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[10620] がんばって今日を生き残る(現実→東方Project 転生物)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/30 22:29
※注意※

このSSには以下の成分が含まれております。

・設定の独自解釈
・キャラクターのイメージブレイク
・作者はSS初心者(言葉遣いや文章のつなぎに著しくおかしな点があるかも知れない)
・更新速度は神のみぞ知る・・・
・転生物の癖に最初意外、転生の意味がまったく無い

以上の点が受け付けられない方はお戻りになったほうがいいかもしれません。
大丈夫なようでしたら存分にお楽しみください。
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急に目が覚めた・・・

「あぶぶ~ぶ~ぶぶぶ(知らない天井だ)・・・」

・・・・・・・・・??

「あぶ(なに)?」

ちょっと待て!なんだ今のは!
口から出た泣き声に混乱しながらも体を起こそうとするが、
手足がじたばたともがく感覚があるだけで肝心の体がまったく動かない。
思い通りに動かない体と口に、俺はさらに混乱した。

「あんぎゃ~~!!おぎゃ~~~~!!(なんだ!なんなんだよこれ~~~!!)」

声を出そうとするものの口から出るのは泣き声だけ。
意味が分からない。だれか、誰でもいいから助けてくれ!!
混乱する頭では誰かに助けを求める以外思い付きもしなかった。
必死の願いが通じたのか誰かがそばに来た気配がする。
そのまま、俺はその誰かに抱き上げられた。

「あんぎゃ~~!!おぎゃ~~~~!!(ちょっと!あんた誰だ!ここは何処だ!!)」

よく分からない、と言うよりよく見えない相手に混乱したまま問いかけるも、
泣き声しか口からは出ない。
するとその誰かは口を開き、
「はいはい、良い子ですね~♪お母さんはここにいますよ~♪」
っと俺の背をぽんぽんとやさしく叩くのだ。
すると不思議なことにあれだけ不安だった自分が落ち着いていくのが分かった。
そして、安心すると再び眠くなってきた。
もっとこの人と一緒にいたいと思うのにだんだんと眠くなっていく。
も 、  が霞 で、何   な 。






その後、目覚めた俺は自分が赤ん坊となっているのだと知った。
と言うより、そう思うしかなかった。
だってそうだろう。
これでも俺は自分の覚えてる限りでは24のサラリーマンだったんだから。
体が動かないや声が出ないなら事故にあったかと思うが誰かに抱き上げられるのは、
まずありえないし。
何よりも、あの安心できる人(母親だと思う)がお母さんと言ってたしなぁ。
とりあえずは、何で赤子になっているとかそういった問題はおいといてだ・・・

「・・・おぎゃ~~~!おぎゃぁ~!(母さんおなかすいた~~!!)」

腹ごしらえをしよう。

赤子授乳中・・・・・・・・げぷっ

さてと、現状を整理しよう。
とりあえず記憶に残っている古いことから整理していくとしよう。
俺の名前は田中善郎(たなかよしろう)24のサラリーマンで
いつもどおり仕事を終えて家に帰り寝たはずなんだが。
・・・・・・まったく分からんな。

これはあれだろうか、今流行している転生と言うやつなんだろうか。
何が原因で死んだのやらさっぱり分からんが
もしもそうだとするなら・・・
人生勝ち組もほぼ決まったじゃないか。
子供の体に大人の頭脳、さらには体を鍛えていけば、
完成するであろうチートボディ。
・・・・・・完璧じゃないか。

そうと分かったら今は寝るとしよう。
おぼろげにしか物が見えない上に体も動かせないんじゃできること無いからな。
そんな訳で、明日の勝利のためにおやすみなさい。


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後書き(反省)

始めましてお手玉の中身と申します。
今回、多くの作家の方々に影響されまして無謀にも自分も作ってみようと思い、SS初投稿をさせていただきました。
誤字など、見かけることがありましたらやさしく教えていただけるとありがたいです。
では、今後ともよろしくお願いします。



[10620] 実は名前が時代だったりする
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/28 22:56
目の前に広がる木、木、木。
右を向いても木、左を向いても木、ついでに後ろにも木。
周りが全部木だらけというか森の中。
しかも縄で縛られると言うオプションつきで見事に放置されている。

・・・・・・・・・ちくしょう。

さてはて、何でこんな状況になったか思い出してみよう。



少年回想中・・・・・・



















俺がこの世界に転生し早数ヶ月が経過した頃、俺は早速挫折を味わうこととなった。
正直俺は転生することができて人生勝ち組決定とか喜んでいたが、世の中甘くなかった。
まず、ぼんやりとしか見えなかった物がはっきり見えるようになりだしてから気づいたのだが、家が妙に古臭い。
家というよりも小屋と言ったほうが正しいような作りな上に現代日本では見られなくなったような古い(かまど)が置いてあるからだ。
その時点では多少変わった家と思っていたが母に外に連れ出してもらいそれが間違いだと思い知った。
外の風景はどこを見渡しても田畑に自分の家に似たような家がぽつぽつと点在している。
一体どこの田舎だと思い何とか情報を集めようとは思ったものの新聞すらなく母が近所で話す内容はどうでもいいことばかり。
それでも注意深く聞いていれば離れた村が山賊に襲われたなどと言う物騒な話が出るしまつ。
現代日本に山賊なんているはずが無い・・・
そうして俺はここが現代日本の田舎ではなく山賊が当然のように出てくる過去の日本だと理解するに至った。
次に、いつも母さんやご近所からは「坊や」としか呼ばれなかったから自分の名前すら分からなかったが、
ある日髭の生えた熊(父親?)が現れ、
「おぉ~、あすか、元気にしているか」とか言いながら抱いてきたから『あすか』が俺の名前のようだ。

そんな風に色々と確認していくと、俺が前世で培った知識は電気の概念すらなさそうなこの時代ではまさに無用の長物。
せめて農耕の知識があればよかったがそういったものもまったく持っていない俺は1から勉強し直すような状態となった。
俺が夢に抱いていた人生勝ち組計画はこうして幼き日のうちに砂の城となり崩れ去った。
まぁそれでも俺は、優しい母に見守られながら病気になることも無く山賊に襲われることも無く(何気に重要)無事に成長することができた。




ところが、俺が5歳になった日、状況が一変した。
俺の住んでいる村が異常気象に襲われてしまったのだ。
大雨が降ったかと思えば川の水が干上がるほどの快晴、暑い日の次は雪が降り出してしまう日まであった。
当然、こんな天気が続けばまともに作物が育つはずも無く元々蓄えのある村でもなかったので村全体が飢えるのに時間はかからなかった。
村全体が芋ひとつで争うような日常が続いたが、そんな中でも俺の母さんは自分の食事を俺に与えてくれるやさしい母だった。
飢饉が4ヶ月ほど続きとうとう村では餓死者が出始めたそんなある日、村に怪しげな祈祷師が現れとんでもない事を言ってくれた。
祈祷師曰く、「この天気はとある子供の生が山の神の怒りに触れたが為のもの、子供を生贄にせねば作物が実ることは無い」っとかなんとか。
村の偉い人たちは祈祷師に縋り付きその子供は誰かと確認した所、俺がその子供だったとか。
それに対し、母さんはそんな馬鹿なと反抗したものの村中が祈祷師の言葉を信じている中では母さんは罰当たり者として村人から袋叩きにあってしまった。
俺は母さんを助けようとしたものの大人の力に勝てるわけも無くあっさりと縛られてその場で転がされてしまった。
俺は必死に叫んだ、母を助けたい一身でもがいた、人垣が割れその中が見えた時、中にいた母は頭から血を流しぐったりと力なく横たわっていた。
それを見た瞬間、俺の頭の中で何かが切れる音がし視界が真っ黒になった。















そして、
「こうやって森の中で縛られて放置されるのかっと・・・」
俺はそう呟いて、何とか縄を解こうと身をよじってみたがかなりきつく縛られているようで、解けそうにも無い。
あれからどれほど気絶していたかは分からないが、最後に見た母の姿からもう母が死んでいるのだろうと理解してしまった。
唐突に視界が歪み、両の頬に何かが伝って落ちて行く感触がする。

「ははっ・・・、最悪だ・・・」

年齢5歳、前世合わせるなら29にもなる歳だが身近な人の初めての死だった。



おまけ
余談ではあるが熊(父親?)の報告
どうもあの熊は都のほうで大きな仕事にありついたらしくそのついでに俺と母を捨てて行ったのだが、
護衛していた人が殺されたからその責任でそのまま切り捨てられたらしい。
見事な因果応報である。



[10620] 主人公に命の危機は付き物だろうと思った今日この頃
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/28 23:09
「ん ?な  この 鬼?こ  と ろで縛    し・・・」
あれから泣き続け、いつの間にか眠ってしまっていた俺は人の声で目を覚ました。
「ふ ・・・、とり  ず・・・」
よかった、早いところ話しかけて縄「食うか」って!!
「食うな!!!」

危ない発言を聞いた俺は縛られているのも忘れて慌てて飛び起きようとするも、
縛られているのだからまともに立ち上がれるわけもなく重力に従い顔面から地面へと倒れた。
「ぶぎゃ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

沈黙が痛い・・・・・・・・・・気を取り直し、相手に縄を解いてもらうために話し掛けようと思い顔を向けると、
そこには頭に一本の角を置きこれこそ極道と言わんばかりの面をした強面のおっさんがいた。
・・・・・・・・・ありえねぇ。
顔が怖いとかは別にいいがいい年して頭に角?のようなアクセサリーを付けるおっさんがいるとは。

あまりの格好に唖然としているとおっさんは口を開き、
「あ~・・・坊主、大丈夫か?」
っと頭をバリバリ掻きながら確認してきた。

「あ、あぁ」

それに対していまだ精神的ショックから立ち直れていない俺はあいまいに返事をしながらおっさんの頭から目が離せずに呆けていた。
(ありえねぇ・・・あの角っぽいのはなんだ・・・流行ってるのか??)
するとおっさんはその場に座り再びたずねてきた。

「大丈夫ならいいんだが、何でこんなとこでお前は縛られてんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

それに対して俺が返事をせずにただ唖然とおっさんの頭を眺め続けていると、

「おいおい、俺様が聞いてやってんだ、返事ぐらいするもんじゃねえのか?」
おっさんがやや語気を強めて再度たずねてくることで俺もやっと頭から目を離し、

「あ、すみませんでした、答えるのは構わないんですがその前にこの縄を解いてもらえますか?」
危ない危ない、せっかくの助けなのに何時までも呆けていては助かるものも助からなくなる。
まずは縄を解いてもらい「それは無理だ」助けをって・・・

「へ?」
「おまえは俺様が食うからな」

・・・・・・・・・なんですと?!
「は?いやいや、こんな少年捕まえて食うとかなに言ってのさあんた!」
「冗談はその頭の角だけにしてくれよ!」
「俺は衆道になんぞ興味は無いぞ!俺の後ろに回るようなら舌を噛み切って死んでやる!!」

まずい!助かったと思ったら別の危機が迫っていた。やはり頭のアクセサリーは伊達じゃなかったか!!
俺は縛られながらも必死にもがきながらおっさんから距離をとった。

「馬鹿かこの餓鬼が!誰が衆道だ!!俺様にもそんな趣味は無いわ!!!」

おっさんはそれこそこちらを睨み殺さんばかりの形相で怒鳴り返してきた。

「だったら晩飯って何だよ!俺みたいな男の子を見て食うって言われたらその意味しかないだろ!!」
「違うわ!と言うよりませ過ぎだこの餓鬼が!!今のは言葉通りおまえを引き裂いて食らうと言ってるんだ!!」
「・・・・・・なるほど」
「ふう、ようやく分かってくれたか」
「いや、勘違いして悪かったよ」
「なになに、俺様も言い方が悪かった」
「「あっはっはっはっはっは」」

おっさんの言葉を誤解していた俺は尻が安全だと言うことに一安心し、おっさんと朗らかに笑いあっ・・・・・・・・・・??
ん?なんかおかしいぞ??今さっきこのおっさんなんて言った???
『言葉通りおまえを引き裂いて食らう』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「納得したらだめじゃん!!」
「うお!どうしたんだ坊主」
「いやいや、どうしたんだじゃ無いからなんで俺が食われなきゃいかんのですよ??」

あまりの混乱振りにおかしな日本語になりつつも尋ねた俺に対して、おっさんはいとも簡単にこう答えた。



「俺様は鬼で坊主がうまそうな餓鬼だからだよ」



・・・・・・一気に血の気が引いた。
っは、なんだと、鬼だと。
そんな馬鹿な、幾らなんでも馬鹿げてる。
鬼なんて空想上の生き物がいるわけない。
俺は今にも震えだしそうな体を抑えておっさんに話し掛ける。

「お、おいおい、おっさん、じ冗談はやめてくれよ」
「お鬼なんているわけ無いだろ・・・じ冗談なんだよな」

最後には尻すぼみになりながらそれでも希望を持って紡ぎだした言葉は



「何を言うておる、貴様の目の前にいる俺様が鬼だ」



無情にも打ち砕かれた。
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後書のような反省

3話目をあげる前、全部読み直してみると・・・
自分で書いておきながら微妙だな~っと生暖かい目でしまった。
しかもいまだ二次創作的なキャラクターを出してないし。
SSを書くのはなんとも難しかった。




[10620] 気づけば主人公名前が2話以降出てなかった(今回も…)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/29 18:06
俺は今鬼と対峙している。
最初は頭に角のアクセサリーを付けている変な趣味を持った強面のおっさんだと思っていた。
次は衆道の気がある変態だと思った。
それも違う、むしろその方がましだったかもしれない。

宣言されて始めて分かった。
どうやっても逃げれない、どうあがいても勝つことはできない、どれほどもがこうとも抵抗できない。
そんな、絶対的な存在が目の前にいた。
そういえばさっきまで聞こえていた鳥の鳴き声が今はもう聞こえない。

「さて、おまえを食らう前に最初の質問に戻るか」
「なぜおまえはこんなところで縛られているんだ」
どんな意味があるかはわからないが鬼はそう尋ねてきた。
俺は何とか生き延びようとどもりながらも必死に返事をした。
「そ、それにここ答えればばく食わ食わないでくれるのか」
「そんな馬鹿な、この質問は暇つぶしだ答えようと答えまいとおまえを食うことに変わりない」

冗談ではなかった、死にたくなかった、何度も横たわっている母の姿を幻視しながら俺はどうすれば生き残れるか考え続けた。
そんな俺の気も知らず、鬼はいいことを思いついたといわんばかりの顔で口を開いた。

「しかしだ、もしおまえが俺様と勝負をして勝つことができれば食わんでおいてやらんことも無い」

なん・・・だと・・・!!
「ほ、本当か!おおまえと勝負して勝て勝てれば食われずに済むのか!!」
「本当だとも」

俺は突然提案された生き残りの為の僅かな希望を目の前の鬼に再度確認をした。

「う、嘘じゃないよな!本当に助けてくれるんだな!」
「鬼は嘘が嫌いだ!そうさな・・・おまえが勝てたときにはついで俺様にできることで願いをかなえてやるよ」
鬼は「勝てるわけ無いがな」と笑いながら答えてくれた。
それはそうだろうと考えてしまった。
力比べは当然のこと俺みたいな餓鬼が鬼と知恵比べできるわけも無い、なんせ実年齢は5歳児だからな。
ただし、前世の記憶を足せばそれは違ってくる。

「それなら、勝負方法はこっちで決めてもいいか」
「いいともいいとも、どんな勝負にするんだ?力比べか?知恵比べか?」
「勝負方法は知恵比べで、内容は数取りと言う遊びだ」
「数取り?なんだそれは?」

俺が勝負方法を提示すると鬼は聞いたことの無い勝負方法に首を捻った。

「なんだか知らんが俺様が知らん方法ではどうしようもないぞ」
「あぁ、だからこれからやり方を教える」
勝負の説明のために鬼から小石を21個集めてきてもらった。

「それで、この小石でどうするんだ?ぶつけ合いでもするのか?」
「違う違う、まぁ少し聞いてくれ」

鬼が見当違いの事を始めようとするのを止め、やり方を説明する。
流石と言うべきか鬼は一度説明しただけでやり方を覚えてしまった。
「ふむ、なるほどな・・・つまりこの21個の小石を交互に取りあい最後の石を取ったほうの負けだと」
「あぁ、その通り」
「そして一度に取れる石は1~3個までか・・・ふむ、なるほど」

鬼はルールを確認しなおしているのか顔を伏せている。
実はこの遊び、俺が前世で覚えている中で数少ない必勝の遊びである。
とは言うものの、そのことを僅かでも表情に出したりすればばれてしまう可能性がある。
そういう意味では目の前の鬼が放つ気迫で萎縮している俺はどうやっても笑顔なんか作れないだろうがな。

そうこうしている内に鬼は大きくうなずき、
「では、勝負を始めるか」っと、こちらに告げてきた。

「じじゃあ、しょ勝負方法はここっちで決めたから鬼さんが先でいいよ」
「鬼さんではなく羅豪と呼ぶがいい、呼べるのは短い間だけだろうがな俺様は3だ!」

どうやら鬼は『羅豪』と言う名のようだ。
いい加減鬼の気迫に感覚が麻痺してきたのか、頭がクラクラとするものの何とか返事を返す。

「分かったよ、羅豪さん、1です」
「おいおい、たった1かよ」

羅豪は1しか取らなかった俺を小馬鹿にするがこれでいい。
むしろ知っている必勝法ではこれ以外はダメだから。

「ふん、俺様はもう一度3だ!」
「なら1です」
「また1か・・・なら俺様も1だ」
「今度は3」
「ほう1以外も言えるではないか、再び3だ!」
「1です」

羅豪との勝負は続く・・・
俺がミスしない限りは最早負けは無いとは言え油断はできない。
口を滑らすこともできない、口を滑らして余計な数字を言えばそれこそ命が無いから。

「ふん、2だ」
だからこの最後の宣言で一気に力が抜けた。
「2です!!」
「っむ、1取りで俺様の負けか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

沈黙が痛い、勝負には勝てたものの俯いて小刻みに震えている鬼が怖い。
そう思った瞬間に鬼が顔を勢いよくあげ、

「がぁっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

勢いよく笑い始めた。
羅豪が顔をあげた瞬間、びっくりした俺はそのまま後ろに倒れてしまい、
そのまま大笑いをする羅豪をぼんやりと眺めながら笑い声をBGMに意識を暗転させた。

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とうとう4回目になった後書+追記

お手玉の中身です。
感想掲示板に書き込みがあった・・・・・・・・・感激です。
感激のあまり、勢いで4話目を作ってしまいました。
これからも楽しんでもらえると嬉しいです。

jannquさんありがとうです。
完全に見逃してました、むしろ命の瀬戸際にこんなミスさせるなという話ですねorz



[10620] ある意味さらわれた主人公
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/29 18:21
ピチョン・・・
「ん・・・、知らない天井だ・・・」

冷たいものが顔に当たり目を覚ましてみると、洞窟のような岩肌の天井が目に入った。
どうやら縄はすでに解かれているらしく体も自由に動かせた。
とりあえずお約束を口にしながら俺は体を起き上がらせ、周囲を見渡した。

「ここは・・・、洞窟?」
今まで気絶していた俺にはよく分からん状態だがおそらくは、羅豪がこの洞窟まで運んでくれたんだろうと考えることにした。
(と言うよりも、ここで羅豪以外に出てこられても俺には対応する気力すら残ってないからな)
どうするべきかと俺が一人で考えていると奥から羅豪がやってきて、俺が目を覚ましているのを確認するや嬉しそうに言い寄ってきた。

「おぉ、坊主!目を覚ましたか、急に倒れるから心配したぞ」

その反応に俺は目を白黒させてしまった。
気絶する直前に笑っていたのもよく分からなかったが勝負に負けてこんな嬉しそうにするなんて予想だにしていなかった。

「あの羅豪さん、俺は何でここに?ここはどこなんだ?それとなんでそんなに嬉しそうなんだ?」
俺が疑問に思っていることを聞いてみると、羅豪は笑顔のまま答えてくれた。

「まあ待て、そんなに急がんでも順番に答えてやる。
まずあの後だが、俺様も気が付いた時にはおまえが目を回しておったんでな、とりあえず俺様の家まで運んで寝かせておったのよ」

なるほど、最初に考えたとおり俺を運んだのは羅豪でこの洞窟は羅豪の家だったのか。

「それと最後の質問だが、俺様は人間と正々堂々とした勝負できたのが嬉しかったのよ。人は変わり、今では平気で嘘をつくようになってしまった・・・。
そんな中でおまえのような餓鬼が正面から鬼である俺様と戦いぬいたことがどうしようもなく嬉しいのよ・・・。
もちろん俺様が勝っていたらおまえは俺の腹の中にいることになるがな」

羅豪は一気に言い尽くすと満足そうな顔で大きく頷いた。
そういわれた俺は少々居心地の悪いものを覚えてしまった。
と言うのも、数取りゲームは相手に先行を取らせれば基本的に負けることの無い遊びだからだ。
しかし、今更そんなことを言う勇気の無い俺は慌てて話題を変えようと口を開いた。

「え、え~と、それじゃあの勝負は俺の勝ちでいいのか?」
「良いも悪いも、あれは紛れも無くおまえな勝ちだ、だからお前の望む願いを俺にできる限りで叶えてやる」
「あっ?!そういえば・・・」
「なんだおまえは、忘れておったのか?」
「はは、ははは・・・」

そう言えばそうだった、食われたくない一心で勝負に挑んでたものだから願い事なんてまったく考えてなかった。
羅豪はおかしな奴という目でこっちを見るが生きるか死ぬかの瀬戸際だった俺にそんなこと考える暇なんぞ無いんだよ」

「なんだ、肝が太いかと思えが存外に小心者だったのだな・・・」
「!!!、え、何で俺の考えていることが!!」
「ふん、考えを読んだのではなくお前が勝手にしゃべっておったのだ」
「っへ?!」
やべっ、考えていることがいつの間にか口から出ていたみたいだ・・・気を付けねば。

「まぁそんなことはどうでもいい、今宵はもう遅い、願いに関してはまた改めて聞いてやるから今日はもう休め」
「あ、ありがとう」

羅豪にそう返すと羅豪は「飯を用意してやる」と言いそのまま去って行った。
俺はそれを眺めながらもう食われる心配がないということに安堵した。
だが俺は大切なことを忘れていた。
今まで羅豪がいたショックで忘れていた大切なことを今更ながら思い出し、自分が危険な状態であると自覚した。
すなわち、

「俺、もう何日飯食ってないんだ・・・」

・・・腹ペコだった。



最後に、羅豪が作った料理は想像以上にうまかった上になぜか肉系が無かった。
そのことを後日たずねてみると、「あの時はお前を料理するつもりだったからな」との事だった。
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後書と感謝

どーも、お手玉の中身です。
まず始めにグンマダマシイさん、ご意見に感謝っす。
さっそく参考にして「」を纏めるようにしてみました。
しかし過去は修正しない・・・
それと時代背景的なものですが、一応この先の話ではっきりとした背景は出すつもりなんですが、
2話でヒントを出してるんで分かる人は分かってるかもしれません。
でわ、そういった意味でも楽しんでもらえると嬉しいです。



[10620] ここまでが多分プロローグ(でも作者に自覚はない)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/29 23:23
「知、らない天井ではないか・・・」

あれから羅豪の用意してくれた食事を平らげ、すぐに眠った俺は特に面白みも無く普通に目覚めた。
目を覚ました俺は体を起こし辺りをキョロキョロと見回し、昨日の出来事が夢ではないと確認した。
飯を用意してくれた羅豪に感謝しないとな、ついでに昨日の話の続きをしないと。
俺はそう思いながら、立ち上がり体を軽くほぐすと羅豪を探すためになかなか広い洞窟の中を歩き始めた。
洞窟内は羅豪が住み易くしていたのか山道よりはいくらか歩きやすく想像していたよりもずっと快適そうだった。



少年探索中・・・・・・













それから10数分ほど探していただろうか。
今までの通路より一際広い部屋に出るとそこで羅豪の背を見つけることができた。

「お~い、羅豪さ~ん!」
俺は羅豪を呼びながら近づくと羅豪もこちらに気づいたようで振り向いて返事をくれた。

「ん?!おまえか、どうだ眠れたか?」
「うん、おかげさまでね」
「そいつはよかった、それで俺を探していたようだが如何したんだ?」
「ん、昨日の食事の礼と話の続きをね」

俺が用件を伝えると羅豪は顔に笑みを浮かべて、
「ははは、食事に関しては俺様の好きでやったこと気にするな。
それで?昨日の続きと言うと、願いを決めたと言うことでいいのか?」
と言い、俺に話の先を促してきた。

「あぁ、俺の願いは・・・生きる為の技を教えて欲しい」
「はぁ?なんだそれは??」

羅豪はそれこそ何を言ってるか理解できないと言う顔をしていたので俺はさらに言葉を続けた。
「なんて言えばいいか・・・、金を稼ぐ方法から作物や家畜を育てる方法、知らない土地でも生きていけるような知恵と力。
そういった技術が全て欲しいんだ」

俺がそう言うと羅豪は納得したように頷き、
「しかし俺様は鬼だ、人間の餓鬼であるおまえとは違いすぎると思うんだが?」
羅豪はそう言いなおも首を捻った。

「それでもいいよ、俺にはもう帰る家も無いんだから」
「ん?そういえばお前が何で縛られていたのか聞いていなかったな、ほれ話てみろ」

俺は羅豪に促されるままに村であったことと縛られていたことを話した。
話している間、羅豪は身動きひとつせずにただ俺の話を黙って聞いていてくれた。

「なるほどなぁ・・・、それでお前はあんな状態だったのか・・・」
「ん、でも大丈夫、まだ「まあ、そんなことは置いておいて」悲しっては?!」

こいつ人の悲話をそんなことで片付けやがった。

「人に話させておいてその反応は人として如何ですか?!」
「俺様は人じゃなく鬼だ、ついでにおまえの話は最初から暇つぶし以上に聞こうとは思っとらん!!」
「・・・・・・・・・・そんな酷い話はないでしょう」
「ふん、それにお前は大事なことを忘れている」
「大事なこと・・・、ですか?」
「応よ、俺様は言ったはずだ、俺様にできることで願いをかなえてやるとな」
「でもさっき「それともう一つ!」まで」
「話しは最後まで聞けもう一つ、鬼は嘘が嫌いだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おまえみたいな餓鬼に力を付けさしてやるくらい、俺様にできないわけが無いだろう」
「だったら!」
「応、おまえの願い叶えてやるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・ぁ、ああ、ありがとうございます」
「ふん、勝利者への報酬だ、礼を言われることじゃない」

そう言って羅豪はどこか照れくさそうにしながら咳払いをし、
「そういえばいつまでもおまえでは不便だな、名前を聞こうか」
っと、たずねてきた。

だから俺は答えた。

「俺の名前は『あすか』です、これからよろしくお願いしますね羅豪さん」
「ふん、師匠とでも呼べ」
「?!、はい!師匠!!」

こうして俺はなんとも奇妙すぎる縁が繋がり、鬼と共に生活することとなった。
はてさて、この鬼、羅豪との暮らしが俺にどんな力をくれるのかはまだわからない。
それでも、一つはっきりしている事がある。
何とか今日も生き延びることができた。


<NG1>
「あぁ、俺の願いは・・・金銀財宝が欲しい」
「いいだろう、俺様の宝を丸ごとくれてやる」
こうして俺は羅豪から目も眩まんばかりの金銀財宝を譲り受け、新しい未来に希望を抱いたがこの展開は神様(作者)が気に入らなかったようだ。
5歳時ながらに宝を普通に運んでいたのが悪かったのか、
突然、「ヒャッハー」と言いながら現れた盗賊にやられてしまった。
俺は最後の気力を振り絞り盗賊の方を向こうとしたが目の前が真っ黒に染まり何も見えなくなってしまった・・・・・・・・

バットエンド No.強欲は身を滅ぼします

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あ~と~が~き~

やった、主人公に強化フラグを立てれた。
これでほどほどにアスカ君を改造するんだ。
そんなことを考えるお手玉の中身です。
プロローグがとうとう終わりました。
作者的には思いっきり本編のつもりで書いていたんですが、
読み返すとプロローグとしか思えない。
とりあえず後1・2話でクロス元の原作キャラを呼びたいと思います。
ここからが、本編だぜ。


・・・・・・・・・・・・・本編だといいな~。



[10620] やっと本編、原作が見えてきた今日この頃
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/01 19:16
さて、俺が師匠の下で修行を始めて早数十年、その間に色々なことがあった。
師匠の教え、つまりは鬼の修行はとてもじゃないが5歳児が耐えられるものではなかった。
修行中は意識が遠のき綺麗な花畑が見える度に師匠の持っている薬で目を覚ますのが当たり前になってしまった。
修行内容・・・それは思い出すのもおぞましいもので、前世で読んでいた漫画のケ○イチ君の修行ですらやさしい物だと思えたよ。
おかげで俺の体はものの見事に人外レベルまで肉体改造されてしまっていた。
思い返してみればチートボディを願っていたこともあったけど・・・・・・・・・人の限界を超えるとは思わなかった。
次に師匠はあれで何気に薬に詳しかった。
と言うより、そうで無かったら俺はとっくの昔に川を渡るか坂道を駆け上がっていたと思う。
そんな師匠のおかげで心体共に一人で生きていくにはほとんど問題ないまでに鍛えてもらえた。
まぁ問題ないどころか鬼の薬+肉体改造で人外レベルにまでなってしまいやりすぎた感はあるけど・・・・・・
ここ数年で体の再生能力は上がり大抵の怪我は目に見えて塞がっていく様になったし、年を取ってるような実感が沸かなくなってきた・・・

まぁそんな深く考えたらいけないようなことは置いておくとして、
俺は数年前からこれからの目的を決める為に必要な情報を集めようと人通りのある街道や適当な村で噂話などを集めていた。
ちなみに師匠にこのことを相談したところ、
「そんなの好きにすればよかろう」っと、ありがたいお言葉をいただいた・・・・・・・・・、
信頼されてるのか放置されているのか・・・なんとなく後者っぽいが気がする。

まぁそれはさておき、
噂話曰く朝廷が盗賊狩りを行ったとか、
曰く蛙の穴に草の茎を入れて息を吹き込むと面白いとか、
曰く天智天皇が亡くなられて随分になるなど・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・いま歴史的にかなり重要な話が無かったか?
天智天皇って言えば確か・・・・・・そうだ思い出した聖徳太子や小野妹子の少し後の人だ。
よく覚えていたぜ、俺!そうだよ今は昔の日本にいるんだから有名な偉人に会うこともできるんだよな・・・・・・
よし、修行が終わったら有名になる前の有名人に会いに行こう、そして「こいつは俺が育てた」とか言ってみよう。
そんな風に俺がどうでもいい事を考えていると信じられない話が耳に入ってきた。



噂話曰く、なよ竹のかぐや姫に献上する龍の首の珠を大納言殿が用意した探索隊が大陸へ捜しに出られたとの事。



なん・・・だと・・・!!
そんな馬鹿な、竹取物語は空想の話、現実にあるわけが無い・・・・・・・・・・・・・
いや、まてよ自分で考えておいてなんだが以前にも似たようなことを考えたことがあるぞ。

そうだ師匠とであった時だ、最初は鬼なんかいないと決め付けてさっきみたいに考えてたんだった。
となると、竹取物語も一概に御伽噺と決め付けるのは早いかもしれないな。
これは確認せねば、数多の男を手玉に取る美貌を持った女、かぐや姫!是非ともこの目で見てみねば。
そうとなったら善は急げだ、早速師匠に了解を取ってこよう。



少年移動中・・・・・・・・・ひでぇ!!












あすかです、師匠にかぐや姫観光ツアーの許可をもらいました。
あすかです、ついでに師匠から「もうおまえひとりで生活できるだろ?」と言われました。
あすかです、そのまま師匠から追い出されました。
あすかです、あすかです、あすかです・・・・・・。


とりあえず気を取り直してやってきました花の都(パリじゃありません)なかなか活気に溢れてます。
そんな街中の活気を楽しみながら目的の屋敷を探していると結構簡単に見つかりました。
なぜ簡単に見つかったかと言うと屋敷の中から警備?っぽい人につまみ出されながらも「オラをかぐや姫に会わせてくれ~、
彼女こそオラの運命の相手なんだ~!かぐや姫~~~!!」と言ってるやつがいたからだ。
こんな大昔からストーカーっぽいのがいるとは・・・・・・世の中ほんとに分からないものだ。
まぁそんなどうでもいいことは置いておくとして、ここが目的の屋敷みたいだな。
ではさっそく、かぐや姫観光ツアーの目玉、かぐや姫を見物しに行きますか。
そう考えた俺は警備に見つからないようにこっそりと屋敷に潜入するのだった。

昔の屋敷に忍び込む・・・・・・これで相手が悪代官とかなら『天誅』とかやってみたかったぜ。


<おまけ>
警備A「ん?なんだこの箱は??」
警備B「どうした警備A?」
警備A「あぁ警備B、それがこんなところに変な箱があってな・・・」
警備B「どれどれ、こ、これは・・・、段坊流箱!!」
警備A「知っているのか!警備B!!」
警備B「あぁ、こいつは段坊流箱と言ってどこかに潜入する時にこいつを被れば見つからなくなると言う優れた道具なんだ」
警備A「なんだと!ということはこの中に侵入者が「馬鹿野郎!!」?!」
警備B「何のための段坊流箱と思ってるんだ!こういうときは見なかった振りをするのがお約束だろうが!!」
警備A「なんだよお約束って・・・、っておい?!何で人の手つかんでんだよ?いたっ?!やめろ!引き摺るな!!わかった?!もう分かったから!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・警備があれでいいのか、この屋敷」

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後書です

どうしたことだろう・・・
今日一日で3話も一気に作り上げてしまった。
感想掲示板、応援の力、恐るべし・・・

そんなことを考えるお手玉の中身です。
感想や応援を下さった皆さんには感謝感激ですね。
いよいよ話的には原作キャラに出会える展開までもって来ました。
むしろここまで来て出さなかったら作者的にもクロスじゃなくてオリになりそうで恐ろしかった。
そんな訳で次回、いよいよ誰もが予想できるあの人に登場してもらいます。



[10620] やっと登場原作キャラ。そして段坊流箱の意外な人気
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/30 09:32
前書き

お手玉の中身です。
今回前書きと言う形で注意が一つあります。

それは、アスカ君に弱体化してもらいました。
流石に腕がちぎれて生えてくるなんてトカゲじゃあるまいしと作者が思ってしまったので・・・
チートボディそのものは変わりませんが彼は一応人類なので怪我の直りが早くなっても吹き飛んだ体が再生することはないです。
一応前話の微修正も行っておいたので気になるようでしたらご確認ください。

では、これより本編をお楽しみください。
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かぐや姫観光ツアー真っ只中のアスカです。
潜入とはそもそも潜入先の見取り図や警備状況、目標の位置などを調べ、綿密な計画を立てて行う高度な技術です。
それを行き当たりばったり潜入して見せた俺は流石俺と自画自賛してみます。

・・・・・・・・・はい、うそです。
警備に見つかりそうになってでたらめに逃げたら見事に道に迷いました。
この歳になってまさか人の家(屋敷)で迷子になろうとは・・・・・・・・・軽く凹んでしまいました。
段坊流箱が無ければ今頃どうなっていたことやら・・・。
とは言うもののいつまでも凹んで入られません、目標達成のために今は進むとしましょう。



青年潜入中・・・・・・・・・一方その頃







<???>

「ひま」
「姫様、暇なのでしたら歌留多などいかがでしょうか?」
「やだ」
「そ、そうですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


その屋敷の中では一際広い部屋の中、長い黒髪を携えた美しくも神秘的な少女が目の前の女中に向かい、
さらに言葉を続けた

「ひま」
「姫様、でしたら歌を詠むのはいかがでしょうか?」
「やだ」
「そ、そうですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


女中が哀れである。
姫様と呼ばれる美しい少女は特に怒っているなどという雰囲気ではなく、本当に暇でしょうがないというようなため息までついている。
その姿は少女の美しさと併せ、絵に残しておきたいほどのではあるが、
女中にとっては役立たずと言われているようで居たたまれなくなってきていた。

「はぁ・・・、ひま」
「姫様、でしたらお菓子を持ってきますね」
「っそ」
「はい、いって参ります」

再び姫様からの暇宣言があったため女中は迷うことなくその場から逃げる選択をした。
そのままやる気の無い瞳で女中を見送り数分した時、姫の中で何かが切れた。

「ひま・・・・・・・・・・・・・・・・・、ひま・・・・・、ひま、ひま暇暇~!!
あぁもうやだ、何で私がこんなところにいなくちゃいけないのよ!!
毎日毎日、いかにも好色そうな男は寄ってくるは春でもないのに頭に虫の沸いてそうなのは出るわ!!もういや~~~!!」

少女は頭を抱え、地団駄をふみながらさらに言い続ける。

「だいたいなんで私がこんなところに落とされないといけないのよ!!
確かに私も悪戯が少しすぎたかもしれないけど穢れた地上に落とされるなんてどれほどの罪だって言うのよ!!
あぁ~もうやだ~!!たすけて~たすけてえ「さっきから騒がしいのはこの部屋か?」っっっ!!だれっ?!」



<あすか>
びっくりした~・・・道に迷い続けて約10分、もうこうなったら誰でもいいから適当に脅して道案内させようと思ったのが5分前。
そして都合のいいことに女の騒ぐ声が少し先の扉から聞こえてきたのでさっそく押し入って脅そうと思ったらこっちがびびってしまった。
長い黒髪は頭を振り回したかのようにぼさぼさで着物は地団駄を踏んでいたかのように崩れている。
その上、こちらを睨みつけてきた顔は無駄に綺麗だったせいで、あきらかに年下みたいなのにその迫力にひるまされてしまった。

あぁ・・・、美人がすごむと怖いってホントだったんだな~
と俺が固まっていると目の前の少女は口を開き「だれっ?!」とたずねてきた。

「あ~、俺は怪しいものじゃないですよ、ちょっと道に迷っただけの善良な市民ですよ~」
「へ~そうなんですか~って誤魔化せると思ってるの」
「だめですか?」
「だめよ」

誤魔化してみようかと適当なことを言ったら普通に切り返されてしまった。
しかも心なしかさっきよりも凄みが増したような・・・
どうにも誤魔化すことのできないような空気の中、目の前の少女は不機嫌さを隠そうともせずに詰問してきた。

「それで、あんた何者?」
「え~と、名前は田吾作「なんですって?」はい、アスカです」
「よろしい、それで、ここに来た目的は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

俺は少女からの質問に答えずにまずは冷静に考えることにした。
そもそも師匠の睨みに比べれば目の前の少女は象と蟻ほどの差があるようなものだったからだ。

(な~んで俺こんな少女に詰問されてんだろ、普通に考えればさっさと捕まえればいいんだよな?
しかし今更そんなことしたら空気読め無すぎる人だしな~)
「ちょっとあなた、人の話を聞いてるの、返事をしなさい」
「ん?あぁ」
「よろしい、もう一度聞いてあげるからきちんと答えるのよ。あなたがここに来た目的は?」
「あ~、それなんだが一つ提案がある」
「なによ!聞いてるのはこっちよ?!」

俺はとっさに思いついたアイデアを提案しようと思い返事をしたがどうにも少女は気に入らないらしく不機嫌の度合いを深めていった。

「まぁまぁ聞いてくれよ、あんた「あんたじゃないは『姫』もしくは『姫様』と呼びなさい!」了解。
姫様は俺に聞きたいことがあるように俺も姫様に聞きたいことがある。」
「だから?なによ?」
「だからなお互いに一回ずつ質問をしていくことにしないか?姫様はさっき俺に名前を聞いただろ?そしたら次は俺が質問をする番じゃないか?」
「ふ~ん、でもさっきまでそんな決め事無かったからそれは無効よ。でも、それは面白そうね。
いいわ、暇つぶしに付き合ってあげる」
「それはありがたい、では姫様から改めてご質問をどうぞ」
「ふふん、では改めて聞くは、あなたがここに来た目的は?」

少女は俺からの提案を聞くやさっきまでの不機嫌さを一転させ喜色の笑みを浮かべながら改めて質問してきた。

「(よっぽど暇だったのか)あ~俺の目的だったよな?俺の目的は巷で有名なかぐや姫を見物することだ」
「へぇ~見物ね~、求婚や謁見じゃなくて見物目的でここまで来るなんて物好きなものね~。
それじゃあ次はね「おっと、次は俺の番じゃなかったかな?」とと、そうだったわね質問をどうぞ」
「よしそれじゃあな、名前を教えてもらっていいか?一回一回様付けで呼ぶのはどうもな」

そうやって俺が苦笑いをしながら質問を返すと、
少女はキョトンとした後にニンマリと笑顔を作り、胸を張り偉そうに告げた。

「輝夜、『蓬莱山 輝夜』が私の名前よ」

少女もとい輝夜は驚いて目が点になっている状態の俺を見て楽しそうにころころと笑った。

「あ~面白い、次は私の質問の番ね、アスカはどうやってここまで来たの?結構警備は厳重だったはずだけど?」
「あぁ、それはこいつのおかげだ」
「何それ?箱?」
「これは段坊流箱だ、こいつのおかげで俺はここまで無事にたどり着けた」
「へぇ~こんな箱でね~」

不思議そうに段坊流箱を眺める輝夜を見ながら俺は、
このお転婆が輝夜姫?いいのか竹取物語?!とか失礼なことを考えていた。
しかしそう思うのもしょうがないだろう、初対面ではいきなり睨まれる上に詰問されるし、少女とは思えないような凄みでこっちをひるませてくるし。

「ねぇ、次はアスカが質問する番だけど」
「ん?あぁそうだな質問質問っと・・・」
・・・・・・・・・あれ?輝夜姫見たなら俺の目的達成してないか?

「え~っと、質問・・・無い・・・」
「っは?」
「だからな、俺の目的は輝夜姫の見物、それが達成された今はもう帰るだけなんだが」
「ちょっと、それは無いでしょう、せっかく面白くなってきたのに」
「いやしかしなぁ~」



<輝夜視点>
冗談ではない。
目の前の男は久しぶりに私を楽しませてくれる存在だった。
それがもういなくなってしまうと、冗談ではなかった。
ならどうするべきか私は一瞬のうちに考え上げ目の前の男もといアスカに宣言してやった。

「いいわ、それならアスカは今日、今このときから私の遊び係よ!光栄に思いなさい!」
「っへ?」

アスカが固まっているのを尻目に私はその横を通り過ぎ扉から人を呼んだ。

「だれか~!誰かいないの~!」
「はいはい、姫様、お菓子の準備ならもう少しでできますよ」
「それはもういいわ。
それよりもこの男、今日から私の遊び係にしたから適当な部屋で休ませといて」
「は?姫様?っへ?だ、誰ですかこの人?!姫様~!姫様~~?!」

寝所へ進む私には馴染みの女中が混乱の声を上げているのを尻目に弾みそうになる心を抑えるのがやっとだった。
あぁ、退屈な日々よさようなら。
そしてようこそ、楽しく愉快な毎日。

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後書にして次回予告

はい、前書きから引き続きお手玉の中身です。
やっと原作キャラに登場してもらえました。
ここまで長かった・・・
やはり二次SSを書いてるとこうやって原作キャラを使うのが楽しいですね。
さて今回は次回予告も付けれる余裕ぶり
と言うのもこの時代背景でこの子を出したら若かりし頃のあの子にも出会う必要があると既に次の話の構想が固まってるからです。

そんな訳で次回
「あの頃は焼き鳥屋も若かった」
*予告だけでタイトルは変更するつもりです。



[10620] 竹取物語の登場人物なんて輝夜と帝ぐらいしか覚えてないよ
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/30 19:25
輝夜姫の人望すげぇ~。
いきなりやってきた怪しげな俺でさえ輝夜の一言があれば問題無しとばかりに受け入れられた。
輝夜姫マジすげぇな・・・・・・特にあの日に出会った女中さん、一番怪しんでたのに輝夜が話を付けたら三日としないうちに気さくになっちまったよ。

あの日、輝夜が寝所に引っ込んだ後に一騒動あったものの輝夜の最後に言っていた台詞が功を征し何とか普通の部屋で眠ることができた。
そして翌日、改めて輝夜から遊び係というなんとも微妙な役職を受け取ることとなった。
ちなみにそのときに持っていた段坊流箱をいやそうな目で見ている警備兵がいたが何かあったんだろうか?
それから俺は朝から昼にかけては屋敷の手伝い、昼から夜は輝夜の遊び相手をする生活が始まった。
これはそんなある日の話だ。




「しっかし輝夜よ・・・、まさかお前が風邪を引くとは」
「ゴホッ、なんかゴホ、含みのある言い方ねゴホゴホッ、アスカ」
「だってなぁ、俺じゃなくて輝夜だからなぁ~」
「分かったゴホッ、わ、あんた喧嘩ゴホ売ってるのね、ゴホッ、いいわよ買ってやるわよ!!ゴホゴホッ!!」
「あ~いいからいいから、無理すんな」

あれ以来俺と輝夜はお互いを名前で呼び合うようになった。
最初のうちはなかなかに照れ臭かったものだが慣れてしまえばそれほどでもない。

「じゃ、俺はもう行くから、さっさとよくなれよ」
「当然よ、アスカこそゴホッ首を洗って待ってなさいよゴホッ!!」

まったく、つらいなら大声を出さなければいいものを。
輝夜の言っていた首を洗って待っていろと言うのは今までの遊びでの対戦成績のことだ。
先ほど俺は輝夜を馬鹿にしていたがあいつほどの天才を俺は見たことがない・・・1を聞いて10を知るの典型だった。
どんな遊びを教えようとも遊び方を教えて10分もすれば対等に戦えるようになっていた。
そんな彼女との対戦成績も通算163戦86勝70敗5引き分けと最初は勝てても段々と負けが込んでいくのだ。
そろそろ新しい遊びを教えて成績を引き離さないと・・・・・・・・・

俺がそんな幼稚なことを考えながら街中をブラブラと歩いていると胸に何かがぶつかったような軽い衝撃を受けた。

「っつ~~~」

どうやら目の前の少女が飛び出してきた拍子に俺とぶつかったようだ。
俺は顔を抑えて蹲っている少女に手を差し出しながら「大丈夫か?」と声をかけた。

「あ、ひゃいじょうぶです、おかまいにゃく」

そう言って少女は蹲ったまま片手を前に出してこちらを押し止めるも、
聞いた感じでは全然大丈夫そうにも無いので、
「あ~、ほら、塗り薬があるからちょっと見せてごらん」
といって少女の顔を覗き込んだ。
ちなみに、なぜ薬を持っているかというと師匠との修行が関係している。
修行期間中に幾度と無く死にそうな目にあったのだが、師匠がうっかり薬を持ってくるのを忘れていることが多々あったせいで、
基本的に薬は俺が修行場まで持っていくのがなかば決まりごととなっていたのだ。
おかげで今でも出かける時には携帯用の万能塗り薬を持って出るのが癖になっている。



青年(少女を)治療中・・・・・・・・・




ふと治療中に少女を観察してみるとなかなかに美人だと思った。
頭の上には白地に赤の模様が入った大きなリボン。
やや釣り上がり気味の目が全体的に勝気なイメージを滲ませていた。
そうして治療を終えると少女は勢いよく立ち上がり、それでいて丁寧にお礼を告げてきた。

「わぁ、もう痛くありません。どうもありがとうございます」
「いやいや、ぶつかってしまったのはこちらだし、お礼を言われるほどのものでもないよ」
「いえ、私も慌ててたもので・・・」
「まぁ、お互いに次から気を付けることにしようよ。
君、急いでいたんだよね?送っていくよ」
「あ、はい、でもいいんですか?」
「なに、今日は仕事が休みでね、ちょうど暇にしてたんだよ」
「そうなんですか、ではお願いしますね」
「ん、そうだいつまでも君じゃ悪いし名前を教えてもらってもいいかな?俺の名はアスカって言うんだ」
「いいですよアスカさん、私の名前は『妹紅』と言います」
「そっか、いい名前だね」
「えへへ~」

その後、妹紅に事情を聞いてみると遊びに出ているうちに家に帰るのが遅くなってしまい急いで帰っていたとの事だった。
俺は、また妹紅が怪我しないようにと並んで歩き送ってやることにした。



青年+少女移動中・・・・・・




「この賊が妹紅様を離せ!」
「もう逃げ場は無いぞ、おとなしくあきらめろ!!」
「貴様!我らを護衛兵三兄弟と知っての狼藉か!!」

・・・・・・なんだこれ。
俺は今、護衛兵三兄弟とか言う槍を構えた3人組に囲まれていた。
なぜこんな状況に陥ったかというと妹紅の家らしき屋敷に近づいた瞬間、一気に囲まれてしまったのでよく分からない。
まぁ話しの内容を聞いてみれば俺が妹紅をさらった様に見えているのかもしれないな。
そう思いながら妹紅のほうへ顔を向けてみると、妹紅が一歩前へ出て一喝した。

「何をしているおまえ達!この方は私が怪我をしたときに手当てをしてくれた恩人だぞ!!すぐに下がれ!」
「「「はっ?!も、申し訳ありませんでした!!」」」

妹紅すげぇ~。
3兄弟が一瞬で下がっていったよ。
そう思いながら妹紅の方を見ていると妹紅がこちらを振り向き、申し訳なさそうな顔で謝ってきた。

「申し訳ありませんでした、我が家の警備が」
「いや、構わないよ。それだけ妹紅が大事にされているんだろ?」
「はい、そういってもらえると助かり「おぉ、妹紅かえったのか」お父様?」

妹紅との会話を遮って現れたのはやや恰幅のいい、悪く言えば太り気味のおじさんだった。
これが妹紅の親父さんか?
そう考えながら見ている俺を尻目に親子?は会話を続けていた。

「妹紅帰りが遅いから心配したぞ」
「はい、お父様、ごめんなさい。」
「よいよいこうやって無事に帰ってきてくれたのだから。ところでそちらの方は?」
「あ、はい、こちらはアスカさんと言って私が怪我をしたところを助けてくれたんです」
「ほほう、そうかそうか」

そうして親父さんはこちらを向き、
「アスカ殿とおっしゃられたかな?娘が世話になったね」っと礼を述べてきた。

「いえとんでもない、そんなたいした事じゃありませんよ」
「ふむそうか、しかし娘が世話になったのに何もせずに返すのは儂としても心苦しいのでな。
ぜひとも我が家で夕餉の招待を受けてはくれんか?」
「それはいい考えですお父様、アスカさん是非いらして下さい」
「そうですねぇ・・・、分かりました。そのご招待、受けさせていただきます」
「ほっほっほっ・・・、受けてもらい感謝するぞアスカ殿。儂の名は『藤原不比等』と言う。何か困ったことがあれば遠慮なく言うが良い」
「えぇ、ありがとうございます」

その後、なぜか気に入られた俺は休みの日にたびたび妹紅と遊んだり家庭教師の真似事をすることになった。
その影響だろうかそれ以後の妹紅の俺に対する呼び名は先生で統一されてしまった。



<おまけ>
藤原家での会話

「ところでアスカ殿、仕事は何をされておるんじゃ?」
「へ?仕事ですか。家にいる姫様の遊び係をやっています」
「遊び係?なんじゃそれは??」
「やはりそう思いますよね~、それが普通の反応だよな~」
「まあいい・・・、それよりもじゃ今儂は探しているものがあってな良ければお主も探してはくれんか?もちろん礼はするぞ」
「はぁ、構いませんが・・・その探し物と言うのは?」
「ふむ、『蓬莱の玉の枝』と呼ばれる宝なのじゃが聞き覚えはあるか?」
「むむむっ、申し訳ない。ちょっと覚えがないですね」
「そうか・・・、まぁ簡単には見つかるとは思ってはおらんからなお主も見つけたらでいいんじゃが、そのときは譲ってくれんか?」
「ええ、いいですよ」
「そうかそうか、ありがたいことじゃ」

そうして何気に輝夜姫の御付とすれ違う藤原不比等だった。

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後書の皮を被った相談会

輝夜「はい登場2話目にして速攻で寝かされた輝夜です」

作者「輝夜を寝かしたお手玉の中身です・・・、あの輝夜さん?怒ってますか?」

輝夜「いえいえ、そんなことは無いですよ。
   ただ私の出番が潰されて妹紅の登場にイラついてるだけですよ」

作者「(怒ってらっしゃる~?!)す、すみません」

輝夜「いえいえ、謝っていただかずとも・・・。
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次は私が活躍するのよね?」

作者「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

輝夜「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか?」

作者「じ、次回予告です!!」

輝夜「あ、逃げた?!まちなさ~い!!」



次回予告
「彼女はババァじゃ無いよ」(今回もまた次回予告とタイトルは異なります)



[10620] 神隠しの主犯も若さ故の過ちを犯す
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/31 08:25
アスカです、輝夜と出会って3年ほど経ちました。
今回はちょっと輝夜から休暇をもらい久しぶりに師匠の顔でも見ようかと山道を一人走ってたりします。
それと言うのもそろそろ新しいネタを仕入れないと輝夜との勝負に負けそうだからです。
現在の通算成績は1784戦772勝751敗261引き分けと輝夜のゲームスキルがありえない位に成長しています。
流石天才・・・・・・たかが遊びにもその才能を遺憾なく発揮する・・・。
そこで新たな策として、俺の有限な過去(前世)の記憶に頼らずに師匠の年の功に頼ってみようと考えた次第だ。
そう思い一人山道を駆けているとふとおかしな気配を感じ立ち止まってしまった。

「こんな山奥で人の気配?・・・これはどちらかと言うと師匠に似た感じだよな・・・見に行ってみるか」
俺はそのおかしな気配の正体を確かめるためにその方向へ向かった走り出した。



<???>

「ふぅ・・・、私とした事が油断してしまいましたね・・・」
そう一人嘆いた私は赤く染まった周りを一瞥しもう一度ため息をついてしまった。

「はぁ・・・、本当に情けない。まさかあんな小物に手傷を負わされるなんて・・・」

私は周りの赤とは違う赤で染まった自分の足を見下ろすとさらに気持ちが沈んでいく。
私は所謂、妖怪と呼ばれる生き物で、これでも生まれ持った力のおかげで歳若くとも中の上ほどの力があると自負している。
しかし力とは厄介なもので、時にはいらない争いまで持ってきてくれる。
今回もまたその類の争いごと、私の魅力的な力に引かれて名無しの下級妖獣共が群れを成して襲い掛かってきたのだ。
当然私にとってはこの力が狙われるのが日常茶飯事だったため妖獣ごときに遅れを取ることは無いのだが、
結果は見てのとおり・・・、ちょっとした油断から足がしばらく動かせないような傷を負わされてしまった。
正直この状態はよろしくない。
むせ返りそうな血の匂いがもう少しすれば新たな厄介事をつれ来るのは想像に難くない。

「こんなことなら、もっと力を扱う訓練をしていればよかったわ・・・」
そう私が言葉をこぼすと何かが近づいてくる気配がした。

はぁ・・・、私もここで終わりか・・・
この時私は少しの後悔と多くの無念を胸に秘め、最後の抵抗と言わんばかりに己の力を溜めるのだった。



<アスカ視点>

なんだこの匂いは・・・
あれから気配のする方向へ近づいてみると、近づくにつれ濃厚な血の匂いが鼻に付いた。

これは血の匂いか?出所はこの気配と同じところだな・・・・・・
俺はそう考えながら草むらを抜けるとあたり一面が血染めに染まっている中、少女が座っているのを見つけた。
少女は座ったままこちらを睨みつけると掌をかざし、白っぽい光のようなものをこちらに放ってきたって?!
まずい!緊急回避~!!

「そぉ~~い!!」

俺は光のようなものを横っ飛びでかわした後、先ほどまでの自分の位置を見てみると草むらが円形に抉れ飛んでるのが見えた。
あ、あぶね~・・・
あのままのんきにあそこで眺めていたら今頃俺の体はあの草むらみたいに円形に抉れていたことだろう。
冗談じゃない!!
俺は文句を言ってやろうと少女のほうを振り向くとなぜか攻撃してきた彼女のほうが倒れているのが見えた。

「・・・・・・・・・何がしたかったんだろうね~、この子は・・・??」

突然攻撃された上に、そのまま気絶されたらこんな疑問を持っても間違いではないと思う。
とは言えこのまま放置するのもなんとなく気が引けた俺は師匠の下に連れて行くことにした。

少女を連れて行ってる最中にこんな声が聞こえた気がした。

「少女誘拐は犯罪です!!」
誰が誘拐犯だ!



青年・・・・・・・・・・・・・・・誘拐中
うぉい!!









<???>

「ん?ここは??」

目がさめた私は辺りを見渡しここがどこかの洞窟だということを知った。
逆に言えばそれ以外はまったく分からないわけだが・・・

「たしか私は・・・」

私は最後に残っている記憶を口に出し確認を取る。

「たしか私は、突然現れた男?に残っている妖力を叩きつけたはず」

そうだ、私は自分の力を振り絞って最後の妖力を使いそのまま気絶したはずだ。
だとするなら・・・、
「なぜ私はこんな洞窟に?しかも足まで手当てされてますし・・・」

そう口にしながら私は自分の考えをまとめていると一つの可能性に行き着いた。
最早これしかないだろう・・・ずばりは、

「そうか!気づかないうちに私の中に眠っていた内なる力が目覚め「そんなことあるか」!!だれ?!」



<アスカ視点>

こいつおもしれぇ~
俺は今、連れてきた少女の後ろにいる。

あの後、師匠の家までこの少女を連れてきたまではよかったが肝心の師匠は留守っと言うよりもうずいぶんと帰ってきていないようだった。
仕方が無いので比較的綺麗だった区画に少女を寝かせ手当てをしておいたのだが・・・・・・

「(なるほどな~、それでいきなり気絶したわけか)」

目覚めた少女はこちらから話しかけるまでもなく顔を俯かせると一人ぶつぶつとしゃべりだした。
金髪の見た目麗しい少女が思案気に顔を伏せているのはなかなか絵になるが、
近くで呟いている内容が丸聞こえの俺には面白い人だという以上の評価は出せなかった。

それはさておきどうにも彼女の中で納得のいく説が浮かんだのか何度も頷いているので俺はタイミングを狙って声をかける事にした。

「そうか!気づかないうちに私の中に眠っていた内なる力が目覚め「そんなことあるか」!!だれ?!」

狙い通りのタイミングで声をかけた俺に少女が慌てて振り向き、なぜか幽霊でも見るような顔をしてきた。

「だれとはご挨拶だな、人が親切にも手当てした上に寝床まで貸してやってるのに?」

すると少女はいまだ呆然とした顔で言葉を紡いだ、
「うそ・・・」
「嘘じゃ「あなたは私が撃ちぬいたはずなのに」なって、そっちかよ?!」

少女が呆然としている理由が分かりついツッコミを入れてしまった俺は悪くないはずだ。




<おまけ>

「そこのあなた!決闘よ!!」
「っは?姫様一体何を??」
「だ~か~ら~、決闘をするわよ!」
「いえ、だから姫様、しがない警備兵である私にいきなり決闘を申し込まれてもどうすればいいのやら???」



警備A「あぁ、今日はあの新入りが被害者か・・・」
警備B「どうしたんだ?警備A」
警備A「お、警備B
   あれ見てみろよ、新入りが姫様に捕まってるぜ」
警備B「あ~、あれか、アスカ殿にも困ったものだな。
   姫様が暇と言わなくなったのはいいんだが・・・・・・」
警備A「そうだよな~、たしか『決闘化物』だっけ?あの札遊びは」
警備B「そうそう、そんな名前だよ。
   しかし俺、もう17回もやらされて見事に全敗中だぜ」
警備A「っふ、甘いな、俺は20回だ。
   しかも姫様、札の名前に合うように国中の絵師に札絵を書かせるんだからなぁ」
警備B「たしかにな~。
   そういえばおまえ、あの中でどの札が好きだ?俺はやっぱり『青眼白竜』だな。
   あの白い体と青い目がふつくしい」
警備A「おれはなんと言っても『黒魔術師ノ少女』だな。
   あの悩ましいふともって警備Bなんでこっちに槍向けてんだよ?」
警備B「だまれ!この変体め!俺が教育してやる!!」
警備A「なんでだよおい?!いてっ?!やめろ!突くな!馬鹿!やめろって!!痛い?!アッーーー!!」



これもまた平和な一日・・・・・・・・・・・・この警備兵、役に立つんだろうか?

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反省しない反省会

system NeetがINしました
system kamiがINしました

Neet「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

kami「・・・・・・・・・・・・・え、えっと^^;」

Neet「私の出番・・・これだけ?」

kami「そ、それは・・・・・・・・・・^^;」

Neet「私をあまりなめない方がいいわよ」

system もこたんがINしたお

moko「私の出番がない事に対して追求するために来ました」

kami「・・・・・・・・・さらばノシ」

system kamiは去っていった

Neet「ちょっとまて~」
moko「ちょっとまて~」

system Neetは去っていった
system mokoは去っていった


お手玉の中身です。
作者=kamiを名乗ってみました。
それはともかく、原作キャラ3人目・・・
名前をはっきりとは書いてませんが分かる人はタイトルだけで分かりそうです。
今回はもう1話、夜にでもあげるつもりなんですがそろそろネタに詰まってきた・・・
とりあえずこれからもアスカ君の応援をお願いします。

<次回予告~>
「フラグを立てたが回収するかは未定」
(分かりきったことだが次回予告とタイトルは異なります)



[10620] 八雲の姓をいつ付けるかそこに悩む作者がいた
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/31 18:14
あれから一通り騒いで落ち着いた俺たちは改めてお互いに自己紹介をすることとなった。

「はじめまして人間さん、私の名前は『紫』、結構強い妖怪よ。畏敬の念をこめて『紫様』と呼ぶことを進めるわ」
「はいはいゆかりんね、俺の名前はアスカだ。様付けで呼べば楽しいぞ、主に俺が」
「馬鹿ね、貴様。・・・どうしたの?楽しそうには見えないけど??」
「てめぇ~」
「なによ?!」

それから再びにらみ合い。
と言うよりさっきから似たようなやり取りをし続けて疲れてきたぐらいだ。

「っ・・・、はぁ、もうやめよう。流石に不毛すぎる」
「あら、私は全然平気ですけど?」
「はいはい、俺の負け。俺が悪かったよ紫」
「あら?ゆかりんではないの?」
「勘弁してくれ・・・」

紫は消沈した俺の様子を見ると面白そうにころころと笑った。
そうして紫は笑っていたが、しばらくすると真剣な顔をしこちら向かって質問してきた。

「それで?あなたはどうして私を助けたのかしら?」
「どうしてって・・・、気紛れ?」
「私が聞いてるのよ・・・、それにいきなり攻撃してきた相手を気紛れで助けるなんて、やはりあなたは馬鹿ね」
「ひでぇ・・・、助けた相手にそこまで言えるお前の無情さに俺が泣いた」
「ふ~ん、どうでもいいけどここで泣かないでよ・・・・・・むさ苦しい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まじひでぇ」

どうやら紫はいじめっ子のようだ。
しばらく紫にいじられながら落ち込んでいた俺は気を取り直して気になっていた事をたずねた。

「それで、紫は何であんなところに?足の傷も酷いものだったし・・・」
「へ?!え、えっと・・・、それは・・・」
「それは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ふむふむ、聞いた話をまとめて見るとこんな感じのようだ。

①紫は他の奴から見ると魅力的な力を持っている
②紫はその力を制御しきれない
③油断してたら下級の妖獣にばっさりと
④傷つけられて切れた紫が暴走気味にオーバーキルしてガス欠に(あたり一面の血はそのせいで)


⑨ばっかでこいつ

「馬鹿じゃねぇの・・・」
「っちょ?!馬鹿って何よ、ちょっと油断してただけじゃない」
「その油断で死に掛けてるから馬鹿って言うんだよ。
しかも、自分の力がまともに使えないとか・・・、これを馬鹿といわずに何を馬鹿と言うんだよ」
「っぐ・・・」

どうやら紫も自覚があるようで、一瞬ひるんだ後に誤魔化すように笑い出した。

「あは、あはははは・・・。
まぁまぁ、私の事はもういいから次はあなたの事を教えて欲しいわ。
一応、私の恩人になるわけだし」

そうして俺は紫との親交を深めていった。
その間に俺の紫に対する評価はいじめっ子にして妙なところで抜けている馬鹿となった。
そして時は流れ、そろそろ俺が帰り支度を始めると紫が慌てて言い寄ってきた。

「ちょっとちょっと~、どこへ行く気よ?」
「どこへ行くって、仕事があるから帰るだけなんだが・・・」
「へ?あなたの家はここじゃないの?」
「何が悲しくて人間の俺が洞窟に住み着かなくちゃいけないんだ」
「ならここ、誰の家よ?」
「今は誰も住んでないみたいだが少し前まで俺の師匠が住んでたぜ」
「師匠?」
「あぁ、俺の師匠、羅豪の住んでた家だ」
「羅豪?羅豪って妖怪の山に住んでる鬼のこと?」
「へ?師匠は確かに鬼だが・・・、知ってるのか?」
「まぁ、あの鬼には一度世話になった事があるからね。
ふ~ん、なるほどねぇ、だとしたらこの足に使われた薬も納得できるわ。
それにしても、よく鬼に弟子入りできたわね?」

そういって紫は怪我していた足を出しパンパンと叩いてもう痛みが無い事をアピールしてきた。

「もう直ったのか・・・、早いな結構深かったと思うんだが・・・」
「深かったわよ、それだけあなたの薬が良かったんでしょう?」
「そう言って貰えるとありがたいものだな。
それと弟子入りに関しては成り行きと偶然だ」
「成り行きと偶然ねぇ・・・」
「あぁ、成り行きと偶然だ」

そう言って、俺と紫は互いに笑いあった。
っと、笑いあってる場合じゃなかった。
俺はさっさと帰らないと家に残した輝夜の機嫌が悪くなるのを思い出した。

「それじゃあ、俺は今度こそ帰るけどいいな?」
「ええ、もし次に何処かでお会いすることがあったらこの日の恩は必ず返させてもらうわね?」
「そんな気にすることでもないんだが・・・」
「それじゃあ私の気が治まらないのよ」
「それなら期待せずに待っておく事にしよう」
「ええ、期待に胸を高まらせながら待っているといいわ」

そうして別れを告げた俺は家路につくのであった。

ふと思ったのだが、今の俺の立ち居地は完全に輝夜の紐ではないのか?
・・・・・・・・・・・・・・・考えないようにしよう


<おまけ>

何処かの御山の偉い人の会話

「ぶぇっくしょ~~ん!!」
「どうしたんだ?羅豪殿。
ずいぶんと豪快なくしゃみをされたが?」
「うむ、誰かに噂されている様な気がしての」
「ふむ噂ですか、おそらくこちらの天狗たちが話の種にしているのでしょう」
「いや、この感じだと俺様の馬鹿弟子のような気がする」
「ほほぅ?!羅豪殿の弟子ですか、さぞや高名な妖怪なのでしょう?」
「くくくっ、残念じゃが俺様の弟子は人間よ」
「なんと?!」
「あいつは五つの歳にして俺様を負かせて見せたからな。
そのときの報酬として俺様の弟子になることを望んだのよ」
「はぁ~、羅豪殿が人間の弟子を持つだけでなく僅か五つの幼子に負けているとは・・・
いや、羅豪殿本人から聞かされなければまさに眉唾の物語ですな」
「ふん、そうだろうな。
あいつには俺様の薬の知識を授け、体も必要以上に鍛えてやったからな・・・
もしかすると、いつかはこの山にもやって来るやも知れんぞ?」
「それは楽しみですな、して、そのお弟子殿のお名前は?」
「あいつの名は・・・・・・・・・」


そんな本人が知らないところで勝手に立ってしまったフラグの話

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普通の後書と次回予告

お手玉の中身です。
今回は普通に後書です。
我らが主人公君をスキマに出会わせることで幻想入りフラグを立てたものの、
既に別の方法で幻想入りさせる予定を立ててしまったお手玉の中身です。
その方法は後々あきらかになるので、ここではちょっとおまけ資料を載せとこうと思います。

力関係グラフ 現時点

強い鬼達>師匠(羅豪)≧天狗のトップ>>>その他の上級妖怪>アスカ君≧現在のスキマ>鬼退治屋>数多くのモブ妖怪>(人外の壁)>妖怪退治屋>(越えられない壁)||一般人

この時点での単純な力関係です。
ただこの資料は現時点で話に登場したキャラと脇役しか入れてません。
妖怪退治屋は囲んでボコるのがデフォなので単体での能力は人外の壁を越えれません。
ちなみに作者は終○○のクロ○クルが大好きです。

では次回予告です。

<伝説の道具再び>
(例によって例のごとく次回予告とタイトルは別のものとなります)





[10620] 竹取物語終了のお知らせ(そういえば翁を出さなかった)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/07/31 20:44
まずは前書き
どうも自分で書いたことは守るお手玉の中身です。
夕方一個投稿したからと言って朝書いたことが消えるわけも無く、書き溜めという非常手段を使い投稿しています。
そんな自分が誠実な振りをしてアピールするお手玉の中身でした。

でわ、本編をどうぞ

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紫と出会って早3年、つまりは輝夜や妹紅とであって6年の時が流れたある日、物語りは唐突に動き出した。

その日も俺はいつもどおりに起きて輝夜の遊び相手を務めようと準備していたが妙に屋敷中がざわついていることに気づいた。
たまに聞こえてくる断片的な話をつなげると次のようなことが分かった。

①輝夜に求婚してきていた奴らがそれぞれの難題を抱えてやってきた
②輝夜の鑑定眼によって全て偽者と暴かれる
③求婚者に引っ付いて帝までやって来てた
④輝夜は月から迎えが来るとファンタジーな事を言っている(自分は鬼に育てられるという十分ファンタジーな存在の癖に)
⑤帝が輝夜に振られた腹いせに屋敷に監禁してやると警備兵を無理やり増やした(しつこいと嫌われるのに)

以上である。
まぁだからといって俺のやることに特に変化があるわけでも無したとえ頭に花畑が咲いた(ファンタジー的な意味)輝夜でも
今までと変わらずに遊んでやらんとな。
悲しいけど、それが俺の仕事なんだよね。

そして今、なぜか真剣な顔でこっちを見ている輝夜と対峙していた。
なんだこれ「ねぇ、アスカ」っとと・・・

「ん?なんだ輝夜」
「私は今晩には月に帰るんだけど・・・、何か欲しいものはないかしら?
あなたにはこの6年、ずいぶんと楽しませてもらったし」
「なんだそんなことか、気にする必要なんか無いぞ。
ってかおまえ、本気で月に帰るとか言ってたんだな・・・」
「な、何よその顔は?!私は輝夜姫よ?月の都が私の故郷なの!」
「ぷぷ~、はいはい月の都ね。月では兎が餅をついてるんだよね」
「きぃ~兎は確かにいるけど、あんた全然信じてないわね?!」
「兎もいるのかよ・・・(まずいなこいつ、早く何とかしないと)、とりあえず医者を呼べばいいのか?」
「むっか~?!何その反応!真面目に話した私が馬鹿みたいじゃないの?!
もういいわ、何か贈り物でもと思ってたけど必要ないわね!」
「はいはい、兎兎何見て跳ねるっと・・・、ほれ輝夜『決闘化物』の準備が出来たぞ」
「っっっ?!いいわ月からの迎えを見て腰を抜かせばいいのよ?!まずはこの決闘で勝たせてもらうわ!!」

「「決闘」」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちくしょう
とうとう輝夜に負け越した。
これだから天才は嫌いだ。
なんだよあのカードの引きの強さは、どんな状況でもディスティニードローで見事にひっくり返される。
おまえはどこの名も無き王様だよ・・・・・・姫だったか。

時は既に夜となり空には丸い月が上がっていた。
俺は輝夜の部屋から夕飯を食べるために屋敷の無駄に長い廊下を移動していた。

「(しっかし、今日の警備はまた一段と厳重だな。
これも輝夜の一言が原因になってるんだからあいつの発言力の恐ろしさが見えるぜ)」
俺は改めて輝夜姫の偉効を感じながらろくでもない衝動を抑えていた。

「(これだけ警備兵がいると・・・段坊流箱が使いたいぜ)ってなんだあれは」
俺が欲望に負けて段坊流箱を被ると同時に月からまばゆい光が発せられ、そこから頭にうさ耳をつけた少女数人と、
青と赤の二色で彩った服を着た銀髪の女性が現れた。

女性曰く、自分たちは月の使者で輝夜姫を迎えに来たから出してほしいとの事

すると帝はその上から目線に切れたのか女性に対して罵詈雑言を浴びせ周りの兵に攻撃するよう命じた。
その時、俺と周りの兵士たちの心は一つにまとまっていた・・・

「「「「(そんなに輝夜姫を監禁したいのか?ダメだこの帝、早く何とかしないと)」」」」

そうは思っても兵士たちは一応仕事ですからと矢を放った。
警護についていた人間全員が同時に矢を放ったものだからその数は百を超えていたが、
女性に届かんとする矢から次々と力を失ったかのように大地へと落ちていった。

そんな不思議な光景に目を奪われていると、次は屋敷より不思議な力が溢れかえり体が動かなくなってしまった。
いや、動かないは正しくないな・・・。
動きが動いてないように思えるほど遅くなってしまった。
すると近くを行ったり来たりとバタバタ駆け回る音が聞こえた。

「もぉ~、あいつは何処いったのよ!」
「あの、姫様・・・、誰かお探しなのですか?」
「アスカよアスカ!私がここにいる間遊び相手に任命していたアスカって言う男よ」
「はぁ、遊び相手ですか・・・」

どうやら駆け回っていたのは輝夜で話し相手は先ほどの女性のようだ。
というか段坊流箱すげぇな・・・こんな至近距離でもまったく気づかれない。
そう考えていると誰かが上にドカッと座り込み・・・

「まったく、走り回ったから疲れちゃったじゃない。
ねぇ、え~りん、アスカ見なかった?」
「姫様、見たこともないような男をどうやって私に見分けろと?」
「はぁ~、だめね~、え~りんは・・・」
「ピキッ!」
「月の頭脳も所詮はこんなものなのね」
「ピキピキッ!!」

おいっ!!もうやめるんだ輝夜!直接見えてない俺でもそのえ~りんさんが切れ掛かってるのが分かるぞ?!
早く謝るんだ!!

俺の願いが通じたのかは分からないが輝夜は段坊流箱から腰を上げて、
「はぁ、しょうがない。
見つからないアスカの事は諦めてさっさと行きましょうか」
っと話を切り上げてくれた。

「いいんですか?姫様?」
「良いも何も見つからないんじゃしょうがないわ」
「そうですか、では地上の人に何か置いて行きましょうか?」
「ん~?蓬莱の薬でいいんじゃない?
聞いた話、地上の民はみんな欲しがってるみたいだし?」
「そうですか。
でわ皆さん、今まで姫様を預かって下さった感謝の印としてこの『八意印の蓬莱の薬』を差し上げます」
「みなさん、いままでありがとうございました。
輝夜は月に帰ります。
さようなら~」

そういって輝夜たち一行は月の光が放たれる方角へ飛んでいってしまった。
もっとも段坊流箱を被っていた俺には見えない光景だったが・・・。


こうして帝は輝夜より蓬莱の薬、不老不死の妙薬を譲り受けるも「こんな怪しいもの使えるか」と言い、
部下に富士の山で燃やしてくるように命ずるのであった。

これが俺の見た竹取物語の結末だった。



<おまけ>

先生がいなくなった。
何でも先生が世話をしていた女の子がいなくなったから旅に出ると話を聞かされた。
私は自分のところにいて欲しいと願ったが先生は少し困った顔をして自分はもうここには居られないと言ってきた。
その翌日にはもう先生はどこかに旅立っていた。
私は悲しかったがもう一つの目的のために涙をこらえた。
先生が居なくなった今なら私を止めるものは居ないのだから・・・・・・

待ってろよ、輝夜・・・
この疫病神め
お父様の・・・、藤原不比等に行った仕打ち。
娘であるこの私、藤原妹紅が後悔させてやる!!

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後書の姿をした反省+次回予告

どうも、前書きより引き続いて現れるお手玉の中身です。
お手玉の中身は期待されたことによりタイプ速度が著しく上がり既に13話の骨組みまで出来ている状態。
恐ろしい・・・
まぁそんな事は置いといて、竹取物語もとい輝夜編終了です。
1章2章で分けるなら1章終了でいいのかな?
もこたんには原作どおり進んでもらうことにしまいました。(じゃないと不老不死付かない気がした)
そして人気の高かった段坊流箱・・・
13話においてその存在は新たな伝説を作り出す。
次回!!
 伝説となった伝説の道具
(調子に乗ってすみません、次回予告と次のタイトルはいつものごとく別になります。)



[10620] 今回は外伝(ゆゆ様をどうするか決めないと)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/15 01:02
輝夜が月に去って行き数日後、俺は妹紅に別れを告げて大陸へ向かう船に揺られていた。
当初俺は偉人探索ツアーを再会しようと考えていたのだが、この時代での有名人を知らなかった俺は適当に旅をすることに決めた。
まったく持って行き当たりばったりの人生である。

ちなみに妹紅との別れの際に、家庭教師になってくれと頼まれたが流石に長く都に居すぎて年齢的なものに誤魔化しが効かなくなってきていた。
そんな理由から妹紅とは別れこうやって船上の人となっている。
年齢的なものというのは以前にも説明したかもしれないが師匠の修行を終えた辺りから外見がまったく変わらなくなっていることだ。
指先を切れば血が出たりはするから首を落としたり心臓を一突きするなどすれば流石に死ぬんだろうが、試してみたいとも思わない。
そんな訳で俺は不老不死ならぬ不老?と言う人外スキルを身につけたのだ。

そしてやってまいりました中国大陸。
その中でも俺は唐と呼ばれる国に降り立った。





本文中に乱入したお手玉の中身です。
言葉も通じないこの異国の地で我らが主人公が生きていけるのかは気になるところですが、今回は少し違うお人に視点を合わせたいと思います。
でわ、外伝をお楽しみください。






「へぇ~、能力者や妖怪を記した本、『幻想郷縁起』ですか~。凄いですね~。」

そう私は感嘆の声を上げた。
輝夜姫様が月へお帰りになられて早数ヶ月、姫様のわがままによって鍛えられた女中としての技を求めてくださった、
故郷の地主、稗田家当主の『稗田阿一』様からその書物に関する説明をして頂き私は驚きの声を上げるしかなかった。
無学である私ではその内容全てを推し量ることは出来ませんが、その本には妖怪に妖獣の特徴や能力、
生息地や出会った時の対処方法まで載せているとの事です。
こんな本を作ってしまうなんて、ご当主、阿一様は凄いお方です。

私がそう思い尊敬の念を込めて見ていると阿一様は、

「いえいえ、まだこれでは全然足りませんよ」
っと驚くようなことをおっしゃられました。

「えぇ~?!だって鬼や天狗の事まで書いたんですよね?ならもう十分ではありませんか」
「えぇ、確かに鬼や天狗のことは書きました。
しかし、それではまだ足りないんですよ。
この郷、『幻想郷』にはきっとこれからさらに多くの妖怪がやってきます。
もしかするとその中には今まで見たことの無い妖怪や大陸からやって来る妖怪も居るかもしれません。
そんな存在が現れた時にこの人里の人たちが身を守るためにこの本は必ず役に立つはずですからここで作ることは止められないんですよ」

そう阿一様は笑いながらおっしゃられました。
阿一様がおっしゃられた事は私では半分くらいしか理解することが出来ませんでしたがそれでも、
阿一様がやられようとする事が如何に大変かは分かりました。

「あの~阿一様、私に何か手伝えることは無いでしょうか?」
私が少しでも助けになればと阿一様にたずねてみると、

「そうだなぁ、では君が知っている妖怪や凄い人の事を教えてくれないかい?」
と言って、返事をくださいました。

「私の知っている妖怪や人のことですか?でも、私の知っている妖怪は御伽噺に出てくるようなのだけですし・・・。
凄い人なんて女中である私にはとても・・・」
「なに、御伽噺に出てくるようなので十分だよ。
もしかしたらそこから今までに無かった新しい妖怪や特徴の発見に繋がるかもしれないんだ。
それに凄い人なんて君が思ったように言ってくれればいいんだよ。
例えば私にとっては君が凄い人に思えるな」
「わ、私ですか」
「あぁ、私はこの地の当主とはいえ生まれつき体が弱かったせいでろくな運動もすることができない。
でも君は違う、いつも朝早くに起きては朝から晩まで働いて夜は誰よりも遅くに眠る。
私にはとても真似できない事だよ。」
「そ、そんなことは・・・」

びっくりしてしまった。
まさか阿一様がそんなことまで見ていらっしゃるとは思わなかった。
私は恥ずかしさのあまりに顔が熱くなるのを感じながら答えた。

「わ、私は当然のことをしてるまでで・・・」
「その当然のことが凄いと言ってるんだよ。私は。」
「っあ?!」

阿一様は微笑んだまま私を讃えてくれた。
なら私に出来ることはなんだろう。
考え付いたことはある意味当然のことだった。

「はい、ありがとうございます。
では、私の思いつく限りで凄い人をあげさせてもらいますね?」
「ん、よろしく頼むよ」
「はい、まずは阿一様ですね。次は・・・・・・」

その日から私は阿一様のために今まで以上に働くようになった。
そして阿一様に私がかつて仕え、月に帰った姫様とそのそばに居た見た目の変わらない不思議な青年の話をした。



<おまけ 『幻想郷縁偽』>

正体不明の項

名前  段坊流箱
種族  不明
能力  身を隠せる程度の能力
所在地 不明
二つ名 伝説の箱、お約束の塊、蛇の心強い友
危険度 低
友好度 高

解 説
 現在はその所在を眩ませており詳細を知ることは出来なかったが私の知る限りをここに記そう。
 この段坊流箱はその能力、身を隠せる程度の能力を使い自らを被った存在をその名の通り隠すことが出来るのだ。
 聞いた話によれば見ることは出来るのだがどうしてもそれを取ろうという気が起こらない、
 もしくは、取ろうとすると邪魔が入るのだという。
 私自身はこの存在を確認したことは無いがぜひとも一度見てみたいものだ。

「あれのせいでひどい目にあった・・・」
             警 備 A
             見事に能力の餌食になった代表である

「あれは素晴らしい物だ」
        匿 名
        是非、一度は見てみたいものである。

「円形で硬い物なら見たことが・・・」
             匿 名
             類似品に怒羅無缶なる存在もいるそうだ

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後書とは名ばかりの確認と進化した次回予告

どうも、お手玉の中身です。
ちょっと無理しすぎた感がありますが今回の確認を入れるために急遽仕上げて投稿しました。
確認内容は2つ。
一つ目がゆゆ様の扱いです。
お手玉の中身的には最初、ゆゆ様ほったらかしで主人公を動かす気だったのですがゆゆ様の出番を待ち望む声が上がったので少し確認をとることにしました。
ゆゆ様を使った話が欲しい場合は感想を入れる際にその旨を分かりやすく入れて頂けるだけでいいです。
当然感想を書きたくない、もしくはゆゆ様がいらないというのでしたら放置してくれて結構です。
とりあえず次の投稿までにゆゆ様を望む声が3件以上上がったらゆゆ様の話を作ろうと思います。

次に二つ目が次回予告に関してです。
今までの次回予告は偽タイトルだけ流していましたがそこに少しの緊張感を混ぜてみたいと思います。
今回ためしに一度載せてみるので気に入らない時は容赦なくいらないと感想へ書き込んでください。
これに関しては一人でもいた場合やめさせてもらいます。
また、次回予告中の文章が乱暴なのはデフォなので気にしないでください。
でわ、次回予告です。
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とうとう帰ってきた日本
懐かしい日本の風景に癒される俺に訪れる新たな謎!
花畑に残された白骨死体の示すものは?
そして襲い繰る新たなる脅威!
白いもふもふした獣達が俺を狙っている!
そのとき!!
空から現れたあの影は?!?!

次  回
 「女中さんにおめでとうそして彼女のフラグを叩き折り」
                   みんな、次回も読んでくれよな



[10620] このSSが何年の設定か作者も結構考えて作ってる
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/01 13:52
日本人よ!私は帰ってきた!!
力あるものよ!私を恐れろ?!っは違うとして、
いきなりテンションが鰻上りに上がってるアスカです。

中国大陸へ渡って数十年、日本に一度戻ろうとしたときに長安と言う町でちょっとした有名人に出会ってレベルUPを果たし、
とうとう日本へ帰ってきました。
いや~、ホント色々ありましたよ。
その中でも一番実りがあったのが空海さんとの出会いです。
日本史を勉強してなくとも一度は何かの機会に聞いたことのある名前じゃないだろうかと思いますね~。
俺が日本に一度戻ろうと思ったときに長安で説法をしているを見つけてしばらく引っ付かせてもらってました。
当然ただ引っ付いていただけじゃありません。
空海さんが現地の言葉で不自由している時に俺が助け、
変わりに空海さんから法力と言う妖術の人間が使うバージョンみたいな技を教えてもらいました。
師匠はこういったのは教えてくれなかったからな~
ただ残念なことに空海さんと行動を共に出来たのは1年程度で、それ以降はほぼ独学で法力を磨くしかありませんでした。
まぁそれでも、俺は法力と言う新しい力を手に入れて日本に帰ってきたのです。
結局、空海さんと別れた後も大陸で一人修行を積んでいたために予想以上に日本へ戻ってくるのが遅れてしまいました。


そして俺は今、山奥を探索しながら薬草を集めてます。
山奥に入って早数日、他人との出会いは無くとも季節はちょうど春らしく食べるものには困らない。
それに久しぶりに見る日本の山並みはとても懐かしいと心がくすぐられる。
ついでに国外では見ることの出来ない薬草が色々と豊富でありがたい。



青年採取中・・・・・・・・・・・・







平和だな~
熱すぎず寒すぎず、木々の隙間からたまに差し込む日の光がなんと心地いい事か。
もしかしたらここ数日は、今までの人生の中でかなりよき日になるんじゃないか?
そう俺は思いながら上機嫌に薬草採取を続けていたが、いつの間にやら森の出口まで辿り着いてしまったようだ。

「いつの間に、山から下りてたんだ?」

俺はそう一人呟き森を抜けた。
どうやら自分でも気づかないうちに山を下って麓の森を探索していたらしい。
森を抜け、外を眺めると随分と離れてはいるものの火を使っているような煙が上がっていることに気づいた。
どうやら人里があるようだ。
俺は自分が今何処にいるのか知るために人里へ向かうことにした。



青年移動中・・・・・・・・・・・・・







俺が人里があると思われる方向に移動していると低く、それでいて木が生茂っている山に辿り着いた。
ここでも薬草が取れるかもと思い、心を弾ませながら森の中へ入っていった。

「儲け儲け」
そう呟いた俺は予想以上に多かった薬草に一人喜びながら森の出口から差し込む光に目を細めた。
そして森を抜けた俺は目に入ってきた風景に心を奪われた。
白と緑、少し先には再び森の入り口が見えるがそれ以外は全てが鈴蘭で覆いつくされていた。
師匠の薬のお陰で毒に対してある程度の耐性ができている俺でも長時間ここにいたら体調を崩してしまいそうな鈴蘭畑が広がっていた。

5分ほどであろうか、鈴蘭畑を眺めていた俺は畑の中に鈴蘭とは別の白が混ざっていることに気づいた。
注意深く観察してみると、その白はほかにも何箇所か点在しているのが見える。
興味を持った俺はその正体を確かめるために近寄り、そして後悔した。

別の白は骨の白。
大きさから見て生まれて幾許の子供の頭蓋だった。
どうやらこの鈴蘭畑は口減らしに使われる捨て子の畑のようだ。
俺はその場で手を合わし、少しの黙祷を捧げると足早に鈴蘭畑より去っていった。

人のいなくなった鈴蘭畑はただ風に吹かれるがままに右へ左へとその身を揺らし続けた。



青年さらに移動中・・・・・・・・・・・・・・・・・・







先ほどの光景に少し鬱になってしまったものの、
やっと辿り着いた人里の活気に再び心が弾みだす。
俺は道中で手に入った薬草で自分が使わない分を処分しながら情報を集めてみた。

曰く、ここは幻想郷と呼ばれる土地の人里との事
曰く、最近人攫いが多くなってきたから鬼退治屋が鬼退治に行くとの事
曰く、昔、当時の地主である稗田阿一が屋敷の女中と祝言を挙げた事から身分の差がほとんど無くなったとの事
曰く、あの高い山は妖怪の山と言い妖怪の巣窟となっているとの事
曰く、森に迷い込むと幻を見て二度と帰って来れないとの事
曰く、この地は妖怪が作ったとの事

などなど、驚くような情報が数多くあった。
まずは、離れているとはいえ妖怪の巣が近くにあるのに何でこんな所に里があるのかと思えば妖怪の山に住むものは人里まで降りて来る事は滅多に無く、
里には力のある妖怪退治屋が何人か住んでいるからだそうだ。
そもそもは妖怪退治屋が里を作り、それを今の地主、稗田阿一が一つの村として纏めたらしい。
次に鬼退治屋とは妖怪退治屋とは別で鬼を専門で退治するものらしい。
人をさらう鬼に対して人間が作り出した対鬼専用の仕事人との事だ。
ただ、今では実力の低下が激しく鬼の逆鱗に触れて被害を増やすものが出ているためにあまり歓迎される存在とは言い難い。
最後に眉唾な情報ではあるがこの地は妖怪が整えたとの事だ。
始めにここに訪れた妖怪退治屋はなんでも、その妖怪がここへ誘ってきたらしい。
一体どんな目的があってそんなことをしたのか事実だとしたなら俺には皆目見当もつかないことだ。


ふとここで俺はひとつのことを思い出した。
以前、紫と話した際に師匠が妖怪の山に住んでいるといった内容だ。

妖怪の山なんて呼ばれるのが二つも三つもある訳でも無し、俺は久しぶりに師匠の顔でも拝もうかと妖怪の山へ登ることに決めた。
随分と前の話だからもういない可能性もあったがそれならそれでと思い俺は妖怪の山へ足を進めた。



青年移動?!逃亡中・・・・・・(作者よ空白を稼ぎすぎだ!!)






俺は今、飛ぶような勢いで逃げている。
たまに後ろを見てみると既に数は20を越えようとするほどの追っ手が空と大地より迫っていた。
追っ手は皆一様に白い犬耳ともふもふしてそうな白い尻尾、大きな盾と剣を装備しており、
口を開いては「まて~!」「逃げるな~!!」と吠え立ててきた。

とりあえず俺は「待てと言われて待つ奴はいない」と返すと、
「なら待つな~!!」「早く逃げるんだ~!!」と、言ってくれた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて素直な子達だろう。
俺は追っ手の純粋さに心打たれながらもありがたい言葉にさらに加速した。
後ろからは「えっ?!何で止まらないの」などと聞こえた気がしたが俺には何も聞こえない。

そうこうしている内に何とか追っ手を振り切った俺は綺麗な池に辿り着いた。
追っ手から逃げ回り山の中を走り回って喉が渇いていた俺は池の水で喉の渇きを潤した。
そうして人心地が付いた俺は改めて池を見渡してみた。
・・・・・・・・・・・・・・・蛙が多い。
見渡して気づいたか結構な量の蛙がこちらを見ていた。
蛙とはいえ見られ続けることに居心地が悪く感じていると、ふっと自分の周囲を影が覆った。
俺が不思議に思い上を見上げると、上から何者かが自分に向かって落ちてくるのが見えた。

「やばっ!!」
俺はとっさの判断で叫びながらも転がるように横へかわした。
そしてかわした次の瞬間、ズド~~ンと大地を揺るがす衝撃音が辺りに響き渡った。

俺は一体何がと思いながら落ちてきた者へ目を向けると一人の女性が立っていた。
女性の額には星印が付いた赤い角、切れ目の入った瞳は力強く楽しそうにこちらを睨み、
落ちてきた衝撃でぼさぼさになった山吹色の髪をを一振りしこう宣言した。

「あんたかい侵入者ってのは?あたしは『星熊勇儀』
あんた、あたしと勝負しな!!」


<おまけ>

少し昔のお話


A「女中さん、幸せそうだったな」
B「そうだな”元”警備A」
A「うるせぇ、そう言うならおまえも”元”警備Bじゃねえか」
B「っふ、残念だったな・・・
 俺は女中さんの紹介で稗田家の警備に再就職が決まったんだぜ」
A「んな?!聞いてねぇぞ!!」
B「そりゃそうだ、今言ったんだから」
A「っな!!あ~そうかい、いいさいいさ・・・みんな俺をおいて幸せになっちまうんだ」
B「安心しろAよ、おまえも雇ってもらえるように話はつけてある」
A「へ?ほ、ほんとか?!・・・・・・・・・・・・心の友よ~~~~~!!」
B「これからも、俺達は警備Aと警備Bだぜ」


おそらくはリストラにあったであろう警備兵の再就職記録より

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後書と次回予告

どうもお手玉の中身です
我らが主人公に不思議パワー(法力)を付けました。
そしてとうとう幻想入り。
鈴蘭畑(無名の丘)に関してはこれからも出てくるかは不明です。
ついでに輝夜時代の知り合いは基本生きてません。(妖怪系は別)

そして重要なお知らせが・・・、
前回の後書でお知らせしたとおりゆゆ様の処遇ですが、多少あらすじを考えたものの前言どおり登場は当分無しということが決定しました。
西行寺家には残念な結果に終わってしまいましたね。
でわ、次は次回予告です。
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姫である私が次回予告をしてあげるわ
突如現れ勝負を挑んできた鬼の勇儀!
その心は何を思うのか?
悲しき勇儀の慟哭をアスカが応える!
その勝負の行く末にあるものは?
そして、空から飛来するあの黒き影は?!?!

次 回
 「白きもふもふ達の悲しみそして恐怖」
       姫様があんなに張り切って・・・、次回も読んでくださいね




[10620] 勇儀との決着、そして再会(ちょっと短いか)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/01 22:27
<勇儀視点>
決まった。
今、目の前ではあたしの名乗りを聞いて呆然としている侵入者が一人。
噂に聞いていた鬼退治屋にしては多少若い気もするが所詮は天狗の噂、そこまで当てにしてはいけないのだろう。
あたしはこれまでのことを思い返しながら侵入者からの返答を待ち構えた。

あたしはまだまともな勝負をしたことが無かった。
なんせ周りの鬼とは歳が離れすぎて勝負にならないうえに、天狗や河童では怯えてしまい勝負どころか唯の弱いものいじめになってしまう。

そうやって燻っていた時にあたしが聞いたのが鬼退治屋の噂だ。
あたしは胸が躍った。
心が弾んだ。
天狗よりも河童よりも力で劣る人間が勝負を挑みに来る。
しかも鬼だけを狙ってだ。
そんな存在がどんな勝負を挑むのか、どれほどの力を見せてくれるのか、こんなに楽しみなのは生まれて初めてだった。
絶対に譲らない、あたしが勝負をするんだと決め、その時を心待ちにした。

噂を聞いて1日が経った。まぁそんなに早くくるはず無いよな。
噂を聞いて1週間が経った。うん、まだこないな。
噂を聞いて1月が経った。まだ、こないのか?
噂を聞いて1年が経った。こないな~

時は流れた。
今日も来ない。
あたしはそんな存在はいないのかと半ば諦めてしまった時、侵入者が現れたと聞いた。

ついに来た?!
あたしは駆けた。一日千秋の思いで待ち続けたこの思いを唯一度の勝負にぶつけんが為に。
あたしは跳んだ。ただ自らの持てる力の全てをぶつけんが為に。

そして・・・・・・見つけた?!
だからあたしは高らかに宣言した。

「あんたかい侵入者ってのは?あたしは『星熊勇儀』
あんた、あたしと勝負しな!!」




<アスカ視点>

目の前の女性、勇儀の高らかな宣言を聞いた俺は当然の疑問を口から出した。

「あ~、なんで勝負?」
「何を言ってるんだい?あんたは侵入者、鬼退治屋なんだろ?なら勝負するのが当たり前じゃないか」

勇儀は全身から闘気を漲らせ、拳を打ち鳴らせながら答えた。
どうやら根本的に間違えてたらしい。

「え~と、残念なことに侵入者はあってるかもしれないが鬼退治屋ではないぞ?」
「っへ?うそ・・・・・・」
「ほんと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

勇儀はそれこそ目に見えて落ち込んだ。まさにorzだ。
だからだろうか。
俺はつい、とんでもないことを口走ってしまった

「あ~、鬼退治屋ではないけど・・・勝負ならできるぞ」
「ホントか?!」
「あ、あぁ・・・」

凄まじい食い付きだ。
倒れこんでいたかと思えば俺の言葉を聴いた瞬間に一気にこちらえ詰め寄ってきた。
いかん、はやまったか・・・。
とは言うものの、最早前言が撤回できるわけも無くなし崩し的に勝負することになってしまった。
勝負方法は腕相撲。
なぜかと言うと今まで培ってきた力を試してみたいと言うのが一つと、
二つ目にこんな微妙な空気の上、鬼とはいえ女性を殴るのは気が引けたと言うのが理由だ。
殴り合わずとも力での真正面勝負なら鬼も納得である。

そんな訳で俺たちはお互いの右手を握り寝そべった状態で待機している。
開始の合図は近くにいる蛙が池に飛び込むのと同時だそうだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ただ始まりを待つだけの時が刻まれる。


          ぽ
          ち
           ゃ
          ん


飛び込んだ!!

「っは!っらぁあああぁああ~~~!!」
「ぐっ?!ーーーーーぬぅっ~~!!」

力を込めるのは勇儀が一瞬早かったもののそれで勝負が決まるほど俺の力が弱いわけも無く、
お互いに力を込めながらにらみ合う状態となった。

「がぁあああぁぁっ~~!!」
「うあぁああぁあっ~~!!」

そうやって数分ほど力を込め合っていたもののそろそろ限界が近くなってきた。
勇儀の顔にも玉のような汗がいくつも浮かんでいる。
そして俺が最後の攻勢に出ることで決着が付く。

「だっしゃ~~~~~!!」
「があ~~~~~~~!!」

ありったけの力を振り絞る事でようやく勇儀の腕を大地に叩きつけることができた。
決着が付き、俺は初めて正々堂々たる勝負に勝つことが出来た余韻に浸りながら赤くなった右腕をさすっていた。
流石は鬼の力、記憶に残る師匠の力より弱いもののそれは確かに鬼の実力であり、人の体で耐え続けられるものではなかった。
今更ながらじわじわと右腕が痛んでくる・・・・・・
正面を見てみると勇儀も痛かったのだろうか涙目になりながら右腕をさすっているが、
その顔はどこか満足しているようだった。
ふと、再び俺たちを覆う影が現れた。
またこの展開かと思った俺はもはや上を確認することなくすばやく転がり逃げた。
しかし勇儀は首を傾げながら何をしてるんだと言わんばかりにこちらを眺めるだけだった。
俺が慌てて勇儀にも避けるように伝えようとした瞬間、
ズド~~ンと衝撃音を響かせてさっきまで俺のいた場所、つまりは勇儀のいた位置から砂煙が上がっていた。

「ゆ、勇儀~「おまえ、アスカじゃないか」師匠?!」

砂煙が晴れてみるとそこには懐かしき師匠の姿が。
そして視界の隅には目を回している勇儀の姿も。

「おいおい、侵入者っておまえのことかよ?」
「あ~、そうみたいっすね。
俺としては師匠に会いに来ただけのつもりだったんですが」
「ほほぅ」
「あの~、師匠。
そこで伸びてる勇儀さんは大丈夫でしょうか?」
「ん?お、おぉ~。
星熊の勇儀じゃないか、何でこんなぼろぼろに?!」
「(ツッコミたい、あんたが原因だとツッコミたい)」
「しかもおまえも見てみれば怪我をしておるようだし・・・、家へ来い!久方ぶりに治療してやろう」
「うっす」


こうして俺は久しぶりに師匠と再会した。
それはまさに百余年ぶりの再会だった。




<おまけ>

白狼A「え~ん?!逃げられたぁ~」
白狼B「仕方ないよ、白狼A。
   あいつ人間とは思えない速さで走ってたし。
   ほら、泣き止んで」
白狼A「ひくっ、ひっく・・・」
白狼B「ほらほら、鼻もかんで・・・」
白狼A「うん・・・、びぃ~~~ん?!
   ありがとう、すっきりしたよ」
白狼B「いえいえ、どういたしまして。
   それにしてもさっきは凄い地響きがしたけどなんだったんだろうね~」
白狼A「ん~、また鬼さん達が騒いでるんじゃないかな?
   こないだも昼から宴会に入って相撲大会開いてたし」
白狼B「あ~、あれは凄かったよね~。
   途中から天魔様も混ざって大騒ぎだったし」
白狼A「そうそう。
   あれ?クンクン・・・」
白狼B「どうしたの白狼A」
白狼A「うん、何かの匂いが・・・・・・・・・。
   !!これは!侵入者の匂いだ!」
白狼B「えっ?!くんくん・・・!!
   ホントだ?!」
白狼A「よし、今度こそ捕まえてやるぞ?!
   白狼B、続け~~~~!!」
白狼B「ちょっ!待ってよ~・・・
   何かほかの匂いもするんだけど・・・・・・・・・
   いやな予感がするな~」

白いもふもふ達が固まる数分前の会話記録より

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後書+次回予告

どうもお手玉の中身です。
勝負方法はガチバトルにすると作者の表現力の限界を超えるので腕相撲となりました。
それでもなんとなく微妙臭が・・・・・・
ともあれここで一旦以前出したパワーグラフを今回の時点のものと差し替えるので参考までに見てやってください。

上位鬼>羅豪≧天狗のトップ>>>アスカ=勇儀>下級鬼≧その他の天狗>鬼退治屋>上級妖怪>>その他のモブ妖怪>(人外の壁)>妖怪退治屋>(越えてはいけない壁)||一般人

鬼退治屋に関しては百年の内に結構進化しました。
流石は鬼退治専門職、あらわれた当初よりは進化と強化が激しい職業です。
主人公君がいなければ現在の人類最強の存在では・・・

でわ次回予告はいります。

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え~っと・・・私が先生の代わりに次回予告をすればいいのか?

勇儀との決着が付きそこに現れたのは懐かしき鬼
久方ぶりに訪れる鬼の家に変わりは無かった
そこに、訪れる先生の新たなる転機?!
次回の話はちょっといい話し?!?!

次 回
 「警備兵の魂を受け継いだ白きもふもふ」
          妹紅・・・、子供達にも真似させたいほど立派だぞ。次回も是非読んでくれ



[10620] 今回はいい話?(短く感じたら申し訳ない)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/02 09:03
あれから伸びている勇儀を師匠が担いで移動し、師匠の家へと到着した。
しかし師匠・・・、女性を俵担ぎにするのはどうかと思いますよ?

師匠の家は以前のものと同じように洞窟の中にあった。
と言うか師匠・・・どれだけ洞窟が好きなんですか?

ついでにここまでの道中で追っ手の集団、白いもふもふ達が現れたが、
師匠の姿を見た瞬間、毛を逆立てて固まってしまった。
師匠が何のようだと尋ねると今にも泣きそうな状態になってしまったので、
たぶん俺のことを追いかけてきた旨を師匠に説明し、もふもふ達には俺が師匠の弟子である事を説明した。
もふもふ達は俺が師匠の弟子だと知ると白い毛並みが青くなるじゃないかと言うほど顔を青くして、
ぺこぺこと謝りながら去っていった。
どうやらこの山での師匠の評判はかなり恐れられているようだ。
まぁ、鬼だから当然といえば当然なんだが。

「どっこらせっと、それで?今日は一体どんな用で来たんだ?」

師匠は勇儀を適当に放り投げると、座り込みながら尋ねてきた。
勇儀は相変わらず目を回している。

「いえ、ちょうど近くを通りかかったもので久しぶりに師匠の顔でも見ようかと・・・・・・
それよりも勇儀は大丈夫なんですか?」
「ふん、鬼たるものがこの程度でどうにかなるものか。
それよりも見ておったぞ~アスカ~。
しばらく見んうちに、随分と力が付いたようじゃないか?」
「はい、あれから大陸に渡ったりして色々と経験してきましたから」
「ふん、出会った頃はこんなちっこい餓鬼だったのに・・・。
人間の成長は早いもんよな~」
「いえ師匠?たしかに小さかったでしょうけどそんな指の先程度の大きさでは・・・」
「ふん、俺様にとっては似たようなものよ」
「そうですか・・・・・・」
「ほれ、腕を出してみろ。治療してやる」

そう言った師匠は俺の腕を取ると用意していた薬を塗り始めた。
薬を塗っている最中も俺と師匠の会話は途切れることは無かった。
そうこうしている内に薬が塗り終わったのか師匠は薬箱を片付け楽しそうな顔をして確認をしてきた。

「アスカよ、今日はこれから何か予定でもあるのか?」
「?いえ、特には決めてませんでしたが・・・、それが何か?」
「ふむ、ならばちょうどいい。
今晩、宴が開かれる予定なんじゃが、出ろ」
「出ろって強制ですか?!いや、宴会なら喜んで行きますけど・・・」
「そうかそうか、今日は久しぶりにうまいつまみが食えそうだ」
「それが目的ですか・・・師匠・・・・・・」

いままで聞かれた事が無かったので話の種に挙がらなかったが俺には料理スキルがある。
とはいってもフルコースが作れたりするといったそんな高レベルなスキルではなく、前世で培った酒のつまみが作れる程度の能力だ。
師匠との修行中にも何度か作ったことがあったがまだ覚えていたとは・・・



青年調理中・・・・・・・・・・・・・・・上手に焼けました~♪






そして時は流れて、黄色い月が昇る頃

山は飲めや歌えの大騒ぎになっていた。
当然俺もその中に混じって飲んでいた。

「あっはっはっは~、いいねいいねぇ。
満足な勝負は出来たし、新しい友はできてうまい酒が飲める。
っっっか~~~!!今日は鬼生最良の日だよ」

隣では勇儀が上機嫌に杯を傾けている。
あの後目覚めた勇儀は俺の名を聞くと師匠から軽く治療してもらいそのまま帰っていった。
そして再びこの宴会場で出会った際に、
「おいアスカ、あたしとの友誼の杯を交わしてくれ」と杯を出しながら言ってきた。
断る理由も無い俺はそのまま黙って杯を呷ると、杯に酒を満たして勇儀に返した。
そうして勇儀が杯を呷り、お互いに笑い合うことで俺と勇儀は友になった。
今更ながら何とも照れ臭いものではあるが、男気に溢れた友情の結び方が何とも勇儀らしいと思った。
なにより・・・・・・・・・光線で討ち貫いて友達になる魔王よりはよっぽどいいだろう。(勝負して友情を結ぶのも変わらないか?)

「お~い、アスカ~つまみが足りんぞ~」
「はいはい師匠、今行きますからちょっと待ってくださいね~
ちょっと行ってくるぞ?勇儀」
「おう、いってこ~い」

勇儀が上機嫌で返事を返してくるのを背中に聞きながら師匠の下へ行ってみると随分と立派な身なりの天狗が話しかけてきた。

「ん、お主が羅豪殿の言っておった人間の弟子か?」
「俺以外に弟子がいなければその筈ですが、あなたは?」
「おぉ、失礼したな。
儂はここに住まう天狗を纏めておる、『天魔』と言うものだ」
「あなたが?!噂は人里で聞いてはいましたけど・・・・・・」
「ほう、儂の噂とな?
それはど「んなのどうでもいいだろうよ」・・・羅豪殿よ、お願いですから空気を呼んでくだされ」
「んなこと言ってもよ、別に噂話なんぞ、やれ人が浚われただの、やれ退治屋がやられただのと、その程度であろう?」
「それは鬼の事ですよ、とはいえ確かにこの宴の席でするには少々無粋な話でしたな。
いや、許してくだされ、アスカ殿よ」
「いえいえ、俺は全然構いませんよ。
それよりも折角の宴会ですからしっかりと飲んで騒がせてもらいますよ?」
「ははははは、その心意気や良し。
儂はアスカ殿が気に入りましたぞ」
「アスカ~、いつまでも天魔と喋ってないでつまみ寄越せ~」
「はは、ありがとうございます。
師匠が騒がしいんでもう行きますね」
「うむ」

その返事を聞き、俺は師匠へのつまみを用意するため席を離れたのだった。



青年再び調理中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウルトラ上手に焼けました~~~♪




なぜだろう、つまみを持って師匠の下へ戻ってみれば師匠をはじめ、勇儀や他の妖怪達まで俺を肴に笑いあってるじゃないか。

鬼の会談曰く、俺は師匠の弟子であるとの事(今更である)
曰く、俺は齢五つにして師匠の膝に土をつけたとの事(・・・・・・今更ながら罪悪感がむくむくと)
曰く、勇儀との力比べに勝利したとの事(師匠がばらして勇儀が笑いながら認めた)
曰く、それなら俺を鬼の仲間として認めようとの事(賛成で全員一致のようだ)

って?!
「ちょ?!いいんですか、俺みたいな人間を仲間にして?」

慌てて話の輪に入ると師匠たちは笑いながら返してくれた。

「がはは、百年以上いきとるくせに何を言っておる。
それにおまえは俺様の弟子だ。
俺様にとってはとうの昔に仲間のようなものよ」
「あたしも問題無いねぇ、あたしが全身全霊をかけて勝負をしたんだ。そんな相手が悪い奴なもんか!
大体、友達であるあたしがあんたと仲間じゃないなんて・・・・・・そんな事は言わせないよ?!」
「うむ、儂等天狗もお主を仲間と認めることに意義はない。
何より儂が気に入ったんじゃ、文句を言う者がおったら儂の翼で吹き飛ばしてくれる」

そのほかの宴会に参加していた妖怪達も口々に、
「勇儀との力比べに勝ったのなら認めないわけにはいくまい」
「羅豪殿の弟子だし勇儀も認めておるからな~」
「天魔様がお認めになられたんなら間違いはありません」
と、俺のことを仲間にする旨を告げてきた。

「あ、ありがとう・・・。俺、俺っ?!」

あれ?おかしいな・・・・・・。
きちんと礼が言いたいのに喉が詰まってうまく出ない。
なんか視界も歪んできたし・・・。
こんな時は酒を飲んでその勢いに助けてもらえば!!

そう思って俺は手近にある杯を掲げ、一気に呷った。
周りの鬼達・・・、いや、仲間達は「おぉ~!!」と騒いでいる。
この日に飲んだ酒は少ししょっぱく、とても熱くなれる酒だった。




<シリアスで締めようと思ったけどおまけ>

白狼A「はぁ~」
白狼B「どうしたの?白狼A。そんなため息をついて」
白狼A「あ、白狼B。んとね、宴の最中にこうやって哨戒任務やってるとどうしてもね・・・。はぁ~」
白狼B「あ~分かる分かる。でも、今日の宴は鬼さんと上級の天狗、それに天魔様しかいないから逆に出なかったほうが良かったんじゃ」
白狼A「それもそっか。そう言えば今日の侵入者には驚いたよね~」
白狼B「あ~、あれね~。見た目は人間にしか見えないのにね~」
白狼A「そうそう。羅豪さんのお弟子さんて言うからきっと凄い妖怪なんだろうけど・・・。何の妖怪なのかな~」
白狼B「そうだね~、ほかの白狼天狗たちにも聞いてみようか?みんなで追いかけたから結構見た子も多いし」
白狼A「それいいね。早速相談に行ってみよう。
   さぁ、続くんだ白狼B!!進め~~~~~~~~~~~~!」
白狼B「っちょ?!待ってよ~~~~~!!」


哨戒任務をサボった白狼天狗の言い訳より

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どうも、お手玉の中身です。
いかがでしたでしょうか?今回は主人公君に新しい絆を持たせるいい話に仕上げてみました。
友達・・・仲間・・・いいものですよねぇ。
一生の内に是非ともそういった存在が欲しいものです。

さて、話は変わりまして再び確認です。
今回の確認はおぜう様です。
年代的に出すことはかなり無理なんですがそれでもフラグを立てる方法をお手玉の中身は考えています。
ゆゆ様のときと同じように次の投稿までに3票以上出演依頼がきたらフラグを作成します。

では、ちょっと乗っ取られた次回予告をどうぞ

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次回予告

おっす、あっしは次に出てくる河童の田吾作でさぁ
田吾作が使われるなんて神様にも想像がつかなかった。
絶対次回も読んでくれよ!
んじゃ、次回は

妖怪の山に居を構えることとなったアスカ
アスカは己の家の出来に感動し宝を河童に渡す!
河童は人間の盟友
人間のために竜神の石造を作るぜ?!

次 回
 「田吾作伝138話    アスカ、襲来」
              嘘な上に危ない予告をするな by.kami



[10620] お約束の塊再来、これが彼女のコートの原点
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/02 19:37
前書き

どうもお手玉の中身です
今回の話を読んでもらう前に前書きがいくつか。
まずは感想掲示板にかけなかった内容

河童に関して
 河童に関しては諸説さまざまな話がありますが、幻想郷における河童の立ち位置は恥かしがり屋な技術屋集団。
 妖怪とは人を襲うものと言うことなので、もしかしたらどこかで襲っていたかも知れませんが河童は人間のことを一方的に盟友だと思っています。
 河童の視点からすると姿は見せれないけど観察はする。人間は盟友だ。
 そして人間からすると、便利な道具を持ってるけど一山幾らかの妖怪。
 そんな評価になってます。
 そして今回のタイトルの通り久しぶりにあの道具が・・・

次に墓参りイベントに関して
 これに関してはお手玉の中身も少し考えてはいたもののよく考えると生まれた村の場所が分からないので没ネタになりました。
 5歳児にして気絶している間に森に放置+気絶してるうちに鬼隠し
 このコンボにより主人公は完全に元の村に帰る術を無くしたと思ってください。

後、完全に蛇足になるんですが実は田吾作の登場に関してはお手玉の中身もびっくりしています。
というのも田吾作は名前だけ以前登場しているからです。
皆さんは分かりますか?

でわ、本編をお楽しみください。願わくば、後書と次回予告も読んでもらえるとうれしいです。
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「ん・・・、朝か・・・」
まぶしい日差しが目に入り俺は寝床から這い出した。
立ち上がりながら少しずつ体を伸ばしていくと間接が鳴る音がした。

俺は今、妖怪の山に居を構えている。
光陰矢の如しとあれから早くも数年、あの日、宴の席で妖怪の山の一員として認められた俺は翌日から早速、河童に家を建てて貰えることとなった。
河童の技術力は凄いもので血獲炎素尾で木々を裁断していくや、秀吉の一夜城も霞んでしまうかのスピードで家を組上げてしまった。
俺は感謝の印として段坊流箱を進呈したのだが、河童達は段坊流箱を見るや呆然とし震える手で受け取り帰っていった。
次にこの地での俺の仕事だが基本的にやることは無い。
と言うのも、いくら認めて貰ったとはいえ人間である俺が出来るような仕事は早々無いのだ。
まぁそれでも、師匠の弟子と言うことで薬師見習いの立場が現状の仕事と言えば仕事である。

「(さて、今日はどうするか・・・)」

そう考えながら外に出た俺の首に誰かが飛びついてきた。

「あ~す~か~!!」
「ぐぇ?!ゴホッ!お、おまえは!!」
「むふふぅ~」
「幼女?!いつも言ってるだろう、首に飛びついてくるなと」
「むかっ!わたしもいつも言ってるよね?!わたしは幼女じゃなくて『萃香』だよ!」

俺の首を絞めながら抗議してくるこいつは伊吹萃香。
通称『幼女』俺の中での別称は『ロリ鬼』だ。
いつからいるのかは分からないがある日突然、
「勇儀の友達ならわたしとも友達だ!!」と言ってきてそれ以来よく俺にくっついてくる人懐っこい鬼だ。
とはいえ、そろそ、ろ、意識・・・が・・・・・・・・・

「あ、落ちた」

カクッ



ロリ鬼誘拐中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロリ言うな!!








