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[12333] (習作)ファンタジー憑依ものRPG風味入り
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/02 16:27
この小説はファンタジー憑依モノにRPGゲーム的要素を入れたものです。
RPG要素は主人公のみ適用。

チート要素が一部ありなので、そういうのが嫌い方は注意。



注:この作品は作者の気力不足により、いつエターなるかわかりません。
  エターならなければいつか最強モノっぽくなるかも

注2:この小説は作者の文章力不足により頻繁に修正がはいります。
   前に読んでいただいた時と微妙に文章が変わっていることがあります。
   ご注意下さい。



[12333] プロローグ 見知らぬ場所で…
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/09/30 09:57
目が覚めると見たことのない場所にいた。

いつも寝起きしている安アパートの一室じゃない。

見覚えの無い部屋の中だ。
あぁ、夢をみているのだろうと思った。

とりあえず体を起こしてみる。

自分を見るとやはりこちらも見覚えのない服を着ていた。
例えるならSFCのRPGゲームにいるそこらの村人Aの服?

体自体にも違いがあり、腕の長さや身長が違う。
元の自分はそろそろ30代に乗りそうなお兄さん(断じておじさんではない)のはずなのに対して、この体は少々筋肉が付いており腹筋が割れている。
TVでいう細マッチョというやつだろうか。

なにより自分は毛深くちとむさい髭面だったはずなのに、まるで女性のように毛が薄い。

確認した下に『男の象徴』はあったので男であることに間違いはないらしい。

夢は潜在的な願望だというが、なるほど俺は毛深いことがコンプレックスだったのか。


部屋の内装に目を向けると自分の寝ている寝台とテーブル。それに椅子が二つあった。

机の上にランタンがひとつとナイフがひとつ。
部屋の明かりはこのランタンだろうな。

他の家具はおろか、替えの服すらない。時計もない。
まぁ、夢だからな…そんな深いところまで想像しなかったんだろう。

現状の確認が済んだところでもう一眠りだ……。

どうせ夢だ。目が覚めたらいつものアパートに戻っている。











起きた。
まだ見覚えのない部屋の中だった。

「あ、あれ?」


しゅじんこうはこんらんしている。




[12333] 第一話 現状を確認
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/01 21:56

目が覚めてからどれぐらいたっただろうか。


時計もない部屋で混乱しきりだったので経過時間がわからない。

…延々と錯乱していてもしかたない。
まず現状を正しく認識しなくては…。

とりあえずどうしてこうなったか、から考えるか。



Q.自分は昨晩寝る前に何をしていた?
A.いつも通り仕事が終わって、布団で寝た。


Q.何でこんなところに居る?
A.わからない。よくよく見直してみても見覚えがない。


Q.こんなことになった心当たりは?
A.自分の体が替わるなんて常識的にはありえない、よってこんなことできる心当たりもない。
 

そうだ、体!

起きてしまった変化の中で一番大きいことだ。
コレも確認しないと…。

これはいつもの俺の体じゃあない。
男であること、少々筋肉質であること、元の自分より背が高いことぐらいしかわからない。
体の動き自体に違和感は無いんだが。

鏡もないから顔も確認できん。
勿論水もないから水鏡で見るという方法も使えない。

今はこれ以上の分析は不可能。


「わかったのは、結局分析してもほとんどわからないってことだけか…」

諦めの声と共にため息をつく。


と、ここで一つ気が付いた。
今まで結構な時間悩んでいたし、最初に混乱していた時間もかなりのものだ。
にも拘らず、全く腹が減らないし、喉も渇いてこない。
トイレに行きたいとすら思わない。



一体どうなっちまったんだ?
コレも体が替わったせいなのか?

便利さよりも不気味さのほうが際立つ。
本当に一体なにが起こったんだ?




あとは…そうだ、外を確認してなかった!
別に監禁されてるって訳じゃないんだから、当然扉もある。
ここから見る限りじゃ、鍵は無いみたいだ。


ここには窓がないので、外の様子を見るには扉から確認するしかない。

とりあえず様子だけ見てみよう。



薄暗い視界の中、見渡す限りの木、木、木。
今出てきた小屋以外は植物しか見えない。


…森の中だな。しかも夜だ。全然先が見えない。


………あきらめて朝を待とう。





さて、夜が明けるまでに、外に出る準備をしようか。
待っていても何が変わるわけでもない。

遅かれ早かれ外に出て、誰か探さなくてはならない。
…『誰か』がいればな?

といっても目に付くのはランタンとナイフくらい。
獣や毒虫、蛇などもいるかもしれない森に入るのには準備不足もいいとこだ。
ま、無いよりはましかな…。
とりあえずナイフを手に取…

[ダガーを取得しました]

「うお?!」

…ナイフが消えた。
触った瞬間消えてしまった…。

そして謎の声。

…声?!

「誰かいるのか?!」

慌てて声の元を探しまわる。

…誰もいない。当然の話だ。
部屋の中はさっき十分に調べた。
誰もいなかったからこそ、こんなに困惑しているのだ。

わかっていたことを再認識し、先ほどの声を疑問に持ちながら、ナイフのことを考える。

声から考えるとダガーだったらしいが。
今はどこを探してもダガーは無い。
手品のように一瞬で消えてしまった。

手品と違うところは、俺は決して眼を離していないということだけ…。
俺が触れたことが原因なのは確かだが、なぜ消えたかがわからない。
さっきまで俺は自分が寝てた寝台や枕、毛布に触れていたはずだ。
なのに消えたのはダガーだけ。
毛布や枕は確かに存在している…。

もう一度毛布や枕に触れても何の変化もない。

ん~、もしかして…。
モノは試しと、思い付きを実行しながらもう一度枕に触れる。

[枕を取得しました]

………今度は消えた。
そしてまた声。

よくよく聞いてみると声には抑揚が無い。
まるで機械音声だ。そして声は俺自身から聞こえているらしい。

念のため服を隅々まで調べる。
…何も無い。

どこかにスピーカーを身につけているわけでもないみたいだ。



とりあえず道具が消える条件はわかった。
持ち歩こうと思いながら触れると消えてしまう。

声によると取得はしているらしい。
取得ということは、手に入れているということだ。

しかし…

「取り出し方がわからん」



……



「あ~、もう!どうしろってんだよ…」



あれからいろいろな方法で試行錯誤したが、結果は出なかった。

取り出し方を見つけるために念じてみたり、
手から吸ったから手から出るだろうと手を振りまくってみたり、
「ダガー出て来い」と口に出してみたり…。
一向に出てくる気配は無い。

「クソッ」

苛立ち紛れに椅子をけりつける。

…ここでまた違和感が。
足に衝撃が来ない。全然痛くないのだ。

一応靴は履いているようだが、全く痛くないというのはありえない。
しかもこの靴、運動靴とか普通の革靴とかじゃない。

いや革靴ではあるのだが、あんなに硬くてしっかりしていない。
もっと柔らかい、布か何かでできているような…。

…話が逸れた。
ともかく、こんなもので蹴ったら痛くないはずが無い。


…物は試し、逆に椅子の方で足を踏んでみる。

てい。




…痛い。

普通に痛い。


…気を取り直して今度は手で机を強めに殴る。
痛くない。


あ~、なるほど。
つまり、こちらから叩くと反動がこない、ということだろうか。


異常な法則だ。

物理学者が泣くぞ。


さっきの機械音っぽい声といい。    

まるで、ゲームだ。





ん?

『ゲーム』?

まさか、ゲームなのか?


何かを取ったときのシステム音。攻撃時に自分にはダメージが来ない。腹が減らない。トイレもいらない。

確かに大部分のゲームにあてはまるが…。

いや、ここまで非常識なのだ。いまさら否定しても仕方ない。
これは『ゲーム』だと思っておこう。


だからといって油断する気は欠片も無い。
先ほど椅子で実験したように攻撃されれば普通に痛いし、死ぬこともあるだろう。
そのときゲームと同じく、セーブポイントで生き返れるかなんて試したくも無いことだ。



さて、これがゲームだとすると…。

「ヘルプ、ヘルプコマンド」

ちっ。だめか。
説明書のようなものが出てくるのを期待したのだが、全く反応が無い。

とりあえずありったけ試してやる!




[12333] 第二話 出発、はじめてのせんとう
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/01 22:42

「…とりあえず思いつくのはこれだけか」

今回はきちんとした成果が出た。




声に出して思いつく限りを言ったところ、成果は2つ。

「ステータス確認」で自分の能力値を。

「アイテムウィンドウ」で自分の持っているアイテムを確認できた。

どちらも頭の中に文字が浮かんでくるようで少し眩暈がしたが、確認できれば問題ない。
アイテムウィンドウを開いた状態でアイテム名を読むと呼び出せるようだ。
ダガーを呼ぶとアイテム欄からは消えずに[E.ダガー]となった。


なったのはいいが出てこない。
枕は出てきたんだが。

試した結果『攻撃する』という意思を持つと勝手に手元に出てくるのがわかった。
…微妙に不便だな。

そしてステータス。


 ●シオン=ラーク
 
 ・LV  1

 ・HP 50/50  ・MP  25/25
 
 ・力   5(+3)・耐久   5(+2)・魔法力  5

 ・敏捷  5    ・器用さ  5

 ・装備  ダガー(力+3)
      普段着(耐久+2)

 ・所持重量 25/2000

 ・所持金  0ガット

 ・所持技能 ―

 ・技能限界 0/1000                     」


1つ目はこの体の名前だろうな。
シオンっていうのか…。
LVは1、ステータスも初期値だろう。これらの数値の上げ方は定番でいえば敵を倒して経験値をためる。

括弧で表示されているのは装備の補正だと思う。
ステータスの所と装備の横の+が同じだ。

まぁ、現状は保留だな。
普通の体ではないとはいえ、素人が獣(魔物)を倒せるとは思えない。



そして所持限界。
枕を出したら5下がった。次に枕を手で持っていてみる。
20のままだった。

どうやらこれは、アイテムウィンドウに収納して持っていける量を示しているらしい。
ウィンドウに入れているものは重さも感じない。

何気にこれが一番便利な機能かもしれない。
しかし実際の重さと数値上の重さ。全然一致してないな。

そして技能と技能限界だ。
大体の予測はつく。こんな数値表現してるって事は技能の熟練度の合計が技能限界だろう。

つまり。

「高い熟練度の技能を覚えておくには覚える技能の数を減らさなくてはならない」

…1000という限界値が多いか少ないかはわからない。
十分に考慮して選択するべきだろう。


「どうやって技能を修得するかはわからないけどな」


コレでゲームシステムのようなものがあるのは決定した。
こんなもの普通の世界で出てくるわけが無い。

問題はこの世界の住人すべてが似たような能力を持っているかどうかなんだが…。
それは会ってみてからだな…。


さて、これでとりあえず準備は終わったか?
何か異様に時間を食った気がする。
これも変な体になったせいだ。

一体何処の誰がこんなことを…。

あ~、くそ。
考えてたら腹立ってきた。

とりあえず腹いせにここの物全部持ってってやるか。





外を見るともう白んできている。
視界も昨晩と違い良好だ。

一体何時間アイテムの出し方で悩んでたんだ?


さて。
不安は山ほどあるがそろそろ森に行きますか、ね…。



重量合計 850


ダガー  10
普段着  10
枕    5
寝台   400
毛布   15
椅子   50×2
ランタン?10
テーブル 300









どうやら今までいたところは山小屋(森だから森小屋?)だったようだ。

昨夜の何も見えない森と違い、今の森は見通しが悪いがなんとか進むことは出来そうだ。


それにしても…、なんて広さ!

今まで目にしたことも無いほどの木々の数。

まさに樹海と言ってもいいだろう。
TVで見た富士の樹海とかがコレに近いのかもしれない。

方向と先に全く見当がつかない。




ところで、どの方向に向かおうか。

幸いなことに道はある。かすかに、だが。
獣道に近いもののようだが目印なく進むよりははるかにましだ。

右手側と左手側。
食事や排泄の欲求が無い俺にはとにかくまっすぐ森を突っ切るという手も使えないこともないが、
まず間違いなく迷って途方にくれた後に獣の餌だ。
それは勘弁して欲しい。




ふむ。
どちらか迷ったときは勘に従うか。どうせ考えてもわからん。
こういう大事な決断は俺はほとんど間違えたことがない。
大学の選択の時も、なんとなく嫌な予感がして選ばなかった学校の方が経営不振になってたからな。


ん~、これは右だな。そんな気がする。


……
…………


これは、間違えたか…?


険しい森の中を草の書き分けながら進むこと暫らく。
森が深くなっている気がするし、気のせいか獣臭い。
植物も毒々しい色のものが増えてきている。



…ここは早く戻るべきだ、なッ


「うぁッ?!」

背を向け、歩き出そうとした瞬間に左足に激痛。

こちらが何か反応をする前にそのまま振り飛ばされ、勢いのまま木に叩き付けられた。

ぐはっ…

息が詰まる。
しかし叩きつけられたそれよりも

イタイイタイイタイッ



足が痛いッ!

太腿が焼けるようだ。

だが今はそれを気にしている暇は無い。
俺が元居た場所に目を向ける。


そこには俺に痛みを与えた元凶が居た。

…腰ほどの高さまの背がある狼だ。

どうやらあいつに噛み付かれて振り回されたようだ。
ようだ、というのはヤツの牙に俺の血が付いていて、今も滴り落ちているからからだが。


頭の中に展開しっぱなしのステータスを見る。

な、HPが7しかない?!

一噛みでコレか?!
もし、もう一撃食らったら確実に死ぬ!

逃げなくては、しかし怪我した足で獣相手に?
絶対に無理。却下だ。
倒す?もっと無理。素人が一撃で野生の獣を倒せるはずが無い。
反撃を一回でもされたら終わりだ。

大体卑怯すぎる。最初の敵にしては強すぎる。
こんなゲーム下手しなくてもクソゲーだ。


というかそろそろ食い殺されるんではないか?
こんなに考えている時間は無いはずだぞ。


だが、ヤツはこちらを警戒するように唸っているだけ。

逆にさっきより距離をとっている。

なぜ襲い掛かってこない?
まさかターン制なのか?

いや、そんなに甘いはずは無い。さっき2回連続で攻撃してきたではないか。

相手を見ながらゆっくり後ずさる。

…後ずさる?。
いや、まてまて。何で普通に後退できる?
俺の左足はヤツの牙でずたずたに…。

なってない。
一瞬だけちら、と見ると傷が無くなっている。依然痛みはすごいが。
なるほど。襲ってこないのは噛付いた傷が治る相手を警戒しているからか。

もう一度HPを確認。7のまま。
実際に回復しているわけではない。

ということは。
RPGのシステムでダメージを受けても攻撃力や回避力が落ちないのを怪我自体が一時的に無くなる事で再現しているって事か。


これなら相手の不意を突ければなんとか小屋までなら逃げられるかもしれない。

問題はどうやって不意を打って相手の隙を作るかなんだが…。


と、そろそろ相手の警戒心よりも食欲が勝ってきたのか今にも飛び掛ってきそうだ。

死にたくなければやるしかない!
一か八か!

「グルァァ!」

「はッ!」

毛布を出し、盾のようにしてすぐ横によける!
そしてすぐに相手の上に寝台を落とす!

重さを感じずに一瞬で出せるからこそ出来る戦法だ。

「ギァァ?!」

よし、コレで。


「げ」

まだ生きてる!

寝台がガタガタと音を立てて跳ね、木枠がミシミシと音を立てている。


早いトコ逃げなきゃ寝台を破壊した怒り狂った狼に噛み殺される。

足の痛みを無視して全力で逃げる!

走れ走れ走れぇ!


……
…………



「ぶはぁ…やばかったぁ」

やっと小屋に着き、一息ついた。

危ないところだった。
食い殺されるなんてまっぴらゴメンだ。


しかし今走ってもう一つ気がついたことがある。
それは。

「これだけ走って息一つ乱れないとは…」

つまり疲れないのだ。
肉体的疲労を無視できるらしい。
何だこのチート。
今迄確認した中でアイテム収納と争うくらいひどい。

だからといってこんな意味不明なゲーム?のような世界に押し込まれたことに絶対に感謝なんてしてやらん。

それに気疲れはしている。
精神的には疲れるから、結局は休憩がいるのだ。



「少し休むか…」






あとがき

Q.何時になったら町に着くんだよこの馬鹿が。

A.町に行くまでが長いのがoblivion
  別に元ネタoblivionじゃないですけどね!
 (私の文章構成力の無さのせいです)



[12333] 第三話 町へいこう
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/02 16:22


あれからしばらく。

座って休んでいるんだが、全然足の痛みが消えない…。

HPを確認。

やはり7のままだ。

どうやら座って休んだ位じゃ回復してくれないらしい。


しばらく寝転んでみる。
やはり回復はない。

自然回復は無しなんだろうか…?

かといって回復ポーションなんてない。
そんなの持ってたらとっくに使ってる。

残るはRPGゲームの定番回復手段にして今思いつく最後の手しかないな。



まずは枕を出して…










痛みを無視してそのまま寝る!






……



目が覚めた。

あれだけ響いていた痛みはきれいさっぱり消えた。
足に触れてみてもなんともない。

ということは…。



お、全回復してる。

それにしても、一回寝たぐらいで全回復とは…。

この体のせいで見えないが、狼に深く噛まれたはずのダメージが1日で治るはずが無い。

つくづくゲームとは理不尽だな。



しかし、こんな重要な選択を外してしまうとは…。

あれ? そういえば勘、直感って技能なのだろうか?

…ステータスによると今の技能は無しってことになってる。


もしかして体が替わったせいで今までの技能、というか特技も無くなった…のか。

思い当たる節もなくはない。


『シオン』になってアイテム取り出そうとしたときに全然見当違いの事やって時間を無駄にしたり、こうなった原因にちっとも勘が働かなかったり…。


くそっ。

この体のおかげで逃げ切れたと思って少しは感謝してたのに。
死にそうになった原因もやっぱりこの体のせいじゃないか!


「あぁ、もうなんだこれ」


溜息。そして深呼吸。

落ち着け。イライラしたところで時間の無駄だ。
この体は利点ばかりじゃないってことを認識しただけでも価値がある。
そう考えよう。


よし、体力も回復したことだしそろそろ小屋の左手側の道から先に進むか。
疲れないことだし走りながらな。


左の道は右手側の道とは異なり、進んでいくとだんだん道幅が広くなってきた。

心なしか、植物の密集率も下がってきている。

よし、やはり道なりに進んで正解だったようだ。

木々を掻き分け走り抜ける。
だんだん木が疎らになっていく。

そのまま道を真っ直ぐに辿ると、ついには森を抜けた。

ふぅ。
やっと餌にされる恐怖からは開放された。

視界が開けているだけでこんなに安心できるとは…。


後は街道沿いに行けば町に、人に会えるはずだ。


それにしても行けども行けども町並みの欠片も見えない。
こんなに広い土地は日本にはないだろう。

少なくとも、ここは日本じゃない。

…願わくばここが地球であって欲しい。



街道を走っていると、さきに人影が見えてきた。
やっと人に会える…。


5人。
相手もこちら側を確認したらしい。
商人らしい1人を守るように3人が周りを警戒。最後の一人が剣に手をかけ、こちらを伺っている。
どうも商人とその護衛のようだ。
どうやら、思いっきり警戒されているみたいだ。


護衛なんだから当然かもしれないが。
いきなり、街道を自分達に向かって突っ走って来るヤツがいたら誰だって警戒する。

山賊か何かの囮役だと思われてるのかも。

しかしこの分じゃココ、明らかに地球じゃないな…。
相手の武器は普通の剣だけみたいで銃を持っている様子もないし、剣を持ってる人の服装はゲームとかでしか見ないような皮鎧だ。

なにより今時分、歩いてる商人なんて普通はいない。

トラックでも使わないと、運べる荷物が少なすぎる。

といっても、俺と同じように荷物を持っていけるならいらないのかもしれないが。

とりあえずある程度まで近づくと、声を掛けてみる。

「すみませ~ん!」

「止まれ!それ以上近づくな!」



…どうやら予想以上に警戒されている。
今にも剣で切りかかられそうだ。
おとなしく従うべきだろう。


それにしても明らかに外国人の外見なのに言葉が通じる。
元の俺は外国語はカタコトでもしゃべれなかった。
『シオン』の体のせいか?
こちらは普通に日本語をしゃべっているつもりなんだが。

最悪ボディランゲージになるかと思ってた分、楽ができる。

こちらが止まるとそのまま声を掛けてきた。

「何のようだ」

疑うような目つきでこちらを睨む。
…なんにもしないよ。

「道をお聞きしたいんですが」

「なんだと?」

訝しげに、聞き返してきた男はさらに警戒心を上げたようだ。

「ここは街道だ。そのまま道なりに進めば町に出るというのにどこの場所を聞くつもりだ?」

なるほど。ごもっとも。

「いえ、完全に方向を見失ってしまいまして、どの方向にいけばどの町かわからないんです」

「ふむ、なるほどな。ではどちらの町に行きたい」

「それは…」

その聞かれ方は困る。とても困る。
そう聞かれたら普通はどちらかの町の名前を出す。
しかし俺はこの世界の町の名前を知らない。
知らないものは答えられない。
答えようがないのだ。

ぬぅ、ならば何とか誤魔化すしかない。

「どちらの町が働き口が多いでしょうか?」

「ん?どういうことだ?」

よし、相手が乗ってきた。

「私達の家族は森の奥の小屋に住んでいたのですが、そこに狼が現れ、家族が食い殺されました。私は命からがら逃げ延びましたが、家族は全員…」

「そ、そうか…」

「狼がまだいるかもしれない家に戻ることも出来ません。お金も持ってこられませんでした。早く町に着かないと飢え死んでしまいます」

「すまない、嫌な事を聞いたな。わかった教えよう」


そう。これなら食料も服の用意もないことの説明が一応着く。
が、よくよく考えれば不自然な点なんて山ほど見付かる。
この人が気付かないうちに、聞いたらすぐに畳み掛けて逃げなければ。

「我々が来た方角には鉱山都市マテディナがある。その名の通り、鉱石発掘の仕事がほとんどだ。
鉱石掘りの技術と体力が無いと厳しいだろう。それにかなり遠い。徒歩で半月ほどの距離だ。
そして、君が来た方向、我々がこれから向かう側には学術都市イスタディア。様々な学級の輩が集まる都市だ。
この都市は学生達を迎えるための施設や、学生の運営する店があって、働き口が多い。こちらを薦める。
こちらは徒歩で3日だしな」

ずいぶん同情してくれたみたいだ。
かなり対応が柔らかくなった。
かといって警戒を解いたわけでもなさそうだが。
まぁ、当然かもな。
すぐに信用するようでは、仕事に差し支えるだろうし、実際作り話だ。

「なあ、少し保存食を分けてやろうか、いくらなんでも3日も食わずには持たないぞ?」

常識的な親切心、とてもありがたい。しかし、食料を分けてもらうのにあなたが仲間に俺の事情を話したとき、矛盾がばれるとマズイ。
早々に立ち去ろう。

「お気持ちはありがたいのですが、これ以上ご迷惑を掛けるわけにはいきません。大丈夫、
森で暮らしていたのは伊達ではありません。食べられる野草ぐらい見分けられます」

無理だけどな。
そんな野性味あふれる能力、持ってない。

「そうか…達者でな」

「それでは、失礼します」

相手の傭兵が仲間たちに事の顛末を説明しに戻っていった。

そしてその間に俺は全速で離脱する!




あとがき

今までの2話分を1話ずつに統合しました。



[12333] 第四話 学術都市
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/06 00:11

商人達から離れてから約1日半。

ようやく大きい建物が見えてきた。
おそらくあれが町だろう。

暗闇で先が見えなくなる夜以外はずっと走り続けていた。

…こんな世界じゃ夜に明かりなんて星しかないからなぁ。
ランタンがあったから良かったようなものの、無かったらどうなっていたことか。

このランタンは、火が燈っているわけじゃない。

中には円柱状の光の棒が固定されていて、
それが光源になっている。

というか、このランタンも普通のものではない。
なにせ明かりが燈りっぱなしだ。
便利ではあるんだが。


何か物音や気配があれば、すぐさまランタンをしまい息を殺して隠れた。

なんで逃げなかったのかって?

