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[8338] 異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント 3-06 投稿
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:afbfa333
Date: 2019/04/15 13:26

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
index

 神託を受けて旅立った少年少女。
 目指すは人類領域最北の地、<北の聖地>。
 立ちふさがる<黒>、そして人間。
 というか、所詮は人間の敵は人間なのが現実。
 政治的問題、経済的問題、無謀乱暴陰謀その他諸々の問題山積の旅路。
 だけど退かない、媚びない、省みない。
 武器を手に立ちふさがるものあればコレを討つ。

 シュートで血塗れ冒険。
 今日も楽しく元気に (σ゚∀゚)σエークセレント


 尚、本作は改訂版をなろうに投稿しています。
 新作は理想郷で投稿しますので、続きを読む場合には此方だけで十分です。



○各章紹介
<序章  ――幼き日々 編>
 少年時代のビクター君冒険録。
 別に女尊男卑な社会じゃないけど、何故か女傑の多い世界になっている件。
 不思議不思議。

 まぁ並みの女性じゃ、こんな世界だと頭角を現せないってのが現実なんですけどね。
 マーリンさん☆ラブ



<第1章  ――旅立ちへの日々 編>
 旅立つまでのビクター君。
 旅立つ前にご挨拶周りをしていたら、全18となっていた。
 不思議不思議。

 後、レニー可愛いよレニー。
 というか、ヴィヴィリーもノウラもマーベラス。
 ブリジッドに至ってはパーフェクトである。
 もう登場しないがな!!(正に外道



<第2章  ――旅立てば七転八倒的わらしべ長者 編>
 冒険してもいい頃(それは駄目ー
 多分、エミリオを、その面で教育するとオルディアレス家からガチに追われる危険性ががががが。
 そしてミリエレナには手を出さない。
 だって宗教怖いから。
 駄目、絶対(え



<第3章  ――殴り愛は神の愛への第一歩 編>
 エルフー
 エフルー
 エルフー
 ロリババァ~♪
 のじゃじゃないけど、ババァ口調~♪



<外伝>
 30万pv記念シリーズ、始まるよ!
 始まるよ!!
 一応、前後編の予定(収まれば
 収まりませんでした! 残念!!




○投稿状態
2011 7/28
2-01 投稿です。
 パソコンを新調したら書き書き速度も向上してe~感じ。
 やっぱ、7は良いですね。
 Vistaの苦労って一体………

2011 8/1
2-02 投稿です。
 カナメが振られた件。
 ヒイ様が、姫様が……………
 前回のヒキ的に、この結果は予想できたけどね(涙

2011 11/2
2-03 投稿です。
 失業しますた。
 自由です。
 等価交換で金は無いですけど (σ゚∀゚)σエークセレント

2011 11/4
2-04 投稿です。
 カナメ嬢が別離していった件。
 まぁイチャラブを傍で見せられても、そのなんだ、困るけど少し寂しい。
 が、おぉぉぉぉい家令!!! 貴様、マジだったのか!?

2011 11/6
2-05 投稿です。
 驚きの連続更新。
 だが、それよりも問題は、単車が灰まみれで錆びまくってた事。
 くぉー 黒豚県はバイカーにとって、地獄ぜよ!!

2011 11/9
2-06 投稿です。
 トリエラ、可愛いよトリエラ。
 ペトルーシェカは萌え萌え。
 でもエリザヴェータが一番にペロペロ(お

2011 11/21
外伝① 投稿です
 ヤンキーの作る肉は旨かった。
 マジ、旨かった。
 本気で熟成させた肉の旨み、吾が輩、和牛より好きかも知れんね………

2011 11/30
外伝② 投稿です
 人に薦められて「オシムの言葉」って本を買った。
 メッチャ良い本で、少しでもサカーに興味があれば楽しめると思う。
 何で少しでもかといえば、吾が輩が少しだけサカーに興味のある人間だからだー !!1!!111!o( ̄皿 ̄)

2013 2/22
2-07 投稿です
 気が付けば、首領様はメインヒロインの座に! 座に!!
 そしてアスカ嬢もQでは _______________ ヒロインだよね?(汗
 しかしアレだ、久方ぶりの投稿だったのでパスワードをすっかりと忘れていた件。
 ジッサイ=キケン!!

2013 4/21
2-08 投稿です
 マクロス30美味しいです(もぐもぐ
 というか、ミュンがシェリルに芸人としてぴー な辺り、強い娘さんやのーとか思ったりー
 というか、ミュンの実年齢を考えると(以下自己保身の為の自主規制
 そもそも、マクロス艦内でのミュンの触手プレイは実にエロイと云うか、シャロンは物事を理解しているというか、そもそもマージの教育が良かったと言うべきなのかー かー かー

2013 5/3
2-09 投稿です
 ヒャッハー! ゴールデンウィークだぜー!!
 でも休みが無いぜー!!!
 サービス業に連休なんて無いぜー!!!!
 1週間に半分でいいですから、8時には帰宅して飯を喰っていたいんです、安西せんせー

2013 6/9
2-10 投稿です
 貞エバ完結で、真坂真坂のあの展開が!!
 どーせさー コッチLAS方向には来ないよねー と諦めていたら、この展開。
 いや、吃驚です。

 後、最近の平均帰宅時間が吃驚です Orz

2014 12/1
2-11 投稿です。
 (∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ
 (∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ
 (∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ
 仕事が面倒くさいんじゃー

2014 12/16
2-12 投稿です。
 予定通り投稿です。
 予定は未定じゃないのです。
 しかし、アレだ、レパルス ペロペロ(^ω^)

2014 12/25
2-13 投稿です。
 くりすますじゃぜー
 くりすますじゃぜー
 クリスマスにまにあったんじゃぇー

2015 12/05
 吾が輩はここに宣言する!
 クリスマスまでには更新する、と!!
 歴史上(以下略

2015 12/6
 自分で読み返していて、序章が辛かったので修正版を作った。
 理想郷でうpするのは、何ぞ古いのを打ち消す様で嫌だったので、なろうで投稿しますた。
 基本的に変化は無いです(多分

2015 12/12
 フフフ、予定通り(新世界の神的な表情
 ……しかし、クリスマスまでにはまだ時間がある。
 吾が輩、まだまだ失業中なので時間もある。
 クリスマスまでには次の更新を!!(とらすと・みー

2015 12/25
 フフフ、無理でした(wwwwwwwww
 いや、チョイとコレに掛かる前に、なろう向けのリメイク版でデータが丸丸っと飛ぶトラブルがありまして……
 まぁ、トラスト・ミーは駄目フラグなのででで(ムダヅモ脳
 でもでも、今、半分までは書き終わったので、年内更新は大丈夫!
 トラスト・ミー!!!!(オィィィィ

2015 12/30
 頑張った、ワシ。
 何とか年内に投稿成功!!!
 しかし、余り話が進んでいない件。
 ま、次は割と動く予定(多分

2016 2/18
 只今、ポリテクセンター通って、目指せ再就職で、電工二種の試験勉強中
 脳みそが沸騰しそうだよー
 よー
 よー
 後、シークェンス制御、マジ、面倒くさい……

 尚、ルッェル公国の地図、作りました。
 リンクのHTMLが使えなかったので、もう面倒だとこちらに張ります(w
 見つけた人、ご苦労様です__
 ってURLを貼ろうとしたら貼れない件_________
 業者と間違われるのかしらん。
 その内、なろう版で使うとしませうー

2016 4/4
 冷媒配管、マジ、面倒くせー
 R410Aの多少の漏れなんざ、人類史の中で誤差だ誤差!!
 しかし、水冷媒の場合、配管が汚すぎて再利用する為には接合面から丁寧に処理する必要性がががが
 つか、パイプレンチが重すぎる__
 狭い所で使うんだから、もう少し軽量コンパクトで、尚且つ大きなパイプが回せるパイプレンチ、無いですかね!?(無理無茶無謀

2016 6/15
 電工2種はうかったっぽい。
 危険物乙4はヤバいっぽい。
 間隔が1wとか無理ゲー
 もう少しあいだがあればぬー

2016 6/19
 頑張りました!
 予定通りに投稿します!!
 所で、実にエロイシーンを思いつきましたけど、使い辛いです。
 どうしよう?

2016 6/27
 無職で食べるごはん、実に美味しゅう御座いました(本音
 来月からは自分で稼いで食べるごはんです、きっと美味しいでしょう(建前

2016 8/16
 お盆休み中に何とか投稿できました。
 もう少し話を入れるキリの良さと、時間の問題から今宵の地獄はここまでです。
 尚、出来れば今月中にもう1話(人夢

2016 11/20
 仕事、マジツラタン___
 帰って来る時間が遅いので、書く暇が無いのが辛い。
 という訳で、遅くなってごめんなさい。
 次、年内で更新できるように頑張る所存です(政治的発言

2016 12/23
 クリスマスより1日早いがプレゼントじゃー
 クリスマスに間に合う秘訣?
 クリスマスまでにと言わない事さー(マテ

2017 2/4
 鬼殺しが節分にinしました。
 通信状態が悪かったので、1日遅れました(多分
 しかし、疲れた。
 営業職を続けられる人って尊敬するわ。
 ストレスとかストレスとかストレスとかで___

2017 8/20
 第二章、完結です。
 更新速度の遅さに絶望する今日この頃。
 続きが読みたい。
 誰か、書け(命令形
 バイクに乗ったりゴルフの練習をしたり、後、JWCADは面倒くさい。
 と言うかエルダースクロール・オンラインぇ(マテ

2018 4/25
 第3章スタートです。
 次話は早い筈。
 多分、きっと。
 営業職を続けている人って、本当に、スゴイと思う今日この頃ェ
 誰か、家を建てない?(おい、やめろ

2018 5/6
 ぐふふふふ
 驚きの更新速度。
 エルフ
 エルフ
 エルフ
 トラックでは無い。

2018 10/17
 シナリオの展開に悩んだら美女/美少女を出せと言う神託を受けて、誕生(マテ
 尚、何故、鬼畜ロリの相方が鳥の蒸し焼きが大好きな悪たれさんなのかと言えば、サーバントを何処其処からかき集めた二次創作で出そうとしていた名残り!

2018 10/27
 1週間での更新は無理でしたー
 とは言え、頑張ったよね、私。
 仕事も頑張ってますよ。
 多分。
 きっと。
 であると信じたい___

2018 11/18
 ヤル気になれば何でも(゜∀゜) o彡  おっぱい!おっぱい!
 (゜∀゜) o彡  おっぱい!おっぱい!
 (゜∀゜) o彡  おっぱい!おっぱい!

 ヤル気が足りない。
 圧倒的に足りない。
 誰か、オッパイ下さい(持ち主ごと

2019 4/15
 平成の御代で更新できたぞー
 でたぞー
 チョッと、仕事が修羅ばってたけど、まぁ何だ、人間、逃げればいいやと言う開き直りで何とかなった。
 人間、生きててナンボやー

 だから、誰か僕にオッパイ下さい。
 (゜∀゜) o彡  おっぱい!おっぱい!
 チッパイでもいいぞー(オイ


※age無しで投稿出来る様になったので、本文投稿時以外は記入しませんのであしからず。



[8338] 【序章】   ――幼き日々――     (序章 登場人物紹介)
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:3ff91114
Date: 2011/04/02 09:56
 それは少年の日々の小さな冒険。
 そして、1つに道に踏み込む第一歩でもあった。

 血塗れファンタジー冒険、始まります。


○キャラクター紹介
ビクター・ヒースクリフ(主人公)
 ヒースクリフ男爵家の長男。
 文官希望の将来の夢が、いつの間にか武官になっていた。
 基本的に格好付けたがり。

ヴィヴィリー・ヒースクリフ(女の子)
 魔法分野で、天才的とまではいかないがかなりの才能を持っている少女。
 おませさんでもある。

ノウラ(女の子)
 貧乏な村育ちではあるが、気品はある。
 後、気合はある。

アデラ・ヒースクリフ(母親)
 女傑としか言いようの無い母親。
 通称、母親様。

マルティナ(豪快メイド)
 太い、豪傑肌の強力メイドさん。
 料理の腕は良い。
 但し、主人公をからかう所あり。

マーリン・シンフィールド(美人なネェちゃん)
 <北の大十字>傭兵騎士団の部隊長を務める年齢不詳の美人さん。
 母親の恋人で、ついでに言うと父親の恋人でもあったと云う、色々な意味で凄い人。

ハーヴェイ・ヒースクリフ(親父)
 中肉中背な正に文官っぽい人。
 貴族院に務めているが、それ以上は何をしているか知らない人。
 意外と、コネとかある。



[8338] 0-01 輪廻転生に異世界って含まれると初めて知った今日この頃
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:afbfa333
Date: 2011/01/16 23:39
 覚えているのは、視野一杯に広がったトラックのフロント。
 衝撃。
 それが「   」として覚えている最後の光景だった。
 光が広がって、視野がぼやける。


 ああ死んだなと思った。
 螺子の飛んでる系なバイク乗りの常として、良く事故はしていたが今回の衝撃は、経験をした事の無い大きさだったからだ。

 車同士の正面衝突――シートベルトをしてなかった為にフロントガラスを頭突きで割った時とか、調子に乗ったせいでコンクリートの階段を頭っから真っ逆さまに墜ちた時とか………うん。
 事故系のダメージでは単車以外の方が大きいのか、俺。
 まぁそれはさておき、そんな今までの経験に無いショックに、体の頑丈さにおいて自信と定評のあった俺も、流石に年貢の納め時と思っていた訳です。
 不孝を親に詫び、不義理を職場へ詫び、でもまぁ、過ぎた事は仕方が無いと受け入れた俺。
 無神論者らしく死は停止であり消滅までカウントダウンかと思っていた訳ですが、現実は斜め上でした。



 何も見えない何も判らない場所で、何時、思考が止まるのかと呆っとしていたら、世界が変わったのだ。
 瞬きをしたら別の場所に、そんな感じだった。


 右を見た。
 左を見た。

 どこかの部屋だった。
 温もりは感じられるが、工業製品じゃ無いよねって判る装飾が施されている部屋。
 そこまでエレガンテな知識は無いので、割と高そうで和風っつか日本じゃ無いっぽいとしか判らない。
 何故? 走馬灯なら俺の記憶からだし、だとしたら日本じゃ無いのは在りえない。
 そう思って手で口元を押えようとした時に気が付いた。
 手が細くなっている事に。
 てゆーか、小さい。
 そもそもとして、幼いと呼ぶべき手だろう。


「なっ、ナンじゃこりゃー!?」


 始まりの一言は、んな感じで。



 夢とか白昼夢とか、そんなチャチなものでは無かった。
 異世界召喚とか憑依とか、そーゆー楽しそうだが苦労も背負い込みそうなネタでも無かった。
 いや、最初は憑依とかも疑ったんですが、子供の頃っつうか自我が固まる前みたいな頃の記憶が在ったんで判りました。
 転生です。


 気が付いたときには異世界デビュー。
 良くある話と細かい筋は違っているが、基本、そんな感じ。
 それが、今の俺の始まりでした。










異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-01
輪廻転生に異世界って含まれると初めて知った今日この頃











 まぁ死んで生きて、転生してっと人生はビックリの連続だ。
 ただまぁ、こゆう吃驚はうれしくない訳で。
 が、吃驚としているだけでは生活出来まっせん。
 と云う訳で情報収集をする。


 ぶっちゃけると、記憶を思い出すだけではあるが。
 親の顔とか名前とか。
 或いは、言葉とか。


 考えれば、即、浮かんでくる。
 自分の名前も。
 それを口に出すよりも先に激しい足音がし、そしてかなり勢い良く部屋の入り口が開いた。


「どうしたのビクター!?」


 声の主は、華美さの無い実用本位のワンピースを着た妙齢の女性。
 母親である事は考えるまでも無く判る。
 アデラ・ヒースクリフ。
 只1個人の鑓働きで傭兵から男爵へと成り上がった、立志伝を書かれそうな女傑だ。


 常には余裕ある表情をしているのが、今、その秀麗と言うには些か鋭すぎる顔を険しくしている。
 まぁ息子が叫び声を上げているのだから、母親が血相を変えるのも当然だろう。
 それは判る。
 判るのだが問題は、手に持った剣だ。
 一応は鞘から抜いてはいないが、余り部屋の中で見たいものでは無い。
 まぁこの母親殿、<戦鑓の貴婦人>なんて些か物騒な字名を持った女性だから当然かもしれない。
 てゆーか、ワンピースの女性が剣を持っているだけなのに、何でこんなに物騒に見えるんでしょうか。
 正直、素で引きそうになる。


 が、それと同時に安堵する自分が居る。
 子供として、絶対の相手を見つけた時の安心感だ。


 ああ、俺はこの人の息子でもあるんだな。
 自分の感情が、それを素直に受け入れていた。



 尤も、俺が納得しても納得しないものもある。
 その母親、アデラだ。
 周囲を見回し、子が大声を上げた理由を探す。
 それはさながら、虎が巣穴の周囲を警戒するが如き仕草だ。
 BBC辺りなら、皮肉をたっぷり効かせたナレーションの1つでも付けそうだ。
 ま、これはTVなんぞでは無いが。


 さておき、アデラの母親様。
 大人気ないと言うか、自宅でする仕草じゃ無いと言うか。
 でも、親ってのはそういうものかもしれない。
 だから、安心させるように抱きつく。


「マーマ」


 コレが自分の声かと、己が喉を振るわせた音に驚く俺。
 間抜けな話だった。










 さてさて。
 喉や舌などの機能が未発達故にか、自然と舌足らずとなっていた口調でアデラ母さんへ怖い夢を見たと説明した所、仕方が無い子と言わんばかりに優しく抱きしめられ、額にキスをされた。
 そして部屋から出てった。



 額に残った柔らかな感覚に、少しだけ呆っとしたが、頭を振って気分を入れ替える。
 子供部屋に1人。
 だからこそ、冷静に自分を見つめるってモノだからだ。


 先ずは名前。

 ビクターってのはエゲレスっぽい感じである。
 ついでに言うと確か君主は女王っぽいんで、アレだ島国だHMSってな感じだ。
 割と萌え? かもしれない。
 エカチェリーナとかエリザベスとかねー 期待に胸が膨らむ。
 が、西太后とかは勘弁であるが。


 家はヒースクリフ。

 なんぞ貴族っぽい、VONは無いのかフォンは! と言いたいがまぁ良い。
 それよりも大事なのは貴族だって事。
 中世っぽい世界で貴族です、貴族。
 大事な事なので2度言いました。
 人生勝ち組、銀のスプーンを咥えちゃってますよ、俺。
 いやもう、コレはアレだ俺様状態ってモンです。


 将来は領地経営で、日本知識でチートだ天才だ。
 後は美人な嫁さんもらってウハウハとか、美人のメイドさんを揃えて辛抱溜まらんとか。

 そんな風に考えていた頃がありました。

 武装メイドさん(;´Д`)ハァハァ とか、俺の魔法はテラチート! Tueeeeeeee!! 弱いと云うのは罪だなって冥王さまで(;`Д´)ゲハァハァとか。
 ええ。
 そんなそんな風に考えていた頃が。
 現実って甘くないんです。
 例えそれが異世界でも。





 先ずは領地、無い。

 一坪も無い。
 大麦小麦にクローバー、後はナンだっけかと必死こいてノーフォーク農法を思い出したのに、実践する場は無い訳で。
 ヒースクリフ家は男爵家だったんですが、それは戦功によって爵位を与えられた宮廷爵であり、家禄は与えられているが、領地なんぞまっっったく無いのです。
 家もお屋敷なんぞでは無く、庭付きの3階建てアパートみたいなモノです。
 装飾や作りこそ立派ではあるが、それでも何ていうか、貴族ってな言葉の響きに対する幻想が雲散霧消って訳で。
 と言うか、そもそも宮廷爵って何ぞや、でありますやね。
 選択科目で世界史やってた頃の記憶だと、宮廷爵ゆーのは無かったと思うんだが、まぁ異世界だ。
 同じように見えて、違うって事っしょ。

 畜生。





 続いて嫁。

 まぁ、ここら辺は今後なんで、まぁ暫定とゆーか、放置。
 首輪とか墓地とか、そゆうエライ事を連想したりするんで、まぁ安堵感半分ではある。





 3つ目はメイドさん。

 女中なんて色気も無い和訳もされたりする、メイドさんだ。
 時代的ってか、そゆうのからビクトリア朝ちっくな、未婚の若い子がとか夢を見ていた。
 夢を。
 南米のどっかの若様っぽくスカートめくったりとか、色々と夢を見てたんだよ、夢を。
 だが現実は、一味違った。
 角度的には斜め45度以上。


 ヒースクリフ家で雇っているメイドさんは雑役女中の人が1人だけだった。
 名前はマルティナ。
 たった1人で3階建てのヒースクリフ男爵宅なアパートを掃除したり、食事の用意をしたりしてくれる家事万能の人だ。
 そこに文句は無い。
 文句は無いのだが、その家事万能には当然代償と言うか理由がありまして。
 ええ。
 人生経験。
 それが悪いとは言わない。
 絶対に言わない。
 だって料理はメッチャ上手いんんですから。
 だけどね、だけどね、メイドさんゆーたら英国のアレやコレでさって思うじゃない。
 それが恰幅の良い、豪快肌のオバちゃんだ。

 全俺が泣いた。
 泣いたって良いじゃないか。


 ああ、ヴァッフェン・メイドに関してだけは実現しちゃったりしている。
 マルティナだ。
 この女豪の持っているモップ、屋敷掃除に縦横無尽に活躍しているが、その実態は武器だった。
 鉄芯仕込み。
 一度、持とうとして、その外見との落差に驚きました。
 そう言えば、足取りってか身のこなしが軽すぎます。
 武道の有段者並みな迫力もあります。

 ………こっちが実現するよりも、若くて美人なメイドが実現してくれてた方が良かった。
 現実は、こんな筈じゃなかったって事ばかりだ。





 ああ、そう言えば魔法にも期待を抱いてました。
 やっぱり夢ですよね、天才魔法使いってか天災? みたいな人と隔絶するってのは。
 エターナルなんとかーって叫んで、周りを即死させたり、何とかの白い悪魔みたいに畏怖されるってのも。


 ですが現実は厳しいです。
 この世界、魔法に関しては割と楽です。
 引かぬ媚びぬ省みぬな貴族の血筋だけが使えるって訳では無く、訓練次第で誰でもが使えるのですから。
 但し、使えるだけ。
 才能が無ければ、実戦で使う事は出来ません。
 才能を持っている人間なら短縮呪文を詠唱するだけで実現出来る事も、非才の人間では魔方陣を作り精神力を集中しての永い正規呪文を詠唱しなければならんのです。
 しかも、魔法の代償も洒落にならない。
 酷い話です。
 格差社会です。



 そして私は格差される側でした。
 否。
 そもそも才能が云々と言うよりもその修行が問題だったんじゃないかと思ったり。

 頭の中で卵を作ってネ☆ んで作ったら壊せ? 限りなくリアルにネ☆ とか、なんとか言われて、それを実現するのが修行でした。
 魔法をイメージする為って奴でしたが、まぁ頭と言うか魂の方が拒否するってモンです。
 リリカルマジカルって呪文を唱えて、後はビームな魔砲がDQNと直撃とか、破廉恥スタイルで高速大鎌アタック――は、流石に凸付きとしては勘弁したいが、まぁそゆう夢は敗れました。
 一応、努力はしましたが、魂が拒否ってる事をしようとしても、体はついて来ないのです。

 魔力ってか、魔法を付与されている魔道具(エンチャント)は問題なく使えますが、使えるってか高度な魔法が封入されているのは、呆れる程に高価です。
 ぶっちゃけ、買えません。
 一般に流通している最上位品なんぞを買った日には、ヒースクリフ家が傾きます。
 だから無理。

 おのれぇ。





 さて夢も希望も無いっぽく見えますが、1つだけ俺Tueeeee!!!!1!!111!o( ̄皿 ̄)oが在りました。
 身体能力です。
 普通に中肉中背なんですが、並みの大人どころかオリンピック選手級の筋力や反射神経があります。
 子供の手なのにリンゴ潰せたりします。
 ジャンプしたら派手にスラムダンク決められそうです。
 凄いと言うよりも、怖いってレベルで身体能力が高いです。
 うはっ、俺様超人!? ってな感じです。


 尤も、この世界、その程度の人間はゴロゴロしてるんですけどね。
 例えばマルティナさんは素手でカボチャを割れます(包丁を使わないのは雑味を加えない為だそうな。あり得ん)し、アデラ母さんに到っては一度剣を折ってた。
 剣の刃を見ていた時にクシャミをして、その拍子にポッキリと、である。
 後、拳骨一発で人を飛ばした事もある。
 ありえん。
 ファンタジーだ、ファンタジー。
 てゆうか、素で十傑集とか九大天に近い感じがする。
 バケモノ共め。
 俺の高性能なボディも、まぁ普通じゃないけど飛び抜けてじゃないっぽいです。


 まぁそれでも、在りがたいと思ってました。
 ご近所の子供に混じって遊んで、んで、テキトーにエレガンテな人生でも送ろうかなって思ってました。
 今生では真面目に勉強して、官僚でもなろうかなって思ってました。
 文官だけど、私剣を持ってもスゴイんですよってな感じで。





 そんな、夢を見ていた頃がありました。








[8338] 0-02 見栄と恐怖のシーソー
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:afbfa333
Date: 2010/11/23 11:24
 正確には、チョイとした義侠心。
 義を見て為さざるは勇無きなり。


 まぁ男児たるもの、それは当然で必須。
 特に女の子相手に見栄を張れんのは、死んだほうがマシってな事で1つ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-02
見栄と恐怖のシーソー












 適当に成長して、勉強と体を鍛える日々。

 まぁなんと言いますか、面白い。
 歴史を見るとスゴイ事になってる。
 周辺の、というか<黒>の陣営と抗争している<白>の陣営が前衛国家、それがこの国、トールデェ王国なのだ。
 陣営がどーとか、前衛がどーとか、今1人理解し難いが、まぁこの世界はそんな感じらしい。
 <黒>ってのは、まぁなんだ怪物とか人間とかが作ってる組織っと言う程に組織化はされてないっぽい連中の事だ。
 目的は、コッチの<白>の領域で血と絶望を振りまく事――らしい。


 まぁ歴史書を見てると、どっちかってーとアレですよ。
 歴代中国王朝vs北方騎馬民族ってな感じです。
 略奪が大好きで、おまけに流血沙汰も大好きなロクデナシ。
 だからだろう。
 <黒>の陣営に大きな国家は無く、故に総称して<黒>乃至は<黒の軍>と呼ばれているそーな。

 頭の痛い連中である。

 しかも問題は、歴代中国王朝と一緒で、相手の方が戦力的素養ってか個々の基本的スペックが高いって事だ。
 コッチにもウチの母親様を筆頭に、様々な超人さんが居るが、その数が圧倒的に違う訳で。
 相手を無双出来る超人さんは一部の人間だけだが、アッチでコッチの人間相手に無双出来るのはオーク級以上のバケモノなら可能ってなチート仕様だ。
 てゆーかオーク。
 どっかの指輪な物語の如くにエルフが堕落してとかゆー訳でもなく、根っからの邪悪気質なバケモノさんだ。
 この世界の分類では、邪悪な獣人の上位種っぽい感じだ。
 つか、洒落にならんらしい。
 並みの人間の倍近いガタイをしているのだ。
 人間やエルフが大好きで、頭っからバリバリと喰いそうな勢いだ。
 獲物ってな感じで。
 要注意、とウチの両親も言っていた。

 が、それ以上の問題もあると、本には書いてあった。
 連中、下品な意味でも食いに来る、と。
 頑丈な同族のメスよりも、華奢な人間やエルフの女性を嬲る事を好んでいるのだと。
 最悪だ。
 ある意味でペドフィリアだ。


 略奪上等の騎馬民族でペドフィリア、拳王様んトコよりタチが悪い。
 リン、逃げてぇぇぇってなモンである。



 うん、何ぞ話がズレタ。



 兎も角、そんなファンタジー拳王軍である<黒の軍>と対峙するトールデェ王国は、当然ながらも重装軍事国家と相成っている。
 その軍備は、正規(常備)軍+予備(徴集)軍で全人口の1割に達しようかと云うのだから、凄まじい。
 中世レベル+α程度で、だ。

 確か、中世ヨーロッパじゃ1%を切ってたとこがザラなのに、ナニこのチート国家? である。
 とゆーか、ぶっちゃけ狂ってる。
 まぁ後方ってか、同じ<白>の陣営に属する諸国から潤滑な支援があっての事かもしれない。


 トールデェ王国が撃ち破られれば、他の西方国家群は襲われるの。
 それに備えようとすれば、莫大な軍事費が必要となり、それは国家運営に重く圧し掛かる事となる。
 であるが、故に、である。
 <白>に属する国々は、莫大では無いがそれなりの資金や物資をトールデェ王国へ融通しているのだ。
 通常、この様な国家関係が成立すれば、最終的には被援助国は国力を増大させて援助国を制圧併呑するものであるが、ここでは無理である。
 理屈の通じない<黒>が相手なのだから。
 それなりの頻度、それなりの規模でやってくるDQN軍団に、トールデェ王国は毎度毎度、それなりの出費を繰り返しているのだ。


 これらの事を知ったとき、ナンと言うか虚無感を感じた。
 賽の河原の積み木崩しってなモンである。
 歴史を確認すれば、王国建国時だから200年近く同じ事を繰り返しているのだ。
 もうね、馬鹿かと阿呆かとと云う気分である。

 諸々で抜き差しならぬのは理解出来るが、理解したくない停滞っぷりである。
 まぁ、一方的に叩かれるのでは無く、開拓団ってか屯田兵みたいな部隊を編成し、王国東方の領土を広げてはいるが、地図を見る限り50年掛けても100kmも進んでないっぽい。
 開拓村を作っても、<黒>に襲われ全滅。
 全滅しない為に砦に作ろうとしても、建築中に全滅。
 死々累々である。
 と言うか、この世界に一夜城な藤吉郎さんは居ないっぽい。



 そんなこんなで常に戦争の匂いの漂うトールデェ王国の王都トールデン。

 軍オタ的人間な俺としては大変に面白い。
 例えば武器屋。
 軍人に傭兵、そして東方を目指すような冒険者ってな人間がひしめき合う場所故に、かなり面白い事になっている。
 ショートソードやブロードソードの様な定番から、シミターみたいなモノまで。
 てゆーか、西洋式の剣ってば切るよりも叩き切るつう鈍器じみた代物が基本な筈なのに、簡素ながらも刃が付いている。
 吃驚だ。
 製鉄技術や、或いは魔法技術にって剣の製造技術が高いのだろう。
 後、主敵である<黒>の連中ってのの防具の主素材は革程度ってのが大きいのかもしれない。
 膂力のある人間が斬撃武器を振るえば、であれば一刀両断ズンバラリン。
 上下の胴体泣き別れってのが可能なのだ。
 であれば流行るのも当然だろう。


 他にも槍や弓など様々な種類の武器がある。
 流石に刀は無いが、斬撃用として似たものはある。
 無いのは銃器の類だけだが、ここら辺は弓が強力だってのと攻撃魔法ってのの存在が大きいのだろう。
 より簡易だったり、より強力だったりってのが普通に存在するのだ。
 発明はされたとしても、発展するとは思えない。


 まっ、それは兎も角、ナンにせよ武器は馬鹿みたいに数が多い。
 軍隊的には装備の統一化は大事だが、個人乃至は小集団で動く事の多い冒険者ってな人種も居るんで、個々人の要請に応じた武器の製造やら改造やらも積極的に行われているからだそうな。
 新機軸の実戦投入と、実戦での戦績のフィードバックし技術開発を進めているのだろう。
 何とも見事な軍事国家っぷりな訳だ。


 そんなブラッディな楽しみ以外にも、この王都には色々なモノが集まっている。
 <白>陣営で最東端に位置する大国なのだ。
 しかも、割と金満。

 そら商隊もバカバカっと商品を持ち込んでくるってなモノである。
 食い物や鉱物と云った生活必需品は当然として、様々な嗜好品まで持ち込まれてくるのだ。
 煙草やアルコール、乾した果実から新鮮な果物まで。
 更には大道芸人などもタップリと来ている。
 売り子の声や楽器や声楽などの音、嗚呼まさに賑やか。
 ブッチャケ、自称東京で実は埼玉な某鼠園よりも面白いのだ。
 有無、千葉か。
 まぁ良い。
 どちらにせよ、東京でないのだから。
 田舎モノの僻みかもしれんが、ね。




 そんな、楽しい昼下がりの王都。
 冷えたシェラードを片手にブラブラと散策していた時、路地で遊んでいた娘が裏路地に引っ張り込まれたのを見た。
 見てしまったのだ。


 ため息が出る。


 この世は中世っぽいファンタジーで、人身売買なんざザラな訳で。
 いや、身代金狙いってのもあるが、引っ張り込まれた娘さん、後ろ姿からも、そんなに身なりは良くないのが判る。
 ってか、ここら辺の街区は金持ちがあんまし住んでない、商業エリアと外周居住エリアの境目辺りなのだ。
 金持ちの子狙いは余り起こらない場所なのだ。
 いや、そんな事はどうでも良い。
 只、気に入らないだけ。
 生温いって評される事の多い、平和な平成の御世で生きてた人間には、犯罪行為を見て見ぬフリをするってのは気に入らない訳で。


 状況判断をしながらも、動き出す。
 シェラードは、うん、放り出す。
 喰いモンなんざ、後で買いなおせば良いのだから。


 暗い裏路地、向こうに大小の人影を確認。
 小さい方が手足を必死に動かしているのが判る。
 走る。
 気が付けば走り出していた。


 2歩目3歩目4歩目、石敷きで走れば当然のように足が痛いが、無視無視無視。
 子供の足は短いが、それでも相手は暴れる人間を連れているのだ。
 追いつくのは簡単だ。


「何をやろうとしてるんだ、オッサン!」


 もしかして、子供の身内だったらどうしましょ? っと恐怖半分、開き直り半分で喧嘩を売る。


「あぁん?」


 振り返る男。

 抱えられていた為に一緒に子供、娘ってゆうよりも幼女ってのが似合いそうな年頃の子もこっちを見る。
 男はメッチャガラが悪い表情をしている上に、継ぎ接ぎだらけの服を着ている。
 子供の方は涙でグシャグシャになっているが顔立ちはまぁ整っている。
 服は上等では無いし、土ぼこりなんかで汚れてはいるものの悪くは無い。
 コレで親子の線は消えた。


 この中世ってのは、服装が違うだけで1つの事を意味している。
 階級の違い、身分の差だ。
 上流階級、中流階級、労働階級、そして貧民階級。
 子供の来ているのは労働階級のモノだが、どうみても男は貧民階級のものだ。
 ファンタジー世界だからって、世の中は容赦が無いこってす。


「坊主、英雄気取りか? 怪我しない内に帰ってママのオッパイでもしゃぶってな」


 手荒い言葉遣いで男は喧嘩を買った。
 が、腰の剣に手を伸ばそうとはしていない。
 此方が子供だと舐めているのだろう。


 まぁ、俺でも普通ならそうする。
 だがそれがつけこみ所だ。
 すり足で、ジリジリと距離を詰める。


「正義を気取るつもりは無いが、アンタのソレを見過ごすのも好みじゃない」


 武装は、最低限度の護身用にと母親様に持たされたナイフが1本。
 暗器的に小さいそれを、革の鞘に入れて右腋に吊っている。
 尤も、小さいとは云え対魔能力を持つ真銀製で、しかも魔法はタップリと付与されており、切れ味良く軽量、しかも保有する俺の体をサポートするって能力まである。
 うん。
 どうやらウチの母親様は過保護の傾向があったっぽい。


 そんな逸品だが、俺は抜かない。
 抜くと、抜き差しならぬ事になるってのもあるが、それ以上に、相手の油断を突きたいからだ。


「ケッ、馬鹿が。そゆうのを英雄気取りってんだよ」


 馬鹿にし切って鼻で笑ってくる男。
 その油断が俺を、1足の間合いへ達する事を許す。
 仕掛けるのは今。


「Te!」


 大地を蹴る。
 二歩目で既に男を捉える。
 三歩目で大地を踏みしめ、体のバネを全て使って肘打ちを叩き込む。
 男の股間に。


 同じ男として、少しだけ躊躇うが、同時に碌でも無い事をしでかしている奴である。
 気分は黒騎士。
 情けは無用、ファイヤー! である。


 鈍音と共に前向きに崩れた男。
 だがそれでも、緩む事無く子供を抱えていた手を踏みつけて救出する。
 子供の体重でも、大人の腕を無力化するコツはあるのだ。

 悲鳴を、それこそ踏みにじる。

 開放され、涙と共に見上げてくる姿はとっても子供子供しており、慰めてもあげたいが、残念。
 そんな暇は無い。
 ぶっ飛ばした男が、うめき声を上げて起きようとしているのだ。
 震えてるのは痛みか怒りか。
 まぁどっちでも良い。
 やる事は1つ、一心不乱にランナウェイ。


「逃げるよ」


 子供の手を取って駆け出す。
 先ずは大通りへ。
 この手の人間は大通りまでは追いかけて来ない。
 対処療法的では在るが、先ずの危機はしのぐ事が出来る。


 薄暗い裏路地から明るい大通りへ。
 光差す場所へ。


 だが、その光が遮られる。
 人だ。
 剣を佩いているのが、影で判る。
 てゆーか、逆行で人が居る事だけしか判らない。
 畜生。
 このタイミングで警察の類が来る程、この辺りは治安が良くは無い。


 駆けていた足が止まった。


「何をしている」


 うわーい敵追加。
 いらねー 超いらねー お代わりいらねー 椀子蕎麦ちっがぁーう。


 てゆうか、人攫いでツーマンセルとかスナっと、内心で罵詈雑言をぶちまけつつ抜刀する。
 順手では無く逆手に持つ。
 暗い路地に浮き上がるような刃。
 それで、裏路地の空気が変わった。
 敵2号も、そして子供も。
 だがこのナイフで新しい敵の急所を狙う積りは無い。
 この世界がブラッディである事は理解しているが、まだ俺は人を殺す――致死攻撃を行う覚悟は決めていない。
 だからこのナイフはブラフ。

 只、ヒカリモノを抜くことで敵の意識をコッチへ寄せるのだ。
 そうすりゃぁ子供の1人位は余裕で抜けられるっしょと云う考え。
 トロイ子供が抜けられれば、後は身体能力だけはチートな俺だけ。
 幾らでも逃げて見せる。
 短時間なら、壁だって走ってみせらぁってなモノだ。


 アドレナリンが噴出しているのを自覚する。
 唇をゆっくりと舐め、緊張を拡散させる。


 背に庇っている子供に、小さく振り返って囁く。
 走れ、と。
 見れば、涙を堪えながら必死に頷いている。
 健気だ。
 こんな10を超えそうも無い年頃の割りに、判断力はある。
 今、騒ぐべき時で無い事を理解しているのだ。
 或いは肝が太いのか。
 兎も角、肝っ玉で言えば天下無双な我がアデラの母さんに会わせれば、案外に気が合うかもなとか少しだけ考え、それから気分を入れ替える。
 先ずはこの状況を切り抜けねば、と。


「Te!」


 合図を1つ。
 そして駆け出す。
 真っ直ぐ、敵2号を目掛けて。


 狙うは一撃離脱。
 いや、一撃すらしない。
 席巻し脅威を感じさせる事で敵2号の意識を寄せて子供を逃がし、その後、俺も脱兎。
 そういう予定でした。
 そして予定と云うのは大抵、ひっくり返されるモノである訳で。


 強ぇ衝撃が手を痺れさせる。


「なっ!?」


 何事っと思った瞬間、視野が真っ暗になった。








[8338] 0-03 自業自得さー
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:5b2d9446
Date: 2010/11/23 11:25
 見上げた空は、見たこともないものだった。


 ないない。
 それはない。


 阿呆な連想し、そこで鈍痛を自覚して額に手をやる。


「うぅっうぅ」


 痛いのは額だけじゃない、顎周りも痛い。

 てゆうか左側だ。
 フック気味に殴られたか。
 何が何事、何故に。そんな疑問符だらけの気分。
 ド畜生。
 てゆーか、奥歯がグラグラする。
 乳歯なのが救いか。
 永久歯が逝ってたら、泣くじゃすまない。


 てゆーか状況、どうなった? 子供は? 敵1号と2号はどうなった? 周辺確認を――と腹筋に力を入れて体を起こす。
 ゾンビみたいに。


「っ!」


 腹も痛い。
 体中が痛いと悲鳴を上げている。

 クソッタレ。

 ファック。

 シット。

 シッパル。

 ありとあらゆる事が気に入らない。
 痛い。
 世界が歪んで感じる。


「起きたか?」


「あっ?」


 声の方を睨む。
 其処には――美人が居た。
 スゲェ別嬪さんだ。


 クール系っぽい顔立ちは年齢不詳っぽい艶があり、髪は青みのある黒髪で、それをひっつめにしている。
 一種のポニーってか、アレだ顔立ちと併せて芝村の末姫っぽく見える。
 良いねぇ。
 後、スラっとしたボディらいんだが、凸る所と凹む所はご立派。
 云う事無しである。


 が、問題はそんな魅惑な御仁が何で俺を見てる?
 判らない。


「大丈夫ですか?」


 小さな声が投げかけられた。
 見ると子供だ。
 手には濡れてるっぽいタオルがある。


「無事だったか?」


 どうなったか判らないが、僥倖だ。
 この場が外なのだ、幽閉されている訳じゃない。
 美人さんが敵を追い払ってくれたのか。
 剣を佩いているし、その雰囲気は素人じゃないし。


「わっ、私は大丈夫です。それより――」


「なら良い。助かったみたいだな。俺は間抜けを晒したっぽいが」


「そんな事、無いです!!」


 イジケタ様な事を口にしたら、子供に怒られた。
 いやだって、助けたのって俺じゃなくてその美人さんでしょに。
 そんな気分で視線を美人さんに合わせたら、急に頭を下げられた。

 何故に。


「すまなかったな、勇敢な少年」

 口でも誤られた。
 何故に。


 その疑問は、直ぐに氷解した。

 要するに、敵2号さんの正体は美人さんだったのだ。
 んで、美人さん的には俺は親から子供を掻っ攫っ風に見えたそうな。
 なんでーと言うか、見えなかったんでしょうな。


 薄暗く、良く見えづらい裏路地。
 打ち倒された大人で、そこから子供を連れて逃げ出す俺。
 んで、何をしていると問い掛ければ光物を抜く始末。


 あぁ、そら俺でも敵――と言うか、不法で不埒な奴に見えるわな。


 だからぶっ飛ばした訳だ、美人さんは。
 教育的指導ってな感じでフルパワーで顔を殴ったらしい。
 体中が痛いのは、殴られた勢いで壁に叩きつけられたかららしい。
 バケモノめ。

 ウチの母親様並だ。
 んで、絞り上げようとしたところを子供が俺を庇い、しかも、大人は逃げ出したんで、真実が見えた、と。



 畜生。
 自業自得かよ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-03
自業自得さー











 子供を護って悪漢に一撃食らわし、悪党に間違われて美人に一撃喰らった今日。
 家に帰る気分はドナドナ。

 護ろうとしただけなら気分は宜しいのだが、何とも、美人さんに切りかかったってのも間抜けなら、何もしないウチにボコられたのは恥以外の何でも無い。

 ド畜生。


 どーでも良いと思って帰ろうとしたら、美人さんに止められた。
 親御さんに詫びを入れに行きたいとの事だった。
 義理堅い人って訳では無い。

 何でも、ウチの母親様のお知り合いだそーな。
 名前はマーリン・シンフィールドさん。
 うん、なんぞそのウチに森に封じられる魔法使いっぽいってか、Pで51なナニを生まれ変わらせたりとか思うのがプチな軍オタ故にだと思う。
 アノ世界の、魔法染みたハイテク兵器ってどうなたんだろ。
 立憲君主式の世界最古の帝国は、C-XとかTK-Xとかどーなたんだろ。
 畜生、いまじゃマジで妄想するしかない。
 ツマラン。

 それはさておき。
 マーリンさん、最近は行ってなかったから俺は顔を知らなかったが、赤子の頃の俺を見た事があるそーな。

 チート少年の俺様だが、流石に眼球周りが完成していない頃の事までは判らない。
 が、まぁ美人さんが言うなら、そうなのだろう。
 美人=正義は世の法則なのだから。

 うん。
 んな訳ねーか。

 ぶっちゃけ、勝てない気がするだけで。
 主に、雰囲気的に。
 実際、一撃で沈められたしね。
 畜生。


 まっ、それはさておき、だ。
 後ろを振り返る。
 マーリンさんが子供と会話をしながら歩いてくる。
 何故でせう。


「その子、どうしたんですか?」


 ここら辺は既に内堀の中。
 そこそこに金がある人たちの居住区だ。
 甚だ失礼な話だが、子供の格好からすると、こんな所に親御さんが住んでいる用には思えない。
 連れてくる理由が判らない。

 それ故に直球な疑問を口にする。
 この街が安全に限らないのは先ほど実証されているのだ。
 なのに親元から引き離す理由が判らない。


 そんな俺の疑問への回答は、何ともファンタジーなものだった。
 曰く、子供は父親を探しに王都に来たのだと言う。

 子供が生まれ育ったのは、王都から少し離れた山間にある村。
 名前はマバワンと云う小さな村。
 ぶっちゃけ寒村で、それに嫌気が差した子供の父親は、子供が幼い頃に冒険者に成ると、村を飛び出したのだ。
 育児放棄キタコレだが、まぁ嫁――ってか、子供の母親の実家がそれなりに裕福だったので、今までは何とか生きてこれた。
 が、最近、村の周辺でゴブリンが出没する様になって来たのだ。
 緊迫する村。
 ゴブリンの出現は、<黒の軍>の前触れ的な要素が強いのだ。

 だから子供は、冒険者として身を立てている父親に、村に戻って来てもらおうと王都に来たのだと言う。


 何とも健気な話だ。
 そして同時に、子供の格好が土ぼこりにまみれている理由も理解した。
 旅塵なのだな。
 王都の北方、マバワンのある山地は水分が乏しい地方なのだ。
 そら、そんな辺りを旅してくれば塵にまみれるってモンだ。

 てゆーか、にしては荷物が少なく思える。
 マバワンって村の位置は知らんが、その山地自体は人の足で3~4日は掛かりそうなモンなのだが。


「荷物と金は、盗られたそうだ」


 マーリンさんの言葉に、子供が俯く。
 暗くなる。

 生き馬の目を抜く大都市は、田舎から出て来たばかりの子供には辛かったか。
 同情心が更に加算する。

 基本的に子供好きな俺としては、そーゆー雰囲気の子供は見て居たくない。


「そう言う訳でね。一度知り合ったからには最後まで面倒を見るのも当然だよ」


「手伝います」


「おっ、男の子だな」


「男児と言って欲しいですね」


「どちらにせよ、その意気や良しだ」


 莞爾と笑って、ナンゴナンゴと頭を撫でてくるマーリンさん。
 精神年齢30歳Overとしては、ビミョーに恥ずかしいが、同時にナンか嬉しい。
 ヤッパ、美人は良いね。
 とっても良いね。

 そんな良い気分のままに、子供を見る。
 そして頷く。


「僕も手伝うよ、お父さんを探すの」


「有難う………」


 短い言葉で止まった途端、子供は俯いて泣き出した。
 小刻みに肩を震わせ、地面に水滴を落としていく。

 ゑ、何事?
 マーリンさんを見る。
 苦笑している。
 ナニ、俺が何をした。

 乾いた地面に広げられた染みは、段々と広がっていく。


「その、ナニ、うん、大丈夫だから、大丈夫。ホント」


 愚図る単車なら、簡単に慣らす事が出来る。
 クラッチ切ってスロッル回して派手に派手にバンス管を響かせたりとか、或いはチョークを引っ張ったり、アイドリングの回転数を上げたりとかさー 簡単なのに、どうして。
 オンニャノコは判らんですよ!! マジデ。


「焦るな、ビクター君」


 無茶ゆーな。
 ナンと言うか、子供の涙は大人を焦らせるのっての。
 俺ぁ大人だよ? 体は子供だけれども。


「いや、うん。だから俺も君の父親探しを手伝う。大丈夫、直ぐに見つかるさ、直ぐに」


「………」


 肩の動きが大きくなった。
 泣き声こそ上げていないが、染みの広がりが早くなった。

 いや、マジでコレは胃に来る。
 子供が声を殺して泣くな、頼むから。

 右見る、左見る。
 救いの手は無い。

 マーリンさんは手を動かしている。
 えぇーっと、ハグしろと? ゆーとる模様。
 ファック。
 何故、何で、何が。

 あっぱる、慌てる。

 マーリンさんが顔を近づけてくる。
 助言か、とっとと、そして明確にプリーズ、ギブ、ミー! だ。


「男の子だろ、責任を取れ」


 なんぞ、それー! と叫びたく成った瞬間、俺の頭に雷が落ちた。
 それこそドドーンっと。








[8338] 0-04 家庭って素晴らしい
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:5b2d9446
Date: 2010/11/23 11:25
 人間の頭、その頭蓋骨に於いて弱点となるのはコメカミと、頭頂部だ。
 嘘だと思うなら叩いて見ると良い。
 メッチャ痛いから。マジデ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-3
家庭って素晴らしい











 痛みの正体は、母親様の一撃でした。
 一切合財の容赦ない、鉄拳。
 それは例えるならば鉄風雷火の限りを尽くし――嘘です、御免なさい。

 でも、ソレ位に痛いでした。


 母親様曰く。
 拳骨の理由は、息子が他所様の娘さんを泣かしている様に見えたからだそうーな。
 もう少し、俺を信用して欲しいものである。
 俺の脳みその具合に関わるんで、割と真剣に。





「そんな甲斐性は無いって事ね、残念だわ」


「まだ幼いのだ。こんな年頃から色に欲気を出していては先が困ると云うものでは無いか?」


「そうね。ウチの子、ミョーに達観してるってか老けた考えしてたから、ある意味で歳相応って感じね」


「老けた?」


「そっ、老けた。なぁーんか、こうね、母親としてはヤンチャな男の子を期待してたんだけど………」


「贅沢な悩みだな」


「良いじゃない。悪戯した子を怒って叱って追いかけて、そんなドタバタって楽しそうって思ってたんだけど」


「そうじゃなかった、と」


「分別臭いのよ。もー 悪戯しない。お小遣いも計画的に使う。勉強は自分から。体を鍛えるのだって自分から始めてるのよ。母親の役目ってナニ!?」


「くっくっくっ」


「ナニ?」


「いや、アノ<鉄風姫>が母親をしているなって思ってね」


「2人も育てているのよ? 今更ね、その言葉は」


 ナンと言うか、扉越しに聞こえる会話は、ビミョーに入室し辛い内容に成っている。
 そらね、身体年齢は10を超えないが、精神年齢は30の後半突入しとりますから、そら分別臭いし、オッサン臭いのは仕方が無い。
 ブッチャケ、仕様ですよ仕様。

 現、ビクター・ヒースクリフって人間の。


 まっ、何時までも扉の前でフリーズしてても仕方が無いんで、襟周りを指で整えて扉をノックする。

 着替えてきたのだ。
 出掛けた先でぶん殴られ、泥だらけの格好になっていたのだから当然だ。
 深い藍色をした厚手のシャツと、焦げ茶色の半ズボン。
 ここら辺、中世っぽい部分があるんで派手目な衣装が好まれているが、仕立物故に我侭を言って落ち着いた色合い、デザインのモノを作って貰っている。
 だってさ、赤とか青とかの原色“だけ”を使った服なんて目が疲れるってモンである。

 一応、下っ端とは言え貴族階級の一角なので、威厳を持つ為に細工はしている。
 襟とか裾に金糸で縁取りをしたり、カフスには銀細工を付けたりとかである。
 お洒落ではある。
 てゆーか、趣味100%である。

 昔の俺ってば肉厚ってかぶっちゃけプロレスラーとゆーか、熊の様な外見をしていたので、今生ではファッションの楽しみってのがある。
 まぁ、まだ子供だから、十分には楽しめないが。
 早く大人に成りたいってなモンである。


「どうぞ」


 母親様の声を受けて、部屋に入る。
 居るのは母親様とマーリンさんだけだった。
 子供は居ない。
 妹も居ない。
 後、マルティナさんも。
 こゆう場合、常に女主人である母親様の傍らに付いているものなのだが。
 そんな事に疑問を感じつつ、扉をそっと閉じた。





 良い事と悪い事が1つづつあった。
 まぁ子供らしく、褒められて叱られたのだ。


 褒められたのは、義侠心を発揮した事。
 非力な子供が、女の子を護る為に身を張った。それは素晴らしい、と。
 別に実力を親の前で隠しちゃいないのだが、まぁナンだ。うん、母親様からすると非力な程度らしい。
 どんだけー! である。

 そんな、義侠心を褒められた後には折檻タイム。
 日中、街中で、しかも先制的にナイフを抜いた事をだ。


「街中で、それも先に抜けば、理由の如何を問わず子供でも巡邏衛士に捕まるのよ。私は教えた筈よね、ビクター?」


 名前を呼ばれたのは、相当に怒ってる証拠だ。
 背中に冷たいものを感じながらも抗弁を試みる。
 いや、抗弁は止めだ止め。

 街中で抜いちゃいけないのは聞いていたし、急場とは云え先に抜いたのも俺だ。
 それを否定するのは格好良くない。


「御免なさい」


 深々と頭を下げた。
 すると、母親様がため息をついた。
 マーリンさんは小さく笑ってる。
 何故。


「成程。自制心があるな、ビクター君は」


「でしょ」


 意味が判らない。
 てゆーか、生暖かい目で見るのは止めて欲しい。
 マジデ。

 まぁ相手からすれば、俺は子供だからねー。
 今は我慢我慢。
 外見と中身の差が縮まるまでは、忍の一文字だ。
 畜生。



 それから少しだけ雑談タイムに突入する。
 マーリンさんの話は面白かった。
 この別嬪さん、傭兵さんでした。
 で、ウチの母親様との仲は戦友さんでした。

 かつて同じ傭兵団に所属しており、その頃にコンビで暴れていて、その頃は<双の剣姫>と呼ばれてたそうな。
 字名の所は、少しだけ恥ずかしそうに口にする。
 チト、萌え。

 クール系な女性が恥ずかしがるのはポイントが高いってもんである。
 そらね、自分の字名を人に教えるってのは、チト恥ずかしいものです。
 気分良く言えるのは病人だけです。
 ええ病気。
 その病の名は、厨二病。
 不治の病ですな。
 俺も死ぬね。
 死にたくなるね。
 主に恥ずかしさで。

 が、それはさておき。
 この話には問題が1つある。
 マーリンさんが母親殿とコンビを組んで活躍していたって所だ。

 うん。
 母親様は年齢相応に近い所があり“若々しいお母さん”ってカテゴリーには入りそうな按配だ。
 一緒にフロに入るのは、諸々で問題があるんで勘弁! ってな程度ではある。

 が、マーリンさん。
 若いとゆーか、若々しい。
 ぶっちゃけ20台前半に近い感じだ。
 主に肌と挙動が。
 この御仁、一体何時頃に戦場に出とったんですかい。
 或いはヒューマン種に見えるけど、エルフかなんかの長命種のなのかもしれない。

 まっ、美人さんだから良いことだけどネ。


 主に母親様とマーリンさんが会話し、それに時々俺が質問を挟むってな感じで進む。
 進んでいると、扉が鳴った。
 ノックだ。


「どうぞ」


 入室を許す母親様。
 何故に、俺を見るですか。
 そしてマーリンさん、何でそんなに楽しそうですか。
 ワケワカメ。

 んな俺の混乱を別にして事態は進行する。
 扉が開いた。
 最初に入ってきたのはマルティナさん。
 福々とした丸顔に、常ならば力強さを感じさせる表情を浮かべているものが、今は純粋に笑っていた。
 珍しい。

 チョイと、部屋に入ってきて脇に反れる。
 続いたのは妹と、女の子だった。
 シックな、ワンピースに近い格好をしている。
 チト流行遅れ――ってか、アレは確かウチの妹さんが着てたモノじゃなかったかい。
 母親様のお下がりで。
 アレってしたてモノじゃなくて、既製服? いや、でもこの時代っつか世界にマスプロみたいな概念って、武器とかにしか無かった気が。
 そもそも、アレだって工業ってゆーよりも、問屋制家内工業に近い程度のレベルだった筈。

 いやいやそれは良い。
 それよりも、この子だ。
 顔立ちも悪くないってか、ブッチャケ可愛い。
 が、誰だか判らない。
 何故にこの場に来たのかが判らない。
 母親様の客人かもしれないが、余程の事が無い限り、マーリンさんとの歓談の場に迎えるとは思えないからだ。


「…?」


 そんな風に考えていたせいだろう。
 紳士にあるまじく、女の子の顔をじっと見ていたのは。

 視線があった。
 頭を下げてくるんで、此方も下げる。

 うーむ、見覚えが無い。
 正確には違う。
 見たような気がするのに、見覚えが無いのだ。

 割と性能が良い、このビクターの脳みそは、何ぞの細かい事もよく記憶できる。
 なのに、だ。

 そんな俺の疑問を解消したのは、女の子に続いて入ってきた妹、ヴィヴィリーだった。


「おにいさま、そんなに女性の顔を見るものではありませんよ」


 お父さん大好きっ娘で、お母さんを大尊敬していて、日々レディたらんとしている妹だ。
 大人ですって風を見せている、そんな背伸びが可愛らしい我が妹である。
 もうね、可愛い訳よ。
 自分の口の端が緩むのが判る。


「騎士は淑女を護るものですから」


 こまっしゃくれた表情で言って来るヴィヴィリー。
 そゆう部分も可愛い奴である。
 兄馬鹿の自覚はある。
 否定はしない。
 俺の妹だ。こんなに可愛くて問題があろうか、否、無い。


「ああ、そうだね。騎士的じゃなかったな」


「そうですわ。おにいさまはまだ騎士叙勲を受けていませんが、何時かはおかあさまの様な立派な騎士になるんですから」


 立派な騎士ってのの代名詞が母親様ってのは、きっと我が家だけだろう。
 うん。
 親父殿は官吏さんだからな。

 マーリンさんも笑ってる。
 んで、女の子はどう反応して良いか判らずに、首を小刻みに振って周りを見ていた。



 子供らしい反応をした子は、助けた子供だった。
 そう言えば漸く名前を聞いた。
 ノウラだ。

 俺が着替えをしている時、この際だからと母親様が入浴をさせてあげる様に言っていたのだ。
 服は、背格好が近いヴィヴィリーのお古をあげたんだと。

 入浴して小ざっぱりとした格好をしていれば、益々可愛らしくなる。
 ヴィヴィリーと喋っている姿など、何とも子供らしく愛らしい。
 子は国の宝ですな、マジデ。


 それはさて置き。
 子供たちの姿を愛でながら、耳は親s'の方へと向けておく。
 視線がチラチラとコッチを見ながら会話をしているのだから、警戒しておくにこした事は無い。
 まぁ、我が母親様も親馬鹿の系統だから無茶は無いと思うんだが、同時に、獅子な人なんで油断は出来ないのだ。
 うん。
 ハムハムコクコクってブリテンで、伝説からTS喰らった某人物じゃなくて、どっちかってぇと赤毛でゴジラな女王様っぽい感じで。

 うん。
 要するに、千尋の谷に突き落としそうな風なのである。


「ビクター」


 警戒してたら、即効で呼ばれた。
 慌てずに近づくと、笑顔で言われた。
 男の子なんだから責任を取らなきゃね、と。
 なんでさ。








[8338] 0-05 社会見学?
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:5b2d9446
Date: 2010/11/23 11:26
 責任を取りなさい。
 酷い言葉だ。
 独身貴族で優雅に人生を楽しんでいた俺にとって、信じられないとゆーか、聞きたくもない言葉ではある。

 が、今は大丈夫。
 種を撒き散らしていないから、取る様な責任は無い。
 無いったら無い。
 そもそも精通してないから、撒き散らしようが無い。
 しても、アレだ「ご主人様、ゴミ箱を妊娠させるお積りでしょうか」ってなモンだ。
 まぁ妊娠したらしたで笑うが。


 絶賛混乱中。


 というか只の一言のこの威力。
 多分、核兵器並み アトミーック! だとばかりにフリーズしたが、何とか再起動。
 真意を問えば、母親様は非常に楽しそうに言葉を続けた。
 探してあげるって言ったんでしょ、と。

 正しい意味で再起動。
 真面目回路が起動する。


「諸々と盗られちゃったみたいだからね。宿はウチに泊まれば良いし、後は貴方が街を案内してあげなさい。冒険者ギルドとかの場所は判ってるわよね」


「はいっ」


 景気よく答える。
 そゆう事なら大賛成だ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-05
社会見学?