じゃりじゃりじゃりじゃり!!
森の中を何かが引き摺る音が聞こえる。

ガツ!!
「いってぇ~~~!!」

俺は唐突な痛みに頭を抑えながら起きると人の片足を持って引き摺っているロリ鬼が見えた。

「おい?!幼女!
てめぇ、なにしてやがんだ!」
「幼女言うな、わたしは萃香だ!!
んでもって見てわかんないの?あんたの足もって引き摺ってんだけど??」
「んなの言われんでも分かってる!俺が聞いてるのは何で引き摺ってるかだよ!!」
「そんなの決まってるじゃん。
わたしが運びやすいからだよ」
「プチッ・・・・・・・・・・・・、ふ・ざ・け・る・な~~~~~!!」

切れて暴れだした俺は悪くない。



人外&ロリ乱闘中・・・・・・・・・・・・・・・「人外言うな」「ロリ言うな」










「はぁはぁ・・・、てめ・・・、その能力は、反則だろ」
「ふぅふぅ・・・、巨大化した、わたしと、殴り合える、あんたの方が、よっぽど反則だよ」

俺が切れることで始まった乱闘はお互いに疲れてしまったことで終結した。
これが時たま勇儀も混じっての乱闘になるのだから俺の人外率は山に来てからぐんぐんと鰻上りだ。
いや、俺は人間だけどな。

そうやって落ち着いた俺達はほぼ日課となっている散歩に繰り出すのであった。
現在、妖怪の山には大きく分けて3種類の妖怪が生息している。
まず一つ目が隣にいる萃香のような鬼だ。
実質、山のトップでありその実力も現在の生態系においては最強に分類される存在ではないだろうか。
俺の師匠、羅豪はそんな鬼の中でも中の上という高めの位置に存在する。
ちなみに萃香と勇儀は下の上だ。
しかし師匠の話では彼女達はまだ若いのでこれから一気に成長するとの事だ。
さらに蛇足だが、年齢的には俺、勇儀、萃香の順で年上となっている。
そのくせ勇儀がでかいのは力よりも体のほうが先に成長した結果らしい。
次に二つ目が天狗だ。
俺の知っている天狗となると天狗を纏めるトップ、天魔と初日に俺を追い掛け回してくれた白いもふもふ達、白狼天狗だ。
天狗は鬼よりもさらに種族が分類されそれぞれの仕事を持っているらしいが残念ながら俺にはまだ知る機会が無い。
今のところは哨戒任務に当たっている白狼天狗に出会ったときに挨拶をしたり、頭をなでる程度の仲だ。
最後は河童。
強さとしては天狗とほぼ同様の実力を秘めてはいるもののその気性のおとなしさのせいか、天狗の一歩後ろを歩いている状態だ。
しかし、河童には信じられないような技術力があり河童の技術は世界一と謳っても間違いないほどだ。
あれで気性が荒かったらとんでもない兵器が出来ていたかもしれない・・・・・・・・・河童よ永遠にそのままでいてくれ。
また河童は、人間を盟友としているらしく俺にたいしてもかなり気さくに話しかけてくれる一族だ。
ただ、以前渡した段坊流箱に感動したのかかなり過剰な反応を示すのは困ったものだ。
その他にもさまざまな妖怪、妖獣はいるものの大まかに分けてしまえばこの3種類が山を取り仕切っている。

そうこうしている内に俺達は今回の散歩の目的地、蝦蟇の池へ到着した。
この池の水はとても綺麗でうまく、俺も白狼天狗から逃げた際にお世話になってから何度も足を運ぶようになった。
さらにこの池にはどこか不思議な神秘性を感じていた俺は河童に頼み小さな祠を作ってもらい、手を合わせるようにしていた。
そのお陰か気分の問題かは分からないが手を合わせるたびに池に水がよりうまく感じれるから不思議だ。

そうやって祠に一度手を合わせ黙祷を捧げた後、俺と萃香はまたブラブラと散歩を続けるのだった。
ちなみに、この池の水が綺麗で魅力的なのかは知らないがたまに河童が上流から流れてくるのはなんともおかしな風景だった。



青年散歩続行中・・・・・・・・・・・・・・・・・・





あても無くブラブラ散歩を続けていると近くから水が打ちつけられるような音が響いてきた。
どうやら妖怪の山にある滝の近くまで来たらしい。
ちなみに萃香の奴は「ん~、こっちから美味しそうな匂いがするから行って来るよ~」と言って、一人煙となって行ってしまった。
あれだけ能力が使えてまだこれから成長していくなんてほんとにチートだな・・・・・・・・・。
そんな自分のことを棚上げするようなことを考えていると目の前に大きな滝が見えてきた。
妖怪の山にある滝の一つ『九天の滝』だ。
その壮大さは見るものに感嘆の声を上げさせる。・・・・・・とは言え妖怪の山で生活している俺は最早見慣れた滝となってしまったが・・・。
また、流石にここで河童が流されているのは見たことないが滝つぼ付近の水が落ち着いている場所でなら、宴会を開いているのを何度か見たことがある。
俺も何度か招かれたことがあるが、萃香や勇儀たちには秘密にしている。
と言うのも河童にとっても鬼とは恐ろしい存在のようで、萃香のようなロリ鬼にまで必要以上に頭を下げだしてしまうからだ。

・・・・・・・・・どれほど滝の流れを眺めただろう。
俺がそろそろ戻ろうかと考えていると下流より一人(一匹?)の河童が泳いできた。

「ん?こりゃ、アスカ様じゃありませんか~、どうもご無沙汰してます」
「おまえは田吾作じゃないか、どうしたんだこんなとこまで?今日は宴会は無いと思ったが・・・?」
「へい、あっしは週に一度はこの滝を眺めて己の創作意欲を燃やすことにしているんです。そういうアスカ様は?」
「俺はいつもどおり、あても無い散歩をしていたんだよ」
「ようは暇してるんでやすな」
「そ、暇してるんですよ」

そうやって俺と軽口を叩きあってるのは河童の『田吾作』、昔偽名で使った覚えのある名前だがそこは気にしないようにしている。
仲間内からは『屁の河童』と呼ばれているがその由来はなんとなく語呂がいいからだそうだ。
至極どうでもいい話である。

「それはそうとアスカ様、少々お知恵を貸してはくれませんか?」
「おまえがその辺りを頼んでくるとは・・・・・・、珍しいな」
「はい、ちょっと行き詰ってまして・・・」

田吾作の話をまとめると次のような内容だった。

①人里の人より竜神様の像の作成依頼が来た(河童は人間の盟友)
②竜神の象そのものは既に完成済み(流石河童、仕事が速い)
③しかしただの象では誰もお参りしない(信心深くない人間は何処にでもいる)
④それでは像を作った意味が無いから副次効果をつけよう ← 今ここ


⑨依頼を受けたのは川に流された間抜けな河童(まさしく河童の川流れ)


「・・・・・・っと言う訳なんですよ」
「なるほどなぁ~」

田吾作の話を聞いて河童に対しては多少ならざる恩のある俺は共に考えてやることにした。
それから半刻ほど二人で頭を捻っていただろうか・・・・・・
急に空が曇りだし、ぽつぽつと雨が降り始めた。
山の天気の変わりやすいものだ。
俺は慌てて近くの木陰へと避難した。
田吾作も俺に合わせて水の中から上がり同じように木陰まで移動してくれた。

「ふう、突然の雨には困ったものだな・・・・・・」
「ははは、アスカ様は人間ですからね~、河童であるあっしは濡れても全然平気なんですが」
「まったくだな。
しかし、山の天気は変わりやすいものだ・・・・・・予め分かれば用意もできるものを・・・」

そう俺が嘆くと田吾作は慌てた様子で俺に聞き返してきた。

「ア、アスカ様、今なんと仰いましたか?!」
「ん?用意もできるものを・・・か?」
「その前!」
「あぁ、山の天気は変わりやすいだな」
「あ~違いますよ?!その後~~~!!」
「あ、あぁ・・・、確か予め分かればだったか?」
「そう!それです?!
沸いてきた・・・沸いてきましたよ~~~~~!!」

なんだこいつ・・・こんなテンションの高い河童だったか?
横で雨の中、炎を背負っている田吾作は今まで見たことの無いほどテンションが上がっていた。
そうやって俺が呆然としていると田吾作はこちらの手を握り上下に激しく振り出した。

「ありがとうございます。
アスカ様、これで全て解決です」
「そ、そうか・・・よかったな。」
「はい、全てアスカ様のお陰です。
こうしちゃいられない!早速戻って像の改造を始めないと?!」

そう言うが早いか田吾作は俺の手を離し水へ飛び込むと凄まじい勢いで川を下っていった。
俺は降りしきる雨の中一人置いていかれ、いつまでも呆然としているほか無かった。


そんな平和な日常



<おまけ 『幻想郷縁起』>

人間の項

名前  アスカ
職業  薬師見習い
能力  酒のつまみが作れる程度の能力、法力を少し扱える程度の能力
住んでいる所
    妖怪の山
二つ名 妖怪の山に唯一住む人間、妖怪に認められた人間、自らを人間だと叫ぶ人外
危険度 低
友好度 中

解 説
 いつの間にやら妖怪の山に住み着いていた人間。
 人間であるにも拘らず鬼や天狗、そのほかの妖怪達と行動を共にしているのが良く見られる。
 特に鬼との交友が盛んなようで彼が行くところには大抵、角の生えた人が共にいる。
 (遠めで見ただけなので性別などの詳細は確認できなかった。)
 彼が一人の時を狙って話しかけてみるも帰ってくる返事はぶっきらぼうであまり話しを長く
 続けることが出来なかった。
 今、分かっている事は彼が鬼たちを仲間と呼んで馴染んでいることだけである。

目撃情報例

 「鬼退治に参加するよう誘ったら逆に注意された」
                   鬼退治屋
                鬼は一対一の正々堂々とした勝負を好みますからね~

 「鬼の弱点を聞いたら殴られた、死ぬかと思った」
                   鬼退治屋
                鬼を仲間と呼んでいる人ですからそれは自業自得かと

 「何で妖怪の山に住んでるのかしら?」
              匿  名
           それはわたしも知りたいことです

                                 著 稗田阿爾
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後書+展開決め+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回は主人公の何気ない日常の一幕を描いてみました。
平和なのはいいことです。
それはともかくとして、作者は今後の展開でネタを練っているものの時系列的に微妙に出せない奴だったり迷う奴が多いので皆様にご意見をもらおうと考えた次第です。

現在決定している登場キャラの順番は・・・

「名前を呼んで!!」→「最速です!」→「お値段以上」+「大将棋で勝てない」と、なっています。

そして出ることが出来ないのが

「おなかすいた・・・」+「カリスマ(ぶれいく)」+「妹」+「ボー○ー商事」+「祟り神様じゃ~」+「キャノン」+「物理的に生まれてない人間もしくは著しく年代から外れた存在」です。

なら何が出せるのか、例を挙げるなら以下の通り

「ドS」+「兎詐欺」+「名も無き妖精(魂の系譜者)」などです。

今回の投票に関しても次の投稿(夜)までの締め切りとなります。
お手玉の中身はいつでも皆さんからのメッセージをお待ちしております。

でわ、次回予告どうぞ

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ん?なんだおまえ、俺様に次回予告だ?しょうがねぇな・・・なになに

平和な日常を享受するも何かと暇な今日この頃
あいつは再び旅に出る?
今回の旅は数百年規模~~?!
その旅であいつが得るものは?!?!ってまた旅立ちかよ!!
ちょっと待て作者!あいつのつまみまた無くなるのかよ?!

次 回
 「名前で呼んであげてください!可哀想ですよ?!」
                羅豪殿・・・真面目にやってくだされ。・・・次回も読んでくだされよ?



[10620] 数百年の時を越えさせようと海外旅行(短い気が・・・)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/02 20:24
前書き

さて、今回の前書きはあっし屁の河童こと田吾作が勤めさせていただきやす。
まずは感想にていただいていた仙人と天狗に関してでやす。
仙人に関して
 さて、仙人に関してでやすが、これはほとんど思ったとおりの存在でやす。
 人間が修行に修行に修行を重ねて進化する超人間的存在でやす。
 ただその存在は酷く脆く欠点だらけ、修行をやめれば灰になって死ぬ、百年に一度の周期で地獄の刺客に殺されかける、
 妖怪や妖獣にとっては最高のご馳走と正直有り難味がまったく感じられないでやんすね~。
 一応、長生きと霞で生きていけるお腹、超人の肉体に妖術まで使える最強存在ではあるんでやすが・・・
 ちなみに修行内容の一部として日の出に真言を何万回も読んで日の入りにも同じように何万回読むのがあるそうでやんすが・・・やってられないっすね!
天狗に関して
 申し訳ないんでやんすが天狗の誕生に関してはあっしら河童では知ることが出来なかったでやんす。
 ただ、幻想郷においては人間が天狗になったという話は聞いたことが無いでやんす。
 ついでにあっしが思うに烏天狗は卵から生まれてくるんでやんすよ・・・・・・烏なだけに♪

以上でやんすかね?
でわ、本編を楽しんで欲しいでやんす。

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時が流れて数十年。
俺の見た目が一切変わらないことから不老?は不老で間違いないようだ。
妖怪の山での生活は充実したもので師匠から再び薬の知識を教えてもらい、勇儀や萃香、他の鬼達とじゃれあうことで体力、力を鍛えていった。
しかし、体力と力共にどれほど鍛えても強くなっているような実感が湧かずに衰えない様にしているだけな感じだった。
どうも、これ以上体力や力が付くことはないようだ・・・・・・・・・・・・
そんな生活の中、俺は前世の記憶からふと思い出した言葉によりそれを実行してみようと考えた。
その言葉は・・・、
「そうだ、ローマへ行こう」

思いついたが吉日と俺は早速行動し、しばらく旅する旨を皆に伝え、妖怪の山を降り大陸へ移動した時と同じ方法で再びこの地に足をつけた。
そして現在・・・・・・・・・・・・・・・

「ここはどこ?」

道に迷っていた。
なんだこれ?進めど進めど見えるのは砂ばかり・・・少し先に湖が見えるのに全然近づけ無い・・・・・・・・・
狐に化かされてるのか?
とりあえずお約束を果たさねば・・・・・・

「み、みず~~~・・・」
「はい、どうぞ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っへ?

「え?」
「だから、はい、水ですよ?」
「あ、どうも」

なぜだろう、一人でネタを使って遊んだらホントに水がもらえた・・・・・・
俺に水を渡してくれたのは民族衣装にベレー帽のような帽子をかぶった少女だった。
帽子には星型のバッチ?の様なものが付いており中には『龍』の一文字が。
俺はもらった水をとりあえず飲むと気になっていることを尋ねた。

「え~と、君は?ついでにここは何処かな?」
「私は『紅 美鈴』、ここは西の砂漠と呼ばれる天然の死刑場ですよ~」
「っは?!何だそれ??
君は、じゃなくて紅さんは何でそんなところに?」
「美鈴でいいですよ。
私はこう見えて武術を学んでまして、ここに来たのも己を厳しい環境に置くことでより大きな修行の成果を得ようとしたのですけど・・・
そういうあなたこそなんでこんな所に?」
「え~とだな?あれだ?!俺もちょっと修行をしようかと思ってな」
「それじゃあ水くらい用意してないとダメですよ~、さては修行初心者ですね。
いいでしょう、先輩である私が修行の心得を教えてあげます。」
「ど、どうも」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」

果てしなく気まずい・・・・・・。
善意100%で提案してくれているんだろうけど俺の本来の目的全然違うし・・・、
かといって今更、違うとは言えないし・・・・・・。
どうやら美鈴は修行仲間が出来ると思っているらしくうれしそうに飛び跳ねていた。
とてもじゃないが今更断れない・・・・・・・・・・・・

「(これが、若さゆえの過ちか)」
「??何か言いましたか?」
「いや何でも無いよ美鈴さん」
「そうですか。
そういえばお名前を聞いてませんでしたね?」
「あ、これは失礼しました。俺の名前はアスカ。
好きなように呼んでください」
「アスカですか~、この辺りでは聞き覚えの無い名前ですけど・・・・・・うん、いい名前ですね」
「ありがとうございます。
美鈴さんだって言い名前ですよ?」
「へ?!あ、あははは・・・照れてしまいますよ、ありがとうございます」

そうして俺の道に迷ってから始まった美鈴との修行ライフが幕をあげた。


1日目
「まずはあの砂漠でもしっかり生きていけるように水と食料を持っていくのは基本です」
「ふむふむ・・・・・・」
「いいですか~、街でしっかりとその準備をして置かないとあっという間に干からびて鳥の餌になっちゃいますからね」
「ん、分かった」
「でわ、私がまず買ってくるのでしばらくここで待っていてください」

そう言って街へ入った美鈴が5分ほどして帰ってきた

「早かったな?」
「お財布忘れてました」

・・・・・・・・・・・・・大丈夫なんだろうか?


10日目
「砂漠の大地にも随分と慣れてきたみたいですね」
「まあな、最初こそ足が沈む感覚に慣れなかったがコツさえ掴めればなんとかな」
「そうですね~。
砂漠で修行したときに最も得られるものは不安定な足場を固定しようとして作られる足腰と砂漠の暑さに耐えられる精神的な耐久力ですからね~」
「精神的?肉体的な耐久力じゃないのか?」
「それはそうですよ~、確かにそのうち暑さには慣れていくかも知れませんけど決して涼しいわけじゃありませんし、
その暑さを我慢できる精神的なものは鍛えられても肉体的には多少なれるってだけの話で実際に耐久力が付くわけじゃないですからね~」
「なるほど・・・ところで美鈴?」
「はい?なんですか?」
「いつの間に分身の術を?」
「っは?ちょ!凄い汗?!アスカさん水を!早く水飲んでください~」


37日目
「暑い・・・・・・・・・・・・」
「暑いですね~・・・・・・・・・・・・」
「美鈴、水は」
「残念ながらもう無いですよ~」
「そうか」
「はい~~~」
「美鈴」
「なんですか~?」
「一旦、街に戻ろう」
「そうですね~~~~~」
「美鈴?」
「なんですか~?」
「そっちは街じゃないぞ?」
「あらら・・・」


109日目
「ありがとう美鈴、助かったよ」
「いえいえ、短い間とはいえ修行仲間が出来たのはいい経験でした。
それに組み手も出来ましたし」
「そうか?」
「そうなんですよ」
「そうなのか、それは良かった」
「はい、アスカさんはこれからどちらへ」
「ん~、特には決めてないが・・・、
まぁ風の向くまま気の向くままに進んでみるさ」
「わぁ、カッコイイですね~。でも、また砂漠に迷い込んでも知りませんよ?」
「おっとそれは勘弁な(ばれてたのか)」

そう言って俺達は笑い合い、いつの日か再開を約束して分かれた。
しかし、美鈴はホント親切だった。いまどきの人間とは思えないほどだ。
ついでにかなりの実力者でもあった。
修行中も何度か手合わせをしてみたが彼女の使う拳法の前にただ野生の感で怪力を振り回すしか出来ない俺は文字通り手も足も出なかった。
再会した時は彼女から教えてもらった拳法に磨きをかけて挑むことにしよう。



忘れてたローマに行くんだった・・・(ここまで書いてる間にお手玉の中身も忘れてました)



<おまけ>

別れた後の風景

「ふう、不思議な方でしたね~」
私は先ほどまで一緒にいた修行仲間を思い出しながら呟いた。
最初はこの地で修行をする妖怪なんて私以外にはいないだろうと思っていたから随分とびっくりさせられたものです。
まぁ、付き合っていくうちに迷い込んだだけだと分かりましたけどね。
修行にしては全然、成長しませんでしたし。
その上、手合わせをしてみて分かりましたが彼の戦い方は野生の熊みたいでしたね~。
いくら力が強くともそんな戦い方をしている相手に私が遅れを取る筈もありませんから組み手そのものには勝利し続けることも出来ました。
だけど、もしも・・・、もしもです、彼がまともな技術を持って闘っていたら。
おそらくは結果も違ったものになっていたかも知れませんね~。

「ほんと、不思議な方でした」
彼も妖怪だ。
あの日、偶然とはいえ出会えたのなら何時かまた出会える。
その時はきっと、私の教えた武術に磨きをかけていることだろう。
そして、その時も、きっと、私が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は、いつの日か訪れる再会と再戦の日に思いを馳せ、静かに拳を握り締めた。


彼女が別れた日に書いた日記より抜粋

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後書+報告+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回は前書きに田吾作、そして本編にちゅ・・・美鈴を登場させました。
これによって力が限界に来ている主人公君に更なる強化を。
そして今後のキャラクター登場順が以下のようになります。
「前回までの報告からの続き」
→「回る厄」→「夢幻館の主」→「優越感に浸りあう姉妹」

以上です。
また、ケロとキャノンについては完全オリ設定になっても構わない場合のみ再度投票をください。
お手玉の中身はいつでも皆様からの感想や期待、希望を待っています。

でわ、次回予告をどうぞ
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あやや、私が次回予告ですか?
いいでしょう、不肖、清く正しいしゃめって、へ?お前は違うだろう?
おぉ、こわいこわい・・・

ローマへ辿り着くも飛び帰ってきた日本
彼が見たローマの恐怖?!
安らぎを求め家路に着く彼を見つめている存在!
妖怪の山へ入った時、彼に襲い掛かった運命とは?!?!

次 回
 「今明かされる、田吾作の仕事」
         おぉ、こわいこわい・・・次回も読んでくださいよ?おぉこわいこわい・・・



[10620] かなり無理やり時間をスキップ、そしてガチバトル開始(短いな~orz)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/03 10:14
Warning

お手玉の中身より注意が一つ。
今回使用されているローマのネタは読む人が読むと不快になったり、気分を損ねる可能性があります。
少しでもそのような気配を感じたらすぐに飛ばして読んでください。
お手玉の中身は完全にネタとして使っただけで悪意やローマに恨みなどは一切ありません。
また、お手玉の中身はこのネタを15Rと認めたくない。
以上、お手玉の中身からの警告でした。

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こ、怖かった~~~~~?!
ローマへ行った俺に起こった事をありのままに話すぜ。
ローマへ行った俺はいつの間にやら美丈夫に流し目を送られていたんだが、
そんな気の無い俺は当然無視をしたんだ。
しかし、あいつはいつの間にか俺の後ろにぴったりと張り付いていやがった。

な・・・何を話しているのか分からないかもしれないが、
俺はナニをされるかが分からなかった。

頭がどうにかなっちまいそうだった。

阿○さんだとか衆○だとかそんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ!

最も恐ろしいものの片鱗を肌に感じたぜ・・・・・・・・・。


そんな訳でローマから一気に飛んで日本に帰ってきました。
あの恐怖は味わったものにしか分からない、平気で流し目を流してくる男共にそれを受ける男共・・・・・・・・・
路地裏から聞こえる野太い嬌声、頭がほんとにどうにかなりそうだった。

結局美鈴と分かれた後、ローマに向かったのはいいのだがまったく懲りることを知らない俺は再び迷子となった。
さらには何とか国境を越えたと思ったら今度は言葉の壁が・・・・・・
結局、迷子+言葉の壁+のんびり観光ツアー+移動手段徒歩+恐怖の飛び帰り=数百年の時を過ごしてしまった。
俺はここまで方向音痴だったのか・・・俺の家・・・・・・・・・虫が湧いてないといいな・・・・・・
そう考えながら俺は足を妖怪の山、我が家へと向けた。



青年移動中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




辿り着いたのは幻想郷。
以前と同じように鈴蘭の畑を訪れて、その地に眠る者達へ黙祷を奉げた。
以前にも奉げていたことがあったがこれには一応訳がある。
今でこそ不老の存在となり日常を生き、友と仲間を得ることができたが、一歩間違えれば師匠に食われていたかもしれない。
何かが違えば師匠の弟子になることができなかったかもしれない。
判断を誤っていれば紫に撃ち殺されていたかもしれない。
そして最もたるは、あの日、あの時、あの森でなければ師匠と出会わなかったかもしれない・・・・・・。
そんな、『かもしれない』の世界にいた俺がここにいる者たちのような、そんな気がしてならないからだ。

黙祷を終えた俺は妖怪の山へ帰る前に人間側での最近の情報を仕入れようと人里へ入っていった。
情報収集は昔から変わらない方法、余った薬草を処分する際に仕入れる。

噂話曰く、鬼退治屋が徒党を組んで鬼退治をするようになり退治がしやすくなった(そんな酷な事は無いだろう・・・)
曰く、冥界に大きな屋敷がいつの間にか出来ていた(誰だ?誰が見てきたんだ一体?!)
曰く、白髪の炎を操る妖怪退治屋が活躍を見せている(妖怪退治屋が単身で行動するとは・・・よっぽどの自信家なのか?)
曰く、竹林の中で道があるのに迷ってしまい帰って来れない者がいる(竹林の中に新しい妖怪でも住み始めたのか?)
曰く、竹林で兎の妖怪を見つけると帰ってこれた(兎?竹林でなぜ兎??)

などなどだ。
特に興味深いのは白髪の妖怪退治屋と竹林の話だ。
妖怪退治屋も結局は人間、そのポテンシャルはどう足掻いても妖怪に敵うものではないのだがそれをあえて一人で行動するとは・・・・・・、
一度会ってその辺りを聞いてみたいものだ。
竹林に関しては妖怪の山で聞いたほうが詳しく分かりそうだし今は放っておくとしよう。
次に鬼退治屋、実力が落ちてきているのは風の噂で知っていたがとうとうそこまで落ちたか・・・・・・、せめて卑怯な手を使わないことを祈ろう。
最後に冥界の話だが・・・・・・、誰だ言い出したのは?
冥界に屋敷が立って誰が住むんだよ?完全な眉唾話である。
気になる話はこのぐらいか・・・・・・・・・。
俺はそう考えを纏めると、師匠たちへの土産に酒を買い、再び妖怪の山への道をたどりだした。
しかしその時、遥か上空より見つめる黒い翼がいたことに俺はまだ気づいていなかった。
ちなみに、道中に竜神の石造があったので一応手を合わせてみるとなぜか石造の目の色が白に変色した・・・・・・
田吾作・・・・・・・・・・・おまえの仕業か?



青年帰宅中・・・・・・・・・・・・・・・・・・




しかし、相変わらず険しい山道だ。
俺は現在、妖怪の山を自分の家まで登っている最中だ。
ちなみに俺の家は蝦蟇の池から半刻ほど奥に行った場所にある。
そのためまずは、蝦蟇の池に行って久しぶりにあそこの水を飲もうと考えていた。

「そこの人間、待ちなさい!!」

・・・・・・・・・どうやら平和なのもここまでのようだ。
もう疲れたよと思いながら俺は声の聞こえた方向、空を見上げた。
そこには太陽を背に、黒い翼を広げた一人の少女がいた。
間違いなく天狗だ。

「人間、ここは妖怪の山!あなたのような存在が来る場所ではない!早々に立ち去れ!!」

・・・・・・・・・・・・・・・何処までも高圧的な言い方だった。師匠といい勝負じゃないだろうか?
とりあえず俺は自分の意見を言っておくことにした。

「俺の家はこの山にあるんだが?」
「何をとぼけた事を?人間如きが妖怪の山に住めるわけ無いだろう。
何より!私はこの山に住み着き百年以上になるがお前のようなものは一度も見たことが無い!!」
「それはだ「だまれ!!」・・・」
「お前の意見など聞いてはいない!おとなしく去らぬと言うのなら・・・・・・・・・
私の『風を操る程度の能力』で消し飛ばしてくれる!!」

・・・・・・・・・・・・・・理不尽だ。
しかし、ここまで喧嘩を売られた、もとい否定されたのなら買わない訳にもいかないな。
妖怪の山に住むのは仲間の証、それを否定されるのは・・・・・・、あいつらや師匠との絆を否定されたも同じ!!

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・その喧嘩、買った!!」
「馬鹿な人間、天狗との戦いを喧嘩と呼ぶなんて・・・その思い上がり私の風で消し飛ばしてくれる!!」

先制はやはり少女からだった。
少女がその手に持った団扇を扇ぐと強風が吹き荒れた。
しかし、たかが強風ごときで吹き飛ばされるほど俺も柔ではない。

「どうした天狗、風を起こす程度の能力で俺を消し飛ばせるとでも」

少女は吹き飛ばなかった俺に対して驚いたのか一瞬呆けた後に顔を引きつらせ、
「たかが人間が、私を嘲るか!」と、怒りをあらわにしてきた。

「いいだろう、私の風がただの強風かどうかその身に刻め!!」
「?!!」

少女が再び団扇を扇いだ時、俺はとっさに横っ飛びで傍の木へと身を隠した。
先ほどまで俺の立っていた位置にある木は見事な輪切り状態に・・・・・・・・・・かわせて良かった。
これが、風を操る程度の能力か・・・・・・

どうやら少女は怒りのあまりに俺の姿を見失っているらしくキョロキョロと辺りを見渡しながら罵詈雑言を吐いていた。
流石は天狗、語呂が豊富なだけに悪口も一級品だ。
それはともかく作戦を立てないことにはどうやっても勝てないなこれは・・・。
俺はそうやって考えながらどう攻めるべきかをシミュレートした。
そもそも空を飛べない俺が空を飛んでいて更にはそこから攻撃できる相手に対して不利なのは最初から分かっていたことだ。
現状の俺の法力であの高さまで攻撃しようと思ったらそれこそ跳んだ方がまだましだ。
しかし、そこで馬鹿みたいに跳べば・・・・・・間違いなく輪切りの木と同じ運命を辿る事になる。
とは言え、あそこまで言われて引き下がっては俺を仲間として認めてくれた師匠や友との絆を自分から否定する事になる。
最初から俺に残された選択肢は一つだけ・・・・・・・・・


闘って勝つ、ただそれのみ!!


<おまけ>
妖怪の山の川付近

「かっぱっぱ♪かっぱっぱ♪に~とり~♪」
「うるさいぞ、にとり。気が散る。」
「だって椛~、もう随分になるよ、そうやって考えてるの、早く次の手を打ってよ?」
「ま、待ってくれにとり、後5分・・・、いや!3分でいい?!」
「ぶ~、さっきも同じ事言ったよね~?もう待たないよ」
「っぐ・・・・・・・・・・・・参りました」
「ん♪でも椛も強くなったよね~」
「ホントか?!」
「ホントホント♪あたしは友達に嘘を付いたりしないよ」
「そっか~、強くなってるのか~♪
ん?これは?!」
「どしたの?」
「侵入者だ!しかも文様が戦ってる?!」
「っは?あの文が?!ちょっとそれ大事じゃない」
「っく、今まで気づかなかったとは・・・、にとりすぐにみんなに知らせてくれ。私は先に行く?!」
「うん、あたしも他の天狗に知らせたらすぐに行くからね」

段々と大事になる主人公の帰宅風景より

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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
いよいよガチバトルを書いてみようとタイピングしました。
天狗は友好的ではなく人間を基本的に見下してます。
そのため、顔で笑って心で嗤ってがデフォルト。それが無いのは仲間か友人、上位者へだけ。
コメ返しにも書きましたがもう少し先で田吾作に主人公の種族を確定させます。
田吾作意外と活躍するな・・・・・・・・・
でわ、次回予告です。

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ん?あたしが次回予告かい?いいよ、山の四天王たるあたしがしっかり予告してあげよう

突如始まった真剣勝負!
ぶつかるは黒き風とアスカの力!
決着が付いた時に現れたのは何者か?!
そして、成長した古の魂を継ぐもの?!?!

次 回
 「アスカの闘い、そして、そのときのあたし達は?」
            一人で出るなんてずるいよ~・・・、みんな、次回も読んでいってね?



[10620] 勝負の行方に懐かしい顔、そして友は今
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/03 19:17
俺は昔から使われる最も原始的な方法であの天狗を落とすことにした。
早い話が・・・・・・
「これでも食らってろ」
投擲である。

先ほど少女が輪切りにした木を回収しそのまま木の陰から投げつけるという何ともカッコの悪い方法ではあるものの、
このやり方は有効なようで少女は一瞬バランスを崩して落ちかけた。


<天狗少女視点>

「(っく!猪口才な!!)」

私は今人間と戦っている、最初は愚かな山への侵入者だと思い、次は天狗を嘲った糞野郎だと考えた。
私は誇り高き烏天狗だ!人間如きに侮られていい存在ではない?!

そう私が考えていると木の陰から凄いスピードで何かが飛んできた。
私が慌ててバランスを崩しながらもかわすと次々に飛んでくる。
目で追って見ればそれは私が輪切りにした木ではないか。
まさか、こんな方法でくるとは・・・・・・・・・。
私は更に頭に血が上るのを覚えながらもそれならばと能力を使った。

「そんなもので私が墜ちる訳ないでしょう!これで死になさい!!」

再び団扇を一扇ぎし、複数の小さなかまいたちではなく大きな一つのかまいたちを作り、木片が飛んできた方向へはなった。

ズドン!!

8本ほどだろうか、木が倒れて重なり合ってるのが見える。
どうやらあの人間は仕留めそこなったようだがこれで奴も武器が無くなったと私は考えていた。


<アスカ視点>

「(あっぶね~)」
あの少女より「死になさい」宣言の後に怪しい気配がしたのを感じた俺は自分の感を信じてその場で地面にへばりついた。
その瞬間、すこし上を風が通り過ぎたと思ったら、いっせいに周りの木が倒れてきた。
どうやら大きなかまいたちも作れるらしい。
少女の様子をそのまま窺い見るとまだ仕留めてはいないと感じているようだが、
どこか油断しているような気配を漂わせ、キョロキョロと俺の姿を探していた。
どうにも俺の武器を奪ったと勘違いしているようだ。
これはチャンス!
俺は息を整えると相手の視線が外れる一瞬を捉え自らの傍らに切り倒された木丸々一本を鷲掴みにし、少女に向かって投げつけた。

「うらぁ!!」
「っきゃ?!」

少女は飛んできた木に驚いたのか悲鳴の様なものをあげるとバランスを崩してそのまま地面近くまで落ちてきた。
今こそ勝機!!
俺はすばやく詰め寄るとバランスを整えこちらに顔を向けた少女と視線を交差させた。
少女は俺のスピードに驚き戸惑うような顔をしている。

「(逃がさん!!)」

少女が視線を外し空へ逃げようとするよりも早く俺はその懐へ潜り込み、震脚を踏みしめ拳を突き出した。

「ぶっとべ!!!」
「?!?!?!?!」

拳は少女の腹を打ち抜くと、そのまま少女は吹き飛び背後の木へと叩きつけられた。
少女は一息苦しそうに呼吸を吐くとそのままズルズルと大地へ墜ちていった。

「文様?!」

そのときだ、今までの戦闘音を聞いてきたのか山の哨戒、白いもふもふがあらわれた。
白いもふもふはしばらくの間少女に対して「文様?!文様?!」と声をかけながら揺すっていたが、
俺の存在に気づくや、俺を睨みつけながら剣と盾を構え口を開いてきた。

「人間、おまえが文様をこんな目に!!」
「こんな目にって、先に喧嘩を売って「うるさい、黙れ!!」・・・・・・・・・・・・(この子もかよ)」
「文様、敵は討って見せますからね・・・、さぁ、覚悟しろ!!」
「ちょっと待った~~~~~!!」

白いもふもふが気合を入れて構えたかと思うとちょっと待ったコールがその場に響いた。
そして空から、木陰からと白いもふもふ達が集まってきた。
その中から一歩前に出てきたのは・・・・・・?!河童??
どうやら先ほどの発言もこの河童の少女がしたらしい。

「ちょっと待ちなよ椛、相手は人間じゃないか・・・、そんないきなり剣を突きつけなくても」
「しかし、文様が?!」
「文が?ちょっとなによそれ?!酷い怪我じゃない」

止めに来てくれたと思ったら相手の増援のようだ・・・・・・・・・あの天狗以外相手にする気はなかったんだが・・・

「ちょっと、いくら盟友とはいえこれは見逃せないよ、一体どんな卑怯な手を使ったんだい」

案の定、あの河童の少女も敵に回った俺に味方は「あれ?あなたは???」今度はなんだ・・・

「どうしたんですか先輩、私は早く文様の敵を討ちたいんですが」
「ちょっと待ちなよ椛、どんな卑怯な手を使ったか分からないんだから突撃したらダメだよ」
「うっ・・・、分かってるよ。
それで先輩、あの人間に見覚えが?どんな悪人なんですか?」
「ん~ちょっと待ってね、どこかで見覚えが・・・・・・・・・」

見覚えはむしろ俺のほうにあった、あれは随分前に師匠におびえていた白いもふもふだ。
随分と成長したものだ。
先輩となると周りのは全部後輩?道理で俺に誰も気づかないわけだ・・・・・・・・・・・・・・・

「あ?!あぁあああぁ~~~~~~~~!!」

どうやら思い出したようだ。

「ちょ?!うるさいですよ先輩」
「う~耳に響くよ・・・、どうしたんだよ一体」
「あ、あう、あうあうあうあうあぁ~~~」

先輩もふもふが動揺と戸惑いに混乱していると、我慢が出来なくなったのか刀もふもふが行動に移ろうとした。

「もういいです、こいつを私の一刀の元に切り捨てて「やめなさいこのお馬鹿~~!!」いたっ?!」
「へ?なんで?」

先輩もふもふは刀を構えなおした刀もふもふに拳骨を入れて止めると周りの白いもふもふ達と河童の少女は混乱した。
しかし、先輩もふもふはそれを尻目にこちらに寄って来て、頭をぺこぺこと下げながら謝りだした。

「あぁ~すみませんすみません、本当にすみません。
みんな若い子なんです!来たばかりの子なんです!どうか許してください~~~~~」
「ちょ?!先輩何をしてるんですか侵入者に」
「ちょっとちょっと、文がこんなにされたってのに何を一体・・・・・・」

周りが戸惑いと疑念の声で再びうるさくなるのを先輩もふもふは一喝のもと黙らせた。

「黙りなさい!!この方をどなたと思ってるんですか?!
この方は羅豪様のお弟子さん、アスカ様です?!」
「「「「「「「っは???」」」」」」」

面白いくらいに場が固まった。
先輩もふもふ以外が信じられないものを見るような目でこちらを見てくる。
すると再び先輩もふもふがこちらに一礼し、

「本当に申し訳ありませんでした。
しかし、文が傷を負っているのも事実。一体何が・・・・・・・・・」
「あ~~~・・・、喧嘩を売られたから買った?」
「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」

そこでこれまでの経緯を俺が説明すると先輩もふもふは納得したようにうなずき、

「なるほど、文ならありえない話ではありませんね。
彼女は百余年ほど前から山に住み着いていてアスカ様のことは知りませんでしたから」
「たしかに、俺もその子の事は知らないからな~」
「本当に申し訳ありません、この事に対する罰は後ほどいかようにも私が「先輩?!」黙りなさい椛!
この事に対する罰は私が受けますからどうかこの子達は許して貰えないでしょうか」

なぜ家に帰るだけでここまで大騒動になるんだ・・・・・・・・・
先輩もふもふは何か覚悟したように萎縮しきって頭を下げてるし。
周囲の白いもふもふ達は泣きそうになりながらも俺と先輩もふもふに視線を行ったり来たりさせてるし。
河童少女と刀もふもふはプルプル震えながら天狗少女を抱えてるし・・・・・・
俺に一体どうしろと・・・・・・・・・・・・・・・。

「ふぅ、とりあえずは」
「ひゃ、ひゃい」

・・・怯えまくってるし、俺はそんなに怖いのかな~・・・
俺は自分が怖がられることにショックを受けながらも口を開いた。

「とりあえずそっちの子の手当てしてあげて。
これ、薬」
「ひゃ、ひゃい」

先輩もふもふは俺から薬を受け取ると文字通り飛んで天狗少女の元へ向かった。

・・・・・・・・・はぁ、疲れる。


<おまけ>

「ねぇ勇儀~」
「ん~?」
「わたし達、こんなところでお酒飲んでるけど侵入者退治に行かなくていいのかな~」
「それは白狼天狗の仕事だろ?あいつらの仕事を取っちゃ悪いだろ~」
「それもそっか~、となると仕事を取った烏天狗の文は悪い奴だね~」
「そうだな~、しかし文が相手とは運が無い。
あいつは妙に誇り高いからな~・・・普段は微塵も見せないけど」
「そうだね~、そういえば侵入者は人間だっていう話だよ~」
「そうなのか?この山に登る人間はあいつぐらいだと思ったけど・・・物好きもいるんだね~」
「そうだね~・・・、ねぇ勇儀~」
「ん~?」
「ふと思ったんだけど、侵入者ってあいつじゃないかな~」
「あ~ありそうだな~・・・そんなわけ無いだろうけどな~」
「そうだよね~」
「「あははははははははははは・・・・・・・・・・・・・・・」」


とあるぐうたら共の会話記録より

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後書

戦闘描写に悩むお手玉の中身です。
皆さん、いかがでしたでしょうか?
今回は初ガチバトルの決着として書きましたが如何せん作者の表現力が拙いせいで物足りないやも知れません。
これからも戦闘描写に関しては修行あるのみです。
話はやや変わってドS様の話なんですが・・・・・・現在骨組み作成中にして難産してます。
どんな展開に持っていっても元祖マスパで主人公が消し飛ぶ姿が・・・
とりあえずは、まだ他にも話を挟んでるんでそちらを先に楽しんでいてください。

でわ、次回予告は彼らに頼みましょう
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次回予告

警備A「今回の次回予告は俺達警備Aと」
警備B「警備Bが勤めさせてもらうぜ」

警備A「数百年経てば知らぬ者もいる己の存在」
警備B「それでも変わらぬは友との絆」
警備A「田吾作殿の仕事は」
警備B「時代を越える」
警備A・B「「次回も読んでくれ」」

次 回
 「「我らが魂を受け継ぎし者達と田吾作の話し」」
             間違ってないのに違うような気がする by.kami



[10620] おめでとう白狼A、そして田吾作さんのためになる話
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/04 03:40
それから俺は周囲に集まっていた後輩もふもふ達に先輩もふもふを罰する事は無いことを告げ解散させた。
その場には先輩もふもふと刀もふもふ、河童少女にいまだ眠っている天狗少女が残った。

とりあえず俺はいつまでも、もふもふだと困るので名前を確認することにした。

「あ~っと、俺のことを知らないのも多いみたいだし自己紹介させてもらうぞ?
そこの先輩もふもふから少しは聞いたことあるかもしれないが鬼の薬師、羅豪の弟子のアスカだ」
「先輩もふもふって・・・確かに名前を言ったことはありませんでしたがそんな酷な事はないでしょう。
私の名前は、白rげふげふ改めまして『茜』と申します」
「わりぃ、今まで名前知らなかったからな。まぁこれからよろしくって訳でそっちのは?」
「は、はい!妖怪の山、哨戒班、13班の『椛』です。
お噂はよく聞いております。薬ありがとうございました。それと刀を向けて申し訳ありません。
えっと、それとそれと・・・・・・」
「あ~分かった、もういいよ。過ぎた事だし気にするな。
それで、そっちの震えてる河童の君は?」
「ひゃ、ひゃい、わ、私はかかか河童のに、にに、にと、『にとり』です!!」
「えっと~・・・、彼女どうしたの?」
「にとりは鬼が苦手でして、鬼の仲間として名高いアスカ様に緊張してるんです・・・」
「・・・・・・・・・さよか。んで最後は俺に喧嘩を売ってきた黒いのだが・・・、まだ目を覚まさないか?」

茜は落ち着いて(やや凹んで)、椛は慌てて、にとりは緊張しながら自己紹介を終えた。
最後に天狗少女・・・めんどくさいから黒いので良いや。黒いのの自己紹介が残っているがどうやらまだ目が覚めないらしい。
それなりに手加減はしたつもりなんだが・・・・・・・・・だいたい萃香を殴るときの力ぐらいに(手加減と言わない)

「ん~それじゃ、家に移動しようか?いつまでもこんな所いてもしょうがないし。
茜、俺の家、まだ無事だよね?」
「へ?!は、はいそれは、たまに河童の田吾作さんが掃除しに行ったりしてましたし」
「放置していた数百年もか?なんつ~義理堅い・・・、流石は盟友だな」
「ほへ?」
「ん?どうした、にとり?」
「い、いや・・・今盟友って?」
「なんだそんなことか、河童と人間は盟友なんだろ?
何より俺は田吾作とは友人同士のつもりだぞ?」
「っへ?!う、うん、うんうんそうだね。河童と人間は盟友だ~♪」

よく分からんがにとりが元気になった。
そんなこともあったが俺達一行は蝦蟇の池を越えて懐かしの我が家へと向かった。
ちなみに蝦蟇の池でとても大きな蝦蟇がこちらを懐かしそうに見ていた。
これからは大蝦蟇の池と呼ぶことにしよう。



青年一行移動中・・・・・・・・・・・・・・・イベントエンカウント?!



「酔っぱらい共があらわれた!」
「何言ってるんだい?アスカ??」
「いや、気にするな勇儀・・・疲れてるだけだ・・・」
「久しぶりだね~、あすか~」
「おう、久しぶりだな萃香、勇儀」

あれから家に辿り着いた俺達を待っていたのは酔っぱらい・・・もとい勇儀と萃香だった。
昼間から飲んでいたらしくその顔は多少赤らんでいる。

「ゆ、勇儀様に萃香様!お二人ともなぜここに?」
「なに、侵入者の知らせを聞いてみれば、人間だって言うじゃないか。
もしかしてアスカが帰ってきたのかな~っと見に来たわけなんだが・・・、どうやら当たってたみたいだねぇ」
「そ~そ~、友達は迎えに行かないと♪」
「そ、そうなんですか」

茜は多少緊張しながらもそう答えた。
ってかおまえら、迎えに来るならもっと早くに来いよ!!と、俺が考えていると萃香が黒いのに気づいたようだ。

「ん~?その目を回してるの文?また、派手にやられたんだね~」
「へ~、文の能力は結構な強さなはずだったけど・・・、アスカも何か能力を手に入れたのかい?」
「残念なことにまだ能力は手に入ってないよ。
こいつはただぶん殴っただけだ」

俺が素振りをしながら答えて見せると、

「・・・・・・文生きてるのかい?」
「よくもアスカに殴られて怪我だけですんだよね~」
「失礼な奴らだ、手加減はしたぞ?」
「「アスカのは手加減と言わないよ(ね)!!」」
「そ、そうか・・・・・・」

ちょっとショックだった。
そうして萃香と勇儀はみんなに知らせてくると言い、萃香は煙となって、勇儀は歩いて去っていった。
相変わらず便利そうな能力だ。
そうして家の中に入ると微妙に記憶と食い違う・・・・・・
居間には電話?もどきと以前は無かったはずの座りやすそうな椅子。
台所に目を向ければ銀色に輝いている。
田吾作・・・・・・・・・またおまえか・・・・・・・・・・・・・・・

とりあえず文を適当なところへ寝かせると記憶を頼りにお茶の準備をした。
緑茶のいい香りが広がる。
田吾作はいい物を揃えているようだ。
そうしてお茶を楽しみながら雑談していると黒いのが目を覚ましたようだ。

「ん・・・、むぅ・・・、頭が痛い・・・・・・ここは?」
「あ、文様?!目を覚ましたんですね!よがっだよ~~~~~!!」
「お、文、目を覚ましたのかい?いや~よかったよかった」
「へ?!椛?にとり?えっ?!ここは?何であなた達がここに??」
「何で、とはご挨拶ね文、椛もにとりもあなたを心配してきたのよ」
「あ、茜さん、そうなんですか?
それでここは?」
「ん」

茜は短く答えると体をずらし黒いのの視界に俺を入れるようにした。

「あ~おまえは~~~~!!ちょっと茜さん?!侵入者ですよ侵入者~!!」
「うるさい文、黙れ!そして謝れ!平身低頭にして米つきバッタの如く!!」
「へぅ?!」

茜の一喝により騒ぎ出した黒いのは身を竦ませた。

「っひ!ど、どうしたんですか茜さん・・・怖いですよ?」
「あのね~文、あなたが喧嘩を売ったこの人はね・・・・・・・・・」

そうやって茜が説明しているのを横で聞きながら俺はお茶を飲んでまったりしていた。
はぁ~~~、茶がうまい、癒される。

「えぇ~~~~~?!、あの人間にして鬼の友人、羅豪様の弟子、人外なる人間のアスカですか~~~~~?!」

黒いのは顔を青くさせながら茜の言葉に反応した。
人外なる人間って何だよ?俺は人間だ・・・・・・・・・・・・

「ということは・・・・・・、もしかして私、凄くまずい方を怒らせちゃいましたか?」
「そうだね」
「そう、なりますね」
「そうだよ」

黒いのが気まずそうに聞いてみると言い方は違うものの3人全員が同じ答えを返した。
それを確認し、顔を青く、を通り越して白くさせた黒いのは痛みも忘れたのか飛び起きこちらに跳び掛ってくると、
茜の言葉通り平身低頭にしてコメつきバッタの如く頭を下げてきた。

「す、すみませんすみませんすみませんすみませんすみません・・・・・・・・・」エンドレス

危なかった、茶がこぼれるところだった・・・・・・・・・。
こいつ・・・・・・・・・、なんて奴だ・・・・・・。

「・・・・・・うるさい」
「「「「へぅ?!?!」」」」
「ずずずぅ」

多少の怒気を滲ませながら俺が答えると黒いの以外も固まってしまったが・・・・・・・・・やっとゆっくり茶が飲める
茶を飲みながら俺は考えた。

「(さて、この状況をどうしたものか・・・・・・)」


<おまけ>

もふもふA「先輩は赦してもらえるみたいだし良かったよね~」
もふもふB「そうだね~もふもふA」
もふもふA「そういえば私達は何でもふもふ?」
もふもふB「さぁ?それよりもアスカ様って人間なんだよね?あれだけ長生きして文様を倒すなんて仙人か妖怪の間違いじゃないのかな~?」
田吾作  「アスカ様が帰ってきたと聞いてきました」
もふもふA・B「「田吾作さん?!」」
田吾作  「みんな勘違いしているようだし、ここであっしが訂正しておくでやす」
もふもふA・B「「訂正?」」
田吾作  「でやす。仙人はともかくとして、そもそも人間と妖怪との境界は何か?単純に言ってしまえば種族の違いでやす」
もふもふA「ならアスカ様は人間?」
田吾作  「最後まで話を聞くでやす。ならば人間が総じてアスカ様ほど強いかといえばそうでもないでやす。アスカ様は既に人から外れた強さを持ってるでやす」
もふもふB「ならアスカ様は妖怪?」
田吾作  「だから最後まで聞くでやす。なら質問でやすが人から外れて生まれた人外と生まれたときから妖怪と言われたあっしら、これはどう違うでやすか?」
もふもふA「っへ?う~んと、え~っと??」
もふもふB「う~ん??人外は結局は人間で妖怪は妖怪?」
田吾作  「そうでやすね。しかし正解とも言えないでやす。次にあっしら河童とお嬢さんら白狼天狗は同じように妖怪と呼ばれやすが、これはなぜでやす?」
もふもふA「それなら分かる!生まれたときから妖怪だから」
もふもふB「おぉ~」
田吾作  「残念ながら違うでやすよ」
もふもふA・B「「えぇ~~~」」
田吾作  「答えはもっと単純でやす。もしかしたら一番最初からこれを言えばよかったかも知れやせんが・・・・・・」
もふもふA「それじゃあなんなんですか?」
もふもふB「田吾作さん」
田吾作  「それは、人間を襲うかどうかでやす。あっしら妖怪は生まれたときより何らかの方法で人間を襲っているでやす。こう言っては何でやすが、運命といっても過言じゃないでやす」
もふもふA「でも私達、山から出ないから人間を襲ったことなんて・・・・・・」
もふもふB「うん・・・襲ったことなんてないですよ?」
田吾作  「本当でやすか?でしたら今日、襲いにいったのは?」
もふもふA・B「「!!」」
田吾作  「そういうあっしも餓鬼の頃に人間を襲ったことがあるでやす。河童と人間は盟友でやすのに・・・・・・。だからあっしを友達といってくれるアスカ様のことをあっしは大好きでやす。」
もふもふA・B「「・・・・・・・・・・・・」」
田吾作  「もしも、もしもでやすよ?アスカ様が人間でなくまた人外でもない妖怪になるのでやしたら、それはアスカ様が人間を・・・・・・・・・」


哨戒任務に戻ったもふもふAの日記より抜粋

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後書+報告+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
先輩もふもふには名前ありのオリキャラへと昇格してもらいました。
今回は後から考えたおまけに力が入るといった状況に・・・。
さて、報告です。
ドS様の話が半分以上、完成しました。
しかしその結果、下手すると主人公君が死んでしまう流れに。
思えばクロノ・トリガーの主人公が死んでもクリアできるシステムに感動した覚えが・・・
この際、田吾作を・・・・・・
まぁ、この件に関しては本編を読み進めて皆様の目で確かめて下さい。
でわ、次回予告どうぞ

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次回予告

へ?私が次回予告ですか?!分かりました、任せてください

目を覚まして真実を知った烏天狗
だからといってその所業は赦されない!
しかし憎みきれないアスカさんは一計を案じる!
アスカさんが下した処罰とは?!?!ってこんな酷いことホントにするんですか?

次 回
 「名前を呼んで、お願いだから。結構つらいんです」
         中国!寝言を言ってないで仕事をしなさい!皆様は次回を是非お読みください



[10620] 宴の中心で自らの名を呼べと叫ぶ少女
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/05 05:27
「ずずずずず・・・・・・・・・」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

俺が茶をすする音だけが響く。
やっと気持ちが落ち着いてきた俺はどうするべきか考えていた。
たとえ俺のことを知らなかったとはいえ吐いた唾は戻らない、黒いのが吐いた暴言は消えることが無い上に、
喧嘩まで売ってきたのだ。
たとえ俺が気にせずとも他の仲間達はそれなりの処罰を考えるだろう。
流石にそれは哀れである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい気味だとは思ってない、思ってないとも!
それはともかく、それならここで適当に処罰を下してしまったほうが黒いののためだろう・・・
そう考えた俺は早速思いついた事を行動に移すべく口を開いた。

「っで?天狗・・・・・・名前は?」

いかにも怒ってますといった感じに言うのがポイントだ。
案の定、黒いのは声をかけた瞬間から頭を下げたまま怯えるようにビクビクしだした。
ついでに後ろの3人も顔を青くしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黙ったままなので更に聞くことにした。

「ふぅ、もう一度聞く。な・ま・え・は?

一文字ごとに強調するのがポイントだ。
どうやら効果は抜群のようで、黒いのが一文字単位で大きく震えている。
ついでに後ろの3人は既にお互いを抱き合って震えていた。
だんだんと虚しくなってくる。
するとやっとその青い顔を上げた黒いのが返事を返した。

「は、はい、私は『射命丸 文』と申します。
この度は、アスカ様とは知らず大変申し訳ありませんでした」

黒いのは言い終わると再び頭を下げた。
ようやく話を進められる。
俺はそう考えると、再び口調を厳しくして黒いのへ話しかけた。

「ふん、では射命丸よ?此度の件、処罰を受ける覚悟はあるか?」
「はい、いかようにも「待ってください!」?!」
「文を罰するのなら私を・・・地位としては彼女が上でも私は彼女の先輩に当たるんですから」
「「「茜さん(先輩)」」」

何この子?!少し前まではただの可愛いもふもふだったのに・・・・・・こんなに立派なもふもふになって俺はうれしいよ。
とは言えここは心を鬼にしておかないと後がめんどくさい。

「それは無理だ。
既に他の白狼天狗たちにもおまえを罰する事は無いと伝えているからな・・・そんなことをすれば俺は嘘つきになってしまう」
「そ、そんな・・・」
「あやさま~」「あや~」

俺が否定を告げると茜は顔を俯かせ、椛とにとりは抱き合いながら涙した。
やばい・・・・・・さっさと終わらせないと精神的につらい・・・。
そう考えた俺は再び黒いのへ顔を向けると処罰を言い渡した。

「では射命丸よ、処罰を言い渡す」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「これより俺が汝を赦すまでの間、汝の名を『黒いの』と呼び続けることにする」
「っは?!」「へ?」「「?!?!?!?!」」

おぉ、驚いてる驚いてる。
きっと俺の顔は今、悪戯が成功した時のような、いやらしいニヤニヤ笑いになっていることだろう。
もちろん止めるつもりは無いがな。

「え、えっと~、アスカ様?」
「どうした?黒いの。
何か不満があるのか?黒いの。
おとなしく処罰を受けろよ?黒いの」
「っちょ?!ほんとに黒いの呼ばわり?!いいんですかそんなので!
ってかなんですかその顔は、やめて下さい!こっち見て笑うな~~~~~~!!!」
「残念だったな黒いの。黒いのじゃなく茜を見ながら笑ってんだよ」
「っへ?!私で「そういう問題じゃありません?!」?」
「なんなんですか黒いのって?!」
「なにって?黒いのは羽が黒いから?」
「何で疑問系?!烏天狗はみんな羽が黒いですよ?!いやです!訂正してください!!やめて下さい~~~!!」
「しかし、アスカが黒いのを黒いのと呼ぶことをやめる事は無かった」
「勝手な独白を入れないで下さい?!」

椛とにとりは抱き合ったままポカンと口を開いて顔を呆けさせ、茜はこちらの意図を察したのか黙って微笑み、
黒いのは青かった顔を紅潮させて訂正させようと必死になっていた。
その場にはもう先ほどまでの重い空気など微塵も残っていなかった。
時は流れて・・・・・・・・・・・・・



青年調理中・・・・・・・・・・・・上手に焼けました~♪



空には月が、山には華が、手には杯が♪
今宵は宴♪友が帰った喜びを分かつため♪
今宵は宴♪強き仲間を讃えるため♪
今だけは~全てを忘れて♪この喜びに酔いしれよう♪

調子の外れた歌ながらも今夜の宴会を表すにはぴったりの歌が流れている。
あれから黒いのをからかい倒した俺と黒いのと茜は事のあらましを師匠や天魔殿に報告しに向かった。
ちなみに椛とにとりに関しては現地解散だ。
黒いのの事を心配そうに見てはいたが茜に諭されてしぶしぶ帰っていった。
師匠も天魔殿も俺が帰った話は聞いていたのか俺の事をからかいながらも喜んでくれた。
その際に天魔殿から黒いのに対する処罰が言い渡される予定だったようだが、
既に俺が処罰を下している事を知ると複雑そうな顔をしながらも最後には笑ってこちらの考えに乗ってくれた。
そのときの会話は確かこんなものだった。

回想

「では、射命丸文よ、我等が旧友に仇なした事に対する処罰を「あ~、待ってくれるか?」どうしたのだ?アスカ殿」
「処罰に関しては既に俺の方でやらせて貰った。
だから天魔殿が手を下す必要は無いぜ」
「っむ、しかしそれでは天狗一族に対する示しがつかん?!」←複雑そうな顔の時点
「そうです天魔様、不肖、射命丸文!いかなる処罰でも受けて見せます!!」
「うむ、その心意気やよし!では、改めて「俺に関することなんだから黒いのの事は俺に任せてくれよ」なに?」
「俺は鬼にしても天狗にしても仲間だと思っている。そして、俺に対して牙を剥いた黒いのの処罰なんだから俺に任せても問題ないだろ?」
「ふむ・・・、ところでアスカ殿。
先ほどから黒いのと呼んでいるのは「ききき、気にしないで下さい天魔様?!」うるさいぞ文!して、なんなのですかアスカ殿?」
「黒いのは黒いのだぜ。今回の処罰の対象にして処罰の内容・・・・・・俺にとっては黒いのを黒いのと呼び続けることだ」←ニヤニヤ
「ててて、天魔様?処罰を下すんですよね?そうですよね?そうと言ってください~?!」
「ふむ、なるほど・・・・・・」

しばらく考えていた天魔はにやりと笑うと、

「では、射命丸文よ。罰として汝にはこれより、新たな名として『黒いの』を授けるものとする。
今までの名と同様に使っていくが良い」
「そ、そんな~~~~~~~~?!」

「あ~あ、下手に逆らうから傷を広げることになった・・・・・・」

最後に小さく呟いた一言は風に流され消えてしまったが、
うなだれ悲しみにくれる黒いのとニヤニヤと笑い続ける鬼に天狗たちは消えることが無かった。

回想終了

「それにしても流石はアスカ殿、素晴らしい裁きですな。
いやこの天魔、感服仕った。ほれ、黒いの酒を注がんか」
「え~ん、射命丸ですよ~」
「いやいや、まだまだ若輩者で・・・これからも師匠に色々と教わらなければいけませんし。
ですよね師匠?ところで黒いの、つまみはまだか?」
「だから、文ですよ~」
「ふん、そう思うんならもっとつまみを寄越せアスカ。
それよりも黒いの、酒が足らんぞ!」
「ひ~ん、ただいま~~~」
「それよりアスカ、早速明日、戦おうじゃないか。
こちとら強そうになったあんたを見て腕が疼いて疼いてしょうがないんだよ!」
「いいね~それ、わたしも混ぜてもらうよ~♪ところで」
「「黒いの~つまみはまだ~」」
「うわぁ~ん、しばしおまちぉ~~~」
「アスカ様、こちらもどうですか?秘蔵のお酒ですよ?ところで黒いの、お皿が足りないのだけど」
「茜さんまで~~~~~~」
「黒いの~」「黒いの!」「くろいの」「黒いの~♪」「こら、黒いの!!」
「だから私は、射命丸文ですよ~~~~~?!」
「「「「「「「「うるさいぞ、黒いの!黙って働け!」」」」」」」」
「ひぃ~~~~~~~~」

その晩の宴からは多くの陽気な笑い声と歌声、そして一人の悲しい慟哭が日が昇るまで絶えることは無かった。

「私は、黒いのじゃなくて、射命丸文です~~~~~!!」
「うるさい黒いの、その程度で済んでありがたく思え」
「だって、アスカ様~」
「人のこと殺しそうになっててその程度で済んでるんだ。
感謝されども怨まれる覚えは無いぞ」
「怨みはしませんけど、名前を呼ばれないのはつらいですよ~~」
「安心しろ、どうせこの宴が終わったらみんな普通の呼び方に戻るだろうよ。
天魔殿の裁きを思い出してみろ?今までの名と同じように使えって言われただろ?つまりは名前が増えた、二つ名が出来たと思えばいいんだよ」
「そ、そうなんですか?そんな二つ名は欲しくありませんけど・・・・・・。
でも、ちゃんと名前が呼んでもらえるようになるんなら今日だけは我慢します!」
「何を言ってるんだ?黒いのも名前だろう?」
「アスカ様~~~~~?!」
「ついでに俺だけは明日からも黒いのを黒いのと呼び続ける・・・・・・・・・意地でも!!」
「そんな意地捨ててください?!え~~~ん、誰か助けて~~~~~~~~~!!」
「お~い、くろいの~、つまみが足りんぞ~~~」

黒いのは遠くからの呼び声に「いまいきますよ~、え~~ん」と言いながら飛んで行った。
黒いのの呼び名は先ほど話したように明日から元に戻るだろう。
それでも俺は黒いのと呼び続ける。
それで彼女は・・・っと、もとい黒いのは誰からも罰せられることがなくなるのだから・・・・・・・・・。

そんな心遣いをした宴の日

<おまけ>

「それにしても文、あんな罰で済んでよかったよね~」
「うん・・・・・・」
「不満そうだね?椛」
「だって文様・・・・・・困ってたし・・・・・・」
「まぁ黒いのだからね~、それでも鞭打ちだとか「っひ!」羽を切り落とすか「っひゅ?!」鬼と一緒に食べられ「う、う~ん・・・」って椛?!」
「アスカ様が活躍していると聞いてきました」
「田吾作のおっちゃん」
「おっちゃんって・・・・・・あっしはまだ若いでやんすよ?」
「私から見たらおっちゃんだって♪ってそんな場合じゃなかった!椛?もみじ~?!」
「こりゃ完全に気絶してるでやすな」
「何でこんなことに」
「まぁ害は無いからほっておくでやす。それよりも、今回のアスカ様の処罰は素晴らしいものでやしたな」
「っへ?あの黒いの宣言??確かに殺そうとした割にはゆるいと思うけど素晴らしいとまでは・・・」
「甘いでやすね~にとり・・・、甘すぎて胸が焼けそうでやすよ」
「そこまで?!」
「今回のアスカ様が行った処罰に関しては射命丸を助けるために行われた、これは分かるでやすよね?」
「それは、まぁ・・・」
「しかしでやすよ、それで終わってはアスカ様との交友があったものたちにとっては気の済む話しではないでやす」
「え?」
「かくいうあっしも、今回の件にはちょっとばかし頭に来てるでやす」
「ちょ!おっちゃん?!」
「でもでやす、アスカ様がああやって射命丸の嫌がることをし続けることでそれ以上のことをあっしらがする訳にもいかず手が出せなくなってるでやす」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「早い話がアスカ様が黒いのと呼び続ける以上、アスカ様の友であるあっしらがそれ以上の処罰をするのは何ともやりすぎになるってことでやすな」
「それじゃあ、アスカ様は・・・」
「とくにもう気にして無いでやしょうが、周りからの反応を抑えるためにああやって言い続けてるのでやしょうね」
「そうなんだ~」
「からかってるだけやも知れやせんが」
「おっちゃん?」
「真実はアスカ様だけが知っている。いくら友人のあっしでもアスカ様の心を覗く事は出来ないでやすよ」

田吾作伝記 第7章 友の心より抜粋

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後書+報告+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回の話は文々への処罰編となりましたがいかがでしたでしょうか?
田吾作が作成当初は思いもしなかった方向へ成長しています。
そして報告。
とうとう、ドS様パート完成しました。
後は微修正をかけながら投稿される時を待つばかりです。
それと念のために書いて置くのですが、以前発表した原作キャラ登場順は必ず守られますが、同時に違うキャラも登場する可能性があるので予めご了承ください。
では、次回予告はいります。

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次回予告

へ?私がですか?分かりました、元もふもふとして次回予告をさせていただきます

終わり良ければ全て良し
平和な日常が戻った今日この頃
山の面々の変わらぬ姿に喜ぶアスカ様
そんな時、アスカ様が空に見たものは?!

次 回
 「帰ってきた伝説の道具、そして、おろかな後輩に天罰を」
                  カッコイイです先輩、次回も絶対読みますね



[10620] ねぇ、なんで○○は空で回るん??(あ○まん○大○より)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/05 05:47
季節は春
そろそろ色々と湧いてくる時期である。
虫とか頭とか馬鹿とか・・・・・・

あの宴の翌日、俺は自分の力を見せるため勇儀、萃香と早速、戦うことになった。
結果としては惜敗。
美鈴から授かった武術を磨き続けていたお陰で勇儀の怪力や萃香の能力に早々にやられる事は無かったが、
体力や耐久力、力の全てが記憶に残るものよりも遥かに強くなっていた。
これが師匠の言っていた鬼の成長期・・・・・・・・・。
とてもじゃないが現状のままでは引き分けに持っていくのが精一杯だ。
しかし、戦った直後にそんなことを考えるのは無粋なもの。
今の評価は後日評価で戦った後にはお互いが強くなっていたことを讃えあい酒を飲んで眠ってしまっていた。

次に黒いのはまだ諦めきれないのか俺を見つけると飛んで来て、「名前で呼んで下さい」と訴えて来るが、当然無視だ。
名前で呼ぶにはまだ時期尚早、今はまだおとなしくからかわれていて貰おう。

続いてチームもふもふこと茜と椛だ。
茜は昔に比べると随分成長したようで、今では立派な白いもふもふになっていた。
最早無意味に鬼に怯えることも無く時に意見する姿は堂々たるものだった。っが、たまにドジをするのは運命のようなものだろう。
椛に関しては黒いののことが気掛かりなのか何とか俺に名前を呼ばせようとするもののなかなか上手くいかずに落ち込んでいる。
とりあえず名前が呼べるようになったら彼女の策に引っかかってあげる事にしよう。

最後はエンジニアチーム、河童のにとりと何処から現れたか田吾作だ。
にとりは随分と俺に懐いたようではじめに怯えていたのが嘘のように意見を求めてくるようになった。
田吾作は自分の発明した物を俺に説明しながら渡してくれた。
是非とも今度、何かお返しがしたいものだ。
ちなみに貰った物の中に段坊流箱の姿もあった。
取扱説明書には、段坊流箱・魔亜苦通の文字が・・・・・・今回からの段坊流箱は隠すどころか見えなくするまで出来る優れものらしい。
いよいよ河童が温厚でよかったと思う今日この頃である。

それはさておき、俺は麗らかな春の日差しを感じながら大蝦蟇の池にある祠を掃除していた。
掃除を終えた後に飲む池の水はまた格別なものである。
そんなことを考えながらふと上を見ると・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだあれ?
天狗とは違う鳥?のような羽に白の服を着て白の円錐状の帽子をかぶった子供?の様な物がふらふらと飛んでいた。
そして反対方向に目を向けると更に奇怪なことに、グルグルと回転しながら黒い瘴気っぽい物を纏って飛んでいる何かが・・・・・・。
どうやら俺は疲れているらしい、掃除も終わったので早速池の水を飲むとそれは大変おいしい水だった。

これでもう大丈夫と思いもう一度空を見上げると白いのが瘴気の中に突っ込んでいくのが見えた・・・・・・・・・。
・・・・・・っあ!白いのが落ちた・・・
そんな光景を呆然と見ていると回転する瘴気がこちらへ向かって降りてきた・・・・・・。
いよいよ俺ももうだめなようだ・・・・・・
そんな風に考えていると瘴気の中から声が聞こえてきた。

「ずいぶんと厄いですね~」
「っは?」
「厄いと言ったんですよ」

そういいながら回転が止まっていき段々と姿が分かるようになってきた。
明るい緑色の長い髪で頭には腰ほどの長さまでの臙脂色のリボン、洋服も全体的に濃い臙脂色に染まった女性だった。
その周囲には相変わらず瘴気っぽいものが漂っていた。

「(なんなんだこの人は?)」

唖然としながらそう俺が考えていると頬を紅潮させた女性が再度口を開いた。

「厄い、厄いですわ~、あなた厄いわよ~」

恍惚とした表情で女性はそのように告げてきた。
まずい・・・・・・春だからってホントに湧いてくるとは・・・・・・
とりあえず逃げないと、と考えた俺はさっさと会話を打ち切ることにした。

「えぇ~っと、さようなら」
「ちょっと待って~、あなたの厄を回収させて」
「厄?」
「えぇ、あなたは随分と厄を溜め込んでいるはこのままじゃ災難に見舞われるわよ?」
「えっと、その厄ってのは何ですか?」
「厄とは災いのこと、人が日々積み重ね少しずつ己の内に溜め込む災いのことよ」

・・・・・・・・・なるほど!確かに俺は厄いな!!
それだけの説明で俺は完全に自分の状態に関して信じてしまった。
旅に出れば道に迷う、目的地に着けば恐怖体験をする、家に帰れば喧嘩を売られて一騒動。
そうか、俺は厄が溜まっていたのか・・・・・・・・・
しみじみとそう考えている俺に女性は更に言葉を重ねた。

「だからあなたの厄を私に頂戴」
「欲しいなら差し上げますが・・・なぜ自らに災いを招くようなことを?」

俺の疑問はもっともだろう。
厄が災いの元だと言うならそれを受け取れば何かしらの災難に見舞われる。
そんなものをどうして欲しがるのだろうか?

「それなら大丈夫、私の役目は厄を集めて神に渡すこと。その私自身が厄に見舞われることは無いわ」
「そーなのかー」

なるほど世の中うまく出来ているものだ。
そこで俺は、早速近づきながら厄を渡そうとした。

「それじゃあどうすればいいのかな?近づけばいいのか?」
「へ?だめ、ちょっとまっ・・・てって・・・あれ?」

2・3歩進んだところで女性に制止の声をかけられたので止まってしまったが女性は不思議そうな声を上げた。
それから女性はこちらに近づきながら困ったような困惑した表情を作った。

「え?!あれ?!ええと、えい?!なんで?とりゃ?!」

女性は必死に宙をつかむ様な動作を続けているが・・・・・・・・・何かの儀式なのだろうか?
疑問に思ったらとりあえず聞いてみる、早速たずねてみることにした。

「・・・・・・・・・えっと、何かの儀式ですか?」
「っへ?!あぁ、あわわ、お恥ずかしい所を・・・・・・」

女性はさっきとは別の意味で赤面してしまった。

「え~と、それがですね・・・」
「はい」
「あなたの厄が捕まえられない、もとい集まらないんです」
「・・・・・・はい?」
「不思議なことに私の周囲にある厄もあなたを避けてますし・・・・・・こんなことは初めてですよ」

女性はそうやって困惑しながら返事を返してきた。
厄が避ける?捕まえられない?なんだそれは。

「厄を集めるのに何か必要な手順があるのでは?」
「いえ、それは無いですね。私の能力は『厄をためこむ程度の能力』。
今まで意識せずとも近づいただけで厄は集まりましたし、私の中に入らなくても周辺に必ず漂う様になってますから」
「それじゃあ一体何が・・・・・・」

俺がそうやって悩んでいると女性が突然驚きの声を上げた。

「っあ!!」

その声を最後に俺の意識は暗闇に閉ざされた。



青年気絶中・・・・・・・・・・・


ここは何処だろう・・・。
周囲は霧が立ち込めているかの様に白く靄が掛かっており自分が何処に立っているかも分からない。
ふと気づいたら目の前には長い階段・・・その先には館が立っていた。
見覚えの無い館を奇妙に思っていた俺は少し考え込んでいたが急に視界がぶれだした。
足が勝手に階段を上り始めたのだ。
俺がどれほど自ら歩みをやめようとしても足は止まることなく上り続けた。
それから数分、いや数時間?それとも数日か?
時の流れすらあやふやとなった俺の前には館の扉が鎮座していた。
俺の体は相変わらず言うことを聞かずに扉を開け中に入ると、視界の中に緑色の長い髪をした女性が入ってきた。
女性は口を開いて告げた

「ようこそ、夢幻館へ。夢でありながら幻となっている現の人」

女性は嗤いながらそう語った。
夢幻館・・・・・・聞いたことの無い名前だ。
女性は更に続けた。

「されどここはあなたが招かれる場所ではない。人なら人たる場所へ帰りなさい。
そして、私があなたを・・・・・・・・・・・・・・・」

女性の言葉を最後まで聞くことなく俺の周囲は光に塗りつぶされていった。

「だ・・・・・・、大じょ・・・・・・!」

誰かが俺を揺すっている感触に、俺は痛む頭を押さえながら目を開いた。

「っつ?!ったたた・・・、一体何が・・・・・・」
「よかった?!目を覚ましたんですね」

揺すっていたのは厄を回収していた女性、少しはなれた場所には白狼天狗の持っている大きな盾が見えた。
俺はいったい如何したんだ?
腰元から薬を取り出しながら俺は目の前の女性に尋ねてみた。

「すみません・・・、ちょっと記憶があやふやなんですが一体何が・・・」
「はい、実は厄に見舞われたみたいなんです」
「厄に・・・ですか?」
「えぇ、今まであなたを避けていた厄が一つあなたに付いたと思ったら空からあれが・・・・・・」

そういいながら女性は大きな盾へと視線を向けた。
どうやらあの盾が俺の頭に当たったらしい。
その後、この女性が気絶していた俺を介抱してくれたのか・・・・・・

「となると俺はどれほどここで?」
「ほんの2・3分ほどでしょうか、その間にあなたの厄も回収できましたし。
なぜかまた厄があなたを避けてるんでちょっとだけお世話させてもらいました。」
「そうでしたか、この御礼はいつかしないといけませんね」
「そんな?!元はと言えば私の厄が原因なのに・・・・・・」
「気にしないで下さい。その原因は既に回収してもらえてるんならその後のことは俺への貸しです。」
「そ、そんな?!貸しだなんて」
「そうやって俺が思ってるだけなんですから貸しといてくださいよ?となるといつまでも恩人の名前を知らないのもあれだし・・・・・・。
俺の名前はアスカです。この山に住んでいて鬼の羅豪の弟子をさせて貰ってます。薬師でもあるので何かあったらいつでも呼んで下さい。」
「ふぅ、分かりました。私は『雛』。厄と共に流される神秘の流し雛『鍵山 雛』です。
この山にも最近住みだしたからまた厄が溜まったら来て頂戴ね」

そうやって自己紹介を終えた後、雛は再び回転しながら空に上がっていった。
しまった・・・・・・、なぜ回るのか聞けばよかった・・・。
今更呼び止めて聞くことも出来ずに後悔したものの、次にであった時に聞けばいいかと思い、俺はその場を後にした。
後に残ったのは地面に転がっている大きな盾と存在感を微塵にも感じさせなかった大きな蝦蟇蛙だけだった。
「・・・・・・・・・ゲコッ」

鍵山雛と別れた後、俺は日課となっている散歩に移った。
既に今日の目的である大蝦蟇の池の祠掃除は終わったためだ。
今日は何処まで行こうかと考えながら俺は山を降り、遠くの景色を見渡していた。
すると雛を見つけた時に見掛けた白いのが飛んでいるのを発見した。
無事だったのか・・・・・・白いの・・・。
忘れていたものの、落ちたはずの白いのが無事飛んでいることに安堵を覚え、どうせなら見に行ってみようと俺は白いのを目指して歩き出した。



青年移動中・・・・・・・・・



そこは草原だった。
あたり一面に青々とした芝生が茂り、太陽の光を浴びていた。
これほどの草原になぜ気づかなかったのかと考えているとその理由はすぐに分かった。
草原そのものが南向きに窪んでおり、俗に言うすり鉢上の地形となっていたため遠めでは見つけることが出来なかったのだ。
俺がそんなことを考えながら草原の中は足を踏み入れると先客がいたのか日笠を差している人を見つけた。
日傘に隠れて表情や性別は分からないものの、何処と無く穏やかな気配の人だ。

「こんにちわ~」

そうやって声をかけながら近づいた俺の背に冷たい風が通り過ぎた後のような薄ら寒い感覚が生まれた。
声に気づいた人はこちらを振り返る。
振り返った人の体型から女性と判別できたが相変わらず傘に隠れて表情が見えない。
いや、うれしそうに嗤っている口だけが見える。
その場で固まってしまった俺は目を離すことが出来ない・・・・・・
日傘からその顔を覗かせながら嗤い終えた口は言葉を紡いだ。

「あら、また会ったわね・・・・・・」

拝啓、鍵山雛様。どうやら俺の厄はまだ残っていたようです。

<おまけ>

もふもふA「ねぇ、もふもふB」
もふもふB「どうしたの?もふもふA」
もふもふA「私達の盾って、武器にならないかな?」
もふもふB「武器にって・・・結構侵入者を殴ったりとかしてると思うんだけど」
もふもふA「そんなことしてたの?!」
もふもふB「そんなことって、先輩達に教えてもらってからみんな結構使ってるよ?」
もふもふA「そ、そうなんだ・・・、で、でも、私が言いたいのはそういう事じゃなくて!」
もふもふB「じゃなくて?」
もふもふA「ずばり投げつけたらどうだろうかって思ったのよ」
もふもふB「投げるの?」
もふもふA「そう、前に田吾作さんから武梅乱を見せてもらった時からずっと考えてたんだよ」
もふもふB「あ~・・・、あの投げても手に帰ってくる道具ね」
もふもふA「そうそう、そういうわけで早速・・・」
もふもふB「っえ?ちょ、ちょっと?!」
もふもふA「飛べ~~~~~~~!!」
もふもふB「あ、あぁ~~~~!投げちゃったよこの子・・・」
もふもふA「大丈夫だよ、また戻ってくるから」
もふもふB「(大丈夫なのかな~)」

白狼天狗が大蝦蟇の池で目を回す数十分前の会話記録

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後書+リクエスト+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
厄神様の能力をどう処理するか考えたのですが主人公君にも適当な能力を授けることにしました。
能力ははっきり自覚してないので後々に田吾作辺りから説明があるかも。
それと、再びリクエストをとることにしました。
オリキャラ姉妹(原作キャラです)はその不遇の扱いからいじりやすいため結構ネタにしやすい。
そこでそれ以降の登場キャラをそろそろ決めておこうと言ったとこです。
前回と同じように明らかに年代的に無理なキャラもしくは、生まれてない様なキャラ以外はなるべく出して行きたいと思います。
リクエスト方法も前回と一緒、感想掲示板のほうに書き込み形式で。
決定したらまた順番を発表します。
では、次回予告どうぞ。
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私が次回予告?分かったよ、盟友の頼みなら仕方が無い

足りなかったのは雛の力かアスカ様の幸運か!
春の太陽の畑で冷たい時が流れる!
空気は変わり世界はどよめく!
アスカ様の運命や?!?!

次 回
 「厄は全て取って欲しかった」
         ど、どうなるんだ!次回も絶対読まないとな
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[10620] 最強の妖怪現る、そして最弱の妖怪も
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/05 18:22
注意

どうも、お手玉の中身です。
今回の話を読んでいただく前に諸注意が一つ。
これからの話は進んでいくたびにお手玉の中身による独自解釈などが発生する恐れが多々あります。
皆様におきましては、予めご了承のほどよろしくお願いします。
では、本編をお楽しみください。
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穏やかな風がそよぐ中、その草原はまったく穏やかではなかった。
俺は背中に冷や汗をかいていることを自覚しながら女性を観察した。
今までに出会ったことの無い恐怖感、あんな嗤い見たことが無い。あれはやばすぎる。
それにまた会ったとは?
確かにどこか見覚えはあるものの、はっきりと思い出すことが出来ない。
女性は俺の困惑を感じ取ったのか言葉を続けた。

「もう忘れてしまったの?夢でありながら幻となっている現の人」

思い出した!気絶している間に見た館の女性だ!!

「あれは夢じゃなかったのか・・・あんたは一体・・・」
「あれは夢よ。それと人に名前を聞くなら自分からの言うべきだと思うけど・・・、まあいいわ。
私は『風見幽香』。夢幻館の主にして最強の妖怪よ」
「夢幻館、それがあの不思議な館の名前・・・」
「ええ、夢幻と現の狭間に漂よい建っている夢か幻のような館よ」
「夢幻と現の狭間?そういえば俺のことも夢にして幻とか・・・。どういう意味なんだ?」
「ふふっ、考えもせずにたずねるのは馬鹿のすること、馬鹿は嫌いよ。
とは言え、偶然やってきて帰ることの出来たお客さんに何も答えてあげないのも酷い話ね・・・。いいわ、少しだけ語らいましょうか」
「助かる」
「気まぐれよ。
じゃあ、夢と幻、そして現実の関係は何か分かる?」
「夢は見るもので幻は消えるもの、現実は今立っている俺たちか?」
「へぇ・・・だいたい正解よ。分かってるじゃないの。ならその狭間は分かるかしら?」
「現実と非現実か?」
「ふふっ・・・、何を現実と見て何を非現実としてみないようにするのかはあなたの勝手、それじゃあ狭間足りえないわ。
なら何が狭間か・・・、そうね、あなた天狗は知ってるかしら?」
「知っているがそれが何か?」
「天狗はよく「この世は我が戯言なり」とか言う奴がいるでしょ?」
「いるな、そしてそれを止める奴もいる。しかしそれがどうしたんだ?」
「答えを急ぐべきではないわ。あれでなかなかいい言葉なんだから少しは考えないと。
天狗は戯言によって世を作るかもしれないけど戯言をやめても世が消えることは無いわよね?」
「たしかに」
「でも、確実に世は消えているの」
「?どういうことだ?」
「簡単なことよ、天狗の戯言によって世が生まれるのならその天狗にとってはまさしく戯言の世界、
現実には関係なくとも天狗の戯言が消えればその天狗の世界は崩れてしまう。」
「なるほど、しかし、それと夢幻に関係はあるのか?」
「直接はなくとも当て嵌めることは出来るわ。
天狗の戯言はまさしく夢、自分の思い通りに全てを動かせる。
戯言の無い世界は現、思い通りになってもならなくても関係なくただ進み続ける。
戯言を止めるのは幻、夢を幻にして消してしまう天狗にとってうれしくない存在。」
「なるほど」
「ならば狭間が生まれるほどの夢に幻、そして現とは?」
「・・・・・・?!」
「そうね、たぶん思ったとおり、世界が見る夢とその夢を幻にする存在、その後に夢が幻となって消え世界は現に進み続ける。
そんな中で夢が幻として消えそうになっている場所が夢幻と現の狭間」
「そんな・・・世界が夢を見るなんて・・・」

流石に信じられないような話を予想し聞いてしまった俺は幽香へと再度聞き返した。

「さぁね、これは全部私の予想であなたの予想じゃないわ。
あなたの考えは私が誘導したもので信じるも信じ無いもあなた次第。
そもそも、自分が住んでいる世界がどうやって出来てるかなんて、そんな奇特なこと考える必要も無いでしょ?」

そうやって言い切った幽香はまた嗤った。

「ふふっ、でもここまで話しに付き合ってくれるなんて・・・。
いいわね、あなたのことを気に入ってきたわ」
「そいつはどうも」

空気が変わり始めた・・・・・・

「あら、あまりうれしくなさそうね?」
「いやいやうれしいですよ?ただ嫌な予感がね・・・」
「あらあら、女性を前にして嫌な予感なんて・・・」

肌が粟立つ

「いい感してるわ。また少し気に入っちゃった。」
「それはどうも。それでいい感と言うのは?」

幽香はいつの間にか日傘を畳んでいた。
幽香の顔がはっきりと見える。
その顔は・・・・・・・・・・・・

「そうね、あと少し、私を楽しませてくれたら・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

楽しそうに嗤っていた

「殺さないであげるわ!」

そういうが早いか幽香は俺との距離を詰め、手に持った日傘を大きく横に薙いできた。
俺は日傘から目を離さないように素早く屈んで避けると反撃のために拳を握りながら視線を殴る箇所、腹へと向けた。
そうやって視界を移動させると、
目の前には今にも当たらんと迫り来る足が見えた。

「っっっつ?!」

呼吸を詰めながらもその攻撃を横っ飛びに転がりながらかわして幽香の状態を確認すると、
今にも日傘を叩き付けんと大上段に構えているのが見える。

「(まずっ!!)」

寝転がった体勢のまま体を転がして逃げると転がるたびに元いた場所から日傘が空を切る風切り音と叩きつける衝撃音が響いてくる。
途中で音が止み、幽香の追ってくる気配が消えたので、
転がっている状態から跳ね起き、顔を上げると?!
視界には幽香の姿が無かった

「いない?!」
「ここにいるわよ?」

声が聞こえるのと頭に衝撃が走り体が横に吹き飛ぶのは同時だった。
どうやらあの日傘で頭を横殴りにされたらしい。
勇儀ほどの力は無いみたいだが受け流すことの出来なかった攻撃なだけにかなり痛い。
吹き飛び倒れた俺は吹き飛ばされた勢いを利用してバク転気味に跳ね起き、呼吸を荒くさせながら幽香を睨んだ。

「ひゅー、はぁ、ひゅー、はぁ、ひゅー、はぁ・・・・・・・・・」
「あらあら、怖い顔ね。
でも怖いだけなら・・・・・・」
「?!」

幽香が再び視界から消えた?!
俺は自分の感に従い正面に飛び込みながら転がり、先ほどまで自分いた場所を確認した。
そこには幽香がいて、先ほどまで俺の体があった位置を貫くようにして日傘を地面に刺していた。
その顔には俺がかわした事に対する少しの驚きと予想以上の獲物に喜ぶ愉悦の顔が混ざっていた。

「今のは結構本気で動いたのに、凄いわね~」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「くすくす・・・・・・もう少しがんばってよね」

幽香はそう言うとゆっくりとした足取りでこちらへ近づいてくる。
このまま戦えば負けるのはもちろんの事、死ぬことすら確定している。
なら俺に出来ることはなんだ?
正面から戦い抜く・・・・・・好みではあるが攻撃を当てられるそうに無い上に死んでしまうから却下
援軍の到着を待つ・・・・・・厄い俺にそんなものが期待できるとは思えないから却下
背中を向けて全力疾走・・・・・・背中から刺されそうな上に好みじゃないから却下
ピンチに俺の能力が発動・・・・・・あるとうれしいがギャンブルすぎるから却下
チャンスをひたすら待って避け続ける・・・・・・できるか微妙だが、承認

そこからの戦いはひたすら耐える戦いになった。
幽香は日傘を横薙ぎにしたかと思えばそのままの勢いで蹴りを繰り出してくる。
日傘を叩きつけたと思えば地面との衝突の勢いを利用して再び上に跳ね上げる。
その手に持った日傘を縦横無尽に操り、たまに繰り出してくる蹴りによって俺のことを追い詰めてくる。
俺はそんな幽香に対してできる限り幽香の全体像を捕らえながら日傘の横なぎにはしゃがみ、
蹴りには自らその方向に飛んで受け流し、上からの振り下ろしには一歩下がって見切り、したからの跳ね上げには更に二歩下がるようにしてかわした。
一撃一撃をかわすたびに恐ろしいまでの風切り音が元いた場所で唸りをあげ、かわしきれない攻撃を受け流そうと身に受ければ予想以上のダメージを負う。
常に幽香が攻撃し、それを俺がかわし続けるといったワンサイドゲームが続けられた。
そのままどれほどの時間が過ぎただろうか?もしかしたらほんの僅かな時間だったかもしれない。
最早時間の感覚さえないままに俺は荒い息を吐き続けた。
今の俺の姿は何とか致命傷はかわしながらもかすり傷だらけ、対する幽香は息一つ乱さずに少し離れた位置でこちらを見ている。
思い返せば幽香は日傘と足以外何も使っていない、足にしても極たまに蹴りを出す程度だから実質、日傘一本で戦っていることになる。
・・・・・・実力差がありすぎる。
力が強いわけでも技が鋭いわけでもない、術にいたっては使ってないのだから論外だ。
ただ何処までも戦うことがうますぎる。
こちらの考えを読んでいるかのように常に最も当たりそうな急所を狙う上に、
どれだけ隙のある大振りな攻撃をしてもその合間には必殺の一撃を潜めて攻撃を仕掛けてくる。
五歩分ほど跳んで下がって逃げたなら同じように五歩分走って距離を詰めてくる、ダメージ覚悟で吹き飛ばされれば即座に追撃が背に迫る。
こちらの呼吸に合わせる様に射程範囲から逃がしてくれない。
正直、今生きていることすら感による偶然と運よく致命傷を負わなかったからだ。
感と運、どちらか少しでも足りないだけでとうの昔に死んでいる。
そうやって考えていると幽香に変化があった。
先ほどまでの歪んだ嗤いではなく、本当に面白いと感じているような笑いだ。

「くくっ・・・、あははははは・・・・・・」

なんなんだと俺が警戒の色を濃くしていると、

「本当に面白いわ、あなた。
ここまで遊んで潰れなかったのは初めてよ」

そう言って、笑いすぎたのか多少の涙を滲ませながら更に笑みを深くした。
幽香の日傘はいつの間にか先端をこちらに向けている。

「気に入ったわ。だから私の取って置きを見せてあげる・・・」

まずい・・・
寒気が止まらない・・・
俺の直感が全力で警告を放ち、耳からはあらゆる音が遠のいていた。

「だから・・・」

俺はその場で亀のように蹲り拙い法力を練って身を守りながらただ一言はなった。

「死んでたまるか!!」
「生き残って見せなさい!」

言葉が重なった瞬間、幽香から光の奔流が迸り、俺を飲み込んでいった。


<おまけ>

雑魚の会話

毛玉A「・・・・・・(解せぬ)」
毛玉B「・・・・・・(しかり)」
毛玉A「・・・・・・!(なぜ我らがこのような扱いを!)」
毛玉B「・・・・・・!!(この扱いに我らの怒りが天を貫く!!)」
毛玉A「・・・・・・・・・・!!(我らこそ真の主役だと言うのに!!)」
毛玉B「・・・!・・・・・・・・・・!!(しかり!ならば反逆だ!!)」
毛玉A「・・・・・・・・・・・・(オリキャラ昇格を目指して)」
毛玉B「・・・・・・・・・・(打倒主人公を目指して)」
毛玉A・B「「・・・!・・・・・・・・・・・・!!(今!下克上の時!!)」」

毛玉の反乱が起こる少し前の会話?記録より

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後書+次回予告

どうもお手玉の中身です。
なにやら不穏な気配を感じるものの、放って置くのがお手玉の中身
今回の話で完結!!・・・うそです。
完結はしませんが元祖マスパ処理がどうなるかは次回まで秘密です。
それはともかくとして・・・オリキャラ姉妹以降が決まらないorz
どうしよう・・・兎詐欺外伝でも作るかな・・・。
・・・考えたら微妙だった。玉兎のいない兎詐欺だけなんてorz
とりあえず気を取り直して・・・、
では、次回よって、なんだおまえら、やめろ~~~!!

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次回予告

毛玉A「・・・・・・・・・・・・??」
毛玉B「・・・・・・!・・・・・・?!」

毛玉A「・・・・・・・・・・・・!!」
毛玉B「・・・・・・?・・・・・・?」
毛玉A「・・・・・・・・・・・・?!」
毛玉B「・・・・・・・・・・・・?!?!」

次 回
 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
        毛玉に乗っ取られるなんて踏んだり蹴ったりだorz by.kami



[10620] 最強はやはり強かった。そして、新しいトラウマ
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/06 20:30
狭い部屋の中で何かが弾ける音が響いた。

「っひゃ?!なんですか」

確認してみると其処にはアスカ様からいただいた湯飲みが真っ二つに割れているのが見えた。
『茜』と書いてある名前がものの見事に真ん中から・・・

なぜだろう?机においていながら突然割れるなんて・・・
言い知れない胸騒ぎに私は居ても立ってもいられなくなり普段ならもう少し遅くにする予定の哨戒任務を早めることにした。

「(無事で居てください。アスカ様)」

彼女には役割があり、それを全うする義務がある。
それは、誰かと天秤で量れるような物ではなかったために。















穏やかな風が吹く。
誰かが頬を触りながら頭をなでる感触がする。
そして後頭部には柔らかな感触がって・・・・・・・・・・・・生きてる?!

そう考えた瞬間、俺の意識は覚醒し、目を見開いた。
視界に入ったのは何処までも広く青い空と幽香の笑顔って?!

「きゃ?!」

頭を勢いよく跳ね起こすと、幽香が小さく悲鳴を上げるが構ってる余裕がなかった。
俺は痛む自分の体をぺたぺた触りながら生きていることを実感した。

「い、生きてる・・・・・・。良かった~~~~~」
「あらあら」

俺は自分がまだ生きている事に安堵したものの、その声でいまだ油断ならない状況であることに気づいた。
俺はそのまま勢い良く振り返り、油断なく構えると幽香と言う名の生物兵器を睨んだ。
まさか、生身でビームを出せる存在がいるとは・・・
俺がそんなことを考えていると、幽香は服の裾を払いながら立ち上がり口を開いた。

「随分とひどい反応ね?折角膝まで貸してあげていたのに」
「膝までって・・・、もしかして介抱してくれたのか?」

幽香が何をしていたのか想像の付いた俺は一気に毒気を抜かれてしまった。
幽香はこちらからの質問に答えることなく、呆けている俺を見て再び面白そうに笑い出した。

「くすくす、本当に面白いわね、あなたは。
手加減したとはいえ、あの一撃に耐え切るのだから大したものだわ」
「あれで手加減かよ」
「あら?当然よ」

そう答えた幽香は楽しそうに笑い続けた。
まさか生身ビームが手加減されていたなんて・・・・・・。
そんなショックを受けていると再び幽香が喋り始めた。

「そんなに落ち込むことはないわよ、手加減していたとは言え私と戦い、あれを使わせて生きていられる存在なんて、
私の知ってる限りでは両の手の指ほどしかいないわよ」
「そ、そうなのか」

それはそれで、改めてとんでもないのと戦っていたと思う。

「ええそうよ。それに私はあなたの事が気に入ったわ♪5段階評価の0以下10だったのが今では0以上の3ぐらいよ」

低っ?!最初の評価が低すぎる!!
-10評価ってどんだけ嫌われてたんだよ俺?!

「さて、それじゃあ改めて自己紹介させてもらうわ。
さっきも言ったけど私は『風見幽香』、夢幻館の主にして最強の妖怪。
そして・・・・・・」

幽香は一旦言葉を切ると日傘の先端を地面に向けた。

「フラワーマスター」

幽香がそう告げると先端を向けた地面からタンポポに福寿草などの花々が咲き乱れた。
俺がその光景に目を奪われていると幽香は更に告げた。

「それで、あなたの名前は?」
「あ、あぁ。俺はアスカ。妖怪の山に住む人間だ」

すると幽香は驚いたような表情を作った。

「妖怪の山?!噂は聞いたことあったけど本当に住んでたのねぇ・・・」

妖怪の山に住む人間は珍しいだろうから噂というのもそのことだろう。
まぁ最早今更であるが・・・・・・。

「妖怪の山に住む、妖怪の中心で人間を叫ぶ人外・・・本当にいるとは・・・」

そこかよ?!幽香さんそこなんですか!!

「なるほどねぇ・・・。
そういえば、この時期になんでここに来たの?あなたは」
「この時期っていうのは?」
「知らずに来ていたの?!いけないわね生きている内の10割を損してるわよ」

凄まじい損失だ。

「ここは太陽の畑。
夏になれば向日葵の花で埋め尽くされる美しい場所よ。花の美しさを知らないなんて・・・・・・まさに生きている意味がないわね」

幽香はそう言い切った。
というよりも、最早生存の否定までされてしまった。

「それで?そのことを知らなかったあなたは何でここに?」
「あ~・・・、それは、だな・・・」

こちらを見つめながら再度質問を投げかけてきた幽香に俺は言葉を詰まらせながら視線を外し空を見上げた。
適当に来たとは言えないし・・・
そうやって考えると、視界の中、青空に一点の白が・・・・・・白いの、もとい俺の不幸の使者がいるのを見つけた。

「あれが原因だ・・・」
「あれ?」

俺が上を見ながら苦々しく答えると幽香も不思議そうに空を仰ぎ見た。

「春告精が原因?」
「春告精って言うのか?」

どうやら不幸の使者には名前があるらしい。

「ええ、春になると春を告げる妖精だから春告精」

存外に安易なネーミングだな。

「ちなみに名前はリリー・ホワイト」

一気にカタカナになった!!

「それで?あの春を告げるしか能のない春告精がどんな原因になるのよ?」
「それはだな・・・」

俺はここに来る経緯となった不幸の使者発見の話しをした。
まさかあいつが俺に厄を持ってきてるんじゃないよな?

「へぇ~春告精なんて珍しいものじゃないでしょうに・・・、よっぽど暇してたのね」
「確かに暇にはしていたが春告精も見たことなかった」
「それはそれで問題ね・・・」
「確かにな」

そう言った俺達は先ほどの戦闘も忘れて笑いあった。
何気にこの土地では戦闘後に友情を結ぶのがデフォルトのようである。
そうして幽香との会話を楽しみながら俺は自分の傷の手当に移った。毎度の事ながらこの薬にはよく世話になる。
痛みはするものの、傷はさほど深いものではなく薬を塗るとすぐに塞がって行った。
・・・・・・・・・・・・天然の回復力ではなく薬の力だと思いたい。

「それじゃ、俺はもう行くな?」
「あら、暇してるんでしょ?それならもう少し話をしましょうよ」
「それは魅力的だけど、人里にも行って試したいことがあるんでね」
「そうなの・・・、まぁ会えなくなる訳でもないし、どうぞ行ってらっしゃい」
「おう、行ってくる」
「夏にはまた来てね。花の素晴らしさを教えるわ」

そう告げてくる幽香の言葉を背に受けて、手を振りながら俺は人里へと足を向けた。



青年移動中・・・・・・奴はついて来てないな、不幸の使者は・・・


そうして人里にたどり着いた俺は試してみたいこと、自前の薬を売ってみることにした。
見習いがとれ、妖怪の山でもそこそこには頼られるようになってきた薬師の俺にとっては、
人里までの道中にある薬草で十分すぎるほどの薬が作れる。
きっと売り物になるだろうと思っていたのが10分ほど前、
そして現在・・・、

「お買い上げありがとうござま~す。
薬はこれで全部です。またのご来店お待ちしておりまーす」

満員御礼、即日完売が頭の中で踊っていた。
まさか実演すら必要なく飛ぶように売れるとは予想外だった。
警戒心が無いのかと思えば、聞く話によると人里には薬屋が無いので医者から処方される薬が全部なんだと言う。
つまり、常備薬が無いので体調不良になった時や怪我をした時は医者に行くか自然治癒に任すしかないんだそうな。
それは売れるわけだ。
また作って売りに来ることにしよう。

そう考えながら俺は予想外の臨時収入に心を弾ませて、早速土産でも買って帰り、みんなで楽しもうと思っていた。
そんな時、奴は現れた・・・



青年買物中・・・・・・・・・・・・


酒を買った俺は、その足を妖怪の山へ向けると遠くから楽しそうな声が聞こえてきた。

「 ですよ~♪」

なんだろうとその方向を振り向いた俺に戦慄が走った。

「春ですよ~♪」

奴はまっすぐこちらに飛んでくる。
俺は一切の躊躇無しに奴に背を向け全力疾走を始めた。

「春ですよ~♪」
「こっちくんな~~~!!」

何を思ったのか、不幸の使者はふらふらと飛びながらもこちらへ向かってくる。

「春ですよ~♪」
「どうでもいいから、くるんじゃねぇ~~~~~!」

その日から、人里には一つの噂が追加された。

噂話曰く、春になると妖精から全力で逃げる青年が現れるとのこと。


<おまけ 『幻想郷縁起』>

人間の項

名前  アスカ
職業  山の薬師
能力  薬が作れる程度の能力、法力を少し扱える程度の能力
住んでいる所
    妖怪の山
二つ名 妖怪の山に唯一住む人間、妖怪と人間の薬師、妖怪の中心で人間を叫ぶ人外
危険度 低
友好度 低

解 説
 いつの間にやら妖怪の山に住み着いていた人間。
 人間なのに山に住む幾多の妖怪から畏怖と敬意の念を持たれている。
 山において薬師を営んでいるようではあるが、妖怪相手には意味が無いのか人里まで降りてきては薬を売っている。
 なおこの薬、妖怪が使うものなのかは不明であるが効き目のほうは大変高い。
 本人に話を聞こうとしたところ二つ名で呼びかけると無視されてしまったことからあまり友好的ではないのかもしれない。

「子供が転んで泣いているのを薬で助けているのを見つけた」
                       匿  名
                    子供が好きなのだろうか?
「太陽の畑で女性と酒を飲んでいるのを見つけた」
                  匿  名
             その女性が人間なのか妖怪なのか気になるところである。
「お地蔵様に向かって、手を合わせているのを見た」
                   匿  名
                  意外と信心深いのかもしれない。

                                           著 稗田阿余

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田吾作の後書+次回予告

どうも、盟友に代わりやしてあっし、田吾作が今回の後書を勤めるでやんす。
盟友は無残にも毛玉の奇襲によって小豆をばら撒くことになってしまったでやんす。
今回の話はアスカ様の生存が決まったでやんすね。
あっしは主人公って柄でないでやんすからホッと一安心でやすよ。
あっしからは後書で多くを語ることは出来ないでやんすが、盟友から書置きを貰ってたんでそれだけ発表しとくでやす。
今後の予定
「オリ姉妹(原作)」→「そーなのかー」→「再会」

何の事でやしょうね?
では、次回予告を頼むでやんす

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今回は次回予告まで担当させてもらうでやす

見え始めたのは能力の兆し
そんなの関係ねーとばかりに出てくるのは谷河童?!
暑い季節にアスカ様も喜ぶ!
そして、あっしにも出番がwww

次 回
 「最強と相撲と自分の能力」
        おっちゃん凄いね~、次回も読んでよね、盟友
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[10620] 田吾作の仕事は素晴らしい。こいつこんなキャラだっけ?
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/07 09:58
夏になった、最早奴に怯える事は無い。
暑い部屋の中・・・ではなく、田吾作製の冷房の効いた部屋の中で俺は一人喜びをかみ締めていた。
春がすぎた、そう、春がすぎて奴が出なくなった。
奴の名は春告精。
その名の通り春の間しか現れることが無いと、あの日、田吾作より教えてもらった。
そのときの会話は確か・・・。
そう、あれはまだ春で、俺が奴から必死に逃げていたときのことだ・・・

回想

「おや?アスカ様、そんなに急いでどうなすったんで?」
「あ?!田吾作か!!奴を、あの空飛ぶ災厄を追い払ってくれ!!」
「ちょ?!ほんとにどうしたんでやすかアスカ様!それと何も付いて来てないでやすよ」
「な?!た、助かった~・・・」
「アスカ様をここまで怯えさせるとは・・・、一体何があったんでやすか?」
「あ、あぁ、奴が・・・、奴が追ってきたんだ」
「奴?一体何者でやんすか?」
「不幸の使者、春告精だ」
「っは?!春告精でやすか?あの、春を伝えて飛び回る??」
「あぁそうだ」
「・・・・・・・・・っく、くくっ、くぅわっははははははっはっはははっは・・・・・・」
「んな?!そんなに笑うことか!」
「・・・はは、だって、ひひ、アスカ様、っく、春告精でやんすよ、くくっ、我慢できないでやんす。
くぅわはははははははは・・・・・・」
「だまされるな!奴は見たものに厄を付ける程度の能力があるんだ」
「ひぃひぃ・・・、何でやんすかその微妙すぎる能力は・・・、そんなのあったら毎年大変な騒ぎでやんすよ」
「しかしだなぁ」
「それなら夏まで待てばいいでやすよ。春告精はその名の通り、春を告げる妖精でやす。
春が過ぎて夏になれば出てこないでやすよ」
「そ、そうか」
「そうでやす」

回想終了

あれ以来、奴の姿を確認したなら即座に反転、逃走し大蝦蟇の祠か竜神の石造もしくは地蔵に祈り、
助けを求めるのが新しい習慣になってしまった。
ともあれ今は夏、奴はもう現れない。
この時ほど俺は季節が変わることを待ち望み、そして喜んだことは無い。
俺はそうやって喜びながら夏の日差しが照りつける外へと足を進めた。



青年移動中・・・・・・・・・



大蝦蟇の池では少し前に白狼天狗の少女がねばねばした粘液だらけで気絶しているのが発見されるという事件があったが、
特に死んだ訳でもないしといった理由から犯人探しが行われることなく今なおその静けさと神秘性を保っている。
俺はいつもどおり祠に手を合わせ、池から水を一杯、貰った。
その様子を眺める大蝦蟇蛙の姿にもなれたもので言葉が通じるでも無いのに時たま声をかけてしまうのはご愛嬌である。
そうして大蝦蟇や池の様子を眺めていると、ふと上流から漂流物・・・ではなく漂流者の姿が・・・。
河童だ・・・間抜けな河童が流れてきた。
ちなみに川などで流されている河童を見たときは間抜けな河童と呼ぶのが戒めの意味もあり本人のためと田吾作が言っていた。
しかし、あの間抜けな河童はどこか見覚えがある・・・緑色の甲羅、もといリュックに緑の帽子、
帽子からはみ出て見える青い髪は水の上に漂い、川と同色の水色の服は目を凝らさないとそこだけ見えないようだ。
・・・・・・にとりだ。にとりが流されている。
まさかにとりが間抜けな河童だったとはと俺が驚いているとにとりの体が池の淵に漂着した。
とりあえず助けるべきかと俺が迷っているとにとりが勢い良くその顔を上げた。

「っは?!ここは?!私の発明したのびーるアームは???」

寝ていたらしい。

「・・・おはようにとり、いい朝だね。もう昼になるけど」
「っへ?アスカ様??おはようって事は・・・全部、夢?」
「そうだなにとり、ところでこれからは間抜けなにとりと呼ぶべきか?」
「え?まさか・・・」

にとりは自分の後ろを振り返り、事態を察したのか、それとも発明が夢で終わったのが残念なのか、影を背負うほど落ち込んでしまった。
両方な気がするが俺はそんなにとりに構うことなく話を続ける。

「じゃな、間抜けなにとり」
「ちょ?!ちょっと待ってよ~!!」
「ん?」
「お願い!他の河童には秘密にしてくれないかな。
私を助けると思って!お願い」

そう言ってにとりは両の手を合わせた状態で上目遣い気味に俺を見てきた。
本人(本河童?)も反省しているようだしこれ以上言い続けるのも哀れなので俺は了承の旨を反すことにした。

「おう、いいぞ~」
「ほんと?!」
「俺は嘘をつかないぞ。ただしだ・・・」

その代わりに交換条件を出すことにした。

「ただしだ、この後の散歩に付き合ってくれないか?どうにも一人じゃ味気なくてな」
「うんうん、そんなことで良いなら幾らでも」

そうして俺とにとりは一緒に散歩することとなった。
ちなみに散歩にでる前、にとりは大蝦蟇の池から水筒?のようなものに水を汲んでいた。
竹製ではなかったので何とも素材の気になる一品だ。
そうこうしていると山を降り人里付近まで来てしまった。
俺はついでにと考え、にとりを近くの川に待たせて里の中で噂を聞く事にした。

噂話曰く、春告精から逃げ回る青年がいるとのこと(やはり奴は不幸の使者だ)
曰く、秋の収穫祭には神様を呼ぶことが決まっているとのこと(この世に神も仏もいるもんか、いるのは大蝦蟇様と竜神様)
曰く、太陽の畑は今年も綺麗ではあるが妖怪が怖くてまともに近寄れないとのこと(あれは怖いよな~)

噂話はこんな感じであった。
春告精に関しては俺以外にも被害者がいるらしく是非とも話を聞いてみたい。
神様関係は雛からも厄を渡す神がいると聞いていたので存在はするとは思うんだが・・・収穫祭に呼べるなんてフレンドリーすぎるな。
太陽の畑・・・幽香のことか・・・、あれは仕方が無い。
そういえば夏に来てくれと言っていたしこれから行って見るのもありだろう。
そう考えた俺は土産に酒を買うとにとりを迎えにいった。

「お~い、にとり~」
「アスカ様お帰り~、どうだった?なんかあった?」
「まぁな、それよりにとり、目的地が決まったぞ」

俺が手に持った酒を見せながら言うとにとりは不思議そうに聞き返してきた。

「それはお酒?どこいくの」
「太陽の畑」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

にとりは凍りづいた。

「どうした?にとり」
「・・・太陽の畑って・・・、あの微妙に見えない所だよね?」
「お?!知ってたのか。んじゃ行くぞ」
「ちょ?!待ってよアスカ様。アスカ様知らないみたいですから教えときますけど、あそこにはでたらめに強い妖怪がいるんですよ?!」
「強い妖怪なら大抵紳士的だろ?話せば分かる。さぁいくぞ」
「あ?!ちょ、ちょっと、アスカ様待ってください~」

にとりが妙に反対していたが、そのまま俺達は太陽の畑へと歩いていった。



青年・河童移動中



なるほど、太陽の畑とはよく言ったものだ。
目的地に到着した俺達の目に入ったものは一面の黄色、ヒマワリだった。
先ほどまで反対していたにとりですらその光景に目を奪われ呆然としている。
それほどに素晴らしいヒマワリ畑だった。
幽香の言っていた意味がよく分かる。
たしかに、この光景を知らないと言うのは人生を損しているようなものだ。
そう考えている俺達の前に見覚えのある日傘が見えたのはそれから10分ほど時が流れてからだ。
ゆっくりとした足取りでヒマワリ畑の横から廻って来るように彼女はやってきた。

「どうかしら?この光景は」

日傘から顔を出し笑顔のまま彼女は確認してきた。

「素晴らしい光景だね。これを知らないのはまさに人生の損だ」

俺がそういって返すと彼女は更に言葉を紡ぐ。

「くすっ、理解して貰えたようで嬉しいわ。ところで、そちらの子は?」
「ああ、にとり?自己紹介ぐらい自分でしな」

呆然としていたにとりは俺の声でやっと彼女に気付いたのか慌てて向き直り、自己紹介を始めた。

「?!、どうも、谷カッパのにとりです」

すると彼女は顔を嗤わせて自己紹介をした

「丁寧にアリガト。私は『風見幽香』、最強の妖怪よ

幽香の無駄な威圧に、にとりは怯えている。
勘弁してくれ・・・。

「幽香・・・、むやみやたらと威圧するなよ」
「あら、初対面で上下関係を叩き込むのは常識よ?」
「非常識だよ」
「それはあなたにとって。わ「私には関係ないってか?」・・・そのとおりよ」

幽香の言葉に重ねてたずねると幽香は満足そうに頷いた。
とりあえず威圧感を出すのはやめてくれたみたいだ。
青かったにとりの顔もだんだんと戻ってきている

「それで?今日はどんな用で来たのかしら」
「っむ?自分から夏に来てくれと誘っておいてそれは無いだろ?」
「あら?あれから来なかったからてっきり嫌われたと思ってたのだけど?」
「友は大事にする主義なんでね。春の間は奴がいたからこれなかっただけだ」
「あなた・・・、春告精をそこまで意識する人を見たのも初めてだわ」
「そりゃありがと」
「褒めてないわよ」

俺と幽香がそうやって軽口を叩き合ってるとにとりがおずおずと話しかけてきた。

「えっと・・・、アスカ様、こちらの方とはお知り合いで?」
「ああ、春にちょっとな・・・。そうだ幽香、これ土産」

そう答えた俺は、幽香に土産の酒を渡した。

「お酒?ありがと。折角だから後で一緒に飲みましょ。
夏に花見酒と言うのも、なかなかに風流なものよ。
もちろん・・・、そっちの子も一緒にね」

にとりは会話の矛先が自分に向けられると一瞬、ギクリと動きを止めて、

「わ、私は遠慮したいな~・・・なんて」

などと言ったが、

「喜んでだそうだ」
「そ、なら準備しましょ」

当然受け入れられるわけも無く強制参加だ。
にとりは涙しながらもテキパキと準備を進めた。
その性格ゆえ、河童とは損な妖怪である。
・・・・・・凶暴になられても困るがな。



花見準備中・・・・・・



俺達は今、太陽の畑に3人で向日葵の美しさを肴に酒を飲んでいた。
俺が買った酒は『田子作祭り』と言うどこか聞いたことのあるような銘柄で随分といい酒だ。
幽香とにとりもうまい酒が気に入ったのか上機嫌になっていた。
にとりなどは酒のせいか気が大きくなっており、「相撲なら私が最強」とか言い出したって、幽香さん?
その剣呑な目つきはなんですか?え?!「最強は私よ」って、ちょ?!
相撲始めちゃったよこの二人・・・
土俵がある訳でもないのでただのじゃれあいにしか見えないが、転ばされているのはにとりばかりだ。
こうやって横から見るとよく分かるが、やはり幽香は戦い方がうまい。
力が強いのは確かにあるが、単純にそれに頼るんではなく相手の動く方向を誘導したり、それが出来なくとも予測して攻撃を仕掛けている。
冗談半分の相撲とは言え、初見の相手を完封出来るなんて・・・。

「ふう、いい運動になったわ」
「ばたんきゅ~」
「お疲れさん幽香、大丈夫か~にとり~」
「疲れるほどじゃないわよ。少し楽しかったくらいね」
「きゅ~」
「さいですか。にとりはダメだな」
「そういえばあなた、自分の能力を自覚してる?」
「能力?俺に能力なんかあるのか??」
「技能として身に付いていれば立派な能力よ。
私の取って置きを防いだ・・・と言うよりも逸れてしまったのよね・・・
あんな防がれ方初めてだったからちょっと気になってたんだけど」
「そんな事言っても、あの時俺は見ていた通りに完全に丸まって、法力で防御力底上げしただけだぞ?」
「そうなのよ、私もそれ以上は分からなかったから聞いて見たんだけど・・・」
「ふむ~・・・」

幽香と共に悩むこと3分ほど、ふと顔をあげて見ると、

「・・・えい♪」

幽香が指先から指先サイズのビームを出していた。

「あぶなっ!!!」

首を無理やり曲げることで何とかかわせたが嫌な音がした・・・地味に痛い。

「なるほどね~」
「っつ~・・・、なるほどね、じゃない!何すんだよ一体!!」
「怒らないの、あなたの能力に大体の見当を付けてあげたんだから」
「・・・はぁ?」
「私が予想するにあなたの能力は・・・」
「俺の能力は?」
「避ける能力ね」
「避ける能力って・・・なんだそりゃ?」
「つまり、何かしらの攻撃、もしかしたらそれ以外も対象かもしれないけど、その類を知覚してかわすもしくは攻撃のほうが逸れる能力ね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今の攻撃は威力は無いけど気配は微塵もさせなかったわ。
それを認識するってことはその類の能力、避けるに関しては完全に推測だけど逸れるのはあながち間違ってないと思うわよ。」
「なるほどな~」

こうして、自分に能力があることを自覚した宴の日


ちなみに後日、幽香はまた宴会をする時はにとりを呼ぶように言ってきた。
どうにも、にとりの怯えっぷりと相撲に負けて悔しがってた姿が新鮮だったようだ。
にとりに関しては、幽香に対してしっかりと苦手意識を持ってしまったようで、あの日の酒乱に関しても泣きながら忘れてくれと頼んできた。
とりあえず誘った人間として一応秘密にはしておく事にしよう。


<おまけ>

もふもふA「てい!とう!そりゃ!うりゃ!」
もふもふB「何やってんのもふもふA?剣なんか振り回して」
もふもふA「ん?てい!特訓だよ、とりゃ!もうあいつに、っは!負けないために、せい!能力を手に入れるんだ、たぁ!」
もふもふB「いや、しゃべる時ぐらいやめようよ・・・、それであいつって?」
もふもふA「あいつはあいつだよ。大蝦蟇の池で突然私を暗闇の中に押し込めて気絶させた奴だよ」
もふもふB「犯人・・・分かってるの?」
もふもふA「分かんないけど暗闇を操る程度の能力があるんだからそれに対抗する力を手に入れないと」
もふもふB「ふ~ん、っで?能力は手に入った?」
もふもふA「全然・・・だめ・・・」
田吾作  「能力と聞いて来ました」
もふもふA・B「「田吾作さん」」
田吾作  「どうやら能力を手に入れようとがんばっているでやんすね?」
もふもふA「うん」
もふもふB「でも全然手に入らないんだよね」
田吾作  「なるほど、でしたらまずは能力とはなんなのか知らないといけないでやんす」
もふもふA「???」
もふもふB「能力は能力じゃないんですか?」
田吾作  「間違っては無いでやんすが意味が違うでやすよ。あっしが言っているのは能力の種類でやんす」
もふもふA「能力の」
もふもふB「種類?」
田吾作  「そうでやす。妖怪や力の強い人間が持っている能力には大きく分けて『先天能力型』と『後天能力型』があるでやんす」
もふもふA「先天能力型と」
もふもふB「後天能力型」
田吾作  「でやす。そこから分類するともう少し増えるんでやすが今回はこの二つを説明するでやす」
もふもふA・B「「お願いします」」
田吾作  「まずは先天能力型。これは生まれ持ってきた才能のようなものでやす」
もふもふA「才能?」
もふもふB「ですか」
田吾作  「でやすよ。例えば萃香様の能力『密と疎を操る程度の能力』のように生まれた時から持っている能力が当て嵌まるでやすね」
もふもふA・B「「へ~」」
田吾作  「次に後天能力型でやすが、先天能力が生まれ持った才能ならこれは努力で手に入るでやす」
もふもふA「努力?」
もふもふB「ですか」
田吾作  「でやす。例えば羅豪様の『薬を作る程度の能力』はこれに当たるでやすね」
もふもふA・B「「へ~」」
田吾作  「先天能力型と違って後天能力型は一つのことを延々と繰り返し、身に付け、能力にまで昇華させる事でやす」
もふもふA「なるほど~」
もふもふB「と言うことは・・・」
田吾作  「そうでやす。岩の上にも3年、剣を振り回し続けていてもそれが正しく身に付き、奥義にまでなったなら能力と呼べるでやす」
もふもふA「そっか~」
もふもふB「教えてくれてありがとうございます。田吾作さん」
田吾作  「いやいや、おやすい御用でやす」
もふもふA「あれ?そしたら勇儀様の『怪力乱神を持つ程度の能力』は先天能力型?後天能力型?」
もふもふB「え?!勇儀様は鬼だから怪力を持ってるのは当たり前だし・・・でも、いつも戦ったりして訓練してるし・・・??」
田吾作  「今日はもう忙しいでやんすから、その辺りはまた今度教えるでやんすよ」

田吾作の能力談義[初月編]より

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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
毛玉から受けた傷も癒え、無事に帰ってきました。
あいつらにはいつか復讐せねば・・・
それはともかくとして今回は能力の片鱗と作者の自己解釈による解説でした。
田吾作はホントに何処に行くんだろ・・・

では、次回予告は懐かしい方にお願いします。
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随分と出番がないと思ったら・・・、次回予告?いいですわよ。

四季が巡りて次はいつ?
登場するは姉妹の神
新たな神にアスカは何を思う?
そして、田吾作の新たな試み

次 回
 「帰ってきた、黒いの」
       紫様~、仕事してください~。皆さんは次回をお楽しみに
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[10620] そろそろ懐かしいキャラを出すべきかと考える作者がいた
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/07 10:19
季節は秋を飛ばして冬。
山には雪で見事な雪化粧。
そして俺の家には・・・、

「おい黒いの、次は野菜を入れてくれ」
「だから私は射命丸文です!これでいいですか?」
「そうそれって、田吾作とにとり!鍋にキュウリは無いだろう?」
「いやいや、これで結構おいしいでやんすよ?」
「私達は」
「おまえ達はかよ?!」
「文様、このお肉をどうぞ。先輩、こっちも煮えてますよ」
「ありがとう椛、あなたも食べなさい」

普段よくいるメンバーで鍋を囲んでいた。
寒い時期に鍋をする・・・王道ですね。
とは言え、既に出来上がっている鍋にキュウリ・・・やってみたいようなやらない方がいいような、何とも判断に迷う食材だ・・・ここは一つ、

「黒いの、キュウリ・・・食ってみ」
「文です!って何で私が?!」
「何でって・・・黒いのだから?」
「また疑問系?!嫌ですよ!椛!あなたが食べなさい!」
「ひどっ!文様酷い?!私にはそんなの無理です!先輩、お願いします!!」
「ちょ?!其処で私に振るの?!え、え~と・・・あ、アスカ様「却下」で、では文「嫌です」・・・椛「先輩・・・」・・・」
「キュウリキュウリでやんす♪」
「かっぱっぱ~♪かっぱっぱ~♪キュ~ウリ~♪」

・・・尊い犠牲だった。
そうやってみんなで鍋を囲んでいると先日出会った姉妹神をふと、思い出した。

回想

雪がしんしんと降ってくる今日この頃、俺はいつもどおり大蝦蟇の池で祠掃除をしていた。
池の表面には薄い氷が張ってあり水を飲むことは出来ないが、習慣となっていたこれを止めるつもりも無いからだ。
その後に、これまたいつもの如くふらふらと散歩していると見覚えの無い、人の家ほどの社があることに気づいた。
前に出会った雛もそうであったが、最近、神様が何人(柱?)か山に住み着いたとの事だ。
この社もその神の物なんだろうと思い、一応、念のため手を合わせておくことにした。
するとどうだろう。
社の中から悲しそうな泣き声がするではないか。
何があったのか気になった俺は早速声をかけることにした。

「すみませ~ん、どなたかいらっしゃいますか~」

すると泣き声が止まり返事が返ってきた。

「は、はーい、どちらさまですか~」
「集金で~す」
「はーい、今いきまーすってそんなわけ無いでしょ!!」

ノリの良い神様だ。
そうやってでて来たのは赤い帽子にぶどう?のアクセサリーをつけた少女だった。
少女が出てくると何処と無く芋の香りがする。

「君がこの社の神?」
「そういうあなたは?」
「俺はこの山に住むアスカって者だ。見覚えの無い社を見つけて気になってね」
「あら、そうなの?それじゃあ自己紹介と行きたい所だけどここじゃ寒いわね。
どうぞ、中に入って頂戴」
「あぁ、ありがとう」

そうして招かれた社の中は暖かく外の寒さと比べればまさに別世界だった。
暖かな部屋の中には少女にそっくりな紅葉の髪飾りを付けた別の少女が居た。

「それじゃあ、私から自己紹介をさせてもらうわね。
私は豊穣の神『秋 穣子』そしてこっちが姉の」
「紅葉の神『秋 静葉』です。ようこそ我が家へ」
「お姉さんのほうは知らないから改めて紹介させてもらうな。
俺はこの山に住んでいる薬師のアスカと言うものだ。神様が薬の世話になるかは分からないがその時はいつでも言ってくれ」

そうして自己紹介の終わった俺は静葉さんへ、さっき聞こえた泣き声についてたずねてみた。

「そういえば、さっきこの社から泣き声が聞こえたんだが?」
「あっ、聞いてらしたんですか?恥ずかしい・・・」
「う、思い出したらまた悲しくなってきた・・・」
「一体どうしたんだ?」
「「秋が・・・」」
「秋が?」
「「秋が終わってしまったんです(のよ)」」
「は?」
「ですから紅葉の季節が終わってしまったんですよ」
「実りの秋が過ぎ去ってしまったのよ」
「私達は秋の姉妹」
「秋が過ぎれば役立たず」
「「これが泣かずにいられようか。お~いおいおい・・・」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

とても個性的な神様だった。
よもや神様とは雛を含めてこんなのしかいないのか?
だとしたらイヤ過ぎるぞ、日本の神々。
そのときの俺には将来、更に濃い神々が現れるとは露にも思っていなかった。
とはいえ、未来の話は置いておき、現代の話へ戻ろう。
さて、目の前で抱き合い泣いているこの姉妹、どうすればいいだろう。
流石に放置して帰るのは人として不出来すぎる。

「え~とだ、つまりだ、二人とも秋が終わったから泣いていると?」
「そうそう」
「えぇ、その通り」
「それじゃあ、冬がなくなればいいのか(無くなるわけはないが)」
「何を言ってるのあなたは?」
「冬は嫌いだけど無くなったら必要な時間がとれずに作物が育たなくなるわ」

俺が適当に尋ねると姉妹からは何言ってんだこいつはと、切り返しを受けてしまった。
・・・・・・こんな神様嫌いだ
気を取り直して俺は一つの提案をしてみた。

「それなら、秋が感じられるものを使って何かすれば冬である事も忘れられるんじゃないのか?」
「ふむふむ」
「なるほど、一理あるわね」

よかった、今度は好評なようだ。

「それじゃあお鍋をしましょう」
「そうね、秋の作物に紅葉を浮かべて」
「いいわね~、流石穣子」
「それじゃあお姉ちゃんは紅葉の準備を、アスカさんは鍋を準備してくれる?私は作物を持ってくるから」
「分かったわ穣子」
「俺も参加か・・・、まぁ了解」

そうして始まる冬山の秋尽くし鍋。
出るわ出るわ、薩摩芋などの芋系に始まりキノコに栗、そして梨やブドウといった果物。
いや、栗でも微妙なのに梨やブドウを鍋に入れるのは勘弁してくれ。
そうしていい感じに煮立った鍋へ紅葉を数枚浮かせることで何とも風流な紅葉鍋ができた。
欲を言うなら魚などがほしかった所だ。
そうして、平和に鍋をつつき終えるとこの時は思っていた。
いや、期待していた。

「そういえばこの作物は全部、穣子さんが?」

この質問がいけなかった。

「そうよ、私は豊穣の神、お姉ちゃんと違って豊かな作物を実らせることが出来るの

静葉の笑顔が凍った。

「大丈夫ですよアスカさん。私は稔子と違って、山々を美しく彩ることができますから

穣子が笑顔で固まった。
ところで静葉さん?穣子さんの名前、発音がおかしくありませんでしたか?

