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[10476] ファンタジー世界で剣とか作ってます。
Name: 流星◆805304cf ID:7d0258d3
Date: 2009/07/26 11:47
これはファンタジー世界に転生してしまった男の話です。

主人公最強系にはしないつもりですが、なってしまうかもしれません。

作者はこの作品が処女作です。

もし感想などをいただけるならありがたく思います。

でも作者の心臓はあまりタフでは無いので批判などはオブラートに包んで欲しいです。

作者はライトノベルやパソコンゲームが好きですが、アニメは基本的に見ません。

もしかしたらその影響が作品に出るかもしれません。




[10476] 原付とイノシシと母親
Name: 流星◆805304cf ID:7d0258d3
Date: 2009/07/22 10:06
それはバイトをしている時のことだった。
俺はいつものように二時に起きて新聞配達の仕事に出かけ、
いつものように新聞にチラシを挟み込み、いつものように愛用の原付に新聞を百部ほど積み込み、いつものように配達に出発する。
此処までは少なくともいつも通りだった。

午前五時に俺は原付にまたがって細い砂利道を走っている。
この砂利道は細いくせに片側が斜面になっておりガードレールも無いため、非常に危険な道でゆっくりと徐行運転しなければいけない。

本当はこのような危険な道をと通りたくはないところだけどこの道を使うかどうかで仕事が終わる時間が大きく変わるのだ。
それに配達時間が遅れるとお客さんから苦情の電話を受けることになる。
だからこの道を通ることにしている。
それに雪の日に斜面からすべり落ちて五メートルぐらい転がったけど無傷だったし!

まぁ、そんなことより俺にとっては昨日買ったけどまだ読んでないライトノベルのほうが重要だ。

「今回もビリビリ娘の出番なさそうだよなぁ」

ため息をつきながらつぶやく。
昨日買ったライトノベルはやたらと多い登場人物のせいで自分の好きなキャラの出番が全然無い。
しかも今回はイギリス編なので、自分の好きな電撃を使う少女の出番は全く期待できない。大体あの作品世界観広げすぎだし、作者一人じゃ終わらせられないだろ。
シェアワールドとかして欲しいよなぁ。
そうすりゃ出番が増えるのに。
正直オリジナルストーリーの漫画だけでは物足りない。
ヒロイン二、三人間引きしてもいいんじゃないか?

どこぞの魔法先生は人気で出番決めているからそれほど不満はないんだけど。
この作品に関しては是非とも何とかして欲しい。
そんなとりとめもないことを考えている時だった。

ドンッ

突然原付に乗っている俺に衝撃が走る。
斜面の反対側から俺に何かがぶつかった!?

「はぁっ!!?」

俺は原付から斜面のほうに投げ出される。
俺にぶつかって来たのはイノシシ!

「えええぇえ!?何でイノシシだよ!」

訳が分からない!
斜面を転がり落ちながら俺はふごふご言っているイノシシに疑問の声を上げる。
五メートル転がり落ちてようやく止まる。
止まると同時に斜面の上を見上げる。
俺の目に入ったのは俺と同じように転がり落ちるマイ原付と舞う新聞。
迫りくる俺の原付。
やばいと思った時にはもうすでに手遅れ。
立ち上がることさえ出来ない。
原付は俺の顔面にヒットする。

グシャッ!

何だか嫌な感じの音がした。









眼を覚ました場所は全く知らない場所だった。
………知らない天井だ。
ごめん、嘘です。
天井がありません。
青空が広がっている。

どうやら俺は誰かに抱きかかえられているようだ。
運んでくれている人の顔を見ると女の人。
髪は肩ぐらいまでで頬などは痩せていて幸薄そうだが、綺麗な人という表現が似合いそうな美人。
見たところ救急隊員の人では無いみたいだ。

誰なんだろう?
大学院にはこんな知り合いいなかったと思うし、事故現場を見つけてくれた人かな?

ふと気づく、この人でかくねぇ?
俺の身体の数倍ぐらいの体格をしているような気がする。
まぁ気のせいだろう、ちょっと頭が混乱しているのか。
まずは意識が戻ったことを知らせるべきだろう。

「おぎゃーおぎゃー」

なんだ?声がきちんと出ない。
のどを痛めるような事故ではなかったはずだが。
いくら声を出そうとしても赤ん坊のような意味のない音しか出ない。

「坊や、ごめんね。もうすぐ着くから」

女の人が俺?に向かってそう言った。
俺は自分の腕を見る。
全身を確認する。
深呼吸をする。
あれ?俺、赤ん坊じゃねぇ?
一体どういうことだ。
俺は夢でも見ているのか?

いや、五感に伝わるイメージが夢ではないことを教えてくれる。
ならばこれはどういうことだ?
「転生」そのような言葉が俺の頭に浮かんだ。
あぁ、俺死んだのか。

割とあっさり俺はそれを受け入れることが出来た。
死ぬ瞬間を見ることが出来たからだろう。

俺ってイノシシに殺されたのか。
何だろう、凄く恥ずかしい気がする。
現代日本でイノシシに殺される人っているのかな。
ニュースに出るかもしれない。
初めて出演するテレビがこれかぁ、きついなぁ。

それに家にあるエロゲー処分してねぇよ。
一人暮らしだからって、オタク趣味にしている部屋がまずいよ。
隠れオタクをしていたのに、部屋を見られたらばればれだ。
妹あたりには罵られてそうだ。

もう死んだから関係ないはずなのに、前世のことばかり気になるなぁ。
この母親?が日本語を話しているから此処は日本なんだろうし機会があれば実家を確認することにするか。

そんなことを考えているうちに、母親の目的地に着いたようだ。
何故か地面に降ろされる。
地べたに赤ん坊を置くのはどうかと思う。

「ごめんね坊や。ごめんね坊や…」

母親は泣きながらしきりに謝ってくる。
そりゃあ地面に降ろされるのはどうかと思うけど、そこまで気にするなよ。
ふと目的地の建物を見る。
教会。
あれっ、これってもしかして。

「ごめんね坊や。強く生きてね…」

ちょっ、えぇっ!
俺、捨てられるの!?
生まれ変わっていきなりなんだよそれ。
ありえないだろそれ!
母親は俺を置いて立ち去ろうとしていた。

「おぎゃー!!!おぎゃー!!!おぎゃー!!!」

俺は必死に泣き叫ぶ。
いきなりなんだよそれ、子供捨てんなよ!

「ごめんね」

そう言って、女の人は走り去って行った。
ピューッと風が吹き、砂ぼこりを巻き上げた。





あとがき
この主人公の死に方ですが、実体験を複数組み合わせて決めました。
以前バイトで新聞配達をしていたのですが、作中で出てきたような道を毎日通っていました。
雪の日に転がり落ちたのも実体験です。
イノシシについては、私と同じように新聞奨学生をしていた人が仕事をしているときに追いかけられたことがあるそうです。

一応今回の話は、プロローグということで短めでした。
現時点では、ファンタジー要素がありませんが次回からはある予定です。
なるべく定期的に更新できるようにがんばりたいと思います。



[10476] 冒険者とアンデッド
Name: 流星◆805304cf ID:87de6b2d
Date: 2009/07/22 10:25
まぁ、生まれ変わっていきなり捨てられたりして悲惨だけど、ポジティブにいこう。
そうでもないとやってられない。

あの女の人は確かに綺麗だったけど、ちょっと不自然なくらい痩せていたし着ている服もぼろぼろだった。
きっと子供が育てられないぐらい貧しかったんだろう。
あの人の家で暮らすよりも孤児院で暮らすほうがよっぽど幸せに違いない。
これもあの人なりの親心なんだよ。
そう思っておこう。

しかし、この教会ちょっとぼろい気がする。
なんだか庭も手入れされていないみたいだし、雑草が茂っている。
此処の神父さんは頼りない人かもしれない。
いや、駄目だ、ポジティブだ。
ポジティブにいこう。

此処の教会の神父さんは、ちょっとだらしないけど良い人なんだ。
俺は信じる!
信じるものは救われるんだ!

まぁ、何だか物音が全くしなくて、人気がないことはスルーだ。
凄くまずい気がするけど、俺は気にしない。

そうやって俺が必死で意識改革という名の現実逃避をしていたら、ちょっと遠くから足音が聞こえた。
ほら、人がいるじゃないか。
きっと留守だっただけなんだよ。
俺はようやく安堵の気持ちを得られた。
足音の主はどうやら二人組のようで話しをしている。

「アッシュさん此処の教会ですか。依頼のあった場所は?」

「あぁそうだ。ギルドにあった依頼書の場所は此処だ。此処にアンデッドが複数出現する」

短髪で赤い髪をした男は、アッシュというらしい。
四十代ほどの歳、筋肉質な体型で背も高い、鉄製の「鎧」を身につけていて腰には「剣」をさげている。
もう一人のほうは茶髪で二十前半、チンピラのような外見をしている。
アッシュと同じように剣を持っていることを除けば。
………アンデッド?剣?よろい?何者だこいつら。

なんだかまずい状態になった気がする。
関わらないほうが良いかもしれない。
音を立てないようにして隠れることにする

「でも此処のアンデッド結構強力らしいですよ。大丈夫ですかね?」

チンピラが不安そうな顔でアッシュに尋ねる。
まじで怪物がいるのか?
俺はちょっとあせってくる。

「何のために、高い聖水を買ってきたと思っているんだ。アンデッド対策だろうが」

アッシュはチンピラの不安をつまらなそうな顔で一蹴する。

「それに俺はソニアの仇を討つんだ」

アッシュはチンピラには聞こえないように小声でつぶやく。

「ソニアさんってアッシュさんの妹さんですよね。五年前に突然現われたアンデッドに殺されたっていう。それの現場って此処なんですか?」

でもチンピラには普通に聞こえていた。
まぁ、隠れている俺に聞こえるぐらいだから隣にいるチンピラも聞こえて当然だよな。
空気読めよ、チンピラ。
アッシュ少し渋い顔してるぞ。

「あぁ、そしてそれ以来此処の教会は無人になってしまった」

………あれ?ちょっと待って、あの女、無人どころか怪物のいる教会に子供預けやがったんですか?
いえいえ預けたんじゃないですよ。
放置したんですよ。
調べろよ!
五年も前のことならそれぐらい知っとけよ!
むしろ邪魔な子供を殺すぐらいのつもりで放置したんじゃないのか?

「おんぎぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁっぁあぁぁ!!!」

俺は怒りのあまり、魂の叫びを発する。
てめぇの顔は覚えたからな!
忘れねぇからな!
あの女に対しての恨みを心に刻み付ける。

「おわぁっつ!?、何すか今の声?まるで地獄のそこから世界の全てを呪う様な叫びでしたよ」

さすがにあれだけの大声をあげれば、気づかれてしまったようだ。
チンピラの怯えるような声に対して、アッシュは落ち着いていた。

「そっちの方から聞こえたか?」

注意深く俺に近づいてくる。

「赤子?何でこんなところに赤子がいるんだ?」

少しばかり驚いている。

「罠っすよ!罠!逃げましょうよ」

俺のことを注意深く観察しているアッシュに対してチンピラはびくびくと震えていて今にも気絶しそうだ。
赤ん坊に怯えるなよ、情けねぇ。
大体赤ん坊を使った罠ってあるのか?