 当日はお泊りのノウラ。
 そしてマーリンさんだ。
 この年齢不詳の女性、傭兵さんだが並みの傭兵さんでは無かった。
 <北の大十字>傭兵騎士団と言う、大規模な傭兵部隊の部隊長だと言う。

 <北の大十字>は、<群れ成す白狼>や<天突く矛>と並ぶ3大傭兵騎士団なのだと、酔ったマーリンさんが少しだけ自慢げに言っていた。
 オマケに、半国営でもある、と。
 戦時になれば、王国軍の正規部隊に強制的に参加させられるが、その代償として税金が安かったり、傭兵騎士団の施設を国から借りれたりするらしい。
 まぁ、パイドでバイパーな騎士団みたいなモンなんでしょうね。
 そこ等辺はどうでも良い。
 問題はネーミングだ。
 ブッチャケて微妙かなとも思うが、言葉がネイティブだから仕方が無いのかもしれない。
 日本人だった頃の悪癖かも。
 外国語の名前を無駄に格好良く思うのは。
 その悪癖に則って英国風に言えば、<北の大十字>は<ノーザンクロス・マーセナリーナイツス>か。
 うん、悪くは無いか。
 銀河で妖精さんを連想するのは正にグッドだ。

 妖精さんに関しては、持ってっけ~♪ が、もう聞けないのは悲しいが。
 メッチャ、悲しいが。
 まぁ仕方が無い。


 兎も角、だ。
 そんな立派な傭兵騎士団の部隊長さんなマーリンさんは、今回、長期休暇として王都に来ているとの事。
 何でも、1年近く拘束される仕事をこなしたんで、団長さんから部隊丸ごと1ヶ月の長期休暇を獲得したとの事。

 で、その長期休暇で久方ぶりに我が母親殿の顔を見に来たんだと。
 ナンと言うか、スゴイ確率での偶然だ。
 この偶然さえ無ければ怒られなかったのにとか思うと、チョイと悔しい。




 そんなこんなで、何時もより2人増えたヒースクリフ家。
 親子4人にお客さん2人、それにマルティナさん。
 食卓は賑やかでした。

 城から帰ってきた親父殿、マーリンさんにはなれた風にご挨拶。
 そしてノウラに関しては笑顔で挨拶。
 そして俺に対し、力になってあげろよと言う。
 うん。
 人間の出来た人である。

 普通にこの世界は封建的要素がメッチャ強くて、貴族だの官吏だのには辺境の村人を人扱いしない阿呆も少なくないが、親父殿はそれを一欠けらも持っていない。
 それどころか、真剣にノウラを気遣ってあげていた。
 傭兵ってか、平民上がりの母親様なら判るが、父親殿は貴族側に近い裕福層の出なのに人として下卑た所の無いのは、正に教養人なのだろう。

 そんな父親だから、ヴィヴィリーもノウラと仲良く話しているのだと思う。
 家族面で俺はかなりハッピーだなと再認した。

 天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずってね。
 平成の日本人的メンタリティが強い俺としては、ホント、幸福さね。


 だからニコニコとしていたらマーリンさんから冷やかされた。
 曰く、オッサン臭い(意訳)と。

 ほっといてくれ。





 寝静まった夜。
 灯火の燃料は貴重品なので、俺の部屋も真っ暗だ。
 魔法で光を点けるってのもあるし、覚えてもいるが、アレはアレで面倒くさい。
 不便。
 俺の能力じゃ、1日に3回しか唱えられないのに、その1回で点いている時間は1分にも満たない。
 エネルギー効率が悪すぎる。
 使えるか、んなモンである。

 と云う訳で、暗い部屋で動く。
 勉強机の引き出しを引っ張り出し、その奥のスペースに置いていたものを取り出す。
 エロイ本――では無い。

 星明りに、ずっしりと重い皮袋が照らし出される。
 金だ。
 溜めていると知られると、微妙に恥ずかしいのでこっそりと貯めていたモノだ。
 重たいのは中身が多いからでは無く、小銭が多いからだ。

 音がしないように厚布を広げた机の上にひっくり返すと、20gr銅貨や10gr銅貨がジャラジャラと出てくる。
 1山分はある。
 殆どが銅貨で、稀に10gr銀貨があるが、まぁ1枚っきりだ。

 1gr銀貨が100gr銅貨と等価で、10gr銅貨が100円玉ぐらいの価値がある。


「ひぃふぅみぃっと………合わせて7746grか、溜まったなコレは」


 日本円に直せば約8万円か。
 一週間分のお小遣いが1gr銀貨ってのと、お手伝いのお駄賃を貯めていたってのも大きいが、にしても溜まっているモノである。
 手早く袋に仕舞いなおす。
 こんな夜中に金を確認したのは、俺が夜中に金を見てニヤニヤする趣味があるからでは無い。
 明日、ノウラと一緒に冒険者ギルドに行く時の軍資金だ。


 冒険者ってのは個人営業の武装集団だが、同時に山師集団の側面もある。
 基本何でも屋なので、まぁそんなモンでしょ。
 と言うか、この世界に於いて信じられねーと思ったのが、この冒険者って職なのだ。

 小規模な商隊の護衛から個人の護衛、或いは探し物。古代遺跡の探索etcと、やってる事はゲームなんかと変わらんが、ブッチャケ、そんなんで良くも飯が喰えるなぁと思う訳で。
 まぁ、この世界が剣と魔法と言うか、暴力至上主義ってな側面があるんで、成り立つのかもしれないが。

 まぁ冒険者はどうでも良い。
 兎も角、駆け出しから熟練まで、色んな人間がいる冒険者の元締め達から情報を得ようと思っているのだ。
 だったら、まぁ喋りやすくなる山吹色の鼻薬は必須でしょってな感じである。

 情報料って奴だ。
 この世界には個人情報保護法ってのが無いのが在り難い。

 このヘソクリ、2年掛けて貯めた金だが、まぁ惜しみなく使うとしよう。
 そーゆーのも含めて責任を取るってか、面倒を見るってモンである。
 係わり合いを持ったからには、最後まで。
 コレも又、ノーブル・オブリゲーションって奴かもしれない。


 皮袋の重さを確認する。
 子供が持つにはチト重いし、何より大きい。
 明日は外套を着て行かないとと思う。

 さて、寝るか。










 気持ちの良い風が駆け抜けていく王都。
 尤も、少しばかり埃っぽいが。

 馬の蹄が痛むって理由で道路が舗装されていないのだ。
 どの道も全て軍事用に使えるようにと考えられているのだ。
 何とも見事な軍事優先である。


「まっ、だから風呂が発達してるんだけどね」


「温かい水に浸かったのは初めてでした」


 ニパっと笑っているノウラ。
 寒村出身故に語彙は乏しいが、この子ってば知性と言うか品性を感じさせる喋り方をしている。
 実家はそれなりに金があったと云うから、教育を受けているのかもしれない。

 会話していて楽しい。
 まだまだ子供だが未来が楽しみである。

 尚、その服装は昨日と同様に、ヴィヴィリーのを借りている。
 外出用の服だ。
 ヒースクリフ家は馬車を常時用意していられる様な裕福家では無いので、家族向けの服も、こんな実用本位なモノが揃っている。

 尚、そのヴィヴィリーも今日は同行したがっていたが、ピアノのレッスンがあった為、断念していた。


「温めた水は“お湯”って言うんだよ。村には無かった?」


「はい。体が汚れた時は川に行ってました」


「まっ、そんなモノだよね」


 薪が勿体無いしと理解する。
 水が豊富で、薪ってか森林資源も豊富で無いと入浴なんて贅沢な真似を連日する事は出来ないのだ。
 日本てのは何とも豊かだったのさね。

 今の生活に、基本、不満は無いが青――水気が多いのは良いが森の緑を余り見れないのは嬉しくないものだ。
 仕方が無いが。


「ですからビクターさんの家でえっと、おゆ? お湯をいただいた時は吃驚しました」


「呼び捨てで良いよ。同じぐらいの年だしね」


「えっ、でも」


「気にする事は無いノウラ嬢。当の本人がソレを希望しているのだ。遠慮はいらぬのだよ」


 フォローが入る。
 暇だから、と付いて来てくれたマーリンさんだ。
 休暇をこんな子供s'に振るなんて、スゲェ良い人だ。


「じゃ、その、ビクター?」


 照れた感じがとってもグッドだ。
 でもまぁ、この年頃で分別を持つノウラもスゴイとは思うが。
 何て考えていた返事が遅れた。

 ノウラが微妙に不安そうにコッチを見ている。
 正直スマンカッタ。


「はいな。宜しく」


 その一言で笑顔になるノウラ。
 マーリンさんも笑ってる。
 俺も、多分、笑ってる。
 微笑ましい雰囲気。
 だがそんな中でもマーリンさんは、周辺に隙の無い視線を向けている。
 お陰で、余り不快な視線にさらされずに済んでいる。
 良い人だ、ホントに。
 惚れそう。

 とゆー訳で、冒険者ギルドへ向かう。


 簡単に到着。

 この冒険者ギルドって奴は、ゲームのように全ての冒険者を統括するようなものでは無く、言ってしまえばMMORPGに於けるクランみたいなモノだ。
 契約によって各冒険者ギルドに所属し、仕事をこなす。
 ある意味で派遣会社と派遣社員みたいな関係だ。
 医療とか福祉とか、そんなサポートが無い辺り、特に。

 まぁ、社会保障の無い世界だから仕方が無いと思える。
 これが、軍事専門の傭兵だと、戦時に動員する必要性なんかがあって、割と国からの支援があるんだけど、冒険者は個人営業故に、そんなものは受けられない。
 シビアだ。
 まぁその分、仕事の選択権を個人が有しているので、無理をしなければ良いのだが。

 兎も角、そんな冒険者ギルド、この王都には6つある。
 初心者向けの安全安心な仕事を斡旋する<栴檀の双葉>亭や、ハイリスクハイリターン上等の<踊る人形>亭など。
 際物としては、物流を担っている商人達が出資して設立された、商隊護衛専用の冒険者ギルドである<千里を行く虎>亭と云うものまである。
 基本的に、冒険者ギルドは酒場を兼ねる様な場所であり、慰安も出来る風になっている。
 ブッチャケ、稼いだ金を巻き上げようとしている様にしか見えないが。
 まぁ当人達が満足しているのなら、他所モンが何を言うべきでも無いが。

 後、全ての冒険ってか依頼は国営の冒険者ギルド斡旋所に1回上げられて、それから各ギルドへと配分されるんだそうな。
 当然、手数料を取ってである。
 冒険者を野放しには出来ないって事だね。
 後、小遣い稼ぎか。

 そんな感想を言ったら、マーリンさんに苦笑された。
 まっ、ホントにそうらしいが。


 そんなこんなでやって来た冒険者ギルド。
 別に拘る事も無いので、ウチから1番近いギルドへ入った。
 <紅の剣>亭。
 物騒な名前だが、中はもっと物騒だった。

 実戦を経て傷ついた装備を纏った冒険者達は、何とも物騒な表情で酒を料理をかっ喰らい、給仕の女性達にセクハラかましている。
 うん。
 ノウラにはキツイ環境かなって思ったが、そのノウラは緊張した顔で、ギルド・マスターってか仕事斡旋カウンターに立っている人に話しかけていた。


「すいませんが、1つお聞きしたいのです」


 緊張している。
 行方不明の父親の手掛かりになるかもしれないのだ。
 そら、集中するか。

 マーリンさんがノウラの後ろに立っているので、ソッチは安心。
 だから俺は、周囲を警戒する。

 荒くれ者が多い場所で、妙齢っぽい女性と女の子なのだ。
 からかわれない方が変だ。
 否。
 そもそもとして、言葉でからかうならまだしも、オイタをする人間が出ないとも限らないのだ。
 俺は用心して周辺を警戒した。


 別に、女給のオネェサンの扇情的な格好が素晴らしいとか、あの搾り出す様なデザインの服でオパーイが( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい! と思っている訳では無い。
 後、お尻とかに手を伸ばしているのが羨ましいなんて欠片も思っちゃ居ない。
 本当だ。
 マジだ。
 俺は紳士だ。
 紳士と云う名の紳士だ。

 多分。


 集中力がスコーシだけ撹乱されているが、それでもノウラとマスターの人の会話は聞いている。


「お願いします、アルって名前なんです」


「いや、ウチも登録している人間は多いからねぇ。アルなんて名前は、多いんだよ」


「中肉中背で、肌は浅黒い感じで」


「そんな人間、ここにはゴマンと居るよ」


 こんな感じで糠に釘、暖簾に腕押しである。
 まぁ名簿らしい物はあるとの事なので、単純に面倒くさいのだろう。
 金に成らん仕事だし。

 マーリンさんは一歩下がって見ている。
 ノウラがどうするか見ている。
 或いは、子供が成長するチャンスを摘まない様に考えているのか。

 まっ、俺は動くがね。
 外套の隠しポケットから10gr銀貨を取り出すと、ノウラからは見えない様にカウンターの上に置いた。
 何も無しにこゆう事をすると、下策ではあるが、今はマーリンさんが居る。
 並みの冒険者よりも迫力をかもし出している人だ。
 銭だけ取って口を拭うって真似はすまい。


「お願いします。連絡を取りたいだけなんですから」


 マスター、素早く硬貨をゲット。
 何食わぬ顔で真贋を確認すると、ポケットへと落とす。


「判った判った。そこまで言うなら確認してきてやる。名前と背格好は判ったが、出身地と身長を教えろ」


 その言葉に、笑顔に成るノウラ。
 それまで泣きそうであったが、満面に喜びが浮かんでいる。
 知っている父親の情報を言うと、何度も何度も頭を下げた。


「有難うございます、本当に有難うございます」


「………名簿を確認するが、無くても文句は言うなよ」


「はい。お願いします」


 素直な子供らしいノウラの仕草に、笑顔に、マスターも照れる様に頬をかきながらカウンターの奥へと歩いていった。


 さてさて、俺のお小遣い2か月分だ。
 キッチリと結果を出してくれると嬉しいのだが。








[8338] 0-06 現実はチョイと厳しい
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:27
 冥王さんで天地魔闘な世界で、某苦労人は言っていた。
 人生ってこんな筈じゃ無かったって事ばかりだと。

 まぁ思うとおりに行かないのが人生で、であるが故に面白いって思えるのは俺が、本質的にはオッサンで、神経が太いからだろう。
 だが、子供はそうでもない。

 子供天国☆フリーダムを是とする日本人的メンタリティをまだまだ残している俺は、子供には笑っていて欲しいと願っている。
 こんなファンタジーで中世な世界では、それが果てしなく困難である事は理解しているが。
 それでも、願う位は赦されると思う。











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0-06
現実はチョイと厳しい











 結局、トータルで掛かった経費は3820grだった。
 全ての冒険者ギルドで銭を要求された訳で無く、飲み物の1つでも注文しろってな感じだったので、その程度で済んだのだ。

 後、マーリンさん素晴らしい。
 俺がコッソリと袖の下を使っているのを気付いて、でも見て見ぬフリをしてくれたから。
 イイ女ってなモンである。
 面子を立たせてくれてたのだ、自分の大人としての面子より、俺を立たせてくれたのだ。
 男には護るべき誇りってものがある。
 それが、ある意味で生きている張り見たいなものなのだ。
 全く、感謝感激である。


 そんな風に、気楽に考えようとしても、考えられない。
 足取りが重く思える。
 理由は、ノウラだ。

 振り返って確認。
 ノウラは、俯いて歩いている。
 手には、布に包まれたモノ――業物っぽいショート・ソードを抱きかかえて。
 そして俺が持っている小々の品物。
 それがノウラの父、アルと云う男が夢を追った残滓だった。

 アルは冒険者になり、それなりには稼いでいたらしい。
 でなければ、ショート・ソードとは云え業物の武具は買えない。
 だが死んだ。
 商隊の護衛で<黒>の跳梁する東方領へ向かい、そこで死んだのだ。
 詳細は不明。
 アルの属していた冒険者グループ丸ごと、商隊と共に皆殺しにされているのだ。
 もう2年ほど前の事だそうだ。

 ショート・ソードは、その冒険に出る前に発注したモノだった。


 一般に冒険者ギルドは、死亡した冒険者の遺品を登録出生地に送付する。
 冒険者を志す理由は、一攫千金を狙ってのも多いが、同時に、家族に食わせる為ってのも多い。
 だからこそ、冒険者ギルドは、死んだ冒険者の遺品遺産を確実に送付するのだ。

 流石に遺品を送るために派遣と云うのは無いが、所属している冒険者が死亡した冒険者の故郷の近くに行くのならば、必ず委託していた。
 又、託される冒険者も、自分がそうして欲しいが故に、その依頼を拒む事は無い。

 それは、“最後の優しさ”と評される行為であった。

 冒険者を使い捨てにしていると批判される事の多い冒険者ギルドだが、使い捨てにするだけで人は集まるものでは無いのだ。
 今現在、この王都に生き残っている6つの冒険者ギルドは、それを理解するが故に、今まで存続できた――そう、マーリンさんは説明してくれた。

 そしてショート・ソードを抜く。
 2年の時をへて煌く剣。
 その質実剛健な刀身の手元には申し訳程度に、彫刻が施されている。


「実用本位だね………いや、それだけじゃ無いか――ノウラ」


 そっとノウラを呼び、彫刻を見せた。
 俺も便乗して観察すれば、何故、マーリンさんがノウラを呼んだか判った。
 唐草模様に似た彫刻に紛れて、護りの力を意味する魔術文字とノウラの名と、そしてもう1つの女性の名が刻まれていた。
 恐らくは、ノウラの母親だろう。

 ああ、決してアルは故郷を捨てた訳でも、ノウラたち母娘を忘れた訳でも無かったのだろう。
 何時は帰ろう。
 故郷へ錦を飾ろうと考えていたのだろう。
 それが、判った。

 遣る瀬無さを感じる。
 そして何より、その事を聞いた時のノウラは見ていられなかった。
 泣いていた。
 声を上げずに泣いていた。

 子供が声を殺して泣いているなんて、見ていたいモノじゃない。
 だけど、俺にその涙を止める術なんて無かった。
 2つ合わせて30余年生きているが、そんな単純な事1つ出来ないのだ。
 不甲斐ないと歯痒い。

 だから、そっとマーリンさんがノウラを抱きしめた時、助かったっと思った。




 大人になりたいね、全く。
 泣いてる女性の1人くらい、簡単に鎮めてあげられる位の大人に。
 畜生。

 いや、子供らしく鎮める方法もある。
 KYスキルを発動させるのだ。
 幸いに、ここら辺は露天街、小道具には事欠かない。

 周辺をサーチ。
 我が最大の道楽、買い食いで得た情報で上手いスイーツを探す。
 どこかでゆっくりとしようとすれば、拒否するだろう。
 故に重要な事は、押し付ける事。
 甘いものを喰って腹が膨れれば、人間、少しは心に余裕が出来るってなモンである。

 サーチ。

 …検索中。
 ……検索中。
 ………検索中。

 怖い考えになる前に発見。
 個人的王都グルメランキングでベスト10に入るスイーツ、クレープ屋<白丸>だ。
 この世界のクレープ、まぁ正確には、生クリームとかも使っていないクレープに似た何かだが、美味しい事には違いが無い。
 美味は正義なのだ。

 とゆー訳で、ツツツーっと行って売れ筋のTOP3を購入。
 先ずはマーリンさんに1個。
 俺の意図を理解してか、小さく笑ってる。
 俺も、苦笑に似たものを唇に貼り付けて頷く。
 それからノウラだ。


「食べろ」


 差し出すクレープ。


「えっ、あっ」


 俯いていた顔が、少しだけ上がる。
 表情がボウっとしている。
 ハイライトの消えた瞳、所謂レイプ目ってな感じだ。
 そらね、仕方が無い。
 必死になって探していた父親が、既にアボーンでは、ショックを受けるのも当然だ。
 だがしかし、だ。
 そこで立ち止まっている訳には、いかないのだ。

 生きているのだから。
 今日も、そして明日も。

 であれば、死者に引きづられる訳にはいかないのだ。


 まぁ、哲学的っぽく言えば、そんな感じ。
 本音では、子供が辛い顔をしているのは好みじゃないからだ。
 だから無理にでも、クレープを進める。

 喰って、そんで心の内に溜め込んだ感情の1つでも吐き出せば、少しはマシになる。
 成れるのだ。


「食べろ、美味いぞ」


 自分の分をパクリと食べる。
 うん、水気を含んだモモが、とってもテイスティ。


「でも………その……」


「食べろ。昼もロクに食べなかったんだ。腹が減ったままだと、気分は更に落ち込むぞ」


 モジモジとしているノウラ。
 その手からショートソードの包みを取り上げて、無理矢理にクレープを持たせる。
 そして俺は、わざとゆっくりと自分の分を喰う。
 目の前で、ゆっくりと咀嚼し、嚥下する。

 その行動につられて、ノウラも小さく口を開け、クレープに齧り付く。
 小動物に様に、小さく噛み千切り、そして噛む。
 飲み込む。
 そして又、小さく噛み千切っていく。

 俯いたまま、黙々と食べるノウラ。
 段々と噛む速度が遅くなっていき、そして止まる。

 小さな、その肩が振るえる。
 声を殺して泣き出した。

 感情をブチマケロとは思ったが、天下の往来でコレは無い。
 左右を見る。
 みんなコッチを見てる。
 コッチ見んな。

 マーリンさんを見る。
 コッチを見てる。
 助けに来てくれる気配なし。
 アイコンタクト、ノウラを抱きしめてくれと依頼するが、すげなく拒否される。
 自分で頑張れ、と。

 ファック。
 その胸、揉むぞ犯すぞ畜生め。

 イッっとした表情をマーリンさんに送ると、それからノウラを抱きしめた。
 俺、というかそもそもの「     」のキャラでは無いが、仕方がない。

 頭をそっと抱え、落ち着かせる様に、背中を優しく撫でる。

 ついでに、極自然に、道の横の方へと移動する。
 うん。
 道の真ん中で子供とは云え女の子と抱き合うなんざ、それなんて拷問? だ。
 不謹慎なのは、俺の内面だけ。
 外面は紳士に紳士に紳士に。


「泣いて良い、良いんだ、ノウラ」


 そっと告げる。
 その一言が涙腺を破壊したらしく、俺の左肩の方が温かくなる。
 泣いている女に胸を貸すのは、男冥利に尽きるってものだ。
 まぁ身長差がトンと無いので、肩を貸すってのが正解なのは、ご愛嬌だが。

 兎も角、泣き止むまでは何処でも幾らでも貸してやるさね。








[8338] 0-07 予備動作、その名はマッタリ
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:28
 ノウラが泣き止むまで小一時間掛かった。
 同じ姿勢なので背中が痛かった。
 周りの目が痛かった。
 が、まぁ漢の見栄だ気にすまい。

 問題は1つ。
 落ち込み果て、泣いて感情を破裂させたノウラの再起動に、クレープが3個も必要だったと云う事。
 否、それだけでは無く、焼き鳥みたいな羊肉の串焼きや、揚げたパンつーぅかナンみたいなものまでゴッソリと食べた事。

 ハムハムコクコクと、小動物の如く食べている筈なのに、俺よりもエレェ早く喰う。
 いやいや、それは良い。
 外套の何処其処に潜ませていたヘソクリが粗方無くなったのも、まぁ良い。
 食べ終わった後で、ニコッと笑ったのだ。
 報酬としては、それで十分だった。

 何が問題かと言えば、喰い終わった後の腹痛だ。
 そらねー アレだけ喰えばねー と苦笑する事しきり。


 んで、流石に背負うのは体格的に無理なのでマーリンさんが背負ってくれて、帰りました我が家。
 カクカクシカジカとご報告。
 そしたら又、褒められて怒られた。

 女の子の涙を止めたのは偉い。
 だけど、食い物で釣るってどーよ。
 しかも、腹を壊すまで食わせるなんて。

 母親様と妹が一緒になって俺を怒った。

 マーリンさんは、我関せずと一歩引いている。
 マルティナさんはこの場に居ない。
 同じ男、我が父に救いを求めるアイコンタクト。


 発:俺 宛:父
 本文:タスケテMyファーザー

 発:父 宛:俺
 本文:ガンバレ


 そして父はそっと視線を外した。
 おのれー



 結局、マルティナさんがご飯の支度を終えるまで、懇々と怒られました。
 良い事をした筈なのに。

 全米よりも涙腺の硬いはずの全俺が、俺の境遇に泣いた。
 女の子の心理なんぞ、判るかってぇの。










異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-07
予備動作、その名はマッタリ











 一応は目的を果たしたノウラ。

 ついでだから何日か遊んで帰れば良いじゃないと、母親様とヴィヴィリーが主張。
 お父ちゃんは、部屋は余ってるしと側面支援。
 マルティナさんは好き嫌いの確認をと言っている。
 中立は俺とマーリンさんか。

 マーリンさんは遊びに来ている立場だし、俺の場合はアレだ、村の話が念頭にあっただけで。
 襲われかけているって事と、そしてノウラの実家も心配するだろうって思えたのだ。

 そしてノウラの決断は、帰郷だった。
 最初に、有難うございますっとの言葉を置いて、それから帰る理由を述べる。
 先ずは父親の事を母に伝えたい。
 で、村は万が一の<黒>の襲撃に備えようとしている。
 自分も村人の1人として、それを支えたい、と言う。

 しっかりとした子だとは思っていたが、うん、ここまでとは思わなかった。
 チョイと感動した。
 俺以外にも、大人組みは皆、感動している。
 フォークを動かすのが止まっている。

 ヴィヴィリーだけは、残念そうな色が強い。
 こしゃまっくれた所はあるが、まぁ歳相応で、此方も安心だ。


 しばしの沈黙。
 と、母親様が何かを考え付いた表情になった。
 そこに疑問を抱いたが、その後、特に何をする事も無く、夕食は終了した。





 その後、歓談室にて食後のマッタリ。
 お茶が供される。
 紅茶だ。
 砂糖無しでミルクのみ。
 まー時代背景からして仕方が無いが、緑茶が飲みたい。
 玉露なんて贅沢は言わないから、番茶が飲みたい。

 まっ、慣れたし諦めたけど。


 父は煙草を嗜んでいる。
 パイプ煙草だ。
 燃える香りは、現代の香料タップリのモノとは一風違ったモノであるが、懐かしい。
 我が愛しの御フランス産、ゴロワーズの青いパッケージが。
 上品なあの匂い、マッチで点けた時など最高だった。

 そんな気分が顔に出たのだろう。
 父が茶目っ気たっぷりに言った。
 まだ早い、と。
 それは否定しない。
 まだ10歳を超えたばかりのお子チャマだ。
 心肺系がまだ成熟していない状況でニコチンを入れるのは馬鹿だ。
 だが、チョイとだけ悔しい。
 だから1言、言葉を添える。


「ケチ」


「それが大人ってモノだ、ビクター」


「吸い過ぎに注意してね」


「大丈夫だ。食後の、この一時だけの楽しみだからな」


 職場などでは吸えたものでは無いと笑う父。
 そうかもしれない。
 父の職場は宰相直轄の政務執行組織である宰相府、その中でも貴族の諸々の情報を管理する貴族院に勤めているのだ。
 そら、貴族階層出身では無い父にとっちゃ、そんな余裕は無いのも当然か。

 我らが母親様と結婚する前に就職してたって話だから、昔剃刀今昼行灯な某人物の如き才覚溢れる人間だったのかもしれない。
 尤も、今現在は付け届けだのの事がトンと無い所からして、出世レース的には本流ら外れてるっぽいが。


 さておき、窓際の父の隣で煙草を吹かしている人物がもう1人。
 マーリンさんだ。
 此方は、パイプでは無く葉巻を吸っている。

 葉巻って一本辺りが結構良いお値段がしてた筈で。
 うん。
 傭兵部隊って中央省庁よりも高給取りなのかもしれない。



 ノンビリとした時間。
 お子様組のヴィヴィリーとノウラは既に床に就いている。
 俺も去年までは寝ろと命じされていたが、今は許されている。
 大人の階段を一歩登ったのだ。
 まぁ煙草とか色々な階段は、まだまだだが、まぁそこは追々である。

 フト、母親様が飲みかけのカップをテーブルに戻した。
 芳醇な香りを漂わせるその中身は、紅茶ではない。
 元々は紅茶へと香り付けに使ってた蒸留酒が、いつの間にか純度が上がり、生となっていた。

 ビンを一本開けそうな勢いだが、その顔色に変化は無い。


「ねぇ貴方」


 目元にだけ艶の浮かんだ瞳、その先に居るのは当然ながらも父。


「ん?」


「今年の夏季休暇、予定はもう立ててるの?」


「いや、まだだよ」


 この国の富裕層にはバカンスの習慣がある。
 正確には、この王都には、である。

 軍事的要素が優先し建築されている王都は、それ故に居住性――快適性に乏しい面がある。
 馬車の為に道路は舗装されておらず、市街は基本的に幾重にも重ねられた堀や城壁によって細かく区切られているのだ。
 上下水道こそ、篭城戦に備えてローマ帝国もかくやってなレベルのモノが整備されているが、それだけ。
 噴水とか公園とかは、整備などトンと成されておらず、兵舎や練兵所などが優先されているのだ。
 神殿などですら、外周は神を称えるレリーフ等よりも防衛拠点としての建築が成されている始末だ。
 そら、住み易い筈が無い。
 衣食住の全てに満足できても潤いが無いのだ。
 仕方が無い。
 故の、バカンス。
 避暑も兼ね、兵の夏季訓練と称して、高原などの涼しい場所へ向かうのだ。

 人間、張り詰めているだけで人生は生きられんのです。
 そゆう訳で、元々は兵を養っていた大貴族らの嗜みであったが、今では下級貴族や騎士階級までも行く習慣となっていた。

 我がヒースクリフ家の夏季休暇でも、基本的にはその通り。
 避暑的な要素が大きく、国営の、軍役関係者向けの狩猟場に行ったりもするが、それ以上に、気分転換的な側面が強い。
 否。
 強かったと言うべきだろうな。
 この話の切り出し方から察するに。


「なら、行きたい所があるんだけど………」


 目でモノを言う感じだ。
 但し、誤解する事の無い様に補足すれば、その言いようが極めて威風堂々としたもの――などでは無く、甘えるような風だと言う事だ。
 この2人、実は恋愛結婚で、しかもゾッコン側は母親様だと言う。
 恐ろしい。
 実に恐ろしい話であった。

 まぁどうでも良い話である。
 他人の色恋沙汰に首を突っ込むのは野暮で、それが親のとなれば尚更ってモノである。

 まっ、それはさておき。
 父親の反応は、在る意味で正に夫婦と云うものであった。


「マバワン村なら、馬車とかの手配をしないとね。色々と持ち込まないといけないだろうからね」


 片頬を上げて言う父。
 武の術に於いて母親様に圧倒されている父ではあったが、人の基本として強さを持っていた。


「相変わらず、仲が良いね」


 マーリンさんがご馳走様っと言う。
 どうやら、昔からであった模様。
 ホント、ご馳走様である。


 そんな外野はさておき、仲の良い2人は、トントンと予定を立てていく。
 父は直ぐに休みが取れないので、後から合流。
 故に先行するのは母親様とノウラ。
 当然のマルティナに、暇だからとのマーリン。
 そう、俺とヴィヴィリーは居残りが決まろうとしていた。

 それは、好みじゃ無い。
 この身は子供であるとは云え、全くの無力と言う訳では無いのだ。

 それなりに力はあるので、炊き出し他、雑役は何だってこなせるのだ。
 前線に立つのに不足はあっても、決して足手まといにはならない自信があるのだ。

 その事を強く主張して見る。


「ビクター………」


「責任を取れって言われましたら、最後まで頑張りたいだけです」


「冒険趣味じゃないわよね?」


「はい」


 ブッチャケ、鉄火場は余り好きじゃない。
 命の遣り取りってのは、まだ割り切れる事ではない。
 が、ノウラの事を母親様らに任せて、俺シラネーっと口を拭うのは出来ない。
 うん、良い表現があった。

 このまま放っぽり出すなんて“後味が悪い”ってな事だ。
 魔道探偵乙ってな気分なのかもしれない。
 ロボット的な正義の求道は趣味じゃない。だからこそ、立候補であり、否定されれば、素直に退くつもりだ。
 だって、俺が子供であるのも事実だから。


「………」


 大人たちが視線を交し合う。
 俺は、じっと立って返事を待つ。

 しばしの間。
 俺的に、凄い長時間の後、ポツリと母親様が決断を下した。


「私の指示、絶対に違わないのよ?」


 それが、実質的な俺の参加への許可だった。
 だからこそ、背筋を伸ばして返事をする。


「必ず」


 それは俺にとって、宣誓でもあった。








[8338] 0-08 只今、準備中
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:28
 朝食を終えての一服時、母親様が家族丸ごとマバワン村へと向かう事を宣言した。
 それを聞いたノウラは瞬きを繰り返し、じっと母親様を見る。
 何を言われているのか、判らなかった模様。

 ですよねー ってな風に思う。

 誰が田舎の寒村に、休暇に訪れると言うのだ。
 誰が、危険となり得る場所へ訪れると言うのだ。
 ノウラは、年に比して聡明な子供だ。
 だからこそ、驚いたのだろう。


「でっ、でも………その、村は貧乏で戦って貰っても……………」


 山間の寒村なのだ、そらそうだろう。
 だからこその夏季休暇、バカンスなのだ。

 うん。
 個人的にはアレだ、そこまで理屈を重ねるよりも、直で『健気なノウラが気に入ったから、助けてあげる』って言った方が判り易いって思える。
 まぁ、そう言い切れば余りにも見も蓋もない話しではあるが。


「あら、私達は夏季訓練に行くのよ? 獲物がただで手に入るなら有難いじゃない」


 ねぇ母親様。
 “獲物”って科白、本気でしたね、マジで。

 コブリンにコボルト、果てはトロールまでは多分、この女傑にとっては獲物でしかないのだろう。
 一度、熊とガチでかち合って圧勝していたのを見た。
 化け物としか言い様が無い。


「だから、気にする必要は無いわよ♪」


 母親様、語尾が踊ってるって。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-08
只今、準備中











 マバワン村へと向かう事が決まって、1日掛けて準備が行われた。
 荷馬車を一台用意し、武器や食料、医薬品などを準備する事となる。
 敵は<黒>の略奪隊なのだ。
 どれだけの規模が来るかは判らないが、まぁ10を下るって事は無いだろうからだ。
 その辺りは、経験者の母親様とマーリンさんに期待と云った所だ。

 それよりも、俺にとって重要な事は、手に持った重さだった。
 随行するので、護身用にと剣を帯びる事が許されたのだ。


 忙しい準備の合間をぬって、母親様から誘われた武器庫。
 そこは、子供と云う事で今まで入る事の許されない場所だった。
 その、厚い黒塗りの扉が、開かれたのだ。


「マジで?」


 思わず、そう呟いた。
 それ程に、武器庫の中は、ナンと言うか、圧巻だった。
 ずらっと綺麗に並べられた数々の武具は、良く手入れされている事を表す様に、蝋燭の焔を反射し、煌いている。
 否。
 蝋燭の光だけでは無い。
 明らかに魔力による帯光と思しきものも見えた。
 正直、只の男爵家の家にあるのは分不相応って思えるモノの数々だった。

 或いは、我がヒースクリフ男爵家が、裕福に見えないのって、実はコレに突っ込んでいるからか? と思えた。

 兎も角、圧倒される俺。
 対して母親様はズカズカと入っていく。
 行き先は剣が並べられている棚。
 小はショートソードっぽいモノから太刀やグレートソードみたいな大剣、果ては剣と言うには余りにも巨大な真っ黒な剣まであった。
 刃渡り200cmを優に超えるっぽい、長大な剣。


「Soreha,Kenntoiunihaamarinimoookisugita――か」


 思わず日本語で漏らした俺に、母親様が振り返る。
 が、俺の見上げているものを見て、笑いを浮かべる。


「貴方も男の子ね」


 ナンと言うか、ヤンチャ坊主を見るかの如き言葉に、少しだけ抗弁したかったが、どうしても視線は黒くてデカイ剣に向かう。
 うん。
 持ちたいなんて、欠片も思わない。
 只、素朴に疑問なのだ。
 こんな、オークとかトロールとかゆー 巨大亜人クラスの種族でも無ければ持ち歩けなさそうな凶器が、何故に我が家の武器庫にあるのか、と。

 まぁ、単純に考えれば、戦利品なのでしょうけども。
 もう何度も言うのもナンですが、ホント、我が母親様、化け物です。


「コレは、ドラゴンベイン。竜を討つ為に作られた剣よ」


 戦利品じゃ無かったんだ。
 だったらアレか、馬鹿な部分が武器マニアの琴線に触れて蒐集したのだろう。
 このコレクションを見れば、凄く納得であるが。


「ねぇビクター。何故、竜が最も恐るべきモンスターと呼ばれている理由は判る?」


「空を飛ぶから?」


 対空戦闘は厄介だ。
 イニシアティブを握られて、戦闘を継続なんて阿呆の極みだ。


「それは決定的では無いわ。打ち落とす方法なんてゴマンとあるわ」


「ブレスを吐くから?」


 火を代表として、毒だの酸だの凶悪なものが揃っている。
 生物学的な意味で解剖してみたい位だ。


「ブレスは脅威だけど、それは竜だけのモノではないわ」


「………竜魔法を操るから?」


 人間が操っている魔法とは桁違いの大魔法。
 それこそ正にチート、冥王様ってなものである。
 萌えぬが。


「残念。それを打ち消す方法は確立しているわ。もっと単純な話よ」


「力が強い?」


 腕の一振りで人をふっ飛ばし、ミンチより酷い様にする事が出来る。
 でも、それこそ他の巨人なんかも含まれるんじゃ無いかと思う。
 が、それが正解だった。


「そう、竜はとても力持ちよ。そして、その力は、その巨躯によって生み出されるの」


 母親様は楽しそうに言う。


「巨人も確かに、その名の通り巨大よ。だけどね、年数を重ねた竜、所謂、古代竜は桁が違うの。それこそ、サイクロプス級の巨人を一撃で屠れるわ」


 だからこそ、この馬鹿みたいな剣を作ったんでしょ、剣工は。
 竜を討つって夢を見て。

 嗚呼、正にドラゴン殺しな訳か、この剣は。


「いえ、攻撃は良いわ。避けてしまえばどうという事はないから。問題は、あの卑怯臭い防御力よ。鱗を貫くのは簡単だわ。だけど問題はその下。タップリの筋肉と厚い脂肪は、並みの剣なんてモノともしないのよ」


 判る話ではある。
 如何に万物を切り裂く剣であろうとも、切り抜く限界はある。
 人で例えれば、刃渡り1cmの刃物では人に致命傷を与える事は出来ないって事か。
 まぁ出血死の危険性はあるが、即死には成らない。

 まぁ納得できる話ではある。


「だから私は思ったの。鱗を抜く剣を用意するのは簡単。それに筋肉を断ち、脂肪を削り、骨を砕く力を付与すれば、竜はさしで殺せる、と。まぁソレは勘違いだったんだけどね」


 ほろ苦さを漂わせて言う母親様。

 うわぁーい、キチガイめ。
 竜とタイマン張る気でしたか。
 呆れる。
 信じられん。
 てゆーか、こんな馬鹿な剣を作らされた剣工が可哀そうだ。


「だって、急所って首も含まれるんだものね」


 待て。
 マテマテマテ。

 何か、話の流れがおかしいぞ。
 疑問が内心に湧き上る。
 見上げる母親様、その顔は茶目っ気にも似たものが含まれていた。


「四肢をぶった切って動けなくなった所で、心臓をぶっ潰す予定だったんだけど、首を刎ねたら普通に死んだのよね」


 ヒョイとばかりに、その長大な剣を持つ。
 軽々と、だ。

 なんつーか、匙を投げたくなる。


「だからコレは私の失敗の碑でもあるの。持ってみる?」


 無理! 無理です母親様!! 俺が潰れる、餡子が出る。
 咄嗟に思った俺。

 だが、俺とて男の子。
 単純にして圧倒的な暴力の象徴に惹かれぬ筈が無い。
 フラフラっと差し出された柄に手を伸ばす。


「っ!」


 ズッシリと重いってレベルの話じゃない。
 腕や肩が抜けそうになる。
 つか、千切れそう。


「ヌヌヌヌヌヌッ」


 無理。
 落とす恐れはまだ無いが、今の体勢から動く事って無理。

 汗がダランダランだが、母親様、笑ってみてます。
 おのれーっ。



 ひとしきり笑ってから、剣を取ってくれた。
 疲れた。

 へたり込んで、恨みがましい目で母親様を見たら、抱きしめられた。
 なんでさ。


「貴方ってしっかりし過ぎてるから、心配になっちゃうのよね」


 意味が判らん。
 子供っぽい所が良かったのかもしれない。
 が、どうでも良い。
 母親様が満足したならまぁ良い。





 とゆー訳で、与えられたのは刃渡り約50cmの、所謂ショートソードだった。
 それも、軽量化と切れ味強化の魔法が付与されている、逸品だ。
 まぁ装飾などが施されていない辺り、数打ちモノ――量産品っぽくはあるが、だがソレが迫力を生み出している。

 中庭に出て振り回してみる。
 軽いお陰で、身の丈の半分にも達しそうな剣が楽々と扱える。
 流石は魔法剣、実戦剣。
 訓練用に使っていた刃を落とした訓練剣とは比べ物にならない。

 尚、盾は持たない。
 大人用では大き過ぎて戦えず、子供用ってのは無いからだ。
 何時もは両手で練習剣を持っていたが、コレは柄が短いので持てない。
 だから右手だけで持つ。

 上段中段下段、突きから斬りへ。
 ショートソードってのは本来、刺突を基本とする武器だが、コレは刃がついている。
 だから日本刀の、技も入れていく。
 薬丸自顕流だ。
 マニアックではあるが、まぁ男として一撃必殺とゆー言葉に引かれて少しだけ齧ったのだ。
 それを剣の練習時にしていたのだ。
 ブッチャケると、技の訓練が簡単で再現が楽だったってのが大きいのだが。
 ええ、立木打ちです。

 庭の一角に丸太を立てて滅多打ちです。
 自顕流には横木打ちってのもありますが、アレはこの世界的には違和感があるっぽいので、立木打ちだけです。
 だから内心で言います、パチ自顕流って。

 まっそれは兎も角、自顕流の立木打ち。
 母親様からは、シンプルだけど効果的ねとお墨付きを受けてます。
 ん? だから、刃付きのショートソードを渡されたのかもしれない。

 勢いがのってきたので、立木の前に行く。
 剣を天に突き上げて、それから一気に振り下ろす。


「kieeeeeeetu!」


 チェストじゃ無いですよ。
 
 てゆーか、練習用に立ててた丸太が3撃目で切れました。
 うん。
 片手でコレっておかしいレベルの威力だ。
 まぁ俺も、あの母親様の子供って事だろう。
 脳裏に浮かぶのは、当然ながらもでっかい剣、ドラゴン・ベイン。

 まぁよい。
 立木が折れたので、次は母親様に教わった剣技剣術へと戻る。
 剣撃に刺突を混ぜて、更に拳や脚を使う、総合剣術だ。
 在る意味で、古式剣術みたいなモンだ。
 母親様から教えられた、対人戦闘用だけでは無く大型小型のモンスター相手と戦う技の数々だ。

 体を動かしていて楽しい。
 が、柔軟運動無しで直ぐに全力全開っと為ったので、体にチョイと痛みが出る。
 まだまだ俺の体は子供って事か。
 残念だ。


 動きを止めて深呼吸をする。
 ああ、水が飲みたい。


「はい、どうぞ」


 そんな気分を察してか、差し出された真鍮製のジョッキ。
 出したのは我が妹、ヴィヴィリーだ。


「ありがとう」


 美味い。
 普通の上水だが、魔法の保水樽のお陰か、良く冷えている。

 一気飲みして、口元を拭う。


「おにいさまも、マバワンの村へ行くのですよね」


「ああ。無理を言ってだけどな」


 直接的な戦闘では足手まといだろうが、だが戦場で大事なのは前線だけでは無い。
 否、在る意味で前線部隊が十分に活躍するためには後方段列は必須にして重要なのだ。

 であれば、俺が行く意味はある。
 剣を掲げ持つ。
 陽光を反射し、輝くショートソード。

 元々が平成日本の、平和な時代のメンタリティを強く持っている俺。
 だから命の遣り取りをするって事への忌避はある。
 が、同時に、この世界で生きていく為には、それを避ける事は出来ない。
 特に、この国の様な、明瞭な外敵――<黒>で生まれ、育っているからには。

 万感を込めて息を吐く。


「チョイと、頑張ってくる」


「初陣ですわね、私達」


「ゑ?」


 私達って複数形? なんでと慌てて妹の格好を確認する。
 茶を基調とした格好をしている。
 てゆーか、細身作りのズボンを穿いている。
 動きやすそうだ。

 なんでさ。








[8338] 0-09 往きの道
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:29
 我が妹、ヴィヴィリー・ヒースクリフは美少女である。
 クリクリっとした目と鮮やかな金髪、年不相応なこしゃまっくれた部分を持った美少女である。
 多分、この妹が嫁入りする時は、父と一緒に泣いてアルコールをしこたまに飲むであろう自信がある。
 兄馬鹿で悪いか。
 悪くない。

 が、だからこそ、妹が村へと俺は激烈に反対しました。


「何故にですか、おにいさま」


「何故も無い。危ないからだ」


「危ないと仰いますが、おにいさまは行かれるんですよね?」


「ああ。ノウラの事、最後まで付き合いたいからな」


「何故、そこまでするんですか?」


「男の意地、かな? 多分」


 女性に対する責任って言葉は、全く別の意味で重たいので使用しない。
 特に、妙齢の美女あいてならまだしも、ノウラみたいな妙齢に10歩近い手前な子供相手になんて使用したくない。


「ヴィヴィーには判りませんわ」


「だろうね。だから、まぁ兄が馬鹿な理由で戦場に行くって事で理解しておいてくれ」


「おにいさまの事情は判りました。ですが、では何故にヴィヴィーが一緒に行く事は反対なのですか?」


「いや、それは常識的に考えて駄目だろ」


 情操教育に良くない。
 絶対に良くない。
 PTSDだのトラウマだのを、我が妹に与えたくないのだ。
 そら、魔法の素質があって練習してるってな話は聞いていたが、それでもだ。


「子供が戦場に行くってのに反対しない馬鹿は居ないよ」


「おにいさまも子供です」


 ふくれっ面で不満を表明するマイ・シスター。
 年相応の可愛らしさがある。

 主張は判らぬ訳では無い。
 年子なのだ。
 一方的に子供扱いされては面白く無いだろう。
 だが、そこは流石に譲れない。




 とゆー訳で、母親様に直談判。
 馬車の確認をしている所へ妹を連れていく。
 後は直言するのみ。


「反対です」


「何がなの?」


「ヴィヴィリーです。この子を連れてマバワン村へと向かうのは駄目だと思います」


「……そうなのよね、私もそう言ったんだけどね」


 誰に似てか強情で、と言う。
 そんな暢気な事を言っていて良いのかと、眦が急角度を取る俺。
 まぁ仕方が無い。


「まぁ、何事も経験よ。それに、ヴィヴィーは治癒魔法が使えるから、外すのは辛いのよね」


 
 悩むような顔。

 そら確かに、治癒魔法が使える人間が増えるのは良いことだ。
 てゆーか、我が妹、使えるんかい、治癒魔法。
 チョイと吃驚だ。
 それ以上に羨ましい。
 魔法は攻撃もだが治癒も駄目な俺としては。
 攻撃魔法はまだ良い。
 魔方陣で魔力を練って、後は方向性をぶつけるだけで発動させる事は出来るから。
 だが、治癒魔法は違う。
 怪我をした部位を緻密に把握し、そこへピンポイントに治癒魔法を掛ける必要があるのだ。
 そゆー緻密な魔法は、よっぽどの素質が無いと使えません。
 そして俺に、素質はありません。
 精々が回復用のポーションか、或いは外傷だけを回復させる治癒符しか使えない。
 でも、妹は違う。
 治癒魔法が使えるって事は、呪文を唱えて手をかざすだけで回復させる事が出来るのだ。
 正に魔法だ。
 うはーっ、マジで羨ましい。

 が、とは云え、10に満たない幼子を戦場になりそうな場所へと連れて行くのもどうかと思う。
 だから、ここは抗弁。


「でも、治癒だけなら薬や符で何とかなります」


「それらは対処なのよね。傷の本質を見たりとか、色々とあるのよね」


 困ったような顔。
 だが其処に俺は冷徹な色を見た。
 歴戦の冒険者か傭兵としての、だ。

 否。
 それだけでは無かった。


「それにね、ビクター。ヴィヴィーは治癒魔法を中心に研鑽したいって言うの。なら、こんな鉄火場での経験も大きな意味を持つの」


 スパルタンでした。
 成長したいって云う妹の要求を叶える、母親様の愛――なのだと思う。
 多分。

 兎も角、当人もその気で保護者もその気なのだ。
 もうナンも言えねーって感じでした。
 有無、戦国時代とかそゆう感じです、この世界。

 俺としては、もちっとファンタジーが良いなぁと思った今日。
 空は何処までも青かった。
 畜生。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-09
往きの道











 流れる雲。
 そよ風が気持ち良い、そんな馬車の旅である。

 訂正。
 重装甲馬車の旅である。


 普通の馬車はオープントップであるか、精々が幌である。
 が、我らが乗り込んでいるのは、厚さ3cmはあろうかと云う木の板に囲まれた馬車だ。
 叩くと、エライ硬質な音を立てる。
 何でも魔法による硬化処置をしていて、鉄並みの強度があるそうな。

 昨日見た時は、普通のオープントップの馬車に見栄たんですけどね。
 あれよあれよと云う間に装甲板が組み込まれ、装甲化したのだ。
 この世界、ネジの類は無かったが、楔とか色々と使って見事に固定している。
 呆れる程のナニか。

 しかもその外観は、ナンと言うかアレだ、米軍がイラクで使っていたMRAPみたいな、ゴッツイ感じである。
 てゆーか、御者台まで装甲化されているのって、ナンか狂ってる。
 後、曳いている馬も雑役馬の類では無く、体格も隆々とした戦馬なのである。
 絵に書いたら、多分に題名は“地獄の馬車”とか、物騒なのが付けられるの必定っぽい化け物さんだ。

 戦車みたいなっていうか、古い意味での戦車を極悪魔改造か、非常識進化させた様な化け物である。
 車輪に大鎌が付いても違和感が無い。
 てゆーか、天井に登れるのと、そこが言ってしまえば銃座として機能出来る様に設計しているって時点で、何かが狂ってると思う。
 うん。
 狂ってる。
 大事な事なので2度言いました。

 戦闘用としては最凶。
 だが、居住用としては最低である。

 サスがナンも仕込まれていないのだ。
 座っているとケツを叩かれると云うステキ仕様なのだ。
 一応はベンチは詰め物がされているが、そら平成の日本車に慣れている俺としては、小一時間は不満を述べたい代物である。
 いや、まぁフニャチンサス仕込まれてても酔いそうになるが、にしても、である。

 だから、子供の特権である我侭を発動しますた。
 天井に登って、空気を味わってます。

 ついでに、微妙に凹んでるっぽいノウラと、ブッチャケ、車酔いでグロッキー状態の妹も連れて来てます。
 母親様は薬を飲ませると、しばらくすれば大丈夫と言っていたが、兄として妹の苦しみを、そのままにはしたくない。
 屋根の部分の広さも十分にあるので、荷物から毛布を全部引っ張り出して敷いて簡易なベットを作ると寝かせたのだ。


「すいません、おにいさま………」


 か細く言う妹の頭を撫でてやる。
 後、濡らしたタオルを頭に当ててやる。


「気にするな。兄として当然の事をしているだけだ」


 青くなってた顔も、少し精気が戻った風に見える。
 こしゃまっくれた我が妹だが、その元気が無ければ寂しく思う。


「でも………」


「こういう時だけヴィヴィリーはお淑やかだな」


「失礼ですわ、おにいさまって。ヴィヴィーは常に淑女ですのに」


「淑女、淑女ねぇ………こんな馬車に自分から乗り込んで来た奴が言うかな?」


 二言目には、自分の事を淑女と言うヴィヴィリー。
 そこが可愛くもあり、からかい所でもあるが、少しからかい過ぎた模様。
 ほっぺたを可愛らしく膨らます。


「………嫌いです」


 そっぽを向く妹。
 そんな仕草も可愛くて仕方が無い。
 だから、髪を撫でてやる。
 優しく優しく。


「すまんすまん。後で冷えた果実水を用意してやるから、今は眠っとけ」


「おにいさまって、ホント、誤魔化すのがうまいのです」


 甘いもの好きの妹は、特に果実水に目が無い。
 この果実水、食道楽の俺オリジナルである。
 水に果実と蜂蜜他を使って作る、ジュースだ。
 この世界に元からある諸飲み物に比べ、味を調整している分、とっても飲みやすくなっているのだ。

 しかも魔法を使って、温度まで飲みやすい――美味しい所まで下げているのだ。
 美味くない筈が無い。


 故に、この俺の果実水は対妹機嫌用の最終兵器でもあるのだ。
 餌付けとも言う様な気もしないでもないが、まぁアレだ、気のせいとしておく。


「おや、返事は?」


「はい。眠ります。だから、林檎のをお願いします」


「判った」


 更に頭を、そっと1撫で。
 それで眠りに落ちる妹。
 毛布をかぶせ直す。
 まだ夏に入らぬ温暖な季節だが、寝れば人間の体温は落ちる。
 チョイとした気遣いだ。

 紳士は気遣いを忘れないノデス。





 さて、さてさて。
 寝入った妹は放っぽってても大丈夫だろうが、残る問題が1つある。
 ノウラだ。

 此方の都合で巻き込んだのか、アチラの都合で巻き込まれたのか。
 物事だけを列挙すればアチラ主体だが、経緯を考えると、此方っぽい。
 複雑な事実関係。

 短い時間だが、ノウラと云う子の性格はやや読めた。
 割と真面目と云うか頑固なのだ、この子は。
 だからこそ、我が一家+αを無給で巻き込んだ事に胸を痛めているのだろう。
 しかし、母親様辺りは、気に入った子を助けれて、オマケに良い狩りが出来るとか考えているのだ。
 そら、理解出来ないと思う。
 世の中には考えたら負けってな種類の人間も居るのだ。
 その代表選手みたいな相手に捕まったのだ。
 世の不条理と不合理と非常識を嘆いて、後は酒飲んで寝る位が適当だと思うんだ、正直。
 まぁ、10歳児みたいなのが飲んだくれられても困るちゃぁ困るが。

 ん? なんぞ、表現としてとゆーか、色々と間違えた気もするが、まぁカレーにスルーだ。


 天井の1番前の方に座って前を見ているノウラ。
 その横に、ヨッとばかりに座る。

 こんな時の定番、缶コーヒーはこの世界に無いので、干し無花果を持ってきた。
 持たせる。


「どうしたの、ノウラ?」


 どうしたんだ、テツローとかゆー風に聞いて見る。
 いや、真面目になんだけどね。
 顔にサンマの骨的縫い目も無ければ、スイカに水を撒いている訳でも無いですがね。


「………何でも無いです」


 嘘だ! と断言できる言い方をする。
 てゆーか、顔が強張ってるんですがね。


「んー そうか? なら俺が気にし過ぎかもな」


 干し無花果に齧りつく。
 当然、皮は手で剥いでだ。
 文明人なんだもの。

 濃厚な、だがしつこくない甘さが口に広がる。


「食べない? 美味しいよ」


「…………………はい」


 流石は農村っ子。
 中々に豪快な仕草で齧り付く。
 モゴモゴと噛み、そして皮手に吐き出し、そして馬車の外へと捨てる。

 もう1噛み。
 そしてモゴモゴと噛む。
 小動物チックな仕草だ。

 癒される。
 そんな暫しの時間。


「気分は良くなった?」


「ビクターは、ズルイです」


 食い物に釣られた事に、不満を言うノウラ。
 だが、その表情は先ほどよりも落ち着いている。


「かもな。だが、なんだ………」


 言葉に困って、口が止まる。
 何て言えば良いのか、正直悩む。

 ノウラがコッチを見ている。
 止まってる時間は無い。
 だから、思うままに口にする。


「そうだな、ノウラは故郷は好きか?」


「? 好きです。小さな村ですけど、大好きです」


「なら、その村を護れる手段が手に入ったと割り切るんだ」


「……それって、ビクターやアデラさん?」


「ああ。俺はそれなりだが、アデラ母さんやマーリンさんとかは多分、一騎当千だ」


「でも………」


 悩みを見せるノウラ。
 まぁこの程度で割り切れるんなら、悩みやしないやね。


「でもは無しだよ。ノウラが素直だったり謙虚だったりとかな、そんな所に、アデラ母さんは動かされたんだ。だからさ、気にするな」


「………はい……」


 俯いて泣き出すノウラ。
 多分、きっと、これはうれし涙だろう。
 そう思っておく。

 だから肩を抱いて、頭を撫でてやる。





 後で御者をしていたマルティナさんに、そっと言われた。
 笑顔で。
 頭をゴイゴイっと撫でられながら。

「ビクター坊は、誑しにゃぁ成れないかもね」

 聞こえてたんかい。








[8338] 0-10 わるきゅーれS’
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:30
 割と機嫌(?)の直ったノウラと、車酔いで気分不良のままの妹。
 そしてワクテカしてるっとしか言いようの無い、大人3人を乗せた馬車。

 基本的には安全な旅路でした。
 まぁ馬車の乗り心地はマズーではあったが、野営時の料理などは野趣あふれていてとても美味しかった。
 が、肉気が余り無かったのが残念。

 この面子だから猟をして新鮮な――とかを期待していたのだが、この辺りには野生の動物とか居ないんだそーな。
 <黒>の連中が来た時、見境無く狩っていくからだそうな。
 おのれーっである。

 もし<黒>の連中とあった時は、容赦してやらん。
 食い物の恨みは恐ろしいのだ。


 後は見守りを立てての野宿。
 幹線街道には宿場町が用意されているのだが、流石に寒村とか、そゆう人も疎らで、軍事的重要性も乏しい場所へ向かう街道には、整備されていなかった。
 だから野営なのだ。
 馬車の脇で焚き火をし、テントを立てる。

 お子様娘2人はそのまま眠らせ、俺も含めて4人で交互に寝るのだ。
 うん。
 こゆうのは、大人扱いされていて、素直に嬉しい。

 まぁ周辺警戒とは言っても、ここら辺は王都近郊。
 定期的に王都守護騎士団が巡回しているので、山賊の類は先ず出ない安全な場所である。
 野獣警戒用としての火を絶やさぬ事が、一番の任務。そんな場所なのだ。
 故に、何処かノンビリとしたアウトドア体験。
 その雰囲気が変わったのは、マバワン村への最後の峠を越えた時だった。


「あっ」


 周りの森を警戒――山賊の類が出てくるなよってな気分で見ていた時、前を見ていたノウラが声を上げたのだ。
 見る。

 空へと黒煙が上がっている。
 ノウラの表情が凍り付いていた。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-10
わるきゅーれs'











 黒煙が意味するモノは1つ。
 マバワン村は、既に襲撃を受けていた。
 否。
 受けていると云う事。

 村の状況は、想定以上に悪かった。
 母親様とマーリンさんが偵察に行った。
 馬車はそのままの場所で待つ。

 マルティナは、馬車の屋根に登って厳しい顔で全周警戒をしている。
 対して妹とノウラは、不安げな顔をしている身を寄せ合っている。
 暇なのが悪いのだろう。
 人間、暇になれば悪い事を考える。



「マルティナさん」


「何?」


「あの2人をここに上げて、見張りをさせたいんだけど………」


「何でまた」


 返事の言葉が短いのは、集中しているからだろう。
 そんな、真剣に周囲に警戒しているのを邪魔するのは悪いが、まぁ仕方が無い。


「仕事があれば、あの2人も気が紛れると思うから」


「………」


 視線を一瞬だけ、俺に向ける。
 目があった。
 そこには、苦笑に似た色が浮かんでいる。

 更に俺は、自分も仕事をしたい旨を言う。
 苦笑が益々大きくなる。

 マルティナは俺が何でこんな事を言ったかも理解しているのだろう。
 そう、コレは進言なのだ。
 この場の責任者であるマルティナへの。
 手順を踏み、そして人の顔も立てるってのが俺の流儀。
 子供らしくないとは言われるが、子供っぽくして物事を混乱させるのは趣味じゃないのだ。


「ビクター坊、よく気を回すね」


 言葉だけを見れば、嫌味っぽくもある科白。
 だが其処に、少しだけ褒める風があったので、調子に乗った言葉を返した。


「早く大人になりたいだけです」


「なら頑張りな」




 その1言が許可だった。
 と云う事で俺は、下で馬車周りを確認する作業に移る。
 逃げ出すと決まった時に、馬車をUターンさせる為の下準備だ。
 ここら辺、街道の名を持ってはいるが、そう広くは無い。
 否、問題は広さだけではない。
 地盤も問題なのだ。
 荷が満載され、重装甲化された馬車は非常に重たい。
 下手な場所で動かすと、スタックしたり、或いは最悪、ひっくり返る危険があるのだ。
 と云う事で、下準備は重要なのだ。
 地味だけど。
 馬車から約3メートルの棒――所謂10フィート棒を持ってきて、下草の辺りも確認。
 ナンツーか、懐かしいと云うかナンと言うか。

 探す事しばし。
 使い勝手の良さそうな広場みたいなものを発見。
 下草がやや長めだが、地盤に問題はなさげだ。
 後、広場の周囲に崖も無いから、落下の心配も無い。

 後は荷物の中からロープを出しておくのも忘れないようにしておかないと、と考えたとき、馬の足音を聞いた。
 耳をすます。
 数は2つだ。

 恐らくは偵察の2人だろう。
 が、万が一もある。
 俺は棒を地面に突き立てると、急いで馬車に戻った。



 馬は、当然ながらも母親様とマーリンさんだった。
 馬から下りた母親様は、険しい顔をしたまま言葉を紡ぐ。


「村は、既に門が破られている」


 黒煙は、家屋が上げていると云う。
 <黒>との戦いが多いトールデェ王国に於いて、どんなに小さな村でも堀と壁が築かれ、城砦化されている。
 そんな城砦を攻撃する際、<黒>の連中は、火矢などを使う言は無い。
 無論、火を使えないからでは無い。
 <黒>は、略奪を目的としているのだ。
 略奪する宝を、自ら減らす事をする筈が無い。

 なのに火が点いている。
 それは、<黒>の軍勢が既に村に侵入している事を意味する。


「規模はどれ程で?」


 此方も硬い表情で尋ねるマルティナさん。
 敵が居るかもから、敵が居るへと危険は跳ね上がったのだ。
 緊張の色が増すのも当然だろう。


「“隊”規模ね」


 隊とは、<黒>の規模に於いて“班”、1番下から2番目の規模を指す。
 ゴブリンを中心に、200を超える集団であり、更にはオークの様な大きな亜人まで含んでいる事を意味する。


「厄介ね」


 嘆息したマルティナさん。
 全くだと思う。

 ノウラは顔を真っ青にしている。
 何度か唇を震わせて、言葉を紡ごうとしているが、出来ないで居る。

 流石に放っておけないので、アメリカ人チックに肩を抱く。
 そこでノウラが口元を手で押さえてっとかはならない。
 ヤッパリ人間の行動ってアレだ、文化的素養とゆーか、訓練? 日ごろからの見聞きしたりする事が重要であるなと思う次第。
 まぁ、そこ等辺はどうでも良いが。

 抱いても震えが止まらない。
 チョイと、力を入れて見るテスト。

 コッチを見るノウラ。
 不安げな顔、今にも泣きそうで泣きそうで。
 鼻の頭あたりが真っ赤になってる。

 そこで大人な俺、力強く頷いてやる。
 抱きしめたりとかは流石に出来ませんがな。

 と、ポロポロと泣き出した。
 声を殺して、だ。
 痛ましい。
 多分、俺たちが村を見捨てざる得ないと思っているのだろう。
 まぁ当然か。

 敵は200を超えるのに、コッチは正面から戦えるのは3人しか居ないのだ。
 そう考えるのも当然だ。

 だがノウラは知らない。
 我が母親様の根性ってか、胆の太さを。
 そして類は友を呼ぶって事を。
 或いは、朱に交われば赤くなるって事を。


「でも、無茶ではあるまいさ」


 それまで会話に参加していなかったマーリンさんが、口を挟む。
 手早く着こんだブレストプレートの具合を確認する様に、両肩を動かす。
 ミスリル製と云う魔法鎧は、陽光を反射して煌く。

 それまで着込んでいた、深青色のコートを更にその上に羽織った。
 ベルトを締める。
 剣帯を肩から掛け、予備の剣を留める。
 最後に、主兵装であるバルディッシュを取る。

 なんてゆーか、名前からするとリリカルなアレのイメージが来るが、コレは違う。
 東欧ってか、モスクワ辺りの国が使ってた長柄の戦斧なのだ。
 それも、全長が2メートルと半分位なのに、刃渡りがその半分近いっていう凶器である。
 うん。
 子供な俺の身長よりも長い刃を持っているのだ。
 しかも、先端部にはバヨネットみたいなのが付けられている。
 重量的に見て突けるとは思えないのだが、突けるのだろう。
 てゆーか、マーリンさんは楽々と扱っている。
 うん、ブッチャケて言う。

 狂ってる。


 その狂ってる人は楽しそうに言う。


「それより急がないと、救えないぞ」


「あら大丈夫よ?」


 笑って答える母親様。
 そのまま、上着を脱いで鎧を着だす。
 体の線が見事に出るソフトレザーの下鎧はマロイの一言だが、この身の半分の製造元かと思うと、萌えられん。
 全く萌えられん。
 無理だ。


 マルティナさんの手伝いで着込んでいく此方は、バンデッドメイルだ。
 鎖帷子を仕込んだ革の部分と、金属の細帯を幾重にも重ねた部分を持った複合鎧だ。
 元々から腰から下の鎧の部品を着込んでいたので、着込むのは又、短時間だった。
 襟元の具合を確認する。
 此方も、マーリンの魔法鎧同様に、魔法が掛けられている。
 何でも軽量化と矢避けだそうな。

 手に持つのは、凶悪な装飾の施されたハルバード。
 てゆーか、凶悪なのは装飾だけじゃない雰囲気も暴力的となってマス。
 まぁブッチャケ、諸々と魔法が掛けられているのだ。
 使用者の意思に応じて焔を噴き上げ、攻撃半径の拡大と同時に火属性の追加攻撃を与えると云う素敵仕様。
 しかも攻撃した相手が絶命した場合、その生命力を吸収し、持ち手に還元する事も出来ると云う極悪仕様。

 国宝級の価値があるっぽいこの兇器を母親様が持つ理由もフルッテル。
 何でも、戦功によって国軍の大将軍から直々に与えられたと云う。
 ナニソノ戦国バサラ。
 違うかもしれんが、どうでも良い。

 兎も角、凶悪凶暴な母親様のハルバード。
 ああ、銘もあって、名は<テンペスト>だそーな。


 なんか、色々と匙を投げたくなった俺の前で戦闘準備は完了する。
 並び立つ女傑2名。
 その様は、兵装の事もあって正に戦乙女の様である。


「ノウラちゃん、待っててね。私とマーリンが一掃してくるから」


 一掃、一掃と言いましたか母上様。
 200を超える連中を、2人で潰すデスか。
 マジパネェ。


「昼前には帰ってこれるかな?」


「流石にあの状況で、お昼ご飯をご厄介にはなれないわね」


「仕方が無いさ」


 笑いあう2人。
 何ぞ寒気がするが、まぁ気にしない。


「じゃ、行ってくるわ」


 そんな言葉と共に、騎乗した2人は馬に鞭を入れた。
 駆け出す2頭。

 俺の頭には、ワルキューレの騎行が鳴り響いている。
 幻聴だが、やけにリアルに聞こえた。


「――が降るんだろうな、きっと」


 何の脈絡も無く漏らした俺の一言に、ノウラが見上げてくる。
 呆っとしている。
 話の展開が速すぎて、処理できなかったのだろう。
 その頭を撫でる。

 ああ、こんな科白は子供に聞かせたくない。
 血の雨がなんて、スプラッタな言葉は。









[8338] 0-11 ハヂメテの~
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:31
 
 母親様たちが出撃する。
 敵は200を超えるゴブリン、それにオークやらが一緒に居ると言う。

 現代風ってか陸上自衛隊風に言うとアレだ、中隊戦闘団ってな感じか。
 200のゴブリンが普通科って名前の歩兵で、オークが戦車と云うか破城鎚みたいなものか。
 否、違うか。

 本で見た限りアレだ、オークはゴブリン風情に操られる様な甘っちょろい化け物では無い。
 強欲を司る邪神の従順な僕にして、略奪の権化なのだ。
 <黒>の軍を観察したモノの本では、ゴブリンの略奪部隊はオークに統率されていると云う。
 そんな化け物が、人間よりもやや弱い様なゴブリンに指図されている筈が無い。

 逆か。
 オークは督戦しているのかもしれない。
 鉄製のメガホンを手に、「1人は剣を、1人は盾を。剣を持った奴が倒れたら、盾の人間はそれを拾って前進しろ!!」と叫んでるのかもしれない。
 うん。
 ある意味で、メッチャ似合ってる。

 てゆうか、それなんてレニングラードってな感じである。
 そーなるとアレだ、<黒の軍>とゆーよりも<赤軍>って方が通りが良いと思える。
 酷い話がだまぁ良い。
 熊になったりする世の中だし、そもそもとして俺は、兜に“Kill Red”って書き込もうって類の人間だから問題は無い。
 無いのだ。
 てゆーか、喜んでイメージ変えちゃる。
 殺しちゃる。

 懐かしの日々よ。
 何度、北海道で苦杯を飲んだ事か。
 スチームローラーテラ怖ス、だ。
 名寄の第3普通科連隊を基幹に、TKを編入した完全編成の連隊戦闘団――3th Rctが名寄を叩き出されて凹られた恨みは忘れず、だ。
 うん、特科の配置が悪かったってのも否定はしなが。

 うん、何ぞ余裕あるな、俺。
 手が体が震えない。
 馬鹿な事を考えていられる。

 この数km先では殺し殺されるキリングフィールドであるのに、だ。

 笑ってしまう。
 笑いが浮かんでくる。
 我が母親様達の安心感って、戦場に於ける戦車的なものかもしれない。
 圧倒的な火力と絶対的な防御力を持っているのだ。
 強ち間違っては居ない。


「ビクター?」


 ノウラがこっちを見てくる。
 多分、心配しているのだろう。
 俺も緊張しているのだと。

 だが現実は逆だ。
 緊張しなさ過ぎなのだ。
 だから、その頭を優しく撫でてやる。


「大丈夫さ、きっとね」




 とゆー訳でゴブリンは怖くない。
 怖くないが、問題はある。

 別働隊、だ。

 略奪目的の部隊なのだ、敵は。
 であれば周辺への略奪か、或いは警戒の部隊が出ていてもおかしくは無い。
 ならば警戒をしておくに越した事は無い。

 ならばすべき事は1つ。
 擬装だ。




「という訳で、馬車を隠したいんですが?」


 ブッチャケて報告とゆーか、申告する俺。
 相手は無論、マルティナだ。

 帰ってきたのは、深い深いため息だった。
 なんでさ。


「ビクター坊、ホント、真面目と云うかなんかなー」


 子供っぽくないとブツブツと言われる。
 どーせ近づいてきても私の一撃で即昇天、片道街道到着地冥府で鎧袖一触だってのにとか、更に物騒な事もチラホラと。

 まぁ不真面目と言うなかれ。
 マルティナさんが強いのは事実だが、それ以上にアレだ、この時代は一般的に“擬装”と云う行為に価値を見出していないのだ。
 否。
 概念が無いとも言える。
 人間相手の戦争がトンと無く、<黒>との生存戦争は、ブッチャケ、力押し基本だからだ。
 正に人海戦術、人の海。
 此方も、数を揃えて正面から撃破ってのが普通な訳だ。
 いやまぁ、色々と戦術とか戦略とかはあるっぽいが、それでも平成な御世の現代程では無い。
 そもそもとして交戦距離の短さがあり、そして重要な事は情報通信手段が限定されている事だ。

 交戦距離は仕方が無い。
 投射射出型の魔法による遠隔戦闘手段はあっても、その大多数は数10m程度の射程。
 一般的な上級魔法でも、極一部が100mとかの程度なのだ。
 他に一般的な投射武器として弓や弩弓なんかもあるが、同じ程度の射程しかない。

 そして通信手段。
 一応は魔法による情報伝達手段と云うものも存在してはいるのだが、コレ、基本的に大規模な準備を必要としており、それを常用と言うか野戦にて仕様するには、色々問題があるシステムなのだ。
 術を掛ける当人と、術を増幅する要員。
 しかも、繋ぎっぱなしでは術者も消耗する。
 その為、代替人員を用意する必要が出て来る。
 術者当人もだが。増幅者にも、だ。
 そんな訳で、大規模な軍団司令部と国軍総司令部の間で連絡をする事は可能でも、軍団司令部と各級部隊を繋ぐ事は不可能となっている。
 当然だろう。
 一般的な部隊編成の最小単位の100人隊に魔法通信手段を保有させようとすると、その2乃至3割が通信要員になってしまうのだ。
 戦術指揮官は基本的に目の届く範囲しか掌握できないのだ。
 コレではどうにもならない。
 何もRMAによるデジタル化師団や基幹連隊指揮システム、果ては共同交戦能力みたいなモノを求めている訳では無いが、にしてもコレはあんまりであるってな状況である。
 そこ等辺、流石はファンタジー。

