろうけど。
 ああ、しかし緊張の汗をさっきまでかいていた静香ちゃんのからd――
 
「聞け」

「ぐぇぇぇぇ!?」

 首っ! 首締まってるのぉぉぉ!?
 タップタップぅぅぅ!!
 
「阿呆な事考えるな!
 大体! こ、こっ! こういうのは! 男から言うものだ!」
 
 うえぇ…痣になってねぇかなって位締め付けおってからに…全く。
 
「こういうのって?」

「……」

 あ、逆鱗に触れたわ、俺オワタ。
 まてまてまて、折角孕ませたのに人生投げ捨ててどうする。
 やべ、久しく見なかった凍り付きそうな視線! ぞくぞくしてくるぜ!
 いやいや、ゾクゾクしてる場合じゃねーだろ。
 
 しかしこれは何をしたら…あ、ああ、そーいや。

「――結婚してください、静香ちゃん」

 ガキだけ孕ませておいてプロポーズしてなかったわ。
 ったく。男ならこんなん拘らんちゃうか?
 絶対自分で気にしてる程男の成分残ってねーよ、静香ちゃんは。

「――うん、喜んで」

 泣くほどの事じゃないんじゃね? 
 それともそんなに嬉しかったのか。
 そしてそんな静香ちゃんは有り得ない程綺麗に笑っていた。
 あー…これを惚れ直すと言うんだな、実感したわ。
 

****


妊娠発覚→告白。
TS多重クロスオリ主がトリップ先の異世界で妊娠出産はきっと初めての試み!(多分)

AA略「よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが
「誰もやらなかった事に挑戦する」とほざくが大抵それは
「先人が思いついたけどあえてやらなかった」ことだ。
王道が何故面白いか理解できない人間に面白い話は作れないぞ!」

という四次元殺法コンビさんの科白を噛みしめながら頑張ります。
それにしても四次元殺法コンビさんは良い事言いますね。



[14218] 番外編シリーズ2-14
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/05/21 17:10

「さて、今後の事を話し合う必要があるな」

「ですね」

 再びテーブルを囲み、話し合う俺達。
 顔赤くなってないか?
 うう…プロポーズされるのがこんな恥ずかしいもんだとは思わなかった。
 あの馬鹿はいつも好きだ愛してるとか言ってるけど、あんな重い言葉で言われるとは……うう、恥ずかしい。
 いや誰も聞いちゃいなと思うんだけどね、言わなきゃばれないとは思うけどね。

「えーとぉ、現状を確認すると静香ちゃんは1勝無敗で残り85日、忠夫ちゃんは戦績0で残り46日ねぇン」

 いかんいかん、頭を切り換えねば。

「サダソは今は塔に登録していない、と」

「妊娠の状況は大体2~3ヶ月か。大体来年の――5月から6月辺りかの?」

「まあ二人で示し合わせれば、どうにでもなるっすね」

 例えば横島と俺が第一希望から第三希望まで『二人同じ日』を申請すれば、横島の不戦勝で終わり、その後の90日を稼ぐ事が出来る。
 何度も出来る訳が無い――200階以下で何度も負けられないのと同じ――が、一回くらいは問題ないだろう。
 横島以外に勝ち星くれてやるのは癪だが、3敗までは問題ないのだから85+270=355日は間を開けられる。
 現状で妊娠2ヶ月だとしても、残り220~230日前後で産めるハズだから、100日近く余るな。

 現在1997年の10月28日だ。
 妊娠の一ヶ月は28日計算らしい。
 つまり290日だ。

 最終月経日が0日計算なので、えーと……いつだよ。
 確か……えーと……ああ、一回200階行って登録拒否した頃、かな。
 うむ、生理痛の為にピルを飲んだのを思い出したから間違いない。
 アレが9月2日位だったハズ。
 という事は54日か? 2ヶ月は過ぎてるな、うむ。

 という事は1998年の6月20日が290日目だな、その通り産まれるとは思わんが。
 で、原作のハンター試験が1999年の1月だから、6ヶ月位余裕がある。
 まああくまで目安だが出産から運動出来るようになるのが通常の産婦で2ヶ月ほどと言われているので、俺なら余裕で3敗の後、次の試合には参加出来るだろうしハンター試験も余裕で参加可能だろう、うむ。
 
「とりあえずシズカは天空闘技場を後にして、何処か安全な場所へ身体を移さねばな」

「嫌です」

 キョトンという顔をするサダソを除く一同。
 そんなおかしい事言ったか?
 
「あのねぇ、静香ちゃん? サダソちゃんが人質に取られそうだった話はしたと思うんだけどぉン?」

「なんすかそれ!?」

 本人の知らぬ間に片付けた、流石は貂蝉というべきか。

「タダオとシズカから勝ち星を稼ぐ狙いじゃろ」
 
「そんな人質なんてセコイ事――」

「フロアマスターの特典、そしてバトルオリンピアの特典。
 目が眩んでもおかしくないだろう? 生半な奴ではな」
 
 新流派設立とかは微妙な気がするが、これは俺が心源流が最強、というかネテロ師範最強なのを知ってるからだしなぁ。
 200階クラスとは言え天空闘技場の闘士の誰かに教わる位なら心源流の扉叩くわ、俺なら。
 まあそれでも色々と旨味のあるフロアマスターなのだ、特に障害持ちになってしまった奴らはここで一旗揚げないと厳しいのだろうし。
 
 というか原作で目の前のサダソがやってた事だしなぁ。
 思うところがあるのか、俯いてしまったサダソ。
 
「まあサダソですら人質にされる可能性は高い。
 であれば腹が突き出た女なぞ考えるまでもなかろうよ」
 
 それはその通りだけど。
 それに関連してもうムリヤリ起こそうかって話になってたんだよね、サダソを。
 人質だけならまだしも、嫌がらせで五体不満足にされたら可哀想だし。

「人質取って勝ち星稼ぐとか最低だろ!」

 何というお前が言うな。
 いやもはやパラレルワールドみたいなもんだから良いんだけどさ。
 
「そぉよぉ。
 今静香ちゃんがしなきゃならないのは安全に身を休める事よぉん?」
 
「それは分かってるが…」

「あ、兄さんだけ置いていくのが嫌なんすね、浮気の心配とか!」

「マテヤ。
 お前嫁さんが腹でかくしてる時に浮気なんぞするか! そんな外道ちゃうわ!」
 
 相変わらず変なトコで律儀というか自分ルールに忠実な奴だ。
 ま、キャバクラ風俗位は気にしないけどな、性交渉どころか添い寝すら当分無理だし。
 妊娠中の浮気率は高いらしいけど、逆にするとは思えないんだよな。
 変なトコフェアというかこいつの親父もそうだけど、バレないようにヤレる癖に何処かバレるような隙をわざと作ってるような印象がある。

「馬鹿でスケベじゃが約束だけは守るからな、そういう意味では安心して良いと思うが」

 ただし女との約束と自分の中のルール限定だけどな、守るのは。

「静香ちゃんだけくじら島に戻すってのも心配だけど、ここにいる方が今は心配だし。
 大丈夫、浮気なんて絶対せんから。ゴンもミトさんもばーちゃんも久しぶりに会えば喜んでくれるっしょ。
 だから、安心して――」

「解った……」

「……」

 解ってるんだ、理屈では。
 原作のサダソ達みたいな真似する奴は絶対いるし、人質にされるのがサダソならまだしも腹の中の赤子じゃ何も出来ん。
 ゴン達に会えるのは良いけど、さ。
 離れたくないな……
 俺を抱き締める横島の胸の中で、思う。

「………ああ、姐さんは兄さんと離れたくないって事っす――おおうっ!?」

「ほう、手加減したとは言えよく受け止めたな」

 周なしで飛針を飛ばしたが、見事一本受け止めた。
 なかなかの上達ぶりである、褒めてやろう、心の中で。

「んー…なんなら、金が稼げる訳でもなくなったんだし、俺も無理してここにいなくても良いんじゃないの?
 試合なんてしなくても別に――」
 
「駄目だ! もっと実戦を積まないと、駄目だ!」

 先知ってるとこういう時に困るな。
 横島の方が理論的には正しいんだよ、強くなるにしろまだまだ俺らは若いし。
 しかしいつヒソカクラスの化け物に遭遇するか分からん以上、鍛えておく必要はある、何処までも。

「まあ、忠夫ちゃんが基本覚えきったらとりあえず合格な訳だしぃ? それから合流すれば良いんじゃないかしらぁん?」

 腕をL字にして悩むそのポーズは貂蝉さんには似合わないと思いますよ、口には出さないけど。
 
 まあその辺りが妥協点か。
 ゴンキルが2ヶ月弱で四大行まで修めたんだから、横島なら半年もかからんハズ。
 まして俺に逢いたさで加速がかかるハズだからな。
 理屈は解るんだ理屈は。
 胸が痛いなぁ……

 全く……女になるってのは弱くなる事ばかりだな……


****


ドン!

「おおお!?」

 吹き出てるな。アレだ、噴き上げっぱなしの間欠泉って感じか。
 慌ててるサダソが滑稽ではあるが、試合中にダメージとともにこれやられたらそらそのまま死ぬわな。
 ダメージ+生命エネルギー全放出だし。

「ぶるぁぁぁ! お・ち・つ・き・なさぁい!」

「あんまり落ち着ける要素がない気が!」

「慌てたらますます纏が出来なくなるぞ」

 見学中の俺の気楽な声。
 ちなみに横島は先生と模擬戦中。

「出し尽くしたら死にはしないまでもぶっ倒れるわよぉン!
 オーラを身体にとどめようと念じながら構えなさい!
 目を閉じて自分のイメージしやすいポーズで構えるの!」
 
 おお、貂蝉が真面目モードだ。
 それにしてもこの筋肉ダルマを貂蝉と呼ぶのに慣れてしまった自分が恐ろしい。

「そしてオーラが血液のように全身を巡る様子を想像する!
 頭のてっぺんから右の肩、手、足、そして左の足、手、肩、再び頭!」
 
 お、吹き上がるだけだったオーラがだんだん身体の周りで揺らいで来たな。

「そしてその流れが次第にゆっくりと止まり、身体の周りでオーラが揺らいでいるイメージを思い浮かべるの!」

 お、おっ? オーラの流れがゆっくりしてきて――
 
「あ」

 ぼうんっと音を立てたかのように再び吹き上がった間欠泉状態に戻ったサダソのオーラ。
 
「惜しかったわ。もう一度今のイメージ――あらぁん?」

 ぱたり、と倒れ込んだサダソ。
 オーラが尽きたな。本当に微かに垂れ流し状態のオーラが立ち上っている。

「あららぁン。やっぱり無理だわねぇ」

「まあ、妥当なトコだな」

「今の様子なら1週間もしないで纏は出来るようになるわねぇん」

 そして気絶したのかぴくりとも動かないサダソをお姫様抱っこする貂蝉。
 ……ま、他人事だし、良いか。
 そのまま貂蝉のベッドに横たえられる。
 
「さて、静香ちゃん」

「む」

「いつ、くじら島だったかしら? そこへ向かうのかしら?」

 む、真面目モードだな。
 テーブルの椅子に座っている俺と向かい合う形で腰かける貂蝉。
 どうしてこいつがビキニパンツ一丁なのに、誰も突っ込まないん

「腹が目立ち始める前、叶うなら今すぐでも、という所か」

「それが最善ねぇ」

「だが私と忠夫は国籍もないんでな、正直密航しかないぞ」

「それは大丈夫よ。先生がハンター証持ってるもの。
 問題なくチケットは買えるわ」
 
「それなら良いが…そうだな……荷物纏めて……二、三日と言った所か」

「そ。じゃそれに合わせてチケットの手配はしてあげるから」

「はああ……」

「そんなに別れ難いかしら?」

「…それもないではないが」

 問題はなー、勝手に念能力開発されるのが困る。
 絶対18禁な能力作ってしまうに決まってるのだ、放っておけば。
 
「部屋で休ませてもらう。世話をかけたな」

「いいのよぉん」

 ひらひらと手を振る貂蝉を背に扉を開け廊下に出て、自部屋へ戻る俺。

 文珠以外じゃ帰る方法なんて思いつかん、強化系であろうとも是が非でも文珠を修得してもらわんと。
 行き当たりばったりな発の修得は俺が身をもって実感してるからなぁ……それなりに応用技も作ったけど。
 うむ、二人で両親に孫の顔を見せる為にも文珠を覚えてもらわねば。
 是非ともなのはと美由希相手に叔母さんと呼ばせたいのだ。
 ふふふ、中学生なのに叔母さん。絶対にお姉さんとは呼ばせないぞ。
 
「まあ、暫しの別れになるんだから、ゆっくり準備しなさいな」

「気遣い感謝する」

 あーあーどーするどーする?
 側にいなきゃあいつが何するか解らん。
 予想の斜め上を走り抜けるのが得意技みたいな奴だからな。
 横島以外文珠なんて作れる訳がないんだ、何が何でも文珠を作るよう導かねばならんのだ。
 本当なら四六時中張り付いて世話してこちらの魅力で酔わせてでも泣き落としてでも言うこときかせねば。
 そうすれば俺もあいつも帰れるのだからwin-winという奴だな、うむ。

 ……独善的だという自覚位ある。しかし、他に手が思いつかない。
 瞬間移動系は考慮したが戦闘用の短距離ならいざ知らず、遠距離だと自分のオーラか神字で目標設定していないとどうにも厳しいらしい。何も目標のない場所への転移やノヴのように外から出口の設定がされていない場所への念空間経由の移動は、もはや特質系の領域だと先生に言われた。
 もう横島の文珠以外は帰れる気がしないのだ。
 
 そして、今は我が子の為にも今は離れねばならん。
 戦って負けるつもりはないし、旅団クラスからでも逃げ切る自信だけはあるが、我が身一つならという条件ならばだ。
 
 あーもー!
 どうすれば良いんだ?!
 念に対する実戦という意味で横島がここから離れるのは論外!
 まして未だに纏を修得した程度!
 そういう意味では俺だって実戦不足なんだから本来なら離れる訳にはいかんのだ!
 
 分身がもっと簡単な能力だったら作って四六時中横島の側に置いておくのになっ!
 
 ……ん? …ん??
 
 分身ほど我が身に似せる必要は全くないな、よく考えたら。
 その、アレだ。別に横島の性処理を手伝う必要はない、わけだし。
 
 念人形、いや念獣。
 どーせ具現化系は遠いのだ、これ以外には使わないという制約を付ければ問題なく作れるだろ、多分。
 イメージ修行……どうするか、いや単純に行けば多分……?
 
 まてまて、まず何を具現化するか、だ。
 
 横島を導くんだから、それに相応しい……何か頭を掠めたぞ。
 思い出せ――考えろ――
 
 気付かぬうちに自分の部屋のベッドの上で正座していた俺。
 気付いたところで今はどうでも良いが。
 
 横島――導く――具現化――俺の知識――念能力開発の補助――
 ――能力開発の補助――
 
 心眼!!
 
 そーだよ! アレを具現化すればいいんだ!
 四六時中監視も可能だし(しないけど)喋るから横島の相談役になれるし、こっちの知識を丸ごと使えるようにすれば文珠まで導いてくれるだろう。
 目玉一つだから具現化するのに時間はかからない――訳がないな。
 追い詰められれば弓矢くらい作り出せるんだから何とかなるだろうか?
 なんとかする!
 
