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[13626] 【習作】暁物語(元ネタ:源氏物語)
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/11 22:02
前書き:

 誰も使わなそうな、元ネタ2次を考えてみたら、最古の文学小説が有るじゃん!!

 ………需要なんて無さそうですな。
 


 まぁ、習作として、まったり更新の予定です。
 
 
 この物語は、「オリキャラの転生もの」に分類されます。
 
 ・原作物語(源氏物語)の設定・内容が改変されます
 ・原作キャラの性格も、結構変ります。
   (特に源氏の家族系)
 ・当時の習慣としては、実際には有り得ない描写が書かれる場合が有ります。
 ・外来語が使われる場合が有ります。
 ・男の娘が出てきます。(菜にする気は無い!!)
 
 
 物語として、上記の傾向があるので御注意ください。
  
  
  
  



[13626] プロローグ
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/03 16:48



■プロローグ
 
 子供は3人授かります。

 1人は、帝に…
 
 1人、は皇后に…
 
 そして、もう1人は、位人臣を極めるでしょう…。
 
 
 
 

 
 その年、京の都には重い空気に包まれていました。
 
 折から病に臥せっていた、今の主上の母親である、藤壺の女院さまが、ついに亡くなったのです。
 
 故院の悼み涙する人々は数知れず、都ばかりか近隣諸国に至るまで弔いの重い空気に包まれていました。
 
 
 
 
 そして、此処にも…………
 
 並ぶものの無き、栄華を誇る1人の大臣が、周りの人々以上の悲しみを、胸に秘めて過していたのでした。
 
 
 
 
 (何故、私を置いて逝ってしまわれたのですか? 女院さま……。)
 
  今の彼には、光る君と呼ばれた嘗ての華やかさは、形も有りませんでした。
 
 (嗚呼…… 私は此れから、何を支えに生きていけば、良いのでしょう……)
 
 
 終わることない悲しみが続き、今まさに心が折れそうな、そのような中………
 
 1つのめでたい知らせが、彼の元に届けられました。
 
 「紫の上が御懐妊!!」
 
 
 この重い空気が漂う宮中に、ささやかながら、明るい話題をもたらすのでした。
 
 
 
 
 
 
 今まで紫の上には、子供の出来る気配が全く無かったのに…… あの御方が、御隠れになった直後に授かるとは……。
 
 これも、神仏の御導きなのであろうか?
 
 しかし、以前の占いによると、授かる子はたしか3人のはず…… 
 
 既に3人の子を授かっているというのに…… これは一体どういう事なのだろうか…?
 
 そこで源氏の大臣は、もう一度占って貰うことにしました。
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 
 
 もしかすると……
 
 もしかすると…… この子は、あの御方の生まれ変わりかもしれない……!
 
 何時しか源氏の君の心には、再び希望の灯が蘇っていました。
 
 そして主上の許しを得ると、宵闇の中、帰宅の途に着くのでした………。
 
 
 
 
 『ぬばたまの闇より暗き道を逝き再び逢へる暁を待つらん』
 
 
 
 
 
 
 


 子供は3人授かります。

 1人は帝に…
 
 1人は皇后に…
 
 そしてもう1人は位人臣を極めるでしょう…。
 
 
 
 …………もしも4人目が生まれたのなら?
 
 それは、遠き西方浄土よりの来訪者。
 
 あなたとその家族に、新たな道を示すことになるでしょう…。
 
 
 



[13626] 1話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/03 16:56


 
 何れの御世であったでしょうか……。
 
 光る君と呼ばれた皇子がおりました。
 
 母親の身分は劣るものの、数多の子供達の中でも、父帝の寵愛を一身に受け育ったその子は、
 
 父帝の意向で、臣下に下ることになりました。
 
 やがて時が経ち、彼が位人臣を極めた頃に
 
 最も大事にされていた御方に、待望の子供を授かりました。
 
 母親が出産の時に、暗い地平線の彼方より、大きな日輪が昇る夢を見たことから
 
 『暁の君』と名づけられたその若君は、生みの母親である紫の上に瓜二つと噂される美少年であったと語り継がれております。
 
 これは、数奇な運命を辿った、暁の君の半生の物語………
 
 

 
 数え3歳に成ろうかという頃、姉の遊び(かわず掛け)に巻き込まれて頭を痛打した。
 
 ここまでなら良く有る話(良く有るのか?)で済むのであるが、そのショックで前世の記憶というモノを取り戻してしまった。
 
 転生といえば、ベタな展開とか思うのだけれども、21世紀から、まさか平安時代に生まれ変わるとは………。
  
 正直言うと、文化レベルが違いすぎて勘弁して欲しいです…………。
 
 最も、輪廻転生が信じられているこの世界なら、こちらの事情を話しても、信じて貰えそうですが、
 
 元の生きていた時代だと、色付の救急車を呼ばれそうです。
 
 しかも自分の関係者を確認すると、源氏物語で見たような名前がチラホラと………。
 
 私、光源氏の息子ですか!? こんな年齢の息子な登場人物って居たっけ?
 
 というか、あれって実在してたのか?
 
 記憶を取り戻してから、割と長い期間の混乱と絶望感の後、自分は結局こう結論付けた。
 
 
 『まぁ成っちゃったモノは、仕方がないさ!!』
 
 
 父親が公卿だと云うのが唯一の救いでしょうか………。少なくとも衣食住は安定しています。
 
 気持ちを前向きにして、今日は書物などを読んで情報収集しましょう!!
 
 どうせなら知識を生かして、栄華を極めてみましょうか…。少なくてもロリコン2世の汚名だけは避けなければ……。
 
 
 …
 
 …
 
 …
 
 ………殆どが漢文なので、さっぱり読めません。
 
 仮名文字とかも在るのですが、ミミズが這って居る様にしか見えなくて…。(しかも古文)
 
 前世知識を基にした、華麗に天才少年登場な計画は、初期段階で完全に頓挫した様子です。
 
 
「あらあら。だから貴方にはまだ早いと最初に言っておいたでしょう……」
 
 書物を前に、落ち込んでる姿をすっと見ていた母上が、流石に見かねたのか声を掛けてきた。
 
 やんちゃな子供に向ける様な、生温い視線は勘弁して下さい。余計に凹ますから………。
 
 母親の紫の上……………。 正直、在り得ない位の美人です。
 
 節操なしの親父が、成人前の母上を押し倒したのも納得できます。
 
 実の母親でなければ、口説きたい所です。
 
「ちい姫も、まだ読めないのですから」
 
 そして、笑顔で私の死亡フラグ立てるのは止めてください!
 
 姉上の事を引き合いに出されると、大抵、後で理不尽な目に遭わされるのですから…(涙)
 
「少し位なら読めるわ! 暁と一緒にしないで!!」
 
 案の定、近くで聞いていた麗しき姉上が乱入して来ました。
 
 姉上である明石の姫。家族からは、ちい姫と呼ばれています。
 
 見た目だけは、非常に可愛らしい御姫様に見えます。
 
 しかし、彼女との遊びでは、生傷が絶えません。
 
 『弟は、姉の言う事には従うものなの!』が、彼女の口癖です。
 
 御転婆を通り越して、暴君そのものです……。平安京のジャイアンです。
 
 父上は本気で、この姉上を入内させる気なのでしょうか?
 
 初夜の日に、東宮さまに巴投げを掛ける姿しか、思い浮かばないです……。
 
 姉上の入内の翌日に、一家断絶しそうで怖いです。
 
 
 
 
 
「おやおや、此方は賑やかですね。やはり小さな子供がいるからでしょうか…」
 
 そして何時の間にか、この家の元凶……… もとい、主である父上が渡ってきていました。
 
 現在の太政大臣として、権勢を極めた人として、歴史に名を残すであろう傑物です。
 
 間違っても、ロリコンの代名詞として、後世に燦然と名を残す……方じゃないと信じたい。
 
「あなたの怪我が、母上に良く似た顔に残らないのは幸いでした……」
 
 そんな台詞を平然と言ってるから、垂らしだのマザコンだのシスコンだの炉だの後世で言われるんですよ!
 
 自分の姿は、母上に良く似ているらしく、父上はかなり自分を溺愛している。
 
 恐らく、あの古典文学の通りに、まだ故人の面影を追っているのであろう……。
 
 『暁が姫であったなら……』   ………時々、聞いたことがある父の言葉。
 
 もしかすると姫に生まれていたらヤバかったかもしれません。 男に生んでくれた母上に感謝しています。
 
 
 …
 
 …
 
 …
 
 もっとも…
 
 もっとも…… いっそ、姫に生まれた方が良かったんじゃないかと、

 心が折れそうになる時が、多々訪れるのですが………。
 
 誰か、この父をなんとかして下さい………。
 




(暁日記:第1巻 「家族」より抜粋)
 
 
 






■おまけ■
 
 
Side 暁
 
「所で上…。久々に暁の艶姿など見たいとは思わないかい?」
 
「まぁ、殿ったら……。暁は、男の子ですから流石に恥ずかしいでしょうに………」
 
 ん? なんか話がヤバイ方向に行きそうな気がするが………。
 
「母親としては、反対ですか? 折角、似合いそうな生地が手に入ったので仕立てさせて見たのですが……」
 
「あら、素敵な色合いですこと………」
 
「お父様! 暁にばっかりズルイです!」
 
「もちろん、姫の分も用意してありますよ……」
 
「あ~~~、これ可愛い!」
 
 何時の間にか、部屋の空気が不穏に成りつつある……
 
 見渡せば女房の数も増えてきているし…
 
 
 ヤバイ!! 三十六計逃げるにしかず!!
 
 心の中に響く警報を信じて、完全に逃げ道を塞がれる前に逃走を開始する。
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
Side 源氏
 
「やれやれ……。気付かれてしまったようですね。皆で、暁を連れてきて貰えないかい?」
 
「「「「「「は~~~~い♪」」」」」」
 
 元気に響く、女房達の声………。
 
 なんだかんだ言っても、皆、暁の艶姿を楽しみにしているのだ。
 
 あの子が生まれてから、消えていた灯が蘇ったように、屋敷も都も明るくなりました………。
 
 嗚呼、女院さま………。 今、この時、二条の院の皆も幸せに過しています。
 
 どうか、末永くこの幸が続きますように………
 
 
「や~~~め~~~~~て~~~~~~~~!!」
 
 どうやら捕まった様ですね……。
 
 ……もう少しだけ、皆の幸せの為、協力してくださいね。
 
 
 
 
 源氏の大臣の屋敷である、二条の院に置いて可愛らしい2人の姫君が居るとの噂話が
 
 時折、都を賑わせたが、真実が語られることは、決して無かった。
 
(了)
 



[13626] 2話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/18 18:25
(初出: 2009/11/04   以降、修正版)



 
 何れの御世であったでしょうか……。
 
 位人臣を極めた大臣のもとに、珠のような男の子が生まれました。
 
 その美貌は、生母に瓜二つと噂され、
 
 振りまく笑顔は、周りの者達を魅了し、
 
 若君の居る所は、春の陽光の中に居るような感覚になると、人々は噂しました。
 
 やがて何時しか人々は、彼の若君を『光る暁の君』と呼ぶようになります。
 
 これは、数奇な運命を辿り、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――
 
 

 
 
 読み書きに関しては、前世の知識が殆ど役に立たないので
 
 普通の子供と同じ様に、手習いを始めました。
 
 最も習い事を始めるには、年齢が随分と早いのですが……。 
 
 
 がっ!、しかし! 時間は有効に使わねば!!
 
 何せ、今の時代は『人生五十年』の世ですから……。
 
 それと母上から、立派な公達は、日記をちゃんと付けるものだと言われて
 
 日記を付け始めることになりました。
 
 日記なんて、まともに付ける習慣なんか無い前世ですから、正直、最初は何を書くか途方にくれましたねぇ。
 
 まぁ…… 当初は書くネタが思い付かず、テンパった揚句に、何をとち狂ったか姉上に
 
 『姉さん!! (参考にするから、日記を) 見せて!!!』
 
 ――――と特攻して、教育的指導を受けたのは、決して良い想い出ではない筈?
 
 そんなこんなで始めた日記ですが、なんとか続いていたりします。
 
 サボった時の母上の微笑みが、怖いからじゃないと思う………多分。
 
 
 それにしても、これ……
 
 『暁日記』とかに成って、古典の教科書に載ったりしないよね?
 
 迂闊なこと書けねぇぇぇぇぇぇ!!
 
 あっ! でも、1人だけ過去に飛ばされて苦労してるのは、割りに合わないから、
 
 将来の受験生の為に、無茶苦茶な内容の日記とかを残すのも、良いかもしれない!!
 
 受験かぁ~~~~~。
 
 山手線に揺られながら、英単語を覚えた日々が懐かしいねぇ………。
 
 何時も寄っていた、あのハンバーガー屋はどうなったのかなぁ?
 
 あ~~ ロッ○シェイク飲みたいなぁ……。
 
 
 
 あっ、そうそう……
 
 近々、兄上が元服するらしく、元服後に家に戻ってくるらしいです。
 
 原作通りの優しい人だと、良いのですが……。
 
 
 
 

 
 
「ねぇ… 暁…?」
 
「なに? 姉さん?」
 
「山手線って、なに?」
 
「う~~~ん?? 1000人以上の人が乗れる、巨大な牛車…?」
 
「何それ!? そんなの有る訳無いでしょう! 大体、日記に御伽噺みたいなモノを書いてどうするのよ!!」
 
「なっ! って、姉さん! また、人の日記を勝手に読んだのかよ!?」
 
「わ、私は、お母様から貴方の面倒をちゃんと見るように言い付かっているから、良いの!!」
 
「酷でぇぇ……… 自分が読まれた時は、般若ような顔になって怒るくせに!!」
 
「ゴチャゴチャ言わずに、真面目なモノに書き換えなさい!! 私が、お母様から怒られるんだから!!」
 
「イタタッタ!!! 間接がぁ!! 間接がぁ~!! って、お母様も読んでるの!?」
 
「書き終わるまで、寝ちゃダメだからね!!」
 
「イタタッタ!! 書くから離して!! 極まってる!! 極まってる!!」
 
 
 …
 
 ……

 ………
 
 
■(りて~~~く にっき))
 
 
 子供の遊びといふものは――
 
 室内の遊戯などは、器具の関係で様変わりするものの、体を使った遊びというものは、
 
 時代や世代などで、余り変わりばえがしないように感じる。
 
 「鬼ごっこ」「かくれんぼ」などは、言うに及ばず。
 
 「妖怪を退治した英雄ごっこ」など、役柄は違えどやっていることに大差は無い。
 
 今日も姉上が誘に来たので、一緒に遊ぶことになった。
 
 麗しい姉君は活動的な為、なにかと私を、外での遊びに誘いに来てくれる。
 
 そんな優しい姉上がダイスキなので、誘いを断ることなんて考えられないデス…
 
 例え、役柄が魑魅魍魎の役で刀で切られる役であっても…
 
 例え、鬼ごっこの鬼役が、体力差のせいで永遠に終わることが無くても…
 
 ボクは、泣きませ~~~~~ん!
 
 オトコノコだから………
 
 早く兄上が、二条院に来てくれないかな………。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 この後に書かれた日記帳が、
 
 本音と建前用の2つ存在していた事は、暫くの間、家族の誰にも気付かれなかった―――
 
 
 
(暁日記:第2巻 「手習い」より抜粋)
 
 
あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を表します。
 ちなみに当作品は、物語のプロローグが、第19帖「薄雲」近辺を想定してますので、
 それ以前は、概ね原作の流れに近いものだったという設定で書く予定です。
 (夕顔、葵、六条の御息所のファンの方々、ゴメンなさい…。 彼女達は既に故人です。)
 
(了)
 



[13626] 3話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/05 23:13


 
 時は、平安…… 冷泉帝の御世であった頃……
 
 光る源氏の大臣の御子息の中に
 
 美しさの方向性が、性別的に逆の方向に突き抜けた、珠のような男の子が居りました。
 
 その美貌は、生母に瓜二つと噂され、
 
 振りまく笑顔は、多く公達を魅了し、
 
 若君の居る所は、まるで、春の陽光の中に居るような暖かな感覚と、
 
 初冬に吹く、木枯らしような喪失感を味わうことになると、人々は語り継ぐのでした。
 
 これは、数奇な運命を辿り、21世紀の時代から、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――
 
 
 

 
 兄上が元服しました。
 
 後学の為に、元服の儀式とか見たかったのですが、他所の屋敷で儀式を行った為、見れませんでした。
 
 元服というと、四十七人の武者が乱舞する映画の影響で、
 
 若武者が父親から、切腹の作法を教わるイメージしか思い付かなくて…。
 
 流石にそれは、無いと思うけど……。
 
 どうやら自分の元服まで、儀式の詳細は不明になりそうです。(我が家の男児は、もう自分だけですから…)
 
 
 そんなこんなで、今まで母方の祖母の家に住んでいた兄上も、お隣の二条東の院に、お引越し……
 
 これから兄上様と初対面です。
 
 
 
 ………
 
 
 なんというか、顔立ちは、すごく父上に良く似ています。
 
 女癖の悪さまで似ていないと良いのですが……。
 
 たしか原作だと、比較的まともな人だったよね!?
 
 違っていたらどうしよう…
 
 親バカすぎる父上や…、 と・く・に、姉上の例が有るから、正直な所、自分が覚えている人物イメージは
 
 全くといって良いほど、役に立ってないような気がする。
 
 明石の姫って、あんなに活動的だったかなぁ?
 
 もしかして、ここでの姉上の実母である明石の御方って、凄い豪傑なのでしょうか?
 
 う~~~~ん…??   良く覚えていないけど……。
 
 『女だてらに琵琶の名手』とか…… って、記述が有った??
 
 普通の女人がしない事を、するのが得意な人なのは確かなような気がするけど…………。
 
 まぁ父上の性格からして、御方様方と顔を会わす機会なんて、まず無いと思うから、深く考えるのは止めよう。
 
 
 
「初めまして兄上。暁です」
 
 これから対姉上で、多々お世話になるでしょうし、初めての印象は大事ですから、礼儀正しく挨拶をします。
 
 ハテ? なんか戸惑っています。心なしか目が泳いでいるし。
 
 まぁ………、理由は考えるまでもないな。
 
「あっ…… いや、今まで弟が居るって聞いていたものだから…。まさか姫だとは思わなくて……」
 
 いぁ…まぁ…… 無理も無いよね……。こんな格好(女装)していたらねぇ………。
 
 隣でニヤニヤしている親父を、蹴り倒したいです。
 
 まだ袴着すらしてないのに………。
 
 其のうち、この格好で外に連れまわされるとか
 
 …………無いよね?
 
「いえ、弟で合っています……」
 
 正直この格好で男だと認めたくはないではあるが、誤解は速やかに解かねばならないし……。
 
「………………………」
 
 ああああ、沈黙しないでぇぇぇ!!
 
「念のために言って置きますが、この格好は、そこの変態親父の趣味ですので!!」
 
 流石に、無実の罪で、変態趣味持ちの汚名を着せられるのは、遺憾であります。
 
 万が一、このまま噂話が、都を闊歩したら……
 
 とても恥ずかしくて、元服した後、堂々と外を歩けません……。
 
 ひたすら隠し通さないと、悲惨な未来が待っているよぉぉ。(涙)
 
 
 でも、人の口に戸は立てられないと言うしなぁ………。
 
   見知らぬ姫の噂が立つ

     ↓
 
   親父がすっ呆ける
 
     ↓
 
   主上の耳に入る
 
     ↓
 
   噂の姫を見てみたい。出仕させなさい!!
 
 
 ………… 何!? その『とりかえばや物語』的な展開!!
 
 
 
 御伽噺じゃないんだから、洒落では済まないだろう!!
 
 ………って、この世界は、御伽噺でした!!
 
 嫌だ!!! 女御入内だけは嫌っーーーーーーー!!
 
 
 
「だ、大丈夫かい? なんか先程から顔色が赤くなったり青くなったりしているけど……」
 
「ハッ!! いえ、ちょっと先の事に思いを巡らせて、つい取乱してしまって……」
 
「そうか……… 君も苦労しているんだね」
 
 嗚呼、分かります……。この兄上は、私と同じ糞親父の被害者なのですね……。
 
 
「兄上!!何時か偉くなって、一緒に、あの節操なしをギャフンと言わせましょうね!!」
 
 
「暁!!!!」
 
「兄上!!!」」
 
 
 
「やれやれ……。本人が居る前で、口さがない事を………」
 
 悪口を言われたくないなら、息子達にも「真っ当な」愛情を注いでください!!
 
「こんなにも、貴方達のことを気にかけているというのに………」
 
 歪んだ愛なぞ、息子達は望んでおらんわ!!
 
 
 
 
 
 後で聞いた話なのですが、当時兄上は、態と無茶苦茶低い官位を
 
 元服後に授けるように手配した父上に、少々切れていたらしい…………。
 
 でも癪だけど、その件は、親父の方が正しいんだよね。
 
 
 
 
 

 


「所で父上…。無理矢理とはいえ、父上の望み通りの格好になったのですから、
 
 代わり1つお願いしたい事があるのですが?」
 
 
「貴方が御強請りとは、珍しいですね………。
 
 先に言って置きますが、女装させるのを止めろというのはダメですよ……」
 
 
「出来れば、其れもお願いしたいのですが、今日のお願いは別件です………」
 
「ほぉ…… 何ですか? 其れ以外であれば、1つ位なら多少の無理は聞いてあげますよ…」
 
「折角兄上が戻られた事ですし、男兄弟同士なら気楽ですから、
 
 これを期に、(二条東の院の)兄上の近くに部屋を移りたいのですが………」
 
 
「なっ!! いえ、何でもありません! 因みに、母上と姉君に相談はされたのですか?」
 
「いえ……。ですから、父上から説得して頂けたらなぁと………」(ニヤッ)
 
「クッ…… そう来ましたか………」
 
「如何しました? 父上………。『やっぱり今のは無し』ですか?」(ニヤニヤ)
 
「いえ……。宜しいでしょう。私からお話をしてみましょう……。  た だ し!!!」
 
「?」
 
「お願いは1つ………。つまり、私が説得するのは1人です!!!」
 
「!!!!!」
 
「母上には、私からお話をして置きましょう。姉君の説得は、御自分でされるように………」
 
「!!!!!!!!!!!!!!」
 
 
 
 
――――― 翌日
 
 
「……あっ、……父上。 昨日のお願いの件ですが……」
 
「あぁ………。あれですか……………。実はですね…」
 
「いえ、やっぱり部屋を移るのは、一寸早いかなぁ……… と思い直しまして……… ハハハハ…」
 
「そうですか……」
 
「「ハァァ…………………………………………」」
 
「御願いは取消しするそうですが、私は昨日、上にお話をしましたので、今回はこれで終わりですよ……」
 
「あっ、イイデス………。無理言ってすみませんでした……」
 
「なに…構いませんよ……。昨日の時点で予想は付きましたし…。今回は痛み分けですね……」
 
「「ハァァァァァ…………………………………………」」
 
「所で父上……。この時間から母上の所に渡るなんて珍しいですね?」
 
「昨夜から上の機嫌が頗る悪くなっていてねぇ……。暫く御機嫌を取る必要が有るのですよ」
 
「はぁぁ~、この分だと、袴着が終わるまでは引越しは無理っぽいなぁ………」
 
「私は元服が終わるまで、無理だと思いますけど…………」(ボソッ)
 
「エッ!? 何か言いました??」
 
「何でもありません。では、上の御機嫌伺いに行きますので……」
 
 
 
 
 
(暁日記:第3巻 「夕霧」より抜粋)
 
 
あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を表します。
 聡い方は気付かれているでしょうが、物語時点の一部の官位・役職が若干変わってます。
 
 「源氏」      太政大臣 (原作:内大臣)
 「葵の上の兄」   内大臣  (原作:中納言・大将)
 「紫の上の父宮」  式部卿宮 (原作:兵部卿宮)
 「源氏の弟宮」   兵部卿宮 (原作:帥の宮)
 
 本当は、春になったら昇進するんですが、物語の人名は役職で書くことが多いので
 すぐに呼び名が変わるのもなんだしなあ…と思ったからです。
 
(了)
 
 



[13626] 4話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/07 13:48




 
 時は、平安…… 冷泉帝の御世であった頃……
 
 後世の世に、浮き名を流しまくった大臣の御子息の中に
 
 美しさの方向性が、性別的に逆の方向に突き抜けた、珠のような男の子が居りました。
 
 その美貌は、生母に瓜二つと噂され、
 
 振りまく笑顔は、多く公達を魅了し、
 
 多く女人達を、絶望の底に突き落とすのでした。
 
 人々は語り継ぎます……………。
 
 若君の居る所は、
 
 春の陽光の中に居るような暖かな感覚と、真冬の吹雪の中の無力感を味わうことになると―――
 
 これは、数奇な運命を辿り、遠き未来の果てから、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――
 
 
 

 
 
 
 大学寮 ――――
 
 兄上が、『2、3年の間、元服を遅らせたと思って、此処で確りと学びなさい』と、
 
 父上に、無理矢理放り込まれた場所。 まぁ……文字の通り、大学です。
 
 『一般の一学生と同じような扱い』と、口では言っていたものの、実は、家庭教師が付いているとか……。
 
 
 一般を舐めるなーーー!!!
 
 と、1000年後の庶民を代表して、突っ込みを入れそうになったのは、仕方のないこと……。
 
 そして、現在の兄上の姿は、間違いなく10年後の自分に降かかるであろうことは、
 
 自分のような、幼児でも気が付くでしょう………。
 
 ならば!! この暇な時間を利用して、後々の為の予習をするのも有りでしょう……。
 
 という訳で、兄上の勉強部屋にお邪魔しています。
 
 
「来るのは良いのだけれど………。その格好で本宅を離れるのは、不味くない…のかい?」
 
 ………だって、何時の間にか、こんな服(女物)しか残っていなくて………。
 
 此処まで、するか!? ですよ………。
 
 
 そう、最近の自分は、殆ど女童の格好になってる。
 
 以前、母上の機嫌を損ねた一件の後始末で、着せ替え人形役をしていたら
 
 気が付いた時には、男物の衣装が無くなっていた。
 
 本当にもう………、物語が違うだろおおお!!
 
 本気で、父上に泣付きました。
 
 あの父上も、袴着までの遊びのつもりだったのが、予想外の母上の暴走に
 
 流石に慌てて、『貴方の名誉が守られるように、早急に手を打ちます』と約束してくれた。
 
 そりゃ父上だって、本気で『女装趣味の息子持ち』の評判なんて、望んでないだろうからねぇ……。
 
 早く、父上が対策を講じてくれることを期待しつつ、今日も『史記』を読みますか。
 
 『鴻門の会』とか、懐かしいですなあ………。


 
 
「それにしても、良くその歳で『史記』なんて読めるね……」
 
 半ば感心、半ば呆れといった様子の兄上。
 
 まぁ漢文は、苦手でも無ければ得意でも無かったし…
 
 それに一部は、高校の時に習ったし…
 
 そしてなにより、『史記』に関しては、横山先生に大感謝です。
 
 『史記』『三国志』『殷周伝説』は、読みふけっていたからですねえ…
 
 部分部分しか読めない文章でも、何となく何の記述であるか推測できる所が多いのですよ!
 
 推測しているだけで、正確にあまり読めてはいないけど……。
 
 
「兄上~。これ何て読むの?」
 
「どれどれ?」
 
 …
 
 ……
 
 すっごく優しくて、良いお兄さんです。
 
 原作に近い雰囲気の人で、ヨカッタ、ヨカッタ………。
 
 

 
 
「そう言えば、暁…。確か今日は、家運が最悪の日だから、外出できない日の筈だけど……」
 
 夕暮れが迫る頃、何かを思い出したように呟く兄上……。
 
 えっ!? そんな話…… 聞いてないよ??
 
「此方に来る前に、父上も母上も何か言っていなかった?」
 
 ……………え~~~と、うん…聞いてないと思う。
 
 無断で出て来たから、何も聞いてないのは本当だし。
 
 ……嘘は付いてないよね? 
 
 そんな私を見て、頭を抱える兄上……。
 
「そんな事ばっかりしていて、悪霊とか魑魅魍魎とかに襲われたりしても知らないよ…」
 
 寧ろ一度、拝んでみたいのですが…
 
 いや、単に怖いもの見たさって奴ですが…。恐らく本当に遭遇したら腰を抜かすだろうなぁ……。
 
 基本的に、小心者ですから……。
 
「兄上は、悪霊とか妖怪の類って見たことあります?」
 
 実は、自分は生まれてこの方、そう云ったモノとの遭遇経験はない。(前世を含めて)
 
 姉上は、昔、別宅で妖怪を見たことがあるって言っていたし、恐らく母上も、何かしら見てはいるだろう。

 父上に至っては、言うまでもないですね………。ダース単位で水子が憑いていそうだ………。
 
 兄上が経験有りならば、これは、もう………、『未知との遭遇』にリーチが掛かったも同然!!
 
 
「従兄弟達と叔父上の屋敷で、肝試しをした時に1度ね……。
 
 正直、2度と遭遇したいとは思わないけど……」
 
 おおっ!! これは『未知との遭遇』フラグが立った!?
 
 これは帰り道に、期待せざろう得ない!!
 
「駄目だよ… 帰りはちゃんと迎えを呼ばないと!! 今、本宅に使いを出すから………」
 
 え~~~~~~! 折角のフラグがぁぁ~~~~~~。
 
「何か遭ったら、僕も父上から、お叱りを受けるんだから!!
 
 それに…………今頃本宅は、大騒ぎになっていると思うけど………」
 
 ですねぇ…………。此方で羽を伸ばしたした分、お叱りも3倍でしょうか?
 
 兄上、今日は泊まっちゃ駄目ですか?
 
 そ、そんなぁ!! ニッコリ笑って首を横に振らないで下さい………。
 
 兄上には見捨てられる、未知との遭遇は無い、お仕置きは3倍…
 
 確かに出かけない方が、良かったかもしれません。
 
 いいんだ………、部屋の隅で「の」の字でも書いてやる。
 
 
 …
 
 ……
 
 
「ねぇ、暁……(汗)」
 
「何…? にいさん?」
 
「そんなに妖の類が見たいなら、陰陽師にでも頼んで、式神でも呼んで貰ったら?」
 
「「………………………」」
 
 陰陽師って、本当に居るの…!?
 