 尤も、別にこれは、ファンタジーだからと云うだけな訳では無い。
 ファンタジーな要素を持たない元の世界でも、中世に於いてはンナもんである。
 とゆーか、グランダルメが世界最強っと叫んでいた頃の軍服がメッチャ派手な理由の1つには、兵が何処に居るのかを判りやすくするってのが在ったってな話だ。

 だからだ。
 この世界に於いて擬装と云う概念が乏しいのは。
 敵から見えづらいが、味方からも見えづらい。
 指揮官からも見えづらい。
 そんな部隊を求める指揮官は居ないのだ。

 そして兵士の側も見えづらいのは嬉しくない。
 当たり前だ。
 戦功を挙げても、擬装なんかで誰が誰だか判らなければ、目端の効いた奴に功を取られてしまう。
 それは嬉しくない。
 堪らない。
 だから、そんな格好を好んでする様な兵士は居ない。

 冒険者と言われる様な人間は別だが、此方は此方で、擬装――目立たない格好をしていては腕を疑われる面があるのだ。
 良い格好の1つも用意出来ない。
 故に、冒険者もそれなりの格好をするのだ。


 んな訳で、擬装なんて概念を有しているのは猟師くらいなものなのだ。
 <黒>との戦争は、有史以来と言うか4桁近く続いているのに、戦術のは進歩していないのだ。
 対<黒>以外に、<白>の陣営で戦争をする必要も無い程に、世界は豊かなのかもしれない。
 食卓の彩りを考えれば、それが理由かもしれない。
 或いは、この世界の人類、主要5族であるヒューマンは、エルフは、ドワーフは、ホビットは、ノームは戦争に向いていないのかもしれない。
 まぁ元の世界の人類が、同族同士でも血で血を洗う争いを繰り広げた戦争民族なのだ。
 一緒にするのは迷惑なのかもしれない。

 平和な世界なのだろう。
 だが俺は、そんな戦争民族出身の身であり、この世界の流儀に、そうそう迎合する訳にはいかない。
 だって、掛けられているのは俺の命だからだ。


 俺の命を、そして可愛い妹とノウラの命の為に。
 あとまぁマルティナさんに関しては、ナニが来ても自力で何とか出来そうだが、まぁ、その命の為に。
 俺は引かぬ、そして媚びる。

 具体的には、マルティナのボヤキをスルーし、そして子供らしく、おねだりするのだ。
 ビバ☆子供ボデーに大人オツム。


「駄目、ですかね?」


 上目遣いもオマケする。
 子煩悩なってか、子供が基本大好きなマルティナさん、コレでコロリと落ちた。
 俺の自尊心ってか、羞恥心が諸々で切なくなるが、まぁ我慢する。
 我慢するサー。



 まぁ諸々あって、頑張って擬装する事にしました。
 具体的には馬車にロープをグルグル巻きにし、そこに草なんかを挿す。
 まぁ隊を自称するけど、英訳するとどの道フォースで軍な所風に、である。

 とゆう訳で、ロープを取り出す。


「おにいさま、何をされるんですか?」


 振り返れば妹。
 まぁ緊張の色は無い――訳では無いが、まぁ少ない。
 規格外としか言いようの無い母親様を、それこそ生まれたときから間近で見てきたのだ。
 ある意味で信頼があるのだ。
 200程度のゴブゴブに、遅れを取るなどあり得ない、との。


「いや、擬装をしようと思ってね」


「擬装、ですか?」


「ああ。万が一、コッチに敵が来たときに備えてな」


 街道から脇の林へと入った場所に、馬車は止められている。
 下生えもあって、丸見えっと云う訳では無いが、馬車は黒塗りなのだ。
 気を付けていれば直ぐに気付かれるだろう。

 だからこその、擬装なのだ。


「カムフラージュってどういうのか判りませんが、外から見えなければ良いのですよね?」


 魔法使いとイコールで、軍師って見る風があるが、まぁある意味で無茶だよなとか思う俺。
 だって魔法の勉強と研究で連中は手一杯ですよってなモノである。

 まぁそもそもとして我が妹、まだ10を超えていないのだ。
 子供なのだ。
 ああ、可愛いなぁ。
 そんな子供なのに、頑張っているんだから。


「ならおにいさま、私の魔法がありますわ」


 ぱーどぅん? もしかしてアレですか、不可視化の幻術ですか。
 確か初心者用よりはレベルの高い魔法だったと思うんですが、我が妹よ。
 とゆーか、幻術系の魔法って持続時間が短かったと思うんですがね。


「そうでもないのです。誰でも出来る簡単な応用で、魔法の持続時間は延ばせるのです」


 優に4倍には伸ばせるのだと言う。
 凄いものだ。

 具体的に云えば、結界支とゆーのを使うんだそーな。
 よーわからん。
 魔法使いが魔法を発動するときに必要とする発動体――事前に魔法の詠唱を9割実施して封入しておく事で、必要な時最後のフレーズを唱えて、即発動させる事が可能な道具の、応用だそうな。
 魔法自体はD&Dっポイが、その発動体に関しては訳が判らぬ。
 魔法を準発動状態で止めとけるって言うが、理解の外。
 ドラクエチックなMP式でも無ければ、似たようなWiz式とも違う、ナンとも複雑なシステムだ。
 理解出来ん。

 ホント、魔法は訳が判らんぜよヒャハーッ!! と云う表情をしていたら、妹に苦笑された。


「おにいさまって、魔法は本当に苦手ですわね」


 ほっといてくれ。
 てゆーか、優しいな妹よ。
 ここで、かわいそうな人を見る目でもされていた日には、再起不能だったぞ。
 割と本気で。

 魔法は判りません。
 大好きだけど。
 俺Tueeeeeしたいんです、安西先生。
 冥王☆さま、テラカコイイのです、安西先生。
 サブミッションこそ王者の~ と豪語する様な人が名乗る号に、魔法ってあるのは流石に卑怯臭いと思うんです、安西先生。
 てゆーか、おでん合体な魔法剣で地球丸ごとぶった切りってな魔法少女も、どーかなーとか思うんです。ブッチャケ、決め台詞はボンバーだし、スピンオフにしてもやり過ぎだと思うんですよ、安西先生。
 安西先生。
 安西先生。

 諦めたまえってな声はノーサンキューで、以下略チックな発想を切って捨てる。
 ポイ。

 視線を妹に合わせる。


「それはさておきヴィヴィリー、じゃぁ魔法を頼めるかい?」


「任せて下さい、おにいさま」



 馬車の四方に、鉄杭の様な結界支を差し込む。
 その頂部には回転する、マニ車みたいなモノが付いている。
 これで魔力を循環させて、魔法の持続時間を延長させるのだと云う。

 意味は判らぬが、兎も角凄い。


「四方を基とし、生まれよ不可視の繭――インヴィジビリティ・コクーン」


 その効果範囲に居るせいだろう。
 何かが変わった風には、俺には知覚出来ない。
 そもそもとして、魔法への親和性が低いのが俺だ。
 判らないだけなのかもしれない。

 良いなぁ、魔法ってのは。


「これで大丈夫ですわ、おにいさま」


「ご苦労様」


 慰労の気持ちを込めて、肩を叩く。
 本当は頭を撫でてやりたいが、ゴッついガントレットを填めているので我慢した。



 さて、擬装された我が馬車。
 魔法でって辺りが微妙に不安だが、まぁ魔法だから大丈夫でしょ。
 妹曰くで、内側からは見えるが、外からは見えない話だ。
 まぁ信用する。

 後は緊急救援要請用の信号弾を確認する。
 ブッチャケ、只の花火っぽいモノだが、在るのと無いのとでは大違いとなる。
 成るのだ。


 とゆう訳で準備する。
 穴を掘って、垂直に筒を埋める。
 正に打ち上げ花火式である。

 最強の白兵戦兵装、先を磨いて尖らせたシャベルの背で筒先を叩いて、固定する。


「~♪」


 無駄ではあっても、まぁ暇つぶしってな感じである。

 だがそれは、この瞬間までであった。


「おにいさま!」


 切羽詰った妹の言葉。
 振り返る。


「っ!」


 視界に飛び込んできたのは、赤黒い何かだった。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-11
ハヂメテの~











 ソレは、尖っていた。
 ソレは、錆にまみれていた。

 ソレは、黒い染みと錆びがこびり付いて斑模様となったショートソードだった。

 真っ直ぐに突き出された切っ先が、止まっている様に見えた。
 俺の心臓が、触れもせぬのに強く熱く鼓動をしているのを感じた。


「ぅっ!」


 命の鼓動に突き動かされる様に回避、緊急回避をする。
 それは、本能によってだ。

 右に避ける事も左に避ける事も出来ない。
 出来るのは、ただしゃがむだけ。

 真下にでは無い。
 後ろへ、だ。

 ブリッジをする様に、否、後ろへと身を投げ出す様に。

 脚が地を離れるのは、危険であり、咄嗟に動けなくなるリスクを抱えているが、だが、ここで後ろに飛ばなければ、そのリスクを負う前に倒れてしまう。
 その事が、皮膚感覚で理解出来た。


 1分1秒が引き伸ばされていく様な感覚。
 故に俺は、その凶器の持ち主を見た。

 ゴブリンだ。
 赤茶けた肌と、粗末な衣類を着けたゴブリンが、俺を睨んでいた。

 敵。

 どっと全身から汗が噴出したのを自覚する。

 敵。

 俺を睨んでいるその貌には憎悪と狂気、即ち暴力があった。

 敵。

 狙われているのは俺。
 俺の命。

 そこへ考えが到った時、心臓の鼓動は益々、速まった。

 思い出した。
 否。
 深く深く自覚した。
 ここは戦場なのだ、と。



 俺は甘えていた。
 甘え果てていたのだ。
 敵は、母親様達が蹴散らす、と。

 俺や妹は、そんな戦場の片隅で、戦場の空気の一片を味わうだけで終わる。
 そんな風に考えていたのだ。

 何たる短慮。
 何たる浅慮。

 俺は何処に居る。
 戦場だ。

 誰の意思で戦場に居る。
 俺のだ。

 ならば何故、俺は狙われぬなんぞと思い込んだ。
 馬鹿が馬鹿が馬鹿が。

 戦場に居るのに俺は、自分は狙われない非戦闘員。
 阿呆だ。
 阿呆の発想だ。
 現実を見ず、理屈と理想で物事を判断しようとしている阿呆だ。

 って事はアレだ。
 俺は、非武装中立ってのが世の中で通ると思っている様な、或いは無防備都市宣言を地方自治体で条例化を推進するようなスイーツなうす甘い左翼と一緒って事か。
 俺が。
 この俺が。

 否定。
 否定。
 否定。

 断固否定。
 絶対否定。

 全力全開で全否定。

 あり得ない。
 否。
 情けない。
 無様。
 クソッタレ。
 クソッタレ。
 クソッタレ。


 俺がアレと一緒。
 一緒なのか。



 それを一言で言うならば混乱。
 俺は俺に対する情けなさと恥ずかしさと、怒りで一杯一杯になった。

 ど畜生。
 だが自己批判とか反省は後だ。
 そんな精神的自慰をやっている暇は、今は無いのだから。



 背中が柔らかな草――地面へと触れる感触。


「おにいさま!」


 妹の声が聞こえる。
 俺が切られたのだと見えたのかもしれないが、其方に意識を割く余裕は無い。
 このままでは第2撃で、確実に止めを刺されてしまうだろうから。


「Aaaaaaaaaa!!」


 喉から蛮声を噴き上げて己を鼓舞。
 そして、吐き出した空気によって肺が収縮するのに合わせて、腹を曲げる。
 両の腕を地面へと叩きつけ、体幹部へ上向きの慣性を与える。
 両の脚を胸へと引き寄せるように勢いをつけ、慣性を更に加速させる。

 それらの行動が合わさって、奇術の様な体術体動挙動が出来上がる。
 一種のバク転の様な。
 その結果として、挙動が終わった時、俺は正面を向いて立っていられた。

 一歩でも間違えれば、と云う状況を超えた開放感から両足が笑いそうになっているが、それにどうこうとする様な余裕は無い。
 正面に敵が、ゴブリンが居るのだから。


「!」


 不衛生で醜悪な面構えだが、其処に驚きの色があった。
 そらそーだ。
 ゴブリンも生き物だ、感情があるのだなと理解した。
 理解したが、だが、だからどーしたと云うのだ。

 ゴブ助は俺の命が欲しい。
 俺は死にたくない。

 意見は一致しない。
 しなければ、後は実力行使のみ。

 ゴブリンは振りぬいた剣を胸元へ引き寄せようとする。
 今度こそ必殺の一撃を放とうというのだろう。

 なんたって俺は、子供だ。
 ゴブリンと同じくらいの体格なのだ。
 外見から見て、そんなに脅威には見えないのだろう。

 だが、そんなに好き勝手されて堪るかっての。

 だが腰に佩いた剣を抜くのは無理だ。
 抜くような1手間の間に一撃を喰らうだろう。
 小柄なゴブリンだが、その速度はそれなりに速いのだ。
 ではどうするか。

 避けるのはジリ貧だ。
 反転攻勢の期待が持てぬ状況での持久なぞ無意味だ。

 逃げるのは危険だ。
 背中を見せればバッサリだし、前をみたまま下るのでは速度が遅いので直ぐに追いつかれる。


 ならばどうするのか。
 決まっている、攻撃だ。
 見敵必戦、“Catch and kill”だ“Go for Broke”だ。


 先ずは踏み込み。
 左足を前へ。
 それに合わせて、左腕を引く。
 全力で。
 正拳を放った後の様な動き。
 それに肩を上半身を巻き込ませる。
 背筋背骨に一本の鉄芯があるような左巻きの動き。
 この挙動によって生まれた右半身を前に出す慣性、それに拳を乗せる。
 前へ。

 狙うのはゴブリンの体幹、体の中心だ。
 だが、胸では無い。
 背中だ。
 腕が伸びきったとき、胸を貫通して背中を撃つとの動きだ。
 それは「   」であった頃、友人の空手家に聞き、修練した一撃だった。
 この身、ビクターと成って後、それ程に練習した動きでは無かったが、それでも出来た。
 再現出来ていた。

 故に、俺の拳は一撃必殺となる。


 血反吐を吐いてぶっ飛ぶゴブリン。
 ああ、そうか。
 俺の筋力って下手な大人以上だったのを思い出す。
 チラ見した右の拳、ガントレットには赤いものが付いていた。

 テラ力あり過ぎの俺。
 この点はチートだ俺様。

 そして同時に、俺は始めて殺した。
 人を、亜人を、ゴブリンを。

 生きているとは思えない、断末魔の震えをしているのが見える。
 命を奪ったのだ。


「Aaaaaaaaaaaaaa!!」


 自分の内側から何かが沸きあがってくるのを感じた。
 それは嘔気、それは歓声、それは蛮声。
 様々な感情が混在した声だった。

 俺はゴブリンを馬鹿にしていた。
 下に見ていた。

 母親様と相対し儚く消し飛ばされるのを知っていて、理解していて、理解していなかった。
 コレが命。
 コレが殺すと云う事。

 コレが、この世界の現実。


 グチャグチャに感じられる物事。
 それをスッと解消したのはマルティナさんだった。

 先ずは鈍痛。
 頭への鈍い一撃に、振り返ったらゴッツイ棍棒を構えたマルティナさんだった。
 馬車の上に居た筈なのに、いつの間にか隣に来て、俺の頭に一撃をくれていたのだ。

 表情が硬いのは、敵の奇襲を許した事への苛立ちなのかもしれない。
 だがまぁ仕方が無い。
 一緒に馬車の上で見張りをしていたノウラは、ブッチャケ素人で、後はチコッと訓練されている俺は下で妹と色々としていたのだ。
 たった1人で見張りをしていたのだ。
 奇襲を許したのも、まぁ仕方が無い。


「ぼさっとしてるんじゃないよ、ビクター坊。敵はまだ多いよ」


 見れば、馬車の周りにゴブリンが集まってきていた。
 後ろには割と立派な鎧を着込んだオークの姿も見える。
 オニョレ、指揮官持ちか。

 人間以下の思考力しか持たないゴブリンだが、オークなんかの指揮官が居れば話は別になる。
 戦術ってものを行使する様になる。
 しかも、オークには魔法を使うのも居る。
 それでバレタのかもしれない。

 なんにせよ、確かに惚けている余裕なんぞ無い。


「怖ければ馬車に戻りな」


 心配気に見上げてくる妹に、ニィっと笑ってショートソードを抜く。
 魔法を帯びたその剣は、陽光を反射し輝いた。


「大丈夫です」


 そうさ、俺は俺の意思でココに来た。
 居るのだ。

 なら、選択肢なんざ無い。








[8338] 0-12 バトルがフィーバー
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:31
 右を見ればゴブリン。
 左を見ればゴブリン。
 数はざっと10を超える程度か。

 それぞれ得物を構え、半円の陣形でジリジリと距離を詰めて来る。
 何と云うか、見事に包囲されている。


「ビクター坊」


 両手で鉄芯のクォータースタッフを持っているマルティナさんが、油断無く周囲を睨みながら声を掛けてくる。
 何処其処に補修の跡が見える、歴戦と思しき重厚なブレストプレート姿だ。
 盾を持たない分を、それで補っているのだろう。

 対して俺。
 右手には魔法強化されたショートソードを握っている。
 左手は盾代わりの、二の腕まで護る大きめガントレットを装着している。
 が、鎧は金属製ではない。
 動きやすさが優先されたレザーアーマーだ。
 関節や腹などの部位を護るのは油で硬く煮られたものを仕様。
 そして胸部には金属のプレートが何枚も縫い付けられている、簡易型のバンデッドメイルと言えるかもしれない。
 まぁ簡易の名前通り、余り強度は無いのが欠陥だが。

 基本的に、体力的な限界を考えてのチョイスである。
 まぁ正確には、チョイスされたのだが。
 母親様に。


「何、マルティナさん?」


 俺も、まぁ視線を動かしている余裕は無い。
 まさかこんな形でタップリの敵意をぶつけられるとは思っていなかったのだ。
 まぁ仕方が無い。


「このゴブ共、どうにも勝手が違うみたいだからね、アタシの背中から離れるんじゃないよ」


 阿呆のゴブが、知恵を張ると苦々しげに続けるマルティナさん。
 <黒>でも馬鹿として知られるゴブリンは、数で押す以外に知恵は回らない。
 回っていなかったのだ、今まで。
 それが今回は違う。

 恐らくは、オーク。
 ゴブリンの群れの後方で偉そうに見ている奴だ。
 剣を抜く事無く、余裕綽々ってな按配で立っている。
 ムカつく。

 そんなムカつくオークが、ゴブリン語と思しき言葉で何かを指図するに従って、ゴブリン達は包囲網を縮めたり、動いたりしているのだ。
 指揮官であることには間違いない。


「今まで、オークはゴブリンについて来なかったんですか?」


「いや、来てたよ。だが、こんなに知恵の回る姿を見せた事は無かったねぇ」


「じゃぁ、矢張りアレが原因ですか」


「原因だろうねぇ」


 組織化されたゴブリン。
 個体の力が劣る点を、集団で動く事で補う。
 それは今まで人が、<白>に属する人族が行っていた事なのだ。
 ソレを、ゴブリンがする。
 これ迄は雑兵でしかなかったゴブリンが戦力化されるのだ。
 大問題であった。


「チィッと頑張らんといけないやねぇ」


 これが、<黒>全体としての動きなのか、それとも、このオークの突飛な行為なのか。
 そこを見極める必要がある。


「了解です」


 返事をした時、前衛にいたゴブリンが一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「シャァァァァァァ!!」


 手に持っているのは棍棒だったり、手斧だったり、ショートソードだったり。


「なぁっ!!」


 横薙ぎの一閃。
 その風によって、大の大人の腰まである様な大きな草が吹き千切れる。

 が、ゴブリンは捉えられない。
 一斉に頭を下げて潜り抜けて来たのだ。

 大人のゴブリンでも人間の子供並の体格しかしていない事を生かしていた。

 距離を詰められたマルティナさん。
 クォータースタッフの間合いとしては近すぎる間合い。
 だが、それが即、危険には繋がらなかった。


「ぬんっ」


 振りぬかれたクォータースタッフ。
 その慣性を利用する形で変則的に上へと振り上げ、そして反対側の先端部を打ち下ろす。


「ゴヴェ!?」


 ゴブリンの頭部は見事に圧壊していた。
 だが距離を詰めていたのは更に2匹。

 左から迫る1匹は棍棒を持っている。
 棘を埋められた、それはもう凶悪な棍棒だ。
 それをマルティナさんは体を捻る事で肩で、肩にある装甲で受け止める。
 顔をしかめているが、棘は刺さっていない模様。

 残るは1匹。
 右側から迫るその手には、ショートソードが握られている。
 流石のマルティナさんも、対処は仕切れない。
 自由に動ける身であれば簡単に避ける事も出来るだろうが、馬車を背にし、それを護らんと踏ん張るのであれば、是非も無い。

 だからこそ、俺が居る。
 俺が補うのだ。


「Eeei!」


 懸かり――蜻蛉の構えから、一挙に踏み込んでの一閃。
 狙ったのは胴、やや左。

 が、初めて人の形をした知性体へと振るった剣は、やや誤った。
 勢いは良かったが、ゴブリンの持っているショートソードに当ってしまい、外へと弾かれたのだ。


「ギィィィィッ!」


 赤錆だらけのショートソードは当った所から叩き折れてはいたが、腕に傷は無かった。
 思わず舌打ちが出そうになる。

 正式に学んだ訳でも無い、ナンチャッテの薬丸自顕流なのだが、矢張り、悔しい。
 即、2撃目を狙おうとするが、ショートソードを振り上げる前に退かれた。
 判断が速い。
 違うな。
 口笛か何かが聞こえた。
 あのオークの判断か。
 ムカつく。

 狙ってやろうかと、睨みつけると、ニヤニヤと反された。
 益々にムカつく。


「ビクター坊」


 棍棒のゴブリンも引いたのだろう。
 ナンと言うか、消化不良な表情をしている。

 だが、それでも俺がチョイと危険な気分を抱いた事を読んで、声を掛けてきた。
 ここら辺、新兵を抑えるベテランってな具合だろう。

 って事はアレだ、俺はジーンか。
 手柄を立てちまえば、ってな死亡フラグは要らんがな。


「あい」


 だから素直に頷いておく。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-12
バトルがフィーバー











 ゴブリン、その性、性悪にして無思慮ってなのが通り相場で、更に戦意旺盛にして戦力極めて低しってなモンが一般的な評価だが、この相手は違う。
 チート臭がプンプン。

 具体的にはアレだ、後ろで偉そうな態度を見せているオーク。
 ナンか魔力を帯びてるっぽい、銀色の首輪付きの鎖を弄んでる。
 気に入らない。
 偉そうな態度は、更に気に入らない。
 人を下に見下したような顔は、滅茶苦茶に気に食わない。

 仕掛けたい。
 が、無理。
 直衛と言わんばかりに、身の回りに3匹程のゴブリンを置き、そして前線には7匹のゴブリンが居るのだ。
 此方は非戦闘員のノウラと、準非戦闘員な妹が居る馬車を護らねばならない。
 馬車から離れての攻勢は出来なかった。


 こゆう場合、弓か何かの中長射程武器が欲しいものだ。
 てゆーか、必須だな。

 まぁ馬車の中にはあったが、取りに戻るのは危険過ぎる。
 指呼とまでは言わないまでも、かなり近くで対峙しているのだ。
 装備を変えるタイミングで襲われたらアウトだ。
 と言うか、無事に装備を変え終えた瞬間に距離を詰められたら、更に悲惨だ。
 ナグモTFかよってな具合だ。

 まぁグダグダで迷うのもアレだが、敢闘精神過ぎるのも問題ではありんすがね。
 一矢報いるより、1隻でも本土へと連れて帰るのが大事じゃないのかと小一時間。

 まぁそんな気分は横に置いといて。
 冷静に考えて、即、放てる投擲系の装備も必須だと云うのを理解する。
 ダーツと云うか、投擲剣みたいなモノの携帯が吉か。
 ああ、良いのが在った。

 手裏剣。
 或いは苦無か。

 弾帯みたいなのに挿して袈裟懸けにすると、まぁナンと言う事でしょう。
 黒の剣士化フラグキタコレ、だ。
 が、まぁ、アソコまでストイックつか愚直にゃ成れないですがね。
 俺ってば欲塗れの俗物だから。
 楽したい。
 エロしたい。
 酒は……まぁ、適当に。

 さて、そんな将来の楽しみの為にも、ゴブリン&オークに囲まれた程度の事は、鼻歌交じりで乗り越えないと駄目でしょう。
 うん。
 きっと駄目だ。


「さて、どうします?」


 先ずはベテランに意見を聞く。
 が、アチラも悩んでいるご様子。


「どうするかねぇ」


 攻めて来てくれれば楽なんだが、と視線を周囲に向けつつもボヤク。
 そらねー ゴブリンが持久戦を仕掛けてくるってのは、まぁ、想定外やね。

 てゆーか、油断無く周囲を警戒している辺り、最初の奇襲を喰らったのが、相当に悔しいらしい。
 俺もまぁアレだ、命のピンチ割と厳しめを味わったので、ベテランが真剣になっているってのはあり難い。
 マヂデ。


「相手にも弓が無いのがあり難いが、千日手はビクター坊の神経が持たんだろうしねぇ」


 大丈夫。
 そんなに細くない。
 まだまだ大丈夫。

 だと良いなぁ。
 流石に初実戦故に、自信は無い。

 なので、片膝を着いて楽な姿勢を取る。
 うん。
 左の大型なガントレットの重さを痛感する。
 もちっと軽量化が必要だと思う。


「仕掛けたいですね」


「ビクター坊は止めときな。ソレをするにゃ、もう少し成長して、経験を積んでからだね」


「あい」


「それよりも、だ。坊は信号弾の用意をしてたよな?」


「筒までは準備してます。後は玉に火を点けて放り込めば………」


 玉自体は持っている。
 後、着火に関しては、俺が使える簡素な魔法道具で簡単に点けられる。
 1言、「点れ」と命じるだけで、火の点く便利な道具だ。
 ライターみたいなものだ。
 問題は、無い。

 但し、発射筒を埋めている場所が、俺らとゴブリンs'の中間辺りに在るって事だろう。


「良いね。ビクター、チョイと冒険して見ようか?」


 名前が呼ばれた。
 名前に坊やが付かなかった。

 テラ ドキドキ。
 チトばかり、嬉しくて堪らん。


「喜んで」


 血圧が少しだけ上がったのを実感した。





 作戦は1つ。
 単純だ。
 信号弾を打ち上げて、主戦力と言うか、決戦戦力と言うか、決戦存在を呼び戻すのだ。


 イザ動かんとしたその時、馬車の側で音がした。
 すわ迂回かと慌てて振り返ってみれば、入り口の扉が開き、ノウラと妹が顔を出したのだ。
 武装して。

 ノウラは、ヒースクリフ家の武器庫から持ち出してきた麻痺効果を持つショートスピアを持っている。
 かすりさえすれば、相手の神経を麻痺させる事が可能な逸品だ。
 使い勝手のよく、そして自衛に向いているとの選択だ。
 元々ノウラは、亡き父親が残した魔力付与されているショートソードを持とうとしていたが、ショートソードはそれなりの訓練を受けていないと使いこなせないので、こう成ったのだ。

 対して妹は、魔法を使う為の魔法発動体であるメイジ・スタッフを持っている。

 共に表情は硬く、色も悪いが、それでも強い意志が浮かんでいた。


「おにいさま、私達も戦います!」


「護られるだけじゃ駄目なんです」


 10歳以下でその決意かよと思う反面、ガチで足手まといと嘆きたい気分。
 それが思わず漏れました。


「…おいおい……」


 それが戦闘再開の切っ掛けとなった。


「ギシャー!!」


 吼えて飛び掛ってくるゴブリンs' ども。
 メンタリティ的に、この状況が耐えられなかったっぽい。
 そして、あのムカつくオークにとっても予想外の事態であった模様。
 目を、まん丸に見開いているのだから。

 尤も、それを暢気に笑ってはいられない。
 2秒でエンゲージなのだから。


 最初に突っ込んでくるのは3匹のゴブリン。
 全部が俺を狙って来る辺り、俺とマルティナさんの実力差を良く見ているっぽい。
 或いは体格差かもしれない。

 舐めるな。


「Teeee!」


 距離を詰められるのは趣味じゃない。
 だから、攻める。

 3匹の、向かって1番左側はマルティナさんに期待する。
 狙うのは1番右側。
 そこと交戦すれば、俺を抜いて後ろの妹達を襲う事が出来なくなるからだ。

 子供の勇気は買うが、まぁ無茶はさせたくない。


「Kietu!」


 振り下ろしの一撃。
 今度は狙い違う事無くゴブリンの体を切り裂く。
 相手は棍棒を構えていたが、一挙に断てた。

 血を吹き出し、ぶっ倒れる右のゴブリン。
 心臓は、鼓動は跳ねない。
 只、チョットだけの罪悪感があるだけ。
 但しそれも、後ろの子供達の事を思えば打ち消せる。

 俺は盾だ、盾なのだ。
 己へと暗示する様に呟く。

 否。
 もう、そんな事を考えている余裕は無い。
 予想通りに、左側のゴブリンはマルティナさんが仕留めてくれているのだが、当然、後1匹が残っているのだから。


「キシャー!!」


 タマ取ったると言わんばかりに、腰だめにショートソードを構えて突進してくる。
 中々に気合が入っている。

 コレで、攻撃のタイミングが完璧に整っていたら喰らっていたかもしれないが、そこまで調整は取れていない。
 あのムカつくオークもそこまで統制は出来ていないっぽい。

 あり難い話だ。


「ぬんっ」


 流石に、ショートソードを振り回す時間的余裕は無いので左のガントレットで受け流そうとする。
 表側の厚手の装甲部で受け、そして外へと左腕を振る事で逸らそうと云うのだ。

 盾が欲しい。
 盾が在れば、こんなガントレットで流そうなんて無茶をせずにすむ。

 否。
 それよりもう1本、剣を持ちたい。
 盾だと流したり止めたりするだけだが、剣ならば攻撃まで出来る。
 出来るのだ。


「カァッ!」


 膂力の差か、ゴブリンのショートソードを流す事に成功する。
 耳障りな金属音を立てて、ショートソードとガントレットが交差する。
 そしてぶつかる、俺とゴブリン。
 勢いはあっても重量が無いので、お互いに軽く飛ばされあう。
 相手のゴブリンはショートソードを落としているが、腰にはまだ武器を、ナイフを差していたのだ。
 無力化には程遠い。

 クソッタレ。
 戦場に立てば、現実に命の遣り取りをすれば、手数を増やす事を切望したくなる。
 今だって、もう1本武器があれば、あのゴブリンの胴体でも泣き別れにしてやれたのに。
 或いは風穴を開けられたのに。
 そう思うと、悔しい。

 今、仕留められないと、次に俺が又、攻撃を受けるリスクが出て来るのだ。

 それは兎も角。
 追加攻撃を狙おうとするが、その時には、残っていたゴブリンの前衛組が来ている。
 残る5匹。

 あー 手数が欲しい。
 ん? 良く考えれば、足元に1本落ちているじゃないの、俺。

 チラ見する足元。
 ショートソードが転がっている。
 最初の1匹目とか程に酷くは無いが、それでも良好な状態とはお世辞でも言えない状態だが、使えそうではある。


「キィィッ!!」


 チラ見を隙と見てか、一気に3匹が襲い掛かってくる。
 残る2匹は、マルティナさんへの牽制をしている。

 自分で何とかしなければならない。
 退くのも避けるのも簡単だが、それでは状況を打破出来ない。
 それは好みじゃない。
 故に、する事は1つ。
 回転切りだ。
 当てる為では無く、牽制の為に大きくショートソードを振り回す。
 狙いは成功。
 ゴブリンの動きがチョットだけ止まる。

 その隙を逃さず、脚に力を溜るように腰を下ろし――ショートソードを拾う。
 そして後ろに跳ぶ。

 キチンと握りなおす為、更に時間が、距離が欲しかったのだ。

 が、流石に、其処まで甘くない。
 2匹が距離を詰め様としてくる。


「ビクター!」


 ぐっ、折角拾ったのにと思った瞬間、その2匹の鼻先にショートスピアの矛先と、炎の攻撃魔法が叩き込まれる。


「おにいさま! 何を拾ってらっしゃいますか!!」


 妹の怒声が耳に痛い。
 痛いが、同時に、妹もノウラも出てきただけで無いのを実感して、笑いたくなる。
 2人ともやる。

 なら兄が、年上が無様を晒す訳にはいくまい。
 左手で持ったゴブリンのボロいショートソードを握り直す。

 二刀流だ。

 両手利きな俺、万が一に備えて右でも左でも剣を持つ訓練はして来たが、今まで2本とも持っていた事は無い。
 無かったが、出来ない訳じゃない筈。

 口元が歪む。
 笑う。
 嗤う。
 哂う。
 歪んだ笑みに突き動かされ、吼える。
 気合を入れる。


「Tyesutoo!」


 ああそうさ。
 やってみなけりゃ判らんさってな。








[8338] 0-13 ビクターですが、ゴブリンは強敵です。(σ゚∀゚)σエークセレント
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:32
 二刀流である。
 右手に母親様から渡された魔法のショートソードを。
 左手にゴブリンから強奪したボロいショートソードを。

 付け焼刃ではあるが、左手で振るう訓練はしていたんで、まぁ何とか成るでしょう。
 多少、打ち筋が甘いかもしれないが、手数を増やすってな誘惑には勝てない。
 特にこんな、ゴブリンに囲まれている状況には。


 オークの仕込みか、左右から、見事に連携の取れた攻撃を仕掛けてくるゴブリン3匹。


「ギィィィッ!」


 良いねぇ。
 良い気合だ。
 怖くて体が震えそうになる。

 左右から迫ってくる。
 逃がさないように。
 確かに、足を止めて防戦するのであればソレは正解だ。
 か、しかし同時にソレは、兵力を自分たちで分断しているって事だ。
 故に、狙うのは各個撃破。

 ブッチャケて言えば、銀河で英雄で伝説になる金髪さんの二番煎じだ。
 だから簡単ではある。
 目と目が合うような距離で突っ込んで来る相手に、自分からも突っ込むって事への恐怖を脇に置いて言うならば、だ。

 踏み込む。
 残る2匹への隙を与えないように、やや左身を前にする形で。
 先ずは左側、得物がショートスタッフと云うかショートスピアと云うかなってなボロいモノだったので、距離を詰めれば簡単に組めるとの判断だ。


「ギィッ ギィッ!」


 コチラからの攻撃――攻勢防御なんて事は想定していなかったのだろう。
 それは無いと慌てたようにゴブリンが吼えるが、無視。
 ガン無視。
 左手のショートソードを、横薙ぎに振るう。

 堅い音。

 ボロのショートソードは、同じくボロいスピアかスタッフの柄に止められてしまった。
 それは無いだろセニョーリタ。
 幾ら刃先が錆びているとは云え、相手は多分に木だぞ。
 キンガイはムウナに相克ってか、上じゃないのかド畜生。
 大師の馬鹿。
 或いは、拾ったものを使うからですってなオバサンの言葉が脳みそで点灯した。
 畜生。

 馬鹿な事を頭の中で考えつつ、更に踏み込む。
 体勢が完全にこのゴブリン相手になるが、ココで仕留めねば、又、囲まれるのだ。
 それは御免被る。

 後ろからの妹たちの支援を信じて、追加攻撃だ。



 初陣の俺が言うのもナンだが、ゴブリン如きに――ってな感じで気合を入れる。
 左の肘で、柄を叩き、迎撃の動きを阻害させながら、右のショートソードを放つ。
 穿つ。
 踏み込みながらの突きだ。

 その切っ先は狙い誤らず、ゴブリンの胸を貫いた。
 崩れ落ちるゴブリン。

 キルスコアの追加。
 それは再び、命を奪ったと云う事。
 だが、最初ほどの感慨は無い。
 人間は慣れる生き物だと実感する。
 痛感する。
 両手は返り血で真っ赤だ。
 洗っても、多分に落ちないだろう。
 俺も立派な人殺し。
 平成の御世は遠くになりにけり、だ。
 畜生。

 ああ、そんな下らん事を考えるよりも、如何に敵を屠るか。
 それだけを今は考えるべきなのだ。
 自分の命が惜しければ。

 悔恨も自責も、生きていてこそなのだから。

 と云う訳でビクターです。
 まだまだゴブリンと戦闘中です。
 ド畜生。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-13
ビクターですが、ゴブリンは強敵です。(σ゚∀゚)σエークセレント











 俺とゴブリンの交戦は、まだ順調だ。
 手数を増やし殺傷圏を増やしたお陰で、2匹程度までは余裕で捌けている。
 まぁ3匹目が来られると厳しい辺り、要訓練と言う言でしょう。
 今は、後ろからの支援があるので何とかこなせている。
 精進精進。


 まぁ俺はさておき、問題はマルティナさんの方だ。
 アッチが強敵と見抜き、オークが直衛の3匹が一丸になって攻めている。
 コッチに来ているのは後3匹だ。
 とっとと蹴散らして、支援に回らないといけない。

 圧されてはいるが、捌けてはいる。
 捌けてはいるが、俺と同様に攻勢に出る事が出来ないでいる。

 戦士としては円熟期を迎えたベテランファイターのマルティナさんだが、流石に連携の取れたオークと3匹のゴブリン相手にしては厳しい様子だ。
 早く、支援に回らないといけない。
 年が年故に、そうそう持久力は持たないだろうから。

 俺も中々に厳しく、足が止まりつつあるが、それは相手も同じ事。
 体格は似ているのだ。
 乳酸の容量も同じくらいだろうし、そもそもとして、実際に動きは悪くなっている。
 キツイのは彼我共になのだ。
 ならば、根を上げるなど絶対にしてたまるか。




「Teeetu!」


 左のショートソードで受け止め、右のショートソードで攻撃する。
 段々と慣れて来た双剣の戦い方。
 うん。
 盾みたいな、受動的なものよりは、こうやって剣を持って能動的に防御するってのが俺の性格にあっている。

 まぁ、飛び道具には弱いが、母親様の如く武器で叩き落せる技量を得れば良いのだろう。
 先は永いな、マヂデ。


「おにいさま!」


 俺の左後方からの妹の声。
 段々と連携が取れてきて、一言で意思が通じる。


「応!」


 放たれた攻撃魔法。
 ソフトボールみたいな火球が飛ぶのを見た。
 所謂、ファイヤーボールだ。
 投擲されたそれは、当たった先で炸裂し、着弾点を中心に直径10m程度のエリアに焔を撒き散らすのだ。

 草原で焔の魔法ってのもヤヴァイとは思うが、まぁ秋じゃないので大丈夫じゃないかと思い、一歩、バックステップで効果半径から逃げる。
 逃げようとする。
 が、逃げ切れない。

 焔が俺の顔に迫る。
 バックステップから後ろに倒れる様に飛ぶ。

 背中が痛い。
 顔の前を焔が飛ぶ。
 怖い。
 マジで。

 てゆーか、俺とゴブリンは近接しているんだが妹よ、もうチット考えて魔法をチョイスして欲しい。
 戦闘経験不足からのミスチョイスなのかもしれないけど、たまったモンじゃない。
 お願いだから。

 焼けて炭になった草が落ちてくる中、急いで立ち上がる。
 前へと勢いをつけて立つ。

 無茶な動きで脚が痛いが、痛みを感じない世界へ行く羽目になっては堪らないので急ぐ。
 まぁ、アレだけの威力だ。
 一掃したかもしれないなと思ったが、残念。
 1匹は昇天していたが、もう1匹はまだ生きていた。

 えー妹よ、今度、キャッチボールでもしようか。
 ノーコンノーサンキュー、だ。


 兎も角、攻撃を。
 1対1であれば負けやしないと、勇躍、突進しようとした時、マルティナさんが苦悶の呻きを上げていた。


「ぬぅっ!!」


 オークの剣が、マルティナさんの肩を貫いている。
 ザックリと深く。


「なっ!」


 確認した。
 どうやらファイヤーボールのダメージが、マルティナさんに行っていたのだ。

 一緒にゴブリンを2匹程は巻き添えにしていたが、それでトントンに成るようなモノでは無い。
 特に、敵で最も強力な相手を残していては、だ。

 否、無事では無い様だ。
 コッチ側、左側の体には焼け焦げている。
 にも関わらず、戦闘を続行していた。
 ツワモノだ。


「マルティナさん!!!」


 間接的と云うか直接的と云うかなな加害者である我が妹が悲鳴を上げる。
 だが俺は、声を上げるよりも、その1息をもって奔る事を選ぶ。
 悲鳴を上げた所で、状況は変わらないのだから。

 信号弾を上げてから時間が経っている。
 もうそろそろには、母親様かマーリンさんのドッチかが帰って来る筈。
 だから、それまでの時間を稼ぎさえすれば良いのだ。


「Aaaaaaaaa!」


 脚の動きが悪い。
 疲労が溜まっている様だ。
 後、無茶な動きをした後なんで、ダメージがあるのかも知れない。
 クソッタレ。

 であるならば、悠長な事は出来ない。
 一撃で最大のダメージを与える必要がある。

 蜻蛉で一撃必殺――否。
 子供の未成熟な体故にで、足腰にガタが着ているのだ。
 そんな状況で無理が出来る筈も無い。

 ならば両のショートソードで全力攻撃――否。
 付け焼刃でやってた双剣攻撃だ。
 そんなモノがツワモノ相手に効くとは思えない。

 ならばどうするのか。
 選択肢は一つしかない。


 突貫。


 左のボロいショートソードを捨て、その手で右の魔法なショートソードのハンドガードを掴む。
 そして位置は腰、体の重心に。
 全体重に慣性を乗せてお見舞いしてやるのだ。


「ギィィィィ!」


 生き残っていたゴブリンが突っ込んでくるが、無視。

 剣を振り上げ、振り下ろしてくるが無視。
 否。
 完全に無視する訳では無い。
 軌道を見て、それが当たるであろう場所が、頭とか足とかで無いのを判断して無視をする。


「ビクター!」


 残ったゴブリンを相手にしていたノウラが、悲鳴を上げた。
 悪い、子供に心配をかけるのは悪い大人だ。
 ったく。

 鈍い痛み。


「ぬっ!」


 歯を食いしばって耐える。
 右の肩から肩甲骨に掛けて、剣があたったのを理解する。
 灼熱感。

 液体が流れるのを感じた。
 裂けたのかもしれない。

 だがまだ大丈夫。
 進める。
 脚は動く。

 ならば止まらない。
 痛み如きで止まらない。

 その痛みを対価として、護れるものがあるのなら、止まってやるものかよ。


「Kietu!」


 踏み込みは震脚を意識する。
 そして後ろ足で地を蹴る。


「!」


 突き出す切っ先は、確かにオークの腕に捉えた。


 そして、俺が覚えているのは其処までだった。
 視界が急速に狭くなり、黒くなった。

 舌打ちをしたくなる。
 ダメージを受けすぎたか、疲労をため過ぎたか。
 自分を罵る前に、意識が落ちていた。
 畜生。










 目を開けると、夜だった。
 星空が目に飛び込んで来る。
 そして、パチパチと薪が燃える音がする。

 どうやら、外に居る様だ。

 全身に残った倦怠感。
 鈍痛もある。


 だが何よりもの疑問は、何故、俺が生きているのか、だった。


「っぅ」


 肺腑の、胸を締めるような痛みを知覚する。
 普通に痛い。


「んんんんん……」


 だが、状況がわからぬ儘に、寝てはいられない。
 無理矢理に起きる。

 涙が出た。
 子供の涙腺は緩くて嫌いだ。
 畜生。


「無茶は駄目、ビクター」


 ノウラだ。
 手には桶を持っている。

 てゆーか、鎧姿じゃない。
 そこで自分の上半身が裸なのと、包帯が巻かれている事に気付いた。
 間抜けな事に、だ。

 どうにも、集中力と周辺への観察力が落ちまくっている様子だ。


「大丈夫だ。それより……ここは? …後、状況は??」


 痛みをおして上半身を起こす。
 子供相手に寝っ転がって話すのは、お行儀が良く無さ過ぎる。

 安定しない上半身。
 それをノウラが支えてくれる。
 情け無い姿だ。


「無理をしないで。傷は浅くなかったんだから」


 治癒魔法か、治癒用のポーションかは使われているって事だろう。
 だが、そんな事はどうでも良い。
 それよりも状況だ。


「ここは、マバワン村です、でした」


 良く良く周りを見れば、焼け焦げた建物が見える。
 てゆーか、俺が居る場所は普通にベットだった。
 但し、屋根の焼け落ちた。
 ここは半壊した建物だった。
 薪が燃えているのは、アレだ、暖炉だった。
 ひどい状況だ、全く。


「で、状況は。マルティナさんは? ヴィヴィリーは?」


 そう尋ねると、ノウラは沈痛な表情になった。
 見れば顔色が悪い。
 後、疲れ果てた色が見える。

 黙って、言葉を待つ。


「マルティナさんは、大丈夫です」


 治癒を受けて、今は安静にしていると言う。
 問題は妹だった。

 ヴィヴィリーは、オークどもに連れ去れているのだと言う。
 畜生。
 何て事だ。








[8338] 0-14 男には意地ってものがあるんです
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:32
 妹が拉致された。
 ヴィヴィリーが拉致された。


「はぁ?」


 思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
 気分は正にハァ?(゚Д゚) だ。

 オークに連れ去られたんなら、何で俺が生きている。
 マルティナさんが生きている。

 百歩譲って、俺達も連れ去られたんなら、何で縛られていない。
 拘束されていない。

 冗談は止せ、だぞマジで。


「本当です。本当なんです――」


 泣き出すノウラ。
 そして泣きながら言葉を連ねた。



 ノウラの語った、俺が気絶してからの状況。
 先ず、足にショートソードがブッ刺さったオークが咆哮、怒り狂って暴れた。
 ザマーミロ。

 その間にノウラは何とか、ゴブリンを一匹、屠った。
 お見事。

 だが、問題は屠った時点でも3対2の劣勢であったと云う事だ。
 敵はオーク1匹とゴブリン2匹。
 対してノウラと妹、共に前衛とは言えない2人だ。
 是で絶望しない方が異常だ。

 しかしその状況で我が妹、意識の飛んだ俺を助ける為に特攻したんだそうな。
 自分の限界を認識できずに暴走して自爆した俺を助ける為に、命を掛けたのだ。
 ぶっ倒れた俺を嬲るオークに、魔法の発動体であるスタッフだけで対峙したのだ。
 畜生め。
 妹の性根の良さへの嬉さと、己の不甲斐なさで涙が出そうだ。

 そんな、ヤヴァ気な対立は、直ぐに終わったんだと。
 当然ながらも我らへの増援――母親様の登場で。

 馬に跨って颯爽と、しかし返り血塗れで現れたその姿を見た瞬間、オークは脱兎の如く、振り返る事無く逃げ出したんだと云う。
 置き土産の煙幕と、行きがけの駄賃で自分の正面に居た我が妹を掻っ攫って。


「………止められなかったのか…」


「はい。魔法の道具を使ったらしくて、一瞬で首輪がヴィヴィーの首を絞めて………」


 あの妹を、健気で明朗活発な我が妹を、獣畜の如く扱った訳か、あの糞オークは。
 薬の影響でか、回転の遅かった俺の脳みそに火が点いた。


「私のせいで、ヴィヴィーが、ヴィヴィーが………」


 座り込み、完全に泣き出したノウラ。
 悪いのはノウラじゃない。
 ましてや母親様なんかじゃ無い。

 俺だ。
 クソッタレ。
 クソッタレクソッタレクソッタレ。

 あの豚面オーク、三枚に下ろしてやる。
 絶対に潰してやる。

 怒りを胸に立ち上がる。
 そうだ、こんな時に寝てる場合じゃない。

 枕元を確認。
 そこには俺の武器が衣服が置いてあった。

 乱暴に引っ掴むと、ノウラに声を掛ける。
 母親様達は何処に居るのか、と。


「え、アデラさま達ですか?」


 そうだ。
 急いで行かないと、あの母親様達の事だ、夜中とは云え今すぐにでも妹救出に出撃するだろう。
 汚名返上、失地挽回。
 奪われたものは取り返せば良い。

 そもそも、殴られっぱなしってのが気に入らない。
 殺す。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-14
男には意地ってものがあるんです











 ノウラの案内で行った先、マルティナさんの病室で、ヤッパリ母親様達は出撃準備をしてました。
 完全武装で、フルアーマーです。
 顔には笑みを貼り付けてますが、目つきが完全に座ってます。
 超怖い。


 でも不思議なのは、部屋に居た村人っぽい包帯だらけの男の人が、俺の顔を見た瞬間に、息を呑んだ事。
 死にそうな怪我にでも見えたんだろうか。

 まぁどうでも良い。
 俺は今、生きている。
 心臓は鼓動を続け、脳みそは回っている。
 後は、全てをたたき切ってでも、妹を取り返すだけなのだから。

 正確には、救助と言うか、追撃と言うかの部隊に、俺が参加できるかどうかって事だ。


「アデラお母様!」


 真っ向から母を見る。
 全てを叩き切る様な、鋭い視線が返される。
 テラコワス。

 だが、怯む訳にはいかない。
 男の意地が掛かっているのだから。

 頭を下げる。
 そして願う。


「お願いします、ヴィヴィリーを助けるに向かうのに、私も連れて行ってください」


 何時もとは違う口調。
 だがそれは当たり前。

 ここは家では無く戦場。
 相手は母親では無くヴェテランと言うか、鬼のようなレベルの戦士だ。
 そんな相手の作戦行動へ随伴させて貰う事を願うのだ。
 礼を尽くさずしてどうすると言うのか。


 暫しの沈黙。


 誰も口を開かない。
 俺は頭を下げたままなので、どうなっているか見えない。
 唯々、許しを願い、待つのみ。


「マルティ、貴女の判断を」


「イエス、マダム」


 共に、鉄を飲み込んだような、硬質な声。
 穏やかでも無ければ、豪快でもない。
 硬い硬い声。

 常には無い声が降って来る。
 自分の行動への評価が下されるのだ。
 じっと待つ。

 何をどうするにせよ、先ずは判断を待つのだ。


「状況判断は悪くなく、戦闘への果敢さも十分。能力もまぁ水準並み。ミスも無い訳じゃないが――」


 少しだけ言葉を濁して、それから声色を変える。
 駆け出しには良くある事さっと続けた。


「そもそも、ミスは私も犯した。馬車に奇襲を受けた理由は私がゴブ助を舐めていたからだし、説明をしてなかったのも悪い」


 ミス。
 何のことかと思ったら、魔法の使用の事であった。

 魔法に関しては、まぁド素人に近い俺だが、それが今回、出たっぽい。
 妹が使った魔法は、隠蔽魔法の一種ではあったが、それは俺の期待した擬装では無かったのだ。
 外から見えなくなる魔法。
 その言葉に俺が期待したのは、消える様に見えなくなる事だったが、妹は別の意味に理解していたのだ。
 外から見えなければ良いのだろう、と。
 <インヴィジビリティ・コクーン>って魔法は、その名前の通り繭を作る事で外から中を見せなくする為のものだそうな。

 女性が川とかで入浴するのにピッタリ☆ みたいな用途でも使われるんだそうな。
 Orz だ。

 そらね、この世界においてカムフラージュって概念はトンと無かったし、そもそも妹もカムフラージュって何? みたいな事を言っていたよ。
 いたさ。

 あ~ あ~ 色々と泣けて来た。


「新兵ではある。が、隊伍を組む時には隣に居るなら心強い」


「あら、絶賛?」


「まっ、要成長ではあるけどね」


 その言葉に、慌てて顔を上げれば笑ってる母親様とマルティナさん。
 だが、笑っていたのはそこまでだった。

 母親様は真顔に戻ると、宣告を下す。


「直ぐに支度をしなさい。もう出るわよ」


「はいっ!」



 後から聞いた話だが、この時、母親様達は、この村の人間に道を確認していたのだと言う。
 夜間での行軍は厳しいものだが、だからどうした。
 娘を、ヴィヴィリーを絶対に救い出すと大馬力で宣言していたのだと言う。
 そして同時に、この村から連れ去れた女子供も救出して来ると言っていたのだ。
 予想通りと言うべきか、何と言うか。
 先ずは、流石は我が母親様と感嘆すべきなのかもしれない。

 尤も、その時の俺は、それ所では無かったのだが。





 慌てて装具を調えていく。
 レザーアーマーは、肩の部分がザックリと裂けているが、綺麗に繕っている暇はない。
 何箇所か穴を開けて、革紐を結ぶ事で処理とする。
 強度は前ほどには無いが、それでも、放置して置くよりはマシ。

 ガントレットを嵌める。
 上を肩の金具に装着し、それから全体の紐を締めるのだ。
 が、流石に上手くいかない。
 体が痛みを上げているって面もあるが、それ以上に、二の腕までも護るタイプの大型ガントレットってのは1人で装着するように考えられていないのだ。

 金具を固定しようと四苦八苦して手を伸ばそうとしていた時、そっと柔らかな手が金具を支えてくれた。
 ノウラだ。


「有難うサン」


 礼を言うが、暗い顔をしている。
 ガントレットの固定紐を引き締めながら問うてみる。


「どうした」


「無事に………無事に、ビクター」


 しっかりしていたこの子が言葉を上手く操れなくなっている。
 てゆうか、行き成り泣きだした。
 声を必死に殺して、ポロポロと大粒の涙を流している。
 何ゆえに、だよ。


「どうしたノウラ。大丈夫、母親様達ぁ筋金入りだ。俺も注意して行く。大丈夫、ヴィヴィリーは助けるから。後、ノウラの顔見知り達も、な?」


 泣かれると困るのだ。
 どうにも、女子供の涙ってのは嫌いだ。
 こゆうのを止める為に男は居る。
 てゆーか、止められずして何が男ぞ。


「大丈夫。きっと助けてくるから。そう言えばノウラのお母さんは――」


 お母さん、その単語がトリガーになってしまった。
 大号泣。
 ノウラが声を上げて泣きだした。

 地雷を踏んだか。
 てゆうか、この反応、もしかして。


「お母様は、お母様は………」


 大当たりかよ。
 連れ去られたか、それとも殺されたか。
 ド畜生。
 あの糞オークを赦しちゃおけねぇ理由が増えたな。

 まぁ先ずは、この泣いているノウラを何とかしないといけないが。
 そもそも、何で俺の前でなく。
 いや、地雷を踏んだのは俺だが、にしても、だ。
 畜生め。
 神様、もうチットばかし俺に優しくして欲しい。
 主に胃のために。

 てゆうか、具体的にはどうしよう。

 選択肢として説得する事を考えてみる。
 無理。
 ルソー前の英国じゃあるまいし、子供を小さな大人として扱うなんて無理。
 てゆうか、俺はそゆうソレを否定する教育を受けている。
 現代日本の幼児教育舐めんな、タコ。
 出来るかってんだ。

 そもそも、それが出来る位なら、児童虐待なんざ、減っとるわ。
 理屈が通じないのが子供で、大人はそれに切れてってのが多い――んな事はどうでも良い。
 どうする。
 泣きやむまで――ってのは、時間的に厳しい。
 てゆうか、俺の心にも厳しい。
 泣いてる子供は大敵だ。

 宜しい、ならばハグだ。
 人肌による癒しだ。
 アロマセラピーっぽいナニだ。
 泣いている赤子を母親が抱きしめてあやせば、割と落ち着くってなモノだ。

 キャラじゃないが。
 アロマも無いが。

 在るのは、レザーアーマーを煮込んだ油の残り香だ。
 理想的から離れた、全然リラックス出来そうにない状況だな、全く。


「っ!」


 ぎゅっと抱きしめてやる。
 条件の悪さを、それで補う。
 左手はガントレットで冷たいので、逆効果になる事を恐れて右手だけで抱きしめる。
 俺の体温が伝わる様に。


「必ず、あぁ大丈夫だ。必ず助けてくるから」


「無理を、無理をしないで、ビクター」


 震えている。
 こんな幼い子にはストレスの大きな状況なのだろう。
 全く、腹立たしい。


「大丈夫、オークを打ち殺して、それから連れ去れた人間はきっと助けてくる」


 抱きしめたまま、頭を撫でてやる。
 嗚咽を漏らすノウラ。

 本音を言えば、好きなだけ泣かせてやりたくもあるが、それをすると母親様に置いて行かれるだろう。
 故にアレだ。
 嗚咽が弱くなった所で、強引に体を離す。


「あっ」


 ノウラの手が俺に伸びるて来るが、それをやんわりと止める。
 ハンカチで。


「顔がひどい事になってるぞ」


 ハンカチを持っているのは貴族の嗜みだ。
 おフランスのアラミスからの伝統だ。
 まぁ、女物では無いが。

 慌ててハンカチで顔を拭くノウラ。
 その隙に俺は装具を調える。
 紐を締め、最後に剣帯を締める。

 戦闘準備は完了。
 後は、ショートソードを下げるだけ。


「本当に、ひどい人です、ビクターは」


 有無。
 確かに、女性に向かって顔が酷い事にってのは言うべき言葉じゃないのは同意する。
 まっ、汚い大人のやり口とでも理解してくれたまへ。


「酷いか?」


「酷いです」


「悪いな」


「悪いです」


 何とか、気分を再構築は出来たっぽい。
 ならば後は俺は、行くのみ。

 体をノウラから更に離す。
 ショートソードを吊り、扉へ。


「まぁ帰ってきてから愚痴とかは聞くし、その時、改めて胸でも背中でも貸してやるからさ」


 背中で語ってみた。
 てゆうか、早く行かねば成らない。
 母親様達が待ってるし、そもそもとして妹や、この村の人々が囚われているのだから。
 だが、部屋から出ようとした矢先に、もう1度呼び止められた。


「ビクター、コレを」


 差し出されたのは、ノウラの父が残したショートソードだった。
 護りの魔法が掛けられた、ショートソードだ。


「コレは………」


「この剣は護りの力がありますから、だからビクター 無事に」


「判った。借りて行くよ」



 色々な想いが乗っている剣だ。
 それをあのオークに、ゴブリンどもにぶち込んでやる。
 では行くとしようかね。








[8338] 0-15 流石にコレは予想外
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:33
 闇夜。
 月明かりは冴え冴えと輝いているが、その光量は、鬱蒼とした森を往くには足りない。
 だがそんな状況でも、馬は走る。
 奔る。

 阿呆ライダーの常で、夜中も単車を奔らせていた過去もあるが、あの頃は、道が良く、そしてそれなりのライトがあったからだ。
 だが今、それは無い。
 道は細く舗装など無い。
 そして光は一切、用いる事なく走っている。

 信じられない状況。

 何故にこんな状況で、馬が走れるのかと云えばそれは単純、魔法だ。
 1つは追跡の魔法。
 俺や妹が持っている魔法的目印を追尾する魔法だ。
 正確には魔法道具。
 コンパスみたいな代物で、現在地のみならず、1日以内の時間であれば移動痕跡すらも追跡可能ってな優れものだ。
 てゆうか、凄すぎでしょ、魔法。

 そしてもう1つ。
 暗視の魔法だ。
 その力は、月明かりの無い状況でさえ、昼同様の視野を与えてくれると云う。
 ビバ☆ファンタジー。
 ビバ☆魔法。
 ただ残念なことに、その魔法の恩恵は馬と、そして御者にのみ与えられているものである事だ。
 乗っているだけの俺に、その恩恵は無かったのだ。

 流れていく風は、たっぷりと夜気を孕んで冷たく、心地よいがブッチャケ、怖い。
 マジ怖い。
 見えないのだから仕方が無い。

 後、気分も悪い。
 車酔いの類かもしれない。
 最悪だ、全く。

 だが、好んで参加した救出行。
 妹を救う為にも、意地でも悲鳴を上げる積もりは無かったが。


「大丈夫かね?」


 頭の上から声が聞こえる。
 マーリンさんだ。
 夜気よりも濁りの無い澄んだ声が、気持ち良い。
 少しだけ気が紛れる。


「全然、平気です」


 硬めな声が出たっぽいが、意地で格好つけてみる。
 否。
 つけなければならない。
 間違えても平気では無いが、女性の前で醜態は曝したくない。
 特に、魅力的な女性の前では。
 これも又、男の意地であるのだ。


「そうかい。ビクター君は強いな」


 笑いを含んだ声。
 あぁーバレテル、バレテルさー。
 まぁ仕方が無い。

 まだまだ子供の体。
 意思で完全に体をコントロール出来ちゃいないのだから。

 だから固定する。
 前だけを見ている。
 しっかりと馬の首を掴んで前だけを。

 と、冷たいものが首に掛かったのが判った。
 なんぞ、これ。


「なら、そんな強いビクター君に、初陣のお祝いだ」


 見上げると、笑っているマーリンさん。


「体調は万全じゃないのだろ。だが、その首飾りをしていれば、直ぐに回復するだろう。大事にしてくれよ?」


 見れば、銀色のネックレスが首に掛かっている。
 なんぞ、磁気ネックレスっぽいが、その存在感は段違いだ。
 てゆうか、常時体力回復型の魔法のアイテムですと!? それゴッツイ値段が張りますがな。


「しっしかし、こんな高価そうな――」


「大丈夫だ。私も其れなりに稼いでいるからね」


 莞爾と笑っているマーリンさん。
 その姿に見とれて、いつの間にか恐怖を忘れていた。

 或いは、それを狙ってなのかもしれない。
 凄いぞマーリンさん。

 後、もらったこのネックレスだが、磁気ネックレスとは比べ物にならない力があった。
 体の倦怠感がスルスルと無くなって行くのだ。
 魔法テラ凄い。
 疑似科学とか、うそ科学なんぞとは比べ物にならんぜよ。
 凄いよマーリンさん。

 真坂、馬酔いというか、乗り物酔いにまで効くとは思わなかった。
 マジスゲェ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-15
流石にコレは予想外











 先頭を行く母親様の馬が止まった。
 どやら目的地に近づいたらしい。

 周りを見渡せば、ここは谷底に近い場所。
 鬱蒼とした森が途切れた場所。
 近くに川が流れているのが判る。

 目を閉じてみる。
 それまで風切り音に混じって聞こえなかった音が聞こえた。
 雑多な音。
 馬鹿騒ぎをしている音。
 そして、甲高い悲鳴――歯が鳴った。
 口元を抑える。
 音の方を見れば、僅かに森が光っているのが見える。
 焚き火か何かを反射しているのだろう。

 ゴブリンどもの野営地、そしてオークも居るのだろう。
 あの華奢な妹を、魔法の首輪なんぞを使って拉致したクソッタレ。
 てゆうか、華奢なんだぞ。
 んな事をして、首が折れたら、怪我をしたらどうする。
 ド畜生。
 殺す。
 絶対に殺してやる、オークめ。

 いや、たぎり過ぎるな俺。
 Self Controlだ。
 CoolにCoolにCoolにだ。

 深呼吸を1つ。
 そして意識して剣を強く握る。
 ガントレット越しにその硬さが俺に冷静さを取り戻させる。

 振り返ると、母親様が地図を広げていた。
 村で聞いていた情報から野営地の状況を勘案しているみたいだ。
 マーリンさんと意見を交わしている。

 耳を澄ます。





「今までの例から見て、連中は陣形を組んではいないだろうね」


 只々、略奪した酒とか食料でドンチャン騒ぎしているのだと言う。
 聞こえてくる音から、それは判る。
 そして、母親様達が言葉を濁したその先も。

 ゴブリン、オークは女子供は嬲って楽しむ。
 親子に性交を強要したり、母親の前で娘を、子の前で母親を。
 死ぬまで嬲り尽くすと言う。
 外道め。

 そう言えばオークは人間やエルフの女性を嬲るってか、生きたアクセサリーってかペットとして扱うって言う。
 で、妹はオークに。


「どうします?」


 今は怒る時ではない。
 言葉を多く使う時ではない。
 今、優先されるべきは行動だ。
 妹を、連れ去られたマバワンの同胞たちを。


「正面からかな?」


「そうね。一気呵成に仕掛けましょう。時間を掛けるよりは一挙に一網打尽の方が安全でしょう」


 酒に酔った所で強襲を受けて壊乱しない程、ゴブリンはツワモノでは無いのだと言う。
 確かにそうかもしれない。
 だけど、とも思う。

 昼の、あの狡猾なオークを考えると。
 だからその事を口に出してみる。

 今はまだ作戦策定段階だ。
 なら意見の上申も重要な事なのだ。
 後、具体的な策も1つあるし。
 だから、それを口にする事にする。


「考えがあるんですが、言っても良いですか?」


 一応は了解を得て、ね。
 黙ってうなずく母親様と、面白そうな目で見てくるマーリンさん。
 気後れを飲み込んで、説明する。

 考え自体は単純だ。
 二手に別れ、一方はこの道なりに強襲する事で敵の注意を引き、その間にもう一方が山を越えて反対側に回って奇襲すると言う。
 ある意味で啄木鳥戦法の亜種、亜流だ。

 面倒な策ではあるが、これをする事で敵の壊乱をコントロールする事が出来る。
 要するに、一方方向からの攻撃では、そのまま俘虜を連れて逃げられる恐れがあるが、この2段階の襲撃であれば奇襲を、俘虜周囲の敵に集中させることで保護する事が容易になり得るのだ。

 まぁ、俘虜を野営地の中心に――とかなれば無意味だが、その場合でも、薄い外周を突破して俘虜の場所へと突進する事は出来る。
 他にも想定すべき事は一杯あるが、そこまで考えている時間は余り無い。

 杜撰かもしれないが、この状況ではベターに近い策だと思うのだ。


 そうやって諸々を説明すると、聞いた母親様とマーリンさんはポカーンと俺を見た。
 そんなに変な事を言った積もりは無いんだが。


「ビクター、貴方………」


「男の子っと言うよりも、漢だねビクター君は」


「?」


 意味が判らない。


「何が問題でも??」


「自分が――自分を囮にするのね」


「仕方が無いよ。お母様たちが出た場合、そのまま壊乱する危険があるからね」


 これ、掛け値なしの事実。

 昼には、200を超える数を一方的に蹂躙する等の猛威をふるった告死の戦鬼が2人も登場しては、そらモラールチェックなどする前に失敗が確定する。
 逃げ出すしかない。

 てゆーか、その意味では、このドンチャン騒ぎもゴブリンなりの鎮魂なのかもしれない。
 だからどうしたって話だが。

 兎も角。
 だからこそ、言ってて悔しいが貧弱な坊やである俺が、正面から行く必要があるのだ。
 弱っちい奴が来たと、油断をさせる為に。
 油断じゃなくて事実かもしれないが。

 ああ、全く。
 世の中、酷い話ばかりだ。
 俺も俺Tueeeeeeで、ゴブリン&オークの残党なんぞ、蹴散らしたいさ。
 反撃に来る哀れなオークどもを天地魔闘の構えでピタ止めして、「弱いと云うのは罪だな」なんてナルシーかつ冥王ちっくに言って見たいです。
 かなり切実に。


