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[12279] 【習作】ルイズちゃん達と寝不足の技術者才人
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2010/06/06 02:14
皆様、始めまして。
ADFX-01 G-2と書きましてカノーネンファルケンとよみます、作者です。初めてです。
よろしくおねがいします。

このSSは、ルイズが幼少の頃の練習で22歳くらいの工業大学生のサイトを召喚するという内容です。

独自解釈もありますし、
ヴァリーエル家の人々のキャラを掴めてないこともあり、
キャラ改変が著しいです。

そして、恐ろしく遅筆です。

そこらを了承できる人のみどうぞ。



感想をくれると小踊りして喜びます。
誤字脱字、あまりにおかしいと思われる個所は掲示板にお願いします。
誤字脱字に関しては、可及的速やかに対処したいと思います。
設定等の異常は、考える時間が結構要りますので、気長にお待ちください。

ちなみに、修正を加えるたびに補足が雪ダルマ式に増えていく欠点が発露しました。



[12279] 【習作】ルイズちゃん達と寝不足の技術者才人-1
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/09/28 02:47
 魔法が使えなかったから、あらゆる魔法の本を読み漁り、それを試してみた。
 どれも、結果は爆発。お母さまはそれを見て、もう怒ることすらなかった。難しい顔をして、完全に矯正した完璧な詠唱なのにと、原因を探していた。
 私は次の本に取り掛かる。それは使い魔に関する魔法の本。私は何度もその呪文を読み返し、完全に覚えて、本を置く。口の中で何度も反芻して、もう絶対間違えないくらい反芻して、深呼吸する。
 そして、サモン・サーヴァントの呪文を唱えた。

 爆発。

 閃光、衝撃波、砂粒とが私を襲い、泥んこの私をもっと汚す。
「……また失敗ですわ」
「いいえ、ルイズ。成功です」
 お母さまの言葉で、私は初めて爆発した場所を見た。
 人間が、恐らくは平民が、両手と背にパンパンに膨れた鞄を持った平民が倒れていた。
「嘘……嘘です! これは多分、空を飛んでいた平民が落ちてきただけです!」
「ルイズ、落ち着きなさい。平民は空を飛びません。この平民は貴方の使い魔なのです。さぁ、コントラクト・サーヴァントを」
「判りました……」
 何故、平民が。私は始祖を呪いながらコントラクト・サーヴァントをする。意識は無いが、死んではいない。黒髪で黄色い肌の、ここらでは見慣れない珍しい服を着ていた。年齢は、あねさまと同じぐらい。
 顔は……歳相応に精悍というべきか。眼を閉じたままなのでまだ判断できない。だが、心臓は加速していく。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我が使い魔となせ!」
 ファーストキス。それもこんな平民に。これはノーカンと自分に言い聞かせ、触れるようなキスをした。
「ッくぅ……」
 ルーンが刻まれているのだろう。無意識なのだろうが、左手の甲を押さえて転がり回ろうとして、できない。背中の荷物がそれを許さない。
「ってぇ!? なんなんだ?」
 どれだけの痛みなのか。眼を覚ました。
「あ? え、えー、あ、貴方、誰?」
 怒気の含まれたその声に驚いて、私はどもってしまう。
「……ここは誰? 俺はどこ?」
 寝ぼけているのか混乱しているのか、わざとボケているのか。
「ここはラ・ヴァリエール公爵邸よ。貴方、名前は?」
「平賀才人だけど……ラ・ヴァリエール公爵家? それって東京のどこら辺だい?」
「トーキョーってどこよ? ラ・ヴァリエールを知らないなんて、どこの田舎者よ。貴方は私に召喚されたの。この、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに!」
 何故こんなのが私の使い魔なのか。始祖ブリミルを本気で恨みそうになった。
「東京は世界有数の先進国の首都だぞ……というか、召喚って?」
「私が、サモン・サーヴァントの呪文で喚び出したの。何の因果か、貴方みたいな平民が喚ばれたのは判らないけど」
「……もう一度聞くけど、ここがどこだか教えてくれないかい? できるだけ詳しく、国名から……いや、どこの大陸か、から」
 奇妙なことを訊く。
「ハルケギニア大陸のトリステイン王国。そしてここはラ・ヴァリエール領を治めるヴァリエール公爵家の私邸よ」
「は?」



 ハルケなんとか大陸のトリステイン王国。この時点でアウト。地理に疎いとはいっても、190以上ある世界の国家全てを知っているわけじゃないけど、それでもそんな国、この地球上にあるはずが無い。
 世界はユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極の六つの大陸で構成されている。ハルケなんちゃらなんて大陸が入り込む余地なんて全く存在しない。かつて太平洋上にあったとかなかったとか謳われるムーとかアトランティスとかか、なんて冗談が頭を巡るが、あまりにもナンセンスだ。
「ハルケ……なんだっけ?」
「ハルケギニアよ」
 このルイズとかいう子の言うことが正しければ、ここは地球じゃない。馬鹿みたいな話だが、別の星とか別の次元とか、簡単に言えば異世界だ。
 少なくとも、嘘をついているようには見えないし、その必要もない。話した感じでは馬鹿ではないようなので信憑性もある。
「北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、南極大陸、どれかに聞き覚えは?」
 地殻変動で新しく大陸ができたとか、そこに変な王国が起こったとか、アメリカの衛星兵器を情報収集に使ったとか、C.P.D.U.に囲まれていたりとか、もしかしてここは未来か過去かとか、どこかにラインハルトとがいたりとか、そんな妄想とも想像とも言えない何かが頭をかする。んなまさか。
「何を言ってるの? 大陸はハルケギニアとアルビオンの二つに決まってるでしょ」
 かつて世界は、大陸はパンゲアと呼ばれる大陸一つだけでした。地殻変動によってだんだんと分裂していき、長い時を経て今の世界の形になったのです。パンゲアには人類はいませんでした。たとえ二つに分裂したころでも、まだまだ人類はいませんでした。ならば? 完全別世界の可能性が。というかむしろそれしかない。そして少女の言動から察するに、ルイズは貴族とかそんな分類に属する人種だ。更に言うと、俺をこの世界の住人と思っているらしい。
「別の星? 分岐世界? 召喚したと言ったね? どうやって?」
「サモン・サーヴァントの魔法で、よ。平民は知らないでしょうけど」
「召使召喚? そんな事の為に、俺をこんな世界に喚び出したってのか」
「違うわ、使い魔として喚んだのよ。感謝しなさい、貴族の元で働けるだけで名誉なことなのに、使い魔よ? 平民にとってこれ以上幸せな――――」
「……ふざけるな」
 何かが気持ちいいほどいい音を立てて切れる音がした。ここまで勝手な話があるか。特権に長い間浸かっていたから仕方ない、なんてのは言い訳にもならない。流石に小さな子供だ、衝動に駆られるまま激情を叩きつけるようなことはどうにか堪えられた。その代わりの低い声が、喉から漏れた。
「人を一人、さらっておきながら、その言い方はないだろ」
「な、なによ! 平民風情が貴族に口ごたえするんじゃないわよ!」
「この世界じゃ基本的人権すらないのか?」
「なにそれ?」
「なんてこった……『朕は国家である』とかの時代か? よっぽどの恐怖政治じゃないと存続しねぇタイプの」
 絶望的だ。生意気を言ったら殺される、切り捨て御免の世界だ。
 だからといって、簡単に従属なんてしてやるものか。これでも誇り高き日本人なんだ。
「まあいい。俺を元の世界に戻せ。君も俺が使い魔じゃ不満なんだろ」
「無理よ。そんな呪文、存在しないもの」
 ここまで一方的だとは。召喚して戻せないなんて、まるで戦車に乗って世界を旅する四人組みたいな運命だ。
「判った。使い魔ってのを『やってやる』。ただし、条件がある」
「なによ、突然。生意気ね。でも私は寛大だから聞いてあげる」
 いちいち腹が立つが、この年齢ならまだ矯正できる。
「衣食住の保証。生命と、ある程度の人権の保証。俺を元の世界に戻す方法の捜索。この世界の常識を教えてくれること。ついでに言うと、それをあまり強制しないこと。これが守られないなら、俺はどこか別の場所に行く」
「元の世界に戻す? 何言ってるのよ、まるで別の世界から来たみたいなもの言いね」
「その通り。証拠は、このクソ重たい荷物でどうだ。俺の世界の人類の英知が大量に入ってるぞ」
 貴族なんてものが威張ってる時代なぞ、はるか昔の話だ。はるかに進んだ文明の技術の書き記された教科書や技術書は宝の山だ。大学の帰りでよかった。あのクソ教授の出した課題のおかげでこんな大量の資料を毎日運搬する羽目になっていたのだが、今は奴に感謝だ。ダイエットしたい奴は工科大学入って一人暮らしをするといい。新兵訓練なんかしなくても勝手に痩せる。
「ふーん?」
 リュックのせいでひっくり返った亀状態の俺の手から、荷物を奪う。
「なによこれ。読めないじゃない」
「日本語だからな。というか、君、日本語話してるじゃないか」
「はぁ? これはハルケギニア語よ。で、その平民の英知がなんの役に立つってのよ」
 ルイズは普通に喋っているつもりのようだ。極めて日本語に似た文法や発音でありながら、全く違う文字、という可能性が考えられるが、まずあり得ん。
「鉄より硬い金属を造れる。畑の収穫も増える。音より速く空も飛べる。上手く発展すれば医療技術も治せない病気が無いほどに発展するぞ。医学は工学と密接に関わっ……」
「今、何と言いましたか」
 あ? ルイズの他に誰かいたのか?