「もしかして捨て子か?」

アッシュが見事に言い当てる。
まぁ、それ以外に選択肢無いしね。

「こんなところに子供を捨てる親居るわけないっすよ」

居るんだよ!それが。

「五年前までは優しいシスターが居るってそこそこ有名な教会だったからな、捨てに来る親が居てもおかしくねぇよ」

言われてみればぼろい外見だけど、教会には子供たちが楽しく遊んでいたような名残が残されている。
血で汚れたボール、花が咲き誇っていたであろう雑草だらけの花壇、ぼろぼろになったおままごとの道具などが転がっている。
なんだかそれらの道具を見て悲しい気分になった気がした。
きっとソニアさんがその優しいシスターなんだったろう。

「おい、坊主!俺たちがアンデッドを倒してくる。その後、町まで連れて行ってやるから、じっとして待っとけよ」

アッシュが俺に対して宣言する。
アッシュはあの女と違って良い人みたいだ。本当に!
ありがとうアッシュさん、俺の人生にようやく希望が生まれたようだ。

「アッシュさんこのガキ連れて帰るんすか?」

いちいち五月蝿いな、このチンピラ。

「あぁ、ソニアならきっとそうするだろうからな。当時の俺は無力だった。誰も救えなかった。だけど今は違う。俺は救う力を手に入れた。たった一人でもこの教会の子供を救いたいんだよ」

ちょっと感動してしまった。
アッシュさん………頑張ってください。
アンデッドを倒してください。
仇を討ってください。

「聞こえたっすか、アッシュさんは凄い人っす。きっとアンデッドを倒すっすよ」

チンピラの言葉に少し疑問を感じる。
お前は何もしないのか?

「アッシュさんはたった五年でCクラスの冒険者になったんす。本当に凄いんす。お前は安心して待てば良いっすよ」

だからチンピラ、お前は何をするんだ?
でもCクラスって凄いのか?
平凡な雰囲気がするんだが。
二人は気合を入れて教会の中に入っていった。
チンピラの存在が少し気になるけどアッシュさんならきっとやってくれる。
俺はそう信じられた。

しかし此処は、日本じゃないのか?
まだ確証はないけど、よくあるファンタジーの世界なのか?
ギルド、アンデッド、剣、鎧これらの単語がそれイメージさせる。
そこに転がっている血で汚れたボールがリアリティを与えてくる。
日本に対して郷愁を感じながら二人が戻ってくるのを待つ。




一時間後

「ぎゃアああああああああああああああああああああ!!!」

何だかさっきの人の声にとても似ている断末魔の様なものが聞こえた気がする。
気のせいだろ、きっと。



[10476] ジジイとネクロマンサー
Name: 流星◆805304cf ID:87de6b2d
Date: 2009/07/26 11:54
叫び声という幻聴が聞こえてからそろそろ二時間が経過しようとしている。

アッシュさんなかなか戻ってこないなぁ。
どうしたんだろう、何かてこずっているのかなぁ。
犠牲者の人たちのお墓を作っているのかもしれない。
アッシュさんにとっては、ソニアさんとのお別れのときなんだろうから、時間かかって当然だよな。

そんな現実逃避をしていると夕日によって赤く染まった西側から、砂煙を上げながら凄い勢いで何かが近づいてくる。
何だ?
人間?
老人?

老人が時速100キロ以上で走ってきやがった。
教会で立ち止まり、周りをきょろきょろと見ている。
この人はあごに白いひげをもっさりと蓄え、髪の毛は後頭部に白髪があるだけのおじいさんだ。
背の低い老人であるが、着ているものの上からわかるほど筋肉質な体型をしている。
頑固親父っぽい雰囲気も出している。
何だこの爺さん?

「くっ、さすがに遅かったか?」

爺さんは悔しそうに歯軋りをする。
そして俺のほうを見て、少し驚いた表情になる。

「何じゃ、お主捨て子か?」

爺さんはごくごく当たり前のことを聞く。
いや、聞かれてもおぎゃあとしか言いようが無いんだが。
爺さんがあたりを再び見回して、つぶやく。

「しょうがないじゃろうな。他にちょうど良さそうな者もおらんし。試すだけましじゃろう」

爺さんが俺に近づいてくる。
ふところに手を入れて、ナイフを取り出す。
あの、なんで、俺に近づきながらナイフ取り出すの?
しかもナイフから不思議な威圧感を感じるんだけど?

「少し怖いかも知れんけど、心配するなよ、坊や」

何言ってんの、このジジイ!
首筋を見つめるなよ!
怖いよ!
ジジイのナイフが首筋に当てられる。
まだ赤ん坊の俺には、抵抗することが出来ない。
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめてくれ!

ぶすっ!

俺の首筋にナイフが突き刺さった。
俺の二度目の人生これで終わり?
………あれ?
いくら経っても痛みを感じない?
そもそも血が流れていない。
ジジイがナイフを俺の首から抜く。
だが、血は流れなかった。

「………俺、死んでない?生きてる?」

首にナイフを刺されても生きているのか俺?
もしかしてこれって最強系異世界転生だったりするのか?
イノシシに殺されたり、捨てられたりしてあきらめていたけど、運が向いてきたかもしれない。

「なぁっっ!!!」

ジジイも俺を見て凄く驚いている。
当然だ、ナイフが刺さっても死なない赤ん坊がいたら驚くだろう。
ここからが俺の逆襲の番だ。
秘められた力が覚醒し、ジジイを打ち倒す!

「覚悟しろよジジイ!」

しかし秘められているだけのことはあって、使い方がよくわからない。

「かめはめ波ぁーーーー!!!」

とりあえず、有名な技を使ってみたけれど、何も起こらない。
くそっ、どうやったら使えるんだ?
見当も付かない。
いっそのこと俺の能力は不死身だけと考えるべきか?
いや、そもそも不死身でもないかもしれない。
ならば赤ん坊の俺ではジジイを倒せない。

どうする俺?
なすすべも無く、やられるだけなのか?

「ジジイ!俺をどうするつもりだ!」

実力で負けているのなら、まず、相手の目的ぐらいは知っておかねばならない。
そうしなければ何をすれば良いのかわからない。
俺はジジイをにらみつける。
ジジイはポツリとつぶやく。

「おぬし、わしの言葉を理解しているのか?」

「えっ?あれっ、そういえば俺普通にしゃべれている?!」

どういうことだ?
さっきまでおぎゃあとしか言えなかったのに。

「それは、さっきわしが使った言詠の剣の力じゃ」

「ことよみ?何それ、さっき俺の首に刺したナイフのこと?」

言われてみれば、ナイフを首に刺されてから普通にしゃべっている。

「言詠の剣は、刺したものが喋ることが出来るようになる魔法剣じゃ。しかし剣には言葉
を理解させる力は無い。何故おぬしはわしの言葉を理解しておるんだ?ただの赤ん坊だとはとても思えん」

なんだかよくわからんが、便利なものがあるらしい。

「それなら俺に聞きたいことでもあったのか?」

相手の疑問をスルーして、問いかける。
転生したから言葉を理解したなんて言うべきではないだろう。
このジジイが信用できるとは思えない。
それに不思議ナイフを赤ん坊に刺さなければいけないほど知りたいことがあったはずだ。

「おっとしまった、忘れておった重要なことだというのに。おぬしが言葉を何故理解できるのかは気になるが、今はそれが好都合じゃ。アッシュという短髪赤髪の男を見なかったか?体格の良い男じゃ。此処にきているはずじゃが何処におる?もう中に入ってしまったのか?」

このジジイはアッシュさんの知り合いなのか。
俺はとりあえず、ジジイに二人は此処を訪れたこと、教会の中に入ったこと、二時間前に叫び声が聞こえてから出てこないことを伝えた。
そして出来ることなら助けてやってくれと言う。

「くっ!まずいな、急がねば。日が沈めば二人は手遅れじゃ。坊主、おぬしも付いて来い」

ジジイは背中に俺をかついで、教会の中に飛び込んでいく。
教会の中には、腐った死体が三つほど転がっている。
アッシュさんに斬られたアンデッドだろう。
酷い異臭がして不快感を覚える。
かつては神聖な場所だったといわれても信じられない。
だが、そんなことはどうでもいい、俺にはもっと重大な問題がある。

「おいジジイ、なんで赤ん坊の俺を連れて行くんだ?」

アンデッドのような危険な魔物がうろつく場所に俺を連れてくるなよ。
自慢じゃないが、はいはいも出来ないんだぜ。
そんな俺がいても足手まといにしかならない。
囮か?いや、えさにでもするつもりか。

「念のためじゃ、あの馬鹿二人が出発してから、新情報が入った。此処には、ネクロマンサーがおる。出来ることなら裏をかきたい」

「俺をえさにでもするつもりか?俺に出来ることは何も無いぜ」

「何を言っておる、喋ることが出来るではないか。それで十分じゃ」

ジジイはそれだけを言って、奥にある地下室への階段を下りていく。
アッシュさんが倒したアンデッドの死体?(上手い表現が見つからない)、それを辿っていくだけで道に迷うことは無かった。
アッシュさんがほとんど倒したらしい。

「坊主は此処で待っておれ、合図をしたらこの剣を掲げて『聖なる光よ!』と叫んでくれ」

ジジイは俺に対してそう告げると、俺を階段の陰に隠し、そして神聖っぽい雰囲気を出した剣を俺に持たせる。
剣の長さは30センチぐらいで、重さは約500グラム。
剣と言うより、短剣といったほうがよいものだが、今の俺では持ち上げることさえ出来そうにない。

「聖なる光?何か魔法でも発動するのか?」

「あぁ、そうじゃ。この剣の持ち主は、唱えるだけで魔法が使えるようになる。威力は眼くらまし程度じゃが、使えば場の流れを変えられるかもしれん」

もしもの時はまかせたと俺に告げて、ジジイは階段の先にある部屋に入る。
部屋の中には、中肉中背でローブをかぶった人、うつろな目をしてぼさぼさの青っぽい髪の少女、端のほうでうずくまる二人の男がいる。
うずくまっているのは、アッシュさんとチンピラのようだ。

「ソニアッ!生きておったのか!」

ジジイの驚きの声が狭い地下室に響く。
あのうつろな眼をしているのがソニアさんなのか。
もしかして操られてる?
ここでローブをかぶったほうがソニアだったら驚きの展開だろうが、間違いなく違うだろう。

「何ですかあなたは?もうそろそろで新しい下僕が増えるところだったというのに」

ローブの男、ネクロマンサーが不愉快そうな声あげる。
やはりこの男が黒幕のネクロマンサーだ。
ジジイとネクロマンサーはじりじりとにらみ合う。
ネクロマンサーは素早く懐から杖を取り出し、

「漆黒の闇夜よ、愚か者を飲み込め!」

ネクロマンサーの詠唱により、杖からどくろのようなものがジジイに向かって放たれ、
恐ろしい気配を発しながら、黒板を引っかくような叫びと共にジジイに襲い掛かる。
だが格が違った。
ジジイが剣を振るうと、風の刃がどくろを切り裂き、相手の杖までも同時に破壊する。

「ふんっ、こわっぱがわしに勝とうなど百年早いわ!」

ジジイは相手のネクロマンサーを鼻で笑い、剣を突きつける。
そういやジジイ時速100キロで走るような人外だっけ。
ジジイの剣を抜くとこ、全く見えなかったんですけど。
俺の出番まったく無しか、まぁいいや、楽なほうが好きだし。

「くっ!ソニア!このジジイを殺しなさい!」

ネクロマンサーがソニアに命令を下す。
ソニアは命令を受けて、鉄の剣を爺に対して振り下ろす。
ジジイは異常なほど敏捷な動きをしているため当たらない。
あのジジイほんとに何者だ?
ジジイのほうが人間に見えないんだけど。

「ソニア目を覚ませ!」

ジジイは必死にソニアに呼びかけるが、反応が全く無い。
その間、異常な動きでソニアの攻撃をかわし続けている。
ジジイによるとネクロマンサーとは、邪法に身を捧げたものであり、死者を操るものであるが、このネクロマンサーは少し違う点がある。
通常は殺してからアンデッドにするが、こいつの場合生きたままアンデッドにして生命力の強いアンデッドを作る。
ソニアもそのようにされたらしく他のアンデッドと違って腐ったりはしていない。