「……なにを当たり前のことを」
 
「「………………………」」
 
 式神って実在するの………!?
 
「……居るよ。僕も昔、叔父上の屋敷で、見せて貰ったことが有るから……」
 
「「………………………」」
 
 その手が有るのか!!!
 
 
 
 

 
「父上!! 陰陽師呼んで! 今すぐ呼んで!! 火急的速やかに呼んで!!!!」
 
「行き成り何ですか!? というか、貴方、全く反省していませんね?」
 
「式神!!式神見たいの!! お願い父上!!」
 
 普段であれば、子供の駄々として、突っ撥ねられるかもしれないが、
 
 今日の自分には、『気迫』が『必死さ』が、なにより『勢い』が有った。
 
 そのまま厄日の為に、家に来ていた陰陽師と御対面することに………。
 
 
 その結果は…………………
 
「………如何やら、今日は式の調子が悪いようです」
 
 どうせ、こんな事だろうと思ったよぉぉぉ!!
 
 その場で項垂れる自分の背中に、「お話…しようか?」状態の母上が、手を置くのでした。
 
 
(暁日記:第4巻 「誰彼」より抜粋)




あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を……
 
 本日は2話更新です………。昨夜、うっかり寝てしまったからでは無い筈…?
 
 
(了)
 



[13626] 幕間1
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/07 13:57
 

 
 暁が生まれてから、余り時間の経っていない頃、
 
 暗い部屋の中で、1人の僧が加持を行っている…………。
 
 
 
 
( 見 え る は 、  天 を 貫 く 石 塔   )
 
 
( 不 思 議 な 形 の 車            )
 
 
( 異 形 の 姿 の 無 い 大 都 市      )
 
( 妖 を 駆 逐 し た 人 々 の 魂      )
 
 
 
 
( 彼 が 手 に 持 つ 物 は 、  日  輪 …)
 
 
( 光 の 人 影 …………………          )
 
 
 
( そ し て、 妖 を 否 定 す る 理 ………  )
 
 
( くっ!!  ――――この辺りが限界か!!     )
 
 
 
 真言を唱えていた僧が、意識を失い倒れる…………
 
 
 
「僧都!! 確りしてください!! 僧都!!!」
 
 
 
 

 
 
 
「申し訳ありません…。私の力では、若君の未来を見通すことは出来ませんでした……」
 
 先ほどまで、加持をしていた僧は、まだ自力では起き上がれないようであった。
 
 不思議な街の情景は、占いにあった西方浄土の姿でしょうか?
 
「『日輪』『光の人』………。そこまでなら瑞兆のようですが…」
 
 加持を依頼したと思われる公達の口調は、瑞兆とはかけ離れた色を持っていた。
 
 高名な僧侶の加持が、原因不明の事態で中断される。
 
 それは、尋常でない出来事が、自らの息子に起きている証でもあるのだ。
 
「はい。そこまで見えた後、何かの力が、私の術を妨げたようです……。恐らくは………」
 
「それが、あの子の力ですか………。 それで、それは…何か良く無い物なのでしょうか?」
 
 聞くのは怖い………。でも自分は国の重責を担う大臣である。
 
 真偽を明らかにし、最悪の場合には………………。
 
「少なくとも、悪い気配は感じませんでした……。恐らくは問題無いかと………」
 
「そうですか………。 とりあえずは安心しました……。
 
 部屋を用意させますので、今夜はこちらにお泊り下さい。ありがとうございました……」
 
 張り詰めていた部屋の空気が、少し緩んだ。
 
 
 
 
「大臣……。1つだけ御忠告を」
 
「何でしょうか?」
 
「善し悪しを問わず、大きな力と云うものは、注目を浴びるものです……。
 
 巨大な力ともなれば、要らぬ関心を買うこともありましょう……」
 
「隠すことが、この子の…為ですか」
 
「これほどの力です。何時迄も隠し通せるものでも無いでしょうが、
 
 せめて自らの力で、自分を守れるような御歳になるまでは………」
 
「今直ぐにでも、力が露見しないような策を、考えた方が良いようですね」
 
 
 …
 
 ……
 
 其れから、私はあの子を守る為に動き始める。
 
 主上や上皇にも相談して、国一番の陰陽師を招き入れて対策を取った。
 
「誰か良からぬ者が、若君が呪術を掛けると、恐らく術者は違和感に気付くでしょう……」
 
「何か対策は、無いのでしょうか?」
 
 表の世界では、あの子を守れても、裏にまわれば何と無力な事か……。
 
 飛ぶ鳥すら落とす権勢と言われても、所詮は『井の中の蛙』に過ぎない。
 
「それに関しては、呪術の対策が堅いと思わせておけば、問題は無いでしょう」
 
 そして、この有能な者を遣わせて頂いた主上には、深く感謝せねばならない……。
 
 
「容姿を偽るのは、最も簡単な呪術の備えです……。素性を偽ることで、
 
 術を逸らすことが出来ます。また若君の衣服には、護符を縫い込ませます。
 
 更に、常にお守りを携帯させて置きましょう。これだけの備えであれば
 
 相手は、呪術が効かない・発動しない理由を、恐らくは勘違いするかと…………」
 
「なるほど…………。ありがとうございました」
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 …………



 
 
「如何されましたか? 大臣!?」
 
 不意に呼び掛けられた声に、意識が戻った。
 
 あの子が生まれた日の出来事………。
 
 私と、紫の上、主上、兄上、あの時の僧都、
 
 そして…、目の前に居る男しか知らない、息子の秘密………。
 
「あの子の生まれた日の夢を…見ていました………」
 
 …出来れば、普通に育ててあげたかった。
 
「今日、あの子の前での式神召喚………
 
 貴方ほどの者であっても、あの子の近くでは、式神を呼び出せないのです…か」
 
 男は黙って頷く………。
 
「もはや猶予はありません!!」
 
 あの子の力は、予想以上に…強すぎる………。
 
 それは、このままでは遠くない未来に、誰かが気付くことを意味していた。
 
「既に、若様の護衛の準備は出来ております。術者の手配も終わっております」
 
 そう…もはや、姿を偽るという行為には、ただの余興以上の意味を持つ所まで来ていた。
 
 万が一の時の為に、時折、あの姿に慣らせて置いたのは、無駄に成らなかったようですね。
 
 心配性の紫の上は、毎日女装させるべきだと言っていましたが、
 
 出来るだけ普通に育てたいが為、今まで、其れを受け入れることはありませんでした。
 
 それも……… 今日まで…です!
 
「では、予ねての予定通りに始めてください。それと………
 
 これより元服まで、暁の容姿と、彼に関わる儀式の日程を偽装します!」
 
 
 …
 
 ……
 
 
 この日、源氏の大臣より、御子息『暁の君』に呪術を掛けている不穏な者達の
 
 存在が有ると公表され、彼を呪術的に守る為に、元服まで女人に姿を変える旨の
 
 通達が出された。
 
 ときの冷泉帝は、国の柱石たる大臣の家に降り掛かった災難を悼み、
 
 大臣と子息の名誉を汚すことの無きように詔を出されたのでありました。
 
 
 
 
 
 
 
 冬空に土に塗れて麦を踏む芽に恨まれよふとも実なす日のため
 
 
 
 暁………。
 
 これから私がすることは、貴方を傷つけ、大層私を恨まれることになるでしょう……。
 
 ですが、貴方が健やかに成人の日を迎えられる様にする為に
 
 私は遭えて、この身を汚し、貴方を傷つけましょう。
 
 冬に麦を踏む農夫のように……。
 
 
 
 
あとがき:
 
 本編(暁側)は、軽く……………………
 裏話(源氏側)は、シリアス風味………
 
 そんなSSを……
 書けたらいいなぁ…。
 
 投稿開始した時、画像認証がある状態でしたので、
 外された後の、投稿のし易さにビックリ
 
(了)





[13626] 5話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/08 21:18




 
 今は昔の物語…… 冷泉帝の御世であった頃……
 
 ある大臣の御子息の中に、珠のような男の子が居りました。
 
 生母に瓜二つと噂される美貌が災いしたのでしょうか……
 
 心の無い人々に、悪しき呪いを掛けられてしまったと、語り継がれております。
 
 この侭では、息子の身が危険であると判断した大臣は、決意します。
 
 元服までの間、呪いより息子を守る為に、
 
 この子を女人として育てよう………。
 
 これは、数奇な運命を辿り、
 
 遠き世界の壁を越えて、平安の世に『女装の貴人』として生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――
 
 
 

 
 
 ごきげんよう皆様………。何時の間にか、女装が完全定着した暁です。
 
 何時の間にか、『女装をしても!名誉が保たれている様に……』なっていました。
 
 都では、『悲劇の若様』扱いです。 主上まで動いています。 
 
 凄く嬉しくねぇぇぇぇぇぇぇ!!!
 
 父上の思考のベクトルが、此処まで予想を斜め上を行くとは、予想していませんでした…。
 
 以前の状況で、『貴方の名誉が守られるように、早急に手を打ちます』なんて、台詞を言われたら、
 
 普通『女装を止められるよう』に手を打ちませんか?
 
 間違っても『女装をしても問題無し!!』で、手を打たないと思う………。
 
 
「念の為に言っておきますが、私も『女装を止められるよう』に動いていましたよ……」
 
 其れが何故!?こんな事態になるのですか? 父上!!
 
「話の詰めの段階で、何処かの誰かさんが、勝手に屋敷を抜け出したせいで
 
 誰かさんの母上が、大層ご立腹でしてね。罰を与えるべきだと…………」
 
 なんてこったい!! 自業自得ですか……。
 
 まぁ母上は、御優しい方ですから、ちゃんと反省していれば………
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 …………… 一向に、女装解除の通達が出ません。
 
 父上!! その件に関して、何か解決策は無いものなのでしょうか?
 
「何度も言って居りますが、母上の了解さえ頂けたのなら、私は何時でも元に戻ることに同意しますよ…」
 
 それが難しいから、父上に相談しているのでは無いですか!
 
「御自分で撒いた種は、自らが刈り取るのが、立派な公達と云うものです……」
 
 正論すぎて、ぐぅの音も出ません………。
 
 
 母上を説得すれば…ですか?
 
 いや、既にもう何回も…しましたよ!?
 
 


――― 回想 ―――>
 
 
「お母様! 「ダメですよ!」…………………」
 
 ………説得終了。まだ用件すら言ってないじゃん!
 
「貴方が最近『お母様』と言う時は、私が承服しかねる内容の御願いをする場合だけですから……」
 
 警報! 警報! ……敵は強大です!!
 
 流石に、生みの親です!! 考えている事はバレバレなんでしょう…。
 
「むぅ…。じゃあ普通に……。母上! お願いしたい事が「ダメですよ!」…………………」
 
 ………説得終了。お願の内容すら、言わせて貰えません。
 
「内容も聞かずに拒否されるのは、親として、人として如何なモノかと、実の息子は思うのですが……」
 
 此処で終わる訳には行きません!! 私の男としての矜持に掛けて!!
 
「確かにそうですね……。ちゃんと内容を聞かない内に、思い込みだけで返事をしてしまったようです。
 
 いいでしょう…………。それで、私に、何をお願いしたいのですか?」
 
 やっとスタートラインに着けた……。ここは素直に、
 
「実はですね。いい加減、男の服装に戻り「ダメですよ!」…………………」
 
 ………説得終了。
 
 もはや最終手段を使うしか無いのか!? 
 
 あれ…正直言ってプライドが、ガタガタに成るからやりたく無いんだよね……。
 
 でも……もう、口で説得できる気配じゃ無いんだよね。はぁ………。
 
 
「嫌だ~!嫌だ~!嫌だ~!嫌だ~! 女装は、もうイヤ~!!!」
 
 最終手段…『駄々っ子モード』!!
 
 兎に角、ごねる!喚く!泣きじゃくる!  ………大人の矜持なんてポイ捨てです。
 
 嗚呼……。自尊心が痛い………。
 
 涙混じりの視線で、母上を見上げる……。母上は、ちょっと困った様な表情をしてしていた。
 
 よ~し…! 後、一押し!!!
 
「は~は~う~え~~~」
 
 なるべく甘えるような声で、オネダリ………。 僕、、未だ3歳だもん………。
 
「は~は~う~え~~~(涙)」
 
 そんな私を宥めるかの様に、母上は溜息を1つ吐くと、私に目線を合わせて、優しく私を抱きしめて来た。
 
 柔らかな感触が、体を包み込んで居る……。
 
 ちょおお………なんか柔らかいのが!当たってる!当たってる!!
 
「貴方が、嫌がっている事は、良く分かっているつもりです……」
 
 母上が優しく語り掛けてくる……。
 
 あぁ!!なんか梅花香の良い香りがぁぁ!!
 
「でも、私も父上も、貴方の事を大切に思い………」
 
 やばぁぁ!! 平常心…!! 平常心…!!
 
「貴方の為を思って、やっている事なのです…………」
 
 ゲッ!! ちょぉぉぉ!! 母上!! 力入れすぎ!!入れすぎ!! 締まる!!締まってる!!
 
「出来ることなら、どうか……………」
 
 息がーー!! 呼吸がぁぁぁ!! 酸素がぁぁぁぁぁ!!! ギブ!!ギブ!!ギブ!!
 
「私達を信じて、このままで居て貰えないでしょうか………?」
 
 ……………………………… (返事が無い…屍のようだ)
 
 

<―――回想終了―――
 
 
 
 
 説得の度に、締め落されます。
 
 前半は天国なのですが、後半の地獄状態のインパクトが大きすぎて、
 
 プラスマイナス0の帳消し所か、トラウマを抱え込む借金状態な気分です。
 
 自分から、口にしたく無い話題です。
 
 もう……いいよ………。半年もすれは、母上も飽きるだろうから………。
 
 格好に関しては、大人しく、お許しが出るまで我慢して居よう……。
 
 
 
 
 ―――― 其れよりも問題なのは…
 
 監視が厳しくなって、自由に移動することが出来なくなった事でしょうか。
 
 あれ以来、兄上の居る隣の『二条東の院』へ行く事は勿論ダメになり、ここ二条の院の中ですら
 
 西の対近辺から、出して貰えなくなりました。
 
 「おはようから、おやすみまで…」、私の暮らしを見つめる…母上か姉上がピッタリと張付いています。
 
 最近まで姉上の帯解きの儀とか、来年に予定されている引越しの準備で、忙しかった筈の母上ですが、
 
 育児に専念する事にしたのでしょうか? 殆ど1日中…私の近くに居ます。
 
 家庭教師との勉強時間が増えたはずの姉上も、暇さえ有れば此方に来ています。
 
 つまり…………逃げられません!!
 
 一回だけ抜け出せたのですが、直ぐに、凄い数の家人に囲まれました。
 
 兄上の所に行きたいと言っても、
 
「兄君は今…勉強で大切な時期だから邪魔をしてはいけません!」
 
 と言われて敢無く撃沈…。まぁその通りなので、我侭は言いませんが、
 
 少し位、自由に外に出して欲しいです。もう何日、家に篭っているのか?……忘れました。
 
 
 ……忘れてましたと言えば、一向に日程が決まらなかった、私の袴着ですが
 
 私の行動で起きた問題への対応の為、色々と忙殺されていたらしく、
 
 『申し訳ありません。忘れてました…』と言われてしまいました。
 
 そこの両親!! 元凶の私が言っちゃいけないかもしれないけど…ちょっと酷いよ!!
 
 そして現在自分は、『悲劇の若様』で注目されているので、年内は難しいとのこと……。
 
 因果応報ですか……。千歳飴食べたかったなぁ……。
 
 あっ、姉上の帯解き祝いがあるじゃん!!
 
 期待せねば!!
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 そんなモノ(千歳飴)は、この時代に有りませんでした。 俺のワクワクを返せーーー!!
 
 
 
 
(暁日記:第5巻 「母紫」より抜粋)




あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を……
 
 あれ…? オカシイなぁ…。 
 
 今回、ヒロインが登場する予定だったのに。日記の巻数がずれちゃったじゃないか!?
 
 

(了)




[13626] 6話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/09 22:42




 
 今は昔…… 何れの御世であったでしょうか……。
 
 権勢を極めし大臣の御子息の中に、珠のような男の子が居りました。
 
 生母に瓜二つと噂される美貌が災いしたのでしょうか……
 
 悪しき呪いを掛けられてしまい、女人に姿を変えられてしまったと
 
 語り継がれております。
 
 これは、数奇な運命を辿り、遠き世界の壁を越えて、
 
 平安の世に『女形の真祖』として生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――
 
 

 
 
 ごきげんよう皆様………。最近、母上に拉致監禁状態にされている暁です。
 
 屋敷の外に出たいです…出たいです…出たいです…出たいです……。
 
 『折も冬の盛り、風邪など召しては大変です』とか、理由を付けられて、全く外に出られません。
 
 過保護って、子供を惰弱に育てる悪しきモノであると、云われている様ですよ!? 母上…。
 
 いえ、私が言っているのでは無くて、世間一般の通説でございます………。
 
 はい!! 分かっています!!
 
 『他所は、他所は! 家は、家!!ですね…』 ボクが母上に逆らうなんて、有る訳ないじゃないですか………。
 
 あの~~それで~~~。そろそろ離して頂けると………。
 
 ええ…もう体は十分温まりました。 えっ!? 母上の方が冷えたから、もう暫くこのままって……
 
 いや…私、湯たんぽじゃ無いので、そんなにペッタリ貼りつかれても……。
 
 
 …
 
 ……

 ………
 
 
 色々な意味で、見るに見かねた父上の計らいで、父上の外出に随行することになりました。
 
 もうテンションが鰻上りです!! ストップ高です!! 自由って素晴らしい~!!
 
 そんな訳で、父上の牛車に同乗して移動中です。
 
 それにしても、この時代の人って、良くこんな低速移動な車で我慢できるなぁ……。
 
 歩いた方が、速くねえか?
 
 
 
 牛車に揺られ~て♪ 続いて行く道~♪
 
 ……………………なんか違うかな?
 
 
 
 あ~~~る、ばけた~~♪ ひ~~~る、さそり~♪
 
 ……………………凄く違うかな?
 
 
 
 牛車っ! 牛車っ~~~~! ♪
 
 牛車っ! 牛車っ! 牛車っぁぁぁ~~~~! ♪
 
 ……うん!やっぱノリと勢いが大切ですねぇ………。
 
 
「先程から、何、奇妙な歌を歌っていらっしゃるのですか?」
 
 何時の間にか、私を膝の上に乗せた父上から、ちょっとウンザリ気味に見られていました。
 
 すいません! 初めての公認外出なんで、気持ちが抑えられないのですよ…。
 
「まぁ、浮かれる気持ちは分かりますし、多少の事ならば宜しいですが、
 
 此れから行く所では、出来るだけ礼儀正しくいて下さい……」
 
 あの~ぅ? 父上? こんな姿(女装)で、出掛けさせて置いて、どの口から礼儀正しくなんて言葉が出るのですか?
 
「それに関して問題ありませんよ…『悲・劇・の若君』殿。 それよりも今回、過度の悪ふざけに関しては、
 
 罰が有りますので、御注意するように……」
 
 そう言えば、まだ行き先を聞いてませんでしたね…。浮かれ過ぎて忘れてました。
 
 一体、何処に行くのですか?
 
「朱雀院です……」
 
 あぁ朱雀院っすか……。
 
 ………ん?
 
 えっ!?  朱 雀 院 !!!!
 
「はい。先の帝で在らせられた、朱雀院さまのお屋敷です。私の異母兄に当る御方なのですが、
 
 先日より、流行病で臥せって居られる様なので、これから御見舞いに行く所です…。来る前に伝えていた筈ですが?」
 
 
 聞いてません! …というか、聞いていたら付いて来ません!! 誰が好んで太政天皇の居る場所なんかに近づきますか!!
 
「傍若無人な貴方でも、流石に萎縮されますか……」
 
 ………いや、だって、ねぇ。 私…無位っすよ!? 
 
 相手が、ランキングTOP3に入るような御方と、現状最下層な人間である私ですよ?
 
 『 何か粗相をする 』
    ↓
 『 無位の者が何故此処に! 不敬じゃぁあ! そこに直れ!! 』
    ↓
 『 無礼打ち! 』  
 
 やべぇ…………。今、未来のヴィジョンが明確に浮かんだわ!!
 
 父上!! 帰ろぅ!帰ろぅ! 僕、御腹が痛い!!
 
「何を考えているのか、なんとなく推測は出来ますが、貴方はまだ元服前です。
 
 誰も貴方の位階など気にしませんよ………」
 
 でも! でも! 僕、まだ子供だから、世間の作法とか全然だし!!
 
「往生際が悪いですねぇ。いい加減に諦めなさい! それに今回の件は……」
 
 ……今回の件は? 何ですか?
 
「今回の随行は、朱雀院さま自身が望まれた事なのです!」
 
 !!!! ………もしかして、見世物っすか!? 珍獣っすか!? パンダですか!? 
 
 うぐぅ………。甘い言葉に釣られてホイホイ出て来るんじゃなかった!!
 
 
 

 
 
 朱雀院…………。無茶苦茶デカイっす!!
 
 何!? あの池!! ボートじゃなくて、船が浮かぶぞ!!
 
 というか、対岸が霞んで見えるよ…ありえねえ!! おまけに敷地内に、三重の塔まであるし!!
 
 全てが巨大に見えるのは、自分の体が小さいから感じる為の、錯覚だけでは無いと思う。
 
 ……………それにしても?
 
 何です? この…如何にも御寺です的な、読経の嵐は!?
 
 凄い数の人達が、至る所で、なんか訳の分からない事を、ブツブツと唱えてるるし……。
 
 流石に、この数は不気味ですよ!!
 
「院の体調が優れませんから、昼夜を問わずに回復の祈祷をして居るのですよ…」
 
 いや、だから……。この人達は、病人をゆっくりと休ませようという考えは、無いのだろうか?
 
 私だったら、風邪を引いて熱が有る時に、枕元でこんな事されたら、治るモノも治らないよ!?
 
 挙句の果てには、寝不足になって………切れるよ!?
 
「朱雀院さまは、生まれ付き、体が弱くていらっしゃるから心配です………」
 
 いや、だから………それ、なんか周りに原因が無くないかい??
 
「馬鹿な事を言ってないで、ちゃんと付いて来なさい。 院に失礼の無いよう、本気でお願いしますよ…
 
 くれぐれも、先に声など掛けないように………」
 
 はいはい……。この時代の医学って、本当に的外れというか。
 
 だからと言って、医者でもなかった自分には、何も出来ないのだけれど……。
 
 
 …
 
 ……

 ………
 
 
 仄かに暗いの部屋の中に、この屋敷の主は居ました……。
 
 父上ほどの華やかさは無いけれど、柔和な顔立ち…優しいそうな雰囲気……。
 
 嘗て、この国の至尊の座に、朱雀帝として君臨していた御方……。
 
「やぁ、よく来てくれたね…。何時もながらの貴方の心遣い、嬉しく思います」
 
 温厚な人柄なんだな…と思わせる、柔らかな声。
 
 とても父上と同じ女人を争った挙句、父上を須磨へ、追放も同然にまで追い落とした人には見えません。
 
「過日、院に於かれましては、体調が思わしくないと聞き及びましたが、
 
 こうして伺うに、御快方に向いつつ在る御様子……。上々と存じ奉ります」
 
「今日は、何だか調子が良いのだよ…。それで、その子が噂で良く聞く、源氏の君の自慢の御子息かな?」
 
 チラッと、父上の顔を見ると……、うん、喋って良いようだ……。
 
 雲の上の方の御前だと云うのに、普段とは、かけ離れた父上の態度に、思わず突っ込みを入れそうになったのは秘密。
 
 少し自重を覚えなければ…。間違っても自嘲じゃないぞ!!
 
 おっと、挨拶、挨拶……。初めての印象は大事ですから、礼儀正しく挨拶をします。(2nd)
 
 
「初めて御目にかかります朱雀院さま。太政大臣が次男、暁です」
 
 この年齢で、こんな挨拶が来るとは思わなかったのでしょう…。ちょっと驚いています。
 
 でも…………こう云う遣り取りって疲れる~。なんか直ぐにボロが出そうです。
 
「可愛らしい容姿に加え、利発でいらっしゃる。成る程…大臣が自慢するだけの子ですね……」
 
 前半の部分はともかく、後半は、ありがたく褒め言葉として受け取らせて頂ます。
 
 可愛いのベクトルは、多分、逆の意味でしょうから……。
 
 
「それから、此処での私の事は、気楽に『伯父上』と呼んでくれて構わないよ…」
 
「院!!」
 
「私は既に退位した、気楽な隠居だよ……良いでは無いですか。貴方も何時も通りに『兄上』と呼んで結構ですよ」
 
「兄上………」
 
「父親として、威厳を見せたいかもしれませんが、長く公務を離れていたので、どうも堅苦しいのは苦手になってね……」
 
 あぁ良い人だぁ!! 凄く…気さくな、良い人だぁ!! 
 
 腹黒で陰険な父上の御兄弟とは、とても思えないです!! 父親トレードしたいっす!!
 
 ……って、思わず口に出ていた様で、父上に、笏でぶっ叩かれました。
 
 伯父上は、クスクス笑っていて、特に気を悪くされて居ない様子です。
 
 よ~~く考えたら、思いっきり不敬になってましたね……。
 
 ヤバイ! 本気で自重を覚えなければ、いつか身を滅ぼしそうです………。
 
 
 
 
「所で兄上。今度の行幸の件で、お話があるのですが……」
 
 不意に父上が真面目な顔になる。そう言えば原作でも、朱雀院への行幸の話が有りましたね。
 
 なんか、お仕事の難しい話になりそうです。でも?そんな大層な出来事だったかなぁ…?
 
「申し訳ないのだけれど、暁君…。私達はこれから、重要なお話が有るので、少し席を外してくれないかな?
 
 院内の庭で、自由に遊んでいて良いから……」
 
 
 仕事っすね!? 了解です。どうせ聞いても訳が分からない話を、延々と聞くより
 
 お庭探検とかしていた方が、面白そうっすから……。
 
 最近、お外遊びが出来なくて、ちょっとストレスが溜まっていたし、
 
 折角のなので、巨大池の周囲でも散策しますか。
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第6巻 「朱雀院」より抜粋)
 
 
 
あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を表します。
 
 『あさきゆめみし』の存在を思い出し、引っ張り出して来て、読みふけりました。
 この絵、いいですねぇ……。(特に紫の上)
 前話の情景を、この絵で脳内再生して、『暁コロス!!』とか、オモッテナイヨ…。
 折角なので、朱雀院の風景は『あさきゆめみし』を参考にしてみました。
 
 そして、まさか…まさか、今日も、ヒロインにたどり着けないとは……。
 書いた作者も予想外すぎて、頭を抱えています。
 
 
 
 
 
(了)




[13626] 7話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/10 23:15




 
 
 時は、平安…… 冷泉帝の御世であった頃……
 
   
   (略)
 
 
 ( 本日は、前話の続きの意味合いが、非常に強い為にイントロを一部省略させて頂きます。    )
 (  ※話数が狂った為、次の使う予定の物が、使えなかったとか……              )
 (   2時間考えても、何も出てこなかったから、手抜きしたとか云うんじゃ無いんだから…!! )
 
 
 
 これは、数奇な運命を辿り、遠き異世界から、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半死半生の物語 ―――――
 
 
 
 

 
 
 寝殿を抜けると、そこは大きな池であった………。
 
 実際には、前に広場が有るんですけど、川端先生(?)調に、決めてみたかっただけです。
 
 しかし……。これ、やっぱり湖っぽいよなぁ……。人が掘って作れるレベルの物なのか?
 
 でも古代の大王なんて、はた迷惑規模な墓とか、ポコポコ作っていたし……。
 
 多分、大人が海釣り用の仕掛けを思いっきり投げても、対岸には届かない程の大きさは有るよ。
 
 金持ちの考えることは、庶民には理解できません……。
 
 あっ!?ここ!! 釣りをするのに良いポイントだ!! 今度、釣具でも持ってこようか?
 
 あ~~でも? この時代に釣り針なんてあるのかなぁ……。
 
 などと考えつつ、池を散策していると、不意に昔、湖の湖畔で良くやった『跳ね石遊び』を思い出した。
 
 手頃な石を1つ拾い、池に投げ入れる!!
 
 パシッ!! ポシャン!!
 
 1回だけしか跳ねないのかよ!! 
 
 むぅ…。嘗て『跳ね石の帝王』として勇名を馳せた黄金の左も、酷く錆付いたものだ…。
 
 これは…嘗ての栄光を取り戻さねば為るまい!! 特訓有るのみ!!
 
 
 パシッ!! ポシャン!!
 
 パシッ!! ポシャン!!
 
 …
 
 …… 夢中になってやっていたら、周囲の大人の目が、少し険しいモノに、なってきている様な気がする?
 
 はて…? 私が何か?? あっ…!? 
 
 
   ここは、何処?     ⇒ 朱雀院
 
   どんな場所?      ⇒ 太政天皇の御所
 
   自分は何をしている?  ⇒ 御所の池に石投げてま~す!!
 
 はははは………。やっても~~~~たぁ!!!!!!!
 
 
 
 

 
 
 
 庭に植えてある木々の間を縫う様に……
 
 小さな体である利点を有効に利用して、大人の追跡を撒く……
 
 ハンター(大人)は視界に、入った獲物(自分)を見失うまで追跡する!!
 
 捕まれば、死……あるのみ!! 
 
 ハンターの視界を避け、人の居ない方へ逃走せよ!!
 
 タイムリミットは、一刻(2時間)!!
 
 逃げ切れば………父上が助けてくれる……
 
 自首は許されない………
 
 そ れ が !!  ―― time for the life 逃 走 中 in 朱雀院!!!! 
 
