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[12938] 【ネタ】鬼畜王じゃないランス【R‐15】
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2009/10/24 19:30
鬼畜王じゃないランス




――――あのランスが死んだ。




いや、それは必然かもしれない。元々 人間ってのは脆い生き物だ。

才能限界が無限だろうと、英雄としての素質を持っていようと、死ぬ時は死ぬのさ。

故に必要なのは強運。彼は今までソレが有ったからこそ……今の今まで生きてこれたんだ。


例えばリーザスの王女が遊び半分で浚った少女を救出したり。

カスタムの町で反乱を起こした4人の魔女達に"お仕置き"+αが出来たり。

ヘルマンの侵攻によって墜ちたリーザスを立て直し、何体もの魔人を倒したり。

神に飛ばされ暴れた結果、墜落した"浮遊大陸イラーピュ"から無事に脱出できたり。

ハピネス製薬での事件では誤って殺されたと言うのに生き返る事も出来たりした。


「くそっ……ッ……ヘルマンの奴らめ……」


しかし"今回"は強運には恵まれなかった。今の彼には仲間は一人もおらず満身創痍。

ヘルマンで盗賊生活をしていたモノの、軍隊に成敗され何とかリーザスの国境まで来たのだが……

大きな外傷は無いモノの極度の疲労と空腹と脱水は限界に来ており、彼の人生は終わりを遂げた。


「…………シィル……」


≪――――ガシャンッ≫




……




…………




「ランス、何でアンタがこんな所に居るの?」

「…………」

「倒れてた時は見間違いだと思ったけど、どうしてヘルマンに……」

「……(何処だよ此処……)」


ある日、気が付いたら紫っぽい髪をした忍者みたいな格好をした女の子が起こしてくれました。

何だか意味が分からないまま立ち上がって周囲を見回していると、彼女は俺を見上げながら、
ベラベラと強めに質問を投げ掛けて来るんだけど、そんな事など頭に入らず動転する俺。

どう考えてもオカしいだろコレ……部屋のベッドで寝てたハズなのに何で山の中に居るんだ?

夢にしては凄くリアルだし、意味が分からないんですけどマジで。それにしても可愛い娘だな~。

しかし何処かで見た事が有る気がする。大分前にハマった有名なゲームの……何だったか……


「ちょっと聞いてるの? ランスッ!」

「(――――ランス? ……って、まさか!?)」

「ど、どうしたの?」

「……君の名前は?」

「えっ? "見当かなみ"だけど……な、何か有ったの? オカしな事 言って……」

「(やっぱり!?)」

「ひょっとして頭でも打った?」

「そ……そうかもしれん」

「そう。だったら もう一度聞くけど、何でランスがこんな所で倒れてたの?」

「その前に此処は何処だ?」

「バラオ山脈。ヘルマンとリーザスの国境よ」

「なるほど」

「じゃあ質問に答えて」

「それは……ヘルマンから逃げて来たからだ」

「ならヘルマンで何をしてたの?」

「盗賊やってた」

「!? ……って言う事は……」

「予想した通りだと思うぞ」

「……自業自得じゃない」

「そうだな」


嘘だろマジかよ……どうやら俺は"鬼畜王"のランスになってしまったらしい。

それは この娘が"見当かなみ"と言うキャラで俺がランスと呼ばれた事で納得が出来てしまった。

彼女との会話からオープニング直後で有る事も間違いない。もう10回以上はクリアしてるしな。


「ならシィルちゃんは?」

「捕まった」

「えぇ~!? ど、どうして"見捨てた"りしたのよッ!
 ヘルマンの捕虜になったりしたらまず助けられないわ!!」

「…………」

「あっ……ご、ごめんなさい」

「いや、いい」

「ならシィルちゃんは どうするの?(ランスの事だから私と一緒に引き返すとか……?)」

「シィルは……必ず助けるさ」

「でもッ」

「だから"リア"の所まで案内して欲しい」

「り、リア様に? 貴方 何を考えて……」

「頼むッ!」←手の平と平を合わせながら

「!? わ……分かったわよ。でも無理って言われたら諦めなさいよ?」

「ああ」

「……ッ……(な、何だか随分と素直なランスね……逆に怖くも見えるけど……)」




……




…………




俺は"見当かなみ"に案内されてリーザス城へと赴いた。正史通りシィル・プラインを救う為に。

此処から一人で仲間(ガンジーとか)を集めるのも良いけど、リーザスを放って置くと、
いずれリトルプリンセスがケイブリス軍に浚われて"魔王ケイブリス"が誕生してしまう。

地理さえ分かれば魔剣カオスを持ってレベルを上げまくり、ホーネットとの合流でも良かったけど、
ソレだとシィル・プラインとソウルを見捨てる事になってしまうし両立するとしても厳しいのだ。

今の俺には彼女に対する"こだわり"は無いんだが、拷問で死なせてしまうと寝覚めが悪いしな。

さて置き。到着には数日を要したけど、宿に休むと彼女は消えてしまうので特に交流は無かった。

そんな彼女は普通に美少女だったので惜しいとも思ったが、こんな娘をランスってヤツは……

んでもってモンスターは やはり存在した。当然 俺(ランス)の敵じゃあ無かったけど、
レベルは頑張って100以上まで上げておけば生き残れる可能性は飛躍的に上がりそうだ。

だけど俺のレベルはたったの20。旅中で25まで何とか上げたが、見当かなみはLv27→30。

最初は武器さえ無かったので日本刀をブツブツ言う"かなみ"に金を借りて購入したんだが、
旅の終わりに金を返したら目を丸くしていた。あぁ、ランスなんだから踏み倒されると思ったのか。

そんな事は流石に出来ないさ。考えてみれば今の俺は彼女よりもレベルが低いのだから。

リア王女の存在で"今"彼女が俺を殺す事は無いけど、後々の暗殺イベントのフラグは折らなければ。


「ダーリーン!!」

「おわっ!?」

「わざわざリアに会いに来てくれるなんて嬉し~んっ!」

「ち、ちょっと……離れろって」


……そんなワケで かなみの計らいで、コッソリと"リア王女"との謁見が出来たのだが。

彼女の自室ダケ有って此処にはマリス・アマリリスと 見当かなみしか居ない為か、
リア・パラパラ・リーザスは自重せず俺に凄い勢いで抱きついて乳房を押し当ててくる。

中々の美乳だと感心してしまうが、鎧を着ているのでダメージは無いのはさて置き。

余程嬉しいのかちっとも離れてくれないので腕に手を絡められる程度で妥協するしか無かった。

ハァ……俺は君が好きな"ランス"じゃ無いってのに……でも真実を話すワケにもいかんし……


「今リアと結婚すれば、リーザスの国が付いて来ま~す」

「……分かった。結婚しよう」

「えっ!? わ~い、やった~っ! ダーリンと結婚、結婚なの~っ!」

「そ、そんな……ランスッ! マリス様も何か言って――――」

「良かったですねリア様……いつぞやの夢がとうとう現実となって……」

「うッ……だ、ダメだわコレは……」

「じゃあマリスぅ! 早速 準備して~っ!」

「はい、直ちに」

「ダーリンも早く行こぉ~!!」

「う、うむ」

「あのぉリア様……私は~?」


でもまあ、こんな可愛い娘と結婚できるんなら良いか~。性格は好きにはなれないけどね。

だったら夫として更正させて貰うしかあるまい、シィルを救出した後がミソとなるだろう。

そんな事を考えながら絡められていた腕を王女に引っ張られる中、見当かなみは蚊帳の外だった。

余程 嬉しかったのかリア王女は俺しか眼中になし。マリス侍女も感染してたか既に退室している。

されど俺に取っては此処まで世話になった娘だし、引っ張られながらも首だけ其方に向け言った。


「――――かなみ」

「えっ?」

「すまなかったな」

「へっ?」

「もぉダーリン、早く行こうよ~っ!!」


≪――――バタンッ≫


「あ……あのランスが……わ、私に……謝った……?」


≪すまなかったな≫


「し、しかも本当に すまなそうな表情で……もうッ! 何なのよ、今回のランスはぁ!!」




……




…………




……アレから一週間。

主にマリス侍女によって早急に結婚式が行われ、其処にはリーザスの将軍達の姿は勿論、
カスタムの娘達の姿も有った。特に魔想さんを見た時には感動しました、マジな話で。

でもリアとの初夜(?)は踏ん切りがつかず出来ませんでした。会ったばかりなのに寝れるかよ!!

一応"腹が痛くなったと"か言って誤魔化したけど、逆にリアは構わないとか言って来たさ。

なんと言うドM……されど俺にはそんな趣味は無いのだ。ハーレムは作らないし勘弁してくれ。


『うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!』

『リーザス万歳!! リーザス王、万歳ッ!!』


また例の"お披露目"では"ランスらしい発言"をせず反乱も未然に防いだ。

アレだけの戦力がエクス・バンケットに付いた事から、裏で手を引いていた者も居たっぽいが……

それはマリスに黒の軍・白の軍に不穏な動きが無いか調べさせれば旨く治めてくれるだろう。

だとすると今の俺が遣るべき事は……部下達のイベントの消化と、自分自身のレベルアップだ。


「ランス王。何か御指示は?」

「そうだな……リーザス城下で臨時徴収を行ってくれ(安全盆栽が欲しいし)」

「畏まりました」

「ねぇダーリン、早くリアとエッチな事しようよ~しようよ~」

「…………」

「何なら此処でも良いよ~? 他言したら此処の皆は死刑にしちゃうから~」

「う、五月蝿いな。今はそんな気分じゃないんだよ」

「ぶぅ。メイドにも手を出して無いみたいだし、ひょっとしてインポにでもなっちゃったの~?」

「そんなワケ有るかッ!」


そんな真面目な事を考えているのに、リアは初夜の時からコレだ。本当に一国の王女なのか?

キスくらいは ともかく性格を何とかしないと抱く気にはならんな~。俺の為にも彼女の為にも。

さて置き。マリスがまだ用が無いかと目で訴えて来ているので、俺はリアを無視して口を開く。


「リック・アディスンを呼べ」

「はい」


――――マリスが頷くと5分程度で赤の将軍が現れる。かなみが影で動いたんだろう。


「お呼びですか? キング」

「……(ヤベェ、本物だ怖い)」

「キング?」

「あっ? いや……久しぶりだなリック」

「はい。先日は見事な御手前でした」

「それで用件なんだが」

「何でしょうか?」

「"ザラック"と言う男を知っているか?」

「ザラック?」


無名の兵士なのでリックは知らない様だったが、後日 彼の事を調べ上げたリックの口から、
メナド・シセイとは今の所 接点は無い人間だと言う事を聞き、俺は一安心する事が出来た。

よってヤツは問題行動を理由にクビにさせるようにし、コレでメナド・シセイは安心だろう。

……勿論 何故 いち兵士でしかないザラックの事を知っていたのかとマリスに聞かれたが、
一人でリーザス場内を散策した経験を理由に、偶然 役に立たない彼が目に留まった事にした。

戦争で殺してしまうのが一番なんだろうが、メナドが汚されてからでは遅いしコレが一番だよな~。


「……と言う事で調べて置けよ?」

「ははッ」

「……(じゃあ次はどうするか……)」

「あの、キング」

「なんだ?」

「真に恐縮ですが、一度 私と手合わせして頂きたいのですが……」

「なぬっ?」

「キング程の方との模擬戦となれば、部下達にも良い勉強となるでしょうし」

「分かった……が、少し待ってくれないか?」

「少し?」

「悪いが今はヘルマンの所為で本調子じゃないんだ」

「はあ」

「ちょっくら鍛えなおしたら必ず相手させて貰うからさ」

「!? わ、分かりました。有難う御座います!!」

「うっわあ、リック嬉しそ~」

「いかんせん彼は剣を持つ騎士としては強過ぎますからね」

「じゃあ行って良いぞ」

「はっ! 試合の件、楽しみにしております!!」


余程ランスと戦える事が嬉しかったのか、リックは軽い足取りで去って行った。

しかし怖かったな~、流石はリーザスの赤い死神。今の俺じゃ絶対に勝てないだろう。

されど彼に勝てない様では魔人にも勝てない。いずれはケイブリスとも殺し合うんだろうしな……

けど幸い今のランスにはリーザスの財力と正史の2倍の規模の兵力が有るし、
此処はひとつ前者を頼りに鍛錬だ。目標は最低でもリック・アディンに勝てるレベルだな~。

よって俺は続いてマリスに"総合病院"の建設と不足部下の補充を任せると、
手を振るリア+ウェンディ&すずめを背後に謁見の間を出て進むと、見当かなみを呼んだ。


「呼んだ? ランス」

「あぁ。忙しかったか?」

「"忍者工作"の任務も無いし大丈夫よ。それで何の用?」

「今から迷宮に潜るから付き合ってくれ」

「!? そ、それって何処の?」

「プアーの東の魔物の洞窟だ。2週間を予定している」

「魔物の洞窟……そこそこの迷宮だったと思うけど……」

「リックと戦う事になったし、其処くらいは潜れないと話にならないからな」

「ハァ……アンタの事だし、どうせ断っても無駄なんでしょ?」

「悪いな」

「だ、だから謝らないでよランスの癖にッ!(今は王様だけど)」

「無茶苦茶 言うなよ」

「でも良いの? 王様なのに迷宮に潜るなんて」

「手っ取り早く強くなる必要が有るからな」

「……ランス……(本当はリック将軍よりシィルちゃんの事を……)」

「だが来週には自由都市の"ジオ"を落としたいから、かなみには足にもなって貰いたい」

「そ、そんな事だろうと思ったわよ」


生憎リーザスの将軍の多くは迷宮探索だと役に立たないから彼女のほうが余程 役に立つ。

レイラさんの親衛隊は補正が有ったと思うけど、軍の派遣は大金が掛かっちまうからな~。

まあ今回の迷宮は鬼畜王最低の難易度だし、2週間も有れば2人でも楽に攻略できるだろう。

手に入るアイテムもメイドのウェンディ・クルミラーのフラグになるから、入手して損は無い。

反面 自由都市の攻略にランスの部隊は出撃できないが、今のリーザスの戦力は申し分ないからな。


「じゃあ、早速 移動の手配をするか」

「それは私がやるわ、ランスは道具の準備をお願い」

「分かった」

「……(ほ、本当に素直なランスね……でも その方が……)」


≪――――ッ≫


互いの話が纏まると かなみは消える。きっと手配が終われば俺が何処に居ても現れるだろう。

そんな俺の武器は"リーザス聖剣"と申し分なく、鎧も最高級なのでレベル不相応の装備だ。

よって"まんが肉"や"世色癌3"でも買い占めるか~っと思いながら歩き出そうとした時!!


「!?」

「あ、あのお……」

「ん~っ?」

「えっと……」

「君は もしかして、メナド・シセイかい?」

「!? ぼ、ぼくの事を知ってるんですか?」

「一応 王様だしなァ」

「初めて御会いするのに……光栄ですッ!」

「そりゃどうも」


――――青い短髪の女の子でリーザス赤の副将軍。メナド・シセイが登場した。


「ところで、えっと……」

「何だい? 生憎 俺は忙しいんだが」

「ぼく、さっきの話を聞いてしまっていたんです」

「!? 迷宮の事をか?」

「は、はい! 宜しければ、ぼくも連れて行ってくれませんか!?」

「へっ?」

「かなみちゃんも行くみたいですし、良いな~っと思って……」

「…………」

「ダ、ダメだったら別に構わないんですけど……」


≪じ~~っ……≫


こ、これは予想外だ。そう言えば こんな娘だったんだっけな、メナド・シセイって……

副将軍としての業務は良いのかとか、そもそも何で此処に居るのか等 色々とツッコミたい気分だ。

でも後から聞いた話だとリックを追って来たらしいが、運悪く合流できなかった様で今に至る。

さて置き。彼女の業務の事を考えて断るつもりだっけど、上目遣いの視線が反則なんですけど?

まるで捨てられた子犬が哀願する様な視線……ソレに俺が抗えるワケが無いのは明白だった。


「わ、分かった……連れてってやる」

「わ~い!! やった~っ! ……あっ、ごめんなさいッ」

「謝罪は要らないよ。でも足は引っ張るんじゃないぞ?」

「はいッ! 勿論です!!」

「やれやれ……じゃあ、アイテムを城下に買いに行くから付き合ってくれ」

「分かりました!!」


まぁ、メナドは迷宮にマイナス補正が無い数少ない武将の筈だし大丈夫かな?

かなみより才能限界も高かったと思うし、レベルも俺より高い今なら頼りになるだろう。

よってメナドの表情に押される形で許可すると、飛び上がって喜んでくださった。


「(両手に花で冒険ってワケだが……こりゃ前途多難だなコレから……)」

「(王様 良い人みたいで良かった~。よ~し、これから頑張ろうっと!!)」


――――そんなワケで鬼畜王の世界の飛ばされた、俺の記念すべき一週目がスタートされた。




●リーザス軍●
ランス   :リーザス正規兵:1000名
レイラ   :リーザス親衛隊:1000名
バレス   :リーザス正規兵:1200名
疾風    :リーザス一般兵:1500名
リック   :リーザス正規兵:1000名
メナド   :リーザス一般兵:1500名
コルドバ  :リーザス正規兵:1200名
キンゲート :リーザス一般兵:1500名
エクス   :リーザス正規兵:1200名
ハウレーン :リーザス一般兵:1500名
アスカ   :リーザス魔法兵:100名
メルフェイス:リーザス魔法兵:300名
(*反乱が起きていないので、戦力が多いです)




●あとがき●
停滞しているランスSSを書く為のリハビリとして書いてみました。恐らく続きません@w@
ちなみに主人公はリアルタイムでプレイした人間なので最低でも31歳以上です。(18+13)



[12938] 鬼畜王じゃないランス2
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2009/10/27 07:37
鬼畜王じゃないランス2




「ランス王ッ!」

「えっ? バレス将軍と……」

「ハウレーン・プロヴァンスか?」

「はい」


メナドと並んで城内を歩いていると声を掛けられたので、振り返るとプロヴァンス親子が居た。

おっさんの方は戦争では非常に"使える"男だが、ハウレーンの方は正直 微妙だった気がする。

しかし仏頂面ながら物凄く美人なので見とれた為、嘆く様に名を漏らすと軽く会釈するハウレーン。

こりゃ(自称)女を捨てたとは到底 思えない。……っとそんな事より、この意外な遭遇の対処だ。


「メナド副将と、どちらへ参られるのですかな?」

「え~っと、それはだな~」

「お、王様……」

「いや隠しても仕方無いな。ちょっくら迷宮にでも潜ろうと思ってる」

「何と!?」

「な、何故 即位して間も無いと言うのに迷宮などに行かれるのですかッ?」

「単純に鍛錬の為にだ。リックにも言ったが大分 鈍ってるからな」

「!? それでは、やはりヘルマンから逃れて来られたと言うのは……」

「バレスも知ってたのか」

「お、王様が……ヘルマンから?」

「どういう事なのですッ?」

「良く聞くのだ2人とも。ランス王はヘルマンにて"悪"と戦われていたが多くの仲間を失い、
 何とか此処リーザスに逃れて来られたのだ。故に捕らえられた仲間達を救う為……そして、
 世界を統一し全世界の人間を救う為に立ち上がられたッ! うぅっ……御立派で御座います」

「いや……別に」


――――只 盗賊をしてたダケなんだが、大方リアが尾鰭を付けバレスが過大評価したっぽいな。


「しかし戦(いくさ)など儂らに任せて置けば良いモノの……自らも強く有ろうとする上……
 あまつさえ、危険な迷宮に潜るなど……ずびっ……爺は感動の余り涙が止まりませぬッ」

「ふわぁ~」←メナド

「ち、父上。涙と鼻を拭いてくださいッ!」

「すまぬ……ハウレーンよ」

「じゃあ、そう言うワケだから俺達は行くぞ?」

「!? お待ちくだされ、ランス王!!」

「ん?」

「バレス将軍?」

「王さえ宜しければ、娘を……ハウレーンを連れて行っては貰えませぬか?」

「えぇっ!?」

「何だとォ?」

「父上!?」

「あ~っ、本当に良いのか? 副将が揃って不在になるが」

「王を守るのも勤め。娘にも良い経験になりましょう」

「なら俺は構わないが……ハウレーンは良いのか?」

「御命令と有らば」

「じゃあ!」

「決まりだな。宜しく頼む」

「か、畏まりました(……ランス王には悪い噂も多かったが、所詮は噂だったと言う事か……?)」


そんなワケでバレスの爺さんの御蔭でハウレーン・プロヴァンスも付いて来る事になってしまった。

確か才能限界は30後半 程度だった気がする……十分 人類としては高いから戦力になりそうだ。

勿論 今の彼女からは原作で有った反乱による敵対心は無く、王として認識してくれている様子。

しっかし、イキナリ女性3人と一緒に冒険か~。かなみとダケの予定が随分とズれちまったなァ。




……




…………




城下へ出ると……メナドとハウレーンと共にアイテムを購入する。主に世色癌3と竜角惨を。

うち竜角惨は高価だが王様なので無問題。ちなみに"まんが肉"はデカくて重いので買っていない。

んで道具屋を出ると"うし車"の手配を終えた かなみが現れたので4人で目的地へと歩いている。


「それにしてもランス」

「なんだ?」

「暢気に迷宮探索なんか していて良いの?」

「……普通に考えたら無いな」

「だったら分かってるでしょ? アンタが王様になって不満を言う貴族の連中も多いわ」

「その辺はマリスに任せれば大丈夫だろ」

「うッ、否定できないかも」


――――実際クーデター後に大きな暴動が起きなかったのも殆どはマリスの御蔭なんだろうしね。


「まぁ、反乱なんか起こす奴等が居ても黙らせてやるけどな(……実際そうしてたし)」

「ハァ……やっぱりランスらしいわ」

「そうか?(……何処がだよ……)」

「…………」×2

「んっ? どうした2人とも」

「え、えぇと……王様と かなみちゃん、随分と仲が良いな~って」

「彼女はランス王が即位される前からの知り合いだと言う訳ですか?」

「……まぁ、そんな所か?」

「ち、違うでしょッ? 今迄は任務だから組んでたダケ!! 別に仲が良いワケじゃ無いからッ!」

「あぁ、考えてみれば そうだったな」

「えっ? お、王様は納得しちゃうの?」

「むぅ(……ランス王……いまいち分からない方だ)」


≪かなみか? コイツは俺様の女なのだ。がははははははッ≫


「……(普通なら ああ言う筈なのに……や、やっぱりランスらしくない気がする……)」




……




…………




……"うし車"の怒涛のスピードにより俺達4名は4日で"魔物の洞窟"にへと辿り着いた。

そして迷宮へと侵入し、モンスターを蹴散らしながら奥へと進んでゆく。普通に楽勝だな~。

もし軍隊で攻略するなら一階一階フロアのモンスターを全滅させてから次の階に進んでゆく。

大佐ハニーが纏める強力なダンジョンであれば防御し多くの味方を犠牲にして切り抜けて進む。

だけど今回は両方とも違い、遭遇したモンスターだけを倒す小規模の闘いを繰り返している。


「何か居るな……かなみ、見えたか?」

「あれは"マーダー"よ!」

「お、大きい~ッ」

「(迷宮ボスだな)メナド、ハウレーンッ! 魔法に注意しろ、初撃は俺が抑える!!」

「はいっ!」

「承知ッ!」

『"ディーゲル"!!』


≪――――ドオオォォンッ!!!!≫


「ぐわっ!?」

「王様!? ……このっ!」

「はぁあッ!!」


流石は迷宮ボスだ、これまでの雑魚とは一味違う。出会い頭の攻撃魔法は結構カラダに堪えた。

まだ弱い部類のボスとは言え、一回の攻撃で20人は戦闘不能にするしな~。普通じゃ勝てない。

けどリーザス上位のメンバー3人を含む俺達が易々と殺やれるハズは無く2人の騎士が斬り込む!


『…………』

「か、硬い!? 違う、鈍いのかな?」

「それに……詠唱しているのか?」

「かなみッ!」

「――――しっ!!」


"ビスマルク"か"メッサーシュミット"か知らんが大魔法を撃たせると危険なので、
後列のかなみに複数の手裏剣を投げさせる事で、マーダーの詠唱をキャンセルさせた。

ゲームではキャンセルは確率だったが、コレは3人の攻撃によるダメージの蓄積によるモノだろう。

勿論ターン制でも無いのでメナドとハウレーンの剣撃は続き、マーダーは装甲を次々に失う。


『"ディーゲル"!!』


≪――――ドオオォォンッ!!!!≫


「ぐぅっ!?」

「は、ハウレーンさん!?」

「この野郎!!」

「まだ浅いわッ! ランス、そろそろ"何時もの"をしなさいよ!」

「仕方ないな……(恥ずかしいけど)……やってやるか」

『"ディーゲル"!!』


≪――――ズガアァァンッ!!!!≫


「そんなものッ!!」

「かなみちゃん!?」

「メナド、ハウレーンと下がってろ!!」

「うッ……わ、分かりました」


マーダーは既に満身創痍に見え長い詠唱は諦めた様だが、苦し紛れの反撃は強烈だったらしい。

その一撃を食らいハウレーンが吹き飛ばされたのでメナドが気遣い、俺と かなみが攻撃を加える。

しかし巨体は まだ浮遊しているので決定的なダメージが必要らしく、"あの技"を使う時が来たか。

言うのは恥ずかしいので今まで使っていなかったが、かなみが注意を引いている今 急がなければ。

基本的に魔法は必中なんだけど、彼女は俊足と障害物(岩)を旨く利用して魔法を防いでいる様子。

その発想は無かったな~、流石は現実だ。システムでは到底 無理な事を平然と こなしている。

……って、感心している場合じゃない。俺は一瞬で我に返るとマーダーに向かって走り出す!!


『"ディーゲル"!!』

「クッ……まだなの?」


≪――――ダダダダダダッ!!≫


「必殺!!」

『!?』

「ラーンス・アタックッ!!」


≪――――ドゴオオオオォォォォンッ!!!!≫


『……!? ……ッ……!!』

「す、凄ぉい……」

「これ程とは……」

「ふ~っ(出来たか)」

「ランスッ! なんで あんなに遅れたのよ!? もう少しで魔法に当たりそうだったじゃない!!」

「すまん」

「!? だ、だからランスの癖に謝らないでよッ!」

「……(どうしろと……)」

「ともかく注意してよね? 魔法なんて何度も避けれるモノじゃ無いんだから」

「分かったよ」

「…………」×2

「んっ?」

「な、何なんですか?」

「やっぱり王様と かなみちゃん……仲が良いみたいですね~」

「余程 信頼しあっている間柄と見受けられます」

「何故に」

「だ、だから何で そうなるんですか~っ!」

「ハウレーン、食らった傷は大丈夫だったか?」

「既に世色癌を飲みましたので問題ありません。それよりもランス王の御体は……?」

「えっ? あぁ、俺も特には――――」

「ランスもアッサリ流さないでよぉ!!」

「……(かなみちゃん、ひょっとして王様の事 好きなのかな~?)」




……




…………




……攻略2日目。


「ランスさんは経験豊富と みなされ、レベル30となりました」

「良しッ」

「かなみさんがレベル33となるには残り――――の経験地が必要です」

「もう少しね」

「メナドさんは経験豊富と みなされ、レベル35となりました」

「やった~っ!」

「ハウレーンさんは経験豊富とみなされ、レベル32となりました」

「有難う御座います」

「それではランスさん、ご機嫌よう~っ」


こまめにレベル神・ウィリスを呼び出しつつ、俺達は魔物の洞窟を攻略していっている。

昨夜は野宿をする際にランスの性格を知っている かなみがギャーギャー五月蝿かったが、
迷宮内でセックスする気は起きないので黙って寝ると、彼女は呆気に取られた様子だった。

う~ん、でもランスらしく した方が良いのかなぁ? せめて一人称を"俺様"にしたり……

だけどハウレーンに自分から嫌われたりしなくてはならないし、イマイチ踏ん切りがつかん。

まぁ"ランスらしく"しなくちゃいけない場面だけ彼らしくすれば大丈夫な筈だ。……多分だけど。


「さて、儀式も終わったし出発するか」

「そうね」

「それにしても、やっぱり王様って凄く強かったんですねッ」

「でもなあ……レベルは皆より低いぞ?」

「けどアレだけ頑丈だった"マーダー"を沈めちゃった時の一撃は ぼくじゃ絶対 真似できません!」

「あと20くらいレベルを上げりゃ~本来の"俺"に戻るんだけどな」

「そうなれば更に……やはり魔人すらも倒したと言うのも頷けますね」

「す、すっごいですッ! ぼく尊敬しちゃいます!!」

「ダメよメナド、ランスは煽てると直ぐ調子に乗るから――――」

「それほどでもないさ」

「ガクッ」

「あれ? かなみちゃん、大丈夫?」


俺が頑張れてるのは殆どがレベル不相応の威力を持った"リーザス聖剣"なんだが、
幸い俺 自身の強さの方が目立っているらしく、メナドがキラキラとした視線を送って来る。

ハウレーンも初対面時の仏頂面と比べると結構 表情が緩んでいる気がしないでもない。

こりゃ連れて来て正解だったな~。考えてみりゃ彼女も迷宮攻略にマイナス補正は無いんだった。

けど才能限界になってからも迷宮を連れ回す為には……アレっきゃないのが今の悩みの種だなァ。

さて置き。やはり かなみはギャップを強く感じている様子だが、悪いけど慣れて貰うしかないね。




……




…………




……攻略3日目。


「開きそうか? かなみ」

「もう少しよ」


≪――――ぱかっ≫


「これは……(予想通り)……壷だな」

「蓋の裏には"大魔王の壷"って書いてあるわね」

「何だか可愛い壷だねッ」

「これが"この迷宮"の財宝と言う訳ですか」

「そうなるな~。つまり?」

「攻略終了って事ね」

「えっ? そうなんだ~、やったねッ!」

「少なからず達成感と言うモノを感じました」

「ハウレーンもか?」

「は、はい。この様な経験は今迄に無かったモノで」

「そうか、だったら今夜は"プアーの街"で祝勝会といくか?」

「ランスにしては良い提案ね」

「わ~い! ぼくもう、お腹ペッコペッコだったんですよ~」

「此処3日は世色癌と竜角惨が主食みたいなモンだったからなァ」

「……(今回 同行する事で、唐突に即位されたランス王を見定める つもりだったが……)」

「んっ? ハウレーンは反対か?」

「!? いえ、とんでもありません」

「だったらメナド」

「はい! お帰り盆栽、使いますよ~?」

「……(どうやらランス王は、私が剣を捧げるに相応しい方だった様だ……)」




……




…………




その日の夜。行きで唯一 泊まらなかったプアーの街へと戻った俺は4人で豪勢な夕食を摂った。

うちメナドとハウレーンは今迄に無い冒険だった為か疲れが溜まっていた様で、既に寝ている。

反面"ランス"とかなみは平気であり、今 彼女は俺の借りた部屋(個室)にて指示を受けてる最中だ。

何故なら彼女には"忍者"としての任務が残っている。まぁ、実行は明日の朝で良いんだけどね~。


「とりあえず"魔物の洞窟"の攻略 自体は無事に終わったと伝えてくれ。だが此処で宿を取りつつ、
 もう2日くらいは篭ってから戻るから、リーザス城に着くのは一週間後と言う事も忘れずにね」

「ええ」

「それで"ジオの街"の攻略は既に指示してるが、先陣をリックの部隊のみに任せる事にしてる。
 削った後はバレス・エクス・メルフェイス・アスカの4部隊で一気にカタを付ける手筈だ。
 そんで次回の臨時徴収は(アルカノイド貝狙いで)マリスに"アランの街"を指示してるから、
 それらの結果を伝えに戻って来てくれ。大事じゃない限りは ゆっくりしていって良いからな?」

「分かったわ」

「じゃあ休んでくれて良いぞ。お疲れさん」

「う、うん……」

「(さて俺も寝るかなァ)」

「……ッ……」

「何やってんだ? かなみ」

「えっ!? な、何でも無いわ」

「そうか」

「そ、それじゃ――――」


……この瞬間で、俺は流石にヤバいと思った。幾らなんでも今の自分は"彼らしくなさ過ぎ"と。

それ故に……いや、元々酒に弱いランスにアルコールが入ってしまったから かもしれないが、
訝しげな視線を向けて来た かなみを"このまま"立ち去らせては不味いと思っちまったのだ。

よって彼女を引き止める為の言葉を考えたんだけども、違和感無く浮かんだ"ランスの台詞"は……


「待て かなみ!」

「えっ?」

「寝る前に一発やらせろ!!」

「!?!?」


――――案の定セックスの促しだった。別に断られても"ランスらしい"と思われりゃ良いか~。


「なに驚いてんだ? かなみ」

「そ、そりゃ驚くわよッ! イキナリ何を言い出すの!?」

「何だ嫌なのか~?」

「……ッ……」

「だったら構わ――――」

「別に嫌ってワケじゃ無いけど……」

「ゑっ?」

「その……ランスが……ど、どうしてもって言うなら……」

「どう言う風の吹き回しだ?」

「!? そ、それは私の台詞よ!」

「へっ?」

「だって変じゃないッ! ランスなのよ!? 良いヒトを見れば見境なく襲うランスなのよ!?」

「(……もしかして酔ってるんじゃ……)」

「なのに今迄 何も求めて来ないんだもん!! メナドやハウレーンさんも居るのにッ!」

「抱かれるのは嫌じゃなかったのか?」

「それは……嫌だったけど……何か今のランスは……や、優しく抱いてくれそうだったから……」

「(マジで!?)」

「……それに、えっと……」

「何だ?」

「や、"やらせろ"って言ったのが……3人の中で私が一番 最初で……う、嬉しかったし……」

「……ッ……」


ドアの前で呼び止められ振り返った かなみは、もぢもぢとしながら衝撃的な事を言って来る。

つまりメナドとハウレーンより真っ先にカラダを求められた事が嬉しかったと? 信じられんッ。

そんな彼女の表情は非常に可愛く俺は何時の間にか かなみに近づくと小さな体を抱き締めていた。


≪――――ぎゅっ≫


「あっ」

「お前……そんなに可愛いかったんだな。気付かなかったぞ」

「!? ほ、本当?」

「うむ」

「……♪」


――――僅かな沈黙が続く。そして何時の間にか、かなみも俺の事を抱き返してくれていた。


「じゃあ……ホントに良いのか?」

「うん。でも優しくして欲しい」

「任せとけ」

「――――んっ」


……こうして酔った勢いで かなみを抱く事となってしまい、互いに熱い口付けを交わした。

んで繋がる際ランスのデカい息子を考えて全体的にソフトに行ったがソレも好評だったみたいだ。

ちなみに朝 コッソリ俺(全裸)を起こしに来たメナドの悲鳴を目覚まし代わりに覚醒した時、
既に かなみの姿は無かったと言うオチ。……畜生、せめて一声 掛けてから行けってんだ!!

と、ともかく今日からもレベル上げだ。そんで"ジオ"の街を落としたら次は"レッド"の街だな。

早い段階で"魔剣カオス"を入手できれば大きなアドバンテージになるし、頑張るとしますか~。


≪ザザザザザザザザ……ッ!!!!≫


「(やっぱりランスは王様になってから"変わった"のね。出来る限り力になってあげなきゃッ)」




●あとがき●
何故か続きました、すみません。でもハウレーンさん書けて満足です。感想ありがとうございます。



[12938] 鬼畜王じゃないランス3
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2009/10/29 23:40
鬼畜王じゃないランス3




――――遠征の為にリーザス城を出発してから丸2週間後。


「ふ~、到着っと」

「お疲れ様でしたランス王」

「ああ」

「今更だけど……大丈夫だったの?」

「何がだ? かなみ」

「えっと主にカラダとか。凄いペースで狩ってたみたいだし」

「それに関しては竜角惨サマサマだな。何を どうやってアレを開発したんだ? ハピネス製薬は」

「知らない。でも値は張るけどね」

「今は王様だから予算的には何も問題無い」

「ですが良い鍛錬になりました」

「俺的には まだまだかな。まだレベル32だし……」

「十分 凄いペースよ……私と会ったときは20だったのに」

「少なくとも あの迷宮は もうダメだな。新しい場所を探す必要が有る」

「(ランス王の目指す所は遠いと見える。やはり本気で魔人をも倒す つもりだと言うのか……?)」

「……ッ……」


魔物の迷宮への遠征を終えた俺は、かなみと合流した後 リーザス城へと戻って来ている。

レベル上げの結果は俺が32。かなみは33。メナドは36でハウレーンも33となった。

また かなみの伝達によると殆ど被害も無く"ジオの街"は落とした様で、合併の手続きも終了。

臨時徴収も終わった様で"アルカノイド貝"も回収。意味が無いアイテムだけど、コレクションだ。

そんな報告をしてくれた かなみは、道中なんだか甲斐甲斐しくなった気がしないでもない。

しかし彼女と違い、今の会話に全く混ざっていないメナドがボケーっとしている事が多かった。

きっと俺の"ハイパー兵器"とやらを見てしまったかもしれんが、戦いは真面目にしてたし良いか~。


「……(メナド?)」

「じゃあ早速リアの所に顔を出しにでも行ってくるかなァ」

「私も父に報告をしようと思います」

「なら途中まで行くか? ハウレーン」

「はい。御一緒します」

「そんなワケだから かなみ、うし車の処置とかは頼んだぞ?」

「あっ、うん」

「…………」

「ちょっとメナドッ! ランスもう行っちゃったわよ?」

「!? えっ? も、もうリーザスに着いたんだ~」

「それ以前の問題なのね」

「えっ?」

「メナド!!」

「は、はいッ」

「さっきから一体 何が有ったのよ? 私が戻って来てから貴女 何か変よ」

「そ、それは……えっと」

「私達 友達でしょ? 何か悩みでも有ったら――――」




……




…………




……3分後。


「だから、その辺が どうなのかな~って」

「つ、つまり……私とランスの関係が気になったのね?」

「うん。朝 王様が裸だったし、前の日の夜かなみちゃん部屋に戻って来なかったし……」

「……うぐッ……」

「きっと以前は王様と恋人同士――――」

「!? そ、そんなワケ無いでしょ!? 只 腐れ縁なダケでランスに抱かれたのも任務……そう、
 妾みたいなモノで仕方なく抱かれたのッ! だから そんな寒気のする事 言わないでよ!!」

「寒気って……どうして?」

「ランスと元 恋人同士なんて間違われたら私がリア様に殺されちゃうでしょ?」

「あっ……ご、ごめんね」

「分かれば良いわよ。だから 別に気にしなくても大丈夫だからね?」

「うん。でもまあ……ぼくは大丈夫みたいだね」

「大丈夫って?」

「かなみちゃんは可愛いけど、ぼくみたいな男女が王様の妾になる事なんて無いだろうし」


≪どよ~ん≫


「め、メナド?」

「きっと一生ぼくは騎士として、男の人とは無縁のまま生きて行くんだろうなあ……アハハハ」

「何言ってんの? しっかりしなさいよ」

「かなみちゃんとは そう意味で親近感も感じてたんだけど、残念だよ~」

「さり気なく酷ッ! でも大丈夫よ、既にメナドはランスに目を付けられてるから!」

「そ、そうなの?」

「だって私こそ自分よりメナドの方が可愛いと思ってるもの。だから自信を持ちなさいよ」

「……かなみちゃん……ッ……うん分かった。ぼく頑張ってみるよ」

「それでこそ貴女だわ」

「――――王様のめか……じゃなくて認めて貰う為にッ!」

「!? ね、ねぇメナドッ! 今の本気じゃなくて間違よね!? 間違いなのよね!?」




……




…………




……謁見の間。


「ダーリン!! おっ……」

「…………」←耳を塞ぐランス

「……ッ?」←釣られて耳を塞ぐマリス

「そぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッい!!!!」

「そしてオマエは五月蝿い」

「こ、鼓膜が……」

「大丈夫か? マリス」

「な……何とか」

「もうッ、リアに内緒で何処に行ってたのよ~!?」

「ソレは かなみから聞いてただろ?」

「でも心配したんだからぁ! ダーリンの馬鹿馬鹿、大っ嫌い!!」


――――そう言いつつポカポカと俺の胸板を叩くリアが妙に可愛く見える。


「どっこいしょっと」

「お疲れ様でしたランス王」

「ジオの制圧は問題なかった様だな?」

「御伝えさせた通りです」

「なら次はレッドとハンナ辺りだな。どちらも500万Gの資金提供を条件に合併を促してくれ」

「断られた場合は如何しましょう?」

「残念だが武力制圧だ。天才軍師が居るハンナとは出来れば揉めたくない所だけどな」

「畏まりました」

「じゃあ、次の臨時徴収はジオで行ってくれ」

「妥当なところですね」


今は4月の2週目末。記憶では5月の1週目には魔人・魔物の軍勢がリーザス城を攻めて来る。

ソレまでにカオスを入手しレベルを可能な限り上げて置きたいのだ。命に関わりそうだしな~。

ゲームであれば1000名もの部下を盾にして隊長であるランスが直接攻撃を加えていたが、
考えてみれば現実では無理そうだし、もし後のシリーズの様に俺がカオスを持っているダケで、
絶対防御を敗れるなら楽勝っぽいんだが……そうもゆかない気がするのでランスのレベルが全てだ。

そうなるとレベル32ではオハナシにならないので少なくとも40……出来れば50にはしたい。

またカオスの仕様次第でレイラさん・リック・コルドバ・メナド・かなみ・メルフェイスと、
個々の才能限界が高い面子にも魔人への攻撃に加わって貰う事で、より魔人を倒し易くなる筈だ。

んで初めて対峙する事になるのはラ・サイゼルで、最大レベルは120前後の氷の魔人だったか?

一人で倒すのは不可能だろうが、仲間と連携した上 無敵属性という自惚れの不意を突き、
大ダメージを与えれば一気に畳み掛ける事が出来るだろう。その為ダケのレベル上げと言って良い。

そのレベル上げの次の場はレッドの南東に位置するハイパービル。有用な知恵の指輪が存在する。

或いはハンナの南東に位置する解呪の迷宮。数多くのイベントを消化 出切るので攻略必須だ。

まあリーザスを守るダケなら持ち堪えれば良いんだが……毎週毎週 倒せない魔人相手に防衛とか、
現実となった今じゃストレスが溜まりそうなので、冒頭と言うのに色々と画策する俺だった。

いずれ小川 健太郎・サテラ・メガラス加わるとは言え、早急に魔人を潰すに越した事は無いのだ。

そんな事を考えながらマリスと会話していると、リアが既に俺の正面を50往復以上していた。

一応 大事な話だと分かっているのか口を挟んでこない辺りが甲斐甲斐しくも感じてしまう俺サマ。


「ねぇダーリンッ! お話が終わったんなら いい加減エッチしようよ~っ!」

「う~ん」

「ランス王……」

「酷いよぉ! な~んで かなみとはエッチしてリアとはしてくれないの~っ!?」


――――それは彼女と暫く冒険して情を感じた故だと言うか。いずれはリアもそうなるっぽいが。


「少なくとも"こんな場所"でンな事を言われちゃ萎えるんだよ」

「そ、そんな事 言ったって~っ」

「マリスも そう思うだろ?」

「えぇまぁ……少しは場所を選んで頂けると……有り難い気は……」

「もう! マリスもダーリンと同じ事 言うのぉ!? 大っ嫌ァい!!」

「が~ん」

「ほう。じゃあ俺の事も"大嫌い"なんだろ? だったら抱く必要は無いな」

「えぇっ!? ど、どうしてそ~なるのよぉ!?……うぅ……ひっく」

「り、リア様?」

「ありゃ(……からかい過ぎたか?)」

「グスッ。リアは……ダーリンの奥さんなのにぃ」

「……ったく」←頭を掻きながら


≪――――ぽんっ≫


「あっ」

「そんな事で泣くな。お前らしくもない」

「リアに取っては重要な事だよぅ」

「それより今から"デート"でもど~だ? こっちは初めてだろう?」

「!? そ、そう言えば今迄 一度も……わ~い!! ダーリンとデートなの~っ!」

「良かったですね、リア様」

「それじゃ~ダーリン、早く行こぉ~!?」

「やれやれ。後は任せたぞ? マリス」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「えっとねえっとねッ! 先ず最初はホテルに入るの!!」

「それはデートと言わんだろうがっ!」

「……(ランス王とリア様……一応は旨くいっていると見て良いのかしら?)」


――――ちなみに騒ぎまくったリアは結局 疲れて寝てしまい、今日も彼女とのHを回避できた。




……




…………




……翌日。

本日から既に"お忍び"でレッドに旅立つ事を決めたので、リアを撒くのに苦労してしまった。

んで一人で廊下をスタスタ歩いていると、見知っているが初めて会う男女が何やら話していた。

そんな2人は俺に気付くと軽く身形を直し、俺に向かって丁寧な会釈をしてくださる。


「おや? これはランス王」

「エクス・バンケットとメルフェイス・プロムナードだな? おはよう」

「お早う御座います……王様」

「エクス将軍は今からハウレーン副将とハンナの街に出発だったか?」

「はい。交渉が旨くゆけば良いのですがね」

「智将としての腕を期待しているぞ?」

「御期待に沿えれるよう努力する次第ですよ」

「うむ(……まあゲームだと300万Gでも足りるし大丈夫だろ)」

「ランス王は再び迷宮に行かれるとの事ですが?」

「知ってるのか? 情報が早いなァ」

「ハウレーンに聞きましてね。あの者は なかなかランス王の事が気に入った様ですよ」

「そりゃ有り難い」

「迷宮は何処を御選びに?」

「レッドのハイパービルを予定している。以前と同じ2週間だ」

「成る程……ふ~む……」

「エクス?」


――――何やら考え込むエクスを前に俺は彼の名を嘆き、メルフェイスが首を傾げる。


「ランス王。宜しければ彼女を同行させては頂けませんか?」

「え、エクス将軍ッ?」

「何か理由でも有るのか?」

「以前の遠征ではメナド副将とハウレーンが同行した様ですので」

「他には?」

「生憎 僕は個人戦には向きませんが、彼女は非常に力になってくれるでしょうから」

「ふむ」

「それに――――」

「……ッ……」

「それに?」

「何と言うか……多少 問題が有りまして、僕が彼女を連れてハンナに向かうよりは、
 ランス王に託す方が都合が良いんですよ。理由は残念ながら僕の口からは言えませんが」

「ほう」

「メルフェイス。君は どんな考えだい?」

「そうですね……"大事な時"が近いのに私がハンナと交渉をしている将軍の妨げになるよりは、
 ランス王と行動した方が……例え最悪の結果が免れたとしても……ひっそりと逝けるなら……」

「何を言うんですか。ランス王が"強い方"だと言うのは保証しますよ? 僕よりも余程ね」

「全く話が見えないんだが?」


彼女が薬の副作用で2ヶ月間強い男性に抱かれないと狂死する事は知ってるが、知らん振りする俺。

抱いた女を躊躇い無く俺に託すエクスもアレだが、彼は"抱くけどソレだけ"と割り切れるのだろう。

だったら多少は感情移入できる俺の方がマシなのかな~? 相手は美人の長髪金髪女性(25)だし。

身長も今の俺(ランス)と同じくらい有る……のはさて置き、現段階の彼女は非常に頼りになる筈だ。


「すみませんランス王。いずれは分かると思いますから」

「精一杯頑張りますので……宜しければ私を御連れください……」

「分かった。丁度 戦力が欲しかったし、そう何度も副将を連れて行くワケにはいかんしなァ」

「有難う御座います。それでは僕はコレで」

「ああ」

「……(色々な意味で彼女を無事 守れるか? すいませんが試させて貰いますよ? ランス王)」

「では……その……」

「うむ。よろしく頼むぞ? メルフェイス」

「はい……此方こそ」


う~む、どうも彼女の瞳には生きる気力が感じられないな。以前の かなみよりも酷いぞ。

もっと言えばメナドと正反対。こりゃ正史通り部下と結婚させて頂くに限るのかもしれない。

でも戦争では解呪せずとも微妙だが、個人戦だと期待出来そうなので様子を見るに限るな。




……




…………




……5分後。


「はぁ……また迷宮に付き合わされるのね?」

「悪いな かなみ」

「別に良いわよ。それより何をすれば良いの?」←謝られるのは慣れた様子

「前回と同じだ」

「うし車の手配ね? でも……3人ダケで良いの?」

「一応レイラさんにも声を掛ける予定だ。生憎メナドとリックはレッドに行くしな」

「流石に親衛隊はリーザスに残ると思うけど? リア様は勿論お城を守る必要が有るし」

「無理なら3人で行くさ」

「まあアイテムの蓄えさえ十分ならハイパービルでも大丈夫だと思うわよ?
 何せ今回はメルフェイス様が居るし、ランスも最初と比べれば強くなったしね」

「そんなに凄いのか? メルフェイスは」

「うん……一概には喜べない事だけど」

「すみません」

「い、いえッ。謝るのは私の方です!」

「ともかく気の早い話だが頼んだぞ? レイラさんに会ったら直ぐに行くからさ」

「分かったわ(……それだけ必死に……少し妬けちゃうかも)」


≪――――ッ≫


「それで、今の時間は何処に居るのかな?」

「確か訓練を……御案内 致します」




……




…………




……更に5分後。


「残念ながら都合が悪いですね」

「ですよねー」

「しかし指示なされたのはマリス様です。ランス王が撤回して頂ければ護衛に当たる事も……」

「いや構わん。アイツの組んだ予定を無理に狂わせたくない」

「……そうですか」

「それよりも」

「はい?」

「俺の事は以前と同じ様に呼んでくれて良いぞ? 敬語も要らん」

「!? それなら……ランス君……で良いかな?」

「うむ、グッドだ」

「ふふふっ」

「……どうやら無理だった様ですね」

「まあ仕方無いさ」

「私としては是非 付いて行きたかった所なんだけど……」

「別に問題無い。鍛錬の方 頑張ってくれよ?」

「勿論です。……あっ……でも"あの娘"だったら――――」

「レイラ将軍?」


メルフェイスに案内された場所では、親衛隊の女の子達(全員可愛い)が勇ましく訓練していた。

そんな中 俺の存在に気付いたレイラさんがやって来たので同行を促したが、無理みたいだった。

だが予想はしていたので気にしない。本来なら かなみと2人で行く予定だったが、今は3人だし。

よって この場を立ち去ろうとした俺だったが、彼女が考える仕草をしたので留まっていると……


「あーッ、ランスちゃんだ~!」

「お、お前は……ジュリア・リンダムか!?」

「そう。ジュリアを連れて行けばランス君の役に立てると思うわ」

「あれっ? でもジュリアって……」

「これでも凄く強いの。悔しいけど私に勝つ事も有るわ」

「そーだよーッ! ジュリアはつッよいんだぞーっ!?」

「でも強いダケだから流石に軍は任せられないけどね……」

「う~む、納得」


訓練中だったジュリア・リンダムが俺の方へとやって来た。見た目は幼いアホの娘にしか見えない。

しかし訓練の相手だった親衛隊の女の子が目を回して気絶してるって事は……スーパージュリアか!

説明しようッ! "スーパージュリア"とはハニーキングに改造された強いジュリアの事なのだ!!

鬼畜王 仕様の個人戦での強さは分からんが、魔人戦で役立つなら是非 レベルを上げて欲しいぜ。

恐らく"ランスⅣ"で既にハニーキングに強化されていたのだろう。こりゃナイスな想定外と言える。


「それでぇ、何の話をしてたの?」

「今から迷宮に行くんだ。ジュリアも来ないか?」

「これは非常に名誉な事なのよ? ジュリアッ」

「良く分からないけど、面白そうだし行って見ようかな~?」

「じゃあ決まりだな」

「ジュリアさん……宜しくお願いします」

「あれぇ? この綺麗な人は誰なの~?」

「もう。メルフェイス将軍でしょ? それ位 知ってなさいよ……」


――――これで頼もしい戦力が2人加入したんだが、彼女の頭の弱さが心配になった俺だった。




●レベル●
ランス   :32/無限
かなみ   :33/40
メナド   :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:25/48
ジュリア  :14/38




●あとがき●
メルフェイスさんが書けて満足です。ちなみに改造ジュリアの攻撃回数と魔法防御は人類最強です。



[12938] 鬼畜王じゃないランス4
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/06/20 06:32
鬼畜王じゃないランス4




=LP03年04月3週目=




――――レッドの南東に位置する"ハイパービル"を見上げて俺たち4人は呟いていた。


「高いな~」

「高いわね」

「……高いです」

「たっかいね~」


――――そして十数秒の沈黙の後、右隣の かなみがコンコンと俺の鎧を軽く叩いて言う。


「これ……本当に登るの? ランス」

「ああ。頂上まで行くぞ」

「……出来るのでしょうか?」

「アイテムは出し惜しみしなくても良いし時間さえ平気ならイケる筈さ」

「はあ」

「只でさえ移動で丸2日使ってるからなァ、間に合わないなら潔く諦めるよ」

「……(それよりも、私の体が保つのかしら?)」

「でもぉ、何だか面倒臭そうだな~」

「言ってる傍からボヤくなよジュリア。またヌイグルミを買ってやるから」

「えっ、ホント!? だったら頑張るよランスちゃんっ!」

「はははっ。その意気だ、頼りにしてるからな~?」


≪ナデナデ≫


「えへへ~っ」

「……ッ……」


ハイパービル。その名の通り超高層ビルであり、地上201階にも及ぶ高さとの事。

このファンタジーな世界に何故こんなモンが存在するのか疑問だが、鍛錬には持って来いの場だ。

しかし"ランス3"の事は昔過ぎて覚えていないので、鬼畜王基準になってしまうが、
モンスターの質は"魔物の迷宮"と左程変わらない筈なので量を狩る攻略になるかもしれない。

そう考えれば俺と かなみダケにしないでメルフェイスとジュリアを連れて来たのは正解だったな。

道中で遭遇したハニー等の雑魚を相手させた時、実力を見てみたが2人の実力は本物だった。

されど大人しいメルフェイスはともかく我侭なジュリア(17)の士気を保たせるには手を焼いたが……

厄介な性癖を持つリアよりはマシなのでランスと違って俺はイライラもせず彼女を引っ張っていた。

よって今や自然にジュリアの頭を撫でたりしていると、かなみが見ているので小声で対応する。


「んっ? なんだ? かなみ、お前も撫でて欲しいのか?」

「!? ち、違うわよっ! それよりも、幾ら機嫌を取りたいからってそんな甘やかして良いの?」

「なんで?」

「出発してから"うし車"の中の荷物が増えていくばかりよ?(……そもそもランスらしく無いし)」

「そうでもないとヤる気になってくれないんだから仕方無いだろ?」

「で、でもアンタの性格って言うか……王様としてどうかと思うって言うか……」

「全く問題無い。じゃあ、とっとと行くぞ?」

「はぁ~い!!」

「分かりました」

「えっ!? ち、ちょっとランス!? 待ちなさいよ~ッ!」




……




…………




……攻略初日。ハイパービル25階。


「この階に敵は……居ないみたいだな~」

「随分と階層によってバラけが有るわね」

「じゃあ、早く次の階に行こうよ~っ!」

「あっ。ダメよジュリア、危ないわよ?」


いつの間にかメルフェイスがジュリアの姉orお母さんみたいな役割になっているのはさて置き。

面倒な事にハイパービルは一階一階が狭いので、次の階段に迄 辿り着くのには、
居合わせた敵を全滅させる必要が有った。……こんな様にモンスターが居ない時も有るけどね。

きっと1000人単位で攻略していた時は圧倒的物量で轢いていたんだろう。そりゃ楽な筈だぜ。

けど鬼畜王基準と違って50~100前後のモンスターは居たりせず、4人でも十分楽だった。


「まぁ、ジュリアなら一人で先に上がっても大丈夫だろうけどな」

「そうね」

「早くテッペンまで上がって、ランスちゃんにヌイグルミ10個買って貰うんだぁ~♪」

「多ッ!? せめて5個にしろジュリア!!(それに死亡フラグだろッ!)」

「……それでも十分多いわよ」

「(とても面白い方なのね、ランス王は……)」


――――こうして俺達4名の快進撃は続いてゆく。




……




…………




……攻略2日目。ハイパービル55階。


「ちっ! 多いがこの数なら……斬り込め、ジュリア!!」

「どっかぁ~ん!!」


≪――――ドドドドォッ!!!!≫


今回共に戦う事になったジュリア・リンダム。17歳としても童顔で小さな女性。

剣戦闘と盾防御の技能は"Lv0"と言う意味の無いスキルを持ち、高い才能限界(38)も宝の持ち腐れ。

されどハニーキングの改造により驚異的なパワーアップを遂げ技能も"Lv1"にアップした様だ。

よって今や親衛隊ご用達の細身の剣ではなく、リーザス正規兵が持つ長剣を装備し、
身長150センチにも満たない小柄な体で剣を振り回してモンスターを圧倒する騎士となった。

今も素早く斬り込んだジュリアが前衛のモンスターに剣の平を引っ掛けそのまま振りかぶる事で、
後方の魔法型のモンスター等をも巻き込みつつ吹っ飛ばし、そのまま息絶えさせる始末。

流石にタフなヤツは起き上がって応戦してくるが、其処は残りの3人がフォローすれば済む。

う~ん、まだレベル36の俺だとレベル18のコイツにも勝てないような気がするんだが……

やっぱりレベルのみでは相手の力量は計り難い。ジュリア程のスペックの人間なら尚更だ。


「片付いたわね」

「ああ。それにしてもジュリアの動き……かなみと同じ位 早い気がするんだが?」

「うぐッ……で、でも彼女には無駄な動きが多いもの。だから私ほどじゃ無いわ!」

「ぶ~っ、かなみちゃん酷ぉ~い」

「はははっ。馬鹿にされたくなかったら、しっかりと訓練を受けるんだな」

「え~っ、でもレイラちゃんと訓練すると疲れるんだも~ん」

「だったらリックを推薦してやろう」

「そ、それじゃ死んじゃうよ~ッ!」

「違いない」

「ぶぅ……ランスちゃんの意地悪!」

「でもジュリアは強くなってから、最近は真面目に訓練はしてるみたいよ?」

「そうなのか?」

「う、うん。"お空"じゃ最初は何も出来なかったけど、今なら頑張る分 強くなれるし……」

「あぁ~」


今の話によると一応ジュリアにも、以前は親衛隊の"お荷物"だったって自覚は有ったみたいだな~。

現代で言えば働かない国の役人を税金で賄ってる様なモノだし、そう考えてみるとムカつく。

けど今や立派にリーザスの騎士として王の俺を守る為に戦っている。何とも良い話じゃないか。

……しかしリア。凡人だったジュリアをイラーピュに派遣したのはどうかと思うぞ? マジで。

しかも親友の彼女の処女をランスに捧げさせる為に。いや真面目に考えると頭痛がするので終了だ。


「でも頑張りすぎると疲れちゃうから、ジュリアは今のままで良いかなぁ~って」

「別に良いんじゃないか?」

「……えっ?」

「少なくとも今は十分に"仕事"をしてくれてる……そうだよな? かなみ・メルフェイス」

「えぇ、間違いないわ」

「とても頼もしいです」

「だから訓練の話は冗談だ。この調子で頼むぞ~?」

「……ッ……わ、分かった! ジュリアに任せといて~っ!」

「ん!? おいコラ、だからと言って勝手に先には……!!」


――――元気付けが旨くいったか再び階段に走り出したジュリアを追って俺も走って行った。


「仕方ないわね……(もう違和感を感じるのも疲れたわ)メルフェイス様、行きましょう?」

「……ッ……」

「メルフェイス様?」

「何でもありません。それよりも王様とジュリアを……」

「は、はい」

「……(あんなに小さなカラダの娘が頑張っているんだもの。私も保つようにしないと……)」




……




…………




……攻略3日目。ハイパービル85階。


「え~いっ! いっくぞぉ~!!」

『!?』


≪――――ブゥウンッ!!!!≫


「あ、あれえっ? ……わっ!」

『たこやキーック!!』


ハイパービルのモンスターに置いて強敵なのが"たこやき"。1メートル弱の小型モンスター。

何故か"バグ"と言う仮面ライダーっぽい姿に変身する事ができ、手痛い必殺技を放ってくるのだ。

本来 変身する前に片付けるべきだが、小さいのでジュリアの攻撃を避けて反撃してくる事がある。

実際ジュリアは火力は圧倒的だがタフな方ではなく、防御は体格&レベル相応の低さな上に、
盾防御のスキルを持ちながら盾を持って居ないので食らえばダメージは必至なのだが……


「何いきなり蹴ろうとしてる訳!?」


≪――――ガコォンッ!!!!≫


『!?』

「ランスちゃん!?」

「ハイスラァッ!!」

『オンドゥルーッ!!』


俺が素早く割り込んで盾で攻撃を防御する。……流石はメイン盾は格が違った!!

思わずブロントってしまったのは さて置き。弾き飛ばされた"たこやき"を聖剣の一刀で倒す俺。

……そう。実を言うと俺は今回リーザス聖盾を持って来ており、皆を守る役割を担っていた。

火力はジュリアとメルフェイスで足りており、撃ち漏らしは かなみが居れば大抵は大丈夫。

勿論 俺も火力に含まれるが適材適所を考えると、どちらかと言うと守りに入った方が良かった。

今みたいに幾ら かなみでもジュリアの攻撃を避けた敵に対する対処はし難いのは確定的に明らか。


「大丈夫か?」

「うん。有難うランスちゃん」

「流石ですね王様」

「それほどでもない」

「……(け、謙虚なランスとか……)」

「世色癌が勿体無いしな」

「もうランスちゃんったら素直じゃな~い!」


――――ふむ。昨日からジュリアが我侭に対するフォロー無しに士気が高い様な気がするぜ。


「とにかく油断は禁物だぞ? 世色癌で傷は癒えても食らえば痛いんだからな」

「分かってるよ~それよりも、今の御礼してあげるっ! んん~っ!」

「どわっ!? 殲滅の確認が済んでも無いのに抱き付いて来るんじゃない!!」

「はいはい。ちょっと見て来るから其処で待っててね?」




……




…………




……攻略4日目。ハイパービル115階。


「数が多いわね」

「だが"この程度"の質なら……メルフェイス!!」

「はいッ! ――――氷雪吹雪!!」


≪ビュオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫


ハイパービルの攻略が100階を越えた辺りでメルフェイスの中級広域 魔法が戦果を発揮する。

10階に一度は多くのモンスターが待ち構えている事が有るので、彼女が一掃してしまうのだ。

……かなみが曰く、メルフェイスの範囲魔法は往来の氷雪吹雪より一回りは威力が高いらしい。

考えてみれば連射してた氷の矢も殆どの敵を一撃で沈めていたので、今更 感が有るけどね~。


「残っているモンスターは居ないみたいね」

「流石はメルフェイスだ」

「ジュリアも魔法、使ってみたかったな~」

「……ッ……」


≪――――どっ≫


「えっ!? め、メルフェイス様ッ!」

「どうした!?」

「メルフェイスちゃん!?」

「…………」

「き、気絶してるみたいね」

「うおっ? 凄い汗じゃないかッ」

「もしかしてぇ、魔法でカラダの熱を~?」

「まさか其処まで……」

「とにかく今日は切り上げるぞ? かなみ、帰り木だ!」

「う、うんッ」




……




…………




……攻略5日目。レッドの街の宿屋・時刻は午前10時。


「……うっ……」

「おっ? 目が覚めたのか」

「!? お、王様……此処は……?」

「レッドの宿屋だ。急に倒れちまった時は驚いたぞ」

「す、すみません……足手纏いになる様な事を……」

「いや」

「本来 私が王様を守らなければいけない立場だと言うのに……」

「だから」

「いっそ私の事など置き去りにして頂いても……」

「待て待て待てッ! 幾ら何でもネガティブ過ぎるだろそれは!!」

「で、ですが私は……その……」

「事情は かなみから聞いた」(キリッ)

「!?」


勿論 最初から知っていたが、再度かなみにメルフェイスの"呪い"について聞き出している。

率直に言えば彼女は故郷を賊から守る為に禁断の秘薬を飲み、強大な魔力を身に付けたのだが、
薬の副作用で2ヶ月に一度は自分より強い男に抱かれなければ狂死してしまうのだ。

よってエクスが居ない今"この流れ"だと確実に俺が"強い男"の役割を担う事になるだろう。

正直こんなトップモデルみたいな長身の金髪美人を抱けると思うだけで股間が疼いてたまらない。

されど彼女にとっては冗談では無いだろうし、真面目な顔を必死で作って話を進める事にする。


「もう抱かれないで、どれ位になるんだ?」

「……ッ……1ヶ月以上になります」

「!? だったら余程 我慢してたって事になるんじゃないのか?」

「はい……時間としては手遅れで無いですが……王様に無礼な姿を見せる訳にはいきませんし……」

「今は?」

「目覚めたばかりな為か抑える事が出来ていますが……徐々に"別の私"が来て……くぅッ……」

「…………」


自分の体を抱きしめる様にして俯く、ネグリジェ姿で上半身を起こした状態のメルフェイス。

彼女の看護をした見当かなみは一週間の途中経過を伝えに、リーザスに戻っているのはさて置き。

メルフェイスは有る程度 抱かないと淫乱になるんだが、その状態の彼女は全くの"別人"になる。

彼女で有って彼女では無く、セックスを終えて人格が戻ると事を思い出しては死にたくなる程だ。

今までの戦いを振り返ってみると極めて真面目だった彼女を考えると、それも無理はないな……

だから王様である俺に淫乱な自分を見せまいと必死で"別の自分"を押さえ込んでいたんだねェ。

エクスが俺の元に彼女を置いた時点で隠しても無駄だと言うのに……あれっ? だったら何で……?


「だから王様ッ! ……こ、これ以上……私の事は気にしないで……」

「いやだから待てって!! なんでそうなんだよ!?」

「えっ?」

「すまない事を承知で言うが、今考えるとエクスは君が俺に抱かれる事を承知で寄越したんだろ?
 なのに何故 倒れるまで我慢してたんだ? ましてや、そんな大事なコトを今迄 隠してるなんて」

「そ、それはッ」

「だったら秘密 以前に俺は死んでも抱かれたくない程 威厳も実力も足りない男だったってのか?」

「――――!?」

「確かに君に"見分けられる"んだったら、それも仕方ないかもしれないけどなァ」

「そ、それは違いますッ!」

「じゃあ何で?」

「今までの戦いから……ランス様は王として……だ、男性としても素晴らしい方でした……
 常に私達の状態を気遣い……戦いでも身を挺して仲間を守り……助けられたのは私達です」

「……(あれ~? 何で評価高いの?)」

「そんな王様に……私の淫らな姿を見られるのが……耐えられなかったんです……」

「な、成る程。――――だったら遠慮は要らないワケか?」←後者は小声で

「はい?」

「いや何でもないぞ」

「はあ」

「それにしても……メルフェイスはアホだな」

「あ、アホ?」

「仲間を気遣い身を挺して守る。そう捉えられた俺が君を狂死させられるワケが無いだろうが!」

「!? じ、じゃあ王様……」

「俺は君の命を繋ぎ止める為に抱く。問題無いな?」

「……ッ……はい、有難う御座います……」

「礼なんて必要無いさ」

「――――でも」

「今度はなんだ?」

「い、いえ……何でも有りません……(情が移ってしまいそうで……怖いかもしれない……)」




……




…………




……2時間後。


「メイルフェイス、起きてるか~?」

「はい……起きています」

「カラダの方はどうだ?」

「もう何とも有りません。本当に有難う御座いました」

「だから礼は良いって。むしろ俺も溜まってたしな(……ランスの肉体の所為で)」

「ふふふっ、そうだったのですか」

「おっ? 何気に初めて笑ったのを見た気がする」

「!? ……こ、これも王様の御蔭だと思います」

「何故に」

「あんな気持ちで抱かれたのは……久しぶりでしたから」

「あんな気持ちって?」

「そ、それは言えませんッ」

「ちょっ」


メルフェイスのカラダは一度 果ててしまえば、それでカラダの疼きは止まってしまう様だった。

されど俺の興奮が全然 治まらなかったので、トコトン彼女の体を堪能してしまったのでした。

きっとランスの肉体だったからだと思うよ? うん。……んで今現在は裸で肌を重ねてたんだけど。

彼女の言葉に疑問を感じた直後、メルフェイスは背を向けてシーツに包(くる)まってしまった。

まぁ~笑顔が戻ったので有ればソレで良しとする事にしよう。ついでに強化も施されていれば完璧!


「とにかく、明日からもまた頑張りますからッ」

「期待してるぞ~? まぁ少し休む事にしようか」

「は、はい」

「そしたら街に出てるジュリアと合流して昼食ってトコだな~」

「……(エクス将軍……私は御命令の通り、この方に付いて行こうと思います……)」


そんなワケで幸いメルフェイスを抱け、こんな流れで4月の3週目が終わろうとしていた。

ハイパービルの攻略は順調だし……余裕を持ってリーザス城に戻る事が出来るだろう。

後の課題は此処でのレベルの底上げと、魔剣カオスの入手だ。後者が特に重要と成るなァ。


「(う~ん、一人で買い物してもつまんない。やっぱりランスちゃんと一緒が良いよ~)」


「(才能限界になったし、またランスに……でも今はメルフェイス様と……もうっ!!)」


――――ちなみに再会したジュリアと かなみは機嫌が悪そうだった。ランスの神経が羨ましいぜ!




●レベル●
ランス   :40/無限
かなみ   :40/40
メナド   :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:33/48
ジュリア  :22/38




●あとがき●
この駄作をサイトで紹介してくださった方が居たのが嬉しくて、また続きを書いてしまいました。



[12938] 鬼畜王じゃないランス5
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/01/13 18:24
鬼畜王じゃないランス5




=LP03年04月4週目=




……攻略6日目。レッドの街の宿屋・午後10時。

今俺はランス(自分)が借りている個室でリーザスから戻って来た かなみと向かい合っていた。

ちなみに既に日が暮れているのは、只単に かなみが往復に相応の時間を費やして戻ったから。

されどメルフェイス&ジュリアと適当に街を散策した事で十二分な暇潰しは出来たので問題無い。

むしろ……"この世界"に順応していない俺に取っては幾ら時間が有っても足りないだろう。


「先ずはハンナの街だけど、喜んで合併に応じてくれたみたい」

「まあ500万ゴールドだしな」

「エクス将軍が交渉に向かったのも大きかったわね」

「違いない」


――――ゲームでもエクスやマリスに任せて置けば良いモノを、自分が行くのはランスらしいぜ。


「ハンナの天才軍師に関しては指示通りノータッチらしいわ」

「分かった(……そもそもランスが行かないと意味が無いからな)」

「じゃあ、次はレッドの事だけど」

「ああ」

「街の様子を見ても分かる通り、特に問題も無く合併が決まったそうよ」

「特に?」

「最初は"臨時徴収"の禁止を条件に出して来たみたいなんだけど、資金提供で流れたって聞いたわ」

「成る程な。他に何か有るか?」

「う~ん……しいて言えば……えっと」

「何だ?」

「リア様が御立腹だったわ」

「うげっ。何て言ってた?」

「"ダーリン絶対に許さな~いっ!"って伝えてと仰ってたわよ」

「全然 似てないな」

「う、五月蝿いわねッ。ともかくマリス様からの伝言だけど……」

「伝言?」

「"特にランス王の手に及ぶような自体には成っていません"との事よ」

「……そうか。良くやってくれてたみたいだなァ」

「でも2つの都市と同時に合併する事になったから、落ち着くまで2週間……
 今週 いっぱい迄は時間が掛かるみたい。初めての事だしリーザス城内は大忙しだったわ」

「とは言え、その合間にレッドの臨時徴収も同時に遣ってくれるんだよな?」

「えぇ。都市長 同意のモトに明日にも始めるみたいだから、この辺りも騒がしくなりそうね」


直接 俺が関わる事は無いイベントだが、ガンジーを仲間にする為に行う必要が有るのだ。

つまりジオ→レッド→ラジールと臨時徴収を行えば、いずれプアーの街で暴動が起こる。

されどシステム的な条件なので時間が経過すれば勝手に暴動は起きるのか? イマイチ分からん。

そもそもガンジー関連のイベントが起こるのは、もう少し先な気も今更になってして来たが……

他にもラジールと合併するに当たってレイリィ・芹香も捨て難いが細かい事は後で考えよう。


「はははっ。まさか"それ"を命令した王様が こんな安い宿に泊まってるとは思わんだろうな」

「ハァ……全くだわ」

「ともかく御疲れさん。明日からペースを上げるからジックリ休んでくれよ?」

「……ッ……」

「んっ? どうした?」

「ねぇ、ランス……それって、やっぱりレベルを上げるのが目的なの?」

「ハッキリ言うと、そうなるな。財宝も大事だが、一番 重要なのはレベルだ」

「それって、やっぱりシィルちゃんを助ける為?」

「あァ。ヘルマンで盗賊やってて分かったが、アソコには強い奴が多過ぎるからな」(嘘)


実際には近い内に見(まみ)える魔人に勝つ為だが、未来を知っている事を宣言するのは不味い。

幸いヘルマンにはミネバ・マーガレットやロレックス・ガドラスを筆頭に強い人間が多いので、
ソレをレベル上げの理由にしてみる事にする。実際 今の段階じゃ奴らにも勝てそうに無いし。

だから かなみに対する返答としては十分だったと思うんだけど、彼女の表情は何故か曇っていた。


「まぁ……ランスなら、この調子で更に強くなってゆくでしょうね」

「そりゃ~俺は(自称)最強だからな。少し真面目に頑張りゃヘルマンなんぞペッだ!」

「……で、でも……私は……」

「かなみ?(――――あッ!)」


……此処で俺は初めて彼女が"才能限界値"だった事に気付いてしまった!!

最初は42だった様な気がしたが、別にそんな事は無かったぜッ! 実際には40だったなァ。

考えてみればランス(俺)の豪語している事は人類に取っては有り得ない様な事なのだ。

才能限界値が40とRPGでは低く感じる かなみさえ、10万人に1人と言う希少な人間。

つまりコレは給料が月100万なのに、月給20万の奴に月200万欲しいと言ってる様モノ!

い、いかん。少々 迂闊だったかもしれない……彼女は十分 良くやってくれていると言うのにッ!


「……ッ……これ以上……強くなれないから……」

「なれないから?」

「もう今以上は、ランスの役には立てないのかな?」

「!? ず、随分と甲斐甲斐しい事を言ってくれるじゃないか」

「そうね……自分でも変だと思う。でも前にレベル神を呼び出してた時、凄く残念だったの」

「才能限界を告げられて……か?」

「うん。前ランスと戦った時は悔しさなんて微塵にもなかったのに、何でなんだろう?」

「だが……深く考えると後戻り出来なくなるぞ?」

「分かってる(……だって今のランスは、私の主君だから……)」


――――正直"こっち"で彼女は最も俺が好ましく思う存在。されどソレを口にする事は叶わない。


「それはそうと、いま何となく気が変わった」

「えっ?」

「今日は夜伽を命ずる。こっち来い、かなみ」

「う、うんッ」

「くんくん。ふ~む……流石に汗臭いか? だったら先に風呂に入った方が良いな」

「ど、何処 嗅いでんのよ!? それに、こんな時に デリカシーの無い事……ッ!」

「じゃあ早速 行くぞ~? 勿論 俺も一緒だからな?」

「それは良いけど……って、引っ張らないでよぉ~っ!」


――――そんなワケでランスの特性に縋って彼女を抱いた結果、不思議な事に限界才能が伸びた。




……




…………




……攻略9日目。ハイパービル201階。


「最上階に到着~っと」

「ふ~ん……他の階と同じで造りも大差無いわね」

「手強い魔物も待ち構えておらず安心しました」

「ねぇランスちゃ~んッ、宝箱が有ったよ~っ!」

「ちょっ……待て待て勝手に開けるな、絶対に開けるなよ!? かなみッ!」

「えぇ。任せて」


更に強くなった かなみ、まだまだ強くなるジュリア……そして体調を取り戻したメルフェイス。

彼女達のチカラの恩恵によりアレから3日で俺達はハイパービルの最上階へと到達してしまった。

勿論 俺もレベルが49に上がっており、当初と比べれば見違えるほど強くなった様な気がする。

かなみ程では無いが人間の"素早さ"の限界を既に越えており、100mを10秒切れるだろう。

パワーにもなれば相当なモンで、ランスアタックを使えば殆どのモンスターを一撃で倒せる程だ。

けど魔人が相手となると自惚れるワケにはいかない。どの道 一人じゃ絶対に勝てないんだから。

さて置き。ジュリアが見つけた宝箱の罠を かなみがチェックし、待つ事 数十秒で変化が起こる。


≪――――パカッ≫


「ざっと こんなものね……」

「かなみちゃん、すっご~い」

「これは……指輪ですか?」

「詳しくは"知恵の指輪"だな。名前の通り頭の回転でも速くなるんじゃないか?」

「知ってたの? ランス」

「偶然 知ってたダケだよ」

「まぁ、元冒険者だものね」

「そう言う事だ」

「それより終わったし早く帰ろぉ~っ? もう疲れちゃったよ~っ!」

「いくら竜角惨でも精神的な疲労は嵩張りますから……」

「同意。さっさと帰るか」

「帰り木ね? ちょっと待ってて」

「ああ」


――――そんな中、いつの間にか指輪を俺から奪っていたジュリアが当たり前の疑問を浮かべた。


「そう言えばランスちゃん」

「なんだ?」

「この指輪、誰にあげるのぉ?」

『!?』×2

「う~む」

『……ッ……』×2


≪じ~~~~っ≫


「いや、そんな目で見られても困るんだが」

「べッ……別に期待なんかしてないもん!」

「……(いけない……つい意識してしまった……)」

「やっぱり、リアちゃんなの~?」

「普通ならそれが妥当なんだろうが……今リーザスで一番 頭を使ってる奴に渡そうと思う」

「!? リーザスで一番……?」

「頭を……ですか?」

「えぇえ~、それダケじゃ誰だか分からないよ~っ」

「だったら帰ってからのオタノシミだな」

「ぶぅ……」

「(恐らくマリス様でしょうね)」×2


アホの娘であるジュリアは答えが分からない様だったが、かなみとメルフェイスは理解した様子。

"知恵の指輪"は本来 作戦成功率を上げる為のアイテムだけど、俺的に考えた別の利用方法が有る。

ソレはリーザスの大黒柱であるマリスに指輪を持たせる事で、内政効率のアップを図ると言う事だ。

聞いた話によるとリアの我侭により彼女の一日の睡眠時間は4時間を切ってるらしいからな……

本人は様々な健康アイテムの投与により全く苦になっていないらしいが、少しは楽して貰いたい。

ともかくハイパービルでのレベル上げは49で終了だ。コレで何とか成るとポジティブに考えよう。




……




…………




……翌日。4月4週目の現代の曜日で言えば金曜日で、時刻は正午あたり。

此処に来て一ヶ月程度が過ぎたが、考えれば思い出した内容には間違いも有った事に気付いた。

実はメナドは迷宮攻略でマイナス補正が有ったが、個人戦では関係無かった為 些細な事として。

魔人ラ・サイゼルがリーザス城に現れるのは"リーザスの反乱軍を鎮圧した翌週"なんだった!

つまり時期が定かではないので5月1週目に現れるかは分からず、悩みの種が増えてしまった。

ハッキリ分かっていればランス3でサテラを追い詰めたが如く迎え撃てるって言うのに……

まぁ、仕方ないので予算にモノを言わせて魔人が攻めて来る迄は臨戦態勢で待つしか無いか。


『おっほっほ。久し振りの外の空気~!』

「いきなり叫ぶな、変な目で見られるだろうがッ」

『しかし心の友。良くあの堅物 嬢ちゃんが封印を解いてくれたな?』

「そりゃ~普通に話したからな。かなみとメルフェイスの説得も大きい」

「だ、だってランスは……(シィルちゃんを本気で助けたいみたいだし……)」

「王様は彼女の言う様な方では有りませんから」


さてリーザスへの出発を控えた今日、その前に俺はレッドの教会に赴き重要なイベントを済ませた。

お察しの通り"魔剣カオス"の入手であり、面倒だと思ったセルさん(前髪有)の説得も旨くいった。

今迄のランスの価値観を持っている彼女に対し、意外にも かなみとメルフェイスが活躍したのだ。

簡単に言えば"今のランスは そんな奴じゃないから渡して下さい"と御願いしてくれたのである。

コレは俺が下手な芝居でジークの様な台詞を言うより余程 効果が有り、セルさんは折れてくれた。

……余談だがジュリアは一緒に説得させても ややこしくなりそうなので、うし車で寝させている。


「ともかく素直に渡してくれて良かったよ」

「1時間も掛かっちゃったけどね」

「……それ程この魔剣は危険なモノだったのでしょう」

『それと儂的には心の友の変わり様にもビックリなんですけど?』

「お前を握っても何とも無かったし根本は同じって事にしてくれると助かる」

「……(つまり今迄のランスは死ぬほど自分勝手だったけど、根は優しかったって事?)」

『……ッ……』

「な、何か?」

『ね ね。とりあえず、この金髪の姉ちゃんの味見して良い?』

「駄目」

『えぇ~っ? 別に良いじゃん』

「何故ならメルフェイスは、俺様の……女だからな」←言ってて恥ずかしい

「!?(……お、王様……)」

「だから許可無く手を出したら"うし車"で引き摺ってリーザスまで連れてくぞ」

『そ、それは勘弁~ぐすん』


――――"こう言う台詞"は性に合わないが、僅かでもランスらしさを出す為にも言わなければッ。


「えぇい剣なのに瞳をウルウルとさせるなッ。まァ楽しませてやるぞ? 今は王様だからな」

『何時の間に!? グヘヘヘ……だったら期待できそうだの~ッ』

「な、何だか以前のランスが1人増えた様な気がするわね……」

「……(以前の王様が"こんな性格"を? それ程シィルと言う人は彼を変えるに至った……?)」


こんな感じで10日に及ぶレッドでの冒険は無事に終了し、俺達はリーザス城を目指した。

その際 帰路の途中の街の遊郭で触手プレイをさせて欲しいとカオスが喧しかったモノの……

カオスを気に入ったジュリアに生贄として差し出し、違う意味で弄ばれる事で彼の夢は潰えた。




……




…………




……一方。




「うえぇえん、ダ~リ~ン。怒ってないから早く帰って来てよぉ~っ」




「(伝言を頼んだ後に後悔されるとは、不憫ながら可愛い……いえ可哀想なリア様)」




「あっ……お、王様の大切な壷……割っちゃったの……?」




「け、健太郎君、健太郎君~っ!」




「お気を確かに美樹殿ッ、リーザスに保護を頼めば……」




「……妹より優れていると言う事を証明して見せなさい、サイゼル」




「カミーラが五月蝿いし探すしかないか~。さあリトルプリンセスは何処ッ?」




「くッ……幾らリトルプリンセス様とは言え我侭が過ぎる!! 急ぐぞメガラスッ!」




「…………」




――――今後 数多くのイベントが待っている事への危機感は、あの時点での俺は欠落していた。




●レベル●
ランス   :49/無限
かなみ   :42/40(+2)
メナド   :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:42/48
ジュリア  :31/38




●あとがき●
連休にマブラヴSSの続きを書こう思った直後2度目の風邪。残った僅かな時間にコレを書きました。
しかしチラ裏なのにコレだけ多くの方が読んでくれているとはsYレにならんでしょ……感謝です。

追記:セルさんの登場をゴッソリ省略しましたが、続くなら以後同じ事が多くなりそうです。



[12938] 鬼畜王じゃないランス6
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/06/20 06:24
鬼畜王じゃないランス6




=LP03年05月1週目=




「あの」

「何だ? メルフェイス」

「帰って来て早々ですが王様、私はエクス将軍に今回の件について報告しに行きますので……」

「んっ? あァ。そうしてくれると手間が省けて助かるな」

「で、では……"この度"は本当に有難う御座いました」

「それは俺の台詞だって。伝達が済んだら ゆっくり休んでくれよ?」

「ふふふっ。畏まりました……それでは御機嫌よう」

「おッ、おう」


ランスが王になった事により若干 騒がしいリーザスに戻ると、仲間達との暫しの別れの時が来た。

先ずジュリアは買ったヌイグルミを部屋に詰め込む為に、馬車と城を往復し始めたので既に居ない。

んでメルフェイスは有る程度 謁見の間まで歩いた途中の分かれ道で、エクスと会う為に立ち去る。

……その時の彼女は美しい笑みを浮かべ優雅な仕草で礼をしたので、思わず見惚れてしまいました。

初めて出会った時の"暗さ"とは想像できないモノだった気がする。其処まで良い旅だったのかッ?

だとしたら俺も連れて行って良かったと思うが、いずれは彼女の呪いを祓ってやらねばならない。

そうなれば魔法レベル2と3の間くらいの魔力を持つメルフェイスの能力は惜しい気もするな……

あとカラダとかカラダとかカラダとかも勿体無いと思うが、其処は峠を幾つか越えてから考えよう。

さて置き。メルフェスと分かれて かなみを真横に更に歩き続けると、横から馴染みの声がする。


「……ランス」

「何だ?」

「そろそろ私も お暇させて貰うわ」

「悪いな」

「か、構わないわよ別に。立場を弁えてるダケだから」

「なら良いが……お前も しっかり休んで置けよ?」


これからリアと会うワケなんだが、かなみが傍に居るとアイツの機嫌が悪くなりそうだからだ。

冒頭かなみとリーザスに向かっていた時は彼女は直ぐに消えてしまったが、今は そんな事は無い。

つまり信頼関係を何とか構築 出来たワケなんだけど……下手に嫉妬フラグを立てられても困る。

だから彼女を無理に引き止める事 無く軽く労ってみると、かなみは一瞬ダケ目を丸くさせたが……


「……ッ……うん、ならメナドでも からかいに行って来ようかな」

「意外だな。かなみが からかう"側"だったのか?」

「酷いわね、私の方が大人なんだからッ」

「だけど歳は同じで身長は2センチ お前の方が低くなかったか?」

「そ、それは関係無いでしょ? ……って、何でランスが其処まで詳しいのよ!?」

「偶然だ。気にするな」

「下手な誤魔化し方ね」

「まァ確かに"大人"なのは間違い無いけどな。当然アッチの方向で」

「!? ち、違うわよッ! "お姉さん"って意味で!!」

「分かってる分かってる」

「……(でも私はランスの方が余程"大人っぽく"なった様な気するんだけど……)」

「んっ? どうした?」

「な、何でも無い……じゃあランス。また用が有ったら呼んでね? 3分以内には絶対に来るから」

「……何時も思うが、忍者って大変なんだな」

「そんな事 無いわ。JAPANの忍者は24時間 主君を護衛するのは当たり前よ?」

「でも一人で するには無理が有るだろ……常識的に考えて」

「ソレはそうだけど、一流の忍者は仮眠状態でも侵入者の気配があれば直ぐ目を覚ませるのよ。
 それに呼びかけに対し主君を待たせるのは持っての他……私は未熟だから3分って言ったけど……
 正直ランスに甘えてるって言って良い。リア様 達も私 相応の"遣い方"をしてくれてるダケなの」

「成る程。だが考えてみりゃ そもそも一流の忍者でも城内に侵入する事 自体 無理そうだしな」

「うん。だから私が実際 行える事は決して多くない……でも、最近はなんだか違う気がする……」

「何がだ?」


"此処"に来て初めて分かったがリーザスの警備体制は完璧。伊達に金持ちの国とは言われてない。

故にランスを暗殺する事が出来るゼスのコード・パッセンテーデとJAPANのくのいち しのぶ。

そして武将を殺せる月光は"エリート中のエリート"の忍者と言えるのだろう。くわばらくわばら。

だから かなみのリーザスの忍者としての働きはJAPANの忍びと比べると比較的少ないのだ。

ほぼ24時間ランスを監視する必要が有ると言えど、逆にソレさえ心掛けていれば何も問題は無い。

いや……それ以前に彼女は冒険中の報告では普通に傍を離れたし、冒頭でランスを拾った時は、
マリスの指示でヘルマンに不穏な様子が無いか調べに行っており主君に手が届かない位置に居た。

よって現在の彼女は"JAPANの忍者"とは違う別の意味での"忍者"なのだが、思う所 有る様子。


「偵察や工作ダケじゃなく主君と一緒に戦って……妾も兼ねる。JAPANじゃ絶対考えられない」

「だろうな」

「けど何だか凄く充実する様になった。リア様 直属の時は何時も本当の忍者に憧れてたけど……」

「……(思えば大儀に反した誘拐させたり暗殺させようと してたしなアイツ……)」

「仲間や友達も居る"こう言う忍者"って言うのも良いかなって思う。コレもランスの御蔭ね」

「はははッ。だったらリーザスの忍者はJAPANの連中が羨ましがる待遇にしてやるのも良いな」

「まだ良くなるの? コレでも意外と貰ってるのよ」

「懐が暖かい様には見えなかったが?」

「こ、故郷がありますから」


――――後から聞いた話によると微々たる仕送りはしているモノの資金を紛失する事も多いらしい。


「納得。でも帰りたいとは思わないのか?」

「うぅん……私はリーザスに忠誠を誓ってるから」

「じゃあ顔を出す気も無いと?」

「ソレは半人前を卒業してからね」

「そうか」

「……(でもランスの恩恵で思ったより早く風魔の連中を捌ける様になれるかも……)」

「ともかくだ。待たせてる奴も居るし、そろそろ謁見の間に……んっ?」

「……(仕送りを続けてれば許してくれるかもしれないけど、そうじゃない可能性も有るし……)」

「かなみ?」

「!? あッ……ご、ごめんなさい」

「いや全然 構わないが――――」

「ランスちゃんッ!!」

「きゃあっ!?」

「うおッ? 何だジュリアッ! いきなり出てくるな!!」

「えぇ~っ? ひっどいな~、普通に走って来たダケだよ~」

「ホントか?」

「へ~んだ。こんな場所で2人ダケの世界に入り込んで、いっけないんだ~!」

「ふ、ふたッ!?」

「……ッ……だったら謝るが……何の用だ?」

「そう言えばさ~"お別れの挨拶"を忘れてたから、御用も終わったし遣りに来たんだよ~っ」

「挨拶? ……って言うか優先順位はヌイグルミより低いのか」

「んじゃ~イクよ~? んン~っ♪」

「!?!?」


――――唐突に現れたジュリアは笑顔で俺に抱き付いて唇を奪い、真横の かなみが仰天した。


「にゃはははッ。それじゃ~ランスちゃん・かなみちゃん・カオスちゃん、まったね~っ!」

「あ、あァ」

「クッ……」

『(出来れば二度と関わりたくないんですけど? 儂)』

「……ったく大胆な奴だな」

「…………」

「かなみ?」

「ランス!」

「は、はい」

「……!!」


――――アホの不意打ちも束の間、今度は かなみに口付けされ俺は呆然と真っ赤な彼女を見る。


「……んなッ……かなみさん?」

「……っ……」

「あのなァ? ジュリアもアレだが誰かに見られたら、一体どうすん――――」

「だ、だだだだってランスが悪いんだもんっ!」


≪――――ッ≫


「!? コラッ! 其のタイミングで消えるのは反則だろうが!!」

『ふんッ。キスの1つや2つで騒いで どうする? むしろ得だと思うんですけど?』

「まァ そうだが……立場と言うモンが有ってだな」

『良いな~良いな~、儂も可愛い女の子と接吻したいな~、口無いんだけどね』

「なのに何故 喋れるのかと言うツッコミは無しにしといてやる」

『そうしてくれると有り難い。儂も分かんないし』

「それよか……不貞腐れるのも程々にしといてくれ。後で良い娘 紹介してやるから」

『マジで?』

「まぢで」

『どんな娘?』

「18歳のメイド。ちなみに金髪ロン毛」

『こ、心の友よおおおおぉぉぉぉッ!!!!』

「ついさっきまで絶交勧告されてた気がするんだが?」


100%定かではないが、既にウェンディ・クルミラーが"大魔王の壷"を割っている可能性が高い。

非常に可愛くて実際1万円は出せる壷だった故に惜しい気もするが、彼女のフラグには変えられん。

カオスのご機嫌取りにも必須となるので、割れて頂くしか無いのだ。ジークに取られても困るしな。

よってチラ見したダケでしかないウェンディに心の中で謝りながら俺は再度 謁見の間を目指した。




……




…………




「今帰ったぞ~? マリス」

「お帰りなさいませランス王」


……鬼畜王では極めて普通だが、常識的に考えて"王様"が冒険に出たりする事は有り得ない。

其の為か"お忍び"での冒険がリアにバレてしまうと、彼女は俺が出発する時&戻って来る時は、
派手に送って迎える気 満々な様子で困ったモンだった。相変わらずランスが絡むと発想が凄いぜ。

まァ1・2回ダケなら我慢出来たかもだが3回も4回もされるのは恥ずかしい……金も勿体無いし。

故にマリスに何とか止めて貰う事で、既に仕事を終えたサラリーマンが家に帰るノリで戻れている。


「首尾は どうだったんだ?」

「既にエクス将軍は戻られており、交渉を済ませたバレス将軍も間も無く戻られると思います」

「あァ……そう言えばレッドには結局バレス達が行く事になったんだったな」

「はい。加藤 副将と共に」

「最初は リックとメナドが行くと聞いてたんだが?」

「ですがメナド副将には途中で職務を投げ出されては困りますから」

「……ッ……迷宮的な意味でか……」

「先日の遠征では楽しまれた様子ですし、今回は"あの際"溜まった仕事を済ませて頂きました」

「納得。ともかく滞り無かったって事で良いんだな?」

「問題ありません。ではランス王の方は?」

「今回は"50"ってトコだな、大体 予定通りの戦果だったよ」


――――ハイパービル攻略後はLv49だったが、帰りの道中で雑魚を倒して50に上がったのだ。


「それはそれは……流石ですね」

「まァ"俺様"だからな」

「引き続き遠征は続けられる御つもりで?」

「勿論だ。何処に行くかはコレから考える事にする」

「候補などは?」

「落とす都市を含めて近いうちに指示するさ」

「畏まりました」

「ところでだが」

「何でしょう?」

「リアは何処に行ったんだ?」

「……ッ……それでしたら、其方に」

「ん~っ?」

「…………」


今回のLv上げを終えて帰還した直後から、如何に魔人サイゼルを倒すかと言う事ばかり考えてた。

よって次は何処を攻めるかは考えておらず、指示を仰ごうとしてたマリスには悪い事をしたかもな。

選択肢としてはロックアース・ラジールの街・Mランドなのだが何処も重要な中継都市なので迷う。

そうなれば後回しにするしか無いってワケで、誤魔化す意味合いも兼ねてリアを探したんだけども。

珍しく困った表情をしてるマリスの視線を辿ってみると……王座に隠れ俺の様子を窺うリアの姿が!


≪じ~~~~っ…………≫


「なんだ そんな所に居たのか」

「う、うん」

「(聞いた限りだと怒ってたハズだが……)何で隠れてたんだ?」

「えっと……その~ッ、うぅう……」

「(あらやだ、リア様 可愛い)」

「???? マリス。どうしたんだ? コイツ」

「恐らく"例の伝言"を、見当 かなみに仰られてから後悔された様です」

「成る程」


彼女と結婚して即位してから、正直リアの事を蔑ろにする事が多く何時もプンスカ怒らせていた。

勿論 一緒にデートした時は機嫌が四六時中 良かったが、流石に相手にし無さ過ぎたのだろうか?