「そう、覚悟は決めているの」


「責任かも、しれないかな」


 妹を護れなかった。
 その1点で、兄としては、腸が煮えくり返るのだ。

 野営地と思しき方向を見る。
 早く助けてやりたい。


「駄目ですか?」


「問題は無いわ。貴方がそれを望むなら、囮、しっかり頼むわ」


「はい」


 強く頷く。
 母親様の信頼を、こんどこそ裏切らない。

 後は、単純に手順を確認してから動く事となった。
 森を往く母親様の移動所要時間を聞いて、逆算し、それまで待つ事となる。

 動悸を必死に抑える。
 走り出したいのを我慢する。

 策さえなれば、簡単に妹は助けられるのだ。
 焦るな俺、盛るな新兵。

 意識を野営地へと飛ばし、我慢し、母親様達の戦闘準備を待つ。
 森を行く事から重装備から、機動性を優先した格好――具体的には、重い鎧を置いて行くのだ。
 鎧を来て走った程度でダウンする様な人たちじゃないが、出来るだけ急いで森を抜ける為に、置いていくのだ。

 まぁそんな事はどうでも良いのだが。
 俺は、じっと双の剣の柄を握る。





「良い表情をしているじゃないか。よい子を育てたねアデラ」


「あの子はもっと子供の頃からああだったわ。余り育てたって胸を張れないのよね」


「そうかな? しっかりと母親と父親の背を見ていたと思えるよ」


「だと良いんだけどねぇ」


「くっくっくっ。ホント、自信は無いんだな」


「無いわよ。初めての経験なんだもの」


「そうだな――そうだ、初めてだ。良い考えだ」


「ナニよマーリン、1人で笑って」


「いや、だからな、ビクター君だ。私が筆おろしをしても良いなと思ってな」


「なっ」


「さっきは漢を感じさせる良い表情をしていたしね」


「あのねマーリン、あの子はまだ――」


「通っていないのだろ? ナニ、今すぐじゃ無い。只、抱いて、鍛えてやりたいって思ったのさ」


「………はぁ、親子二代ね」


「そうさアデラ。君も、あのハーヴェイも、今でも私の大切で可愛い恋人だよ。そこに1人、加わるだけさ」


「貴女から見たらウチの旦那も子供扱いね。可愛いなんて」


「可愛いさ」


「今でも?」


「今でも」


「あーあ。勝てないわね、ホント」


「愛情に、勝ち負けなんて無いさ」


「経験則?」


「そう。馬鹿馬鹿しいまでに永い時間で得た、大事な真理さ」





 肩が叩かれる。
 どうやら準備が終わったらしい。


「ビクター君」


 マーリンさんだ。
 名を呼ばれて振り返ると、口が塞がれた。
 暖かくて柔らかいものに。
 てゆうか、口腔内にまで柔らかいものががががが。

 唇。
 唇ですか。
 唇ですね。
 てゆうか、唇でしょう、コレは。

 ゑぇぇぇぇぇぇ!? 何事ですかコレは、この事態は!?
 冷静じゃ居られません。
 居たら怖い。
 目の前にはマーリンさんが、目をそっと閉じてる。
 綺麗な顔だ。
 てゆうか、それどころじゃない。
 両肩を掴まれているので、動きようも無い。

 初めてのキスって訳じゃないが、ここまで情熱的なディープは初めてだ。
 畜生。
 気持ちは良い。ぶっちゃけ、天に昇るような気分だが、混乱しかしねぇ。
 てゆうか俺はまだ10歳だぞ。
 なにごとぞ、コレは。

 訳の判らぬままに時間が立ち。
 気が付いたら、キスは終わってた。


「あっ………」


 声が漏れちまった。チョイと名残惜しい。
 てゆうか母親様はナニをシテイル。
 チラ見すれば、笑ってる。
 なんぞ、どこぞの皇家のクソババア風味っぽく見えるのは気のせいですか。
 気のせいでしょうね。
 それよりマーリンさん。
 マーリンさは笑ってる。
 楽しそうに笑ってる。


「吃驚したって顔をしてるね」


「えっ、いやっ、その」


 言葉が出ない俺。
 その口元へ突き出される指1本。
 簡単に封をされる。


「コレは手付けだよ。詳しい話は後でしてあげるから、今はしっかり戦って、生きて帰っておいで。じゃぁね」


 投げキッスを1つ、そして往くマーリンさんと母親様。

 すいません、数を数えられません。
 どうしよう。








[8338] 0-16 調子に乗ってます
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:2f92984a
Date: 2010/11/23 11:34
 煩悩直撃な一撃で、時間を計算する事が出来なくなった俺。
 ナニが何でとか、そもそもとして、一歩間違えるとエレクチオンだクソッタレとかね。
 魅力的な女性だしナニでそれとか成ったら、めっさうれしいのだけど、この状況で蛇の生殺しみたいなのはご勘弁だ。
 マジで。

 素数を数えて冷静になる俺。

 1111111!!1!!111!o( ̄皿 ̄)o!!111111

 宜しい、少し落ち着いた。
 別の言い方をすると、諦めた。


 あーもう、どないせーつぅねんとか思う。
 さてどうすんべと考えたとき、俺の傍らに、ランプ――否、火時計が置かれている事に気づいた。
 おういぇー 母親様か、用意が良い。
 有難い。

 火時計とは、一見すれば普通のランプなのだが、よく見れば違うものだった。
 遮光覆が付けられ、油タンクに透明なゲージが付けられているのだ。
 この、タンクの油の残量で点火からの時間を計るのだ。

 そして今回は、約30分の時間分、油が予め入れられていた。
 流石は母親様だ。





 ジリジリとした音と共に火が小さくなっていく様を、右目だけで見ている。
 火を見るのは目が疲れる。
 疲れるのだが、同時に、火を見ていると心が落ち着くのだ。

 自分から志願したとは云え、数不明の敵に正面から喧嘩を売るのだ。
 そらもう、心臓は情熱的で過激なビートを刻んでるってもんだ。
 だが、その気持ちで突っ込んでは、勝てない。
 生き残れない。
 冷静に、冷徹に。
 己を刃物と、己を弓より放たれた矢とするのだ。

 両手は既に剣の柄に伸びている。
 鋼鉄のガントレット越しに感じる、ショートソードの存在。

 その時、フッと火が消えた。

 さぁ、行こうかねぇ。


 右目を閉じ、左目を開く。
 薄闇の世界が広がっている。
 スルリとショートソードを抜く。

 右手では、実家のショートソードを。
 左手では、ノウラから託されたショートソードを。

 双剣、両手で剣を持つ。
 そうなればお約束はコレだろう。


「KaradahaKendedekiteiru」


 歩き出す。
 道に沿って、ゴブリンどもの野営地を目指して。


「Tisiohatetude Kokorohagarasu ―― ウーーーム、ガラじゃない」


 何かが違う。
 俺のキャラじゃない。


 足は止めずに、愚にも付かない事を考える。
 一種の現実逃避だろうか。
 どうでも良いが。


 兎も角、赤の人だ。
 いや、誰かの理解とかは、その辺りブッチャケどうでも良いのだが、アレだ、その在り様を理解も肯定も出来ない。
 憧れる気にもなれない。
 まぁ人間に憧れるロボットってな設定のキャラなので、そう出来る方が問題なのかもしれない。

 そもそもガキの時分に、未来の疲弊し果てた自分をみて、それでも頑張ろうって割り切った癖に、結局は最後は自分殺しに走ってる辺り、恥知らずとしか言いようが無い。
 いっそ、千界の王並みに突き抜けりゃぁ天晴れなのだが、ね。

 自分殺しのパラドックスっては面白い思考実験なのだが、まぁどうでも良い。
 兎も角、却下だ。
 絶対に却下だ。


 見えてくる野営地。
 煌々と燃やされている薪か何か。
 追撃を受けるリスクとか、隠蔽とかを全く考えてないのが丸わかりだ。


 では変わりに双剣使いってのはナニがとか思う。
 銀の貴公子? ナイナイ、それは無い。
 流石の俺も、自分の分は判ってる。

 薫風漂わせる、貴公子なんてガラじゃない。
 ではナニが。

 考える。
 考える。
 考える。

 ――考えた。
 1つ、良いのがあった。


「Souarekasi」


 その単語だけで、気分が良くなった。
 貴公子はガラじゃない。
 ロボットは趣味じゃない。
 なら、基地外は? 狂信者は? ――ああそうだ。
 面白い。

 切った張ったで、殺し殺される素敵フィールドだ。
 正気で居られる場所じゃない。
 だから救いを求めてってな訳じゃ無い。

 只、己を研ぎ澄ますのだ。
 目的を達成する為に。
 その為の道具に。


「Souarekasito Sakendekireba sekaihasururitokatazukimousu」


 雑念を捨てる。

 目的は妹を助けること。
 役割は囮。


「ああぁっ!」


 己の内側にこもったモノを吐き捨てるようにし、歩みを速める。
 前へ。
 戦場へ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-16
調子に乗ってます











 ゴブリンの野営地は、控えめに言っても地獄であった。
 焚き火の周りで酒壜を抱えているゴブリン。
 食い物を大量に抱えて乱痴気騒ぎだが、まぁこっちは良い。

 問題は、オークどもの方だった。

 女性が犯されている。
 子供が殺されている。
 子供の前で母親が犯されている。
 母親の前で子供が殺されている。

 悲鳴が、下品なオークの笑い声を圧して響いている。
 その状況を説明する言葉なんて、無い。

 娯楽なのだろう人間を蹂躙すると云う行為が。
 オークどもは楽しそうにしている。
 殺す。
 生きている事を後悔する位に殺してやる。
 怒りが、かき消した。

 駆けながらざっと見たが、死んで捨てられている人や吊るされている人たちの中に小柄な体格の女性や、或いは腰まで伸びた金色の髪をした人は居なかったのだからまだ無事だろう。
 少しだけの安堵。
 だがそれは、恥ずべきであり、同時に何の保障も無いのだ。

 今襲われているのかもしれないし、襲われようとしているのかもしれない。
 妹をそんな目に合わせられるものかよ。


「ギェッギャッ!」


 歩哨っぽいゴブリンが赤ら顔で吼えた。
 酔っているのだろう、目が濁っている。

 まぁ、だからどうしたって話しではある。

 走るコースを微調整して突貫する。


「kie!」


 踏み込みと急制動。
 常であれば膝間接に強い負担を強いる行動だが、今はそれが無い。
 マーリンさんに貰った魔法のアイテムのお陰だろう。
 そう言えば、疾駆していたのに息も苦しくない。
 ビバ☆チート ってか、下駄か。

 阿呆な事を頭の片隅で考えながら左手のショートソードを振るう。
 突きだ。
 疾駆した分を載せての一撃でも良かったのだが、その場合、攻撃がぶれる可能性がある。
 外してしまえば、時間が掛かってしまう。
 一刻も早く、こんな状態を止めたいのだ。
 故に、威力ではなく精度を求める。

 銀色の切っ先は、粗末な鎧を無視して、まるで豆腐に針を突き刺すように簡単にゴブリンの体に潜り込んだ。


「ギュ!!」


 悲鳴と共に血反吐を吐いて、後ろに吹き飛ばされるゴブリン。
 その動きに合わせてショートソードを抜く。

 そしてそのまま走り出す。
 狙うはこのグループの首魁。
 そこを狙えば、混乱が確実に発生するのだから。





 オークかゴブリンかの咆哮と背に一躍、野営地に侵出する。
 敵の配置を確認。
 右手にはゴブリンの集団が居て、左手にはオークの集団が居る。
 否、ゴブリンは3グループ居る。
 1つ目は右手ってか、俺の前に。
 2つ目は右手の更に奥、深い森との境界に近い所に居る。
 もう1つが、向こうの街道入り口に居る。
 一応は防御も考えていたっぽい。

 そんな、野営地の総数は50から60って辺りか。
 ゴブリンは焚き火の周りに居るだけだが、オークはテントなんかを張っている。
 村からの略奪品とかも置いているのかもしれない。

 ざっと見ただけでは、妹の位置は読めない。


「ゲェゲェッ!!」


 焚き火を囲んでいたゴブリンが、各々、武器を手に立ち上がってくる。
 隊伍も組めず、動きも安定していない。
 が、それがどうした。
 敵が準備が取れてない? なら好都合ってモノである。

 卑怯外道結構。
 それで勝てるなら、何でも在りだっての。

 一足で前面のゴブリンの群れに強襲する。
 仮にAとするこのグループは、ざっと数えて10とチョイだ。
 さっさと一掃しなければ成らない。

 主戦力は母親様だが、妹の位置は確認したい。
 出来れば俺が救出したいのだ。


「Kieetu!!」


 右のショートソードで左から右へのフルスイング、横撫での一閃。
 ゴブリンの体が上下に真っ二つに成る。
 吹き出る血。
 それを避けるように、小さくすり足じみて左へと動くと、そのまま左の一撃を繰り出す。

 余り勢いの乗せられた一撃では無かったが、狙い過たず、その切っ先はゴブリンの顔面を直撃する。
 潰す。

 悪くない勢いだ。


「グェェェェッ!!」


 吼えて迫ってくるゴブリン。
 阿呆な1匹が、槍を持っている癖に突っ込んでくる。
 射程ってか、殺傷圏とか考えているのかねぇと思う。
 まぁどうでも良い。

 自分から距離を詰める。
 振り上げられた槍の、その穂先の内へと。


「Tetu!」


 距離を詰めすぎて、俺もショートソードを振るえないが、だからどうした。
 左の拳骨、ガントレットで顔を殴る。
 甲高い悲鳴。
 だがそれで終わらない。
 左腕の攻撃を触覚にして、誘導として右の拳を叩き込む。
 全身をバネと、コマとするのだ。

 打ち抜かれた右の拳。
 その感触から、ゴブリンの顎を粉砕する事に成功した事が判る。
 3匹目。


「あぁぁぁぁっ」


 気合を入れる。
 直ぐに5匹が距離を詰めてくる。
 2匹は斧や剣。
 その後ろから、3匹が槍を突き込んで来る。
 中々に統制が取れている。
 だが――


「恐れてる暇はねぇんだよ、男にはっ! よぉっ!!」


 槍の穂先を左のショートソードで左に向けて払い、その挙動を呼び動作に体を槍の圏内へと潜り込む。
 払いきれなかった槍が右の肩を打つが、肩を覆っている革と鉄片の複合な装甲が耐えた。
 鈍痛。
 だが、それに構っている暇はない。迫ってくる斧と剣の切っ先。
 リスクを払うなら――振り被られた斧か。
 空きも多い。
 斧持ちのゴブリンはやや左側の為、右の斬撃を放つ余裕は無い。
 残影剣っぽい動きで、右の肘で撃ち込みをする。

 慣れたくは無い、鈍い感触。

 そんな余分な事を考えたからか、一撃を喰らった。
 右の背中にだ。


「っ!」


 熱く、鈍い痛み。


「あぁぁぁぁぁっ!!!」


 吼える。
 痛みを潰すように。

 腕が動くか自信が無い。
 ならば何がある。
 脚がある。
 蹴りだ。

 踏み込んだままの左足に重心を移して、思いっきり蹴り飛ばす。
 標的を完全に狙った、狙えた訳では無いが、脚は確実にゴブリンを捉えた。


「ギィィツ!」


 悲鳴がそれを教えてくれる。
 だが、それで満足しない、出来ない。
 連続攻撃だ。
 槍衾を潜るように、身を屈めながら、左右両のショートソードで突く。

 右腕が緻密に動くか心配だったのだ。
 だが、その心配は杞憂だった。

 右手は意図通りに動き、左手と共に凶悪な突技を生み出す。

 体がおかしい位に良く動く。
 これもマーリンさんのマジック・アイテムのお陰か。
 感謝感激でも足らんぞ、コレは。

 槍持ち組みが、前衛の壁が瞬く間に一掃されたので慌てて第2撃目を放たんと槍を振り上げるが、そんな暇は与えない。
 一挙に距離を詰めた。


 それから10秒で、俺はゴブリングループのAを殲滅した。
 ニィっと笑いながら。





 ゴブリン集団の一角を一掃し、オークの方を確認。
 犯したり殺したりを中止し、武器を構えてコッチに向かって来ている。
 予定通り。

 んな、新世界の神チックに笑う様な余裕があったのは、その瞬間までだった。
 俺は見た。

 オークの一匹が持っていた幾つもの鎖、その1つに繋がれた妹を見たのは。
 ボロボロになった衣装を纏って、鉄の首輪に囚われた妹を。


「テメェ等ぁぁぁぁぁ!!」


 俺の感情の撃鉄が落ちた。
 体中が加熱する感覚。
 意識が沸騰し、更に気化する感覚。

 激情が俺の手足を加速し、駆けさせる。
 右手のショートソードを背負うような変則的蜻蛉の構えに。
 左手のショートソードは触覚のように緩く、伸ばして。

 駆ける。
 駆ける。
 駆ける。

 先ずはオークだ。
 そのそっ首、汚ねぇ胴体と泣き別れにしちゃる。
 膾切りに、17分割してやる。

 殺す。
 殺す。
 殺す。

 狭まっていく俺の世界。
 俺とオークの世界。

 俺を確認した妹が、表情を輝かすのを見た。
 待ってろ、直ぐに助けてやる。

 更に踏み込み力強くなる。
 今なら、ぶった切れる自信がある。
 あるぞ糞ったれ。


「ギャァツ! ギギャッ!!」


 その直線に突然に現れた影。
 別のオークだ。
 両手で大きな戦斧を持っている。
 邪魔だ。
 敵のオークが見えない。
 妹が見えない。

 邪魔をするな。


「Tyesutoooooooooo!!」


 プチ薬丸自顕流、懸かりだ。
 全身全霊全力全開。
 斬撃の瞬間にも止まる事無く、更に飛び込むように踏み込んで放つ。

 斧の柄を、柄を持つ腕を、そして厚い腹を一挙に切り裂く。
 崩れ落ちてくる臓腑を体を、ステップで避ける。

 良いね。
 良いね。
 テンションが上がって来るよ。
 血が沸騰しそうだ。

 待ってろわが妹よ、今すぐに助けてやる。

 男の意地とか決意とか。
 そんな気分で、更に邪魔に乱入してきたオークを、今度は2連の斬撃で斬り殺す。
 左手の、ノウラから預かっているショートソードは刃が付いていないので、本当は違うのだが、まぁ勢いが大事だ。
 後、キロ単位の鉄の棒でぶっ叩かれて無事な奴は居ない。
 更にもう一撃あるし。
 それに死んでるし、問題なし。


 妹の他に、2人もの幼い女の子に首輪を付けて連れているオークを睨み付ける。
 後1本、鎖があって、それはオークの後ろのテントに伸びている。
 まさかいたいけな子供を嬲ったのか、糞野郎。
 殺す、殺してやる。
 人類の敵が。


「次はテメェだ、糞野郎!」


 もう止める奴は居ないだろ。
 チラっと見た、一番奥のゴブリンのグループがコッチに来ずに向こうで何等かしている辺り、そしてここに居たオークの半分ってか、残りがアッチに行ってるので母親様らも突入して来たっぽいが、ここまで来たんだ。
 妹救出の誉れも、まぁ貰っても間違いじゃあるまい。


「俺を止めたければ、オーガーでも連れて来い!!!」


 残った敵は居ない。
 そう思って叫んだんです。
 それだけだったんです。


「ガァァァァァァッ」


 真坂、俺の言葉に応じるようにテントからオーガーが顔を出すとは思いませんでした。

 テントを突き破る様に立ち上がった巨躯、優に3メートルはありそうな体だ。
 後、頭に角がある。
 どうみてもオーガーです有難うございます。
 クソッタレ。



 おファンタジーな世界だから、言霊ってあるのかにゃー
 ド畜生。
 俺様、マジで涙目、だ。








[8338] 0-17 オニゴロシ
Name: アハトアハト◆404ca424 ID:e476735f
Date: 2010/11/23 11:34
 オーガーと云う化け物が居る。
 懐かしの日本風に言えば鬼であろうか。
 手に持った棍棒なんかで暴れる、正に暴れん坊である。

 そしてオーガー。
 外見は筋骨隆々として角っぽいものまで付いている、正に鬼だ。
 身長は3メートル程度か。
 本物の巨人――ジャイアントって連中が最低でも5メートル台って事から考えれば矮躯ではあるが、俺から見ればまごう事無き巨人。
 何と言っても俺の身長の約3倍なのだから。

 そんなオーガーが、テントを滅茶苦茶にしながら出てくる。

 テントに伸びていた鎖は、コイツ用かよ。
 調子に乗って叫んでしまった俺様、見事に涙目、だ。
 並みの人間のウェスト並にぶっとい棍棒なんぞに当てられては、子供の身体な俺なんて、一発で潰れてしまうだろう。
 ド畜生目。


 だけど退かぬ、媚びぬ、省みぬの不転退。

 ダビテとゴリアテを見よ。
 同じような身長の差があったが、アレも勝ってるじゃないか。

 まぁ投石器で昏倒させてはいるし、俺は投射武器は持っていないって差はあるが。
 だがその程度の差は、オリンピックなアスリート並みにチートな身体能力でカヴァーだカヴァー。
 後、足りない分は努力と根性。
 右手のショートソードが火ならば、左手のショートソードも火なのだ。
 二本持ってる俺様は、炎を持っているのだ。
 否、俺が炎。
 炎となった俺は無敵なのだ。

 ガンホー!
 ガンホー!!
 ガンホー!!!

 宜しい。
 己へのマインドコントロールは終わった。
 笑ってた足も黙った。

 吼えているオーガーを見る。
 笑っているオークを睨む。
 泣いている妹に微笑む。

 両のショートソードを強く握り、構える。
 十字に、では無い。
 右の剣は肩に背負うように、左の剣は緩く伸ばすように。
 かつて生にて覚えていた拳の構え。
 左が触覚であり、牽制の拳。
 右が本命であり、全力の拳。

 それが今、剣で再現されている。
 身で覚えた事は、魂でも覚えていたみたいだ。
 気がつけば、自然と構えていた。
 そして今、実戦を経てこなれて来た、双のショートソードの構えとなった。
 
 深呼吸。
 踏み出す為に足に力を入れ、そして言葉を紡ぐ。


「Souarekasi」


 世界をするりと片付けようなんて思っちゃ居ない。
 だが、俺が剣であれと、身内を救える一振りの剣なれと、その邪魔をする尽くを切り伏せる剣であれと願う程度の事は出来る。
 出来るのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-17
オニゴロシ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 馬鹿みたいな勢いで棍棒を振り回しながら仕掛けてくるオーガー。
 木の根か何かの、単純な木の棍棒。
 棘とか、そゆうのも無い、単純な棍棒。

 だがきっと、それが直撃すれば、俺の身体はミンチになるだろう。
 或いは、ミンチよりも酷い事に。

 正に凶器。
 単純にして、人類最古の凶器(推定)だ。
 だが当たらなければどうと云う事は無い。
 きっと。
 多分。
 だと良いなぁ。

 と云うか、その振り回されている棍棒の速度とか精度とかは、まぁブッチャケた話、何時もの訓練相手――母親様のに比べれば、どーとゆー事は無い。
 ああそうか。
 ゴブ助相手にも、冷静に対処できたのは、あの正気を疑うような乱取りなんかで、目が慣れていたのかもしれない。
 後、刃を潰していても、あの母親様の持った武器は凶器を超えたモノとなる。
 であればゴブリン如きに、オーク如きに恐れる筈が無い。

 そしてソレは、このオーガーにだって当て嵌まる。
 力は強いだろう。
 だがしかし、只それだけ。
 大男、総身知恵回りかね、だ。


「Aaaaaaa!」


 吼え、鼓舞する。
 オーガーが笑った。


「ギィィィィッ!!」


 オーガーが吼えた。
 そして疾駆して来る。
 ならば選択肢は一つだけ。

 前進。

 こちらも前に出て棍棒の殺傷圏の内側へ、ショートソードの射程へと捉えるのだ。


「Kiiiiiietu!」


「ギゲェェェッ!!」


 喉を震わせての猿叫と、オーガーの叫びが交差する。
 その狭間に響くのは、鈍いと言うか、硬いというかな重い音。

 縦に振りおろされたショートソードと、横に振りぬかれた棍棒とが激突した音だった。
 右のショートソードは子供の胴体よりもでっかい棍棒の頭に食い込んでいた。
 が、それだけ。
 打ち抜けていなかった。

 馬鹿みたいに手がしびれる。
 ファック。
 コッチの得物は魔法強化されてるんだぞ、なのに何で木の棍棒が断てないっ。
 クソッタレ。
 俺が弱いからかよ、マザーファッカー。

 いや、んな事を考えてる暇は無い。
 追加攻撃、双剣の利点である連撃だ。

 秒単位で意思を組み直して反復攻撃を敢行する。
 右を振りぬく勢いを与える為、引いていた左を鞭の様にしならせながら、下段から上へと奔らせた。


「っ!」


 無茶な動きに、腹筋だの何だのが悲鳴を上げるが、この好機を逃す訳にはいかない。
 オーガーが棍棒を振り上げるよりも先に、そのドテッパラを切り裂けば、其処で戦いは終わる。
 鎧はおろか、服すらも着ていないオーガーなのだ。
 アバラ骨と水平に打ち込めば、切っ先は確実にオーガーの心臓を捉える、捉えるのだ。

 振りぬかれたショートソード。
 だがその刃は、無常にも弾かれてしまった。


「なっ!?」


 手に返ってきた、余りにも重たい感触。
 そしてよろめく様な反動。
 ド畜生、シクジッタ。
 俺が振るったのは左のショートソード。
 刃の無い、刺突剣だ。
 言ってしまえば、やや鋭いだけの鉄の棒でぶん殴った様なものなのだ。
 そら、斬れる筈がない。


「ゴォォォォッ!?」


 悲鳴を上げ、身を揺らすオーガー。
 泣きたいのはコッチだ、クソッタレ。
 本音を言えばオーガーは隙だらけで追撃のチャンスでもあるんだが、コッチもアレだ、止めにと振り抜いているんで、その勢いに体の姿勢が崩れてしまって余裕が無い。
 と云うか、息が苦しい。
 四肢の力が抜けて来ているのが判る。

 息を詰めての連続攻撃は、体へのダメージが大きいのだ。
 特に、こんなバケモノを相手にしていると。

 地面を蹴ってのバックステップ。
 距離を取る。

 追撃は受けない。
 オーガーが痛みで集中できなかったお陰で、安全に離脱出来た。


「ふぅぅぅぅぅっっ、はぁぁぁぁぁっ」


 一挙に息を吸い、そして吐く。

 後は気合だけで四肢に力を入れる。
 俺の手であり足であるのだ。
 であれば、俺の意思に従って、その全力を発揮しろ。

 前を睨みながら、四肢へと鼓舞を出す。
 が、四肢がそれに答える前に、オーガーが動いた。
 世の中、自分の都合だけで動いてちゃいないって事を教えてくれる。
 うん。
 教えて貰うのは嫌じゃないが、このタイミングは正直、勘弁して欲しかった。

 そんなオーガー。
 怒り故にか、瞳に原始の炎っぽいキラメキを乗せて吼えて、暴れて、突進してきた。


「ゴォォォォォォッ!!!」


 吼え声が、俺の体を震わせる。
 純粋な暴力と言ってよいソレに、体が退く。
 退いてしまう。
 その事を不甲斐ないとか思う前に、オーガーが棍棒を振るった。

 振りかぶるってか、凄い勢いでぶん回された棍棒。
 当たれば必死と言うか必殺――必ず殺されてしまう様な一撃が連続してくる。
 トンでもない化け物だ。
 避けていても、その風圧で肌が引っ張られる。

 これぞオーガー。
 そういえば思い出した。
 軍隊のみならず、傭兵や冒険者といった戦闘を生業とする全ての連中にとって、このオーガーをタイマンで倒す事が、一流の証だとされている事を。
 正確には、国の制度なのだ。

 前衛資格者(フロント・ロー)

 日々是行われている血で血を洗う様な<黒>の陣営との抗争に打ち勝つ為、戦野に立つ人間のスキルアップ推奨の一環としてと制定された称号だった。
 獲得者には恩賞とメダルが授与され、そしてメダルを見せれば国営の施設で1割引な値段で利用や買い物が可能と云う、それなんて勲章? である。
 まぁ流石に年金は付かないが。

 割とメリットの大きい決闘Deオーガー殺し。
 だがそのリスクも半端ではない。
 それは制定されて約100年経つが、獲得者が1000人を超えて無いって辺りにも現れていた。

 まぁタイマンの状況に成るのが難しいとかもあるが、それだけ危険な相手なのだ。
 敗死した人間を祭る為の寺院が作られる程に。

 うん、今気づいた。
 何で俺、こんなのとタイマンしているんでしょうか? マヂで。
 10歳にも満たない俺が、何でさ。


 暴威猛威。
 調子に乗ってきたのか、オーガーの振り回す棍棒がトンでも無い勢いになってくる。

 避ける。
 逃げる。
 かわす。

 攻撃をする所か守勢防御で手一杯。
 棍棒の軌道を見て、中らない様にするだけで精一杯だ。

 尤も、棍棒だけを見ていれば避けられる訳でも無い。
 オーガー自身を見て、その挙動を予測するのは当然にしても、他にもある。

 足場を見て次の動きを考える事と、周辺を見て敵の増加に注意する事だ。
 今のところ、足場に問題は無い。
 敵の増援も無い。

 そう思った瞬間だった。
 意識がぶれ、小さく安堵し、集中が途切れた瞬間。
 それを喰らった。

 衝撃。
 天地がひっくり返るような、視野が一気に奪われたような。

 右ほほにある灼熱感。
 喰らった。
 背中からくる衝撃。
 ぶっ飛ばされた、か。

 痛みに呻く、そんな時間が惜しい。
 視界が閉ざされたままに、体を動かす。
 右腕を肩を、その筋肉を総動員して、体をバネ仕掛けのように動かす。
 食らった部位と、その後の慣性から当てずっぽうに相手の位置を測り、それから少しでも距離を取る。

 避けていた筈のを食らったのだ、そんなのを食らわせる相手が、地で呻く餓鬼相手に躊躇するとは思えない。

 必死で逃げる。
 逃げながら、左の二の腕で顔を拭く。
 右でしないのは、頬が出鱈目に痛いからだ。
 裂けてる、きっと。

 ド畜生。

 呻く。
 そして唐突に、視野が白くなる。
 光だ。
 衝撃からの回復だ。
 視野が失われていたのは、ホンの数秒だろう。

 左の二の腕を見れば真っ赤に成っている。
 衝撃もだが、血が目に入っているっぽい。
 頬だけじゃなく、額まで切れているっぽい。

 ヤヴァイな。
 また血が流れて目が塞がれた日には話にならん。

 どうする━━そんな動揺交じりに見たオーガーも、動きが止まっていた。
 激しく胸が動いている。
 息が切れたっぽい。

 同じ生き物だ、無限に動ける筈は無い。
 そんな当たり前の事に、今、気が付いた。
 うん、緊張していたんだろう。
 それが安堵に繋がった。

 思わず拭った額。
 感触が堅かった。
 拭った右のガントレット甲にこびり付いた血は、既に乾きかけていた。
 新しい血は出ていないっぽい。


 このままなら、耐えられる。
 待て俺。
 待てや俺。
 ………耐えられる(・・・・・)、だと?
 ふざけるな。
 妹を助けに来て、母親様やマーリンさんに救われる?

 情け無い
 情け無い!
 情け無いっ!!

 情け無いにも程がある。
 自分の意思でココに来て、戦ってるんだ。
 最初は囮だったが、更に進んだのは自分の意思だ。
 なのに危なくなったら「ママーッ!」かっ? 「助けてママーッ!!」か、ふざけるな。
 オッパイしゃぶりの餓鬼ならともかく、俺は男だ。
 男が自分で決めた事の責任の一つも取らずに、何が男か。

 憤怒の念が俺を炙る。
 内側から滾る。
 滾りが四肢への力と変わる。


「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」


 力の限り吼える。
 吼える。
 吼える。

 吼えれば吼える程に力が湧く、そんな感じがする。
 それを四肢へと素直に伝える。

 疾駆。
 前傾姿勢のままに、頭っからオーガーへと迫る。

 大きいオーガー。
 だが怖くなんて、無いっ!

 その手の棍棒が、真上っから振り抜かれた。
 トンでもない勢いで。
 だがコッチも速度に乗っている。
 右の踏み込みを、そのまま踏ん張って左への勢いを加える。
 視点が下がる。
 無茶な動きに悲鳴を上げる右足。
 だが止まらない。
 止めない。

 次の左足は膝に力を込めて軸とすると、そのまま左足つま先で大地を蹴る。
 前へ。

 狙うのは、伸びきったオーガーの棍棒を持つ腕。
 そのぶっとい腕だ。
 今度は間違える事無く、右の刃があるショートソードだ。


「ゴォオッォ!?」


 罵声の如き、汚い悲鳴。
 だが残念、切り落とせなかった。

 分厚い皮膚が脂肪が、刃をガッチリと止めていた。
 血が噴出すが、致命傷には程遠いだろう。

 足りない。
 足りないのだ。
 なら、足りるまで攻撃を続けるのみ。


「オーガーがっ、何ぼのモンじゃいっ!!! ゴラァァァァ!!!!」


 吼える。
 吼える。
 吼える。

 退くのも逃げるのも無しだ。
 母親様たちを当てにするのも、無しだ。
 俺がっ、倒してやる。

 担ぐように持つ左のショートソードを持つ手に力を込めて、前へ進む。
 オーガーの持つ棍棒、その殺傷圏の更に内側へ。


「ガァァァッッ!」


 如何に棍棒が威力が大きくたって、内側に入れば威力は落ち、殺傷圏は狭まる。
 さっきも出来て、今出来ない筈が無い。

 側を走る暴力の塊。
 左のショートソードで逸らしたりなんて出来ない。
 体格が筋力が違いすぎるからだ。
 だから脇を引き絞め、身に添えて前に進む。

 そもそも、だ。
 母親様との対槍戦闘練習とかの方が、よっぽどに恐い。
 速い。
 鋭い。

 優れているのはデカイだけ。
 アレに比べれば、こんなの恐れるだけ失礼ってモノだ。


 前に出る。


 風を巻いて振るわれる棍棒。
 その風に、焚き火の炎粉が巻き上がる。
 幻想的な風景。
 だがそれは、俺の命を奪いえる風景。

 故に頭を冷やし、冷静に冷徹に動く。
 突くべき隙はある。
 狙うべき部位はある。
 如何に筋力があろうとも、皮膚が強かろうとも鍛えられぬであろう場所が。


「Coolに、Coolに、Coolに」


 念仏の様に呟きながら、目は棍棒の動きを、それを持つオーガーの腕から外さない。
 ヒリヒリする緊張感。
 だが、肝を据わらせてみれば、棍棒は避けられぬモノじゃなかった。
 重さはあるが、速さは無い。
 勢いはあるが、鋭さは無い。
 母親様の本気に比べれば、児戯に等しいとだって言えた。
 だからだ。
 棍棒の殺傷圏、その更に内側へと入り込む事が出来たのは。
 それは同時に、俺の殺傷圏だ。

 今度は、外さない。


「Kiiiiiiitu!!」


 初手。
 左のショートソードを斜め上へと突き上げる。
 刃はやや寝かせ、捻る様に。
 狙うはわき腹、肋骨の隙間だ。


「っ!」


 鈍い手ごたえ。
 切っ先は、分厚いオーガーの皮膚を突き破っていた。
 内腑内臓を撹拌出来る程ではないが、痛痒を感じさせる事は出来た。
 痛みに仰け反ったオーガー。
 その喉元を斬る。

 連続攻撃。

 わき腹につき立てたショートソードから手を離し、その挙動を予備動作に膝を撓めて跳ねる。
 体格差を埋める為、切っ先を届かす為に。

 考えるまでもなく、体が動く。
 動いていく。
 日ごろの鍛錬の賜物、成果だ。

 右肩に背負う様に構えていた右のショートソードを振りぬく。
 鞭の様に撓らせながら。


「EeeeeeEixtu!!」


 手応え、鈍い感触が手に帰って来た。

 絶った。

 そう思って着地した瞬間、思考が真っ白になる程の衝撃を腹に受けた。
 視野が一気に暗くなった。

 浮遊感。

 そして背や、体中が打ち付けられる様な感覚。
 無我夢中。
 何が何だか判らぬが、戦闘中の戦士としてショートソードを手放さぬ様に必死に握り締めながら、意識が飛ばぬ様に耐えた。

 永くも短い時間。

 そして体は止まった。
 体がバラバラになった様な痛み。
 只、背中が硬い事が俺が寝転がっている事を教えている。

 考える暇は無い。
 即、身を捩って立ち上がる。
 さっきの時程にすばやくは動けない。
 連続しての大ダメージに四肢に力が入りづらいのだろう。
 だがそれでも、出来るだけ急いで立つ。
 幸い捻挫等のダメージは受けなかったらしく、立てる。
 立てた。

 息を吐く。


「かはっ、かっくっ!」


 全身が痛い。
 つか、痛くない場所が無い。
 中でも横隔膜へのダメージが、息をキツイものとしているが構っている余裕は無い。
 歯を食いしばって、目を開く。
 視野が狭い。
 腫れたか額からの血かが目に入ったか。
 だが、拭うより先に、狭まった視野で周囲を確認する。
 追撃で殺されるなんて真っ平だからだ。

 見ればチョイと離れたオーガーが喉元から血を流しながら、こっちを睨んでる。
 オーケー 憎いのはお互い様だクソッタレ。


「オオオオオォォォォォォォッ!!!」


 オーガーが吼え、棍棒を大きく振り回している。
 威嚇かもしれないが、今更にソレに恐れるものかよ。
 唾を吐き、右手に力を入れなおす。
 先程より力が戻っている。
 マーリンさんのマジカル磁気ネックレス――アミュレットってか、タリスマンのお陰だろう。
 本気でスゲェぞ、コレ。

 御礼をキチンと言わないとな。
 ああそうだ。
 コレの首を掲げて、勝てましたってな。

 ショートソードを大きく振り上げる。
 背負うのでもなく、蜻蛉でもなく、ただ只管に真っ直ぐ上に。


「掛かってきやがれ畜獣、相手をしてやる」


 挑発、そして口の端を歪めて嘲う。

 言葉は通じなくとも意図、侮辱は通じた様だ。
 悪意は言語を越えるってモンだ。


「オオオオオオオッ!!


 吼えるオーガー。
 棍棒を振り上げたままに突進してくる。
 まるでトラックが突っ込んできたみたいだが、あの時程に絶望的じゃない。
 選択肢は幾らでもあるのだから。
 馬鹿みたいに真正面から行く必要なんて無い。

 だが、その正面から攻撃以外の選択肢は捨てる。
 何故なら、第一撃目を避けれたとしても、それ以降が続かないからだ。
 幾らタリスマンが怪我を回復してくれても、体力の全てって訳じゃない。
 そもそも、回復だってそうそうハイペースなんかじゃない。
 なら、残る体力のありったけで無様に逃げる事に使わずに、真っ向から振り絞る方が良い。
 それが俺の流儀、趣味ってモンだ。

 火急であれど、呼吸はゆっくりとし無心となる。
 意識を全て切っ先へと乗せる。

 駆け迫るオーガー。
 その身へ、無心に腕を振るう。


「Kixetu!」


 絶つ。

 切っ先が棍棒を。
 棍棒を持つ腕を。
 突き出ていた腹を。

 命を、絶つ。

 噴出す血、そして内臓。
 そしてオーガーは、自ら作った血溜まりに沈んだ。

 してやったり、だ。
 ザマアミロイ。








[8338] 0-18 先ずはひと段落
Name: アハトアハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2010/11/23 11:35
 鬼を沈めた。
 次は豚だ。
 アカの手先なオフェラ豚に、豚の様な悲鳴を上げさせてやる。
 ガタガタ震えて命乞いしてションベン漏らしたところで、首を刎ねてやる。

 と気炎を上げる。
 心の中で。

 声が出せないのだ。
 否、声だけじゃない、体中が痛い。
 痛くて堪らない。
 タリスマンの治癒の限界を越えたのか、体中がバラバラになりそうに思える。
 だが止まらん。
 止まるか。
 幼い妹が首輪掛けられて引っ張られているのだ、それを救わずして兄と言えるか。
 言える筈が無い。

 かつて大人だったと言えるのか。
 全く言えない。

 男であると言えるのか。
 断じて言えない。

 であれば、動くしかない。
 男なのだから。


 気が付けば右膝が地に着いていた。
 残身のつもりだったが、振り抜いたまま勢いに負けたか。

 感覚が薄い。
 音も聞こえない。
 回りも良く見えない。

 疲労が捕らえているのかもしれないが、ブッチャケて根性無しなのである。
 意地が無いとも言える。
 そんな情けない右足の太ももを柄で殴る。

 1発。
 2発。

 お休みの時間はもう少し後だ、マイ・ボディー。
 お前も俺の一部なら、意地を見せろってものである。

 3発。
 4発。

 痛みが足に力を取り戻させた。
 宜しい、ならば戦闘だ!
 ショートソードを逆手に握りなおして、地に立てる。


「っっっっっっっ」


 喉を震わせ、力を込める。
 切っ先を地に刺してなんて、剣士としては論外だろうが構うものか。
 剣士としてではなく、人としての意地なのだから。
 力を込める。
 四肢に、背中に、腹に。


「っっっっうぅっ!」


 自らの声に背中を推される様に、膝が地面を離れた。
 立てる。
 動ける。
 であれば俺は━━そう思った瞬間、拘束されていた。
 否。
 抱きしめられていた。
 豚からの拘束等では断じてない。
 まだ目は良く見えないが、間違う筈が無い。
 薄い視界を占める、きらきらとしたものは鮮やかな金髪だろう。
 俺の大切な妹、ヴィヴィリーだ。
 安堵の念が湧き上がると共に、全身に行き渡っていた力みが消えた。


「助かった……の…かっ」


 掠れたような声が出た。
 音が返ってくる。
 視野が少しだけ広がる。

 ヴィヴィリーの顔が見れた。
 汚れてはいるが、怪我はしていないっぽい。
 良かった。


「おにいさま、おにいさま、おにいさま、おにいさま」


 悲鳴のように俺の名を呼びながらヴィヴィリーは、その整った顔をぐしゃぐしゃにして抱きつき続けている。
 俺の手で助けたかったんだがなぁと思う反面、ヴィヴィリーが無事に助かったんだから結果オーライっと思える。

 抱き返してやりたいのだが、ちょいと無理っぽい。
 広がっていた視野が急速に狭まりだした。


 体がフワフワと浮かぶ様な気分になった。
 体が途轍もなく重く、そして全てが軽く思えた。
 眠い。
 眠くて仕方が無い。


 徹夜で麻雀をやってた時も、こんな感じだったなぁと思い出した。
 良く卓を囲んだダチ達の顔も。

 麻雀大好きで、徹夜で遣りたがり、そして沈みそうになった面子に対し、寝るなーっ! 寝たら死ぬぞーっと言ってた阿呆なダチ。
 うん、実際に死ぬ。
 死んだ。
 仕込み的イカサマな意味で。
 目を開けて最初に牌を切った瞬間、役満のトリプルアタック食らうとか、マジ有り得ない。
 ムダヅモ仕様の世界なんて、マジ洒落になりませんですってぇの。
 笑うしかない。

 ったく、あの馬鹿をやってた連中、今、何をしているんだろう。
 そんな、埒も無い事を考えつつ、俺の思考は闇に沈んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
0-18
先ずはひと段落

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 夢か現か、胡蝶の夢か。
 ふわふわとした、現実感の感じられない感覚。
 只、気持ちだけは良かった。





「どうだい、ビクターの様子は?」


「寝てます………苦しくは無いみたいです。汗も大分引いてます」


「薬が効いたんだね。それなら後は大丈夫だね」


「薬なんですか? 魔法じゃなくて??」


「あははははっ、魔法はそれ程便利なモノじゃないよ。特に体力の低下している時になんて状態じゃね」


「そういうものなんですか?」



 水の音がする。
 首周りってか、顔とかが気持ちよくなる。
 スッとする感じだ。

 何だろう、気持ちが良い。



「ああ、そういうものさ――しかし、手際が良いじゃないか」


「色々とありましたから………」


「色々、な………」


「………」





「あっ、あの……」


「ん?」


「あのっ、そのっ、つっ、強くなるにはどうすれば良いのですか」


「強く、か。まぁ色々と手段はあるよ。直接的な剣とか武器でとか、或いは魔法か。まぁ魔法は素質とか大事だし、何より金が掛かるから余りお勧めは出来ないねぇ――何でだい?」


「…………ビクターさんはヴィヴィーを助けに行きました。活躍したって、アデラさま達は言ってました……」


「自分で助けたかったかい?」


「………そんなんじゃ、ない…です。只、何も出来なかったから…」


「それは別に恥じる事じゃないよ。子供は護られときゃぁ良いんだよ」


「……でも、ビクターさんは………」


「………ん~」


「…だから、私も――」


「強くなりたい、か」


「はい」


「ビクターといい、そんなに急いで大人に成らんでもってアタシは思うんだがね」


「………もう、お母様も………………」


「ああ、そうだったね。そんなに泣きそうな顔をしないでおくれ。アタシは子供のそんな顔は苦手なんだよ」


「……すいません」


「あーんーんーっ、そうだねぇ………………………うん、そうだ。1つ思いついた事があるんだが、強く成れるし、他にも利点があるんだけど聞くかい?」


「何だって聞きます!」


「良い返事だ」










 スッキリした目覚め。
 だがその直後に、衝撃を受けた。



 あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!

『目が覚めたらノウラから「お早う御座いますお坊ちゃま」と話しかけられていた』

 な…何を言ってるのか わからねーと思うが おれも何をされたのかわからなかった…
 頭がどうにかなりそうだった…転生だとか憑依だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…(AA略


「何事!?」


 思わず漏らした一言。
 だって漏らすでしょ、普通。
 常識的に考えて。


 そもそも失神したのか俺とか、その前にホントに俺はオーガーを殺せたのかとか、実はアレだ、全て夢でした(w とby神様の悪意満載なドッキリとか、本気で心配しました。
 しましたですよ。
 思わず周囲を確認する俺。

 何か田舎臭い部屋で、よく見るとノウラの隣にマルティナさんが居た。
 悪戯成功って顔をしている。


「何慌ててんだい?」


 スゲー良い笑顔だ。
 ムカつく位に良い笑顔だった。

 この人の、基本悪戯好きって性格を考えるに、何ぞ嵌められたのだろう。
 何時もの事ではあるが。
 てゆうか、そもそも、雇い主の子供に悪戯して喜ぶって、この性格の太さ。
 流石は元傭兵って話なのかもしれない。
 畜生め。


「慌てますよ。何事かって思うじゃないですか」


「あははははっ、ビクターは相変わらず素直だな」


 勝てない。
 色々な意味で、まだ勝てない相手だ。
 何時かは勝ちたいものである。

 が、それ以上に1つ、興味が。


「坊って呼ばないんですか?」


「何、戦闘処女(チェリー)卒業だかな。それ相応に扱おうって思った訳さ。不満かい?」


「とんでもない!」


 端っこ的な感じではあるが、大人の扱いを受けたみたいで素直に嬉しいものである。
 こそばゆく思える位だ。


「結構! で、だなビクター、ノウラだがヒースクリフ家で見る事になった。アタシが雑事を教えて、マダムが戦闘術を教える。まっ妹弟子みたいなものだね」


「(゚Д゚)ハァ?」


 思わず、ノウラを見た。
 ほんのりと頬を染めていた。

 うん、アレだ。
 一言で言える。
 どうしてこうなった、と。
 可愛かったけど。
 かなり、可愛かったけど。
 大事な事なので2度言いました。





 さてさて。
 このノウラのMy実家への就職が、マバワン村での最後の大きなイベントだった。

 村の被害復興などの手配は父がやってくれていた。
 普通は辺鄙な寒村に支援が来るなんて難しい話なのだが、何故かすんなりと国の援助が下りる事になっていた。
 まだ若いし、官吏としては上級じゃない筈なんだけど我が父、どーやらコネは色々と持ってるっぽい。
 武威によって男爵位を賜った嫁持ちの夫と云うだけじゃないのだろう。
 欠片もその気配は無いけど。
 俺がガキ過ぎて、父の偉大さが見えないだけかもしれないけども。

 その他に、ノウラの家の資産の整理もあった。
 ノウラは母親共々に母親の実家の世話になっていたので、家財道具その他は全て実家に引渡し、チョイとばかしの支度金をノウラの為にゲットした。
 基本は寒村なマバワン村なので、僻みとかの諸々の感情とか計算とか余裕で考えられた。
 人間、そうそう綺麗事だけで生きてられないのである。
 <黒>の襲撃によって、人手とかが減っているこの村で、結婚適齢期にそう遠くないノウラの価値は、そう低くはならないだろうからだ。
 ノウラの母方の実家が、そうそう裕福でも無いって事も、俺の判断理由であった。
 そんな訳で、働き手がとか子供の嫁にとかノウラを家財の如くに考え、ゴネるかと思ってた俺だが、現実は母親様が笑顔で「引き取りたいのです」と告げたら、もろ手を挙げて賛成をしていた。
 どうやら俺が思う程に世の中は黒くないらしい。

 うん。
 母親様の笑顔だが、脅迫だとかは思わない。
 オモワナイデスヨー(棒
 <テンペスト>を担いで挨拶に行ったけど、きっと装飾で淑女の嗜みすよ。
 多分。


 後は、復興作業を尻目に、村長さんの屋敷に逗留して休養三昧の俺と妹。
 怪我とか色々あるし、そもそも男爵家の子供たちって事でしょうねぇい。
 暇なので、手伝いたかったりしたんだけど、残念! である。

 そんな訳で俺と妹は、メイド見習い兼付き人ってな按配のノウラと3人で、休養を堪能したのでした。
 戦災にあった村で非常識な! と、良識的日本人であれば吠えたでしょうが、ここは<黒>の襲撃が頻繁な我がトールデェ王国。
 実際問題として、この程度(・・・・)の被害で村人がへこたる筈が無いのです。
 というか、そゆう村に貴族ってか富裕層が逗留し、金をばら撒く事は大きな意味があるのです。
 災害復興とかそゆう意味で、現金収入は大事ですから。
 尚、そゆう形で逗留する富裕層は、もてなしに文句を付けてはならないという不文律ってか、マナーがあります。
 マナーなので文句を付ける自由を富裕層は持ちますが、これをした場合は確実に社交界での評判を落とします。
 つか、ライバルが落とす為に使ってケチった家は名誉を喪います。
 富裕層、特に貴族などは名誉こそを誇るので、先ずは有り得ない話に成る訳ですが。



 まっ、そんな訳で適度に散財しつつ過ごした夏。
 そして家へ。
 ノウラは家事に訓練に、順当に慣れていっていた。
 最初は大変そうだが、マルティナにせよ母親様にせよ、生かさぬ様に殺さぬ様にと見事に教導しており、まぁ頑張れと云う感じだ。

 そして俺は、訓練を続けていた。

 手に持つのは、訓練用に刃の無いショートソード。
 それを両手に持つ。
 使ってみて、使い勝手が良かったのだ。

 左を前に触覚として出し、右を肩に当てて背負うように構える。
 実戦の中で形になって見えてきたスタイル。
 それを再現する。

 呼吸。
 心を落ち着ける、ゆっくりとした呼方。

 目の前に立つのは立ち木。
 以前のよりもう少し太い奴だ。
 ぶっちゃけ、丸太が立っている様なものだ。

 深呼吸を1つ。


「Kieeeeeeetu!!」


 右の斬撃。
 だがその切っ先が、丸太に刺さる事は無かった。
 弾かれていたのだ。
 オーガーを2枚に割ったが、まぁなんだ、火事場の糞力の類であった模様。
 平時の今で、その力が簡単には出せない。

 何時かは一刀両断をしてみたい。
 そんな風に思った。
 
 
 
 
 



[8338] 【第一章】   ――旅立ちへの日々――     (第1章 登場人物紹介)
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:3ff91114
Date: 2011/06/23 23:18
「攪拌?」


「そう、攪拌」


 屍山血河を生み出す事。
 それは旅立ちに到る、一寸した日々のひとコマ。


「要するに、鏖って事さ」






異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント

第一章 旅立ちへの日々編






○キャラクター紹介
ビクター・ヒースクリフ 「従騎士」<鬼沈め>
 金に弱いし女にも弱い、家族にはだだ甘なスィーツ(笑)な漢。
 裏特技は料理。
 多分、魂の影響。

エミリオ・オルディアレス 「神官補」
 腹黒い人間揃いの家庭で育ったが純真な心を持っている、子犬系の少年。
 それ故に家族から愛されているガチのヒロイン系ボーイ。
 やや薄い赤色をした髪を、三つ編みのお下げにして垂らしている。
 英雄志望というよりも、英雄達の冒険譚に憧れている。
 聖女ミリエレナに心酔しており、ビクターを尊敬している。

ミリエレナ・ハルメルブ 「神官」<聖女>
 護民に心を砕く武断派聖女、多分にオルレアン級。
 脳筋じゃないけど「愛が人の心を救います。ですが体は武力でしか救えません」と言ったか、言わないとかな。
 ファンタジー世界の宗教、マジパネェです。
 肩で切り揃えられた金髪は、ウェーブが掛かっている。
 元は黒色だったが聖女の力が顕在化して以降、信仰する神の影響で金色になったとの事。
 結論、神様の趣味。





アルバール・オルディアレス伯爵 <蛇> <海大伯>
 オルディアレス伯爵家とはトールデェ王国を支える三頂五大に数えられる家の1つであり、王国領西方南部域の諸爵家、南護19爵家の筆頭である。
 王国でも有数の腹黒一家。
 イタリアンな意味での“ファミリー”な家。
 主に貿易で金を稼いでおり、王家と三頂に匹敵する金を稼いでいる為、<海大伯>なる称号で呼ばれる事が多い。
 この為三頂の一角、ダニーノフ伯爵家との関係が悪化しつつある。
 元々、侯爵家と云う階層が事実上消滅してからは伯爵家筆頭としてダニーノフ家が“大伯”と呼ばれていたのが、オルディアレス家がこれに準じるとなったからである。
 裏側で暗闘中。
 でも、ファミリーだから身内にはメッチャ甘い。
 何だろう、ビクターはトンでもない人物と関わりが出来たものである。


パークス・アレイノート <剣嵐>
 リード公爵家の嫡子、ヤンリー・アルレイドの腹心的立場に居る。
 リード高原で繰り広げられている数限りない<黒>との戦いの中で、リード公爵家当主、フォイク・アルレイドに目にとまり、その支援を受けて王都に進学しに来ている。
 アレイノート家は、「十三候家の乱」に於いて、反乱には参加しなかったものの責任を取る形で潰えたアレイノ家の末裔、それも直系に近い家系である為、陪臣というよりも寄騎的な立場にある。
 争いごとを自ら好まぬ、物静かな性格をしている。
 アレイノ家の末裔として自覚から、自らを“王家の藩屏”と認識しており、忠義心は高い。
 持っているグレートソードは伝家の宝刀であり、神代の時代に神族が自ら生み出した神造剣<クロイブ>という国宝級の逸品である。


アビアルダ・アブラメンコフ
 王家でも有数の鍛冶であるアブラメンコフ工房を運営する酔いどれドワーフ。
 かなり豪快な性格ではあるが、同時に義理堅い。
 工房が業績を上げる事で、人を多く雇っているシャッチョサンであるが、現場をこよなく愛する為、工房の切り盛りを誰かに押し付けようと、考えている。
 規模が大型化した責任を取らせる形で、ビクターに押し付けようとした事もある。


トービー・フェアファクス
 アブラメンコフ工房の、武具部門のトップを担っている人間である。
 だけど、外見はドワーフそっくり。
 三頂五大の一角である鉄伯――鉱山開発などを一手に引き受けているフェアファクス伯爵家の爵位継承権を持っているが、本人は凄く嫌がっている。
 綺麗な服装して会食するよりも、汚れた格好のままに鎚を振るうのが趣味だからだ。


アデラ・ヒースクリフ 
 王国最精鋭である<十三人騎士団>に復帰した最強母親様。
 マーリンさんと並ぶ、チート的決戦存在。
 <十三人騎士団>ってのは、そんな化け物が6人在籍している。
 但し、騎士団として見たらたった6人しか在籍していないし、そもそも王国でも実力者のみが名を連ねる為の騎士団である為、名誉以外の意味は無い。


ヴィヴィリー・ヒースクリフ
 何時の間にかの3人娘、攻撃魔法と白兵戦担当のカチコミ屋。
 親の影響極めて大。
 但し、支援系の魔法も充実している便利屋でもある。
 この3人にノウラが加わると、その組織戦闘能力はハンパなく高まる。


ノウラ 「王府認定武装メイド」
 肉弾戦で、一般的兵相手であれば圧倒する事が可能なガチンコ系メイド。
 教養と礼儀作法は勉強中である為、他所の高慢ちきな家のメイドから馬鹿にされる事はある。
 影で。
 表だって文句を言える奴は居ない、そんな武装メイドさんである。


マルティナ「厨房長」
 面倒なメイド仕事を全部ノウラに押し付けて、悠々自適の厨房家業中。
 「大体あたしは人前に出るのが苦手でね」とは本人の弁。


ハーヴェイ・ヒースクリフ
 一家の大黒柱。
 でも、それ以上に大きな柱があったりするけど、当人は気にしていない。
 息子と喫煙室で煙草を片手にゲームや飲酒をするのが一番の楽しみとしている。


ツェツィーリエ・アヒレス
 愛称はツィー。
 留学生である為、というか方言として文法的に少しオカシイ言葉遣いをしている。
 3人娘の頭脳労働担当。


ディートリッヒ・ゲアハルト
 愛称はディー。
 3人娘の中では、お色気と攻撃魔法担当の快楽趣味者。


ヨハン・ヴァルバスカール
 通称キモギモ。
 非常にアレな奴ではあるが、救いが無い訳でも無い。
 そして身内からは愛されている馬鹿坊ちゃん。
 でも多分、ライクはあってもラブは無い。
 尚、ヴァルバスカール家は富豪ではあるが、中の上程度の家格であり、政治的影響力は余り無い。


ジャン・ジョンクロード
 宰相府神宮局主事。
 割と好々爺風の人。
 でも、それだけで昇れる地位じゃない訳で。


アティリオ・オルディアレス
 拳王でドズルな兄馬鹿。
 物理魔術の使い手で、拳骨で岩を砕く。


ジョージ・ベーカー
 百騎長。
 騎士団の中では強い人だけど、それは集団戦闘技術と騎乗戦闘技術であり、ビクターとの試合は1対1の徒歩であった為、その強さをトンと発揮せずに負けた。
 でも、その事を口には出さないし、誰を恨む事も無い気風の良い男。
 だから気立ての良い嫁さんが居る。


ゴーレル・ベルネヒト
 王都トールデンの郊外に構えられた要塞神殿、ブレルニルダ第3神殿の第1位神官長。
 恰幅のあるとっても偉い老女。
 トールデェ王国に存在する全神殿の統括神官でもある。
 ミリエレナを愛娘の如く扱うが、それは全ての神官に対しても共通している。
 愛を司るレギンヘーリャの神官と言われた方がしっくりくる様な御仁。
 だけど若い頃は、“<鬼>のゴーレル”と謳われた強者であったそーな。


レニー・マイヤール
 五大伯の1つ、アーレルスマイヤー伯爵家につながるマイヤール子爵家の長女。
 自分の事を僕と呼ぶが、僕っ娘ではなくヅカ系な女性。
 男勝りというが、男を馬鹿にしたり、無理に対抗する手合いではなく、自然体として対等であろうとしている女の子。
 理由は家庭の事情。
 開祖から2代に渡っての開墾などによって裕福なマイヤール子爵家の資産狙いで、まだ子供の内から嫁に来いとかゆー縁談が多かったので、それを排除する為に努力していたら、こーなったらしい。
 曰く 「僕を嫁にしたいのであれば、僕に勝て」 と。
 故に、同世代の中ではかなり強い。
 但し、大学に入って以降に “良い虫除け(本人談” を得たので、それ以来は自分で戦ってはいない。

 この行為が、どの様な風評を呼ぶか理解していなかった辺り、レニーもビクターも子供であった。


ブリジッド・O・トールデェ・ディージル公爵 「王太子」 <戦姫>
 人材マニアの王国第1王女、王太子。
 有能な奴は片っ端から声を掛けている。
 コレクター魂から、<白外套の3騎>を揃えようとしたが、パークスはリード公爵家の陪臣というか、妹への売約済みというかな為、優しい姉としては断念せざる得なかった。
 この為、ビクターを狙ったが、その頃既にマーリンさんゾッコン☆ラブだった為に断られて、微妙にハートブレイク(大嘘
 でも、最近は逆に考えてマーリンさんをディージル騎士団にヘッドハントして、セットでビクターを狙えないだろうかとか考えている。



[8338] 1-01 行き成りですが、買収されますた
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2011/02/01 06:59
 
 薄暗い部屋。
 目の前には金貨。
 金貨。
 金貨。
 金貨。

 金貨の山々。
 その山の奥には、恰幅の良い男が座っている。
 但し、好々爺然としたなんて、欠片も思えない相手だ。
 ブッチャけて、ドンとかファーザーとか呼びたい風情がある。
 間違っても、ファー様等では無い。

 煌く金貨が、装飾の乏しい部屋に彩りを与えている。
 が、その前に言いたい。
 どうしてこうなった、と。


 いっそ、踊りだしたい気分だ。
 大股開きで、ドタドタと。
 ああ、気分はAA略か。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-01
行き成りですが、買収されますた

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 かつての、子供の頃と言うには、少しばかり近い前。
 5年程の昔。
 あのマバワン村で初めて実戦へと赴いた頃、剣の標的は立ち木だった。

 それが何時か、丸太に変わった。
 そして今は、人を模した組み木に纏わせた鎧だ。
 それも、レザーアーマーなどの軽便な物じゃない、金属プレートで腹や首元などの急所などにカバーが為された、かなり高級なチェインメイルだ。
 尤も、新品などではなく老朽化し、各部が凹んでいたり錆び付いていたり欠損している廃棄品の再利用であった。
 実用困難であっても、訓練の標的とするのであれば、必要十分だからだ。

 そんな標的の前に立ち、腰の左右に下げていた剣――ショートソードを模した刃を潰し、切っ先を丸めた訓練剣を抜いて構える。

 左手は中段にて緩く伸ばし、その先に握られた剣はさながら触覚の如く。
 右手は拳を右頬に触れる様な位置へ、そして剣は背に当てて背負うように。
 左は牽制であり、右が本命。
 それが基本の構え(パターン)
 だが、化け物揃いと言うか、化け物か雑魚しかいない<黒>を相手に戦うのだ、そんな単純な攻撃だけで凌げるものではない。
 化け物の方は簡単に殺せないし、繰り返せば隙となる。
 雑魚相手では手数が無駄になり、無意味に体力を消耗する事になる。

 だがそれでも尚、この型は俺が自分で見つけマーリンに導かれ、育てた基本だった。
 愛着がある。
 気持ちの問題だとも言えるかもしれない。
 そんな構えから、振るう。


「Kietu!」


 鈍い音色の金属音が響く。
 その数は3度。
 ほんの少し前までは交互に出すだけで精一杯だったのが、今はコンビネーションとしての攻撃が出来るようになった。

 左の2連に、右の一撃。
 或いは右の2連に左の一撃。
 はたまた、交互に3連斬撃、又は3連刺突撃。

 1つのパターンに偏らないよう、幾つもの種類のパターンを織り込んで振るい続ける。
 無心に振るい続ける。
 世界が自分と標的との絞られていく。
 打ち込み続ける。
 突き続ける。
 打ち込む事によって温まった体が、更なる加速をする。

 滅多矢鱈と打ち鳴り響く金属音。

 あと一歩なのだ。
 あと一歩の何かで、一呼吸での4連撃が可能になりそうなのだ。
 だが、今はその一歩が踏み越えられない。

 どれ程に訓練剣を振るおうとも、金属音の連なりは3を超えない。
 超えられない。
 そのもどかしさが、俺を更なる剣撃へとのめり込ませる。



 どれ程続けたか判らぬ果てに、止める。
 止まった。

 深呼吸。
 呼吸にはまだ余裕があったが、訓練で無茶をする意味は無い。
 音が戻ってきた。
 周囲の喧騒が――無い。
 剣撃の音、或いは体を動かす音、または掛け声。
 それらが一切、止まっていた。

 何事かと思ったその時、拍手がした。
 振り返って見れば、そこにはこの修練場を管理する教官長と共に、身奇麗な格好をした壮年の男性が居て、此方を見ながら笑顔で拍手をしていた。


「その年で見事なものだな」


 重い、張りのある声。
 人に命令する事に成れた者の声だ。
 貴族にせよ豪商にせよ、並みの人間ではあるまいよ。
 素直にそう思える声だった。

 だから、背筋を伸ばして答える。


「有難う御座います」


 礼を失する事に意味は無い。
 というか、教官じゃなく教官長が案内しているのだから、相当な人物なのだろう。
 教官長とは、階位に於いては、騎士爵では無く男爵位以上の人間しか成れないの立場なのだから。

 と云うか、別の呼び方をすれば大学学長なのだ。
 ここは首都郊外の大学――と言っても、嘗ての地球のぶっちゃけて、軍や傭兵、果ては冒険者なんて連中を目指す人間の為に軍民で予算を出し合って設立された士官学校みたいな場所だった。
 個人戦闘から部隊戦闘と部隊指揮などの訓練から、野外に於ける生活の仕方まで各種様々。
 コレに、選択科目的に礼節等も含まれているのだ。
 名はゲルハルド記念大学。
 名に冠されたゲルハルドとは<黒嘯>戦争の折にリード高原制圧の戦にて大功を立てた将軍であり、その将軍の進言――兵もであるが、貴族諸侯軍の指揮官を鍛えるべしとの進言によって設立された大学であった。
 王族や上級貴族の子弟、富豪等を相手にした王府直轄の王立大学院と並ぶ、トールデェ王国の大教育機関であった。
 そして俺が居る理由は、無論ながらも入学したから。
 精通前からマーリンさんに諸々の手解きを受けた後、2年ほど前にこの大学へと入学したのだ。
 学校で教わる事も大事だし、人と知己を作るのも重要。
 集団生活を勉強するのだって大事との事でだ。

 尚、この2校の他にも神学府と云う、九大神を祭った宗教の方の学府ってのもあるが、それはチョイと筋が違う。
 一応は官僚コースとして認められては居るが、根っこは神学であり哲学だからだ。
 まぁ、神誓騎士(ゴッズ)と呼ばれる、神官戦士を目指す人間を受け入れているらしいので、まぁ似たようなものかもしれない。




「良いモノを見せて貰った。流石は最年少前衛資格者(フロント・ロー)受章だな、<鬼沈め>のビクター君」


 <鬼沈め>、何ともおもばゆい言葉ではあるが、それが俺の字名だ。
 オーガーを倒した事のある奴は多いが、それでも前衛資格の収得者は近年では減っていたのと、その収得が史上最年少と云う事が相まっての命名であった。
 と云うか、いつの間にか呼ばれていたのだ。
 拒否権も何も、欠片も無い。