 治せない病気が無い。まさか。水の秘薬を大量に使い、高名な水メイジが束になってかかっても治せなかったちいねえさまの病気が、こんな平民に治せるはずがない。
「今、何と言いましたか」
 しかし、お母さまはその言葉に食いついた。
「へ? うまくいけば、治らない病気がほとんどなくなるほど医学が発展する?」
「それは真ですか?」
「この世界の文明の進度にもよりますが。ただ残念なことに、この中に医学書はないんですよ。素人が下手に手を出せるほど医療技術は甘い世界じゃないし、成長するまでの時間は他に比べて長いでしょうね」
 平民ヒラガサイトはお母さまがいることを始めて知ったらしく、その姿を見ると口調を変えた。どうにか起き上がろうとしているみたいだけど、背の荷物が重すぎて起きれないらしい。まるで亀だ。
「判りました、条件を飲みましょう」
「ええ!? お母さま、こんな平民の戯言を……」
 まさか、お母さまがあんな条件を受け入れるなんて思わなかった。ちいねえさまには治ってほしいけど、こんな平民に任せたくはなかった。
「この方が嘘をついているようには見えません。それに、誰もが匙を投げたのです、ならばもう、藁にもすがらなければならないのです」
 だからって、こんな、地面をはいつくばっている平民に頼るというのですか。
「ただの妄言かもしれないじゃないですか」
「ええ。ですから暫くは様子を見ます」
 成果が出なければアウト。その後、お母さまにひどい目に遭わせられるだろう。少しだけ、ヒラガサイトに同情した。
「話は決まった?」
 



 結局俺がどうなったかというと、質素だが広い部屋をあてがわれて、そこで研究とか開発とかをすることになった。資料を本棚に詰め、荷物を適当に整理する。ノートパソコンやポケコンは電池やAC100Vが発電できるまでバッテリーを抜いておく。携帯はどうせ使えないので同様の処理を。ノートやリーズリーフ、筆記用具は机の上に山積みにされている。
「さてさて、これからどうなるんだろうな」
 異世界なんてものが存在するだけで驚きなのに、今度は魔法と来た。
 あの馬鹿みたいな量の荷物を、杖を振るだけで浮かして運んでいくんだから。
 なんて非常識な世界だ。外を見上げれば月が二つ。地球じゃないのは確実。
 しかも予想通りに科学技術は中世と同等か遅れている。魔法が科学の発生自体を阻害しているようにも見える。
「まずは鉄と農業かな……」
 この時代で、今、最も儲けることができるのは農業と鉄鋼だろう。第一次産業が発展すれば税収も増え、第二次産業に回す金と人員の余裕ができる。この時代において、省力化・効率化・機械化は重要だ。魔法が貴族のものであり、簡単に産業に使えないのだから、機械は確実に普及する。そしてその機械を作るための材料の質、すなわち鉄の質によって機械の良し悪しが決まる。ただでさえ汎用性の高い鉄の質が上がれば、それだけで道具の寿命や効率も上がるし、鋼鉄などの精製で付加価値をつければかなり儲かるだろう。ステンレスや装甲材料クラスの鉄合金ができたら億万長者間違いなしだ。
「なにニヤニヤしてるのよ」
 いつのまにか部屋に入ってきたルイズが訊いてきた。確実に儲かる話を考えれば、誰だって自然に笑みがこぼれるもんだ。
「儲け話を考えていたんだ」
「儲け話?」
「何を研究するにも、お金は要るからね。今ある知識でどれだけ儲かるか考えてた」
「それで、どうだったの?」
「工場一つだけで税収が要らなくなるかな」
「へ?」
 あまりに予想外だったのだろう。
「税収がいらなくなる?」
「逆に平民に給料が払えるかもな。というか、平民に働いてもらわないと動かない産業だな」
「そ、そんな嘘でお母さまが騙されると思わないことね。失敗したらあんたなんてすぐに殺されちゃうんだから」
「話も聞かずに最初から嘘と決めつけるのは損だぞ?」
「へぇ? じゃあ説明してみなさいよ、その儲ける方法とやらを」
 興味は持ってくれたようだ。そう簡単に話を聞いてくれるとは思ってはいなかったが。案外素直なのかもしれない。
「じゃあ……まず、この国の鉄鋼業のことを知ってるかい? 知ってたら教えてほしいんだけど」
「は? 私が訊いてるんだけど」
「条件。この世界の基本的なことを教えてくれること」
「判ったわよ。だけど、そもそも鉄鋼業って何よ?」
「鉄を作る産業だよ。砂鉄とかから鉄の塊を生産する産業。結構重要な産業なんだけど」
「土メイジが石とか土とかから練金して作るのよ」
 ……なんだって?
「練金して、好きな形に加工するの。砂鉄なんて面倒で使わないわ」
 なんという便利な。というか、何と言うチート。いやいや、そんな感心する前に、儲け話が一つ消えたかも。
「なに絶望的な顔をしてるのよ。もしかして……」
「いや、まだ判らない。それで、それは平民が手に入れることができるのか?」
「物にもよるわ。製作者が高名なメイジだったり特殊な魔法がかかってたりすると高くなるし、領地を持たず役職も与えられてない貴族が作ったのは平民の間でも普通に使われてるわ」
「切削加工とかはないんだね?」
「なにそれ?」
「鉄を切ったり削ったりして加工する技術なんだけど」
「そんなもの無いわよ」
 最悪のパターンが。別の策を考えるべきか……
「全く同じ物を大量に作ることは」
「全く同じ物……どうかしらね。同じ物を買ったのに大きさとか形に少しばらつきがあるわ。手を抜いてるだけかもしれないけど」
 ……希望が見えてきたか?
「一人の生産量はどんくらいだ? 一日何ktとか生産しないよね?」
「キロトンとかよく判らないけど、そんなに多くはできないと思うわ。精神力の残りにもよるし、そもそも鉄なんてそこまでたくさん必要としないし」
 勝った。これはいける。
「品質は? 簡単に歪んだり割れたりしないか?」
「すぐ錆びるし、テーブルから落としただけで壊れるし、そう言えば軍艦の装甲が大砲ですぐ割れるとか……」
「判った。それだけ判れば充分だ」
 子踊りしたい気分だ。これなら大丈夫。安定した大量生産の安価な鉄製品を市場に送り込めば怪しげな『練金』製の製品なんぞには負けない。
「そう。で? 私ばかり答えるんじゃ不公平よ、あんたも話しなさいよ」
「ああ、いいぜ」



 信じられなかった。
 メイジが作る物よりいいものが、安価で大量に生産できるなんて、そんなこと信じられる訳がない。
 しかもヒラガサイトは塔みたいな図を私に見せて、その原理を私に懇切丁寧に教えてくれた。変な文字列と一緒に。
「――――ここで赤鉄鉱ってのを精製するんだ。赤鉄鉱には酸化した、つまり錆びた鉄と、不純物が混ざってるから、これをどうにかしないといけない。で、コークスと赤鉄鉱と石灰石を層にして積み上げて熱い空気を送ってやるんだ、すると――――」
 訳が判らない。
「――――で、還元反応が起こるんだ。化学式ではFe2O3+3CO→Fe2+3CO2となって錆びた鉄は純粋な鉄になってここから流れてくる。高温になると不純物と石灰石が化合して軽く硬く脆くなって溶解した鉄の上の方でスラグって塊になる。錆びの成分は煙に、不純物はスラグにって完全に分離されるんだ。だから――――」
 訳が判らないが、訳が判らないところを教えてもらおうとすれば明日の朝になるだろう。それだけチンプンカンプンなのだ。
「――――という訳なんだ。どう、判った?」
「何も判らないことが判ったわ」
「あー……ハハ。流石にこの世界にない概念が多いからなぁ。判らないのも仕方ないね」
「なんですって?」
 仕方ない。それは私の幼いプライドを突き刺した。まるで教えても無駄、と言っているように私には聞こえた。
「怒るなよ。この世界より遥かに進んだ技術だよ? まだ大人でも理解できるかどうか……」
「だったら教えなさい」
「まぁ、いいか。でもな、そりゃ人に物を頼む態度じゃないぞ」
「むぅ。オシエテクダサイヒラガサイト」
 子供扱いされているのも、なんだか腹が立つ。でも、ヒラガサイトには教えて『もらう』立場なのでそれを表に出すと負けだ。
「おう、承った。じゃ、もう遅いから明日な?」
 ヒラガサイトに部屋の外まで見送られ、私は自分の部屋に戻る。
 初めて上手くいった魔法。そして現れた変な使い魔。そして、ちいねえさまの病気を治せる可能性のある存在。
 不思議だった。貴族を恐れない。無礼だけど、そこまで悪い気はしなかった。私に普通に接してくれるからなのだろう。
 でも、私が魔法を使えないと知ったら……。
 考えたくない。使用人のように陰口を言ったりするんじゃないか……。
「かがくしきでは、えふいーつーおーすりーぷらすすりーしーおーはえふいーぷらすすりーしーおーつー……」
 ヒラガサイトが説明していたことを反芻して、嫌な考えを追い払う。まるで魔法の呪文だ。
 そうしているうちに、私の意識は闇に溶けていった。



[12279] 【習作】ルイズちゃん達と寝不足の技術者才人-2
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/09/29 00:26
「よくも私を召喚したものだ。
貴様は私の全てを奪ってしまった。

これは許されざる反逆行為と言えよう。

この真・緋蜂改を以て、
貴様の罪に私自らが処罰を与える。

これから貴様は
何の手助けも受けず、
ただひたすら、死ぬだけだ。

どこまでもがき苦しむか
見せてもらおう。

            死 ぬ が よ い                」



「っはぁ!?」
 なんという悪夢だろう。
「っはぁ……はぁ……はぁ……」
 夢という物は起きた瞬間に忘れることが多いけど、今回もご多分に漏れず忘れている。
 なんとなく、ぼんやりとは思い出せる。
 六年以上、幾多もの漢達が挑み倒せなかった『ふたりの蜂』に襲われて世界がオワタ、多分そんな夢。
「そうよ、私の使い魔はあんなのじゃなくて……」
 あんなのじゃなくて……
「えーっと?」
 二足歩行をする何かだったような。
 ――――そう、脚だ。どこにでも移動できる脚なのだ。この兵器は偉大なる金属の歯車――――
「まだ夢を見ている気分だわ」
 やっと頭が動いてきた。
 そう、平民だ。自称『異世界』の大国の人間。
 ヒラガサイトはもう、起きているだろうか?
 後で部屋を覗いてみよう。