 心眼さえあれば横島が文珠を覚えないという事は(多分)なくなり、俺が寂しい想いをするだけで済むのだ!
 
 必要なのは念に対する知識と――めんどい、俺の知識の全てを篭めて、人格は使ってない表層人格ペルソナA’をメインに据えて具現化する。
 能力は――横島の相談相手になれればそれで良いんだけど奇襲用位の意味で原作の怪光線を、念弾? かめはめ波みたいなのはなんて言うんだ? 念光線? まあそれを出せるようにする位か。必要かどうかは知らんが俺が放出系なんだからそっちは問題ないか。
 後は特にないな、メインは知的な意味で横島のサポートだし。

 制約はバンダナ……くらいで良いか。
 能力的にはおまけ程度に念弾が出せる、自ら動く事も叶わない瞳型の念獣。
 名前は何にしようかな?

「うがー! あの爺いつかシメる!」

「無理だろ」

 猛々しく叫びながら部屋へ入ってきた横島についツッコミを入れる。
 大分ぼろぼろになった練習着――原作のズシが来てたような服だ――で、とりあえず身体には傷一つないのだから、先生の発は大したものだ。

「お、なんでベッドに正座?」

「いいから正座だ」

「うい、まだーむ」

「馬鹿言ってるんじゃない」

 にへらにへらしやがって!
 全く持って腹立たしい。
 膝をくっつけ合うような距離で正座して、向かい合う俺達。

「暫く離ればなれになる」

「ん。嫌だけどまあ仕方ない。静香ちゃんが望む以上はね」

「…すまん」

「別に謝らんでも。ま、あのヒソカやら貂蝉みたいなのと出会って静香ちゃんや赤ん坊を守れませんでしたなんてのは嫌だし」

「私だって離れたく、ないんだ」

 くっ! 顔をまともに見えん!
 こんな事言われて嬉しいと思ってしまう自分に悔しい!

「お、今のは高得点?」

「五月蠅い馬鹿」

 顔が熱い、自覚出来る程に。

「それで、だな」

「強引に話を進めようとせんでも」

「それでだな!」

「はいはい」

「お目付役を作る事にする」

「作る?」

「別に浮気とか心配してる訳じゃないぞ、お前が真面目に修行するか心配なだけだ」

 ………しまった、口に出しておいてなんだが。
 これじゃ浮気の方心配してるみたいじゃないか!
 
 ……まあいいか。横島だし浮気っぽいのは事実だし、本気ではしないけど。

「ふーん、心配っすかぁ」

 くぅっ! にやついたこの馬鹿の顔面をぶん殴ってやりたい!

「ふんっ…動くなよ」

 ベッドの上をにじり寄って正座している横島を押し倒す。
 両手で頭を固定して瞼にキスする。

「おおお?」

「黙ってろ……」

 イメージ修行だからな、嘗めたり嗅いだり触ったり絵を描いたりしないとな。
 という訳で嘗める。

「ひょわっ!?」

 瞼を捲るように舌を差し込むと変な声を上げた。
 まあ変な感覚だろうな、目玉嘗められるなんて経験はないだろうし。
 人によっては性感帯らしいがいかがなものか。
 あと嘗めるで思い出したけどゴリはゴリラを嘗めたりしたのかなぁ?

「ちょっ!? なんすか?! あ、ヤって良いの?!」

「駄目、だ……んっ…妊娠初期は安静が第一だ……っ…安定期に入ったら……」

 うう、変な気分になりそうな自分が怖い。
 それにしても瞳というのは変な味だな、涙とは微妙に違うし。

「安定期に入ったら、妊婦さんプレイが出来る、ぞ?」

 あーもー恥ずかしい!
 顔が熱い! 馬鹿みたいなこんな恥ずかしい科白を自分が言う時が来るとは!

「っくっ…強すぎだ馬鹿者!」

 唐突に抱き締められた俺。
 ぐにゅっと胸が横島の肩口辺りで押しつぶされた。
 
「うへへへ」

「キモい」

「だって静香ちゃんがそんな事いうなんてさー!」

「ふん…ん……」

 左目を一通り味わったので右目をぐにぐにと瞼の上から触る。
 直接触ったら問題だろうなぁ…
 死亡確認された選手の目玉でも触らせてもらうか? 激しく気持ち悪いが。
 そうだ、貂蝉にチケットを取り直してもらわないと。
 一ヶ月もあれば出来るだろうという妙な確信がある。

「それにしても何で目嘗めたり触ったりするん?」

 くすぐったいというか違和感が酷いのか、余り良い顔はしていない横島。
 まあ仕方ないと想ってもらおう。

「具現化系能力で発を作るにはイメージ修行が大事だからな」

 あ、出し入れ出来る具現化系のメリットは要らんな、出しっぱなしで良いのだから。
 瞼を閉じられるようにすれば普通のバンダナを装う事も出来よう。
 
「ふーん?」

 そういやこいつはまだ練の修行入る前だったな。
 六相図も知らんのであった。

「それはそうと、胸おっきくなったと思ってたら、妊娠してたらそら大きくなるわなぁ」

 たぽたぽと俺の胸がまさぐられる。
 ん、まあ俺も目を弄ってるしあいこだな。

「……これ以上は流石にみっともなさ過ぎると思うんだがな」

「最大で二倍くらいでっかくなるらしいっすよ」

 …………

「なに固まってんの。いくらなんでもここまで大きいおっぱいがそこまででかくなる訳ないっしょ」

 ふにふにと服の中に手を入れて俺の胸を楽しみだす横島の言葉が遠い。
 
 もしこれが今でさえ1m越えてるバストサイズが130㎝、150㎝とかになったらどうしよう……
 キモイ、キモ過ぎる!
 うう……念能力でどうにかならないか先生に訊かねば……
 あと離れてる間の修行に関しても訊かねば。

 どうかコレ以上大きくなりませんように!
 ああ……神なんて信じられない俺は何に祈ったら良いんだ……




 この後、貂蝉にチケットを一ヶ月遅らせてもらい、先生の元で具現化系の修行も追加し、ついに横島の額に瞳を作る事に成功したのだ!
 今思えば相談相手が欲しかったのだろう、横島の、ではなく自分自身の。
 この世界の確定された未来と元の世界への帰還への不安、そして妊娠に対する恐怖と喜び。
 端的に言って混乱していたのだろう。
 
 しかし俺は発をいくつ持てるのだろうか?
 才能チートと言われてしまえばそれまでなのだが……

 サダソと鑑を見た横島の「キモっ」という声に拳で返答した俺は悪くないハズだ。


****


能力名他は次回を待て。
相当強引ですが一応、理屈はありますので詳細を待ってください。

自分の中の理屈を万人に理解してもらえるよう説明する事の難しさよ…



[14218] 番外編シリーズ2-15
Name: 陣◆cf036c84 ID:7d0b3044
Date: 2012/05/30 10:57



「あけましておめでとう、静香ちゃん」

《ああ、おめでとう、忠夫》

 新年の朝、1998年初の朝を繋いだ電話ごしに祝う二人。
 静香の声には寂寥の感が強い。
 横島もそれは感じているのだが、正直この状況を望んだのは静香なのだ。
 口に出して寂しいの? 等と訊けるものではない。

「ん、お腹平気?」

 代わりに自身の子供の事を尋ねる。
 そろそろ四ヶ月になろうとしている。

《ああ、少し目立ってきたが、この程度ならちょっと太った程度だな》

 声に嘘はなさそうだ。
 静香研究家の第一人者を自称する横島には静香の嘘は通用しないのだ。

「そ。悪阻は?」

《大丈夫だ、問題ない》

 ツッコミたいのを我慢する横島。
 電話越しとは言え大分力ある声の調子に、安堵する。

「無理しちゃ駄目っすよ?」

《解ってるさ。で、そっちはどうなんだ?》

「ふふん。もう練出来るようになったっすよ。そのまま凝も出来たけど」

《よく出来たな?》

「エロ本をじっと見るような感覚で」

《やはり阿呆だお前は》

「その阿呆の子供がお腹にいるのだよ、ふふふふ」

《ふん。この子達は私がしっかり教育するからな》

「この子、たち?」

《ああ、双子らしい。二卵性だがな》

「マージーデー? 静香ちゃんと恭也もそうだけど、そういう遺伝っすかね」

《そうかもな。うちの一族で双子は私と恭也だけだから、母親の方の家系かもな》

「大丈夫、俺は子供捨てたりしないしさせないよ?」

 既に恭也と静香の産まれや母・夏織の事は父・士郎から聞かされている横島である。
 静香がその手の事に恐怖と嫌悪を抱いているのは十分理解していた。

《…ふん。試合の方はどうなってる?》

「ん。とりあえず1勝したよ。登録期限ぎりぎりに登録して、静香ちゃんのとかち合わせたんだけど、どうも静香ちゃんと戦えなくてさ。
 ま、試合して勝ったから良いけど」
 
《そうか。無事で、良かった…》

 背骨をぞくぞくと快感が駆け抜けるのを感じる。
 横島の耳が、その声音に心底安堵した心根を感じ取ったからだ。
 軽く首を振って話題を変える横島。
 怪我はしなかったし雑魚だったが、妊婦に戦いの話などしたくない。

「それよかゴンはどうよ? ハンターになりたいって騒いでるんっしょ?」

 静香がくじら島に戻ってから、実は静香以上に横島に電話かけてくるようになったゴン。
 どうも横島が側にいないのが不満らしい。
 自分の父親が育児放棄してるようなものなのを理解しているので口には出さないが、如何せん小学生である。
 言葉の端々に横島を責めるような声が混じるのは致し方ないと言える。
 尤も、横島自身が側にいないのを苦に感じている為、そう受け取ってしまうだけかも知れないが。

《騒いではいないさ。ミトさんにはバレてないつもりで、色々特訓してるし私に師事している。
 まあ身体を鍛える程度に教えてるよ、余り動かないのも身体に悪いしな》
 
 ミトさんとしては複雑だろうなと思うがゴンの意志の固さは半端ではない。
 だかまあ、所詮なるようにしかならないし、今の横島としてはそんな事より静香のお腹の方が一大事である。
 
「無理しないでね」

《解ってる。最近はノウコちゃんという子が世話焼きに来るようになってな》

「へえ? つかあの島、ゴン以外に子供いたんだ」

《ああ、ゴンと一緒になって世話焼いてくれるよ》

「ありがた迷惑って奴っすね」

《ま、そういうな。赤ん坊なんて見た事ないんだから興味を持って当然だろう。娯楽も殆どない島だし》

「静香ちゃんは退屈じゃない?」

《退屈だ、身体も本気で動かせない。ま、悪阻自体は大した事ないし家事は出来るんだが、色々と匂いに過敏になって大変さ》

「無理しちゃ駄目っすよ」

《解ってる。お前も速く強くなってくれ。そ、の…逢いたい、からな》

「ん。俺も逢いたいよ」

《修行終わるまで駄目だからな》

「はいはい」

《じゃあ、な。また電話してくれ。修行の邪魔にならない程度にな》

「あ、そうそう」

《ん?》

「テレフォンセックスでもやらないか?」

《死ね!》

 がちゃんっ!

 勢いよく叩きつけられる音を避ける為に受話器を耳から離していた横島が苦笑する。
 
「はー…逢いてぇしヤりてぇなぁ」

 嘆息と共に漏れる本音。

「本音だだ漏れだし」

 横島の背後からかかる声。

「こっそり入ってくんなボケ」

「絶の修行っす」

〈気付いてて無視してた癖に何を言っているのか〉

「そういう問題じゃねーだろ、バンダナ」

 静香の妊娠が発覚して暫くして纏を覚えたサダソは今は絶の修行中であった。
 そもそもゴンキルや横島のように日常生活で気配を消しきる必要がある人間などそうはいないのだ。
 よってサダソは絶をしながら街中や闘技場内各施設を彷徨いたりして絶の修行をしていた。
 纏も意識している間は滅多な事では解けなくなっている、順調と言って良いペースである。
 
 そしてその修行の一環として街中や闘技場内で師匠とであるシンと隠れ鬼ごっこをしている。
 流石に犯罪を起こすつもりはないので、立ち入って問題ない範囲限定で、鬼を交互に努めて尾行の練習をしているのだ。
 今は休憩に入ったので横島の顔を見にきたところであった。

 横島の方は練と凝を可能になったので、今日から発の修行に入る所だ。
 発の修行――水見式による系統判別と系統性質の発現力の強化である。
 筆者の個人的には発の修行というよりは系統別修行Lv0という意味で捉えているが、これの修行が足らないと自系統に対する習得度と精度に影響するのだと思われる。

「いやー、いつ見てもシュールっすね、三つ目が喋るなんて」

「念能力ってすげーよなぁ」

〈凄いのは私ではなくおぬしと静香なのだがな〉

「そーなん?」

〈水見式をやってみれば解る〉

「いいなぁ、兄さん」

 サダソは羨望と嫉妬の念を篭めてその一言を吐いた。
 流石にここまで水を空けられれば何とも思わないというのが不自然だ。

〈サダソはまだまだ修行が足りん〉

「ぐっ…目玉に説教されるとはっ」

〈私は静香の知識をほぼ全て与えられているからな〉

 それはシンも認めるところで、貂蝉がご主人様をベータから守らないと等と言い残して失踪した今、横島とサダソの育成に大いに役立っていた。
 実の所あやふやな面もあった静香本人と違ってきっちりと知識として全てを継承している上、所謂原作で語られていない知識に関してもシンから授かっている心眼はコーチとして最適である。

「そーいやなんでそんな詳しいんだろうね、静香ちゃん
 どうもこっち来る前から使えてたみたいだし」
 
〈それも後で教える〉

「へいへい。んじゃぶっ倒れるまで練しますか――ところで後ろ」

「う?――痛っ!?」

「気を抜きすぎじゃ」

 いつの間にかサダソの後ろに立っていたシンが杖で小突いた。

「絶をしている時は周りに気を配れと言っておろうが。
 どのような達人であれ絶状態では裸で立っているのと同じだと何度言えば解るのじゃ」
 
「うっす」

 頭を摩りながらも頷くサダソ。
 事実、横島に言われるまで気付けなかったという事は、シンが敵であればこの時点で死んでいるという事だ。

「ふむ、今日からは寝てる間も訓練じゃ」

「うへー」

 原作のGI編でゴンキルがビスケにやらされた、気を抜くと石が落ちてくるアレをやるのだろう。
 似たような修行を士郎からやらされている横島としては、お前も苦しめばえーんじゃと言ったところか。
 ちなみに静香も似たような訓練は受けているので、寝てる間に円を維持しつつ何かがあれば反応して凝をするなどという芸当が可能なのだ。

「じゃ俺は師匠ともっかい修行してきます」

「おう」

「おぬしは練の修行をしておれ。午後には発の修行じゃ」

「ういー」

 部屋から出て行くのを確認して、呼吸を整える横島。
 
「はっ!」

〈練を維持し続ける事を堅と呼ぶ。
 静香は大体10時間ほど堅を維持出来るが、最低でも3時間は維持出来なければ使えん。
 まあ最初は30分も出来れば御の字だが〉
 
「これを10時間ってとんでもないな」

 オーラを吹き出しながら顔をゆがめる。
 自身を過小評価する傾向にある横島としては、自分と彼女の差を明確にされて些か凹んでしまう。

〈上級以上のハンターなら当然のように出来るがな〉

「うええ――あかん」

 オーラが吹き止みがくっと膝を突いて蹲る。
 四つん這いのまま、荒くなった息を整え始めた。
 流石に纏が解ける事はなく、薄くではあるが身体の周りをきちんと覆っていた。