 しかし、<鬼沈め>だ。
 大層な字名を貰ったものである。
 隻眼じゃなくて良いのかなーとか、日本刀が持ちたいなぁとかは思ったりもするが。

 それはさておき、褒められたので素直に頭を下げ、それから教官長にそっと尋ねる。
 何方の方ですか? と。
 如才なくって訳ではないが、それなりに良好な関係を築けていたと思う教官長は、小声で、しかし楽しげに答えた。
 アルバール・オルディアレス伯爵だ、と。


「かっ、海大伯!?」


 思わず声を上げてしまったが、仕方が無い。
 アルバール・オルディアレス伯爵、即ちオルディアレス家とは、このトールデェ王国でも王家に継ぐ三頂五大と総称される8つの家の一角の家なのだ。
 王国領西方南部域にて<黒>の領域と対峙する、南護19諸家の筆頭。
 そして海運にて莫大な富を築いている、お金持ちなのだ。
 そう海運だ。
 陸上戦力もだが、洋上戦力――帆船を大小併せて17隻ものフネで構成された海軍を所有する辺り、マジパネェなお金持ちだ。

 この世界、河川の水上戦力は揃っていても、海は海魔が跳梁している為にそれ程に発展していなかった。
 沿岸を往くガレー船が精々であった。
 奴隷主体でこそ無かったが、それでも船としての規模と性能に於いて沿岸航海用程度のものであった為、交易と言っても、それこそトールデェ王国の沿岸を回る程度であったのだ。

 それを西方の技術を導入して船を作り、人を育て、トールデェ王国沿岸を含んだトロックス海、そこの西限と呼べる<死の聖域>まで往ける船団を築いたのだ。
 この船団による海運、その利益のお陰で、オルディアレス家を筆頭とする西方南部域は防備を堅め、<黒>より国土を護る事に成功したのだ。
 その功績故に、オルディアレス家は南壁伯、海伯なる尊称を受けているのだった。

 そして最近では西方南部域の更なる繁栄によって海伯の称号に、“大”の号を付けるのが定例となっていた。
 三頂の一角、ダニーノフ伯爵家に準じられる所までのし上った家。
 それがオルディアレス伯爵家、その第7代当主である。

 そんな、大身も大身の御仁が、一人でこんな場所に居るのか、さっぱり判らない。
 そもそも、オルディアレス伯家の領内に、南護19諸家の軍向けの兵士学校すらも作っている御仁なのだ。
 ブッチャけて、居る理由が判らんし、想定も出来ん。
 驚いても仕方が無いってものである。
 そんな、驚いた俺にオルディアレス伯はニィっと笑っていた。

 素直に言って、その笑顔はスッゴク黒かった。
 そんな笑顔でガン見されるのは、その、何だ、非常にキモチワルイ。
 そう言えば笑顔とは本来、攻撃的なものだったっけか? でも、何で俺に。





 微妙に座りの悪い思いをしながらも、訓練を続行。
 更にガン見される。
 集団戦闘訓練から騎乗訓練etc etc……と。
 その全てを見学し、そして教官長と喋っていた。
 全く持って謎。
 その意味が判るのは、訓練が終わって暫し後の事だった。


 訓練終了後に、汗を流した所で話が来た。
 教官長応接室へと出頭せよ、と。
 恐らくはレベルを超えて、確実にオルディアレス伯絡みだろうからと、戦闘準備を整える。

 先ずは服装を確認する。
 白を基調とした身動きし易い、だが品のあるデザインのズボンと、シャツだ。
 仕立物であり、同時に線は細めに作られている。
 実用性と云う意味では、ダブついたモノの方が安全性が高いが、ここは下級とはいえ貴族の子弟も通う大学なので、制服にはそれなりの品格が求められているのだ。
 故に当然、訓練服は、ゆったりとしたデザインが採用されているが、コレは余談だ。

 袖元、裾の確認をし、続いて髪型もチェック。
 乱れを正し、鏡を見る。
 紅顔の美少年、そんな感じだ。
 引き締まってはいるが、甘さがある顔立ちが、コッチを見ている。
 コッチ見んなと云うか、見てないと逆に怖い。

 真坂、ファックな穴話じゃねぇだろうなぁと、フト、怖い事を考えた。
 このトールデェ王国、同性愛も近親相姦と合わせて割りと否定されていない国なのだ。
 まーキリスト教が存在していないし、それにかつて巨人族と戦っていた頃の人類を指導し、今でも守護神としても奉られている神族の中に、同性愛を公言していた柱が居たりする世界だから、仕方が無い。
 なんて素敵にインモラル。
 天地無用! 魎皇鬼な世界じゃ無いんだけどね、全く。

 尚、全寮制の大学だと同性愛の問題も出てくるが、ここでは無問題。
 何故なら、生徒の中には女性が居るからだ。
 女性が居ないから血迷うだけで、居るのであれば血迷う筈も無くってなものである。


 兎も角。
 ある意味でフリーダム過ぎるこの国の性愛に関して、自己防衛用として用意していた、良く砥いだペーパーナイフを胸のポケットに装飾具と一緒に挿す。
 デザイン的にも良い物だし、磨いた純銀製なので違和感は無い。

 かくして戦闘準備は完了、心の中で覚悟――お偉いさんをぶっ飛ばして、学校を首になる覚悟を決めての、いざ出陣。
 さてさて。
 行った先の応接室に居たのは、オルディアレス伯のみ。
 1人でソファに座っている。
 テーブルには謎の、布の掛けられた小山と、お茶のカップがある。
 トールデェ王国辺りの定番、黒茶だった。
 個人的には、濃い烏龍茶ってな感じの代物だ。

 やーやーコレはコレはと内心で覚悟を更に固めた時、オルディアレス伯がニィっと笑った。


「そう緊張せんで良い。ビクター君」


 怖い笑みだ。
 どうみても、マフィアが獲物を前にした笑顔だ。
 頬辺りの違和感に、思わずに引きつった笑みを浮かべてしまったのを自覚する。

 そんな、引いていたのもオルディアレス伯が、自身の前にあるテーブル、その上に掛けてあった布を取り去るまでだった。

 柔らかな動きで抜かれた布、その下には金貨が積んであった。
 それも我がトールデェ王国が鋳造し、一般的に流通しているグラム金貨では無く、<白>陣営の共通貨幣として、交易用にも使われるルグランキグ金貨がだ。
 このルグランキグ金貨、先史文明の残り香にして<白>世界に於ける魔道の中枢たる西方エルフのピブム王国が鋳造しているだけあって、ほの暗い室内であっても形質保護用の魔法によって煌いていた。

 正に金銀財宝なる言葉が相応しい金貨の山。
 ひぃふぅみぃと数えて、100枚。
 金貨100枚。
 10枚づつ詰まれた山が10ばかり。
 馬鹿にする事なかれ。
 なんたって、このルグランキグ金貨は一枚の価値が日本円に換算すれば10万に届こうかと云うシロモノなのだ。
 って事は、この目の前にあるだけで約1000万円なのである。
 ヒースクリフ家みたいな下級貴族であれば数年分の、一寸した贅沢の出来る程度の庶民的な生活であれば、家族4人が10年以上は生活出来るってな大金だ。

 おでれーた。

 最近になってやらかした内政チートでウママママァー(でも、チョビットだけ)のお陰で、個人的に羽振りが良くなったが、にしたって、一度にこんな額を見た事なんて、無い。
 故に、思わず金貨とオルディアレス伯を交互に見てしまったのも仕方が無い事だろう。





 後から考えれば、それが致命的な隙になったのだと理解する。
 交渉に於いて相手を呑む――呑まれたのだ、俺は。
 緊張感と、さっと現れた莫大な金に驚いた時に、既に交渉は決着してしまっていたのだ。
 始まる前に決着への筋道を付ける。
 それは正に、大身者の交渉術であると感嘆するほか無かった。





「実はだね、ビクター君。折り入って君に頼みたい事があるのだが、聞いてくれるかね?」


 それは問いかけであり、だが問いかけで無かった。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-02 契約書には、冷静に、そして内容を良く読んでからサインをしましょう
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2011/04/02 19:03
 
 人間ね、ヤッパね、金は欲しい訳ですよ。
 美味い飯、綺麗な服、イカス武器。
 後、ネーちゃんの居る酒場でドンちゃん騒ぎとかさ、ね。
 朝までしっぽりとかも、ね。

 有無、マーリンさん最高であるが、終始主導権を握られっぱなしと言うのは面白く無い訳で。
 逆襲しようとしても、柔らかく受け止められて、最後は喰われる。
 年季の差なんだけども、こーさー、男として悔しいじゃない。

 ん? 何ぞ話はずれたが、結論を言えばアレだ。
 お金はサイコーなのである。

 きっと、世紀末覇王様的大陸軍(グランダルメ)級に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-02
契約書には、冷静に、そして内容を良く読んでからサインをしましょう

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 笑顔のオルディアレス伯。
 既に主導権はアッチにある。
 クソッタレ。
 金に幻惑されてしまった俺が出来るのは、出来るだけ感情を交えずにお話を聞かせて下さい、と言うだけだった。
 なっさけない。



 兎も角の、事情説明。
 と思ったら、最初は質問であった。


「君は、神託と云うものを知っているかね?」


「神託、ですか」


「そうだ。それが全ての原因でもある」


 重々しく口にしたオルディアレス伯。
 そこからの話は、何と云うか大時代なものであった。
 あるいは伝説的なものであった。
 正義神であり勇気を象徴とする女神ブレンニルダ。
 この女神を奉ったブレンニルダ第3神殿が巫女が、それも<聖女>の号を持った巫覡が、最近になって神託を受けたのが始まりだと云う。

 神託。
 それは言葉通り<天の座>へと昇った神族が人へ放つメッセージであり、亜神へと到る力――内なる神の欠片(ワン・ピース)に目覚めさせた人間を介して放たれるものである。
 とされているが、ここ数百年で放たれた事は無く、又、神託詐欺とでも云うべき悪党が居た事もあって、そこまで重視されてはいない。
 無論、9大神を筆頭とする主神従神合わせて51柱を奉っている宗教の方では話は別である。
 というか、凄く重要視されている。
 がしかし、彼らは基本的に神族を奉り、そして身を持って示した行動をその身で実践し、世界を案じる事を目的とする集団であるため、政治や国家に対してそれ程に要求する事は無いのだ。
 神託を受ける事は栄誉であるが、それは同時に個人に与えられた試練である為、余り協力をしては成らぬと定めされているのだ。

 うん、ブッチャケ良ーく判らない。
 神学に関しては成績が悪かったのだ。
 この世界の宗教がブッちゃんやキーやんを奉ってた連中よりも、現世主義だったり神族と信奉者の連帯感などの面で日本の神道的な面がある事は理解していたが、それから先はサッパリである。
 アレだね。
 信じない人間じゃ、どうにもならんのでしょう。
 神を殺した巨人を滅ぼし、巨人に組した邪竜を封じた神族を否定はしないが、とはいえ個人を捨て神人合一の境地を目指すのは、チョイと違うと思うのだ。
 有無、実に現世利益と言うか、俺が自分の欲望に素直なだけなのかもしれないが。
 或いは、正義を信じれても、それを誰かに命令されるのが真っ平御免な辺り、実にヒネクレモノなのかもしれない。
 まぁどうでも良いが。

 夏草や、兵どもが、どうでもよい。
 だって他人事だし。と、そんな気分で、オルディアレス伯の話を聞いていく。
 そして、良く判らぬ神託絡み以降の話から政治的発言だの、ポジショントークだの、オブラートだのを引っぺがして、3行に纏めてみる。
 みた。

 1、3番目の息子が英雄譚が大好きで、聖騎士を夢見て神官戦士見習いである。
 2、最近、冒険譚の定番である神託が下ったので、政治力を駆使して、国家が支援するようにした。
 3、だが冒険譚の如く息子だけをお供にするのは、生活力的な面からも心配だから助っ人を求めた。

 うむ、見事に纏ってる。
 コレを更に見も蓋も無く纏めると、以下になる。

 親馬鹿が息子の夢に一肌脱いだ、と。

 オルディアレス伯。
 ゴットなファー様ちっくな外見通り、身内にはダダ甘なご様子。
 だって、若輩な俺にすらも頭を下げている位だから。




 何と言うか、空気的な意味で受けざる得ない依頼。
 頭を掻く。

 約1000万円と云う前金が、命を賭けるかもしれない試練に同行するに相応しい対価かと言えば、判らないが。
 噂で聞く奴隷の値段ってのが大体で30万円程度で、上を見ても100万円を超えるのは滅多に居ないって話だから破格にも見える。
 が、トールデェ王国に於ける奴隷と云うのが、戦闘の可能性のトンと無いし、そもそもとして罰としての意味合いの強い身分であるから、ある意味で比較対象としてどーよと云うものである。
 当人が金を貯めて自分を買って自由になれる辺りは、年季奉公の亜種みたいなものと言えるだろう。
 西方からの商人が遠路はるばるとトールデェまで奴隷を買い取りに来て、その商習慣相違から「トールデェに奴隷無し」と言って帰っていった。
 そんな噂話だってある。
 ま、とは言っても給与自体は法的規制も無く奴隷主の腹1つでどうにでも成る辺り、まぁ眉唾ものの話ではある。
 更に言えば奴隷証明書の偽造も多いし、実家のノウラの如く、王都ですらも路地裏などであれば子供が掻っ攫われそうになる面もあるのだ。
 無条件に、トールデェ王国を褒める気になんて成る筈も無い。


 兎も角、前金でルグランキグ金貨100枚。
 無事に任務を終えれば100枚。
 旅の途中で何らかの英雄的行為をオルディアレス伯の息子が為したのであれば、別途にボーナスも考える、と。

 破格と言うか、金の使い処を間違えないと言うか。
 まだ何も為せていない若輩に提示する金額じゃ無いと思う。
 その事を率直に尋ねたら、笑われた。
 私とて調査はする、と。

 国の事業故に傭兵を雇う訳にはいかず。
 かといって腕の立つ正規の騎士をトールデェ王国軍から出せば、オルディアレス伯の息子は空気になる。
 では、空気にならぬようにと気遣いの出来るであろう南護19諸侯軍から人を出せば、今度はオルディアレス色が出過ぎて問題となる、と。
 であるからこそ、中央の大学の学生となるのだ。
 無論、学生だからとは言っても、只の学生では困る。
 多少ではない腕があり、同時に旅への知識もある人間をと云うチョイスとなっているのだ。

 それで俺か、と納得する。
 その俺の顔に何を見たか、オルディアレス伯は言葉を連ねた。

「自信が無いかね? だが君は誇って良い。あのリード公家の秘蔵っ子、パークス・アレイノートと互角に戦い、女王陛下より白の外套(ケープ・オブ・ホワイト)を賜ったのだ」


 コレに勝る能力証明は無い、と断言するオルディアレス伯。
 凄くこそばゆい。
 或いは恥ずかしい。

 白の外套。
 それは尚武にして、<黒>と対峙するが故に、常に人材を欲しているトールデェ王国が、人材発掘の為に行っている武闘大会に於いて、優秀と認められる武威を見せた者へ、女王であるエレオノーラから下賜される装飾具だ。
 格式は極めて高い。
 公式の場で羽織っていれば、男爵位級の待遇が与えられるという代物であり、何よりも、実力を持つ証拠である為、羽織れる事は極めて名誉とされている。
 そんな外套なのだ。
 尤も、それ故に優勝者達へと常に与えられる様なものではなく、逆に、下賜者無しと云う結果が何年も続く様なモノであるのだ。



 確かに、誇るべきかもしれない。
 だが、素直に勝ったと言えない内容でもあったのだ。
 武闘大会準決勝にて立ち会った、パークスと云う男との戦いは。

 思い出すのだ、あの熱い日を。

 轟剣――身の丈程もある様な、母親様のドラゴン・ベインに匹敵する大剣をぶん回してくる。
 というか、アレ、普通の剣として扱っている辺り、パークスって奴はウチの母親様の同類っぽい化け物だ。
 畜生め。
 そんなのに、コッチはショートソードを両の手に持って立ち回りだったのだ。
 武器のチョイスに後悔は無い。
 剣術と云うよりも体術の延長的な戦闘術が俺の持ち味だからだ。
 とはいえ、あの化け物じみた大剣を掻い潜って戦うってのには、とっても大変ではあった。

 いやな事を思い出した。
 神経削りながら戦って、で、結果が引き分けの判定勝ちって結末だったのだ。
 何たる無様。
 で、無様に恥を上塗りするのが嫌で辞退したら、今度は驚きの展開となった。

 もう一方の準決勝の勝者であった<白銀仮面の美貌女騎士>とのふざけた自称(仮面で顔が隠れているのに、何故、美人と判る)と、名前の通りの白銀の仮面で正体を隠した、だが凄腕の女性騎士が、優勝者として名が呼ばれた時に、大声でそれは承服できない、と強く宣言したのだ。
 大会運営の人間は大慌て。
 普通は、それが通る筈が無いのだが、この正体不明の女性騎士の正体が、トールデェ王国第1王女ブリジッド・トールデェであった事から話がややっこしくなる。

 正体を知らされていたのであろう審判長は猫なで声で翻意を促すが、頑として首を縦に振らない王女ブリジッド。
 逆に、滔々と自分が優勝者としての力は見せていないと述べていた。

 そんな、何と言うか頭の痛くなりそうな展開が終わったのは、それまで黙っていた女王エレオノーラが、楽しげに口を開いた時だった。
 ならば貴女と2人の全員に白の外套を与えましょう、と。
 その良く通る声が会場中へと染み渡った、次の瞬間、爆発的な歓声が上がった。
 連呼される女王の名。
 それに右腕を掲げて応じたエレオノーラ女王。

 その姿に俺は、女王の統治者としての力量を見た。
 名君かは判らぬが、少なくとも人の心を掴む術をもっている、と。

 その後、まだ抵抗する構えを見せた王女ブリジットに、その名を呼んで武威を褒め、場を収めたのだ。
 名を呼ばれ、フードを引いて豪奢な金髪を広げ、仮面を外して秀麗な素顔を晒した王女ブリジッドに、会場の興奮は、更なる高みへと上った。
 この数十年、王家の人間で白の外套を掴み取った人間は居なかったのだから、当然だろう。



 まっ、そんな事は正直、どうでも良い。
 問題は、やっぱり俺が白の外套を持つに相応しくないってか、誇るのは無理だって事だ。
 ショートソードで大剣とガチって互角だからの判定勝ち。
 馬鹿な、普通は逆だ。
 俺は軽めのを二本扱っただけだが、パークスはクソ重たい大剣で剣術を見せたんだぞ。
 しかも最後まで息切れせずに、俺に付き合いやがった。
 正真正銘の化け物だ。
 勝ったなんてとても思えない。

 しかも、その後のアレコレしての場を収める為と、次の統治者への箔付け的な意味も含んだ、言わば政治的理由で下賜された白い外套。

 あー もう何だ、褒められる度に、欝になる。
 だからまだ俺は、あの外套を羽織った事はない。
 着れるか、畜生め。
 俺だって恥は知ってるってんだ。




 やさぐれ気味な俺の気分は別として、話は実務的な部分へと移った。
 即ち、目的地の話である。


「神託の内容は、巫女は<北の聖地>へと到るべし、と」


 重々しく言うオルディアレス伯。

 <北の聖地>、それは<白>と<常冬ノ邦>の狭間に設けられた<聖地>であり、別には<第7聖地>とも呼ばれている場所だ。

 そもそも、<聖地>とは神族主導時代の最末期に生み出されたシステムである。
 世界の造成を司った巨人族と共に世界の調律を司った竜族の一部が神への叛旗を翻した結果、多発する事となった激烈な気象他から、<白>の領域を護る為の結界であった。
 地脈と呼ばれる大地のパワーライン。
 その六箇所のホットスポットへと竜の因子を持った対巨人兵器であった竜戦機(ドラグーン)を封入する事で、コレを人為的に調律し、地殻と気象とを安定化させているのだと云う。
 神様の叡智を受け継いだ、神族ってマジパネェ、だ。
 人間から成ったとはとても思えない。

 尚、余談ではあるが、この<聖地>を管理している組織を母体として宗教――即ち、今の神族51柱と多くの亜神を奉る奉神庁が生まれている。
 奉神庁はローマ教皇庁等と違い、日本の神社本庁にも似て、緩やかに各神殿などを管理している。
 或いは、神殿の互助会的な組織である。
 権威はそれなりにあるが、権限はそれ程には無い。
 これは、彼らが奉る神族が等しく、自助努力を旨としているからであった。

 この世界、宗教は、この奉神庁系以外の宗教が無いってのはアレだ、本物の神、神族以上に説得力のある存在が無いからだろう。
 まぁ、十字に組まれた標識を見て標的と連想する類の俺にとっては、どーでも良い話ではあるが。


「失礼ながら、神託を下された目的が読めませんね」


「ああ、確かにな。だが、神託とは常にそういうものだ。問題は無い。問題は――」


 そこで言葉を切って、じっと俺を見てくる。
 返答を、結論を待っているのだ。

 深呼吸を1つ。
 目を閉じる。

 <北の聖地>まで行くとなれば、片道でも1年は余裕で必要となる旅路だ。
 往復で3年は見るべきだろう。
 道中も、危険は少なからずあるだろう。
 だが同時に、この時代に於いて、それだけの旅をする者がどれだけ居るのだろうか。
 その意味では非常に面白い。
 面白いのだ。
 将来的に、マーリンさんの居る<北の大十字>傭兵騎士団に入団する積もりだったが、その前に国外を見て回るのも良いだろう。

 目を開き、オルディアレス伯をじっと見る。
 そして口を開く。


「受けさせて頂きます。但し――」


 1つだけ、条件を付けさせてもうらけれども。










 トールデェ王国の王都であるトールデン。
 その一角にある鍛冶屋街は、今、俺にとっては大事な場所であった。
 主に、金づる的な意味で。

 割と大きめの鍛冶工房。
 それはヒースクリフ家昵懇と言うか母親様の昵懇の鍛冶工房、アブラメンコフ工房であった。
 家に保管されている武器の多くは、この工房で作られているそうだ。
 腕の良い親方と職人、そして魔力付与職人までも揃っている。
 初めての実戦時に母親様に与えられ、今でも愛用している刃の入ったショートソードもココで生まれたらしい。

 そんな工房の一角。
 応接室と呼ぶには乱雑な、休憩所じみた場所で俺は黒茶を啜っていた。
 貴族の子弟相手に休憩所ってのは、扱いが悪いって訳じゃ無い。
 剣を振るって本を読み、それ以外の時間ではかなり入り浸っていたから、身内扱いとなっていただけの話である。

 冷えた黒茶が、美味い。
 筒状の、モノを冷やす力を持った魔道具は何気に便利だ。
 でも時々、ソフトクリームが食べたくなるが。
 アイスクリームより、難易度がもっと上だ、残念。
 シャーベットも嫌いじゃないんだが、濃厚なソフトクリームが大好きだ。

 まっ、それは兎も角。

 まったりとお茶をして、菓子を齧る。
 ガリガリと。
 露店で買ってきた菓子だ。
 煎餅みたいな味だが、油で揚げたものらしい。
 トールデェ王国ってのは、交易路の東端であり、四方から物資が流れ込む場所ゆえに、色々なモノが入ってくるので、お菓子類も豊富なのだ。
 魔法のお陰もあって、中世っぽいファンタジー世界な割りに食生活は豊かだ。
 まっ、2000年代の日本を生きていた経験からすると、“それなり”程度の話ではあるが。
 他所の国の人間になって思うが、アレは変態の国だった。
 変態による変態の為の、変態の国家。

 郷愁と共に、油揚げな煎餅モドキを取る。
 齧る。
 乾いた音が、良い響き。
 聊か下品ではあるが、まぁアレだ。
 オルディアレス伯つぅおエライさんと相対して神経が疲れたのだから、勘弁して貰いたいものである。
 身内の場所でもある訳だし。

 そんなだらけた俺を笑う声。
 胴間声。
 どうやら、家主が着たらしい。


「おじゃましてまっす」


「おうおう、お邪魔しとるなぁ。好き勝手に飲み食いしおって」


「おやつは俺の持ち込みですよ?」


「馬鹿が、持ち込まれた時点で、ワシんもんじゃが」


 巌の如き拳骨で、煎餅モドキを3つ4つと一度に掴み、それから大きく開けた口に放り込む。
 豪快だ。


「うわっ、横暴」


 笑う俺。
 咀嚼しながら俺の正面にどかっと座った、髭面で短躯の壮年男性。
 このアブラメンコフ工房の主であるアビアルダ・アブラメンコフ、ドワーフだ。

 故に、手には勿論ながら酒瓶が握られている。
 流石に真昼間に蒸留酒みたいな強い酒ではないが、にしてもラッパ飲み。
 期待にたがわぬ、アル中っぷりだ。
 まぁ種族違うんで、人間基準で考えるだけ野暮ではあるけども。

 少しだけ、世間話。
 商売の話だの、何だのをする。
 母親様が大の仲良しで、俺は俺で彼の商売繁盛の切っ掛けを作ったので、年の差はあるが、友人的な関係を築けている。
 だからこそ、緊張なんて欠片もない会話。
 それが、ある瞬間、フッと止まった。


「しっかしどした、今日は?」


 口元を拭い、懐疑と云うよりも確認の言葉を放ってくるアビラルダ。
 洞察力と云うよりも、当たり前だろう。
 大学に行く様になってからコッチ、平日の真昼間にココへ来る事なんて無くなっていたのだから。


「いや、チョッとする事が出来ましたんでね、仕事をお願いしようかと思って」


「剣か?」


「いや、まー武器とかもですが、馬車を、ね」


「ほう?」





 アブラメンコフ工房は、基本、剣や防具の様な個人的な武具から馬具馬車辺りまで、金属を加工して作るものであれば何でも作る工房である。
 武具に関しては<戦鑓の貴婦人>、女王直轄の人外集団である<十三人騎士団>が第9位である母親様が愛用しているって事が良い宣伝になるらしく、良く売れているらしい。
 あの、頭のオカシイ戦闘力を誇るアデラ女史愛用の逸品です――謳い文句としては一級だろう。
 俺だって欲しくなるかもしれない。
 魔除け用に。

 うむ、自分の母親様をネタにするのはやめておこう。
 後が怖いから。
 後が怖いから。
 大事な事なことだから、二回言っておこう。

 兎も角、武具の売れ行きは中々に良い。
 だがそれ以上の稼ぎ頭が、この工房にはある。
 馬車だ。

 馬車自体は、ある程度の技術さえあればどこの工房でも作れるのだが、このアブラメンコフ工房の作る馬車には、他の工房ではまだ真似の出来ない仕掛けがあった。
 それは車軸の懸架装置、板バネを用いたサスペンションだ。

 板バネを重ねて車軸を懸架し、地面の凹凸の衝撃を緩衝する装置だ。
 その名もアブラメンコフ式非魔道型衝撃緩衝機構。
 母親様に連れられて、遊びに来ていた時に偶然に思いつき――まぁ正確には思い出して、アビアルダに提案。
 アビアルダは俺の提案を子供のたわごとだと鼻で笑わず、面白そうだと話を受け、それから、他の職人も交えてあーだこーだと試行錯誤し、そして半年程で完成させたのだ。
 この世界初の純機械式の衝撃緩衝機構として。

 まぁ日本車のメーカーから見れば、それこそ鼻で笑われそうなチャチさであるが、にしても達成感があった。
 アビアルダとか職人は、新しいものを生み出せた喜びに歓声を上げ、俺は、ちょっとだけ内政(っぽい)チートウマと思えて喜んだ。

 更に驚いたのは、アビアルダが、発案ってか、発明者の欄には俺の名も加えていた事だ。
 何故にと、その事をアビアルダに問えば、発案者はお前であり、その名誉を奪う事はドワーフ族の偉大なる鉱石と発明の祖、ギム・ドガルドの名を汚す行為だからだと、胸をはっての答えを受けた。
 なんというかこのドワーフ、カコイイ気概の持ち主なのだ。
 まぁ、日頃の行動は乱暴だけれども。


 兎も角。
 先述の金づるってか、チートとはコレの事である。
 いや、非魔道式って名前から判る通り、この世界に衝撃緩衝装置って無かった概念って訳じゃ無い。
 只、魔道を用いるそれは、極めて高額であり、王家や上級貴族らの家でしか使えない代物だったのだ
 それがこのアブラメンコフ式(以下略)の場合、多少なりと衝撃緩衝能力が落ちるが、普通の商家や王立軍でも採用出来る程度の額――具体的には、本体価格に乗せる事2割って程度で取り付ける事が出来るのだ。
 売れない筈が無かった。
 そのお陰で、殆ど馬車工房と化しているアブラメンコフ工房。
 儲かってウハウハである。
 しかもその売り上げの純利、その5%程度を、俺にくれると云う御大尽っぷりだから凄い。
 まぁあの後も、色々とアイディアを提供したので、これからもヨロシクだとか、アイディアを他の工房に出すなよ的な金でもあるだろうけども。

 何にせよ、金が入ってくるのは純粋に嬉しい。
 が、それだけに留まらず、このアブラメンコフ式(以下略)、王国の国力拡大に貢献ありと認められて王政府、具体的には宰相府と軍務府の連名で年金付きの褒章が下賜されたのだ。
 吃驚である。
 確かにマーリンさんからも、<北の大十字>傭兵騎士団が導入してみて、部隊の展開とか物資の輸送とかで使い勝手が大変に良くなったとスゲェ褒められて、後は「発明者へのサービスだ」なんて耳元で艶やかに囁かれて、そらもう朝までしっぽりとって、やめやめ。
 こんな髭面短躯のドワーフの前でエレクチオンなんて、何の罰ゲームってなものだ。

 黒茶を呷って、気分を変える。
 そしてアビアルダとの会話、買う馬車の性能要求に集中する。
 馬車と云うよりも、荷馬車であるが。

 3年、しかも交易路を旅するのだから、フレーム他には魔法強化された金属製の奴を、とか。
 一応1馬立ての仕様だけど、雨の日には中で過ごせる程度の大きさが欲しい、とか。
 当然、屋根付き。でも軽量化の為に防水加工済みの布製でも可とかとか。
 ………考えてみると、荷馬車と言うよりも幌馬車か。

 基本的に交易路は、地球でかつて存在していたシルクロードと違って、それなりの道が整備されているので、馬車での移動にも差し障りは無い。
 予備の部品と工具程度は必要だけれども。

 しかし、馬車だ。
 こゆう裏方の事にすらも年金付きの褒章をキチンと出す辺り、我が祖国はガチの戦闘国家だと思える。
 本気で戦争するのであれば、後方みたいなのを蝶々蜻蛉も鳥のうち何て馬鹿にするモンじゃねぇって話だ。
 腹も減っては戦も出来ぬってね。




「所で、何人で使う積もりなんだ?」


「3人かな、今の所」


「ほう、で、何処まで行くんだ?」


「………」


「何だ、言えないのか?」


 別に口止めされた訳ではないが、若干、言い辛い。
 まぁ神託自体は下された事が公布されているが、内容とか人選は情報が流れちゃいない。
 てゆうか、ブッチャケて一般人は興味がない。
 まぁそんなモノだろうと、頭を掻いて、それから答える。
 一応は口止めをして。


「何だ、大事だな」


「まぁ、来月辺りになれば判るとは思いますけどね………目的地は、<北の聖地>です」


「あぁ? もう一回、言ってくれ」


「<北の聖地>」


「正気か?」


 聞き間違えない様に、一言一句をゆっくりと言った俺に、アビアルダは正気を疑うような眼差しを向けてきた。
 うん。
 今になって、金の魔力酔いが抜けて思うが、本気で同意する。
 大雑把な地図で、適当に計算しても約10000kmの大旅行だ。
 ユーラシア大陸横断よりも長そうな旅路だ。
 途中で、船だの何だのを使う予定ではあるが、マジでパネェ距離だ。




 あっ、その何だ、少し、早まったかな?
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-03 鍛冶屋は男のロマンです。きっと……
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2011/07/07 22:30
 
 冷静に考えてみよう。
 片道だけでも約10000kmの旅路。
 シルクロードよりも遠いし、パリ-ダカールラリー程に手厚い支援は無い。
 つか、パリダカの倍やん、倍。
 ランエボが欲しいし、ランチア・ストラトスが欲しい。
 というかアレだ、いっそラレード持ってこい、ラレード。
 当然、ATでな!
 コティも忘れるな!!1!!111!o( ̄皿 ̄)o



 まっ、現実逃避は兎も角。
 シルクロードと違って交易は極めて盛んだし、交易路はそれなりに整備されているんで、宿泊施設とかは大丈夫だろう。
 大丈夫だと信じたい。

 大丈夫だと、良いなぁ………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-03
鍛冶屋は男のロマンです。きっと……

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 発注する馬車の基本的な方向性を専門家でもあるアビアルダに相談し、概略を決めてから工房の馬車製造ライン(・・・・・)へと赴く。

 ラインである。
 実はアブラメンコフ工房、フォード式チックな馬車の製造ラインを作り上げていたのだ。
 まぁレールの上に馬車のフレームを乗っけて、流れ作業で各部品を取り付けるってな、簡素って言うか名前負けな代物だが、コレが馬鹿に出来ない。
 工程をかなり細分化し専門的に行ったお陰で、製造効率は従来とは比較にならないレベルに向上したのだ。
 言ってしまえば従来の半分程度の製造コストで馬車が作れるのだ。
 実験的にやってみた結果に、アビアルダもだが提案した俺も吃驚したものである。
 流石はフォード式(偽。
 アメリカ黄金時代のチートはテラスゴスと、驚くべきなのだろう。

 この製造コストの低下――廉価さとアブラメンコフ式非魔道型衝撃緩衝機構を武器に、アブラメンコフ工房はトールデェ王国に於ける馬車製造のイニシアティブを握りつつあった。
 市場占有率は驚きの5割。
 マニュファクチュアの持つ凄さかもしれない。

 まっ、こんな社会で市場占有率もクソも無いものではあるが。
 供給を握って、値段を吊り上げると旨みも出るだろうが、マニュファクチュアシステム自体は、他の工房でも取り入れつつあるので、余り意味のある事じゃない。
 それに、そうなると宰相府か軍令府辺りが干渉してくるのが目に見えているってなモノである。
 故に自己満足。
 それも、俺だけの。

 鉄叩いて物が作って売れて、後は酒が飲めればウマーウマーと叫んで、人生の8割方を満足しそうなドワーフ(推定+偏見)であるアビアルダは、その偏見通りに、酒の質が上がってウマーとか叫んでた。
 うん。
 何だね、ある意味で癒されるですね。
 腹黒いのは面倒だ。

 誰とは言わないけど、どっかの親馬鹿チックな海大伯とかねー もうねー
 勘弁しろよ、本気で。



 さてさて。
 馬車の方は発注だけはかけておく。
 高耐久性に振った、奴。
 4輪式で、椅子はバケット式。
 いや、コッチはアレだ。
 レカロ・シートみたいなモノじゃぁない。
 籐で編んだバケットを枠から革紐で吊るすように固定する事で振動を減らし、御者への負担を減らす工夫だ。

 当然、俺の発案である。
 最初は、詰め物を敷けばとか思ったのだけど、それだけだと痛かったのだ。
 平成に生きて死んだ軟弱な日本人だった俺にとって、この時代の馬車は快適とは言い難かったので、ついカッとなって本気を出した訳だ。
 ふははははっ、改良に掛ける日本人の情熱は、ガワが変わっても変わらなかった模様。
 魂が、ニッポンに染まっているのかもしれぬ。

 耐腐食の塗料も厚めに塗って、予備部品とかも積む。
 実用最優先の幌馬車として良いものとなる――予定である。
 まぁ予算は、支度金として、前金とは別途に金貨、これはルグランキグ金貨では無く、一般的に流通しているグラム金貨で20枚程。
 ホント、オルディアレス伯。
 金の使い処を誤らぬ御仁ではある。

 んな訳で馬車製造の監督の、これまたドワーフの人に頭を下げて、それから剣の発注する為、馬車製造ラインの建物とは別館の、剣の工房へと向かう。




 実に工業的な雰囲気がある馬車の製造ラインに比べて、武具の工房の方は、実に伝統的な雰囲気があった。
 熱気ムンムンの中で男達が鎚を振るって、鉄を加工している。

 正に武具の工房。
 だがその工房に入る前に、アビアルダに迎えが来た。
 何ぞ用事が発生したらしい。
 昼間っから酒を飲んで、俺みたいな餓鬼を相手にしている御仁ではあるが、そこはそれ、この工房の主だ。
 仕事は多いのだ。
 多いはずなのだ。

 うん、上司も働こうね、じゃないと部下が大変だから。


「悪いが俺ぁココまでみたいだな、んじゃまたなビクター」


 何かフラグを立てる様な事を言って頭を掻いたアビアルダに、俺は軽い調子で返す。


「はい、面倒を掛けました」


 本当は、迷惑を掛けましたと言うべきかもしれないが、そこはソレ、この身は下っ端とはいえ貴族の子供な訳で。
 そんなのが職人に頭を下げた日には、面倒な事になるのが、このトールデェ王国なのだ。
 とはいえ極端なまでに身分差がある訳でも無いし、そもそもとして他人の目の無い室内なら下げる俺だが、今、この場では出来なかった。
 このアブラメンコフ工房が馬車製造で名を馳せて、外来のお客が多くなったからだ。

 面倒くさい。
 自業自得じゃないの、俺。
 チョイと凹みそうになる。
 子供の頃に休憩中の職人さん達と喋ったりとか、猥談を聞いたりとかが凄い楽しかったのに。
 猥談を元にマーリンさんを襲って逆に喰われたりとか、風呂場で襲い掛かって喰われたりとか、調子に乗ったら朝まで喰われたりとか、何を仕出かしてかサッパリ判らぬが、気がついたら服着て喰われたりとかとかとかとか。
 子供心の純粋な性への興味やん、でも、キッチリと搾り取られて負ける俺。
 というか、まけっぱなしやん俺。
 せめての勝率3割が欲しいものであるが、現実は非常である。

 そんな凹んだ俺に、そっとエール酒のジョッキを差し出して慰めてくれた職人さん達。
 まっ一口飲んだら、即、沈んだんですけどね。


 そんな愉快な雰囲気に簡単に混じれないのは、残念だ。
 本気で残念だ。
 畜生。
 そんな気持ちを込めて、扉を開く。


「お邪魔します!」





 さてさて。
 武具の工房で作るのは、当然ながらもショートソードだ。

 一般的なショートソードと異なり両刃。
 刺突武器なのだ、本来のショートソードは。
 それを斬る事に使う俺は異端派だが、何と言うか俺の剣闘術の根っこにパチ自顕流があるので、やっぱり、斬る武器の方がありがたいのだ。
 まぁ、本物の薬丸な自顕流とかだと、刃のないショートソードでも相手を叩き斬ってそうだが。
 だって、連中、薩摩だから。
 殺人マッスーンの島津だから。

 一度は、まぁチートボディだから試しにと普通のショートソードを立ち木にぶち込んでみたが、やっぱりざっくりと喰い込んでも真っ二つには出来なかった。
 手も痛いし。
 残念だ。

 まっそんな訳で。、人外じゃない俺としては刃の付いたショートソードを必要とする訳で。
 で、売ってないから作る訳である。
 見事な三段論法である。



「おう坊主、またショートソードでか?」


 面倒くさそうに言うのは、武具工房長をしているトービー・フェアファクスだ。
 ドワーフにも負けない、荒削りの巌の如き顔をした男だった。
 壮年というよりも、やや年が行っているが、まだまだその肉体は頑健そのものである。
 鉄と共に生きてきた、そんな年輪を顔に刻んでいるが、面白い事にこの男、貴族の端っこに居るのだ。
 鉄伯と称される五大の一角、フェアファクス伯爵家に連なる家に生まれ、末も末ではあっても爵位継承権を有しているのだから面白い。
 何でも、2代前の当主の庶子が父親だったとの事である。
 お陰で慶賀時には、本家にも顔を出す、出さなければならないと愚痴っていた。

 というか、愚痴っぽいのは性格かもしれない。
 鎚を持てば並み居るドワーフを押し退けて工房長に選ばれる程の男であったが、それ以外はからっきし。
 ある意味で愛すべき、職人馬鹿である。


「腕になじんでいるんですから」


「なむじにしたってなぁ、お前。タッパも伸びたんだ、いい加減にサーベルとかに切り替えるのも悪くないぞ?」


 タバコの煙を吐き上げながら、気だるげに続けるトービー。
 まぁ確かに、身長が170台も半分を超えそうな按配なのだ、似合うサイズと言えば直剣諸刃のブロードソードか、曲剣片刃のサーベルではある。
 膂力的にも問題は無い。
 ガッチリと握りこめば、別段の問題も無く扱える。
 剣が大型化する事で、射程が延び、威力も増える。
 いい事尽くめであり、善意で薦めてくれているのも判る。

 だが、断る。


「サーベルだって使えない訳じゃないですけど、何か違うんですよ」


 身に着けた間合いってものがある。
 攻防に用いる領域と言っても良い。
 俺のそれは、餓鬼の頃からショートソードで培われていた。
 だからってだけじゃないかもしれないが、それでも両手にそれぞれブロードソードだのサーベルだのを持つってのは苦手なのだ。

 使うだけならばそりゃぁもう、マーリンさんと母親様の2人掛で血反吐を吐くまで仕込まれて、幾つ豆を潰したか判らぬ位に振るっているのだ。
 問題なく扱える。
 それこそ盾を持ってとかになれば、全く別物として扱えるのだ。
 だがしかし両手に持ってと、今の戦闘様式(スタイル)を取ろうとすると、それは無理ってなものな訳で。
 違和感しか感じないのだ。


「まぁお前の場合、他のも並以上に使えるんだからか。似合うとは思うんだがなぁ」


 工房長として剣を振るう人を見てきたし、剣を誂える為の目利きもしてきたトービーだ。
 その眼力にとって、俺がショートソードを振るうのは似合わないのだろう。
 だがコレは趣味だし、感性での問題でもある。
 どうにも成らん。

 トービーも良い人間だが、こゆう部分がチョイと困る。
 だから、言葉をチョイスする。


「合理性だけで選べませんよ。感性ってか、感情的な部分もありますから」


 言外に、本家を苦手にするのも感性でしょうにってな意味を含めると、トービーは苦笑いを浮かべた。
 それから煙草を吸い、紫煙をゆっくりと吐き出す。


「だな」


 トービーは、切れのある仕草で煙草の種火を煙草盆に捨てた。
 剣を持ってもそれなりってのが良く判る仕草だと思えた。

 さてさて、無駄話はその程度に。
 後は、ショートソードの発注を行う。
 とは云え、別段に特殊ってな訳ではない。

 諸刃のショートソード。
 素材は厳選された鋼。
 形体維持の魔法付与と、切れ味の強化の魔法。

 2つも魔法を組み込むと、値段が跳ね上がるが気にしない。
 普通に並んでいるショートソードの2桁上の値段に成るが、その程度のモノを自在に買える程度の稼ぎは得ているのだ。
 であれば、命を懸ける相棒に金は惜しみたく無い。
 金を惜しんで命を喪うってな具合になったら、只の阿呆だからだ。

 ホントを言うと、母親様に最初に貰ったショートソード級のが欲しいのだが、アレには3つも魔法が付与されている逸品なのだ。
 形体維持に切れ味強化、それに命中修正だ。
 命中修正なんてオカルト染みているって最初は思ったが、そもそもオカルトってのは魔法とかの総称なので、そんなものかと今では納得してはいる。
 で、何故に掛けないのかと言えば、更に一桁値段が上がるのだ。
 んな代物、俺の小遣い程度では買えやしない。

 いや違うな。
 今ならその上だって買えるが、その場合は1本のみとなるだろう。
 それでは意味が無いのだ。
 一枚看板で旅に出るなんて、何たる無謀って感じである。
 まぁ3つも4つも魔法を掛けた武器が簡単に壊れる様なモノじゃないと、判っちゃいるが、それでも怖いのだ。
 故に、数を揃える。


「で、何本打てば良い?」


「2本程、ですかね」


 今、持っているのが3本。
 コレに合わせて事2本で、まぁ余程のアクシデントでも無い限りは、帰ってこれるだろう。


「何だとっ!? 半年前に打ったばかりのが折れたのか? <剣嵐>とでもやりあったのか!!」


 <剣嵐>
 字名を預かっているのはあの(・・)パークスだ。
 パークス・アレイノートだ。
 武闘大会で披露した、嵐の如き剣舞を指して付けられたのだ。

 武の名家、リード公爵家が当主フォイク・アルレイドが戦地にて見出したと云う、王立大学院歴代最強の呼び声すらもある化け物、それがパークスだ。
 その、身の丈もあるグレートソードとガチンコした時のショートソードは、刃はボロボロで、芯にもダメージが届いていて、修復不能と云う有様だったのだ。
 降ろしたての新品だったにも関わらず、だ。

 後で聞いた話だがあのグレートソード、神族が作った神造剣の一本らしいので、ある意味で当然の結果かもしれない。
 この世に100本と残されていない、草薙だのエクスカリバーだのの親戚なのだ。
 如何に俺の手持ちが高精度で魔力付与された逸品とは云え、その本質は極普通の量産型ショート-ソードだ。
 10合も経ずして叩き折られなかっただけ有り難いと考えるべきかもしれない。

 うん、2本も魔力付与型のショートソードを購入するコストを考えなければ。
 おのれー である。


「チョイとばかり遠くへ行く事となりましたんで、まぁ予備を持っておこうかとって話ですよ」


「あん、中央の方にでも行くのか」


「まぁ、そんな感じですよ」


 一般に、中央とは<白>の主要国家群のある、ゴーコスト海沿岸を指している。
 神族の時代に建国されると云う、長大な歴史を持った人類最初の国家ギアパネス白国や、或いは神族を信奉する集団が纏め上げた奉神庁を首都とする宗教国家である奉神庁領が存在している。
 又、神族文明時代の遺産を数多く残している西方エルフのビプム王国も、ここに含まれている。

 故に、誰しもが憧れる場所であるのだ。
 まぁ俺が目指さなければならないのはその北方、<常冬ノ邦>の手前であるので、若干違うが、まぁ誤差みたいなものである。


「ほぉ~ じゃぁ他にも要るか」


 鍛冶屋の顔でニヤリと笑うトービー。
 それを俺は肯定する。


「投擲用のナイフを20本程、後は弓を用意する予定です」


「狩猟用だな? よし、俺が作ってやろう」


 戦闘用のモノは以前に誂えていた。
 魔道巻上げ支援装置付きのボウガンだ。
 コンパクトではあるし、魔道巻き上げ支援装置のお陰で速射性も良好。
 だが重いのだ、かなり。
 これを持って狩猟をするとか、冗談の範疇に入りそうな代物なのだ。

 だから、短弓を用意するのだ。
 金属加工の武具工房ではあるが、このアブラメンコフ工房でも弓なども扱っているのだ。
 弓だって、木材や骨だけで作られている訳では無いのだから。


「良いんですか、弓は気に入らないって言ってませんでした?」


「馬鹿が、毛の生え揃わん内にウチに遊びに来てた餓鬼が旅立つんだ、その程度の餞別位は用意してやろうってもんだ。いらんか?」


「まさか、有り難いです」


 素直に頭を下げる。
 自分の筋を曲げてでも、そんな心意気に感謝しない奴は馬鹿だからだ。










 夕方。
 旅の支度、その大物系を済ませた俺は、実家への路を歩いていた。
 今日は実家に戻れと教官長から言われて、だ。
 まだまだ出発までは日があるが、先ずは話をしておきなさいと言われた。
 至極ご尤もと、相部屋人に二~三日は帰らんかもしれん告げて、今ココ、である。

 雑踏に漂う猥雑さは、は人々の営みを感じさせてくる。
 この光景とも、暫しの別れかと思うと、チョイとセンチメンタルな気分で見てしまう。
 まぁこの任務を受けなくても、仕事をしだせば離れるのだ。
 考えるだけ、無意味かもしれない。

 そんな事を考えながら歩いていると、気づけば商人街を抜けて大通りを経由し、下級貴族や富豪達の家々のある新興高級住宅街に入る。
 この新興高級住宅地から王城王宮までの国家中枢には、堀の内なんて別称が付けられていた。

 堀の内、即ち王都内に作られた内堀と城壁の中なのである。
 王都トールデンは、王都外周内周へと二重に堀と城壁の施された要塞都市なのだ。
 コレは、ダメージコントロール的な面から、王城のみならず各生活ブロック毎にも城塞化が為されている結果であった。

 この堀の内で、新興高級住宅街のエリアに関しては1つの特徴があった。
 それは、戦時に於いては一般的な市民の収容すらも前提として設計建築されていると云う事である。
 基本的にアパートメント構造であり、その地下空間に平時は物置用の空間を用意しておき、非常時には避難民へと開放出来る様にしているのだ。
 何と言うかトールデェ王国、軍事優先の軍事国家はかくあるべしってなレベルで頭のオカシイ国である。

 まぁ有事に於いては、その避難民の身内が兵士として動員されるのだから、その身内に手厚くする事によって、心置きなく戦わせようと云う発想であろう。
 悪く考えると、人質染みてはいるが。


 物々しい城壁と、跳ね上げ橋。
 入り口の、完全武装で立っている衛士に身分証を兼ねたタリスマンを見せる。
 家紋と家名、そして持ち主の名前が掘り込まれている魔道身分証だ。
 デザインは洒落たデザインのドックタグだが、コレが無いと夕方以降の出入りは出来ないと云う重要品である。

 まぁ、ブッチャケて言って、昼間は所用さえあれば出入りは出来るし、夕方以降もそれは同じ。
 んじゃなんで在るのかと言えば、アレだ、見栄の類だ。
 新興とは云え高級住宅地に居るのだ――成功者の一族だと云う事を、アピールしたいのだ。
 大学でも、これ見よがしに胸に下げている阿呆が居た位だ。
 気持ちは判らんでも無いが、何と言うか、せせこましく思える訳だ、個人的には。

 と云う訳で、控えめに見せるのが俺のジャスティス。
 まぁ気分の問題であるし、そもそも男爵家の長男なので、卑屈にすると逆に怒られるんですけどね。
 ああ、面倒くさい。



 そのまま暫し歩く。
 建物が密集しておらず、適度に隙間があって、公園などが整備されている。
 実に快適設計ではあるが、まぁコレも非難民収容事の予備スペースであるので、殺伐とした話である。
 まぁ、準備なしに戦争をするよりも、準備をしている方が安全ではあるのだけれども。

 兎も角。
 やや王宮中枢からみて、やや外部にある我が家。
 その扉を見上げる。

 どうにも気後れを感じる。
 勝手にってか、相談なしにの長期出張だ、そらぁもう、家族に説明するのに躊躇するのも当然か。

 あぁ、何かお土産を買ってくれば良かった。
 鮨とか鮨とか鮨とか。
 ねーっつぅの。

 意を決して、扉を開けようとした瞬間、扉が襲ってきた。
 開いた。


「………」


 そして痛かった。
 前頭部痛打、マジ痛い。
 それはもう悶絶級。

 誰だ、乱暴者めと見上げれば、ノウラだ。
 シックなビクトリア式メイド服をキッチリ着込んで、手にはバスケットを下げている。
 ソバジューの入った赤毛を、後ろで結っている。
 有無、可愛い。
 マジ可愛い。
 目の保養になるなる。

 が、何かコッチを見る目が厳しい。
 訓練所以外では何時も笑顔なのに、今日は笑顔のえの字も無い。

 なので茶化し半分に様子を見てみる。


「謝罪は? 同情は? 本気で痛いぞっ」


「お帰りなさいませビクター様。私は急々の事で閉店前の店に走らねばなりませんので、後ほど」


 でも、あっさりとスルーされた。
 冷たい。
 マジ、冷たい。
 その気持ちが思わず口から漏れた。


「冷たくない、ノウラ?」


「私、怒ってるのです」


 プイっと横を向いてバッサリだ。
 つかバレテーラ。
 どうやら、<北の聖地>行きは、既に家に連絡済みのご様子。

 おーいぇー

 やっぱりご機嫌取り用のお菓子は必須だったか。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-04 なんでさ?
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2010/09/21 13:04
 
 相変わらず料理の旨いマルティナ謹製の夕食。
 一通り食べてから母親様は只一言、頑張れと言ってくれた。
 若い内に色々と外に出るのは勉強になるとも。


「私も若い頃には、ノルヴェリスまで行った事もあったから、そうね。良い経験になるわね」


 ノルヴィリスってったら<北ノ聖地>への行程の半場にある、第4の<聖地>だ。
 そして同時に、<白>の領域を3つに分割する大河プロフォモウムと、<天ノ柱>と<白壁>と云う二大山脈の狭間――大地に打ち込まれた頚城とも謳われている<無ノ断裂>の南端となっている大都市でもある。
 確か<無ノ断裂>を往く飛天船と、鉱山で有名だったかな。
 後、<白>の旧領域との大物流動脈である飛天船と、新領域の東西領へとの交易路の基点として、栄えているって話だ。

 にしても良く行ったもんだ。
 唐天竺の、天竺ってレベルだそ。
 気分的には。


「一度、旧領域って見て見たかったのよね。でも、飛天船の運賃が高かったから、諦めたのよ」


 物見遊山に行くには、飛天船の運賃はチョイと高額過ぎて。
 で、しかもノルヴェリスは魔道都市であり、同時に<天ノ柱>山脈から掘り出した鉱物加工が有名な訳で。

 ブッチャケ、魔法の付与された武器を買い過ぎて、船に乗れなくなったと笑う母親様。
 昔っから武器を買うのには、金に糸目を付けなかった模様。


「あっちで色々とやって面白かったわ。竜に喧嘩を売ってみたり武闘会で大暴れした。そうそう、ランザックみたいな変な剣工が居たりね」


 聞いた事の無い名前だが、その頃のダチなのだろう。
 人に歴史あり、である。


「だから、私は大賛成」


 ウィンク。
 10代の子供を2人も育てているとは、とても見えない瑞々しい笑顔だ。
 そして親父殿は、黙って頷いている。
 マルティナは、至極面白そうに笑ってる。

 ここまでが肯定組み。
 そして、ここからが否定組み。

 ぶっちゃけ、妹とノウラだ。
 2人とも渋い顔して、皿を見ている。
 つか、パンもシチューも殆ど食べてない。
 食堂の、その区画が暗い。
 つか、重い。


 なんでさ?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-04
なんでさ?

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 先ず口火を切ったのは、可愛く成長した妹だ。


 豪奢な金髪を全て後ろに流し、そして編み上げている。
 コレで眼鏡があれば、見事なオールドミスってな風である。
 そんな没個性的って髪型は、昔のストレートの頃の愛らしい姿を覚えている兄としては、勿体無いなーとも思うものである。
 が、今現在、我が妹通っている王立大学院の付属魔道院の校則とあれば仕方が無い。
 勉学の邪魔にならない格好とかゆー規定だそうな。
 と言うか格好が、暗色系指定でデザイン地味とか可愛い子相手に勿体無い格好をさせると思う次第。
 こげ茶色を基調とした、装飾の少ないワンピース。
 魔道院の制服だそうな。
 萌ねー 無理ー 流石に萌えられん。
 包装って大事だと思うんだ。
 如何に中身が良くても、それを映えさせる包装があれば、益々良く見えるってもので。
 というか、カラフルな包装紙と新聞紙を比較すれば、人間、どう思うか考えるまでも無いってものである。
 まぁ決まりとあれば仕方が無いが。
 残念だ。
 非常に残念だ。

 尤も、悪い話だけじゃない。
 下手に色気のある格好をして、男が寄って来たら困るってなものである。
 親父殿と2人、結婚式の日に涙酒を呑む予定ではあるが、それでも近すぎると悲しいってなものである。
 可愛い妹に付く悪い虫は潰せエクラゼ・ランファーム!である。

 兎も角。
 そんな、残念な格好をさせられている妹は、丁寧な仕草でナプキンで口元を拭き、そして弾劾をおっぱじめた。


「お兄様、何故、そんな危険な話に簡単に乗ってしまうのですか」


「いや、まぁ簡単にって訳じゃ無いが………」


「では惑わされてますわね。御金に。危険を読めない程に」


「其処まで拝金主義って訳でも無いぞ?」


「拝まないでしょうね、ええ。でも、少ないよりは多いほうが良いのでしょう?」


「おう」


 何だって、少ないよりは多い方が良い。
 お金も身長も、オッパイも。
 ( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい! とするには、それなりの規模が要るのだ。

 有無、その意味で我が妹は、残念である。
 板では無いが、その親戚程度には収まっている。
 頑張れ、色々と。

 変な事を考えてたら、睨まれた。
 悟られない様に、首を横に振る。


「…? 兎も角。ヒースクリフ男爵家の嫡男として、それはどうかと思うのです。お兄様はこれからしっかりと家を背負われるのですから。でなければ、家の鼎の軽重を問われます」


「いや、え?」


 大事かよ? っと母親様を見ると、何か知らんが笑ってた。
 何でさ?

 ウチは男爵って言っても領地無しの宮廷爵で、その本業として王国軍に参加し、武威を誇れば良いだけじゃないの? と素朴に疑問に思えるのですががががが。


「お兄様の性格ですと、宮廷爵として武威を誇れば良いのだから、誉ある字名を抱き、更には名誉ある<白外套>を得ると言う大成果を掲げたので貴族の義務を果たしたと思ってらっしゃるのかもしれませんが、それでは駄目です。駄目なのです。人間は上昇志向を持たねばなりません。宜しいですか、お兄様。アデラお母様は武功で宮廷爵位を得られました。その上でお兄様が武功を上げれば、領地の無い宮廷爵では無く所領を持った、正しい男爵位を得る事も可能でしょう。その為には、<北ノ聖地>なんて最果ての地へと赴くことなんてもっての他です。判りますか、お兄様」

 エンドレスである。
 というか、息継ぎをトンとせずに流麗に言い募る我が妹。
 有無、滑舌が良い。
 流石は魔法使い見習い。
 伊達に長ったるい呪文を詠唱できるのは伊達じゃない。
 今度、東京特許許可局とか言わしてみるか。
 意味が判らないだろうけども。


「聞いてますか、お兄様」


「うん、聞いてるよ。ヴィヴィーの声は綺麗だからね」


 思わず、褒めてた。
 いやホント、声は良いのだ。
 良い出来の鈴を転がす様な響きがあるのだ。
 嘘なんかじゃない。

 内容? それはスルーが紳士の嗜み。
 何で俺、怒られているんざんしょ。
 情緒不安定か。
 考えれば思春期だ。
 箸が転んだって、腹の立つ頃だ。
 仕方が無いか。

 妹Loveなお兄ちゃんとしては、チョイと悲しいけども。


「なっ!? いぇ、それは当然です。だって私はヴィヴィーですから」


 えっへんと胸を張る妹。
 アレ、褒めたら素直に喜んだ? どゆうこと?? まぁ良いけど。

 と、妹の矛先が止んだと思ったら、おもむろにノウラが口を開いた。


「しかしビクター、貴方は野外生活能力は大丈夫なのですか?」


 ここはウチの食堂で誰も居ないから、ノウラは身内モード全開である。
 つか親父殿も母親様も、両親を無くしたノウラを非公式な部分では末の娘的に扱っている。
 まぁ非常に出来た娘っ子だから、自分でラインを引いてはいるが。

 それはさておき、こっちは俺の能力への疑問符か。
 確かに戦闘能力以上に家事万能なマルティナや、その弟子であるノウラからすれば見劣りはするだろうが、それなりには出来る。
 出来るのだ。
 その為のゲルハルド記念大学なんだから。
 将校教育と平行して、冒険者としての教育もするっていう無茶なカリキュラムは伊達じゃない。
 野外野営訓練は基本だし、掃除洗濯に果ては衣服繕いだって仕込まれている。
 もうね、そこ等辺の家にならお婿で行ける位である。


「大丈夫だよ」


「信じられません」


 ばっさりだ。
 其処まで言い切らなくても良いのに、と涙が出そうになる。
 出ないけど。


「あのな、俺は一応、そういう教育を受けているんだぞ」


「ですが、家での姿を見ていると、どうにも信用が出来ません」


 ぷいっと横を向く。
 基本としてクールなメイドさんであるノウラだが、まだまだ子供っぽい所がある。
 うん、可愛いものである。

 もうね、ノウラも俺にとっちゃぁ妹なのさ。
 かーいーのだ。

 まっ、ノウラからすると、俺は手の掛かる駄目兄貴かもしれんけどもね。


「ホントだよ。野営に関わる諸技術から料理まで、何でも御座いってなものだよ」


「………」


 じーっとコッチを見てくる。
 笑顔笑顔で頷き返す。

 こんどは反対方向へと、顔をぷいっと向けられてしまった。
 地味に凹むってなものである。
 あー そう言えばノウラも反抗期か。
 チョイとお兄ちゃん、悲しいね。


「やっぱり信用出来ません。アデラ様、私も付いて行っては駄目でしょうか」


 確かに、来てくれれば有難くはある。
 家事一切に万能で、それ以上になかなかの戦闘力も持っているのもポイントが高い。
 というか想像して欲しい。
 メイド服を着た赤毛の少女が、身の丈もありそうな双頭剣を振り回しているのだ。
 非常に素晴らしいじゃないか。
 悪夢的でもあるけども。

 というかノウラ。
 その双頭剣、なんて馬上剣メーネって感じではある。
 実際、使い方も似たようなものだ。
 剣というよりは槍で、刃を脚甲で蹴っ飛ばしたりもしている。
 俺といいノウラといい、普通の剣士は居らんのか、ウチは。
 いや、当然か。
 当代当主が散兵じみた遊撃、密集陣形によって集団で相手を圧倒するのでは無く、個人の武威によって相手を粉砕する事を旨とした傭兵上がりの母親様で、その薫陶を受けて育ったのだから。

 綺麗事よりも威力、戦闘力を重視するのも当然だろう。
 剣術と言うよりも、剣を持った格闘術である。
 まっ、ある意味で正しい剣術、剣道以前の古流剣術のスタイルかもしれない。

 又、そのスタイルが故に、双頭剣へは脚甲で蹴飛ばす事を前提に、刀身保護の魔法が厳重に掛けられている念の入用なのだ。
 何がノウラを駆り立てたのか、謎な奇形武器である。
 尚、その値段は余り高くない。
 魔法が、刀身保護以外は掛けられていないからである。
 斬撃は、その重さ故に、並みの相手では耐え切れない威力になるからである。
 更には、隙を見せれば突きも飛んでくるのだ。

 見後なまでの武装メイドさんである。
 一家に一台の逸品である――まっ、少女ではあるが。

 兎も角。
 最近では妹のお供で魔道院に行く事もある、何処に出しても恥ずかしくない立派なヒースクリフ家のメイドさんである。

 だからこそ、連れて行けない。
 こんな良い娘を、雇い主の息子だからって勝手に仕事を押し付けてはいかんのである。

 と云う訳で、大却下。
 母親様が良し悪しを口にする前に、俺が断ずるのだ。


「どうしてですか」


「どうしても、だ。王国内なご近所ならまだしも、流石に<北ノ聖地>までってのは、問題だよ」


「………」


 不承不承と言わんばかりの表情をするノウラ。
 旅行、否、冒険がしたいのかもしれないが、コレは譲れない。


「まぁお土産買ってくるから、それで勘弁してくれ」


「お土産………ですか………………でも――」


 むぅ、頑固だ。
 ええい、最近は食い物で釣れないので、別のベクトルでやってみよう。
 と、思ったら母親様が助け舟を出してくれた。


「心配ならば試してみれば良いじゃない」


 んと素朴な疑問ですが、それって助け舟ですか、母親様。










 朝。
 内陸部にある、トールデンの朝は乾いた空気が心地良い。
 空が高い。
 絶好のピクニック日和だ。
 そう、ピクニックだ。
 母親様の提案で、俺の野外生活能力を試す為にトールデン郊外へと行くのだ。
 正確には、トールデンの水瓶として、その傍らデンと存在する直径で400kmにも達しようかと云う化け物染みた巨大な湖<トールニア>の畔だ。
 <トールニア>へと注ぐ清流のある場所であり、広がる草原と相まって、トールデンでは人気のピクニックスポットだった。
 そこで俺がお昼ごはんを野外調理してみせるって事になったのだ。
 まぁアレだ、戦闘能力はそれなりなので、評価すべきはそれなのだろう。
 俺としては今回判明した、評価の悪さ――駄目な兄ってな印象払拭の為に頑張る所存である。
 汚名は返上。
 挽回じゃないのだよ。

 尚、平日ではあるが、<北ノ聖地>往きの準備として、ゲルハルド記念大学の方は休みを貰っているから問題は無い。
 あった方が良かった様な気もしないでもないが、可愛い妹と妹分とのピクニックだ。
 俺の実地試験じみてはいるが、それでも楽しいものではある。
 もう少しすると、当分は顔をみれないから、しっかりと記憶に残していこう。
 と言うか、帰ってきてたら2人とも結婚して家を出てたとかゆー可能性も無きにしろあらずなので、ホント、しっかりと覚えておこう。


 と云う訳で、微妙な高揚感とブルーな気分がない交ぜになったまま、俺は高い空の下で馬車に荷物を積み込む。
 畔は、トールデンの郊外とは云え片道で7km程度は離れているのだ。
 馬車を使わないで行けるか、だからである。

 積み込むものは、折りたたみ式の椅子と卓。
 他、様々なキャンプ用の小道具。
 まぁ日帰り予定なので、宿泊用のテントなどの大物は流石に積まないが、それでも日よけの簡易テントは用意する。
 うら若い女性2人を連れて行くのだ、その程度は紳士の嗜みってなものである。

 それに、肉と果物を入れた魔道保存樽も。
 よっこらしょっと乗せる。
 魔道保存樽、言ってしまえばこの世界の冷蔵庫みたいなものだ。
 冷やすのではなく、蓋をしている時間の間、中の空間を、時間を停止させるってな辺りが、実にファンタジーである。
 というか、時間を止めるって何気に凄いが、この世界の魔法魔道技術って、亜空間の活用にまで及んでいるのだ。
 今更に驚くネタでは無い。
 呆れるけど。



 さてさて。
 積み込みが終わっての一服。
 細巻の煙草を取り出し、咥える。
 悪癖だと判っちゃいるが、辞められない。
 つか、辞められるか。
 戦場だの何だのであれば、止められるが、それ以外の理由で止める気にはならない。
 咥えただけで上がる、甘いフレーバー。
 それに胸元の、マーリンさんのタリスマンや身分証のタリスマンなんかと一緒に、革紐に通して首から下げている魔道ライターで火をつけようとする。
 小さな円筒状のソレは、蓋を開ければ持ち主の魔力に反応して火が着く逸品だ。
 純銀製で、親父殿からゲルハルド記念大学への入学が決まった記念にと貰ったものだった。