「お姉ちゃん?私の名前は穣子だよね?いくら作物が実らせれないなんて本当の事を言われたからって名前を間違えなくてもいいんじゃない?」
「あら、お姉ちゃんは稔子と呼んであげたわよ?
稔子こそ紅葉を綺麗に彩ることが出来ないからってそんな言い掛かりを付けなくてもいいんじゃない?」
「・・・決着を付ける時みたいね、お姉ちゃん」
「やっと負ける覚悟が出来たのね?稔子」
「「・・・・・・・・・・・・・表に出ろやぁ~!!」」

こんな神様マジいやだ。
外へ出て行く二人を尻目にそんなことを考えていると二人はすぐに戻ってきて揃って壁に向かって体育座りをしてしまった。

「えっと・・・二人とも・・・、どうしたんだ?」
「「冬だって忘れてた」」

・・・・・・もう放っておく事にしよう。
そう考えた俺は二人に別れを告げてそのまま家に帰った。
ちなみに鍋はきちんと片付けたので問題ないはずだ。

回想終了

そして目の前には極々普通の鍋を囲む風景が・・・。
普通が一番だ。
そう考えていると視界の端に怪しいものを見つけた。

「なぁ田吾作、それ、なんだ?」
「これでやんすか」

田吾作は赤く細長いものを持って答えてくれた。

「これはキュウリでやんす」
「その赤いのが?!」
「でやんす。あっしが品種改良に改良を重ねた辛いキュウリでやんす」
「「「「(なんだそのキュウリは~?!)」」」」

俺達の心はにとりを除いて一つになった。
辛いキュウリ・・・だと・・・
これはまずい、先ほどのキュウリよりも更に難易度が上がっている。

「おっちゃん、それはダメだよ」

ナイスだにとり。
俺達は視線でにとりを褒め称えた。

「何ででやんすか?」
「あたしの作った黄色いキュウリも入れないと」
「「「「(なんだって~~~!!)」」」」

神は死んだ!いや、あんな神様だから当然か!!
辛いキュウリより更に意味の分からないものが出てきたぞ。
黄色ってなんだ?甘いのか?酸っぱいのか?興味はあるが体験はしたくない?!
それならここは・・・

「なあ、茜、あれ・・・食ってみ?」
「ちょ?!ここで私ですか!私はいやですよ、絶対に!椛!先輩命令です。食べろ!!」
「ひゅっ!そんな殺生な!!いやですよ先輩。文様~助けてください~!」
「椛、成仏してくださいね」
「ぞんな~あやざま~「そうか、黒いのがいたか」あずがざま?」
「っへ?その目はなんですかアスカ様??茜さんまで??」
「どうでもいいから、な、食ってみ・・・黒いの
「文、大丈夫・・・ここには薬も一杯あるから、食べろ
「ちょ?!なんですかその連携!!椛!助けて「知りません」椛~~!!」
「「いいから食え、黒いの(文)!」」
「?!?!?!?!?!」
「うまいでやすな~にとり~」
「キュウリウマー」

そうして混沌とした3色のキュウリ事件は黒いのの尊い犠牲によって幕を閉じた。
しかし、油断してはいけない。
また気を抜くようなことがあれば第2第3のキュウリが現れるのだから。

<おまけ>

「うぅ~、気持ち悪いですよ~」
「大丈夫かい、文?無理してあんなに食べるからだよ」
「(違います!あなた達のキュウリが原因です)」
「まぁ、その気持ちは分からないでもないけどね~♪」
「(分かってません!分かってませんよ。にとり)」
「それにしても凄いな~。田吾作のおっちゃんは。赤いキュウリは思いつかなかったよ・・・。
これは負けていられないよね~♪」
「っは?」
「帰ったら早速、紫のキュウリの研究だ~♪
「ちょ?!にとり??」
「よ~し、燃えてきたぞ~~~!!文!わたし先に帰ってるからね?じゃあね~♪」
「ま、待ってくださいにとり?!それは、それだけはやめて~~~?!」

友の凶行を止めようとした烏天狗の日記より抜粋
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後書+報告+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回は秋を飛ばして冬にしましたが如何でしたでしょうか?
きっと皆さんの期待をいい意味で裏切っていると思います。
報告なのですが、「そーなのかー」が完成しました。
再会は誰に合わせるべきか・・・

では、次回予告をお願いします。
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あらあら、この私に次回予告?いいわ、その度胸に免じてやってあげましょう。

時が流れて世界は歌う
新たな命の芽吹きも彼には関係が無い
アスカが考えるのはただ一つ
「奴が、奴が現れる!!」

次 回
 「旅立ち、再び」
     間違ってないのに物足りない気のする次回予告 by.kami

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[10620] やつは帰ってきた、春からの逃走
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/12 12:07
春、それは出会いの季節。
春、それは新たな命の季節。
春、あらゆる災厄を詰め込んだ奴が現れる季節。

俺は怯えていた。
年甲斐も無く布団を頭からかぶり、その中で亀のように身を丸めながら体を震わせていた。
忘れていた。油断していた。もういないと考えていた。
全てがぬか喜びだった。
奴はまた現れた。

「春ですよ~♪」

春・告・精
奴の声を聞くたびに俺の精神はがりがりと削られていく。

「春ですよ~♪」

奴の声は地獄の其処から響き渡ってくるようだった。
このままではいけない。
何とか立ち向かわないと。
そう、にげちゃだめだ!にげちゃだめだ!にげちゃだめだ!にげちゃだめだ!にげちゃだめだ!にげちゃだめだ!にげちゃだめだ!!!

「春ですよ~♪」

よし、逃げよう。
そうして俺は幻想郷の外へと脱出した。
どうやら奴は郷の外へ出ることは出来ないらしい。
こうして俺は再び、無計画な一人旅に出発した。


一方その頃・・・妖怪の山

「春ですよ~♪」
「春でやすな~」
「春だな」
「春だね~」

珍しいことに田吾作と勇儀、萃香が集まっていた。

「さて、本日お二人をお呼びしたのは他でもありやせん、アスカ様の件でやす」
「アスカのかい?」
「ん~、そういえば今日は見てないけど・・・アスカは何処いったんだろうね~」

どうやらアスカの件で集まったらしい。

「それでやすが、アスカ様は逃亡したでやす」
「「ぶ~~~~~~~~!!」」
「酒霧なんて・・・汚いでやすよお二方」
「げほっげほっ!どうでも、ごほっ!いいよそんなこと」
「けへっ!そうだよ、けへっけへっ!逃げたって、何から?!」
「あれからでやす」
「「・・・・・・・・・は???」」
「春ですよ~♪」

ホ~~~~~ホケキョ

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
「春ですよ~♪」
「「・・・は、は~~~~~~~?!」」

山の四天王の2柱は驚いている。
そりゃそうだろ。
自分達の友が逃げた相手がまさか春告精だと知らされれば。

「そいつは一大事だ・・・」
「なんだってアスカは春告精から?」
「それがでやすな、聞いた話によりやすと春告精のいるところで災厄に見舞われたのが原因らしいでやす」

何ともばかげた理由ではあるが・・・
田吾作が勇儀と萃香にそのときのことを詳しく説明してみせると、

「あ~、納得だね」
「アスカはあれで迷信とか信じる方だからね~」
「でやすよ」

迷信の塊が言う戯言は放っておくとしても、その通りである。
そもそもアスカは日常の散歩コースで大蝦蟇の祠、竜神の石造、人里付近の地蔵といった、
偶像を掃除したり手を合わせるなど意外と信心深い行動を繰り返している。
ならなぜ近くの神様や神社に行かないかというと、彼の中では既に神=ぐるぐる廻る雛と微妙すぎる秋姉妹の方程式が出来上がっていたため、
神様関係は信用が出来なくなっているのである。
それに対して大蝦蟇は何もしない、竜神は見たことない、地蔵は気分が落ち着くといった理由から彼基準で信用に足る存在になっていた。
それはともかくとして鬼と河童の会議は踊る。

「まいったね~、こればっかりはあたしらが言ってどうなる話でもないよ」
「そうだね~、鰯の頭も信心から。信じる心、というか疑心暗鬼の心はなかなか難しいよ」
「そうでやすよな~・・・アスカ様にはあっしから特製の札を荷物に入れてやしたが、今回の件にはあまり関係ないでやすし・・・」
「春ですよ~♪」
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

近くで騒動の原因に騒がれるのは何とも業腹なものである。
しかし、彼女が別に悪いわけではないので手を出すわけにもいかない・・・ジレンマである。

「しっかし、ほんとに厄介だね~」
「そうだよね~、これは捕まらないよ~」
「??お二人でも捕まえられないでやんすか?」

おや、話の方向が変わったようだ。

「そりゃそうだよ、その関係の能力持ってるのをあたしらが捕まえるのはちょっときついね~」
「そうだよね~」
「お二方はアスカ様の能力をご存知で?」

どうやらアスカの持っている能力の話に移ったようである。

「まあね、アスカから能力関係の話の相談を受けたことがあってね、あたしは学が無いから思いついたままに答えてみたらそれがしっくりきたらしいよ」
「能力はなんとなくで気付いたやつが一番正確だからね~」
「そうでやしたか。でしたらアスカ様の能力とは何でやんすか?」

なかなか気になる話である。
田吾作が神妙な顔をして勇儀と萃香に改めて聞きなおすと、勇儀が口を開いた。

「少しは聞いてるかもしれないけど、アスカの能力は攻撃、というよりも自分に対する干渉を知覚して避けるってのが最初の推察だろ?」
「そうでやしたね~」
「でもさ~、それだとお雛さんの厄がかわせなかったのがおかしいって事になるんだよね~」
「おかしいでやんすか?」
「そうだね。お雛さんのは素人目のあたしらでもその厄が眼に見えてしまう。それがかわせないなんておかしいだろうよ」
「確かに・・・そうでやんすね」
「そこであたしは思ったのさ、これは正面切って避けるんじゃなくて逃げてるんじゃないのかってね」
「逃げるでやんすか?」
「そうだね~、避けるって行動は相手を見切って相手の攻撃をかわしたり最小限に抑えることだけど」
「逃げるってのは食らうか当たるかの完全二択だからね。10の攻撃を避けた時に掠って4の体力を減らすとしたら」
「逃げるって行動は10食らうか1も食らわないかのどちらかだからね~」
「なるほどでやす」
「そして正面戦ってるときに逃げるって能力が出ると」
「相手の攻撃を避けてるように見えるんだよね~」
「そして他の干渉に関しても」
「干渉されて影響を受けるか干渉されずにまったく影響を受けないかのどちらかなんだよね~」
「そうでやしたか・・・でしたらお雛さんの厄に当てられたのは?」
「お雛さんのは厄の集合体」
「それ全部から逃げるのは無理だったんじゃないかな~」
「自分からかわしてたんならもしかしたら逃げれたかもしれないし」
「能力不発で掠るだけだったかもしれないけどね~」
「なるほどでやすな~・・・、しかし、何とも博打な能力でやすな~」
「そうだね~」
「まったくだ、本人も無自覚に出している能力だから戦闘中に出たら完全に運勝負になっちまうよ」
「使いどころがあるとすれば・・・、妖術で化かされたりなんかの薬の影響から『逃げる』ぐらいしか使いどころが無いよね~」
「そうでやすな~、妖術や薬でやしたら食らって元々、逃げれれば御の字でやしょうが、普通の攻撃でやしたらかわすか当たるの2択は痛いでやすな~」

なるほど・・・アスカの能力は『様々な事から逃げる程度の能力~Easy~』という事ですか。
どうやら河童と鬼の会談も終わったようですし私も消えるとしましょう。
では皆様方、続きを存分にお楽しみください。






ここは街道。
俺は現在、久しぶりに郷の外に出て一人旅をしている。
能力の把握も出来て今回は平和な旅になりそうだ。
ただ、能力の発動条件がいまいち解らない。
普通に避けれれば問題ないがそれが無理な場合、能力による逃亡(回避)判定が行われるようなのだが、その時に能力が発動しているかの確証が取れない。
更にいうと、勇儀や萃香相手に試してみたがいつもどおりに直感でかわしたりしているのと大差が無いように思える。
一応、能力だけあって受け流した時の痛みが消えることもあったが・・・。
逃走だから身体能力や運が鍵になると思うんだが・・・。
流石に死ぬほどのダメージや本気の戦いで試すわけにもいかずそれ以上は放置だ。
うまく使えるようになれば・・・、もというまく発動させることが出来るようになれば幽香に勝つことも出来るだろう・・・できるといいなぁ・・・。
しかし、こうやって考えると幽香との戦闘はかすり傷だけですんでいたのは本当に能力によるお陰だったのかもしれない。
最後の取って置きなんか能力が発動してないと消し炭だし・・・。

そう考えながら、街道で情報を集めてみると鎌倉幕府から100年ほど後の時代というのが分かった。
となると牛若丸と弁慶で有名な五条大橋があるはず。
それならばと思い、久しぶりに目的地を定めて足を進め始めた。

五条大橋。
伝説では牛若丸がこの地で弁慶を下すことにより己の配下に置いたという。
その五条大橋の上には・・・

真っ黒な塊が広がっていた。

塊からは声が聞こえる。

「あなたは食べれる人間ね」

なぜだろう・・・、何処へ行ってもこんなのばっかりだ!!

<おまけ>

もふもふA「今日も元気に特訓だ~!!」
もふもふB「お、おぉ~!(何で付き合ってるんだろ、私)」
田吾作  「特訓と聞いて来やした」
もふもふA・B「「田吾作さん」」
田吾作  「さて、嬢ちゃんたちは能力が手に入ったでやすか?」
もふもふB「そ、それが~・・・」
もふもふA「手に入ったよ~♪」
田吾作  「そうでやすか、おめでとうでやす。それで、どんな能力なんで?」
もふもふA「『千里先まで見渡す程度の能力』」
田吾作  「嬢ちゃん…それは白狼天狗ならもってて当たり前の先天性能力でやすよ」
もふもふA「え?!そうなの?」
もふもふB「ですよね。だって私も椛も使えるし」
もふもふA「ちょ?!何で教えてくれなかったの!」
もふもふB「だって・・・、白狼天狗はみんな持ってる能力だったから・・・つい・・・」
もふもふA「が~ん!!」
田吾作  「なにやら落ち込んでいるようでやすが、諦めるのは早いでやんすよ」
もふもふA・B「「???」」
田吾作  「以前能力の説明をしたときに先天性能力と後天性能力を説明したでやしょう?」
もふもふA・B「「うんうん」」
田吾作  「しかしでやすな、あれは大きく分けたときでやして、その後に細分化が出来るでやす」
もふもふA「???」
もふもふB「細分化・・・ですか?」
田吾作  「でやす。例えば前に聞かれた勇儀様の能力、『怪力乱神を操る程度の能力』もこれに当たるでやす」
もふもふA「!!!」
もふもふB「そうなんですか?!」
田吾作  「でやすよ。ただ怪力を操るだけなら鬼として基本的に持っている先天性能力で間違いはないでやす。ここまではいいでやすか?」
もふもふA・B「「コクコクッ」」
田吾作  「勇儀様はそこから純粋に力だけを強化していくことで人知の及ばない力『乱神』を手に入れたでやす」
もふもふA・B「「へ~!!」」
田吾作  「これは先天性能力を鍛えることで手に入れる能力、『鬼才型能力』と呼んでいるでやす」
もふもふA「鬼才型」
もふもふB「能力・・・ですか?」
田吾作  「でやす。反対に何もせずとも能力だけが日々強化されていくようなとんでも性能の『天才型能力』もあるでやすね」
もふもふA・B「「おぉ~~~!!」」
田吾作  「それでやす。今回の話に戻るでやすが、白狼天狗の能力も極めて強化、もしくは特化させていけば・・・」
もふもふB「そうか!」
もふもふA「新しい、しかも強い能力になるんだ」
田吾作  「でやすな。それが出来るかは本人の努力と運次第でやしょうけど」
もふもふA「ありがとう。田吾作さん」
もふもふB「でも・・・、それだと後天性の能力は何にもないように思えるんですが・・・」
田吾作  「そうでも無いんでやすが・・・今回はもう時間が無いでやすからまた今度教えるでやんすよ」

田吾作の能力談義『三日月編』より抜粋
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後書+次回予告

どうも、お久しぶりのお手玉の中身です。
能力を色々調整してたらこんなにも時間が・・・
お待ちしていた読者がいらしたらお待たせしました。
今回の話で一応、アスカの能力を本決定とします。
役に立つ立たないは別の話ですがね・・・

それでは、次回予告に行きます。
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次回予告ですよ~♪

私から逃げたアスカさん
その能力はなんとも微妙すぎる能力でした
有名どころに来てみれば
そこにいたのは怪しすぎる存在だった

次 回
 「これで私が不幸の使者じゃないとわかってもらえる♪」
                   真面目に予告をして下さいorz by.kami
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[10620] 田吾作の暗躍が未来を変える
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/12 12:28
拝啓、鍵山雛様。
厄が満ち溢れてます。助けてください。
拝啓、リリー・ホワイト様
あなたが災厄ではなかったのですね。怯えてすみません。

目の前に現れた厄介事、もとい黒い塊を見ながら手紙に書くようなことを俺は考えていた。
空には月と星が輝き、町の明かりも届くこの五条大橋。
だというのに橋の中心はそこだけ光が届かないかのように真っ黒に塗りつぶされていた。
そして中からは再び同じ問いかけが・・・。

「あなたは食べられる人間ね」

どうしよう、人食系の妖怪だとは思うがこんな真っ黒な奴聞いたこと無い。
そもそも、黒い塊がどうやって食べるんだろう?
食われるのはイヤだが見てみたくもある。
すると、再び声が聞こえた。

「あなたは食べられる人間ね」

・・・なんだろう、何かがおかしい。

「あなたは食べられる人間ね」

もしかしてこいつ・・・

「あなたは食べられる人間ね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

人のことに気付いてね~~~~~!!
さっきから同じ事しか言わないと思ってたら、どうにも人のことに気付いてないようだ。

「あなたは食べられる人間ね」

しつこっ!!びびって損した!
というよりも何時からここでそんな事言ってるんだよ、こいつは?!

「あなたは食べられる人間ね」

だめだ、本当に腹が立ってきた。
そう考えた俺は近くにあった石を拾うと、

「あなたは食べられる「しつけ~~~~!!」へぶぅ?!」

全力で投げつけた。
黒い塊からは痛そうな声が響くと何かが倒れる音がした。
するとどうだろう、黒い塊が段々と薄くなって消え始めたではないか。
塊が消えると中からは黄色い髪に黒い服を着た少女が出てきた。
少女は頭にたんこぶを作って目を回している。

「これが・・・正体か?」

呟いては見るものの、その問いに答える者は無く、仕方が無いので少女を橋の下まで移動させた。
流石にあのまま放置すると俺は完全に通り魔になってしまうし・・・。



青年運送中・・・・・・



そうして橋の下で手当てをしてやり目覚めを待つこと数分。

「う、う~ん」

とうとう目覚めたようだ。
念のために田吾作製、鬼も縛れる縄で捕まえているから大丈夫だろう。

「こ、ここは・・・私のご飯は??」
「・・・ここにはないぞ~」
「あっ、私のご飯?!」

ご飯扱いされた・・・
師匠以来の扱いだ・・・うれしくもない。

「ご飯違うから」
「ご飯じゃない・・・あんたは人間?」
「人間だが?」
「それならご飯だ♪」

人=ご飯・・・師匠より性質が悪かった。
俺が呆れていると少女はもぞもぞとしながら口を開いてきた。

「ん?この縄、邪魔ね・・・。ねぇ、解いてくれない?ご飯食べたいから」
「ちなみにご飯とは?」
「あんた」
「誰が解くか!このあほが~!!」

まさか助けを要求された上で、ご飯扱いを受けるとは思ってなかった。
さてはて、どうしたものか・・・ん?
俺が悩んでるのを見かねたのか、少女は更に口を開いた。

「わかった。あんたはご飯じゃないから縄を解いて」
「・・・解いたらまず何をする?」
「お腹一杯にする」
「・・・なにで?」
「あんたで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

その場で痛む頭を抱えた俺を誰が責めれようか。

「ねぇ~頭抱えてないで、解いてよ~」

ここに居た。

「うっさいわ。このアホが!」
「っむ!私はアホじゃない!!『ルーミア』だよ」
「名前のことじゃねぇ~~~!!」

突っ込んでしまったがこのまま会話を続けても疲れるだけだろう。
どうしたものかと考えていると少女、もといルーミアが再び口を開いた。

「わかったよ~。食べないから縄を解いてぇ~」
「・・・ホントか?」
「ほんとほんと」
「・・・俺は」
「ご飯じゃない人間」
「・・・・・・・・・念のために聞いておくが能力は?」
「『闇を操る程度の能力』」

最後の質問はダメ元で聞いたら普通に返された。
解った・・・この子はアホとかそんな問題の前に・・・

「足りない子だったのか・・・」
「ん?どうしたの??」
「いや、なんでもない・・・。俺の名前はアスカ、ご飯じゃないからあしからず。
今解いてやるからな」
「わは~♪」

その言葉を聴くとルーミアは花が咲いたような笑顔を見せてくれた。
正直、あんな黒い塊でいるより普通に近づいたほうが人間を捕まえられるんじゃないだろうか?
そう考えながらルーミアをロープから開放する。

「アスカ~、ありがとう~」
「・・・そこでお礼を言われるとなんだか罪悪感が・・・」
「そーなのかー」

ルーミアは何がそんなにうれしいのか終始笑顔のままである。

「ところでルーミア。橋の上で何やってたんだ?」
「お腹がすいて倒れたの、そしたら太陽が出てきたから能力を使ってご飯を待ってた。
しばらくするとご飯の来る気配がしたから立って食べられるか聞いてみたけど、どのご飯も食べれないみたいだったの」

そう言い終るとルーミアは再びその場に突っ伏した。

「お腹すいた~~~」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

本当に足りない子だ・・・
へばってたれている姿は垂れるーみあと呼ぶしかない。
仕方がない・・・

「これ、食うか?」
「食べる!!」

俺が鞄の中から干し肉を出して垂れるーみあに見せると、素晴らしい反応速度で垂れるーみあが跳ね起き、ルーミアへ進化した。
なんて分かりやすい反応だろう。

「その代わり、俺はご飯じゃないからな?」
「うんうんうんうん・・・」

ルーミアは凄い勢いで頭を縦に振り続けている。
俺がそのまま干し肉を渡すと勢いよく食べ始めた。
この子は人を疑うことを知らないのだろうか・・・、いい意味で素直、悪い意味ならホントに足りない子だ・・・。



ルーミア食事中・・・・・・



「そういえばルーミア」

干し肉を食べ終わったルーミアへ俺は気になっていた事を聞いてみた。

「闇を操る程度って何が出来るんだ?」
「??闇が操れるんだよ?」
「それはわかるよ。そうじゃなくて闇を操って何が出来るかって事だよ」
「??????????」

本気でわかってないようだ。
ルーミアは困ったような顔で首をかしげながら必死に悩んでいる。
俺は例え話を出して聞きなおすことにした。

「あ~・・・、つまりだ。闇を操って人を閉じ込めるとか、もしくは闇で攻撃するとか・・・。
そんなことは出来ないのか?」
「全然出来ないよ。むしろ真っ暗で見えなくなる」
「誰が?」
「私が」
「おまえがかよ?!」

ルーミアはとても自慢気に答えた。
なんなんだこいつは・・・あまりにも頭が足らな過ぎるぞ。
今までどうやって生きてきたんだ?
と言うかそんなの自慢することなのか??

「おまえ・・・今までどうやってご飯取ってたんだ?」
「木の実とか畑の野菜に兎と亀。
後は、能力を使ってないときに人間を捕まえてご飯にしてた♪」
「能力使わないのかよ?!」

ツッコミどころがありすぎる・・・。
木の実に野菜はまあ良しとしよう。でも亀って何さ??
兎だからなのか?この頃にはもうこの童話あったっけ???
その上、人間捕まえるのに能力無しって・・・、橋の上でおまえなにやってたよ?!?!

「わは~」
「・・・もういいや。もう疲れたよ田吾作」
「あれ?」
「何でだろうな・・・。世の中こんなはずじゃなかった事ばかりだ」
「綺麗な髪飾りだ~♪」
「なぁ師匠、もう、ゴールしてもいいよな?」
「ほしいな~」
「ホントど・・・ってなんだ?」

俺が嘆いていると袖を引っ張る感触があったのでそちらへ顔を向けてみた。
するとルーミアが赤い布切れを指差しながら、
「ねぇねぇ、これ貰ってもいい」
と、たずねてきた。
どうやら俺の持ち物だったようだが・・・はて?何時こんなのを持ってきてただろうか。
俺は不思議に思いながらも特に大切なものでもなかったのでルーミアにやることにした。
このとき俺は気付いてなかったが、布切れの端には小さく『田吾作製』と書かれていた。

「おう、別にいいぞ」
「わは~♪ありがとう。ねぇねぇ、髪につけてくれる?」
「おう、いいぞ」

ルーミアからねだられるままに髪に布切れ、もといリボンを結んでやった。
ルーミアは川の水でそれを見てうれしそうに笑った。

「わは~♪わは~♪ありがとうアスカ」
「どういたしまして」
「わは~♪」

この無邪気さを見ていると人食系の妖怪とは思えないほどだ。
いや、違うか・・・無邪気だからこそ人食になれるんだろう。
同じ姿をしているものは種族の違いはあれども、僅かながらに仲間意識が生まれてしまう。
鬼は人攫いをしているが、あれは長年の習慣・・・種族的な特徴と言ってもいい。
その代わりとして、正面から勝負をすると言うのが同じ形をする人間への無意識の遠慮なんだろう。
まぁ、嘘や卑怯なことが嫌いだと言った理由もあるみたいだがな。
そして、天狗にしてもそうだ。
人をホントに馬鹿にするなら見る必要すらない。
見下してる時点で人間と、その可能性を認め自分達の優位性が崩れないようにしている表れだ。
それらは無意識の産物ながらも、それぞれの種族の内に必ず秘められている要素だ。
だが、無邪気と言うのはそういった事を一切気にせずにただ自分の思うが侭に行動することだ。
ルーミアのように人肉がおいしいから食べる。これは、こうやって会話できるほどの理解力を持ちながらにして無邪気であるから行えることである。
そうやって、俺が一人で自分の考えを纏めているとルーミアがこちらに走り寄ってきた。
ルーミア笑顔のまま頭のリボンを見せながらたずねてきた。

「ねぇ、可愛い?かわいい?」
「あぁ、かわいいな」
「わは~♪」

ルーミアは無邪気に飛び跳ねて喜んでいる。
これから先、再びルーミアに出会うかは分からないが、彼女の無邪気さが消えないといいな。

そう考えた五条大橋での一幕

<おまけ>

妖怪の山にて河童と鬼の会話


「そういえば田吾作?」
「なんでやすか?」
「アスカの荷物に入れた『特製の札』ってどんな物なんだい?」
「それでやすか、あっしが作った修行用の封印札でやす」
「封印札?」
「でやす。持っているだけで本人も気付かないぐらいの付加を体に掛け続けて、札を手放した時に一気に能力を上昇させることが出来る札でやす」
「そいつは凄いけど・・・アスカは力的にはもう成長は無いんじゃないのかい?」
「確かにそうでやしょうが・・・、まぁ無いよりましと言ったところでやすな」
「なるほどね~・・・、それで?その札ってのはどんなやつなんだい?」
「赤い札でやすな。しかも、材質が紙じゃなくて布でやす」
「布?それって札でいいのかい?」
「いいんじゃないでやすか?」
「まぁどうでもいいけどね。その札のことはアスカ・・・知ってるのかい?」
「本人も知らないうちに修行が出来るのは素晴らしいことでやす」
「知らないんだね・・・」


田吾作の暗躍記録より抜粋
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です
ルーミアとの出会い編いかがでしたでしょうか?
彼女は純真であるがゆえに躊躇わない、作者はそう考えます。
さて、予め予告していた内容もいよいよ再会を残すばかりとなりました。
誰と再会するんでしょうね~。
待て!次回!!
っと言うわけで、次回予告をお願いします
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次回予告なのかー

一人旅に戻ったご飯じゃない人間、アスカ
郷の外ではまったく知名度の無いアスカは何度も襲われる!
襲撃に疲れたアスカがその身を休めるために立ち寄った町で
懐かしい再会を果たす

次 回
 「再会と未来への伏線」
       この再会は・・・、知りたかったら次回もよろしく by.kami
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[10620] 誰にも期待されていなかった再会
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/13 19:15
ルーミアと分かれてから数日後。
俺は名も知らない町で休憩していた。
その間はまさに、日常にしたくない日常が続いた。
山で、川で、森で、幻想郷なら襲ってくるようなことの無い名も無き妖怪や妖獣、毛玉が俺に襲い掛かってきたのだ。
こうやって思い返すと随分な数に襲われたと思うが、
いかんせん勇儀や萃香の鬼の面々や幽香との戦闘を経験した俺にとっては取るに足らない存在だった。
攻撃は鈍く、体は脆い。その上、根性も無いから仲間がやられるとすぐ逃げる。
気分的にはLvMAXの状態で雑魚と常にエンカウントする気分だった。
つまりは・・・非常にめんどくさかった。
そんな、ささくれた気持ちを癒すため町の団子屋で休憩をしていた。
そうしていると目の前で一人・・・いや、二人の男が立ち止まった。
一人は黒い短髪に黒く日焼けした何処にでもいそうな男だったがもう一人は銀髪という日本人離れした髪の色をしていた。
俺が二人を観察していると日焼けしたほうが話しかけてきた。

「もしかして・・・アスカ殿ですか?」
「へ?!確かに俺はアスカだが・・・どこかであった事が?」

まったく見覚えの無い二人に俺が聞き返すと、
二人は返事をせずにお互いを向き合い驚く内容を言い合っていた。

「何でアスカ殿がこの時代に??」
「まさか『蓬莱の薬』を?!」

何でこいつらがその薬のことを知ってるんだ?!
見知らぬ二人は俺がいることに驚いているようだが俺にしてみれば薬の存在を知っていることのほうが驚きだった。
なんせ蓬莱の薬・・・竹取物語は数百年も昔に幕を下ろしているからだ。

「おい、何でおまえらが薬のことを知ってるんだ?

俺がそうやって、威圧をかけながら詰問をすると、
見知らぬ二人は知り合いかの如く返事を返してきた。

「あ、アスカ殿?」
「我らがわかりませんか??」
「まったく分からん。見覚えすらない」
「「あっ!」」

二人は何か勘違いに気付いたように顔を見合わせるとお互いに頷き、
納得気な顔でこちらにへ振り向いてきた。

「確かにこの姿では分かりませんよね」
「うっかりしてました」
「だからなんなんだよ?」
「「俺達は警備兵です」」
「??だからどうした?」
「「輝夜姫様のお屋敷で働いてた」」
「・・・・・・・・・・・は?!」
「今世での俺は『黒陽』」
「そして俺が『影月』」
「「現職業は警備兵にして商人見習い!!」」
「はぁ~~~~~~~~~~!?!」

その言葉で俺は一気に混乱した。
まさか、あの時の警備兵に再会するとはまったくの予想外だったからだ。
というよりも本来なら死んでる人間だ。
死人が迷い出たにしては血色が良すぎる上に、以前見た顔とは似ても似つかない。
どういうことか詳しく聞くために俺は更に質問を続けた。

「ちょ?!待てよおまえら、警備兵?しかも輝夜のいた所の??何で生きてんだよ?!」
「それは俺達のほうが聞きたいですよ」
「そうですよアスカ殿」
「俺は特殊な事情があって不老になった。以上!ほら、次おまえら!」
「軽っ!そんなノリで言っていいんですか?!ってか特殊な事情って??」
「俺が良いんだからいいんだよ。特殊な事情は特殊な事情だ!納得しとけ!!
ほら、さっさとおまえらの事情も話せ!!」
「いえ、流石にそれだけで聞こうとするのは「さっさと吐け」分かりました~!!」

俺の返答に不満があるかのように言い返そうとする二人の言葉に脅し文句を重ねることで反論を封じ、
そのまま答えるように促がした。
二人はまだ納得はしていないようだがしぶしぶと事情に関して語り始めた。

「え~と、俺達は人間ですから当然のように天寿を全うして死んだんですよ」
「というか、よく考えると死んだ日と時間まで一緒だったんだからある意味凄いよな、俺達」
「そうだよな~」
「どうでもいいからそんな事。死んだんなら何でここに居るんだよ?!
さっさと続きを喋れ!!」
「わ、わかりましたよ」
「俺達死んだ後に閻魔様のところに連れて行かれるんですが、」
「その時にですね、記憶を持ったまま転生させて貰えるって話を当時の雇い主さんから聞いてたんですよ」
「輝夜からか?」
「その後の雇い主です」
「あれなんて言ったけ?」
「確か・・・なんだっけな?」
「何でもいいからな、・・・つ・づ・き!
「ひぃ?!怒ってらっしゃる」
「え、え~とですね。その転生方法が閻魔様に予め了解を取って、死んだ後に閻魔様のところで仕事を百年以上手伝うってのが条件だったんです」
「・・・・・・いくらなんでも、閻魔様に予め了解を取るのは無理だろう?」
「それがですね、俺達の雇い主がそれをやるって言ったんで」
「それは面白そうだと、俺達も付いて行ったんです」

・・・さすが警備兵、普通じゃ考えもしない行動をとる。
まさか面白そうだけで、閻魔のところにいくとは・・・。

「そしたら閻魔様のところでの仕事が溜まりに溜まって」
「いざ死んだ後に百年どころか三百年近くも書類仕事漬けでしたよ」
「・・・大変だったんだな~」
「「大変だったんですよ~」」

いかにも苦労しましたと言うような顔でのほほんと語る二人だが・・・、
ホントにいろんな意味で無駄に凄いやつらだ。

「それで、無事転生を果たしたおまえらが何でこんな所に?」
「俺ら転生してみたはいいものの、特に目的とか合った訳じゃないんで・・・」
「ここにいるのも完全に偶然だよな~」
「今は、大きな道具屋で商売の勉強しながら警備兵やってるんですよ」
「前世、警備兵だった俺達にとっては朝飯前の仕事。
それと同時に商売の勉強もして一旗あげようと考えてるんです」
「なるほどな~」

転生の理由はかなりどうでもよかったが、今はまともな目的を持って生きているらしい。
となると、気になる事も出てくる。

「それだと今は、その道具屋で警備をやってるのか?」
「「そうです」」
「ふむ・・・警備を雇うほど大きな道具屋か・・・。
ちなみに看板は?」
「それは・・・、何だっけな銀月?」
「忘れるなよ・・・自分の職場を・・・。
店の名前は『霧雨道具店』です。近くにきたら是非よってくださいよ」
「それなら早速今から行かせてもらおう。
ちょうど薬を作るためのすり鉢とかがダメになってきてるんだ」
「そうなんですか」
「なら案内させてもらいます」

こうして懐かしい、正確に言えば初対面の二人に案内され霧雨道具店へ向かった。



青年移動中・・・・・・



「だ、誰かそいつを捕まえてくれ~~~~~~~!!」

二人の案内で霧雨道具店へ向かっている最中、
突然誰かの叫びが聞こえたと思ったら目の前から凄い勢いで男が走ってくるのが見えた。

「ど、泥棒だ~~~!捕まえてくれ~~~~~!!」

叫び声に追われるようにこちらへ走ってきているのが泥棒なのかと考えていると、俺を案内していた二人が顔を見合わせて頷きあい、
そのまま泥棒らしき男の前に立ちはだかった。

「まてぃ、この泥棒が!俺の拳に打ちのめされろ!」
「まてぃ、この泥棒が!俺の脚に蹴り飛ばされろ!」

そう二人は言い終えるとそのまま泥棒らしき男へ突っ込んでいった。

「くらえ!黒陽の拳!!」

うわぁ・・・
技を言い放つと同時に黒陽のパンチが男の顔面に抉り込むように打ち込まれ、男はそのまま後ろに吹き飛ばされてしまった。
そこへ、跳び上がっていた影月が下降しながら追撃を放つ。

「くらえ!影月脚!!」

ひでぇ・・・
仰向けに吹き飛ばされた男の腹に上空から降ってきた影月の足、もとい蹴りがめり込んだ。
・・・泥棒らしき男は生きているだろうか・・・?

「「正義は勝つ!!」」

この二人はノリノリである・・・
男は完全に意識を失っているのかピクリとも動かない。
そこへ追いかけていたであろう身なりの良い男が走ってきた。

「はぁはぁはぁ、やっと、はぁ、おい、はぁ、ついた、はぁ」

男はそのまま荒い息を整えると、やっと落ち着いたのかこちらに向き直り、驚きの表情を浮かべながら口を開いた。

「おまえらっ?!黒陽と影月じゃなか!!」
「「おやっさん?」」
「知り合いか??」

どうやら追いかけていた男は二人の知り合いらしい。
なぜか二人の顔が多少青く見えるのは気のせいだろうか。
身なりのいい男はそのまま目をつぶると体を細かく震えさせながら口を開いた。

「二人がこそ泥を捕まえてくれたことには礼を言おう・・・」
「「は、ははは・・・」」
「しかしだ・・・、店番せずに何処でサボってんだこのろくでなし共が~~~!!」
「「す、すいませ~~~ん!!」」

見事な土下座だ・・・
と言うよりもこの二人、生まれ変わってまでサボるなよ。
閻魔の手伝いもサボってたから転生遅れたんじゃないのか??
男の説教はまだ続いている。

「まったく、おまえ等ときたら何時まで経っても・・・ぐちぐち・・・くどくど・・・」

とは言え、何時までもこんな道の真ん中で説教を聞いてるのもアレだしな、
そろそろこちらに気付いてもらいますか。

「あ~、ちょっといいか?」
「ん?なんだあんた?俺はこいつらに今日という今日こそは商売がなんたるかを教え込もうと思ってるんだが・・・」
「それはいくらやってくれても構わんが、後にしてくれないか?」
「なんだと?!」
「そいつらに店を紹介してもらうことになっていてな。
道案内が無いんじゃたどり着けそうにも無いんだよ」
「っむ?店の紹介じゃと」

俺と男との会話を聞いていたのか黒陽と影月がこれ幸いとすかさず話しに入り込んできた。
調子のいい奴等だ。

「そ、そうなんすよおやっさん」
「こちらの方は俺らが昔世話になったことがあって、商売道具を新調したいって言うんで店まで連れて行こうとしてたとこなんすよ」
「ふむ、そういうことか・・・。
いや、失礼したお客人。見苦しいものを見せてしまったな。」
「構わんよ。その二人がサボっていたのは事実だ「「ひどっ!!」」・・・うるさいぞ」
「そういっていただけると助かります。私の店はこちらになりますのでどうぞ付いてきて下さい。
黒陽、影月。そこの盗人を役人の所まで連れて行っとけ」
「「わかったぜ、おやっさん」」
「んで、戻ってきたら説教だ」
「「そりゃ無いぜ、おやっさん」」
「それじゃあ行きましょうか・・・、そういえば自己紹介がまだでしたね。
俺は『霧雨藤兵衛』、店の連中からはおやっさんと呼ばれてる」
「俺はアスカ、あいつらとは昔、職場が近くてね」
「ほぉ~」

その後、俺は藤兵衛さんの案内で霧雨道具店を目指した。



青年移動中・・・



「よし、着いたぜ。ここが俺の店、霧雨道具店だ。
ほら、中に入ってくれ」

そうして到着した道具屋はなかなかに立派な店だった。
見かけだけで評価するなら中の上、繁盛している道具屋だと分かる。
中に入ってみると品揃えも十分満足のいくものだった。
後は詳しく見て、質を確認してみるだけだ。
そう考えながら棚にある品々を見ていると、後ろから声を掛けられた。

「どうですか?アスカさん。うちの品は?」
「品揃えは満足のいくものですよ藤兵衛さん。
後はそれぞれ欲しいものを幾つか見せて貰いたいんですが、手にとっても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ。我が霧雨道具店の品はここいらでは一番のものです。
当然、手にとって確認してもらって結構ですよ。まぁ、そのせいでさっきみたいなのも出るんですがね」
「いい道具屋の宿命ですね。
それじゃあ・・・、これと・・・それと・・・それ、ちょっと見せてもらいますよ?」
「どうぞどうぞ、あ、そちらの品は奥にもっと良い物がありますからそれを持ってきましょうか?」
「良いんですか?」
「なに、あの二人の知り合いなら問題ないでしょう。普段の行いが不真面目な二人ですがアレで勉強熱心なやつらでして・・・。
あの二人の昔からの知り合いなら良い道具を譲りたくなってくるもんですよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「道具屋として当然のことですよ」
「「おやっさん。ただ今戻りました~」」
「よし、おまえらも来い。アスカさんに蔵の道具を見せて差し上げるんだ」
「「うっす!!」」

こうして俺はあまりにも懐かしく予想だにしていなかった再会を果たしたのだった。
人の縁が何処から何処へ繋がっているのかまったく持って分からないものである。


<おまけ>

町人の声

町人A「あ、あれは!『黒陽の拳』!!」
町人B「知っているのか、町人A!!」
町人A「あぁ、あの技は昔栄えた悪の組織『五流五夢』を倒すために編み出された黒き王の必殺技らしい」
町人B「すげぇな・・・」
町人A「まったくだ・・・。んな?!あれは!『影月脚』!!」
町人B「再び知っているのか、町人A!!」
町人A「あぁ、あの技も五流五夢を倒すために編み出された必殺技とのことだ」
町人B「すげぇな・・・あんな警備兵雇ってる店には近寄れないぜ」
町人A「まったくだな・・・他で買うとしよう」

霧雨道具店移転前の町人の噂
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回の話を作り終わって気付いたことが一つ。
・・・少女が一人も出ていない!!
東方二次のはずなのにorz
そんなことを考えながら次の話をどうするか頭を悩ませるお手玉の中身でした。

では、次回予告です
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今回の次回予告は姫様の代わりに私がやりますね

誰にも期待されてなかった再会
アスカさんどころか読者もがっかり過ぎた再会
次の話は舞台を移して漁村の話
時を飛ばすために新たな一工夫

次 回
 「思いつきで作った、後悔はしていない」
           えーりんそんな予告でホントに良いの~
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[10620] 今回は田吾作の話を伏線にしてみた
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/13 19:28
「亀の鈍間~」「鈍足亀~」「亀覇目波~」

なんだあれ?
俺は霧雨道具店から新しいの薬剤調合用の道具を仕入れると、そのまま日本各地を渡り歩くような旅を再開した。
そんなある日、丹後と呼ばれる国に寄った俺の目の前に亀を囲んでいじめる子供の集団が眼に入った。
なんとも子供はむごいものである。
ここは止めるところだろうと考えた俺はそのまま子供の集団に近づいていった。

「「おい!そこの子供達」」
「ん?」「なんだよ?」「兄ちゃん達??」
「「ん??」」

自分の同じタイミングで声を掛けた奴がいる。
声のした方を見てみると、俺と同じように驚いた表情をしている男が一人。
どうやら同じ考えだったようで、俺と同時に声を掛けたようだ。
まったく気付かなかった。
俺が驚いたまま呆けていると、男は子供達に向き直り注意を始めた。

「こらこら子供達、亀をいじめてはいけないよ」
「いじめてんじゃないよ」「遊んでるんだよ」「だよ~」
「それでもだよ。ほら、亀をこちらに渡しなさい」
「「「やだ~~~」」」
「困ったな~・・・・・・」

どうやら子供達は亀を放す気、もといいじめるのを止める気は無いようだ。
「(やだじゃねぇだろ・・・。餓鬼共が・・・)」
俺がそうやって考えながら、さてどうしたものかと悩んでいると、
子供の相手をしていた男が自分の竹魚籠を見せながら再び口を開いた。

「それなら俺の釣ってきたこの魚と交換でどうだ?さっき釣って来たばかりだからうまいぞ~」
「う~ん・・・」「それなら・・・」「いいよ~」
「そうか、それはよかった。それじゃ・・・はい、交換だ」
「「「わ~い♪」」」

子供達は魚を男から受け取るとそのまま走り去ってしまった。
俺が悩んでいる間に解決するとは・・・できるなこの男。
それはともかくとして・・・

「おいあんた。いいのか?」
「ん?なにがですか??」
「いや、なにがですか。じゃなくて、さっきの魚・・・釣ってきたって事は今日の晩飯か何かじゃなかったのか?」
「あぁ、そのことですか。別に構いませんよ、それでいじめられていた亀を助けることが出来るんですから」
「あんたな~・・・」

男は俺の質問に対して亀を助けたことへの満足そうな笑顔で答えた。
呆れたお人よしだ。
世の中、良い人間や悪い人間は当然いるがここまでお人よしなのは珍しい。
そして、それを心配する俺もまたお人よしだ。
俺は内心、自分に対しても呆れながら自分の荷物を男へ差し出した。

「はぁ~・・・、それじゃあこれやるよ」
「これは、干し肉ですか?何で??」
「なに、俺もそこの亀を助けようと思ってたからな。
それに干し肉はまだあるし、同じように亀を助けようとしたあんたに渡しても問題ないだろう?」
「いえ、こんな・・・受け取れませんよ」
「いいから受け取っておけ。亀を先に助けてくれた俺からの礼だと思って」
「はぁ・・・、それでも受け取れません!!声を掛けたのは同時でしたし」
「頑固だな・・・、それならこうしよう。
俺は今晩泊まる宿を探しているんだが、あんたの家に止めてくれないか?その礼がこの干し肉だ」
「どっちが頑固なんですか・・・、分かりました。
家まで案内しますから着いてきてください。っとその前に、僕は『太郎』と言います。あなたは?」
「俺はアスカだ。今夜一晩よろしく頼むぜ」
「はい。っと、その前に亀を海に逃がして起きましょう。
ほら、もう捕まるんじゃないよ。」

そう言って太郎は亀を海へと返した。
太郎と俺は亀が海へもぐり姿を消すのを見送ると共に太郎の家へと歩き出した。
その後、俺は太郎の案内で家へと招かれた。
太郎の母は子の親にしてこの子ありと言いたくなるような善人で、太郎の話を聞くとよい事をしたねと太郎をほめた。
その光景は妖怪の山で過ごした仲間との日々を思い出させてくれた。

そして次の日・・・
俺は太郎と共に海へ釣りに来ていた。
俺の保存食の中に干し肉しかない事を太郎に伝えたところ、一緒に釣りをして干し魚にしないかと誘われたのでつれて来てもらったのである。
そうしてつれて来てもらった海岸で釣り糸を垂らすと太郎が口を開いた。

「アスカさん、この辺は穴場になってますから魚もよく釣れるはずですよ」
「さすが地元漁師。
余所の人間が知らない釣り場をよく知ってるな」
「ははは、それほどでもありませんよ」
「いやいや、十分に自慢していいことだぞ」
「ありがとうございます。っと、アスカさん!竿、引いてますよ!!」
「なに?!ほんとだ!」

そのまま俺と太郎、合わせて10尾ほど釣り上げた頃だろうか・・・。
海から何か・・・ではなく亀が2匹やってきた。
なんだこの亀はと俺と太郎が顔を合わせて不思議に思っていると亀が口を開いて喋り始めた。

「ふむ・・・、あなた方が太郎殿とアスカ殿ですかな?」
「「そうですが(だが)・・・」」
「儂は昨日助けていただいた亀の母の兄の父親の妹の友人の爺ですじゃ」
「まるっきり他人(他亀)じゃないか・・・」
「だよね・・・」
「ごほん、それはどうでも良いとしまして、
件の亀を助けていただいたお礼に我らが姫があなた方を城へ招きたいとの言伝を預かって来ましての、いかかじゃろうか?
これより我らと共に来てはくださらんか?」
「はぁ・・・、どうしようか?」
「実際に助けたのは太郎だし、お前が決めればいいよ」
「う~ん、よし。
分かりました。そういう事でしたらお招きにあずからせてもらいます」
「ほっほっほ・・・、それはよかった。でしたら太郎殿は儂の、アスカ殿はそちらの亀の背に乗ってくだされ。
儂等の背に乗っておれば城へ行くまで安全に行けますゆえに」
「分かりました」「おう」

そうして俺達は亀の背に乗って海へ潜って行った。
水圧だとか呼吸だとか色々と質問してみたが、亀から「儂等の背中ですからじゃ」の一言で全て片付けられてしまった。
亀の背中、もとい甲羅は素晴らしいものだ・・・今度、田吾作の甲羅についても聞いてみることにしよう。
周囲か明るい青から暗い青へ、そこから真っ暗闇になっても太郎たちは見える不思議。
それから更に潜っていくと、この真っ暗闇の世界に不似合いな明るい場所が見えてきた。
どうやら目的地の城へ着いたらしい。

「ようこそお客人。ここが儂等の城、『竜宮城』じゃ」
「(竜宮城?・・・聞いたことがある気がしたが、どこだったかな?・・・まぁ、思い出せないならどうでもいいか)」
「ん?アスカさん、どうかしましたか」
「いや、なんでもない」
「ほっほっほっ、どうですじゃ、竜宮城は。素晴らしいものでしょう」
「そうですねお爺さん」
「たしかに」
「ほっほっほっほっほっ・・・」

そして到着したのは竜宮城。
近くに来てみてよく分かったが、竜の城だけあって立派なものだった。
そして、亀に連れられるまま中に入ってみると老舗旅館のように女性が一列に並んでおり、
こちらを確認するやいっせいに頭を下げてきた。

「「「「「ようこそ、竜宮城へ」」」」」

その対応に俺と太郎が驚いていると、列の真ん中にいた女性が一歩前に出て笑顔を浮かべながら歓迎の言葉をつむいだ。

「ようこそいらっしゃいました。太郎様、アスカ様、この度は亀を助けていただき本当にありがとうございます。
つきましてはお礼に、この竜宮へお招きさせていただいた次第です。
申し送れました、私はこの竜宮の管理を任されています『乙姫』と申します」
「・・・あ、ありがとうございます。僕が太郎です」
「一応名乗らせてもらうとアスカだ。亀を助けたのはどっちかと言えば太郎のほうだから俺はおまけだな」
「っちょ?!アスカ君」
「いえいえ、アスカ様も私共にとっては大事なお客様。精一杯歓迎させていただきます」
「あ~・・・、どうも」
「さて、何時までもこんな所でお二人を立たせておくのも失礼ですね。どうぞ奥の方へいらっしゃって下さい。
歓迎の宴の席が整っております」

そうやって俺と太郎は、乙姫に促がされるままに奥の座敷へ上がり宴を楽しませてもらうことになった。
それからはまさに、此処こそが楽園かと言うような毎日だった。
3食出てくる食事は基本が海鮮料理だったがうまい。
宴の席で見せられる女官(竜宮の女性達は女官と言う立場らしい)達の踊りは見事の一言に尽きる。
竜宮内に設置された四季の間はそれぞれが各季節を彩る素晴らしい広間。
そして何より、旅をしている間に何度と無く現れた雑魚妖怪が出てこない・・・これが一番素晴らしかった。
また、乙姫から聞いた話によると竜宮城とはこの一つだけではなく他にも用意されておりそこに住む女官が管理しているとのことだ。
そもそも、竜宮城自体が竜神の休息の場らしくめったに帰ってこない竜神がいない間は管理者、つまりは女官たちの自由にしていいそうだ。
竜神様・・・ホントにいたんだ。
祈っていたのも存外に無駄じゃなかったんだな。
そんなある日だ、

「母さん・・・どうしてるかな・・・」

太郎が何時からか遠くを見るような目をしていると思ったらこんなことを言い出した。
不老である俺は友達も基本、妖怪などだったため時間の心配はしていなかったが、普通の人間である太郎はその限りではなかった。
その一言が皮切りになったのか、太郎はその日のうちに乙姫へ自分が家へと帰る旨を伝えた。

「すみません乙姫様、折角招いて頂けたというのに・・・。
家に残してきた母が心配なので、そろそろお暇しようと思います」
「そうですか・・・、残念です。アスカ様も・・・お帰りになられるのですか?」

太郎は問題なく帰れそうだが乙姫のあの残念そうな顔を見せられては流石に俺まで帰ることは出来そうにない。
俺は内心ため息を吐きつつ、顔では笑顔を浮かべて答えた。

「いえ、俺はもう少しお邪魔させてもらいます。太郎、お袋さんによろしく伝えてくれよ」
「分かったよアスカ君。陸に戻ったら家によってくれよ?また歓迎するからさ」
「おう、楽しみにしてるよ。それじゃあ乙姫さん、太郎を送ってくれ」
「はい、太郎様此方へどうぞ。アスカ様は、自由にお寛ぎください」

そうして太郎は乙姫に案内されて竜宮城の外へと去って行き、
俺はそのまま竜宮でしばらくの休息を楽しむのだった。


<おまけ>

もふもふA「やった・・・、やったぞ~~~!!」
もふもふB「おめでとう、もふもふA」
もふもふA「ありがとう、もふもふB」
田吾作  「お祝い事があると聞いてきやした」
もふもふA・B「「田吾作さん」」
田吾作  「なにやら嬉しそうでやすが、何かお祝い事でも?」
もふもふB「そうなんです」
もふもふA「とうとう念願の能力、『剣を扱う程度の能力』を手に入れたんだよ♪」
田吾作  「ほほぉ、そいつはおめでとうでやんす」
もふもふA「ありがとう」
田吾作  「となると次は能力を成長させるでやすか?」
もふもふA「能力の成長??」
もふもふB「どういう意味なんですか田吾作さん」
田吾作  「そういえば説明してやせんでしたな・・・、良い機会でやすからここで説明するでやす」
もふもふA・B「「お願いします」」
田吾作  「今回の説明は後天性能力の成長に関してでやす」
もふもふA「後天性能力って言うと・・・」
もふもふB「さっきもふもふAが手に入れたみたいな努力で手に入れる能力のことですよね?」
田吾作  「そうでやす。後天性能力は先天性能力と違い修行を積めばどんどん手に入れることが出来るでやす。
     もちろんある程度の才能は必要でやすが」
もふもふA・B「「ふむふむ」」
田吾作  「それゆえに、後天性能力はその後、更に修行を積むことで先天性能力の鬼才型のように発展させることが出来るでやす。
     これを秀才型と呼んでいるでやす」
もふもふA「秀才型・・・」
もふもふB「なんで鬼才型じゃないんですか?」
田吾作  「先天性と後天性の違いもありやすが、一番の違いは修行の仕方で能力がまったく違うものになるでやす」
もふもふA・B「「えぇ~~~!!」」
田吾作  「例えば『剣を扱う程度の能力』が強くなると『剣術を扱う程度の能力』になる可能性もありやすが、
     別の可能性として『刃物を扱う程度の能力』になる可能性もあるでやす」
もふもふA「『剣術を扱う程度の能力』・・・」
もふもふB「『刃物を扱う程度の能力』・・・どう違うんですか?」
田吾作  「その名の通りの違いでやす。剣術を使えるようになるか、それとも剣だけでなく斧や槍などの刃物を扱えるようになるかの違いでやすな」
もふもふB「なるほど・・・」
田吾作  「注意しないといけないのは間違った修行をすると逆に弱くなってしまったり強くなっても条件が限定されてしまうでやす」
もふもふA「っえ?!弱くなっちゃうの!!」
田吾作  「でやすよ。弱くなった場合は『剣を少し扱える程度の能力』、
     条件が限定された場合は『逆境で剣をうまく扱える程度の能力』といったところでやすな」
もふもふB「あれ?田吾作さん。条件が限定された場合は能力が強くなってるようにも見えるんだけど・・・」
田吾作  「ある意味正しいでやすよ。条件の限定、使う場面が決められてしまってるせいでそこにだけ集中的に力が集まる結果でやす。
     その代わりに他の場面では同じ能力は使うことが出来なくなってるでやすがね」
もふもふA・B「「なるほど~」」
田吾作  「付け加えるなら秀才型は単純に修行する以外にも何か衝撃的なことに出くわした場合にもなる可能性があるでやす」
もふもふB「衝撃的なことですか?」
田吾作  「でやす。例えば自分の能力と似た能力を持った存在に命を助けてもらった時、その存在に憧れて似たような力に発展する可能性があるでやす」
もふもふA「へ~」
田吾作  「他には、大事な存在、家族や友達が死んだ時なんかにもその原因を排除しようと能力が変わる可能性があるでやすな」
もふもふB「そうなんですか」
田吾作  「でやすよ。だから能力を鍛える時には注意しながらどんな能力にしたいかしっかり考えるでやすよ」
もふもふA・B「「は~い」」

田吾作の能力談義『上つ弓張編』より抜粋
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
正直、今回の話は大体の人が結末を予想できる内容じゃないかと考えています。
予想通りになると・・・なんともシリアスな展開にorz
お手玉の中身は悲しいシリアスは嫌いなのです。

まて、次回!!
っと言うわけで次回予告を彼に任せます。
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今回の予告は僕がさせてもらうよ

僕が陸に帰った後も竜宮での生活を楽しんだアスカ君
でも、どんなに楽しくとも終わる時は必ず来る
そうして陸に帰ったアスカ君が知ることは・・・

次 回
 「アスカ君・・・また、会えると良いね」
          ・・・こんな流れでいいんだろうか by.kami
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[10620] 永遠の別れ
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/14 17:09
太郎と別れてからどれほど経っただろうか、もうそろそろ俺も家に帰るかなと考え出した。
そもそも、亀を助けたのは太郎で俺はおまけみたいなものだ。
そんな俺が何時までも図々しく此処で暮らすのは虫が良すぎるだろう。
思い立ったが吉日か、乙姫に早速、自分もそろそろ変える旨を伝えた。
すると乙姫はやや残念そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に切り替え口を開いた。

「分かりました。残念ですがお帰りになられるのでしたらしかたがありません。
お土産に此方の玉手箱をお持ちください。ただし、決して開けてはいけませんよ」
「お土産はうれしいんですが開けるなって・・・それホントにお土産になるんですか?」
「・・・そうですね~、一応竜宮へ来た方に渡すことになってるんですが・・・言われて見るとそうですよね~」
「「う~ん」」

俺と乙姫は二人揃って頭を抱えてしまったが、
何時までもそうしてるわけには行かないのでお土産は受け取らずにそのまま陸へ帰ることにした。
俺の見送りには、やってきたときと同様に女官達が一列に並び頭を下げていた。
その中で乙姫だけがこちらを見ながら告げてきた。

「では、アスカ様。またお会いできる日を楽しみにしていますね」
「おう、乙姫さんもそれまで元気でな」
「はい」

そうして俺は竜宮城の面々に見送られて陸の世界へ帰っていった。
ちなみに帰りも亀の背中だった。
田吾作の甲羅・・・帰ったら調べる必要がありそうだ・・・



青年帰還中・・・・・・



「それじゃ、乙姫さんにもよろしくな」

そうして帰ってきたのはあの海岸、俺は亀の背から降りると海へ潜っていく亀に一声掛けた。
そのまま亀が完全に海中へと姿を消すのを確認した俺は一度、太郎の家によることにした。
何より本人から一度寄ってくれと頼まれていたんだし、問題は無いだろう。
そう考えながら太郎の家へと足を進めた。
ただ・・・、不思議なことに道中での漁村の風景がどうにも記憶と一致しない。
まるで・・・、そう、まるで少し豊かになっているような感じだった。

そして辿り着いた太郎の家は・・・ぼろぼろに崩れた廃墟となっていた。
不思議に思った俺はもう一度海岸まで戻り、太郎の家までの道のりを思い出しながら再び進んだ。
結果は変わらず・・・辿り着いたのはさっき見た廃墟だ。
廃墟の様子を見る限りでは10年、いや、20年は放置されているようだった。
おかしい・・・おかしすぎる・・・
確かに竜宮でそれなりの時を過ごしたものの、何十年も過ごしていた訳ではない。
何より太郎と分かれてからは数日しか経ってなかったはずだ。
俺は探した。
俺の覚えている太郎の家を。
ただ探した。
俺が覚えている太郎の顔を。
もちろん村の人間にも聞いて廻った。
しかし、『太郎』なんてありふれた名前は珍しくなく、顔や背格好で聞いてみたものの、結局全てがはずれで終わった。
村にある家も調べた。
一軒、一軒、また一軒、村中を調べた。
・・・・・・見つからない・・・見つからない・・・・・・違う・・・この家も違う・・・

ど こ に も な い

だ れ も し ら な い


頭がおかしくなりそうだった。
気付いてみれば、陸へ辿り着いた時には東の空にあった太陽も、もう西の空に沈もうとしている。
なぜ見つからない?なぜ誰も知らない?
太郎はいたはずだ。
あのお人よしは確かにこの村にいたはずなんだ。
俺は更に探し続けた。
日が暮れた。
空には星と月が輝いている。
村の家々からは暖かな団欒の明かりが漏れ出していた。
今日はこれ以上探すことは無理そうだ・・・何よりおれ自身が冷静になれていない。
やっと冷えてきた頭でそう考えた俺は太郎の家と同じ場所にあった廃墟で一晩過ごすことにした。

きっと、明日こそはあのお人よしの笑顔を見れると信じて。


夜が明け、日の出と共に俺は動き始めた。
朝早くから漁に出かける直前の漁師を捕まえては太郎の特徴を伝えその所在を聞いて廻った。
収穫は無くともあきらめなかった、漁師がダメなら昨日聞けなかった村人から再び聞いて廻った。
これも結局は収穫が無かった。
誰に尋ねても一言目は「知らない」二言目には「だれだ?そいつは」これだけしか返事は返ってこなかった。
ありえない話だ。
村人全員が太郎を知らない・・・いや、存在していないかのように反応してきた。
太郎は間違いなく存在し、この村で生き、あの日俺と共に竜宮へ行ったというのに。
そうやって俺が思い悩んでいると広場から子供数人と老婆の声が聞こえてきた。

「お婆ちゃん、それで浦島太郎はどうなったの?」
「竜宮城から帰った浦島太郎は幸せになったんでしょ」
「じゃあ、続きを話そうかねぇ・・・」

浦島太郎・・・昔話であったような気がするが今一思い出せない・・・
俺はこのまま探し続けてもすぐには成果が出ないと考え、気分転換のために老婆の話を聞くことにした。
老婆は切り株に座り首をまわして子供達を見渡すと再び語り始めた。

「亀を助けたお礼に、竜宮城へ招かれた浦島太郎。
楽しい宴の毎日であったが家に残した一人の母が心配になった。
浦島太郎は竜宮城の乙姫様に母のことを伝えると家に送ってもらったそうな。
此処までが、昨日の話しだったよね」
「「「うん!!」」」

・・・今の話は・・・太郎の話か?
俺のことが出ていない事と、名前が違う事以外がほとんど太郎の境遇と同じ内容だった。
一人俺が不思議に思っている中、老婆の語る物語は進んでいく。

「じゃあ続きさね。
亀の背に乗り、陸へ帰ってきた浦島太郎。
乙姫様から貰った玉手箱を片手に懐かしい家へと帰ってきた。
しかし、帰ってみると中からでてきたのは、母ではなく見知らぬ男だった。
浦島太郎は不思議に思い母の行方を尋ねた。
見知らぬ男は語った。
その女性なら釣りに出かけて帰らなくなった息子を思うあまり、病に倒れてなくなってしまったと。
浦島太郎は知った。そして泣いた。
竜宮城へ行っている間に、何十年という時を過ごしてしまっていたことを知り。
自分が遊んでいる間に、自分を心配しながら死んでしまった母を思い。
ただただ、ひたすらに泣いた。
泣き続けて一晩が経った頃、浦島太郎は玉手箱のことを思い出した。
もしかしたら、この玉手箱で何とかなるかもしれないと考えて。
浦島太郎は母とよく来た岬で箱を開けることにした。
岬に到着し玉手箱を開けてみると中からは白い煙のようなものがあふれ出してきた。
その煙を浴びた浦島太郎は見る見るうちに白髪と皺を増やして行き、お爺さんとなってしまった。
お爺さんとなってしまった浦島太郎が不思議に思っていると海の中から乙姫様が現れた。
乙姫様は語った。
玉手箱の中身は竜宮城にて過ごした時、浦島太郎の年齢が入っていたのだと。
それをあけた今、竜宮城で過ごした年月が全て浦島太郎に帰ってきたのだと。
浦島太郎は泣いた。なぜそれ程になるまでと。
泣きながら、今にも死に逝かんと倒れた。
乙姫様はそんな浦島太郎を哀れに思い、その肉体を鶴へと変えられた。
浦島太郎は鶴となり、悲しげに一声鳴くとそのまま空へと去っていった。
これが浦島太郎の話じゃ。
浦島太郎は本当におった若者でな、その墓がこの先の岬に今でも残っておる。
皆も一度は行ってみるといいぞ」
「「「は~い、お婆ちゃん」」」

子供達の元気な返事を聞き流し、俺は老婆の話にあった岬へと走っていた。
老婆の昔話を信じるなら浦島太郎とは、あの太郎のことで間違いないはずだ。
10分ほど走った場所に岬はあった。
少々分かりにくい場所だったため時間がかかってしまったが此処で間違いないはずだ。
岬には一つの墓が建っており、こう書かれていた。

『釣り人 浦島の太郎 此処に眠る
    いつの日か我が家を訪ねる友が無事に帰り着かん事を祈って』

あぁ・・・・・・、太郎・・・
おまえはやっぱりお人よしなんだな・・・
死んだ後にまで・・・人のことを心配してるんだから・・・
とんだ、お人よしだよ・・・

玉手箱の事を乙姫は知らなかった。
と言うよりもあの様子なら知らされていなかったのだろう。
竜宮城そのものが、人間の立ち入るべきでない聖域だったのだ。

その日俺は、母と別れて以来流したことの無い、悲しみの涙を流した。
昔話にあった、太郎と同じように、ただ、一晩中泣き続けた。

<おまけ>

「っむ?!羅豪殿・・・、やはり行ってしまわれるのか?」
「仕方あるまいよ、地上の人間共は鬼との闘いを忘れてしまった。そのような地上には何の楽しみも無い」
「しかし・・・、お弟子、アスカ殿が、我らの友がいるではないか」
「確かに・・・、あいつのことは心残りではあるが・・・、なに、今生の別れでもあるまいし生きているならまた会いにも来れよう。
いや、地獄を住み易くしてあいつを招くほうが面白いか」
「ふむ・・・、羅豪殿はそれで良いのか?アスカ殿も共に連れて行けば・・・」
「それが出来んのは天魔殿も分かっているだろう。俺様たちは鬼だがアスカは人間だ。
どれほど強くなろうとも地獄の環境で長く暮らせるわけも無いだろう」
「なら、やはり・・・」
「応、アスカが旅立ってる間に俺様は行かせてもらうぜ。他の鬼たちもそれぞれ遣り残したことを終わらせ次第、地獄へ降りてくるだろう」
「そうか・・・、友が去ると寂しくなるな」
「ふん、アスカがすぐに帰ってくる。何が寂しいものか、天魔ともあろう者が」
「じゃったな・・・、確かに、儂らしくなかった」
「ふん、ならば一時の別れをこの盃に込めるとしよう。そうさな・・・この場にはおらぬ我が子の分も含めてな」
「我が子?羅豪殿にお子がおられたか?」
「アスカのことよ。あいつは小さき頃より弟子として俺様が育てた・・・、まさに我が子のような存在よ」
「なるほどな・・・。では、一時の別れに!」
「一時の別れに!」

鬼が幻想からも消え去りだしたある日の話
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
浦島太郎編、いかがでしたでしょうか?
悲しいシリアスは嫌いなはずなのに書いてしまったこの結末・・・
ちなみに、本来の浦島太郎は竜宮で700年の時を過ごすんですがこの作品ではそこまで時を飛ばすと一気に原作入り、
下手すると原作飛び越えてしまうので百余年程度に収めておきました。
流石にその間にあるイベントすべて素通りは書き手としてもつらすぎる・・・。

でわ、次回予告に参りましょう
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竜宮の話なのに出なかった私は空気が読めていないんでしょうか?

太郎との別れは望郷の念をアスカに抱かせる
懐かしい道のりは同じようでどこかが違う
珍しくも迷子にならず辿り着いた幻想郷
帰り着いた郷で待っていた歓迎とは?!

次 回
 「帰るたびに何かが起こる、それが主人公の宿命」
               衣玖~!私にも出番をよこしなさいよ~!!



[10620] 祈るなら神ではなく竜神様に
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/15 09:51
人間の友人、太郎のために一晩泣き明かした俺は自分の家に帰ることに決めた。
浦島太郎の話通りとするなら竜宮城で過ごしたのは数日どころか百余年になっていそうだからだ。
実際に、霧雨道具店に寄ってみると違う道具屋が建っており、聞く話によればもう随分昔に移転したとの事だ。
こうなると警備兵コンビ・・・黒陽と影月に出会うことももう無いだろう。
なんだかんだであの二人も友人みたいなものだっただけになんとなく悲しいものである。
早く友達や仲間に会いたい、そう考えた俺の足は自然と速くなり幻想郷への道のりを辿って行った。
はずだったのだが・・・

「どうなってんだ、これは?」

幻想郷に近づくにつれて妙に強い妖怪や妖獣と出会う。
その上、なぜか幻想郷に入ることが出来ない。
何か・・・、見えない力に邪魔されているかの如く。
どうにも厄介事があるようにしか考えられない。
とは言え、俺の家は幻想郷の妖怪の山・・・此処で引き返すわけにも行かない為、自分の能力を使いながら進んでみることにした。
すると能力に違和感が感じられる。
名前をつけるなら・・・『不可視の影響から逃げる程度の能力』
そうして変質した自分の能力を改めて自覚し、山と森を抜けると・・・そこは懐かしい幻想郷の風景だった。
よかった、今度は無事にたどり着けたようだ。
何が邪魔していたのかはよく分からないがその辺りは師匠か天魔殿辺りに聞けば分かる事。
俺は妖怪の山、自分の家を目指して歩き出した。

「そこまでだ!侵入者!!」

ま た こ れ か !!
さぁ行こうと思い足を踏み出した瞬間に呼び止められるとは思っても見なかった。
と言うよりもいい加減、このパターンはやめて欲しいものだ。
助けて竜神様。
俺はそう考えながら振り返ると、新たなる感動、衝撃と出会った。
見た目は道士風の服装に頭の天辺で二股になっている、ピエロ帽のような変わった帽子をかぶっている女性だったが、
その背には信じられないものがついていた。
九つの黄色いもふもふだ!!
何と表現すればいいのだろうか、白いもふもふは一人一つだったのにあの女性は欲張りに九つも持っている。
素晴らしい、この感動を何と表現するべきなのか。
あのもふもふは狐の尻尾みたいだからもふもふ狐と呼ぶことにしよう。
そうやって俺が感動に打ち震えているともふもふ狐が呆れ顔で口を開いた。

「ふぅ・・・、今回のあの方の計画では幻想郷に人間が入る事は織り込まれていないのよ。
運が悪かったと思って・・・ここで消えて頂戴

もふもふ狐は何かを諦めたかのように呟くと、その直後に五つほどの炎の塊を周囲に浮かべ、それを此方へ放ってきた。
五つの炎はどれも人の頭よりふた周りほど大きな状態で当たれば消し炭になってしまいそうだった。
とは言え、黒いのに比べればなんて事はない。
人の口上すら聞かない点では黒いのよりも性質が悪いが、攻撃が目に見える分には黒いのよりも遥かにぬるいと言える。
どれほどの脅威であろうと眼に見えているならかわす事は容易く、どれほどの速さで飛来しようとも黒いのの風に比べればあまりに遅い。
一発目と二発目は身を捻り、三、四発目はかわした後の体勢のまま当たることすらなく横を素通り。
直撃しそうになった五発目は握った拳で殴り飛ばしてかき消してやった。
普通に当たったのなら消し炭になるのは此方だが、法力で拳を守っていれば多少熱い程度で一瞬の接触なら何の問題も無い。
そう考えながらもふもふ狐に改めて目を向けると、信じられないものを見たといった表情で呆然としていた。

「嘘でしょ・・・、私の狐火を素手で殴るなんて・・・、あなた本当に人間?!」
「人間以外の何に見えるってんだ!・・・狐火って事はおまえは狐の妖獣か?」
「ふん、妖獣と同列にしないで貰えるかな。私はあるお方の式神。
確かに狐が基になっているけど、妖獣とは比べ物にもならないわよ」
「なるほど・・・、つまりは比べ物にならないほど弱いと」
「何でそうなるのよ?!強いわよ!私は!!」
「そうなのか?」
「何で疑問系?!そうなのよ!!」

もふもふ狐は俺との会話が気に入らなかったのか、怒気を体から発しながら新しい狐火を作り出し再び俺に放ってきた。
その数は先ほどの倍、十はあるだろう。
しかし、数が増えたところで結果が変わるわけでもなく黒いのの風に比べれば本当にぬるい攻撃だった。
当たれば消し炭になるんだろうが軌道の読める攻撃がかわせないわけもなく、準備していれば十分に迎撃できる程度の物だ。
とは言うものの、絶え間なく放ってくるものだから近づくことが出来ない。
黒いのとの戦いでは投げる物があったからいいが、ここには投げれるものなんて何もなかった。
さてどうしたものかと考え始めた時、もふもふ狐に変化があった。

「っく!まさか人間に私の狐火がこれほどかわされるとは思っても見なかった」
「単純にお前の攻撃が鈍間なだけだろ?」
「っな?!こしゃくな人間め!それならこれでどうだー!!」

もふもふ狐は攻撃方法を変えたのか狐火を小さくしその代わりに数をやたらと増やして飛ばしてきた。
なんとなく散弾銃をイメージできる。
しかし、これはチャンスだ。
あの程度の大きさと威力なら・・・多少当たっても痛いぐらいですむ。
俺は自分の考えを信じて正面から狐火の雨の中に突撃した。
もふもふ狐との距離は10メートルほど・・・そのくらいは走ってしまえば一瞬なのだが・・・、
この狐火予想以上の威力だ。
体に接触した狐火はその場で小爆発を起こし他の狐火を誘爆していく。
それでも今更引き返せる分けも無く爆発の中を突き進んだ。
そして爆炎を抜けた先には、もふもふ狐の真正面!!
爆炎で多少の傷を負ったものの、この程度ならまだいける。
もふもふ狐は俺が目の前に出たことに驚いているのか唖然とした表情で固まってしまっている。
爆炎から突き抜けた低い姿勢のまま俺は拳を握り締めると、もふもふ狐へ叩き込んだ。
しかし、もふもふ狐は抉りこまれた拳に苦しそうな表情を作りながらもその手、爪を振り上げ俺の首筋めがけて叩き込んできた。

「死ね!」
「冗談!」

鮮血が舞う。
とっさに首を庇うように殴ったほうとは逆の腕、左腕で防御をしたものの、
もふもふ狐の爪は鋭く、首を狩れずともしっかり人の腕を切り裂いていった。
もふもふ狐は攻撃の失敗から、俺は痛む腕を庇うため、お互いにはじかれる様に後ろへはね跳んだ。
冗談ではない、黒いのの時とは違い手加減無しで殴り、更には完璧に近い当たりだったと言うのに反撃するほどの余力を残すとは完全に予想外だった。
見た目こそ肉弾戦向きに見えない道士風の格好だが・・・耐久力はまったくの別物だったらしい。
俺は離れた状態のまま苦しそうにしているもふもふ狐へと悪態をついた。

「っち?!どうゆう体してんだよおまえは!しっかりと体にめり込んでただろうが!!」
「ごほっ!それは私の言葉だこの化け物が!!幻術に惑わされずに私に向かってきたかと思うとアレほどの威力の拳を・・・おまえ本当に人間か?!」
「うっせ!俺はまだ人間やめたつもり無いぞ。もふもふ狐が!!」
「もふも・・・って!・・・人間・・・殺してやるぞ!!!
「やってみろ!もふもふが!!」

俺は宣言するやもふもふ狐に向かって駆け出した。
もふもふ狐も俺のもふもふ宣言に怒ったのか憤怒の表情を浮かべ、後退しながら新しい狐火を次々にはなってきた。
狐火は俺を狙うものから避けた先を予測したもの、まったく当たるはずもないばら撒かれたものまである。
狐火の大きさは最初のものに戻ったが、飛んでくる早さが全然違った。
耳元で唸りを上げて通り過ぎていく狐火の音を聞きながら、その狐火の余熱に肌を焼かれながら、ひたすらに前へ前へと走り続けた。
もふもふ狐の耐久力が予想以上にあった上に左腕からは血が出続けている。
長期戦をするには条件がわるすぎた。
迫り来る炎から時には伏せ、時には身を翻しながらかわし前へと走り進んだ。
幾つもの炎をかわしきり、ようやく視界が開けたところに飛び込んできたのは、先ほどと同じもふもふ狐の信じられないといった顔だった。
先ほどの焼き回しであるかのように俺は拳を握り締めもふもふ狐へと叩き込んだ。
もふもふ狐も今度は呆けていなかったのか両腕を交差させて防ぎに入った。
だが、単純に力や速さでは俺のほうが上だったらしくもふもふ狐は防ぎながらも痛みに耐えるような顔に変わった。
ここで離れてしまったら、短期決戦はもう無理だ。
そう考えた俺は、もふもふ狐をその場から逃がさないように拳と足による打撃を重ねていった。
もふもふ狐も離れることを諦めたのか爪を構え迎撃を仕掛けてきた。
一発殴り込めばその隙に爪が顔面をえぐろうと迫り来る。
顔をそむけてかわすと同時に蹴りを放つと蹴りを受け止めながら軸足を払うように蹴り返してくる。
払われないように飛び上がりながら蹴りを放てば身をかがめてかわした後に爪を全力で振るってくる。
そのまま数分ほど攻防をお互いに繰り返し続けただろうか。
俺の体はもふもふ狐の爪によっていたるところから血を流しているものの、左腕に比べれば問題ない程度。
もふもふ狐はそのダメージを体に溜め込んでいるのか足元がかなりおぼつかなくなっていた。
耐久力の違いからより多くの攻撃を当てなければいけなかったがやっとここまでダメージを与えることが出来た。
ここまできたら、しっかりとトドメの一発を叩き込んでやる。

「はぁ、はぁ、ふぅ・・・、つぶれる覚悟はいいか?まぁ答えは聞いてないけどな・・・」
「はぁはぁはぁ・・・っつ、本当に人間なのか・・・」
「人間だよ、てめぇを倒せる程度のな!!」

俺は最後の言葉を言い放つと、以前黒いのに叩き込んだ時と同じように震脚を踏みしめ、もふもふ狐の腹へと抉るように拳を叩き込んだ。

「ぶっつぶれろ!!」
「っっっぐ!!!」

もふもふ狐は殴り飛ばされるとそのまま後ろへ飛んで行き、2度、3度バウンドをして大地に沈んだ。
その様を最後まで見ていた俺はもふもふ狐がもう動きそうに無いと思いその場に尻餅をつくように座り込んだ。

「っっっはぁ~~~!死ぬかと思った・・・」

これほどに強い妖獣(本人は式神と言っていたが)と闘ったのはこれが初めてだった。
幻想郷に近づくにつれ段々と力の強い妖怪や妖獣がやたら喧嘩を売ってきたが、
もふもふ狐はその中でダントツの強さだった。
ただ、その闘い方が強さと一致しないような気がした。
まるで誰かの力を借りて闘っているようなそんな闘い方だ。

「ったく・・・、どうなってるんだ一体?」
「それは私のほうが聞きたいことね」
「んな?!」

即座に飛び起きて声のする方に身構えた。
さっきまで俺は一人だったはずで独り言を言っていたのに、それに返事を返す奴がいるはずがない。
身構えた方向には誰もおらず、声の主を探して辺りを見渡すと・・・いた!
もふもふ狐のそばで傘を差している存在がいた。

「大丈夫かしら?藍」
「紫様・・・申し訳ありません・・・お力を貸していただいたのに・・・」
「死んでないだけで十分よ、ゆっくり休みなさい。後は私が片をつけるから

どうやら休むには早すぎるようだ。
声の様子から女性のようではあるが傘のせいで顔を見ることが出来ない・・・おそらく相手からも此方の顔を見ることはできていないだろう。
それにしても、幻想郷の傘を差した女性はみんな危ない存在なのか??
そんなどうでもいい事を考えていると、女性から声を掛けられた。

「こんにちは、人間さん。うちの藍が世話になったようね」
「いやいやそれほどでも。お礼の品は特にいらないよ」
「それじゃあ私の気が治まりませんわ。是非お礼を受け取ってください」

その言葉と共に傘を上に傾けその顔を出してきたのだが、相手はこちらを確認するとその顔を驚愕に染め上げた。
そういう俺もその顔を見て驚かずに入られなかった。
なんせ相手が・・・

「紫!」
「アスカ!」

いつぞやかの助けた妖怪だったのだから。

<おまけ>

「行ってしまったでやすな~」
「そうだね~」
「萃香様も行ってしまうでやすか?」
「わたしは・・・わたしはもう少しアスカを待つよ」
「それはよかったでやす」
「どうしてだい」
「アスカ様は寂しがりでやすから、帰ったときに仲間や友達がいなくなってると悲しむでやすよ」
「確かに、その通りだ」
「羅豪様に続き勇儀様も地獄へ行ってしまった今では他の鬼の方々も行方が知れない状態でやす。アスカ様はきっと寂しがるでやすよ」
「そうだね・・・。それでも今生の別れじゃないんだし行きてればまた会える!それを伝えるためにもわたしはもう少し待つことにするよ・・・」
「わかったでやす。なら宴会の準備をしとくでやすよ」
「ん?どうしてだい??」
「なんとなく・・・、なんとなくでやすが、アスカ様が帰ってくる。そんな気がするんでやすよ」
「そうかい・・・」
「そうなんでやす・・・」

鬼と河童の友を待つ会話
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
3度目の戦闘描写・・・そろそろまともになってきているとは思うものの、今一自己評価が下せないお手玉の中身です。
今回の話でスキマさんとの再会を目指しました。
むしろこの辺りで出しとかないともう出すことが出来そうになかった。
では、次回予告をお願いします。

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もふもふA「今回の次回予告は」
もふもふB「わたし達もふもふが行います!」

もふもふA「毎回、帰るたびに騒動が起きるアスカ様」
もふもふB「面倒なことではあるけれど」
もふもふA「必ずしも悪いことばかりでない」
もふもふB「時には古い知り合いとの再会も」

次 回
 「これが本当の再会編」
       そうでやす、それが次回予告でやすよ




[10620] 藍様危機一髪ノ巻
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/16 09:19
俺の目の前には驚愕の表情を浮かべた女性の妖怪、紫がいる。
いつぞやか怪我していたところを助けてやったのを切欠に知り合った妖怪だが・・・顔を見るまですっかり忘れてた。
紫は紫で、いまだ驚きの表情を浮かべたまま質問をしてきた。

「あなた・・・本当にアスカ?何で生きてるのよ?!」
「なんか生きてたら悪いような言い方だな?」
「人間が数百年も生きてたら不思議に思うわよ!何だってまだ生きてるのよ、しかも見た目も変わってないみたいだし・・・」
「俺の師匠の説明はしたことがあるだろう。その修行の影響で不老になってるんだよ。
お前こそなんでここに?ってかあのもふもふ狐はお前のか?!手綱は締めといてくれよ・・・」
「私は幻想郷に住んで管理をしているのよ。それと藍が迷惑を掛けたのは謝るわ。
でも、あなたが強引に幻想郷に入ったのが悪いのよ」
「家に帰るのに良いも悪いもあるかよ・・・」
「家?あなた幻想郷に住んでるの?今まで見たことないけど・・・」
「それはこっちの言葉だ。俺こそお前を見たことないぞ?」

なんとも不思議な話で俺も紫も同じ郷、幻想郷に住んでいながらお互いの話を一度も聞いたことが無かった。
お互いに頭を捻っていると怪我をしたまま放置していた左腕が今更ながら痛み出してきた。

「っつ・・・、とりあえず落ち着けるところに移動しないか?この腕の治療もしたいんだが」
「それもそうね・・・。いいわ、私の家で話を聞くことにしましょう。
大丈夫、私の能力を使えばほんの一瞬で辿り着けるから」
「なんだそれ?どう言うこt・・・?!?!」

どういう意味か紫に聞こうとした瞬間、身体が宙に浮くような浮遊感に襲われるとよく分からない空間に落とされていた。
おそらくはこれが紫の能力なんだろうが・・・周りに浮かんでいる眼?がなんとも落ち着かない。
そんなことを考えながら目を瞬かせてみると、次の瞬間には畳の上に立っている俺がいた。
先ほどまでの空間と違い和風でなんとも落ち着く場所だ。
多分ここが紫の家なのだろうが・・・、本当に一瞬で着いたな。
そう考えながら呆然としているとテーブルを挟んだ先にあった空間が何かに切り裂かれるように開き、その中から紫が上半身を覗かせた。
紫は呆然としている俺を見るとその顔に笑みを浮かべ、手に持った扇子で口元を隠しながらたずねてきた。

「ふふふ・・・、いかがだったかしら?スキマ旅行の気分は?」
「あまりいい物じゃないな。あの眼みたいな物は気分が悪くなるよ」
「あらあら」

やはり先ほどまでの空間は紫の能力らしい。
なんとも悪趣味なやつだ・・・

「っむ、何かおかしなことを考えてはいませんこと?」
「そんなわけないだろう。悪趣味な能力だとは考えたがな」
「それがおかしなことでしょう!」
「おかしいわけがあるか。誰に聞いてもあの空間が悪趣味と言わざるえないぞ!」
「・・・そうなのかしら」
「そうだよ」

既に全身を外に出していた紫は俺の言葉を聞くと目に見えて落ち込んでしまった。
自覚が無かったのだろうか?
紫はそのままあさっての方向を見て、なにやらぶつぶつと言っているがこれなら放置していても大丈夫だろう。
そう判断した俺は、手持ちの薬で自分の治療を始めた。



青年治療中・・・ついでに紫凹み中・・・・・・



「そういえばさ紫・・・あのもふもふ狐、どうしたんだ」

片手で不便ではあったものの、やっとこさ治療を終えた俺は紫に気になったことをたずねてみた。
ちなみに左腕に関しては当分の間動かせそうにない。
絶対安静、全治2週間と言った所だろうか。
紫は未だぶつぶつと言っていたが俺からの問いかけに顔をこっちに向け、

「もふもふ狐って・・・藍よ。藍なら別の部屋で寝かせてるから傷が治ったら勝手に起きてくるわよ」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫も何も・・・人間に殴られたぐらいで気絶するあの子も悪かったんだろうけど死ぬほどじゃないでしょ?
気絶しただけみたいだったし、もう目を覚ましてるかもしれないわね」
「・・・・・・すまん、死ぬかもしれん」
「は?」

紫は俺からの返答を聞くと何を言っているんだといった顔で此方を見返してきた。
たしかに、普通の妖怪退治屋やその類の人間に殴られたぐらいならあのもふもふ狐、もとい藍なら死なないだろう。
ただし・・・、

「実は・・・、鬼を殴るのと同じくらいの勢いで殴った・・・」
「っへ???」

俺は師匠の修行とその後の生活で、弱い鬼くらいなら力技で倒せることを紫に説明した。
紫は俺の言っている意味がよく分からなかったのか頭を捻っていたが、時間が経つにつれて段々と顔が青くなってきた。
そして、その顔が真っ青になった時、ようやくその意味を理解したのか勢いよく立ち上がると、

「っちょ!それホントなの?!藍!!ら~ん!!!」

っと、叫びながら別の部屋へと走っていった。
これは流石にまずいか・・・
俺は紫が出て行った方向へ慌てて駆け出した。
そして辿り着いた部屋には布団で寝かされている藍とそれを心配そうに揺すっている紫だった。

「ちょっと、藍!大丈夫なの、ねぇ!返事をしなさい!藍!!」

どうやら状況的にはあまりよろしくないらしい。
実際に藍の顔色は土気色。思いっきり死相が浮かび上がっていた・・・というより今にも死にそうだった。

「おい紫、そいつの状態は?」
「アスカ!あんたどれだけ馬鹿力なのよ?!藍の消耗が激しすぎて体力が全然足りない状態になってるわよ!!」
「つまりは体力さえ戻ればいいのか?」
「大雑把に言ってしまえばその通りよ。藍は九尾の狐を式にしたもの・・・、体力さえ戻れば自己治癒で何とかなるわ」
「それなら・・・」

よかった、それなら何とかなる。
紫の説明を聞いた俺は自分の荷物の中から滋養強壮薬、簡単に言えば体力回復の薬を取り出した。

「これを飲ませろ」
「・・・なによそれ。そんな濁った白だか黒だか分からないような色の薬見たことないわよ!!」
「いや、見た目は確かに悪いんだが・・・とにかく飲ませろ。特製の体力回復薬だ」
「・・・信じるわよ?」
「素直に信じとけ」

紫は俺から滋養強壮薬をホントに大丈夫かといった顔で受け取ると、そのまま藍の口へと流し込んだ。
・・・こいつほんとに心配してるのか?確かに処方はあってるが何か違う気がする・・・
そう俺が考えている最中もドクドクと藍の口の中に薬が流し込まれていく。
そうやって、急に口の中に薬を流し込まれたことで藍の顔は苦しげに歪んだものの、薬を飲み干した辺りから顔色がよくなってきた。
暫くすると、呼吸も規則正しくなり顔色も完全に元に戻っていた。
紫も一安心したのか全身の力が抜けたように藍の傍に座り込んでいる。
これでもう大丈夫だろう。
そう考えた俺は改めて紫に声を掛けた。

「どうだ?大丈夫だっただろう」
「怪我の原因が何を言ってるのよ・・・。でも、礼は言っておくわ。
藍を助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。ほら、さっさと立て。何時までも病人の部屋にいるもんじゃないぞ」
「私は自分の能力で戻るからあなただけ先に戻ってなさい」
「なるほど、了解」

そうして俺は藍の眠る部屋を出て元いた部屋へと戻った。
元の部屋へ戻ってみると既に紫が座って茶を飲んでいた。
空間移動能力・・・うらやましい限りだ。そんな能力があれば迷子にならずにすむのに・・・。
そう考えながら俺が机の向かい側に座ると紫が丁寧に頭を下げてきた。

「改めて礼を言うわ、アスカ。あなたのお陰で藍は助かった。
この通りよ、ありがとう」
「やめてくれ。怪我をさせたのはお前の言ったとおり俺なんだからそこで礼を言われたら自作自演もいいところじゃないか」
「それもそうね・・・。でも、藍に侵入者を追い出すように命令していたのは私だから結局は謝らないと。ごめんなさいね」
「もう過ぎたことだ。それよりも侵入者ってどういうことだ?今まで幻想郷に住んでいたがそんなこと言われた事ないぞ?」
「それは私も聞きたいことよ。幻想郷は私が管理する土地・・・いくらなんでもあなたみたいな人間がいたらすぐに見つかると思うんだけど」
「ふむ・・・、少し話し合う必要があるな・・・」
「そのようね」

そこから始まった話し合い。
俺は普段から放浪癖があり幻想郷に家を持っているもののあまり住み着いていなかったことを。
紫からは最近、幻想郷での妖怪の力が落ちてきたため妖怪拡張計画を行っていることを。

「妖怪拡張計画?なんだ、それは??」
「アスカも知ってはいると思うけど、最近の人間はより賢く妖怪と戦うようになったわ。その結果、幻想郷での妖怪の力と数がどんどん減ってきているの」
「ふむ・・・それで?」
「そこで管理者として私は幻想郷の人間を減らすのではなく、郷の外にいる強い妖怪を幻想郷へ引き込むことにしたのよ。
幸いと言うべきか、外の世界では妖怪の存在が段々と過去の物にされているわ。それを利用して、幻想郷に『幻と実体の境界』を張る事にしたの」
「幻と実体の境界?」
「えぇ、幻想郷を幻、外の世界を実体とすることで、外の世界において幻となる存在、つまりは妖怪達を自動的に幻想郷の中に引き込む結界よ」
「なるほど・・・だから人間であり結界を越えた俺は侵入者扱いになったと言うことか」
「そういうことね」

なんとも壮大な話だ。
俺が内心驚いている中、目の前の紫はのほほんとお茶を飲んでいる。
郷一つを丸々蔽ってしまう結界・・・紫の力はあの頃とは比べ物にならなくなっている様だ。
そう考えていると紫が話しかけてきた。

「そういえば、あなたはこの後どうするの?もう家に帰るのかしら」
「そうだな・・・、仲間達の顔も見たいし一度帰ることにするよ」
「そう、一応私も久しぶりに会った友達なんですけど?」
「っは、同じ郷に住んでる上に結界で外にも出られないんだ・・・またすぐにでも会えるだろう」
「それもそうね、送っていくわ。この家は人が近寄らないように変わった場所に建っているから出るのも来るのも一苦労するのよ」
「そんな辺鄙な所に作るなよ・・・」
「くすくすっ・・・、そういわないで頂戴。何処まで送ればいいのかしら?」
「それなら妖怪の山にある大蝦蟇の池まで頼む」
「分かったわ。今度は私のほうから会いに行かせてもらうわよ。藍と一緒にね」
「今度は襲わせないでくれよ」

そういってお互いに笑い合うと紫の能力で大蝦蟇の池まで運んでもらった。
空間移動能力・・・ほんとに便利だ・・・
そんな思いを心に秘めて、俺は懐かしい家路を辿り始めた。

<おまけ>

あ~驚いた。
まさか人間であるアスカにまた会うことになるとは思っても見なかったわ。
それにあの力・・・藍はわたしの命令を忠実にこなしていた。
ということは、アスカと戦っているときの藍の力はわたしに匹敵するほどだったはず・・・。
それを打ち破ったということはわたしが戦ったとしても負ける可能性があるということ。
一人の人間には過ぎた力ね・・・。
まぁいいわ・・・あの時返せなくなったと思っていた借りがやっと返せるのだから。

・・・・・・しまった。
住んでいる場所を聞くのを忘れてたわ。
不老という事は人里には住んでいないんでしょうけど、妖怪の山もありえないし・・・。
その付近を捜すべきね。
藍が元気になったら早速探させることにしましょう。


恩を返し損ねた紫さんの話
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後書

どうも、お手玉の中身です。
藍様危機一髪編、いかがでしたでしょうか?
やっと古いメンバーを出すことが出来ました。
その代わりに勇儀と師匠が当分の間お休みに・・・

では、次回予告です
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もふもふB「今回の次回予告は私が行います。もふもふAはとある事情でお休みです」

もふもふB「帰ってきたのは懐かしの我が家」
もふもふB「待っていたのは残酷な連絡」
もふもふB「それでも仲間はそばにいる」
もふもふB「祈るは消えた仲間のために」

次 回
 「もふもふAの悲しみ」
       ほら、もういい加減泣き止んでもふもふA by.もふもふB



[10620] 復活の黒いの・・・いや、射命丸文!!
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/16 09:22
太郎との別れのせいだろうか。
見慣れたはずの家路でさえ新鮮でしょうがない。
神秘的な大蝦蟇の池、池の淵にある祠、家まで続く道とも言えない山道、遠くに段々と見えてくる我が家。
とりあえず家で一度落ち着いたら、勇儀や萃香、田吾作たちを呼んで宴会をしようと考えた。
そんな楽しい未来を思い浮かべて、俺は心を弾ませながら我が家の扉を開けた。
家の中に入ると驚いたことに萃香が居間で眠っていた。
俺は「なぜここで?」と、思い萃香を揺り起こした。

「おい、萃香・・・起きろ。起きろ萃香!」
「う~~ん・・・、まだのめるよ~」
「・・・起きろ幼女」
「幼女じゃない!萃香だよ!!って、アスカ?!」

まさか幼女で起きるとは・・・
起こそうとしても起きなかった萃香を試しに幼女と呼んでやると見事に飛び起きてくれた。
飛び起きや萃香は驚きの表情を作って此方の顔を凝視している。
すると、段々とその瞳に涙が溜まっていき、こちらに向かって飛びついてきた。

「うぐっ!ひぐっ!あずが~~~~!!」
「うおっ?!なんだなんだ、どうしたんだ萃香?!」
「うわぁ~~~~ん!!」
「ほんとに・・・どうしたんだよ・・・・・・」

そのまま萃香をあやしつつ、泣き止むのを待つこと数分。
萃香もやっと落ち着いてきたのか俺から離れて笑顔を見せてくれた。

「落ち着いたか、萃香?」
「うん、ありがと。それと、おかえり、アスカ」
「おう。それで、突然泣き出すなんてどうしたんだよ」
「・・・それがさ」

そうして萃香から教えられた話は信じられない・・・いや、信じたくない内容の話だった。
萃香の話を要約すると、最近の人間、鬼退治屋は昔と違い嘘や不意打ちなどの卑怯な手を使ってくるようになってしまった。
鬼にとってはそれは戦いと呼べるものではなかった。
正々堂々と戦い負けるのなら何をされようとも納得は行く。
しかし、複数人の上に騙まし討ちまでされる様になってしまったら納得なんかできるはずも無かった。
鬼はそれでも堂々と戦った。
ただ、それ以上に鬼が騙まし討ちにあう方が多くなってしまった。
そんなときだ、幻想郷に住む妖怪の賢者と名乗る存在から旧地獄、忌まわしき妖怪を封じ込めた地底の管理を依頼されたのだという。
鬼達は悩んだが結局人間を見捨て旧地獄を管理することを承諾した。
今でも幻想郷には鬼は残っているものの、皆散り散りとなりもうその所在を掴む術は無いのだと言う。
師匠と勇儀もまた、旧地獄へと降りて行ったとの事だ。
折角帰ってきたのに・・・師匠も勇儀もいないのか・・・・・・。
ならなんで萃香が?

「ホントかよ・・・萃香・・・性質の悪い冗談とかじゃないのか?」
「アスカ・・・、鬼は嘘が嫌いだよ」
「そっか・・・、なぁ・・・萃香・・・。」
「ん、なに?」
「それなら何でお前はここに残ったんだ?」
「わたしはまだ諦めたくなかったんだ。人間だってまた正々堂々と戦う心を思い出すはず。
そんな日が来るのを諦めたくなかったんだよ!」
「そっか・・・「それと」、ん?」
「友達が帰ってくるなら迎えないといけないからね」

そう言い切って、萃香が満面の笑顔を見せてくれた。
そんな笑顔を向けられた俺は顔が熱くなるのを感じながらそっぽを向いてしまった。

「あ、ありがとな」
「おやおや~、顔が赤くなってるけど・・・。アスカ~、もしかして照れてる?ねぇ照れてる?」
「うっさい、幼女め」
「っむ!わたしは幼女じゃなくて萃香だって何回言えば分かるんだよ」
「うるさい、照れてないよ」
「むむぅ、嘘はダメだよ~、アスカ~」
「ったく・・・、人が素直に礼を言ってるんだから茶化さずに受け取っておけよ」
「むふふぅ~」

そうやって笑いあっていると入り口から誰かが入ってくる気配がした。
俺達が入り口を見てみるとそこには田吾作に茜、椛ににとり・・・ついでに黒いのを含めた友人達が揃っていた。

「ほら、あっしの言ったとおりでやしょう。アスカ様が帰ってくるような気がしてたんでやすよ」
「はぁ~、凄いですね田吾作さん・・・、まさか本当に帰ってきていらっしゃるとは・・・」
「それを信じて宴会の準備を進めてた先輩も凄いですよ」
「まったくだよね~」
「これは記事に出来ますね。しかし、その前に言うべき事がありますね」
「そうでやすな」「そうですね」「はい」「うん、そうだね」
「「「「「おかえりなさい(でやす)」」」」」

・・・全員同時に言わなくてもいいだろうに。
全員がこちらを見ながら笑顔で言葉を言い切っている。
その手にはそれぞれ宴会用の料理や酒を持って。
だから俺も、その宣言に笑顔で答えた。

「あぁ、ただいま」

そこから始まるのは仲間達との宴会。
そこには萃香以外の鬼の姿はもう無いが、それでも天狗に河童がいる。
だから寂しくは無い。
よく考えれば、今生の別れというわけでもないからそのうち会いに行けば良いだけの話だった。
まったく、我ながら恥ずかしいことだ。
萃香も今更ながら泣いていたことに照れているのか酒をやけ飲みしている。
・・・いや、あいつが飲むのはいつものことだった。
それはともかくとして、俺の隣では天魔が共に酒を飲んでいた。

「ぷはぁ~、良い酒ですなアスカ殿」
「そうですね、天魔殿」
「羅豪殿をはじめとした多くの鬼、友がこの地を去ってしまい寂しくもありましたが、
こうしてアスカ殿に帰ってきていただけて寂しさも紛れましたぞ」
「それは俺の言葉ですよ。
旅先でできた友は死に目に会うこともできず、帰ってきてみれば多くの仲間がいなくなっていた。
それでも寂しくないのは天魔殿や他の仲間と友がいたからです」
「そうですか・・・」
「そうなんですよ・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

お互いに語り終えた俺達は手元の盃を共に呷った。
飲み終え、空となった俺の盃に天魔は酒を注ぎながら再度口を開いた。

「アスカ殿、ほら、酌をどうぞ」
「あぁ、ありがとうございます。天魔殿」
「そう、それじゃアスカ殿」
「っは?なにがですか??」
「友相手に殿はいらんよ。気軽に呼び捨ててはくれんか?」
「それなら天魔殿こそ呼び捨ててはどうですか?」
「かっかっかっ・・・、儂のこれは癖みたいなものじゃ、勘弁してくれ」
「そうなんですか?」
「そうなんじゃよ」
「じゃ、天魔ってこれからは呼ばせてもらうぜ?それと・・・ほら、返盃だ」
「おっと、かたじけない」
「じゃあ、旧地獄へと旅立った友たちに向けて乾杯でいいですか?」
「それは良い考えじゃ」
「では、旅立った友たちに!」
「友たちに!」
「「「「「乾杯!!」」」」」

俺と天魔との音頭にあわせて何時の間にやら盃を構えていた天狗や河童達も同時に盃を掲げ、呷っていた。
そこには友のいない悲しみではなく友の無事を願う純粋な思いが込められていた。

ここで終わればただの良い話・・・
しかし、それではなんとなくもの悲しいものがある。
そう考えた俺はどうすれば楽しめるだろうと思いながら周囲を見渡した。
隣には天魔の顔、少しはなれたところではにとりと椛が楽しそうに酒を飲んでいる。
茜は色々と料理を運びながら何処と無く忙しそうだ・・・後で労っておくことにしよう。
萃香は天狗たちの酒の飲み比べを始めていた。
既にその周りにはピクリとも動かない天狗が何人か・・・。
そして田吾作は・・・なにやってんだアレは??
白狼天狗の集団の中で何か講義しているようだが・・・あいつはあんな奴だったか???
そう考えていると視界の端に眩しい光がはいった。
・・・・・・そうだ、こいつがいた。
きっと今の俺は非常に悪い顔をしているはずだ。
俺は自然と浮かび上がる笑みのままそいつに話しかけた。

「お~い、黒いの~♪なにやってんだ~♪」

俺が呼んだ瞬間に素晴らしい速さで黒いのは飛んできてくれた。
その顔は早くも涙目だ。

「だからアスカ様~、私は射命丸文で黒いのじゃありませんよ~」
「しかし、黒いのも名前だろ?」
「そうですけど~~~。え~~~ん」
「そのくらいで泣くとは・・・情けないぞ『文』」
「え~ん、だからわたしの名前は射命m・・・って、今なんて!」
「そのくらいで泣くとは」
「違います!その後ですよ!!」
「なるほど、情けないぞだな」
「ち~が~い~ま~す~!!その後!!」
「くくっ、そんなに呼んでほしかったのか?『文』」
「・・・も、もう一度」
「黒いのに戻してやろうか?文」
「い、いえいえ。そんな必要ないですよ。えぇ無いですとも。
あやややや、今日は最良の日ですよ~!!」

黒いの、もとい文はそう叫ぶと一気に飛び去ってしまった。
最後に確認できた顔には最初の涙目が嘘のような笑顔が浮かんでいた。
すると天魔が不思議そうにたずねてきた。

「なんじゃアスカ殿、もうよろしいのですか?」
「あぁ、もうほとぼりも冷めた頃だし。これ以上は必要ないだろ?」
「アスカ殿がそうおっしゃるのなら儂からは何も言いますまい」
「天魔の判断に感謝感謝だよ」
「かっかっかっ・・・、やめてくだされ。擽ったくてしょうがありませんわ」
「おやおや」
「かっかっかっ・・・」「ははははは・・・」

そうして俺と天魔は二人で笑い合った。
遠くの空からは「これからは、清く!正しい!射命丸文をよろしくお願いします~~~!!」と、叫び声が聞こえてくる。
よほどうれしかったのだろう。

ただ、一つだけ心残りが・・・
椛の作戦に引っかかってやれなかった・・・

<おまけ>

もふもふA「お~いおいおいおい・・・」
もふもふB「もふもふA、ほら泣き止んで・・・。どうしようもないじゃない」
もふもふA「だって・・・、だって~~~。びえ~~ん!!」
もふもふB「ほんとに・・・どうしたものやら・・・」
田吾作  「泣き声が聞こえたのでやってきたでやんす」
もふもふB「田吾作さん!ちょうどよかった、助けてください」
もふもふA「お~いおいおい・・・」
田吾作  「・・・もふもふAはどうしたでやんすか?」
もふもふB「それがですね、能力が弱くなってしまったらしいんですよ」
田吾作  「それはまた・・・。一体どんな能力になったでやんすか?」
もふもふA「ひくっ、ひっく・・・、『鈍器を扱う程度の能力』」
田吾作  「・・・なんでまたそんなことに」
もふもふB「剣の修行に合わせて盾で敵を倒す訓練をしていたらこんな事になってしまったみたいで・・・」
田吾作  「そうでやすか・・・。しかしそれならまだ大丈夫だと思うでやすが?戦えない訳でもないでやしょうに?」
もふもふB「それがですね・・・」
もふもふA「能力名がかっこ悪いよ~、びえ~ん!!」
田吾作  「・・・しょうがないでやすな。なら、この場で田吾作の能力談義を開かせてもらうでやす」
もふもふB「いいんですか?」
田吾作  「いいでやすよ。他にも聞きたそうな子がいるみたいでやすし宴会の席に少々無粋でやすが構わないでやしょう」
もふもふB「それじゃあ・・・」
もふもふ達「「「「「よろしくお願いしま~す」」」」」

田吾作の能力談義(予定外講座)の風景
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
既に次に登場するのを誰にするか思いつきで決めてしまってるのがお手玉の中身。
ちなみに余談ですが、スカーレット姉妹は大体この時期に生まれたらしいですね。
なにやら後書になってないような気もするがそんなことは一切気にせず、
次回予告はいります。

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清く!正しい!射命丸文!参上!!次回予告は私が取り仕切ります!!