今は何時ものテンションで怒鳴ってくるどころか、俺に嫌われているとまで考えてるのかもしれん。

そうなれば俺が即位した"目的"と言う事になっているシィルへの嫉妬にも繋がってしまうし……

ある意味 俺よかリーザスの運命を握っているマリスの機嫌を損ねても困るしフォローしなくては!

故に俺は思考を終わらせると、リアに近付くべく一歩踏み込むが……彼女は違う意味で捉えた様子。


≪――――ザッ≫


「ふえっ?」

「(……ヤバいな……改めて見てみると滅茶苦茶 可愛い……)」

「だ、ダーリン?」

「悪かったな」

「えぇっ!?」

「ヘルマンの奴等にカッとなっていてレベル上げに精を出し過ぎてた。今は反省している」

「……ッ……そ、そうだよそうだよ~っ! なァ~んで奥さんのリアの事を放って置いて、
 また勝手に冒険に行っちゃったの~っ!? どれだけリアが心配したか分かってるのォ!?」

「ソレが分かってるから、こうして謝ってるんだろ?」

「だったら早くセックスしてよ~ッ! エッチ エッチ エッチ~!!」

「何故そうなる!?」

「それ以前に此処は謁見の間ですので……」


先ずはリアを"何時もの調子"に戻し其のテンションを流しつつデートで機嫌を取ろうと思ったが……

相変わらず目の前の"一国の王女"は自重しない。以前 俺が言った事を覚えていないのだろうか?

されど こう見えて彼女は非常に頭が良くて、例えば記憶力とかは俺とは比べ物にならない程 有る。

既に矛盾しているのは さて置き。リアはランスが絡むと暴走すると言うのは間違い無さそうだな。


「それよりもゲームでもして遊ばないか?」

「げ~む?」

「真ッ昼間っからセックスはちょっとアレだしな」

「だったら夜なら良いの!?」

「考えて置く」

「だったら遊ぶぅ~っ! それでねッ? リアが勝ったらダーリンは何でも言う事を聞くの!!」

「それじゃ夜を待つ前にベット・インだろうがッ!」

「なら負けない様にすれば良いダケでしょ~♪」

「やれやれ……ともかくマリス、後は適当に任せた」

「畏まりました。ごゆっくり」

「……ッ……」

「ランス王?」


≪――――ゆっくりした結果がコレだよ!!!!≫


「……そう成らなきゃ良いんだけどなァ」

「???? 何言ってるの~? ダーリンッ」

「あッ……いや気にするな」


……こうして俺はリアの機嫌を取るべくゲームを楽しむ事にしたのだが、普通に感心してしまった。

興味本位で彼女の頭脳を試しようと思ったトコロ、何のゲームを行っても一度も勝てなかったのだ。

主にチェスから始まってオセロや将棋……そして原作でアールコートがランスと行っていた、
卓上の戦争シミュレーターも説明を聞きつつ行ったが不思議と勝てる気が全くしなかった有様。

されどリアに得意なのか聞いてみても数える程しか遊んだ事が無いと言い、自然に褒めるに至る。

しかし彼女は別に凄いとも何とも思っていない様で、自分と遊んでくれた事を素直に喜んでいた。

よってリアが非常に偏った教育を受けていた事は確定的であり、過剰すぎる故 迷惑な愛情表現も、
彼女は好きな人には"そうする"のが最も良いのだと思い込んでいるから……なのかもしれない。

う~む……我侭や妙な性癖が無ければ可愛げの有る最高の王女様なのだが、困った嫁を得たモノだ。

普通に美少女なので本来 寝るのは大歓迎の筈なんだが、俺も色々な意味で年を取っていたんだな。

まァ俺は彼女の旦那なんだし……何とか間違った価値観を修正し、もっと彼女を好きになりたいな。




……




…………




……魔人カミーラの部隊は早い話、原作ではエクスによる反乱を鎮圧した翌週に攻めてくる。

つまり何時 先鋒であるラ・サイゼルが来てもオカしくは無いので都市への侵攻は避ける事にした。

余りにも来なければバレスや副将の各々あたりに自由都市との攻略or交渉を任せても良いが、
そうなれば先日も挙げた"何処の都市"を攻略するか選ぶ必要が有るので、考え事が増えてしまう。

正直なところ……ソレだけ初っ端に魔人の数を減らすと言う事は、今後を考えると重要なのさ。

原作で有ればアッサリ迎撃を行ってたが、実際 手間はハンパ無くコストを見て唖然としたモノだ。

よって魔人に対する"備え"を怪しまれない程度で行う事で今後の世界制覇を楽にさせる必要が有る。

そうなれば原作に順ずる指示は資金のみを狙った臨時徴収ダケで、俺はリーザスに留まるのだが……


「やってくれましたね、ウェンディさん……よく私の楽しみを見事に打ち砕いてくれました」

「……ッ……」

「大魔王の壷が見当たりませんね……貴女が割ったんでしょう?」

「!? は、はい……申し訳 御座いませんッ!」(土下座)

「……どうやったのかは知りませんが、これはちょっと意外でしたよ……」

「本当にすみませんッ! 私の不注意だったんです!!」

「それにしても」≪ギロッ≫

「ひっ!?」

「……あと少しでリーザスに戻ると言う所で壷が石の残骸になってしまうとは……
 ウェンディさんには残念でしたが、私はもっとでしょうか……?」(#^ω^)ピキピキ

「あぅうッ」

「……初めて ですよ……この私を此処までコケにした お馬鹿メイドさんは……
 まさか こんな結果になろうとは思いませんでした……クッ……ゆ、許さん……
 絶対に許さんぞ!? 駄メイドがッ! ジワジワと弄り犯しにしてくれるわ!!」

「!?!?」

「一滴たりとも(皇帝液を)残さんぞ覚悟しろッ!」

「そ、それで王様の怒りが少しでも治まるので有れば……どうか私に気の済むまで折檻を……」

「……(やっぱり何処か嬉しそうだなコイツ)」

「王様?」

「んっ? あァ……折檻ね? ならばオマエに相応しい折檻を くれてやろうではないかッ」

「……っ……嗚呼……お慈悲を心より感謝 致します」

「それじゃあ、行けッ! カオス!!」

『うほほほほっ! 待ってましたァ~~!!』

「き、きゃああああぁぁぁぁッ!? 何ですかコレええええぇぇぇぇ!!!!」

「それじゃあ俺は行くから、コイツが満足するまで耐えるんだぞ?」

『(これ程の生娘を好きにして良いとは、やっぱり心の友に付いて来て正解だったわい!)』


只 襲撃を待つダケなのもアレなので、先ずは顔を青くしていたウェンディに"折檻"してみた。

しかし犯す気には どうもならないので前述の様に欲求不満のカオスに襲わせてご機嫌を取る。

またウェンディも憧れの虐待メイドに成れたと言う事で、触手プレイ終了後も足取りが軽かった。


「おい、マリス……聞きたい事が有るんだが」

「何でしょうか?」

「親衛隊の維持費だが、他の軍と比べて いかんせん高すぎないか?」

「ソレについては否定できません。親衛隊は全ての兵が選りすぐりの女性で編成されている、
 リーザスの伝統的な部隊となっていますから、どうしてもコストが嵩んでしまうのです」

「でも純金交じりの武器や防具は別に必要無いだろ……あと何だ? この"お菓子代"って。
 コレは絶対にジュリアが絡んでないか? まァ菓子は安いし構わないが、前者に意味は?」

「特に有りません。リア様も自分の直属なので、どうせ遣るなら色々 派手にと仰られたので……」

「ならカットしてくれ。他にも不満が上がらず能率にも支障が無いムダが有ったら省けよ?」

「畏まりました」

「あと黒の軍の副将についてだが」

「加藤殿の事ですか?」

「今度 娘をナメた事に使ったら副将を辞職させるぞとでも言って置け」

「……ッ……(何時の間に"その事"を……)」

「まァ必要最低限の仕事は出来てるみたいだからな……今は病院の建設に一部 携わってる様だし」

「はい。工作などに置いての任務は手堅く行える方ですが、戦に置いての実力は皆無です。
 その溝をネマワシで埋めてゆく事で、遂には今の地位を得られたと言っても良いでしょう」

「別に解雇しても良いんだけどな」

「ランス王が指示なされるので有らば」

「いや、別に良いさ。巧く活かす事を考えてくれ」

「分かりました」


加藤はリーザスの中じゃ最低レベルの将軍だが、"あっち"には彼 以上の屑がワンサカ居るのだ。

だから……ランスは問答無用でバレスに奴を追放させたが、俺は其処までする必要は無いと思った。

流石にゼスの差別は酷いモノだが、リーザスの上の人間の殆どは"あっち"の政治家たちと違って、
国に対する想いのレベルが圧倒的に違う……ソレはリックやバレスを見れば一目瞭然だろう。

されど俺みたいな甘い考えの人間がトップに増えてくると国が荒んで行ってしまうのかもしれない。

だから加藤の言って治るレベルならともかく、無視できない不正は容赦無く捌いた方が良いかもね。

ちなみに今の件の指摘を受け加藤は後に俺に直接 謝りに来て、すずめからも感謝の言葉を貰った。


「それとマリス」

「はい?」

「お前に渡したいモノが有る」

「これは指輪……ですか?」

「正確には"知恵の指輪"だ」

「何故 私にコレを?」

「なんとなく分かるだろ?」

「しかしリア様に渡された方が……」

「更に頭が良くなったリアが どうなるかも気になるが、マリスが持った方が効果的だ」

「されど指輪なので目に留まってしまいます」

「口裏は合わせるから誤魔化し方を考えて置いてくれ」

「……仕方ありませんね」

「だから一日6時間は寝る様にしろよ?」

「そ、その目的の為の指輪だったのですか?」

「それとリアの遊び相手は俺ダケじゃ限度が有るからな」

「(この指輪で時間が浮けばリア様と遊べる!?)……そう言う事ならば喜んで受け取りましょう」

「おう。仕事のペースは何時もと同じで良いからな?(今の時点で俺だったら過労死するし)」

「はい、お気遣い有難う御座います……それでは」


またハイパービルで入手した"知恵の指輪"をマリスに託す。謙遜を見てリアの名前で余裕でした。

コレが良い方向に転ぶのを期待だ。元々作戦成功率を上げるモノなので過度にはしないけどな。

ともかく……そんな感じで幾つかのイベントを消化した後は かなみやメナド・そしてジュリアと、
城下町に出掛けたりする他、城内ではハウレーンやメルフェイスと茶を飲みリアとは遊んだりする。

またリックやメナドと剣の稽古をする等もして5月の一週目が終わろうとした時……遂に敵が動く!




……




…………




……タイミング良く謁見の間に居た時、一人のリーザス正規兵が駆け込んで来る。


「ら、ランス王~~!!」

「騒々しいですね。どうかしましたか?」

「唐突に中規模の魔物の部隊が集結し、リーザス城を目指して進軍中との事ですッ!」

「え、えぇ~っ!?」

「具体的には どれ程の規模なのです?」

「2部隊編成で構成された軍団が2つで、数は合計 約2000前後であります!!」

「如何なされますか? ランス王。このままではリーザス城を占領されてしまいます」

「そうだな……白の軍と青の軍を それぞれの迎撃に向かわせろ」

「では直ちにその様に」

「ははっ! それでは失礼致しますッ!」

「ダーリン……これって どう言う事なのぉ?」

「俺様が知る訳 無いだろ」

「妙ですね。何故 魔物達が統率されているのでしょう?」

「まァ率いる事が出来てても、たった2000匹の力押しじゃ~リーザスはビクともしないがな」

「それは そうなのですが……何か意図が有りそうですね」

「間違い無いな」

「???? どう言う事~?」


どうやら間も無く、リトルプリンスを拉致するべく来た魔人との御対面になるのは間違い無いな。

ならば地上の魔物部隊は単なる陽動で……恐らく4体の魔物将軍が現地の魔物を召集したのだろう。

そんな魔物を相手にしているウチにカミーラ・サイゼル・レイが畳み掛けてきたら詰む気がするぞ。

だがサイゼルしか来ない事は知っているので、俺は一見 慌てる事も無く立ち上がると口を開いた。


「マリス、直ぐに以前リスト化して置いた面子を此処に集めろ」

「個人戦で優れた者達をですか? ……まさか……」

「かなみ」


≪――――っ≫


「お呼びでしょうか?」

「リアを安全な場所に連れて行け」

「御意」

「えぇっ? えっとダーリン……良く分からないけど気をつけてね~!?」

「大人しくしてるんだぞ?」

「うん!」

「では……ランス王。つまり魔物を嗾けた者は直接 此処を狙ってくると?」

「可能性は高いだろ? あんな大規模な"無意味な事"をするとは思えん」

「確かに そうですね(……凄い勘ね……やっぱり王としての才能が有るのかしら?)」

「だから時間が無いぞ? 急いでくれ」

「畏まりました。それでは親衛隊、2名ほど付いて来て下さい」

『はいっ!』

「貴女はレイラ隊長とジュリア隊員に大至急 此処に来る様に伝達。残った者は待機を」

『ははっ!』


マリスも俺と同じ事を考えていたのか、常に謁見の間に控えている親衛隊に指示を出すと席を外す。

余談だが此処に居る親衛隊達はリアの性格を理解しているので暴走しても問題ないのは さて置き。

"この場"には俺と3名の親衛隊の女性達が残されるが……良く見たら見覚えが有る人達でゴザル。

常に凛々しい雰囲気なので今迄 気付かなかったが、ランスがハーレムに呼んでた娘達じゃないか!

其の為か若干 股間がウズいたけど、気を取り直すと俺は玉座に座り直しダイナミック入城を待つ。


≪――――ガチャッ≫


「……っ……」

「(……嗚呼……ランス様、ランス様ッ)」

「(王として申し分 無い器なダケでなく強いだなんて……)」

「(私達は この命に代えても王様を御守り致します!!)」


此処は腕を組んで目を閉じる事で、瞑想でもしてないとピリピリと来ている緊張感に耐えられん。

何せレベル50で魔人を相手にするからな……仲間は十分に多いので何とか成るとは思うが……

ルドラサウム大陸 最強クラスの種族が相手なので必要 以上にビビるのも仕方ない事だと思う。

だが此処を凌いでも更に多くのイベントが有るし、挙句の果てにはケイブリスとの戦いも待ってる。

そう考えればワクワクする反面 恐ろしくも感じてしまうが、死なない程度に頑張る事にしよう。




……




…………




「あっ!? に、日光さん……魔物がリーザスのお城をッ!」




「美樹殿を捉える為には手段を選ばないと言う事ですか……」




「ちぇッ……面倒臭いな~。じゃあリーザスの王様に直接 聞いた方が早いかもねッ!!」




「くそっ! 間に合いそうも無いな……人間達が上手く凌ぐのを期待してやるしかないか……」




「…………」




――――そして待つ事 数十秒 状況に変化は無いが、腰に納めているカオスが喋りだす。




『それにしても心の友は勘が良いの~。だが気配からして来てるのは"魔人"の可能性が高いぞ?』

「ん~っ? まさか魔人だったとは意外だな。でも今は手段が有るし叩いて置くのも良いかもな」

『なら儂に任せて置け。とは言え……こう短い間で魔人を再び斬れる時が来るとは思わなかったが』

「そう言えばオマエを使っても、魔人を斬れるのは俺ダケなのか?」

『何だ~忘れたの? 儂が有れば無敵結界は普通に無効化できたでしょ?』

「……ッ……悪い……確か"そうだった"な。ともかく一気に畳み掛けてしまうに限るか」

『うむ。精々 儂に感謝しなさいよ?』

「それは無事 魔人を撃退 出来てから言って欲しいんですがねぇ?」




●レベル●
ランス   :50/無限
かなみ   :44/40(+4)←地味に一人でレベル上げをしています
リック   :40/70
メナド   :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:42/48
レイラ   :36/52
ジュリア  :31/38




●あとがき●
カオスや伏兵の事を何も知らずに入城する飛んで火に入るサイゼルの運命は確定的に明らか。
それよりも次に落とす都市は何処にしようか迷っています。やっぱりラジールですかねぇ?
MランドもJAPAN攻略には必要不可欠なのですが、ヘルマンを先にすれば放置でもOK。
ロックアースとアイスも放置で良いし、カスタムを考えるとやはりラジール→カスタムが妥当かも。
ちなみに当SSはマイナーなキャラを主人公と関わらせたいです。エレノアとかルーベランとか?



[12938] 鬼畜王じゃないランス7
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/06/20 14:56
鬼畜王じゃないランス7




=LP03年05月1週目=




「只今 参りましたッ! ランス王!!」

「お待たせ~っ!」

「んっ? 早かったな2人とも」


――――王座で待つ事 数分、レイラとジュリアが若干 慌てた様子で謁見の間に駆けて来た。


「えっと……魔物が侵攻して来たとの事ですが?」

「あァ。今 白の軍と青の軍が迎え撃ちに行った所だ」

「またヘルマンが絡んでるのかなぁ?」

「イラーピュの件から余り経ってないし、流石にソレは無いと思うけど……」

「カオスが言うには魔人が来るらしいぞ? ……なっ?」

『うむ。まだ遠いが間違い有るまいて』

「えぇっ!?」

「ま、魔人~っ!?」

「まァ 何が目的だか知らないが、強過ぎる奴が来ない事を祈るばかりだな」

「となると……魔剣カオスが有って本当に良かったですね……」

「魔人なんて予想外 過ぎるよ~ッ」

「怖気づいたか? ジュリア」

「!? そ、そう言う訳じゃ無いけど~」

「どんな相手であれ、少々 私達では荷が重いかもしれません」

「だが相手は油断してるだろうし、一気に畳み掛ければ何とかなるだろ」

「確かに"無敵属性"だからと言う事での油断を突けたら……」

「ひょっとして楽勝だったりする~?」

『そうそう。儂が有れば間違いなく余裕だから』

「……だと良いんだけどな」


カオスが魔人の気配を察してくれた御蔭で、レイラ&ジュリアにネタバレを話す事が出来ていた。

それに対してレイラは勿論ジュリアも驚いた素振りをしたが、2人とも思ったよりも動揺してない。

何せ前者は既に魔人との交戦経験があるし、後者は持ち前の能天気さから来るモノだろうが……

やはり正史の今のタイミングでは無かった"魔剣カオス"が手に有る事が最も大きいのは間違い無い。

また魔人ノス達と戦った"以前"とは違い更に万全な状態で戦える為、レイラは既に気を改めていた。

そして待つ事 更に数分……リックを初めとする個人戦に優れた人間達が集まり、全員が俺に跪く。

例外は皆を招集させたマリスだけで、内心 慣れない状況の為 焦っている王座の俺の横に佇んでる。


「こ、これで全員か……皆 良く集まってくれたな」

『――――はっ!』

「マリス。防衛に出た軍の状況は どうなっている?」

「先程 交戦を開始した様ですが、モンスターの質は大した事も無く優勢は間違い無いとの事です」

「そうか……だったら本題に入るが、間も無く"魔人"が此処に現れる可能性が極めて高いそうだ」

『!?!?』

「だが案ずる事は無いッ! この手には"魔剣カオス"が有るし、こうして万全の態勢を取っている」

『…………』

「故に魔人など恐れるに足らず。必ず撃退し勝利を掴むんだ!! 全てはリーザスの為にッ!」


――――そう俺が臭い台詞を言うと暫しの沈黙が訪れたが、外したかと焦った直後 静寂が止む。


『そう……そうだッ! 全てはリーザスの為に!!』

『魔人が何だって言うんだ!? リーザスは無敵だ!!』

『うおおおおぉぉぉぉっ!! やってやる、やってやるぞッ!?』

『リーザス万歳~ッ!! ランス王 万歳~!!』

「それでは全員 速やかに指示された配置に付いて下さい」

『――――はっ!』


……どうやら士気を高める事に成功した様で、召集された者達は周囲に散り身を潜める事になった。

迎え撃つ人数が多く見えると、サイゼルが面倒臭くなって真っ先に引く可能性が有る為だからだ。

原作でも強過ぎると言う慢心から此方の命に興味が無さそうだったし、露骨 過ぎると警戒される。

よって色々とアイテムや技術を駆使して部下達の気配を完全に殺した状態で魔人を待つのを考えた。

普通に隠れさせていても良かったんだけど、相手は魔人なので流石に感付かれてしまうだろうしな。

ちなみに召集された部下達は主にノスとの戦いを耐え抜いたリーザス正規兵(赤)が殆どであり……


「(まさかの魔人戦……でもランス君が王様なんだし、まだまだ"こんなモノ"じゃ済まないのかも)」

「(無事 敵を倒せたら、またランスちゃんにヌイグルミを買って貰お~っと♪)」


――――唯一 隠れない親衛隊の隊長レイラ・グレクニー&隊員のジュリア・リンダム。


「(相手が魔人であろうがキングを御守りする為……全力で叩き潰すのみッ)」

「(ぼくの剣が何処まで通用するか分からないけど、王様は絶対に守らなくちゃ!)」


――――魔人撃破に貢献する最有力の人材リック・アディスン&副将のメナド・シセイ。


「(生憎 魔人には魔法が効き難いと聞きますが、出来る限り御手伝い致します)」

「(こう言う時の為に頑張って来たんだもの……ランスだし大丈夫とは思うけど、役に立たないと)」


――――リーザス随一の魔力を誇るメルフェイス・プロムナードと、直属の忍者 見当 かなみ。


「マリス。お前は戦わなくて良いからな?」

「承知しております……それでは御武運を」


そしてリーザス王となってしまった俺+カオス。ちなみにマリスは才能限界値が高いが戦わない。

彼女に万が一の事が有ると色々な意味でリーザスがガタガタになる為、原作通り補佐に徹して貰う。

同じ様な意味でランスが死ねばリーザスは終わるだろうが、逆に彼が戦わなければ世界を救えない。

よって覚悟を決めつつ更に待つ事 数分。俺は全く感じないが、魔人に敏感なカオスが沈黙を破る!


『……来るな』

「ようやくか」


≪――――ガシャアアアアァァァァンッ!!!!≫


「クッ!?」

「うわわっ」


カオスの言葉を聞き俺が剣を鞘に収め、王座の左右に立つレイラ&ジュリアが身構えた直後。

予想通り謁見の間のガラスを破って"氷の魔人ラ・サイゼル"がダイナミック入城して来た!!

背に翼・薄紫の長髪に角を生やし、赤いネクタイが付いた紺のハイレグ姿でライフルを持っている。

加えて花の付いた帽子を被り、更にブーツ&ニーソックスを履いていてレベルの高いセンスだな。

そんな彼女に壊されたガラスは高そうな為、修理代に幾ら掛かるのかと心配になるのは さて置き。

サイゼルは飛び込んで来た勢いを謁見の間の中央で羽を駆使して止めると、此方に強い風が吹いた。

そして浮遊して静止した状態で此方を見下ろしているが、どう言う原理で浮いてるのかは謎だ。

しっかしコイツ……今 自分がした事を微塵にも悪いと思って無いんだろうな。ニヤついてるし。


「ふぅん、貴方がリーザスの王様?」

「その通りだが……ソレがどうした? 此処はオマエみたいな奴が来る場所じゃないぞ」

「随分と御挨拶ねェ」

「そりゃ こっちの台詞だ。誰なんだイキナリ現れて」

「あたし? あたしはラ・サイゼル。氷の魔人って呼ばれてるわ」

「ならばサイゼル。何か俺様に用が有るのか?」

「そうそう。リトルプリンセスの場所を教えなさい、隠してるとアンタ達の為に成らないわよ?」

「リトルプリンセス? ……何だ? それは」

「しらばっくれないでよ! リトルプリンセスが"この辺り"逃げ込んだ事は分かってるんだからッ」

「だったら魔物達を嗾けて来たのもオマエか?」

「さ~て、どうかしらねぇ? でも貴方が白状すれば消えるかもしれないわ」

「だが知らないモノは仕方無いだろ? それ以前に――――」

「何よ?」

「――――例え知っていても、オマエみたいな奴に喋ると思うか?」

「!? ふぅん……このラ・サイゼルもナメられたモンねェ」

「分かったら さっさと失せろ。だがガラス代は忘れるなよ?」

「……ッ……人間の分際で言ってくれるじゃない……」


今迄 人間に此処までコケにされた事など無かっただろう。今の一言で彼女の表情に笑みが消える。

そして"本気"にさせるべく追い討ちを掛けてみると、サイゼルは左手で帽子の位置を無言で直した。

直後。謁見の間 全体が寒気のする様な冷気で覆われ……ソレが彼女がマジになった合図だった!!


「こ、これは!?」

「さ……寒ぅ~い」

「何のつもりだ? コレは」

「素直に白状すれば見逃してアゲるつもりだったけど、気が変わったわ。アンタは殺す」

「そりゃ随分と嫌われたモンだな」

「ふんっ、余裕なのも今ダケよ!! 食らえッ、スノー・レーザ!!」

「来ますッ!」

「ジュリア!」

「うんっ!!」


≪――――ビキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「なッ……効かないですって!?」

「レイラッ!」

「はああああぁぁぁぁッ!!!!」

「ふんっ! 鬱陶しいわね、埃になっちゃうでしょッ?」


サイゼルは未だに王座に背を預ける俺が気に食わないのか、銃口を向けると魔法を発射してくる!!

だが素早く割り込んだジュリアが魔法の掛かった盾で防御する事でスノー・レーザーは相殺された。

実は"スーパージュリア"は打たれ弱いが魔法には強く、サイゼルの魔力が7に対し10も有るのだ。

魔力が7とはメルフェイス・ガンジー・千鶴子と同レベルであり、決して低くは無い数値だが……

詠唱も無しに放ったサイゼルの魔法 程度で有れば、ジュリアは問題なく耐える事が出来るらしい。

されど手に持つ"クールゴーデス"による同名称の大魔法を撃たせると危険そうなのは間違い無い。

生憎 鬼畜王で使って来るかは本人に聞かんと分からんが……さっさと勝負を決めてしまうに限る。

今は見た目が弱そうなジュリアに魔法を防がれ若干 動揺したサイゼルにレイラが斬り掛かるが……

食らっても効果は無いのに避けるサイゼル。言葉からすると人間の攻撃は当たる事 自体 恥なのか?

対してレイラは、最初の攻撃を避けた事により やや浮いた魔人に跳躍して再び剣を振り下ろすが、
それも避けられてしまい、着地 硬直を狙って放たれたスノー・レーザーを転がる様にして避ける。


「くっ!?」

「へェ~、今のを避けるなんて中々……」

「覚悟ォ!!」

「えぇっ!?」


≪――――ガキッ!!≫


「……チッ」

「このっ! ビックリしたじゃない!!」


そんな体勢を整えるレイラを見下ろして呟く暇さえ与えず、唐突に かなみが天上から降って来る!

勿論 彼女の手には短剣……しかも炎属性の"太陽の剣"が握られており、正確に首筋を狙っていた。

されど命中しても無敵属性を貫けず、降下した勢いを活かしてサイゼルを着地させたダケだった。

ソレに驚きながらもサイゼルは かなみを左腕で捕らえ様としたが、素早く距離を取る事で逃れる。

よってサイゼルは確実に かなみを殺そうと、ライフルを両手で構える事で"死刑宣告"を行った。

……後から聞いた話だが彼女はライフルで標的をシッカリ狙う事により、誘導弾を撃てるそうだ。

元々 魔法は必中なんだけど、サイゼルはライフルを使って魔法を放つので若干 相場が違うらしい。


「(さ、寒気!? これは……寒さによるモノじゃない!!)」

「ターゲット・ロックオン。逃れられる~?」

「メナド!!」

「でやああああぁぁぁぁッ!!!!」

「!?!?」


≪――――ガコオオォォンッ!!!!≫


「(や、やっぱり効かないッ)」

「何よ また邪魔が……それよりも、どうやって隠れて……」

「うおおおおぉぉぉぉッ!!!!」

「がああああぁぁぁぁッ!!!!」


サイゼルが魔法を かなみに放とうとした時、潜んでいたメナドが現れサイゼルの腕を打つ!!

それを食らった魔人は武器を落とす事さえ しなかったが、攻撃を中断させるには十分だった模様。

しかしサイゼルにとっての問題は、かなみやメナドが潜んでいた事に気づけなかった事だろう。

されど間髪入れずに2名のリーザス正規兵(赤)が斬り掛かって来た為、彼女に考える暇を与えない。

だが魔人という自信から冷静さは欠いていないのか、2名の攻撃をヒラリと避けて地面に着地する。

そして周囲を見回すと残りの正規兵 達が姿を現したので、サイゼルはゲンナリとした表情をした。


「ちょっとちょっとォ、こんな歓迎を受けるなんて思ってもみなかったんだけど?」

「ふん。リーザスをナメて貰っちゃ困るって事だ」

「癪だけど言葉通りみたいね」

「だったら帰って貰っても良いんだぞ?」

「う~ん……流石に面倒臭くなって来たし、そうさせて貰おうかしら」

「"上司"には怒られる だろうけどな」

「……ッ……アンタってホント生意気な人間ね……何時か後悔させてやるわッ」

「いやいや、後悔するのはオマエだと思うぞ?」

「はぁ~?」

「"歓迎"はコレからが本番って事だッ!」

「(待っていました王様)……氷雪吹雪!!」


≪――――ビキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「んなっ!? まだ潜んで……ッ!」

「ようやくの出番だぞ!? カオス!!」

『やっとか。窮屈で堪らなかったわい』

「それよりも、相殺は?」

『もう済んだよ?』

「だったら……叩きのめしてやれッ! リック!!」

「オオオオォォォォッ!!!!」


此処でサイゼルを逃がす気はサラサラ無いので、未だ潜んでいたメルフェイスが氷属性魔法を放つ。

氷の魔人であるサイゼルには全く効果は見込めないだろうが、コレは彼女の動きを制限する為だ。

つまりサイゼルの両足がピンポイントに凍り付かされているのであり、此処が一番の勝負時である。

よって俺は やっと今のタイミングでカオスを抜刀すると、直ぐ様 魔剣は無敵結界を解いてくれた。

だとすればサイゼルがカオスの存在を知らない上に、数秒であれ氷魔法で拘束されている一瞬……

まさしく今が絶好の機会であり、潜んでいたリックが雄叫びを上げながらサイゼルに突撃した!!


「は、速い……コイツ人間!? でも あたしに剣なんて……」

「バイラ・ウェイッ!!!!」


≪――――ゴキッ!!!!≫


「ァがっ!?」

「ぬああぁぁッ!!!!」


≪――――ガコッ!! バキッ!! ドカッ!!≫


「痛い……痛い痛い痛い!! ど、どうしてよ!? あたしは魔人なのよッ!?」

「止め!!」

「くぅッ!」


≪――――ブウウゥゥンッ!!!!≫


「(避けられた!? 所詮 軽いダメージでしか無かったと言う事かッ?)」

「はぁ、はぁ、はぁッ」

「(流石は魔人だな……やはりキングの御力と武器でなければ……)」

「一体 何なの!? 何なのよアンタ達わああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

「ぬぅっ!?」

「よくも、よくもよくもよくもッ! 全員殺してやる!!!!」


今迄 攻撃を受けても"何時も通り"だった為か、リックの攻撃をサイゼルは受け止め様とした。

しかし必殺技"バイラ・ウェイ"は彼女の左腕を容易く弾き、次々と激しい連撃を打ち込まれる!!

それによりサイゼルは驚愕しながら叫び、既に拘束は解かれていた為か最後の一撃を回避する。

だが頭からはパイロードの攻撃を受けた事により血が流れ、カラダには幾つものアザが出来ていた。

されど致命傷には程遠いようで、リックの攻撃はサイゼルを逆上させたダケに過ぎなかった様だ。

生憎リックはレベル40だからな……50有れば更に威力が上がった だろうが今更 考えても遅い。

さて置き。サイゼルは怒りの形相でライフルによる魔法を乱射し、皆は何とかレーザーを回避する。

う~む。冷静さを失っているとは言え流石は氷の魔人……謁見の間の被害がハンパじゃ無いな既に。

コレが必中だったら大惨事なので本来なら瞬殺する所だが、俺は冷静にカオスを持ち直すと深呼吸。

そして彼女を無力化する箇所を しっかりを見定め、武器を構えて ゆっくり歩き距離を詰めて行く。

何故ならサイゼルのダメージは妹であるハウゼルに直結するので、殺してしまうワケにはいかない。

間違いがあれば彼女は"破壊神"になってしまうし、そうなれば今 倒す事は出来なさそうだからだ。


「ら、ランス王!! コレ以上は流石にッ!」

「何とかしてよランスちゃ~ん!!」

「分かってる」

『ならば小娘に灸を据えてやるとするか』

「最低1020歳以上の魔人を"小娘"とか……流石は1525歳だな」

『おんや、何時の間に其処まで儂の事を理解してた訳?』

「偶然だ」

『まぁ良いか~。そろそろ死人が出兼ねんしな』

「そう言う事。じゃあ……行くぞッ!?」

『合点~!!』


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


「サイゼル!!」

「!? リーザス王……アンタから死ねええぇぇッ!!!!」

「効くかよッ!」←痩せ我慢

「う、嘘っ!? それに"赤いの"よりも速ッ」


俺の突撃により、大暴れしていたサイゼルは此方に注意を向けスノー・レーザーを放って来る!!

しかし逆上している為か精度は かなり落ちており、俺は食らったモノの潜り抜ける事が出来た。

流石に鳥肌の立つ様な寒気とソレによる相応の痛みがカラダを襲ったけど、今の俺はレベル50。

サイゼルの才能限界値は120だが、レベル上げの甲斐も有って耐える事の出来る攻撃だった。

よってスピードを落とす事も無くサイゼルに接近した俺は、彼女の腹部にカオスを突き刺した!!


≪――――ガシュッ!!!!≫


「あぐっ!?」

『(何時 体験してもいい感触~)』

「(流石に良い気分じゃないな)」


……人間が"こんな一撃"を食らえば死ぬだろうが、ランスⅥでのサイゼルは生きてたから大丈夫。

されど大きなダメージを食らう事は間違い無い様で、カオスを引き抜くと彼女はライフルを落とす。

そして両手で魔剣によって出来た傷口を意味が無くも塞ぎながら、一歩一歩と後ずさってゆく。


「あッ……うあぁ……そ、そんな……」

「勝負有りか?」

『そうみたいね』

「……い、痛いよォ……助けて、ハウ……ゼル……」


≪――――どっ≫


「ま、魔人が倒れたの? ……って事は……」

「見りゃ分かるだろ? かなみ。俺達の勝ちだ」

「す、凄いよッ……やったね!! かなみちゃんッ!」


≪ウオオオオォォォォッ!!!!≫


「ハァ……あの"一瞬"は生きた心地が しなかったわ」

「でも良くやったぞ?」

「あ、ありがと」

「じゃあリアを連れて来い」

「!? ……分かりました」


≪――――ッ≫


「どうやら巧くいった様ですね。お疲れ様でしたランス王」

「なに。皆の御蔭さ」

「流石はキング……感服致しました。貴方の存在無しに魔人は倒せなかった」

「オマエも中々の攻撃だったぞ? リック」

「恐縮です」

「ではリック将軍。直ちに処理班を集めて惨状の処理を」

「はっ! 畏まりました!!」

「あっ、ぼくも行きますッ!」

「……王様……御無事で良かった……」

「メルフェイスもな」

「ではランス王。早速ですが」

「何だ?」


サイゼルが瞳に涙を溜めながら膝を付いて倒れ伏した事により、謁見の間は歓声に包まれた。

そして各々が言葉を交わし己の役割に動いてゆく中……俺がすべき事は一つ。サイゼルの処置だ。

……彼女は気絶しているダケなので、何時 目を覚まして逃げたり暴れたりするか分からない。

けど今後の物語を少しでも楽にする為にも、出来れば彼女とは友好的な関係を築いて置きたい。

こんな傷を負わせたのにアレだが、サイゼルが丸くなれば特にハウゼルが色々と救われるのだ。

一方。サイゼルを"どうにか"しなくては成らない事はマリスも分かってるようで、問い掛けて来た。


「この"氷の魔人"の処置は如何 致しましょう?」

「また暴れられたら困った事になりそうですね」

「ランスちゃん、殺しちゃわなくって良いの~?」

「おいおい物騒な事を言うなよ、ジュリア」

「え~っ? だって~ッ」

「ともかく治療をしてやれ。仲間になってくれたら儲けモノだ」

「えぇ!?(……ランス君……それは流石に……)」

「だが物騒なライフルは勿論 回収。それと暴れない様に厳重に拘束しとけよ?」

「畏まりました」

「マリス様!!」

「レイラ将軍、何か?」

「……うッ……いえ、何でも有りません」

「にゃははは、ま~ランスちゃんだし仕方無いよ~」


流石はマリスだな……トドメを刺さない時点で、俺が彼女を生かし今後に"活かす"事を察している。

対してレイラは自然と声を荒げてしまったが、王で有る俺が決めた事なので直ぐ考えを改めた模様。

ジュリアはジュリアで楽天的なので俺の判断を"まぁ良いか"程度にしか思って無いのかもしれない。


「ともかくコイツを病室にでも連れて行かないとな。いや……先ずは何かで拘束した方が良いか?」

「今の治療は止血に留め、後者にする方が宜しいかと」

「マリスが言うならそうしとくか」

「有難う御座います」

「……むッ……しかし随分と軽いなコイツ」

「そうなの~?」

「流石は32キロしか無いダケ有るな」

『だから何で そんなに詳しいんだ?』

「それは……"俺様"だぞ? 女の体重なんぞ、持ち上げれば分かる」

『成る程な』

「納得です」

「ランスちゃん、エッチだしね~」

「えぇい五月蝿いッ」




……




…………




=LP03年05月2週目=




リーザス城に魔人が侵入して来たという事実。ソレはリーザス全土に強い衝撃を齎(もたら)せた。

しかし その魔人を撃退 出来た事を聞くや否や、住民達は湧くに湧きリーザスの王を称えてくれる。

俺が行った事と言えば突っ込んで魔剣を刺したダケなんだが……将軍達も非常に評価してくれた。

特にリアやバレスのヨイショ振りには困ったけど、悪い気はしなかったので有り難く受け止めた。


「ではランス王。次の目的地は"ラジール"で宜しいのですか?」

「そうしてくれ。資金提供は1000万Gまで許可するから一週間で決めろよ?」

「ではエクス将軍の交渉に期待しましょう」

「うむ」

「続いて来水殿・小川殿・日光殿の件ですが……」

「負傷している"小川 健太郎"については手厚い看護を続けてやれ。んで3人揃えば改めて会う」

「分かりました」

「やれやれ、色々と面倒な事が増えたし迷宮に潜るのは少し御預けだな」


何とかリーザスを守り切った事により次に攻略する都市はラジール。続いてカスタムを考えている。

狙いは当然"魔想 志津香"達の雇用であり、今後の戦いを格段に有利にしてくれるのは確定的だ。

原作ならレイリィ・芹香の存在で一ヶ月足止めを食らったが、既に興味が無くなった為 問題無い。

また魔物を撃退したタイミングでリトルプリンセスである"来水 美樹"達が助けを求めて来たが……

追い返す理由も無いので当然 匿っており、健太郎は魔人戦で大きな戦力になってくれるだろう。

よって、健太郎が復活するのと同時に再び迷宮に潜ってレベル上げをするのが良いかも知れない。


「そ、それでは私はリア様と……」

「あァ。遊んで来て良いぞ? 思えば今回も仕事が早かったしな」

「えぇ~っ? リアはダーリンと遊びたいのに~」

「そう言うなよ。折角 オマエの為に時間を作ってくれたんだから」

「……リア様……私では駄目なのでしょうか?」

「!? そ、そんな事無いよッ! だったら行こっ?」

「有難う御座います」

「楽しんで来いよ~?」


それとマリスに渡した"知恵の指輪"は効果を発揮し、今みたく彼女はリアと謁見の間を出て行った。

でも"仕事を早くすればリアと遊べる"と言う事を忠実にマリスが実現させたダケなのかもしれない。

さて置き。親衛隊を除き謁見の間に残された俺は、今後の事を考えて王座で書物を読み漁っている。

何だかんだで知っているのは設定と未来ダケなので、細かい文化には理解が乏しすぎるからだ。

つまり子供が当たり前の様に知っている事を理解してないと困るので、暇な時は勉強してるのさ!


≪――――バサッ≫


「ちょっとランス~っ!」

「何だ? 今は取り込み中だ」

「そんな事より教えてよ。此処の問題が分からないの!」

「今度はクロスワードなんか遣ってるのか……どれどれ」


……そんな勉強中の俺だったが、空気を読まずにサイゼルが飛んで来て俺に助けを求めてくる。

細かい説明は省くけど、俺達に敗北した彼女は色々と有ってリーザスに留まる事を選んだ模様。

俺が説得したとも言い……最初は生意気で叶わなかったが、リアみたいなのが居るし既に慣れた。

とは言えリーザスに来てから僅か3日しか経っていないけど、飯も美味いし娯楽も多いしで、
魔人界と比べると断然 居心地が良いそうだ。一部の者は未だ五月蝿いが魔人の彼女は気にしない。


「あぁ~、成る程ね! こうなる訳か~ッ」

「そう言う事だ。じゃあ離れてくれ、顔が近いから……いやマジで」

「何よソレ~ッ。折角 遊びに来てあげたのに!」

「生憎 俺は王様なんですがねぇ?」

「……ふ~んだ……だったら良いもん、もう戻るから」

「…………」

「…………」(チラッ)

「やっぱり気が変わった。改めて今後の予定でも話す事にしないか?」

「!? そ、其処まで言うなら相手してアゲるわよ」

「アリガトウ」←棒読み

「じゃあ……先ずはハウゼルの事なんだけどね!? アンタが"どうしても"って聞かないから、
 仲直り"させてあげる"んだからシッカリ遣りなさいよッ? ソレが協力する条件なんだから!!」

「……ったく、小学生か? オマエは」


俺もサイゼルが魔人と言う事は気にしない為、軽くあしらってると彼女は立ち去る素振りを見せる。

だけど分かり易過ぎる仕草な為 引き止めてみると直ぐ様サイゼルは戻って来て、真横で膝を折る。

そして耳元で喚くので、何だか彼女を引き入れた事を後悔してしまった。やっぱ慣れてないのかな?

ちなみにサイゼルは腰に包帯を巻いており、魔力を制限する首輪を付けられた上ライフルは没収中。

そうなれば迂闊に暴れる事は出来ないし、例えカミーラの所に戻っても殺されるのがオチだそうだ。

しかしながら、サイゼルとは旨くやって行けそうな気がする。貴重な戦力なのも間違い無いだろう。


「だ……誰が小学生よ!! アンタって人間の分際でホントに生意気ねッ!」

「魔人の癖して人間に姉妹喧嘩を仲介して貰おうとするオマエに言われたく無いわ!!」

「うぐッ」

「そ、其処で泣くな其処で。飴をやるから……なッ?」

『何処の兄妹ですか? 君達』

「誰がキョウダイだ!!」×2


――――でも間も無くサテラ&メガラスが来るので、彼女の事を考えると何だか頭痛がして来た。




●レベル●
ランス   :51/無限
かなみ   :45/40(+5)
リック   :41/70
メナド   :37/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:43/48
レイラ   :37/52
ジュリア  :32/38
サイゼル  :87/120
(今回サイゼル戦に参加した者に全員レベル+1)




●あとがき●
……俺は不良だからよ? こんなに感想とPvを貰えれば続きを書くしサイゼルのキャラも壊す。
サイゼル可愛いよサイゼル。彼女が どうして仲間になってくれたかは、次回 以降で書く予定?



[12938] 鬼畜王じゃないランス8
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/09/03 02:55
鬼畜王じゃないランス8




=LP03年05月2週目=




――――リーザス城・謁見の間。


「ではキンケード。オマエが自分の仕事をちゃんと理解しているか、今後 見させて貰うぞ?」

「お、お言葉ですが……どの様な意味なので?」

「つまり貰った給料分は働いてくれって事だ。魔人も現れたし、くれぐれも無理するなよ?」

「!? そう言う事ならば喜んで勤めさせて頂きましょう」

「宜しく頼む」

「それではランス王。コレにて失礼させて頂きますが、今後とも私めを お見知り置きを!」

「あァ」

「(若輩だが思ったよりも話せる王だったな……どうやら私の"遣り方"を理解している様だ)」


今現在の俺はリーザス王としての"仕事"である、面会を求める者達との謁見を行っていた。

実際のランスが行っていたかは知らんが、マリスが王としての勤めだと言っていたので受諾。

よって午前と午後に2時間づつ機会を設け……つい先程は青の副将・キンケードと面会していた。

彼は表向きでは仕事をキッチリこなすが、上に気付かれない範囲で横着する事を考えてる奴だ。

勿論メナドが資金を横領した時みたく目立つ様な事はせず、小物と言える程度の範囲だろうが……

故に原作でキンケードが呟いていた様な事を言うと、彼は何処かしら安心した様に去って行った。

恐らく遠まわしに"適当に頑張れ"みたく言った事から、俺が"話せる相手"だと捉えてくれたのかな?

ともかく初めて会う相手には原作の知識を活かして、こんなカンジで第一印象を良くしていこう。


「ふぅ……マリス。これで全員か?」

「はい。お疲れ様でしたランス王」

「流石に4時間にもなるとアレだな」

「先日の魔人の一件で周囲の目が変わった様ですからね」

「そう考えればアイツの奇襲は都合が良かったな」

「抗えなかった事を考えるとゾッとしましたが」

「同意。だが旨くいった事を悪く考えても仕方ないだろ?」

「ソレもそうですね。失言でした」


さて置き。キンケードを最後に午前の謁見が終了したので、俺は傍に居るマリスに事実を確認した。

先程はAM・PMで2時間づつと述べたが、今日は土曜なので午前中に4時間 設けていたりする。

それ以前に城を空ける期間が長かったので、最近は長い時間 勤めないとダメだったとも言うが……

マリスの言う様やはり魔人を撃退できた事が大きく、手の平を返して面会を求める貴族達が増えた。

つまりキンケードは将軍なので別だが、最近その連中らとの謁見でスケジュールが埋まってたのさ。

されど謁見ダケでなく(俺自身の)鍛錬や、魔物に備えて どの軍を何処の街に配置するかと言う、
軍事関連 全般……また予算の流れ等についても興味が有ったので ちょくちょく口を挟んでおり、
加えてリアを始めとする人物との交流も有り、それなりに忙しい時を過ごして今に至っている。

されど土曜日の午後と日曜はマリスが意図的に俺のスケジュールを空けて置いて下さっているので、
やっと"仕事"から解放されたと言う意味合いを兼ねて、溜息を付きつつ俺は王座に背を預けた。

いや……コレから起こると思われる"厄介事"に対しての不安から来るモノとも言えるかも知れない。

またマリスが俺のスケジュールを調節してくれているにせよ、今後 何度も原作のイベント次第で、
キャンセルする事になってしまうと思うので、早くも申し訳ないと言う気持ちも含まれている。


「それよりラジールの件については どうなっている?」

「予定通りであれば、そろそろ白の軍が街に到着する頃ですね」

「だったら伝令待ちになるか……」

「ですが最近リーザスが好条件で自由都市を吸収していると言う"噂"が広まっている様ですし、
 ラジールの都市長が余程 愚かな場合を除いて、エクス将軍が旨く交渉なされるかと思います」

「その"噂"を広めたのはリーザスってか?」

「否定はしません」

「じゃあ、成功 前提で今後の予定を考えるとするかなァ」

「はい。ラジールと合併し白の軍を駐屯させて置けばカスタムとアイスの街への道が開けます。
 されど軍を帰還させるか否かの選択肢も有りますし、進路を変えMランドを目指す事も可能かと。
 また伝達に若干 遅れが出る可能性もありますが、将軍と副将の軍を分ける手段も有ります」

「ふむ」

「故に私達では判断しかねるので、ランス王の指示を仰げればと」

「マリスは どうするのが妥当だと思う?」

「今後ヘルマンや魔物との交戦を考え戦力の増強を図るのであれば、やはりカスタムが適所かと」

「やっぱりそうか」

「都市長の方の事を考えれば合併はともかく"彼女達"の雇用となると容易くは無いでしょうが……」

「だったら俺……様が出向く必要が有りそうだな」

「ランス王 自らですか? しかし――――」

「うむ。一部の奴にはトコトン嫌われてるし、逆効果の可能性も有る」

「とは言えランス王は以前カスタムを……それに彼女達とは以前も共に……」

「戦った"仲間"だからな。初対面になるエクスよりはマシな結果が出し易いだろ」

「それでは来週の頭には発たれますか?」

「気が早いな」

「善は急げと言いますから」

「立場的なモノも有るしな」

「そう言う事です」

「だが少し時間をくれ。魔王の事も有るしな」

「確かに外せませんね」


――――少なくとも魔人サテラが来るまではハウゼルの存在から此処を留守に出来ないのだ。


「まァ、伝令が来る迄に答えを出せなければエクス達にはラジールに留まって貰う様 言ってくれ」

「畏まりました」

「ハァ。軍は色々な箇所に展開させざるを得ない羽目になったし、皆が揃うのは先になりそうだな」

「私も今後 更に忙しくなる気が否めません」

「これも"リトルプリンセス"の存在の所為ってか……」

「一体 遥か西では何が起こっているのでしょう?」

「少なくともヘルマンやゼスを どうにかしないと考えるダケ無駄だと思うぞ」

「それもそうですね」


……此処で気付く人も居るだろうが、当然 原作と違い物事は一週間単位で進むワケでは無い。

例えば原作ではリーザス城から一瞬で軍を魔人領に移す事が出来たが、とんでもなく遠いので無理。

同じ意味でランスが一週間単位で世界を駆け回りイベントを消化する事も出来たが、勿論 不可能。

またターン終了後に敵が侵攻してきた際は好きな4部隊で迎え撃てたけど、無論 選択は限られる。

マリスと話していた内容の通り、今リーザス城が襲われてもエクス・ハウレーンの軍は不在なのだ。

よってリーザスの侵攻も軍を動かす事で初めて可能になるので、良く考えて指示を出す必要が有る。

多々やった同時攻略など有り得ない。よって他国と隣接する砦はしっかり守りを固めるのが定石だ。

故にソレだけでコルドバ・キンケード・加藤の軍を守りに使っている為、反乱が無くて助かったな。

それに敵の侵攻も同じ条件なので、ロードに頼っていた"あの頃"よりは余程 対策を立て易い筈だ。

んで極め付けは俺が"未来"を知っている事。その恩恵は計り知れないが油断は禁物……人間は脆い。

少なくともサイゼルの傷を今の自分が食らったら楽に死ねる自信が有る。更にレベルを上げねばな。

さて置き。今みたく魔人の名前が脳内に浮かんだ事から俺は話題を変える事にし、表情を改めた。


「ところでサイゼルに関しては大丈夫なんだよな?」

「はい。魔人の"正体"については公にしていませんので、彼女を知る者は城の人間のみです」

「今更だが相変わらず手際が良かったんだな」

「御命令ですから」

「あ~ッ、すまん……野暮な事を言った」

「お構いなく」


――――考えてみればリアの"無視作戦"に置いても、あっという間に全員に広めてたしな。


「それで当たり前の様に城外に出しちまってる事に関しては?」

「リーザスの城下の賑わいは大陸全体で見ても中々のモノですから多少 目立つ程度ですし、
 常にランス王も目付け役として同伴されておりますので特に問題は無いかと思われます」

「そうか(……思えば敵対心の無いハニーやらモンスターやら普通にウロウロしてるしな)」

「また城内ではサイゼル殿は与えられた部屋と謁見の間 以外の場所には殆ど行かれないので、
 兵士や文官に絡んだと言う話は聞きませんし、担当の給仕からも不満の声は出ておりません」

「ほほ~、だったら何一つ心配事は無いって事か?」

「いえ。只 問題が起きていないダケで有り、やはり魔人を城内に留めるのは皆 抵抗が有る様です」

「魔人どころか魔王が居るんだがな~」

「来水殿の姿を考えれば幾らでも誤魔化しは効きますが、サイゼル殿は御存知の通りですからね」

「ましてや敵としてリーザスを襲ってるから、逆に怖くて近付けないダケなのかもしれんな」

「そうですね……今はランス王の命と言う事から様子を見てくれているに過ぎないでしょう」


――――原作でのサテラとメガラスは"仲間"として来たから、容易く受け入れられたと言えるしな。


「だったら早いウチに警戒を解いて貰うべきか?」

「はい。共に戦って頂く時には、流石に公にも公表する必要が有りますから」

「んっ? それに関しては問題無いぞ」

「……ッ……理由を御聞きしても宜しいでしょうか?」

「サイゼルの様に魔王を狙う魔人も居れば、守ろうとする魔人も居るって事だ」

「では"その魔人"と共に仲間だと言う事を広めてしまえば……」

「世間的には何も問題無いだろ?」

「た、確かにそうですね(……でも、何時の話なのかしら?)」

「城内での蟠りについては、放って置いても自然と無くなるんじゃないか?」

「そうでしょうか?」

「何だカンダでアイツ。生意気で短気で魔人な事を除けば、単純で泣き虫で可愛いトコも有るしな」

「ふふっ……要は深く考えない方が良いと言う事ですね」

「そう言う事だ」

「ランス~ッ!」

「あら? 噂をすれば……」


此処でマリスとの会話の区切りがつきそうだった時、サイゼルが浮遊しながら謁見の間に来た。

キンケードが去った際、謁見時間 終了の数分前だったから……ひょっとして見計らってたのか?

まァどっちでも良いけど、彼女が現れた事から周囲の親衛隊達は警戒して……いなかったりする。

何かの合間にコイツ(サイゼル)が此処に やって来るのは、既に一週間近くも続いているのだから。

……と……そんな事を思っていると、サイゼルは"スィーッ"と此方に近付いてきて俺と接触する。


≪――――ボフッ≫


「おわッ!」

「ねェねェランス~。あたし お腹空いちゃったから、早くゴハン食べに行こうよ~ッ」

「いや飯ってオマエ……食事ならメイドが持って来てくれるって何度も言ってるだろ?」

「でもソレじゃ~好きなモノを選べないじゃないッ。だから あたしは街で食べたいの!」

「またかよ。結構 大変なんだぞ? オマエの好みに合う上にトイレや席が広い店探すの」

「だったら またジックリ探せば良いじゃない。それはソレで退屈しないし」

「ともかく離れてくれませんかねェ?」

「やだ」

「おいマリス、助けてくれ」

「それではランス王。私は職務が有りますので」

「聞けよ人の話ッ!」

「ホラ~ッ、アイツが来る前に早く行こうよ~?」


俺の腕に両手を絡めてくるサイゼル……少しの間に妙に懐かれてしまったが何故なんだろう?

思えば彼女を倒した後の事を振り返ってみると、目を覚ました直後は敵対心を剥き出しにしてた。

だが直ぐ俺がサイゼルが呟いた"ハウゼル"と言う存在について聞いてみると、案の定 妹と判明。

そんな"妹"に興味が出た素振りをして、どんな娘か聞いてみると……サイゼルの話は数時間に及ぶ。

ハウゼルが真面目で優秀で良い娘な為、いかに自分に風当たりが来て苦労しているかを飽きもせず。

よって知ってはいたが、マジでサイゼルは妹が気に入らないからケイブリス側に付いたのだと痛感。

恐らく彼女に取って魔王の身柄については二の次なんだろう。姉妹喧嘩も程々にして欲しいですね。

さて置き。サイゼルの長々とした単純な話が終わると、俺は呆れつつも考えていた台詞を告げた。


『――――でも、お前は そんな妹が好きなんだろ?』


ソレを聞いた氷の魔人は10分間 俯いたと思うと呟いたり頭を抱えたりした末、肯定するに至る。

カッとなって劣等感を抱いていたハウゼルと敵対してしまったが、素直に成れなかったダケらしい。

よって頭をクシャクシャとしつつ仲直りする事を促すと……嫌われてると思うから嫌だとヌカす。

その為 仕方なく"その時"が来れば仲介してやると根拠も無く言うと、踵を返して前向きに成った。


『そ、そそそそれって本当!? ならホトボリが冷めるまでリーザスに居てやっても良いわよ!!
 えっ? そんな簡単に決めて良いのかって……ダメに決まってんじゃないッ! 当たり前でしょ!?
 嫌だけどハウゼルの為に仕方無く居てアゲるのッ、だから戦いでも何でも命令しなさいよッ!』


何と言うツンデレ。正直ハウゼルの事を傾聴したダケで こうも楽に説得出来るとは予想外だった。

そんな訳で彼女はメイド付きの個室を与えられ、一応 武将となったワケだが……何故 懐かれた?

生活し易い様に色々と暇潰しの道具を届けてやったり気分転換に城下町に連れて行きはしたが……

フラグ(?)を立てた自覚が無いので困りモノだ。普通に可愛いレベルなので嬉しいのは否めないが。


『(……今迄……此処まで あたしの"話"を聞いてくれた奴ってコイツが始めてかもしれない……
 どいつもコイツも只の姉妹喧嘩だろって馬鹿にして……でもランスは真剣に耳を傾けてくれた)』


ともかく。ハッキリとした原因は謎なんだが、以上がサイゼルが俺を妙に慕う事となった経緯だ。

そんな彼女は未だに俺の腕を引っ張りながら外出を促して来ており、普通に力が強いので抗えない。

故に"今回"も仕方なく素直に彼女とのデートを楽しもうかな~? ……とか思う羽目になった矢先。


「(だからハウゼルの好みって あたしと殆ど合うし、男(王様)捕まえたって驚かせて やろっと!)」

「あぁ~~ーーッ!!!!」

「おっ?」

「げげッ」

「ま、また来てるの~!? 早くダーリンから離れなさいよォ!」

「いやリア君 違うんだ。コレは只 一緒に飯を――――」

「何よ五月蝿いわねェ~、こんなの早いモン勝ちでしょ~?」

「おまっ!?」

「何言ってるのよぉッ! そんな事 奥さんのリアが居るのに許される筈 無いじゃな~い!!」

「でもランスが良いなら話は別よねェ?」

「えっ? う~ん。理論的には そうなる気がするが……ってオマ」

「ホラホラッ! だったらアンタの出る幕は無いでしょ?」

「……(面白そうだから黙って置こう)」

「う、うぐぅうう~っ!! とにかく離れなさ――――うきゃんっ!?」


≪――――ビタンッ!≫


俺と同じく貴族 連中との関わり的な仕事を終わらせて来たと思われるリアが現れ大声を上げた。

ソレに対し俺は"あちゃ~"としか思わなかったが、サイゼルは見るからに鬱陶しそうな表情をする。

そんな魔人の挑発に乗って駆け出そうとしたリアだったが、ドレス姿なので僅かな段差でコケた。

だが旦那に対しての執着 故にか直ぐ立ち上がるとサイゼルに掴み掛かり、互いに口を伸ばし合う。

しかしながら。圧倒的な力の差が有るので、リアは必死だがサイゼルは状況を楽しんでいる様子だ。

……とは言え今回に関してはサイゼルに非があるので、軽くゲンコツでも くれてやるかと考える。


「おい2人とも。いい加減に仲良く……」

「ランス王」

「んおっ? どうしたマリス。仕事が有るんじゃなかったのか?」

「その筈でしたが、急遽"魔王"との面会を求める者達が参りまして」

「何だと? ……ッ……まさか!?」

『魔人だろうな』

「その通りです」

「!? そ、そんなーっ! また魔人なんて ど~するのよォダーリン!!」

「(ひょっとして、ホーネット派の誰かが……?)」

「こらカオスェ……お前 分かってた筈なのに何で言わなかったッ?」

『普通に空気を読んでたダケよ? 儂 気が利くし』

「自分で言うな!」

「どうされますか? ランス王」

「参ったな(……このタイミングで来るとは思わなかったぞ)」

『それ以前に もう来ている様だが?』

「!?!?」×4


≪――――ザッ≫


カオスの言葉に驚いて謁見の間の入り口に視線を移すと、3体の人型をした者達が姿を現す!!

一人目は少女の姿をしている赤い長髪の魔人・サテラ。元人間で多感症だと言う設定が印象深い。

二人目は魔人では無くサテラのガーディアンの"シーザー"で、軽く2メートル半は有りそうな巨体。

そして3人目は元ホルスの白い魔人・メガラス。四千歳を優に超え、体重は僅か28キロだった筈。

また世界最速の魔人と言われており……以上が、予定外とは言え俺が訪れるのを待っていた連中だ。

とは言えサテラとメガラスはともかくシーザーの威圧感が怖く、どう対応するか迷っていると……


「んっ? あッ……お前!! サイゼルじゃないかッ! 何で"こんな所"に居るんだ!?」

「え!? そ、それは~」

「リーザスに取り入ってリトルプリンセス様を浚うつもりか!? そうはさせないぞッ!」

「おいサテラ? 先ずは落ち着いて話を――――」

「サイゼル!! ランスは巧く騙せた様だけど、サテラの目は誤魔化せないからな!?」

「ち、ちょっと待ってよッ! あたしは もう、そんなつもりは……!!」

「アンタの所為で どれだけハウゼルが悲しんでるか……良いか? 其処を動くんじゃないぞ!」


先程からオロオロとしていたサイゼルに気付いたサテラが、唐突に彼女に向かって怒鳴り散らす!

対してサイゼルが縮こまっていると、サテラは険しい表情をしながらズンズンと距離を詰めてくる。

すると氷の魔人(笑)は俺の背中に隠れようと動きやがるので、仕方なく覚悟を決めて足を踏み出す。


≪――――コツッ≫


「その辺に しとけよ。それと久し振りだな」

「あ、あァ……久し振り……って違うだろッ! サテラの邪魔をするのか!? ランス!!」

「そうとも言うな」

「!? だったらリーザスの王とて容赦はしないぞッ」

「だが、その前にオマエは何か勘違いしてるぞ?」

「何だと?」

「実を言うと……コイツの目的はな? お前たちと"同じ"なんだ」

「なっ!?」

「妹とは喧嘩中だけど、やっぱケイブリスは気に入らないからリトルプリンセスの護衛をするとさ」

「……ッ……サイゼル。本当なのか?」

「ぅえ!? そ、そうそうッ。ハウゼルとはホトボリが冷めたら仲直りしてアゲようかなって」

「でもソレはサテラ達の仕事だ!! けどリトルプリンセス様には直ぐに戻って頂くッ!
 だからサイゼルは護衛なんかせず、早くホーネット様の所へ戻れば良いじゃないか!」

「そうはいかんな」

「ランス!?」

「生憎 魔人は貴重な戦力だ。リーザスの為にも易々 手放す訳にはいかん」

「クッ……サイゼルはソレで良いのか?」

「えっと、癪だけど仕方ないかなって。でも"こっち"の方が色々と面白いし食べ物も美味しいよ?」

「…………お前も城下で間食しなければ…………謁見の刻に間に合ったモノを…………」

「め、メガラス!?」

「なんだ そうだったのか? だったら"お互い様"じゃないか」

「うぐぐっ……そ、それよりも! サイゼルが居るならサテラ達の目的も分かっているだろう!?」

「勿論だ。おォ~いッ、かなみ!!」


≪――――っ≫


「何か御用でしょうか?」

「"来水 美樹"を大至急 此処に連れて来い」

「御意」


≪――――っ≫


「そう言う訳だから少し此処で待っていてくれ」

「仕方が無いな……」

「お待ちの間 何かメイドに飲み物でも持って来させましょう」

「勝手にしろッ」


――――ニコやかに告げて来るマリスの言葉に、サテラは不機嫌そうに腕を組んで距離を取る。


「(ら、ランス~……ありがとね?)」

「(良いって事よ。それよりもマリス)」

「(何でしょう?)」

「(コイツが此処を襲った事は、アイツらがサイゼルを仲間と認めるまで耳に入れさせるなよ?)」

「(ソレが賢明かもしれませんね)」

「(えぇ~ッ?)」

「(ちょっとリア、絶対に言わないでよ!? チクッたら王女だろうが氷付けだからねッ!)」

「(やれやれ。ガラスの修理が済んだ後で助かったな)」


コレから数分後 来水 美樹が現れると、サテラは当然の如く彼女を"リトルプリンセス様"と呼び、
一刻も早く自分と共にホーネットの元(魔人領)に帰って"魔王"になってくれる様に強気で促した。

対して当然 美樹が躊躇しているとサテラは、彼女が魔王に成る事を拒み逃げ続けている事で、
ドレだけ皆が苦労してるかを若干 興奮しつつアピールし出し、相手を涙目にさせてしまう。

……とは言え勝手に魔王として召喚された美樹も冗談ではなく、サテラの言葉を真っ向から否定。

ソレによりサテラが更にヒートアップすると思われた矢先。メガラスが仲介に入り美樹を説得する。

要はリトルプリンセス様 否"美樹様"が魔王に成る事を拒むので有れば"その意思"を尊重するので、
いつか気が変わって魔人領に戻って頂ける迄 不躾ながら護衛をさせて欲しいと切に申し出たのだ。

其処まで言われると流石に美樹は彼等を追い返せず、メガラスの言葉に首を縦に振るに至り、
今後 新たに2体の魔人がリトルプリンセスの護衛としてリーザスに留まる事に成ったのだった。

ちなみに以下の遣り取りは次の日 偶然 一人で廊下を歩いてた時サテラと鉢合わせた時の会話だ。


「ともかくサテラ。サイゼルとは仲良くしろよ?」

「言われなくても分かってる。昨日のサテラは少し苛立っていた みたいだ」

「まァ西の事を考えると早く連れ戻したい気持ちも察せるけどな」

「だけどアレはホーネット様の命に背いていた。反省しなければ」

「何だ思ったよりも素直なヤツだったんだな」

「き、貴様に測れる心など持っていないッ!」

『サテラ サマ、タオシマスカ?』

「何故そうなる……」

「止しなさいシーザー。サテラ達は喧嘩をしに来たワケじゃないんだ」

『ハイ。サテラ サマ』

「まァ早いうちに"カミーラ"とか言うヤツのアジトを叩いちまうに限るな」

「簡単に言うがランス……アイツは一筋縄でいく相手じゃないぞ?」

「百も承知だ。だから もっと鍛えないとな」

「ふん。精々ムダに足掻くが良いさ……それよりもランスッ」

「何だ?」

「今は美樹様の護衛をしてるけど、事が済めば必ずサテラが殺してやるからな!?」

「お前が俺様を殺るだと?」

「そうッ! サテラと強いガーディアンがだ!!」

「おォ、怖い怖い。だったら頑張って粘土コネとけよ?」


≪――――ぽんっ≫


「ひゃああああぁぁぁぁんっ!!!!」

「!? 逝った……だと?」

『キサマ、サテラ サマ ニ ナニヲスル!?』

「頭を撫でたダケですが何か?」

「……クッ……ふ、不意打ちとは卑怯だぞ……」

「そんな つもりは微塵にも無いが、ガーディアン云々よりソレを治した方が良いんじゃないか?」

「よ、余計な お世話だッ! 懲らしめろシーザー!!」

『ハイ。サテラ サマ』

「ちょっ!? さっきと言ってる事が違うじゃないかッ!」

「問答無用だ!!」

「だが断る」


≪――――パチンッ≫


「煙幕!!」

「GJかなみ……と言う訳で勝負は暫く お預けだサテラ!」

「なっ!? 巫山戯るなランスッ、逃げるなーっ!」




……




…………




=LP03年05月3週目=




サテラとメガラスが仲間として加入した次の週の冒頭。俺は予定通り午後の謁見を行っていた。

結局マリスに対して今週 頭にカスタムに行く件での決断は伝える事が出来ず、今に至っている。

さて置き考えるのは やはりサテラの事。原作は緑の軍を盾に戦っているが、ちょっと無理が有る。

だから もし戦うのであればサテラ&シーザーを俺一人で倒す必要が有り普通に勝てる気がしない。

レベル51じゃシーザーとのタイマンさえ厳しいと思うので、実はサテラと会話する時は怖かった。

別にサテラを抱く気は無いので戦う必要は無いんだが、信頼を得るのは勝つ事が最も近道だろう。

それに彼女のタッグを敗れない程度では、ケイブリス軍との戦いが厳しくのは間違い無い筈だしな。

よって2人の魔人が加入し次は健太郎の覚醒を待つ今、そろそろ次の冒険に出発する事を考えよう。

健太郎の復活を待ってからでも良いが、ソレが何時か定かでは無いので時間が勿体無いのである。

それで……次に攻略する迷宮としては、カスタムに隣接するデンジャラス・ホールが望ましいが、
最大5百匹の中尉ハニーの軍が出現する上に、50階にも及ぶ中級クラスのダンジョンなので、
ソレを目安に考えれば難易度が高そうな迷宮だ。駆け上がれたハイパービルよりも苦労するだろう。

そうなると頭数を揃えないと正直 短期攻略は難しい為、今迄は4人だったが後2~3人は欲しい。

其処で手に入る"幸福の指輪(経験値2倍)"も正直 喉から手が出る程 欲しい必須アイテムだし……

ならカスタムの娘達を旨く説得して仲間に入れればイケるか? でも迷宮は"もう一箇所"有ったな。

そんな事を考えつつ午前・午後 合わせて本日9人目となる貴族との謁見を終えつつ考えていると、
マリスが次の相手を招く前に人物の説明を行う。ちなみに今回もリアは職務の為 此処には居ない。


「お疲れ様でしたランス王。次の方の面会で本日は最後となります」

「ようやくだな。それで……今度は どんな相手だ?」

「報告によりますとリーザスの者では無く、身形からしてゼスの人間であると」

「ゼスって……あの魔法国家のゼスか?」

「はい」

「そりゃまた珍しいなァ」

「人数は3名。一人は大柄の男性で、残り2名は若い女性との事です」

「んなっ!?」

「キャンセルされますか? 衛兵によれば明らかに"何か"を隠している様子との話なので」

「い、いや……会おう」

「畏まりました。それでは御連れして下さい」

「ははっ!」


此処で考えても無かった展開が俺を待っていた! まだプアーの街で暴動が起きていないどころか、
ラジールで臨時徴収すら行っていないんだが……やはり原作とは色々と違う展開に成ってるな既に。

けど驚きはしたが願っても無いイベントなので、俺は期待をしつつ謁見に現れる者達を王座で待つ。

すると待つ事2~3分でマリスに指示された衛兵が、貴重な戦力となる魔法使い3名を連れて来た。

うち一人の大男は強烈な存在感を示しており……デザインはサイゼルと同様 鬼畜王に順ずる様子。

そう。身分を隠して世直しの旅をしているラグナロックアーク・スーパー・ガンジーの登場である。


≪ずぅんっ≫


「(あれがランス王……絶対的な存在とされる"魔人"を倒したと言う、人類を統べる救世主か)」

「(な、なんちゅうプレッシャーだ……こりゃ"あの時"のサイゼル以上だぞッ?)」


――――そんなゼス王+お供の仕官で、今後 更なる個人戦の充実を図る事が出来たのだった。




●レベル●
ランス   :51/無限
かなみ   :46/40(+6)
リック   :41/70
メナド   :37/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:43/48
レイラ   :37/52
ジュリア  :32/38
サテラ   :100/105
メガラス  :98/146
サイゼル  :87/120




●あとがき●
カスタム勢かと思ったか!? サテラだよッ! 次回はガンジーとの会話から始まる事になりそう。
スケさんカクさんは鬼畜王基準。スケさんは鬼畜王の彼女が2年経てばⅥの容姿になる気がします。
さてコレで次回どちらかがランスと共に迷宮に潜るフラグが立ちました。才能限界値が低いけど。
でもカクさんは どう考えてもランスに靡かないと思うのでスケさんかな……原作だと不幸ですし。



[12938] 鬼畜王じゃないランス9
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/08/31 02:01
鬼畜王じゃないランス9




=LP03年05月3週目=




――――ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー。


魔法国家"ゼス"の国王であり、やたら女性に慕われる最強クラス(最大レベル99)の魔法使いだ。

だが何故 王様なのに内政を放置して水戸黄門みたく旅をしてるのかを真っ先にツッコみたくなる。

確か世界を統べる救世主を探すのが本来の目的で、人助けは その"ついで"だった気がするが……

原作であれば特定の都市の臨時徴収の後、"プアーの街"でランス(俺)が暴動を武力で鎮圧する際、
ゴミが目に入った事が原因で流れた涙に対し古典的な勘違いをして仕官を望むに至った筈。

よってラジール吸収後に涙を流す練習でも行おうと考えていたんだが、コレは予想外の登場だな。

当然 良い意味でなんだが……出来るダケ原作どおりに進んで欲しかったなァと言う心境も有る。

とは言えサイゼルを既に引き込んでいるので今更と言ったカンジだな……深く考えるのは止そう。

そう一瞬の間で考えつつ王座に背を預けていると、ガンジー達は何時の間にか此方に跪いていた。


「先ずはランス王。多忙な中、我々に この様な機会を与えて頂き感謝 致しますぞ」

「なに……即位して間も無い王に他国から来て迄 会いたがる物好きに興味が湧いたダケだ」

「――――!?」

「(ウィチタッ)」


――――挨拶代わりに軽く皮肉ってやると、あからさまにウィチタ・スケートが表情を強張らせた。


「わっはっは、これは手厳しい。されど謙遜されるモノでも有りますまい?」

「謙遜?」

「ランス王が"魔人"を倒したという事実。少なからずゼスやヘルマンにも伝わっておりましょう」

「その"噂"を聞いて訪ねて来たにしては、いささか早い気がするが?」

「はッ。何故なら私どもは旅の最中で御座いまして……その際ランス王の噂が耳に入ったのです」

「成る程な。ならば謁見を求めた理由は?」

「その質問に答える前に、先ずは自己紹介させて頂きましょう。私の名はガンジーと申します」

「カオル・クインシー・神楽です。以後お見知り置きを~」

「ウィチタ・スケートですッ」

「ふむ」

「ランス王。我ら3名……微力ながら是非リーザスで働かせて頂ければと存じます」

「何だと?」

「まぁ……」


――――原作 通りなので俺は驚かないが、マリスは正体を僅かに察した段階 故にか瞳を見開く。


「このガンジー。世界の統一へと動き出すランス王の英断と、魔人を倒す武勇に感服した次第ッ。
 よって貴殿の理想を現実とする為、少しでも力を御貸し出来ればと思い仕官に伺ったのです」

「ほう」

「(ランス王……如何なされますか?)」

「(思いもしなかった展開になったな)」

「(はい。ですが特にガンジーという方……只者では有りませんね)」

「(そうだな)」

「(ならば?)」

「(決まりだ)」


――――こうマリスとボソボソと話している中、ウィチタに限っては先程から不満そうな様子だ。


「……(魔人を倒したという噂……本当かどうかも分からないのに、リーザスに仕えるなんて……)」

「ガンジーとか言ったな?」

「ははッ」

「唐突で面を食らったのは否めんが、オマエが"使える"男だと言う事は素人目でも一発で分かる。
 当然 付き人で有る2人もな……よって仕官を認める事にしよう。精一杯 働いて貰うからな?」

「有り難き幸せ」

「だが……う~む」


この段階でガンジー達が仲間になってくれるのは非常に助かる。正直 有り難いのは此方の台詞だ。

されどコレは俺にとって、早急に"一つの答え"を出さなければ成らない事も意味していたりする。

ソレが何かと言うと……ガンジーに今後リーザスで"どの様な役割を与えるのか"と言う事である。

つまり今後 迷宮に潜りLv上げを続ける俺の手助けをさせるか、将軍として部隊を率いらせるのか。

前者を担わせれば彼は限界値が99とトップクラスの才能を持っているので、大きな助けと成る筈。

しかし……後者で有れば貴重な魔法剣士 部隊を結成してくれる筈だから、軍事力の増強に繋がる。

欲を言えば両立して欲しいモノだが、以前のメナドやレイラの事を挙げれば将軍とは多忙なのだ。

それにガンジーは趣味で人助けもやってる様だからな……どちらか片方に絞らせるしか有るまい。

よって大魔法による個人戦の火力or必殺技を持つ魔法部隊の二択になるワケだが、どうするか?

……ちなみに一例として魔法隊長のメルフェイスは個人戦で採用してるので彼女の軍は解散した。

勿論 魔法兵達は無職にせず、直ぐアスカやゼス組みの部隊に取り込める様にはしているけどね。

さて置き。以上の理由で仕官を認めたというのに悩んでいると、ガンジーは跪いたまま口を開く。


「ランス王。何か至らぬ点でも御座いましたかな?」

「んっ? まぁ……そうとも言うかもな」

「なッ!?」

「(止めなさいウィチタ)」

「……ッ……」

「おっと。連れが誤解した様で謝罪するが、ガンジー」

「ははッ」

「オマエには個人の実力は勿論の事、部隊の一つや二つ統べるカリスマ性も感じている」

「それは恐縮ですな」

「其処で話は変わるが……俺は数人の部下と各地の迷宮に潜り、己を鍛える事を続けていてな」

「何とッ」

「ソレが先日 魔人を撃退できた理由と言っても過言じゃあ無い……だから悩んでるんだ」

「ふむ。つまり私を個人として使うか、若しくは将軍としてか迷って おられると?」

「察しの通りだ……っと、それ以前に其方に決めて貰った方が良いって話だったな」


――――何だか悩んでいたのがバカらしいな。自分自身の事はガンジー本人に決めさせよう。


「此方としてはランス王の意に従う所存ですか?」

「あのなァ、それだと話が進まないだろ?」

「(くっ……私はランス王にガンジー様が"個人"として使われるのは納得できないッ!)」

「わっはっはっ。いやはやドチラも魅力的な役割 故に私も悩んでいる次第でして」

「オマエもかよ……だったら……」

「ランス王!!」


≪――――ザッ≫


「スケさん?」

「ウィチタッ」

「んっ? ……君は確か……ウィチタ・スケートだったな?」

「はッ、ランス王。お悩みの様でしたら、是非 私に迷宮攻略の御手伝いをさせて下さい!」

「ほぉ」

「ガンジー様の実力には遠く及びませんが、私にも魔法……そして剣術の心得が有りますッ。
 また"忍"としての訓練も受けておりますので、微力ながらランス王の御役に立てるかと!」

「……どうなんだ?」

「ははッ。彼女の申す通りこのウィチタは、まだ若輩ながら既に様々な技能を修得しております。
 生憎 迷宮攻略の経験は浅いですが、ランス王の様な方に指導して頂ければ更に成長しましょう」

「買い被り過ぎだ。だが……良いのか? オマエの側近だろ?」

「問題有りませぬ。むしろランス王と共に歩む事で、どの様な影響を受けるのか楽しみな次第です」

「そ、そうか。だったら決まりか?」

「はッ。私は早速 心当たりの有る者達を集める事としましょう」

「なら後でマリスに遣いを送らせる。好きに指示して滞りなく部隊を編成してくれ……良いよな?」

「はい。直ぐに手配します」

「お気遣い感謝 致しますぞ」


此処で まさかのウィチタの立候補により、彼女が今後 迷宮に付いて来る事になってしまった。

先程からの仏頂面で分かっていたが、恐らく彼女はランス(俺)の事を信用していないのだろう。

逆にガンジーの事は大好きだから俺が彼を個人戦で利用する前に先手を打って来たって訳か……

コレも若干 予想外だが、ガンジーを将軍として使う事を選んだと思えば良い収穫と言えると思う。

されどウィチタ・スケートか……彼女はオッサン(俺もだが)の言う様に様々な技能を秘めている。

正直15歳でコレはチートだと思うのだが、才能限界値は35と思ったよりも高く無かった筈。

ソレでもゼスの4将軍よりも若干 低いか高いLvなのだが、魔人が相手だと心許ない数値である。

まァ原作通り忍者として動いて貰えれば問題無いし、今回の件は信頼を得る一環とすれば良いか。

そう考えるとランスみたく初っ端からカオルとウィチタを寄越せと言う強引さは必要なのかもな。


「ならばウィチタ。今後 宜しく頼むぞ?」

「はッ。御任せ下さい!」

「……(それが貴女の選択なのですね? ウィチタ)」

「ランス王。宜しければ"この者"も……カクさんも同行させますかな?」

「いや、其処まで欲張る気は無いさ」

「では"忍"として御使いされればと。彼女は柔術に置いても免許皆伝の腕を持っております故」

「ソレは中々 頼りになりそうだな。リーザスには密偵が不足しているので有り難い」

「そうですね」

「以後お見知り置きを~」


――――カオルの限界Lvは33しかないが、柔術は相手の体格次第でLvの概念を無視できそうだ。


「それではランス王」

「(切り上げろと言う事か?)……分かった。お前達は下がって良いぞ」

「ははッ。後ほど改めて御挨拶に伺いま――――むっ!?」

「どうした?」

「これは……間違い無く城内で助けを求める者の声ッ! ランス王、粗相の段 誠に失礼!!
 今は緊急時の為 平に御容赦を!! ではスケさん・カクさん……参りましょうぞッ!」

「はっ!」×2


≪ダダダダダダッ!!!!≫


「…………」

「…………」

「ランス王」

「なんだ?」

「大した事は起こっていないと思いますが、リーザス城内での人助けは中止にしましょうか?」

「任せとく」

「では暫く様子を見る事にします」

「妥当だな」


その後 メイドのウェンディが洗濯物を地面にバラ撒いた程度のアクシデントが起きたダケと判明。

しかし城外で"間違った常識"での人助けをされても迷惑なので城の中では許可する事にして置いた。

ともかくガンジーの魔法部隊と忍者のカオル……そして迷宮に付いて来るウィチタが加入する事に。

故に改めて今後の予定を練り直さなければ成らないな。全くもって此処の世界は飽きさせないぜ。


「ダーリーン!」

「ランス~っ!」

「あら、また……」

「やれやれだな」


――――そんな事を思うと、俺は駆けて来る&浮遊してくるリアとサイゼルを苦笑しながら迎えた。




……




…………




「う~む」


……5月3週目の半ばの深夜、リーザス城の一室……と言っても俺の部屋(王室)なワケだが。

虐待志望メイドのウィンディに"それらしく"尻叩きを済ませた後、俺は机に向かって唸っていた。

ソレは"大陸の人類について"であり、魔人との個人戦を切り抜けられる人間が何名 居るかだ。

勿論 今俺が経験している世界の仕様では、例えばランス6の様にアニスの大魔法を食らっても、
拠点に帰れば全快する様な甘い現実では無く"鬼畜王"の様に戦死すれば二度と復活はしない。

そうなればカミーラ・クラスの魔人と戦って生き残れるレベルは最低60以上と言ったトコロ。

何故なら現在レベル51の俺が未だに自分の強さに不満を感じているからであり、欲張りな話だ。

レベル30以上で一万人に一人。レベル40以上で10万人に一人の世界と考えれば尚更だろう。

だが今後の為にも仲間になる可能性が有り"個人戦で活躍できそうな人間"を挙げていってみた。

だがマリス・リック・ロレックス・アニス・アリオス・ガンジー・ミネバ・マハを除外すると……


○ヒューバード・リプトン(60)

○魔想 志津香(56~61)

○カフェ・アートフル(66)

○マジック・ザ・ガンジー(66~68)

○パットン・ミスナルジ(70)

○ナギ・ス・ラガール(70)

○シィル・プライン(80)

○アレックス・ヴァルス(80)

○小川 健太郎(100)


……Ⅴ以降を省くと人間では たったコレしか居らず、改めて考えると意地悪なバランス調整だ。

しかも全く苦労せずに仲間になりそうなのは小川 健太郎くらいだし、挑む相手は強大と痛感する。

だったら俺が一人で強くなって、打たれ強い魔人を引き入れて挑んだ方が良さそうなんだが……

ランスには特筆するべき能力が有った。ソレは女性を抱けば才能限界値を伸ばせると言う事ッ。

その恩恵を最も受けているのは"見当 かなみ"で有り、現在 彼女のレベルは46となっている。

けど先日も抱いた後、また近場に魔物を狩りに行くとか言ってたし更に伸びているかもしれん。

ソレにはレベル神のウィリスも驚いており、かなみのLvアップは店には行かせず彼女を呼んでいる。

そりゃ店で発覚すれば大騒ぎになりそうだからな……ちなみに今は俺と かなみ しか知らない。

さて置き。この特性を利用してしまえば、個人戦を非常に有利に出来るのは間違い無いだろう。

ランスは女性を抱く為の口実みたいにしか思っていなかったが、何てデタラメな能力なんだッ!

……とは言え俺は若い自覚は既に無いので肉体的には精力 有れどハーレムを作る気は無いが……

俺の能力を活かさなければ少ない犠牲で後半の戦いを効率良く進めて行く事は出来ないだろう。

だから其の意味でも悩んでおり、何度も抱くと成れば相手に多大な"信頼"を得なければ成らない。


『かなみッ』

『な、何?』

『単刀直入で言わせてくれ。俺は今後 何度もオマエを抱く事で更に強くなって貰いたいんだ』

『!?!?』

『修羅場を潜ってる お前なら分かると思うが、あのサイゼルですら魔人の中では弱い方だ。
 だから……中途半端な部下を最後まで連れて行く訳にはいかん。だから改めて言っている』

『それは命令?』

『そうなる』

『分かりました』


≪――――ザッ≫


『かなみ?』

『この見当 かなみ。生涯ランス王に忠誠を近い、守護を担う事を約束します』

『……有難う』

『礼など要りません』

『なら続けて命令だ。その言葉を聞ければ十分だから、何時も通りで頼む』

『……ッ……わ、分かりまし……分かったわ。最後まで付き合ってアゲるから感謝してよね?』

『感謝するから抱かせてくれ。最近は かなみの小さな胸に病み付きでなァ』

『こ、これでもまだ少しづつ大きくなってるんだからッ!』


即ち今の かなみの様に、ある意味 嫁で有るリアに近い若しくはソレ以上の関係を築く必要が有る。

勿論 彼女ダケでなく俺の気持ちも重要で、いずれはレベル百にする気で勧誘しなければ無意味だ。

だから其処まで考えねば"特性"についても話す訳にはいかず、自分の強引性の無さが本当に憎いぜ。

されど第2候補は決めており、その者とはメルフェイス。強いし美人だし性格も良いし申し分ない。

まだ"あの時"の1回しか抱いていないんだが……年甲斐も無く張り切ってしまった位だったしな。

しかし彼女には かなみの様な若干の"ランス嫌い"が無い代わりに、薬による副作用を患っている。

今更 説明する必要も無いが、2ヶ月間 自分より強い男に抱かれないと死んでしまうと言うモノだ。

だがソレにより彼女は更に強化されているので、メルフェイスには選んで貰わなければならない。

呪いを解いて部下の男性と結婚するか、暫くは俺に抱かれつつ強敵との死闘を繰り広げてゆくか。

当然 俺でさえ結婚が妥当だと思うが……前者を捨てる心意気でも無ければ戦いには生き残れない。

よってウィチタも加入したし今後の予定は変更。俺は"解呪の迷宮"を選択する事にしたのだった。




……




…………




=LP03年05月4週目=




リーザスに留まる事 更に数日。期待の小川 健太郎の意識は戻らず、結局 彼は諦める事にした。

回復して くれれば対面した上に迷宮攻略の"仲間"として同行させるつもりだったのだが……

"天才病院"の完成がマリスの采配で2週間 縮まったにせよ無いので意味がないのは余談として。

何時 目覚めるか分からない彼をコレ以上 待っていては時間が勿体無いので旅立つ事を決めた。

場所はハンナの街の南東に有る"解呪の迷宮"で連れて行くのは かなみ・メルフェイス・ウィチタ。

そして遠足気分で無理矢理 同行を望んで来たラ・サイゼルであり、今回は5名での攻略となる。

28階層の非常に広い迷宮らしいが、魔物の質は低く地図も9割方 揃っているので何とか成る筈。

しかも魔人で有るサイゼルも居るので楽勝と思われるが……意外な欠点が発覚してしまったッ!

何と俺がカオスを抜いて彼が"戦い"を意識すると、味方の魔人の無敵をも打ち消しちまうらしい。

そうなればサイゼルが攻撃を受けないorカオス以外の武器で戦う必要が出て来て、参ったモンだ。

しかし元々タフなサイゼルに甘え、色々と波乱も起こったが結局カオスだけ持って行く事にした。

生憎 今の面子で"リーザス聖剣"を扱える者は居ないからな……ウィチタは別の意味で託せないが。


「そう言えばガンジー」

「何ですかな?」

「お前のフルネームは何て言うんだ?」

「……ッ……」

「でもダーリン。ダーリンのフルネームだって無いよ~?」

「だったら今はランス・パラパラ・リーザスで良いんじゃないか?」

「あッ、それもそうだね!」

「それで……どうなんだ?」

「わっはっは。確かに私とした事が忘れていましたな」

「(白々しいヤツめ。だけど少し意地悪だったか?)」

「ならばランフビット。今はガンジー・ランフビットとでも名乗って置く事としましょう」

「なん……だと?」

「何か?」

「!? い、いや……ところでオマエの嫁さんは健在なのか?」

「生憎 最愛の妻は既に他界しております」

「そうか。すまん、悪い事を聞いたな」

「御気になされずとも」


――――そんな中、鬼畜王ランスのガンジーの嫁は意外にも"Ⅴの彼女"だったと判明したり。


「ランス王。エクス将軍は無事ラジールを吸収 出来た様です」

「そりゃ良かった」

「今後の指示を求めて居りましたが、如何なされますか?」

「では、そのままラジールにハウレーン副将の軍を駐屯させエクスの軍はMランドに向かわせろ」

「エクス将軍にMランドの吸収合併も命じるのですね?」

「そう言う事だ。俺は"解呪の迷宮"の攻略が終わったらラジール経由でカスタムに向かうから、
 Mランドの状況は"ついで"に確認して置く。エクスには赤字を解消する案が出ない限りは、
 残念だがMランドの施設は凍結させる様に言って置いてくれ。武力制圧は最終手段だけどな」

「畏まりました。ではカスタムとの交渉はランス王が直々に?」

「あァ。ハウレーン副将の軍と共に向かう事にする」

「その後の予定は有るのですか?」

「出来ればカスタムで以前の"仲間"を加えつつ、"デンジャラス・ホール"を攻略する つもりだ。
 "解呪の迷宮"より先でも良かったんだが、なかなか難易度の高い迷宮って事が分かったしな」

「小川殿達の件に関してましては如何 致しましょう?」

「伝達次第で合流して貰うのも良いな。その時はその時で決めるから宜しく頼む」

「分かりました」

「それと前も言ったが……例の"天才病院"が完成したら"魔法研究所"を造ってくれ」

「仰せのままに」

「ならば後の問題は魔人か」

「再び攻めて来た場合は如何 致しましょう?」

「勝手に行くと思うがサテラとメガラスに迎撃させてくれ。別部隊も来たらリーザスが抑えるんだ」

「それが妥当ですね」

「では……そんなトコロか?」

「はい。ですが、再びランス王が戻られる迄 間が空いてしまいそうですね」

「早くても一ヶ月程度になりそうだなァ」

「しかも今度もリア様に黙って行かれるとは……」

「仕方ないだろ? サイゼルも来ると分かれば絶対に付いて来たい~とか言うだろうし」

「そうなのですが……いささか不憫ではないかと思いまして」

「だったら"帰ったら抱いてやるから大人しく待ってろ"と伝えて置いてくれ」

「初めから"そうすれば"良かったのでは有りませんか?」

「だが夫婦の営みを安売りしてちゃ"こう言う時"の抑制に使えないだろ?」

「それは、そうなのですが……」

「コレもリーザスの天下の為だ。多少は大目に見て やってくれ」

「……仕方有りませんね」

「苦労を掛けるな」


――――マリスと今後の予定の打ち合わせをしたりもする事で、ようやく出発するに至った。


「準備は万端か? かなみ」

「えぇ。うし車は既に待機させて有るわ」

「へェ~、あたしは乗るの初めてだわッ」

「サイゼルが飛ぶよりかは遅いと思うけどな」

『それより本当に連れて行くの? 魔人』

「いい加減 勘弁してくれカオス。リーザスで問題起こされるよりはマシだろ?」

『ふん。まァ~、ウェンディちゃんを堪能 出来たしチャラにしてやるわい』

「それよりもソイツを置いていってよ! あたしの特性が消えちゃうんでしょ?」

「既に何度もモメてる気がするんだが……今更 変えないからオマエも諦めろ」

「ちぇ~ッ」

「王様……今回も宜しく御願いします……」

「こっちこそな。メルフェイス」

「……ッ……(ま、魔人が……)」

「んっ? どうした? ウィチタ」

「!? い、いえッ。何でも有りません!」

「だがカオスとサイゼル辺りが普通に気になるかも知れんが、期待してるから頑張ってくれ」

「ははッ」

「(なかなか出来る娘のみたいね……私も負けてられないわ)」

「(や、やっぱりランス王は凄い方なのかも……コレは慎重に見極める必要が有りそうね)」

「(だけどランスの事を疑っているのは確かね。もし何か企んでるなら、私が自分の手で……)」

「ところで王様……"解呪の迷宮"と言うのは……」

「知らなかったか? 冒険者の中では有名なダンジョンらしいぞ?」


――――だが改めて考えれば、魔物の質は低いと言っても並の人間に取っては地獄なんだよな。


「あの、そうでは無くて……私の……」

「どう思う? かなみ」

「確かに可能性は有るわね。何せ"解呪"って名前だし」

「そうだな」

「???? ちょっと、何の話よ?」

「メルフェイス……様の体に何か有るのですか?」

「……ッ……そ、それは……」

「止めとけ。きっと2人の想像以上に深刻な悩みだと思うからな」

「ちょっと、そんな言われ方したら余計 気になるじゃないッ!」

「(雰囲気からしてゼスにも"この人"程の魔法使いは、そう居ないと思うけど……何か裏が?)」

「ともかく出発だ。長い旅に成りそうだし、リーザスが恋しいなら今のウチだぞ?」

「……私は大丈夫です……」

「右に同じ」

「まァ、リーザスも良いけどランス達と冒険するのも楽しそうだしね~」

「……(ランス王が言うには、早くて一ヶ月……そんな長い間ガンジー様と会えないなんてッ)」

「ウィチタはどうなんだ?」

「!? わ、私も問題ありません! 精一杯 努めさせて頂く所存です!」

「……(不服ながらも任務だから真面目に戦う。何だか昔の私みたいだわ)」

「だったら野暮な話だったな。じゃあ かなみ、案内してくれ」

「はい。それでは此方です」


こうして俺は新たにサイゼル(封印解除・ライフル返却仕様)とウィチタを加え、リーザスを離れる。

そんな今回は2つの迷宮を回る事となるので当然 長旅となると思われ、色々と不安な要素が有る。

ソレを出発の前日に箇条書きしてみたんだが、頭痛を感じたのは内緒の話だ。何故かと言うと……


①解呪の迷宮を無事に制覇する事が出来るのか?

②ウィチタの信頼を得る事が出来るのか?

③魔人の無敵効果が相殺される事に問題は無いか?

④メルフェイスは どちらの選択をするのか?

⑤赤字都市のMランドを問題なく吸収&運営 出来るか?

⑥カスタムの街と無事 吸収合併できるか?