魔物や獣であれば、逃げても無駄だからだ。
結局追いつかれるし、逆に物音や目で追われる危険が高まる。


この体、走って疲れないで済むのはありがたいがあまり速くは走れない。
正確にはわからないが、50M走で11秒ぐらいではなかろうか。
汗をかかないみたいだから、おそらく匂いでは見つからないだろうしな。


山賊であれば、走って逃げ切れるかもしれない。
しかし、走って疲れないというのが、自分だけなのか、この世界の人すべてなのかすらわからない現状では逃げられない。
もし俺だけならいいが、希望的観測は命取りだ。

隠れていれば、見付からない可能性だってあるのだ。


まぁ、何の荷物も持ってない俺を襲っても利益なんてないけどな!



と、前置きはいろいろ置いたが結局は何事もなかった。
あるいは気のせいだったのかもな、勘が働かないし。


しかしもうそろそろ夕方だ。
早いとき町に着きたいところだ。


しかし思いの他遠い。

結構大きい街なのかもしれん。
見え始めてから結構走り続けているのにまだ着かない。


遠目からだんだん大きくなってきている町は、
周囲をぐるっと砦のような高い壁が囲みこんでいて、易々と進入できないようになっている。


今俺が走っている街道の先は、でかい門に続いており、
開いている門の辺りで衛兵らしき数人が、人の出入りのチェックをしているようだ。

街の出入りってこんなに厳重なものなのか?
魔物が居るからと言えばそうなのかもしれないけど…。


実際にこんな防備を固めているのを見ると圧巻だ。
改めて文明の差と、生活での危険性を認識した。


物珍しげに城壁と人々の格好を観察しているとすでに門の前に着いていた。
ここでこれ以上こうしていても仕方ないし、早く門から町に入ろう。






ふぅ、特に衛兵には見咎められなかったな。

「用無き者は入れられぬ」とか言われるたらどうしようかとヒヤヒヤしてたんだが。

壁の中の町は活気に満ちていた。
外国に行ったことがなくてもわかる、明らかな西洋風の町並みだ。

相当発展していることが伺える。

人も多いし、地球の中世ヨーロッパのように窓から糞尿を捨てている様子もない。
下水道は完備されているようだ。
これが一番嬉しかったかもしれない。


さて、奥のほうに見えるあからさまにでかい建物が学校なのかな?
街の名前になるくらいだ、一度見ておいて損は無い。

そちらに進むとさっきまで見えなかった同規模の建物がいくつかあるのに気づく。
これみんな学校か?

校門と思わしき場所に何か書いてある。
なになに、

『イスタディア魔法学校  ここからさきは学校関係者以外立ち入り禁止』

『至高神エリア神学校   ここからさきは(ry』

『イスタディア商業学校  ここから(ry』

『ラギア王国国立騎士学校 ここ(ry』

…さすが学術都市。
結構な種類があるね。

さて、最初の目的地である街には無事つくことができた。

お次は…。


お金稼ぎと情報収集かな。

これから何をしようにもお金がかかる。
それに…

「今、一文無しだから。宿に止まるお金もないし…」

ハァ…。
こっちに来てから溜息ばかりついている気がする。

とりあえずの目標は決まった。
住み込みで働けるところを探さないとな。


とりあえず人手不足そうな食べ物系の店行ってみるか。




……
…………


「すまんな。うちは、仕事も出来ないヤツを雇う余裕のある店じゃない」

え?


「何枚皿割ってやがるッ!出て行けッ、この役立たず!!」

あら?


「ごめんね、あなた仕事遅すぎるの。もうちょっと自分で家事してから来て頂戴ね?」

なん…だと…?




…おかしい。
何でだ。

いくら現代人の俺とは言え、皿洗いや給仕くらい普通に出来るし、バイトの経験くらいある。

今まで自分のアパートで一人暮らししてたのに、簡単な料理すら出来なくなってる。

今までで考えられないほどの不器用になってる…。

いくらなんでもこれは変だ。


「こんなことまで技能不足なのか…?」

いや、そういうわけじゃない。
時間はかかるが出来ないわけでもなかった。

皿は割ってしまったけど…。

技能以外で関係ありそうだというと。

「ステータス確認」

頭の中に文字が流れる。

これか!
ステータスの器用さ。

しかしわかっても手がない。
ステータスを上げるにはレベルを上げなきゃならない。
そのためには装備や技能がいる。
でも、装備を買う金もない。

なら手は一つ。

「技能か」

しかし、技能には限界がある。
無駄な技能は上げられない。
これから必要になりそうで、更にお金になる技能を考えなきゃ行けない…。
その上でどうやってその技能を取るかも考える必要がある…。

それよりまずは、宿に泊まろう…。
食事なしの宿代ぐらいは小屋の家具を売れば何とかなるだろ…。


所持金変動

バイト1 +10
バイト2 +0
バイト3 +60

椅子売却 +50×2
テーブル +200

宿代   -150

合計  残220ガット






[12333] 第五話 技能の習得
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/02 22:05
そろそろ夜が明ける。


宿代が予想以上に高かった。
食事代なしでもこんなにするものなのか…。

それにしても家具が安い。
もしかして買い叩かれたのか?
ただし、ランタンはうちでは買えないと断られた。
やっぱり普通の品じゃないのか?

考えてみれば家具だけ売りに来る男って言うのは不自然にもほどがある。空き巣や強盗に間違われてもおかしくない。
衛兵呼ばれなかっただけましなのかもしれない。

宿で鏡を見たところ、シオンはなかなかに優男だった。
赤に近い茶髪に緑色の目が特徴的だ。
もともとのシオンに意思があって生きていたなら、かなりもてただろう。

それで、技能についてだが。
一晩考えた結果『医療』もしくは『医術』。
これに決めた。

最初はアイテム収集系の技能がいいかと思ったんだが、それでは結局街の外に出る必要がある。
今の、戦闘用の技能が全くない状態のステータスで魔物に勝てるとは思えない。
森で狼から逃げ切れたのだって運がいいと思っているくらいなのだ。
医療が出来なかったらこれにするか。

神学校があるのでもしかしたら回復魔法があるかもしれないが、いきなり行って信者でもないヤツに回復魔法教えてもらえ

るほど宗教は甘くないはずだ。
だいたいあるかどうかも定かじゃないしな。

それに引き換え医療技術ならどこの町にも必ずあるだろうし、会いに行くだけなら容易だ。
HPの回復なんかも出来るかもしれない。
それに何処の街でも医者が多すぎて悪いことは『ぼったくりの腹黒医師』でもないかぎりないはず。
助手として働けるだろう。
最低雑用でもいい。

この街の医者が腹黒い馬鹿医者じゃないことを祈る。


それで、肝心の技能の習得方だが

今までのこちらでの経験から勘に頼るのは金輪際止めるべきだ。
前の世界での常識はこちらでは通じない。逆に足を引っ張る。
よって常識によって判断することは出来ない。

そこで何を元に判断するかだ。

それはこの体。

この体の技能を手に入れるんだから当然だって?
まぁ、確かにその通り。
だが、常識で考えたらそんなことにすら気づかなかった。

で、体なんだが参考にするのは今までわかったこの体の共通項だ。
今まで俺を混乱の渦に叩き落してくれた謎だらけの肉体だが、
一貫して『ゲームのキャラクターのような能力』なのだ。

ゲームの主人公やその仲間は、トイレに行ったり、必ずしも食事を必要としていなかったり、
自分のダメージを無視して行動できたり、走り続けても疲れなかったりする。
最近では描画されている作品もあるが基本的にはない。

要するに、ゲームのキャラクターならどうやってスキルを手に入れるか、



定番では

1.誰かに教わる

2.アイテムを使う

3.レベルを上げる


この3つのどれかだと思う。

3はお手上げ。
現状では敵を倒せない。
やることは1と2。

1は医者に教わる。
働き口とあわせて一石二鳥。
2は技術書…かな。
ここは学園都市。図書館の1つくらいはあるはずだ。
それに図書館ならこうなった原因の情報があるかもしれない。
…こちらは期待してないが。

窓から光が射してる。

もう朝か…。
目標も決まったところで宿を出よう。



宿屋の親父に宿から出る前に医者の診療所と図書館までの道を聞いた。

診療所の道を聞いたときに嫌そうな顔をしていたのが気になる。





ここか…。
診療所は大通りの学校側の端にあった。

どうやら医師の自宅とつながってるらしい。

「結構混んでるなー」

中には診療待ちの人が多くいた。
なぜか女性ばかりだ。
女性は少女から老女まで多くいるのに、男は数人しかいない。
しかもみんな暗い顔をしている。

どういうことだろう?

まぁ、いいや。
すぐに会えそうにないし、受付に伝えといてもらおう。
幸い受付はすぐ開いた。

「すいません、いいですか?」

「はい、なんですか?」

う、美人だ。

「いえ、少し聞きたいことが。ココが空いてくる時間って何時ですか?」

「待ち時間がお嫌なんですか?」

「えーと、先生にお話があるので、長話になるかもしれなくて」

「あ、勧誘や押し売りはお断りですよ~」

「いやいや、違いますよ。ちょっと先生に弟子入りを…」

「先生に弟子入り?!正気ですか?」

「え゛」

そんなにやばいのか。

受付の人の大きな声で患者さん達もこっちを見ている。
大抵が哀れみ。男の人は尊敬。

…女性ばかりなのはそういうことなのか?
アッーされてしまうのだろうか?

受付の女性はこちらをじろじろ見ながら、

「やめておいた方がいいですよ。健康な生活をこれからも送りたいんなら」

「い、いえ…」

どうしよう。やめるべきか?
変態医者なのか?
周りの反応は止めるべきだといっているが。

いやいや!ここで止めてどうする。
ココ以外は医療スキル習得できそうな仕事ないぞ。
どうせココしかないんなら諦めてやるしかない!

よし!

「弟子入りしたいんです!先生に伝えてください」

「…はぁ、わかりました。お伝えします。それでは夕方で診療が終わるので、その頃にもう一度来てくださいね」

「それじゃ、失礼します」

不安を残しながら診療所を後にする。

先に図書館へ行くべきだっただろうか…。





図書館は学校の更に先の道にあった。
隣には都市庁舎があるので、重要性はいやでもわかる。

入り口には衛兵がいる。
中に入るとすぐ正面に受付。右手側に机と椅子、そして本を読んでいる人たち。
左手側には多くの本棚とそこに入っている本。ただ、そちらにはまた衛兵がいる。

やっぱりこの文明レベルだと本は相当貴重なんだろう。
警備が厳しい。

とりあえず利用方法を聞いてみよう。

「ちょっといいですか?初めて図書館に着たんですが、どうやって利用すればいいのかわからなくて」

「はい、ご利用方法の案内ですね?」

またしても受付は女性。
ただこちらはぐるぐる眼鏡にそばかすだ。おまけに三つ編み。
…この格好は狙ってるのかな…?

「図書館の利用料は1回50ガット。最初にこちらの受付にてお支払い下さい。
図書チケットか学生証の提示でも結構です。閉館は夕方となりますのでご注意下さい。
お支払いいただいた後でこちらの腕章をお渡しします、お付け下さい。こちらは退館時に返却頂きます。」

ふむ、それで支払ったかどうかを確認しているわけだな。

「腕章をつけ終わりましたら左手の書棚よりお好きな本を一冊選び、それを右手側の読書スペースでお読み下さい。
借りられるのは一冊ずつです。違う本を読みたいときは一旦返却してから新しく一冊お持ち下さい。
もし途中で違う本を読みに行く時、図書館から退館されるときには、一度本を受付までお持ち下さるように。
私達が破損がないか確認します。
万が一破損があったときには利用者に弁償の責任が発生するのでご注意下さい。」

「借りることは出来ないんですか?」

「基本的に貸与は出来ません。例外的に都市庁舎の役人の方や、学術都市の教師、一部の優秀な生徒にのみ持ち出しを許可しております」

つまり俺には無理ってことか。
それにしても学校関係者優遇されてんな~。

「退館時には入り口の衛兵がボディチェックを致します。これは本の盗難防止のためですあらかじめご了承下さい。」

「結構厳重なんですね…。」

「そうですね。本自体貴重品ですし、この図書館は都市の支援を受けて運営されているので。
都市の衛兵が協力してくださっているのもその一部です」

だからこその学校関係者の優遇措置か。
ま、やろうと思えば俺は盗めちゃうんだけどな…。

「以上で説明は終わりです。何かご質問は?」

「いえ、特には。それじゃ50ガットです。ありがとうございました」

「どういたしまして。それでは良い本に出会えますように」


さて、医学書医学書…。



これか。見るからに難しそうだ…。
とりあえず席に座りシステムが支援してくれることを祈って読んでみる。
とりあえず一度全部のページをめくって…。

[前提技能が足りません。技能習得に失敗]

ん?

久しぶりのアナウンスは聞いたことのない音声だ。
もう一度読んでみる。


[前提技能を持っていません。前提技能の熟練度が足りません。技能習得に失敗]

なるほど。コイツを取得するには他のスキルがいるのか。
しかもある程度熟練させなきゃいけない。
つまり習得方法自体は間違ってないんだな!

ちとがっかりだが、気を取り直して本を返却。

医療を取るのに必要そうなのは…。

『世界の薬草、毒草』

これかな。
しかしこれアイテム取得系か?
もともと第2希望だったし、まぁいいか。

また全体をめくる…。

[薬草知識技能を習得、これより、フィールドの野草の判別、取得が可能になりました。
熟練度上昇に伴い、取得できる草の種類が増えます。調剤技能の前提を満たしました]

よし、取得完了。

しかも今回の説明は長かったし説明付きだ。
技能に対してだけは説明付きなのか?
もっと他の説明も欲しい所だ。

夕方まで時間がある…。
時間もある。技能に対する説明もあるんなら、もし地雷技能をとっても上げずに済む。
ココで取れる技能は取れるだけ取っておくべき…かな?








[12333] 第六話 医師ミシェル
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/02 02:47
「そろそろ閉館です。本の返却をお願いします!」

受付からかなりの大声が聞こえた。
…もうそんなにたったのか。
この街に来てから最も有意義な時間だっただろう。
相当数のスキルを覚えられた。


ほぼ知識系統だったが、それぞれ、

『鉱石一覧』から鉱物知識

『魔力の溜まる自然物』から魔法素材知識

『危険指定生物達とその特徴』から魔物知識

『世界の有名魔法具一覧』から一般魔法具知識


魔物知識は魔物素材採取の前提だった。
魔物素材の本は見付からなかったが。

森で襲ってきた狼は『フォレストウルフ』という魔物だった。
危険度レベルE
野生の狼より大きいだけ。特徴は獣と同じ。

最低ランクはFだからあいつは下から2番目ってことか。

…あの~、やられかけたんですけど。



戦闘で使えそうな技能としては

魔法学校の初等教本である『魔法技術初歩』から基本魔法

そして魔法術『ライト』『フレアアロー』の二つを覚えた。


これで先の見通しが立ってきたな…。
全ての技能を使うわけじゃないが、これでかなり成長の余地がでてきた。

特に魔法、これは戦いで使えそうだ。
期待しておこう。


まだ書庫で手をつけた本は半分以下だが、これは絶対得してる。
少ない所持金から入場料払って良かった…。

さて、出るかな。

あ゛。


「この体のことや、元の世界のこと、調べてない」


この街での目標見失ってどうするよ。
でも、もう時間が…。

「あの、本日は閉館です。本の返却お願いします」

「あ、ごめんなさい。今返します」

はぁ、時間切れだな。
この後の予定もある。

次回の機会に調べるか…。

外は既に暗くなり始めている。
急がないと待たせてしまう。

魔法が使えるようになったみたいだが、結局お金稼ぎの手段は必要だ。


それに、こっちの都合で時間をとってもらってるんだ。

早く行かないと…。



……

どうにか完全に日が落ちる前に着いた。
診療所はまだ開いている。
中では、残り2、3人となった診療待ちの患者が。
よかった、間に合ったみたいだ。

「あ、来ましたね。今の診療待ちの人が終わったら閉めるので、もうちょっと待ってくださいね?」

「あ、はい」



大体10分ぐらい待っただろうか、最後の人が帰ったようだ。

あ、奥から誰か出てくる。

「あ~、やっと終わったよ。疲れるねえ。で、あたしに弟子入りしたいって馬鹿は何処のどいつだ?」

「あ、この方ですよ~。シオンさんというらしいです」

お、意外とまともそうだ。
50歳くらいの初老の女性だ。ちょっとやせすぎな感じはあるが顔立ちは整っている。
若い頃は美人だったろう。

よかった。
最悪尻のあなをアッーしそうなイイ漢を想像してただけに、これは一安心。

「こんばんわ。シオン=ラークといいます」

「ふぅん。挨拶ぐらいは出来るみたいだねぇ。それにしても…アンタ」

すごいジロジロ見られてる。
なんか悪寒が…。
顔、顔近いです。

「いい体してるねえぇ」

ジュルリと唇を舐めてこちらに寄りかかってくる。

「うひゃぁぁ」

「結構筋肉質なんだねぇ。ん~、若い体もてあましてるんじゃないか?どうなんだい?」

ギャァァァ!
服!服の中に手を突っ込んできてる?!
下、下もか?!下だけは絶対に死守しなくては!!

「先生、その辺で…」

「おっとっと。やっぱ若い男はイイねえ。10は若返る」

た、助かった…。
ありがとう、美人の受付さん。

はぁ、はぁ。
男の診療患者が少なかった理由はこれか。
後ろの穴を掘られるよりはましだが、この人も相当強烈な個性だ…。

この人に弟子入りする、のか?

「あたしはミシェル。んでこっちがあたしの姪の」

「助手のアンナです。よろしく」

「よ、よろしく…ミシェル先生。アンナさん」

「じゃ、緊張もほぐれたところで本題に入ろうか」

緩んでいた空気が引き締まる。
ココからが本番だな。

「いくつか質問するから正直に答えな。なんで医者に弟子入りしようと考えた?」

「はい、実は最近住んでいた場所付近をフォレストウルフが根城にしたらしくて住めなくなったんです。
それで町に来たんですが、最初は飲食系の店で働こうとしました。ですが、向いてないらしくて…。
それで、できることといったら、普段やっている俺がやっていた薬草採集くらい。
それを役立てるのは、薬師か医者のところだと思ったんです」

これでどうだろう。
あんまり矛盾してなさそうだと思うが…。

「ふぅん…そいつは気の毒だったねぇ」

「災難でしたね~」

アンナさんも同情的だ。
心が痛む…。


「でもね…それならあんた、なんでギルドに退治を依頼しなかった?」

ギルド?なんだそれ。

「お金が全然なくて…」

「へぇ…お金がなかった…」

不審そうな目でこちらを見てくる。
変な解答だったか?

「嘘もいい加減にしな!フォレストウルフの毛皮は高級品、
ほとんど小銭みたいなはした金でも傭兵が来るような魔物だよ?」

げ、そうなのか?
そんなこと一言も書いてなかったぞ…。

魔物素材の本が見付かればこんなことには…。

「し、知らなかったんです」

「こんなことは誰だって知ってることなんだよ。
あいつを狩りたがってるやつは山ほどいる。
狩られすぎてほとんど見付からないようなヤツだ。
それにアンタ…」

更に目付きを鋭くした先生がこちらを睨む。

「さっき触った感じ…。普通じゃない。肌に傷が一つもない。まるで貴族のお嬢ちゃんだ。
それにその体格にしちゃ私を払いのけようとする力が弱すぎる。
人に化ける魔物にしては、そんな魔力も感じない。さぁ、白状しな…。出ないと…」

「ミ、ミシェル先生…?」

にじりよる先生。

あとずさる俺。

ガシッ

「あれ?」

「ごめんなさいね、シオン君?」

アンナさんに捕まった。

「さ、痛くしないからね…。早く喋っちまえば楽になるよ?」

「う、うわぁぁぁ!!」




ぐう…。純潔が奪われるところだった。
最後の一線だけは死守したが、結局全部喋らされた。





[12333] 第七話 弟子入り
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/04 00:16
「ふぅん、信じられん話だねえ…」


散々実験しておいてまだ言うか…?

この体のことを話したとき、

確かめるとか言い出して腕を軽く切られた。
2のダメージを受けた。

アイテムの出し入れを見てもらった。

なるほど、と納得していた。

やっと信じてもらえたと思った。
甘かった。
今度はお前も知らないことを試すとか言い出した。

毒の反応を見るために軽い毒から強い毒までいくつも飲まされた。
すぐに解毒剤を渡されたが肝が冷えた。
さすがに致死毒を試しはしなかったが…。
…解毒もいろんな種類の実験みたいだったけどな。

因みに結果は
弱い毒も強い毒も関係なく、

[毒状態になりました。1秒につき1のダメージを受けます]

だった。
やはり声は俺にしか聞こえてないみたいだ。

違う種類の物を飲んでも効いた。

ただ、麻痺系、筋弛緩系の毒物は別らしい。

[麻痺状態になりました。一定時間動けません]

一定時間ってどれ位だよ!と突っ込もうにも痺れて口も効けない。


ちなみに薬はミシェル先生に口移しで飲まされた。
うぅ、泣いていいか…?


「アレだけやっといて信じない気ですか?」

「いや、体のことは信じてもいいよ。自分の目で見たことだからねぇ。
でも、あんたの言う前の世界とやらは簡単には信じられんよ」


「そんなこと言われても証明のしようもないですね。向こうの世界の物でもあればいいんですけど、目が覚めたときにはこの体。
向こうの世界の品なんて持っているはずも無いですから」


「…まぁ、いいさね。一応信じたことにしておくよ。」

ほっ。
これ以上実験されたらたまったもんじゃない。


今はとりあえずでも信じてもらえればいいさ…。


「で、弟子入りだっけ?それは本気かい?」

「あぁ、さっき言ったように技能ってのがあるみたいで、技術書や図鑑を読んだりすることで
手に入れられるみたいなんですよ。それで…」

俺は宿屋で考えた、3つのスキル習得条件の可能性を先生に教えた。

「ふぅん。つまりは、物は試しってことなのかい…」

「お願いします。ここでの治療に必要な薬草は自分で探してこれるみたいだから…」


「………」


沈黙が痛い

「アンナはどう思う?」

「別にいいんじゃないですか~?誰に迷惑かけるわけでもないし」

うお、そういえばこの人もいた。
俺がいたぶられてるときも全く喋らなかったし、
先生の印象が濃すぎて気づかなかった!