「ふはははは!無駄ですよ。彼女に声は届きません。なぜなら彼女は自ら意思を閉じ込めているのですから」

「なんだと?どういうことだ」

ジジイはソニアが壁になっているのでネクロマンサーに攻撃が出来ずにいる。
ソニアに攻撃を加えるわけにいかないので、避けることしか出来ない。

「アンデッドにした後、子供たちを殺させたら意志を捨ててしまったようでしてねぇ。困った話ですよ。私は彼女が苦しむのを見て楽しんでいたのですから。ふはははははっ!」

えげつねぇ、この男。
何としてでも倒さなきゃいけない。
俺には、ジジイの合図を待つしかないのか。

「中々に粘りますねぇ、そちらの男はソニアを使ったらすぐに動きが鈍っぐぅっつ!」

トンッ

ネクロマンサーが話し終わらないうちに、彼の右腕にナイフが刺さった。
アッシュさんだ。
倒れていたはずのアッシュさんがナイフを投げている。

「糞野郎が!俺は手前のことを絶対に許さねぇ!」

「坊主、今じゃ!」

アッシュさんが叫ぶのに合わせて、ジジイが合図を出す。

「聖なる光よ!」

俺は意地でナイフを掲げて、呪文を叫ぶ。
それと同時に地下室は白い光に包まれて何も見えない。

ザシュッ

何かが切り裂かれる音、そしてゴトリと何かが落ちる音がした。
白い光が薄れていく、切り裂かれたのはネクロマンサーであり彼の上半身が床に転がっている。
ジジイは剣に付いた血を払い落とし、つぶやく

「これで終わったようじゃの」

「オルトさん、ソニアはいったいどうなるんだ。生きることが出来るのか」

ソニアはうつろな目をしたまま、ぼぉっとしている。
ネクロマンサーを倒しても何も変わってない。

「生きることは出来るだろうが、ネクロマンサーの支配を数年受けておったのじゃ。それに酷い過去があったというのなら、もう意識が一生戻らないかもしれん」

「そうか………でも、生きているんだったら、なんとか………するさ」

「じゃあ、そろそろ帰るかの」

ジジイは階段のところに居た俺を担ぎ上げ階段をのぼる。
アッシュさんはソニアを背負っている。

「何だ、さっきのは坊主だったのか、ありがとな」

アッシュさんが俺に礼を言う。
だけど俺は空気の重さのあまり、何も返すことが出来ない。
ソニアは兄の背中でさっきまでより幸せそうな顔で眠っている気がする。

これはハッピーエンドだったのだろうか。
死んだはずのソニアが生きていた。
少なくとも、これ以上の結果は無かったはずだ。
でも、これからのソニアについて考えると複雑な気分になってしまう。

俺たちは二時間ほど歩いて、アッシュさんたちの住んでいる町にたどり着く。
アッシュさんはまずソニアを家まで運び、その後に教会に置いてきたチンピラを回収するつもりらしい。
ソニアと一緒に彼らの家のほうに帰っていく。

俺はジジイと二人きりになっていた。

「おぬし、これからどうするつもりじゃ」

「どっか良い感じの孤児院があるんならそこに連れて行ってくれるとありがたいな」

「家に来るか?ばあさんと二人きりじゃし、前から子供が欲しいと思っておってのう。それに少しばかり魔法の才能があるようだし、わしの跡継ぎとして内弟子にしてやっても良いが?」

「魔法の才能?あの聖なる光ってやつか?」

「そうじゃ、あの剣の魔法はわし専用にカスタマイズしておるから、わしのように造剣に関しての魔法の才能を持ったやつでないと、あれほどの光は発生せん、おぬしの光は相手を麻痺までさせておった」

「造剣?あんた、ただの冒険者じゃないのか」

「そもそも冒険者じゃないわい。わしは生粋の鍛冶屋じゃよ。魔法剣専門のじゃが。」

「ふぅん、じゃあ俺に鍛冶屋になれってことか?いいぜ、やってやるよ」

孤児院に行くよりは、ましだろう。
今さっきまで、寂れた教会にいたから、多少の抵抗感を感じるし。

「修行は厳しいから、根を上げんとよいのだがのう」

こうして俺はオルト爺さんのもとで一流の鍛冶屋になるために修行をすることになった。まぁ前世でも物作りに似たことをやっていたし、冒険者になって戦うよりも俺に向いているだろうな。


あとがき
今回は二話まとめて投稿したので、あとがきはこちらのほうに書いて置きます。
書き始めてから気づきましたけど、作品を書くのって難しいですね。上手く書けないので上手くなるにはどうすればいいのか日々悩んでおります。
しかし、何故か登場人物が不幸になってしまう。全然そんな積もり無いのに、キャラが不幸になってしまう。
一応今回でプロローグ?は終わりです。
次回からは、赤ん坊状態から少し成長した主人公の物語になります。そろそろヒロイン的存在も出すつもりです。



[10476] 妹と魔法
Name: 流星◆805304cf ID:7d0258d3
Date: 2009/07/26 11:58
ケバンの街、俺がこれまでの八年間暮らしてきた街である。
この街の特徴は、街の中心に世界最大のダンジョンがあることである。
街の下には、現在攻略しているだけでも地下300メートル、距離にして17キロものダンジョンが広がっており、街の人々はこのダンジョンを攻略するために日々努力している。

ダンジョンの入り口は全部で7つあり、それぞれの近くに冒険者のギルドが設置してある。
ギルドには合計で3000人ほどの冒険者が登録されており、彼らは毎日のようにダンジョンに潜り、モンスターを退治し、財宝を探る。

街には、冒険者用の宿や食堂、雑貨店、武器屋などが数多くそろっていて万全のサポート体制が敷かれていて、
また、冒険者の発見したモンスターから取れるアイテムや洞窟内にある貴金属、特殊なアイテムを対象とした商人もたくさんいる。

街の住人のほとんどが間接的にダンジョンに関わっている。
この街は、ダンジョンを攻略するために作られた街なのである。
そして、俺の親父が経営している鍛冶屋も同じように関わっている。



「………熱い」

俺は、赤く熱せられた鋼をハンマーで、ガンッ、ガンッ、ガンッと叩きながらつぶやく。
熱く、そして重い。
俺はひたすら剣を作るために、鋼を叩く。
正直、八歳児にやらせる仕事じゃないだろ!
今の俺の腕力では、ハンマーを使い続けることは不可能に近い。
くそ!こうなるんだったら、あんなこと言わなきゃ良かった。

この世界本来の剣の作り方は、俺の今やっていることと全然違う。
本来なら、鋳型に金属を流し込んで、固まった後に、削って、剣を完成させる。
だが俺は、この方法に疑問を発してしまった。
親父に対して、熱せられた鋼をハンマーで鍛えたり、複数の鋼を混ぜたりしないのか?と聞いてしまったのである。
中途半端に日本刀の作り方を知っていたのが、運のつき。
親父は俺の知識にひどく興味を持ち、数年の研究の末、日本刀の作り方を解明してしまった。

それからだ。
俺が熱く熱せられた鋼を叩くのを繰り返すことになったのは!

従来の鋼の剣と比べて、日本刀は固い上に弾力性を持ち頑丈である。
さらに重さや力で叩き斬るのではなく、技と速さで切り裂く。
親父はこの作り方をいたく気に入り、俺も日本刀のような剣を作ることになり、
今現在、苦しんでいる。

俺はまだ八歳だぞ、八歳!
幼児虐待じゃないのか?
特訓をするなら、錬鉄のほうじゃなくて魔法のほうが良いよな。

ハンマーが持てるようになるまでは、魔法の特訓だけだったのに。
二年ほど前から、灼熱の地獄でハンマーを振るうことになっている。
正直、キツイ。

俺は、昔、親父に言われたようにマジックソードを作る魔法の才能、
正確には、アーティファクト製作の魔法の才能を持っている。
かなりレアではあるが人気はさほど無い。

魔法の使い手のほとんどが、攻撃魔法の才能の持ち主であり、人気も高い。
続いて回復魔法、身体強化魔法の使い手が多い。
この三種類の魔法の使い手で魔法使い全体の九割以上を占めている。

アーティファクトの製作は残りの数パーセントに入るかなりマイナーな魔法である。
他に召還魔法、封印魔法、結界魔法、呪術、などがマイナー魔法と言われている。
召還魔法の使い手は、田舎のほうでは魔物の味方だと言われ、罵られる。
封印魔法の使い手は、戦闘に向いていないため、仕事が極めて少ない。
結界魔法の使い手は、仕事はあるけど、戦闘に向いていない。
呪術の使い手は、民衆に迫害を受ける。

アーティファクトの製作の魔法は、鍛冶屋の人間からしたらのどから手が出るほど欲しい魔法であるが、地味だと言われる。
また、修行の困難さも人気の無い原因の一つと言える。
修行には時間がかかるため、一つの種類しか作れるようになれない。
剣、鎧、盾、靴、アクセサリー、城壁や屋敷などの建造物などのうちから習得できるのは一つのみ。
自分の作りたいものを作れる師匠なんて見つかるわけがないのだ。

これらの魔法に共通した弱点としてある、師匠が見つからないというのは大きすぎる欠点である。
やはり、攻撃、回復、身体強化の三大魔法に人気があり、マイナー魔法の才能しかないとわかったら、師匠探しの困難さから、魔法使いのへ道を諦めるような人もいるぐらいだ。
その点では、俺は幸運である。

俺の親父は、大陸を代表する剣の製作者であり、かなり高度な魔法付与をこなす。
そんな術者に指導してもらえるのだから、俺のマジックソードの製作に関する腕前は、めきめきと成長している。

俺は、赤ん坊の頃から理性が確立していたため、知識の吸収に一番適した時期に英才教育を高レベルな術者にしてもらったうえに、
別世界の知識を持っている。
一応前世では、地方ではあるけど国立の大学院の物理系の学部で勉強していたため、物作りに関する知識があった。
それがこの世界で剣を作るのにかなりのアドバンテージと言える。

今では、魔法を付与する精密さや複雑さ、コントロールでは親父にも負けない自信がある。
しかし、魔力量に関する才能は無かった。
いや、そもそも精密さを手に入れたのは、運と純然たる努力の結果であるから、俺に大した才能は無い。

だから俺が魔法を付与しようとすると出力が問題となってくる。
複雑な魔法工程が必要なマジックソードは作ることが出来る。
でも、単純な出力が重要なマジックソードは駄作が出来る。

例えるならセイバーのインビジブル・エアを作れるが
エクスカリバーは作れないという所だろうか。

別の例えをするならBLEACHの月牙天衝を使える剣は出力の問題で作れないが、無数の刃片を同時操作する千本桜なら将来的には作れるようになるだろう。

そんな風に、ひたすら鋼を叩きながら取りとめも無いことを考えている時、
工房の扉をノックする音が聞こえた。

「リーラか?入って良いぞ」

俺が声をかけると、扉が開きまだ六歳の妹が工房に入ってくる。

「おにいちゃん、おみずもってきたよ。えへへ」

リーラは水の入ったコップをお盆に載せている。
ちなみにリーラが水を持ってくるのは、今日これで十七回目だ。
水を持ってきてくれるのは、とてもありがたい、ありがたいんだけど、まとめて持ってきて欲しいと思うのは贅沢なんだろうか?
汗だくの俺にとってコップ一杯ではまったく足りないし、リーラにとっても面倒だろうと思う。

一度そのことを伝えたが、

「え、えと、その、リーラちから、ないから、これがせいいっぱいなの」

と答えてもらった。
でも本当の理由は違う。
用事が無ければ工房に入ってはいけないと言われているから無理やり用事を作っているのだろう。

リーラはいつも俺の後ろをとてとて、付いてくる。
工房で俺が鋼を鍛えているときにも、お手伝いしたいと言って、工房の中に入ろうとする。
おにいちゃん、おにいちゃんと舌足らずな声で呼んでくれる。
可愛い、可愛いんだけど騙されてはいけない。
こいつは親父の後継者の座を狙っている。

「リーラね、しょうらいは、けっこんして、おじいちゃんのおみせをつぐの」

この前、リーラは俺を見つめながらこんなことを言った。
リーラは俺が親父の後継者だと知っている。
俺がこの店を継ぐことを知っているはずなんだ。
そう考えたら、この発言の意味がわかる。
ライバル宣言だ!