懐かしきは幻想郷
帰ってきた日常に以前の日課を繰り返す
人里によって見れば懐かしい面影が
そして、増えてきた妖怪たちは・・・

次 回
 「もふもふAの人気に昇格を考える作者がいた」
               文・・・、最後の題名はかなりおかしくないかしら? by.茜



[10620] この時はまだ屋台を持ってないはず・・・多分・・・
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/17 19:14
月が消え去り日が昇る。
宴会が終わった後、懐かしの我が家で一晩明かした俺は気持ちの良い朝を迎えていた。
旅先で泊まる宿もいいがやはりは自分の家が一番良いと言うことだろう。
目を覚ました俺は久しぶりの日課を行うことにした。
大蝦蟇の池まで行って祠を掃除し池の水を貰う。
朝一でするだけあって、なんとも爽やかの気分になれる。
その後、池の淵に佇む大蝦蟇を相手に何処へ行こうかと相談をする。
相手は喋れないと言うのに・・・我ながら可笑しな姿だと思う。

「今日は何処まで行くかな~」
「・・・・・・・・・・ゲコッ」
「左腕の怪我が治るまではあまり無理をしたくないんだよな~」
「・・・・・・・・・・・・ゲロッ」
「はてさて・・・」
「ゲコゲコッ」
「人里にでも行ってみるかな?」
「ゲロロッ」
「よし、そうするか」
「・・・・・・・・・・・・・ゲコッ」

こうして大蝦蟇と相談し俺は人里に向かうことにした。
なんだかんだ言っても、やはり俺は人間だし人里の噂は気になるものだ。
昔に比べ鬼退治屋が卑怯になったなどの変化があるように幻想郷にも色々な変化があるはずだ。
なにより妖怪目線ではなく人間からの視点での話しも聞いている分にはなかなか面白いものがある。
そう考えた俺は大蝦蟇の池を後に人里へと足を進めた。
そして池からさって行く俺の姿を大蝦蟇は何も言わずに眺め続けていた。



青年移動中・・・・・・


やってきたのは幻想郷の人里。
これも太郎の影響だろうか以前は感じることの無かった新鮮さが味わえた。
新鮮さと言えば、道中に会ったはずの地蔵が消えていたことが少し気になった。
今度田吾作に頼んで新しい地蔵をこしらえてもらう事にしよう。
そうして考えながら俺は適当な道端に薬を広げ、臨時薬剤店の営業を開始した。

今日もまた満員御礼・即日完売が踊りまわる売れ行きだった。
紫は薬屋を幻想郷へ引き込むべきだと思う今日この頃だ。
まぁ、薬屋=医者だから薬の専門技師なんて早々いないだろうが・・・
そう考えながら俺は、商売中に聞くことの出来た噂話を纏めた。

噂話曰く、数日前にお地蔵様が消えてしまった。(・・・田吾作に作ってもらうことにしよう)
曰く、最近妖怪の力が増した気がする。(紫の計画が実を結んでいるようだ)
曰く、妖精の悪戯による被害が増えてきた。(落書きレベルと可愛いものである)
曰く、増えた妖怪に子供が襲われないか心配だ。(しっかり面倒みろ)
曰く、魔法の森に多くの妖怪が住み着き始めた。(薬草の宝庫が!!それは困る)

などなど、なかなかに面白い話が聞けた。
消えた地蔵に関しては誰が盗っていったのかも分からず現在もその行方を捜しているとのことだ。
帰ったら早速、田吾作に頼んで作ってもらうことにしよう。
妖怪が増えると言うのは結界がしっかり働いているからいいことなのだが、魔法の森を荒らされるのはあまりうれしくない。
後で様子を見に行くことにしよう。
妖精の件は・・・、うん、春告精の例もあるしほって置くとしよう。
落書き程度の悪戯なら可愛いものだ。
なにより、よっぽど強い妖精でなければ普通の人間でも十分に倒せる。
俺がそんなことをしたら弱いものいじめにしかならないからな・・・
となると、とり急いでするべきは魔法の森の様子見か。
そう考えた俺は、魔法の森に行く前に薬草採取用の道具を買っていくことにした。
幸いなことに、先ほど売った薬のお金で懐も潤っているので問題は無いだろう。
そうして人里の店をみて回っていると一軒の道具屋で足が止まった。
道具屋の前では主人らしき男が掃除をしており、此方に気付いたのか軽く頭を下げながら声を掛けてきた。

「おや、お客さんですか?いらっしゃいませ」
「あ、あぁ・・・。店主、この店には草刈鎌などの類は置いてあるか?」
「はいはい、ありますよ。大きいものから小さいものまで取り揃えております」
「そうか・・・、なら見せてもらうことにしよう。ところでご主人」
「はい、なんでしょうか?」
「すまんが店の名前を教えてくれないか?良い品だったら今後とも贔屓にしたいからな」
「はぁ・・・、それはありがたいのですが、店の看板だったら上にも・・・」
「なに、気に入った店の名前は主人から聞きたいものなんだよ」
「さようでしたか」

道具屋の主人、男は俺の返答に納得したように頷くと顔に笑みを浮かべながら改めて応えてくれた。

「では、改めまして。
『霧雨道具店』へようこそいらっしゃいました、お客様。私は店主の『霧雨源次郎』と申します。
今後ともご贔屓に」
「あぁ(あの店主の子孫か・・・縁とは不思議なものだ)」
「お客さん?何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない」
「はぁ・・・、さようで・・・」

まったくもって、人の縁は何処で繋がっているのかわからないものだった。
俺にとっては懐かしくとも相手にとっては初めての出会い。
正確に言うなら俺にとっても初めての出会いなんだろうがこの店主からはあの時の警備兵や店主の影がよく見える。
きっと立派な店主なんだろう。
そう考えながら俺は、必要な道具を買うと、魔法の森へ足を進めた。



青年移動中・・・・・・



魔法の森は静かなものだった。
妖怪が新たに住みついた気配はするものの、特に荒らされている訳でもなく、昼なお暗く静かな世界はいまだ姿を変えることなくそのままであった。
俺は森が荒らされていない事にホッと一息吐くと薬草の採取を始めた。
魔法の森は薬草の宝庫で昔から妖怪もあまり近寄らない森だった。
ならなぜ魔法の森などと呼ばれ恐れられているのか、それは奥に行くほどその理由を知ることが出来る。
魔法の森は奥に行けば行くほどより暗くなり多くの野草を生やしている。
その中でも特に多いのがキノコだ。
このキノコが厄介なことに、その胞子に幻覚作用を持っている。
幻覚作用から幻を見て、帰れなくなる者、帰れても支離滅裂な発言をするものが出てくることからこの森は魔法の森と呼ばれ恐れられている。
とは言え、それ以外は俺にとって薬草が多く手に入る天然の宝物庫のような場所ではあるが。
そんな妖怪ですら近寄らない森に住み着く妖怪が何をしているのか見てみたくもあったが・・・、
どうやらこの様子では奥に住んでいる妖怪もいそうに無い。
おそらく付近に住み着いた妖怪を魔法の森に住んでいると勘違いしたのだろう。
俺は自分の考えをそう締めくくると薬草採取の手を早めるのだった。


どれくらいの時が流れただろう?
気付けば暗い森は先ほどよりも深い闇に包まれていた。
思いのほか薬草採取に夢中になっていたのか、いつの間にやら日が沈んでいたらしい。
其処彼処からも虫や梟の鳴き声が響いてくる。
今日はこの辺でやめて、もう帰るべきだな。
そう考えた俺は森から出るために歩き出した。
あまり奥まで入っていなかったお陰だろうか、森の出口は思っていたよりすぐに見えてきた。
森を出ると外は暗く、空には明るい月がその姿を現していた。
遠くに目をやれば人里の明かりも見える。
俺は今日一日が平和だったことを特に信じてもいない神様に感謝しながら妖怪の山へと足を進めた。
思ってみれば・・・神様なんかに感謝したのが悪かったのだろう。
どこか遠くから歌声のようなものが聞こえてきた。

「~♪~~~♪~~♪~~~~♪」
「なんだ、これは?」

俺はそうやって一人呟くと歌声の響く方向へ足を進めた。
5分ほど歩き続けたところだろうか・・・歌声はちょうど森の木々に隠れた所から響き渡っていた。
近くによることで歌の内容もきちんと聞こえるようになってきた。
歌の内容は何かを誘うような静かな歌だった。
個人的にはもう少し陽気な歌が好みではあるんだが。
そう考えていた俺には歌声に近づくにつれもう一つ、気になること出てき始めていた。
歌声に近づくにつれて・・・・・・酷く・・・匂う。
草むらを踏み分け、木々をかわして奥へ行くと其処は広場のような草むらだけの空間が出来ていた。
広場の中央では一人の少女・・・いや、羽が生えているから妖怪の少女が歌っていた。
月が雲に隠れているせいか廻りはよく見えないが少女の動作ぐらいはその影から判断することが出来る。
すると、少女が此方に気づいたのか歌声が止まった。

「やった♪今晩はご飯が二人分もやって来た♪」

先ほどまでの歌声と同じ声で弾むように誰か、おそらくは目の前の少女が話した。
その間に段々と雲が流れ広場にも月明かりが差し込んできた。
雲が流れきり、広場が月明かりに照らされると、其処にはにおいの元・・・
引き裂かれバラバラとなった人間が転がっていた。
月明かりに照らされた少女は此方に微笑みながら詠うように告げた。

「ようこそいらっしゃい♪私の新しい晩御飯♪」

神様なんぞに二度と感謝するもんか!!


<おまけ『文々。新聞』>

※噂のあの人は一体?

○月×日
本日は私、清く正しい射命丸文が妖怪の山にて有名な人間、Aさんの取材をすることに成功しました。
取材内容はAさんの能力と日課に関してです

能力に関して
 Aさんの能力は『不可視の影響から逃げる程度の能力』との事です。
 読者の皆様にはこの名前からでは想像し難いでしょうから詳細に関しても確認しておきました。
 不可視とは文字通り目に見えない、つまりAさんの目に映らない力がこの能力の対象となります。
 影響とは何か、Aさん自身も把握しきってはいないようですが、直接その結果が目に見えない力の影響との事です。
 例に挙げるならAさんを惑わすために作られる幻影、これは幻影を作り出す前の段階でその力が不可視であるため
 幻影の影響から逃げられるとの事です。
 その他にも音や風なんかも見えないから逃げられるそうです。(風に関しては視認できるほど強力になると対象外)
 最後に逃げると何度も表記していますがこれに関しては影響を受けなくなる、もしくはかわすとお考え下さい。

日課に関して
 Aさんの日課はずばり暇つぶしを兼ねた散歩です。
 Aさん自身、山の薬師としての仕事を持っているのですが、山の妖怪にとって薬が必要になるほどの怪我をすること
 が無く、病気にもかからないので在って無いような仕事の為、普段が暇でしょうがないのだそうです。
 またその際、大蝦蟇の祠や竜神の石造、人里のお地蔵に手を合わせたり掃除をしていたりなどする光景をよく目に
 するのですが、そのことに関して尋ねると、「神様は信用できないからそれ以外を信じる」との返事がいただけま
 した。

最後になってしまいましたが今回、この記事を書くに当たりましてAさんより実名を入れないことを条件とされたため、
実名ではなく『Aさん』との表記になってしまっている事をご了承ください。
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回は霧雨道具店の店主が変わっているお話でした。
警備兵達に関しては・・・どうしよう、何も考えてなかったorz
ついでに、時間の概念どうしよう・・・、原作開始まで後数百年は余裕で残ってる・・・orz
色々と頭を悩ませるお手玉の中身でした。

では、次回予告お願いします。
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私が次回予告?いいわよ~♪