⑦カスタムの女性達を仲間に引き入れる事が出来るか?

⑧デンジャラス・ホールを無事に制覇する事が出来るのか?

⑨俺が留守にしている間、リーザスは無事なのか?

⑩旅中 忍者を通じて内政の指示が滞り無く出せるか?


……等 考えて挙げればキリが無いので、全くランスの図太い神経が改めて羨ましく感じてしまう。

だが彼は"プレイヤー"のリロードや未来予知が有ったからこそ、ルドラサウムの場所に辿り着けた。

されどイベントでの修羅場回避は彼の性格を無しには語れないので、展開によっては肖らなければ。

さて置き。要は真面目にLvを上げれば大抵な事は何とか成るし、無理さえしなければ大丈夫な筈。

生憎 RPGの世界ダケ有って、最初の村で延々と戦闘を繰り返すみたいな方法も有効みたいだし。

当然 ゲーム以上に時間は掛かるが、かなみがLvを上げた方法は前述の通りなので、あしからず。


「えっとさ、ランス」

「何だ? サイゼル」

「"解呪の迷宮"ってトコを制覇したら、Mランドを通るんでしょ?」

「肯定だがソレが どうかしたか?」

「だったら当然 遊んでくんでしょ? 今から楽しみだわ~ッ」

「迷宮は"ってトコ"扱いなのにMランドの名前は ちゃんと覚えてるのかよ……」

「細かい事は気にしない!」

「まぁ……凍結する前に来れてたらの話だけどな(流石に毎週200万Gの赤字はアホらしいし)」

「ゑっ?」

「何でも無い」

「ち、ちょっとッ! 今のは聞き捨てならなかったんだけど!?」

「あ~あ~五月蝿い。それと纏わり付くな~ッ」

「ふふッ(……本当に面白い方ね……王様は……)」

「……ッ……(こ、こうも魔人相手に自然に……)」

「今は黙って付いて来て下さいッ!」


――――何故か かなみに怒られてしまった俺達だったが、今後も このノリで往きたいモノである。




●レベル●
ランス   :51/無限
かなみ   :47/40(+7)
リック   :41/70
メナド   :37/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:43/48
レイラ   :37/52
ジュリア  :32/38
ガンジー  :50/99
ウィチタ  :27/35
カオル   :26/33
サテラ   :100/105
メガラス  :98/146
サイゼル  :87/120




●あとがき●
今回はスケさんを加入させた事により、予定を変更して解呪の迷宮に向かわせる事にしました。
同時にメルフェイスのフラグも回収します。それと魔人の仕様を弄って若干 不便にする事に。



[12938] 鬼畜王じゃないランス10
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2011/11/18 05:32
鬼畜王じゃないランス10




=LP03年05月4週目=




――――リーザスを出発してから4日目、俺は迷宮を前・かなみとメルフェイスを後ろに口を開く。


「さて、此処が"解呪の迷宮"か……」

「此処 一帯のエリアの中では屈指の迷宮と言っても良いわね」

「だが かなみ。地図は殆ど揃ってるんだろ?」

「うん。でも最下層 付近の情報は全くと言って無いみたい」

「……どう言う事なのですか?」

「大方"ボス"でも居るからなんじゃないか? 大抵の冒険者なら倒せる程度のな」

「成る程……では"解呪"に関するモノは最下層の手前に存在するのでしょうか?」

「いいえメルフェイス様。そう言う情報は調べた限りでは有りませんでした」

「そ、そうなのですか?」

「ふむ。なら解呪の要素も無いのに何で"そう言う名前"が付いたって話になってくるな」

「既に名前が付いているのは昔に"制覇した"と言う記録が残ってたからだと思うわ」

「制覇した記録?」

「そう。だけど、いかんせん情報が古過ぎて資料にするには信憑性が無かったけどね」

「では、此処 最近は攻略 出来た冒険者が全く居なかったと……?」

「だったら迷宮の奥に突然変異のモンスターでも居座ってるのかもしれんな」


――――実際の所、一度に250人もの部下を戦闘不能にするボスが待ち構えていた筈だ。


「可能性は高いわね。何度か冒険者達がチームを組んで制覇に乗り出した事が有ったらしいけど、
 全部 最下層の直前で全滅しちゃってるみたいだから……油断できないのは間違い無いと思う」

「な、ならば王様は無理に潜る必要は無いのではッ?」

「私も一応そう思います」

「そう言うなって。どうせ今迄 通り何とか成るさ」

「ハァ……その自信は何処から来るのよ?」

「(本当に鍛錬ダケが目的なら、最下層を目指す必要が……まさか王様は……私の為に?)」

「まァ、今回はサイゼルが居るからイザと言う時はアイツに任せれば良いさ」

「そうなったら情けない限りだけどね」

「否定は出来ないな」

「それでは王様……くれぐれも……」

「分かってる。無理はしない範囲で往くつもりだが――――」

「あッ。ようやく来たみたいね」

「お待たせ致しました」

「ち、ちょっとランス……何で先に行っちゃうのよぉ~?」

「遅いぞサイゼル。ウィチタはともかく」


かなみ&メルフェイスと そんな会話をする中……遅れてウィチタとサイゼルが歩いて来た。

そのウチ サイゼルの表情は若干 青くなっており、どうやら"うし車"で酔ってしまったらしい。

勿論 初日からソレでは後に差し支えるので飛ぶ事を勧めたのだが、皮肉 交じりで言ったのが失敗。

彼女は意地でもガタガタと揺られる車内で過ごす事を選び、今に至っていると言うワケである。

ちなみにウィチタも遅れて来たのは、俺は面倒臭かったのでサイゼルの介抱を任せていたからだ。

当然 良い顔をしなかった彼女だったが早く魔人に慣れて貰う方法としては間違っていないと思う。


「だって仕方ないじゃないッ、初めての経験だったんだから! ……うっぷ……」

「それより"そんな状態"で戦えるのか?」

「あの……今回は休まれた方が良いのでは……?」

「だ、大丈夫よコレ位ッ! 馬鹿にしないでよね!?」

「メルフェイスの気遣いを無視する恥知らずな氷の魔人が居たッ!」

「なに実況してんのよランス……」

「ゴホン。それで……ずっと"こんな調子"なのか? ウィチタ」

「は、はい。先程から竜角惨を飲む様にと勧めてはいるのですが……」

「嫌よ!! だって その薬、変な匂いするんだもんッ!」

「何処まで自己中なんだよオマエは……だったら仕方無いな」


≪――――じりっ≫


「な、何よ?」

「かなみ・メルフェイス。相手はフラフラだぞ、両脇を固めろ」

「了解」

「すみません」

「えっ!? ち、ちょっと待ってよッ! あたしは大丈夫だって――――んぅうっ!?」

「……(嗚呼、ランス王の事が本当に分からない……)」

「……ゴクンッ……ちょっ! 人が嫌がってんのに無理に飲ませるなんてアンタそれでも人間!?」

「そもそもオマエの方は人間じゃないだろ」

「とは言え、見るからに顔色は良くなってるみたいね」

「これで安心です」

「そうだな」

「……クッ……お、覚えてなさいよ……」

「……(やっぱり、ガンジー様の仰った様に……でも……)」




……




…………




……ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー加入の直後。リーザスから与えられた居室にて。


「"ウィチタ"よ。わしが何を言いたいのか分かるか?」

「…………」

「わしは非常に楽しみだったのだ。今日よりランス王の部下として軍を率いて戦わせて頂く事も、
 個人として使って頂き悪を討ってゆく事も……併用 出来ぬ事が誠に残念で成らなかったが……」

「…………」

「ドチラを選ばれたにせよ"あの方"の決めた事で有れば、それが わしに与えられた定めとなる。
 故に喜んで努めさせて頂く所存で有ったが……意外にも お前が王の考えを制してしまった」

「……な、何故……」←小声

「よって、わしは非常に残念でならぬのだ。ランス王が逆の考えを して居られたと思うと……な」

「何故ガンジー様はッ! そんな細かい事を気にする程 迄ランス王を評価しているのですか!?」

「ぬぅ?」

「ガンジー様がランス王を評価し始めてから彼の事を調べましたが、決して良い噂は聞きません!
 王に即位してから人が変わったとの声も多く、何か企んでいる可能性も十分に考えられますッ!」

「ならばウィチタよ。わしの目が節穴であると?」

「そ、そう言う訳では有りませんが……ガンジー様はランス王を幾ら何でも買い被り過ぎです!!」

「…………」

「恐れながらガンジー様、私もウィチタの言う事に概ね同意しています。何より初めての事ですし、
 彼を其処まで買う理由が御有りなのですか? 宜しければ、是非とも御聞きしたいのですが~」

「うむ。無論わしとて……多くの武勇を聞くのみで、其処までの評価はせん」

「ならばッ!」

「全ては"勘"だ。ランス王を見た瞬間、わしの勘が彼こそ"敬愛するべき主君"と告げたのだ」

「まぁ……」

「そんなッ」

「よって。彼に付いてゆけば、必ずや荒んだ世界に光が射すのだと確信しておる」

「それなら仕方有りませんわね~」

「カオル!?」

「そう言う訳でな。わしは年甲斐 無く彼と行動を共に出来る お前を羨ましく思ったのかもしれん」

「……ッ……」

「だがウィチタよ。ソレこそ お前の"定め"だったのだろう」

「わ、私の?」

「左様。今後わしでは無くランス王と共に有り、彼の武勇の糧となる……とう意味でのな」

「!? な、何を仰られるのですッ! 私の主はガンジー様 只 一人ではないですか!!」

「されど運命には逆らえぬ……とは言え、今はランス王の事を認めておらねば止むを得ん」

「ならばウィチタには、今後の"旅"で彼の"本質"を見定めて貰えば良いのですね?」

「その通りだ。生憎カクさんには軍の補佐を担わせるので残念な結果となってしまったが」

「ソレも"定め"なので有れば仕方有りませんわ~」

「……(うぅ、やっぱり"あの発言"は迂闊だったのかしら?)」

「そんな訳で"スケ"さん。ランス王と共に、しっかりと励んで来るのだぞ?」

「か……畏まりました……」




……




…………




……時は戻り攻略初日。


「……(私にはガンジー様が居る……ランス王に仕える意味など無いのよッ)」

「では俺が地図を見ながら先導する。周囲の索敵は かなみとウィチタが行ってくれ」

「分かりました」

「!? り、了解です」

「では……私は後方の警戒を……」

「あァ。頼んだぞ? メルフェイス」

「なら あたしは~?」

「逸(はぐ)れず付いて来てくれ。んで味方に攻撃を当てない様に注意しろよ? 普通に死ねるから」

「何だか癪に障るけど……把握しました~っと」


先程 かなみの告げた通り"解呪の迷宮"は此処周辺では高難易度の迷宮と言われているそうだが、
無駄に広いダケで魔物の質は今迄 攻略して来た迷宮と変わらないらしく、左程 脅威は感じない。

だが人々の認識は間違い無く正しいのだ。本来 此処を僅か5人で攻略するのは馬鹿げている。

"この世界"にはギルドが多く存在するが、其処にLv30以上の人間が一人でも登録していれば、
それなりのギルドとして評価されるみたいだからな……そもそも今時は迷宮攻略は流行らない。

何せ殆どの冒険者はランスみたくギルドから依頼を受けソレを"仕事"とするのが多いみたいだしな。

だから原作のリーザスみたく、デカい迷宮を攻略するのは"物好き"な軍と言う事に成るのだろう。

さて置き。隊列としては俺を中央の先頭に置き、かなみが左・ウィチタが右を固め警戒して前進。

そして かなみの背後にメルフェイス・ウィチタの背後にサイゼルが後衛として付いて来ている。


「其処ッ!」

『!?!?』


≪――――カカカカッ!!!!≫


「何か居たのか? かなみ」

「えぇ。前方で待ち構えていたモンスターが頭を覗かせてたから……残りは逃げたみたいね」

「へぇ~、ヤるじゃない」

「……(気配はしたけど場所は分からなかった……流石ランス王の側近)」

「それにしても……思ったより魔物の数は少ないですね……」

「当然だ、こっちには魔人が居るからな。少しでも"考えられる"魔物は仕掛けて来ないだろ」

「でも多少は襲って来てくれないと鍛錬にならないわね」

「まァ、奥の方に行けば嫌でも色々と相手にする事に成るだろ」

「それもそうね」

「ともかく無駄に広い迷宮だ。一階一階ジックリ進んで行こう」

「……そうですね……」

「特にサイゼル。俺(カオス)が居る限り無敵じゃなくなるから敵の攻撃には注意しろよ?」

「はいはい」←既にランスに小言を言われるのは慣れた。


さて初日の攻略に置いては、浅い階層な為なのかラ・サイゼルの存在を恐れた為かは知らんが、
魔物との交戦は殆ど無いまま7階層に迄 辿りついてしまい、大半を歩くダケで過ごしてしまった。

多少 頭の良い魔物は此方に注意を払いながら、周辺の仲間を集めようと動いていたらしいが、
察した かなみが手裏剣で さっさと倒してしまったので、小規模な戦いのみに留まっている。

勿論 戦ったにせよメルフェイスとサイゼルの魔法に瞬殺されており、俺の出番は正直 無かった。


「よ~し皆、そろそろ引き上げるぞ?」

「あれぇ~? もう"そんな時間"なの?」

「あァ。だが既に4分の1は潜ってるな」

「だとすれば……制覇は左程 苦労しないのでしょうか……?」

「単純に計算したら計4日ってトコロだが、奥のモンスター次第になるな」

「深くなるに連れて迷宮自体は狭くなるけど、その分 魔物と遭遇し易くなるって事ね?」

「そう言う事だ」

「す、すみませんランス王……私は大して御役に立てず」

「いや気にするなウィチタ。只単に予想以上に敵が湧かなかったダケだしな」

「そもそも、ランスも何もしてないしね」

「……うッ……だが有り難い事だ。経験値はシッカリと入ってるしな」

「でも、こんなんじゃ何の足しにも成らないんじゃな~い?」

「いや……万単位の魔物達の上を無敵属性で飛び交ってた奴に言われても困るんだが……」

「ら、ランス。ソレってどう言う事なの?」

「今頃 魔人領じゃ尋常じゃない規模の戦いが繰り広げられてるって事だ」

「……と言う事は……先日訪れた2体の魔人も……その"戦い"に関わっているのですね……?」

「そうだろうな。勿論サイゼルもだと思うぞ」

「ち、ちょっと! なんで何時の間にか其の話題になってるのよ?」

「折角 此処まで潜ったって言うのに無神経な事を言うからだ」

「うぐッ(相変わらず生意気……でも、不思議とムカつかないのよねぇ……)」

「ふふっ……それでは王様」

「あァ。いい加減 引き上げるとするか」


――――こうして初日は緊張感 皆無な状況で攻略を終え、俺達は宿へと帰還したのだった。




……




…………




……攻略2日目。解呪の迷宮・第8階層。


「ランス。正面に"ぶたバンバラ"の群れ」

「ありゃ、また順路を塞いでやがるのか」

「先程のヤンキーに続いて……ですね……」

「ランス王。排除しますか?」

「"あんなの"は一度に相手したく無いが、進むには倒さんとな」

「ならど~すんの? 魔法で一気に殺っちゃう?」

「荒立てると更に"ああいうの"が集まって面倒だし、控えめで頼む」

「仕方ないわね……それッ、スノーレーザー!!」

「氷の矢!!」(連射)


今朝方 聞いた情報によると"解呪の迷宮"の浅い階層の敵は冒険者がソコソコ狩っていたらしい。

何故なら一定以上 繁殖すると迷宮から出て来てしまうそうで、ギルドが都市長から依頼され、
迷宮外に被害が出る前に冒険者を雇ってダンジョンに派遣し彼等に魔物を殲滅させているとの事。

ハンナの街をリーザスが吸収した今や、その管理はリーザスが受け継いでいるのは余談として。

そんな理由で迷宮の4分の1辺りを過ぎると……流石にギルドの手は伸びていなかったらしく、
タハコ(?)をフカしているヤンキーや、醜くもマスを書いている"ぶたバンバラ"の集団に出くわす。

されどザコ共なので派手に片付けてしまいトコロだが、確か記憶では此処の戦闘域は結構 広い。

ソレなのに戦闘域(400)を越える魔物(700前後)が出現する気がしたので、油断は禁物だ。

何だか矛盾している気がするが、簡単に考えて一度に400の数を相手すれば簡単に死ねるからな。

よって雑魚の集団で有れば後衛2人の魔法で道を斬り開き、前衛3人で攻撃して"突破"してしまう。

中にデカント系や各種族の亜種タイプでも混ざっていれば別だが、この迷宮は無駄に広いので、
雑魚ばかりならば戦いつつ前進する様にでもしないと、一ヶ月 有っても制覇は間に合わないのだ。

別に手堅く行くのは本来の目的(レベル上げ)を考えると良い手段だが、何よりメルフェイスの事。

少なくとも"此処"を攻略しなければ、彼女との"信頼関係"は決して成り立たないと俺は考えている。


「どりゃああぁぁっ!!!!」

『ば、バンバラアアァァ!!』

「……脆い」

「(流石は一国の王……強い事は間違い無い様ね)」

「アハハハハッ! 汚物は消毒よ~!!」

「その……余りそう言った事は言わない方が……」


――――そもそも属性的な意味でサイゼルには合わないが、ハウゼルでも性格が合わないな。


「さて撒いたか」

「周囲に敵の気配は今の所 無くなったわ」

「では引き続き参りましょう!」

「次は もっと手応えの有るヤツが出て来てくれると良いんだけどね~」

「まァ、奥に行けば嫌でも出て来ると思うぞ? それよりも……そろそろ この辺りに……」

「……えっと……あちらに下りる階段が有るみたいですね」

「!? でかした、メルフェイス」

「クッ! 索敵に気を取られて階段を見落とすなんて」

「其処は別に悔しがる所じゃ無いだろ?」




……




…………




……数時間後。再び地上に帰還した俺達は、宿の一室(俺が借りた若干 広い個室)に集まっていた。

此処で何をするのかと言うと、レベル神(ウィリス)を呼び出してLvアップの儀式を行うのである。

以前の様にダンジョンの中とかでも良いんだが、傍から見られる事を思うと考えを改めていた。

ちなみに昨日は呼び出さなかったのは、狩った敵が少なく大して経験値を得ていなかったからだ。

反面 今回は12階層迄しか潜れなかったが、倒したモンスターは相当な数だったと言えるだろう。

……とは言え雑魚ばかり相手したのは否めないが、特定のRPG(特にネトゲ)での仕様である、
"Lvが上がれば雑魚の経験値が下がる"と言う事は無く、乱獲も上等なレベル上げの手段なのだ。
(簡単に言うと、レベル1でも50でもグリーンハニーを倒して得れる経験値は同じと言う事)


『ウィチタさんは経験豊富とみなされ、レベル30となりました』

「!? い、一度に3つも上がるなんて……」

「ははッ。良かったじゃないか」

『メルフェイスさんは経験豊富とみなされ、レベル44となりました』

「……有難う御座います……」

「メルフェイス様は、普通に大陸屈指の魔法使いのレベルね」

「全くだ。現段階で言えばリックより高いんじゃないか?」

「……私なんかに此処までの"伸び"が有るとは……思いもしませんでした……」

『かなみさんは経験豊富とみなされレベル48となりました』

「良し、今日ので足りたみたいね」

「(嘘!? た、高いッ! ……そうは見えないのに……)」

「(しかし今迄リーザス周辺で何を狩ってたんだ? コイツ)」

「……ッ……凄いです、何時の間に……」

『ランスさんは経験豊富とみなされレベル52となりました』

「まだまだ、コレからだ」

「でもリーザスじゃ間違いなくトップでしょうね」

「魔人が居る時点で入れ替わってる だろうけどな」

「(そもそも現状レベル50を越える人間なんて、大陸に何人居るかって次元なのにッ!)」

『サイゼルさんは経験豊富とみなされレベル88となりました』

「あれェ? 上がってたんだ」

「高ッ! だが最後にレベルアップの儀式をしたのは何時なんだ?」

「"あの件"からソコソコ上がる様に成ってたから……1ヶ月前 程度かなぁ?」

「で、でも そのレベルになると次は遠そうね」

「まァ……ガイ様が魔人を纏めてた時は争いも少なかったし、何十年も上がらない事も有ったしね」

「成る程な」

『それではランスさん、ご機嫌よう~っ』


≪――――ぽんっ≫


「んじゃあ、ひとまず解散だ。夕食の時間になったら各自集合しろよ?」

「……分かりました……」

「ははッ」

「…………」←無言で消える かなみ

「ところでさァ」

「何だ? サイゼル」

「あの"レベル神"って人……どうして裸だったの?」

「多分 お前の所為だと思うぞ」

「???? まァ良いか、部屋で漫画でも読んでよ~っと」


――――儀式を終え4人の仲間達が退場し終わったと思うと、かなみが再び天上から現れる。


「ランスッ」

「かなみか」

「えっと私……上がっちゃったから……その……」

「分かってる。今夜 この部屋に来てくれ」

「う、うん」

「"この件"に関してはウィリスが余計な事を言って無いから皆にはバレてないのが救いだな」

「そうね。呼び出す頻度も下げてるのも良いのかも知れない」

「何なら今からヤるか~?」

「!? だ、ダメよッ! 今から明日の準備が有るもの」




……




…………




……攻略3日目・及びリーザスを出発してから6日目。解呪の迷宮・第14階層。


「モンスターの湧きと敵の強さも本格的に成って来たか」

「うん。どう考えても5人じゃ無理なレベルだと思うわ」

「で、でも何とかなっているのが凄いですッ」

「この調子で行けば……最下層に辿り付く事は可能ですね……」

「あァ。情報によれば奥まで ずっと、こんな調子らしいからな」

「ちょっと面白みに欠けるけどね~」

「そう言うなってサイゼル。だけど此処からは一日で4階層分が限界か」

「仕方ないわよ」


迷宮の半分を越えた辺りからモンスターの質と量はピークを迎え、頻繁に遭遇戦が起きていた。

だが常に前進しながらの戦闘を心掛け、周囲の魔物が集まって来るのを避けるのは忘れない。

前述の通り留まり続けて殲滅してから進むのも良いのだが、あくまで目的は解呪の泉なのだから。


『ウィチタさんは経験豊富とみなされレベル33となりました』

「!? また3つも上がった……」

「でも妥当なんじゃないか?」

「そ、そうですね。こんな攻略をした事など有りませんでしたから」

『メルフェイスさんは経験豊富とみなされレベル45となりました』

「……良かったです……」

「更に火力が充実するな」

『かなみさんは経験豊富とみなされレベル49となりました』

「(し、信じられない……何処まで伸びるの? この2人は……)」

「流石に一日アップも夢じゃ無かったわね」

「そうなると、俺は……」

『ランスさんがレベル53となるには残り――――の経験値が必要です』

「あッ、惜しい」←サイゼル

「流石に足りないか……」

『サイゼルさんがレベル89となるには残り――――の経験値が必要です』

「うおッ! 多すぎだろ!!」

「でもコレで10分の1以上だし、あたしとしてはマシな方だと思うわよ?」




……




…………




……攻略4日目・及びリーザスを出発してから7日目。解呪の迷宮・第20階層。(7+5+4+4)

其処から帰還し宿に戻って来た俺達は、先日の様にウィリスを呼びレベルアップの儀式を開始した。

されど2日連続かなみを抱く事は周囲の仲間に感づかれる事を考えると出来ず、不具合が生じる。


『ウィチタさんは経験豊富とみなされレベル35となりました』

「今回は2つ……(と言う事は……)」

「まァ次にも期待しよう」

『メルフェイスさんは経験豊富とみなされレベル46となりました』

「流石はメルフェイス様(……私はランスの恩恵を受けてるのに……)」

「信じられません……何処まで伸びてくれるのでしょうか……?」

「次も楽しみだな」

『かなみさんは才能限界値(49)です。これ以上のレベルアップは出来ません』

「……ッ……」

「あらザンネン」

「サイゼル自重」

「(そ、それでも凄く高いレベルだと思うけど……)」

「(だが言ってるウィリスも複雑そうな表情だ)」

『ランスさんは経験豊富とみなされレベル53となりました』

「さすが俺様!」←戦国ランス肖り

「……凄いです……王様……」

「もっと言ってくれ給え」

『サイゼルさんがレベル89となるには残り――――の経験値が必要です』

「う~む。サイゼルは儀式は必要無いかもな」

「別に構わないわよ? 幾ら位 経験値が増えたかはコレで分かるし」

「確かに10分の3程度に成ってたわね」


今回ウィリスから かなみの才能限界値を告げられた事により、次回 彼女のレベルが上がると、
他のメンバーに妙に思われるのは間違い無い。メルフェイスは以前の時点で勘付いてるけどね。

何故なら既にハイパービル攻略時で、かなみが限界才能を告げられていた事が有ったからだ。

ジュリアはアホの娘&前回で離脱したので問題無いが、メルフェイスは不思議に感じた だろう。

されど彼女は野心が無い性格なので深く考えない様にしたらしい。此方には有り難い限りだ。

……とは言え俺が定期的に かなみを抱いている事も知っている様なので、気付いてるのかも。




……




…………




=LP03年06月1週目=


……攻略5日目・及びリーザスを出発してから8日目。今日はカオルが報告の為 宿を訪れていた。

尚 本日は休暇なので本来で有れば かなみをリーザスに向かわせたのだが、ガンジーに甘えたのだ。

ちなみに今更だが"カクさん"は鬼畜王仕様なので何時もニコニコとしている。即ち天然属性である。


「ふむ。総合病院が完成間近と」

「はい~、ランス王が戻って来る頃には既に"魔法研究所"の建造に移っている予定との事です」

「そうか」

「続きまして~、エクス将軍の軍は既にレッドの街を発たれている様ですわ」

「んでMランド付近で駐屯するってワケだな?」

「だそうです~。ハウレーン副将の部隊は、そのままラジールに留まっています」

「ハウレーンは暫くは そのままだな……それでリーザスの方は大丈夫なのか?」

「えぇ。特に魔物や魔人が襲って来たと言う事は有りませんでした~」

「それは良かった」

「また"小川 健太郎"さんなのですが~、目を覚ましたそうですよ?」

「本当か!?」

「はい。ですが満足に動ける迄は少しリハビリが必要との事ですね~」

「まァ仕方無いか。じゃあ完全に回復したら改めて報告してくれ」

「畏まりました~」

「仕官したばかりなのに御苦労だったな」

「いえいえ。それではウィチタの顔を見てから帰ろうとでも思っていますので~」

「あァ、そうしてくれ」

「……(此処 一週間 程度で分かったけど、やっぱり"ランス王の噂"は噂でしか無かったのね)」


報告を終えるとカオルはスタスタと歩き、入ってきた時と同様にドアを開けて部屋を出ていった。

その仕草は見るからに"普通"だったので忍者らしく無いが、手を出すと投げられるんだろうな~。

ともかく(リアの事は別として)リーザスは健在なので、俺は気兼ねなく休暇を楽しむ事にした。

されど日中はサイゼルに連れ出された事で殆ど潰れ、夜は かなみに"頼まれた"為 少し疲れたぞ。




……




…………




……攻略6日目・及びリーザスを出発してから9日目。最早この迷宮の攻略は慣れてしまった。

よって苦労無く第24階層を通過した時点で帰還でき、むしろ問題は"この後"の儀式の方に有る。

先ずウィチタが才能限界値(35)を告げられ残念がり……次にメルフェイスがLv47になる。

更に かなみがウィチタと同様に才能限界値(49)を先日と同様に告げられる筈なのだが……?


『かなみさんは経験豊富とみなされレベル50となりました』

「えぇッ!?」

「へぇ……(ど~言う事?)」

「(当然の反応だな。サイゼルは左程でも無いが)」

「(妙に思われて当たり前……でも、私は もっと強く……)」

『ゴホン。ランスさんがレベル54となるには残り――――の経験値が必要です』(キリッ)

「…………」×5


――――だが全裸である。


『サイゼルさんがレベル89となるには残り――――の経験値が必要です』

「何だカンダで残り半分だな」

「えっ? うん、案外 早かったわね」

「だったら どうせ魔人領の戦いでも適当に闘(や)ってたんだろ?」

「うぐッ。まァ……基本モンスターは どうでも良いって考えて魔人ばかりに注意を向けてたから」

「ダメージを受けないと そう言う考えにも成るのかもな」

「ところでさ~。何で"かなみ"のレベルが更に上がってる訳?」

「……ッ……」

「別に良いだろ? サイゼルは限界Lvなんて当分先なんだろうし」

「そうなんだけどさァ」

「ともかくッ! 儀式も終わったし解散だ、解散!!」

「えぇ~ッ?」

「(ど、どう言う事? ランス王は何か知ってる様だけど、どうやったら限界値が……?)」


既に限界値の筈のかなみ のレベルが上がってしまうと、当然の如くウィチタが激しく驚愕する。

言うまでも無く……生まれた時から"定められている"レベルを超えた成長を彼女がしたからだ。

だがメルフェイスは方法すらにも勘付いているのかも知れず、目が合ったら視線を逸らされた。

まァ、どちらにせよ"タネ明かし"は先ず迷宮制覇 直後の彼女の"選択"の結果次第って事だな。

ちなみにウィチタは夕食中でも終始 何か言いたそうにしてたけど、悪いがスルーさせて貰った。

またランス(俺)が女性を一回抱けば2~3程度 限界値を伸ばせるらしく、かなみは抱いていない。




……




…………




……攻略7日目・及びリーザスを出発してから10日目。正念場の解呪の迷宮・第26階層。

このエリアは雑魚モンスターの気配が殆ど無いので、恐らく"迷宮ボス"が存在しているのだろう。

そのボスが何かを他の4人は知らないが、俺は驚異的な攻撃回数を持っている奴と知っている。

だが……その事を重く受け止めていなかった為、意外な犠牲を払う羽目に成るとは思わなかった。


「此処は やけに静かね……」

「そうねェ」

「きっとボスでも居るんだろ? 気をつけて行くぞ」

『魔人の気配は全くせんから問題有るまいて』

「そうだと良いんだけどな」

「……注意して進みましょう……」

「(色々と考えたけど分からない……やっぱりランス王に聞いてみるしか無いのかしら……)」

「――――!? ランスッ! 500m位 先に何か居る!!」

「何!?」

「こ、こっちに気付いてるわ!! 何か来る……避けてッ!」

『…………』


≪――――ピカッ!!!!≫


"この時"は誰もが油断していたのだろう。だが唐突な かなみの大声で、全員 我に返った筈だった。

されどオーラに包まれ宙に浮き、両腕の鎖に死骸が繋がれている黒い怪人のボス"ハウ・キュッ"。

奴が高火力魔法タイプのモンスターだった事から、遠くから飛んで来る白色破壊光線クラスの魔法。

それを"回避する"と言う判断と行動が出来たのは"全員"では無く、この場に居る3名ダケだった。


≪――――ゴォッ!!!!≫


「あぶなッ!?」


――――先ずカオスの存在から無敵では無い事に順応していたサイゼルが跳躍して魔法を回避。


「メルフェイス!」

「きゃっ!?」


――――そして俺は咄嗟に反応が遅れていたメルフェイスに抱き付くと、転がる様にして回避。


「(報告が遅れた私の責任……だからッ!)」

「あうッ!?」


――――最後に かなみは、同じく反応できなかったウィチタを突き飛ばす事で"避けさせた"が。


「大丈夫か? メルフェイス」

「な、何とか……助かりました」

「ランス~ッ! 大丈夫!?」

「やれやれ、こっちは平気だ……って、かなみッ!?」

「……うッ……あぐっ……」

「か、かなみさんっ!」

「おいっ! あ、足が……大丈夫なのか!?」

『それよりも次が来るかもしれんぞッ!』


俺の様に2人同時に回避させる事が叶わなかった かなみは両足が魔法で焼かれてしまっていた!

なんて事だよ……それに動揺しているとカオスが正気に戻してくれ、既にサイゼルが動いている。

再度 魔法を詠唱していると思われるボスに一気に距離を詰め、ライフルを"溜め撃ち"したのだ。


「こんのおッ!」

『…………』


≪ドシュウウゥゥッ!!!!≫


――――しかし仕方なく放った程度のボス反撃にサイゼルのスノー・レーザー(強)は相殺される。


「う、うそっ!?」

『…………』

「チッ! 何て火力なのよ!!」

『…………』


――――更に"ハウ・キュッ"は白い光線で追撃して来るので、サイゼルは回避するしか無かった。


「あ、あんな魔物が居るなんて……」

「それよりもウィチタッ! かなみを安全な場所に避難させろ!!」

「!? わ、分かりましたっ!」

「お、王様……此処は引いた方が……」

「いや俺が一撃で殺る!! サイゼルとメルフェイスは奴の魔法を抑えてくれッ!」


――――だがコイツにも弱点は有り、それは火力(250人殺傷)が有る反面"脆い"と言う事だ。


「仕方ないわね……仕留めなきゃ承知しないわよ!?」

「……何とか止める様にしてみます……」

「頼んだぞ!? 行くぞカオスッ!」

『任せておけぃ!!』


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


俺はカオスを構えるとボスに突撃し、奴の放つ弾幕は殆どがサイゼルとメルフェイスが相殺する。

当然 全てを防ぎ切る事は出来ないが……多少の魔法なら食らいながら進んでも今の俺なら大丈夫。

やはり"ハウ・キュッ"がアレ程の初撃を放てたのは、既に長い時間を掛け詠唱していたからだろう。

即ちゲームでは先程の攻撃で二百人は殺られていたと言え、後は攻撃を掻い潜って倒すダケってか。


「おおおおぉぉぉぉっ!!!!」

『…………』

「ランスアターーーーック!!!!」

『!?!? ……ッ……!!』

「……凄い……」

「や、やったの!?」


――――それはフラグだから頼むから止めてくれサイゼル。無難に一撃で倒せたけどな。


「ち、ちゃんと……倒せたみたいね……良かった……」

「(何て……事なの……わ、私の所為で かなみさんが……)」




……




…………




……数時間後。アレから俺達は直ぐに迷宮を脱出し、かなみを介抱する為に宿に戻っていた。

彼女の両足自体は世色癌を飲ませれば直ぐに治ったが……神経の回復には時間が必要らしい。

よって かなみは暫くリタイアとなってしまい、今は宿の個室のベッドでカラダを休めている。

今は2人っ切りなのは さて置き。両足が焼き爛れてたってのに世色癌って本当に凄い薬だな。


「ゴメンねランス……足を引っ張っちゃって」

「そんな訳 無いだろ? むしろ自分だけ避けてたらウィチタが死んでたぞ」

「だ、だけど早く気付いていたら誰も負傷せずに……」

「油断してたのは俺も一緒だ。だから気にしないでくれマジで」

「有難う」

「まァ、傷は完全に治ってるから直ぐ本調子に戻るんだろ?」

「うん。だから明日には歩いてみようと思う」

「良い心掛けだ。回復したら、また宜しく頼むぞ?」

「えへへ……分かりました」


この笑顔で かなみのケアは大丈夫と判断できるが、今回の苦戦は仲間に大きな影響を与えていた。

サイゼルは魔物如きに"してやられた"事が悔しかったらしく、メルフェイスには何度も謝られる。

またウィチタは先程から顔が青かったので、信頼は二の次にして彼女の精神面のフォローをせねば。

俺は そう考えつつ かなみの頭を撫でると退室し、誰の元を訪れようかな……と考えるのだった。


「(ら、ランス……やっぱり優しいな……良しッ! 私 絶対 大陸一の忍者に成るわ!!)」

「(……王様には また命を救って頂いた……だから……私も"彼女"みたいに……)」

「(う~ん。おっかしいな~、あれダケの事だったのに何で癪だったんだろ? あたし)」

「(……ッ……ガンジー様……教えて下さい、私はランス王に どう謝罪すれば……)」


――――余談だが かなみの部屋を出た際、何故か盛大にクシャミをしてしまった俺だった。




●レベル●
ランス   :53/無限
かなみ   :50/40(+10)
リック   :41/70
メナド   :37/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:47/48
レイラ   :37/52
ジュリア  :32/38
ガンジー  :50/99
ウィチタ  :35/35
カオル   :26/33
サテラ   :100/105
メガラス  :98/146
サイゼル  :88/120




●あとがき●
かなみがガリガリ強くなっていますが、何か話が進むごとにつまらなく成っている気がするので、
そろそろ現実逃避は程々にしてオルタの続きを書きますorz 次は多分メルフェイスのフラグ成立?


●追記●
ラジールに駐屯している軍隊が誤っていたので修正しました。正しくはハウレーンです。



[12938] 鬼畜王じゃないランス11
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/08/24 15:07
鬼畜王じゃないランス11




=LP03年06月1週目=




「さて……どうしたモンかな?」


大きなクシャミの後。俺は その場で軽く鼻をコスると、歩み始めつつ今から何をするべきか考える。

時刻は大体 夕暮れに差し掛かると言う辺り。夕食までは時間が有るし休みたい気分でも無いのだ。

そんな中途半端な状況だったが、直ぐに俺は目的を思い浮かぶ。それは予想しての通りである。

前述の通り"見当 かなみ"の健康は問題無いので、次は"ウィチタ・スケート"のフォローに移ろう。

よって狭い宿の中を軽く歩き回って探してはみたが、見つからないので俺は彼女達の部屋を訪れた。

今更だが俺以外の4人は反対意見が無かったので相室で有り、現在かなみは新たに部屋を借りている。


≪――――コンコン≫


「悪い俺だ。入っても良いか?」

「良いわよ~?」

「……えッ!?」


≪――――ガチャッ≫


「何だ漫画読んでたのか? サイゼル」

「ぷっ……あはははは!! 面白ッ!」

「聞いちゃいねえ」


ノックしたらサイゼルの声(肯定)が聞こえたので、スケベな状況では無いと判断してドアを開く。

だが若干の間を置いてメルフェイスの焦った様な声もしたのだが、開いた直後だったので遅かった。

……とは言っても悪いタイミングでは無く、先ずサイゼルはリーザスから持って来た漫画を読んでいる。

只それダケなのだが、ベッドにうつ伏せに成っているので形の良い尻が揺れており目のやり場に困った。

一方メルフェイスも無理矢理 勧められたのか、サイゼルのベッドに腰掛けて漫画を読んでいた。

2巻目を読んでいた辺り内容に夢中に成っていたのか、恐らく俺に気付いたのが遅れたのだろう。

サイゼルは無意識で答えたのか今も俺を無視して漫画に没頭しているが、メルフェイスは逆である。

後ろめたさを感じているのか、漫画をパタンと勢い良く閉じると立ち上がってワタワタとしている。

普通に萌えた。特に閉じた漫画を地面に落としたと思うと、素早く拾って背後に隠した辺りが。


「ああああのッ! す、すみません王様……つい私は……」

「いや全く問題無いから気にするなよ? コイツ程まで夢中になるのも考えモノだけどな」

「は、はあ」

「ところで"スケさん"を見なかったか?」

「スケさん?」

「いやウィチタの事」

「ウィチタさん……ですか? さっき迄は此処に居たのですが……」

「何処へ行くとか言ってなかったか?」

「いえ特には……!? で、ですが王様ッ? 私は"その時"は――――」

「漫画は読んでなかったんだろ? 分かってるって」

「あうッ」

「まァ"コイツ"の空気に耐えれなかったりしたんだろ」


――――そう言って泳がせているサイゼルの翼を摘んで言うのだが、コイツは全く気付いていない。


「本当に すみません。最初は せめて笑うのは止めて貰おうとしたのですが、逆に勧められてしまって」

「だよなー」

「それを断っているウチにウィチタさんが出て行ってからは、結局 抗えずに私もコレを……」

「ふむ。そのギャグ漫画をメルフェイスが"どう言う顔"をして読んでたのかが気になるな」


――――恐る恐ると言った感じで漫画本を両手で顔の前に持って行くメルフェイスを軽くからかう。


「……ッ……」←本当に申し訳なさそう

「そ、それはともかくだ。分からないんだったら仕方無いか~」

「ですが王様……場所に関しては大丈夫だと思います」

「んっ? どう言う事だい?」

「彼女の魔力の波長は覚えていますので、王様を旨く誘導できるかと」

「そりゃ有り難い」


コレは後から聞いた話によると、原作でラガールが魔想さん送った波長の類(たぐい)の応用らしい。

そんな感じで"この世界"には魔法を色々と個人の見解で運用し、利用するケースが非常に多いのだ。

しかし挙げればキリが無いので省くが、魔法Lv2を持ち知的な彼女の活用の幅は広いとは言って置こう。

さて置き。サイゼルの笑い声を裏にメルフェイスが魔法を唱えると何となく位置が分かった気がした。

本当に"何となく"でしか無いのだが……信憑性は有るので、後は勘を頼りに探し出せば良いだろう。


「どうでしょうか? 王様」

「そう遠くへは行ってない感じか?」

「……その様ですね」

「有難う助かったよ」

「大した事はしていません……それよりも……」

「何だい?」

「私は かなみさんが大事無かったと聞いて安心出来ましたが、ウィチタさんは……」

「未だに責任を感じてたってか?」

「はい。ベッドに腰掛け只 項垂れているダケでしたから」

「若いのに真面目そうな娘だったしな。反面 優に1000歳 越えてるのに"見た通り"の奴も居るが」

「あはッ! アハハハハハ!! 傑作傑作!! 馬鹿 過ぎるわコイツ~!!」

「…………」

「と、とにかくウィチタさんを宜しく御願いします」

「任せてくれ」

「ヤバッ。お腹痛~……ねェ? メルフェイス。そろそろ読み終わるから次の巻 取ってくんない?」

「えっ? で、ですが今は――――」

「ヘイッ! 第9巻お待ち!!」


≪――――バシンッ!!!!≫


未だに全く自重しない……と言うか"その単語"の認識すら無いサイゼルは聞いての通りのダラけ振り。

よって立ち往生するメルフェイスの代わりに漫画本を手に取ると、それを彼女の尻に叩き付けた!!

思ってみればコイツの笑い声が五月蝿くて、メルファイスが波長の特定を難しそうにしていたのだ。

故にコレは当然の報い(大袈裟)だったのだが……思いの他 効果が有った様でサイゼルは飛び上がる。


「痛ァッ!! ち、ちょっと何すんのよ!?」

「何だオーバーな奴だな。サテラじゃ有るまいし」

「……ってアンタ何時の間に入って来たのよッ?」

「お前が"良い"って言うから入ったんだろうが!」

「あれっ? そうだったっけ?」

「やっぱり無意識だったんですね……」

「だ、だからと言ってもレディのヒップを叩くなんて失礼しちゃうわ!」

「あの馬鹿笑いの何処に年頃の女性らしい要素が有ったのか教えて欲しいぞ」

「うぐぐッ」

「それにな? サイゼルの言う"レディ"とはメルフェイスみたいな娘の事を言うんだからな?」

「あっ……」


そう言ってワザとらしい仕草でメルフェイスの金髪を撫でて見ると、幸い満更でも無かったらしい。

対して魔人は単純にも"ぐぬぬ"と何か言いたそうにしている。相変わらず精神年齢が釣り合って無いぜ。

しかしだ。からかい過ぎると面倒な事に成るので、俺はサイゼルに近付くと左手で相手の右手を引く。

そして漫画本(9巻)を握らせると氷の魔人(笑)は目をパチクリとさせた。どうした最低1020歳以上。


「ともかく。邪魔して悪かったな」

「全くよ! 折角ムカつく事 忘れて楽しんでたのにッ」

「それに関してはオマエの尻が全部 悪い」

「なっ!? 意味が分からな――――」

「ちなみに異論は認めない」

「……それでは王様……?」

「うむ。魔法が切れる前にウィチタを探し出して来るさ」

「御願いします」

「だからメルファイスは漫画でも読んで寛いでいてくれ」

「は、はあ」

「ちょっと! 何 無視してんのよ!?」

「(しまった……無駄口を叩き過ぎたか?)では邪魔したな」


≪――――バタンッ≫


「コラッ! 待ちなさい!!」

「あッ、サイゼルさん?」

「あたしの"お尻"が何が どうなのかハッキリ説明しなさいよォ!!」

「聞かなかった事にしてくれ~!」←遠くから


この後 部屋に取り残されたメルフェイスは右往左往した後、結局 漫画の続きを読む事にしたらしい。

それにしても"こっち"に来てからは王様としての役割と狩りで忙し過ぎて漫画すら読んで無かったぜ。

だけど正直 面白くは無いんだよな……それなら俺が現代のアイデアを肖れば大儲け出来るのだろうか?

案外"ルドラサウム"に何とかしてネタを挙げられれば"この世界"がどうなろうと満足するかもしれん。

しかしながら。魔人どもには"そんな事"は通用しないだろうし、やはり今はレベル上げが最優先だな。

そんな事を考えながら今現在の俺は宿の階段を駆け下りており……サイゼルから逃亡を図るのだった。




……




…………




……十数分後。ようやく氷の魔人を撒いた俺は(潔く宿に帰った事を願いつつ)一人で町中を歩いていた。

今更だが此処は原作では最寄の"ハンナの街"では無く"解呪の迷宮"付近の小さな町なのは さて置き。

時間の経過で今や僅かにしか感じなくなってしまった"波長"を頼りにウィチタを探し続ける事 暫くして。


「おっ?」

「…………」


見えない糸に引かれる様に(小さな)武器屋や防具屋や冒険者ギルド等が並ぶエリア迄やってくると……

何と俺達には縁が無いと思われた"レベル屋"から赤髪ポニーテールで制服を着た女性が姿を現した。

言う迄も無くウィチタで有り見た瞬間に声を掛け様としたのだが、彼女の様子に違和感を覚え中止する。

率直に述べればトボトボと肩を落として歩いていた故であり、声掛けれど良い言葉が浮かばなかった。

ソレと同時に"何故レベル屋に入っていたのか?"と言う疑問も浮上たので、つい姿を隠してしまう俺。

……とは言え偶然を装うより此処は正直に"探していた事"を告げ、此処に居た理由も普通に聞くべきだ。

とは言え……う~む。そう普通の考えに至る時点で俺って、やっぱランスらしく無いんだなと痛感する。

しかしながら。今更キャラを(原作基準に)戻すのも作るのも色々と面倒臭いので止めて置く事にしよう。

そんな脱線は良いとして。俺は目の前を通り過ぎ、宿の方向に歩き出したウィチタの背中に声を掛けた。


「おいッ! ウィチタ!!」

「!?!?」

「そんな所に居たのか? 探したぞ結構」

「ら、らららランス王……ッ……ど、どうして……?」

「それは此方の台詞だぞ? 今 君が"レベル屋"から出てきたのを見たんだが、一体全体――――」

「……っ……」

「――――何故レベル神が居るのに其処に行く必要が有ったんだ? ……って聞いてる?」

「も、もう……」

「もう?」


≪――――ばっ!!≫


「申し訳有りませんッ!!!!」

「ちょっ!?」

「すみませんッ! すみません!! すいません!! 本当に申し訳有りませんでした!!!!」

「な、何を言って――――」




言葉には多少 棘を感じたかもしれないが、口調はランス不相応に優しくはしたつもりだった。

だが……ウィチタは此方を見た直後 浮かなかった顔を更に青褪(ざ)めさせると、小刻みに震え始める。

対して"掛けた言葉"を理解して居ない事を察した俺は、無難に彼女を気遣おうとしていると……

まさかの"土下座"を披露され、流石に予想が出来なかった事態に俺は思わず一歩引いてしまう。

すると当然ながら"何だ何だ?"と周囲の注目を集めてしまい、流石は最も町で人通りの多い場所。

幾ら小さい町とは言え大きな迷宮の最寄の場所なので、ギルドの周辺は多少の人で賑わっていたのだ。

だが此処で俺が"ランスらしい思考"を持っていればカオスを振り回して野次馬を追い払えるのだが……

今は其処まで頭が回っていない以前に、ウィチタが頭を上げないまま謝り続けるので右往左往していた。


「おい、何やってるんだ? アレ」

「こんな町の"ド真ん中"で……」

「只事じゃ無さそうだな。衛兵でも呼ぶか?」

「それよりも、あの男の人は何処かで見た様な――――」


「……ッ!? ウィチタ、来い!!」

「えっ? きゃっ!」


≪だだだだだだっ!!!!≫


だが"最後の一言"を聞いた直後、このままではヤバいと判断しウィチタの両肩を掴むと立ち上がらせる。

そして左手で彼女の右手を握り引っ張る事で、半ば強制的に走らせ"この場"からの離脱を図った。

対して状況が掴めて無さそうなウィチタであったが、特に抵抗はせず俺の走るペースに合わせてくれた。

後々 自分でも結構な速さで走っていた事に気付いたが……やはりゲーム世界は身体能力の相場が違う。


「ありゃ? 行っちまったな」

「何だ。つまんねェの」

「そうよッ! あの人はリーザスの"王様"に似てた気がする!!」

「馬鹿言え。リーザス王がワザワザこんな田舎町に来るモンかよ」

「アハハハ……やっぱり?」

「確かに似てた気はしたけどな」




……




…………




……10分後。適当な喫茶店(の様な場所)にて。


「さっきは驚かせて すまなかったな」

「と、とんでもありません」

「腕とかは痛くなかったかい?」

「も……問題無いです」

「だったら早速 話を始める事にしよう」

「はい……」


チキンな俺は町の反対側の方にまでウィチタを連れて来ると、先ずは"周囲の空気"を確認する。

それにより完全に"撒いた"と判断した後、彼女が何か言おうとする前に手ごろな店へと直進した。

コレにもウィチタは何か思う所が有った様だが、今は押しが弱くなっているのか素直に付いて来た。

結果。今現在はテーブル越しに若干 浮かない顔をしているウィチタと向かい合っているのである。

まァ何はともあれ……こうして会話する機会を設けられたので、予定通り精神面のフォローに移るか。

よって相変わらずランスじゃね~ッ! ……と心の中でボヤきつつも真面目な表情と口調で喋る俺。


「先ずは かなみの怪我の件だが――――」

「……ッ……」

「――――気に病む必要は全く無いからな?」

「ですがッ!」

「待てって。店の中だぞ?」

「うッ……」


――――今の言葉に表情を一変させ立ち上がり出しそうな勢いの彼女だったが、手を仰いで制する。


「良いか? 俺達はダンジョンの攻略に当たって、十分 細心の注意を払っていたと思う。
 準備は万端だったし無理もしなかった。結果"あの人数"で解呪の迷宮の下層迄 潜れたのは間違いない」

「…………」

「しかしだ。信じられるか? 数は多けれど大した質のモンスターは居なかったって言うのに、
 奥には数百メートルにも及ぶ通路が有って、破壊光線クラスの大魔法を放つボスが待ち構えていた。
 それも無敵が無けりゃ"魔人"でも黒焦げに出来そうな威力だった。予想なんて出来るワケが無い。
 なのに全員の命が助かったんだ。此処は落ち込むよりも、素直に喜んで置くべきだろう?」

「そ、それでも一歩間違えれば……リーザスは"王を失う"と言う大きな犠牲を払うトコロでした」

「耳が痛い話だな。確かにアイツが一声 掛けてくれなかったら、メルフェイスを助けられたかどうか」

「恐らくは……魔人サイゼルも危なかったと思います」

「サイゼルの事だから避けれたかもしれないが、振り返れば滅茶苦茶危なかったのは間違いないな」

「私も同様でした。ランス王とは違い反応すら出来なかったので……彼女が庇ってくれなければ……」

「消し炭に成ってたのは確定的に明らかと」

「め、面目 有りません」

「まァ確かに朝から考え事してた様に見えたからな。それを特に気に病んでたんだろ?」

「は、はい」

「だったら"次"は汚名返上してくれよ? 反応の遅れ云々で俺が言いたいのはソレだけだ」

「そう……ですか(私に恩を売った様な感じは無い……やっぱりランス王の悪名は噂でしか無いの?)」


――――SEKKYOUの所為で思い出しちまった。怖くて眠れなかったら かなみに添い寝でもして貰おう。


「では話を移そう。先程レベル屋から出て来たのは何故なんだ?」

「!?!?」

「(何となく理由は察せるが)レベル神は俺が呼べた筈だろう? 行く意味は無いと思ったんだけど?」

「あッ、あれは何と申したら良いのか……」

「今日は"呼ぶ"つもりは無かったが、もしかすると"上がる"と思ったからか?」

「!? えっと……そ、そうですね。昨日かなみさんが"才能限界"だったと言うのに……」

「アイツのレベルが上がったって事は、日を跨(また)げば上がる気がしたんだな?」

「そ……その通りです。ランス王のレベル神は、何か特別な効果を与えてくれるのかと思いまして」

「ふ~む」

「ですから"恩恵"を受けた後で有れば店でもレベルを上げる事が出来ると踏んだのですが……」

「結果は聞くまでも無いか」

「…………」(コクリ)


話の流れ的に かなみの怪我の事よりも、此方のレベル云々の誤魔化しの方が難しいのかもしれない。

だが此処で納得して貰わなければウィチタは次も同じミスを"しでかす"かもしれんし、どうしたモンか。

リーザスに戻らせるのも気が引けるし、そうするとPT復帰は諦める事を意味するので勿体無さ過ぎる。

今は少数精鋭を実現させる為 候補の頭数を揃えている段階なので、可能性が有らば同行して欲しいのだ。

だが殆どの将軍が原作と違って多忙な所為で連れて行く者も限定されるので、彼女みたいな娘なら尚更。

よってガンジーやカクさんに疑われる様なチクりをさせない事を祈りつつ俺は言葉を選らんで口を開く。


「残念ながら……ウィリスに才能限界を伸ばす能力は無い」

「そ、そうなのですか?」

「ハイレベル神だったら話は別だが、色々と条件を出して来るんだっけか? 宝石とか」

「えっ? あ、あの……」

「悪い話が逸れたな。ともかくウィリスは関係ない」

「でしたら何の影響でッ? ま、まさか――――」

「うん?」

「――――ランス王が関わっているのでは?」

「そうなるな」

「ほ、本当なんですか!?」

「嘘を言っても仕方ないだろ?」

「では一体全体どの様にして"才能限界値"を……(方法によっては世界の常識を覆す事が……)」

「だが今の所"この方法"を明確に知っているのは俺と かなみダケだ。後メルフェイスが感付いてる程度」

「そ、そうなのですか?」

「だから分かっての通り、出会って間も無いウィチタに喋るのは躊躇われるってワケだ」

「……ッ……」


――――彼女は常識的な考えを持った人間なので、例え此処で話を締めても食い付いては来ないだろう。


「それでも聞きたいか?」

「ら、ランス王が宜しいので有れば是非ともですが……」

「そういう言い方なら、答えはNOと言わざるを得ない」

「うッ……」

「其処で誤解が無い様にフォローして置くが、なにもウィチタが"やらかした"事で教えないんじゃ無い。
 例え教えてもウィチタにその恩恵を受けさせる事は出来ないし、何より俺しか出来ない事なんだよ」

「ランス王にしか……出来ない……?」

「そう。だから情報を有効活用してくれるなら普通に教えたいんだが、生憎 無理なんだよコレが」

「そ、それでは私では何を どう足掻いても才能限界を伸ばす事は出来ないのですか?」

「君は確か……今はLv35だったよな? だが主人の存在を考えれば更に上を目指したいのは当然か」

「はいッ。いくら才能限界値に成ったとは言え、ガンジー様の力添えに十分とは感じませんので」

「う~む。只の勘でしか無いが、ガンジーは軽く70や80辺りまでレベルが伸びそうな気がするぞ」

「(ランス王の限界も気になるけど)……また今回の冒険で自分の不甲斐無さを痛感したのも有ります」

「成る程な……って、また話が逸れたな。今の質問に対しての答えも"NO"だ」

「!? ……と言う事は……?」

「ウィチタに遣ろうと思えば其処まで難しく無く上げる事はできる。かなみが一晩で伸びた程だしな」

「では何故 方法が分かったとしても恩恵を受けれないのですかッ?」

「方法が"ワケ有り"だからだ。今はソレしか言えない」

「其処を何とかと言うのは無粋なのでしょうか?」

「だとすれば先ずは覚悟して貰わなくちゃならん。君主を俺に乗り換える程の"覚悟"をな」

「なっ!?(でも……確かに才能限界値を伸ばすとすれば代償は必要かもしれない……)」

「しかしだ。先程メルフェイスが"感付いてる"と言ったろう?」

「は、はい」

「だから俺の口からは言わなくても、冒険を一緒に続けていれば嫌でも分かっちまうと思う」

「????」

「つまり"そのうち分かる"って事だ。後はウィチタ次第だな……願い下げかもしれんが」

「私 次第……?」

「ともかく。"遣らかした"からには汚名返上して欲しい所だが、今後も俺の護衛を頼んで構わないか?」

「!? それに関しては勿論ですッ! このまま帰ってはランス王 及びリーザスに示しがつきません!!」

「ならば特に かなみの居ない明日は期待させて貰うから、宜しく頼んだぞ?」

「か……畏まりました!!」


≪――――ギュッ≫


こうして俺はウィチタと握手を交わした。あの第一印象の様子を考えると、結構な進歩なんだと思う。

才能限界 関連の事に関しては生憎 旨く誤魔化して先送りにしたダケに過ぎないが……どうだろう?

彼女の表情は今は沈んでおらず、笑ってはいないが出会った時の様に"ヤル気"が戻った雰囲気である。

う~む。やはり帰還直後の"大丈夫! 大丈夫!"って気休めなんかより、しっかりと太鼓判を押される事。

つまり……真面目な彼女は今みたく、面と向かって許される事を俺の口から告げて欲しかったのだろう。

だが叶った故に安心した様で、俺とウィチタは その流れで喫茶店を出ると外で改めて向き直った。


「それではランス王。私は早速かなみさんに謝罪しに行こうと思います!」

「あァ。蟠りは早めに何とかするに限るしな」

「ランス王は どうされるのですか?」

「夕飯の時間も近いし、少しダケ時間を潰したら直ぐに戻るさ」

「そうですか」

「一応 俺も立ち会った方が良いかい?」

「いえ……コレに関しては自分で行わなければ意味が有りませんから」

「それもそうだな。じゃあ行って来ると良い」

「はいッ! この度は本当に有難う御座いました!!」

「ちょっ。声がデカ――――」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


唐突の大声とオーバーなアクションの礼に驚いた俺を他所に、彼女は その場から走り去ってしまった。

う~む。原作をプレイするに、普段は冷静に努めているが熱く成り易いと言うイメージが有ったが……

どうやら予想通りだったらしく此の弄り易いキャラが不幸を招いて結局はランスの餌食となってしまう。

そう客観的に考えると不幸 極まりないが……ゲーム的には面白くなってしまうので同情せざるを得ない。

だが"今回"は敬愛するガンジーに仕え続けるか、或いは"俺達"と共に戦って才能限界を伸ばしてゆくか。

今のウィチタにとっては前者が最も幸せなんだけど、今回の冒険次第では変わる可能性も有る。

……とは言え無理に"伸ばす事"を勧める事は出来ないが……まさに前途多難と言わざるを得ない。


「ふぅ。さ~て……と」


故に俺は多少 注目を浴びてしまう中(先程よりマシ)、苦笑しながら頭を掻いて目的も無く歩き出す。

だが直ぐにサイゼルに追い駆けられていた事を思い出すと、本屋を探して町を彷徨う事にしてみた。

まぁソレが目的で無いとしても、一人で"この世界"の町中を見て回る機会は少ない上に楽しいのだ。

ちなみに。宿に戻るとサイゼルが絡んでは来ないがジト目だったが漫画(最神話)を渡せば機嫌は直った。


「(ランス王は噂と違って王に相応しい器を持った方だった……ガンジー様 程じゃないけど……
 だから今回の旅に同行できると言う事に、誇りを持って挑まないとッ! そして汚名返上よ!!)」




……




…………




……数時間後。


「その発想は無かった」


一日を終えようとしている俺は、今は自室のベッドの上でサイゼルが読んでいた漫画を眺めていた。

文字通り内容は頭に入れては居らず流し読みしているダケであり、就寝前の"何となく"ってヤツさ。

何と言うか……カオスなんだよな。ランス4の魔法ビジョンの内容を知っている人なら分かるが……

大衆が目にするモノで"あんな内容"を流している辺り漫画も似たように笑いドコロが分からなかった。

しかしサイゼルと話を合わせる為に"この世界"の本ならば漫画でも読んでおかないとダメかもしれん。


「……何でサイゼルは此処が面白かったのかねェ?」


ちなみにウィチタはアレから無事かなみへの謝罪を済ます事が出来た様で、直ぐ彼女より報告を受けた。

飯に来る時も足を動かしたいと言うアイツに肩を貸してたし……動くのは明日と言う話はどうなった?

まァそれダケ遣る気に成って貰えないと"これからの戦い"が厳しいとも言えるので、有難いんだけどね。

またサイゼルの機嫌も漫画パワーで直っており、明日もブツクサは言われそうだが戦ってくれるはず。

故に残る気掛かりはメルフェイスの事ダケなのだが……結局は彼女の気持ち次第なので小細工は無用だ。

彼女程の魔術師なら必死で射止めても良いのだが、リアや王と言う立場も有るので一人に固執できない。

逆に"ランス"の様にアソコまで極端で有れば問題無いみたいだけど、色々な意味で体が持たんだろう。

つまり基本的に俺のアピールには限界があり、相手に首を縦に"振って貰わなければならない"のである。

だとすれば一部のキャラなんぞは絶望的だろうが、全ては俺の要領と女性達の気持ち次第でしかない。

それと"ランス"の強運だな。と言うか彼の強運に則った行動をしなければ死んでしまう可能性もある。

特にカラーの森で"あんな事"が出来るか自身が無いが、その辺は己を捨てるしか無いのかも知れない。


≪――――コンコンッ≫


「んっ? 誰だ?」

「私だけど……」

「かなみか? 直ぐ開ける」


≪――――ガチャッ!≫


「あっ……」

「どうしたんよ? こんな時間に」

「ご、御免なさい」

「それより足は良いのか? 全く飯の時と言い無茶しやがる」

「無茶は承知です。そうは言うけど以前の戦いを考えれば、大怪我をした次の日も戦う時も有ったわ」

「……(強ちランス3や4を考えると間違いじゃ無いな……)」

「で、でも何度も心配してくれて有難う。直ぐに治して見せるからランスは迷宮攻略の事を考えて」

「分かったよ。じゃあ何の用だ? 俺に小言をいわれる為に来た訳じゃ無いだろ?」

「それなんだけど――――」

「ともかく肩を貸してやる。話はソレからだ」

「……うん」


寝ようと思った矢先。"あの状況"の かなみが訪れて来たので、咄嗟に駆けるとドアを開けてしまった。

すると目の前には聴こえた通り、松葉杖を付いた彼女が居り……俺のスピードに驚いている様子。

対して無茶を咎めたい気もした俺だったが、此処で立ち話は どうかと思うのでベッドに腰掛けさせる。

一方 俺はテーブルの傍に有る椅子に腰掛けており、腕を組みながら背を預け 浴衣姿の彼女に言う。


「良し話を聞こうか」

「えっと……今回の件なんだけど」

「色々有るが"何の件"だ?」

「私が怪我をした時の話」

「それに関してはウィチタも反省している様だし終わった筈だが?」

「うぅん。その時の私が取った行動について聞きたいの」

「もう少し詳しく頼む」

「その……私は"あの時"ウィチタさんを庇ったでしょ?」

「あァ」

「今思えば本当に"その判断"は正しかったのかなって」

「どういう意味だ?」

「もし"あの時"ランスが魔法に巻き込まれてたら、私は死んでも償う事が出来なかった」

「!? だが俺は咄嗟の声で回避 出来て、かなみは足を焼かれはしたが大事には至らなかっただろ?」

「それはそうなんだけど……本当なら守護を担うと誓ったランスの方を庇うべきだったのかもしれない。
 例えランスが避ける事が出来ると分かっていても、少しでも回避を完璧にする為に死ぬ事も考えた」

「な、何だって?」

「でも"あの時"は迷いが有って、ランスが素早くメルフェイス様を助ける事が出来たのを見て動いたの」

「……ッ……だから反応が遅れてウィチタを庇った結果、本来 平気な筈が足を焼かれたってか?」

「そう言う事です。でも真っ先に貴方を庇っていればメルフェイス様とウィチタさんが危なかった」

「……と言うか俺のガタイを考えたら かなみも危なかったんじゃないか?」

「その可能性も高いかも」

「…………」

「だから教えて欲しいの。あの時 私は何をするのが本当に正しかったのかって」

「それ以前に何故"そんな事を"と言わざるを得ない」

「私も そう思う……でも主君に仕える"一流の忍者"みたく務めるには どう遣れば良いのか分からない。
 幾ら強くなっても心構えを変えなきゃ意味がないし……こう言う気持ちで戦うのも初めてだったから」

「ふ~む……だったら……そうだなァ」


≪――――ギシッ≫


「あッ」

「細かい考えは抜きにして、これからも自分の思った様に行動すれば良いんじゃないか?」

「お、思った様に?」

「今迄お前が どんな判断による行動をして来ても、結局はマシな方向には進んでいた感じだったろう?
 だから先天性的な勘の良さは有るんだよ。そうじゃなきゃイラーピュどころか魔人と戦った時点で、
 とっくに命は無かった筈だ。つまり"あの判断"で かなみが皆の命を救えた事は間違い無いって事さ」

「褒めてくれるのは嬉しいけど……万が一ランスの命が……」

「それ以前に かなみは何か勘違いしてるぞ?」

「な、何を?」

「――――この"ランス様"が一つや二つの部下の判断ミスで死ぬ様な男だと思うか?」

「!?!?」

「要するに かなみの強運も中々だが"俺様"の悪運には及ばんのさ。だから思ったように遣ってれば良い。
 お前が"どんな判断"をしようと、悪い方向には転ばせないと俺様が今 此処で断言してやろう。OK?」

「……ッ……な~んだ、やっぱりランスね。良い答えを期待した私が馬鹿だったわ」

「今更 何を言うか」

「でも私がランスに"こんな事"を聞くなんて、本当な不思議な感じね」

「そうだな。自分でも言うのも何だが確かに"今の関係"は有り得んと思う」

「けど貴方は"ランス"でシィルちゃんを助けたいのよね?」

「あァ。ついでに世界統一して魔人とも戦う」

「……では……こんな私ですが引き続き御供させて下さい」

「引き続き歓迎するぞ? 盛大にな」

「――――♪ッ」


何時の間にか俺はかなみの横に腰掛けており、余り話は纏まっていなかったが彼女を抱き寄せた。

しかしランスの顔と声で"こんな台詞"言う俺って……正直 原作のファンとしては非常に複雑である。

だが現在の かなみには臭い内容で有れど前述の様な言葉を掛けてやるのが最も有効なのは分かる。

リア(我侭娘)に仕えていた彼女はランスとは言え"普通"の主君の側近として働ける事自体が嬉しいのだ。

故に松葉杖を付きながらも訪ねて来たもの頷けると言うモノで、当然 俺の方も彼女を大切に感じていた。


「……そんなワケで」

「はい?」

「部屋に戻るなら手を貸すが?」

「御言葉に甘えたいのも有るけど(他の皆の目も有るし)頑張って自力で戻ります」

「そうか」

「……とは言ったモノの……で、出来れば此処で休むのも良いかな~って」

「ほう?」

「ランスの手は借りれないのに、思ったより戻るのは しんどそうかも……困ったわ」

「だったら一緒に寝るか?」

「い、良いの?」

「うむ。立場からして無理に手を貸す訳にもイカんからなァ……今回ばかりは仕方ないな」

「じゃあ――――」

「しないぞ?(怪我人 相手だし)」

「しなくて良いです!」

「ならば今宵は添い寝を命ずる。近ゥ寄れ」

「畏まりました」

「(まァ……俺も正直"今日の件"は怖かったし、丁度良かったか)」

「(コレが私の求めていた"忍者"として担う役割だったのかもしれない……嬉しいな)」


こうして かなみが俺を慕っている事を再認識できたワケだが……やはり残る問題はメルフェイスだな。

しかしながら。この状況では既に どうする事も出来ないので何度も思ってる通り彼女に委ねるしかない。

メルフェイスの事を何度も想う自分の女々しさを痛感するが、流石に俺はランス程の神経は無い模様。

カラダが違おうと一度 肉体関係を持った女性を潔く諦めたくないと言う気持ちも有るのだ。情けないな。

そう考えるとランスは諦めの良さも天下一品かもしれない……事によっては鬼畜な行動に走るワケだが。

さて置き。俺は先にベットに潜り込むと かなみを引き寄せ、今日は また違った夜で締まる事と成った。


「すやすや……んン~……ハウゼルゥ……」

「(王様……やっぱり考えが纏まらない……でも"その時"が来れば分かるかもしれない……)」

「(ランス王と言い かなみさんと言い、皆 良い人だったのね……疑ってた自分が恥ずかしいわ)」


――――そして翌日。すっかり忘れていた悪魔を呼び出し、俺達は迷宮の奥に潜って行く事と成る。








■あとがき■
更新がアホみたいに遅れてしまったので、リハビリの意味合いで会話中心でストーリーが進んでません。
次回は成るべく早く更新したいと思います。そう言えば……明後日がランス・クエストの発売日ですね。








あと主人公が気持ち悪くてすみません。



[12938] 鬼畜王じゃないランス12
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/11/16 01:02
鬼畜王じゃないランス12




=LP03年06月1週目=




……攻略8日目・及びリーザスを出発してから11日目。解呪の迷宮・第26階層。

現在は宿にかなみを残しているので、メンバーは先日とは目の色が違うウィチタ・相変わらず能天気なサイゼル・妙にソワソワしているメルフェイス・そしてリーザス王(笑)である俺の4人である。

そんな俺たちは昨日"ハウ・キュッ"を撃破した地点で、唐突に呼び出した"ある者"と向かい合っていた。

"その者"とは鬼畜王では一切 登場する事の無かったランスの"使い魔"であり、正直 俺も直前まで忘れていたと言う始末。

だが仲間として共に戦ってくれる戦力としては願っても無い存在な為、此処は原作みたく不幸に成っては欲しくないトコロだ。

よって任務を与える事に対しての見返りを"彼女"に伝えると、そんなモノが得れるとは思わなかったらしく最初は目を丸くさせていた。まァ……ランスの印象を考えると当たり前なんだけどね。

故に現在の彼女は怪訝そうな表情から一変しており、簡単に信じるのもアレとは思うが俺は騙す気は無いので問題無いか。


「では"フェリス"。今回お前に与える"仕事"の再確認といこう」

「はい!」

「俺達は"この迷宮"の最下層を目指しているんだが、此処のフロアのボスが倒されたと言う事で上層から雑魚どもが降りてくる可能性が有る。そんなワケで俺達の用が済むまで、君には"この場所"に留まって魔物達を抑えて欲しい。だが人間(冒険者)は殺さず気絶させろ。来る確率は殆どゼロだと思うけどな」

「(お……王様が"悪魔"を召喚するなんて……)」

「(本当に底知れない方だわ……幾らガンジー様でも悪魔の使役をしたりは……)」

「(ほんとランスは色々と驚かせてくれるわねェ。でも悪魔って聞いたら流石に違和感を感じるけど、今の あたしは魔人だから左程 関係無いかァ)」


――――当然 後方の面々の視線が気になるトコロだが、此処は受容して頂くしか有るまい。


「分かりました。人間以外の"通ろうとする者"を排除すれば良いんですね? そ、それでは……」

「あァ。此処 一帯に犇(ひしめ)いてるっぽい魂の採取は好きにして構わないから頑張ってくれ」

「えっと! あのっ! ……ランスさん?」

「何だ~?」

「ほ、本当に宜しいんですか?」

「宜しいって?」

「コレだけの量を好きにして良いかと言う事ですッ! 何が理由で此処まで彷徨える魂が多いのかは分かりませんが、全て採取出来るのなら再び第6階級に戻るのも夢では……」

「そんなに凄いのか? 俺は何も見えないんだけどなァ。メルフェイスとウィチタもそうなんだろう?」

「はい……生憎 目を凝らせば察せる程度でしかなく……サイゼルさんに言われなければ……」

「ですがAL教団の神官でも有らば分かったでしょうね」

「成る程な。ともかく俺達には何でもない話だがフェリスには願っても無い話なんだろ?」

「は、はい」

「だったら好きに活用すりゃ良いさ。んで関係無い俺達は気にせず奥を目指す……それダケの事だ」

「(ど……どう言う事なの? 今までの印象とは、まるで別人じゃない)」




『戦ってる時は気付かなかったけど此処、天使や悪魔が見つけたら小躍りするかもねェ』




"解呪の泉"の有る最下層を目指すに当たり、前述の様に"ハウ・キュッ"を撃破した地点を通過する必要が有ったワケなのだが。

サイゼルにとっては"何となく"言ったに過ぎなかったかもしれないが、其の言葉で俺はランスが悪魔を使役している事を思い出していた。

だが直ぐにでも召喚したいのを抑えサイゼルに理由を聞いてみると……此処 一帯には成仏する事が出来ないでいる冒険者達の魂がウヨウヨと漂っているらしい。

恐らく"ハウ・キュッ"の存在に気づく事無く大魔法で瞬殺された"現実"を朽ち果てて年月が経った今でも認める事が出来ていないのだろう。

されど今のサイゼルは魔人と言う事で魂 云々には全く興味が無いらしく、俺達には関係の無い話だと思われたが……設定ではフェリスならば成仏できない魂をラサウムに献上する事が出来たって記憶が有った。

コレは微々たる効果とは言えアンチ・創造神ルドラサウムな俺にとっては有益な行為なので、早速 召喚したフェリスに有効活用して貰う事にした。

当然ランスに対する認識を改めて貰う事が狙いでも有るので、ラサウムやら献上やらについては知らない振りをし、極力ボロが出ない様にするのは忘れない。

それにしても此処の魂を献上したダケで第6階級に上がれそうとか……あのボスは一体 何人の冒険者を葬ったってんだ? くわばらクワバラだぜ。

またフェリスを召喚した事でメルフェイスとウィチタは勿論、サイゼルさえ最初は目を丸くさせていたのだが、才能限界値を上げれると言う奇想天外な事が起きた後でも有るので左程ツッコミは受けなかった。

無論 後に改めて紹介するつもりだが……何となく今 フェリスを紹介すると以前のランスの"酷さ"が無駄に知れてしまいそうなので、使い魔の主人に対する好感度を先に上げとこうと思ったワケです。

よってシッカリと皆には説明せず奥を目指す事にしようと思ったんだが、此処を立ち去ろうとフェリスに背を向けて歩き出した俺に予想通りツッコミが入る。


「ランス~」

「んっ? 何だサイゼル」

「どうしてアンタが悪魔を扱えるのよ?」

「冒険者の頃に ちょっと有ってな……詳しくは気が向いたら話す」

「それって何時に成るの?」

「まァ今は奥を目指すのが先だ。出来れば今日中、遅くても明後日には此処を出発したいからな」

「ヤケに気が早いわねェ」

「当たり前だろ? 只でさえ無理言ってリーザスを一ヶ月 留守にしてるんだし、可能な限り早く帰りたいんだよ。リアの奴にも内緒で来てるしな」

「ふ~ん」

「そもそも"誰かさん"がリーザスを襲って来なかったりしなけりゃ、もっと余裕を持った旅が出来ても良かったんだが?」

「そ、ソレは あたしダケの所為じゃ無いでしょッ? ケイブリスが命令したから来たんだもん」

「その際 ハウゼルとか言う娘とはモメたくないから即 立候補したオマエの姿が目に浮かぶな」

「うぐッ!」

「図星かよ……(何て分かり易いヤツなんだ)」

「だ、だって出来るワケ無いじゃない……ハウゼルと戦うだなんて……」

「なら遣る事は一つだろ? さっさとカミーラとか言うのを倒して人類圏も統一して、魔人領を目指す……その為には俺達が手っ取り早く力を付ける事が必要なんだよ。だから悪魔の力を使うのも其の一環ってワケだ」

「(や、やっぱりランス王は考えている事が根本的に違う……)」

「(其処までリーザスだけで無く……世界の未来の事を見据えているんですね……)」

「な、何て言うか……人間で有るかも疑わしい奴ね……アンタって」

「褒め言葉として受け取って置こう」


――――サイゼルの疑問に上手く責任転嫁をする事で話を纏めると、改めて歩みを進めた俺だったが。


「ランス王!」

「何だ? ウィチタ」

「今回の攻略は私に先導させてくださいッ!」

「んっ? (下層に降りてから言うつもりだったが)そりゃ有り難いな。頼めるかい?」

「畏まりました!!」

「エラいヤる気ねェ」

「サイゼルも少しは見習ってくれよ?」

「ふんだ分かってるわよ……いちいち一言 余計なヤツねッ」

「う~む。ガラじゃ無い筈だったんだが何故かオマエが相手だと説教臭くなっちまうんだよな」

「どうしてよッ?」

「先天的なモンだと思うぞ」


――――個人的に真面目タイプなウィチタよりも、ツンデレ系のサイゼルの方が弄りたくなるとも言う。


「意味分かんないわよ(……それにしてもコイツ……何だかハウゼルみた)……ハッ!?」

「サイゼル?」

「な、ななな何でも無いッ! ともかく!! 急ぐんだったら早く奥に進むわよ!?」

「ハハッ。了解」

「笑うな~ッ!」

「(やっぱり私でも魔人と互角に戦う事が出来る様に成れる可能性が有る? 同行させて頂いている事で"知ってしまった"ランス王が話されていた"魔人領"での話を考えると、人類の平和の為にも私は強く成るべきなのは間違い無い……だけど……私にはガンジー様という敬愛するべき方が居る……)」

「(結局 考えは纏まらなかった……王様は自身ダケでなく仲間達も強く有るべきと仰っているけど、数ある中で此処を攻略する迷宮として選んだ時点で私には"元の体"に戻るべきと言っている様なモノよね……ハッキリと告げられては居ないけど、やっぱり私では今の力を持ってしても王様の助けと成るには役不足だと言う事なのかしら?)」

「(……だから今は答えを出す事は出来ないけど、先ずは目の前の任務に集中しないと本当に命に関わる……自分で臨んだ手前ガンジー様の顔に泥を塗るワケにもいかないし、少しでもランス王の力に成る事を考えないとッ! 悩むのはリーザスに帰ってからでも遅くは無いんだから)」

「(だとすれば私の呪いを解いてくださる為に此処を鍛錬の場として選んだ王様の気配りは確かに嬉しい……のだけれど……釈然としないのは何故なの? 私は今迄"元の体"に戻るのを目的に生きて来たって言うのに……途中 諦めて死ぬ事も考えたりもしたけど……いえ、それはともかく……どうして能力を失う事を名残惜しく感じているのかしら……?)」

「メルフェイス」

「!?!?」

「何をボーッとしてるんだ? 次"あんな事"が起こった時に気後れしてたら死ぬぞ~?」

「す、すみません……王様」

「まァ何を思ってるかは大体 察せるけどな」

「えぇッ?」


――――彼女は真面目な性格だから治す治さないで未だ悩んでいるんだろう。傍から見てもバレバレだ。


「だが考えるのは"その時"に成ってからで良いだろ?」

「……御見通しなのですね……」(小声)

「うん?」←聞こえなかった

「い、いえ……そうですね……私も直面してみないと答えが出ない様な気がします」

「そうか。だったら先を急ぐしか無いなァ」

「すみません」

「二度も謝るなって。ともかく後を追うぞ? ウィチタの奴 だいぶ先に行っちまった……って、立ち止まって俺達を待ってるみたいだな。まァ先行しすぎたら危険だし当然なんだが」

「ランス王。どうかなされましたかッ?」

「何してんのよランス~ッ! 早く来なさいよ!!」

「すまんすまん。今すぐ行く――――って訳で話は後だメルフェイス」

「畏まりました(全く私ったら……コレじゃ誰が守られているのか分からないわ……)」


――――此処で急かされたので互いに駆けるワケだが、唐突にカオスが俺にしか聞こえない声で喋った。


『結局 委ねる事にしたのか? 彼女は お前さんに借りを作っているから頼めば普通に付いて来そうだし、必要でなくともスケベは幾らでも出来るんだぞ? 何より王様でしょ?』

「それはそうなんだが、立場を利用してたら"その辺"の村娘を抱くのと変わらんだろうが。それ以前に最後のサイゴまで連れ歩くには自分から来てくれないと意味が無いんだ」

『う~ん。何だか勿体無い気がするがのう……って、最後まで一緒って事は其処まで本気で魔人領の事 考えてるワケ?』

「当然だ。皆レベル100以上にする気で選出してるぞ? 実際に奴等と見(まみ)えるのは当分先の話だが、この時点で下積みを始めて置かないと後々キツいだろ」

『確かに実際に戦ってみて"無理でした"では済まん相手だしのぅ』

「そう言う事だ……まァ詳しい話は後日って事にしてくれ」

『うんにゃ。相棒の"意気込み"を知れたダケで十分よ? 早くも斬るのが楽しみになったわい!』

「そりゃ~心強い限りだ。帰ったらまたウェンディの折檻役を奢ってやろう」

『9回で良いぞい!?』

「自重してくれ(……早くも肖りやがったか)」


尚 何時も持ち歩いているカオスとは"このような会話"を交わす事が結構 多かったりする。

……とは言え最初コイツはベラベラと何時でも何処でも喋っていたので少ないもクソも無かったが、現在は空気を読んだか"他の連中には聞かれない様に話し掛けて来る事"が殆どになっていた。

恐らく以前のランスに抱いていた印象と"今の俺"が変わっている事に気付いた結果、馬鹿を遣らずに謙虚にインテリジェンス・ソードとして(気持ち)装う様にしたみたいだ。

だが当然スケベなのは全く変わっていないが、その気持ちさえ有る程度 汲んでやれば基本的にコイツは外だと大人しい上にシッカリ働いてくれると言う事なので有り難い。

カオスは封印期間が長かった為"この世界"の常識には比較的 疎くなっているのか、現代知識を交えた俺との日常会話や冗談の交し合いも気に入ってくれている様で、既に良好な関係を築けていると言えるだろう。




……




…………




……30分後。解呪の迷宮・第26階層。

25階では魔物はボスを除いて皆無だったが、階段を下りると多少の遭遇戦が有ったモノの俺達は迷宮の奥を突き進んで行っていた。

そんな中で特にウィチタが素晴らしい働きをしてくれており、弱いモンスターは直ぐ様 投げナイフで仕留め先日の かなみと遜色無い働きを魅せてくれていた。

しかも手持ち無沙汰の時は忍者の働きを無視してブツブツと愚痴を言うサイゼルの事をも考慮し、器用にも自然な流れで"モンスターを流す"事で彼女のウサ晴らしをさせていた。

流石にコレは かなみでも難しい配慮だと思うと同時に、やはり奇特な性格なガンジーと有能だが天然なカオルと共に行動していたダケ有って普通に感心してしまった。

つまり現状の働きをする彼女が普段のウィチタであり魔法Lv2を持つ一流の魔法剣士なのだ。エレノア・ランさん乙。


「ランス王、また泉を発見しました!」

「今度も変な色をしてるわねェ」

「……どうして所々に泉が有るのでしょうか……?」

「分からん。大方 解呪 出来るのも"特定の泉に入ったら"だったりしてな」


「成る程」

「だったら試してみる~? メルフェイス」

「えっ? で、ですが……」

「馬鹿 言うなって。その色(緑)だと、どう考えても触れないほうが良さそうだろ」


「確かに今迄 まともと思える泉は殆ど有りませんでしたね」

「つまんないの~ッ」

「すみません」

「其処で謝ってどうすんだよメルフェイス。ともかく先を目指すぞ」


ちなみに"ハウ・キュッ"を倒し解呪の迷宮の26階層に進んでからは幾つもの泉が俺達の視界に現れた。

大きさや色も泉によって違うので、それぞれ効果も違って来るのだろうが……解呪・成長するモノも有ればRPGで良くある麻痺・石化・毒を齎(もたらす)す害しかない泉も多そうで、どれも色が酷い故に大半が外れなのだろう。

迷宮探索で役立つ"メリム・ツェール"が居れば軍を動かして一個一個 効果を調べる事でリーザスの発展に役立てても良いのだが、今は居ないのは勿論 現状でも兵達の数には不安を感じるのでスルーするしか無い。

まァガチで世の役には立ちそうな迷宮では有るので、全てを終わらせてから指示を出すのも悪くないな。

そう言う訳で。ミル・ヨークスを大人化する予定が微塵にも無い現状、メルフェイスの解呪が終われば"レディ"関連のイベントでしか来ないっぽいし、道中の泉に関しては記憶の片隅に留めて置くダケで良さそうだ。


「有りましたッ! 階段です」

「今回は早いわね~」

「段々と迷宮が狭くなって来ていると言う事は……」

「ゴールが近いって事だな」


――――しっかし暇過ぎて注意しようと思いながらも考え事をしちまう。俺もウィチタを見習わないと。


「……あれっ?」

「ど~したの?」

「ウィチタさん?」

「今 何か揺れた気がしたな」


「ランス王も御分かりでしたか?(私しか気付かないと思ったけど)」

「あたしは飛んでるからねェ」

「それでは……?」

「油断大敵ってヤツだな」


――――尚どうでも良い話だが、俺は地震帯国に住んでいたと言う事から他の連中より揺れには敏感だった。




……




…………




……更に30分後。解呪の迷宮・第27階層。

情報では28階が最下層と言う事なのでゴールが近いのは確かだが、そう簡単に解呪の泉には行けない様子。

幾つもの更なる泉を通過する中 見た目も綺麗な"成長できそうな泉"とかも有った気がしたとは言え、地下26階で感じた"揺れ"による緊張が誰もが拭えず話題にすら出来なかった。

それはともかく。下り階段を探す俺達の行く手を塞いだのは、高さが成人男性の4倍以上は有りそうな巨大な影だった!!


『イ"モオオオオォォォォッ!!!!』


≪――――ズウウウウゥゥゥゥンッ!!!!≫


「い、イモムシDX!? それにしては……」

「ちょっ!? デカ過ぎでしょ!?」

「まさか……突然変異モンスターッ?」

「その辺の泉が影響してるのは間違い無さそうだな」


「そう言えば此処 一帯には魔物が居ませんでしたから……」

「全部コイツが食ったって事ォ?」

「……有り得ますね……」

「つまりこの階の食物連鎖の頂点って事か……って来るぞ!?」


『…………』

「くっ!?」


≪ダアアアアァァァァンッ!!!!≫


――――原作には居なかった、卑猥で定評の有る強大化したイモムシDXの頭突き攻撃を回避するウィチタ。


「サイゼル!! メルフェイスッ!」

「見苦しいのよッ! 死になさい!!」

「氷の矢・展開」

『…………』


≪バシュウウウウゥゥゥゥッ!!!! ――――ドドドドドドッ!!!!≫


カオスをしっかりと握り直しながら叫ぶ俺の声を聞いた時点で、サイゼルとメルフェイスも戦闘態勢に入っており既に魔法を詠唱していた。

その直後 サイゼルはライフルから極太のスノーレーザーを放ち、メルフェイスが⑨のアイ●クル・フォールの如く氷の矢の弾幕を放ち9割 以上がイモムシDXのカラダに突き刺ささる。

普通のモンスターで有れば氷結耐性が有ろうと無かろうと、問答無用で御陀仏な攻撃と言っても良かったのだが……


「んなっ!?」

「さ、再生?」

『……ッ……』


≪――――ビュヒュッ!!!!≫


「!? 馬鹿ッ! 避けろ!!」

「さ、サイゼルさん!?」

「熱ッ! 熱い熱い!! な、何なのコレェ!?」

「酸!?(そんな攻撃をするモンスターじゃ無い筈なのに!)」

『…………』

「ウィチタッ! それ浴びたら死ぬぞ!?」

「ちぃっ!!」


≪――――ジュウウゥゥッ!!!!≫


突然変異の魔物ダケ有って凄まじい体力と再生能力を持っており、サイゼルに凍り付かされたのを瞬時に破った上にメルフェイスに受けた氷の刃による出血も数秒で治ってしまっていた。

更に鈍いのかダメージを感じた様子も無く反撃に移り、ゲームには無い口からの酸攻撃を放って来た!!