以前から俺の後をとことこついて来ていたのだが、
それは俺をマークしているのだ。
積極的に工房に入って、俺の剣を見ようとするのもライバルに対する偵察。
油断してはいけない。

親父は娘におじいちゃんと言われたショックで気づかなかったが、リーラは中々の野心家である。
それに妹ってやつは兄を罵って虫けらのように扱うもんなんだ。
可愛い純真無垢な妹なんてありえない。

リーラは俺と血が繋がっていないことを知っているというのも、ライバル宣言の理由の一つかもしれない。
よそ者には譲らないと考えているのだろう。
唯一の救いはリーラにアーティファクト製作の才能が無いことだ。
リーラが連れてくる婿に負けないように、俺は努力しなければいけない。

「うわー、やっぱりおにいちゃんすごいねー。わたしと、にさいしか、かわらないのに、りっぱなけんをつくれるもん」

リーラは俺の作った剣を見ながらほめる。
だが、甘い。
俺はこの程度で、良い気になって。怠けたりしない。

「いや、まだまだだよ。親父には怒られっぱなしだし」

「えーすごいとおもうよー。おじいちゃん、おにいちゃんのことよくやっているってほめてたもん」

「気のせいだって、親父が俺のこと褒めるわけ無いだろ」

それは有り得ない事だ。
剣のことには、遠慮しない親父が言う訳が無い。
そう言えば、もう鋼を打ち始めてから五時間ほど経過している。

「リーラが来て、ちょうど良いし休憩でもするか」

「あ、ご、ごめんなさい。いいわすれてた。おじいちゃんがおでかけしちゃったから、おにいちゃんに、みせばんたのんでたよ」

この妹は、俺を休ませる気が無いようだ。

「おにいちゃん、わたし、かわろっか?つかれているんでしょ」

いくらなんでも、リーラに店番は無理だろう。
リーラの申し出に断り、店のほうに行く。
リーラと同じぐらいの女の子が一人いる。

「あ、おじゃましてます」

「あれ、リンちゃん?ごめんね、おにいちゃん、リーラ、おともだちによばれてるから、あそんでくるね。いってきまーす」

リンちゃんと呼ばれた子と一緒にリーラは遊びに行ってしまった。
店の中に客はいないので椅子に座って、本を読みながら店番をする。
家の店にはあまり客が来ない。

本を読み始めてから三十分ほどした頃、
店の扉が開き、

「こんにちわー、ちょっと剣を見たいんですけどー」

お客さんが入ってくる。
そのお客さんは………エルフ?

あとがき
今回は、説明ばかりで申し訳ありませんでした。
まとめて投稿したので五話のほうにあとがきは書いています。



[10476] 店番とエルフ
Name: 流星◆805304cf ID:7d0258d3
Date: 2009/07/26 16:32
「こんにちわー、ちょっと剣を見たいんですけど」

エルフ?
肌は白くすべすべしてそうで、
髪は輝くような黄金で肩ほどまで伸ばし、
先のとがった長い耳をしている。
服装は平凡な布の服ではあるが
顔立ちは、まだ幼さなくも美麗、

歳は俺と同じぐらいで十に満たないように見える。
しかし、エルフの寿命は約四百年と言われるから、見た目通りの年齢なのかは、わからない」

「いらっしゃいませ」

始めて見た。
エルフを見ると、此処がファンタジー世界だってことがしみじみと感じられる。
本当に耳尖がっているんだなー

「君、店主はいないの?」

「今親父は、留守だから俺が代理ですけど」

「こんな子供一人置いて、外出するなんて、店主は適当な人のようね」

なんかムカッとくるな。
お前も俺とそう変わらない年齢だろ。
まぁ相手は客だし、我慢するか。

「ちょっと商品見せてもらっても良いかしら?」

「はい、どうぞ。あっ、でも、その前に紹介状ありますか?」

一応、親父は大陸でも有数の腕前を持っているから、一見さんお断りで紹介状が無ければ買い物できないようにしている。
置いている剣も全て魔法が付与しているため、かなりの高額である。
ある程度実力が無ければ買うことが出来ない。

「………紹介状?」

「はい、紹介状です」

エルフは困惑した顔を見せる。
こいつ、紹介状持ってないな。

「どうしても無いと駄目?」

「はい、無いと駄目です」

「どうやったら、もらえるのかしら?」

「冒険者ギルドとかで、ある程度実力が認められたらもらえますけど」

大体Cクラスの冒険者がギルドオーナーに希望を出せばもらえることになっている。
Cクラス以上の冒険者は全体の六分の一程度で、かなりの実力者。
すぐに成れる様なものではない。

「………書きなさい」

「は?」

「あなたが、私に、紹介状を、書けば良いじゃない」

「え、何言ってんの?」

「私のプライドが懸かっているの。紹介状が必要なら、あなたが書けば良いじゃない?」

「いやいやいや、ありえないし。そもそも、何でエルフが剣なんて欲しがるんだよ」

何だこの客は?
いや、紹介状無しなら客じゃないけど。
エルフって虚弱な代わりに魔力が強力な種族だから、武器とか欲しがらないはず。
弓ぐらいしか使わないだろ?

「………例えばの話なんだけど、仮に、私の友達が、ま、魔法を使えなかったらどうすれば良いと思う?」

エルフは遠い目をしながらつぶやく。
その真剣な物言いから、例えばの話でも、仮の話でも、友達の話でもないことがわかる。

「弓でも使えば?」

「弓も使えなかったら?」

エルフは決して俺と目を合わせようとしない。
こいつ、魔法も弓も使えないのか?
エルフとしてそれはどうなんだ?

「な、内職でもすれば?」

「駄目なのよ、それじゃあ。それでは宿命のライバルに勝てないわ!私は奴を見返さなければいけないの」

「宿命のライバル?」

「えぇ、私が魔法を使えないからといって何かと見下してくる奴よ。魔法も弓も駄目なら、剣しかないわ」

「向こうの通りにリーズナブルな武器屋があるから」

魔法は付与していないけれど、安価で質が良い武器を揃えているはずだ。
低クラスなら向こうの店で買い物したほうが良いと思う。

「何言ってるのあなた!私はエルフなのよ。華奢なのよ。重い武器を振り回せるはずがないじゃない。重さと力で叩き斬る剣ではなくて、技と速さで斬る剣が必要なの」

まぁ、確かに日本刀はこの店にしか置いていない。
門外不出の秘伝というやつだ。

「うーん、でもある程度の実力者じゃないと家の剣扱いきれないと思うぞ」

「大丈夫よ、自慢じゃないけど私はコボルトに一対一で勝ったことがあるわ」

本当に、自慢にならない!
コボルト、それはゴブリンの下級職のようなもので、子供でも倒せる。
まぁ実際、子供だから、友達同士の武勇伝にはなるだろう。

彼女は微妙な武勇伝を自慢げに語った後、勝手に、棚に置いてある武器を取り、
状態を確かめようと、値札を見て、

「はぁ!なによこれ、金二百枚?普通、鋼の剣で金三十枚でしょ。高すぎるわよ!」

彼女は、ぼったくりだ、ぼったくりだ、と騒ぎ始める。
まぁ、その気持ちもわからないでもない。
金貨一枚、日本円で一万円ぐらいの価値だ。
普通の四人家族が一年と半年は暮らせる額。
剣一本、二百万円なんて受け入れられないだろう。
でもそれがこの店で一番安い剣だったりする。

彼女が持っている剣は、鋼の剣より高価な日本刀であり、硬化、軽量化、そして切れ味を良くする魔法付与がかけられている。
そしてメイドイン俺!
割と妥当な価格だ。
一流の冒険者なら普通に買う。

ちなみにこの世界の通貨は銅貨と銀貨と金貨の三種類である。
交換比率は、銅貨一万枚=銀貨百枚=金貨一枚
また、剣の流通価格は、
こんぼう、銀貨十枚
銅の剣、金貨一枚
鉄の剣、金貨十枚
鋼の剣、金貨三十枚
ぐらいになっている。

初心者の冒険者や村の自警団は銅の剣を使う。
一般的な警備隊やCやDクラスの冒険者は鉄の剣を使う。
鋼の剣は少なくとも、日々の生活に困っていない中級以上の冒険者や軍の精鋭が所有している。
消耗品の剣に大金をかけるのは難しいのである。

「一応魔法付与してある剣だからな、そんなもんだよ。それよりお前の予算はいくらぐらいなんだ?」

こいつ、家の秘伝の日本刀が鋼の剣と同じぐらいの値段だとでも思っていたのか?
もしそうだとしたら、甘い考えだ。

「金貨三枚」

「はぁっ!鉄の剣さえ買えねぇじゃねぇか!どうするつもりだったんだよ!」

こいつ家の店を馬鹿にしているのか?
それともこいつが世間知らずなだけか?

「………色気で、何とか」

「黙れ貧乳、手前みたいなつるぺたエルフに興奮するような奴はいねぇ!」

もし親父が興奮したら、俺は妹と共に家出をすることになるだろう。
いや、その前に親父は、お袋に埋められるだろうな。

「ひ、貧乳!?何よその言い方、私はお客様よ!それにまだ成長期!」

「金が無い奴は客じゃねぇ」

まぁ、子供のこいつが金貨三枚集めるのは苦労したんだろうけどな。
必要な金額の桁が二つ違うんだよ。

「くっ!なかなかの言われようね。わかったわ、これだけはやりたくなかったけど、剣の代金として、デ、デートしてあげるわ、特別よ、こんなチャンス二度とないわよ」

「いらねぇよ」

一回、二百万のデートってなんだよ。
高すぎるだろ。

「じゃあ、どうすれば良いって言うのよ!」

「そこまで剣が欲しいのか?」

「えぇ、絶対にゆずれないわ」

そういや、こいつってエルフなんだよな。
魔力の結晶や秘薬とかマジックソードを作るときに役に立つような素材を集められるかもしれない。

「お前さぁ、魔法の秘薬とかそういうの手に入れられるか?」

「当然よ。私に出来ないことはないわ」

肯定されたのに、不安を感じさせる答えだ。
こいつの強気は信用ならねぇ。
出来ない事、いっぱいありそうだし。
でも一応信用してみるか。

「ちょっと、待っていてくれ」

俺はエルフにそう告げて店の奥に入る。
庭に出て、倉庫の鍵を開け、
仕舞ってある俺の失敗作の剣達を調べる。

「うっわーたくさんあるわねぇ。一つくらい私にくれても良いんじゃない?」

「何で付いてきているんだよ!」

「え?面白そうだからだけど」

平然とした顔で答えられても困る。
まるで太陽は東から昇ると言うかのように、当然のことを言っているようだ。
くそっ、太陽は東から上るとは限らないんだぞ。

「もう、其処で良いからちょっと待っておけ」

エルフにそう告げて、俺は失敗作の山から目的のものを探す。
俺の剣は、五本に一本しか合格をもらえないから、ここにおいてある失敗作の量も多い。
悲しくなるほどに、

失敗作の山から目的の品を見つける。
銀の刃を持つ日本刀だ。
この剣は、性能の点では、文句が無かったのだが、おしゃれ心で刃紋を消してみたら、親父のこだわりに反してしまって、店に置いてもらえなった剣である。

「おい、これ一応さっきの剣と同じような性能だ。持っていって良いぞ」

俺はエルフに剣を渡す。
どうせ放って置いても倉庫の肥やしに成るだけだから、こいつも使われたほうが幸せだろうしな。

「え!くれるの、本当に?金貨二百枚よ。もう、返さないわよ」

エルフの耳がピコピコ動く。
あれって動くんだ。
少し気になる。

「い、いや、交換条件だ。後払いということで、マジックソードの素材になりそうな秘薬とか貴金属を定期的に探して持ってきてくれ」

「わかったわ、それぐらいどうってことないわよ。」

エルフは剣を抜いて、うわー、軽-いなどと言いながら振り回している。
危ないな、人の家の庭で剣を振り回すなよ。
まぁ、人のうれしそうな顔を見るのは悪くないけどさ。

三十分ほど経過し、
エルフは、剣を振り回すのに飽きたらしい。
俺のほうに寄って来て、顔を赤く染める

「あ、あのさ、あ、ありがとね!うんっ!ホントにありがとう」

俺に礼を言い、帰ろうとする。

「ちょっと待て、俺、まだお前の名前聞いてないんだけど」

一応さ、後払いってことにしているから、聞いとかないと不味いよな。
支払い放棄されたら困るし。

「え、名前?うん、いいよ。私はアリス、東のほうの森に住んでいるからよろしくね」

エルフの棲家って秘密じゃないのか?
森の中に結界を張って、住んでいるらしいが、
遊びに行っても良いということなのか?
いや、駄目だろ。
一応、隠れ里扱いされる場所だし、気軽に行く場所じゃない。