〈ふむ、大体3分、覚え立てならこの程度か〉

「こ、このオーラを出し尽くした疲労感はパネェな…」

〈ところで静香が×××をされると悦ぶのは知ってるか?〉

「なぬ?!」

 がばっと顔を上げて、額を見るように上を向く。
 実際には自分が付けているバンダナを見る事など出来ようがないので意味はない。

〈どうもおぬしに×××されたいのだが口には出せないようでな〉

「なんと?!」

〈ふふん、静香はプライドが高いからな、口には出せないのだ〉

「じゃあ□□□とか***とかあまつさえ@@@な事とかも?!」

〈うむ、実例として静香は△△△する時は必ず×××するのだが〉

「するのだが?!」

〈続きは練をやってからだ〉

 いつの間にか色々と立ち上がっていた横島に気を持たせる心眼。

「オノレ――はっ!」

 再び練する横島。
 この時点で異様を通り越して異常である事に気付いていない。
 そう、横島は一度尽きたオーラを自力で回復したのだ。

〈ふむ。×××するのだが、その時大抵静香はおぬしに×××してもらいたがっているのだ〉

 それを解っている心眼が練の最中にもエロ話を続ける。
 正直、静香本人ですら触ったことのない場所を隅々まで味わっている癖にこの程度の話でと思わなくもない心眼だが、食い付いてくる以上有効利用すべきである。

「マジで?!」

〈うむ。だがしかしプライドが高く恥ずかしがり屋な静香は口に出せずにいる〉

「くぅっ! 言ってくれれば×××位してあげるのにっ!」

 悔しさからか一際強く吹き上がるオーラ。

〈他にも△△△する時に○○○をしてもらいたいと思ってもいる〉

「ふぉぉぉぉ!!!――あ、あかん」

〈ふむ、今度は5分か〉

「もう指一本動かせる気がせーへんぞこれ……」

 崩れ落ち床に横たわる横島。

〈師匠殿が戻ってくるまでぶっ倒れていろ〉

「へいへい」

 床の冷たさを頬で感じながら、滑らかで無機質な、ロボットのような声を聞く。

「……なんで静香ちゃんはこんな念について詳しいんだ?」

〈知ってるからだ〉

「俺達がいた元の世界には、念能力者はいないんじゃねーの?」

〈静香を除いていないな、全ての人類を確認した訳ではないが〉

「なんで静香ちゃんだけ?」

〈本人から訊け。ただし、嫌われる覚悟はしろ〉

「おめーな」

〈まあ、今更おぬしが嫌われる事はないがな。むしろ盛大に泣かれる覚悟をしておけ、尋ねるならばな〉

「死ねボケ」

 人一倍女性を好きで女性に甘い横島が、泣かれると解ってて尋ねる訳が無い。
 それを知っていてこういう言い回しをする心眼をぶん殴ってやりたい横島だったが、生憎指一本動かすのも怠いので罵るだけに留まる。
 
〈そんな事より今日はこれから発の修行に入るのだろう〉

「六相図やっけ」

〈ああ、静香は放出系、師匠殿は具現化系、貂蝉殿は強化系だ〉

「俺は何系やろ?」

〈それを調べる為の水見式だ〉

「ふーん」

〈静香が死ぬ程帰りたいと願ってるというのに、のんきなものだな〉

「けっ。解ってる癖に言うなよ」

〈おぬしとしては別にここで骨を埋めても文句は無かろうからな〉

「まーな。静香ちゃんがいればどーでも良いし」

 横島とてなのは達を可愛いと思うし大事であるのは間違いない。
 ただし優先順位は高町静香が最上位なのだ。
 無理して何もかもご破算よりは静香と二人きりで幸せになれば良い。
 ただし、そろそろ事情が変わってきたのを横島も感じている。
 
 もはや静香の中で横島が文珠を覚えて帰る事が唯一の希望だ。
 その期待を感じない程横島も鈍感ではない。
 別に自身は静香が側にいるなら帰らないでも何も問題はない。
 しかし、戻れないと、横島が戻る為の力を手に入れられなかったと知ったらどれだけ深い絶望が静香を襲うのか、横島にすら予想が付かない。
 
 それゆえに怖い。
 よりにもよって自分が無二の彼女を悲しませてしまうかも知れないという恐怖。
 その重圧に横島は耐えていた。

「で? 帰る為の能力とやらは覚えられそーなんか?」

〈我がここに在る。それが答えだ〉

「厨二乙」

 もう口利く気力もないのだろう、目を閉じると程なく静かな呼吸音だけが部屋にたゆたっていた。

 
****


「コップに入れた水の上に葉っぱを乗せ、コップに手を近づけ練を行う」

 横島を能力で回復させて味気ない昼飯を片付けた後。
 一頻り六相図とそれぞれの系統の利点・欠点等を解説した後、グラスを用意するシン。

「うい」

「そして起こる水の変化によって系統を判別する」

 横島、シン、サダソとテーブルの前に置かれたグラスを囲うように顔をつきあわせていた。
 事実、特質系を除く5系統のオーラは『水』に反応するのであって『葉』には影響がない。
 操作系は水が揺れる事によって葉が揺れるだけだ。
 原作中でネフェルピトーの水見式は『葉が枯れる』であった。
 ゴンキルでさえ最初は『ちょろっと水が溢れる』『微かに甘い』という変化であったのに対し、いきなり『跡形もなく葉が枯れた』というのは、ピトー達親衛隊の異様なまでの才能の証左なのだろう。
 はっきり言って、ポックルを殺さず指導教官にしてたら手が付けられない程の強さになっていたのではないかと思わされる事例である。

「サダソは未だ練を修めていないから見学じゃ」

「うっす」

「まず儂がやって見せよう」

 シンのオーラが充満し、翳した手からコップの水に不純物が混じる。
 所謂葉形のような薄い、クッキー程度の厚さのプレート状の不純物があっと言う間にコップの中を埋め尽くした。

「おー」

「水の中に不純物が出現するのは具現化系じゃ」

「ベッド作る能力っすね」

「自分の系統に合わない能力を作ろうとすると、本来必要のない苦労を強いられる。
 ゆえに自分の系統とやりたい事を一致させる事が肝要じゃ」
 
 コップをひっくり返して中身を捨てて水を足して葉を浮かべる。

「では横島やってみせよ」

 一歩前に出てグラスに手を翳す横島。
 
「ふー……はっ!」

 吹き出るオーラにグラスが反応する――
 
「なんと!」

 水が吸い上げられるように葉の上に集まり、小さなビーズ状の珠がいくつか葉の上に散らばる。
 
「……特質系か」

「あー…と?」

「具現化系でなく?」

 よく分かっていない横島とサダソ。
 
「具現化系は『水の中に不純物が出現する』であって、『葉の上に出現』ではない。
 ついでに『水が葉の上に集まる』『水が不純物に変化する』というのも五系統以外の結果じゃな、若干水かさも減っておる」

〈六相図に於ける他の五系統のうちに収まらない性質を持つのが特質系だ〉

「うむ。有名な所では100%当たる占いをする念能力者や相手の念能力を盗む能力者などが特質系だと言われておる」

 ハンターなど長くやっていれば、ネオンの占いは耳に入るし、盗賊の極意スキル・ハンターによって盗まれたハンターも相当数いるのだ。
 特に調子に乗った中級クラスのハンターが返り討ちに遭い能力を喪失するパターンが多い。
 そしてその分だけ幻影旅団が手に負えなくなっていくという負の連鎖が起きているのが賞金首ハンターの現状である。

「ずるくね?」

 この狡いは自分が特質系である事より特質系の一例として出された相手の能力を盗む能力や100%当たる占いにかかっている。

「というかずるいっしょ」

 こっちは横島がそんな特殊な能力持ちだという嫉妬だ。

〈こればかりは生まれ持った才能だからな〉

 一方、特質系だろうが具現化系だろうが強い奴は強いという事をよく知っている心眼の言葉に頷くシン。

「で、心眼は俺の系統がどんなもんか分かるか?」

〈当然だ。おぬしと静香を導く為に我は在る〉

「静香の才能は底が知れんな。念獣としての性能は兎も角、その人格形成に於いて他の追随を許さぬレベルじゃ」

〈その分、彼女は具現化系能力は我以外に使わないという制約を課しているからな〉

「制約ってなんじゃい」

〈自分で決めて自分で守るルールだ。例えば国士無双、或いはロイヤルストレートフラッシュ〉

「様々なゲームで作るのが難しい役程勝った時の点数が上がるように、念能力も自分の能力に制限や使用条件を加える事によって威力や範囲、効果が上がる事が多い」

「ほへー」

「とりあえず忠夫はこれから発の修行じゃ。水見式の結果がより顕著になるようにな」

「うっす」

「サダソは絶の修行を続ける。寝ながら絶が出来るようになるまでな」

「寝ながら纏も相当難しかったけどねっ!」

 俺はそうでもなかったけどなーという科白は口に出さない横島。
 空気を読めないで人付き合いが出来る訳がない。
 
「平行して横島は試合を連続して行う」

「なんで?!」

「理由は一つ。シズカがお前に強くなって欲しいと願っているからだ。
 念の修行、という意味では必要ないが、強さを求めるならここ程度で発を必要としていたらこの先立ちゆかぬぞ。
 ああ、ヒソカクラスは別じゃ。ありゃ儂でも勝てる気がせんな。能力的にも人の悪さがにじみ出てるような能力じゃし。
 貂蝉なら勝てるかな? と言った強さじゃ」
 
「そーだよなっ! ありゃ絶対おかしいよなっ!」

「初めて会った時は気付けなかったっすけど、確かにあれはおかしい強さっすよね」

 思い出して我が身のふがいなさに項垂れるサダソ。
 あの時既にヒソカの強さにビビっていた横島に対して、サダソはビビるどころか気付く事も出来なかったのだから当然ではある。

〈ヒソカに当たる分には問題ない。これから強くなるのが解っている人材を殺したりする奴ではないからな〉

「それって強くなってから美味しく戴こうってだけやろ? ちっとも安心出来んわ!」

「安心せい。ヒソカ以外に今あのクラスの強さの選手はおらんわ」

「カストロはどうなんすか? こないだ兄さんと戦かわせろって詰め寄られたんすけど」

「あー、俺も言われたわ。男と迫られても嬉しくないっちゅーのに」

「ふむ。確かに才能はありそうだがな、タダオと同じまだまだじゃ。
 今のタダオが戦う分には問題なかろう」

「戦いたくねーし! アレおかしいやろっ! トレーニングルームの人形を素手で切り裂いてんぞ!? 人間かっちゅーの!」

 刃物を武器にする選手もいるため、斬る練習用の藁で作った案山子のような人形もいくつか設置されているのである。
 ちなみに周しなければ普通の刃物では断てない程度には強度がある。

「だからこそ修行になるのではないか。うむ、参加登録はしておいてやろう。カストロと示し合わせてな」

「待てや爺! 余計な事すんな!」

「お前は師匠を敬うという事を知らんのか」

「ぐへっ!?」

 あっと言う間に転かされてしまう。ここら辺の呼吸は流石である。

「いいじゃないっすか。強い奴と戦うのが武闘家の本望っしょ」

「おめーみてーなバトルマニアと一緒にすんな! 俺は平穏無事に静香ちゃんの上で腹上死するって決めてんだ!」

「なにサイテーな事口走ってんすか」

「全くじゃ。性根をたたき直してやらんと」

〈これでなくては横島忠夫とは言えんがな。まあ、今のカストロとなら良い勝負だ、問題なかろう〉

「てめーも止めろやバンダナ」

 なし崩しでカストロ戦を決定されてしまったが、心眼としては大いに結構な流れである。
 現状で最優先されるべきなのは文珠作成能力の取得だが、戦えるうちに戦っておくというのは悪い思案ではない。
 旅団クラスとまともに喧嘩出来なければ危ういのだ、この世界は。
 文珠を作れるようになったらすぐにでも『転移』するというならば話は別だが、キメラアントの襲来だけは何があっても潰そうとするだろう静香の事を思えば、横島がヒソカクラスと互角に戦える程度に強くなってもらわねば困る。

 というのが静香の考え方だが、心眼としてはどうかと思う。
 文珠さえ自由自在に作り使いこなせるようになれば、戦いを避け続ける事など容易であるからだ。
 ましてや世界の流れを知っているのだ、危険など避けようと思えば幾らでも避けられる。
 戦闘民族高町家などと揶揄される事もあるが、まさに血筋というか本人とて知らぬうちに思考が戦闘寄りになっているのだろう。

 尤も心眼としてもここで横島が強くなれるだけ強くなる分には文句がある訳ではない。
 この世界は危険だからである。
 なんだかんだ言って平和で安穏とした元の世界と違い、割とあっさりと命が消えるのだ。
 
 この心眼は静香の表層人格ペルソナA’の一つを使って構成されている為、やはり横島の事を大事には思っている。
 
 よって本人の一切望まぬ所で、横島vsカストロの対戦カードが決定。
 チケットは即日ソールドアウト、ダフ屋まで出る人気のカードになった。
 人気の理由は高町静香の妊娠による長期休暇の原因が、誰に在るかを鑑みれば自ずと分かろう。
 不運と言えば不運だが、もはや諦めるしかない横島であった。
 

****


おかしい、横島の特質系の説明に入る予定だったのにカストロ戦とかプロットになかった話に……
まあこういう事もありますよね。
という訳でカストロ戦です、当然ですが分身はまだ出来ないです、出来てたまるか、まだ4ヶ月も経ってないのに。

クラピカの鎖1種類(先端が十字架・鉤針・珠・短剣)でも未習得から半年前後必要とした以上、流石に師匠もなしに4ヶ月で分身は出来ない、と思いたいです。
ヒソカに語った内容から察するにヒソカ以外には分身使ってない訳で、もしかすると完成したから、作るのに2年かかったから原作の時期にヒソカ戦になったのではと思います。
才能ない人の修行シーンとか出してくれないかな、原作で…
静香の具現化能力が異様に速かった原因の一つは師匠のベッドの能力の二つ目です。
見たい夢をある程度ではあるが自由に見られる能力は具現化系の能力開発にぴったりですね。

横島が特質系な理由は『異世界の主人公』だからですね。
かなり悩みましたが、横島が特質系じゃなかったら誰が特質なんだろうと言った感じで。
文珠がいかんのです、アレは正直特質以外で再現できるとは思えません。
具現化系は『神がかったモノは具現化出来ない』と原作中で言われてますしね、文珠は簡易宇宙改変機ですよ、ズルい。
……ノヴさんの窓を開く者スクリームって『何でも切れる刀』に相当しますよね、絶対('A')



[14218] 番外編シリーズ2-16
Name: 陣◆cf036c84 ID:960878c7
Date: 2012/06/08 12:08



 かちゃん
 
 ふ、今時黒電話とかフリークス家の通信事情もどうなってるやら。
 というか、割と辺境の地――東京で言えば小笠原諸島に当たるっぽいこの島で即日配達でゲーム機が届くとは思えないんだが、そういう念能力者が関わってるのか?