 が、ほっそりとした指先に蓋を閉じられてしまった。
 妹だ。


「お待たせしましたお兄様。でも、煙草は良くありません」


 歌手と同様に喉が命っぽい魔法使い見習いな妹は、容赦がありません。
 俺にとって、至福なんだけれども。
 が、赦せる。

 薄い赤を基調とした野外用のワンピースっぽいドレスに、ケープを羽織っている。
 髪は1房だけ、長いのを編み込んで下げ、後は流している。
 有無、可愛い。


「了解。ヴィヴィーの言葉に従うよ」


 素直に煙草をケースに戻した俺に、妹はえっへんと胸を張る。
 この子もまだまだ子供だ。
 可愛いものである。

 そんな妹の後ろに、女性の小物を色々と詰め込んだっぽい藤のトランクを抱えたノウラがいる。
 此方もおめかししている。
 妹のと比較するとやや実用的なデザインの、でも鮮やかな蒼が綺麗なドレスを身にまとっている。
 髪は丁寧に櫛を通されて艶やかで、それをそのまま下ろしている。

 2人とも可愛い格好で来ちゃってまぁと思う。


「ほら、ノウラ」


 手を差し出す。
 トランクを取るのだ。
 女の子に重い物を持たせるのは趣味じゃない。


「あっ、でもビクター様――」


 よそ行きの言葉遣い。
 でも、ソレはチョイと違う。


「今日は休みだよ、休み」


 休日じゃ無い。
 が、母親様が行っておいでと言ったのだ。
 休みだ、休み。
 仕事は無しだ。

 そう告げると、ノウラはチョッとだけ顔を赤らめた。


「その、お願いします、ビクター」


「宜しい」


 ニィっと笑ってトランクを受け取ると、丁寧に馬車に乗せる。


「じゃぁお嬢様たち、乗ってくれ。出発しよう!」


 今日は良い天気だ。
 ピクニック日和だ。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-05 両手に華(気分
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2010/10/04 10:27
 
 市街地を抜ければ、後は平地の続くノンビリとした馬車の旅。
 高い空、どこか遠くで雲雀が鳴いている。

 この平地ってのが、遮蔽物が無いって表現でされるべきな辺り、このトールデェ王国、マジ、おかしい。
 王都近辺までカチコミ喰らって防戦する際に、相手の戦力が隠れられない様にする為だそうな。
 高位攻撃魔法などの面制圧火力で、数の多い<黒>の軍勢をぶちのめすとかゆー話である。
 実に殺伐とした話だ。
 それに最近は、リード高原での大規模な<黒>の侵入阻止成功率がかなり高いので、農地化も検討されているとか云う話ではある。
 まっ、その代償として<黒>に近いリード高原の東半分や、その先、<黒>に接している王国接触領は常にひゃっはーっ!! な土地状態らしいけども。
 緩衝地帯なので仕方ないけども、無常だ。
 開拓できたら自分の土地って事で、屯田兵部隊への志願者はまだまだ多いらしいが、相変わらずに粉砕されっ放しらしい。
 まっ最近は人的被害は減っているらしいが。
 何でも、リード公爵家が避難出来る様に接触領の最前線に哨戒線を構築したらしいのだ。
 小規模な、それこそマバワン村を襲ったゴブリン数百匹程度の小規模な連中を完全に発見する事は出来ないが、正規軍を動員せにゃぁならんレベルとなる、数千からの連中は、完全に発見捕捉出来る様になったのだ。
 発見すれば、正規軍が動員され、そして開拓村は避難する様、準備されているのだ。
 お陰で、ある程度の自衛出来る規模の開拓村では、人的被害が激減している。
 少しずつではあるが、進歩しているのだ。

 まっ、可愛い女の子を2人も乗っけている馬車の上で考えるこっちゃ無いけども。

 それに、マーリンさんの居る<北の大十字>傭兵騎士団も、今はそっちに出張っている。
 うん。
 考えすぎるとエレクチオンしてしまう。
 自重自重。
 妹s'に悟られないようにせねばならぬ訳だ。
 只でさえ低いっぽい兄の株を、これ以上落とす訳には行かないってなもので。

 と云う訳で、脳味噌の殺伐としてたり淫蕩だったりした思考とは別のCpuで動いている口に、主Cpuの処理能力も突っ込むとしよう。
 妹から学校の話を聞き、ノウラからは市勢の事なんかの四方山話を聞き、そして相槌を打ったりする訳だ。



 考えたらコレ、デュアル・コアじゃね?
 まぁクアッドには進化できそうに無いけども。
 いや、小脳まで入れれば可能かも知れん。
 まっ、出来たら出来たで人間を捨ててるって事になりそうな話だけれども(お
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-05
両手に華(気分

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 暢気な馬車の旅。
 トールデェ王国は、軍事面の問題から主要街道の舗装を行っており、又、アブラメンコフ式な板バネのお陰で、乗り心地も快適の一言だった。
 なんつーか、昔、それこそマバワン村へと行った頃は、尻の痛さに閉口したものだったが、時代は変わるものである。


「……」


「どうしました、ビクター?」


 そんな事を考えていた俺の様子に気づいたのか、ノウラが声を掛けて来る。

 そう言えば、この子も変わったか。
 マバワン村のノウラから、ヒースクリフ家のメイド長へと。
 昨年までノウラを扱いていたマルティナが、もう十分に一人前と認め、そして自分は料理専任の厨房長へと下ったのだ。
 好き勝手に料理の研究をする為に、メイドの仕事全般を押し付けたとも言う。

 まぁノウラ自身は満足しているっぽいが。
 兎も角、メイド長なのだ。
 頭の被ったフリルの帽子、その後部から腰まで伸びる2本のリボンは男爵家がメイド長の権威の象徴であるのだ。
 一般メイドの憧れ、それがメイド長。
 しかも垂れるリボンの色は、警戒色の赤。
 左右に王府章と家紋とが金糸で刺繍されているソレは、王府認定の武装メイドである証なのだ。
 王族の列席する場所以外であれば、何処であっても武装する権利が認められている。

 まぁ、その運用に関しては、自衛以外だと故無き殺傷どころか故無き抜剣であっても、即座に罰の与えられる厳しいものではあったが。

 そんな、すっごいメイドのノウラ。
 只問題は、ヒースクリフ家の場合、一人しか居ないメイドの長であるって事だけれども。
 後、仕事中は邪魔だからとリボンは帽子から外しているノウラ。
 うん、普通にリボン付きと呼ばれるメイド長が、現場の仕事をするなんて珍しい――というか、普通はしない。
 そーゆーものなのだ。


「いや、その………アレだ、私服を見たのは久しぶりだけど、似合ってるって思ってね」


 蒼いドレスは、赤い髪に映えている。
 装飾が寂しくはあったが、まぁアレだ、ノウラが実用本位を旨にとする性格だから仕方が無い。


「………煽てても何も出ませんよ」


 チョッとだけ顔を赤らめている辺りが可愛いものである。
 と、見れば胸元のケープを纏めているブローチは、前に俺が誕生日プレゼントに送った銀細工だ。

 自分の胸元を指して、チョンチョンとやって見せる。


「使ってくれてるか。上々上々」


 割と奮発して買ったモノなので、使ってもらえていると嬉しいものである。
 その前の誕生日に、キャップ用のブローチを買って贈ったら、チットも使ってもらえなかったのだ。
 それで、似合うと思ったのにと微妙に凹んだ俺としては、そら何だ、嬉しいものである。
 センス無しの汚名返上、である。


「あら、お兄様は私の事は褒めて下さらないのですか?」


 照れてるノウラに対し、妹がチョイとだけ荒れた口調で加わってくる。
 ちょ、おまっ、ってな状況ではあるが、この程度で俺は動揺しない。
 落ち着いて一言、両方を立てる言葉を使えば良いのだ。


「いや、ヴィヴィーの私服が可愛いのは何時もの事だろ? 態々に褒めたら、叱られるかと思ってね?」


「むぅっ、お兄様は本当にお口が上手過ぎます」


 むぅーっとした表情を見せる妹、その頭を少しだけ撫でてやる。


「そんな顔をすると、可愛い顔が台無しだ」


「もう! 本当にお兄様って――そう思わない、ノウラ?」


「ですね」


 同意はしながらもクスクスと笑っているノウラ。
 それに、もう一言二言と不満を漏らす妹。
 可愛い光景だ。
 或いは微笑ましい、そんな風に思っていたら、フト、森が途切れた。
 薄暗かった森を抜けたその先は、湖面が反射する光で満ち溢れていた。





 さてさて到着した訳だ。
 割と評判のピクニックスポットと云う事で、平日ながらも人は多い。
 割と整備されているのだ、ここら辺は。
 まぁ水場としての、有事の際のとかゆー枕詞が付く辺り、実にトールデェ。
 ま、それは兎も角。
 本日の目的は野外に於ける俺の調理技術の披露が目的なので、周辺の諸々は気にしない。

 水場の側に馬車を止めて、組み立て式の炉を用意する。
 金属製のソレは、構造故に少ない薪でも高温を得られるのでかなり便利である。
 少々重たいのが欠点だが、馬車に積めるので問題なし。

 鍋を火にかけて、それから日持ちする根野菜を炒める。
 肉は風味付け程度に、ニンニクや香草と一緒に刻んだものを入れる。
 本日のメインデッシュは、シチューだ。

 食材を手際良く切り刻み、炒めて行く。
 と、後ろを見れば、じっとコッチを見ているノウラが居た。
 真剣に見ている。

 そんなに、俺の料理って心配かな? 凹みそうになる。


「ん、ノウラもせっかく着飾ったんだし、散歩でもしてくれば良いのに」


「……別に、見ているのは楽しいですから」


「そうか?」


 チラリと見れば、確かに監視と云う表情じゃ無い。
 なら良いやと割り切る事にする。


「手馴れてますね、ビクター」


「ん?」


 固焼きのパンを、串に刺して炉の側に立てる。
 酵母の問題か何かで、コッチの世界のパンは柔らかく無い。
 黒パンみたいな、アレでは無いが、にしたって、である。

 コレばっかりは知識の無い俺では、ジャポン流Ma改造は不能である。


「いや、大学で学ぶんだぞ、こゆう事も」


 野外での生活ってか、サバイバル術も、授業科目には入っているのだ。
 実用的なのだ、我がゲルハルド記念大学は。
 更には、凄いと言うか呆れると言うか、ある意味で自衛隊のレンジャー教程みたいなものすらもあった。
 無論、選択科目ではあったが。
 一般の課目が野外での食える野草等の見分け方が中心なら、コッチは、確保方法から調理方法まで踏み込んで、如何に生存生還するかと言う内容だ。
 うん。
 好奇心だけでチョイスする様な科目じゃなかったアレは。
 まぁ終了章を貰えるまで頑張ったけど、夢に見そうな内容揃いだった。

 というか、コースチョイス時に、「死んだけど学校の責任じゃありませんよ、サーセン」なんて誓書を書かせると云う辺り、実にガチである。

 まぁ実際は、充実サポートで死ぬ事は無いし、死んでも即、蘇生させる準備が為されていたが、まぁアレだ。
 参加者の精神的な部分にふるいを掛けたってな感じなのだろう。


「調理だけじゃない、獲物の捕らえ方と捌き方、保存の方法もだな。面白経験だったよ」


「………大学ですか……」


「学校、行って見たい?」


「少しだけ、ですけど」


 向学心がある事は素晴らしい。
 問題は学費ではあるけれども。
 安くはないんだよね、この世界の学費も。


「大学でのビクターを見てみたいって、思ったんです」


「俺かよ!」


 そんなにヘマはしていないと思うけど? と思いつつ、炉に薪を追加する。
 火の下、土の中に鉄の器具に挟んだ塩漬けの肉を仕込んでいるのだ、そこが十分に加熱される為には、もう少し熱があった方が良いのだ。

 鉄の器具だ。
 アルミホイルの無い状況下で、何か出来ないかと考えて、発明した野外用の調理器具だ。
 長い柄が付いていて、直に食材を火へと突っ込める代物だ。
 必要は発明の母と云うのが正解な、奇形調理器具だった。
 コレがあれば、炉1つで煮ると焼くが同時にってなものである。


「はい」


 凄く良い笑顔だ。
 あー、うーん、アレか俺の弱点でも握りたいとかそんな感じか? 勘弁しろい。
 そう思っていたら、別方向からの攻撃も来た。

 と云うか、水飲み場へ散歩兼ねて水汲みに出ていた妹が帰って来たのだ。
 普通はメイドの仕事だったりするが、我がヒースクリフ家ではノウラを実の娘扱いって以前に、妹とノウラは仲が良いので、こゆう時は仕事を分担しあっているのだ。
 ノウラがテーブル周りの準備を。
 妹が飲用の水を汲みに、である。
 まぁ水汲みが重労働に思えるかもしれないが、そこはソレ、魔法である。
 魔法の力で、水のたっぷりと詰まった水壷を浮かして運んできているのだ。
 ホント、魔法は便利である。


「あら、私だってお兄様の大学生活には興味がありますわよ?」


 おーいぇー。
 妹よ、お前もか。

 一通り、準備も終わったのでと、立ち上がる。


「別に普通のってか、ヴィヴィーの学校と、そう差は無いぞ?」


 一応は誤魔化してみるテスト。


「あら、お兄様の学習姿勢を見てみたいって言う、素朴なお願いですよ?」


「本当かい?」


「ねーノウラ、それだけよね」


「そうですね」


 年頃の女の子達らしい笑顔で頷きあう妹とノウラ。
 その仕草だけは可愛いのだけどなぁと思う。
 と、何かが耳に引っ掛かった。


「ん?」


 周りを見る。
 見渡すと、トールデンの方から鳴り物付きの馬車が走ってくるのが見えた。
 なんですか、アレ(汗










 2頭立ての立派な馬車は、真っ黄色に塗られていて、しかも、細部には金箔が施されていた。
 何と表現しようか。
 いや、いっそストレートに、The 成金趣味と評すべきだろう。
 一般的な貴族が好んで馬車に立てる旗竿――そして家紋旗が見えない所から見て、実際、成り上がった商家の馬車かもしれない。

 兎も角、派手で慎み何て一切ない、下品な塗装の馬車だった。
 立身出世が華で、成り上がり上等の派手好きが多いトールデェ王国ではあるが、アレだけ派手なモノは見た事が無かった。


「凄いな、アレ………」


 呆然としか出来ないってなものである。
 が、それ以上に気になるのは妹だ。
 なんぞ、頭を抱えるしぐさをしているのだ。
 ノウラも、心配げに見ている。


「どうした?」


「…いえ、何でもありませんわ」


 馬車から顔を背ける妹。
 手で顔を覆っている。
 というか、何か背中から疲労感が湧き出てるぞ、妹よ。
 知り合いか? と問おうとした時、その問題の馬車が直ぐ側で止まった。
 というか、一旦通ってから、戻ってきた。

 何事と見上げれば、派手に馬車の扉が開いた。
 そして中から、その馬車の派手さに負けず劣らずな格好をした少年が飛び出してきた。

 否。
 子供と評するのは失礼かな? って風ではある。
 が、学校の連中と比較すると、甘ったれた風情が顔に出ていた。
 まぁ不細工じゃ無い。
 尤も、格好は不細工を通り越していたが。
 下品とは、かくも悲劇であるかと感じ入る程の代物だった。

 が、それより俺の脳味噌をぶっ飛ばす発言が、その少年以上青年未満の口から飛び出した。


「おぉうヴィヴィリー! 我が第3夫人よ!!」





 ナニ?
 ナニゴト??
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-06 お兄ちゃんは(自主規制)症
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2011/01/17 00:06
 
 俺が学校に言ってる間に結婚したん?
 って事は、涙酒用に用意していた、妹の生まれ年に仕込まれているワインは意味が無い?

 おーいぇー

 お兄ちゃん、チョイと偏頭痛………
 可愛い盛りのヴィヴィリーが、結婚ですか。
 いつかするとは覚悟を決めていたが、真坂既に過去形とは思わなかった。

 …

 ……

 ………

 …………

 宜しい、ならば鉄拳制裁だ。
 殴っても良いよね?
 良いよね?

 駄目と言われても、殴るけど。
 飛んでけ、空を。
 アッチの用語で地獄、コッチの用語で冥府って辺りに。
 大丈夫、新婦(多分)を未亡人にはさせない。
 死なない程度には加減するから。
 でも、死にたくなる位には痛めるから。

 拳骨にフルパワー。
 この馬鹿餓鬼が、「義兄さん!」なんていった瞬間に、ぶち抜いてやる。
 武器は使わないのが、妹への義理だ。
 畜生。

 と思っていました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-06
お兄ちゃんは(自主規制)症

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 絶対零度で全力粉砕。
 そんな言葉の良く似合う、一言。


「誰が第3夫人ですか?」


 眼差しが違う。
 静かに射るような、強烈な視線。
 怖い。

 あっるぇぇぇ??
 ナニ、この空気。


「それは君に決まっているじゃないか、ヴィヴィリー! 我が愛しの人よ」


 オーバーアクションで、悶える様に身体を動かす、悪趣味餓鬼。
 自分に酔ってやがる。
 宜しい、こいつは、ギーシェモドキと呼んでやろう。
 人類人科のギーシェモドキだ。

 ほっそりとした身体と、ナルシズム分を空中に散布している辺り、実にそっくりだ。
 だけど長いから略そう。
 ギモ。
 ………原型留めてないってか、意味が判りづらいが、そもそも俺の脳内命名なので問題なし。


「そのお話はお断りした筈です」


 疑問系? なんて、想像も出来ないキッパリとした断言。
 取り付く島も無いってな勢いである。


「あぁ、そう言われるたびに、僕の思慕は募っていく。君は策士だ、ヴィヴィリー」


 クネクネと更に動く。
 あぁ、キメェ………ギモに追加でキモを付けよう。
 キモギモ。
 意味不明だな、おい。


「君の事を思うと、僕ぁ、僕ぁ!!」


 更に激しくクネグネとしだす、キモギモ。
 意味不明を通り越した。
 SANチェックしてぇなぁ、おい。


「踊らないで下さい、不愉快です」


 ただ、手を出していないから、完全無欠に嫌っている訳じゃなさそうである。
 アレか、所謂ツンデレさんですか、我が妹。
 と云う事は、本気か、本気でアノ蛸モドキなキモギモにLoveなのか…………
 世の中には格好の良い蛸な人も居るには居るが、アレは心底もって擬態の筈なラスボスだ。
 電波電波電波。
 毒電波。
 そもそもゲームの人物だし? だ。

 うーん、相手を選んで欲しいものではあるが。
 まぁ個人の好みの問題ってのもあるから、余り強くは言い出せないが、確認ぐらいは良いだろう。
 こっそりと、ノウラにだ。
 色々な意味で怖くて、妹には直接聞けない。
 だから、弱い兄だと自嘲しながら。


「誰だい、アレ」


 見ると、ノウラも非常に微妙そうな表情で答えた。


「ヨハン・ヴァルバスカールさんです。ヴィヴィリー様の御学友です」


 余所行きの言葉で返された。
 折角のOFF日なのに。
 余人が居るから仕方が無いか。
 線引きに関して煩いのだ、ノウラは。
 国の方は、それこそ武威をもって成り上がり、財をもって覇を成し、総じて国を栄えさせよと言わんばかりの国是であり、又、身分や男女での地位や差なぞ能力の前に於いて無意味ってなまでの実力主義であるのに、だ。
 にも関わらず、礼儀を正すノウラ。
 チラッと聞いた話だが、どうやら読んだ本の影響らしい。
 精神修養とからしいが良く判らん。
 が、まぁ『メイド葉隠』なんて本なんだろう。
 多分。
 俺命名の、適当な呼び方だが。
 だって、恥かしがって見せてくれねぇんだもの。
 仕方が無い。

 てゆうか、学友だと? どゆう事。
 付き添いが居る時には学校まで一緒に行ったりしているノウラだ。
 妹の人間関係を知らぬ訳でもあるまいしってか、って事は、だ。


「第3夫人だのってのは妄想の類、か」


「その通りです。一方的にヴァルバスカールさんがヴィヴィリー様に懸想され、言い寄られているのです」


 バッサリと断ち切るノウラ。
 その言葉で、俺様の脳内温度はバッチリと出来るってものである。


「良かった、安心したよ」


 絶賛秘蔵状態のワインだが、死蔵させるのは勿体無い。
 一応、板バネで儲けた金で買った一流な蔵のワインなのだ。
 呑めないと勿体無いってなものである。


「その一言、ヴィヴィリー様にも言ってあげて下さいませ。とても喜ばれる事でしょう」


「ん、なんで?」


 妹が結婚していなかった事に安心したら、当人から何で喜ばれる、と。
 結婚適齢期の女性からだとブン殴られかねない暴言だぜい、おい。
 だが、何でと聞く前に乱入者、登場である。


「そこのノウラ君と、下男! 私とヴィヴィリーの関係を適当に判断するな!!」


 キモギモが怒鳴ってきた。
 というか、俺、下男なのか。
 確かに、ベージュ色を基調とした動き易い格好ではあるのだが、良く見れば針仕事は一流で、サルト・フィニートなエレガンテだと判ると思うんだけどね。
 まぁどう見ても成金なキモギモが、それを見抜いても怖いってモノだけど。
 と、その前に。


「ビ――って?」


 俺の名前を呼びそうになったノウラを止める。
 ほら、正体不明って、何か格好良くない? ってなものである。
 後、妹にも釘を刺そうと思ったら、別口の闖入者と喋っていた。

 どうやら、キモギモの連れらしい。
 美人さんである。
 原色の赤をあしらった、派手な野外用のドレスを着込んでいる。
 キモギモなのにと、素朴に酷い発想をしてしまう様な、美人さんだ。
 年頃は、妹あたりとどっこいっぽいが、子供扱いは出来そうに無い雰囲気がある。
 と言うか、特にオッパイが素晴らしい。
 そうだ、赤を基調としているので名前はキュルケ・ポイにしよう。
 美人さんだから略さずにしておく。

 キュルケ・ポイ。

 だけど肌は白いし、髪も赤く無い。
 麻色って言うのかな、金髪から金色を暗くしたような感じだ。
 そんな女性と妹は言葉を交わしている。
 何だろう、見知った仲ではあるっぽい。
 そして、比較的に仲が良いであろう事も、その距離から理解出来る。

 残念ながらも、話し声を聞ける距離では無いってか、ヒソヒソと喋っているので聞こえないけれども。
 残念。
 いや、ほら、可愛い女の子たちの秘密の会話って、微妙に興味が沸くってなもので。

 兎も角。
 苦虫を噛んだ様な表情で頷いたりしている妹と、楽しそうなキュルケ・ポイ嬢の様子に、まぁアレなら、コッチに来ないかと思う訳で。
 と、首を巡らせれば、今度はキモギモがノウラにまで近づいている。


「そんなに君はヴィヴィリーが大事なんだね。ならばノウラ君、僕は君を第7夫人に迎えよう! 何、僕の器は君の全てを受け入れる程に広い」


 おーいぇー

 今度はノウラまで手を出そうとしやがるか。
 しかも、第7夫人と来たか。
 つか、その言い方だと第6まで既に脳内で決定済みか。
 スゲェな、コレ。
 現実逃避の1つだろうか。


「結構です」


「まっ、まさか君も、僕の気持ちを引く為に!!」


「その様な気持ちは一切ありませんので、お間違い為さらないで下さい」


「だが、僕にとって優先順位は君よりもヴィヴィリーだし、何よりも僕の愛は、愛は! 愛はっ!! あの方の為にっ!!!」


「ええ。その方に注いでください。私の分やヴィヴィリー様の分まで」


「そんなに僕の器は小さくない!」


「そういう話を申し上げているでは無くですね…………


「僕は全ての女性に愛を捧げる事が………


「結構ですと申し上げているのです……


「だが、捧げる愛にも違いはある。君達への愛は、無限だ!! だから………………


 見事にグダグダな会話である。
 不毛と云う言葉すらも生ぬるい位に、脳味噌に幸せ回路でも仕込んまれているのかと言う位に、駄目である。
 言葉が通じていないっぽい。


「凄いな、何とも」


 感嘆する俺。
 恥かしい独り言だが、合いの手が入った。


「何時もの事、です」


 ハァ、誰? と振り向けば、小柄な女性が立っていた。
 女性と云うよりは女の子だね。
 可愛い顔立ちはしているが、目は醒めている。
 と言うか、半眼でキモギモを見ている。


「もしかして?」


「はい。ヴィヴィリー嬢の学友、です。名は、ツェツィーリエ・アヒレス、です」


 言葉遣いが微妙である。
 単語毎に切り取っているような、いないような。
 名前だけでは判らないが、留学生の類か、最近にトールデェ王国へと移民してきた子なのかもしれない。
 この国は、基本的に移民は千客万来なものだから。
 しかも、名前はそのまま使って良しとか来るから、まぁアレだ、国際色豊かってなものである。


「ツッェ、ツェツ……アヒレスね」


 舌を噛みそうになったので、姓まで一気に読んで誤魔化す。
 割と珍しい音の名である。


「ツィー、そうヴィヴィリー嬢も、呼んで、ます」


 舌噛みそうになったのバレテルらすぃ。
 恥かしいが、まぁ仕方が無い。

 兎も角。
 此方は、さっきのキュルケ・ポイ嬢と一緒に来たし、そもそもちっこい&ペッタンなので彼女はプチ・タバサと命名――は止めて置こう。
 正しい名前ってか、愛称を教えて貰った事だし。
 そもそも青くないし、このツィーと云う少女は。
 まぁ凄く濃い、黒に近い青ではあるけれども。
 服装はヤボイ王立魔道院の制服で、飾り気はトンと無い感じではある。

 そんな外見は別としても、何とも礼儀正しい子っぽいから、脳内で遊ぶ相手にするのは、失礼ってなものである。


「じゃぁ改めまして、ツィー。俺の名は――」


「ビクター・ヒースクリフ、です、よね? お話はかねてより聞いて、ます」


 おやま。
 あの無様晒した武闘大会を見てたって事ですか。


「ヴィヴィリー嬢が、良く口にしてました、から」


 それはそれは。
 良い話であって欲しいものだけれども、最近の俺の株ってば下り最速だったしね。
 聞いて良いのか悪いのか。
 正直、怖いものである。


「それはもう――って!」


 唐突に、後ろから伸びた手でツィーの口元が塞がれた。
 ん、妹だ。
 俺に気付かせずに接近するとは中々にやるものだ。
 お兄ちゃん、チョットだけ感心した。
 チョットだけだぞ。


「突然に酷い、です。ヴィー」


「乙女の秘密を口にしようとした不埒者への天罰です」


 腰に手を充ててツィーを睨んでいる妹。
 うん、どうやら真面目に怒っているっぽい表情である。
 どうしたの、ん? と云う疑問が湧くが、一言で叩き切られた。


「お兄様には関係ありません」


 左様で御座いますか。
 頭を掻く。

 寂しさ交じりなほろ苦さを味わう兄、ああ、昔は素直に懐いていてくれてたのに。
 兄離れか。
 切ないものである。

 そんな、切ない気持ちを口に出す前に、艶めかしい発音の言葉が放たれていた。


「あら、愛しの“お兄様”に、何て言葉遣いをするのかしら、ヴィー」


 キュルケ・ポイ嬢だ。
 彼女も此方に来ていた。

 近づいてみてみると、美人ではあるが、子供っぽい部分がちらほらと見える。
 大人と子供の境界線に居るってなものである。
 で、思わずガン見してたら、視線があった。

 魂限定ではあるが、日本人である俺として会釈をしておく。
 返ってきたのは、可愛い笑顔。
 そして礼儀に適った態度で接してくる。

 チョコンとスカートの裾を摘んで頭を下げ、それから胸に手を充てて謡うような口調で言葉を連ねてくる。


「初めましてビクター様。私はディートリッヒ・ゲアハルトと申します。親しき人たちは、ディーと呼んで下さいます」


 ディードリッヒ、ディードリッヒか。
 エルフでもなければスレンダーでもないけど、“ヒ”だから寛大な慈悲の心をもって赦そう。
 “ト”だった日には、チョイと暴れてたかもしれない。
 脳内で。


「有難う、ディードリッヒ」


「ディー、ですわ。ツィーは愛称で呼んで上げてらっしゃるのに」


 酷い人だと笑ってる。
 笑ってる。
 笑ってるけど笑ってない。
 そんな表情で言葉を紡いで来る。
 逆らえない。


「あぁ、分った。分りました。宜しく、ディー」


 何だろーなー、何でこう、俺、弱いのかな。
 涙が出そうだ。

 そんな気分をぼやいて見る。


「俺みたいなのに愛称を教えてどうするよ」


「あら、ツィーやヴィーが呼ばれているのに、私だけ仲間外れなんて、寂しいからに決まっていますわ♪」


「いや、ツィーはまぁ仕方がないし。それにヴィヴィリーは何時もヴィヴィーと呼んでるから、別に仲間外れって訳では――」


「あらあら。宜しくて?」


「宜しいって? え?」


 確認と同意だが、俺に求めて無いっぽい。
 というか、それまでツィーにナニゴトかを話しかけていた妹が、満面の笑みでコッチを見てくる。


「そうね、お兄様。では私の事もヴィーと呼んで下さいますよね?」


「え?」


 ナニゴト?
 ぶっちゃけて、今更? って気分である訳で。


「なぜに?」


「ツィーやディーは愛称で呼んであげていますのに、私だけ除け者は酷いと思いますわ」


 ヴィヴィーは愛称だって思うのだが、何故にその発言。
 心底判らんって表情を見せたら、かなり悲しそうな顔を見せた。
 妹よ、その顔をお兄ちちゃんの胸を抉るんだよ。
 主に罪悪感で。

 まぁ仕方がないか。
 仲良しっぽい2人と違う呼び方ってのは、尻の座りが悪いのかもしれんし、であれば受け入れざる得ないと言いますかね。


「ヴィー。これで良いか?」


 締められていた眉が開き、ツンと澄ましていた顔が綻んだ様に笑った。
 可愛いものである。
 愛称で女性を呼ぶってのは、何と言うかこっ恥かしいものではありますが、それでまぁ良いと許せる訳で。
 何だ、妹の笑顔1つで何だって許せてしまう辺り、俺も随分と安いものではあるが。



 ほんわかした気分。
 只、状況のカオスっぷりは別として、であるが。


「我が夫人たちよ! 僕の気を引かんと云う健気な気持ちは理解するが、余りにも無視されては、愛は永遠でも僕の心は傷つくのだよ!!」


 何故かキモギモもコッチに来てた。
 ウッゼェ。

 でも、相手をしていたノウラは疲れた表情を見せているので無理は言えない。
 軽く、頭を掻いてみる。

 さてさて、どうしましょう。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-07 水も滴れ男ども(俺を除いて
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:a967f3bd
Date: 2011/04/03 08:42
 
 結論、どうにもなりませんでした。


 というか、ツィーやヴィー達であるが、彼女達も基本的に今日はハイキングに来ていたとの事だった。
 何でも妹達の学校だが本日、休みであったらしい。
 で、ツィーやディーは、キモギモが無聊潰しにと誘われて来たらしい。

 留学生であり、ある種の苦学生であるツィーは、タダで食い物が手に入るならと、ホイホイと誘いにのって、で、ディーはお目付け役にと一緒に来たらしい。
 派手めな外見から意外っぽくも見えるが、このディーと云う少女は友達思いの模様。
 キモギモが不埒におよんだら即、武力鎮圧の予定との事。
 尤も、キモギモは発言は不埒であるが、行動は不埒で無いので、今の所は問題は無いとの弁。

 とはいえ正直な話、そんなハイキングの誘いに簡単に乗っているからキモギモが調子こいて、やれ第○夫人だのどれ第×夫人だのと言い出すのだとも思う。
 その意味では、ツィー達には猛省を促したい。
 促したいのだが、同時にメッシー君だのアッシー君だのって表現を覚えている元・現代日本人としては、女の子って時々、怖いぐらいに割り切っているよね! とも思う訳で。
 言うだけ言わせて、実利をかっぱぐ。


 うん、何が言いたいかと云うと、哀れだ、と。
 男は。
 或いは男が。
 そしてこの場では、主にキモギモが。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-07 
水も滴れ男ども(俺を除いて

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さてさて、だ。
 ツィー達もハイキングだったと云う事で、一緒に昼食を取る事となった。
 個人的には、キモギモと飯を食うなんて気持ち良くは無いが、ツィーにディー、そして妹達が同意したとあっては是非も無し、である。
 ん。
 キモギモの意見は聞かなかった。
 聞こうとしなかった。
 結論だけを伝えていた。
 アッチでは主催な筈なのに、決定権は皆無の模様。

 でも気にしていない。
 キモギモだから。
 舞い上がって、「夫人たちとご飯!」と叫びながら踊っている。
 何と云うか、哀れだ。
 哀れみしか感じなくなってきた。



 まっ、それはさておき。
 調理を再開する。
 と言っても、完成寸前だったので、まぁ簡単なモノではあるのだが。

 グツグツと煮込まれていくシチューの良い香りが、辺りに漂っている。
 腹が鳴りそうになるが、もう少しで喰えると我慢。
 と言うか、女の子達の前で腹を鳴らすなんて格好の悪いマネなど出来るものかと小一時間(以下略

 煮込んでいる間に、焼きなおしたパンにチーズと肉と野菜とを挟んで更に焼きなおす。
 いわゆるホットサンドだ。
 スパイスの効いた甘辛いタレを塗る事で、なんちゃって系テリヤキ風味ってな按配である。
 野菜はピクルスっぽいモノで、歯ごたえと風味用だ。

 焼き上がったら、一口大に切って並べる。
 本当は大きく切って齧り付きたいのだが、残念ながら今回はツィー達にも振舞うので、このサイズと成る訳で。

 鼻歌交じりに皿に盛り付けていく。
 緑分が欲しいので、サラダ用にと持ってきたレタスっぽい緑菜を千切って飾る。
 割と乱暴にする事で、形に面白さと立体性を持たせてみる。
 本音としてはパセリが欲しいが、流石に類似品すらも無いのだから仕方が無い。

 それなりって具合で完成する。
 と、視線を感じて振り返る。
 キモギモの所のメイドさん達と、ツィーが興味深そうに此方を見ていた。
 シチュー鍋を頼んだノウラもコッチを見ているが、コレはアレだ。瞳には呆れる様な色が浮かんで見える。


「なに?」


「手際が良いと思いました、から」


 “あの” <鬼沈め>が、と続けるツィー。

 メイドさん達も可愛く頷いている。
 有無、キモギモはアレな人間だが美点が1つある。
 趣味は良い。
 コレだけは認めよう。

 揃いの、金を掛けてるっぽいメイド服。
 だがパイピングや小物には、それぞれの髪の色や肌の色に合わせたモノがチョイスされている。
 一般的なメイドさんの給金では買えそうに無いと思しきモノだから支給しているのだろう。
 見事である。

 まっ、ウチのノウラは可愛いだけじゃないけど、可愛さだって負けてないけれども。
 母親様やらマーリンさんが可愛がって色々としてますから、ね。

 まっ、それはさておき。
 先ずは肩をすくめる。


「そうは言われてもコレが俺だし、ね?」


 人のイメージ、俺を決めて欲しくは無いってものだ。
 というか、そもそもとして、“あの”って何だ、あのって。


「仕方が無い、です。貴方は王立大学院の誇る<王女の狂剣>パークス・アレイノートに正面から戦いを挑み、互角に戦った人だ、から」


 何ソレ、怖い。
 怖いほどに厨二病風味な字名。

 まっ、字名って押し付けられるものだから、当人の趣味趣向は問われないから、当人に罪は無いけど。
 というか王女ってナニゴト? あの変態仮面的第1王女と何かあったのかよとかゆー疑問が沸きあがったので、正直に由来を聞いてみた。
 そしたら答えはフルッていた。
 パークスだが、第2王女の騎士をしているらしい。
 第1じゃなく、第2だ。

 武断派として名を馳せたわが国の第1王女ブリジッド・トールデェではなく、可憐と噂されるアルリーシア・トールデェの、だ。
 おっと、ブリジット王女は最近目出度くも王太子の座に就いて、ディージル公爵の称号が授けられていたか。
 故に、正式にはブリジッド・トールデェ・ディージル公爵。
 武闘大会で剣を交えてなくて良かったよ、マヂで。
 王太子とガチしましたってのは、武勇伝としてはヤヴァ過ぎるってなもので。

 そんなブリジッド王太子が何でディージルなる公爵家の当主と成るかと言えば、建前としては王国を統治するまでの経験を積むべしってな話な訳である。
 ディージル公爵領は、王都の割りと側で、風光明媚な土地で、王太子不在時には王家の直轄領であるとの事だ。
 そんな土地で統治のイロハを学ぶべし、と成っているのだ。
 が、実際問題として王国の優秀な官僚とかが配されているので殆どする事は無く、実質的には名誉称号でしかない。
 故に変化らしい変化は、お小遣いは増える程度なのだ。

 普通であれば。

 そして普通ではない事に定評のあるってか、定評の出来つつあるブリジッド王太子だが、当然ながらもやりました。
 やりやがりました。
 そんな増えたお小遣いでやったのが自分直轄の騎士団━━ディージル騎士団の設立って話なのだから、マジパネェ話である。
 騎士団の編成権は王家と公爵家にのみ許された特権であるが、ディージル公爵家は半名誉称号であった為、今までは編成される事は無かったのだ。
 いや、それにしても儀仗騎士団とかなら判る。
 判るのだが、このディージル騎士団はガッチガチの実戦部隊なのだ。
 何でも「将来、王家の軍権をも担うものが、軍を実際に指揮した事も無くて良いだろうか? 否。良くない!」との理屈で編制されたとの話だ。
 実際、その戦闘力は極めて高い。
 人員の基幹に、国軍やベテラン傭兵等からヘッドハントした人材を配する事よって、訓練開始から半年の、それも100名にも満たない程度の小規模部隊であるにも関わらず、1000を超える群規模の<黒> の軍勢を正面から粉砕する事が可能なのだから、呆れる話である。
 うん。
 具体的な内容なのは、実際にやったからだ。
 <黒>の領域に隣接するリード高原東部域での演習中に、リード公フォイク・アルレイドと、その第1総軍の構築した哨戒線を抜けて来た群規模の<黒>を発見し交戦。
 これを見事に粉砕したのだ。

 お陰でブリジット王太子には新しい字名、<戦姫>が捧げられていた。
 あな恐ろしやの我がトールデェ王国、だ。

 尚、こんな軍の詳細を一介の学生である俺が知っている理由は簡単だ。
 母親様だ。
 ウチの母親様も、この騎士団の部隊編制と練成の教導に参加していたのだ。
 何でも、妹が王立大学院へ入学したのを機に元職である女王直轄の武力集団である<十三人騎士団>へ復帰していたので、その絡みとの事だった。

 コレを聞いたとき、何だろう、酷いチート話を聞かされた気分になったものである。
 ハイハイワロスワロス的な。
 或いは、最早笑うしか無い的な。

 ついでに言うと俺も、このディージル騎士団へ勧誘されはいたのだ。
 が、まだ学生の身であるのでと、辞退したのだ。
 次期女王の親衛とも成るのは、武門の誉れではあるのだけれど、なんかこーね、来ないのよ、色々と。
 と言うか、ブッチャケてマーリンさんの居る<北の大十字>傭兵騎士団に行きたいので、勧誘ノーサンキューな訳である。



 兎も角、だ。
 話が逸れたが、そんな色気無しで血の気過剰な第1王女では無く第2王女、アルリーシアとパークスは関わっているらしい。
 何でも、アルリーシアは大学院に通い始めた当初、身分を隠していたらしい。
 下手な爵位とかだと問題が発生しかねないので平民、王家御用達となっている富豪の娘として。
 何処と無く、エチゴノチリメンドンヤノゴインキョさん風味であるのは気にしてはならない話だろう。
 きっと。

 後、思わず「Goinkyosan」と呟いてしまい、ツィーに首を傾げられてしまいました。
 可愛ものを見れたのは良かったけど、変な目で見られると凹むから、以後は注意しよう。


 身分を隠しての通学自体は、何の問題も出る話じゃない。
 と言うか、法を作る側の人間なので、問題があれば法自体を改正してしまえば良いのだけの話だから簡単だ。
 問題は、王立大学院と云う場所が、コネと金さえあれば通える場所なので、身分だけしか取り柄の無い馬鹿な餓鬼学生が多いと云う事だ。
 身内の権威を嵩にして、威張る他に何もできない馬鹿。
 そんな馬鹿が、身分の無い美人を見て放っておかなくて、で、馬鹿が集団で調子に乗ろうとしたところに、パークスが登場してペチコンとかましたらしい。
 当初は言葉で、最後は実力で。
 馬鹿と、馬鹿の取り巻き合わせて10人近い人間を武力鎮圧したらしい。


「凄いな、パークス」


 正しい事をするのは人間にとって憧れだが、同時に、集団としての人間の恐ろしさ、或いは人から悪意を向けられる恐れを考えれば、そんな事を簡単には出来ない。
 出来ないからこそ、虐めとかがこの世から無くならないのだ。
 にも拘らず、それをやってのけたのだ。パークスは。
 そこに惹かれる憧れる。
 マジで。


「はい。ですが、話はここからが本番、です」


「え?」


 思わずツィーの顔を見た俺。
 ツィーは悪戯っ子の如く唇の端を歪めていた。

 そうか、この程度で“狂”の文字が付く筈がない。
 精々付けて、義勇からの“義”だろう。
 て事はと、恐る恐るとツィーを見れば頷いていた。


「その日の夕方、面子を潰されたと鎮圧された貴族学生が親の私兵を借り出してパークスに戦いを挑んだの、です」


 その数、実に70人以上。
 親の威を借りる子も子だが、私兵を出す親も親ってなものだ。
 夕日の下の決闘、というか乱戦か。
 で、パークスは勝った、と。
 素直な想像を肯定してくるツィー。


「結果はご想像の通り、です」


 実戦経験もあるだろう私兵集団を相手に勝つってのは、人としてどうなのパークス・アレイノート。

 尚、後片付けはパークスの後見人であるリード公爵と、王宮並びに王族貴族の管理を担当する女王府が出張ったらしい。
 いや、詳細は聞きたくなかったので断ったけど。
 只言えるのは、後日、その馬鹿どもを王立大学院で見る事は無かったって事で、想像出来るってものだ、と。



「そんなパークスと互角に戦った貴方、です。“あの”と付いても仕方が無い、です」


「う………うむ、納得した」


 尊敬にも似たツィーの眼差しに、むず痒い気分を味わいながらも頷いておく。
 べっ、別に納得した訳じゃ無いんだからね! って感じである。
 素直に言えば、諦めたってな気分だ。
 実質的に劣勢だったりしたのだが、見ている分には判らんだろうし、それに憧れを受けるのを恥じるより、その憧れを受けるに足る程に己を鍛えれば良い。
 そう思う。

 まっ、昨日の海大伯みたいな上の人に、過大評価されるってのは、胃の痛い話だけれども。




「あら、お兄様。随分とツィーと“仲良し”ですわね」


 仁王立ちの妹。
 ふくれっ面なほっぺたが可愛いけど、チョッと怖い。


「ん、この子も手伝ってくれててね。あー ん、ヴィーはどうした?」


「ちゃんと呼んだからって、駄目です」


 駄目と言われても困るってな話ではある。
 が、まぁお腹が空いて機嫌が悪くなったんだろうから、手早く出す事とする。

 ホットサンドは完成。
 シチューも、まぁ十分には煮込まれては居る。

 キモギモのってか、ヴァルバスカール家のメイドさんに目配せをしたら、万事了解とばかりにカップを出してくる。
 象嵌の施された金属カップだ。

 熱くなりそうではあるので、注ぐことを躊躇ったら、カップを出してきたメイドさんに笑われた。
 曰く、カップは熱を外に逃がさない魔法が掛けられているのだ、と。


「凄いね、コレは」


 熱々のシチューを入れてもカップ自体は、ほんのりと人肌程度の暖かさ。
 魔法、マジ凄い。

 1つ2つ3つと、都合6つのカップに注いでいく。
 アレ、メイドさん達の分が無い。


「もう、カップは無いの?」


 シチューが焦げぬようにかき回しながら尋ねると、メイドさんが小首を傾げた。
 カップと同様に、見事な象嵌のされた野外用食器入れには、まだカップが余っている。

 使い込まれているし、手入れもされている。
 というか曇りの無い辺り、管理しているメイドさん達、見事である。


「皆様の分はあると思いますが?」


「いや、貴方達の分。美味しいよ。口に合えば良いけどね」


 味見はしたけど、味覚の好みなんて千差万別だ。
 美味いと思っても、それを人に押し付けるのは良くない。


「匂いだけで、十分に美味しそうだと思いますから、遠慮はなさらずに、ね」


 笑顔で勧める妹。
 王立大学院と言えば身分差に煩い馬鹿も居る事で有名だが、我が妹がそんな程度の低い事に毒されていなくて素晴らしい事である。
 かなり真面目に。

 ノウラとマルティナが身内である為、かもしれない。
 しれないが、それでも嬉しいものである。


「あっ、でも………」


 口ごもったメイドっ娘さん。
 謝辞する積りかもしれないが、気にしなーい。

 委細承知と言わんばかりに妹が食器入れから出した3つのカップにシチューを注ぐ。
 出したのが妹で、注いだのが俺。

 万が一、キモギモが狭量を発揮して譴責しようとしても、怒りの対象は俺になるだろう。
 流石に懸想している妹に怒りはぶつけないでしょ。
 きっと。


 と云う訳でホットサンドの皿と、シチューのカップが乗せられた盆を持って、ディーやノウラ達が座っているハイキングシートの所へと向かう。
 うん。
 俺は手ぶらだけどね。

 皿は妹に、盆はメイドさんの1人に取られた。
 アッチはアッチで荷物を抱えているのに、これは私達の仕事ですと、巻き上げられた。
 うにゅ。
 仕事と言われては、抗しようが無いってものである。





 湖の畔。
 風通しが良く、見晴らしの良い場所でのランチ。
 しかも可愛い子たっぷり。
 これで喜ばない奴は男じゃない。

 まっ、大半が妹と同世代って辺りでまロい気分は無いけど、ヴァルバスカール家のメイドさん達って若くて美人揃いなのである。
 長いスカートのすっと、まくれたりとか、しっとりとした色気とか、もう素晴らしい。
 キモギモ、他の全てを否定しても、美的感覚だけは肯定してやろう。

 キモギモの持ち込んだ軽食も、味が良く、そしてワインまで持ち込んでやがったのは実に良し。
 良く冷やして、同じく冷やした炭酸水で割って飲む。
 実に美味である。
 本気で趣味は良いでやがるキモギモ。

 だが、妹はやらぬがな。


 軽食を摘まんで、ワインの炭酸割りを飲んで、そして歌う。
 持ち回りで様々な歌う。
 妹が軽やかな歌を歌えば、ツィーが異国情緒のある歌をしっとりと歌い、ディーは情熱的な歌を歌い上げた。

 調子に乗ったキモギモが愛の歌を歌いだした途端、妹たち3人からの総突っ込みと、総スルーが華麗に決まった。
 何だろう、キモギモ。
 何かを連想される、アレっぷりだ。

 ………ああ、天南静竜か。
 あれ程に見事な道化っぷりじゃないけれど、それでも直近のメイドさん達が主を護ろうとしない辺り、実に似ている。
 惚けて、騒いで、突っ込み食らって、誰もフォローしないし、しなくても復活する辺り、特に。

 まっ、良いけどね。
 妹が適切に対処し、処理出来る程度の話であれば、俺は、視野に入れなければ良いだけだから。





 そう思ってました。
 思ってました。

 それが凄く甘い考えだったのは、深く考えなくても判る事でした。

 馬鹿がトラブルメーカーなのは、世の常である事は。





「おうおう、僕ちゃん達、美人侍らせて騒いでおるなー」


 絡んで来たのは、グッデングッデンに酔っ払った男達だった。
 騎士乃至は貴族の身内と言うには、やや身なりが良くない。
 安くはないだろうが高くも無い、そんな格好をしている。

 武装をしているから兵士か、傭兵辺りだろうが、こんな場所なのに鎧を着込み、これ見よがしにブロードソードを腰に下げている辺り、少しばかりマナーが悪い。
 ここら辺は野外ではあるが王都警護騎士団の団員が定期巡回をしている事もあって、<黒>の軍も来ない安全な場所とされている。
 だからこそ、市民憩いの場でもあるのだ。

 だから不文律として、持ち込む武具は護身用程度のものとされている。
 それも見せびらかしたりするのは宜しくないと云う辺り、万事が軍事優先のトールデェ王国とは云え、構成員は人間なのだと思う。

 そんな癒しの場所に完全武装で居る男達。
 酔っ払っている辺り、軍の任務の類では無いだろうが、にしたって許されるものじゃぁない。


「俺達が東で苦労しているのに、美酒に美味を鱈腹か、羨ましぃなぁ」


 巻き舌で言うと、ワインビンをそのままにラッパ飲み。
 実に下品である。


「金があるっていいなぁ。或いは爵位か!?」


 言っている内容は正論、では無い。
 この国は徴兵制は強いていない。
 武による立身出世を望む人間が多いため、志願者を選抜して兵士としているのだ。
 更に言えば傭兵は金、戦場での臨時給金の為に好んで戦場を選ぶ。

 言ってしまえば兵士であれ傭兵であれ、好んで戦場の荒野に身を居た馬鹿なのだ。
 にも関わらず、この言い分。
 実に、気持ち良くない。


 自分の中のスイッチが切り替わるのが判る。
 荒事、それに類される事を前にした気分だ。
 頭が熱く、そして冷えていくのを自覚する。


 武器を、彼我の位置関係を確認する。
 持ち込んでいた武器、ショートソードは手元には無い。
 が、それがどうした、だ。
 拳がある、脚がある。
 何より、手元に鉈がある。
 食後のお茶にお湯を沸かそうと焚き火した際の、巻き割りに使っていたモノが。

 使う可能性は低いが。
 重心移動を見ていて、そうそう技量が高い訳じゃ無い事が判るからだ。
 ぶっちゃけ、素手でもノウラの強いだろう。
 その程度の相手だ。

 位置関係も悪くない。
 武装したっていうか、ガラの悪い酔っ払いから避ける形で離れている。
 具体的に言うと、俺の後ろに。
 俺の前に居るのは酔っ払いs'とキモギモだけだった。

 さーて、どうしてくれようかとゆっくりと中腰に、動ける姿勢に移行しようとした時、俺より先に動いた奴が居た。
 馬鹿だ。
 もとい、キモギモだ。

 たっぷりと飲んだワインに、足元をフラフラとさせながら、それでも酔っ払いの正面に立つ。
 仁王立ちだ。


「彼女達ぁー 僕のぉー 連れぇーだー てぇーって、手を出すなぁー」


 呂律も回っていない。
 何だろう、この遣る瀬無さというか、脱力感は。

 勇気は買う。
 買いはするが、実力の伴わない勇気は無謀なのだ。
 勇気と無謀を履き違えるなってな話で。


「あぁん、ヌクヌクと育ってる餓鬼が、何をぬかしやがる。可愛い嬢ちゃん達の前で気取るんじゃねぇよ」


 至極ご尤も。
 しかも酔っ払い。
 救いが無い。

 だが、斬られる程に駄目じゃない。
 しかも相対した酔っ払いが抜剣しやがった。
 妹達が息を呑んだのが判る。
 キモギモも脚が震えだしたのが見える。
 その反応に気を良くしてか、酔っ払いが大笑いをしやがった。
 耳が汚れる、ダミ声だ。


「怖いか坊ちゃん? だが安心しな、酒と場所を譲ってくれれば何もしねぇよ。女の子はー一緒に飲もうぜぇ」


 色々と楽しませてやるからよー とか抜かした。
 宜しい、有罪だ。
 吾が妹とノウラを、その友人に下品な視線を浴びせるのは赦し難い。
 だから先ずはこうしましょう、てい。

 キモギモを蹴る。

 足先にケツを乗せるように優しく、だが容赦なく湖に蹴り込む。
 ドボンと、気持ちの良い音と共に、水柱が上がった。
 有無。
 視線が集まってくるのを感じるが、無視。

 水中でもがいているキモギモも無視。
 水深は浅いので溺れる筈がない。
 只、キモギモに駆け寄ったメイドさんには内心で頭を下げておくが。


「頭を冷やしとけ、坊主。勇気は認めてやるがな」


 そうなのだ。
 無手で戦う術を持たぬまま、剣を持った相手に退治する無謀を諌める意味もあったのだ。

 別にこーね、妹とかへの暴言への罰を与える為に、理由を後付けでチョイスして張り付けた訳では無い。
 いや、少しはある。
 が、全部では無い。
 多分。


「てめぇ、何だ?」


 胡乱なモノを見る目でにらんで来る。
 目はアルコールで赤く濁っている。
 その目を柔らかく睨み返してやる。


「何、只の親切さ。大人げ無い酔っ払いの酔いを醒ましてやろうってな」


 往っとけみなそこ。
 ドボボンボンと、俺は都合3つの水柱をおっ立てた。



 あーもう。楽しいピクニックが台無しだ。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-08 漸く登場、かも?
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:3ff91114
Date: 2011/01/16 23:47
 
 ある日。
 具体的にはピクニックの翌々日の朝、ベットで朝の惰眠を貪っていたら唐突にノウラに怒られた。
 何を仕出かしたのですか、と。


「へ?」


 寝ぼけ眼でノウラを見る。
 緊張か興奮かは判らないが顔が赤い。
 そして突き出された手が怖いです。
 何か白っぽいものを持っているみたいですが、プルプルと震えていて良く見えない。

 ついでに言うと、反対側の手で持っている仕込箒も怖いです。
 自重10kg近いって思うような鉄芯入りの箒って、発案者の正気を疑っても良いと思うのですよ。
 何を掃除するつもりでしょうか。


「何事よ?」


 サヨウナラ、麗しのベットよ。
 そしてコンニチワ、面倒な現実よ。

 手に取った白っぽいモノ。
 手紙だった。
 こんな早朝(多分)に勤勉な郵便配達もあったものだとノンビリとひっくり返して見たら、目が覚めた。
 蝋封の紋章が、王国公式機関印であったからだ。

 慌てて、片隅のサインを確認する。
 差出機関は、宰相府となっている。


「………普通じゃないですよ、宰相府の呼び出しなんて」


 冷静に考えれば神託がらみだというのは簡単に推測できる。
 推測出来るが、冷静に考えられない。
 それが一般市民の感覚ってものかもしれん。

 しかし、涙目っぽく此方を見ているノウラ。
 両手でしっかと箒を持っているのが、どこか幼く見える。
 ベイビー そんな風にしないでくれ。
 余りに可愛すぎて、キスをしたくなるから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-08
漸く登場、かも?

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 手紙の内容は出頭令状であった。
 本日昼頃に宰相府に宰相府に来られたし、との。


 トールデェ王国宰相府とは王都の中枢、王城に付随して立てられている建物群の1つである。
 格式ある建物は、宰相にして三頂の一角であるダニーノフ伯爵家の当主である、オーガスト・ダニーノフ執務している場所だ。

 宰相ダニーノフ伯が、国内の治安等も担当する内務卿を兼任しているからと言って、ノウラが危惧するように何かをしでかしてと云う訳ではない。

 ピクニックに行ったときに、酔っ払い複数を泉に叩き込んだが、別に罪に問われる事では無い。
 どっかのキモギモは、別に問題なし。
 無いというか、翌日にご家族から丁寧な文面の詫び状が届いて、こっちが恐縮したものである。
 詫び状を持ってきたメイドが、「坊ちゃんを護ってくださって有難う御座います」と真摯に頭を下げられた。
 どうやら蹴っ飛ばした目的は、きっちり伝わっていた模様。
 何だろう、普通に家族やらメイドさんから愛されている模様なキモギモ。
 チョッとだけ羨ましい。
 チョッとだけだが。

 尚、抜剣した無粋な酔っ払いに関してはもっと単純だった。
 所属していたのが<北の大十字>傭兵騎士団だったので、其処経由で絞ってもらったのだ。
 基本、傭兵の<北の大十字>傭兵騎士団ではあるが、有事には国軍に放り込まれるのだから愚連隊じみた行動は宜しくないわけで。
 ええ。
 騎士団長から直々に絞り上げられたそうです。
 多少、可愛そうだと思わない訳でもないですが、餓鬼相手に抜剣するんだから、仕方が無い。

 というか下っ端の貴族やらぽっと出の成金の身内程度、或いは立身出世でも夢見た傭兵如きに出張る様な立場じゃないのだ、宰相や内務卿と云う身は。
 精々が内務卿の下にある警務局が対応する程度。
 本来は王都警護騎士団が話を聞く程度の事なのだ。
 宴席の出来事なんてものは。


 と云う訳で呼ばれた理由。
 それは推測どおり、オルディアレスの海大伯に買収されて決まった冒険に関してだった。
 そりゃぁもう、王都警護騎士団の地方詰所で、となる筈がない。
 とはいえ、呼び出しを掛けて来たのは、ダニーノフ伯ではなかったが。
 その下の下の下の人。
 宰相府次官補神宮局主事なる役職の人が差出人だった。
 宰相を支える次官の補佐役で主に神宮局、宗教分野での現場トップとでも呼ぶべき人だ。

 まぁ当然である。
 トールデェ王国に於ける宰相とは、女王の補佐役として軍務や外務と云った7つの大臣を束ねる8卿議会を主催し、国を運営する最前線に居るのだ。
 そんな忙しい御仁が、俺みたいな下っ端の貧乏男爵家嫡男を相手にする筈が無いってなもので。
 というか、神宮局主事ってのも本来はもう少し格上の人を相手にする筈な人の筈で。
 ここら辺、オルディアレス伯の肝煎りな事に俺が参加するからの事かもしれない。


 兎も角。
 ウチに送られてきた出頭令状を入り口で差し出したところで案内されたのが、豪奢な装飾の施された部屋。
 やや威圧感のあるそれは、国政を司る場所にあっては必須のものなのかもしれない。
 いい加減に考えるに、だが。

 そんな部屋で暇している俺。
 勇んで来たが、呼び出し人の神宮局主事殿だがどうやら仕事が立て込んでいて、直ぐには来れないと云う。
 中央政府の役人さんなので、色々とあるんでしょう、色々と。
 それは仕方が無いのだが、正直、だらけられないのが辛い。

 正装とまでは行かないが、貧乏貴族とは云え、その嫡子として相応しい程度の格好をしてきているのだ。
 背広を3回り程度、派手にしたような格好なので首が絞まっているのだ。
 しかも、1人で応接室に居るのでは無く、部屋付きっぽいメイドさんが静かに立っているのだ。
 これが益々、息苦しい。
 お茶とか淹れてくれるけど、話し相手にする訳にもいかないのだ。

 身分差で、なんて訳じゃ無い。
 そんな下らない理由なら、ちり紙にして鼻かんでポイってなものだが、別にチャンとした理由があった。
 隙を見せる訳にはいかない、という。
 ウチの親、親父殿は宰相府貴族院に勤めている。
 要するに同じ建物なのだ。
 貴族院と神宮局とは所属が異なるとはいえ、どこで話が通じるかなんて判ったものじゃない。
 隙を見せる訳にはいかないってものだ。
 親父殿に恥をかかせる訳にはいかないし、失態が伝わっても恥ずかしいのだ。

 こうなると、ボードの某水戸黄門な大統領閣下がチョイとだけ羨ましい。
 主にフリーダムさが。
 本当の意味で、強いのかもしれない。
 弱い俺は、背筋を伸ばしたままに椅子に座って茶を飲むだけ。

 そうだね。
 この場にオデコちゃんでも来てくれれば癒されるんだけど、居るのはハイミスちっくなメイドさんのみ。
 いや、結婚してるかもしれんが、このツンとしたクールさってどうなんで御座いましょう。
 アレ? 実に魅力的じゃないか。
 今、気がついた。


「?」


 下手なことを考えていたのを見抜いたか、不審げに此方を見るそのクールな眼差しなど絶頂すら覚える。
 嘘です。
 でも、弄りたくはなるよね。
 しないけど。
 だって怖いから。
 弄ったのが親父殿にバレて、母親様に知られたら、きっと折檻だから。
 
 という訳で、強い母親様に躾けられた俺は、脳内でメイドさんを弄ぶ事を選択する。
 外見はポーカーフェイスのままに、ねっぷりと。
 リアルで出来ない分、そりゃぁもう、ぬっぷりと。
 マーリンさんに負けっ放しな鬱憤を晴らす訳じゃ無いけど、とろっとろに。

 人には言えない、おピンクに染まった脳内。

 ハイミスなメイドさんを亀甲な感じで縛って揉んで舐めて、言葉でゆっくりと嬲って。
 少しずつ少しずつ蕩けさせ、整った顔をアヘ顔にさせてたい。
 目隠しをさせて、ゆっくりと弄びたい。
 更に口腔内に指を突っ込んでねっぷりと舐めさせるだとか、下の方は触らずに焦らすとか。
 そしておねだりをさせたいとか、そんな救いの無いレベルに達しようとした時に、部屋の主があらわれた。


「お待たせしたかな?」


 いえ、もう少し待たされてても良かったです。
 そんな戯言まがいの言葉を脳内で弄びつつ見た部屋の主は、いかにもなパワーエリートって風では無かった。
 ぶっちゃけて、退役寸前の好々爺染みた御仁であった。
 頭髪も髭も真っ白で、ふっくりとした体格をした人物。
 それが宰相府次官補神宮局主事さんであった。
 宰相府の神宮局ってのは、言ってしまえば国外の宗教組織と情報をやりとりしたりする場所だ。
 だから善人だって事は無い。
 当たり前だ。
 宗教家だって人間。
 良い人が居れば悪い人も居るってものである。

 まっ、それはさておく。
 脳味噌のスイッチをピンクから真面目に戻して立ち上がる。
 背筋を伸ばし、敬意を示して。


「初めましてジョンクロード主事殿。ゲルハルド記念大学学生ビクター・ヒースクリフです」


 一応、この御仁も貴族である事を示す装飾をしているが、公職の人間は役職で呼ぶのが通例なので、主事と呼ぶ。
 でも時々、嫌がる人も居るので要注意だ。
 伯爵家当主とかの場合、役職よりも身分が高いので「低く見られたor見やがった」と臍を曲げる人が居るのだ。
 面倒な話である。


「うむ、私が神宮局主事ジャン・ジョンクロードだ」


 鷹揚に応じてくれるジョンクロード主事さん。
 どうやら臍の曲がった御仁では無かった様である。
 年齢的に人が出来ているのかもしれない。
 有難い事である。

 しかし、冷静に考えるとアレだ。
 役職名に神宮の文字があるのに、コーカソイドっぽい人ってのに違和感を感じるのは、俺の根っこがまだ日本人なんだろうな。





 さて、世間話を少々。
 天気の話だの何だのと益体も無い会話だが、しない訳にもいかない辺り、以外に面倒くさいものである。
 しばしの時間。
 淹れ直して貰ったお茶が席に置かれると同時に、本題に入った。


「さて、学生ビクター。今日君を呼び出したのは他でも無い。神託に関わる事だ」


 背筋を伸ばして聞く。


「仔細は聞いているだろうが、先日、神託を遂行する事が御前会議にて了承された。よって本日より神託の遂行は勅命に準じる事を理解し、精進したまえ」


「はい。全力をもって務めます」


 立ち上がって敬礼をする。
 背筋を伸ばして直立不動、両手は手の指を伸ばしてズボンに添える。
 そんな簡素なものだけれども。
 トールデェ王国軍にも正式な敬礼は存在するけれども、まだ軍にも属していない俺が、それをする訳にもいかないのである。

 対してジャンクロード主事さんは右手を左胸に当てる文民答礼をし、軽く頷いた。

 ここら辺、ある意味で儀式っぽいが、敬意の交換とかそゆうのは組織の潤滑剤でもあるので重要なのである。


「宜しい。ついてはこの任へ君が就くにあたって、正式な騎士籍が与えられる事となった。おめでとう、従騎士ビクター」


「有難う御座います」




 従ではあっても騎士爵賜るなら、お手当てが貰えるのだ。
 これは素晴らしい。
 軍籍簿にも名前が載る事になる。
 これも素晴らしい。
 キチンとした社会人への第一歩ってなものである。
 将来設計としてはマーリンさんの所に行って爛れて淫らで鉄火まみれな人生を送る予定だけれども、地位も金も無いよりはあった方が良いのだ。

 尚、将来的には男爵位を継承する予定ではあるが、それよりも嬉しいものである。
 与えられるのでは無く、自分で得たと云う意味で。
 正確には、実績をもって得たのではなく、任務の為のってな面が強いだろうが、であれば、相応しくなってやれば良いだけなのだ。
 がんばれ、俺。


 しかしそう考えると、二歩目で国外“大”遠征って辺り、どうよってなものではあるけれども。
 女王の勅を受けてのだから、まぁ酷いことにはならないと思うけど。
 多分。
 だと良いなぁ。



 兎も角。
 従騎士位だ。
 その叙勲とかは、正式に任務を命じられる際に行われる事となるそうだ。
 他に、任務の為に与えられる予算やら何やらを詰めていく。

 淹れなおされたお茶が温くなる頃、細かい事は終わった。
 発注済の馬車とか、装具の代金も漏れなくゲット。
 +αで、旅装とかのお金も貰えた。
 外套は当日に魔法の付与されたものが、下賜されると云う。
 至れり尽くせりだ。
 流石は国営事業だと感心する次第。
 まぁ、国からすればはした金なのかもしれないけれども。


「所で従騎士ビクター、君はもう同行者である神官補エミリオと逢ったかね?」


 金があることは良いことだ。
 そんな事を考えながら資料を見ていた為、振られた話への対応が遅れてしまった。


「はっ、あ、いえ、残念ながら」


 べっ、別に必要経費で認められる額に、目が眩んでた訳じゃないからねっ!  ってなものである。
 誰得の脳内ツンデレモードである。


「それはいけないね。幸いに今日、神官補エミリオは軍務府に居るという話だ。紹介しよう」


「宜しくお願いします」




 そうして連れて来て貰ったのは、軍務府。
 王国の誇る2個の王立騎士団や諸侯軍を管理し、物資の補給なども担当する場所である。
 意外な話では無いが、ウチのゲルハルド記念大学も、その設立経緯から判る通り、ここの管轄である。
 学校からインフラ整備、果ては国外からの援助物資の分配とかもしていたりする。
 何だろう、錬金な軍事国家を連想する。
 するけど一応、トールデェ王国の方が健全だ、きっと。

 建物が質実剛健というか、装飾性皆無の要塞構造って時点でアレではあるが。
 ていうか攻城兵器や大規模攻撃魔法にすらも抗甚で出来る、分厚い構造を採用している。
 何だろう、外周部に至っては、装甲の隙間を人が歩いている。
 そんな印象の与えられる建物。
 それが、軍務府なのだ。
 王城の藩屏としては、正しい姿なのかもしれない。
 
 そんな、物理的にも重い雰囲気がある通路を抜けた先。
 そこは300m四方程度の空間━━練兵所だった。
 王都に駐屯する軍事組織は3つある事を考えれば狭くはある。
 が、王都とその周辺の治安維持を担当する王都警護隊は本部が内堀から外の区画に置かれていて関係は無く、ウチの母親様も参加する<十三人騎士団>がその名の通りに最大でも13人しか所属しない名誉称号的騎士団である為、この場を使用するのは王立騎士団のみだ。
 その王立騎士団だが定数2000名の大所帯ではあるが、現在所属しているのは1500名程度。
 しかも、野外に出城ってか支城みたいな防衛拠点を構えていて、そこが非公式には本部になっていて、支援人員や予備の兵などの殆どは、そこに居るのだ。
 であれば、必要十分であった。
 十分なのだろう。
 まっ、他にも練兵所が用意されてもいるだろうしね。