 
 ………作品(番組)が、違う~~~~~~~~~!!
 
 
 
PiPiPiPiPiPi…!! 【確保情報: 残時間: 1:58:02 暁、寝殿正面前にて確保!! 残り0人】
 
 
 逃走、 失 敗……………。
 
(完)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 …………別に死んでませんよ!? 
 
 広場前の石投げは目立つから、隅っこでやりなさい…と注意を受けただけです。
 
 
 パシッ!! パシッ!! パシッ!! パシッ!! ポシャン!!
 
 ですから…場所を『釣り殿』の脇、さらに奥まった目立たない場所に移して、特訓を継続しています。
 
 パシッ!! パシッ!! パシッ!! ポシャン!!
 
 うん、まだ本調子じゃ無いけど、この年齢の体力ならば、こんなモノでしょうか……。
 
 
 それに、しても………。流石に一寸した騒ぎを、起こしたせいでしょうか?
 
 先程から、誰かが私を監視している様です。
 
 庭石の影から衣が、はみ出ています。頭隠してなんとやらです。
 
 隠密として失格です! 落第です!!
 
 いや、監視は構わないので、せめて、堂々と来て欲しいかなと思うのです。
 
 一言、言いましょうか……。と足を忍ばせて近づくことにします。
 
 気付かれたら、逃げられてしまうかも(?)しれませんから……。
 
 
 
 ……庭石の影に居たのは、小さな女の子でした。
 
 小さなと言っても、私よりは年上みたいですが……恐らく、姉上と同世代くらいでしょうか?
 
 監視じゃ無かったんですね……。
 
 最近、誰かに見張られることが多いから、被害妄想が大きくなって来ているのでしょうか?
 
 いつの間にか、視界から居なくなった私を、キョロキョロと探してる居るようですが……。
 
 
 
 ……もしもし? 私、暁!! いま、貴女の背後に居るの!!! 
 
 
 こうなったら、やることは1つです! お約束です!! 私に背中を向けた、貴女が悪いのです!!
 
 息を殺し…背後に接近…………… そのまま、大きく息を吸って!!
 
「わっ!!!!!!!!!」
 
 掛け声と共に、背中を押します。
 
「きゃっ!!!!!!」
 
 いや…、驚きすぎでしょう。前のめりに倒れた後、振り向いて、
 
 尻餅を付いたような格好になって、振るえちゃっています。小動物系ですね………。
 
 最近、姉上の相手ばかりしていた為でしょうか? この様な、女の子的な仕草が新鮮です。
 
 ちょっと涙目の姿が、なんか琴線に掛かって……。思わず『ぎゅっ』って抱きしめたいかも?
 
 やばい……ちょっと意地悪したくなってきた。
 
「あらあら…いずれは立派な女人となる御方が、覗き見なんて……」
 
 すこーし責める様に…それでいて優しく、ニッコリと微笑んで、ジワリ…ジワリ…と近づく……。
 
 嗚呼、顔をちょっと赤くして、俯いている………。うん、可愛い………。
 
 同じ生き物・同じ位の歳の筈なのに、なんで此処まで、姉上と違うのだ?? 謎だ!?
 
「これは、罰を与えなければいけませんねぇ……」(ニヤッ)
 
 
「え!?」
 
 驚愕の中に少し怯えが混じる。しかし、もう遅い!! 既に貴女は射程圏内!!
 
 しかも、獲物は腰が抜けて動けない模様。 チャ~ンス!!!
 
「姉上~直伝!! 必・殺!! くすぐり地獄!!一丁目バージョン!!」
 
 馬乗り状態になって、退路を塞ぎ、脇をくすぐる………。 逃げる術は………無い!!!
 
「えっ!! あっ!! 嫌!!!!!!」
 
 ここか!? ここが、ええんか!?
 
「あぁぁぁぁ!! いやーーーーーー!!」
 
 まだまだ行くぞ!! どんどん行くぞ!!!
 
「だめーーーー!! あぁぁぁぁ!!」
 
 は~~はっは、 へぷっ!!!
 
 調子に乗りすぎたようで、獲物が暴れて振り回された手が、顎にクリーンヒット!!
 
 流石に腐っても姉上と同世代……。力は、自分より遥かに上でした………。 
 
 
「えっ!? あの………大丈夫…です…か?」
 
 貴女、被害者でしょ? 加害者を心配してる場合ですか?? 天然さんですね……。
 
 ここで姉上が相手なら、死んだ振りをして、反撃のチャンス待ちも有るのでしょうが…
 
 相手は、初対面の『微妙おっとり天然さん』、本気で心配されて騒がれる前に、起きて問題ない事を告げます。
 
 ちなみに、あれ位で伸びていては、二条院では生きて行けません!!
 
 どうもこの子は、人との関わりを、余りしたことが無いのでしょうか? 色々な加減の機微が疎いようです。
 
 
 …
 
 ……
 
「そう、最初は、なるべく水面と同じ角度になるように、投げるべし!」
 
 そして、何時の間にか、この子相手に『跳ね石遊び』の講習会になってました……。
 
 石が跳ねる様子が、妙にお気に召したらしい……。
 
 まぁ気持ちは分からなくもないのですが、こっそり背後に立たれると、つい反応しちゃうから止めてね。
 
 しかし、今時珍しい(?)運動神経の切れてる子です。 敢て言うなら『ドジっ子』です。
 
 何?この歩く萌え要素のかたまりみたいな子!?
 
 前世の世界だったら、悪いオジサンとかに攫われちゃいそうですね。
 
 パシッ!! ポシャン!!
 
「あっ!! でき…た……」
 
 おめ~~~! いや~~~よかった。 途中で『この子には無理じゃないか?』と本気で思っていたのは内緒。
 
「ありが…とう…」
 
 そんな目で見られると、お持ちかえりしたくなるからやめて下さい。ペット的な意味で……。
 
「????」
 
 いや、何でもないデス……。
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
「おや、此方に居たのですか…。少し探しましたよ…」
 
 あっ!父上!! もう、お話は良いのですか?
 
「はい、貴方を連れてくるようにと……、っ、貴方、随分と汚れましたね? 
 
 その格好で連れていくのは一寸不味いですね…」
 
 はっはっはっ………。そういや転げ回ったから汚れが酷いですね。
 
 女の子も汚れてますな、傍から見たら…私が押し倒していたようなモノだし。
 
 嗚呼、大丈夫!! ……怯えないで!! 凄く怪しそうに見えるけど、これでも一応、僕の父上だから…。
 
「『これでも』って貴方!! まあ、良いでしょう……それで、其方は?」
 
 弟子1号っす!! ここで拾ったっす。 
 
「拾ったって…(汗)。 ん?…もしや、貴女は朱雀院さまの…?」
 
「…………三の姫…です」
 
 伯父上の、三の姫??
 
 げぇっ!! 『女 三 の 宮!!』
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 
 庭に植えてある草木の間を縫う様に……素早く駆け抜けろ!!
 
 小さな体である利点を有効に利用して、大人の追跡を撒き……
 
 この難攻不落の朱雀院から脱出せよ!!
 
 ハンター(大人)は視界に、入った獲物(自分)を見失うまで追跡する!!
 
 エリアのハンターは50人!! 捕まれば…確・実・な・死……!! 
 
 タイムリミットも助けも無い……気付かれる事なく、ここを脱出せよ!!
 
 そ れ が !!  ―― DEAD OR ALIVE 逃 走 中 From 朱雀院!!!! 
 
 
PiPiPiPiPiPi…!! 【確保情報: 開始時間: 0:14:19 暁、池の桟橋上にて確保!! 残り0人】
 
 
 逃走、 失 敗……………。
 
 
 
 
(暁日記:第7巻 「女三の宮」より抜粋)
 
 
 

あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を……
 2日遅れてヒロイン候補登場……。本当は此処までが第5話だった筈なのに……。
 なんでこんなに膨らんだんだろ?
 
 
 
 
(了)





[13626] 8話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/13 23:51




 
 古の昔…… 何れの御世であったでしょうか……。
 
 世の権勢を極めし大臣の御子息の中に、
 
 生母に瓜二つと噂される美貌を持つ、珠のような男の子が居りました。
 
 悪しき呪いを避ける為、女人に姿を変えられてしまった若君は、
 
 やがて、1人の無垢な姫君と出会います。
 
 それは、やがて『暁物語』と呼ばれる、巨大な疲劇の幕開けとなるのでした。
 
 これは、数奇な運命を辿り、遠き世代の壁を越えて、
 
 平安の世に『貴人一の問題児』(?)として生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ――――― の筈??
 
 

 
 汚れた姿では、朱雀院さまの御前に出せないという事で、仮釈放された暁です。
 
 そのまま退出する事に………。今は、朱雀院からの帰りの牛車の中……。
 
 
 そして………
 
「全く、貴方という人は……。撚りによって内宮に狼藉を働くとは……」
 
 絶賛、お小言を受けております。 まぁ、物凄く拙いと自覚したから、反射的に逃げてしまった訳で、
 
 捕まってしまった後、なんで逃げたんだろうと、素直に反省しています…………。
 
 ちょっと浮かれ過ぎて、やっちゃいました……。
 
 でも、言い訳させて貰うけど、相手が誰か知ってて、粗相をやった訳じゃないよ!!
 
 それに、まさか、あんな簡単に入れる場所に、貴き方が居るとは思わなかったから……。
 
 普通、奥向きな場所なら、入る前に止められるのでは無いでしょうか?
 
「あの場所に関しては、まぁ……私が入れる位ですから、恐らくは貴方の言う通りなのですが、
 
 貴方の容姿では、意図せずに奥向きの場所に紛れ込むことも可能でしょう。今後は、くれぐれも注意して下さい」
 
 そうですね、私、女童の姿でした……。家人の子供とか、下働きと勘違いされる可能性も有りますね……。
 
 『隠密童女、暁!!』とか始めましょうか? 『暁は見た!!』の方が良いかな?
 
 
「そう云う迂闊な発言は、止めなさいと言っているのです。 それで無くとも宮中というのは
 
 謀が多い場所なのですから…。失言ばかりしていると、何時の日か痛い目に遭いますよ!!」
 
 
 そっか……やっぱり出仕しないと、駄目なんですねぇ……。駄目ですよね……。
 
 なんか、そういうドロドロとした世界って、肌に合わないような気がするのですが……。
 
「……(汗)、まぁ、未だ若いですから…大人の常識の教育は後でじっくりとするとして、問題は今回の件です。
 
 幸いな事に、朱雀院さまも内親王さまも、左程気にされて無い御様子でしたが、一度、貴方御本人から、
 
 謝罪をするのが筋と言うものです。本来であれば、今日しなければ為らない所ですが、その泥まみれの姿を、
 
 臥せっている院の御前に上げる訳には行きませんから……。日が整い次第…直ぐに謝罪に行きますから、
 
 その御積りで……確りと反省するのですよ!」
 
 はい………。
 
 でも…もし、次回の訪問で朱雀院さまが、宮さまから詳細を御聞きになった後だとしたら――?
 
 果たして私は、無事で帰して頂けるのでしょうか? ………とても心配です。
 
 
 
 

 
 それから少しの間、占いの結果が悪いとなんとかで、朱雀院に行くことはできなかった。
 
 出来るだけ早く謝罪する努力などを見せて、誠意を示すしたかったのに~~~。とは表向きの気持ちで、
 
 本音は…この生殺し的ビクビクな状況から、早く開放されたい気持ちで、いっぱいである。
 
 取りあえず、『先に文で謝っておけば?』と云う母上の助言も有り、ひた誤りの御手紙は送ってあります。
 
 何れにせよ、刑の執行の日は、何時かはやってくるもので、遂にその日は訪れるのでした。
 
 前回と違ってテンションは、低気圧の横這い状態。
 
 これでテンションが上がるなら、敬意を込めて『このMめ!!』と言ってやる。
 
 気にしていないと既に言われてるものの…今日までに、気が変わっていたら? ……とか、
 
 そんな事を考えると、軽く鬱になれます。思わず『ドナドナ』なんか歌っちゃう……。
 
 前回、変な替え歌(ドナドナ)を、歌った祟りでしょうか??
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
「やぁ……よく来てくれたね。別に気にしなくて良かったのだけれども、
 
 貴方達が、此処に訪れて貰える機会になったのであれば、此方としては嬉しい限りだよ……」
 
 
 前回と変わらず、柔和な表情の伯父上です。詳細とか聞かなかったのかな?
 
 今回は、隣に、三の宮さまも居ます。別に機嫌が悪そうという様子も無いので、内心ホッとしました。
 
 一応『公式の場』に当て嵌まるけれど、几帳とか立てずに、そのまま居るのは、まだ幼いからでしょうか?
 
 もう少ししたら、顔を隠す様になるのでしょうか?
 
 
「先日は、内親王殿下とは知らずに無礼を働き、誠に申し訳ありませんでした…」
 
 頭を床に擦り付けるように下げる……。相手から正式に許しを得るまでは、下げっぱなしです。
 
「――別に、怒って……ないです…。気にして……ません……」
 
 なんとか首は繋がったようです。どっと、力が抜けました。
 
 
 
 
「私としては、寧ろ感謝している位ですよ……」
 
「……?」
 
 伯父上、別に感謝されるようなことはしていませんが……。
 
「この子は、私の他の子と違って、早くに母親を亡くして居るので、私が育てていてね。
 
 同世代の子と遊ぶ機会が少なかった為か、何時の間にか、内に篭りがちになってしまって……」
 
「……………………」
 
 じっと黙っている宮さまを見る。この子も、大変な人生送っているんだな………。
 
「ですから先日、嬉しそうに貴方と遊んだことを報告するこの子の姿に、どれ程、慰められたことか…………」
 
 姉妹とか乳姉妹とかが居たのでは?
 
「他の子は、皆、夫々の母親の下です。乳姉妹は身分柄ちょっとね………」
 
 成る程。我が家は、異母兄弟だけど、姉上が一緒なのは、姉上は母上の養女扱いだからでしたね。
 
 兄上に至っては、元服まで会う機会もなかったし。
 
 
「やっぱり、同じ世代の子を遊び相手に連れて方が良いんじゃ?

 腕白で逞しくが理想なら、家の姉上とか、お勧めしますが(バキッ!!) 痛ッいーーーー!!!!」
 
 父上!! 笏で叩かないで下さい!!
 
「クスクス……そうだね……。貴方も、時々姫の相手をして頂けたら嬉しいですよ」
 
「はい、私で良ければ!!家を抜け出す良い口実に(バキッ!!) 痛ッいーーーー!!!!」
 
 ちょっ!! 幾ら何でも叩きすぎ!!
 
「貴方は!!迂闊な事を言うなと、何度言わせれば気が済むのですか!!(バキッ!!)」
 
 暴力反対ーーー!! 朱雀院さまと三の宮さまに笑われています。
 
 

 
 
 
「クスクス………文、ありが…とう……。お話……面白か…った…」
 
 父上の折檻が終わりを告げた頃、三の宮さまがトテトテと近づいて来た。
 
 あぁ、気に入って貰えましたか……。
 
 お詫びの文と一緒に、異国の御伽話として『白雪姫』を書いて贈ったんだよ、たしか……。
 
「何でしたら、後でまた何か…知っている物語を書いて贈りますが?」
 
 まぁ、書くのに時間が要りますから、少し待って貰いますが……。
 
「今が…良い……」
 
 フルフルと頭を振る宮さま…。ちょ!? 幾らなんでも無理!!
 
「えっ!無理、そんな直ぐには書けない!!」
 
「書かなく…て、良い…ですから、お話……して……」
 
 いぇ…あの……。そんなに長居は……しないと…思うよ? 助けを求めるように父上を見る。
 
 そっぽ向きやがった!! 親父っっっ!!!!
 
「じゃあ暁君……。私達はここで御話をしているから、暫く姫の相手をお願いしても良いかな?」
 
 そう云う断れない依頼をするのは卑怯です。伯父上………。
 
 
 
 
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 
 そんな訳で、場所を移して宮さまの遊び相手を、暫しの間勤めることに…
 
 宮さまの希望通り、知っている御伽噺をいくつか語ることになりました。
 
 勿論、完全に覚えているわけでは無いので、適当に補完したり端折ったりしています。
 
 元の世界であれば、大抵の人が知ってるであろう「桃太郎」「鶴の恩返し」「舌切雀」「浦島太郎」とかでも
 
 行き成り間違いなく語れ、とか言われても完全に語れる人なんて、略、皆無でしょうから……。
 
 
 …
 
 < -- 暁 お話し中 -- >
 
 葛篭を開けると、中からは恐ろしい妖怪やら虫やらがウジャウジャと……
 
 いじわるお婆さんは、腰を抜かして気絶するのでした。
 
 欲張りや意地悪をすると、碌でもない目に遭うというお話……でした。
 
 宮さまは、多分…大丈夫そうだけど、気を付けようね………。
 
 コクリと頷く、三の宮さま……。素直ないい子だよなぁ……。
 
 
 
 
 じゃあ次は、ちょっと毛色の違う(?)『一休さん』を
 
 昔~昔~、ある所に………
 
  ……
 
 < -- 暁 お話し中 -- >
 
『立て札を見たのに、何故、橋を渡ったのですか?』
 
 すると一休さんは、こう答えます。
 
 『端では無く、真ん中を渡ってきましたよ?』
 
 
「…………??」
 
 いや、宮さま……。箸じゃなくて橋と端ね? う~ん……。ちょっと作品選択をミスったか??
 
 
 
 
 
 
 
 じゃあ定番の『竹取物語』とか話そうか?
 
「―――知ってる…」
 
 ですよねぇ………。
 
 う~~~ん、そうなると………ん? 宮さまが…何か?言いたそうにしている。
 
 何かな?
 
「私が……お話し…する………」
 
 えっ!?…………(汗)
 
「私が……竹取物語…お話し…する………」
 
 
 < -- 三の宮さまの お話し中 -- >
 
 ――――不老不死の…妙薬を、姫の帰った……月に一番近い……山の頂上で…
 
 焼いて……しまうのでした……。やがて…その山は、不死の山と……呼ばれ、焼いた……
 
 薬の煙は…、今もまだ……遥か天に向け…昇っている……と言われています。
 
 
 長~~~~~い!! でも、凄いよ、宮さま!!
 
 今まで自分の聞いた事のない、竹取物語の細かい部分まで語りきったよ。
 (求婚した貴族の名前なんか初耳でしたよ)
 
 ちょっと時間が掛かったけど……。素直に誉めてあげる。
 
 いい子、いい子と、調子に乗って、宮さまの頭を撫でる。
 
 あれ? なんか…年下の子を相手にしてるみたいだな? 一応、自分の方が年下だよね??
 
 
 
 
 
 
 
 じゃあ次は、私が…異国の物語で『人魚姫』を語りますね……
 
 昔~昔~、ある所に………
 
  ……
 
 < -- 暁 お話し中 -- >
 
 ……こうして、人魚姫は、海に身を投げ、その体は海の泡になったので……(ゲッ!!拙い!!)
 
「可哀相…………」
 
 気が付くと、三の宮さまは、大粒の涙を零して、大泣き状態………。
 
 いや…これ物語だから……あのね?  お願い!!泣き止んでーー!!!!
 
 
 
 
「おや……随分と賑やかですね?」
 
 伯父上キターーーーーーーーーーーーーーーーー!!! なんてお約束を!!!
 
 あぁ……何か目が、普段と違って凄く怖い……。父上は頭を抱えてる!?
 
 もしかして? かなり…ピンチ!?
 
「状況を話して貰えるかな? 暁君………。包み隠さずにね………」
 
 
 

 
 伯父上の誤解も、なんとか解き、今は帰りの牛車の中……。
 
 疲れた……。いや、本当に………。
 
 色々と…考え無しに行動すると、大変な目に遭いますね。
 
「まぁ……貴方が懲りて、その様に本気で思えるようになったのなら、良かったです。
 
 院にも宮さまにも、感謝しなければいけませんね………」
 
 
 本当にいい教訓でした。三の宮さまにも感謝しています。
 
 確か、今の気持ちに似たような内容の和歌を、聞いた事があったので
 
 お礼に、三の宮さま宛てに、送ってみました。(エヘン!!)
 
「ほぅ…。貴方にしては気が利いてますが、何と送ったのですか?」
 
 『逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり』です。
 
 貴女に会って、私はちゃんと考えるように変わりましたよ………って、何で頭を抱えるのですか?
 
 何で!何で溜息吐くんですか!?
 
 
 
「暁……。貴方それは、『貴女に会ってから恋煩いするようになりました』という恋の歌です!!」
 
「「…………………………………………」」
 
 惟光!! さっきの文、送っちゃダメーーーーーーーー!!
 
「わっ!? 何ですか若様…。文使いなら、もう既に届けて、戻って来ておりますが………」
 
「「…………………………………………」」
 
 
 OWATTA!!!
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第8巻 「不省人」より抜粋)
 
 
 
あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を……。
 
 水曜日投下しようと、書き上げた第1稿目のチェックをしていたら………これXXX行きじゃね?
 急遽、書き直しが決まり、話が上手く纏まらずに苦しむことになりました。(3回位書き直した)
 実はもう1人ヒロイン候補を予定して居る(こっちはノーヒントで)のだが、書き直したせいで
 三の宮さまに大きく溝を開けられた感になってしまった。このまま突っ切られたどうしよう…。
 
 
 
(了)





[13626] 幕間2
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/15 22:38




 
 
「暁君…。私達はこれから、重要なお話が有るので、席を外してくれないかな?
 
 庭で自由に遊んでいて良いから……」
 
 
 源氏の君が『行幸の件』の話を切出した時、意味有り気な目配せをしたので、
 
 私は、今日初めて会った小さな甥子を、部屋から退出させることにした。
 
 彼は『庭を探検していた方が面白そう』と、如何にも子供らしく、喜んで出て行く……。
 
 妙に大人びて居て、利発な子とは言え、この様な所は、まだまだ年相応の反応らしく
 
 微笑ましくもあった。
 
 子供らしい小さく、そして小気味の良い足音が遠ざかっていく……。
 
 戻ってくる様子は無い様です。
 
 
 
「それで……お話とは何でしょうか?」
 
 少なくとも、源氏の君は『行幸の件』の話をしたい訳では、無い筈である。
 
「兄上……。率直に答えて下さい。……その…お体の具合は如何なのですか?」
 
 源氏の君が聞いてきた『それ』は、今回、我々の目的の1つであり、
 
 今回の件を実行する事になった、核心その物であった。
 
 
「恐らく……貴方の予想通りです。今はすっかり回復したようです。
 
 今朝まで、起き上がるのもやっとであったと云うのに………」
 
 
 今は……是まで生きて来た人生の中で、一番体が軽く感じる。
 
 十人近くの術者が、数日掛けて祓えなかった、病魔を呼ぶ悪霊は、
 
 ………既に私の所には居ない様です。
 
 そう云ったモノ達への耐性が、人よりも弱かった私は、生まれつき体が弱めであり、
 
 常に怨霊や疫神・病魔に悩ませ続けられて来た。そんな自分だから明確に理解出来る。
 
 彼の能力は、本物だ――――!!
 
 今日、暁君の随行をお願いしたのは、会って姿を見たい意味も有りましたが、
 
 源氏の君から聞いても半信半疑であった彼の力を、自らの体を以って確かめられる、
 
 良い機会だとも思った理由も大きかった。
 
 ………そして、結果は前述の通り。彼らの来訪に合わせるかの様に、体調は良くなっていった。
 
 こうして実際に経験しても、俄かには信じがたかったが……。
 
 
 
「やはり、そうでしたか……」
 
 源氏の君の表情が曇る。親としては複雑なのであろう……。
 
 暁君の能力は即ち、歩く魔除け、移動する加持・祈祷。
 
 それも、国の総力を挙げた力より、遥かに上を行くであろう最高度の力を持った……。
 
 事が公になれば、彼は、時の帝ですら無視できない存在になる事を意味していた。
 
 (最も現在の主上は、既に御存知ではあるが………)
 
 そして、それは……時には無用な争いの火種となる可能性すらも…………。
 
 
「安心してください。まだ体調のことは、私と貴方しか知りません。
 
 体調はもう問題ないですが、もう暫くは、わざと臥せっている事にします………」
 
 ………そう、まだ周りにも、そして暁君本人にも、悟られる訳にはいかない。
 
 今は、この急な回復を、周りから不信に思われないようにしなければ、為らないのである。
 
 ここで周りに悟られでもしたら…不甲斐ない兄にも関わらず、私を信じて打ち明けてくれた、
 
 源氏の君に、申し訳ないことになってしまう。
 
 
「いずれにせよ、これで彼の力の検証は出来きました。約束通り…私も出来る限りの後見を致しましょう」
 
 在位中、左程、評判の良い帝では無かった私ではあるが、上皇としての権威は健在である。
 
 万が一の場合には、遠慮なく其れを使い、彼を守る積もりだ……。
 
 それが…
 
 それが、昔、母上達の一族を抑えきれずに、源氏の君に酷い仕打ちをしてしまった事に対する
 
 私が出来る精一杯の償い………。
 
 
 
■■
■■
 
 
 
 
 暁君が三の姫宮に連れられて、部屋を退出する時、
 
 私は、先日の源氏の君との遣り取りを、思い起こしていた。
 
 全てが変わった……その切欠となったあの日――。
 
 今の自分からは、病に侵されている、気だるい気配は無くなっていた。
 
 そして、人と関わることに興味の無かった三の姫は………
 
 あの人見知りする姫が、良く自分から、他人に話し掛けに行ったものだ……。
 
 この短期間での姫の変わり様に、本気で我が目を疑ってしまう事になった。
 
 
 
 そして、もう1人………
 
「兄上……、御見苦しい所を、見せて申し訳ありませんでした」
 
 笏で、自らの息子(見た目が女童)を叩くとか――――
 
 かつて浮き名を流した公達とは、とても思えない行為をした、自分の弟は、
 
 手の掛かる息子の対応に、かなり疲れたような表情をしていた。
 
 時折、人を近づけ難い雰囲気を放つ弟が、こうも親しみやすい、憐憫感を誘う雰囲気を出すとは……
 
 本当に、あの甥っ子は、人の性格を変える特技でも持っているのであろうか?
 
 
 
「全く、源氏の君が父親として苦労をしている…その様な姿を見る事になろうとは……
 
 ………思いもよりませんでしたよ」
 
 
 この華やかな弟が見せた、意外な姿に、思わずそのように呟いてしまった。
 
「いや、何と言うか…お恥ずかしい限りです…………」
 
 そして、同じ子を持つ親としては、相感じる物が有り、同時に微笑ましくもあった。
 
 そして話題の中心人物である、甥の暁君………。
 
 性格は、かなり破天荒としか言い様がない。
 
 しかし、そんな破天荒な甥を、不思議と嫌う気には為れなかった。
 
「良い子ですね………」
 
「はい……。かなり変り者では有りますが、自慢の息子です」
 
「―――守ってあげないと、いけませんね……」
 
「はい………」
 
 
 やがて、この国を支えるであろう次の世代を
 
 そして、皇家の守護を担うであろう雛を―――――。
 
 
 
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 源氏の君達が退出した後、恐らく沈んでいるであろう姫の部屋を訪れる。
 
 まさか姫が、暁君にあんなに懐くとは………。
 
 誰にでも好かれる…。こんな所も、彼の父親譲りなのでしょうか?
 
「おや、姫……何を御覧になっているのですか?」
 
 何か文の様な物を見ている我が娘……。特に沈んでいる様子はないですね。
 
「暁ちゃん…から文を……貰いま…した……」
 
 成る程………。
 
 道理で思った程、姫が気落ちして居なかった訳ですね。
 
 それにしても暁君……。あの年齢でそこまで気が利くなんて、末恐ろしいですね。
 
 
「でも……お歌が…難しくて…………」
 
 歌ですか……。あの年で………。どれだけ利発な子なのでしょうか?
 
「見せて貰っても宜しいですか?」
 
 そして、歌を見た瞬間、私は(ピシッ!!)と固まるのでした。
 
 
 
 
 ……あの年齢で、文面通りの意を狙った訳でもないでしょうが、
 
 本当に……迂闊過ぎる子ですね……。
 
 ………嗚呼、源氏の君が頭を抱える姿が想像できます。
 
 ちょっとだけ同情しますよ……。
 
 
 
 
 でも……考えてみれば、暁君は、将来の超有望な公卿になるでしょうから、
 
 悪くは無い話ではありますね。姫も懐いていることですし……。
 
 この際、これを利用して、手綱でも付けておきましょうか?
 
 
 最も…娘の身分上、簡単に纏まる話でも無い訳ですが……。
 
 何か障害があって、選択すら出来なくなり、あの姫が泣く姿だけは、見たくは無いですね。
 
 
 
 ふむ……将来、本当にそうなるか?どうかは、兎も角――――
 
 あの子達が選べる選択肢は、『多い』に超した事は無い訳ですね………。
 
 暁君が結婚を考えるまで、約10年程ですか……。根回しをする時間は十分有りますね……。
 
 本気で進めるなら、なにか搦め手を考える必要が有りますね。
 
 今から少し悪巧みでもしてみましょうか?
 
 源氏の君には少し悪いですが、私も親馬鹿なのですから………。
 
 
 
 
 
 
 

あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を……。
 
 今日は裏Partのお話でした。視点は朱雀院さまです。
 それにしても、段段と文章を纏める為に必要な時間が長くなってる気がする………。
 毎日UPしている作者の方の文章作成力が、羨ましくて仕方の無い今日この頃です。
 
 
(了)




[13626] 9話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/18 18:30

(初出: 2009/11/18   以降、修正版)


 
 これは、遥か古の昔のお話……
 
 
 父親の名前は、光る源氏の君
 
 母親の名前は、紫の上
 
 ごく普通で無い父親は、
 
 ごく普通の幼女の母親を引き取り、強制執行した後に、
 
 全く普通で無い結婚をしました。
 
 でも……… 一番、普通で無かったのは、
 
 2人の間に生まれた御子息は、転生者だったのです。
 
 これは、数奇な運命を辿り、次元の壁を越えて、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――








 最近、お勉強に和歌が追加された、暁です。



 史記なんて読む前に、古今和歌集の歌の1つでも覚えなさいと、父上に色々な歌集を渡されました。
 
 只今、こちらも最近になって、和歌の勉強を始めている姉上と一緒に勉強中です。
 
 勉強といっても、只の丸暗記みたいなモノで、そこから自分なりのアレンジを加えていくらしい。
 
 まぁ…何時の世も、最初は、他人の模倣から始めるのが、常ということでしょうか?
 