「あ、シズカ、あけましておめでとう!」

「ああ、おめでとう」

「駄目だよ勝手に歩いちゃ! 転けたらどうするの!」

「そこまで間抜けではないぞ」

「気をつけなきゃ!」

 そう言って手を引き寝室まで引っ張るゴン。
 うーむ、何という世話焼きキャラ。間違いなく幼なじみポジション、女の子だったらな。

 部屋には暖房代わりのイチローと護衛のつもりのライキ、そしてロデムがイチローに纏わり付くようにうにうにしていた。
 12月、いやもう1月とは言えくじら島は暖かい方なのだが、やはり夜は冷える。
 横島という抱き枕もない今、イチローが部屋にいるだけで暖かく過ごせるのだ。
 
 というかな、妊婦の手足の冷えがやばい程パネェのだ。
 普通、運動選手などは女性でも冷え性になりづらい。筋肉量と内臓の鍛えが違うからだ。
 そして絶状態で試しの門を普通に開けられる俺の筋力でも冷え性になる。
 つか手足冷たいやばい。
 あと最近太った。
 いや腹に人間様が二人もいるんだから当然なんだろうけど、これは産後の運動頑張らないと行けないかも知れん。
 …まあ一番太ったのは胸なんだがな!
 
 妊婦は仰向けに寝られないので側臥位で睡眠を取るのだが、ゴンに手伝われつつベッドに潜り込むと足下にロデムが潜り込んでくれた。
 暖かい、天然の懐炉だ。いつも助かってます。
 床に丸まっているイチローもベッド脇へ躙り寄ってきて、その側でライキも丸くなる。

「じゃ何かあったら呼んでね」

「ああ、おやすみ、ゴン」

 枕元にペットボトルや床に悪阻用のバケツ、温めの湯湯婆等を用意して、電気を消して部屋から出て行ったゴン。
 もう甲斐甲斐しいにも程がある、あんな弟が欲しかったなぁ。
 ユーノも可愛いけど、なのは達が独占してるからなー、ちょっとは貸してくれてもと思ったもんだ。
 まあその分お腹の赤子どもに期待するとしよう。

 あー…弟とか考えたらなのは達の事を思い出してしまった。
 そして濡れる枕。
 最近は情緒不安定気味で、ふとした拍子に涙が流れて困る。
 ゴンとかに見られて余計な心配をかけてしまった事も屡々だ。
 
 考えないようにしないと。
 横島に会いたくなる。ああ、駄目だ、考えちゃ駄目だ。
 湯湯婆をお腹に影響しないように抱き締めて、手の冷たさを癒す。
 湯湯婆を抱く胸もKカップまでおっきくなってしまった。出産後には小さくなる女性も多いらしいが、大丈夫なのか。
 
 俺は極力何も考えないようにしながら、涙を流したままそのうち眠りに就いた。
 

****


「あら、あけましておめでとう、シズカ」

「ああ、おめでとう、ミトさん。イネさん」

 朝になって新年の朝食。
 お節料理位作れなくはないんだが、今は駄目だ。
 味覚も嗅覚も変わりすぎてて、味の調整に自信がない。

「ほいほい、おめでとう」

 イネさんも元気だね、ひ孫がいるとは思えん程ちょこちょこと動いて仕事している。
 見た目的には一番年齢相応ではあるが、前の世界と合わせても。

「手伝おうか?」

「良いからじっとしてなさい」

「うむ」

 渋々席に着くが、どうもなぁ。
 こう、上げ膳据え膳は凄まじく居心地悪い。
 酒場の方も出してもらえないしなぁ。
 
 厨房も任せてもらえん、いやヤレと言われても断るが。
 生魚無理、匂いで死ぬ。米も炊いたのは無理だし酒の匂いもキツい。
 ここまで嗅覚が変化するとはなぁ。
 
 幸いフルーツ関係と甘味に関しては普通だからお菓子作りは平気だが、この状態でそんなばかすか作る訳にも喰う訳にもいかん。
 妊婦さんには高タンパク低カロリーかつ繊維質と各種栄養がたっぷりな滋養食と決まってる。
 相変わらずトマトは食べてるけど。

「タダオはまだ帰ってこないの?」

「帰ってくるなと言ってあるからな」

 俺の言いつけを守らない訳がないし、心眼もくっついてるから安心だしな。
 うむ。

「…なぜゴンが落ち込む必要がある」

「だって」

「だっても何もない。
 誰にとって何が今一番大切かはそれぞれだ。
 私にとって、今は忠夫が誰よりも強くなってもらわねば、困る」
 
 そう、激しく困る。
 文珠覚えてもらわないと困る。
 正直、文珠を覚えてもらって、帰れるようになればキメラアント以外は放置したところでどうにかなる問題ばかりなのだ。
 するつもりは全くないがね。
 
 例えばクルタ族の滅亡は俺らがここに来る2~3年前の話だから関わりようがないが、試験でゴンと一緒に行動する以上はクラピカともそれなりに親しくなる、というかならざるを得ない。
 好きだしね、クラピカ。美形はこの世の宝だし。
 直に会うのが楽しみだ、異世界トリップものの醍醐味だわ、嬉しかないが。
 
 どうもユーノとかいいクラピカといい、ああいうタイプが好きなのか俺は。
 いやいやトレーズ様に告られたら一発でオーケーする自信あるぞ、絶対ないだろうが。
 ……なんで横島なんだろうか?
 いや良いんだけどね、好きだしね。
 
「うー」

 納得いかないのかゴンが唸る。
 これがハンターの仕事でってなら納得するんだろうなぁ、こないだ修行ならくじら島でも良いじゃんとか言われたんだが、それは困る。
 天空闘技場じゃないと相手いないしな、適度に強くて修行になるのが。
 そういう意味じゃGIも適度に強いモンスターばっかりだったんだよな、流石ジン。
 人格と才能が手を取り合わないのはこの世の常識だな。
 
「ゴンは優しいな。だが、迷惑だ」

「う…」

 はっきり言わなきゃ解らんからな、このどこまでもまっすぐな頑固者は。
 そういう意味じゃなのはそっくりだわ、全く。
 
「さ、ミトさんとイネさんの心づくしの料理を食べよう」

「…いただきます」

 納得はしてないと顔で答えて料理を食べ始めるゴン。
 ま、可愛いもんだ。
 
 海産物と山菜と、山と海が同居するこのくじら島ならではの料理を少しずつ口に入れる俺。
 ミトさんは兎も角イネさんはよく解っていて、俺が今食べられないモノは一切並んでなく、俺が食べた方が良い、消化に良くて滋養がある料理が俺の前にだけ並んでいる。
 本当に有り難い。
 横島がいなくても、平気なのは、この人達の、おかげだ。
 本当に、有り難い。
 
「シズカ」

「…む」

 く、また涙が。
 涙腺がイカレてるのかすぐに泣けてきて困る。
 それとも自分で思う以上に情緒不安定なのか。

「はい」

 ゴンの差し出したハンカチで涙を拭い、食事を取る。

「ありがとう」

 言い置いて食べ始める。
 旨いんだが味は濃くないし油は殆どないしで満足しきれないんだよなぁ。
 旨いけど。
 トマト位ならまだしもそう油モンだの味が濃い料理だの食べる訳にもいかんのは解ってるが。
 ゴンが採ってきたキノコの類はオリーブオイルでソテーしただけだが旨い。
 この程度の油なら許されるハズだ、うまうま。

「ああ、そうだ。ほれ、お年玉だ」

「なにそれ?」

 即席で封筒を弄って作ったポチ袋をゴンに渡す。

「私の国では新年の挨拶の後、子供達にお年玉と言って小遣いを上げる習慣があるのだ」

「へー、ありがとう、シズカ」

「もう、悪いわね、シズカ」

「いや、いつも世話になっているしな」

 ついでに以前は出来た手伝いも殆ど出来ないしな。
 ゴンのハンターへの訓練の手伝いとノウコと一緒に料理する以外は冗談抜きに殆ど妖怪喰っちゃ寝だからな……
 勿論この状況で身体動かさないのは色んな意味で不味いので、ゴンをお供に島内を適当に散歩したりもしてるが。
 この世界、筋力の低下は殆どないのだけは助かるな、どういう理屈かは兎も角。

「食事が終わったら散歩したいな、付き合ってくれ」

「うん、解った!」

「気をつけてね、本当に」

 心配そうなミトさんと超然としたイネさんに微笑んで、食事の片付けを初める俺であった。
 

****


 森の奧、コン達の縄張りから少し外れた場所。
 例の泉がある場所で正座で座禅を組んでいる俺。
 胡座を組みづらいというかバランス悪いので正座である。
 そして俺をくるむように尻尾と身体で寒さから守ってくれているイチロー。

 ゴンの特訓はビスケがGI編でやってた寝てる間も気を抜くのは駄目だよ訓練と、森の中での隠れ鬼ごっこである。

 流石にこのお腹で夜通し起きているという選択肢はないので、俺に変身したロデムに一晩中起きてもらっている。
 睡眠は必要ないらしいのだ、ロデムは。
 よく解らん生態だが役に立つならそれで良い。
 あと流石に石でやるのはどうかと思うので、軟式ボールでやっている。
 
 ちなみにこの手の訓練は俺達も親父からやらされているので慣れたものだ。
 
 隠れ鬼ごっこは本来のソレとは違う。
 隠れている鬼役を探して、見つけたら捕まえる。鬼は見つかったら逃げて、逃げ切れたらまた隠れる。
 ここまでは同じだがハンター役が気付かぬよう、カウンターハンター役を投入するのだ。
 要するに第四次試験のアレである。
 ただし、カウンターハンターは投入する時としない時がある。
 そして鬼役は反撃不可、逃げのみであり、他は攻撃有り。
 
 隠れ鬼=ヒソカ・ハンター=ゴン・カウンターハンター=忘れたけど吹き矢の奴と言う想定。
 アレは痺れ薬だから良かったものの、一歩間違えれば即死である。
 そもそもゴンは今まで独りで過ごしていた時間が長すぎて、誰かを探す事はあっても探される事は殆どなかった生活なのだ。
 ゆえに自分が狙われているという状況を殆ど想定していなかったに違いない。
 
 よって、ライキ・俺かゴンに変身したロデム・ゴンで役を変えながら毎日一回は隠れ鬼ごっこである。
 副次効果ではないがライキとロデムの能力の底上げにもなって大いに結構な事だ。

 ゴン達が訓練と称して遊んでいる間は纏・点の修行のみを行う俺。
 練や絶は細胞からオーラを体内から放出する、留めるという性質上、体内に存在する赤子に良い影響は与えないらしい。
 
 纏の修行は兎も角、点の方はやると涙が止まらないのが難点だ。
 俺は自分が思う以上に寂しがり屋だったらしい、或いは妊娠の影響によるものかも知れないが。
 こういう時、暗殺者として才能がある自分が恨めしい。
 感情は滂沱していても身体はとりあえずやるべき事をやっているのだから。
 別に必要ないが無駄に才能がある身体というのも面倒なものだ。
 
「また泣いてる!」

 汗だくのゴンとライキ、よく解らんロデムが戻って来た。
 
「心の汗という奴だ、気にするな」

「ライ!」

 飛びかかってきたライキを両腕のみで受け止める。
 顔を拭うように嘗め回されてしまった。
 可愛い奴め。
 
「寂しいなら寂しいって言いなよ!」

「ゴン達がいてくれるから平気さ」

 いなかったら割と発狂してたかも知れん。
 そういう意味では横島もだが。
 独りでこんなトコ放り出されたらと思うとゾッとする。

「強がりばっかり!」

「強がってる訳でもないがな」

 ライキを降ろして、パンっと手を叩く。
 グォッとイチローも鳴いた。

「さ、模擬戦だ」

「うん」

 文句は言い足りないがと顔に出しつつ、ロデムと距離を置いて対峙するゴン。

「ロデム、変身!」

 うにょうにょとゴンに変身するロデム。
 チートブースト黍団子シンクロ・パートナーは練が必要なので使わない。
 ミラーマッチは修行には最適なのだ、特にロデムは体力以外のステータスは完璧にコピー出来る上、この世界に来るまでに培ったポケモンバトルの経験があるから、単純にゴンより立ち回りが上手い。
 ちなみにこの訓練を始めたのは俺が戻って来てからなので、約一ヶ月続けている事になる。

「では始め!」

「やっ!」

 ゴンが勢いよく飛びかかるのを僅かに動いて躱し、カウンターを入れる。

「がっ!?」

「阿呆、鳥じゃ無いんだ。地面から足を離せば動きが取れない所を狙われるのが当然だろう」

 ゴンの動きは野生の獣に近い。
 隙を見たら急所に噛みつくような動きだ。
 逆に言えば適当に隙を見せて誘えば、簡単にカウンターを入れる事ができるのだ。
 性格も素直だし、ここら辺は明確な弱点になってしまってる。
 原作ではヒソカ戦で初めてフェイントの事を知った辺りからも伺える。
 まあ、速度や腕力と言った性能が高すぎるせいで必要がなかったというのもあるだろうが。
 
 というわけでゴン対ロデムでは常にロデムが勝っているのが現状だ。
 同じ性能なら運転手の技術が明暗を分けると言う事だな。
 
 つまりゴンは自分の身体の使い方を未だ解っていないのだ、戦闘という意味では、だが。
 それも仕方ない事なのだ。
 島にはゴンと対人戦で互角に戦える者がいない。
 横島と俺が来るまでは独り遊びしか出来なかった。
 ノウコとは年も性別も違うから遊びようがあまりないのだ。
 
「素直すぎるぞ。目で見るな、俯瞰しろ!」

 ガスガスとロデムの攻撃を喰らうゴン。
 反対にロデムは攻撃を喰らう事は殆どない。
 
 うちのロデムの戦闘経験はアレだ、恭也とかが訓練にちょうど良いからと滅茶苦茶鍛えまくったからな。
 ステータス以上の経験蓄積がある。
 念能力ありならまだしも、なしならこんなもんだろう。

「終了だ」

「っかれたぁー!」

 倒れ込むゴンに変身を解除しうにょうにょと俺の腕に絡んでくるロデム。
 
「次はライキとだ」

「らい!」

「えー!? 休憩は?」

「お前は敵に、危険な獣に待ってくれと頼むつもりか?」

「うっ」

「勿論、そんな時は逃げれば良い、隠れるのも良い。だが戦わざるを得ない時だってある。
 常にベストコンディションで戦えると思うなよ?」
 
 訓練とはそういうものだ。
 想定外の事態に冷静に対処する為にも、想定できるあらゆる事象に備えておくべきなのだ。
 多分、そういう意味もあったんだろうな、ビスケの対ナックル戦の訓練は。

「…はい」

「うむ。ではライキ、頼むぞ」

 疲労困憊という程でもないが一戦した後では動きが精細に欠けるのは致し方あるまい。
 それでもライキの攻撃を捌きつつ反撃に出ようとするのは大したものだ。
 尤もライキも大分手加減をしている。
 尻尾や蹴り技を使わず、また体当たりなどの四足歩行前提の技も使わず、両腕だけで相手をしている。
 ライキ達のような四足歩行と二足歩行の切換が可能な種族の最大の利点がこれで、両手を人のように使う事も出来れば獣のように走る事にも使えるという、言ってみれば二種類の攻撃パターンを持っているのだ。
 この世界には魔獣と呼ばれる人語を話し二足歩行をする獣人のような存在がある。
 人を食った後のキメラアントなんて最たるものだろう。
 