「仕方ない、か。いいよ、あたしもいろいろ実験させてもらったしねぇ」

「よろしくお願いします!」

「おめでと~」

アンナさんの小さな拍手。

「ありがとうございます」

「さて、もう用はないかい?それなら…」

「いえ、お聞きしたいことがあります」

そう。聞きたいことは山ほどある。
この世界じゃ常識っぽいから聞くこともできないようなこと。
下手に事情を人に喋ることができないから、疑問に思っても誰にも聞けなかったのだ。

「もう時間も遅いんだ。早く言っておくれ?」

「はい。それでですね…」

この世界ってどんなところだ?この国って戦争してたりするのか?
などの世界観の疑問。

魔物って?
野生の獣の別名なのか?
魔物に対する疑問。

ギルドって一体何だ?
さっき言われたギルドのこと。

「そうか、そんなことも知らないんだねぇ、それは…」


……
…………


先生の話をまとめると


現在、この大陸には5つの国があり、ここは世界の南ラギア王国。
知性ある種族として獣人族、妖精族、人族、魔人族がいる。
各種族ごとに国が分かれており、住み分けはできている。
じゃあ、残りの1国はどうなのかというと、混血の人達の国であるとのこと。
50年ほど前には魔人族が各国と大きな戦を起こしていたらしいが、現在はどの国も戦争はしていない。



魔物はもともとはただの動物。
世界に多くの生き物が生まれたことで澱みが生まれ、世界の各地にそれが溜まる場所がある。
そこに近づいた生き物が変質して、魔物になるんだそうだ。
元の生き物に戻す方法はあるらしいのだが、先生も知らなかった。
倒した後の死骸には澱みは残らないので普通に食肉としても使える。
知性ある種族が澱みによって変質すると魔人族になるらしい。
まぁ、目が赤くなって好戦的な性格に変わるだけらしいが。



ギルドとはあらゆるトラブル、依頼を解決する何でも屋みたいなものだ。
魔物の大量発生の調査。その殲滅。盗賊討伐。特定種類の素材集め。
荒事も扱ってるハ○ーワークみたいなもんかな?
何処の街にも大抵あり、ほぼ全ての国の認可を受けているので、国中の依頼がここに集まる。
入るにも抜けるにもペナルティーはないが、依頼によっては失敗時に相応のペナルティーがあるものもある。


と、こういうことらしい。



「なるほど…丁寧な説明ありがとうございます」

「もう遅い。いいかげん帰んな」

「明日からの仕事の説明もあるので、明日は夜明け頃までにきてくださいね~」

「はい、それでは失礼します」


診療所を出る。

完全に日が落ちている。
長居しすぎたな…。

早く宿に戻ろう。
寝なくても良いとはいえ、精神的にはかなり疲れている。

それにしても、
宿代払ったらもう所持金がほとんどない…。

「こりゃ、明日収入なかったら路地で寝ないといけなくなるな」

…頑張ろう。



宿について金を払い部屋を借りる。

さて、寝る前にすることがある。
それは…

「せっかく手に入った技能だ。試さないと」

基本魔法の技能を手に入れた俺は、魔法が使えるようになっているはず。

魔法…今まで以上に目立ったファンタジー要素に年甲斐もなくはしゃいでしまう。

攻撃魔法っぽい「フレアアロー」は部屋の備品を壊しそうだから使えないが、
「ライト」なら使える。

おそらく一瞬光って相手の目を潰す目潰しか、
一定時間光るだけの電球のようなものかどちらかだ。

早速試してみよう。

「ライト」

…。

試すこと13回。

「スキル『ライト』」

[ライトを使いました。]

よし、使えた。MPが2減っている。

目の前に小さな光の玉が浮いている。
どうやら電球の方だったみたいだ。
頭の中で命令するとその通りに動く。

コレ、結構面白いな…。

しばらく遊んでいると不意に消えてしまった。
やはりある程度たつと消える。

次はどれくらいで消えるのかしっかり秒数を数えてよう。


……

だいたい10分で光の玉は消えた。

MPがなくなるまで使い続けた。熟練度を見ると、3.2まであがっていた。
最後のときの方が消えるまでの時間が長かった気がする。



明日は早い。
MPもなくなったことだし眠っておこう…。






所持金変動

元所持金    220ガット

図書館入場料 -50

宿宿泊費   -150


残合計    20ガット






[12333] 第八話 薬草採集
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/08 00:26
ふぁあ~。

ん~、よく寝た。
MPも回復してる。

そういや森から出てから一睡もしてなかったな。

あんまり人間離れした生活送ってると、元に戻ったときが大変かもしれない…。

できるだけ普通の人間らしい生活を送るように心がけよう。


空はまだ薄暗いくらいだが、もうそろそろ行かないと。

あの先生のところでの初仕事だ。
万が一にも遅れない様にしないと。
待ち合わせは夜明け前、今から向かった方がいいだろう。




……
…………


「おはよ~、早かったね」

「おはようございます、アンナさん。初日から遅刻するわけにも行きませんからね。それで先生は?」

「奥の診療室で待ってるよ」

昨日は入らなかった奥の部屋に入る。

「おはようございます、先生。お待たせしてしまいましたか?」

「おはよう、シオン。別にさほど待ったわけじゃない、気にせんでいいよ。
それより、今日やってもらうことなんだが」

お、早速か。

「街の北、半日ほど行った所に野草が多く原生している丘がある。
あんたが昨日言ってた薬草採取の知識、確かめておいで」

ということは。

「街の外で薬草を取ってくればいいのですか?」

「そうさね。アンタがあたしが教える前知識無しで、どんな草取って来れるのか興味がある」

「でも、俺は今戦えるほど強くは…」

フォレストウルフ戦での痛みを思い出す。

「わかってるさ。街を出る前にコイツを使いな」

塗り薬のようなモノが入ったビンを渡された。

「これは、魔物除けの道具さ。鼻の効く魔物の嫌う臭いを出す花から作ったもんでね。
人族には何にもわからんが、獣にも効くものさ。コレつけてれば、めったなことじゃ襲われないよ。」

なるほど、それなら安全…

「それに、街の周辺の魔物はほぼ全てFランクのヤツだ。
油断してなきゃ、負けるほうが難しいよ。せっかくだから使わないで戦いを経験しといたらどうだい?」

「勘弁してください…」

せめて格闘戦ができるようになってから戦闘したいよ。

「それじゃ、頂いてきます」

[獣除けの塗り薬を取得しました]



街を出た俺はすぐに言われたとおり塗り薬を使い、北に向かう。


歩いてすぐに気づいたが、通り道に来るときには全く気づかなかった草や花がいくつも咲いてる。
普通に歩いている分には見過ごすような小さい草もあるのに妙に目に留まる。

これ、もしかしてアイテムか?。

[メディカルミントを取得しました]

やっぱりか!

じゃあ、昨日見かけなかったコレ、全部か…?




……


ここが先生の言ってた丘かな?

丘は草原になっていた。

ここに着くまでに

メディカルミント×52

オレンジヒソップ×32

マジックハーブ×17

を採集した。


もう既に合計重量がアイテム所持限界の半分を超えてしまっている。

取り過ぎじゃないかって?
これでも、一つの場所から取り過ぎないように注意したんだぞ?


でも、取っているうちにこの技能の便利さがわかった。

この技能があると、対象のアイテムが
だとえ物陰に隠れていて見えにくい場所にあったとしても、一部でも視界に映りさえすれば、
『これは取得できるアイテム]だ、となんとなくわかるのだ。
かなりの距離を離れていても有効のようだ。

コレに気付いたことで、集まり方が飛躍的に増えた。


取ってる途中で熟練度が10を超えたので、声が聞こえた。

[薬草知識熟練度が10になりました。採取できる薬草の種類が増加します]


それで、今まで見えなかったマジックハーブが見えるようになった。






さ、ここでも採集しなくちゃな。

まずは目に付く薬草とおもしき草を引き抜こうと…。抜こうと…。

ん?
抜けない。

いいや、このまま取得。

「ヤドリニンニクを取得しました」

取得した後、ウィンドウから手に出す。

こうすれば無理に引き抜いて草を千切ってしまう必要も
根っこを使うようなものでも、掘り起こしに時間をかけたり
使えなくなる心配はなくなる。

これ、球根か?

それにしても球根の類も薬草になるのか。

普通に探すと相当見つけにくいかもしれん…。









[重量オーバー。拾うことができません]

お、もう重量オーバーか。

ここで集めた合計は

ヤドリニンニク ×35

トリニアの花  ×9

白夢草     ×14

インジャ草   ×22

オトギリソウ  ×16

以上だ。


見るからに毒々しいものも、どこかで聞き覚えのあるものもある。


とりあえず目に当たる種類は全部集めた。

1個1個の重量が来る途中に拾った物より大きいせいであまり多くはないが、

今回は種類を見るようなこと言ってたし、辺りに目に付くのは採取済みのものだけ。
もう十分だろう


それに、もう昼を過ぎてるみたいだし、街へ戻る頃合だ。


見ると、既に薬草採取が16まであがってる。

これは後々、技能所持限界が厳しいかもしれないな…。




[12333] 第九話 結果報告
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/05 01:58
薬草を持って(といっても外見上は何も変わらないわけだが)診療所に戻った。

「おかえりなさ~い。どうでした?」

アンナさんはこちらを伺いながら言う。

「はい、今戻りました。それでですね…」

俺の苦笑にアンナさんは不安そうな顔だ。

「もしかして、駄目でしたか?」

「逆です。取りすぎました」

「あれ?でも何も持ってな…。あ…」

途中で気づいたようだ。

他の人に聞こえないように小声で会話する。

「えへへ、そうでした、仕舞っておけるんでしたね?」

「そうですよ。結構な量になりました」

「それじゃ、先生の手が空くまでこっちで私と受付してましょうね~」



……


診療所といっても先生は一人だ。
年齢のこともあるし、休憩を取らなくては体が持たない。

一旦診療所自体を閉めて、休む時間を作るんだそうだ。


受付の奥にある扉から、ミシェル先生の自宅へ。


「さ、見せとくれよ。アンタの今日の成果をさ?」

「はい、どうぞ」

取ってきた植物を片端から出していく…。


「おいおい、こんなに取ってきてどうする気だい?
よくもまぁ、こんなにいっぱい見つけたもんだよ…」

呆れ顔の先生。

「こんなに出されても困るよ。一種類ずつだしとくれ」

一種類につき一個を残してもう一度しまう。

「ふむ…。見つけにくい小さいものや球根類まであるね。
でも、食用だけの野菜や効果のない雑草は一つもない。どれも薬用効果や毒があるものだ。
これは、完全に薬として使えるか、そうじゃないかで判別してるようだね」

「で、コレだけかい?」

「え?」

「あそこは多くの種類の草花がある。それこそ20を超える種類があるのさ」

そうなのか。
全然わからなかった。

見付からなかった理由はスキル不足かな…?

「いえ、これ以外は全く…」

「ふぅん…ずいぶんと歪な能力だ」

同感だね。

「まぁいいさ。アンタが役に立つのはよくわかった。それと…」

「昨日の話しじゃ、アンタ、文無しだろ?とりあえず全部5個ずつ置いてっとくれ。
あたしが買い取ってやるからさ?」

おお、これは嬉しい。

取って来た草を売るってのも考えたが、
ちゃんと薬になっている状態ならともかく、草の状態のまま売れるとは限らない。

最悪路上で寝るとこだった。

「お願いできますか?」

「ああ、路上生活者を雇ってるって噂がでたら困るからね?
診療所は清潔でないと誰もこなくなっちまうよ」

あらら、ばれてら。


「買い取り金だけど…大体こんなトコかね?」

メディカルミント 5×5 25ガット

オレンジヒソップ 8×5 40ガット

マジックハーブ  25×5 125ガット

ヤドリニンニク  6×5 30ガット

トリニアの花   15×5 75ガット

白夢草      55×5 275ガット

インジャ草   100×5 500ガット

オトギリソウ   40×5 200ガット

「以上、合計1270ガットってとこだね」

うぁ、薬草って高いな…。
確か宿代が朝晩の食事代込みで200。
6日は泊まれる。

「先生、ギルドでの依頼の相場よりちょっと低いんじゃないですか~?
普通、これだけの採取依頼なら1500以上は…」

「これは依頼じゃないんだよ?必要じゃないのに買い取ってるんだ。
低いのは当然だよ。納得できないってんなら、その差額分だけサービスしてあげてもいいよ…?」

うお、悪寒がっ!

「え、遠慮しておきます…」

「あっはっは。冗談だよ、冗談。
明日、その分だけアンタの得になるようなこと教えたげるよ。楽しみにしといで」

冗談に聞こえなかったよ…。

それにしても特になるようなことか。
ふむ、なんだろう。

「それと、今日取って来たのは明日使うから売るんじゃないよ?」

「はい、わかりました」

お、薬草を使った治療の仕方かな?

「あの~、そろそろ…」

「もうそんなにたったかい。早く戻らなくちゃねえ」

「それじゃ~、診療所開けますね~」

アンナさんはそう言うと、先に診療所に戻った。

夕方までもう少し。俺も受付を手伝いに行こう。



……


日が暮れ、宿に戻った俺は宿屋の親父に今日から食事つきにしてくれるように頼む。

夕食を食べて、部屋に戻る。

そして昨日と同じようにステータスをチェックしながら魔法を…。

あれ?
なんかHP増えてないか?


現在HPが60になってる…。
最大値は50(+10)だ。

つまり何かの補正か?

特に装備品もアイテムも使ってない。

今日変化があったのは技能熟練度のみ。
…つまり技能補正か。
レベル以外に技能でもある程度ステータス補正があるみたい…。

薬草採取は最大HPみたいだな。




気を取り直して、MPが切れるまで魔法を使う。
熟練度は4.8まで上がった。

明日も今日と同じ時間に起きないとな…。




所持金変動

元所持金   20ガット

薬草販売金 1270

宿代     -200

残合計   1090ガット





[12333] 第十話 調剤 - ポーション作成
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/13 04:05
翌朝、一階に下りて朝食を頂く。

まだ宿屋の親父は寝ていたようだが、奥さんは起きていて、快く作ってくれた。





あ~、まだ開いてないな。

昨日より早く来てしまったようだ。
時計がないから正確な時間がわからない…。



と、そこでちょうど鍵が開く。

先生が出てきた。

「おや、早かったねえ。まだアンナは来てないよ?」

「いえ、日の傾きじゃ正確な時間がわからなくて…」

「あぁ、なるほどねぇ。考えてみれば持ってるはずないね」


なんだ?

先生は不思議そうな顔の俺を一瞥すると中に向かう。

「説明したげるからついといで」






診療所に入ると、先生は受付台の端にある手のひらに収まるくらいの水晶玉を持ってきた。


「こいつは『時刻みの玉』っていう魔法具さ。みんなコイツで時間を見てる。
店を持ってるやつは大体持ってるもんだ。これがなきゃ営業の時間帯も決められないからね。
あんたが泊まってる宿にもなかったかい?」


あぁ、そういえばカウンターにあったような気もする。
インテリアの一つかと思ってたんだが。

「早めに手に入れときな。結構いろんな時に使うもんだからね。
ギルドには依頼を受ける奴等がすぐに準備を整えられるように中にショップがある。
そこに行けば売ってくれるよ。10000ガットもするけどね?」


コレがこの世界の時計か。


目盛りは6つで針は一本、針の色は白くなっている。
朝の刻、昼の刻、夕の刻、夜の刻で針の色が変わり、一周するとまた元の色に戻る。


ここでは朝の刻の始まり、
元の世界での午前4時頃が一日の始まりになっている。


ここも24時間なのか…。
わかりやすくて何より。


う~ん、しかし今は手が届かないほど高い…。
でも、一応購入優先度は高くしておこう。


「さてと。まだちょっと早いからしばらくくつろいでても良いよ?」

「いえ、先生の都合が良いなら早速教えていただきたいのですが…」

「ふふふ。まぁ、意欲があるのは結構なことさ。
教えがいがあるよ。それじゃご希望通り、早速始めるとするかね」



行くのは当然、診療器具がある診察所。

…ではなかった。







向かったのは、彼女の自宅の方の床下にあった地下室である。
と、いうよりもこれは薬の倉庫だな。

昨日渡した草もある。


「あの、治療の仕方を教えてもらえるのでは…」

医学書や診察器具があるようには見えない。


「誰がそんなこと言ったよ。それに、今のアンタにはこっちの方が役に立つ」

そう言って奥の棚の中から何かの器具を一式取り出した。


「ふふん、あたしが今日教えるのは、
今のアンタの唯一の特技と言っていい薬草取りを、効率よく行ってさらにお金を稼ぐ手段…」


あ、あれ乳鉢と乳棒だ。あっちは秤、フラスコとビーカーがある。
ってことはアレは温度計か。
すると、教えてもらえるのは…。


「察しがついたかい?そう、薬草の調合だ。
今、あんたが持ってる草をどうやって、どの配分で混ぜれば薬になるか教えてやる。
薬は旅や冒険には必須だから、ギルドのショップに持ってけばまず間違いなく買い取ってもらえるさね。

…本当は一朝一夕で覚えられることじゃないんだけどね、
技能とやらで補正されれば結構いけるんじゃないかと思ってる。

それに、聞いた話じゃ前提技能とやらは取れてるらしいじゃないか。
あたしはこれで技能が取得できるんじゃないかと、予想してるんだけどね?」


図書館で存在が確認できた『調剤』のことか。

技能習得上限があるから習得は慎重にしたいんだが。

でも…。

頼るものが無い世界でお金がないとどうしようもなくなり、
何もできなくなる可能性もあるし、先生に恩もある…。
昨日の薬草収入だって先生のおかげでもあるし。


仕方ない。
お金をためることの方が、差し迫ってるからな…。


先生は昨日の渡した薬草達を持ってくると、それぞれの草の配分と入れるタイミングを説明し始めた。



……
……………



「さあて、じゃあこれから実際に1つ作ってもらおうかね?
一番簡単なコレを…」

先生の声をさえぎるように頭の中で声が響く。


[調剤技能を習得。素材を消費することでポーションを作成します。
また、素材とは別にフラスコが必要になります。
熟練度上昇に伴い、取得できる草の種類が増えます]


「お!ミシェル先生、技能の習得ナレーションが出てきました!」

「ほう、あたしの予想通りだね?早速やってごらん」

「はい!…つきましては容器のフラスコが必要らしいんですが…」

「あ~、いいから早く必要な分だけ持ってお行き」

出していた器具の中から丸底フラスコを大量に貰った。

「こんなにはいらないんですけど…?」

「いいから、早く持ってスキルを使いな!
もったいぶるんじゃないよ!」

「はいはい!ただいま!」


さて、使い方は魔法と同じで良いんだろうか?

「スキル『調剤』」

すると、頭の中にリストが出てくる。
お、正解だったみたい。

『レッドポーション(小)    メディカルミント×2

 リフレッシュポーション(毒) メディカルミント×1
                オレンジヒソップ×1
                          』

今の熟練度だと2種類か。

「レッドポーション(小)作成」

[作成数を同時に指定してください。スキルはキャンセルされました。]


むむ、指定すれば一気に作れるのか。
え~と、じゃあ…。

「スキル『調剤』。レッドポーション(小)5個作成」

[レッドポーション(小)の作成を開始します。

失敗
成功
成功
失敗
成功

レッドポーション(小)を3個作成しました
調剤熟練度が0.6上昇しました]

「よし、できた」

失敗すると、なくなるのか。
ゴミアイテムができても困るし、別にいいんだけどな。

「何ぶつぶつ言ってんだい?早くやっとくれよ?」

年甲斐も無くわくわくしているようだ。

あ、痛い痛い痛いぃぃ。
足を踏まないで下さい!

ハァハァ…。
口に出していないのに…。


「いえ、先生。もう作り終わったんです」

「何だって?道具も要らないのかい?」

「そうみたいです」




「ようし、今作ったものを見せとくれ。
…ちょっと。あたしが教えたのは粉薬のはずじゃなかったかい?」

取り出したポーションに文句をつけられた。


「いや、作成可能な一覧に教えてもらったのが出てきてないんです」

「つまりあたしの教えは、ほとんど無駄になるってことかい…」

先生は溜息をつきながら呆れ顔になった。







[12333] 第十一話 ギルド
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/04 21:00




「で、これはどんな薬なんだい?」

「たぶん傷薬じゃないかと…」

赤ポーションの定番どおりなら回復だろう。

「ふうん。液体の塗り薬かい…珍しいね?」

「いえ、飲みぐすりかと」

ポーションだからな!

「傷薬なのに飲むのかい?」

まぁ、普通は傷薬っていったらついた傷に直接付ける、塗り薬だよな。
でもこれ、ポーションだからな!




さて、モノは試し。

ほぼ確実に回復薬だけど、確信が欲しいのだ。

ちょうどさっき先生に踏みつけられたのでHPが2ほど減っていることだし…。



先生に渡したのとは別にもう一個取り出した。

丸フラスコに入ったそれを、一気に飲む。


ん~、ほんのり甘いかな…。
結構飲みやすい。


HPは……よし、回復してる。

「やっぱり傷薬ですね。HPが回復してます」

「そんなにすぐ効くもんなのかい…」

「はい。飲んだ瞬間から効いてきますね。
ここにはそういう薬、ないんですか?」


「飲むだけですぐに効果のある傷薬なんてあるもんかい!
こんなもんそこらに転がってるようなら医者は廃業だよ?」

う、確かにその通り…。


「す、すいません」

「しかし、その効果は神聖方術の治癒に近いね」

あ、やっぱりあるんだな、回復魔法。

「治癒っていうのは?」

「至高神教会の熱心な信者の中には、極稀に神の奇跡ってヤツを使えるようになるヤツがいる。
治癒ってのはその奇跡のうちの一つさ。
もし使えるようになったら、そいつは神官の一員として厚遇されるようになる。

でも、方術使いは数が少ないから手が足りないのさ。
だから、教会は治癒にけっこうな対価を取るようにしてる。

お金とか、お金を払えない人は教会への奉仕活動とかだね。

お金は大金だし、奉仕活動は期間が長い。
死に掛けの重症でもないかぎり、縁がないと思うよ?」

へえ、なるほどね…。
それじゃあ奇跡を俺が使うのは無理か。

使おうにも、習得方法がわからないし、前提技能が多くて苦労しそうだ。

死の寸前でも普通に動ける俺は、使ってもらう方も縁がないしな。


「しかし。これじゃあ普通の診療には使えないね…」

「便利じゃないですか、なんで使えないんです?」


「それはね、いくらアンタが簡単に作れるといってもこれが市場に流通してるわけじゃない。
ひどく珍しい薬だ。実際には他に存在もしてないかもしれんものなんだよ。
そんなの使ってたら、一回の治療費に一体いくらになると思ってるんだい?」

むむ、そういうことなら。

「お世話になっているし、技能の鍛錬にもなるので、お金は別に…」


しかし先生は首を振る。

「そういうわけにも行かないんだよ。
患者さんから広まる評判ってものがあるから、噂が広まったら、人が押しかけちまう。
そうなったらあんたそんなに作れるのかい?」

…薬草集めに行く時間も必要だからまず無理だろう。


「そういうことだからうちでは扱えないね。
ギルドのショップに行って、治癒の魔法薬っていう名目で売っておいでよ。私が紹介状書いてやるから。
結構な高値で売れると思うよ?」


ギルドかぁ。あまり想像できないな…。


「そろそろ診療所を空ける時間だ。アンナも上で私達を探してる頃だろうよ。
じゃ、今日は手伝わなくて良いからギルドに行っといで。
ついでにギルド員として登録もしてきたらどうだい?」

アンタ度胸が足りないからね、と先生は笑った。


しょうがないだろ…?
俺は数日前まで争いとは無縁だったんだ。


「ああ、それと。こいつを簡単に作れるってことは黙っときなよ?
死ぬまで監禁されて、延々と作り続ける羽目になりかねないからね」

…ポーションって、そんなにヤバイものだったか?

ゲームでは最もメジャーな回復手段だと思うんだが…。

…ここでは違うってことを肝に銘じておこう。





先生は先に診療所に戻ったが、
俺はギルドに向かう前に手持ちの薬草をポーションに作り変えておく。


レッドポーション(小)を×12作成。

7個成功 5個失敗

さっきのあまりの1つと合わせて合計8個


リフレッシュポーション(毒)を×13作成

5個成功 8個失敗


これでメディカルミントがなくなった。

でも、これはかなり成功率低いな。

今のままだと最下級のポーションでも成功率4~6割ってところか。

本格的にコレで稼ぐなら熟練度上げて、成功率を上げる必要がある。

草採りながら作る方が効率いいかもしれんな。


さ、そろそろ行くか。





……
…………



ギルドの場所は町の入り口、門のすぐ近くだった。

かなり規模の大きい建物だ。
この街の図書館並みの大きさがあるな…。

入り口の横には、黒い影とそれに対峙する人が描かれた看板がある。


中からの音が漏れてきている。
かなり騒がしいな。


中に入る。

やはり広い。
受付がいくつもあり、何処も埋まっている。

奥のほうは食堂のようになっていて、
そこにいる人はほとんどが武装している。

たぶん依頼待ちの人達なんだろう。

でも、女の人もいるしひょろい男もいる。
別に厳ついおっさんばかりな訳じゃないらしい。


お、受付が開いた。
行こう。


「イスタディアギルドにようこそ。ご依頼ですか?」

「いえ、魔法薬を買い取ってもらいたくて」

「買取をご希望でしたら向こうにある冒険者用の買取窓口へどうぞ。
こちらはクエスト依頼用の窓口です」

「そうなんですか、すいません」

またしても受付は女性。
何か決まりでもあるのか?