~~♪~~~♪
~♪~~~~~♪
~~~~♪~~♪
~~♪~~♪~♪

次 回
 「~~~♪~~~~♪~~♪」
        しまった、鳥頭は字(カンペ)が読めなかった!! by.kami



[10620] 夜雀の喜劇。それに同情するは烏天狗か門番か?
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/17 19:23
「ようこそいらっしゃい♪私の新しい晩御飯♪」

最悪だ・・・
目の前には口の周りを紅く汚した妖怪の少女。
その周囲には元人間だったらしい肉塊の数々。
どうやら俺は、どこぞの妖怪の晩御飯にお邪魔してしまったらしい。
しかも俺のことまで食べる気満々といったところだろうか。
だがしかし、既に一人食べた後なら腹も膨れているはず、其処に話し合いの余地も出てくるだろう。
そう考えた俺はなるべく穏便に終わらせるべく話し合いを始めた。

「え~っとだな・・・、俺は晩御飯じゃないんだが」
「何を言ってるの?あなたは人間、私は妖怪。ほら、あなたは私の晩御飯♪」

妖怪の常識で一蹴されてしまった。
まだだ、まだ俺のターンは終わってない!

「えっと・・・、既に一人食べたんだろ?ならもういいじゃないか」
「何人食べてもおいしい物はおいしい♪」
「・・・ちなみにお腹は?」
「腹六分ってところかしら」

これもダメらしい・・・。
まだだ、まだ諦めるには早すぎる!!

「俺はかなり強いから戦うととっても痛いぞ?」
「何の道具も持っていない人間にやられるほど私は弱くない♪」
「いや、お前でも知らないような強い人間もいるかもしれないぞ?」
「そんな人間どこにいるの」
「目の前に」
「目の前にいるのはおいしそうな晩御飯♪」

・・・さっさと適当に気絶させたほうが早い気がしてきた。
俺は話がまったく通じないニコニコと笑っている少女を前にしてそう考え始めた。
すると、少女はこれ以上話をする気が無いのか、その爪を振りかざしながら飛び掛ってきた。

「もう話はいいわよね?それじゃあ・・・、いったっだっきm「っあ」へぶぅ?!」

しまった、少女が急に飛び掛ってくるものだから拳骨で叩き落してしまった。
叩き落された少女は顔面から地面にへばりついていたが手加減していたせいだろうか、
すぐさま起き上がると後ろへ飛びずさることで俺との距離をとった。
先ほどまでの立ち位置に着地した少女はその目に一杯の涙をため、拳骨が当たった箇所を両手で押さえて蹲ってしまった。

「うぅ~、いたいよ~~」
「えっと・・・、とりあえず、すまん・・・」
「すまん、じゃ無いわよ!晩御飯なら晩御飯らしくおとなしく食べられなさい」
「いや、だからな「うるさい!」・・・」
「今度は叩いたりしたらダメなんだからね!では改めて・・・いったっだっきm「てい!」へぶぅ?!」

叩いたらダメといわれたので踏んづけてみたが・・・ダメだったろうか。
再度飛び掛ってきた少女をそんな風に考えながら頭の上から足で踏んづけている俺がいた。
やはり手加減したせいか足の下では少女がジタバタともがいている。
なにやら必死そうだったので足をどけてみると、少女はすぐさま起き上がり先ほどと同じように後ろに飛びずさった。
少女は口に砂が入ったのだろうか苦虫をかんだような顔をしながら唾を吐いていた。

「うぇ・・・、っぺっぺ、何するのよ!砂を食べたじゃない」
「いやな、叩くなと言われたから踏んだんだが・・・ダメだったか?」
「ダメに決まってるでしょ!!今度は叩くのも踏むのもダメだからね!」
「だからな、「うるさい!」・・・」
「それじゃあ今度こそ・・・、いったっだっきm「そ~い!!」へぶぅぅぅ?!」

3度目の正直といわんばかりに飛んでくる少女を今度はその勢いのまま後ろへ投げ飛ばしてみた。
少女は飛び込んできた勢いのまま投げられたせいで見事な顔面スライディングを見せてくれている。
その勢いが止まった時、少女はその場で起き上がると此方を涙目で睨みつけてきた。
怒っているようだがその容姿と砂だらけの格好、更には涙目でまったく持って迫力が無く、むしろ可愛らしいぐらいだった。
なんだかな~・・・
そうやって俺が考えていると、少女は涙目のまま再び口を開いた。

「なんでよ!あんた私の晩御飯でしょ?!おとなしく食べられなさい!!」
「だから晩御飯じゃないといってるだろうに・・・」
「知らないわよ!そんな事!!」
「あのなぁ・・・」

俺がそうやって呆れていると、少女は何かに気付いたのか服の裾を払いながら勢いよく立ち上がると、
此方を指差しながら宣言してきた。
どうでもいい事だが、人を指差してはいけない。

「いいわ、其処まで抵抗するなら私の能力『歌で人を惑わす程度の能力』でその目を鳥目に変えて食ってやる」
「それは耳を塞げばいいだけの話じゃ?」
「ふふん、そう思うならそうすればいいわ。そんなことじゃ私の歌からは逃げられない!さぁ、鳥目になりなさい!!
~~♪~~~~♪~~~♪~~~~~~~♪」

なるほど、惑わされてしまうのも分かるようないい歌だ。
しかしだ・・・
目に見えない歌の影響から俺は既に『逃げている』状態だ。
普通に歌を聞かせてもらってる状態だな。
そう俺が考えていると少女は歌い終え、改めて此方を指差しながら宣誓してきた。

「どうかしら私の歌は!もうあなたは私の声以外何も聞こえない、鳥目の状態のはず」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「恐怖で声も出ないのね、安心しなさい。痛いのは一瞬だけだと思うから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それじゃあ今度こそ・・・、いったっだっきm「不意打ち御免!」へぶぅ?!」

最初に戻るではないが、俺が鳥目になったと勘違いした少女が突撃してきたので拳骨でそのまま撃墜した。
俺の下で潰れている少女の頭からは煙が出ている様が幻視できる。
少女は再び起き上がると先ほどと同じように後ろへ飛びずさろうとした。
流石にこのまま逃がしてはさっきと同じになると思った俺は、飛び逃げようとする少女の足をとっさに捕まえてしまった。
「へぶっ?!」
飛んで逃げようとした相手の足を掴めばそりゃ顔面から落ちるよな・・・反省。
その場で少しの反省をした俺は少女と話し合いをするため足から手を離し少女をその場に立たせた。
少女は悔しさからか涙目ながらも此方をにらみつけてくる。
さてどう切り出すべきか・・・と、俺が考えていると都合の良いことに少女が先に口を開いた。

「なんでよ!何で鳥目になってないの?!というかご飯なんだからおとなしく食べられなさいよ」
「だからな・・・、何度も言ってるが俺はご飯じゃないといってるだろう」
「だってあなたは人間じゃない。それなら私のご飯に決まってるわ」
「ふぅ・・・、お前、その羽を見る限りだと鳥の妖怪だろ」
「そうよそれg「ならちょうど良い」?!?!」
「鳥は小骨が多いらしいが・・・なに、食ってしまえば全部同じだろう」
「っぴ?!」

少女の言葉を遮り、殺気を滲ませながら喋る俺の言葉に目の前の少女は顔を青くしている。
腰が抜けたのだろうか、少女は地面へペタンと座り込むと、身体をがたがたと震わせ始めた。
俺はそんな少女を威圧するように更に殺気を浴びせ掛けた。

「それで?何処から食ってやろうか?」
「い、いや・・・、いやぁ~・・・」
「知ったことか。俺は人間でお前は鳥、鳥は人間の食料だろ?」
「い、いやぁ・・・。た、たべないでぇ」
「きこえんなぁ~」
「や、やぁ~・・・」

俺が一声かける度に少女はその身を竦ませ、声を小さくしていった。
最早少女の顔は血が通ってないかのように白くなり、その瞳からはぼろぼろと涙を流し、
恐怖に失禁したのか辺りには異臭が立ち込め始めていた。
これくらいでいいだろう。
そう考えた俺は助けを懇願している少女へ殺気を抑えて改めて声を掛けた。

「ひ、ひっく、お、お願いです。ひっく、た、たすけてください~」
「じゃあもう一度聞くが俺はなんだ?」
「ぐすっ、ご、ご飯じゃない人間です」
「お前は?」
「ひっく、あ、あなたを食べない妖怪です。ぐすっ、だから助けてください~」
「ふむ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・ひっく」
「ふぅ・・・、いいだろう今回だけは見逃してやる」
「そ、それじゃあ」
「ただし!また俺をご飯扱いするようなら・・・」
「わ、分かりました!二度としません!!」
「よろしい」

少女は助かった安心感からだろうか、完全に力が抜けた様子で呆然としている。
なるほどな・・・、妖怪相手には最初から力で脅しつけたほうが襲われなくてすみそうだな。
そう考えた俺は、今後増えてくる妖怪達への対処法が見つかり自然と笑みが浮かんでしまった。
すると此方を見ていた少女が笑みに気付いたのか質問してきた。

「あ、あの・・・、突然笑い出してどうしたんですか?」
「ん?あぁ、これからの方針が決まったんで、それでな」
「そうなんですか。あなたは本当に人間ですか?あなたが喋ってる間とっても怖かったんですが・・・」
「失礼なやつだな。俺は食べられない人間だよ」
「はぁ・・・」

少女は何処となく納得出来ないような顔つきで曖昧な返事を返してきた。
毎度の事ながら俺は人間だというのに・・・失礼なやつらだ。何か仕返しは・・・
そう考えた俺の中に素晴らしすぎる考えが舞い降りた。
その考えを実行するために俺は早速、少女へと話しかけた。

「そういえば・・・お前、名は?」
「っへ?名前ですか・・・。えっと、何ででしょう?」
「何ででもいいから、名は?」
「え、えっと・・・『ミスティア・ローレライ』です」
「ふむ・・・それなら今日からお前の呼び名は『ぷっくる』だ」
「っへ?な、何なんでしょうか、その呼び名は」
「何って、俺がこれからお前を呼ぶときの名前に決まってるだろう。ぷっくる♪」
「い、いや~=~¥?☆~!!そんな名前いやすぎます。ゆるしてください~」
「ダメだぞぷっくる。我がままばかり言ったら♪
ダメだぞぷっくる。言うこと聞かないと食べちゃうぞ♪
ダメだぞぷっくる。ぷっくるはぷっくるだろ♪」
「確かに食べられたくないけど、それもいや~!誰でもいいから助けて~~~~!!」

その晩、夜雀の歌声の代わりにこの世の終わりと言わんばかりの悲鳴が幻想郷中を駆け巡った。
その悲鳴を聞いていたA・Sさんは涙ながらにこう語ったそうな。

「分かります・・・その気持ちよく分かりますよ」

運の無かった哀れな夜雀に黙祷・・・

<おまけ>

何処かの平原

「なぁ、おやっさんの店・・・今日も平和だったな」
「当然だろ、俺達が守ってるんだぜ」
「そうだな・・・でも、寂しいな」
「たしかにな。しかし、これが俺達の決めた道。そしてその為に得た力だろ」
「そうだな、たしかにそうだ!」
「応、だから今はおやっさんの店を狙う邪悪な妖怪を追い払うことだけを考えるんだ!それまで寂しいなんていってられないぜ」
「そうだな・・・しっかし、奴らも大概しつこいよな~」
「たしかにな~、こんな時、旦那がいてくれたらな」
「旦那・・・元気かな~」
「あの旦那なら元気に決まってるだろ」
「そうだな・・・よし、それじゃあ今日も張り切って修行をしますか」
「よし、やるぜ!!」

何処かの森に住みついた誰かの会話
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回は新たな名前の犠牲者を生むことになってしまいました。
でもそんな事一切気にしないのがお手玉の中身です。
今回の話を作りながら既に次の登場キャラが決定した不思議・・・そして流れからその次まで決まりました。
次回予告から予想できる人もいるかな?
そんなわけで、早速次回予告です。
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元白狼Aこと茜です。出番が少なくなってきてるのでここに出してもらいました。

夜雀から学んだことの大きさに感謝するアスカ様
その日々は平和に彩られていました
そんなときに来訪するのは欲張りなもふもふ
彼女と共に散歩する先は?

次 回
 「『道に迷うは、妖精の所為なの』だ、そうです」
             せ、先輩!次の行き先言っちゃってますよ!! by.椛



[10620] 妖精登場・・・伝説の道具の一部が帰ってきた!!
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/18 09:45
今日も今日とて平和な散歩
ミスティア・・・、もといぷっくるとの邂逅から早くも数週間。
たまに遠出すると妖怪や妖獣に襲われるものの、あの日の教訓を元に脅しかかってやると全部逃げていった。
素晴らしい・・・、たった一つの行動だけでこれほどまでに平和な日々が送れるようになるなんて・・・。
ぷっくるとの出会いを竜神様達に感謝しなければ。
そんな考えが頭によぎる今日この頃。
いつも通りに大蝦蟇の池で祠掃除を終わらせると今日は何処まで行こうかと考えた。
少し前に太陽の畑へ行ってみたが時期が悪かったのか幽香は何処にも姿を見せなかった。
人里では霧雨道具店に卸すようにした薬がよく売れていると源次郎からうれしい悲鳴が届いた。
魔法の森は相変わらずその静けさを保っている。
とすると、まだ行ってないのは・・・・・・・・・。
そう考えながら妖怪の山付近を適当に歩いていると遠くに見覚えのあるもふもふが近づいてくるのが見えた。
アレは確か・・・そう、紫の所にいた藍だ。
俺はこの散歩の道連れを増やすため、早速声を掛けた。

「お~い、もふもふ狐や~い♪」

呼びかけると藍、もといもふもふ狐は此方に気づき、一気に走りよってきた。
その顔は何が恥ずかしいのか赤く染まり目はやや涙目である。
もふもふ狐はそんな状態のまま慌てて言い返してきた。

「人の事を変な名前で呼ばないで下さい!恥ずかしいじゃないですか!!」
「だってもふもふしてるし~・・・、名前知らないし~」
「もふもふしてるって触ったんですか?!名前だったら紫様から聞いてるはずでしょう!」
「見た目から?本人(本狐?)から名前を聞いたことないし~」
「っく、ああ言えばこう言う!分かりました。分かりましたからもふもふ狐はやめて下さい」

もふもふ狐は諦めたように一息吐くと、
落ち着いたのか、冷静な表情になり自己紹介を始めた。

「お久しぶりですアスカ様。私は紫様の式をしている『藍』と申します。
先日は大変失礼いたしました」
「構わないよ、アレがあの時の紫からの命令だったんだろう?あの時の怪我もほとんど治ったし今更気にはしないさ」
「その割には人の事をもふもふ呼ばわり」
「アレは単純に俺の趣味だ。名前関係はなるべく本人から聞くまでは呼ばないようにしてるんでな」
「はぁ・・・そうなんですか。ところでこんな所で何を?これほど妖怪の山の近くまで寄っていたら妖怪に襲われますよ?」
「心配してくれてるのか?安心しろ、この辺りの妖怪ならよっぽどの上位じゃない限り負けないよ」
「はぁ・・・、失礼ですが本当に人間ですか?」
「・・・ほんとに失礼だな、人間だよ。これでもな」
「そうなんですか」
「そうなんだよ、この辺には散歩できただけでな、ちょうど良いから付き合わないか?もちろん何も用が無ければだが」
「それなら大丈夫です。アスカ様に先日の非礼を詫びるのが今日の用事だったのでもう目的は果たしました」
「そっか、それなら」
「はい、ご随伴させて貰いますね」

そう返事を返してきた藍を伴い、再びあても無い散歩を再会した。
ちなみに、先ほどの人外発言は後でしっかりと仕返しすることを俺は心に刻んだ。
その後、藍から提案があり、今回は珍しいことにあての無い散歩ではなく、目的地ありの散歩に変わった。
藍から提示された目的地、それは霧の湖だ。
今までは近場だったため行ってみようとは思わなかったが藍からの提案で行ってみることにした。
藍は自分の提案したからなのか俺の前を数歩先に歩くようにして先導してくれている。
その心配りは主である紫に見習わせたいものだった。
そう考えている俺も、なんだかんだで今まで行かなかった湖を見に行くのは楽しみであり、心が弾むようだった。
かくして移動すること20分・・・
辺りには段々と霧が立ち込め始めると目の前に大きな湖がその姿を現した。
俺が湖の大きさに驚いていると藍がこちらを振り返り如何したのかとたずねてきた。

「如何したんですか?まるで私に化かされたような顔をして」
「・・・お前自分で言ってて恥ずかしくないか?」
「・・・少し」
「ふぅ・・・。なに、話に聞いていたよりずっと大きな湖だったからな、それに驚いたんだよ」
「ははぁ、やっぱり化かされてますね」
「・・・お前の幻術にか?」
「違いますよ、この湖にです」
「湖に?」
「えぇ、この湖は昼に来ると今みたいに霧が立ち込めて実際よりも大きく見えてしまうんですよ」
「という事は・・・」
「はい、実際の大きさは歩いて半刻もしないうちに一周出来る程度の大きさなんです」
「なるほどな・・・。確かにそれは化かされてるな」
「ですね」

なるほど、言われてみて気づいたが、確かにあまり大きな湖ではないかもしれない。
霧のせいであまり視界はよくないが、よく見てみると霧の中うっすらと向こう岸が見えるような気がした。
そうやって俺が霧の向こうを覗こうと目を凝らしていると、霧の中に小さな人型が浮かび上がってきた。
霧の中、湖の上に人型?
そう考えた俺はこの不思議現象に関して聞いてみようと藍へ振り返った。

「なぁ藍」
「なんですかアスカ様?」
「霧の中に人影が見えるんだが、これは妖霧かその類なのか?」
「っは?そんなはずありませんが・・・、どれどれ・・・」
「ほら、あの辺りだ」

俺が指し示した方向には先ほど見た人影がなぜか6体にまでその姿を増やしていた。
藍は藍で何度か眼を擦りながら不思議そうな顔つきで此方に振り返ってきた。

「確かに・・・人影ですね」
「だろ?どうなってるんだ?」
「はて・・・以前夜に来た時には特に何も無かったんですが・・・」
「そのときに霧は?」
「出てませんでした」
「意味無いじゃん」
「・・・・・・そうですね」

そうやって思ったままに返事をすると藍も気付いたのかしまったと言うような表情を作った。
その間にも霧の奥に見える人影はどんどん増えてくる。
そして、人影が20に届こうとした時、此方に近づいてくる人影が二つ。

「あんた達にね!あたいの紐張りの中に入ってきた乱入者は?!」
「やめようよ、チルノちゃ~ん」

霧の奥、人影から声が聞こえたかと思うと霧の中から二人の少女が現れた。
少女らの背には羽が付いておりそれで宙に浮いているようだ。
薄い透明な羽が付いている少女は明るい緑色の髪をしており、
その顔は時折此方を見てはビクビクと怯えてはもう一人の少女を必死に止めようとしている。
制止を振り切ってなお此方に近づいてくる勝気な少女の背にも羽?の様なものが付いており、水色の髪に青いリボンを付けていた。
なんだこの少女達はと俺が考えているとその答えは隣の藍から聞くことが出来た。

「なるほど、妖精でしたか」
「妖精?あれが?」
「えぇ、そうです。自由奔放にして悪戯好きの妖精たちですよ」
「へぇ~、アレが妖精か・・・初めて見たな」
「ちょっとあんた達!なに無視してるのよ!!」
「チルノちゃ~ん」

俺と藍だけが会話しているのが気に入らないのかある程度近寄ってきた青少女が話しに割り込んできた。
緑少女は相変わらず青少女の袖を引っ張ってそれを止めようとしている。
なんとなくだが、苦労してるように見えてしまう。
俺がそんなことを考えていると隣にいた藍が先に会話を始めた。

「ふむ、私達は先ほどここに着たばかりなので何かに乱入した覚えは無いのだが?」
「誤魔化したって無駄よ、この湖はあたいの紐張り。そこに入ってきたあんた達は乱入者よ!」
「チルノちゃん、紐張りじゃなくて縄張り。それと乱入者じゃなくて侵入者。
ついでに湖はみんなのものだからチルノちゃんだけのじゃないよ~」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わないだろう・・・」

そう会話を締めくくった藍はこめかみを押さえ、緑少女も何かを諦めるように首を左右に振っていた。
その中で唯一、青少女だけが偉そうに腕を組んで胸を張っている。
なるほど・・・要するに、

「バカなんだな」
「っむ、人間の癖に生意気ねって、あたいはバカじゃない!ねぇ、大ちゃん」
「えぇ~!え、えっと・・・、チルノちゃんはバカなんじゃなくてちょっと足りないだけなんですよ」
「ほら、大ちゃんもこう言ってる」
「・・・今の会話の何処に自慢するようなことがあったよ?そっちの緑髪の少女もはっきり言ってあげないとダメだよ」
「ふん、負け惜しみを言っても無駄よ。ほら、大ちゃんからも言ってあげなよ、バカって言う奴がバカなんだぞ~って」
「えっと、えっと~・・・」

緑少女は青少女に促がされているが顔をキョロキョロと左右に振りながらどうするべきか困っているようだった。
というよりもあの慌てっぷりだと本当に困っているな。
そう考えながら、藍に気になったことをたずねてみた。

「なぁ藍、妖精ってあんなのでいいのか?なんとなく想像と違うんだが?」
「その想像がどんなものだったかは知りませんが大体あんなものですよ。まぁ、あそこまで偉そうにしている妖精ははじめてみましたが」
「となると一般的な妖精はあっちの緑色や霧の奥にいるのがそうだと」
「そうですね、あの青い妖精みたいにいきなり姿を現すほうが稀ですね」

なるほど、レア物だったらしい。
俺がそう考えていると何時の間にやら話し合いが終わったのか青少女が此方を指差して偉そうに宣言した。

「あんた達、よくも大ちゃんを困らせたわね!仕返ししてやる!!」
「「っは?」」
「食らいなさい、あたいの最強攻撃を!!」

あんまりな発言に俺と藍は声を合わせて呆けてしまった。
その間にも、青少女の手の中にはなにやら怪しげな光が集まっていく。
まったくもって嫌な予感しかしない、そんな状況だった。

ちなみに、緑少女は視界の端で頭を抱え込み左右に振っていた。

<おまけ>

「あら、田吾作さん何をやってるの?」
「ん、茜さんでやすか、こんにちはでやす」
「こんにちは。それで、何を?」
「アスカ様から人里の地蔵を頼まれやしてね、それを作ってたでやすよ」
「・・・材料が紙に見えるんだけど?」
「でやすよ」
「お地蔵様って普通石じゃないかしら」
「常識に囚われてはいけないでやす」
「そうなの?」
「そうでやすよ。しかもこれはただの紙じゃないでやす。あっしが今回のために特別に作って用意した段坊流でやす」
「段坊流?」
「そうでやす。随分昔にアスカ様から頂いた段坊流箱をあっしら河童が研究、分解、構築を繰り返して手に入れた神秘の素材でやす」
「神秘の・・・素材・・・?」
「作る工程が難しい上に原材料も手に入れにくいでやすから貴重品なんでやすよ」
「なんか・・・凄い紙なのね」
「でやす。この段坊流で作れば最早盗まれる心配も無く、雨にも風にも雪にも雷雨にも・・・鬼にも負けないでやす」
「鬼にまで!!」
「凄いでやしょう。更にこのお地蔵様にお供え物をすると先着一名に一刻の間、姿を消せるといったご利益が付くんでやす」
「・・・凄い地蔵ね」
「その通りでやす」

田吾作の工房(アトリエ)  ○月×日 発売
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リクエスト+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回は後書の代わりにリクエストを久しぶりに取りたいと思います。

リクエストの募集
 リクエストといっても簡単な投票になるので感想がめんどくさかったり別にいらねーよというのでしたら無視して下さって大丈夫です。
 さて、問題のリクエスト内容ですが・・・健康マニアの焼き鳥屋に関してです。
 今回の一連の流れが終わった後、彼女をINさせるかどうか投票にて決を採ってみたいと思います。
 ただし、彼女がこの段階で出ると、出なかった場合の可能性は当然潰れてしまうので慎重に投票をお願いします。
 投票期間は、次の投稿までに3票以上集まった場合にINします。
 投票方法は感想の中に・・・これといって思い浮かばないのでそれぞれの熱いパトスをぶつけて下さい。
以上、久方ぶりのリクエストでした。
(追伸・他の奴が見たいぜといったリクエストもありです)

では、次回予告お願いします。
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登場の可能性があると聞いてやってきたぞ・・・寺子屋はまだ無いのに

霧の湖で妖精の襲われた薬屋!
妖精の力はたかが知れているが、かの妖精は格が違う!
一体どんな方法でこの難局を乗り切るのか?!
というか薬屋じゃ無くて狐が対応するべきなんじゃないのか?
(※先生はアスカのことを知らず薬屋として認識してます)

次 回
 「彼女を出すと私の出番が・・・・・・」
          っく、なんて卑劣な・・・私か○○○しか出れないなんて!! by.焼き鳥屋



[10620] 藍様の喜劇。焼き鳥屋と先生の人気にお手玉の中身が嫉妬
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/19 08:54
「おぉ、もふもふ狐よ・・・。やられてしまうとは情けない」
「もふもふ狐じゃありませんし、やられてませんよ!変な事言わないでください!!」

俺に叫び返してくる藍は大量の氷に押し潰されている状態だった・・・
その状態をやられたと言わないでなんと言うべきなんだろうか?
俺の前にいた青少女はたんこぶを作って湖に浮いてるし緑少女はそんな青少女を起こそうと必死に呼びかけている。
そもそもなんでこんな状態になっているのか俺は数分前の行動を思い返してみた。

回想

「食らいなさい、あたいの最強攻撃を!!」

目の前の青少女がそう叫ぶとその手の中になにやら白っぽい光が集まり始めた。
俺と藍は唐突な展開についていけずに呆然としている。
そうしているうちに、青少女は準備を終えたのか更なる宣言を始めていた。

「ふふん、あたいの攻撃の恐ろしさに声も出ないようね」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「でも、攻撃は止めない。流石あたい、最強!食らえ、アイシクルフォール~Easy~」
「「しまった!!」」

青少女が宣言を終えると同時に両の手を前に出し氷の礫を放ってきた。
呆然としていた俺はしまったと思いつつもダメージを覚悟しその場で防御を固めた。
藍は俺よりも一瞬早く反応しており、氷の礫を避けるために青少女に対して回り込むようにして避けようとした。
するとなんということでしょう・・・
俺の方には氷の礫はひとつも来ずに、正面から逃げたはずの藍が氷の的になっているではありませんか。
俺は悩んだ・・・藍が痛そうに氷を浴びている間、どんな反応をするべきかかなり悩んだ。
藍が氷に埋まりきった頃、とりあえず俺は青少女に向かって小石を投げてみることにした。
投げた小石は綺麗な弧を描き青少女の頭に命中した。
青少女はそのままたんこぶを作って湖へ墜落し、緑少女は湖に落ちた青少女を見て慌ててその方向へ向かい、
藍は氷の山から寒そうに顔を覗かせた。
そして・・・

回想終了

「現在に至ると・・・」
「何を言ってるんですかアスカ様?何でもいいんですが助けて下さい。寒いんです」
「狐火で溶かせばいいんじゃね?」
「確かにそうですけど時間がかかりますから助けてくれてもいいじゃないですか!!」
「いやな、氷・・・冷たそうじゃん?」
「冷たいし寒いですよ!!助けて下さい!」
「しょうがないか・・・」

俺はそう一言呟くと藍を救出するために氷の山を掘り始めた。
少し離れた所では、緑少女が青少女を淵まで寄せて陸に引っ張り上げ、起こそうと揺すりながら声をかけていた。
それから数分・・・
やっとのことで藍の発掘に成功した。
何気に氷の量が多かったせいで手が痛い。
どうやら青少女も目を覚ましたらしく目を点にしてキョロキョロと辺りを見回している。
そこで俺は攻撃の真意を探るために話しかけてみることにした。

「そこの緑の、そっちの青いのは平気か?」
「はぅ?!え、えっと・・・緑って私のことですか?」
「お前以外に緑色が何処にいる?」
「あぅ~・・・」
「おまえ!大ちゃんをいじめるな!!」
「・・・元気そうだな青いの」
「青いのじゃない、あたいは『チルノ』だ!」
「チルノね・・・、そっちの緑の「緑じゃない『大ちゃん』だ!!」・・・チルノには聞いてないよ」
「なんだと~!!」
「チルノちゃん大丈夫だよ・・・私は『大妖精』で、みんなからは『大ちゃん』って呼ばれてます」
「ふむ・・・チルノと大ちゃんね・・・」

少女達は緑色が大妖精の大ちゃん、青がチルノと言う名前らしい。
大ちゃんは俺が何かしないかとビクビクしながらその視線を俺とチルノとで行ったり来たりさせている。
チルノは俺のことが気に入らないのか顔をしかめて睨みつけている。
ここで妖精観察をしてもしょうがないので俺はさっさと聴きたいことを聞くことにした。

「んで、チルノ」
「なにさ?」
「何でいきなり攻撃してきた?お陰で連れが氷に埋もれてしまったじゃないか」
「あんた達が大ちゃんを困らせてたから」
「っは?」
「だ~か~ら~!あんた達が大ちゃんを困らせたからだよ!!」
「・・・・・・大ちゃん、どういうこと?」
「え、えっとですね、多分チルノちゃんはさっきの話で私が考え込んでたから、それで困ってるように見えて攻撃したんだと思います」
「なるほど・・・納得できないけどなるほど」

つまりは大ちゃんがどう言うべきか悩んでいるのを見たチルノがこんな風に考えたわけか。

大ちゃん悩む→チルノ見る→大ちゃん困ってる→誰が悪い→話してたこいつら(俺と藍)が悪い→大ちゃんを困らせた→やっつけろ

っと言うことか・・・
友達思いなのは良い事なんだが・・・良い事なんだが何か納得できない。
そもそもそれって、

「俺達が悪いのか?」
「えっと~」
「そうに決まってるじゃない!それと大ちゃんを困らせるな」

チルノはそう言いきると両腕をぐるぐる回しながら駄々っ子パンチを繰り出してきた。
俺はチルノの頭を抑えて前に進めないようにする。
するとどうでしょう、漫画で見たことのあるような大人と子供の図が出来上がってしまったではないですか。
そんなどうでも良い事を考えながらこれからどうするべきか藍に声をかけた。

「なぁ、藍・・・これどうしようか?」
「は~な~せ~!」
「はぁ・・・どうしましょうか?」
「チルノちゃんもうやめようよ」
「聞き返されても困るんだが」
「大ちゃん、止めないでこんな奴すぐにやっつけてあげるから」
「妖精ですし、適当にあしらえば良いんじゃないですか?」
「もう私は困ってないから、ねっ?チルノちゃん」
「それもそうだな」
「ん、大ちゃんがそう言うならやめる」

俺が藍との話し合いを終えると、いつの間にやら手の中にあった重みが消えていた。
見てみるとチルノは駄々っ子パンチを既にやめており、1・2歩離れた位置に立っている。
どうしたんだ?とその様子を見ているとチルノが口を開いた。

「ふん、大ちゃんに感謝しなさいよ!大ちゃんが赦してあげるって言ってるから特別に今回だけは見逃してあげるわ」
「・・・藍、何言ってるか分かるか?」
「すみません、私にはちょっと・・・」
「仕方ない・・・大ちゃん、通訳よろしく」
「えっとですね、チルノちゃんは私がもう困ってないから攻撃をしませんって言ってるんです」
「「なるほど」」
「っえ?っえ??あたいおかしなこと言った?」
「言ってないよチルノちゃん」
「言ってないぞチルノ」
「言ってませんよチルノ」
「そっか~」

チルノは言いくるめられて平和そうな顔をしている・・・この足りなさは将来が非常に心配になってくる。
それにしても・・・チルノのよく分からない発言を通訳できる大ちゃんは凄いな・・・よほど仲がいいんだろう。
そう思い大ちゃんの方を見てみると大ちゃんも此方に気づいたのかその顔に笑みを浮かべてくれた。
さて、ここからは・・・・・・仕返し(もふもふいじり)の時間だ!
そう考えた俺は勢いよく藍のほうへと振り返った。
きっと俺の目は意味もなく光り輝いていることだろう(キュピーン)
藍は俺の様子に気付いたのか体をびくりと震わし、口を開いた。

「あ、アスカ様・・・どうかなされたのですか?」
「なぁ藍・・・」
「はい?」
「お前って紫の式神だったよな?」
「はい、それが何か?」
「ついでに言うと元が狐の妖獣だよな?」
「正確に言うと九尾の狐で式神兼妖獣ですけどね。ですが、それがどうかしましたか?」
「そんなお前は俺に手傷を負わせるぐらい強いよな?」
「アレはどっちかといえばアスカ様が規格外かと・・・だからそれがどうかしましたか?」
「最後にもう一つ、そのぐらい強いお前は妖精をいじめたりしないよな?
「そりゃ、弱いものいじめをすることはありませんけど・・・ほんとに何なんですか?」

俺は藍が質問してくるのを意図的に無視するとチルノへ顔を向けた。
チルノと大ちゃんは俺と藍の話してる意味が分からないのか呆然としている。
そんなチルノに俺は質問を投げかけた。

「なぁチルノ、お前って最強なんだよな?」
「う、うん。あたいは最強だけど・・・それがどうかしたの?」
「チルノ、最強の存在は子分を連れているものなんだぞ」
「そうなの?」
「そうなんだよチルノ、隣にいる大ちゃんは子分かな?」

チルノは俺の質問で隣の大ちゃんに顔を向けた。
大ちゃんは顔を向けられた瞬間震えるもチルノに笑顔を見せている。
するとチルノは再びこちらに向き直り宣言した。

「そんな訳ないじゃん!大ちゃんは友達だよ」
「チルノちゃん・・・」
「へへん」

チルノの友達宣言に大ちゃんは感動している。
チルノはチルノで照れ隠しなのか鼻の下を指で擦っていた。
しかし、真の目的はこの次だ!
そう考えていた俺は更に口を開いた。

「ならチルノ・・・」
「な、なにさ」
「一度倒した相手を子分にすればいいんじゃないかな?」
「一度倒した・・・」
「相手ですか・・・?」

ここで、俺とチルノと大ちゃんの顔が一斉に、それでいてゆっくりと藍へ向けられた。
藍はその身をびくりと硬直させると慌てて言い返してきた。

「ちょ、ちょっと待ってください!私は負けてませんよ」
「でも氷に埋まったよな・・・」
「あたいの攻撃が始めて当たった相手・・・」
「チルノちゃんが勝った人・・・」
「え?っえ??なんですか?何でみんなそんな眼で見るんですか???」

いつの間にやら周囲は妖精で一杯になっていた。
チルノは自分が勝っていたという事実を飲み込んだのかその頬が段々と興奮で紅くなりだし、
大ちゃんは未だに何が起こっているのかよく分からないような顔をしている。
そこで俺はトドメの一言を発することにした。

「藍、お前・・・妖精(チルノ)に負けたな

その一言で藍の顔は羞恥に赤くなり、チルノの顔は勝利の興奮で紅くなり、周囲の妖精は一気に騒ぎ出した。
妖精曰く、チルノ最強
妖精曰く、九尾に勝った妖精、チルノ
妖精曰く、強すぎる妖精、チルノなどなど

それはまさにお祭り騒ぎ、大ちゃんもその輪に普通に入っていき、
チルノは歓喜の叫びを上げながら飛び上がった。
当然、藍がそんな事認めるわけも無く、俺に対して猛然と抗議してきた。

「ちょっと、アスカ様!何てこと言うんですか」
「何って・・・事実だけど?」
「事実って・・・っっっく~~~!!分かりました、この場でこの妖精(チルノ)を倒して汚名を返上します」
「あれ?妖精・・・いじめるの??」
「っんな?!違います!これはいじm「ねぇ、いじめるの?」っっっ?!?!」

藍の抗議を途中で遮り反論すると藍は口をパクパクさせながら何もいえない状態になってしまった。
暫く藍はその状態であったが、段々冷静になってきたのか目に涙を溜めると「アスカ様のバカ~~~~!!」と叫びながら走り去ってしまった。
それを見送った俺は一人呟いた。

「人の事を人外呼ばわりした君がいけないのだよ・・・藍」

妖精たちが騒ぐ中、俺は何時までも藍の走り去った方向を見続けるのだった。

<おまけ>

「ら~ん!藍~~!!」
「ゆがりざま~~~~~?!」
「ちょっとどうしたのよ藍?!そんな顔して?」
「あずがざまが・・・あずがざまが~~!!」
「アスカが?ああそうだったわね」
「??」
「アスカの家、ちゃんと調べてきたんでしょ?」
「っへ?!・・・えっと、それは~・・・・・・」
「まさか・・・藍!」
「ご、ごめんなさ~い」
「待ちなさい藍!お仕置きよ!!」

弱り目祟り目なもふもふ狐の巻
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後書+報告+次回予告

どうもお手玉の中身です。
アイシクルウォールのノーマルに初見でピチュリましたが何か?
そんな訳で、あの頃の悔しさを藍様に味わってもらうことにしました。
次の登場キャラが終わるといよいよリクエストいただいた方の起用になります。
問題は・・・・・・予想をはるかに超える先生と焼き鳥屋の人気だったorz
どちらか片方だけのつもりだったのに・・・
いいでしょう・・・お手玉の中身はこの挑戦を受けましたよ~!!
というわけで早速作ることにします。
楽しみにしていて下さい。

では、次回予告お願いします
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いいわよ、最強のあたいが次回予告をしてあげるわ!

平和な日常・・・それは荒らしの予感!
霧雨道具店に伸び来るまて?!
しかし、どんな時でもヒーローは洗われる!!
そう、かれらこそが・・・・・・大ちゃ~ん、これなんて読むの~

次 回
 「結構愛着が湧いてきたし、○つながりと言うことでww」
                  チルノちゃん・・・今度、字の勉強しようか by.大妖精



[10620] パニックホラーがリアル化するとかなり怖い(今回は短め)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/22 08:55
注意書き

どうも、お手玉の中身です。
今回の話の前に注意事項が一つ。
今回のパート・・・正確に言いますと次回辺りの話が残酷物語になっています。
作ってる途中で作者自身もこれいいのか?なんて思ってしまった作品なので読まれる際には、
心に余裕を持ってお読みください。
以上、お手玉の中身からの注意書きでした。

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平穏は素晴らしい。
そんな言葉を胸に俺は今日もいつもの日課に出発する。
今日の最終的な予定は霧雨道具店で薬草採取用の道具を新調して、魔法の森で薬草採取。
その前に今日の安全を願って大蝦蟇の祠と竜神の石造、そして田吾作の作ってくれた地蔵へ祈ることも忘れない。
しかも、今日は懐かしい出会いがありそうなそんな予感がする。



青年移動中・・・・・・


霧雨道具店、人里の中でも大きい部類に入る道具屋で結構妖精の悪戯の的になりやすい。
今日は障子に数箇所ほど穴をあけられてしまったらしい。
店主、源次郎にとって命をとられる訳でもなく、犯人が目の前にいるわけでもないので苦笑いで済ますしかないのが現状だ。
とは言え、源次郎本人にとってもこのような可愛らしい悪戯は早々怒るような事でもないのであるが。
人のいい店主、源次郎は今日も店の前に出て掃除をしている。
そんな時、遠くのほうから源次郎を呼ぶ声が聞こえてきた。

「お~い、源次郎~」
「おや、アスカ様じゃありませんか。薬の納品予定日はもう少し先のはずでしたが?」
「今日は普通の買い物だよ、薬はやはり売れてるのか?」
「それはもう。売り出したなら2、3日中には売れ切ってしまいますよ」
「そっか・・・」

そうして店に二人で入っていく源次郎とアスカ。
いい加減、第3者視点の表現が疲れてきたのでアスカ視点に戻すとしよう。

はて?今までなにやらおかしな声が聞こえてた気がするが・・・気のせいか。
そう考えた俺は虫除けの香を売ってもらうことにした。
最近、妙に虫が出るようになって薬草の採取作業の邪魔になってきたからだ。

「なぁ源次郎、虫除けの香はあるか」
「ありますよ。どのような物がご入用で?」
「持ち運びに便利で4、5時間ほど効果が続くものが欲しいんだが・・・あるか?」
「それなら予めここで虫除けの香を服に付けて行ってはどうですか?もちろん御代は頂きますが」
「いいのか?」
「はい、店の中でそろそろ炊こうと思っていた香がありますので・・・そのぶん御代も低くさせて頂きますよ」
「なら頼む」
「はいはい、今炊きますから少々お待ちを・・・」

その後、源次郎に聞いて驚いたのだが、人里で虫除けの香を扱っているのは霧雨道具店だけだそうだ。
なんでも、香の匂いがおかしかったり効果が今一だったりと他の店では製作に失敗してるんだとか。
今度自分でも作ってみようかと思った今日この頃である。
そしてやってきたのは魔法の森。
以前はぷっくるが出てきたが、今回は歌が聞こえてこないので、おそらくいないのだろう。
そんなことを考えながら、張り切って薬草の採取を始めた。



薬草採取クエスト中・・・・・・


まただ・・・また時間が経つのも忘れて薬草取りに夢中になってしまった。
虫除けの効果も既に切れてしまったのか、いろんな虫が周りに集りはじめた。
薮蚊、小蠅、蛍、カマドウマ、飛蝗、芋虫、ムカデ、G・・・etc
あれ?なんか・・・多くね??
そう疑問に思った俺は眼を擦り再度周りを見渡し、その場から全力で逃走した。
後ろからはガサガサ、ギチギチと耳障りな音が響いてくる。
俺が見たのは虫・・・・・・
それも大地を埋め尽くし蠢いている虫の大群が此方へまっすぐに向かってくる様だった。
嫌過ぎる・・・虫に這いずり回られるのも嫌だが何気に捕食される可能性が頭によぎるのがとっても嫌過ぎる。
俺は逃げた、確かに俺は弱い鬼くらいなら倒せる自信がある。
虫だって一匹や二匹はどって事は無い。
しかし数千匹超えてる時点で話は別だ。
そんな大群、藍の狐火や萃香の火炎放射でもない限り勝てる・・・以前に生き残れる訳が無い。
後ろからはまだ追いかけてくるのがガサガサ、ギチギチ、ブンブン・・・虫に集られて食われる様を想像する。
・・・・・・・・・嫌過ぎる!

「ついてくんな~~~~!!」

俺は必死に逃げながら祈った、「助けて下さい竜神様、大蝦蟇様、お地蔵様~!!」っと。
そして、そう祈った俺を竜神様達は見捨てなかった。
何処からとも無く聞き覚えのある懐かしい声が平原に響いた。

「まてぃ!虫畜生共!!」
「アスカの旦那にはこれ以上手は出させないぞ!!」
「「とぅ!」」

掛け声が響くと俺と虫との間に二人の男が着地した。
こ、こいつらは・・・・・・!!
何でこんなところに?!ってか何で生きてる?!
あんまりな展開に俺が驚いている間も世界は回る。

「お前らみたいな虫に旦那を殺させる訳には行かないんだ!食らえ、黒陽の拳!!」
「右に同じく以下同文。食らえ、影月脚!!」

二人がそれぞれの技を繰り出すとその衝撃波で虫が面白いように吹き飛んでいく。
俺がこの二人こんなに強かったか?と考えている間に二人は虫をすべて片付けたのかこちらを振り向いて口を開いた。

「大丈夫ですか旦那?」
「お怪我は?」
「それは大丈夫だが・・・お前らなんでここに?」
「・・・話すとちっと長いんですが聞いてもらえますか?」
「なにやら重要そうな話だな・・・聞かせてもらおうか。黒陽、影月」

二人の男は黒陽と影月。
竜宮に行く前に霧雨道具店で再会した警備兵の二人である。
二人は真剣な面持ちのまま更に口を開いた。

「はい、アスカの旦那も知ってのとおり、俺らは霧雨道具店で警備兵をしながら見習い商人をやってました」
「しかしですね、旦那がいなくなった後、店への客足がぱったりと無くなっちまったんですよ」
「そこで当時の店主、おやっさんこと藤兵衛さんは店を移転することに決めたんです」
「そしてその移転先が・・・」
「この幻想郷だったわけか・・・なるほどな、通りで人里に霧雨道具店があるわけだ」
「はい、その様子だと贔屓にしてもらってるみたいで・・・ありがとうございます」
「それは構わんのだが、何でお前らが生きてこんな所に?アレから随分と時間が経っている・・・どころか普通は死んでるんだと思うんだが?」
「それなんですが、旦那も知ってのとおり幻想郷では妖怪、妖獣がうようよしています」
「そんな中でも特に恐ろしい妖怪に霧雨道具店は目を付けられてしまったんです」
「なに?!」
「奴はさっき旦那を襲ったように虫を操り」
「幾度と無く店を襲いました」
「俺らもがんばって抵抗したんですが・・・」
「おやっさんを守るのが精一杯でやられてしまいました」
「ちょっと待て?!それじゃあここにいるお前らは?」
「大丈夫、死人じゃないですよ」
「そうです。俺達が殺された後、飛蝗の妖怪に喰われちまったらしいんですが・・・気付いたらこの平原に俺も黒陽も突っ立ってる状態だったんです」
「おい・・・まさかお前ら・・・」
「はい、俺らはどうにも飛蝗の体を乗っ取っちまって妖怪化したらしいんですよ」
「おかげさまで俺らの必殺技は今までとは比べ物にならないぐらいの強さになりました」
「「まさに転んでもただでは起きない精神」」

・・・生きていたのは嬉しいが、なんだこいつら?
俺なんかよりよっぽど凄い存在かもしれないぞ???
まぁそんな感想は置いておくとして、

「それなら何で店にいないんだ?」
「それが・・・この体、副作用があるみたいで」
「副作用?」
「はい、飛蝗が元だったせいか、他の虫と同じように操られそうになったんですよ」
「何とかギリギリ踏みとどまれはしましたが、また耐え切れるかどうか」
「店の傍まで近寄っていなければある程度は大丈夫なんでこうやって離れたところで防衛線を張って店を守ってるんです」
「それで店は大丈夫なのか?」
「俺らが協力開発した虫除けの力でしっかり守られてるから大丈夫ですよ」

なるほど・・・虫の妖怪が直接作った虫除けならそれは効果的だ・・・
さりげなく霧雨道具店の虫除けの秘密を聞きながらも話は進んでいく。

「俺らがまた店で働けるようになるには」
「店を襲ってくる虫の親玉、妖怪を何とかしないことには戻ることが出来ないんです」
「そこで旦那にお願いがあります」
「どうか俺らと」
「「妖怪を何とかするのに協力をしてはくれませんか?」」
「当然、霧雨道具店は気に入ってるんでね協力させてもらうよ」

俺の返事を聞くと二人は顔を輝かせて更に言い募ってきた。

「あ、ありがとうございます」
「これで俺らもやっと店に戻れます」
「礼を言うにはまだ早い、俺を襲った糞虫を叩き潰してからにしてくれよ」
「「っ?!はい!!」」

そんな時だ、

「へぇ~、助っ人か~」

奴は現れた。

「そんな事しても無駄なのに・・・これだから元人間は愚かだよね」

月明かりの元、

「いいよ、忘れたのならもう一度思い出させてあげる・・・」

立ち止まると声高らかに宣言した。

「数多の虫に貪らせ、塵一つ残さない!」


<おまけ>

そこそこ先の話・・・

「ねぇ大ちゃん、私が勝った事ある相手って誰だっけ?」
「チルノちゃんが勝ったの?・・・妖精と・・・九尾狐?」
「そっか、ありがと大ちゃん」

更に時が流れて・・・・・・

「ねぇ大ちゃん、私が勝った事ある相手って誰だっけ?」
「チルノちゃんが勝ったの?・・・近くの妖精と・・・・・・狐?」
「そっか、ありがと大ちゃん」

更に更に時が流れまくって・・・・・・・・・・

「ねぇ大ちゃん、私が勝った事ある相手って誰だっけ?」
「チルノちゃんが勝った相手?・・・近所の妖精と・・・・・・・・・蛙??」
「そっか~、そういえばいつも凍らせてたから当然だよね。ありがと大ちゃん」

時の流れによる伝言ゲーム(藍様救済の策)
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後書と言うよりも言い訳+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回のおまけを作っていたにも拘らず多くの藍様救済の声にびっくりした作者です。
妖精なら良くも悪くもこういったおまけ話が出来ることでしょう。
よし、言い訳終了・・・・・・

では、次回予告どうぞ
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多くの声援を貰った藍です。油揚げ、ありがとうございました。

再会した友は意外な存在に!
現れた影は男の子?!
こんな能力使われたら普通は逃げる!

次 回
 「残酷物語、でも死なないから安心してね」
            ら~ん、そんなこといいからアスカの家探してきなさい by.紫



[10620] 残酷物語と緩和用のロマンス
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/22 08:54
「数多の虫に貪らせ、塵一つ残さない!」

・・・なんか偉そうな少年が現れた。
黒いマントっぽいものを首に巻き、緑の髪からは二本の触覚?が飛び出している。
さっきの言葉からすると、こいつも妖怪なんだろうが・・・どうにも見た目が・・・・・・
すると後ろから苦しそうなうめき声が聞こえてきた。
俺が何事かと思い黒陽達の方を振り向くと二人が苦しそうに体をくの字に曲げていた。

「お、おい!二人とも大丈夫か?!」
「だ、大丈夫と言いたいところですが・・・」
「かなりいっぱいいっぱいです・・・」

二人がなぜ苦しんでいるのか見当もつかない俺は少年の警戒をしながらも腰元からいつもの万能薬を準備した。
それを見ていた少年(妖怪)は可笑しそうに嗤うと無駄だと忠告してくる。

「お兄さん、そんな薬無駄だよ。そいつらが元人間でも今は飛蝗の妖怪。『虫を操る程度の能力』から逃げることは出来ないんだよ!」
「なに?!」
「むしろ、今まで操られずに耐えれてることの方が凄いことだけどね・・・。私の言うことを聴かない虫なんて初めてだよ」
「ま、まだまだ~・・・・・・」
「俺達、霧雨道具店警備兵を舐めんじゃねぇぞ・・・」
「ふん、その割にはもう限界みたいだけど?」

少年の言うとおり、何とか反論している二人の様子は今にも崩れ落ちてしまいそうなほど弱弱しいものだった。
今までの会話から推察するにこの餓鬼を潰せば二人は元に戻るようだ。
ならば・・・・・・

「お前ら、もう少し耐えてろよ?」
「「だ、旦那・・・?」」
「おい、糞餓鬼・・・・・・」
「糞餓鬼とは言ってくれるね、たかが人間が・・・・・・まぁいいや、何かいいt「黙って・・・」??」
「死んでろ」

餓鬼に対して宣言した俺は目の前の餓鬼に向かって走り出した。
虫が集ってくる・・・知るか!
虫が這いずり回ってる・・・知ったことか!!
虫が体に食らい付いてくる・・・どうでもいい!!!
無数の虫が群がってくる中、俺は餓鬼を目指して走った。
そんな光景を餓鬼は信じられないような顔で呆然と見ていたが後数歩の距離になると慌てて逃げ始めた。
しかしもう遅い、其処は・・・

「此処までやっといて逃げれると思ったか?」

俺の・・・

「っひ?!」

手の届く距離!

「死ね!」
「っっ☆△×○□?!?!」

逃げようと後を向き、飛び上がろうとしていた餓鬼の背を全力でぶん殴ってやった。
餓鬼は声にならない悲鳴を上げながら宙を舞い、一回・・・・・・二回・・・三回ほどバウンドを繰り返し転がりながらその動きを止めた。
大地に沈んだ餓鬼はまだ生きているのか、時折ぴくぴくと動きながら喘ぐ様に咳き込んでいる。
いつの間にやらアレほど周りにいた虫達は一匹も残っておらず、周囲からはその鳴き声すら響いてこない。
ただ聞こえて来るのは目の前の餓鬼の咳き込むような苦しむ喘ぎ声だけ。
そんな餓鬼に近づこうと一歩足を踏み出すと、左腕に先ほどまで感じなかった鋭い痛みを感じた。
見てみると虫が一匹残って噛み付いている。
自分の身体を見てみれば、先ほど虫の大群に突っ込んだせいか至る所に傷が出来ていた。
しかし・・・まぁ、この程度なら大丈夫だろ
そう考えた俺は最後まで身体に引っ付いていた虫を握りつぶすと改めて餓鬼に向かい歩き始めた。
餓鬼はある程度落ち着いたのか、それとも俺の近づく気配に気付いたのか、
倒れたまま此方に振り向くと、立ち上がる力も無いのか短く悲鳴を上げて地を這いずる様に逃げはじめた。
だが、逃げるだなんて・・・赦すわけが無い。
俺は逃げようとする餓鬼の背を踏みつけ動けないようにした。
餓鬼は苦しそうにもがいている。

「おい、何処に行く気だよ?餓鬼・・・」
「っは、っかは、ひゅ、ひゃ、や、ひゅぅ~・・・」
「何が言いたい?言葉はきちんと話そうぜ・・・餓鬼

俺が足の力を強めると餓鬼は更に苦しそうにもがいた。
その口から漏れ出す言葉は、最早言葉ではなくただの音と成り下がった。
これくらいでいいだろう・・・・・・
そう考えた俺は餓鬼の背から足をどけると・・・

「苦しいだろ?」

頭へ置き換え・・・

「そろそろ・・・」

力をじわじわと掛け始めた。

「潰れなよ」
「っぎ?!ぎゃああぁぁぁあぁあぁぁああぁぁ!!!」

力を掛けていくたびに餓鬼の頭は軋むような悲鳴を上げ、その口からは絶叫が迸る。
餓鬼は必死に逃げようとしてるのかジタバタともがきながら時折、人の足を叩いてくるがまったく力が入っていない。
何をどう叩いているのかも分からないのだろう・・・・・・
そのまま10分ほど時間が経っただろうか?
餓鬼の頭は意外に固かったようでまだ潰れずに原形を保っている。
その間も常にその口からは耳障りな悲鳴を上げ続けた。
・・・・・・そろそろ、この汚い悲鳴にも気分が悪くなってきた。
そう考えた俺は、餓鬼の頭から足を一度退かした。
餓鬼は頭にかかっていた痛みがなくなったからか足を退かせると悲鳴と動きを止めた。
その様子には生き延びられた安心感が何処と無く感じられる。
だから俺は・・・・・・

「いい加減しつこいぞ?」

足を振り上げ・・・

「死ね!」

全力で餓鬼の頭を踏み抜いた。
あまりにも強く踏みつけてしまったせいだろうか、辺りには砂埃が立ちこめた。
立ち込める砂埃の中、一息ついたところで俺は後ろの二人はどうしただろうかと気になり、二人のいた位置へ振り向いた。
しかし、其処には二人はいなかった。
何処へ行ったのかと辺りをキョロキョロと見回してみると砂埃の向こうに人影が見える。
影は二つ、両方とも蹲っているようだった。
砂埃が晴れると、その先には探していた二人・・・黒陽と影月。
そして、二人の手の中にいるのは・・・・・・?!
俺は慌てて自分の足元を確認し、二人に向かって口を開いた。

「なぁ、何でそいつがそこにいるんだ?」
「えっと・・・なんて言いますか・・・・・・」
「気付いたら身体が勝手に・・・・・・ははは・・・」

二人の腕の中には俺が踏み潰したはずの餓鬼が納まっていた。
おそらく踏み潰す直前に引き抜いたんだろうが、なぜそんなことを?
そう考えた俺は改めて二人にたずねた。

「その餓鬼、敵のはずだよな?なら此処で殺すべきじゃねぇのか?」
「た、確かにこいつは憎い敵ですけど・・・・・・」
「な、何も殺さなくとも・・・」
「おいおい、そいつはお前らを一度殺してるんだろ?何で庇ってんだよ」
「確かにそうです・・・だけど!」
「そんな簡単に殺さなくとも言いと思うんです」
「・・・・・・マジか?」
「「意味は分かりませんがマジです」」

こいつらの様子・・・操られてるかと思ったら違うみたいだし。
本気で庇ってるよ・・・・・・自分殺した餓鬼を。

「しかし、助けてどうする?その餓鬼が霧雨道具店を狙ってることには変わらないだろ」
「それなら大丈夫」
「俺達に考えがあります」
「考え?」

その考えを聞いた俺は鼻で笑い一蹴した。
しかし、二人は諦めなかった。
何がこの二人を掻きたてるのかは分からないが必死に餓鬼の命を助けるように俺に懇願してきた。
その頼み込みはとうとう、土下座まで入ってきた。
流石にここまでされては・・・・・・

「認めないわけにはいかないだろ・・・」
「「でしたら旦那!」」
「はぁ~~~~・・・・・・、納得は出来ないが一応見逃してやるよ」
「「あ、ありがとうg「ただしだ!」?!」」
「その餓鬼が霧雨道具店をまた襲ったら、今度こそ潰すぞ
「わ、分かってます」
「むしろそのときは俺達の手で・・・」
「其処まで解ってんなら良いや・・・・・・」

俺はため息交じりで言葉をつむぐと腰元からいつもの万能薬、
そして二人のいた位置においていた荷物から藍に使った滋養強壮薬を取り出した。
二人は此方を不思議そうに見ていたが、俺が滋養強壮薬を差し出すと薬と俺に視線を行き来させながら尋ねてきた。

「えっと旦那?こいつは??」
「特製の体力回復薬だよ・・・このまま何もしなければそいつ多分死ぬぞ?」
「ちょ?!旦那!それ本当ッすか!!」
「こんなことで嘘言ってどうするよ。最初殴った時とか本気でやってるから自己治癒間に合わないと確実に死ぬぞ」
「これ、頂きます」

そう言ったのは黒陽だったか影月だったか・・・
とりあえず薬を受け取った二人は早速餓鬼に薬を飲ませようとした。
しかし、餓鬼は薬を飲む力も残っていないのか口の端からこぼれていくだけ。
それを見た影月は薬を自分の口に含むと餓鬼へ口移しに飲ませだした。
餓鬼の喉が嚥下する。
どうやら無事に飲み下すことが出来たようだ。

「飲んだか?」
「飲みました!」
「んじゃ、落ち着けるところで休ませるとしよう。此処からだとお前らの家のほうが近いのか?」
「俺らのは家って言うか・・・」
「住処ッすね」
「・・・・・・まぁそこで言いや・・・ほれ、運ぶぞ」

そうして俺は二人の家、魔法の森奥地にやってきた。
そこは魔法の森の奥深くにも拘らずキノコの胞子が舞っていない珍しい場所だった。
辿り着いた家は・・・・・・辿り着いた小屋は非常に汚かった。
そんな汚い部屋の中、物を適当に脇に寄せてスペースを作るとそこに餓鬼を寝かせ、
俺は改めて二人にたずねる事にした。

「んで、ホントの所なんでこいつを助けようと?」
「っへ?」
「いや、だからっすね、このまま死んだらかわいそうだな~と思ったからですけど」
「自分殺した相手に同情する奴はいないよ・・・さっきは頭にきてたからよく考えてなかったが冷静になったらわかることだぞ」
「・・・・・・・・・・・・影月、自分で言えよ」
「っちょ!黒陽?!苦楽を共にすると誓ったじゃないか!!」
「それとこれとは別だボケ!よく考えたらこんな苦労してるのもある意味お前のせいじゃねぇか!!」
「っぐ・・・・・・」
「結局、どういうことなんだ?」

俺が聞きなおすと黒陽は影月の方を向き、影月は下を向いて黙ってしまった。
それから数分ほど待っただろうか。
影月が顔を上げると勢いよく口を開いた。

「お、俺!」
「ん?」
「その子に惚れたんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は???」
「だから、影月のバカはその妖怪に一目ぼれしたんですよ」
「そうなんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・な、なんじゃそりゃ~~~~~~!!!」

詳しく話を聞いてみるとこの二人、妖怪として復活した後に餓鬼の前に連れてこられたらしい。
それで、霧雨道具店を狙っていることなんかを聞き出したとの事なんだが・・・
影月のバカがそこでこの餓鬼に一目ぼれしたせいで、その後の戦いでも何とか傷つけないように追い払うためいつも手加減して戦ったらしい。
・・・・・・かっこいいけど、真性のバカだ。

「お、おまえな~・・・」
「やっぱり旦那も呆れますよね~」
「んな?!いいじゃないですか!恋は突然なんです!!」
「とは言え・・・あの餓鬼、男の子だろ?」
「「っへ?」」
「ん?どうした」
「旦那・・・あいつあんな格好ですけど」
「女の子ですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「俺も最初は驚いたんですけど影月の奴が・・・」
「うぃっす、戦ってる最中に当たったら軟らかかったです!!」
「自慢して言うことかよ・・・・・・・・・」

本物のバカだ。
さすが警備兵・・・俺の予想をはるかに超える行動を取る。
其処に痺れもしなければ憧れる事も無いと考えた再会の晩だった。

<おまけ>

もふもふA「やった・・・・・・遂にやったぞ~~~~~~!!」
もふもふB「どうしたのもふもふA?そんなに喜んで」
もふもふA「もふもふB!聞いて聞いt「祝い事があると聞いて飛んできたでやす」・・・・・・」
もふもふB「田吾作さん・・・・・・」
田吾作  「おや、どうしたでやんすか?二人とも??」
もふもふA・B「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
田吾作  「まぁいいでやす。なにやら祝い事の気配を感じてきたでやすが何かあったでやすか?」
もふもふB「(いつもの事だけど何処から来てるんだろ、田吾作さん)」
もふもふA「まぁいっか・・・。田吾作さん、遂に能力を強くすることが出来たんです」
田吾作  「それは、おめでとうでやす。どんな能力になったんでやすか?」
もふもふA「鈍器しか扱えなかった日々にさようなら。明日から私の能力は『あらゆる武器を使う程度の能力』になったんです」
田吾作  「それは凄いでやす!!」
もふもふB「すご~い!!」
もふもふA「この能力を使えば私が武器だと思ったものはどんな物でも手足のように使えるんですよ」
もふもふB「すごい!すごいよ、もふもふA!!」
田吾作  「いやはや・・・、驚きのあまり声も出ないでやす」
もふもふA「それじゃあ・・・早速、私は行ってくるよ」
もふもふB「っへ?!」
田吾作  「何処へでやすか??」
もふもふA「そんなの決まってるじゃないですか!いまだ見たことのない憎き敵の潜む、大蝦蟇の池へ!」
もふもふB「まだ覚えてたの!!」
田吾作  「なんと言う才能の無駄遣いでやす・・・・・・」
もふもふA「さぁ、復讐するは我にあり!!いくぞ~~~~~~~~~~~~!!」
もふもふB「行っちゃった・・・・・・」
田吾作  「どうしようもないでやすな。無事帰ってくるのを祈っておくでやす」
もふもふB「そうですね・・・・・・『神様』に祈って待っておくことにします」

怪しい液体まみれとなったもふもふAが発見される前日の会話記録より
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です
お手玉の中身的残酷物語、いかがでしたでしょうか?
荒んでしまった心は緩和剤の、影月とんでも告白とおまけ話で癒してください。

では、次回予告です
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えっと・・・、前にチルノちゃんが迷惑をかけたので、今回は私が次回予告を担当します。

あまりにも呆れてしまうような影月さんの告白
アスカさんとしてはなかなか認められるものではありません
それでも黒陽さんと影月さんの計画は進みます
はたして・・・・・・???あれ?リグルちゃん・・・生きてられるの???

次 回
 「愛する心はいつまでも」
       大ちゃんすげ~!! by.チルノ



[10620] 今後百年の無料奉仕が決定しました
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/22 08:54
名も知らぬ餓鬼、もとい妖怪少女を倒してから一晩が経った。
影月のとんでも告白の後、少女に逃げられないようにするために交代で見張りで起きながらそれぞれ眠りについた。
しかし、小屋のあまりの汚さに全然落ち着けなかった・・・・・・我が家の布団が恋しい今日この頃だ。
それはさておき、今日は昨晩聞かせてもらった二人の考えを実行するためにこの少女を人里まで連れて行かなければいけない。
そんな訳で・・・

「おい、黒陽!影月!さっさと起きろ!!」
「「う、うぐぅ・・・」」

このとんでも警備員共を蹴り起こした。
正直今でも信じられない・・・俺の目の前で悶絶している二人があんなとんでもない計画を立てていたとは・・・・・・
そう考えながら悶えている二人を観察すること数分、二人はやっと回復したのか起き上がりながら文句を言ってきた。

「旦那、蹴飛ばすなんて酷いじゃないですか!」
「そうですよ旦那!!」
「うっせ!このダメ警備員共が!!」
「「ひどっ!」」

さて、後ろで更に何か言ってくる二人は放って置くとして、この少女もいい加減起こさないとな。
そう考えた俺は、影月に声をかけた。

「おい、影月。いつまでも変なこと言ってないでこいつ、起こせ」
「変なことって・・・分かりました。俺が起こします」

影月はなにやら言いたそうではあったが、そのまま少女を起こすために動き出した。
その様子を眺めていた黒陽は不思議そうな顔をして尋ねてきた。

「旦那。あの子、旦那が起こせばよかったんじゃ?」
「俺が起こしても良かったのか?」
「何か問題でも」
「腹、蹴り抜いて悶絶させるぞ?」
「・・・・・・・・・了解です」

正直なところ、俺はあの少女のことがあまり好きではない。
と言うよりも、嫌いだ。
こうやって生きている状態であるとは言え、人間だった二人を殺したのは間違いなくこの餓鬼なのだから。
しかしながら、やられた本人達が生かすつもりなら俺がどうこう出来るはずも無い。
そんなことを考えていると少し前に行った文への罰を思い出してしまい少々おかしな気分になってくる。
その時だ、影月の叫びが響いた。

「ガァ~~~!!」
「「どうした影月!」」

俺と黒陽は同時に振り向きそれを目にした。
少女が影月を組み敷いて此方を睨みつけているのを。
油断した。アレだけぼろぼろにしたと言うのに経った一晩であそこまで回復するなんて。
自分の作った薬の効果を見誤っていたことに後悔しつつ少女を睨みつけていると少女が口を開いた。

「ねぇ、其処退いてくれるかな?身体がまだ痛むから手加減しにくいんだよ」
「んな?!ふざけんな!!影月から手を離せ!」
「折角の人質を放すわけ無いじゃん」

どうやら少女は影月を人質に此方を脅しているようだ。
なんとも小賢しい。
俺は頭に血が上るのを感じながら少女に告げた。

「おい、餓鬼・・・今手を離せば1割ぐらいで勘弁してやるぞ」
「っはん!私がこいつを捕まえてる限り手が出せないくせに偉そうなことを言わないで。
分かったらさっさと退きなさい!」
「・・・・・・餓鬼、今ならまだ3割ぐらいだ・・・手を離せ
「っひ?!へ、へん、そ、そんな脅し怖くないもん」
「お、おい、お前!速く影月、お前が捕まえてる奴を放せ!!死にたいのか!」
「う、うるさい!!」
「これが最後だ・・・・・・潰すぞ?」
「ひゃぅ?!」

俺が最後にさっきを込めて言い放つと少女は硬直し手を離してしまった。
影月はまだ意識をちゃんと持っていたらしく少女の手が離れた瞬間に起き上がり少女を組み敷いた。
その光景を見て俺と黒陽はホッと一息吐いた。

「はぁ~・・・、大丈夫か影月?怪我無いか?」
「まったく、旦那がいなかったらどうなってたか・・・」
「すまん、油断してた」
「それはこっちの言葉だ影月。自分の作った薬の効果を見誤ってた」
「旦那は悪くないですよ。悪いのは色b「わ~わーわ~!!」・・・ホントの事じゃねぇかよ」
「いや、流石に恥ずかしい上に、俺の下に本人いるし・・・」

ほんの僅かな珍騒動。
しかし一歩間違えれば大惨事。
これで俺は、この餓鬼が更に嫌いになった。
そんなつまらない愚痴を考えつつ、辺りに散乱している物を退け、話し合いのための空間を作った。
その空間の中心に座らされた少女は此方の顔つきをうかがってはビクビクと怯えている。
いい気味だ。
黒陽と影月はこの思い空気を何とかしたいのかお互いに話を切り出すように突きあってる。
緊張感がないというか・・・
そして俺は、間違いなく顔をしかめているだろう。
それを自覚しつつ口を開いた。

「それで、昨晩の考え・・・ほんとに実行するつもりか?」
「・・・・・・もちろんです」
「影月・・・さっきの見ただろ?この餓鬼は此処で潰してしまったほうがいいぞ」
「っひ?!?!」
「ダメです!そんなこと・・・アスカの旦那にだって絶対させません!!」
「本気か?」
「本気です!!」
「旦那、俺からも頼みます。今度は油断もしませんし影月も大丈夫ですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

重苦しい空気が出来てしまった。
影月と黒陽は座ったまま前のめりになるような体性で此方に向かい真剣に訴えかけている。
どうしたものかと考えていると話題の中心である少女が口を開いた。

「あ、あの~」
「ん?」
「「どうした?」」
「ひゃう!・・・えっと、私はこの後どうなるんでしょうか?」
「ふむ・・・・・・これなら大丈夫か・・・」
「え?!旦那、今なんて?」
「条件付で赦してやるっていったんだよ」
「ホントですか」
「良かったな影月」
「え?え?なに??どうなるの???」

俺の言葉に反応して影月が拳を握り締め、黒陽はそんな影月の肩を叩いてお互いに頷きあい喜んだ。
少女は自身のことなのに何一つ分からないまま話が進められいささか困惑しているようである。
俺は条件、釘を刺すために再び口を開いた。

「おいおい、条件付って言ったろう。喜ぶには速くないか?」
「旦那ができないようなことを言うはずがありませんから。な、黒陽」
「そうだぜ、旦那」
「信用されるのは嬉しいんだが・・・いささか心苦しいな。
それじゃあ、ちょっとばかしそいつに釘を刺すから黙っててくれよ?」
「「??はぁ?」」

苦笑いしながら告げる俺の言葉の意味がよく分からなかったのか二人は曖昧な返事を返してきた。
しかしこのまま、この少女を連れて行かせるわけにはいかないので、此処でしっかりと釘を刺すため、
言葉に怒気を乗せて少女にぶつけた。

「餓鬼、名は」
「っひ?!」
「『ひ』じゃ、分からんだろうが!!名を問われたならさっさと答えろ!」
「ご、ごめんなさい。りぐ、『リグル・ナイトバグ』です」
「ふん、最初から答えればいいものを・・・まぁいい。これから貴様を殺さない代わりにある仕事をしてもらう」
「し、仕事ですか」
「そうだ。その仕事先で悪さをしようものなら・・・」
「・・・・・・ど、どうなるんですか?」

不安げに聞き返してくるリグル。
そんなリグルに対して俺は何処までも冷たく言い放った。

「今度こそ・・・潰す!
「ひぃ?!?!」
「それがいやなら、おとなしく働くことだな。期間は百年くらいでいいか影月?」
「あ、あぁ・・・旦那がそれでいいなら俺はいいぜ。なぁ、黒陽」
「お、応。俺達は旦那に任すぜ」
「まったく・・・あの人にはお前らから言えよ」
「「分かってるぜ」」

そうしてリグルへダメ押しの釘指しを行い、影月と黒陽に確認を取った。
影月、黒陽共に納得できる期間だったのか特に問題なく話が進んだ。
まぁ、この計画自体、二人の立案だから反対するはずも無いんだが。
リグルは先ほどの釘刺しの影響が残っているのかいまだに震えている。
そんな状態の俺達であったがこのままでは話も進まないので早速計画通り人里へと向かった。
その道中、リグルが能力を使って逃げそうになる場面もあったがその度に俺が脅しつけたのでこれ以上逆らうことも無いだろう。

そして到着したのは人里の中にある霧雨道具店。
ちょうど店の外にいた源次郎が黒陽と影月の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。

「黒陽、影月、二人とも帰ってきたのか!」
「「ただいま戻りました。おやっさん」」
「うん、うん、今までよくがんばったな。よく店を守ってくれたな」

源次郎は二人を抱き寄せると涙を浮かべながら二人を労った。
二人もそんな源次郎に涙を流している。
それから暫くすると、源次郎は二人から離れ此方にも目を向け、驚きの表情を作った。

「あ、アスカ様?何で黒陽、影月の二人と??」
「その辺りはちょっとばかし長くなるから中で話すよ」
「は、はぁ・・・」

源次郎は納得していないような返事を返してきたがこんな道端で話すような内容でもなく、
店の中で話させてもらうことにした。
そうして店の中で語るのは不老である俺の存在、店を襲った妖怪ことリグルの話、
そして・・・・・・

「なに~~~!!影月、本気なのか?!」
「はい、おやっさん!俺は本気です!!そこにいるリグルに本気で惚れてます!!」
「・・・・・・本気、なんだな?」
「・・・はい!」
「黒陽!」
「はい、おやっさん」
「お前の相方がこんなこと言ってるがいいのか?」
「影月ですから」
「そうか・・・・・・。アスカ様はどう思いますか?」
「俺か?俺は本人達が幸せなら言いと思うぞ?其処のやつは正直好きじゃないがな」
「旦那・・・・・・」
「情けない声を出すな影月。おい、黒陽」
「なんすか、おやっさん」
「蔵から祝い酒もってこい。場所は昔お前に教えてもらった所から変わってない」
「へ?それじゃあおやっさん」
「見た目こそ俺のほうが爺だがそんな俺を昔から支えてくれたのはお前達だ・・・・・・
そいつが幸せになろうとしてるのに邪魔なんぞしねぇよ!!」
「っっっありがとうございます!おやっさん!!」

そう言って源次郎へ頭を下げた影月。
黒陽は光景を見ながら涙ぐみ源次郎は影月の肩を何度も叩いていた。
ちなみに、此処までずっと黙りっぱなしだったリグルだが、影月からの告白もどき、
もとい惚れてる宣言で頭から煙を噴出している状態になってしまった。
ついでにこの後、影月が再度リグルに対して告白をするといったイベントがあったが見事玉砕してしまった。
ただし、影月は諦めるつもりが無いらしく今後もアタックを続けるらしい。

さて、此処で話が終わればちょうどいい幕引きになったのだが物語はもう少し先へ進む。
祝いの席を用意するために一度店から出たアスカ、黒陽、影月、リグル。
しかしこのメンバーがちょうど運悪く通りかかったとある方々の目に留まってしまった。
そう彼女達こそが・・・・・・

「なぜ人里の中に妖怪が3体も?!おまえら、此処で何をしている!!!」

人里の守護者と、

「慧音、今日は私もちょっとイラついてるから手伝わしてもらうよ」

健康マニアの焼き鳥屋だった。


<おまけ>

店から出る少し前の会話

「そういえばおやっさん、奥さんとお子さんは?」
「ん?あぁ、教えてなかったなそういえば、其処の・・・リグルだっけ?まぁそいつからの襲撃があるから別に家を借りて其処にすんでるんだよ」
「なるほどそうだったんですか」
「ん?源次郎は妻子がいたのか?」
「えぇ、今度店に来た時には呼び戻してますから是非、会ってください」
「そうか、楽しみにしておくと言いたいんだが良いのか?これからはリグルもここで働くことが決まったのに?」
「大丈夫ですよ。黒陽に影月、それにアスカ様がしっかり言い含めておいてくれたお陰で悪さをするような気配はしませんから」
「俺としてはやっぱりまだ心配なんだがな~」
「だ、大丈夫です!言われたとおり二度と霧雨道具店を襲おうとなんかしません。今日から私は霧雨道具店の店員です」
「・・・・・・・・・強く言い過ぎたか?なんか人格と言うか性格が全然違う気がするんだが?」
「・・・・・・困るのは影月だけだし、いいんじゃないですか?旦那」
「店主としては別に問題は無いze」
「そうか」

リグルのその後と霧雨一族の所在
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
鋭い人は気付く可能性があるので先に書いておく。
黒陽と影月は源次郎よりも年上です。
源次郎に対してある程度の商売のノウハウを教えていたこともありました。(長居は出来ませんでしたが)
ならなぜおやっさんかと言うと、何となく雰囲気が藤兵衛(先代)と似ているからです。
以上、突っ込まれる前に書いておこうと思った後書でした。

では、次回予告お願いします。
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もふもふA「またもや、誰かにやられてしまったもふもふAです。次回予告をします」

もふもふA「突然現れた二人の女性」
もふもふA「その片方には懐かしき面影が」
もふもふA「しかしそんなはずは無い」
もふもふA「彼女は遠き過去で別れたのだから」

次 回
 「やっと登場、彼女がINしたお」
         あ、あれ?私は?ねぇ、私は??? by.もふもふB



[10620] 今日のお手玉の中身は悪いお手玉の中身です
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/22 08:52
平和に終わると、後は宴会やって帰るだけだと・・・そう、考えていた時期が私にもありました。
しかし、現実はどうでしょう?
二人の女性、片方は青い基調の服装に微妙な形の帽子、もう片方は白髪に大量のリボンを付けた女性が
厳しい表情で此方を睨みつけているではありませんか。
その上・・・

「なぜ人里の中に妖怪が3体も?!おまえら、此処で何をしている!!!」
「慧音、今日は私もちょっとイラついてるから手伝わしてもらうよ」

やる気で一杯のようです。
黒陽と影月の顔を見てみればなにやらしまったと言うような表情を。
リグルは誰だこいつはと言った表情を作っている。
そういう俺もこの二人には見覚えが・・・・・・約一名、白髪の女性だけ引っかかるが見覚えは無い。
警備兵の二人じゃあるまいし、これ以上とんでも人間なんていないよな。
そう考えながら俺は目の前の微妙帽子の女性に口を開いた。

「えっと・・・何か御用でしょうか?何も無ければこのまま行きたいんですが?」
「ん?君は人間のようだが・・・私達は君の後ろにいる妖怪に用があるんだ。其処を退いてくれないか」
「退けと言われても・・・俺達はこれから散策する予定なんですが?厄介事は御免ですよ」
「君は人の話を聞いてないのか?後ろにいるのは妖怪なんだぞ。人里に害をなすか確認しなければいけない」
「いやいや、そんなことはありませんよ」

話しているのは俺と微妙帽子の女性との二人だけであるが、その様はまさに喧々囂々。
黒陽と影月はなぜか話し合いを俺に任せるつもりらしく後ろでのんびりしているし、リグルにいたっては欠伸までしている。
相手の微妙帽子の女性は自分の意見を押し通そうと押してくるし。
そんな中で見覚えのあるもう一人、白髪の女性だけが人の顔を見てその眉を顰めている。
そうやって、眉を顰めたまま白髪の女性は口を開いてきた。

「なぁ、あんた・・・・・・あたしとどっかで会ったこと無いか?」
「ん?やっぱりそう思うか?俺もどっかで会った様な気がするんだが今一思い出せなくてな・・・」
「そうか・・・・・・」
「「どこだっけな~・・・???」」
「どうしたんだ妹紅。この男、知り合いか?」

俺と白髪の女性が一緒になって頭を捻っていると先ほどまで話し合っていた微妙帽子の女性が会話に参加してきた。
その中にとんでもない名前があったが・・・
妹紅・・・・・・いや、まさかとは思うが・・・

「なぁ、俺はあんた達の事知らないわけなんだがせめて名前ぐらい名乗ってくれてもいいんじゃないか?」
「ん?あぁ・・・、これは失礼した。私はこの人里を守護している『上白沢慧音』と言う者だ。そしてこっちが・・・」
「あたしは健康マニアの焼き鳥屋。それ以上は覚えなくていいよ」
「いや、どっちかって言うと君の名前のほうを知りたいんだが?」
「??どういうことだ??」
「・・・・・・俺の名前はアスカって言うんだが」
「っへ?」
「まさかお前・・・藤原妹紅か?」
「え、えぇ~~~~~~!!せ、先生?!何で此処に??その前になんで生きてるの?!?!」
「どうした妹紅、やっぱり知り合いなのか?」
「け、け~ね~。どうしようぅ。先生が、先生が化けて出たよ~~~」

あの妹紅で間違いないようだ。
かなり面白い具合に混乱している。
俺の場合は警備兵やらとんでも人間の前例がいたのでそこまでショックは大きくなかったが・・・
そうか、妹紅までとんでも人間の仲間入りをしてしまったか。
また会えたことは嬉しいけど、先生涙が出ちゃうよ。
そんなことを考えつつ、妹紅を落ち着かせるために俺は声をかけた。

「妹紅、落ち着け。ほら、深呼吸をして」
「せ、先生。そ、そうですね!
すぅ~、はぁ~、すぅ~、はぁ~」
「そうだいいぞ妹紅。
吸って~「すぅ~」吐いて~「はぁ~」吸って~「すぅ~」吸って~「すぅ~」更に吸って~「s、げほっげほっ!!」」
「も、妹紅!大丈夫か?!なんてことをするんだ!!」
「いや、なんとなく・・・・・・お約束が必要かなと・・・」
「何を訳のわからないことを・・・妹紅、大丈夫か?苦しくないか?」
「けほっ、な、何とか・・・」

よかった、妹紅はあの時と変わらず素直な子だ。
俺はそんな安心感を抱きつつ、改めて深呼吸しなおす妹紅とそれを見守る慧音から目をそらした。
次に目を向けたのは黒陽と影月の二人。
二人は妹紅が俺の知り合いだと話の流れから理解したようで驚きの表情を作っている。
残る一人のリグルは相変わらず呆けている。
そうしていると、妹紅から声を掛けられた。

「あ、あの・・・本当に先生なんですか?」
「妹紅の先生が他にもいないならな」
「それじゃあ、先生がなぜ此処に?それに姿もあの時から変わってませんし」
「そりゃこっちの言葉だ。おまえこそ髪真っ白にして・・・それ以外、全然変わってないじゃないか」
「そ、それは・・・・・・」

俺の質問に対して言いよどむ妹紅。
このままでは話が進まないかと考えた時、慧音が妹紅との間に割り込んできた。。

「まぁまて。確かアスカさん・・・でよろしかったですよね」
「ん。そうだが」
「なにやら込み入った話になりそうですし、どうでしょう。一旦私の家で話しませんか?」
「慧音、いいのか?」
「構わんよ妹紅。大事な話なんだろ?」
「慧音・・・・・・ありがと」
「いいんだよ。そういうわけでいかがでしょうか?」
「あぁ、それで構わない」

どうやら慧音は妹紅を大事に思っているようで、その心情を察し場所の移動と心の準備のための時間を稼いだようだ。
当然、この提案に文句のあるわけが無い俺はその提案を二つ返事で受けた。
その後、後ろにいる三人、黒陽と影月、リグルに顔を向けそれぞれに口を開いた。。

「黒陽、影月、源次郎によろしく言っといてくれ」
「「わかりました」」
「リグル」
「は、はい!!」
「悪さ・・・するなよ?」
「わ、分かってます!!!」
「よし」

リグルに対して改めて釘を刺しなおした俺はリグルが青い顔で返事をするのを確認すると、
慧音へと顔を向け慧音宅までの案内をお願いした。

「それじゃあ慧音さん・・・でいいかな?案内を頼むよ」
「・・・・・・私としては其処の妖怪を先に何とかしておきたいんだが・・・」
「こいつらは大丈夫ですよ。俺が保障します」
「ふむ・・・・・・、いいだろう。今はあなたを信用することにしよう」
「感謝。では、案内を頼む」
「うむ、こっちだ」

慧音は三人を残しておくことに納得が出来なかったようだが、
俺が保障をすることで一応、信用してもらった。
その間も、妹紅の顔は複雑そうに歪められたままだ。
そんな微妙な空気の中、俺は慧音と妹紅に案内されて慧音宅へと招かれた。



青年移動中・・・・・・


「ほら、茶だ」
「ん・・・」
「ありがとな」

いま俺達は、慧音宅で机を囲んで茶を啜っている。
場所を移ったは良いが、その後も微妙すぎる空気のせいで話が切り出しづらい。
見てみれば妹紅もちらちらと此方を見ては顔を俯かせ、慧音はそんな妹紅を心配そうに見つめている。
此処は俺から話し出すしかないか・・・
そう考えた俺は一息吐くと妹紅へ話しかけた。

「はぁ~、茶がうまいな、妹紅」
「?!、そ、そうですね先生」
「ふむ、それじゃあ先に俺が何で此処にいるのか・・・その説明から先にさせてもらうぞ?」
「わ、分かりm「ただしだ」?!」
「これからする話は他言無用、妹紅にしても慧音にしても不必要に人に話さないでくれ」
「・・・・・・はい」
「あぁ、分かった」

事情説明を始める前に俺の事情を黙っていて貰うよう予め二人へ言い含めておく。
二人とも俺の様子から察してくれたのか、了解の返事を返してくれた。
俺は茶をもう一度口に含むと続きを話した。

「よし、それじゃあ俺がなぜ此処にいるかだが・・・簡潔に言ってしまえば住んでいるからだな」
「なに?ちょっと待ってくれ。私はお前のような奴が人里に住んでいるとは聞いた事が無ければ見たことも無いんだが」
「先生・・・・・・あたしもよく人里には来るけど先生のことは聞いたことありませんよ?」
「見聞きしなかったのは単純に運が悪いせいもあるだろうが、それ以外に俺の住んでいる場所も関係している」
「人里じゃないのか?」
「俺が住んでいるのは妖怪の山だ」
「なんだと?!」
「妖怪の山って・・・大丈夫なんですか先生?!」
「まぁ縁があってな、随分昔から妖怪の山に住み着いてるんだよ」
「ま、待ってくれ・・・確か名前はアスカ・・・・・・あなたが妖怪の山に住む唯一の人間か!!」
「あぁ、その通りだ」
「なるほど、たまに人里に来る程度では運が悪ければ見ることは確かに無いな・・・・・・」
「ちょっと待って先生!先生と妖怪の山に住むアスカが同じ人なら・・・・・・先生はいつから生きてるの」
「さぁ?数えるのなんてとっくの昔にやめたからな」

そういって俺が首を振ると妹紅が更に暗い表情を作った。
どこか場の空気もピリピリしている。
そんな中、妹紅が再び口を開いた。

「まさか・・・先生も蓬莱の薬を?
「蓬莱の薬?俺はあんな上等な薬作れないし使った覚えも無いぞ。
俺が不老なのは別の理由だし、不老不死じゃなくて不老なだけだからな。其処は間違えないでくれよ?」
「っほ、そうですか」

俺の返事を聞いて妹紅は安心したように一息吐いた。
場の空気も静まり元に戻っている。
しかし、俺としては先ほどの台詞がかなり引っ掛かってしまった。
俺は安心している妹紅に対して話しかけた。

「なぁ、妹紅」
「なんですか先生」
「蓬莱の薬・・・・・・使ったのか?」
「っ?!」
「あの薬はあの時に帝が焼き払ったはずだ・・・なんでお前が使える?」
「そ、それは・・・・・・」
「待ってくれアスカ、そんなこと聞かなくてm「いや、良いんだ慧音」・・・妹紅」
「心配してくれてありがとう、慧音。先生・・・お話します」

そうして妹紅は暗い表情のまま語り始めた。
俺がいなくなった後、屋敷を飛び出したこと。
蓬莱の薬を運んでいた人間を殺して奪い、それを使ったこと。
妖怪退治と無気力な日々に浸っていたこと。
其処まで妹紅が語り切ったのを見計らい俺は声をかけた。

「そうか、大変だったな」
「先生・・・・・・怒らないんですか?」
「普通なら叱るべきなんだろうが・・・・・・
残念なことに俺はまた妹紅と会えたほうが嬉しかったからな」
「・・・ぜんぜえぇ~」

俺の返事を聞くと妹紅は俺に跳び付きそのまま泣き始めてしまった。
そのまま妹紅をあやしながら慧音のほうを見てみると此方も貰い泣きをしているのか目を潤ませている。
屋敷を飛び出した理由を聞くことは出来なかったが、たいした問題ではないだろう。
なにより、昔の生徒に再会できたことを今は素直に喜んでおくとしよう。

そう考えた、再会多き日の事。

<おまけ>

霧雨道具店緊急会議

「そういやお前ら、そのリグルの嬢ちゃん……どうやって働かせるつもりなんだ?」
「そういやそうだ。影月、当然考えてるんだろ?」
「っふ、勿論だ!リグルを愛するこの心に一分の隙もないぜ!!」
「いや、愛する心はどうでもいいから教えろよ」
「つれないな、黒陽。まぁいい、リグル~ちょっと来てくれ~」
「はいはい。何かな影月さん?早く倉庫の整理終わらせたいんだけど?」
「ちょっと頭出してくれるか?」
「へ??これで、いいの??」
「よしよし、これをこうしてあぁしてそうなってと・・・・・・・・・見ろ!!」
「「おぉ~」」
「何これ?触覚に当たって凄く気持ち悪いんだけど?」
「其処はすまないが我慢してくれリグル」
「考えたな、影月」
「なるほど・・・・・・触角を隠すように頭巾をかぶせれば男の子にしか見えないな」
「ひどいっ?!おやじさん酷いよ!!」
「おやっさん!それは酷いですよ」
「ひでぇぜ、おやっさん!リグルはこんなに可愛い女の子なのに!」
「(可愛いかどうかは同意できないぞ。影月)」
「っう・・・・・・す、すまん、リグルの嬢ちゃん。この通りだ」
「えっ?!や、やめて下さい。おやじさんが頭を下げるほどのことじゃないですよ」
「そうか・・・ありがとな。よし、これからはリグルの嬢ちゃんを看板娘にして店を盛り立てて行くぞ!!」
「「うぃっす!おやっさん!!!」」

霧雨道具店緊急会議の会話記録より
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後書+リク再び+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
とうとう出した妹紅と慧音、いかがでしたでしょうか?
リグルの見た目は人間そっくりだから触角さえ隠せば大丈夫と思うお手玉の中身です。
さてリクエスト再びなのですが今回は前回のような過ちは犯しません。
投票は一人一票!つまり1キャラにのみです。
さすがお手玉の中身、汚すぎるお手玉の中身ww
さてと、肝心の投票内容ですが最近感想によく名前を見かける元地蔵と竹林の姫様です。
次の投稿までに3票集まるようでしたら早い段階にこの二人を出すと約束しましょう!
ただし、ストーリーの展開上、元地蔵様だけはやや後になってしまうことは予めご了承ください。
ちなみにそれぞれ投票がないと、異変が起こるまで出番が一切ありません。
投票方法は毎度おなじみ感想への熱いパトスです。
今回はこの時間でのお知らせ+一人一票の枷をつけたのでお手玉の中身の策がうまくいくと考えています。

では、次回予告をどうぞ
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えっと、まだ登場もしてないのに予告なんてしていいのかねぇ・・・

出だしは有名すぎるあのフレーズ
そろそろ、出来ないとまずい今日この頃
空は青く鳥でさえもその高さを知る。

次 回
 「はい、た○こぷ○~♪」
        小町!サボってないで早く仕事をしなさい!!! by.白黒つける閻魔様



[10620] 空を飛ぶのに必要なもの・・・それは度胸
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/22 09:00
「そ~らが自由にとっびたっいな・・・」

どこかで聞き覚えのある歌を口ずさんでしまう今日この頃。
俺は常々思っていた。
空を行き交う天狗たちを見て、自分も飛んでみたいものだと。
そこで、羽が無いのに空が飛べている茜にどうすれば飛べるのか聞いてみることにした。
なのに、返ってきた答えは・・・・・・

「へ?飛ぶ方法ですか??・・・えっと、気合?」

なんだそれ。
気合があれば飛べるのか?
試しに気合を込めてジャンプしてみたのは黒すぎる黒歴史だ。
そんな訳で今日もまたどうやったら空が飛べるの考えていた。
其処へ現れたのは最近、解説キャラとして人気の高い田吾作だ。

「おや、アスカ様。こんにちはでやす」
「おっす、田吾作。そうだ聞きたい事があるんだけど、構わないか?」
「なんでやすか?」
「空が・・・・・・飛びたいんです・・・」
「何のマネでやすかそれ・・・・・・似合ってないでやすよ」
「それは残念。だが実際のところ飛ぶ方法がわかんなくてな」
「なるほど・・・・・・・・・気合でやすな」
「お前もかよ!!」

田吾作の答えを聞いた瞬間に叫んでしまった俺は悪くないと思う。
まさか、田吾作にまで気合と言われるとは思ってもみなかった。
そう考え絶望していると、田吾作が苦笑いを浮かべながら言い直してきた。

「あぁ、違うでやすよアスカ様。あっしが気合と言ったのは既に飛ぶことを覚えてるからでやす」
「既に覚えてる?」
「でやす。あっし等みたいに妖怪が長く生きると何もしなくても飛べるようになってるでやす。
だから、其処で飛ぼうとしたら気合がいるでやすよ」
「それで、結局のところ俺が飛ぶ方法は?」
「ん~・・・空飛ぶ人間なんて見たことないでやすからな~。でも、アスカ様なら飛べそうでやすし・・・
どうしても必要って状態になったら飛べるんじゃないでやしょうか?」
「なるほどな~。助かった、もう少し考えてみるよ」
「お力になれてなによりでやんす。それじゃあ、あっしはこれで」

そう言うと田吾作はそのまま去って行った。
しかし、必要になったらか・・・・・・普段の日常生活で空を飛ぶ必要性?

「・・・・・・・・・まったく無いな」

つい口から出てしまうのもしょうがない結論だった。
興味本位で飛んでみたいと考えはしたがそれが必要かといわれると、別にと言った話だ。
となると、飛ぶためにはもう少し違う考えを手に入れないとな。
そう考えた俺は知り合いに聞いて回ることにした。

<椛の場合>

「飛ぶ方法、ですか?」
「あぁ、俺も飛んでみたいと考えてな。それでどうやったら飛べると思う?」

まず聞いてみたのは椛。
種族的には茜と同じだが、もしかしたら違う意見が出るかもしれない。
そんな期待を抱いて椛からの返事を待った。

「そうですね~、私の時は走りながら跳ね回ってたらいつの間にか飛べてましたから」
「・・・・・・・・・そうか。ありがと、参考になったよ」
「お力になれてなによりです」

微妙に無理そうな内容だった。

<にとりの場合>

「空の飛び方?」
「おう、俺も飛んでみたいと思ってな。にとりはどうやって飛べるようになったんだ?」

次はにとりに聞いてみることにした。
これまた、田吾作と同じ種族だが何か新鮮な意見がもらえるはずだろう。

「わたしの時はね~、確か飛行機械の実験に失敗して落ちそうになったときに飛べるようになったんだよ」
「っは?飛行機械??」
「っそ、飛行機械。それをつければ誰でも空を飛べるのを作ったんだけど結局失敗しちゃって・・・・・・」

その後も何か喋り続けるにとりに、俺は礼を言うとその場から足早に立ち去った。
河童が凶悪になったら世界は滅ぶと確信して。

<黒陽・銀月の場合>

「空の飛び方ですか」
「あぁ、結構最近に妖怪化したお前らなら何か分かるんじゃないかと思ってな」

続いては妖怪の山から降り、霧雨道具店で働く三妖怪の二人、黒陽と銀月を訪ねた。
こいつら自身、妖怪となったのはここ百年内ぐらいのはずだから飛ぶにしても最近飛べるようになったはず。
そう考えての選択だったが・・・・・・

「えっと、旦那・・・・・・申し訳ないですが」
「俺達、初めから飛べるんですよ」
「っは?なんで??」

黒陽と銀月はすまなそうな返事を返してきた。
俺は自分の予想が大きく外れていたことに驚き二人に慌てて聞き返したところ、
あまりに無情な返事が。

「だって俺達」
「最初から飛べる奴の身体乗っ取りましたから」
「・・・・・・・・・なるほど・・・もういいや、ありがとう」
「なんか力になれなくてすみません」
「リグルには聞いていかないんですか旦那?」
「最初から羽のあるリグルに聞いてもしょうがないだろ?」
「「たしかに」」

結構期待していただけに、外れたときのショックは大きかった。
今回は何の参考にもならない。

<妹紅の場合>

「空の飛び方、ですか?先生」
「あぁ、同じ飛べない仲間の意見も聞いてみたくてな」

次に訪ねたのは妹紅。
蓬莱の薬を使い不老不死になったとは言え、人間には違いない。
彼女とて空を飛ぶことには興味があるだろうし何か別の視点からの意見ももらえることだろう。
そう、思ってた時期もありました・・・・・・
質問を受けた妹紅は、此方に申し訳なさそうな顔を向けると、

「先生、すみません。あたし、飛べるんです」

っと、言ってくれました。
・・・・・・なんですと?
先ほどの二人の発言よりも驚いた俺は慌てて妹紅に聞き返した。

「ちょ、ちょっと待て妹紅?!空を飛べる?お前が??なんでさ?!」
「先生、落ち着いて!ちゃんと説明するから」
「あ、あぁ・・・すまん、取り乱した」
「いや、いいよ。あたしの場合は自分の能力を応用してたらいつの間にか飛べるようになってたんだ」
「妹紅の能力?不老不死とは違うのか?」
「たしかにあたしの能力は『老いる事も死ぬ事も無い程度の能力』だけど、
それとは別に妖術を覚えてこんな感じに羽を作ってたらいつの間にか飛べるようになったんだ」

そう告げた妹紅の背からは紅蓮の、炎の翼が生えていた。
以前はこの翼を生やして飛んでいたが、今は無くても飛べるようになったとか。
正直、炎の翼が突然現れたのにはびっくりしたが今までの中で一番まともな意見だ。
早速、妹紅に妖術を教えてもらうとしよう。
俺はそう考え妹紅へと話しかけた。

「なぁ、妹紅」
「なんですか先生?」
「その妖術は俺でも使えるか?」
「っへ?!まぁ・・・使えるとは思うけど」
「それなら、俺にも教えてくれないか?」
「教えるのは良いんだが使えるようになるまで数百年はかかるよ?」
「っえ?!」
「あたしもその位の時間かけて使えるようになったんで・・・・・・」
「そ、そっか・・・・・・じゃあ、しょうがないな・・・」

絶望への逆落としだった。
妹紅が悪いわけではないんだが・・・・・・なんともやりきれない気持ちが溢れてくる。
そんな時だ、家に誰かが入ってくる気配がした。

「妹紅、いるか~」
「微妙な帽子が現れた・・・・・・」
「いきなりと随分な挨拶だな、アスカ?」
「事実だろ、慧音?」
「ほほぅ?私の頭突き岩をも砕くぞ?」
「なるほど、頭蓋が厚すぎて中身がなくなってしまったと?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「っちょ・・・・・・慧音、先生も止めてくれよ」
「「・・・・・・・・・・・・・ふん」」

上白沢慧音、人里の守護者と呼ばれ慕われていながら妹紅の数少ない友人と言う貴重な人材だ。
しかし、俺とはどうにも相性が悪いらしい。
会うたびに今のように衝突しなければ気がすまない。
慧音も俺のことが気に入らないのかどうでもいい様な事で突っ込んでくる。
だが、俺の感情を除けば悪い奴ではなくむしろ凄い善人だ。
なんせ黒陽や影月はまだしも、リグルが人里に居ついているのを黙認してくれているのだから。
慧音自身あの後、霧雨道具店で源次郎より話を聞き自分なりに納得したとのことだが・・・・・・・・・

「(守護者って呼ばれるほどの奴が情で動くか・・・・・・いい奴なんだけどな~)」
「まだ何か言いたいことでもあるのか?」
「慧音~もう止めてくれよ~」
「す、すまない妹紅・・・・・・そういえばお前は何でここに?」
「何でもいいだろ、気にすんな。妹紅、俺はもう帰るな?」
「そ、そうか・・・・・・じゃあ、またな先生」
「おう。慧音は妹紅泣かすんじゃねぇぞ?」
「お前じゃあるまいしそんなことをするか!!」

最後の最後まで慧音と騒ぎ、俺は妹紅の家を後にした。
後ろから妹紅と慧音の騒ぐ声を背に受けながら俺はその足を妖怪の山へと向けた。


<最終手段>

俺は今、九天の滝上流・・・・・・早い話が滝が落ちだす少し手前にいる。
なにをするのか、これは全て空を飛ぶための準備。
基本的に空を飛ぶ方法は段々なれて行くか必要になったから飛べるようになったかの2種類だ。
そしてすぐに飛べるようになるには飛ぶ必要性を作れば良い。
そう、答えは最初から出ていたんだ・・・・・・
俺はこれから九天の滝に落ち、空へ駆け上がるんだ!
そう考えた俺は勢いよく滝に向かって泳ぎだした。

・・・・・・・・・残り10M・・・・・・5M・・・・・3M・・・2・1・0
滝から落ちる瞬間に俺は叫んだ、おぼろげに霞んだ記憶の彼方にある有名な言葉を!!

「アイ、キャン、フラ~~~~~~~~~イ!!!」

落ちる、堕ちる、墜ちていく・・・・・・
やべっ・・・・・・・・全然飛べない・・・・・・
俺の身体は重力に逆らうことないままどんどんと滝壺に近づいていく。
と言うよりまだ滝壺が見えてこない。
落ちたら死ぬ。
本気で飛ぶ必要性が出てきた!!
そう考えた俺は力を振り絞らんばかりに叫んだ!!

「た、助けて大蝦蟇様~~~~~~~!!俺に飛ぶ力を~~~~~!!」

果たして、大蝦蟇に祈りが通じたのか。
俺の身体は宙に浮いていた。
・・・・・・・・・大蝦蟇様・・・あなたが神か?!?!
こうして俺は空が飛べるようになると同時に大蝦蟇の祠掃除を今まで以上に張り切ってこなすようになった。

<おまけ>

何処かの空高く

「ねぇ・・・衣玖」
「なんでしょうか?総領娘様」
「ひま、それに暗い」
「暇なのは分かりますが暗いと言うのは?」
「あれよあれ」
「あの男性ですか・・・・・・確かに暗いですね」
「でしょ?何であんなのが天界で天人やってるのよ?」
「確かあの方は・・・・・・竜神の使いが推挙して天人になった方ですね」
「衣玖の同僚が?」
「竜神の使いと言うだけで私の同僚かは分かりませんが・・・・・・多分そうなのでしょう」
「何考えてんだか・・・・・・」

はるか未来に影響を与えるフラグ
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後書+報告+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回の話でアスカ君にとうとう飛行能力を授けることが出来ました。
続いて結果発表。
とりあえずは竹林Neetと白黒地蔵様の早期登場が決定しました。
ただ、地蔵様に関してはアスカ君殺しでもしない限りすぐには出せないのでその辺りは了承しといてください。
(つまりは読者投票で主人公に盛大な死亡フラグが立ったと言うことか?)
それとゆゆ様票は以前落選していた事+既に出番が決定していることから無効とさせてもらいました。
地霊殿組みに関しては旧都が出来てないので主人公が行った瞬間にゲームオーバーです。

では、次回予告です
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「とうとう時代がやってきた」
「私達の昇格の時が!!」

「それは暑い夏の日」
「アスカ様のお誘いでお花見に」
「しかしこんな時期にお花見を?」
「アスカ様の頭が花畑」

次 回
 「やったねオリキャラ、とうとう昇格だ!」
            凄くうれしそうな二人だな by.kami



[10620] 夏の花見・・・・・・皆さんは何処だかお分かりですよねww
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/22 09:47

暑い日差しの中、今日も今日とて平和な散歩。
空を飛べるようになったとは言え、散歩は歩いてこそ散歩。
いつもどおり大蝦蟇の池で祠を掃除した俺は妖怪の山を適当に歩き回っていた。
最初は目的があったんだがたった二人じゃつまらないので誰か出てこないか探し回っているのである。
その時だ、空から白狼天狗、茜と他二人やってきた。

「お~、茜じゃないか。どうした?」
「はい、ちょうどアスカ様を御見かけしたのでこの二人を紹介しようと思いまして。
今回は私の直接の部下になった才と塁です」
「は、始めましてアスカ様。私は茜先輩の部下『才』です。お見知りおきを」
「始めましてアスカ様。才と同じく茜先輩の部下『塁』と申します。今後ともよろしくお願いします」

茜の後ろから出てきた白狼天狗、才と塁はそれぞれ頭を下げて挨拶してきた。
それなりに高い位にいた茜にもとうとう直属の部下が出来たのか。
少し前までのもふもふ時代が懐かしいな。
そんな感慨深いことを考えつつ頭を上げた二人へ返事を返した。

「おう、よろしく。そうだお前ら、いま暇か?」
「えぇ、今日は非番ですから用は特にありませんが・・・それがどうかしましたか?」
「ちょっと花見に行こうと思ってな」
「花見ですか?夏のこの時期に花見なんて・・・・・・」
「絶景が見られるし、酒もあるぞ?俺のおごりで」
「「先輩、是非行きましょう!」」
「あなた達・・・・・・分かりました、ご一緒させてもらいます」
「よし、まずは花見ようの酒を買うために人里に行くぞ」
「「お~♪」」

才と塁の二人は酒が飲めるからか、それとも花が見れるからか喜び勇んで人里へと進み始めた。
まぁ、前者に決まっているんだろうが。
その後ろを茜が諦めたような顔をして歩きながら追っていく。
そんな光景を眺めつつ、俺も遅れないように歩き出すのだった。



青年移動中・・・・・・・・・


人里の平和な昼下がり。
あかねたちには里の外で待ってもらい、俺は霧雨道具店へと足を運んだ。
霧雨道具店の前では娘、もといリグルが掃き掃除をしている。
リグルは人の気配に気付いたのか挨拶をしながら顔を上げてきた。

「あ、いらっしゃ・・・っひ~~~~!!」

人の顔を見るなり悲鳴とは失礼な奴だ。
リグルは手に持った箒に体重を預けながらぶるぶると震えている。
まぁ、そんなことはどうでも良いんだがな。
そう考えながら俺はリグルへと声をかけた。

「リグルか。真面目に働いてるな?」
「働いてます。働いてますからお許しを~」
「黒陽達はいるか?」
「こ、黒陽さん達ですか?皆さんでしたら中に・・・・・・」
「わかった、ならあがらせて貰おう」

そういって俺が中に入ろうとすると店の扉が勢いよく開き、中から影月が飛び出した。
影月は俺のことすら目に入らないのかリグルに駆け寄るとそのままの勢いでまくし立てた。

「大丈夫かリグル?怪我はないか?どうしたんだ?安心しろ俺がいるからもう大丈夫だ!結婚しようリグル!」
「え?え?え?とりあえず最後のだけは嫌です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「影月・・・お前バカすぎるだろ」

何をとち狂ったのか、影月は助けに出てきた勢いのまま告白まで言いやがった。
リグルはほとんど聞き取れていないようで結婚の部分だけ綺麗に拒絶、それを聞いた影月はそのまま倒れてしまった。
なんなんだこいつら。
すると後を追うように黒陽が出てきた。
黒陽は俺に気付くと納得顔で口を開いた。

「なるほど、旦那が来てたんですね?」
「そういうことだ。ところで・・・・・・これはどうするんだ?」
「一日に一回はその状態になりますから放っておいていいですよ」
「そうか」

毎日、告白して玉砕か・・・・・・
脈が無い訳じゃないとは思うんだが、それすらも分からなくなってきたな。

「んで旦那。今日はどのようなご用件で?」
「あ、あぁ。花見用に酒を買おうと思ってな」
「花見?この時期にですか??」
「この時期にしか出来ない花見もあるんだよ。それで、何かいい酒はないか?」
「はぁ・・・そういう事でしたらこれなんかどうですか?銘酒『田子作の極み』、お勧めですよ?」
「ほう、ならそれを貰おう」
「毎度。それじゃあ中に入ってください。いまおやっさんはちょっと出てるんで俺らが店番なんです」
「今回はサボってないんだな」
「勘弁して下さいよ旦那。いつの話ですか」

そう黒陽と笑い話をしながら俺は店の中へ入っていった。
店の前に残されたのは倒れ付したままの影月と、
それを放置したまま掃除を続けるリグルだけだった。
ぁ、影月まで一緒に掃かれた。



「それじゃ旦那、次はおやっさんがいる時にきてくださいよ?」
「暇だったらな」
「旦那はいつでも暇じゃないですか」
「ははは・・・・・・そんなことないぞ~」

目的の品を手に入れた俺は黒陽に見送られる形で店を出た。
店の前には相変わらず影月が転がっている。
リグルは此方を見ないようにしながら掃き掃除を続けていた。
アレは声をかけないほうがいいだろう。
それよりもだ・・・・・・・・・

「ほんとにこいつはこのままで良いのか?」
「まだ寝てるし・・・・・・しょうがない。リグル、ちょっと頼む」
「・・・分かりました」

リグルは怯えながらこちらを振り向くと黒陽へ返事を返した。
どうやら影月を再起動させるのはリグルらしい。
さて如何するのやらとリグルを見ていると、影月の耳元で一言呟いた。

「影月さん、嫌いになるよ?」
「嫌だ~~~~~~~~~~!!」

あっという間に目覚めたな、おい。
これが恋は盲目と言うものなんだろうか?
何か違う気もするが、まぁいいだろう。

「影月、旦那が帰るぞ」
「へ?あれ?旦那??いつの間に????」
「もう良いや影月。黒陽、リグル、またな」
「はい、旦那もまた来てくださいね」
「え、えっと・・・・・・あ、ありがとうございました・・・」

目覚めたバカの影月は放っておき、黒陽とリグルに別れを告げた。
黒陽はいつもどおりに、リグルは怯えながら返してくる返事を背に受けて、俺はその場から立ち去った。
そして、人里の外に戻ってみると才と塁が木の枝でチャンバラを行っていた。

「茜、あれ何してるんだ?」
「あ、お帰りなさいアスカ様。あれですか?戦いの訓練ですよ」
「チャンバラが?」
「他の子や私はしないんですけどあの二人はいつもああやって暇な時間を潰すのに訓練してましたから・・・・・・
そのお陰であんなチャンバラでも十分な訓練になるんだと思います」
「ほぉ・・・なるほどな」

そうやって話していると二人が此方に気づいたのか木の枝を手放して駆け寄ってきた。
二人ともそこそこに動いていたようで頬が紅く上気している。

「お帰りなさいアスカ様。その手の中のが」
「お酒ですか!!」

二人の尻尾は振り切れんばかりに振り回されている。
そんなに飲みたいんだろうか?
まぁ、あの絶景を見れば少しは変わるだろう。
そう考えた俺は先に進むべく口を開いた。

「あぁそうだ。ただ、まだここじゃ飲まないぞ」
「なら何処で飲むんですか?」
「アスカ様」
「最初に花見だって言ったろうが・・・・・・」
「しかし、この時期に花見ですか?」
「いいところがあるんだよ。まぁ付いて来い」
「「「はぁ・・・・・・」」」

そうして歩き出した俺達。
夏の日差しは暑いものの、吹き抜ける風は涼しく気持ちの良い日だ。
後ろの二人もどこかそわそわと楽しみにしている雰囲気が伝わってくる。
問題は茜だ。
茜だけは歩くごとに、正確には目的地に近づくにつれ顔が青くなっている。

「大丈夫か?茜」
「え、えぇ・・・大丈夫ですよアスカ様・・・・・・(この方向は・・・大丈夫よね、きっと)」
「そうか、なら良いんだが・・・・・・・・・」

どこか様子がおかしいながらも、大丈夫と言い続ける茜を心配しつつ俺達は目的地へと向かった。
そうしてどのくらい歩いただろうか。
目的地・・・・・・・・・太陽の畑へ到着すると才と塁はその目を丸くして向日葵に見入っている。
そう言うおれもこの畑の向日葵には声も出なくなってしまっているのだが。
相変わらずの絶景ぶりだ。
何よりこの時期なら彼女もここにいることだろう。
俺はそう考えながら茜に声をかけようと振り返ると・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

茜の顔は青や白を通り越して土の色、死相が浮かんでいた。
一体如何したことか、俺は慌てて声をかけた。

「お、おい!茜?!大丈夫か?一体如何したんだ??」
「え?先輩!」
「ちょ?!如何したんですか先輩!!」
「あ、アスカ様・・・・・・ここがどこか知ってるんですか?」
「太陽の畑だろ?」
「も、もしかして知らないんですか・・・・・・こ、この地には「あら、いらっしゃい」?!?!?!」

茜が最後まで言い終わらないうちに彼女が現れたようだ。
なぜか彼女の声を聴いた瞬間に茜は硬直してしまったが。
向日葵畑の中から現れた彼女に俺も挨拶を返した。

「よっ、久しぶりだな幽香」
「えぇ、久しぶりねアスカ」
「今年はここの向日葵で酒を飲ませてもらおうと思ってな」
「当然私の分も」
「勿論」
「ならよろしい」

そう言うと幽香は日傘をたたみ花見の準備を始めた。
茜の介抱は才と塁に任せて俺も手伝うとしよう。
向日葵畑の友人との宴会だ。

<おまけ>

?????

うん?この予感はなんだ・・・・・・なにやら世界が乱れる予感がする。
これは・・・・・・あの地か。
ならば納得もいく。
かの地は此処数百年で大きく変わったゆえに。
しかしなんだこの胸騒ぎは。
かの地はまだ変化しようと言うのか?
世界の中にありながら理から外れようと言うのか?
そんなことは不可能である。
しかし、かのただ一種のみの存在なら・・・もしかするなら・・・・・・・・・
ふむ、かの地にはいまだ我に祈りを捧ぐ者もいるゆえにことを荒立てたくは無いのだが。
もし、かの一種たる存在が動くのならば・・・・・・

我も動かねばならぬか


あまりにも強大すぎる存在の嘆き
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
祝・もふもふABもとい才と塁。
名前の由来は元ネタの最後の一文字を抜いただけです。
そして、おまけ話にストーリー上、欠かすことの出来ない伏線を張っておく。

では、次回予告です。
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影月だ・・・作者のバカに名前を全力で間違えられたが次回予告はしっかりやるぜ

太陽の畑での宴会
何も知らぬは才と塁
最強を知る茜は戦々恐々
そんな中で旦那の行動は?!

次 回
 「幻想郷の中心でリグルへの愛を叫ぶぜ!!!」
            うん、思いっきり嘘だけど今回は赦す by.kami



[10620] 最強への挑戦
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/22 19:33
「「「「かんぱ~い」」」」
「か、かかかかかかかんぱい・・・・・・」

あたり一面に咲き乱れる向日葵。
その見事な光景はまさに千金にあたいする。
そんな絶景を肴に俺達は宴会、花見を開始した。
開始したのだが・・・・・・
死相は取れたものの、茜の顔は未だに真っ白なままだ。
俺は心配になり、茜へ声をかけた。

「茜、ほんとに大丈夫か?滋養強壮薬でよければあるぞ?」
「いえ、そういうことではなくて・・・・・・失礼ですがそちらの方は風見幽香さんでしょうか?」
「あら?あなたは私のことを知ってるのね」
「なんだ茜、幽香のことを知ってたのか?」
「何でアスカ様はそんなに親しげなんですか・・・・・・風見幽香と言えば妖怪の中でも最強と名高い上に残酷妖怪として有名ですよ?」
「だそうだが幽香?感想は?」
「全て事実ね。事実ばっかりで面白みが無いわ」
「まぁこんな奴だから安心していいぞ茜」
「いまの言葉の何処に安心できる要素があったのか誰か教えてください・・・・・・・・・・」

なぜだろう、茜の顔色は一応戻ったが今度はさめざめと泣き始めてしまった。
泣き上戸だったのだろうか?
少し考えれば幽香が残酷妖怪でない事ぐらいはわかりそうなものだろうに・・・・・・いや、あながち間違っては無いがな。
すると、笑いながら酒を飲んでいた才が突然立ち上がった。
その顔は既に赤く完全に出来上がっている。
って、酔うの早いな!!

「先輩を苛めちゃらめれす」
「いや、苛めちゃないが・・・・・・お前酔ってるだろ?」
「ひょってません!」
「・・・・・・・・・塁、才はいつもこんななのか?」
「まぁこんな感じですね。いつもは笑い上戸で終わるんですけど・・・・・・」

塁に才のことを聞いてみると、どうやらいつもの事らしい。
塁は諦め気味に頭を振りながら返事をした。
その途中、塁は頭を振るのを止めて何か不思議なことを聞いたような顔をして尋ねてきた。

「そういえばアスカ様?太陽の畑の残酷妖怪ってどういうことですか?」
「残酷妖怪さん、答えてあげたらいかがかな?」
「いやよ、めんどくさい」
「つれないね~。何の事はない、ここにいる幽香が昔やんちゃしてたってだけの話だよ」
「はぁ・・・・・・」
「強弱関係無しにギリギリまで叩きのめして回ったのをやんちゃって・・・・・・・・・」
「なんだ幽香、そんな事してたのか?」
「向こうから攻撃してきたんだから、叩きのめされて本望でしょう?」
「なるほど・・・・・・」
「「其処、納得するところですか?」」

幽香はつまらない話だといわんばかりに酒を飲み、俺もその話に同意して酒を飲む。
茜と塁の二人は全然納得ができないと言った顔で頭を抱え始めてしまった。
そんな中、立ちっぱなしだった才がまだ持っていたのか木の枝を幽香に向けて堂々と宣言した。

「ようし。この才様が残酷妖怪を倒して最強になってやる!!」
「へぇ・・・・・・・・・」
「ちょ?!才!!」
「んな?!アスカ様、止めてください!幽香さんなんかやる気みたいですよ!!」
「みたいだな・・・・・・幽香」
「なぁにアスカ。止めるなんて野暮なことしないでよ。折角の楽しい遊びなんですから」
「分かってる。せいぜい3割にしといてくれ」
「「アスカ様?!?!」」
「あら、いいの?」
「久しぶりに俺も挑戦したいからな・・・・・・才相手にばてられたんじゃ面白くない」
「「何言ってるんですかあなたは?!?!」」
「へぇ・・・本気?」
「おう!本気だぞっと」
「ならさっさと子犬の相手は終わらせるとしましょう」
「むっか~、私はこいぬひゃ無い。誇り高いひゃくろう天狗だ!てりゃ~!!」

才はそう叫ぶと小枝片手に幽香に突っ込んでいった。
当然そんな酔っぱらいの攻撃に幽香が当たるはずも無く右へ左へと華麗に避けている。
相変わらずの先読み能力だ。
そうやって酒を片手に感心していると隣の茜から声がかかった。

「あ、アスカ様、止めてください。才が殺されちゃいますよ」
「っえ!才殺されちゃうんですか?!アスカ様助けて下さい~!!」
「お前ら幽香を殺人(妖)狂と勘違いしてないか?幽香は昔はどうだったか知らないが話せばちゃんと通じる奴だぞ」
「で、ですが!」
「それにだ、一応力を抑えてくれるって事だし・・・・・・少したんこぶが出来る程度で済むだろう」
「そ、そうなんですか?良かった~」
「アスカ様がそういうなら信じますけど・・・・・・ほんとに大丈夫なんですか?」
「おとなしく信じとけ」
「はぁ・・・・・・」

そんな雑談をしながらも才と幽香のお遊戯は続く。
やっていることは相変わらず、才が小枝を振り回しては幽香がそれを避けると言ったところだ。
これで幽香が本気になってたら小枝を振ること事態が無理だろうし。
しかしなんだ、妙に才の動きがいいように見える。
俺は自分の考えを確かめるために横で才と幽香に魅入ってる塁に尋ねることにした。

「ところで塁」
「ほぁ~、っへ?!あ、アスカ様!な、なんでしょうか?」
「才の動きがかなりいいように見えるんだが・・・・・・特別な修行でも?」
「確かに才は修行を積んでましたけどそのほかにも能力を手に入れてるんですよ」
「能力?」
「はい。『あらゆる武器を扱う程度の能力』と言って、才が武器だと思ってるものは手足のように使えるんだそうです」
「へ~、随分と戦闘向きな能力だな」
「でも、塁。その能力、こないだ欠点が見つからなかったかしら?」
「そうなんですよ先輩。武器が扱えるようになっただけで身体能力は全然変わりませんから結局修行を欠かすことが出来ないんですよ」
「なんと言う能力の罠」

感心したのがバカみたいな欠点だった。
確かに能力としてはかなり便利な能力である。
しかしだ、自分の身体能力が足りないとどれだけ武器が使えてもすぐに体力が切れるなどしてやられてしまう。
体力作りがかなり必要な能力と言えよう。
現に目の前の勝負はもう決着が付きそうだ。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・いつまでも避けてにゃいで、かかってこ~い」
「そうね、そろそろ準備運動もいいでしょうし・・・終わらせときましょうか」

才の挑発になってない挑発に幽香が反応しその距離を一足で縮めてしまった。
才は突然目の前に現れた幽香に目を点にしている。
幽香はそんな才の顔を見て軽く笑うと手に持っていた日傘で才の頭を綺麗に横なぎにした。
一応手加減はしてくれたみたいで、才はその場に崩れ落ちるだけですんでいる。

「「才!!」」

茜と塁はその光景を見るや、すぐさま才の元へと飛んで行ってしまった。
心配せずとも気絶しているだけだろうに。
才の介抱は二人に任せ、俺は幽香へと声をかけた。

「酔っぱらいを殴り飛ばすなんて酷い女だな?」
「あら、軽く撫でただけよ」
「へ~・・・・・・それじゃあ少し場所を変えようか。準備運動はもういいだろ?」
「勿論よ」

俺と幽香はそう言うと二人で大洋の畑に被害が出ない程度の場所まで移動した。
その後ろを茜と塁、そして気絶からすぐに目を覚まして酔いの抜けた才が追いかけてくる。
10分ほど移動した空き地で俺と幽香は共に身構えた。
身構えたといっても俺はいつものようにすぐに突撃できる体勢に、幽香は日傘を杖のように地面立てた状態で微笑んでいるだけなのだが。
俺は幽香から顔を離すことなく茜へと声をかけた。

「おい、茜」
「なんですかアスカ様?」
「もう少し離れてろ、其処じゃ巻き込まれるぞ?」
「わ、分かりました~」

俺が忠告すると3人はそのまま離れて行った。
その間は当然幽香も動かない。
吹き抜けるような心地のよい風が流れる。
初めて幽香に出会ったときとは違う、薄ら寒い風ではなく心が高揚するような風が。
自然と自分の顔に笑みが浮かんでしまうのが止められない。
幽香は俺の顔を見て驚いたような表情を作ったが、すぐにいつもの・・・・・・いや、いつもより楽しそうな微笑を浮かべた。
そうして・・・・・・・・・茜達が立ち止まる気配が合図となった。

「っふ!」

短く呼吸を切ると俺は身構えた状態から一気に幽香へと駆け出した。
幽香はまだ体勢を変えない。
後十歩の距離・・・・・・五歩の距離・・・・・三歩の距離・・・手が届く距離!
ここで始めて幽香もその日傘を振りかぶる!

「はぁ!!」
「甘い!!」

拳と日傘。
俺が振るった拳は幽香の振るった日傘でその動きを止められた。
しかし、ここで下がる必要は無い!
両の拳を振るう。
右の拳、払われる、左の拳、更に日傘で払われる。
払われた左の拳を無理やり戻して幽香の腹を狙う、日傘が盾となって防がれる。
それと同時に右の拳で顔面を狙う・・・・・・捉えた!!!

「うらぁ!!」
「っつ?!」

頬を殴られ幽香は倒れることは無くとも2、3歩分、後ろへとずり下がった。
少し開いた距離で俺は荒い息をつきながら幽香を見る。
幽香は自分が殴られたことに驚いているのか少し呆然としていたが、すぐに笑い始めた。

「くくっ・・・、あははははははは・・・・・・・・・・」
「はぁ、はぁ、ふぅ、随分と楽しそうだな?」
「はははは・・・・・・はぁ、ごめんなさいね。あまりにも嬉しかったからつい」
「殴られて喜ぶとは変わった趣味だな?」
「ふふっ、その軽口も・・・やっぱりあなたのことを気に入って正解だったわ」
「それは感謝」
「それじゃあ今度は・・・・・・」

笑い終えた幽香はその笑みを崩さぬまま宣言し、

「こっちから行くわよ」

まっすぐ突っ込んできた。
先ほどとは攻守が逆転する。
幽香が攻め俺が守る。
幽香は昔と変わらず・・・・・・昔よりも鋭くその日傘を縦横無尽に振り回してくる。
左手に持って左へ振りぬけばそのまま背後へもって行き右手に持ちかえ刺し貫こうとする。
右の手で上から下へ袈裟切りのように振るうとその勢いで肩から体当たりを行い開いた左手で腹を抉ろうとする。
日傘を含めたその四肢からは昔と変わらぬ必殺の一撃が今も繰り出されてくる。
だからといって容易く当たるはずも無く振りぬき貫く日傘は身体を傾けることで回避。
ショルダータックルは自分から後ろに飛んでダメージの軽減と次手の封印。
そんなことをお互いにやっていると段々と乱戦気味になってきた。
顔面を狙って殴りかかると幽香は技と受けながら腹を抉ってくる。
痛む腹に顔をしかめながら追加に蹴りを出すと、幽香は顔をそらして避けながらローキックで軸足を払ってくる。
足を払われ倒れた俺に幽香は容赦なく日傘を叩きつけて来るのを転がりかわして跳ね起きる。
殴り殴られ、蹴り蹴られ。
攻撃の応酬が続く。
やはり幽香は強い、攻撃を受けるにしても有効打はけして受けずに軽い攻撃のみわざと受けその後の攻撃を払い手強い反撃を放ってくる。
対して俺はどうだ。
幽香の攻撃を全て警戒しているものだからまともに反撃の準備もすることができない。
そう考えていた時だ、力を込めたストレートが幽香を捉えその身体を後ろへとずり下げた。
幽香はそれなりのダメージを受けたのか膝を突いている。
攻めるなら今しかない!!
俺は幽香に向かって飛び掛っていた、自分が勝利する未来を夢見て。
だからだろう・・・・・・・・・

「残念でした♪」
「しまっt・・・・・・」

見事に誘われてしまったのは。
俺がその日の最後に覚えているのは幽香から差し向けられた日傘の先端と、
其処から迸る光の奔流であり最後に考えたことは・・・・・・

「(あぁ・・・悔しいなぁ・・・・・・・・・)」


<おまけ>

「ふう、あぶなかった」
「あ、アスカ様~!!大丈夫ですか~」
「アスカなら大丈夫よ。あなた、茜って言ったかしら?」
「は、はい、そうですけど・・・なにか?」
「そんなに警戒しなくても取って食べたりしないわよ」
「は、はぁ・・・・・・」
「まぁいいわ、アスカが起きたら『また、お花見をしましょう』って伝えてくれるかしら?」
「それはいいですけど・・・・・・」
「っそ、お願いね」
「っえ?!ちょ、どこに!!」
「疲れたから帰って寝るのよ。今日はいい夢が見れそうだわ」

ご機嫌な幽香さんでした。
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
もうじき・・・もうじき50話超えますwww
書き出した頃はそこそこ長くなるだろうとか思いながらまだ異変一つも起こってないのに50話超えそうです。
どうせならこの機会にチラ裏から飛び出そうかなどとも考えてみるテスト。
まぁそれでも、読者さんからの感想を楽しみにしながら物語を綴っていくのを決意するお手玉の中身なのでした。

では、今回の次回予告は久しぶりのこの人
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ふん、次回予告か・・・・・・まぁ暇つぶしになるな

時が流れていつの日か
少しは思い返すことも必要と友達へと思いを馳せる
そんな時、すっかり忘れていた噂話を思い出す
最早誰も近寄らなくなった迷いの竹林を

次 回
 「迷いの竹林に住まう者」
       おっさん、向こうにけが人が出たから治療してくれよ by.勇儀



[10620] 竹林突入!お手玉の中身は今真っ黒です
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/23 19:19
時が巡る。
春には花見。夏にも花見。秋は収穫祭に出て、冬は鍋を囲む。
何と平和な日々、リリーのトラウマも乗り越えた今、春は待ち望むもの、夏は楽しむもの、秋は食らい、冬に笑う。
とても幸せすぎて怖いくらいの毎日だ。
この辺りで少し、知り合いのことを思い出してみるのもいいかもしれない。
俺はそう考えて更に思考の奥へと潜り込んでいった。

射命丸文、いつも幻想今日中を飛び回り新聞のネタを捜している。
たまに俺のところにも取材に来るが写真を撮らないことや実名を出さないといった条件で取材に応じている。

茜、椛、才に塁、今日も元気に妖怪の山を哨戒している。
茜は更に自信をつけたのかよりリーダーらしく、才と塁はそんな茜の後ろを付いて周りよく働いている。
椛に関してはなぜか文の部下扱いになっているが・・・・・・なぜそうなった?

天魔、機会があれば共に酒を飲んで騒ぐ、そんな関係。
天狗のトップともなると忙しいようだが、それなりに楽しんでやっているようだ。

田吾作とにとり、毎日発明に次ぐ発明の日々に忙しそうだ。
田吾作のとんでも発明には最早なれたものだがにとりが最近になってその真似を始めてしまった。
光学迷彩・・・・・・と聞こえたのは聞き間違いだと思いたい。

萃香、少し前に勇儀たちと同様に地獄へ行くといって去っていった。
何でそ少し期間を空けてからのほうが良いだろうとのことだ。
それと勇儀や師匠にも俺のことを伝えてくれるらしい。
一日も早く地上へ帰ってくるのを待つばかりだ。

勇儀に師匠、地獄に降りて以来、会っていないがあの二人なら向かうところ敵無しだろう。
むしろ地獄が鬼の町になってないかやや心配である。

黒陽と影月、霧雨道具店で歴代店主の手伝いをしながら警備兵をやっている。
なんだかんだで、結局警備兵と言う職から離れることが出来ずにそのまま続けているようだ。
最近では慧音と協力して人里の守護も担当しているとの話なのでその人気もかなりのものだ。
ちなみに、影月の思いはいまだリグルに砕かれ続けているらしい。
その熱意は凄いがいい加減諦めるべきではないかと思う今日この頃だ。

リグル、無事刑期を終えて野生の妖怪に戻ったが、人里での日々を忘れることは出来ずに人里の人間を襲うことは無くなったとのことだ。
食べ物に関しては木の実や作物に果物、ごくたまに現れる外来人でお腹を満たしているとの事。
影月の事を聞いてみると好きではないが嫌いでもないといった微妙な反応を返してくれた。

ぷっくる、たまに何処からともなく彼女の歌声が聞こえてくることはあるもののまた食事に乱入しては悪いのでそのまま放置している。

ルーミア、外の世界で出会ったきりだが・・・・・・元気にしているといいな。

チルノと大ちゃん、霧の湖に行くとよく会うがほとんどの場合が初対面のような対応をされてしまった。
どれだけバカなんだ。
最近になってやっと顔を覚えてもらったが・・・・・・藍のことなど毛の先ほども憶えてそうにない。

リリー、一時期はトラウマ物の相手だったが今はそんな事はない。

秋姉妹、収穫祭に招かれては無駄に偉そうで冬場は社で泣きまくっている。
正直、どうしようもない姉妹だ。

雛さん、能力のお陰で厄からそこそこに逃げられる俺は雛さんの話し相手になったりなどすることがよくある。
なんだかんだで雛さんも人恋しいとの事なので喜んでもらえてるようだ。
ただ、飛ぶときになぜ回るのかは結局聞けなかった。

紫と藍、論外である。
最後に藍を弄って以来、まったくその姿を見せていない。
そのうち来ると言っておきながら・・・・・・何処で何をやっているのやら。

幽香、夏の花見で必ずと言っていいほど模擬戦をやる。
負けっぱなしではあるがそのうち勝ちたい相手だ。

美鈴、ルーミアと同じで外であったきりの相手なんだが・・・・・・彼女の場合は元気だろう。

妹紅と慧音、妹紅には昔と同じようにたまに家庭教師の真似事をしている。
不老不死で随分と長生きしたはずなのにサバイバル知識ばかりで数学だとかの学問系が思いっきり抜け落ちていた。
今は妖精並みのバカになることを回避するために猛勉強をしている。
その中にはなぜか慧音も混ざっている。
俺のことはやはり気に入らないのかいつも睨みつけてくるが、学問を学ぼうとする姿勢は正しく妹紅よりも後に生徒になったのに、
妹紅よりも賢くなってしまった。
ちなみに慧音は俺のことを先生とは呼ばずに呼び捨てなどにしてあまり敬ってくれない。まぁ別に構わないんだが。


知り合いはこれくらいか?
いやもう一人いたな・・・・・・・・・輝夜が。
そういえば月に帰ったなんて聞くが実際に月に行ける訳もなしに一体何処に雲隠れしたのやら。
そうやって昔の知り合いを思い出しているとまったく関係の無い思いでも一緒に思い出してしまった。
そういや・・・・・・竹林の兎を見てないな。
そう考えた俺は早速荷物を準備した。
いつもの如く、思い立ったら吉日の精神で早速、竹林へと飛んでいった。



青年飛行中・・・・・・


ここは迷いの竹林。
無駄に大量の竹の生える林だ。
かなり昔は道があり、人が入って筍を取るなどすることができたものの、
いまでは入ったものは二度と出られないとまで言われる恐怖の竹林へと変貌してしまった。
とは言え出てこられた者もいるのでその話を聞いてみると大抵の者は「兎の妖怪を見つけて助けてもらった」と、言う。
おそらくは兎が竹林を作り変え迷いの竹林にしたのだろうが確かめる術もなし。
更には兎の妖怪のほかにも野生の動物が変化した妖獣までいるので入るものはまさに自殺者としか言いようが無いだろう。
そんな迷いの竹林へ空からやってくるものが一人。
飛んでくるものは男で、その背には荷物入れの鞄、腰元には薬箱が吊るされている。
さて、では物語はこの男の視点で語るとしよう。



「これが迷いの竹林か・・・・・・無駄に広いな」

一人空で嘆くも答えるものなし。
軽い気持ちで竹林の兎探しに来たが、これはなかなか骨が折れそうだ。
俺の眼下に広がる竹林は風に揺られて動いているのだがそのスキマからは地面がまったく見えない。
つまりは竹が高すぎて歩いてはいれば空も見えないほどになるということだ。
とは言え兎は竹林の中。
もとより歩いてはいる以外に道があるわけもなく、俺は適当なところで竹林へと降りて行った。

竹林の中に最初に思ったことは、

「やっぱ見えないよな~」

アレだけ青かった空がまったく見えないのだ。
よく考えれば竹の生えていない広場のような場所があったしそこに降りればよかったものをと今更ながらに後悔するのだった。
しかし、竹林に入るといった点では変わりは無く特に問題があるわけでもないかと心気を一転させ兎狩り、もとい兎探しを始めた。



青年兎狩り中・・・・・・


全然いない。
その上さっきもここを通ったような気がする。
さすが迷いの竹林、目的の兎を見つけることも出来ないままあっという間に迷子になった。
しかしながら、今回は空を飛ぶことが出来るからいつでも竹林からは抜け出せるので安心だ。
そう考えるとやはり気持ちに余裕が出来ついつい歌なんかを口ずさんでしまう。

「う~さ~ぎお~いし♪か~の~な~べ~♪・・・・・・今晩は兎鍋にするかな?」

歌の本来の内容と違う気がしないでもないが其処は気にしない。
兎の肉は幻想郷では高級品なのだ。
そんな果てしなくどうでもいい事を考え歌いつつ竹林の中をふらふらと彷徨い続けた。
実際彷徨っていると言っても常に迷子になり続けたこの身において高々この程度、迷ったうちにも入らない。
(過去最高記録はローマ到達にかかった数百年)
そうして兎狩りを続けてどれほどの時が流れただろうか、竹の隙間から人の家・・・いや、屋敷の様なものが見えてきた。
迷いの竹林に人の屋敷?
なぜこんな所に屋敷がと考えはするものの、そんなことは考えたところで分かるはずもない。
とりあえずは近づいてみようと歩き始めた。


近くに来てみたがやはり屋敷だ。
それも立派な。
これが噂に聞く竹林に住む妖怪兎の屋敷なのかもしれないな。
そう考えた俺は屋敷に入ってみることにした。
幸いなことに、こんなこともあろうかとアレを荷物の中に入れていた。
これを装備して早速潜入だ。

<おまけ>

「そういえば塁。塁は何か能力を手に入れようとは思わないの?」
「ん~、私はいいかな~。千里を見渡してるだけで仕事は十分できるし、何か修行をしようとも思わないから」
「そっか~」
「そんなあなたへ能力談義でやす」
「「田吾作さん(いつものことながら、一体何処から)?!」」
「能力とは必ずしも修行で手に入るものだけではないでやんすよ」
「そうなんですか?」
「では今回はその話をするでやす」
「「お願いします」」
「能力は以前まで話したように先天性能力と後天性能力に分けられるでやす」
「ふむふむ・・・・・・」
「そして才の能力が後天性能力なんですよね」
「そうでやすな。実はそれ以外にももう一種類あるんでやす」
「?!」
「そうなんですか?!」
「でやす。それが今回の話、付与型能力でやす」
「付与型」
「ですか?」
「之は才能も要らず努力も必要の無い超お手軽能力でやすな」
「なにそれ!!」
「そんな便利な能力が!!」
「この能力は特定の道具や、他者から能力を授けられることでやす」
「道具?」
「授けられる??」
「でやす。道具で言うならあっしの作った地蔵やアスカ様の持っている段坊流箱がそれに当たるでやすな」
「「あぁ~、なるほど」」
「授けるといったのは具体例は無いでやすが、神様に熱心に祈りをささげるなどしていると神様から能力を貰えたりする事でやす」
「神様・・・ですか・・・」
「塁?どうしたの??」
「なんでもないよ、才」
「???」
「とまぁ、付与型能力は自分ではなく完全に人任せで手に入れる能力でやすから応用も効きやせんし、あまりお勧めはしないでやすよ」
「は~い」
「そうですね」

田吾作能力談義『待宵編』より抜粋
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後書

どうも、お手玉の中身です。
とうとう来ました迷いの竹林。
彼女達の登場を期待した人はもう少し待たないといけませんね。
流石はお手玉の中身、平気で読者の期待を裏切ってみせる。

では、次回予告です
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・・・・・・え?あたしが次回予告?いいけど、御代は貰うよ

迷いの竹林に佇む大きな屋敷
出てくるのは蛇か鬼か?
こんな潜入任務に頼れる相棒
そう、みんなの伝説の道具!!

次 回
 「兎鍋は勘弁して下さい」
       イナバ?そんなとこで何してるの?? by.輝夜



[10620] 輝夜、再会(田吾作さんがミスった日)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/24 11:38
「う、う、うさぎ♪うさぎのにわは♪つ、つ、つきよだ♪みんなでて、こいこいこい♪」
「なに、その変な歌?」
「兎の歌、いいでしょ」
「やめなよ、今は侵入者を探すほうが先でしょ?」
「でも、お屋敷の中にいるんならすぐに見つかるんじゃないの?」
「たしかにね~。広いとは言えお屋敷には変わりないし」
「そうそう♪それに、姫様の部屋には近づけないように永琳様が術を施してるからゆっくりで大丈夫だよ」
「それもそっか」
「そうそう♪それじゃあご一緒に」
「「う、う、うさぎ♪うさぎのにわは♪つ、つ、つきよだ♪みんなでて、こいこいこい・・・・・・・・・・」」

足音が遠ざかっていく。
なぜかは分からないが屋敷に潜入したがことがばれたらしい。
この装備でばれるとは恐ろしいことだ・・・・・・
おそらくは、さっきの会話に会った姫様がここの主でそれを守護する永琳とか言う奴がそれを察したのだろうが・・・
っむ!また誰か来た様だ・・・・・・

「ったく、姫様たちも兎使いが荒いわよ。何で侵入者如きにこのてゐ様が出なくちゃいけないの」

視界が制限されているせいで顔までは見えないがこいつも兎妖怪のようだ。
どうやらここの主、姫様に命令されて俺を探しているようだが・・・・・・普通は主に服従してるものじゃないのか?

「そりゃ、いろんな技術を教えてもらった恩があるし、お陰で迷いの竹林を作って仲間が守れるようになったけど・・・・・・」

なるほど、最初からいたのではなく余所から来た者が主となっているのか。
そして、過去に受けた恩を返すためにそれに従っていると。
その割には反骨精神がありすぎるような気がしないでもないが。

「やめやめ、ちょっと休憩していこう」

まずい、動けない。
この中で動けないのはかなりつらいんだが。
そう考えた俺は今、段坊流箱・魔亜苦通にその身を隠していた。
こいつのお陰でどれだけ兎妖怪の傍を通ってもまったく気付かれずにすんだ。
最も物音までは隠し切れないようなのでそれだけは注意したのだが。