対してサイゼルはイモムシDXに抱いていた価値観から油断していた様で、酸性雨の一部がカラダに掛かってしまい(幸い丈夫なので)左腕が火傷・また衣服(ハイレグ)の一部が溶けてしまっている。

その一部はウィチタにも来ていたが、直感で反射的に避けていた様で大事は無かった……のだが、今度は彼女を標的にして再び大量の酸を放つイモムシDX。どう考えても放送禁止です、本当に有難う御座いました。

だがウィチタは動じる事無く精子……いや酸を身を低くして回避しながらイモムシDXに接近すると左手に籠めていた火炎魔法を放つ。


「炎の矢!」

『…………』


≪――――バヅンッ!!!!≫


「(弱点の筈なのに、やっぱり外からの攻撃は弾かれる……それなら、これはどう!?)」

『……!?』


≪――――ザシュッ!!!!≫


「(炎の剣)」

『!?!?』

「き、効いてるの?」

「痛がってるし間違いないな」

『それじゃ~行くか?』

「当たり前だ!!」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


ウィチタが右手で握っていた"炎の剣"でイモムシDXに擦れ違い様の攻撃を向かって左の胴に食らわせると、攻撃に怯まなかった奴の様子に変化が見られた。

(言う迄も無く卑猥だが)明らかに苦痛の感情を表しており、食らった箇所は燃え広がっているダケでなく再生もが遅くなっていたのだ。

そんな好機を俺が逃す筈が無く……背後に回り込んで炎の矢で追撃するウィチタに、苦しみながらも応戦するイモムシDXに向かって既に走り出していた。


「目障りだから動くなって言ってんでしょ!?」

「(王様に力を……)攻撃強化」


そんな俺の意図を察してか、メルフェイスは俺に物理強化の補助魔法を掛け背中を後押ししてくれる。

またサイゼルは一転集中させたレーザーを放ってイモムシDXの胴を貫通させ再生の無駄遣いを誘発。

更に酸が当たらずヤケクソになったか再び体当たりをした事で、大きく隙を晒したイモムシDXから逃れたウィチタが、剣を納めて何時の間にか俺の前方で両手に魔力を収束させていた。


「ランス王ッ! 私の炎の力を!!」

「何だか良く分からんが任せるッ!」

『えっ? ちょっと待って。儂 熱いの苦手なんですけど?』


「火炎付与!」

「おおおおぉぉぉぉッ!!!!」

『うあず~っ!!』

『……ッ……!?』


≪――――ザシュウウウウゥゥゥゥッ!!!!≫


俺が剣を振り上げて跳躍すると、ウィチタはタイミング良く"何か"を放ちソレはカオスに吸い込まれてゆく。

どうやら言葉の通り火炎属性を付与してくれた様で、コレで(巨大)イモムシDXの撃破は確定的となった。

よって炎を纏ったカオスを勢い良く振り下ろすと胴を激しく斬り付けられた事で激しく燃え上がり、やがて第二の迷宮ボスは肉体を黒焦げにされて絶命したのだった。


「(たった一撃で勝負を決めてしまうなんて……流石はランス王ね)」

「何とかは成ったが……悪かったなウィチタ。囮に使わせちまって」

「!? と、ととととんでも有りません」

「サイゼルは大丈夫か?」

「も、問題は無いわよッ」


――――そんな事を言っているがサイゼルは地面を溶かす程の酸を食らっており、メルフェイスが気遣う。


「ちょっと、ちゃんと見せて下さい。皮膚が爛(ただ)れている様に見えました」

「だから大丈夫だってばッ! 魔人は丈夫に出来てるんだから!!」

「ムッ。だったら隠している左手を見せてくれますよね?」

「そ、それは」

「ますよね?」(ニコッ)

「……う"~ッ……こ、この魔人サイゼル様が何てザマよ~……」

「!? これは骨が見えて……かなり酷い傷の様ですね」

「マジか? 少なくとも世色癌で直ぐに治る傷じゃ無さそうだな。元々体力の高い魔人には効果が薄いし」

「でも……痛ッ……もう直ぐゴールなんでしょ? この程度で引き返すなんて止めてよ?」

「分かったから取り合えず飲んどけ。止血くらいには成るだろ」

「う、うん――――ゴクッ」

「(案外 素直に飲んだな)次はウィチタ、包帯を」

「ただちにッ」


自分の所為で足止めはプライドが許さないのか、観念して素直に応急処置を受けているラ・サイゼル。

だが俺もイモムシDXが強酸を放って来るとは思わなかったので、サイゼルの被弾を責める気は全く無い。

そう考えればウィチタが食らったと思うとゾっとするぜ。仲間を失う上にエグいシーンなんてゴメンだ。

さて置き。サイゼルは続投したい様だが"他の場所"が有るので無理はさせたくない……そうなれば後は……


「サイゼル」

「な、何よ?」

「お前はウィチタと先に地上に戻ってくれ」

「!? ど、ど~して"そうなる"の?」

「もう大した魔物は居ないと踏んだからだ。雑魚しか残って無いのに魔人の手を煩わせる訳にはイカんだろ」

「生憎だけど皮肉にしか聞こえないわよッ」

「(私の役目はランス王を お守りする事だけど、怪我人を放って置く訳には……これは難しい選択かもね)」

「癪に障った様だったら謝る。だがコレは良い機会だと思ってるんだ」

「どう言う事よ?」

「……王様……?」

「ちょっくら奥に辿り着いたらメルフェイスと2人で話したい事が有るんだ。少し早いが席を外してくれ」

「!? 御二人ダケで大丈夫なのですか?」

「大丈夫だ。問題無い」←根拠無し

「(ガンジー様のように溢れ出す位の自信を感じる……コレなら問題無いかも知れないけど……)」

「何よそれ……だったら始めから そう言いなさいよ」

「正直すまんかった。メルフェイスは大丈夫か?」

「……ぁッ……はい……実は私も王様と話したい事が有りましたから……」

「だから無理はするなサイゼル。それに今の姿で戦うとポロリと行くぞ~?」

「な、なななな!? 何 言ってんのよッ! スケベ!!」


――――(本来なら)私は一向に構わん!! そして後者は俺にとってもランスにとっても褒め言葉です。


「まァ其処まで元気なら一晩 寝てれば治りそうだな~」

「うふふッ。そうかもしれませんね」

「はぁ……なんだかムカつく気も失せたわ……早く帰って休もうっと」

「そ、それではランス王」

「僅かな活躍で悪いが一足先に帰っててくれ。フェリスも此方で回収して置くからさ」

「畏まりました……それでは」

「ちゃんと守ってアゲんのよ~?」


≪キュ――――ィィイイン――――≫(帰り木 使用)


「何だか意外な一言を聞いた気がする」

「さ……サイゼルさんが私の心配を?」

「何だカンダで満更でも無かったのかもなァ」

「良く分かりません」

「聞いた話によると良く出来た妹が居るらしいぞ? メルフェイスと雰囲気が似てるのかもな」

「そ、そうだったのですか」

「だったのだ」

「……ッ……」

「それより。さっきも言ったが話は例の泉を見つけてからだ」

「やはり泉なのでしょうか?」

「道中で類似品が多数有ったからな」

「成る程……」


先にサイゼルとウィチタを帰すと"こんな感じ"の会話を最後に、俺とメルフェイスは奥に有った階段を肩を並べて下りていった。

此処で2回目のボス戦は勿論サイゼルが負傷するのも予想外だったが……そうでなくとも2人は直前で戻す予定だったので、苦しい(と思われる)言い訳を考えずに済んだダケ幸いだったと言えよう。

ともかく。次の展開で一人の女性が最期まで俺と共に歩むか、女として幸せな生活に戻るかが決まるのだ。

よって俺は期待と不安を胸に階段を一歩一歩 踏みしめながら……必死でメルフェイスに面と向かって何を言おうかと考えているのだった。


「(……やっぱり王様と出会ってからは何もかもが新鮮……私には呪いを解く以外の道は無いと思っていたのに……)」








●あとがき●
実はまだランス・クエストはクリアしていません。ヘルマン3軍がカラーの森を襲うシナリオの手前かな?
さて今回は かなみちゃん出番無し。またサイゼルが かなりヘタれています。だがそれがいいと思うんだ。



[12938] 鬼畜王じゃないランス13
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/11/20 06:55
鬼畜王じゃないランス13




=LP03年06月1週目=




――――解呪の迷宮 最下層・28階。


俺とメルフェイスは、奥に存在すると思われる"解呪の泉(命名)"を目指して暫く無言のまま広い一本道を歩き続けた。

その間モンスターと遭遇することも無く開けたフロアに出ると、直ぐ目の前の視界に広い泉が飛び込んで来る。

何と言うか……特に照明が有るワケでも無いのにキラキラと光沢を放つ その様は、何とも神秘的な印象で目を奪われてしまった。

だがソレは傍に居たメルフェイスも同じだった様で、互いに言葉を失い沈黙を破るのに30秒以上を要してしまう。


「これが……"解呪の泉"ってヤツか?」

「そ、そうかもしれません」

「では早速検証してみるとしよう」

「検証……?」

「念の為だ。まさかとは思うがダミーだったら困るだろ?」

「成る程」

「よっ!」

「……(やっと"この時"が来たのね……でも……)」


≪――――ポチャンッ≫


此処でメルフェイスと会話を行う前に、段取りと言うモノを踏まなくては成らない。

よって俺はポケットから"斬れそうで斬れない呪いが掛かっているナイフ"と言うロクでもない効果の呪いの掛かったアイテムを取り出すと、それを泉に放り投げた。

そして予め結び付けていた紐を引っ張るとナイフを取り出し、その紐をスパッと斬る事で呪いが解除された事実を確認した。

ならば後の話はメルフェイスの出方を見てから……と言う事で俺はナイフを皮の鞘に納めると、そのまま腰に挿してから腕を組むと彼女の方に向き直って言う。


「ふ~む。どうやらコレで間違い無い様だな」

「その……様ですね」

「どうする? 浸かって見れば元のカラダに戻れる可能性が高いぞ?」

「は、はあ」

「何なら席を外しているが? いや……当たり前なんだけどな」

「……ッ……」

「メルフェイス?」

「……王様ッ」

「何だね?」

「つまらない話になりますが、聞いて頂けますか?」

「ああ」

「有難う御座います」

「…………」


俺が考えるに かなり賭博だったのだが――――少し解呪を煽って見たのに"話してくれる"様で良かった。

少なくとも最低"この段階"に行けなければ、浸かるのを止めてくれても結局は無意味なのだ。

例え共に行ってくれるとしても、何処かで"元の体"に対する未練や他の者への愛を残してしまうだろう。

つまり前述の様にメルフェイスが自分から解呪を思い留まってくれないと意味が無く、今の俺は畳み掛けるタイミングを窺うしかない。


「私は"こうなってから"今迄……呪いを払う事ダケを目的に生きて来ました」

「確か"リヴ"とか言う秘薬を服用してから"そうなった"んだっけか?」

「……はい……今や隠す必要は有りませんが、何倍も強くなれる反面……2ヶ月に一度以は自分より強い者に抱かれないと、狂い死にしてしまうという副作用が有る薬です」

「…………」

「本来で有れば故郷を救う為、その副作用で死ぬ覚悟もしていた筈だったと言うのに……終わってみれば、やっぱり死ぬのが怖くて傭兵として生き恥を晒してゆく事を選び……かと言って、ここまま治せず老いが始まると同時に狂い死ぬ未来を描く事しか出来ず……毎日の夜が悪夢で魘(う)される日々でした……リーザスに拾って頂ける迄は……」

「…………」

「リーザスの方達は皆親切で本当に良い場所でした。私はリヴの副作用を受けてから、其処で初めて安息と言うのを得れた気がしました」

「まァ 相手がエクスだしな」

「はい。ですから今もその気持ちは変わっていません……しかし……安息を得れた反面 痛感したんです……命を繋ぐ事を代償に、私は決して幸せには成れないのだと」

「どうしてだ?」

「仰る迄も有りません」

「すまん、野暮過ぎた」

「……いえ」

「(だが此処からが勝負だな)」

「…………」

「メルフェイス」


≪――――ザッ≫


「は、はい?」

「俺はオマエの呪いが解けた暁には、再びリーザスの魔法部隊 副官に返り咲いて貰い……引き続きリーザスの為に尽くして貰いたいと思っている」

「えぇっ!?」

「聞いた話では副作用が有りながらも真面目に部隊を纏めようと努力している様は将軍達ダケでなく部下からも評価が非常に高く、俺が軍の解体を命じた際には何人もの魔法兵がエクスへ反対の意見を寄越して来たそうだ。直接 俺に言って来なかった理由は何となく察せるけどな」

「……ッ……」

「だから呪いを解いても路頭に迷う心配なんぞ元より皆無だし、戦うのが嫌ならメイドなり給仕なり仕事を紹介してやっても良い」

「そ、それでは……(やっぱり王様は……私が呪いを落とした方が良いと……?)」

「あァ。メルフェイスは"治るべき"なんだと俺は思う」

「……ッ……」


――――此処で一気にメルフェイスの表情が曇ってしまった。

最近は只でさえ覇気が無い様子だったと言うのに、目に見えて分かるので"残念がっている"のは間違い無いだろう。

つまり自覚はしていないが、彼女は生きる目的でも有った"呪いを解く事"に躊躇いを感じているのだ。

だとすれば……畳み掛けるしか有るまい!? ……とは言ってもストレートと迄はイケないけどね。


「だが その前に一つダケ言わせて欲しい事が有るんだ」

「な、何でしょう?」

「もし呪いを解く事が出来なかったとしたら、当分は俺と共に行動する事に成っちまうが構わないよな?」

「……えッ……そうですね……お、王様が宜しければですが……」

「でも安心してくれ。例え此処での望みが潰えても、俺が必ずメルフェイスの呪いを解く方法を探して見せる」

「!?!?」

「勿論 俺とずっと共に戦ってくれる為に、今のチカラを失わないで済む最高の治療方法を……な」

「ど、どうして……何処まで考えて下さるのですか?」

「生憎 俺は他の男連中と違って、簡単に抱いた女を手放せる男じゃ無いんでね」

「お……王様……」


正直コレは嘘偽りの無い本心だ。メルフェイスは"此方"に来て抱いた2人目の女性……そりゃ感情移入もする。

さて此処で気付いた だろうが、原作基準で考えると彼女が今 解呪を選らばなければ秘薬の副作用から開放される事は無い。

しかしながら。俺は"その選択"をさせた彼女に責任を取り、他の方法を探す覚悟で今回の遠回しな勧誘に臨んでいるのだ。

……とは言え……勿論 治療のアテは有るので不可能を可能にするつもりで言っているワケでは無い。

な~に簡単な話だ。方法を知る代償として、ホ・ラガに掘られる位のメに合うダケで済むリーズナブルな捜索手段です。

ケツが痛くなるので さて置き。俺は余り作らないワザとらしい笑みを浮かべてそう告げると、メルフェイスの背を押した。


「ともかく……浸かるか浸からないのかを選ぶのはメルフェイスだ」

「……っ……」

「俺は通路の入り口で待ってる。覗いたりはしないから、ゆっくり遣ってくれ」

「わ、分かりました」

「けど何か有ったら直ぐに大声で助けを呼んでくれよ?」

「は……はい」




……




…………




……待つ事 憶測で10分程度。


「…………」


解呪の泉を立ち去って100メートル程 進んだ所で、俺は通路の壁に背を預けつつメルフェイスを待っていた。

その腕を組み瞳を閉じている様は、見た感じキマっているのだろうが……内心は気が気じゃなかったりする。

アレだけ恥ずかしい事を言った手前 振られてしまったら、それはそれで良いのだが何だか切なくなりそうだ。

一度 抱いて結局 惚れてしまった女性なら尚更であり……右足の指先をコツコツと鳴らしながら待っていると……


≪――――コッ≫


「……王様……」

「!? 来たか」

「遅くなって すみません」

「問題無いさ」


――――ようやく待ち人が現れたのだが、彼女は何故か靴ダケを残して全裸だった。マジどう言う事なのさ!?


「……ッ……」

「それより、どうしたんだ?」


余りにも予想外でマニアックな姿に素で驚いてしまったが、雰囲気を読んで最低限のリアクションに抑える俺。

う~む……彼女の裸体は目の保養に成りそうとは言え全裸と言う事は、既に泉に浸かってしまったのだろうか?

だが生憎この距離では濡れてるか分からないので結果を聞くと……彼女は叱られた子供の様な笑みを浮かべて口を開く。

その時のメルフェイスの表情は、後方から届く"解呪の泉"の輝きに照らされて まるで女神のようだった。


「やめました」

「良かったのか?」

「はい。後悔はしていません」

「……有難う」

「お構いなく」

「ところで」

「はい?」

「何で全裸なんだ?」

「此処で王様に抱いて欲しかったからです……今日の記念に」

「ず、随分と大胆だなァ」

「私も そう思います」

「訳が分からないよ」


――――そんな話をしているウチに、何時の間にかメルフェイスが俺の直ぐ近くまで来ていた。上目遣い反則!


「ダメ……でしょうか?」

「いや。構わないぞ?」

「ふふふっ、良かったです。断られたら恥ずかしくて死んでしまうトコロでした」

「流石に其処まで野暮じゃないさ」


≪――――きゅっ≫


「……ぇとッ……その……大好きです……王様……」

「俺もメルフェイスの事がダイスキに成ったっぽい」

「う、嬉しいです」

「とりあえず布団敷こう……なッ?」

「有りません」

「ですよねー」


――――(恥ずかしいが)新たな絆で結ばれた俺とメルフェイスに、それ以上の言葉は要らなかった。




……




…………




……更に10分後。


「そろそろ入れちまうぞ~? メルフェイス」

「……ッ……遠慮せずに……御願いします」


まあ流れ的にラブ・シーンなワケで……俺はメルフェイスにキスしたり愛撫したりした後。

壁に両手を付けさせオシリを向けさせると、立ったまま犯っちゃおうかな~とか思ってたんだが。

何時もの国家を脳内BGMに自分の分身を挿入しようとした瞬間、思わぬ者が登場しやがる。


≪――――ぱっ!≫


「ランスさんッ! 全ての魂の採取 終わりました!!」

「……えっ?」

「んなッ!?」

「突然で驚かせて済みません!! えっと、先ずは何て言ったら良いか……アレだけの量の魂を献上させて頂けて、本当に有難う御座いました!! お陰でかなりラサウム様に貢献出来たと思いますッ! 其処で思ったんですけどねッ? 採取が済んだからには、アソコで留まっているよりランスさん達と合流した方が私も力に成れるので良いかな~と思ったんです!! だから急いで合流したと言う訳――――なんです――――が?」

「ハァ……」


≪ゴソゴソ≫ ←(一瞬で)萎えたハイパー兵器をズボンに戻すランス


「ふ、フェリスさん……?」

「メルフェイス。俺のマントで良ければ」

「あ……有難う御座います」

「悪いな。記念のセックスは見送りになっちまった様だ」

「しょうがありませんね」

「取り合えず戻って、服を何とかしないとなァ」

「すみません」

「おいおい。直ぐに謝るのは悪いクセだぞ?」

「気をつけます」

「……~~っ……ぅあ――――がッ……!!」


ちなみに俺とメルフェイスの営みを絶妙なタイミングで邪魔したフェリスは、服を取って戻って来るまで"その場"で固まっていた。

その後 正気を取り戻すと彼女は しどろもどろに成った挙句に土下座して謝罪して来たので、互いに苦笑しつつ許すに至る。

ちなみにメルフェイスは"その時"の困った様な笑顔も魅力的に写った事から、何やら憑いていたモノが取れた様な印象を感じた。

さて置き。フェリスは先程の報告以外でも言う事が有った様で、暫くして落ち着きを取り戻すと興味深い事を言った。


「ランスさん忘れる所でした。魂の採取 途中に、一人の冒険者と思われる女性が現れたんです!」

「な、何だとォ~?」

「それも一人……?」

「はいッ! 人間にしては強くて少し苦戦しましたけど」

「なら殺したのか?」

「まさか。御命令 通り気絶させて置きました」

「それでは……王様……?」

「あァ。直ぐに確認しよう」

「急いだ方が良さそうですね」

「!? ま、待ってくださ~い!」




……




…………




……30分後。


≪――――ダダダダダダッ!!≫


「ランスさんッ! アソコです!!」

「うおっ!? 本当に居やがった!」

「ハァハァ……でも無事の様ですね」

「…………」


俺・メルフェイス・フェリスの3人は駆け足で26階層まで上がると、使い魔が倒したと言う冒険者を探す。

すると27階層に降りる階段付近に女性がうつ伏せに倒れているのを発見し……近くには彼女の武器を思われる(槍の)ランスが転がっていた。

近くに寄るとマントを纏い羽飾りの付いた銀色の長い髪だと分かり、目立った外傷は無い事からフェリスの手加減の上手さが窺えた。


「おいっ! 大丈夫か? しっかりしろ!」

「…………」

「どうですか?」

「う~ん、ダメだなァ。綺麗に入ってるみたいだ」

「ごごごゴメンなさい~ッ!」

「謝るな謝るな。ともかく介抱してやらんとな……じゃあ帰るぞ? メルフェイス」

「分かりました」

「フェリスも御苦労だったな。もう戻って良いぞ?」

「は、はい!! また御用の際は宜しく御願いしますッ!」


こうしてメルフェイスの正式な加入と共に"解呪の迷宮"の攻略は完了し、俺達は翌日にはハンナの街を後にするのだった。

ラストに思わぬ"拾い者"も有ったが、全く見た事が無いキャラだったので御利用は計画的にってヤツだな。

ともかく。次の予定は"Mランド"付近でのエクスとの対面・及び交渉or指示……続いてラジールでハウレーンと合流した後でのカスタム攻略。

更にカスタム東の"デンジャラス・ホール"の制覇が控えており、引き続き戦力の増加に努めなくては成らないなァ。

正直2人だけでも"男"としては満足なのだが、仲間の数としては不安が有り余るので色々な意味で頑張るしか無いだろう。


「(もう迷わない……私は これから王様と……いえ、本当の意味で自分を愛してくれたランス様と……共に最期まで戦って果てる事を選ぶ。それが"新しい私"の……生きる意味なのだから……)」


――――尚。たった一人で"解呪の迷宮"の制覇に挑んだ冒険者の女性は、目を覚ました後"アームズ・アーク"と名乗った。


「ふむ……貴方達に着いて行けば色々と面白そうだ。以後 宜しく頼む」

「あァ。期待しているぞ?」

「えェ~ッ?」

「(……かなり出来るわね)」

「(やっぱりランス王にも、ガンジー様にも劣らぬカリスマが有るって事?)」

「(彼女達に負けない様に頑張ります……ですから見ていて下さい……王様)」








●あとがき●
短めですいません。何となく区切りが良かったので投稿してしまいました。
今回はランス・クエストのキャラクターが登場。彼女のレギュラー化の予定は今の所ありません。
尚ランス・クエストは一応クリアしましたが、まだ周回はしておらず未クリアのクエストも結構あったり。
ちなみに鬼畜王のアームズ・アークは一人でハウ・キュッに戦いを挑んで大魔法で死んだと言う事で。



[12938] 鬼畜王じゃないランス14
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/12/10 03:59
鬼畜王じゃないランス14




=LP03年06月2週目=




……リーザスを出発してから15日目。

"解呪の迷宮"の迷宮が終了した俺達6名は迷宮 最寄の町を出発して"ハンナの街"に向かうと、適当に見かけたリーザス兵に声を掛け事の"後始末"を頼んだ。

何気にアソコは謎のボス(ハウ・キュッ)の存在から難攻不落の迷宮として冒険者達の間で有名だった様であり、歴代の都市長も地味に増えてゆく被害者に頭を悩ませていた事から、無事 攻略した暁にはマリスから【リーザスと街とで連携し安全を告げる事で冒険者達を遠ざけると同時に、下層に幾つも存在すると言う"泉"の管理を行ってゆくので報告して欲しい】と言われていたからだ。

勿論 断る理由は無いので二つ返事で了解したのは良いが、俺が攻略後 行った事といえばリーザス兵に一言 声を掛けたダケなので、殆どの事はマリスの側近やら都市長やらが対応してくれるだろう……ホント出来た部下達を持つと楽で良いモンだ。

よって其の報告の時点では"5人目の仲間"に俺の(王様と言う)正体は知られずに済みました。


「失礼。ランス殿で御座いますね?」

「そうだが?」

「将軍が御待ちです、案内させて頂きます」

「有難う」

「将軍?」

「気にするなアームズ。直ぐに分かるからさ」

「そうか」


――――そんなワケで現在地はMランドをスルー(通過)して、其処の西・レッドの町の東に佇む中継地点 的な町である。

今はリーザス白の軍が一時的に駐屯地として借りている様だが、それにしては左程 騒がしく無いのはエクスの采配の線が強いだろう。

さて置き。人数は何故か俺を含めて4人しか居らず、パーティーで言う"後衛"2名の姿が無く少しの間だが別行動を取っている。

その"2名"の事が気になるのか、町入ってイキナリ声を掛けてきた正規っぽいリーザス兵(白)の背中を追いながら かなみが斜め後ろから話し掛けて来た。


≪コッコッコッコッ≫


「それよりランス」

「何だ? かなみ」

「あの2人……大丈夫なのかしら?」

「流石に何事も無くとは いかないだろうなァ」

「でしょうね」

「まァ例え置いて行っても後から慌てて追い駆けて来るのが目に見えるし、その辺は心配 要らないだろうが」

「でも最悪Mランドに魔人が野放しになる可能性も有るのよ?」

「アイツが信用ならないか?」

「そ、そんな事は無いけど……」

「だったら俺様の采配を信じるべきだな」

「はいはい。愚問でしたッ」

「それよりもMランドを"どうするか"が先だろ?」

「……(もしやと思っていたが、やっぱりランスと言う男は……)」


尚 かなみは次の目的地を目指す合間に両足が結構な速さで回復しており、彼女の努力も重なり今は俺達の速度に合わせて歩ける様になるまで治っている。

流石に戦いに置いては本調子の4割程度の実力しか出せないとの事だが……デンジャラス・ホールに着く頃には必ず間に合わせると言っていた。

そんな彼女がワザワザ気にするのは、こんな状況ながら"寄り道"をしているメルフェイスとラ・サイゼルの事。

脱線の始まりは"凍結(予定)前のMランドで、どうしても遊びたい!"と言う氷の魔人の我侭が原因だった。

出発前から途中で遊びたい様な事を言っていたので"もしや"と思うと同時に、何も言って来なければ当たり前の様に通り過ぎようと思ったのだが、遠方に観覧車の天辺が見えた時点で言い出しやがったので誤魔化し様が無かった。

しかし俺達は急ぐ身でも有るので当然 反対したのだが……予想通り駄々をこねた為 早々に諦め、申し訳ないがメルフェイスに犠牲(お守り役)に成って頂く事で一日遅れで後を追って貰う様に指示した。

もし2人を待って1日ロスするのなら痛いトコロだが、ラジールやカスタムには恐らく丸1日留まる事も有るだろうし、領地の各地に居るリーザス兵(正規軍に入れない二軍だが遣る気が有る)と言う便利な者達にメルフェイスとサイゼルを見たら俺達の場所を伝える様に将軍 経由で命令させる つもりなのでリスク無しの合流は難しくは無いだろう。

よって現在は俺・かなみ・ウィチタに"新たな一名"を加えた面子での行動で有り、当然フェリス(悪魔)は常識的に戦闘時のみの召喚になる。

そして歩く事5分程 経つと……町の外れに有る大型のテントに迄 案内され、リーザス正規兵(白)は此方に振り向くと例の立ち絵っぽいポーズを取った。


「此方で有ります」

「あァ。御苦労」

「失礼します」

「……ッ……」

「……ふ~む」

「ウィチタ・アームズ。遠慮は要らないぞ? 君達も入ってくれ」

「か、畏まりましたッ」

「分かった」


入り口で若干躊躇する2人の視線を尻目にテントの中に入ると、其処には予想通り白の将軍エクス・バンケットが居た。

だが この場に副将のハウレーンが居ないと言う事は、指示通り"ラジールの街"で俺達が来るのを待っているのだろう。

また彼の左右にはリーザス白の騎士が4名づつ跪いており……エクス本人は笑みを浮かべると丁寧な会釈の後 口を開く。


「ご無事で何よりです、ランス王」

「うむ。そっちもラジールとは上手く合併できた様だな」

「……ッ……(やはり!)」

「ええ何とか。ですがアレから2週間程 経っていますので今は騒がしさも収まっている事でしょう」

「まだリーザスの軍が留まっているのにか?」

「街の者達には今や"それ"を当たり前にして貰う必要が有りますから、その辺りの抜かりは有りませんよ」

「成る程」

「それよりも、この様な場所での御迎えとなって面目有りません」

「気にするな。流石に"この町"で即席に1200人の兵を受け入れる事は難しそうだったしな」

「そう仰って頂けると助かります」

「ところで」

「はい?」

「ハウレーン副将はラジールに居る事と捉えて良いんだよな?」

「ご覧の通りですよ。最初は彼女も迎えに行きたいとも申しておりましたがね」

「真面目なヤツだからなァ」

「それも一理だけ有ります」

「一理?」

「おっとランス王。此処で立ち話もなんですから、どうぞ席の方に……むっ?」


――――話を進める中 騎士達の事も有るので一旦話を切ったエクスだったが、俺から視線を外した時 何かに気付いた様だ。


「どうした?」

「失礼。其方の貴女は"アームズ・アーク"殿では?」

「ん……私か? そうだが?」

「知ってるのか? エクス」

「えぇ。"その道"の人間の中では かなり有名な人ですからね」

「ほほう」

「……白の将軍エクス……そう言えば、何度かリーザスの遣いと名乗る者が声を掛けてきた事が有ったな」

「ははは。生憎 良い答えは頂けなかった様ですがね」

「すまなかったな。あの時 迄の私は一人で世界を旅する事しか頭に無かったんだ」

「しかし此処に居られると言う事は……?」

「見ての通りだと捉えて貰って構わない」

「ふむ(……ランス王……相変わらず、僕の予想外の展開を魅せてくれますね……)」

「それより何故エクスが彼女の事を知ってたんだ?」

「では先ず それについて御答えして置きましょうか……さて、僕はランス王との話が有りますので皆さんは外で待機して警戒に当たって下さい」

『――――ははっ!』


何とエクスは白の将軍なのに俺の知らないキャラ【アームズ・アーク(これでも女性の名前)】の事を知っている様だった。

アームズ・アーク……長い銀髪に羽飾りを付け、水色だが中央が微妙に紅いと言う特徴的な瞳を持つ槍使いの美女。

体格は俺(ランス)程度 有るにせよ、不相応にデカいランス(槍の方)を持つ姿を見て最初は"モンハンかよ!"と思ったモンだ。

そんなアームズは俗に言う"ボス狩り"や"アイテム収集"に人生を掛けているらしく、今回は今や冒険者が殆ど近付こうとしない"ハウ・キュッ"に挑もうと単独で"解呪の迷宮"に赴いた様だが、大量の魂の採取により急速にチカラを現在進行形で得ていたフェリスと鉢合わせして戦いを挑んだ結果、予想外の悪魔が居た事による焦りとフェリスの"やる気"により敗北し、ナンダカンダで今は俺達と行動を共にする事になっている。


――――だが詳しい話は さて置き。


「情け無い限りですが僕 個人の武力の方は からきしですからね。リック将軍ほどの武勇を持つ人で有れば、それに憧れる猛者達が自然と集ってくるでしょうが、知の将軍と言う立場で有れば所詮 行えるのは采配に留まります。ですから自然と傭兵や冒険者の情報にも敏感に成って来るんですよ。作戦を完遂させるに当たり個々の実力が高いに越した事も有りませんからね」

「納得」

「最も――――(根拠は有りませんがランス王にはリックを越えるカリスマ性を感じますがね)」

「うん?」

「いえ失礼。何でも有りません」

「まァ良いが……そうなるとメルフェイスを引き入れたのも?」

「大体 御想像されての通りでしょう。彼女に関しては一つの事を条件に2つ返事で済みました」

「だがエクス個人へのリスクが半端じゃ無かった だろうけどな」

「えぇ。将として考えると僕の選択は……浅はかだったかもしれませんね」

「いや そんな事は無いと思うぞ? 現に俺は貴重な"仲間"を得れた訳だし」

「……ッ……」←かなみ

「と言う事は……?」

「生憎 例(呪い)の件は無駄足に終わったが、彼女の事は俺に任せてくれ」

「宜しいのですか? 僕の権限では無理でしたが、ランス王が指示して下されば方法の"探索"は惜しまないつもりですが」

「気持ちは嬉しいが、今はそれどころ じゃ無いだろ? まァ各所に侵攻しつつ気長に探すさ」

「有難う御座います。それに全てを押し付ける形に成ってしまって本当に申し訳ありませんッ」

「まァ見返りは結果で示してくれれば問題無いさ(……むしろ同行を促してくれて助かったし)」

「畏まりました」

「……(メルフェイス様の態度で感じたけど、やっぱり あの人も私と"一緒"の道を選んだのね)」


エクスは部下達を退室させると、俺達を同テント内に有る軍事会議用の大型デスク周辺に座らせインテリっぽい仕草(眼鏡の位置を直す)の後に話を始めていた。

智将であるエクスは策略の成功率 上昇の(あくまで)一環で世界の冒険者をリーザスで雇う事を密かに行っており、その対象にはアームズ・アークも含まれていた様だ。

結果は案の定だった様だが……エクスの部下(リーザスの騎士)にも成ると基本的に一般兵に比べエリート集団であり、加藤みたいな例外を除いてリーザスの上流階級の者が殆どで、その家族や知人が歴代騎士を務める事が多い。

――――尚 マリスによる今年 4月の統計では平均レベルは、だいたい20前後との事。

だがリックの様に"成り上がり"も決して少なくは無く現に今居たエクスの側近の騎士の何人かは元・冒険者or傭兵であり、彼が雇い入れた後に腕を買って今の地位に昇格させたのだそうだ。

しかしながら。騎士として戦える個人の武力と同時に、教養や礼儀作法も必要最低限 踏まえている者は世界中を探しても なかなか見つからないらしく、今迄は元白の将:ペガサスの存在から積極的な勧誘さえ行えなかったが、最近は自分の実力を認めてくれたのか口を出して来る事は無くなり行動を起こし易くなったと苦笑していた。

されど魔人が攻めて来るのが もう少し早ければ出陣した可能性も有るだろうとエクスは言っていたが、実際のトコロ原作ではランスが㌧でも無い事を御披露目の時に言った事で反乱軍に参加した事から、今度は其の言葉に俺が苦笑いする側だったのは言う迄も無い。


「ではランス王」

「なんだ?」

「何故アームズ殿が同行されているのです?」

「んっ? それはだな……」

「…………」


――――そう言いつつアームズの方を見ると、彼女は静かに腕を組み瞳を閉じた状態で頷いた。しかしオッパイでかいな。


「少し長くなるが構わないか?(フェリスの事も有るし)」

「非常に興味深いので、是非 御聞かせ願いたいですね」

「分かった」

「……(それにしてもゼスの者で有る私も同席して良かったと言う事は、私も少しはランス王に認められたのかしら?)」




……




…………




……解呪の迷宮 脱出後。

俺とメルフェイスは先ずは気絶しているアームズを新しく借りた部屋に寝かせると、ウィチタに軽く装備品のチェックだけをさせ、それを終えると(彼女の持つ貴重なアイテム群には少し驚いたが)ひとまず彼女の事は忘れて軽い祝勝会を開いて5人揃って多少 豪勢な夕飯を食べた。

その際"あの時"のメルフェイスは多少"淫乱モード"に差し掛かっていた為の行動だったらしく、シラフに戻ったら恥ずかしくなったのか一度も俺と目を合わせていなかったり、最も深手を負ったはずのサイゼルが何時もの様にタラフク飯を食ったのは さて置き。

翌日 書き置きで足の怪我が有りながらも、律儀に早起きして"うし車"の準備に向かったとされる かなみの元に朝食後 俺・メルフェイス・サイゼル・ウィチタの4人で向かおうと宿を出た時に昨日の女性(アームズ)が俺達を待っていたのだ。

既に完全武装されており、其の時の彼女はネボけていた俺と違って昨日の美しい寝顔を晒していた時とは考えられない程 凛々しかった。


「昨日の娘じゃない。何か用?」

「すまない。貴方達が私を外に連れ出してくれた"冒険者"で間違い無いか?(女の子モンスター?)」

「いいえ、冒険者では無く"この方"は――――」

「(待てウィチタ)んっ? そうだが?」

「先ずは礼を言わせて欲しい……ありがとう」

「随分と律儀だな~、大した事じゃあないさ」

「そう言ってくれると助かる。では親切ついでに一つ質問に答えて貰っても構わないだろうか?」

「何でもどうぞ」

「"解呪の迷宮"のボス・モンスターは貴方達が倒したのか?」

「そうだが? ちなみに何か凄い大魔法を放ってくるヤツだったぞ」

「……そうか(……情報通りだな)……では"悪魔"と言った者を見なかった だろうか?」

「う~ん」

「(どうするんですか?)」

「(ら、ランス王ッ)」

『(しかし随分な業物を装備した女だのう)』

「見たけど~?」

「本当かッ?」

「ちょ……おまっ!? サイゼルこの野郎!!」

「何 言ってんのよ~? "う~ん"とか唸った時点で怪しいじゃない」

「うぐッ」

「では実際の所どうなのだ?」


――――正直 誤魔化し続ければ良い気もしたが、彼女の表情は真剣"そのもの"だったので俺は早くも折れたのでした。


「ランス様?」(メルフェイスの呼称 変更)

「仕方ないな……出て来~いフェリス!」


≪ぽんっ≫


「!?!?」

「ランスさん おはよう御座いますッ! 何の用で……えっ?」

「ちぃっ!」


≪ガキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「ち、ちょっとアンタ!?」

「突然 何のつもりだ?」

「……くッ!!」


"悪魔"について聞かれた直後から予想はしていたが、フェリスを召喚した直後 目の前の女性は素早く此方に踏み込んだ。

そして手に持つ巨大な槍(アンギラスと言うレア武器らしい)を使い魔に向かって放つが、俺が反応 出来ていなかったフェリスの間に割り込むと、防御に神経の全てを注いで右足を踏み込みカオスを横に構えて一撃を防御した。

対して女性は僅かに悔しそうに口元を歪ませると、攻撃時と同様 素早い動作で俺達から距離を取り左手でビンの様な"何か"を慣れた手付きで取り出すと、ソレを飲むつもりなのか歯で蓋を開けようとするが……


≪――――カキンッ≫


「うっ!?」

「…………」


当然 俺以外の仲間も戦闘態勢に入っていて、メルフェイスは複数の"氷の矢"を宙に展開させており、サイゼルは既にライフルに魔力を集束させていた。

ソレはウィチタも同様で……目の前の女性は彼女の投げナイフをピンポイントに食らった事で、左手からビンを落としてしまい"そのまま"の体勢で固まっていた。

だが終わりでは無く先程の踏み込みの速さで考えれば、メルフェイスとサイゼルの攻撃魔法をやり過した後に俺に再び牙を剥く事が可能かもしれない。

……とは言え……遅れて武器を構えたフェリスの存在も考えれば勝負は決まっている様なモノであり、どう"この場"を抑え様か一瞬のウチに考えていると……


「何を考えているんですかッ? 貴女は今 何を飲もうとしたんです!?」

「(ウィチタ?)」

「……ッ……」

「それ以前に"こんな場所"で戦いを仕掛けてくるだなんて……此処で血を流す事に何の意味が有るって言うんですか!?」

「言っての通りだ。何か誤解してると思うから槍を下ろしてくれないか?」

「ふむ……分かった。どちらにせよ"今の一撃"を防がれた時点で私の負けだろうしな……此処は降参しよう」

「(ら、ランスさんが私を守ってくれた? それに今は王様らしいから……ひょっとして私は最高の主をッ?)」

「有り難い。それにしても何で突然 襲ってきたんだ? 危ないじゃないか」

「こう見えて私は苛立っていたのかもしれない。今迄 誰にも負けた事は無かったからな、意地に成っていたんだ」

「ふ~む」

「だ、だからと言って相手を選んで――――!!」

「(止せってウィチタ)」

「(ですがッ!)」

「(俺達の旅は一応"お忍び"と言う事をマリスに釘を刺されていると言う事を忘れるな)」

「(そうですよ。例えランス様が危機に陥ろうとも、私達が御守りすれば良いのですから)」

「(す、すみません)」

「ゴホン。ともかくだ……"解呪の迷宮"のボスは俺達が倒して、アンタに勝った悪魔は俺が使役している人に害は皆無な使い魔だ……これで満足してくれたか?」

「十分だ。本当に済まなかった」

「だったら話は終わったのね? じゃあ さっさと行こうよ、Mランド♪ Mランド♪」

「はいはいMランドね? 通らないとダメだし一応 目指すぞ一応ッ!」


――――今の剣幕は何処に行ったか暢気な調子に戻ったサイゼル。現在は左肘のエルボーガードが溶けて無くなっている。


「待ってくれッ」

「まだ何か有るのか?」

「今更 言えた口では無いが このままでは私の気がすまない。何か礼をさせてくれないか?」

「別に気持ちダケで良いぞ? 生憎 金や人手には困ってない」

「……ッ……そ、そうか」

『本当に良いのか? かなりの戦力に成るんじゃないか? それに良い女だし らしくないぞ?』

「むぅ……」

『あーあー勿体無いなー、あんな美人を放って置くなんて、一生 後悔しちゃうかもー儂ー』

「(な、何なんだ? あの剣は? 興味深い)」


言われて見れば間違い無くカオスの言う通り。先程の一撃は防御をした感じレベル40前後のモノだと見て良いだろう。

また"ランス"を考えれば これ程の美女を口説かないのは原作の彼を考えれば日本の借金がゼロになるくらい有り得ないと言っても良く、俺は俺で"鬼畜王"では存在しなかったキャラに対しては無意識のウチに距離を置く様にしていた事に、カオスに告げられて今頃ながら気付いたクチだった。

よって俺は仕方なく……と言うかカオスが納得しなさそうだったので、後に【アームズ・アーク】と名乗った彼女を共に"うし車"に乗せると、道中で俺達は後には魔人の討伐を目標に各地のダンジョンを回って各々のレベルアップに努めているのだと説明した。

当然 王様だと言う事には今の所は信憑性が無い為 隠していたがクールキャラと思われたアームズは一通り俺の話を聞いて、瞳を輝かせる程の衝撃を受け更に興奮と高揚をも覚えた様だった。

しかも悪魔ダケでなく(暫定だが)魔人までも味方に付けている事を聞いた時は(当たり前だが)開いた口が塞がらない状態で、追撃に才能限界レベルアップの方法が存在すると言う事も隠すのも面倒なので暴露すると、驚きは更に加速し思ったよりも感情を露にする娘なんだなと愛想笑いしたら、自分でも此処まで興奮したのは初めてだと言っていた。


≪ふむ……貴方達に着いて行けば色々と面白そうだ。以後 宜しく頼む≫

≪あァ。期待しているぞ?≫

≪精一杯 頑張ろう≫

≪だが条件を忘れるなよ? 俺達の闘いに付いて来れなかったら同行は諦めてくれ≫

≪ふっ。望むところだ≫

≪そりゃ頼もしい限り≫


よって暫くは報酬無しで同行したいと申し出て来たのだが……此方も仲間の選出に妥協をする つもりは無いので、とりあえず次に目指す迷宮【デンジャラス・ホール】の攻略終了 迄を期限にアームズと仮契約を結ぶ事で互いに同意したのである。

ちなみに先程アームズが飲もうとしていたポーションは島津のヤバい薬クラスの肉体強化系のアイテムだったらしく、ウィチタが彼女に怒ったのも"其の存在"を昨日のアイテムチェックにより知っており、大きな副作用を被(こうむ)ると言うのにソレを安易に服用しようとしたからだ。

それを聞いて当初は今後の展開(主に命)に不安も感じたが、今迄ずっと一人で戦って来た上にエクスが知る程の有名人でも有らば生存能力は有りそうだし俺達が気を付けてやれば問題は無いかもしれない。


「今 思えば持ち物を調査された痕跡は有ったが、全て"そのまま"残っていたな……それなのに貴方達に牙を剥いた事は、本当に どうかしていたとしか思えない」

「…………」

「先程の私は それ程までに気が立っていたのだろう。もはや謝っても済む問題では無いのだが、改めて謝罪させてくれ」

「大丈夫だ。問題無い」

「ふむ……こうも欲が無い男と言うのは珍しいな」

「そうでも無いぞ? むしろ求めるモノが高すぎると言う方が正しいのかも知れないけどなァ」

「そうか。ならば今度 自分に磨きを掛け、貴方の興味を惹くのも悪くはないな」

「気持ちは有り難いが無理はするなよ? とりあえず今後ドーピングは禁止な?」

「……むッ……残念だ。それなりに高かったんだが……」(´・ω・`)

「そんな顔するなって。可愛くて頭撫でたくなるだろ?」

「!? ほ、本当に面白い人だな貴方は……何の冗談だ?」

「んっ? ……って口に出してたか!? こりゃ悪かった!」

「いや別に構わないが……(聞き流したほうが良さそうだ)」

「ともかく到着までは何日か掛かるからな~、今のウチに皆とも慣れて置いてくれ」

「生憎 人付き合い苦手な性分だが仕方有るまい」

「まァ 癖の強い連中だが直ぐに仲良く成れるさ」


――――尚その後の"呼び出し"によりアームズのレベルは40と分かり、予想通りの高さに今後の活躍が期待できる。




……




…………




……説明(回想)終了。


「――――と言う訳だ」

「成る程……其の様な経緯が有ったのですか」

「そんな訳で今回の旅に同行するアームズだ」

「…………」


≪ガタッ≫


「おっ?」

「"アームズ・アーク"だ白の将軍殿。先日は誘いを蹴ってしまってすまない。以後お見知り置きを頼む」

「これは どうも御丁寧に」

「それにランス殿。貴方がリーザス王だとは露知らず無礼な態度を取ってしまって本当に済まなかった」

「それに関しても全く問題無いぞ? 接し方も最初と同じで構わないからな?」

「……しかしッ……いや分かった」

「では紹介も終わった事ですし、本題に入らせて頂きましょうかね」

「ようやくだな」


――――エクスは再び眼鏡の位置を直すと語りだす。内容は予想しての通り白の軍の侵攻についてだ。


「御存知の通り僕はランス王 経由でマリス様の口より、Mランド攻略の命を受けた事で此処に居ます」

「…………」

「其処で僕に求められる選択はMランドの都市長との話し合いによる合併 或いは武力制圧。いずれにせよ全ての遊園地 施設の無期限 凍結が前提と成っています」

「赤字続きらしいからな」

「はい。このままリーザスが経営を請け負うと毎週200万ゴールド前後の赤字が見込まれます」

「そ、そんなに……?」

「(う~ん……暫く放って置いてるけど今のゼスの財政は大丈夫なのかしら?)」

「月だと800万Gか、洒落にならん金額だ」

「だが通った際には人で賑わっていた印象が有ったが?」

「そうなんですがね……元都市長が亡くなられてからは経営難に陥っている様です。現段階では資産を切り崩して運営費用に当てているとか。ですが暫くすれば破産せざるを得なくなり、漁夫の利を得ようと"DXの会"や"プルーペット商会"が様子を窺っていると言った感じです。そう考えれば今の段階でリーザスが介入するのは良いタイミングだったのかもしれません」

「経営難の理由は何だ? 現都市長の能力不足か?」

「それも有りますが援助金や融資が都市長の変更により潰えた事が大きいと聞きます」

「つまりは見限られたってワケか?」

「都市長は人柄だけでは遣って行けないと言う事の典型でしょう」

「把握」

「尚 赤字の最大の原因と言いますと――――」


Mランドは鬼畜王で無い正史ならコパンドン・ドット(ランスが抱く事による金運 開花が前提)に買収されてしまう。

仕舞いにゃポルトガルまで手に入れられてしまうので、彼女の影響力は正史の中では相当なモノになるだろう。

だが魔人の侵攻は勿論の事、リーザスが武力に物を言わせれば株やら領地やらの概念は何の意味を持たず蹂躙される。

ソレはDXの会やプルーペット商会も同様で有り、彼らは知らずともリーザスに協力しなければ未来は無いのだ。

よってMランドの制圧 程度で立ち止まるワケにはいかないんだが……人々にリーザスを支持して貰うに越した事は無い。

ならば多少は考えようと思いエクスの話を聞いていると、Mランドは見た目が普通の遊園地な通り殆どの施設を使用するに当たって大量の"魔力"を燃料にしているらしい。

要は現代で言う電気の代わりの様なモノで有り、其の培養のアイテムはゼスから仕入れなければ手に入らず俺の世界で言う電力と比べると桁違いにコストが高いみたいだ。

よって学生の知識を引っ張り出して電気や電池(此方は魔池の下位互換だろうが量産性は遥かに良い筈)やら開発すれば革命的なんだろうが、なんだか世界観を壊したくない以前に何年も掛かりそうなので断念する事にした。

そうなると(あくまでランス視点で)現実的な方法を考えるしか無く……何となく思い付いた俺の対処方法がコレだった。

ランス6をプレイした限り"マジノライン"への魔力供給を行える装置みたいなのが有った筈なので、それをMランドの施設にも応用すれば良いと思ったのだ。


「だったらゼスを制圧した後に"魔法使い"を大勢雇い入れれば良いんじゃないか?」

「なっ!?」

「ち、ちょっとランス!(此処にはウィチタさんも居るのにッ)」

「成る程。それならば何も問題は無いかもしれないな」

「アームズさんまで!?」

「……ッ……」

「んっ? やっぱ無茶が有るか? エクス」

「いえ。其の案はゼスを制圧"できたら"の話ですが、達成 出来た事を前提とすれば確かにソレ以上の策は無いかもしれませんね……それに……」

「なんだ?」

「今の様な事を当たり前の様に申されるに当たり、世界統一を目標とするランス王の意思を再認識 出来た気がします」

「そ、そうか?」

「……(コレが王の器と言うモノなのだろうか?)」

「えぇ。そんな訳で僕は先ずは話し合いによる合併を、若干 今のランス王の言葉を御借りして促そうかと」

「宜しく頼むぞ? まァ住民が暴動とかを起こさない限りは最悪 武力制圧に成ろうと文句は無いから、制圧が済めば後は文官にでも任せて白の軍を纏める事に専念してくれ。近いうちに"ポルトガル"は勿論だがJAPANを攻める事も考えないと成らんからなァ」

「ははは。つまりMランドの問題は今後の展開の前座にしか成らないと言う事ですか……畏まりました」

「……(いずれは私の故郷か……何だか複雑ね)」

「JAPANの事も興味深いな。オロチを始め強力な魔物が数多く居ると聞く」

「最早 付いて来る気 満々!?」

「(成る程……リトルプリンセスと呼ばれる魔王を狙う魔人の件も本当の事の様ですし、リーザスの明日の為にはランス王に付いていく以外の選択肢は無さそうですね。ですが魔物の軍に対し僕の策略が何処まで通用するか興味深いですし、こんな所で立ち止まる訳には いきませんね)」

「まァ話はコレ位か?」

「そんな所ですね。この度は貴重な機会と助言を頂き有難う御座いました。それでは宿泊場所に御案内しましょう」

「一応2人分も追加で頼む。今はメルフェイスがMランドでサイゼルのお守りをしているんだ」

「報告と違って彼女の姿が見えないと思ったら、そう言う事だったのですか」

「あァ。サイゼルは戦力には成るが我侭が過ぎて困ったモンだ」

「ですがランス王を始め仲間達と打ち解けている様で何よりです」

「ま~お前もお前で今度メルフェイスに会ったら、謝るか労いの一つでも掛けてやれよ?」

「前向きに検討しましょう」


――――こうして数日後。リーザス白の将軍エクス・バンケットは"運河さより"との話し合いによる交渉の結果。

一旦 凍結する事には成るが、Mランドを2年以内には必ず再度運営させる事を条件に滞りなく合併する事に至った。

それに関して凍結中の収入やら従業員達の給料やらの問題は多々有った様だが、其処はリーザスの知名度の凄い所。

金持ちの国と言われている事も有り、赤字経営の事は皆 認識していた様で2年後の未来に掛ける者が多かったのである。

だとすれば後は部下達に任せれば良く……俺は翌日には"ラジール"で待つハウレーンの事や、カスタムの事を考えていた。


「ねぇねぇメルフェイスッ! 今度はアレに乗ろうよ!!」

「……ッ……はぁはぁ……す、少し休ませて……ください」








●レベル●
ランス   :54/無限
かなみ   :50/40(+10)
リック   :41/70
メナド   :37/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:48/48
アームズ  :40/44
レイラ   :37/52
ジュリア  :32/38
ガンジー  :50/99
ウィチタ  :35/35
カオル   :26/33
サテラ   :100/105
メガラス  :98/146
サイゼル  :88/120




■あとがき■
アームズ・アークのスリーサイズは98・64・89らしいです。



[12938] 鬼畜王じゃないランス15
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/12/15 06:23
鬼畜王じゃないランス15




=LP03年06月2週目=


エクスに案内された宿泊施設で一夜を過ごした翌日。

次は"ラジール"を目指す為、白の軍はMランドに向かう為に俺達はエクスを見送られながら中継地点の町を後にした。

此処で思うに予定と違って"解呪の迷宮"の攻略がサイゼルの存在も有って早く済んだ為か、Mランドが凍結する前に通過できたワケだが、その所為でサイゼルとメルフェイスが一時離脱したので余り意味が無かったのは さて置き。

エクスもエクスで俺の最終判断を仰ぎたい気も有った為、ギリギリまで俺達が通るのを待った結果 今に至っていた。


≪ドドドドドドドド……≫


――――エクスとの面会の翌日。街道を駆ける"うし車"内部にて。


「宜しいですか? ランス王」

「ああ」

「では右の掌に魔力を集めて下さい」

「分かった」


今現在の俺は馬車(面倒なので こう表現する)内部の隅で胡坐をかいた状態で魔法による簡単な訓練を行っていた。

そんな俺の傍にはウィチタが居り彼女が先生役を担ってくれているのだが、何だか距離が近いと思うのは気のせいか?

揺れの所為で基本 立てないので何やら抗議してくれる時は四つん這いになって一生懸命 保ちながら努めてくれてるし。

まァ……初対面で抱かれたと思われる印象と比べると相当 前進してるって事が分かったし深く気にしない事にして置こう。

それも さて置いて。どう考えても訓練に集中できる状況では無いと個人的に思うのだが、彼女が曰く戦闘中で切羽詰る事が多いのは当たり前なので有る意味 ガタガタ揺れている今でも魔力をコントロールをする練習には持って来いらしい。

よって俺はカオスを左手(利き腕)で握っている事が多いと言う事で、言われた通り右手に雷魔法のカタチを結成させる。

いわゆる"雷の矢"と成るであろう球体であり、発動させる(飛ばす)事はともかく維持し続けるのは体力がゴリゴリ減る。


「その調子です。そのまま3分間維持して下さい」

「……ぐッ……」

「一分経過です」

「や、止めて良いか?」

「駄目です! 180秒と言えど実用を考えた過程では最低限 必要な時間ですからッ」

「マジかよ……(まァ現役の学生が言うなら間違い無いだろうが)」

「魔法剣士を目指すならば……いえ目指さずとも攻撃魔法を活かしたければ、いずれは左手で武器を振りながらも右手で何時でも発動出来るように時間差で待機状態に させて置く事も重要に成って来ます。ランス王で有れば基本さえ覚えれば実戦で直ぐに応用 出来るでしょうが、その基本が疎かだと何の意味も有りませんから……っと後60秒ですよ?」

「うぎぎぎぎぎぎぎッ!」

「もう少しですランス王ッ! そのまま形を維持させて下さい!!」

「維持ィ!? いかん、危ない危ない危ない危ない……!!」

「終了です! お疲れ様でしたッ」


≪――――バチンッ≫(散布)


「はぁッ、はぁ……意外とキツいなこりゃ……雷の矢を維持するダケでも、こんなキツいのか~」

「ですが短い時間で凄い進歩ですッ。本当に今迄 魔法を使った事は無かったのですか?」

「何年か前に手触り程度ダケは有るんだがな。剣の方が性に合うモンだから、もう忘れちまってたよ」

「それならば納得 出来ると言うモノですが、何故 急に魔法を活かしたいと?」

「う~ん……今後の展開を考えると剣が届かない敵に対する攻撃手段が無いのは痛いからかな。ダンジョンを出た時 何となくそう思ったダケさ。それに現に物理が効果の無い敵も多少は居たし、何時でも何処でも仲間が居るワケでも無いから覚えて置くに越した事は無いだろ?」

「ふむ……」

「そう言う意味で考えれば、剣と魔法を同時に使えるウィチタの戦い方は俺にとって見習いたい位だよ」

「えっ?」

「しかも今は学生なんだろ? それなのに大したモンだってホント。ウィチタに習って正解だったな」

「!? か、かかか買い被りですッ! 私はまだまだ若輩で"通信教育"中の身ですよ?」

「通信教育?(……地味に進んでるんだよな、この世界の文明)」

「は、はい! ですから今回の冒険には、この通り教科書も沢山 持って来てまして――――きゃっ!?」


褒められたのが意外だったのか、ワタワタと慌てながら道具袋からゼスの教科書を取り出すウィチタ。

今回の勉強については1や5Dでランスが魔法を使えていたので【俺にも魔法が使えないか】と聞いてみた所、貯蓄量は魔法使いと比べて少ないが素質は多少は有りそうなので、つまらない訓練(暇潰し)に付き合ってくれたのだ。

その後 言われた通りにしたダケで何と初級の雷魔法は使えそうな感じには成ったので、自然と作った笑みを浮かべつつ思った事を言ったというのに御覧の有り様である。

現在の彼女は前述の様に見せて欲しいとも言って無いのに次々と本を見せ学生身分と言うのをアピールするのだが、こんな状況下で立ち上がれば結果は見えており、ウィチタはバランスを崩すと此方に倒れ込んで来た。


≪――――どっ≫


「おっとっと」

「あッ……?」

「大丈夫か?(まだ成長中と言ったトコロだな)」

「!?!? す、すすすすみませんランス王ッ! 何て粗相を――――」

「はははッ、もう少し周りを見た方が良いんじゃないか?」

「あぅうっ」

「ともかく今度も頼むぞ? 先生」

「か、畏まりました!」

「……ってワケで かなみ~ッ、其処のファイルを投げて寄越してくれ!」

「はいは~い」


≪――――パシッ≫


「サンキュー!」

「もうランス王ッ、書物は投げて良いモノでは有りませんよ?」

「悪い悪い」

「……ところで、何が書かれているんですか?」


≪――――ずいっ≫


「JAPANの内情についてだな(……それにしても、さっきから妙に近いな)」

「内情?」

「まァJAPANは忍者が怖いから簡単な哨戒しかさせて無いが、近いウチに攻めるつもりだからな……現地に居るマリスの手の者に調べさせて纏めたのを先日 報告に来た神楽に送って来て貰ってたんだ」

「成る程……」

「どれどれ?」

「……ッ……」


魔法の練習に区切りが付いたので……と言うか疲れた為、俺は何時もの読書に移るべく手に取ったファイルを開いた。

だが何故か傍を離れないウィチタさん。どうやら既に今のページを読み終わり、俺が次を捲るのを待っている模様。

ちなみに今の彼女は膝を崩した状態で両手を支えにファイルを覗いているのだが……時よりの揺れで体が互いに触れている。

ソレにウィチタは違和感を感じたりはしないんでしょうか? 俺が無駄に意識し過ぎてるダケかもしれないけどな。

だとすれば本来(素)のウィチタは心を許した友達や俺みたいな"仲間"が相手で有れば、魔法学校の"女友達"感覚で今の様に近い距離で接するのが普通なのだろう。

故に諦めて共にファイルを見続けるしか選択肢は無さそうな為……俺は懐から(目が疲れ難いと言う地味に有り難い魔法が掛かった)眼鏡を取り出すとソレを装着したのだが……


≪――――スチャッ≫


「!?!?」×2

「んっ? どうした? ウィチタ」

「い、いえッ! 失礼しました!」

「かなみも何を見てんだ?」

「!? な、ななな何でも無いわよ!」

「……ぐぅ……」


眼鏡の恩恵を受けつつJAPANの情報を読んでいると、意外な内情や原作との違いに首を捻ってしまう事が多々有る中。

ふと違和感を感じて視線を移すと、近距離のウィチタと少し離れた所で武器の手入れをしていた かなみが俺の方を鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして見ていた。(尚アームズは昨夜 一人でレベル上げに行ったらしく舟を漕いで寝ている)

いや……確かにランスに眼鏡は似合わないとは思うが、こっちに来て既に相当な数の本を読んでるから最近 導入したとは言え……そんなに意外だったのだろうか? 容姿は自分自身のモノでは無いにしろ少し傷つくじゃないかッ。

だが直ぐに慣れるだろうし気にしないで置こう。イチイチ細かい事を気にしていては、この先 遣って行けないだろうしな。

ちなみに今更 今回の冒険で読書時 眼鏡を使った理由は、サイゼルが居たりと色々な事情で本を読む時間が無かった為だ。


「(わ、私が目を奪われるだなんて……ランス王……眼鏡一つに何て博識な雰囲気に……やっぱり私の運命は……?)」

「(もうッ! 何で今迄の遣り取りにイライラしてたのにランスに見惚れなきゃダメなのよ!? ランスの馬鹿~!!)」

「それよかウィチタ」

「は、はい?」

「もうちょっと近付け。その体勢だと見辛いだろ?」

「そ……それでは御言葉に甘えてッ」


――――ではウィチタを寄り掛からせると言う役得を感じつつ、此処でJAPANの内情を説明して置こう。


独眼流家:存在しない

浅井朝倉家:存在しない

明石家:滅亡(ぬへは居なかった)

今川家:滅亡(ハニーの国では無かった)

島津家:滅亡(4兄弟は存在した)

巫女機関:存在しない(オロチは長崎)

毛利家:滅亡(女性は戦場には出ない為3姉妹の存在は不明)

天志教:存在しない

北条家:滅亡(陰陽師の国では無かった)

種子島家:存在しない

武田家:滅亡(風林火山っぽい連中は居た)

徳川家:滅亡(タヌキは居ない)

伊賀家:存在しない

原家:存在しない(姓は探せば有りそう)

足利家:滅亡(戦国と違い名家だった)

上杉家:滅亡(女性国家では無かった)

タクガ:存在しない

織田家:健在(織田信長は鬼畜王仕様)


……つまり清清しい程の"織田家"天下で有り、攻撃が効かないレベル89の魔人"織田信長"に誰も勝つ事が出来ずに居た。

更には鬼畜王とは違い彼の使徒が藤吉郎に加えて"玄武(魔導)白虎(煉獄)青龍(式部)朱雀(戯骸)"と揃い踏みで、彼らが真の姿に変態せずとも圧倒的な力で他の国を滅亡に追い込み、織田信長が憑依され快進撃が始まってから僅か1年でJAPANは彼が支配する国と成ってしまった。

そして20年以上が経った今でも織田信長は老いる事無くJAPANの頂点に君臨しており、民の恐怖の対象と言える模様。

何せ逆らう人間達は女子供 関係無しに皆殺しにした上に、味方でも殺戮に躊躇したら容赦なく首を飛ばすらしいからな。

だが彼の圧倒的な力から"柴田勝家"の様に絶対的な忠誠を誓う家臣達も非常に多いらしく……武将の戦死を避けると言う事で考えると、原作と違って一筋縄でいかない厄介な国だと言うは確定的に明らかだ。

しかし戦国の仕様も幾つか混ざっていると言う事で、此方では名無しな強力な女性が居る可能性も決して否定は出来ない。


「織田信長が支配する小国JAPAN……か」

「老いる様子が無いと言う"織田信長"と言う男は一体 何者なのでしょうか?」

「それが分かりゃ苦労しないよ。だが人間じゃ無い可能性は高いな」

「だ、だとすれば――――」

「ナニが何でも倒すべきかな? そろそろ内乱にも飽きたらしく大陸進出も視野に入れてる様だし」

「……厳しい戦いになりそうですね」

「違い無い。だから其の為にも更に強く成らないとな」

「……ッ……(でも私は……もう……)」

「ランス! そのファイルを私にも見せてくれ」


≪――――ずいっ≫


「アームズ!? お前 起きてたのかよッ!」

「"厳しい戦い"と聞いて」

「おまッ。それ以前にコレって一応 機密の書類なんだぞ?」

「では……ダメなのか?」(´・ω・`)

「!? い、いや問題無いぞ? 情報共有は大事だしな! うんッ!」

「有難う!!」

「安い機密ね」

「五月蝿いぞッ! かなみ~!」


――――非常に強力らしいJAPAN軍。だがヘルマンとゼスを攻める前の良い予行練習に成るとポジティヴに考えよう。




……




…………




……同時刻。JAPANの大阪城・天守閣。


「今日も美酒よのう? 藤吉郎」

『ウキキッ』


≪――――ザッ≫


「呼んだか?」

「おぉ~。待っておったぞ? 龍馬よ」

「何の用だ?」

「この度の戦は大儀だったな!」

「……別に そんな事ァ無ェよ。敵将 殺って来たダケだろ?」

「だがきゃつらの顔は良い見物だった。のぅ藤吉郎?」

『ウキャッ』

「…………」

「きゃつらにとっては長年の下積みと多くの命を掛けた決死の覚悟で挑んだ戦い! そんな中 敵軍が撤退を余儀なくされ、それが"意図的なモノ"とは言え希望を見出した瞬間! 主が背後から現れ総大将の心臓を一突きし絶望の淵に追い込む。カカカカッ! あの時の馬鹿共の間の抜けた顔を思い出すと笑いが止まらんわ!! 誠に大儀よッ!」

「…………」

『ウキッ! ウキキキ!!』

「ふむ……」

「何だよ?」

「だが藤吉郎は満足して居らんかったようじゃな。あの時は心臓では無く真っ先に首を撥ねるべきだったと」

「……ッ!」

『ウキャキャキャッ』

「更に幾つもの血管を同時に斬り、血の雨を降らせ大将は大将らしく壮絶な死をくれてやるべきだったと言うておる」

「そうかよ」

『ウキキキキキ……』

「ふ~む……だが手際の良さにより きゃつらは呆気無く降伏し捕虜となったからのう……主の御蔭で魔導は人形造りの為に女共の髪を斬れ、式部は殆どの捕虜を甚振り殺すと言う一時を得れ、残った奴らは戯骸が片端から灰にし、それはそれで楽しめた故 次も期待させて貰うと藤吉郎は言うておるぞ?」

「……あぁ」

「では主には後に褒美を取らす。下がって良いぞ」

「…………」


≪――――ザッ≫


『キキキッ』

「うむ。張り合いの無い奴よのぅ? だが命ある限り儂の楽しみの糧と成って貰うぎゃあ! カカカカカカッ!!」

『…………』

「だが最早JAPANのみでは式部達が楽しめなくなったのも事実よ。今回の反乱で逆らう者も居らんくなった様だし、そろそろ大陸で暴れてみるのも悪くは有るまい? 藤吉郎よ」

『ウキャ!』

「ならば今宵の宴の後は早速 戦の準備よ!! 勝家ッ! 勝家は居るか!?」




……




…………




……数分後。


「…………」


織田家の家臣の一人と成って8年となる"坂本 龍馬"は死んだ魚の様な目で大阪城 内部の廊下を歩いている。

そんな"彼女"は捨て子で有り気付いた時には忍者として育てられ、10歳で何時の間にか信長の暗殺部隊に加わっていた。

その龍馬の人生を掛けた"暗殺"は彼女以外は信長の場所に辿り着く事も出来ず全滅し、自分ダケが特別だったらしい。

とは言え信長には攻撃が通じず彼に殺される直前。偶然 父の酌をしていた香姫が止めに入ってくれた事で命が助かる。

対して"殺せ殺せ"と五月蝿かった龍馬で有ったが、香姫の優しさに触れた事で彼女の気持ちを汲んで織田家の忍者となった。

一方 織田信長も自分に一太刀を入れた事で龍馬の事が気に入ったらしく、当初とは桁違いな待遇を得る事が出来ていた。

だが信長に対する態度に彼女の事を快く思わない家臣は多く……それは彼の使徒も同様である。(信長は無敵なので別だが)


≪――――ゴリッ≫


「坂本さんよ。お疲れさ~ん」

「……何だよ? ハゲ野郎」

「煉獄だ。いい加減 覚えな」

「それよか その物騒なモン……さっさと どけろよ」

「お前こそ信長様に対する態度を何とかしろ」

「あァ? 寝言は寝て言いやがれ」

「なら撃つぞ?」

「楽にしてくれるのか? そりゃ~有り難いねェ」

「ちぃッ!」


≪――――ゴッ!!!!≫


「がっ!?」

「……フン」


≪――――ドドォッ!!≫


福耳の大男。サビエルの使徒 煉獄は龍馬の頭に突き付けていた"ハニワ砲"で彼女の頭を強打した。

手加減したとは言えソレを抗わずに食らった龍馬は、床を転がった後に倒れ頭から決して少なくは無い血を流していた。

そんな彼女を冷めた目で見下ろす煉獄。対して龍馬は立ち上がろうとしている様だが、戦いの後で体力が残って居ない様子。


「うッ! ぐっ……!」

「何だ他愛の無い。以前は腕を折られても向かって来たってのによ」

「こ、殺して……やッ」

「やっぱり人間は弱ぇなあ。いけねぇいけねぇ もっと手加減しとくべきだったぜ」

「……くッ……う……」

「まァこれに免じて今回は多めに見といてやる(……それ以前に俺が殺らなくても近い内に壊れそうだしな)」

「……ッ……」

「さ~て。アイツらは未だに遊んでやがるし、早く信長様に御挨拶に行かんとな」




……




…………




……30分後。


「…………」


アレから龍馬は何とか尻餅を突きつつ背を柱に預ける事 位は出来たが、度重なる疲労も重なり未だに動けなかった。

意識は有るモノの光が微塵にも灯っていない瞳……今や彼女の精神はボロボロで有り、一人の存在だけが支えである。

されど龍馬は民からは"裏切り者"と蔑まれてる上に、家臣達からも煙たがられており通り掛る者達にさえ無視される始末。

故に彼女は"このまま死ぬのも悪く無いか"と迄も考え意識を手放そうとした矢先。彼女は差し伸ばされた手に気が付いた。

それが何者かと龍馬が視線を移すと、目の前には忍者仲間でも有る"しのぶ"が膝を折り無表情で彼女の事を気遣っている。

忍者しのぶ。彼女は7年前 反・信長を企てたモノの無念にも討たれた武将の親族だった為に真っ先に命を奪われる存在だったのだが、ドサクサに紛れて龍馬(当時11歳)が助け出し、そのまま月光(両腕有り)に預けて忍者として教育した結果……才能を瞬く間に開花させ今に至っており、目つきは悪いが彼女は龍馬を実の姉の様に慕っていた。

そんな"しのぶ"の傍には若干 距離を置いて前述の"月光"の姿も有り、何時の間にか龍馬の事を見下ろしている。


「…………」

「しのぶ?」

「…………」

「世色癌だそうだ。飲んで置け」

「……すまねぇ」


≪――――ゴクッ≫


「…………」

「はァ……死ぬかと思った。ありがとな? しのぶ。助かったぜ」

「…………」

「礼は"ふかしイモ"しか無ェんだけど……良いか?」

「……ッ?」

「頂きなさい」

「……うん」


月光としのぶは龍馬の数少ない気を許せる存在である。よって此処で初めて龍馬の瞳に僅かな光が灯った。

……とは言え2人も彼女の肩を持てる立場では無い為、人通りが少なくなった時間を見計らった故に声を掛けて来るのが遅かったのだと言う事も、3人の間の信頼関係から万が一 会話しているのを見られるリスクをも承知で しのぶが手を差し伸べてくれた事をも龍馬は察している。

さて置き。彼女達は早々と城外の庭園に場所を変えると、ふかしイモを黙々と頬張る しのぶを他所に龍馬は岩に腰掛けダラしなく足を崩しながら、腕を組んで静かに佇んでいる月光に向かって言葉を投げ掛ける。


「なァ月光」

「何だ?」

「アイツって……"織田信長"じゃね~んだよな?」

「…………」

「どうなんだ?」

「そうだな。信長様は"あの時"から別の何かに変わられてしまっている」

「だったら、何時まで"こんな事"を続けんだよッ?」

「信長様が存在する限りは、俺達の任務に終わりは無い」

「でも今度は大陸の奴らを沢山 殺すんだろ!? 冗談じゃ無ェよ!!」

「場所が何処で有ろうと命令は絶対だ」

「フザけんなって!! 其処を終わらせる様に何とかすんのが真の忠臣ってモンだろ!?」

「口が過ぎるぞ。お前も香様の為に何が出来ていた?」

「ぐッ……」

「あんな所で命を投げ捨てるのが お前の忠誠とでも言うのか? 笑わせる」

「だ、だって……仕方無ぇだろ!? 何年経っても何人殺しても、幾ら探しても奴を殺せる糸口さえ見つから無ぇんだ!!」

「…………」

「だから……たまには そう思いたくも成っちまうんだよッ! ……沢山殺した後は……特に俺ッ……」

「ならば行くが良い。香様の下に。既に見張りは眠らせて有る。それに香様も お前に会えず寂しがっておられた」

「えっ?」

「香様の存在こそが今のお前の生き甲斐なのだろう? 成らば それで自分を繋ぎ止め、何時までも足掻いて見せろ」

「お前等……」


――――此処で龍馬が しのぶの方を見ると、おやつを食べ終えた彼女は黙って頷いていた。


「だが もしも……もしもの話だが」

「な、何だよ?」

「大陸に赴いた結果 万が一 信長様が命を失う様な事が有れば」

「…………」

「香様としのぶを頼んだぞ」

「言う迄も無えっつ~の」


周囲に煙たがられている龍馬は信長の娘で有る香姫(22)と対面できる事は滅多に無い。

少なくとも一ヶ月以上は顔すら見る事が出来ておらず、彼女のストレスが募っていた原因でもあった。

だが月光と しのぶが気を利かせてくれた様で、龍馬は再び香姫に頭を撫でて貰えると僅かな幸福感を抱く。

ソレだけで幸福など安いモノだが、今の龍馬にとっては生きる糧であり……無論 左腕でも大歓迎だ。

また此処で月光の真意が聞けて意外だったが、彼も彼で化け物(使徒)達を見ると流石に揺れざるを得なかった様だ。

一方しのぶは、香姫に会いに行こうと走り去ってゆく龍馬の背中を少々 羨ましそうに眉を落として見送っていた。


「そう言えば、お前は龍馬の方に頭を撫でて欲しかったのだったな」

「…………」

「そう睨むな。ともあれ明日からは大陸にも哨戒の足を伸ばさねば成らん」

「…………」

「龍馬には挨拶をして行けよ? その時は言いそびれるな」

「……うん」


――――こうしてJAPANの内乱は圧倒的な武力によって終わり、間も無くランス達の耳にも入る事となる。




……




…………




……その日の夜。某所の宿。


「くぅくぅ……ランスぅ~……」

「……ッ……」


≪――――ぴとっ≫


「ひゃっ!! えっ……メルフェイス!? な、何で貴女が あたしのベットの中に来るの!?」

「サイゼルさんが悪いんです……綺麗な御尻で私を挑発するから……」

「し、してないッ! そんな事はしてない~!!」

「ランス様は我慢 出来なければサイゼルさんに相手をと仰ったんです……すみません……」

「そんなっ!? ままま待ってよッ! まだ心の準備が――――って我慢って どう言う事ォ!?」

「ソレは追々説明しますから……もう辛抱たまりませんッ!」


≪――――がばぁっ!!!!≫


「ちょっ!? アッーーーー!!!!」

「うふふ♪ 今夜は寝かせませんよ♪」


――――更に場所は変わって、馬車の中で野宿をしているランス一行。


「えっと……ランス」

「何だ~? かなみ」

「そう言えば"してない"っぽいけどメルフェイス様は大丈夫なの?」

「前者については突っ込まんが、余裕が無くって結局 抱けて無かったな」

「だったらメルフェイス様は苦しんでるんじゃ?」

「タイムリミットはあと2週間 程度だと思う」(4話参照)

「そ、それならッ!」

「うむ。遊びに付き合ってくれている彼女の為にも、きっとサイゼルが体を張って治めてくれるだろう」

「えぇ~っ? 女性が相手でも大丈夫なの?」

「分からん。だが試して見る価値は有ると考えた」

「あ、呆れた……案外 素直に行かせたと思ったら、ソレをさせるのが目的だったのね」

「否定はしないぞ。だがメルフェイスを抱けなかったのはサイゼルの邪魔も大きかったし自業自得だ」

「うぅ~ッ。それで仕方ないって感じる辺り、私も相当ランスに毒されてるみたい」

「どんどん毒されてくれ給え」

「(何の話をしているのだろう?)」

「(べ……別にランス王と かなみさんが仲がよさそうなのが羨ましくなんて無いんだからッ!)」


――――そんなワケで明日にはラジールに到着だ。エクスと同様にハウレーンも上手く軍を纏めているだろうか?








●レベル●
ランス   :54/無限
かなみ   :50/40(+10)
メルフェイス:48/48
サイゼル  :88/120
ウィチタ  :35/35
アームズ  :40/44

リック   :41/70
メナド   :37/46
ハウレーン :33/36
レイラ   :37/52
ジュリア  :32/38
ガンジー  :50/99
カオル   :26/33
サテラ   :100/105
メガラス  :98/146

信長    :89/200
龍馬    :44/44
しのぶ   :30/47
月光    :46/46




■あとがき■
サイゼル終了のお知らせ。貞操的な意味で。そしてJAPAN魔改造。思い切って影の薄いキャラを活躍させる方向に。
龍馬=処女。呪い憑きでは無い。18歳。容姿と衣装は全く同じ。目が死んでる。戦国に比べかなり強い。香姫大好き。
しのぶ=処女。くのいちでは無く忍者。12歳。忍者だけど衣装は全く同じ。龍馬大好き。月光も大好き。小動物みたい。



[12938] 鬼畜王じゃないランス16
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2012/02/23 05:10
鬼畜王じゃないランス16




=LP03年06月2週目=


――――エクスと別れてから3日後の昼。

俺は今迄の移動用で使っていた"うし車"とは違い、リーザスが管理している"うし車"の中で揺られていた。

それは"白の軍"が使う軍事用でも有る為、"うし"のガタイも一回り大きく馬車の内部の広さも同じな感じ。


≪ガラガラガラガラ……≫


「…………」


さて今現在の場所は"ラジール"と"カスタム"を結ぶ街道を8割ほど進んだ地点である。

経過としては野宿した翌朝"ラジールの街"に到着すると、直ぐ様 俺達を出迎えてくれたハウレーンと合流。

そして今迄の"うし車"を適当なリーザス兵に返却させ、誘われるがままに彼女が用意していた"うし車"に乗り換える。

更にその"うし車"で夜通しハイペースで行軍する事で、ラジールを出発した翌日の昼過ぎには早くもカスタムの街が遠方に確認できていた。

ちなみに白の軍の"うし車"の数は20台以上にもなっており、総勢500名ほどのリーザス白の軍が行動を共にしている。

だが二十数台の"それ"は本来ハウレーンの部下1500名で運用する台数らしく、今は500名 全員が馬車の中だが、基本的には他の白のリーザス兵達は行軍時は周囲を交代で歩いて警戒するのが常らしい。

そうなると必然的に移動のペースは落ちてしまうのだが、俺達が急いでいると言う事で街の管理・防衛の為1000名を残したラジールには"うし車"は置かず、カスタムを目指す500名に全ての台数を使わせる事で時間の短縮を図ってくれたのだ。

それに関してはハウレーンでは無くエクスの配慮が大きく、当然ラジールの防衛は都市長(+レイリィ)と連携して信用出来るリーザス側の人間に任せる様にしているのは さて置き。

前述の通り"カスタムの街"が見えてきたと言う事で、今はリーザス軍の(そのつもりは皆無だが)侵攻によるカスタム側の警戒も考えて ゆっくりとしたペースで街との距離を詰めている最中だ。

尚 今現在"うし車"の手綱は 見当かなみ(傷は殆ど完治)が握っており、大型だが車内には俺達のパーティーに加えてハウレーンしか居ない。


「どうやら見えて来た様ですね」

「そうだな……予想以上の早さだった」

「しかし生憎 夜は快い床では無く面目有りません」

「気にするな。急ぎで頼むって言ったのは俺だしな」


そのハウレーンは かなみの背中を前に車内の入り口の境に座って腕を組む俺の右隣に居り、何かと気に掛けてくれている。

う~む……なんだか原作を考えるとランス(俺)に対する態度が大分 柔らかくなっているのが感じられる。

部下達に指示を出している彼女は確かに凛々しく"生真面目"と言う単語がしっくり来るのだが、その数値を"10"と考えると俺に対しては7と8の間ほどの硬さに下がっている気がするのだ。

反面 原作のランスに対してはレイプ紛いな事をされているのも有って、彼に対しては10が15くらいに上がってる筈な分 良い意味で違和感を得てしまう。

だがプラスなのは間違い無いので自然に受け止める事にし、そんな何の変哲も無い考えをしつつ俺は馬車の周囲に視線を移すと、視線の先にはアームズ・アークが鼻歌を口ずさんでいそうな様子(実際に歌ってはいないが)で行軍の早さに合わせて歩いている。

どうやら馬車の中に居っ放しでは体が鈍(なま)るのと、そろそろ次の目的地で有るデンジャラス・ホールが近付いていると言う事でカラダを動かしたい気分だったらしい。

ちなみに彼女は早朝から馬車の外で魔物と戦いつつ自分の足で移動しているが、遣ろうと思えば俺も特に問題なく出来る程"こちら"の人間の体力や身体能力はレベルを上げれば上昇するのだ。

当初はレベルが上がっても精神的に付いて行かなかったが、今や俺も慣れたモンだな。ガキの時に来なくてホント良かった。


「……ッ……」


んで後ろを見て馬車の内部に視線を移すと、先ずは手前の方で体育座りしたウィチタがずっと熱心に本を読んでいる。

よく見るとゼスの学生 御用達の(上級生用)教科書っぽいのだが……"教員用"と表紙に書いて有るのは気の所為か?

……と言う事は また俺に教える事を考えての勉強なのだろうか? 非常に有り難いが"この冒険"の方向性とズれてる気が。

だが"勉強"を教わると言う事で、今回の冒険でウィチタを引き込めなくとも次回に繋げられると言う事なので良しとしよう。


「…………」(苦笑)

「……~~ッ……」


また更に奥の方を見てみると、其処で肩を並べて馬車の壁を背にしているのはメルフェイス&サイゼルの2人。

本来なら既に此処に居る筈の者では無かったのだが、話を聞くとサイゼルがメルフェイスを抱えて飛んで来たらしい。

何故なら遊ぶに遊んだ その日の晩……寝込みを襲って来たメルフェイスの発情の影響をモロに受け、抵抗しようにも感じてしまってカラダに力が入らず、処女喪失は免れたが何度もイカされ朝までレズプレイに付き合わされた結果。

襲われた側は当然として再びシラフに戻ったメルフェイスも互いに顔を合わせる事が出来ず、非常に居た堪れない雰囲気に成ってしまった事から、サイゼルは思い切って"初めての相手"を(前述の通り)後ろから抱えて飛ぶ事で一気に長距離移動をし、昨日のウチに俺達に追いつく事で"二人っきりでの行動"と言う状況を打破したのであった。

それから少しの間サイゼルは馬車内での食事や休憩は やたら俺と共にしようとしていたが、今では何と言う事でしょう。

不機嫌そうな表情をしながらも彼女は(超距離移動による顔面蒼白から回復した)メルフェイスにコテンと肩を預けており、その体勢の為 迂闊に動けないメルフェイスは絵に描いたような"苦笑い"で膝を崩しながらガタゴトと馬車に揺られ続けていた。

はいはいツンデレですよね? 分かりますとも。

後から考えてみれば何だカンダで"あの一夜"が満更でも無かったらしく、だとすれば次もメルフェイスが副作用で発情したら付き合ったりするんだろうか?(尚 副作用の件についてはメルフェイスに許可を貰いサイゼルには説明した)

そうなると俺の立場が無くなる気がするけど、旨く遣れば俺がサイゼルの本当の意味での初めての相手に成れるかもしれん。

原作だと木の枝でセルフとか言う死ぬ程 勿体無い展開が待ってるしな……まだメルフェイスにブチッとされてた方がマシ。

だが本来の未来を知らないサイゼルは冗談では無く思う だろうから、肝心な処女は守られた事を安心して置くべきだろう。

しかしながら。メルフェイスの相手をする者が(俺みたいに)男だったら直ぐ決着が付くが、サイゼルが"受け側の女性"だったと言う条件からレズプレイが無駄に長引き、実のトコロ危機一髪だったそうな。

よって今後は発情状態のメルフェイスにサイゼルを生贄に出すのは止めた方が良いかも知れない……とは言うかシラフの彼女がレズる光景はイマイチ想像が難しいので、今後の展開を見守ってゆくしかあるまい。


「…………」

「ランス王」


――――そんな事を考えて馬車に揺られる中。不覚にも股間に熱を感じて来た辺りでハウレーンに再び声を掛けられた。


「んっ? どうした?」

「何か考え事ですか?」

「あいや。大した事じゃない……そっちこそ何だい?」

「個人的な事でしか無いのですが、宜しいでしょうか?」

「あァ。遠慮は要らないぞ?」

「感謝します」(頭を下げる)

「そんな事で礼とか止めろって。それよか何なんだ?」

「えっと……その。ランス王は、少し見られぬ内に逞しく成られていると思いまして」

「たくましく?」

「はい。雰囲気"そのもの"は何時もの気さくな……失礼。何時ものランス王なのですが……」

「早い話が有り得ん位にレベルが上がっていると?」

「!? そ、其の通りです」


――――まァ予想通りかもしれない。合流した時から俺や かなみの様子を見て何か言いたそうなカオしてたし。


「そう言えば以前ハウレーンと潜った時と比べれば、軽く20は上がってるな」

「……私からすれば、信じられない話です」

「そうか?」

「当然でしょう。更にランス王のみで無く"彼女"も今や隙が無く以前とは まるで違います」

「(かなみの事か……)つまり何が言いたいんだ?」

「率直に申しますと如何にすれば、短期間で"それ程"の力を得る事が出来るのでしょうか?」

「簡単な事だ。迷宮に潜って頑張ってレベルを上げれば良いに限る」

「最もな答えです。ですが……本当に"それだけ"なのでしょうか?」

「どう言う事だ?」

「只の勘でしか無いのですが彼女達の様子を見るに、ランス王にしか出来ない"何か"が有るのでは無いかと」

「…………」

「故に差し支えなければ是非 御教授して頂ければと思いまして……」

「難しい質問だなァ」

「……ッ……と言う事は、私には成長する見込みが無いのでしょうか?」


――――ふ~む。才能限界 云々の事は何も知らない筈だが、俺達の遣り取りを観察したダケで其処まで勘ぐったか。


「そうでもないぞ?(しっかしウィチタみたいな事を言ってるなコイツ)」

「な、ならばッ!」

「とは言っても恩恵をダイレクトに受けてる人間は一人しか居ないけどな。メルフェイスの実力とかは本人のモノだよ」

「!? と、と言う事は……(只単に強くなりたいと言う意思だけでは何もかもが足りない?)」

「うむ。何となく分かると思うが、少なくともオマエがバレスに認められる位には成長して貰う必要が有るな」

「……うッ……」

「いわゆる個人の武力も結構な事だが、ハウレーンには白の軍を率いるって言う大切な仕事が有るだろ? これから大陸の制覇に乗り出して大掛かりな戦争も始まるし、先ずはヘルマンやゼスとの戦いが落ち着いてから考えるべきだ。とは言っても……王としての仕事を放って置いてダンジョンに篭る俺が言えた事じゃ無いけどな」

「……ッ……前者に関しては最もな御言葉ですが……ランス王の行われている事は間違ってはいないと思います」

「ん? それは意外だな。何でだい?」

「記憶に新しい魔人の襲撃。それはランス王の実力を無しに撃退する事は叶わなかったでしょうから」

「まァ思ったより襲撃が早かった(嘘)が"そう言う時"の為のレベル上げだったしな。だから突出して強い連中は俺達に任せてくれて良いから、ハウレーンは軍を纏めてくれ。俺は軍を纏める事は素人同然だからな」

「(良く王座で軍事関連の参考書を読まれているとの事だが)畏まりました。出過ぎた事を申してしまった様で恐縮です」

「其の程度 気にするなって」

「は、はあ」

「だが――――」

「????」

「もし"個人での力"を本気で求めたいのなら、副将の座から降ろしてでも付いて来て貰うから覚悟して置けよ?」

「んなっ!?」

「……ッ……」


――――半分は冗談だったのだが此処に来て全く反応を示して居なかった、後姿を晒す かなみの肩がピクリと揺れた。


「別に深くは考えなくて良いさ。ともかく自分に与えられた事を成せば良い」

「ははッ(これ以上の質問は無粋か)」

「……って流石に警戒されているか? かなみッ」

「どうぞ」

「有難う……ふ~む……」

「どうされます? ランス王」


丁度良いタイミングでカスタムの街の入り口がハッキリと見えて来た際、俺は かなみの背に向かって彼女の名を呼んだ。

すると眼の良さで既に状況を理解していると思われる かなみは軽く背を逸らして俺に双眼鏡を手渡して来たので、ソレを受け取ると俺はレンズ越しで街の様子を窺う。

……とは言えカスタムは魔想さんの魔力により"地面に陥没した街"と言われているので確認できるのは入り口で展開している防衛隊ダケである。

視線を逸らせば見張りの高台の様なモノも見えるので、既にリーザス軍が接近している事には気付かれていたのだろう。

だけど人数で言っても100人も居ないな……確か防衛隊は記憶では250名前後だったハズなんだが、其の半分以下だ。

しかしながら。魔想さんっぽい人が纏める魔法隊は勿論、マリア・カスタードの狙撃部隊の姿も見えるので、大国に喧嘩を売る事は無いとは思うが先制攻撃されると凄まじい被害が出るのは間違い無いだろう。

まァ旅中の道中リーザスの悪い噂は殆ど聞かないので、其処まで歓迎されていない訳では無いと思うのが妥当なトコかな?

よって俺は双眼鏡から目を離すと、右手で日差しを抑えながら遠方を凝視しているハウレーンに向かって口を開く。


「ハウレーン。移動を止めさせろ」

「!? 承知しました――――全軍停止せよッ!!」


『――――はっ!!』


「此処からは俺達と少数で行こう。目的が合併だし、無駄に頭数を揃えて行っても警戒されるに過ぎん」

「しかし……いえッ……ランス王が そう仰られるので有れば」

「かなみ?」

「…………」(コクリ)


≪――――ッ≫


俺が かなみの名を言って少し其方から視線を逸らした後には、彼女の姿は もう其処に無かった。

恐らく念の為に"カスタムの街"に何か不穏な動きが無いか先に調べに行ったのだろう。

JAPANの状況が原作と大きく違がっていた事から、カスタムも何らかの変化が起こっている可能性も有るのだ。

RPGで久しぶりに戻ってきた村が滅ぼされてました……って展開は良く有る事だしな。

さて置き。今の状況をメルフェイス・ウィチタ・アームズも察したらしく、地面に降りた俺の方へと近付いて来ていた。


「あの……ランス様。私はどうすれば?」

「私はゼスの人間ですし、今回は此方で待機していた方が良いのでしょうか?」

「指示を頼む」

「う~ん。とりあえず皆 付いて来てくれ(……次の迷宮に備えて紹介する展開の可能性も出てくるしな)」

「……分かりました」

「はいっ!」

「分かった」


――――尚サイゼルは話が ややこしく成りそうなので待機で、既にメルフェイスが"暫く待っていて下さい"と宥めている。


「ハウレーンは何人かの騎士を集めろ」

「ははッ! 少々御待ち下さい」


≪タタタタッ≫


「うむ。さて……旨くいけば良いんだけどなァ」

「あの。何が問題でも有るのですか?」

「ランス王の御話ではカスタムで勤めている者達の中には、以前共に戦った方も居るとの事ですが?」

「そうなのか? それにしては今 苦虫を噛んだ様な顔をしていたが」

「ありゃ? 俺とした事が表情(カオ)に出ちまってたか」


――――正直なトコロ"今のランス"に成ってしまった俺に対する"彼女達"のリアクションが全く予想 出来ないのだ。


「それでは……問題とは?」

「今更ですが私に何か出来る事が有れば遠慮なく仰って下さいッ!」

「……(生憎 私が出来る事は無さそうだ)」

「いや"大きな"問題では無いんだが……腕は立つが癖の多い連中な上に"俺"も俺で関わった当時は相当バカな事をやったからな。今は立場的なモンも有って王らしくはしてるんだが、其の反応に対するシミューレションが全く出来んから不安が有る。状況によっては俺に対して皆 失望するかもしれんな」

「ば、馬鹿な事?」

「……(このランス王が? 失望する程だなんて想像 出来ないわね。でもガンジー様も若い頃は奥様に魔法を何度も当てた事が有るって言う信じられない事を していたって話も聞くし、誰にでも知られたく無い過去くらいは有る筈)」

「ふむ。そんな事を気にしているのか? 相手は合併を拒否できる立場では無さそうだし、そう迂闊な事は言え無いだろう」

「まァそうなんだが~」

「その……セルさん? ……も話せば分かってくれましたし、私は何にせよランス様の事を理解してくれると思います」

「わ、私も そう思います!」

「……(そんな事より早く手応えの有るモンスターと戦いたいのだが)」

「有難う。そう言う訳だから、何か喚かれてもスルーしてくれると俺としては助かる」

「分かりました」

「ははッ」

「それでサイゼルは話が纏まる迄は暫く漫画でも読んで暇潰しでもしてろよ? 大人しくな!」

「分かってるわよ~」


――――俺が馬車(仮名)の中のサイゼルに声を掛けると、彼女は漫画に視線を向けたまま左手をヒラヒラと此方に振った。


「ランス王。招集が終わりました」

「御苦労様。ではトットと済ませるとするかな」

「はい(……ランス王の次の探索の為にも手早く済ませねば)」


会話をしているウチにハウレーンが5人の百人長の騎士を集めて来たので、俺達10人は馬車を待機させて歩き出した。

そして歩く事 数百メートル。街の入り口を塞いでいる防衛隊(大半が女性)の方まで近付くと、自然と道を開いてくれ その先には周囲の連中を指揮していたと思われる"魔想 志津香"と"マリア・カスタード"の姿が有った。

まァ指揮と言っても今回は只の様子観察なのだろうが……ヤバいな。やっぱり本物だ、人気キャラに会えると感動するぜ。

さて置き。魔想さんは俺と目が合うと見るからに敵対的な視線を返し、マリア・カスタードは敵対心は無さそうだが率直に言うとハラハラとした感じの表情をしていた。

対して俺は眉一つ動かさずに更に近付いて"久しぶりだな。元気だったか?"と声を掛けると、当然の如く"リーザス王がワザワザ御苦労な事ね"とか言う返事が誰かと言う迄も無く来たが、当たり前の反応なので気にする事も無く話の分かりそうなマリアに向かって話を続けた。


「"俺様"が此処まで来た理由は他に有るが、リーザス軍が訪ねた理由は他でも無い」

「な、何なの?」

「リーザスと"カスタムの街"の合併の為に外交に携わる"エレノア・ラン"に取り次いで欲しい。既に此方が出す好条件 其の他 諸々の有る程度の準備は出来ている。故に後方で控えているリーザス軍の受け入れを頼む」

「ちょっと待ってよ。急にそんな事を言われても……」

「文官も連れて来ているから分からなければ聞いてくれ。それで言われた通りにして貰えれば良い。そもそも"今の状況"を円滑に進める為に、こうやって出向いてくれてたんじゃ無いのか?」

「無論"リーザス"の名に置いて、決して悪い様にはしない事を約束します」


俺の言葉に当然 警戒している魔想さん&マリアだったが、ハウレーンの言葉に明らかに緊張の色が解けた印象だ。

確かに彼女達の価値観を考えると下心 有ってでの行動と考えるのが当然の話だからな……もはやヘコむ意味すら無い。

さてさて。マリアは此方の言葉に少しだけ額に手を当てて唸っていたが、直ぐに顔を上げて表情を改めると今は"カスタムの街の防衛隊"としての仕事を行おうと割り切った様で、眼鏡の位置を戻すと再び俺達に対して口を開く。

まだ凄く何か言いたそうな様子も見え隠れしているが、俺と同じで他の積もる話は後ほど行えば良いと判断したのだろう。


「分かりました。先ずは この魔想に都市長に報告に行って貰いますので、先にリーザス軍の受け入れを承ります」

「そりゃ有り難い。任せて良いか? ハウレーン」

「ははッ(確かにランス王は必要以上に警戒されていた様だが、最初から安堵感も察せたのは何故だろう?)」

「志津香。御願いできる?」

「……ッ……仕方無いわね……まあ構わないわ。私としては1秒も長く此処には居たくないし」

「!?!?」

「(止せウィチタ。何故オマエが反応する? スルーしろと言ったろ? 最初の皮肉は耐えたと言うのに)」

「(で、ですが――――)」

「(俺はそう思われても仕方ない事を"しでかして"るんだ。だから何とも思ってない。気持ちは有り難いが自重しろ)」

「(す……すみません)」

「何よ? ボソボソと」

「いやいや何でもない。それより何分 待ってれば良いんだ?」

「30分から1時間。あの娘も忙しいのよ? 察しなさいよね」

「ふ~む。なら適当に暇を潰してるから一時間後に都市長の居る屋敷に向うからな?」

「貴方にしては謙虚じゃない。それで構わないわ。はいッ! 皆 行くわよ!?」

「感謝する。文官達にも そう伝えて置けよ? ハウレーン」

「畏まりました(だが……私も気に入らんな。一国の王を何だと思っている?)」

「ハウレーン様……ですね? 私はマリア・カスタード。御迎えさせて頂いて宜しいですか?」

「んっ? あァ。少し距離が有るが案内しよう。すまないが頼むぞ? 私は白の副将ハウレーン・プロヴァンスだ」

「はい……って貴女も来てよ? カスミ(プロヴァンス? 何処かで聞いたことが有るけど今は考える時じゃないわね)」

「分かりました。皆で御手伝いします」

「マリア」

「な、何? ランス……っと王」

「先ずは大まかな合併条件の書類を手渡して置く。後に関わるだろうし歩きながらでも読んでろ」

「うん。有難う(……ってイキナリ1000万ゴールドとか見えたんだけど……け、研究費とかも貰えないのかな~?)」


こうして第一波は乗り切った様で、先ずマリア&ハウレーンと互いの部下達はリーザスの"うし車"の方へと戻って行った。

そして魔想さんの部下の魔術師達は彼女を追う様にして街の入り口にへと消えて行っており、既に人の姿は少ない有様。

恐らく俺は酷い王様だと教え込まれているのだろうか、魔術師さん達の視線が少し痛かったのは気の所為ではないだろう。

だがソレも考えてみれば仕方無いので、俺は気を取り直すと同じくカスタム防衛隊の"ミリ・ヨークス"の姿を探してみた。

されど彼女の姿は確認できず、後から聞いた話によるとミリはランスにゾッコンで有る妹のミル(12)を此処に来させない様に抑えていた&あまり遣る気が無かった為に来なかったらしい。

一応 後者は冗談だと言っていたが、そうでもないかもしれん。

よって狙撃隊と魔法隊が居なくなるとカスタムの入り口は前述の通り早くも殺風景と成ったのだが……ふと俺は信じられない者を見た!


「アレがリーザスの王様……?」(獣耳)

「魔想さんが言ってたよりは普通の人って感じ」

「…………」

「……って姫様?」

「ど、どうされました?」

「…………」


カスタムの前衛部隊はミリの"遣る気"が無かった為か人数が少なく、其の者達も立ち去ってしまったのか残ったのは数名。

だが此方を遠目で見ている"3人組"が……特に頭に見覚えるの有る"獣耳"のヘアバンドの少女が俺の脳に大打撃を与えた。

どう考えてもオカしいだろ。何で此処に"彼女達"が居るんだ? そもそも織田に全部 滅ぼされたんじゃ無かったのかよ!?




≪――――カスタムは上層部の人間に有能な女性が多いと言う事で、多くの女性が名声を求めて集まって来ている様です≫




「(つまり……あれか?)」

「……ランス様?」

「其方の方に何か?」

「ふむ……どうした?(JAPANの防具? こんな所で拝めるとは)」


道中でハウレーンに"そんな事"を聞いた気がするが、ソレが今のJAPANの情勢とカスタムの構成に繋がっていたとはッ。

何にせよ俺達は更なる"戦力"を確保できるかもしれない。此方で"使える"かは まだ分からないが、聞くダケなら只だろう。

よって唐突にカラダを震わせ視線を固定した俺に違和感を得たメルフェイス・ウィチタ・アームズの言葉を気にもせず、目が合った瞬間に瞳を大きく見開いた黒い長髪の女性(+お供2名)の方へとゆっくりと近付いて行くのだった。

鬼畜王ではなく"原作"基準だとすれば、今の瞬間も俺から視線を離そうとしない彼女の運命は機転を迎えた事と成るだろう。





●レベル●
ランス   :54/無限
かなみ   :50/40(+10)
メルフェイス:48/48
サイゼル  :88/120
ウィチタ  :35/35
アームズ  :40/44
ハウレーン :33/36




■補足■
JAPANの某国は織田に滅ぼされましたが、生き残りの何名かは大陸に逃れ其処で女性でも立派に戦っている事実を知る。
よって女性が力を振るえるカスタムの街に少女達は辿り着き、其処で頼りに成るマリア達の下で防衛隊の職に就いたとの事。



[12938] 鬼畜王じゃないランス17
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2012/03/20 01:49
鬼畜王じゃないランス17




――――"彼女達"3人に近付く最中、俺は一瞬のウチに考える。


「(う~む。何はともあれ意外過ぎるぞ? どう遣り取りするべきだ?)」


俺の記憶に間違いが無ければ何を隠そう"姫様"と呼ばれた三人の中の一人は、JAPAN最強の剣士"上杉 謙信"なのだ。

才能限界値は何とLv70で剣戦闘Lv2を持ち、其の強さは説明するまでも無いだろう。

だが彼女は当然 鬼畜王の仕様な事から原作の様な白い武者鎧 姿では無く特徴的な兜も無い模様。

つまり身に着けているのは獣耳のヘアバンドが特徴的な左の"虎子"と、そのライバルで有る右の"勝子"と似たような武者鎧を装備しているのだ。

よってパッと見では分からなかったが、虎子のヘアバンドを見て即効で真ん中の女性が誰か察しが付いてしまった。

そんな為に無意識に体が進んだとは言え……俺の行動に体を強張らせた"姫様"の御供2名の様子を見て俺は冷静に成れた。

考えてみれば今の俺の行動は"異常"だと言える。

一国の王が遠巻きに自分を眺めていたダケに過ぎなかった者達に唐突に興味を示したんだからな。

……とは言え近付いて改めて分かったが、謙信達は紛う事なき美少女達。

原作のランスの性格を考えれば全く当たり前の行動で有るので、此処は流れに任せて気さくに話しかけるべきだろうか?