 兎も角練兵所。
 多くの人間が訓練用の服装、装具を身に纏って汗を流していた。


「ああ、居たね、彼が神官補エミリオ・オルディアレスだよ」


 物珍しげに周りを見いていた目を、ジャンクロード主事さんの腕の示す人を見る。


「ゑ?」


 示す指先。
 その先は、筋骨隆々とした男の背だった。


「えぇ!?」


 思わず、変な声を上げてしまっていた。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-09 力なき速度、それは無力
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:3ff91114
Date: 2011/03/20 01:48
 
 筋骨隆々とした男の背中。
 何だろう、確か俺と同じぐらいの少年って話だが、その背には歴戦の戦士の風格があった。
 アレが本当にエミリオなのか。


「神官補エミリオ」


 俺が混乱している所へ、ジャンクロード主事さんが声を掛けた。
 筋骨隆々とした背の男が振り返った。
 傷を負った、巌のごとき顔をした男だ。
 というか、どう見ても10代には見えない件。
 要するに拳王様とかドズルな兄貴の如き実年齢と外見の差とか、そゆう問題な訳で。

 アレと3年も旅するとか、どんだけの苦行だよってなものである。


「ジャンクロードさん!」


 救いの主、キタコレ。
 拳王ドズルの脇から、あどけない顔を汗だくにした少年が顔を見せた。
 うん、コイツだ。
 エミリオってのは、コイツであって欲しい。
 神様神さまカミサマと素直に祈ろう。
 この世界の神でも、或いはアラーにだって。
 立川在住のコンビだったら、多分、慈悲とかアガペーで何とかしてくれると信じている。
 だって、皿をパンにするよりも簡単な筈だから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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1-09
力なき速度、それは無力

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 願望は果たされた。
 迷う事無くジャンクロード主事さんは拳王ドズルの脇ってか、拳王ドズルのデカい背中に隠れていた向こう側に居た少年に呼びかけたのだ。


「此方へ、神官補エミリオ。貴方に従騎士ビクターを紹介します」


 アーメン ハレルヤ ピーナッツバター。
 どの神様か知らないが有難う御座います。
 悟れ!!アナンダ!! 最高で達者でなーっです、だ。


「はいっ!!」


 少年は背筋を伸ばして声を上げると、訓練用の木剣と盾とを持ったままに駆け寄ってくる。


「初めまして、エミリオ・オルディアレスです!!」


 正真正銘、少年がエミリオ・オルディアレスだった。
 有難うカミサマ。
 今、本気で貴方が愛しい。


「あの<白外套の3騎>、ビクター卿 ヒースクリフさんに会えるなんて、旅が出来るなんて、光栄です!!」


 ハキハキとした声を出す、エミリオ少年。
 卿でさんと敬称の二重使用ってどうなのって思うが、まぁスルー。
 興奮しているっぽいしね。
 頬が紅潮している。
 小柄と言って良い体躯と幼い顔立ち。
 クセの無いサラサラっぽい金色の髪と相まって、何だろう、子犬系ってな感じである。
 というか、こゆう風に素直に好意な発言には照れてしまうってなモノである。

 まぁ“あの”って部分には聞きたい事が山盛りではあるが。
 そんな気分はおくびにも出さず、にこやかな表情をする。
 してみましょ。


「初めましてエミリオ・オルディアレス神官補。俺の事は卿抜きでビクターで良い」


 卿なんて呼ばれたらこそばゆいから。
 この国で卿って称号は、各爵家の当主ならびに子爵級以上の貴族階級の第1爵位継承権者にのみ許されているものなのだ。
 で俺。
 俺は爵位の第1位継承権を持つとは云え男爵家のである為、本来は名乗る権利を持た無い。
 だが、今回の任務に際して従騎士爵という、一番の下っ端っていうか、貴族の子弟が軍務に就く際に自動的に与えられる爵位を与えられているから、名乗る事が許される事となったのだ。
 尤も、所詮は最下っ端の“従”騎士爵って事で、卿との呼ばれ方よりも従騎士と呼ばれる事が多いのはご愛嬌である。
 ああ、面倒くさい。
 そんな称号とか敬称とかみたいな名誉━━要するに金の掛からない褒賞制度も充実しているのだトールデェ王国。
 人間、チョビットでも他人と差があれば喜ぶし励みになるさもしい生き物だから仕方が無い。

 兎も角、そこ等辺をエミリオはジャンクロード主事さんの言葉から察して、卿と付けたのだろう。
 中々に聡い子である。

 が、そんな敬称だが省きたいのだ。
 これから永い旅の仲間の名を呼ぶのに敬称を付けるなんて面倒は避けたかったてのが、本音である。
 大体、爵位の名称も家の号であったり領地の号であったりと千差万別、家それぞれなのが、このトールデェ王国クオリティなのだ。
 裸一貫で開拓して爵位をとった場合、氏に爵位を付ける。
 対して、褒賞で新しく領地を与えられた場合、名前の前に爵位名を付けて、それから氏名となる。
 がしかし、例外的に裸一貫だけど、地名は別に付けるとか、元々の地名を付けるとかなれば、名前の前にとかなるのだ。
 もうね、統一性もクソも無い。
 というか、移民が多過ぎて名前すらも統一性皆無なのだ。
 コレで国家が統一された状況にあるってんだから、王家の威武と権威、そして外敵の存在は偉大である。


「では僕もエミリオで」


 笑みが大きくなったエミリオ。
 どうやら、コイツもフランクな性格をしているっぽい。
 有難い事だ。


「なら、改めてエミリオ、宜しくな」


「はい、ビクターさん!」


 握手。
 武器を持つ手をもって握り合うってのは、友愛の象徴ってなものである。
 鳩は嫌いだが。

 というか握手して気付いたが、このエミリオ君、実に荒れた手をしている。
 コレはアレだ。
 日々に剣を振るってきた、鍛錬を重ねて来た人間の手だ。
 坊ちゃんだと思っていたが、なかなかどうして、だ。
 この旅、悪いものにはならずに済むかもしれない。

 そんな風に思った所へ、唐突に話しかけて来た相手が居た。


「少し、良いか?」


 低い声が響く。
 厳つい相手、拳王ドズルだ。


「すいませんアティリオ兄さん、練習に付き合って貰ってたのに」


「構わん。俺は、俺がお前に出来る事であれば何でもやってやりたい。そう思っているからな」


 オーイェー。
 この兄弟、仲が良いっぽい。
 エミリオは素直に懐いているっぽいし、拳王ドズルも厳つい顔を綻ばしている。
 オルディアレス伯爵家と言えば、当主の渾名が<蛇>で、泣く子も黙るの家風だと思っていたのだが、どうやら家内相手であれば違うのだろう。
 ほほえましいものである。

 そんな、ニマニマ気分で眺めていたら、此方に飛び火した。


「従騎士ヒースクリフ、君に確認したい事がある」


 口調は丁重ですが、その実命令。
 その風格や実に拳王様でした。





 両手にそれぞれ持った木剣を振る。
 やや小型で、実にショートソードを模している。
 バランスや良し。
 握り具合も良し。
 初めて使う道具だが、コレであれば問題は無い。
 何でこうなったのかと考えると、頭痛が痛いと感じるレベルではあるが。

 周りを見る。
 練兵所に居合わせた連中が、ゴロリと周囲を囲んでいる。

 どうしてこうなった。
 理由を考えれば簡単な話だ。
 実力を見せろ、と拳王ドズルに言われたのだ。
 武闘大会での話は聞いているが、自分の目で見ていないものは信用できない。
 だから、俺の前で戦えと言うのだ。

 エミリオ君が取り成してくれるが、拳王ドズルに譲る気無し。
 兄馬鹿っぽい御仁なので拳王ドズルの気持ちは判るってなものである。
 何処の馬の骨って訳じゃ無いにしても、大事な弟と共に旅立つ奴を見定めたいって思うのは普通だろう。
 だから俺は納得する。
 納得して、両の手に木剣を握り、魔法防御力を付与された革の訓練衣を着ているのだ。
 革の訓練衣の機能は、致命打から身を護ってくれるという素敵なモノだ。
 流石は王宮内の、良い物が備えられてある。

 足場を確認する様に、軽くステップを踏む。
 問題は感じない。


「準備は良いか?」


 問い掛けに頷く。
 相手を見る。
 相手も又、双剣を持っていた。
 但し、俺のとは違って普通の直剣諸刃っぽいのを模した木剣だ。


「宜しくだ、従騎士ヒースクリフ。俺は王立騎士団百騎長、ジョージ・ベーカーだ」


 痩身の壮年男性。
 短く刈り込まれた頭髪と、綺麗に切り揃えられた顎髭が特徴的な騎士。
 それがジョージ・ベーカーだ。
 百騎長って役職は、騎士団では名前の通りに100人の騎士を束ねる役職だ。
 騎士団の定数が1000名を基準としているのだから、中隊長から大隊長ってな辺りだ。
 中々の人物って言えるだろう。


「宜しくお願いします、ベーカー卿」


 素直に頭を下げた俺に、騎士ベーカーはニヤっと笑った。


「“噂”の3騎が1人、その実力を見せてもらおう、かっ!」


 奇襲。
 始め! ってな合図抜きに騎士ベーカーが仕掛けてくる。
 一足で踏み込み、それからの右手の剣での突きだ。

 洒落にならない攻撃だが、それを卑怯だとは思わない。
 これは試合では無く、俺を試すのが目的だからだ。
 であるからにはこの奇襲は、突発事態への対応力を試しているのだろうか。

 そんな、どうでもよい事を頭の片隅で考えつつも体を動かす。


「っ!」


 引くのが一番簡単だが、それで状況は変わらない。
 両手に剣を持つのだ、ならばともう一足、踏み込んでの突きが来るに決まっている。
 脇に避けるのも論外。
 そのまま薙ぎ払われるに決まっている。

 だから俺は、踏み込む。
 審判役の騎士の合図を聞き流しながら。


「っいっ!」


 左手の剣で突っ込んでくる剣の切っ先を逸らしつつ、右手の剣を振るう。
 構えた状態からじゃ無いので、勢いは付かないが仕方がない。

 乾音。

 手に響く衝撃。
 騎士ベーカーも、左手の剣でガードしていた。
 速い。
 百騎長ってのは伊達じゃ無いらしい。

 其処からの、足を止めての剣戟。
 1合、2合、3合。
 相手の剣を避け、払い、そして此方からも攻撃する。
 振るう剣を避けられ、払われる。
 4合、5合、6合。
 と、唐突に蹴りが飛んでくる。
 膝蹴りだ。
 避けると姿勢が崩れるので、此は踏み込む事をチョイスする。
 相手の蹴りを殺す様に、足が伸びきる前に受けるのだ。

 衝撃。

 だが、予想通りに痛くない。
 それよりも、相手の姿勢が崩れたのが大きい。
 反撃だ。
 但し、踏み込み過ぎで距離が近すぎるので、剣を振るうよりも肘打ちを敢行する。
 腕を曲げ、コンパクトなスイングで鳩尾を狙う。

 残念。
 バックステップで避けられた。


「良いな、汚い遣り方も判ってるな?」


 騎士ベーカーからの即座の反撃も無ければ、此方も追撃はしない。
 お互い、それなりに息が荒れたからだ。


「それなりに、ですけどね」


 ゆっくりと動きながら隙を伺う。
 流石はベテランの騎士、隙が少ない。
 無理に突っ込めば、1~2発は確実に食らいそうな按配だ。


「それで“それなり”だと?」


 速度的には劣ってないってか勝っているのだが、テクニック的な面で追い付けてないっぽい。
 片手で持つと小回りが効かず、大降りになり易い標準的木剣を両の手にそれぞれ持っていると云うのに凄いものである。
 コッチが速度を稼ぐ為にも、ショートソード使っているのと、偉い違いである。
 或いは俺の経験不足か。

 ベイビー、少し悔しい。


「ええ。まだまだだなって、思いますよ」


 会話にもリズムを付けて、荒れた息を回復させつつも、それを悟らせぬ様にする。
 短文だけで会話してくる騎士ベーカーもだと、願いたい。


「向上心、結構だ」


 さてさて。
 テクニックで追い付けないならどうするか。
 速度は優速ではあるが、それだけでどうにかはならないだろう。
 ならばどうする。

 力だ。
 速度に力を乗せて、凌げない一撃にすれば良いのだ。

 構えを通常に戻す。
 右の剣を背負うように、左の剣を緩く伸ばすように。
 隙を感じさせぬようにゆっくりと。


「有難うございまっ、すっ!!」


 今度は此方から踏み込む。
 息が完全に落ち着いた訳じゃないが、イニシアティブを握られっぱなしってのは趣味じゃない。


「Kieee Etu!!」


 左の突きは誘い。
 それを払って姿勢が崩れた所へ、本命の右を振りぬく。

 壊音。

 受けた相手の木剣が折れ、切っ先が相手を痛打している。
 左の鎖骨辺りを捉えたのだ。
 歓声、或いは怒声が上がった。


「っ!?」


 そんな中、膝をついたままに声を上げられずに悶絶している騎士ベーカー
 否。
 悲鳴を押し殺しているのだろう。
 流石、と言うべきだ。
 魔法の訓練衣があるとは云え、木剣が折れる様な一撃を食らったと言うのに、だ。

 そして流石は薬丸自顕流。
 パチモンな訓練で培った斬撃、打ち込みモドキでこの威力だ。
 我ながら、呆れるってなものである。


「勝者、従騎士ヒースクリフ!」


 勝ちが決定したので、構えを解きながら騎士ベーカーに駆け寄る。


「大丈夫ですか、ベーカー卿」


「ああ、やられたよ。やられた、見事だ<鬼沈め>。コレがオーガーを喰った一撃か?」


 痛みに脂汗を額に浮かべながらも、莞爾と笑ってみせる騎士ベーカー。
 更には褒めてくる。
 漢だ。
 否、正に騎士だ。

 その言葉を有難く受け取る。


「はい、有難う御座います。ですが、まだまだ精進の途中です」


「そうか、それは先の楽しみな事だ」


 差し出された手。
 その右手を有難く握った。

 何か、歓声が上がった。
 それがこそばゆかった。





「しかしジョージ、相手は<白外套>持ちとは云え一撃で沈むとはな。どうした」


「笑うなよ、分遣騎士団長? 食らってから判ったんだ。アレは、アイツの本質は軽装兵じゃないってな」


「ほう? 軽武器のショートソードでなののにか?」


「ああ。武器が小ぶりだったんで見誤ってたんだ。あの本質は速度と手数で攻めるんじゃなく、力で押し切る重戦士系だ」


「俺みたいな、か?」


「いや、アンタとは違う。見てたろ? 最初の剣戟、俺の速度について来てた。いや、一部では超えていた。木剣だからの狡い技で切り抜けたが、実剣じゃこうはいかなかったな」


「確かに、あの速度は俺では出せん」


「きっと、その為のショートソードなのだろうな。俺の蹴りにも即座に対応しやがった。信じて良いぜ、アティリオ。従騎士ヒースクリフはお前の大事な弟を護ってくれるだろう。育ててくれるだろう」


「んーーーーん、判った。貴様の判断を信じよう」





 俺の人品鑑定が終わったらしい。
 騎士ベーカーと会話をした拳王ドズルは、不承不承と云う按配の表情のまま俺を認めてくれた。


「父上の目が節穴でないとは思っていたが、な。従騎士ヒースクリフ、弟を、エミリオを頼む」


「努力します」


「その言葉を信じさせて貰うぞ」


 重々しく頷く拳王ドズルに、敬礼をしていた。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-10 アーメン ハレルヤ ピーナッツバター
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:3ff91114
Date: 2011/07/07 22:29
 
 さて、エミリオを連れての城下町。
 当然ながらも散策目的では無く、装備を揃える為である。
 武装その他は個人用意だが、諸々の小道具なんかは共同購入である。
 三人分の諸々である為、割と金の掛かる事だが心配は無い。
 軍資金はたっぷりとあるからだ。

 俺の稼ぎでって訳じゃ無い。
 王命遂行支度金の名目で、ジャンクロード主事さんから金貨の詰まった革袋を頂戴したからだ。
 具体的にはgr金貨が10枚である。
 馬鹿にする事なかれ、だ。
 gr金貨一枚の価値が、購買力的に見るに10万円に近い位なのだから、実質100万円がポンと貰えた様なものなのだ。
 凄いぜ国家事業! である。

 この他にもオルディアレス伯からgr金貨で20枚預かっている。
 しかも、足りなかったら補充すると云うパネェ言葉込みで。
 凄い親馬鹿! である。

 まぁお陰でジャブジャブと金を突っ込んで諸々を買い揃える事が出来た。
 食料を保存しておく魔法の保冷樽とか、大気中の水分を集める事が出来る魔法の水樽とか、防水魔法の掛けられたテントとか、保温性抜群の毛布とか。
 忘れちゃいけない特上品質の調理セットとかとか。
 火付け道具も、当然ながらもアリアリで。
 持ち主の魔力に反応してってのは、自前のZipっぽいのと一緒だが、アレは構造的にタバコ以外に着火するのは苦手なのだ。
 だから買う。
 必要かなって思えるのは何でも買う。
 10フィート棒も一応、買っておく。
 それからドラえもんポケットみたいな、山ほどに干し草を入れてられる飼葉樽も。

 これだけ買ってもまだ金が余るってのがすごい。
 魔法の品々満載だけど、魔法効果の単独付与なので割と安価なのが有難い。
 実用最優先のデザインとか、素材は値段優先でとかの品を買ったからかもしれないけれども。
 象嵌の施された様な緻密なモノとか、金銀白金といった高級素材を使ったモノとかでなれば、そこまで高くないのだ。


 ああそうそう。
 エミリオには編み上げブーツも買って置く。
 一般的な旅装用の革靴は、所謂乗馬ブーツ的なものが主流だが、それで飽き足らないのが俺クオリティ。
 アブラメンコフ工房の革製品担当の職人さんを巻き込んで、戦闘用としても使える、編み上げ型を作ったのだ。
 爪先には金属カップを仕込み、ソールにも拘っている。
 クッション性能とかは、は流石にゴムが流通していないので諦めて疲労軽減魔法に頼ってはいるが、それでも革新的な靴なのである。
 尚、戦闘用としてもと言うのは、フックを設置した事で後付で滑り止めのかんじきと一緒に、金属の装甲板を取り付けられる様にしているからだ。

 現代日本のってか、あの世界の知識によるチートの成果とでも言うべきものだ。
 後、俺の趣味もある。
 ライダーにとって革の編み上げブーツって趣味なんですよ。
 趣味だったと言うべきか。

 尤も、コッチは馬車程には売れていない。
 まぁ仕方が無い。
 武器屋が作った靴なんて言われて、はいそうですかと買える様なモノでは無いのだ。
 1個だけとはいえ魔法まで掛けているから、それなりの値段になっているし。
 だがそれでも、最近は冒険者の間でジワリと口コミで売れつつあるとかいう話。
 将来が楽しみだ。


 そんなこんなで色々と買い込んでいく今日。
 嗚呼、大人買いの気持ちよさ。
 大人と云うよりも成金のってレベルに近いけれども。

 兎も角。
 買い物も一段落しての休憩を取る。
 場所はオープンテラスっぽいとか表現すると如何にも洒落た感じだが、その実態としては露天街の隅っこの御茶屋だ。
 職人街に隣接しているので荒っぽい雰囲気の場所ではあるが、味が良いのだ。
 というか、味が悪いと荒っぽい職人が暴れるという現実があるのかもしれない。

 注文した牛乳入りの薄甘い黒茶は、紅茶と珈琲の合いの子っぽい感じである。
 というか濃い麦茶みたいな味である。
 それは良い。
 それは良いのだが、甘さ控えめと云うのがどうにもこうにもだ。
 砂糖が欲しい。
 かなり真剣に。
 薄甘いというか、温い味は気に入らない。
 オール・オア・ナッシングで、甘いならガツンと欲しいのだ。
 無い物強請りではあるけれども。
 トールデェ王国では砂糖の供給が安定していないから仕方が無い。
 というか、あっても使えないかもしれない。
 サトウキビもてん菜もトールデェ王国では自生していないので輸入頼りの高級品、それが砂糖なのだから。

 あーあ、俺ではない俺の故郷、日本が懐かしい。
 調味料が腐るほどあったなぁ。
 七味調味料も無いなんて、なんて拷問だ。
 塩を好き放題に使えないなんて、何て煉獄だ。
 ツーンとくる山葵を乗っけた刺身、痺れる程に山椒を効かせた麻婆豆腐、おぉっと香辛料の宝庫であるカレーライスを忘れちゃいけない。
 まぁ、キムチ鍋は程ほどに。
 というか鍋ならすき焼きが食いたい。


「……さん、ビクターさん」


 牛肉、和牛、生卵、生卵なら卵ご飯だって忘れちゃ駄目だな。
 でも、それなら辛子とネギと醤油を入れた納豆ご飯など、もう堪らない。
 辛子はトンカツに着けて美味いし、トンカツならカツ丼を忘れちゃいけない。
 だが丼ものだと、天丼が至高だね。
 穴子と海老と蓮根と、そうそう、彩的にピーマンと人参もありありだ。


「ビクターさん!!」


 フト、見ればエミリオがコッチを見ている。
 考え事をして居過ぎたか。


「ん? おぉ、悪い」


 あー日本食を喰いたい。
 ラーメンが、カレーが喰いたい。
 クソッタレめ。
 この世界は最高だ。
 但し、食い物を除けば。
 アーメンハレルヤピーナッツバター。
 スパゲッティモンスターよご照覧あれ、だ。
 まぁそれでも、英国よりはましかもしれないけれども。


「少し、考え事をしていた」


 そう言えばフィッシュ&チップスは似た様なモノが出来てたな。
 白身魚とジャガ芋っぽいモノを油で揚げて、ビネガーをタップリと注いで。
 だけどそれじゃ、旨味成分は無いんだよね。


「何かあったんですか?」


 真面目に尋ねて来るエミリオに、チョイとだけ罪悪感を感じた。
 だから頭を振って、喰えない食い物の事を追い出す。


「いや、少しだけ――そうだエミリオ、君は食べられないものとか、好物とかあるか?」


 昼からは食料品も揃え様かと考えて尋ねてみた。
 海鼠の食えない奴に海鼠を用意しようとはしない、そゆう事だ。
 喰えないものを積むなんて、容量の無駄ってのもある。


「ありません。生きとし生けるものからの糧に文句を付けるなんて、そんなのは良くない事です」


 キッパリと断言したエミリオだが、少しだけ目が泳いでいる。
 ふむ、あるな。


「本当か?」


「本当です」


 神話の時代、巨人の暴虐の中で立ち上がった神族は、人間から生まれたが故に食い物をも大事にしていた。
 だって人間、喰えなきゃ死ぬし。
 だから食い物に関しては、どの神族を奉っている教団であっても、豚を食うなだの牛は神聖だとかの禁忌は無いが、代わりに大事にしようと云うコンセプトの教義が存在している。
 だからエミリオは好き嫌いを否定している。
 だが、そんな壁を打ち崩す言葉がある。

 魔術とは言葉によって紡がれる。
 だからある意味で言葉は魔法なのだ。
 即ち、言葉の魔法。


「だがエミリオ、同じ食べ物を食べるにしても、美味しく食べられた方が、食い物にとってもありがたいんじゃないかな」


「え?」


「ソレしかないのであれば否定は許されないかもしれないが、選択は罪じゃない。君が選ばなかった代わりに、好きな人がソレを食うのだから」


「えぇ??」


「要するにエミリオ、皆が幸せになるって事だ」


 幸せになろうってのも、教義には含まれている。
 流石は神族、人間から成り上がっただけあって、人間に優しい教義ってなものである。


「そこらへん、どう思う?」


「あっ、えっ、あ、あぁ――僕は」


 好き嫌いを吐き出させた。
 ぶっちゃけて詭弁な遣り方ではある。
 が、反省はしていない。
 目的を達成しさえすれば良いからだ。

 そんなこんなで食に関する嗜好を聞きだし終わった時、不意にエミリオは困った表情を見せた。


「そうだビクターさん」


「ん?」


 続いた言葉は、少しだけ予想外だった。
 少しだけだが。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-10
アーメン ハレルヤ ピーナッツバター

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 昼食を済ませた俺とエミリオが向かったのは、王都の郊外。
 やや離れた場所だった。



 見上げるのは、城壁にも見えるナニカ。
 中々に巨大な実用的な石造りの壁だ。
 それも、窓の少ない石壁で、厚さはメートル級となれば城壁と言っても過言はないだろう。
 だがこれは城壁では無い。
 神殿だ。
 この世界で奉られている神族の中でも特に武断を、悪と対峙しては決して引かぬ“挫けざる心”で知られた第3位の神、女神ブレルニルダの神殿なのだ。

 正義の神様は女神様☆な訳だ。
 しかも、悪即斬型の。
 ………何だろう、この世界って微妙に狂ってると思う。


 兎も角。
 そんな斬悪女神の神殿は、どうみても砦となっています。
 それも実用的な。
 矢を放てる様にしていたりとか、水堀が掘られているとか。
 実に実に砦以外の何物となっている。
 別に、神殿がトールデェ王国と対立しているからって訳じゃない。
 それが基本だからだ。

 <黒>の理不尽と対峙し、人を護る。
 それこそがブレンニルダの、ブレンニルダを信奉する人間の在り様なのだ。
 そんな人間の集団だから“<黒>との最前線に立つ砦”なんて物騒な二つ名が送られ、そしてそれをブレルニルダ教団は誇りとしていた。

 にしても、コレは、だ。


「ビックリだな」


 城郭の類なら兎も角、神殿でコレは無いと、呆れるように呟いてしまったのは仕方が無いだろう。
 丸っきり城郭か要塞である。


「あれ、ビクターさんって来るのは初めてですか?」


「ああ、まぁ――機会が無くてな」


 宗教にタッチしたくないってな気分で、来てなかったのだ。
 ここにも他の所にも。
 いや、愛と歌の神である女神レギンヘーリャは大好物ですペロペロで( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい! はあるけど、その気分は信仰じゃないんだよね。
 ぶっちゃけて、“萌”な訳で。
 特に、実録神話なエピソードの数々を読んでいるとニマニマしか出来ないのだ。
 軍神シュテルマーヌの従神が1柱であるアルフェルトと恋に落ちたりとか、空で迷ったアルフェルトを導く為、高台で歌った話とかとか。
 どこの空馬鹿と歌妖精ですかってなものである。

 ん、話しがずれた。

 兎も角、な訳で神を信仰していないのだ、俺は。
 苦難は実力をもって排除せよ。ナニカに縋るなって自力本願を基本にしている我が母親様の影響かもしれんし、前世の絡みもあるかもしれない。
 仏放っとけ神構うな、と。

 尤も、んな発想はこの世界だと異端になるんで、一応は信仰してますよ。
 している事にしてますよ。
 風来坊の、神ってか亜神であるコブラを。
 コブラは葉巻のよく似合う2枚目半の亜神って事にしている。

 ん。
 要するに、でっち上げたのだ。
 亜神とは、人間が自ら研鑽し神の座へと昇って生まれる神様の事であり、であるが故に数がべらぼうに多いのが特徴なのだ。
 所謂、八百万。
 まぁ実際には100を超える程度だろうが、それでも地方色が豊かで人に知られていない柱はザラに居るので、適当に作っても問題は無い訳で。
 多分。

 尚、亜神なので聖印が無いが、代わりに象徴として葉巻を設定したので、神に祈る的な意味でタバコが吸える。
 素晴らしい。


「そうでしたか。僕は何度か来てましたから、でもビクターさんのビックリする気持ちは判ります」


「何だ、惚れているのか。<聖女>ミリエレナに」


「なっ、ちっ、違います! あっ、いやゃっ、その違うというのも違いますけど!!」


 顔を真っ赤にして慌てるエミリオは、可愛いものである。
 多分に、ミリエレナに抱く気持ちは下世話なモノなんかじゃなくて憧れに似たものなのだろう。


「ぼっ、僕はブレルニルダの弟神バルブロクトの信徒です!! だから、来てて当然なんです!!!」


 拳骨を象徴とする武の神、バルブロクトか。
 別の言い方をすると、シスコンで姉のブレルニルダにデレデレという駄目神様。
 神族へと昇ったのが一番最初だったので主神9柱における第1位の座に居るけど、判断その他を全部、姉神に預けて前線で拳を振るいまくった脳筋神様だ。

 この世界の神様達って、もう駄目かもしれんね。





 別段にイベントも無く、ブレルニルダ神殿に入る事が出来た。
 エミリオが幾度も来ていたお陰で、顔パスに近い形だった。
 面倒が無くて宜しい。


「ようこそ、ブレルニルダ第3神殿へ」


 恰幅の良い老女が出迎えてくた。
 当然ながらも、この人が<聖女>ミリエレナでは無い。
 この神殿を統括する第1位神官長、ゴーレル・ベルネヒトさんだそうだ。
 お偉いさんが出てきたものである。


「初めまして第1位神官長殿、ビクター・ヒースクリフです」


「あらあら、貴方が<鬼沈め>の」


 柔和な作りの顔で、唯一、柔らかさの無い瞳が俺を見る。
 鑑定されているのだろう。
 気持ちの良いものじゃないが、<聖女>なんて云う、この神殿の宝物みたいな女性と共に旅するのだから、まぁコレは仕方が無い。


「はい。がっかりされましたか?」


「そうね。字から、もう少し強面の人を想像していたわね」


「期待を裏切って、申し訳ありません」


「良いのよ、世の中は驚きがあった方が面白いの。だから改めて宜しくね、ビクター卿」


 手を差し出される。
 認められたという事だろう。


「此方こそ」


 エミリオがキョトンとした顔で俺とゴーレルさんの顔を交互に見ていた。
 黒い事が判らないのは悪い事じゃない。
 そのまま真っ直ぐに生きて欲しいものだ。

 さてさて。
 許しを貰ってソファに座る。
 詰め物がしっかりと入っている革製で、中々にすわり心地が良い。


「もう少ししたらミリエレナも来るわ。その間、お茶を楽しんで頂戴」


「有難く」


「はいっ!」


 背筋を伸ばしているエミリオ。
 アレ、会った事無いのだろうか。


「そう言えばエミリオも、かの<聖女>殿に会うのは初めてなのか?」


「はい、遠くから見た事はありますけど、はっ、初めてです!」


 緊張でガチガチである。
 多分に気分は生でアイドルに接する機会の持てたファンといった所か。


「そう、そうね。エミリオにビクター卿、お転婆なあの子の事、宜しくお願いしますね」


 慈母に似た笑顔を見せるゴーレルさん。
 心底からミリエレナの事を大切にしているのが判る笑みだ。

 だから俺は立ち上がる。
 立ち上がって敬礼をする。
 踵を合せ、右の拳を左胸へと当て腕は水平になる様にする。
 ヤマトの敬礼チックであるが、違いが拳を体に水平にする事だろう。
 この敬礼は戦士の誓いを意味し、本来は抜剣して剣先を空へと突き上げて行うものだから当然である。
 尚、この場所に様に帯剣していないのであれば、拳を当てるだけでも十分に正しい敬礼となる。

 否。
 正しいか正しくないかの前に、気持ちの問題だ。
 決意の問題だ。


「誓って」


 俺の少しだけ遅れて、エミリオも立ち上がって敬礼をした。


「かっ、必ずや!」


 動きも言葉も一緒では無かった。
 だが、気持ちは一緒だろう。


「有難う」


 厳粛な空気。
 丁度その時、部屋の扉が叩かれた。


「遅くなって申し訳ありません第1位神官長様、ミリエレナです」


 柔らかな声がした。
 頷くゴーレルさん。


「お入りなさいミリエレナ、丁度良い時だったわ」


「はい」


 ゴーレルさんの声に導かれて入ってきたのは、何だろう、正統派の美少女だった。
 肩で切り揃えられたウェーブの掛かった金髪の、小柄な女性だ。
 可愛い感じである。


「紹介しましょう、此方が貴方の護衛となるビクター卿とエミリオ神官補よ」


「ミリエレナ・ハルメルブです。私も頑張りますので宜しくお願いします。ビクター卿、エミリオ神官補」


 それは、花が綻ぶ様な笑顔だった。
 だからこそ疑問を抱いた。
 何故、ゴーレルさんがミリエレナに対して“お転婆”という形容詞を用いたのか、と。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-11 使徒は脳筋
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:3ff91114
Date: 2011/04/02 09:44
 挨拶と自己紹介。
 ハキハキとした喋り方をする、中々に可愛い子である<聖女>ミリエレナ。

 だがそれ以上に可愛いのがエミリオだ。
 もうね、アイドルに出会ったファンかよってな具合に、頬を真っ赤にして、興奮した風に会話している。
 邪さが無いだけ非常に無邪気。
 正に子犬系。

 そんなエミリオに懐かれて、困惑しつつも満更ではない感じのミリエレナ。
 コッチもコッチでスレて無い感じでグーである。

 そんな2人をニマニマ見ていたら、ゴーレルさんと目が合った。
 アチラも微笑んでいた。


 そんな朗らかな昼下がりは、激しいノック音によって打ち破られた。


「ゴーレル神官長、非常事態です!!」


 誰だ、何だ、こんな楽しい時間を邪魔するなんて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-11
使徒は脳筋

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 無粋への腹立ちを覚えた俺だったが、ゴーレルさんへの報告は、確かに非常事態であった。
 このブレルニルダ第3神殿の近くにある村が、<黒>の部隊によって襲われていると云う事なのだから。
 規模は隊クラス。
 但し、複数の可能性ありと云う話であった。
 リード高原での防衛線が有効に機能しだした昨今では珍しい程に、大規模な侵入だ。


「この第3神殿近くで暴れるとは舐めた真似をしてくれるものね」


 報告を聞き終えると、誰に言う事もなく呟いたっぽいゴーレルさんだが、それまでと全く別の表情を浮かべていた。
 ナニが違うと言う程に変わった訳じゃ無い。
 だが、目が据わって、笑みは張り付いた様な薄っぺらいものへとなっていた。
 言うならば夜叉の表情だ。


「では神官長、何時も通りに」


「無論です。第1戦闘班に非常呼集、前庭に第1種装備で集まる様に伝達。第2、第3班は神殿防備任務を、残る3個班は予備任務を命じます。そうね早馬で王都へも報告を上げておきなさい。神殿の指揮は第2位神官長へ委任します――ミリエレナ、貴方は……」


「第1戦闘班へ志願します!」


「――そう、そうね、貴方は第1班だったわね。良いでしょう神命を果たす前の一仕事をして行きなさい」


「はいっ!!」


 キビキビと命令を出し、それに応じていく。
 何ですかね、下手な傭兵部隊よりも規律がしっかりと出来てます。
 さすがブレルニルダの使徒、<黒>と対峙し、退かぬ事を誓った脳筋宗教家集団だ。
 それでも、狂信者じゃないってのは有難いけれども。

 神族が自ら告げているのだ。
 我等も疑え、と。
 誰かに判断を預けるのでは無く、自ら決めろと。


「すいません! 僕も連れて行って下さい」


 声を上げたのはエミリオだ。
 顔は高潮したままだが、その目には力があった。


「そう言えばエミリオさんはバルブロクト第1神の神官補でしたね、ならば貴方も第1班――貴方も?」


 俺が手を上げたのを確認したゴーレルさんが、笑う。
 割と真面目な理由があるんだけどね。


「ええ。この際ですから、旅の予行演習も兼ねてと思いまして」


 旅に出てから集団戦闘をしてみるより、こゆうサポートしてくれる事を期待出来る環境で試してみる方が、問題への対処は容易だろうからだ。
 それに、他人が義で戦っているのを高みの見物とは性に合わない。
 女子供が殺される様な状況で、戦う選択肢があるのに選ばないんて、趣味じゃ無い。

“何処かの誰かの為に”

 そんな言葉を信じている訳じゃ無いし、そもそもレベルでゲームだったしだが、それでもその精神は良い。
 良い物は良いのだ。

 武装の問題も無し。
 ショートソードは持ってきているし、それ以外にも幾つかは携帯してはいる。
 流石に鎧までは着ていないが、戦えない状況じゃない。
 であれば、退くと云う選択肢を俺は持たない。


「迷惑ですか?」


 一応、確認。
 連携とか、そゆう部分を考えると、邪魔じゃなかろうかって思う面もある訳で。


「それは無いわ。<鬼沈め>の力、見せて貰うわよ?」


「喜んで」





 第3神殿前庭に集まった第1戦闘班に属する100名近い男女に行われたブリーフィングは、極めて簡単なものだった。
 襲われた場所と確認された<黒>の規模装備等の説明。
 そして救援の第1戦闘班班内での役割分担と装備の確認だけだった。
 それも大雑把な。

 思わず「ねーよ」と呟きそうになった。
 敵情やその目的の把握も無しに部隊を動かすのって、博打に近いものがある。
 罠を掛けられては洒落にならないからだ。
 隊規模の敵、但し複数の可能性となれば一個上の群規模になる。
 それは、最悪で1000を超える<黒>の軍勢と戦闘する可能性を意味するのだ。
 彼我兵力差10倍の戦い。
 にも関わらず、ブレルニルダ第3神殿第1戦闘班に属する面々は、意気軒昂といった有様であった。


「大丈夫かよ……」


 思わず漏らした言葉に、ミリエレナが反応した。
 何がですか、と。
 エミリオは初陣らしく緊張した面持ちで、装具や武器の具合を確認している。
 武器は携帯していたが、流石に防具までは装備していなかったので借りているのだ。
 フリーサイズなライト・チェインメイルを。
 後は篭手と、前頭部を護る鉢金を。
 大規模戦闘を考えると簡素極まりない防具だが、無いよりマシってものだ。

 まっ、それはさておき。


「いや、大雑把だなって思えてね」


「大雑把?」


「ああ。敵情の詳細も把握しないってのは、危険じゃないかと思ってね」


 罠とかの可能性はあるのだ。
 昔は力押ししかしなかった<黒>だが、最近では戦術を使うようになってきているという話なのだ。
 ゲルハルド記念大学に講師として招かれて来た、リード公爵騎士団の予備役団員にして南方領総軍の幕僚職経験者の人が言っていた。
 連中はこの10年で、驚くほどの進歩をしている、と。


「罠の可能性はあるかもしれません。ですが我等はブレルニルダの使徒。そこに<黒>に襲われる人が居るのであれば急行するのが我等の誇りです」


 いい笑顔でキッパリと言われた。
 ある意味、見事だ。


「了解。なら、その流儀に合わせるさ」


 ため息を飲み込んで言う。
 嫌いじゃない。
 己の安全を度外視して、人を助けたいって連中を嫌いになれる筈が無い。
 だが同時に頭に痛いものを感じた。
 もう少し、自分の身を護ろうよって思うわけだ。

 兎も角、そんな連中が馬に乗っている。
 一部は馬車に乗っている。
 けが人を運んだり、衣料品を運んだりする為って話だ。
 その馬車、アブラメンコフ式では無く魔法式の緩衝機構を採用した高級品だ。
 ブレルニルダ第3神殿、金満っぽい。

 後、俺とエミリオにも馬が貸し出された。
 乗馬はチョッとだけ苦手だが、贅沢は言うまい。


 エイっと登って座った、鐙の具合を見ているとゴーレルさんが出てきた。
 さっきまで着ていた法衣の上に、着脱の簡単なチェインメイルを着込んでいる。
 その手にはゴッつい突起満載の極悪メイス。
 しかも色は赤味がかった黒。
 どーみても呪われそうなブツだが、事の外よく似合っている。

 というか完全武装です、有難う御座います。
 目的は見送りに、では無いのだろう。

 ゴーレルさん、見ている俺の困惑を無視して、歳を恰幅とを感じさせない颯爽とした仕草で馬に跨った。


「さぁ同胞よ! 生まれた時は違えども同じ神に誓い、誓いに死する覚悟を決めた戦友達よ、今こそブレルニルダへの誓いを果たす時! 出撃だ! 私に続けっ!!」


 駆け出すゴーレルさんの馬。
 そして俺達はその尻を追う。



 跨る姿もなら、馬を操る姿も颯爽としているゴーレルさん。


「格好良い、流石です、ゴーレルさん」


 馬を操りつつも、目を輝かせているエミリオ。
 どうやらゴーレルさん、伝説級のお人らしい。
 どゆう伝説持ちか聞きたい気もするのだが、今の俺は馬を操るだけで精一杯な訳で。
 クソッタレ。
 俺は、馬は馬でも鉄馬専門だ。
 心臓は88ci、吐く吐息は火の付く様な奴だ。
 俺が操るからこそ走れる奴だ。

 馬に乗ったことが無いなんて訳じゃ無いが、こゆう速駆けの経験は無いのだ。
 速く着け、速く着け、速く着け。


「当たり前です。我らのゴーレル神官長なんですから」


「そうですね、ゴーレル神官長なんですから!!」


 エミリオの賞賛に、ミリエレナが我が事の様に胸を張った。
 うん、何か微笑ましい。

 そしてお前ら余裕だね。
 俺は口を挟む余裕はないよ。
 クソッタレ。

 黙々と馬を走らせる俺。
 少しだけコツが掴めて来た頃に、エミリオが目的地が近づいたことを叫んだ。


「見えました! アダンド村です!!」


 オーイェー。
 神様、アンタはサイコーだ。

 広がった視野。
 気付いたら、平地だった。
 その先に木製と思しき巨大な塀が見えた。
 周りに群がっているゴブリンの群れは、宛ら甘いモノに取り付いた蟻の集団に見えた。
 数は100や200って数じゃないが、流石に1000は超えて無さげでだ。
 適当に500と考えれば、一人頭で5体。
 まぁ無茶な数値なんかじゃない。
 背中さえ取られなければ。
 それも、飛び道具でなければ。

 何にせよ、急がねばならないだろう。
 塀の辺りでの攻防戦が見えないので、村の門は破られているのかもしれないからだ。

 と、右手を振り上げるゴーレルさん。
 それを合図に、ゴーレルさんの傍らを走っていた副官役の神官さんが声を上げる。


「総員、装具確認! 抜剣!!」


 その言葉に、慌てて手綱や鞍、鐙の具合を確認する。
 良し悪しが良く判らないが、力を入れてみたが問題は無さげだ。

 乗馬時に預かったハルバードを、鞍のラックから引き抜く。
 俺だけじゃない。
 エミリオもミリエレナも、他の第1戦闘班の面々が、各々の武器を掲げ戦闘準備を終える。


「総員、準備良し!!」


 副官役の神官さんの言葉に頷くゴーレルさん、そして手を前へと振り下ろす。
 <黒>の軍勢を断ち切る様に。


「突撃!!」


 迷いの無い、裂帛の気合。
 それを合図に第1戦闘班と俺達は、ゴーレルさんを先頭に駆け出すしたのだ。





 100名余りの人間によるが騎乗突撃。
 その迫力は絶大であった。
 先鋒が接触するよりも先に一部のゴブ助は壊乱し、迎撃に魔法どころか矢すらも降ってこない。
 無人の野を駆けるが如き突撃となったのだ。
 騎兵突撃テラ怖ス、だ。

 そら人間だって、100馬からの突撃を受けたら冷静じゃいられない。
 ましてや小胆なゴブ助が、だ。
 そんな、三々五々と逃げ惑うゴブ助の隊列を攪拌し、ケツからブッ飛ばすのだ。

 突撃が、隊伍を組んでの突進が生み出す衝動が駆け上がってくる。
 俺はソレを素直に解き放つ。


「Uuuuu Ran!!」


 どっかの副帝家戦姫に捧げる騎兵隊チックな気分で、ハルバードを振るう。
 その切っ先が複数のゴブリンを削り、叩き、吹き飛ばす。
 周囲は敵と敵と敵。
 攻撃は、振り回すだけで十分だ。
 であれば、騎乗戦闘に不慣れな俺でも十分に戦える。
 否。
 この環境で、騎乗戦闘のスキルを上げる、上げてみせるってなものだ。

 ついでに槍のスキルも。
 母親様から槍というか長モノの扱いもタップリと仕込まれたが、技量的に見て俺よりも妹弟子なノウラの方が上手かったのだ。
 アレは悔しかった。
 だから、ここで練習をする所存。

 死ね、ゴブ助。
 ハルバードの露と消えろ。

 ハルバードを振り上げて叩き下ろす。
 或いは振り回す。
 それだけで死を量産する事が出来ていく。
 スコアの稼ぎ時って事だ。
 意味は無いけど。
 数えても居ないけど。

 どれ程ぶっ殺したか判らない程に暴れている最中、副官さんのドスの効いた声が響いた。


「総員、集合!!」


 何らかの魔法的手段でも使ったのか、喧騒の中でもその声は良く拾えた。
 振り返って見れば、ピンと立った旗を持った副官さんが、ゴーレルさんの周囲への集合を命令している。
 というかゴーレルさん。
 真っ赤になっているが、怪我をしている風に見えないので、恐らくは返り血だろう。
 パネェ婆さんだ。


「ビクターさん!?]


 隣に居たエミリオが伺う様に尋ねてくる。
 些か興奮気味でしかも疑問符付きの口調なのは、まだ目の前にゴブリンの背中が二桁近くあるからだ。
 後少し、3人で迫れば獲れる――そう思っているのだろう。
 だが駄目だ。
 蹂躙戦は楽しいが、深追いする奴は獲物を前に舌なめずりする奴と並ぶ阿呆って2ものだ。


「いや、戻ろう――ミリエレナ?」


「はい、戻りましょう」


 ミリエレナの方は、落ち着いている。
 エミリオが血に酔っているっぽいのとは対照的だ。
 或いは、経験の差かもしれない。

 まぁそれでも、フォローは少しで済む程度には鍛えられているし、被ダメに怯えない辺りは高評価ってなものである。
 攻撃が、常にフルスイング系の全力攻撃だってのは、頭が痛いが。


「でも、もう少し………」


「駄目だ。命令は命令だ。それに、まだ村の中が残っている」


 そう、俺達はゴブリンを退治する為に来たのではなく、村を、村人を護る為に来たのだ。
 それを忘れてはいけないって事だ。
 そして恐らく、この集合命令も村の内部へと入ったゴブ助の掃討戦に関してだろう。


 その予想は当った。
 ゴーレルさんは第1戦闘班を二つに分け、その1つを外周警戒に。もう1つを内部掃討に向けるとの決断をしていた。

 そして俺らは当初、ゴーレルさん直轄の予備戦力扱いだった。
 が、編制を始めてみたら予想以上に負傷者が出ていたらしく内部掃討組みが人員不足となって、目出度く掃討組みへと編入される事となった。

 ゴブ助程度にと思わないでも無いが、ミリエレナが戦意過多な姿を見ていると、納得できる面もある。
 戦意の高さを否定はしないけど、組織戦闘では割とマイナスな訳で。
 冷静に状況を読まないと、要らない所でダメージを受けるのだ。
 というかミリエレナもフォローを入れなければ、何度も受けそうになってたし。
 それが下もだけならまだしも指揮官までそうだと、もう手に負えない。
 というか、そう考えれば攻撃力の高さに反比例チックな打たれ弱さにも納得である。
 ブレルニルダの使徒、実に実に脳筋集団である。

 まぁ脳筋以外の理由として、将兵の殆どが治癒魔法の使い手か、或いは応急医療技術保持者ってのが有るのかもしれないが。
 それでも、頭の痛い連中である事に変わりは無いが。


 今後はミリエレナの動向に要注意である。
 イザって時に暴走されたら、困る。
 そんな事を脳味噌の端っこで考えながら地面に降り立つ。

 踏みしめる大地の感覚が素晴らしい。
 人間、やっぱり徒歩だよね。
 ハルバードを置いて、馬の鞍にくくり付けていたショートソードを2本、両手に持つ。
 うん。
 コッチの方が安心だ。
 体の調子が戻る様な気がする。



「調子はどうかしら、<鬼沈め>?」


 ゴーレルさんが歩いてきた。
 そう徒歩だ。
 ゴーレルさんは指揮官戦闘の規範を護り、突入救援部隊の先頭を行く積りの様だ。

 その顔には疲労の色が浮かんでいるが、その瞳にはまだ力があった。


「最高ですよ。今からが本番です」


 返り血で体が不愉快だが、それよりも大事な事がある。
 地に足が着いていて、ショートソードを持っているって事だ。
 俺が俺らしく戦える状況なのだ。
 であれば、今までの時間なんて暖機運転か前戯かってなものである。


「……そう…」


 唐突に言葉を切ったゴーレルさん。
 不思議に思って見れば、苦笑を口に貼り付けている。


「何か?」


「何でも無いのよ、只、流石は<鉄風姫>の息子だと、感心しただけの話よ」


 笑みが、爽やかなものへと変わった。
 オーイェー。
 ゴーレルさん、ウチの母親様の知り合いかしらん。
 これは無様な所は見せられんぞってなもので。

 俺は、何時もよりも、もう少しだけ気合を入れた。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-12 攪拌。撹乱では無いのだよ撹乱では!
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:3ff91114
Date: 2011/05/13 00:47
 
 破られている門。
 その閂が、内側へと叩き折られている辺り、ゴブ助は破城槌の如き攻城兵器を持ち込んでいる様である。
 そこら辺に転がってもいないので、判らないが。


「突入!」


 ゴーレルさんの命令で、村内突入班の34名が破られた扉を越える。
 周辺を警戒して、だが怯える事無く、そして迷う事無く進んでいく。
 6割以上の人員が脱落しているにも関わらず組織立って動ける辺り、ブレルニルダ第3神殿第1戦闘班が持つ錬度の高さを示していてる。
 というか、脳みその片隅に残った軍事趣味者な知識が、第1戦闘班の持つ錬度は“高い”なんて一言で表せない、キチガイ染みたレベルにある事を教えてくれる。
 損耗率6割で尚、攻撃任務が遂行可能。
 それなんて帝国陸軍ってな感じである。
 否。
 帝国陸軍だって、普通に無理だ。
 多分。

 兎も角。
 トールデェ王国でも一般的に、3割の損耗で組織的戦闘能力に著しい困難が生じ、5割を超えれば組織としての機能は期待出来ないってされている。
 にも関わらず、損耗率6割で攻撃任務の続行を選択する指揮官と、疑うことも無く戦意旺盛について行く将兵。

 基本的に士気旺盛で、構成が至極単純なお陰だろうけど、にしても化け物集団である。
 或いは宗教的情熱が原因かもしれない。
 所謂、熱狂的宗教型軍事行動レコンキスタか。
 ブレルニルダは護民を旨とする教義を残した女神だが、本質は勇気を象徴とする正義の神であり、護民の為の武力行動を全肯定しているのだ。
 そう考えれば信徒がこうなっているのも、ある意味で当然か。
 味方でよかったよ、かなり本気で。



 駆ける34名。
 その先導をしているのは、幾度かこの村に来た事のあるという神官だった。
 だから迷い無く、避難所を目指している。

 皆、黙っている。
 険しい表情をしている。
 多分、俺も表情は堅いだろう。

 村は、その何処其処に死体が転がっている。
 人間のものもゴブリンのものも、等しく転がっている。
 地獄絵図もかくやってな按配だからだ。
 
 但し、1つだけ救いもある。
 子供の死体が転がっていないのだ。
 どうやら避難など、最低限度には上手く出来ているらしい。
 であるからには、後は単純だ。
 避難所の扉が破られる前に、村へと入り込んだゴブリンどもを駆逐すれば良い。
 それだけの話だ。

 尤も、単純ではあったが簡単では無い。
 何故なら村の中程、密集した家屋に挟まれて手狭な生活道路にゴブリンが溢れかえっていたからだ。
 クソッタレ。

 興奮し、略奪などをしていたゴブ助が、コッチを見て驚いていた。
 だが反応するよりも先にゴーレルさんが命令を下した。


「突撃!!」


 勇将の下に弱卒無しの格言どおり、迷いのないゴーレルさんの命令に第一戦闘班の突入部隊は欠片の躊躇も見せる事無く、ゴブリンであふれ返った道路へと勇躍突撃していく。


 オーイェー。
 俺はゴブリンの海で泳ぐ趣味は無いってのだが、予備戦力って役割が残念なのも事実だ。
 何故なら、戦闘時に人の背中を見ているだけってのは、趣味じゃないから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-12
攪拌。撹乱では無いのだよ撹乱では!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ゴブリンとの戦闘。
 普通だったら蹂躙して終わりって思うだろうが、閉所で、しかも密集した相手に徒歩で仕掛ける場合、そんなに簡単にはいかない。
 密集していると云う事は、武器を振り回しにくく動き難くなってしまう。
 つまり攻撃は当てにくく、相手の攻撃は当りやすくなるのだ。

 言ってしまえば、組織戦闘の状態となるのだ。

 本来、組織戦闘能力ってのは人間の専売特許であり、対してゴブリンなどは、オークみたいな指揮官級の下にあってさえ、纏まって動く事は出来ても、隊伍を組んでの組織戦闘能力など持っていない。
 だからこそ、数に劣る人間が<黒>と正面から戦えてきたのだ。

 だがそれも、こんな閉所に密集してしまえば話は別となる。
 閉所に密集した事によって、強制的、かつ擬似的な組織戦闘能力をゴブリンも獲得する事となるのだ。

 こうなると厳しい。
 組織と組織の戦いとなれば、個々の能力差よりも、数が重要な要素になるからだ。
 そして、数に於いては劣勢なのが俺達な訳で。
 間違っても負けるなんて言わないが、楽ではなくなるのだ。

 おまけに、進めば進んだだけ左右の家屋の制圧を、住人の安否を確認する為に人数を分けねばならない為、人の手が食われるってな状況に陥っている。

 村に突入してから時間が経過しているが、正直、その前進速度はカタツムリ並みだった。
 いや、或いはカタツムリの方がまだマシってな状態だ。
 クソッタレ。

 このままでは埒が明かない。
 否。
 時間が掛かるのが全く悪いと云う訳じゃない。
 時間が経てば外に残っていた連中が回復して此方に参加するかもしれないし、或いは王都からの援軍が期待できるからだ。
 その意味で“だけ”ならば、時間は俺たちの味方だ。
 だが、この場に居るゴブリン以外にも敵が居て、村人の篭っている避難所を包囲攻略していたらどうだろう。
 俺達がここで時間を消費する事によって、救えた“筈の”村人ってなる可能性が大なのだ。

 ならばどうする。
 どうすれば、突破速度を上げられるか。

 否。
 手段はある、知っている。
 だが、それは少しだけ乱暴な手段であり、チョイとばかり危険な行動なのだ。
 だから、俺も少しだけ迷ってしまった。

 間抜けな話だ。
 深呼吸を1つ。

 この手の状況を突破する為のセオリーは存在する。
 であるからには、それを選ばずしてどうするというのだ、俺よ。


「ゴーレルさん」


 指揮官に問いかける。
 突撃の許可を。


「どうする気?」


「少しだけ先に行って攪拌してきます」


「攪拌?」


 そう、攪拌。
 撹乱では無く攪拌。
 刃物で首をスポポポポーンして、ゴブ助の隊伍を崩して第1戦闘班による蹂躙戦が出来る状態へと持ち込もうって話だ。
 これは、母親様たちが得意とする戦法であり、母親様たちの様な人間に対して戦場で期待されている役割でもある。

 敵前線の強襲突破と蹂躙を行い、後続部隊突入路の確保 ―― その足がかりを作るのだ。
 言ってしまえば、肉弾でのパンツァーカイルを行うと言えば、母親様たちの異常さが判るってなものである。
 総称として、強襲兵なんて云われるポジションは、正面に立つあらゆる障害を撃破して突進する。
 云わば重戦車の役割を個人が担うのだ。
 他の兵科、というか他の将兵とは隔絶した攻撃力と防御力とを兼ね備えた個人。
 正に化け物。
 化け物で構成された兵科なのだ。

 そんな化け物たちの離れ業を、今の俺程度が全く真似出来る訳じゃ無いが、少しだけの真似事ならば出来る。
 特に、ゴブリン程度を相手にしてであれば。


「行かせて下さい」


「………」


 じっとコッチを見てくるゴーレルさん。
 その瞳をじっと見返す。


「英雄志願 ―― って訳じゃ無さそうね」


 頷く。

 英雄なんて趣味じゃない。
 だけど、出来る事があるのにしない怠慢は、もっと趣味じゃない。
 それだけの話だ。


「いいわ。なら<鬼沈め>、貴方の全力に期待するわ」


「任せて下さい」





 攪拌に飛び込むには、先ず前線を越えなくてはならない。
 本気で殴り合っている人とゴブリンの間を。
 相手が退く筈は無い。
 そもそも、押し込める事が出来るなら、最初っからこんな形にはなっていない。
 味方に退いてもらう訳にはいかない。
 退けば、その動きに便乗して迫られれば、それは相手に勢いを与えるのと一緒だからだ。

 ならばどうするか。

 答えは単純。
 前線を飛び越えてしまえば良い。
 そんな事が出来るが為に、俺は鎧とかも着込んではいないのだから。

 負傷して下がっている人の1人から、ハルバードを拝借する。
 飛び越えた先の着地点確保は、流石にショートソードでは厳しいのだ。


「無事に返せとは言わん。が、何匹かぶちのめしてくれよ、<鬼沈め>」


 血を流して重傷でありながらも、目には精気が満ちていた。
 その意気を受け取る。


「了解」




 深呼吸。

 そして走りだす。
 一歩二歩三歩。
 四歩目を踏み込む時には、トップスピードに達する。
 そして五歩目。
 踏み切って飛ぶ。
 狙いは戦列の横、生活道に迫っている家屋の壁だ。
 壁を蹴る六歩目。
 狙い過たず、俺の体は前線を飛び越える。

 俺を呆然と見上げているゴブ助s’。
 いいのかい? 俺は敵は無抵抗だろうが喰っちまう男だぜ。

 ゴブリンの1匹を踏み潰すように着地。
 縮めた膝を伸ばして立ち上がる。
 その挙動を予備動作にして、一気にハルバードで薙ぎ払う。
 悲鳴と血と、そして内臓を撒き散らしながら吹き飛ぶゴブリン、ざっと4匹。

 前に進みつつ、更にもう一振り。
 今度は2匹が吹き飛ぶ。
 や、1匹か。
 もう1匹は穂先に引っ掛かっている。
 引っ掛かっている奴は、致命打を受けているのか、ピクリとも動かない。

 俺は、垂れて来る血を受けながら、ハルバードを垂直に掲げて、これから屠る相手を睥睨する。
 ゴブリンが怯える様に、戦意を挫く様に。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 吼える。
 吼える。
 吼える。
 1つの音で喉を震わせ、戦意を鼓舞する。

 ハルバードを旋回させて大地に突き刺す。
 切っ先は、ゴブリンを貫いて縫い止める。
 腰に下げた両のショートソードを抜く。

 さぁ進軍だ。





 切る。突く。叩く。潰す。殴る。蹴る。

 言葉にすれば単純な、それだけの事を進みながら行う。
 但し、相手からの反撃を受けつつ、だ。
 斬り捨てたゴブリンの死体がゴロゴロと転がっている場所で、足元を見ずにステップを踏もうというのは、馬鹿で自殺志望と同義だからだ。
 無論、回避だけではなく、攻防一対とばかりにショートソードで攻撃をしながらも受けて流そうとしてはいるのだが、流石に四方八方からの攻撃となっては裁ききれない。
 体中が傷だらけになっていく。

 首から上と体の中心線、そんなバイタルパートに当りそうな奴には避けるか捌くかしているが、それ以外は当るに任せている。
 小さい、致命傷以外の傷であればマーリンさんのタリスマンが回復してくれるってのもあるが、それ以上に、そんなモノまで対処しようとしたら前に進めないからだ。
 俺の目的は、ゴブリンの段列を攪拌し壊乱せしめて、主力隊の前進を助ける事だ。
 であるからには、前進を阻害する要素は全て斬り捨てるべきなのだ。
 アレだ“同志、側面には気にせず突進せよ”ってものだ。

 だから傷だらけになっていく。
 ライト・チェインメイルの防御力はそれなりだが、それでもコブリンの攻撃を全て跳ね返せる訳じゃ無い。
 その衝撃を殺せる訳じゃ無いからだ。

 刺し傷、擦り傷、掠り傷。
 致命傷じゃないからといって、決して痛くない訳じゃない。
 それどころか、連続する鈍い痛みは、歯を食いしばっていないと悲鳴の1つも漏らしそうになる。
 だが、無視できない訳じゃない。
 痛みを無視して、前進する。
 前へ。

 致命攻撃ではなく、徐々には回復できるダメージに収まる攻撃であれば、そんなモノを避けるよりも先に進むべきなのだ。
 ゲルハルド記念大学の、強襲兵上がり実戦教官は、それを誇らしげに言っていた。
 これが強襲兵。
 やってみて、その正気を疑いたくなる兵科ではある。
 あるのだが、俺が進むたびにゴブリンの混乱広がっていくのを見れば、その効果は、意義は疑うべくも無いって奴だ。



「Kietu!」


 踏み込んでの右斬撃は、1匹目の胴体を寸断した上で2匹目まで吹っ飛ばす。
 が、その挙動で生まれた隙を、ゴブリンが埋めてくる。


「ギィィッ!!」


 下からの切り上げ。
 刃先の錆びたロングソードは、俺のわき腹を狙ってくる。
 狙いの正確さと、斬られる味方を囮として踏み込んでくる思いっきりの良さ。
 ゴブリンにも出来る奴が居る。
 だが、その一撃は俺にとって致死足りえない。
 周りにゴブリンが居るので大降り出来ていないからだ。

 切っ先が俺の脇腹を叩く。


「っ!」


 一瞬、息が詰まる。
 刃先が身に届かずとも、それなりの勢いが乗った数kgもの鉄塊による衝撃は軽いものじゃない。
 体がよろけるが、耐える。

 数的劣勢は考えるだけ無駄な状況で、守勢に回っては危険だからだ。
 というか、ブッチャケて捕殺されてしまうだろう。
 幾らゴブリンが相手とはいえ、密集されてしまうと厄介なのだ。

 というか、この点だけは見積もりが甘かったと反省である。
 クソッタレ。
 臆病者揃いのゴブリンとはいえ、逃げ場が無ければヤケクソになるのは道理ってなものだ。
 学校の座学で聞いていたとはいえ、護らなければ意味が無い。
 クソッタレのクソッタレだ。

 とはいえ、後悔してても始まらない。
 既に前線からは10m以上も切り込んでいて、支援は受けられ難い状態だ。
 後続の第1戦闘班も俺の突進によって出来た突破口から突入して来てはいるが、追いついてはいない。
 そう思っていた。

 柔らかな手が俺を包むまで。



「偉大なるレオスラオの名に於いて――発動せよ治癒の力! 癒しの御手


 神の力である奇跡を、魔法として体系付けた神 レオスラオの名において発された力ある言葉スペル
 これをトリガーに魔法で力場が生まれ、俺を包み、体中の細胞をリフレッシュさせていく。
 治癒の力、この癒しの御手とは救急用にと生み出された簡易発動型の治癒魔法だ。

 尚、救急用の簡易魔法といっても誰でも使える訳じゃ無い。
 魔法行使者マジックユーザーとしての正規訓練を受けた人間であれば発動できる、という魔法なのだ。
 ある意味、通常の治癒魔法の持つ特徴――手順さえ踏めば誰でも発動出来ると云うものと、真っ向真逆のアプローチで生み出された魔法なのだ。

 発動させるスキルを高度に要求する代償に、手順をすっ飛ばせる。
 うん、急場の手段としては全く間違えてないってなものである。
 オマケとして、高度な魔法ではあるが、正規の魔法と比べて威力が低いのは仕方が無いってのの範疇だろう。
 きっと。

 そんな高度な魔法を誰がっと、一瞬だけ振り返って見れば居た。
 俺の後ろにミリエレナが、そしてエミリオが。
 ゴーレルさんの所に、予備戦力として置いてきた筈が、そこに居た。


「なっ!?」


 何故にと続ける前に、エミリオが笑って答えた。
 仲間ですから、と。
 仲間がたった1人で悪戦するのを黙って見ていたくないから、ゴーレルさんに許可を貰って突貫してきましたと。

 見れば、2人とも少なからぬ傷を負っている。
 だが表情は朗らかだ。
 オーイェー。
 チョイと、ホロっと来たぜ。
 そうだな、仲間チームだ。

 何だろう、俺も気負い過ぎてたか。
 溜まってきた疲労とかダメージが視野を狭めたか。
 笑ってしまう。
 笑ってしまう位、気持ちの良い敗北感だ。


「なら、背中を任せる。遅れるなよ」


 広がった視野が俺に、自分が何をしているか、何処に居るのか、どうすべきか。
 それら全てを教えてくれる。

 先ずは肩の力を抜いて、両のショートソードを振るう。
 自然な流れで振るわれたその2つの切っ先は、俺の両脇に迫ったゴブリン2体の喉元を、一挙切り裂いた。

 汚い悲鳴と共に、絶命するゴブリン。
 だが、倒れる前に次が迫ってくる。
 当然か。
 そゆう密集地へと殴りこんでいるのだから。

 だが、焦りはもう無い。
 次との距離と位置。
 或いは足元の状況の把握。
 状況の把握が余裕をもって行える。
 それは、仲間が居るから。
 背中に居てくれるから。
 実に素晴らしい。

 そして、状況を正確に把握できれば、出来る事はかなり広がっていく。
 いくのだ。
 攻撃も回避も自由度が上がっていく。


「ギィィッ!」


 ゴブリンの攻撃をすり足で避け、すれ違い様に一撃を加える。
 剣先だけではなく、柄ででもぶん殴れば戦闘不能に持ち込める。
 ガキの頃でも馬鹿みたいな握力筋力があったが、最近に到っては指の力だけで絶壁に近い石垣を昇れるってレベルにまで達したのだ。
 鍛えたってのはあるが、にしても非常識なレベルである。
 まっ、今は単純に有難いけど。
 柄で顔を狙えば、目玉を潰さずともそれだけで戦闘力を奪えるのだ。
 便利なものである。
 人としてどうかと思う面もあるけれど。

 攻撃は、我が事ながらも元からパネェって感じでは在るが、開眼したのは回避だ。
 当ってもまぁいいやと思ってから、回避が簡単になった。
 違うか。
 回避に余裕が出来たのだ。
 これは回復手段の確立によって、今までと違って、過剰な余裕を見てではなくギリギリで避けようとした事で生まれた余裕だった。

 足元だってそうだ。
 大きく回避する為のステップ機動は困難だが、細かい回避の為のすり足は簡単だ。
 踏みしめながら動くので、足元の邪魔モノが問題にはならないのだ。
 その分、足腰に負担が掛かるが、それでも無視出来る程度には治まっている。
 するとどうだろう。
 回避力が劇的に上昇したのだ。

 今までだってギリギリに近いレベルで行っていた回避行動ではあった。
 が、基本コンセプトが回復を前提とせずに、バイタルパートへの被害を軽減して継戦能力を維持しようと言う回避だった。
 だが今は、多少の被弾は回復を仲間を信じる事で、当っても良いとの必要最小限度の回避行動にしたのだ。
 するとどうだろう。
 逆に命中が減った、或いは薄皮一枚なダメージは受けるが、次の回避行動に余裕が出来たのだ。