「ああ、俺のほうの名前はケンイチ。アリス、また店に来いよ」




翌日
「ねぇ、剣術の師匠してくれる人知らない?」

「知らねぇよ!」


あとがき
今回からタイトルをつけてみました。
実は最初の時点で決めてはいたのですが主人公がちっとも剣を作らず、困っていて、今回ようやく付けられました。
あと、主人公の名前を決めないまま話を進めるのも悪くないと思っていたのですが、登場人物が増えていくとややこしくなりそうなので思い切って決めました。
鍛冶屋っぽいことについて書くということで、少々調べてみたところ、聖剣の刀鍛冶という作品があるそうですね。
少し気になります。



[10476] 盗品と母様
Name: 流星◆805304cf ID:7d0258d3
Date: 2009/07/26 16:07
ある晴れた日の昼下がり、
俺はエルフ少女の師匠探しをしている。

何故だ?
何故こうなった?
俺は、確かに断ったはずなのに。




時間は二時間ほど、さかのぼる。

「良いじゃない。剣の師匠紹介してよ。減るものじゃないでしょ」

「俺の時間が減る。それにどうやってエルフを紹介しろって言うんだよ」

正直そこらへんの訓練所にエルフが現れたら驚かれることになる。
エルフをいきなり紹介できるほど信頼できる冒険者もそれほどいない。
大体、森で暮らしているエルフが毎日のように街に来るわけにはいかないだろう。

「何言ってるのよ。ケンイチの家、凄腕の鍛冶屋なんでしょ。強い冒険者の知り合いがたくさんいるはずよ」

「だけどさぁ、お前才能無さそうだし。紹介するの気が引けるんだよなぁ。アリスの知り合いのエルフによさそうな人、居ないのか?いちいち街まで来るの面倒だろ」

「エルフに剣の使い手なんかいるわけないじゃない。そもそも、うちの村には剣が一本も無かったのよ」

さすがに一本もないってことは無いだろうけど、やっぱ弓と魔法ってことか。
でも剣士を目指すお前が、居るわけないって断言すんなよ。

「ところで、昨日渡した剣はどうだった?切れ味とか試してみたか?」

こいつの師匠探しから、話を逸らそうと試みる。
このままだとお客さんに迷惑がかかることになる。
それに探すのは面倒臭い。

「ええ、当然よ。ばっちりだったわ。ケンイチが作ったとは思えないほどの切れ味よ。」

「怪我とかは無かったか?」

剣を使うときに間違って自分の足を斬ったりしてないだろうな。
昨日、何度も繰り返し忠告しておいたけど、
怪我していそうで怖い。

「怪我?げんこつの十発や二十発にひるむ私じゃないわよ。罰として倉庫に閉じ込められたけど、抜け出すのは簡単だったわ」

「は?げんこつ?」

「ええ、剣を持っていることがばれて、事情を話したら母様にげんこつを貰って倉庫に閉じ込められたの」

「どの事情?」

「一人で街に出かけた事情」

「お前、今一人だよな」

「ええ、一人だけど、どうかした?」

「お前、何か駄目じゃねぇ?つうか馬鹿だろ」

何で一人で出かけたことを叱られたのにまた出かけているんだ?
学習能力が無いのか?
馬鹿なのか?

「大丈夫よ、今日はこれがあるわ」

アリスは耳をピコピコと動かし、自慢げに麦わら帽子を見せる。
そういや、店に入ってくるときは、麦わら帽子を被っていた。

「それで耳を隠すのか?」

「そうよ。本当は隠したくないんだけど、周りの人がじろじろ見てくるからね。美しすぎるのも困るわ」

「いや、エルフだからだろ」

じろじろ見られるのも、美人なのもエルフだからだろ。
何でこいつ、こんなに偉そうなんだ。 
そう考えているとき、

ガチャ

店のドアが開く。
アリスが帽子を被り、
入ってきた客を見て、
ビュンッと店の奥に飛び込む。

すさまじいスピードだった。
特に客を見てから、店の奥に飛び込むのは、まさに一瞬。
いや、店の奥に入るなよ。


「すいません。ここがオルトさんの店ですか?」

黒のロングヘアーの女の人が店に入ってくる。
手には見覚えのある剣。
昨日アリスに渡した剣。

「いらっしゃいませ、どのようなご用件ですか?」

この人の用件は、なんとなく予想が付く。

アリスは、店の奥からこちらを伺っている。
必死でジェスチャーを送ってくる。

「追、い、出、し、て!」

とりあえず無視だ。
客の女の人を優先する。

「あの………店主はいらっしゃいませんか?」

「今は留守です。何か用があるなら承りますが」

嘘だ。
親父はいるけど、俺が対処したほうが良い。

「あ、そ、その、も、申し訳ありませんでした。」

「へ?」

女の人は、昨日アリスに渡した剣を差し出し、頭を下げる。

「その、どうお詫びをしたら良いのか。そのわ、悪気は、な、無かったんです。そのはずなんです。む、娘はその、ちょっと追い詰められていて、少し魔が差しただけなんです。だ、だから、今回の件はどうか、どうか…」

女の人は、ペコペコ頭を下げながら懇願する。
菓子折りのようなものを俺に渡す。
子供に謝るほどパニくってる。
アリスは何かごちゃごちゃとジェスチャーを送ってくるけどよくわからない。

「えと、何のことですか?」

「む、娘の盗んだ剣のことです…」

………信用されてねぇな、アリスって。
いや、突然幼い娘が二百万相当の剣を持って帰ってきたら当然かもしれない。
アリスは、自分は無実だ、ごまかしてくれとジェスチャーを送ってくる。
俺に、どうしろと?

「いえ、それは娘さんに差し上げたものですから」

「え?そ、そうなんですか。あ、いえ、だからと言って、このようなものを頂くわけにはいきません」

俺と女の人は、日本人っぽく譲り合いを始める。
アリスはさっきから俺へのジェスチャーで忙しそうだ。
半分以上わからんが。

「ねーねー、おねえちゃん。さっきからなにやっているの?」

いつの間にか、店のほうに来ていたリーラがきょとんとした顔でアリスに尋ねる。
ホントに何やってたんだろうな?
声を聴いて、女の人は、アリスのほうへ目をやる。

「アリスちゃん、何で此処にいるのかしら?」

女の人から凄い威圧感を感じる。
アリスはギギギィっと首を回して、

「いや、えっと、その、人違いです…」

「ちょっと、こっちにいらっしゃい」

首根っこを掴まれたアリスは店の奥に引きずられていく。
いや、あの、店の奥は立ち入り禁止なんですが。
売られていく子牛のように見つめてくるアリスを見送る。

「…がんばれ」





何か聞いちゃいけないような、叫び声とかいろいろを聞いた後、
さすがにうるさかったらしく、親父も店に来ていた。
アリスは疲れきった顔をしている。

「………助けなさいよ」

「いや、それは無理だろ」

「せっかく最近のアリスちゃんは村のお手伝いとかして、良い子になってくれたと思っていたのに、昨日の晩あれほど言ったのに、一人で街に行くなんて危険なことをどうしてしたの?」

「いつも言っているじゃない。私は強くなりたいの」

「マリーちゃんは、そんなこと気にしないわよ」

「駄目よ、私は気にするのよ!」

「すいません。マリーって誰ですか?」

KYのような気がするが、二人の会話に割り込む。
二人にしかわからない人物の話をされても困る。
おそらく、アリスの宿命のライバルと言う人だろう。

「母様、言わなくて良いからね」

「アリスちゃんの幼馴染で仲良かったんだけど、魔法の才能が豊富だから…」

「母様!」

アリスは母親の言うことを止めようとするが、それだけ言われればなんとなく理解した。

「母様、とにかく私は剣で強くなるの!ケンイチも手伝ってくれることになっているんだから」

確定事項?
手伝うなんて言ってないんだけど?

「そうなの、ケンイチくん?」

アリスの母親がいぶかしむ。
違います。
そこのエルフが勝手に言っているだけです。
俺には関係ありません。

「いえ、そういう訳じゃ…」

ギュッ

アリスが俺の服の裾を掴む。
泣いてる?
アリスの目には、涙がたまっていて今にもこぼれそうだ。
………女の涙は、反則だよな。

「は、はい。師匠探しぐらいは手伝おうかと思って」

「でも、危険よね」

そうですね。
子供一人が手伝ったところで、危険度は減りません。
俺の助けは、無意味です。

「心配いらん。わしが手伝う。まさかいつも愚痴ばっかり言う面倒臭さがりのケンイチが自分から人助けを申し出るとは………感動した。微力ながらもわしも力を貸そう」

え?
ちょっと待って。
何その言われかた、
俺ってそういう評価だったの?

「え、でも…」

アリスの母親は、煮え切らない表情だ。
やはり不安なんだろう。

「ケンイチは面倒臭がり屋じゃが、責任感だけはある。約束は必ず守る男だ。アリスをきっと危険から守るじゃろう」

親父は、アリスの師匠についての話が長くなりそうなので、
アリスの母親を奥の客間のほうに案内する。
俺たち子供たちは、難しい話だと言うことで店のほうに残った。




「アリス、大丈夫か?」

さっきまで泣いていたし、
少し気になる。

「何のことかしら?さっきのは泣きまねよ。うまく騙されたようね」

いや、泣いてたじゃん。
目が赤く腫れているし。
顔がぐしゃぐしゃで、鼻までたれているし。

「洗面所はそっちだから」

アリスは、顔を見られないように、こそこそと洗面所に行き、
ためてあった水で、バシャバシャと顔を洗う。

「ありがと、泣きまねのせいで顔が汚れていたから、ちょうど良かったわ」

こいつ自分が泣いたこと絶対に認めない気か?

「まぁ、いろいろあったけど計算どおりね。ケンイチに師匠を紹介してもらうわ」

断ったはずだったんだけどなぁ。
はぁ、面倒臭ぇ。

「ねぇ、おにいちゃん。そのひとと、なかいいね。おともだち?」

さっきから黙ってアリスを観察していたリーラがつぶやく。
なんだ?
リーラがアリスを見る目にかすかな敵意を感じる。
普段のリーラは巧妙な技術で敵意を隠しているはずなのに。隠しきれないほどの敵意があるのか?
これと比べたら、俺を見るいつものリーラの目がまるで恋する乙女のように感じられる。
ありえないけど。

しかし何故アリスに敵意を?
理由はあるのか?
何なんだ?
………エルフの秘薬。
もしかして将来的に俺の製作素材の取引相手にしようとしているのがばれたのか?
我が妹ながら何という観察力。
リーラは相手を怒らせることで、俺の将来の取引相手をつぶす気ということだな。
我が妹ながら何という計画性。
だが、お兄ちゃんは負けない。

「そう、うん、お友達よ、お友達」

俺がリーラの目的を探っているうちに、アリスのほうが質問に答えていた。
しかし、アリスとの関係は友達で良いのか?
俺は今さっき、アリスのことを守るように任されたんだし、
アリスは、俺の剣の代金として素材を集めて来させることにしている。
ならば…

「いや、保護者とパシリだろ」

「誰がパシリよ!」

アリスのこぶしが俺の鼻にヒット。
あれ?
むしろ俺が怒らせていないか?