言われたほうにむかうと強面のおっさんが暇そうにしている。

なんか値段交渉前から威圧されてる気がするよ…。





[12333] 第十二話 ショッピング
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/05 16:56
買取のカウンターに見るからに荒くれ者といった髭達磨がいる。

…気が進まないが、声をかけないことには始まらない。
用があるのはこちらだ。

恐る恐る声をかける。

「あの~、ちょっといいですか?」

「ん?何のようだ、坊主」

「えっと、魔法薬を売りに来たんですけど」

「…お前みたいな餓鬼がか?」

胡乱げな目でこちらの全身を見てくる。

「高位の魔法使いにはとても見えんがね…。
お前みたいのが作った薬なんて、本当に役に立つのかよ?」

「効果は確かです。コレ、医者のミシェル先生の紹介状になります」

そう言いながらミシェル先生からの手紙を渡し、中身を確認させた。


「ふうん、あの婆さんからの紹介か。なら確かに効果はあるんだろうが…。
んで、何の薬を売りつける気だ?」

「治癒の魔法薬と解毒の秘薬です。
どちらも肉体の治癒作用を活発化するもので、飲むとすぐに効果があります」


活性化云々はただの方便だ。
魔法薬ならそれらしいこと言っとかないとな?


「すぐに、ねえ…。本当に効果あるんだろうな?
試しに一本使わせろ。それで効果があれば買ってやる」

「いいですけど、誰に使うんです?」

「そんなもん医務室で寝てる奴等がゴロゴロいるさ。
なあに、実験だなんてばらさなけりゃみんな飲みたがるだろ」

ミシェル先生のところに行くのか?
俺の疑問に気付いたのか、

「医者があのババアんとこだけだと思うか?
もしそうなら、魔物との戦闘の怪我人だけで埋まっちまうぜ。
ギルドにはギルド専用の医療施設があるんだよ」

と、教えてくれた。

そこで、ふと気付く。
渡そうにも俺、この人の前でアイテム出すわけにもいかないじゃないか。

げ、どうしよう…。


くそっ、しょうがない。

「すいません、薬は別のところにおいてあるんです。
すぐ持ってきますので待っていてください」

そういうと俺はすぐさまギルドを出る。

おっさんは唖然としている。

不自然だ、ものすごく不自然だ。

…でも仕方ないんだ。


近くの店で大き目の鞄を選び値段の100ガットを支払うと、
ポーションを鞄の中に入れなおし急いで戻る。

「お待たせしました!」

「やれやれ、慌ただしいやつだぜ…」

誤魔化せたかな…?





鞄の中の2種類のポーションを一つずつ渡した。

「今度はお前が待ってろ。
医務室は怪我人と関係者以外立ち入り禁止だ」

と、席を外してしまった。


おいおい、他の買取希望者が来たらどうする気だよ。





……



戻ってきた彼の顔には驚きがありありと見て取れた。

「こいつはすげえな!
あっという間に傷が消えたし毒も抜けた。まさに『治癒』の薬だ!」

よし、高値で買ってくれそうだ。

「それで、買い取ってもらえます?」

「もちろんだ、むしろこっちがお願いしたいぐらいだぜ。
そうだな…。治癒は1つにつき1000。解毒は3000だ。
さっき確認のために貰った分の金は払えねえが、こんなんでどうだ?」

高っ!
そんなにするもんか!?

いや、先生も高いって言ってたし、そうなのかも。


え~と1000×7、3000×4で…。

19000ガットか!
今の俺からすればものすごい大金だ。

「それでいいです。買取お願いします」

「おう、またコイツを作れたら売りに来てくれよ!」





そうだ、ミシェル先生がここで売ってるって言ってたな。

「そういえば『時刻みの玉』ってあります?」

「あぁ、あるぜ。
ほんとは売り場の方まで行って貰わなきゃならんのだが、
ちょうど売りに来たヤツがいてな。お前には8500ガットでいい」

あれ、聞いてたより安い。


「10000だって聞いてたんですが…?」

「さっきの薬の効果見たからな。ありゃ、すげえもんだった。
試しの分の金は払えんし、ちっとぐらいサービスしてやらんとな?」

「そういうことなら…。ありがとうございます」

かなり得した気分になるから不思議だ。
実際は損してるんだが。

「それとよ、坊主。
おめえ、そんな普通の服でここに来てると素人か、初心者だと気づかれてカモられるぞ?
依頼者ならそれでもいいが、オメエはそうじゃねえ。

本当ならここは冒険で得た道具を売るための場所だから、
依頼者はこっち側にはこねえ。

新人は道具の価値がわかってねえこと多いからな。
ボられるやつも多い。

今回は婆さんの紹介状付きだったからいいけどよ、
次来るときにその格好のままだと足元見られるぜ。
毎回俺が担当ってわけじゃあ、ないんだぜ?」

「はぁ…」

見た目で判断されるってことなんだな。
この人も人のこといえないけど。

見た目怖いけど悪い人じゃないし…。


「つーわけで、隣に装備の店があるから何か装備ぐらい買っとけって」


なんか、買うように誘導された気がするな…。




……


教えてもらったギルドの横の建物には武器、防具の店があった。
ここもギルドのショップの一部なんだそうだ。

さすがに国営、他の店とは規模が違う…。


さて、まずは防具から…。

お、コレなんかよさそうだ。

鉄の軽鎧、3000ガット。


3000。…冒険者ってお金持ちだなぁ?


とりあえず着てみよう。
良さそうだったら買うかもしれん。

試着室に行く。

で、装備をする。

[必要筋力が足りません。]

あら?

…。


結局、鎧としては一番軽い皮鎧しか着られなかった。

こっちは800ガット。

脛当てや手袋も合わせて購入し、合計1200ガットを払う。

まぁ、とりあえず防具はこんなところだな。



次は武器だ。

今のところはダガーしか持ってないし、ダガーにしても技能の補正は無い。

今の唯一の戦闘手段といっていい魔法を有効活用するために杖を選ぶことにする。

お、魔法力が+5されてるな。
これは買いだな。

1500ガットで購入。



使った分のフラスコを多めに50個ほど補充して買い物は終了だ。


武器も防具も、もっとすごそうないかにも『魔法かかってますよ!』
ってのもあったんだが、それは馬鹿高かった。

靴一つで50000とか馬鹿じゃないの?値段つけたヤツ頭おかしくない?、とか思ってしまった。


今日の収入のおかげで装備を考えても十分に収支はプラスだ。

まだ時間もあるし、街の周辺の薬草取ってくるか。

それで今日はおわりかな…。






所持金変動

元所持金    1090

鞄代      -100

ポーション売却 19000

時刻みの玉   -8500

装備合計    -2700

フラスコ代   -30×50

残合計      7090ガット








現在ステータス

 ●シオン=ラーク
 
 ・LV  1

 ・HP 60/60   ・MP  25/25
 
 ・力   5    ・耐久   5・魔法力  5

 ・敏捷  5    ・器用さ  5

 ・装備  杖(両手)(魔法力+5)
      皮のよろい(耐久+6)
      皮の脛当て(耐久+2)
      皮の手袋 (器用さ+1)

 ・所持重量 1127/2000

 ・所持金  7090ガット

 ・所持技能 薬草知識   (16.1)調剤(2.4)   魔法素材知識(0)

        一般魔法具知識(0.2)  鉱物知識(0) 魔物知識(0.2)

        基本魔法   (4.8)

 ・技能限界 23.7/1000                            」








[12333] 第十三話 初勝利
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/06 01:22




ふぅ、結構集まったかな?

すでに日が暮れかけている。

購入した『時刻みの玉』を見ると、夕の刻の1時になっていた。

え~っと、ここは午前4時が朝の刻の始まりだから…。



あぁ、もうめんどくさいな。

これからは自分の中では地球時間で考えよう。

つまり、今は17時だってことだ。

うん、わかりやすい。




そろそろ採集も切り上げるか?
日が暮れたら魔物も出るかもしれないしな。

適当に採りながら歩き、そんなことを考える。

と、ここで荷物が一杯になった。

合計で

メディカルミント×35

オレンジヒソップ×10

マジックハーブ×12

を手に入れた。



前回より少ないのは、重量限界が来るのが早くなって来たからだ。

やっぱ、全部持ち歩くのは無理があるか…。

どこか、荷物を置ける倉庫か、拠点を作らないといけないかもな。


ふと周りを見ると、結構遠くまで来ていた。

一応遠くに街は見えるから、迷う心配はないけど。


ん?
何か聞こえる、かな?

耳元を虫が飛んでる時のような…。


ブゥゥ~ン


音の方向に目を凝らすと蜂が3匹こっちに来ている。

う、近寄られると刺されるかも。

え~と、蜂って黒色に反応するんだっけか?

今の俺の髪は茶色だ。
装備にも黒いものはない。

平気かな…。

でも結構距離あるはずなのに、はっきり見える。

…大きい!
30センチはあるんじゃないか、アレ!


横に避けても、相変わらずこっちに向かってくる。
狙いは俺なのか?

こうなったら…。

近寄られる前に落とすしかない!

杖を取り出し、相手を定めて…

「スキル『フレアアロー』!」

握り拳位の火の玉が出現し、炎の尾を引いて巨大蜂に向かう。

よし、命中した!

当たった蜂はそのまま落下。
動かなくなる。

よし、倒した。
このまま一気に…!

更に立て続けに2回唱える。

先ほどと同じように火が敵に飛んでいく。

一匹は同じように落とせたが、最後の一匹が避けた!

くそ、もう距離が…。

とっさに顔を庇う。
腕に鋭い痛み。

どうやら針で刺されたみたいだ。

[毒状態になりました]

げっ。

急いで倒さないと!

フレアアローをさらに2回使った。
今回は二発とも命中。

焦げ臭い匂いをさせながら燃え落ちた。


ふぅ、何とか倒した…。

[15の経験値を取得。レベルアップしました。
ステータスに5ポイントのボーナス。
ステータスをを振り分けてください。]

おお、レベルが上がった!
ってことは今のは魔物だったか…。

ステータスを出す。
力とかの数値の横に矢印が出てきてるのが見えた。
コレを選択するとステータス増やせるのか?

あれ?HPがゆっくり減っていってる?!

って、毒食らったままだ!
急いでリフレッシュポーション(毒)を作り、そのまま飲む。

[毒状態が治りました]


ふぅ、やばいやばい…。

調剤のスキル持ってなかったら死んでたかも。
明日先生にお礼を言っておこう…。


え~と、それでステータスのことだが。

ここで考えるより、宿に戻って考えよう。

何より残りMPが5しかないからな。
また敵に会ったら殺されかねない。





……
…………


宿に戻って、いろいろ考えた結果、
今持ってる技能を補佐する形にした。

魔法力を+3して8に。
器用さを+2して7にした。



HPは最大値が10上がって、最大70。

MPは最大値が+5されていたのが、
魔法力を上げたことで更に9上がって、最大39になった。


今日は疲れたな…。


戦闘って気疲れする。

これも、慣れれば気にならなくなるのか?
その前に帰れるといいんだけどな…。




…今夜はもう寝よう。








所持金変動

元所持金 7090

宿代   -200


残合計  6890ガット





[12333] 第十四話 ギルド試験
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/08 00:30


翌朝、ここ数日と同じように宿を出て、診療所に到着。

昨日のギルドでのこと、出会った巨大蜂のことを話した。


「ふぅん、その蜂は多分「鳥喰い蜂」だね。Eランクの魔物だ。
いきなりEランクと戦うとは、結構根性みせたじゃないか?」

自分から戦闘を挑んだわけじゃないんだけどな。

俺のその心を読んだのか、

「魔物避けも付けずに街から離れれば襲われて当然さ。
偶然魔物に遭遇する確立は高いもんじゃないけど、
備えもせずに街から出るってことは、当然、戦う覚悟を持っておくものさ。
勝手に自分の判断で外に出るからそんな目にあうんだよ」

自業自得だね、と言って意地悪そうに笑った。

う、思い知りました。





「えーと、それで話の続きなんですが。
たまった薬草や、道具なんかを保存しておく倉庫か家を借りたいんですけど、
如何すればいいんでしょうか?」

「ん、なにを入れる気だい?
大量に物を持ってけるあんたには、必要ないんじゃないかい?」


「持ち運べる荷物の量にも、限界があるんですよ。
それがそろそろ一杯になってきてまして…」

「ほう、そうなのかい。なるほどねえ…。
うちにある程度置いてやってもいいが、あんたの収集ペースだとすぐに満杯だろう」


そこまでお世話になるのは忍びない。

人の家だと好きに出入りしたりはできないから、荷物を預けるには都合が悪いしな。



「結論から言うと、現状アンタが土地を含む何かを借りるのは難しいよ」

え、倉庫借りるくらいで、問題なんかあるのか?

「あんたがこの街の住人じゃないのが問題なんだよ。
……よし、あんたギルドに入っちまいな」

なにそれ。





展開の速さについていけなかった…。
…気を取り直して理由を聞こう。

「ギルドを薦める理由は何ですか?
俺は、できるだけ戦う危険を減らしたいんですけど」

「倉庫や家等の土地を含む何かの購入、借受には本人の身分証明がいるんだよ。
不審者や犯罪者が、勝手に街に住み着かないための処置だね」


けっこうしっかりしてるな。
なるほど、そういう仕組みか。


「この街で生まれたあたしらは、
教会が生誕の祝福をするときに記録してくれてるから、それが証明になる。

街を渡り歩いてる商人には、商人用の許可札があるから問題ない。

では、ギルドの傭兵達は如何してるか…。それは、ギルド自体が証明してくれるのさ。
ギルドに加入するときに契約カードを渡される。本来は傭兵としてのランクを見るためのものだけど、
それが本人確認にも使える。
手っ取り早く身分証明を得るには、登録すればいいだけのギルドに入るのが一番簡単さ」


やっぱり入らないと駄目か。

平和な日本で暮らしていた身としては、戦闘はしたくないんだけど…。


「ギルドは必要最低限の能力さえあれば誰でも入れるからね。
昨日Eランクの魔物を倒したって話だろ?
ならテストには受かるだろうさ」


テストもあるのか。

はぁ、倉庫が欲しいなんていわなきゃよかったかな?

「それで、テストの内容は?」

「あたしが話すよりも、直接ギルドに行ってやって来な。
難しいもんじゃないから、そっちの方がよほど早いよ。
うだうだ言ってないで、さっさといってきな!」

「は、はい!行ってきます!!」





さて、そういうわけで半ば無理やり送り出されてきたのだ。

二回目だから、ギルドの独特な雰囲気にも慣れたな。

昨日と同じように受付に行く。

「ギルドの傭兵になりたいんですが、如何すればいいですか?」

「ギルド加入の手続きですね。
こちらの球に触っていただけますか?」

出された蒼い玉に触れる。
特に変化はない…。

「はい、結構です。それでは地下の訓練場に行って、テストを受けてきてください」

なんだったんだ?
まぁ、何も言われなかったし、アレでいいんだろう。

地下の扉は鉄でできている。
おいおい、まるで監獄だな…。

扉を開けて中に入る。


「よう、新入り!
これからお前がギルドで働くのに必要な能力があるかテストする。
今のうちにお前ができることを言っておけ。
それもテストに影響してくるからな!」


やたら声が大きい熱血系(暑苦しい)兄ちゃんだ…。

とりあえず当たり障りのない技能だけ言っておく。
基本魔法と、薬草採集、一部の魔法薬を作れる事だけ告げた。


「うむ、了解だ。それでは実戦テストに移る。
俺が拳で攻撃していくから、それを避けて見せろ!
だんだん避けやすくして行く、せめて一発は避けろよ?」

うお、そんないきなり!?





……





「よし、終了だ!」

や、やっと終わったか。

息をつく。

疲れないんじゃないかって?

延々と拳を出してきて、当たる寸前に寸止め。
コレを何十、何百回もやられたら気力が擦り切れるぞ?


「一発も避けられないとはな、近接戦闘の判定は期待するなよ?
それじゃ、次の試験管のところに行け!合格すればまた会うこともあるだろう。
じゃあな!」

最後まで暑苦しかったな…。






次の試験官はローブを着た魔法使い風の人だ。

入った瞬間、こちらをジロジロと観察している。

「ここは、魔法を使えるものを対象にしたテストだ。
それでは、あの的に向かって魔法を使え。
威力に応じて的が光る。威力と、詠唱の速さを見るテストだ」

あの、白い鎧が的か。

フレアアローを1発飛ばす。

若干赤く光ったかな?


…コレでいいのか?

試験官は不満そうだ。


ならばと、フレアアローを2発連続で飛ばす。

今度は赤色がはっきり見えた。


…まだ疑いの目で見ている。
そんな目で見られても攻撃はコレしか使えない。

「それで、本当に本気出してるのか?
初級の魔法しか使わんし、威力の方はてんで話にならない。
詠唱速度は大したものだ、だがそれだけだ。
聞いた話では、かなり高位の魔法使いと聞いてるんだが…」

え?
何でそんなことになってるの?

さっき技能申請したときにはそんなこと言わなかったんだけど…。

「それ、誰に聞きました?」

「同僚のボルドーだ。昨日お前の持ちこみの薬を買い取った男、といえばわかるか?」

あのおっさんか!

余計なこと言うなよなぁ。

仕方ない…、誤魔化すか。

「ここだけの話、俺は研究専門でして…。戦闘はあまり得意じゃないんですよ。
だから、攻撃系の魔法というのもほとんど覚えてないんです」

「なるほど…。そういうこともある、か。よくわかった。
魔法戦闘はEだ。威力は最下級だが、詠唱速度が速い。
それなりに戦闘で役に立つだろう。
あくまで、"それなり"。
はっきり言ってたいしたことないレベルだ」

わかっちゃいたが、はっきり言われるとへこむな…。










[12333] 第十五話 ギルド試験その2
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/22 00:38
次の試験は遠距離武器の試験らしいが…

お、ここかな?

「よう、坊主!よく来たな?
ちゃんと忠告どおり装備を揃えたようで安心したぜ」

あ、昨日の髭のおっさん。
…さっきの試験の文句の一つでも言ってやる。


「こんにちわ。ボルドーさん、で合ってますよね?」

「お、よく知ってんな。俺、お前に名乗ったっけか?」

「直接聞いたわけじゃありませんよ。
それより、さっきの魔法の試験官に余計なこと言いましたね?
変な期待かけられてて、評価が辛かったんですよ!」

「なに言ってんだ?
お前位の魔法使いなら、あんな試験楽勝だったろ?」


やっぱりこの人の勘違いだったか…。

俺は魔法の試験官に言った理由をもう一度繰り返した。







おっさんは途端に申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。

「すまねえ、そんなバランス悪く魔法の習得をしてるとは思わなかった」

「…もういいですけど、
話した人には誤解、解いておいてくださいね?」

「いや、解かねえほうがいい」

そうか、なら許そ…
ん?



…なんでだ!

「それはまた何故?」

「そんなこと話してみろ。
技術があって、金も持ってるヤツが、ほとんど武力を持ってねえってことになる。
柄の悪い連中にとっちゃ、お前さんは歩く財布袋にしか見えんだろうさ。
お前に自衛力がないってばれるのは、自殺行為だ」


げ…。
ポーション売りに来たのは死亡フラグだったか…。

「対策はあるさ。
評判と同じぐらいに、実力を高めりゃいい。
幸い、ギルドには訓練施設がある。
俺達試験官は本来、訓練所の教官なんだぜ?」


やっぱり強くならないといけないか。

俺の強さは、昨日の蜂にも死にかける程度だ。
今まで、能力を考えなしに使いすぎてたところもある。
これからのこともあるし、いずれこうなってた可能性は高いだろうな…。







「それじゃ、気を取り直して試験開始だ!
弓でも短剣でも投槍でも、好きな獲物を選びな。
向こうの的にどれだけ当たったかで成績が決まるぜ」

そういえばテストの途中だった。
…どれがいいかといわれても。


「え~と、どれも使ったことないんですが…。
どれが一番使いやすいですかね?」

「お前、そんなことを試験官に聞くなよな…。
教えるわけないだろ、普通?」

そうだよなぁ。
しかしどれにしても当たらない気がする…。


「やれやれだぜ…。
……俺はこれから独り言を言う。盗み聞きするんじゃないぞ。

あぁ、試験官なんてめんどくせえ。
早く終わって酒の一杯でも飲みたいぜ。

だいたい、この試験って素人がやっても失敗しやすいんだよな。
まず武器選択がなってねえ、自分に見合ったものを使えってんだ。

短剣は投げやすいが、刃の部分で的に当てなきゃならん。素人が使っても普通は刺さらん。
投槍は重さがネックだ。力がないやつにはお勧めできん。
弓は狙いをつけやすいが、素早く正確に射つには熟練が要る武器だが、この中では当てやすい。

弓が一番命中しやすいのに、わからないからってこの試験は最初から諦めやがる。
もっと慎重に行けば、最低限は取れるだろうに…」




…!
ありがとう、おっちゃん!!

「弓をお願いします」

「お、居たのか。
…チャンスは10回だ。制限時間はないから、慌てずゆっくり狙いをつけろ」


弓を受け取るときに、小声で「今回限りだからな」と呟いたのが聞こえた。




弓といっても和弓じゃない。
西洋弓なので横に構えるのだ。

とりあえず一発目は様子見。
大きく上に逸れた。

ニ発目は弱すぎて届かない、三発目は横にずれた。
四発目は惜しくも掠っただけだった。


慎重に狙いをつけての五発目…。
ようやく的の端に刺さった!

五発目となるべく同じになるように心がけ、残りを慎重に射つ…。






結局当たったのは5発目だけ。
他は全て外れてしまった。

せっかくアドバイスしてもらっても、このザマか…。

「コレで試験終了だ
遠距離武器は的に当たった位置と、的からの距離で成績が決まる。
お前さんの場合は、ギリギリおまけしてもFランクだ。
最終結果は最初の受付で聞いてくれ。」




コレで終わりか。

なんか、全くいい評価ないし、すごい不安だ。

最低限の実力があれば受かるって言ってたのに
これで落ちたら、どうしよう…。


あとがき

戦闘技能習得フラグを立てました。
実は魔法試験は、辛い評価じゃなければDランクだったり。


10/10
弓の命中数を修正。



[12333] 第十六話 称号
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/13 04:05

受付に戻り、結果を受け取る。





……。

『シオン=ラークをギルドのFランク傭兵に認定します』

ほっ。一応は受かったな。


しかし、Fランクか…。

Fは最低ランク、やっぱり危なかったみたいだ…。

でも、あの成績じゃギリギリ合格でも仕方ない。
自分で納得できてしまう。


「ギルド加入おめでとうございます。
それでは、ギルド加入の詳しい説明をさせていただきます。
既にご存知でしたら、説明は省かせていただきますが?」

「あ、知らないので説明お願いします。」


「はい。まずはさきほど試験を受ける前に此方の物ですが…」

あの蒼い球か。
やっぱりなんか意味あったんだな。

「こちらに触れると、触れたもの魔力の性質を記録し、数値にして出力します。
魔力の性質は一人一人必ず違っていますので、
数値を確認することで指名手配犯などの登録や、傭兵の二重登録を防いでいます」


ふむ。ってことは各国のギルド内でデータベースみたいなものがあって、
ネットワークで共有でもされているのかな?

この世界で、通信手段があればだが。



「では、次にランクの説明に移ります。
ギルドに来た依頼は、難易度に応じてギルドがA~Fのランクを付けます。
基本的にランクが上がるほど危険で報酬が高い仕事になります。
また、自分のランクより上のランクの仕事は請けられません」

「ランクを上げる方法は?」

「ランクを上げる方法は2つあります。
一つ目は自分のランクと同ランクの仕事を10こなすこと。
二つ目は国からの推薦を受けること。
どちらの場合でもギルドの試験を受ける必要があります」


国から?