 絶句。
 一体何があったのだろうか。
 あの広い部屋の一角が、書類と本で埋まっている。
「初期投資に必要なのは……えーと、相場が判らないな、とりあえず必要なものを書き出して……んで農業の視察は早めにしないと……」
 その中心は机にかじりついたヒラガサイト。この様子じゃ、昨日別れてからずっと何かを書いているみたいだ。
「水路や治水はやっておきたいな……土木技術はどうするか……肥料は安価大量に欲しいし……」
 落ちている一枚を拾ってみると、(多分)異国の文字と、奇妙な図。ところどころ二重線でできた六角形の頂点に棒が突き出て、その先に昨日の不思議な呪文に似た短い文字があった。この複雑な文字の文章の補足なのだろうか。
「えー、いずれ必要になる知識、他には他には……微積は本がそこにある……数学はあらかた書いた……」
 別の紙には鳥のようなものを三方向から見た図だった。また別の紙にはぎっしりと文字と記号が詰め込まれていた。頭が痛くなりそうだ。それをほっぽりだし、何となく眼についた丸められた大きな紙を手に取り、広げてみると……
「なにこれ……すごい……」
 大きな絵、というのだろうか。いや、これは美術品なんかじゃなくて、完全に実用品だ。だって、絵だったらこんな風に補足説明みたいな文字と矢印はないはずだから。「これはそういうものだ」と言われたらそれまでだけど、そんな確信があった。絵、じゃない。ただ、長い銃らしいものが線だけで描かれている。
「レミントンM700をベースに、俺が設計したボルトアクションキャノンだよ。初速を限界まで上げるためにバレルが長くなって全長2m程になったり、射手が25.4mm徹甲榴弾の反動に耐えるために大型のマズルブレーキをつけたり……って、判らないか」
 ええ、全く。
 というか、いつの間に背後にいたのだろうか?
「銃なの?」
「いや、個人携行・発射可能な大砲さ。大抵の物をブチ抜いて吹き飛ばす為のな」
 大抵なもの、とは文字通り大抵なものなのだろう。まがまがしく力強い形は寒気がするほど頼もしかった。そこに現物がある訳でもないのに、説得力があった。
「それはまあいいわ。よく判らないし。それよりも……あれから、ずっとやってたの?」
「ああ。記憶が薄れる前に必要になるかもしれない知識を書き出してたんだ」
 知識。それが一体どんなものなのか知らないが、この図を見ると、それがものすごく高度なものに思えてくるから不思議だ。
「人間の記憶ってのは、時間が経てば経つほど劣化していくもんだからな。短期記憶なんて真っ先にデリートされちまう。でも紙に書き出してしまえば、そう簡単に消えないだろ? 必要な時に読み返せばいいんだし」
「それ……もう終わったの?」
「ああ。すっからかんだ。明日になったら文字教えてくれ」
 そう言って、小さなベッドに倒れこみ、一秒と待たずに寝息を立て始めた。
「え? ねぇ、教えてくれる話はどうなったのよ!」
 慌てて駆けよって、ヒラガサイトの肩を揺らす。今は朝、普通は起きるべき時間なのだ。
「起きなさいー! 起ーきーなーさーいーよー!」
 十分ほど続けていただろうか。突然ヒラガサイトは眼をあけた。凄まじい、多分殺意と一緒に。
「寝不足の技術者を起こすんじゃねぇ」
 深淵の底から響く呪詛のような。地獄の底から這い出た死者の眼が謳う怨嗟のような。形容しがたい恐ろしい悪夢のような。
 そんな声で、眼で、殺意で命令されたら、こう答えるしかない。
「……はい」
「じゃ、おやすみ」
 今度は一秒のラグもなく眠る。今度は寝不足の『ギジュチュシャ』を起こすような真似はしない。
「こ、怖かった……」
 眠っているヒラガサイトが魔王か何かに見えた。
 ヒラガサイトが勝手に起きるまで絶対に起こせない。
「ルイズ。ここにいたのですか」
 間の悪いことにお母さまが現れました。そういえば食事が始まる時間はとうに過ぎていた。
「お、お母さま……」
「ヒラガサイトはまだ寝ているのですか?」
「い、今寝たところです。徹夜で知識を書き出していたらしくて、可哀想なので起こさないであげてください」
 もし寝不足の『ギジュチュシャ』をお母さまが起こしてしまったら……どうなるか判らないから恐ろしい。
「いいえ、起床時間は伝えていたはずです」
「あ……やめたほうが……」
「24時間働けますか!」
 叫びながら突如起き上がるヒラガサイト。眠ってから15分しか経ってないのに。
「あ、カリーヌさん、おはようございます」
「え、ええ、おはようございます」
 あの妙に迫力のある絶叫に、あのお母さまが若干引き気味なのがすごい。ヒラガサイト、一体何者なのだろう?
「ね、ねぇヒラガサイト? さっき起こすなって言っておきながら十五分くらいしか経ってないわよ」
「人間、2時間当たり15分の仮眠で生きていけるんだぞ? 限度はあるけどな」
 どんな化物なんだろうか。2時間起きて15分寝てる、ということは、一日3時間しか寝てない計算になる。
「そうなのですか?」
「人間、訓練すれば一日三時間睡眠で生きていけるんですよ。精神衛生上あまりよろしくはないんですけど」
 白眼の部分が鮮血に染まって眼の下の隈がこれでもかと自己主張している顔をみると、『生きていけるだけ』なんだと充分に理解できる。
「仕事の効率を考えると45分集中して15分寝るのがいいらしいんですけどね」
 それだと1日6時間。普通の人の睡眠時間としては短いが、それでも健康にいきていける程度なのは間違いない。1日3時間とかいう化物に比べればよっぽど人間らしい。
「そうですか。ですが、朝は決まった時間に起きてください。既に食事の時間は始まっているのです」
「あー、すみません。こればかりは技術者の生態ですんで。すぐ行きます」
 人間の生活をしてないのは充分にわかった。
「私がいた時代のマンティコア隊より過酷だなんて……」
 お母さまの呟きが印象に残った。鬼のように厳しいと謳われた『烈風カリン』のマンティコア隊より厳しい生活を『ギジュチュシャ』はしているのだ。
 少しだけ、ヒラガサイトを尊敬した。



 徹夜五日目。流石にキツイ。でも、手を抜く気にはなれない。
 この親子は大切な『誰か』の病気を治してやりたいらしい。
 俺がサボれば、そして手を抜けば、それだけ技術の発展が遅れる。それだけ医療技術の発展も遅れる。俺がこの待遇でいられるのも、カリーヌさんが俺に期待しているから。ルイズの方はまだ疑っているみたいだが。
 まぁ、流石に今日は休息に使おう。カリーヌさんのおかげで、カロリーメイトじゃない、まっとうな飯が食える。かもしれない。

「すっげ……」
 まっとうな飯、どころではなかった。まさに貴族のお食事。わずかな知識を総動員して、どうにか顰蹙を買わずに終えることに成功した。
 とりあえず、食事のことはいい。問題は、俺を睨む渋いおじさまと小娘だ。もう一人、俺をニコニコしながら見ているお嬢さんがいたが、多分、この人が『ちいねえさま』、俺がここに存在を許される最大要素なんだろう。今は元気そうだが、それでも顔は青白い。

 小娘とは食堂前ですでに喧嘩の売買契約が成立している。
「ふん、平民が、どうやってお母さまに取り入ったか知らないけど、大きな顔するんじゃないよ」
「…………」
 お嬢さんは生意気にも俺を見下してやがった。特権階級の人間によくある選民思想にどっぷり漬かっているタイプだ。暫定的に小娘と脳内で呼ぶことにする。
「平賀才人だ。よろしくな」
「ヒラガサイト、変な名前ね。長いし言いづらいわ」
「平賀が姓で才人が名だ。勘違いするな」
「平民の分際で家名まであるの? 生意気ね」
「うるせえよ。日本人の名字馬鹿にすんな。カミカゼ見せてやろーか?」
 魔法が使えようが貴族だろうが、カチーンときた。
「あら、やる気かしら」
「寝不足の技術者、舐めんじゃねーぞ」
 この歳で労働階級舐めるなんて、将来ろくな為政者になれん。平民とやらとのパワーバランスがどれくらいのものかは知らんが、マリー・アントワネットみたいな末路になりかねん。
「後で中庭に来なさい」
「上等」
 このくそ忙しい時に、脳のリソースと体力を奪おうとするファッ○ンプッ○ーめ、その常識ブレイクしてやんよ。

 と、喧嘩上等をかました小娘はともかく、おそらく件の公爵閣下は何故俺を睨んでいるのか。まだ技術屋のお約束『大爆発』なんて起こしてないし、不祥事もまだしてない。
「あの、俺に何か?」
「いや……本当に貴族を恐れぬのだな」
「俺の世界じゃ革命とか民主化でほとんど駆逐されて化石みたいに貴重な存在ですからね。怖い以前に、どういった人達だったのか、とか、そういった興味の方が強いんですよ」
 ザ・ワールド!
 やれやれだぜ。俺以外の人の時が止まってしまった。
 そして時は動き出す。
「貴族がいない?」
「ええ。いてもだいたい王室だけで、君臨せど統治せずが基本ですね。俺の国でも政治への介入は禁じられて、国の象徴としてのみ存在を許されています」
「ならば政治は……文明はどうなっている? メイジがいなければ魔法が使えないではないか」
「魔法なんて人類史上一度も歴史の表舞台に出たことが無いです。そもそも存在するかどうか怪しいくらいなんですから。世界は科学で成り立っているんです」
「魔法が無い……にわかに信じられんが。して、その『カガク』とはなんだ?」
「世界の理を理解する学問です。何故火は燃えるのか。何故物は地面に向けて落ちるのか。人の眼で観測できるほぼ全ての現象が、数式と測定される数値で表現されるくらいには解析されてます。そうですね……具体的には……人工の鋼の巨大な鳥が腹に何百人もの人間を抱えて飛びます」
 流体力学を習っているついでに航空力学を学んでいる身としては言ってはいけないことなのだろうが、スーパーグッピーやムリーヤが飛ぶところは正直未だに信じられない。ジャンボジェットやムリーヤのバレルロールなんてジョークにしか思えない。というか、ジャンボジェットはともかく、ムリーヤの存在があり得ない。
「フネ、ではなく鋼の鳥、か」
「そんな世迷言を。お父様、騙されては……」
 小娘が横槍を入れてくるが、
「いや、エレオノール。たとえ世迷言だとしても面白い。貴族がいない、魔法の無い国か。近い内に詳しく聞かせてほしいものだ」
 小娘とは逆になかなか好印象だ。見た目バリバリ貴族な癖して、案外柔軟だった。信じているかどうかは別として。

 そして食後。中庭。
 俺は白い袋を手に、喧嘩の舞台にやってきた。
「あー、すまんが、少し予想外な事態があってな……」
「ふん、怖じ気づいたの?」
 小娘の身を案じてのことなのだが。
「はぁ……一応死なないようにはしてやるからな」
「御託はいいわ。始めるわよ」
 先手必勝とばかりに杖を振る小娘。とりあえずは、逃げの一手だ。様子見という奴だ。
「エア・ハンマー!」
 小娘の視線の先から飛び退く。サバゲーで培った銃弾回避能力を甘く見るな。強風がすぐ横を駆けるが、直撃すればヤバイのは理解できる。だが、所詮は風、風速何mの世界。BB弾とそう変わらない。小娘を中心に円を描くように走れば、そして予測射撃に対してフェイントをかければいい。狙った場所にまっすぐ当てるのはいいが、誘導性能は皆無と見た。これがジャベリンみたくトップアタックかつ誘導でもされたら死ねる。上と横の二方向から襲い来る攻撃に対処できるほど、人間は器用じゃない。
「じゃあ、こっちの番だな」
 無風。小娘は油断している。絶好のチャンス!
 白い袋の封を開け、小娘に投げる。
「何これ」
 魔法を使うのも面倒くさいと言わんばかりに、手で袋を払いのける。
 かかった。
「キャッ!?」
 脆い袋は破裂。小娘を白い霧が包む。
 そして、俺の手にはライター。
「ゴホッ、なんなの!?」
 まだ、まだだ。殺す訳にはいかない。今すると確実に死んでしまう。何故か理解できる、俺が求める最高の起爆タイミング。もう少し拡散してから……
「え、エア……」
 今!
「フッ飛べ!」
 オイルライターを小娘の方に投げ込む。丁度煙幕から小娘が出てくるところだった。ライターが手を離れると同時に、俺は地に伏せて耳を閉じ、眼を閉じ口を開ける。

 ボフン!

