5月16日 PM.10:12 『FORTUNES』アジト
「……まだ起きてたんだ」
アジトの外のベンチに座っているキースに、青の寝巻姿の華奈は寄りながらそう言った。
「……ああ。少し眠れなくてな」
いつもにしては少し浮かない表情でそう応える。
「意外。いつもなら10時ぐらいに寝込んじゃうのに」
言いながらキースの隣に座る。
「職業柄、しっかり休まないとあの世に飛んでしまう」
「ふふっ。まるで子供みたいね」
クスリ、と華奈は微笑んだ。10時に寝床に着く19歳なんてそうそういない。
「ガキの頃はいつも9時に寝て、宿題なんてそっちのけだったな」
夜空を遠い目で見上げながら、キースは独り言のように呟いた。
「……ねぇ、キースの子供の時って、どんなものだったの?」
ふと、華奈は思い出したように訊いた。そう言えば、キースの昔について訊いた事がなかった。
「そうだな……とにかく、暴れん坊だったよ」
「あ、暴れん坊?」
自嘲するように言ったキースの言葉を、華奈は繰り返した。
「他の奴と大ゲンカすりゃ数人『病院送り』にしたし、街中でダチとよく悪戯したな。サッカーボールをアイスクリーム屋のキャンピングカーに蹴り入れたり、ダチのアパートで口うるさい大家の部屋のベランダに連発の撃ち上げ花火を皆で撃ちまくったり……いろいろやったなぁ」
微笑みながら感傷に浸るキースとは対照的に、想像以上に酷い有様に、華奈は驚きを隠せずに唖然としていた。特に最後の方。絶対に警察行きだろう。
「ああ、警察にも捕まって、皆で協力して警官共と脱走戦を繰り広げてたな。あれは面白かったぜ?署長室の天井に隠れて、署長の慌てぶりをゆっくりとご鑑賞だ」
警察でもやらかすか。
あまりの酷さに、華奈は言葉が出なかった。
「ん?どうした、唖然として」
「い、いや、別に……そうだ、家族は?今は何処に住んでるの?」
話題を変えようと思い、今度は家族について訊いた。
「!……」
と、それを聞いた途端、キースの顔から微笑みが消えた。黙り込み、だが、夜空を見続ける。
「……キース?どうし――」
「死んだ」
「……え?」
耳を疑う。
「大戦中に巻き込まれて、両親は死んだ」
幻聴などではなかった。
「……ごめんなさい……」
きいた事を苦々しく思いながら、キースに謝った。
「気にするな。もう受け入れたことだ」
特に傷ついた様子も無く、キースは淡々と応えた。
顔に出てなくても、心の奥底は傷ついてしまっただろう。
訊かなければよかった、と華奈は自分を責めながら俯いた。
「……かけがえのない家族だった」
華奈に向かず、悲しいというよりも懐かしんでいるようにキースは呟いた。
「いい家族だったんだね」
何も言わず、キースは頷いた。
「……ねぇ」
「……何だ?」
「家族って、何なのかな」
華奈の問いを聞き、ようやくキースは華奈に振り向いた。
「……どうしてそんな事を訊く?」
口調を変えず、穏やかなまま訊き返した。
「グレンさんのチームにいる、アーニャって子から聞いたんだけどね……グレンさんたちが彼女を家族のように受け入れてくれるから、保護されているなんて思ってない。むしろ、家族の一員なんだって……私、家族って、血が繋がっているからこそそうなんだって思っていたけど、彼女はそうじゃなかった。私が知る『家族』とアーニャが知る『家族』、どっちが正解なのかな」
俯きながらキースに話す。
華奈には肉親との記憶が無いため、『家族』というものが持つ意味を知らなかった。アーニャの考えを聞いて、初めて華奈はそう気づいた。
『家族』とは、何なのか。その条件は。それが持つ意味は。それがもたらすものは。
それらが華奈にとって、半蔵から真実を告げられた時から見失っていたものだった。
もし、母であった日和との日々が、半蔵の企みによるものだったとしたら……
そんな不安も、華奈は微かに抱えていた。
「……答えは無い」
キースは迷わず、そう応えた。予想外な答えに、思わず華奈は「え?」と言いながら顔を上げた。