 
 だからと言って、参考の元ネタの歌を、1000首以上も暗記させるのは、ちょっと簡便して欲しく思います。
 
 (最初は、百人一首とか三十六歌仙のイメージから、多くても100超える位だろうと、思っていたら、
 
  余りの数の多さに、眩暈がしてきた……)
 
 
 
「流石に全部を覚える必要は、無いかもしれないけれど、出来ることなら、出典となる引き出しの数は、
 
 多いにこした事はないでしょう? 文句を言う暇が有るなら、1つでも多く覚えなさい!」
 
 
 とは、隣で一緒に勉強中である、姉上様の言………よく飽きずに、暗記出来ますね?
 
 
「嫌な事は、さっさと終わらせた方が、気分的には楽なのよ!」
 
 
 御尤もです……まぁ、理性では自分でも、分かっている積もりなのですが………。
 
 
 
 えっ!? 自分ですか?
 
 どうも集中力が足りないらしく、1つ覚えると、一番古い記憶の歌を1つ忘れるとかねぇ。
 
 うん、なんて!素晴らしき…FIFO機能。 これでお店の野菜の鮮度は、常に新鮮!!(違)






 う~~~ん、
 
 どうしても、総数10個以上の歌が覚えられん……メモリを増設するべきでしょうか?
 
 
 気分転換に、載っている歌をアレンジしてみるか―――。
 
 
   う~ん………ポク…ポク…ポク…ポク…ポク…
 
     ……ポク…ポク…ポク、チ~ン!!!!
 
 
 
 姉さん!姉さん!! 此処に載ってる歌を参考に、一首作ってみました!!
 
「ちょっと! 今は、歌を覚える時間でしょう!? 貴方一体何をやっているのよ!」
 
 
 え~~~、だって覚えるの、飽きちゃったし……
 
 それに作る練習も、やっておいた方が良いかと思って……。
 
 
 其れよりも、お願い! 聞いて、聞いて下さいよ!!お願い!! 会心の出来なんです!!
 
「分かった、分かったわよ! もぅ…仕方ないわね……」
 
 
 
 では(コホン)、吟じます!!
 
 
 
 我が家を憂しとやさしと思へども逃げ出しかねつ姉上ゐるから   (暁)
 
 
 
 どうです! この『貧窮問答歌』ってやつを参考に――へぷっ!!
 
「それは『万葉集』でしょう!! 『古今和歌集』を読む時間に、何を読んでいるのよ!!!」
 
 
 ―――どうやら、読んでいた本自体が、既に間違っていた様です。(泣)
 
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 やがて、お昼過ぎになり、父上が、お仕事から帰って来ました。
 
 午前中しか仕事しないとか――― それで良いのか?平安貴族!!
 
 母上を探して流離い歩き、何時の間にか、子供の勉強の間に湧いてました。
 
 
 
 そして、今、家族が、子供の勉強部屋に、何時の間にか揃っている状況になっています。
 
 折りしも今日は、冬の合間の小春日和…… ぽかぽかと暖かいです。
 
 
 
 あぁ…………平和です。
 
 今日も一日、平穏に過ごしました(マル)
 
 
(おしまい)




























「若様! 文が届いて居ります――――」
 
 
 
 ………訂正、終わってくれない様です。
 
 私宛に、文っすか…!?
 
 
 交友関係が狭すぎて、送り主の心当たりに、嫌な予感しか出てこないデス……。
 
 ええっと……? 誰からでしょうか?
 
「朱雀院様の女三の宮様からです……」
 
 
 
 ―――旅に出ます!! 探さないで下さい!!
 
「ちょ! 貴方、何、逃げているのですか!?」
 
 すかさず、父上に取り押さえられる自分…… しまった!逃げ遅れたか?
 
 手足をバタバタさせて、なんとか逃れようとするが無理の様です。
 
 
 嫌だ~~~~!! 父上の嘘吐き!! なにが『返事が無いから、もう大丈夫です』だ~~~!!
 
 
 
 
 そう……女三の宮さまに、間違って(?)贈った歌の件ですが、
 
 当日に、何のレスポンスが無かった上に、
 
 もう結構日が経つけど、朱雀院側から特に何も言われないので、
 
 もうスッカリ、終わったモノかと安心して居ました。
 
 
 
 どうやら、甘かったようです………。
 
 
 
 
 時々、垂らしの父上に、
 
 『返歌が来ないのですか? 無視されたんでしょ? 残念でしたねぇ……』
 
 ――などと、からかわれて、多少ははムッ!としましたが、
 
 『父上の様に、女性関係で身を破滅させるよりは、遥かにマシ!!』――と、
 
 ぐっと堪えつつ、何処かに居るかもしれない神様に、日々の平穏をひたすら祈って来たと云うのに。
 
 信じていたのに……
 
 
 そう…… 今の今まで……ずっと。
 
 何故に今頃? 時間差プレイとは……

 あな恐るべし!! 女三の宮!!
 
 
 
 
 
 ちょっと取り乱して、ジタバタしたものの、無視する事が、出来無い文であるのも確かです。
 
 散々ゴネた末に、ようやく仕方が無いので、覚悟を決めて文を開くことにします。
 
 「「「……………………………………………」」」
 
 ――というか、なんで家族の前で開封ですか?
 
 プライバシーって無いのですか? こんな羞恥プレイを………。
 
 「「「いいから、早く開けなさい!!」」」
 
 「……………はい」
 
 
 
 
 
 
  頂いたお歌のお返しです。
 
  君さりて枯るる三つの花吾が宿に春呼ぶ暁待つ身しあれば  (女三宮)
 
 
 
 
 
 
「「「「…………………………………」」」」
 
 送られた文を見詰める、自分と家族達……。
 
 心は、1つ……『どうするんだ?これ?』 である。
 
 歌の心得の乏しい自分でも、言いたいことが、何と無く伝わって来ています。
 
 本気か!? 本気なのか!? なんか洒落にならない事態に成ってないか!?
 
 
 
 
 
 父上は、ニヤニヤと嫌らしい笑みを湛えて、此方を見ている。
 
 母上は、溜息を吐いて、朱雀院からの帰宅時に、父上がしていた表情と同じような表情になっている。
 
 姉上は、顔を真っ赤にさせて……どう見ても『触れるな危険!!』的な状態………。
 
 
 
 
 いや、待て! もしかすると、実はこれは、大した意味の無い文面なのかもしれない!?
 
 そうだ! ちゃんと確認すれば!!
 
「あの、ちなみに母上? これは女性的に、どういった場合に送られる文面なのでしょうか?」
 
 母上は、ただ首を横に振り、溜息を吐くのみで返事が無い。

 あ~の~? 聞こえてます? 母上??
 
 『血は争えない』『父上のそういう所だけは、貴方には、似て欲しくなかった…』だの、
 
 なんか不穏な言葉を呟いているし………。
 
 
 
「いやはや……。名前入りで『待つ身』とか『春』(結婚)とか……なんとも直球ですが、
 
 宮の御年齢を考えると、素直で微笑ましいと言うか……」
 
 
 黙れ!!親父!! アンタには、聞いて無い!!
 
「おやおや…これ程の熱烈な返歌を頂いて……。これが、お年頃でしたら、即、婚約か結婚行きでしょうに……」
 
 だから、黙れ!!! 事態をこれ以上、引っ掻き回さないでくれ!!
 
 
 
 
「こんな歳で父上に似るなんて………。私は何処で、育て方を間違ってしまったのでしょうか?」
 
 は~は~う~え、お願いですから、本気で嘆かないで下さい。アレの血を引いてる、自分が悲しくなります!!
 
 
 
「弟に先を越された…弟に先を越された…暁のくせに…暁のくせに…暁のくせに…暁のくせに…」
 
 うん。あれは、冷めるまで触れちゃいけない。触れたら終わる―――――。
 
 
 
 
 
 今の気持ちを、吟じます!!
 
 
 災難は忘れた頃にやって来る隙を見せるな見せたら負けだ   (暁)
 
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 
 後で知ったことなのですが、
 
 どうやら三の宮さまに、返歌の文面を相談された伯父上が、悪戯心で
 
 『早くまた会いたいの意を』意味を捻じ曲げて、教えただけの様でした。
 
 
 酷いよ…伯父上………………。
 
 面と向って文句を言える立場では無いので、良心が痛むような手紙で、意趣返しをしてやる!
 
 
 
 
 
 
 拝啓、伯父上さま……
 
  お願いですから、悪戯の文面は、影響を考えてから、送って下さい。
  
  冬の夜空は、凄く寒いのです……。
  
  ちょっと傷身している甥より
 
 敬具
 














おまけ
 
 
 「ねえ、暁?」
 
 「なに? 姉さん……」
 
 「 昼間の、『私が居るから、家が死ぬほど辛くても逃げれない』って歌、どういう意味かな? かな?」
 
 「…………………………」
 
 
 
 
  災害は緩んだ頃に振り返し語る涙の短歌を残す   (暁)
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第9巻 「野分歌」より抜粋)
 
 
 
 
あとがき:
 
 こんな稚作を読んで頂き、誠にありがとうございます。
 
 暁君のせいで、作者も『古今和歌集』を読む羽目になっております。
 この作品が完結する頃、作者は平安文化に、かなり詳しくなって居そうな気がして為らない……。
 新嘗祭(現:勤労感謝の日)に、お仕事が入った。勤労を感謝する日に休めんとは、
 そろそろ年末の修羅場が、始まりそうな予感がする。
 
 
(了)





[13626] 10話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/11/22 20:07




 
 何れの御世であったでしょうか……。
 
 位人臣を極めた大臣のもとに、珠のような男の子が居りました。
 
 人には言えない事情を持った彼は、成人を迎える、その時まで、
 
 女人として生涯を送ったと、記録されて居ります。
 
 やがて何時しか人々は、色々な意味で、
 
 彼の若君を『源氏の君の二代目』と呼ぶようになります。
 
 これは、数奇な運命を辿り、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――



 
 
 暁です。
 
 新しい年を迎え、目出度く4歳になりました。
 
 
 
 
 暁です。
 
 忘れられていた袴着の儀が、この間、執り行われました。
 
 千歳飴が無いから『別に、どうでも良いや…』とか思っていたのですが、
 
 これをやらないと私、正式な父上の子として世間に認知されないのでしたね。
 
 また何処から聞きつけたのか、母上が水飴モドキを用意してくれておりました。
 
 久々の甘味は、非常に美味しかったです。
 
 
 
 
 暁です。
 
 後で聞いた話なのですが、袴着の儀が『女の子』用の内容で実施されていたそうです。
 
 ココマデシマスカ……?
 
 まさか7歳で『帯解きの儀』とかやらないよね?
 
 というか、成人式は元服だよね? 裳着じゃないよね?
 
 裳着は…… 裳着は、裳着は嫌ーーーー!!
 
 
 
 暁です…暁です…暁です…………。









 新春を迎えて、庭の梅の花が見事に満開となった二条院は、俄かに忙しい空気に包まれた。
 
 年末・新春の行事から続く、時期外れの私の袴着の準備やら宴会やら……
 
 そして、今年中に実行される(?)と思われる六条院への引越し準備やら、
 
 来年予定されている爺様の50御賀 etc……。
 
 
 まぁ実はぶっちゃけると、てんてこ舞い状態なのは、母上1人だけで、後は余り変わっていない。
 
 親父っ! 少しは家事を手伝えよ!! 母上がきつそうですよ?
 
 家庭を顧みない父親は、妻の不満を凄く買うよ? ……とは、思っていても教えてあげない。
 
 何故ならば……
 
 何故なら、『母上が忙しい』 =(イコール)= 『監視が弱まる!!』であり、
 
 ふっふっふっふっ……
 
 
 
 俺 の 時 代 が  遂にキターーーーーーーー!!
 
 
 
 
「と言う訳で、兄上、お久しぶりです!」
 
 久々に二条東の院の兄上を訪ねて、お部屋にお邪魔しております。
 
 勿論、両親に言うと止められるので、二条院を無断で出て来ました。
 
 
「なんで後々に怒られると分かっていて、此処に来るかなぁ?」
 
「昔の偉い人は言ってます。『人は後悔する葦』だと!!(注:誰も言ってません!)
 
 私は常に人間らしく、後悔を恐れずに在りたいのです!!」
 
 
 あぁぁ、そんな呆れた顔で見ないで下さい。今日はちゃんと用事が有って来たのですから……。
 
 
 
「ん?用事? 何かな?」
 
「はい…実はですね兄上。兄上が今度の朱雀院の行幸に、招かれたと聞きまして……」
 
「あぁ…よく知ってるね?」
 
 父上に伺いました。たしか詩文を作成する為に呼ばれたのでしたよね?
 
 たしか兄上は、これが切っ掛けで、原作だと昇進街道に入って行く筈だったような?
 
 
「それで、当日の趣向の内容というか、『院内の何処で何をやるか?』御存知ないですか?」
 
「うーん。 いや、聞いた覚えは無いね。多分、当日にならないと僕達には、知らされないと思うけど…」
 
 やはり式部省の試験代わりの余興だから、問題内容(趣向とか)なんて、通知される訳が無いか。
 
 この分だと、趣向を担当している内大臣さましか、詳細を知っている人は居ない様ですね。
 
 それにしても困ったなぁ……。
 
 原作の詳細なんて覚えてないし、でも兄上の邪魔はしたくないし……。
 
 
 
 
 
「でも、何でそんな事を気にするの?」
 
 まぁ聞いてきますよねぇ…実は兄上の為なんですが。
 
 
「実は私も当日、朱雀院に行くように父上に言われまして」

「えっ!? 暁も朱雀院へ行くの?」

「はい、内裏を出る主上が『良い機会だから私を見てみたい』と言われたから――だ、そうです。
 
 差し詰め私は、珍獣扱いですかいな? それと朱雀院さまからも正式に招待が来まして、
 
 父上が断れなかったと嘆いていました。まぁその様な訳で、当日は兄上の邪魔になりそう場所に、
 
 近づかないようにしようかと思いまして……」
 
 
 そう、幾ら自分でも、この優し過ぎる兄の足を引っ張る真似をする気は全く無い!
 
 無いのであるが……
 
 最近、存在自体が騒動の種に成りつつ在る自分が、万が一にでも試験現場に居た場合、
 
 騒動が全く起きないと、自分自身で断言出来なくなって来ており、
 
 早い話、『兄上達の居る場所には近づかない方が良いだろう』という結論に至った訳である。
 
 
 う~~ん、困った。下手をすると、当日にうっかりニアミスをしてしまうかも?
 
 これが原因で、兄上が試験に落ちでもしたら……。
 
 真剣(マジ)で洒落にならねぇぇぇ!!!
 
 雲居の雁さん、泣くかな? 怒るかな?
 
 恨まれそうで嫌だな……嗚呼、自分も泣きたくなってきた。
 
 
 
 
「何か、余り朱雀院に行くのは乗り気じゃないみたいだね?」
 
「分かりますか? もう胃が痛くて溜息しか出てきませんよ……」
 
 このまま行くと、貴方の出世が大惨事に為りかねない結果とか……。
 
 思っていても口に出せませんよ!
 
 
「あぁ! 成る程……。そう云うことか……」
 
 ん? 何故、こちらをニヤニヤと笑って見ているのですか? 兄上??
 
「いや、何も言わなくても良いよ……。僕からすれば、相手方の親に認めて貰えるだけでも羨ましい限りだと思うけど」
 
 
 兄上、ちょっと待って下さい! 多分、兄上は何か大きな勘違いをしていると思います!!
 
「勘違いも何も…… 暁の武勇伝は、ちょっと前まで宮中を最も賑わせた話題だったからね」

 ドンナ内容が伝わっているんだろ? スゲエ嫌な予感というか悪寒が……
 
「ん? 内容? 暁が朱雀院さまの女三の宮さまに、熱烈に求愛して口説き落「わーーーー!!」」
 
 誤解です! 無実です! 冤罪です!! 
 
 一体、誰が、そんな噂を広めているんだ!? 凄い誇張された内容になってないか?
 
「恐らく父上が元凶じゃあないかな? 多分、君を懲らしめる意味合いでだと思うけど…」
 
 おのれ親父っ!! なんと姑息な!!
 
 自分が散々言われた『節操なし』の汚名を、実の息子に濡れ衣を着せるつもりなんだな!?
 
 
「宮中じゃあ『さすが源氏の大臣の御子息』って言われているらしいよ。
 
 お察しの通り、余り良い意味じゃあ無いみたいだけどね……。
 
 困ったことに、僕まで女性に手が早いと思われて、年頃の姫持ちの方々に警戒される始末だよ」
 
 
 兄上は幼馴染の君が居て、実害なんて無いから良いじゃないですか!
 
 私なんか、このまま行くと、お年頃になっても結婚相手が居ないとか……
 
 こんな時代の果てにまで来て、一生独身なんて、イヤーーーーー!!
 
 
 いいんだ………、また部屋の隅で「の」の字でも書いてやる。
 
「ま、まぁ……多分だけれど、暁が年頃になる頃には、そんな噂は消えていると思うよ?」
 
 本当にそうでしょうか? もっと酷い噂が流れていそうな予感がプンプンとするのですが?
 
「そ、それは、君の今後の心掛け次第じゃあないかな?」
 
 最近では、出来る限り気を付けている積りなのですが、
 
 何故か予想外の展開に物事が行く事が、すごーく良く有って……。
 
 私、運命の神様に嫌われているのでしょうか?
 
 
「そう云う訳で兄上、今回の朱雀院の行幸は『突発的に何かが起こるかも?』しれません。
 
 いや起こさない様に努力しますが、ちょっと最近、行動が裏目に出ることが多いので……。
 
 ですから、最悪の事態の心構えだけでも持っていて下さい!」
 
 
「まぁ君が来ていると事前に分かっただけでも、十分に有意義な情報だけれどもね。
 
 当日に知ったとしたら、恐らく、取り乱しただろうし……」
 
 
 やっぱり兄上からも『騒ぎの中心』と見られているのですね……。
 
 まぁ本当の事ですから仕方が無いのですが。
 
 
 
 おっと! もう此処に来てから四半刻が過ぎますね。
 
 そろそろ戻らないと、二条院で騒ぎが起きますので戻ることにします。
 
「帰るの? じゃあ送っていくよ」
 
「何時も思うのですが、道を挟んで隣の屋敷ですから、ちょっと大げさでは無いですか?」
 
「万が一何か有ったら、僕が怒られるからね。じゃあ行こうか?」
 
 
 …
 
 ……
 
 
 そして二条院の門の前に着いたのですが――
 
『若様は見つかったか!?』
 
『『『『『『まだ見つかりませーーーん!!』』』』』』
 
『急いで見つけ出すんだ! 殿からは多少強引に確保しても良いとの仰せが有った!!』
 
『『『『『『分かりましたーーーー!!』』』』』』
 
 
 
 
「「…………」」
 
 どう見ても、抜け出した事がバレた後の様です。
 
『惟光さま!! 屋敷を隈なく探しましたが見つかりません!!』
 
『やはりもう抜け出した後か。是より東の院へ捜索の手を広げる!! 総員、進め!!!』
 
『『『『『『オォーーーー!!』』』』』』
 
 しかも、大騒ぎに発展しつつあります。(汗)
 
 
 
 
「兄上、巻き込んでしまって、ごめんなさい……」
 
「いや、君の行動が裏目に出るって意味が、凄く良く分かったよ……」
 
 目を血走らせた家人が、目の前に迫る姿を目前に捉え、2人の溜息が虚空に消えて行くのでした。
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第10巻 「裏目之人」より抜粋)





あとがき:
 
 こんな稚作を読んで頂き、誠にありがとうございます。
 朱雀院の行幸編の1話目といった所でしょうか……。
 リアルが年末の仕事モードに移行したので、年内は平日の更新が難しい状況になりました。
 暫くは前書きの通り、まったりペースで、週末にちょこちょこと書く予定です。
 
 
 
(了)

 



[13626] 11話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/12/01 22:29




 
 何れの御世であったでしょうか……。
 
 浮名を極めた大臣のもとに、珠のような男の子が居りました。
 
 人畜無害な容姿とは裏腹に、父親に似たその手の早さから
 
 都の姫持ち公卿を、恐怖のどん底に落し入れたと語り継がれております。
 
 やがて何時しか人々は、色々な意味で、
 
 彼の若君を『源氏の君の二代目』と呼ぶようになります。
 
 これは、数奇な運命を辿り、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――



 
 
 桜の蕾も次第に膨らみ、春風そよぐ2月の中旬となった頃、
 
 運命の日…つまり朱雀院行幸の日は、とうとうやって来てしまった。
 
 
 うぅぉぉぁぁ、凄っごく胃が痛いデス。
 
 
 神様…… 本気で今日だけは平穏無事に終わらせてください!
 
 もう無事に終わるなら、祈ります! 願います! 誓います!!
 
「宣誓!! 私~暁は、日々平穏主義に則り~、精々堂々と、まったりすることを誓います!」
 
「何を早速入口で堂々と馬鹿な事をしているのですか!」
 
 パシーン! という父上の容赦のない突っ込みが入る。
 
 最近、手加減という言葉を忘れてないですか?
 
 
 
 
「良いですか? 此処から先は公式の場です。主上も居られます」
 
 分かってます。
 
 
「何時もの様な迂闊は! 決して許されるものでは無い事を肝に命じておいて下さい!!」
 
 すっごく良く分かってます。
 
 
「それと何度も言いますが、主上は『たまたま朱雀院に招かれた貴方を見かけただけ』です。
 
 お言葉を掛けられることは有りません。くれぐれも誤って話掛けないように……」
 
 重々良く理解して居ります。
 
「父上……その言葉はもう今朝から10回位聞いていますよ?」
 
「何時も何時も、何処かの誰かさんは、何度言っても分かってくれない様なので……」
 
 ぐぅの音も出ません。
 
「努々御忘れなきように。では行きましょうか……院をあまり待たせてはいけませんから」
 
 
 
 
 
 
 朱雀院――
 
 兄上から聞いた話によると、広さ8町も有るという上皇さまの御所である。
 
 単純計算で、今年に引っ越す予定の六条院の広さの倍も有りますよ!
 
 どうりで池の対岸が、霞んで見えるほど広い訳ですね。
 
 そして、その院の主である朱雀院さまは……寝殿の入口付近で来客の応対をしていました。
 
 
 
 え~と、上皇が自ら迎えに居て良いモノなのでしょうか?
 
 幾ら招かれた側とは云え、客…というか自分が恐縮してしまいますが。
 
 
「やぁ、よく来たね…」
 
「え~と…本日はお招き頂き「あぁ、堅苦しい挨拶はいいよ」……ハイ」
 
「私が無理に頼んだ様な物だからね。父上から聞いていると思うけど、今日は内宮のお相手をお願いします」
 
 
 まぁ…それは良いのですが、私などが何度も此処にお邪魔して良いのでせうか?
 
 とか、ちょっと思ってしまうのですが……。
 
 
「前も言った通り、私は気楽な隠居だからね。今日の様な公式の時は兎も角、普段はそんなに気にしなくて良いよ」
 
 
 はい! 了解しま……って、
 
 おぃ…今の言葉を良く聞けば、今日は気楽に来ちゃダメな日じゃないですか!?
 
 伯父上! 笑って誤魔化さないで下さい!!
 
 そもそも、そんな駄目な日に、呼ばないで下さいよ!
 
 とか、初っ端の時点で、伯父上に突っ込みを入れそうになったが、其処はなんとか堪える。
 
 耐えろ! 堪えろ! 持ち堪えろ! この人は雲の上の人なのだ!
 
 全ては己の平穏のため……そう時代はスマイルだ!!
 
 
 
「ん? 暁君、何か悶えている様だけど… 具合でも悪いのかい?」
 
 貴方が原因だろ!! なんて言えません……。
 
「いえ…何でもないす。そういえば、肝心の女三の宮さまの御姿が見えませんね?」
 
「今日は来客が多いので、内宮は表立って出て来れません。この先は、そこの小納言に案内させますので宜しくお願いします」
 
 ??
 
「では、此方へどうぞ」
 
 !!!
 
 突然背後から掛けられた言葉に、思わず度胆を抜かれる。
 
 其処には、如何にも『私出来るぞ!』的キャリアウーマン系な女房が、何時の間にか音も立てずに控えていた。
 
 
 びっくりした!! 一体、何時の間に!?
 
 吊り上った眼鏡とか「ザマス」口調とかが凄く似合いそうな人です。
 
 名前からして、何処かで平安式なBlogとか書いてそうですが、流石にないよね?
 
「?? …何か?」
 
「いえ、何でも無いです……」
 
 ヤバイヤバイ…ちょっとジロジロと顔を見過ぎたか?
 
 忘れていたけど、女性は表立って余り顔を見せない時代でした。行き成り不興を買う所でしたね。
 
 今日は自重だ自重……迂闊な事を考えちゃダメっ!
 
 
「御案内しても宜しいですか?」
 
 はい、宜しくお願いしますデス。
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 
 小納言さんに案内されて連れて行かれた所は、院の奥の方であり、まだ一度も入ったことの無い場所であった。
 
 つまり此処が朱雀院の禁裏付近であると察せられる。
 
 上皇様の禁裏って、もっと物々しいイメージが有ったのだが……意外と普通だよな?
 
 不思議と警備が甘いと言うか、これなら自分でも忍び込めそうである。
 
 ……って、何をまた不穏なことを考えているんだ! 今日は大人しくするんだろ?
 
 今日は大人しく今日は大人しく今日は大人しく……。
 
 
 などと自分の考えに悶々と浸っている間に、何時の間にか目的地に着いた様で、
 
 我に返った時には、三の宮さまがトテトテと、自分の方に近づいて来くる所でした。
 
 
 
 
 
「暁ちゃん…いらっしゃい」
 
 開口一番に抱き付かれるのは少し恥ずかしいのですが、だからと言って嫌とも言えない微妙な気持ちです。
 
 姉か妹を持つなら、彼女の様に可愛らしい娘が理想ですね…… 本気で姉上とトレードしたい。
 
 
「??」
 
「いえ、何でもありません! え~と、本日は父上達が戻ってくるまで、私が遊び相手を務めますので宜しくお願いします。
 
 あっ! これ御土産です。お菓子とか持って来ましたので、後で一緒に食べましょう」
 
 と、室内用の暇つぶし用のアイテムと御菓子を渡した。
 
 
「ありがとう…」
 
 いえいえ、大した物でなくて恐縮です。暇つぶし道具は一部を除いて自分の手作りだし。
 
 
 
「で…? 今日は何をしましょうか? この間みたいに、また物語でも語りますか?」
 
「お外で遊びたい…」
 
「……エッ!?」
 
 いや、気持ち的には賛成なのですが……
 
 外は~~~流石に拙くねぇか? 知らないオジさんやらお兄さんがいっぱい居るみたいですよ?
 
 寝殿の正面広場前の池付近が、行幸の余興の実施場所だって、つい先程聞いたばっかりですから。
 
 
「駄…目?」
 
 向こうは怖い人がいっぱい居ますからねぇ……。
 
「流石に今日は拙いかと…。まぁちょっと変わった物を用意してきましたので、それで我慢して欲しいのですが?」
 
「なに…?」
 
 
 ジャーン!! 『紙芝居』
 
 絵に凝った渾身の力作です。ちょっと凝りすぎて枚数が少ないけど……。
 
 あっ、宮さま! これ水飴です。舐めながら見ていてください。
 
 さぁさぁ、寄ってらしゃい! 見てらっしゃい!
 
 暁特製の紙芝居『桃太郎』が始まるよ!!
 
 
 
 
 
 むか~し、むか~し、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました………
 
 
 
 < -- 暁 お話し中 -- >
 
 
 
 鬼が島から宝を持ち帰り、幸せに暮らしましたとさ……。
 
 めでたし、めでたし。
 
 お・し・ま・い
 
 
 
 
 
「如何でしょうか? 満足して頂けましたか?」
 
 コクコクと三の宮さまが頷く。それは上々です…苦労が無駄にならずに済みました。
 
 
「暁ちゃん…次は…?」
 
 うん、どうしよう……か?
 
 良く考えたら今の桃太郎分しか、紙芝居は用意して無いのですよ。
 
 紙芝居は絵に凝った自信作だけど、絵に懲りすぎたせいで大量に作れないしね。
 
 そうだよねぇ。一話分の紙芝居じゃぁ、いいとこ15分位しか間が持たないよね。
 
「「……………」」
 
 さて、困ったぞ……。
 
 
「暁ちゃん。あのね「ダメです!」…まだ…何も」
 
 いや言わなくても、何となく分かるから!
 
「今日は父上から『大人しく遊ぶように!』と言われているのです…勘弁してください」
 
 
(ジーー)
 
「いや、あのね? お願い…そんな目で見ないで」
 
 
(ジーーーー)
 
「だから、その……」
 
 
(ジーーーーーー)
 
「……分かりました。但し! やはり庭に出るのは拙いので、以前遊んだ東側の釣殿の方に行くので良いですか?」
 
 コクリと三の宮さまが頷く。あそこなら人気の無さそうな感じですから…たぶん大丈夫な筈?
 
「付近に人が居るようだったら、今日は室内での遊びに戻しますからね!?」
 
 コクコクと三の宮さまが頷く。
 
 
 
 なるべく目立たないように、2人連立って院の東側へ向けて移動する。
 
 自分は兎も角、女三の宮さまを人目に晒す訳には行きませんから慎重に移動です。
 
 自分の家を抜け出す時に培った技能が、陽の目を見ることになるとは……余り嬉しくないですね。
 
 予想通り、今日は建物の中央~西側に人が集中している為か、全く人に会うこともなく釣殿に到着。
 
 これから此処でまったりと、魚釣りでもしようかと思っています。
 
 行幸の催しが屋敷内で行われていた場合に備えて、外で遊ぶ用の道具とかも準備しておいて良かったです。
 
 でも魚釣りとか…思いっきり自分の趣味を入れちゃったからなぁ。
 
 三の宮さまの反応が、芳しく無い可能性大なのが心配です。
 
 
 
「魚釣…り?」
 
 うん、まぁ普通はやったこと無いよね?
 