しかしながら。更に考えてみるとメルフェイス・ウィチタ・アームズの誰もが"以前のランス"の身勝手さを知らない。

そうなると……やはり今回も先程の如くリーザスの王として振舞うしか無さそうだな。

既に何度 思ったか分からないが、俺もアイツみたいな性格だったらイチイチ此処まで考える必要すら無いんだけどね。

……かと言って無駄に勘繰る最大の理由は、どう考えてもランスのノリでセーブ&ロード無しのクリアは不可能だから。

即ち敵や不満は残さないに限るので、ランスの肉体だとは言え彼を肖るのは一部のイベントに限られるだろう。

さて置き。早くも結構距離を詰めてしまっているので、今だ俺を見て微動だにしない"上杉 謙信(仮)"に向かい声を掛ける。

いや正確には"彼女達"だな。何故なら立場的に"この時点"で一人を対象にするのは不自然だからだ。


「ちょっと良いかい? 君達」

「ぅえっ!? え、えっと……"君達"って私達の事ですか?」(獣耳)

「あのッ。リーザスの王様……ですよね?(そんな人が一体 何の……)」

「…………」


「いやな? ちょっと"珍しい鎧"を身に着けてたモンだから気に成ったんだよ。それはJAPANのヤツかい?」

「確かにコレはJAPAN製の防具ですけど……?」

「そ、それが何か?(それ以前に跪いたりするべきなのかしら? 今の状況って……)」

「…………」


「やっぱりJAPANのヤツで間違い無かったか。ならば君達はJAPAN出身なんだろうが……掘り返せば其処の人間が此処(カスタム)に居る事 自体 珍しいんじゃないのか? そもそも以前カスタムを訪れた時には居なかったしな」

「!?!?」

「そ、そそそそれはッ」

「…………」


「すまん警戒させる気は無いんだ。ただリーザスの王としてJAPANの内情を知るに越した事は無いからさ」

「は、はぁ」

「(でも織田に滅ぼされた"私達の国"の事を言ったって……)」

「…………」


――――(恐らく)上杉家の三人。

正直 JAPANの情報(また鬼畜王との更なる違い)を聞き出すには良い相手だろうが、案の定 空気が重く成るのを感じた。

だとすれば"彼女達"がカスタムに居る理由は何となく察せるが……最初から"こんな場所"で問い詰める気は無いんだよな。

つまり今は"沈黙を続ける娘"を どうにかするのが先決で有り、彼女の俺に対する第一印象が"同じ"か確かめる必要が有る。

よって"其の確認"を する前に何時の間にか暗くなった空気を晴らすべく、俺は非常に強引な流れで話題を変える事にした。


「それはそうと」

「????」×2

「その"獣耳"も気に成った」

「んなっ!?」

「あ、あぁ~ッ。やっぱり妙ですよね? 私は前から"似合わないから止めろ"と言ってるんですが」

「ちょっと! 何勝手な事 言ってんのよ!?」

「何 熱くなってんのよ? 虎子」

「今の言葉を訂正しなさいッ! 可愛いじゃないのコレ!!」

「自分で"可愛い"とか止めなさいよ……と言うか他の人に どう見えてるかの方が重要でしょ?」

「グッ……だったら そう言う勝子だって、胸の装甲 少し贔屓してるクセに!! 私 知ってんだからッ!」

「ちょっ!? あ、あああアンタ何処でソレを……って言うか必然なのよッ!? 胸はまだ成長期だから仕方無く――――」

「ふんッ。見苦しいわね……他人に どう見えてるか? 確かに重要な事だけど、そんな小細工よりは私の方が断然マシよッ」

「な、何を~!? 言わせて置けば関係ない話まで持ち出して……!」

「先に喧嘩を売って来たのは勝子でしょ!? 私に非なんて無いわよッ!」

「ガルルルルル……(今日こそは どう料理してくれようかしら……)」

「…………」


――――おいおい何も煽って無いのに喧嘩を始めたぞ? いやヘアバンドを指摘した事 自体 拙かったのか?


「ちょっと落ち着けって! 反応に困るだろうが(……流れを変えれたダケ利点だが)」

「……ハッ!? す、すみませんッ」

「私ったら、王様の前で何て粗相を……」

「ふ~む。直ぐに止める辺り本当に仲が悪いワケでは無いと思うが、少しは時と場合を選んだ方が良いと思うぞ?」

「あぅッ」

「うぐッ」

「だったら互いに謝れ。話はソレからだ」

「……ッ……は、はい。勝子……安易に"乗った"私が悪かったわよ」

「私こそ王様は"そう言う意味"で言った訳じゃ無いのに口が勝手に……反省しとく」

「…………」


――――虎子と勝子(確定)が互いに謝ったと言う事で、俺は本題に入る素振りを見せつつ視線を"長い黒髪の女性"に向ける。


「結構。では話の続きだが……其の前に"彼女"は さっきから どうしたんだ?」

「そ、そう言えばッ(さっきから何時も以上に何も喋られていない……)」

「姫様? えぇっと……この方……リーザスの王様みたいなんですけど?」

「…………」

「う~む。何だか目の焦点が合って無い様だが、大丈夫なのか?」


≪コツンッ≫


「!?!?」


≪――――ボゥンッ!!!!≫


「うおっ!?」

「えっ? 何なに今の音ッ!?」

「もしかして……(姫様の!?)」


なるべく刺激しない事を意識しつつ"姫様"の方へと一歩踏み出すと、此処で(意図的にだが)再び彼女と目が合った。

すると予想はしていたが"姫様"は瞳を更に大きく見開き頬を真紅にしカオを強張らせた直後、口を一文字に結びつつ時間差で頭上を爆発させると言う何とも器用なリアクションを(完全に無意識になのだろうが)した上に一歩 後退して背筋を伸ばす。

対して"その理由"が大よそ察せるとは言え俺は何食わぬ顔で首を傾げると、その動作でさえ(自惚れる気は無いが)何か来るモノが有るのか今度の"姫様"はカラダをビクリと震わせると、左手を胸元に添え右手で口元を隠しながら俯く。

何だが予想以上の反応なのは さて置き、もう何を どう考えても会話が出来る状態では無いだろう……原作と同じでね。

よって俺は"姫様"に次の行動を取って頂くべく更に彼女との距離を詰めると、心配そうな素振りで手を伸ばすワケだが。


「どうした?」

「――――ッ」


≪ダダダダダダッ!!!!≫


「えぇっ!? ちょッ」

「ひ、姫様ァ~!?」


原作どおり"姫様"と呼ばれた長い黒髪の女性は、脱兎の如く この場から凄い速さで走り去ってしまった。

よって此処には俺・虎子・勝子(+俺の連れ3名)が残され、漫画の演出よろしく一陣の風が通り抜けた様な気がする。

一方2人の従者は"姫様"が取った行動の意味が理解できるハズも無く、その場でオロオロしながら立ち尽くすダケだ。


「突然どうしたんだ? あの娘は」

「その……わ、私にもサッパリ……」

「どどどどうするのよッ? 虎子!」

「そ、そんな事 言ったって!」

「(リーザスの王様を放って置くとか失礼な事は出来ないし――――)」


「追ってやると良いさ」

「えぇっ!?」×2

「ん? 何を驚いてるんだ? 大切な"姫様"なんだろ?」

「そ、それは そうですけど……って! 勝子 何でアンタ姫様姫様 言っちゃってたのよ!?」

「!? し、しまった~!?(リーザスの王様が来た所為で緊張して……!!)」


「この馬鹿 勝子ッ! 幾ら自由都市でも軽々しく口にして良い言葉じゃなかったのに!!」

「うぐっ……で、でも馬鹿 呼ばわりする事は無いでしょ!?(そもそも信じてなんか貰えないんだし――――)」

「其処までにしとけよ。もう見えなく成っちまってるぞ?」

「あッ」×2

「今のは聞かなかった事に して置いてやる。話の事は"機会が有ったら"で良いから、行ってくれ」

「わ、分かりましたッ」

「有難う御座います!」


――――こうして虎子&勝子は、俺に大きく頭を下げると"姫様"を追って街の入り口を通り抜けて行った。


「ハァ……(騒がしい連中だったな)」

「ランス様」

「何だ? メルフェイス」

「えっと……あの2人は、真ん中の女性を"姫様"と言っていましたが?」

「うむ。大方 元JAPANの姫様とかだろう。何で此処に居るかは謎だけどな」

「先日 馬車の中で見させて頂いた情報によると、JAPANは織田家が支配しているとの事ですが……」(ウィチタ)

「あの娘が本当に"姫様"なので有れば、織田に滅ぼされた国の人間な可能性が高いな」

「だが、JAPANの女は決して表立って戦う事は無いと聞くが?」

「流石に大陸に渡ってからも"戦えません"じゃ済まないだろ? アームズ」

「それもそうだな」

「まァ今は気にしても仕方が無いな。JAPANの情報も捨て難いが今は都市長との交渉が先だ」

「そう……ですね」


――――本来 此処で会話を終えたかったのだが、メルフェイスの同意後ウィチタが当たり前の疑問を口にした。


「しかし何故"姫"と呼ばれていた女性は急に走り出してしまったのでしょうか?」

「さてなァ」

『えっ? 嬢ちゃんは分からなかったの? 何とも珍しくて甘酸っぱい話で――――』

「お前は黙ってろッ」

「????」

「ランス様……(恐らく彼女は貴方に……)」

「皆まで言わんで良いぞ? メルフェイス。今優先すべき事は弁えてる つもりだ」

「そ、そうですか」

「どう言う事なんだ?」

「要点だけを言うと、旨くゆけば情報以外のモノが得られるって所かな?」

「ほう。それは良かったな」

「うむ」

「……(イマイチ分からないけど、何か胸がムカムカするのは気の所為かしら?)」

「ともかくだ。何もしないで待つのもアレだし、先ずは街の様子を見て回る事にしようか」

「畏まりました」

「お供しますッ」

「ランス。私はギルドで手頃な依頼でも受けて来ても良いだろうか?」

「う~む……夕飯迄には間に合うヤツで頼む」

「分かった。感謝する」


何はともあれ"上杉 謙信"が原作通りのチカラを持っているとすれば、戦力としては申し分ない存在なのは間違い無い。

前述の通り限界レベルは70の筈なので、無闇に抱かなくてもレベルをカンストさせたダケで十分に強いだろう。

だが"鬼畜王のJAPAN"では女性の身で戦場に赴く者は"山本 五十六"しか居ない設定なので、正史にしか登場しない"鬼畜王には居ない筈"の女性キャラ達が揃って戦国と同じ実力を持っているとは、香姫 辺りの変化を考えると断定が出来ない。

……とは言え走り去った時の瞬発力を考えると、常人 離れした身体能力を持っているのは間違い無いので期待できる。

だが王様の身な為 無名な人間を理由も無くスカウトするのは立場的に(特にリアみたいなのが五月蝿いので)難しかったりするが、俺がランスなのと謙信が"姫様"と呼ばれていた事を理由に接触すれば再び会うのは難しくは無いだろう。

しかしながら。

今回の機会を逃せば再びカスタムに赴く為には色々とリーザスでの仕事を終わらせて置かないとダメだし、それ以前に戦争中な上に魔人も何とかしなくては成らないので(アームズ・アークは勝手に付いて来たのでともかく)鬼畜王以外のキャラに時間を費やして迄 執着するのは頂けない。

でも"上杉 謙信"だからなァ……冒険中での食い物の確保が最大の問題だが安易にスルー出来る程の小物キャラじゃ無い。

よって俺の脳内では彼女に対するイベント優先順位を上げて置く事にし、何事も無かった様なカオで街の中へ入って行った。




……




…………




……約30分後。

リーザス軍が来たと言う事で街の中に多少の動きが有る中、俺達3人は他人事の様に歩みを進めている。

んで目的地は……ちゃんと考えてはいるのだが、勿論 以前のランスの様に分かっているワケでは無いので、闇雲に動いているのを誤魔化す意味でウィチタ&メルフェイスと会話していた。

その内容とは主にエレノア・志津香・マリア・ミルの"カスタム四魔女"の事で有り、先ずは客観的に各々の実力を語った。

尚"ミル・ヨークス"の事については今後 話さねば成らない点を考えて事件時は"大人化"していたのを既に伝えている。


「アイツらの事に関しては、こんな所だな」

「成る程……(やっぱり帽子の人は只者では無かったのね)」

「ではランス王」

「何だ? ウィチタ」

「改めて伺いたいのですが、彼女達とは どの様な接点が有るのでしょうか?」

「随分と直球だな」

「す、すみません。ですが"カスタム沈没事件"に関してヤケに詳しいので気に成りまして」

「……(確かリアが情報を隠蔽してたんだったな。だが隠して置くと後が面倒か)」

「ランス様?」

「いや何でも無い。まァ率直に言うと"俺様"と その仲間が其の事件を解決したからだな」

「なっ!?」

「た、確かにランス様の実力なら……」

「それで更に驚かせると思うが、若気の至りで その四魔女とは肉体関係も有る」

「!?!?」×2

「予想通りの反応を有難う。其処で誤解の無い様に言って置くが、抱かないと正気に戻す事が出来なかったから犯ったに過ぎない。とは言え下心が有ったのは確かだったが……彼女達に敵対心や警戒心を感じたのは、其の所為だと言っても間違いじゃ無いだろうな。きっと周囲の連中も"その事"を悪い意味で捉えて無駄に構えてたんだろ」

「そう……だったのですか」

「な、納得です」

「ガッカリしたのなら、当たり前の事だから気に病む必要は無いぞ?」

「いえ……そんな……(私も副作用を抑える為に、殆ど記憶には残って無いけど数え切れない程 男性には抱かれている)」

「!? そ、そんな事は有りませんッ! 大きな事件の解決には多少の犠牲も付き物ですから!!」

「犠牲? う~む……犠牲と言うか何と言うか……」

「ともかく……抱かなければ正気に戻らなかったので有れば、彼女達も いずれ分かってくれるかと思います」

「そ、そうですよ!(私は其処まで割り切れる自信は無いけど……ランス王も今に成って後悔しているのかもしれない)」

「そう言ってくれると助かるな」

「ところでランス様……今は何処に向かっているのですか?」

「……(特に一人が"少女"だった事に関しては、今の彼の性格を考えると悔やんでも悔やみ切れないでしょうね)」

「そ、それはだな……大方 街の様子は見終えたし そろそろ見えてくると思うんだが~?」


――――メルフェイスが気遣って話題を変えてくれた様だが、前述の理由で宛が無い為 少し焦りを感じていたのだが。


「ランスぅ~ッ!!」

「うおっ!?」


≪たたたたたた――――どっ!!≫


「ねぇねぇ あたしに会いに来てくれたんでしょ!? あたしも会いたかったんだァ~♪」

「君はミル……なのか?」

「そうだよぉ? まさか"忘れた"なんで言わないよねッ? 初めての人ッ!」

「!?!?」×2

「初っ端から誤解されそうな発言を御苦労様……それより元気にしてたか?」

「うんっ! そう言うランスは どうなの!?」

「見ての通り健康かつ、リーザスの王様になって再登場だ」

「へぇ~ッ、やっぱり噂は本当だったんだね? それでそれで、あたしの力を借りたいって感じ~?」

「それ以前にリーザスが来てる事くらいは知って置けよ」

「良いじゃん良いじゃん そんなの!! それより、どうなのよぉ~!?」


予想外の"ミル・ヨークス"奇襲(体当たり)に、俺は勿論 メルフェイスとウィチタも驚いて彼女に注目した。

その際 唐突に爆弾発言をしたミルだったが……見つかってしまったモノは仕方無いので冷静な対処を心掛ける。

だがランスを本気で好きな事は確かな為か、子供なミルのテンションは下がらず俺の腕をブンブンと揺すっている。

此処で何を隠そう俺が探していたのは"ヨークス姉妹"の薬屋だったのだが、探すのに手間が掛かっていたと言うワケです。

先に彼女達に話を聞けばカスタムの街の位置情報が掴めそうだと思ったのだが、今と成っては遅過ぎるのは さて置き。

原作のランスのノリで彼女を追い払うと更に粘着されそうなので、俺は軽く笑顔を作るとミルの肩に手を掛けた。


「まァ、そんなトコだ」

「やっぱり!」


≪ひょいっ≫


――――素直に肯定すると俺はミルを右手で抱き上げ、対して彼女は今の言葉に満足したか両手で俺に抱き付いている。


「それで……ミルの姉貴は店番か?」

「えっ? うん」


≪――――コツッ≫


「そうだぜ?(会えた事が嬉しくて……"伝えなかった事"に気付いて無いみたいだな)」

「おっ? ミリ・ヨークスか」

「それよりも お客さん。ウチの妹は非売品なんだが?」

「ならレンタルは無理か?」

「それなら構わないが、料金は体で払って貰おうかな?」

「勘弁してくれ」

「なんなら連れの2人でも構わないが?」

「……ッ!?」×2

「ちょっと お姉ちゃん! あたしはランス相手なら無料だよ~?」

「……らしいぞ?」

「チッ。それなら不問にして置いてやるよ」


――――ニヤけながら言う普段着エプロン姿のミリ。どうやら冗談だった様だが、彼女が相手だと冗談に聞こえない。


「そんな事より。店番なんかしてて大丈夫なのか?」

「志津香達に"出ろ"とは言われたけどな。ヘルマンじゃ有るまいし お前達 相手なら犯られても殺られる心配は無いだろ?」

「まぁ……そうなんだが」

「それに最近カスタムにはオレよりも遣る気が有る娘達が増えてるからな」

「!? もしかしてJAPANの人間が……なのか?」

「あァ。特に一部の娘は腕が立つし頭も切れる。だからオレの出る幕じゃ無いってね」

「ふ~む(……頭が切れる?)」

「だけど どうもガードが固くてねェ。エレノア達の目も有るし どうしたモンか悩んでる所だ」

「おい馬鹿やめろ。それより"元気の薬"を売ってくれないか?」

「オレが作ったのは全部 街に流してるから年中 品切れだよ。ハピネス製薬のモンなら大体揃ってるが?」

「がーんだな……出鼻をくじかれた」

「はははッ。悪いな」

「ともかくミルが"こんな状況"なんだがミリ。リーザスに来るか? ミルが寂しがるだろうしさ」

「えっ!? お姉ちゃんも連れてってくれるの? ……って言うか、本当に あたしも行って良いの!?」

「うむ。俺様は寛大だからな(やっぱりノリで言ってたのかコイツは!)」

「唐突だがアンタらしいな……正直 面倒事は遠慮したいんだが」

「良いのか? カスタムの連中には皆リーザスに来て貰うつもりだ。退屈はしないと思うぞ?」

「おっ? 良いねェ。それだと結果としては獲物が増えるダケだし、色々と楽しめそうだ」

「サラッと危険な発言をするな!」

「ともかく店の移転を考えないとな。当然リーザスが手伝ってくれるんだろ?」

「……ッ……勿論だ。費用は全部 俺達が持とう、感謝するんだな」


此処でミルに続いて登場した"ミリ・ヨークス"を見た感じ、こんなに顔色が悪い女性だった だろうか?

正直 美人な事と性癖は同じで間違い無いのだが、私服姿なのも有って立ち絵のイメージから大幅にズれてしまっている。

どうやら防衛に現れなかったのは"遣る気"が無かった事も有るが、ゲンフルエンザによる体調不良が最大の原因なのでは?

原作では自覚症状が無かった事から病に倒れる直前までリーザス軍の一員だったが、この世界では相場が違うらしい。

……とは言え原作の病気を知る俺だから妙に思ったが、ミリは自覚は有れど妹やエレノア達には隠しているのかもしれん。

最初から注意を払う事でクマを隠す様な僅かな化粧の跡に気付かなければ、俺もゲンフルエンザの存在を思い出さなかった。

当然いずれは考える必要性は把握していたが、出会った直後に示唆させる様な雰囲気を感じさせるとは予想外だったのだ。

よってミリの薬屋移転 発言で一瞬 動揺が顔に出てしまったが……直ぐに表情を改めると、ミリの申し出を了解する。


「有難う。それなら決まりだな」

「わ~いっ! ランス大好き~!」


≪――――ぎゅっ!!≫


「!?(子供だからって言うのは分かるけど、何て羨ましい事を……)」

「……(こ、こんな娘がランス王と肉体関係を? 想像が出来ないわ)」

「ちょッ……おま……とにかく用事は それダケだ。話が纏まったら遣いを寄越すから使ってやってくれ」

「分かった」

「そんな訳でミル。都市長が仕事をしている場所まで案内してくれるか?」

「うんッ! 良いよ~?」


承諾後 先程から俺に抱えられながらミリを見ていたミルが強く抱き付いて来たのだが、俺は慌てず先を急ぐのだった。

一方 メルフェイスとウィチタは非常に何か言いたそうな素振りだったが、道中は俺とミルの会話が行われたダケである。

その際 王様に成った経緯を話すと同時に、レベル上げの為に近場の迷宮を攻略してからリーザスに戻る事を言った。

対して当然ミルは同行したいと言って来たが……彼女の実力は気に成るし、迫られる頻度を下げる為にも了解する事にした。


「やれやれ。アイツは勘付いたか……オレも年貢の納め時かな?」




……




…………




……約20分後。


「見えて来たッ! アソコだよ!?」

「確かにデカい建物だな」

「此処で何が有るの~?」

「都市長のエレノアと合併の交渉をする予定だ。そろそろ1時間経つし、迎えが来なかったら勝手に入らせて貰おう」

「ランス王!」

「ランス~!」

「ランス様……ハウレーンさんとマリアさんと言う方が……」


――――ミルの肩車をしつつ声の方向に顔を向けると、ハウレーン・マリア・そして数名の文官が小走りに近付いて来る。


「来たか2人とも。旨いトコ受け入れは進んでるのか?」

「ははっ! 早速 空き家や空き地を借りて駐屯の作業に入った所です!」

「殆どの事はカスミ達に任せたわ」

「結構。では時間を待つダケだな」

「そうね(だとしたら迎えは……)」

「ハウレーン。サイゼルは?」

「用が済んだら迎えに来て欲しいとの事です」

「分かった」

「その際は是非 私に!」

「任せるよウィチタ」

「……ってミルぅ!? 何で貴女が此処に居るのよッ?」

「何よ~? あたしがランスと一緒に居たら悪いのぉ?」

「そ、そう言う意味じゃ無いけど……」

「ミル」

「何~?」

「…………」


≪――――ひょいっ≫


「あっ」

「俺様は少し大事な話が有るから、ミリの仕事を手伝ってやってくれ。案内の礼に迷宮には連れて行ってやるから」


――――流石に状況が状況なので唐突にミルを肩から下ろし、キョトンとする彼女に目線を合わせて指示を出した。


「む~ッ……分かった。約束 忘れないでよぉ!?」

「勿論だ」

「……(す、少し意外だわ。ミルの事だからランスから離れないと思ったのに)」

「……(好きな様にさせて置いたのが幸いしたな、素直だったら可愛いもんだ)」

「ランス様。流石に迷宮は危険なのでは?」

「間違い無いが、大人の時は無敵の強さだったんだぞ?」

「!? あ、あの娘がですかッ?」

「うむ。中々の才能を持っている」

「……大人の時?(そう聞こえたが?)」


――――俺の言葉にウィチタが驚き、詳しい話を知らないハウレーンが首を傾げた辺りで2名の人間が近付いて来た。


「失礼。リーザス王ですね?」

「御待たせ致しました」

「!? き、君達は……?」

「都市長より案内役を仰せつかった"直江 愛"と申します」

「同じく"南条 蘭"です」

「……~~ッ…」

「あの……ランス様?」

「どうされました?」


目の前に現れた2人の女性の姿と名前が判明した直後、蟀谷(こめかみ)を押さえて顔を俯かせて絶句してしまう俺。

そんな俺をメルフェイスとウィチタが気遣ってくれるのは有り難いが……ホントに何なんだよ"この世界"の設定は……

"直江 愛"は上杉組が居たから ともかく"南条 蘭"は予想外にも程が有るだろ!? 朱雀(戯骸)が健在だって言うのにッ!

何だか"鬼畜王"の設定に詳しいダケじゃ不安に成って来たな……俺が来た後に新たな派生のシリーズでも出たのか!?

だが悪い要素では無いので深く考えない方が賢明なのだろうが、新たな敵の可能性を考えると一概には喜べないのだ。


「……リーザス王?」

「だ、大丈夫ですか?」

「いや……すまない。肩車を遣り過ぎて首が痛くなったダケさ……それでは案内してくれ」

「畏まりました」

「此方へどうぞ」

「(……この2人も……JAPANの人なのね……)」

「(今までガンジー様とカオルとで旅をしていた中、こんなにJAPANの人間が居た街が有ったかしら?)」


――――互いに何か思う所が有った様だが、特に口には出さず俺達は直江&南条の背中を追って歩き出す。


「(蘭……どう思った?)」

「(見た感じ噂みたいな印象は感じなかったわ。物腰も柔らかそうだったし)」

「(確かに私も同じ様な捉え方ね……でも話が本当だったら……)」

「(うん。例えリーザス王が相手でも謙信は絶対に守る)」

「(だけど今 織田を倒せるのはリーザスだけ。旨く入り込んで"私達"がJAPANを治める権利を得る必要が有る)」

「(つまり此処からが正念場って事ね?)」

「(えぇ。もっと時間が掛かると思ったけど……コレは大きなチャンスだわ)」

「(どうにかして私達に一軍を任せて貰って、織田と戦える様に迄 漕ぎ着けないとダメね)」

「(そう言えば、謙信は どうしたのかしら?)」

「(分からない。虎子と勝子が一緒だから、大丈夫だとは思うけど……)」


都市長の館は敷居も有る大きな建物なので多少 歩く必要が有り、その際 直江と南条は何やら小声でボソボソと話している。

だが動きからして余り隙を感じさせないので読み取る事が出来ず……原作より強化された能力を持っているのかもしれん。

……とは言え目の前の2人ばかりに注意を向けている場合では無い。

今 重要な任務はエレノア・ラン(+マリア達)との交渉で、問題なくリーザスと"カスタムの街"を合併させる事だ。

更にマリア&魔想さんに一軍を纏めて貰うダケで無く、あわよくばJAPANの娘達にも協力を要請したいトコロである。

よって確かに考える事が多過ぎて不安では有るが それ以上に"予想外のキャラに会えた"と言う高揚感をも感じながら、俺は どうやって物語を進めようか、そろそろ冷却が必要ではないかと思われる脳内を更にフル回転させていた。

それにより大体の交渉についての内容を纏める事が出来たのだが、其処で考えるのは やはり"上杉 謙信"達の事である。


「……愛……蘭ッ! ……私には果すべき事が有るのに……一体どうしてしまったのだ……」

「(とりあえず後をつけて来たけど……やっぱり、この人ってランスに……)」


――――彼女達は何故JAPANから逃れて来たのか? 何にせよ力に成れるのは"リーザスだけ"で間違い無いだろう。








●レベル●
ランス   :54/無限
かなみ   :50/40(+10)
メルフェイス:48/48
サイゼル  :88/120
ウィチタ  :35/35
アームズ  :40/44
ハウレーン :33/36

上杉 謙信 :05/70
上杉 虎子 :15/35
上杉 勝子 :15/35
直江 愛  :30/40
南条 蘭  :30/38




●補足●
謙信=織田に滅ぼされた上杉家の姫。元当主が死ぬ際、謙信の名を授かり大陸に逃れた。才能は有るが実戦経験に乏しい。
虎子&勝子=謙信が信頼を寄せる側近。虎子は氷の魔術・勝子は槍の技術を両親に習っている。2人とも15歳くらいです。
愛=若い女性の身で有りながら才能を買われ、上杉家の軍師を務めていた天才。原作と違って弓の技術も五十六に匹敵する。
蘭=幼馴染の敵を取る為 信長の首を狙う努力家。大陸で炎の魔術の才能を開花させ、式神を操る只一人のキャラでもある。



[12938] 鬼畜王じゃないランス18
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2012/07/10 21:32
鬼畜王じゃないランス18




――――予想外のキャラ"直江 愛"と"南条 蘭"に、都市長の元へ案内されてから約3時間後。


「……ふむ」

「…………」


俺はエレノア・ランの都市長室のソファーに背を預けて新聞(みたいなモノ)を読んでいた。

一方 低く広いテーブル越しの向かい側では先程から"魔想志津香"が腕を組んで俺を監視している。

尚 互いのソファーは座れるのは三人程度で、俺は中央だが魔想さんは自分から向かって右端に座っている。

何故かと言うと2時間と少し前 俺の"正面"にはエレノア・ランが座っていたからだ。


【AL教団 新法王にクルックー・モフス即位!!!!】


細かい状況説明は さて置き。

俺は考え事をしつつジックリ2時間掛けて読み終えた新聞の見出しを もう一度確認した。

最初は時間を潰す意味ダケで手にとって見た新聞だったが、無視出来ない事が書いてあったのだ。

いきなり度肝を抜かれちまった……クルックーって誰だよクルックーって。鳩か? 鳩なんですか?

俺の記憶によれば今のAL教団のトップは"ムーララルー"で後にランスが法王(偽)に成る筈だが……

何時でも代理で済ませていた鬼畜王の世界と違って、法王が死ぬのも早いし即位するなんて聞いてないぞ。

今はカミーラ軍やらレベル上げやら侵攻&合併やらで気にもしてなかったが、どう見るべきかなこりゃ。

俺としては向こうから寄付目的で接触して来るまで放置で良いと思ったんだが、かなり相場が違っている。

最近 即位したっぽいし留守中に使者が来てたらどうしよう……どうしようも無いから考えるだけ無駄か。

何にせよマリスには俺が不在な時は相手が魔人でも待たせろと命じているので、旨くやっているだろう。

それ以前に今は"そんな事"よりも、交渉の結果を どう迷宮攻略に繫げてゆくかが遥かに問題だ。

特にJAPAN勢が(面倒では有るが)良い意味で悩みの種なので、俺は新聞を畳むと溜息を漏らすのだが。


「ふぅ~ッ」

「……ねぇ」

「なんだ?」

「何を企んでるの?」


――――口を挟むタイミング窺っていたのか、魔想さんが前述と同様 腕を組みながら棘の有る口調で言う。


「特に何も」

「だったら どうして出て行かないの? かれこれ3時間も経ってるわよ」

「言わなきゃ分からないか?」

「分からないわよ」

「エクスの居ない今、場が落ち着くまでは俺が今回の責任者だからだ。だから此処で見届ける義務が有る」

「だったら手伝ってあげれば良いじゃない」

「ハウレーンに全力で止められたのはオマエも見てただろ? 立場的に有り得んらしい」

「そうだったわね……つくづくアンタが王様だって言うのを思い知らされるわ」

「いい加減慣れろ」

「どうでも良いわ」

「だろうな」

「……ッ!!」

「(よせよせ)」

「(……はい)」


――――此処で ずっと俺の背後に立っているウィチタ(体力的には問題無し)が"また"殺気を放った。


「ところで何時まで続く訳?」

「メルフェイス曰く3時間だ」

「そろそろじゃない」

「うむ。だからオマエも油売ってないで部隊を纏めて来い」

「アンタに言われたくないわよ」

「手伝わせてくれないんだから仕方無いだろ」

「…………」

「少しはマリアを見習ったらどうだ? 話が終わったら目の色を変えて出て行ったぞ」

「お金で釣って置いて良く言うわ」

「否定は出来んが研究費用 以外の何物でもない」

「其処を付け込むのが目に見えてるのよ」

「アイツ相手に そんな面倒くさい事をするかっての」

「……ッ……(確かにマリアの兵器は凄いけど……)」

「ともかく無駄に過ごしてるのはそっちだ。リーザスに"例の件"で動いて欲しかったら早く働け」

「!? や、やれば良いんでしょ?」

「結構。其処に居た事は元都市長の顔を立ててやるから安心しろ」

「余計なお世話よ」


≪――――バタンッ≫


会話を終えると魔想さんはツカツカと歩みを進めると都市長室を出て行った。

途中ウィチタとすれ違った際 火花を散らした様な気がしたが、深く考えない事にして置こう。

抜きん出た魔法の実力を考えると彼女の存在は大きいとは言え……今は好感度が低すぎて話にならない。

よってゼスと接触するまでは放置する事を考えて、目先の事を優先させなければダメだ。

そんな事を考えながら視線を移してみると、映るのは五人の人間の姿。

メルフェイス・ハウレーン・エレノア・文官2名である。

そのうちエレノア以外の4人は忙しなく書類の整理をしているが、エレノア・ランは蚊帳の外である。

主にハウレーンと片方の文官が書類の山に目を軽く通してから分別し、もう片方の文官が(ランス6の山田の情報魔法の要領で)内容を入力し、そのフォローをメルフェイスが手触り程度に活かせる情報魔法の展開で行う事で早くもエレノアが溜め込んでいた書類の整理が終わろうとしていた。

……とは言えエレノア・ランは都市長として申し分の無い頑張りを見せていたが、いかんせん素人だったのだ。

入室した時に書類の山を見て分かったが、事務処理まで全て彼女が一人で引き受けていたのだろう。

それは4魔女の年長者としての罪の意識から来るモノだったのだろうが、JAPAN勢が増えて仕事が激化。

されど"直江 愛"やらが手伝うと言っても丁重にお断りし、そろそろ肌にも支障が出る辺りでリーザス登場。

瞬く間に溜まっていた書類の整理を片付けてしまっており……今に至るというワケである。

うちハウレーンはエクスの副将で有る以前にリーザスの将軍なので書類整理など見慣れたモノ。

メルフェイスもエクスに仕えていた上に魔法部隊の副将だったので、元傭兵でも情報魔法を使える時点で一流。

そして2名の文官に至ってはマリスの部下なのでエリート中のエリートなのは明白。

だとすれば3時間で終わるのも頷ける……リアルに居たら劣等感ってレベルじゃ無いぞ?

よってエレノアが蚊帳の外に成るのは仕方無い事であり、3時間オロオロしている彼女の姿には萌えた。

でも気の毒なのは否めないので後でフォローする必要が有るだろう。

何て言ったって最初に文官と軽く"引き継ぎ"を交わしてからは完全に放置されてたし。

いや……後は任せて下さいとかは言われてたっぽいが、エレノアの性格からして立ち去れなかったのだろう。

魔想さんからも何か言われていたが、自分で此処に残ると決めたからには何を告げても野暮なのだ。


「ランス王」

「何だ? ハウレーン」

「御確認下さい」

「分かった」


そんなウチにメルフェイス達はエレノアの溜めていた仕事を片付けたようだ。

ハウレーンは何時の間にか文官が書いた書類を受け取ると、此方に近付いて それを両手で渡してくる。

対して書類を受け取った俺は眼鏡を装着して、内容に誤り等が無いのを3分ほどで確認すると返却した。

正直"この役"はマリスやエクス程の将軍クラスで無ければ太鼓判を押せ無いのだが、俺は王様なのでOK。

無論ゲームの様に無知ではマリス任せだが、俺に予想外の教養が有った事で彼女が軽い手解きで権限をくれた。

流石にメルフェイス達が行っていた様なスーパー経理・事務は出来ないが、習ってみるのも良いかもしれん。

だがハウレーン曰く王様に"そんな事"をさせれば自分の首が飛ぶらしく、スキルを得ても活かせそうに無い。

即ち俺が(魔想さんに話し掛けられる迄)黙って暇を潰していたのは、彼女達が手伝わせてくれなかったからだ。

しかし立場上 痛くも痒くも無いのでエレノアよりは取り乱さず、潔く待つ事にして今に至っている。


「如何でしょう?」

「良いんじゃないのか? つ~か見事に纏めたモンだ」

「有難う御座います。それでは都市長殿」

「は、はいィッ!?」

「(取り乱し過ぎだろJK)」

「ランス王の承諾により、これにて"カスタムの街"は正式にリーザスの領地となりました。御協力感謝します」

「!? そ……そうですか」

「しかし軍事関連……先程ランス王との交渉により出た"カスタムより軍を出して頂ける"と言う件に関しての手続きは済んでおりませんが、早急に此方で行いますので御心配には及びません」

「……ぇとッ……」


――――頭を下げられて反応に困っていたエレノアを尻目に、ハウレーンは文官に向き直ると更に口を開く。


「そろそろ私は(駐屯作業中の)現場に戻る。後は任せたぞ?」

「ははっ!」

「畏まりました」

「……って事は、此処での用は済んだのか?」

「はい。後は"この者"達に任せておけば問題なく事は進むでしょう」

「そうか(……何と言ってもマリスの部下だしな)」

「ランス王には長らく御待ち頂いた様で面目ありません」

「勝手に待ってたダケだから気にするな。現に時間通りに終わってる訳だし」

「恐縮です」

「ハウレーン様……お疲れ様でした……」

「メルフェイス殿。貴女の御蔭で予定よりも早く済み、礼の言葉も有りません」

「いえ……お役に立てた様で幸いです」

「……(やっぱり仲は良かったんだな)」

「ではランス王。私は次の段取りが有りますので、これにて失礼致します」

「うむ。だが見ていた感じ余り寝ていない様だから程々にして置けよ?」

「も、勿体無い御気遣いです」


――――俺の言葉を受けるとハウレーンは少しだけ目を丸くさせたが、直ぐ表情を切り替えると退室した。


「(そうなると俺は……先ずは連れだな)」

「…………」

「…………」

「ウィチタ」

「はっ」

「長い時間 棒立ちで疲れただろ」

「い、いえ。大した事は有りません」

「そうか(ぶっちゃけ半日は走り続けるスペック持ってるんだよな~この娘)」

「ですが……その……少し手持ち無沙汰だったとも言えます」

「ふむ。だったら今夜泊まる宿を探して来て貰っても構わないか? 今回は全員個室なら何処でも良い」

「!? 承知致しました!」


――――有り難くも不満を見せずに姿を消したウィチタを確認すると、俺はメルフェイスの方に首を向ける。


「メルフェイスはどうだ? 疲れなかったか?」

「えっ? ……いえ……特には……でも……」

「うん?」

「そ、その……えぇっと……」

「????」

「……ッ……(あれから何日も経つけど……告白して以来、ランス様には一度も……)」

「把握した」

「えっ……」

「……っと悪いがオマエには引き返して貰って、サイゼルの様子を見に行って欲しい。俺は少し話が残ってる」

「そう……ですか」

「頼んだぞ」

「…………」(ショボーン)


≪――――ガタッ≫


俺は此処で始めてソファーから腰を上げると、残念そうな顔をしているメルフェイスに近付いた。

言って置くが俺は何処ぞの主人公みたく鈍感では無いので、彼女が考えている事は理解できている。

……とは言えリーザス城の親衛隊やメイドの何人かの好意をスルーしていたのは、身が持たないからだ。

ランスの肉体を考えれば何発犯っても衰えない気はするのだが……心から愛する女性以外は抱く気に成らん。

無論 別に我慢していると言うワケではなく、奴と違いセックス以外にも遣る事が多いとでも言うべきか。

さて置き。

俺としてもメルフェイスとは御無沙汰だと感じていたので、自然な流れで彼女も同じ思いに至ったのだろう。

思えばサイゼルに嗾けさせた だけだからな……対して俺には かなみも居るがメルフェイスには"俺だけ"だ。

だとすれば副作用が(生贄作戦で)一旦 解消されているとは言え そろそろ人肌恋しく成っても仕方が無い。

まァそれ程 俺の事を想ってくれているのは有り難い……ってか、深く考えると恥ずかしくなるので止そう。

そんな事を考えつつメルフェイスの傍まで近付くと、彼女にしか聞こえない様な小声で語り掛ける。


「(ところで今夜だが、俺の部屋に来てくれ)」

「(!? そ、それは何故……)」

「(言わせんなよ恥ずかしい)」

「(……すッ……すみません)」


――――メルフェイスの言葉に軽く視線を逸らして照れた素振りを見せると、彼女の顔に赤みを帯びた。


「俺は もう少し此処に居るからさ」

「わ、分かりました。それでは私も失礼します」

「あァ」

「……♪」


≪――――バタンッ≫


「……ふむ」

「うぅ……」


こうして部屋には2人の文官・俺・そしてエレノア・ランが残され、視線をドアから戻してみると。

今現在は引き続き文官コンビが資料の整理を続けており、元都市長が 其の様子を未だに眺めている。

別に彼女も退室しても誰も文句は言わないのだが……本人の引っ込みの悪さと責任感がそうさせるのだろう。

聞いた話によると激務を担いながらも弱音を一切 吐かずに都市長として頑張っていたらしいからな。

だがマリスみたいな奴なら楽勝 以前に疲れもしないのだろうが、エレノアは疲労感がモロに表れていた。

それは顔色に加えて、室内に乱雑に積みあがっている書類の山を見た事で、更にリアルに実感できている。

……とは言え魔想さんや直江みたいな人間が"手伝う"と言っても この調子だと断ってたんだろうな。

逆に今棒立ちしている事で察するに、手伝いを断る反面 言い出す事さえ出来ないと言う不器用な性格だ。

つまり典型的な一人で抱え込むタイプの人間であり、ランスが犯せば誰にも相談できずに自殺 迄してしまう。

だが俺は彼女に何かをする気は無いので、責任から開放された事により好きな人生を送る事も出来るのだ。

正直なトコロ彼女は原作の"部隊"共々 扱い難い気がするので、リーザスに来るにしても無難に働いて貰おう。

そう考えながら時よりエレノアの背中を眺めているのだが……時より見える横顔は普通に美人の類である。

リーザスで見慣れている俺が"あえて"そう思う故 間違い無いが、今はランスらしさを出してる場合じゃない。

よって俺は"とある作業"を数分で済ませると、エレノア・ランに近付いて後ろから声を掛けた。


「エレノア」

「!? あッ……ランス王?」

「ずっと立ちっぱなしってのもアレだろ? コーヒー(っぽいのを)淹れたけど飲むか?」

「えっ? えぇと……」

「其処に有ったのを勝手に使わせて貰ったけどな。とにかく座ってくれ」

「で、でも――――」

「着席ッ!」

「はぃぃっ」

「それで角砂糖は何個入れる?」

「な、無しで御願いします」

「分かった。ブラック派なのかい?」

「う、うぅん……その方が少し眠気が冷めるから……」

「そう言う意味でコーヒーが有ったのかよ!?」

「ひっ! ごめんなさい!!」

「あいや。ノリで言ったダケだから怒ってる訳じゃない」

「そ……そうですか」

「それより敬語は要らないぞ? んで別にランス王とか言わなくても構わない」

「だ、だったら"ランス君"で良いのかな?」

「その方が有り難い」

「……分かりました」


――――やはりランスは彼女に恐れられている様だが、ギャップが有り過ぎるのが逆に有効だったみたいだ。


「…………」

「…………」


黙々と文官が作業に勤しむ中、ようやく寛いでいるエレノア。

時より"熱ッ"とか言いながらコーヒーをチビチビと飲んでいる何とも頼りない様子の元都市長。

彼女は俺との交渉の時も同じような感じであり、思い返すと弱気な態度に逆に向こうの方を心配したモノだ。

さて入室し挨拶を交わすと、先ず俺達はソファーに座るよう促され左右にハウレーンとメルフェイスが座る。

そして背後には文官2人とウィチタ・スケートが立ち、自然と俺が文官から渡された書類を渡した。

対してソレを受け取ったエレノアの左右にはストッパーの魔想さんと、幹部ポジのマリアが座っていた。

また部屋に案内してくれた"直江 愛"と"南条 蘭"も背後に立っており……その際 謙信の事が頭に浮かぶ。

さて置き。

エレノアは書類の合併条件を見て目を丸くした。

先ずリーザスに管理を任せてくれれば1000万ゴールドの資金を提供。

コレは資金難で最も苦しんでいたカスタムにとっては破格の金額で有り、最初のジャブで勝負は決まっていた。

だが その際エレノアは10万の間違いじゃ無いかと呟いて俺のツッコミで軽く悲鳴をあげたのも さて置いて。

当然 悪徳業者の様に合併規約の隅にセコい罠を書いて置く様な事はしておらず、彼女はアッサリ同意した。

それは書類に目を通した魔想とマリアも同様で、無論 トンガリ帽子からは何か企んでるとか言われたモノだ。

……とは言え街の合併ダケで俺達の交渉は終わる筈も無く、今後の為にカスタムの軍も組み込む必要が有った。

何がどうしても必要なのは"魔想 志津香"と"マリア・カスタード"の部隊で有り必要不可欠だろう。

反面ミリ・ミル・エレノアの部隊は微妙なので無理に雇うつもりは無いが、前者は桁違いの貢献を魅せる筈。

しかしJAPAN勢の存在も捨て置けないとは言え、この時は現時点では保留するしか無かった。

"何故かカスタムに居る上杉 謙信"を放置する気は無いので、明日にはアプローチを掛けるつもりだけどな。


『ふん。皆を巻き込んでアンタの自己満足になんて付き合ってられないわよ』

『わ……私も戦争の手伝いをする位なら、研究してる方がいいかな~なんて』


話を戻すが、俺がリーザス軍への加入を持ち掛けた時の2人の反応は前述の通りだった。

魔想はともかくマリアは俺が押せばアッサリ同意しそうな雰囲気ではあったのだが。

先ずマリアは研究費用を5000万くらいまでは出すと言ったら即OKの回答が返って来る。

カスタムへの資金提供の5倍だが、彼女の研究には それ程 費やす価値が十二分に有るのだ。

また魔想さんだが、彼女はリーザスが敵討ちに全面的に協力すると言う事を遠回しに告げると渋々同意した。

悔しい話らしいが一人で"ラガール"を殺すのが無理だと言う事は、薄々気付いていたのだろう。

其処でラガールの弟子と言えば個人戦で超強そうな"ナギ"だが、同時攻略もプレイヤーとしてはロマンだ。

また軍事関連の話をしている時に、直江&南条が何やら反応を示していたが良い意味で捉えてスルーした。

そんな訳で。

予定通りとは言えアッサリ交渉は終了し、即マリアと僅かに遅れてJAPAN組が退室して今に至る。

よって後は早い段階で"上杉 謙信"と話して引き込みを狙い、可能ならばミルに加えて後一人は欲しい。

即ち"デンジャラス・ホール"を攻略するに置いてのメンバーの充実であり、調べた所やはり難所らしい。

ホールというダケ有って各階層は広いエリアが多く、多数のモンスターとの交戦が考えられるからだ。

正直サイゼルに無双させれば道は開けるだろうが……彼女は気まぐれで何時 離脱しても可笑しくは無い。

それ以前にレベル50辺りに成らないと強行突破 自体が危険なので、手堅く攻略するのが一番である。

……と思考が長くなったが、それに気づかず次は何か有るかと考えていると正面から声が聞こえてきた。


「…………」

「あ、あの」

「何だい?」

「それ……冷めちゃうよ?」

「おっと。そうだったなァ」


≪ズズ~ッ……≫


「……ッ……」

「(思った以上にイケるな)」

「えっと……その、ランス君?」

「んっ?」

「な、何だか……凄く"変わった"よね?」

「うむ。自分でも そう思うぞ? 違和感を感じない方がオカしいと思う」

「もしかして、何か有ったの?」

「……ちょっとシィルの奴がヘルマンに捕まってな」

「!?!?」

「今は少しマジに成ってる。その"ついで"に世界制覇でもしようと考えて今に至る」

「つ、ついでって……」


――――目を丸くするエレノアに対し、俺は迷宮に潜ってレベルを上げている途中だと言う事も伝えた。


「……そんな訳で、今は絶賛 冒険者 募集中というワケだ」

「成る程(身近だった人を失って、それがランス君を変えさせたって言うの?)」

「今は確か……俺・かなみ・メルフェイス・ウィチタ・サイゼル・アームズ・ミルの7人ってトコだ」

「えっ? ミルも行くんだ?」

「断っても付いて来そうな空気だったからな」

「其の言い方だと……もしかして、ランス君の方から誘ったの?」

「冒険者 募集中だと言ったろ? 有る程度 腕は欲しいがな」

「だ、だけどミルは子供……」

「まァ今の内に経験を積ませるのも悪くないだろ。今のメンバーだったら同伴にも最適だ」

「だけど"デンジャラス・ホール"は危険な場所だよ? 外にモンスターは出て来ないみたいだけど……」

「あァ。制覇が随分と昔だから、現時点 新しく始めた冒険者による攻略は精々30層 辺りらしい」

「そうみたいだね。報告は毎月来るけど私が都市長になってからも殆ど変わってないわ」

「だったら歯応えが有りそうだな」

「もう……嬉しそうに言わないでよ。やっぱり王様に成っても根は冒険者なのね」

「当たり前だろ?」

「それなら……(相変わらずエッチなのも、変わってないのかな?)」

「うん?」

「な、何でも無いですッ」

「ところでだが」

「????」

「エレノアは今後どうするんだ?」

「こんご……?」


首を傾げてハテナマークを浮かべる仕草が可愛いが、どうやら本当に考えていなかったっぽい。

そりゃそうだよな。

つい数時間前まで都市長として多忙な日々を過ごしていたのに、リーザスに 其の役を奪われたのだから。

……とは言え今のエレノアは既に肩の荷が下りている為か、無意識に表情が最初より穏やかに成っている。

そんな彼女の新たな役目は、部隊長として活かさない今 リーザスでマリスに職を貰うのが最適だろう。

だが鬼畜王では意味がない"持っているスキル"を考えると個人戦で有用なので、少し意地悪をしてみよう。


「おいおい。何だよ? そのリアクションは。カスタムが合併した事で、都市長からは開放されたんだろ?」

「あっ……」

「それに伴ってマリアはリーザスで研究・志津香は魔法部隊の隊長・ミリはミルと一緒に引越し。皆リーザスに来るって訳だが、エレノアは"これから"退職金を貰って何をする つもりなんだ?」

「そ、それじゃあ私って……」

「無職だな」

「!?!?」


――――俺の言葉でエレノアの顔が青くなる。彼女は自分が優秀な部類だと言う自覚が無いのだ。


「今更気付いたか?」

「うぅッ……どうしよう……後の事なんて何も考えてなかったよ……」

「そりゃそうだろうな」

「防衛隊は直江さん達が居るし、リーザスには私が行っても役に立ちそうも無いし……嗚呼……」

「(自分に自信が無いとは思ったが予想以上だな)」

「……ッ……」

「なんだよ? その目は」

「だって……半分以上はランス君の所為だから……」

「正直に言うと、否定できないな」

「でもランス君も本気で頑張ってるみたいだし、其の事に文句を言う気は無いかな」

「(ギャップ様さまだな)……有難う」


≪ニコッ≫ ←意図的な笑み


「あっ……」

「んで その代わりと言っちゃ何だが」

「えっ?」

「暇ならエレノアも迷宮に来ないか?」

「めいきゅう……って、えぇ~ッ!?」

「この流れで驚く事か? ミリが店の整理で来れない現状、誘うのは妥当だと思ったんだがな」

「で、でも私なんか連れて行っても……」

「おいおい。もう少し自信を持てって。仮にも以前のシィルが手も足も出なかったんだから」

「ランス君にはアッサリやられちゃったけどね」

「(いかんッ。地雷だったか?)そりゃ~俺様は最強なんだから負けるのは仕方無い事だろう」

「だったら……尚更 私は必要無いんじゃないかな?」


≪どよ~ん≫


「そ、それならミルの"お守り"として来てくれないか? 俺じゃあやすのは苦労しそうだしさ」

「お守り……?」

「それとも何だ~? あんな小さい娘が迷宮に行くってのに、姉的ポジのエレノアは行かないのか?」

「うぅッ。そんな言い方ズルいよ」

「だったらOKと捉えて良いか?」

「……そうね……新しく羽ばたくって言うのなら、冒険者が一番だろうし……」

「今となっちゃ真似事に過ぎないけどな。な~に厳しかったらリーザスで無難な仕事を紹介するさ」

「お、お願いします」

「どっちの意味で?」

「両方……だけど?」

「御安い御用だ。という事で宜しく頼む」

「は、はい」


……こうして彼女の性格を利用しつつパーティーに引き込む事を成功させると互いに握手を交わした。

当初は誘う気は無かったのだが、接していくウチに一人だと色々と騙され易そうな気がしたからだ。

既に俺に騙されているとも言えるが……ランスもこうやって和姦してるんだと思うと罪悪感が募る。

だが俺の行っている事は世界統一には必要不可欠だと自負しているので、抱いた娘達は理解してくれるだろう。

まだ かなみとメルフェイスの2人しか居ないけどね。

しかしエレノアを連れて行くという事は僅かながら彼女にも例の"可能性"が出て来ると言う事。

それはウィチタ・アームズも該当されるワケで、いずれ彼女達がどう想うかは俺にも分からない。

いざ戦いでは手を抜いて"抱かれたくなる"様な工作をする気は無く、そうしては意味が無いからだ。

まァパーティー加入には全力で歓迎するが、限界を超えて強くなりたい決意は気長に待つべきか。

そう考えれば かなみとメルフェイスを抱けたのは早い段階だったが、人によっては何ヶ月も待つかもな。

だが候補は山ほど居る以前に、ルドラサウム世界 補正で皆 可愛いので俺も我慢するのに骨が折れる。

そんな事を思いながら2杯目のコーヒー(っぽいの)を淹れて戻ってくると、エレノアは既に笑顔だった。

カスタムを陥没させた責任の重圧に苦しんでいた彼女だったが、ランスの行動によっては変わるモンだな。




……




…………




……十数分後。

俺はエレノアと別れると かなみとウィチタを呼ぶタイミングを計りつつカスタムの街中を歩いていた。

2人の忍者と合流したら、かなみにアームズを連れて来て貰いつつメルフェイス&サイゼルと合流。

そしてウィチタの案内で彼女が取った宿に向かい、皆で食事を摂って夜はメルフェイスを抱く予定である。

一方エレノアは何時もは施設で寝泊りしていたと言う事から、久し振りに家に戻って準備するとか言ってた。

また出発の予定日は明後日と決めているので、明日には"上杉 謙信"をリーザスに引き込む必要が有る。

迷宮に誘えれば言う事ナシなんだが、軍として雇用してリーザス城で仲良く成るのが妥当な所だろう。

もはや何度目か分からないが、そんな事を首を傾げて考え歩み続けていると……正面から声を掛けられた。


「ランス王ッ」

「ん? 君は確か……」

「元都市長補佐"直江 愛"と申します」

「だったら、其方は"南条 蘭"だったな?」

「は、はい」

「2人揃って何の用だい?」

「実は……折り入って御相談が有るのです」

「少々、お時間の方を宜しいでしょうか?」

「相談? 内容によるかなァ」

「率直に申しますと我々をリーザスの軍に加えて頂き、JAPANと戦わせて欲しいのです」

「急で申し訳有りません。今の機会を逃せば、ランス王とは接触 出来ないと思いまして……」

「ほほぅ」


――――俺がアプローチする前に向こうから来たか。こりゃ願っても無いが彼女達も必死なんだろうな。


「ですが、私達の申し出は独断によるモノに過ぎません」

「詳しくは"謙信様"と御会いして頂いてからと言う事で……」

「ふむ。少し話が見えないが、謙信様ってのは"姫様"とも呼ばれてなかったか?」

「!? そうですが?」

「ど、何処でソレを?」

「カスタムの入り口で歓迎を受けた時、少し話した虎子・勝子って娘が連れをそう呼んでいたからな」

「……と言う事は……」

「其の時 居らっしゃったのが"上杉 謙信"様で間違い有りませんね」

「ならば此方も都合が良いな。話している途中で走り去ってしまって気に成っていたんだ」

「そうでしたか。失礼しました」

「で、でしたら早速 案内しますッ」

「宜しく頼む。相談の内容も興味深いしな」

「(何とか第一段階は突破したわね)」

「(後は何としてでも独立の部隊を任せて貰える様に進めないと)」


――――俺の返答が意外だったのか、南条の方は少しだけ動揺しつつも案内しようと足を踏み出したのだが。


≪スタッ≫


「ランス王。遅くなりました」

「んっ? かなみか。今迄で何か分かったか?」

「!?!?」×2

「脅威の様なモノは何も。周囲の危険な魔物はアームズさんが倒しに行っていましたし」

「そうか。それにしては戻りが少し遅かった気もするが?」

「それは……其の方達と少し……」

「なんだ?」

「……っと、少し情報を整理したいので直江さんと南条さんは先に上杉様の元で待っていて頂けますか?」

「しかし――――」

「ダメよ。行きましょう? 愛」

「……分かったわ」

「それではランス王。失礼しますッ」

「あァ。直ぐに追いつくよ」


≪たたたたたっ≫


「えっと。ゴメンね? ランス。邪魔しちゃって」

「特に問題ない。それで"其の方達と少し"の続きは何が有った?」

「その……街中の様子を見て回ってたら、例の"謙信様"を見つけてね。最初は気にしなかったんだけど、2人の従者が1時間以上 探していたから居た場所を教えてあげたの。その際 私が風魔 出身のリーザスの忍者って事で色々と情報を教えてくれて、ランスにも有益な情報だと思ったから一通り話を聞く事にしたのよ」

「ほぅ」

「そんな途中で直江さんと南条さんが戻って来たけど、私がランスの側近の忍者って言ったら自分達を雇う事は可能かと聞いてきて、出来なくも無いかもって答えたら慌しく外に出て行っちゃったけど、虎子さんと勝子さんから一通り話を聞き終えたら、やっぱり気になって後を追って今に至るってワケ」

「成る程。それで"上杉謙信"とは何か話したのか?」

「勿論よ。少し頼りない感じも有ったけど、良い人だったわ」

「(まさか かなみの口から"そんな言葉"が聞けるとは……)」

「だけど……その謙信様が……えぇっと……」

「んっ? どうしたんだ?(きっと"アレ"だな)」

「な、何でも無いッ。それよりも仕入れた情報(JAPANの現状)の方が先でしょ?」

「正論だな。歩きながら聞くとしよう」

「御願いします(……でも……仕方無いよね? 今のランス……凄く格好良いもの……)」


現在のかなみは"鬼畜王"と違って左肩にリーザスのシンボルの有る戦国スタイルの衣装なのは さて置き。

唐突に現れるのは今に始まった事じゃないので驚かなかったが、知らずのウチに謙信と接触していたとはね。

つまり遠回しに直江&南条が俺に接触して来た事に貢献してくれており彼女は確実に運命を味方にしている。

ともかくJAPAN勢との交渉を円滑に進める為にも、かなみから道中 出来る限りの事を聞いて置くかな。


「その前に気に成ったんだが」

「何ですか?」

「お前のマフラーって黄色じゃなかったか? 何で緑に変わってるんだ?」

「!? に、似合わないとか言わないでよ? ずっとコレで良いの」


――――そんなモジモジする かなみを見て、彼女の肩を抱き寄せつつ話を聞こうと洒落込む俺だった。








■あとがき■
エレノア・ランの加入が確定。連れて行く予定は有りませんでしたが、会話させた流れでこうなりました。
口調は原作っぽくしてしまうとメルフェイスと被ってしまうので、少し中性的に傾けてみたら本文の様に。
また かなみは鈴女並みに便利なキャラにしようと考えております。まだまだ強くする必要が有りそうですが。
更新が大幅に遅れたのはマグナムをダラダラやっていた為ですが、クルックーと女神アリスは出す様に修正。
それとウィチタのCityイベントでの性格が鬼畜王と6の原型を留めておらず驚きましたが鬼畜王でいきます。



[12938] 鬼畜王じゃないランス19
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2012/12/04 20:16
鬼畜王じゃないランス19




――――"上杉 謙信"が待つと言われる屋敷を、かなみと肩を寄せ合いながら話しつつ歩く事 数分。


「私が聞けたのは大体こんなトコロね」

「JAPANの内情は行った事すら無いから ともかく、カスタムに何時の間にか大勢の移住者がねェ」

「あッ、見えてきたわ。あの屋敷みたい」

「ぅおっと」


話の区切りの良い所でカスタムの街の外れに、広く囲われた外壁からアタマを出す屋敷が遠方に確認できた。

よって俺と かなみは少し距離を取り、それにより開いた右手を顎に添えて考える仕草をしつつ歩く俺。

実際 言葉通りであり、たった今 頭の中で かなみに告げられた情報を整理していた。

まァ細かい時系列は省くが上杉家の"こちら"でのカスタムへと移った経緯は こうだ。

当事 上杉家は、戦国ランスと同様 北条家と協力して武田家の勢力拡大を防ぐべく戦っていたのだが。

魔人信長の覚醒により織田家が周囲の領土を飲み込み始めた事でバランスが一気に崩れたダケでなく、織田の勢いは そのまま止まらず敗北を重ねるのは上杉家とて例外では無かった。

だが信長(ザビエル)は長年JAPANの人間達と争うのを楽しんでいる様でも有り、かと言って好きにさせて置く事が出来る筈も無く必死で抵抗した各勢力だったのだが、残念ながら殆どが玉砕して家系諸共 滅ぼされてしまっていた。

コレは正史の方と違って"こちら"のJAPANの武士達は99%が男性と言うダケに限らず"武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり"と言う精神も非常に根強かった為、潔く討ち死にしたり腹を切って果てる者が大半。

また信長は鬼畜王通り(祟りが怖く敵を殺すのを躊躇した部下をも一族単位で平気で殺す程)残虐だったらしく、逆らった武家の女子供を含めた家族すら容赦無く根絶やしにしたと言う事から、安易に逃れるは叶わず当然ながら上杉家も滅亡の危機に陥った。

しかしながら山本五十六と同様 上杉家には"直江 愛"と言う鬼畜王の設定では極めて珍しい女武将が存在していた事により、奇特にも女性が戦場で武器を持つ事も多かったらしい。

そんな"彼女達"は男連中とは戦いに置いての考え方が当然ながら違い、その影響を少なからず上杉家の元当主も受けてしまっていたらしく、結局は何がどう絡んだかは謎だが"直江 愛"の天才的な采配や佐渡金山の存在から資金もJAPANで1・2を争う程 有った事も(賄賂的な意味で)重なり、上杉の女性陣の一部が こうして追っ手を旨く撒き大陸へと逃れ生き残っている。

途中 心が折れてしまった者達には金を渡して別れてしまっているらしいが、JAPANを逃れて大陸に渡ってきた人間は他の武家にも多く、上杉家の呼びかけに集まってきた日本人も多いらしい。

尚JAPANの一般市民は織田に従っていれば余程の事が無い限り殺されはしないので特に関係ないとして。

噂を頼りにカスタムへと逃れた上杉謙信達はエレノア・ランに(建前は)仕える事で此処を拠点として活動。

責任感 故にかエレノアから大して任されない職務を150%程度こなし、影で動いて散った日本人を集める。

そして今に至っているワケだが、段々と近付く立派な囲い&屋敷と多くの仮設住宅のJAPANバージョン。

更に専用の料理人や植木職人etcを抱えていたりと、上杉の名を追い大陸へ渡った非戦闘員の協力者も多いとは言え、資金源も尽きた今やはり圧倒的に組織的な規模の大きさが足りないらしい。

何せ打倒"織田信長"が目標で有るのだから、必死で掻き集めても300人程度の混合部隊の維持が限界な現状。

少なくとも現当主の代ではチャンスは皆無だと思われたが、今年の4月より自由都市に進出し始めたリーザス。

その勢力の拡大はカスタムとて例外では無かったが……何故か白の軍に紛れて現れたリーザス王の俺。

上杉家にとって またと無いチャンスと捉えるのは必然であり、こうして話を聞く為に向かってるってワケだ。

まァ俺としては上杉謙信は勿論 他のキャラの実力は十分なモノと知っているので無条件で了承したいトコロなのだが、今の世界は鬼畜王 仕様なので"JAPANの女性"は戦わないと言う大陸の人間の認識からアッサリとは認める事が出来ない。

即 雇えば確実に役立ってくれるのは目に見えているので俺は非常に助かり、上杉側もリスク無しにリーザスの支援を受けれて良い事ばかりなのだが……無条件雇用(更にJAPAN統一の権利獲得)の唯一の欠点がランスの悪評(ソースは魔想さん)により"旨く往き過ぎて逆に警戒されてしまう"と言う事だ。

つまり今のJAPANの常識を踏まえた対応で蟠り無く受け入れる必要が有り、正直 難しい以前に予想外だ。

う~む。迷宮に連れて行くと成れば更に面倒臭そうだな……其処まで考えるのは止した方が良いのか?

……っと何時もの癖でランスらしくない事を考えているウチに開けた正門の前に3つの人影を確認できた。

俺と かなみが来るのを待っていたのか、此方から見て正門の左に南条蘭・中央に直江愛・そして右側は……


「あッ。ランス王!」

「お待ちして おりました」

「…………」≪ぺこり≫

「("大道寺 小松"……だと?)」

「どうされました?」

「な……何でも無い」

「(ふーん。思ったより格好良ーい)」


――――まさかの(無言で頭を下げる)金髪ツインテールの存在に絶句したが、かなみの声掛けで我に返った。


「ところで其方の娘は?」

「えっと……彼女は……」

「我が部隊で最も武力の高い者です。リーザスと共に歩む際には我々3名が隊長格を担わせて頂きます」

「ほほぅ(つまり最初に顔見せと言う事か)」

「大道寺 小松です。宜しくお願いしまーす」

「俺はリーザス王のランスだ。宜しく頼む」


――――畏まっている事を除外しても、原作と違って元気が無い。流石にアイドルじゃ無さそうだし当然か。


「ランス王! 本来 此方から赴く所なのですが、忙しい中 御越し頂き感謝の言葉も有りませんッ」

「また大した準備も出来ておらずに上杉謙信様の元へ御招きしてしまう事を先に謝罪して置きます」

「…………」

「気にする必要は無いさ。丁度 君達の事が気に成っていた所だったからな」

「勿体無い御言葉ですッ」

「それでは御案内します」

「足元には気を付けてくださーい」


こうして上杉家の敷居を跨いだ俺と かなみは、3人の背を追いつつ風情の有る石の廊下を歩むのだが。

敷地内の光景に目を移すと京都・奈良の庭園と迄は いかないが日本かと錯覚する程 立派な造りだった。

無論カスタムには全く似つかわしく無く、後から聞いた話だが街の外れの無人道場を改築したらしい。

何気にランスの世界は"建築業"が一般市民の仕事としては相当メジャーらしく、技術は現代に匹敵する。

何せ人手ダケでなくモンスターや魔法の手も借りられるので、応用すれば効率が膨れ上がるらしいのだ。

それなのにコストも左程 高くは無いので"信用出来る"古参の業者には建築の注文の殺到で大忙しだそうな。


「直江」

「はい」

「あの建物は何だ?」

「道場ですね」

「ふむ。それにしてはヤケに静かな様だが」

「状況が状況ですから。興味が御有りでしたか?」

「それなりにな。強い人間には男女問わず興味が有るぞ」

「カスタムに御越しに成った理由として絡んでいそうですね」

「一理有るな」

「……っと出過ぎた事を申しました」

「問題ないさ」


3名の中で最も距離が近かった直江と他愛の無い事を僅かに話しつつ、最も大きな屋敷にブーツを脱いで進入。

そして外見と同様 遜色無い造りの木造の廊下を歩き、床畳の広間にやって来ると真っ先に"姫様"を探した。

だが上座と思われる場所……いや広間には誰も居らず、直江は俺を通すと此方に向き直った。


「(ら、ランス……ちゃんと敷居や畳縁を踏んでない……)」

「では其方に御座り下さい。ランス王」

「んっ? 良いのか? 姫様の上座だろ」

「謙信様も此方の立場は理解しておりますので」

「……それでは遠慮無く」


≪――――ギシッ≫


「(こ、今度は正座した!?)」

「(まァ予想通りの反応だな)」

「間もなく見えますので少々御待ち下さい」

「分かった」


少々気は引けたが鎧の金具を気にしつつ上座に腰を下ろし、かなみが向かって左で膝を折って控える事 暫し。

何時の間にか大道寺が居なくなっていたので上杉謙信を呼びに行っていたのだろう、僅かな音を立てて向かって右側の襖が勝子と虎子によって開かれ"先程"とは違うコスチュームの"姫様"が俺達に姿を現した。

若干 顔を俯かせて俺の前へと歩んでいる その女性は長く細いリボンを原作と同様アタマに結わっており、ソレはプライベートの立ち絵で印象深かったのだが、カラダには白い着物を纏っており彼女に抱いていたイメージが良い意味で叩き壊された様な気がした。

御世辞抜きで非常に美しく、毘沙門天の化身と言うよりはアマテラスの生まれ変わりと言う方がしっくりくる。

よって正面に控えながらも彼女が"例の事情"により目を合わせて来ないのは好都合。

魅了されて会話に成らないのは明白であり、美女は見慣れているが原作とのギャップが余計に動悸を誘う。

ちなみに大道寺は既に戻って来ていて、姫様の左右に直江・南条・大道寺・勝子・虎子が控えている状況だ。

さて静かに正面の正座した女神(上杉謙信)の言葉を待っていると、彼女は僅かに視線を逸らし口を開く。


「ランス王……先程は申し送れ面目有りませんでした。私が上杉家 現当主"上杉 謙信"で御座います」

「リーザス国王のランス・パラパラ・リーザスだ。JAPANの美しい姫君に御目に掛かれて何より」

「……っ!?」

「ランス王ッ」←かなみ

「おおっと悪い悪い。今のは聞かなかった事にしてくれ」

「……ッ……」


俺の初っ端の軽いジャブに目に見えて反応を示した謙信ちゃん。

見るかに頬を染めて右手で顔を隠す仕草をしており、今更だが やはりランスに"一目惚れ"してたっぽいな。

元から彼が好みだったがオリジナルより謙虚だと更にストライクだったりしてたら有り難い。

だが原作のランス同様 旨くゆき過ぎていると捉えるべきであり、俺は彼女の変化を流すと表情を改める。


「では詳しい話を聞こうか」

「は、はい」

「大まかな事は其処の2人に聞いているが?」

「……ぅあ……うッ……」


――――流石に大事な話なので努めて目を合わせるワケだが、謙信は口篭っており10秒が経過する。


「うん? 謙信殿?」

「……愛……頼む……」

「畏まりました。ランス王。謙信様に代わりまして私が話させて頂きます」

「誰でも構わないさ」

「コホン。ならばワザワザ此方に御越し頂いた理由に関しては他でも有りません」


謙信がどう見ても長い説明など出来そうも無い事から、直江が姫の横に出て代弁する。

まァ大体 予想出来ていたのは さて置き、彼女の話を簡単に纏めると こうなる。

先ずはリーザスへの異動が決定しているマリア・魔想さんの部隊と同様(此方は前衛ポジだが)上杉謙信を将軍に独立の部隊として受け入れて欲しい上に、大陸に散った日本人をリーザスの大義名分を借りて集める等の支援もして貰いたいとの事。

……とは言え最初は雇用 扱いなのは百も承知してるが、実戦での戦果次第では其処まで昇り詰めたいらしい。

次に前者が認められた暁には、JAPANを落とした際に少なくとも元上杉領の支配権が欲しいと言う事だが。

山本五十六の存在から"全領土を支配しても良いよ"とは言えなかった分、この条件で十分なのは有り難い。

今のJAPANは強力なので気の遠い話だが、未来によっては山本家と協力して統一して貰うのも良いかもな。

ちなみに今のリーザスの状況は多少は把握しているらしく、JAPAN侵攻のタイミングは俺に任せるとの話。

つまりJAPANを後回しにしてヘルマンやゼスと先に攻めても良いと言う意味で捉えるべきだろう。

恐らく自分達の部隊を十分な戦力にするのは時間が必要だと"身の程"を知っている様で、実際リーザスの将軍達は元凡人の俺から見ても側近までもがチートな故にムリの無い話なのかもしれない。

そんな訳で俺としてはリーザスの財政的に安上がりで、(戦国ランス的に)各々に部隊を任せても良いんじゃないかと思う程 素晴らしい才能を持つJAPANの女性達を部下に出来るダケでなく、特に難しい時間制限も無い上に"迷宮への同行者"も自然と増やせる事から、断る理由など全くと言って無かったのだが。

直江としては大陸に移ってから価値観が違いを痛感せどJAPANでの常識が未だ根付いているのか、雇われる際での条件を淡々と告げている様子からは若干後ろめたい雰囲気も察する事が出来た。

きっと俺が簡単に許可するとは思っていないのだろう。

まァ俺としては"アッサリ"では無いダケで緩い条件にするつもりで有り、それに関しては つい先程 考えを纏めており、彼女達の存在が完全にカスタムの延長線上な現状 部下に成ってくれれば十分なので、例え断られたとしてもウィチタと同様 次に繋がる機会が有るので問題は無いのだ。


「ふむ。君達の望む事は分かった」

「では早速ですが返答は如何に? この際 単刀直入に仰って頂いて構いません」

「……どうか……」

「お願いしますッ」


――――真っ直ぐな視線を向けてくる直江の言葉に続いて上杉謙信・南条蘭と続いて哀願する様に口を開く。


「一つだけ条件が有る」

「(やはりね)……何でしょうか?」

「その前に脱線してすまないが、俺が何故 此処に居るかは分かるか?」

「……エレノア殿ら"四魔女"と呼ばれていた方達と面識が有った故にと愚考します」

「(それに女癖が悪いみたいだから、来る可能性が高いと思ったとは口が裂けても言えないけど)」


――――俺の質問に殆ど間を空ける事無く答える直江のコトバに、南条が無言で相槌を打っていた。


「驚いたな。半分は正解だ(確かに原作を考えるとカスタムへは必ず俺が行くべきだろうしな)」

「半分?」←謙信

「あァ。信じられん話かもしれんが俺は世界統一に向けた下積みとして"仲間"数名と共にダンジョンに潜り己を鍛えると言う事を行っている。よって今回はカスタム南東のデンジャラス・ホールを攻略する予定だ」

「!?!?」

「どうして"たかが"交渉の為にリーザス王がカスタムまで来たのか? 更に"この場所"は勿論、殆ど護衛を付けずに何故 危険な迷宮に潜るのか? そもそも"そんな事"でリーザス王が死んだら誰が責任を取るのか? ましてや"そんな事"が許されるのか? 思うトコロは色々と有るだろう」

「…………」

「だが今の世界の現状は余り芳しくない。それなのに殆どの者は気付いておらず、詳しくは機密なのでベラベラとは話せないが後で俺の"連れの一人"を見たり、後にリーザスで過ごす事により段々と状況が掴めて来るだろう」

「今やJAPANのみに捕らわれている場合では無いと言う事ですか」

「バッサリ斬ってしまうと そうなるな。当然"世界統一"と言ったからにはJAPANも視野に入れているが」

「……(やはり暫くの子飼いは覚悟する必要が有るのかしら?)」

「おっと脱線したな。それで条件だが至ってシンプルだ」

『…………』

「デンジャラス・ホールを探索するに置いて、腕っ節の良い人間の手を借りたい」

「なっ!?」


――――この場に居る日本人全員の瞳が開かれる。実際に口を開いて反応を示しているのは直江ダケだが。


「……とは言え犠牲は一人も出さないつもりだ。余程 自信を持って出せる人間でなければ来る必要は無い。人数は……そうだな……3人……いや、2人も居れば十分だ。元々今の人数で行く予定だったからな」

「そ、その人数とは?」

「俺とコイツを含めて8人だ(後 悪魔一匹)」

「!? 恐れながら普通に考えれば自殺行為なのでは?」

「最低 織田信長くらいの相手は一対一で倒せる程度には成りたいからな。常識は投げ捨ててくれて構わん」

「其処までの人間は私達の中に居るかどうか……」

「なに"俺 自身"が限界を求めているダケで今回の同行者 自体は別に魔人と戦う必要は無いさ」

「は……はあ」

「……っ……」


――――そう相槌するしか無い直江の一方、横の謙信は僅かに顔を振りながらオロオロとしていて可愛い。


「次第点としては……そうだな。直江・南条・大道寺は問題無く俺達の戦いに付いて来れるだろう。其処の2人(勝子と虎子)は厳しいだろうが、素質は有りそうだからレベル上げを兼ねて付いて来てくれても良いぞ? 残念ながら腕っ節の良い人間には含まれないが(才能限界はランダムだし場合によっては凄まじい限界値に成るけどな)」

「では……"条件"とは"それだけ"なのですか?」

「あァ。だが都合が悪ければ無理に来いとも言わん」

「ま、誠なのですか?」

「自分でも言うのもアレだが大国は伊達じゃないからな。受け入れる部隊が1つや2つ増えた所で痛くは無い」

「しかし私が言うのも何ですが、ソレでは余りにも我々に都合が良過ぎはしませんか?」

「JAPANの部隊には興味が有ったから問題無いさ。それに織田との戦いを経験した者達の情報は有益だ」

「そうですか(……ならば……ランス王の噂が本当だとすれば後は……)」

「……愛……」

「ど、どうするの?」

「……ッ……」


謙信と南条の呼びか掛けに軍師ポジの直江が反応を示さなかったので、広い空間の中で暫しの沈黙が続いた。

思考タイムなのだろうが、更に彼女は他に何か条件が有るのではないのかと俺の追撃を待ってる様な気がした。

だが俺は彼女達のカラダを見返りに得るつもりは無いので、直江の勘繰りは外れだと言わせて貰おう。

……とは言え此処まで美しい謙信を此処で口説かないのは、確かに"ランスらしくない"のは間違い無い。

生贄の恩恵で専ら素直になったカオスは今の所 黙ってくれてはいるが、何時 喋りだすか分からん。

よって沈黙が続くのは雰囲気的にも頂けないし、読みたくも無い空気を読んで仕方なく口を開いた。


「だが俺個人としては、姫様には是非 付いて来て欲しい所だ」

「!?!?」

『なっ!?』

「何せ美しいからなァ……俺に限られるが遣る気が上がると言うモノだ。とは言え戦いは不慣れだろうが、上杉の血を継いでいれば才能は必ず有るだろう。謙信殿は何らかの武術の嗜みは有るのかな?」

「は、はいッ。剣の稽古は毎日行っております」

「成る程。だが実際にモンスターと戦った事は殆ど無いと言った所か」

「……ッ……」


どうやら"その通り"だったらしく、顔を俯かせる謙信。別に気に病む必要は全く無いんだけどな。

何故なら今更だが俺も戦いに不慣れなのは同様で、冒頭の戦いは完全に腰が引けてしまっていた。

だがビビりながらも初めて戦った雑魚モンスター達を容易く倒せた自分が、やはり本当にランスなのだと確信した時点で凄まじく遣る気&自信が出たので、モンスターを狩りまくって無限にレベルを上げれば魔人を倒す事は十分に可能だと思い、王の身と成りながらも迷宮を巡る事を選び今に至ると言うワケだ。

場合によってはランスが殆ど戦わずにベスト・エンディングを見る事も出来るゲームなんだけどね。

さて置きルドラサウム大陸での"人間"強さの秘訣は10の鍛錬より1の実戦。

レベルが低ければ技術があっても意味は無い反面、俺は前者の底上げで精神的な弱さをもカバーしているのだ。

それらの事を考えれば鍛錬は欠かさず行っているっぽい謙信にレベルアップが重なれば"片方"ダケに頼って強く成っている俺の実力など、原作のランスvs上杉謙信よろしく優に抜いてしまうだろう。

現在の彼女は普通に低レベルらしく全くプレッシャーを感じないが、ダイヤモンドを包む石コロに誰が気付く?

……とは言え戦国ランスを知る俺なら、現在のレベルに関係なく顔を見れば気付けるんですけどね。


「御言葉ですが……流石に謙信様を あんな危険な場所へは……」

「ランス王ッ。迷宮への同行役は我々が担わせて頂きますから!」

「えー? 私は別に良いと思いますけどねー?」

「なっ!?」

「小松ッ!」


――――大道寺の"まさか"の言葉に本人と謙信以外の4名が驚愕する。地味に一人称が名前じゃ無いんだな。


「だって大陸のトップの人って女性ばかりだって聞きますよー? 今のリーザスは違いますけど、此処は謙信様も頑張って実戦経験を積んで、レベルを上げるべきだと思いまーす。もう今の段階で私が教えれる事は全部教えちゃいましたー」

「ふ~む。大道寺だったか? 予想外の事を言うじゃないか。自分から提案してアレなんだが、確かに直江の言った様に付いて来れば大事な"姫様"に危険が及ぶ可能性が生じるのは否定できないが?」

「それを仰ったら"ダンジョンに潜って己を鍛えてる"って言う王様は、色々な意味で危険ってレベルじゃ無いですよー。だから雇って頂く側として同行者を出す事はモチロン、迷惑で無ければ謙信様も赴くのは必然だと思うんでーす。謙信様は私が精一杯 御守りしますからー」

「無論 同行してくれるのなら、誰であれ俺達も全力でフォローするつもりだ。そうだろう? かなみ」

「はいッ」

「(大国の王ながら僅か8名で迷宮に挑む程の勇猛な精神……もはや疑い様が無い……だとすれば……)」

「ランス王」

「何だい?」

「……本当に……私の様な者が付いて行っても宜しいのでしょうか?」

「"今回"は子供も来る予定だからな。遣る気が有れば別に問題は無い」

「!? 愛ッ」

「はァ。分かりました(……最早 選択肢は無いと言う事ね)」

「良いのか? 軍師殿」

「正直 吝(やぶさ)かでは有りませんが我々の立場から、迷宮に赴かれるランス王の背を不躾の支援さえ無しに見送ることなど出来ません。またランス王の命の重さは私の範疇では量りかねますが、それでも"あえて"少数での旅に天秤を傾けられていると言う事は、元より無事に帰還される以外の結果など考えては おられないのでしょう。謙信様を名指しされた際は流石に驚きましたが、そう考えて見れば同行させて頂いても差し支え有りません……それに……」

「うん?」

「謙信様は飲み込みが御早いですし"限界"と言うモノが何処まで有るのかは私達も気に成っていました。ですが何処でJAPANからの刺客が狙っているか分かりませんし、モンスター相手で有れば尚更の事。よって優秀な忍と突出して強い武人も居らず、更に謙信様が自分の身を守れぬ私達の状況ゆえ、安全を考えれば外出など余程の事が無ければ許可出来ませんでした。今回も事態が為に街中に限り外出を許可したに過ぎなかったのです」

『……ッ……』


チラッと勝子と虎子に目を移す直江に対し縮こまってしまう2人。

一方 遠回しに迂闊な行動での危険性を訴えられている謙信もシュン……っとしており、やっぱり可愛いので"謁見モード"を維持しているのが非常に しんどかったりするのは さて置き。

ぶっちゃけ100%俺の所為なんだが、暫くの間一人にさせていた様だしな。

レベル50の かなみが哨戒に出ていた時点で、怪しそうな人間は始末されていると思うから(現に先程の情報交換で3人ほど殺ったと言っていた)大した問題では無かったけどな。


「ですが自信に溢れるランス王と御会いしリーザスに支援して頂く事に成った事で、無駄に保守的に活動していた現状を変えるのには良い頃合いかも知れませんね」

「ほぅ。だったら俺からの条件は"飲む"と捉えてしまっても良いのか?」

「構いません。頼めるかしら? 蘭・小松」

「そうね……"謙信様"の事は小松と私に(色々な意味で)任せて置いて」

「はーい。命に代えても御守り致しまーす」

「なら話は纏まったな? だが謙信殿に関しては もう一度ジックリ考えてみてくれ。不安が有ったら南条と大道寺に俺達の闘いを見てから判断して貰っても構わない。モンスターを相手にするダケならリーザス城の郊外の方が余程 安全だからな」

「か、畏まりました」

「では明日の午前9時に正門で待機していてくれ。遣いを迎えに行かせよう」


≪――――ギシッ≫


「!? ランス王?」

「はい謙信殿。握手しよう」

「えっ? は、はいッ」

「リーザスは君達を全力で支援する。以後 宜しく頼む」

「~~ッ……」

「(流石に言葉が出ないか)帰るぞ? かなみ」

「はッ」

「あっ……」

「御待ち下さい。折角 御越し頂いたのですから、夕食等の御持て成しをさせて頂きます」

「生憎だが飯は"仲間達"と食うんだ。此処に来たダケでも予定外の事だったからな」

「(既に準備をさせていたけど)それは残念です。では虎子・勝子。皆を集めなさ――――ッ」

「別に見送りも要らん。それでは失礼する」

『…………』

「行っちゃったねー」

「そうね……コレで良かったの? 愛」

「話をした感じ どう考えても"聞いた様な人間"だとは思えなかった。流石に聞くワケにはいかなかったけど」

「…………」

「確かに どう見ても好色な人には感じなかったよねー」

「そうね。魔想さんはボロクソに言ってたけど」

「でも人によっては別の意見も有ったし対応を図りかねてたけど、あの気さくな雰囲気は私達に都合が良いわね。リーザスはトップ変われど常に王座で踏ん反り返っているイメージが有ったから、こんな所に訪れるとは思っても見なかった」

「小松は実力的には どう見たの?」

「凄く強いんだと思うよー。忍者の娘も相当だったし"小松"達 三人掛かりでも勝てないんじゃないかなー?」

「後者は余計でしょ……聞かれてたらどうすんのよ……」

「とにかく小松が そう言うなら余程なのでしょうね。だとすれば謙信を守るのに集中できるから都合が良い」

「でも問題の謙信が」

「……ッ……」

「何か自分の手をジックリ見てるー」

「ちょっと重症だったみたいね。相手が相手なのに、どうしてこうなったのかしら……?」

「そればかりは仕方無いわよ。あの様子なら部下からの信頼も厚そうだし」

「だとすれば今回 少人数での同行が、御近付きになれる数少ないチャンスって事なのかなー?」

「えぇ。部隊と言っても地位は底辺だろうし出来る限り信頼を得たい所ね。流石に私が行く事は出来ないけど」

「愛は皆の事が有るからね」

「生憎 徹夜は確定になりそうだわ。勝子・虎子。手伝って貰うわよ?」

「はいッ!」×2

「……小松」

「えっ? 何ですかー? 謙信様」

「今日も稽古を頼む」

「仕方無いですねー、今日は早めに切り上げますよー」

「すまない。では着替えて来よう。動き難くて適わぬ」


≪――――ッ≫


「小松ッたら……アレで一番強いんだから考えモノよね」

「でも一度も戦場には出しては貰えなかったらしいじゃない? 小松と言い貴女と言い、そう言う者も戦場に立てていれば少しは状況は変わったかもしれないのに。大陸に来てからは今迄の定石が間違っていたと言わざるを得ない」

「過ぎた事を気にし過ぎるのは愛の悪い癖よ?」

「そう言う蘭は もう吹っ切れたの?」

「まさか。でも明確な目的と未来が見えて来たダケで私としては有り難いわね」

「とにかく忙しくなりそうだわ」

「上等。謙信の事は心配しないで」

「リーザスの王・ランス……か」


上杉の屋敷を後にした俺達は、カスタムに散り散りになった仲間達と合流した。

先ずはサイゼルと一緒に都市長の館 辺りに戻って来ていたメルフェイス。

そして宿を借りた後アームズに其処の場所を伝えてから、同じく館の前で待機していたウィチタとだ。

タイミングは殆ど同時だったらしく俺達5名が宿に辿り着くと、暫くしてアームズが戻って来た。

だが返り血を浴びていた為シャワーを浴びに行き、俺は俺で適当に本を読んだりして時間を潰した後。

今は皆で宿の食卓を囲んでおり、居るのは俺・かなみ・メルフェイス・サイゼル・ウィチタ・アームズの6名。

そして かなみとウィチタに それぞれ迎えに来られた新メンバーのエレノア&ミルが居る。

尚ミルは俺の隣で両足をブラブラさせているが、エレノアはテーブルの隅の方で肩を狭くさせている。

本来カスタム組 全員を呼びたかったが、各々が異動の準備で忙しいだろうし今夜は暇な2人を誘ったのだ。

……とは言え長話をする気は無いので、俺は料理が並び終わる前に腕を組んで口を開いた。


「あ~ッ。察しの通り食事が始まる前に言いたい事が有る。明日からの迷宮攻略に同行してくれる魔法剣士のエレノア・ランと幻獣使いのミル・ヨークスだ。皆 仲良くしてやってくれ」

「あ、足を引っ張らないように頑張りますッ」

「よろしくー!」

「俺と かなみ以外は自己紹介してくれ」

「はい……メルフェイス・プロムナードです……氷の魔法を扱えます……」

「あたしラ・サイゼル。エンジェルナイトの魔人」

「!?!?」


――――正体を隠しているのは素なのかは良く分からないとは言え問題ないが、エレノアが超ビビっている。


「私はウィチタ・スケート。ゼス出身の魔法使いですが剣も使います。訳有って同行させて頂いております」

「アームズ・アークだ。今は お腹が減っている」

「おまッ……ゴホン。そして今は此処に居ないが更にJAPAN出身の上杉謙信・南条蘭・大道寺小松の3名も同行する事と成った。其方は明日 改めて紹介するから覚えて置いてくれ」

「名前ダケだとワケ分かんないよ~ッ!」

「上杉家の姫様。その護衛が2名。以上」

「早!」

「ほぅ」

「ひ、姫様って……(何時の間にッ?)」


館の前で合流できた者達には事情を説明していたが、遅れて戻って来たアームズは勿論。

エレノア&ミルも知らなかった事なので、エレノア以外は別として元・都市長は特に驚いている。

その反応は常識人なら当然なのだろうが、面子が普通に濃いので浮いている様に見えてしまう。


「では……それなりの大所帯と成りますね……」

「そうだなメルフェイス。まァ護衛は腕が確かな様だが、一人レベルが低いから皆で守ってやるように」

「しかし何故"お姫様"とやらが同行する事と成った?」

「相当な素質を感じたからな。立場からして実戦経験には疎いらしいが、育って貰う価値は有ると見た。それに一度握手をしたが、手のタコが凄まじかったし努力もしているんだろう」

「ふむ。それならば楽しみだな」

「別に何でも良いわよ~ッ。それよりも食べても良い?」

「そうするか。それでは乾杯!!」


――――そして食事が開始してから約10分後。賑やかな食事が始まったと言うワケだが。


「メルフェイス。醤油 取ってくれ」

「どうぞ」

「ねェランス。追加でコレ注文しても良い~?」

「構わんがオマエ地味に太ってるだろ? 程々にして置けよ」

「ふんだ。美味しいモノ食べて太るんなら本望だもん」

「!?!?」

「ウィチタ。何でオマエが反応する?」

「し、ししししてませんッ!」

「それより言ってくれたわねェ!? そのオカズ頂き~!」

「ちょっ!? 俺は好物は最後まで取って置くタイプなんだよッ」

「……(良しッ。またランスの新しい性分が知れたわね!)」

「好きなモノってコレ~? だったらあたしが食べさせてあげる!」

「お断りします。ところでエレノア。箸が進んで無いみたいだが?」

「えッ? えっと……実は……お財布を忘れちゃって……」

「いや割り勘じゃ無ぇから!!」

「!? だったら――――」

「全額でも無いから安心して食ってくれ」

「ふむ。10万ゴールド迄なら貸せるが?」

「少しを状況を理解しろよッ! アームズ!」


――――何故ランスの容姿で常識人のツッコミ役ポジを努めなきゃ成らんのかと食事の度に思う俺だった。




……




…………




……1時間後。


「何だか無駄に疲れた」

「お、お疲れ様です」

「只 飯を食ったダケなのになァ」

「でも皆さん楽しそうで何よりでした」

「うむ。ミルは直ぐ馴染めたが、エレノアも特に問題は無いだろう(……殆どアレが素だし)」

「……ッ……」


前述の通りツッコミ役と成りつつ夕食を終えた俺は、未だに綺麗に片付かされたテーブルの前に居た。

反対側にはメルフェイスが居り、椅子に背を預けて天井を眺めている俺を苦笑いで気遣ってくれている。

尚 エレノアとミルは家に帰っていて、他のメンバーは"個室"に戻っている。

だが唯一メルフェイスが残っている理由は当然 察せるので、あえて席を立たずに座っていると。

チラッチラッと悟られない様にしている"つもり"で俺の方を見ており、思わず悶えそうになるのを我慢する。


「メルフェイス」

「は、はいッ」

「一緒に風呂 入ろうか」

「!?!?」

「何だよ その反応」

「えっ? い、いえッ……私もランス様と……お風呂に入りたい……です」

「構わん。Hイこッ」

「(カモン・レッツゴー?)」


その後の展開は言う迄も無いが、大道寺をも現れた"この世界"に更なる疑問が生じた。

ですが明日の俺は きっと旨くやってくれるでしょう。他人事なのは元ネタが有る為だから気にするな。

とにかく今回の遠征ではJAPANの内情から始まり、多くの鬼畜王との相違点が見え始めた。

こりゃリーザスに戻ったら改めて他国の偵察を行わせて世界の情勢を理解した方が良さそうだ。

特にAL教団の事が気になって仕方無いので、サックリと迷宮を攻略して帰還する事としましょうか。

目標は全員の生還・俺のレベルが60前後・そして上杉謙信の成長。フラグのゲットは二の次に考えよう。

そう決意しつつ立ち上がると、俺とメルフェイスは並んで宿屋の食堂を後にしたのだった。


「(そう言えばメルフェイスってランスとも"同じ事"してるって言ってたけど……そ、それって……)」


――――だが今 最も俺に対する視線にフラグ臭を感じるのがサイゼルだと言う事実は如何したモンだろう?








●レベル●
ランス   :54/無限
かなみ   :50/40(+10)
メルフェイス:48/48(+2)
サイゼル  :88/120
ウィチタ  :35/35
アームズ  :40/44

ミル    :15/34
エレノア  :20/30

上杉 謙信 :05/70
上杉 虎子 :15/35
上杉 勝子 :15/35
直江 愛  :30/40
南条 蘭  :30/38
大道寺小松 :35/43




●あとがき●
上杉家のイベントでは殆ど直江さんばかり喋っていて謙信の影が薄かったですが、次回で焦点が当たります。
しかし改めて考えると、今のメンバーは全員がランスに一生付いて行くように仕立てるのは難しい所ですね。
ですが成るべく自然に絡ませる様にしようと思いますので ゆっくりしていってね。さて三人目は誰にしよう?



