転生っていいことだと思うだろ?
知識や経験を持ったまま第二の人生を送る。
転生した先が裕福なら最高。そうでなくても子供のときから大人並みの能力だ。
いくらでも成り上がれる。
それが世間の持つ一般的なイメージだろう。
オレもそう思っていた。
でもな、どんなに裕福で権力があっても幸せとは限らない家ってのがあるんだ。
それは王族だ。
宮殿における人間関係のドロドロさといったら昼ドラなんて甘いもんじゃない。
嫉妬、憧憬、名誉、劣情、自己顕示に劣等感。
宮殿とはありとあらゆる感情やエゴが渦巻く伏魔殿だ。
その頂点に立つ王族には腹に一物を抱えた無数の人間が近付いてくる。
権力が、財力が、誘蛾灯のように人を惑わし引き付けるのだ。
だから彼らは常に周囲に怯え、警戒し続けなくてはならない。
利用されないように、騙されないように、そして殺されないように。
白鳥みたいなもんだ。
外面は優雅にしていても中を覗けば必死であがいてる。
オレはそんな王族に、百年戦争の時代のフランス王弟の子として転生した。
最初はそりゃ嬉しかったさ。ダンディな親父に美人な母親。
そこから導き出されるのはオレも美形になれる、って希望だった。
名前だってシャルル、いかにもフランスといわんばかりの高貴な名前だ。
しかも王族。これはアレだね。勝ち組ってやつだね、とか調子にのって色々妄想したさ。
日本生まれ現代育ちのオレにとって、王族ってのはいつもニコニコしながら手を振って仲の良さをアピールしてる存在でしかなかった。
だから中世の王族もそれに毛が生えた程度だろ、転生者の特権いかしてバリバリ活躍してやんよ!!
なんて、考えてたさ。今思えばあの頃の幼い自分が微笑ましくも憎たらしいよ。
甘かった。ワイルドレッドベリーよりも甘かったんだ。
そもそも頭のいない組織は纏まらない。
両雄並び立たずというように頂点が二つだともっと悪い。
だが、何事にも上には上がある。
そう、オレの生まれたフランスはトップが機能せずナンバー2と3が争うという最悪の状態だった。
この不幸は現王シャルル6世が精神異常状態に陥り政務を執ることが不可能となったことに端を発する。
残されたのは実質的な指導者の座、そしてそれに最も近い一人の有力者。
となると権勢に敏感な貴族達が派閥を作り、対抗馬を担ぎ上げるのは必然であった。
片や莫大な財力と兵力を持つ王の叔父、片や王の弟であるオレの親父と宮廷は真っ二つに割れた。
そして身内同士の血で血を洗う壮絶な暗闘を始めたのだ。
そんな政争の真っ只中に王弟派の後継者、つまりオレが誕生は誕生した。
客観的に見て、オレの立場は敵を作りやすい危ういものだ。
しかし、赤ん坊に過ぎないオレにその事を知る術はなかった。
オレは無邪気にも優秀さを示すべく頑張った。
一歳にして走り回り二歳にして大人のような話し方をするなど周囲の度肝を抜くような行動をとり続ける。
オレの努力は見事に花開いた。そう、ラフレシアという花を。
多くの味方、そしてそれ以上に多くの敵を得てしまったのだ。
オレは敵派閥の一部から潜在的脅威と認識され、嫌がらせを受け始めた。
年を重ねる毎にそれはエスカレートし、三歳の頃にはついに直接消しにかかってくる奴らが出始める。
今では暗殺や誘拐騒ぎが起きることが日常の立派な王族となってしまった。
正直これはないと思う。絶対に子供への対応ではない。
そんな心ささくれる日々を送るオレの唯一の癒しは我が母上だ。
母上は王宮の中にいて奇跡のような存在といえる。
人を疑うことを全く知らず誰にでも分け隔てなく接する、その性格は尊敬に値する。
何よりも宮廷においてオレに純粋な笑顔を向けてくれる唯一の人というのが大きい。
それに容姿も群を抜いて素晴らしく極上の典型的金髪美人だった。
この人の子供でよかったと思う一方で普通の男女として出会いたかった、と葛藤することも少なくない。
「シャルル。庭園を散歩しますよ。いらっしゃい。」
「はーい。母上。」
そんなわけでオレは確実にマザコンの道へと歩みつつある。
この国は腐ってる。どいつもこいつも他人を利用することしか頭にない欲望の化け物ばかりだ。
そんな国で生きるためには力がいる。
誰にも利用されない、何者にも屈さないだけの力が。
オレは別に誰かの上に立とうとかそんなことは思っていない。
イングランドとかフランスとか国のことなんてどうでもいい。
ただ自分の大切な人々と穏やかに生きる、そしてその人達の願いを叶える。
オレが何故転生したのかはわからない。
でもこうして大きなアドバンテージを持って第二の人生を歩むことになったのだ。
自分に誓ったことくらいは守ろうと思う。