「物事に対して個人が持つ価値観や見方は様々だ。1つの物事を良いと思う人もいれば、悪いと思う人もいる。だが、中には善し悪しを決められない物事もある。華奈とアーニャが知っている『家族』は、どちらも正解か間違いかは判断できない」
「私とアーニャの、価値観や見方……」
「そうだ。人間は皆『自我』を持って生きている。それぞれが持つ考え、価値観に基づいて行動している。だから、誰かが物事の価値観や見方を、統一することは不可能なんだ。お前が『家族』の正確な意味を知ろうとしているように、それを法則のように定義することは出来ない」
キースの答えを、華奈は自然と聞き入っていた。
人間が個々に違う考えを持っているから、物事の価値観や見方を1つに纏める事が出来ない。華奈が『家族』が持つ真の意味を知ること自体が、間違いだということになる。答えは、自分の価値観や見方で判断しなければならなくなる。
「しかし、それを知っていても、人間の中には『我』を貫き通すために、答えを早とちりしてそれを周りに押し付ける奴もいる。物事の答えは、存在しないのと同時に、自分の中にも無い。だからこそ、人間は他者の価値観や見方を共有して、多くの事を知り、自分なりの答えを導き出す。1人では、空回りな答えが出るだけなんだ」
「他者との、共有……」
ならば、アーニャが持つ見方も、その1つに過ぎない。華奈が持つ見方も、またそうなる。
「……俺は、『家族』というものに、『形』は無いと思う」
「『形』が無い?どういうこと?」
キースの言葉に、華奈は疑問を抱いた。
「血筋などの『形』は無い。ただ、そこにいる人間が、お互いに思いやり、生きていくという意思を持っているなら、『形』がどうであれ、『家族』だと思う」
「……」
「分かっているが、これは俺が持つ考えであり、正解ではない。お前は、お前の意思で答えを見つけるんだ。これに限らず、これからのことも」
そうだ。そこに答えは無い。決めるのは自分自身。華奈の意思によるものなのだ。それをこれから見つける。そして、両親に会った時、本当の、自分なりの家族でいられるようにする。これは、両親に会うまでの課題である。
(……でも……)
では、日和はどうするのか。彼女は、自分の家族ということになるのだろうか。今は亡き身とは言え、放っておけるものではない。
それもまた、考えなければならない。
「……うん。そうだよね。私の意思で、考えなきゃね」
「……悩んだら相談にのってやる」
キースは立ち上がりながらそう言った。そして、華奈に振り向く。
「今のところ、お前は『BLACK WALTZ』の一員――『家族』なんだからな」
星空の優しい光が照らすキースの微笑みが、華奈の不安を、一瞬だが、忘れさせてくれた。
「……ありがとう、キース」
華奈は笑顔で、キースの微笑みに応えた。
5月17日 『マディソンスクエア総合病院』 AM.10:30
「ここが、『マディソンスクエア病院』?」
「うん。ニューヨーク――ここ近辺の中で最大の病院だよ」
うわずった声で問う華奈に、アーニャはそう応えた。
ニューヨークのマンハッタン区の中心に位置する、ここマディソンスクエアの北区に、巨大な総合病院がある。同市にあるマディソンスクエアガーデンに匹敵する大きさの敷地を持ち、その施設もまた、多くの建物が連絡橋で繋がっている。棟ごとに担当する科を分担しており、外来の患者の運搬の効率を上げている。
「アーニャはこれから診察なんだよね?」
「ああ、うん。でも診察は午後の部だから、あたしも一緒に行くよ。院長と話すとき、通訳が必要でしょ?さ、行こ!」
レモン色のタイトワンピース姿のアーニャは、微笑みながら先に歩き出した。ベージュのシフォンブラウス姿の華奈は困ったような笑顔を浮かべ、明るい翠と黒のチェックスカートを揺らしながら後を追った。
今日ここに来たのは、華奈を孤児院に預けた、ラザ・マイケルに会うためだ。華奈の出生、孤児院にいた理由、1年後にアメリカに連れ戻されたこと……全てを彼が知っている。もしかしたら、両親の居場所を知っているのかもしれない。そんな期待も、華奈は少なからずとも抱いていた。