[12938] 鬼畜王じゃないランス20
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2013/04/29 03:22
鬼畜王じゃないランス20




=LP03年06月2週目(日)=




……リーザスを出発してから20日目。及びカスタムの街を出てから2日目の朝。

新たに5名の仲間を加えた俺達は、再び新規で調達した"うし車"の中で揺られていた。

メンバーは俺・かなみ・メルフェイス・サイゼル・ウィチタ・アームズ・ミル・エレノア・謙信・南条・大道寺の11名と成っており、当初に比べて かなり増えた事から現在は"うし車"を1台ダケ増やしている。

元々の5名ですら荷物が多かった為 只でさえ狭かったのだが、途中でメルフェイス&サイゼルが抜けたり、白の軍のモノと交換したり出来たので必要性は無かったが……今回は必然的に調達せざるを得なかった。

よって後ろを走る"うし車"の手綱は かなみが握り、エレノア・謙信・南条・大道寺の4名が乗っている。

そしてウィチタが手綱を握る先頭の方に残り5名が揺られるワケだが、ミルは出発してから殆どの時間を俺の膝の上で過ごしているので、ランスを含めた残り4名はサイズ的に11人の中ではデカい方だが、向かいのサイゼルは案の定(終始 苦笑いの)メルフェイスに肩を寄せているしでスペース的には特に問題は無かった。


≪ガラガラガラガラ……≫


「…………」


胡坐をかく俺の膝の間にスッポリと収まり、熱心に漫画を読んでいるミルの後頭部越しにメルフェイスを見た。

一昨日の夜に性的な意味で堪能させて貰った彼女は、今は到着を待つべく静かに本を読んでいる模様。

傍から見るとマジで美人過ぎるから困るが、良~く見ると前述の通り常にサイゼルに寄り掛かられている事から僅かに口元が歪んでいるのが分かる。

一方サイゼルは意外にも魔人と言う事から退屈な時間には慣れているらしく一見 寝ている様に見えるのだが。

ミルが読んでいる漫画のシリーズが まさに旅中でサイゼルが読んでいたモノと同じ……と言うか拝借している為、時よりチラッチラッと此方の様子を窺っているのが見て取れ、恐らく100倍近くも年が離れているミルを押しのけ漫画を読み耽(ふけ)るのは魔人と言うチッポケなプライドが許さないのだろう。

俺とミルの年齢差とサイゼルの超高齢を考えれば大人と幼女で態度を変える必要は無いと思うんだが、やはり見た目が隔(へだ)たりと成っているらしく、ワーグの事も有るし人外は年齢より見た目の方が重要と考えられる。

殆どのキャラの年齢を知っている俺すらサテラみたいな容姿の娘には口が勝手に敬語を使っていなかったしな。

それは さて置き。

今度は右を見てみると、何時もの軽装鎧(だが凄い品物らしい)姿のアームズがユックリと舟を漕いでいる。

彼女は自称する程 見ての通り普段の生活はマイペースらしいが、モンスター討伐には本当に妥協が無い。

実は昨日は野宿したワケなのだが彼女は出発前に予め其の場所を俺に聞いて置き、ギルドで予定地周辺のモンスター討伐の依頼を受け、日が沈む辺りで一人で出かけて行き……夜が明ける頃には戻って来ていたのだ。


『ランス。道中は一度 野宿をするらしいな』

『そうだが……ソレが どうかしたのか?』

『場所を教えて欲しい』

『地図で言うと大体 此処ら辺りだな』

『分かった。では行って来る』

『???? 後一時間で出発だから遅れるなよ~?』


……まさか"あの会話"の中で其処まで考えているとは思わなかったな。

よって今 寝ているのは徹夜で戦っていた為で有り、何気にアームズのレア・アイテムが車内に積まれている。

だがコレらは一部であり、場所は教えて貰っていないが借家に残りのアイテムがワンサカと有るらしい。

其処で盗まれる心配は無いのかと聞いてみると、プルーペット商会に管理を委託しているとか言っていた。

原作の設定には詳しいつもりだったが、生憎この様な一般クラスにまで及ぶ程 俺の知識が広い筈は無い。

其の為 当初は無駄に悟られない様にランスが"知っている筈"の常識を大人の本から学習する羽目に成った。

とは言えランスが本を読む事 自体アレだったしで、今は開き直ってしまっている感が有るけどな。

だが自惚れる気は無いが魔人の侵攻を抑えられるのは、人類ではランスが治めるリーザス以外に考えられない。

故に今の俺に違和感が有る者には かなみの様に慣れて頂き……カスタム組に対しては今から努力しよう。


「ランス王。村が見えてきましたッ」

「ようやくか……(この娘も眼が良いんだな)」

「この距離ですと到着には後1時間程かと」

「分かった。悪いが もう暫く務めてくれ」

「畏まりました!」

「有難う(……夜も寝ていなかった気がするがマジで大丈夫らしいから頭が下がる)」


≪ガラガラガラガラ……≫


「ねぇねぇランスぅ~」

「んっ? 何だ? ミル(しまった漫画の読み終わりか)」

「あたしの事 何時になったら抱いてくれるの~?」

『!?!?』

「何を唐突に」

「今思いついたのッ。そう言えば聞いてなかったかなって」

「…………」

「ランスが"したい"なら着いたら直ぐにでも良いんだよォ?」


此処で唐突に肉体関係を迫ろうとしてくるミル。

素で忘れていた様だが、時と場所を弁えない辺り本当に子供なんだと思う。

男と女がセックスする事により子供が出来る事くらいは知ってるだろうが、何故そうなるかは確実に知らん筈。

だが相手が子供だろうが"この世界"ではゼスのハウスの様に、手を出しても犯罪としての重みは比較的軽い。

……とは言え此方でも一般常識的には肉体が発育していない娘とのセックスは行わないのが当然だ。

無論 俺としてもゴメンなのだが、擦り寄るミルは自分が抱かれるに値するレディなのだと思い込んでいる。

よって扱いには困ってしまうが……少なくとも原作の様に突き放しては貴重な成長過程が飛ばされてしまう。

ゲームに慣れて来れば作業プレイの一環として当たり前の様に成長させたモノだが、俺は縛りも経験した。

つまり簡単に述べれば成長は"無し"で有り、スキル的に残念だが限界レベルを上げて迄 連れ回す気は無い。

ハイレベル神の恩恵をダイレクトに受けさせれば話は変わるかもしれないが、それでは絆には結び付かない。

良い年して恥ずかしい話に成るが、かなみとメルフェイスの様に肉体関係を持つ事が特に重要だと思っている。

それにしても……ミルの爆弾発言にメルフェイスは勿論、ウィチタも振り返っているのが気配で分かった。

サイゼルはミルの姿からして今の単語がセックスに迄 結び付かなかった様でハテナマークを浮かべているが。

後者の2人は非常に気に成るらしいので、此処はミルに対する方向性を明らかにする必要が有りそうだ。


「おいおい。俺様は迷宮に連れて行くとは言ったが、抱いてやるとは言ってないぞ?」

「えぇ~ッ!? そんなの聞いてないよーっ!」

「そりゃそうだ」

「ズルい!! 王様になれてトッカエヒッカエってヤツなんでしょ!? それなら私も混ぜてよッ!」

「おい。何処で そんな知識を……ミリか? ミリなのか?」

「そんなの どうでも良いよ! どうして あたしはダメなの~!?」

「ふむ。つまり俺が"抱きまくってる"と思うから自分も抱けと?」

「そうだよォ!」

「抱いてないよ」

「えっ?」

「王様に成ってから嫁さんドコロか2人しか抱いてない」

「嘘!? だ、だったら あたしを3人目にしてよ!!」

「悪く無い話だ」

「それならッ!」

「落ち着けって。まァ残念ながら今は保留だな。先ずは目先の迷宮は勿論リーザスに慣れる事から始めてくれ」

「あッ……」


≪――――ぎゅっ≫


「生憎 王様に成った俺様は相場が高くてよ。先に手を出して何だが今は"こうしてやる"事しか出来ないんだ」

「ら、ランス……」

「リーザスには何時までも居て良いからな? 焦らずゆっくりと女を磨いてくれれば良いさ」

「……んッ……」


唐突だった事も有り、我ながらミルの気を静めるにはイマイチな言葉の選び方だとは思ったが。

シッカリと彼女の目を見て喋り、更にはカラダを抱き締めて背中を撫でてやったりして宥めてみると。

思った以上に効果が有った様でミルは最初は全身を強張らせたモノの、直ぐに脱力し大人しくなった。

その流れでミルを元の膝の上の位置に戻すと、俺は漫画の次の巻を手渡しながら言う。


「さて。もう少しで着くみたいだからコイツも読んどけ」

「仕方無いなぁ~」

「此処で一歩引くのが大人の醍醐味」

「分かってるもん」


≪ガラガラガラガラ……≫


「ねぇメルフェイス。話が見えなかったんだけど、何の事だったの? アレ」

「さ……さぁ?」

「(ランス王……2人ダケって事は……でも嘘を言う方でも無いだろうし……やっぱり噂は噂で間違い無いか)」

「くぅ、ぐぅ……」


さてミルが大人しく成ってくれたので再び視線を移してみると。

メルフェイスがサイゼルの問い掛けを、相変わらずの困った表情で受け流しアームズは安定の睡眠中。

そしてウィチタは何事も無かった様に手綱を握る後姿しか見えないので、どうやら切り抜けたみたいだ。


「(やれやれ。かなみの方は旨くやってるのかね?)」


さて再び静かな時間を過ごす事と成ったので次に考えるのは謙信達の事。

俺としては向こうの積極性を窺う立場な為、今の所は特に干渉はしていない。

当然ガッツリ話を"するつもり"では有るが……全てはダンジョンの攻略が始まってからだ。

……とは言えレベルが低い姫様な為 仕方無いのだが、南条と大道寺の過保護ッぷりが目に余った。

道中では多少の遭遇戦も有ったので、謙信もグリーンハニーを割ったりイカマンを斬ったりはしていたが。

前述の2人が常に張り付いていたし"彼女自身"の実力ダケで撃退したとは言えなかった。

だが有る意味 俺と謙信の立場から言うとダンジョンの中よりも刺客的な意味で外の方が危険とも言える。

逆に迷宮の中ならばモンスターを倒す事ダケに集中すれば勝手に謙信もメキメキ強く成る。

よって実戦経験を本当の意味で積ませるのは有る程度育ててからで良く、守り抜く事を優先させるのは定石。

リーザスの新兵育成でも、部隊を組んで殆ど非戦闘でレベルを上げてから訓練って流れも有るみたいだしな。

今回は頭数とダンジョンの難易度的にリスクが全く違うが、1階層でも凌げば一気に伸びてくれるだろう。

尚 昨日かなみから聞いた話によると、特に手綱を握る自分に対して踏み込んだ話はして来なかったらしい。

一方エレノアは勝手に空気が悪いと考えていた様で、むしろ其方の気遣いに神経を使ったと言っていた。


「サイゼル。暇そうだしコレでも読んどけ」

「!? いきなり投げないでよッ」

「(……目は嬉しそうだけどなァ)」


思ってみればエレノアも限界レベル的にフォローが必要だし、性格も弱気なので どうしたモンかな?

そんな事をサイゼルに漫画を投げながら考えると同時に、ウィチタも既に限界レベルだし事故が怖い。

アームズは戦士系な上に行動から察するにタフだろうが……当然ミルの様な娘も守るべき対象だ。

謙信達には"ある保険"を掛けてはいるが、こりゃ~人間関係は迷宮攻略が終わってから考えた方が良さそうか?




……




…………




……約1時間後。

デンジャラス・ホール最寄の村に到着した俺達は、唯一街の概要を知るエレノアに宿への案内を頼んだ。

その途中で彼女からギルドの場所を聞き出すと、かなみとアームズと連れて3人で訪問した。

するとエレノアが事前に"気をつけて下さい"と告げた様に、ギルドの内部には強面の冒険者達がチラホラ。

迷宮の難易度の高さを露骨に表現しており、唐突の新顔を吟味している様な者が殆どである。

正直なトコロ、クソ強いがサイゼルの様なツンデレ魔人より人間味の強いリアルな雰囲気の方が余程堪える。

だが王たる故に表情には微塵にも出さず、2人を背後に歩みを進めるとギルドの白髪オヤジに声を掛けた。


「邪魔するぞ?」

「いらっしゃい。見ない顔だが?」

「つい先程 着いたばかりだ。デンジャラス・ホールについての情報を出来る限り欲しい」

「おいおい兄さん。情報は冒険者の命だ。御高く付きますぜ?」

「ふむ(……そんな商売は許可されていない筈だが)」


「まァお前みて~な優男が活かせるとは思えね~けどな!!」

「全くだ。ガハハハハハ!!」

「デンジャラス・ホールは難所ってレベルじゃ無ぇぞ? 怪我しねぇウチに帰んな!」


「(……五月蝿い連中ねッ)」

「(面倒事は起こすなよ? かなみ)」

「…………」

「ともかく地獄の沙汰も金次第……って!?」


正直一般人の頃の俺だったら、内部を覗き見た時点で引き返していたギルドの雰囲気。

少なくともエレノアみたいな性格なら建物に近寄りもしないだろう。

それにしてもダーツ・ゲームを止めて此方を見ている強面の冒険者達の反応がテンプレ過ぎるのは さて置き。

周囲の何名かの身の程知らずは既にランスに殺されている可能性も有るが、彼らは運が良いと言える。

だがアームズは涼しい顔をしてカウンターの張り紙を見ている一方、かなみは地味に殺気を抑えていた。

実の所"ヤンデレ"迄とは到底ゆかないが、最近の かなみは自分より俺が侮辱される事を極端に嫌う。

少なくとも俺がリーザス王と分かっていて先程の様なことを言ってしまえば即 首が飛んでいるかもしれない。

この程度は何とも思っていないのだが……かなみが手を出す前に俺が"ランスらしく"情報を聞き出すべきか?

だとすればオヤジの胸倉を掴んで抵抗されたらブン投げたりする必要が有るが、面倒な事にはしたくない。

よって素直に金を払うのが定石とは言え、彼らしく遣るとすればゴールドを叩きつけたりしないとなァ。

王様と明かしてしまえば"この場ダケ"は丸く治まりそうだが、少し動き辛く成りそうなのでソレは却下する。

正史のランスで有れば考える前に手が出て、結果ソレで問題なく物語を動かすワケだから羨ましい限りだ。


「んっ? あ、あの女は確か……」

「"何か"で見た様な気がするが?」

「!? アームズ・アークだ!!」


≪――――ザワッ!!≫


「アイツがドラゴンスレイヤー!?」

「どうして、こんな辺鄙なトコにッ」

「しかし予想以上に良い女だな……」


何時もの如く行動の選択を心の中で渋っていると、ダーツをしていた3人組が何かに気付いた。

どうやら王のランスでは無く"有名冒険者"のアームズが居た事に驚いた様で、動揺を露にしている。

この選択は流石に予想していなかったが、丁度良いし利用させて頂くとしよう。

俺は"なん……だと……"と顔に書いて有る白髪オヤジに吹きそうになりながら、口元を歪ませつつ口を開く。

尚 ランスは元から容姿か、元一般人の俺でも"悪人面"を表現するのは非常に容易かったりする。

逆に表情を意識して崩さなければ、黙ってればイケメンでしか無いのだから流石 主人公フェイスである。


「おやおや。情報が命と言いながら知らないクチだったのか? ウチのモンをよ?」

「えっ? い、いやその……」

「もう一度言おうか。デンジャラス・ホールについての情報を出来る限り欲しい」

「……それではこの冊子を」

「ほほぅ。この冒険者になら誰にでも配布されるようなモノで幾ら払わせる気だったんだ?」≪ギロリ≫

「!? か、堪忍してくだせぇ。ほんの冗談ですよ」

「余り笑えなかったから金輪際やめた方が良いぞ」


此処で軽く殺気を出してみると、ようやく俺達の実力を察した様だ。

かなみの時点で気付けよと言いたい所だが、俺にしか分からない程度でしか露にしていなかったっぽい。

さてアッサリと"情報"を手渡した、苦笑いするしか無い白髪オヤジなのだが。

今は両手を揉み合わせながら露骨に下手に出ており、遠慮がちに口を開く。


「畏まりやした。では其方の方に是非ウチに立ち寄ったって感じのサインを……」

「(聞いちゃいないだろうが)何か受けれそうな依頼は有ったか? アームズ」

「ン。併用できそうな依頼が3点ほど有ったな」

「だったら さっさと手続きを済ませてくれ。コイツ(冊子)が意外と詳しいから俺は既に用済みだ」

「分かった。直ぐに済ませよう」


アームズは この様な空気には慣れているのか、前に歩むとサイン迄をも即 終わらせた。

一方 横に少しズレていた俺は、カウンターに"置いて有ったモノ"を見て何となく魔が差してしまった。

本来サッサと出て行くに限るのだが、再び口元を歪ませると一本のダーツを摘まみながら言う。


「それでは邪魔したな」

「ちょっ? それは……」

「かなみッ」

「…………」≪コクリ≫


≪――――ダァンッ!!≫


「ひぃっ!?」

「んなッ!?」

「う、嘘だろ」


「さっさと宿に向かうぞ」

「はい」

「そうしよう」


そして振り返って かなみにダーツを渡すと、彼女は無造作にソレを投げた。

当然 従来のポーズでの投擲じゃなく、右手でのサイドスローである。

そんなダーツは冒険者の頬を掠めてゲームの途中だった的の中央に突き刺さり、場の空気を一気に冷ます。

対して俺は2人を連れ何事も無かったかの様にギルドから出て行き、無意味な優越感を味わうのであった。




……




…………




――――尚 以後 宿への道中での会話である。


「すまない。また魔剣を手に取らせてはくれないか?」

「レアに目が無い事は結構だが……鞘から全部 出すなよ?(人によっちゃ頭がオカしくなるみたいだし)」

「分かっている。ありがとう」

『(えっ? 儂の意見は?)』←基本的に喋らない様にランスに言われている

「オマエにとっちゃ御褒美だよな? カオス」

『(手を出せない時点で何時もと変わらんも~ん)』

「そらよッ」


≪――――ポイッ≫


「おっと」

『(しかも扱い悪!)』


頃合を窺ってアームズが希望してくるが、今の俺は素手でもデカントなら多分 倒せると思うので城内では勿論の事、街中で丸腰に成っても特に問題は無い。

かなみって言う優秀な忍者も居るワケだしな。

だが懸念しなくてはいけないのはセルさんの様にカオスを奪われてしまわないか、と言う事で有り……アームズは全く知らないキャラなので、最初の時は かなみに怪しい動きをされたら即 無力化させる気でいた。

まァ定期的にカオスの御機嫌も取りたかったのでイザ魔剣を手渡そうとする際……一見 分からないがアームズの水色の瞳の中央の紅い辺りがキラキラと輝いていたのを確認した時点で、コレは大丈夫だろうと安心してしまったのでした。

レア・アイテム集めを生き甲斐にしているアームズにとって、カオスは御存知の通り魔人にダメージを与えられる世界に2本しか無い剣で有り、実際に触れられるダケでも幸せを感じると言うか心が休まるらしい。

改めて考えて見れば冒険者で有ればカオスを珍しく思うのは当たり前であり、アームズは少し特殊な部類とは言え各シリーズのランス・パーティーは伝説級のエースが常に集まっていたのだと痛感する。

更には王なので色々な意味でヤりたい放題なのだと何度も"この思考"に辿り着いたが、俺は現代世界の一般人代表と自負しているので"ランスらしくしなくては成らない"と言う場面以外は人道に外れた事をする予定は無い。

しかし皆が大嫌いルドラサウムにとって原作のランスの破天荒ぶりは今の俺よりは見ていて楽しい部類だと思うので、其処も"特に手は汚していないのに奴が見て違和感の無い程度に非情に成る"様にするのも課題かもな。

そんな無理難題を考えながらアームズにカオスを投げて渡すと、今度は横に居た かなみが声を掛けてくる。


「ちょっとランスッ」

「何だ? かなみ」

「唐突に何させるのよ!? アレを外したら凄く格好悪かったじゃないッ!」

「別に良いじゃないか。普通に命中してたワケだし」

「アッサリと言ってくれるけどね……ダーツなんて生まれて一回も持った事が無かったし、あの一瞬でどれだけ私が集中力を使ったか分かってるの? 投げた時は冷や汗かいたんだから!」

「だったら凄腕の側近みたいな態度は止めときゃ良かったろ」

「で、でも……貴方の顔を立てる為にも必死だったのよ!」

「そうか。だったら悪かった」

「ランスなのに謝らないで!」

「いい加減慣れてくれよ……」


『やれやれ。相変わらず仲が良いのぅ』

「……ッ……剣なのに突然 喋らないでくれ。心臓に悪い」

『だったら少しは顔に表してくれると儂としては嬉しいんですけど?』

「しかし最近の王と言うのは変わっているんだな。つくづく思う」

『いや……長く生きてるけど、こんな奇特な主従は初めてですよ?』

「――――誰が奇特だ(よ)!?」

『こういう時にだけ息合わせないでくれます?』

「好きで合わせてるワケじゃない」

「…………」

「其処で黙るなよ かなみ。それよりも着く前に改めて聞くか。そっちの(馬車の)様子は どうだったんだ?」

「確か私に対しての干渉は殆ど無くて、エレノアさんが気を遣おうと挙動不審だった事しか話してないわね」

「うむ」

「えっと。言った通り私はずっと手綱を握っていたから特に詳しい話はしなかったけど……謙信様と南条さんは殆ど黙って座っていたダケ。詳しく気配は察してたけど、敵に襲われる事をずっと警戒していたんだと思う。他は何度かオヤツを食べたり小声で何か話してた程度で其処は気にしなくても良い範疇ね。逆に大道寺さんは ずっと大陸のティーン情報誌を読んでいて、たまにエレノアさんが質問されてたけど、無駄に詳しく答えてアゲていたわね。きっと大道寺さんは無理に気を利かせようとしていたエレノアさんのフォローも兼ねてたのかも」

「ティーン情報誌……だと!?(何気に毒舌なのは置いといて)」

「えぇ。何だか凄く興味深そうに読んでた」

「そんなモンが有ったのかよ。意外だったな」

「えっ? 気にした所って其の点だけ?」

「他に何か問題でも? お前だって普通に読んでたって構わない年だろ?」

「あ、改めて言われると虚しく成るけどね」

「読めば大道寺とのコミュニケーションにも繋がる」

「……でも……私は忍者で……」

「おっ? 本屋発見。アームズ。少し寄って行くか?」

「ン。たまには寄るべき場所だろう」

『儂も新しいスケベ本をッ』

「また俺に買わせるんですかそうですか」


――――こんな事を言いながら小さな本屋に寄り道した中、かなみが例の雑誌を買ったのは言うまでも無い。




……




…………




……数分後。

変わらず かなみとアームズを伴い、エレノアに言われた通りの場所に有った宿に入ると。

入り口のロビーには4人の女性の姿が有り、うち1名はエレノアで残りの3名の上杉組が背中を向けていた。

パッと見た様子だと何やらエレノアが南条と話していて、残る2人はソレを眺めていると言ったカンジだ。

エレノアの既に見慣れた"困り顔"で話の内容は一応 見当は付いているのだが、此処で思考するよりは聞いた方がよっぽど早いと判断しツカツカと歩みを進める。


「あッ。王様」


――――するとイチ早く大道寺が俺に気付くが、軽く手を振る程度で済ませ2人の間に割って入る。


「場所は此処で良かったみたいだな」

「!? お、お帰りなさい。大丈夫だったの?」

「心配無用だ。それよりも何を話してたんだ?」

「それが……えっと……」

「うん?」≪ニコッ≫


何故か口ごもるエレノアに対し上杉組を見てみると、先ず裏表のタイプの謙信は普通に申し訳無さそうな表情。

だが南条・大道寺は似たような様子とは言え僅かに"面倒な人が来た"と言う感情が読み取れた。

当然 王に対する敬意は忘れず持って接してくれてはいるが、リアルの仕事で部下が出す顔に似ていたのさ。

よって此処はランスの"黙ってればイケメン"の力を借りて、無難に話を進めて貰う事にしよう。

そんな事を思いつつ上杉組3名の方にも黙って笑顔を向けていると、最も近くに居る南条が口を開いた。


「恐れながらエレノアさんに昼食に誘って頂いたのですが……遠慮させて貰っていた所です」

「……そう言えば野宿の時も別の場所で摂っていたな。何か理由でも有るのか?」

「そ、それは」

「思ってみれば何故か大きな荷物が有ったが、中身を教えて貰っていないよな?」

「……ッ……」

「いや悪い。無理に聞こうとしているワケじゃないんだ」

「すみません」


遠慮がちそうに言う南条のコトバで一瞬で把握した。

やはり"こっち"でも上杉謙信は凄まじい大食漢なのだろう。

原作の彼女は最初から強かったので食いまくる事は仕方無い認識だったが、流石に弱いと後ろめたさが有るか。

だが"上杉謙信"は設定と言う名の"呪い"を生まれつき持ってしまった不幸なキャラだと言える。

リアルでは大食いチャンピオンだろうが、過食症でも無い限り一般人と同じ量の食事で十分 生活が可能だ。

そう考えれば"多少食わないダケで直ぐ腹が鳴る"事や"丸一日食わないダケで腹が減って動けない"事なんぞ創作のキャラでしか絶対に有りえない話だが……目の前の"上杉謙信"は現実の話なので遠回しにルドラサウムに。

また他の創作の大食いキャラは物語の作者によって、個性を出させる為に"与えられてしまった"のである。

よって無能だろうが"こう言う世界"の大食いキャラを嫌う気は謙信が対象で無くとも不思議と思わない。

当然だが食費を出すのは俺では無いし、食えるダケの資産が有ってこそ"大食い"と言う個性が成り立つからな。

流石にガルティアは食い過ぎなので例外だが、自分に害の及ばない彼女の性分を咎める気は全く無いって事さ。

しっかし"こんな内容"の話を真面目に考える時が来るとはな……ともかく無駄に勘の良い王を演じるとしよう。

顔を紅くして俯いてる謙信を もう暫く眺めていたいのは山々だが、彼女達にとっては深刻な問題だろうしな。

俺は痛い追撃を受けて謝るしか無い南条に対し、温厚な表情を崩さないまま頭を掻きながら眉を落として言う。


「ところで恥ずかしい話なんだが」

「は、はい?」

「実は俺は結構な大食漢でね。正直 君達と食事を共に出来ないのは少し嬉しくも思ってしまったんだ」

「……ッ!?」

「幸い殆どの日常は普通の量でも平気なんだが……時に"もっと食べたい"と言う気持ちを強く抱える時が有る」

「それが今だと仰るのですか?」

「察しが良くて助かる。王と言う立場から食事には全く困らないから"衝動"が強かった場合は全く自重しないで食べてしまっていたんだが、今回も同じ事に成りそうだし他の娘達はともかく、殆ど初対面の3人に"そう言うレッテル"を貼られては恥ずかしいからな。今の話を聞いてカミングアウトさせて貰ったってワケだ」

「えっ? そんな事リーザスじゃ一度も――――ングッ!」

「此処は黙っているべきだろう」(かなみの口を塞ぐアームズ)

「だが迷宮に挑む仲間同士、食事の席を一緒にしないのは拙いだろ? だから其方の理由を改めて聞きたい」

『…………』×3


――――俺の言葉に3人が互いを顔を見合わせたと思うと、改めて此方に向き直ってから30秒ほど躊躇して。


「あ、あのぅ……」

「はいッ。上杉君」

「(もう隠す理由は無いわね)」

「(仕方無いよ~)」

「実は私も……恥ずかしながら直ぐにお腹が減ってしまう性分で……道中も皆で隠しておりました……」

「ふむ。つまり大きな荷物は全て食事だったと?」

「…………」≪コクリ≫

「……ッ!」←可愛い仕草に打ち震えているダケ

「!? ランス王!! すみませんッ!」


≪――――ばっ!≫


「ファッ? 何で謝るんだ? 南条」

「謙信様は自分の性分は隠すべきでないと仰っていましたが、内密にしようと言い出したのは私達なのです!」

「(小松も入れられてるぅ!?)」

「故に何卒 御容赦をッ! 開始前から"仲間"とさせて頂く当たって大切な事を疎かにして面目有りません!!」

「分かった。許すも許さないも無いから場所を考えろって」

「は、はい」

「では……今後 幻滅されないで頂けると……」

「要らん心配だ。リーザスにはガタイこそ君と違うが食事の前に必ずハーモニカを10分以上吹いて、見ての通り一食で常人の20倍くらい食う将軍が居る。それに其処のアームズなんて最初の自己紹介で"腹が減ってる"とか言った程の図太い神経の持ち主だぞ?」

「それほどでもない」

「無頓着 凄いですね。まァ荷物の大きさから君も相当なんだろうが」

「うぅっ」

「王様~、あまり謙信様を苛めないでくださ~い」

「おっとすまない。では皆で食うと言う事で良いんだな? 謙信殿」

「も……勿論です」


――――此処で雰囲気を和らげようとする中、大道寺も乗ってくれたので謙信の肯定を最後に話の〆に入る。


「有難う。じゃあエレノア。俺達の部屋に案内してくれるか?」

「……ッ……」

「エレノア?」

「!? ご、ごめんなさいっ。確認して置くけど、私はミル・メルフェイス様はサイゼルさん・謙信さん達は3人で一緒だよ? ランスく……王とアームズさんは個室。かなみさんはウィチタさんと同じ部屋で良かった?」

「律儀にメモってくれてた部屋割りに間違いが無ければな」

「えっ? だ、大丈夫かな……?」≪ガサッ≫

「其処で動揺するなよ! ともかく3人とも。荷物を置いたから食堂に行くから宜しく頼むぞ?」

「……はい」≪もぢもぢ≫

「畏まりました!」

「わかりました~」

「(ランス君が余りにも"らし過ぎて"見惚れてたなんて言えないよぉ……)」

「(私との"あの会話"ダケで謙信様の性分を見抜いたんだ……ランスは やっぱり凄い……)」

「(あの荷物の中にはレア・アイテムが入っているのを期待したんだがな)」


こうして成り行きで俺は昼食で"何も知らない謙信"と勝手に大食い勝負をする事となった。

結果 何とか引き分けに持ち込んだワケだが、彼女は涼しい顔をしていたので勝負としては負けである。

10人分程は食った筈だがアレでも遠慮してたんだろうな……コレからが本当の地獄だ……!!

先ず彼女のレベルをカンストさせ更なる関係と成る過程で、こう言う付き合いはザラで有りそうだからな。

さて見ての通りダンジョン最寄の村に到着したので早速 潜りたい気持ちも有ったのだが。

普通に道中 徹夜だった娘が何人も居るし、改めての準備も必要だしで今日は俺の鶴の一声で休む事とした。

よって昼食が御開きと成ると各々は(治安が悪いので注意しているが)村に出たり・部屋に戻ったりと好きに動き出すワケなのだが、俺は直ぐ動く気には成らず先日と全く同じ様に椅子に背を預けながら天井を仰いでいる。

尚 同じく留まろうとしていたメルフェイスはサイゼルに腕を引っ張られて村の探索に連れて行かれていた。

まァ俺がダラけている理由は言う迄も無いのだが、それは俺の隣に座る かなみが代弁するらしく口を開く。


「ランス」

「うん?」

「やっぱり"大食い癖"なんて嘘だったのね?」

「当たり前だ。今は食い過ぎで暫くは動けん」

「其の気遣いは私も見習うべきなのかしら?」

「今回は偶然さ。エレノアみたいに成りたくなかったら止めておけ」

「そうする。わ、私が気遣うのは……貴方ダケなんだから」

「ならば精力も溜まりそうだし今夜は相手してくれよな?」

「う、うん。なら夜までは どうするの?」

「ミルの所為で膝が痛いから昼寝でもする」

「特に指示が無ければ一緒に居ても良い?」

「???? どう言う事だ?」

「他意は無いの。とにかく傍に居させて欲しい」

「こう誘いが有っては一人の時間も作れない」

「……ッ……」

「冗談だ。其処まで残念がるなって」

「もうっ。時々真面目な顔で冗談を言うのは止めてよ!」


こう言う台詞はマジで冗談気分でしか言っていないが、此処の皆は当然 素で受け止めるので注意しないとな。

ダンジョン探索に置いてはミルは見るからに残念がっていたが、アームズは明日に備えて早めに休むとの事。

つまり特に不満は無い様であり、恐らく俺が謙信達にした今回の痩せ我慢の意図を察してくれたのだろう。

当然 俺を良く知る他の娘達も大凡(おおよそ)の空気を察してくれ、問題なく20日目の午後が過ぎていった。


「……ランス王は……明らかに無理をして食事をされていた様な気がするな……」(3人でレベル屋に移動中)

「そうね。"謙信"の性分を早くも見抜いたダケじゃなく蟠りを抜く為に一日を無駄にして迄 貴女に合わせた」

「アレが器の大きさってヤツなのかな~?」

「本当に素晴らしい方だ……それに引き換え私は……」

「其処で落ち込む事はランス王も望まれていない筈よ。今は生き延びて"限界"を目指す事ダケを考えれば良い」

「うんうん。ソレからでも遅くないと思うよ~?」

「そう……だな。すまぬが もう少し2人の力を貸してくれ」

「勿論よ。それに今回は他の仲間達も居てくれる」

「特に魔人が居たのはビックリだよね~、しかも金髪の人に懐いていたみたいだし」

「小松も金髪だろう?」

「そこは金髪より魔人に触れましょうよ。謙信」

「!? それよりも前ッ」


――――ウィチタから聞いた話だが、午後3人はチンピラに絡まれたモノの大道寺が余裕で蹴散らしたとの事。








●レベル●
ランス   :54/無限
かなみ   :51/40(+11)
メルフェイス:48/48(+2)
サイゼル  :88/120
ウィチタ  :35/35
アームズ  :41/44

ミル    :15/34
エレノア  :20/30

上杉 謙信 :06/70
上杉 虎子 :15/35
上杉 勝子 :15/35
直江 愛  :30/40
南条 蘭  :30/38
大道寺小松 :35/43




●あとがき●
更新遅くなって面目ありません。しかし滞ったのはダンジョン迄の過程だったので、次は早く更新したいです。
まともなランスとずっと戦ってゆく為には原作のノリと違って絆が必須なのが問題。故に無駄に考えてしまう。
尚ウィチタ・アームズ・エレノア・謙信・蘭・小松に"迷宮攻略中"で大きく関係が進展する可能性が有ります。



[12938] 鬼畜王じゃないランス21
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2013/05/24 16:48
鬼畜王じゃないランス21




=LP03年06月3週目(月)=


"この世界"のモンスターは大きく2つに分ける事が出来る。

ひとつはフィールドに存在するモンスター。

♂であれ♀であれ"イカマン"だろうが"きゃんきゃん"だろうが個々の文化を持ち大陸の何処かで暮らしている。

そのうち一部の"ハニー"や"ヤンキー"は非常に好戦的で頻繁に人を襲うので、度々アームズの様な冒険者に倒されているのだが、大半が人間達の団結力に絶対数の少ないモンスターが勝てるハズも無いので、無駄に強奪や侵略はせず広い大陸の様々な場所でヒッソリと身を隠す様に生きているのだ。

ハニーに限ってはキングが本気に成れば自由都市くらいは制圧できるかもしれないのは さて置き。

もうひとつは全てのダンジョンに存在するモンスター。

基本的にモンスターの数は人間に匹敵する程 多いのだが"絶対数が少ない"と言う前言を撤回する気は無い。

モンスターは種族同士で仲が良い訳では無いので、大陸のモンスターは"魔物将軍"の存在無しで種族の枠を越えて団結する事は殆ど無いと言う意味で、種族で括って考えると絶対数が人間と比べ圧倒的に少ないからだ。

しかしダンジョンに限って言えば捉え方が全く違い、種族の違いも個々の生活も関係なく侵入者を襲って来る。

多少 知識が有れば魔人を見た時点で喧嘩を売って来ないモンスターも居るが、あの団結力は異常だろう。

更に食べ物や娯楽が何も無いダンジョンで様々なモンスターが生きていると言う時点で、凄く違和感が無いか?

つまりダンジョンとは"そう言う場所"であり、何と♂と♀が交尾しないと生まれないモンスターが時間の周期は相応に長いがネトゲの様にポンッと沸き、何も供給が無くともダンジョン内を徘徊するのである。

最低限の種族特有の常識や仕草を持っており、強さは大陸の魔物と全く同じなのだが、ダンジョンのモンスターは大陸の者達と違って"同じ様で同じでは無い"何かと言えるのだ。

よってダンジョン以外の道中では人間を襲う様な種族を幾つかしか見た事が無かったが、今まで潜って来たダンジョンでは様々な種類の魔物を拝む事が出来ており、かなりの能率を出す事が出来ていた。

何故か"女の子モンスター"に限っては殆どダンジョンで見れなかったが、繁殖の必要が無い為かもしれない。

尚この大陸とダンジョンのモンスターの違いは、此方では息をするのに空気が要ると同じ程 常識だとの事。


『ミルさんは経験豊富とみなされレベル22となりました』

「殆ど何もしてないんだけどな~」

『エレノアさんは経験豊富とみなされレベル24と成りました』

「あ、有難う御座います」

『謙信さんは経験豊富とみなされ、レベル20と成りました』

「えッ? あ、あの……」

『ランスさん。今回からはレベルが上がらなかった方の必要経験値は告げずとも良いんですよね?』

「あァ。人数も多くなって来たから君も面倒だろうしな」

『確かに今回は11名も居らっしゃるとは思いませんでしたから、ビックリしちゃいました(まァ事情も分かりますしツッコミは無粋かしら? コレでも神様ですから気が利くんです)』

「(結局 誤魔化す事にしたけど、私としても変な目で見られるのはアレだし無難ね)」

「(……ランス様の能力も……私との関係も、皆さんに知られると遣り難いですから)」

「それに事前に(全裸回避を)伝えて置かなかったら良い見世物だった筈だ」

『は、はい。でも"あの姿"でランスさんと個室で2人っきりに成る事の方が問題かもしれませんけど』

「俺だって どんな顔して儀式を受けりゃ良いか判断に苦しむから、ちゃんと かなみを置いてたろ?」

『そうですね。ともかく最近 精進されている様なので頑張って下さい。応援してますよ? ランスさん』

「ありがとう」≪ニコッ≫

『うッ……そ、それでは失礼します!!』


≪――――ぽんっ≫


「(ランスの甘いマスクも随分と有効なんだな)」


さて現在 俺達は全員で"デンジャラス・ホール"を攻略中であり、今 居るのは20層と言ったトコロ。

此処までアッサリと進んでしまっているが、それはダンジョンの構造が非常にシンプルだからだ。

冊子を読んだ時点で分かったが、名称が表している様に各層はタダっぴろい広場のみで構成されていた。

大体10層までは50メートルのプール・20層までは小学校のグラウンド・30層までは400メートルトラックの有る競技場程の広さであり、此処まで潜った限り冊子の情報に誤りは無い模様。

だが攻略が殆ど行われていない下層の情報は皆無と言って良く、予想だと野球場 程の広さは有るだろう。

俺の曖昧な記憶によると、戦闘域は750という広さでで指揮官は(まだ見た事は無いが)中尉ハニー。

そして敵の数は150~500に成っていた筈だから、それ位 広くても不思議では無いのだ。

尚 此処まで安易に来れたのは他の冒険者が定期的にダンジョンのモンスターを狩っているからで、冊子によると各層のモンスターの密度は それなりに高いが、再び沸くのに数十時間・最低24時間以上と大分 間が空くので、しっかりとパーティーを組んで臨(のぞ)めばテンポ良く魔物を狩ってゆけるらしい。

実際 幾つもの6人以上のパーティーと擦れ違ったし、旨味の無い戦闘を避けられるのは有り難かった。

……とは言え鉢合わせたモンスターとは交戦しているが、何時も通り かなみとウィチタに瞬殺されている。

しかし決して少ない数では無かったので21層に降りる前にレベル神(ウィリス)を呼んでみたのだが、レベル30未満の娘達が次々とレベルアップし、今までの経験上・レベル30を越えた辺りで唐突に上がり難くなる。

まァそうは言っても……俺達の様に"冒険者の枠"を超えた狩り方をしているので有れば全く関係無いとして。

シンプルな構造と言う事で、只 静かなフロアを横断して階段を降りる事を繰り返し現在に至るってワケだ。

さて時間としては食事休憩後の儀式と言ったトコロだったので正午な為、俺はメンバーに向き直って言う。


「良いか皆。遠足は此処までだ。次からが本番に成るからな?」

「情報だと21層からは冒険者達に攻略されていないから、凄い数のモンスターが徘徊しているって話です」

「10層 進む度に広さが一気に変わるらしいからな。熟練の冒険者でも21層以降には踏み込まないんだろ」

「そ、それに広いダケだから大半のモンスターを相手にする事に成るんだよね? ……大丈夫なのかな……」


――――俺の言葉に かなみ・エレノアと口を開き、それにメルフェイスが反応する。


「それですと……最初に此方に気付いて向かって来た魔物の数を魔法で一気に減らしたい所ですね……」

「あァ。メルフェイスとサイゼルの火力が無ければ俺とアームズがカラダを張るトコだったから期待してる」

「向かってきた敵を全部 倒しきって次に進む。シンプルで良いじゃん? あたしは そう言う方が好きよ?」


――――魔人の癖にパーティーに空気に馴染んでいるサイゼルがライフルを構え話すと、ウィチタが続く。


「御2人とは違って力不足は否めませんが、最初は私も魔法での攻撃役を担わせて頂きます」

「大魔法を使える時点で貴重だから助かる。役割は多いだろうが焦らずに頼む」

「あたしは"ラン"と近付いて来たモンスターの邪魔をすれば良いんだよねッ?」

「うむ。催眠も幻獣も"それだけ"に集中すれば かなり活きると思うからな(何より実際に見んと分からん)」

「そう言えば実際に魅せるのは初めてかも。あたしの活躍、ちゃんと見てよ?」


――――ミルの能力がイマイチ理解できないので今の様に思っていると、暇そうだったアームズが口を開く。


「ようやく此処まで来たか。デンジャラス・ホールは初めて来る場所だったから楽しみだ」

「そうみたいだな。最初は てっきり潜ってたと思ったが」

「いや構造上 単独では どうにも成らない場所だ。死に赴く気は無いし、他に行きたい場所が沢山あった」

「納得。だが"解呪の迷宮"に一人で行った時点で大概だと思うぞ?」

「それは此方の台詞だ。例のボス・モンスターの話には度肝を抜かされた」

「余り思い出したく無い話だけどな(かなみが教えてくれて無かったら全員 消し炭にされてたし)」


――――此処で視線を移し謙信の方を見てみると、何か言いたそうな顔をしているので近付いて声を掛ける。


「どうだ? 謙信殿。少しは強く成ったのを実感できたか?」

「!? は、はい。明らかに力が湧いて来た気がします……」

「まァ10レベル以上は上がってるから"前の力量"で鍛錬してた期間が長いのなら当然だろう」

「何もせずに付いて来ているダケだと言うのに恐縮です」

「気にするな。それ以前に本来じっくり育って貰ってから進みたいトコだったんだがな」

「じっくり?」

「うむ。君は まだ伸びてくれる気がするんだ。しかし"うるさいの"が待ってるだろうし余り時間が無い」

「別に気にしてアゲる必要 無いじゃない? あんな娘~ッ」

「セイゼル自重。そんなワケで最低限 身を守る事ぐらいは出来る様に成った筈だから頑張れよ?」

「改めて感謝 致します……ですが……これでは……」

「うん?」

「私が同行する意味は有ったのでしょうか? 皆さん強いですしコレでは余りにも……」

「其処を気にするのは まだ早いぞ? 限界レベルも近かったら近かったでヘコむ必要も無いから、今日は身を守る事だけに集中してくれ。殆どノーマークって言う21層の戦いは、俺達でも厳しいだろうからな」

「か、畏まりました」


――――案の定 目を合わせて来ない謙信の言葉を流しつつ、今度は2人の側近に視線を移してみる。


「(……ランス王……私達が遣ろうと思っても危なくて出来なかった事を、こうもアッサリと……)」

「(だから蘭と愛には"思い切ってモンスターで実戦させるべき"って言ってたんだけどな~)」

「南条と大道寺も俺達の事は気にしなくて良いから、彼女を守るのを優先させてくれ」

「……ッ……申し訳有りませんが、謙信様の安全の為にも そうさせて頂くつもりですけど……」

「危険な所っぽいですし王様も無理しないで下さいね~? 何か有ったら凄く困りますから~」

「勿論その辺は心得てるさ。じゃあ俺とアームズが先頭で入るから、視界に入るモンスターをすぐ殺るぞ!」


――――全員に声を掛けてから そう話す俺に各々は様々な反応を示し、攻略は本格的に始まっていった。




……




…………




……デンジャラス・ホール25層。


「悪く思うなよ!?」

「せいッ!!」

『!?!?』


≪――――ザシュッ!!!! ガキッ!!!!≫


21層に踏み込んでから1時間ほど経過したが、今の所の攻略は順調に進んでいる。

前述の通りデンジャラス・ホールは各層が凄く広い空間で、迷宮と呼んで良いのか疑問になるのは さて置き。

そうなると当然 視界に入るモンスターは全て倒さなければいけないので、次の階に踏み込んでから真っ先に近場の獲物を俺とアームズが突っ込んで瞬殺する一方、既にメイン火力のメルフェイスとサイゼルが氷の魔力・そしてウィチタが炎の魔力を集めており……


「遠方 右側の魔物は全て頂きますね?」

「あたしは左ッ! マルチ・ロック!!」

「行きます! ファイヤーレーザー!!」


メルフェイスは100本 近い氷の矢を、マク●スの誘導弾の如く一斉に飛ばし。

サイゼルは細めのスノー・レーザーを1回の射出で複数飛ばす射撃を繰り返す事で遠方のモンスターを殲滅。

更にはウィチタの平均的だが決して威力の低く無いファイヤー・レーザーが中央を突き抜け敵を焼き払う!!

そして中距離 辺りの中途半端な位置の魔物は、俺とアームズが周囲の敵を全て斬り伏せた頃には とっくに かなみと(流石に自分くらいは初動させて欲しいと立候補した)大道寺に殺られて、一匹も残らずに地面に倒れ伏せているトコロだった。

それにより"今回"のフロアも開幕の展開は極めて順調と言え、確かに数は何時もよりも かなり多いが密度は大した事が無いので助かっており、当然エレノアの催眠とミルの幻獣の出番は無くJAPAN組み2名の手も大して煩わせていない。


「さてと。直ぐに近付いて来る敵は居るか? かなみ」

「いいえ。やっぱり何の騒ぎかと驚いているダケみたいで、今は動きは無いみたいです」

「そうか。ならばゆっくりと進みつつ片付けて行きたいが……」

「少し待ってくれ。またアイテムを落としていないか確認しなければ」

「自分で確認しなきゃ気が済まんのは何とか ならんのか? アームズ」

「私は周囲を警戒しましょう」

「頼んだウィチタ。油断するなよ?」


――――此処で さっきから複数の視線が気に成っているモノの、状況が状況なのでスルーして置く。


「ふわぁ……ねぇラン? ランスってこんなに強かったんだ~」

「う、うん。それにメルフェイス様達も凄すぎる……」

「コレなら直ぐにレベルアップだよねッ。ラッキー!」

「(ミルは単純ね……まぁ仕方無いけど……ランス君って此処まで慎重に戦える人だったんだ……)」


≪あたしは"ラン"と近付いて来たモンスターの邪魔をすれば良いんだよねッ?≫

≪うむ。催眠も幻獣も"それだけ"に集中すれば かなり活きると思うからな≫


「(戦ってる時は確かに豪快なんだけど、ちゃんと周囲を気遣ってる。こんな無謀な攻略なのに安心できた)」

「此処もランス王たち任せだったわね」

「ま、まさかコレ程の実力だとは……」

「井の中の蛙って心境だよ~、大陸の人って凄いんだね~」

「サイゼルさんは本当に"魔人"みたいだし、流石に大陸の人だからって理由じゃ無いんだろうけど……」

「全ての采配はリーザス王の成せる業なのだろうか?」

「そう考えるのが自然だろうね~」

「ハァ……ちょっと自信が無くなって来たわ」

「私も何とか役に立てれば良いのだが……」

「やめとこ~? 小松は何とか許可してくれたけど、下手な事をしても邪魔になるダケだと思う~」

「(それは謙信さん達も同様……ホント短い間でランス君に一体何が有ったんだろう?)」




……




…………




……デンジャラス・ホール30層。

未だ攻略は無難に進んでいたが、アームズを隣に次の階層に降りた先で真っ先に飛び込んで来た光景。

明らかに他の層と比べるとモンスターの密度が桁違いであり、思わず反射的に声を漏らしてしまった。


「うげッ!? モンハウ……」

「"もんはう"とは何の事だ?」

「"モンスターハウス"の略だ。今考えついた」

「成る程な」

「しっかし予想外だったな……フロア一面"あの密度"だったら洒落にならんぞ?」

「それは平気だと思います」

「何故だ? かなみ」

「少し遠いですが"中尉ハニー"が居ますね。他の層の騒ぎを聞き此処で私達を潰すべく魔物を集めたのかと」

「見えるのかよ!? だったら今迄みたく初っ端を切り抜ければイケるか?」

「"イケるか"じゃ無くて"イケる"のよッ! 今日は30層まで進んだら帰るんでしょ? さっさと終わらそッ」

「流石に少し疲れて来ましたしね」

「そうだな。しんどいだろうが今日の締めだ。ラストは"全力"で頼んだぞ?」

「仕方無いわねェ」

「……頑張ります」

「(あ、アレでも本気じゃなかったなんて……それに引き換え私は……)」


――――此処で開幕に毎回 魔法をブッ放していた3名のウチ、一人表情を曇らせている娘に気付く俺。


「ウィチタ。今回は後ろに流れてくる敵が多いだろうし迎撃に集中してくれ(時間が無いからフォローできん)」

「!? ……承知 致しました」

「エレノアとミルは ようやく出番が来るだろうから焦らず頼んだぞ?」

「は、はい」

「任せといて~!」

『侵入者 接近~ッ、はにほ~突撃~!!』


――――姿は見えないが何処からともなく鮮明に聞こえてくるハニーの声。指揮官の固有能力なのだろうか?


「う、嘘でしょ? この数を全部相手にするの……?」

「……クッ……父上……」

「うわ~、大変そう……」

「弱気に成ってどうするの!? 小松ッ! 全力で守るわよ!? あァもうッ、御札用意するの大変なのに!!」

「……正念場と言う事か」

「此処で生き残れば"何か"が変わる気がする~っ、それじゃ~殺っちゃうぞ~!」

「何時も思うんだけど、そのノリ何とか成らないの!?」

「????(蘭は何か小松に違和感が有るのだろうか?)」

「そんな事 気にしてる場合じゃないよ~? ホラ向かって来てる~ッ!」


≪ドドドドドドドド……ッ!!!!≫


「大型のモンスターで壁を作っている……?」

「ランス! もうブッ放しちゃって良いの!?」


階段を降りきった俺達に直ぐ先制されて掻き回される事を避けてか、即 攻撃できそうな位置に魔物は居ない。

それより厄介な事に10体以上の"デカント"が一列の壁となって迫って来ており、大きく視界が遮られている。

ヘタなPTなら何も出来ずに轢き殺されるのは必然であり、軍隊でも かなりの人数が負傷してしまうだろう。

だがゲームでの難易度とギルドから貰った冊子による情報から十分に想定の範囲内なので、状況を告げるメルフェイスと(当初では想像できなかったが)自重して指示を仰ぐサイゼルに、既に抜いてるカオスを手に指示する。


「いや……先ずは俺とアームズで"壁"を崩すッ! やれるな!?」

「勿論だ。それにアレの相手には慣れている」

「そりゃ結構! とにかく強く当たって後は流れだ! 行くぞ!?」

「遅れをとらない様に努めようッ」


こうして30層での戦いが開始され、俺はモンスターの群れに突っ込むと初っ端から"ランスアタック"を放つ。

余波ダケでも十分な威力の"それ"は正面3体のデカントを後方に吹き飛ばし、後続の敵を将棋倒しにする。

一方アームズは"アンギラス"を両手に走り込んだ勢いをそのまま軽く50センチほど跳躍すると、クルリと左に回転しつつ槍を薙ぎ払って一体のデカントをブッ飛ばし俺が遣ったと同じ様に後方のモンスター達を巻き込む。

だが直後に2体のデカントに詰められるモノの、喉・心臓と急所を的確に狙った一突きで両方を沈めてしまう。

迷宮での乱戦には慣れている彼女は"単体"相手なら槍を突いて倒すが、基本的には薙ぎ倒す事が常らしく、戦闘スタイルは三●無双の槍持ち武将のモノを想像してくれれば良いだろう。

俺は別に剣武将は意識してないのは さて置き。

デカントの壁を崩した事により、その間をメルフェイスの氷の矢とサイゼルのレーザーが通り過ぎてゆく。

2人は主に確認できる限りの後衛魔法タイプを狙っており、前衛タイプを抑えるのが俺の役割と言える。

正直 サイゼルにクール・ゴー・デス級の大魔法を使わせればモンハウだろうが早期に勝負は見えるのだが、周囲の味方が凍死しかねない以前に、有る程度 皆に経験も身に付かせないといけないので切り札には出来ない。


「いっけ~ッ、幻獣ぅ!」

「はああぁぁ……ッ!!」

「(目が合えば)停止っ!」


尚 流石に数が多いので何体かのデカントが抜けてしまっており、コレは奴の知能からしては有り得ない。

恐らく中尉ハニーの戦闘指揮の影響であり、後衛に仕事をさせない気だったのだろう。

俺達の様な面子で無ければ苛めと言うレベルじゃないが、生憎 相場が違うので"それなりに厄介"な程度だ。

よって対処は可能であり……先ずはミルが幻獣アタックでデカントを転倒させると、自身を魔法でフルドーピングさせたウィチタが炎の剣で無防備な"それ"に斬り掛かり一撃で急所を突いて倒す。(所謂 絶対成功の暗殺)

同様に精神を集中させていたエレノアが別のデカントを金縛りにして、同様にウィチタが一撃で首を刎ねる。

此処で思ったが基本的に無防備な人間であれば幾らレベル差が有っても急所を狙えば即死だが、それを踏まえてるとデカントは相当な巨体なので、子供が寝ている俺をナイフで殺せてもデカントを殺すのは絶対に無理だ。

まァ何が言いたいのかというと、味方の支援が有るので炎の剣ならば容易にデカントを狩れると言うのに、ウィチタは消耗を覚悟で俺とメルフェイスの力量に自分の火力を合わせ様としている気がするのだ。

今日の戦闘は今回がラストなので別に問題は無いのだが、以前の件が有ったし どうも違和感を得てしまう。


『はにっ? 手強い。けど突撃~!』

「わわっ!? まだ来てる……っ!」

「下がって! 一体なら私でも……」


今現在の俺とアームズはデカントの次に主力と成っている"オッズ"を中心とした前衛モンスターと交戦中。

しかし"氷の矢"を放ち終えたら直ぐに新たな数十の"それ"を生成して嗾けるメルフェイスの援護が光る。

つまり全く問題ない状況であり、味方 後衛の様子を戦いながら確認する余裕も有るくらいだ。

"あちら"では生き残りのデカントに接近された事に驚いて術に集中できないミルだったが、彼女を庇うように立ち剣を構えたエレノアが、大きく振りかぶられた手から繰り出される棍棒を避けようとしていたが……


≪――――パシッ!!!!≫


『!?!?』

「えッ!?」

「非力ねェ」


何時の間にかレーザーでの援護を中断していたサイゼルが、片手で棍棒を受け止めていた。

抜けたモンスターからの後衛の死守。

コレがサイゼルの本当の役割でも有り、純粋なパワーだけなら俺を遥かに凌ぐんだよねコイツ。

さて彼女が不気味に口元を歪ませると、デカントのデカい体は"氷の魔人"の右手を通じて瞬く間に"棍棒から"武器ごと全て凍らされてしまう。

そしてサイゼルが指を弾くと途端に氷像が粉々になり原作のランス6の事を思い出して寒気を感じてしまった。

……と言うか"こんな奴"に良く勝てたモンだよな……明らかに油断して無ければ絶対に誰か死んでいた筈だ。


「あ、有難う御座います」

「別にアンタの為じゃないわよ! さ~て次はどいつを殺っちゃおう?」


≪――――バサッ≫


多分 助けずとも平気だったかもしれないが、しっかりと礼を言ったっぽいエレノアに典型的な事を言って(此方の声は僅かに聞こえた)浮遊するサイゼル。

そこまでダンジョン内の天井は高くないけど、彼女の視界を開かせるのには十分な空間が有る。

無敵ではないとは言え初っ端に遣らせても高レベルだし魔法で撃ち落される事は絶対に無いと思うが、あえて行わせなかったのは前述の様に彼女を頼りにし過ぎると後が苦しく成りそうだからだ。

だが開幕の最も厳しいタイミングを通過 出来れば後衛さえ守ったら好きにして良いと言っていた事から、本来の戦闘スタイルで戦えずストレスを溜めない為にも今の段階で浮遊したのだろう。

降り注ぐスノー・レーザーの角度から それを見ないで把握しつつ戦う中、俺の注目は次なる娘達に移る。


「――――縛ッ!」

『!?!?』

「えぇ~いっ!!」


≪ドシュウウゥゥッ!!!!≫


それはJAPANの3人組であり、主に迫るデカントは南条が式神で一瞬ダケ拘束させ、ウィチタが行った要領と同じで大道寺が急所(首筋)を狙って一撃で仕留めている。

冒険者であれ戦う機会が殆ど少ないデカントだが、軍用で活かされるモンスターで有る事から教科書通りの戦いと言うモノが確立されており、それは彼女達も例外では無かったのだろう。

それにしても大道寺は原作と違い表情を含めてかなり勇ましく戦っており、類似点は可愛い台詞ダケである。

だが其の辺は気にする所では無く、問題はレベル20の上杉謙信の方だろう。


「クッ! 数が多すぎる!!」

「オッズが そっちに行ったよ!?」

「やってみようッ」

『オオオォォォッ!!』


≪ブウウゥゥンッ!!≫


「遅い!!」

『……!?』


実は彼女達のフォローは敵の後衛を抑えている以外は何も行っていない。

流石に大半のデカントは最前線の俺とアームズで潰しているけどな。

よって"中尉ハニー"が後衛潰しを徹底している為か、大道寺を無視して複数のオッズが接近して来るが……

自ら踏み出して迎え撃った謙信が最低限の動きでオッズの拳を避け、刀による反撃を繰り出して即死させる。

それはレベル20とは思えない卓越振りで、相手は3体だったが時代劇の殺陣(たて)を思い出させた。

原作では敵軍に突撃してゆく脳筋と言えたが、技術力で言えば それを今の時点で上回っているかもしれない。

……とは言えレベルが低く攻撃が通らなければ意味が無いけど、レベル20と武器パワーが可能にしたのだ。

何気に謙信の持つ刀は相当な業物な他、ゲームだと回避はレベルが上がっても大きくは上がらない点も大きい。


「さっすが謙信さま……きゃっ!?」

「これが……力と言う物なのか……」

「(訓練の成果でも有るわね。でも何故ランス王は手を貸してくれないの? 他の皆は守っているのにッ)」

「!? 蘭ッ! 何故 小松の援護を止めた!? 私の事など構わなかっただろうッ!」

「えっ……小松!?」


――――そんな中 互いの少しの油断で隙が出来てしまい、それを逃さず大道寺の腰をデカントが掴んだ。


「や、やば~っ!? くぅッ……!!」

「今 助けるぞ!! 邪魔をするなっ!」

「ま、待って謙信! 此処は私が……!」

『(そろそろ私の出番かな?)』


大道寺の実力で有れば南条の援護無しでも手間は掛かるがデカントを倒せるだろう。

しかし物量が違う以前に謙信の方が気に成ってしまっていた事で、命綱の刀を落としたのが致命的。

片手で優に持ち上げられてしまった大道寺は、そのままデカントに握り潰されようとしていたが。


≪――――カヒュッ≫


『……!?』

「あ痛ッ!」


唐突に振り下ろされた"何か"がデカントの腕を切り落とし、大道寺が尻から あざとく落下する。

それによりデカントは形容し難い悲鳴を上げたが、即座に首をも斬り落とされ巨体が地面を揺らす。

やはり"出番"が来てしまった様で、たった今JAPAN組の手助けを行ったのはフェリスだったりする。

ロクに援護しなかったのは こう言う保険を掛けていたからであり、自力で切り抜けるに越した事も無い。


「わわっ! だ、誰!?」

「ありがとう。助かった」

「待ちなさい謙信ッ! 味方かどうか分からないでしょ!?」

『大丈夫です。主(あるじ)の命により貴女達の援護をします』

「あ、悪魔なのに~?」

「悪魔だったら何か問題が有るのか? 小松」

「ちょっと! こんな時に何時もの調子に戻らないでよ!」

「蘭~。言葉言葉~」

「うむ。普段通りに接してくれて嬉しい」

「!? い、いけない……ホント調子狂うんだからッ(でも……ちゃんと考えてくれていたのね)」


――――こうして戦況を安定させた俺達 一行は、徐々にラインを上げ後続を狩りつつ前進してゆく。


『ヤバいヤバイい強すぎーっ! はにほー撤退!!』

「(そうはいかないわ)」


≪ガキンッ!!≫


『あいやー!!』

「任務完了(……なんちゃって)」


それにより"中尉ハニー"の作戦は意味を成さなくなり、あるタイミングでピタリと組織的な攻撃が止む。

何時の間にか姿を消し敵群に紛れ込んでいた かなみが背後から鞘で打撃を行い、指揮官を割ったのである。

彼女の本気の打撃を食らえば俺でも余裕で頭蓋骨が陥没するのは さて置き、後は何時もの攻略と変わらない。

そして向かって来る全てのモンスターを倒した時には31層に降りる階段が見えていた。

進んだ距離は200メートル程度であるが、相当なモンスターが控えていたと言える。

頭数の少ないPTを此処で潰すには丁度良い広さだったし、密度とのバランスが悪い意味で非常に良かった。

だが あえて此方から"それ"に挑む事で大量の経験値を得るのが目的だったので、むしろ良い経験にだったな。


「ようやくカタが付いたか」

「やれやれ。流石に肩がこったな」

「そりゃデカいからな」

「何が大きいんだ?」

「な……何でもない」


――――此処で 視線をアームズからかなみに移すと(恐らく)無意識に彼女は右手を胸に添えていた。


「やっとゴールか~、歩き疲れたよ~ッ」

「最初は肩車してやってた だろうが」

「あたしは ちっさいから進むのが遅いの!」

「何を言うか自称 大人の女ッ」

「でも……何とか成ったみたいだね」

「あァ。明日も この調子で頼むぞ? エレノア」

「う、うん。こんな程度で良ければ……」

「それよか足が震えてるが大丈夫か?」


――――俺はハッとして足元を見るエレノアをスルーして、今度は謙信たち(+悪魔)への方へ歩み寄る。


『ランスさんッ』

「御苦労だったな。フェリス。君達も御疲れさん」

「……ランス殿……」

「お疲れ様でした~」

「や、やはり彼女はランス王が使役していたのですかッ」

「そう言う事だ。もしもの時の為に保険を掛けさせて貰った」

「め、面目ない限りです~」

「…………」←緊張して喋れない謙信

「(どう言う経緯が有ったか気になるけど、助けて貰って聞くのは無粋ね)」

「今後はレベルも上がって更に自衛が楽に成るだろうが。特に謙信殿は今回の危機感を忘れないでくれ」

「!? わ、分かりました……貴重な経験を感謝致します」

「それでは戻る前にレベルアップの儀式を行おう。フェリス。魔物が寄り付かない様に見張りを頼めるか?」

『畏まりました!!』

「ちなみに俺達が帰還したら 30層までの魂とかは好きにして良いからな?」

『はは~ッ。有難う御座います』←土下座

「……オマエって そんなキャラだったっけ?」


――――フェリスは俺の指示で姿を消し、謙信・南条・小松と共に元の位置に戻ると氷コンビが目に留まる。


「こ、これで良いのかしら?」

「そうそうッ。こうやって構えてトリガーを引くの!」


≪バシュッ!! バシュッ!!≫


「わあ~凄いわね……でも此処まで くっ付く必要は無いと思うんだけど……?」←既にサイゼルにタメ口

「そんなの気の所為よッ! 気の所為!!」

「何 遊んでるんだ。早く最後の用事を終わらせて帰るぞ?」

「(た、多分レベルは上がってると思うから、後で またランスに……)」

「クッ……(既に私には意味の無い儀式……だからと言って……)」




……




…………




……数時間後。

デンジャラス・ホールの30層でレベルアップの儀式を終えた俺達は、宿に帰還すると皆で食事を採る。

其の合間に再び限界レベルに成った かなみに せがまれて路地裏でのセックスを十数分 程度で済ませた後。

廊下で すれ違ったサイゼルと行動中だったメルフェイスの"たすけて ほしそうに こっちを みている!"視線を仕方なく回避した末、今現在の俺は自室で一人 今日の戦果を振り返っており皆のレベルの変化は以下の通り。


俺 54→56

かなみ 51→52(才能限界)

メルフェイス 48→50(才能限界)

サイゼル 88→89

アームズ 41→44

ミル 22→32

エレノア 20→30(才能限界)

謙信 20→30

南条 30→35

大道寺 35→40


分かっている通りウィチタは才能限界の為、ウィリスは今回も指示通りに野暮な発言を飛ばしてくれた。

だが2名は一度 抱けば才能限界値を1~2伸ばす事が出来るが、彼女は今のトコロ"その予定"は全く無い。

それに劣等感や負い目を得る必要は全く無いが、ウィチタは生真面目なので今日の様子から見ると気にしてる。

……とは言え生憎 帰還後は かなみの相手やミルとの会話とかで手が全く空かなかったので、彼女のフォローをするのは明日の朝 以降にしようと決め、ベッドで寝ッ転がりながら どう声を掛けようか考えていたんだが……


≪――――バタンッ≫


「す、すみませんでした。突然押し掛けて」

「まさかメルフェイスの方から来てくれるとは思わなかったな」

「……御迷惑でしたか?」

「そんなワケ無いさ。それよりも どうやってサイゼルを撒いたんだ?」

「フフッ。一度 隙を突いてイかせたら大人しく成っちゃいました」

「流石 経験 豊富なダケは有るじゃないか」

「余り苛めないで下さい……明日 顔を合わせ辛いんですから」

「むしろ俺としては更に好かれる気がするけどなァ」


何気に少ない機会に なってしまった、一人での休息も束の間。

どうやらメルフェイスも かなみと"同じ事"を考えてた様で……夜コソコソと俺の部屋を訪れて来たのだ。

それ故に結局 明日のフォローの内容を考える事が出来ず仕舞いで、一発を終えた時点で互いに疲れてダウン。

所謂"二人は幸せなキスをして終了(爆睡)"であり、まどろみと同時に明日の自分の采配と体力が懸念された。


「生憎ランス王は御疲れです。お引き取り下さい」

「し、しかし今回の礼を まだ ちゃんとッ」

「お引き取り下さい」

「うっ……」

「仕方無いですよ。謙信様。今日は諦めましょ?」

「そうですって~ッ、失礼しました~!」

「(ハァ……別に頼まれたワケじゃないけど、何で私が こんな恐れ多い事を しなきゃダメなのよッ)」




●レベル●
ランス   :56/無限
かなみ   :52/40(+14)
メルフェイス:50/48(+4)
サイゼル  :89/120
ウィチタ  :35/35
アームズ  :44/47

ミル    :32/34
エレノア  :30/30

上杉 謙信 :30/70
南条 蘭  :35/38
大道寺小松 :40/43

*アームズの限界レベルが間違っていたので44→47に修正。
*かなみ&メルフェイスの括弧の数字を元の限界レベルと足した数値が現在の限界レベルと分かる様に修正。




●捕捉●
かなみ→既に公衆でランスにフェラチオしろと言われても躊躇無く行える程 彼が好き。絶対に言わないけど!
メルフェイス→サイゼルに纏わり付かれてる事 自体は全く悪く思って無いが、同時にランスに依存している。
サイゼル→メルフェイスと一緒に居るのは やはり初めての相手だから。ランスに対する照れ隠しとも言える。
ウィチタ→再びランスに限界レベルを上げる方法を問い詰めたいが、以前の会話の内容を振り返っては躊躇。
アームズ→予想より遥かにランス達が強くて正直 驚いているが、今はバトルの方が楽しいで彼の事は二の次。
ミル→皆で楽しく攻略している感覚で危機感の概念は無い。ランスも分かってるので守れば良いと思っている。
エレノア→自分に自信が無いので皆が強くて自分が弱いのは必然と認識。ミルも来てると言う責任感から奮戦。
謙信→唐突に強くなった事に実感が湧かず戸惑っている心境。その為ランスに対する緊張が少し逸れている。
蘭→龍馬と同様でレベルにしては原作よりかなり強い。炎の魔法も使えるが今回は式神による支援重視で戦う。
小松→同上。一人でリーザス正規兵10人以上は手玉に取れる腕を持つ。此処の冒険者など相手にも成らない。




●あとがき●
デンジャラス・ホールの攻略は始まったばかりですが早くランスをリーザスに戻したい為 早く終わらせます。
それからは"一週間後"とかザラで行いたい所。尚"二人は幸せなキスをして終了"とはググッてはいけませんぞ。
火力ではメルフェイスが非常に便利。でも初期レベル65のナギや56のアニスには劣るので更に強化ですね。



[12938] 鬼畜王じゃないランス22
Name: shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2014/02/01 21:23
鬼畜王じゃないランス22




=LP03年06月3週目(火)=


メルフェイスに夜這いされた……いやデンジャラス・ホール30層の攻略を終えた翌日の朝。

先に目を覚ましたと思ったらしく俺の寝顔を見ようと身を乗り出してたメルフェイスだったが。

ワザとタイミング良く瞳を開く事で大慌てして謝る彼女を見て楽しませて頂いた後。

全裸だったので互いに隠しもせず着衣を開始する中、自然な流れで以下の様な会話を始めていた。


「そう言えばメルフェイス」

「は、はい?」

「昨日しつこかったっぽいサイゼルだが、本当のトコロどうなんだ?」

「どう……とは?」

「レズった件から今に掛けて懐かれっぷりがハンパじゃ無いだろ? 旅の負担に成ってないのかと思ってさ」

「…………」

「お前の事だから嫌っては無いと思うが、困りつつ有るなら出来るだけ俺が相手をしとくが? 扱い易い奴だし」

「御気遣い有難う御座います。ですが問題は有りません」

「ホントか?」

「確かに困ってしまったり対応に悩む事は多々有りますが……彼女との触れ合いは何と言うか……新鮮ですから」

「新鮮だと?」

「はい。私は"リヴ"の影響で今迄 人を避けてばかりの日々でしたから……あれ程 近付いて来る人は逆に異例で……」

「あァ。あまりにも極端なパターン過ぎて、むしろ清々しいと?」

「そうですね……とは言え信じられないかもしれませんが、私も小さい頃は まだ明るかった方だと思いますけど」

「生憎 想像がつかないなァ」

「クスッ。そう正直な所はランス様の良い所の一つだと思います」

「そ、そうか? なら野暮な事を聞いてしまうが……やっぱ副作用の当初は色々と"探した"んだよな?」

「えぇ。当初は私の"全て"を受け入れてくれる男性を探そうとした時も有りました……ですが例え親しくなろうと結局は離れ……」


――――淡々と着衣を終えた辺りで口ごもるメルフェイス。恐らく辛い思い出が多々有ったのだろうが今や隠し事は無しだ。


「あ~ッ。それも何となく理解できた。人間じゃなくて魔人だがサイゼルは"その体"に成ってからエロい事をした上に事情を知った後でも初めて"積極的"に接触して来たヤツだったから、良い意味で困ってるダケに過ぎないって捉えて良いんだな?(俺の事に関してはカラダの事を理解はしたが立場上アイツみたいにベタベタとは出来ないから除外しているが)」

「……そッ……そうです。行ってしまった事は覚えていたので、相手が相手ですし嫌われる以前に最悪 殺されてしまう事も覚悟していたのですが……直後は気まずく成ったダケで特に何も無いドコロか私を抱えて飛んでくれ……ランス様に代わりに説明して頂いた後も距離を取ったりはせず何故か逆に縮まり……傍から見ると仰る通りに見えたのでしょうが、時には私の副作用を心配してくれる様な事も有り……今や私から突き放す気は有りませんね」

「詳しい説明を有難う。まァ野暮な心配だった様で何よりだ。それよか軽い気持ちで嗾けるような事をして悪かった」

「それだけ私とサイゼルの事を理解されていたと考えていますので、気に病まれる必要は有りません」

「助かるよ。では引き続き相手をしてやってくれ。傍から見ると遣り取りは姉妹みたいで面白いしな」

「ふふふっ。その本当の妹さんの事を語りだすと止まらなくなってしまうのが玉に瑕ですけど」

「タマニキズ? 極端な話 不満はソレだけって意味ならホント随分と気に入ってるな。俺は沢山有るのに(……けしからん衣装とか)」

「えっ?」

「んっ?」

「それではランス様は……サイゼルが苦手なのですか?」

「!? 何故そうなる。デキの悪い妹と捉えれば不満なんて幾らでも出て来るモンさ。そもそも"仲間"だし嫌ったりはして無いぞ?」

「…………」(しょぼん)

「そ、其処で何でメルフェイスが残念がるんだよッ? 俺 何か変な事でも言っちまってたか?」

「いぃえ……そう言う訳では無いのですが……」


――――皆と合流するべく既に宿の廊下を2人で歩いている中、彼女の意外な反応も有り互いに足を止めてしまったのだが。


「無いのですが?」

「えっと……あッ……」

「????」

「私からは申せませんね」

「な、何ィ~っ?」

「それよりも急ぎましょう? ランス様!」

「ちょっ!? 引っ張るなって!(何気に強い力だッ)」

「……(サイゼルはランス様が居ない時は貴方の事も沢山 話すんです。ですから彼女はきっと"仲間"としてでは無く……)」

「分かった! 歩くッ! 歩けるから!!」


天然だろうが何かを思い出した素振りの後、メルフェイスは強制的に話を終わらせると俺の手を引いて歩き出す。

何と言うかこういうタイプの性格のキャラに今の様な翻弄を受けると負けた様な気がするのは置いておいて。

間接的にとは言え今の"申せません"で"山本 五十六"が妊娠した後のハーレムでのランスとの会話を思い出した。

つまりメルフェイスが俺に対するサイゼルの想いで何を知っているのかと言うと……鈍感でも無いし少し考えれば分かる事だった。

だが原作のランスとサテラの関係を思い出すと地味に切ないしで、無意識に深く考えない様にしていたんだろう。

彼女は そもそも魔人だし"強化"の必要性がほぼ無いので抱くと言う発想すらしなかったが、改めて考えると普通に美しい。

反面 性格に問題が有ったので色気を悪い意味でカバーしてたけど、容姿は大人だがガキっぽいってのは普通に守備範囲だ。

しかしながら。

だからと言って性欲を感じてしまえば今後キリが無いので、どうしても必然な場合以外は蟠りナシ前提でスルーする方針だ。

それは勿論サイゼルとて例外ではなく、正直 今の彼女との距離関係は気に入っているので相手してるメルフェイスには感謝せねば。

特に意味も無く振った話題だったんだけど、目を逸らしていた現実に気付かせてくれた事にも重ねてな。


「……ッ……」

「お~い。いい加減 放さないのか? この手」

「い、今は私が握ってたいダケですからッ」

「ははッ。仕方無いな……下に降りる迄だぞ?」




……




…………




……やや長い木造の廊下を歩く事 十数秒後。

階段に差し掛かると自然と視界に入って来るのは食堂だった。

吹き抜けに成っている事から大体を見渡せる事ができ、半分ほど降りた辺りで仲間達を発見する事が出来る。

今の時点で自然と(恥ずかしいのか)メルフェイスが手を放していたのは捕捉として。

まだ寝ているのかサイゼルの姿だけ確認できないが、他の8名は確認でき"6名"はテーブルの前に座っていた。


「ら、ランス王ッ」

「お早う御座いますッ!」

「おはよ~ございます!」


≪――――ガタッ≫


「お早う。昨日はお疲れさん」


そのうち最初に謙信が俺に気付いた……と言うか最初から階段の方を見ていたらしく。

彼女が慌てた様子で立ち上がると並んで座っていた2人の連れも続いて起立した。

対して過剰な畏まりとは感じれど咎めるのも どうかと思うので、それを流しつつ朝の挨拶を交わす。

一方 視線を右に移すと手前から述べて、思いの他ハマったのかサイゼルの漫画を読んでいたミル。

恐らく南条あたりと雑談してたっぽいエレノア。

先日買った雑誌を読んでいたアームズと続きJAPAN組との温度差が激しかった。


「ランスッ! おはよ!!」

「ちゃんと早起きしてたみたいだな。感心だ」

「お早うランス君……良く眠れた?」

「ま、まァ問題ないぞ」

「早速出発するのか?」

「軽く摘まんだらな。それよりもだ」


俺はミルら3人とも言葉を交わすと軽く手を振りつつ、宿の入り口の方へと歩みを進めた。

其方には残りの2人・かなみとウィチタが居たからであり、互いに背を向けて何者かと向かい合っている。

当然 気にならない筈は無いので近寄ってみると、其処にはウィチタの相方でも有る"カクさん"が居た。

以前も述べたが鬼畜王ベースらしく相変わらずニコニコとしており、直ぐ俺に気付くとペコりと頭を下げる。

……とは言え凄まじい距離を経て此処に訪れたのは間違いないだろうに、一見 普段通りにしか見えない。


「ランス王~、おはようございます~」

「あァお早う。流石に疲れたんじゃないのか?」

「(恐らく徹夜でしょうね)」

「(流石に私の目は誤魔化せないわよ? カオル)」

「いぃえ~御気遣い有難う御座います。それよりもマリス様より手紙を預かっておりまして~」

「ふむ……余程の内容みたいだな。すまない直ぐに確認しよう」

「どうぞ~」

「ウィチタ。彼女に何か冷たいモノを拵えてやってくれ」

「か、畏まりましたッ」

「あらら……(煩わせないつもりが先手を打たれてしまいましたか~)」


手紙をカオルから受け取った俺は入り口から少し離れると、その場で躊躇せず開封した。

すると其処には凄まじく綺麗なマリスの字で、早い話リーザスに戻った方が良いと"遠回し"に書かれている。

当然マトモに引き返すと一週間は掛かる事から相応の予定を立ててスタンバってくれてるみたいだが……

それなりに記されている内容は多いので、全て読み切ってから詳しく考えようとするんだけど。

ミルをはじめ皆が空気を読んで俺の邪魔をしようとせず、背後のかなみも気になっている様だが覗き込んで来ない。

だが俺が手紙から視線を逸らすと、やはり子供かソレを見計らったミルが率直な事を言う。


「ねぇねぇ。何て書いてあったの~?」

「……直ぐリーザスに戻って来て欲しいらしいな」

『!?!?』

「で、では……リア様がやはり……?」

「怒っている様では有るが少し違うな」

「差し支えなければ理由を教えて貰っても良いですか?」(皆の前だと敬語を使っている かなみ)


メルフェイスは"リアがキれているので戻ってください"とマリスが促したと予想したみたいだが。

それは無く"帰ったら抱いてやるから大人しく待ってろ"と言うコトバを信じて"一応"は大人しく待っているらしい。

だが何人もの親衛隊とかの生娘を用意したりと準備を勝手に始めているらしく、返事には"止めさせろ"と足して置くか。

ならば帰還を促す別の理由は何なのかと言うと、正直 驚きを通り越してしまっており案外 俺は冷静だった。

よって特に表情を変えず全員の疑問(特に驚きの様子からJAPAN組)を代弁してくれた かなみに答える。


「来週のアタマにAL教団 新法王とやらがリーザスを訪れるらしい」

『……!!』

「対してリーザスは返事を待たれている状況らしいが、王が居なくて判断しかねるので早急に返事が欲しいとさ」

「ず、随分と大きな理由なんだね……」

「あァ。詳しい用事の内容は全く分かって無いらしい。寄付金をせびるのに法王は来ない以前に、許可させてるしな」


――――俺と同じ気持ちなのか目を丸くして静かに驚いていると言った感じのエレノアに続いてメルフェイスも口を開いた。


「リア様は……どう対応されたのですか?」

「(原作のレイラさんの事も有るし)重要度が高い あらゆる外交は全部俺に回す様に言っている。マリスには内容次第じゃ任せてるが」

「それじゃ~どっちが王女様か分かったモンじゃ無いね~ッ」

「わりと気にしてそうだから言ってやるなよミル。ともかく今から大急ぎで戻って何とか間に合うかってトコか?」

「だ、だとすればデンジャラル・ホールの攻略はッ」

「うぅ。昨日は貸しを作ったばかりなのに~」

「仕方無いわよ2人とも……状況が状況なんだから」


此処で ようやく軌道に乗ってきたのを実感している謙信達3人が苦虫を噛んだ表情を浮かべている。

宥める南条も悔しそうなので、部隊と援助は既に託されど俺達の攻略の役に立ったと言う自覚は無いのだろう。

謙虚な事は結構だが、俺にとっては彼女達を迎え入れる事が出来た時点で大きな収穫なので気に病む必要は無いのだ。


「……う~む……」

『…………』

「あの……ランス王。許可を頂ければ私が早急に帰還の手配を致しますが……」

「いや待てウィチタ。その必要は無い」

「えっ?」

「リーザスには"まだ"戻らん。週の末までは普通に攻略しよう」

「良いのか? こんな所で油を売っている場合では無いのは幾ら私にでも分かるぞ」

「ちゃんと"考え"が有るから大丈夫だ。と言うか露骨に残念そうな顔で見つめて来てたろアームズ」

「さてな?」

「それ以前にマリスの手紙には"直ぐ戻れ"と言う様には書いていなかった。アイツの性格から考えて法王が来るからって、魔人の対策と言う目的を持って動いているリーザスの王を蜻蛉帰りさせる様な選択肢はハナから無い。AL教団に多少 反感を買われる程度なら"リアが居るリーザス"の威厳とプライドの方が余程 大切だろう。即ち僅かな遠回しで俺……様が解釈したに過ぎないのさ。滞りなく謁見を済ませるには俺様が私用を保留してサッサと戻る事が一番 妥当な判断だからな」

「(私にとっては法王様の件よりランス君がそう言う解釈が出来る事の方が驚きだよ……)」

「では今は切り替えるに限りますね」

「そう言うことだ かなみ。じゃあ部屋で返事を書いて来るから皆は先に飯を食っててくれ」

「やった!」

「其処は抑えましょうよ~謙信様~。どっちの意味で喜んだかは分からないけど~」

「素直なのは結構だけど少しはランス王を見習いなさい(策は有る様だし詮索は無粋ね)」

「では食事を終えたら各自 準備を済ませ正午に宿の入り口に集合だ。その際メルフェイスはサイゼルが まだ寝てたら起こしてくれ」

「……分かりました……」

「少々今日の集合時間は遅く有りませんか?」

「ん。手紙を書く時間が欲しいのと、リーザスに蜻蛉帰りする娘が居るだろ?」

「あッ……」

「心遣い重ねて感謝致します~」

「何ならオマエが届けに戻るか? かなみ」

「だ、駄目ッ! この位置は譲れないわ!」


現実的に考えれば今週一杯ダンジョンに潜ってしまうと、来週アタマにリーザスに戻ってからの法王との謁見は無理だ。

よって本来ならばマリスの気遣いあれど大至急 戻るべきであり、クルックーとか言う奴を知らないなら尚更である。

それなのに何故 継続を決めたのかと言うと当然"考え"が有り、経験値は稼ぐがリーザスにも速やかに戻ると言う一挙両得。

"ある者"が居なければ出来なかった奇策と言え、こう言う時に利点を活かして貰う為に日々努めていたと捉えて貰って良い。

生憎 断られれば終了なのだがメルフェイスとの会話で考察した様に上手く説得すれば問題なく、誰かも直ぐに分かるだろう。




……




…………




……約2時間後。

書き物を終えた俺は少し休憩を挟んでから、食堂で茶を飲みつつ寛いでいたカオルに手紙を渡した。

そしてペコリと丁寧な お辞儀をしてから去ってゆく彼女の背中をウィチタと共に見送ると、その場で深い溜息をついてしまう。

だが歩き去るカオルが見えなくなった辺りで気持ちを切り替えると、俺を心配して見てたウィチタを下がらせて視線を移す。

すると その先には先程 皆が座っていたテーブルの前で一人、足を組んで麺料理(っぽいの)を啜っている魔人が居た。

只でさえ彼女の姿でガツガツと食事をしているのはシュールなのだが、麺をフーフーしている様子も何とも言えない光景である。

そんな残念な美人で魔人なサイゼルとは言え今後の(大袈裟だが)命運を握る者なのは間違い無く、俺は彼女に近付いて声を掛けた。


「サイゼル。ちょっと良いか?」

「ズルズルズル……ッ……ゴクン。うん? どうかしたの? ランス」

「イキナリだがオマエって前にメルフェイスを抱えて飛んで来た事あったよな?」

「うん。あんま思い出したく無いけど……それが ど~かしたの?」

「正直なトコ、俺みたいな奴でも持てるのか?」

「……アンタの事だから理由もなしに聞く話じゃ無いわよね? 何か理由でもあんの?」

「無駄に勘が良いな。じゃあ順を追って説明するが……」

「あッ。ちょっと待って。コレは温かいウチに食べちゃいたいから。後なくなったし水 持って来てくんない?」

「お前 氷の魔人だろうが……猫舌なのかよ?」

「う、五月蝿いわねッ。それと出発 遅れるなら言ってよ! さっき起きたら誰も居なくて焦ったじゃないッ」


――――しっかし今から無理な相手に無茶な注文をする筈なのに、楽勝だと思ってしまうのは気の所為だろうか?








●あとがき●
短いですが更新です。大変長らくお待たせしております。昨年の後期はオンラインゲーム(特にFF14)に熱中し過ぎました。
現在ライトプレイに戻っているので此処で連載させて頂いているSSのいずれかを一ヶ月に最低1本投稿したいと考えてます。
今回は戦闘が無かったのでレベルの表はありませんが、コメントでアームズの才能限界は44が正しかった様です。感謝です。



[12938] 鬼畜王じゃないランス23
Name: shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2014/03/15 03:29
鬼畜王じゃないランス23




=LP03年06月3週目(金)=


来週アタマにリーザスに意外な人物の訪問が有る事が分かった訳だが。

本来 大慌てして帰還しても仕方無い人物とは言え、知っての通り俺はダンジョンを優先させていた。

それに関して特に仲間の皆からの追求は無く、JAPAN組みは大陸の教団には疎いので仕方無いとして。

かなみとメルフェイスすら特に何も言って来ないのは、俺が決めた選択が何よりも優先させる事だと思ってくれているからだ。

マリスの様に何事であれ最初からリーザス(特にリア)を最優先させる者ならともかくとして。

どちらかと言うと優柔不断ともいえる性格な2人が、躊躇無く俺との旅の継続を選んでくれるのは地味に嬉しいモノである。

それはさて置き、先日のカオルの訪問から3日経った今 ダンジョンの攻略は急速に進んでおり……




――――デンジャラス・ホール48層。




このダンジョンに置いて、今更ながら分かっていた事だが敵の湧きには大きく3パターンあった。

ひとつ目は"中尉ハニー"の様な指揮官型が大量のモンスターを集めて待ち構えているモンスターハウス。

ふたつ目は此処でも他の迷宮でも多く見られる、指揮官も強力なモンスターもいない容易に経験値を稼げるパターン。

そして みっつ目が魔物の洞窟の"マーダー"や解呪の迷宮の"ハウ・キュッ"の様なボスモンスターが待ち構えているパターン。

今現在がまさに"それ"であり、此処みたいな大迷宮にも成ると原作以外の場所でも普通に出てくるらしい。


「少し数が多いが……指揮官のハニーは居るのか!? かなみ!」

「指揮官の姿は有りませんッ! でもアレは……ひ、ヒトラー!?」

「何だと? まさか"こんな場所"で目にするとは」

「皆 緊急事態だ!! 即 攻撃魔法を撃てッ! 前衛は近寄って来るヤツだけ相手にしろ!!」


48層に降りて先ず行ったのは既に定石ともなる、かなみによる敵の戦力の確認。

すると今回はランスⅥのトラウマとも言える2メートル越えの人造魔法使い"ヒトラー"が待ち構えていた模様。

だが熟練の冒険者で有っても一生 見る事も無いような強力なモンスターなので、脅威が察せたのは一部の者ダケだった。

それはアームズも含まれており、後から聞いた話によると彼女でさえ今日初めて遭遇した模様。

一方ミルみたいな娘が脅威を認識できる筈も無く首を傾げていたが、俺の只ならぬ雰囲気に表情が動揺を表した。


「ど、どうすれば良いの!?」

「最悪 幻獣を壁として使わせて欲しいッ! 何時でも出せる様にしてくれ!!」

「!? うんっ! 分かった!!」

「えっと、えっと……」

「エレノアも魔法役だ! とにかく撃ちまくれ!」

「は、はい!」

「もう詠唱を始めていますッ!」

「早くしろッ! 間に合わなくなっても知らんぞーっ!?」

「氷の矢……どんどんゆきますッ」

「(溜めて置いて良かったわ)先手必勝!! ファイアーレーザーッ!」

「何にせよ何時も通りね!? スノーレーザーッ! スノーレーザー!!」


指揮官が居ない事から敵の前衛はまだ接近して来ておらず、申し訳程度の雷魔法を撃ちながら指示を出す俺に他の者達も続く。

それにより目の前に居る殆どのモンスターが先制により薙ぎ倒され、残ったモンスターが近づいて来るがヒトラーは詠唱継続。

此処で指揮官ハニーが居る・居ないでのとの最大の違いを考えると、真っ先に浮かぶのが魔物の数と統率能力なのだが。

味方を巻き込む事を理由に戦術的に不要なのか"大"魔法を使って来ないと言うのも大きな特徴であり普通に助かる仕様だった。

だが今回は普通の(ボス)エンカウントであり……元ネタに関係が有るかは謎だがヒトラーは魔物ごと俺達を葬る気な様子。

威力は謎だが"フォッケウルフ"を使われたらサイゼルと俺以外は蒸発する確率が極めて高いので、何としてでも対応せねば!