 池の魚を餌で釣り上げる……って実際にやって見せた方が早いか。
 
 早速、釣竿を準備をして、釣殿の端から釣りの仕掛けを投入しました。
 
 
 
 春先の池の辺は桜が見事に咲いており、春風に乗って花弁が時々舞っていた。
 
 時々、小鳥の鳴声が木々の間から縫うよう聞こえてくる。
 
 
 なんか癒される~~。
 
 初めからこうすれば良かったかもしれないなぁ……
 
 
 
 
 そんなゆったり流れる時間の中で、俄かに仕掛け浮きがすっと沈む。
 
 
 魚信(アタリ)キターーーー!!
 
 余り強い引きじゃ無いから小魚系ですかね?
 
 とは言っても前世で愛用した道具と違って、ナイロンの糸じゃあないから慎重に引き上げます。
 
 良し! 小ブナを確保っっ!! 大きさはメダカサイズですが幼児には手頃です。
 
 早速、用意しておいた桶の中に放します。
 
「お魚…だ」
 
 小さいフナを見詰める宮さま。間近で泳いでいる魚を見るのは初めてでしょうから、
 
 目を輝かせています。可愛らしいですね……。
 
 ど~~れ、これはもう少し良い所を見せねば!!
 
 
「また別の魚を釣りますので、その魚でも見ていてください」
 
 餌を付け替えて、再び仕掛けを投入します。
 
 
 
 
 
 
 春の穏やかな日差しの中、釣り糸を垂れる……
 
 ちょこんと座って、後ろで桶を飽きずに眺めている三の宮さま。
 
 なんか平和だ~~。
 
 
 このまま太公望のように、一日中釣り糸を垂れて、ぼーーーっとして居るのも良いかもしれない。
 
 もう……此のまま魚釣りで本日の業務は終了っぽいですね。
 
 
 
 
 
 そんな穏やかに流れる時間の中、仕掛け浮きが再び沈む。
 
 魚信(アタリ)キターーーー!!  って、何!? この強い引き!!
 
 あっ! 跳ねた!? 2尺級の野鯉だ!!
 
 
 
 超大物、キターーーー!!!!!
 
 オィイイ!!! こんな大物、前世を含めて掛かったこと無いぞ!!
 
 相手は如何見ても、今の自分の身長の2/3以上はある大きさです。
 
 絶対に持ち上がりません!!
 
 いや、その前に…… 引き摺り込まれるぅぅ!!!
 
 
 ―― どっぽ~~~~ん!!
 
 
「暁ちゃん!! 誰か! 誰かーー!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 迫り来る水面を見ながら、前世を含めて人生の記憶が走馬灯の様に蘇る。
 
 『何時か自分を引き摺るような大物を釣ってみたいよ!』
 
 前世時代の子供の頃、父に連れられて一緒に釣りに行った妹に良く言っていたっけ?
 
 よりによって、こんな時に願いを叶えるなんて……神様のバカヤロー!!
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第11巻 「池中行幸」より抜粋)
 
 
 
■■
 
 
 
 
  一方、詩吟の余興を行っている現場では ―――
 
 
 少し前に朱雀院の東の方で発生した騒動の様子が、ジワジワと伝わり始めていた。
 
 (はぁ……。暁、本当にまた何かやらかしたのか――)
 
 学生達の中でただ1人、夕霧のみが平静を保っている。
 
 それは騒ぎを起こした張本人から、事前の忠告が有った為であろうか?
 
 何れにせよ彼の詩文の作成は、他の学生達よりも遥かに順調であった。
 
 
 (場所が場所だけにかなり怒られるだろうけど、偶には頭を冷やすのも良い薬だね……)
 
 
 …
 
 ……
 
 
『あたま所か全身を冷やす羽目になっているとは……夢にも思い付かない夕霧であった』
 
 12話に続く…… (声:キートン山田)
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あとがき:
 
 朱雀院の行幸編の2話目でした。
 休みが1日ずれた……。まぁ代休貰えただけマシか?
 そして昨日Upを忘れて寝落ち……。疲れているなぁ。
 明日から出張行って来ます。週末に体力残っているだろうか?
 
 
 本編の「どっぽ~ん」事件、実は作者の幼少時の実体験だったりして。
 (暫く竿を握るのが軽くトラウマになった)
 
 
 今回は感想にあった質問の回答などを書いてみたり…
 
  >「半生」表記の件
  現在作者の頭の中の構想では、原作物語の時系列で言うと、
  ~第41帖「雲隠」までしか予定されておりません。
  従って構想中での最終話では、暁君の年齢が22才頃になる為、
  半生という表現にしました。
  「宇治十帖」編は完結できたら、どうするか考えます。
  完結出来るとは限らんし……。(オイ)


  >乳兄弟は居るの?
  設定上は居ますが、登場させる機会が……。
  同じ歳の『小春』呼ばれる女の子で、半年ほど早く生まれたお姉さんです。
  子煩悩な紫の上が、自分自身で暁君を育てている設定なので、乳母の出番が殆どない上に
  まだ相手が普通の4歳児なので絡ませにくい……。
  将来、側使えの待女か女房にでもと考えていますが、でも出番有るかな……?
  出番が無いかもしれないので、存在だけでも前もって公表してみました。


  この他にも質問らしき物が有りますが、本編のネタとの絡みから回答は簡便してください。
  (無視した訳じゃないですよ……)
 
 
(了)




[13626] 12話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2009/12/14 22:08



 
 何れの御世であったでしょうか……。
 
 権勢を極めた大臣のもとに、珠のような男の子が居りました。
 
 父親譲りと言われる才気を持った彼の若君は、
 
 僅か4歳にして、大人並の知識と思考を有する、将来有望な若君だったと伝えられております。
 
 やがて何時しか人々は彼の姿に、若き日の彼の父親を重ねるようになり、
 
 色々な意味で彼の若君を『源氏の君の二代目』と呼ぶようになります。
 
 これは、数奇な運命を辿り、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――



 
 
「暁ちゃん……何故、私が六条の院様に降嫁しなければいけないの?」
 
 ……それは、他に身分の釣合いそうな人が居なかったから
 
 今の自分は元服前の無位の童だから、候補にすら成らないよ
 
 
「酷いよ…暁ちゃん。信じて居たのに……」
 
 宮さま……ごめんなさい……
 
 無力な子供で……ごめんなさい……
 
 
 
 
 
 
 
 
「殿…今頃になって……あんまりです」
 
 母上……
 
 お願いですから気を落さないで下さい
 
 
「殿の正妻という立場も失われ、尼になる事も許されず……私は何を頼りに生きて行けば良いのでしょうか?」
 
 あれは親代わりの筈です。父上が母上を見限る訳が……
 
 
「もはや生きていく意味も有りません。世を儚んで二条院でひっそりと余生を送ります」
 
 母上……父上を止められなくてごめんなさい……
 
 
 
 
 
 
 
 
「やれやれ、幼い方だと私に思わせて、裏で隠れて不義の子を生しますか……」
 
 お、親父! 自分の事は棚に上げて、お前がその台詞を言うか!!
 
 そもそもアンタが確りしていなかったから、柏木に隙を付けこまれたんだろ!!
 
 
 
 
 おのれ……
 
 
 
 おのれ、糞親父!!
 
 どこまで……を不幸にすれば気が済むんじゃぁぁ!!
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 
 
「暁ちゃん! 暁ちゃん!!」
 
 ん? 宮さま……。泣いているのですか?
 
 
 
 ごめんなさい……
 
 
 不幸になると分かっていたのに
 
 
 絶対に後悔する事になると知っていたのに
 
 
 何もしなくて……本当に…ごめんなさい……
 
 
 
 
 もし…やり直せるなら……
 
 
 
 
 
「今度は間違えません。幸せにしますから、私のもとに来てくれませんか?」
 
 
「えっ!? …………うん、良「貴方は! 何を馬鹿な事を言っているのですか!!(バシッ!)」 ―きゃっ!」
 
 
 痛ってえええぇぇぇ!!!
 
 
 自分と女三の宮さまの間に割って入る大きな影――
 
「出たな諸悪の根源(ラスボス)! 節操なしの糞親父! 今こそ引導を渡してくれるわ!!」
 
「全く、貴方は先程から何を錯乱して……うゎ! 危ないではないですか!?」
 
 
 ちっ…避けたか。
 
 手近にあった枕を投げつけたのですが、体にが思う様に動かず外してしまいました。
 
 まぁ良い…奴は自らの拳で叩きのめす!!
 
 まだ上手く動かせない体に、無理矢理力を込めて立ち上がり相手を見上げる。
 
 
 
 ……あれ? 見上げる??
 
 何で親父が、あんなに大きいんだ? さっきまで同じ位……というか若干自分の方が身長が高かったのに?
 
 
「くっ…卑怯だぞ糞親父! 何時の間に巨大化したんだ!?」
 
 これではまるで、大人と子供では…????
 
 
「いい加減に目を醒ましなさい! この馬鹿息子!!」 (バキッッッ!!!)
 
 ふんぎゃぁぁぁーーーーーーーー!!
 
 
 
 
 
■■
 
 
「さて…これで漸く、この大馬鹿者の処遇について話せます」
 
 板の間に正座させられている自分に対し、底冷えする様な声で父上が切出す。
 
 もうすっかり意識を取り戻した後であり、自分の身に何が起きて居たのか?
 
 寝起きに自分が何をしたか? に関しても、よ~く理解している。
 
 というか、父上や宮さまの容姿から、なんで夢だと気付かなかったんだ!? 俺…?
 
 
 
 敢て言おう!!
 
 『俺、終わった……』
 
 何と言うか、色々やり過ぎてしまったので、冷汗すら出て来ません。
 
 
 
「さて、一応聞きますが言い残すこと――もとい、何か申し開きたい事は有りますか?」
 
 ひぇぇぇ! 非常に拙いです……。
 
 私の記憶が確かなら、あの薄ら寒い表情は、苛立ちが限界直前まで達した時の見せる表情に間違い無いです。
 
 多分、柏木をいびり倒すときにも、あの表情を見せているのに間違い無いでしょう。
 
 
 温厚な人でも、行き成り悪の権化の様に言い掛りを付けられれば、少しは不愉快にもなるでしょう。
 
 ましてや、相手がよりによって、プライドが8000m級の山より高い、御父上様が相手では……。
 
 うん、とても無事には終わらないね……。
 
 
 最後の望みを掛けて、騒ぎを起こした事自体は事実ですので素直に認めて、
 
 少しでも酌量面での考慮を訴えることにします。
 
 そうでもしないと、此の侭では凄まじく機嫌が悪い父上に、不当に大きな罰を貰いかねません。
 
 
「この度は、騒ぎを起こす事に成ってしまって、大変申し訳なく思っております。
 只、ひとつだけ弁解するなら……え~と、状況的に『不可抗力では?』とも思うのですが?」
 
 なるべく殊勝に、控えめに、そして深く反省している様にポーズを取る。
 
 
 父上は…… あの野郎、鼻で笑いやがった!?
 
 
「その様な言い分が通るとでも? 普段から貴方の迂闊さには、毎度毎度毎度! 頭を悩ませられていますが、
 そも、魚釣りの様な殺生を行う下賤な行為を嗜む事自体が、貴方の迂闊さの現れでは無いですか?」
 
 
 まぁ下手人の意見が、素直に通るとは思ってはいませんでしたが……
 
 『魚釣りが下賎』…だとう? 前世の趣味を『下賎』だとう?
 
 流石に、ちょっとカッチ~~~~ン!と来た。
 
 『その自分は何時でも正しい』みたいな、スカした表情に一発お見舞いしてやりたい気分です。
 
 殊勝? そんなモノ…ポイ捨てです!
 
 こうなったら勝てないまでも、一矢報いる為に徹底抗戦あるのみ!!
 
 
 
 
「何を言いますか!? 我が国では馴染が薄いかもしれませんが、魚釣り自体は、
 古の唐土の王朝を切り開いた偉人にも由縁が有り、人が嗜む物としては、決して卑しいとは言えないものです!」
 
 
「む…しかし殺生は」
 
 
「生きた動物を取る行為と云う意味で下賤と仰るのであれば、よく貴族の方々が行う狩りも大して違わないでは?
 まぁ、どちらも殺生をしている時点で、仏法からすれば問題有りの畜生行為な訳ですが……」
 
 
「…………」
 
 
「そう言えば御父上様は、狩りがお好きでしたねぇ……まぁ全く関係無い話ですけれど」
 
 
 さぁ? さぁ!? 何か反論は有りますか? 御父上さま?
 
 
「くっ…なまじ余計な知恵を身に付けている分、貴方は始末に負えないですね」
 
 フッ……勝った!
 
 
 正直、『何故この時に、この場所で釣りをやったか?』に関して切り込まれたら、風向きはかなり悪くなった筈ですが、
 
 ちょっと頭に血が上っていて、冷静さに欠ける今の父上で助かりました。
 
 
( 父上…聞こえて居るのなら、釣りを馬鹿にした少し前の己の迂闊さを呪うが良い! )
 
 父上の表情が、何処ぞの御曹司の様に歪む…… ふはははは――いい気味じゃぁ!!
 
 
 君は良い父上でした……ですが、君の『釣りは下賎』発言がイケナイのダヨ。
 
 
 
 
 
 
 
 
「ほぅ…噂では聞いていましたが、随分と利発な御子息ではないですか?」
 
 伯父上の隣で、自分と父上の遣り取りを聞いていた兄上??が、初めて声を発した。
 
 
「嫌だなぁ兄上。おだてると僕、木に登っちゃう…………え? あれ?」
 
 え~と? 兄上…? では無いですよね?
 
 どちら様でしょうか?
 
 兄上にソックリ? はて…?
 
 
 
 
 そんな頭の上に?マークをいっぱい浮かべて、悩む自分の肩にポンと誰かの手が置かれた。
 
 
「つ・い・に、話し掛けてしまいましたね?」
 
 そこには、ニヤリと笑う父上の姿……
 
 なんか心の中の警報が、最大規模のアラートを発しています。
 
 ん!? 兄上より少し年上っぽい? …… ま・さ・か!?
 
 
「これで貴方の不敬が確定した訳ですが…残念です。非常~に残念です!」
 
 ひぃぃーーーーー! 拙い・不味い・マズイ……やはりこの御方は!?
 
 というか、何で主上が公式場で帝用の衣装を纏ってないの!? それってズルイじゃない!!
 
 
 
 この機を逃さない様に、がっちり自分をホールドして、先程撃墜した筈の父上が、何時の間にか復活!!
 
 畜生め……何を嬉しそうに言っているんだよ! この糞親父!!
 
 
「貴方の不敬行為には、国を背負う大臣の1人として厳しい処罰を与えなければ為りません!」
 
 嘘だ!! 絶対に私怨が入ってる! 入ってる!!
 
「厳しいと言っても、貴方は未だ童ですから……大人程の罰では無いので安心してください」
 
 嫌らしく笑いながら言われても安心なんか出来ねぇよ!
 
 
 
 非常~にマズイ……この侭では、主上という錦の御旗の名の下に、色々と理不尽な目を見る破目になってしまう。
 
 必死に打開策を思案していると、思わぬ所から救いの手が伸びて来た。
 
 
「あぁ大臣、気にしないで下さい。彼の行為に関しては今回は不問とします」
 
 本人からのお許しデターーーーー!!
 
 
「主上っ! ……しかし、それでは!?」
 
「私と暁は、たった今、初めて会ったばかりですよ?
 相手が誰かも明かされて居ない間の行為を不敬として問う程、私は道理の分からない者でも無いですし、
 こんな事くらいで、まだ元服もしていない童に罰を与えたら、私が後世の人に笑われてしまいます」
 
 
 主上ぉぉ!! 心から『ありがとう』を言わせてくだい。御恩は一生忘れません!!
 
 父上が悔しそうに顔をしかめる。恐れ多くも、帝を利用して私を罰しようなど不埒な真似をするからです。
 
 はーーはっはっは♪ 正義は常に勝つのだよ!
 
 調子に乗って『アカンベ』なんかしちゃう…… 父上、そんな顔で睨んでも無駄無駄無駄ぁあ!!
 
 
 
 
 
 
 ……だと思っていました。
 
 
「あ~~、喜んでいる所で大変申し訳ないのですが、今、私が大臣に言った事は、
 私がこの場に居ることで、加味された分の罰のみ免除をお願いしただけですよ?」
 
 
 主上のこの御言葉までは……。
 
 
 
 
「えっ!? ちょぉぉっ! それは一体…??」
 
 罰の免除の意味合いが、急に方向転換したことに動転してしまい、
 
 主上の言葉の意味をすぐには理解できなかったが、どうも余り良い意味では無さそうである。
 
 
 
「簡単に言うと、大臣が親の責任として、朱雀院で騒ぎを起こした息子に対する与える罰までは、
 止め立てする気は無いと言う事です」
 
 つまり……
 
「もしかしなくとも、父上から御仕置きの名の下の折檻を受けるのは、変わらないって事ですか!?」
 
 ニッコリと頷く叔父上様――もとい主上。
 
 が~~~ん! そんな、酷い!!
 
 裏切ったな! 僕の純粋な気持ちを裏切ったな!!
 
 文字通り、がっくりと項垂れる自分。主上の公認とあっては、もはや逆転の目すら見つからない。
 
 そして何時の間にか、父上に抱きかかえられて居り、既に逃亡すら出来ない状態であった。
 
 
 
「さて、では二条院に戻りましょうか。貴方にはこれから色々と、お話をしなければいけませんから」
 
 気分は、最早『売られて行く子牛』状態です。
 
 周りで見ているギャラリーからは、荷馬車で運ばれていく『つぶらな瞳の子牛』のように見られているのでしょうね。
 
 だ~れ~か~ へるぷ、み~~~~!
 
 
 
「少しお待ちください源氏の君……」
 
 自分を連れて退出しようとした父上が、朱雀院さまに呼び止められる。
 
 ……もしかして、伯父上のフォロー有りですか!?
 
 
 
「今回の件では、私からも暁君に罰を与えなければ為らないと思うのですが?」
 
 ―――グシャ!! そんな酷い言葉に100tの重りを頭に受けたような衝撃が走る。
 
 
 !!……ちょっ! 伯父上! 貴方まで僕を苛めるのですか?
 
 此処は味方が居ない所か、敵だらけなのですか!?
 
 
 みんな一応、自分の親戚だよね? 私、貴方たちの甥っ子ですよ?
 
 リアルタイムで『四面みな楚歌し』状態……項羽の気持ちも分かります。
 
 
 
 
 
「朱雀院さま、行幸を台無しにされて御怒りは良く分かります。
 ですがどうか此処は、私が良く言って聞かせますので、私に免じてお許し頂けないでしょうか?」
 
 流石に気の毒に思ったのか? 今の今まで自分を責める側であった父上が、
 
 今度は自分を庇う側にまわって来たのだが、
 
 次に伯父上から出た言葉は、そんなシリアスな雰囲気をぶち壊すのに十分な物であった。
 
 
「いえいえ、騒ぎが起きてしまった事自体は、全く気にしていないのですが、
 女三の宮に心配を掛けて泣かせてしまった事が、父親としてはちょっと許し難くてですね……」
 
 オイッ!! ……いや、気持ちは分からなくも無いのですが、公衆の面前で其れを言っちゃいますか?
 
 
 親馬鹿だ! 此処に親馬鹿が居る!!
 
 親父っ! 『なるほど…』なんて納得するな! 駄目だ…この一族! 救いような無い困ったちゃんだらけです。
 
 
 うぐぅ……。 うちの家系の娘持ち父親は馬鹿親だらけか?
 
 こんな時だけ、父上と朱雀院さまに血の繋がりを感じるとか、正直悲しくなって来ます。
 
 まだ娘持ちでは無く、一族の中で比較的まともそうな人は、主上である冷泉の帝だけなのだが、
 
 今、主上なんかに助けを求めたら、今度こそ何をされるか分かった物では無い。
 
 
 
「それで院は愚息に、如何ような罰を与える御積りでしょうか?」
 
 うゎ~い! 父上的には、伯父上が罰を与えるのは賛成なのですね?
 
 駄目だ、この馬鹿親どもめ!
 
 自分は将来、娘が出来たら、こんな馬鹿親には成らないようにしよう。
 
 
 目の前では伯父上が、顎に手を当てて罰を思案している。
 
 不意に視線が合った時、伯父上が人の悪そうな顔になってニヤリと笑った。
 
 
「そうですね……宮を悲しませたのら、逆に喜ばせる事が償いにもなりましょう。
 ならば、暫く院に留まって内宮の遊び相手をすると云うのは如何でしょうか?」
 
 !?
 
「承服致しかねます!」
 
「おやおや、源氏の君は反対ですか?」
 
 
 いやいや伯父上……そもそも、そんな条件を父上が呑む訳がないですよ?
 
 というか、実は伯父上、罰に見せかけて、私の救済を謀っているのか?
 
 ……可能性は無くもないか? でも、どちらか言うと、単に宮さまが喜びそうだからの線が強いか?
 
 それは父上も同じ様に感じているみたいですね。伯父上を怪しむように見ているし。
 
 これは思わぬ所で 父上 VS 伯父上の馬鹿親対決勝負に成りそうです。
 
 既に他のギャラリーは観戦モードに入ったらしく、仲裁する気配すら無い様子です。
 
 
 
「たった一時の罰で、何日も拘束するのは罰が過大であると思われます!」
 
「では源氏の君は、何日が妥当であるとお考えですか?」
 
「精々半日でしょう「お話になりませんね!」……むむっ!!」
 
「『贖罪をする者、少なくも3倍以上の刑期を持って誠意を見せるべし!』ではありませんか?」
 
「本当にそれが贖罪になるのであれば喜んで了承もしますけれど…
 朱雀院さまの言動からは、どうも別の意図が有るのでは? と思われてなりませんが」
 
「本気で詫びる気が有るのなら、相手の喜ぶ事をするべきでは? 思うだけですが…。
 そういえば、貴方は昔から、勘違いをした詫びの入れ方ばかりをしていましたね。
 朧月夜の君の一件でも、勝手に都から去られた御蔭で、私が朝臣からどれだけ責められたことか……」
 
「あの時は、私の縁者達のためにも、あれが最善の方法でした。
 兄上だって皇太后さまに逆らえずに、私に酷い仕打ちをしたでは無いですか!?」
 
 
 そのまま、睨み合いになる親父ぃず。なんか話が変な方向に向かってないか??
 
 睨み合いの合間に、自分への罰とは全く関係ない口論まで出始めて居るし。
 
 
 誰かあれを止めてなくて良いのか? 流石に身内として見るに耐えないですよ。
 
 でも止められる人物の心当たりが、主上くらいしか居ませんがな……。
 
 
 主上が傍観モードの今、誰も手出しは…… ん? 誰かが自分の袖を引っ張っている?
 
 後ろを振り返ると、其処には女三の宮さまの姿が…… 何時の間にか自分の近くに寄って来ていたのですね。
 
 何ですか? 宮さま?
 
 
「暁ちゃん、暫く此処に居るの?」
 
「いや宮さま…多分無理だと思うよ? 父上が了承するとは思えないし」
 
 家族の力関係上(父上 対 母上 的にだけれども)自分が外泊する事になると、
 
 恐らく父上も無事では済まなくなるだろう。
 
 それに、なんだかんだ言っても父上は母上にゾッコンだから、母上の機嫌を損ねる様な真似はしない筈。
 
 
 
「居ないの?」
 
「いやいや、私的には一向に構わないのというか、是非居たいのですが、
 あれが『うん』と言ってくれない事には、自分からは、なんとも……」
 
 是は紛れも無く本音である。特に、このまま二条院に戻った時の末路が明確に予想できるだけに。
 
 何れにしても、あれ(親父ぃず)の結論待ち…?
 
 
 
「居な…いの…?」
 
 いや、だから……なんだろうね? 凄く嫌な予感がして来た。
 
 え~~と、宮さま、少~し落ち着こうね? 口調になんか嫌な前兆が在るような……。
 
 
 
「居…な…い…の…?」
 
 あっ……!? すっごく涙腺がやばそう。ちょっと待って下さい宮さま!
 
 ここで貴女に泣かれでもしたら……今度こそ本気で、俺・即・斬です!!
 
 
「ううっ…暁ちゃん……」
 
 ぎゃぁぁぁーーーー!! 待って、Wait!! お願い!!
 
 
 
 
「さっきから何をやっているのかね? 君は…」
 
 慌てふためく自分に、見知らぬ公卿に話し掛けてきた。
 
 身内以外でこの場に居る者……つまり宮中にて其れなり地位に居る者に他ならない。
 
 真っ先に思いつくのは、本日の主催の1人、現在政務を取り仕切る関白の役に就いている『あの御方』だろう。
 
 
「え~と、内大臣さま… ですよね?」
 
 父上と同世代っぽい華やかな公卿が黙って頷く。そっか……この人が兄上の伯父上ですか。
 
「初めまして、何時も父と兄がお世話になっております。
 え~と、見ていたのなら、事情は大体御分かりと思いますが?」
 
 
 内大臣さまは、自分の返答にちょっと呆れたような表情になる。
 
「事情が分かっているから、何故速やかに対処しないのか聞いているのですが……」
 
「出来るものならやってます! 嗚呼…… お願い! 宮さま落ち着いて下さい!」
 
 
 そんな宮さまに振り回される自分を見て、内大臣さまの表情が意外な物を見るような感じに変わる。
 
「噂というものは、存外、真実とは違うという事ですか……」
 
「……噂? 何でしょうか?」
 
「いえ、宮中での貴方の評判は、源氏の君並に口が巧く、手が早く、場慣れしていて、
 既に何人もの女性を誑かしていると云うものでしたから……」
 
 何、その話……兄上に聞いた時より、更に酷くなってないか?
 
 全く、どこぞの垂らしと同列扱いなぞ、しないで欲しいわ!
 
「まぁ、そう云う事なら将来有望な若者の為に、骨をおるのも吝かでは有りません」
 
 そのまま、主上もとに近づく内大臣さま。小声で何か話し掛けて居る。
 
 そして、それまで若干成行きを楽しそうに見ていた主上が、親馬鹿ズのもとに行き、何かを囁いている?
 
 恐らく仲裁しているのかな?
 
 此方に戻って来られた内大臣さまが、すれ違いざまに『貸し1つですよ…』呟いたので、まず間違いは無いだろう。
 
 ひっとして面倒な人に借りを作っちゃった!?
 
 というかアンタ、貸しにするなら、自分自身で仲裁しろや!!
 
 
 
 
 結局、主上の仲裁で『罰として3日間の朱雀院への逗留』が決まるのであった。
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第12巻 「後始末」より抜粋)





あとがき:
 
 感想を書いて下さった諸氏に、心からありがとうの意を……。
 
 朱雀院の行幸編の3話目で御座います。
 まったりペースでの週末のみの執筆なせいか? 作品の完成速度が、ガタ落ちになった感があります。
 などと思っていたら、1話の平均文字量が、何時の間にか倍以上に…そりゃ完成も遅くなるか??
 12話での予定部分まで話が進んでいませんでしたが、ちょっと長くなりすぎたので
 切りの良い所で、次回に回すことにしました。
 
 原作を読んだことの無い人は、多分読まないだろうと勝手に思って、今までは細かい説明とか省略していましたが、
 これからは簡単な説明とか入れた方が良いのだろうか?
 
 因みに、漫画で源氏物語の概要を知ろうとする勇者への、作者の推奨の作品は
 大和和紀先生の「あさきゆめみし」です。
 (分かり易い、絵が綺麗、宇治十帖まで完結済、原作のドロドロ部分がライトな表現になってる
 etc. 大変読みやすいです)
 本棚から「あさきゆめみし」発掘して再読した後、作者脳内で、SS内でのキャライメージは
 「あさきゆめみし」の映像を使用しています。
 ( 暁は紫の上の幼児姿で……… )
 感想であった「ジャパネスク」で思い出しましたが、そういや、次章で出てくる玉鬘の名前って、実は『瑠璃姫』なんだよね……。
 玉鬘の性格を、ジャパネスクの瑠璃姫から持ってきたらどうなるのだろうか? ……右大将が殴り倒されて終わりの予感。
 
 
 
 
(了)




[13626] 13話
Name: 紫敷布◆07eba287 ID:a5147822
Date: 2010/02/06 22:48
※クリスマス特番は予告通り削除しました。入れ替えで13話をUpします。




 
 
 今は昔、冷泉帝の御世であった頃……
 
 元服すらまだまだ遠い御歳にも関わらず、何故か宮中を騒がせてしまう
 
 野分のような男の子が居りました。
 
 生母に瓜二つと噂される容姿と、女装癖と、女癖の悪さから
 
 しばしば父親の勘気を被り、時折罰として、身分の低い者のように
 
 使用人の見習いをさせられたと、今に伝えられております。
 
 
 これは、運命の悪戯に弄ばれるが如く、
 
 遠き時代の壁を越えて、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――
 
 
 
 

 
 結局、主上の仲裁で『罰として3日間の朱雀院への逗留』が決まるのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……だが、しかし!
 
 
 
 このままでは、事の成行きを母上に言い訳出来ない父上からの横槍もあって、
 
 あくまで罰なので『遊び相手』では無く、使用人の童扱いで奉公の為に留まると云う
 
 ステキなおまけ付きになりました……。
 
 
 父上、どうやら貴方は終生の強敵と書いてとも――じゃない怨敵なのですね?
 
 今に見ていろ! 何時の日にか下克上しちゃる!!
 