 人以外と戦う経験は今のうちからあった方が良い。

「ライキ」

「らい!」

「うわっ!?」

 意識から完全に外れていただろう尻尾の攻撃をまともに喰らい、ゴンが吹っ飛ぶ。
 単に叩いただけで、アイアンテールなどの技使ってたら真っ二つだったかもね、今のゴンなら。
 
「手しか使わないとは誰も言っていないぞ。
 いいか、どんな事をしても勝てとは言わん。
 だがな、どんな事をされても負けるな。
 その為にあらゆる事態を想定しておけ。
 有り得ないなんて事は、この世には絶対に有り得ないんだからな」
 
 この言葉に出会えただけでハガレンを読んだ価値があると思うのだが如何なものか。

「解った!」

 なにやら感銘を受けたのか、吹っ飛ばされた割に生き生きとした顔で頷くゴン。

「埃払って顔を洗え」

「はーい」

 ぼろぼろの顔を泉で洗い始めるゴンとライキ。
 可愛いなぁ、ライキは。
 
 それにしても自分が動けないのはキツい、精神的に。
 あ、来た。昼間に来るのは久しぶりかも知れん。
 
「ゴン、果物採ってきてくれ」

「え――うん、解った!」

 顔を濡らしたまま、風のように去っていくゴン。
 そして持ち歩いててたエチケット袋へ――
 
 
****


「大丈夫?」

「ああ、もう平気だ」

 ゴンの採ってきたリンゴっぽい果物を囓りつつ、答える。
 血糖値を常に一定に保つようにしてれば悪阻の吐き気は襲って来づらいのだ。
 だからちょっと太りやすいんだけど痩せるよかマシだよね。
 
 そろそろ安定期入る頃だしつわりも収まってきたしで油断してたわ、全く。
 前をライキとロデム、背中をイチローに囲まれて守られている俺。
 
「もう帰ろうか?」

「そうだな」

 糖分補給したしそこまで気分は悪くないが、まあゴンに余計な心配かける事もあるまい。
 一番酷い時期は血糖値の調節に慣れるまでは相当な頻度で吐いてたからなぁ。
 今でも悪阻の明確な原因は解らんらしい、面倒な話だ。

「じゃ帰ろ」

 イチローをボールに戻しゴンの手を取って立ち上がる。
 
 鬱蒼とした森の中をゴンと歩く。
 転けた時受け止めるつもりらしいライキとロデムを足下に連れ立って歩く。
 如何になんでも俺がそうそう簡単に転ける訳がないのだが気持ちは有り難く思う。
 
 深い森の中を歩くのは気持ちが良い。
 ゴン達がいれば獣もそうは寄ってこないからな。
 正確にはコンが身重の俺を気遣って近づかないよう森の獣たちに指示してるとか。
 コンパネェ。
 もう冬なので動物たちも一部を除いて余り外は出歩かないのかも知れん。

「タダオは今何してるかなぁ?」

「修行中だろう。カイト位強くなってもらわんと困る」

 最低でもな。
 
「カイトの事知ってるの?」

「ああ、ジンの弟子は有名だからな」

「へー」

 とりとめない事を話しながら家路に着く。
 
 家に帰るとノウコがいた。
 ミトさんとイネさんは外出しているらしい。
 この辺りは特有の大らかさを感じるな、この島全体がある意味で家族みたいなものなのだろう。
 
 ライキとロデムを連れ立ったまま、居間のテーブルに腰掛ける。

「こんにちわシズカお姉ちゃん」

「ああ、こんにちわ」

 どうもなのはを思い出していかん。
 ティッシュで目元を拭って、椅子から降りてライキを抱えようとするノウコの頭を撫でる。
 30㎏は子供には重かろう。

 ゴンがエチケット袋などの処理をして戻って来た。
 なんというか良い子だよなぁ、うちの妹達もそうだが。
 
「さて、今日はクッキーでも作るか?」

「うん」

 ノウコの拘束を解いて俺の側へ寄るライキ。
 チートブースト黍団子シンクロ・パートナーを使えればロデムを俺に変身させて、頭の中で命令するだけで良いんだが、流石に口頭だけで料理ほどの細かい技能を再現させるのは難しい。

「さっき森で戻した癖に何言ってるの!」

「大丈夫だってばさ」

 台所への道をふさぐつもりのゴンの頭を撫でてから、脇をすり抜ける。
 すり抜けられてからその事実に気付いたゴンが、驚きと怒りをあらわに叫ぶ。

「ふざけないの!」

 むう、同じジャンプの主人公の真似しただけなのに酷いってばよ。
 どうでも良いが無理あるキャラ付けだと思わんかね?

 と言う訳で口うるさい舅のようなゴンをスルーして台所へ向かう。
 ゴンに気付かれずに横をすり抜ける事など今ならまだ容易いのだよ。
 
 念の為、常備しているレモンの蜂蜜付けを三枚ほど腹に入れておく。うまー。
 ついでにトマトジュースを飲む。うまうま。
 何故たかがトマトがここまで旨いのか。
 うーむ。妊娠とは不思議なものだ。

「らいらい」

 ぺしぺしとゴンの背中を叩いて宥めているつもりのライキが可愛い。

「これを作ったら横になるさ」

 そこまで疲れてないけどな。
 心配性の弟だこと、全く。
 
 ノウコちゃんを伴ってクッキー作りを始めながら、可愛い弟をなのは達に会わせてやりたい、そんな事を思っている俺であった。
 

****


静香は前世の男だった頃からトレーズ様のファンです。
W自体の評価は黙秘ですけどねー。まあ問題なのはWよか続編扱いのアレな気もしますが。
 



[14218] 番外編シリーズ2-17
Name: 陣◆e4fce16c ID:06b72be3
Date: 2012/11/21 14:24
今回は三人称です。

****

「あーもーなんであんなんと喧嘩せにゃあかんのじゃ!」

〈いい加減覚悟を決めんか馬鹿者〉

 控え室でうだうだと文句を言っている横島に、呆れた声を上げる心眼。
 
 実力的にはむしろ横島の方が上だと心眼は見ている、そもそも180階クラスでは横島が勝っているのだからある意味当然だが。
 素手同士の200階以下ならば兎も角、御神流の武器全てを使える上に、念の習得状況としてはカストロと比べた場合、横島の方が一歩先を進んでいる。
 
 恐らく現状のカストロは練が出来ない、或いは出来ても1分も維持出来ないハズである。
 前回の試合ではカストロの攻撃を躱し続け、疲労が溜まり動きが鈍った所を神速で仕留めた。
 横島の方が体力が上である事と武器が一切使えない為、攻撃力不足である為、そういう戦術に出たのだがつまる所、今回も気をつけるべきは虎咬拳の両手だけである。
 念を身につける前から無意識に両手をオーラで覆っていたアレは、カストロが念を習得した今、現状の横島のオーラでまともに喰らって防げる威力ではない。
 つまり、最悪逃げ回ってガス欠になった所を狙えば問題なく倒せる相手である。
 逃げに定評がある横島ならば怪我もせずに倒せるのだ。
 
 と心眼が分析してそれを伝えたところで横島が落ち着く事はあるまい。
 本質的には戦いが嫌い男なのだ、痛いのが嫌だからだ。

――タダオ選手、入場して下さい。

「しゃーねーなーったくよぉ」

〈何処のヤカラだおぬしは〉

 えっちらおっちらと抜き身の小太刀二本――元々は士郎が静香に用意していた、祖父の形見・紅竜と蒼虎という銘。
 士郎曰く、虎とか竜とか鵺とかそういうのが大好きな父だったという話だが、刀としては実用本位の、もはや鉈に近い二本である。
 両の手に一本ずつ握った抜き身のそれを肩で担ぐようにして、薄暗い洞窟のような入場ゲートへの道を歩く。
 
〈一番手っ取り早いのは、とっとと10勝してしまう事だ〉

「なんでよ?」

〈10勝すれば2年後のバトルオリンピアまでここでは試合参加不可能になる〉

「ああ、資格的に参加不能ならくじら島戻っても文句言われないもんな」

 にっと笑う横島。

〈少しはやる気出たか?〉

 なお、10勝までの間に確実に一回はヒソカが関わってくる事は黙っておく。
 あのバトルジャンキーが試食しない訳が無いのだ。

「おう! とっとと勝って静香ちゃんのおっぱいを揉まねば!」

〈口に出すな馬鹿者が〉

「だってそろそろ母乳プレイが可能なんやぞ!? 滾る!」

〈いっぺん死んだ方が良いなおぬしは〉

「ところで母乳って美味しくないらしいな?」

〈当然だ、血液を乳腺で濾過した液体だぞ〉

「忍やすずかちゃんがよ牛乳好きなのはそういう理由か」

〈まあ所詮代替品だがな〉

「忍も結構大きかったけどすずかちゃんも中学生にしてはけしからん乳してたなぁ」

〈一応言っておくが牛乳に胸を大きくする作用はないぞ〉

「そーかぁ?」

〈静香は余り牛乳は飲まない方であろう〉

「野菜ジュースとかよく飲んでるよな」

〈妊娠してからはトマトばかりだがな〉

――さあ、タダオ選手の入場です!!

****


 BUUUUUU!!!

「俺が一体何をした……」

〈諦めろ〉

 盛大なブーイングと共に入場した横島に、カストロの眼光が集中する。
 気合い十分という言葉の見本のような男がそこには立っていた。
 
 なお、分身ダブルはまだ習得していないからか、原作のようなひらひらなマントはなく、武道家の見本のような道着に短髪姿である。

――さあ! 本日一番の注目の一戦です!
  天空闘技場でも珍しい珍事!
  闘技場史上一番の美女と評判の選手を妊娠させて雲隠れさせたタダオ選手です!!

 BUUUUUU!!!

「……何で付き合ってる彼女妊娠させて親以外から文句言われなあかんのじゃ」

 男として師匠である士郎から半殺しに遭う事自体は嫌だが覚悟もしている横島である。
 調子扱いて大樹も殴ってきそうだからそっちはきっちり反撃してやろうとも決めているが。

〈諦めろ〉

 空気すらうねりをあげる程の怒号やブーイングが闘技場内に鳴り響く。
 横島忠夫、完全にアウェーであった。

――おおっと! 先日の試合まで素手で戦っていたタダオ選手、本日は二本の剣を持って登場だ!

 200階1戦目まで素手だったのは念の修行優先だったからだ。

「180階クラスでの借りを返す時が来たようだな」

「何も貸してねーっつの。勝った負けたに拘りすぎだろ」

「ふん、ヒソカに負けて以来全力を出した事はないが、貴様相手ならば本気で行かせてもらう」

「負けて以来ってまだ俺で3戦目やろが。アホちゃうか」

 戦績は横島が1勝無敗、カストロが2勝1敗である。
 限界まで戦わないよう修行優先だった横島と、怪我が治るなり戦い始めたカストロの差だ。
 
「どうやらお前も本気のようだ、楽しませてもらおう」

「一回俺にも負けてる癖になんなんだこの自信は。というか人の話を聞け」

〈念を手に入れて有頂天、といった具合だろう。実際、こやつは念使いとしての才能は十分だからな〉

 でなければ非効率極まりない分身ダブルを強化系で作れるハズもない。
 仮に強化系でないにしろ、ヒソカほどの実力者があそこまで探りに力を入れなければ見極められなかった能力が弱いという事はあるまい。

 原作のカストロが惨敗した一番の理由は分身ダブルの弱点と対応策に関して考慮しなかった事、その上で速攻で攻め落とせば勝利出来たはずが、余裕から能力を見せすぎ弱点を看破された事だろう。

 ヒソカが余裕を見せてるうちに片付けてしまえば良いものを、ヒソカが本気を出すまで嬲り、挙げ句逆転されるという間抜けな結果である。

 事実、虎咬拳の威力はヒソカの腕を喰い千切るように切り裂く程だったのだから、余裕かましてるうちに首でも千切ってやればカストロの勝ちだったのだ、流石に首を狙えば凝なり硬なりで防ぐとは思うが。

 戦いを楽しみ過ぎて相手の能力全て引き出してから決着をつけたがる癖がカストロを負けさせたと言って良い、尤も同様の癖はヒソカにもある。
 この辺り、武道家というかバトルマニアというか、戦いを心から楽しむ馬鹿の面目躍如と言うべきか。
 
 とは言え能力自体は強い能力ではあった、例えカストロの系統が強化系でなく操作系・具現化系であっても分身ダブルは非効率的な能力であったが。
 ヒソカの評価や分身ダブルの出来を考えると、メモリを全て強化系に振り切った能力にすれば、大破壊拳ビックバン・インパクトクラスの能力であった事は想像に難くない。


  
「では――試合開始!」

 審判の声で双方構える。
 カストロは拳を牙のように前へ突き出した虎咬拳の構え、横島は小太刀を握った右手をだらりと下げた右腕と、小太刀を肩に担ぐように構えている左腕、そして右足を一歩引いて斜に構えている。
 
〈気を抜くな、両手の攻撃力だけはヒソカ以上だぞ〉

「へいへい!」

 実際の所、刃物を使ってすら人間の肉体を切り裂くというのは難しい。
 骨や筋肉は人が思うより遙かに固く、滑りにくいのだ。
 尤も、この世界では割と当たり前のように首が跳ね飛ばされ捻り切られるが。

「しっ――!」

 跳ねるように飛びかかってきたカストロの一撃を、身体を開いて躱し肩に担いでいた左の小太刀を叩き付ける横島。
 足下を爆発させるような勢いで跳ねそれを躱し距離を取るカストロ。

 追いかけるように飛針を飛ばし更に左側のスペースを潰すように走り寄る横島に、カストロはその場から動かず飛針を手で弾き、そのまま流れるように、刃振り下ろさんと迫り来る横島に牙と化した掌を向ける――と同時に一気に後退し距離を取った。
 
「化けモンかこいつ」

「…ふん、そういう小細工が貴様の本気か?」

 5m程の距離を置いて、軽口を叩く。
 そう、小太刀を握ったままの拳から垂れ下がった1番鋼糸、直径0.01mの糸のようなソレでカストロの指を狙ったのだ。
 虎咬拳は両手を牙や爪と模して戦う拳法ゆえに、指の重要性は高い。
 小指一本でももぐ事が出来ればそのまま横島の勝利だったろう。

「うちの流派は何でもありなんで――な!」

 攻撃に合わせて練!