 掌越しに、そんな間抜けな爆発音。焼きたてのパンのようないい匂いと、髪の毛が焼けるような匂いが混ざった香りが俺の鼻を突く。
 爆風が俺の背を撫でて消えるのを確認して、すぐに立ち上がる。
「あて」
 何のギャグか判らないが、少しすすけたライターが頭に落ちてきた。特に破損もなかったので、シャツで拭いてポケットに戻す。
 さて小娘は……いた。ところどころ焦げてはいるが、火傷は無いようだ。少しチリチリになった金髪の隙間から覗く耳からも出血はない。最後に見えたシルエットからそう動いてないから、爆音と爆風・爆圧に驚いて気絶、といったところか。
「おい、小娘、起きろ」
 上半身を抱き上げ、ぺしぺし頬を叩く。すぐに眼が開いたところをみると、そう大したことは無いだろう。
「なっ……あんた!」
「お前の負け。判るだろ?」
「くっ……卑怯よ! あんなマジックアイテム使うなんて!」
「あれ、ただの小麦粉だぞ」
「は?」
 驚愕の事実。小麦粉は爆発する。
 まさか、と言わんばかりに眼を丸くし、硬直する小娘。
 何か武器はないかと厨房をさまよっていたが、ふと触れたこれで天啓が下った。汝、これを使え、と。
 爆発するからどうかと思ったが、何故か手加減できる気がした。
「科学(Science)のうち、化学(Chemistry)に分類されるのかな? 粉塵爆発って言ってな、空間に一定以上の燃える粉をまき散らして火をつけると爆発するんだ。今回は煙幕の代わりもしてもらったが」
「ふん。でもこんなに弱い爆発じゃ猫の子一匹殺せないわよ」
「いや、猫は死ぬだろ。ともかく、死んでもらっちゃ困るからなるべく小麦粉が薄くなってから火をつけたんだが。俺の世界じゃ、これで事故が起きたら数百人規模で死傷者が出るんだぞ」
 予備の袋を開けて、小娘に中身を確認させてから、遠くの庭の木に思いっきりぶつける。当然袋は破裂して中身が盛大に飛び散る。
 まだ……まだ……酸素が足りない……今!

 ボム!

「いっっっってぇ!」
 オイルライターがすげぇ速度で腕にぶつかった。爆速はそれほどでもないが、爆圧はけっこうあるし、酸素を殆ど使い果たしたあの空間の空気を動物が吸えば、即、脳が止まる。FAEと似たような爆発原理だ。
 証拠のように、ぼろぼろの禿げた庭木があった。
「…………」
 腕をさすりながら小娘を見ると、茫然と庭木を見ていた。
「な、科学って面白いだろ?」
「これが、科学……」
 しばらくフッ飛んだ木を見ていたが、やがて気を取り直すと、
「侮辱してごめんなさい、ミスタ・ヒラガ」
「才人でいいよ。それより、名前、教えてくれないか?」
「エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールよ」
「ふむ、長いな。そうだな、エル、いや、エリーのほうが可愛いか」
「え、エリー?」
「だって舌噛みそうなんだよ、エレオノールって。だから、愛称」
「い、嫌よ! そんな、ちゃんと呼びなさいよ」
「勝者の権利だ! 今からエリーと呼ばせてもらう!」
「なっ……くぅ……もう一度決闘よ!」
「ははは! 返り討ちにしてくれる!」
 エレオノールは小娘からエリーにランクアップした。俺の中で。いや、名前が判るまでの暫定的な物だったわけだが。

 その後、俺とエリーはカリーヌさんにさんざん怒られたのは言うまでもない。

 ――――しかし……
 あの、小麦粉を持った感覚。なんだったのだろう?
 小麦の産地から、最低爆発濃度、最大爆速、最大発生ガス容量など、まるで兵器のスペックでも見ているような感覚。
 そして、エリーに投げつけた時の爆圧・爆速調整。
 調査の余地ありとみた。



《あとがき》

工業高校、及び工業大学生の傾向
・オタ
・ヤンキー
・変人
・僅かな一般人



 この才人はトンデモ兵器スキーです。グスタフ/ドーラ、46cm砲、ツェリザカなどなど。割と巨砲主義者。カノーネンフォーゲル繋がりで破壊神ルーデル閣下を敬愛していたり。
 工大で生きる男は、一度はトンデモないものを設計したくなるものです。
 銃こそ、砲こそ、男の求めるRoman.

 ごめんなさい、私の趣味です。でも私はデザートイーグル.50AEの14in。ハンドキャノンの名は奴にこそ相応しい。
 M500? ハッ! あんなもんは飾りでオモチャだ。愚民どもはそれがわからんのですよ。リボルバーで男ならZeriska.変態紳士はマテバ。



 エリーことエレオノール初登場。ルイズは10歳程度です。つことはエリーはこの時点で何歳だ? 18? 15? 誰か教えて……
 とりあえず、判らんので原作ルイズっぽくしてみました。
 年齢が判り次第脳内エミュレートして修正しますので。

 ちなみにルイズは原作の回想(夢)より何年か先くらいのつもりで書いております。ロリドがたぶらかしていた頃よりもかなり精神的に成長していたり、していることにします。



 粉塵爆発は怖いです。昔窓全開の夏の部室を吹き飛ばした経験から。未だ自分が生きていることが信じられません。メカトロ部室のガスバーナーで巨大パンケーキを作ろうとした罰です。

 ちなみに、ガンダールヴのルーンは小麦粉すら兵器と認識しました。キッチンじゃ負けないぞ(サイト・ライバック)。



Sep.28.2009
 指摘を頂いたので、粉塵爆発とライフルのところを修正しました。
 粉塵爆発はガンダールヴ発動。超過大解釈。
 窒息の件ですが、酸素が一定濃度を下回った空気を一回でも吸うと脳が活動を停止する、と
 フォークを武器と認識しているかどうか、でガンダールヴが起動するような話を聞いた(原作じゃ無いかも)ので、小麦粉を爆薬扱いしたら起動するんじゃないかな、なんて思った訳です。ですんで、爆速の見極めはガンダ補正ということで。
 よく考えたら樹木粉砕はねーわ。爆心がどこになるかにもよりますが。ということで禿げてもらいました。合掌。

 ライフルで第五世代MBTに喧嘩を売るつもりじゃなかったんですが……
 トンデモAMR出したのは後々のフラグってことで。
 M700をベースに、と言いましたが、外見はスワッシュバックラー・スナイパーカスタムっぽいです。

Sep.29.2009
 指摘のあった二重セリフ部分を修正しました。
 本当にありがとうございました。



[12279] 【習作】ルイズちゃん達と寝不足の技術者才人-3
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/05 21:05
 姉さまと喧嘩したヒラガサイトは、今、机に突っ伏つして寝ている。死んでいるのではないかと心配になるくらい静かに。あと2分もすれば起きるのだろうけど。寝ている間もペンを手放さず、時々文字をや図を描いているところを見ると尊敬したくなる。しかし綺麗な紙と不思議なペンだ。真っ白で凸凹がない。インクをつけなくても書ける。今度姉さまに頼んで作ってもらおうかな。
 文字を教えてほしい、と頼まれたのは一時間ほど前だったか。ということは、一日6時間睡眠コースを堪能しているということか。流石にこの世界の文字は知らないらしく、唸りながら簡単な文章を解読していった。今朝の約束じゃ、明日の予定だったはずなのに、もしや、今日は一日寝るつもりだったのだろうか?
 それはとにかく。私はその間の空いた時間を利用して『ニホン語』を勉強している。だが。
「…………」
 難解にも程がある。基本となる表音文字『ヒラガナ』、その補助と思われる全く音が同じ『カタカナ』、表意文字で複雑な『カンジ』、その他『あるふぁべっと』『ぎりしゃもじ』なるものをまず覚えないといけない。どうにか『ヒラガナ』は読めるが、『カタカナ』はともかく『カンジ』には手を出す気になれない。
 ヒラガサイトが持ってきた本が読みたいがために教えてもらっているのだが、この調子ではいつになることやら。辞書の類をヒラガサイトが持っていたのは僥倖だったが、それにすら『カンジ』が使われているので引くことすらできない。
 ヒラガサイトは『いずれ全部翻訳するからいいよ』などと言っていたが、それで諦める気にはなれなかった。
「……っしゃああああ!」
 ヒラガサイトが起きた。多分、15分丁度。相変わらずこれには感心する。起きる時叫ぶのは、気合を入れるためらしい。私も真似してみようか。すっきり起きれそうだ。
「で、ここの動詞はどこにかかってんだ?」
 寝る前に聞いていた言葉の、そのまま続きを言っていた。
「どこかしら? あ、ここね……この動詞はこの代名詞じゃなくてこっちの主語に……」
 もう驚かない。たった数時間で全く違う言語を覚えるなんて、どれだけ優れた頭脳をしているのだろうか。もう少しすれば複雑な言い回しとかまで進んでしまえるんじゃないか。
「こっちも教えてほしいんだけど」
「ん? どこだい」
「ここ。主語が見つからないのよ」
「あー、日本語は主語抜いて文脈から予測したりすることがよくあるからな……主語とか動詞必要ない時もあるし。この場合は次の行と一緒に訳して流れを掴まないとーーーー」
 と、こっちは複雑怪奇でフィーリングが多い超難解言語の一行の読解に何時間もかかりそうな予感がする。
 しかし不思議だった。ここまで音も文法も違う世界なのに、私とヒラガサイトは同じ言葉で話している。いや、実は双方違う言葉を話しているのかも。ルーンを得た動物が喋るのという事例はよく聞くし。それと同じ原理かもしれない。ルーンが何かしらの方法で互いの言葉を翻訳しているのかも。
「で、この文の意味は『俺とお前は同じ期に軍に入った同僚だ』ってことになる……聞いてるか?」
「あ? ええ、聞いてるわ『俺とお前とダイゴロウ』……と」
「違えよ!」