 
 
 宵闇の中、二条院へ戻る父上の車を見送りながら(アカンベー付き)誓いを立てていたのだが……
 
 
「あれ…? はれあき? なんで此処に残っているの?」
 
 惟光と同じく、何時も父上の側周りに居る筈の人物であり、
 
 そして惟光とは逆に、非常に寡黙な男が、自分と共に朱雀院に残っていた。
 
 
 初めて会った当初は、余りの地味さに、きっと原作物語に名前すら載ってないのだろうなぁ…とか、
 
 こんな登場人物、源氏物語に居たのか…? などなど、色々と失礼な事を考えて居た事もあった。
 
 だが…しかし! 自分が何か騒動をやらかした際に実施される彼の御仕置きは、惟光の5倍程は苛烈なので、
 
 その忌まわしい記憶と共に、全く頭の上がらない人物の1人でもある。
 
 出来れば敵にまわしたく無い。―――というか目の前に居ないで欲しい。
 
 心臓に悪いから……。
 
 
 
「はい、殿から若様の護衛を仰せ付かって居ります」
 
 ……はぁ!? 此処は警備の厳しい上皇の御所ですよ?
 
 護衛なんて意味無さすぎでしょう?
 
 
「そうですね……護衛は単なる名目ですので、確かに意味は無いです。どうせ若様には直ぐにバレると
 思いますから言いますが、殿から『護衛を名目にした若様の監視』を仰せ付かって居ります」
 
「え゛っ…? 監視っ!?」
 
「はい。殿からは『此処で起こった事は漏らさずに報告せよ』と厳命されております」
 
 
 ちくしょう……親父の奴! 私が此処でサボって過そうとしているのを見越しているという事ですか!?
 
 よりによって最大級の天敵であるコイツを使って、逃げ道を徹底的に潰すつもりなんだな!!
 
 なんてエゲツナイ真似を……。
 
 
 
「また万が一、若君が朱雀院で問題を起こしそうで有るなら……」
 
「有るなら…?」
 
「多少の無茶をしても良いので、実力を持って阻止せよ! …との事です」
 
 Noooooo!! マジですか!?
 
 
 この男、融通が利かないというか、容赦が無いというか――。
 
 いつも冷徹に、そして全く仕事に情を挟まないから、少しでも不穏な気配を滲ませたら最後、
 
 本当は何でも無いのに、とんでもない折檻を食らう危険性が出てきてしまいました。
 
 本当に洒落になってないよ? トホホ………
 
 
「所で若様…… 先程、殿の車に向かって『何か』されていた様ですが?」
 
 ナ、ナニモ、シテナイデスヨ……。
 
 
 
 
 

 
 
 使用人の朝は早い―――
 
 当然といえば当然であるのだが、主より遅く起きる使用人は居ない。
 
 日が昇る前に起きて、色々な雑務を片付けるのである。
 
 
 そして、使用人の夜は遅い―――
 
 当然といえば当然であるのだが、主より早く寝る使用人は殆ど居ない。
 
 人によっては徹夜で控えている場合もあるとか……もう拷問ですな。
 
 まぁ当番制だけどね。
 
 しかし……幾らなんでも幼児な俺に徹夜とかさせないよね?
 
 
 そんなステキ楽しきな使用人生活に、四歳児を放り込む親父の人間性を激しく呪いつつ、
 
 朱雀院で生活が幕を開けた。
 
 
 
 
 
「暁さん、内宮さまの御膳を運んで下さい」
 
「はい、只今運びますデス」
 
 
 御膳を運ぶのは、少々力が要るからキツイけど、昔バイトで培った根性で頑張る!
 
 
「暁さん、次は是を倉庫の方にお願いします」
 
「はい。分かりました」
 
 
 頼まれたら笑顔を忘れずに……
 
 
 自分で言って何だが、この順応性の高さが怖いですね。
 
 少しの間、働いているうちに、すっかりと使用人としての振る舞いに慣れてしましました。
 
 昔からバイトでの仕事の覚えは速い方だったとは思うけど……。
 
 やっぱり自分の性根は普通な庶民なんだよなぁ……人に使われる事に全く抵抗を感じないわ。
 
 まだ初日だというのに、スッカリ家人の方々に馴染んでしまっています。
 
 いや、むしろ違和感なし??
 
 それに、もうね…皆に遠慮無く扱使われてますし。
 
 
 ひょっとして皆、自分が源氏の大臣の息子だって忘れてないですか?
 
 普通だったら、これ懲罰モノじゃないですか? ねぇ?
 
 まぁ別に良いのですけれど……。
 
 
 
 
 今の所、仕事で大きな支障をきたす問題は発生していない。
 
 精々、力仕事を振られた時に体力の無さから時間が掛かる程度くらいですか……。
 
 本当に、もう……4歳児は非力なんだよ!! 少しは考えて仕事を振って下さいよ!!
 
 
 
 それ以外では特に……
 
 否……仕事上でひとつだけ、かなり大きな支障を来す問題が有りました。
 
 
 
 
 そう、朱雀院で仕事をする上で、何より一番の問題は―――
 
 
 ((ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーー))
 
 
 うぁ……まだ見てるよ。
 
 そう、自分を見詰める2つの視線。
 
 
 1つはリアルタイムで私の行いを監視している寡黙な男。
 
 私は男に四六時中に見詰められて喜ぶ趣味は無いのですが……。本当にいい加減にして欲しい。
 
 この様子だと、仕事をサボったり馬鹿な事をすれば、即座に親父に伝わる訳ですか……。
 
 いやはや…これは拙いですね。
 
 
 
 そして、もう1つは……もう言うまでも無いですね?
 
「暁ちゃん…遊ぼう?」
 
 お仕事中、ぴったりと私に張り付き、時折『さぼる誘惑』を仕掛けて来る内宮さま。
 
 懐かれているのが分かるだけに、邪険に扱えなくて少し困ってしまう。
 
 でも……ね?
 
 うぁ、もう一人の視線の主の表情が、無茶苦茶怖い事になってるわ!?
 
 
「宮さま。ちょっと待ってくださいマセ……まだお仕事中ですから」
 
「うぅぅ…暁ちゃん。さっきから『あと少し』ばかり言ってる――」
 
 だって仕方が無いじゃないですか!? 私は一応、罰を受ける為に此処に居るのだし……。
 
 サボったら、貴女の遥か後方に居る男が、何を報告するか分かったものじゃ無いのデスよ?
 
 
 
 時折、伯父上が渡って来ては、
 
「暁君。内宮の相手をする事が、此処での君の主な仕事だと思って貰って構わないのだよ?」
 
 などとは言ってはくれるものの、やっぱり自分の後方から見ている男が怖くてねぇ……。
 
「申し訳ありませんが朱雀院さま、我が父から『遊び相手では無く、使用人の童扱い』を厳命されていますので」
 
 としか、私からは言う事が出来ませんわ!
 
 
「意外と貴方は、律儀と言うか、変に真面目と言うべきでしょうか?
 折角、源氏の君が居ないのですから、少しくらい怠けていても良いとは思いますが……」
 
 まあ、自分も伯父上の仰る通りにしたいよ。というか伯父上はアレに気付かないのか?
 
 
 そっと伯父上だけに分かるように、後ろを指差して『話題に注意!』のサインを出す。
 
 
 
(成る程。彼の存在を失念していましたね……やはり監視ですか?)
 
(はい。伯父上の力で、何とかならないモノでしょうか?)
 
(してあげたいのは山々ですが、已む無き事情でも無い限り、出来るだけ貴方の側に彼を付ける事が、
 貴方を朱雀院に残す最低限の条件でしたからねぇ……これを破れば直ぐにでも、源氏の君が乗り込んでくるでしょうね)
 
 むぅ……それは避けたいですねぇ。蛇を追い払ったら龍が出て来たとか洒落になりません!
 
 
 
(あるいは内宮の居る禁裏で仕事をする場合なら…… いや、駄目ですね。禁裏中の禁裏の場であれば兎も角、
 子供の部屋では遠ざける理由としては弱いですね。是で拒否をすれば、やはり源氏の君を呼びかねないでしょう)
 
 ……禁裏中の禁裏?? 何だ、それは??
 
 思いっきり顔に出ていたのであろうか? そんな自分の様子に伯父上は、
 
(私の女性達が居る場所の事です。流石にあの者といえど、入れる訳にはいきませんから……)
 
 と、人の悪い表情を浮かべるのだった。
 
 いや……確かにその通りですが、その場所は私も入っちゃマズイでしょ?
 
 でも、一度で良いから朧月夜の君とか見てみたいなぁとか、ちょっとだけ考えてしまったのは内緒ですが……。
 
 
「そうですね……年齢柄入れなくも無いですが、下手に入れると此方が庇っていると勘ぐられるでしょうね。
 まぁともかく、手が空きがちな午後からの時間は、内宮のお相手を務める事が、此処での最重要なお仕事だと
 理解しておいて下さい。出来れば午前の手空きの時間もお願いしたいのですが……」
 
「午前中は手空きになる事は、まず無いかと……まぁ午後からのお相手は了解しました」
 
 
 基本的に使用人の役目……つまり自分の御仕事は主の世話役である。
 
 主の身支度や、御部屋の掃除・片付けなどは午前中に集中している為に、午後からの仕事は格段に減っていく。
 
 
 ……では午後は何をするのか?
 
 午後の仕事の有無は……主というか、三の宮さま意向次第と言った所なのである。
 
 そう、現状では我が主は、此方の女三の宮さまであるので……
 
 
 
 屋敷の雑務などが無くなった午後からは、三の宮さまの御相手ばかりしているのだけれども、
 
 うん、これはサボりじゃない! 怠けていない!
 
 そう…付き人の役目であるお仕事なのだ!! ……と監視者にビクビクしつつの遊び相手。
 
 
 流石にそこまで融通が利かない男では無いだろう? と普通なら思うであろうが、
 
 あの男は変な方向で、全く融通が利かないのである!!
 
 
 前日の『アカンベー』関しては、報告開始の指示が『父上が朱雀院を出てから』とされていた為に、
 
 危うく報告されてしまうと云う難を、ギリギリで逃れられたという事が実際に起こったのだ。
 
 それはそれで間諜としてどうなの? と突っ込みたくもなるのであるが、思わぬ利益を得たので何も言う事が出来ない。
 
 そして、昨日はプラスに働いた融通の利かなさも、今日もプラスになる保障は全く無い。
 
 
 こうして仕事として遊んでいても……何んて報告されるのかねぇ?
 
 『午後からは遊び呆けてましたとか』事実だけ報告されたら、まるでサボってるみたいに取られるよね?
 
 ……嗚呼、胃が痛い。
 
 
 
 
「暁ちゃん、つまらなそうにしてる……」
 
「ソ、ソンナコトナイデスヨ?」
 
 ヤバイヤバイ…どうも心配事が顔に出ていた様です。天然系だけれど、時々妙に聡い所が有るから注意しなきゃなぁ。
 
 
「お外に行きたいの…?」
 
 いや……うん。ちょっと違うかな?
 
 庭とか屋内でも、池の付近とか行ってはダメだと(特に俺が一緒の場合)、元々から朱雀院に居る内宮さま付きの方々に
 
 キツく注意されているから、必然的に行動範囲が限られる訳で、やることも大人しめな遊びばかりになっている。
 
 三の宮さま的には若干、それが不満なんであろう。
 
 でも、『私がまだ小さな童だから外は危ない』と注意されていたので、渋々とではあるが従っている。
 
 流石に目の前で私が死に掛けたばかりなので、宮さまも無理強いはしない様子である。
 
 
 
「暁ちゃんが大きくなったら、一緒にお池に行こうね?」
 
「そうですね……」
 
 取りあえず頷くしか選択肢は無いんだが……、
 
 ゴメンナサイ……宮さま。非常に残念ですが、その約束は恐らく果される事は無いしょう。
 
 自分が大きくなる頃は、貴女が年齢制限に引っ掛かって、外に出れなくなるでしょうから。
 
 
 無邪気で可愛らしい方に嘘を吐くのは、すっごい良心が痛むのですが……
 
 恨むのなら、こんな役目を振った我々の親父ズを恨んでください。
 
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
「あの~~小納言さん、本気で私に此れを着ろと?」
 
 渡されたのは湯着…… ぶっちゃけると、使用人が沐浴をする主の世話をする時に、身に付けている類のモノ。
 
 
「早く準備しなさい! 内宮さまは既に入られています」
 
 いや……あのね?
 
 君達、僕の性別を憶えてる??
 
 
 ダメだろおおおおおおおおおおお!!!
 
 
 
「暁さん。内宮さまが呼んでますよ? 早く此方に来てください!」
 
 小侍従さん引っ張らないで下さい!!
 
 やめてぇぇぇ! 其処に連れ込まないでぇぇぇ!!!!
 
 
 らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
 
 
 
 
 
 
 うん、決めた――
 
 こんな役目を振った我々の親父ズを、何時の日か泣かせちゃる!!
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第13巻 「若女房」より抜粋)
 
 
 
 
あとがき:
 
 
 大晦日の夜……
 某芸能人達が御尻を叩かれる番組を眺めつつ、正月特番(クリスマス版の続編)と14話予定の部分を書いていると、
 
 チャ~ン、チャッチャチャ~ン、チャッチャチャ~ン、チャッチャチャ~ン♪(ダー○ベー○のテーマ曲:職場からの着信)
 
 緊急呼出キターーーーーーー(゜∀゜;)ーーーーーーーーーーーーーー!!!!
 
 
 ………翌日、元旦にも関わらず何故か出勤してる作者。
 以降、今月に入るまで、さっぱり私的時間が取れない状況でした。(既に殆ど書きあがっていた今話すら投下出来ず…)
 まだ少しゴタついてますのでスローペースになりますが、無理せずまったり更新する予定です。
 時期ネタ満載な書きかけの「正月特番」は、どうやら御蔵入りしそうですが……。
 
 
 最後に感想を書いて下さった諸氏に、心からありがとうの意を……。
 更新遅れた上に、音信不通で申し訳ありませんでした。
 
 

(了)






[13626] 14話(前)
Name: 紫敷布◆4dae8547 ID:8d3bd853
Date: 2011/02/23 21:31


 帰って来ました。
 いや、真面目にリアル的な意味で……
 (詳細は後編の『あとがき』を参照してください)



 
 時は昔、冷泉帝の御世であった頃……
 
 尊き血筋に生まれながら臣籍に下られたある大臣のもとに
 
 元服すらまだまだ遠い御歳にも関わらず、大変利発な若君がおりました。
 
 彼の残した様々な書物は、後の日ノ本の様々な分野に多大な影響を与えており
 
 時の尊き方々の寵愛を一身に受けていたと語り継がれております。
 
 これは、遠き時代の壁を越えて、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の半生の物語 ―――――
 
 
 
 
 

 
 
 
 そして、最終日……
 
 
 
 
 …えっ!? 『あの後どうなったか?』デスカ?
 
 
 そんなむかしのことは……きれいさっぱりわすれたのサ!!
 
 
 そお、ぼくは過去を振り返らず泣かないで歩く、つおいおとこのこなのだ!!
 
 
 (決して作者が筆を止めている間に展開を忘れたという訳じゃないんだからね!?)
 
 
 
 
 …
 
 ……
 
 ………
 
 
 
 
 月日は百代の過客にして、行きかふ日々もまた旅人なり。
 
 まぁ色々とあったものの、無事に最終日のお昼過ぎになりました。
 
 そろそろ父上が迎えに来る頃合でしょうか?
 
 
 
 泣いても笑っても、もう間も無く朱雀院での生活が終わりを迎える。
 
 
 
 やっと……
 
 
 やっと終わるよーーーー!!
 
 
 長かった…… きつかった……
 
 何より、何か大事なものを失ったような…そんな喪失感がてんこ盛りの日々だった。
 
 でも、もう終わりなのだぁぁ!!
 
 
 
 最初のうちは色々とストレスが溜まった生活ではあったのですが、
 
 人間の慣れって凄いよね?
 
 気が付くと何時の間にか、幼児にはキツイ早起きとかお仕事だとか慣れてしまっている体になっていたのである。
 
 監視の目も何時の間にか気にならなくなっているし―― なんかこう精神的にタフに成った??
 
 最も監視の方は、直ぐに父上が乗り込んで来る気配も無いので、悩む事を止めたというだけかもしれませんが、
 
 精神的に吹っ切れたというだけで、此処での生活は、自宅のゆるーい空気とはまた違った要素であったので、
 
 実は予想外に楽しめたという気も少しある。
 
 
 気分は親戚の家に泊り込みのバイトをしに来た子供といった所ですか?
 
 給料が出ないのは非常に残念である。
 
 正直な本音をぶっちゃければ「重労働に見合う報酬を寄こせやああ!!!」なのだが、
 
 そんな独り言を呟いていたら、伯父上に「報酬を出したら罰にならないでしょう?」と突っ込まれたのも良い思い出である。
 
 
 
 まぁ紆余曲折波乱万丈天変地異出前迅速落書無用な滞在期間は、もうすぐ終わりを迎える。
 
 この様な機会は、恐らくもう二度と訪れることは無いのだろう。
 
 一応僕は大臣家の若さまですので、勝手に屋敷の外に出る事は叶いません。
 
 (「えっ?」とか「どの口が其れを言うか!」とか突っ込まない!)
 
 それと此処の方々とは血縁であるのだが、相手は皇族でこちらは臣下ですから。
 
 そんなに気楽に此処には訪ねる事は出来ませんよ?
 
 感覚が未来人な自分は余り感じないのであるが、生粋の現地人の方々は凄いくらい気にするのである。
 
 そう、『一位の人』と都人から呼ばれ、位人臣を極めたあの傍若無人な親父でさえも――である。
 
 そう考えるとこの三日間は、かなり貴重な経験だったのである。
 
 まぁ2度目は御辞退申し上げます……な心境ではありますが。
 
 
 
 一緒に苦楽を共にした家人の人達は、名残惜しいのは同じ気持ちの様で、
 
 お世話になった挨拶をして回っていたとき、皆さん今朝は色々と話掛けてきてくれました。
 
 少納言さんに至っては、将来内宮付きの女房をやらないかと言われたくらいだし。
 
 
 
 ………でもね?
 
 な・ん・で? 女房なんだよ!!
 
 
 自分、男っすよ!?
 
 もう、いい加減にしてください。いや……マジで頼むよ(涙)。
 
 いや、僕には分かっているよ。
 
 君ら絶対ワザとだろ!!
 
 
 なんか最近、弄られ癖が付きつつ有る様な気がする……。
 
 
 マズイなぁ
 
 帰ったら対策を考えねば!!
 
 
 
 そんな事を考えつつ、帰るまでの暇つぶしに釣殿から釣り糸を垂らしていた。
 
 そこ! 「お前、また落ちる気か?」「懲りてない!」と言わない!!
 
 今度は太公望宜しく、針は付いてないのだよ!
 
 その上、水面が見える釣殿の端から3m以上離れているのだよ!!
 
 
 まぁ、場所に関しては単に宮さまが、水場に近い釣殿の端に近づくのを嫌がったという事情がある。
 
 流石に前回の記憶のショックがまだ残っているのか? 宮さまは私が泉の近くに寄る事を快く思ってない様で
 
 釣殿の端に行こうとすると、首根っこを掴まれて引き摺り戻されるという姉上並の暴挙に及んでいた。
 
 宮さま以外と力持ち…… じゃない、この場合は4才違いの体格差のアドバンテージといった所か。
 
 おかげで、釣殿の端から3m以内に近寄る事ができません。
 
 色々と抵抗するも、最終的にはがっちりと抱き抱えられてしまい、釣殿端に腰掛けて過ごすのを諦める事となった。
 
 この状態で暴れたら、昔姉上とじゃれていた時と同じ様に、ふとした拍子で河童掛けとかをまた食らいかねないしなぁ。
 
 あんな生死の境は、もう沢山である。
 
 
 
 しかし……
 
「もう近づきませんから、そろそろ離して「…だめ」」
 
 …
 
「そろそろ場所を「…だめ」」
 
 …
 
「あの…「…だめ」」
 
 
 この拘束は何時解かれるのでせうか……?
 
 
 
 
 

 
 
 季節は桜の咲く春の真っ盛りで、ぽかぽか陽気の穏やかな水辺なぞでボーっと過ごしているのも悪くないのであるが、
 
 流石に眠くなって来ます……
 
 魚信のくることの無い釣竿を握っていても、緊張感なぞ有りはしない為、時々意識が朦朧として来る。
 
 見ている宮さまも同じ様であり、何時しか宮さまは静かに寝息を立てていた。
 
 
 (今はまだ可愛らしい姫君なんですどねぇ……)
 
 この姫が、天然系で世間知らずでKY気味な印象の姫になるとは……歳月って惨い。
 
 ふと、懐かしい故郷で読んだ「源氏物語」の内容が思い起こされる。
 
 古文なんて真面目に勉強していた訳では無いので、うろ覚えではあるが、それでも大筋の話はこの身の記憶として残っていた。
 
 
 曰く『朱雀院女三宮の人生は、余り…否とても良いものと言えるモノに為らない』
 
 六条の御息所という最悪な例には負けるが、物凄く不遇な扱いを受けた上に若い身空で出家する事になるのである。
 
 扱い的にはワースト2か3といった位置づけじゃないかな?
 
 そういや母上(紫の上)も、女三宮騒動で不幸になっていたよね?
 
 父・桐壺帝、義母・藤壺は地獄行き、正妻の葵の上は嫉妬に狂った生霊に殺され、生霊の六条の御息所は浮かばれず……
 
 まったく、あの親父に関わると碌なことない!!
 
 
 自分はまだ男だから大して…… いや十分に奴から不幸な目を受けているよな!?
 
 例えば、女装とか女装とか女装とか女装とか女装とか―――
 
 いかん。真面目に考え出すと、何か沸々と黒い感情が湧き上がって来る。
 
 落ち着こう。とにかく落ち着こう。
 
 何か楽しい未来でも思い浮かべて心を静めるのだ!
 
 そう、僕の将来は薔薇色なのさ!
 
 薔薇色……薔薇?
 
 
 薔薇ッ!?
 
 
 
 
 
(アーーーーーーーッ!!!!)
 
 
 
 
 
 
 
 ……いかん。本気で疲れているようだ。おぞましい未来図が出てきてしまったわ。
 
 将来は明るい!
 
 そう、明るいのだ!! 将来は――
 
 
 
 
 はぁ……将来かぁ――
 
「そろそろ将来の事を良く考えておかなきゃなぁ……」
 
 思わずそんな言葉が漏れてしまう。
 
 今までも時々考えていた事。まだ小さい身であるが故に、深くは考えるまでをしなかった事。
 
 折角大筋の流れを知識としてもつアドバンテージを生かさずどうするのか?
 
 そう、此処より俺様のオリ主のオリ主によるオリ主のための「ヒャッハー!!」が始まるのだ!
 
 ……とまでは言わないけれど、せめて目で見える範囲の不幸は減らしたいと思う訳である。
 
「宮さまの件をどうするか? 何か良い案はないかねぇ……」
 
 宮さまが親父に降嫁する事態だけは、なんとか避けなければならない。
 
 そんな事態になったら、宮さまも母上も柏木も不幸ロードをジェット戦闘機で一直線である。
 
 考えると溜息が出て来るだけの難題であるが、これを避けては『バッドエンドにようこそ!』の為、真面目に考えるしか無いのである。
 
 期限は姉上が女御入内する時期位まで……大丈夫、時間の余裕はまだ有るはずである。
 
 
 …
 
 ……
 
「仲が良さそう姿で微笑ましいのですが、随分と難しそうな顔をされていますね?」
 
 不意に伯父上に声を掛けられて、意識が現実に戻された。
 
 何時の間にか自分達の近くに伯父上が来ており、人の良さそうな笑みを浮かべて立っていた。
 
 よく見れば周りには監視人や伯父上だけではなく、女房やら家人の姿もちらほらと……
 
 子供が2人が寄り添って、春の陽気でうたた寝していたら
 
 ((((あらあら、まあまあ……。なんて可愛い~わぁ))))  
 
 なんて……気持ちは分かるが、此処、野次馬が多すぎじゃないか?
 
 此処の人達、そんなに暇なのか?
 
 大丈夫か? 朱雀院?
 
 あぁ、隠居の御所だから、基本的に皆さん暇なのか……
 
 
 
 
「将来が如何とか言っておられたようですが?」
 
 むぅ……心のボヤキが何時の間にか口に出ていた様です。
 
 独り言まで言うようになったら、そろそろ心労が末期ですかねぇ。
 
 まぁ先程考えていた内容なんて、他に人に聞かれたとしても、相手には全く意味不明でしょうが。
 
「ちょっと、今まで父上から受けた仕打ちとか、これから受けるだろう苦労を考えていたのですよ」
 
 と、溜息まじりに答える。まぁ8割方事実だし嘘じゃないよな?
 
 
「源氏の大臣の様な立派な方を父親に持てて、将来を喜びこそすれ悲観するような立場でも無いでしょう?」
 
 伯父上は、私が父親に対して的違いな不満を持ち、思い悩んでいると受け取ったらしい。
 
 せっかくだから、話を合わせておくべきか?
 
 でも、そっちの意味でも、正直あまり将来的に嬉しい事が有ると言えないような気が凄いするのですが……
 
 普通なら太政大臣の父親を持つっていう事は、羨望の的の筈ですよねぇ。
 
 でも……兄上の例を見るからに、あの父上が息子に楽をさせるなぞ、全く考えられないのですが?
 
 下手をすると元服するまで起こした騒動の恨みとばかりに、6位どころか7・8位で社会人デビューとか普通にやってくれそうだ。
 
 そして、よく考えたら私は次男だから、扱い悪くてしても問題無いじゃん!
 
 そんな様な事を言ったら、確かにと言った様に伯父上は頷いた。
 
 そこは否定してくれよ……(涙)
 
 
 
「暁君は………」
 
 ん?
 
「……暁君は、宮中で栄華を極めたいのですか?」
 
「それはまた……。激しく似合わなそうな未来図なのですが?」
 
 踏ん反り返って宮中を歩く自分を想像……
 
 うぁ、恥ずかしい。誰かあいつに盛者必衰って言葉を教えてやれよとか突っ込みそうである。
 
 
「貴族に生まれたからには、最上を目指さないのですか?」
 
 うーーん。食うに困らないだけの役職くらいなら一生懸命目指しますが、何か気疲れしそうだし、
 
 もう落ちることしか出来ない最上位を目指してもねぇ。
 
 
 祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす
 驕れる人も久しからず、唯春の夜の夢の如し
 たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ
 
 あの有名なこんなフレーズが流れてくるのである。驕れる平氏(私は源氏だけど)も久しからず!
 
 嗚呼、悲しいかな元庶民…… 真ん中が一番だよね?とか平均並を求める普通思考。
 
「そっちは兄上に任せます。(たしか位人臣を極めるはずだし)」
 
 思わず面倒だしと続けそうになったのは御愛嬌で。
 
 伯父上はそれっきり何も言わなかったので、これでこの話は手打ちでしょう。
 
 
 

 
「ところで、先程の『祗園精舎』からの言い回しの出典は何なのですか?」
 
「それは、もちろんへい……ッ」
 
「へい…?」
 
 
 やばい…………どうしよう?
 
 言うまでも無く『平家物語』は平家滅亡の物語である。
 
 つまり正確な時期は知らないが、少なくとも鎌倉時代以降に成立したという事になる筈。
 
 うっかり『平家物語』なんて言ったら、今まだ御存命の平氏の人に『なにそれ?』突っ込まれそうだ。(汗)
 
 落ち着け! 『へい』で始まる何かを考えろ!
 
 平安、兵員、へいうち?、閉園、平穏、兵科、平均、兵九朗………………出てこねぇぇぇぇ!!!
 
 
「へい…? 何ですか?」
 
 ま、待ってッ!! 今、考えるから!!
 
 平坦、平地、へいつくばる、閉店、ヘイト、塀無し………
 
 
 ……結局、あいうえおの最後の方で苦し紛れに出た「へいりんじ」という寺で、
 
 父上がそんな説法を聞いたということにした。
 
 そんな寺……在るのか? もし本当にあったらどうしよう??
 
 
 
 
■ 後半へ続く……
 
 
 掲示版の使用方法忘れてしまった。
 ついでに前に使っていたトリップも忘れた。
 そして何故かプレビュー画面が出てこないので、体裁を整えずに投稿しました。
 読みずらかったら、ごめんなさい。
 



[13626] 14話(後)
Name: 紫敷布◆4dae8547 ID:8d3bd853
Date: 2011/02/23 22:07



 
 
 
 
 デンデン・デンデン・デンデン・デンデン・デンデ~ン♪
 
 お気の毒ですが、イントロダクション14後編は消えてしまいした。
 
 
 
 
 
 
 

 
 父上が迎えに来たのは、それから二日後の午後の事であった。
 
 『何で2日も遅れたのか?』ですか?
 
 以下、ダイジェストでどうぞ
 
 
 
 
回想―――Start
 
 
「あぁ、言い忘れていました…。暁君、今日は恐らく源氏の君は来られないと思いますよ?」
 
「えっ!?」
 
「今日と明日は、二条院と朱雀院の往来は方向が悪い筈です。貴方の御迎えは、
 そうですねぇ…… 早くても明後日になると思いますよ?」
 
「……えええええっ!?」
 
 
回想―――End
 
 
 
 
 平安の昔、生活と占いは、かなり密接であった。
 
 そう占いの結果が悪ければ、その日は出掛けないとか日常茶飯事に有る位に。
 
 また出掛ける方位が悪ければ、『方変え』と言って他人の屋敷に泊まってまでして、運気を変えるとか……。
 
 21世紀の人が聞いたら、突っ込み所が満載な事が公然と行われていたのだ。
 
 
 まぁそんな訳で、私の帰宅はさらに伸びてしまった。
 
 その間は、客として逗留させて貰えたので特に不満は無い。
 
 
 
 
 まぁ―――不満は無いのであるが、如何にも1つ引っ掛かる事があった。
 
 それは伯父上の『源氏の君は来られないと思うから』と云う言葉。
 
 父上の都合が悪くなった事を、二条院からの使者から聞いたのでは無いという事は明らかな様である。
 
 多分、あのオッサン絶対に最初から知ってたと予想する。問い質してもはぐらかされて真実は闇の中である。
 
 
 
 成る程、それで期間を3日で納得したのか……。
 
 流石に既に退位したとはいえ、かつて権謀が飛び交う宮中で
 
 至尊の地位に就いていただけは有る。正直、あの温厚そうな顔で、ここまで黒いとは思わなかった。
 
 自分も何時、嵌められるか分からないので、今後は注意することにする。
 
 最もそんな注意なんて、大して役に立たないという事を、後日嫌という程思い知らされるのであるが……
 
 
 
 まぁ、それより……
 
 ゴール間際だった私の満足感を返してください。
 
 正直、飛行機の運休で出発が取り止めになった人を見る見送りの人の様な、生ぬる~い視線に晒されて
 
 もの凄く恥ずかしかったです。
 
 
 
 
 
 




 
 
■ 
 
 
 こちら暁です。
 
 伯父上の謀略にどっぷりと嵌められた為、すっごい不機嫌な顔をして現れた父上に連れられて
 
 帰宅途中の牛車の中……
 
 うん、凄く空気が重いです。
 
 大至急、救援を請う!
 