「国家からの依頼もあるんですか?」

「ええ、ギルドは知っての通り、国の支援を受けて運営されております。
よって、国による大規模な魔物退治、盗賊討伐等の依頼が来ることがあります。
強制参加というわけではありませんが、報酬は格段に高いものですし、
成果によっては士官への道も開かれますし、先ほどのようにランクアップにも近づきます。
勿論、安全性の確保のために依頼のランク以下の方は参加できませんが」


できるだけ受けとけってことか。
ま、今の俺には関係ないけど。


「それでは続いて、依頼についてです。
依頼を受けるときは此方のカウンターで、
現在あなたが受けられる依頼の一覧をお見せします。

その中から、自分の目的に合った物をお選び下さい。
一度に受けられる依頼は3つまでになります。

ただし、どの依頼にも期限がありますので、必ず期限以内に終了させてください。
依頼が成功した場合は、ギルドのカウンターに報告することで報酬を受け取れます。

失敗した場合は違約金を支払っていただくか、ギルドに奉仕活動をしていただきます。
失敗したからといって報告しないで逃げ続けていると違約金が膨れ上がりますので、
失敗したとしてもすぐに報告をお願いします。

あと特殊な事例なんですが、有名な方になると名指しで依頼が来ることもあります。
いつかあなたが高ランクになったなら、できるだけその依頼は受けてくださいね」


「指名された依頼は絶対に受けなくてはいけないんですか?」

もしそうならギルドの依頼は自由に取れる、とはいかなくなる。
指名されるほどの有名人だと他の依頼が受けられないんじゃないだろうか?


「そのようなことはございません。
ただ、ギルドとしてもなかなか名指しの依頼を受け入れる訳にも行きません。
そうでもしないと高ランク傭兵にばかり依頼が偏って、彼らは休む暇もなくなりますからね。

ですので、めったにそういう依頼は認めないのですが、それでも必要だとギルドが判断するときがあります。
指名された方だけが持つ特殊な技術が必要な場合、特定の国や組織からの秘密厳守が必要な依頼です。

どちらの場合も必ず依頼を受ける必要はありませんが、
ギルドからの信頼や、依頼組織等に恩を売ることを考えれば、受けて損はありませんよ?」


秘密って…。口封じに殺されたりしないんだろうな?

「最後に施設の利用についてです。
このギルドには怪我をしたときの医療施設と訓練場があります。
基本的に無料ですのでご自由にご利用下さい。
何処の街のギルドかによって、施設の種類も異なっております。
行った事のない街に着いたら、まずはギルドの施設をご確認下さい」

無料とはまた、太っ腹だな。
医療費用だってかかるだろうに。

「以上で説明は終了です。
他になにかご質問はありますか?」

「いえ、特には」

「それでは此方のカードをお受け取り下さい。
こちらがあなたのギルドの登録証になります。
中にあなたのランクやクエストの情報が入っていますので、
依頼を受けるとき、結果を報告するときに必要になりますので必ずお持ち下さい」

薄い緑色の板を渡された。
特に何も書かれてないし、おかしいところもない。

…どうやって確認するんだろうな?

[称号”ギルドのFランク傭兵”を手に入れました。称号数が変化、技能限界が50上がります]

おお!?
技能の限界が上がった?!

「それでは、本日の依頼一覧をご覧になりますか?」

あいにくと今はそれどころじゃない。

断って外へ出る。





ギルドを出て、すぐにステータスを確認。

確かに限界が1050になっている!

さらに、称号欄が追加されている。

称号を選択すると一覧が出た。
今はさっきの”ギルドのFランク傭兵”しかない。

とりあえずこれをセット。


む、全ステータスが+1された!

変化はステータスだけ。
どうやら着けた称号でステータスに変化が入るようだ。


称号を集めればいい事尽くめってことか。

とりあえずFランクで称号が来たみたいだから、
ランクを上げればまた称号が増えるだろう。

ギルドランクを上げる意味も出てきたな。



さてと、登録も終わったし、当初の予定通り倉庫でも借りるか。

それが終わったら、もう一度地下の訓練場に行かなくちゃな。

強くなる必要が出てきたからな…。








[12333] 第十七話 技能訓練
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/22 00:14
重量については特筆すべきこともなく、小さい家を借りることができた。

ちなみに一月3000ガット。
前の住人の家具はそのまま残っていたのでそれ込みの料金だ。

最初は倉庫を借りようとしたんだが、個人で借りるような小さな倉庫なんてなかった。

商店で借りるようなのは大きすぎるし値もかかる。
現状ではそこまで荷物も無いし金もない。


そういうわけで今持ってるのは装備品ぐらいだ。



ところで、すでにギルドの地下には着いている。

ここで、今回取得する技能について考えていた。

すでに来るまでに2つは決めた。

肝心の近接戦闘が決まらないのだ。




…まずは他の二つを取るか。

間に合わせで決めるよりは後回しにした方がいい。




遠距離武器用の訓練場、いわゆる射場に入る。

既に何人も的に向かってそれぞれの武器を放っている。

教官はテストの時と同じくボルドーさんだ。

あ、こっちに気付いた。

「よ、坊主。合格おめでとう。
忠告どおりすぐに訓練に来たな、感心だ。

弱いヤツが考え無しに生き残れるほど世界は甘くねえぞ。
それがいやなら街の中に引き篭もってるしかねえ。

だが、そういうわけにも行かんのが世の仕組みだ。
ある程度は強くないとすぐにお陀仏だから、気ぃ付けろよ?

それでよ、坊主。自分の武器は決めたのか?」

「はい、一度使ったので弓がいいかと思ってるんですが」

俺の言葉にボルドーさんは眉をひそめながら言い辛そうに、


「あー、悪いが試験の様子を見るに、お前に弓のセンスがあるようには思えねえ。
他の武器にしといたほうが無難だぞ…?
そうだ、投げナイフとかどうだ?
試験の時とは違うからな、きちんと練習する時間がある。ちなみに俺の得意武器なんだが」


「…とりあえず遠慮しておきます。
もし今日一日練習して、それでも駄目そうならお願いします。」

弓のセンスが見つからなかった訳はなんとなくわかる。
教わってもいない武器は補正がないから才能を感じないのだろう。

もし本当にこれで才能、というか技能を得られないなら
忠告通り武器を変えるしかないんだが。


ショートボウを構え、ボルドーさんに一通りの講習を受ける。

こうしてきちんとやり方を教わると、さっきの試験での撃ち方がいかに間違っていて、
不恰好だったかに気付かされる。

矢を射りながら、少しずつ姿勢や構え方の矯正を受ける。



「弓術技能を習得、弓矢の命中率と矢を番える速度にボーナス。
熟練度上昇により、弓射程と命中率にボーナスがつきます」


来た!


「ボルドーさん、ちょっと一人で練習してみます。
ご指導、ありがとうございました。」

「ん、そうか。教えたとおりのやり方でやれよ?
間違ったやり方で覚えられたら洒落にならねえからな」

そういうと他の人を指導しに行った。




…よし、行ったな。

弓術か…。
魔法以来の実戦に使える技能だ。

命中だけでなく射程も延びるってことみたいだが…。

とりあえず現状で何処までできるのか、弓術の検証をしてみるか。





……
…………



だいたいこんなもんか。


わかったことは6つ。

1、当然ながら矢を持たないと何の意味もない。
  弦を鳴らすだけじゃ熟練度は上がらない。
  実際に撃たないと駄目。

2、現在射程は15Mくらいか。
  検証している間に熟練度が5.3まで上がったのでもうちょっと伸びている可能性あり。

3、命中率は射程内で4割くらい。
  近くで射ったとしても4割である。
  ただし、これも熟練度が上がったのでだんだん上昇している。
  狙ったものに当たった時のみ熟練度が上がる。

4、50センチ位の距離で射ったときは、熟練度は上がらなかった。
  最低でも1M程度の距離がいるみたいだ。

5、射程距離外の物を射っても当たることがある。
  ただし偶然の可能性大。熟練度も上がらなかった。

6、矢は再度利用できる。
  ただし、折れている場合は無理。


現在はこんなところだ。

実際微妙な性能だが、技能があると無いとでは大違いだ。

……さっきまで教えてもらっても15Mで1~2本だったからな。
なるほど、センスが無いといわれるのも納得できた。

ただ、こんな低距離射程じゃとてもじゃないが実戦で使えない。

上げられるだけ熟練度を上げて、射程を伸ばそう。
魔法と違ってこっちはいくら使ってもMPは減らないからな。







ただひたすらに弓を引く。

矢が無くなったら的に刺さっているものを回収。
また延々と打ち続ける。


と、弦が切れた。
また張りなおさないと…。

そこで肩を掴まれた。

「おい小僧、ちと休めや。
さっきからどれだけ続けてやってた?」

ボルドーさんだった。

そういえば疲れないから忘れていたが、普通は腕が疲れるもんだ。
否応無く休む羽目になる。

「まったく、根を詰めすぎだ。
さっきから呼んでるってのに反応もしやしねえ」

そうなのか…。

時刻みの球を見ると既に午後8時を過ぎている。


「それにしても、一日で見違えるほど腕を上げたな?
才能が無いってのは俺の勘違いだったみてえだ」


技能補正のおかげで既に射程内なら5~6割は当てられる。
射程も長くなっていることだろう。

「そろそろ俺は帰るぜ。
つーわけで、ここも閉める。早く出てけ」

「あ、はい。それじゃ…」

「ちいと待て。
お前、どれだけ矢と弦使い潰した?
使った分だけ補充すっから、金置いてけよ」

「あ…」

考えてみれば当然のこと。
使うのは無料だけど、消耗品を使った分は払う必要があるのね…。


壊してしまった矢23本、弦7本の金額を払う。

しめて340ガット。





一度宿に行き、主人に家を借りたことを告げてから帰った。




寝る前に恒例の『ライト』を使い、魔法熟練度をあげてから寝る。



明日は先生に暫らく病院に行けなくなるかもしれない事を伝えないと…。




今日の技能成長


基本魔法熟練度は8.6まで上がった。

弓術熟練度が11.3まで上がった。
熟練度が10を超えたのでボーナス、器用さが1上がった。
スキル『ロックオンシュート』を覚えた。




所持金変動

元所持金  6890

家賃     -3000   

武器使用料 -340

残合計   3550ガット






[12333] 第十八話 技能訓練その2
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/17 20:38



翌朝目が覚めると、見慣れない光景。



いつもの宿じゃない…。


ぼ~っとした頭が覚めてくると、
昨日新しく自分の家を借りたのを思い出した。

これからはここで暮らすんだ。
もっと慣れないとな…。


そういえば、宿じゃないから飯も出ない。

そして昨日は何も買ってきていない。


…歩きながら何か買うか。

だが、家を出る前に…。





そろそろ資金が心許なくなっている。

という訳で調剤スキルの出番だ。


資金源となるポーションを5個ずつ作る。
赤ポは3個、毒直しは2個できた。


…成功率が低いところには目を瞑ろう。


そして、何時も通り先生のところに向かう。


先生にギルドに入ったこと、家を借りたこと、技能の訓練のために暫らく来れないことを告げる。

「やれやれ、しょうがない子だよ。
弟子入りしてからこっち、ほとんど診療所にいないじゃないか。
あたしが言いつけてることもあるけど、それにしたって少しは遠慮しな」

…というお小言を貰ったが、一応は承諾してもらえた。

これは、訓練終わったら暫らくは診療所に通い詰めないと行けないな…。






ギルドに着くと、まずはポーションを売り払う。

担当の小太りの男は売ったポーションのことを知っていたらしく、
特に問題なく、前回の値で買い取ってもらう。


地下訓練場に着くと、今日も今日とて弓を引く。

今日の教官はボルドーさんじゃなかった。
見た目25歳くらいの、爽やか系イケメン君だ。


指導は丁寧なんだが女の子を優先しすぎだ。

指導待ちの列(女の子率大)ができてしまってる。

そのおかげで射場はスカスカだが。





……世のイケメンなんていなくなればいいと思うヨ。




……
………





昼過ぎ、弓の熟練度が20を越え、『パワーショット』を覚えた。

ちょうどいい機会だったので、現時点での射程と威力、覚えた弓スキルを調査する。



射程は30M程にまで伸びていた。…が、威力は変わってない。

弓術は熟練度では、威力変わらないのか?

攻撃力を上げるには良い弓を揃えるか、ステータスを上げるかだな…。



『ロックオンシュート』は、射程内であれば100%当たる。
MP消費は5だ。

スキルを使ってから一発目に放った矢は百発百中。
例え的から目を逸らしても、『狙っている』という意識さえ向けていれば当たるのだ。


効果はスキル直後の一発目だけ。
二発目以降は関係ないようだ、威力も普通。

素早くて、とても攻撃できない相手には使えるかも。



『パワーショット』はその名の通り、ただ単に威力が上がるだけだ。
これはMP消費8。

…上がった威力はなかなかにすごかったが。
的が当たった衝撃で大きく揺れた。

ただし、番えてから実際に放つのに5秒以上かかる。

まずパワーショットを使うと、射つ体勢のまま腕が動かなくなった。
その状態で5秒経つと、自由に動かせるようになる。

それから放った矢は高威力を持つようだ。
システム的には2~3倍って所なのかな?

5秒はそれなりに痛いが、先制攻撃には使える。
普通一射撃つのに5秒以上絶対かかるからな。
消費MPがネックだけど。

…5秒腕が動かなくなるのはターンの最後に行動、とかを再現しようしているのかもしれない。




分析は終わったが、さっきのパワーショットで結構な音が鳴ってしまった。

周りが少しざわついてる。

注目される前に使った消耗分のお金払って退散だ。




次に来たのは近接武器用の道場のようなところだ。


案山子相手に延々と突撃している漢達がいる。



……汗臭っ!



…なるほど、この男臭さなら遠距離射場に女が集まるのも頷ける。

むしろ、まともな神経残ってるなら、一刻だってココに居たくない。


むせ返る漢臭に早くも立ち去りたい気分になってきた…。

だが、目的を忘れるわけにも行かないのだ。



できるだけ鼻で息をしないようにしながら、
指導担当のギルド員を探す。


あ~、あれかな?

部屋の中で一際暑苦しい空気を醸し出している場所へ行く。


其処にいたのは試験のときに居た熱血兄さんだった。


…ふう、それなりにまともそうでなによりだ。
ヤマジュン的な人だったら、目的を諦めてでも帰っていた。


それに熱血兄さんは見るからに格闘系。
…これから取る技能のためにも、この人に教わるのは都合がいい。


「どうも、こんにちわ。
訓練しに来たんですけど…」

「お、お前合格できたのか!
あの成績で受かったってことは、他のテストはそれなりにできたんだな?
俺はあんな鈍いヤツ、落としとけっていったんだけどな!」

声をかけると、そんなことを言ってハッハッハ、と笑った。

…それを、本人に向かって言うなよ。

そういうこと言われても不思議と憎めない人だけど。


「はい、なんとか。
テストではてんで駄目だったので、せめて少しでも戦い方を覚えようと…。
少しは戦えるようになっておかないと、町の外にも出れませんし」


「努力するのはいいことだぞ、努力は自分を裏切らないッ!
ただし、何事もやりすぎは禁物だがな!
それで、この俺に何を教わりたいのか言ってみろッ!!」

まずシャドーボクシングしながら話すなよ、暑苦しいからさ…。

だが、我慢我慢。

俺が教わりたい技能は、この人に教えてもらうのが最適なのだ。


「教わりたいのは、まず基本的な体の動かし方と…
あなたの戦い方そのもの、つまりは体術です」




[12333] 第十九話 技能訓練その3
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/22 19:04


「面白い、だが俺の戦い方を教えるということは、俺自身の弱点を教えるに等しい!
その理由をはっきり教えてもらおうかッ!!」


理由、ね。

武器が簡単に手に入る世界で、
わざわざ素手で格闘する必要がある体術を取るのには勿論訳がある。


まず、威力のありそうな重い金属の武器を、現在の『力の数値』では装備できそうにない。

剣術や槍術を手に入れて、果たして相手の攻撃を避けたり、防御したりできるのか。
攻撃方法しか手に入らないかもしれない。

体術なら体捌きそのものを覚えるから、回避力も上がるだろう。



…いや、結局のところ今までの理由は言い訳なのだ。

重いならまずレベルを上げてから武器を買えばいい。
防御手段が欲しいなら、盾を使えばいい。



本音は、人の形をしたものの相手にしたとき、切る感触の残る武器を使いたくないのだ。

今までは獣型や虫型相手だったが、魔物には結構人型のモノも多いらしい。
街道でも夜盗がでる所もある。

そのとき迷いなく倒せるのかわからない。


技能で補正された武器戦闘で手加減することは多分無理だ。

人間の体は急所だらけ。
腕を狙おうが足を狙おうが、直撃させれば出血で死んでしまう。

拳なら直接急所でも殴らない限り、死にはしない。
だから、躊躇いなく相手できる。

敵対する人間全てにポーションを無駄遣いできるわけじゃない。

最初から非殺傷系、戦闘技能を手に入れておくべきだろう。

甘い考えかもしれないが、
こちらはHPある限り死なないし、回復ポーションだってある。

急所さえ守れば、相打ちを狙っても構わないのだ。

といっても、こんな理由を正直に言えるはずがない。



「おい!ちゃんと聞いているのか?!」

と、考え込みすぎたようだ。

「すいません、聞いてませんでした。…もう一度お願いできますか?」

「そんなことで俺の技を伝授できるかぁっ!」



ぐふぁっ!

な、殴り飛ばされた…。


「な、何で…?」


「馬鹿、俺自身の技を教えるのならもう君は俺の弟子も同然!!
弟子が師匠の話を聞き逃すとは何事だ!?」


…なにその理論。

確かに俺にも非があったが、それはないだろ…。

まだアンタ、弟子入り了解してもいないだろうに。

でも、この人の今までの言動から考えて、
理不尽で自分勝手な理論振り回す人って訳じゃなさそうだ。

単に、こういう熱血なノリが好きな人なんだろう。



我慢我慢…、今回は我慢だ……。



「すいませんっ!申し訳ありませんでした、師匠っ!!」

「よろしい、では改めて理由を言ってみろ」

「試験の時のあなたの俊敏な動きに憧れました。
是非に、その技を教えていただきたい!」


…こういうノリの人にはこういう回答でいいだろうか?

「なっ、なに…?
ハハ、確かにそういうことなら仕方ないかもしれん。
弟子にしてやっても、いいぞ!」


…簡単に納得しすぎだろ。
この人騙され易いんだろうな。

あ、照れてる。

「俺の名前はグレイだ。厳しく行くから覚悟しておけ!」

「はい、よろしくお願いします!師匠」






……
…………




「おい、何時まで寝てんだ、そろそろ閉める時間だぞ?」

…あれ、どうなった?

うお…、もう8時になってる。



意識が飛んでたのか。

えーと、確か体術の基礎を教わって…。


[体術技能を習得、格闘での攻撃力と軽装での回避率にボーナス。
熟練度上昇により、さらに攻撃力と回避率が上昇します]


と、『声』が聞こえた。

この時点で習得完了したので、あとは一人で練習しようと思っていた。



甘かった。

そんなことは認めない、これからが本番だ。
とばかりに熱血グレイは離してくれなかったのだ。


それから、拳の打ち込み方、肘、膝、蹴り、果ては投げ技、関節技に至るまで徹底的に叩き込まれた。
本当に、コレ一つで体術…なのか?と疑った。


基礎体力をつけろと、延々と筋トレ紛いの事をした。
…全く疲れないのを見て、コレだけはすぐに合格を貰い終了。

実戦修行と称して、他の稽古中の人の相手をさせられた。

自分が与える痛みを自分で知れ、と体に技をうち込まれた。
当然そんなことしても熟練度は上がらない。

武術家の心得としては、間違ってはいないんだろうが…。


そんなことを休み無しで続けた。

…適度に休めという自分で言った言葉は忘却の彼方のようだ。


そのときにはグレイの目はすでに正気じゃなかったような…。

…それからも理不尽な稽古を続けていた…気がする。


途中から意識が飛んでいて、覚えていないのだから仕方ない。


普通なら過労で動けなくなっている所だ。
無理しすぎで死んでるかもしれん。


とりあえずステータス確認。

うわ、体術が半日で18まで上がってるよ…。

あれから一体どんな扱き方したんだ?

おいおい、HPが16しかないぞ…。

下手したら死んでる。

死なないためにする訓練で死んでたら洒落にならん。

…もうここには来ないほうがいいかも。

「おい、気がついたんなら早く出てけよ」

あ、すいません。今帰りまーす。




……


家についたら、恒例の魔法練習。

こつこつ上げていた基本魔法熟練度がついに10を超えた。

新しく覚えた魔法は『ウィンド』。

…確かめるまでも無く、属性そのまんまだ。



それにしても大分、戦闘用の技能も上がってきた。

そろそろ街の外に出てもいい頃合かもしれない。

…明日は訓練所のところに行く気力も沸いてこないしな。

予めボルドーさんからグレイに、
無茶しすぎるなって注意してもらうべきかな…?






今日の成果


弓術
熟練度が20.6まで上昇。
熟練度が20を越え、ステータスボーナス 器用さ+1
『パワーショット』取得。


体術
熟練度が18.1まで上昇。
熟練度が10を超え、ステータスボーナス 敏捷+1
『気合』取得。


基本魔法
熟練度が10.2まで上昇。
熟練度が10を超え、ステータスボーナス 魔力+1
(魔力が上がったことにより最大MP+3)
『ウィンド』取得。






所持金変動

元所持金      3550  

ポーション売却金 9000

武器使用料    -270

残合計       12280ガット



――――――――――――――――

あとがき

更新まで間を空けてしまいました。

やっぱり全然物語が進まない。




[12333] 第二十話 初クエスト
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/10/26 21:32



さて、今日から外で戦いに行くわけだが。

…その前に、ギルドにいく必要がある。

ボルドーさんにグレイの無茶をとめてもらわなくてはおちおちと鍛錬も出来やしない。



まあ、実は格闘訓練であそこに行く必要は、もうほとんどないんだがね。

熟練度を上げたければ、外にでて木でも叩いていればいい。

しかし、ギルドに行ったときに顔を合わせる可能性は結構高い。

念を押して損は無いはず。

外に出るための準備としてフラスコをありったけと、
毒と赤ポーションを5個ずつ作り、外へ出る。

まぁ、やっぱり作成はどちらも2個ずつ失敗しただけど。


ギルドの受付にて、ボルドーさんの所在を聞くと、
今日は射場にいるとのこと。

教官役は一日置きで交代なのかね?



……


射場にいたボルドーさんに昨日のことをすぐさま相談。

昨日の鍛錬の様子を聞いてもらうと、

「まさか、グレイに弟子入りするとはなぁ…。
あいつは悪いやつじゃないんだが、熱くなると周りの意見が耳に入らなくなっちまう。」

と、溜息をついた。


「よし、いいぜ。
俺も知り合いが潰されちまうのを、みすみす見過ごしたりはしたくねえ。
昼休みにでも話つけてやる、期待してろ」

…これでOKだ。

あとはボルドーさんの手腕に期待するしかない。


さてそれじゃ、外に…

「まあ、待て。外に出るんならせっかくだ。
簡単な依頼でも請けてったらどうだ?
別に目的があるわけじゃないんだろ?」


あ、そりゃそうだな。

とりあえず薬草を採っては調合、採っては調合を繰り返して
技能を上げて帰ってこようと思ってたんだが、
街の周りでできそうなクエストなら受けておいて損は無い。

初クエストだからって下手に難しいの取らないようにしなきゃな…。

「そうですね、なにか請けてから行くことにしますよ。
くれぐれも、グレイさんには強く注意しておいてくださいね!」

念を押しておくことも忘れない。

「お前さんの初依頼だ、準備を入念にな!」

あ~、逆に念を押されてしまったよ…。






言われた通りに、受付に来たのはいいが、
意気込んで見たFランクのクエスト一覧は採取系ばかりだった。

よく考えればわかることだったが、
自分のランクはFクラス、ギルドの最低ランクだ。

そんなに難しいクエスト請けられるはず無い。

戦闘系技能を手に入れたからって、ランクが上がった訳じゃないもんな。

ちょっと残念だが、仕方ないか。


一覧の中から、請けたクエストは2つ。

街の市場からの依頼で『牙ウサギの肉を手に入れろ』

コレは常時依頼されているもので、幾つでも買ってくれるらしい。

一応Fランクの魔物なので一つ50ガットもらえる。

頻繁に出て来る位置を教えてもらった。


もう一つは『研究用の素材調査』

街周辺から土を取ってくればいいらしい。

最低5箇所以上集めて、取ってきた場所ごとに土を分けておけ、とのこと。

土を素材になに作るんだ?土器か?