「ど、どうしましょう~? 謙信様」

「ランス王の指示通り後ろの者達を守る様に努めるしか有るまい」

「(だったら防御式神よりもランス王を信用して……)」

「此処は通さないよ~っ!」

「命が惜しくなければ来るが良い」

「今日で全部 使うしか無いって事ね!? 式神・鳥ッ!」


戦闘を開始している仲間達を様子を見て思うが、3日間の攻略によって得た事の一つとして。

"上杉 謙信"が目覚しい成長を遂げており、アームズと肩を並べて戦える程の剣士へとレベルアップしている事が挙げられる。

それダケでなく原作と違って直江の命令を無視して突っ込む様な猪突猛進では無く、指示通り行動する謙虚な戦闘スタイル。

更に常に3人固まって行動していたJAPAN組みだったが、連戦の中で信頼度が上がったのか戦闘開始後は皆に紛れている。

今は基本的に俺の前にアームズが立ち、左右に謙信と大道寺が控え……メルフェイスやサイゼルの近くに南条も立つ。

コレに置いて前衛の立ち居地は非常に重要だが、中衛以降は其処まで重要では無く細かい指示は俺が行うようにしている。

短い間とは言え頼りに成る前衛が3人に増えた事から、それなりの戦闘力を持つ俺だが真っ先に直接攻撃はしないのだ。


「このっ!」

「当たれ!」


確かにヒトラーは恐ろしいが他の魔物の質や数は大した事が無く、大半のモンスターが魔法の嵐によって蹂躙される。

だが生き残りは突っ込んで来るので前衛3名が抑え、かなみと魔法を放ったウィチタが後衛の魔法型モンスターに飛び道具を投げる。

それぞれが手裏剣・投げナイフを急所に向かって放ち、原作では強いモンスターも人間と同じく急所を損傷すれば即死なのだ。

コレが俺が最も恐れている死に様で有り、危機察知能力が高い かなみは既に欠かせない存在。

戦国ランスのイベントを見る限りでも、忍者の恩恵で何度も御都合主義でランスは即死を免れており密偵の充実も課題である。


「仕留めた! 残りはゲーリング2体!」

「クッ……(私は一体に当たったのみね)」

「でかしたぞ!? メルフェイスとサイゼルで確実に一体づつ殺れ!!」

「はいッ!」

「左頂き!」

「良しっ! これで奴を俺が――――」

「!? ら、ランス様ッ! 魔法が来ます!」

「そう来たか!?」

『"ビスマルク"!!』


≪――――キュボボボボボボボボッ!!!!≫


「なッ!(避けられん!)」

「アームズ!?」

「ミル! 幻獣を!」

「わ、分かった!」


無論"この世界"の戦いでは鬼畜王の"兵士ゼロ"以上に容易に人間は死に至り、ランス6の様に戦闘不能による戦線復帰も無い。

その危機感を"ハウ・キュッ"との戦いにより強く認識した事から、今回のヒトラーも行動も想定の範囲内だった。

ヒトラーの"溜め"は"フォッケウルフ"の段階に迄 至っておらず、撃ちたいモノなら その前に必殺技で倒せば良いダケだ。

しかし素早く取り巻きが倒された事から早い段階で魔法を放って来るのが予想でき、まさに"そうなった"と言うワケである。

何処から出した声だか一直線に放たれた"それ"にモンスターを倒した直後のアームズは身構えるしか無かったが……


≪シュウウウウゥゥゥゥ~~…………≫


「ら、ランス」

「大丈夫か?」

「それよりッ」

「問題ない。レベルが高いからな」

「……っ!!」

「かなみ!!」


初撃の魔法以外は何も行動していなかった俺が、地味に背負っていた"聖盾"を右手に咄嗟に割り込む事で魔法を防御。

貫通型の魔法の為に謙信と大道寺は無害だったけど、2人のどちらかに放たれていたら当然 其方を庇っていただろう。

また後ろに流れたビスマルクの余波は、エレノアの指示によって幻獣を放ったミルの活躍より被害は無いに等しかった。

よって上手く切り抜けたと言って良いのだが……全身が明らかに熱いので、それなりのダメージを被ったらしい。

魔法耐性も有る高級な鎧とは言え今装備を外したら普通に火傷を負ってそうだ……少なくとも生身の人間なら蒸発だろう。

だがガクリと膝を着きながらも既に消えていた者の名を叫ぶと、既に かなみがヒトラーの後方でカラダを反らしており……


「(死ねッ!)」

『!?!?』


≪――――ガッ!!!!≫


駆け足で軽く前に踏み込みつつ放ったに過ぎない短剣の一撃でしかなかったが。

コレが"暗殺"と言う技なのだろうか、背後から直撃を受けたヒトラーの首が宙を舞いクルクルと回転しながら地面に落ちた。

それにより戦闘終了と成り、直ぐに立ち上がれない状況の俺に背後のアームズと2人の剣士が声を掛けてくる。


「すまない……命拾いをした」

「その為の装備と立ち位置だ。気にするな」

「だ、大丈夫なんですかぁ~っ?」

「かなり熱いが世色癌を飲めば問題ないさ」

「しかし かなり焦げている様ですが……(お肉が焼けそうだ)」

「そうだな。メルフェイスに冷やして貰おう」


≪――――たたたたっ≫


「た、直ちに!」

「早く立ちなさいよ~っ、情けないわね~!」

「そうよランスッ! 男でしょ~!?」

「あ、あのね? 2人とも……」

「良いさエレノア。サイゼルとミルの言う通りだ。それよりも南条。"取って置き"は まだ有るのか?」

「は、はい。残り一回分のみですが……」

「ならば一気に50層まで抜けるか。レベル神を呼び出したら次に進むぞ? ウィチタは周囲を警戒しててくれ」

「か、畏まりましたッ」

「かなみ! そんなモン睨んで無いで早く来い!」

「……了解」


恐らく"これ以上"の迷宮ともなると、才能限界レベルの低い者達を連れて潜るのは不可能に近くなるだろう。

レベル30程度ならば、上級モンスターの初級魔法を受けたダケでも体の一部が吹き飛び死に至るのは明白だ。

それを高レベルの者達が防ぎつつ戦う事も"可能"では有るが"確実"では無く、何度も渡れる程 安全な橋ではない。

また無理について来た者も死の恐怖と隣り合わせに成るのは勿論、足手纏いだと言う劣等感に悩まされる。

よって かなみやメルフェイスの様な"強化"が可能な者や、謙信やサイゼルの様な才能限界が高い仲間が必要な訳だが……

たかが3ヶ月程度で解決される問題では無いし、無理に上の迷宮を目指すより今回の様な下積みの攻略をメインにするべきか。

しっかし夢とも言えるハーレム・パーティーだと言うのに、敵が強くなる度に新たな悩みが増えちまって皮肉なモンだな。




……




…………




……数分後。


『ランスさんは経験豊富とみなされ、レベル61となりました』

「はっはっは。また強くなってしまった」(棒)

『かなみさんは経験豊富とみなされ、レベル58となりました』

「まだまだ精進しますッ!」

『メルフェイスさんは経験豊富とみなされ、レベル56となりました』

「あ、有難う御座います」

『サイゼルさんは経験豊富とみなされ、レベル91となりました』

「へぇ。今回も上がってたか~」

『謙信さんは経験豊富とみなされ、レベル50となりました』

「これも皆様と毘沙門天の加護の御蔭です」

『今回は以上ですね。それでは皆さん御機嫌よう~っ』


≪――――ぽんっ≫


ウィリスによるレベルアップの儀式に置いて、以前からレベルアップした者だけの名を告げるように頼んでいたのだが。

毎度の事"上がっていない娘"の視線が痛く感じるように成って来ており、素直に喜びを表す事が出来ず苦笑いする俺だった。

警戒中のウィチタは勿論の事、アームズを含む才能限界の誰もが"この時"は少し居た堪れない様な・怪訝そうな表情をしている。

"才能限界を告げられていたのにレベルアップした"事は前述のウィリスへの配慮により一部の人間にしかバレてはいないが……

今回の冒険は今日のデンジャラス・ホールの攻略で終わる流れだが、再度 新たな冒険を続けてゆく事でいずれは知られてしまい、強さに対する執着によってはメルフェイスの様に最大の選択を強いられる。

……かと言って俺から誘導できる事では無くメルフェイスの例の通り、自分から"ランス"を選んでくれなければ意味が無い。


「相変わらず気が重い儀式だな」←以下小声

「そ、そうね」

「でも……もっともっと強く成らなければ、ランス様を御守りできません……」

「嬉しい事 言ってくれるじゃないの。この調子で頑張ってくれ給え(しかしアレだけ狩って60から、たった1レベルか)」

「(うぅ……毎回 私から"お願い"するのにも勇気が要るのに……でもランスから誘って貰うより私が待ちきれなくって……)」

「私は今回の反省を活かして、回復の魔法も嗜んで見ようかと思いました……」

「う~む。何かをされる前に倒せれば一番 良いんだが、ヒーラーの勧誘も課題か?」←フラグ

「流石にマリス様に御一緒して貰うって事は出来ないし……(心当たりはシィルちゃん位しか居ない)」

「申し訳有りませんが、優れた神魔法の使い手に心当たりはありません……」


――――かなみ&メルフェイスと小声で話していた中、スタスタと近づいて来ていたサイゼルが両手を後頭部で組みながら呟く。


「……そう言えばハウゼルのレベルって幾つ位に成ってんのかなぁ~?」

「89だろ」

「えっ? 何でランスが?」

「いや適当に言ったダケだ、気にしないでくれ(データで知ってるから勝手に口を開いてしまった)」

「あんですって?」

「と、とにかく儀式は終わったッ! さっさと潜って帰って、飯食って寝るぞ!!」


――――此処で失言を無理なテンションで強引にスルーしようとすると、今の台詞に露骨に反応した剣士が一人。


「やった! 今夜は御馳走かもしれないッ」

「今夜も何も毎度の事に成ってますよ~? 謙信様~(王様も毎日 無理に対抗して食べてる気がするし~)」

「それに宿の店の人が食材が無いって悲鳴を上げてたし、そろそろ勘弁して上げなさいね?」

「うぐッ」

「もう~、折角 滅茶苦茶強く成れたって言うのに~」

「残念ながら食欲は変わらず仕舞いか(だけどランス王達は更に強く成られてるし、王の器と言うのは既に疑い様も無いわね)」


――――その上杉謙信の腹ペコ仕様と、俺達の前では当初は繕(つくろ)っていた彼女への言葉遣いを今は余り通そうとしていない。


「…………」

「ねぇラン。さっきから どうしたの~?」

「!? えッ? な、何でも無いよ? それよりも さっきは助かったわ。調子はどう?」

「全然 平気だよ! 只 付いて行って適当に幻獣を出してるダケだしッ」

「そう……(私は格の違いにビックリだよ。でもランス君はちゃんと私も活かしてくれるし、今度も一緒に行って良いのかな?)」

「さっき"も"ちょっと怖かったけど、ちゃんとランス達や幻獣が守ってくれるよ!」


――――また相変わらず冒険を楽しんでいるに過ぎないミルに対して、何か思うトコロ有りそうなエレノア。


「(コレがリーザスの王と、その側近の力なのか……一体 何処まで伸びる? 全く留まる気配が無い)」

「(色々と誤魔化して戦って来ているけど、此処までの場所に成ると明らかに かなみさんとメルフェイスさんとの違いが出ている)」

「(先程のヒトラーの魔法の事に対しては、完全に"お荷物"でしか無かった。だがそれも当然の様にランス王は動いていた)」

「(その"違い"を埋める為には何らかの"恩恵"を受けるのみ……かと言って私の役目はガンジー様への旅の結果の報告)」

「(危険な迷宮な攻略。私は井の中の蛙に過ぎなかった様だ。しかし再び彼らと赴く為にはどうすれば良い? ……どうすれば……)」

「(だから今は足手纏いに成らない事を考えるしか無い。解呪の迷宮での二の舞は絶対に避けないとッ。考えるのは帰ってからね)」


そしてウィチタとアームズに置いては黙って一人で何かを考える素振りで集まって来るのだが。

今の俺には彼女達の心情を測れる筈も無く、踏み込む時間も残されてはいないので全てはリーザスに戻ってからだ。

……とは言えカミーラの部隊や法王の訪問を始め、帰還してから片付ける事は山ほど有りそうなので頭痛がする。

故に次の遠征が何時に成るかも分からないので、特にアームズの様な人材は旨くリーザスに繋ぎ止める様にしなければな。




……




…………




……デンジャラス・ホール49層前。


「早かったな。どうだったんだ? かなみ」

「次も交戦必至です。"中尉ハニー"が鼓舞していた声が聞こえた為、直ぐに引き返して来ました」

「やっぱりか……下層に関しては全く容赦の無いダンジョンだな……攻略させる気が無いだろッ」

「どうされます?」

「やらいでか。だが今回も南条のアレを頼んでも良いか?」

「!? はいッ! 此処まで来れれば出し惜しみをする理由は有りませんので」

「だが……1回で2~3週間掛かるんだったか?(それに結構な資金)」

「はい。しかしランス王が気にされる事では有りません。私達としては謙信様が此処まで成長されたダケで十分な収穫ですので」

「そうか。まァ遠慮はするな。十分な報酬を約束しよう」

「そ、その御言葉を頂ければ十分です」

「蘭~ッ、ちょっと赤くなってる~っ」

「そ、そそそそんな事は無いわよッ!」

「(大道寺は陰陽師が嫌いだった筈だが"信長"の征服で今が在るってか)」


決戦前ながら相変わらずニコニコしながらも唐突に水を差す大道寺を見て、近いウチに本気でアイドルにでも育てようかなと考える。

現実のアイドルには興味は無く新聞やニュースを見るとスキャンダルばかり目に入る為、安い夢を売って金を儲けてる印象しか無い。

だが原作通りなら俺が手を出しさえしなければ正真正銘の清純アイドルであり、本来の彼女が最も望む位置付けとも言えるだろう。

そう考えて見ると大道寺の"強化"による側近ポジへの条件は、自分から"その道"を完全に諦めて俺一人を選ぶ事……難易度高過ぎだ。


『ランスさ~ん!』

「うぉおっ!? な、なんだフェリス! 突然 出てくるな!!」

『酷いじゃないですか~ッ、どうして私を呼んでくれないんですか!?』

「えっ? それに関してはミルやらエレノアやらが危なかったら助けてくれりゃ良いって指示してたろ?」

『で、でも……先日から危ないんだか楽勝なんだか判断が難しい戦いばかりで結局 今に至るんですッ!』

「なら どうすりゃ良いんだよ?」

『此処を攻略すれば暫くは迷宮には潜らないんですよね? よって最後の戦い位は最初から戦わせて下さい』

「そりゃ大助かりだ。よぉし、ならば此処のダンジョンの魂はフェリスにくれてやる。好きにしろッ!」

『!? さっすが~、ランスさんは話が分かります!!』

「……(呼んだら簡単に来てくれるワケだが、ひょっとして脳と脳とが見えない"何か"で繋がってたりするのか?)」


サイゼルを含めて軽く周囲の娘達が引いている中、少し鼻息を荒くしながらパーティーの一員として付いて来るフェリス。

更に元より南条の"切り札"も有るしで、こう成れば楽勝モードと言っても良いが……油断はせず即効を心掛けるとしよう。

そんなワケで各々が武器を構えて階段を降り切ると、少し離れた前方でモンスター達がズラリと隊列を維持しながら控えていた。


『侵入者パーティー発見~っ! はにほ~、総員突撃~!!』

「良しッ。前衛は待機だッ! まだ手を出すなよ!? ギリギリまで引き付けろ!!」

「ははッ!」

「は~い!」

「分かった」


≪……ドドドドドドドドッ!!!!≫


「(そろそろか)南条ッ! 頼んだ!!」

「畏まりましたッ。――――行って!」


単純ながら熟練の冒険者から見ても脅威以外の何物でも無い、数十のデカント達の突撃による接近を許している俺達だったが。

ただ一人指示を受けた南条が、両手で取り出してビラりと広げた数百枚にも成る"お札"を頭上に勢い良く放り投げると。

その"お札"らは瞬く間に巨大な白鳥へと形を成し、南条は何時の間にか天井に向かって掲げていた右手を振り下ろすと同時に叫ぶ。


≪――――ばっ!!≫


「朱雀ッ!!」


≪ズゴオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫


すると間違い無く"朱雀"と呼ばれた白鳥だったモノは、モンスターの群れに突っ込んでゆく最中 炎を纏う不死鳥へと姿を変えた。

まさにゲームで言う"召喚獣フェニックス"であり……モーション的に言えばグライダー・スパイクか?

そんな(使い捨てなのが悔やまれるが)朱雀の進行方向に居たモンスターは全て業火に身を焼かれ炭屑となってゆく。

コレが前にも述べた南条の"切り札"であり、凄まじい火力を誇るも燃費が極めて悪いらしくリーザスでの札の量産が求められる。

本来 寝ないで作り続けても一撃分1週間は掛かる事から出し惜しみしていた様だが、謙信に促されると素直に投入してくれた模様。

確か南条の才能限界は38だった筈だが、彼女やマリアの様にアイテム次第で不相応な火力を出せる者も居るのだと改めて実感した。

……とは言えサイゼルなら必殺技で同等の火力は出せるだろうが、朱雀は途中で発火する為 味方を巻き込まないと言う強みが有る。


「今だッ! 斬り込め!!」

「上杉 謙信……推して参るッ!」

「がんばっちゃお~っと!」

「どけっ!」

『死になさい!!』


さて今こそが攻勢のタイミングで有り、リックの台詞をパクると同時にフェリスを含めた4人の前衛たちが突撃してゆくのだが。

彼女達がカチ合う前に何本ものレーザーが各々の間を通り抜けてゆき、朱雀の突進+着弾による爆発で生き残った敵をも薙ぎ倒す。

よって前衛モンスターで残っているのは殆どはハニーであり、僅かに残ったデカントも含めて各個撃破して戦線を押し上げてゆく。

もはや12人で出せるような戦果では無く、驚きを通り越していた"中尉ハニー"が かなみに暗殺されるのは僅か30秒後であった。




……




…………




長い道のりの末 遂に50層へと足を踏み入れた俺は、予想はしてたが極端に狭くなったフロアを歩く事 約30秒ほどで。

ポツンと台座に置かれている宝石箱を発見すると"わ~い指輪ら!"とレトロな鬱ネタを言わんばかりの勢いで歩むと立ち止まり。

無言で近くに居ると思われる かなみに開錠を催促すると、即座に彼女は罠が無いのを確認すると箱を空け中の指輪を差し出す。


「どうぞ」

「よ~し、良しッ。よくやった! くっくっくっ……(遂に手に入れたぜ!)」

「どうしたのよ? 男が指輪 見ながらニヤニヤしちゃって気持ち悪いわね~」

「何を言うかッ。コレは経験値が2倍に成る神アイテム"幸福の指輪"だぞ? サイゼル君」

「はァ!? それホント? だったら頂戴」

「誰が手放すかッ! 早速 装着!」

「あ、あァ~っ!」

「う~む。他に装備などは落ちていないな」

「仕事はやいなアームズ。んじゃ帰還っと」

「早く早くッ! あたしお腹減った~!」

「(そう言えばランス君が毎回払ってる食事の領収書……凄い金額が見えた気がしたけど大丈夫なのかな……?)」


――――こうして後半は完全に効率重視な攻略となり、喜ぶ間も無くアッサリと帰還し小さな祝勝会をも手早く済ませるのだが。


「それじゃ~サイゼル。悪いが明日から頼む」

「はいはい。でも"途中"で一つ条件を出すって事……忘れないでよ?」

「把握してるが、何故 今の段階で教えてくれないんだ? しかも場所が"ジオの街"とか中途半端 過ぎるだろ」

「う、五月蝿いわねッ。ともかくアンタは黙って抱えられて、途中で出す条件を飲めばソレで良いのよッ!」


本来 今直ぐにでもサイゼルに抱えて貰って出発したいが、今夜も例の2人とのハッスルが有るので翌朝にしたのは さて置き。

全員での豪勢な夕食を済ませると、忘れられては非常に困るので再確認の為にサイゼルを呼び止めた訳だが。

彼女に出された"リーザスにまで運んで貰う条件"の"途中まで進んだら一つダケ言う事を聞いて貰う"ってのが気に成っていた。

……だが今は教えてくれないのは相変わらずであり、やや声を荒げつつ去ってゆくサイゼル……少し機嫌を損ねたかもしれない。


「ランス様……」

「メルフェイス。そう言えば風呂だったな。コレで4度目か?」

「は、はい。一緒に背中を洗いっこする事……好きですから……」

「ははッ。初回みたく氷の魔法が得意なのにノボせるのは勘弁な?」


さてコミュニケーションに置いては、今みたくメルフェイス&かなみとは肌を重ねてるしで接触は他の娘達と比べ極めて多目である。

そもそも好感度的は互いにMAXなので気にする必要すら無いのは さて置き。

積極的に擦り寄って来るミルに対しても俺が常に好きにさせているので、必然的に彼女との関わりも多かったと言えよう。

しかし此処 数日は時間を惜しむ攻略だったのを御存知の通り、前述の3名以外との会話はハッキリ言うと少なかった。

特に迷宮の攻略が終わって意識を"仲間"に戻した事で、急成長した勇ましい剣士から瞬時に元の"姫様"に戻った謙信に関しては。

自分が此処まで強く成れたのは俺(リーザス)の御蔭だって事で礼を言いたい様だが、直ぐ赤面して躊躇する素振りが多々有った。

……とは言え今の段階では俺の事より直江達との軍の再編成に集中して欲しい為、少しの別れの間に気持ちを整理して頂くとしよう。

またウィチタ・スケートにとっては本来の主君であるガンジーへの今回の旅についての報告が優先され。

エレノア・ランには帰路で合流する筈のマリア達のサポート、若しくは自分やミリの引越しの手続きとかが優先され。

アームズに置いては、夕食での会話の中でエレノアと足並みを合わせてリーザスに来てくれると言う話に迄 漕ぎ着けたダケで十分。

よって全てはリーザスに戻ってから改めて関われば良い……俺には俺の公務も沢山 溜まってるだろうし……そう自己完結させる。

そんなワケで俺はメルフェイスと肩を並べて廊下を歩いてゆく中、かなみの方はどう料理してやろうかなとか邪な思考へと移った。


「あッ。先に行っててくれメルフェイス。カオスを部屋に置いて来るから」

『がァ~んッ! 折角 自然な形で混ざろうと思ってたのに!!』


――――尚カオスが全く喋っていなかったのは完全にコレが狙いだった為であり、一度メルフェイスが損害を被った事が有る。




●レベル●
ランス   :61/無限
かなみ   :58/40(+18)
メルフェイス:56/48(+8)
サイゼル  :91/120
ウィチタ  :35/35
アームズ  :44/44

ミル    :34/34
エレノア  :30/30

上杉 謙信 :50/70
南条 蘭  :38/38
大道寺小松 :43/43




●あとがき●
サイゼルフラグ不回避。ランスが一足先にリーザスに帰還するので、今回同行していたキャラ達の出番が少しの間減ると思います。
その間に魔人やら法王やら公務やらランスがマリスに押し付けていた事を消化させ、再登場時が"運命の分かれ道"と成るでしょう。
さて高レベルの女性のヒーラーとなればランクエ含めてAL教団には有力な候補が2人居ますが、主人公はかなり困惑するよなあ。



[12938] 鬼畜王じゃないランス24
Name: shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2014/03/23 04:03
鬼畜王じゃないランス24




=LP03年06月3週目(土)=


最後にリーザスを出発してから約一ヶ月。

俺のレベルは努力の甲斐あって51から61と成長した。

欲を言えば"幸福の指輪"を手に入れたので更に2~3日粘りたかったが、ALICE教の法王が来るので戻るしか無いとして。

目標としては最低でもリックに模擬戦で容易に勝てる数値だったので、まァ許容範囲と言って良いだろう。

彼も忙しい為 可能性は低そうだが、出発の前に確認したリックのLvが41から"上がりまくってなければ"の話だけどな。

それにしても。

普通に働きながらもゲームなら一ヶ月も費やせば、ランスのレベルは100以上に出来るシリーズも有るだろう。

しかし現実は そう甘くは無く、ほぼ全ての時間をレベル上げに費やしながら今のレベルが精一杯である。

それダケでなくモンスターの一撃をマトモに食らったら自分含めてアッサリ死ぬ味方。

人類の中では滅茶苦茶強くても、魔人の様な強力な敵に比べたら低すぎる才能限界どころか通用しない攻撃。

更にはランスが抱かないと突破できない才能限界と、間違っても裏切りの様なリスクを背負えない複雑な人間関係。

島津やメディウサの様な理不尽なシステムによる"消滅"を食らう確率は現実だと極端に少ないと思うので安心とは言え。

以前のランスの様な酒池肉林の犯りたい放題でも、イベントでの離脱以外は不満なく戦ってくれる仕様は正直 羨ましい限りだ。

ハーレムと言うのは男なら誰でも憧れるモノだが……癖の強い本作のヒロイン達が大人しく順番待ちしてくれる気がしないのさ。

それでも今の環境は以前の俺からすれば……いや、過去の事なんてどうでも良いか。


「よ~し。準備は こんな感じだな」

「後でちゃんと返して貰うからね?」

「当然だ」

「それじゃ~後ろ向いて。そのまま動かないでよ?」

「はいよ」

「……ッ……」

「どうした?」

「べッ、別に」


さて予定の通りデンジャラス・ホール攻略の翌朝に出発するワケだが。

今の俺は鎧とカオスの最低限の装備しか持っておらず、聖盾はランス3の如く かなみに背負わせて戻って貰う。

またサイゼルのライフルは再び没収している上に再度 魔力を抑える首輪をさせているが飛行は普通に出来るらしい。

万が一を考えての かなみ・ウィチタあたりの意見の為だったが、俺を落とすダケなら魔人による怪力のみでも十分だろう。

それ以前にメルフェイスを抱えた事実や今迄の戦いを見た感じ今更 裏切らないだろうし此処で死んだら後でも詰む筈だ。

何にせよランスの悪運に頼る山場は多いだろうし、今回の同行なんぞ序の口なのは間違い無い。

そんなワケで旅立ちの直前、互いを革のベルトで固定する事が必須なのでサイゼルが軽く浮遊して背後に回りこんで来る。

よって自然と密着するワケであり、鎧を着ていなければ何とも言えない気持ちに成るのは必然だったであろう。


≪――――ガチン≫


「固定したぞ? 浮かんでみてくれ」

「ふふん。見てなさい?」

「生憎 真後ろの様子は見えないな」

「だったら あたしは今の時点で浮かんでるわよッ」

「そいつは失礼しました」

「分かれば良いのよ……っと!」


≪――――ぶわっ≫


「おぉ~ッ。凄いな! 重くないのか?」

「大丈夫みたい」

「みたいとは?」

「有る程度の重さなら"エンジェルナイト"の特性なのか あたし自身の力を出さなくても浮いてくれるの」

「もし重量オーバーだったら どうするんだ?(……正体についてはスルーしよう)」

「その場で少し羽ばたいてから風に乗らないとダメね」

「そりゃ大変そうだな」

「何年魔人やってると思ってんのよ? 慣れてるし別に問題無いわ」

「納得」

「しっかしアンタも変わってるわね~、飛べるヤツの事なんてイチイチ気にしてたらキリが無いわよ?」

「言っての通りだが、自分の立場とも成ると気にせざるを得ないだろ」

「ふ~ん。まァ良いけど……飛び立つ時は周りが特に"五月蝿い"のよね」

「どう言う意味だ?」

「あたしって氷の魔人だし、影で"寒い"やら"凍る"やら」


――――こんな会話をしつつも俺の両脇から自分の両腕を滑らせる感じで抱えつつ、既に北へと進んでいるサイゼル。


「確かにオマエが最初に現れた時は、とんでもなく寒かったしな~」

「やっぱり? だったら今のアンタは どうなの?」

「大した事は無いな。多少ヒンヤリとする程度だ」

「そ、そう?」

「何だかんだでメルフェイスに懐くようになってからは、カラダの冷気を抑えるように努力してたみたいだしな」

「別に懐いてなんか……」

「茶化してる訳じゃない。お前だって分かってただろ? 一緒に戦ってた誰もがサイゼルの冷気(パッシブ)に何も言って来なかった」

「…………」

「魔人の感覚がどうかは大して生きて無いから知らんが、人間が此処まで繁栄してる理由は今なら何となく分かるんじゃないのか?」

「……癪だけどアンタの言う通りかもね。あたしみたいなヤツなら、人間の世界でも別に不満も無く暮らせそうだし」

「だがケイブリスってのはホーネット達を始末して魔王となり、人間達をも支配して甚振り尽くす気だ。精々家畜が良いトコだな」

「…………」

「更にはケイブリス側が勝てばオマエの自慢の妹も、どうなる事か分かったモンじゃない」

「……ッ!」


≪――――ぐらっ≫


此処で最早トンでもない高度に成ってるが、地味に真面目な会話を交わしているので感動を得るのは後にするとして。

少し卑怯だが安全を確実にする為にハウゼルの事を話題にすると、サイゼルは明らかに動揺し続いてた風圧に大きく揺られた。

いかん危ない危ない危ない……リーザスへの道中の安全を確保するのに、今落下するというリスクを背負うワケにはいかん!

この程度の揺れならサイゼルは慣れているだろうが、少し俺のを抱える力が緩んでいるので事の重大さをアッピルしなくては。


「うおぉおいッ! 危ないだろうが!!」

「あっ。ゴメンゴメン」

「全く……腕が放れたらベルトが切れたら俺は終了なんだぞ? マジで勘弁してくれ」

「ランスが縁起でも無い事 言うからでしょッ?」

「それについては悪かったって!」

「ふふん……流石のアンタでも高い所が苦手なのねェ」

「あァ。(飛行機は何度も乗ってるが)一度"こう言う"経験はしたんだが、簡単に慣れる筈も無いってな」

「でも一度は有ったんだ? それはそれで意外かも」

「そうか?」

「……うん」

「…………」

「…………」

「だったら景色を眺めてるダケなのも退屈だし、少し長くなるが聞いて貰えるか?」

「!? い、良いけどォ?」


――――仕方なく話題を変える事にしたワケだが、話を振りつつチラッと見たら露骨に喜んでて可愛いなチクショウ。


「ゴホン。以前"ノス"達がヘルマンを手懐けてリーザス攻め込んで来たのは知ってるよな?」

「当然。でも信じられない事に人間達に負けてアイツらは死んで、結果ホーネット達の首を絞める事に成ったのよねェ」

「だが"その戦い"に俺様も絡んでると言ったら?」

「!? な、何ですって? そう言えば あたし……ランスの事何も知らなかったわ」

「反面サイゼルの事は自分から色々と喋ってくれたし、まだ見ぬ妹についも無駄に詳しく成っちまったけどな」

「うぐッ!」

「話によると凄く良い娘らしいし、初っ端からガラスをぶっ壊して100万ゴールドの借金をした姉とは大違いだ」

「も、もう勘弁してよ!」

「はははッ。冗談は置いといて。先ずは空の話だったな……少し前に"浮遊大陸イラーピュ"ってのが有ってだな?」

「ふんふん」




……




…………




……数時間後。


「ようやく"ジオの街"も近くなって来たな」

「暗く成る前に着けたみたいね」

「そうだな。降ろして貰って構わないか?」

「はいはい。それにしてもランスが其処までイカれた奴だったなんてねェ」

「褒め言葉として捉えとくさ。ともかく丁寧に頼んだ。乱暴にするなよ?」

「あ、あたしを何だと思ってんの?」

「貴重な仲間の魔人だ。ともかく街に入る前に俺はフードを被るから、サイゼルは出来るだけ羽を収めるんだぞ?」

「……ッ……」


何気に(故人)ランスの旅路はⅣまでであっても結構 長いので、話のネタが尽きる事は無かった。

ナンダカンダでサイゼルも常識には かなり疎いので、俺の話には興味深く耳を傾けてくれ今に至る。

そのスケールは弱体化"ジル"を倒す程 壮大なモノだったが、途中でカオスが口を挟んだりもしたので彼女は信じてくれた。

別に信じてくれなくても痛くも痒くも無いけど、思った以上にサイゼルは話の分かる娘だった模様。

……と"そんな事"を思っているウチに久し振りに大地を踏みしめた俺はややフラつきながら歩き出すワケだが。

ふとヒンヤリとしたモノが右腕に触れたので視線を向けると、何とサイゼルが腕を絡めて来ていた。

その頬は氷の魔人ながら ほんのりと紅くなっており、あえて剣を振る左側にくっ付かなかったのを気遣いと捉えて良いのだろうか?

しかし"こう言うタイプ"は指摘すると(良い意味の)逆ギレを食らうので、俺は軽く口元を歪ませながら街へと向かってゆく。

その際 互いに無言だったのだが……ガチでサイゼルの魅力がヤバいので別の事を考えざるを得なかったとも言える。

よって此処でデンジャラス・ホールに残して来た仲間達の予定を振り返って置こう。(最終的にリーザスに向かうのは共通)


かなみ:リーザス聖盾を背負って最速でリーザスに帰還(頑張って走るらしい)

メルフェイス:ハウレーンとエクスに今回の旅の戦果を伝えつつ"うし車"で帰還

ウィチタ:メルフェイスの護衛(互いの仲は全く悪くなく、むしろウィチタはメルフェイスに憧れている感じ)

アームズ:メルフェイス&ウィチタと足並みを合わせる(何故か途中で依頼を片付ける気は無いらしい)

ミル:姉のミリと引越しの準備を終えてから来る(もう終わってるかもしれないが)

エレノア:マリアと魔想さんの軍の編成を手伝ってから一緒に来る(終わってればミリを手伝う)

謙信たち:直江達との軍の再編成を終わらせ次第 全員で来る(カスタム組とは別行動)


……既に かなみが傍に居ないと(特にJAPANからの)暗殺が怖いぐらいにまで依存してしまったのが恥ずかしい限りだ。

だが明日にはリーザスに戻れるので、そんな恐怖など抱く事も無いほど忙しい毎日が待っているだろう。

しかし"その前"に目の前の氷の魔人の出す今回の"運送"の条件を飲まねばならず、それが最後のイベントってワケだな。


「注文は決まったか? それじゃ~褒美その1だ。タップリ食って構わないからな?」

「う、うん」

「お~いッ! こっちだ姉ちゃん!!」

「…………」


――――さて真っ先に宿に向かって食事を始めるが、殆ど食わなかったサイゼル。だが"まだ"慌てる時間じゃないと思いたい。




……




…………




……1時間後。

ジオは重要な中継地点でもある街な為、リーザスが自由都市の支配に乗り出した今かなりの繁栄を遂げている。

頑(かたく)なに傘下に入るのを拒んだジオの貴族達は既に手懐けられたり粛清されたりしてるのは さて置き。

俺に気付いたリーザス兵達には既にマリスが手を回しており、目立たない様に遠目から見守る指示を受けてるのも余談として。

そんなに繁栄していれば宿が賑わっているのも当然であり、こうして泊まってる"俺とサイゼル"も今は只の客に過ぎない。

そう……皮肉にも店が混んでいた事から相室しか残っておらず、俺は彼女と密室で2人っきりで更にベッドは1つである。


「…………」

「…………」


さて此処に至るまでサイゼルが出す条件に関しても余裕が有れば考えていたが……先ずはカミーラ達と戦いたく無いって事。

2つ目は妹である"ラ・ハウゼル"と会う為に魔王城に戻りたいと言う言う事、コレも彼女の性格を考えれば可能性は極めて高い。

しかし"今のタイミング"に成るまで"条件"を告げて来なかったと言う事は……もう覚悟を決めるしか無いのかもしれない。

よって見た感じは冷静を装いつつも、何時もの様にベッドに飛び込まず立ち尽くすサイゼルに対し、俺は腰を降ろしつつ言う。


「さてと。そろそろ話してくれても良いんじゃないのか?」

「…………」

「今話してくれないんなら、もう風呂に入って寝るぞ?」

「そ、それは駄目」

「ですよね~」

「…………」

「サイゼル?」

「えっと……アンタとメルフェイスの関係なんだけどさ」

「うん?」

「……聞いた話……何度も一緒に寝たり、お風呂入ったりしてるのよね?」

「あァ。まだまだ短い付き合いだけどな……これからも続いてゆくだろう」

「なら知ってると思うけど……あたしMランドでメルフェイスに抱かれた」

「半分は俺の采配だな。今は反省している。それに彼女の副作用を抑えてくれた事には本当に感謝してるよ」

「礼は別に良いわよ。そ、それよりも本題なんだけどッ!」

「おゥ。ドンと来い」

「あッ……あのさ? そのランスが……メルフェイスと夜に遣ってる事……を……」

「……(意外と早く落ちたなァ)」


≪――――ばっ!≫


「その……あたしにも遣って欲しいな……ッて思ってェ!」

「!?!?」

「はァッ、はァッはァッ(言っちゃった言っちゃった言っちゃった言っちゃった)」

「な、なん……だと……」


……最初はサイゼルを"魔人の仲間"としての立場を確実とする為に同行させたに過ぎなかった。

だが彼女にとって俺の存在は必要以上に大きく成るに至り、俺もこの機会を設けた事から何処かで告白を期待してたのかもしれん。

これは本来のランスならば大喜びのシチュエーションかもしれないが、俺はサイゼルを受け入れた後の選択をも考える必要が有る。

よってトマトの様に真っ赤になって何とか"条件"を吐き出したと言った様子の彼女に対して、俺はワザとらしく驚くしかなかった。

女々しくも"この後"の会話の切り出しで時間稼ぎがし易くなる為であり、今夜も長い夜と成りそうで俺の理性の限界が懸念される。




●あとがき●
短いですがキリが良いので今回はコレで終了です。ランスとサイゼルのイベントはもう少しだけ続きます。もう少しでリーザスだ!
また感想のほう皆さま有難う御座います。今は本編を打つ事に集中してしまっていますが、近いウチに返信は纏めて行うつもりです。



[12938] 鬼畜王じゃないランス25
Name: shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2014/06/20 03:25
鬼畜王じゃないランス25




=LP03年06月3週目(土)=


遠回しな台詞とは言えサイゼルによる唐突な告白。

それに関して"女×女"と"男×女"の違いの理解は、さっきの表情を見た感じ十分にしているだろう。

生憎たった今は恥ずかしいのか、顔を前に倒している為 前髪に隠れて顔色が窺えないのは さて置き。

流石に"ハイ抱きます"と押し倒す事は出来ないので、俺は動悸を隠し頭を掻きながら口を開く。


「あのなァ……お前。自分が何言ってるか分かってるのか?」

「…………」

「俺は人間でサイゼルは魔人だ。共に長い時は生きられない」

「…………」

「長い事 魔人やってたら(レイみたいに)何回かは"その結果"を目の当たりにした事も有るだろう?」

「そ……その場合の多くは人間の方が使徒に成ってたと思うけど……」

「まァ其処は互いの事情によるが、俺の場合は立場的に人間じゃないと都合が悪いな」

「でしょうね」

「残念ながら」

「……って誰も"使徒になれ"なんて言って無いわよッ! あたしが言いたいのは"そんな事"じゃなくて!」

「特に深くは考えずにサイゼルを抱けば良いって事か?」

「!? うッ、あぅう……」


――――そう言いながら立ち上がって一歩近づくと、露骨にうろたえるサイゼル。未だに顔は真っ赤である。


「なに恥ずかしがってるんだよ? それとも怖いのか?」

「こ、怖かったりはしないけど……流石に初めてだからさ……」

「どうして抱くのが確定な方向で話が進んでるんですかねェ?」

「えっ? ち、違ったの?」

「マトモな返事も聞かずに押し倒せるかって」

「覚悟ならアンタと"この部屋"に入った時点で出来てたわよッ」

「(そもそも告白されてたな)あァそう。けど、まだ話の途中だ」

「…………」

「サイゼル。正直に答えてくれないか? 一体 俺の何処が気に入ったんだ?」

「!? そ、それは……」

「簡単で良いぞ」

「えっと……嫌な顔一つせずに あたしの話を聞いてくれたのと……何か一緒に居て楽しい……それと……」

「それと?(話ってのは殆どハウゼルの事だったけどな)」

「人間なのに強い」

「なるほど(強いのが二の次なのがアレだが、サイゼルにとっては前者の方が重要だったか)」

「じ、じゃあランスは あたしの事どう思ってるの!?」


告白されたと思ったら何時の間にか逆の立場に成ってるでゴザルの巻。

まァ原因は引き伸ばした俺に有るとは言えサイゼルが何故か急(せ)かないのは、やはり勢いで言ったからだろう。

言葉よりも先に手を出しそうな魔人の性(さが)を考えると、メルフェイスの如く寝込みを襲わないダケでも十分だが。

俺としても かなみの件で、彼女の可愛さと心細さでOKの返答でアッサリ手を出してしまった事は反省に値する事から。

気が早いがサイゼルの返答によっては、既に高い限界レベルの更に上を目指す事も視野に入れて慎重に言葉を選ぶ必要が有る。

そうなると当然ハウゼルの存在も欠かせないとは言え、流石に引き伸ばしすぎても駄目なのでやはりランスの性格が羨ましい。

だが俺の"サイゼルに対する気持ち"は回りくどく伝える気は無いので、それでスベれば一夜限りの関係に成ろうと悔いは無い。

よって未だに顔は赤く、威勢は良いが何時もの雰囲気に比べると思いっきり乙女をしているサイゼルの瞳をみつめて言う。


「……それは正直に言って構わないのか?」

「!? も、ももも勿論ッ」

「じゃあ遠慮なく」

「…………」

「凄ェ可愛い(今の不安そうな表情も)」

「……!!」

「んでもって仲間としても頼りになるし、サイゼルさえ良ければ最後まで俺に付き合って欲しい」

「最後までって……何時まで?」

「少なくともリーザスが人類は勿論、魔人領を含めた"全て"を治めるまで……だ。何年掛かるか分からないけどな」

「ほ、本気なの?」

「コレが冗談を言ってる顔に見えるか? 今回の旅も"その目標"に懸けての一環だったのは身を持って体験して貰った通りだ」

「…………」

「無謀だと思ったら別に断ってくれても良いんだぞ?」

「……そんな事は無いわよ。ランスはきっと、もっと強く成ると思う」

「だと良いんだけどな」

「でも有るんでしょ? レベルの限界を越える方法が」

「まァな」

「ふふん。あたしが好きに成った男だもん。それくらい出来てトーゼンよねッ」

「そんなトコだ。詳しくは近いウチに話すさ」

「実は ずっと気になってたの……でも何となく聞くのは野暮な気がして避けてた」

「ほうほう。最初からは考えられない程 謙虚に変わってくれて俺は嬉しいぞ」

「と、ともかく……受け入れてくれるの? "あたし達"の事」


"ジオの街"に至るまで話のネタが尽きなかったと言う事で、彼女からは既に妹と一部の痛覚が共有されている事を聞き出している。

実は猫舌なのを始め その他 諸々の情報も、余りにもサイゼルとの会話を自然に続けていた為 必然的に耳に入っていた。

何と言うか……こうも互いの立場の隔(へだ)たりも無く会話できる人物は"こちら"では彼女が最初なのは さて置き。

逆に俺が質問されたら されたで隠す必要も無い為、王と成っても肉体関係を続けてるのはリアを含めた3名と教えている。

生憎リアとは まだ寝ていないので正確な解答とは言えないが、それでも尚 サイゼルは俺への告白を決行している。

つまりサイゼルはハウゼルとの複雑な関係と仕様・俺は何人もの愛人が今後も増える可能性が有りながら……だがそれでも。

全てを許容して俺にカラダを委ねる道を選んでくれたので、その気持ちに応えるからには責任と取らなくてはならない。

事の"きっかけは"悪戯ゴコロで嗾(けしか)けたメルフェイスとのレズプレイだったのだろうが、その恩恵で2人旅の今に至る。

そう振り返れば"本当のランス"らしい結果オーライな未来を引けたとも言え、場合によっちゃ違う娘が目の前に居たのかもな。

だが今現在の新たな"愛しい女性"は魔人のラ・サイゼルであり、何時の間にか互いの距離が近づいて手の届く位置に居る。


「勿論2人まとめて面倒見てやる!」

「!? ランスぅ~ッ! 大好き!!」


≪――――がばっ!!≫


「うぉっ!?」

「あッ。冷たかった?」

「いや。少し(2つの意味で)驚いたダケだ」

「そ、そう?」

「抱きついてから気付いたのか? この程度 我慢しなくて今みたいな豪語できるかっての」

「だったらランスもッ」

「……分かってるって」


≪――――ぎゅっ≫


尚メルフェイスは氷の魔法を熟知している事から寒さに滅法 強い体質らしく、サイゼルに絡まれても我慢の必要は無いのだが。

流石に俺はヒンヤリとした肌触りをサイゼルから感じているモノの、考えて見ればリーザス城に居る頃からの感触だった。

しかし氷の魔人を仲間に引き入れる事を考えた時点で"ある程度"の寒さは耐えるつもりだったので、何を今更と言うヤツである。

肉体関係に至ると成れば尚更であり、抱き付いてきたサイゼルの言葉に俺も彼女の腰に両手を回す事で応えると……

完全にムードに酔ったか既に"できあがっている"表情で此方を見つめて来たので、男として唇を奪う事でリードするのだった。


「……ぷはッ」

「驚いた。なかなか上手いじゃないか」

「ま、ま~ね(……男と遣るのは初めてだけど)」

「ところでコレって、どうやって脱がすんだ?」←帽子を取りながら

「えっ? えっと……先ずはネクタイを取ってから、お腹のボタンを外して……」

「いやストップ。やっぱり自分で脱がしてみたい」

「この変態~ッ」

「悪かったなスケベで(顔は全く嫌がってないが)」

「それより! もう一回キス……してよォ」

「お安い御用だ」

「……んんッ(許してハウゼル……でも、きっとランスの事が好きに成るよ……)」


――――ちなみにサイゼルのハイレグ?+装飾品を全て外し終えるのに5分以上も掛かりましたとさ。




……




…………




=LP03年06月3週目(日)=


……翌朝。

一ヶ月弱の冒険を経て何とサイゼルとも結ばれてしまった俺は、目出度く(?)彼女と共に"朝チュン"を迎えたワケだが。

記念すべき一回目の夜は朝まで寝る事が出来ず、何度も"続き"を強請るサイゼルに付き合わされる結果と成った。

俺としても"今回"を終えれば彼女と夜を共に過ごせる機会に間が空くと思うのでタップリ楽しむつもりだったんだけども。

サイゼルの性欲は俺の遥か上をいっていたようで、良くも悪くも普通の"かなみ"や一度で満足するメルフェイスとの差も同様だ。

セックスによる耐性は定期的に経験を持つ俺と比べれば遥かに低く、絶頂を迎えた瞬間は失神してしまう事も多かったが……

傷ダケでなく性的な意味でも回復力は高かったようで、(冷えるので)着替えようと思ったら一回・寝付けると思ったら一回。

毎回30分程度で意識を覚醒させたサイゼルに連戦を強請(ねだ)られてゆき、気がついたらカーテンの端から光が差していた。

一応 途中で竜角惨を飲んでいて気力は問題なかったが、無論 精神的なケアには至っておらず最後の一発かを終えてから30秒後。


「ぬわああああぁぁぁぁん、疲れたもおおおおぉぉぉぉん!!!!」

「……ふぇ?」


サイゼル エロかったッスね昨夜~、何であんなにエロいんすかね~もォ~ッ! 振りたくなりますよォ……サイゼルゥ……

ゴホン。一瞬だけ理性の糸が切れてしまい叫んでしまったが、現在の俺は其処まで参っていたと言う事を理解して頂きたい。

むしろセックス中に"最後の一発くれてやるよオラァ!"とか"ンアッー!(≧Д≦)"とかのネタに走らなかったダケ上等だろう。

幸い今現在のサイゼルはレイプ目……いや何時もの放心状態なので大したリスクは負わなかったのはさて置き。

エロい話が続くが彼女を抱くにあたって、何と魔人の特性により俺が動いて処女を奪う=傷つける事が出来なかった。

それによりサイゼルに自分から"散らせる"必要が有るも、今回では枝なんぞではない為 極めて優しくリードしたのだが……

効果はテキメン。痛みを和らげるドコロか俺に対する依存度が更に上がった様で、形容できないデレっぷりを魅せてくれた。

何と言うか……"あちら"の世界の創作規模を考えれば突然 生き別れの妹が押し掛け結婚してと言おうが普通に驚くダケだが。

千年以上処女のまま色気も娯楽も無い生活を送っていた彼女にとっては、男に優しくされるダケで衝撃的な経験になったのだ。


「サイゼル。起きてるか?」

「……ッ……」




――――5分経過。




「……シャワー浴びてくるか」

「ぐぅぐぅ……もう無理ィ……」


まァ俺としてもカラダはヒンヤリしているも、膣内は暖かと言う非常に斬新な抱き心地に病みつきに成ったのは間違い無い。

……とは言え3回ほどで十分満足したモノの、サイゼルの暴走ッぷりを許した俺は結局コイツの事を何も分かっていなかった。

よってリアに対する言い出し難さやハウゼルへの影響の懸念……更に互いの関係も改めて話し合わなければいけないだろう。

だからと言ってリーザスに帰ってから片付ける仕事も尋常では無いと思うので、先ずはそっちの方を消化してから時間を作るか。

そんなワケで少しの間 周囲の片付けるついでに、サイゼルの無防備な寝顔を見納めると体を温めるべく浴室に向かうのだった。




……




…………




……数時間後。

竜角惨を飲む事で羨ましくもアッサリと復活したサイゼルは、シラフに戻ると案の定 俺と目を合わせられない程 意識していた。

しかし俺がデコピンを食らわせて強制的に元の空気に戻す事で解決し、再び俺を抱えてリーザスにまで飛んでくれた結果。

昼過ぎには城下町に到着できたワケだが、入って直ぐ親衛隊の娘2人に声を掛けられ一人は城に走ってゆき一人は俺を案内する。

そして城が迫って来た辺りで親衛隊の娘にサイゼルが何故か説得されており、俺も空気を読む事で2人の娘と別れたと思うと。


≪ワアアアアァァァァッ!!!!≫


「うぉっ? 何事だ?」

「ダーーリーーンッ!! お帰りなさああぁぁーーーーい!!!!」


城門の所でリアとマリスを始め、手の空いている将軍達が皆揃って俺の帰還を歓迎する為に待機してくれていた。

所謂 即席の凱旋パレードと言うヤツだろうか? マリスには無駄に予算を使わないよう言っていた筈だが……

流石に今回のリアを止める事は叶わなかった様で、それは俺が旅の途中で送った手紙が大きく関係しているのだろう。

何せ"一番 愛してるのはリアだ"とか"お前の為に強くなって帰って来る"とか遠慮ナシに書いたからな……仕方無いのかもしれない。

まァ凱旋パレードの代金で一ヶ月以上も放って置いたリアの機嫌が直ってくれるなら安いモノだと考える様にしよう。

さてパーレドは俺がマリスに渡されたメモを読む事による演説で〆られ、何時の間にかパーティーへと代わり美味い飯にありつく。

その際リアを伴いバレスを始めとする将軍や、"こちら"では有名でも原作知識ダケでは知る由も無い貴族との会話に追われたが……

リーザスに居る時は積極的に"勉強"していたモノの、未だに俺の知らない事を度々フォローしてくれたリアは流石と言えた。

よって適度に煽てるワケだが、幸い彼女の機嫌は更に良くなってゆき……Lv61の俺に皮肉さえ言えない貴族達の反応に御満悦。

この短期間で既に高いレベルを10上げる事が如何に大変かは理解している様で、ソレが自分の為だと錯覚(?)すれば尚更だ。

いや……マリスの事だから今日の一連 全ては、彼女がリア(と若干ランス)の為に用意した機会だと考えても特に違和感が無いな。

何故なら今現在は自然な流れでリアと共に懐かしい寝室にやって来たからであり、これで彼女を抱けば全てはシナリオ通りってか。


「ふぃ~、やっと終わったか」

「御疲れ様~ッ! ダーリン」

「色々と助かったぞ? 俺一人じゃアレだけの人数は捌けなかったからな」

「そんな事 気にしなくて良いよッ! だってリアはダーリンの奥さんだもぉん♪」

「うぉッ!?」

「あれぇっ?」


≪どさっ≫


――――自重する必要が無い為 唐突に俺に抱き付いて来たリアだったが、アッサリ俺がベッドに押し倒されたので目を丸くした。


「……ッ……」

「ど、ど~かしたの? ダーリン」

「いや……実は長旅でクタクタでな……昨日は寝てなくて寝不足なんだ」

「へぇ~ッ」

「まァ未だに御無沙汰にさせてたから1回や2回はイケると思うが……どうだ?」

「あッ……え、えっと……」


別に耐えれない事もなかったが、無理して保つ必要も無かったとも言う。

それはそうと今言った様にリアを抱くのを意図的に避けていた為、誤魔化してゆくのは そろそろ限界だろう。

……とは言え今回のパーティーでの正妻ぶりには非常に好感が持てたし、いい加減 逃げるのは止した方が良さそうだ。

"今のタイミング"でリアが求めて来るのも容易に予想できるし、倒された体勢のまま顎に手を添える事で煽ってみると。

逆に俺から話を振られると思って居なかったらしく、少し驚いたと思うと顔を俯かせて思考モードに入ってしまった。


「……リア?」

「うぅ~ん……」

「????」

「今日は止めとくッ!」

「なッ。ホントにか?」

「うん。結婚してから初めてのエッチで1回や2回じゃ絶対に満足できないッ! 朝から晩まで沢山愛して貰いたいから!!」

「で、ですよね~」

「それに……ダーリンが居ない間、お仕事 沢山溜まってたし……もう少し待っててアゲても良いかな~ッて思って……」

「まさか断られるとは思わなかったな。気遣ってくれたみたいで感謝するよ」

「気にしないで~ッ! ダーリンの体を大事にするのは奥さんとして当たり前だもぉん!!」

「うむうむ。少しはサイゼルにも見習って欲しかった――――ッ」

「!?!?」

「ファッ!(しまった!?)」


≪ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!≫


「ダーァリィン? それって……どう言う事ォ!?」

「い、いや~リアは怒った顔も可愛いと思う……」

「誤魔化さないでッ!」

「ヌッ」

「手紙に抱いたのは2人ダケって書いてたのに、三人目が居たドコロかソレが よりによってサイゼルだとか信じられな~いッ!」

「あのな? この場合は魔人を口説けた俺の手腕を褒めるという考えも……」

「有るワケ無い~ッ! ど~せ寝不足なのはサイゼルの所為だったんでしょォ!?」

「まァ、多少はね?」

「全部でしょ~!? もォダーリンじゃ話に成らないからサイゼル呼んで来てよ!!」

「それだけはッ。すいません許して下さい。何でもしますから!」

「らしく無い事 言われても信用できないもんッ! うわああああぁぁぁぁん!!」

「ちょっ!? リアさん何してんスか!? 止めてくださいよホントッ!」

「びええええぇぇぇぇんッ!! ダーリンの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ァァーーッ!!!!」


此処でリアが良い意味で信じられない気遣いをしてくれたと言うのに、最後の最後で墓穴を掘ってしまった俺。

実は彼女は今現在だと姿が見えない故に影の薄いシィルよりも、サイゼルを最も身近な女性の中でライバル視していたらしい。

それなのに先を越された&タイミング的に俺が隠していたと思ったらしく、激怒して俺にポカポカ☆パンチを繰り出してくる。

だが仕草は可愛くてもレベル20(カンスト)のパンチは人を殺せる威力なので、疲労困憊の俺は抗えずにされるがままだった。

その際に言った許し乞いも正直ネタでは無く本気だったりするのだが、リアの暴走は止まらず宥めるのに1時間以上も経過する。

原作のランスを考えれば全然 大した事はしていないからと、何処かで油断していたが……良く今まで無事だったよなアイツ。

さて結果 リアは"俺の胸に顔を埋めて"不貞寝と言う理解に苦しむ行動に至ったが、ようやく俺が休む事が出来ようとしていた。


「……グスン……むにゃ……ダァリンの、馬鹿……」

「(そう言えばサイゼルはケツを責めてたら結界関係ナシに……違う、そうじゃ無くってだ)」


しかし最後の気力を振り絞ってでも、我ながら律儀だが明日からの予定を脳内で整理しなければ。

先ずはマリスの采配で今日のパーティーで有力者との謁見に近いモノは既に済ませてあるので、残りの優先度は下げるとして。

明日の月曜は"クルックー・モフス"と言う(俺にとっては)謎の法王が来訪するが、マリスでも深い意図が分からない模様。

ならば原作の知識による対策など出来る筈も無いので、かなみの様な強くて愛せて便利な娘が今後も頼りに成るのは間違い無い。

だが増やせど今回のリアの様に別の娘がショックを受ける場合も多々有りそうなので、ゲームと違い更なる甲斐性が求められる。

更にその後は即 将軍達を中心とした会議を謁見の間で行い、魔軍に対しての対策を一ヶ月の動向を元に立てなくてはならない。

当然 サテラ・メガラス・サイゼルの活用は勿論、小川 健太郎の仕様&状況の確認も大切であり今後の侵攻にも関わるだろう。

数日後にはカスタム組とJAPAN組みも合流するから今回の旅での整理もする必要が有るし、その辺りでリタイアする俺だった。








●あとがき●
ランス9面白かった(小学生並みの感想)まだルシアンルートのエンディングだけ見ていないので、真エピローグも同様と成ります。



[12938] 鬼畜王じゃないランス26
Name: shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2014/09/16 22:26
鬼畜王じゃないランス26




=LP03年06月4週目(月)=


リーザスに戻るも色々と有ってダウンした翌日の朝、俺を起こしてくれたのはマリスだった。

大事な謁見が待っているのに、俺とリアが何時まで経っても部屋から出て来ないので起こしに来た様だが……

どうやら彼女の期待した展開には成っていなかった様で、声を掛けて俺を覚醒させたマリスは少し不満気だった。

尚 誰にも邪魔されなければ昼過ぎまで寝ていても不思議では無かった俺の一方。

リアは先に目覚めていたみたいなのだが、愛する(?)旦那に夢の朝●ェラをしようと喜び勇んで臨もうとするも。

ふと昨夜の"浮気"に対して自分が癇癪を起こした事を思い出し、俺に対する不満やポカポカした事による負い目。

その他 諸々の感情が合わさり思い切った行動に移す事が出来ず……1時間以上俺の股間と睨めっこしていたそうな。


「それではランス王。朝食の準備は既に出来ておりますので」

「あァ。あのタダッ広い所でか……俺としちゃ~もっとアッサリ済ませたいトコなんだがな」

「そう申されましても(リア様が楽しみにしておられる一時でも有るし)」

「しかも和食とも成ると凄まじく違和感が……って今更言っても仕方無いか。行くぞ? リア」

「う、うんッ! 今日の朝御飯はリアが食べさせてあげるよ!」

「やめてくれよ……」(絶望)


だが初っ端から自然な流れでリアの唇を奪ってみると、アッサリと本来の明るさを取り戻してしまう。

ゲームではシィルを"うし"にしたりと面倒臭い性格&性癖をしているが、それは只単にランスの甲斐性が絶望的に無い為である。

よって俺みたいなヤツからすると、例えは悪いが典型以上の"チョロイン"と言え……気遣い次第でフォローは非常に容易だ。

何せ結婚してから今迄セックスを一度もしていないのに、今もこの様な不満を感じさせない笑顔を魅せてくれてるのだから。

……とは言え"この世界"での最終目的を考えると、妻として在るリアの性格は非常に有り難いのは間違い無いし他には居ない。

俺が抱いたのは現在3人。それでも浮気としては十分多い部類に入る以前に現代では問題外なのだが、原作ではその数百倍以上。

それなのに他の男には見向きもしない程のランスLoveで、最後まで一途に付いて来てくれるヒロインなんぞ滅多に居るモンじゃない。

良く見るヤンデレヒロインの暴走は基本的に主人公の馬鹿さが原因であり、ランスも大概だがリアに必要なフォローは極わずか。

しかも元リーザスのトップと言う事で"ランス"と言う英雄と、妻であるリアは"この世界"では最強で最高の組み合わせなのだ。

だとすれば彼女には是非 幸せにしてやりたいと言うのが素直な気持ちだが、まだまだ落ち着かない現状 深く考えるのは早いな。


「おっと。お前を忘れる所だった」

『つ~ん……』

「何時まで拗ねてんだよカオス!」

『いんや? 別に心の友が魔人と寝たからって怒ってるワケじゃ有りませんよ?』

「!? おまッ」

「ランス王……(何時の間に彼女と肉体関係を……)」

「ぶぅ……」←思い出したら腹が立ってきたリア


――――だがリアのフォローのみで無く、周囲の者達 全員を気遣う王として努める事も必然であり今が まさに"その状況"だった。




……




…………




……30分後。

露骨だが遠回しな催促をして来たカオスに、部屋を掃除しに控えていたウェンディを生贄に捧げて放置した後。

リーザスの情勢など自分にとっては"くだらない話"とは言え答えてくれるリアと共に朝食を摂る。

そしてフラフラと戻ってきた(地味に嬉しそうな)ウェンディからカオスを受け取ると、謁見の間に向かいマリスと顔を合わせた。

すると彼女は軽く会釈すると横にズれたので、俺は歩みを進めるとドカりと王座に腰を降ろす。

未だに此処で踏ん反り返っているのには慣れないのはさて置き……周囲に居るのはリアとマリスの他に数人の親衛隊のみだ。


「改めておはよう御座います。ランス王・リア様」

「あァ。おはようさん」

「は~い。おはよ~!」

「時間は平気か……?」

「少々余裕も有ります」

「それなら良かった」

「ダーリンが寝坊するからだよォ?」

「お話していた通り、間もなく新法王クルックー殿が此方に参られます」

「うむ。当然そのつもりで来たワケだが……」


――――そう言いつつ怪訝さを隠さず周囲を見渡す俺に対し、リアとマリスは揃って首を傾げる。


「ダーリン?」

「如何されましたか?」

「曲りなりもドコロか正真正銘の"法王様"が見えるんだろう? 思いっきり"以前"の仕事の時みたいな感じなんだが……?」

「どう言う事ォ?」

「それを疑問に思われる理由を申して頂いても?」

「何つ~かこう……俺が帰って来たダケで"あの騒ぎ"だったんだから、もっと盛大な出迎えをしてやっても良いんじゃないかと」

「あッ。そう言えばそうかも」

「確かに最もな御意見ですね」

「肯定するなら分かってて"何時も"みたいにした様だが……頭数も少なくないか? 相手にナメられたら終わりだろ俺達は」

『……!!』


――――此処でレッドカーペットの壁の如く立っている親衛隊の面々の表情が強張るが、軽くフォローを入れつつ俺は続ける。


「そんな訳で言い分を聞いてやっても良いぞ」←意図的に偉そうにしている

「どうなのォ? マリス」

「……第一に、法王殿が"それ"を望まれたからですね。忍ばれて訪れている身 故に大事にはして欲しくないと」

「うん? まァ……前例(ゼス王)が有ったしな……」

「????」

「その為 疑わしく思われるかもしれませんが、彼女は"一人"でリーザスに見えています」

「!? それは本当か?」(驚愕)

「はぇ~……一人で……」

「はい。私も最初は信じられませんでしたから。衛兵に城門で話し掛けて来たのが遣いでは無く法王"本人"だとは」


――――普通アニメとかだと"こう言う事"は後から分かって驚く描写に繋がるんだろうが、此処で問い詰めるのは自然だと思う。


「……とにかく会ってみた方が話が早そうだ」

「そ、そうだねッ」

「では法王殿を招いて頂いて結構です」

「はいっ!」


≪たたたたたっ≫


マリスが親衛隊に向かってそう声を掛けると、最も右奥の女の子が"例の敬礼"をしてから小走りで其の場を離れた。

その後ろ姿……靡くマントと太腿を眺めつつ、騎士の敬礼を親衛隊が行うのを見るのは原作基準では珍しいと無意味な事を考える。

しかし暫しの沈黙が訪れる中、何となく緊張に耐え切れず、妙にリアもソワソワしてるしで平然を装って口を開く。


「まさか護衛ナシとは…………たまげたなァ。話によると若い女の様だが?」

「前法王の御令嬢との事ですね」

「……若い女……御令嬢……」

「あ~ッ、リア。先に言って置くが流石に大陸最大の宗教団体と殺り合う気は無いからな?」

「……(それにしても本当に何をしに来たのかしら? 分かりかねるわね)」




……




…………




……体感で言ってカップラーメンが食えそうな時間の後。


「お連れ致しましたッ!」

「ご苦労様でした。控えて下さい」

「ははっ!」

『…………』


≪コッコッコッコッ……≫


新法王を迎えに行った親衛隊の娘が戻って来ると、再び敬礼の後 言われた通り元の配置に付いた。

すると静寂の中 直ぐ謁見の間の入り口から小さな足音が聞こえて来たので、その方向をジッと眺めていると……

法王の正装なのだろうか白と若干の青をメインとした神々しい法衣に身を纏った少女が歩みを進めて来た。

マリスの述べた様に若く見え、髪は短いモノの右目は前髪で隠れており……小柄な為かク●フトを連想させる帽子が大きく見える。

しかし最も印象深いのが美少女ながら無表情・無感情とも言える容姿であり、ぶっちゃけ人間なのか疑わしくなって来た。

鬼畜王による"レダ"の操り人形であったムーララルーのままだったら妙に思わないドコロか此処に来ていないだろうが……

全くの別人に成ってしまうとは、どうしたモンか……裏で何を考えてリーザスを訪れたのか微塵にも察する事ができない。

そんな事を一瞬の内に考えていると、新法王は有る程度こちらに近づいて来ると意外にも跪いて頭を下げてくださった。


「皆様 始めまして。この度は急ながら静かな場での謁見の機会を授けて頂いて感謝します」

「あ、あァ……って事はやっぱり……」

「はい。疑わしく思われるのは否めませんが……私が当代ムーララルー"クルックー・モフス"です」

「御丁寧にど~も。俺様の名も言うまでも無いが……」

「…………」


最低限の礼儀として俺に続きリアとマリスも名乗る事で、場の空気を僅かでも和ませるのだが。

彼女の最初の態度から考えると、無駄に畏まって接する必要は無いと判断しても良さそうだ。

ソレで気分を害されれば俺の買い被りと言う事で後に改めれば良いし、今は気に成った事を聞かせて貰おう。


「先ず何故"その立場"で一人で来た? "もしも"の代わりが居る筈でも無し10人20人の護衛を連れてもバチは当らんだろ」

「無論 一人で伺う事を懸念された者は少なくは有りませんでしたが、信者達は私の意志を最も尊重してくれますから」

「いやな? 俺が言いたいのは……」

「分かっています。簡単に言うと此処までは魔法の掛かったアクセサリを見付けていたので、其の恩恵で無事に来れました」

「!? そんな物が?」

「はい。立場上それなりに便利なアイテムや資金の都合は利きますので」

「まァリーザスにも色々と有るからな」

「尚 今は外しています」

「御丁寧に補足をどうも。それにしても困った法王サンだ」

「えぇ~ッ? 王様なのにリアを放って置いて一ヶ月も迷宮から戻らなかったダーリンが言わないでよーっ!」

「リア!?」

「同意です」

「????」


唐突なカウンターにリアからマリス→親衛隊達へと顔を移すと揃って頷いていたが、クルックーは案の定 首を傾げていた。

何度も誤魔化せる様な遠征では無いので国家機密にする必要は無いとは言っていたが……暴露するにもタイミングが有るだろ!?

……とは言え互いに大胆な行動に出ているトップと言うのは悪い響きでは無いので、気を取り直して会話を続けるとしよう。


「ゴホン。じゃあ前置きはコレ位にして、ワザワザ一人でリーザスまで来た理由は何だ?」

「それは……」

「うん? 人払いが必要か?」

「……ッ……」


ちなみに此処の親衛隊達は腕は勿論、例え敵に捕らえられても自白する前に自殺する程 忠誠心が高いとマリスが言っていた。

クルックー側も静かな謁見を望んで来たと言うのに、あえて配置されている親衛隊と言う事から俺達が買っていると察せる筈。

捉え方によっては自分を信用していない為に置いているのだと思うかもしれないが、希望すれば下げるつもりなので問題なし。

よって彼女の返事を待つワケだが、不意に先程から真っ直ぐに俺を見つめていて逸らしていなかった視線が少し外れた気がした。




……




…………




……ふ~ん、時間ピッタリか……つまんないの。

大した回数の蘇生はしてないと思うんだけど、早い段階で殺りネタに欠ける程度には従順に成ってくれて嬉しいわ~。

でも以前の法王達と比べればって話だから……アンタは その連中よりは白状なのは間違い無いわね。

うん? 勿論 褒めてアゲてるのよ? 居やしない神に大勢の信者を縋らせて、勝手に作ったくッだらない教えで説教をする。

そんな詐欺集団の筆頭がこのワタシに意見するなんて愚かな事 極まりないんだから。

あら? アハハハッ。必死で隠そうとはしてるけど、カラダが震えてるわよ~? まァ何時もなら勉強代がわりに殺してたかもね。

でも今の"世界"はなかなか面白い事に成ってるみたいだし、アレから貴女にやって貰いたい事を考えたから早く話を進めたいの。

……良い事? 今 魔人領は2つの勢力がブツかり合って凄く素敵な状況に成ってる。

なんだったかしら……ホーネット派とケイブリス派の戦争ね。

たった今でも殺しまくって死にまくってワンダフルって感じだけど、本当の"お楽しみ"は其の先と言っても良いでしょう。

戦力差からしてホーネット派が負けるのは早くて1~2年。

頑張り次第ではもう少し長持ちするのかな? 出来ればして欲しいトコロなんだけどね。

何せケイブリス派は魔王を捕らえる為に、魔人領を統一させたら人間界にも侵攻して来るのは間違いんだけど……

"このまま"だと勝負はアッサリと着いちゃうでしょうねェ。

今のヘルマンとゼスに魔軍を抑えられる力なんて有る訳が無いのは馬鹿でも分かる。

国ひとつとして見れば、どっちも根っこが荒んでて比較的 面白い部類には入るけど、ワタシ達が観たいのは一方的な虐殺じゃない。

人類と魔物が押しつ押されつつ、程よく殺し合って必死に成っている姿が見たいのよ。

ワタシの予想だと人類が統一されても魔軍が勝つと思うから、その場合はジル期に負けない支配を楽しめれば良い。

まァ人間側が勝ったら……それはその時 考えるとして、先ずは同じ土台に立てる戦力を持って貰わないと始まらないでしょ?

だからアンタは直ぐにでもリーザスに行って人類統一の手助けをして来なさい! 教団全体で贔屓するのは不公平だから無しよ?

何よ? 返事の"はい"が無いわよ? 即答しなさいよ死ね。

……はい起きる。

仕方が無いから教えてアゲるけど、理由としての一つは魔人領に隣接していないから有る程度 侵攻が早まっても時間に余裕が有る。

二つ目は元魔王"ガイ"を殺した張本人である人間と現魔王が逃げ込んでいるから、必然的にリーザスが人類の最後の砦になる事。

そしてリーザスは3国に囲まれているって言うのと、新しくリーザスの王と成ったって男が此処最近 世間を騒がせてるヤツだから。

何が目的かウロチョロと動き回ってるみたいだけど、ソレは別に良いとして貴女は そのリーザス王に人類統一を煽るのが最低条件。

無理なら勿論 土下座でもカラダを差し出してでもして実行に移させなさい。

アンタの貧相な体じゃ後者は微妙でしょうが、地面に頭を擦り付けた法王の願いを断れる者は そう居ないと思うから。

あら……何か言いたそうねェ? えっ? 気の所為ですって?

でも分かってると思うけどワタシ達にとっての法王って地位は、本当の意味で"都合が良い"ダケに過ぎないから忘れない事ね。

暫くは戻って来なくて良いから、精々楽しく観て貰える様に足掻いてみせなさいな。




……




…………




「どうした? 法王殿」

「…………」

「別に遠慮は要らないんだが――――」

「あッ……」

「気分でも悪くなったのか? 少し目が泳いでいた様が」

「いえ……その……少し言葉を選んでいました」

「急な質問だったしなァ」

「すみませんでした。人払いも必要ありません」

「そうか」


――――此処でクルックーは僅かな動作で身形を正すと、再び真っ直ぐとした瞳で此方を捉えつつ口を開いた。


「……ランス王。今 人類に未曾有の危機が迫っているのを御存知ですか?」

「危機だと?」

「大陸の西で起こっている魔人同士の紛争。それを示唆させる出来事が少なからず周囲で起こっているのではないでしょうか?」

「まァ現に魔人から襲撃を受けている位だしな」

「えっ?」

「んッ?」

「コホン」←マリス

「はぇ?」←リア

「失礼しました。それでしたら詳しい説明は不要かもしれませんが、長い時は経たず争いは終結してしまうでしょう」

「だとすれば……?」

「次に狙われるのは間違いなく、我々人類と言う事ですね」

「そうなるよね~、大変だよね~」


――――クルックーの言葉にワザとらしく左右に視線を移すと、マリスとリアが何気に他人行儀な言葉を口々にする。


「はい。ですから人類は一刻も早く統一されるべきであり、迫り来る脅威に抗わねばなりません」

「ならば法王殿的に考えて、それを成すのがリーザスでいて欲しいと言う事……と捉えても良いのか?」

「そうです」

「何故なんだ? 他にもゼスとヘルマンと言う大国が有るだろう」

「最もな指摘ですが……信者を通しての情報によると、ゼスは国王が頻繁に不在な上に極めて不公平な差別と法律が存在します。
 またヘルマン帝国は此処 数年で国力の腐敗が著しく進んでおり……どちらも信者の多い平民層では良い声を全く聞きません。
 よって私の独断で今 人類を統一できる力を持っているのはリーザスのみと判断させて頂き、こうして訪れた訳なのですが……」

「うん?」

「旅の道中。教会の神父・神官達に今のリーザスは自由都市を次々と吸収し続けていると聞きました」

「大事にはしていない筈だがな。何か迷惑でも被(こうむ)ったか?」

「いえ。元より私はAL教団を代表してではなく"個人的"にリーザス王に人類の統一を頼み、微力ながら助力するつもりでした」

「個人的にだと?」

「まぁ……」

「えっ? だったらALICE教団の力は借りられないのッ? だったらパーッと済ます事も出来るかも知れないのに~ッ!」

「落ち着けリア。法王殿にも色々と都合が有るんだろう。そもそも教団の力で国を落としても、付いて来るのは信者ダケだ」

「…………」

「気に病む必要は無いが法王殿。リーザスが自由都市を吸収しているのは、俺様を陥れた憎きヘルマンを倒す下準備と言って良い。
 癪だが連れも掴まってるのは"ついで"として……どうせなら世界を統一して、いずれは喧嘩を売って来た魔人連中も倒す予定だ」

「……ッ!」

「よって頼まずとも人類は統一させるつもりなんだが、一人で此処まで来たのは本当に"個人的"に手伝いたい為なのか?」

「はい……大層な事を述べたと言うのに、殆ど押し付ける様な形で申し訳ありませんが……」

「押し付けも何も言われなくっても遣ったドコロか既に実行中な件だ。むしろ協力者が増えてくれるのは願っても無い」

「既に似た様な方も居らっしゃいますしね」

「うんうんッ」

「????」

「今じゃ意味不明だと思うが、滞在してれば おのずと見えてくるさ。サプライズも色々と有るだろう(主に魔人関連で)」

「……宜しいんですか?」

「どう言う意味でだ? 何にせよ問題ない。マリスの言った通り今に始まった事じゃ無いし、要人が一人増えても大して変わらん。
(ガンジーや魔王を受け入れて法王を断るのも不自然だし)よって居たいなら拒まないが、過度な口出しは謹んで貰えると有り難い」

「元よりそのつもりです」

「では不躾ながら話を纏めさせて頂いても宜しいでしょうか?」

「頼んだ。マリス」

「…………」

「はい。それに当たって先ず今の段階では法王殿に御教え出来ない情報も有る事を予め理解 願うとして……始めさせて頂きますね。
 現在 我が国は"ある事情"により魔軍からの襲撃を受けており、前述の"魔人同士の紛争"の勢力の片側と見て間違い無いでしょう。
 既に4回もの攻撃を受けていますが大規模な侵攻では無く、いずれも"魔軍"の撃退には成功しており甚大な被害は有りません」

「撃退……」

「様々な捉え方が有るでしょうが、私としては非常に良い結果に収まっていると思っております」

「むう~ッ(サイゼルの事を言ってるんだ)」


――――意図が分かる筈も無いマリスの言葉にクルックーは首を傾げるが、案の定リアは面白く無さそうに頬を膨らませていた。


「またランス王の仰った通り、リーザスは世界制覇に向けて現在は自由都市との合併・或いは攻略を行っており極めて忙しない状況。
 しかし対魔人・攻略どちらも明確な方向性が定まってはおらず、それはランス王が頻繁にリーザス城を離れる事が原因と言えます。
 ですが初戦は"その遠征"による恩恵が非常に強かった戦いでして……今後 軍事力のみならず個人の実力も重要視されるでしょう」

「…………」

「よってリーザスは一人でも多くの手を借りたい状況。故に相手が魔人であれ法王であれ疚(やま)しさ無ければ身分も問いません。
 そう考えれば我々としては法王殿の在住を拒む理由は無い為、あくまで個人の協力者としての待遇とはなりますが歓迎致します。
 当然 法王殿の今後の働き……と言っても多々有ると思いますが、戦果によっては より良い報酬や階級を与えられるのですが……」

「うむ。そちらの立場が立場の為に危険な戦いをさせる事は遠慮したい。それドコロか有る程度の監視を付けさせて貰う事に成る」

「…………」

「だからテンプルAL(本部と続くが確か変わってたな)……いやカイズに居た時より かなり束縛された生活になってしまうだろう。
 正直マリスが言った最後の方は矛盾してると思うが、それでもリーザスに"個人的な協力"をして貰えるって事で良いのかな?」

「はい」

「(即答したか……)ならば宜しく頼むぞ」

「此方こそ暫くの間 宜しくお願いします」


――――こうして新法王のクルックー・モフスのリーザス滞在が決定し、俺と彼女は互いに歩み寄ると握手を交わした。


「リア君もやりなさい」

「えぇ~? 仕方無いなァ」

「…………」

「はいはい! 宜しくね~ッ、ダーリンに色目使ったら駄目だからね!?」

「……!?」

「はははッ。全く誰が相手でもブレ無いなアイツは」

「そうですね(……でも僅かに眉間が強張った? 流石に考え過ぎかしら)」

「ところで言い忘れてしまったのですが」

「何をだ?」

「私の正体を知るのは、リーザスの一部の方ダケと言う事でお願いしたいです」

「マリス」

「大体予想はしていましたので、その様に手配致しましょう」

「すみません」

「気にするなって。んでこの後は出席できる将軍達を集めてでの会議だったか?」

「そうですね。法王殿の出席の可否については如何なさいますか?」

「当然 参加して貰うさ。俺様が許可したと言えばバレス達は何も思わんだろう。必然的に正体はモロバレだが」

「現在リーザスが直面している最も重要な問題について理解して頂くには、其方に立ち会われるのが一番ですからね」

「結論から言うと大丈夫だったんだけどォ~、ダーリンが居なくってスッゴク怖かったんだからッ!」

「そりゃ悪かって。まァ相応の能力を得れた事だし勘弁してくれ」

「むぅ~ッ……」

「(……私が何をせずとも……"アレ"が望んだ形と成っていた? ……だとすれば……此処で暫くの間は……)」

「ともかく次に進むぞ。将軍達を直ぐに集めさせてくれ」

「畏まりました。親衛隊各員、宜しくお願します」

『――――ははっ!』


≪ダダダダダダッ!!≫


「……椅子でも持って来させるか? 法王殿」

「お気持ちだけ受け取って置きます」

「う~む。座ってるのが俺様ダケと言うのも、どうもなァ」

「些細な気遣いも出来るダーリンも素敵~ッ!」

「あッハイ。どうも」

「(抱きつかれても動じないなんて、早くもリア様の行いに慣れてしまわれたのですね)」


長ったらしく会話したが、結論からすると新法王の処遇に関しては"保留"であり万が一にでも死なれたら困るので戦闘は論外。

いちファンとしては能力が非常に気になるトコロだが、ランスならランスで口説くのは勿論 望めば戦闘にも出すんでしょうね。

戦死したら間違いなくゲームオーバーだろうけど、そうしたらロードすれば良いし生き残ったら彼は自分の采配の恩恵と考える。

尻拭いをしているのはイベント以外 全てプレイヤーなんだが……今考えればヘルマンに粛清される迄 良く生きてたよなアイツ。

さて置きイレギュラーとも言える彼女は普段が無表情っぽい事から何を考えているか分からず、危険人物の可能性も否定できない。

仮に彼女が普通に良い人だったとしても、新法王を影で操る"天使"が善だとは100%有り得ないので踏み込まず警戒を維持しよう。




……




…………




……先程の流れのまま纏わり付いてきたリアを膝の上に、適当にイチャイチャ(?)する事 数分。

約一名の分かり易い足音で将軍達が到着したのだと察せたが、律儀にも現れたのは"一人づつ"で先ずは黒の将バレスから始まり。

続いてコルドバ・リック・レイラさん……と簡単な挨拶と会話を交わすと、その4名は俺の正面に並び改めて跪いて下さる。

尚 今から行う会議(のようなモノ)は此処まで人数を絞る必要が有る程 極めて機密かつ重要だったりするのは さて置き。

参加する権利を持っている"エクス"の姿が無い理由は"今後"のリーザスの侵攻に大きく影響しているからと言えば予想できる筈だ。


「先ずは皆に紹介したい者が居る」

『…………』


だが今の将軍達が気に成っているのは間違いなく"謎の少女"だと思うので、早速 彼女が"当代ムーララルー"だと紹介するのだが。

いくら特徴が似ていたとは言え、やはり目の前の小柄な少女が"本物"だったのは流石に驚く事実だった様である。

だがリーザスの将軍らしく驚きはしたが"それだけ"であり、クルックーが再び後方に控えると直ぐに気持ちを切り替えていた。

各々は何の用件で集められたかは十二分に理解していて、彼女も十分サプライズだが本題は"魔人"と"侵攻"の2つに限られている。


「(儂らは勿論だが法王殿にも既に一目 置かれていたとは、流石はランス王じゃな!)」

「(どうも胡散臭い気がして成らんが……機会が有ればハーモニカを聴いて貰おう。うむッ)」

「(ALICE教団の眼が有ると遣り難くなりそうと感じたけど、キングが問題無いと仰るなら僕の考え過ぎだったか)」

「(ランス君とリア・マリス様に続いて新法王も護衛の対象との指示か……これは責任重大ね)」

「では続いて。"小川 健太郎"を通せ!」

「――――ははッ!」


更なる親衛隊への指示に一人の娘が去ると、何も言わずとも将軍達は2名づつレッドカーペットの左右に分かれた。

ちなみに先程まで"その位置"で壁を作っていた親衛隊達は当然 場を譲るように後退しており、警備の任務を静かに こなしている。

そして沈黙が訪れる事1分程で相応の足音と共に一人の青年が姿を現し、日光片手に珍しそうに謁見の間の造りを眺めながらの登場。

見るからに緊張している様子だが、常人なら威圧感を得そうな"この面子"より場の構造の方を先に気にする辺り強いメンタルだな。

また喜ぶべき事にミンナラケンの仕様であり爽やかな好青年……来水 美樹の安全さえ保障すれば快く働いてくれるのは間違い無い。

反面 死んでしまったら"リトルプリンセス"の覚醒を意味するので、魔人を攻撃でき限界レベルも高いとは言え取り扱い注意である。

しっかし幼馴染と共に現代から異世界に召喚されたとか……俺と同等・それ以上の"もう一人の主人公"と言っても良いキャラですね。

正直"どんな時間軸の日本"から来たかを始め、好きな牛丼屋あたりまで色々な事を聞きたいが……極めて親しくなってからに限る。

そんな事を考えながら近づいて来る"小川 健太郎"を見下ろしていると、彼は丁度 将軍達の中間で跪き頭を上げないまま喋り出した。


「始めまして。ランス王。私は"小川 健太郎"と申します。この度は危ない所を保護して頂いて本当に有難う御座いました」

「なに。大した事はしていないさ。頭を上げても構わないぞ」

「はい」

「何と言うか……随分と大変だったそうだな。有る程度の話は来水とサテラに聞いているが」

「そうですね。此方で目を覚ましてからは、今迄"この世界"で過ごしていた日々と比べると本当に安全に過ごさせて頂いています」

「結構な事だ。だが体の方は随分と衰弱していたとの事だが?」

「はい。意識を失う寸前は死んでしまうかと思いましたが、皆様の御蔭で生きてますし御医者様の話では順調に回復していると」

「そうか。では引き続き体力の回復に努めてくれ」

「で、ですけど……此処までの待遇を頂いて宜しかったのでしょうか? 資金等については気にしないで良いと聞いていますが」

「全く問題無いぞ。何せ俺様が指示した事だしな。それ以前に来水がケイブリス派に捕らわれたら人類が終了してしまう」

『其処まで御存知でしたか』

「うん?」

「……日光さん」

「刀が喋ったのか?」

『それにしては余り驚かれていない様ですが?』

「同じのが身近に有るからな」

『!? お、おいッ! 今の声はブッ!?』


――――此処で"聖刀日光"の声でカオスが身を乗り出そうとしたので、鞘に強引に押し込んで場の空気が壊れるのを未然に防いだ。


『今の声はやはり……』

「懐かしの再会と言う事に成るんじゃないか?」

『そうなりますね』

「まァ話はカオスからアホみたいに聞いている。人間体が気に成るトコだが、ややこしく成るので次の機会で宜しく頼む」

『畏まりました。何時でもお声掛け下さい』

「そ、それよりも王様ッ」

『大人しくなさいカオス』


≪ぐぐぐっ、ぐぐぐぐぐぐッ≫(強引に魔剣が出てくるのを抑えている)


「……やっと諦めたか。ゴホン。ともかく予算に関しては"気にするな"と言う事だ」

「あ、有難う御座います」

「それよりも話は変わるが、レベルが随分と下がってしまった様だな」

「は、はい。怪我の影響で一気に10まで……」

「だが来水を守りたいという気持ちは変わらないんだよな?(そうでも無きゃ此処まで逃げてくる事すら出来なかった筈)」

「!? 勿論ですッ!」

「ならば暫くは鍛錬を行って魔人と戦える実力を見に付けて貰う。見返りの代わりに働きたいと言うのならソレが堅実だ」

「……分かりました」

「当然"聖刀日光"を持つ貴重な戦力だ。全面的にリーザスがバックアップさせて貰うから安心してくれ」

「何から何まで感謝の言葉も有りません……期待に添えられるように努力させて頂きます」

「共に戦える時を楽しみに待っていよう。では下がって良いぞ」

「はいッ。失礼致しました!」


――――勢い良く立ち上がると深く頭を下げてから去ってゆく健太郎の背中を眺めていると、真横に居たリアが口を開いた。


「彼も魔人を斬れる剣を持ってるって事ォ? びっくりした~」

「俺はサテラからポロッと聞いてたから大してな」

「どちらにせよリーザスにとっては良い"拾い者"が出来た様ですね」

「あァ。だが万が一にでも死なれちゃ厄介な事に成るけどな……よって将軍各位・成るべく力を貸してやってくれ」

『ははっ!』×4

「続けるぞ? 魔人サテラを呼べ」




……




…………




……1分も待つ事無く次の者が姿を現す。


「ランス!! サテラを待たせるのは良い度胸ッ! ……じゃないのか?」

「……何で其処で俺に振るんだ」

「う、五月蝿いッ! それよりもサテラは忙しいんだ。話なら手短にしろ」

「分かっているさ。始めてくれ。マリス」

「畏まりました。皆様。既に御存知でしょうが、ランス王が遠征に発たれてからリーザスには計3回の魔軍による襲撃が起きています。うち2回がリーザス城・西のノースの街と北東のバランチの街。其方は各2体の魔物将軍が率いていたモンスターの混合軍であり、合計1000匹程の規模でした。しかしドチラも直ぐ様 出撃したバレス将軍・黒と青の副将による混合軍の迎撃により敵指揮官を含めて全滅しております」

『…………』


――――開幕で睨みを利かせたら場の雰囲気に負けたっぽいサテラはさて置き、マリスはペラリと資料を捲ると淡々と話を続ける。


「その際≪既に知っていたがサイゼル経由でランスが出発前に教えた≫両方の現場で襲撃の直前。魔人カミーラの使徒の特徴と一致していた者の目撃情報が確認されており、十中八九 来水殿を狙った侵攻だと考えて良いと思われます」

「だがカミーラの行動は妙に感じたぞ? 仕方なくサテラ達が向かった時は……」

「はい。3回目はバラオ山脈の近隣のマウネスの街への侵攻。ヘルマンの脅威を考えれば万が一にも落とされる訳にもゆかず、コルドバ将軍の部隊が迎撃するも対するはドラゴン女を主力とした軍。前述の魔軍とは桁違いの強さで、リーザスは止むを得ずサテラ殿とメガラス殿へ救援を要請しました」

「統率は全く執れてなかったから思ったよりも被害は少なかったが、空を飛びやがるし遣り難いったら無かったぜ……」

「それに魔人が指揮しているならば儂らは耐えるしか選択肢が残されておらん。良く持たせてくれたものじゃて」

「しかし無理はなさらず引く事も場合によっては。奪われた領地あらば私達"赤の軍"が直ぐ様 奪取するべく動きます」

「……(私達 親衛隊はリーザスを離れられないのが歯痒いわ)」

「……(思った以上に苦戦していた様だが、リーザスの連中は本当に優秀で助かる。確かに冒険中の俺に言う様な被害でも無い)」


――――かなり苦しい戦いを強いられたコルドバが口を開いた事で、空気を読んで少し間を置いたマリスは再び話を続ける。


「結果。早い段階で救援に駆けつけて頂けましたが、魔人カミーラはサテラ殿・メガラス殿の姿を確認すると直ぐに撤退。ドラゴン女達も退却してしまい、残ったのはリーザス騎士の僅かな被害と甚大な物質的な損害に留まりました」

「流石に追ったりはしなかったか」

「癪だが奴にはサテラとメガラスで掛かっても歯が立たないからな……レイが何時 出てくるかも分からないし無理は出来なかった」

「まァメインは来水の護衛だし捕らわれたら困るしな。ところで魔人レイの目撃情報は?」

「リッチの街で既に確認されています。まだ目的は不明なので引き続き監視している最中です」

「でかした。場所が固まるまで絶対に悟られるなよ?」

「はい」

「ところでサテラ。さっき妙だと言っていたが何故だ?」

「あァ。カミーラが本気でリトルプリンセス様を攫う気なら、あの時サテラ達を蹴散らしてでもリーザスを目指した筈だからだ」

「ふむ」

「よって相応の戦いは覚悟していたんだが、アッサリと引いてしまった。妙に思わない方がオカしいだろう?」

「(ダメージさえ食らって無いのにか)ひょっとしたら遣る気が無い? 或いは奴もケイブリスの意志に反している?」

「!? それなら話せば分かってくれんじゃないの~? サイゼルみたいにさッ」

「とんでもなくプライドが高いみたいだから無理だろ流石に。そもそもアイツを説得できたのは倒した後だったぞ?」

「(リアの馬鹿は良いとして)……もしかしたら、本当に遣る気が無いのかもしれないな」

「何だとォ?」

「知ってるだろうがカミーラはケイブリスが嫌いだ。奴の女々しいアプローチに逆上して襲い掛かって負けてしまった事が有る程」

「そりゃまた……」

「けど今回の任務で暫くは顔を合わせなくて済んだモノの、直ぐ目的を達成させれば奴は"魔王"となり求愛による服従は防げない」

「だとすればカミーラにとって、今の状況は何時までも維持していたい絶好の期間って事か」

「それが本当なら……考えたくはないが……ホーネット様達が健在なウチは大きな侵攻はして来ないのかもしれないな」

「極端な話リーザス軍は眼中に無いって事か……」

「だろうな。そもそもカミーラ程の魔人が本気で魔物を招集させれば、人間領だろうと1~2万は呼び掛けに応えるだろう」

「反面サテラの部下はガーディアンが200体ダケか。悲しいなァ」(KBTIT)

「さ、サテラは人間達への悪影響を考えて控えてやってるダケだッ」


――――今の一連のサテラとの話の内容で、俺は何とも思わなかったが将軍達はナメッぷりに流石にカチンと来たらしい。


「魔軍どもめ……フザけやがってッ! 上等じゃねぇか!!」

「本気で潰して来ないのは幸いじゃが、今のリーザスには人類を統一するという目的が有る。その妨げに成るのは厄介じゃな」

「害を成す存在は早めに消してしまいたい所です」

「ドラゴン女が主力で有れば、再びリーザス城が直接攻撃される可能性も有るでしょうし……」

「だが今のリーザスは多岐に渡って勢力を伸ばしている最中で戦力を集中できない。悪いがもう暫く耐えて貰う事になるな」

「では纏めさせて頂きます。魔軍に対してはバレス将軍・コルドバ将軍の部隊を主軸に黒・青の軍で迎撃して頂きます。もし魔人が前線に現れた場合はサテラ殿・メガラス殿に援護を要請し時間稼ぎに徹して下さい。厳しい戦いを強いますが宜しくお願いします」

「承知致しましたぞ」

「了解だ!!」

「それに関してドラゴン女が非常に厄介だろうから、カスタムでスカウトした戦力もアテに成るだろう。適当に役立ててくれ」

「はい。既に南方よりリーザスへと向かって来ている集団を確認しております」

「サテラもソレで問題無いか?」

「……良いだろう。だがホーネット様が努められている間に、人間領を統一してしまう位の意気で戦わないと承知しないぞッ」


――――此処でホーネットよりも来水を優先させる辺り、余程 彼女に釘を刺されているのだろう。(前科が有るし当然かもだが)


「当たり前だよなァ? じゃあオマエは下がって良いぞ」

「ふんッ! サテラとの"勝負"も忘れるなよ!?」

「あァ。リックの相手が済んだら頃合(十分に勝てるレベル)を見て付き合ってやるさ」

「絶対だからな! 首を洗って待っていろッ!」

「……アレは俺が言う方が正しくないか? マリス」

「どうでしょうね」

「ゴホン。さて部外者も去ったしドンドンゆくぞ。今度はリーザスの"方向性"についてだ」

「方向性ですと?」

「次は何処を攻めるかって事ですかい?」

「…………」

「(私達 親衛隊の出番は無さそうかな?)」


――――サテラが去った事で会議は次の議題へと進み、俺の言葉に4人の将軍達はそれぞれの反応をする。


「うむ。情報によると今現在。JAPANが大陸に侵攻するべく準備を進めているそうだ」

「何と!?」

「俺様としては自由都市の制圧が終わればヘルマンを叩きたいトコロだが、挟まれるのは厄介だと思うし早めに対処したい」

「その準備ってぇ、どれ位 掛かるの~?」

「詳しくは存じませんが早くて1ヶ月。長くて3ヶ月程と捉えると宜しいかと」

「ふむ。余り猶予は残されておりませんな」

「だからエクスとハウレーンの白の軍をポルトガルに向かわせている。それに俺の緑の軍とかを加えるが……準備はどうなんだ?」

「ランス王 直属の正規兵千名は何時でも出撃が可能です。ですが1ヶ月も有れば他の将軍と同数の1200名規模に拡大できます」

「グッドじゃないか。ソレなら何も問題は」

「また現在 副将の座が空いておりますが1500名の緑の一般兵の採用と修練が既に完了しており、直ぐにでも招集が可能です」

「なん……だと?」

「あッ! だったら丁度良い機会だし、ダーリン今此処で副将決めちゃおうよ~!」

「リアさん!?」

「確か1500名もの人数ながら、志願者が殺到して採用には随分と骨が折れたらしいぜ?」

「コレもキングの人望の成せる業でしょう(……戦うしか能がない僕も肖りたいモノだ)」

「ランス王。御采配を願います」

「誰か都合の良い人間は居なかったのか? マリス」

「流石に私の一存では」


マリスが"優"の人間を見つければ採用したかもしれないが、人材の確保はエクスも非常に力を入れているしそう簡単に拾えない。

俺の副将と成るなら尚更で有り、そう考えれば彼女の審査は極めて厳しくハウレーンでさえ"良"でメナド辺りだと"可"になる模様。

されど俺が認めてしまえば全会一致で"優"が確定するらしく、ステッセルみたいな奴が王だったら国の体制が崩壊するのは確定的。

無論"俺"と言う人間を認め・信頼しているからなんだろうけど、原作ランスは良く"その辺"が大丈夫だったよな……と感心するぞ。

さて置き。カスタム組もJAPAN組も部隊を率いて貰う事が確定していて、既にその流れで準備を進めつつ此方に向かっている。

よって完全に新規の人物を選出しなければ成らないワケだが、確かにリーザス城内のモブ(?)にも良さそうな者が居たとは言え……


「ポルトガルの西。闘神都市の"サーナキア・ドレルシュカフ"を緑軍の副将として迎え入れろ」(他に思い浮かばなかった)

「畏まりました」

「えッ? 誰ェ?」

「また俺は軍を率いない事も多いし大将代理として一流校 主席の"アールコート・マリウス"を採用しろ。メンタル面は何とかする」

「!? ……確かに彼女で有れば……」

「もう少し視野を広めるべきだったな」

「恐れ入りました」

「誰か異存が有る者は居るか?」

「滅相も御座いませんぞ」

「その娘の噂は妻(フルル)から聞いた事も有りますしな」

「早急な決断力……感服した次第であります」

「有りません(マリス様が知ってたみたいだし)」

「そんな訳でだ。1ヶ月後に魔軍を抑えつつJAPANへの侵攻を開始する。緑・白の軍を主軸に今回の遠征でカスタムで勧誘した部隊(+謙信達)も投入する事に成るだろう。ウチ(マリアは研究を兼ねるので)一部は魔軍対策に回すが、恐らく短期決着が予想される。よってリック・メナドの"赤の軍"には来週より未制圧の自由都市を中心に攻略して貰うのだが、決戦の際には援護を要請する可能性が高いから、ソレを踏まえて無理をせず侵攻していってくれ。ちなみにリック。今週中には戦ってやるから御手柔らかに頼むぞ?(震え声)」

「あ、有り難き幸せ!! 任務に関しましては、命を賭けて務めさせて頂きますッ!」

「それでは解散!! より忙しくなるぞッ! 皆 頑張ってくれ!!」(小学生並みの励まし)

『――――ははッ!!』


総括すると。

緑の軍は1ヶ月で調整を終わらせてから1週間の移動を経て白の軍と合流し、JAPANを全力で責める。

黒の軍は魔軍の侵攻を抑える。(メインは東)

青の軍も魔軍の侵攻を抑える。(メインは西)

赤の軍は残っている自由都市を制圧しつつ、リックの軍だけJAPANからの援軍要請に備える。

白の軍は1ヶ月以内にポルトガルも制圧し、緑の軍との合流を待つが先に攻められたら全力で防衛。

親衛隊はリーザス城の防衛がメインだが黒・青の軍が対応できず街を落とされたら直ぐに取り戻す。

魔法部隊は黒・青の軍の迎撃 状況で穴が有れば埋める。(しっかり前線が機能すれば後衛の攻撃はアスカには届かない)

サテラとメガラスは魔人が前線に現れたら即 抑えに行く。(先に気付いたら伝令を受けなくても勝手に行く)

カスタム組はマリアの部隊はリーザスに留まらせるが、魔想さんは承諾して貰えればJAPANに来て貰う。

JAPAN組は投資を惜しまず戦力を整えて貰い、緑・白の軍に並ぶ主力としてJAPANを全力で攻める。

尚リーザス全軍は以下の通り。ついでに部隊を持たない者の名前も、連れて行く予定も含めて挙げて置こう。


■魔人迎撃■

バレス:正規兵1200名

疾風:一般兵1500名

コルドバ:正規兵1200名

キンケード:一般兵1500名

アスカ:魔法兵400名

マリア:砲兵250名(予定)

サテラ:ガーディアン200体

メガラス:ホルス600体

健太郎:レベル60以上で参戦


■JAPAN侵攻■

ランス:正規兵1200名

(かなみ・メルフェイス・サイゼル・アームズ・アールコート)

サーナキア:一般兵1500名(予定)

エクス:正規兵1200名

ハウレーン:一般兵1500名

志津香:魔法兵350名(予定)

(エレノア・ミル)

謙信:武士300名(3倍以上に増える予定)

(愛・蘭・小松・勝子・虎子)


■遊撃・救援■

リック:正規兵1200名

メナド:一般兵1500名

レイラ:親衛隊1000名

ガンジー:魔法戦士500名

(ウィチタ・カオル)


……とまァ、即位したばかりの初ッ端と比べたら戦力を拡散させても特に問題無さそうな顔ぶれと成ってくれた。

けど魔人相手には幾ら人数が居ても足りないが、本来の原作基準なら更に少ない戦力だったんだし泣き言は御法度である。

むしろカミーラがⅥ基準では無い上に遣る気が無く……JAPANも戦国の様に馬鹿みたいな兵力では無いのを喜ぶべきだ。

しかし原作の様に各部隊を即席で飛ばせないネックが、今の圧倒的な戦力の恩恵を相殺してしまっているけど条件は敵も一緒。

そう考えればメリットの方が目立ち、リーザスの味方同士の連携や信頼は他の国と比べたら桁違いに優れているのは間違い無い。

……と言うかゼスとヘルマンが酷すぎるダケだが……確認していないにせよ、クルックーの先程の言葉から確信が持てたとして。

今後も良い人材は勧誘し、親しくなった娘は"強化"してゆけば"ここぞ"と言う時に一気に状況を有利にしてくれると期待できる。

まだまだ"下積み"が続いていて未だリーザスの情勢に大きな影響を与えたりはしていないが、次回の遠征で そろそろ報われるか?