「ちっ!」

 刀を握りながらも残像の残らないような速度で腕を振り飛針を二本飛ばす横島。
 そして再び舞台を踏み込み猛然とカストロへ駆け寄る。

「どうでも良いけど静香ちゃんより威力なくね?!」

 堅の事など知らねど、攻撃時に防御時にとタイミング合わせて練と纏を切り替えて動く横島。

〈本気でどうでも良いわ。試合に集中せい〉

 念能力者が相手の場合、横島の飛針では瞳や喉奧と言った急所中の急所に当たらないと、致命傷にはならない。
 なぜなら横島は周で、飛針をオーラで覆っていないからだ。
 単純に周の存在を知らない上に、漸く発の修行を始めたばかりでは周など出来ても体力の方が持たないだろう。
 更に静香の場合、放つ瞬間に流で手から肘のオーラを増大している上に放出系。
 これで特質系の横島の方が威力が高かったら化け物である。
 
 軽口を叩きながら放たれる横島の嵐のような二刀流。
 器用な事に右と左の放たれる速度やタイミングを少しずつ、しかし決定的にずらし緩急をつけてカストロを襲う。
 この小器用な所が横島の持ち味で、虚実の駆け引きが実に上手く読み辛いのだ。
 
 斬鉄すら可能な小太刀の一撃は流石のカストロとて喰らう気にはならない。

 巧みに間合いを外してカストロの得意な最近接戦闘ではなく、刀の間合いの中距離戦闘で試合を優位に運んでいた。
 
 若干の余裕すら見える横島の戦闘を眺めながら、心眼は内心で予測に狂いが生じた事について考えていた。
 そう、もう少し横島が追い詰められる予定であったのだ。
 予想以上にカストロが弱い。
 正確には横島の試合の流れをコントロールするのが上手い。
 自分の得意な事だけを相手に押し付けて戦っている。

 原因は先生たるシンの存在であろう。
 才能が同じならは先達に導かれた者こそ上へ昇るのは理の当然である。
 まして強化系としては理想的な貂蝉と、そして練達の技に指導の経験優れたシン、溢れんばかりの才能の静香とほぼ毎日やり合っていたのだ。
 単純な殺し合いの経験ではなく、念能力者との対戦という意味では横島のソレはカストロを圧倒している。
 
 天空闘技場の念能力者達のレベルなら、人一倍才能があり努力出来る者は四大行を修めるだけで小手先の発など一蹴できる。
 それは原作のゴンやキルア、或いはカストロが証明している。
 カストロもまたヒソカとの再戦までは『本気』を出さなかったのだから。
 流石に分身ダブルを使っておいて「本気になった事はない(キリ」という事はないと思いたい。

「ちっ!」

「逃がさねぇよ!」

 距離を取ろうと跳ぶカストロを追い詰めるように追いかける横島。
 蹴ると同時に飛ばした飛針がカストロの心臓へ向かう。
 宙に浮いている瞬間で躱す為の動きは取れず、腕で飛針を払いのける。
 
――神速!

 静かに世界がモノクロへ塗り変わる。
 横島の主観ではゆっくりと――実際にはカストロでさえ反応するのがやっとな高速の動きで刀を振るう。
 そして二人が着地し、間合いが詰まった瞬間――!
 
――薙旋!!

 がっがががっ!!
 
「ぐっ――」

「おらっ!」

 神速を解除し、腕を払われ胸、鳩尾、腹に三発、ほぼ同時に叩き込まれ動きが止まったカストロの背後に回り首筋に二刀たたき込み意識を刈り取った横島。

 本来抜刀から放たれる技だが、横島は抜き身で使うやり方を好んだ。
 いちいち納刀するのが面倒だからだ。
 その分刀速は劣るが、それでも横島のソレはこの世界にくる以前の実力で、美沙斗のソレを上回っていた。
 美沙斗が刺突に全てを掛けて修行していたとは言え、横島の天与の才が窺われる。

 
 ゆっくりと倒れるカストロに審判が駆け寄り、呼吸や鼓動を確認し横島の手を掲げて叫ぶ。
 
「カストロ選手の気絶により横島選手のKO勝ち!」

 BUUUUUUUUUUUU!!!

 一際大きくブーイングが響く。
 
「ざっけんな!」

〈全方位に喧嘩売ってないでとっとと下がれ〉

 ペットボトルやらゴミやら投げ込まれるのを小太刀で払いつつ、控え室まで戻る横島。
 闘技場ではアナウンスが煽り、客が引けるまでずっと鳴り響いていた。


****


「概ね及第点と言えるか、現状では」

「勝ったのに厳しいっすね」

「まだまだ未熟という事よ」

 終始押して勝ったように見えるが、その実、カストロが念能力に対応しきれていないだけだからだ。
 絶同士ならまた違った結果になっただろう――ゴンではあるまいし試合中にそんな事にはなるまいが――今回のカストロは要所要所で纏が途切れて垂れ流し状態になっている場面がいくつもあった。
 そこを狙って攻めきれなかった点が横島のマイナス点である。
 尤も、周を知らず流も修めていない、更に堅を行える訳でもない現状でそこまで求めるのは酷というものだが。

「それにしても兄さん遅くないっすか?」

「ふむ、誰かに絡まれておるんではないか? ヒソカとかな」

「そりゃ不幸だ」



「強くなったねぇ♤」

「なんでお前がおるんじゃ!!?」

〈諦めろ〉

 試合会場を後にした薄暗い通路、原作で両腕千切ったヒソカを待っていたマチが居たその場所にヒソカが立っていた。
 相変わらずのピエロメイクによく解らん服である。

「くっくっく……♥ いやいや、天空闘技場で参加している選手を孕ませるとか珍事があったんだ、押っ取り刀で駆けつけてもおかしくないだろう?♧」

「うるへー! 俺が俺の女どーしよーと他人に言われる筋合いないわい!」

 壁に寄りかかったまま、怖気が走る微笑みを浮かべて語るヒソカに、散々罵倒されていたフラストレーションを叩き付ける。
 
「それはその通り♡」

 ヒソカ的にはサラブレッドとして産まれるであろう二人の子供がどう育つか興味津々ではあるが、その事自体には何の思い入れもない。
 本人も言った通り、自分達のプライベートの範疇であろう。
 尤も、こんな注目されるような場所で無計画に妊娠させているのだから何を言われても仕方ないとも思うが。
 
「そんな事より、今度ボクと遊ぼうヨ♦」

「イヤじゃ!」

「ツレないなぁ…♥」

「そのオーラやめぇぇ!」

 怖じ気立つオーラから身を躱すよう距離を取る横島。
 見ようによっては人懐っこい笑みを浮かべたままのヒソカがにじりよると、一歩後ろへ足を引く。
 
〈まあ、待て、ヒソカ殿〉

「ん? …ひょっとしてその瞳かい?♢」

〈うむ、心眼と言う〉

「へぇ…タダオは具現化系能力かな?♥」

〈それは想像にお任せしよう〉

「てめーら勝手に話進めてんじゃねーよ」

〈黙っておれ。この馬鹿はまだ発の修行を始めたばかりだ。
 そこを了承した上でなら試合を組んでも良い〉

 殺さず身体に必要以上の欠損を与えないなら戦っても良い、という意味である。
 要するに試食ならさせてやるが本気で喰う気ならお断りだ、である。

「…なるほど♪ ボクの事をよぉく解ってるんだネ、イイよ♧
 それで試合をシようじゃないか♡」
 
「勝手な事ぬかすなぁぁ!?」

〈諦めが悪いぞ〉

「じゃあ、日時は――んー、ボクの次の予定は決まってるし、そっちの90日後でイイカナ?♧」

〈うむ、それで良かろう〉

「ちっとも良くねえぇぇぇ!?」

 バンダナを引きちぎって黙らせたい衝動に駆られるも静香の事を考え思いとどまる。
 その場でじたばたしつつ騒ぐも何ともなりはしない。

「楽しみにしてるヨ、タ・ダ・オ♥」

「いーやーじゃぁぁぁ!?!」

 含み笑いを残して立ち去るヒソカの背中に響く横島の絶叫は何の意味もなく薄暗い廊下に響くのみ。

〈気合い入れて修行せんと死ぬぞ、割と本気で〉

「ちくしょぉぉぉぉぉ!! 後で静香ちゃん文句言ってやるぅぅぅ!!」

〈静香は関係なかろうよ〉


****
 
若干短いですが既に相当お待たせしてるんで多少短くてもと。
実際の所、常時纏状態+攻撃時と防御時に練を行う横島に対して常時纏も怪しいカストロではまだ勝てません、とさせてもらいました。
師匠って大事ですよね、というのが結論ですな。



[14218] 茶を濁す(`・ω・´) 没作品集
Name: 陣◆e4fce16c ID:a851a7ea
Date: 2011/05/29 20:34
 雨が降りしきっている。
 叩きつけるような、雨である。

「覚悟は、良い? なのは」

「うん…大丈夫」

 肩に乗り気遣わしげに尋ねたフェレットに、雨中、いっそ不釣り合いな程綺麗に笑みを返す。
 バケツをひっくり返したような雨、それらは二人――いや一人と一匹か?――の周りを丸く避けて、一滴分も濡れてはいなかった。
 

「…少しね、嬉しいんだ」

「?」

「またね、ユーノ君と一緒だよ? …ユーノ君には、迷惑だろうけど…」

「なのは、いつか君が言った事だよ。
 巻き込まれたんじゃない、自分から飛び込んだんだって。
 僕も同じさ。自分の意志で無限書庫を飛び出して、また君と戦う。
 僕も、嬉しいよ? こんな事でも、ね」

 女性――なのはと呼ばれた彼女の胸元、紅い宝石がキラりと光る。
 
「いこう、今日が僕たちのデビューなんだから。
 職業・殺し屋 『白い悪魔』のね!」

「うん!」


****

はい、職業・殺し屋とのクロス作品ですね、本格的に書いたら間違いなく18禁でしょう、色んな意味で。
作中ではなのははユーノ君とケコーンしてて管理局も辞めてヴィヴィオはフェイトさんに預けっぱです。どうしてこうなったかは確か両親が御神一族と同じようにテロで殺されたからとか何とか。
永遠に続きませんヽ(´ー`)ノ
理由? ○沢○○とかちょっと洒落にならん名前を適当にアナグラムした名前でぶち殺すようなオ○ニーになりそうなんで没です。

****

「――――いいでしょう。令呪を使いなさいシロウ。貴方の決断だ、私が口を挟む権利はない」

「――――え」

「気にする事はありません。私は今回のマスターとも信頼を築けなかっただけだ。
 貴方が令呪で契約を断てば私は自由になる。
 ……この体を保てるのは二時間程度でしょうが、その間に新しい寄り代(マスター)を見つけるだけです」

 そう、前回の聖杯戦争時のマスター、キリツグも最後の最後で私を裏切った。
 私の願いを叶えてるハズの聖杯を、事もあろうに私に破壊させた。
 あの時の屈辱、あの時の怒り。
 今思い出しても腸が煮えくりかえる、とはまさにこのことか。
 土壇場で裏切られる事を想えば――裏切られた過去を想えば、未だ開幕の狼煙が上がったばかりのこの段階で、「マスターを辞める」と宣言した彼の方が幾分マシと言える。

「これで貴方は自由だ。わずかな間の共闘でしたが、貴方の魔力は好ましかった。
 ……再び会う事はないでしょうが、無事この戦いを切り抜けられるよう祈りましょう」

 そう、マスターを降りたからと言って、危険がない訳ではないのだ。
 この街は暫く戦争の名に相応しい災禍に見舞われる。望むと望まざるとに関わらず。
 シロウ、貴方の決断は間違ってはいない。人は誰しも平穏を求めるものなのだから。
 だから、こんな厄介事を放り出すのは間違いではない。

 何か、言いたげなシロウに背を向けて、夜を駆ける。
 新たなマスターを捜さねば。
 出来れば一人前の魔術師がいい。
 可能ならば、一流の魔術師がいい。
 そして願わくば聖杯戦争を勝ち抜ける強者がいい。
 残された時間は僅か。我が身はセイバーのクラス。現界可能時間はアーチャーのそれに比べれば呆れる程短い。
 しかしその刹那に、私の願いが叶うかどうかがかかっている。
 なんとしても。何を犠牲にしても。
 王として私が為さねばならぬゆえに――

*****

 …喩えるなら、アイツと出会った時の昂揚、だろうか。

 青年は目の前で蹲るように倒れている雨合羽を纏った少女を見下ろしながら、自らが愛した女を重ねて見ていた。
 似てるわけではない。共通点は金色に輝く髪と――人ではない、という事だけ。
 あの声が――脳をたたき割り理性を消し去り野生を引き出し本能を呼び覚ますような――あの声は、聞こえない。

 愛した女とは、違う。

 人ではない。それは分かる。
 何故ならその少女は、半ば幽霊のように体の所々が透き通っているのだから――

「…君?」

「…ぁ…」

 側に駆け寄り、膝立ちで側に座り込んで、抱き上げる。軽い、軽いが確かに重さは感じる。

「…大丈夫か?」

「……貴方は?」

 少女――鎧姿だろうが雨合羽をその上に着てようが少女は少女だろう――の翠緑色に輝く瞳は弱々しいものの、明確な意思が読み取れた。
 出来る限り、不審な態度は取るまいと思わないでもないが。
 なに、どうという事はない。このような鎧を纏ってその上に雨合羽を着用した上に体が透けかかってる金髪の少女を抱きかかえている。
 この状態自体が不審でなくて、なんだというのか。

「…通りすがりの旅行者、かな」

「…では私を放っておいて立ち去るがいい。気遣って頂いて恐縮ではあるが、貴方の為にならない」

 青息吐息、という奴か。
 もはや喋る事すら億劫だと感じさせる声音でありながら、凛とした音で芯が通った、心地よい声。

「んー、正直そう想わないでもないんだけどね」

 苦笑すら浮かべて呟く。

「…でも、ごめん」

 愛したあの女を――救えなかった。
 何も出来なかった自分、そんな自分を愛してくれた彼女。
 世界をコワしたあの夜の青い空――
 イカレた眼に焼き付いた赤い、アカい夕焼け――

 あんな想いは二度と味わいたく、ない。

「悪い男に捕まったと想って諦めて。どうしたら君を助けられるか教えてくれ」

「…私に関わると命の保証は出来ない」

「多分、そんなトコだと想ってた」

「…貴方は、馬鹿ですか」

「よく言われる」

「…………私と共に戦い、私と共に死んでくれますか?」

「それで君を救えるのならば」

「…では…とりあえず接吻を」

「…は?」

「…躊躇している暇はありません。情けないが、私が現界していられるのも保って後数分…」

「分かったよ」

 ファーストキスじゃない。惚れた女以外にも何人かと唇も体も合わせた事がある。

「だけど、その前に名前を聞かせてくれ。俺は遠野志貴。志貴でいい」

「ではシキ…私の事はセイバーと」

****

Fate/stay nightのセイバー離脱ルート、主人公遠野志貴ですな。
ここまで書いておいてセイバーと志貴の相性ってどんなもんかと考えて止まった作品です。
元々、七夜の関係者で唯一の生き残りである葛木せんせーのトコへ行って修行する予定の志貴がセイバーを拾い聖杯戦争に巻き込まれるという設定でした。
シロウはイリヤちゃんの一撃でアレされちゃうんですよね、このルート。
キャスターさんと協力してHFルートを直死の魔眼でぶち壊す! という設定でした。
エクストラプレイ後だとキャス狐さん出したくなりますな。赤セイバーも可愛かったですね。

****
本当に頼りになる使い魔


「君は本当に頼もしいヤツだ……この町に来て君と知り合えて本当に良かったと思ってるよ…」


 それは凍った時の中――誰にも聞こえないとしても、誰にもその呟きは届かなかったとしても。


 シルロットはその呟きに心から同意しただろう。
 
 人形を人間に戻した彼は――
 目の前にいる誰かを決して見捨てる事のない彼は――

 本当に頼りになる少年だったのだと。


第一話 雪風のタバサは動じない


「きゅいきゅい! ありのまま今起こった事を話すのね!
 『お姉様がサモン・サーヴァントのスペルを唱えたら目の前に人間の少年が現れたのね!』
 何を言ってるのか分からないと思うけどわたしも何が起こったのか分からなかったのね! きゅいきゅい!」
 
 風の韻竜イルククゥ――通称シルフィードは混乱していた。
 現在のシルフィードの主人にして幼なじみ、タバサは卓越したトライアングルメイジだ。その父もまた12歳でトライアングルに到達した天才的メイジだったがその才能を余すところなく受け継いだ彼女もまた天才と評されて良い才能を持ち合わせている。
 更に家庭事情で戦場と言う修羅場を、齢15にして幾度も潜り抜けている彼女は贔屓目抜きに大魔法使いと賞賛されるべき存在だとシルフィードは常々――複雑な感情と混ぜ合わせるように――思っている。

 その彼女がサモン・サーヴァントで人間を使い魔に召喚した。
 有り得ないにも程がある。
 メイジの実力を知りたければ使い魔を見よ、という言葉がある程、使い魔というのはメイジに取って重要なパートナーだ。
 シルフィードもまたタバサの母親の使い魔であり、タバサとは実の姉妹のように時間を過ごしてきた仲だ。だから、タバサの実力なら竜を呼ぶかも知れない、家族が増えるかも知れないと楽しみにさえ思い、空を舞いながらサモン・サーヴァントの儀式を見守っていたのだ。
 
 それが人間!
 