 一悶着あったけど、ヒラガサイトのハルケギニア語習得は完全に終わり、私は『ドーキノサクラ』を翻訳できないでいた。
「つまりここは、自分と友達が軍の学校を卒業したことを桜の樹で例えているのね?」
「そうだな。桜は日本のシンボルであると同時に学校の卒業や入学なども連想させるからね」
 日本語は面白い。一つの文に幾つもの意味を持たせている。そこらの機微が判らなければ理解することはできないと思えるほど。
「数字も覚えたし……気分転換に数学にするか」
 数学。ヒラガサイト曰く、世界を表現する幾多の方法の中でシンプルで最強の方法。興味は尽きない。
「四則演算って判る?」
「全然」
 ということで、基礎の基礎から教えてもらうこととなった。途中から何故か姉さまが乱入してきたが、ヒラガサイトは時に気にした様子もなく姉さまにも教えていた。
「こんな法則があったのね……」
 円周率などを使った基本的な形の面積の分割計算や、色々な計上の体積の計算。これは領地の面積計算や税の計算に使えると姉さまがヒラガサイトに言うと、頭を撫でられて褒められた。普通なら雷のように怒るはずなのに、姉さまはまんざらでもなさそうだった。むしろ嬉しそう。
「つか、初めてで暗算で9の5乗ぽんと出るのかよ」
「九九の表があってこそですわ」
「凄いわね。あんなに難しかった掛け算がこんなに簡単にできるなんて」
 信じられないという顔をしているヒラガサイト、いやサイト。そういえば、姉さまに聞いたがヒラガが家名でサイトが名だったらしい。家名なくてヒラガサイトが名だと思っていた。恥ずかしい。



 素晴らしい!
 位置と速度と加速度の概念!
 微分と積分なんてハルケギニアのどこを探しても無い!
「……凹むなぁ」
 サイトが言葉通り凹んでいる。
「何をおっしゃいますか、先生」
 今は勉強を教わる身。私はサイトを先生と呼ぶ。
「あんなに苦労して理解した微積の概念をほんの数分で理解しやがって。妬ましい」
「それは先生の教え方がいいからじゃありませんか?」
 わざと敬語を使ってからかってやる。
「俺が教授から教わった通りに教えてんだよ」
 となると、成程。同じ風に教えて、覚える速度が違うから劣等感を感じているのですね。
「くそ。じゃあ、この問題解いてみろ。ちょっとした応用だ。制限時間は15分」
 それだけ告げると、サイトはぱたりと机に伏した。
「え? おちび、寝ちゃったわよ?」
 日は沈んでいるけど、まだ寝るのには早い。
「姉さま、15分後には起きます。確実に」
 ルイズが妙に自信たっぷりに宣言した。

 ちなみに、さすがにその問題は難しく、十五分ぎりぎりまでかかったのだが。
「3……2……1……」
「……しぇぇぇい!」
 流石に驚く。絶叫しながらがばあっと起きるのだから。
「終わったか」
 何事も無かったかのように訊いてくるものだから、面食らうのも仕方がない。
「え、ええ。終わりましたわ」
「できたわ」
「……うげ」
 嫌そうな顔をするサイト。反応から察するに、間違いではないのだろうが。
「妬ましい……」
 そのどんよりとした眼で見るのはやめてください。こっちが病みそうです。
「じゃあ、また日本語やるか」
 サイトが腕につけた小さな時計を見て言う。ニホンゴ、とやらが気になるが、
「あれはまた別の日でいいじゃない。別のをやりましょう」
「じゃあ、物理でもやるか」
 物理。物の理と書くらしい。わざわざ翻訳して紙に書いてくれるので判りやすいのではないかと、私は思う。サイトの席の隣には本が積まれ、その全てが異界の知識。その殆どが教科書や参考書らしいが、どうも丸写しで翻訳している訳ではないらしい。ハルケギニアには無い概念をどうにか判り易く書き換えているようだ。
「この世界は全て小さな粒でできている。この大地も、俺も、無論君達もだ」
 幾分か芝居がかった仕草で、演説するように『物理』は始まった。

 眼から鱗だ。
 もしこれが夢でないのなら、どんな貴金属を作ったとしても精神力の消費は量に比例するだけ。流石に不安定な物質や危険な物質に関しては不安が残るが、銅を練金するのと同じくらいの疲労で……プラチナのインゴットができた。サイトもこれには驚いたようで、
「すげぇ……なんかいろんな問題が解決した……」
 と茫然としていた。なんでも、掘らなくても「セキユ」ができるとか。平民がランプに使っている植物油より遥かに汎用性の高い油だとか。用途についてははしょられたが。
「エリー、メイジ雇ったりできるか?」
「そうね、没落したり勘当された元貴族なら、割と簡単に雇えると思うわ。傭兵に身をやつす者も少なくないし、現役貴族でも領地も役職もないのは結構貧乏だし」
「設備と人員に対する初期投資、設備が大幅に削れる……ヒト・モノ・カネ……プライドの高い貴族を雇って採算が取れるか……?」
 思考の海に落ちたサイトは、時折紙に何か図形のようなものを描いては頭を抱える。
「なあ、金貨の偽造って罪になるか?」
「偽造? 金じゃないものを金貨と偽って使うの?」
「金だったら問題ないのか?」
「ええ。スクウェアの土メイジが勝手に造ってるから」
「よくインフレが起きないな」
「いんふれ?」
 貨幣価値が下がって相対的に物価が高くなること、らしい。
「金が大量に、それこそ稀少価値がなくなるくらいに生産されたら、誰も有難がらないだろ? 物資に対してカネが過剰に供給されると、すぐに貨幣の価値は下がるからな」
 なるほど、金が鉄クズほどに当たり前の金属に暴落する、ということか。
「一気に大量に使わなければいいんじゃないの?」
「緩やかにインフレだな。これならまだいいが、あんまりいい傾向じゃない。経済は管理も制御もできない巨大で危険な魔物だからな。経済調整がないとなると……やっぱりコツコツと稼いでいくのが一番だな。いずれは銀行もつくらねーと……」
 簡単な物理や数学はよく判ったが、この経済とか政治とかのことはよく判らない。サイト、実は政治家とか経営者とかに向いているのではないのだろうか。今でもブツブツと『ソンエキブンキ』とか『チュウオウギンコウコウソウ』とか呟いている。
「明日から、この世界を見て回りたい」
 ぱたりと呟きが消えると、そんな事を提案した。



 姉さまとサイトが難しい話をしている。
 政治とか経済とかの話なので、あまり口は出せないけど、ものすごく勉強になる。今までお金の価値は不変のものだと思っていたから。
 でも、昔はエキュー金貨や新銀貨は無かったそうだから、このハルケギニアでも『いんふれ』は起きてたのだろう。姉さまは気づいてないみたいだが。
「明日から、この世界を見て回りたい」
 は?
 世界を見て回る=ヴァリエール家出奔=逃走。
 召喚二日目にして使い魔逃走。
 不名誉極まりない。
「な、な、な……」
「? おちび、どうしたのよ」
「なんでよ!? あんたは私の使い魔なのよ? なのに出ていくなんて……」
「いや、出ていくなんて一言も……」
「ダメ! 許さないわ! あんたは私の使い魔なんだから!」
「だから……」
「ご主人様の言うことが聞けーーーー」
「聞けい!」
「落ち着きなさい!」

 ゴゴス

「ーーーーっ」
 頭に鈍痛。痛いところを押さえてちぢこまる。少し上を向けば、『シンメイカイ』とハルケギニアの国語辞典の背表紙。と、それを掴んだ右手二つ。
「まったく、人の話を聞かないんだから」
「誰が出ていくって言ったよ? いったいどんな化学反応が起きてんだか」
 どうやら私の早合点だったようだ。未だぐわんぐわん鳴り響く頭を押さえながら、サイトに訊く。
「じゃあどういう意味よ」
「ずっとここにいたんじゃ情報が手に入らねぇからだよ。条件、こっちの常識を教える、の一環だ。街とか見て物の相場やら貨幣価値とか物の質とか需要・供給量とか知らんと商売なんてできねぇんだよ。必要になる技術の開発もできん。ついでに着替えその他諸々も欲しい。だから案内でルイズもついてくる。Ok?」
 恥ずかしい。顔が熱を持つのが判る。
「わ、判ったわ。お母さまに聞いてくるわ」
 サイトと姉さまの顔が見れず、私は逃げるように部屋を去った。



 やれやれ。
 爆弾のような娘だ。
 頭はいいのだが、どうも沸点が低く、早合点と勘違いのケがある。
「もう少し落ち着きがあるといいんだけど」
「まったくだ」
 エリーと一緒にタメイキ。
「あら。ルイズが真っ赤な顔をして走っていったけど、何かあったのかしら?」
 勉強会の会場となっていた俺の部屋にノックも無しに入ってくるのは、ルイズ曰く『ちいねえさま』。名称未確認の美少女。エリーとルイズの中間くらいの歳か。ちなみに、彼女は人類の進化の形、突然変異であると俺はここに断言しておく。
「ちびルイズが勘違いと早合点して散々喚いたあげく逃げたってところかしら」
「あらあら」
 面白そうに微笑んで、本題と言わんばかりに俺に向き直り、変わらない微笑みで、
「貴方が、新しく来られたお医者様、ですよね」
 と訊かれた。
「え?」
 俺は機械の親で兄弟でマヴダチでドクターで葬儀屋ではあるが、人間を修理する腕は持っていない。何故なら俺は技術屋なのだから。せいぜいできて応急処置、人工呼吸くらいだ。
「誰がそんなことを?」
「お父様ですわ」
 ルイズの勘違いと早合点は公爵閣下の遺伝だ。間違いない。
「……カトレア、彼は異界の賢人よ。お医者様ではないわ」
 ものすごい誇大かつ過大評価。俺で賢人ならば、大学の教授(一部を除く)は神で、過去の偉人達は創造神です。身に余るにも程がある。
「そんな大層なもんじゃないよ。ちょっとここより文明の進んだ場所から来た、普通の学生、普通の技術屋に過ぎないさ」
「あら、そうだったのですか? お父様ったら、昨日『病気が治るかも知れんぞ! 名医が来た!』って、大慌てで私の部屋に飛び込んできたんです」
 確定どころじゃないな。属性『おっちょこちょい』が更に上乗せか。
「今朝になって、昨日のことが嘘みたいにおとなしくなっていたから……」
「お母さまね」
 多分、カリーヌさんの話を最後まで聞かずに飛び出してきたタチだろう。希望が絶頂のところで続きを聞かされて叩き落とされた、ってとこか。何となく、あの人の事が読めてきた。
「まだ、名乗ってもなかったね。俺は平賀才人。平賀が家名で才人が名。こっちじゃ珍しいみたいだがな」
「いえいえ、いい名前だと思いますよ。私はカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・フォンティーヌと申します。カトレアとお呼びください」
「よろしくな」
「ええ、こちらこそ」
「なんで私だけ愛称でちびルイズとカトレアはそのままなのよ~」
 名前が長いからだ、と言うと叩かれた。