そんな事を考えながら去ってゆく将軍達の背中を眺めていると、ふと存在を忘れていた"クルックー"の事を思い出し首を向けた。


「……ッ……」

「さて。どうだった? 少しは現状を理解して貰えたか?」

「!? はい。協力してくれる魔人まで居たとは……リーザスが"西"の影響を此処まで受けていたとは思いませんでした」

「只単に攻められてるダケじゃ無いって事だ」

「やっぱり……何か私で協力できる事が有れば良いのですが……」

「いや。手を煩わせる気は毛頭 無い。危険だと思ったら帰って貰っても構わん」

「……いえ……世界の危機とまで来れば、教団としても何も行わない訳にもゆきません」

「ふむ」

「差し支えない範囲で、私の権限で"テンプルナイト"の招集と"冒険"の御力に慣れそうな者の手配を致します」

「しかしなァ……」

「ランス王。それ位なら宜しいのでは有りませんか?」

「そうだよォ(他の兵隊なら魔人の盾には丁度良いしッ)」

「マリスがそう言うなら構わんか」

「リアは!?」

「……と言う事は……」

「あァ。くれぐれも他国の信者を不穏にはさせなくでくれよ? それよりも"冒険"に関しての人材の方が気に成るゾ」

「それでしたら」


≪ゴソッ……≫


「ん?」(吃驚)

「私がその冒険者です」


――――唐突に法衣を脱ぎ出したと思ったら、其処にはゴーグルの付いた茶の帽子とジャケットに身を包んだ少女が居た。


「却下だ~ッ!」

「……冗談です」

「そうは聞こえなかったが?」

「気の所為かと」

「うぬぅ。ところで其の姿は?」

「突然失礼しました。アレでは目立ち過ぎますし"この服装"で居ても構いませんか?」

「問題ない。むしろソッチの方が良いな」

「有難う御座います」

「(改めて見ると結構 可愛いし)」

「…………」

「どした?」

「やっぱり私も同行を」

「駄目ったらダメだ!」

「(クルックー殿……思ったよりも、付き合いやすい方なのかもしれません)」

「(やはり王としての責任の方を優先する様ですし"あの人"に頼みましょう)」

「ダーリン!! それよりも早く御飯 食べに行こうよ~ッ!」

「おッ? そうだな……って良いのか?」

「はい。午前の予定は終了しましたので」


この後は他の誘いを断ってリアと2人で昼食を共にし、昨夜の失態により損ねた彼女の機嫌を改めて取る事に努めた俺だった。

そして午後には山の様に積まれた保留事項をマリスとの口頭によって消化する事で過ごし、相変わらずの手腕に驚かされる。

共に戦ってくれる者は大切だがマリスの様に影で皆を支える人ってのも尊敬に値……ッて言うか好みなんだよな参ったなマジで。

リアも何だカンダで常に俺の後を付いて来ており、何時もの様子に戻ると逆に俺の機嫌を伺う仕草に好感がマッハに成って来た。

JAPAN攻め迄には踏ん切りを付ける予定だったが、そんな割り切った感情を抱いていた以前の自分を殴りたくなる程に……




「今現在ランス王が自由に使用して頂ける資金は15億1144万ゴールドです」

「は?」(驚愕)




「先日リア様の案によりランス王の直属の給仕を募集したところ、応募人数は9119名でした」

「えッ? 何それは……」




――――それにしてもリーザスの内政は どうしてしまったんだ。知識の指輪の効果にマリスの頭脳が合わさり最強に見えた。








■あとがき■
次回はリーザス城に帰還したメンバーとのコミュが中心になります。Ⅵがピークだったサーナキアは此処で出さずに何処で出す!?
クルックーへの対策は彼女を全く知らない主人公には何も無いので、現在は遠回しな監視をつけ客人として扱うしか無いと思います。
教団を影で操っているのは"女神アリス"ですが世界観が鬼畜王なので、正史ほど大陸の情勢を自分で動かそうとは思っていません。
当然凄まじく強くて人間・魔人を瞬殺する技能を持ちますが主人公は無効化でき精を受けた娘も同様と成るので戦いが成立する妄想。



[12938] 鬼畜王じゃないランス27(2015/04/14 01:34)
Name: shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2015/04/16 21:04
鬼畜王じゃないランス27




=LP03年07月1週目(月)=


クルックー・モフスを客人として迎え、侵攻の方向性が纏まってから一週間。

俺は"それなり"に忙しい時を過ごしており、主にリーザスの騎士や貴族との謁見を中心に行っていた。

だが初っ端に殆どの課題を消化してしまったので、別に拘束時間は大した事は無い。

今となっては午後に2時間程 使うのみで良く、午前は自由にリーザス城内を動き回れていた。

もし書類整理が有れば そうはいかないだろうが、全て口頭で済んでしまう辺りマリス様は偉大である。

また"王様"という立場から表現が難しいが、全てが俺を中心に回る様むしろ周囲が気を遣ってくれていた。

対してソレを当たり前の様に労うダケで逆に感謝されてしまうのだから、ストレスが一切無く極めて気が楽。

しかしながら、魔人関連等の選択肢を間違えれば世界の崩壊を招く重要な立場なのを忘れてはならない。

"魔王を犯すべからず"と言う単純な事から始め"ラ姉妹を破壊神化させてはならない"と言う認知度が皆無な件。

更には"2人の忍びに将軍を暗殺されない条件"等、原作の様にピンポイントで気を付けていれば済むのでは無い。

極端だが女性への対応によってはエレノアだけで無くウィチタや謙信に自害されてしまう可能性も有り得るのだ。

そう考えれば無限に不安要素が浮かんで来てしまうが、行える事も多種多様なので旨く相殺する他ないだろう。

よってヘルマンやゼスみたいな酷い国を"立て直す所"から始めなくて済んだダケでもマシだと思うべきである。


「…………」

「…………」


≪――――ペラッ≫


「うぅ~む」

「…………」


そんな現在は暇である午前のひととき。

俺はリーザス城・(殆ど自室だが)別室のデスクの前で唸っていた。

基本的に"こう言う事"をする時は寝室では慣れない為、ソファーも完備されたオフィスみたいな造りにしたのはさて置き。

目の前には主に通信販売を中心としたカタログが積み上がっており、甚大な個人資金の使い道を考えているのだ。

ちなみに部屋のソファーの端にはファッション誌に目を通している かなみが座っている。

リアと彼女とメルフェイス……サイゼルは立場的に残念だが……前述の3人は用が無くても自由に入室を許可している。

よって常に護衛も兼ねているかなみは、誰も訪問者が居なければ天井裏に潜むよりも部屋の中に居る事が専ら多い。

だがマリスやウェンディが用事・仕事でノックをすれば瞬時に消えるので、己の立場は十二分に理解していた。


「それにしても15億ゴールドかァ」

「正確には1億減って、14億1144万ゴールドだ」

「1億はマリアさんの研究所の建設費だっけ?」

「最初は財政的に5000万と言ってたんだが、予想以上に余裕が有って2倍にした」(原作では9800万ゴールド)

「う~ん……リーザスの必要予算を全部 差し引いて……余裕を持って使える資金が何処に其処まで……」

「早い話 魔人に対しての戦果や侵攻による領地の話を聞きつけて、貴族達から大量の融資が来たからだ」

「確かに"家"によっては使い道に困ってる程 裕福な所も多いしね」

「あァ。ヘルマンやゼスだと趣味の悪い娯楽が多々有る様だが、リーザスは極めて厳しく規制されてるからな」

「リア様は本当に極端だからね……どんな人でも発覚したら重さによっては死刑か、良くても財産の大半を没収するから」

「うむ。俺としても罪人には情けは無用みたいなことを煽ったら、リアの奴 更に遣る気に成ってたぞ」


――――"極めて厳しい"と言えば、副将の立場で有りながら一瞬で解雇された加藤や処刑されたキンケードやザラックが良い例だ。


「ランスも大概だったと思うけどな~。今更 野暮だとは思うけどね」

「痛いトコを突くな……と言うか最もだが……残念でした。王に成った時点で迷惑を掛けた連中には十分な金を払ったさ(予算で)」

「うぅう。私の免罪にも回して欲しい~ッ」

「別に構わないんだが、かなみの場合は実力で諦めさせるのも良いだろ。今じゃ殆どの忍者相手でも負けない筈だ」

「う~ん。身体能力は上がっても技術的には まだまだよ。速さに頭が追いついて来なくもなってるし、もっと精進しなきゃ」

「(限界反応ってヤツか)俺としてもリックの速さに剣が追いつくかってトコだし、強くなっても課題は多いよな」

「そ、そうね」


尚 大量の資金は俺のさり気ない発想が"こちら"には非常に斬新で、特許みたいなのが多く発生した事も極めて大きい模様。

マリスに さり気なく不便だった事や便利な道具のアイデアを告げたダケなのだが、知識の指輪のブーストの恩恵だろうか。

当然 世界観をブチ壊す様な考えは怪しまれるので出していないが、容易に儲けを期待できるからか貴族達が目を輝かせたのだ。

更に罪人に対する予算は"元の世界"と違い僅かにしか使ってない等 やはり税収が費用を大幅に上回っている事に他ならない。

言っちゃ何だがリーザスの政治の旨さ・騎士達の国に対する想いに比べたら、日本の遣り方なんぞ比較にならないレベルである。

常に発生するモンスターや法律に縛られない人間達による死人の多さが欠点だが、リーザス圏で真っ当に暮らす者の未来は明るい。

しかしながら。大量に資金が有っても才能限界値や所持技能のレベルを上げられるワケでは無いので、使い道が見当たらない。

"まんが肉"など身体能力の基本値を上げるアイテムが有れば大量に買いたかったが、残念な事に永続的なモノは一切無かった。

同名なのは 存在せど摂取による効果は無く、戦闘時に1個所持する程度な上に効果が数値アップ扱いでLv上昇で恩恵が薄れてゆく。

最大Lv10程度が当たり前な一般人には"まんが肉の骨"だろうと大人気らしいが、仮に最大HP5000が50上がろうと雀の涙であろう。

よって考えた挙句やはり"魔法研究所"をマリアの施設と両立して建てられないかとマリスに変更させる事を思い浮かんで立ち上がる。

言い忘れていたが、リーザスに戻った直後はチューリップ研究所が魔法研究所より需要が高いと感じ優先させる事にしていたのだ。

しかしJAPAN侵攻にはどっちにしろ間に合わないし人員を両立させ、魔力上昇を永続させる事が出来る後者も同時に建てるべきだろう。

さて かなみと話していた事で自然と椅子と体を彼女の方に向けており、立ち上がった"ついで"に思い浮かんだ事を口にしてみた。


≪ガタンッ≫


「ところでかなみ。何か欲しいモノとか無いか?」

「!? ど、どうしたの唐突に」

「考えてみりゃリーザスには何でも有るし、俺が必要な商品は無かったからな。今の所だが」

「えっと、えっと……」

「遠慮は要らないぞ?」

「……えッ……遠慮は要らない……?」

「そうだよ」(肯定)

「だったら私は……"これ"の方が良いかな」


――――俺の質問に ふと"欲しい物"を思いついたらしい彼女は、静かに俺に近付くと何と股間に手を添えてきやがりました。


「えッ? それは……」(MYN)

「率直な希望よ? い、今一番欲しいモノって言ったら……」

「正直で結構」

「それじゃあ……」

「(マリスに用が浮かんでるんだよなァ)」


≪ビシッ!≫(デコピン)


「痛いッ!」

「生憎だが朝ッぱらから盛る気は無いんだなコレが」

「え、遠慮しないでって言ったのに~」

「だが叶えるとは言ってない」

「何気に酷ッ! でも地味に痛い……グスン」

「悪い悪い。急に魔が差してな。マリスに相談事を思い出したから、それが済んだら何にだって付き合ってやるよ」

「!? だ、だったら買い物に付き合って欲しい!」

「良いぞ。金に関しては問題ないのか?」

「何でか先月の お給料が2倍になってたし大丈夫よ」

「(そりゃアレだけ働けばな)……そうか。じゃあ先ずは俺に付き合って貰うぞ」

「は~い」


――――結局 魔法研究所との両立は施設のみ優先・人選は先送りにする条件で飲んで貰い、このあと滅茶苦茶 買物させられた。




……




…………




……数日後。

俺は相変わらずノンビリとした日々を送る事が出来ているが、城内は相変わらず忙しない雰囲気なのでマリス様々である。

その間で既にカスタム軍・JAPAN軍は既にリーザスに到着しており、現在は軍事費を惜しみなく投資し軍の再編成中だ。

うちカスタム組はリーザスに従軍経験が有るので自然に受け入れていたが、JAPAN組は高待遇に面食らったのは言う迄も無い。

本来であれば新参者が何故 将軍位を……とでも思うのが当然だが、俺が認めてしまえば誰も文句を言わないので凄まじい忠誠だ。

だが肝心な将軍が弱ければ加藤の様に陰口くらいは叩かれるとは言え、現在の謙信はレベル50なのでリックとも引き分けるだろう。

それに直江・南条・大道寺も各副将に匹敵する優秀さなので、聞いた話リーザスの騎士達にも一目置かれ期待されているとの事だ。

無論 女武士ばかりとは言えリーザスには親衛隊と言う女性部隊が在るので、彼女達が最も懸念していた男女差別も存在していない。

よって初っ端の謁見&困惑を終えてからの直江達の士気は鰻登りであり、再度 会うのは編成が一段落してからにした方が利口か。


「あッ。ランス」

「ランス様……」

「サイゼルにメルフェイスか。どうしたんだ? 2人で」

「あたし達は今から買い物に行くの!」

「急にサイゼルが洋服が欲しくなったと言いまして……付き合う事にしたんです」

「ふむ。そういや服装を変える概念すら無かったんだっけか? 元が人間なら話は違うらしいが」

「そうなんだけどねェ。何気にメルフェイスって、こう見えて結構 色々と可愛い服 持ってたりすんのよ? 正装が大事とか何かでランスの前じゃ恥ずかしくて着れないみたいだけど、そう言うの眺めてたら あたしも何となく欲しくなっちゃってさ~ッ。特に下着とかつけると男ってエッチの時 興奮するんでしょ? だったら あたしも肖ってみるのも良いかと思って」

「さ、サイゼル!?」

「ほほぉ。前者は初耳だな。興味深い(後者に関してはスルーするが)」

「そんでランスは何してんの?」

「謁見の間に行く途中だ。緑の大将代理と副将の都合が付いたらしい」

「ふ~ん。一緒に連れて行ってアゲても良かったのに」

「もう……何を言うの……買い物より余程 大事な公務でしょう?」

「はははッ。流石に下着売り場の入り口で立ってる罰ゲームは勘弁だな」

「まァ、ボチボチ相手してよね? 何ならメルフェイスも一緒でも良いからッ! それじゃ行こ~♪」

「えっ? だから引っ張らないでって……す、すみませんランス様。私も何時でも待ってますのでッ」

「おゥ。周囲の温度調整はくれぐれも忘れるなよ~?(やっぱ何件か苦情も来てたし)」


何時もの様にリア&マリスが待っている謁見の間に赴く途中、偶然メルフェイスとサイゼルの2人組に遭遇したのだが。

俺がサイゼルを抱いた事でメルフェイスと彼女の確執を多少だが懸念していたが、考える迄も無く互いの仲は良い様子。

この時点でJAPANへの同行は確定しており、念の為に聞いてはいたが何も言わずとも向こうから促されるのは間違い無い。

けど他の旅のメンバーの承諾は俺の要領の悪さで受けていないので、携帯電話も無しに組織的に動ける城の連中に感心する。

気軽に会いに行ける立場ならとっくにエレノアやアームズにJAPAN行きを持ち掛けてるが、地味に予定が組み難かった。

だがサイゼルとリーザスに飛ぶ前に言葉を交わした際、再度の同行を軽く煽ると前向きな意見を聞けたので返事は期待したい。

だとすれば次は目先の事に集中するべきだと考えた俺は、何時の間にか到着していた謁見の間でリア&マリスと合流した。



「マリス。先ずポルトガルとロックアースについての状況は?」

「どちらも問題なく吸収済みです。またランス王の命の通り、ブルーペット商会・DXの会の所業は黙認しております」

「良しヨシ」

「でも放って置いて良いの~? 自由都市じゃ好き勝手やってたみたいだし、リーザス領の税収にも影響が出るんじゃ?」

「その筈なんだけどな。奴等はグレーな悪事も遣ってるが、ライバルや愚かな富豪を落とし込む事の方が目立つんだよな」

「つまり他は多額の損を被りますが、我々の収入への影響は殆ど無いと言う事に成ります」

「だけど酷い事をしてるんじゃッ」

「あァ。以前のリアみたいな事をヤらかしたのを掴んだら罰を与えるし、侵攻を邪魔する様だったら組織ごと潰してやるさ」

「一応 目立った悪徳は行わぬよう警告はしていますが、リーザス側に付かせると何かと有用なのも事実ですからね」

「偽善も良いトコだが他国に取り込まれるよりは圏内で泳がせる方が利口と判断した。何にせよ今は二の次で考えて良い」

「ふ~ん……ダーリンとマリスが そう言うんだったら気にしないよ」

「では続きまして。ロックアースに駐屯中の赤の軍は、続いてアイスの街に向かう予定です」

「書状では良い返事を貰ってるみたいだし、問題は無さそうだな」

「はい。ごく僅かな反対意見も有る様ですが、赤の軍を見れば考えを改めるでしょう」

「反対意見が出たのは……主に俺が原因かもしれんが些細な事か。闘神都市のサーナキアに関しては?」

「率直な話 闘神都市に流れ着いた難民への援助と少数ながらの自衛団の再雇用を条件に面会を承諾して下さいました」

「資金に関しては そのまま飲んでやれ。んで雇用ってのはリーザス兵として再度 闘神都市を守るって解釈で良いのか?」

「そうなります。ですがサーナキア殿は副将としては未熟なのでは……と言う話を使者を兼ねた騎士より耳にしています」

「初っ端にオマエが腕を認めた"上杉謙信"も一ヶ月前は確実に"それ以下"だったんだ。余計な心配はしなくて良いんだぞ?」

「申し訳有りません。出過ぎた事を口にしました」

「別に謝る程じゃないぞ」

「恐縮です。尚 面会は5日~7日後の間になるでしょう」

「何時でも構わないさ。アールコート・マリウスについてはどうなんだ?」

「ダーリンの推薦が有ったし調べたら、ホントに使えそうな娘だったみたいだね~」

「はい。まだ14歳ながら飛び級で既に学院の全課程を終了させてしまい、今や来年より何処に勤めるかの段階だったそうです」

「そりゃ凄いな。まさに秀才か」

「しかしながら。リーザスの核心に迫る位置付けと成るには家柄も非常に重視される為、彼女に置いては苦学生な上に性格が極めて大人しく・消極的な事もあって完全にノーマークでした。現時点では僅かな商会が"多少は使えそうだ"と目を付けた程度でしたね」

「女子の仕官学校でも出来りゃ話は違ったかもしれんがな」

「はい……身分を問わず優秀な学生を募り、仕える人材を育成する中 彼女が現れれば確実に"天才"と言われ御耳に入ったと思います」

「苦学生らしいが何故なんだ?」

「御両親が借金を抱えていて奨学金をも費やしており、そのままでは卒業できないと言う事態にまで陥っていたそうです。しかし社会経験が不足しているアールコート殿に働く勇気は無かったそうで、課程を全て終えてからは一日中 内職をして過ごされていると」

「親御さんってのは全うな人間なのか?」

「人が良い事で近所で有名だそうですが、其処を心無い者達に突かれ今に至るそうです」

「小癪な奴等も居たもんだ。折角の才能を社会に出る前に潰してどうする気だ?」

「愚かな者達の考えは分かりかねますが、彼女の周囲では家を潰した後に何処が拾うかと言う話が交わされていたと」

「な、何だか(原作より遥かに)複雑そうじゃないか。じゃあ結果だけ教えてくれ」

「はい。マリウス家はリーザスの多額の資金援助により安泰となっています」

「周囲で邪魔して来てた連中は?」

「一家にはともかくリーザスにとっては何の隔たりでも有りません。妨害は一蹴し法を犯していたならば厳正に処罰しました」

「まァ、そうなるな」(日向)

「女の子の方はどうなったの~?」

「援助に当って少々テコ入れを行わせて頂き、彼女はランス王"個人"への恩を強く感じております」

「将軍として迎え易くしてくれたってワケか」

「出過ぎた真似でしたら御詫び致します」

「気にするな」

「有難う御座います。ですが気持ちの整理等を行いたいとの事で、謁見までには少し時間が欲しいと希望されておりました」

「全く問題ない。出来る限りサーナキアとのタイミングに合わせて置いてくれ」

「畏まりました」


サーナキアとアールコートについて俺は何もしていないが、上手に接触し俺との話に漕ぎ着けてくれているようだ。

ならばしくじらずに正式に将軍として働いて貰う様に促す以外に無いが、マリスの計らい有るし大丈夫だと自信を持ってゆこう。

よって2人の話題は終了となるが、次に俺が気にするのは例の"彼女"の事……もはや"こう言う場"では毎回 聞いてる気がする。

"魔王"や魔人がリーザスに居ても問題を起こさない事は最初から知っているが、原作知識で知らなければ報告が全てなのだから。


「クルックー・モフスに関しては変わりないか?」

「一度カイズに手紙を出された程度で目立った行動は皆無です」

「それなら良いが……」

「もうッ! ダーリンったら その娘の事ばかり気にする~!」

「返す言葉も無い」

「後はランス王が自ら確認された件 程度でしょう」

「あァ……リックと模擬戦した時だったっけか……」




……




…………




……少し遡りクルックーとの対面・及び将軍達との会議を終えてから3日後。

約束通り俺はリック・アディスンと戦う予定を組み、模擬戦と言うか稽古みたいな事をする機会を作った。

それに当って幾ら赤の将軍と言う立場であれど、模擬戦であれ王様を叩きのめす様な行為は許されない。

だがリックにとって"そんな気"は毛頭無く、ガチで尊敬している"ランス"と修行し切磋琢磨する事が至高の喜びなのである。

対して原作のランスが彼と現在のレベルが大して違わなければ本当に"疲れそう"なので、断った気持ちも分からなくは無かった。


「ハァッ! ウラララララーーッ!!」

「ちィッ! くッ……うおおォっ!?」


≪ガキッ! ガキィンッ! ガコオオォォンッ!!≫


さて置き今はリックの全力の剣撃を必死に抑えている真っ最中で、興味本位で受けてはみたが案の定とんでもない消耗である。

レベルが上がるに連れて、最も"伸び"が緩いのは"速さ"と言える事から20のレベル差が有ってもスピードに大きな差は無かった。

何故か目で十分に追える様には成っているのだが、なかなか腕が追いついてくれず打ち合いではリックの技量の高さに為す術ない。


「ラアァッ!!!!」

「98・99・100です」

「良しッ! 受けきったぞ!? 今度は俺の番だ!!」

「……いざッ!」

「どりゃああぁぁッ!!!!」


≪ガキイイィィンッ!!!!≫


よって俺が太刀を受ける回数を予め決めて置き、クルックーが100を数えるとリックが攻撃を止め俺の反撃の一撃を受ける。

それによってリックは練習用の剣で防御した体勢のまま吹っ飛ぶと、途中で受身を取って着地した。

スピードは互角でテクニックは彼に分が有るが、パワーは断然 俺の方が上であり今の攻撃は避ける方が無難だろう。

だが"今回"は前述の様に100回打ち合いをしたら俺が攻勢に出るので"リックは防御以外はしない"と言うルールを決めていた。

もし"200回で反撃"と言うルールだったら途中で集中力が切れてしまい、彼の剣圧に押し込まれてしまうのは間違い無い筈。

何せ既に何度か100回に到達する前に胴や肩に重い一撃を食らって中断しており、更に鍛錬を繰り返さないと無理そうだからだ。

最初から部位にダメージを貰っても力押しに徹すればリックを倒す事は容易だろうが、実戦で代償として手足を失ったら困る。

そんなワケで俺は余り行っていない防御・リックも同様に敵の捨て身に対応しての咄嗟の防御の技術を磨く事で同意していた。

何と言うか……剣の鍛錬なんぞ一度も行った事が無かっし、今回の訓練メニューは本当に"何となく"考え付いたに過ぎない。

学生時代の剣道・柔道の2択も後者を選んでいたのは余談として、初っ端から俺が全力でリックの防御ごとブチ抜くのは気が引けた。

結果この様な単純な稽古しか考え付かなかったんだが、肝心なリックが意気揚々と臨んでくれた事が全ての不安を打ち消している。


「ふぃ~ッ、やっと凌げたか」

「御見逸れしました。キング」

「しっかし一撃で"そのザマ"とは、ちゃんと飯食ってんのか~?」(震え声)

「予想以上の"重さ"で驚いた次第です。一瞬 意識が飛びかけましたよ。それにしても……もう手の内を読まれてしまうとは」

「いや100回ダケだから何とかなったに過ぎない。技術はまだまだリックの方が上だろう」

「恐縮であります」

「さてと。もう一本付き合ってくれ」

「よ、喜んで!」

「……回復は必要でしょうか?」

「俺は必要無いな。リックは?」

「自分も大丈夫です」

「だそうだ。最初は何度も回復を掛けて貰って助かったけどな」

「……いえ」


この時 何故クルックーが居たのは俺が訓練の様子を見ないかと招待したからである。

その際 攻撃を受けた時の治療を申し出てくれたのは予想外だったが、軽い打撲とは言え瞬時に治せるモノなのだろうか?

考えて見れば彼女は"法王"なので神魔法Lv2~3は間違いなく有りそうな為、フリーの冒険者として拾えないのが本当に悔やまれる。

しかし"手紙"の事を何となく聞いてみたら、心当たりの有る女性ヒーラーを一人紹介してくれるとの事で期待せざるを得ない。

テンプルナイトの派遣に関しては長い時間が掛かってしまうみたいだけど、今のリーザスの軍の規模に文句は無いので些細な事だ。

さて置き。この後もリックとの稽古を行う中、何度も"例の笑み"の威圧感に負け一撃を貰う事も有ったが彼は大変 大満足してくれた。

尚 他軍は既に出払っており殺到した見学者の殆どは秘密厳守を徹底できる"赤の騎士"で有った為、法王の同席も問題も無かった。

よって"やはりランス王は強かった"と言う結果ダケが残り、クルックーの存在感より俺とリックの激しい戦いの方が目立った模様。

俺としてもリックとの稽古で得れた物は多く、法王に関しても全く怪しい素振りは見せなかったので安心していたのを思い出した。


「(王や将軍を始めとした軍全体の質の高さに加え、リーザスに協力する魔人……コレは予想していた以上の……)」




……




…………




「ダーリン?」

「ランス王?」

「ん? あァ……特に気に成った点は無かったなと」

「それはそれで怪しいけどね~ッ」

「……とは言え迂闊な接触は避けた方が良いかもしれませんが」

「そうだな。もう暫く様子を見るか」


――――ちなみに火星大王の行った"交信"みたいな事さえ見逃さない様に徹底させているので、今は本当に何もしていないのだろう。


「それよりも話はコレで終わったんだよねッ? 早くリアとお散歩行こうよ!!」

「御疲れ様でした。ランス王」≪ニコニコ≫

「そっちこそな。引き続き……って引っ張るなリア~ッ」




……




…………




……時刻は夕方の18時。

リアとの寛ぎを終えた後、午後の謁見もこなした俺は適当に城を抜け出し、かなみを伴いリーザスの城下町を歩いていた。

目指すはエレノア・ミル・アームズ・ウィチタと待ち合わせしている場所であり、適当な庶民の飲食店をチョイスしている。

その際 先日でのサイゼルとの2人旅の時の様に、カモフラージュとしてかなみに片腕を絡めさせているワケだが。

最初は"謁見の間に呼べば良いのに"と僅かにゴネていながら、この動作を指示すると直ぐに機嫌が良くなったのは言う迄も無い。

まァ彼女の言い分も最もなのだが、各々を一人づつ呼ぶとなると"それなり"の時間が掛かる上に影で意外と人も動いてしまう。

現代の政治家の討論程の経費は掛からないが、俺が赴けばタダだし何より独裁政治なので一人で動いて決める方が効率的なのさ。

要は高いを金を掛けても俺や衛兵が"めんどくさい"か逆かの違いしか無く、他の目も有り好きな会話が出来ないなら前者を選ぶ。

……と、そんな御託を並べているモノの……実は最大の理由は謁見の間の雰囲気にエレノアの精神が飲まれそうだったからである。

原作では初っ端の"ウッ!"で印象深い陽気なBGMとランス&リアの性格で砕けたイメージが有ったが、全然そんな事は無かった。

謁見の間には俺が居なくても常駐している親衛隊が(良い意味で)気張っており、当然 他の人気が無いので広さも合わさり殺風景。

最初は左程でも無かった気がしたがサイゼルの襲撃による影響が大きく、何時 特変が起きても良い様に謁見中でも警戒している。

そんな慣れないウチは空気が重く感じる場所での謁見などミルは当然、アームズも柄じゃ無さそうなので止めて置く事にしたのだ。


「さて此処の店だが……随分と人が多いなァ」

「それが狙いなんだから仕方無いわよ」

「御尤も。エレノア達は何処か分かるか?」

「アソコの角ね。見える? わざわざ目立たない場所を選んでくれてたみたい」

「うん? それっぽいのは見えたが……(何か違和感が)」

「と、とにかく行きましょう。案内するからッ」


そう言う かなみに右手を引っ張られて歩みを進めると、待ち人を常に探していたっぽいミルが いち早く接近に気付いた。

だがエレノアに口止めされているのか"ランス"とは叫ばず、コッチコッチと立ち上がって手を振るのみで地味に助かる。

一方 当初は立ち上がって頭を下げたりもしたウィチタと苦労人のエレノアは軽く会釈をするのみで、アームズはと言うと……


「よう。既に揃ってたみたいだな」

「うん。ランス君。こんばんわ」

「(ランスッ!)おっそ~い!!」←前者は小声

「先日は本当に御疲れ様でしたッ。無事 戻られた様で何よりです!」

「ありがとう。皆で戻る際 特に何も無かったと言う事は聞いている」

「ねぇッ。今度は何処に行くの~ッ? その為に呼んだんでしょ!?」

「まだ気が早すぎるっての。お~いッ! 姉ちゃん、ビールくれ!!」


――――元々酒に弱いランスだったが、徐々に嗜んでゆく事で体が慣れてくれ今は普通に楽しめる。(飲み過ぎる気は無いが)


「お、お酒……?」

「何か問題でも? 飲めるなら遣らんと損だぞ~?(都市長の頃は全く飲んでなかったみたいだし)」

「エレノアさんって倹約家ですよね。今も一人だけ水を飲んでるし。私は……を御願いします。彼女にはコレを」

「あ、有難う かなみさん」

「"かなみ"で良いですって」

「……ッ……」

「それよりも"見慣れない"娘が居るみたいだが?」

「むぅ。貴方まで"そんな事"を言うのか?」


直ぐに運ばれて来たジョッキに口を付けつつ視線を"最後の一人"のアームズに移すと、其処には まるで別人の様な美女が居た。

頭のヘアバンドは変わっていないが、武器は勿論マントと軽鎧が外されており今はオレンジのノースリーブとショートパンツ姿。

更には此方から見て右の頭のモコモコの所で長い銀髪をサイドテールにしており、僅かに眉を落とした表情が何とも言えなかった。


「すまない。今のは冗談だが、こりゃまた何でだ?」

「……悪いが少し疲れていてな……」

「エレノア」

「えッ? えぇっと……アームズ。結構 有名な人だったみたいだし、あの姿だと握手やサインを求めて来る人が多くって」

「ふむ……(呼び捨てだと?)」

「そっか。地方の宿だと近付き難かったけど、大勢で群がれば怖く無いって事かもしれませんね」

「間違い無いと思います。私でもアームズさんの名前くらいは知っていましたからッ」

「へぇ。ウィチタもか……」

「暫くは都会に近付いてすら無かったみたいだから、予想外の反応だったみたいで困ってたの。それで私が……」


――――尚アームズはエレノアより1つ年上の23歳らしく、何時の間にか互いに良い友人として落ち着いた様である。


「成る程。目立つ"装備"を外す事でイメージ・チェンジを計ったワケだが……」

「……別の意味で視線を集めちゃったんですね」

「(うぅ。本当に綺麗なのよね……私も後3年くらい経てば……?)」

「あ、あははッ。特に問題無かったら、後で私の服でも貸そうと思ったんだけど」

「止めて置いて正解だったな……理由(ナンパ対策)はイチイチ言わないが、エレノアの"催眠"も役に立ったんじゃないのか?」

「!? それは~」

「あァ。エレノアには色々と助けて貰った。今や私の恩人だ」

「使ってたんかい。だが少し見ないウチに、結構 仲良く成ってたのか」

「エレノアさんは料理と お花の知識に長けていて、私も色々と学ばせて頂きました!」

「ウィチタとも良い関係を築けてて何よりだな。流石は元都市長(……重圧が消えてからの冒頭は、なかなか良い滑り出しか)」

「別に私がどうかじゃなくて、皆が良い娘なダケだよ」

「エレノア本人も含めてな」

「あぅうッ」

「ともかく本題は少し食ってからにするか。始めちまってるのも居るし」

「モグモグモグモグ……」

「そ、そうだね(ミルったら)」

「……(嗚呼……お呼びは掛かったけど結局は力不足だったし、流石に次回の旅には……)」

「おい。ウィチタ。好き嫌いは無かった筈だよな? よそってやるから遠慮なく食えって」

「!? す、すみませんッ。恐縮です!」


安易に想像できると思うが、リーザス城下町に限らず"この世界"の人間達はピンキリとは言え男女共に美形の比率が全体的に高い。

この俺(ランス)の容姿に勝る男はリーザス騎士に沢山居るし、親衛隊に"見た目"が原因で落とされた者の顔を見て驚いたりもした。

しかしアームズの美しさは"それら"を凌駕するレベルであり、着飾りでもしてたら大変な事に成った筈。(尚リアは最高水準の容姿)

だが"この世界"での美女・美少女にイチイチ驚いていてはキリが無いドコロか既に満たされているので、直ぐに俺は話題を変える。

すると明らかにホッとしたような一瞬の表情に少しヤられたが、気持ちを切り替えて面々から今の状況を聞き出す事にしてみた。


「そう……今度はJAPANに行くんだ……」

「うむ。次回も迷宮に潜るのがメインに成るな」

「でもリーザスはJAPANに侵攻するんでしょ? そんな暇有るの?」

「何とか作るさ。戦争するにしても別に王が先陣を切るワケじゃ無い」

「ソレはそうだけどリーザス陥落の件の時は……でも王様に成ったし立ち位置も変わっちゃうか」

「あァ。地味に色々と五月蝿いんだコレが。迷宮に関しては魔人撃退の件も有るし暗黙の了解だが」

「だったら……ランス君が居なかったら、今頃リーザスはどうなっちゃってたんだろ」

「聞くだけ野暮だとは思うが、奴等の目的のモノは無かったし別にどうにもしなかった筈だ」

「何で分かるの?」

「聞いたんだよ。サイゼル本人に(後からリトルプリンセスが来たと知ったけど、特に拘っては無かったが)」

「な、成る程……」

「そんなワケで次もエレノアに来て貰えると有り難いんだが?」

「!? 唐突だね」

「部隊に入る予定は無いだろうし、居てくれると何かと助かるからな(後方で大型モンスターに催眠を掛けてくれるダケでかなり)」

「あ、あまり役に立った覚えは無いんですけど……」

「早い話ミルの面倒はずっと見れないから頼みたいのもある」

「やっぱりソレが本命だよね。ミル。ランス君と別れてから、ずっと次の冒険にも付いて行くって言ってたし予想はしてたけど」

「……(地味に前者の方が重要なんだが)」

「立場が立場なんだから、迷惑なら断ってくれても良いんだよ?」(小声)

「それなら最初の時点で連れて行かんさ。本当に足手纏いになった時は正直に言うけどな」

「御願いね? 私が"こんな事"言ってどうするんだって話だけど……」

「謙虚で結構。まだ都市長を終えてからの"今後"は考えて無いんだろうし、新しい事が見つかる迄 付き合う程度でも良いからさ」

「あ、有難う(……本当に他意は無さそう。只の私の自意識過剰だったみたいで、何だか恥ずかしいな~)」

「ちなみに結構な報奨金が出たみたいで、実は金を預かってる。前回の同行だと"この額"だな」

「えッ……(確認中)……嘘!? じゅじゅじゅ10万ゴールド!? こ、こんなに!?」

「何気に王様の護衛を何十戦もした一人に成ってるからな。普通の冒険としての戦果にゃ高すぎるが"そう言うモン"らしい」

「……(加えてミルの分も少なからず入ってる……も、もう少し頂いちゃう方が将来の為なのかな……?)」

「ちなみに俺が出したんじゃなくて、王を護衛したと言うリーザスからの正当な報酬だから贔屓してるワケじゃないぞ?」

「…………」

「だが今回みたいなケースは俺が王な時点で増えそうだから見直されるそうだ。今のウチに稼いで置くのが利口だと思うが?」

「…………」


かなみは言う迄も無いので置いとくとして、先ずは早くも揺らいでいるエレノア。

彼女はマリア達と一緒にリーザスの女子寮に部屋を借り、アームズを招いて一緒に時を過ごしていたらしい。

その際アームズとは前述の様に良い友人と成っていて、彼女はエレノアとの相室で孤独な"戦い"から少しの間 離れた際。

一般人とは少しズれている価値観に今更 気付いたらしく、新たに出来た"友人"から助言を受けた事で今に至っている。

対してエレノアは苦笑するしか無かったが、集合まで特に遣る事が無かった彼女は性分から無駄に親身に付き合った結果。

アームズに"恩人"と言われる程 信頼されてしまった様で、メルフェイスとサイゼルに続き新たなペアが完成したと言えた。


「どうする? 聞いてる? 次回も同行してくれれば更に高い報酬が"勝手に"用意されるんだぞ~?」

「ラン~?」

「!? そ、そうだね……良い報酬なのも有るけど、他に遣る事も無いしランス君が良いなら行かせて貰おうかな……」

「グッドだ。ならばミルは来るとして、アームズも"恩人"とやらに便乗してみる気は無いか?」

「……むぅ……それなのだが……(此処で迷うのは無粋だと分かっているとは言え……)」

「もしかして気乗りしなかったり? 折角"オロチ"を始めとしたJAPANのレアなモンスターと戦える機会が――――」

「是非 次も同行させて欲しい。足手纏いに成らない様に精進しよう」≪キリッ≫

「お、おう。それなら期待させて貰うぞ?」

「ハッ!? す……すまない。ありがとう」

「アームズさん現金~」

「ち、ちょっとミルッ」

「……(まずいですよ!)」


悩むような表情から始まり、キリッとして返したと思うとソレが無意識だったらしく困惑する一連が何とも魅力的なアームズ。

彼女は先日遥かに高いレベルアップをする俺達を見てポカンとしていたし、庇われた事も有ったしで気持ちの懸念は容易に察せる。

だがワザとらしい追撃で思ったよりアッサリ折れてくれたので、どうやら筋金入りの(レア)ハンター気質と言っても良さそうだ。

流石に魔人相手では力不足なのは間違い無いが、中堅以上の雑魚相手には無双していたので何らかの特別なスキルを持っている筈。

つまり集団戦に置いては俺よりも余程 優れているので、数を狩る"レベル上げ"に置いては同行して貰えると非常に有り難い存在。

更にレベルが上がってくれれば言う事ナシなんだが、その"判断"は全て彼女に委ねるしか無いので俺は共に戦う事を促してゆくのみ。

原作に置いてもランスに数ヶ月掛けて口説かれていた女性も居たくらいだし、まずは頼れる仲間同士って所から始めてみるべきか。

俺は心の中で そう結論付け凹んでるアームズから視線を外すと、今度は"自分の番か"と姿勢を正しているウィチタに向け口を開く。


「…………」

「ウィチタ」

「はいっ!」

「若いモンが そんなに固く成らんでも。食いながらでも良いってのに」

「す、すみませんッ」


――――正直 静かな雰囲気の店に行けなかったのは、彼女の大声が目立ってしまう為と言えた。


「謝るなって。それよりもガンジーに先日の事は報告したのか?」

「無論ですッ。差し支えない件 以外は全て御伝えさせて頂きました」

「(限界レベルの事か?)……何と言っていた?」

「率直に申しますと"その際 自らが同行 出来ていれば、どれほど有意義な時を過ごせた事か"と非常に関心を示されておりました」

「ふむ。だったら解呪の迷宮での一件については?」

「な、何と申しますか……私を咎めるよりも、むしろメルフェイス様を庇われたランス王の行動を極めて評価されていた次第です」

「……あ~ッ……」




『わっはっはっは。危機の1つや2つ問題では有るまいッ! 流石はランス王の器の大きさ!! わしは改めて惚れ込んだぞ!?』




「……ランス王?」

「あッいや。何となく言っていた事が想像 出来てしまってな?」

「そ、そうですか(……確かに分かり易い性格でらっしゃるけど)」

「さて置き。ウィチタは次回どうする? 戦闘面もさる事ながら色々と面倒事を引き受けてくれてたし、付いて来て欲しいトコだが」

「…………」

「だが次も決して短い遠征とは言えん。何せ一国……JAPANと闘り合うしな。ガンジーの傍に居たければ強制する気は全く無い。彼の部隊を連れて来られれば一番良かったんだが、初の他国 侵攻と成っては新参を向かわせるのに良い顔をしない者も多いらしくてな」

「……(ガンジーさんの将軍待遇はランスの一言ダケで決定した位だし、それに関しては文句なんて無いでしょうけど)」

「ラン~ッ。ガンジーって人 誰なのォ~?」

「話の邪魔をしちゃダメよ(知らないけど)」

「まァ重要なのはウィチタ自身が"どうしたいか"だが、今回は見合わせとくか?(縁は続くだろうからポジティブだ)」

「いえ。(この様子だと本当に大丈夫そうだし)私はガンジー様よりリーザスの手でJAPANが如何に変わるかと言う、歴史的な瞬間を"この目で"見て報告せよとの命を受けている為。私の力不足は重々承知の上ですが、次も迷宮攻略の末席に置いて頂けると幸いです」

「(自分の気持ちってのはスルーしてるが、ツッコむのは無粋か)それなら同意と見て良さそうだな。改めてよろしく頼んだぞ?」

「はいッ! 此方こそ足を引っ張らない様に精進 致します!!」

「(お、温度差が違うなァ。でも今のランス君"そのもの"が誰でも付いて来いって雰囲気を出してるんだよね)」

「(当たり前とは言え まだ畏まりによる距離感が有るのは否めないが、今回は嫌がって無さそうだし凄まじい前進と見て良いだろう)」

「(つい口を滑らせてしまったが……ランス王ならば私の扱いを理解していそうだ。後は出来る限り遅れを取らない様にするのみッ)」

「俺としても可能な限り皆が無事に済む様に采配してゆくつもりだから、肩の力を抜く程度で頑張って欲しい」

「しかし忘れないで欲しい。私達 全員よりも貴方自身の命の方が重いと言う事を」

「かしこまりッ! とにかく食えよ? さっきから食ってるのミルだけじゃないか」


……こうして誰一人 掛ける事無く次回の遠征に繋ぐ事ができ、俺は当たり前の様に受け入れたが内心で胸を撫で下ろしていた。

ランスⅥ等の"仲間の集まりっぷり"を考えれば当然の結果だと言えるのだが、ダメだったら"彼とは違う事"を痛感しちまうからな。

さて置き。コレで侵攻前に済ませときたい事は、上杉組のメンバーとの接触と法王の言ってた"冒険の力に成れそうな者"の件と……

いやカスタム組の事も忘れちゃいけないのに加えて、9000人以上の応募が有った給仕については面倒臭いので絞らせて後回しで……

緑の軍 関係は待てば良くって、最後に思い浮かんだのはスキンシップは多々しているモノの未だに抱いていないリアの事だった。

正直 余裕がある時はしっかりと相手しているので"このまま"でも大丈夫そうなんだが、好い加減 タイミングを見計らって攻めるか。

尚 正史と違って鬼畜王基準の性格なので頭は良くともアホの娘なのだが、性癖による歪んだ思考を旨く付き合いで矯正できている。

そうなるとパーフェクトな可愛さと親しみ易い人柄しか残らず、後はシィルに対する懸念をどうにかする事で完全攻略してしまいたい。


「(最初はガンジー様が何を言われているのか良く分からなかった。けど今は少し理解 出来た気がする。今迄の私はゼスを離れてもガンジー様の傍から動かずに"違う視点"から周囲を見る事なんて一度も無かった。だけどランス王に同行した結果、初めてガンジー様の為ダケに行動するという日常から外れ……個人で考えてチーム為に動く事を考える様に成った。その結果は良かったとは言えないけど……この上ない舞台なんだし、もう一度努めて経験を積みたいみたいと言うのが紛れも無い本心。だからランス王が漏らした"若い"と言うのも皮肉や苦言ではなく間違い無い事……なんだけど……)」

「そう言えば"オロチ"と言う魔物は人間の手に負えるような存在なのだろうか?」

「ん? まァ無理そうだったら見学ダケに留める要領の良さも必要だろう。JAPANが健在って事は何らかの抑制はされてる筈だし」

「さ、流石に"その時"は置いて行ってくれないと困っちゃうかな……」

「(アームズさんもエレノアさんも凄いなァ……私も"大きく"成るのかな?)」








■あとがき■
お待たせしました。中々執筆に至らず毎度遅れてしまっております。今回は関係ない私の動画を宣伝してまで催促してくれた氏に捧ぐ。
しかしながら。打ち込んでいる時は楽しいのでモチベーション維持の為に有償でイメージイラストを依頼してみる事も検討しています。
それは他の作品に置いても対象と成るのはさて置き。次回は残りのリーザスでのイベントを済ませJAPAN遠征に繋げる予定です。


Q:何で主人公たまに例の語録つかってんの?

リーザス城内では親衛隊を始め魅力的な女性の比率が多い上、主人公が極めて全うな為に殆どが"むしろ抱かれても"と思ってます。
只関係を持って家の点取りに繋げたいと言うデメリットの無いハニートラップみたいな者も多く、それも暗黙の了解と化しています。
しかし彼は現時点で満足しており、そろそろ4人目に突入する間近な故 度々例のホモビの1シーンを思い出しては誇張を抑えてたり。

追記:魔法研究所の建設は前回の遠征途中で既に始まっており、ランスとかなみの会話内容に矛盾が有った為 修正を加えました。



[12938] 鬼畜王じゃないランス28
Name: shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2015/05/07 13:41
鬼畜王じゃないランス28



=LP03年07月2週目(月)=


流石に半月も経過するとリーザス城内の忙しなさも治まって来た気がする。

逆にカスタム軍・上杉軍・そして緑の軍が集結したのか城外は騒がしそうだが……

どちらにしろ俺が無駄に気に掛ける必要は無いので、残された事を消化してゆくのみ。

よって週明け(?)の今日は午前の時間をも使い、先ずは謁見から始める模様。

それらのスケジュールは相変わらずマリス頼みだったのは さて置き。

最初に現れた人物とは意外にもクルックー・モフスで、一人の女性を連れて来てくれた。

御存知の通り先日から言っていた"心当たりの有る"ヒーラーであり、何と俺も知ってる人物だったのだが……

"こちら"で始めて見る顔にしては違和感を得たと同時に、何故か熱の篭った視線をも感じた。

だとすれば一体 誰なのだろう……と直ぐには答えが出なかった為、諦めて名前を聞いてみると俺は驚愕する。

"ピカ"の一件で王座から転げ落ちそうになったランスと迄はイかんが、それに近い衝撃が走ったと思う。

しかし努めて平然を装いつつ、左右にリアとマリス・ナナメ前のクルックーを他所に正面で跪く女性を見下ろして言う。


「ヒカリ・ミ・ブランだと……?」

「はいッ。御会い出来て光栄です!! 王様ッ!」

「ちょッ。クルックー?」

「……彼女が申していた"冒険の御力に成れそうな者"で間違い有りません」

「へぇ~。まさかヒカリが来るなんて思わなかったよ~ッ、元気にしてたァ?」

「それはもうッ。リア様も結婚おめでとう御座います!!」

「(仲の良い設定だったっけか? 流石に記憶が曖昧だな)……どう言う事だ? マリス」

「"あの一件"の後にヒカリ殿は花嫁修業の一環として、カイズのAL教会にて働いておられたと言う噂は耳にしていました」

「ふむ。知ってたら知ってたで意外だったが……そんな流れが……」

「彼女はリーザス城下有数の貴族で有るブラン家の次女。かつ"パリス学園"で特別生徒に任命された方でも有りますので」

「成る程な(パラパラ・リーザス……略してパリスってか?)」

「マリスさんの仰った通り……彼女の事は私の耳にも入って来ていたので、普段からの真面目な姿勢とシスターとしての才能を私が買い、ランス王の旅の同行者として選出させて頂きました」

「法王で有るクルックーが言うなら間違い無いんだろうが、予想外の者が現れて"少し"驚いたぞ? ……それ以前に……」

「ダーリン?」

「既に俺達の目的は聞いているだろう? 正直 命の保障は出来ないし、少しでも躊躇いが有るなら遠慮して貰っても構わんぞ?」

「!? その心配は要りませんッ! 私は王様……ランス様と再会する事を夢見て花嫁修業に臨んでおりましたから!!」

「な、何だって?」

「やはりヒカリ殿もランス王に心を奪われた御一人と言う事ですか?」

「おまッ(マリスさん直球 過ぎィ!)」

「め、面と向かって聞かれてしまうと恥ずかしいですけどね……」


さも当然の事かの様に言うマリスに対し、両手で口元の辺りを覆うといった典型的な"恥ずかしい仕草"をするヒカリ。

見た感じを"そのまま"述べると、ふわっとした赤い髪をショートにした青い瞳の美少女(18歳くらい?)……なのだが……

何を隠そう"ランス1"でリア(正確には かなみ)に攫われ、依頼を受けたランスに助けられた"ヒカリ"と同一人物だったとはッ。

しかもランス(俺)の性格の変化も関係ナシに、何を間違ってか惚れてる様だし……俺は戸惑うしか無くリアも面白くなさそう。


「生憎ぅ。ダーリンの正妻はリアだけどね~!」

「とんでも有りませんッ! 私は王様の御傍に居させて頂けるダケでも――――」

「ぶぅ。ダーリンがモテちゃうのは当たり前だけど、ど~してヒカリまで そ~なっちゃうのかなァ?」

「……(救助されて心を奪われたヒカリ殿より、仕置きとは言え強姦で虜と成られたリア様の方が特殊なケースだと思いますけど)」

「ゴホン。だとすると……クルックー? まさかヒカリを選んだのも"俺様"に対して……」

「はい……有能なシスターと言うのが一番の理由なのは間違い無いですが、彼女の強い希望も有った事からの結果です」

「もしかして候補だったら結構 居たりしたのか?」

「有能な者"だけ"で考えれば50人程は」

「ほぉ~……(結構多かったんだな)」

「ですから この様な運命的な再会の機会を設けて下さった法王様には幾ら感謝しても足りない位ですッ!」

「ふむ。ランス王を知り・慕い・才能が有る。更には家柄も学歴もリーザスの範疇から見れば文句無しと成らば……」

「最早 拒む理由など無いってか? まァ危険も承知の上みたいだし、決定は極めて前向きに考えよう」

「あ、有難う御座いますッ!」

「マリス」

「はい。それではヒカリ殿を部屋に御案内して下さい」

「はッ!」

「くれぐれも粗相の無い様にするのですよ?(念の為に釘を刺して置きましょうか)」

「し、承知しております!」

「それではランス様! リア様! 失礼致します!!」

「うむ」

「また後でね~!?」


立ち上がると丁寧な御辞儀をして去ってゆくヒカリに、その背をブンブンと手を振って見送るリア。

どうも驚いているウチにトントン拍子で話が進んでしまったが、優良物件を紹介してくれたと言うのは疑い様も無い。

尚 即採用とは行かなかったのは、念の為に詳しい経歴を知ってからでも遅くは無いと思った為なのは さて置き。

アームズやクルックーには悪いが、やはり"全く知らない者"より知っていて かつ好感を抱いてくれていると本当に遣り易い。

だがヒカリについては"知ってたダケ"に過ぎないとも言えるので、突発的に浮かんだ疑問を周囲の者に投げ掛けてみよう。


「クルックー」

「はい?」

「ヒカリがリアに"しでかされた"事は如何ほど知っている?」

「……リア王女に誘拐され……ランス王に救出された程度は」

「ふむ。それなら説明の手間は省けるが、何でリアと仲良く成ってんだよ? あの娘は」

「たまたまヒカリ殿へは"そう言う方向"で責めたそうでしたので」

「そ、そうか」

「????」

「理解する必要は無いぞ? クルックー。しかし彼女の花嫁修行を中断させて、差し支えは無かったのか?」

「いえ……だからこそです。神官クラスの者を選ぶより、修行者の方が都合が良かったのも有りましたから」

「それもそ~か」

「また3年間の修行を終えたら、結婚の為にブラン家に戻られたでしょうし……えっと……」

「うん?」

「はぇ?」


――――何となく言いたい事は察せるが、柄ではないのか無表情ながら口ごもるクルックーをマリスがフォローする。


「彼女は花嫁修行に当たりランス王との"婚約"を望んでおられた様ですが、冒険者だった頃のランス王を考えると身分も違いますし実現は難しかったでしょう。ヒカリ殿の場合は前者を信じて臨まれていたでしょうが、そんな中で入ったリア様の御結婚とランス王の即位。当然 驚かれたモノの慕われていた御二方の吉報を祝福するしか無い反面……私では計りかねぬ悲しみと失念が有ったでしょうが……」

「あッ! 其処で法王様が直々に誘ってくれたから!?」

「……(思ってた事をリアが言ってくれたな)」

「はい。偶然が旨く重なり幸運にもランス王の側近として勧誘された。その"魔軍に抗う為の迷宮攻略"と言う大儀有る護衛と成らばランス王の傍に居るには十二分な理由ですし、リーザスの王と少しでも御近付きしたい貴族が極めて多い現状からして、ブラン家としてもヒカリ殿は文句無しの出世頭と言えるでしょう。それ故にランス王が花嫁修業の中断を懸念される心配は無いと言う事ですね。不躾な考えでしたが、仰られたかった事は"そんな所"でしょうか? クルックー殿」

「概ね間違い無いと思います」

「むしろ詳し過ぎるだろ……」

「ヒカリ殿との面識は僅かながら有りましたので」

「……("それだけ"で其処まで洞察出来るのは知恵の指輪とか関係無いんだろうなァ)」

「ともかくゥ。ま~たダーリンと一緒に居る娘が増えちゃうけど、ヒカリなら別に良いかな~」

「マリス。念の為にヒカリの履歴を洗って置いてくれないか? 結果は近日中に知らせてくれ」

「畏まりました」

「ランス王……」

「あくまで"確認"の為に過ぎないから気にしないでくれ。良い人材を紹介してくれた様で感謝するぞ? クルックー」

「……いえ」


――――正直 クルックー(正確には天使)のヒカリに対しての"テコ入れ"が気に成ったからでは有るが、不自然な事では無いだろう。


「そんなワケで次に移るか。上杉謙信と直江愛"ら"を呼んで来てくれ」

「親衛隊各員。宜しく御願いします」

『ははっ!』


≪たたたたたッ≫


「…………」

「(まだ居るのォ~? この娘は)」

「(やはりリア王女からの視線を強く感じます)」

「クルックーは別に居てくれても良いからな? リアと違って落ち着いてるしバランスが取れる」

「!? そ、それってリアが喧しいって事ォ!?」

「言ってる傍からコレだよ」

「(ハァ。JAPANの方達のリア様に対してのイメージが崩れるのも時間の問題かもしれませんね)」

「(反面……ランス王が何を考えてるかが本当に分かりません。警戒されている事は間違い無さそうですが)」




……




…………




……リアのヘイトを意図的に上げ、絡んで来るのを相手にする事で時間を潰す。

そんな最近 覚えた高度な"暇潰し"を5分ほど行っていると、やがて謁見の間に足音が響いて来たので気を改める。

尚 リアは既に機嫌を直して俺の膝の上に座っていたが、右手で右肩に手を添えたダケで意図を察して立ち上がってくれた。

よって美人と言える上にヒカリに近い"想い"を持っている"姫君"への、有る程度の保険にも成ったと思いたい。


≪コッコッコッコッ……≫


やがて足音と共に(謁見の間は"それなり"の広さなので)小さな人影が、案内役の親衛隊を別に2つのみ見えた。

うち一人は当然"上杉 謙信"であり……例の長い兜が無く白いリボンを付けた、同じく白の鎧を装着した立ち絵と全く同じ姿。

そして予想してくれた通り もう片方は"直江 愛"で、謙信のやや斜め後ろを歩き……互いに緊張した面持ちである。

此処で俺としては大道寺と南条も来るかと思っていたので、別に問題は無いが何となくマリスに聞いてみる事にした。


「ん? 呼んだのは2人だけか? マリス」

「恐れながら事情が御座いますので」

「ふ~む。それなら仕方無いな」

「はい」

「……(なァ~んだッ、綺麗って聞いてたけど思ったよりは……)」


地味に王に対して正直な返答をするマリスだが、一連の付き合いで互いに妥協・許容しているのは さて置き。

"JAPANの者達と合うから連れて来て"と言う遠回しな指示で、俺と会う事が許されるのは謙信と直江のみだった模様。

確かにリックやキンケードを呼んでも本人しか来なかったし……名指しなら当然一人のみで、複数なら限りなく人数を抑える。

新参であるJAPAN組から考えれば"者達"でも2人にしなければ、忠誠心が飛び抜けてる将軍達は納得せど他は不満に思うのだ。

俺が直接 会いに行く事に関しては文句を言わせる気は無いが、この場での謁見とも成ると従来の規律を守る方が定石だな。

マリスの言葉で瞬時に そう勝手に納得した俺は、早速 謙信を観察しているリアに続いて完全に注意を彼女に向けるのだが……

2人が近付いて来るにつれ謙信の表情に対しての"違和感"が強くなってゆき、答えを探しているウチに互いに跪いたので思考を切る。


「ランス王。上杉謙信……参りました」

「同じく直江 愛……参上致しました」

『この度は拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極に存じます』


意外にも声を合わせて来た謙信と直江……発言から王様では無く、殿様にでも成った気分だった

またソレと同時に完全なる静寂が訪れ、どうやら全員が俺が発言するのを待ってるってのを察せる事が出来る。

だとすれば さっきの"違和感"の事は後回しと割り切って、此処は2人の持ち掛けた"流れ"に乗るとしよう。


「そう硬くなるな。面を上げて良いぞ」

「ははッ」

「感謝を」

「直江。JAPANの者達にとってリーザスは慣れない場所だろうが、旨くやってゆけているのか?」

「!? とんでも御座いませんッ。むしろ此方の方達には良くして頂いており、逆の意味で戸惑った事が多々有った程です」

「ほォ。となると?」

「はッ。我々の呼び掛けにJAPANより逃れた者達が予定以上に応えてくれ、1000名規模の部隊を編成 出来るかと」

「そりゃ膨れ上がったな。急に拵(こしら)えた様だが大丈夫か?」

「正直に申しますと個々の錬度はリーザスの兵達と比べれば次第点。連携には時期 故に不安は残りますが必ず結果は出しましょう」

「把握した。まだ時間は残ってるし出来る限り調整しといてくれ。予算も足りなかったら遠慮なく担当の者に言えよ?」

「死力を尽くす次第です。資金に置いては既に十二分に頂いておりますので、コレ以上の融資は利子が嵩張ると返済が……」

「うん? 貸しでは無くて只の"投資"だぞ?」

「投資?」

「マリス」

「えぇ。"その辺り(金銭面)"の詳細は他の者が口頭で述べるのは当然として(言い得て妙だけど)書類でも信憑性が薄いでしょうから あえて省かせておりましたので、元より此方の場を借り私の口から説明させて頂くつもりでした」

「は、はあ」

「また他にも侵攻に繋げるに当たって数点 確認して置きたい事も有りますので少々 御時間を宜しいでしょうか? ランス王」

「構わないぞ」

「有難う御座います。それでは最初に――――」


先日も述べたが上杉軍へのリーザスからによる待遇は非常に厚く、冷遇されていたJAPANの女性陣とも成ると尚更だ。

ちなみに直江が招集を掛けた際には性別を問わずだったらしいが、JAPANの男性は皆 生き恥を晒すまいが如く討ち死にしている。

よって"戦国"の通りの女性軍が完成してしまい、マリスが言った様に口頭でも書類でも何か罠が有りそうと納得しないのも仕方無い。

俺としてはバウンドやソウルと言う盗賊ですら軍属として扱った上に、似たような者達を大量に雇うケースもゲーム内で知っている。

また彼女達が武将としても(原作を知っていれば)優秀なのは間違い無い……のだが、それらの事を豪語したら只の精神異常者だろう。

しかし迷宮での戦いでの実績を元に"王様"の俺が認めてしまえば、原作通り本人達への風当たりが殆ど無くなるのは間違い無いのだ。

此処で話が変わるが……今 述べた通り"リーザスの王が認めた"と言う後ろ盾は非常に強く、口頭であれ極めて高い説得力を持つ。

マリスが"口頭であれ書類であれ信憑性が薄い"と言ってたのは その為で、俺ダケでなくマリスの名を出しても同等クラスの力が有る。

だとすれば"その名"を借りれば遣りたい放題できそうだが、バレたら確実に処刑と言うリスクにより今の所 粛清者は出ていない。

まァ言ってもリーザス関係者にしか効果が無いのは さて置き、そんな事を考えてるウチにマリスは直江と淡々と言葉を交わしてゆく。

先ずは殆どの経費に置いて1ゴールドも必要ない事から始まり、言葉の通りエクス達と合流するに至る迄 での要点を再確認する。

俺の素人耳にしても単純な内容だったが、それを"マリスの口から肯定する"と言う事実が侵攻を円滑に進める為の重要事項だった。

更に証人が俺・リア・更にクルックーとも成らば、エクス・ハウレーンなら口頭であれ協力しない方が異常と考えても良いだろう。

まァナンダカンダで俺も行くんだから多少 面倒事の懸念が少なくなる程度だろうが、ゲームとは違うので僅かな混乱が敗北を招く。

何気に"こう言う様子"の他にも色々と影で指示してたりするが……それはともかく、思考を終えると必然的に2人に注意が向くのだが。

一見マリスが何時もの様に"普通"に話し、対する直江が受け応えている様にしか見えないが良く見ると彼女は額に汗を垂らしている。

コレは誰もが感じるスーパー侍女に対するプレッシャー(一部の者を除く)であり、戦国より更に優秀そうな直江でも例外では無い模様。

互いの立場も有るので当然と言えば当然だが、少なくとも直江はマリスが自分より色々な意味で"格上"だと言う事は理解したと思う。

それにしても国を影で操っていると言う立場で言えばステッセルと同じだが、何処で差が付いた……って早くも区切りがついた様だ。


「確認したかった件は そんな所でしたでしょうか? ランス王」

「おッ? そうだな」(適当)

「話の内容についての問題は御座いませんでしたか?」

「特に何も無いな」

「恐縮です。それでは上杉軍の健闘を期待させて頂きます」

「ははッ!」

「……畏まりました」

「掛かった予算は後日 詳細を纏めて頂ければ此方で清算致しますので、お早めに宜しく御願いします」

「な、何から何まで感謝の言葉も有りません」

「……(しっかり見据え礼を言わねば成らぬのに……どうして私は……)」

「何なに? やっと終わったの~?」

「あァ。一番 済ませたかった事はな。そんなワケで"おやつ"でも食べに行ってこい。俺……様が街で直々に買ったヤツが有るゾ」

「ホント!? 嬉しいッ! それじゃ~ダーリンまた後でねーっ!!」

「うむ(案の定イメージが崩れたか謙信と直江はポカンとしているな)」


≪すたたたたたたた……≫


「(悪いが人払いを頼む。マリス)」

「(はい)では親衛隊数名はリア様を警護し、残った者はクルックー殿の御案内を」

『――――ははっ!』

「ランス王?」

「ヒカリの紹介に置いては感謝する。テンプルナイトの都合も期待しているぞ?」

「……分かりました(此処で留まるのも無粋ですね)」

「えっ? えっ?」

「ら、ランス王?」


軍事関連の話を終えると唐突に"人払い"を企(くわだ)てた俺だったが、その理由として最初に謙信から得た"違和感"が挙がる。

此方に近付いている上に観察する時間も有ったので既に分かってしまっているけど、実は謙信の目のクマが凄まじかったのだ。

恐らく"戦国"の様にランスに一目惚れした事から食事が喉を通らず、彼を想うと涙が出たりして夜も眠れていなかったんだろう。

原作では立ち絵に変化が無かったので特に印象は無かったけど、リアル(現実)に再現されれば此処までインパクトが強かったのか。

一緒に迷宮攻略していた時は"そんな症状"は確認できなかったが……傍を離れた事で事情が変わってしまい、今に至るって事か?

ともかく美人が台無しであり……ずっと謙信を観察していたリアが御機嫌で立ち去ったのは、彼女に対して優越感を得た為の筈。

更には食べ物で釣ったので簡単に誘導されてくれ、頭は良いが根が単純なのはリアの欠点でも有り好ましい意味での利点でもある。

一方 俺の配慮の意味が分からないのか謙信は跪いたままキョロキョロと焦り、直江は少し意図を察したか俺を見据えて首を傾げた。

またクルックーは既に俺達→親衛隊へとペコリと頭を下げると出口の方へと案内されており、足音が完全に消えると俺は口を開いた。


「一点 気になった事が有ってな。確認して置きたかったんだ」

「か、確認……?」

「先程の話は"問題無い"との事でしたが……」

「いや別の話だ。謙信殿のカオは何が有った? 明らかに全然 寝れて無かったって感じだろ」

「!?!?」

「やはりそうでしたか」

「リアとマリスは面識が無かったが俺は共に迷宮に潜ったからな。指摘しないって時点で無理な相談だ」

「あッ、うぅ……」

「……(謙信……)」

「実は最初から気に成っていたんだが、もしかして俺様に惚れてたりするのか?」

「……ッ!?!?」


――――此処で"びくぅっ!"と体を強張らせる謙信だが、対称的に直江は"あッやっぱり分かってたか"と言った納得の表情をした。


「あらまァ……」

「まさかの図星?」

「いッ、いえ!! ああぁあのッ!」

「はァ……(まさかランス王から気を遣って頂けるなんて)」

「わたッ! わたわた私は……!!」

「ほら。折角 機会を与えて下さったんだから、白状してしまいなさいよ」

「あァ。そうしてくれると話が早いと思う」


人払いをしたのは"この瞬間"にリアや親衛隊達が居たら面倒な事に成るのが予想できた為なのは、今更 説明する迄も無いとして。

俺・マリス・謙信・そして自分しか"この場"に居ない事から、直江は関係を繕うのを止めたのか謙信の脇腹を肘で突いて告白を煽る。

対して初っ端は動揺が微塵にも隠せていなかった斬新な様子の謙信だったが、俺ら3人が黙って見守っていると観念して口を開く。


「わ、私はランス王を……お慕いしています」

『…………』

「その……カスタムで初めて見た時から……心を奪われておりました」

『…………』

「共に行動させて頂いた時は、戦いに専念する事で気が紛れましたが……傍を離れ貴方を想うと胸は高鳴り涙が出る」

『(可愛い)』×3

「(ハッ? 私にはリア様が居ると言うのに……!)」

「(!? で、でも私からは何も言えない。けど謙信の気持ちをランス王なら……)」

「(う~む。べそをかきながらってのは予想以上の破壊力だが……)」

「ですが今は……上杉家の無念を晴らさなければ成らぬ大事な時期だと言うのに……この様な醜態を晒してしまい……」

「謙信」

「え?」

「今 聞いた話によると、俺と共に行動してると普通に戦えるんだな?」

「は、はい」

「ならばJAPANで軍を率いない時は俺と一緒に迷宮に来い。そうすれば気は紛れるだろう?」

「!?!?」

「直江は どう思う? 姫様が再び危険な場所に赴いてしまうワケだが」

「いえ……願っても無い次第です。細かい話は抜きに"謙信"がランス王の傍に居れば調子が戻りそうですし……」

「あ、愛ッ!」

「ちょっと黙ってて。ゴホン。そして何より先日。謙信を"おまかせ"しても旨く扱って頂きましたので、更に鍛えて下さればと」

「はははッ。それなら問題無さそうだぞ? 謙信殿。俺としても何処までレベルが伸びるかも興味が有るし、再び護衛を頼めるか?」

「……ッ……」

「何 律儀に(沈黙を)守ってるの? 御答えしなさいよ」

「!? こ、断る理由は御座いません。私で宜しければ」

「感謝する。だが生憎"その気持ち"に今 直ぐ応える事は出来ないが、言ってみたら少しはスッキリしたんじゃないか?」

「はい……御蔭様で喉に詰まっていたモノが取れた感じです」

「ならば先ずはJAPANの方から何とかするぞ? 全てが片付いたら俺の返事を聞いてくれると有り難い」

「か、畏まりましたッ!」

「不束な娘ですがよしなに」

「ああぁ愛ッ! いい加減にしてくれッ」

「……確かに冗談が過ぎました。面目有りません」

「気にするな。ともかく。改めて上杉軍には期待させて貰うぞ? 故郷の奪還の為に死力を尽くしてくれ」

『ははッ!!』×2

「(ハァ。こんな話をリア様が知ったらヘソを曲げそうだけど、ランス王なら気を利かされているし大丈夫そうね)」


……こうして最高の状況で謙信の告白を受けれた事により、JAPAN侵攻の際は彼女も迷宮に同行させれる様に成った。

正直 目のクマに気付かなければ指摘しようとは思わなかったので、ゲームと違い現実での"リアルさ"に助けられたと言える。

だが彼女は本来のスペック及び限界レベルが高いとは言え、一概に強いダケの同行者ならばサイゼルの方が飛び抜けて優れている。

その反面"高すぎる"初期の好感度(?)により、"仲間にした時点"で最期まで付いて来て貰う事を期待できる数少ない女性なのだ。

かと言って"戦国"のランス同様 余りにも旨くゆき過ぎていると捉えるのも必然であり、此処は我慢して迷宮攻略で絆を深めよう。

目のクマなど何のその……慌てる様子は極めて愛らしかったのだが、午後にも此処で重要な人物と謁見する予定も有るんだしな。

そんな事を考えながら深く頭を下げてから立ち去る謙信&直江の背を消えるまで眺めていると、メモを終えたマリスが口を開く。


「お疲れ様でした。ランス王。コレで午前の謁見は終了です」

「ふ~む。あっと言う間だったなァ」

「ランス王の貴重な御時間を可能な限り取らせぬ様にとは常々思っておりますので」

「そ、そうか」

「何か確認されたい事は有りますでしょうか?」

「……"南条 蘭"の件については どうなってる?」

「式神と言う術? ……を使うのに必要な御札の量産ですか? それでしたら目標の"100回分"が揃うのは今週中でしょう」

「!? 間に合うのか。出来ればって数を言ったが大したモンだな」

「多大な支援に遣る気に成られた南条殿の指導 有ってこそです。性能はランス王が確認されておりますし、疑う余地も無いですから」

「まァ戦略兵器として活用して貰うさ。場合よっちゃ焼き払わずに逃げ出すのを煽る飛ばし方も出来るみたいだぞ?」

「それは便利そうですね」

「JAPANの事を詳しく調べるに、似たような力を使う奴は一人や二人じゃ無さそうだがな」

「そうですね。報告を受けたモノの予想以上の戦力に驚いた次第です」

「反勢力軍を遊び感覚で蹴散らしてたってのも間違いじゃ無いってか」

「…………」

「だ、だがバレス達やサテラ達が相手にしてるカミーラ勢が本気に成った方が数段キツいだろうし、そうも考えてられんさ」

「くれぐれも御気をつけ下さい」

「ヤバそうな相手ならサイゼルをブツけるから心配するな。んで"大道寺 小松"については?(将軍格だから気に成ったダケだが)」

「はい。彼女も女性ながらリーザスの上位騎士と比較しても高い水準の実力を御持ちですね。一言で申せば"真面目"なのですが……」

「うん? 何か有るのか?」

「……昼時に一人でリーザス吹奏楽団の練習ホールに入られる姿が何度か目撃されています」

「すいそうがくだん? あァ。戦争だと"そんなの"も一緒に付いて来るんだったな。しかし何故 昼時を選ぶ?」

「リーザス軍属の者で有れば自由に入室が許可されている場所ですが、他国の方ですので人の少ない時間に来られたのでしょう」

「納得した」

「生憎 その意図は分かりかねますが」

「そうさな。迷宮に潜ってる合間にファッション誌を読んでたのを見たから、その辺に興味でも有るんじゃないか?」

「成る程……」

「んっ? だったら"今時"だと居る可能性も高いし、其処を責めてみるのも悪く無いか」

「今後も"側近"を増やされる事は必然ですしね。ですがランス王……どうか……」

「分かってるさ。決してリアを蔑ろにはしない。それ以前に一度 誘ったのを断られた位だし心配は無用だぞ?」

「!?!?」

「直後にサイゼルを抱いた事がバレて殴られたけどな」

「……旨く遣られているのか否なのか。理解に苦しむ所ですね」

「自分でも良く分からん。正直リアの事は良く知らなかったからな。だから今 時間が有ったら性癖 以外で喜びそうな事を教えてくれ」

「よ、喜んでッ」

「(其処で露骨に嬉しそうな表情に成るのは良いが、本当に時間は大丈夫なのか?)」


マリスの"リア語り"は10分程 続いたが長く成りそうだったので、彼女の為にも途中で切り上げると時間を気にして慌てて走り去る。

その後ろ姿を見て余計な事を聞いてしまったのを申し訳なく思ったが、きっと知恵の指輪が何とかしてくれるだろう。(投げやり)

ともかく午後には"緑の軍"の新たな将軍・カスタムの2人との謁見が控えているので、前述の場所にでも行って時間を潰してみるか。

"吹奏楽団"の練習場など重要な場所とは到底思わなかったのでスルーしてたが、ゲームでのリーザスのテーマは聴いてみたいかもな。

だけど人が居ない時間っぽいので……それ以前に目的は他に有り、居なかったら居ないでピアノでも弄ってみようと考え訪れますと。




「うん?(其処に居るのは……)」




「おぉ~ッ! 奇遇ですなァ!!」




「えッ……お、おおぉ王様!?」




――――リーザス王・青の将の大男・そして上杉家の武将の少女と言う、一見 何の統一性も無い3人が偶然にも居合わせたのだった。








■あとがき■
作中での時間の経過は短いですがヒカリ・謙信のメインパーティー入りが確定し、次回は小松とのコミュみたいなのに繋がります。
コレでサイゼルが加われば鬼畜王基準のJAPAN戦は楽勝ですが、リセット無しの戦死者ゼロと考えると普通にキツいかもですね。
また戦争でも兵の補充が容易に可能な筈は無いので、JAPANで削られた兵力をそのままヘルマンと戦っても負ける程シビアかと。


Q:"鬼畜王じゃないランス"でのマジックの容姿は?

本作のマジックはガンジーとリズナの娘なので鬼畜王基準です。


Q:主人公に運命の女って居るの?

電卓キューブ関連のイベントは出ませんが、主人公に抱かれた時点で運命の女って言っても良い気がします。



[12938] 登場人物紹介
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/12/20 10:52
鬼畜王じゃないランス








■登場人物紹介■




●メインパーティー●




【ランス】

「大丈夫だ。問題無い」

21歳 Lv54/無限

『戦闘技能』

長剣攻撃・ランスアタック・雷の矢・雷撃・電磁結界・献身(かばう)

『人物解説』

シリーズ御馴染みの鬼畜主人公だが本人は既に死亡しており、現在は30代の原作プレイ済みの現代人が憑依している。
よって雰囲気は当然 変わっていて、善人とまでは行かないが掴み所の無い性格に彼の被害者達は皆 驚きを隠せなかった。
だがランスらしくしようとは常に思っているらしく、彼が敗北をきっかけに心変わりしたのだと思わせる様に努めている。
戦闘に置いては既に順応していて、主人公の努力も有ってかランスの実力を旨く活かせており、カオスとも相性が良い。
現在の時点では抱いた女性は かなみとメルフェイスの僅か2名。左メインの両利き。唯一の弱点は人間を斬れない事。




【見当 かなみ】

「この見当 かなみ。生涯ランス王に忠誠を誓い、守護を担う事を約束します」

18歳 Lv50/40(+10)

『戦闘技能』

短剣攻撃・毒攻撃・麻痺攻撃・手裏剣・火丼の術・暗殺・分身の術

『人物解説』

シリーズ恒例の不幸な忍者。何も状況が掴めず憑依した主人公の恩人で有り、此方の世界で最初に肉体関係を持った女性。
御存知の通りランスに色々なメに遭わされていたので彼を発見した時は嫌な予感しかしなかったが、なんと言う事でしょう。
自分に手を出そうとしないドコロか体を張って守ってくれる上に気遣ってくれる事も多々有り、真剣に力を求めるランス。
そんな彼に男運が最悪で有る彼女が惹かれてしまうのに時間は掛からず、いずれは生涯彼を守り抜く絆へと変わっていった。
今現在の かなみは本気で強く成ろうと決めている為 忍者で言えば中の上。彼に命令されれば女子供でも殺す覚悟である。




【メルフェイス・プロムナード】

「精一杯頑張りますので……宜しければ私を御連れください……」

26歳 Lv48/48

『戦闘技能』

氷の矢・氷雪吹雪・スノーレーザー・シベリア・強化付与全種

『人物解説』

元リーザス魔法部隊の副将。白の将軍エクスと愛人関係だったが、ランス王の護衛と言う役割での同行で運命が変わる。
自分の薬(リヴ)による副作用を完全に受容し、全ては彼に身を委ねる事で命を繋ぎ止め共に戦ってゆく道を選んだのだ。
そんな彼女の魔法のラインナップは最上位こそ使えないが、個々の魔法のバリエーションが秘薬の効果により非常に豊富。
例えば氷の矢ならば一度に数十の矢を展開させ それをファンネルの様に操り、相手が単体・複数を問わず嗾ける事が可能。
補助魔法も熟知しており今や欠かせない存在。とっても優しい物静かな美女。その為か何気にサイゼルと仲が良かったり。




【ウィチタ・スケート】

「ランス王ッ! 私の炎の力を!!」

16歳 Lv35/35

『戦闘技能』

長剣攻撃・ナイフ投げ・火炎斬り・炎の矢・火爆破・ファイヤーレーザー・暗殺・火炎付与

『人物解説』

代々ゼス国王の身辺警護を担ってきたスケート家の娘。ガンジーの忠実な部下で彼には"スケさん"の愛称で呼ばれている。
非常に責任感が強い上にガンジーを敬愛している為、悪評ばかりのランスを見極める意味で今回の旅に同行する事になった。
しかし何と言う事でしょう。ランスは(部下 共々)相当な実力者で人望も厚くウィチタが逆に劣等感を抱いたレベルだった。
その為 彼と同行 出来る事を誇りに思うと同時に精一杯 努めようと誓うが、距離が近付けば普通の少女相応の顔を魅せる。
若干16歳だが非常に器用で様々な技能を持っており、それが正史に活かされる事は少なかったが実力は折り紙付きである。




【ラ・サイゼル】

「嫌だけどハウゼルの為に仕方無く居てアゲるのッ、だから戦いでも何でも命令しなさいよッ!」

??歳 Lv88/120

『戦闘技能』

打撃攻撃・スノーレーザー(通常・貫通・誘導)・クールゴーデス・無敵結界

『人物解説』

エンジェルナイトの魔人と言われているが、主人公は"破壊神ラ・バスワルド"を2つに分けた存在の片割れと知っている。
そんな危険な存在のサイゼルだが本人は露知らずケイブリス側に付いて妹が居るホーネット軍と戦っている為 早期に捕獲。
結果 蓋を開けて接してみれば只のツンデレで有り、気は強いが泣き虫でも有る弄り甲斐 満載なキャラでしたでゴザルの巻。
だが本人はランスに何を言われても結局は付いて来る事から、長年の間 人肌が恋しい思いで過ごしていたのかもしれない。
そんな彼女の実力は魔人相応で非常にタフな上 高い魔力を秘めているが、魔剣の存在で結界が完全に無意味と成っている。




【アームズ・アーク】

「ふむ……こうも欲が無い男と言うのは珍しいな」

23歳 Lv40/44

『戦闘技能』

槍攻撃・槍連撃・モンスター学・ソロファイター

『人物解説』

ランス・クエストで初の登場。常に一人で各地を巡って、ボス級モンスターを狩り続けている強力なモンスター・ハンター。
だが鬼畜王の世界では今迄と同様 単身で"解呪の迷宮"のボスに挑んだ結果、善戦したが大魔法の餌食となり死亡していた。
しかしながら。紙一重でランス達が"ハウ・キュッ"を倒した事で死亡フラグを回避でき、彼らと共に行動する事となった。
戦闘力は極めて高く、ソロファイター(攻撃回数増加・被ダメ半分)のスキルは今作では人数に関係無く常に適用されている。
性格に置いては人との接し方を含め戦闘以外は殆ど無頓着だった為、天然属性が含まれる。美人な容姿とのギャップ有り。








――――以降の更新で ちょくちょく追加できればなと思っております。



[12938] 別に読まなくても良いキャラクター補足
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2015/04/18 00:57
■以下の文章は当作品を"27話まで"読まれた事を前提として書いているので御注意ください■
















◎リア・パラパラ・リーザス

容姿や性格は鬼畜王基準なので精神年齢は低くアホの娘。
しかしながら頭は極めて良いので主人公にピンポイントで与えられた仕事はしっかりと行える。
軍事と内政は主人公とマリスに任せっきりだが、貴族達の動向を探る為に様々な集まりには足を運んでいる。
サドでマゾという性癖持ちだが、主人公の甲斐性により幸せなので原作ほど性欲旺盛では無い。




◎マリス・アマリリス

主人公が作中で褒めまくっているが、鬼畜王よりランスに振り回されていない為むしろ仕事は減っている。
されど凄まじい情報量を完璧に把握し日々リアの幸せの為に務めているのは間違い無い。
主人公から貰った知識の指輪を所持しており、元々飛び抜けていた有能さに更に磨きが掛かっている。
なお彼女の指輪を見た者達の間に妙な噂が流れているが、面倒臭くて放置しており自分の事にはいい加減。




◎リック・アディスン

前述のマリスの指輪により、人知れず早くも彼女の事を諦めてしまっていたりする。
だが侵攻やら魔人やらリーザスは極めて忙しい状況なので、必然的に既に気持ちを切り替えている。
それはランスとの稽古でモチベーションが上がった事も大きく、自由都市制圧の任務など些細な事だろう。




◎メナド・シセイ

主人公が例の屑を赤の軍から叩き出しているので、現在も男性と付き合った経験は無い。
また作者がランス1・2のリメイクをプレイしていないので、過去にランスとの関わりも無い。
主人公に対しては憧れと微かな恋愛感情を抱いているが、今は1回稽古して貰うダケで十分と考えている。
現在はロックアース方面に行ってしまっているので、再登場させるなら侵攻の援軍として呼ぶ事が必要。
補足して置くと序盤で主人公を見て悲鳴を上げたのは、裸体ではなく結果"そのもの"ダケに驚いたから。




◎ハウレーン・プロヴァンス

鬼畜王と違って反乱に加担しておらずレイプもされていないので、主人公を主君として認めている。
心酔しているバレスに置いても"父ならば尊敬するのは必然"と親子揃って感無量と言ったトコロ。
魔人との戦いに置いては次元が違う事を察しており、とても歯痒い気持ちを抱いていた。
だがJAPAN侵攻でランス率いる緑の軍と共に戦える事が分かり、モチベーションが急上昇中。
個人的に彼女が何処で処女を散らしたかが気になるが、それはリーザス陥落の際なのだろうか?




◎レイラ・グレクニー

シリーズに置いて連戦連敗のイメージが強いが、対戦した相手が余りにも強過ぎる為だと思われるのは さて置き。
親衛隊の女性は若い王であるランスに心を捧げるタイプと、普通に恋人を作って結婚を夢見るタイプに分かれる。
従来なら後者が多いのが当然だが、主人公が真面目な性格で魔人をも倒した事から部隊では彼の話で持ちきり。
しかも女性達の勘か彼に抱かれれば限界を超えた強さを得れる事も察せられており、レイラも興味を抱いている。
正直なトコロ、人が変わった様なランスの雰囲気やサイゼル戦での勇姿は ぶっちゃけ彼女の好みだと言えたのだ。




◎ジュリア・リンダム

リアに匹敵するアホの娘だが、彼女と違って頭も余り良くない。
しかしランスⅣで飛躍的にパワーアップされており、戦闘力が極めて高く速さは現在の かなみをも凌ぐ。
そう考えれば限界値上昇による対魔人の最有力候補と言えるのだが、親衛隊で活かしても普通に有力である。
よって主人公は今の所は後者として活躍して貰う事を選んでおり、出来る事なら肉体が成長して欲しかったり。




◎チルディ・シャープ

ランス9でメインヒロインとして採用されていたので登場させるか迷っています。
かと言って主人公の知らないキャラを出現させても活躍させるのが難しいのが問題。




◎魔人 サテラ

今更だが鬼畜王ではスーツを着ているが、本作は3や8での黒色ハイレグのコスチューム姿である。
カオスを所持するレベル61の主人公と言えど、彼女とシーザー相手に単身では刺し違えるのが精一杯。
原作と違って好感度を上げれば対人類であろうと動いてくれるので、先ずは彼女に勝利する事が求められる。




◎ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー

見た目は鬼畜王基準であり、戦闘スタイルも巨大な太刀を片手に魔法を織り交ぜて戦う。
ガタイの良さによるレベルアップによる成長率は人類屈指であり、何気に初期レベルが50と高い。
しかし超必殺技の"破邪覇王光"は個人戦だと詠唱に時間が掛かり過ぎて使い所が難しいらしい。
反面 戦争では破壊光線系の大魔法を凌ぐ戦略魔法として極めて強力で、活躍する事 間違い無いだろう。
余談だがアベルト・セフティは登場しないので彼の妻はリズナ・ランフビット(故人)である。




◎ウィチタ・スケート

現在は若干15歳な為、カラダは成長中で鬼畜王基準の幼さの残る容姿をしている。
一方Ⅵでの大人びた容姿・スタイルと8での性格の変わりっぷりに作者は驚いたクチである。
2年ほど経って成長すれば正史の鞘に収まり、憧れているメルフェイスにも近づくだろう。




◎カオル・クインシー・神楽

完全に鬼畜王基準の性格と容姿なので、Ⅵ以降の面影は皆無と考えて貰えると幸いです。
時より真面目な事も言うでしょうが、あくまで正史でなく鬼畜王での素面を意識して頂ければと。
柔術と言う余り認知されていない強力な技能を持っており、マトモに食らえば魔人でも昏睡する。




◎坂本 龍馬

タクガ時代の様な力押しではなく、忍者として当初から鍛えられており月光・しのぶ同様 忍者レベル2を持つ。
その3人に狙われれば逃れられる武将など存在しないと言われていて、実際その通りであったりする。
リーザス城は原作ほどザル防衛では無いのだが、主人公自らJAPAN近辺に来るので要注意の存在だ。




◎しのぶ

見た目こそ鬼畜王と同じだが、生まれた時点で既に4体の使徒が居た信長の仕様により忍者として鍛えられた。
その為"くのいち"としての技能は持たないが、忍者としての実力は極めて高く何と現在の かなみと同格である。
とは言え香姫をはじめ龍馬・月光には(稽古以外)優しくされており、艦これの響や若葉みたいな愛嬌を持つ。




◎上杉 謙信

最近まで一般兵に毛の生えた程度の強さだった為、戦国とは違い単独で突撃などは滅多に行わない謙虚な性格。
当然 仲間が危機に陥ったり必要で有れば躊躇う気はないが、今は亡き両親の血を大切にしているとも言える。
御存知の通り理想的な男性であるランス(主人公)に惚れているが、今は彼を想うだけで幸せな状況である。




◎直江 愛

戦国とは違い鬼畜王の設定では山本五十六が武器を持って戦う自体が極めて異例と言われていた。
よって上杉家であれ彼女が軍師として認められるには個人の力も必要であり、血の滲む様な努力をした結果。
弓の実力をも高く評価され戦国より更に強力な武将と成ってリーザスの下で謙信と共に軍を率いる事になる。




◎南条 蘭

織田信長に滅ぼされた陰陽師一族の数少ない生き残り。
生き残った陰陽師は居るかもしれないし、居ないのかもしれない程度で希少。
尚 北条家は陰陽師の国では無かったので、信長に個人的に目を付けられて滅ぼされている設定。
現在は虎子でさえ式神を使えないので、親戚である彼女に教えてみようかと考えている。
織田軍の手により幼馴染を失っているが、作者は特に決めていないので北条早雲と取るかは自由である。
燃費の悪い式神・朱雀は破壊光線系より威力は劣るが即効発動なのでダメージ効率が凄まじく良い。
また戯骸(ぎがい)は既に信長の部下として存在しているので、自身の肉体が弾けて死ぬ心配は無い。




◎大道寺 小松

容姿も口調も戦国と全く同じだがアイドルでは無く、戦闘スタイルも実直でハート斬りなんかも行わない。
反面アイドルの様な存在には憧れており、雑誌や魔法ビジョンを見て歌や踊りの練習を行っている事が有る。
それに主人公の90年代辺りの音楽の現代知識とリーザスの資金が合わされば……後は分かりますよね?




◎マリア・カスタード

当SSでは鬼畜王基準だがシリーズが進む度にスタイルが良くなり、更には美人と成ってゆく印象。
チューリップはリアルに考える程 他の兵種の追随を許さない強さに成るので、運用コストを高くする予定。
でもリーザスの資金には余裕が有る為、ノースの街のゴリアテの存在はチート級になるだろう。




◎魔想 志津香

ランスを嫌っている女性は誰かと聞かれれば真っ先に思いつくと言っても良い人。
当然 エレノアが同行すると聞き懸念を抱いたが、結局 許した辺り彼の態度を演技とは感じなかったのだろう。
デンジャラス・ホールから帰って来た後に彼の事を話すエレノアの顔が少し乙女してたのには頭痛を覚えた。
ナギ・ス・ラガールに置いては鬼畜王基準でゆこうと思っているので、課題は2人ともリーザスに残らせる事。




◎エレノア・ラン

何時の間にかメインパーティーに入れてしまったが、催眠が都合の良いスキルとして重宝する気がする。
原作ではランスを含め"ラン"と皆に呼ばれていたモノの、南条蘭と呼称が被る為に見ての通りと成っています。
十数年前に鬼畜王のHCGを見て以来、未だ個人的な"着痩せするタイプ"のナンバーワン的な存在だったり。




◎ミリ・ヨークス

ゲンフルエンザの存在には本人と主人公のみ気付いており、腐っても薬屋なので妹を気遣い安静にしている。
原作では動けている間は十分に楽しんでから死ねば良いと言う印象だったが、何となくこうなりました。
ウェンリーナを見つければ容易に治療できる病気だが、出来ればシーラ様の薬中も治して差し上げたかった。




◎ミル・ヨークス

最初は8の様に少し落ち着かせた感じで書こうとも思ったが、エレノア勧誘の口実にしたかった為 鬼畜王基準。
だが成長の泉でのダイナマイト・ボディを見た感じ、早い段階で発育すると思われるので焦りは禁物である。
幻獣召喚のスキルは鬼畜王基準だと一人で部隊が成り立つので、伝説級の才能を持っているとも言える。
それは個人戦でも恩恵が強く、読めていればヒトラーにフォッケウルフを撃たれても壁役にする事で回避できる。
よってエレノアとミルは成り行きで加入してしまったとは言え、事故死を防ぐ貴重なダメコン的 存在と言えよう。
ランスに再び抱いて貰うという事が公式(?)の目標だが、主人公が普通に相手をしてくれるので忘れかけている。



◎クルックー・モフス

Ⅷと違って司教時代はバランスブレイカーの収集役は担っておらず、今は女神アリスの操り人形と言う位置付け。
右目は原作通り失明していて前髪に隠れており、常に無表情な為 雰囲気そのものは限りなく原作に近い。
だがトローチ先生やムーラテストも存在せず、父の教えを真っ当に受けて法王を継いだので極めて常識的である。
反面 父が死に身分により友人・仲間は勿論ランスの様な大切な人も居ない中、女神の正体を知った絶望と失望。
彼女の精神に打撃を与えた事は間違いなく、必然的に主人公にも警戒されている為 何処かで救いを求めている。




◎小川 健太郎

来水 美樹と並んで容姿と性格は鬼畜王基準で、カオルと同様 他シリーズの面影は皆無。
つまり文句の付け様の無い好青年であり、日光を持つので主人公と別行動でも味方全員に対魔人効果を与えれる。
尚このSSに置いては聖刀日光は彼女に認められれば性交を条件としなくても持てると言う事にして頂きたい。


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