 前代未聞だ。人間を使い魔にするなんて200年を超えて生きる――尤も人間に換算すると10歳前後だが――シルフィードもそんな話は聞いた事がない。200年生きてる割に結構な世間知らずではあるが。
 
 だがその思いは級友達や教師ですら同じだった。
 確かにタバサへの級友達の評判は決して良くはない。コミュニケーションという単語が辞書から抜けているような無口無表情無愛想な少女だから、というだけではなく、とある放蕩無頼なメイジ――主に男性遍歴的な意味で――の数少ない友人でもあるからだ。
 だが決してメイジとしての評価が低い訳ではない、というより当代一の風系統のメイジだと誰もが認める程には評価されていた。また扱いが難しいとされる風竜を――母親から受け継いだとは言え――完璧に従わせている様も誰もが知っている。
 
 そんな彼女が平民を使い魔に召喚してしまった!
 何の間違いではないか?
 
 そんな想いが渦巻くヴィエストリ広場で――
 
「……私の名はタバサ。貴方は?」

彼女は目の前に座っている少年に平然と尋ねた。

「……君は? ここ、何処です?」

 一見会話が成り立ってるようでその実全く成り立っていない。お互いがお互いの言語に聞き覚えがないのだから。

 勿論、康一は日本語、タバサはハルケギニア共通言語だ、通じ合う訳がない。しかし、タバサにしてみれば例えどんな存在であれ自分が呼び出した使い魔候補の生物だ、有用かどうか、頼れるかどうかは別にして最低限敵対するような事はないと確信めいた想いがある。

 対して康一もACT.1を発現して周りを索敵させつつ、目の前の青い髪の少女を見ていた。
 スタンド使いではない事は初めから知れていた。スタンド使いならこちらがスタンドを発現した時点でスタンドを出すなり身構えるなりする筈だ。彼女の――ついでに様々な種類の視線を放つ周りのコスプレ集団も、スタンドが見えているとは思えない対応を取っている。わざわざ目の前までACT.1を持って行って目隠ししてみたりしたのだから間違いなく見えていない。

 抜けるような青空、ヨーロッパめいた建設物、更に遠くには某ネズミ王国のような城が見えた。端的に言って、先ほどまで乗っていた飛行機の中とはほど遠い風景。

「――貴方、名前は?」

 きょろきょろと、スタンドと共にステレオで自分の頭を振り辺りを見回す康一。

「ここ何処ですか? なんかみんな魔法使いみたいな格好してますけど……」

 当然ながら二人の話は食い違うばかり。お互いが敵ではない事は知れても、言葉が通じない以上これは致し方ない。タバサとしては同意を得てからコントラクト・サーヴァントに入りたかったのだが、言葉が通じない以上は仕方あるまい。

「――我が名はタバサ。
   五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我が使い魔となせ――」
   
 ファーストキスではあったが仕方ないというものだ。彼女はすべき時にすべき事に対して愚痴や悲嘆をぼやくような性格ではなかった。

 康一は考える。どうやら外国人らしい少女が何やら呟いて顔を近づけてくる。
 キスでもするんじゃないか。冗談めいてそんな事を考えると――

「きゅいーっ!?」

 なにやら盛大な鳴き声が響いて思わず空を見上げる――直後唇に触れる柔らかな触感。
 
「――へ?――痛ぅっ!?」

 左手が焼けるような痛み――それは康一が味わった事のない類の痛みだが、もし彼の世界のヤの付く職業の人が体感したら刺青を入れる時に似て数倍にした痛みだ、と表現したかも知れない。
 蹲るようにして右手で左手を上から押さえ込んでいる康一に、座り込んで視線を合わせるタバサ。尤も彼女の身長は康一とそう大差ないが。

「お、収まった……なんだったんですか? 一体…」

 右手をどけてみるとなにやら見慣れぬ刺青めいた文字。

「ごめんなさい、言葉が通じないようだったから同意なしでコントラクト・サーヴァントを行わざるを得なかった」

「コントラクト・サーヴァント……? それよりここは何処です? 貴方は誰?」

「私はタバサ。ここはトリステイン学院。コントラクト・サーヴァントとは使い魔との契約」

「使い魔…?」

 痛みも引いて身体を起こし、ちょこなんと座っている目の前の少女――タバサに視線を合わせ地べたに胡座座をかく。
 そうして気付く。

「あれ? 言葉が通じてる…? まさか君のスタンド能力?」

「スタンドというのが何を指しているかは分からない。けれど私と貴方が契約した際に言語翻訳機能が働いたと考えて間違いない。これは犬猫等と契約した場合でも発現する為、人間である貴方と契約すれば8割方成功すると私は考えていた」

 殆ど康一には理解の外だが、どうやら言葉が通じるようになったのは彼女のおかげだという事は理解した。
 そして気付く。自分がまだ正確に伝わる形で名乗っていない事に。

「あ、遅れましたが僕は広瀬康一です」

「ヒロセコーイチ……貴方は何処の国の平民?」

 一見して分かる、外国人、それもトリステイン近郊のゲルマニア、ガリア、アルビオン、ロマリアなど近隣数カ国の服装ではないし、名前の韻もそれらの国のとは違う。どこかよほど遠くから召喚されたのではないか、とタバサは当たりを付けた。

「康一で良いですよ。平民って意味は分からないですけど、生まれも育ちも日本のM県杜王町です……ここは日本じゃ、ない?」

「ここはトリステイン王国。貴方の国が何処にあるのか私には分からない。しかしニホンという国ではない事は確か」

「ちょっといいですかな」

 と、頭が可哀想になっている中年――教師であるコルベールが康一の左手を見やる。

「ふむ、珍しいルーンですね……ちょっと失礼」

 とさらさらとメモ帳らしきものにスケッチを取ると、

「ミス・タバサ。使い魔との交流も結構ですが、場所を空けてくれませんか? 次の生徒が待っておりますのでね」

 スケッチをしまいつつ気まずそうに声をかける。
 実際、彼は平民を召喚する――しかも自身に迫る実力を備えたトライアングルたるタバサが――という事態に少々混乱もしていた。その割には見たことのないルーンへの好奇心が優先されていたようだが。

「はい――コーイチ、こっちへ」

「はあ……」

 広場の端の方へ移動するタバサにとぼとぼとついていく康一。
 正直眼を覚ましたら「夢を見せるスタンド攻撃だった」と親友辺りが目の前で説明してくれないかとくだらない妄想もする程、周りの風景は控えめに言って異様だ。
 
 全員が某有名中世風ファンタジー小説の出演者の如くマント着用杖携帯。目の前のタバサに至っては身長よりも長い杖を所持している。
 更に中世風のお城と見紛うばかりの建物。確か飛行機の中にいた筈なのだが。

 ACT.1を出しっぱなしにして回りを見渡しながら、とりあえずタバサに従う事にした康一。スタンド使いは一人もいない感じだし、好奇や嘲笑の視線等は兎も角敵意は一切感じない事から危険はないと分かってはいるものの、イタリアから羽田空港までの飛行機の中で寝こけていて起きたらまた外国でした、では何がなにやらさっぱりだ。
 スタンド使いはいなさそうだがこの現象事態が何らかのスタンド能力とも限らないので警戒するに越した事はない。
 イタリアで「矢」に遭遇した経験が少々過剰に康一を警戒させていた。ジョルノはあの老人の命を奪った事に対して責任を取らせる、と言っていたが無事入団出来たのだろうか……

「貴方の事を聞かせて欲しい。貴方も訊きたい事があったら訊いて」

 人の輪から離れ――タバサに人の使い魔を気にするような好奇心はない――ベンチに座り、隣に座るよう促す。

「えーと……何度も訊くようで申し訳ないんだけど、ここは日本――いやジャパンじゃないんです?」

「ニホン及びジャパンという国をそもそも私は聞いた事がない」

「……はあ…」

 嘘は言っていない汗――ではなく瞳をしている。というよりこんな突拍子もない嘘は吐かないだろう。自慢ではないが日本は色んな意味で世界中から認知されている。フジヤマスシゲイシャだ。アニメの聖地。まあ大半は東北地方に住んでいる康一には直接縁があるものでないが友人の漫画家が連載している作品なども海外で高い評価を得ている。
 日本の事を知らない程情報伝達技術が後れている――発展途上国の人ならそれもまだ理解出来るが、それにしてもタバサという少女から滲み出る知性は一線を画している。
 よく見てみれば絹製など高級そうな服装だ。何処がどう高級なのか説明出来る程洋服に造形がある訳ではない康一としてはそれ以上の事は言えないが、少なくともタバサがそう言った「日本の事を知らない程近代文明的に遅れた国の人」という線はなさそうだ。
 
「――トリステイン、ゲルマニア、ロマリア、ガリア、アルビオン。
 近隣数カ国の名前。どれか一つでも貴方の知識にある国はある?」
 
「いえ、どれも知らないです」

 じわり、と康一の心に滲み出る疑惑。事実、今タバサがあげた国の名前は一つとして知らない。似たような名前の国はなくはないが。

「きゅいきゅい!」

「うわぁっ!?」

「驚かなくて良い……私の幼なじみ、母親の使い魔で今は私に仕えてくれている風竜。シルフィード」

「きゅいきゅい!」

 突然目の前に舞い降り、康一に因縁つけるように、或いは犬や猫が相手を確かめる為匂いをかぐように鼻先を康一につけ探りまくるシルフィード。

 端的に言って彼女は怒っていた。見も知らぬ人間がいきなり姉と慕うタバサにキスしたのだ。それを抜きにしてもタバサの使い魔が人間では納得いかない。
 彼女的に怒って当然だ。
 
 ポカ
 
「きゅい~!?」

「行儀良くして」

 勿論、タバサとしては当たり前の事を当たり前にやっただけなので何の感慨もない。むしろ新入りをいびるような真似をしたシルフィードこそ折檻の対象だ。

「ど、ど――ドラゴン!?!」

 杖で叩かれ縮こまるようにして大人しくなった竜を見て、驚愕する康一。

「……竜が珍しい?」

 確かに竜は希少種だ。秘密だがシルフィードは絶滅したと言われる風韻竜なのでもっと貴重だ。
 しかし、そういう意味で康一は驚いた訳ではない。

 ――ドラゴンが実在して目の前にいる、その事実!
 
「め、珍しいというか……ホントにドラゴンが存在するなんて……」

 その科白に違和感を覚えるタバサ。彼の驚きようから竜を見たことがないのは明白だが、何かが違うような。まさかシルフィードの秘密に気付いた訳でもないだろう。勿論、彼が使い魔として働いてくれるなら――今の所その有用性は未知数だが――いずれシルフィードの事を話しておくべきだ。お喋り好きな風竜だ、きっと喜んで受け入れるだろう。しかし今は場所も時期も適切ではない。

「…貴方の国には竜がいないの?」

「…いないですねぇ。いるなんて目の前で見ても信じられない位ですから」

 まじまじとシルフィードを観察する康一の言葉に嘘はなさそう。
 竜が存在しない国、そんな所があるのだろうか。滅多に出会えない国なら結構あるだろうが、それにしてもこの世界の航空戦力の一旦を担うのは竜騎士隊だ。城へ行けば、そして運が良ければ竜騎士隊の演習を見られる事もあるだろう。
 それを見たことがない、どころか存在すら疑っていた?
 
「……もしかして地球じゃないのか…ここ…?」

 ぼそり、と疑わしげに呟く独り言に、反応するタバサ。

「チキュー?」

「……………」

「……………」

 もしかして、これはアレか。
 康一の脳裏に去来する、オタクな先輩、間田の顔。

「この『世界』に名前はあるんですか?」

「この世界はハルケギニアという。ハルケギニア・トリステイン王国国立魔法学院、それがここ」

「……魔法?」

 スタンドも月までぶっ飛ぶ衝撃! 魔法!?
 
 スタンド使いはスタンド使いに惹かれ合う、とはその間田先輩の言葉だが。
 ここまで厄介ごとに惹かれるのか、と康一は少し泣きたくなった。
 
 そうして響く爆音。

「ゼロのルイズがまた爆発させたぞー!」

 先ほどの場所から響き渡る声。
 
「気にしなくて良い。いつもの事」

「はあ……」

 爆発がいつもの事ってここは危険な場所なのか、それともアレも魔法か。そう言えばまだ訊いていない事があった。
 
「あの、使い魔ってなんですか?」

「私の場合は貴方。私の母親の使い魔だったのがこの子――」

 と寄り添ってきたシルフィードの頭を撫で――
 
「使い魔とはメイジと共にある」

 神聖な儀式である召喚の儀、サモン・サーヴァントで呼び出された使い魔をメイジは半身として終生を過ごす。それはメイジ――魔法使いの属性に合わせて猫や犬、蛙や土竜、竜やスキュラなどの幻獣が呼び出される。
 端的に言えば人が呼び出されるのはイレギュラーも良いトコだ。

 しかし、彼女は知っている。イーヴァルディの勇者を。
 始祖プリミルと共にあり全てから始祖を守った戦士達を。
 ガンタールブと呼ばれた、ミョズニトニルンと呼ばれた、ヴィンダールブと呼ばれた彼らの活躍は失われた伝承も数多いが今なお伝えられているものが多くある。
 それらを解読された資料を漁った時期もある。独自に解釈した事もある。
 
 彼女は知っている。

 始祖プリミルの使い魔達が人、或いは亜人でなければ為しえない奇跡を残した事を。

 だから決して彼女は落胆などしていなかった。
 そもそも普通の使い魔なら母から受け継いだシルフィードがいるのだ、必要ないとさえ言える。
 が、それはそれとして彼自身には申し訳なく思う。突然、住み慣れた土地や家族から引き離され使い魔――つまりは従者になれと言われるとは誰も思わないだろうし彼女自身考えた事もなかった。しかし呼び出したのは自分なのだから出来る限りの事はするべきだと理解している。

 使い魔とメイジに関する常識的な範囲での知識を告げられると、康一は天を仰いで、呻く。

「…魔法に使い魔に異世界……Oh! My God! ってトコですかねぇ」

 尤も日本人らしく無宗教ないし適当な仏教徒な康一に心から信じる神ないどいないが。

 どうやら嘘は言ってないらしい。というかここまで嘘が吐けるなら騙されてもよいとさえ思える常識破壊っぷりだ。
 使い魔とメイジ――魔法使いの関係もスタンドとスタンド使いに比すれば理解もしやすい。