 それから、何故かカトレアも混ざって日本語の勉強をしていたのだが、カトレアは『化物か』と思うくらい習得が早かった。何となくだが、この三姉妹の頭の構造が理解できた。
 ルイズは政治系に強いのではないか。インフレの話とか、密かに理解していたみたいだったし。もしかしたら経済でもいけるんじゃないか。
 カトレアは文系。マトモな教科書もない状態で、変態的に難しい(と思われる)日本語の本をもう普通に読んでいる。漢字の読みと意味をちょくちょく訊いてくるが、その程度。流石に日本文学の微妙なニュアンスは判らないみたいだが、おおよそ意味を理解しているようだ。
 エリーは……いわずもがな、俺と同じ匂いがする。確実に理系の研究職向きだ。
 ……天才にも程があるぞ。うらやましい。



《あとがき》

Sep.29.2009
 大学始まったんで、今までのセミオートみたいな速度の投稿はできなくなると思います。
 種子島式くらいに遅くなると思うので。すみません。



 ヴァリエール三姉妹が頭がいいのは確定。カトレアにそんな表現は無かった気がするけど、ルイズとエレオノールがあんだけ頭よくて仲間外れはないと思う訳です。他の場所では悪の参謀みたいに扱われているところもあるようですし(マテ)。
 ルイズが政治経済なのは、原作を読んでいて、ルイズは完全に理系ではないと感じたのです。政治的なものによく絡まれてるからかなぁ?
 エレオノールは完全にマッドサイエンティストに仕立て上げるつもりです。あ、でも科学至上主義じゃないんですね。才人の悪企みで気づいた人もいるかもしれませんが、科学だけでどうにかしようとするとこの作品、詰んじゃいます。

 だってマイクロメータもノギスも旋盤もフライスも溶接機も何もかもないんだもん!
 技術屋としての知識がおもいっきし殺されてます。
 どうしろってんだ、才人、サミュエル・コルトの時代のかけらすらも恵まれてねぇ! あんときゃフライスも旋盤もあったもん。
 しばらくは技術者才人には工作機械中毒症に陥ってもらいますか。(あー、旋盤ブン回してぇ……)

 という訳で、製鉄は結構先になります。



 しかしこのルイズ、暴走しても結構素直だな、などと思う今日このごろ。
 エリー、二十歳。開幕早々にデレました。あれ?
 才人が結構切れやすいのはアドレナリンのせいです。ゆっくり眠ればもっと丸くなります。

 つくづくツンデレを書くのが苦手だと感じ入る次第です。ヤンデレは得ゲフンゲフン。



 1600℃に耐えられる容器、どうやって作ろう……



Sep.29.2009
 リンクがおかしいのを修正しました。

Oct.5.2009
 誤字を修正しました。
 報告ありがとうございます。



[12279] 【習作】ルイズちゃん達と寝不足の技術者才人-4
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/05 21:21
 馬車の中で、才人は眠っている。15分で起きる、なんてことはなく、朝、馬車に乗ってからずっと。
 腕を組み、深くうつむいて、静かな寝息を立てている。
「ずっと寝てるわね」
「昨日、また徹夜したみたいよ」
 才人の寝顔は、なかなか表情豊かだ。泣きそうになったりしかめたり、ポジティブな表情が無いのが特徴だ。
「教授……それだけは……それだけはぁ~」
「再……履?」
「……これをやれ……と?」
 一時間半くらいの頻度で漏れる寝言にも、悲愴感や絶望が漂う。どんな夢を見ているのだろう。
「姉さま、才人が徹夜するのって……」
「言わないで。鬱になりそうだから」
 言わなくても判る気がする。多分、アカデミーほど余裕のある研究ではなかったのだろう。
 サイトのしている研究内容を聞いてみたが、正直、アカデミーの研究がおままごとに思えた。噛み砕いて説明しているのは判るのだが、どうしても判らない概念が多すぎる。それでも、比喩ではなく死ぬほど忙しいのはよくわかった。
「むしろ殺せ……」
「……寝言よね?」
 何かあきらめたような顔で、もうどうにでもなれといった口調で才人が呟いた。酷い夢を見ているようだ。
「姉さま、寝ているギジュチュシャは起こしてはいけません」
 夢から醒まそうとすると、ルイズに止められた。
「何故かしら」
「怖いです」
「……なるほど」
 なんとなく、それには触れてはいけない気がした。まるで神の禁忌のように。

 幾度かの休憩をはさんで、トリスタニアについたのは日も傾きかけた夕方だった。道中、不安をまき散らしていたサイトは、馬車が止まるたびに眼を醒ましては安堵の溜息をつき、『俺は、自由だ』などと重く呟いていた。トリスタニアにつけば起きるのは判っていたので放置していたが、まったく、不思議な人だ。鮮紅に染まっていた眼も、今では人間らしい白に戻っている。眼の下の隈もやや薄れてきている。
「っくぁ……よく寝た」
 こうして見ると、素材はいいのかも知れない。今は不健康そうな顔をして、髪もぼさぼさで、全体的にくたびれているけど、磨けば光りそうだ。
「夕方か~。結構遠いんだな」
 寝起きとは思えないほどにしっかりした動き。すぐに馬車を降りて、物珍しそうに当たりを見回した。
「ふーん。やっぱ中世ってところだな」
 ポケットから取り出したメモ帳に、ボールペンを走らせる。何度見ても素晴らしい製紙技術とペンだ。今まで使っていた紙と羽ペンより遥かに書きやすい。一本貰ったが、それを元に全力で複製している。規格品と大量生産ができないのが魔法の欠点だと思い知らされた。サイトは『科学でできて魔法でできないことがあるのと同じで、魔法にも科学でできないことができるから、そこを補い合えばいい』と言ってくれたが。魔法と科学の融合……
「姉さま、大丈夫ですか?」
「え? あ、ええ、大丈夫よ」
 ルイズが想像の世界から私を引きずり上げてくれた。サイトのいう、『夢が広がりんぐ』の意味が判る気がする。
「ねえサイト、いつまでも見てないで、先に宿に行きましょ」
 ルイズが道や店を見つめてメモをとっているサイトを促す。お母さまには四泊五日の許可を貰っているが、移動を考えると三日しかない。馬車を御者に任せ、すぐに宿に向かった。



 予想通りだった。
 文明レベルは中世ヨーロッパ。歴史にはあまり詳しくなく、中世といっても時期によって違うが、おおよそ俺の予想していたのと同じ。
 技術レベルは高いように見える。恐らくは魔法、それも練金などによるものだろう。全体的に綺麗にできているように見える建造物も、日本の建築が基準の俺の眼からすると、僅かに歪んで見える。感覚としては、測定もせずに、調整していない工作機械でパーツをつくったような感じ。もしくは、粘土で作った物を焼いて固めたってところか。正確な測定器がないらしいから、それも仕方がない。というか、ある程度強度があればいいだけから、測定器が必要とされないっぽい。
「地震が起きたら終了(オワリ)な街並みだな」
 災害対策は全くなし。大通りですら5mくらいで、しかも出店やらでさらに狭くなっている。そこを大勢の人が流れている。避難経路は無い。テロをするにはもってこいの街。これだけ混んでいれば、犯罪も多いだろう。
「地震? そんなもの、滅多なことじゃ起こらないわよ」
 欧州らしい。これが東アジアの島国地域だったら、震度3以上のがちょくちょく、時々大震災が発生するってのに。日本の木造建築が馬鹿みたいに)強いのは、地震や毎年恒例の台風のおかげだったり。自然災害が人類を強くするのは歴史が証明している。
「うらやましいな。俺の祖国は毎年何度も地震が起きるんで、建物はやたらと頑丈だぞ。……ん?」
 一瞬で思考が塗り替えられた。五感の一つが過剰反応し、別の一つがそれをロックオン。足が自動的に動き出し、腕は邪魔な人間どもを押しのける。
「ちょ、ちょっと! どこ行こうっての……よ?」
 それは一つの出店。
「お? お客さん、興味あるかい? なんなら試しに一杯どうだい?」
 差し出されるコップ。そこに注がれた熱い液体。
 俺は迷わずその杯を受け取り、口に含み……
「ぶっふ―――――――――――っ!」
 すさまじくまずかった。
「うわ! 汚ねぇ! てめ、何しやがんだ!」
 同時に湧き上がる怒り。これは俺に対する挑戦である。誰がどう否定しようと。
「……貴様」
「ひっ!?」
「茶の淹れ方も知らず、売りに出すとは笑止」
 カウンターの裏に回り、そこにある設備を見、それを手に取る。
「あ、あんた何しやが……」
「黙って見ていろ」
 沸騰した湯をたたえた鍋を火から下ろし、幾つかのコップに分ける。早く冷やす技だ。
 冷えたら鍋から湯をつぎたし、適温に調整する。
 急須に葉を少しだけ入れ、湯を入れる。蓋をして揺らしながらしばらく待ち、二つのコップに交互に淹れる。最後の一滴まで。
「飲め」
「あ、はい……これはッ!?」
 店主がなにやら驚いているようだが、そんなのは興味がない。正しく淹れて、どれだけの葉か知りたかった。質のいい上質の葉なら、先ほどまでこの店主に淹れられていた葉は不敏だ。
「……ふぅ。悪くは無いけど、これといって上質なものでもないな。だが……緑茶はいい……」
 この懐かしい香り。この世界に来てから三日しか経っていないが、それでもそう思えてしまう。ああ……旨い。
「何やってるのよ」
「緑茶? これが東方のお茶なのね」
 『東方の地 ロバ・アル・カリイエからの舶来品 緑茶! 紅茶とはまた違った味わい』と看板の出された出店に、ルイズとエリーがやってきた。カウンターの中で一息ついてるのを見てルイズは呆れているみたいだったが、エリーは興味を持ったようだ。
「飲んでみるか?」
 と訊きつつも飲ませる気満々である。既に淹れている。
「そうね……もらおうかしら」
「ねえサイト、もしかして……」
「ああ。我が祖国ニッポンでは、日常的に緑茶が飲まれている。これを飲まない日本人はいないぜ」
 緑茶は低温でじっくり淹れるものだ。一部では水出し玉露などもあるくらいに。常に何もかもを高温に保たねばならない面倒な紅茶よりはお手軽だが、緑茶を淹れるプロセスには各家に先祖から代々伝わる極意があるのだ。葉の量、湯の温度、淹れる時間、揺らす半径、その速度、それらを茶葉の状態や気温、飲む者の状態により臨機応変に操り、最高の味を抽出する。その極意。母さんから叩き込まれたこの技術は俺の誇りだ。
「はい、どうぞ」
「ありがと……あ、おいしい……」
「紅茶とはまた違った美味しさね」
 なかなか好評のようだ。
「で、この俺のライフラインを入手したいんだが……」
「まあ、いいわよ。少しd」
「主、あるだけ出せ! 全部買う!」
 許可が出た。少しだけなんて、俺が許すわけ無いだろう?
「ちょ、サイト!?」
「いいじゃない。これを逃したら買えないかも知れないんだし、はい、お金」
 流石エリー、話せるじゃないか!
「あ、あの、お客さん、お名前をお教え……」
「うるせえ! 才人だ! おい、これで足りるか?」
「はい、ではお釣りを」
 釣りと袋入りの茶葉を受け取り、意気揚揚とカウンターを出る。なんだか背後に熱い視線を感じるが、知ったことではない。今は異界の地で緑茶が手に入ったことをただひたすらに喜ぶ時だ。何人たりとも、この幸福を邪魔することは許さん。