「お、おにいちゃん!ち、ち、はなぢがでてる!」

リーラは大慌てで、救急箱を持ってくる。
たかが鼻血ぐらいで大げさだなぁ。




そんなこんなで、騒いでいるとアリスの母親と親父が戻ってきた。
二人の話し合いによると
師匠は俺とアリスで探すこと。
アリスが街に来るときは、一人ではなく保護者と来ること。
最低限、耳は隠すこと。
という三つの条件でアリスは剣の修行をすることが認められた。
他にある細々とした条件は省略しておく。
ちなみに、親父がこの地域の顔役みたいなもので、優秀な冒険者たちに顔が聞くと言うのが母親を説得する材料となったらしい。




「ところで、おば…お姉さん。エルフなんだよね。その黒髪ってかつら?」

おばさんと呼んではいけない。
実年齢は不明だけど、
見た目は若いんだから。
決して、にらまれたからではない。

俺がそう聞くと、アリスの母親はかつらをとってみせる。
取ると、どうやってかわからないが隠れていた長い耳がピョコンっと飛び出した。
なるほど、見えないようにかつらの下で耳を折り曲げていたのか。
耳に骨が無いこと、忘れていたよ。
アリスとは変装のレベルが桁違いだ。

「そうよ、人前で耳をさらすようなエルフは普通いないわ」

あはははー良い天気ねーと笑いながらアリスは遠くを見ている。
アリスの母はジトッとした目でアリスを見ている。

「じゃあ、師匠探しにでも行くか」




あとがき
先ほど六話を投稿しようとして誤ってデータがすべて消えると言う悲劇を経験しました。
データのバックアップって大事ですね。
ショックでしばらく呆然としていましたけど、皆さんの感想のおかげで書き直す気力が得られました。
ありがとうございます。

本当は過去作の訂正と同時に新作を投稿するはずだったのですが、そのミスのせいで一時的に、訂正分のみの投稿になってしまって申し訳ありませんでした。



[10476] エルフと師匠
Name: 流星◆805304cf ID:87de6b2d
Date: 2009/08/02 11:45
「ところで、私に紹介してくれる師匠ってどんな人なの?」

信頼できることが最重要条件だろう。
こいつがエルフってことを忘れちゃいけない。
次が、あまり才能は無かったが、長く冒険者を続けていること。
アリスには、才能が無さそうだから、その気持ちがわかるやつのほうが良い。
たくさんの経験を持った人なら、弱いながらに戦う術を持っているだろう。

「そこの宿屋のオーウェンさんだ。子供が出来て引退したけど、十年冒険者をしていたベテランだな。」

「へー、結構強い人?」

いや、弱いです。
別名チンピラ。

「………経験豊富だからな。いろいろなことを教えてもらえるんじゃないか」

「ふーん」

冒険者をしていた頃は、チンピラとしか言いようが無かったけど、
今では、家庭を持ち、宿屋を継いで、立派にやっている。
もうチンピラとは呼べない。





オーウェンさんの宿屋の扉を開ける。

「いらっしゃ………って、ケンイチ君っすか。めずらしいっすね」

「こんちわ、オーウェンさん。あれ、アッシュさんも居るんだ。」

宿の中は、一階が食堂となっており、アッシュさんが食事中。

「おう、坊主か。久しぶりだな。こいつに何か用でもあるのか」

「うん。ちょっと弟子でも紹介しようかと思ってね」

俺の言葉に、オーウェンさんは少し狼狽する。

「は?俺にっすか。アッシュさんじゃなくて?」

当然だろう。
Bクラスの冒険者であるアッシュさんが居るのに、
Dクラスのまま引退して、六年になる自分に言われたのだから。

「ねぇ、ケンイチ。こっちの人より食事中の人のほうが強そうなんだけど」

俺の耳元でぼそぼそとつぶやく。
確かに、威圧感が違うよな。
でも、アッシュさんには一つ問題があるんだ。

「俺、自信無いっすから、アッシュさんにお願いするっすよ」

「まぁ、坊主の頼みなら聞いてやらんことも無いが」

あれ?
変な方向に進んでねぇ?
でも、アッシュさんに頼むのは無理だろう。

「いや、でも、修行を見てもらいたいの、こいつだから」

そう言って
麦わら帽子をかぶったアリスを指差す。
するとアッシュさんとオーウェンさんは納得した顔をする。

「そうか、せめてあと五、六歳あればな」

「へ?どういうこと」

アリスは怪訝な顔をして、
俺に聞く。

「つるぺたには興味ないんだって」

「はぁ!?そんな理由あるわけ無いじゃない!」

「すまねぇな。胸が無いんじゃあ、やる気が出ねぇんだ」

「な、何ですって!こ、こっちこそ、そんな師匠お断りよ!」

アリスは顔を真っ赤にして言い返す。

「そ、それに私は成長期なんだから」

いや、アリスの母親を見た限りでは将来に期待は出来ない。
現実を見ろ。

ところで胸の話は嘘である。
深刻な話にならないための、冗談だ。
アッシュさんが断ったのは違う理由。

ソニアさんのためだ。
ソニアさんは、過去に精神的なダメージを受けて人格を喪失した。
アッシュさんはその状態を何とかするために、
解決方法を探り続け、
その方法を見つけた。

高位の回復魔法と封印魔法の使い手である。
多くの魔道具をあわせて使いながら、
つらい記憶を封印し、精神を回復させた。

ソニアさんの精神は、今ではある程度回復している。
だけど子供を見ると、封印された記憶の影響で頭痛に苦しんでしまう。
だから、アッシュさんはソニアさんの近くに子供を近づけようとしない。
俺自身もアッシュさんの家に行くことは基本的に無い。
まぁ、そんなわけで、アリスが弟子入りするのは無理だ。

「か、帰りましょう、ケンイチ。此処に、もう用は無いわ」

「いや、お願いしている相手は、オーウェンさんの方だから。」

全くの素人の癖に、師匠えり好みすんなよ。
親父ならまだしも、俺が紹介できる人ってあんまり居ないんだぞ。

「俺なんかに任せても良いんすか?」

「はい。こいつ素人だし、エルフですから信頼できる人優先で」

「そういう理由っすか。とりあえず実力を見せてもらうことにするっす」

オーウェンさんは木刀を取り出し、アリスに渡し、
食堂で剣を振り回すわけにはいかないので、
場所を庭に移す。
ん?
オーウェンさん、アリスがエルフだってことにあまり驚いてないのか?

「長く冒険者をやっていると、不思議なことは沢山あるっすからね」

赤ん坊が話せるようになる魔法剣だとか、
パーティ組んでいた仲間が魔物だったりとか、
平凡な夫婦の間に、魔法の天才が生まれたりとか、
色々あるんすよと呟く。

「まぁ、俺としてはケンイチ君が友達を連れて来たってほうが驚きっすけどね」

聞いての通り、俺には友達が少ないって言うか、いない。
いや、待て、これはしょうがないんだ。
精神年齢三十歳が子供と話し合う訳無いし。
俺、学校行って無いし。
決して協調性が無いとかそういう訳じゃない。

「それにしても可愛い子っすね。もしかして彼女さんだったりするんすか?リンのやつが知ったら怒りそうっすね」

「いや、ただのパシリだってば」

「パシリって言うな!」

突っかかってくるエルフは無視しておく。




ところで、リンというのは、オーウェンさんの娘で、リーラの親友の女の子。
黒髪を短いツインテールのようにしている可愛らしい子供。
リーラ曰く、頭も良いらしい。
だけど一つだけ問題がある。
どうやらリンは俺にホレているらしい。

以前、リーラと話しているときについ盗み聞きをしてしまったのだが、
ラブラブ大作戦と言って騒いでいたし、
その後に、リーラと一緒に俺をハイキングに誘ったり、
二人で作ったというお菓子やお弁当をご馳走してくれたことがある。
(味については黙秘する)
それでも俺は、気づいていない振りをしていたら

「お兄さんは、にぶすぎます」

とリンに直接言われてしまった。
だが、俺としてはたとえ身体が小さくなったからといって、六歳児に恋するなんて有り得ない。
十年早いといったところだろう。
それにあのときの俺には、剣を夕方までには完成させる必要があり、
リンの相手をしている暇が無かった。

「十年早い。それに、俺は今ちょっと忙しいんだ。その話は、後にしてくれ」

と伝えたところ

「そうですか、自分はまだ、みじゅく者だから、しゅぎょうにいそがしい。色恋にうつつをぬかしているひまなど、無いというのですね。十年ですか、わかりました。伝えておきます」

何かニュアンスが違う気がするけど、意思は伝わったはず。
それから、俺に対するアピールは減った。
まぁ、家にちょこちょこ遊びに来るけどさ。





目の前では、アリスとオーウェンさんが木刀で打ち合っている。
アリスが攻めに回っており、オーウェンさんは受けるだけのつもりのようだ。
アリスは果敢に木刀を打ち込んでいるが、上手くそらされている。
しかし―――

「下っ手糞だなぁ」

足さばきはめちゃくちゃ、さっきは自分の足に引っかかって転んだ。
普通に木刀をからぶる。明らかに剣先が届いてないから。
握力も足りない。一度、木刀がすっぽ抜けた。
うーん、掃除時間にほうきで遊ぶ小学生ぐらいの実力だと思ったんだけどなぁ。
それ以下である。
剣は渡さなかったほうが良かったかもしれない。

「疲れているようだし、これぐらいにしとくっすか」

その一言で十分ほど続いた打ち合いが終わる。
オーウェンさんは汗一つかいていないが、
アリスは、ぜーはー、ぜーはと息を荒く、流れる汗はまさに滝。
高校の剣道の授業を思い返すと、十分は長かったかもしれない。

「わ、私に見る目、が無、かった、よう、ね。この人、つ、強いわ」

息も絶え絶えである。
オーウェンさんは、確かに冒険者を目指そうとするほどには強かった。
確かに冒険者を十年続けられるほどには強かった。
しかし、冒険者の中では平凡でしかない。
アリスが強くなりたいというのなら、いずれ抜かなければいけない。

「やっぱりエルフだけあって、力が弱いっすね。それに基礎もまだまだっす。教えることが山ほどあるっすよ」

「オーウェンさん、こいつ弟子入りしても良いの?」

あれほどの醜態を見せたのだから、断られてもおかしくないと思う。
明らかに才能無いし。
修行しても、無駄かもしれないのに。

「ちょうど宿の仕事を手伝ってくれる人が欲しかったところっすから、仕事を手伝ってくれるんなら良いっすよ」

「やるわ!雑用ぐらいどうってことないわよ」

アリスの目が燃えている。
見るからにやる気いっぱいである。
疲れているんじゃ無かったのかよ。

今日は、いきなりだったという事でアリスの修行はあまりせずに、宿屋の手伝いをすることになった。
アリスは別にドジっ子というわけでは無かったらしく、皿洗いや掃除のほうは意外と手際よく済ませる。
村ではそのような雑用ばかりしていたらしい。

そして俺たちは、アリスの自主錬の方法だけ教わり帰宅している。

「ふふふ、これから私の最強伝説が始まるのね!」

「いや、有り得ないし」





あとがき
とりあえずこれでエルフっ娘の出番は一段落です。
次回は鍛冶屋の仕事についてと妹の話にしたいと思います。
ところで、妹視点の番外編を書こうか悩んでいるんですけど、どうですかね?
平仮名ばかりになって、読みづらそうだから少し抵抗があります。
昨日ようやく試験が終わり、夏休みになりましたから、投稿を積極的にしていけたら良いなぁと思います。



[10476] 米と異世界
Name: 流星◆805304cf ID:7d0258d3
Date: 2009/08/08 10:01
魔法付与を行える鍛冶屋は、普通の鍛冶屋と相続の形が違う。
普通、鍛冶屋では、自分の子供に継がせるものだが、
魔法付与を行う鍛冶屋ではそういうわけにはいかない。
なぜなら、魔法付与を行うのに必要なアーティファクト製作の才能が稀少だからである。

魔法を使う才能を持つのは、三人に一人、
魔法の才能のうち、アーティファクト製作の才能を持つのは、百人に一人。
鍛冶屋の子供が才能を持って生まれてくる可能性は、一パーセントに満たない。