…採取用の道具も一緒に受け取った。


とりあえず、街の周辺で何とかなるものを選んだ。

クエストを請け負った後、各ランクの魔物と、
それから取れる素材が書かれた一覧表を見せてもらえた。

そこで技能ゲット。

『魔物素材採取』の技能を習得した。

図書館に無い訳だな…。
魔物の素材を集めるようなやつは一度はギルドに行くだろう。
だから、ギルドで直接教えられるって訳か。

まぁ、魔物素材採取はこの世界では持っていて損は無い。
何時調薬に魔物の素材が必要になるかわからないし。



そろそろ行くか…。
練習で使っていたのと同じショートボウと、矢を100本ほど買って街から出る。




……
………


これでいいかな…。

まずは街の周辺を回って、土を集めた。

次は牙ウサギの生息地に向かうのだが、その前に。

…そろそろアレやっとくか。

「スキル『調剤』」


レッドポーション(小)を25個。
リフレッシュポーション(毒)を10個作成する。



当たり前だが途中で薬草も採集している。
結構な数が集まり、熟練度も25を超えた。

クエストだけじゃなく、当初の目的も果たしておかないと損だしな。

赤ポが多いのは、販売用じゃないからだ。
コレはこれから戦いに行く、自分用。

まぁ、こんなに使うことはおそらくないだろうが、
Fランクモンスターだからと油断は禁物だ。

それぞれ17個と6個成功。

やっぱり成功率はあまりよくない。

失敗したフラスコが無くなるのが一番痛いな…。


回復手段も用意したことだし準備万端。

…後は戦うだけだ。






[12333] 第二十一話 初クエストその2
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/23 05:03
ギルドの依頼に書いてあった牙ウサギの発生地は、
ミシェル先生から教えてもらった薬草群生地から一キロほど進んだ場所にある。


何時もの如く走り進むと、直ぐに着いてしまった。


ん~、地図ではここになってるんだが……。
さっきまで歩いていた平原と少しも変わってない。

あらかじめ目的地を知っていなければ気にも留めずに通り過ぎたろうな。



慎重に周りを見渡す。

…着いてすぐに襲い掛かってくるようなことはないみたいだ。

考えてみれば、自分から戦おうとしているのはこれが初めて。
やはり緊張していたのか、要らないところに力が入り体が強張っていた。




深呼吸を数回。
そして音を立てないようにしながら、軽く屈伸運動。

…よし、少しは落ち着いた。
油断も禁物だが、気負い過ぎてても仕方ないからな。

弓を装備して警戒しながら探索だ。







大体10分ぐらい経った頃か、視界に今までなかった薄茶色の毛玉が映った。

あれか?
7匹ほどが群れを作っている。
幸運なことに此方にはまだ気付いていない。
現在の弓の有効射程は、だいたい30M。
その付近まで気付かれずに近づいて行かなくては。


しかし、ウサギを見つけてから妙な感覚を感じる。

7匹居る中で、気になるのが4匹。
残りの3匹は相手にしなくてもいい気がするのだ。

この感覚は、薬草採集のときとどこか似ている。
多分何かの技能が反応して補正をしてくれているのだろう。

持っている技能をステータスで確認。
……たぶん魔物知識だ。
おそらくあの中の三匹は魔物じゃないんじゃないだろうか?



が、確信がないのでそのまま射る。
両方射てば間違いない。
判断は終わった後にしよう。


『パワーショット』だと使用MPが多いから、ここは『ロックオンシュート』。
まず狙うのは魔物じゃないと思われるウサギ。


地面に伏せながら矢を放つ。

スマンな、(おそらく普通の)ウサギよ!


飛んだ矢は吸い込まれるようにウサギの体に突き立った。

仲間の異常に気付いたウサギはすぐさま逃げ出す。

ただし、逃げていく数は2。
残りの4匹は周囲を警戒しだした。まるで逃げる気配を見せない。

続けざまに2の矢、3の矢をロックオンシュートを使って打ち続ける。

狙い違わず次々と獲物を仕留めていく。

ここで場所がバレた。
真っ直ぐこちらに向かってくる!

そのままもう一本矢を放つと弓を装備からはずす。


その間に目と鼻の先にまで相手は迫っていた。
そのまま牙をむいて飛び掛ってくる。


うお、顔怖ッ!

飛び掛ったウサギはほとんど普通のウサギと変わらない姿形だった。
ただ、顔を除けば。

口から出ている牙が異様に発達している。
口を閉じられないのか、常に剥き出しだ。
そのせいで顔が常にしかめているように歪んでいる。



観察しているうちに体は勝手に相手の突進を避けていた。

飛び掛った勢いでバランスを崩しているウサギに蹴りを叩き込む。

ふう、これで…




ドン、と背中に衝撃。

見ると最後に放った矢はスキル無しで撃ったせいか、外れていたようで無傷のウサギが一体。




…しかし、あんまり痛くないな。

相手に向き直り拳を構える。
そして…次の突進を待って、それにカウンターを入れる!

先ほど蹴った一匹よりも強烈で生々しい感触が手に伝わり、そのまま動かなくなった。


そしてそこでレベルアップ。










…こんなものなのだろうか?

弱すぎる。

さっきの一発食らってしまった突進だって、強めに突き飛ばされた位の衝撃しか来なかった。
HPも3しか減ってない。

はっきり言って楽勝だ。




生き物を殴り殺す罪悪感さえ感じなければの話だが…。


あまり気にしないようにしなくては。

地球でも、食事をするには何か殺して食ってるわけだから、自覚がないだけで結局は殺してる。

気にしてたら生き残れない。
何よりも、死にたくないからな。




少ししんみりしてしまった。

倒したウサギたちを一箇所に回収する。
ついでに矢も回収。


予想通り、最初の一匹は普通のウサギだった。
やはり技能で判断可能らしい。


…でも、先日の鳥喰い蜂の時にはわからなかったな。
もしかして確立で成功判定か、敵のランクで判定でもあるのかな?

そしてウサギたちを回収している最中にもウサギの一部分が気になった。
こっちは、魔物素材技能か?


気になる箇所に触ると、きれいにその部分が抜けてしまった。

[牙ウサギの前歯を取得しました。ウサギの尾を取得しました]

…クエストに出す肉に歯とか尾とかいらないよね?
多分。



ところで問題が一つ。

…このウサギから肉を剥ぎ取るのって自分でやるのか?

さすがにそれは無理なんだが。




とりあえず鞄に放り込んどくか…。





[12333] 第二十二話 初クエストその3
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/12/03 05:56
さて、今の4匹の牙ウサギを倒したことで、
今回のクエストはクリアした。


……これで終わり?
まだ一番難易度の低い依頼だからなのだろうが、これには拍子抜けだ。
確かにこんなに簡単なら、小遣い稼ぎに登録する人も多いのかもしれない。


まだHPやMPも、荷物にも余裕がありる。
時刻も昼過ぎ、13時を少し過ぎたくらいだばかり。

「もう少しここで狩っていこうか」

レベル上げにもなるしな。

ただし、もう4匹一度に相手にするのはやめておいたほうが無難だな。
累計するとMPの消費量がすごいことになりそうだ。

帰りに別の魔物が出る可能性も考えて、できるだけMPは節約しておこう。




狩場を注意深く見歩くと、なるほど確かにここはギルドが指定するほどに狩場。

結構な数の群れが直ぐに見つかった。


しかし、その群れを狙うのは賢くない。
それじゃ、一度に相手にする数は変わらないから。

そこから逸れている1~2匹を主に標的にしていく。

だが、たとえ数の多い群れであっても、中に普通のウサギが含まれていて、
牙ウサギの数が2匹以下ならこれも獲物に入れる。

さっき見ていた様子だと、普通のウサギは戦闘になったら勝手に逃げるからな。
もう通常のウサギは狙わないんだけど。


標的を見つけたら、弓の射程ぎりぎりまで近づいてから射る。

一匹ならそのまま当たるまで弓で。

二匹なら一匹を弓で倒した後、拳で。

このパターンを繰り返す。

これでダメージ無し、MP消費無しで行けるだろう。

さあ、まずはあの2匹からだ。






……





作戦失敗。


いや~、危なかった……。




あ、でも完全に失敗だったって訳じゃないぞ?

だいたい10匹位はあの作戦で仕留められたんだ。


先に見つかってしまい、あっちから仕掛けて来る事もたまにあったが、
大抵は突進の一撃を食らった後での俺からの反撃で沈んだ。


問題はその後起こった。



単体では対処しきれないと思ったのか、10以上の牙ウサギ徒党を組んで、文字通り牙をむいて襲い掛かってきたのだ。

さすがにそんな数を一度に対処してはいられない。
すぐさま逃げ出した。
何かしらの範囲攻撃を覚えていれば、また違ったんだが…。


だからと言って、仲間を殺され続けた牙ウサギがそう簡単に逃がしてくれるはずがない。

かなりしつこく追いかけてきた。
相手のほうが足が速く、逃げた背中や足に向けて突進を繰り返してくる。

背後からの衝撃と軽い痛みで、バランスを崩しながらも何とかポーションを飲みながら逃げ続けた。



たぶんそんなにスタミナは続かないだろうから、ポーションが尽きる前に逃げ切ることは出切るだろう。


が、あくまで予想である。

予想が外れていたときに命を失っては元も子もないのだ。



そこで、MP消費を考えずに逃げながら魔法を撃つことにした。

使った魔法は『ウインド』、新しい魔法だ。

風だし、もしかしたら範囲攻撃かと思ってな。

確かに範囲魔法だった。
ただ、攻撃じゃなかったんだけど。



どうやら『ウインド』は行動妨害系の呪文らしい。

唱えると追っ手のウサギ達の方に強い風が吹き、追撃速度が目に見えて遅れた。
風は暫らく(といっても長くて数秒だが)吹き続けていたようで、その間に逃げおおせる事ができた。



逃げ切った後でもう一度、効果を詳しく観察するためにもう一度使ってみた。

自分のいる場所から対象の方へ強風を起こす魔法らしい。
効果は3秒ほど、完全に身動きできなくなるほど強い風ではない。
風を出しながら前に出ると追い風になる、などといった効果はないようだ。
自分に対する支援効果は期待できない。


しかし、これは下手に攻撃呪文使うより役に立つかもしれん。

後々、遠距離攻撃してくる相手が出て来たとき、それを散らせる。
飛行系の敵にも有る程度の効果はあるだろう。




今回の反省点は一つ所で狩り過ぎたせいだ。

血の匂いが辺りに漂うし、此方の場所がすぐに分かってしまう。

一度狩りを行ったら、そこから距離をおく必要がある。



それを踏まえて、再度狩りを行おう。





……


おお、またレベルが上がったぞ。
結構早く上がるもんだな。

今狩ったウサギを回収して、と。
そろそろ鞄には入りきらなくなってきた。

数は…え~と、ひの、ふの、みの、…合計23匹か。


…こりゃ狩り過ぎじゃないか?
もはや乱獲の域だ。

ここでは狩り過ぎても猟師協会とか動物愛護~~とかないだろうから、怒られることはないだろうが、
もう止めておくべきだろう。


今日の赤ポーションの合計使用数は6本。


結果的に見れば、用心深すぎたか。


…いやいや、追いかけられたときは危なかったし。
余っても家に追いとけば良いし。

とにかく、問題なく終了だ。

牙ウサギって名前の割には噛み付いてこなかったな。

おそらくだが牙が発達しすぎたせいで、噛み付いて攻撃するような事はできないのだろう。

……何の意味もない牙だな?




とりあえず3レベル分のステータスを振ってから帰るか。

2レベル分のポイントで全体の底上げを。
1レベル分で力、敏捷、魔力を強化した。




帰りは行きよりかなり早く帰れた。
敏捷が上がったので走行速度が上がったようで、風を切る感覚が明らかに変わっている。


勿論薬草を採集しながらじゃない、というのも大きいんだけどな。

なんだかLvを上げるのが楽しくなってきた。


ギルドに戻ると、受付でクエスト依頼品を渡し、報酬を受け取る。

…自分で捌かなくて良いらしい、よかった。
ここの世界で自分で料理するのは諦めた方がいいかも。

報酬は1350ガットだ。

あ~、やっぱりポーションって馬鹿高いんだな。
買取であの値段だし。


矢を補充してフラスコを大量に買い込んでから、帰宅。

うへっ……鞄が血塗れ。

これ洗ってから寝ないと……。

ていうか落ちるのか……?


ライトを使い、魔法の熟練度を上げながら井戸水で鞄を洗う。

……全然落ちない。

次からは直接鞄に入れないようにしないと、毎回洗濯するハメになる。

あ~、何か手を考えないと。






結局完全には落ちなかった。





所持金変動

元所持金     12280 

クエスト報酬合計 1150+200

弓矢合計     -1300

矢補充      -10×17

フラスコ代    -30×150

残合計       7660ガット




ステータス変動


薬草知識
熟練度が25.3まで上昇。
熟練度が20を越え、ステータスボーナス 最大HP+10

3LvUP
最大HP+30
最大MP+15

力が+4
重量限界+200

耐久が+2
最大HP+10

素早さ+4
移動速度、回避率上昇

魔法力+3
最大MP+9

器用さ+2
製作系技能成功率UP
弓の攻撃力+



現在ステータス

 ●シオン=ラーク
 
 ・LV  5

 ・称号 ”Fランク傭兵”(Allステータス+1)

 ・HP 120/120     ・MP  66/66
 
 ・力   9     ・耐久   7  ・魔法力  12

 ・敏捷  10    ・器用さ  11

 ・装備  杖(両手)(魔法力+5)
      弓(両手)(弓術使用可能)
      皮のよろい(耐久+6)
      皮の脛当て(耐久+2)
      皮の手袋 (器用さ+1)

 ・所持重量 781/2200

 ・所持金  7660ガット

 ・所持技能 薬草知識   (25.3)調剤(9.1)   魔法素材知識(0)

        一般魔法具知識(0.2)  鉱物知識(0) 魔物知識(2.7)

        魔物素材知識(2.0)

        基本魔法   (13.1) 弓術(23.2)   体術(19.7)

 ・技能限界 95.3/1050                            」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

ステータスの表記方法を変更。

技能補正はそのままステータスにプラスされ、
装備品補正は表記しないようにしました。




[12333] 第二十三話 釣り日和
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/12/03 06:15
げ、もう朝か。

鞄洗いに時間をかけすぎて、あんまり寝れてない。

それだけの時間をかけても、未だに鞄にはしつこく獣臭さと血の匂いが微かにこびり付いている。

洗剤があれば取れたんだろうが、こんな時代でそれを期待するのは酷だろう。


短時間の睡眠でもステータスは回復するってのが分かったのがせめてもの救いか。

……もう絶対匂いのキツイ物入れない。




それはそうと、そろそろギルドに行こうか。

ボルドーさんの説得の成果を知りたい。

グレイが反省してくれていると嬉しいんだが。






……



「あー、すまん。まだ説得できてねえ。
昨日、仕事帰りにヤツと話をしてみたんだが、
あの野郎、弟子ができてはしゃぎすぎてらあ。
ろくにこっちの話を聞いてやしねえ」


結果は芳しくないか。
さて、どうしよう。

できるだけ禍根を残したくないんだけど。

「ありゃすぐには、無理かもしれんな。
暫らくグレンと会わないほうが良いぜ?
あいつも何日か間を空けりゃ、頭も冷えんだろ」

冷却期間を置く、か。

先送りにするのは不安だが、現状良い手が浮かばない。
それしかないか。

「いえ、そういうことなら仕方ないですね。
3~4日は訓練所に立ち寄らないようにします」

「ああ、それがいいだろうな」


まぁ、説得できなければそれでも良い。
必要最低限の実戦に必要なスキルは覚えたしな。

といってもまだ結論を出すには早い。

まずはアドバイスどおり間を空けよう。

これから数日間はクエストしながらレベルと技能を上げることに専念するか。

「それじゃ、俺は仕事に戻るぜ。
何かあったら連絡する」

「手間を取らせてすいません、今度酒でも奢りますよ」

「なあに、いいってことよ。
ギルドとしても、お前さんに潰れられたら損失でけえしな。
ま、奢ってくれるってんなら遠慮はしねえ、うまい酒を頼むぜ?」

「はい、任せてください」


ボルドーさんと別れて、依頼受付に戻ってきた。

それじゃ、クエスト一覧を拝見して、と。

あれ? 牙ウサギ討伐が残ってるぞ?


「あの~、牙ウサギの肉の依頼がまだあるようなんですが、
昨日俺がこの場所でかなり獲ったのに、同じ場所でまた狩ってもいいんですか?」

「ああ、牙ウサギは一般動物の変異種だから大丈夫です。
幾ら倒しても他のウサギから変異して、また生まれてくるんです。
逆に放って置くと、さらに上位のランクに変異してしまうので逆に危険なんです。
むしろ定期的に全滅させたほうがいいくらいです」

あ~、そういうもんなのか。

「個人的には、お肉が美味しいので消えないで欲いんですけどね?
こういう常時依頼でギルドに納められた物は、
商店に卸された後に余った分を職員は安く買えるのでお得なんですよ」

彼女は、昨日のお肉はあなたでしたか、ありがとうございますと付け加えた。


……窓口の人の意見は置いといて。

昨日の今日で、すぐにウサギを狩る気はない。



ん~、少し遠出をしてみるか。
今回は時間を空ける必要あるし。

勿論安全な範囲で、という条件は必須だけど。


というわけでこれなんてどうだろうか。





……
………




街から歩いて2日ほどの距離にある川辺に到着した。
今回も移動は走りだから、実質は一日ちょいってところだけど。

今回の依頼は魚釣り。

内容は簡単、説明するまでもないがこの川にすむ魚を釣ってくること。

勿論依頼が出ている以上、ただの魚じゃない。
立派に魔物に分類されていて、Eランクがついている。

このティラキアという魚、ネーミングが似ていることから想像がつくかもしれないが、
コイツは地球で言うピラニアだ。

地球とこの世界は、どこかで繋がっているのかこういうネーミングの類似点はたまに見つかる。
だからこそ帰る希望も見出せるってもんだがね。

このティラキア、凶暴な肉食魚で生息地域に入った生き物を食い散らかし、あっという間に骨にしてしまう獰猛な魚だ。

ここまではほとんどピラニアと同じ。

コイツの不思議なところは水生動物を食べないこと。
まぁ、そうじゃなければ近隣の魚類は全滅してしまう。

強さ的にはFランク並の雑魚なんだが、万が一にも水中に入ってしまうと、一斉に仲間が集まってきて喰らい付く。
絶対に水の中に入らないこと。
もし入ってしまったら、噛み付かれながら無理してでも陸に上がること。

と、ここまでが依頼時に受けた説明。



今回はこの魚を10匹釣る。
別に生きている必要はなく、食用でもないらしい。

今回は専用に魚籠を用意した。
生臭い鞄など願い下げだ。



ところでこのティラキア、釣るのメチャ楽だ。

さっき1匹釣ったんだが、虫やミミズを付けて川に落とすと10秒前後で喰らいつく。

後はそれを引き上げれば完了。

あっという間に終わる?


いやいや、そんな簡単なら依頼にはならない。

そこからが本番だ。

明らかに慣性を無視した動きで宙を跳ねると、そのまま噛み付いた。
なんと、空中を泳いだのだ。

吊り上げた後戦う必要があるようなのだ。

まあ、はっきり言ってすごく弱いし、一匹ずつ戦えるから本番って言うほどのこともないんだけど。
真っ直ぐ向かってくるから叩き落とせば終わるし。






途中で一回足を滑らせて川に落ち、歯形だらけになるアクシデントもあったが、
無事に十匹集まった。

集まったが、まだ続ける。


一匹ずつしか出ない弱いティラキアはレベル上げに最適だ。

これで帰るのはもったいない。

ウサギと違って、こんな凶悪な魚乱獲してもちっとも良心痛まないし。










おし、レベル上がった。

これで今日2回目だ。

釣った数は50前後といったところだ。



ん、あれは……?


上流で何か白いものが暴れながら流れてきている。

大量のティラキアが集って、喰い付いてる。


集られてんのは、ありゃ犬か。
ご愁傷様、これも自然の摂理だと諦めて……?


「たす……ゴバ、ガハッ…て……」

って、あいつ喋ってるよ!
……もしかして獣人とかそういう種類の『人』なのか?!


やば、助けなきゃ。









[12333] 第二十四話 釣り日和その2
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/12/13 22:58
流れてくる犬っぽい生き物を使っていた釣具を使って引き寄せる。

よしっ、うまく引っかかった。
針が刺さってしまったが、まあ許してもらうしかない。
死ぬよりはましだろう?

このまま引き寄せて……。



お、重ッ。

だめだ、糸が切れる。

所詮はただの釣り糸、大型魚用の専用物という訳でもないし、現代のものほど丈夫でもない。
耐え切れずにプツリと切れてしまった。



……あ~、くそ!

痛いだろうが覚悟するしかないか。

岸から助走をつけて……。

幅跳びのように跳躍、着水した。

水中に入るとすぐに目標に向かって泳ぐ。

ティラキアたちが寄ってきた。

無視して泳ぐ。

喰い付かれた。

無視。

更によってくる。

無視。もう少し!

喰い付かれ……。







よし、掴んだ!
既に意識は無くぐったりしている。
暴れないだけ良いが、まだ生きてるだろうか?

後は戻るだけ……?!

痛ででででで!

其処を狙うのはあんまりだろう?!

うぎやぁあああ!!






な、何とか陸に上がった。

急所をアタックしてきた不届き物を文字通り叩き潰すと、素早くポーションを3本喉に流し込む。

体にくっついていた分は自分の体ごと地面に叩きつけて息の根を止めていく。


一通り取れたことを確認すると、犬に集っているティラキアを両拳で挟み潰すように殺していく。
俺みたいに傷が残らないわけじゃないから無理に引き抜かず、慎重に歯を外してやった。

後は、さっき引っ掛けた針と絡まり気味の糸を外してやる。






遠目や泳いでるときはそれどころじゃなかったんで分からなかったが、確かに亜人っぽい。

二足歩行できるような体と、それにあわせた服と皮鎧を着ている。
背丈はだいたい140センチ程だろうか。


「おい、生きてるか……?」

げ、息してない!