 救援を請う!
 
 
 
 
 
 
 なんて言っても救援の宛なぞ有りはしないのであった。
 
 いやーー、嘗て無い程、父上の機嫌がヤバイです。
 
 まぁ流石に今回ばかりは、あんな親父ですが、同情を禁じ得ないといった所でしょうか?
 
 でも、その鬱憤は全て私に来るんだろうなと思うと……誰か私にも同情して欲しい。
 
 昨日、兄上にそんな文面で手紙でぼやいたら『自業自得』って返って来た。
 
 最近、兄が僕に冷たいような気がするのは、気のせいですか?
 
 まずい……兄上に見捨てられたら家族中で味方が1人も居なくなってしまう。
 
 ここは対策を……って、その前にこの空気を何とかするのが先か!?
 
 ここは1つ、上目がちにちょっと可愛い子ぶってみる。
 
「ち~ち~う~え~~。ごめんな~さ~い~~(ハート)」
 
 ……あれ?
 
 何で、前へ倒れかかってピクピクと痙攣しているんですか?
 
 ちょっと! 失礼じゃない!!
 
 
 ……おや、起きた。
 
 と、思ったら笏で頭をスパーーーーン!と叩かれた。
 
 
 痛い……………。
 
 
「本気で普段からそのような可愛い態度なら、どれ程癒されることか……まぁいいでしょう。
 それにしても貴方にしては珍しく、朱雀院での罰中に大きな問題を起しませんでしたね?」
 
「別に好きで騒ぎを起しているのでは……しかし良く朱雀院での様子を御存知ですね?」
 
「聡い貴方なら理由は言わなくても分かっているのでしょう?」
 
 まぁねぇ……。
 
 親父の腹心とも言うべき男が、四六時中側に居ましたから。
 
 本来なら方角の吉凶に明るい彼の者が、私の監視という雑務に心血を注ぎ過ぎた為に
 
 ものの見事に伯父上の謀略に気付かなかったとも言える。
 
 まぁ監視の人選ミスですか?
 
 でも他に人も居なかったから、これは仕方ないのか?
 
 
「本当ならば朱雀院から戻った後に、二条院で私からも罰を与えようと考えていたのですが……」
 
 ギクッ!! 話がヤバイ方向に行きそうだ……
 
 
「朱雀院で罰を受けていた時の貴方の働きぶりを考えると、其処まですると罰が過剰になりそうですね」
 
 おぉぉ あの父上が罰を免除するなんて……
 
 どうやら、朱雀院で僕の運は少しは上向いた様だ!
 
 うむ、幸先が良いぞ。
 
 やったーーー!!
 
 
 
 
 
 
 
 でもね?
 
 親父の性格を考えたら、そんなに甘くなんて有り得ないよね?
 
 
 
 …
 
 ……
 
 
 
 
 カーーーーカーーーー
 
 夕暮れの中、もの悲しくカラスの鳴く声が響き渡る。
 
 父上と僕は、牛車から屋敷の前で降り立った――。
 
 
「え~~と、あの…父上? 此処は何処ですか?」
 
 建物の造りは二条院にそっくりであるのだが……
 
 目の前に広がる屋敷は、とても二条院とは思えないオーラを醸し出す屋敷であった。
 
 というか、何処のオバケ屋敷ですか! 此処は!?
 
 
「貴方が居ない間、上と姫の機嫌が非常に悪い情況でしてねぇ。全く……日に日に、二条院の空気が荒れる始末ですよ?」
 
 オイオイ……。頼むから母上と姉上の機嫌くらい取って下さいよ!
 
 名義は母上の物になっているけど、アンタ一応、この屋敷の主だろう?
 
 いや、むしろこの場合、真の意味での二条院2強と言うべき女性2人を、恐れ崇めるべきなのか?
 
 ほんの数日だけ機嫌が悪いだけで、ここまで影響を及ぼすとは……。
 
 
 
 
「その様な訳で、事の原因である貴方に、責任を持って御二方のご機嫌を取って頂きますので、宜しくお願いしますね?」
 
 ちょっとおお!! 何、一人だけ逃げようとしてるんですか!?
 
 いや、まさか…コレが今回の罰代わりですか!!?
 
 
「父上!! さっき罰は無いと言ったばかりじゃ無いですか!? 幾らなんでも、こんな仕打ちはあんまりです!」
 
「これは罰ではありませんよ? まぁ…事態を引起した責任に由来した、単なる『後始末』のお願いですよ?」
 
 
 ひどっ!! 其れって御仕置きと何ら変わらないじゃあ無いですか!?
 
 やっぱり、もの凄く怒っていたのですね?
 
 
「では、私は明日まで東の院の花散里の君の所に行きますので、後は宜しくお願いします」
 
 早々に逃げ態勢に入った父上を、必死に止めようとしたその時、
 
「あ~~か~~つ~~き~~~~!!」
 
 自分の背後から沸き上がるドス黒い声……。
 
 
 とてもこの世の物とは思えない瘴気を含んでいそうである。
 
 ま さ か ―- アレが姉上の声!?
 
 
「ほら、麗しの姉上が呼んでいますよ? 早く行っておあげなさい」
 
 言う事は言ったとばかりに去る父上。
 
 待って! 父上、待って下さい!!
 
 
 
 
「あ~~か~~つ~~き~~~~!! は~~や~く~~き~~な~~さ~~い~~~~!!!」
 
 尚も父上を追おうとする矢先に、先ほどより瘴気の濃くなった声で完全に足止めされる。
 
 
 なんだろうね? 声だけで人を竦みあがらせるって……本当に人間でしょうか?
 
 どうみても、死亡フラグ満載な屋敷の入口の前。
 
 一人で黄昏ることしか出来ない自分の姿が、涙を誘ったと、後日に屋敷の家人達から聞くのでした。
 
 
 
 
 黄昏にはや来てとばせ旋風遥けき彼方に飛べぬ我が身を(暁)
 
 
 
 
 
 
 
 
(暁日記:第14巻 「身於尽苦死」より抜粋)
 
 
あとがき:
 2010年2月中旬……
「君、春の異動で大宰権帥(某僻地の責任者)になるから大宰府(某僻地)に行ってね♪」
「はぁ????」
 2010年4月……作者はリアル大宰府送りになった。
 仕事の引継ぎとか、新たな環境に慣れるとか色々多忙でしたが、
 一番の問題は大宰府にはネット環境が無かったのです。
 長らく放置してすみません。年末に都(元部署)で疱瘡の死者(退職者)が大量に出た為
 年明けと共に、都に呼び戻される事になりました。ここに復帰の報告をさせて頂きます。
 
 一応、投げ出すつもりは無いです。更新は多分亀でしょうが……
 
(了)





[13626] 帰ってきた「クリスマス特番」(再掲載)
Name: 紫敷布◆4dae8547 ID:8d3bd853
Date: 2011/02/24 22:02
 
 このお話は、2009年12月に作者が投下した『やっちゃった』感じの番外編です。
 読めば分かると思いますが、多分に作者の後悔感満載な作品になってしまったので
 期間を限定して公開しておりました。
 (掲載当時、1週間で削除予定の所、暇が無く一ヶ月以上も晒してしまい、
  その後PCの奥深くに封印されました )
 長期放置の贖罪では無いですが、詫びの意味も込めて、ここに封印を解かせて頂ます。
 
 キャラ壊れ注意!! ゆるい目でお読みください。
 





 
 クリスマス特番
 
 
 『なぜなに源氏物語』
 
 
 はじまるよ~~~~。
 
 
 
 
 

 
 3、2、1………………
 
 
 どっかーーーーーーーーーん!!
 
 
「「わ~~~~~~~い!」」
 
 
 
 
 『なぜなに源氏物語』
 
 
 
 
 
 
 
 
「メリークリスマス! 皆さん! 進行役のちぃ姫こと、明石の姫と……」
 
「同じく進行役の朱雀院女三の宮です」
 
「………何故だ!? この配役は明らかに、おかしいだろおおお!!!」
 
 
「似合ってるわよ(ますよ)…。暁(ちゃん)」
 
「嬉しくねえぇーーーーー!! といか姫が2人も居るのに、何で俺が! 態々この配役なんだよ!?」
 
 
「アンタが一番、その格好に似合ってるいるからに、決まっているでしょう?」
 
「紅色の異国のお召し物が、とても良くお似合いですわ!」
 
「納得いか~~ん!! 姉上達が着れば良いだろう!!」
 
 
「流石に将来の中宮(皇后)としては、あんな足が露出している衣装を着るのは勇気が要るしねぇ」
 
「みにすかーと?とか言う物らしいですよ? 私も義姉様と同じで一般の方々の前で、
 その様に露出の多い服装は……少し恥ずかしいです」
 
「……この歳になって、こんなコスプレ紛いな格好をするハメに為るなんて……天からの悪意を感じるわー!」
 
 
「いいから、さっさと自己紹介しなさい! ったく……話が進まないじゃない!」
 
「うぅぅ…… サンタお姉さん役の源暁デス……」
 
 
 
「この番組は、『源氏物語』何それ? 的な方々の為に、大まかな概要を解説するものです」
 
「SSの内容の解説では無くて、原作の方の解説を、作者の主観200%で送ってしまう、トンデモやっちゃった番組!」
 
「というか、作者! こんな物を書く暇有るなら、本編を書けよ!!」(グシャ!)
 
 
「駄目ですよ…暁ちゃん。一応、作者さんは番組の提供者なので、不用意な事を言うと罰が当たりますわ…」
 
「もう遅いか……まぁ暁なら直ぐに復活するでしょう。じゃあ宮さま始めるわよ!」
 
「はい。義姉様……」
 
 
 
 
 
         『なぜなに源氏物語』
 
 
    【 この番組は、紫敷布の提供でお送りします 】
 
 
 
 
■ Episode 1 ■
 
 
 桐壺帝と呼ばれた帝の時代、数多居る女人達を退け、かの帝より大変な寵愛を受ける更衣が居ました。
 
 2人の間には、輝くような美しい、二の宮が誕生します。
 
 この皇子が、諸悪の根源――もとい、源氏物語の主人公、後の『光る源氏の君』となります。
 
 母親は身分が低く有力な後ろ盾も居ないので、宮中の女御さま、主に一の宮(東宮:後の朱雀院)の母親であり、
 
 右の藤原の頭領の娘である弘徽殿の女御達の嫌がらせなどを受けることになり、
 
 やがて、二の宮が3つの時、元々体が弱いことも禍して、ついに他界してしまいます。
 
 そしてこの後、深く塞ぎ込む帝を慰める為に、二の宮の亡き母親に非常に似ていた
 
 先帝の女四の宮が入内することなりました。後の藤壺の中宮(藤壺の女院)です。
 
 母親の面影を残す藤壺に、父上――もとい二の宮もすっかり心を許し、
 
 やがて危ない感情を持った、非常に困った子に育っていってしまいます。
 
 
 そして年月は流れ……父帝の下で、すくすと成長した二の宮は元服する御歳になりました。
 
 桐壺帝は、かつて占いで、二の宮が国父に立つと国が乱れるとの言を信じ、宮を親王とせずに
 
 源の姓を与えて、臣籍降下させました。こうして源氏となった若君は、左の藤原家の頭領娘の『葵の上』の婿となり、
 
 桐壺帝より二条院という屋敷をも与えられて、臣下としての道を歩むことになりました。
 
 
 
 

 
 
「「良く分かる(かもしれない?)、解説!!」」
 
 
「さて、一番最初に出てきた桐壺帝は、私達3人の御爺様に当る人です」
 
「御爺様と右大臣の姫との間に生まれた長男(一の宮)は、後の朱雀帝(院)
 ……つまり私、女三の宮のお父様になります」
 
「そして、次男(二の宮)は、私と暁の父上(源氏)の事です」
 
 
「……というと、私達は従姉妹同士ということになりますわね?」
 
「あらすじだけ聞いていると、両親の仲は殺伐としていて、
 とてもこうして、宮さまと和気藹々と語れるような関係では無いわね……」
 
「そうですわね、第一皇子と第二皇子なんて言ったら……」
 
「モロに後継者争いの当事者ですよ…宮さま。しかも第二皇子であるお父様の方が
 身分が低い癖に、帝のお気に入りで、やたら優秀だったらしいから……」
 
「実際原作でも、伯父上が上皇となる時期辺りになるまで、そんなに良い関係じゃあ無いようですが?
 最も、主に伯父上の母上である皇太后さまが原因だけどね……」
 
「御婆様がですか? 暁ちゃん?」
 
「うん、皇太后さまとしては、女御の自分よりも身分の低い更衣ごときにばかりに、主上の寵愛が向くのが、
 大変我慢が出来なかったようです。右大臣の娘なのでプライドが高いかったのでしょうね。
 しかもやっと亡き者にしたと思ったら、身分が格上のそっくりさんが入内してくるし……」
 
「そういえば、あの人、藤壺中宮や冷泉帝、お父様(源氏)を思いっきり呪ってたわねえ…」
 
 
「ちなみに、女御、御息所、更衣は帝の奥さんの身分ランキングみたいな物で、中宮さまを筆頭に
 女御>>御息所=>?更衣の順でランク分けされます。まあ父母の身分や生死で大体決まるようですが…」
 
「帝の子供を産むと、更衣から御息所に変わるとも言われてますね? 暁ちゃん」
 
「まぁその辺は作者も良く分からんようですよ? ちなみに、父上の母親である桐壺更衣(御息所)自身の出自は、
 父親:大納言、母親:皇族なので決して悪くは無いのですが、父親が既に亡くなっており、
 有力な後ろ盾が居なかった為に、身分が低かったらしいです。
 ……ということは? 母方の父上が生きていたら、俺は世が世なら東宮さまってことも有りっすか?」
 
「ないない! お兄様(夕霧)が居るから、ぜーったい有りあえないわ!」
 
「ですよね? まぁ成ったら成ったで恐ろしい事になりそうですが……主に世の中的に」
 
「天災とか飢饉が多発するかもね? この世界では帝の行いが悪いと起きるようだし…
 そうなったらアンタ、廃位されるわよ?」
 
「いやいや、成れないし、成る気もないから……」
 
 
 
「まぁ、それは置いておいて続きの解説をしましょう。
 そして、元服を迎えたお父様(源氏)は、桐壺帝から源の姓を賜って臣籍降下します」
 
「それで先程の暁ちゃんが、自己紹介で『源暁』と名乗ったのですね?」
 
「一応、現在、作者の設定メモだと『源朝臣暁』が、私の正式名称らしいです。
 最も、元服した時に大人の名前に改名するかもしれないけれどね……あくまで、かも? しれない程度ですが……。
 しかし糞親父の奴、元服直後で従三位って……何そのチート? 兄上(夕霧)が聞いたら怒るぞ!」
 
「お兄さまは、元服時は六位から始まったらしいからねぇ…」
 
「推測だけど、進士の試験に受かった後の昇進で、従五位の下になっていたから、正六位の上だったのでは?
 と作者は思っているらしい……原文覚えていないから、あくまで推測だけれどね」
 
「まぁ親王として立った場合、お父様なら三品はかたいでしょうから……
 そういう意味では妥当かもしれないけれど…」
 
「三品とは親王の位階の様なもので、臣下の三位に相当しますわ」
 
「ちなみに宮さまは、何品なのですか?」
 
「裳着時点での品数は分かりませんが、宇治十帖時で二品ですわ」
 
「「高!!! 臣下で言ったら二位! 大臣並!!」」
 
「ですから、恐らくは裳着の時点で三品ではないかと……
 おかしいですわ? 何故自分の事なのに分からないのでしょうか?」
 
「宮さま! 余計な事を言っちゃ駄目!!
 ……それにしても、臣下で言ったら大将・納言クラスの位階ですか……結婚相手に困る訳ですね」
 
「ですから暁ちゃん、がんばって下さいね?」
 
「無理ーーー!! それ何て無理ゲーっすか!? 私は多分六位スタートっすよ!?」
 
「そんな……信じていたのに……」
 
 
「いやいや……どう考えても、如何にも出来んでしょ? ん!?」
 
 ――ポン!(暁の肩に誰かの手が置かれる)
 
「また、内宮を泣かせましたね? あ・か・つ・き くん………」
 
「げぇ! 伯父上! 何故このような場所に!!」
 
「最初から収録の見学で、客席に居ましたよ? あぁ…どうやら一緒に来ている源氏の君も
 貴方にお話が有るようなので、是非一緒に来て頂けませんか?」
 
「いや、僕は収録が…… イタタ! 引っ張らないで伯父上ぇぇぇぇ!!」
 
 
 
「行っちゃいましたね? 義姉様……」
 
「全く、良い歳になっても、本当に落ち着きが無いんだから……仕方ない、私達だけで進めましょう」
 
「はい、義姉様」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
■ Episode 2 ■
 
 
 さて、臣下として歩み始めた源氏ですが……
 
 『葵の上』という正妻が居るにも関わらず、ここから様々な女性を手当たり次第に落していきます。
 
 人妻(空蝉)、未亡人(六条御息所)に始まり、親友の恋人(夕顔)から、昔馴染(花散里)、老女(源の典侍)、
 
 不美人(末摘花)、挙句にはまだ10歳の幼女(若紫:紫の上)など。
 
 臣下になったとは云え、父が帝ということもありヤリタイ放題です。
 
 
 そして遂に、藤壺への思いを捨て切れなかった源氏は、父親の妻(藤壺)にまで手を出してしまいます。
 
 やがて藤壺は懐妊し、二人の間に生まれてきたのは、源氏に良く似た皇子(十の宮)でした。
 
 後の『冷泉の帝』です。
 
 桐壺帝は藤壺を中宮に叙し、生まれてきた皇子を次の東宮にすると
 
 帝位を東宮(一の宮)に譲位します。朱雀帝の誕生です。
 
 
 一方、藤壺の件で懲りたのでは? と思わせていた源氏ですが、まったく懲りておらず
 
 よりによって兄帝の想い人(朧月夜)にまで手を付ける始末……。もう救い様が無いですね。
 
 
 こんなに手を広げ過ぎるると発生するのが、男を巡っての女同士の修羅場ですが
 
 正妻である葵の上が懐妊し、冷めた夫婦仲が、縒りを戻す兆しが見えたことを切欠に表面化してきます。
 
 中でも六条御息所の執着心は強く、葵の上との間に色々なトラブルが起きて、段段と不穏な方向に流れていきます。
 
 そして葵の上が源氏の長男(夕霧:本当は次男)を生んだ後、遂に葵の上は怨霊に襲われて命を落すことになります。
 
 これは、年下の恋人に執着する六条御息所の恋心が生霊となり、無意識の内に葵の上に襲い掛かったからの様でした。
 
 その後、御息所は源氏との結婚を諦めて、娘の斎宮(後の秋好中宮)と共に伊勢へ下ることになりました。
 
 
 一方、葵の上を失った源氏は、悲しみに暮れる間に勢い余って、裳着すらしていない引き取ってきた元幼女、
 
 つまり自分の手で育てていた母上を手篭め――もとい紫の上と結婚してしまいます。
 
 そして彼女の出自(兵部卿の宮の娘であること)を世間に公表するのでした。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
「良く分かる(かもしれない?)、解説!! …って、あれ? 姉上も宮さまも、どうしたの?」
 
 
「どうしたって…ねぇ?」
 
「此の様なドロドロの話を解説しろって言われても……気が進みませんわ」
 
 
「いやいや…其れは私も同じですが、一応お仕事ですし」
 
「それよりも、アンタが何時の間に戻ってきたのか? の方が気になるわ!」
 
「お父様達とお話をしに行かれたのでは?」
 
「あぁ…親父達は、なんか急にお腹が痛くなったらしくて、医務室に放り込んでおいたけど?」
 
「アンタね……」
 
「はーーはっはっは♪ 成人さえしてしまえば、あんな貧弱親父どもの1人や2人など、
 この黄金の左の前では敵ではないわ!!」
 
「暁ちゃんって、前世は一体なにをやっていた方なのでしょうか?」
 
 
「其れは秘密です! まぁ些細な事は置いておいて、解説、解説……
 さて物語は此処から、色魔糞親父の、ヤリタイ放題な痛い展開に移行します」
 
「義父さま本人は、浮名を流していた、義兄であり友人の頭の中将(後の内大臣)を節操無しとか、
 手当たり次第とか言って、頻繁に批判している様ですが……」
 
「こうして見ると『おまえ、人の事を良く言えたな!』的な発言よね?
 ……宮さま気を付けなさい。こいつはアレの血を引いてる訳だから、本性は見境なしかもしれないわよ?」
 
「ちょ! 何、アレと同列扱いしてるんですか!? 断固抗議します!」
 
「義姉さま、暁ちゃんはその様な方ではありません!」
 
「そうです! 宮さまの言う通りです! 暁ちゃんはそんな人では無いのです!!」
 
「私は知っている! 六条院には「わあああああああああああ!!!」居る事を!!」
 
「?? どうかしたのですか? 暁ちゃん?」
 
「ナンデモナイデスヨ……ミヤサマ」
 
 
 
 (アンタ……往生際が悪いわよ!)
 
 (姉上は私を死刑台に送りたいのですか!?)
 
 (どの口から、『同類扱いするな』なんて出てくるのよ?)
 
 (私のは不可抗力です! 進んで漁っている親父と同じにせんでください!)
 
 
 
「あの? 義姉さま、解説を続けなくて宜しいのですか?」
 
「そうね…さて続いては、お父様の女性の中で、特に物語に関わってくる方々を
 個別に紹介することにします。先ずは……やはり正妻からが妥当よね?」
 
「左大臣の姫、頭の中将(後の内大臣)の実の兄妹、そして糞親父の最初の正妻にして、
 兄上(夕霧)の実の母親『葵の上』!!」
 
「母親が内親王なので御血筋も非常によろしい御方ですわ」
 
「将来は東宮妃や女御にと、左大臣家で大切に育てられていた為か、ちょっとプライドの高そうな御方みたいね?」
 
「それが臣下となった親父と、無理矢理結婚したものだから夫婦仲は最悪……
 世が世なら中宮も夢じゃない立場だっただけに、心中をお察しするしか言葉が無いと…」
 
「よく義兄さま(夕霧)が生まれて来たと感心するべきでしょうか?」
 
「そこは、まぁ…お父様だから隙を見つけてねぇ……」
 
 
「葵の上の年齢が、親父の4歳程年上らしいから、それも結構関係有るかもしれないなぁ?
 夫婦間の仲が疎遠だったのは……」
 
「年上は…駄目なのですか? 暁ちゃん……」
 
「まぁ若いに越したことは 「私も4歳年上ですが……」…… 年上さいこー!!!」
 
 
 
「「……………………」」
 
 
 
「「「……………………」」」
 
 
 (み、宮さまが怖いわ……暁の馬鹿! 何やってるのよ!!)
 
 (し、仕方が無いでしょ!? 場の雰囲気に話を合わせたら、つい…出ちゃったのだから!)
 
 (だからアンタは迂闊って言われるのよ!!)
 
 (お小言は後で聞きますから、年長者の威厳で何とかして下さい! 姉上!)
 
 (何とかって、何ともならないわよ!!)
 
 
 
 
「あの……義姉さま。解説を続けないのですか?」
 
「あっ! そうねそうね……次の人の紹介に移りましょう。じゃあ次は……御父様の永遠の想い人が良いですかね?」
 
「親父の義理の母、実母のそっくりさん、桐壺帝の先の帝の第4皇女、藤壺の宮(中宮)!!
  因みに、私の母上(紫の上)にも良く似ているらしい……つまり俺ともそっくりさん?」
 
「お母様(紫の上)の父上、兵部(SS内の時代では式部)卿の宮は、兄であるらしいわね……」
 
「こうして見ると、義父様って、まるでマザコンでシスコンでロリコンですか?」
 
「我が父ながら、人として終わってるわね…」
 
「シスターが妹のことでなく、姉的な意味合いだから、まだ救いは……全然無いか、流石稀代の変態親父!」
 
 
「藤壺の宮さまは、お父様(源氏)との間に不義の子を生します。それが第10皇子、後の冷泉の帝です」
 
「一説では桐壺帝は全て知っていて、皇子を東宮にして義父様(源氏)を東宮の後見にしたとも言われてます」
 
「でも原作では明確に書かれてはいなかったような……との作者の記憶だそうです。……この作者、不勉強だわ!」
 
「というか、姉上! 原作では藤壺との密通部分の時期が欠落しているらしいですよ?」
 
「源氏物語の幻の帖の部分ですわね? 存在だけは伝わっているけれども、今現在、発見されていないらしいですわ」
 
「まぁ中宮の密通なんて、普通は物語でも後世に残せんわなぁ」
 
「藤の付く家からも圧力とかあったかもしれませんわ……原作が書かれた当時は、此処から中宮が出ていましたし」
 
 
 
 
「まぁまぁ… とにかくこれで、あの節操なし駄目親父から生まれた、3人の子供の母親の内、2人まで紹介完了ということで」
 
「子供の話と言えば、夢占いの内容にもありましたわね?」
 
 
『子供は3人……。帝と皇后が貴方から生まれます。一番劣った子も太政大臣として位人臣を極めるでしょう。
 3人の母親の中で一番身分が劣った人から女の子は生まれます』
 
 
「そうそう、これこれ。 嗚呼、私の実の母様…… 一番身分が低かったのね……」
 
「まぁ姉上の実母さまに関しては、まだEpisodeに出てきて居ないので、後にまわしましょう……」
 
「あれ? 暁ちゃんの事が人数に入ってない様に見えるのですが?」
 
「いやいや宮さま、私はソモソモ原作に出てないですって!」
 
 
 
 
 
 
「続いては…… 友人(頭の中将)の恋人系にしましょうか? 
 お父様が『もし生きていたのなら私の実の母様並に扱った』と述懐する程の御方です」
 
「悲劇のヒロイン、なでしこの花、頭の中将の想い人で玉鬘の母親、夕顔の君!!」
 
「物語的には少しだけ出て、あっけなく退場してしまいますが、玉鬘の姉さまの母親として……」
 
「そして義父上さまの漁色行動の根本原因のひとつとして、物語の後半部にまで名前が残る方ですわ」
 
「恋人の頭の中将は、政敵である右大臣家から北の方を貰っていたのですが、
 夕顔の君は、正妻との上手くいってなかったようで、娘(玉鬘)と共に頭の中将の前から姿を消したそうね?」
 
「そして親父に捕まったのか……ある意味悲劇としか言い様が無いな」
 
「でも原作の中では幸せそうでしたわ。最後は流石に悲劇でしたが……」
 
「親父と一緒の所を、怨霊まがいに襲われて他界……しかし怨霊が存在するなんて、
 なんとも摩訶不思議な世界ですなあ、此処は?」
 
「私としては、何でアンタが一度も遭遇していないか?の方が摩訶不思議よ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
「さて次は…… 来たっ! ある意味、源氏物語のラスボス! ダークサイドの親玉!」
 
「冷泉の帝の中宮である秋好中宮の実の母親にして、闇と怨念と死霊と生霊の母でもありますわ。
 御存知、六条御息所です」
 
「お兄様の母上である葵の上を呪い殺した最凶の貴婦人!!」
 
「一説には夕顔の死因も是では?と言われていますわ。既に故人であるにも関わらず
 物語の終盤に於いては義母上(紫の上)や、私も被害に……」
 
「ともかく、読者によっては完全な悪役に捉えられてしまう御方であることは、間違いないわね?」
 
「元々は大臣家の姫らしく教養も気品も高く、私のお父様(朱雀帝)の前の東宮でいらした方の
 御后さまでいらした方ですわ。東宮さまとの間に姫(秋好中宮)も生まれたのですが……」
 
「東宮さまが若くして御亡くなりになってしまったので、人生が狂ったって訳ね? お気の毒ではあるけれど……」
 
「将来の被害者役としては、心穏やかな感情を保つのは難しいですわ……」
 
 
「あの~~御二人とも、ちょっと言い過ぎではないですか?
 いや、彼女だって、有る意味で親父の被害者な訳だからさあ…」
 
「アンタ…随分と御息所の肩を持つじゃない?」
 
「なんとなくですね…同じ垂らし親父の被害者としての既観感というか親近感というか……」
 
「ふ~ん、てっきり好みの年上だから? って言うかと思ったわ」
 
「な、何を言ってるのですか、姉上? それと是とは別問題です!」
 
「暁ちゃんは、年上が好みですの?」
 
「宮さま突然何を「好みですの!?」……確かに私の御相手は年上ばかりですが……やべっ!!」
 
 
「嫌ですわ暁ちゃん、こんな公衆の面前で……。
 
  !  えっ? 年上……ば・か・り??」
 
「まぁ確かに、姉さまといい小春といい、アンタの相手って「年 上 ば か り!?」……あ! やば!?」
 
 
 
「どういう意味ですか!? 暁ちゃん!! って待ちなさい!!」
 
 
「姉~上~、あとは~宜しく~~~~~~!」
 
 
「 暁ちゃん! 待ちなさ~い~!!!!」
 
 
 
 
 
「宜しくって言われても……どうするのよ? これ? ……ん!?」
 
 【 カンペが出る 】
 
 
「なになに……長く…なった…ので、
 此処で打ち切り!? こらまて!! まだ解説が、私の両母上の所まで行ってないわよ!!
 こ、こら!! エンディング流すんじゃないーーーー!!!」
 
 
 
 
 ――チャンチャン!♪
 
 
    【 この番組は、紫敷布の提供でお送りしました 】
 
 
※注意:
 当番組の登場人物の設定・性格は、原作およびSS本編に一切関わりが有りません。
 ご注意ください。また原作の内容は作者の記憶だよりに書いたので、実際には差異が
 有るかもしれません。
 
 
 



あとがき:
 一応、このまま掲載を続ける予定ですが、
 不要だと思うなら言ってください。
 
(了)





[13626] なんで今頃「新春特番」(お蔵入りのお披露目)
Name: 紫敷布◆4dae8547 ID:8d3bd853
Date: 2011/02/24 22:16
 このお話は、2010年1月1日に作者が投下しようと準備していた物です。
 残念ながら、当日(というか大晦日の夜に)お仕事が入った後、1月程缶詰状態になってしまい
 賞味期限切れとなってしまった為、お蔵入りとなっていました。
 クリスマス編同様に、封印を解かせて頂ます。
 尚、クリスマス編の続編である為、そちらを先にお読み下さい。
 
 キャラ壊れ注意!! ゆるい目でお読みください。
 
 
 
 

 
 新春特番
 
 
 『続・なぜなに源氏物語』
 
 
 はじまるよ~~~~。
 
 
 
 
 

 
 3、2、1………………
 
 どっかーーーーーーーーーん!!
 