魔法付与を行う鍛冶屋の相続の形は四つの種類がある。
一つ目のパターンが、幸運にもアーティファクト製作の才能を持って生まれた場合である。
この場合の、職人は幼少期から専門的な訓練を受けられるため、優秀な職人になることが多い。
俺の親父もこのパターンだったそうだ。

二つ目のパターンが、自分の弟子を跡継ぎにする場合である。
ほとんどの弟子が十五歳から二十歳で弟子入りするため、前述のパターンよりも劣っている場合が多い。
やはり、幼少期は学習効率が良く、その期間に訓練を受けているかどうかで実力に大きな差が生まれる。

三つ目のパターンが、自分の子供を弟子と婚約させて継がせるパターンである。
親としては、自分の子供に店を継いで欲しいと言う気持ちがあるために、才能を持った弟子と結婚させて、店を継がせる。
また、弟子ではなく才能を持った職人の知り合いと結婚させる場合もある。
俺としては、政略結婚みたいな気がしてあまり好きではないのだが、二つ目のパターンと並んで最も多いパターンである。

四つ目のパターンが、普通の鍛冶屋として子供に継がせる場合である。
この場合は、継がせるのにふさわしい弟子がいない職人が選ぶ。
才能が無い子供に継がせても、苦労させるだけなのであまり好まれないパターンである。
そもそも、魔法付与を行う鍛冶屋は、普通の鍛冶屋のような量産にむいていないため、継ぐ場合は工房を大きく作り変えねばならない。


「―――というわけで、うちの鍛冶屋は弟子の俺が養子になっているから、二つ目のパターンだな」

「え、でも、三つめのパターンも、わるくないと、おもうよ?」

リーラは、俺がせっかく懇切丁寧に鍛冶屋の相続に関して説明したのに、理解してくれなかったようだ。
というか、この妹はそこまでこの店を継ぎたいのか?
なんか、六歳児にして玉の輿を狙っているようでお兄ちゃんは悲しい。

「なぁ、リーラ。自分で言うのもどうかと思うが、俺って結構、鍛冶の将来性あるよな?」

赤ん坊の頃から訓練を受けている上に、異世界の知識まで持っているんだ。
いずれは、親父にも負けない立派な職人になれるだろう。

「うん!おにいちゃんは、てんさいだよ」

分かっているのなら、何故、いばらの道を選ぶんだ?
親父は、剣に関しては妥協しない人だから、俺以上の職人を連れてこないと継がせてはもらえないぞ。
俺としては、そんな苦労はせずに、好きな人と結婚して欲しいのだが。

「それなら、俺以上の職人を連れてくるのは難しいからあきらめたほうが良いと思うぞ」

「え、どうして?」

不思議そうな顔できょとんと見つめてくる。
本当に理解していないような表情だ。
もしかして、さっきの言葉はお世辞か?
油断させようとしていると言うことだな。

いいだろう。
俺の実力が大したことないと思っているのなら、
今度、俺の実力を見せ付けてやる。
そして、リーラ、お前は野望を捨て、好きな人と結ばれるといいだろう。

「だって、わたしが、けっこんしたいのは―――」

ゴーン、ゴーン、ゴーン

ちょうどその時、朝の鐘が鳴り響く。

「もうこんな時間か。そろそろ朝飯の準備は整ったかな」

この世界に時計は一応あるのだが、高価で個人所有できるものではないため、庶民は教会や塔で鳴らされる鐘の音で時間の把握をする。
朝の鐘は、目覚まし代わり。

「リーラ、学校へ行く準備は出来ているか?」

うん?どうしてだ?
リーラが、何か不満そうな顔をしている。
まるで、良いところで邪魔をされたかのような顔だ。

「うん。ねるまえに、じゅんび、しておいたよ」

「じゃあ、朝御飯といきますか」



朝食は、パンとじゃがいものスープ、そしてハムを焼いたものだ。
この世界の主食はパンで、ご飯を食べる人はいない。
お袋の料理は、上手いから特に文句は無い。
でも、やっぱり日本人としては米だろう。
米が恋しくなることもある。
だから、探してみた。

………家畜のエサだった。
泣きたくなった。
この………つらい気持ちをどう表現すれば良いんだろう。
俺って意外に、米に対して誇りを持っていたんだな。

リーラは、ちまちまとパンを食べている。
リーラは食べるのが遅く、食事を終えるのはいつも最後だ。

「なぁ、リーラ。最近は、学校でどんなことやっているんだ?」

「えと、きのうは、文字のかきかたと、ゴブリンについてならったよ」

この世界の学校は、校舎で勉強するというより、寺子屋で勉強するというイメージが近い。
教会や教師をしてくれる親切な人の家を学校にしている。
受講科目は、読み書き、そろばんが中心。
他に、社会常識や応急処置の方法などを教わる。

あと、この世界独特な科目として、モンスター学がある。
モンスターに襲われないように、
モンスターから逃げられるように、
モンスターを倒すために、
モンスターの生息分布や習性、攻撃方法、弱点などを学ぶ。
有名どころを百種類ほどだろうか。

「へー、ゴブリンかー。リーラはゴブリンに遭遇したらどうする?」

「にげる!せんせいが、にげなさいって、いってたよ」

たかがゴブリン。
されどゴブリン。
子供では、殺される可能性があるのだから逃げるのが正解だろう。



リーラはニコニコと笑いながら、学校のことを話す。

「リーラは学校楽しいか?」

「うん、たのしいよ。おにいちゃんも、くればいいのに」

この世界の教育水準は低く、俺にとっては簡単に習得することが出来た。
だから俺は、学校に行っていない。
なぜかこの世界の言葉は日本語に類似しているし、
そろばんも小学生の分数ぐらいまでしか習わない。
社会常識やモンスターについての知識なども本を読んで独学で身につけられた。

「俺は別に習うこと無いからな」

「でも、たのしいよ…」

リーラがお願いをするように、
目を潤ませてつぶやく。
しょうがないな、
鍛冶の仕事があるけど、少しぐら―――
って、騙される所だった。
リーラは、修行の時間を少しでも削ろうとしてるんだった。
危ない、危ない。

「リーラ、食べ終わったみたいだし。そろそろ学校に行ったほうが良いんじゃないか?」

「そうだね、じゃあ、いってきます。おにいちゃん」

「いってらっしゃい」

リーラはお皿を片付けると、かばんを持って学校へ行く。
さて、そろそろ仕事でも始めるか。



焼入れを終了させた剣の反り具合を確認。
少し、ゆがんでいるか?
道具を使って魔力を込めながら、修正していく。
ほとんど完成している状態なのだから、ここで失敗したらショックは大きい。
ほんの少しのゆがみさえ生じないように、丁寧に行う。
じっくり、じっくり丁寧に。

刃の形が満足のいくものになったら、次は仕上げ研ぎを行う。
特製の砥石を用いて、魔力を込めながら、剣を研ぐ。
魔法を付与することによって、切れ味は上げられるが剣本来の切れ味が悪かったら意味が無い。
剣が最大限の切れ味を発揮できるように、集中して研いでいく。


ぐぅーっとお腹が鳴った。

「もうお昼か、昼飯にでもするか」

剣を焼成するための釜に入れておいた自家製飯ごうを取り出す。
やっぱり、日本人なら米を食わないと駄目だ。

悲しくも家畜のエサ扱いされているため、米は安く手に入れることが出来た。
この世界の人たちは、ご飯を炊くということを知らずに生で食べているから、
米の良さを知らないんだと思って、リーラに食べさせたことがある。

「ぐちゃぐちゃして、おいしくない…」

それから俺は、家族の反対を押し切りご飯を食べている。
昼飯は、家族ばらばらに食べることにしているので、もっぱらご飯だ。
ご飯をどんぶりに移し、焼肉や香辛料を加え、焼肉丼を作る。
飯ごうに残ったご飯は、後でおにぎりにしていただくことにする。

「やっぱり米を食わんと力出ないよなー。なんで皆、米が苦手なんだろ」

俺は、がつがつと焼肉丼を平らげる。
レパートリーが少ないのが問題だ。
誰かメニューを開発してくれると助かるんだが。

腹も膨れたしもうひと頑張りしま―――

「無理じゃ!うちの工房ではそんなに生産出来ん!」

親父?
店先のほうから、親父の怒鳴り声が聞こえた。
何かあったのか?
始めようとした仕事を中断し、
店先のほうへ向かう。




「では、オルトさんお願いしましたよ」

役人らしき人が親父に声をかけて、出て行く。
役人?
何で役人が来てるんだ?

「親父、さっきの人がどうかしたのか?」

「国からの注文じゃよ。日本刀百本、魔法剣三本。半年以内に出来なければ、税金を上げるそうじゃ…」

「はぁっ!?何だよそれ、作れるわけ無いじゃん。嫌がらせ?」

うちの鍛冶屋は一年で日本刀を六十本しか生産していない。
親父五十本、俺十本である。
半年で百本なんて出来るわけがない。

それに魔法剣を三本もかよ。
魔法剣は、性能を向上させる魔法付与しているだけの剣とは、違って魔法のような能力を持つ剣である。
軽量化、硬化、切れ味向上の魔法を付与しているだけの剣とは違う。
それらの付与に加えて、
切り裂いた対象をしゃべられるようにする。
呪文を唱えるだけで、魔法が炸裂する。
剣を振るだけで、風の刃が敵を切り裂く。
持ち手の身体能力を向上させ、時速百キロ以上で走れるようにする。
このような強力な能力を持っている。

また、魔法剣の特徴としては、オーダーメイドであり、持ち主に適合させるために微調整を繰り返して、完成させるという点がある。
つまり、持ち主以外では、剣の性能を最大限発揮出来ないということだ。

俺が親父と初めて会ったときに使った剣の場合でも、親父が使っていれば唱えるだけで、低級アンデッドぐらいなら灰に変えられる能力を持っていた。
魔力の質が似ている俺が使ってもアンデッドをしびれさせるのが精一杯だったし、
他人が使っても、目くらまし程度の能力にしかならない。

そして今問題なのは、この剣を製作するためには、数ヶ月かかる上に、貴重な素材が必要だということだ。
………間に合うわけ無いじゃん。

「嫌がらせでは無い様じゃ。他の店にも同じように声を掛けとるらしい」

「いや、ちょっと待てよ。国がそんなに武器を欲しがるなんて。戦争でもすんのか?この世界には戦争が無いはずじゃなかったのか?」

この世界は魔物や魔王という共通の敵がいたため、人間の国同士が争うことはまれであり、歴史が残っている千年間のうち数えるほどしか戦争は起こらなかったんじゃなかったのか?