それにしても姫様か・・・・・・
月に帰るなんて変な事を言っていたあいつと同じ呼称とは、これも何かの縁なんだろうか。
しかし・・・・・・・・・段坊流箱・魔亜苦通の中でじっとしてるのはつらいな。
この兎妖怪が来る前から結構、兎が通るせいで1時間近くは動けて無いぞ。
そうやって俺が考え出した矢先、兎妖怪に動きがあった。

「さてと、そろそろ行きますか。いい加減侵入者も誰かが見つけてるだろうし」

そう呟くと、兎妖怪はそのまま廊下の奥へと消えていった。
その後姿は少女と言っても差し支えなく他の兎妖怪同様に頭にうさ耳、お尻に兎の尻尾、足は兎の足と分かりやすい特徴だった。
何はともあれこれで進める。
如何考えても、あの耳だと下手な物音は立てれないからな。
そう心で呟き、ゆっくりと足を進め始めた。



ある程度進むと他の障子張りとは違う板の扉を見つけた。
あやしい、この部屋に何かあると俺の直感が告げている。
俺は周囲を段坊流箱・魔亜苦通の中から見渡した。
誰もいない、今が絶好の機会。
俺は段坊流箱・魔亜苦通を脱いで片付けると扉を勢いよく開けた。
部屋の中には大量の薬品が棚につまっていた。
その中心の机でなんとなく見覚えのある銀髪に赤青の服を着た女性が薬を混ぜる作業をしながら此方を見て固まっている。
やべ・・・・・・ここはひとまず、

「・・・失礼しました~」

言葉のままに扉を閉めて廊下の奥へと全力疾走。
その直後、

「侵入者よ!警備部隊、姫様の守りを固めなさい!!」

と先ほどの女性のものと思われる大声が響き渡り、後ろからは矢がビュンビュンと通過していく・・・・・・今、掠った!!
室内で弓矢を射るとは非常識極まりない上にめちゃくちゃ怖い。
長い廊下を走る走る、とことん走る。
何度か兎妖怪を見かけたがここで足止めを食らうとあっという間に串刺しなのでシカトしてなお走る。
そうこうしていると、今度は他の扉に比べ格段に豪華な扉が目に付いた。
おそらくここに主たる姫様がいるのだろう。
ならこいつを説得できればうまくいく。
そう考えた俺は、勢いよく扉を開け放ち宣言した。

「たのも~~~!!」

そこで見たものは・・・・・・

「へ??」

どこぞかへ去った輝夜姫だった。
しかも滅茶苦茶だらけてる。
輝夜はこちらの顔を見るとその目を点にし人のことを指差してきた。

「あ、あ、あんた誰!!」
「いやいや心配せずとも俺は怪しいものじゃないですよ、ちょっと道に迷っただけの善良な市民ですよ~」
「・・・・・・なんだそうなのか~とでも言うと思ったの?ふざけてないで答えなさい!!」
「うわ、相変わらず美人が凄むと迫力が違うわ・・・・・・」
「ふざけるなと言ったはずよ」
「こわっ!ってそんな場合じゃなかった!!」
「どういうこt「姫様~無事ですか~」・・・そういうこと」
「なぁ、面白い話があるだが一口噛む気は無いか?」
「へぇ・・・・・・内容によるわね」

どうやら輝夜は人の事を忘れているようだがノリの良さは変わってない。
と言うよりも相変わらず暇にしているようだ。
ならば楽しく遊ぶとしますか。



青年準備中・・・・・・


俺は現在、輝夜を後ろから捕まえて短刀を突き立てている・・・・・・ように見せている。
輝夜もそのことを了解しているので演技レベル以上の抵抗はしていない。
そして、部屋に彼女達が飛び込んできた。

「姫様、ご無事でって?!?!お前、姫様になんてことを!!!」
「いやいや、俺は怪しいものじゃないですよ、ちょっと道に迷っただけの善良な市民ですよ~」
「善良な市民が姫である私の首に短刀を突きつけるの?」
「それはもう、善良すぎて小心者ですから、生きるのに必死なんです。その様はまさに兎!」
「「「お前みたいなのと一緒にするな!!」」」
「あたしもあんたみたいな人間と一緒にされるのは御免だわ」
「だそうよ?それよりも善良な市民なら姫様を放してくれないかしら?今なら殺さないわよ」
「と言ってるけど?如何するの善良な市民さん」
「いやいや、殺さないだけで嬲る気満々の顔をされても余計に放したくないですよ」

まずいな・・・・・・
兎妖怪だけなら力任せに突破できるが、あの赤青は無理だ。
全然隙が無いどころか輝夜を放した瞬間に頭撃ち抜かれて人生終了するぞ。
しかしまぁ、無理に抜ける必要は無いんだがな。
そう考えた俺はいまだ恐ろしい笑みを浮かべている赤青の女性へと声をかけた。

「それじゃあ一つ謎かけをしましょう」
「謎かけ?」
「はい、それで正解を導き出せたらこの姫様を放します」
「それを信用してもいいのかしら?」
「俺は嘘をつきません。それに答えが分かればその弓に撃たれることもなくなりますし」
「たいした自信ね・・・・・・いいわ、問い掛けてみなさい」
「永琳・・・・・・月の頭脳と呼ばれた力、頼らせてもらうわよ」
「姫様・・・・・・すぐに助けますからね」

なぜだろう、この姫、共犯者の癖してすげぇ~被害者面だ。
これが演技ならあの赤青の女性かなりかわいそうだぞ?
まぁ、輝夜なら演技なんだろうけど。
そう思うと口元が自然と笑みを作ってしまう。

「ん~・・・あんた、何笑ってんの?」
「ん?あぁ、なんでもないよ。それで、もう謎かけを始めてもいいですか?」
「えぇ、いつでもどうぞ」
「よし、あぁ言い忘れてたけど答えるのは其処の兎さん達でも構わないし、答えが分かれば腕の中の姫様だって答えていいからな」
「何を考えているの?」
「遊びを楽しくしてるだけだよ。問題はいたって簡単な話。俺の名前はなんでしょう?」
「あなたの」
「名前?」
「そっちの赤青の女性は分からないとしても姫様が分からないのはちょっと酷いかな~」
「・・・・・・・・・姫様?お知り合いですか」
「ちょっと永琳?!何でそんな顔でこっちを見るのよ」

謎かけを始めると赤青の女性は輝夜が共犯なのではないかと一気に疑い始めた。
しかし、俺のことを忘れている輝夜にしてみれば知らない男との共犯、つまりはこんな事になるとは予想外だったわけで見事に慌てている。
そろそろヒントの一つでも出すかと考え出した矢先にリーダー格らしい兎妖怪が声をかけてきた。

「ねぇ、それだけじゃあたし達が不利すぎるんじゃないかな?」
「ふむ、そうかな?さっきのも十分ヒントになると思うんだけど?」
「あたし達が姫様の知り合いを全部知ってる訳ないじゃん。もっと別のヒントを寄越しなよ」
「そ、そうですね。姫様への追及は後にして今は姫様を助けないと。と言うわけでヒントを渡しなさい」
「・・・・・・なぁ姫様。あんたの従者、なんか微妙なこと言ってるけどあれは有りなのか?」
「有りなんじゃないの?永琳的に」
「姫様、こんな時までふざけないで下さい!!」
「ふざけてないわよ!真面目に答えてるわ!!」
「余計に悪いです!」
「んじゃヒント言うからな~」
「うさうさ」
「ヒントは、月の頭脳でも見つけられなかった姫様の探し人と同じ名前だ。ちなみに男な」
「それじゃあ余計に分からないよ~」
「そうでもないみたいだぞ」
「へ??」

俺が兎妖怪にそう返事をし輝夜と赤青の女性に目を向けると、二人とも信じられないような顔をしてこちらを見ている。
特に輝夜は、それこそ狐に化かされたようなありえないと言った表情だ。
そんな表情の輝夜が恐る恐ると言った感じで口を開いてきた。

「えっと・・・・・・もしかして・・・もしかしてよ。・・・・・・アスカ」
「やっと思い出したのか輝夜姫様?」
「っは?えっ、えっ、っちょ?!えっ??え~~~~~~~~~~~?!?!」
「ちょっと待ってください。アスカと言うと姫様が昔いた屋敷の遊び相手のあのアスカですか?」
「輝夜の遊び係が他にいなければ俺の事だろうな」
「ちょっと!何でアスカが此処に居るのよ!!これ邪魔よ、外しなさい!!」
「はいはい・・・・・・っと」
「やはり共犯だったんですね」

赤青の女性はあまり慌てていないようだが混乱はしているようだ。
それより酷いのは目の前の輝夜だ。
最初に言った言葉以外、日本語を話しているのかと聞きたいぐらいに何を言ってるのか分からない。
こうなったら。

「すみません。お名前を聞いても」
「は、はぁ・・・・・・侵入者に名乗ると言うのも変な物ですが、私は『永琳』と言います」
「どうも、俺はアスカで昔は輝夜の遊び相手を勤めてた人間だ。とりあえずこれ何言ってるかわからないから止めてくれないか?」
「・・・・・・そうですね、このままでは話が進みません」

そういうと永琳は輝夜に近づきその頭を鋭くはたいた。
結構いい音が響いたので痛そうである。
実際に涙目だ。
そんな涙目のまま輝夜は永琳を睨みつけると口を開いた。

「った~?!何するのよ永琳!」
「姫様、少しは落ち着いてください。話を聞こうにも冷静になってないと意味が分かりませんよ」
「そうだぞ輝夜~」
「なんですってアスカ!!」
「って、兎達が言ってた」
「「「うさ?!?!」」」
「イナバ・・・・・・後で憶えてなさいよ・・・」
「ちょ?!姫様!!あんたなんて事をしてくれたのよ!」
「姫様落ち着きましたか?」
「あ~、すまん、反省はするが後悔はしていない」
「そうね永琳、私らしくなかったわ」
「なにそれ?!意味分かんないから!!」
「そうです姫様、話し合いをしやすいように居間に移りましょうか。アスカさん?」
「正直すまんかったって・・・なんですか永琳さん」
「姫様が事情が聞きたいそうなので居間に移動しましょう」
「分かりました。案内を頼みます」
「えぇ。姫様、行きましょう」
「そうね・・・・・・アスカ、付いて来なさい!」
「・・・・・・はいはい」

そうして俺の前を先導するように輝夜と永琳が歩き、なぜか後ろからは恨めしい目をした兎達が付いてくるのだった。


<おまけ>

「あれ、おっちゃん。何縫ってるの?」
「これでやすか?これは手袋でやす」
「手袋?その割には凄い素材使ってるね」
「流石はにとり。よく気が付いたでやすな」
「そりゃそうだよ。河童なら段坊流に気付かない奴はいないんじゃないかな?」
「そうでやすな」
「それで、どんな手袋作ってるの?」
「アスカ様への贈り物でやす」
「アスカ様への?」
「でやす。アスカ様はあの通り肉弾戦しか出来やせん。ですから道具を使って中、遠距離戦もできるように出来るようになって貰いたいでやす」
「へ~・・・・・・うん、見たとこ法力を使うみたいだけどアスカ様の法力で大丈夫なの?」
「こんな事もあろうかと昔、アスカ様の荷物に強化札を隠しておいたでやす」
「なるほど。流石は田吾作のおっちゃんだ。それじゃ、がんばってね~」
「ありがとうでやす」

地味に田吾作の思惑がずれてしまった一幕
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
輝夜再会編、何気にまだ続きます。
新参ホイホイさんについてはかなり近代で落ちて来たことにします。
そして、田吾作さんの力で微妙にずれながらも弾幕フラグ。
では、次回予告頼みます。
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私の名前は稔子じゃなくて、穣子よ!間違えないでね!!

再会したのは輝夜姫
そんな彼女に向けるのは生暖かい目
何をそんな目で見ることになったのか

次 回
 「なぜだろう?最後のほうでツンデレ風味に出来ちまってるよorz」
                      次回予告枠を私用に使うな! by.kami



[10620] そろそろ大結界を張るかな~と考え出した作者がいる
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/24 11:47
竹林に佇む屋敷の一室に4人の人物が机を囲むようにして座っている。
一人はてゐ。
その顔からは何で自分此処にいるんだろうと今更疑問に思っているようだ。
一人は永琳。
訪れた男がはるか昔に生きた男だと知りそれを警戒するように見ている。
一人はアスカ。
色々と思うことはあるものの、いつもどおりその場その場で対応しようと考えているようだ。
そして最後は輝夜。
いい加減誰も話し出さないことにイラついてきたのか口を開いた

「さて、説明してもらいましょうか。アスカ」

それは静かながらも有無を言わせない宣告だった。
しかしながらそんなことはアスカだって言いたい言葉であった。
アスカは茶を啜りながら輝夜へ目を向けると思ったままに言い返した。

「それはこちらの言葉だ輝夜。そっちこそなんで幻想郷にいるのか説明してもらおう」
「そ、それは・・・・・・あ、あれよ、月にいるのは飽きたから「はいはい、妄想お疲れ~」・・・・・・何よその反応」
「お前なぁ・・・・・・まだ月の姫とか意味の分からないこと言ってたのか?」
「な、私はれっきとした月の姫よ!妄想なんかじゃないわ!!」
「夢見てる人はみんなそういうんだよ輝夜」
「何その生暖かい目は!やめて、そんな目で見ないでよ!やめなさ~~~~~い!!!」

・・・・・・そういえばアスカは月の都をまったく信じてなかったのだった。
さて、そろそろアスカの視点に戻るとしよう。


はてさて、如何したものか。
俺の目の前では駄々っ子のようにわめく輝夜がいる。
だからといって月の都なんぞ幾らなんでも信じられるものでもない。
そう考えていると横から永琳が声をかけてきた。

「えっと、アスカさん。月の都は本当にあるんですよ?姫様が其処の姫だったと言うのも事実ですし・・・・・・」
「だそうだが、えっと・・・・・・てゐで良かったよな?如何思うよ?」
「ん~・・・・・・姫様やお師匠さまの考えにはいつも驚かされるけど月の都はね~」
「「イナバ(てゐ)!裏切る気!!」」
「へ?!そんな気は無いですよ!!ただ証拠が見たいな~って・・・ね~」
「だよな~」

どうやらてゐとは良い酒が飲めそうだ。
人の考えていることを察してすぐに乗ってくれた。
どうやら見た目相応の歳という訳ではない様だ。
そんなことを考えているとなにやらぐずる声が。
見てみれば輝夜が涙目になりながらこちらを睨みつけている。
まずっ・・・・・・・・・やりすぎた。
そう思っても時既に遅く、輝夜が泣き出してしまった。

「何で信じてくれないのよ~~~。あずがのばが~~!!」
「あぁ、姫様泣かないで。アスカさん早く謝って、姫様に謝ってください」
「こりゃアスカが悪いね。早く謝りなよ」
「て、てゐ?!この裏切りものめ!!」
「ん~?聴こえんな~~」
「っく・・・・・・あ~、輝夜。俺が悪かった、月の都はあるんだよな?立派なんだよな?」
「ぐすっ、ぐすっ、ちゃんと信じる?」
「あぁ、信じるとも。だから泣かないでくれよ」
「それなら良し」

輝夜は永琳に宥められながら俺の謝罪でやっと泣き止んだ。
そうして落ち着いた頃を見計らい俺は再び輝夜へと問いかけた。

「まぁ、月の都はどうでもいいとして・・・・・・実際なんでお前がここにいるんだ?」
「どうでも良いって・・・アスカさん。それは酷くないですか」
「何言ってるのよ永琳。実際どうでも良い話じゃない」
「姫様まで・・・」
「何でここにいるかって言うのはね、月の使者から逃げ隠れしてるからよ」
「月の使者から?何でまたそんなことを??」
「まぁその辺は色々有ってね・・・・・・聴かれても言う気は無いわよ?」
「聞く気も無いよ」
「それはよかったわ」

俺の返事を聞き輝夜は満足そうな顔で大きく頷いている。
永琳も落ち着きを取り戻してきたようだ。
その様を見ていると輝夜が改めて口を開いてきた。

「今度はこっちから聞かせてもらうけど、何でアスカがここにいるの?」
「俺は幻想郷に住んでるからな。誰かみたいに隠れてるわけでもないし」
「・・・・・・随分含みのある言い方だけどこの際いいわ。聴き方が悪かったわね。
正確には・・・・・・・・・なんで生きてるの?

輝夜の発言で場の空気が変わった。
永琳とてゐが少し腰を浮かせて身構えている。
俺はそれを見てみぬ振りをしてなんでもないように答えた。

「随分な言い草だな。まるで生きてるのが悪いみたいじゃないか」
「・・・・・・えぇ、その通りよ。あの時から流れた年月を考えるなら当然のことね」
「これまた、随分と言い切ってくれたもんだ」
「誤魔化さないで!・・・・・・蓬莱の薬を使ったわね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

俺が黙っていると更に場の緊張感が高まっていく。
輝夜もある意味、確信を持っての発言のようだ。
しかしまぁ・・・・・・

「んな訳ないだろ?」

勘違いなのだが。

「そう使ったのねって・・・違うの?!」
「おう、全然違うぞ」
「そんな筈は「そんな筈は無いでしょう!!」・・・・・・永琳?」
「地上の技術で不老不死を体現するなんて不可能です!よしんば可能としてもなぜあなたがそれを体現できているのですか!!」
「あ~それはだな「更には!!」・・・・・・聞けよ・・・」
「姫様と同じ土地に住み着いているなんてそんな偶然あるはずありません!!あなたは月からの追っ手ですね!」
「っは?!」
「アスカ?!月の追っ手だったのあなた!!」
「ちょ?!輝夜??」
「なるほど~月の民なんて姫様達以外で始めてみたよ」
「お前はどうでも良いや・・・・・・ってかそんな訳ないだろうが」

永琳、頭よさそうに見えたけど実はダメな人だろ?
輝夜は輝夜で昔から付き合いがあるくせに変なこと言い出してるし。
しかもあの顔は本気だ。
てゐは・・・・・・やっぱどうでもいいか。
とりあえず全員身構えだしてるし、ちゃんと反論をしなくてはな。

「はぁ・・・人の話は聞きましょうよ。
俺は不老不死じゃなくて不老・・・・・・寿命が無いだけでそれ以外ではあっさり死にますし、
ここに住んでるのはかなり昔からですから輝夜は一切関係ありません」
「ですから「それとです」・・・」
「俺が不老になっているのは人間の薬じゃなくて鬼の薬と修行のお陰ですから其処のところよろしく頼みますよ」
「よろしくって、あなたね~・・・そんなふざけた話信じられるとでも?」
「事実ですからしょうがありません」

そう俺は言い切ると残っていたお茶を飲み干した。
永琳はその手をあごに当てなにやら考えているご様子。
輝夜もまだ納得しきっていない様子だ。
そんな中、なぜかてゐが口を開いた。

「ねぇねぇ・・・・・・もしかして住んでるところって妖怪の山?」
「ん?あぁ、そうだがそれがどうかしたか?」
「じゃあ、昔から噂になってる妖怪の山で人間と言い続ける人外って・・・・・・」
「・・・・・・不本意ながら俺のことだな」
「やっぱり」

俺の返事を聞いたてゐはにっこり笑うと嬉しそうに手を合わせた。
そして輝夜と永琳へ振り向くと二人へ声をかけた。

「姫様、お師匠さま、この人嘘はついてませんよ」
「イナバ?」
「てゐ、それはホントなの?」
「はい。姫様たちも聞いたことがあるでしょ、妖怪の山に住む人間の噂。
アスカさんがその本人ですよ」
「「あぁ~、納得」」
「・・・・・・随分簡単に納得するんだな」
「わ、私は最初から信じてたわよ」
「こっち見てから言えよ、この駄目姫が」
「まぁ姫様が信用してたから確証さえ得られれば良かったんですよ。
話の流れから分かっているでしょうが私達は不老不死。
何があろうと基本的に負けというものがありませんから」
「さらっと言うな・・・・・・」

なんというか・・・・・・
此処まで警戒しているとなると実際に追っ手、月の都と言うのもあるのかもしれないな。
そう感心していると永琳がこちらを微笑みながら再び口を開いた。

「ふぅ、それじゃあ疑惑を晴れたことですし、改めて自己紹介をするわね。
私は『八意永琳』。姫様の従者兼教育係です」
「次はあたしだね。あたしは『てゐ』。
この竹林に住む兎妖怪をまとめてる兎妖怪よ」
「ふふん、最後は私「お前はいいや」なんでよ?!」
「いや、お前の自己紹介なんて聞いても今更だろ?」
「うっ・・・確かにそうかもしれないけど・・・・・・」
「なら却下だ。噂では聞いたことあるかも知れないが、俺が妖怪の山に住む人間のアスカだ。
一応山で薬師の真似事をしている」

なぜか胸を張った輝夜を黙らせ俺の自己紹介を終わらせる。
しかし、輝夜の教育係となると・・・・・・

「輝夜の教育係、大変だったんでしょうね~」
「ちょっと?!どういう意味よ、アスカ!!」
「そうね、姫様は昔からあまりやる気を出してくれなかったからその気にさせるのが大変だったわ」
「ちょっと?!永琳まで何言ってるよ!!」
「そう言えばあなた、妖怪の山の薬師なの?」
「ねぇ、無視しないでよ!」
「さっき言ったとおりですが、それが何か?」
「永琳もアスカもこっちを見なさい!!」
「私も色々薬を作っててね。後で意見を聞きたいから研究室に来ない?」
「私もいるわよ~・・・・・・」
「いいですね。というよりすぐに行きましょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それもそうね。案内するわ、付いてきて」
「案内頼みます。それと輝夜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何で落ち込んでるんだ?」
「姫様?」
「(この二人、本気なのかな?本気で気付いてなかったのか??)」

永琳の研究所に案内してもらう前に輝夜に挨拶でもするかと思い声をかけると、影を背負うほど落ち込んでいた。
当然俺も永琳も心当たりは無く、てゐのほうに目を向けてみるとなぜか頭を抱えていた。
一体何がどうなったのやら。
そう思ったもののすぐにどうでも良いかと考え直し、輝夜へと声をかけた。

「おい、輝夜」
「・・・・・・・・・・・・・なによ」
「また会えたのも何かの縁だ。これからもよろしくな」
「っう・・・・・・い、いいわよ。よろしくしてあげる」
「おう、よろしく」

そう輝夜と言い合い、お互いの手を握った。
何はともあれ、古い・・・・・・それこそ妹紅と同じくらい古い知り合いとの再会だった。


<おまけ>

少し未来の竹林

「輝夜・・・今日のあたしは調子がいいんだ。消し炭にしてやるよ!!!」
「奇遇ね、私も古い知り合いにあえて機嫌がいいのよ。今なら不死ですら殺せそうなくらいに!」
「言ってろ!燃えつきやがれ『火の鳥 -鳳翼天翔-』!!」
「っは!その程度で!お返しよ『蓬莱の弾の枝 -虹色の弾幕-』!!」
「まだだ!調子の良いあたしはこの程度じゃないぞ輝夜~~~!!」
「言ってなさい!妹紅~~~!!」
「姫様張り切ってるね~」
「そうね・・・妹紅もどういう訳か張り切ってるし攻撃の余波が此処まで届いてきてるわよ」
「お師匠様はあっちが元気な原因。思い当たります?」
「さぁ?こんな時ぐらいしか見ることもないのに思い当たる訳ないでしょ」
「それもそうですね」

不老不死に決着は付かない
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
輝夜再会編はこれで終了。
更には次で50話に・・・・・・此処はその他板へ引っ越すべきなのだろうか?
ちょっと悩みどころですな。

では、次回予告です。
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ぷっくるです。次回予告します

人里の守護者が怒り、食べれない人間が怒り、焼き鳥屋がおろおろする
何がどうしてそうなったのか?
そして・・・ぷっくるへの超・・・??伝授

次 回
 「カンペなんて読めるわけがない!!」
             所詮は鳥頭だったかorz by.kami



[10620] 超必殺技伝授(ただし一回きり)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/24 20:27
「だから、その力を貸せといっているんだ!!」
「何度も言ってるだろう。そんなどうでも良い事に、なんで力を貸さないといけないんだ!」
「それでもお前は人間か!!」
「人間だが何が悪い!!」
「ちょ、慧音も先生も落ち着いて」
「「十分落ち着いている!!!」」
「(全然落ち着いてないよ)」

俺達は今、妹紅の家で互いを睨みあっていた。
妹紅が必死になって止めようとしているが今回の件で引く気はない。
何で俺がそんなめんどくさい事をしなければいけないんだ。
とは言え妹紅の努力を無駄にするのも悪いし少し冷静になるとしよう。
俺は深く息を吸い込み、ことの発端を思い出した。
アレは今日の授業が終わって、お茶を飲みながらゆっくりしていたときに始まったんだ。

回想

「ふぅ~・・・お茶がうまいな~、妹紅」
「そうですね~、先生」
「確かに、うまい茶だ・・・・・・」

今日の授業を終了させた俺達は、全員で道具を片付けるとそのまま休憩、お茶を飲んでいた。
そんなゆっくりしていた時に慧音がこちらを見て口を開いた。

「そういえば、道具屋の警備・・・黒陽と影月に聞いたんだが、アスカは妖怪と渡り合えるほど強いんだってな?」
「ん?まぁ・・・・・・そこらの雑魚にやられることは無いと思うぞ」
「そうか・・・ならば共に人里の守護を行ってくれないか?」
「っは?何で俺が」
「っむ、人助けをするのに理由がいるのか?」
「理由は要らないが人助けをする謂れも無い」
「・・・ふざけているのか?人の命が懸かっているんだぞ!」
「人にせよ妖怪にせよ所詮は他の命。俺が身を張る必要は無いね」
「ふざけるな!!その中にはお前の知り合いもいるのだぞ!!!」
「確かに霧雨道具店の人間や、黒陽と影月辺りなら助けるだろうな」
「なら「ただし」・・・」
「それ以外は知ったことじゃない。戦いが絶対でない以上、無意味に命を張る気なんてさらさら無いよ」
「・・・・・・お前という奴は」
「あ?なんだよ」

先ほどまでの和み雰囲気は吹き飛び、一気に場の空気が険悪になった。
慧音は何かを我慢するように顔を俯かせている。
対する俺も眉根が顰められていくのを自覚している。
ただ一人妹紅だけが状況についてこれずにあたふたとしていた。
そして・・・・・・

回想終了

「(この状態か)」

アレから続けられるのは結論の出ない水掛け論。
結局お互いに引く気が無いので結論が出ないのも当たり前だった。
慧音は人里の守護者としてより強い守人を欲し、俺は自分の知り合いでもない相手のために命を張る気がまったく無い。
まったく持って話は平行線を辿り、妹紅に心配をかけるだけの状態となっていた。
仕方が無い・・・・・・

「はぁ・・・しょうがない」
「っむ、しょうがないとは如何いう事だ」
「このまま言い争ってもしょうがないという事だ。実際なぜ俺に守護をさせたがる?」
「本気で言ってるのか?自分の力をしっかり把握してみろ」
「それ以前に、嫌がる奴に守護させてうまくいくのか考えろよ」
「それは・・・・・・、それほどまでに嫌なのか?」
「まぁな。相手が知り合いなら助けるのもやぶさかじゃないが、見た事も聞いた事も無い奴のために頑張れと言われてもな」
「そういうものなんだろうか」
「人それぞれの価値観の違いだよ。妹紅もそんな経験無いか?」
「え?!あたしか??」

慧音との話し合いが収束に向かいつつあるので妹紅にも話を振ってみることにした。
妹紅は自分に話が振られたことが意外なのか少し慌てていたがすぐに冷静さを取り戻し、口を開いた。

「そうだな・・・あたしもどっちかといったら先生の意見に賛成かな」
「も、妹紅?」
「勘違いしないでくれよ慧音。人助けが嫌だとかじゃなくてあたしは不老不死だからあまり人の記憶に残っておきたくないんだよ。
不老不死って言うのは普通の人間にとっては夢のような存在だからね」
「そ、そうだったな・・・たしかにそれでは仕方ないな」
「な?妹紅みたいに都合がある者もいれば俺みたいに自分の価値観で助ける相手を選ぶ人間もいる。そういうことだよ」
「確かに・・・そうだな。すまない。
私は少々、熱くなりすぎたようだ」
「分かってくれれば何より」

慧音も妹紅の考えを聞くことで冷静になれたようでこちらへ頭を下げてきた。
気に入らない相手でも非を認め頭を下げることが出来る。
俺に出来るかわからないようなことも平気で出来るのだから慧音の事は本気で嫌いになることができない。
そう考えていると再び妹紅が口を開いた。

「もう喧嘩なんかしないでくれよ二人とも。二人ともあたしの大事な人なんだから」
「妹紅・・・・・・」

妹紅は顔を赤らめながら呟き、慧音はその言葉になにやら感動している。
しかし慧音よ、少し待つんだ。

「慧音、感動してるとこ悪いが、今の言葉だけ聞くと告白にしか聞こえんぞ」
「っへ?!ちょ、ちょっと待ってくれよ先生!あたしはそんなつもりじゃなくて・・・」
「それじゃあ私は大事じゃないのか?」
「け、慧音まで?!」
「くくくくく・・・・・・」
「すまんすまん、くすくすっ・・・・・・」
「まったく、二人とも人が悪いよ」

妹紅はそういうと呆れた顔をしながらもおかしそうに笑みを浮かべ笑い始めた。
そうして三人である程度雑談をした後その場で解散という流れになった。
空には既に月が上がっており、人は出歩くことの無い妖怪の時間。
とは言え、そんなことは俺にとって何の関係も無く家路を急ぐのだった。
妹紅の家から出発しそろそろ妖怪の山へと到着しそうになった時、懐かしい顔を見つけた。
俺はそんな懐かしい相手の名を呼びながら声をかける。

「お~い、ぷっくる~」

ぷっくるは一瞬、ぎくりと固まると辺りをキョロキョロ見渡しこちらと目が合った。
するとぷっくるは更に固まって動かなくなってしまった。
仕方ないので俺のほうから近づきながら声をかけた。

「よ、ぷっくる。良い月夜だな?」
「そ、そそそそそうですね」
「・・・・・・何をそんなに怯えてるんだ?」
「お、おおおおおおお怯えてなんかいませんにょ」
「にょ?」
「・・・・・・怯えてなんかいませんよ」
「(言い直したな・・・)・・・にょ?」

俺がぷっくるの怪しい語尾を追求するとぷっくるの頬が羞恥に染まりだした。
するとぷっくるは慌てて言い返してきた。

「にょなんて言ってませんよ!!」
「ほんとに?」
「ホントです!」

ぷっくるはムキになって言い返してくる。
なんとも面白い小鳥だ。
これは更にからかわねば(キュピーン)
俺がその目をぷっくるに向けるとぷっくるは再びぎくりと動きを止めてしまった。
それを確認した俺はゆっくりと口を開いた。

「そう言えばぷっくる、挨拶がまだだったよな。
こんばんわ」
「へ?あ、はい。こんばんわ」
「いい月夜だよな?」
「そうですね・・・・・・確かにいい月夜です」
「こんな月夜は歌を歌わないのか?」
「ん~~なんていうか、気分が乗らないんですよ?」
「そうか・・・ところで、何でそんな言葉遣い?」
「えっと、逆らったらいけないな~と思いまして」
「・・・まぁいいか」

そう一度言葉を区切り、一段声を低くして更に言葉を繋いだ。

「こんな良い月夜には鶏肉が食いたいからな」
「っぴ?!」
「そう思わないか?ぷっくる(ジュルリ)」
「へ?へ?ちょ、口の端から何か出てますよ!!い、いや~食べないで~」

ぷっくるはその場で頭を抱え込んで震えだしてしまった。
まさか之ほどまでに怯えるとは、いささかやりすぎてしまったと言うよりも、
以前のことがしっかりとトラウマになっていたようだ。
俺は少々バツが悪ながらもぷっくるへと話しかけた。

「あ~冗談だ、冗談。ぷっくるを食べたりしないから怯えなくてもいいぞ」
「ほ、ほんとですか?ほんとに食べませんか??」
「俺の信じる大蝦蟇様に誓って」
「・・・・・・分かりました。信じます。
どの道私じゃ逃げ切れませんし」
「随分と消極的な信じ方で・・・・・・」

どうやらぷっくるからの信頼度は地の底を行ってるらしい。
まぁ、自業自得なんだが。
しかし折角の知り合いに嫌われるのも嫌だし・・・・・・此処は一つ必殺技を教えるとしよう。
そう考えた俺はぷっくるへと声をかけた。

「よし、分かったぷっくる。お詫びといっては何だが、お前に一つ、どんな相手にも勝つことの出来る必殺技を伝授してやる」
「必殺技?」
「あぁそうだ。ただこれはぷっくるにしか使えない上に一度使ったら二度と使いたくなくなる技だから注意しろよ」
「は、はぁ・・・」
「よろしい、必殺技の使い方はだな・・・・・・ごにょごにょもそもそむしゃむしゃ・・・っとこんな感じだ。分かったな?」
「分かりましたけど・・・・・・ほんとにこんなので大丈夫なんですか?」
「信じとけ」
「はぁ・・・・・・」

そういったぷっくるの顔はいまだ複雑そうな表情を作っている。
しかし、今夜ぷっくるに授けた必殺技はいつの日か必ずぷっくるの役に立つだろう。
そのときは呼び名も元に戻さないとな。

そう考えた日常の一幕

<おまけ>

はるか未来の月が落ちない夜

「ねぇ妖夢。少しお腹がすいたと思わない?」
「でしたら幽々子様。目の前の夜雀を料理するので少しお待ちください」
「ちょ、ちょっと?!何で私が料理されないといけないのよ!!」
「でも小鳥は小骨が多いから嫌いなのよね~」
「でしたら止めますか?」
「こら~、無視するな~~~!!」
「あら、止める必要は無いわよ。おいしく頂けば何にも問題が無いから」
「そうですか。でしたら早速・・・・・・」
「だから私の話を聞きなさいよ!!」
「うるさい材料め!おとなしく料理されなさい!!」
「(っう!!強そう・・・そうだ!こんな時こそ必殺技を!!)ふ、ふん!私の歌を聴いても同じ事を言えるかしら?」
「あら、料理される前に歌ってくれるなんて。良い食材ね」
「幽々子様、普通の食材は歌いませんよ」
「でも、目の前の食材は歌うわよ」
「私を食材扱いするな~!!もう怒ったわよ!
私の歌を聴け~~~~~~~!!!
「わくわく・・・」
「幽々子様、私が料理しますから下がっていてください」
「すぅ・・・・・・・・・・・・・・・・
わ~た~し、ぷっく~る♪○~×△~□~☆♪
「いや~、妖夢~この歌なんなの~助けて~」
「ゆ、幽々子様!む、無理です。すぐに下がってください!!」
て~~か♪○~~×△~☆♪
「も、もう駄目よ。妖夢、逃げるわよ。撤退よ撤退~」
「ゆ、幽々子様?!待ってください~!」
「ほんとに逃げてった・・・・・・けど、この歌は二度と歌いたくないわ・・・」

ミスチーの姫君に対する唯一の白星にして邪胃餡裏災樽が封印された夜の出来事
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後書+次回予告

どうも、暗黒面が心地よくなってきたお手玉の中身です。
kamiが降りてきた。
スペカルールを弾幕シューティングじゃなく弾幕格闘に変えればいいと・・・・・・
目から鱗がぼろぼろと・・・・・・
どの道表現力が足りない気がするのはあえて気付かない振り。

では、次回予告お願いします。
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以前、影月が一人でやってたんで今回は俺が担当するぜ。

雨、豪雨、雷雨!
幻想郷に今日も降る?!
この地に何が起ころうとしているのか!
その時、旦那が動いた!!

次 回
 「下手したら最終回にしか見えない」
           ・・・・・・これ、旦那生きてるのか?? by.影月



[10620] 注意:最終回じゃありません
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/25 12:26
「凄まじい雨ですな」
「まったくだ・・・・・・お陰で帰れなくなった」
「あっしらは濡れても平気何でやすがね~」

俺達は今、天魔の家にお邪魔している。
と言ってもいるのは俺と家主の天魔、そして一緒に酒を飲みにきた田吾作である。
始めは田吾作から貰った新しい道具のお披露目に来ていたのだがいつの間にやら宴会になってしまい、
全員が潰れて目が覚めると・・・・・・・・・

「日の光すら見えない大雨になっていると・・・・・・」
「何を言ってるでやすか?」
「現状確認だ。気にするな・・・」
「でやすか。まぁ、確かに豪雨・・・というより雷雨でやすな~」
「儂もこのような雷雨、長らく見たことがないぞ」
「天魔が見たことないって・・・どんだけすごい雨だよ・・・・・・」

俺は小さく呆れ混じりに呟いたが、すぐさま雨音にかき消されてしまった。
返事を期待したわけではないが声すら消える雨とはなんとも虚しくなってしまう。
とは言え、激しいといえども所詮は雨、いつかは止みあがるもの。
ならばそのときを待ちつつ今の暇を潰すとしよう。
そう考えた俺は田吾作に声をかけた。

「それにしても田吾作。随分と良い物をくれたが・・・ほんとに良いのか?」
「良いでやすよ。むしろ貰ってくれないと困るでやす」
「アスカ殿、田吾作の行為を無碍にするものじゃないと思いますぞ?」
「そうか?・・・・・・そうだな。ありがたく貰っておくよ」

俺は田吾作から受け取った手袋を掲げながら返事を返した。
田吾作と天魔もその返事に満足したようにうなずいている。
ちなみにこの手袋は装備者の法力を下に周囲の空気を固めて打ち放てるといった優れものだ。
使用する法力も空気の圧縮に限定すればほぼ皆無となるらしい。
なんでも、空気を集める過程よりも打ち出す過程の方がより法力を消費するとのことだ。
これのお陰で近距離攻撃しか出来なかった戦闘で中距離と遠距離が加わった。
しかし、遠距離の場合は圧縮が解けてしまうので威力が落ちてしまうのだが・・・・・・
ともあれ、ありがたい事だ。
田吾作には、感謝しないとな。
そう考えていた時、天魔が違う話題を話し始めた。

「そういえばお二人とも、幻想郷に新しい結界が出来ることをご存知か?」
「ん、何の話だ??」
「あぁ、あれでやすな」

なにやら結界の話らしいが、田吾作には思い当たる事があるようで頷きながら言葉を返した。
俺には何の事か分からなかったため改めて聞いてみることにした。

「なぁ、結界ってどういうことだ?」
「そうでやした。アスカ様は人間でやすからあの人からの知らせが行ってないでやすね」
「あの人?知らせ??」
「うむ・・・あの者とは『八雲』と名乗る妖怪の賢者でな、幻想郷誕生の時よりこの地に住まう最高位の妖怪のことなのだが、
胡散臭すぎてあまり付き合いたいとは思わんな。
結界の件とはその者が幻想郷を外の世界と完全に別離させるために結界を張ると言ってたことだ」
「それはまた壮大な・・・・・・なんでまた外の世界との別離を?」
「それでやすが、なんでも・・・外の世界で妖怪がいないものとして扱われだしたとか何とか言っていたでやすな」
「うむ、その影響が幻想郷に及ぶ前に関わりを完全に断つ結界だそうだ」
「は~・・・やっぱり壮大なことで」

俺が呆れたように呟くと、田吾作と天魔も同意したように頷いた。
ただあまりにも雨が酷すぎるため雨が止むまでは天魔の家にお邪魔していることが決まった。


それから1週間・・・・・・

「流石にこれはない・・・・・・」

俺は止むどころか更に解くなる雨を見てそう呟いた。
そうして、天魔のほうに目を向けてみれば、
他の天狗たちから次々に寄せられる被害報告の処理に勤しんでいた。

被害報告曰く、哨戒に出ていた白狼天狗が雷に討たれた(茜達は無事だろうか?)
曰く、山が削られ家が流されたものがいる(それほどまでに!)
曰く、河童が川に流され遭難した(河童が?!)
曰く、烏天狗が取材に行こうとしてカメラをなくした(一番どうでもいい!!)

それは、信じられないような報告ばかりだった。
白狼天狗や河童達、茜や田吾作のことなど非常に心配ではあるがこんな中、外に飛び出していけばそれこそ二次災害にしかならない。
如何したものかと思いつつ天魔へと声をかけた。

「外はとんでもない状況だな」
「まったくだ。こうなっている以上、ただの雨と言う訳ではあるまいが・・・・・・原因がまったく掴めん」
「そうか・・・・・・」

そうやって返事を返した時だ、正面の扉から何人かが勢いよく転がり込んできた。
入ってきたのは文に茜、その他上位の天狗たちだった。
今まで外にいたのかその身体はびしょ濡れで水が滴っている状態だ。

「だ、大丈夫か?!文、茜!」
「ふむ、戻ってきたか・・・・・・」
「天魔・・・何か指示を出していたのか?」
「少し人里の方などを見てきてもらったのだ」
「そうなのか?」
「えぇ・・・・・・私の見た限りでは人里というより幻想郷中が大変な状態ですよ」

文の言葉を皮切りに其処からは上位の天狗達が各々の見てきた光景を報告してきた。
川は溢れかえり氾濫し、人里は豪雨により水没を始め、雷鳴は天を割り地を揺るがさんほど・・・・・・
想像を絶するような大災害が起こっていた。

「天魔様!このままでは我らも危ないです。すぐに何かしらの手を打たねば!!」
「うむ・・・・・・しかし大自然相手にいかような手が通じるか・・・・・・」

そういうと天魔をはじめとした天狗たちは皆顔を伏せ考え込んでしまった。
そんな中、先ほどから黙りっぱなしの茜へと目を向けた。
茜は寒いのか顔を真っ青に染め上げ、自分の身体を抱きしめながらガタガタと震えていた。
一体如何したんだ?

「文」
「へ?アスカ様なんですか」
「茜は一体如何したんだ?」
「それが私にも分からないんですよ。ここに来る途中で座り込んでるのを見つけて慌てて引っ張ってきたんですから。
茜さん?大丈夫ですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「こんな感じで反応もないんです」

実際に茜はただ震え続けるだけで文の言葉が聞こえているのかも怪しい状態だ。
文をその場から下がらせ、今度は俺が声を掛けてみることにした。

「茜、俺だ。大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「一体如何したんだ?何か見たのか?」
「・・・・・・・・・う・・・・・た・・・」

やっと茜が反応を示したかと思えばあまりにか細い声に何を伝えたいのかが分からなかった。
俺と文は顔を見合わせ更に声をかけた。

「茜さん、何を見たんですか」
「茜、話してみろ」
「・・・・・・んな・・・・・・・・・」
「「何(です)!」」
「・・・あんな恐ろしい生き物は始めてみました」

茜の言葉を聴き、俺と文は互いの顔を見合わせてしまった。
恐ろしい生き物?茜が怯えるほどの??
いつの間にか周囲には天魔達が集まりこちらの話に耳を傾けていた。
俺は更に茜へと問いかけた。

「茜、ゆっくりでいい。何を見たんだ」
「・・・・・・恐ろしい生き物です。今まで話でしか聞いたことないような」
「知っている生き物か?」
「見たことはありませんし姿も知りませんでした。でも、見た瞬間に分かったんです」
「何が・・・分かったんだ?」
「あの恐ろしい生き物こそが・・・・・・竜なんだと・・・」

なん・・・だと・・・?!
茜の言葉により周りの天狗たちは再び騒ぎ始めた。
その気持ちはよく分かる。
竜の逸話は俺も聞いたことがあるから。

曰く、竜は幻想郷の天地を作った存在・・・・・・

その竜が暴れるということは即ち、幻想郷の崩壊を意味するのだから。
ただの自然災害かと思ったらとんでもない話になってきた。
そう思い天魔へ顔を向けると天魔もこちらを見て大きく頷き口を開いた。

「仕方ない・・・ここは胡散臭い賢者を頼るとしよう」
「胡散臭いとはご挨拶ですわね。天狗の長」

凄く胡散臭い妖怪が現れた。
というかあいつは・・・・・・・・・

「紫、何でこんな所に?」
「あなたアスカ!何でこんな所に?!」
「っむ?アスカ殿はスキマとお知り合いか?」
「まぁ、ちょっとした縁があってな。紫が賢者?賢者の名は八雲の筈だが??」
「そういえば下の名前しか名乗ってなかったわね。私の姓は『八雲』と言うのよ」
「なるほど、しかしお前が賢者?・・・・・・全然にあわないぞ?」
「あなた本当に失礼な人ですわね。素敵なスキマ旅行に旅立ちたいの?」
「冗談じゃない」

手にした扇子で口元を隠しながら聞いてくる紫に俺はきっぱりと拒絶の言葉を返した。
なるほど、言われて見れば胡散臭いな。
そうして、紫と知り合いであることを驚く天魔達を尻目に俺と紫の雑談は続く。

「それはそうと紫、何でここに?
ちなみに俺は酒を飲みに来たらこの雨で帰れなくなっただけだ」
「天狗の家で酒を飲むって人として如何なのよ・・・・・・まぁ、今回はあなたに用があったんじゃないからいいですけど。
天魔、あなたに頼みたいことがあります」
「儂にか?」
「えぇ、既に聞き及んでるかもしれないけど今回の災害は竜神によってもたらされたものです」
「うむ、先ほど報告を受けた」
「流石天狗と言っておきましょう。」
「ふん、世辞はいい。続きを話せ」
「そうですわね。あなたには選んでもらいたいと思いまして・・・私と共に竜神の元へ行き怒りを納めてもらうか。
もしくは此処に残って、幻想郷の安定に力を注ぐかですわ。
私としましては竜神の怒りを共に抑えてもらいたいのですが・・・・・・」
「儂が竜神の前に?無理に決まっておろうが」
「ですわよね・・・ならば地上の、最低でも妖怪の山の安定ぐらいは成してください」
「うむ、了承した」

紫の言葉に天魔が短く言葉を返した。
紫自身、その答えを予測していたのか満足気に頷いている。
しかし、このままでは紫一人で竜神様の元に行くことになってしまうな。
俺は少し考え躊躇った後に、紫へと声をかけた。

「紫。天魔ほど力になれるわけじゃないが、俺が同行させてもうぞ」
「アスカ?」
「あ、アスカ様!何を言ってるんですか!!」
「そうですよアスカ様。今、竜神の元に行くなんて自殺行為ですよ」

俺の発言を聞き、紫は不思議そうにこちらを見つめ返し、茜と文は慌てて止めようと口を開いてきた。
天魔や他の天狗たちも同意見なのかその顔は一様に厳しいものだ。

「止めてもダメだぞ?そもそも、そんな危険なこと紫一人に任すなんてできないからな」
「あら、心配してくれてるんですの?でしたら「何言ってるんだ紫?」??」
「心配するのは当たり前だからどうでも良いとして、お前一人じゃ胡散臭すぎて頼りないんだよ」
「・・・・・・流石アスカ、誰も言えないような事を平然と言ってくれますわね」
「なんだ?歯に衣着せた言葉の方が好みだったか?」
「普段はそうですけど・・・・・・今はありがたく受け取っておくことにしますわ」
「よろしい。と言うわけで天魔、後頼むな」

俺の言葉に紫が笑いながら礼を述べるのを聞き、そのまま天魔へと声をかけた。
天魔のほうはまだ納得が出来ていないのか顔をしかめたままだ。

「アスカ殿。儂は反対です。
どれほど強くなろうとアスカ殿は人間、竜神とまともに戦えるはずもありません」
「戦うって・・・・・・物騒なこというな。こっちはお願いしに行くんだから戦闘にはならないよ。
だろ、紫」
「そうですわね。そもそも戦闘になれば確実に死んでしまいますわ」
「ならば尚のこt「それにさ」・・・」
「仲間が大変な時に何も出来ないって、嫌じゃんか」
「アスカ殿・・・・・・」
「そんな顔するなよ天魔。別に死ぬわけでもないんだし」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

俺の返事を聞き、天魔たちは全員複雑そうな顔をして黙り込んでしまった。
あの文でさえその表情からは不安が滲み出ている。
俺は一つ大きくため息をつくともう一度口を開いた。

「はぁ~・・・、茜も文も俺に死んで欲しいのか?」
「そ、そんなことありません!」
「あやややや、そんな訳ないじゃないですか!」
「んじゃ、戻ってきたときには宴会の用意をしといてくれよ?天魔も頼むな」
「ふぅ・・・分かりましたよアスカ殿。無事に戻ってきてくだされ」
「戻ってきたら取材を受けてくださいよ」
「お早いお帰りを待っています」
「おう。それじゃあ紫、行くとしますか」

天魔達からの返事を聞いた俺は早速、竜神様の元へ向かうべく紫へと声をかけた。
紫は既に準備を終えていたのか、不気味な空間を広げて待っている。

「もういいのかしら?」
「おう、竜神様の所へ行くとしよう」
「じゃあこの中に入って。気を付けなさいよ、隙間を抜けたら竜神の目の前ですからね」
「心得た」
「では、素敵な素敵なスキマツアーへ出発~♪」
「しまらない号令だな・・・」

紫の言葉を最後に、俺はあまり訪れたくない目玉だらけの空間、スキマの中へと送り込まれた。
相変わらず不気味な所だ。
そう考えていると隙間の割れ目が見えてきた。
どうやら出口のようだ。
はてさて・・・鬼が出るのか蛇が出るのか・・・・・・・・・竜だったか。




それは暗雲の世界。
雷鳴轟き風雨が吹き乱れあらゆる存在を赦さんとするそんな世界。
其処ではその世界の主が全てを壊しつくさんと暴れている。
あまりにも巨大なその姿は時折暗雲のよりはみ出る様な形でその姿を他者に晒す。
一本のロープのような身体に蛇のような鱗を纏い、身体に比べればいささか小さな手足には鋭い爪が。
時折覗かせるその顔は見るものに恐怖を与えその咆哮は雷鳴とは比べ物にならないほど響き渡る。
これぞ竜神。
幻想郷の天地を作り、滅ぼさんと暴れる存在。

そんな竜神の前に小さな空間の切れ目、スキマが二つ開いた。
先に出てきたのは男。
竜神を見たことで顔を引きつらせその身を竦ませている妖怪の山の薬師、アスカ。
次に出るは女。
男と同じように竜神への恐怖からその身を竦ませている幻想郷に住む妖怪の賢者、紫。
荒れ狂う竜神の前に二人の人物がスキマから降り立った。
竜神にとってはあまりにも小さな存在。
だからであろうか、竜神はその身を止め二人が口を開くのを待った。
それから僅かに逡巡し、意を決しアスカは問う。

「竜神様、なぜ荒れ狂うのですか!!」

荒ぶりし竜神は答える。

「ただ一種なる妖怪によって幻想郷が世界から外れんが為」

続いて紫が叫ぶ。

「そうしなければ妖怪は存在ができなくなります!!」

荒ぶりし竜神は静かに答える。

「ならばそれが世界のあるべき姿」

その答えは二人にとって認めることの出来ないものだった。
二人は叫んだ。
叫び続けた。
片や自らの友と仲間のために、片や自分の愛した理想の楽園のために。
果たして二人の言葉が届いたのか竜神はその身を鎮め静かに口を開いた。

「ならば認めよう」

そして、更に言葉を続けた。

「かの地、幻想郷から我は去ろう。
ゆえに汝たちの力だけで、かの地を楽園として見せるが良い。
そして最後に汝らの力を見させてもらう」

二人は問い返した。

「「力を試す?」」

竜神は語る。

「幻想郷を去る我が最後に一度だけ汝らを試す。
結果がどの様になろうと関係なく我は去ろう。
ただ汝らにどのような未来があるか見たくなっただけだ。
では、死ぬでないぞ!幻想の子らよ!!

そう吼えた竜神は今までと比べ物にならないほどの風雨を生んだ。
かくして竜神は幻想郷より去り幻想郷には新たなる結界『博麗大結界』が張られ外界より完全に隔離された世界となった。
博麗大結界が張られ幻想郷はその平和な姿を取り戻して行った。

ただ一人、人間の姿を幻想からも消して・・・・・・

<おまけ>

「雨、止みましたね・・・・・・」
「止んだでやすな・・・それじゃあ宴会の準備をするでやす」
「そうですね」
「あ、私は取材の準備をしてきます」
「文様~取材の準備よりも宴会の準備を手伝いましょうよ~」
「あはは、良いじゃんか椛」
「そうですよ椛さん。私達ががんばればいいんです」
「でも文さんだけサボるのはずるいと思うよ塁」
「後でアスカ様に教えればいいんだよ才」
「なるほど」
「なるほどじゃありませんよ二人とも!先輩からも何か言って下さい!」
「文、あなたが悪い」
「あやややや・・・・・・」
「ほらほら、遊んでないで張り切って準備をするでやすよ」

始まらない宴の準備
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後書

どうも、真っ黒になったお手玉の中身です。
幽香の時よりもでかい死亡フラグだ。ヒャッハー
正直ここで完結させてもいいような気がしないでもない作者なんですorz
でも、色々出て来てない人もいますし・・・まだ完結はしませんよ~

では、次回予告
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どうも、田吾作でやす・・・主人公候補とか言われやした。

足りない生活
いない友
そこにいた筈なのに
もう誰もいない

次 回
 「主人公なんてどうでもいいでやすからアスカ様に帰ってきて欲しいでやすよ」
                            これが・・・暗黒面の力か by.kami



[10620] 主人公不在の日々
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/26 09:34
此処は幻想郷の人里。
その一軒の道具屋から威勢のいい声が響いた。

「ありがとうございました~」

声を発したのは黒髪に日焼けをしたような肌の男。
その頭には触角のようなものが2本ほど立っている。
男の名は黒陽、どんな運命の悪戯か妖怪の身体を乗っ取った稀有な人間である。

「おい黒陽。こっち手伝ってくれ」

その黒陽を後ろから呼んだ銀髪に2本の触覚がある男。
彼の名は影月、黒陽と同じく妖怪の身体を乗っ取るといったとんでもない事をしてのけた稀有な人間である。
この二人、人里にある大手道具屋『霧雨道具店』の店員兼警備兵兼人里の守護者という仕事を掛け持ちしまくっている奴らだ。

「それにしても・・・・・・旦那、来ないな~」
「そうだな~。もう随分と顔を見てないな」
「こないだ若に旦那の話ししたらそんな人間いるのかとか言われちまったぜ」
「確かに旦那は規格外だからな~・・・・・・ホントに如何したんだろな」

そう言うと二人は今日もただ広く青い空に顔を向けるのだった。



所代わりて誰かの家。
白髪にリボン、もんぺを穿いた女性が畑仕事をしている。
彼女は妹紅、蓬莱の薬により不老不死となり長き年月を持って様々な妖術の扱いに長けた人間。
不老不死といえどもお腹は空く。
作物を育てて自分の食べる分をしっかり確保しているのだ。

「ふぅ・・・先生、こないな~」

不老不死から見ればどれほど長い年月だろうと瞬きする間に過ぎ去って行くようなもの。
だからと言って、いないものを寂しいと思う気持ちはいつまでも変わることはない。
すると、一人の女性が近づいてきた。
青を基調にした服装に奇抜な形をした帽子をかぶった女性、名を慧音と言う。
慧音は片手を挙げながら妹紅へ挨拶した。

「や、妹紅。遊びに来たよ」
「いらっしゃい、慧音」
「ところであいつ、アスカは来てないのか?」
「先生は今日も来てないよ」
「そうか・・・・・・」

顔を俯けた慧音が何を思うか、それを知りえるのは誰もいない。
ふと二人は空を見上げ、それぞれ呟いた。

「今日も、いい天気だね・・・・・・」
「・・・そうだな」




場所は変わって迷いの竹林にある屋敷、永遠亭。
其処では一人の女性がだらけていた。
彼女は輝夜、長く流れるような黒い挑発に色白の肌、典雅な格好はまさに彼女が姫であることをあらわしている。
そんな彼女も暇を潰すことができずにだらけているようだ。

「姫様、いつまでだらけてるんですか」
「だって、暇なんだもん」

彼女に注意を促がした女性は永琳、銀髪に赤と青の二色構成の変わった服を着ている女性だ。
ちなみにこの二人、先ほど出てきた妹紅と同じように不老不死の存在である。
永琳は輝夜からの返事を聞き更にため息を深くした。

「はぁ・・・、アスカさんになんて言われるか分かりませんよ?」
「ばれなきゃ平気よ」
「なら私がばらします」
「ちょ?!永琳!!・・・・・・まぁいいわ」

輝夜は永琳の言葉で慌てて跳ね起きたものの、すぐにだらけた体勢に戻ってしまった。
それに驚いた永琳は慌てて口を開いた。

「ひ、姫様?!良いんですか、言っても?」
「言えるものならね。最近アスカ、全然来ないじゃない」
「言われてみれば・・・確かにそうでしたね・・・」

輝夜からな返事を聞き納得したのか永琳はそのまま黙ってしまった。
輝夜は寝転がった状態のまま天井を仰ぎ見て呟いた。

「アスカ・・・本当にこないわね・・・・・・」



屋敷の外、竹林の中。
彼女は兎達へ指示を出していた。
彼女は竹林に古くから住む兎の妖怪、てゐ。
彼女が指示することは難しくなく、ただ竹林に入り込む人間を迷わすことと、
姫の遊び相手だった人間を探すこと。
指示を聞き終えた兎達が去っていくとてゐは一人呟く。

「まったく、姫様は兎使いが荒いよ・・・あの人間がくたばる訳ないってのに」

てゐは適当な竹を背もたれにその場に座り込んだ。
その顔にはめんどくさいと感じながらも仕方ないと諦観の表情が浮かんでいる
そうして日の光が差し込む空を見上げて呟いた。

「ったく。こんだけ探してるんだから、早く見つかりなさいよ・・・」



時は回って場所も変わる。
ここ太陽の畑は今年も黄金色の向日葵が咲き乱れる。
そこで日傘を差して佇む女性は最強の妖怪、風見幽香その人。
彼女は何かを期待するように遠くを見つめては、そのたびにつまらなそうにため息を吐く。

「はぁ、今年も来ないわね・・・・・・面白みが何一つ無いわ」

そう呟いた彼女はもう一度だけ遠くの空を見つめるとその足を向日葵畑へ進めるのだった。



風が吹きぬけ見える所も変わる。
妖怪の山麓、霧の湖。
今日も多くの妖精が気ままに飛び回っている。
そんな中、一際は元気に飛び回る青い妖精、チルノがふと動きを止めた。
それについて回って飛んでいた緑の妖精、大ちゃんはチルノが止まったとこを不思議に思い口を開いた。

「どうしたの、チルノちゃん。急に止まったりして?」
「うん、あいつ如何してるかなって思って」
「あいつ?」
「ほら、あいつだよあいつ・・・よく遊びに来た変な人間。確か・・・アイボ!」
「そんな人いたかな~?」
「最強のあたいが言うんだからいたのよ」
「そっか。チルノちゃんがそう言うんならいたんだよね」
「うん。でも、ホント如何したのかな~」

チルノはそう嘆くと高く広い空を日上げた。
大ちゃんもつられて空を見上げ、どんな人間だったのかと思いを馳せた。



景色は流れて何処かの街道。
其処には少年のような格好をした妖怪が一人。
彼女の名前はリグル、一時期は虫を操り人里に害をなしたがある切欠から人里に手を出さなくなった妖怪だ。
彼女は珍しく、本当に珍しく自分から影月へ会いに行っていた。
自分が恐れる人間の姿が見えないことが怖くて。

「アスカさん何処行ったのかな~。いたら怖かったけど、姿が見えないと余計に怖いよ・・・」

彼女は日が高く周りが明るいうちから目に見えない今日にその身を震わせ目的地へ急ぐ。
ただ一度、何かを紛らわすように遠くの空を見つめて。



其処からさほど離れていない森の中。
木々の隙間から歌声が響いてくる。
歌っているのは鳥の妖怪、ミスティアである。
ミスティア・ローレライ、親しい者・・・と言っても皆妖怪であるが、ミスチーの相性で馴染まれ特定の人間からはぷっくると呼ばれている。
彼女もまたリグルと同じ恐怖を味わっていた。
以前なら遠めに姿を見かけることや、時には声を掛けられることもあった。
そのたびに恐ろしくはあったが、今のように見えない恐怖に怯えることはなかった。
彼女は歌う、自らの恐怖を紛らわすために。

「~♪~~~♪~~♪」

彼女は歌う、願わくば再び姿だけでも見えるように。

「~~~♪~♪~~♪」

彼女は空を見上げ、世界に響き渡るように歌い続けた。



大きく場所を変えて此処はマヨイガ。
幻想郷と外界のスキマに漂う、隠れ里。
そこに九本の狐の尾を生やした女性と二本の猫の尻尾を生やした少女が歩いていた。
狐の尾を生やした女性は藍、猫の尻尾を持つ少女は橙と言う。
橙は口を開いて藍へ尋ねた。

「藍様、紫様はまだ探してるんですか?」
「そうだね、橙。アスカ様は紫様の数少ない友人だったからね・・・可能性が低くても探したいんだよ」
「アスカ様はそんなに立派な方だったんですか?」
「どうだろう?私はそんなに会った事はなかったし紫様もこないだの件を含めて3度しか会ってないと言っていたね」
「それでも探すんですか?」
「探すだろうね。受けた恩を返すため・・・何より友人が生きていることを確認するために」
「・・・・・・よくわかりません」
「少しずつ、分かっていけばいいよ」

よく理解できなかった橙は顔を俯けて落ち込んでしまった。
藍はそんな橙の頭を優しく撫で、宥めた。
そうして、何処でも変わることの無い空を見上げて願った。

「(どうか、見つかりますように)」



場所は再び変わって幻想郷の妖怪の山。
其処では一人の白狼天狗の少女が周囲を見渡し、その傍では河童の少女が不安そうな面持ちでそれを見守っていた。
白狼天狗の少女の名を椛、河童の少女の名をにとりと言う。
椛が見渡し終わったのか一旦目を閉じてため息を吐いた。
それと同時に空から黒い影、烏天狗の少女、射命丸文が降りてきた。
にとりはその二人へと労いの言葉をかけた。

「二人ともお疲れ様。結果はどうだった?」
「こっちはダメです。どれだけ見渡してもまったく姿が見えません。文様はどうでしたか?」
「私のほうもダメだったわ。色々と見聞きして回ったけど誰も知らないそうよ」
「そっか~・・・・・・」

にとりを始め、文と椛をそれぞれの報告に落胆の色を隠せない。
そんな中にとりは空を見上げて誰に告げるでもなく呟いた。

「ホント・・・何処に行っちゃたんだろうね~」



更に場所は変わる。
次は妖怪の山の中にある大蝦蟇の祠。
其処では3人の白狼天狗が祠を掃除していた。
まず一人目は他の二人に比べ凛々しく、何処となく風格の様な物が感じられる白狼天狗、茜。
二人目は勝気な顔立ちに長めの髪を三つ編みにしている白狼天狗、才。
最後は幼い顔立ちと短めの髪ながら目元まで隠れるほど前髪を伸ばした白狼天狗、塁。
3人は全員で祠の掃除を終えると皆で一斉に手を合わせた。

「「「早くアスカ様が帰ってきますように」」」

そう祈り終えた3人はその場から空へと去っていった。
後に残るのは掃除された祠と変わることのない池。
そして、そんな様子をただ悲しそうに空を見つめ続けた大蝦蟇だけだった。


少し場所を変えてみると近くの川辺に一人の河童の姿が。
ワイシャツのような服に緩んだネクタイ、何処と無くサラリーマンを思わせるような格好をしている彼の名は田吾作。
川辺に一人座り込んでいる彼の背中には力がまったく無く、何か大切な物をなくしたように見える。
田吾作は空を見上げると誰かに語りかけるように呟いた。

「アスカ様、あっし達はみんな待ってるでやすよ」


<おまけ>

「でさ勇儀、アスカがね~」
「あれ萃香?何で泣いてるんだい??」
「っへ?私泣いてなんか・・・ホントだ、何で涙なんか・・・・・・」
「おいおい、大丈夫かい?」
「あれ?私泣き上戸じゃなかったはずなのに・・・なんでだろ?おかしいな??」
「う~ん、なんか思い当たることは?」
「無いよ・・・うん、やっと止まった・・・」
「結局なんだったんだろうね」
「そうだね~って、勇儀!何で勇儀が泣いてるの?!」
「へ?あれま、ホントだわ・・・貰い泣きってやつかね?」
「不思議だね~」
「ホント不思議だね」

地底で飲み続ける二人の会話
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
主人公不在の話、いかがでしたでしょうか?
こんな汚い手段で時間を飛ばすなんて・・・流石はお手玉の中身

では、次回よこって!またお前らか!!
やめろ・・・ぎゃ~~~~~~~~~!!
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A「我らの時代が来た」
B「然り、主人公不在の時こそ我らの時代」
C「そう、我らこそが」
D「5体あわせて」
E「毛玉戦隊」
ABCDE「「「「「無駄に硬い毛玉!!」」」」」

次 回
 「第1話 黄昏に舞う毛玉」
        だ、誰かこいつら止めてくれ・・・ガクッ by.kami



[10620] この廃村が現実にあったら怖すぎる
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/26 19:35
草木も眠る丑三つ時。
此処は幻想郷の外、つまりは外界に存在する廃村『皆上村』
昔は怨霊だとか双子の霊とか色々いたかもしれないけど今はそんなの全くいないただの廃村。
そんな誰もいない村から明かりが漏れ出していた。
そこにいるのは人か霊か・・・・・・
視点を変えて見てみる事にしよう。


「俺、何でこんな所でこんなのと飯食ってんだろ・・・」

正確には違うが、一人寂しく廃村で飯を食っていたらそんな事を嘆いてもいいと思う。
あの日、竜神様の風をまともに受けた俺はそのままどこぞか分からない場所に飛ばされてしまい、
気付けば海の上でぷかぷかと浮いている状態だった。
おそらく紫はスキマ能力で何とかなるだろうから、俺は生きていられる時点でかなり運が良い。
しかしながら落とし穴は何処にでもあるものだ。
どうやら、あの後博麗大結界が完成したようで家、もとい幻想郷に入れなくなってしまった。
正確に言うなら俺の能力を使えば入ることが出来るんだが、何処にあるかが分からない。
幻想郷にいる間に外の世界が変わりすぎて元が何処なのか大体でしか分からなくなってしまったのだ。
仕方がないので日本各地をしらみつぶしに探していたのだが時代の変化は激しく、住所不定の旅人には優しく無い時代になってしまった。
まぁ、不老だから何かの記録に残るわけにも行かないんだが・・・
そんな訳で日々、幻想郷を探しては日本各地を動き回っていたところ捨てられた廃村、皆上村を見つけ拠点としたのだが・・・

「幻想郷にいたときもこんなの見たことないぞ・・・」

そこらじゅうに人魂が浮いてたりする。
夏場なだけに涼しくなってありがたいことはありがたいのだが、人魂に囲まれて食事とはなんとも落ち着かないものである。
しかも、今までイメージしていた人魂よりも大きく、人間の子供ほどの大きさがある。
周りをふわふわ浮いているだけなのだが・・・やはり落ち着かない。
そもそも、この人魂も最初からここにいたわけではなく、
この村を拠点にしておよそ半年になるくらいから現れ始め、それから4ヵ月後・・・つまりは2ヶ月前から唐突に増えだしたのだ。
この村自体、随分昔に廃村になったようなのに何処から湧いて出たのやら。
そんな俺の考えもお構い無しに人魂たちはふわふわゆらゆらとそこらじゅうを飛んでいる。
その日も俺は既になれた調子で人魂に囲まれながら床に就いた。


それから1ヶ月・・・
人魂は、更に増えた。
今でも一日単位でねずみ算式に増えている。
それこそ人魂が分裂してるんじゃないだろうかと疑い観察した夜も一晩ではない。
毎晩観察して分かったことだが、人魂何処からともなく飛んできているようだ。
そうして観察すること13日目・・・・・・
その日の晩は人魂がふわふわと空に昇っていくのを見かけると翌朝、人魂の数が増えずに減っていた。
どうやら昨晩の空へ昇った人魂は帰ってこなかったらしい・・・
とするなら・・・

「(追いかけてみるのも面白そうだ)」

そう考えた俺は早速荷物をまとめ追いかける準備をした。
そしてその日の晩・・・・・・
人魂が再び空へ昇っていくのを付かず離れずの距離で追いかけた。
人魂は昇る・・・高く高く雲を越え月が輝く所まで昇った。
そして其処からは、何かに導かれるように真っ直ぐと一定の方向へ進みだした。
人魂がふらふらと飛び交う様は雲の海を泳ぐ魚と言ったところだろうか。
・・・・・・とてもじゃないが食べる気なんか起こらないが。
そんな想像すると気持ち悪くなりそうなことを考えつつ飛ぶこと数時間、はるか眼下に結界のような物が見えた。
上から飛び越せるなんて結界として意味が無さ過ぎるような代物である。
結界を越えて飛び続けると今度は長い階段が見える。
俺は階段へ着地すると上を仰ぎ見た。
人魂は全てこの上に向かっているようだ。
俺は飛ぶことをやめ、そのまま階段を上り始めた。


「(こんな長い階段・・・・・・日本にあったか?)」

階段を上り始めること数十分、いまだ頂上は見えてこない。
飛ばずに歩いて昇りだしたことを後悔し心の中で疑問を呈した時、階段の先に人影が立っているのが見えた。
人影は初老の男性のようで精悍な顔立ちに長い白髪を後ろで一纏めにし何かを待つようにその瞳を閉じている。
その腰元には二本の刀を差し、傍らにある異物を除けば侍と言った表現がよく似合う男性だ。
そう、傍らの異物を除けば・・・・・・

「・・・・・・人魂?」

俺は挨拶するのも忘れて男性の傍らにある人魂を見ながら呟いてしまった。
男性はそんな呟きが聞こえていないのかゆっくり片目を開きこちらを見つめると口を開いた。

「お主・・・見たところ生きている人間のようだが、此処がどこか理解しておるのか?」
「さて、人魂を追いかけてきただけだからな・・・聞かせてもらえるなら此処は何処かな?」
「・・・ふむ、嘘はついておらんようだな。此処は冥界、この階段は冥界の管理地『白玉楼』へ続く道だ」
「冥界?白玉楼?」
「まぁこのまま帰す訳にもいかんじゃろうし、道すがら説明してやろう」
「まぁ・・・頼む」

そうして先に階段を進みだした男性を俺は慌てて追いかけた。
男性の傍らにはまだ人魂が引っ付いている。
男性の横に辿り着いた俺はまず、名前を聞くことにした。

「なぁ、流石に名前を知らないと呼びづらいんで教えてもらってもいいか?
俺の名前はアスカ、薬師をしている」
「ふむ、良き名だな。
儂は『魂魄妖忌』と申す。これから行く白玉楼の庭師を勤めておる」
「へ~、後さっきの話とは関係ないんだが・・・その人魂、何なんだ?」
「っむ?おぉ、これのことか。儂は人間ではなく半人半霊でな、こいつは儂の半霊の部分だ」
「はぁ・・・半霊」

妖忌は人魂、もとい半霊を見ながらそう答えてくれた。
半人半霊・・・今まで聞いたことのない種族だが人と幽霊の間でいいのか?
生きてるのか死んでるのか気になる種族だ。
俺がそうやって考えていると妖忌は話を進め始めた。

「さて、先ほど冥界と白玉楼の説明をすると言ったがそろそろ始めても良いかな?」
「ん?あぁ、頼む」
「承知。まずは冥界について知ってもらうことにしよう。
冥界とは死者の魂、周りを飛んでいる人魂たちが閻魔の裁きを受けるまで待機したり、
罪無き魂が成仏、もしくは転生を待つ場所だ」
「へぇ~、なら白玉楼というのは?」
「白玉楼は冥界の管理者が住まう屋敷のことだ。
先ほどからの話で分かっているだろうが、この階段の先には白玉楼がある。
そこに儂の主がいるのだが・・・」

妖忌は其処で言葉を一旦止めると場の空気が変わり首元がちりちりと焼けるような感覚に襲われた。
妖忌は鋭い目つきでこちらを睨み付け、腰元の刀に手を添えた状態で続きを話し出した。

「手を出そうものならその首・・・」
「出さないよ・・・」
「それなら良い」

俺からの返事に納得したのか単純に釘を刺しただけなのか、
おそらくは後者なのであろうが場の空気は元に戻り妖忌も先ほどと同じように歩き出していた。
あの一瞬、俺がおかしな動きをすればこの首は階段を転げ落ちていたことだろう。
世の中まだまだとんでもない奴はいるものだ。
そう考えるとつい、口からは苦笑が漏れてしまった。
それを聞いたのか妖忌は不思議そうな表情で尋ねてきた。

「っむ、アスカ殿?突然・・・いかがなされた?」
「いや、何でもないよ」
「そうですか?」

妖忌はまだ納得できてないような表情ではあったものの、それ以上聞くことはせずにそのまま階段を上り始めた。
また俺も、それに続くようにして階段を上り始めるのだった。
それからお互いに無言で昇り続けること数分、ようやく目的地、白玉楼への門に辿り着いた。
周囲を飛んでいる人魂は全て門を越え中に入っていく。
それに続くようにして妖忌、俺の順で門を潜った。
門を抜けた先には冥界にあるとは思えない様な立派な屋敷とそれに見合う庭があり、
其処彼処に植えられている木は皆一様に青々とした葉に覆われ美しく整っていた。
庭師、魂魄妖忌の匠の技が其処にあった。
花の季節ならば更に美しい物だったろうな。
そう俺が考えていると、妖忌が遠くのほうを見ながら呟いた。

「む?幽々子様は・・・まだ説教を受けておられたか・・・・・・」
「幽々子?説教??」
「幽々子様というのは冥界の管理者で白玉楼の主、つまりは儂の主人に当たるお方だ。
説教と言うのは・・・見てもらった方が早かろう」

そう言った妖忌は、そのまま屋敷を回りこむようにして庭のほうへと歩き始めた。
俺のほうはいまだ妖忌の言葉の意味がよく分からなかったものの、ここで置いて行かれてはたまらないので慌ててついていった。
其処で俺が見たものは・・・・・・

「ですから貴方は自覚に欠けすぎている。
これまでも、そして今回の件も貴方の自覚の無さが引き起こした事。
もっと自覚、責任を持ち管理にあたって貰わなければなりません」
「は、はい。」

風変わりな格好をした少女の前で正座をし説教を受ける女性の姿だった。
いまだ説教をし続ける少女は独特な帽子を被り一軒地味な格好ながらも上位者の風格のような物をその身から滲ませていた。
彼女が冥界の管理者、幽々子なのだろうか?
そしてもう一方、正座している女性は全体的にゆったりとした服装に頭の帽子に三角巾をセットで付けていた。
三角巾の中心に書いてあるぐるぐるマークがなんとも特徴的である。
さて、この状況は如何みるべきなのだろうか?
管理者らしき少女が元人魂、現正座をしている女性に説教をしていると言うことでいいのか??
そう考えながら俺が悩んでいると立ち止まっていた妖忌が二人のほうへ声をかけながら歩いていった。

「閻魔様、少々失礼いたします。幽々子様、お客様です」
「っむ?魂魄妖忌ですか。この地に客とは珍しいですね?」
「まぁ、お客様。こうしちゃいられないわ。
閻魔様、失礼させてもらいますね」
「あっ、待ちなさい西行寺幽々子。まだ話は終わってませんよ」

予想は思いっきり外れたようだ。
説教されていたほうが幽々子で少女のほうは・・・聞き間違いだろうか?
閻魔と聞こえた気がするのだが・・・
そう考えていると件の人物、幽々子が声をかけてきた。

「ようこそ白玉楼へ。見たところ生きているようだけど歓迎するわよ」
「ですから何度も言っているでしょう、西行寺幽々子。
貴方は自覚に欠けすぎていると。
此処は冥界、死者を歓迎すれども生ける者を歓迎するとは何事ですか!」
「ま、まぁまぁ。お客様の前でお説教なんて・・・」
「ふぅ・・・いいでしょう。この件は後ほど改めて話させてもらいます。
それで、貴方はどなたでしょうか?」

そう尋ねてきたのは説教をしていた少女のほうだった。
状況を省みるに、俺は幽々子が説教から逃げるためのだしに使われたようだ。
幽々子は何を考えているかわからないような笑顔で、
少女のほうは俺がここにいることが不思議だと言うような表情でこちらの言葉を待っていた。
俺は一旦呼吸を整えると問いかけに答え始めた。

「え~と、俺の名前はアスカで薬師をしている人間だ。
此処には人魂を追いかけてきたんだが・・・・・・
二人の名前を聞いても?」
「あぁ、これは失礼しました。
私は『四季映姫』と言います。肩書きはヤマザナドゥですね」
「ヤ、ヤマ・・・なんだって??」
「閻魔様、そんな肩書きでは誰も分かりませんよ。
私はここの主で『西行寺幽々子』。よろしくね」
「よろしくって?!映姫さん・・・でよかったよな?
・・・・・・閻魔様?」
「そうですね、そういったほうが分かりやすかったかもしれません。
では改めまして・・・・・・ごほん。
私は楽園の閻魔を担当している『四季映姫』、今後があるかは知れませんがよろしく」
「まぁ・・・よろしく」

なんとも呆気に取られてしまった。
冥界の管理人に説教をしていると思ったら閻魔様だとは・・・
と言うより生きて閻魔様に会うなんて普通はないんじゃないのか?
・・・・・・しまった、あいつらと同じだ。
生きている内から閻魔様に出会い気を動転させていると頭の中にとんでも警備員、黒陽と影月を思い浮かべてしまった。
結構落ち込んでしまう。
そうしていると心配そうな表情で映姫が話しかけてきた。

「大丈夫ですか?顔色が悪いようですが」
「だ、大丈夫です。ちょっと自分に自信が持てなくなってしまって」
「はぁ・・・」
「まぁまぁ、お二人とも中でお茶でも飲みませんか?
折角、来て頂けたのに何の歓迎もないんじゃ何のための白玉楼か分かりませんから」
「少なくとも生きてる人間を歓迎する為じゃないんですが・・・まぁいいでしょう」
「流石閻魔様。妖忌~準備して~。
後あなたも、どうぞ中へ~」
「分かりました幽々子様」
「それじゃあ、お邪魔します」

そうして俺は幽々子に促がされるまま白玉楼内へ案内された。
促がす幽々子の様子は先ほどまで説教を受けていたとは思えないほどで、
その隣では映姫が片手で額を押さえながら諦めるように頭を左右に振っていた。


<おまけ>

とある雲の上の世界

「ねぇ衣玖」
「なんですか総領娘様」
「あの男・・・前見たときと全然変わってないと思うんだけど」
「確かに・・・・・・そのようですね」
「確かに此処は暇でしょうがない様な所だけどあんなのに傍に居られたらいい迷惑よ・・・文句言ってやるわ!」
「ちょ?!総領娘様!!」
「ちょっと!其処のあんた!!」
「っへ?僕・・・ですか?」
「そうよ、あんたよあ・ん・た。あんた以外に誰が居るの!」
「・・・・・・たしかに、誰も居ませんね」
「わざわざ見渡すほどのことでもないでしょうが~!!
それよりもあんた、昔からそうだけどいい加減暗すぎ。もう少しこう、張り切るとか楽しむとか出来ないの?」
「そういわれても・・・僕なんかが天人の一員になるなんて・・・・・・」
「何あんた、そんなことまだ言ってるの?あんたの行動が認められて天人の仲間になれた。それにどんな不満があるって言うのよ」
「不満・・・って訳じゃないんですが、地上に残した友人が気掛かりで・・・」
「一体何年前の話よ。いいわ、その暗すぎる性根を私が叩きなおしてあげる!」
「っへ?」
「私の名前は『比那名居天子』、これからあんたに天界での過ごし方を教える存在よ。ありがたく思いなさい」
「は、はぁ・・・・・・」
「それで、あんたの名前は?」
「僕の名前はた・・・・・・いや、昔の名前はもう名乗れないな・・・」
「は?何言ってんの?」
「何でもありません。僕の名前は浦島・・・これが今の僕にぴったりの名前だろうから」
「そう、浦島ね。衣玖~これからこいつと遊びに行くわよ~」
「総領娘様・・・本気ですか?」
「本気も本気よ。さぁ、付いてきなさい!」

最早正体がばれてるだろうけど本編への介入決定
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後書+次回予告

どうも、ズタボロにされたお手玉の中身です。
とりあえずは暗黒面の力を出し切って奴らを撃退しました。
いい加減奴らは何とかしないと・・・
それはともかくとして、今回の話しいかがだったでしょう?
とうとう望まれた登場、元地蔵と亡霊の姫君が現れました。
過去の年代から始めるならこの事件は使うべきだと我がkamiが囁いてきたんです。
今回の事件の名前が分からない人は次回を読んでくれると話の中に入れてるので楽しみにして置いてください。

では、次回予告です。
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うん?初回登場特典で予告担当?・・・よく分からんがこれを読めばよいのか

なになに・・・
白玉楼へ通されたアスカ
そこで聞かされるはあまりにも情けない管理者の姿
そして、自らが帰るべき世界

次 回
 「あまりにも録でもない事件で呼ばれた閻魔様」
               お師匠、お茶の準備が整いました by.妖夢



[10620] ゆゆ様の腹黒計画『幽霊移民計画』
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/27 20:27
前書き・・・というか御免なさいorz

まずは、感想掲示板を楽しくごらんの皆様に謝罪の言葉を・・・
お手玉の中身が要らんこと書いたせいで混乱を与えてすみませんでしたorz
幽々子様に関してですがキチン(言い方が悪いが)と死んでます。
ちょっとしたコメ返しから洒落にならない誤解が広がってしまいました。
ホント、改めてすみませんでしたorz

では、本編をお楽しみください
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「どうぞ、お茶です」
「あ、どうも」

白玉楼の居間へと通された俺は幽々子に促がされるまま席に付くと見知らぬ少女よりお茶を渡された。
見知らぬ少女は小学校低学年ほどで割烹着に身を包み、ショートの白髪をヘアバンド?のような物でまとめていた。
俺が小さな家政婦だなと思っていると幽々子が紹介をしてくれた。

「その子は妖忌の孫で妖夢って言うのよ。可愛いでしょうけどあげないからね」
「ゆ、幽々子様~」

そう幽々子が告げると少女、もとい妖夢は慌てながら幽々子へと言い寄った。
妖忌の孫と言うことはアレがあるはずと妖夢の周りを見てみると・・・いた。
先ほどは気付かなかったが妖夢の傍らにも半霊が漂っている。
大きさも妖忌の半霊よりも幾ばくか小さいものの妖夢にはちょうどいい大きさだろう。
そう結論付けた俺は幽々子の発言に呆れながらも先ほどから疑問に思っていた事を尋ねることにした。

「なぁ、確か西行寺さん・・・でよかったよな?」
「あら、気安く幽々子でいいでわよ」
「それじゃあ幽々子さんで。幽々子さんは冥界の管理人って聞いてたんだけどそれで良いんだよな?」
「えぇ、此処の幽霊達はみ~んな私が管理してるのよ。凄いでしょう」

俺の疑問に幽々子は胸を張りながらいかにも偉そうにに答えてくれた。
子供かこの人はと思ったのは間違いでは無いはず。
その傍らにいる映姫と妖夢はそれぞれ額を抑えて諦めたように目を閉じている。
あえてその光景を無視すると俺は話を続けた。

「なら、さっきの光景は?」
「さっきの光景??」
「ほら、庭でそこの・・・四季さんでよかったよな?に説教されてたじゃないか」
「え、え~と・・・それは~・・・」
「ふぅ、西行寺幽々子。自分の非を認めるべきですよ」
「っう、閻魔様・・・」

幽々子が言いよどんでいると映姫が割って入ってきた。
先ほどから思っていたことだが、どうやら幽々子は映姫に対して頭が上がらないらしい。
閻魔と冥界の管理人・・・上司と部下のような関係なんだろうか?
俺がそんなことを考えている間も映姫の話は続いた。

「アスカさん、その件に関しては私から貴方へ説明するとしましょう」
「四季さんがですか?」
「えぇ、何か不満でも?」
「いえ、説明してもらえるなら誰からでも構いませんよ」
「よろしい。それと私の事は映姫で構いません。
中途半端に敬われても気味が悪いだけですので」
「随分酷い言い草ですね・・・」
「事実ですから。
さて、先ほどの件はこの西行寺幽々子が冥界の管理を怠ったが故の一言で纏められます」
「っは?管理人なのに?」
「そ、そんな言い方は無いと思うな~」
「西行寺幽々子、貴方は黙ってなさい!
ごほん、貴方が冥界に訪れる切欠となった人魂、アレは元々冥界で管理されていた幽霊達です」
「ふむふむ」
「ですが、西行寺幽々子が自分の楽を考えくだらない計画を立て実行してしまい幽霊達を外界へ出してしまったのです」
「計画?」
「えぇ、幽霊移民計画です」

なんだそれ?
幽霊移民って・・・幽霊って移民できるものだったのか?
俺に計画の名前を語った映姫でさえ信じられないと言った呆れた表情をしている。
その隣では幽々子が良い仕事をしたと言うような満足気な表情を作っている。心なしか自慢気だ。
俺はあえて見なかったことにして話の続きを促がした。

「えっと・・・よく分からないんだが、幽霊移民計画ってなんだ?」
「それは、「説明しましょう!」・・・西行寺幽々子・・・・・・」
「幽霊移民計画、それは冥界に溢れかえってしまった幽霊達を外界に放つことで冥界に余裕をつくり、
更には幽霊達にも外界を楽しんでもらおうと言う一石二鳥の計画よ」
「何をたわけたことを言ってるのですか西行寺幽々子!!」
「っひ!え、閻魔様?」
「貴方は何度言わせれば気が済むのですか!
貴方には自覚が足りなすぎる!!
そもそも死者の魂、幽霊を外界に解き放つなど言語道断!
そのせいで外界では幽霊を見ものにしようとする者も出てくる始末!
これは全て、冥界の管理者としての自覚が足りない貴方の引き起こした事ですよ!
解っているのですか!!!」
「ご、ごめんなさ~い」

なるほど、つまりは冥界が手狭になったから幽霊を追い出して空間を作ろうと考えたわけか。
しかし管理者として幽霊を放り出すのはいかがな物なんだろうか?
そう考えた俺は、再び説教を始めた映姫と正座をしたまま泣いている幽々子に一つの提案をしてみることにした。

「なぁ、映姫さん」
「だから貴方は・・・ん?なんでしょうかアスカさん」
「冥界の大きさを変える事は出来ないのか?」
「あぁ、その事ですか。
今回の件は私達、閻魔の間でも一度議論することとなり結果、冥界の拡張が決まっています」
「なるほど。という事は余計な話でしたね」
「いえ、貴方のように西行寺幽々子が最初からそのことに気付き私達へ申し立てれば今回のような事は起こらなかったのですから・・・
まぁ、西行寺幽々子もこれで少しは懲りることでしょう」

そういうと映姫は満足したように頷いた。
幽々子には先ほどまであった余裕など欠片もなく煤けているのが見える。
そして映姫はこちらへ身体を向け直すと更に口を開いた。

「では、アスカさん。
貴方にも一つ忠告とそしてお礼の言葉を」
「っへ、忠告?お礼??」

何の話だ?
そう俺が疑問に思っていると映姫は更に言葉を続けた。

「はい、まずは忠告を。
貴方は大層長生きのようですがそれは本来の人としてのあり方から大きく外れるもの。
そのままでは死んだときの罪の深さは人間としては推し量れぬ物になるでしょう。
貴方はいつか死を迎えるにあたり善行を積むべきです。
差し当たっては、現在の日課を絶やすことなくより信心深く行うことでしょうか」
「日課って言うと散歩中にしている祠掃除とかのことか?」
「はい。そのような細かな行いを普段から欠かさぬことが一つの美徳となり善行となるのです。
ですから、死んだときに地獄行きの裁定をされたくなければしっかりと善行を積んでくださいね」
「ん~、まぁ肝に銘じときます」
「よろしい」

俺からの返事を聞くと映姫は満足したように大きく頷いた。
生きている内から閻魔に説教されるなんて・・・いよいよ警備兵の二人と同格になってきたのかもしれない。
そうやって落ち込んでる中、映姫は少し言いよどみながら言葉を続けた。

「そ、それとですねお礼の件なのですが」
「はぁ、俺は映姫さんに何かお礼を言われるような事しましたっけ?」
「はい。この格好では分からないのも無理ありませんが私は元々地蔵だったんです」
「地蔵?」
「えぇ、そして地蔵の時によく私に対して拝み掃除をしてくれたのが・・・」
「あぁ、人里の近くにあったお地蔵様かって・・・
お地蔵様!!」
「まぁ、そうです。その節はありがとうございました」

映姫のびっくり発言に俺は固まってしまい、映姫は恥ずかしいのかその頬を紅く染めながら丁寧に腰を折ってくれた。
しかしまぁ恥ずかしいのかも知れないが俺としては地蔵が閻魔になるほうがよっぽど驚きだ。
とは言え、あの時のお地蔵様は盗まれていたわけでは無いと分かり一安心である。
そう考えた俺はとりあえず口を開くことにした。

「なんというか・・・驚きはしましたが良かったですよ」
「へ?どういうことですか?」
「お地蔵様、映姫さんが誰かに盗まれた物と思ってましたからね。
そうじゃないと分かって一安心です」
「それは、ご心配をおかけしました」
「いえいえ、構いませんよ」

そう話し合い俺と映姫はお互いに笑い合った。
其処から先は幽々子と食事を持ってきた妖忌、妖夢を交えての雑談となった。
ただ・・・幽々子の食べる量が明らかにおかしいと思うのは俺だけなんだろうか。
誰もそのことを気にして無いのでまったく突っ込めない。
後からこっそり妖忌にそのことを聞いてみると、幽々子は亡霊だから食事の量は関係ないんだとか。
亡霊が食事を取るものなのかとは聞くべきではないのだろう。
そうして楽しい食事を終えるとふと気付いたことをたずねてみることにした。

「そうだ、映姫さん」
「はい?なんですかアスカさん」
「映姫さんは元は人里付近にあったお地蔵様ですよね?」
「えぇ、そうですが・・・それがなにか?」
「でしたら幻想郷の場所を知りませんか?
博麗大結界を張るときの騒動で外にはじかれてしまって・・・・・・」

俺がそうやって尋ねると映姫どころか幽々子、妖忌、妖夢の全員がおかしな物を見るような顔でこちらを見てきた。
俺が如何したんだと身構えると妖夢がおずおずと答えてくれた。

「えっと、アスカ様。
白玉楼へ御出でになる前に結界を飛び越えませんでしたか?」
「あぁ、上から飛び越えられるよく分からない結界だな」
「その先が幻想郷ですよ」
「っへ?」
「ですからその先が幻想郷なんです」
「・・・・・・ホントでしょうか」
「うむ」
「ホントよ~」
「嘘偽りはありません」

妖忌、幽々子、映姫の順で答え、言い方は違う物も全員が同じことを言った。
つまり俺は・・・・・・

「とっくに幻想郷に帰ってきてたってことか?」
「そうなりますね」

俺の言葉に妖夢が頷きながら同意した。
しかし、だとするならやることは決まった。

「よし、そうと分かったなら話は早い。
慌しくてすみませんが、俺はこれで失礼させてもらいます」
「あら、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「久しぶりに友人の顔も見たいんで」
「ん~、それじゃあ仕方ないわね」

幽々子は俺の帰る宣言に寂しげな表情を浮かべたものの、その後に続く言葉に少し悩みながらも納得してくれたようだ。
妖忌と妖夢は最初から何も言う気はないのか先ほどからその体勢を変えていない。
ただ、映姫は少し残念そうな顔をし口を開いた。

「そうですか。
私としてはもう少し話がしたかったんですが、それでは仕方ありませんね」
「すみません。俺としてももう少し話をしてみたいんですが長く家を開けすぎてるもので」
「いえ、構いませんよ」
「幻想郷に来ることがあれば是非、妖怪の山にある家にたずねて来て下さい。
閻魔様をとめられるような存在はいませんし」
「そうですね。そちらに行くことがあればお邪魔させてもらいます。」

そう言うと、映姫はこちらに笑顔を向けた。
俺はその笑顔を受けながら場の面々に短く別れを告げ白玉楼を出発した。
そうして階段を飛び結界を飛び越えその先の雲を下へ潜り越えると懐かしの幻想郷へと帰ってきた。
そして飛び続けて見えてくるのは妖怪の山。
すると山の麓、ちょうど自分の真下辺りで騒ぐ声が聞こえた。
目を向けると見覚えのある白狼天狗が四人、烏天狗が一人、河童二人に狐と猫が一人・・・猫は知らないや・・・・・・
なにやらもめている様だが・・・
俺は一人離れておろおろしている猫の傍に降りると聞いてみることにした。
他のメンバーは議論に熱中しているのか誰も俺に気付かない。
猫は尻尾が二本に分かれているで猫又のようで、全体的に赤い基調の服装に黄緑色の潰れた帽子を被っている。
これほど近くに下りたのに全く気付いていないようなのでとりあえずは声を掛ける事にした。

「なぁ」
「如何しよう如何しよう・・・っにゃ?!あ、あんたは誰!!」
「とりあえず落ち着け。
あそこにいる奴ら何を争ってるんだ?」
「・・・・・・藍様~怪しい奴です~~~!!」

猫娘は人の質問に答えることなく狐、藍の元に走っていってしまった。
藍は猫娘を抱きとめると慌てて聞き返した。

「橙!どうしたんだ?怪しい奴って言うのは??」
「あいつです!藍様」

そう言って猫娘が俺を指差すとその場にいた全員がこちらを振り向いた。
計9対の目が一斉にこちらを見ると言うのはなかなか怖い物がある。
その場にいた全員はこちらを向くとそれぞれが目を擦ったり遠くの空を見たりなどした。
そうしてもう一度こちらを見るとその場にいる猫娘以外の全員が驚きの表情を浮かべて一斉に叫んだ。

「「「「「「「「あ、アスカ様~!!」」」」」」」」
「よっす、久しぶり」

俺の返事を聞きそれぞれが目に涙を浮かべながら走り寄って来た。
始めには飛びついてきたのは茜。

「あずがざま~~~!!」
「あ~心配かけたな」

次にきたのは田吾作。

「信じてたでやすよ。アスカ様」
「あんがとな」

其処からは誰が来たのかも分からない。
全員が飛びついてくるものだから重みに耐え切れず潰れてしまった。
何とか上に乗っている奴をおろすと全員が笑顔で口を開いた。

「「「「「「「「お帰りなさい(でやす)。アスカ様」」」」」」」」
「?????????」

一人、猫娘だけが場の展開についていけずに混乱しているようだ。
俺はそんな猫娘の頭を撫で回しながら言葉を返した。

「おう、ただいま。宴会の準備は出来てるか?」

<おまけ>
その日の永遠亭

「ねぇ、永琳」
「なんですか姫様」
「明日はイナバ達を連れて散歩に行こうと思うんだけど如何思う?」
「っは?いいとは思いますが・・・突然ですね?」
「ん~、アスカの事ずっと探してもらってるからね。
この辺りで一旦休憩しても良いと思ったのよ」
「はぁ、姫様はそれで良いのですか?」
「確かに探しては貰いたいけど・・・今まで見つからなかったのが明日見つかるとも思えないし。
気分転換よ、気分転換」
「分かりました。
となると鈴仙は如何しますか?」
「今回は留守番をしてもらいましょう。
こればっかりは何もしてなかった鈴仙を連れて行くのはおかしいでしょうし」
「そうですね」

これが後の惨事を引き起こす
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お願い+リクエスト+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
鋭い方は気づいてる可能性があるのでここで言い訳というかお願いをしておきます。
博麗大結界作成から幽霊移民計画の間は約百年・・・この間に外の世界、第1、2次世界大戦が勃発してることに一切触れてませんが、
あえて無視してください。
物語の進展上、何も問題は無いのですが突っ込まれるとお手玉の中身は困ってしまいます。
何卒、よろしくお願いします。

次にリクエストになるんですが今回のリクエストはお手玉の中身が誰を使うか迷ってしまったので、
読者の方々に選んでもらおうと思って設置しました。
今回選ばれたキャラクターが何処で使用されるかはまだ秘密ですが、結構重要なところで使われることをお約束します。
投票方法は感想掲示板への投票で投票数の多いキャラが使用されます。
なお、今回に限りはお手玉の中身が指定したキャラ以外は無効となるのでご了承ください。
では、次のキャラから選択をお願いします。

1.田吾作 2.茜 3.才&塁 4.黒陽 5.影月

以上です。この中から上位3キャラを選定させていただきます。
このリクエストが反映されるのはかなり後の話になってしまいますがそれだけ重要なポイントということで納得をお願いします。
追伸・選択されたキャラはバトル要員です。
追伸2・投票終了は次の投稿までです(途中に書くのを忘れてた)

では、次回予告をどうぞ
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やったでやす。アスカ様が帰ってきたでやす!!

懐かしの幻想郷
そこで再会する友は変わりなく
皆一様に喜んでくれる
そのとき、迷いの竹林で惨劇が!!

次 回
 「結構予想しやすいかもしれないが・・・・・・」
              田吾作さん、お酒が入って変なこと言ってますよ by.塁



[10620] 今回のおまけ話は何と三話
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/28 20:29
「うん・・・・・・朝か・・・」

目が覚めて周囲を見渡す・・・・・・生ける屍の大地が出来ていた。
倒れている奴は全員が二日酔いの影響か唸っている。
まぁ、確かに昨晩の宴会は凄かった。
俺は昨日、山に入って天魔へ帰還報告をした後のことを思い返した。

回想

「わぁっはっはっはっは~!!
アスカ殿、飲んでおられるか?」
「もちろん、飲んでるぜ」

やはり友人、仲間と飲み食いするのは格別だ。
そう思わずにはいられない宴である。
いつもであれば妖怪の山の住人だけで行われる宴会だが今回だけは怪しい妖怪の賢者、もとい八雲紫も参戦している。
となりでは俺の帰りを我がことのように喜んでくれた天魔が楽しそうに酒を飲み、反対では・・・・・・

「ほら、アスカ。酒を注ぎなさい」
「はいはい・・・ってか自分で注げよ」
「おいしさが違うのよ。お・い・し・さ・がね」
「そうですか」

妖怪の賢者、改め怪しい妖怪の紫が酒の催促をしてくる。
聞いた話では案の定、竜神の風からは自分だけスキマ能力で逃げていたようだ。
とは言え、それなりに心配はしていたらしく藍からの連絡を聞くと文字通り飛んで来てくれたからうれしい物だ。
ちなみに帰ってすぐ見かけた猫又の少女、彼女の名は『橙』と言い自分の式神だと藍から紹介があった。
式神の式神とはなんとなくおかしいような気もするがわざわざ言うような事でもなく藍にはおめでとうとだけ伝えておいた。
藍と橙は所用があるらしく今宵の宴にはこれなかったが・・・またいつでも会えるだろう。
少しはなれたところでは最近見ることのできなかった懐かしい仲間達が皆一様に笑い、歌い、飲み、食い、好きなように楽しんでいた。
やはり帰ってこれて良かった、そう思える光景だった。

回想終了

そして現状がこの死屍累々である。
なんと言うべきか・・・紫の姿が見えないがおそらく適当なタイミングでスキマを使い逃げたんだろう。
流石怪しい妖怪である。
その後数分考えた結果、倒れている各自の手元に二日酔いの薬を置いて放っておく事にした。
なんだかんだでここに居るのは全員妖怪。
二日酔いで死ぬことは無い。
そう考えた俺はしばらく会っていなかった友人達に会うために宴会場跡から足早に立ち去った。
・・・・・・・・決して後片付けが嫌だったのではない。


まず辿り着いたのは大蝦蟇の池。
昔見たままにその静けさと神秘性を保っている。
今日は掃除道具を持っていないため祠の掃除は後日するとして手を合わせておくだけにした。
そうして祠へ祈り終えた俺は足を人里へと向けその場から立ち去った。
その後ろでは、池の中から大蝦蟇が嬉しそうに眺めていた。



所変わって辿り着いたのは人里の霧雨道具店前。
店は以前見たときよりも大きくなっていたがそれ以外は何一つ変わる事の無い佇まいだった。
俺が何と挨拶しながら入るか考えていると店の中から一人のメガネを掛けた男が現れた。
どうやら店の店員のようだが・・・・・・
俺がそう考えていると男のほうから挨拶をしてきた。

「どうもいらっしゃいませ。霧雨道具店に何か御用でしょうか?」
「店に用と言うよりも今日は人に用があってね。
ところで君は?」
「僕は霧雨道具店で店員をしている『森近霖之助』と言います。
それであなたは?」
「おっと、名乗りが遅れたな。
俺はアスカ、黒陽と影月に会いに来たんだが二人とも居るか?」
「お二人でしたら中に少々お待ちください。
黒陽さ~ん、影月さ~ん、お客さんが来てますよ~!
・・・これですぐ来るはずですから少し待っててくださいね」
「ん、助かる」

そうして待つこと数秒、すぐに二人は出てきた。
二人は驚いたことに触角を隠していなかったが、とうの二人は人の顔を見るなり驚きの表情で固まってしまった。
まぁ仕方ない反応か・・・
そう考えた俺は苦笑しながらも二人へと声を掛けた。

「よっ、元気そうだな」
「「だ、旦那~」」

俺が声を掛けると二人はやっと気を取り直したのか、嬉しそうな顔で言葉を返してくれた。
二人は更に言葉を続けてくる。

「旦那、今までどちらに」
「ちょっと幻想郷の危機を救いにな」
「旦那・・・流石にそれは無いでしょ?」
「かもな・・・でももしかしたらあるかも知れんぞ」
「どっちでもいいじゃないか影月。旦那が来てくれたんだから」
「それもそうだな。旦那、ホントお久しぶりです」
「おう。まぁ、また世話になるよ」
「「こちらこそよろしく頼みます」」

そうやって二人と再会の言葉を交えていると横から困惑した表情で霖之助が話しかけてきた。

「えっと、お二人ともお客さんをお知りで?」
「おう、霖之助。この人の事はしっかり覚えて置けよ」
「うち一番のお得意さんで恩人のアスカの旦那だからな」
「アスカの旦那ってお二人が良く話してた法螺話の?」
「「法螺じゃねぇってんだろが。このバカが!!」」
「うぐっ。なにも殴らずとも・・・」

どうやら俺に関する話はあまりにも俺が来ないものだから法螺話になってしまっている様だ。
自分のことが法螺話として語られている、そんな様を想像するとつい口から笑いが漏れてしまう。
黒陽と影月、それに霖之助の三人はそんな俺の様子を不思議そうに眺めているのだった。
そうして笑いが収まった頃、俺は先ほど不思議に思ったことを二人に聞くことにした。

「そういえばお前ら、その触覚は隠してなくていいのか?」
「あぁ、これですか?」
「前々から人里の守護をしてきた実績ってのもあるんですが一番の理由は博麗大結界ですね」
「博麗大結界が?」
「はい、旦那も知ってると思いますが博麗大結界が張られたことで外の世界と幻想郷は完全に別の世界となってしまいました」
「そのせいで幻想郷内の人間はこの人里に居るのが全員になってしまったんですよ・・・旦那を除いて」
「まぁそんな訳で、妖怪の賢者・・・だっけか?とりあえずそいつが人里内で人間を襲うことを禁じたんです」
「どれくらい守られるかは分かりませんが、実際に決まりごととして作られたのがうまかったようで、
今では人里で買い物をしていく妖怪も居るくらいですよ」
「はぁ~、妖怪がね~」
「それに、何を隠そうここに居る霖之助」
「実は片親が妖怪なんですよ」
「へぇ~」
「昔はそのせいで色々ありましたが皆さんの助けもあって、今ではこうやって道具屋の見習いをさせてもらってます」
「なるほどな~」

霖之助は照れた様に頭をかきながら話しているが色々と苦労したんだろうと思う。
まぁそれはともかくとして、博麗大結界でそんなことになっているとは思いもしなかった。
しかし・・・・・・これはいささかよろしくない状況かもしれない。
今度この件は紫に確認してみることにしよう。
そう密かに考えた俺はそのまま3人に別れを告げ次なる目的地へと足を進めた。
足を進めたのだが・・・
次なる目的地、妹紅の家に行こうとすると十数分としない内に目の前から妹紅と慧音が歩いてくるではないか。
俺はちょうど言いと思い声を掛けることにした。

「お~い、妹紅~」
「っへ?先生?!」
「ん?アスカ?!」

おー、驚いてる驚いてる。
二人ともこちらに気付くと唖然とした様子で何の反応も見せない。
いや、慧音が先に再起動した。
何度も目を擦りながら口を開いてきた。

「お、お前・・・。アスカなのか?」
「他の何に見えるんだよ?」
「・・・・・・・・・人間の成人男性」
「おい?!」

慧音の質問に苦笑気味に答えたらこんな返しをされるとは・・・・・・
慧音は尚も何か言いたそうであったがその前に妹紅が再起動した。

「せ、先生。ほんとに先生ですか?」
「よっす、久しぶりだな」
「ぜ、ぜんぜい~~~!!」

慧音と違い妹紅は泣きながら飛びついてきた。
それを見た慧音も苦笑気味ではあるが一応、再会を喜んでくれているようだ。
そして泣き続ける妹紅が泣き止むのを待ってから改めて口を開いてきた。

「一応は久しぶりと言っておこうか」
「おう、ありがとな」
「うむ。しかし、今まで何処に行ってたんだ?
妹紅も随分と心配してたぞ?」
「まぁ、ちょっとした野暮用でな」
「野暮用・・・な・・・・・・まぁいいだろう。あまり妹紅を泣かせるんじゃないぞ」
「今泣かせてるのは?」
「後で頭突きだ」
「おぉ、怖い怖い」

そうして俺は、未だぐずる妹紅を宥めつつ慧音の冗談に笑い返すのだった。
・・・・・・冗談・・・だよな?
その後、やっと落ち着いた妹紅を引き離すと暫くの間雑談を交わし次なる目的地へ向かうために別れを告げた。


「う~さ~ぎ~お~いし♪か~の~な~べ~・・・っと」

以前歌ったことがあるような兎にやさしくない歌を歌いつつ進むのは迷いの竹林。
迷いの竹林とは呼ぶものの既に通いなれた道。
今更迷うことは無く永遠亭に辿り着くことができた。
以前までなら門前に到着した辺りで案内の兎が出てきていたのだが・・・
どういう訳か今日はその姿を現さない。
仕方が無いので勝手に入らせて貰うことにした。
門をくぐり永遠亭内に入ると中は静まりかえり誰も気配も感じない。
俺が居ない間に今度は輝夜たちの方が居なくなってしまったのかと不安を覚えたその時!

「っつ!!」

右腕に鋭い痛みが走る。
俺はすぐさま近くの部屋へ扉を破りながら転がり込むと壁を背にして右腕の状態を確認した。
右腕、ちょうど肘の上辺りに穴があき其処から血が溢れ出している。
結構深い傷のようで手当てをするまでは動かせそうに無い。
何処から攻撃を受けたのやら・・・・・・
依然として静けさを保っている永遠亭内で一つだけはっきりした事がある。
輝夜達がいなくなった代わりに正体不明の敵が住み込んでいるという事が。
俺がそう結論付けた時、なにやら嫌な予感を感じ慌ててしゃがむと先ほどまで自分の頭のあった位置の壁が抉れとんだ。
流石は直感、伊達に何度も命を助けてくれた訳ではない。
自分の直感を自画自賛しつつ攻撃があったと思われる方向、穴が開いている扉へと駆け出した。
敵はまだそこにいるのか攻撃が飛んでくるが、直線的な攻撃なら飛んで来る方向さえ分かれば避けることはさほど難しくない。
身体を右へ左へと最小限に捻りながら扉へ直進する。
扉の奥からは攻撃が当たらなかったことが意外なのか慌てたような気配が伝わってくるが今更遅い。
俺は左手に空気弾を圧縮すると相手を殴るつもりで叫びと共に撃ち出した。

「食らっとけ~!!」

未だ手加減の出来ない攻撃は扉とその先の壁をも破壊して埃を巻き上げている。
しかし、敵は討ち損じたらしくその姿は見えなかった。
まぁいい・・・敵はまだ永遠亭内部にいるはず。
そう考えた俺は、腕の応急処置をしながら敵を潰すための算段を立て始めた。

<おまけ>

「(なんなのよ、あの化け物?!)」

姫様達が珍しく全員で散歩に行っている時にあいつは現れた。
姫様の力で隠されているはずのこの永遠亭にやってくると言うことは奴らしかありえない。
私を追ってきた月の追っ手だ。
正直に言えば私は戦いたくない。
戦いたくないから月の仲間を見捨てて此処まで逃げてきたんだ。
でも、そんな私を助けてくれた姫様やお師匠様が危険な目にあうのはもっといやだった。
だからあいつが油断しているうちに処理してしまうつもりだったのが、指先が震えて狙いが外れてしまった。
それでも手傷を負わせることは出来たから追いかけて見えない位置から始末しようと扉越しに撃ったのに。
あの化け物はこちらの弾丸を悉くかわして真っ直ぐこちらへ向かってくる。

「(なんなのよ、あの化け物!!)」

私が恐慌に陥っていると化け物の左腕に白っぽい靄のような物が固まり始めていた。
私が慌ててその場から飛びのくとその直後に扉と壁が一緒に吹き飛んでしまった。
あんな化け物と正面から戦える訳ない。
そう考えた私はその場から背を向けて逃げ出した。
ただひたすらに化け物の恐怖から逃げるために。

哀れな玉兎の心情


<追加のおまけ 前回の幽々子様と映姫様>

幽霊移民計画実行時の幽々子様


「(計画通り計画通り♪)」

幽霊移民計画は無事その全てをまっとうしてくれたわ。
幽霊移民計画・・・・・・その真相は幽霊を追い出すことではなく、私の思い通りに冥界を拡張すること。
ただ冥界の拡張を願い出るだけでは長い時間調査した上で必要分しか拡大してくれないだもの。
それじゃあ面白くないわ。
それなら一騒動起こしてそのドサクサでこっちの思い通りに拡張できたら素敵じゃない?
そして、当初の計画通り。
閻魔様に人魂の件がばれ、慌てた閻魔様に冥界が手狭になったことを訴えると・・・あらあら、如何したことでしょう。
何の調査も必要なしに、こちらの言うとおりに拡張してくれることになったわ。
その上面白い人間、アスカにも出会えたことですし。
今日は本当にいい日ね。
これだから謀は止められないわ。

閻魔からの説教を受けながらも腹の中真っ黒の幽々子様



アスカと出会った映姫様

私は今でこそ閻魔ですがその前はただの地蔵でした。
その頃の記憶は私にはほとんど残ってませんが一つだけ残ってる物があります。
何にご利益を渡すことも出来ない私に手を合わせ続けた青年。
来なくなったと思ったらひょっこり現れては私の掃除をし手を合わせていく青年。
そんな彼に対して私はただの地蔵でありながらいつか恩を返したいと思っていました。
閻魔である私が誰に恩義を感じるというのは本来あってはならないことでしょう。
ですから私は閻魔である私を誤魔化しつつ地蔵であった私の恩を返すために私に出来ることをしましょう。
彼が死した後に地獄へ落ちぬようせめてもの善行を示すことで・・・・・・

仕事と私情に板挟みの映姫様
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後書+次回予告

どうも、暗黒面が復活しそうなお手玉の中身です。
というより展開がばれてしまったorz
てゐのダミーで気付かれないと思ってたのにorz
次こそは・・・次こそは~!!!

では、次回予告をてゐさんに
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なに?次回予告??
姫差からの頼まれ物取りに戻ってる最中なんだけど・・・

なになに・・・・・・・・・
突如アスカを襲った謎の凶弾!
狙撃手は仕留め切れなかったが故に逃げ
アスカはそれを捕らえんと追いかける!!
狙撃手を捕まえた時・・・・・・って、これまずいよ!!!


次 回
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
          お~い、次回予告をしてくれ~ by.kami



[10620] 鈴仙の名前はこうして四つになった
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/30 22:29
「そこか!!」
「っひゃ!!!」

っち、また逃げられた。
アレから数十分、最初に攻撃してきたのは奴だというのにアレ以降ずっと逃げ回られている。
右腕のほうは応急処置をすることで動かせる様にはなったものの全力は出せない・・・まぁそのお陰で空気弾は最初の一発以外、手加減して撃てる様になった。
ただ、その手加減のせいかは知らないが気配を辿って攻撃を続けているのに延々と逃げられてしまう。
尋問できるように生かして置きたかったのだがこのままでは埒が明かない。
仕方が無い。
俺はそうやって内心嘆息すると考えたことを実行するため声に出して呟いた。

「殺すか・・・」

誰にも聴かれる事の無い呟きは奴にも届いたようだ。
逃げる奴の気配の中に更に怯えが含まれた。
俺は先ほどまでとは違う意味で、殺すつもりで敵を追いかけ始めた。


<玉兎>

「殺すか・・・」

身の毛がよだった。
なんだあの化け物は?
今までのが手加減?
ここからは殺しにかかる??
何を言ってるのかが理解できない。
いやだ・・・・・・・・・・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ、いやだ!!
いやだ死にたくない!!!
気付けば私は化け物の前に飛び出し、弾丸を撃ち放っていた。


<アスカ>

目の前に突然飛び出し其処から攻撃を撃ち続ける兎妖怪が一匹。
しかし、最初の不意打ちのように狙い済ました攻撃ではなく出鱈目に撃って来る上に姿を見せての攻撃が見切れる見切れないはずも無く、
攻撃の雨を掻い潜りながら兎妖怪の懐まで一気に駆け込んだ。
兎妖怪はその顔を引きつらせ怯えと涙を浮かべた目でこちらの姿を追ってくるが今更逃げられるはずも無い。
折角姿を見せてくれたんだ・・・

「とりあえず・・・」

簡単には殺さない。

「半殺しだな」
「げへっ?!」

懐に飛び込んだ勢いでそのまま兎妖怪の腹に手加減した拳を叩き込むと兎妖怪は体をくの字に曲げて喘ぎながらその場に倒れた。
倒れた兎妖怪は殴られた箇所、腹を押さえながら喘ぎもがいている。
そこでやっと気付いたのだが、こいつは今まで見てきた兎妖怪とは少し毛色が違うようだ。
俺に攻撃を仕掛けてくる時点でそれも当然なのだが、他の兎妖怪に比べて随分と小奇麗だ・・・ネクタイまでしてるし。
まぁ、この場では何の関係も無いのだが。
自分のどうでもいい考えを其処で打ち切ると目の前でいつまでも寝ている兎妖怪の長い髪を掴み無理やり引き起こす。
兎妖怪は小さな悲鳴を上げたが知ったことではない。

「おい、いきなり攻撃とは穏やかじゃないが・・・どういうつもりだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

奴はびくつくだけで何も答えない。
俺はそのまま奴の頭を床に一度、二度、三度と床に叩きつけもう一度引き起こすと同じ質問を繰り返した。

「もう一度聞くぞ。
どういうつもりで攻撃しやがった?
「あ・・・・・・う・・・あ・・・・・・」

ダメか・・・
完全に恐慌を起こしているようでまともに話が出来そうにない。
俺は奴を床に投げ捨てるとさっさと始末するために頭を踏み抜こうと足を持ち上げ。
振り下ろそうとした時

「ちょっと待った~?!?!」

見知った声が響いた。
声が響いてきた方向に眼を向けると其処には急いでいたのか肩で息をしているてゐが居た。
てゐは慌てた様子で奴に近づくと心配そうに声を掛け始めた。

「鈴仙、聞こえる?しっかりして、鈴仙」
「・・・てゐ?もしかして知り合いか?」
「知り合いって言うか一応、永遠亭の仲間だよ。
アスカこそいきなり何やってんのさ?!」
「いや、いきなり攻撃されたもんだから・・・つい」
「・・・・・・そりゃ鈴仙が悪いわ」

てゐは心配そうに兎妖怪を抱えながら頬を叩いていたが俺からの返答を聞くと呆れた顔を向けた。
しかし、永遠亭の兎だったとは・・・・・・殺す前にてゐが現れてくれてよかった。
見てみればてゐの登場に安心したのか兎妖怪は完全に気を失っている。
するとてゐは兎妖怪をその場に寝かせるとこちらに振り向き口を開いた。

「どうやら鈴仙も大した事なさそうだし・・・とりあえずはいらっしゃい。アスカ」
「半ば不法侵入ながらにお邪魔してます」
「犯罪者だね~」
「犯罪者言うな」
「うっさっさっさっ、それはともかく今まで如何してたのさ。
姫様たち心配してたよ?」
「ま~ちょっと野暮用でな」
「ふ~ん、まぁいっか。
この子、『鈴仙』って言うんだけど其処の部屋に運んどいてもらえるかな。
あたしは姫様たち呼んでくるから」
「ん、了解」
「変な事しちゃだめだよ」
「するか!」
「うっさっさっさっ・・・じゃ、また後でね~」

てゐは人の事をそうやってからかうとそのまま走り去ってしまった。
去り際になんてとんでもない事を・・・・・・
俺は懐かしさの混ざったため息を一つ吐くと兎妖怪、もとい鈴仙を担ぎ上げ部屋の奥へ運んだ。

それから十数分・・・・・・
鈴仙を部屋に寝かした俺は自分の腕の手当てをしなおして永遠亭の前で輝夜たちの到着を待っていた。
手当てのお陰でほぼ完治状態まで持っていけたのは嬉しいのだが・・・自分の薬の効き目が恐ろしくなってきた。
それにしても、妹紅達の時もそうだったが久しぶりに会うとなるとなんと言うべきか迷ってしまう。
そんなことを考えていると竹林の影から人影が見え出した。
まず慌てたように飛び出してきたのは輝夜。その後ろからはゆっくりとした足取りで永琳とてゐ、その他の兎妖怪達がやってきた。
輝夜は人の顔を見るなりこちらに飛びつき胸倉を掴みあげてきた。

「ちょ?!かぐy「今まで何処行ってたのよ!!」・・・・・・」
「じ、じんぱいじだんだから~。
うぇ~~んえんえん」

まさか泣き付かれるとは思わなかった。
そう思い、輝夜を宥めていると今度は永琳が声を掛けてきた。

「お久しぶりね、アスカさん」
「だな、元気そうでなによりだ。
なんか心配かけたみたいだが・・・・・・悪かったな」
「ふふふ・・・、いいですよ。こうやってまた姫様に会いに来てくれたんですから」
「あんがとな。ほれ、輝夜。
いい加減離れてくれ」
「・・・・・・うん」

泣き止んだ輝夜にそう声を掛けると輝夜は一歩下がるようにして離れてくれた。
そうして輝夜、永琳、てゐの三人としばしの雑談を交わすと次の目的地へ行くために別れを告げた。
ちなみにある程度離れてから輝夜の悲鳴が聞こえたような気がするがそんな事は無いはずだ。



「相変わらず綺麗なところだな・・・・・・そうは思わないか?」
「全くね。此処はいつも変わらぬ美しさを見せてくれたのに全然見に来なかった誰かさん損してるわね」
「全くだな」

迷いの竹林を抜け、次にやってきたのは太陽の畑。
夏場ということもあり咲き乱れる向日葵の美しさに目を奪われていると懐かしい気配を感じたので、そのまま声を掛けてしまった。
返事を返してきたのは長い緑の髪に日傘を差した最強の妖怪、風見幽香。
幽香はこちらへ近づきながら更に言葉を続けた。

「本当に久しぶりね。今まで全然来なかったけど、何をしてたの?」
「ちょっと野暮用でね・・・・・・軽く酷い目にあってたよ」
「あらあら・・・、ところで折角久しぶりなんだし・・・・・・」
「なら場所を移そうか」
「勿論よ♪」

俺からの返事に満足そうな笑みと言葉を返す幽香。
しかし、伝わってくる気配はそんな穏やかな物じゃなかった。
太陽の畑からそこそこに離れるとお互いに距離を保って身構えた。
そこで幽香がこちらの右腕を見ながら口を開いてきた。

「あら、あなた・・・怪我をしてるの?」
「ん?これか?
まぁさっき不意打ちを食らってな。もう治ってるから大丈夫」
「そう・・・それは良かったわ。
全力じゃないと楽しめないもの
「あぁ・・・、全くだ

動き始めたのはどちらが始めだったか。
もしかしたら同時だったかもしれない。
お互いに一気に距離を詰めると攻撃を始めた。
今なら分かる。
幽香が何処に攻撃しようとしているのかが。
やっと・・・・・・やっと此処まで追いつけた!

「っらぁ~!!」
「はぁ!!」

ただ右の拳を振りぬく。
それを幽香が傘で払おうとするのが分かる。
ならその隙を突いて蹴り穿とう。
しかし幽香はそれを予想していたのか身体を捻りながら逆に蹴り返してきた。
それを残していた左腕で防ぐとその勢いに身を任せてそのまま後方へと飛ばされる。
後ろに撥ね飛ばされた勢いを利用して身体を起こしなおすと既にこちらを追いかけ日傘を突き刺さんと構えている幽香の姿が。
突き出された日傘に頬を裂かれながらもそれをかわし幽香の懐へ。
幽香の懐深くへ潜り込み、震脚を踏みしめ、ふと目線を幽香に送ってみれば幽香の顔は驚きに染まっていた。
この一瞬・・・たった一瞬なれど幽香を越えた!!
その躍る心のままに握りこんだ拳を前へと解き放った。

「おらぁ!」

確実な当たり。
幽香は後ろへずり下がり膝をついている。
以前のような誘いではなく間違いなく俺が狙い当てた一撃だった。
しかし、当然ながらそれで倒れるほど幽香は優しくなかった。
幽香はその場で立ち直すと顔を少しだけ歪めながら口を開いた。

「っつ~・・・・・・女性に手を上げるなんて酷い人ね」
「今更それを言うか」
「それもそうだったわ。
・・・・・・随分と強くなったのね」
「どっかの誰かさんに勝ちたくなったからな」
「そう・・・・・・でも、今はまだ負けてなさい!!」
「冗談!今日こそは勝たせてもらう!!!」

言葉を皮切りに再び始まる戦い。
幽香からの攻撃をかわしながら殴り返す。
殴られた幽香はそんな事気にしないかのように日傘を振るう。
殴っては殴られ、蹴っては蹴られ、避けていては攻撃はかなわず、受け流すことで反撃に繋がる。
余裕の欠片もないのにそんなやり取りがとても楽しかった。
一撃一撃が相殺しあうたびにお互いに笑みが浮かび口からは笑い声が漏れる。
しかし、気付いてみればお互いにぼろぼろとなり体力なんてほとんど残っていない。
そうして二人同時にはじかれる様にして後ろへ飛び下がった。

「くくっ・・・」
「ふふっ・・・」

お互いの口から更に笑い声が漏れる。
楽しい時間もいよいよ幕を下ろすとき。

「それじゃあ・・・」
「えぇ、そろそろ・・・」
「「決着を付けるか(ましょうか)!!!」」

幽香は日傘の先端を此方へ向け、俺は残りの力を振り絞って右手に空気を圧縮した。
そして・・・・・・・

「食らえ~!!」
「食らいなさい!!」

同時にお互いの力を打ち放った。
そして視界は白く染まり俺の意識も其処で途絶えた。

<おまけ>

鈴仙、目覚めの時

「っは?!此処は!あの化け物は!!」
「落ち着け鈴仙。此処は永遠亭でお前と戦ってたアスカはもう帰ったよ」
「そ、そうなの?・・・っつ、いててて・・・・・・」
「まだ無理すんじゃないわようどんげ。何をどうやったのか知らないけど骨が何本か折れてるんだから」
「し、師匠・・・・・・そうだ、あの化け物は!化け物は何処に!!」
「化け物化け物って・・・私達が来た時はあなたとアスカしかいなかったわよ」
「姫様、だったらそのアスカが化け物ですよ!早く逃げないと」
「落ち着け鈴仙。アスカならもう帰ったし、アスカは人間だから化け物じゃないよ」
「そうようどんげ。それよりもあなたには傷を早く治してもらわないと」
「っへ?」
「永遠亭を此処まで壊しといて・・・ちゃんと直しなさいよイナバ」
「ちょ?!それは化け物が・・・」
「アスカは人間なんだからあんな真似できる訳ないでしょ。消去法でイナバしかいないのよ」
「それなら私はただの人間にやられたんですか?」
「まぁそういうことね。強いとは思ってたけど予想以上だったてだけで」
「師匠~それはあんまりですよ~」
「ほらほろ、泣いてる暇があったら早く寝なよ鈴仙」
「てゐ~。てゐは信じてくれるよね~」
「・・・・・・ごめん鈴仙。アスカの体格からあんなことが出来るとはちょっと・・・・・・」
「そんな~」
「っあ、そうそう。そのアスカから伝言で鈴仙の名前は今日から『ゲレゲレ』ね」
「繋げるとゲレゲレ=鈴仙=優曇華院=因幡ね」
「よろしくなゲレゲレイセン」
「な、な、な、なんですかそれ~~~~~~?!?!」


哀れな玉兎の悲劇 パートⅡ
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
夏の暑さにテンション下がりまくってます。
それはそうと、もうじき美鈴以外の紅魔勢が出る話の骨組みを組み始めたんですが、
本作では咲夜さんを月人設定とさせてもらいます。
あの人、出身不明すぎて設定の困るよorz
とりあえずはそんな感じで・・・

次回予告です!
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ゲレゲレです。あまりにも酷い名前に負けそうです。

目が覚めたなら小屋の中
太陽の畑は今日も平和
疲れた身体を癒すため
家路を急ぐと其処で再会が

次 回
 「あだ名の犠牲者は後どれだけ増えることやら・・・」
               ゲレゲレイセン、ちゃんとやってて感心感心 by.てゐ



[10620] 主人公に使わせるスペカのイメージが固まらないorz
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/31 19:10
此処は何処だ?
目が覚めてみると其処は小屋の中だった。
起き上がって周囲を見渡してみても見覚えの無い小屋の中。
何の変哲も無い小屋は端に積まれている肥料ぐらいしか目立つ物は無い。
俺は確か、幽香と全力での撃ちあいで・・・・・・其処から記憶が途切れてるな。
多分、気絶したのを幽香が回収してくれたようだろう・・・きっと。
となると此処は・・・・・・
ある程度の推察を自分の中で纏めた俺はすぐ近くの扉から外へ出た。
扉の外は予想通り、太陽の畑。
どうやらこの小屋は幽香の仮住まいのようだ。
立派な館があるのだからこんな所に住まなくてもいいだろうに。
そう考えていると向日葵畑から聞きなれた声が聞こえてきた。

「あら、目が覚めたの」

そうして向日葵の中から姿を現したのは案の定、幽香だ。
幽香はいつもどおり日傘を差しながらその顔に笑みを浮かべて口を開いてきた。

「身体のほうは大丈夫かしら?
あなたの事だからあまり心配はしてないのだけど」
「普通に心配してくれよ。
まぁ、傷らしい傷も残ってないが・・・何かしたのか?」
「私の薬を少しね」
「流石は最強、痒い所にまで手が届くな」
「ふふっ・・・当然」

幽香は当たり前だというように自慢気に笑っている。
そうして軽く雑談を交えた後に、俺は別れを告げ妖怪の山、自分の家へと向かった。
流石に昨日の疲れは取れきっていなかったので家でゆっくり休むことにした。

歩くこと数十分・・・・・・
凄く見覚えのあるものが道のど真ん中に鎮座していた。
真昼間だというのに其処だけ光が入り込まない様になっている真っ黒い塊は・・・・・・ルーミアか?
そう考えていると塊の中からお決まりの言葉が聞こえてきた。

「あなたは食べられる人類ね?」

少し内容は変わっているが・・・・・・相変わらず足りない子だった。
そもそもこんな道の真ん中で誰が引っ掛かるのやら・・・・・・
ルーミアは尚も同じことを言い続けるのでとりあえず声を掛けることにした。

「あなたは食べられる人類「食べれないぞ~」へ?」
「だから食べられないぞ~っと、久しぶりだなルーミア。何でここに居るんだ?」
「その声は・・・・・・食べられない人間のアスカ!」
「・・・いやな覚え方だな、おい。
まぁいい、もしかしてまた倒れてるのか?」
「そーなのだー・・・・・・もうだめだー」
「っへ?ちょ、おい?!ルーミア?」

ルーミアが話し終わると黒い塊はどんどん収縮して行き、ルーミア自身を残して消えてしまった。
残っているルーミアは目を回して倒れている。
どれだけ食ってないんだよ・・・・・・
俺は仕方ないとため息を一つ吐き、ルーミアを担ぎ上げ家へ連れ帰った。



青年誘拐中・・・・・・・・・本作2度目


「はふっ・・・うまっ・・・かふっ・・・うまっ・・・かゆっ・・・うまっ・・・」
「最後のなんか違うぞ、ルーミア」
「はふっ・・・うまっ・・・かふっ・・・うまっ・・・かゆっ・・・うまっ・・・」
「聞いちゃいねぇ・・・」

あの後、とりあえずルーミアを家まで連れ帰り適当に寝かせて飯を作るとルーミアが涎を垂らしながら席についていた。
とりあえずできた物を与えてみると凄まじい勢いで食べること食べること・・・・・・
見てるだけで腹が膨れそうな光景だった。
倒れるほど食べてないというのは分かっていたがこれほどまでとは・・・
既にルーミアの左右には高く積み上げられた皿の数々と食べ終わった骨の残骸などしか残っていない。
そうして最後の一皿を食べつくすとやっと落ち着いたのかお腹を押さえながら一息吐いた。

「けふぅ~、ごちそうさま~」
「よくもまぁ・・・そんなに腹が減ってたのか?」
「うん。一月ぐらい水しか飲んでなかった」
「おいおい・・・」

凄まじい食生活だ。
と言うよりもあの能力を何とかするべきだと思うのは俺だけなんだろうか?
そうやって呆れているとルーミアの様子がなにやら変わってきた。

「ん?どうした、ルーミア」
「う・・・ん・・・・・・ふぁ~~。
おやすみ・・・」
「っちょ?!ルーミア!!」
「ぐ~・・・すか~・・・」

食べてすぐ寝やがった!!
いすに座った体勢のまま背もたれに完全に体重を預けルーミアはそのまま眠ってしまった。
その幸せそうな顔がとても憎たらしい。
とは言え、流石に叩き起こすのも可哀想なのでそのまま布団に運び寝かせておくことにした。
なんと言うべきか・・・・・・ルーミアは昔と変わらず天真爛漫のままである。
そうしてルーミアを寝かすと誰もいなかったはずの隣から声を掛けられた。

「あら、あなたまた女の子を誘拐したの?」
「またってなんだ、またって・・・
というか紫、何処から人の家に入ってるんだよ」
「私のスキマからよ。
それにあなたは昔、私の事を誘拐したじゃない?」
「ふ・ざ・け・る・な!
それが助けた恩人に言うことか?」
「さぁて、どうかしら」

スキマから上半身だけ出してそう告げた紫は可笑しそうに笑い出した。
こいつ人のことを何だと思ってるのやら。
笑い終えた紫は更にルーミアのことをたずねてきた。

「それで、実際この子はどうしたの?」
「ちょっとした縁があってな。
行き倒れてるのを見つけたから拾って帰ってきた」
「ふ~ん、縁ねぇ・・・・・・」

そういった紫は意味深な瞳でルーミアを眺めている。
その時、俺は紫に用事があったことを思い出した。

「そういや紫」
「ん?何かしら」
「ちょっと相談ごとがあるんだが・・・今、時間良いか?」
「暇じゃなかったらここにいないわよ」
「それはそれで酷いんだが。
まぁいい、ここじゃ何だから居間まで来てくれ」

紫の発言に少し傷つきながらも相談をするため居間へ俺と紫は移動した。
居間は先ほどのルーミアの食事後のままだったので一応それだけはその場で片付け。
紫へお茶を出してから話し合いを始めた。

「なんと言うか・・・お疲れ様?」
「あんがと。さてと、相談事って言うのは人里で聞いた話が元になってるんだが」
「人里の話?」
「あぁ。話っていうのは妖怪が人里を襲わなくなったて言うことだ」
「その件ね。何か問題があるのかしら?
妖怪達には少し不満かもしれないけど幻想郷のバランスを守るためには必要なことよ」
「それは分かるんだが・・・・・・ちょっと嫌な予感がしてな」
「・・・気のせいじゃないの?」
「だといいんだが」

そう告げた俺は自分で用意したお茶を一気に飲み干した。
紫は俺の話を聞いてから、何かを真剣に考えているようだ。
人里での件、人里の人間をむやみに襲わないようにするのは確かに必要な措置だと俺も思う。
思うんだが・・・・・・このままだと何か大変なことが起きる、そんな気がしてならなかった。
俺は更に話を進めようと紫に声を掛けた。

「実際、今のところ何か問題は起こってないのか?」
「無いわ。それどころかそれなりに教養がある妖怪なら人里で買い物なんかもできるようになったから、かなりうまく行ってるわよ」
「そうだよな・・・俺も何が引っ掛かってるのやら」
「まぁいいわ。そういうことなら私のほうでも少し調べてみるから」
「頼む」

結局、嫌な予感に関しては結論が出ないまま紫に調査してもらうことになった。
場の空気は重く沈んでいる。
このままでは注ぎ直した茶も不味くなりそうなので話題を変えることにした。

「なぁ、話は変わるんだが」
「へ?何かしら?」
「式神が式神を作るって、ありなのか?」
「藍と橙のこと?実際に作ってるし、ありなんじゃないの?」
「そんなものなのか?」
「ん~、式神を作る力とその式を組めるだけの知能があれば無理じゃないし・・・
力、知能、両方とも九尾の狐である藍は式神を作るには十分あるから」
「なるほどな~」

そうやって改めて話を聞かされると藍の事を見直さないといけないな。
ふと紫のほうを見てみればなぜか胸を張って自慢げにしている。

「何やってんだ紫」
「あなた、いま藍の事見直してたでしょう」
「まぁ、その通りだが」
「私はそんな九尾の狐を式神にしたのよ」
「・・・・・・・・・ないな」
「ちょ?!何よその反応は!!」
「いや、なんか紫のイメージって基本だらけてるか怠けてるかしかないからさ・・・
藍みたいな式神を作ったって言うのはちょっと・・・・・・」
「んな?!いいわ、ちょっと待ってなさい!
いま藍を連れてくるから。藍~!ちょっと出てらっしゃい。ら~ん!!」

そう告げた紫はスキマ空間を広げその中に頭を突っ込んで藍を呼び始めた。
待つこと数分、別のスキマから藍となぜか橙が落ちて来た。
藍と橙はなぜ自分達がここにいるのか分からないといった表情で混乱しているようだ。
とりあえずこれだけは言っておかないといけないだろう。

「なぁ紫。普通に呼んだんなら自力で来てもらえばいいんじゃないのか?
いきなりスキマで強制的に呼び出すとかちょっと酷いだろ」
「いいのよ。一応声は掛けたし、藍は私の式で橙は私の式の式だからいいのよ。
それよりも、藍!」
「は、はい?!なんですか紫様」
「あなたの主人は誰?」
「っは?誰も何も紫様ですが??」
「じゃあ、あなたの式を作ったのは誰?」
「紫様ですが・・・・・・アスカ様、紫様は何がしたいんですか?」
「ちょっとな・・・俺が藍の式を作ったのは本当に紫なのかって聞いたもんだから」
「なるほど・・・」

俺が藍に返事を返したところで紫は満足したのか再び自慢気な様子で口を開いてきた。

「どうよアスカ。藍の式を組んだのは私だって分かったでしょう」
「そうだな~。すごいな~。ゆかりんちょうすご~い」
「何でそんな棒読みなのよ!!!」
「そんなことないよゆかり~ん」
「き~~~~~!!」

俺からの返答にさっきまで自信に溢れていた紫が一転して地団駄を踏み出した。
藍はその光景に呆れ、橙は唖然としている。
からかっといてなんだが・・・・・・やはり藍の式を組んだのが紫とは思えない一幕だった。

<おまけ 文々。新聞>

※噂のあの人の評価

☆月×日
本日は私、清く正しい射命丸文が胡散臭いと名高い妖怪の賢者より噂のあの人、Aさんの実力のほどを取材してまいりました。
妖怪の賢者は私の取材に対し以下のようなご返答を下さいました。

あの人の実力は?
 Aに関して? そうねぇ、弱くは無いわね。
 私の命令を忠実にこなしていた藍、あぁ式神のことね・・・藍を倒すぐらいなんだから単純な正面衝突なら私ともいい勝負になるわよ。

それでは負ける可能性も?
 ありえないわね。
 そりゃ油断でもしてれば負ける可能性も有るでしょうけど、本気でやりあったら間違いなく私が勝つわよ

その根拠は?
 能力の相性ね。
 Aの能力は自分が見えない攻撃に対しては絶対的に有利だけど言い換えれば見える攻撃は全部自分で対処しないといけないの。
 その点、私の能力ならAの手が届かない距離からやりたい放題。
 これで負けたら逆に恥ずかしいわよ。

なるほど、では率直にAさんの実力は?
 勝負事に関しては相性によるとしかいえないわね。
 相性次第では多分神様にも勝てるでしょうけど・・・場合によってはあきらかに各下の相手にも負けるんじゃないかしら?
 まぁ、身体能力が随分と高いからそんな事はめったに無いでしょうし・・・あえて評価するなら上の下辺りじゃないかしら?

ほほぉ・・・ちなみにですが私の実力はどう思いますか?
 あなたの事?
 ・・・・・・強いと思うわよ、天狗ですし。
 幻想郷においても十分上位の強さですわ。


そうですか、ご協力ありがとうございました。
以上、清く正しい射命丸文が噂のあの人の評価を胡散臭い妖怪の賢者に確認した結果です。
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
選挙に行ったら道に迷った・・・台風は近づいてくるしorz
前回の後書に入れた咲夜さんの設定ですが、
これは紅魔勢を出す際に一緒に出したかったので普通の人間よりも長寿設定が使いたかったんです。
ここまで言うと次の話がばれそうで怖いぜ・・・

では、次回予告です。
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わは~、かゆ・・・うま・・・なのか~

寝床を手に入れたのだ~
メガネが店を建てたのだ~
幼女が現れたのだ~
兎が泣いたのか~

次 回
 「アスカのご飯は美味しいのだ~」
         ・・・・・・こいつに次回予告をさせたのが間違いだった by.kami



[10620] 普通の魔法使いも昔は幼かった
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/08/31 19:11
幻想郷に帰りつき、平和な日々が続いている。
以前紫と話し合った嫌な予感が嘘のようだ。
そんなことを考えていると今日もルーミアの元気な声が響いてきた。

「それじゃ、行ってくるね~」
「おう、知らない奴には付いていくんじゃないぞ」

あの日以来、食事が気に入られたのか、はたまた居心地が良かったのかは分からないがルーミアが家に住み着いてしまった。
最初こそ追い出そうとは思ったものの、そのつど躊躇ってしまいそのままズルズルと半ば養い子状態に・・・
とは言え、ルーミアのことが嫌いと言うわけでもなく美味しそうに食事をする姿を見ていると悪い気もしなかったので我が家の一員となっている。
こうなってみると藍が橙を可愛がる理由がよく分かる。

「これが父性という奴なんだろうかな~」

そうやって、誰も答えることの無い独り言を呟くと一人頷き、出かける準備を始めた。
なんでも、今日は霖之助が独り立ちし店を作ったのでその開店式だとか。
黒陽と影月に誘われたいた俺は、その開店式に参加させてもらうことにしていたのだ。
今日もいい天気、誰かの門出を祝うにはこれほどの日も無いだろう。
そう考えを纏めると出かける準備を進めるのだった。


所変わって人里から近い魔法の森入り口。
其処では複数の男女が新しく出来た店の開店祝いに訪れていた。
と言ってもたったの6人であるが・・・・・・
まずは触角が生えている三人組。
人里の守妖怪として有名になってきた黒陽と影月、そして一時期は霧雨道具店で看板娘をやっていたリグルである。
影月は相変わらずリグルに告白しては砕けているようだ・・・何か切欠でもあればと思わないでもないが当分は無いだろう。
黒陽はそんな二人を眺めて呆れた様子で首を振っている。
4人目は幼い少女を抱きかかえているメガネの青年、霖之助に話しかけている青年、アスカだ。
霖之助の新しい門出に対し祝いの言葉を述べている。

「随分いい店が出来たな、霖之助」
「ありがとう、アスカさん。
これも黒陽さんや影月さんからの口添えがあったからこそなんだけどね」
「あの二人にそんな甲斐性があるとは・・・」
「ははは・・・、まぁ普段のお二人は頼りになるとは言いがたいですけど」

そう笑いながら言う霖之助と共に件の二人を見てみると影月が玉砕した瞬間だった。
何年想い続けてるのやら・・・あの二人はいろんな意味で予想を越えてくれる。
その様子をひとしきり笑った俺は、霖之助が抱いている少女に関して尋ねた。

「そういや霖之助、お前が抱いてるその子は?
まさか、そんな幼子を?」
「違うよ。
この子は霧雨さん所のお嬢さんで、今日これない親父さんの代わりに黒陽さんたちが連れてきたんだ」
「へぇ~。嬢ちゃん、お名前は?」
「ん・・・『マリサ』・・・・・・」

俺が少女、もといマリサに視線を合わせて尋ねると、
マリサは短く名前だけ答えて霖之助の首元に顔を隠してしまった。
すると後ろから黒陽たちが話しかけてきた。

「あちゃ~、旦那~。お嬢を怖がらせたらダメじゃないですか」
「いや、そんなつもりは無かったんだがな・・・」
「ダメですよ旦那。お嬢は怖がりなんですから」
「その割には霖之助君には良く懐いてるけどね~」
「あはは・・・、お恥ずかしい限りで」
「へぇ~、そういやなんで新しく店を?
お前ならあのまま霧雨さん所に居てもやっていけただろう?」

俺がそう訪ねると霖之助はちょっと困ったような苦笑いを浮かべ口を開いた。

「僕もそうしたかったんだけど色々と思うところがあって」
「思うところ?」
「うん。僕の能力は『道具の名前と用途が分かる程度の能力』なんだけど、
これを使うには普通の道具屋じゃ無理だって思ったんだ」