脈は……こっちはあるか。

気道を確保して人工呼吸を何分か繰り返す。

体つきが人に似ていてよかった。
まるきり犬だったら、気道の確保の仕方も分からん。

「ゲハッ、ゴボッ、グヘッ!」

ようし、水を吐いた。
ひとしきり咽た後、なんとか呼吸を再開してくれた。

でも、安心するのは早い。
噛まれた箇所が多すぎる。
このままだといずれ出血多量でお陀仏だ。

口を無理やりあけてポーションを……
駄目だ、むせて吐き出す。

たたき起こしてでもコイツにもポーションを飲ませないと。

顔を手で張りながら呼びかける。

「おい、起きろ!
このままだと死ぬぞ!」

「……ぅ、痛…」

ゆっくりと目を開ける犬。

だが、意識が朦朧としているのか反応が薄い。

ええい時間が無い、無理やりにでも飲ますか。

「いいか、よく聞けよ。
出血がひどい、このままだと確実に君は死ぬ。
だが、これを飲めば助かる。
無理なら口をあけるだけでも良い」

声が聞こえたか、何とか少しだけ口を開けた。

わずかに開けた口にゆっくり回復ポーションを流していく。

4本目で完全に出血か止まり、6本目で抉れた傷が目立たなくなり、
9本目を飲み終えたときにはもうただ濡れている様にしか見えなくなった。

飲み終えると安心したように、気絶してしまった。


9本も使うなんてな。
回復手段が無ければ確実に亡くなっていただろう。



……何とか助けられたか。

さ、焚き火でもして起きるのを待つか。
体を温めてやらんと風邪を引きかねない。





……



意識を取り戻した彼(?)は、さきほどのことを覚えているのか、暴れたりすることは無かった。


「いやー、おかげで助かったッス。
おいらはクー・シー族のラエル。
必ず恩は返すッス」


「生きてて何よりだ。僕はシオン。
君は悪運が良いね?
もう少し助けるのが遅かったら確実に魚の餌にだったよ」


それにしてもクー・シーか。
コボルト系の獣人だと思ってたんだが、違ったみたいだ。

妖精族でその名前ということは語感的には……。

「クー・シーって聞いたこと無いんだけど、ケット・シーの犬版みたいなものかな?」

「確かに同じ妖精族ッスけど、あんな気まぐれで自分勝手な一族と一緒にしないで欲しいッス!!
クー・シー族は、恩義を忘れない義理堅い一族ッスよ」

「あ、ああ。ゴメンゴメン、今後は気をつけるよ……」

どうやら怒らせてしまったようだ。
どうにも相手の気にするポイントがわからない…。

ケット・シーはここにもいるんだな。
もしかしたら、地球にもクー・シーという妖精は居たのかも。
いまさら調べようが無いが。

「それにしても一体どうやったんスか。
おいらの傷、ほとんど無くなってるンスけど……。
まさか、あんた教会の司祭様ッスか?」

「ああ、そういう訳じゃないんだ。
さっき飲ませた薬があっただろう?
これを何本か飲めば大抵の傷は治るんだ」

といって、鞄から取り出すように見せながら未使用のポーションを取り出す。

「……それってもしかして、ギルドで売ってたあの馬鹿高い薬ッスか?」

お、知ってるのか。
どうやら普通に店に並んでるようだ。

「よくこんな馬鹿高い物を何本も持っていたッスねぇ。
おかげで助かったんスけど、なんか財力の違いを見せ付けられてるみたいで、ちょっと羨ましいッス」



……馬鹿高い?

「ちょっと聞きたいんだけど、これって君が見たとき幾らだったんだい?」

「おかしなことを聞くッスね。
えーと、確か一本10000ガットほどじゃなかったッスか?」



ギルドの値段設定はどうなってんだ?

……幾らなんでも10倍はひどい。







[12333] 第二十五話 釣り日和その3
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2010/01/13 20:03



しかし、10000は原価的に考えてかなりひどいな。

ギルドというブランド力での宣伝、あんまり市場に回してないから希少だという点で見ても、
ちょっと値がつり上がりすぎでいる。

しかも製作者には10%しか入らない。
これはヒドイ。

……といっても、この感想は現代っ子の俺の考えである。

この世界の物価、市場の価格変動などを把握していない現状、
これが適正である可能性だってあるのだ。


今判断するのは早計だろう。

後でギルドの言い分も聞いてみないと始まらない。





それよりも、先に聴いておかなきゃならないことがある。

「まぁ、薬のことはとりあえず置いておこう。
それよりも、一番重要なことを聞いてなかったね。
なんであんな目にあってたんだい?」


「う、そうッスね。
助けてもらったんスから当然原因を話しておくべきだったッス。

……実は情けない話なんで、あんまり話したくないんスが」


長い話になりそうだ。

その間に魚を頂こう。

ラエルが気絶している間に、クエストでは必要ない過剰分を焼いていたのだ


「ラエル、君も食べたらどうだ?
大怪我してたんだから血を作るためにも食べた方が良い」


俺は栄養なくても平気だけど、大出血したラエルには必要だろう。

ティラキアは骨ばっかりだし味気ないが、食えないわけでもないし、不味いわけでもない。


「あ、いただくッス。

見当はついてるかもしれないッスが、おいらギルドの傭兵ッス。
今回こんなところで死に掛けてたのも依頼が原因によるものなんス」


やっぱり、案の定同業者か。

ギルドの薬の値段を知ってからな。
予想はしてた。


「おいらはさっき言ったように妖精族なんスけど、おいら達妖精族はほとんどの種族が手先が器用なんス。
多少例外はあるんすけど、おいらも例に漏れず器用さとすばしっこさには自身あるッス。

だから、トラップの解除とか忍び込んだりだとかの訓練を受けて、
調査だとかの依頼を重点的に受けるようにしてるんス。

今回の依頼も例に漏れず、調査の依頼ッス。


学術都市に魔法学校があるは知ってるッスよね?

ここから上流に少し行ったところにある、そこの所属研究員の個人研究室があるんス。

定期的にそこに住んでる研究員から連絡や研究報告がくるそうなんスけど、ここ最近連絡が途絶えてるらしくって。
それで、様子を見に行く依頼が来たッス。

どうやら結構危険な研究してたみたいで、連絡が途絶えた時点で望み薄なんスけど、
生きてても死んでても、調べないことにはどうしようもないってことで、
ギルドに調べて欲しいって依頼が来てて、おいらがそれを請けたんス」


なかなかに難易度高そうな依頼だ。

にしても、依頼内容まで詳しく教えてもらっちゃって良いのかな?

そういえば、俺もギルドに加入するときに仕事に関する守秘義務のことは触れなかったし、
このくらいの文明レベルだと、詳しく設定されてるわけじゃないのかもな。
もちろん、依頼にもよるんだろうが……。


「ちなみに依頼のランクは?」

「Cランクッス。」


うわぁ、この犬の人強っ。
俺より3ランクも上だよ……。






「オイラは何時も、大抵の依頼は下調べをしっかりして準備を怠らなきゃ特に問題無くこなせるんス。
ただ、今回は時間もなかった上、余計なお荷物に足を引っ張られてしまったッス」

「お荷物って言うと?」

「魔法学校から派遣されてきた魔法使いッス。
なんでも、傭兵に研究資材や研究成果を横流しでもされたら一大事、
盗まれないように監視役を同行させて保険をかけておきたかったらしいッスね」


……そんなことするなら、最初から依頼なんかしないで自分達で行けば良いのに。

「ギルドは信用していても、所属してる傭兵は信用ならないってことじゃないッスかね?」

おっと、考えを読まれてしまった。
顔に出てたかな?

「まぁ、とにかくそいつが至る所で足を引っ張りまくッたッス。

目的地に着くまでの道のりから文句ばかり。
貧乏くじ引かされただの、こんなこと時間の無駄だの、相当うるさかったッス。
しかも体力不足で移動に余計な時間食うし、踏んだり蹴ったりッスよ。

まぁ、正直ここまでは我慢できなくもなかったんス。

極めつけは目的地についてからなんスよ!」


おいおい、まだあるのか。
運が悪かったというか、災難だなぁ。



「研究所についたおいらは、まず正面から入ろうとしたんス。
正式な使者ッスから、表から堂々と入れるはずだったッス。
正規の手段で入れば警報や罠も素通りできるはずッスからね。


……でも、入り口がふさがれてて入れなかったッス。
どうも裏側から物理的に塞がれてるらしくって、押しても引いてもだめだったッス。


だから、仕方無しに裏から入ることにしたんスよ。

お荷物の研究員を入り口に待機させて、先に侵入者用の罠を解除して回ってたッス。

ところが!
あいつ勝手に後を追ってきてて、更にオイラに声も掛けずにうろつきまわってたッス!!

おかげで至る所でトラップが発動して、傷だらけのボロボロッスよ?!
おまけにその衝撃で防衛用のゴーレムまで動きだして!!」


……呆れて何も言えん。

学校側も、もう少し分別あるヤツを付けろよなぁ。
これは他の誰であっても失敗するだろう。

せめて一人(一匹?)でなければ、足手まといの護衛役とトラップ解除役の分担ができたんだろうが。


「仕方なく、慌てふためく馬鹿を適当な部屋に叩き込んだ後、囮になったッス。
依頼の成功条件に同行者の生存が入ってなかったら、正直見捨ててたッスね。

おいら一人なら十分逃げ切れる筈だったんスけど、ゴーレムがまた別のトラップを誘発してて、
研究の排水路に落とされたッス。

それだけならよかったッスが、落下中にゴーレムに一撃くらわされちまったんス……。

罠でもともと満身創痍だったオイラはそのまま抵抗できずに排水路を押し流されて、今に至る訳ッス」


あ~、あれって齧られた傷だけじゃなかったんだな……。

当然といえば当然だ。
俺でも何とかなるティラキアを相手にして、あんなザマになってるようじゃ、
Cランクなんて取れない。

おそらく、それだけ罠とゴーレムの一撃が響いていたのだろう。
長距離を流されて更に体力を磨り減らしたこともあるしな。


「そんな訳で、お荷物君を迎えにもう一回行かなきゃならないんスよね……。
もうほっといて帰りたいッスけど、失敗するだけならまだしも、同行人まで見捨てたとあっては信用がた落ちッス。
違約金も馬鹿げた料金になりそうッスから……」

食料も置いてきてないからそろそろ行かなきゃなんねんス、と嫌そうにつぶやいた。



さて、俺はどうしよう。

このままだと高確率で彼は死にそうだ。



時間はあるが……。




駄目だ、見捨てられん。


「乗りかかった船だ、手伝うよ」

「え?!
助けてもらっただけでもありがたいのに、
この上そんなことまでさせられないッスよ!」


「いいんだ、気にするな。
せっかく助けたのが無駄になっても困るしね」


それに上位のクエストの難易度を確かめる意図もある。

ランクの差による自分との実力差も見ておきたい。

同行した馬鹿をおとなしくさせる役ならそこまで危険もないだろうしな。

「とは言うものの僕は傭兵としては新人だから、
あまり戦闘で役に立つかは分からない。

でも、負傷したときにさっきの薬を提供することぐらいはできるし、
もう一人の足手まといに余計なことをさせない程度のことはできる。
大丈夫、迷惑はかけないさ」


葛藤しているのか、喉の奥でグルグルと唸りながらうろうろする。

足手まといが増える可能性も考慮してるんだろうが……。






……待つことしばし。

「……わかったッス。
ただし、絶対に無茶しないで欲しいッス。
恩人に死なれでもしたらクー・シー族の名折れッスから」



さて、どうなることやら……。








[12333] 第二十六話 釣り日和その4
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2010/01/15 20:31

俺達は、上流に向かって移動していた。

未だにモンスターには出会わない。

先導しているラエルが魔物の匂いを感じて、相手に気付かれる前に避けているらしい。




1時間ほど歩いただろうか、急にラエルが立ち止まった。

「どうしたんだ?」

「あ~、今更言うのもなんなんスけど…。
シオンさんの戦闘スタイルを聞いてなかったッス。
サポートに徹するって話ッスけど、やっぱり聞いておきたいッスね」


あぁ、そういうことか。
今になって気付いたわけだね…。

「いや、先にこちらから言うべきだったね。

遠距離では弓術、中距離では初級の呪文と、あと近接では格闘が使える程度だよ。
正直格闘より弓の方が自信があるから遠距離の方が得意だね」

なにせスキルを使えば百発百中だ。
これはかなりのアドバンテージだろう。

ま、飛んでくる矢を叩き落とせるようなことができる相手にはちゃんと当たるか分からないが。


薬については言う必要はない。

何より戦闘スタイルには全く関係ないしな。


「後衛向けのオールラウンダーッスか…。
因みにオイラは短剣を使っての近接と投げナイフを投げての中距離戦闘の、
前衛向きスタイルッスから偶然ッスけど結構相性は良いみたいッス。

それに、今オイラは近距離戦しかできないッスから、よけいに好都合ッス」

どうやら、逃走中にゴーレムに対する足止めで投げナイフを全部使ってしまったらしい。


「無駄だと分かってても、攻撃しないことには狙いがこっちに向かないッスから」

つまりは結局お荷物君のせいだということだ。

つくづく迷惑なヤツだ。


ゴーレムの素材は鉄。
ファンタジー系のもので言うと、いわゆるアイアンゴーレムってヤツだ。

相手の素材の問題で、折れてるかもしれないが研究所内に行けば回収できる『かもしれない』とのこと。

……あまり回収は期待しない方が良さそうだな。


俺の手持ちのダガーは投げて使うには重心が悪いらしく、渡しても首を振って断ってきた。





……
………


「まずいっスね……」


上流に向かうこと半日。

もうすぐ到着、というところで俺達は足を止めていた。

「今までみたいにやり過ごせないかな?」

「魔物達が居るのが入り口に近すぎるッス。
しかもまるで離れる気配がないッス」

ちょうど俺たちが入るときに居るなんて、間の悪い。


「濃い花と獣の入り混じった匂いがするッス……。
ここいらの魔物でこの匂いをさせてるのは、多分花雀っすね」


「匂いで種類まで分かるのか。
なんていうか、すごいね」

「いやいや、あらかじめ下調べをしてなきゃわかんないッスよ。
ギルドの魔物図鑑に特徴が書いてあったのを丸暗記してるだけッス」


それでも十分すごいよキミ。

……次から俺もある程度下調べしようか。


「あいつらはFランクの雑魚ッスから、倒しちまうのが手っ取り早いッス。
オイラが突っ込むから、弓での援護お願いするッス」

「わかった」


弓の射程ギリギリまでゆっくり近づいていく。

雀というには大きすぎるが、鶏ぐらいの大きさの鳥が十数羽居るのが確認できた。

弓を引き絞る。



「いつでも良いッス」

「じゃあ行くよ!」



今回スキルは使わない。

ターゲットを決めてから、弦を離すと矢が一直線に空気を裂いていく。

直後、ラエルが放った矢を追うように地を駆けた。

こちらの矢が最初の獲物に刺さるとほぼ同時に、
最も手近な位置に居た一匹を短剣で刺し、抉った。

その間にもどんどん矢を放っていく。

ラエルはそのまま群れの中に飛び込むと、次の鳥を引き裂く。

一撃で一匹ずつ着々と数を減らしていく。


…ちなみに俺は当たり所が悪かった最初の一矢以外では、一発で倒せていない。

命中率は5発撃てば3発は当たる程度。
まぁ、スキル無しだとこんなもんだ。

当たったやつは動きが鈍くなって悶えてるし、役に立ってるんだから別に良いだろう。


因みに何故か誤射はない。

密集しているハズなのに、狙ったヤツ以外の他の鳥にも当たってくれない。

もしかしたらターゲット以外には当たらないのかもしれない。





数が5を割った時、一匹がこちらに向かってきた。

慌てず矢を二発放つ。


クソッ、当たらん!


今までは、こちらに向かおうとしたヤツをラエルは優先して倒していたのに、
数が減った今になって、通してしまうことはないだろうに。


……こりゃ、わざと通したかな?


が、一匹なら特に問題はない。

弓を離し地に落とすと、そのまま拳を叩き込み止めとばかりに踏みつける。


ラエルのほうを見ると、すでにラエルも最後の花雀に爪で止めをさしていた。

あっちにはまだ3匹居た筈なんだけどな……。

「いや、さすがだね。やっぱり強いね」

「そんなことないッスよ、最初はシオンさんが援護してくれてたッスから。

それにしてもシオンさんも結構ヤルじゃないッスか。
遠距離が得意って言ってた割には、近距離に移る時の対処も良かったし、
これでギルド所属したてだなんて、言われなきゃ絶対想像出来ないッスよ」


その言い草、やっぱり試してたな……?

俺が倒せなくても自分で駆けつけられる自信あっての事だろうが、一言あってもよかろうに。

戦いながらこっちを見る余裕まであったのはさすがか。

「まだまだだよ、やっぱり圧倒的に経験が足りてないから。
そう言ってもらえるのは嬉しいけどね。

それで、何処が入り口?」

あたりを見渡す。

幹が白くなり葉はすでに無く、折れ朽ちている樹木が乱立している。
枯れた森って表現が一番近いだろうか。

「ここッス」


……え?

ほんとにここ?

辺りには朽木と穴ぼこだらけにされてしまった地面しかないが。


「性格にはこの樹ッスね」


そう言ったのは目立たない完全に朽ちた樹の前だった。

元は相当な大樹だったのだろうそれは、残っている幹の部分だけでも相当な大きさだ。


「これをこうして…」

ラエルは懐から水晶の原石のようなものを取り出すと、それに近づけた。


すると、水晶は淡い光を放ち始めた。

それに共鳴するように、折れた樹も同じ光を纏いだす。

その光が少しずつ強くなっていく。




……なんというか初めて魔法的な現象というか光景を見た。



それを持つラエルが皮鎧を着た犬妖精というのも相まって、
幻想的というのだろうか絵画の一枚のような雰囲気をかもし出している。

俺はそれに見とれてしまっていた。




十数秒も経っただろうか。

淡い光が収まっていく。




両方の輝きが完全に無くなった。


そして、それと同時にパカッという間の抜けた音が響いた。

……なんだ今の音?

音の発生源を探してきょろきょろしている俺を尻目に、
ラエルが木の幹に近づいて手をかけた。

そしてそれを上に引っ張ると、幹が蓋を開けるように外れる。

中からは梯子が覗いている。







……幻想的なら、最後までそうしてくれても良かったんじゃないかなぁ。
例えば幹の部分が光になって消えるとか、さ。





「おーい、早く行くッスよ~」

ラエルは既に梯子に足を掛けている。



あ、ハイハイ今行きます。


矢を回収し、花雀の素材をこっそり剥いでからそれに続いた。




―――――――――――――――

あとがき

一月も放置してしまいました…。


年末年始の忙しさは異常



[12333] 第二十七話 地下研究所
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2010/01/20 21:22



梯子を降りると、辺りは真っ暗だ。

ラエルに許可を取ってから『ライト』で辺りを照らす。
周りは何かで補強されているわけでもない、むき出しの土壁。
何も考えずに地面をくりぬいたかのようだ。

そして一定感覚で黒い棒が刺さっている。

おそらくは、研究場所の確保のために新しく作り出した地下洞窟。


……ここ、大丈夫なのか?

「ラエル、補強の跡が見受けられないが、
ここは崩れたりしないのかい?」

「あれ、見たことないッスか?
アレでちゃんと補強はしてるッスよ」

示した先は黒い棒。

「こいつは土の属性がこめられたアイテムで、
地面に刺すとその周辺の土が属性を強められて堅くなるッス。
結構安価な大量生産品ッスよ」

そんなのもあるのか。
魔法のアイテムってのは便利なもんだな…。

「安全だってことは理解したよ。
それで、これからどうする?」

「一応ほとんどの罠は解除してあるんスけど、念のため先行するッス。
シオンさんも不用意に物に触れないよう気をつけて欲しいッス」

「わかった」

暗く、狭い道を『ライト』の光のみを頼りに進む。

照らされている道の端には、ときおり砕けた石像のかけらや、
動物を模した像が転がっていた。

「なんか、動きそうだ」

「最初に入ったときに壊したッスから心配いらないッスよ。
残ってるのはイミテーションッス」

やっぱりガーゴイルだったか。

「魔物とか出たりはしないみたいだね」

「当たり前っス。
そんなの居たら、おちおち研究も出来やしないし、
なにより、生き物が生活してたらそれだけ汚れちまうッスからね。

誰も、臭いところで生活したいとは思わないっスよ」

はぁ、なるほどねぇ。
そりゃあ、まあ確かに。


それからは、お互いに暫らく無言で歩き続けた。
自分達の足音と、衣擦れの音だけが無音の空間に響く。

『ライト』が切れたときに唱えなおした時の声が妙に大きく聞こえた。




数分も進んだ頃だろうか。

天井や道の幅が目に見えて高く、広くなり、
地面や天井、壁の材質が土から石材へと変わった。

先行しているラエルが足を止める。

「ここから先は更に罠が多いっス。
解除していても危険が残ってたり、解除しようが無いのもあるので注意するッス」

ああゆうのッス、と指されたところには、
ぽっかりと床の真ん中に開いた穴。


落とし穴か。
既に作動させてある。

下は定番の棘か?

興味本位で下を覗く。



……何かが、黒々としたものが底で蠢いている。

不思議に思い、ライトの光をそちらに飛ばす。
そこには、緑色をした奇妙なものがうぞうぞと動いていた。

蛇のようにも見えるが、目も口もない。


なんていうか、おぞましい……。

見るんじゃなかった。

「あれは?」

「おそらく吸血植物っスね。
アレだけ沢山あると、10秒あれば巨人だって干物になっちまうんで、絶対に落ちちゃ駄目ッスよ。」

言われなくとも。

慎重に壁の端を歩いて避ける。

こんなのがまだまだ続くのか。
気が滅入ってくるな……。



……



罠の道は更に続いた。
トゲの床に始まり、壁から出てくる槍、吊り天井に単純な虎バサミなんてものもあった。

さすが、高位クエストというべきか。
どれも作動済みではあったが、自分一人で此処に来ていたらとっくのとうに命を失っていただろう。


これを、全部ラエル一人が解除したのか?

だとしたら、どれだけの時間がかかったか。
どれだけ神経をすり減らしたか。

それだけで彼を尊敬できる。

それにしても、こんなにもトラップを作るとは……。

罠の作成コストがすさまじいだろうに。
そんなに此処の研究を漏らしたくないのか?

それにやけに広い。
よくもこれだけの空間を地下に作り出したもんだ。


「そろそろあいつを置いて来たところにつくッス。
たぶん、ゴーレムが居るのもこの辺の筈ッスから、これまで以上に慎重に行くッスよ…」

「了解」

道なりに壁や床が所々大きく崩れ、抉れている。

ゴーレムの暴れた跡だろうか。
周りへの被害がが凄まじい。

いくつか通路も潰れて通れなくなっている

これ、普通なら絶対に崩れているぞ。

黒い補強棒も、所々折れているものが見つかる。

防衛用のゴーレムが防衛場所を破壊するな。
これでは欠陥品じゃないか。


更に奥へ。


破壊跡だらけの場所で、被害があまり集中してない場所がある。
その周りには、大量のナイフが転がっている。

光で照らされた先には、ちゃんとした木製の扉が付けられており、
部屋があるのが分かった。


「あそこかい?」

「そうッス。
囮になったときに使ったナイフが結構落ちてるッスね。
いくつかは使えそうッス。

それじゃ、とっとと彼を回収して帰るッス」

ノブを捻る。
鍵がかかっているのか、動かない。

ラエルがコンコンとノックする。

「お~い、迎えに来たッスよ。
あいつはもう撒いて来たっすから、
開けて欲しいッス~!」

「い、いいいい嫌だ!
僕は、安全だって言うから来たんだ!
あんな、あんな目に合うなんて聞いてない。
絶対に僕は此処から出ないぞ!」

「そのままじゃいずれ飢え死にッス。
早く出るッスよ!」

「僕を出したきゃ、あいつを倒して、
この場所を完全に安全にしてからにしろ!!」


……。

なんて七面倒くさい奴だ!

もう仕方ないだろ、強行突破してしまおう。

「もうここの扉、無理やり鍵開けできない?」

「難しいッスね……。
通常の鍵なら早いんすが、ここは駄目ッス」

ノブの辺りを見る。

鍵穴がない?


「見ての通り、通常の鍵じゃなくて魔法で施錠されてるッス。
キーワードを知ってる施錠主か、強制開錠の魔法を使える高位魔法使いでないと……」

無理って訳か。


「いや、方法はあるよ」

ちと乱暴になるが、別にかまわんだろう。


「無理やりこじ開けるから、ちょっとどいて」

少し助走をつけ、全身に力を込める。

そのまま、全体重をかけて扉を殴り、蹴り、体当たりをする。

ミシッ、ミキッ、と枠がゆがむ。

所詮は扉は木製。
殴り続ければいつかは壊れる。
攻撃したこちらにはダメージがこないからできることだが。

隣のラエルが目を丸くしている。

まだまだ!