 宿についてティーポットを借り、一服してやっとクールダウンした。まだ心は踊っているが、精神安定剤(お茶)が入っているので躯はくつろいでいる。
「十杯目よ。よく飽きないわね」
「人には譲れないものが最低十はある。技術者は更にその十倍はこだわるものがある。つーか、ルイズにとっての紅茶だと思えば判りやすいだろ?」
 まったく違う環境に放り出されて溜まっていたわずかなストレスが、安堵の溜息とともに抜けていく。これが安息というものだったか。文字通り忙殺されて、デスマーチが日常になってどれくらいだったか。ストレスにも疲労にも慣れきっていた事実に驚きながらも納得していた。
 課題、レポート、実験、設計、研究、講義、今その全てから解放されている。教授無き異世界で、新たな人生を書き連ねる。俺は変わる。
「紅茶なら仕方ないわね。おかわり」
「そういうおちびだって、もう五杯目よ」
「うっ……」
「ははははは、その芳香の魅力に飲まれるがよい」
「偉そうに……」
 あの忙殺地獄から救い出してくれたことに関しては、ルイズに感謝しなくてはならないのかも知れない。それが誘拐のような形であっても。

「ねえサイト。何書いてるの?」
 俺のメモ帳に、エリーが興味を持ったらしい。
「色々、だ。俺の常識に無いもの、気づいたこと、儲かりそうなものとか」
「何か判った?」
「首都とは思えないな。全体的に道が狭くて混むから、敵国のスパイが破壊活動でもしたら被害は甚大。人ごみに紛れて犯罪もしやすい。同じ理由で自然災害にも弱いし、避難経路も避難場所も考えられてない。衛生観念がないからか、ゴミや汚れが目立つ。伝染病が流行ってないのは、下水が整備されてるからかな?この規模で都市計画を考えると、整備するより首都移転の方が手っ取り早いな」
 ざっと見た感じをエリーに報告する。日本の満員電車の中で乗客全員が不自由気ままに歩き回るようなものだ。人との接触が飽和し、スリや痴漢が日常となる。そんな中で爆発とか、いや、パニックを演出するだけでいい。ぷよぷよみたいに連鎖して、圧死する人が多発するだろう。そんななかにウィルスキャリアがいたら、一気にペストの嵐と同じ状況に陥る。
「伝染病?」
「汚染はあらゆる病の元なんだ。ウィルス、病原菌、アレルギー、精神汚染、薬物汚染、数えればきりがない」
「…………」
「カトレアは違うよ。あれは多分、躯の方に問題があるんだと思う。俺は素人だから断言できないけど」
 まさか、と言いたそうなエリーを安心させるため、というのもおかしいが、俺の予想を言ってみた。元の世界のテレビ番組『密着! 救急○命24時』とか『本当は怖い た○しの家庭の医学』などで得たうろ覚えな知識だが、どうあがいたって技術が進歩するまで、医学や薬学が進むまで俺にできることはないんだ。気休めくらいは言って、ちょっとだけでも安心させてやることしかできない。
「言い方は悪いが、カトレアは今すぐどうにかなる訳じゃない。悔しいけど、焦らずに確実に、技術を進歩させていくしかないんだ」
「そう……そうよね」
 以降、必要でない限り病気や医療の話はしないと誓った。
「んで、俺は思った訳だ。正確な計測器が欲しいと。マザーマシンと刃物と精密測定器は定期的に補給しないと狂い死んじまう」
 無理矢理話題を変える。鬱鬱しい雰囲気は苦手だ。なんの脈絡もなく話題を変えるのは技術者の特権である。
「……測定器?」
「たとえば小麦売った金を税として徴収するとしよう。この小麦を売る時、最も安定した計測方法は何だ?」
「体積?」
「重さかしら」
「ルイズ、正解。重量で計算するんだ。質が悪くてスッカラカンだったら最悪だからな。正確さは欲しい。で、これを見てくれ。これをどう思う」
 さっきの緑茶屋から買った葉の袋を見せる。袋には値札がついたままだ。
「すごく……」
「量に差があるわね」
「計測技術が遅れているからな。大量生産で安く正確な重量計ができれば……」
 『!』と頭の中で効果音が鳴る。頭の上には無論感嘆符。
 ポケットの中身を取り出し、財布から使うとは思わなかった小銭をじゃらじゃら机に撒く。
「1円玉! 1gで直径20mmだ!」
 日本で最も小さく軽い硬貨。他にも全種類じゃらじゃら揃っている。
「50円玉、4gで21mm、穴が4mm。そして7gの新五百円玉……」
 我ながらよく覚えている。実験で分銅の量に困ったらこれを代わりに使っていた。殆どが平成20年以降の傷の少ないものばかりだ。
「へぇ……綺麗ね。これがサイトの国のお金?」
「ああ。日本円だ。通貨にして重量と長さの基準だ」
 ルイズはそれほど興味なさそうに見ているが、エリーはテーブルにかじりついて、特に新五百円玉を穴があくほど見ている。重ねたり並べたり、立ててみたり。
「なんて……美しいの」
 日本で聞いたら、大丈夫かコイツ、って眼で見られそうだが、ここはトリステイン。
「見なさいおちび! この『500』の字、角度を変えると中にも『500』が見えるわ! それにこんなに細かい彫刻が寸分違わず刻んであるわ! この『10』の硬貨なんて、こんな小さな円盤に城が!」
 大はしゃぎだ。つられるようにルイズもそれに気付き、目を丸くする。
「積み上げても崩れない……いいえ、立てても倒れない? 大きさにも形にも全くばらつきがないわ」
 世界で最も偽造しづらい札を見せたらどうなるのだろう。
「あ、ここ、とっても小さな字で何か書いてあるわ」
 500円玉の18μmで刻んである『NIPPON』を読み取っているらしい。エリー、貴方の眼は顕微鏡ですか。



 あの後、紙幣を見せたらエリーが感動して涙を流すなんてアクシデントがあり、最終的に二人は疲れ切って眠ってしまった。



《あとがき》

Oct.4.2009
 緑茶は精神安定剤です。異論は認めない。
 百利あって一害なしの、超健康飲料であるッ!

 トリスタニアはなんというか狭いイメージが。手榴弾一発で百人規模で死人が出そうな都市だと思うわけです。主にパニックの方向で。路地裏も汚物が転がっているとかあるので、綺麗な街並みではない=衛生観念が発達してないかと。

 日本の通貨は世界一チィィィィィィ!
 偽造などできぬゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!
 紙幣に限る。五百円玉は某国で偽造されたらしいし。
 実際、金に使われる技術は果てしなく高度だと思います。結構新しい硬貨マイクロメータで測っても誤差はあまりないし。
 サイトが何故そんなに詳しいかって? 技術屋ってのは大半の人が知らないことを覚えようとするものさ。
 とにかく、マイクロメータ作る目途が立ちました。



 手榴弾はパニックの起爆剤みたいなもんです。
 さすがに混雑した街中で起爆した場合、死人は出ます。運河よくて(悪くて?)重傷です。破片は人を楯にすれば防げるので、直接の被害は数人くらいでしょうが。
 実際は、爆弾で直接殺すよりもパニックを起こした方が政治的ダメージは大きいので。爆発で人が死ぬ必要は無いです。スタングレネードで充分です。
 テロリズムの語源はテラー(恐怖)ですから。

《訂正》
 カフェインの副作用忘れてた……
 ついでに利尿作用も。
 緑茶にも一害二害くらいはあります。それもコントロールしてこその日本人。
 でも過ぎたるは及ばざるが如しです。

Oct.5.2009
 リンクの異常を修正しました。
 脱字を修正しました。
 トリスタニアの道幅に関する記述を修正しました。
 ご指摘、ありがとうございます。



[12279] 【習作】ルイズちゃん達と寝不足の技術者才人-5
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/06/06 02:09
 真夜中、緑茶を飲みすぎたせいか、トイレに行きたくなって起きた。
 用を足して部屋に戻ると、サイトが泊まっている部屋から明かりが漏れていた。
 そっと覗いてみると、テーブルでカリカリと音を立てながら、一心不乱に何かを書いているであろうサイトの後ろ姿が見えた。
「ねえ、サイト」
「なんだ?」
 ひどくぶっきらぼうな返事が帰ってくる。だけど、無いよりはいい。
「まだ起きてたの?」
「ああ」
「何してるの?」
「今日思いついたことを書いてる」
「寝ないの?」
「寝たら忘れる」
 召喚された日も、こんなことを言って一晩中何かを書き続けていたことを思い出す。あの時も、こんなに寂しくひたすら何かを書き続けていたのだろうか。
「大丈夫?」
「死にはしないさ。いつものことだし」
「そう……ほどほどにしなさいよ?」
「ああ」
 いつものこと。こんな生活がいつものことだったのだろうか。
 漠然とした不安を抱えたまま、私は姉さまと自分の部屋に戻った。



 次の日も、サイトは朝日がやっと顔を出すくらいの早朝から全力で街を回っていた。ずっと部屋で何かを書いていたのに、しかしサイトの眼は紅くないし、隈も薄くなっている。ちゃんとあの後寝たんだろう。
「本屋に行くぞ」
 そこに何の目的があるのか、私達は知らされていない。だけど、それはこれからの為に必要なことだと判っていた。
「全部手書きか。しかしまあ、同じ本でも全然筆跡が変わらないな」
「それはそうよ。魔法で自動筆記させてんだから」
「自動筆記? どんなんなんだ?」
 サイトは自動筆記魔法に興味を持ったようだ。
「ペンを魔法で動かして、書いてあるものを写す魔法よ。自動筆記用のマジックアイテムもあるけど」
「それだと、一冊写すのにかなりの時間がかかるな。一文字一文字手で書くのと変わらんじゃねぇか」
 サイトは「なんという時間と労力の無駄」と呟くと、メモ帳に何かを書き足す。
「紙質もそこまでよくないな。羊皮紙ばっか。なあ、普通の本屋にある種類の本は、大体ここにあるか?」
「そうね……物語とか、ちょっとした知識とか、そういったものしかないけど」
「魔法書とかは専門の本屋にあるわ」
「ふむ……本と魔法書がまったく別物扱いか。この世界らしいな」
 話している間もペンは止まらない。メモ帳を覗いてみたら、(言語的に)読めないけどそれなりに綺麗な字がびっしり並んでいた。まったく手元を見ていないというのに。
「すごい……」
「さてと。面白そうな本は――――」
 ものすごい速度で本の背拍子を指が滑る。ぺちちちちちち、と、なかなかかわいい音を立てて、やがてぴたりと指が止まる。
「…………」
「どうしたの?」
 サイトは止まったまま、まったく動かない。いや、眼がめまぐるしく動いていた。
「なるほど。もしかしたら、召喚だけじゃなくて、別の方法があるかもしれねぇ」
「へ?」
 サイトの指先から左にずっと、見覚えがあったりなかったりする文字の本が並んでいた。