「それで普通じゃない道具屋を自分で作ろうと?」
「そういうことだね」
「なるほどな~。それにしてもマリサちゃん・・・だっけ?
よく霖之助に懐いてるな」
「そうだよね~。私が魔理沙ちゃんを抱っこしたらあっという間に泣かれたってのに」
「あの、リグルさん?そんな恨めしそうな目で見ないでくれると嬉しいんですけど」
「私は元からこんな目だよ霖之助君。
そう見えるのは私に悪いと思ってるからじゃないかな~」

そう言ったリグルの目は据わっていた。
霖之助が一歩後ずさるとリグルが一歩前に出る。
じりじりとリグルがその差を詰めていたその時、マリサがリグルの方へと振り向き一言だけ言い放った。

「・・・虫嫌い!」
「はぅっ!」「うぐっ!」「へぶっ!」

効果は抜群のようだ。
リグルだけじゃなく離れていた黒陽と影月まで膝を着いている。
なんと言うか・・・ご愁傷様である。
それはともかくとして、俺はそんな3人を尻目に霖之助との話を続けた。

「そういや霖之助。もう店の名前は決まってるのか?」
「あ、はい。店の名前は「こーりん」っへ?」
「こーりんのお店だからこーりん」
「・・・どういう事だ?」

こーりん、こーりんと叫びだしたマリサをそのままに俺は霖之助へとたずねた。
それに対して、霖之助は困ったような表情で訳を話し出した。

「それが、なぜか分からないんだけどマリサが僕の名前を『こーりん』って呼び出してね・・・
マリサ、僕の名前は霖之助なんだけど」
「違うもん!
こーりんはこーりんだもん!!」
「っと、こんな感じなんだよ」
「なるほどな~・・・、それは惚気か?こーりん」
「勘弁してくれよ、アスカさん・・・」
「ははは・・・、すまんすまん。
とすると店の名前はどうするんだ?」
「うん。折角いい考えがもらえたから『香霖堂』って名前にするよ」
「香霖堂・・・な・・・。うん、いい名前じゃないか」
「ありがとうございます、アスカさん」
「どういたしまして。
そういえば・・・黒陽、影月、それにリグルも、ちょっといいか」

俺はふと思いついたことを伝えるべく3人を呼んだ。
3人はまだへこんでいたのか起き上がるとショックを受けた表情のままこちらにやってくると、
代表して黒陽が口を開いてきた。

「なんすか旦那。俺達は今、お嬢に嫌われた絶望に囚われてるんですが」
「お前ら・・・・・・、まぁいい。
それよりも3人とも、俺の住んでいる場所って教えてたか?」
「確か・・・妖怪の山、ですよね?」
「おう、もっと詳しく言うと大蝦蟇の池を更に奥に行ったところだがな」
「それがどうかしたんですか、旦那」
「最近、嫌な予感がしてな・・・・・・
もし何かあったらすぐに知らせに来い。
山の仲間にはお前たちの事を教えておくから普通に通してもらえるはずだ」
「嫌な予感ですか、旦那。それは一体・・・」
「詳しいことは俺にもわからん。
分からんのだが、どうにも引っ掛かってな・・・リグルは何か感じることは無いのか?」
「私?・・・そうだな~、最近というよりも人里の人と知り合ってからは誰かを襲うって事もしなくなったし、
博麗大結界が張られてからは人里を襲おうとする妖怪も出なくなったし・・・うん、暇になったぐらいかな」
「そうか・・・、まぁ、何も無いのが一番いいんだが念のためにな」
「分かりました、旦那」
「それは僕が頼っても良いのかい」
「当然。じゃなきゃここで話さないよ」
「助かるよ」

俺がそう告げると、霖之助は嬉しそうに礼を言った。
黒陽、影月、リグルも一応は警戒してくれるようで真剣な面持ちで頷いている。
そうしてその日はそのまま雑談をし解散することとなった。


それから数日・・・・・・
俺は永遠亭へと向かっていた。
永遠亭の薬師、永琳は薬品に対しての造詣が深くその知識はまさしく天才であった。
そんな彼女も鬼が使った薬には興味があるらしくたまに共同研究を行う仲である。
そんな仲ではあるのだが、ただの薬師と天才の薬師が同列になれるはずも無く、
共同研究というよりも彼女から知識を分けてもらいながら研究をしていると言うのが正しい状態である。
そう言えば・・・・・・鈴仙を撃退した後日に訪れた永遠亭では一悶着あったな。
あの日もこんないい天気で・・・・・・


回想

「お、よく来たねアスカ」
「まぁ鈴仙だっけか?
怪我させたわけだし、一応見舞いぐらいわな」
「殊勝だね~、それと鈴仙じゃ無くてゲレゲレじゃないの?」
「本人の居ないところでそう呼ぶ意味があるのか?」
「無いね」

そういってお互いに笑い合うのは永遠亭の門前。
てゐにも言ったとおり、鈴仙の見舞いに来たわけではあるのだが、
結局なぜ攻撃されたのかも分かっていなかったのでついでに聞いておこうとやって来た次第だ。
そうして案内された先には輝夜、永琳、鈴仙の全員が揃っていた。
鈴仙の様子を見る限りでは完全に完治しているようだ。
流石は永琳、薬師というよりも医者としての腕の良さが分かる。
それはそうと、鈴仙が人の顔を見た瞬間から思いっきり硬直しているのはなぜだ?

「あら、いらっしゃいアスカ」
「お邪魔してます、永琳さん。
よ、輝夜。こないだぶりだな」
「よく来たわねアスカ。
さぁ、遊ぶわよ!!」
「いきなりだな、おい・・・・・・
それはともかくとして、アレ・・・どうしたんだ?」
「アレ?・・・イナバ、なに固まってるの?」
「っひ、ひ、ひ、姫様、そいつは一体??」
「これ?これが噂のアスカよ。
そう言えばあなた、アスカにボコされたばっかりだったわね」
「あ~、あの時は悪かったな。いきなり攻撃食らったもんだから頭に血が上って」
「い、いえ・・・気になんかしてませんにょ」
「にょ?」
「にょ?」
「ゲレゲレイセン・・・・・・にょ??」
「てゐ!いい加減そう呼ぶの止めてよ!!」
「いや、だってね~」
「まぁいきなり攻撃してきた罰だと思って甘んじて受けろ」
「ひどい!確かに攻撃したけど姫様達のためと思ってやったのに・・・・・・
その上、怪我が治ったら屋敷の修繕までさせられるし・・・・・・」
「それは・・・すまんかった」

鈴仙は膝を着いて落ち込んでしまった。
どうにも俺が壊した壁やらの修理は鈴仙がさせられたらしい。
この件に関しては俺が悪いな・・・・・・
そう考えて鈴仙に頭を下げると輝夜がおかしな物を見たといった表情で尋ねてきた。

「あれ?何でアスカが謝ってるの?」
「いや、壁の修理とかゲレゲレにさせちまったんだろ?
アレ壊したの俺なのに」
「へ?」「え?」「は?」

鈴仙がいまだ涙する中、俺からの返答で輝夜たちが三者三様に呆けた表情で固まってしまった。
その中からいち早く脱した永琳が口を開く。

「壊したって・・・扉と壁を粉砕してたんだけど・・・・・・あなたが?」
「ん、まぁそうだが・・・悪かったなゲレゲレ」
「そう思うんならその呼び方を止めてください~」
「それとこれはべつだ」
「ひどい~~~」

鈴仙はそのまま泣き崩れてしまった。
そんな中、次に再起動を果たした輝夜が口を開いた。

「ちょっと待ってよアスカ!
ただの人間がどうやったらあんなことできるのよ!!」
「ん~、長年の修行と投薬、後は・・・気合?」
「何で疑問系なの!!
ねぇ、えーりん。これって私がおかしいの」
「いえ、姫様がおかしいと言うよりもアスカがおかしかったんでしょうね」
「永琳さん、随分酷いこと言いますね」
「それが事実ですから」

腕を組んだ永琳はそうやってきっぱりと言い切った。
まぁおれ自身も最近は人間離れしてきたかな~とは思っていたが・・・・・・とは言え人間だがな。
とりあえずこれからは少し自重しようと考えた俺はそのまま鈴仙を宥めるのだった。

回想終了


あの後は本当に大変だった。
鈴仙は泣き止まないし、てゐは余計に煽って泣かせるし・・・その後、慌てて宥めてたが。
輝夜からは壁の修理の代わりに当分の遊び相手を命令されるし、永琳からは新しい薬品の被検体にされるし。
特に永琳の薬の被検体はやばい・・・二度と御免だ。
今思い出しただけでも身体の震えが止まらない・・・・・・
まぁこんな事はさっさと忘れることにしよう。
そう考えを纏めた俺は、迷いの竹林上空を永遠亭まで飛んでいくのだった。

<おまけ 少し未来の『幻想郷縁起』>

妖怪の項

名前     黒陽
能力     常識に囚われない程度の能力
人間友好度  高
危険度    低
主な活動場所 人里
二つ名    とんでも元人間一号

解 説
 人里の守護者にして一道具店の警備員と言うなんとも変わった肩書きを持った妖怪がこの黒陽だ。
 彼は元は人間だったらしいのだが、ある事件をきっかけに妖怪に変じてしまったとか・・・波乱万丈な人生である。
 そんな彼であるが見た目は触角が生えているだけで人間とほぼ変わらず元から住んでいただけに人里においても
 人気者である。
 ただ、どういうわけか私の古い記憶、阿一時代の記憶の中に彼とそっくりの人物がいるのはどういう訳か、その
 謎はいまだ解明できていない。
 なお、彼の相方である影月さんは虫の妖怪、リグル・ナイトバグと交際中とのことである。

目撃例

「食い逃げした妖怪を捕まえるのを手伝ってもらった」
                     うどん屋店主
                     流石は警備員である。
「屋根の上で変な踊りをしていた」
             匿  名
           何かの儀式かもしれない、邪魔をしないように。
「知らない青年に頭を下げていた」
             匿  名
           旦那と呼ばれる人間に頭が上がらないようだ。
                                           著 稗田阿求
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
とうとう普通の人間、魔理沙さんが登場しました。
香霖堂が建っている時点で物心付いてたらしいし・・・このぐらいは赦されるよね?
後、B.Bやってたら急に必殺技のイメージが。

では、次回予告をお願いします。
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香霖堂の創立記念?・・・これを読めばいいのかな

平和な日々が続いても、
それが崩れるのはいつも突然。
友が倒れたとき、
家族もまた・・・・・・

次 回
 「なぜかスペカイメージにB.Bのテイガーが入ってきた」
                  こーりん、これ読んでー by.魔理沙



[10620] 戦いの組み合わせに悩む作者がいた
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/01 20:57
何かが起こるのはいつも唐突だ。
そんな唐突な出来事は基本的に良くないことばかりだ。

今日は朝からあまり天気がよろしくない。
まぁ、そんな日だからこそルーミアは喜んで外に遊びに行ったのだが・・・雨が降り出さないといいが。
そう考えていると家の扉が激しく開く音が響き、黒陽が飛び込んできた。
飛び込んできた黒陽は方で大きく息をしながら顔を青くし息も絶え絶えに口を開いた。

「はぁ、はぁ、旦那、はぁ、助けて下さい、はぁ、んく、影月が、影月が!!」
「なに?とにかく落ち着け黒陽、深呼吸を一度しろ」
「そんな場合じゃ「いいから!」っつ!・・・・・・すぅ、はぁ、すぅ、はぁ・・・・・・」
「よし、もう落ち着いただろう。影月がどうしたんだ?」
「影月がリグルを庇って重症なんです。助けて下さい、旦那!」
「すぐ案内しろ!」
「うっす」

黒陽からの報告はとんでもないものだった。
あの影月が重症・・・何があったんだ。
俺は持てるだけの薬を荷袋に詰め込むと黒陽の案内の元、すぐさま人里へと走り出した。


所変わって人里にある黒陽と影月の家。
その一室では体中に包帯を巻いた状態で寝ている影月とそれを泣き腫らした目で看病するリグルがいた。
リグルは意識の無い影月が苦しそうな呻き声をあげるたびにその目に涙を溜めて心配そうにしている。
そこへ二人の青年、黒陽とアスカが慌てて入ってきた。
黒陽は飛び込んだ勢いのままリグルへ影月の容態を尋ねた。

「リグル、影月は?!」
「苦しそうだよ~、早く助けあげて~」
「っち、影月!旦那が来てくれたからもう少しがんばれよ!
旦那、お願いします。影月を助けて下さい」
「任せろ!」

そう言ってアスカは治療のために包帯を外し始めた。


「(なんだ?この傷は・・・)」

影月の治療を始めて数分・・・・・・
重症には違いないのが、幸か不幸か手持ちの傷薬で十分回復させられるほどだった。
ただ、影月の傷口は全て鋭利な刃物による刺傷か切り傷・・・・・・妖怪の攻撃でこんな傷が付くはずは無いんだが・・・
そう考えると、影月に包帯を巻きなおしリグル、黒陽の二人に向かって口を開いた。

「とりあえずはこれで大丈夫だ。
暫くすれば傷一つ残らないはずだぞ」
「あ、あ、ありがどうごじゃいます、あずがざん~」
「旦那・・・本当にありがとうございます」

俺からの言葉を聞くとリグルは影月の傍でそのまま安堵に泣き崩れてしまった。
黒陽のほうも一安心と言うように息をついている。
俺は先ほどの疑問と事の経緯を確認するために改めて黒陽に話しかけた。

「それで、黒陽。何で影月はこんな状態に?」
「それが影月はリグルを助けてこんな状態に・・・・・・」
「リグルを?今更妖怪同士で争う事なんかあったのか?」
「それが・・・攻撃してきたのは人間だそうです」
「余計に意味が分からん。人間が妖怪を襲うとか・・・まだ妖怪退治屋っていたか?」
「いえ、俺もリグルから聞いた話になるんではっきりとは分からないんですけど、「自分達の手下になれ」みたいな事を言われたらしいです」
「ふむふむ」
「当然リグルはそんなのに従うわけも無く断ったんですけど、そしたら無理やり従わせようと・・・・・・」
「ちょっと待て、ならなんでリグルじゃなくて影月が?」
「ひっく、それは、えぐ、影月さんが、ひっく、私を庇ったから、うぇ~ん」

俺の疑問に涙交じりで答えたのはリグルだった。
リグルはそのときのことを思い出したのか再び泣き崩れてしまっている。
俺は黒陽へと顔を向けると黒陽は頷きながら話を続けた。

「・・・リグルの言うとおりです。影月の奴、いつものようにリグルの所に行ったらちょうどその場面に出くわしたらしくて」
「リグルを庇いながら逃げてきたのか」
「はい、無茶しやがって・・・・・・」

そう呟いた黒陽の顔は悔しげに歪んでいる。
場の空気が重くなっていく中、最後に必要なことを確認するために俺は黒陽に声を掛けた。

「なぁ、黒陽」
「なんですか旦那?」
「影月とリグル襲ったの・・・どんな奴だ?」
「リグルの話では今まで見たことの無いやつらしいです。
銀髪にエプロンドレス姿の女って話ですけど・・・それが何か?」
「分かった、影月はしっかり休ませとけよ」
「だ、旦那?!何処に行くんですか?」
「決まってるだろ・・・・・・影月をそんなにした奴を潰してくる」
「分かりました、俺は念のために里の守護につきます。
ですから旦那・・・影月の仇、お願いします!」

黒陽からの言葉に俺は特に返事することなく手だけ振って答えると一度妖怪の山へと戻った。
このまま闇雲に探してもしょうがないので天魔達の力を借りるためだ。
そうして天魔の元へ向かってみると、予想外のメンバーが集まっていた。
その場に集まっていたのは、天魔、紫、茜、田吾作、大天狗達である。

「どうしたんだ、こんなに集まって?」
「アスカ様、いままでどちらに?!
いま大変なことになってますよ」
「あっちこっちで大騒ぎでやす」

俺の言葉に返事をしたのは茜と田吾作。
その場にいる全員が真剣な面持ちでいる以上、冗談では無いようだ。
俺は天魔の近くまで行くと返事を返した。

「人里に少し用事があってな。
天魔、何があったんだ?」
「うむ、詳しい説明は紫殿がしたほうが良かろう」
「紫が?」
「アスカ。あなたの言っていた嫌な予感が当たったわ」
「なに?」
「とりあえず話すことは二つあるんだけど、どっちから聞きたい?
嫌な予感の件か・・・もう一つの悪い知らせか・・・」

俺が紫の言葉を怪訝に思っていると紫は選択肢を出してきた。
あまりどちらも聞きたい話ではないのだが・・・・・・

「まずは嫌な予感のほうから頼めるか」
「いいわ。あなたの話を聞いてから私のほうでも色々と調べてみたんだけどはっきり言えば何も問題なし。
杞憂以外の何物でもないと考えていたわ。
でも、それは違った・・・私も迂闊だったわ。
妖怪が人を襲わなくなることで妖怪はその存在する意味をなくし始めたの」
「存在する意味?」
「存在意義と言っても良いわ。
妖怪は人を襲うもの・・・・・・本来なら、あるべき妖怪の行動を封じたせいで力の弱い物から弱体化が始まっていたの」
「なるほど・・・それは一大事だ」
「えぇ、今はまだ低級の妖怪たちですんでるけどこの歪みが大きくなれば私達もその力を失うことになるわ」
「あぁ・・・それで、もう一つの件と言うのは?」

紫の言葉に納得した俺はもう一つの件に関してもたずねた。
すると紫はその身体から怒気を滲ませながら語り始めた。

「・・・宣戦布告よ」
「なんだと?」
「最近外の世界からやってきた妖怪、吸血鬼が山に宣戦布告をして幻想郷の支配に乗り出したの」
「何をバカな・・・」
「事実なんです、アスカさん」
「あっしら河童や天狗たちも従わない者は問答無用で叩き潰されてるでやす」
「今回の集まりはそれが発端なのだが・・・そう言えばアスカ殿はなぜ人里へ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「アスカ?」

俺が黙っていると紫がどうしたのかと言うような表情で覗き込んでくる。
それに対して俺は一度深呼吸をしてから返事を返した。

「すぅ、はぁ・・・、悪い、俺が人里に行ってた用件だよな?
ちょうどその件だ」
「ちょっと!人里が襲われたの?!」
「いや、襲われたのは人里の外に出ていた俺の友人だ」
「あ、確か・・・黒陽さんと影月さんですよね。人里で守護者をやってる」
「あぁ」
「あなた、意外と顔が広いのね・・・・・・それで?」
「人里自体はまだ襲われてはいなかったが、その様子だと時間の問題だろうな」
「そうね・・・天魔、あなたはこのまま妖怪の山を纏めといてくれるかしら?」
「それは構わんが・・・どうする気だ?」
「幻想郷は誰も拒まないわ・・・ただし、それを荒らすのならその分代償を取るだけよ」
「承知」
「アスカはどうするの?」
「俺が黙ってるとでも?」
「それもそうだったわね・・・・・・」
「それならアスカ殿、天狗からも何人かお連れ下さい。
ちょうどいい、茜。部下と共にアスカ殿について行け」
「分かりました」
「助かる。天魔、茜」
「あっしも行かせて貰うでやすよ。盟友を助けない河童なんていないでやす」
「すまんな、田吾作」
「それじゃあ、詳しいことはまた後で・・・アスカの家でいいわよね?
アスカの家で話しましょう」
「了解、先に戻っておくぞ」
「あっしも付いて行くでやすよ」

俺はそう告げるとその場を後にした。
その後を田吾作が言葉通りについてくる。
家までの道筋、田吾作が口を開いた。

「それにしても、いきなり支配するとか何を考えてるでやしょうか、吸血鬼とか言う妖怪は?」
「さぁな~、案外何も考えてないのかもな。
まぁ、やることは変わらないがな」
「ん?何でやすか?」
「叩き潰す・・・話はそれからだ」
「怒ってるでやすね~」
「影月はかなり古い付き合いだからな」
「そうでやすか」

田吾作とそんな話で盛り上がっているといつの間にか家まで辿り着いていた。
いつの間にやらと言って田吾作と笑い合うとふと食事を作ってなかったことを思い出した。

「やべ、飯の用意してなかった」
「あちゃ~、ルーミアちゃんお腹すかしてるでやすよ」
「だよな~、とりあえずは先にそっちの用意からしないとな」

そうやってもう一度田吾作と笑い合うと家の扉を開けた。

「ルーミアー。悪い・・・」

そうして中に入ると・・・

「今、ごは・・・ん・・・・・・?」

ルーミアが血塗れで倒れていた。

「ルーミア?・・・ルーミア!!」
「どうしたんでやすか?・・・ルーミアちゃん?!」

俺は慌ててルーミアの傍に駆け寄るとその身体を抱き上げた。
後ろからは田吾作も慌てて駆け寄って来る。
抱き上げ何度か揺さぶるとルーミアは閉じていた瞳をあけて口を開いた。

「あ、アスカ・・・ただいま~」
「そんなのいいから、この傷・・・一体どうしたんだ!!」
「わは~、痛かったけど・・・知らない・・・・・・人、付いて・・・いか、なかった・・・よ」

そう告げたルーミアは再びその瞳を閉じた。
その様子に俺は慌ててその身体を揺さぶった。

「ルーミア?!ルーミア!!
返事を、返事をしろ!ルーミア!!!」
「アスカ様、ダメでやすよ!
手当てもしないうちからそんなにしちゃ!!」

後ろから田吾作に止められてやっとそのことに考えが至った。
そうだ、手当てを先にしないと。
其処からは田吾作にも手伝ってもらいながらルーミアの手当てをし、布団へと寝かした。
ルーミアの傷口は影月と同じように刃物での刺傷と切り傷だった。
つまりは同じ奴に・・・・・・
うなだれた状態でそう考えていると、スキマから紫、茜、そして茜の部下の才と塁がやって来た。

「あら・・・何かあったの?」
「・・・・・・ルーミアがやられた」
「ルーミアちゃんが?!
だ、大丈夫なんですか!!」
「才、落ち着いて・・・アスカ様、ルーミアちゃんは」
「大丈夫、結構酷い傷だったがちゃんと治る」
「「よ、よかった~」」

才と塁はルーミアの話を聞いてから慌てていたが俺の言葉を聞いて安心したように座り込んでしまった。
その様子を一通り見ていた紫が俺に話しかけてくる。

「アスカ・・・あなたは大丈夫?」
「大丈夫だ。それよりも紫」
「何かしら」
「奴らの中に刃物を持った女がいたら手を出すな・・・」
「・・・理由を聞いても」

紫が俺の言葉に関して理由を聞いてきた。
それに対し俺は俯いていた顔を上げ短く分かりやすい答えを返した。

「そいつは俺の獲物だ」


<おまけ>

田吾作とにとり

「あれ、おっちゃん。なにしてるの?」
「にとりでやすか。明日、アスカ様を手伝いに行くでやすよ」
「手伝いって・・・おっちゃん?!あの館に行くの!!」
「そうでやす」
「ちょ、むりだよ。おっちゃんほとんど戦えないじゃんか!」
「そうでやすな~。今のままじゃ全く戦えないでやすな~」
「それなら「それでも」っへ?」
「あっしは行くでやすよ。一人の友達を助けるために・・・・・・」
「うぅ~、確かに友達を助けないといけないけど、おっちゃんが付いていっても邪魔になるだけだよ~」
「・・・・・・にとり、あっしの二つ名を知ってるでやすか?」
「おっちゃんの?・・・確か『屁の河童』だったよね。それがどうかしたの?」
「聞き方が悪かったでやすな。今の二つ名じゃなくて昔のやつでやすよ」
「昔の?昔は違うのがあったの?」
「・・・・・・あっしの大嫌いな能力と一緒に封印した二つでやす。これを使えば大抵の相手には勝てるでやすよ」
「す、凄いよおっちゃん。何でそんな能力を封印したのさ」
「言ったでやしょう、この能力は嫌いなんでやすよ。この能力のせいで襲わなくても良かった盟友を何人も・・・・・・」
「おっちゃん?」
「そんなに不安そうにしなくても大丈夫でやすよ。この能力はあっしの切り札でやす。
滅多に使う気は無いでやすよ・・・・・・そう、今回のような事でも無い限りは」

田吾作の過去
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
おまけの田吾作が中二病患者に見えたのは作者だけじゃないはずorz
田吾作・・・これ書き始めて一番予想外の存在になっているのはこいつです。
さてと、これで以前貰ったリクエスト結果が使えるぜ。
ついでに、吸血鬼異変はおぜう様が起こした事にしたのでその辺もあしからず。

では、次回予告です。
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っは?!ね、寝てませんよ!!っへ、ちがう?これを読めって??

紅い月に紅い館
戦いに挑むは少数精鋭
その初戦は・・・門前から始まる!!

次 回
 「門番の戦い」
     珍しく寝てないのね・・・ by.咲夜



[10620] 茜VS美鈴+才&塁VSメイド部隊
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/02 21:03
その日は、奇しくも月が紅く輝く晩。
俺は紅く彩られた館を睨みつけると集まった面々に向かい口を開いた。

「よし、それじゃあ確認するが最終目標はこの館に住む吸血鬼に身の程を教える事だ」
「随分と物騒な物言いね、アスカ」
「事実だろ。まずは茜と才、塁。
3人は正面から殴りこみで陽動をしてもらうんだが・・・今更だが、大丈夫なのか」
「大丈夫ですよアスカ様。私に才と塁、伊達に普段から一緒に哨戒任務を行っているわけじゃありませんから」
「そうですよアスカ様。私と先輩が戦闘、塁にサポートしてもらえば怖い物なんかないですよ」
「私も、先輩と才が一緒なら吸血鬼の下僕程度に負ける気はしません」
「・・・分かった。その後に俺と田吾作が正面とは反対、裏のほうから侵入。
館内を制圧しつつ吸血鬼を探す。
俺は別にも狙う奴がいるから問題は無いんだが・・・田吾作も正面のほうがいいんじゃないのか?」
「見くびらないで欲しいでやすよ、アスカ様。あっしは結構やるでやすよ」
「無茶だけはするなよ・・・最後に紫は警護のほとんどいなくなっているはずの吸血鬼のところへ強襲。
この中では一番強いからな・・・頼む」
「頼られるのは嬉しいのだけど、心配はしてくださらないのかしら?」
「必要か?」
「必要ないと思いますけど」
「先輩に同じく」
「才に同じく」
「必要何でやすか?」
「・・・・・・信頼が痛いわ」

俺達の信頼に溢れる返事を聞くと紫は膝を着いてしまった。
こんなにも信頼していると言うのに何が不満なのやら。
とは言え、ふざけるのも此処までだ。
そう考えた俺は一つ咳払いをし5人を見渡した。
5人ともそれぞれが緊張の面持ちで次の言葉を待っている。

「紫、田吾作、茜、才、塁・・・・・・行くぞ!」
「「「「はい(でやす)」」」」「えぇ」

俺の号令で紫はその身体をスキマの中へと消し、茜と才と塁は正面へと走っていく。
その場に残った俺と田吾作は段坊流箱・魔亜苦通に身を隠すと、紅い館の裏から忍び込むのだった。


紅い館の門前、普段ならサボり気味の門番がのんびりと守護を担っているその場所は戦いの喧騒に包まれていた。
襲撃者は3体の天狗と思わしき妖怪。
その実力の高さを瞬時に見抜いた門番はすぐさま館へと伝令を走らせた。

「館の警備部隊を呼んで!
襲撃者3、能力高し!!」

その命令を聞き、館に走るのは以前から館に使える妖精メイド。
その様子を見送った門番、紅美鈴は門番部隊を蹴散らす襲撃者達をにらみつけ、そのリーダー格へと声を掛けた。

「いきなり攻撃とは・・・やってくれますね」
「突然支配者面して攻撃してくるあなたの主人よりはマシだと思いますけど?」
「まぁ・・・たしかに・・・」

それに言い返してきた襲撃者のリーダー格、茜の言葉につい納得してしまう美鈴。
彼女は門番部隊の相手を才と塁に任せると美鈴の近くまで歩み寄り更に言葉を続けた。

「あなた達には迷惑してるんですよ。
人数的にはこちらが少ないでしょうけど実力差は見ての通り・・・・・・おとなしく降伏しませんか?」
「それは無理な相談です。
これでも一応門番ですし・・・私があなた達全員を倒せばいいだけの話ですから!」
「そう、それじゃあ痛い目を見てもらいましょう!!」

お互いにそう告げると二人はそれぞれの得物を手に身構えた。
茜は幅の広い刀を、美鈴はその拳を。
相手の実力を察したのか、身構えた二人はお互いの出方を窺いながら相手を睨みつけるとそのまま動かなくなった。

一方、才と塁は普段の様子からは見ることも出来ないような奮戦ぶりを見せている。
才は一体何処に隠し持っていたのか、刀に槍に斧にこん棒にと様々な武器を手に門番部隊を蹴散らしていた。
さながら才無双状態である。
その傍らで才の討ち漏らした敵を確実に戦闘不能に追い込んでいく塁。
討ち漏らしを倒し、時には才の隙を埋めるように盾で守る姿は流石は長年のパートナーと言うべき物である。

「行き過ぎだよ、才。先輩から離れすぎないようにしないと」
「ふぅ、そうだね。・・・・・・あれは?」

周囲の敵をあらかた片付け、一息ついた才に塁が注意した時、その変化は訪れた。
敵の増援。
先ほどの門番による伝令が届いたのだろう。
館から新たな敵が勢いよくこちらに向かって飛んでくる。
その数は先ほどまで相手をしていた門番舞台よりも多く、様子を見る限りでは実力のほうも高そうである。
才はやや顔を引きつらせながら塁へとたずねた。

「ねぇ、塁。これ、先輩のとこまで戻れる?」
「戻れるかもだけど・・・先輩はあの門番の相手が忙しそうだし、これ引っ張って行ったら邪魔にしかならないね」
「だよね~」

そう言って才が茜へと顔を向けると、茜と美鈴が激しくぶつかりあっていた。
あそこに敵を連れて行ったら確かに邪魔にしかならないだろう。
才は一つ頷くと塁に声を掛けた。

「ねぇ、塁。これは・・・下がれないね」
「そうだね、才」
「もっと、がんばらなくちゃね」
「そうだね、才」
「よし、それじゃあ行こう。塁、私に続け~~~~~!!」
「いっくよ~~~!!」

そう雄たけびを上げると、才と塁は敵に向かって突撃していった。
戦いは厳しくなるがそれは望むところであった。
彼女達の役目は陽動、雑魚敵を集める事こそが彼女達の役目なのだから。

その雄叫びを耳にした茜は美鈴との距離をあけると、才と塁の方へ目を向けた。
ちょうど新しく現れた敵の群れを才が蹴散らしているところで随分と頼もしくなった部下に笑みがこぼれてしまう。
しかし、そんな隙を美鈴が見逃すはずも無く、すぐさま殴りかかってきた。

「この状況で余所見とは、随分と余裕があるんですね」
「当然。私達は誇り高き白狼天狗。
あなたの様の木っ端妖怪とは実力が違うんですよ」
「言ってくれますね・・・・・・ならその木っ端妖怪の足元にひれ伏させて上げますよ!」
「冗談じゃない!」

お互いにそう叫ぶと剣と拳がぶつかりあった。
驚いた事に美鈴の拳は切れることなく茜の刀を受け止めている。
驚きに固まってしまった茜に美鈴はそのまま刀をはじくと無防備な体に向かって蹴りを放つ。
茜は慌ててもう片手に持っている盾でそれを防いだものの、美鈴の蹴りの威力に後ろへとはじかれてしまった。
その様子に美鈴は呆れたように言葉を発した。

「今のを防ぎますか・・・・・・これでも体術には自信があるんですけどね~」
「っつ~、それはこっちが言いたい!どうやったら拳で刃物をはじけるんだ!!」
「気の力を使えば余裕です」
「なによそれ!!」

美鈴の言葉に反応して茜が大声で反論するも意味が分からない理由を告げられ頭を抱えてしまった。
美鈴はそんな茜に構うことなく自慢気に説明を始めた。

「私の能力は『気を使う程度の能力』ですからね~、並みの刃物じゃ傷一つ付きませんよ。
と言うわけで早く降伏しちゃってください」
「それじゃあ並みじゃない刃物を使ってあげますよ・・・・・・」

胸をそらしながら能力自慢をする美鈴に対して茜は据わった目で言葉を返した。
その声色に美鈴は顔色を変えて構えなおした。
そんな様子に構うことなく茜は更に言葉を続ける。

「本当でしたら体力を温存しておきたかったんですけどあなた相手には少し難しそうですね」
「ほ、ほほぉ・・・今まで手加減していたとでも?」
「まさか、間違いなく全力でしたよ」

茜は美鈴の言葉に首を振りながら答えた。
すると先ほどの宣言はなんだったのか、美鈴が更に警戒の色を深める中、茜は話を続ける。

「全力でしたが体力の消費を抑えるために能力を使わなかったんですよ」
「能力?」
「えぇ、私の能力は白狼天狗にしては珍しすぎる物で使うのに体力がいるんです」
「それはまた、ご愁傷「その代わりに」・・・」
「その分だけ凶悪になってしまうんですよ」

そう笑いながら告げる茜の足元には小さな竜巻が一つ発生していた。
美鈴はその様子に威圧され動きを止めてしまったが茜にとってはそんな事関係ない。

「それじゃあ、私の能力『暴風を作り出す程度の能力』をその身に刻んでください。
受けろ、『二匹だけの鎌鼬』」
「不味い、『彩光乱舞』」

二人の宣言でぶつかりあう二つの竜巻。
片方は美鈴の作り出した美しく彩り溢れる竜巻。
もう片方は茜の作り出した真っ黒の竜巻。
暫くぶつかりあった竜巻が消えるとその場には体中に小さな裂傷を作った美鈴が蹲っていた。
美鈴は痛みで顔を歪めながらも立ち上がり茜に向かって口を開いた。

「いたたたた・・・、いきなり大技とはやってくれますね」
「それを防いどいて何を言っているのやら・・・」
「その目は節穴ですか?この体中の傷が見えないんですか」
「本当ならバラバラの挽肉にできるのに・・・」
「ちょ、なに物騒な事を言ってるんですか!!」

美鈴は茜の言葉に大声で反論しているが茜は小さな裂傷しかない美鈴に不満そうなため息を吐いている。
茜が不満に思っているこの結果は美鈴の技が茜の竜巻に対して防御と相殺を同時に行ったが故の結果であり、
もしも他の技で迎撃していれば茜の宣言どおり・・・とまでは行かずともかなり近い状態になっていたはずである。
そのことに気付いている二人はお互いの挙動を警戒していた。
美鈴は同じ技が来た瞬間にその隙を付けるように、茜は大技を使った反動で予想以上に体力奪われた事に。
茜は油断無く美鈴を睨みつけながら声を掛けた。

「あなた・・・名前は?」
「紅魔館の門番『紅美鈴』です。そう言うあなたは?」
「妖怪の山、哨戒第三班隊長『茜』です。
美鈴、今からでも投降する気はありませんか?」
「無理ですよ。私はこの館のお嬢さまに命を助けてもらった身。
それを裏切るつもりはありません」
「そうですか、残念です。あなたとは何となく仲良くなれそうな気がしたんですが・・・」
「あっ、それ私もですよ。奇遇ですね~」
「本当に」

二人はそう言い合うと構えを崩さないままお互いに笑い合った。
そして、笑い終えると再びその顔を引き締めた。

「では、その見に暴風の刃を刻んでください!」
「ならば、大陸の拳がお相手をしましょう!!」
「「いざ、参る!」」

そう宣言した二人はそれぞれの得物、刀と拳を振り上げ相手へとぶつけた。
二人がぶつかりあった瞬間、その場からは風と光が溢れ、離れた戦場にいた才、塁、そして他の部隊もその光景に目を奪われた。
風と光が収まり、立ち込めていた砂煙が晴れたとき・・・そこにいるのは。


少し時を巻戻して・・・・・・

「うりゃ~~!!」
「才、危ない!もう少し気をつけて」
「ありがと、塁。今霊弾を撃ってきたのはお前か~!!」

新しい敵の警備部隊、EXメイド部隊の中に突撃しても才無双の勢いはとどまるところを知らなかった。
EXメイド部隊も遠距離から霊弾を撃つなどして反撃してはいるものの、
才自身が迎撃してしまうか塁の盾によるサポートのせいでまともな攻撃が一つも通っていない。
しかし、そんな才も体力が無尽蔵にあるわけではなくその呼吸はかなり荒くなっていた。
そもそも、彼女が此処まで無双が続けられたのは塁のサポートが合ったが故であり、
塁のサポートが無かったならとっくの昔に体力切れか袋叩きにあっていた。
そんな才のサポートに徹した塁は才よりも消耗が激しかった。
自分に向かってくる攻撃よりも才の防御を優先させていたために急所に当たらない攻撃はあえて受けたものすらある。
そんな状態をEXメイド部隊は見逃さなかった。

「みんな、あっちの盾持ちから先にやるよ」
「なっ!塁はやらせないよ!!」
「才、待って!」

塁の静止の言葉も聞くことなく才はEXメイド部隊へと突撃して行った。
こうなるとEXメイド部隊にとってはしめたものでそれぞれの確固撃破へと作戦を変更させる。
当然塁もその事にはすぐに気が付いたものの、時既に遅く完全に才と分離されてしまった。
そんな時に門の方向、茜と美鈴の戦っている所から凄まじい風と光が届いた。
その光景にその場にいた全員が目を奪われる。
そして、風と光が収まった時。

「「せ、先輩!!」」
「「「美鈴様!!」」」

<おまけ>

侵入者達

「初めてのおまけだ・・・」
「何言ってるんでやすかアスカ様」
「いや、なんか言わないといけないと思ってな」
「そうでやすか。でも、声は漏れちまいやすから気をつけてくやさい」
「了解」
「しかし・・・さっきまでバタバタしてた給仕が全員いなくなったでやすね」
「茜達がうまくやってくれたんだろうな」
「そうでやすね。・・・みんな無事だと良いんでやすが」
「あいつらなら大丈夫だろ」
「・・・そうでやすね」

段坊流箱・魔亜苦痛を被っての会話
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後書+次回予告

どうも、暗黒面のお手玉の中身です。
再会やアスカ無双が待ち望まれた中、それを平気で裏切る。
それこそが暗黒面のお手玉の中身。
ちなみに、塁の能力ですが・・・結局決まらなかったorz
なるべく元ネタにあわせようとしたらどうしてもチート性能にしか・・・

では、次回予告です。
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次回予告?そうね、出番もない事だし・・・折角だからやってあげるわ。

無事紅魔館内部へ潜入したアスカと田吾作
二人は別れて目的を果たすべく進みだす
そして、その行く手を遮るメイド服と図書館の主

次 回
 「美鈴たちの勝負の行方はもう少し先で」
            存外にちゃんとした次回予告になった by.kami



[10620] 田吾作の技名で2Pが思い浮かぶのは作者だけじゃないはず
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/03 21:09
「戦闘可能なメイドは速やかに門前へ急行せよ!!」
「館の中は?」
「メイド長が残られるから平気よ。だから急いで!」
「「「はい!」」」

遠ざかっていく足音と羽音、周囲にも気配は無いし・・・どうやら行ったようだ。
俺は段坊流箱・魔亜苦痛を脱ぎながら同じように脱いでいる田吾作へと声を掛けた。

「流石は段坊流箱・魔亜苦痛だな。全く気付かれなかった」
「あっしもこれほどとは・・・流石は段坊流箱でやす」

田吾作自身も段坊流箱・魔亜苦痛の効力を自分で試すのは初めてだったようで、その効果に驚いているようだ。
そんな田吾作に苦笑した俺は、気を引き締めなおして話を続けた。

「田吾作、俺はこのまま上のほうに向かうからお前はこの階層、もしくは此処から下のほうへ行ってみてくれ」
「了解でやす・・・・・・アスカ様」
「ん?」
「ご武運を、でやす」
「あぁ、お前もな」

そう言い合った、俺と田吾作は二手に別れた。
それから数分、俺は階段を上がり二階の廊下を探索している。
窓も無い廊下は随分と長く端にたどり着くだけでも数分かかりそうだ。
しかし、なんとも悪趣味な内装だろう。
俺はそんな事を考えながら辺りを見渡してみる。
あたり一面は赤、赤、赤・・・完全に赤一色な上に窓も無い物だから目を休める事もできない・・・目が痛くなりそうだ。

「こんな館に住んでるのはよっぽど趣味が悪いんだろうな・・・
なぁ、あんたもそう思うだろ?」

館の内装に辟易していると、正面から誰かが近づいてくる気配を感じたのでそのまま話しかけてみた。
話しかけた相手は銀髪にスカートの短いメイド服の女性・・・・・・これは、ひょっとするか?
そう考えていると女性はこちらに向かって口を開いてきた。

「この内装は私の主人の趣味ですのでメイドである私の身からはなんとも」
「それは暗に趣味が悪いって認めてるよな?」
「さぁ、どうでしょうか?」

女は誤魔化すように首を振りながら答えた。
そしてこちらを睨みつけると詰問するように尋ねてきた。

「それで、あなたはどちら様でしょうか?
今宵、当館にお招きしたお客様は誰もいないはずなのですが」
「さぁ、誰だと思うよ」
「ふむ・・・」

俺の言葉に女は少し考えるような仕草をすると、

「愚かな侵入者ですね」

いつの間にやら手にナイフを持ち、その先端をこちらに向けながら答えた。
銀髪、エプロンドレスはメイド服か・・・それに刃物で女、どうやらこいつで当たりみたいだな。
俺は女から視線を外すと念のために最後の確認をしておく事にした。

「なぁ、もう一つ聞いても良いか?」
「・・・なんでしょうか」
「最近、触角の生えた男と黄色の髪の小さな女の子を襲ったか?」

俺がそう尋ねると女は呆気に取られたような表情を作り、探るような目つきで答えた。

「襲ったとは人聞きの悪い・・・少しだけ私のお願いを聞きやすいようにしただけですよ」
「なるほど」

決まりだ。
女は怪訝な表情で更に尋ねてきた。

「それで、それがd「黙れ・・・」?!」

女が何か尋ねようとしていたが聞く気は無かった。
俺は女を改めて睨みなおし一言だけ告げた。

「殺す」



一方その頃・・・・・・
田吾作は大量の本が棚に納められている部屋、図書館のような場所を探索していた。
その蔵書の数々は貴重な物からくだらない物まで様々で、こんな時でもなければ発明の足しにする為にも是非読んでみたい物ばかりだった。
そう、彼の目の前にいる女性が現れていなければ。

「それで、私の図書館に無断で入って来たあなたはどなたかしら?」

羽織っている大きめのガウンをはためかせながら尋ねてきたのは、
紫色の長髪を所々リボンで纏めナイトキャップのような帽子に三日月のアクセサリーを付けた女性、『パチュリー・ノーレッジ』
彼女は館の者以外が訪れる事のなかった図書館への侵入者に顔をしかめ、プレッシャーをかけている。
それに対する田吾作はいつの間に羽織っていたのやらいつものネクタイを結んだカッターの上から白衣を翻し、
プレッシャーを受け流すように軽く手を振りながら言葉を返した。

「いえ、あっしは怪しいもんじゃありやせんよ。あっしは河童の田吾作って言うんですがね、ちょっとこの館のご主人に用があってきたんでやすよ」
「レミィに?」
「レミィ?それが此処の主人の名前でやすか?」
「『レミリア・スカーレット』、紅魔館の主にして私の親友でもある吸血鬼よ」
「ほほぅ、ご友人でやしたか」
「だとしたら河童?・・・でいいのよね。河童の貴方がレミィにどんな用件があるの?」
「いやですね、突然やって来たと思ったらいきなり攻撃してきたんでちょっとばかし文句を言おうかと思いやしてね」
「あぁ、レミィの『偉大なるスカーレット計画』ね・・・」
「・・・・・・何でやすか、その微妙な名前の計画は」

パチュリーは田吾作の来館目的を聞くと納得したように呟いた。
田吾作は呆れながらその内容について聞き返すと、パチュリーも頭が痛いと言わんばかりに首を振りながらため息をついて答えた。

「ふぅ・・・偉大なるスカーレット計画、早い話が周囲にいる妖怪があまりにも貧弱だったからレミィが支配しようとしているだけよ。
安心していいわ、レミィに従っていれば問題なんか起こらないし、貴方みたいな貧弱そうな妖怪でも庇護してもらえるわよ」
「それは、また・・・ずいぶんと言ってくれやすな・・・」

パチュリーは親切のつもりか田吾作へとアドバイスをしたが田吾作にしてみれば侮辱でしかなかった。
事実、田吾作の額には青筋がくっきりと浮かんでいる。
田吾作は気持ちを切り替えるように咳払いをするとパチュリーへ質問した。

「まぁ、庇護云々は置いておくとしてでやす、この館の主・・・レミリア・スカーレットでやしたか?
とにかく吸血鬼は何処にいるでやすか?」
「・・・それを知ってどうするつもり」
「最初に言ったでやしょう。文句を言いに来たって」

田吾作の言葉を聞いたパチュリーは数秒ほど何かを考えるように目を瞑ると、田吾作を哀れむような目で見ながら口を開いた。

「文句?貴方が?
とてもじゃないけど貴方のような木っ端妖怪ではレミィの相手にはならないわよ」
「本当に・・・言ってくれるでやすな」
「事実でしょう。まぁ、レミィの敵なら此処で消しても問題ないわよね」

パチュリーはそう言うと、手に持った魔道書を開き呪文を唱え始めた。
それを見た田吾作は背中の鞄より幾つかフラスコを取り出し、それをパチュリーに投げつけながら叫んだ。

「それなら、その木っ端妖怪にやられるがいいでやす。
特製『パイナップル』でやす!!」
「~~~・・・火の術『アグニシャイン』」

田吾作の道具とパチュリーの魔法がぶつかった瞬間、爆発の轟音と爆風が周囲に吹き荒れた。
その様子にパチュリーは少し驚いたような表情を作って口を開いた。

「まさか私の魔法が相殺されるなんて・・・」
「けほっ、失敗したでやす・・・パイナップルじゃなくてココナッツを使うんでやした」

パチュリーの言葉に反応するように声を発したのは煙の中から咳き込みながら現れる田吾作だった。
田吾作は爆風による煙にむせて咳き込んではいたものの、その身には傷一つなかった。

「しかし、たったアレだけの時間でこれほどの魔法を使えるとは・・・恐ろしい魔女でやすね~」
「その魔法を打ち消しておいて何を言うのかしら・・・貴方、危険ね」

そう告げたパチュリーの顔には先ほどまでの余裕の代わりに田吾作の一挙一動を見逃さずに観察しようとする魔女の顔に変わっていた。
田吾作もパチュリーに対する評価を改め、自分の荷物からこの戦いに勝つ方法を計算しだしていた。
緩やかに時が流れる中、先に動いたのは田吾作だった。
田吾作は背中の鞄より試験管とフラスコを取り出すと試験管だけをパチュリーに向かって放り投げた。
パチュリーは放り投げられた試験管を見ながらニヤリと笑みを浮かべた。

「私がその程度読んでいなかったとでも?『スプリングウィンド』
自分の武器で自滅するがいいわ」

パチュリーの宣言どおり試験管はパチュリーが起こした風に流され田吾作の足元で砕け散った。
すると今度は田吾作がニヤリと笑い、続けざまにフラスコを投げつけた。

「それをあっしが予想しなかったとでも?こいつは魔力分解薬でして、簡単に言ってしまえば魔法の効果を軽減する薬品でやす。
そして今投げたフラスコが・・・なに!」

田吾作の投げたフラスコはパチュリーに届く前に空中で砕けその周囲を白く霜で覆い尽くしてしまった。
パチュリーはその光景に一息つきながら口を開いた。

「なるほどね・・・先に当たっても当たらなくても問題ない道具でけん制しこちらの呪文を封じる・・・か・・・」
「驚いたでやす。風を起こした後にすぐに別の呪文を使っているとは・・・」

二人はお互いの実力の高さを改めて知り、感嘆のため息を吐いた。
パチュリーは田吾作の先を見据えて攻撃を仕掛けた先見能力を、田吾作はパチュリーの詠唱速度の速さを。
となると、どれほどの能力か確かめてみたくなるのが研究者の性。
パチュリーは魔法の研究、田吾作は発明の研究・・・そういう意味ではパチュリーと田吾作は似た物同士であった。

「いいでやしょう・・・それなら今度はこいつでやす!」
「なら私はこの呪文で・・・」

お互いに宣言するや田吾作は荷物から色鮮やかな液体の入ったフラスコ数本を取り出し、パチュリーは先ほどよりも集中した様子で詠唱行った。
そして、田吾作が手に取ったフラスコを全て投げるのと、パチュリーの詠唱が終わるのはほぼ同時だった。

「あっしの最大火力!禁制『スイーツ』」
「~・・・~~火金の術『セントエルモピラー』」

ぶつかりあった道具と魔法は再び大爆発を引き起こした。
最初にぶつかりあった時よりも大きなその爆発はパチュリーでさえ目を背けてしまうほどの爆風を生み出した。
そして爆風が収まると、中から多少煤けているものの五体満足な田吾作が咳き込みながら現れた。

「けへっ、けへっ、まさかの相殺でやす」
「それはこちらの言葉よ・・・となるともっと火力を上げないといけないわね」
「そいつはごめんでやす。
どうやら火力では負けそうでやすから手数で勝負させてもらいやす。
さぁ、その詠唱でついてこれるでやすか?」

そう言った田吾作は怪訝な表情で聞き返してくるパチュリーをそのままに鞄の中から次々と試験管やフラスコを投げつけ始めた。
それを見たパチュリーも負けじと呪文の連続詠唱に入る。

「それ、それ、それでやす。『パイナップル』に『ココナッツ』、『アップル』と『オレンジ』もつけるでやすよ~」
「~~~、『オータムエッジ』『サマーレッド』『フラッシュオブスプリング』っく、間に合わない、水の術『ジェリーフィッシュプリンセス』!」

空中で次々と相殺していく魔法と道具。
しかし、単純な速さでは田吾作の道具を投げるスピードに呪文の詠唱が間に合うはずも無く、
とうとうパチュリーの足的で小爆発が起こり黒い爆煙があがった。
パチュリーは自分の詠唱が間に合わないと見るや爆発と同時に自分の周りに障壁を張りすぐさま新たな呪文を詠唱しながら後ろへ飛び下がった。
それを見た田吾作は好機と言わんばかりにパチュリーへと向かった。

「これで決めるでやす!」
「~・・・~~・・・残念、一歩遅かったわ。金木の術『エレメンタルハーベスター』」
「しまったでやす!」

それに対してパチュリーは既に唱え終わっていた呪文を開放した。
パチュリーの周囲に発生した、歯車上の刃が田吾作を切り刻む。
切り裂かれた田吾作が地に落ちると同時にパチュリーは新たな呪文を田吾作へと放っていた。

「~・・・~・・・~・・・・・・~~・・・~、トドメよ。日の術『ロイヤルフレア』」

パチュリーの手元からは眩いばかりの光が溢れ、倒れた田吾作を飲み込んだ。

<おまけ>
その頃の、紅魔館門

「「あいたたた・・・・・・」」
「「「大丈夫ですか美鈴様(先輩)?」」」
「大丈夫です・・・それにしても、結局引き分けみたいですね~」
「そうですね、私もあなたも体力なんて残ってませんからね」
「全くですよ。EXメイド部隊も戦闘中止、怪我人の治療にあたって下さい」
「良いんですか?美鈴様」
「かまいません。問題があったときは私が責任を取りますし、もう戦う必要は無いようですからね」
「あら、でしたら私達は勝手に入りますけど良いんですか?」
「そんな体力残ってないくせに言わないで下さい。戦っていて何となく分かりました。
あなた達の目的は陽動、つまりはもう誰かが侵入してるんですよね?」
「な、何でばれたんだ~!!」
「ちょ、才!」
「ふぅ・・・えぇ、その通りです」
「でしたらこれ以上の戦闘は無意味ですね。後でお嬢様のところまで案内しますので今しばらく待っていてください」
「分かったわ。
才、塁、今のうちに簡単にでも手当てをしておきなさい」
「「はい、先輩」」
「それにしても・・・お屋敷から響いてくる音はあなた達のお仲間ですか?」
「だと思います」
「派手ですね~」
「そうですね~」

勝負の末
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後書+次回予告

どうも、暗黒面のお手玉の中身です。
田吾作のチート・・・不発。
あえてここで引っ張るのがお手玉の中身なのです。
ちなみに、パチェの喘息は治まっているようなので気にしないで下さい。

では、次回予告です。
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っへ、敢闘賞で次回予告の担当ですか・・・ありがとうございます。

パチュリーの放つ魔術の数々に、
田吾作さんは遂に倒れてしまう。
トドメに放たれたロイヤルフレア!
田吾作さんはどうなってしまうのか?!?!

次 回
 「田吾作さんの爆弾イメージはテイルズのフィリアから」
               塁だけ次回予告・・・いいな~ by.才



[10620] 田吾作のチート能力
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/11 01:59
紅魔館の一室で倒れ伏す白衣の男が一人。
男の名は田吾作。
つい先ほど田吾作の様子を観察している魔女、パチュリーの『エレメンタルハーベスター』から『ロイヤルフレア』と言うコンボをを叩き込まれ、
ピクリとも動かなくなっていた。
パチュリーは暫くの間その様子を眺めていたが不意に顔を背け誰かを呼ぶように口を開いた。

「小悪魔、侵入者を倒したから回収して頂戴」
「・・・・・・それはまだ早いと思いやすが?」
「っっっ?!」

ありえない声にパチュリーが慌てて振り向くと、先ほどまで倒れ動く事のなかった田吾作が平然と立っているではないか。
着ている白衣はエレメンタルハーベスターの影響からかぼろぼろになっているもののほとんどダメージが無いように見える。
パチュリーは混乱しそうになる思考を何とか冷静に留めようとしてると、田吾作がぼろぼろとなった白衣の裾を払いながら口を開いた。

「いやはや・・・凄まじい威力でやすな~。予想を遥かに上回る詠唱速度・・・お陰で完全に食らっちまったでやすよ」
「だとするならなぜ・・・」

田吾作から告げられた言葉にパチュリーは更に疑問を深め、気付けばそれを口から漏らしていた。
それに対し田吾作は笑いながら答えを返した。

「まぁ、運が良かったんでしょうな~。
予め飲んでおいた再生力向上薬『ミラクルキュウリ』のお陰で大体の傷は塞がったでやす」
「なんて出鱈目な・・・それで動かなかったのね?」
「そうでやす、傷口を塞ぐのに予想以上の時間がかかったでやすからな~。
そして、あっしが倒れた拍子に魔力分解薬の試験管が割れたお陰で追加魔法も防ぐことができやした」
「そうだったの」

パチュリーは田吾作の説明に納得したとばかりに頷くと、田吾作の言葉から一つの推測を立ててそれを告げた。

「となると、あなたの武器はもうなくなったわけね?」
「いやいや、まだこのナイフがあるでやすよ?」

田吾作の言葉通り、その手には何の変哲も無い一本の折りたたみ式ナイフが握られている。
しかし、パチュリーにとってみればそんな物はあってないような武装。
白衣を脱ぎ捨てネクタイを緩める田吾作にパチュリーは呆れながら口を開いた。

「あなた・・・そんな武器で魔法に太刀打ちできるとでも?」
「無理でやしょうな~」
「だったら「しかしでやす」・・・」
「あっしの能力を使えばいくらでも勝てるでやす」
「能力?」

パチュリーは怪訝な表情で田吾作へ聞き返していた。
此処までの戦いで確かに能力らしき物は使っていなかったため戦闘用の能力では無いと考えていたからだ。
聞き返された田吾作は苦い物を噛んだ様に顔を歪めながら答える。

「あっしは昔、自分の能力で多くの人間達を捕まえては研究、実験、探求を繰り返してきたでやす」
「それは妖怪として、そして研究者として普通の事では?」
「そうでやすな。でも、あっしは度が過ぎていたでやす・・・ただ人間を、盟友を理解するが為だけに捕らえて、殺して、刻んで・・・・・・
いつしかあっしは同族からも恐れられていたでやすよ」

そう告げる田吾作の顔には深い悲しみの色があった。
それに対しパチュリーは何を言うわけでもなく聞き役に徹している。

「そんな訳で、あっしは自分の探究心を抑えるために能力を封印したでやす」
「心が能力に引き摺られるなんて・・・未熟ね」
「いやはや、手厳しいでやすな~」

パチュリーからの言葉を田吾作は苦笑いを浮かべながら受け止めた。
そして、苦笑いを止めた田吾作の顔には今までと違う狂喜の笑みが張り付いていた。

「でやすから、ここからはあっしの能力、『壱を持って拾を理解する程度の能力』を使わせてもらうでやすよ」
「っ?!「オータムエッジ」」

田吾作の宣言に薄ら寒い物を感じ取ったパチュリーはすぐさま攻撃用の呪文、オータムエッジを撃ち放った。
しかし、田吾作がほんの少し身体を動かすだけでオータムエッジの刃は田吾作の横をすり抜けていく。
まるで田吾作には魔法によって生み出された鋼の刃の軌道がが分かっていたかのような動きだった。
田吾作は笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。

「この呪文は既に理解済みでやす・・・当たりはしやせんよ?」
「っ?!ならこの呪文で、~~・・・~・・・土水の術『ノエキアンデリュージュ』」

しかし、新たに詠唱した呪文でさえ田吾作が狙いを先読みするかのような動きで避けるため当たるどころか掠る気配すらなかった。
それならばと、パチュリーが避ける事のできないロイヤルフレアの様な広範囲呪文の詠唱を始めると、
田吾作はその距離を一気に縮めナイフで切りかかってきた。
それに慌てたパチュリーは詠唱を切り替えようとしたものの、
田吾作の踏み込みのほうが早く手持ちの魔道書を盾にしながら後ろに跳び下がる事で危機を脱した。
パチュリーはあまりの予想外の出来事に息を乱しつつ疑問を口にした。

「はぁ、はぁ、どういう事なの、はぁ、何で私の呪文が?」
「言ったでやしょう、あっしの能力は壱を持って拾を理解するんでやすよ」

パチュリーの疑問に田吾作はその笑みを更に深くしながら答えた。
そして、その意味を理解したパチュリーはありえないと言った表情を作っている。
パチュリーは自分の予想を確かめるために再び口を開いた。

「貴方・・・もしかして呪文が「分かるか、でやすか」っな?!」
「勿論、魔法も詠唱も効果も、そして・・・お前の思考も大半を理解したでやすよ」

パチュリーは自分の問い掛けを田吾作に言い当てられた事に驚いていたが、そこから告げられた事実には声すら失ってしまった。
田吾作の言っている内容はパチュリーの持つ力、魔法やその戦法をほとんど見切ったと言っているのだから。
事実、田吾作の能力はそれが可能である。
壱を持って拾を理解する・・・つまりは僅かの挙動からそれに関係する事柄を理解すると言うのがこの能力なのだから。
今回の戦闘で例えるなら、パチュリーの放った呪文、詠唱の内容、その威力、会話の内容や話しかた、
このような事からパチュリーという魔女を田吾作が分析理解したのである。
それが分かったパチュリーは未だに信じられないと言う顔をして何とか否定の言葉を紡いだ。

「そ「そんな馬鹿なことが出来るはずがない、でやすか」っ?!」
「無駄でやすよ、あんたの思考はほぼ理解できたでやす。
どうやら降参する気もなさそうでやすからここで消さしてもらいやすね」
「っ!貴方みたいな危険な輩をレミィには近づかせない!!~~」

そう叫んだパチュリーが新たな呪文の詠唱を始めると田吾作はその距離を縮めナイフを振るってきた。
パチュリーは呪文の詠唱を止めると魔道書でナイフを防ぐものの、無防備となっていた身体に田吾作の蹴りが突き刺さる。
後ろへ蹴り飛ばされ、消えそうになる意識を繋ぎとめながらパチュリーは素早く展開できる呪文を詠唱した。
田吾作が追い討ちを仕掛けてくる事を狙って。

「『エメラルドシティ』!」

自分の周囲に宝石の柱を作り出す呪文。
田吾作が追い討ちをかけていたなら確実に当たっていたこの呪文も、自分の周囲に相手がいなければ当たる事はなかった。
パチュリーは田吾作が追い討ちをかけなかった事を怪訝に思いながらも新たな呪文を唱えだすと、その瞬間に田吾作はナイフを振るってくる。
そこから田吾作の一方的な攻撃が展開された。
パチュリーの呪文は悉く避けられ少しでも長い詠唱をしようとすると田吾作が飛び込みナイフで切りかかってくる。
時間の経過と共に増えていく身体の傷。
そして、パチュリーの体力と精神力は最早限界となり四つん這いの状態で荒い息をつくしかできなくなっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
「限界のようでやすな・・・これでまた一つお前の事が理解できたでやすよ。
と言うわけで、そろそろ終わりにするでやす」

その様子を観察していた田吾作はそう告げると油断の無い足取りでパチュリーまで近づいていく。
勿論その手にはパチュリーの血が滴るナイフを握って。
その時、上空から大量の魔力弾をばら撒いてパチュリーの元に降り立つ影が一つ。
魔力弾の影響で爆煙の立ちこめる中、パチュリーはその影を確認すると驚きの声を上げた。

「はぁ、はぁ、こ、小悪魔、はぁ、何でここに?」
「私はパチュリー様の使い魔ですから、早くつかまって下さい。
このままレミリアお嬢さまの元まで一旦退きましょう!」
「はぁ、はぁ、悔しいけどそれしかないわね」

そう告げたパチュリーはその顔を歪めながら小悪魔の肩を借り、共に飛んでその場から離脱した。
その後には爆煙の中で蹲る田吾作だけが残された。
田吾作もまた、顔を歪めながらゆっくりと立ち上がると一人呟いた。

「っく、逃げられたでやすか・・・何とかここで決着を付けたかったんでやすが」

呟く田吾作の身体からは血が滴っていた。
再生向上薬『ミラクルキュウリ』・・・聞こえはいいが実際の効果は簡単に傷を塞ぐだけで実際に治っている訳ではない。
そのために田吾作の傷は再び開いてしまったのだ。

「っ、いたたたでやんす・・・。とりあえず何処に行ったかは理解できてるでやすから応急処置だけしてから追いかけるでやんす。
しかし、やっぱりこの能力は使うと気分が悪くなるでやす・・・できるならもう使わないで済むと良いんでやすけど・・・・・・」

そう嘆いた田吾作は傷の応急処置、そして能力の再封印をするとパチュリーを追いかけ始めた。
その先に目的の吸血鬼、レミリア・スカーレットがいることを理解できていたから。
そして誰もいなくなった大図書館・・・。
その奥にある地下へと続く扉から誰もいない図書館へ少女の声が響いた。

「ねぇ、誰もいないの?」


<おまけ>
追いかける田吾作

本当にこの能力は使いたくないでやすな~。
相手の考えている事が理解できてくるうちに段々と更に理解したいと言う気持ちが抑えられなくなるでやすよ。
そのお陰で昔は盟友を理解しようと話して、協力して、友になって・・・ここまでで良かったのに・・・。
更に理解しようと捕まえて、実験して、殺して、研究して・・・それでも理解しきれずに殺して、殺して、殺し続けて・・・。
あっしは自分の欲求のままに能力を振るい続けて・・・理解できないと言う事を理解した頃にはあっしの周りには誰もいなくなってしまったでやす。
寂しかった、寒かった、心細かったでやす。
この能力を封印したからと言って過去が消えるわけでもなくあっしはいつも一人でやした。
どれほど時が流れても、同族ですらあっしと一緒にいようとはしなかったでやす。
そんなあっしの友達になってくれたのがアスカ様でやす。
アスカ様はあっしの過去なんか知らないから友達になってくれたんでやしょうが、あっしはそれでも嬉しかったでやす。
もしも、アスカ様が過去を知りあっしのことを嫌いになってもそれは仕方ないと思うでやす。
ただ、そうなったとしても、あっしがアスカ様を助け続けると思うでやす。
それが、あっしみたいなのと友達になってくれたアスカ様へのお礼になるでやすから。

田吾作の独白
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後書+次回予告

どうも、暗黒面のお手玉の中身です。
田吾作チート・・・作っといてなんだがありえないよorz
今後の活躍はおそらくは無いことでしょう。
そして悩んでいた彼女の扱いも決まりましたし順調順調です。
ただ、カリスマが難しいorz

では、次回予告はあえてこいつらに。
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毛玉A「解せぬ」
毛玉B「然り」
毛玉C「次回予告枠が普通にもらえるとは」
毛玉D「遂に我らの時代が来たのか?」
毛玉E「否、それは違う・・・我らの時代が来たのではない!」
毛玉B「然り」
毛玉A「良き事を言う、毛玉Eよ」
毛玉D「だとするなら一体・・・」
毛玉C「決まっている」
毛玉A「その通り」
毛玉B「然り」
毛玉E「時代が我らを求めたのよ!!」

次 回
 「毛玉物語第二章 天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!」
               くくっ・・・定期的に呼べば力を使うまでも無い by.kami



[10620] 戦闘時に運命操作なんて・・・無粋すぎるよね?
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/11 02:14
紅魔館の一室、一際広いその部屋で二つの人影が睨み合っていた・・・と言うよりも小さい人影のほうが一方的に睨んでいるようだが。
片方の大きな人影は怪しげな雰囲気を漂わす金髪の美女、八雲紫。
もう片方の小さな人影は紅魔館の主にして吸血鬼のレミリア・スカーレット。
レミリアは紫を睨みつけ、自身の淡い水色の髪を撫でると尊大に言い放った。

「つまり貴方が言いたいことはこういうこと?
幻想郷に住むことを拒みはしないが支配する事は許さない。その代わりに食料を定期的に渡す・・・そういうことかしら?」
「えぇ、その通りよ。貴方も支配者ごっこは十分楽しんだでしょう?
このあたりで幕を引くべきだと思うけど」

レミリアの言葉に紫は扇子で自分の口を隠しながら返答した。
するとレミリアは可笑しな事を聞いたと言わんばかりに含み笑いをしながら話を続けた。

「くくっ・・・それは何か冗談のつもりかしら?
なぜ私が貴方のような名も知らぬ妖怪如きの言う事を聞かなければいけないの」

そこまで話したレミリアは一度言葉を切ると全身から怒気を漲らせ、それを紫へとたたきつけた。

「ふざけるな!!
私は紅い悪魔、吸血鬼の『レミリア・スカーレット』
たかだか辺境の地を管理する程度にしか脳のない妖怪の命令を聞く気などない!!」

しかし、そんなレミリアの激昂した様子など歯牙にも掛けず紫はあからさまな侮蔑の嘲笑を浮かべた。

「あらあら、吸血鬼といえども所詮は子供ということね。
相手と自分の力量差も解らないなんて」
「お前・・・殺すわ

レミリアは紫の挑発に全身の怒気を殺気に変え、紫に向かって踏み込むと自身の爪をその体めがけて振り下ろした。
瞬間、部屋に甲高い金属音が響き渡る。
見てみれば、レミリアの爪は紫の持っていた扇子によってその動きを止められてしまっているでわないか。

「っち!」

レミリアは小さく舌打ちをすると大きく後ろへ跳び下がり、自身の魔力から赤い蝙蝠の形をした弾をいくつか作り出すと紫めがけて撃ち放つ。

「サーヴァントフライヤー!」
「ふふっ、青く・・・ないから赤いわね~」

それに対し紫は面白くもないような冗談を言いながら自身の作った弾幕でそれらを撃ち落していく。
撃たれては消えて、消えては撃たれて・・・。
レミリアの赤い弾幕と、紫の青い弾幕が織り交ざり打ち消しあうその様子は見る者を魅了するような光景だった。
もっとも、観客なんてものは最初からいないのだが。
そして、そんな他者を魅了するような光景も当事者・・・主にレミリアにとってはどうでもいいこと。
紫の弾幕に自身の技が撃ち落されていく様子に早くも痺れを切らしたのか弾を作ることを止め、爪を構えると紫に向かって再び飛び掛った。
先ほどよりも早く、鋭い攻撃が紫を襲う。
それに対して紫は手に持った扇子を使い攻撃を捌いていく。
レミリアが鋭く突けば扇子で払い、レミリアが力強く薙げば扇子がその力を受け流す。
たった一本の扇子でレミリアの攻撃をすべて受け流すその様子はまさに強者の余裕といったところだろうか。
とは言え、レミリアとてそれで終わるはずもなく攻撃しながらも冷静さを取り戻したのか、その攻撃はより鋭く正確なものとなっていく。
そうなると今度は紫の余裕が崩れ始め、段々と扇子一本での守りが追いつかなくなってきた。
紫は攻撃を受け流しながらも少し困ったような表情でため息をつくと攻撃の隙を狙い扇子を横薙ぎに一閃。
レミリアはその攻撃を受け止めると再び後方へと飛び下がり紫を睨みながら攻撃の手段を模索し始めた。

「(怒りで我を失ってたとは言え、近・中距離での攻撃をすべて捌かれてしまった。
こうなると遠距離でも変わることはないでしょうし、かといって大技を使うには・・・・・・)」

そうやってレミリアが次の攻め手を考えていると呆れ顔を作った紫が口を開いた。

「もういい加減諦めたら?
そろそろ実力の違いもわかったでしょう? なに、悪い様にはしないわよ」
「う、うるさいわよ!その減らず口をすぐに叩けなくしてやる」
「はぁ、できもしないことを・・・少し、痛い目を見るといいわ」

明らかな実力差のある中、レミリアに降伏勧告をするもののそれを拒まれてしまい、流石の紫も目が据わってきた。
紫は自身の背後にスキマを作り出すとその淵に腰を掛けレミリアへと放つ技の名を告げる。

『飛光虫ネスト』

その宣言と共に紫の周りに人の頭ほどの大きさのスキマがいくつか現れ、そこからスキマ一つに一個の白い弾が何度も射出された。
先ほどまでとは攻守を逆転させた展開。
紫が無数の弾幕で攻撃し、レミリアがそれを防ぎながら避ける。
ただ違うのは紫にあった余裕がレミリアには一切ないことだ。
避けることで精一杯のレミリアに紫は話しかける。

「いかがかしら、私の弾幕は?
いつでも降参してくれてもかまわないわよ?」

しかし、レミリアは答えない。
と言うよりも避けるのに必死すぎて答えるどころか問いかけすら聞こえていないようだ。
紫は一つ大きくため息をつくと、あえて弾幕の薄い地点を作り出した。
そうとは知らないレミリアはより弾幕の薄い地点、少し無理をすれば紫に攻撃できそうな位置まで誘導される。
そして、そこまで誘導されたレミリアはそうとも知らず一気に紫へ踏み込むと振るおうとした・・・が!

「甘いわよ」
「っな!!」

それは所詮、紫が誘い込んだ罠の中。
レミリアの攻撃は紫に届く前に、レミリア自身が地面へ叩きつけられることで届かぬものとなった。

「っかは?!」
「あらあら、『魅惑のエサ』に釣られて飛んできたのは虫ではなく吸血鬼だったわ」

レミリアは予想外の攻撃を受けた衝撃で立ち上がることができず、紫はそれを見下ろしながら面白そうに笑っている。
呻きながらそれを見上げたレミリアが口を開く。

「っく・・・立て、ない・・・」
「それは当然。貴方の上に結界を張って動きを封じてるのですから」

どうやら立てないのはダメージの問題ではなく紫の結界が原因のようだ。
レミリアが苦しげに呻き続けていると、勢いよく部屋の扉が開きパチュリーと小悪魔が飛び込んできた。

「レミィ、侵入者よ・・・って、レミィ!!」
「っな、レミリアお嬢様!!」

レミリアの部屋へと逃げ込んだ二人が見たものは紅魔間の主、レミリア・スカーレットが名も知らぬ妖怪の前で倒れているところだった。
パチュリーは親友を助けようとし、すぐさま呪文の詠唱を開始する。
しかし、紫が手に持った傘の先端をレミリアに突きつけた為に迂闊な事ができず、詠唱を止めざる得なくなってしまった。
その状態のまま紫はレミリアに向かって口を開いた。

「さて、いい加減実力差も思い知ったでしょうし・・・そろそろ降伏してくれると嬉しいのだけど?」
「っく、ふ、ざける、な!」
「ふぅ、仕方ないわね・・・残念だけど、死んでもらいましょうか
「好きに「レミィ!!」パチェ?」
「そこの貴方、私は『パチュリー・ノーレッジ』
よろしければ名前を聞いても?」
「名乗られたのであれば名乗り返さなければいけないわね。
私は幻想郷の管理者、八雲紫よ・・・それで、ご用件は何かしら?」

紫の宣言に慌てたパチュリーはそれに答えようとするレミリアの言葉を遮り名乗りを上げた。
それに対し、名乗り返すのが礼儀と紫も名乗りを返し、パチュリーへ怪しい笑みを浮かべながらその用件を尋ねる。
パチュリーは一度深呼吸をすると親友、レミリアを助けるための交渉を始めた。

「八雲紫・・・ね・・・、貴方の目的は何かしら?
その状態でレミィを殺してないと言うことはレミィの命が目的ではないみたいだけど・・・まさか、レミィに文句を言いにきた?」
「ん~、大体その通りなんだけど・・・訂正が一つ。
文句だけじゃなくて、無意味に攻撃するのをやめて頂戴ってお願いに来たの」
「分かったわ・・・その「パチェ!」レミィは黙って!
・・・こちらからは自衛以上の攻撃手段に出ないことをレミィの代理、紅魔館の代表として誓うわ」
「あら、そう。
貴方がこの子みたいに分からず屋じゃなくてよかったわ」

パチュリーの宣言に紫は胸をなでおろすと、レミリアを開放した。
一方、開放されたレミリアは紫には目もくれずパチュリーに向かって口を開く。

「パチェ!!
貴方自分が何を言ったのかわかってるの?」
「レミィ・・・冷静になって。
あれはどう見てもレミィの負けよ」
「だけど「それに」?」
「私は親友がいなくなるのは嫌よ・・・」
「パチェ・・・・・・」

レミリアは最初こそパチュリーの食って掛かったものの、最後に告げられた言葉を聞くと目を潤ませた。
すると、扉から新たな人影が。

「ありゃ?
もしかしてもう終わったでやんすか?」
「で、でた~~~!!
パチュリー様!か、河童です~~!」
「・・・・・・なんか、ひどい言われようでやすな」
「大丈夫よ小悪魔・・・・・・でしょう、八雲紫?」
「えぇ、その通りよ。
田吾作さん?」
「なんでやすか?」
「一応話はついたからこれ以上の戦闘は止めてね」
「了解でやす」

紫の言葉に田吾作は片手を挙げながら返事を返した。
その後、紫とレミリア、パチュリーは小悪魔に用意された席に着くと簡単な決まりごとを決めた。

一つ、紅魔館の者は幻想郷、もしくはその住民に対する攻撃に値する行為を行わない。
一つ、ただし、自衛行為はその限りではない。
一つ、食料に関しては八雲紫の名において定期的に配給を行う。

そして、最後に紫が宣言する。

「では、以上の条約をもって、ここに吸血鬼条約を定めるものとする。
田吾作さんもこんなところでいいかしら?」
「あっしらは山に迷惑がかからなければ問題ないでやんすよ」
「だとすると天狗も同じでしょうから・・・そっちの吸血鬼さんもいいわね?」
「不本意ではあるけど・・・約定を違えるほど腐ってはいないわ。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットの名においてその条約を結ばせてもらうわ」

その返事を聞いた紫は満足したようにうなずいた。
それに対してレミリアはまだ納得がいかないのかテーブルに突っ伏してふてくされたような表情を作り、
その横ではパチュリーがため息を吐き、後ろでは小悪魔が困ったような愛想笑いを浮かべている。
その時、パチュリーが気になったことをたずねた。

「ねぇ、レミィ?」
「なによパチェ、あんまり話をしたい気分じゃないんだけど・・・」
「いつまでもふてくされないの。
って、そうじゃなくて・・・・・・咲夜は?」
「咲夜?
・・・・・・そう言えばいないわね。
これだけ騒いでいたらすぐに来るのに・・・おかしいわ」

パチュリーの疑問にレミリアも眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。
紫と田吾作はその様子に顔を見合わせると、自分達の方もメンバーが足りないことに気がついた。

「そう言えば・・・アスカは?」
「あっしは見てないでやすが・・・?? 今、悲鳴が聞こえなかったでやすか?」
「何も聞こえなかったわよ」
「気のせいでやすかね」

紫と顔を見合わせ真剣な面持ちでアスカの話をし考え込んでいるとふと、田吾作は何かに気づき慌ててレミリアの方を向き口を開いた。

「レミリアさん・・・で、良いでやすよね。
その咲夜さんってのはどんな人なんでやすか?」
「なによいきなり・・・咲夜は私のメイドよ」
「そういう事じゃなくて、その咲夜さんの格好でやすよ!」
「咲夜の格好って・・・・・・なんで貴方にそんなことが関係あるのよ!!」
「レミィ、落ち着いて。貴方は田吾作でいいわよね。
突然そんな質問をして・・・どういうつもりかしら?」
「どういうも何も・・・賢者様、アスカ様を早く見つけないと大変なことになるでやすよ」
「確かに・・・そうとしか思えないわね・・・」
「ちょ、だからどうしたのよ!」

青い顔であせり続ける田吾作と真剣な顔で考え込みだした紫を見て、状況がまったく分からないレミリアは半ば叫ぶようにして話に割り込んだ。
すると、田吾作がレミリアのほうに顔を向け簡潔に可能性の話を告げた。

「あっしらの予想が外れてなければ・・・その咲夜さんは死ぬでやすよ」
「っな?!」

田吾作の宣告にレミリアは凍りつく。
それもそうだろう。
咲夜は完全で瀟洒なメイド。
その彼女は戦闘面でも優秀でそう簡単にやられるはずが無いからである。
レミリアはすぐさま反論を唱えようとしたその時、部屋の扉から轟音と共に何かが飛び込んできた。
壁が崩れたことで砂埃が巻き上がる。
そしてそれが収まり、レミリアが飛び込んできたものを確認すると・・・

「さ、咲夜!!」

そこにはズタボロになって床に横たわる己の従者の姿だった。
レミリアはすぐさま咲夜のそばに駆け寄りその体を抱き上げると、壊れた扉の向こうから人影がゆっくりと歩いてくる。
人影、アスカはレミリア、もとい咲夜を睨みつけたまま口を開いた。

「どけ、餓鬼が」


<おまけ>
紅魔館ロビー

「さてと、レミリアお嬢様の部屋は2階の奥ですからそこまでご案内です・・・メイド部隊はそれぞれの持ち場に戻ってくださいね~」
「レミリアお嬢様? たしかここの主の名前よね?」
「そうですよ。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットお嬢様です」
「ねぇねぇ、吸血鬼だよ。楽しみだね塁」
「遊びに行くんじゃないんだよ、才」
「二人とも置いて行くわよ!」
「「あっ、待ってください先輩!」」
「おや、あれは・・・」
「どうしました美鈴さん」
「いえ、あそこにいるのは・・・お嬢様? まずい! パチュリー様は!!」
「パチュリーなら今はいないよ。
だから今のうちに外に行かせてもらうね」
「っく、駄目です! 行かせません!!」
「ふん、いいわよ。勝手に出て行くから!!」
「ちょ、美鈴さんその子は一体」
「皆さんは離れてください! 急いで!!」
「「え? え? なになに???」」
「それじゃあ・・・遊びましょ

最悪のエンカウント
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後書+次回予告

どうも、暗黒が使えそうになってるお手玉の中身です。
リアルの忙しさがありえなかったここ最近・・・殆ど書けなかったorz
その上、内容が気に入らなかったから書き直してたらこんなにも時間が・・・
まぁ、とりあえず・・・吸血鬼異変もやっと終盤。
なんとか妹様も出せそうな流れにできたから、後はどう収拾をつけるかだけだな。

では、次回予告お願いします。
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っへ? 次回予告・・・って、そんな場合じゃないよ!

メイドさん危ない!
魔女はまだ来ないの?!
何でもいいから誰か助けて~!!

次 回
 「っげ! こっち来た~~~~~!!」
              才、危ない!! by.塁



[10620] 予想以上に田吾作がカッコヨクなっていく・・・(レミリアの台詞を加筆)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/15 01:03
時間を遡らせて・・・
紅魔館2階の廊下で邂逅を果たしたアスカと咲夜。
もはやアスカは何かを語るつもりも無く、ただ相手を叩き潰さんと咲夜に向かって一気に走り出した。
咲夜はその突然の行動に多少驚いたものの、そこは完全で瀟洒なメイド。
すぐさまバックステップで距離をとりながら、どこから取り出したのか大量のナイフをアスカに向かって投げつけた。
いつぞやかの兎とは違い、単発で撃たれる弾ではなく複数を同時に投擲するナイフ。
アスカは体を捻り避けることでナイフは体に刺さることは無かったものの、頬を、腕を、足をと次々に掠め切り裂いていく。
しかし、アスカがその程度で止まるはずも無く、お返しにと言わんばかりに空気弾を作り、撃ち放つ。
空気弾はナイフを弾き飛ばし、咲夜まで一直線に飛んでいくが、その様子を冷静に見ていた咲夜は危うげなくそれを避け、
バックステップを次々と踏みながらナイフを投擲し続ける。
そして、それを追いかけんとアスカは咲夜に向かって走りながら何度も空気弾を撃ち放つ。
その血生臭い追いかけっこは紫とレミリアの撃ち合った美しい弾幕とは違う、無骨な殺し合い。
咲夜の量で相手を圧倒し確実に傷つけていくナイフ。
アスカの一撃必殺で相手を打倒しようとしナイフを弾き進む空気弾。
ただ相手を殺そうとする攻撃。
アスカが消耗しきるまではいつまでも続くと思われたその撃ち合いも意外な邪魔により結末を迎えた。
バックステップで後ろに下がっていた咲夜は気づかなかったようだが、
アスカの飛ばしていた空気弾は周囲のインテリアなどを破壊していたためにその欠片が咲夜の足に引っかかり体勢を崩させたのだ。
体勢が崩れた瞬間、迂闊にも咲夜は体勢を立て直すために動きを止めアスカから目を離してしまう。

「っと?!」

体勢を立て直す程度、一瞬で事足りた咲夜であったが再びアスカの姿を確認すると、すでに手を伸ばせば届きそうな位置まで肉迫していた。

「っな、『プライベートスクウェア』!!」

慌てた咲夜はすぐさま自身の能力、『時間を操る程度の能力』を使い周囲の時間の流れを遅くした・・・はずなのに、アスカの動きに変化は訪れない。
咲夜が支配する時間の中、その影響を受けることなく軸足を踏みしめると体を捻りながら、

「跳べ」

咲夜の体めがけて一気に蹴り足を、

「っっっ?!」

横に薙ぎ払った。
中段気味に振りぬかれた横蹴りは咲夜の体を捉え弾き飛ばす。
弾き飛ばされた咲夜の体はすぐ横にあった扉を突き破るとその一室の奥の壁に叩きつけられた。
あまりの衝撃に遠くなりそうな意識の中、咲夜は考える。

「(な、ぜ・・・うごけ、る?)」

ズキズキと疼く鈍い痛みに意識がはっきりしてくると、なんとか壁に寄りかかるような形で立ち上がり壊れた扉の外を睨みつけた。
扉からは壊れた時の影響か埃が舞い上がりその先を見通すことができない。
咲夜は壁で体を支えながらもいつでも侵入者を撃退できるようにその場でナイフを構え、そして待った。
痛みのせいか、それとも緊張のせいか・・・汗が頬を伝い、ナイフを握る手は自然と力がこもる。
1秒・・・2秒・・・3秒・・・敵は来ない。
段々と薄れてきた煙が晴れたその先に・・・

「いない!」

アスカの姿は無く、見慣れた赤い廊下の壁があるだけだった。
慌ててその姿を探そうと咲夜が構えを解いた瞬間、少し離れた横の壁から轟音が鳴り響き侵入者、アスカが走りよってくる。

「そんな?!」

痛む体では今更構え直すこともできず、能力を使っているにも拘らず何の変化も無い侵入者。
咲夜は自身の顔が引き攣るのを感じながら、なんとかダメージを抑えようと後ろへ跳び下がる。
しかし、ダメージ残る体でまともに逃げられるはずも無く、あっさりその胸倉を捕まれると振り下ろすようにして床に叩きつけられた

「っあぐぅ!」

咲夜の口からは苦悶の悲鳴がこぼれ、その体は四肢を広げ仰向けの状態で床に貼り付けられている。
アスカはその傍に屈むと咲夜の腕を掴み、口を耳元に近づけ囁いた。

「安心しろ、すぐには殺さない。
その前にしっかりといたぶってやるよ

アスカがそう言い終わると同時に、咲夜の腕から木の枝が折れるような音が静かな部屋に響き渡り、その直後に

「っあああぁあぁぁぁぁぁあぁ!!」

咲夜の絶叫が迸った。
すぐさまに咲夜は身を捩り逃げようとするが、単純な力でアスカに勝てるはずも無くそのまま押さえつけられると今度は逆の腕を掴まれる。

「っひ?!」

咲夜の短い悲鳴をかき消すように響く鈍い音と、それに続く咲夜の絶叫。
その後は右足、左足と同じ末路を辿ると部屋には鈍い打撃音が何度も響いた。
そして打撃音が止まると返り血で赤く染まったアスカが咲夜の片足を掴み引きずりながら廊下へ姿を現した。
咲夜は抵抗する力も残ってないのか赤い床をさらに赤く染めながら荒い呼吸を繰り返しつつ引きずられている。
アスカはほとんど抵抗がなくなった咲夜にどうやってとどめをさそうか考えていた。

「(さて、どうするかな・・・少し先には大きな扉とその脇には階段。
あそこから一階に降りてそこで潰すとするか)」

そう考えをまとめたアスカは引きずるのが面倒になった咲夜の体を突き当たりに向かって放り投げた。
直後、咲夜の体は突き当たりの扉を破りその中に転がり込んでしまう。

「まずっ、力加減間違えた・・・」

予定では扉の前で落ちるはずだった咲夜が突き当たりの部屋の中にまで行ってしまった事に一人毒づいたアスカは仕方ない、とため息を吐くと、
歩きながらその部屋へ向かった。


「咲夜、咲夜!!」

部屋に入った俺が見たものは例の女を抱き上げ、その女の名前のようなものを呼び続ける少女だった。
背中のコウモリの様な羽を見る限りではこの少女も妖怪なんだろうが・・・正直、今はどうでもいい事だ。
俺は女を睨みつけたまま少女へ命令した。

「どけ、餓鬼が」
「っな?! お前が咲夜をこんな目に!」
「だとしたら?」
「殺す!!」

コウモリ少女は俺の返事を聞くとすぐさま爪を振り上げ襲い掛かってくる。
それに対して俺はほぼ反射的に左腕をかざして爪を防ごうと身構えると横から青い弾幕が割り込み、その方向から聞き覚えのある声が響いた。

「二人とも止めなさい!」
「紫? なんでここに??」
「邪魔をするな! 八雲紫!!」

振り向いた先に居たのは紫に田吾作、後は知らない女性が二人。
知らない女性たちは女の様子を見ると息を呑み、田吾作は手を顔に当てて天井を仰ぎ、紫は弾幕を撃った体勢のまま顔を引き攣らせている。

「レミリア、少し落ち着きなさい。
それとアスカ・・・・・・何してるのよ?」
「これが落ち着けるわけ無いでしょう!」「いや、先に聞いたのは俺なんだが・・・とりあえずは見ての通りだが?」

紫からの質問に俺とレミリアと呼ばれた少女はほぼ同時に答えた。
これじゃあ、なに言ってるかまったく分からんな。

「紫、俺はこの女の始末をしておくから先にそっちの少女と話せばいいぞ」
「・・・なんで咲夜を始末するのか教えてほしいのだけど?」
「まぁ、早い話が・・・俺の身内に手を出したからだな」
「なにそれ? やっぱり殺すわ

そう呟いた少女は牙を剥き出しにし今にも飛び掛らんと身構えた。
それに対し俺も迎撃ができるように身構えていると、

『飛光虫ネスト』

またしても横から紫の宣言と共に大量の弾幕が飛んできた。

「っな?!」
「っげ?!」

その弾幕は俺と少女にしてみれば殆ど不意打ちだった為、二人そろって体勢を崩しながら必死になって逃げ回り、
弾幕の嵐が過ぎ去ると俺たち二人は同時に抗議の声を発した。

「なにするんだ、紫!!」「何するのよ、八雲紫!!」
「二人とも、落ち着きなさい」

紫はあきれた様に首を左右に振りながら俺たちの講義を受け流すと俺に向かって話し始めた。

「とりあえずアスカ、そこのメイドを殺すのは無しよ」
「っな、ふざけるな!! ルーミアも影月もこいつにやられたんだぞ!」
「それでもよ! レミリア、そこのメイドを早く退かして。
ほっといたら死ぬわよ?」
「っく・・・今は感謝しておくわ。
パチェ、小悪魔、咲夜をお願い」
「分かったわ」「分かりました」
「ふざ「アスカ!」っち・・・」

少女の言葉に二人の女性が反応しあいつを連れて行く。
すぐにそれを追いかけようとしたものの、紫が邪魔をして行くことができない。
そうやって足を止められているうちにやつは部屋の外へ運び出されてしまった。
それを見送ることしかできなかった俺は紫を睨みつけると口を開いた。

「紫、納得のいく説明・・・当然あるんだよな?」
「勿論よ、こっちに来て話を聞きなさい。
レミリア、貴方もよ」

紫からそう誘われ俺たち4人、俺、田吾作、紫、少女は同じテーブルに着いた。
そこでまず口を開いたのは紫だ。

「さて、まずは話をスムーズに進めるために自己紹介からはじめましょうか。
最初は私から、幻想郷の管理をしている八雲紫よ」
「妖怪の山に住む河童の代表としてきた田吾作でやす」
「・・・妖怪の山に住む薬師のアスカだ」
「この館、紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」

そうして始まった話し合い。
最初の議題となったのは憎き奴の件だった。

「それじゃあ、アスカ。
あのメイドは咲夜と言うらしいんだけど、なぜあそこまで執拗に狙ってたの?」
「・・・ふぅ、さっき言ったとおりだよ。
家で世話してるルーミアと人里の友達、影月に重傷を負わせたのがあいつだからな。
と言うか、俺の獲物だってここに来る前から言ってた筈だぞ?」
「あぁ・・・なるほどね。だけどそれは駄目よ」
「・・・どういう事だ」

紫からの言葉に自然と声が低くなっていく。
そして、俺からの質問に答えたのは田吾作だった。

「それは、そこのレミリアさんと吸血鬼条約が結ばれたからでやすよ」
「吸血鬼条約? なんだそれ??」
「それはね・・・」

そして紫から聞かされた内容を簡単にまとめると・・・

「つまりは餌やるから暴れるなってことか?」
「・・・ずいぶんと乱暴な言い方だけど大体あってるわ」
「私としてはその言い方には大いに不満があるのだけど?」

俺からの返答を聞いた3人はそろって顔を引き攣らせている。
とは言え、紫が大体あってると言ったからには問題は無いだろう。
ついでにレミリアが何か言ってるがかまってる暇は無いので無視だ。
そう考えた俺は話を進めた。

「っで、結局あの咲夜だったか? 咲夜を潰したらいけない理由ってなんだ?」
「っちょ、人の話を聞いてたの貴方は?!」
「聞いてたさ。
それで、どこに俺が遠慮することがあるんだ?」
「んな?!」

紫は俺の言葉に驚き声も出ないようだが知ったことではない。
吸血鬼条約だかなんだか知らないがあいつを潰すことになんらためらいを覚えるようなものではない。
そう考えていると紫が話を進め始めた。

「絶対に駄目よ。
せっかく纏まった条約をその日の内に無くすなんてとんでもないわ」
「だから、そんな事はし「どうしてもと言うなら・・・」ん?」
「私が相手になるわよ?」
「なに?」

そう言い合った俺たちはお互いに席から立ち上がるとテーブルを挟んで睨みあいをはじめた。
部屋には先ほどよりも剣呑な空気が立ち込める。
そこに慌てた様子で田吾作が割って入ってきた。

「賢者様もアスカ様も止めてほしいでやす。お二人が争ってもどうしようもないでやすよ!
アスカ様、見た限りではあの咲夜って方もひどい怪我だったじゃないでやすか。
お願いですからそれで納得してこぶしを収めてほしいでやす。この通りでやす」

そう告げた田吾作はその場に座るとそのまま床に頭を押し付けた。

「っな?! 止めてくれよ田吾作!
お前がそんなことする必要なんて無いんだぞ!!」
「駄目でやす! アスカ様に納得してもらえるまで止めないでやす!!」
「っっっ!! ~~~っだぁぁぁ、分かった! 分かったから頭を上げてくれ!」
「納得してくれたでやすか?」
「分かった! 納得したよ!!
ったく・・・勘弁してくれよ・・・」

俺はそう力なく告げるとそのまま椅子に座り込んだ。
ふと見てみれば紫がニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。

「なに見てんだよ?」
「べっつに~」
「・・・っはぁ~~~」

最早ため息を吐くしかなかった。
すると、紫は次にレミリアへと顔を向けた。

「さてと・・・次はあなたよレミリア」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あなたもいい加減分かってるんでしょ?
今回の騒動は元々あなたのくだらない計画がことの発端になっているのだから」
「・・・・・・そうね。
確かに今回の件は私が悪かったわ。
貴方、アスカと言ったわね? また後日になるけど貴方の身内の方にも正式に謝罪させてもらうわ」
「ずいぶんあっさりと言うんだな?」
「そうでもないわよ。
けど、家族や友達に手を出されて怒るのは当然の事。
私にもそんな存在がいるから言えることよ」

そこまで言ったレミリアは体を俺の方に向けると頭を下げてきた。
ここまでされたら・・・。
俺は頭を何度か掻き毟るとレミリアに問いかけた。

「その言葉、信用しても?」
「えぇ、レミリア・スカーレットの名前に誓うわ」
「はぁ~・・・・・・ここまでされて何かできるかよ」

そうやって俺があきらめたように嘆くと横から紫が話しかけてきた。

「今度は完全に納得したみたいね」
「あぁ、したよ、しましたよ。
ったく、その代わりにレミリア! 今度、俺の身内を連れてくるからそのときにも頭下げろよ」
「えぇ、かならず」

そう言いあった俺とレミリアは互いに手を取り握手を交わした。
その時だ、壊れた扉から先ほど咲夜を運び出した女性の片方が慌てて飛び込んできた。

「レミリアお嬢様! 大変です!!」

どうやら、まだ厄介ごとは残っているようだ。

<おまけ>

あ、危なかったでやす・・・
アスカ様が止まってくれて本当によかったでやす。
もし、あのままお二人が戦うようなことになったら・・・間違いなくどちらかが死んでしまうでやすよ。
正直な話、賢者様の方は別にどうでも良いんでやすが体力の消耗具合を見るとアスカ様の方が殺されてた可能性のほうが高いでやす。
そんな未来・・・考えるだけでも嫌でやすよ。
あっしの頭一つでアスカ様が止まってくれて本当によかったでやす。

頭を上げた田吾作の内心
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
とうとう、アスカ対咲夜のカードも終了しました。
半ば強引に収拾をつける形でしたが、これはこれでありだろうとお手玉の中身は考えます。
そして次回は・・・ちょっと、意外な方向に持っていこうかと考えるお手玉の中身なのでした。

では、次回予告です。
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~~・・・・・・・・・~・・・~~~、ふぅ、これで妹様が外に出ることは無いわね・・・あら、次回予告?

雨が降り出し外に出られない妹様
その雨は自然のものではなく魔力を帯びた雨
雨を止めるためには魔女を何とかしなければ

次 回
 「この次回予告・・・すごく不安になるのだけど?」
         すぐレミリアお嬢様たちを連れて行きますから・・・待っててくださいよ、パチュリー様! by.小悪魔



[10620] 異変が終わったら、新キャラでも作ろうかと考える作者がいた
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/15 01:18
紅魔館ロビー。
普段であればメイドによって綺麗に掃除されている場所だが、今は見る影もなく嵐でも通り過ぎた後のように荒れ果てていた。
壊れた扉から外を見てみると大雨が降っている。
その雨を見て、ロビーで唯一立っている少女は呟いた。

「雨? っちぇ、パチュリーか・・・」

少女の周りには美鈴、茜、才、塁の4人がそれぞれ倒れている。
4人とも特に大きな怪我があるようには見えないものの、立ち上がる気力も残っていないようだ。

「まさかこんな負け方するなんて・・・がくっ
「「きゅ~」」
「攻撃から逃げ回ってたら全員してこけるなんて・・・恥ずかしすぎる」

・・・・・・存外に余裕がありそうである。
そして、一人意識を保っている美鈴は少女の方へ頭を上げると口を開いた。

「うぅ・・・、・・・お嬢様もう部屋にお戻りください」
「嫌よ!」

その言葉に少女は美鈴を睨みながら頬を膨らませて答える。

「絶対に嫌! お姉さまもまだ来ないしこんなチャンスはもう無いかもしれない。
だから、私は絶対に外に出て見せるんだから!!」
「そんなことレミィが許すわけ無いでしょ・・・」
「パチュリー?!」

少女の叫びに答えたのは美鈴ではなくロビーの奥からやってきたパチュリーだった。
ちなみに美鈴はパチュリーの姿を確認すると安心したように気絶してしまった。
パチュリーは周囲の惨状を見渡すとあきれたように首を振りながら口を開いた。

「また、ずいぶんと暴れたのね。
もう気は済んだでしょう? そろそろお部屋に戻る気には「嫌よ!」・・・でしょうね」
「絶対にイヤ! それよりもあの雨、パチュリーでしょ。
早く止めてよ。外に出られないじゃない」

パチュリーからの勧告に少女は幼い子供のように地団駄を踏みながら拒絶の意を示すと自分の要求を突きつけた。
それに対してパチュリーは更に首を振りながら答える。

「そんなこと出来るわけ無いでしょう。
ほら、今ならレミィも怒らないはずだから」
「ヤダヤダヤダ! 絶対にヤダ!!」
「そんな駄々を「もういい」っ?!」

パチュリーの言葉に駄々をこね続けた少女は不意に動きを止めると、先ほどまでの幼さを微塵も感じさせない淀んだ目でパチュリーを睨んだ。
その様子にパチュリーは薄ら寒いものを感じ言葉を詰まらせる。
少女は両の手をだらりと下げ、パチュリーを睨みつけたまま口を開いた。

「もうパチュリーには頼まない。
その代わりに・・・・・・遊びましょ?

そう呟いた少女の手にはどこから取り出したのか歪んだ杖が握られている。
それを見たパチュリーは慌てて防御呪文の詠唱を始めた。

「っな?! 水の術『ジェリーフィッシュプリンセス』!」
「はぁ!!」

少女はパチュリーとの距離を一気に縮めるとその勢いのまま手に持った杖を振り下ろしたが、
その直前に完成した水の膜によって受け止められてしまった。
しかし、少女はそんなこと気にも留めずにそのまま杖で膜を押し続けると、

「そんな呪文で私のレーヴァテインを防げると思ってる?」
「っきゃ!」

そのまま力任せに水の膜を打ち破った。
水の膜が破れるとパチュリーはその衝撃で後ろへと弾き飛ばされ、少女はパチュリーが転がっていく様子を濁った目のまま見続けている。
そしてその動きが止まると今度は激しく咳き込み始めた。

「ごほっ! げほっ! こごほっ! こんな、けほっ! とき、げほっ! げほっ! ごほっ!!」
「っへ?!」

どうやら持病の喘息が出てきたらしく床に横たわったまま苦しそうに咳き込んでいる。
それを見ていた少女は慌ててパチュリーの元に駆け寄ると涙目になって声を掛け始めた。

「パ、パチュリー! ねぇ、大丈夫? ちょ、だれか~! 誰かいないの~!!」
「ごほっ! げほっ! こほっ! げほっ!!」

少女が必死に呼びかけるものの、周りにいたメイドの大半は少女が倒した為にここには居らず、
いつもならすぐに来てくれる咲夜も今日に限ってはその姿を現さない。
いよいよ、どうしていいのか分からなくなってきた少女の目からはぼろぼろと涙がこぼれ始めていた。

「バ、バヂュリ~! じんじゃだめだよ~! ざぐや~、おねえざま~! だれでもいいがらはやぐぎてよ~」
「フラン! 一体どうしたの?!」
「お、おねえざま~!!」

そこへレミリア、紫、アスカ、田吾作の4名が小悪魔からの知らせを聞いて大慌てでロビーへと入ってきた。
ロビーに入ったレミリアは泣いている少女を見つけると、すぐさまにその元へ向かい話を聞き始めた。

「フラン! 泣いていたら分からないわ! どうしたの?」
「ひくっ、ぐすっ、バ、バチュリーが・・・パチュリーが~」
「パチェが?」

少女から話を聞いたレミリアは少女に向けていた目を離しパチュリーの方へ向けると、

「こほっ! けほっ! ごほっ!!」

苦しそうに咳き込んでいる親友の姿があった。
それを見たレミリアは少女と同様にパチュリーへ駆け寄ると少女と同じ様に声を掛け始める。

「パ、パチェ! ねぇ、大丈夫なの? パチェ!!」
「けほっ! げほっ! ごほっ!!」
「ねぇ、お姉さま! パチュリー苦しそうだよ。早く何とかしてよ!!」
「ま、待ちなさいフラン・・・そうよ! 小悪魔、パチェの薬を急いで持ってきて!」

レミリアはいつの間にか自分たちと同様、パチュリーの傍によってきていた小悪魔に薬を用意するように命令した。
しかし小悪魔は目に一杯の涙をためながら無理だと言う。

「何で無理なのよ!」
「ちょうど今日、咲夜さんに用意してもらうはずだったんですよ~」
「っな?!」
「どうしたの、お姉さま? それなら咲夜を呼ぼうよ! って、そう言えば咲夜は?」
「咲夜さんは大怪我をして動けない状態なんです・・・咲夜さんに見てもらわないと私だけじゃ薬品棚から見つけられませんよ~」
「っへ?」
「咲夜の薬が無い・・・と言うことは・・・・・・」
「パ、パチュリ~!!」
「パチェ~!!」
「パチュリ~さま~!!」

咲夜から薬がもらえないことが分かった3人は苦しそうに咳き込むパチュリーをどうする事もできず、
その傍で座り込むとそのまま泣き始めてしまった。


一方、レミリアに続いてロビーに入ったアスカ達は周囲の惨状に目を剥き、倒れている茜達の姿を見つけるとその傍に駆け寄った。

「あ、茜?! 大丈夫か! 茜!!」
「才ちゃん! 塁ちゃん! 大丈夫でやすか!」
「となると私が余ってる人の介抱をしないといけないのかしら? と言うよりこれ誰??」

抱き上げ声を掛けながら状態を確認してみると目立った傷も無く単純に目を回しているだけのようで、
アスカと田吾作はそれが分かるとお互いに安堵のため息を吐いた。
そうして余裕ができたアスカは改めて周辺を見渡してみる。

「(向こうではレミリア達がなにやら騒いでるが・・・特には問題ないだろう。
才と塁も大丈夫みたいだし・・・あれ? あの紫が見てるのは・・・)」

そこまで考えたアスカはアカネを田吾作に任せて紫のところに向かうと、

「んな! 美鈴?!」

懐かしき修行仲間が倒れている姿に驚きの声を上げた。
茜たちと同じ様に外傷は見られないがやはり気絶している美鈴。
予期せぬ状態での一方的な再開に混乱したアスカは傍にいる紫に慌てて声を掛けた。

「っちょ? え?! 紫、何で美鈴がここに?! なぜ? どうして?!」
「そんなの私が知るわけ無いじゃない。
それよりも美鈴って、この子の事? てっきり中国かと思ったわ」
「いや、どこからそんな名前出て来るんだよ?」
「どこからって・・・見た目から?」
「何で疑問系なんだよ! そんなんだから胡散臭いって言われるんだ!」
「ふふっ、それほどあるわよ」
「褒めてねぇよ! ってか、あるのかよ!!」

そうやって紫がアスカで遊んでいると、レミリア達の泣き声がロビーに響き渡った。
何事かと思いその方向に目を向けるとレミリア他2名が苦しそうに咳き込むパチュリーを囲んで大泣きしているのが見える。
ただ事ではないと感じた紫とアスカはお互いの顔を見合わせ頷くとその場を田吾作に任せ、レミリア達に駆け寄った。
その一方、レミリア達はアスカと紫が近寄ってきた事にも気づかず、パチュリーに寄り添って泣き続けている。

「パチェ~!!」
「パチュリ~!!」
「パチュリ~ざま~!!」
「げほっ! はな、ごほっ! は、こほっ! げほげほっ!!」

聞いている方が苦しくなりそうなその堰に、アスカは眉をひそめるとレミリアに声を掛けた。

「なぁ、ずいぶんと苦しそうだが・・・そんな埃っぽいとこに寝かしたままで良いのか?」
「っは、そうよ小悪魔! すぐに咲夜と同じところに連れて行きなさい。
少なくともここよりかはましなはずよ」
「は、はい! パチュリー様、失礼しますね」
「ちょっと待って! それなら私たちの連れも休ませてもらえるとうれしいんだけど?」
「そんなことで引き止めないで! 休ませたいなら勝手についてくればいいわ!」

そう言い放ったレミリアは先に行ってしまった小悪魔達を追いかけるべく駆け足で去っていってしまった。
対するアスカ達もすぐに茜達を抱えるとその後を追いかけ始めるのだった。

所変わって紅魔館の一室。
部屋の中は完全で瀟洒なメイドがいつも掃除していたらしく清潔感に溢れている。
そんな部屋に響き渡る苦しそうな堰の音。
パチュリーの喘息はただ場所を移動するぐらいでは収まりそうに無かった。

「ごほっ! げほっ!」
「お姉さま、パチュリーが!!」
「今、薬を探してるから・・・・・・もう、どれなのよ!」
「これでもないし、あれでもないし・・・・・・え~ん、見つかりませんよ~」

そんなパチュリーを背にレミリアと小悪魔は薬品棚から喘息の薬を探し出そうとしている。
そこに茜達を寝かしたアスカが横から薬を一つ取るとレミリアに声を掛けた。

「傷薬もらうけどいいよな? 手持ちの分じゃちょっと足りなくてさ」
「別にいいわよそのぐらい。
今はそれどころじゃないの! 話しかけないでよ!!」
「・・・とりあえずは、ありがとな」

レミリアの言葉にアスカは呆然としながらもそう返事を返すと、そのまま茜達の下に戻っていった。
それから再び薬を探し始めたレミリアと小悪魔だったが、突然レミリアの手が止まりそれに気づいた小悪魔が不思議そうに声を掛けた。

「レミリアお嬢様? どうかしましたか?」
「ねぇ、小悪魔・・・今あの男何を持っていった?」
「っへ? 傷薬って言ってましたけど」
「この大量にある薬の中から傷薬だけを?」
「っは?!」

レミリアの言葉を聴いた瞬間、小悪魔の脳裏に稲津が走る。
すぐさまレミリアはアスカに向かって声を掛けた。

「ちょ、ちょっと! アスカ!!」
「ん? 何だ?」
「貴方、もしかして薬の事分かる?」
「そりゃ、薬師だからな・・・それがどうかしたか?」

そのアスカからの返事にレミリアは小悪魔と顔を見合わせると、ほぼ同時にアスカに向かって口を開いた。

「お願い、パチェを助けて!」「お願いします。パチュリー様を助けてください!」
「は、はぁ?」

それに対するアスカは突然の申し出にただ呆然とし、とりあえずは事情を聞くことにした。

「助けてって・・・もしかしてお前ら、喘息の薬が無いのか?!」
「無いんじゃなくて分からないのよ! 貴方なら分かるんじゃないの?」
「この馬鹿が! 何でもっと早くに言わないんだよ!!」

レミリアの返事を聞くや、すぐさま薬品棚に飛びついたアスカは喘息の薬を探し始めた。
探してる最中にもパチュリーの堰は治まりそうに無い。

「けほっ! ごほっ! こほっ!」
「パチェ! アスカ、まだ見つからないの!!」
「うっさい! 分からないならなんで早くに言わないんだよ。
とっくに薬飲ませてるかと思ったじゃないか!! 見つけた・・・ほら、これだ!」

そういってアスカが取り出したのは瓶詰めになっているシロップ形の薬だった。
レミリアはその薬をひったくるように取るとすぐに小悪魔に渡して指示する。

「小悪魔、お願い!」
「はい! 妹様、ちょっと退いてもらえますか? パチュリー様、お薬ですよ」
「ごほっ! けほっ! こほっ・・・・・・・・・」
「すごい効き目だな・・・」

レミリアに指示されたように小悪魔がパチュリーへ薬を飲ませると喘息は嘘のように治まっていき、
数分としないうちに苦しそうな堰から静かな寝息へと変わっていた。
アスカはその効果に驚き小さく呟くとふと、見知らぬ少女がいることに気がついた。
少女はレミリアに似た顔立ちだが、その背中の羽があまりにも違いすぎる。
レミリアの羽はコウモリのような膜が張ってある羽だが、少女は膜の変わりに色とりどりの宝石のようなものが付いているのだ。
アスカはパチュリーの傍で安堵の涙を流す少女を見ながらレミリアに声を掛けた。

「なぁ、レミリア」
「っへ? あ、アスカ・・・何かしら?」
「あの子・・・誰だ?」
「へ?」
「ふぇ? わたし?」

アスカが示した少女は涙で目を赤くさせながらも呆然とした顔で見つめ返してくるのだった。


<おまけ>
そのころの人里

「影月さん、体の方はもう大丈夫ですか?」
「おう、もう全然平気だぜ」
「そうですか、よかった・・・・・・」
「なぁ、リグル」
「はい?」
「もう、こうやって言うのは最後にするつもりなんだが・・・最後に一度だけ言わせてくれ。
お前のことが好きだ! 付き合ってくれ!!」
「いいですよ」
「そっか、そうだよな・・・・・・いいよな、っていいのか?!」
「はい、影月さんに助けてもらったときに思ったんです。
この人とならずっと一緒にいてもいいって」
「リグル・・・」
「影月さん・・・」
「・・・・・・・・・俺、すごく邪魔か?」

お邪魔虫、黒陽の見た光景
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
今回は少し意外な方向に話を進めてみましたが・・・これはこれでありですよね。
もうじき長かった吸血鬼異変も終了、後はフランの扱いを決めるだけ。
何気に一番難しいかもしれない。

では、次回予告です。
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えっと・・・今回の次回予告はわたしが担当します。

再び始まった会談
しかし、その席にはもう一人、少女が加わる
彼女は何者か
そして、レミリアが語るのは何なのか

次 回
 「吸血鬼異変、終了のお知らせ」
        よく一人でできたな。 すばらしいぞ、橙 by.藍



[10620] 家庭教師、田吾作先生の誕生
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/17 03:39
紅魔館レミリアの部屋。
そこには先ほどのメンバーに少女を加えた計5人がテーブルに着いていた。
ちなみに小悪魔はパチュリー達の看病のため、寝室に残ってもらっている。

「それじゃあまずは・・・」

そうやって話し始めたのは紫だ。

「そこの子に自己紹介をしてもらいましょうか。
一応、私から名乗らせてもらうとして・・・私の名前は八雲紫よ」
「あっしは田吾作でやす」
「んで、俺がアスカな」
「私は「「「お前はいいよ(でやすよ)!!」」」ひどいっ!」
「いや、レミリアはさっき名乗りあっただろうが・・・今はそっちの嬢ちゃんに聞いてるんだから」
「それで、お嬢ちゃんのお名前は何でやすか」

紫に続き、アスカ、田吾作が自己紹介を行いレミリアを黙らせると田吾作が少女に向かって話しかける。
少女ははじめこそ驚いたように目を丸くしていたが段々とその目を輝かせると頬を紅く上気させながら勢いよく口を開いた。

「私は『フランドール・スカーレット』! ねぇ、あなたたち館の外から来たの? ねぇねぇ!」

そうして口を開いた少女、フランドールは一気にまくし立てる様に話し始めた。
正直、最初の名前ぐらいしかまともに聞き取れなかったアスカ達は一様に目を丸くしている。
そんな中、横からレミリアがストップを掛けた。

「フラン、そこまでよ」
「でもお姉様「そ・こ・ま・で・よ!」・・・ぶ~」

フランドールはレミリアの言葉に反発しようとしたが結局無理やり止められてしまい不満げに頬を膨らませるとテーブルに突っ伏してしまった。
その後、レミリアは困ったような表情を作るとアスカ達へ顔を向け話を進めた。

「ごめんなさいね、妹が驚かせてしまって・・・それよりもアスカ」
「ん?」
「貴方に感謝の言葉を。
貴方のおかげで大切な親友を助けることができたわ・・・・・・本当にありがとう」
「あ、わたしからも・・・パチュリーを助けてくれてありがとう」

レミリアはさらに頭を深く下げながら、そしてフランドールが慌てたように顔を上げ満面の笑顔でそう告げた。
それに対するアスカは照れ臭そうに頬を掻きながら「どういたしまして」とだけ短く返すと、そのままそっぽを向いてしまった。
次に、その様子を笑いながら眺めていた紫が口を開く。

「それで、レミリア。
結局その子は何者なの? どうもあなたの妹のようだけど?」
「ふぅ、この子はフランドール・スカーレット・・・察しの通り私の妹よ。
そう言えばフラン、何でここにいるの? すぐに部屋に戻りなさい!!」
「嫌よ! 何でいつまでもあんな地下室に閉じ込められないといけないの?! もう嫌だよ・・・もう一人は嫌だよ!!」

レミリアの言葉にフランドールは首を激しく振りながら拒絶の返事を返した。
そして、その内容を聞いたアスカと田吾作、紫は一様に眉をひそめるとレミリアを見つめる。
それに気づかないレミリアは口調を厳しいものにしながらフランドールへ命令した。

「フラン、部屋に戻りなさい!」
「お姉様・・・・・・」

レミリアに命令されたフランドールは一瞬だけビクリと体を震わせ、顔を悲しげに俯かせた瞬間、田吾作がレミリアへと話しかけた。

「その言い方はあんまりじゃないでやすか、レミリアさん? しかも妹なのに地下室に閉じ込めるなんて・・・酷過ぎるでやす!」
「確かにな・・・たかが部屋から出たぐらいの罰で地下室送りはないと思うぞ?」
「アスカ、勘違いしてるようだから言っておくけど・・・・・・罰だから地下室じゃなくて、フランの部屋が地下室なのよ」
「「?!?!」」
「あまり・・・穏やかじゃないわね」

レミリアからの返答で驚きに固まってしまったアスカと田吾作に代わり今度は紫が話を進め始めた。

「どういう事か、説明してもらえないかしら?」
「冗談じゃないわ! これは私とフラン、スカーレット姉妹の問題よ!!」

そうやってレミリアと紫が論争を進める中、フランドールはその顔を悲しそうにゆがめていく。
それを見た田吾作は何かを決心したように頷くと、紫とレミリアの論争にその口を挟んだ。

「二人ともやめるでやす! 説明だとか姉妹の問題なんてどうでもいいでやす!
レミリアさんも姉というならフランドールちゃんをしっかり見るでやす! 今にも泣きそうじゃないでやすか!!」

その田吾作の言葉にレミリアはハッと気づいたように振り返った。
そして、今にも泣き出しそうでそれを必死に堪えているフランドールを見つめると、その顔を後悔に歪ませていく。
田吾作はそんなレミリアへさらに話しかけた。

「レミリアさん、話してはくれないでやすか? もしかしたらあっしらでも協力できるかもしれないでやす。
でやすよね、アスカ様」
「まあな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

田吾作とアスカの言葉にレミリアはしばらく黙ったまま顔を俯かせると、意を決したように顔を上げ口を開いた。

「分かったわ・・・話を聞けば少しは納得もできるでしょ。
フランはね・・・・・・フランは能力に引きずられすぎるのよ」

レミリアが話を進める中、フランドールはさらに顔を俯かせるがそれをレミリアが振り返ることはなかった。

「フランの能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』、その能力の強力さに誰もが祝福したわ。
でも、長続きはしなかった。
制御の未熟な能力は文字通り、ありとあらゆるものを破壊したわ。
だから当時幼くしてスカーレット家の当主となっていた私はフランを、妹を地下に幽閉したのよ。
分かったでしょ? 全てを破壊してしまうフランは外に出てはいけないのよ!」

そのレミリアの言葉を聞いた瞬間、先ほどまで俯いていたフランドールが突然顔を上げたかと思うと親の仇を見るような目でレミリアを睨みつけ、
何かをしようと手を上げた瞬間、レミリアがすばやく振り返りその勢いのままフランドールを殴り飛ばした。
フランドールは後ろへ二度、三度ほどバウンドするとピクリとも動かない。

「ごめんなさいね、フラン・・・・・・」

レミリアはポツリと一言だけ呟くとそのまま何事もなかったかのように席に戻った。
その様子に、田吾作はすぐさま噛み付いていく。

「っちょ?! 何をやってるんでやすか! いきなり殴り飛ばすなんて・・・あんまりでやすよ!!」
「さっきの続きなのだけど・・・」
「あっしの話を「いいから聞きなさい!」っ?!」
「私が好きでフランを、あの子を殴ったと思ってるの! ふざけないで!」

田吾作の言葉にレミリアは牙を剥き、睨みつけながら答えた。
さすがの田吾作もこれには黙らざるえない。
そして、アスカがいまだ怒気に体を震わせているレミリアに話の続きを促した。

「んで、話の続きというのは?」
「・・・・・・ふぅ、そうね。
悪かったわね、田吾作・・・・・・完全に八つ当たりだったわ」
「いえ、ただ説明をお願いしたいでやす」
「えぇ。さっきも話したとおり、私はフランを地下室に幽閉したわ。
ここからは私の罪なのだけど・・・・・・その時から私はフランを恐れてしまったの」

話の続きを促されレミリアは一度、田吾作へ謝罪すると天井を仰いで語り始めた。

「私は自分の未熟さを棚に上げてあの子の力を恐れて遠ざけたわ。
そして、やっとあの子と向かい合えるほどの自信を付けた時にはもう・・・・・・あの子は狂ってしまっていた」
「狂った・・・でやすか?」
「えぇ。長い時の中、地下室で孤独な生活。
それはあの子の心を壊し狂気で満たすには十分すぎる時間だったのよ。
だから、私にはあの子を止める方法は力尽くしか思い浮かばない・・・これがあの子を殴った訳よ」

そこまで言い切ったレミリアは悔しそうに唇をかみ締めながら顔を俯かせた。
そして、それと同時に場の空気も重くなっていく。
すると、その空気を振り払うかのように田吾作が立ち上がり口を開いた。

「だったら・・・だったらあっしが教えるでやす! あっしが能力の制御を教えるでやすよ!!」

その言葉にレミリアはあきれたような返事を返した。

「貴方、私の話を聞いてたの? そんなこと貴方がしたらフランの狂気に殺されるわよ!」
「大丈夫でやすよ」
「何でそんな事が言えるのよ!」

レミリアは自分の言葉に胸を張って答える田吾作に怒りを感じ、衝動に任せるまま叫んでいた。

「なんせアスカ様が一緒でやすから。
でやすよね、アスカ様?」
「っま、しょうが無いわな。
ついでにレミリアに恩を売っておけば何かと都合が良さそうだしな」
「素直でないでやすな」
「っさいぞ、田吾作」
「貴方たち・・・・・・」

アスカと田吾作のやり取りを聞いたレミリアは唖然と口を開いた状態で固まり、その様子を紫が面白そうに眺めている。
そして、紫はアスカに向かって口を開いた。

「でもアスカ、あなたはそれで良かったの? レミリアはあのメイドの主人よ」
「うっさいぞ、紫。
その件に関してはレミリアに直接頭下げさせるからもういいんだよ。
それに、あの子の能力・・・聞いたとおりの能力だとすれば狂気のままだと流石にまずいだろうからな」
「そうね・・・ならこの件はあなたに「任せとけ」・・・えぇ、お願いするわ。
レミリアもそれでかまわないわね?」
「ちょっと、八雲紫? 貴方本当にそれで良いの? フランにかかったらそこの二人は3秒で挽肉になるわよ」
「だそうだけど?」
「アスカ様がいるでやす」
「むしろ3秒で挽肉にする」
「それは駄目でやすよ!!」
「駄目か?」
「駄目でやす!」
「・・・だそうよ?」
「分からないわ・・・・・・貴方たちが何を考えているのかさっぱりよ」

3人のやり取りを聞いたレミリアは頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。
そうやってレミリアが突っ伏している間に田吾作とアスカはフランドールの傍まで行き揺り起こし始める。
幸いと言うべきかレミリアに殴られたフランドールに大きな外傷は無く、ただ気絶しているだけのようだ。

「フランドールちゃん、起きて欲しいでやすよ」
「ん・・・うん・・・・・・」
「ほれ起きろ、嬢ちゃん」
「う、うん・・・・・・誰!!!」
「おぉ、起きたでやす」
「え? え? ここは?? 確かわたしは・・・そっか、お姉さまに叩かれて・・・・・・」

目覚めたフランドールは最初こそ混乱したものの、すぐに気絶していた原因を思い出すと、また落ち込んでしまった。
そこへ田吾作が話しかけ始める。

「そんな落ち込んでるフランドールちゃんに朗報でやす。
レミリアさんが能力の制御ができれば外に出てもいいと許可をくれたでやすよ」
「っへ? え? ほ、ほんと・・・ねぇ、お姉様、ほんとにいいの?!」

田吾作の言葉にフランドールはすぐさま姉のレミリアに確認を取り始めた。
フランドールの後ろでは田吾作とアスカが許可するように身振り手振りで指示している。

「え、えぇ・・・かまわないわ」

そして、そのとおりにレミリアが許可をするとフランドールの顔には満面の笑顔が広がった。

「や、やったーーー!!」
「おっと、能力を制御するのが先でやすよ?」
「分かってるわよ・・・・・・でも、どうやったらいいのかな」
「大丈夫でやす。
あっしとここにいるアスカ様の二人で明日から教えてあげるでやすよ」
「よろしくな、嬢ちゃん」
「わぁ~~~! うん!!」

一度は不安げになった顔も田吾作とアスカの言葉を聞くと再び笑顔に変わり、その光景にアスカ、田吾作、紫の3人は顔を綻ばせた。
そして、レミリアもまた自身の顔に笑みが浮かぶことを自覚するのだった。


<おまけ>
一方そのころ

「あ、あれ・・・ここは?」

目が覚めた私が布団から身体を起こして辺りを見渡すと、段々と眠る前のことを思い出してきた。

「そっかー、わたし変なのに襲われてがんばって家まで逃げてきたんだった」

となると身体が・・・痛くない?
ん~痛くないのはアスカが治してくれたのかな?
そこまで考えると急にお腹の虫が鳴き始めた。

「っう、お腹すいた~、アスカ~お腹すいた~」

わたしは布団からはいずり出ると居間まで移動した。
居間には誰も居らずテーブルの上においしそうな晩御飯がある。
お腹もすいてるし・・・・・・

「いただきま~す」

わたしはすぐに食べ始めた。
どれもこれもおいしいな~。
わたしはすぐにアスカに教えようと思って口を開いた。

「ねぇアスカ、これおいし、い・・・よ?」

あれ? アスカは??
いつもならわたしと一緒に食べてるのに・・・いないのかな?
そう考えたわたしは残りのご飯を食べだした。
でも、今度は・・・

「おいしいのにおいしくないよ・・・アスカ~」

おいしかったご飯がぜんぜんおいしくなくなっちゃった。
アスカ・・・どこ行ったのかな?

一人家に残ったルーミア
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後書+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
吸血鬼異変はこれにて終了ですが、紅魔館の話はもう少し続いたりします。
どうでもいいことなんですがおまけ話のルーミアが今回一番難しかった。

では、次回予告です。
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っは?! パチュリー様の汗を拭かないと・・・っへ? 次回予告ですか?

一夜が明けて朝日に照らされる紅魔館
朝の喧騒を眺めながらも思い出すのは昨晩のこと
そこにはとある事実から絶望した一人の主人公が

次 回
 「計画立案:フランドール育成計画」
          最後のタイトルは完全に適当です by.kami



[10620] お手玉の中身はやや無謀な挑戦をしようとしてるようです(後書き部分に追記)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/09/19 02:59
動乱の一夜が明けた。
遠くの山間から顔を出した太陽が紅魔館を照らしている。
その紅魔館の扉から俺は一人、外に出ると朝日の眩しさに目を細めた。

「っん、っく~」

俺は寝ている間に硬くなった体をほぐす為に大きく伸びをすると開けっ放しにしていた扉から紅魔館のロビーを眺めた。
ロビーでは復活した妖精メイド達が掃除をしているのだが・・・・・・片付けたらすぐに散らかしているのであまり意味はなさそうだ。
そのあまりの光景に自然と口が開いてしまう。

「あいつがいないと管理できないってほんとだったんだな・・・・・・」

俺はそう呟くと昨晩聞かされた話を思い出した。


回想

「そう言えばレミリア」

喜びに飛び回るフランドールを田吾作に任せた俺は先ほどから気になっていた事をレミリアに尋ねることにした。

「何かしらアスカ」
「いや、俺が言うのも何なんだが・・・・・・あいつ、確か咲夜だったか? どうなったのか気になってな・・・・・・かなり痛めつけたし」
「ほんと・・・どの口が言ってるのかしら?」
「この口だが何か文句でも?」

その言葉に俺が自分の口を指差しながら答えると、レミリアはあきれたようにため息をつき、話を進めた。

「そういう意味じゃないわよ」
「分かってるよ。
謝る気はさらさら無いんだが、こうやって条約が結ばれた翌日にでも死なれたら目覚めが悪いからな」
「あっそ・・・まぁ、安心しなさい。
咲夜ならパチュリーと一緒に寝てるし何かあれば小悪魔が知らせてるはずよ」
「は? あそこにいたのか?」
「いたけど・・・気づかなかったの?」

レミリアから返ってきたその問いかけに対し、俺は首を振りながら「まったく」と、答えた。
するとレミリアは更にあきれたような顔を作りながら話を進める。

「貴方って人は・・・・・・まぁいいわ、ちょうど様子を見に行こうと思ってたところだから貴方も一緒に来るかしら?」
「ん、頼む」

レミリアからの誘いに俺が二つ返事で同意すると、先ほどから黙ったままだった紫が話しかけてきた。

「それなら私は先に帰るけどいいわね?」
「ん? 俺が止めたら残るのか?」
「まさか」
「だよな~」

紫の言葉に適当な軽口を叩くと鼻で笑われてしまった。
なんとなくやるせない気持ちになる。
その時、ルーミアのことを思い出した俺はそれを紫に頼むことにした。

「なぁ、それならルーミアをスキマでつれてきてくれないか?」
「ルーミアを?」
「あぁ、このままこっちに泊まったらルーミアの朝飯が無いからな。
レミリア、別に一人増えてもいいよな?」
「まぁ、構わないけど・・・って、いつの間に泊まることにしたのよ?」
「茜達も完全に寝入ってるし起きそうに無いからな・・・ついでに俺達も泊まる! 以上!!」
「以上って・・・・・・まぁいいわ。
その代わり、フランのことお願いね」
「まかせろ・・・と言いたいとこだが、それは田吾作に頼んだ方がいいんじゃないか?」
「もちろん彼にも頼むわよ・・・・・・ただなんとなく、貴方からね」
「そっか・・・・・・まぁそんな訳だから紫、頼むな」

レミリアがはにかむ様な顔で言う言葉に返事を返した俺はすでにスキマに体を半分ほど入れている紫へと頼んだ。
しかし、当の紫はなぜかこちらを見ながら怪しげな笑みを浮かべている。

「へぇ~、ずいぶんと素直になるのね? レ・ミ・リ・ア・?」
「な、何を言ってるのよ貴方は! 私はただね・・・・・・・」
「まぁそんな事はどうでもいい事は置いておいて、いいわよアスカ。
ルーミアをこっちにつれてくればいいのね?」
「あぁ、頼む」
「ちょっと! 私の話を聞いてるの!!」
「聞こえないわよ。じゃあね~」
「ちょ、聞こえてるじゃないの~~~!!」

紫がその姿を完全にスキマに消してしまうとレミリアは何とも言えない様な顔を作りその場で地団駄を踏み出してしまった。
さすがは紫だ・・・このくらいの相手なら一瞬で手玉にとってしまう。
まぁそんな事はどうでもいいとして、俺はいまだ地団駄を踏みながら「う~、う~」と、唸っているレミリアへ話しかけた。

「なぁレミリア、そろそろ行かないか?」
「っは?! そ、それもそうね」

俺が話しかけるとレミリアは一瞬で我に返り、先ほどの痴態が無いかのように澄ました顔で返事を返してきた。
しかし、田吾作とフランドールはしっかりと見ていたのか顔を唖然とさせている。
そして、俺たち二人はフランドールを田吾作に任せるとその場を後にし茜達が休む部屋へと移動を始めた。
後ろの方でフランドールがレミリアを可哀想なものを見る目で見ていたことは秘密にしておくことにしよう。


さて、茜達の休む部屋へ入るとそこでは例の見知らぬ女性その2が忙しそうに動き回っていた。
その手にはタオルを持って茜達を含めた全員を看病している。
・・・・・・いい人?(妖怪)だ!
そうやって密かに感動しているとレミリアが女性へと話しかけていた。

「小悪魔、パチェと咲夜の様子は?」
「あ、レミリアお嬢様。
はい、パチュリー様も咲夜さんも問題ありません。明日には目を覚ますはずですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

さすがに今の言葉は聞き流せない。
あいつ、咲夜が問題ない? 明日には目を覚ます?? そんなばかな。
そう思った俺はそのまま小悪魔と呼ばれた女性へと口を開いた。

「さすがにそれは無いだろ?! そこのメイドは洒落にならないほどの大怪我だったはずだぞ?」
「確かに治療する時はびっくりしましたよ、手足はバキバキで体もボコボコでしたし・・・。
しかし! 我らがパチュリー様の魔法にかかればどんな大怪我もチチンノプイで一瞬の内に治ってしまいましたよ」
「・・・・・・チチンノプイですか」
「はい、チチンノプイです」

何やら分からないが、とりあえずは問題なく治る・・・と言うよりも治っているらしい。
チチンノプイ・・・・・・師匠、俺の薬・・・チチンノプイに負けましたよ。
そうやって俺が遠い目をしながら黄昏ている間も小悪魔とレミリアの会話は続いていく。

「・・・・・・それじゃあ小悪魔、任せたわよ」
「っう、分かりました。
がんばってみますけど、咲夜さんみたいには無理ですよ?」
「それでも結構・・・やりなさい」
「はい~」

俺が我に返ってみると何やら小悪魔がとぼとぼと部屋から出て行くところだった。
何があったんだ?
俺はとりあえずレミリアに尋ねることにした。

「なぁ、レミリア」
「あらアスカ、気がついたの?」
「気がついたのって・・・まぁいいや。
それよりもあの子、小悪魔だったか? どうしたんだ、ずいぶんと落ち込んでたみたいだが」
「あぁ、いい機会だから明日は咲夜に休みをあげようと思ってね・・・その間の仕事と貴方達の部屋の準備を頼んだだけよ」
「そいつの代わり? それだけであんなに落ち込むものなのか?」
「さぁ? まぁ、館の仕事は殆ど咲夜一人でやってるようなものだから、ある意味そうなんじゃないの」
「いろいろ言いたいが・・・それが事実ならあの落ち込みようも納得だ」

俺がそう言って一応納得した後、眠っている咲夜の頭を愛しげに撫でているレミリアへ再度たずねてみた。

「なぁ、本当にそいつの怪我はもう治ってるのか?」
「貴方も心配性ね・・・そう言うんなら自分で診てみれば?」
「そうか? それじゃ、ちょっと失礼して・・・」

レミリアに促されるままに俺は咲夜の触診を開始した。
正直、こいつに対する怒りはまだ治まりそうにも無いのだが田吾作に頭を下げられ、
レミリアからの謝罪を受け入れた後ではとてもじゃないが殺すことなんてできない。
むしろこの事が原因で死なれたらさすがに目覚めが悪くなってしまう・・・・・・いや、そうでもないか?
そんなことを考えながら咲夜の触診を進めていくと・・・・・・本当に完治していた。

「うそだろ・・・ほんとに治ってるよ・・・」

へし折ったはずの手足、死なない程度痛めつけた身体、その全てがこの1、2時間の間に完治していた。
これには俺も呆然と呟くしかない。
そこへレミリアが笑いながら話しかけてきた。

「ふふふっ・・・どうだったかしら? まぁ、パチェの魔法で治ってない筈ないんだけどね」
「・・・・・・すごいな、魔法・・・レミリアも使えるのか?」
「と、当然よ! こ、紅魔館の主であるわ、私が、ま、魔法の一つや二つ、つ、使えないわけ無いじゃない!」
「そ、そうか」

俺からの質問にレミリアは激しく動揺しながらこちらに顔を押し付けるようにして返事を返してきた。
一応は返事をしたものの、流石にあれでは嘘を付いていると言っている様な物だ。
しかし、魔法のすごさは分かったが・・・だとするとなぜ?
俺は新たに出てきた疑問を更にレミリアへとたずねる。

「なぁ、ならなんで魔法で喘息を治さないんだ?」
「あぁ、そのこと。
パチェから聞いた話だと怪我は魔法で治せるけど病気は魔法では無理なんだそうよ。
詳しく聞きたかったらパチェが起きたときにでも聞いてみれば?」
「ありがと。
でも、そっちは遠慮しとくよ」
「賢明ね・・・パチェが魔法を語りだしたら長いから」

そう言ったレミリアは喘息で苦しんでいた女性、おそらくはパチェと呼ばれる女性を見て微笑んだ。
ちょうどその時、部屋の壁にスキマができたかと思うと、そこからルーミアが飛び出してきた。

「ア~ス~カ~♪」

訂正、飛び付いてきた。
ルーミアはその顔に笑顔を浮かべて張り付いている。
その様子を見るからにどうやら怪我の方はすっかりよくなっている様で俺は安堵のため息を胸中で吐いた。
そこに、怪訝な顔をしたレミリアが話しかけてくる。

「アスカ、その子は?」
「ん? あぁ、この子がさっき紫に頼んでたルーミアだ」
「そう、その子が・・・・・・」

そう呟いたレミリアは立ち上がると近くまでゆっくりと歩いてきた。
ルーミアはその気配に気づいたのか顔を俺から離し、レミリアに向けている。
レミリアはその目をまっすぐ見つめ返すと、そのまま口を開いた。

「貴方がルーミア?」
「うん、そうだけど・・・あなたは?」
「私はレミリア・スカーレット、この館の主よ」
「そーなのかー」
「えぇ・・・・・・今回の貴方の怪我、それは私が咲夜、私の従者に命じてさせたこと。
貴方には怖い思いをさせたわね・・・・・・ごめんなさい」

レミリアはそう言い切るとそのままルーミアに対して頭を下げた。
それに対するルーミアは呆然としていたが再び笑顔を作り、

「うん、いいよ」

と、一言だけ告げ、またその顔を俺の身体に貼り付けてくる。
すると、今度はレミリアが呆然とした表情で俺に尋ねてきた。

「えっと・・・アスカ? これでいいのかしら?」
「ルーミアがいいって言ってるからいいんじゃないか? それよりも、本当に頭を下げるとはな・・・」
「当然よ。一度約束したことを違えるほど腐っては無いわよ」

そう言い返してきたレミリアは踵を返すと再び咲夜の傍へと行ってしまった。
その後、田吾作、フランドールと合流した俺たちは小悪魔に用意してもらった部屋でそれぞれ休むことになった。

回想終了


そこまで思い出し、再びロビーへ目を向けると掃除しているにも拘らず何も変化が無いままだった。
と言うよりも、心なしか先ほどよりも汚れて見えるのは気のせいだろうか?
そんな埒も無い事を考えた俺は別のことを頭に館の中に戻っていく。
そう、今日のルーミアの朝食は何を作るかな・・・と、考えながら。

<おまけ>
一方そのころ・・・・・・

「・・・・・・と言うわけで、吸血鬼がのさばる事は無くなったわ」
「なるほど・・・・・・承知した。山の者たちにも吸血鬼への手出しは無用と伝えおくとしよう」
「えぇ、お願いね」
「ところで賢者殿、アスカ殿たちはいかがされたかな?」
「アスカなら吸血鬼のところで一仕事してから戻ってくるみたいよ」
「そうか」
「何かあるのかしら?」
「なに、事件解決の祝いに酒宴でも開こうかと思ってな」
「条約を纏めたのは私なんだけど?」
「賢者殿は山の者というわけではないからな・・・・・・まぁ、宴会には呼んでやらんでもないぞ」
「天魔・・・・・・あなた良い性格してるわね」
「っふ、褒めても何もではせんよ」
「うふふふ・・・・・・」
「はっはっはっはっ・・・・・・」

この二人とはあまり語り合いたくないと思った大天狗に手記より
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リクエスト+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
シルバーウィーク直前、いかがお過ごしでしょうか?
お手玉の中身はSW開始から1週間遠方に行くことになってしまい・・・・・・更新ができないorz
しかし、良い機会なので次の展開を考える期間にでもしようかと考えたりします。
そこで、久しぶりのリクエスト。
今回はキャラクターではなく展開と言うことで次の選択肢から二つお選びください。

①妖精の出番がない気がしますが・・・
②白玉楼は更に少ない!
③Neetで遊ぼう
④秘密結社を探ろうぜ
⑤未だ出番のない白岩さんや虹川三姉妹と3妖精にも愛の手を
⑥どうでもいいから花畑にいこうぜ
⑨無謀にもプレイした事の無い旧作系への挑戦、つまりは・・・お~い、魅魔様の出番はまだかね?

以上です。
今回は次回更新までに1週間以上かかってしまうので先着5名分と過去に一度でもコメントを入れて下さっている方のリクエストをカウントします。
(先着5名枠は初コメントの方のみがカウントされていきます)
・・・そうだ、忘れるとこだった。
この中から選択される展開は上位三つまでで、⑨に関しては選ぶ人がいなかったら普通に消滅してもらいます。
そして、一番人気が必ずしも先に公開されるわけでもないのでその辺はあしからず。
(例えば④がトップだとしても①を先に展開する可能性もあり)

追記 :1択でなく2択ですので間違いないよう。
追記2:2択とは言え同じ選択肢を選んでも扱いは1票ですぜ。

と言うわけで、次回予告です。
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お~い、あたしゃここにいるよ~。

紅魔館で始まる殺伐としたモーニングタイム
それが終わると初めての授業
しかし、彼女がおとなしくしている筈がなかった
そんな彼女に恐るべき喜劇が

次 回
 「そういえば中国どこに行った?」
         次回予告にも紹介されないなんて・・・・・・ by.美鈴



[10620] トラウマが植えられたのは咲夜ではなく・・・・・・
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/10/08 00:28
「はふっ・・・うまっ・・・もぐっ・・・うまっ・・・」
「ルーミア、もっと落ち着いて食え。
こんなに汚して・・・ほら、顔出して」
「ん、うん・・・ありがと。もぐっ・・・うまっ・・・はふっ・・・うまっ・・・」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

朝日に照らされる紅魔館。
その一室では朝から豪華な朝食会が開かれていた。
参加者は長いテーブルの上座からレミリア、フランドール、咲夜、向かいに座る形でアスカ、ルーミア、茜、才、塁、田吾作である。
ちなみにパチュリーと小悪魔は図書館に引き篭もってしまったようだ。
ただ、レミリアが音頭を取って始まったはいいが、
ご馳走の数々を次々と頬張っていくルーミアに圧倒されたレミリアたちは未だ食事に手をつけずに呆然としている。
そんな状態のレミリアたちを尻目にアスカは茜へ話しかけた。

「それにしても茜、昨日、倒れてるのを見たときはほんとに焦ったぞ」
「ん? んく・・・あははっ、心配をお掛けしたみたいで・・・ありがとうございます」
「なに、平気ならいいさ。才と塁も・・・その様子を見る限りだとぜんぜん平気みたいだな」

苦笑交じりにそう告げるアスカの視線を辿ってみるとそこにはルーミアに劣らぬ勢いで食べ続ける才と塁の姿があった。
と言うよりも食べているのは才だけで塁はそれを世話しているようだったが。
そこまで確認したアスカはそれなり食べてくれているレミリアとフランドールを眺める。

「どうだ、レミリア? 口に合うか?」
「まぁ、食べられないほどじゃないわね・・・・・・ワインには合わないでしょうけど」
「・・・(不味いと言われるよりはいいか)・・・・・・フランドールはどうだ?」
「っふぇ? なに?」
「聞いてなかったのか・・・ご飯は美味しいかってね」
「うん、おいしいよ」

アスカの言葉にレミリアはやや顔を顰めながら、フランドールは笑顔を作りながら答えた。
もっとも、フランドールの場合はよほどひどい物でもない限りは何でも美味しいと答えそうであるが。