「それで大事な事なんですが、僕は帰れるんですかね? 自分の国に」

「私としては吝かではない。しかしサモン・サーヴァントで呼び出された使い魔との契約はメイジか使い魔どちらかの死以外での破棄は認められていない」

「…つまり死ぬまで使い魔続けなければならない?」

「しかし使い魔と言っても貴方は人間。不当に拘束する事は私も好まない。貴方が望むなら、学園卒業後ならば故郷に帰れるよう手配する」

 そう、魔法学園では召喚の儀が進級試験にもなっている為、タバサ自身の思惑は兎も角、進級する為だけにでもいてもらわないと困るのだ。学園に在校している間は使い魔としていてもらわないと何かと不都合でもある。
 
「なるほど、そういう事情だったらしょーがないですね」

 ここが異世界(もしくは地球外地球型惑星?)だと考えた場合、間違ってもすぐ帰れる手段はなさそうだ。

「じゃあ最低でもタバサさんが学校卒業するまでは使い魔ってのをやりますよ」

「……いいの? 私は貴方を無理矢理呼びつけて貴方に無理矢理主従関係を要求しているようなもの」

「まあ呼びつけられた事は兎も角、無理矢理じゃないじゃないですか。ちゃんと説明してくれたし」

 この科白をよほど遠い国、ロバ・アル・カリイエ、ひょっとしたら更にその向こう側から彼は来たのかも知れない、と彼女は考えた。ハルケギニアの常識から照らし合わせば無理のない事と言える。

「あ、今更訊くまでもないんでしょうけど、送還用の呪文とかは――」

「ない。ごめんなさい」

「いやいやいや、タバサさんが謝る事じゃないですって! 昔から決められてた事ならしょーがないですし!」

 申し訳なさそうに目を伏せるタバサに、しかし康一は殆ど確信めいて――大変な事になったなぁと心でぼやいた。

 異世界召喚モノ。昔のアニメで騎士として呼び出されてその世界を救う為ロボットに乗り込むなんてのがあったがまさか自分がソレを体験するとは思いもよらなかった。スタンド使いになってからこっち人生があっちこっちにふらふらしすぎじゃないかと思わないでもないが、スタンド使いになったからこそ親友と呼べる人も教師と思うべき人にも、恋人にも巡り会えたの――だ――
 
「…? どうかした?」

「いえ、なんともないですよ…」

 思い出さなければよかった。恋人たる山岸由花子の事を。
 
 3FREEZE!!!!
 
 ドォーン!
 
 自らの記憶を深く沈めて頭を振るう。一種のスイッチングウィンバックだ。眼は抉らない。
 
「で、使い魔って事で僕はどうすれば良いんですかね?」

 その言葉にタバサは考える。
 康一にも確かめた所お互い感覚の共有は出来ないらしい。それはタバサとしては不都合でもなんでもない。言葉が通じるのだから話し合えば良いだけだ。それは兎も角、秘薬の材料の類など集めさせる位なら買った方が早いし購入不可能ならシルフィードに乗って自分で採りに行った方が更に早い。
 主人を護る、というのも明らかにメイジではない彼に何が出来るだろうか。

 曲がりなりにも貴族である自分に対して物怖じもせずはっきりと会話出来る彼は控えめに言って好印象ではあるし、油断なく辺りに気を配ってる辺り見た目ほどヤワではないのかも知れない。
 しかしメイジでない以上メイジの護衛はかなり厳しいだろう。
 更に言えば自分は北方花壇騎士団の騎士だ。つまり危険が日常と隣り合わせだ。それに彼を巻き込むのは如何なものか。
 不幸になるのは、辛い想いをするのは自分だけで良いはず。

 となると臨時雇いの使用人として扱ってあげた方が彼の為だろうか? 人と距離を取ると決め心に仮面を被った自分ではあるが、その自分の魔法でいきなり日常生活を一変させられた彼を素気なく扱うのは人として間違ってるだろう。

 そう考え、顔を上げ彼にそれを伝えようと口を開いた時。

 どぉんっ! 再び爆発音が鳴り響く。

「…凄いですねぇ」

 そうとしか言い様がない。慣れているのか爆心地を囲うように見物している連中は野次を飛ばしながらも平然としているのが見えた。

「はぁい。タバサ、貴方も終わったのね?」

「キュルケ」

 と、康一とタバサの目の前に現れたのは赤い髪を翻す褐色の美人。おお、ブラボー!!と騒ぐ億泰が見える程! 美貌の女性だった!

 ぽけーっとタバサさんと同い年に見えないなぁ、とか考えていた康一に視線を上下に走らせ、

「この子が貴方の使い魔?」

「そう」

「平民が使い魔なんてねぇ…タバサほどのメイジが」

「あの平民ってなんですか?」

 ぽかん、と言った表情なのだろう、タバサは殆ど無表情だがキュルケの方はてめー頭脳がマヌケかと言わんばかりの呆れていた。
 それも当然であろう、康一が生まれ育った日本では身分格差は殆どない。何しろ小学校しか出てないような人間ですら努力や幸運など様々な要因で国の権力中枢の頂点に立てる事すらあるのだ。ハルケギニアとは身分格差に対する意識が違い過ぎる。
 タバサやキュルケにとってみれば「人間ってなんですか?」と訊かれたのに等しい訳分からない質問だと言える。
 タバサの方は先ほどまでの会話からこちらの常識は殆ど通じないと確信めいた想いを抱いていたため、素早く彼の質問に答える事が出来る。

「平民、魔法が使え支配階級たる貴族に対して使われる被支配階級に位置する人間の事。多くは魔法が使えない人間を指す」

「はあ……つまり、ホントに中世ヨーロッパ並の封建制度って訳ですか……」

「ちょっと、大丈夫なの? この子」

「まだ少ししか話をしていない。けど彼はよほど遠くから召喚されたみたい」

「そ」

 美少年でもなければたくましくもない康一には興味がわかないのだろうキュルケは自分の後ろに控えていたサラマンダーをタバサの前に進めた。

「私の使い魔はサラマンダーだったわ、ほら、この炎。間違いなく火竜山脈産ね。火属性の私にぴったり!」

「うわっこれ本物ですか!?」

「きゅるきゅる」

 何をアホな事を、と言わんばかりに声を上げるサラマンダー。

「そーよぉ、フレイムって名付けたんだから」

「サラマンダーも貴方の国にはいないの?」

「いたらこんな驚きませんよぉ」

 火がどうのというよりこのサイズのトカゲというだけでかなり珍しい、しかも尻尾が燃えてる。ゲームじゃあるまいし火トカゲとは。康一の常識が音を立てて崩れそうになるがよく考えたらスタンド使いも非常識そのものなんだなぁと思う。そうすると途端にサラマンダー――フレイムが普通の動物に見えるのが不思議だった。

「さわってみて良いです?」

 ベンチから降りて、しゃがみこむ。見れば見るほど不思議生物。むしろキュルケのスタンドでした、と言われる方が康一には遙かに納得出来た。

「構わないわよ。それにしても本当に平民なのねぇ」

 どごおーん! 再び爆発。

「人が使い魔になるって珍しいんですか?」

 フレイムを撫でながら――きゅるきゅると鳴き声が意外と可愛らしい――尋ねてみる。まあよく考えれば珍しいどころではないのだろうが。基本的に強制拉致&強制従属だし。

「殆ど有り得ない。私の知る限り始祖ブリミルの使い魔達がもしかしたら人であった可能性がある、程度しか人が使い魔になった例は存在しない」

「始祖ブリミルの使い魔が? それホント?」

「全ての武器を自在に操るガンダールヴ、全ての獣と心通わすヴィンダールヴ、あらゆる魔道具を使いこなすミョズニトニルン、この三種の使い魔達に関する伝承は人、最低でも亜人でなければ為し得ない事があまりにも多い。また、ガンダールヴをモデルとしたイーヴァルディの勇者の事もある。始祖ブリミルの使い魔達のうち最低でもガンダールヴが人であった可能性は高いと私は考える」

「そ、そう…まあ貴方がそういうならそうでしょうね…」

 たじたじになりながらキュルケが考えていた事はこの子がこんな喋るなんて! という事だったのは内緒だ。だが彼女はイーヴァルディの勇者がタバサの愛読書だという事を知っている。イーヴァルディ=ガンダールヴというのはもはや通説に近い迷信だが、何かしらタバサなりに拘りがあるのだろう、その理由までは尋ねた事はないが。まあタバサの使い魔なのだ、仲良くしておくべきだ。

「貴方、お名前は?」

「広瀬康一です。ありがとーございました」

「きゅるきゅる」

「? 変な名前ね」

「地元では在り来たりな名前なんですけどね」

 再び爆発。



 様々な修羅場をくぐってきた少年、広瀬康一は自信ありげに、そしてなおかつ傲岸にならない程控えめに、力強く頷いた。
 
 その瞳に、笑顔に。タバサは一瞬眩しそうに眼を瞬かせて――小さく頷いた。

 そして少年は――ハルケギニアを駆け抜ける、吹き荒ぶ雪風と共に。

****

ゼロの奇妙な使い魔スレに投稿しようと思って辞めた作品です。
理由は、タバサが人を召喚出来る理由が思いつかなかった、こじつけられなかったから。
さらにフーケ戦、アルビオン手紙編とか辺りまでなら続きかけそうですが、それ以上は厳しいんで没に。
まー原作からしてアレだから適当でも良いのかもしれませんが。
シルフィードがいないとストーリーが破綻しすぎて難易度高杉な為、母親の使い魔ということで連れ回してたり。


****

やあ (´・ω・`)

ようこそ、転生→憑依二次創作へ。
このミニリューはサービスだから、まず竜の怒りで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、このスレタイを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って
このスレを立てたんだ。


じゃあ、物語を始めようか。

いつかの時代

どこかの場所

新たな物語を――


********

「レッドぉぉぉっっ! か! わ! Eいぃぃぃ!! マジレッドは俺の嫁!」

トキワの森のイエロー。
彼女はそう呼ばれる。十年に一度、森の力を授かって生まれた少女。
ちなみに原作単行本第7巻82話vsラッタでイエロー自身が「何年かに一度」とピカに語っていたりするのは些細な事である。

兎も角、イエローはそんな「森の子供達」の一人ではあるが、少々異質な存在ではあった。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の庇護下の元、達者に暮らしているのだが妙に大人びているのだ。街の皆、誰より叔父のヒデノリがそれを感じていた。
だが元々森の子供自体異質といえば異質な存在である。前世代の森の子供であるワタルがトキワを出ている事もあって、イエローは周囲の好意に助けられ、順調に育っていった。


そんな彼女――イエローは今、自宅で手に入れた「ミニリュー」を抱きかかえてほくそ笑んでいた、いや叫んでいた。

色々と台無しである。


読者諸兄はもはやお分かりのようにこのイエローは所謂転生・憑依系二次創作の主人公である。
中身、というか前世は普通のサラリーマンでポケモンオタク、正確にはポケモンバトルオタクであった。死亡時のバトレボ・プラチナ合わせての通算プレイ時間は19793時間、一日が24時間で一ヶ月が720~744時間である。
よくぞ真っ当な生活を送れていたといっそ褒め称えられても良い位には人生終わっているような生活であった、他人から見れば、ではあるが。
所謂ライトノベルやジャンプ系などの漫画など様々なジャンルを浅く広く手を出し、特定のアニメや漫画にハマる事は殆どない男であったが、ポケスペや電撃ピカチュウは愛読書であった。いわゆるただしアナクボ、てめーはダメだ、である。

前世で彼がどう生きてどう死んだかは今はさして大事ない事である、少なくとも本人にとっては。
問題は彼がイエローに転生・憑依してしまったという事だ、所謂TSである。

彼は非常にTS作品が嫌いであった。殆どが百合モノだからである。
前世と性別が変わる事自体は「輪廻転生」が存在するなら普通にあり得る事であるのでそれはいいのだが、性格や趣味などは大なり小なり肉体に引きずられるものであるにも関わらず、一番肉体――つまりホルモンや遺伝子情報など――に決定されて然るべき「異性への求愛行動」が、思春期にすら変化しないどころか全く揺さぶられしないとはあり得ないというのが持論であるからだ。

そしてはからずもその持論を自らで証明してしまった。
原作の彼女――イエローが主人公たるレッドに憧れたシーン、あの場面で彼は、イエローは見事レッドに一目惚れしてしまったのだ。

元々彼がレッド×イエロー、所謂レイエ好きであった事も影響しているのだろうが、ここまで見事に惚れるとは自分でも予想外であった。

もちろん、彼とてイエローとして、9歳の少女として最近なんとはなしに女性らしくなってきちゃったなぁ、と月を見上げて前世を思い出す程には女性らしくなってきたところである。
鏡に映る自分の姿を見ては、女らしくしなくては勿体ないと考える程度には常識人であったゆえに少女らしく――少々わざとらしくても――行動しているうちに、頭の中も嗜好も少女らしくなってしまったのであろう、と自己完結はしている。

 一例として、前世での好きな食べ物は酒とくさやと納豆、今は納豆と甘い物全般である。ちなみに酒は過日久しぶりにと叔父、ヒデノリのウィスキーをこっそり一口頂いて、盛大にしかめっ面を見せながら苦労して飲み干したのが記憶に新しい。

それにしても…などと悩む事もなくこのイエロー、すでに頭が赤一色で染まってしまって前世がどうのという事はもはや忘却の彼方である。

「あーマジ可愛い、レッドさんマジパネェっす」

ミニリューを抱き枕にしながらベッドの上をごろごろと転がりもだえるイエロー。
独り言の際に元の男口調になってしまうのが最近のイエローの悩みなのだが、浮かれ過ぎてそんな事もすっかりと遙かナナシマの彼方である。

「きゅ~」

抱きしめられて苦しいのか、ミニリューが抗議のうめき声を上げる。

しかしイエローには効果がなかった!

イエローが抱きしめている腕や挟み込んでいる太ももが当たる部分が苦しい訳だ、ミニリュー的には。
なおミニリューは1.8mの平均全長を持つ。傍目には9歳児の平均身長133㎝を下回る122㎝のイエローに巻き付いてる様にしか見えない。

「マジレッドさんリスペクト~!」

イエローのテンションはうなぎ登りである。

さて、ここで説明しておくべきかも知れない。
このミニリュー――イエローはリュリュと名付けたが――は原作知識をお持ちの方ならお分かりであろう、何故かあの時トキワの森にいて、迷い子であったイエローを襲撃したミニリューである。

原作でのこのシーン、常々「もったいねー!」と考えていたイエローはレッドが助けに入った瞬間――思いっきり抱き留められた――その蔓でミニリューの動きを止めるフシギバナのフッシーに攻撃命令を出すのを止めさせた。
 そしてポケモンを持ってない旨を伝えて、ピカチュウの手を借りて無事ゲットした、というわけだ。
 
ぶっちゃけラッタよりミニリューだろ、というわけである。
このイエロー、原作展開を否定するつもりはないが自分の所持ポケモン位自分で選ぶのだと意気込んでいた。
 その第一歩がミニリューである。

****

ここまで書いておいて、最後のワタル戦どーすんの、100万ボルトとか無理無理とか考えて没。
高町静香の~を執筆する直前の作品で、TSとか百合否定とかいろいろ設定がかぶってるますな。
逆ハーレムで本人はレッドさん一途なのにグリーンに惚れられブルーは年上の親友だけどグリーンを巡る恋敵でシルバーにも惚れられるというアフォなこと考えてました。



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