「「わ~~~~~~~い!」」
 
 
 『続・なぜなに源氏物語』
 
 
 
 
 
 
 
 
「皆さん、明けましておめでとうございます。進行役のちぃ姫こと、明石の姫と……」
 
「同じく進行役の朱雀院女三の宮です」(グイッ!!)
 
 
「イタッ! いっ痛いっス! 宮さまお願いですから引っ張らないで!!」
 
 
「無様ね……」
 
「似合ってますよわよ(?) 暁ちゃん」(グイッ!!)
 
 
「ギャァァァ!! くっ首がぁぁ絞まるぅぅぅ!! い、息がぁぁぁぁぁぁ!!!」
 
 
 
 
 ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
 
    【 御迷惑をお掛けします。暫くお待ちください 】
 
 
 …
 
 
 ……
 
 
 ………
 
 
 
 
 
 
「あ~~~ 死ぬかと思った……」
 
「さすが煩悩魔人。言う事も同じなのね……」(ボソッ)
 
「何か言いましたか? 姉上?」
 
「別に何も……それにしても凄く正月らしい格好ね?」
 
「まぁ、最初に用意されていた『巫女服』じゃなくて嬉しく思いますよ? この首に括られた荒縄さえなければ……
 というわけで宮さま…そろそろこの縄を解いて頂けませんか? 流石に苦しいデス」
 
「却下ですわ。ケダモノを御すには、常に縄で括るのが一番だと義母上様も仰ってましたし」
 
「いや……ケダモノって。確かに被りモノは獣っぽいですが、中の人は非常に真面目な好青年」
 
 
「「ダウト!!!!!」」
 
「何でさ………」
 
 
「義姉様からの噂によると、まだ隠している事が有るとか無いとか?」
 
「ほ~んと、流石あの父親の息子だわ。全く節操という言葉が当て嵌まらないわね?」
 
「ちょッ、何をデタラメを吹き込んでいるんですか!? 宮さまには冗談は通じないのだから止めて下さい!!」
 
「全くの事実無根とも言えないと思うのだけど……まぁ折角今年の干支と同じ目出度い格好をしているのだから
 精々その腐った煩悩を祓いなさい」
 
「いや……獅子はトラじゃなくてライオンの事でわと(ペシャ!)………………」
 
「な・に・か? 仰りやがりましたか? ちょっとした勘違いでしょ!?
 姉の揚足を取って何が楽しいの!? この!(グリグリ:踏付け音) 馬鹿!(グリグリ:踏付け音)
 弟は(グリグリグリペキッ!:踏付け音)!!!」
 
 
「あの~義姉様。暁ちゃん白目をむいて動かなくなりましたけど?」
 
「やば! ちょっと遣り過ぎたかしら?
 ほらっ! さっさと起きて自己紹介しなさい! …ったくもう! また今回も話が進まないじゃない!」
 
「うぅぅ……。獅子舞役の源暁デス……なんで新年早々にこんな目に遭わなきゃならんのだ!?」
 
「暁ちゃん。先程の件は後で『お は な し』しますからね?」
 
「「…………」」
 
 
 …
 
 ……
 
 
「さてと…そろそろ始めましょうか。この番組は前回同様に『源氏物語』何それ? 的な方々の為に、
 大まかな概要を解説するものです」
 
「SSの内容の解説では無くて、原作の方の解説を、作者の主観600%で送ってしまう、トンデモやっちゃった番組!」
 
「作者…コロス…… こんなモノを書きやがって(グシャ!)…」
 
 
「…またですか? 暁ちゃん。一応、作者さんは番組の提供者なので、不用意な事を言うと天罰が当たりますわ」
 
「まぁ懲りるって言葉を知らないからねぇ……どうせ直ぐに復活するでしょう。じゃあ宮さま始めるわよ!」
 
「はい。義姉様……」
 
 
 
 
 
 
 
         『続・なぜなに源氏物語』
 
 
    【 この番組は、紫敷布の提供でお送りします 】
 
 
 
 
 
 
 
■ Episode 3 ■
 
 六条御息所が源氏との結婚を諦めて、娘の斎宮(後の秋好中宮)と共に伊勢へ下ることになった頃と時を同じくして、
 
 源氏と朱雀帝の父である桐壺院が亡くなります。
 
 そう……時代は完全に朱雀帝の御世となったのです。
 
 既に帝位の禅譲で朱雀帝の御世となり、帝の実母の実家である右大臣家が我が世の春を謳歌するようになりつつあったのですが、
 
 これで完全に、源氏とその後ろ盾である左大臣家は、肩身が狭くなってしまいました。
 
 そんな御時世なら少しは身を慎めば良いものを 藤壺に言い寄り振られる親父……もとい源氏。
 
 藤壺は東宮に悪影響が出ないように出家してしまいます。
 
 
 そして溜まった鬱憤は
 
 畏れ多くも兄帝の望まれた女性(朧月夜の君)に手を出す始末。
 
 後ろ盾である父親の桐壺院が、健在であった頃と同様のやりたい放題。
 
 やがて2人関係は世間に知れる事となります。
 
 朧月夜との関係が露見し、面目が潰された朱雀帝とその母親の皇太后。
 
 やがて源氏が後見をしている東宮の廃位の話まで出てくるに至り、
 
 東宮と藤壺に、これ以上の累が及ぶ事を恐れた源氏は、全ての官職を辞して、
 
 人知れず都を後にするのでした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
「「良く分かる(かもしれない?)、解説!!」」
 
 
 
「ふっふっふっ…… 親父っ! 転落ぅぅぅぅ!!!!!」
 
「まったく他人の不幸を喜ぶなんて、アンタの器が知れるわよ?」
 
「『Episode 3』の内容は第10帖賢木~第12帖須磨の途中までのお話になりますわ」
 
 
「普段頭が上がらないのだからコレくらい大目に見てください。さて此処での話は主人公である源氏に降り掛かる試練、
 そして新たな仲間(嫁)フラグといった所でしょうか?」
 
「ある意味『身から出た錆』とも言えなくありませんが、『朧月夜』との関係が右大臣にバレて窮地に陥るお父様」
 
「藤壺と東宮の立場も危うくなってしまいます。今は卒の無い親父も、この頃は世間知らずの坊やだったのですね……」
 
「どうして東宮の立場が危うくなったのですか? 暁ちゃん」
 
「簡単に言うとだね『源氏の君はけしからん』→『源氏の君が後見をしている東宮なんてけしからん』論理かなぁ?
 そして『そんな東宮(十の宮)より、別の宮様(八の宮)が東宮になった方が良くね?』となって来たわけですよ……
 桐壺帝の遺言(意向)なんか無視してでも……って感じで」
 
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎しですか?」
 
「一蓮托生、呉越同舟の方が良いのでは?
 まぁ結局、十の宮(冷泉帝)が立ったから、本人自身には他意は無かった筈なのに、
 八の宮は冷泉帝の御世では打ち捨てられる結果となった訳で」
 
「それで宇治でひっそりと暮らしていたのですね? 宮様なのに……」
 
「何時の世も帝位争いの敗者の末路は哀れなモノですよ……この人は巻き込まれただけだから、余計に可哀相ですが」
 
「ちなみにこの八の宮は、物語後編『宇治十帖』編ヒロインの大君、中君、浮船の父親として登場しますわ」
 
 
「さて、ここで話を戻して作中ヒロインの解説に移りたいと思います。
 現場の暁さん、どうぞーー♪」
 
「はーーい♪ って…何処のNEWS番組ですか? 姉が段々壊れてきているような気が……
 まぁいいですけど。1人目は先ほども出てきました『朧月夜の君』朱雀帝の時の尚侍です。
 尚侍とは宮中の女官の役職の1つで、今で言う帝の秘書のような役に当たります。
 別名は帝の側室ともいいますが……」
 
「義父様の政敵である右大臣家の六の姫で、朱雀帝の母である弘徽殿女御の妹ですわ。
 お父様の叔母上にあたる方ですわね……」
 
「作中でお淑やか大和撫子という面とは真逆の、艶やか・快活・奔放といった印象を受ける女性として描かれています。
 まあ伯父上と父上を二股している訳ですが……。
 そして率直に言うと、父上が都を追われる切欠を作った女性ということです」
 
「帝と美貌の公達に言い寄られて揺れる女心……。憧れるわぁーーー♪」
 
「……もしもし、東宮様ですか?
 お宅の奥さんが、なんか浮気をしようt(グシャ!!)」
 
「洒落にならない事をするなあああ!!!!!」
 
 
 …
 
 ……
 
 
「そしてもう1人… Episodeでは語られませんでしたが、実はこの期間の話である重要な人物が登場しています」
 
「ほほぅ……どなたの事でしょうか? 姉上?」
 
「ちょっと! 人物紹介はアンタの役目でしょ!? 職務怠慢よ! お仕置きよ!」
 
「うわ!? やります、やりますから、そのバットを引っ込めて下さい!
 え~と、此処で初登場の重要人物でしたか……都を出る時一緒に付いてきた『尉の蔵人』(グシャ!!)」
 
「真面目にやりなさい!! 花散里の君でしょう!!」
 
「冗談なのに……。まぁ姉上に先に言われてしまいましたが、ここで初登場する超重要な人物こそ、花散里の君!!
 そのまんまですが、第十一帖『花散里』で登場します。」
 
「義父上様の父帝である桐壺帝の妻の1人、麗景殿女御の妹姫にあたり、義父上様とは幼馴染のような間柄だったとかですわ」
 
「物語の表現では余り美人ではなかったようですが、どうも性格はピカ一に良かったらしく、
 兄上(夕霧)とまだ未登場ですが後に出てくる義姉上(玉鬘)の母親役を務めることになるみたいね?」
 
「本当……姫とは名ばかりな、男勝りなどこかの誰かさんに見習って欲しい(グシャ!!)」
 
「……暁ちゃん。お願いですから今日は自重してくださいませ」
 
「無駄よ宮さま。こいつの頭の中は、『自重』は『自嘲』で登録されている根っからM気質なんだから」
 
「だ、誰がMじゃ! この真性のドS姫があああ!!
 まぁそんな訳で父上は都から出て行くのですが、この際に資産(屋敷・荘園など)を母上(紫の上)名義にしてます。
 後半に母上の遺産として二条院が出てくるのは、こう云う訳ですかね?」
 
「そうですわねえ…… それにしても義父様は、都に戻った後さらに広さ四町の屋敷を更に作りますので、
 一体どれ程のお金持ちなのか、そら恐ろしいですわ」
 
「私としては、潰された筈の愚弟の復活が段々速くなっている事の方が、そら恐ろしいわ。
 本気で地球人類なのか?疑がわしいって意味で……」
 
 
 
 
 
■ Episode 4 ■
 
 都を出た源氏が身を寄せたのは須磨の寂れた庵だった。周囲から忘れ去られ庵にて日々を寂しく過ごす源氏。
 
 都の人々からも忘れ去られそうな苦境の中で、尋ねて来る者は義兄で親友の頭中将のみであった。
 
 そんな源氏の置かれた寂しい情況を快く思わない故人の怨念でしょうか? 須磨と京の都を激しい嵐が襲います。
 
 ある夜明けの朝、亡き父桐壺帝が源氏の夢の中に出てきます。父帝にそばに行きたいこぼす源氏。
 
 しかし桐壺帝は住吉の神の導きに従い須磨を離れるように告げた後、都の帝に話があると言って都に向かってしまいます。
 
 翌朝、嵐が収まった須磨の海に明石入道の迎えの舟が現われました。
 
 そして源氏は入道に勧められるまま、入道の屋敷のある明石へと移る事になり
 
 入道の一人娘(明石の御方)と出会います。
 
 入道は源氏と娶わせる気満々であるが、娘の方は身分違いの相手に気後れ気味……。
 
 しかし入道の手引もあって、やがて2人は結ばれる事になります。
 
 一方、都では故桐壺帝の怨念が大爆発……事態の元凶となった太政大臣(元右大臣)は亡くなり、
 
 今上帝(朱雀帝)の母親である大后も病に臥していた。
 
 そして朱雀帝自身も、夢で父帝に怒られた揚句、目の病を患うという情況に―――
 
 相次ぐ不幸に朝臣たちの声にも源氏の復帰の声が強くなっていき、ついに朱雀帝は源氏を都に呼び戻す決意をするのでした。
 
 
 

 
 
「「良く分かる(かもしれない?)、解説!!」」
 
「ふっふっふっ。母様っ! 登場ぅぅ!!!!!」
 
「姉上が壊れた…いや元からでした(メキョッ!!)」
 
「あ…の……義姉様。随分と張り切っていらっしゃいますね?」
 
「当然よ! 当然! 嗚呼…苦節1年と少し。まだ登場していないからといって放置されていた可哀想な母様。
 やっと……やっと紹介できる日が来たわ!!」
 
 
「1年と少しも掛かったのは作者の怠慢(メキョッ!!)……………」
 
「暁ちゃん……。あれ程『不用意な事を言うな』と言ったのに。
 もう…誰が代わりに解説をすると思っているのですか!?」
 
「良いよ良いよ宮さま。私が代わりを務めるから」
 
「えっ!? でも……」
 
「良いから良いから。母様だって実の娘からの紹介が良いでしょう」
 
「その娘フィルターが果てしなく不安なのですが……」(ボソッ)
 
 
「さてEpisodeでの話は、都を出てから都に戻る直前までの話しになります」
 
「簡単に書いてますが、物語の中では、この間の期間は2年半~3年弱(?)くらい時間が経過していますわ」
 
「まさに流刑の如くよね? でもでも其処で運命の出会いが父様を待っていたのです!」
 
「はい……(本当に解説は大丈夫なのでしょうか? 暁ちゃん早く起きてください!!)
 源氏の君の妻の1人であり、最も寵愛された妻の紫の上をして
 『身分は低いかもしれないけれど、この方には敵わないかもしれない』と恐れを抱かせた人」
 
「明石の御方、または冬の御方です。ちなみに私『明石の姫』の実母に当たります」(どんどんパフパフ)
 
(義姉様…その太鼓は何処から……)
 
「なに?」
 
「いえ……何でもありませんわ。因みに冬の御方とは、まだ物語に出てきておりませんが、
 都の戻った源氏の君が新しく建てた屋敷(六条院)の中で、院内北西部に建てられた冬の町と呼ばれる
 冬景色が美しい御殿に住んでいたから事から来ています」
 
「ちなみにお母様(紫の上)は、院内南東部に建てられた春の町に住んでいたので、『春の御方』とも呼ばれるわ。
 前述の花散里の君が、院内北東部に建てられた夏の町に住んでいたので、『夏の御方』
 あっ…今は明石の方の母様の話だったわね。父親の入道は三位(中将? 納言?)、母親は故中務宮の孫筋に当たります」
 
「その様な訳で、義父上の夢占いの一番身分の劣った方になりますわ。
 実際、生存している奥方達の中では身分が最低ランクになってしまっています。
 まぁ藤系の姫の方とか内親王とか女王とかと比べられたら、流石に厳しいと思われますが……」
 
「嗚呼、可哀相な母様……。待っていて! きっと私が幸せにするから!!」
 
「あの~? 義姉様??」
 
「いいえ! きっとじゃない!! 絶対私が幸せにするから!!」
 
 
 …… 以下、営々と愛な口上が展開中 ……
 
 
 …
 
 ……
 
「はぁ……義姉様は正気を失っているし、暁ちゃんも肝心な時に起きないし。
 今日はもう駄目ですわ、これは………」
 
「お困りですか? おぜうさん?」
 
「まぁ、貴女はどちら様でしょうか?(また変な方が現れましたわ)」

「天知る!地知る!人知る! そして己が知る!!
 仮面の美少女戦士『O美』とは私のことさーーーーー!」

「はぁ……O美さんですか? (なんでしょう?このテンションは? 間違いなく暁ちゃんの関係者の様な雰囲気ですわ)」

「貴女の悩み事はずばり! そこで寝ているロクデナシの事だね?」

「あ、暁ちゃんはロクデナシなんかじゃあ――っ な、何とかなるのですか!?」

「だいじょうぶ! まかーーせて!! 深き眠りにつくショウガナイ男を一発で目覚めさせる
 魔法の呪文があるのだ!!」
 
「お、お願いします。(まぁ駄目もとですわ)」

「オイ! さっさと起きろ暁!! 5数えるまでに起きなかったら、この間の件を宮さまにバラすぞ!!」

「止めんか!! このアホ女!! ばれたら宮さまに殺されるだろーーーーー!!!」

「ほら起きた。じゃあアディオス!! 美しいおぜうさん。またお会いしませうーーー!!」
 
 
 
 
「「…………………………」」



 
 
 
 
 その後、
 
 暁は長期の物忌みの為、
 
 暫く宮中に出仕できなかったというそうだ……
 
 
 




 ――チャンチャン!♪
 
    【 この番組は、紫敷布の提供でお送りしました 】
 
 
※注意:
 当番組の登場人物の設定・性格は、原作およびSS本編に一切関わりが有りません。
 ご注意ください。また原作の内容は作者の記憶だよりに書いたので、実際には差異が
 有るかもしれません。
 
 
 

あとがき:
 一発ネタみたいな物なので、緩い目で見て頂けると助かります。
 書いているうちに、どんどん暴走する3人……
 おまえら作者の手を離れて、何処に行くつもりなんだあああああ!!
 
 最後に感想を書いて下さった方々、ありがとう御座います。
 
(了)





[13626] 15話
Name: 紫敷布◆4dae8547 ID:8d3bd853
Date: 2011/02/25 22:43



 
 
 西暦XXX年………。
 
 現代において平安と呼ばれる日本の黎明期において
 
 政治の中枢というべき京の都に、不思議な若君が居たといわれます。
 
 当時の貴人に考えられないような思考を持った彼の君の影響は凄まじく
 
 王朝の中核を担う人々の考え方に
 
 少なからずの変化を与えたと考えられております。
 
 これは、そんな…数奇な運命を辿り、平安の世に生まれ変わった、
 
 暁の君の日常の物語 ―――――
 
 
 

 
(注:雨ニモ負ケズ…の口調でお読みください)
 
 飴を貰えず
 風邪を貰って
 雪にも夏の暑さに打ちのめされる
 似非丈夫な体をもち
 翼はなく
 決して逃げられず
 いつも静かに説教されている
 一日に玄米二合と
 蟹味噌と少しの野菜を食べ
 あらゆることを
 自分の意見を入れずに
 よく見聞きし謀り
 そしてすぐバレて
 深山の松の林の陰の
 小さな萱ぶきの小屋にいて
 東に病気の父あれば
 行って引導を渡してやり
 西に疲れた母あれば
 行って元凶の親父を倒し
 南に死にそうな兄あれば
 行って敵は討つからと言い
 北に喧嘩をする姉があれば
 みっともないからやめろといい
 御仕置きの時は涙を流し
 家を追い出されてはおろおろ歩き
 みんなにニューハーフと呼ばれ
 褒められもせず
 結婚相手もおらず
 そういうものに
 わたしはなりた……………くねええええよぉぉぉ!!!
 
 
 
 
 
「さっきから何やっているのよ……アンタは?」
 
「いやーですね? 目指す人生の目標というか薫陶を書いているうちに、ちょっと興奮してしまいまして……」
 
 朱雀院から帰宅をた後、当然の事ながら自分の身柄は、二条院に監禁な情況となっていた。
 
 曰く、『目を離すと碌な事をしない』でしょうか?
 
 女房は余りあてにならないとの事で、この様な情況になった場合には、
 
 母と姉がタッグを組んで事に当たるの慣例となっている。
 
 とは云え、最近の我が家は、近々完成する六条院への引越しの準備が有り、母上の不在が目立つようになった。
 
 そのような訳で、麗しき姉君と過ごす日々となっている。
 
「『人の一生は重き荷を背負いて遠き道を歩いていくが如し』か……良い薫陶だと思うけど
 何か枯れているわね…… 考え方が受身っぽいし」
 
 どれどれ――っと、書き散らした紙を幾つか眺めていた姉上が感想を述べる。
 
 そりゃ待つことに慣れた枯れている爺さんが、言った言葉ですからねぇ。
 
 ……600年程後の時代になりますが。
 
「どちらかと言うと、これの方が私の好みかな?」
 
 と、出された紙に書いてあったのは
 
 『為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり』
 
 うん、まぁ自分から動く姉上っぽいですよね?
 
 それも絵的に枯れた爺さんが言っていたような気もするが、この際どうでもいいだろう。
 
 
 …
 
 ……
 
 
 さて、何故このような事をしているか?
 
 まぁ…その……この間の一件で反省したという事が大きく挙げられる。
 
 今も監視はあるが、家に帰宅した当初はもっと酷かった。
 
 
 
 
(僕)  「そんなに僕が信用出来ないの!?」
 
(家人達)「「「「「どの口がそれをいうか!!!!!!!」」」」」
 
 
 …………まぁ当然ですよね?
 
 
 
 まぁちょっと反省している。
 
 正直、もう少し信用上げて自由に出来るようにならないと、
 
 いくら良い『将来幸福作戦』を考え付いたとしても、肝心な場面で行動の制約を受けかねないことに気付いたのだ。
 
 大丈夫、まだ時間は十分ある筈だ……
 
 その様な訳で、『良い子』になるべくの行動目標を設定するしたのだ。
 
 別に目標なんで必要でもないのですが
 
 まぁ、実は本音をぶっちゃければ―――― 暇なんです!!
 
 
「とりあえず、これで行きましょうか……」
 
 そう言って、1つの紙を選んで壁に貼る。
 
 隣で姉上も「私もやってみようかしら?」とか呟いているのはスルーした。
 
 なんだかんだ言っても姉も暇なのである。
 
 兄上が昇進して宮中へ出仕するようになってしまったので……
 
 
 

 
 【人の役に立つことをしよう】
 
「あーーダメダメ! 基本は高い所から埃を払っていかないと。
 上を払っている最中に下側に落ちるでしょう?」
 
「あんた随分手馴れているわね?」

「まぁ朱雀院で鍛えられましたからねぇ……こういう時こそ、地道にポイント稼いでおかないと」
 
 何故か2人して、お部屋の掃除の最中である。
 
 最近、母上付きの女房も忙しくて、色々と各所が手薄になってきているのだ。
 
 つまり女房の負担を減らすべく、『自分に出来ることは自分でやる作戦』発動である。
 
 
「それより、ここ私の身長じゃ届かないのだけれど?」
 
「私はもっと届きませんよ?」
 
 2人の間に沈黙が落ちる……
 
「この作戦……もの凄く無理があるわよ?」
 
「奇遇ですね……私もそう思いました」
 
「却って部屋が汚れていない?」
 
「奇遇ですね……私もそう思いました」
 
 
 
 ―――― Mission End ――――



 

 
「さて気を取り直して……」
 
「ねえ、ちゃんと私達に出来る事を選んだ方が良くないかしら?」
 
 早速、姉上の突っ込みが入りました。まぁ無駄な労力を使わせてしまったので仕方ないですが。
 
「今度はそれ程難しい事ではありません」
 
 そう、大丈夫です。今回は適当じゃなく実現可否を考慮して決めたのです。
 
「どれどれ……なるほど、此れなら私達にもできそうね」
 
「そうでしょう? それに成功すれば最大限のポイントアップが見込めます!」
 
 そう言って次なる紙を壁に貼り付けた。
 
 
 【お父さんお母さんを大切にしよう】
 
 
 几帳の向こうでは父上と母上が何かを話している。
 
 周りの空気から判断するに、割り込んでも恐らく大丈夫だろう。
 
「姉上、行ってください!」
 
 すかさず姉上が2人の方へ向かう……まぁターゲットは父上なのだが。
 
「お~と~う~さ~ま~♪」
 
 笑顔の娘ダイブ……これに勝てる父親は居ないであろう。
 
 ましてや、子煩悩気味なあの父上ならば破壊力は絶大である。
 
 姉上、仕事でお疲れの精神をがんばって癒してあげて下さい。
 
 父上の様子を見る限り、戦果は上々のようである。
 
 ふむ……じゃあ私も行きますか。
 
 私のターゲットは母上。
 
 決して男にダイブしたくないからでは無く、単にそのほうが喜ぶだろうと2人で相談して決めた。
 
 はっきり言って凄く恥ずかしいのであるが、そんなプライドは、ここは棄てる!
 
「は~は~う~え♪」
 
 笑顔で駆け寄る。プライドなんてもう無い。
 
 母上は……あぁこちらに気が付いたみたいだ。すっごく良い笑顔だ。
 
 
 そう、度々自分を締め落した時と同じあのエガオ……
 
 瞬間、本能が『逃げろ!!』と訴えかける。
 
 どうする?
 
 自分だけ…逃げる?
 
 そんな暴挙を姉上は許さないだろう?
 
 姉上だって恥を忍んでやったのである。
 
 
 どうする? 考えろ!
 
 行くも地獄……帰るも地獄……
 
 ならば……
 
 
 方角を変える!!!!
 
 
 寸前で向きを変え、父に突撃!!
 
 そして…………
 
 
 
 避けられた。(ペシャ!!)
 
 鼻が痛い――― 。
 
 
 
「なんで避けるのですか!?」
 
「寧ろ何故こっちにくるのですか? 後ろ見なさい……母上が悲しそうな顔をされていますよ?」
 
 拙い……つい本能に負けて、本来の目標と真逆な方に進む選択をしてしまった。
 
 母上を見ると、うぁ目に涙がぁぁぁぁ!!
 
 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ!
 
 我を忘れて母上に抱き付く……
 
 
 そして、それがその日の最後の記憶となった。
 
 
 

 
「まだやるの?」
 
「いや……今日は大人しくしてようかと思います」
 
 気が付くと翌朝となった部屋の中、自分が起きたことに気が付いた姉上が尋ねてきた。
 
 当然、作戦は中止である。
 
「そっか……お母さまは嬉しそうだったわよ」
 
「もう勘弁してください。ポイントは稼げても体は持ちません」
 
 最近、母上と離れる事が多かったから凄い反動を食らった様である。
 
 でも、少しは孝行になったか?
 
「まぁ無理しても碌な事がないから、今日は休んでいなさい
 お母様には私から言っておくわ」
 
 と言って部屋を出る姉上。久々に1人の時間が訪れた。
 
 
 
 部屋を出て行く時の姉上の顔が「無理をするのはアンタはらしくないわよ?」と言っている様であった。
 
 無理をしていたかな? いや……していたんだろうな?
 
 
 確かに無理をしても碌な事がない……かぁ
 
 まだ覚束無い足取りで壁際まで行き【お父さんお母さんを大切にしよう】を書かれた紙を剥がす。
 
 色々と裏目な自分には「果報は寝て待て」系の指針が、どうやら合うようだ。
 
 そして新たな紙を貼る。
 
 貴方の遺訓に従ってみます。どうか遠き世界から見守り下さい。
 
 東照大権現さま……
 
 
 【人の一生は重き荷を背負いて遠き道を歩いていくが如し急ぐべからず】
 
 
 
 …
 
 ……
 
 
 
 
「皆の者、大変だ!! 若様が倒れたそうだ!!」
 
「「「「なんだってーーーーーーー!!!!」」」」
 
「加持だーーー祈祷だーーーーー!!」
 
「陰陽師を呼べーーーーー!! 出来るだけ多くだーーーーー!!!」
 
 
 
 
 鳴り響く祈祷のせいで
 
 暁は3日間寝不足になった。
 
(今日は何もしていないのに……なんでさ??)
 
 










(暁日記:第15巻 「世母戯有」より抜粋)
 
 あとがき:
  15話投下致します。これで暁物語の1章を書き終えました。
  前話投下から2日しか経っておらず、どこが亀だと思われるかもしれませんが、
  此処までは、休止前までに大筋決まっていた内容だったからです。
  さて、次からは2章になるのですが、この2章は作者的に書き上げられるか
  多分に不安要素を残している章である為、作者にとっての大きな山場を迎えます。
  ある意味、完結できるかの分岐点ですね。
  3章に入ればエンディングまで、ほぼ確定しているので地道に更新で完結できると思います。
  次からは、予告通り亀更新です。気長にお待ち下さい。
 
  昨日投下の番外編は、作者的に掲載している期間の間、作者が精神ダメージを受ける
  罰ゲーム的意味合いと、さっさと話を進めて削除できる環境を作る発破的意味合い、
  何より、こんなの残したままフェードアウト出来ないと思っているので、逃げ道を
  塞ぐ為の鎖的意味合いだと思って、もう少し残させて下さい。
 
  (表に板を移動する場合は即座に消します)
 
 
 
(了)



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