そしてアスカは、最後にあまり箸の進まない、と言うより一口も食べていない咲夜を眺め口を開いた。

「ふん、食が進んでないようだが和食は口に合わないか? 犬」
「っふ、あなたの作った食事のまずさに辟易してるだけですわ・・・人外」

お互いに言い合った瞬間、場の空気は凍りついてしまった。
後に茜と田吾作はこう言う。

「「あの時は何かがひび割れる様な・・・そんな音を聞いた気がしました(したでやす)」」

そんな凍てついた雰囲気の中、二人は更に言い続ける。

「ほぅ・・・どうやら普通の食事は犬には高尚過ぎたようだな」
「人外の作った下衆な食事が高尚とは・・・笑えるわね」
「その下衆な料理もお前の隣の嬢ちゃんはおいしそうに食べているが?」
「妹様はお優しいですから、人外の作った料理でもその慈悲で食べて差し上げてるだけよ・・・何を勘違いしてるの?」
「ほぅ」
「ふん」

場の空気は更に冷たくなり、一速触発の気配を作り出していく。
そんな中、今まで上座で黙っていたレミリアが口を開いた。

「二人ともやめなさい。
朝から何をやってるの」
「しかし、お嬢「一度しか言わないわよ、咲夜」っ! わかりました」
「アスカも」
「・・・っち、はいはい」

レミリアの一声で場の空気は取り払われ茜と田吾作はホッと一安心である。
しかしながら、その後も咲夜とアスカがお互いを睨みあうのは止まらない。
まぁ、それもしかたのない事だろう。
咲夜はアスカに半ば殺されかけた上に、レミリアの命令とは言え本来なら自分の仕事である朝食の準備を奪われた事から。
アスカにしてもそう簡単に恨みや嫌悪感が消えるはずも無いためにお互いが憎みあう関係、見事な犬猿の仲が完成してしまったのだ。
蛇足ではあるが、実際の料理スキルでは1段2段どころではないほどに咲夜の方が上であることをここに明記しておく。
そうこうしているうちに食事も終わりさっそく田吾作による授業が始まろうとしていた。
授業の参加者は当初の予定通りにフランドール、そして特別参加のルーミア、才、塁の4人。
見学者は美鈴を除いた残りのメンバーである。
ちなみに美鈴だが目覚めるやレミリアの命令ですぐに門番の仕事に戻されてしまった。
なんとも哀れなことである。
それはさておき授業が始まり田吾作が口を開いた。

「今日から能力の制御を教えるために特別講師となった田吾作でやす。
分からない事があったらどんどん聞いて欲しいでやすよ」
「「「「は~い」」」」
「良い返事でやす。さて、能力の制御とは言いやしたが人から教えられて一朝一夕でできれば誰も苦労しないでやす・・・ここまでは良いでやすか?」
「うん」「そーなのかー」「「はい」」
「となるとまずは基本中の基本から覚えることが大事でやす」
「田吾作さん、基本中の基本って何ですか?」
「塁ちゃん、良い質問でやすよ。能力制御の基本は自分の能力を自覚することでやすが、
の前に自分の能力に飲み込まれないようにする必要があるでやす。
それこそが一番初めの能力の制御につながるでやすよ」
「能力に飲み込まれる? 田吾作さん、どういうこと?」
「そうでやすな・・・例えば、武器を自由に操れるから調子に乗って猪突猛進になったり「っう!」、
自分の出した能力なのに自分が不利になったり「うぎゅ!」、調子に乗ってなんでも壊してみたくなったり「っあ!」、こんな所でやすかな」

田吾作のなんとなく思い当たるような言葉に才、ルーミア、フランドールはそれぞれ図星をつかれたような呻き声を上げた。
そんな3人にあえて気づかないふりをしながら田吾作は話を続ける。

「ならばどうすれば能力に飲まれないか・・・・・・それは、落ち着くことでやす。
落ち着いて、冷静になれば猪突猛進になることも、調子に乗ることも無くなり能力に振り回されなくてすむでやす」
「そーなのかー」「「「へ~」」」
「さて、肝心の落ち着く方法でやすが興奮してるところにいきなり落ち着けと言われても早々落ち着けるものではないでやす。
そこで、普段から精神的な鍛錬を積んで落ち着けやすい心を作るでやす!」
「「「「そ、そーなのかー」」」」

握り拳を作り、それを震わせながら力説する田吾作に生徒4人は声を揃えて答えた。
その後も何だかんだで続く授業を尻目に見学者達はと言うと・・・・・・

「なるほど・・・なかなか面白い話ね」
「分かるんですか? パチュリー様」
「何をするにも落ち着き、冷静さと言うものは必要なものよ。
しかも妹様の感情をコントロールする手法にもなる・・・考えられた内容だわ」
「へぇ~、パチェがそう言うんなら大したものなんでしょうね」
「えぇ・・・と言うより、レミィも一緒に学んできたらどうかしら?」
「っふ・・・・・・いまさら私が何を学ぶことがあるというの? そうよね、咲夜」
「お嬢様・・・まったく持って、その通りです」
「ふふふ・・・だそうよ、パチェ」
「はぁ、まぁいいけど」

田吾作の授業に冷静な考察を入れるパチュリーとそれに感心する小悪魔。
そして、なぜか偉そうなレミリアとそれに従う咲夜。
どうでもいいことだが、感情のコントロールと言う面ではレミリアも学ぶべきだとパチュリーは考えている。
続いて、もう一組の見学者達は・・・・・・

「へ~、これはためになりますね、アスカ様」
「確かにな」
「せっかくですからアスカ様も学んできてはどうですか?」
「いいよ、何となくいまさらだし・・・何よりめんどくさい」
「そうですか」

田吾作の授業に感心している茜とアスカ。
感情のコントロールが必要だと言う点ではレミリアもアスカも同レベルである。
さて、肝心の授業内容は精神鍛錬、精神統一を実際にやってみる事となっていた。

「では、これより実際に精神統一をやってみるでやす。
あっしはこれでも、この手の訓練は何度もやってきたでやすから監督もしっかりできるでやすからね」
「「「「はーい!」」」」
「では、全員目を閉じて集中するでやす。
時間は30分、一番長くできた子にはご褒美においしいキュウリを進呈でやす」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

田吾作はそういいながら緑色のおいしそうな輝きを放つキュウリを掲げて見せた。
とは言え、それで喜ぶの河童ぐらい。
ルーミアでさえ呆れて言葉をなくしている。
そして、見学者達もまた一様に呆れている中、田吾作は更に言葉を続けた。

「そして・・・もしも、もしもでやすよ? 5分以上、集中できない子がいやしたら」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
「この、灰色のキュウリを食べてもらうでやす!」
「「ちょっと待て(待った)~~~!!」」
「何でやすか? アスカ様に茜さん」

田吾作が灰色のキュウリを掲げた瞬間、アスカと茜は同時に叫んでいた。
その叫びに田吾作は眉を顰めているが二人にとってはそんなことを気にしている場合ではない。

「いや、何でそこでキュウリなんだよ?」
「おいしいでやすよ?」
「ば、罰みたいなのでおいしかったらダメだと思うんですが」
「そんな?! あっしにはまずいキュウリなんてだせやせんよ!」
「「そういうことじゃなくて!!」」

アスカと茜が言いたいことがうまく伝わらず地団駄を踏んでいる。
ちなみに、ほかの見学者達、レミリア達は少し変わったキュウリ程度の認識しかなく、
フランドールとルーミアにとってもその程度の認識しかなかった。
ただし、才と塁だけはアスカと茜の様子からそのキュウリに対して警戒心を抱いている。
そして、結局とめることはできずにそのまま授業は続行されたのだが・・・・・・フランドールがそんなに長い時間おとなしくしている筈がなかった。

「つまんない・・・・・・」
「フランドールちゃん?」
「こんなので能力うまく使えるようになるわけないじゃない!!」
「まずい・・・フラン!!」

開始3分としないうちにフランドールの癇癪が爆発し右の手のひらを眼前に広げた。
レミリアが止めようと動き始めているが間に合いそうにも無い。

「壊れちゃ「っめ!」いた~?!」

しかしながら、レミリアが間に合わずとも既にアスカが動いていた。
おでこを抑えた状態でうずくまるフランドールと驚きに目を見張っている見学者達を尻目に、
アスカはデコピンを放った体勢のまま田吾作へと話しかけた。

「田吾作、油断しすぎ」
「っう、すまないでやす・・・あんまりにも良い子だったからつい・・・」
「まぁその気持ちは分からんでもないがな」

そうやってアスカが田吾作と話しているとフランドールが再起動を果たした。

「っつぅ~~~、何するのよ! 痛いじゃない!!」
「それは俺が言いたいよ。お前田吾作に何するつもりだったんだ?」
「何って・・・ぎゅっとしてドカーン」

そう言ったフランドールはアスカの目の前で手を握ったり開いたりしている。
しかしながら、アスカにしてみれば何のことか分からずに困惑するしかない。
まぁそれでも・・・・・・

「まぁ田吾作に何かしようとしてるのは分かった・・・お仕置きだ
「だめでやすよ! あっしはなんとも無かったでやすから」
「俺が間に入ったからだろ? こういう時はきちんと叱らないとダメなんだよ」

そう言ったアスカが田吾作に向けていた目をフランドールへ戻すと、
フランドールは田吾作にしたようにその手のひらをアスカに向かって広げている状態だった。

「ふん、お仕置きなんてされないもんね~。壊れちゃえ!
「フラン!!!」

そこでやっと我に返ったレミリアはフランドールを止めようと飛び出すがまたしても間に合わない。
フランドールの手は今度は誰に邪魔されることも無く握り締められる。
しかし・・・・・・そこには何の変化も無かった。

「っへ? あ、あれ? っぎゅ! あれ?? っぎゅ! ドカーン!! あれ???」

フランドールは何の変化も無いアスカに混乱し何度も手のひらを開いては閉じてと繰り返している。
対するアスカはフランドールが何をやりたいのかがサッパリ分からなかったがとりあえずはお仕置きを執行することにした。

「はい、口開いて~」
「はが?!」

アスカは田吾作から灰色のキュウリを受け取るとフランドールの頬を親指と人差し指で挟むようにして口を開かせ、

「はい、よく噛んで~」
「あぎゅ、もぎゅ」

その口にキュウリを入れると無理やり口を閉じさせた。
そして・・・・・・

「っっっ☆□●♪σ×?!?!?!?!」

紅魔館にフランドールの声にならない絶叫が響き渡った。


一方、目覚めていきなり仕事に送られた美鈴さんは仕事である門番(居眠り)に勤しんでいた。
結局侵入者がどうなったかは聞いていないものの、
同じ様に寝かされていた茜達の状態と偉大なるスカーレット計画中止の知らせから特に問題は無いだろうと予測した美鈴は、
心安らかに仕事(昼寝)に従事している。
そう、唐突に紅魔館から悲鳴が聞こえてくるまでは・・・

「っっっ☆□●♪σ×?!?!?!?!」
「っふにゅ?! な、何ですか?! また侵入者!」

突然の悲鳴に安らかな眠り(仕事)を邪魔された美鈴はすぐさま館へと駆け出した。
そして館の扉を開け放つと、

「大丈夫ですか!!」

そこには、

「こ、これは・・・」

泡を吹いて気絶するフランドールの姿が。
そのフランドールを泣きながら介抱するレミリアと咲夜と小悪魔。
フランドールほどの吸血鬼を気絶させるキュウリへの興味で目を輝かせるパチュリー。
フランドールがこぼしたキュウリから距離をとって抱き合い、体を震わせている茜と才と塁とルーミア。
灰色のキュウリを食べながら何やらぶつぶつ言っている田吾作。
頭を掻きながらばつの悪そうな顔をしているアスカ。
美鈴にしてみればなぜこうなったと言わんばかりの混沌とした状況が作られている。
そんな中、扉を開けた状態で呆然としている美鈴の存在にアスカが気づいた。

「ん? おぉ、美鈴」
「っへ? あれ、アスカさん? 何でここに??」
「まぁ昨日からちょっとな・・・・・・そういや今までどこに? 茜達と一緒にいなかったから心配したぞ」
「私の仕事は門番ですから起きた途端にお嬢様からって、昨日ってことはアスカさんが侵入者だったんですか!」
「まぁな。
それよりも門番? メイドは休みだってのに・・・大変だな」
「いやいや、そうでもないですよ」

アスカの言葉に美鈴は照れた様に頭を掻きながら笑って答えた。
久方ぶりの再開だと言うのになんとも味気の無いやり取りではあるが・・・・・・まぁ、この二人ならこんなものだろう。


その後、結局フランドールが目を覚まさなかったため、今回の授業はここまでとなってしまった。
大人しかったフランドールの突然の暴走。
それに対し田吾作が落ち込むかとアスカ達は心配したが、それは杞憂に終わった。
田吾作曰く、

「全部が全部、はじめからうまくいくとは思ってないでやすよ。
むしろ、何も無い方が怖いでやす。
まだまだ時間はあるでやすから、これからゆっくりと教えていくでやすよ」

との事だ。
ちなみに、気絶していたフランドールだが目覚めていらい灰色の細長い物体・・・・・・つまりは灰色のキュウリなんだが、
これを見るたびに悲鳴を上げて逃げるようになってしまった。
よほど、ひどい味だったのかしっかりとトラウマになっているようだ。
そのおかげか、田吾作のその後の授業は軒並み成功を収めていくようになる。
しかし、その成果がはっきりと分かるようになるまではまだまだ時間がかかりそうではあるのだが・・・。


ちなみに、余談ではあるのだが狂気の少女から狂気が無くなる頃には幾つのトラウマができるのか、このときはまだ誰も知る由は無かった。


<おまけ>
紅魔館からの帰り道

「そう言えば田吾作」
「なんでやすか? アスカ様」
「ついノリと勢いで協力しちまったが・・・・・・なんでフランドールに肩入れを?
正直な話、お前があそこまですることは無いと思うんだが」
「そのことでやすか・・・・・・そうでやすね。
一言で言ってしまえば『同情』、でやすかね」
「同情って・・・今日の様子見ただろ? 同情だけならもうやめたほうがいいんじゃないのか?」
「そうなんでやしょうけど・・・」
「けど?」
「あの子を見ていると、昔のあっしを思い出しちまって・・・・・・」
「昔?」
「そうでやす、能力や状態はあの子のほうがひどいかも知れやせんが・・・それでも、一人ぼっちだったと言うことはあっしと同じでやすから」
「ん~、昔やら能力に関しては聞き流すとして・・・一人ぼっち『だった』?」
「そうでやすよ。
あっしにはアスカ様、フランちゃんにはこれからあっしが付いているでやす。
だから、一人ぼっちだった・・・でやすよ」
「そうか・・・・・・そうだ、ちょうどいい機会だから言っておくんだが」
「なんでやすか?」
「そろそろ様付けで呼ぶのやめないか? どうにも違和感が残ってな」
「あっしにとっては普通だったでやすし、いまさら変えるとそっちの方が変でやすよ」
「そうか?」
「そうでやすよ」
「そっか・・・まぁ、お前がそれでいいならいいさ」
「でやす。
・・・・・・これからもよろしくでやすよ、アスカ様」
「こっちこそよろしくな、田吾作」


<おまけ2
注意:このおまけは笑いの為だけにあり、おぜう様や瀟洒(笑)を貶すものではありません。>
少し未来の紅魔館

「咲夜・・・分かっているわね」
「はい、お嬢様。
あの男による妹様への悪しき所業がこんなにも・・・・・・」
「ならば始めなさい!!」
「はい! どこからとも無く手に入れたこのカメラで・・・・・・」
「いや~~~?! キュウリ怖いぃ~~!」
「あぁ、フラン・・・あなたは何でそんなに可愛いの」
「瀟洒(笑)フラッシュ! はぁはぁ・・・・・・涙目の妹様・・・はぁはぁ、瀟洒(笑)フラッシュ!」

そうして今日もまた紅魔館の床は紅く染まり、少女の悲鳴とシャッター音が鳴り響くのだった。

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後書き+次回予告

どうも、お久しぶりなお手玉の中身です。
SW中の夜行バスはかなりつらいものがありますね。
渋滞とか渋滞とか渋滞とか・・・・・・・・・
っと、そんなどうでもいい事は置いておくとしまして・・・
前回のリクエストの結果、Neet・花畑・旧作が選び出されました・・・何気にNeetの人気が凄まじかった。

では、次回予告・・・誰こいつ?
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?「やった・・・やったよ! ついに新キャラに僕は成れたんだ!」
!「やったね、ぴょ○吉君」
?「誰だよそれ! ○ょん吉って誰だよ!!」
!「まぁ、そんな事より次回予告だよギザ○坊や」
?「さっきと名前違うし!!」

!「何だかんだで終わった吸血鬼異変」
?「そうなると気になってくるのが被害者達」
!「とりあえず様子を見に人里へ」
?「そこで目にするものは?!」

次 回
 「ケロちゃんの移動は可愛いけどプレイヤー泣かせすぎる」
                固めまでもっていけないorz by.kami



[10620] いざ、竹林へ・・・・・・そして、おまけにはあの方が!
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/10/12 20:28
吸血鬼異変。
後にそう呼ばれる異変も終わり幻想郷が今までと同じような日々を取り戻したそんなある日。
俺はあれから一度も見舞いに行ってなかった影月の見舞いへと向かった。
レミリアはルーミアに対して頭を下げてくれた・・・それなら、影月にも同様の対応を取るだろう。
だから、紅魔館へ足を運ぶように言うつもりで人里までやってきたのだが・・・・・・

「・・・・・・なんだ、この桃色空間は?」
「あ、旦那・・・ちわっす」

黒陽が何か言ってるようだがまったく耳に入らない。
俺の目の前では影月とリグルが同じテーブルに着き、そこに用意されている食事をリグルが影月の口へと運ぶところだった。
あまりの光景に目を疑った俺は一度視線をはずし深呼吸をし、心を落ち着けた後に二人の方へ目を向けると、

「はい、影月さん。あ~ん」
「あ~ん」

更に濃い桃色だった。
人が来たことにも気づかず、二人は自分達の世界に浸っている。
俺はそのままその場を立ち去ると、家の外に出て眉間を押さえながらどうするべきか考え始めた。
すると、そんな俺の肩が背後から叩かれる。
振り向くと、そこには黒陽がいる。
黒陽は何も言わず、あきらめた様に首を振ると少し先の茶屋を指差した。

「(そうか、おまえもか・・・)」

それだけで何となく理解できた俺は首を縦に振って答えると、黒陽と共に茶屋へと向かい、
黒陽と共に同じ物を頼んだ。

「「店主、出来るだけ渋い茶を頼む」」

まずはあの甘い空気でムカムカする胸を何とかしよう。



青年飲茶中・・・・・・




それから茶屋で3杯4杯とお茶を飲みやっと落ち着いた俺は、早速先ほどの光景に関して尋ねようと黒陽へと声をかけた。

「それで、あれはなんだ? 店主、もう1杯頼む」

俺は黒陽に尋ねながらも新しいお茶を注文する。
まだ、あの甘い空気のダメージが残っている・・・今にも胸焼けを起こしそうだ。
そして、黒陽もまた、顔を顰めている。

「俺にも1杯お願いします。
んで、旦那。影月のことですよね?」
「現状それ以外何かあるのか?」
「まぁ、そうですよね」

そう呟いた黒陽は困ったように苦笑いを浮かべると、自分が見ていた影月からリグルへの最後の告白を語った。
語られた内容を簡単にまとめると、
目覚めてある程度元気になった影月はとうとうあきらめる決心が付いたのかこれが最後と前置きをして告白したそうだ。
影月は半ば諦めていた様だが、返ってきた返事は了承。

「そして二人ははれて恋人同士・・・と言うことか」
「そうなんですよ」
「まぁ、改めて聞いてみると当然と言えば当然だな」
「?? それはどういう事です? 旦那」

俺の言葉を聞いた黒陽は首をかしげながら尋ねてきた。
それに対して俺は、自分の考えを語る。

「元々、リグルも満更ではなかったんだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ、しかし最初の出会いがあれだったせいで簡単には素直になれなかったんだ」
「そう言えば俺らって間接的に言うとあの子に殺されたんでしたね」
「まぁ、結果的には人間やめて生きてるけどな。
とりあえずそれは置いておくとして、素直になれなかったリグルも今回の件で身を挺して自分を守ってくれた事を切欠に、
影月を惚れ直して素直になったんだろうよ」
「なるほど、納得です・・・・・・ただ・・・」
「あぁ・・・・・・」

俺の説明に納得した黒陽は一度頷き返事をするとその手に新しくおかれたお茶を握った。
対する俺も同じ様に握る。
そして、

「「あの桃色の空気だけは勘弁してくれ」」

同じ言葉を同時に言い捨て、お互いにお茶を一気に呷る。

「「んく、んく?! げほっ! げほっ!!」」

予想以上に渋いお茶に、黒陽と同時に咽かえる。
しかしながら、その渋みのおかげでやっと落ち着いてきた。

「ふぅ、黒陽・・・この後どうする」
「どうするって・・・・・・俺は家に戻るつもりですけど?」
「あそこにか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

俺の言葉に黒陽は顔を俯かせ、影を背負うほどに落ち込んでしまった。
どうやら、あの二人がいることを忘れていたらしい。
この短時間で忘れられるとは・・・・・・流石黒陽だ。
もしかしたら、あえて忘れていたのかもしれないが・・・・・・まぁ思い出したようだから関係ないだろう。
そう考えた俺は落ち込んだままの黒陽に向かって声をかけた。

「それで、結局どうするんだ?」
「そういう旦那こそどうするんですか?」
「俺か? 俺はこの後も特に予定は無かったからな、とりあえずは知り合いの所に遊びに行こうかと思ってるんだが・・・・・・付いてくるか?」
「お供します」

尋ね返された俺は適当に考えた予定を黒陽に教えると、どうせだからと思い、そのまま誘ってみることにした。
その誘いに目の前の黒陽は二つ返事で了解の意を返してくる。
そうと決まれば早速行くことにするか。
そう考えた俺はお茶の代金を払うと、黒陽と共に人里を離れ一路、竹林を目指した。


てくてくてくてく・・・・・・
男二人で竹林までの道のりを進んでいく。
その間に黒陽から驚くべき事実が伝えられた。

「っは? 魔理沙ちゃんが家出した?!」
「うっす。
お嬢、何を思ったのか突然魔法使いになるって言い出して・・・・・・当然、親父さんが許すはずも無くそのまま大喧嘩。
挙句の果てに霧雨の親父さんがお嬢を勘当しちまって・・・・・・」
「なんとまぁ・・・って、だとしたら早く探さないと!」
「あ、それでしたらどこに居るかは分かってるんで安心してください」
「そうなのか?」
「うっす」

黒陽は俺からの問いかけに力強く頷くと言葉を続けた。

「お嬢は今、魔法の森に住んでます」
「魔法の森って・・・一応尋ねるが、大丈夫なんだろうな?」
「勿論。
以前俺達が住んでいた仮住まいを改装してそこに住んでますよ」
「あぁ~、あれか」

黒陽の言っている仮住まいとはリグルを撃退した晩に行ったあの小屋の事だ。
確かに、あそこは魔法の森ではキノコの影響が殆ど無いから住むには問題ないだろう。
俺はそう考え納得すると、ふと疑問に思ったことを黒陽に尋ねた。

「そういや、魔理沙ちゃんはなんでまた魔法を?」
「さぁ? 俺にもわかりません」
「そっか」

ふむ、少々気になりはするが・・・

「まぁ、魔理沙ちゃんが自分で決めたんならいいか」
「そうですね」

そう結論付けた俺は黒陽と共に頷き笑いあっていると、竹林の入り口が見えてきた。

「ん、見えてきたな」
「見えてきたって・・・竹林ですか?」
「おう」

黒陽からの問い掛けに言葉短く答えた俺は更に話を進める。

「あそこに知り合いが住んでてな、そこに顔を出そうと思ってるんだよ」
「竹林に人が? へぇ~、あの辺りに人が住んでるなんて初めて知りましたよ」
「ちなみに妹紅の家も竹林の近くだぞ」
「ほほぉ~・・・と言うことは妹紅さんのとこじゃないんですね?」
「まぁな・・・・・・よく考えてみると、お前にとっても懐かしい相手かもしれないな」
「っへ? 旦那、何か言いましたか」
「いや、なんでもない。
さて、さっさと行くとしようか」
「うっす」

よくよく考えてみれば黒陽は元輝夜の屋敷の警備兵だ。
こいつにとっても懐かしい再開かと思い、つい口から漏れてしまったが幸いなことに聞こえはしなかった様子。
こういった事は突然教えてその様を観察した方が面白いものだ。
その時の様子を頭に思い浮かべるだけで顔がニヤつくのが止まらない。
すると、黒陽がそれに気づいたのか怪訝な表情で声をかけてきた。

「旦那? どうしたんですか? 変な顔をして」
「ん? あぁ、なんでもないぞ」
「はぁ?」

黒陽は納得していなかったようだが・・・まぁ、気づかれてはいない様だし問題ないだろう。
とは言え、気付けたとしたらそれはそれですごい事だがな。
俺は黒陽からの疑問に対し、特に答える事無く、そのまま強引に竹林の中へと歩みを進めた。
その様子に黒陽も慌てて後からついてくる。
それから10分ほど歩いただろうか。
永遠亭までの道のりは半分ほど過ぎたところだろう。
今回は何となく、今まで使ったこと無い道を進んでみたが・・・一応は迷う事無く進めているようだ。
・・・・・・・・・だと思う・・・・・・だといいな・・・迷ってないよな?
そんな風に考えていると、黒陽から声を掛けられた。

「そういや旦那、結局これから行くとこってどんなところなんですか?」
「ん~・・・まぁ、それは行ってみてのお楽しみだな」
「はぁ・・・」

俺からの返答に黒陽は生返事で答えた。
ふむ、これなら少しは教えた方がいいだろうか?
そう考えた俺は、一歩踏み出した状態で振り返り黒陽に話しかけようとして、

「それじゃあ、わぁ~?!」
「旦那!!」

なぜか逆さ吊りにされてしまった。
どうやら先ほどの一歩が見事に罠を踏んでしまったようで片足にはロープが結ばれその先は天高く竹の先端に伸びている。
そこに慌てて黒陽が近寄ってきた。

「旦那! 待っててください、今降ろしますkぶぎゃ!!」
「黒陽?!」

逆さまになった視界の上、つまりは地面に黒陽が消えた。
よくよく見てみると落とし穴にかかったようで、黒陽はその中で目を回している。
誰だ、こんな所にはた迷惑な物を作ったのは。
そう考えながらロープをはずそうと身を捩っていると草むらから人影、兎妖怪がその姿を現した。

「よっしゃ! 馬鹿な人間、捕ったど~~~~~~~!!」

うん、なんか知らんがあいつは泣かす。
絶対に泣かしてやる。



一方その頃・・・・・・

「イナバ~、いないの~? イナバ~~~!!」

永遠亭の姫君、蓬莱山輝夜はあまりの暇だったので、イナバで遊ぼうと永遠亭内を歩き回っていた。
しかし、先ほどから呼んでいるものの肝心のイナバが現れないため不満が一方。
そこへ、ようやく哀れなイナバ、鈴仙がやってきた。

「は~い、如何したんですか姫様?」
「やっときたわね・・・私が呼んだら呼ばれる前から居るぐらいじゃないとダメじゃない!」
「んな、無茶な・・・」
「何か言ったかしら?」
「いえいえ! 何も言ってませんよ!!」
「・・・・・・まぁいいわ」
「っほ」

口答えをしたものの輝夜に逆らえるはずもない鈴仙は何とか誤魔化す事が出来てホッと一息。
その様子を輝夜は横目で見ながらも未だ解決していない疑問を鈴仙へとぶつけた。

「それよりも、他のイナバは如何したのよ?
この私が呼んでいるのに誰も出てこないなんて・・・ありえないわよ」
「兎達ですか? それでしたらてゐが竹林偵察に連れて行ったり畑を耕しに行ったりと、永遠亭にはほとんど残ってませんよ」
「そうなの? いつもなら掃除係とかがいる筈だけど?」
「さぁ? 今日は全部てゐが連れて行ってしまいましたからね」
「さぁ? って・・・使えないイナバね」
「姫様、それはあんまりです」

輝夜の我侭は今に始まったことではないのだが、使えない宣言までされた鈴仙は滝のような涙を流しながら落ち込んでしまった。
しかしながら、輝夜がそんなことを気にするはずも無く次の疑問を鈴仙へ投げかける。

「それなら永琳、永琳は如何したのよ? 泣いてないでさっさと答える!」
「うぅ・・・師匠ですか? 師匠でしたら八意ルームで何か作ってましたよ」
「八意ルームで?」
「はい、八意ルームです」

輝夜の言葉に鈴仙は重く静かに答えた。
そして二人はそろって目を廊下の先、八意ルームへと向ける。
八意ルームからはなんと言うか・・・黒っぽい瘴気のようなものが溢れていた。

「「・・・・・・ごくり」」

つい生唾を飲んでしまう輝夜と鈴仙。
そのとき二人の心は一つになった。

「「(しばらく永琳(師匠)には近づかないでおこう・・・)」」

そうして輝夜は鈴仙をからかいながらも、永琳に気づかれないように静かに遊び始めるのだった。

<おまけ>
魔法の森、霧雨魔理沙の家

「ふぅ、疲れた・・・」
「ふふふ、その割には楽しそうな顔じゃないかい」
「それは勿論。
あれほど恋焦がれ、憧れた魔法に手が届くんですよ・・・楽しいに決まってるじゃないですか」
「そうかいそうかい。
しかし、気を付けるんだよ。あんたは所詮人間、他の人間よりも魔力が少し多い程度の人間だ。
あたしが教えてやるのは魔法の基本だけ、あんたの魔力だけじゃ簡単な儀式一つで動けなくなっちまう」
「分かってますよ。
だからこうして森のキノコを集めて、煮詰めて、実験して、煮詰めて、抽出して・・・・・・まぁ、色々やって魔力を集めてるのですわ」
「ふふふ・・・分かってるならいいんだよ。
もうじきだ・・・もうじきあたしが動くときが来るよ。
そのときは魔理沙、あんたも・・・・・・」
「うふふ、分かってますわ。
この力、必ずや『魅魔』様の役に」

霧雨魔理沙の黒歴史開幕
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後書き+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
ネタ帳を無くした・・・・・・やべぇ。
ただでさえ最近忙しいと言うのに、がんばって考えたネタを無くすとかorz
まぁいい・・・ネタ帳が無くなったのなら新しく作ればいいのだから。
っと、言うわけで、これからもがんばるぜ。

では、次回予告です。
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あら、この部屋に来るなんて・・・何か用かしら? なるほど、次回予告ね。

愚かな兎は名乗ることすら許されずにその口を封じられ
姫様は相変わらず暇を持て余しては因幡で遊ぶ
そこにやって来たのは、遠く古くからの遊び相手と
見知らぬ懐かしい者

次 回
 「さて、この薬の被検体を探しましょうか」
             あの台本からこんな予告になるなんて・・・流石は永琳様 by.名も無き兎



[10620] Q.竹林の罠は誰が作りましたか? A.全部長老の作品です
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/10/18 18:21
さて、この兎め如何してくれよう・・・。
俺の目の前には気絶して目を回している黒陽と、同じ様に気絶し、縄で縛られ転がされている兎妖怪が一匹。
ちなみにこの縄は人を宙吊りにしてくれていた罠に使われていたものだ。
俺はなぜこのような状態になったのか、先ほどの出来事を思い返してみた。
まぁ、思い返すほどの出来事でもなかったのだが・・・。
兎が飛び出し戯言をほざいた後、兎は落とし穴を見に行ったので、
すぐさま足のロープを外すと穴を覗き込んでいる兎の頭の上に着地してやったのだが、
この兎、情けないことにたったそれだけで目を回したようで仕方なく罠に使われていた縄で縛り上げて、放置していたのだ。
それから黒陽を救出して、これといった怪我も無いようなのでそのままウサギと一緒に転がしたのだが・・・。

「ふむ・・・とりあえずは起こすか」

俺はそう呟くと、とりあえずは黒陽を起こして兎を運ぶことに決めた。

「おい、黒陽・・・起きろ、黒陽」
「ん・・・う、ん、旦那?」

黒陽は2度3度とその体をゆするとすぐに目を覚ました。

「っよ、目覚めの気分はどうだ?」
「最悪ですよ。何があったんですか?」
「落とし穴に落ちたんだよ」
「落とし穴??」
「詳しくはこの鍋の具に聞いてくれ」
「鍋の具?」

そう言って首をかしげた黒陽は俺が指差す方向に目を向けた。
例の兎へと。

「旦那・・・そいつは?」
「言ったろ? 鍋の具だよ」
「なるほど」

黒陽はそういうとそのまま頷いた。
どうやら黒陽も納得してくれたようだ。

「って、んなわけないでしょ! 旦那、こいつ如何したんですか?!」

残念納得していなかったようだ。

「はぁ・・・分かった、ちゃんと説明するよ」
「頼みます」
「簡潔に言うとだ」
「簡潔に言うと?」
「そいつが罠を作って俺達が引っかかった」
「旦那、鍋はどこですか?」

流石黒陽。
その180度方針を変えてしまうような身の振り方に痺れもしなければ憧れもしないよ。
俺はそう思うと、黒陽に返事を返した。

「まぁ、待て黒陽。
一応そいつの保護者に心当たりがあるからそいつの所に行くとしようじゃないか」
「分かりました。案内お願いします」

俺の言葉に黒陽は短く答えた。
さてと、いつまでも寝ているこの兎をどうやって運ぶかな。



一方その頃・・・・・・

「ただいま~って、姫様に鈴仙? ・・・・・・一体何をしてるんですか?」

本日の仕事、偵察から帰ってきたてゐが見たものは輝夜が鈴仙の顔に落書きをしているところだった。
すでに鈴仙の額には『米』、頬にはナルトと言った具合に至る所に落書きが書き込まれている。
そして、ちょうど鈴仙に新しい髭を書き終えた所で、輝夜はてゐが帰ってきたことに気がついた。

「っあ、ようやく帰ってきたわね。
さぁ、遊ぶわよ!」
「・・・姫様~、遊ぶのはいいんですがこの部屋を見たらまた師匠が怒りますよ」

てゐは部屋の惨状を見渡しながら輝夜へとそう返事を返した。
その際に、滝のような涙を鈴仙を見ない様にするのはもはや慣れた物だ。
そして、それに対する輝夜は特に慌てるでもなく、いつもの口調で軽く答えた。

「それなら大丈夫よ。
ちゃんとイナバが片付けてくれるから」
「っへ? 私ですか」
「何か文句ある?」
「無いです・・・・・・」

突然、しかも片付けの話を振られた鈴仙は呆然とした表情のまま聞き返してみたが、輝夜からの一睨みで再び滝のような涙を流すのだった。
そして、そんな鈴仙に目をくれることも無く、輝夜は再びてゐへと話しかける。

「だからイナバ、遊ぶわよ」
「・・・(鈴仙、後で人参あげるね)わかりm「たのも~」おや?」
「あの声は、イナバ迎えに行きなさい。
ほら、何時までも泣いてないで早く片付けて!」

来客の声に聞き覚えのある輝夜はすぐさまてゐを迎えに出し、泣いている鈴仙を強制的に片付けに参加させた。
とりあえずは鈴仙一人で片付けることにはならなくて済みそうだ。
一方、迎えに向かったてゐも来客の声には聞き覚えがあり、

「(アスカもいいタイミングで来てくれて・・・姫様の相手はアスカに頼も~っと)」

と、こんなことを考えながら玄関の扉を開いた。

「はいは~い、アスカいらっしゃ・・・い?」

玄関を開けて、アスカの姿を確認したてゐはそのまま固まってしまった。
しかし、それも仕方が無いことだろう。
予想通りにアスカがいるのは問題ない。
その少し後ろに男が付いて来ているがアスカの知り合いのようだしこれも問題ない。
二人は一本の竹を肩に担いで運んでいる・・・そこに一匹の兎妖怪を吊るして。

「んぐ~! んぐぅ~~!!」
「よっす、てゐ。久しぶりだな」
「う、うん、久しぶりだね、アスカ・・・ところで、その子は」
「土産」
「土産って・・・」
「煮て良し焼いて良し蒸して良しの美味しいお土産だ」
「ん~~~!!! んぐんぐぅ~~~!!!!」

吊るされている兎妖怪はアスカの発言に命の危機を感じているのか必死にもがくものの、縄はまったく解ける気配を見せない。
その光景に同族であるてゐは冷や汗を流しながらひいている。

「え~と、アスカ・・・一応その子は此処の兎だから放してくれるとうれしいんだけど」
「勿論放すぞ。
何せお土産だからな」
「っほ、よ「ただし鍋の上にな」くない~~~!!」
「はっはっはっ、遠慮しなくていいぞ~」
「遠慮じゃないよ~」

てゐはアスカの言葉を必死に否定するもののアスカはまったく取り合ってくれない。
と言うよりも、アスカがてゐをからかっているだけの様であるが。

「旦那に弄られるとは・・・同情するぞ、兎の嬢ちゃん。
・・・ん? なんだこいつ、また気絶してるよ」

てゐとアスカの話を面白おかしく聞いていた黒陽がふと、吊るされた兎に視線を向けると、
兎は緊張に耐えられなかったのか、はたまた吊るされた体勢が辛かったのか再び気を失っていた。
黒陽はそんな兎に呆れのため息を吐いたが、正直、仕方のないことだろう。
なんせ全く身動きが出来ない状態で自分の命が知らない間に他人、この場合はアスカの手の中にあるのだから堪らない。
気絶と言う名の現実逃避の一つや二つ起こしてもしょうがないことだ。
まぁそれはさておき、アスカ一行は永遠亭の広間へとてゐに案内された。
ちなみに、哀れな兎はまだ吊るされたままである。
どうやらてゐは見て見ぬふりを貫くようだ。
そうして、広間へと到着。
綺麗に片付けられた広間では輝夜と鈴仙がお茶を飲みながらアスカへ歓迎の言葉をつむいだ。

「あらアスカ。
ようこそいらっしゃ・・・いぃ?!」
「っぶぅ~~~!!」
「人の顔見ていきなりそれは無いんじゃないか?」
「そんな事はど「げほっげほっ」の後ろに担い「ごほっごほっ」・・・・・・」

兎を吊るして現れたアスカの姿に輝夜は驚きに声が裏返り、鈴仙は飲んでいたお茶を勢いよく吹いてしまった。
そんな二人の姿を見たアスカは憮然とした表情で抗議の声を上げている。
それに対する輝夜はすぐさま吊るされた兎について問い質そうとするのだが、お茶にむせた鈴仙の咳き込む声でまともに喋れない。
輝夜はいまだ咳の止まらぬ鈴仙にその体を向けると、

「ごほっ! げほっ! 「イナバうるさい!!」 うぼぉ!!」

なぜか手に持ったスリッパで鈴仙の頭を一閃。
その一撃で鈴仙は叩かれた箇所から煙を上げながらちゃぶ台に突っ伏し、ピクリとも動かなくなってしまった。
動かなくなった鈴仙を見ながら輝夜は一言、嘆くように呟く。

「ふぅ・・・イナバ、私の邪魔をしたあなたが悪いのよ」

言い放った輝夜は額を拭い、どこか満足そうな顔をしている。
そして、そんな光景を見ていたアスカとてゐは顔を引き攣らせながら声を揃えた。

「「ひでぇ~」」
「うるさいわよ、二人とも。
それよりもアスカ、その吊るしてるのは一体何なのよ!」
「何って・・・」

アスカは肩に載せた竹に吊るした兎を一度見ると、再び輝夜に視線を戻し、首を傾げながら答えた。

「今晩のおかず?」
「何であなたが聞いてるのよ! イナバ! 早くそのイナバを降ろしなさい」
「はいな~」
「あ、あぁ・・・今晩のおかずが・・・」

輝夜からの命令と言う免罪符を手に入れたてゐの行動はすばやく、返事を返すやすぐさま吊るしていた兎を降ろしてしまった。
そして、それをどことなく残念そうに見ているアスカに対して黒陽は、

「(旦那、まさか本当に・・・)」

演技だとは分かっていても疑わずにはいられないのだった。
それはさておき、黒陽は肩から竹を下ろすと、なおも何やら言い争っているアスカの影から顔を覗かせると、その体に電撃が走る。

「う、ふつくしい・・・・・・」

短く呟いた黒陽はアスカの横からふらふらと広間へと入って行った。

「ん、黒陽? どうしたって、黒陽?!」

その様子にアスカが何事かと思い声をかけるものの、黒陽は振り返りもせず輝夜の前まで行くとその場で膝をつき頭を垂れた。
対する輝夜は突然の事に如何していいのかも分からず、アスカに黒陽のことを尋ねる。

「っちょ、アスカ! こいつ何者よ?!」
「あぁ、なんと美しい方だ・・・」
「そいつは俺の友人の黒陽って言うんだが・・・どうなってんだ?」
「その白磁のように白い肌・・・」
「ふ~ん・・・あなたの友人は突然人に言い寄ってくるような危険人物なの?」
「そのふつくしい手はまさに白魚の如し・・・」
「そんな事はないんだが・・・お~い、黒陽~」
「纏いし衣もあなたのふつくしさを際立たせる・・・」
「へ、へぇ~・・・ふふん、気分がいいわ。もっと言いなさい!」
「その艶やかな髪はまさに天上の輝き・・・」
「もっと、もっとよ! もっと私を褒め称えなさい!!」
「「うわぁ~・・・」」

アスカは無駄にテンションの上がっていく輝夜と明らかにキャラクターの変わっている黒陽の様子に、
いつの間にやら隣に来ているてゐと一緒になってひいてしまった。
輝夜は褒めちぎられて気分がいいのか先ほどまでの警戒はどこへやら。
黒陽は広間に入ったときと変わらずに、アスカの声さえも聞こえないかのようにその口から色々すごい言葉を紡ぎだしていく。

「そのふつくしい耳もまた素晴らしい・・・」
「変なところを褒めるのね・・・まぁいいわ、もっと言いなさい!!」
「ねぇ、アスカ・・・」
「なんだ、てゐ?」
「あんたの知り合いってあんなのばっか?」
「いや、あいつも普段からあんなじゃない筈なんだが・・・」

そうやっててゐとアスカが話していると、今度はてゐに助けられたウサギが目を覚ました。

「ひ、ひぃ~! 俺を食ってもうまくないぞ~!!」
「うるさいよ『ロン』、少しは静かに起きれないの?」
「ち、長老? 火は? 鍋は??」
「長老言うな! 感謝しなさいよ。
私がこの身を盾にあんたを助けてやったんだから」
「ち、長老~~~」
「だから、長老言うなと!」

目覚めた兎、ロンはてゐの言葉を聞くと感動の涙を流しながらてゐへと飛びついた。
しかしてゐは、『長老』と言われるのが気に入らないのか飛びつかれる寸前でロンを叩き落す。
そして、その様子を横で見ているアスカは呆れのため息を一つついた。

「はぁ・・・てゐ、よくそんな事いえるな?」
「ん? だって助けたのは事実じゃん」
「いや・・・ん~、まぁいいか・・・」
「うささささ」
「っひ! お前は!!!」

アスカの存在に気づいたロンは先ほどまでのうれしそうな表情を一転、
この世の終わりかと言わんばかりの絶望一色に染め上げ、てゐへと助けを求めだした。

「ち、長老! 何でこいつが此処に?! 」
「あぁ、ロンは知らないよね? こいつはアスカって言って、姫様の遊び相手だよ」
「ひ、姫様の?」
「そうそう」
「なら、俺は食べられないで済む?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫」
「その間はなに?! 長老、こっち向いて話してください!!」

ロンの問い掛けにてゐが顔を背けながら不安げな答えを返すと、ロンは涙目になりながら必死にてゐの両肩をゆすり始める。
しかし、アスカは横から見ていた。
ロンに返事を返すときにてゐがニヤリと笑みを浮かべていたのを。
そこでアスカは、せっかくなので便乗することにした。

「まぁまぁ、落ち着きたまえ。
きみはロン君でいいのかな?」
「は、はい・・・そうですが・・・」
「俺の名前はアスカ・・・早速だけど風呂に入れてあげよう」
「お風呂ですか?」
「あぁ、ぐつぐつ煮えたぎっていい湯加減だぞ」
「それは鍋でしょ?!」
「何を異な事を・・・きみは今晩のおかずじゃないか」
「この人、思いっきり食べる気だ! 長老助けて~~~!!」
「ロン・・・」
「ち、長老?」
「美味しく食べられるんだよ?」
「長老ーーーーー!!!」

ロンは先ほどよりもその顔を青くするとその場で尻餅をつく様に座り込むとおびえる様に震えながら丸くなってしまった。
その体からは「食べないで食べないで食べない・・・・・・」と呟き続けている。
この様子には流石のアスカとてゐもやりすぎたかと慌てて謝りはじめた。

「あぁ~・・・今のは冗談だぞロン」
「そ、そうだよ! 冗談だからねロン」
「本当に? 俺を食べない?」
「あぁ、食べない」
「俺を見捨てない?」
「うん、見捨てないよ」
「うぅ・・・怖かった・・・」

そこまで言われたロンはやっと頭を出した。

「いや、悪かったな。
あまりにもからかい概があって・・・・・・いや、すまなかった」
「ごめんね~ロン。ちょっと悪ふざけしすぎたよ」
「うぅ・・・もう勘弁してくださいよ」

アスカとてゐが悪乗りしたと謝ると、ロンはやっとその青い顔を元の血の通った色に戻すのだった。
一方その傍では・・・・・・

「もっと、もっと私を讃えなさい!」
「もはやそのふつくしさを表現できる言葉がないほどに・・・・・・」
「ほ~っほっほっほっほっ!!」

完全に人格の壊れた二人がまだそのままで居たそうな。

<おまけ 少し未来の『幻想郷縁起』>

妖怪の項

名前     影月
能力     常識に囚われない程度の能力
人間友好度  高
危険度    低
主な活動場所 人里
二つ名    とんでも元人間二号

解 説
 前のページにて紹介した黒陽と同様の経歴を持つ妖怪、それがこの影月だ。
 彼も元は人間だったらしいがある事件を境に妖怪へと変じてしまったらしい。
 残念ながらその事件に関しては本人(本妖怪?)達が口を閉じてしまいなんら語られることはなかった。
 ちなみに、別ページにて紹介している虫の妖怪、リグル・ナイトバグさんとの交際が確認できており、
 その幸せそうな姿は傍から見てもお似合いの二人である。

目撃例

「見たことの無い緑髪の少女と散歩してた・・・浮気か?」
                 弥四郎
                その少女がリグル・ナイトバグである
「うちの炊事場に黒い例の奴が・・・・・・」
              八百屋の奥さん
             彼ら妖怪とは関係ないだろう
                                           著 稗田阿求
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後書き+次回予告

どうも、黒いお手玉の中身です。
多くの読者の期待を裏切り、てゐにはノータッチと言う汚いお手玉です。
以前から考えていた新しいオリキャラは唯の兎妖怪になりました。(しかも雄)
これから先、彼には道化師になってもらおうかと計画を立てるお手玉の中身なのでした。

では、次回予告です。
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うっす、突然現れた新兎、ロンです。次回予告も担当させてもらいます。

終わることの無いと思われた礼賛の言葉
しかし、あの方が目覚めることでその言葉も終わる
そして、礼賛の言葉は悲鳴と変わり
兎の心に戦慄を残す

次 回
 「永遠亭のウサギは見た! あの方の怒れる姿を!」
                 それよりあんた、いい加減本当の名前を名乗りなさいよ by.てゐ



[10620] 鈴仙に二つ名『新参ホイホイ』が付きましたw
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/11/06 00:26
幻想郷にある竹林の奥深くに存在する屋敷、永遠亭。
その広間では黒髪の美しい少女、輝夜が触角の生えた男、黒陽を親の仇といわんばかりに何度も踏みつけていた。

「っく、この、紛らわしい、真似を、するんじゃ、ないわよ!!」
「いたっ! っちょ、なに! いてっ! やめっ! っぎゃー!」

黒陽は両の手を前に出して必死に踏み付けを防ごうとするものの、怒りに顔を赤くし力が5割り増しの輝夜の前では何の意味もなく、
延々と踏まれ続けている。
そしてその傍では、輝夜とは違う意味で顔を紅くした鈴仙が両手で頬を押さえながら頭を左右に振り、
アスカとてゐとロンは「南無~」と両の手を合わせて黙祷をささげていた。
そもそも何故このような事になっているのか、それは鈴仙の目が覚めたときに起こったことが原因だ。


数分前の出来事・・・・・・

「ん・・・っつ、いたたた・・・姫様、酷いですよぉ~」

輝夜の笑い声が響く部屋の中、そう言いながら目覚めたのは輝夜から気絶させられた鈴仙だ。
鈴仙は殴られた箇所、頭をさすりながらゆっくりとその身を起こすと黒陽がいち早くその動き、と言うより声に反応した。

「おぉ、麗しの君よ・・・その声までもなんとふつくしい事か・・・・・・」
「っは?」「っへ?」「なに?」「なんと!」「っへ、どう言う事ですか?」

その言葉にそれぞれバラバラに反応したものの、すぐさまに鈴仙以外の全員が同じことを心に思い、そして叫んだ。

「「「「ちょっと待て~!!」」」」
「っな、何ですか、全員して?」

突然の大声に流石の黒陽も驚いたのか、驚きの表情でアスカ達の顔を見渡している。
それに対するアスカ達はこれ幸いと黒陽に詰め寄り、質問を投げかけた。

「おい黒陽、お前が無駄に褒めちぎってたのは輝夜だよな?」
「だ、旦那、近いです。
それよりもこの方の名は輝夜と言うんですか? 名前までふつくしい」
「いやいや、それは鈴仙だから」
「っむ、そうなのか? 教えてくれてありがとう兎さん。
しかし、鈴仙か・・・・・・輝夜の百倍はふつくしい名だ・・・」
「っちょ! あなたが口説いてたのは姫様だよな?」
「姫様? 誰のことを言ってるんだ兎?」

ロンの質問に対して憮然とした表情で答えた黒陽の視界が唐突に影に包まれた。
何事かと思い黒陽が振り返ると、

「・・・・・・・・・正直に答えなさい、虫けら」

そこには鬼の形相を浮かべた輝夜が黒陽を睨みつけていた。

「え、えっと・・・お嬢さん? 如何したのかな?」
「黙れ! あなたは私の質問に正直に答えればいいのよ」
「はい! 分かりましたー!」

輝夜は黒陽に詰め寄ると体中から怒気を溢れさせながら質問を始めた。
対する黒陽は蛇に睨まれた蛙の如く体を竦めている。

「私の名前は輝夜と言うんだけど・・・誰の名前が百倍醜い名前ですって?」
「そんなことは言「黙りなさい!」ハイ!」
「まぁ、そんな些細なことはいいわ・・・あなた、一体誰に向かってあれだけの事を言っていたのかしら?」
「えっと・・・鈴仙さんに向かってですが」
「おかしいわね・・・私はあなたの言葉に相槌を打ってたはずだけど?」
「っへ? 何か言ってましたか?」
「「「(あ、終わった)」」」

相変わらず状況の分からない鈴仙以外の全員が黒陽の発言に暗い未来を想像した。
そして、その想像は現実のものとなる。
アスカは聞いた。
輝夜の中から何かが千切れるような音を。
てゐは見た。
輝夜が右ストレートを放ち黒陽の顔面に打ち込むのを。
ロンは戦慄した。
倒れた黒陽を執拗なまでに何度も踏みつける輝夜の姿に。
鈴仙は先ほどの黒陽の言葉を思い出した。

「(麗しの君・・・麗しの君・・・麗しの君・・・)」

それだけで顔を紅く染めて鈴仙は首を左右に降り始める。
すぐ隣で暴力事件が発生していると言うのにこんなリアクションを取るとは、ある意味鈴仙も壊れ気味だ。
そうして話は冒頭に戻るのだが、ここまで騒いでいてあの人が出てこないはずがなかった。

「これは一体・・・どうなってるの・・・・・・」
「あ、お師匠様」
「ん? おぉ、永琳。お邪魔してるよ」
「久しぶりね、アスカ。それはそうと姫のあの荒れよう・・・一体如何したの?」
「あぁ、それはな・・・・・・」

挨拶もそこそこに、アスカとてゐは永琳に問われるままに先ほど起こったことを説明した。
するとどうしたことだろう。
話を聞いていた永琳はその顔に笑みを浮かべ話が進むにつれその笑みを深くしていくではないか。
てゐはその笑みを見ると原因は分からないものの永琳の関係だと察し、アスカはその笑みの訳を問いかけた。

「(こりゃ師匠の仕業かぁ・・・だとするとあの触覚男も可哀想に・・・)」
「・・・・・・と言うわけなんだが、なぁ永琳。こうなった原因に心当たりでも?」
「あら、何でそう思うの?」
「顔が思いっきり笑ってるぞ」
「そうね、確かに心当たりはあるけど・・・・・・先に姫様を止めることにしましょうか」
「そう言えばって、黒陽ー!」

どうやらアスカ達がしゃべってる間も輝夜は黒陽を踏み続けていたらしく、すでに黒陽の体はぼろぼろになっていた。
それを見たアスカは慌てて輝夜を抑えながら黒陽の救出にかかる。

「っちょ、輝夜! やめろ、黒陽を殺す気か」
「当然よ! この私を虚仮にして・・・すり潰して魚の餌にしてやる! アスカ、この手を離しなさい。そこの虫を殺せない!!」
「っげ、た、助けてエ~リン!!」

アスカは輝夜を羽交い絞めにして必死に止めようとするものの、げに恐ろしきは怒れる姫の力か、
それなりに力を入れているアスカを引きずりながらも黒陽に向かってその歩みを止めようとしない。
これには流石のアスカも驚き、慌てて永琳へと助けを求める。
と言うよりも、その場でアスカに力を知らないロンと現実逃避をしている鈴仙以外の全員が驚いているのだが。
しかしながら驚いてばかりもいられない。
いち早く正気に戻った永琳は輝夜を止めるべく声を掛け始めた。

「ひ、姫様、落ち着いてください」
「永琳?! あなたまで私を止めるつもりなの」
「事情はアスカから聞きました。その上で思い当たることがあるのでご説明します」
「思い当たること?」
「はい」

永琳からの言葉を聞き、輝夜はその顔を困惑の表情を浮かべている。
それからその場にいた全員、なぜかロンを含めた全員がちゃぶ台を囲むようにして座り永琳からの言葉を待った。
ただし、黒陽だけはダメージが大きかったのか気絶してしまっていたので部屋の端で寝かしてあるのだが。
そして全員が席に着くと、永琳はおもむろに語り始めた。

「まずあの男性、黒陽さんが姫ではなく倒れているうどんげを口説いていた理由ですが、それは・・・・・・」
「「「「それは・・・・・・」」」」
「私が三日ほど前からうどんげの食事にとある薬を混入したのが原因と思われます」
「薬?」
「はい、薬で「ちょっと待ってください師匠!」、どうしたのうどんげ?」
「「どうしたのうどんげ?」じゃありませんよ師匠! 私の食事に薬ってどういう事ですか」

どうやら鈴仙は薬が混ぜられていた事を露ほども知らなかったようで慌てた表情で永琳へと問いかけた。
それに対する永琳は呆れた表情を作って鈴仙へと言い返す。

「どういう事も何も、あなたが自分から言い出したことじゃない」
「っへ?」
「1週間ぐらい前に、「ゲレゲレって呼ばないでくれるなら何でもします~」って」
「っえ?」
「だからさっそく薬の実k、じゃなくて披検体になってもらったのよ」
「そんな、せめて予め言ってくれても・・・」
「それじゃあ正しいデータが取れないじゃないの・・・その代わりにいいデータが取れたわ」

そう言って永琳はその視線を黒陽に向けた。
すると、今度は輝夜が横から口を出してきた鈴仙の頭を抑えながら再度薬について問い始めた。

「っで、永琳・・・薬って「姫様痛いです」イナバは黙ってる! 薬って何の薬なの?」
「ふふふ・・・説明しましょう!」

声高らかにそう宣言した永琳はちゃぶ台の上に黒い丸薬を取り出し、言葉を続けた。

「今回、うどんげに与えた薬はこの丸薬。銘は『シンザンホイホイ』」
「「「シンザン・・・ホイホイ・・・・・・」」」
「なに? その変な名前??」
「あ、輝夜もそう思ったか」

永琳の宣言に鈴仙たち兎組みは恐れおののき、輝夜とアスカはその斬新な薬の名前に困惑の表情を浮かべた。
説明はなおも続く。

「この丸薬、『シンザンホイホイ』はうどんげが服用することで始めてその効能が発揮されるようになっているわ」
「わ、私ですか?」
「えぇそうよ。うどんげがこの薬を服用すると、
初めてうどんげの姿を見たものは全て狂気に犯されうどんげの存在が何よりもふつくしく思える様になるの」
「つまり黒陽は・・・」
「薬の力で狂気に惑わされていただけよ。
まぁ、初見じゃなければ薬の効果は無いから次に目を覚ましたら普段の状態に戻ってるはずよ」

永琳のその言葉にアスカは安心したようにホッと胸をなでおろした。
流石にこの先も黒陽があんな状態だとどうすればいいのか分からなくなってしまう。
しかし原因が分かったからと言って輝夜の機嫌が直るはずも無く、両頬を膨らませながら文句を言ってきた。

「何だってそんな薬をイナバに与えてるのよ! どうせなら私によこしなさい」
「残念ですが、姫様が飲んでも効果はでませんよ」
「なんでよ!」
「この薬はうどんげ用に調節したものですから姫様が服用しても意味がありません」
「むきぃー!」

永琳から薬の説明を受けた輝夜は再び怒り出し、近くに座っていた鈴仙の耳を引っ張り始めた。

「この耳なの! この耳がいけないのね!! っく、この、イナバの癖に! 早くもげなさい!!」
「っちょ、やめっ、姫様やめてっ、いたっ、いたっー!!」
「うるさいわよ! 黙って「姫様」、何よ!」

鈴仙は涙目になりながら抵抗するも輝夜相手に手をあげるわけにもいかず、結局はされるがままの状態になってしまった。
その時、永琳が静かに輝夜に声をかける。
輝夜はその声に反応し鈴仙の耳を引っ張る手を止めると睨みつけるように永琳へとその目を向けた。

「何よ、永琳。 私はイナバの耳を引っこ抜くので忙しいんだけど」
「姫様。 私が貴方の薬を用意しなかったのにはもう一つ、理由があります」
「??」

永琳の言葉に輝夜は鈴仙の耳から手を離すと困惑の表情で首をかしげた。
そして、永琳は更に言葉を続ける。

「それは、姫様にはこの薬が元から必要ないと判断したからです」
「なんですって?」
「なぜなら・・・・・・姫様にはうまれ持った魅力、カリスマがあるからです!」
「カ、カリスマ・・・」
「えぇ、姫様には既に初対面の相手を一瞬で魅了、平伏させるほどのカリスマがその身に宿っているのです。
そんな姫様にいまさら薬を使うなんて・・・・・・まさしく無駄の極みです」
「そ、そうかしら・・・だとしたらあの触覚男は?」
「既に姫様のカリスマに魅了されていたでしょう。
しかし、狂気への耐性が無かったため狂気に飲まれうどんげだけを見るようになってしまったのでしょう」
「そ、そうね・・・そうよね! 私にはカリスマがあり、イナバには無い!
たった一つのシンプルな答えだったわ・・・・・・永琳、大切なことを思い出させてくれてありがとう」
「いえいえ、姫様のためなら」

永琳の説明に納得がいったのか、輝夜は永琳に礼を告げると納得したように何度も頷き、
それに対し、礼を言われた永琳は輝夜の礼に返事を返すと頷き続ける輝夜を満足そうに見つめ続ける。
そして、会話に入ることの出来なかったアスカと兎組みは永琳と輝夜の話に心を一つにし、胸の内でつっこんだ。

「「「「(カリスマ・・・誰に?!)」」」」


その後、その場の全員で重要そうでどうでもいい事を議論していると黒陽が目を覚ましてきた。
ちなみに議論内容は・・・

題目1・姫様でも出来る仕事を探そう・・・・・・保留
題目2・魔法に負けない薬・・・・・・・・・・・・・・・・一概に比べるようなものではないため却下
題目3・竹林に置く罠のアイディア募集・・・・痺れ薬の使用を許可
題目4・名前の変更の許可・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いまさらの話なので却下

それぞれ、何となく誰が出した議題か分かるものばかりである。
まぁそれはともかくとし、まだ痛むのか頭を抑えながら体を起こす黒陽へとアスカは話しかけた。

「・・・っつ、いたたたた・・・・・・何だったんだ一体・・・」
「お、黒陽。 目が覚めたみたいだな・・・頭、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですよ旦那。 なんだったんですか一体?」
「んじゃ、説明がてらに紹介するからこっち来い」
「うぃっす」

アスカからの言葉に短く返事を返した黒陽は立ち上がると、ちゃぶ台まで歩み寄りその場に腰を落とした。
どうやら薬の効果は初対面でのみ有効なようで現在は特にこれと言った変化は起こっていない。
逆に、鈴仙と輝夜の方がその顔を複雑そうに歪めながら黒陽の挙動を見守っている。
そして、黒陽が座るのを確認したアスカはさっそく輝夜たちに紹介した。

「なんだかんだで紹介が遅れたがこいつの名は黒陽。 人里に住む俺の友人だ、よろしくしてやってくれ」
「うぃっす、黒陽と言います。 何がなんだかよく分かりませんが、とりあえずはよろしくお願いします」
「んでもって、黒陽。 こっちの奴が・・・・・・」
「待ちなさいアスカ、自己紹介ぐらい自分で出来るわよ」

片手を突き出しアスカの口上を止めた輝夜はそう言うと黒陽に向かって口を開いた。

「はじめまして、黒陽さん。 私がこの永遠亭の主、蓬莱山輝夜よ。
そしてこっちが・・・・・・」
「永遠亭の薬師、八意永琳よ。 よろしく」
「あ、これはご丁寧に・・・」

永琳の挨拶と共に頭を下げる二人に黒陽は慌てて返礼を返した。
しかし、黒陽の顔は何かを思い出そうとするかのように顰められている。
とは言え、永遠亭組の自己紹介はまだまだ続く。

「え~と、次は私ですね。 私は鈴仙=優曇華院=イナバで「ゲレゲレ=鈴仙=優曇華院=イナバだろ?」っ?! 違います!」
「はいはい、ゲレゲレーセンは放っておいて、私はてゐ。 よろしくね」

てゐはそう言うと、鈴仙が顔を真っ赤に染めながらアスカに詰め寄っている光景を尻目に黒陽に向かって可愛らしく頭を下げた。
対する黒陽は鈴仙とアスカの漫才に呆然としていたが、てゐが頭を下げたことに気づき慌てて返礼を返す。
そうして最後となった兎妖怪が口を開いた。

「最後は俺ですね。 俺の名前はロン、以後よ「あら? 貴方はボロンゴの筈だけど?」っげ!」
「ねぇ、何で勝手に違う名前を名乗ってるのかしら?」

最後になった兎妖怪、ロンもといボロンゴが名乗るとその名乗りが気に入らなかったのか、
永琳がその身から怒気を溢れさせながらボロンゴへと詰め寄った。
その脇で、なぜ怒っているのか理由の分からないアスカと黒陽はてゐへと事情を尋ねている。

「ひそひそ(てゐ、どう言うことだ?)」
「ごにょごにょ(永遠亭の兎はみんなペットの証、と言うよりも永遠亭の住人になるために名前をもらう事になるんだよ)」
「もごもご(ふむふむ・・・)」
「ごにょごにょ(ただ、お師匠様がつける名前は大抵変なのが多いからみんな別あだ名で呼び合ってるんだけど・・・)」
「ひそひそ(なるほど、永琳はそれが気に入らなかったと)」
「ごにょごにょ(そういうこと。 ちなみにあいつの本当の名前はボロンゴだよ)」
「もごもご(ボロンゴを縮めてロンと言うことか)」

納得したように黒陽が呟くと、話し終えた3人は揃ってその視線を永琳へと向けると、
ちょうど永琳がボロンゴの耳を捕まえて宙吊りにしているところだった。
何があったか分からないが、宙吊り状態となっているボロンゴは白目を剥いて気絶しているようである。
その傍では恐ろしいものを見たかのように輝夜と鈴仙が顔を青くしながら体を小刻みに震わせている。
そして永琳はボロンゴを捕まえたままアスカ達へと話しかけた。

「悪いけど急用が出来たから私はこれで失礼するわね」
「は、はぁ・・・」
「それじゃあ姫様、後をお願いしますね」
「え、えぇ・・・」

そうして、輝夜の返事を確認した永琳はボロンゴを捕まえたまま八意ルームへとその姿を消していく。
それを見ていたアスカ、黒陽、輝夜、鈴仙、てゐの計5人は両の手を合わせ黙祷し、口を揃えて一言だけ告げた。

「「「「「南~無~」」」」」

奇しくも、5人が告げ終わるのと八意ルームの扉が閉まるのは同じタイミングだった。

<おまけ>
The.八意ルーム

「え、永琳様?」
「ボロンゴ、まずはこの薬を飲んで」
「っへ? なんでですか?」
「いいから、飲みなさい」
「は、はぁ」
「そのまま体の力を抜いて」
「は、はい」
「ところでボロンゴって素敵な名前よね」
「いえ、最悪です」
「だめね、もう一回この薬を飲んで体の力を抜きなさい」
「は、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そろそろいいわね・・・。
ボロンゴは素敵な名前よ。貴方のその顔によく似合ってるわ。そもそも永遠亭の兎なら誇り高い名前、つまりはボロンゴこそが一番似合ってる名前なのよ。
だから貴方はこれからもボロンゴよ。ところで話は変わるけど、蜂蜜は絶対に腐らない永久保存食だって貴方は知ってたかしら?そもそも蜂蜜が分からないかしら?
まぁいいわ、ボロンゴは素敵な名前なんだから。今晩のおかずは何がいいかしら?にんじんのスープでもあの子は喜びそうね。素敵な名前のボロンゴもそう思うでしょ?
そうそう、人という字は人が一人で立ってる姿から出来た字なんだけど貴方は知ってたかしら?素敵な名前のボロンゴなら当然知ってるわよね。あぁ、ボロンゴ。
素敵な名前。素敵な響き。ボロンゴ。みんな大好きボロンゴ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ところで、貴方のお名前は?」
「ボクノナマエハボロンゴ、ミンナダイスキボロンゴ、ボクモダイスキボロンゴ、ボロンゴサイコウ」

八意ルームで起こった惨劇
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後書き+次回予告

どうも、お手玉の中身です。
すっかり1週間に1回ペースになってしまった。
その代わりに文章量も段々と増えてきたからいいかな~っと思ったりもする。
まぁそれとは別に、気がつくと投稿数が70を越えてたりもしてお手玉自体がびっくりしていたりもする。
こうしてみてみると、ここまで書き続けられたのも読者からのありがたい感想があってのこと・・・。
いやはや、感謝の極みです。
しかしこのペースだとスペカルールが出るのは何時になることやら・・・まぁ、これからも焦らずに書かせていただきますな。


では、次回予告・・・・・・まぁ、お前らでもいいか。
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毛玉F「ふふふ・・・我ら毛玉の力を持ってすればお手玉の中身なぞ」
毛玉G「ふふふふふ・・・・・・」
毛玉H「ふぅふぅ・・・ふらんたん、ふぅふぅ・・・」
毛玉A「どの毛玉だ? こいつら呼んだの?」
毛玉B「然り!」
毛玉C「えぇい! 散れ!散れ! 集まりすぎだ!!」
毛玉D「っく、これでは主人公になるどころではないぞ!!」
毛玉B「然り!!」
毛玉A「ん? 毛玉Eはどこに行った?」
毛玉F「ふふふ・・・手紙を預かってますよ」
毛玉A「なに? どれどれ・・・」
毛玉G「へへへへへ・・・・・・」
毛玉A「毛玉E曰く『本編への登場が決まったので今のうちに衣装合わせに行ってきます』っだそうな・・・」
毛玉H以外「なに~~~~~!!!」
毛玉H「はぁはぁ・・・Neetかわいいよ・・・はぁはぁ・・・」



[10620] 作者すら忘れていた懐かしすぎる遊び(黒陽の体力を修正)
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2009/12/28 00:27
深い竹林の奥深く。
そこに建てられた屋敷、永遠亭。
そこでは新たなる惨劇が幕を上げようとしていた。
止められたかも知れない・・・でも、誰にも止められない。
惨劇の目撃者達にはそれを止める術が無く、ただ被害者に向かって手を合わせることしか出来なかった。
そんな時、惨劇の目撃者の一人が唐突に大声を上げる。

「思い出した~!!」

手を合わせる事を止めて突然叫んだのは黒陽だ。
手を合わせていた他のメンバーもその声に驚いて黒陽を見る。
その中からアスカが黒陽へと問いかけた。

「思い出したって・・・一体なにを?」
「『なにを?』じゃないですよ旦那! あの人、ってかあの方は姫様じゃないですか!
何でこんなところに? つーかなんで生きてるんですか?!」
「あ、いまさら気づいたのか・・・」
「私のことを知ってる? アスカ、改めて聞くけどそいつは何者?」

輝夜たち永遠組みは黒陽の言葉を聞くや、その顔に警戒の色を広げた。
しかし、それは仕方の無いことだろう。
幻想郷、と言うよりも地球上において、輝夜の顔を知っている存在などそれこそ指で数える程度しかいないはず。
もし知っている存在がいるのなら、それは月からの追っ手ぐらいしか考えられないからだ。
とは言え、月から来たという事をまともに信じていないアスカがそれを分かるはずもなく、
不思議そうな表情を浮かべ返事を返す。

「何者って・・・さっきも言ったとおり俺の友人だが?」
「そういうことじゃ「あぁ、それと」、?」
「こいつはお前のとこにいた警備兵な」
「・・・・・・っは?」

そんなアスカの言葉に輝夜は理解できていないような返事を返す。
その顔は鋭い目つきで警戒していた顔から一転、何を言われたのか理解できないと言うように呆けた顔になっている。
傍に控えている鈴仙、てゐの二人は、そもそも何の話かが最初から分かっていないために、
アスカと輝夜と黒陽の顔をそれぞれ見渡しながら疑問の表情を浮かべ、アスカへと問いかけた。

「えっと・・・アスカさん。 そちらの黒陽さんは月の警備兵という事ですか?」
「なに言ってるんだ鈴仙? 月に警備兵がいるわけ無いだろう。 こいつは昔、輝夜が住んでいた屋敷の警備兵だよ」
「は、はぁ・・・って「「えぇ~~~!!」」」
「ちょっとアスカ! どういうことよ?!」
「昔、姫様が住んでた屋敷って、何年前の話なのさ?!」
「姫様が永遠亭に住む前のお屋敷と言えば百、二百、さ「指折り数えるんじゃないわよ!」、いたっー!!」
「ふん、人の過去を探ろうなんて・・・あさましいイナバね」
「(うわっ、鈴仙痛そ~・・・)」

アスカの言葉から鈴仙は指折り時間を数えようとしたものの、輝夜に叩かれてそれどころではなくなってしまった。
時の流れを気にしない蓬莱人とて直接年齢につながる事など言われるのはやはり気になるようだ。
そのまま輝夜が鈴仙いじめに入るのをてゐが同情の瞳で見つめている。
アスカはその様子を見ると自分の説明不足かと考え、黒陽に話しかけた。

「あ~、確かにここら辺の話は説明が必要だな。
黒陽、別に話しても大丈夫だよな?」
「別にいいですけど・・・・・・姫様のことも後で説明してくださいよ?」
「まぁ、輝夜が許可したらな」

そう黒陽に返事を返したアスカは、鈴仙の耳を引っ張り始めた輝夜に声をかけた。

「お~い、輝夜~。 聞こえてるか~」
「っく「いたっ!」、この「いたたっ!」、なかなかもげないわね・・・・・・なによアスカ、私は見ての通り忙しいんだけど?」
「いや、やめてやれよ・・・それよりも、黒陽のこと説明するから戻って来い」
「っく、イナバ、命拾いしたわね・・・・・・」
「うぅ・・・ひどいですよ、姫様」

鈴仙は呻く様に抗議の声を上げるが輝夜は知らん顔。
なぜなら、既に輝夜の興味は鈴仙ではなくアスカからの話に移り変わっていたから。
その様子を見た鈴仙が再び涙ぐむとその肩にそっと触れるものが・・・。
鈴仙が振り向いてみると、そこにはてゐが何も言わずに優しげな微笑を浮かべていた。
てゐの笑みに鈴仙が頷くと、二人は部屋の隅でちゃぶ台にあったお茶を飲み交わし始める。
そうやって二人がなにやら友情を確かめ合ってる中、そんなことを全く気にしない者たちはさっそく話を始めていた。

「まぁ説明するといってもそう難しいことじゃないんだが・・・・・・お前の屋敷の警備兵が生まれ変わった姿、それが黒陽なんだよ」
「はぁ? 本気で言ってるの?」
「本気も本気、大本気。 ほれ、黒陽もなんか言ってやれよ」
「俺もですか?! え~っと・・・・・・先ほどは失礼しました。 元は姫様のところで警備兵Aをやってた黒陽です」

突然アスカに話を振られ、慌てて輝夜へと頭を下げる黒陽。
しかし、そんなことで輝夜は納得できるわけも無く顔をしかめたまま騒ぎ立てた。

「っむぅ~・・・証拠よ! 証拠を見せないさいよ!!」
「証拠って言われても・・・なんかあるか黒陽?」
「また俺に振るんですか? 証拠証拠・・・・・・っあ! 姫様!」

再びアスカに話を振られた黒陽は何か証拠が無かったかと頭を捻っていたが、唐突に何を思いついたのか輝夜へと声をかけた。

「なによ?」

対する輝夜はそんな黒陽に怪訝な表情を浮かべながらも一応、返事を返す。
黒陽はそんな輝夜の表情も気にせず口を開くと、

「姫様はまだこいつを持ってますか?」

と、言いながらその懐から札の束を取り出した。
最初は何なのかと不思議そうな表情だった輝夜はその札の束を見るや、顔一面に喜色の笑みを浮かべ口を開いた。

「っふ、当然でしょ。 私を誰だと思ってるの?」

そう言った輝夜は自分も懐から同じような札の束を取り出し頭上に掲げると、高らかに宣言した。

「私こそが決闘女王よ!!」


さて、輝夜が気持ちよく宣言している中、二人の兎は何のことかサッパリ分からずに呆然と事の成り行きを見ていた。
そんな時、てゐは同じ様に呆けているアスカを見つけたのでダメ元で何が起こっているのか聞いてみることにした。

「ねぇアスカ・・・あれ、なに?」
「あ~・・・あれはだな・・・・・・」
「っへ? アスカあれ知ってるの?!」
「っへ、アスカさん知ってるんですか?!」

てゐといつの間にか話しに混ざっていた鈴仙はアスカのいかにも知ってますと言う態度に驚きの声を上げた。
元々、知らないだろうと考えていただけに、驚きようも一入(ひとしお)だ。
対するアスカはてゐたちのほうを見る事無く、輝夜と黒陽の手元にある札を見つめたままなんとも気まずそうに話し始めた。

「知ってる・・・っというよりもあれの発案者だ」
「「はぁ?!」」
「あれはだな・・・・・・・・・」

そうして驚く二人に視線を向ける事無くアスカが説明を始めた中、輝夜と黒陽は次の段階へと進んでいた。
二人はなにやらシートの上に札の束をおくと同時に口を開いた。

「「決闘!!」」

そういった瞬間二人の背後には飛蝗と竜の影が浮かび上がる。
どうでもいいことだが、気迫とは言え飛蝗と竜がにらみ合ってる様はなんともおかしな光景だ。
そんなおかしな光景の中、手に五枚の札を扇状に広げた黒陽が口を開いた。

「まずは俺の先行だ! ドロー!!
・・・・・・俺は『蝗の群れ』を攻撃表示で召喚! そして1枚、札を伏せて終わりだ」

黒陽は自分の手札から蝗の絵が描かれた札を置いた後う一枚、札を伏せた状態で置いてから宣言した。
それを聞いた輝夜は黒陽に対して挑発するような笑みを浮かべて口を開く。

「たかが虫如きで私にかなうと思ってるの? ドロー!
・・・・・・私は手札から『火鼠』を攻撃表示で召喚、勝負よ!!」

その輝夜の宣言に観戦していた鈴仙とてゐは目を瞠った。
先ほどまで見えていた飛蝗と竜の影が消え、変わりに札に書かれていた化物とそっくりの影が二人には見えたからだ。
その光景にてゐは一瞬呆然としたもののすぐに正気を取り戻すと隣で同じ様に見ているアスカへと詰め寄った。

「アスカ! なにあれ?!」
「あれって・・・さっきも説明したはずだ「違うよ!」、?」
「あたしが聞いてるのは姫様の後ろの影のことだよ」
「あぁ・・・あれは決闘者魂と札が呼応して生まれた幻影だ」
「幻影?」

アスカの返答を繰り返すように呟いたてゐは再び輝夜たちのほうに視線を戻すと、火鼠が蝗の群れを焼き払っているところだった。
火鼠が蝗を燃やし尽くす炎の余波がてゐの髪を揺らす。
その光景にてゐは思った。

「(あんなの幻影じゃないよ・・・)」

さて、てゐがどんな感想を抱こうとも戦いは止まらない。
火鼠を使って蝗の群れを焼き払った輝夜はその光景に満足したように頷くと口を開いた。

「蝗の群れ、撃破ね。 そして私は札を二枚伏せて終了よ」
「くぅ・・・流石は姫様。 俺の番だな、ドロー!
このカードを裏側守備で召喚! 更に二枚のカードを伏せて終了だ」

そう宣言した黒陽の背には消え去った蝗の代わりに何も書かれていない札が一枚浮かび上がった。
その札を見て鈴仙は困惑の表情を浮かべ、自身の疑問に答えてもらうためにアスカへと声をかけた。

「アスカさん、黒陽さんが出した札・・・なんかおかしくないですか?」
「ん、なにがだ?」
「いえ、召喚って言ったのに札しか出てませんよ」
「あぁ、あれか。 あれはだな裏側守備、略して裏守備と言うやつだ」
「裏守備、ですか?」
「おう。 まず守備表示にしておくことで化け物が倒されても決闘者は体力を減らさなくてすむんだ。
攻撃表示だとさっきみたいに蝗の群れを破壊した火鼠の攻撃が決闘者の体力を減らすんだよ。
次に、相手から自分の化け物が見えないように設置するのが裏側・・・合わせて裏側守備だな」
「なるほど・・・でもなんで裏側に?」
「さっきも言ったとおり、裏にして置くと相手から自分の化け物が見えない。
それを利用して相手を罠にかけたりして反撃に転じることが出来るんだ」
「へぇ・・・それなら何で最初から裏側で出さなかったんですか?」
「裏側に出来るのは最初の召喚時で守備表示にしたときしか出来ないんだ。
黒陽の蝗の群れは攻撃表示で出したから裏側には出来なかったんだよ」
「なるほど」

アスカの返答を聞き、鈴仙は一つ大きく頷くと、再びその視線を輝夜たちへと向けた。
どうやら鈴仙とアスカが話し込んでるうちに戦いはずいぶんと進んだようで簡単に見ただけだとまだ輝夜の方が有利なようだ。
ちなみに、現状はと言うと・・・・・・

黒陽
体力 1800
手札 4枚
化物 星1・幼い飛蝗(裏守備)、星6・灯篭に群る蛾(守備)
伏せ 3枚

輝夜
体力 3200
手札 3枚
化物 星5・番いの燕雄(攻撃)、星5・番いの燕雌(守備)
伏せ 1枚
永続 火鼠の衣(術)、燕の子易貝(術)

っと、こんな状況である。
体力差1400、その上に厄介な札が展開されていることに黒陽は自分の手番にも拘らず札を引けずにいた。
目の前の番いの燕は両方とも攻守共に2000。
しかも、雌がいる限り雄を攻撃することが出来ず、雄がいる限り雌を戦闘で破壊できないと言う最悪の組み合わせだ。
更には火鼠を倒した際に発動した術札、火鼠の衣が輝夜の場を対象にする術札の効果をさえぎっている。
突破口としては罠なら効くことと、もう一枚の術札、燕の子易貝を破壊することが出来れば番いの燕は消えるのだが・・・。
輝夜がそんな事を許すはずも無くおそらくは伏せてある札で弾かれてしまうだろう。
黒陽がそう考え悩んでいると輝夜が待ちくたびれたように声をかけた。

「ちょっと、何時まで考えてるのよ? それとも降参かしら?」

嘲笑を浮かべながら告げる輝夜に黒陽は奥歯を噛み締めると吼えるように言い返した。

「冗談じゃない!」
「ならさっさとしなさい」
「っく、ドロー!」

輝夜にせかされるまま苦悶の表情で手札を引いた黒陽の顔はまだ晴れる事は無い。
黒陽は新たに一枚の札を伏せると手番の終了を宣言した。
対する輝夜はそんな黒陽を小馬鹿にするように鼻で哂い、新しい札を引く。

「っふ、ドロー! これは・・・もはやあなたに勝ち目は無いわね」
「なに?」
「手札より術札を発動! 『蓬莱ノ珠之枝』」

その輝夜の宣言と共に輝夜の場には一本の木が生え、枝に実らせた煌びやかな珠が輝夜の体を照らした。
そして輝夜は、その光り輝く珠を見て満足そうに頷くと黒陽に向かって余裕の笑みを湛えながら口を開いた。

「この札は使った瞬間から自分の番が来るたびに体力を800回復してくれるのよ」
「なんだと! つまりは・・・」
「そう! つまりは私の体力は4000となり無傷の状態に戻るのよ」

輝夜の宣言を聞いた黒陽の顔が苦しげに歪む。
しかし、輝夜の勢いはまだ止まらない。

「更に! この札の効果が発動するたびに裏側表示の化物は全て表になるわ・・・さぁ、そのこそこそと隠れている化物を表にしなさい!」

輝夜の宣言と共に黒陽の場が光に照らされ、幼い飛蝗が体を震わせながらその姿を現した。

「んな?!」
「そして更に! この札が場にある限り私の化物は攻撃時のみ攻撃力を500上昇させるわ。
さぁ、番いの燕雄で攻撃よ!」
「っく、灯篭が!!」

灯篭に群る蛾の守備力は2300であったが、一時的に攻撃力の上昇した燕の攻撃に耐え切ることが出来ずに灯篭は倒れ、
そこに群っていた蛾は全てその身を炎に焼かれ消えてしまった。

「雌で攻撃する気は無いから私はこれで終了よ。
どうかしら、今なら降参してもいいのよ」
「っく、ドロー!」

黒陽は輝夜の挑発に乗せられるかのように札を引き・・・・・・

「まさか、やっと逆転できるのに降参なんて・・・」

顔に会心の笑みを浮かべながら・・・

「するはずがないだろう!」

引いたばかりの札を叫びと共に場に叩きつけた。

「術札、『黒き太陽の石』発動!」
「それは・・・」
「この札は自分の場にいる化物が相手よりも少なく、幼き飛蝗がいる状態で、自分の体力が相手よりも少なく、
さらには自分の体力を1500支払うことで発動する。
発動したこの札を対象とした札の効果を無効化し破壊する。
また複数の対象、もしくは全体を対象とした効果であってもこの札が対象内にある場合、その札の効果を無効化し破壊する」
「・・・・・・なに、その役立たずの札は」

輝夜は始めこそ驚いたものの黒陽の説明を聞いていくうちに、そのひどい発動条件に呆れたように呟いた。
それに対して黒陽はそんな言葉を気にすることなく次の手順へと移り始めた。

「そして、俺は幼い飛蝗を生贄に英雄『黒き仮面の戦士』を召喚!」

そうやって黒陽が宣言すると、貧弱な飛蝗の背が目が眩まんばかりの光を発しながら割れ始め、
そこから全身が黒く、虫の様な大きな複眼が異様なまでに赤い人型の化物が現れた。
果たしてこの化物の力は? 勝負の行方は?

次回へ続く・・・


<おまけな設定>

札名 灯篭に群る蛾
星 6
攻撃力 0
守備力 2300
効果 表守備表示のこの札が場に存在する限り、相手はこの化物以外を攻撃することが出来ない。


札名 燕の子易貝
効果 『番いの燕』召喚時にこの札を場に発動する。
この札が場から取り除かれた場合、番いの燕を破壊する。


札名 番いの燕雄
星 5
攻撃力 2000
守備力 2000
効果 番いの燕雌が場にいる場合、相手は番いの燕雌以外を攻撃することが出来ない。


札名 番いの燕雌
星 5
攻撃力 2000
守備力 2000
効果 番いの燕雄が場にいる場合、この札は戦闘によって破壊されない。

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後書き+次回予告

どうも、お久しぶりなお手玉の中身です。
難しかった。
何度書いては書き直したことか・・・まだ終わってないけどorz
さて、輝夜と黒陽・・・どちらを勝者にしたものか・・・。

では、次回予告です。
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ヤァ、ミンナノダイスキナボロンゴガジカイヨコクヲスルヨ。

ボロンゴノショウカンニヨッテギャクテンニセイコウシタボロンゴ
シカシ、ボロンゴモマケテハイナイ
タイリョクニサハアロウトモ、マダマダショウブハワカラナイ!!

次 回
 「ミンナノヒーロー、ソレガボロンゴ」
           ふむ・・・、もう少し弱めにしないと術後が安定しないようね・・・ by.八意博士



[10620] 真の勝者は戦わずして勝った
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2010/01/06 08:07
前回の続き

黒陽と輝夜の決闘・・・・・・・・・なぜこうなった?


「っな・・・」

輝夜は黒陽の召喚した黒き仮面の戦士を見ると驚きに声をなくしてしまった。
それを見た黒陽は満足そうに頷き口を開いた。

「どうやら姫様もこいつの恐ろしさを「な、なんて・・・」?」
「なんてもの呼び出すのよ!!
なによ! この黒くてテカテカ脂ぎってカサカサと素早く動き回っていかにも台所に出没しそうな奴は!!」
「っちょ?!」
「「「あぁ~」」」
「そこも納得しない!!」

しかしながら、どうにも輝夜は全く違う方向で驚いたようで、二人の戦いを見ていたアスカ達もその叫びに納得と共感の声を上げる。
とは言え、せっかくの切り札をそんな方向で驚かれても全く嬉しくない黒陽は吼えるように叫ぶと、次の手を打ち始めた。

「人の切り札を・・・もういいっ! 黒き仮面の戦士、番いの燕雄を攻撃だ!」

黒陽がそう命じると黒き仮面の戦士は番いの燕雄へと一直線に走り出した。
しかし、番いの燕雌が黒き仮面の戦士の攻撃を邪魔するようにその周囲を飛び回る。
それを見た輝夜は黒陽を馬鹿にするように口を開いた。

「愚かね。
番いの燕雌がいる限りあなたの化物はまともに攻撃することなんて「甘い!」、なんですって?!」

しかし、そんな輝夜の説明を一喝で切り捨てた黒陽の言葉に応じるように黒き仮面の戦士は番いの燕雌を無視して雄を粉砕した。
そして、雄を粉砕した黒き仮面の戦士は黒陽の場へと跳び下がり構えると残った化物、番いの燕雌をにらみつけている。
輝夜は狐に化かされた様な顔で呆然としていたが、すぐに正気を取り戻すと黒陽へ説明を求めた。

「ちょ、ちょっと! なんで番いの燕の効果が効いてないの?!」
「あれ? もしかして姫様こいつのこと知らないんですか?」
「そんなゴキ○リ見たいなやつのことなんで知るわけ無いでしょうが!」
「ひどっ! まぁ説明しますけど・・・・・・。
こいつは『黒き仮面の戦士』星3で攻撃力、守備力共に1300の化物です」
「はぁ? 何でそんなのに私の燕がやられるのよ」

黒陽の説明を聞いた輝夜はすぐさまに眉をしかめて言葉を返した。
対する黒陽はそんな輝夜をなだめるように言葉を続ける。

「ま、まぁまぁ・・・まだ説明は終わってませんから。
こいつの召喚条件は自分の場の化物より相手の場の化物が多い状態かつ、
黒き太陽の石が場に出ている状態で自分の表向きの『幼い飛蝗』を生贄にすることで召喚できます」
「それはまた・・・・・・ずいぶんと出しにくいわね」
「その代わりに効果は破格ですがね。
こいつは召喚成功後、自身以外の札の効果を受け付けない!」
「っな?! それでも燕の方がまだ攻撃力が・・・」

輝夜は黒陽の説明を聞き、驚きはしたもののすぐさまに自分の化物の方がまだ強いことに気がついた。
しかし、黒陽はそんな輝夜の言葉を振り払うように腕を横なぎにし、言葉を続けた。

「さらに、こいつは戦闘時に相手との星の数の差だけ攻撃力と守備力が500上昇する。
つまり、燕との星の数の差は2だから攻撃力が1000上昇して2300で燕の攻撃力が2000だから300点差で燕を撃破だ!!」
「な、なんですって!」

輝夜はその効果に驚き身をのけぞらせると驚愕の叫びを上げた。
そして、その様子に気分を良くしたのか黒陽は顔に笑みを浮かべながら手番の終了を告げる。

「ふふん、どうですか姫様? 俺の番はこれで終わりです」
「っく、ドロー!」

新たに札を引く輝夜の顔には燕を破壊されたことに対する悔しさがにじんではいたものの、その余裕はいまだ崩れることなく残っていた。
その理由としてはいろいろあるが、まず自分の勝利を疑わない自身から。
次の理由として・・・・・・

「まぁいいわ、私の手番になったことで蓬莱ノ珠之枝の効果が発動!
私の体力は3700から4500に回復・・・・・・どころか増加したわよ」
「っち・・・・・・」

輝夜の余裕の宣言に黒陽は舌打ちで答える。
第2の理由として圧倒的な体力差と蓬莱ノ珠之枝の効果。
黒陽の残体力が300に対して輝夜の体力は立った今回復した分を含めて4500・・・・・・
その差は4200と大きな上に輝夜の体力は対応されなければ今後も回復していくのだから堪ったものではない。
そして、もっとも単純な理由として・・・・・・

「私はこの化物を裏守備で召喚・・・・・・
そして残った番いの燕で攻撃よ! たとえその黒い奴が攻撃力2300だとしてもこっちは蓬莱ノ珠之枝の効果で攻撃時にだけ攻撃力が500あがるわ。
つまり、番いの燕の現在の攻撃力は2500という事よ!!」

もっとも単純な理由として攻撃すれば十分倒せる範囲内だったからだ。
しかし、黒陽もそのことは重々承知。
既に対策を整えて待ち構えていた。

「よし、かかった。 その瞬間に罠札発動!」
「へっ?」
「罠札『反撃の開始』、相手が攻撃してきた時にのみ発動可能で相手の全化物からの攻撃を無効化する。
その後、自分の手番で攻撃可能な化物がいる場合には強制的に攻撃することとなる札です」
「っく、しまった」

黒陽の言葉に輝夜は後悔するものの時すでに遅く攻撃のために飛んでいった燕は黒陽の背後から立ち昇る狼煙を見るとそのまま輝夜の元へ引き返してしまった。
その様子に輝夜は苛立たしげ顔を歪ませ足を踏み鳴らすと気を取り直すよう深呼吸を一つ行い、

「っ~~~・・・・・・すぅ、はぁ~。
まぁいいわ、ここで一つ罠が潰せたと考えればいいんだし」

と言って、顔を上げた。
そこにはたった今まで浮かんでいた怒りや苛立ち、そして油断さえも無くなった反撃の機会を窺う決闘者の顔だ。
しかし、

「これではまだ無理ね」

新たに引いた札は望むものでなかったのか一言だけ呟くと手札より札を一枚伏せた状態で自分の手番の終了を告げた。
そうして迎えられた黒陽の手番。
黒陽自身やっと手に入った攻撃の機会に油断する気は無かったのだが、元々彼はあまり戦略を練って戦う決闘者ではなかった。
先ほどの罠札も影月から言われて入れていたものだ。
つまり何が言いたいかというと・・・・・・

「俺の番だな、ドロー。
俺は手札より『悲しみの王子』を召喚! 黒き仮面の戦士で攻撃だ!!」

基本的に彼は難しいことは考えずに一気に攻撃していく決闘者なのである。
とはいえ、今回の場合はそれがいい意味で作用しているのではあるが・・・・・・その勢いのまま勝負を決めることが出来るのだろうか?
一方二人の戦いを眺めている観客達は・・・・・・

「・・・・・・つまりだ、あの黒いのを使えば罠やら術やらは全部無視して攻撃力だけで戦えるってわけだよ」
「へぇ~」
「それじゃあたった今出てきた黒い奴とそっくりの蜜柑色の奴、アレは何が出来るのさ?」
「ん? アレは星4で攻撃力1300、守備力800の攻守共に不安だらけの化物だな」
「・・・・・・はぁ?」
「何で黒陽さんはそんな化「ただし・・・・・」?」
「黒陽の場に『黒き太陽の石』と『黒き仮面の戦士』があるなら話は別だな」
「アスカ、どういうこと?」

観客の一人、てゐからの質問にアスカは目線を決闘者たちへと向けながら答えた。

「それに関しては説明するよりも見てた方が分かりやすいからおとなしく見物だな」

そうして向けられた視線の先では、ちょうど黒き仮面の戦士が番いの燕(雌)を破壊する瞬間だった。
黒き仮面の戦士が番いの燕を殴り飛ばすと、吹き飛ばされた燕は輝夜にぶつかり消え去っていった。
輝夜は燕がぶつかった瞬間、反射的に目を瞑ったもののすぐに目を見開くと親の仇・・・・・・ではなく燕の仇を見るように黒陽を睨みつける。
その迫力に黒陽はわずかに怯みはするものの勢いを止めることはなく次の手を打ち始めた。

「っ、続けて悲しみの王子で直接攻撃!」

黒陽の命令を受けた悲しみの王子は輝夜を殴りつけると元の立ち位置まで跳び戻った。
一方で輝夜はあまり大きなダメージでないとはいえ直接攻撃を受けたことで先ほど以上に黒陽を睨みつけ始める。
しかし、完全に調子に乗り始めた黒陽はそんな輝夜からの威圧を受け流し新しい手を打ち始めた。

「次に、悲しみの王子の特殊効果発動!
この化物は自分の場に『黒き太陽の石』が存在する場合にのみ自分の手番に1度だけ相手の術札、もしくは罠札を破壊することが出来る。
俺が破壊するのは『火鼠の衣』だ!」

黒陽が宣言した瞬間、輝夜の場にあった火鼠の衣には何本もの矢が突き立てられ火鼠の衣ならぬ針鼠の衣となって空中で霧散してしまった。
矢の飛んできた方向を見てみればどこから取り出したのか『悲しみの王子』が弓を構えているところだ。
そしてそれを見届けた黒陽は自分の手番の終了を告げた。

「私の番ね、ドロー!」

輝夜はそう叫ぶと勢いよく新しい札を手札に加えると、その視線を黒陽の場へと向けた。
ちなみに現在の戦況はこんな状態だ。

黒陽
体力 300
手札 3枚
化物 星3・黒き仮面の戦士(攻撃)、星4・悲しみの王子(攻撃)
伏せ 3枚
永続  黒き太陽の石(術)

輝夜
体力 2900→3700
手札 4枚
化物 無し
伏せ 2枚
永続 蓬莱ノ珠之枝(術)、燕の子易貝(術)

・・・・・・体力だけ見るなら輝夜が圧倒的に有利ではあるのだが護衛の化物が存在しない今の状態では体力の有利など全く意味の無いようなものだ。
そして、今回の輝夜の手番で体勢を立て直すことが出来なければいよいよ輝夜の不利は否めないものとなってしまう。
しかし、そんな状況だというのに輝夜は不敵な笑みを浮かべると黒陽へと話しかけた。

「ふふっ・・・、強いわね・・・・・・
私の攻撃を耐え、私からの威圧すらも跳ね除けて攻撃を仕掛けてくる・・・・・・褒めてあげるわ」

目を静かに閉じながらそう語りかける輝夜は次の瞬間、

「だからこそこの札の力で勝負を決めてあげるわ!」

勢いよく目を見開くとたった今手札に加えた札をその場に叩きつけた。

「『未熟なる赤き弓兵』を召喚!」

そうして輝夜の場に現れたのは赤い短髪に弓兵と呼ぶにはあまりにも平和そうな顔をした青年だった。
実際、この札の能力も星3で攻撃力1000に守備力600とお世辞にも強力とは言えない札だ。
そんな札に首を捻る黒陽や観客をよそに輝夜は次の札を取り出す。

「次に伏せていたこの術札、『散財』を使うわ」

そう宣言した輝夜の目の前には金色に輝く蝦蟇口が現れ、どんどんお金を吐き続けている。
そしてお金が吐かれるたびに輝夜の体力も無くなっていくが輝夜はそれを気にすることなく話を続けた。

「この散財の札は自分の体力を300支払うことで山札から札を一枚引くことが出来るの。
そして私が支払う体力は3600! つまりは12枚の札を引くわ!!」

輝夜の宣言が終わると同時に蝦蟇口は消え、支払った体力の代価として12枚の札が輝夜の手の中に納まった。
そして自らが手に入れた新しい札を満足そうに見た輝夜は黒陽に向かってサイコロを一つ投げ渡した。

「これは?」

受け取ったサイコロを不思議そうな顔で見つめる黒陽に向かい輝夜は『未熟なる赤き弓兵』の効果を説明し始めた。

「そのサイコロで勝負の決着を付けるわ。
この弓兵は手札を4枚捨てるたびに相手とサイコロを振り合いサイコロの目が相手よりも大きい場合、400のダメージが与えられるの。
私の手札は16枚・・・・・・これを全て矢に変え撃ち貫いてみせる!」

そう輝夜が宣言すると同時に弓兵が弓を引き絞り矢を構えた。

「まずは一矢目、勝負よ!」

輝夜の宣言と共に投げられる二つのサイコロ・・・・・・
そして出た目は黒陽が参、輝夜が弐。
結果、矢は黒陽の頬を掠るようにしてその後ろへと消えていった。

「っく、まだよ! 一本目でダメなら二本目で!!」

輝夜は悔しそうに一本目の矢の行方を目で追っていたもののすぐに気を取り直しもう一度サイコロを振った。

「勝負!」

それに合わせるようにして黒陽もまた、サイコロを振る。
出目は共に壱。
二本目の矢もまた一本目と同じ様に黒陽を後ろへと消えていった。

「まだまだ、三本目! 撃てー!」

それでも輝夜は落ち込むどころか嬉々として次の矢を撃ち放とうとサイコロを振った。

「当たるな!」

それに対する黒陽も若干輝夜の勢いに押されながらも勢いよくサイコロを場へと振り転がす。
そして結果は、黒陽が3で輝夜は6!
出目が決まった瞬間、弓兵より放たれた矢が黒陽の額に吸い込まれるように飛んでいくが、
矢は黒陽に刺さらずに突然黒陽の目の前に現れた出来の悪い藁人形の額に突き刺さってしまった。

「この瞬間に罠札『不出来な移し身』を発動! この札は一度だけ相手から受ける傷を無効にする罠札だ」

黒陽がそう宣言したとおりに矢の刺さった人形はそのまま空中で解けるようにして消えてしまった。
そうして四本あった矢も残り一本となると黒陽は輝夜へと話しかけた。

「どうだ姫様。 これで頼みの矢も残り一本だぞ」

挑発的に話しかけてくる黒陽に対し輝夜は不敵な笑みを浮かべながら返事を返す。

「だから如何したの?
四本だろうと一本だろうと、一回当てればいいだけの話じゃないの」
「違いない」

そういいあった二人は楽しそうに笑みをこぼした瞬間、鋭い目つきで相手を睨みつけ動じに口を開いた。

「「勝負!」」

そして二人の手からサイコロが放られ、お互いの場を転がり、その目が決まろうとした瞬間、

「「「「「っへ?!」」」」」

突如として響き渡った轟音と光の奔流に世界は白く塗りつぶされた・・・・・・


っと、ここまでが私の覚えてる事です」

そういって鈴仙は一度話を終わらせたのだが、唐突に何かを思い出したかのように両の手を合わせると
「あっ、そう言えば・・・」と、言って再び口を開き始めた。

「後で聞いた話なんですが、最後に起きた大爆発・・・・・・
アレは師匠の実験が失敗したせいだったみたいで・・・ボロンゴも可哀想に」

そういいながら鈴仙は同情するような視線を空へと向けた。
その頬からは涙が・・・・・・・流れたようでそうでもなかったが。
そして、気を取り直したかのように鈴仙は視線を戻すと話を続けた。

「それはそうと姫様と黒陽さんの対決は結局引き分けで終わってしまったんですが、
戦いから何か通じるものがあったのか姫様は黒陽さんの言い分を信用したみたいです。
ついでに、黒陽さんのことが気に入ったみたいでこれからも遊びに来るように命令してました」

鈴仙はそう言って輝夜の部屋へ視線を向けるとそこからは、
「っちょ! 姫様、待ってください!!」「問答無用、燃えろ~!!」「飛蝗~~~!!」などと楽しげな声が聞こえてくる。
月夜の竹林・・・・・・そこに佇む古き屋敷は今日も平和なときが流れる。

<おまけな設定>

札名 黒き仮面の戦士
星 3
攻撃力 1300
守備力 1300
効果 この化物は自分の能力以外の効果と影響を無効にする。
この化物は戦闘時に相手の化物との星の数の差だけ攻撃力が500上昇する。


札名 悲しみの王子
星 4
攻撃力 1300
守備力 800
効果 自分の場に黒き太陽の石があれば自分の手番ごとに一度だけ術札、罠札を一枚破壊することが出来る。
自分の場に黒き仮面の戦士がいればこの札は攻撃の対象として選ばれない。


札名 未熟なる赤き弓兵
星 3
攻撃力 1000
守備力 600
効果 手札を4枚捨てるたびに対戦相手とサイコロを振り合い、出目が相手より大きければ400のダメージを与える


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後書き+次回予告

どうも、本当にお久しぶりなお手玉の中身です。
とりあえず・・・・・・カードバトル風にするのは難しすぎたorz
オリカやら対戦状態やら考えながら混乱すること混乱すること・・・・・・
ここまでてこずるとは全く考えてなかった。
結局ドローゲームにしちゃったし・・・・・・

まぁなにはともあれ、更新を待ってた方がいらしたら大変お待たせしました!
次はもう少し早く更新できるようにしたいと考えながら次回予告です。
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Zzz・・・Zzz・・・・・・Zzz・・・・・・・・・
んぁ? 次回予告?? ふぁ~・・・・・・適当にやっとくれよ。

一つ・・・花畑・・・??
二つ・・・毛玉・・・・・・???
三つ・・・だれ?????


次 回
 「ZzzZzzZzz
           っちょ! こんな次回予告ねぇよ! 上司、こいつの上司呼んで来い!! by.kami



[10620] お手玉の中身は大変な勘違いを犯していました
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:f45cd999
Date: 2010/01/06 08:08
狭い狭い幻想郷。
既に何十年も住んでるとはいえ、何気に行ったことのない場所も存在する。
例えば人里からなぜかやや離れた東にある神社。
幻想郷の神様達は正直微妙すぎるし・・・・・・何より神職についてる奴と付き合いを持ちたくないことから近づかないようにしている場所だ。
例えば霖之助がよく行くらしい無縁塚。
外界から様々なモノが流れ着くこの場所は霖之助にとっては宝の山とのことだが、わざわざ墓場まで行こうとは流石に思わなかった。
そして、その他には・・・・・・

「う~ん、なんで今まで思いつかなかった事やら」

晴れ渡った空の下、妖怪の山の裏手にある道を俺は独り言を呟きながら歩いていた。
妖怪の山に住み着いて数十年と経つが本当になんで一度もここに来なかったのやら・・・・・・今更ながら不思議でたまらない。
そんなどうでもいい事を考えつつ俺は山道を歩いてく。
それから10分・・・いや、20分ほど歩いただろうか・・・・・・俺はそこにある風景に目を丸くしてしまった。

「なんだこりゃ?」

そこには縁日に出てくる出店のように道いっぱいに屋台がひろがっていた。
代わり映えしなかった道だっただけに面白そうではあるのだが・・・・・・

「こんな所で祭り? という訳でもないみたいだしな・・・」

と呟いて店が立ち並ぶ入り口で立ち尽くしてしまった。
そんな時、俺の横を「ごめんよ」と言って抜けていく男が一人。
ふと気がつくと周囲にはいつの間にやら結構な数の人が道を歩いていた。

「いつの間に?」

そう呟いてみるものの、誰かが返事を返してくれるわけもないので俺は「まぁいっか」と一人呟くと周囲の人に溶け込むようにして道を進み始めた。

「いらっしゃい! いらっしゃい~!!」
「安いよ~! 御代は全部同じだよ~!」
「お、そこのあんた! こいつはどうだい? 暇潰しにはもってこいだよ」

屋台の立ち並ぶ道を進むと聞こえてくるのは客引きの声。
先ほどまでの寂しい一本道とは違いなんとも賑やかなことだ。
しかし、だからこそ余計に解らない。
何でまたこんな所・・・・・・それこそ妖怪の山の裏でこれほどの屋台が立ち並んでいるのかが。
そう考えながら視界を巡らせるとふと、気になる屋台を見つけたので、声をかけてみることにした。

「ちわ、見せてもらってもいいかな?」
「らっしゃい! どうぞ好きなだけ見ていってくれよ」

どれどれ・・・・・・なんだこれ?
無駄に厳つい顔の親父に促されるままに置いてある商品を見た俺は商品を見たままの体勢で固まってしまった。
その商品の名は・・・・・・

「新鮮ピチピチ謎袋・第4弾?」
「新鮮ピチピチ謎袋・第4弾ですね? 毎度あり~」
「え? っちょ?!」
「はい、こちら商品の大、中、小セットになります」
「え、あ、はい・・・・・・じゃなくて!」
「御代は有り金全部です」
「・・・・・・・・・はぁ?!」

なんというぼったくり。
商品名を言っただけで一気にお買い上げの流れまで持っていかれてしまった。
しかも代価が有り金全部って・・・・・・
そう思い、俺が呆然としていると周囲を取り囲むようにガラの悪い男達が現れ次々に口を開き始めた。

「おうおう兄ちゃん、さっさと金払えや」
「持ってる金、全部、しっかり出してもらおうか?」
「泥棒は、いけないんだな」

本物のぼったくりだった。
しかも何気に多いし・・・・・・ひ~、ふ~、み~・・・店主を入れて四人か。
とりあえずこんな意味の分からない物を買う気のない俺は返品を交渉してみることにしたのだが、

「あ~、払うもなにも俺はこんなもの要らないんだが?」
「おいぃ~、お前ら今の聞こえたか?」
「聞こえんなぁ」
「今なんか言ったのか?」
「俺の記憶には、何も残っていない!」
「「「げははははは・・・・・・」」」

人を馬鹿にしたような態度で返事を返してくるその様子に流石の俺も段々とむかついてきた。
このままでは埒があかないと考えた俺はとりあえず一番近くに居た男の頭を両手で押さえると・・・・・・

「ん、てめぇ、この手は「上白沢流矯正術『パチキ』!」ギャー!!」
「「「「あ、兄貴ーー!!」」」」

以前見た慧音の頭突き真似して使ってみた。
ガラの悪い男は額を押さえて身悶えている・・・・・・効果は抜群のようだ!!
単純に慧音の真似をしてみただけだったのだが、凄まじい効果だな。
俺がそう考えていると、男共の一人・・・やや小さめの男、ちょび髭が突然叫びだした。

「っく、よくも兄貴を! 先生~! 出番ですよ、先生!!」
「んな?! ま、待つんだな! 先生を呼ぶには早すぎるんだな!!」
「うるせぇ! 兄貴がやられたんだ! 俺達がかなう相手じゃねぇよ」
「た、確かに・・・・・・」
「分かったか? んじゃ、って誰だ人のあた「パチキー!」ギャー!!」
「ひぃ~~~!!」

ふふふ・・・・・・、馬鹿共は何かを呼ぼうとしていたようだが俺から目を離したのが運の尽き。
目の前で震えている太った男・・・デブを残して全員を上白沢流矯正術の餌食にしてやった。
俺は薄ら笑いを浮かべながら改めて周囲を見回し、デブ以外の全員が額を押さえながら身悶えているのを確認すると、
「よし、これに懲りたらもうこんなことするなよ?」と言って、その場を立ち去ろうとしたのに・・・・・・

「う、うるさいんだな! そんなのおいら達の勝手なんだな!!」

ただ震えているだけのデブは普通に言い返してきた。
はぁ・・・、どうやらこいつも打ち払わねばいけないようだな。
そう考えた俺は体をデブに向けると睨みつけながら口を開いた。

「あぁ? お前も上白沢流矯正術で矯正されたいのか?」
「ひ、ひぃ~!! 先生、先生たすけて~・・・なんだな」

すると、デブの呼びかけに応えるかのように屋台の後ろから人の気配がし、
「どうしタ、ブらザー? ナにか、アッタのカ?」と言う声と共に先生と呼ばれる男が現れた。
俺はそいつの事もすぐに上白沢流矯正術の餌食にしようと考え睨みつけたのだが、そのあまりの姿に我を忘れて硬直してしまった。
白地に青い波模様の上着に紺色の袴、腰には二本の刀を差したそいつの姿はまるで・・・と言うよりも侍そのものだ。
しかし、その黒い肌は日本人のそれではない上に奴の頭は侍と言うには違和感しかなかった。
そう、奴の頭には・・・・・・

「・・・・・・・・・アフロ?」

顔の二倍ほどの大きさがある黒いもさもさが鎮座していた。
奴が頭を振るたびに揺れ動くそれは白いもふもふとは全く逆の意味で俺の心に衝撃を与え続けている。
そんな俺の様子に気づいてか気づかずか、デブは奴へと助けを求めていた。

「せ、先生!! 兄貴が、チビが!!」
「おォ~!! いったいナニが?」
「あ、あいつです! あの男が兄貴達を」
「ワカリマシタ、Meにマッかせなサ~イ」

そう言うと奴は(もうアフロでいいか)・・・・・・もといアフロはこちらに向き直ると指を突きつけ勢いよく捲くし立てだした。

「Hey you!! よくモ、Meのソウルブラザーをカワイそうにしてくれましたネ?」
「先生、可哀想じゃなくて可愛がってですよ」
「What? かわいがっテ? ・・・・・・おぉ、ソーリー。
ごほん・・・・・・よくも、かわいがってくれましたネ?」

なぜだろう・・・・・・すごく突っ込みたいのに突っ込んだら負けな気がする。
しかし、アフロはそんな人の葛藤など気にすることもなくさらにまくし立ててきた。

「ン? どうしましタ? さきほどカラだまって・・・・・・?
あぁは~! オーライ、わかりまシター! YouはMeにおびえているのですネ?」
「・・・・・・っは?」
「OK・OK・・・・・・ミナまでいわなくともいいデスヨ。
さぁ、Meのソウルブラザーに頭をs「そぉ~い!!」No~~~~~!!」
「せ、先生~~~~~!!」

アフロは星となった。
俺はアフロがなにやらとんでもない勘違い発言をしそうな気がした瞬間、いつの間にか空に向かって放り投げていた。
たぶん喋るたびに無駄に付ける微妙なポーズや話すたびに上がったり下がったりする微妙な声のアクセント、
更には動くたびにもさもさわさわさ動くアフロに対して俺の心が耐え切れなくなったんだろう。
自分でも気づかないうちにあのアフロを投げ捨ててしまっていた・・・・・・しかも落ちてこない。
まぁ、とりあえずは・・・・・・

「えっと、とりあえず金はやるから・・・っな? もうこんな事するなよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃあ、な?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

空の彼方、雲の切れ目へと消えていくアフロを呆然と眺め続けるデブ。
その姿はまさに哀愁が滲み出している。
自分が悪いわけじゃないはずなのになぜか罪悪感が湧き始めた俺は、
財布の中身の3分の1ほどを取り出すといまだ呻き声を上げる店主の近くにおいてそそくさとその場を後にするのだった。
ちなみに空に飛んでいったアフロだが、その後、さまざまな経緯を辿り地上へ帰ってくることが出来たのだが今は全く関係ない話だ。

さて、あの場を離れ、屋台の群れを突き抜けて、
人通りが無くなりやっと落ち着ける状態になった俺は強制的とはいえ手に入れた袋の中身が気になってきた。
そこで、とりあえずは小さい袋からあけてみることにした。
どれどれ、中身は・・・・・・名札?
しかも名前の欄には「ああああ」と書いてある。

「なんだこれ・・・・・・ん?」

よく分からない名札を弄っていると袋の中身紙切れが入っているのを見つけた。
どうやら説明書のようだ。
なになに・・・・・・

「・・・・・・っげ?!」

説明書を読むにつれこれがとんでもない名札ということが分かった。
あえて名づけるなら『呪いの名札』
一度付けたら最後、付けた本人どころか誰にもはずすことが出来ない上に付けたモノの名前が強制的に『ああああ』となってしまうとんでもない名札だ。
肉体的にではなく精神的にかなりの実害があるな・・・・・・とんでもないな、謎袋。
俺は残りの謎袋に対する警戒心を引き上げながら次の袋を開いてみた。

「中身は・・・・・・本?」

これはまずい。
下手に内容を読んで呪われたりしたら洒落にならんぞ。
とりあえずタイトルだけ・・・・・・

「なになに・・・・・・最高なヘアスタイル、これで君も兄貴のソウルブラザー! かっこいい、アh」

・・・・・・・・・・・・・・・っは! いったい何が・・・って、いつの間にか手の中の本がバラバラに引き裂かれてゴミになってる。
結局内容は何だったんだ?
もうタイトルも細切れになって読めない状態だし・・・・・・まぁいい、次は最後の袋か。
そう考える俺の目の前には明らかに他の二つよりも大きな謎袋が一つ。
どうやらこれだけは袋というよりも紙で包んでいるような状態だったので、緊張する手で丁寧にその包装を解いていった。
そして中からは・・・・・・

「これは!!」

酒瓶が出てきた。
しかもなかなかに大きいじゃないか。
ここで始めて当たりを引いた気になった俺は銘を確認しようとビンを回し、ラベルを見れるようにした。

「どれどれ・・・・・・掠れて最初の方が読めないが**漬『E-どうしてこうなった』っか・・・変わった銘柄だな?」

疑問には思ったものの、酒には違いないと考えた俺は後の楽しみとしておくために再び包装紙で包もうとした。
すると・・・

「・・・ん?」

ビンを一周するように貼ってあるラベルのスキマからよく分からないものが見える。
どうやらこれを酒漬けにしているようだが・・・・・・となるとその正体が気になってきた。
俺は早速正体を確かめようとラベルを剥がしてみるとそこには・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

マリモのような生き物がじっとこちらを見ていた。
そう、こんな顔で・・・・・・( ゚д゚ )
そしてその目はこう語っていた。

「(どうして、こうなった・・・・・・)」

俺はラベルを戻し包装紙にそっと包みなおすと心に強く刻み込んだ。
よし、これは忠犬メイドに処分させよう・・・・・・っと。

・・・・・・さて、怪しい謎袋の事は置いておくとしてここはどこだろうか?
単純に道を真っ直ぐ来ただけだから道に迷ったわけではないがこんな川見たことないぞ?
そう考えた俺の目の前には広い川が広がっておりどれだけ眼を凝らしても向こう岸が全く見えそうにない。
そして、どこかに渡れるような船が無いかと周囲を見回していると、船着場のようなものが少し先に見えた。
俺は船があることを期待しながら早速、船着場へと足を向けるのだった。



青年、早速移動中・・・・・・



そうして船着場に到着したアスカだが周囲にはこれといった人影は存在しなかった。
船着場には船頭のいない船が波に揺られている。

「船はあれども船頭の影は無し・・・っか。 こんな無用心でいいのか?」

アスカはそう言うと困ったように顔を顰めながら頬を掻いた。
すると、どこからともなく・・・・・・

「ZzzZzzZzz・・・・・・」

っと、いびき声が聞こえてきた。
アスカが一体どこからと聞き耳を立てながら周囲を探してみると、どうやら近くの草むらから聞こえてくるようだ。
そこで、早速草むらの中を覗いてみると・・・・・・

「ZzzZzzZzz・・・・・・」

一人の女性がそれは気持ちよさそうに眠っていた。
ただし、死神が持つような大鎌の握りを枕にしている上に鼻ちょうちんまで作って。

「ZzzZzzZzz・・・・・・」

「えっと・・・・・・」

起こすにはかわいそうなほど気持ちよく眠っている。
しかしながら、周囲に誰もいないところを見ると彼女があの船の船頭なんだろう・・・・・・なぜ鎌を持っているかは知らないが。
さて、起こすべきか、それとも寝かせておくかとアスカが悩んでいると、そんな彼に話しかける人物がいた。

「おや? そこにいるのはアスカさんじゃありませんか」
「ん? あなたは・・・・・・」

呼びかけられ、振り返ったアスカの目の前にいたのは幻想郷に戻る際にお世話になった閻魔様。
四季 映姫様だった。


<おまけ1>
毛玉衆の集い

毛玉達「ざわざわ・・・ざわざわ・・・ざわざわ・・・」
毛玉A「これは・・・なんだ・・・・・・」
毛玉C「馬鹿な・・・・・・」
毛玉D「Eは、Eはどうなったんだ!!」
毛玉B「然り!」
毛玉A「こんなことが許されるはずが無い・・・許されて言い訳が無い!」
毛玉C「畜生・・・・・・Eは、いい毛玉だったのに・・・・・・」
毛玉D「いい毛玉から消えていくってことかよ!」
毛玉A「まだだ・・・・・・我らはこのような事の為に生まれたのではない!」
毛玉B「然り!!」
毛玉A「ここからが本当の戦いだ!!!」

劇場版『毛玉達の沈黙』・・・・・・・・・うそです


<おまけ2>
霊夢に負けた悪霊っぽくない悪霊は今!

「確かにわたしはあの時敗れた・・・・・・しかし! 今こそ再起のとき!!」
「そのとおりですわ。 魅魔様」
「魔理沙・・・・・・お前にも苦労をかけたね。 それも今日までだ!」
「はい、魅魔様」
「今日、わたし達は、よく分からないけどシアワセを手に入れる!!」
「キャー、魅魔様ステキー」
「さぁ、いくわよ魔理沙。 シアワセを手に入れた暁には・・・・・・」
「暁には・・・」
「霊夢に見せびらかしてやるのさ~! あ~っはっはっはっは・・・・・・」
「シアワセを悔しがる霊夢・・・・・・ 素敵すぎますわ、魅魔様! うふふふふ・・・・・・」

輝かしき黒歴史、第二幕


<おまけ3>
作者も少し忘れかけてた天界の風景

「っちょ! 痛っ! 石っ、やめっ! やめて下さいよ! 天子さん!!」
「何よ? この私がせっかく特訓してあげてるのに」
「No~~~~~~~~~~~~」
「いや、何で僕が特訓されなくちゃいけないんですか!」
「ふん、そんなの決まってるじゃない」
「なんでですか?」
「私がやりたいからよ!!」
「それならもう少しやりようが・・・・・・」
「うるさいうるs「No~~~~~」って、本当にうるさいわね・・・誰よ?」
「えっと、天子さん! 何か降ってきますよ」
「NO~~~~~~~!!」
「へ? きゃ~!!」
「大丈夫ですか天子さん」
「った~・・・・・・もう、一体何なのよって、あんた誰よ! 空の降ってくるだなんてどれだけ非常識なの!!」
「えっと・・・・・・大丈夫ですか?」

アフロの大冒険 序章「空に落ちたアフロ」
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ご挨拶+後書き+次回予告

新年、あけましておめでとうございます。

さてと・・・・・・どうも、旧作未プレイのお手玉の中身です。
今回出てきたモブ達は使い捨て(予定)です。
なのにはっきりしたイメージがついているから不思議だ(頭には黄色い布が)・・・・・・
それはともかくとして、お手玉の中身は大変な勘違いをしていました。
それは、生きたままだと花畑(彼岸)に行けないということorz
前回の次回予告で花畑を書いていたけど・・・・・・ごめんなさいorz
花畑に関してはもう少し先で作りたいと思います。

では、次回予告をどうぞ。
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チルノちゃ~ん、チルノちゃ~ん・・・もう、どこに行ったのかな?
っあ、これですね?

果てしなく広い川で出会ったのは懐かしい少女
しかし、少女にはこの予期せぬ出会いを懐かしがっている場合ではなかった・・・
そう、怠惰にまみれた彼女に鉄槌を下すまでは!!

次 回
 「っで、チルノちゃんは・・・あっちですか? ありがとうございます」
                       いえいえ、どういたしまして by.kami



[10620] ここまで待っていてくださった方に本気で感謝です
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:7fad296b
Date: 2011/08/08 22:31
妖怪の山の裏にある道を抜けた先に広がる広い川。
そこでアスカは懐かしい再会を果たしていた。

「おや? そこにいるのはアスカさんじゃありませんか」
「ん? あなたは映姫さん。 お久しぶりです」

呼びかける声に振り返り相手を確認したアスカは顔に笑みを浮かべながら再会の言葉を投げかけた。
それに対する映姫も顔に柔和な笑みを浮かべながら返事を返す。

「えぇ、本当にお久しぶりです。
しかし、見たところまだ生きてるようですけど・・・・・・なぜここに?」

そういって小首を傾げる映姫にアスカはここが何処なのか尋ねることにした。

「いえ、適当に散歩してただけなんですが何時の間にかこんな所まで・・・・・・ここは何処なんでしょうか?」
「はぁ、相変わらずですねアスカさんは。
しかし、日々をそのような"適当"にすごしているようではいけませんよ。
ただ日々を適当という名の自堕落で過ごす、是即ち罪です。
そう、あなたには計画性というものが・・・・・・」
「(しまった! 墓穴を掘ったか)」

アスカが心中で自らの失敗を悟ったときには既に遅く、映姫はアスカの"適当"という言葉に反応してそのまま説教モードに入ってしまった。
幽々子していた説教のように怒鳴られないだけましではあるが、こうも懇々と言われると流石のアスカもへこんでくる。
そして、そうこうしているうちにやっと説教モードが終了したのか、ややすっきりしたような面持ちで映姫が話を続けた。

「・・・・・・という事です。 いいですか?
さて、ここがどこかとのことですが、ここは三途の川。
正確に言えばその川原ですね。」
「へぇ・・・三途の川ですか。
しかし、俺はさっき言ったとおり散歩の途中ってだけなんですが映姫さんこそなんで三途の川に?」

映姫から現在位置を聞く事ができたアスカはそのまま疑問に思ったことを聞き返した。
すると、映姫は苦笑いを浮かべながら視線を船着場へと送り、困ったように話し始めた。

「それが、ちょっと休憩時間になったので小町・・・三途の川の渡し守の様子を見に来たのですが・・・・・・」
「あ~・・・・・・」

映姫からの返事を聞いたアスカは流石になんと言っていいのか分からないといった風に表情を引き攣らせてしまった。
おそらくはアスカの背後、ちょうど映姫から死角となっている場所で眠っている彼女こそがその渡し守なのだろう。
そう考えたアスカが如何したものかと思い始めたその時、無常にも映姫はそのことを尋ねてきた。

「それでですね、アスカさん。
ここにその渡し守の死神がいた筈なんですがどこにいるか知りませんか?」

映姫の問い掛けにアスカは後ろの女性を教えるだけでよかったのだが、このまま教えれば再び映姫が説教モードに入るのは確定だろう。
流石に寝起きでそれはあんまりじゃないだろうか?
そう考えたアスカはこのまま映姫を別の場所に移動させようと話を持ちかけることにした。

「んじゃ、t「ZzzZzzZzz・・・・・・」・・・・・・」
「今のは・・・・・・アスカさん、ちょっと退いてもらえますか?」

そんなアスカの努力は庇おうとした本人からのいびきによってものの数秒もしないうちに水泡に帰してしまった。
そして映姫・・・・・・いや、四季=映姫=ヤマザナドゥは目が全く笑っていない笑顔をアスカに向けるとそのまま口を開いた。

「アスカさん、そこを退いてもらえますか?」
「はい! わかりました!!」

当然、そんな映姫にアスカが逆らう術は無く、すぐさま脇に退くと直立不動の体勢で動けなくなってしまった。
さて、アスカが退くと自然と映姫の視界には昼寝中の女性が入るわけのだが・・・・・・

「ふふ、ふふふ・・・・・・そうですか、そうですか。
昨日あれほど言ったというのに・・・・・・いい度胸です
「え、映姫さん?」
「あ? なんですか、アスカさん」
「何でもありません! 失礼しました、映姫様!!」
「なら結構です」

女性の姿を見つけるや映姫の体からは凄まじいまでの怒気が溢れ出しはじめた。
それを見たアスカは流石に不味いと考え、宥めようと声をかけたのだが映姫の怒気を正面から浴びてしまい再び直立不動の構えに戻ってしまった。
一方映姫・・・・・・いや、ここは映姫様と呼ぼう。
映姫様はアスカのそんな態度など全く気にせずに女性の傍まで歩み寄るとその場で屈み、いかにも優しげな声音で話しかけた。

「小町。 起きなさい、小町。 仕事の時間ですよ」
「ZzzZzz・・・むにゃ・・・・・・」
「小町・・・・・・起きろ
「っひゅっ!!!」

しかしながら優しかったのは一瞬のことで、そのあまりに恐ろしい声音に女性・・・・・・もとい小町は顔を青くさせながら体を起こした。
目を覚まし上半身を起こした体勢の小町はそのまま何かを探すように首を振って周囲を見渡した。
そして、背後にいる映姫に気づくことの無かった小町は大きく安堵の息を吐いた。

「ふぅ~・・・夢でよかったよ・・・・・・」
「へぇ、何が夢でよかったんですか?」
「そりゃ勿論、仕事をサボって昼寝をしていたのを四季・・・様・・・・・・にぃぃ!!」
「あら、どうしたの小町? そんなに驚いて」

小町の安堵はまさにつかの間だった。
背後から掛けられた言葉にはじめは映姫様だと気づかなかったものの相手を確かめようと後ろを振り向いたのが運の尽き。
笑顔なのに目が笑っていない映姫様と見事なまでの睨めっこ状態になってしまった。
その距離はまさに恋人の距離だが今の小町にはそんな事を気にしてる暇は無かった。
小町は恐怖で顔面蒼白、息も絶え絶えの状態になりながらもなんとか言葉をつむいだ。

「し、四季様? な、なぜこちらに?」
「なぜだと思いますか?」
「あ、あははは・・・・・・もしかして、新しい魂が届かないから?」
「あら、分かってるのに聞くなんて・・・・・・小町はいけない子ね。 うふふふ・・・・・・」
「あ、あは、あはは・・・・・・そうですね、あたいは悪い子ですね~」
「うふふふ・・・・・・」
「あははは・・・・・・」

その光景を横から見ていたアスカは思った。

「(あ、終わったな・・・・・・)」

実際、二人は笑いあってるのにそこにある空気は今にも引き裂けそうなほど張り詰めている上に、
映姫様から立ち昇る怒気は全く治まっておらずアスカの耳にはまるで地響きのような音が聞こえてくるのだった。
そしてついに・・・・・・

「こ」

映姫様の怒りが・・・・・・

「あはは・・・って、っへ?」

小町を貫いた。

この、馬鹿小町がー!!」
「きゃん」
「うわっ」

映姫様は怒りの雄たけびを上げ、小町とアスカはその雄たけびに驚きの声を上げた。
小町の場合は悲鳴だが・・・・・・
まぁ、それは置いておくとして、映姫様の怒りはとどまる所を知らなかった。

「小町、正座ー!」
「は、はい!」
「あなたはどうして、いつもいつも・・・・・・」

そして、小町をその場で正座させた映姫様の説教という名の拷問が始まった。

「・・・・・・であるからして、サボるのもいい加減にしなさい!
聴いてるのですか!!」
「ひ、ひゃい・・・・・・」
「そう、あなたは怠惰がすぎる・・・・・・」

怒声に次ぐ怒声。

「・・・・・・なのだから、あなたは自分の仕事の意味を分かっているのですか!
聴いてるんですか小町!」
「っひ、聴いてます・・・・・・」
「魂が彼岸へ渡れない・・・・・・私達、閻魔の裁きを・・・・・・」

叱責に次ぐ叱責。
よくもまぁ、言う言葉が尽きないことだ・・・・・・
アスカはそう思いながら改めて映姫が閻魔であることを再確認し、やっと怒りが収まり始めた映姫と髪が白く煤けはじめた小町の二人を眺めた。
そうして数時間に及ぶ、長く厳しい説教は小町がその怒声を一身に浴びるという偉業(自業自得)の下、終わりを迎えた。

「・・・・・・です。分かりましたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「小町、返事はどうしましたか?」
「わ、分かりました・・・・・・今後はまじめに魂を運びます」
「分かればいいのです・・・・・・幸い今は暇なようですからそのまま休憩に入ってもいいですよ」
「は、は「ただし・・・」ぃ?」
「その後は当分休憩、休みは無いものと思いなさい・・・・・・いいですね?」
「っへ? そ、それh「あ?」はい、分かりました!」
「よろしい」

映姫がそう言って満足そうに頷くと、小町は緊張が解けたのか正座した状態のまま顔から地面へと崩れ、たれ小町へと退化した。
しかしたれ小町は何をする訳でもなく自分達を眺めているアスカの存在気づくと「はて?」っと首を傾げ、
ただの小町として立ち上がり、恐る恐る映姫へと話しかけた。

「え~っと、四季様・・・・・・そちらの方は一体どなたで?」
「ん? どうしたんですかアスカさん。
そんなところでボーっとして??」
「いや、ちょっとばかり話しかけるタイミングを見失ってしまってな」
「ふむ、どうやら話が長引きすぎたみたいですね・・・・・・気分を害したと言うなら謝りますが・・・・・・」
「あぁ、別にいいですよ」

アスカは自分に向かって申し訳なさそうな顔で今にも頭を下げそうな映姫を手で制しながら、
小町へ視線を向け、話を続けた。

「それよりもその人は一体?」
「彼女ですか? 彼女は私の部「おっと、四季様ちょっと待ってください」小町?」

映姫が小町のことをアスカへ紹介しようと話を始めると小町は何を思ったのか映姫の話を遮ってしまった。
そのことに対して映姫がいかぶしげな顔を小町に向けると、小町はアスカの正面へと移動しながら話を進めた。

「映姫様、自己紹介ぐらいはあたい一人でも出来ますよ。
さてと、はじめましてだね。名も知らぬ御人。
あたいはこの三途の川で渡し守をしている死神の『小野塚 小町』
・・・・・・それで?お前さんの名前は?」

なんというか・・・・・・先ほどまで垂れていたのと同一人物なのかと言うほどに立派な名乗りである。
先ほどからのやり取りを見ていたアスカは予想外の名乗りにやや呆気にとられながらもなんとか返事を返した。

「あ、あぁ、俺は妖怪の山に住む薬師のアスカだ・・・・・・」
「ふんふん、薬師のアスカね~・・・・・・あ、呼び方はアスカでいいかい?あたいの事も気軽に小町って呼んでくれていいからさ」
「まぁそれはいいんだが・・・死神ね~・・・」
「ん~?なんだいその反応は?? まさかと思うけど信じてないのかい?」
「いやな、さっきからずっとここに居た人間としてはサボりが出来る死神って言うのはちょっとな・・・」
「むかっ?!映姫様~、こいつこんなこと言ってますよ~」
「それはあなたの自業自得です!!そもそも、あなたがまじめに仕事をしていればそんな風に思われることも・・・・・・」

アスカからの疑いのまなざしと言葉が癇に障った小町はすぐさま映姫へと話をふり、アスカを懲らしめてもらおうとしたのだが、
その行動は完全に失敗であった。
それどころか再びお説教が再開されそうな空気を感じた小町は慌てて映姫の言葉を遮り話をやめるように説得しはじめた。

「っひ?! し、四季様、まだ話の途中ですから・・・・・・っね?」
「っむ、仕方ありませんね」
「っほ・・・・・・」
「後で私の部屋に来るように・・・あなたの立場をしっかりと教えてあげましょう」
「(っげ?!)え、えっと・・・出来たら遠慮し「却下です」とほほぉ~」

珍しくも説得に成功したかと小町が喜んだのもつかの間、結局は苦しみが後回しにされただけのことだった。
しかしながらなんとか説教は回避した小町さん、やや落ち込みながらもアスカへの話を続けた。

「はぁ・・・・・・えっと、あたいが死神に見えないって話だったよね?」
「まぁそうなんだが・・・・・・なんと言うか、ご愁傷様?」
「っく、考えないようにしてるから言わないでくれるかい。
それとあたいが死神かどうかは・・・・・・こいつを見てから言っておくれよ!!」
「あぶっ?!」

小町が喋り終えるのとほぼ同時だろうか。
アスカは何かを避けるように慌てて後ろへ跳ねとび、それと同時に先ほどまでアスカの首があった場所に銀色の閃光が走る。
そして、小町はいつの間にか手に取っている大鎌を肩に担ぐとアスカの様子に賞賛の声を放った。

「ほぅ、今のを避けるとは・・・・・・噂に違わずと言ったところだねぇ」
「ふざけんな! 突然何するんだって、うわさ?」

突然の小町の凶行にアスカはすぐさま怒鳴り問い詰めようとしたが小町の最後の言葉に首をかしげた。

「噂って、どういう事だ?」
「あははは・・・・・・いや、悪いね。 あんたが噂のアスカならこのくらい問題ないと思ったんだけど・・・・・・
うんうん、全く問題なかったねぇ。 あっはっはっはっ・・・・・・・」

大鎌を肩に掛けアスカの質問に答えることなく小町は一人納得したように首を縦に振りながら闊達に笑い続ける。
その気持ちの良い笑い声は三途の河原に響き渡るが危うく首を刈り取られるところだったアスカにしてみれば笑い事ではない。
先ほどよりも怒気の篭った声で再度小町へと質問を放った。

「なぁ、一人で納得してないでちゃんと説明してくれないか?
いきなり人様の首を刎ねようとしやがって、それに噂ってのはいったい何のことだ?」

そこで小町は笑うのをやめはするものの、
ニヤニヤとした表情を崩すことなくアスカの質問に答え始めた。

「そうだねぇ・・・・・・まずは噂について教えようかね。
噂ってのは色々あるんだがね、
曰く『自称人間(笑)』
曰く『なぜか死なない人間(笑)』
曰く『妖怪と殴りあえる人間(笑)』
などなど・・・くく、しかし口にしてみると笑える噂ばかりだねぇ」
「んな!? じ、自称人間・・・しかも笑・・・」
「あははは・・・・・・そんなに落ち込まなくてもいいだろ。
そんな面白人間(笑)だったからあたいもちょっと悪ふざけがしたくなったんだよ。
そして結果は予想通り! 傷一つ無いじゃないかい」

小町の話を聞いたアスカは盛大に落ち込んだ。
地面に膝と両手をついてガクリとうなだれ、見えるはずも無い青い影まで背負い込んでしまっている。
その様子に小町は笑いながら続きを話すのだが、アスカはそれに対して怒鳴る気力すら残ってはいなかった。
そして、せめてもの意趣返しのつもりで小町を睨んでやろうと顔を上げた時、それを見てしまった。

「・・・・・・・・・・・・」
「ん? どうしたんだい? そんな顔を青くして・・・・・・と言うかそろそろ立ちなよ」

そんな小町の言葉にもアスカはただただ首を横に振るだけだった。
その顔色は勘違いしている期間でリリー・ホワイトに出くわしたかのように真っ青である。

「本当にどうしたんだい? そんなに顔を「言いたい事は終わりましたか、小町?」あお・・・く、し・・・て・・・・・・」

立ち上がらないアスカを不思議に思った小町が声をかける最中、彼女の声は聞こえた。
小町の背後から聞こえた彼女の声は聞くものの魂をも凍えつかせるような絶対零度の響きを持っていた。

「え、えっと・・・ま、まだ言い足りない「終わりましたよね?小町」・・・・・・はい、四季様」

背後を振り向かないように話しながら必死に視線で助けを求める小町。
それに対して先ほどよりも激しく首を横に振って拒絶するアスカ。
それ以前に現状で小町を助けれる存在がいるだろうか? いや、いない。
そんな一瞬のやり取りなどは気にせずに彼女、四季映姫は小町の後頭部を鷲掴みにするとにこやかにアスカに告げた。

「アスカさん、今回は私の部下が大変失礼しました。
お詫びに関してはまた後日お伺いさせていただきますね?
では、失礼します」

そうやって一気に言い放った映姫はアスカからの返事を聞くことも無くその場から立ち去っていく。
無論、小町の頭を掴んだまま・・・・・・正確には小町を引き摺りながら。
そして、いまだアスカのほうを見続ける小町の顔には恐怖を通り過ぎた曖昧な笑みだけが見えなくなるまで浮かんでいた。
その後、しばらくした後にやっと動けるようになったアスカは一つ大きく深呼吸をすると勇気を出して一つの決断を下した。

「(さっき見たことは、忘れよう!)」

しかし彼は忘れてはいけない事を忘れている。
後日、映姫たちがお詫びに来ることを。
そして、どこからとも無く噂話が流れていることを・・・・・・。

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後書き(と言う名の言い訳orz)

どうも、更新速度低下どころか止まっていたお手玉の中身です。
前回の更新後、引越しをしたんですがその後なぜかPCが沈黙・・・・・・色々あってやっと更新orz
だと言うのになんかgdgdになってるし・・・オマケもないし・・・
いつもなら書いてる次回予告も今回は無しですorz

最後に一言・・・
ここまで待っていてくださった方、本当にありがとうございます。
前回分の感想返しをこの場でまとめて・・・・・・
楽しんでいただけたようでありがとうございます。
次回はなるだけ早く面白い話をあげれるようにがんばります。



[10620] 前回分のおまけです・・・そしてとっても短い
Name: お手玉の中身◆f5af0e97 ID:7fad296b
Date: 2011/08/10 22:37
ふぅ・・・、私ともあろうものが情けない。
いくら手加減していたとはいえ人間二人と亀一匹に負けてしまうなんて。
いま思い出すだけでも腹が立つ・・・・・・
亀に乗っていた紅白に箒に跨った黒白。
館を荒らし、私の眠りを妨げた上に寝起きを容赦なく強襲。
そこまでされては優しく、温厚かつ慈悲にあふれた私といえども怒らざるえないというものよね。
そこからは当然のように私からの一方的な攻撃の雨霰・・・・・・
もちろん私は優しいから一撃で死ぬような攻撃はせずにじわじわ、じわじわと急所に当たらないよう丁寧かつ細心の注意を持って弾幕を当て続けていたんだけど・・・
残念なことに狙いがずれてしまい亀が気絶してしまった。
こうなっては空の飛べない紅白を攻撃するのは苛めになってしまう。
慈悲深い私は仕方がないからとどめの一撃にとっておきを使おうと思ったそのとき、紅白が自力で飛び上がった。
自力で飛べるくせに亀を使うなんて・・・・・・酷い紅白だと私は思ったわ。
だから少しお仕置きするつもりでいくつか弾をぶつけたのに紅白の体をすり抜けてしまってまったくのノーダメージ。
とっておきを使っても結果は同じ。
そして私がどういう事か少し距離を置いて考えようとした瞬間・・・あの黒白が・・・
なにが「魔法」よ・・・なにが「うふふ」よ・・・なにが「やりましたわ」よ・・・
完全に忘れていたところに全力の不意打ち。
その結果、私が目覚めると館は半壊状態、元通りになるまで住めなくなってしまった。
それもこれもあいつ等のせい。
温厚で知られる私といえども文句の一つも言わなければ収まりがつかないというものだ。
しかし『魔法』・・・ね・・・。
最近はほとんど拳骨で始まる会話からとっておきで終わる会話ばっかりだったし。
ここで新しい技術を手に入れるのも吝かではない。
しかしながら一人で手に入れに行くのもどこか味気ない・・・と、思っていたんだけど・・・・・・。
そう考えていた私の目の前にはちょうどいいお供が一人で歩いている姿が。
『魔法』を手に入れる道中は楽しいものになりそうだと私はひとり笑みを浮かべるのだった。

<おまけに対するおまけ>
・とある里人による証言

どうしたんですか?
「俺、見たんだ・・・」
なにを見たんですか?
「たまに里へやってくる薬売りが妖怪に襲われるとこをだよ!」
なんと!それは本当ですか?
「嘘じゃねぇよ!あの妖怪はあれだ、ひまわり畑に出てくるやつだよ」
ひまわり畑って・・・あそこは太陽の丘ですよ?
「んなことどうでもいいんだよ!周りに背の高い草むらがあってよかったよ・・・・・・じゃなかったらきっと俺がやられてた」
どうでもいいって・・・・・・まぁ、いいですけど・・・・・・
「何で残念そうなんだよ?しかし、思い出しただけで身の毛がよだつぜ」
それほどだったのですか?
「あぁ、あの男に襲い掛かる直前に浮かべた笑み・・・・・・まさしく凶笑ってやつだったぜ。
まったく、惜しい男を亡くしたよ」
えっと・・・たぶん大丈夫だと思いますよ?
「ん? どういうことだ??」
いえいえ、こちらのことです。
取材協力、ありがとうございました。
「あ、あぁ」
はいはい。

以上、新聞記者(笑)による取材風景

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後書き+次回予告

どうも、感想を喜ぶお手玉の中身です。
行方不明だったバックアップデータが外部HDから見つかったよ。
やったねお手玉君。
でもバックアップデータ古かったから保管しないと使い物にならないよorz
とりあえずは後書きを・・・・・・
今回は前回分に入ってなかったおまけ部分になります(おまけの中にもおまけがあるけど・・・)
そんなわけで短いです・・・ものっそ短いです。
まぁ、おまけだから短いのだということでご容赦をorz

では、次回予告です。
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次回予告・・・それこそが・・・・・・毛玉の生きる道・・・・・・
すなわち『毛玉道

A「不毛の荒野に」B「降臨」C「せしご近所最強」D「その傍らで転がるものは!?」
ABCD「次回 毛玉のキャラがB以外分からなくなったorz」
ACD「なん・・・だと・・・!?」B「っふ・・・笑止!」

                       っで、誰がご近所最強ですって?  by.風見さん家の幽香さん


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