総合棟 1階 受付
「不在……?」
華奈は茫然としながら、確かめるように呟いた。
病院の総合棟。ここは病院の運営関係の棟であり、院長もここで仕事をしている。
通常なら。
「ええ。今大学の講義の関係で、ドイツにいるらしいわ」
「そんな……」
唯一の手掛かりであるマイケルが今いなければ、何も情報を得られない。今のところ、彼以外に宛てがない。
(どうしよう……これじゃあ、彼に会えないままだわ)
考えを巡らすが、思いつかない。
仕方なく、一旦諦めようと思った。
「I am sorry, but is there the person who is close to Michael at this hospital?」
と、アーニャが受付の女性に英語で問いかけた。
「Is reliable; the assistant director at Ueno … … he works as acting director now.」
「May I meet the person?」
「I`ll ask him.Please wait.」
女性はそう言うと、内線電話を取り出し、誰かと話し始めた。
「今、マイケルさんと親しい人とアポイントメント取ってる。ここまで来ちゃったんだから、せめてマイケルさんのことだけでも訊こうよ」
「え!?で、でも……」
「そのために来たんでしょ?」
アーニャは戸惑う華奈の顔を覗き込み、そして、明るい笑顔を見せる。自然と、不安が少し和らいだ。
「ね?」
「……そうだね。そうしよう」
確かに、マイケルから直接訊くことは出来ないが、彼を知る人なら、少しでも何かが分かるかもしれない。
「……ありがとう、アーニャ」
「別にいいって。あたし、『止まる』のは嫌いなだけだから」
笑顔のまま、アーニャはそう言った。
総合棟 4階 院長室
「副院長にお客さんとは、珍しいですね」
華奈たちが広い院長室に入るなり、ソファーに座っている白衣の男が悠長にそう言った。顔立ちは比較的細く、穏やかなものであり、今が老け初めなのか、髪の毛に多くの白髪が混じっている。黒ぶちの丸眼鏡の奥の瞳は優しく、誰にでも優しく接するような人格を感じさせる。
「上野 孝典です。よろしく」
孝典はソファーから立ち、軽く礼をした。
華奈とアーニャも、それに連れて礼をする。
「アーニャ・メルティオです」
「華奈です。本日はお忙しいところすみません」
「ハハハ……いいんですよ。院長代理とはいえど、今はデスクワークだけでしたから。ささ、どうぞお掛けになって。今お茶を淹れますね」
と、孝典は隅のテーブルに行き、お茶の準備を始めた。こうして見ると、さながら器用な老執事に見える。
「……孝典さんは、マイケルさんと親しいと聞きましたが……」
ソファーに座りながら、華奈は訊いた。
「ええ。彼とは同期でしてね。ドイツの大学で知り合って、それからずっと一緒です」
「どんな人なんですか?」
「そうですね……一言で言うなら、生真面目、ですかね」
急須と湯のみ3つを持ち、言葉に笑みを浮かべながらそう言った。
「おっと、アーニャさんは、お茶は苦手ですかな?」
「いやいや、むしろ大好きですよ!」
「ハハハ、それは良かった。さ、お茶がはいりましたよ」
テーブルに急須と湯のみを置き、手際良くお茶を淹れる。
「ありがとうございます……生真面目、と言いますと?」
華奈は注がれた湯呑を持ちながら、孝典に問いた。
「生真面目は生真面目ですよ。文字通り。患者のことはもちろん、職員の事までちゃんと目を配らせ、不祥事があれば容赦無く公平に処分する。簡単に言うと、質実剛健、といったところでしょうか」
向かい側のソファに座り、お茶を啜った。
「……ただ、反面融通が利かなくて、人付き合いがよくない面もありましてね。色々、非難を浴びているんですよ……それでも、彼は医者として為すべきことを為し続けてきました。今も、それは変わりません……全く、感心以外に、抱く物がありませんよ」