ビキッ、バキン、と何かが壊れる音がする。

ヒィッと中からの悲鳴。

知ったことか。

そのうちにバギャン、と致命的な音と共に蝶番ごと木片が内側へ飛んでいった。

「よし、開いたよ」

「開いたって言うか……。
手とか大丈夫なんスか?」

「擦り傷一つないよ?」

犬顔のラエルが、驚きながら呆れるという、
なんとも珍しい顔をしているのが可笑しかった。






[12333] 第二十八話 地下研究所その2
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2010/04/06 23:07


破った扉を跨ぎ、部屋の中に踏み込む。

ここは、実験室だろうか。

試験管やビーカー、釜などが有り、草を煮詰めたような独特の匂いがした。
なんだか、理科の実験室を思い出す。
それよりはずっと小さい部屋だが。

ただ、実験具の形はどこか歪んでいるというか、
元居た自分の世界に比べると若干異なる造形をしている。

部屋を見渡していると、灰色のローブを着たひょろ長い若い男が部屋の隅で震えていた。
こいつが一緒に来た魔法使いかな?

「さて、ラエル。
これからどうする?

とりあえず最低限の同行人の救出は果たしたから、
クエスト失敗を承知で帰るっていうのも一つの手だけど……」

「装備の回収も出来たことだし、折角だからクエストもこなしちまおうと思うんスが……。
シオンさんは、止めた方がいいと思うッスか?」

「……いや、付き合うよ」

俺も、これで終了してしまうのもどうかと思っていた。

まだラエルの実力もはっきり見れていないことだし。


頑なに動こうとしない魔法使いの、ローブの首元を引っ掴み引き摺りながら部屋を出る。


「はな、離せぇ!
俺はここに残る、残るんだぁ!」

あー、もう。
煩い奴だな。

ゴーレムが寄ってきたらどうする?

相手の服で首を絞めながら引っ張り上げる。

「少し静かにしてくれないか?
音を立てると危険なんだ。

本音を言えば、僕だって置いていきたいけどね。
あんたがいないとどれが研究成果なのか僕らにはサッパリわからないんだ。
悪いけど、無理矢理にでも付き合ってもらうよ」

それだけ言って、手を離す。

何故だ、何で俺がこんな目に……
何でだ、何で……

怨嗟の声を呟く彼を尻目に、地下を進む。






……


「そろそろ地上が恋しいな」

「もう少しの辛抱ッスよ」

そう、もう少しだ。


研究所のほぼ全てを回り、
ほとんどの目標を回収することが出来た。


回収自体に語ることは余りない。

さほど難しいことではなかったからだ。


あらかじめラエルがほとんどの仕掛けを解いて回っていただけに、
順番に部屋を巡るだけで済んだ。

まだ残っている仕掛けがあったので、常に3人一緒に行動する必要はあったが、
危険もさほどではない。

研究の成果は、単純な紙媒体のものから、ケースの中に入った謎の液体であったり、
よく分からない文字の刻まれた石の欠片であったりした。

俺とラエルには全く理解できないものだ。
二人だけで来ていたら、紙の報告書しか分からなかったに違いない。

やたら煩かったが、
結果的には連れて来ておいて正解だったかな。


残る回収目標は一つ。

魔法使い曰く、一番危険なブツらしい。


問題は、それが確実にゴーレムにぶつかるルートを通らなければ取りにいけないということなのだ。

だから必然的にコレが一番最後になった。

今はゴーレムの索敵範囲ギリギリのところまで近づいて、
作戦会議というわけだ。

「一番厄介なトコが残っちまったわけッスが……」

「命令を解除して、攻撃中止させることは出来ないかな?
もしくは動力だけ壊して動けなくさせるとか」

ファンタジーでは定番手段だけど。


「それができたら、あんなところに隠れてない……。
命令解除には命令した者が直接命じるか、『造命術』の高等術である命令解除の呪文を、
命令者以上の魔力で唱える事が必要なんだよ……。
僕は『造命術』の中級までしか使えない……」


「ところが、動力だけ壊すってのも無理そうなんすよね……。
通常、ゴーレムの動力は高純度の魔石で、最も硬い体の中心に収まってるッス。

前に戦ったときは、メチャメチャ硬くて外装にすら傷一つ付かなかったッスから。
アイアンゴーレムを貫けるような手段、持ってるッスか?」


「……無いね」

矢や拳、初級の呪文でどうにかなるとは思えない。
たとえスキルを使ってもだ。

ダメか。

「しょうがないッスねえ……。
結構リスク高いッスけど、こういうのはどうッスか?」




ふむふむ。

なるほど。


二手に分かれて片方が引き付けている内に、
片方が横を抜けて回収。

回収が完了したら回収班はすぐさま出口まで撤退。

足止め班は更に時間を稼ぎ、十分な時間をとったと確認したら、
ラエルが流れてきた排水用の下水に飛び込み逃げる、と。

回収物を確認できるのは魔法使いの彼だけだから、彼は回収班で決定だな。

「発案者ッスから、当然オイラは残るッス。
シオンさんはどうするッスか?」

「僕も残るさ。
回収するのに人数が居てもしょうがないからね」

それにそうしないとラエルの戦いぶりがみられない。

問題はコイツがそれで納得するかなんだが……。

「回収は君一人で行う事になるけど大丈夫?」

「……ああ」

……やけに素直だな?

一人でやるとなると絶対ごねると思ったんだが。

まあいい。

素直なら文句はないさ。


さて、行くか。

ラエルが投げナイフを取り出し、俺は弓に矢を番える。

「それじゃあ、ちょっと離れて欲しいッス。
巻き込まれたら作戦失敗ッスから」

彼が十数メートル離れ、隠れるのを待つ。




上で行ったのと同様、矢が開戦の合図となった。

放った矢はゴーレムに確かに当たった。
だが、刺さらずに弾かれ、地面に落ちる。

やっぱり硬い。

ラエルは短剣を使わず、投げナイフで牽制を繰り返す。

次々に矢を放つが、どれも弾かれ、一つとして傷付けることはできない。

まるで効いてないな。

だが、それでもこちらを攻撃目標にすることには成功したようだ。

ゴーレムの赤い単眼がこちらを向き、鈍く光る。


でかい図体の割には割りと早い。

なぎ払ってきた腕を躱す。

腕は壁を穿ち、石片と砂埃が舞う。

……一撃でも受けたらやばそうだ。

相当に肝を冷やしたが、モーションが大きいから避けられないほどでもない。



よし、このまま引き付けて、できればここから離さなければ。

ゆっくりと、数メートルずつ後ろに誘導していく。

俺をターゲットにしているときにラエルが素早くナイフを回収、
ラエルをターゲットにしているときは俺が矢を回収する。

じわじわと、しかし確実に部屋の前から誘導できている。

このままなら安全にいけるか。




しかし、ここで隠れていたはずのあいつが顔を出す。


そして、こちらを振り返らずに駆け出した。


馬鹿、まだ早い!

もう少し待てなかったのか!

ゴーレムは最優先の命令があるのか、
俺とラエルを無視して一気にあいつに追い縋る。

行かせるか!


『フレアランス』


炎が尾を引いて襲い掛かる。

巨体に対して、こんな火じゃほとんど影響を受けてないだろう。

しかし、狙う場所によってはダメージ以外でも効果があるかもしれない。

俺が狙ったのはゴーレムの単眼。
どういった原理で索敵しているのか分からないが、飾りではないだろう。


どういった効果か、ゴーレムは一瞬動きを止めた。

ラエルもゴーレムの進路に回り込み、短剣を使って牽制している。

このままもっとかき乱す!

炎でありなら、これはどうだ?


新たに『ライト』を唱え、ゴーレムの顔の部分の前まで飛ばす。

数秒だけ動きを止めたが、すぐにさきほどの攻勢よりもずっと激しく暴れだした。

くそ、逆効果か。

だが、その間に5秒のチャージが終わった。

食らえ、『パワーショット』!

矢は通常放ったものと同じ速度ながら、内包する力は数倍だ。
ズドン、と巨体が揺れ、矢が突き立った。

刺さった……?
ダメージが行った!

すでに、魔法使いは目的地に飛び込んだようだ。
姿は見えない。

「すごいッス!
攻撃手段、持ってるじゃないスか!
どうやれば矢で鉄を貫けるんスか?!」

「魔法の応用みたいなものさ。
それにつけた傷は、ほとんど掠り傷だ。
連射できるわけじゃないから、倒せるわけじゃないしね。
それよりも……」

ゴーレムが巨体を激しく揺らしながら迫っている。



「無事に時間を稼げるかが問題だね」

鉄の豪腕が地下を揺らした。


――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


次でようやくこのクエストも終了。
ペースは落ちてますが、こちらもちゃんと書いております。



[12333] 第二十九話 地下研究所その3
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2010/04/06 23:14
……どれくらい経っただろうか。

延々と鉄の巨体が生み出す破壊の嵐を逃れ続けている。



回収が終われば、何でも良いから魔法をこっちに飛ばして合図をし、
すぐにでも逃げる手はずになっているのに。


合図はまだか?

幾らなんでも遅すぎはしないか?

もういっそ待たずに逃げてしまうか?


節約して、あまり使わないようにしていたが、
それでもいい加減MPもなくなりかけだ。

いや、俺はまだいい。

緊張で精神的にはかなり来ているが、肉体的な疲労はない。

だが、普通の人はそうはいかない。

特にラエルは、一度あの攻撃をその身に受けている。

まさに身をもって威力を知っている一撃を避け続けるのは、
精神的にも肉体的にも俺以上の負担がかかっているはずだ。

その動きは既に精彩を欠いている。

特に何をやっても効果が見えない、と言うのも精神的に来る物がある。

このままでは何時緊張の糸が切れるか分かったものではない。

前戦ったときも同じようにスタミナ切れだったのではないか?

このままではジリ貧だ。



……仕方ないか。

まずは。

「ラエル、一旦退いてくれ!」


その声が耳に入った途端に攪乱を中断、こちらの方向に跳ぶラエル。

この咄嗟の判断力と反射行動はにわか冒険者である俺には真似できないだろうな。

そんなことを思い浮かべながら入れ替わるように前に出る。

そして『ウインド』で足止めする。

強烈な向かい風を受けたゴーレムは尚もこちらに進んでくるが、その動きは相応に鈍っている。

更に駄目押しでもう一発重ねがけ。

巨体だからなのか、コイツには『ウインド』がかなり有効だった。
時間稼ぎにはもってこい。


とは言っても、何度も使ってはMPが持たないので今までは使い控えていたのだが。

『ウインド』が重ねがけができると分かったのはけっこうな収穫だった。

『ウインド』は一定時間の経過や、距離を開けたり体の向きを変えたりすると解けてしまうので、
コレだけで時間稼ぎすることは無理だけど。



「ラエル、僕がアイツを引き付ける。
だから、暫らく隠れて休んでいてくれ」

ラエル無しで切り抜ける手は思いついている。

ただ、できれば使いたくはなかったのだ。

だが、すぐに他の手段が思いつかない以上、やるしかない。
ラエルを見殺しにするよりはよほどましだ。

出会って少ししか経っていないが彼の人柄は結構気に入ってる。
死んで欲しくはない。


「……そういうわけにもいかねぇス。
コレは元々オイラの依頼。
そんな無責任な真似、クー・シー族の誇りにかけてとてもできないッスよ」

しかし、人の良いラエルが素直に従うはずもない。
舌を出して、必死に息を整えながもその眼に諦めの色はない。


「そうは言っても、もう限界だろう?
そもそも、君とあいつの相性が悪すぎるんだ。
大丈夫、これでもスタミナは馬鹿みたいに多いんだ。
倒す手段はないけど、何とか撒いて見せるさ」

僕は疲れているように見えないだろう、と言って笑いかける。

「で、でも……」

「いいから任せておけって。
それに、何時までも話してる時間はない。
そんなに気が咎めるなら貸しにしておくから、これからおいおい返してくれればいいさ」

「う……。

……わかったッス。
確かに、これ以上は逆に迷惑になりそうッスね……。
そのかわり、帰ったら絶対に恩返しをするっスよ!」


「大げさだな。
まあいいさ、それなりに期待しておくよ。

それじゃ、早く行ってくれ」

躊躇いの気配を感じながらも、
ラエルの足音がだんだん遠ざかり、けはいが消えた。




さて、と。

『ウインド』が切れるまでいま少しの時間がある。
今の内に準備をしておくか。

ステータスを頭に浮かべ、ポイントを割り振って行く。


魚釣りのクエストついでにレベル上げしておいてよかった
落ち着いたときによく考えてあげようとしていたので、手付かずだったのだ。

世の中何が幸いするか分からないな。




ただ、コレをすると短期的にはステータスに偏りが出てしまう。
今後のステ振りで調整可能ではあるのだけど、あまりやりたくなかったのが正直なところだ。



そして最優先目標を自分にするためにもう一度『パワーショット』を放つ。

MPが惜しいが、これ以外に直接的なダメージを与えられる手段がない。

一時間は攻撃し続けていただろうに、最初の方の矢の一撃以外は目立った傷が見受けられないのだから、
全く、憎たらしいほどの頑丈さだ。


数秒前と比べると、格段に速くなった逃げ足で引き離し過ぎないように距離を保ちながら逃げ出した。




……

そろそろ振り切ったか?

隠れている部屋から顔を出して様子を伺う。

まだかすかに振動と破壊音は聞こえているが、壁を挟んでいるのかひどく遠い感じがする。







……大丈夫そうだな。


十数分ほど引き付けながらあの場所から移動し、今出せる全速力で引き離した。

その後、念のためそのまましばらくこの部屋で息を殺していたのだ。


安堵の息をつきながら部屋を見渡す。

ここはさっき来たな。
紙媒体の研究資料を取ってきたところだ。


おそらく書斎として使っていたのだろう。

本と、よく分からない数式が書き込まれた紙が山積みにされている。

資料も暗号化されているのか、文字すら読めない。



……本、ね。

にやりと頬を緩めて研究資料が抜き取られて穴あきの書棚を見る。

うろつくゴーレムが最奥にもどって待機するまで、暫らくかかりそうだ。


スキルがどうかなんてどうせわからない。

残されている資料に興味はないが、技能習得に使えそうな本を見繕ってみよう。


念のため研究資料には触らないようにしておかなきゃな。


―――――――――――――

あとがき

う~ん、次で終わりそうにありません。

久しぶりに投稿するに当たり今までの文を読み返したら、拙さに身悶えしました。






[12333] 番外編 設定の説明
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/05 01:40
ここから先は彼が移動したファンタジー世界の設定等を説明します。

特に疑問を持ってなかったり、うだうだとした説明がお嫌いな方は必ずしも読む必要はありません。

読まなくても普通に物語は進みます。


設定厨うぜえwきめえwww等と思ってしまう可能性があります。







































これは、主人公の視点でしか語られないため、私の文章力の稚拙さから、

世界観や設定があまり説明できていない、表現できていないための補足説明です。

感想掲示板などで頻繁に出てくる質問に対する説明、

物語を説明するのに重要ではないので省いている部分などを乗せていきます。



注:ここに乗っている事の中には主人公も知らないものが多いです。

  また、本編と二重で説明してるところもあるかもしれません。

  説明した時点でこちらのその部分を削除する予定ですがけし忘れもあるかもしれません。
  その点はご指摘いただければ削除します。



・技能について

上限はありますが、上げるための方法も存在します。
それについては、後々本編に出しますのでここでは語りませんが、
3通りの方法があり、1つは時間さえあればできます。

1、「称号」を得れば技能限界の上限が50上がります。

2、????

3、????


熟練度が10増えるごとに新しいなんらかの能力とステータスボーナスを獲得。

それ以外にも戦闘系技能などは順次攻撃力に補正が入ります。

例えば「薬草知識」だと

0で『素材収集可能』

10で『収集のできる草の種類が増える』、ステータスボーナスは最大HPが+10

等です。

基本的に同じ技能の熟練度をあげても、上がるステータスの種類は同じです。

今の例で言うと

薬草採集をいくら上げても上がるのは最大HPだけ、ということです。



・主人公の技能の熟練度とその他の人

技能は20まで行くと、そのスキルをもつ人たちの平凡値になります。

主人公は持っていませんが、戦闘技能の「剣術」などでいうと

0 剣の構え方と基本動作を知っている。ただし、知っているだけ。

10 剣の振り方が様になってきた。

20 一般兵士になれるころ。やっと剣術が役に立ってきた。

40 弱い相手なら手加減しても倒せる。

60 剣士の中でも精鋭。兵なら、近衛兵とかになれるかも。

80 一流。すでに修練を積むよりも教える立場。

100 剣で戦闘では、ほとんど負けなし。国主催の剣術大会で優勝できるほど。

主人公は100までしか取れないのでここまでですが、一応それ以上もいます。

番外編
120 国最強の剣士にして英雄(笑)

ここまで行くと変態的な強さになります。一人で一軍に匹敵するとかしないとか。
まぁ、本編では出てこない可能性大ですが。

また、これは単純な剣技のみを競ったときで、ステータスの違いや攻撃用スキルの使用などは考慮していない場合の設定です。
ステータス次第で変動はありえます。




・この世界そのもの

この世界では中世ヨーロッパくらいの世界観で動いてます。

魔法やら神聖方術やらがなければほとんど同じです。

貴族もいれば奴隷もいます。

奴隷は所有者の財産でもあるので、一般的にはそこまでひどい扱いではありませんが。

医療は世界観に比べればかなり発達しています。

この世界の人たちの寿命についてですが、
中世ヨーロッパ時代は平均40~45くらいだったようです。

この世界には魔物もいますので、医療が発達していてもだいたい同じくらいでしょう。



10/4
感想で質問があったので追加


・作成系スキル

シオンの作成スキルで作ったものは彼以外の人も効果にあやかれます。
ただ、普通の調合薬はスキルツリーには出てきません。
それは、先生が実験したように、彼の体は大雑把なので、細かい症状用に調整する必要が無いからで、
普通の方法で作れば他の人と同じく、普通のものができます。

ただし、ステータスでの成功判定はありますので失敗するかもしれません。
(町に着いて最初のバイトでは器用さの数値での成功判定に失敗しました)

しかし、彼はあくまでスキルで作っているので、普通の方法で作ろうとしたらただの素人です。
あまり意味は無いでしょう。

そして、彼の作ったものにもその効果はおよびます。
一般人につかっても、毒回復ポーションなら致死毒で無い限りは回復させますし、病気なども同様…。

ようやくチート臭さが出てきました。


10/5

・作成スキルの失敗

作成系スキルで失敗すると材料となったアイテムは全てロストします。
初期の入手が容易なアイテムなら、さほど痛手でもありませんが
貴重なアイテムを素材にした製作で失敗すると洒落になりません。

鍛冶屋等では、失敗しても材料となった鉱物は残るので作り直せば済む話ですが
彼が鍛冶を取った場合、失敗したら跡形もなく消えてしまうので損をするかもしれません。


10/8

・ギルドについて

ギルドとは、国からの支援を受けた何でも屋のような機関であり、
大規模な魔物討伐から、「○○が欲しいから取って来て」のようなおつかいまで
多くの依頼が集まる場所です。

受付などの事務員、教練などをする正式な職員を「ギルド員」と呼び、
依頼を受け、解決する人たちを「ギルドの傭兵」と呼びます。
(別に対人戦するわけでなくてもこう呼びます。)

入るためのテストに合格できる最低限の実力こそ必須ですが、
ギルドに所属しているからといって、戦う必要は必ずしもありません。
単に小遣い稼ぎ程度の依頼しか受けない人、副業のつもりな人、ただの暇つぶし等、
「ギルドの傭兵」と呼ばれる人は、多数存在します。

10/13

・技能の取得

技能を覚えるためには何らかの「習得フラグ」が必要になります。
「図鑑を読む」「熟練者に教わる」「いくつかの下位技能の熟練度が一定数値以上」
などです。

習得しなければいくら反復練習したところで技能熟練度は上がりません。
「技能を取得する」には、そのための行動を起こさないといけません。
もちろん、普通の人と同じように上達することはできますが。


・技術力の問題でこの時代では開発できないものについて

感想で指摘されて初めて気付いたのですが、ファンタジーのお約束として、
その文明力で、どうやって開発してるんだよ。
というものが出てきます。

この世界では、魔法で何とかしているということになっています。

魔法陣などで細かい火力の調節が自由に効くようになっている、
燃料は魔力を込めれば何度でも使える魔法具等を使って作っている、とします。

想定外の設定で、不備が見当たるかもしれませんが、
お見逃し下さい。



11/5

魔物のランクと強さ

魔物にはギルドや国で定められたランクがあります。
ただ、これはそのまま相手の強さに直結しているわけではなく、魔物の危険度のランクになります。

例えばランク対象が毒を持っていたり、疫病を流行らせる原因だったりすると、
たとえ弱くても高ランクを付けられている場合があります。

本編の例でいうと、鳥喰い蜂は強さ的にはFランクですが毒をもっているのでギルドの初心者傭兵、一般人等には危険度が高いのでEランクが付けられています。





―――――――――――――――――――――――――
以下、随時追加予定…?




駄文

技能の募集は終了しました。
自分以外の発想のネタはとてもありがたく、面白かったです。

提供していただいたスキル、技能のうちのいくつかを本編中で登場させて頂きます。

本当にありがとうございました。



[12333] 番外ノ二 習得済み技能
Name: 凡人の種◆84b6463f ID:4fa409a1
Date: 2009/11/05 23:36
ストーリーが進むにつれ、技能もそれなりに多くなってきました。


ここではストーリー中、主人公が手に入れた技能、
それによって覚えたスキル等の中で効果が既に出たものをまとめておきます。

手に入れただけ、まだ効果が出て来ていないものは『?』表記になっています。


技能には10刻みでできることが増えるが、技能の使用に熟練度の補正は受けない物、
10刻みでスキルを覚え、常に熟練度の補正を受けるものの二種類があります。
基本的に知識系は前者、戦闘系は後者です。




技能の使用に熟練度の補正は受けない物



・薬草知識 上昇ステータス(HP+10)

0 薬効が弱い薬草の発見に補正が付く

10 一部の毒草も発見可能

20 薬草の発見種類+







・調剤 上昇ステータス(????)

0 初期の回復ポーションの調剤が可能になる。





作成解禁済み薬剤

レッドポーション(小)    使用者の最大HPの一割を回復する
リフレッシュポーション(毒) 毒を回復する





・魔法素材知識 上昇ステータス(????)

0 一部の魔法素材が採取できるようになる。




・一般魔法具知識 上昇ステータス(????)

0 普通の道具か、魔法具かの見分けが付く。効果はわからない。



・鉱物知識 上昇ステータス(????)

0 鉱山などで、鉄鉱石の埋まっている場所がわかるようになる






・魔物知識 上昇ステータス(????)

0 魔物と動物、亜人の見分けが付くようになる








・魔物素材知識 上昇ステータス(????)

0 Fランクの魔物の、どの部分が素材として使えるかわかる。









――――――――――――――――――――――――――――

10刻みでスキルを覚え、常に熟練度の補正を受けるもの




・基本魔法 上昇ステータス(魔力+1)


0 基本的な魔法を使えるようになる
  『ライト』、『フレアアロー』取得


10 『ウィンド』取得




習得スキル

『ライト』 消費MP2。
      一定時間、光の球を飛ばす。時間は熟練度によって増減。
      初期は10分程。


『フレアアロー』 消費MP4。
          握り拳程の大きさの火を飛ばす。威力は熟練度によって増減。


『ウィンド』 消費MP4。
       自分の数十センチ先から目標に向けて強風を吹かせる。
       持続時間は熟練度により変化。
       初期は3秒ほど。


・体術 上昇ステータス(敏捷+1)


0 素手の格闘時に、攻撃力、回避力に補正。

10 『気合』を取得





習得スキル


『気合』 消費MP8。????







・弓術 上昇ステータス(器用さ+1)


0 弓の命中率、射程に+補正

10 『ロックオンシュート』取得

20 『パワーショット』取得



習得スキル


『ロックオンシュート』 消費MP5。
             スキル使用後の一射のみ効果あり。射程距離内の敵に必中。
             ただし何処に当たるかは指定できない。

『パワーショット』 消費MP8。
          スキル使用後の一射のみ効果。矢の威力を3倍程度強化。
          スキル使用宣言時に5秒間弦を引き続ける必要あり。




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