 『資本論』『沈黙の○隊38』『電気基礎(上)』『川の流れは』『六法全書』『ジョ○ョの奇妙な冒険27』『急降下爆撃』『栄養学概論』……
 他にも、日本語じゃない本もある。
「なあエリー、ここの本、高いか?」
「かなり高いわ」
 棚の値札を見て、俺はタメイキをつく。数値は判るが、まだ相場が判らない。
「ねえ、その本、どれくらいの価値があるの?」
「これに書いてあることを実現しただけで、五代先まで遊んで暮らせるかもしれない。新体制の超大国を建国できたりするかも。国家間の争いの方法として戦争が放棄されたり」
「はぁ!?」
 エリーが信じられないといった表情を浮かべる。
「ま、要るのはこれくらいか」
 『電気基礎(上)』『急降下爆撃』『栄養学概論』『熱力学』『健康運動学』の五冊を本棚から抜き、手の上に重ねる。
「これ全部?」
「価値としてはどれくらいだ?」
「城が買えるわ」
 なるほど。読めない言語で書かれている上、世界に無い装丁の古い本だからか。貴重な古文書かなんかと勘違いしているのではないか?
「店主。店主はいるか?」
「お呼びですか?」
「面白い儲け話がある」



 サイトが店主と別室にこもって数時間。扉が開けば、何故か眼が紅くなり涙の跡の見える店主が出てきて、全ての異界の書を譲ると言ってくれた。
「なにがあったの?」
「これさ」
 その手にある、小さな本。それが何だというのか?
「これの内容を読み聞かせてやったんだ。臨場感たっぷりに」
「何なのそれ?」
「楽しい楽しい物語。翻訳して出版することを条件に貰ったんだ」
 読み聞かせるだけで型物そうな店主を泣かせる本。内容が気になった。
「そんなことで、これを含め、次からこの店に流れてきた読めない本は、ヴァリエール家に送られることになりました。つことで、製紙技術と印刷技術も確立しねぇといけなくなちまった」
 ははははは、と愉快そうにサイトは笑う。



 本屋で何も買わず、露店や雑貨屋を巡る。サイトは眼をキラッキラさせてガラクタを二束三文で買っていく。巨大な鞄がどんどん膨らんでいく。運べないくらい重いものや大きなもの、そして鞄が満杯になった後は、後で輸送してもらうことにして、どんどん進んでいく。一体どんな物かは私には判らないが、どれも練金じゃ再現できないほどの代物だった。私がどんなに気合を入れたとしても。
 ルイズは物珍しそうに店を見て回っている。こんな店に来るのは、確か初めてだったはず。

「うお、デグチャロヴァ・シュパーギナ・クルピノカラヴェルニじゃねーか! こっちはダイアモンドかcBNか判らんがホイール! 買ったッ! なあおやじさん、あんたいい眼をしてるぜ!」
「ははは、ガラクタ集めしかできんしがないおやじだが、そう褒めてくれると嬉しいもんだな。そら、これも持ってけ」
「コルトのリボルビングライフル!? こっちはわが祖国が誇る偉大な技術の粋『日本刀』!? おやじさん、これだけは受け取れねえや。家宝にしてくれ。これは国が買える名剣だ!」
「ほう。なおさらこんな店に置いておくわけにはいかんな。価値の判る者の手にあるべきだ」
「おやじさん……ありがとう。大事にするよ」

 なんてこともあり、サイトは黒い鞘に入れられた剣を抱くように持っている。
「そんなに凄いものなの?」
「世界最高の切れ味と強度を誇り、かつ無骨でありながら繊細で美しい。見よ!」
 しゃらん、と、静かな音を立てて細い刀身が露わになる。その動作が美しくて、一瞬見とれてしまった。
「な、なんだこれ?」
 そんな間抜けな声が、見とれていた時間を一瞬で終わらせていた。
「何があったの? 偽物だった?」
「いや……この焔薙からなんか情報が流れてきて……ついでにいうと躯がすげぇ軽い」
 ひゅん、ちん、と一瞬でニホントウは鞘に収められた。
「危ねー。これ、妖刀じゃないけど怖え。邪神の首を落として異界の住人殺しまくってる。値段なんてつけられねぇ」
「はぁ」
「……もしかして」
 何かを思いついたらしい。
「武器屋に行くぞ」



 治安が悪そうな、大通りから一歩ずれた道。そこをうろうろしていると、武器屋の看板が眼に入った。
 入ってみると、不愛想な店主がこちらを睨んでいる。
「店主、少し武器見せてもらうぜ」
 一応断りをいれて、店の武器を物色する。
「なあ坊主。その抱えてんのは飾りか?」
 俺の抱えている焔薙が、さぞかし立派に見えるらしい。
「予備でも買おうかと思ってな」
 会話もそこそこに、壁に飾ってある剣を手にとる。やはりそうか。
「どうしたのよサイト? 剣が欲しいの?」
「ニホントウをもらったのに、欲張りな奴ね」
 エリーとルイズが入ってきて、店主の態度が一変したが、知ったこっちゃない。無視して剣を握ったり戻したりを繰り返す。
「……全体的にダメだな。打ち直した方がいい。そもそも炭素量が足りないしバラバラ、焼き入れもしてない……日本刀と製法とか用途が違うにしても、これはひどい」
 情報がにゅるにゅる流れ込んでくる。使い方も何となく判る。というか、今なら凄いことができそうな気がしてならない。旋盤加工とかフライス加工とかがこの剣一本で。あくまで、『気がする』ってレベルの話だが。
「何言ってんだ、そこの壁のはそれなりに高い代物だぞ!」
「つってもなー。この店で最高の剣は?」
「ッチ、待ってな」
 カウンターの奥に消えてガサゴソしている店主を待つ間、剣以外の武器を漁る。
「うお、シャーマンフレイルのチェーン? うわ、旧日本軍の陶器地雷もある……お、モルゲンシュテルン、えげつなー」
 だが、この世界製と思われるモルゲンシュテルン、というかモーニングスターは脆かった。振る気にもなれないほどに。
「ねえ、サイト? 何しに……」
「おい坊主。持ってきたぞ」
 エリーが何か聞いてくるが、タイミング悪く店主が戻ってきた。聞きたいことは判らんでもないが。
「お、ありがと」
 さっそく握ってみるが――――
「剣じゃねえ」
「は?」
 刃を手でなぞっても、エッジが存在しない。
「金メッキ、鋼ですらない鋳鉄、本物は宝石くらいだ。なんでこんな中途半端なもんがあるんだ?」
「いい加減にしろよ坊主、これはゲルマニアのシュペー卿が練金した、魔法もかかって鉄でもまっぷたつに……」
「技術屋舐めんな。じゃあ、試しにこいつとそれ、どっちが強いか試してみるか?」
 焔薙を掴んで、店主に見せつける。
「はん、そんな見たこともねえ細っせぇ剣でこの剣がどうにかなるもんか! やってみな! できたら好きな剣持ってけ!」
 にやり。
「そぉい!」
「へ?」
 大上段から振り下ろし、装飾剣を斬った。カウンターごと。すぱぁん、と。
「ああああああああああああああああああああああああ!! 2000エキューもしたシュペー卿の剣んんんんんんんん!!」
「断面見てみな。ただの金メッキだろ?」
「うう……ホントだ……騙された……」
 店主はマジ泣きしている。中年のおっさんが泣くのは見ててつらい。
「宝石と金は本物だから、売ればそれなりになるぞ」
 あまりにも哀れなので少しフォローして、さすがに剣は貰わずに、帰ろうかと思ったその時。
「ざまあねえな! 俺の言った通りだろ!」
 運命を感じるとは、この事だろうか。
「うるせえデルフ! この悲しみが判るか!」
「ガハハハハ! ん? 何だ坊主」
 無造作に何本も剣が突っ込まれている樽から、一本の剣を抜き出す。
「素晴らしい……お前、AIか?」
 インテリジェンスソード。素材は鋼。錆びているのは偽装のようだ。砂鉄をしっかり焼き固めてあって、強度も充分。剣として申し分ないが、そんなことより。
「AI? なんだそりゃ。俺はインテリジェンスソードのデルフリンガー様だ」
「インテリジェンス……なあ店主。これ貰っていいか?」
「ああもう何でもいいから持っていけ!」



「♪~♪♪♪~♪~♪~♪~♪♪♪~♪~」
「すごいご機嫌ね……」
 サイトはさっきからずっと同じ歌を唄っている。意味は判らないけど(サイトにも判らないらしい)。
 すっかり赤くなった街並みを、踊りださんばかりにご機嫌に歩いている。
「AIだぞAI! 人類がずっと望んでいた夢か幻か人工の知能! それがこの手に! 魔法って最高だなおい!」
「確かに珍しいけど……」
「それに剣としても悪くないぞ! 焔薙で斬っても耐えられると思う」
「お、おい! 間違ってもそんなことするんじゃねぇぞ!」
「ははは、そんなことはしないさ。なんたって、デルフは人類の夢なんだからさ」
 その、大きな剣を二本にたくさんのガラクタの入ったリュックを背負って、サイトは宿に着くまで足取りも軽く、こっちまで微笑んでしまいそうなほどにニコニコしていた。



《あとがき》

Jun.4.2010

 長らくお待たせしました。
 プロットが行方不明になったり卒研が始まったりとアホみたいにアクシデントが続く中、やっとこさっとこ上げることができました……
 続きもまたしばらく開くことになりそうです。院試も受けないといけないし……
 なのはの方はあらかた原作に沿っていますが、こっちは完璧オリジナルルートなので、しかも産業の進歩をテーマにしていますので、変なことを書いていないか調べながらなので書くだけでも長くなるのですよ。これでも私は技術屋なので……
 ではまた。一ヶ月以内に会えることを期待せずに待っていてください。


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