微笑みながら、孝典は言った。華奈もそれにつられて微笑む。だが、すぐに真顔に戻る。
「1つ、聞きたいことがあるんです。マイケルさんは今までに、子供を預かったりしていますか?」
「子供を?」
「12年前に、柊 華奈という女の子を保護しているはずなんです」
「!?」
と、孝典の顔色が変わった。何か、思い当たりがあるかのように。
「どうして、その名を?」
動揺を抑え、孝典は華奈に問う。
「おそらく……私はその、柊 華奈なんです」
瞬間、場の空気が一瞬静まった。アーニャも、孝典も、驚きを隠せずにいる。
「……ええ。確かに、彼はとある子供を保護していました。柊 華奈、という女の子を」
「やっぱり、マイケルさんが……」
「聞いたところ、彼の古い友人から預かっていたそうです」
「!?その友人は……!!」
華奈の、両親。
華奈をマイケルに預けた、両親。
「すみませんが、その友人さんのことはご存じで?」
たまらず華奈は訊いた。
「……残念ですが、私が聞いていたのは、彼が柊さんを預かっていたということだけです。それ以上、彼は話してくれませんでした」
「……そう、ですか……」
力弱く相槌を打ち、華奈は落胆した。
だが、これでマイケルが両親と旧友関係にあったことがわかった。マイケルが鍵を握っている可能性が、より高まったということになる。後は、マイケルにさえ会えれば――
それに、もう1つ疑問がある。
失望を無理矢理押し殺し、質問を続けた。
「あと、マイケルさんが華奈を日本の孤児院に連れて行って、その次の年に連れ戻したということは、ご存じないですか?」
もう1つの疑問。孤児院に連れて行ったことと、僅か1年で連れ戻したことの理由。
それも疑わざるを得ないことであった。
「孤児院に連れて行ったのは覚えています。1日だけ院長代理を任されて、マイケルは柊さんを連れて日本に行ったんです。なんでも、両親の要望だとか……」
「両親の……要望?」
「内容は分かりませんが、そんなことを言っていました」
両親の、要望。
華奈はその言葉に反応し、考え込む。
両親の要望。つまり、なんらかの事情で華奈を傍に置いておくことが出来なくなった。でもそれは、マイケルが保護することで解決している。
捨てた、という極論に至るには非合理的だ。わざわざ孤児院に入れたのだから。
(……私に関する事なのかしら……?)
両親になにかあったのなら、華奈をマイケルに預けたまま何処かに逃げたはずだ。にも関わらず華奈まで移動させたのは、自分に関係することで両親が問題を抱えていた、ということになる。あくまで推測だが、今の時点ではそれが有力だ。
「……君は今、両親を捜しているのですか?」
ふと、孝典が華奈に質問を持ちかけた。彼の表情は少し険しかった。
「ええ……そうです」
静かに答える。
「……余計な詮索はするつもりはありませんが、1つ、私からも確かめたいことが」
「?」
険しい表情のまま、孝典は口を紡ぎ……そして、開いた。
「もし、君が両親に会ったとして、その人たちを本当の両親と思えますか?」
PM.8:00 『FORTUNES』アジト
「……なぁお~?華奈ぁ~」
パソコンの画面を覗き込みながら、アーニャはベッドに横たわっている華奈に声を掛けた。
ここは2階のアーニャの部屋。
最初に華奈が入る前は、女の子っぽい可愛い部屋なんだろうな、と思っていたが――
壁一面に、大小様々な多くのスクリーンで埋め尽くされ、その下のデスクにはデスクトップタイプのパソコン1台と、多量のコードが散りばめられていて、物を置く場所が無い。その周りの棚にも、パソコンのパーツなどで一杯だった。到底、女の子の部屋とは言いにくい。さながら、片付け知らずが経営するパソコンショップだ。確か、大戦で消えた東京のとある街に、こんな風な店があったらしい。名前は……忘れてしまった。
幸い、窓だけは空けてあり、機材が発する熱で部屋がサウナ状態になることはない。
「う~……」
「まだ気にかけてるの?孝典さんが言ってたこと」
「うん……」