「………わからん。一応、国際情勢には不安な点は無かったはずじゃが」

「何が起ころうとしているんだよ………」



あとがき
夏休みになったから少しは、ペースが上がるかと思ったんですが、なかなか上手くはいきませんね。
次回はリーラ視点の番外編でいこうかと思います。



[10476] 番外編  リーラの一日
Name: 流星◆805304cf ID:29c02501
Date: 2009/08/08 12:06
ゴーン、ゴーン、ゴーン

「ん、うーん。………あれ、………あ、わわわ。ね、ねぼうだ」

朝のかねが、もうなっちゃてる…
朝のじかんは、おにいちゃんとお話できるじかんなのに。
さいきんの、おにいちゃんたちは、なんだかいそがしそうで話しかけられない。
朝ごはんまでのじかんは、数少ないおしゃべりのじかんなのにな…
朝からちょっとショックです。

とぼとぼとリビングに向かう
朝ごはんのじゅんびは、もうできてるみたい。

「おはようリーラ、今日はちょっとおそいな」

「おはようおにいちゃん」



「なぁ、親父。日本刀百本はさすがにきつくないか?俺まだ八歳なのに三時間睡眠だぜ。少しは減らすように交渉してくれよ」

「これでもだいぶ減らしたほうじゃ。最初はあの役人日本刀三百本なんて抜かしておったのだぞ」

「は?あの役人、馬鹿なの?」

「どうやら日本刀の製作に必要な時間を理解しておらんようじゃったの。鋼の剣と同期間で作れるなどと考えておったわい」

「マジかよ。少し見れば手間の掛け方の違いに気づくだろ普通。これだから現場を知らない奴は…」

「今、店頭に置いている奴と在庫を合わせれば三十本ぐらいじゃから、半年で七十本作らねばならんのう」

「ん!ちょうど俺の失敗作がそれぐらいあるぜ」

「ばかもん!不良品を売りつけるわけにはいかん。それは………最後の手段じゃ」

「まぁ、しょうがないか、あと材料の相場が上がらないうちに纏め買いしといたほうが良いんじゃないか?」

「そうじゃな。今日あたりに材料の発注をしておくか」

おにいちゃんとおじいちゃんのお仕事のお話は、むずかしくてよくわからない。
とりあえず、いそがしいみたい。
なんで、おにいちゃんには、わかるんだろう?
おにいちゃん、すごいなー。

「そろそろリーラは、学校に行かないと不味くないか?」

「あ、うん。それじゃあいってきます。おにいちゃん」

「いってらっしゃい」




「では今日は、オークについての説明をします。オークは豚のような顔をして体格は二メートルぐらいのモンスターです。人よりも筋力が大きく発達していて、Dクラスの冒険者と同程度の能力と言われています。一般人が戦っても、まず勝ち目はありません。また、好戦的な性格のため………」

あーあ、朝はおにいちゃんとお話しできなかったな…。
さいきん、いそがしそうだから、お仕事のじゃまするわけにはいかないし。
ちょっとさびしいよ…。

「最近のリーラは暗いです。どうかしたんですか?」

ちょっと考えごとをしていたら、となりのせきのリンちゃんが話しかけてきた。

「え?う、ううん。どうもしてないよ」

「うそです。顔に出まくってます。また、お兄さんのことですか?」

リンちゃんはあきれたかんじで、わたしにたずねる。
わ、わたしの考えていること、かおに出てるのかな?
自分では、しぜんなつもりなんだけど…。

「わかります。アリスさんですね。リーラは、ライバルが突然現れたからあせっているんですか」

あれ?ちょっとちがうかも。
でも…アリスさんのことも少し気になる。

「うん…おにいちゃんとアリスさん仲良しさんなのかな?」

「確かに、仲は良さそうですね。たまにお父さんとアリスさんの修行に付き合ったりしています」

「そっかー。仲良しさんなんだ」

「…通常は、ダンジョンの地下五十メートル地点に生息していま………」

なんだか、二人のかんけいが気になって、先生のおはなしが耳に入らない。
もしかして、付き合ったりしているのかな………

「その、リンちゃんは二人は付き合っていると思う?」

「その心配は必要ありませんよ、リーラ。そんなこともあろうかと私がお兄さんに聞いておきました」

「え、な、なにを?」

「お兄さんは、十年後には一人前になってリーラにプロポーズするつもりだそうですよ」

「…ごくまれにダンジョンの入り口付近で―――」

「え、えええええええええええ!!?リ、リンちゃん。そ、そそれ、本当っ?」

ほ、本当なのかな??
し、信じられないよぅ。
だって、いつもおにいちゃん、お店をつぐのは―――

ダンッ!!!

「へ?」

ゴゴゴーっとオーラをまとった先生がわたしたちのつくえに、きょうかしょをたたきつけていた。

「リーラちゃん!リンちゃん!あなた達は、授業を聞く気がないんですかっ!!!」

「え、いや、その」

わ、わわわ。ど、どうしよう。
先生のおはなし、き、聞いてなかった…。

「き、聞いてます!聞いてましたっ!お、オーガですよね、オーガ」

リンちゃんがあわてて先生に説明をする。
よ、よかったー。リンちゃんが聞いててくれて。
なんだか、今の先生のかおがオーガみたいだよ。

「オークですっ!全然聞いてないじゃないですかっ!ああもう、あなた達は…」

先生は頭をかかえこんで、ぶつぶつとつぶやいている。
せ、先生おこっちゃたかなー。




ほうかご、わたしたちは、ばつとして、へやのそうじをすることになっちゃった。

「ごめんね、リンちゃん。わたしがさわいじゃったから…」

ほうきで、ゆかを、はきはきしながらリンちゃんにあやまる。
さすがに、先生のお話のとちゅうで大声だしたらだめだよね。

「リーラは悪くありませんよ。先生は、婚期を逃しそうであせっているから、プロポーズという言葉にかじょう反応しただけです。まったくこれだから、先生は美人なのにもてないんですっ!」

リンちゃんは先生にもんくをいっている。
でもね、リンちゃん………、

「リンちゃん…先生此処にいるんだけど」

ドアの外にいた先生がポツリとつぶやく。
リンちゃんは、え?とつぶやくと、ドアのほうを向く。

「あ、いえ、その今の話は全部うそで…」

「あなた達がませすぎているのよ。プロポーズなんて十年早いわ!」

「えと、十年後の話ですから」

「はぁー、お相手はケンイチくんだっけ?良いわねぇ、将来有望じゃない。先生にもそんな相手がいればなぁー」

えへへ、
やっぱおにいちゃんって、しょーらいゆーぼうですごいよね。

「おにいちゃんのことは、おじいちゃんも、いつもほめているんだよ!」

「まぁ、リーラを喜ばせたかったら、お兄さんをほめることが一番ですから」

リンちゃんが変なことをつけくわえたけど、おにいちゃんがすごいことは、かわらないよね!
ふと、先生がなにか思いついたみたいなかおをする。
なんだろう?いやな感じがする。

「そうよ!良い男がいないんなら、将来有望な男の子を自分好みに育てれば良いのよ!ねぇ、リーラちゃん。お兄さん学校に来る予定ないかな?」

「だ、だめ!だめ!おにいちゃんはだめっ!」

「先生何を言ってるんですかっ!?恥じを知ってください。恥じを!」

おにいちゃんによってくる女の人は、エルフだけでじゅうぶんだよ。
先生まできたら、わけわかんなく、なっちゃうよ…。

「えーでも、先生としては、ケンイチ君も学校に通ったほうが良いと思うなぁ」

「おにいちゃん、あたま良いから先生いらない!」

「学校ってのは、友達とか作って協調性を学ぶところなのよ」

たしかに、おにいちゃんに友だちいないけど。
おにいちゃんはいそがしいからむりだもん!

「はぁ、先生みさかい無さすぎます…」

リンちゃんも先生のふざけた言葉にため息をつきます。
なんでこんな人が私たちの先生なんだろ…

「あー。どっかに良い男が転がってないかなぁ」





先生のぐちを聞いていたせいで、すっかりおそくなっちゃた。

「ただいまー」

「リーラ、おかえり」

あれ、またアリスさんがきてる…。
おにいちゃんいそがしいから、あまり来ないでほしいんだけどな。

「だから、俺は忙しいのっ!お前の相手を相手をする暇はないんだよっ!」

「なによ、私は客よ!少しは敬いなさいよ!」

「はっ、金を持ってない奴は客とは言わないんだよ。それにうちの店は、半年ほど一般向け営業を停止しているんだ。閉店中だから帰れ!」

うん、おにいちゃん困っているよね。
こんなときにおにいちゃんにおしえてもらったアレを使うべきだよ。

「ある地方では、客に帰って欲しいときにはこのぶぶづけを出すんだよなー」

おにいちゃんの、このことばを、私はおぼえているよ。
今こそ、ぶぶづけのでばんだよ。
おにいちゃんとアリスさんが言いあらそいをしているうちに、おにいちゃんの工ぼうに入って、ぶぶづけのよういをする。
ただでさえおいしくないぐちゃぐちゃしたものに、お茶やちょうみりょうをくわえた、わけのわからない食べ物ができた。
こんなものを出されたら、帰りたくなってとうぜんだよね。

「あの、アリスさん。ぶぶづけでもいかがですか」

「え、いいの?ちょうど修行のせいでお腹ぺこぺこだったのよ。妹さんはケンイチと違って気が利くわねー」

アリスさんは、がつがつとあっというまに、ぶぶづけをたいらげてしまう。
なぜか、まんぞく気な顔だ。

「いやー五臓六腑に染み渡るわー」

えと………エルフって味覚がちがうの?

「お前、米のおいしさがわかるのか?」

なんだろう、おにいちゃんがすごく、かんげきしている…。

「米の味をわかってくれる奴が、この世界にもいたんだな…」

このせかい?
って、えぇ!お、おにいちゃんが泣き出した!?

きょうは、おにいちゃんがアリスさんを、なんども引きとめたせいで、いつもよりおそくまで、アリスさんがいました………。



きょうは、おにいちゃんとぜんぜんおはなしできてない。
だから、ねるまえに絵本をよんでもらおう。
このままじゃ、きょうのおにいちゃん分がたりないもん。

「お、おにいちゃ―――」

「ケンイチ。剣の製作は、はかどっておるかの?」

「今のペースなら間に合いそうだけど、成長期に三時間睡眠はまずくないか?」

「何とか、改善策を見つけんといかんのう」

「早くしてくれよ、寝る間も無いぐらい忙しいんだから」

そっか、おにいちゃんはお仕事あるんだ…
なら、しょうがないよね。
もう、きょうは、はやくねよう。

「ところで、リーラ。俺に何か用か?」

「ううん、なんでもないよ。おやすみ」

おにいちゃんたちは、お仕事をして家ぞくを、ささえてくれているんだから、わたしは、がまんしないと。

「………久々にリーラに本でも読んでやろうか?」

「え!な、なんでよんでほしいって、わかったの?」

わたしって、たんじゅんなのかな?
それとも、まほう?
わたしのかんがえていること、ぜんぶおにいちゃんにはつつぬけなのかな?

「いや、普通に絵本持って話しかけられたら、わかるだろ」

「あ、そ、そうだね。でもおにいちゃんお仕事いそがしいんでしょ。リーラはがまんするよ」

「ただの気分転換だよ。気にするな」



へやにもどって、わたしはベッドにもぐりこむ。

「………えへへ。おにいちゃんもいっしょにねようよー」

ふとんをめくって、おにいちゃんをさそう。
むー、うでをひっぱっても入ってくれない。

「リーラはもう六歳だろ。一人で寝れるようにならなきゃ」

おにいちゃんは、ベッドのわきのいすにすわって絵本をよみはじめる。

「むかしむかし―――」

「おにいちゃん、絵が見えないよー」

わきのいすで読まれても、ベッドの中からは見えないんだよねー。

「あれ、そう言えば、そうか」

わたしはふたたび、布団をめくってぱたぱた動かす。

「いっしょのベッドでねれば、絵がみえるよ!」

「まぁ、しょうがないか。でもリーラ、お前こうなることを見越して絵本を選んだんじゃないだろうな」

おにいちゃんが、わたしのかみを、わしゃわしゃっとなでてから、ベッドの中に入ってくる。
わたしはおにいちゃんに、ぎゅっとだきついて、ほおずりをする。

「えへへー」

おにいちゃんって、細めなのに筋肉質っぽいなー。
うわーだめだー。
かおのニヤニヤがとまらないよー。

「むかしむかし―――」



「―――そしてついに、勇者タナカは魔王を倒し世界には平和が戻りましたとさ」

ふぅ、リーラはいつの間にか寝ている。
リーラとは、店がピンチのときぐらいは、仲良くしておくべきだよな。
さてと、気分転換もこれぐらいにして、仕事に取り掛かりますか。
あれ?
ちょっと、待て。
このっ、くそっ、ぬぅぅっ!
り、リーラの腕がほどけない。
どれだけの力で、こいつは俺を握り締めているんだ?
そこまで俺の仕事を邪魔しようとするのか!
その根性には恐れ入ったよ…。
しかし、まぁ。

「幸せそうな顔しやがって」

「うーん…おにいちゃん………」



あとがき
幼女の気持ちがわからない…
なんでリーラ視点の番外編なんて書くって言っちゃったんだろう…


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