蚊の泣く様な声で唸りながら、華奈は円形の柔らかいクッションを抱いて縮こまった。
――もし、君が両親に会ったとして、その人たちを本当の両親と思えますか?――
孝典にかけられた問い。
『家族』の時と同様、見落としていたことだった。今、自分が両親にあったら、その人たちを両親として認識することが出来るか。捜す以前の問題であった。
それだけじゃない。
その質問のせいで、華奈は更なる迷いを抱くようになった。
両親にあったら、どうしよう。
本当に、両親と認められるのか。
そもそも、両親は自分のことを覚えているのか。
考えれば考えるほど、不安と迷いが沸々と煙のように湧いてきた。
一体、どれだけのことに気をかけなければならないのだろう。
そう華奈が思い、溜息をついた時……
「こちょこちょこちょ~!」
「ふにゃぁっ!?あはっ、にゃはははははは!!」
と、突然アーニャが近づいて華奈の脇腹をくすぐってきた。いきなりのことだったので、華奈は堪らず、笑い声を上げた。
「ちょっ、アーニャ、あはっ!にゃ、にゃにすんのあっははははは!!」
アーニャは華奈の悲鳴に構わず、うつ伏せになった華奈の背中に乗っかり、脇腹、脇の下をくすぐり続けた。
「いつまでも悩んでいる子はお仕置きだ~!」
「そ、そんにゃははははは!!」
しばらくその状態が続き、華奈が「ギブ~!!」といったところでアーニャは手を止めた。
「あはぁ……はぁ……はぁ……酷いよ、アーニャ……」
激しく呼吸しながら、華奈は疲れたような声で嘆いた。
「こうゆー時は、笑うのが一番なんだって」
一方のアーニャは、特に気にかける様子も無く笑顔でそう言った。
「悲しいままでいるのは、心に良くないよ」
「……でも、考えなきゃいけないわ。自分のことは、きちんと」
「あれ~?聞こえて無かったかの~?それじゃもう一度……」
「わああ、ストップ!ストップ!!」
妙に低い声とともに、アーニャの手が脇腹に触れたのを感じ、華奈は叫んだ。もうあれは苦しくてたまらない。
「……」
「1人で全部抱え込まないで」
と、アーニャは言いながら華奈の両肩に手を添え、優しく撫でた。
「……また慰められちゃったね」
「いいんだよ。知り合った身同士、助け合うのは同然だよ」
アーニャの優しい声が、華奈の心の緊張を解していった。
「私も、出来る限り協力するから。両親に会いたいの、分かるから……」
「……ありがとう、アーニャ……年上なのに、恥ずかしいな」
華奈は礼を言いながら、照れくさそうにそう言った。
「しっかりしてよね~。年下に慰められているようじゃ、この先つらいぞ~?」
「言ったな~」
「言ったも~ん」
2人は顔を見合わせ、互いに笑った。
さっきまでの不安は、すっかり消え去ってしまっていた……
「いい加減にしろ!!」
と、突如外から怒鳴り声が聞こえてきた。この声は……
「修羅?」
ということは、皆が帰ってきた。だが、様子が変だ。窓は裏の方なので、様子は見られない。
「なんでだよ!?なんで教えてくれないんだ!!?」
「お前には関係の無いことだ」
キースの声だ。
あの2人が、喧嘩をしているらしい。
でも、何故?
「お前、『S・E』の強奪事件を追ってるんだろ!?だったら何で俺に教えない!?パートナーである俺にだって、知る権利はある筈だ!!」
「これは訳が違う。お前が思っている以上に重大なことなんだ」
「重大だと!?ならなおさらじゃないか!」
「お前をこの依頼に参加させるわけにはいかないんだ」
「……俺が信用できないからか?」
「!?」
「俺が役立たずだから、参加させないんだな?」
「……」
「正直に答えろよ」
「……」
「……キースっ!!!」
一際大きな声が鳴り響く。その声に思わず2人は、ビクッ、となった。
「……だとしたどうする?」
「……そうなんだな?」
「……」
「……」
深い、沈黙が続く。
「……パートナー解消だ」
「えっ!?」
華奈は修羅の言葉に動揺した。
パートナー解消
それは……
「絶交だ、クソ野郎」
「……」
修羅の毒づきで喧嘩が終わったのか、それきり声がしなくなった。