 コレってアレだ。
 死中に活を求めよってのが真理だったって話しかね、全く。

 ん、嫌いじゃ無い。





 切る。突く。叩く。潰す。殴る。蹴る。壊す。殺す。
 回避が簡単に成ってしまえば、後は作業だった。

 ゴブリンの集団を攪拌しながら、前に前にとつき進む。


「ギェッ!」


 低い位置から逆袈裟で振るわれた切っ先が、ゴブリンを真っ二つにする。
 その先には、平地が広がっている。
 抜けた、抜けたのだ。

 村の中心街を貫通して、奥の広場に到達。
 そこにはもうゴブリンは残っていなかった。
 周囲を確認。

 居た。
 もう少し離れた場所に黒山染みたゴブリンが居る。
 頑丈そうな建物に集まっている。
 アレが村の避難所か。

 いや、ゴブリンだけじゃない。
 オークやオーガーっぽいサイズの連中も居る。
 この村を襲った連中の主力か。


 どうする。
 迷いはある。
 このまま、主力に強襲カチコミを掛けるか、或いは兵法の常道に従って、ゴーレルさん達主力が到達しやすい様に、突破口の拡大を図るか、だ。

 強襲を仕掛ければ、救援は素早く行えるが排除には時間が掛かるだろう。
 対して主力と共に進めば、救援まで時間は掛かるが排除は簡単になるだろう。

 一長一短。
 さてどうしたものかと考える前にエミリオが叫んだ。


「ビクターさん、速く救援に行かないと!!」


 指で避難所を指している。
 ミリエレナも堅い表情で睨んでいる。
 おけ。
 なら行動の方針は決まった。

 が、その前にする事が2つ。


「Tetu!!」


 バックステップと共に旋回攻撃。


「えっ!?」


「あっ!」


 避難所を見て集中力を途切れさせて隙だらけになった2人に迫っていたゴブリンを始末し、それから声を上げる。


「ゴーレルさん!! 先行します」


 ゴーレルさん達主力は、後方約10m程度だ。
 だから俺の声は簡単に通った。

 拳を突き上げてたゴーレルさん。
 その意図は1つだけだ。
 進軍せよゴー ア ヘッド だ。


「行こう。但し、十分に注意しろよ。これから俺達がするのは、強襲だ」


 数的優位の相手にカチコミを仕掛けるのだ。
 その覚悟を確認すれば、2人はそろって良い顔のままに頷いた。

 ん。
 覚悟がある奴と一緒に戦えるってのは、気持ちが良いものだ。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-13 晴れ、時々魔法
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/05/27 21:26
 
 住宅密集地から避難所への距離は約100m。
 全力疾走すれば、それこそ5秒フラットも狙えそうなチートな俺だが、到達した時が体力のピークを超えていては意味が無い訳で。
 だからある程度は、加減して走る。
 更に言えば、一緒に進むエミリオとミリエレナの様子も勘案する。
 俺はマーリンさんのタリスマンによって体力は回復しながらの突進だが、2人は素の体力だけなのだ。
 にも関わらず、最初は全力疾走をやろうとしやがって、慌て早足程度に抑制させたのだ。

 残り70m。

 無論、最初は不満を口にしたが、『人を護りたいって気持ちは偉いモンだが、助ける為に自分の状態が万全じゃなければ、助けられるものも助けられない』なんて言ったら落ち着いた。
 至極合理的内容なので、反論しようが無いって話でもあるが。

 残り40m。

 兎も角。
 そんな早足で駆けながら、気分を蹂躙戦から強襲攻撃へ切り替える。
 鎧袖一触出来るゴブリンから、今度はオークとオーガーを相手にするのだ。
 オークはやや大き目な人間サイズなので、恐ろしいと言っても程度問題ってなレベルの豚助な脅威だが、オーガーは違う。
 一回り以上も巨大で、しかも膂力もハンパではない化け物なのだ。
 ガキの時分に俺が1人でブっ倒せたが、だからと言って余裕を見せれる相手じゃない。
 軽い一撃じゃ沈められない相手だ。
 気分を切り替えていないとヤヴァスってなものだ。

 残り10m。

 死体が散乱している。
 ゴブリンと人の。
 村人は必死に抵抗していた様だ。
 中には子供を抱きしめていたと思しきものまである。
 もう少し速ければ、そう思うと腸が煮えくり返る。
 だから意図的に見ないようにして走る。
 怒りに支配されては効率的にゴブリンを殺せないし、残る村人を救えないからだ。

 と、ゴブリンが叫んだ。
 コッチの事に気づいたか。
 だがもう、遅い。

 残り0m ―― 接敵。

 警戒の声を上げる音源たる喉元を、鎧と顎の隙間を、撫でる様にショートソードを振るう。
 ガキの昔は、走りながら狙いをつけて斬るなんて出来なかったが、今では簡単だ。
 簡単だと言える程に、ショートソードが俺の手の延長になる様にと日々、振るってきたのだ。
 外れる筈など無かった。


「ギィッ!?」


 狙い過たず。
 鮮血を撒き散らし、汚い悲鳴と共に崩れるゴブリン。
 だが役目は果たしていた。
 その断末魔に、ゴブ助と他の連中の約半分がコッチを見た。
 具体的には100匹を超える数が、だ。

 オーケー。
 これだけの悪意に晒されるなんて、滅多に無い経験ってなものだ。
 怖くてゾクゾク来る。
 その悪意に染まった醜悪な面を、恐怖で塗り潰して断末魔を叫ばせてやる。


「Siiiiiii!」


 かみ締めた歯茎の隙間から意気を吐く。
 更に振るうショートソード。
 付いてきた2人も加わって、傍に居たゴブリンを一蹴する。


「狙いは判っているな?」


「はい」


 右横でしっかりと頷いたエミリオ。
 神殿で借りたインファントリーシールドに身を隠しながら、自前のロングソードを構えている。
 隙の少ない姿は、今までの研鑽を感じさせてくる。
 悪くない。

 対してミリエレナは言葉を紡ぐ。
 此方が構えているのは、グレートソードだ。
 <剣嵐>のパークスが持っている神造剣クロイブや、母親様のドラゴンベイン程に極悪なサイズでは無いが、それでも並みのブロードソードより一回りは大きな剣だった。
 ソレを、両手で持っている。
 それが堂に入っている辺り、おっそろしい<聖女>も居たものだが、それよりも疑問が1つ。
 そんな状態でどうやって俺に治癒魔法とか掛けたのか、と。
 いやまて。
 だからこそ<聖女>か。
 納得した。

 したくないけど、しておく。


「オーク、集団の頭を叩く」


 鋭い眼差しでオークを睨んでいるのを確認。
 そらま、今回の首謀者だからミリエレナが睨みたい気持ちも良く判るってなもので。


「宜しい。ならば突撃だ」


 ショートソードを振りぬく。
 突撃。

 万言を費やすよりも、行動で示す時だ。
 <黒>への怒りを。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-13
晴れ、時々魔法

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ザックリザックリと、当るを幸いになぎ払って突き進む俺達。
 エミリオは当然としても、ミリエレナも又、それなり以上に使えていた。

 ブンブンとグレートソードを振り回すのではなくコンパクトに、だが十分に慣性を生かして攻撃している。
 後、切るというよりも叩き殺すって感じだ。
 ミリエレナにやられたゴブリンは、鎧ごとにミンチになっている。
 より正確には粗刻み。
 何だろう、いっそメイスでも使えばと思うような
 趣味なんだろうね、きっと。

 そんな風に、2人を観察しながら戦う。
 否、観察ではなく管理しながら、だ。

 見ている限り、2人とも戦闘スタイルは驚く程に似ている。
 そう、全力攻撃ガンパレード型なのだ。
 攻撃優先なのは良いとしても、適時の治癒魔法よりも攻撃を優先するって問題児な訳だ。
 となれば俺がフォーメーションを考え、治癒魔法の使うタイミングを指示しなければならないって状況な訳だ。
 真っ直ぐに進む、その背中を護ってもらうだけならまだしも、横に並んで前に進むとなると、統制を取らずにいては力が上手く発揮出来ないのだ。
 特に、数的不利な戦況では、バラバラに戦っては各個撃破されるのがオチになるから。

 だから見る。
 エミリオをミリエレナを、敵を己を。
 それらを把握し、指示を出し、振るわれる力を適切にコントロールして敵をぶちのめすのだ。
 ゲルハルド記念大学で部隊指揮官コースも選択したので、野戦指揮官としての基礎的な事は学んではいるが、まさか卒業もしない内に実戦で指揮官役をするなんて思いもしなかった訳だ。

 クソッタレ。
 他人の命を預かる重さ、パネェわ、マジで。




「エミリオ! 深追いするなっ!! 目的を忘れるなっ!!!」


 ぶっ倒れた相手に追加攻撃を行おうとしたのを止める。


「ミリエレナ! 時間を作る、自分に治癒魔法を!!」


 怪我の度合いを確認して治癒魔法を指示し、その隙をカヴァーする様に動く。

 都合3匹のゴブリンが迫ってくる。
 その切っ先を、コッチのショートソードの刃が痛まない様に相手の錆びだらけの刀身に此方の刀身を沿わせて流し、隙を狙って打ち込みを食らわす。
 今使っているのも強化魔法が付与されたショートソードだが、刃先を痛めるリスクを背負わずに済むのであれば、それに越した事は無いってモノだ。

 都合5合の応酬で、3匹を尽く屠る。
 が、追加が来る。
 御代わりだ。
 今度のは11匹。

 オークに脅されてか、怯えた表情で遮二無二の勢いで突っ込んでくるが、それで打ち止めだ。
 その向こうにはオークが居る。
 ひぃ、ふぅ、みぃ、と数えて6匹のオークが。
 偉そうに金色の陣羽織チックなモノを裸の上に羽織ってやがる。
 見事な変態臭だ。
 いろんな意味で生かしてはおけない。
 こんなのが王都の、妹やノウラの傍に存在しているってのが赦しがたい。
 殺意が3割り増しになった。
 ショートソードを握る手に、力が篭る。


「Su Arekasi ってなぁ!!」


 吼える。
 だが殺意は滾らせるのではなく、研ぎ澄ませ両腕に乗せる。
 振りぬくショートソード。
 集団で飛び込んできたゴブリンの3匹が、派手に弾ける。

 鎧袖一触、そんな俺の攻撃だけではなく、エミリオもやる。
 振るったブロードソードが、ゴブリンを真っ二つにしている。
 貧弱なゴブリン相手にすらも全力攻撃を常に行っているのだ。
 エミリオの膂力を推測するに、フルスイングしなくても潰せるだろうから、実に効率の悪い事だ。
 或いは勿体無い。
 そこ等辺は今後、指導しておく必要があるだろう。


 瞬く間に半分近くが消し飛んだゴブリン。
 第2列へは、ミリエレナが真っ先に突っ込んだ。
 水平にフルスイングされたグレートソードがゴブリンをミンチに変える。

 ふた呼吸の間にゴブリンが半分も喰われた事に慌てるオークども。
 その表情が、心地よい。

 豚のような悲鳴を上げるクソオーク、最後の心の支えであるオーガーは、まだ避難所の入り口の方から来る途中だ。

 腐れ豚助のオーク野郎は、安全な後方に陣取っていた。
 高みの見物としゃれ込んでいた。
 その事が仇となっている。

 オーガーが来る前に細切れにしてやろう。


「ミリエレナ!」


「はいっ!」


 打てば響くとばかりに、ミリエレナはグレートソードを全力で振り回した。
 大旋回。
 更に2匹の胴体が泣き別れとなった。
 その迫力に、腰の引けたゴブリンを一挙に畳む。

 障害の消滅、であれば後はオークを挽き肉にしてやるだけだ。
 と思った矢先に、何かを感じた。
 それこそピキーンッ! って感じだ。
 その直感に素直に従って、体を動かす。
 ニュータイプって訳じゃ無いが、この世界の第六感って奴はあてになるのだ。

 硬音

 さっきまで俺の居た場所へ、炎の礫が打ち込まれてきた。
 攻撃魔法だ。
 ストレートに、<黒>の連中が使うから黒魔法なんて俗称されている、四元素魔法って奴だろう。
 <黒>の領域でのみ採掘されていると云う、各種元素の力を蓄えた元素石エレメント力ある言葉トリガーで開放するという、システムになっている。
 手元に元素石があって、魔法を操る素養さえあれば誰でも使えるという、シンプルイズベストな魔法との事だ。
 威力は元素石の質および量に比例するから、実に単純で戦闘向きでもある。

 問題は、ソレを行使しているのが敵って事だけだ。
 クソッタレ。

 脳筋がデフォなオークにゃ滅多に居ない、魔法能力持ちの個体マジックユーザーが居たか。
 豚のクセに生意気な。

 視認。
 オークの中の1匹が前に出ている。
 ご大層に羽根飾りが付いた、でも薄汚さ漂うローブを着たヤツが、手をジャラジャラと動かしている。
 まだまだ元素石の備蓄は十分っぽい。
 空へと投げる動作、そして叫んだ。


「 Пламени стрельба Камень Три 」


 細切れな濁声に答えて、空に3つの火炎球が生まれる。
 それらが集束し、一気に降り注いでくる。
 しかも、コッチの動きを阻害するように、集中せずにバラけて、だ。
 メンドクセェ。
 どうやら相手は素人じゃ無さそうだ。

 回避。
 跳ねる様に転がって逃げた足元に、焦げた穴が穿たれる。
 狙われているのは俺か。
 転んで打った肩が痛いが、それに反応するよりも先に立ち上がらないとヤヴァイ。
 弾痕から察するに、この魔法の威力、痛い程度じゃ済みそうに無い。
 大学で魔法抵抗レジストの技術は学んでいたし、俺考案で作った消費型の対魔法護符ヨリシロも持ってはいるが、とは言え、だ。

 致死即死の類は無いだろうが、だから大丈夫って訳じゃないのだ。
 人間だから。
 主にメンタル的な意味で。


「下がれ!」


 立ち上がりつつエミリオとミリエレナに警告を発するが、それとほぼ同じタイミングで、又、オークが空に撒く仕草をした。
 連続射撃か、パネェなオイ。


「 Пламени стрельба Дождь Два 」


 今度は2個生まれた火炎球が集束せずに、そのまま破裂する。
 面制圧を仕掛けてきやがった。
 ヤヴェか、コレは。
 少し、魔法を舐めてたわ。

 見上げれば、雨霰と降り注いでくる。
 綺麗だ。
 ほんの、秒にも満たない時間だが、確かに俺は、立ち上がるのを忘れて見上げてしまった。
 俺の命を取りに来ているってのに。

 馬鹿だよ、本気で。

 そんな俺の視界を閉ざす影。


「ビクターさん!!」


 エミリオだ。
 盾を抱えて突っ込んで来やがった。
 エミリオの盾、インファントリーシールドは鉄の枠で形を整えた木製の盾だ。
 表面には牛の革を張っているが、そんなに魔法に対しては強く無い。
 なのに突っ込んできた。
 俺の為に。
 仲間を見捨てない ―― そんな素直な性根は嬉しいが、同時に嬉しくない。
 俺はコイツを護るのも仕事だからだ。

 馬鹿野郎! そう俺が怒鳴る前に、エミリオは力ある言葉スペルを発した。


「偉大なるレオスラオの名に於いて ―― 発動せよ堅牢なる力! 揺るがぬ盾


 盾が光ってその周辺、実に盾面積の倍ぐらいにまで、ぼんやりとした力場とでも言うべきモノが展開したのが判った。
 盾も防御力を付与する魔法だ。
 物理的も魔法的もあらゆる攻撃に抗甚しうると言われる力場が、言われる通りの能力を発揮し、炎の雨粒の尽くを弾いた。
 マーベラス。

 魔法、マジ凄い。
 笑うしかないってか、笑えて来る位に凄い。
 その気持ちを素直に口にする。


「凄いなエミリオ!」


「はいっ!」


 エミリオは、満面の笑みを浮かべている。
 きっと俺もそうだろう。

 何故か楽しくて堪らない。
 と、見ればエミリオの後ろにはミリエレナが当然の顔をして、立っていた。
 その顔色に怯えは無く、戦意だけがあった。
 コレは確かにチームだ。
 今日出来たばかりのだが、その意志に乱れは無く、目的に揺らぎはない。

 攻撃。

 大きな盾に隠れた3人。
 だが、ここからするのは防御じゃない。
 楽しさが益々に大きくなる。


「行きましょう!!」


 ミリエレナの宣言。
 それに否と応えるなんて、あり得ない。


「応さ!」


 心機一転で駆け出す。
 もうオーガーどもが、かなり近づいてきている。
 手早く片付ける必要がある。

 一歩、二歩、三歩。
 体がトップスピードに乗る前に、ローブ・オークが空に撒く仕草を見せた。
 阿呆が。
 距離を詰めてんのに、詠唱なんて暇、与えるかよ。


「Kiei!」


 右手に持ってたショートソードをブン投げる。
 投擲の様に、槍の様に。
 穿つ様に。


「 Пламени ――」


 切っ先が、狙い誤らず喉元を貫いた。


「―― ギィッ!?」


 汚い絶叫。
 だがそれは、暴発した魔法によってかき消された。
 元素石が炎に変換される所までトリガーが引かれていたのだ。
 であれば、暴発するのも当然だ。

 降り注いだ炎によって、松明となったローブ・オーク。
 俺のショートソードを1本、道連れにした事を最大の戦果として逝きやがれ、だ。
 魔法の掛かった逸品は、糞豚の副葬品としては、贅沢極まりないってなものだ。

 残るオークは5匹。

 1匹目には、勢いをそのままに、右肩からのブチかまし。
 最後の踏み込みで、思いっきり脚のばねをたわませてしゃがみ込み、下から上への突き上げる一撃で。
 派手に揺れるオーク。
 だが倒れない。
 厚めの皮下脂肪越しだが、ダメージは通っている。
 ゴブリンならコレで御昇天な一撃だが、流石のオークはまだ逝かない。
 だから追加攻撃。

 密着したままにショートソードを太鼓腹に差込み、水平に切断。


「ゴォッ」


 ハラワタをブチマケたオーク。
 血と糞と腸が俺にも帰ってくるが、気を向ける暇は無い。
 残る4匹の内、2匹もコッチで着たからだ。
 残りはそれぞれ、エミリオとミリエレナが対応している。
 流石に挟まれている状況で、2人を見る事も、ましてやサポートする事も出来ない。
 だから、さっさとブチ殺してやらんにゃならん。

 そんな、攻撃的な事を考えていても、先ずする事は回避だ。
 何たって、今俺にブロードソードの切っ先が迫って来ているからだ。

 振り下ろされてくる刀身は錆びだらけだが、その柄には装飾っぽいものがあるのが見える。
 ンな汚い切っ先を受けてやるものか、だ。

 だが、回避をするにしてもバックステップはしない。
 もう1匹が、その方向で棍棒を振り上げているからだ。
 フルスイングのホームラン狙い。
 ファック。
 ボールか、俺は。

 だから下がらず前に出る。
 斬りかかるには距離が近過ぎる。
 だからこその踏み込み。
 相手の剣も触れない位置へと距離を詰め、膝蹴りを打ち込む。
 打ち込もうとした。


「くっ!」


 打ち込んだ膝が、カウンターの膝に当たって弾かれる。
 相手も無能じゃない。
 遮二無二に下がりやがった。
 やる。

 お互いにバランスは崩れたが、まだ相手にはジョーカーがある。
 もう1匹のオークだ。
 視野の隅で見れば、今度は棍棒を袈裟懸けに振りぬいて来ている。
 並みの子供みたいなサイズの棍棒が直撃しちゃぁ、洒落にならん。
 粗い表面の仕上げから、撫でただけで肌が下ろされる。

 後先を考えずに回避。
 ジャンプ。
 世界高飛び選手権で悪くない成績を収められそうなレベルのジャンプを、脚の筋力だけで敢行。
 うん、毎度思うが俺の身体能力はチートだ。

 着地。
 息を吐きつつ、脚のばねを思いっきり沈めて衝撃の吸収。
 そして立ち上がりつつ、更に跳ねる。
 挟撃されぬように距離を取るのだ。
 無論、ブロードソード持ちが距離を詰めようとするが、コッチが優速だ。
 イチ、ニの2ステップで挟撃状態から脱するだけの距離を確保した。


「Kieeeeeeeeeee ――」


 3歩目の左の踏み込みで、重心を爪先から踵に移し、そのままターン。
 体重の乗った慣性がそのまま脚にいく、普通なら負担の大きい無茶行動だが、マーリンさんの護符は、そんな無茶をも吸収してくれる。
 左脚の撓みを推進力に変え、右脚の踏み込みで下から上へのベクトルを加える。


「―― Kietu!!」


 左手は鞭の様にしならせての斬撃。
 下からの、逆袈裟だ。

 オークにとって想定外だったらしく、切っ先は対抗も抵抗もされる事なくその身を切り裂いた。
 突っ伏すオーク。
 広がる血溜りと、ピンク色だけどグロい何か。

 血臭がキツイが、気にしている暇は無い。
 そもそも原因は俺が、チトばかり血を撒き散らす攻撃を繰り返した結果だから文句も言えない。
 もっとスマートにブチ殺したいが、いざ戦場となれば、どうしても効率最優先に成るのだから仕方が無いってものである。
 残念。


「つー訳で、偶には綺麗におっ死ね豚助!!」


 嘲りを込めた声に、棍棒のオークが反応した。
 怒声と共に、棍棒を振りかぶって突進してくる。
 悪意は言葉の壁を越えるってなものだ。

 簡単に頭に血を昇らせている辺り、まぁ馬鹿の類ではあるが。
 豚で馬鹿。
 救いが無いってなものだ。


「Kieeeeetu!!」


 蜻蛉に構えたショートソードを両手で握って、振り下ろす。
 空気すらも斬る、それがパチ自顕流。
 その斬撃を受けるなど不可能であり、受けようとした棍棒は真っ二つになって、体も真っ二つ。
 弾け散れる血と糞、肉袋。

 ん。
 綺麗に片付けたかったが、ついついやってもうた。
 まぁ、仕方が無いか。
 馬鹿みたいに真っ向から突っ込んで来られちゃ、ついつい叩き潰したくなるってもので。

 兎も角。
 哀れな残骸となった敵なんかよりも味方だ。
 左右を確認。
 軽い調子で口笛を吹きたくなった。
 エミリオもミリエレナも、見事にタイマンでオークを叩きのめしていたのだから。


「大丈夫か」


「問題ありません!!」


 元気よく応えるエミリオに、ミリエレナは笑って頷いた。
 顔に掛かっている返り血さえなければ、可憐と言っても良いが、如何せん今のままではスプラッタだ。
 装具と体調コンディションの確認。
 2人とも良好だ。
 問題は俺がショートソードを1本失っているが、まぁ何とかなる。
 というかする。
 たった4匹のオーガーなのだから。


「なら残るはオーガーか」


 迫り来るオーガーを確認。
 武器を掲げ、戦意満々な風だ。
 だが俺らだって、戦意だけなら負けちゃいない。
 技量だって、そうそう劣っちゃいない。


「ぶちのめすぞって、ゑ?」


 宣言をした。
 コッチからも攻撃を、迎撃ではなく襲撃をしてやろうと思っていた矢先に、4匹のオーガーは横っから襲われたのだ。
 第1戦闘班だ。
 どうやらゴブ助の殲滅に成功して、追いついてきたらしい。


「あれま」


 数の暴力で見事に凹っている。


 そうだ。
 俺は、俺たちだけで戦っているんじゃないんだから。
 変に気負っていたのを自覚する。
 全く、恥ずかしい話だ。

 俺はまだ、戦士としては兵士としてはガキって事だろうな。
 きっと。 
 
 
 
 
 



[8338] 1-14 酒は飲んでも飲まれるな!(手遅れ
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/06/17 22:38
 
 日が暮れゆく中、厳かな声が響いていく。
 発しているのはブレンニルダ第3神殿の神祭長という役職の人だ。
 ふっくらとした体格で、その体格に相応しい声色で滔々と言葉が連なっていく。


「負傷者には敬意を。死者には哀悼を。今日の死線を共に越えた勇気ある者よ、我らは栄えある戦友とならん」


 その口調と言うか抑揚の付け方は、坊さんが葬式でくれる、ありがたーい説法っぽい。
 カテゴリー的な意味で、同じように “宗教” なんだから、似ているのも、そんなモノかもしれない。
 まぁどうでも良い話だ。
 宗教の、有難いお話(棒読み) なので、外面の厳粛さが崩れないように注意をはらっておく。
 なんたって周り中、エミリオやミリエレナも皆してマジモードなんだから、俺だけ外れる訳にはいかないってもので。

 今、俺たちが居るのはブレルニルダ第3神殿の大食堂だ。
 村での一戦を終えた後、予備となっていた第5戦闘班と交代し、重症重体な村人と共に帰還していたのだ。
 で、一通り身を清めて、こざっぱりした格好になって、この大食堂に集まったのだ。
 壁には神族の誕生と巨人との大戦争、実話としての神話が叙事詩として纏められ、描かれている。
 儀式用ではない、実用的礼拝堂の役割も担っているからだそうな。

 というか壁画、実に生々しく戦いが描かれている。
 一にして全アルファにしてオメガ、そう謳われた神を弑し、世界の実権を握った巨人への反逆した神族の物語だから、戦場中心なのは仕方がないのだけれども。
 しかも此処は、勇気の神たるブレルニルダを奉る神殿。
 ブレルニルダを筆頭に、戦いに身を投じた神族や人間やエルフ、ドワーフといった諸族の勇気を讃える為に、戦場エピソード山盛りってなモノなのだ。
 何と言うか、情操教育に実に悪そうな感じである。

 あ、何か判った。
 このブレンニルダの使徒が脳筋だって理由が。
 勇気の大事さだけを言い伝えれていれば、そうなってしまう ―― しまったのかもしれない。
 勇気だけじゃ勝てない現実ってのもある筈なんだけどね。
 戦闘戦争なんて絡めて手上等の筈だけど、散々に勇気を口に続けた結果、自家中毒を起しているのかもしれない。

 なんて、具にもつかない事を考えていたら説法っぽいのは終わった。
 神祭長に代わって、神官長であるゴーレルさんが大食堂の最前列、少しだけ高くなっている演台へ立った。
 それに合わせて、皆が杯を手に立ち上がる。
 遅れぬ様に、俺も立つ。
 手にはキンキンに冷えたビールでは無いが、冷やされた葡萄酒が杯には入っている。
 こうなると、やる事は1つである。


「初めに立ち上がりし勇気の神、挫けざる女神ブレルニルダよ、勇気をもって<黒>と戦う戦友たちに祝福のあらん事を! 乾杯!」


 乾杯の声が唱和し、杯が一気に干された。
 ウマウマである。
 マジで旨い。

 そして大食堂の雰囲気は、厳かなものから一気に砕けた宴会風になった。
 卓の上には様々な料理が並んでいて、これも旨い。
 葡萄酒は、大樽が大食堂の各所に出されており、酌み放題。
 正に酒池肉林。
 戦闘であれた心のリフレッシュタイムだ。

 最初はエミリオとミリエレナと卓を囲んでいたのだが、気が付いたら第1戦闘班の面々に囲まれていた。
 理由は不明だが、気の良い連中ぞろいなので飲んで食って歌って、実に楽しい。
 そうそう、ゴブリンを蹂躙する時に借りたハルバードの相手も出てきていたので、感謝と互いの勇戦を讃えて杯を干しあう。
 ハルバードはあの後、無事に回収されていたらしい。


「実に良いハルバードでしたよぉ」


「だろう。数打ちモノだがな」


 何でも、第3神殿で一括して武器工房に発注したものの1つだという。
 の割には見事なものだったが。
 剛性に歪みなく、安心して振るえたのだから。


「なら、第3神殿は逸品だらけだな」


「良い事言ったぞ<鬼沈め>」


「いやいやいや、今日は沈められんかったです」


「一番首を挙げてて贅沢を言わんでくれ。俺たちにも栄光は必要だ」


「では勝利の栄光を貴方に!」


「感謝する!」


 非常に楽しい気分で乾杯。
 干した瞬間に、誰かがビッチャーで注いでくれる。
 ウマウマ。
 もう何杯飲んだか判りぁしない。
 旨いから良いけど。


「そうだ! 栄光を貰えるなら、俺のハルバードに何か銘をくれんか」


「私ですよ?」


 一応、尋ねて見る。
 武器に名とは別に銘を欲するってのは良くある話だが、その名付け親を望まれるってのは、結構名誉な事なのだ。
 20も超えんよーなガキで良いのかって思える訳で。


「おお。<鬼沈め>、<鉄風姫>の息子よ、他に誰が居るか!!」


 赤ら顔で、良い笑顔で断言されちゃぁ断れない。
 実際、良い武器だったし。


「なら承りましょう」


 銘、銘である。
 真面目に考えてみる。
 謂われなんて、特に無いっつぅか、だが………なにか、無いか。
 質実剛健を示す、砕き丸。
 微妙だ。
 由来も無い。
 うーむ、安請け合いするんじゃなかったか。
 流石に奉納銘を打つ訳にもいかんし。

 ああ、あれがあった。
 試銘が。
 今回の戦闘で、俺は一閃でゴブリンを4匹屠った。
 ゴブリン殺し ―― 弱すぎる。
 なら、アレだ、四胴斬りって感じか。
 いやまて、もう少し銘らしく、四胴落し。
 悪く無い。
 一閃で7つまで落とせなかったのが残念な位だ。


「ん、 Sidou Otosi でどうですかね?」


「シドートシ? どんな意味だ??」


「一薙ぎで4つの胴体を切り飛ばすって意味だったかな、確か。あーあ、あぁ、どっかの王国の逸話の」


 正確には、SF小説さ。
 神林長平ラブ。
 敵は海賊の新刊が読みたかった。
 あのレーベルだと、星海の戦記も読みたいけれども。
 見果てぬ夢だ、夢。
 神で生まれて10年以上、流石に新刊の4~5冊は出ているだろうな。
 読みたいぜ、本気で。
 ファッキン。
 クソッタレ。


「面白い、実に面白いな。よし、あのハルバードの銘はシドートシだ!!」


「なら、銘も決まった事で ――」


「乾杯!」


 一気に干す。

 何だろう、葡萄酒ってマジに旨い。
 焼酎党だったけど、少しだけ宗旨換えしても良い気分だ。
 どうせ魔王も森伊蔵も無いし。
 でも美味しいけど、アルコールの種類は葡萄酒オンリーってのは残念だ。
 後、食い物も唐揚げが無いとかホッケが無いとか軟骨揚げが無いとか揚げ出し豆腐が無いとかベトナム風生春巻きが無いとかホルモンの味噌煮が無いとか、微妙に寂しいけど楽しいものだ。
 ああ地鶏の刺身に蛸山葵、スライストマトも無いな。

 正直に申告しよう。
 食い物に関しては不満だらけだ、と。
 マザーファック。

 楽しいんだけどね。


「楽しそうにやってるわね?」


 ゴーレルさんが来た。


「どもです。美味しく頂いてます」


 比較対象が美味の理想郷にして魂の故郷なので厳しい表現にはなるが、それ以外と比較すれば、悪くは無いのだ。
 少なくとも、本場モノ! と露天でヒャッハーっと喰いまくって翌日に腹を下した香港とか、トムヤンクーン!!と叫びながらかっ喰らって喉に余りにも強烈なハーブ直撃で反射的に噴射したベトナムに比べれば。
 論外枠としてはイギリス料理か。
 油ギトギト過ぎるんだよフィッシュ&チップス! とか、脳味噌腐ってるのかと叫びたくなった鰻ゼリーとかなー マジ在りえない。
 連中が世界帝国を作った理由は、祖国の料理から逃げたかったに違いない。

 朝食は悪く無いんだけどね。
 特にベーコンエッグは、うん、美味かった。
 焼きたてのスコーンも素晴らしかった。
 なのに夕食は鰻ゼリーのパイ。


「Okasii Dsesuyo KATEJINA San!!!」


「ん? どうかしたかしら」


「いえいえーっ、何でも無いですよ」


 思わず口走った事をごまかす為、葡萄酒が美味しかったからと笑って応える。
 が、ゴーレルさんは笑うというよりも苦笑を浮かべた。
 なんでだろう。


「まだ若いのだから、飲ませすぎちゃダメよ」


「はい、神官長殿!!」


 周囲の連中が唱和した。
 一糸乱れぬ辺り、実に訓練が行き届いているらしい。
 実に素晴らしい。

 そして葡萄酒が実に美味い。
 だけど、杯を干したのに誰も追加してくれない。
 ふむ、セルフサービスか。

 納得した。
 という訳で、ピッチャーとして使われている小振りな樽へと手を伸ばしたら、ゴーレルさんが手を止めた。
 おえおえ?


「少しお話があるんだけど、良いかしら」


 はいはい喜んで。
 過去形とはいえ女性の頼みは断らない、それが俺クオリティ!! だ。
 亜神コブラの名に於いて、全ての女性を大切に。
 酒とを女と鉄火場をこよなく愛する風来坊、それが亜神コブラなのだ!! 多分。
 どっかにアーマーロイドな人は落ちてないかニャー だ。


「貴方が失ったショートソードに関して、よ」


 うん。
 アレは地味に痛かった。
 下ろしたてとまでは言わないけど、割と新品 ―― 新古車ならぬ新古剣なのだ。
 増産を要請していたけど、冒険前から1本失われたのは痛いってな訳で。

 回収はしたし、アブラメンコフさんの工房に出す予定ではあるけど、多分、旅立ちまでには打ち直せないだろう。
 なんたって素材レベルで吟味した高品位な鋼で作られているから、芯の部分は無事な筈なのだ。
 がしかし、暴走した四元素魔法で焼かれ表面の一部は融けてさえいたのだ。
 こうなっては仕方が無い。


「まぁ戦の勝敗が兵家の常なら、武器が壊れるのもまた、是非も無しってぇ話ですからね」


 祇園精舎の鐘の音。諸行無常の響きありってなもので。
 残念ではあるけれども、一張羅の一枚看板って訳じゃ無いので、大丈夫なのだ。
 ため息が出る話ではあるけれども。

 それよりも葡萄酒をもう少し飲みたいんですけども。


「良い心がけだよ<鬼沈め>。だがそれで話を終わらせては、今日の戦で一番手柄を立てた者へ恩賞が無いって話になるんだよ」


「私は義勇ボランティアですよ?」


「ブレルニルダの信徒で有るか無いかは関係ない。論功行賞とはそうであるべきなのよ」


 あーそうか。
 身内だけで恩賞を与えていては、外部からの人的資源の流入や合力を期待できない、と。
 それは仰る通りで。

 んじゃ、葡萄酒を樽で。


「本人の希望がそれなら、それでも良いって言ってあげたいけど、恩賞にもそれなりの決りがあるのよね」


 そう言って差し出された木の箱。
 割と高級そうな感じだ。


「?」


「開けてみなさい」


 奉納の文字が箱に刻まれている。
 なんか、勿体無い気もするが素直に開けてみた。

 中には一振りのショートソードが入っていた。
 柄など、曲線を主体とした優美な雰囲気ではあるが、装飾は殆ど無い、質実剛健な作風だ。
 というか、ソレはショートソードと言うには余りにも厚く重い、鉄塊である。
 パッと見は曲刀諸刃のショートソードだが、そ鞘の中にあっても判る刀身の厚みが普通の倍じゃきかないレベルとなっている。
 鉈の様なってのが、一番しっくりくるが、鉈にしても厚過ぎる。

 なんぞ、コレ。


「コレは。ブレンニルダに捧げられたショートソード、銘はペネトレーター」


 打ち抜く者ペネトレーター、か。
 実に物騒な銘だ。


「抜いても?」


「貴方のものよ」


 宴席で抜剣なんてマナー違反も良いとこだけど、一番のお偉い様の許可が出たので、その言葉に甘える事にする。

 ゆっくりと鞘から抜く。
 刀身も拵え同様に、優美さと実用性とを兼ね備えた作りだった。
 只1つ、ブレルニルダの紋章が答申に刻まれている以外は。


「…凄い…………」


 見ただけで、高位の魔法が掛けられているのが判る。
 そんな、呆然とショートソードを見る俺を、ゴーレルさんは笑ってみていた。
 そして説明してくれる。
 この剣の事を。

 元々が敵陣突破用の武器として設計されていたとの事だった。
 乱戦でも使いやすいショートソードで、威力を増す為に重量化が図られている。
 正に鉈だ。
 刃物として切っ先が鈍っても、重さで叩き切れる様にと作られている。

 そして付与されている魔法、これがまた凶悪なのだ。
 刀身保護と切れ味向上の魔法は当然として、更にもう一個、刀身への魔法消失力場が付与付与されているのだ。
 いわゆる対魔法力場アンチ・マジック・フィールドの様に魔法を阻害する空間を作りだすのではなく、魔法を叩き斬って無力化させるという、攻撃的な魔法なのだ。
 魔法使い殺し、そう言っても強ち間違いではない。

 そんな説明に、酔いが一遍に醒めた。
 3個の魔法が付与されて、しかも1つは特注の魔法。
 国宝クラスまではいかなくても、下手をせずとも家宝クラスな第3神殿秘蔵の逸品な代物の筈で。
 幾らオークを平らげての一番手柄と言われても、はいそーですかと貰える気にならないのだ。


「そんな逸品を貰ってしまって良いのですか」


 出来れば、返納したいという気分満々で聞いてみるが、答えはノー だった。
 俺の希望に対して。


「いいのよ。武器は使える人間が持っておくべきなのだから」


 笑って、それから説明してくれた。
 このペネトレーターの欠点を。

 1つ目は重さ。
 ショートソードとしては破格の威力を持っているが、高品位のブロードソード等に比べれて絶対的に優れている訳じゃ無い。
 にも関わらず、重さは上回る。
 その意味では見事な失敗作と言えるだろう。

 2つ目は魔法だ。
 固有能力のレベルで掛けられている刀身保護と切れ味向上は良いのだが、魔力消失力場に関しては使用する都度、使い手の魔力を喰らうのだ。
 それも結構な量を。
 1度の発動で、簡易魔法であれば2乃至は3回分程度の魔力を消費するのだ。
 にも関わらず、魔力消失力場で魔法を無力化させる為には、攻撃魔法に直撃させる手間を必要とするのだ。
 文字通り、攻撃魔法を叩き切らねば消失させられない。

 これではどうにもならない。
 ペネトレーターの目玉と言える魔力消失力場が、こう使い勝手が悪くては使う人間が出なかった。
 如何に頑丈、強烈な殺傷力を持っていても、単純に使い勝手だけなら、高品位のブロードソードでも持っていた方が便利なのだ。
 だから奉納されて永い事、使う人間が現れなかった。
 そうゴーレルさんは苦笑した。


「だが<鬼沈め>、貴方なら違う。そうよね?」


 確かにその通り。
 この程度なら重たいなんて欠片も思わないし、そもそもショートソードは俺の主武装だ。
 頑丈で良く斬れるショートソードを拒否する筈が無い。

 後、魔法に関してだが、此方も実は問題なんて無い。
 発動とかに関してはKonozamaな俺だが、実は魔力の総量的にはたっぷりとある ―― らしい。
 大学で魔法の先生曰くで、「10年に1人クラスの馬鹿魔力持ち」なんだそうな。
 にも関わらず、発動はサッパリを通り越していたので勿体無いとか、素質の無駄遣いだと授業中に散々に愚痴られたものだ。
 俺もそれなりに努力はしたんだが、魂に染み付いていた“向こうの常識”って奴は拭えなかったのだ。
 結局、簡単な日常用の魔法は発動できても、高位だったり複雑だったりする戦闘用の魔法を発動させる事なんて、1度だって成功しなかったのだ。

 クソッタレ。
 思い出したら泣けて来た。
 自宅で復習してたら、横で見てた妹が1発で成功しやがったりとか、色々とあったのだ。
 可愛く笑って、褒めて褒めてと満面の笑みを浮かべた妹は実に可愛かったが、兄としての威厳面目、まるで無しってなもので。


「見とれたかい?」


 な訳無いのだが、それを曖昧に笑ってアルカイック・スマイル誤魔化す。
 一種のPTSDを思い出していただなんて、人に言える訳が無い。

 あー 葡萄酒が飲みたい。
 杯に残ってた滴を舐める様に飲む。
 物足りない。

 仕方が無いので繁々と刀身を見る。
 実に良い。
 優美さと実用性が両立している。
 いや、鎬の部分に象嵌が施されている。
 唐草模様風味だが、あれ、コレって。


「もしかして?」


「どうかしたかしら」


「いや、ブレルニルダの文様が入っているから、私みたいに信徒じゃない人間が持つのはどうなのかって思いまして」


 ブレルニルダの神に奉げられたのだ。
 せめてブレルニルダの信徒が握るべきなんじゃないかと思うのだ。
 だが、そんな感傷をゴーレルさんは笑い飛ばした。


「身をもって勇気を示し、勇者を讃えるのが我らがブレルニルダ。であれば勇気を示した人間にその紋章の刻まれた剣を与えるのは道理に適っているのよ」


 評価されるのは嬉しいが、過剰評価も追い所だよね、正直。
 俺は俺が出来る事をしただけたってのに。

 でも、貰えるものがあるなら、それを断るほどに欲っ気が無い訳じゃ無いし。
 ゴッツアンです、だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-14
酒は飲んでも飲まれるな!(手遅れ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 何だかんだで拝領したペネトレーター。
 とはいえ、宴席にあったら危ないので預けてきた。
 そしてピッチャーな小樽にたっぷりと葡萄酒を取ってきた。
 今の俺にとって、葡萄酒≧ペネトレーターな訳で。
 完全な>じゃないのは、義理だ義理。
 世の中、義理と人情、本音と建前って大事だよねって事だ。

 さてさて。
 葡萄酒をゲットしたが、あても重要なのでチーズと炙り肉をとって来た。
 固いけど塩っ気が効いていて美味い。
 おっと、隣の卓に塩ハムが残っているのを発見。
 適時確保確保、と。

 ハムハムウマウマ。
 樽の違う葡萄酒か、今もって来た分は味が違う。
 でも、うまうま。

 と、見ればミリエレナがエミリオ相手に怪気炎を上げている。
 おぉう。
 可愛い女の子がアルコールで頬を真っ赤とか、実に良い絵だね。
 弱りきった少年が傍に居るとか、どんなご褒美だい? ってなもので。
 うん、実に御摘みとして最適だ。


「ビクターさん!」


 外から眺めているだけの積りだったら捕獲された。
 残念。

 で、行って見たらテーブルには大陸の地図があった。
 メルカトルだの縮尺だのとか考えるだけ野暮な、極めてアバウトな地図が、だ。
 こんなの片手に旅をしようってんだから、この時代の人間はタフだね、本当に。
 残念な事に、その範疇に俺も入るのだけれども。
 実に馬鹿で楽しい。
 そしてチーズが葡萄酒に良く合うのだ。


「ビクターさん!!」


「ん、何だっけ?」


 葡萄酒が美味いのが悪い。
 だから聞いてないけど、俺は悪く無い。
 多分。

 肉を丸齧り。
 チョイと固いが悪く無い。
 もう少し香辛料が掛かっているとベターなんだけど、それは贅沢か。
 焼肉のタレだと妄想か。
 黄金のタレキボンヌ! あっても怖いけど。


「ですから、旅の道順です」


 満面の笑顔で言うミリエレナ。
 それから説明してくれた。

 この旅、現時点としては南回りの交易路を通ってプロフォモウム河まで行き、これを遡って<第四聖地>ノルヴェリスに到る予定だった。
 我れらがトールデェ王国から旧領域に行くルートとしては、一般的なコースだ。
 が、ミリエレナはコレを面白くないと言う。

 今では通る人間も少ない北回り交易路を通りたい。古の、<黒>と正面から殴りあった大帝國イェルドゥの遺跡、古戦場を見たいのだ、と。


「要するに、折角の旅ですので! 古の英雄達の見たいのです!!」


「凄く良い考えですって思います」


 ブッチャケやがったですよ、この酔いどれ<聖女>サマ。
 傍らのエミリオは半眠状態の自動追認システムと化してやがる。
 子供に飲ませるな、葡萄酒なんて。

 葡萄酒? 葡萄酒。
 うむ、美味いからな。
 飲んでしまうのは仕方が無いか。

 握ってた杯で、温くなる前に飲み干す。
 チョイと温くなってても美味い。


「遺跡を、な?」


「はい。そう言いました」


「言ったです、間違いありません。ほんとーに」


「ん。確かにそう言った。言ったヨ」


 真っ赤になった酔眼で睨まれたので、平伏して受け入れる。
 理屈じゃないからね、酔っ払いは。


 と云うか、エミリオの自動追認っぷりが実に凄い。
 もう寝てるだろ、アレ。

 だけど、ミリエレナの声には反応する。
 それがエミリオ・クオリティ。
 可愛いものである。
 なので、塩ハムを丸齧りする。
 しょっぱい。
 もう少し、何だね、薄く切って生玉葱を刻んで包んでいると美味しいかもしれない。
 誰が、丸ごと出した奴は、食っちまったぞ。
 塩っ気満載の後味を、葡萄酒で流し込む。
 有無無無無。
 もう少しだな、コレは。


「どう思います、ビクターさん!」


「あ?」


「かの東進の帝王、<黒>を押し返し<白>の領域を大きく拡大させた大英雄、その終焉の地である天槍の古戦場。見たくは無いですか、ビクターさん」


 いや、別に無いんだけどね。
 伝説の古戦場って言っても、その大英雄最後の大魔法 ―― 地脈の力を大暴走させて行った大地創造の魔法で地殻が隆起し、人間に踏破不能な大山脈帯が出来上がっているのだ。
 終焉の地が何処かすらも判らない、そんな大山脈を見に行きたいなんて、そんなワンダーホーゲルな趣味は無いのだ。
 人体の山脈であれば、幾らでも登頂したいけど。


「ん?」


 不埒な事を考えたら睨まれた。
 なので真面目に考えよう。
 その為には、先ずは一杯の葡萄酒を。

 うまうま。


「少し真面目に考えてみる」


 そう、問題点を、だ。
 北ルートの交易路が余り使われていない理由は1つだ。
 大地が荒れているのだ。
 不毛とまではいかないが、豊かとは言えないからだ。

 大英雄が行った最後の大魔法、コレが地脈の暴走で行われたってのが原因なのだ。
 地脈の乱れが地形を変え大地の力を奪い、枯れさせたのだ。
 それまでイェルドゥの大穀倉地帯であり、肥沃な大地でもあった新領域東部領北方圏は大地と共に衰退したのだ。
 これが大帝國の崩壊と、50年近く続いた継承戦争を引き起こしたのだ。
 結局、50年も続いた継承戦争によって荒れ果てた新領域東部領北方圏は、それでも複数の国家が生き延びていたが、更にその120年程後に発生した<黒>の一大侵攻、<黒嘯>戦争によって尽くが滅亡したのだ。
 何といっても、その<黒嘯>の際、その先遣部隊は新領域を東西に分けるノルヴィリスにまで達していたのだ。
 その道程にあった国家群の運命なと、推して知るべしであろう。

 そんな大戦争から、今で……………確か、70年位だったか? 詳しくは思いだせん。
 葡萄酒を飲んで、頭を回らせよう。
 アルコールが入れば、血管の流れが良くなって、頭は良く動くようになるのだ。
 そして美味い。
 実に世の中、良く出来ている。



 ………………アレ、俺はナニを考えてたんだっけ。
 あー あー うん。
 思い出した。
 そうそう、アレだ、ルートチョイスか。
 荒れ果てているけど、人が居ない訳じゃ無いし、ウチの王国に近い辺りは属国みたいな邦国群があるから補給も何とかなるだろ。
 多分。
 おーけー、ミリエレナ。
 君の希望は受け入れよう。
 エミリオも賛成している事だしね。


「有難う御座います、嬉しいです」


 花が綻ぶ様なミリエレナの笑顔。
 あっ、エミリオが撃沈した。
 酔いも回ってだろうが、幸せそうな顔をしてやがる。

 そして、葡萄酒が美味い。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-15 気分はぜろじーらぶ
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/06/17 22:38
 
 目を開けたら、そこは地獄だった。
 主に俺の状況が。
 目が醒めて薄目を開けた瞬間の奇襲、その名は頭痛。

 頭が痛い。
 アタマが痛い。
 アタマガイタイ。


「あがっ … ぁ…… っ……ぁぁ」


 死ねる。
 コレは死ねる。

 万力で頭が挟まれたような、鉛が押し込まれたような。
 痛い。

 目も開けられん。
 呻くしか出来ない。
 動きたくない。

 我慢して薄目を開けてはみたが、状況が判らない。
 というか、何処だ此処は。
 見覚えが無い。

 痛い。
 何処でもいい。
 もう考えたくない。


「つぁ………あぁあぁぁぁ、痛てぇっ………」


 呻く。
 というか、素直に言う。
 悲鳴を漏らしてしまう。
 痛いものは痛いのだ。


「飲みすぎるからです」


 デスヨネー って、え、この声は………ノウラ?
 ゆっくりとゆっくりと目を開けてみる。
 うん、ノウラだ。
 すぐ目の前に、よそ行きのメイド服をキッチリと着込んでいる。


「ノウラ?」


 アレ、俺って無意識に家に帰っていたのか。
 にしちゃ、ベットが何時ものと違う感じだが。


「っぅ…」


 咽頭を動かしたら、その振動が脳味噌に来た。
 最悪だ、この痛み。
 呻くしか、目を瞑って耐えるしか出来ない。


「ぁ…っ」


 頬っぺを触られた。
 ひんやりとした手が心地よい。
 少しだけ、痛みが消えた気がする。


「心配、したんですよ」


 ポツリと言われて、それから淡々と怒られた。
 帰ってこなかった事を心配して、宰相府まで行って、んで事の経緯を聞いて、このブレンニルダ第3神殿へと来たんだと。
 そしたら、肝心の俺は顔を真っ青にして唸っていた、と。

 宰相府からの手紙ってので驚いていたノウラだ。
 行ったのには相当に勇気が必要だったろうに。


「スマン」


 死ぬほどに痛いが頭を下げなきゃらない。
 漢には痛いと判っていてもしなければならない行為があるのだ。

 起き上がろうという1動作ですらも重い。
 ふぁっく。


「無理はしないで下さい」


 が、柔らかく押し留められてしまった。
 腹筋にも力が入らない。
 これがアルコールの力か。
 仕方が無いので頭を下ろす。
 うん、柔らかい枕だね。
 少し芯があるけど、良い匂いもするし、心地よい。


「っ………」


 心なしか、痛みが引いた様に感じられた。
 それが理由か、睡魔が上がってきた。
 うむ、勝てない。


「ノウラ」


「はい」


「すまない、もう少しだけ眠らせてくれ」


「はい」


 今度は頭を撫でられた。
 年下に甘えるってのも大概、情けない話ではあるが、今は只管に有りがたい。

 今度から、葡萄酒は飲む量を控える様にしよう。
 俺、アルコールに弱そうだし、な。

 何かが足元から這い上がってくる感じ。
 これが、これこそが睡魔だ。










「ビクターさん、眠ってしまいました?」


「はい。まだ顔色も悪いですから、このままで ―― ご迷惑でしょうか?」


「大丈夫です。神殿の人には伝えておきますから」


「有難う御座います、エミリオ様」


「そっ、そんな、僕は何もしてませんし、それに脚は痛くないですか」


「大丈夫です」



「エミリオ様」


「はい」


「ビクター様をよろしくお願いします」


「ゑ!? ぼっ、僕なんてビクターさんに比べたら全然、駄目ですし……そんな」


「仰るとおりビクター様は強いです。何だって出来るかもしれません。ですけど、それでも1人の人間です。1人の人間に出来る事に限界はあります。だから、お願いします」


「あっ、頭を上げてください!」


「駄目でしょうか?」


「………正直、僕が出来る事がどれだけあるか判りません。昨日の戦いでだって、僕はビクターさんの背中を追っかけていただけみたいなものですから。だけど、だけど、はい。頑張ります」


「有難う御座います」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-15
気分はぜろじーらぶ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 戦闘が終わって飲んで寝て、二度寝したら翌日夕方だったで御座るの巻き。
 何を言ってるか判り辛いかもしれないが、飲んだやつなら判る筈。
 そんなに、疲れていた筈は無いんだけどな。

 後、夕暮れにノウラと一緒に帰ったら、妹に凄い目で睨まれました。
 お兄ちゃんの駄目ポイントは上がり調子です、有難う御座いました。
 クソッタレ。


 それからの時間はエライ勢いで流れていった。
 装備の準備。
 剣の修理発注とペネトレーターの拵え直しは面倒だった。
 奉納仕様をそのまま使う訳にはいかないのだ。
 綺麗だったけどね、装飾の無い鞘と滑り止めの革を巻いただけの柄という無骨な実戦仕様にする。

 学校への挨拶。
 割と優等生だったのでスンナリと行った。激励を受けたし、後、事情を話した一番の学友 ―― レンジャー徽章モドキを取った時のバディからは、餞別として魔道具を貰った。
 眼鏡の形をした、特に装飾の無い真円型の色付きレンズをした魔法知覚向けのアイテムだ。
 存在している魔法の痕跡や、種類を見分ける事が出来る逸品だ。
 しかもダチオリジナルで、一般には売っていない代物だ。

 人跡未踏っぽい原生林での生存生還訓練で褒めたし、欲しがったのを覚えていたらしい。


「君は魔力はあるけど、使い方はサッパリだからな」


 掛けていた眼鏡型魔道具をそのままくれたダチは、朗らかに笑って言いやがった。
 サッパリとか、胸が痛いっての。
 下手な、それこそ専門魔法使いよりも魔力 “だけ” はあるってのは、本当に宝の持ち腐れな訳で。
 このダチ公も、どっちかと言うと魔法戦闘系なので、「もうこんな魔力なんて要らねーよクソッタレ!」と愚痴ったら「なら遣せ」と怒られた事があった。
 戦闘もだが、魔道具を作るのにも、魔力は必要な様で、少ない魔力でオリジナルな魔道具を作るのは大変なのだとも。
 それは俺の責任じゃないだろ、JK って感じではあるんだが、実際に頭を抱えていると、そんな理屈は通じないらしい。


「うるさいぞ。人間誰しも得手不得手があるんだよ」


「そうだね、君は努力は怠らなかったにも関わらずだから、仕方が無いね」


 爽やかに笑いやがった。
 仕方が無いというよりも、救いが無いと言ってないか、コイツ目。


「言ってろ」


「すねるな。僕の最高傑作を贈ったんだぞヴィック、最後に憎まれ口を叩く位は良いだろ?」


 軽やかに笑ってやがる。
 ヴィック、俺の愛称であるが、コイツ以外は呼ばない。
 普通にビクターでも短いからだ。
 何の拘りかサッパリだ。
 一人称に “僕” を使ったり、言葉遣いが少し大仰だったりする辺り、実に厨二病感染者っぽいが、これでも割と良い所のお嬢様らしいから吃驚である。
 レニー・マイヤール。
 マイヤール子爵家の長女であり、このマイヤール家、何での2代前の初代がアーレルスマイヤー伯爵家の長男だったらしい。
 アーレルスマイヤー伯家といえば五大伯が1家、トールデェ王国に於ける魔法関連を統括し魔道伯の異名を持った家だ。
 傍流といえど、家柄の良さは半端ではない。

 但し本人は、余り気にしてはいない。
 というか、アーレルスマイヤー伯家自体を嫌っている。
 マイヤール子爵家の成り立ちを聞けば、納得するレベルの話ではある。 
 あった。
 バディの時、夜を徹する時の無駄話で聞いたが、このマイヤール子爵家の初代様、要するにレニーのお爺さんだが、かなり優秀で将来を嘱望されていたらしい。
 だが、優秀さゆえに兄弟から妬まれ、憎まれ、更には政治的な諸々で、アーレルスマイヤー伯家を継げずに、僅かばかりの領地を分け与えられて起こした家が、マイヤール子爵家なのだ。
 開墾で苦労したとか、祭事などで一族の集会に出かければ雑に扱われたとか、そんな話をレニーは子供の頃に、初代様から聞かされていたらしい。
 しかも、マイヤール子爵家の経営が軌道に乗り出したら、今度はアーレルスマイヤー伯家閥の重鎮の1人が、レニーを娶って資産を巻き上げようとしたりとか、ロクでもない話が最近まで続いているのだ。
 それはもう嫌うのも当然って話だ。

 だから魔道の総本山であり、妹たちも通っている王立魔道院では無く、レニーはゲルハルド記念大学に入学したのだ。
 尤も、お陰で色々と楽しくなったとはレニー本人の弁ではあるが。
 学院研究室に篭るよりも、実践する事の楽しさは良い、と。

 そんな奴が俺の1番の友人である。
 他にも親しい奴は何人か居るが、胸襟を開いて話せるのはコイツ位なものである。
 主にメンタル的な意味で同世代の奴と距離感があって孤立した俺と、アーレルスマイヤー伯家の一族でありながらも伯家と対立しているが故に孤立したレニー。
 何だろね、余り者同士の同盟ってな感じである。

 というか実際問題としてレンジャー徽章習得時に、お互いに相手が居なくて、男女であったにも関わらずバディを組む羽目になったのだ。
 男女で組ませると問題が発生しやすかったりするし、俺としても女性と組むなんてと思っていたが、組んでみるとこのレニー、割と細身の割りにタフで苦境でも泣き言を言わず、しかも必要があれば羞恥心も捨てられるって位に根性が座っていたのだ。
 下手な男と組むよりも、大当たりだった。

 それはレニーからも同じだった様で、生存生還訓練が終わってからも、何かとつるんで動く様になった。
 俺が直接戦闘系で、奴が魔法支援も含めた全方位戦闘系だったので、組んでも戦いやすかったし。
 勉強でも、得意分野が完全に被らなかったので教えあう事も出来たし。
 その意味では、理想的な同盟関係であると言えた。

 後、アイツからは虫除けに有り難いなんて言われたな。
 アーレルスマイヤー伯家からの、レニーとの婚約予定者と決闘した事も再三再四って按配で、色々な連中と戦えたのは面白い経験だった。
 剣を主体とした戦闘だと、この大学でも経験出来るが、魔法を使った戦闘となると、そうそう経験出来ないのだ。
 それが、アーレルスマイヤー伯家からのとなれば、そりゃぁもう戦闘魔法も使える奴が多いので、大いに俺の経験値になったのってものだ。
 うん。
 実に楽しかった。


「どうした、何か顔がにやついているぞ?」


「何、俺はバディに恵まれたと思ってな」


「今更だヴィッグ。私はレニー、お前の同盟者だぞ」


「ああ、全くだ」


 拳と拳をぶつけ合う。
 ああ、本当にコイツのお陰で大学生活が楽しかった。
 有難う。










 そんなこんなで慌しく流れていく日々。
 武器を揃え、道具をそろえ、後、コースが変わったので、アブラメンコフ工房の伝を頼って北周りの交易路に行った事のある商人から情報を集め、と。
 酒の席とはいえ、男が一度了承した事なのだ。
 これを反故にしては男が廃るってもので。

 でもベイビー、正直北周りは無いと思う。
 何であんなのを約束したんだろうね、俺。
 当分は酒、控えよう。
 飲んで起きたら、横に裸の女性とかなった日には、悲惨すぎるから。



 後、宰相府というかジョンクロードの主事さんから王家からの下賜品に関しての質問を受けた。
 何でも、この神託の遂行を王家がバックアップする事になったので、ついては、何か欲しいアイテムとかがあればくれる or 貸して貰えるとの事だった。
 貸与か提供の差は値段の差らしい。
 流石に、王家秘蔵のアイテムとかは貰えないって話だ。
 当然だな。
 後、本気でヤヴァイブツに関しては、貸し出し不可だそうな。
 これも当然だ。

 と云う訳で、盗難予防的な意味で門外不出な王家秘蔵品のリストを読ませてもらう。
 流石は帝國時代からの伝統あるオーベル家、神造剣も含めて、凄いモノがゴロゴロしてやがる。
 というか神造剣も、殆どが貸与可能って、どんだけ太っ腹だよ我らが王家。
 裏には、蛇の親馬鹿伯ことオルディアレス伯がいるんだろうけど、にしたって、だ。

 尤も、個人的にはそんな高級品を選ぶ気にはなれない。
 万が一にも失ったら事だし、そもそも武器は消耗品だし、である。
 それよりは、旅を便利にするグッズが欲しい。

 例えば飛行機とか。
 無理だけど。
 有り得ないけど。

 とと、面白いものを発見。
 モノを収納できる腕輪、ストリングリングだ。
 言ってしまえば腕輪状のゲート・オブ・バビロンかドラえもんポケットかって代物だ。
 その2つみたいに無制限っぽく入れられる訳じゃなく、12個という制限はあるっぽいが、その代わり、ある程度の大きさまでなら何でも収納可能っぽい。
 実に便利そうだ。
 貴重品を入れておけば、盗難も怖くないって感じで。

 という訳で、欲しいアイテムをジョンクロードさんに告げたら驚いた顔をされた。


「駄目ですかね?」


「いや、そんな訳は無いが、てっきり武器を選ぶと思っていたからね」


 ジャンクロードさんが示したのは、国宝級からの武器の数々。
 抜剣すると刀身が焔をまとって、攻撃に焔による追加ダメージ修正が付くってゆう悪魔みたいなロングソードとか、或いは相手に魔力耐性が無ければ相手を斬った相手を凍らせるショートソードとか。
 極悪なのだと、発動の呪文コマンドワード一発で遠距離へとビームみたいなのをぶっ放すブロードソードってのまである。
 何だろう、酷い世界だ。

 だけど、欲しくない。
 使えば壊れるリスクがあるし、壊れてしまえば、返せない=国への勤労奉仕とか悪いイメージしか浮かんでこないからだ。
 竹中の半兵衛さんじゃないけど、消耗品は、常に壊れる事を前提に、同等の予備を用意出来るものに限るってなものだ。


「実用本位なんですよ、実用」


「君がそれで良いなら、私からは特に無いよ。用意しておこう」


「何時、頂けるんですか?」


「近く、君達を壮行する為、女王陛下主催の会が開かれる。その時にだね」


 国の為の見世物になる訳か。
 仕方が無い。
 国費で旅して、しかも高い下賜品まで貰うんだ。
 コレもまた、給料分給料分ってなものだ。


「了解しました」


 立ち上がっての敬礼。
 多分、感情は外に漏らさずにすんだと思う。
 思いたい。










 壮行会向けの礼服を用意したりする。
 幸いに、大学の第1種制服が礼服の役割を兼ねる事がドレスコードで許されているので、洗ってアイロンを掛けて、ほつれ何かを確認するだけで良かった。
 白を基調とした制服は、詰襟っぽいデザインである。
 帝國時代からの伝統を受け継ぎつつ、新しいデザイン ―― らしい。
 良く判らんが。
 この辺りの気候風土的が、温暖湿潤から亜寒帯にかかる位の過ごし易い気候ってのが大きいかもしれない。
 帝國崩壊時の混乱から逃れての逃避行時に、住み心地の良い環境を探して今の場所へと辿り着いたってのも伊達じゃ無い。
 そんな感じである。

 兎も角。
 トーガみたいな、動き辛そうなのよりはズボンにジャケットという組み合わせは、過去形現代人なメンタルがまだ残っている俺としては、有り難いものだ。



 そんなこんなで迎えた壮行会、女王主催のパーティだ。
 王宮の一角、大ホールでの催しだ。

 その控え室で進める準備。

 大学の第1種制服の上に、徽章とかを飾っていく。
 前衛資格者徽章とか生還生存徽章とか。
 後、大学で上級指揮官任用資格を取ったので、緋色の紐を肩から襟元に通して飾る。
 一種の参謀飾緒みたいなものだ。
 金色の、モールじゃないのが残念だが、白い制服なので赤が映える映える。
 実に格好良いアクセント、装飾になっている。
 コレが貰えるとしって、指揮官向けの勉強をする意欲が沸いたってなもので。

 尤も、軍の方でこの飾緒は余り重視されちゃいないけども。
 指揮官の教育自体は大学卒業生は全員が必須だし、そもそもとして上級指揮官任用資格のコースと飾緒の制度が制定されてまだ10年にも満たないのだ。
 実績が無ければ相手にされないのも当然ってなもので。
 でも、格好良いから取ったのだ。
 形から入る、駄目な軍事趣味者だった残滓がまだ残っているっぽい。
 悪い事じゃないけども。

 そして最後に、マントをまとう。
 当然ながらも、白の外套ケープ・オブ・ホワイトだ。


 鏡を見た。
 悪く無い感じだ。

 が、今更ながらに緊張してきた。
 意味も無く手袋とか、ベルトの具合を確認する。
 髪型に関しては、ワックスで綺麗に固めて貰っているので触れない。

 別室にて待機しているエミリオやミリエレナも、こんな緊張状態にあるんだろうか。
 くそ、判らないからこそ、恥ずかしいな、なにか。
 初陣の時よりも緊張するぞ。


「ビクター様、余り引っ張っては伸びてしまいす」


 手袋の具合をと引っ張っていたら、ノウラに止められた。
 此方も、キッチリとした武装メイド用の礼装を身に纏っている。
 凛々しいね、本当に。


「どうだろうノウラ、悪い所は見つからないか?」


「大丈夫ですよ、ビクター様」


 何度目かの確認なので、小さく笑われてしまった。
 悔しい。
 悔しいが落ち着かないから仕方が無い。

 今、大ホールでは国家元首以下、お偉いさん方がそろい踏みしているのだ。
 母親様も、それにマーリンさんだって参加している。
 そんな中で名を呼ばれ、壮行されるのだ。
 あーくそ、仕方が無いだろ、コレは。

 俺はもう少し天邪鬼というか、反権力的だと思っていたけど、その自己評価は過大評価の類だった模様。
 残念だ。


「なら1つ、オマジナイをしましょうか」


「ん? この気分を変えれるんなら、何だって良いぞ」


「なら目を閉じてください」


 アレだね、駅前で良くやってる奴。
 藁をも縋るって心境の奴がやるんだよ、具体的には俺とかが。
 って、えっ、柔らかっ!?


「っ!」


 目を開けたらノウラの顔がアップだった。
 ほんのりと目元を赤らめて、でも笑っている。


「気分が変わりましたか?」


 おーいぇー。
 ってか、え、何でさ?
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-16 壮行会は大荒れです(主に俺にとって
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/06/23 23:24
 
 キスをされた。
 ホッペタに。
 吃驚だ。

 が、ノウラから俺への感情ベクトルなんて、冷静に考えれば簡単な理由だ。
 ブラザーコンプレックス。
 要するに、ウチの実家なんて社会への窓口の少ない場所に就職しちまって、そこに年から年中居るから、年の近い俺に対する恋愛感情を擬似的に抱いちまったって訳だ。

 何だろう、遣る瀬無い気分になってきたぞ。
 ノウラも俺にとっては可愛い妹なんで、幸せになって欲しい訳で。
 あーくそ、そこ等辺は考えてやるように、出る前に母親様に提言しておこう。
 確か、学校に行くことにも興味を持っていたから、行かせてみりゃぁ良いのだ。
 学費なんて、当分は使えない俺の個人貯金で簡単に賄えるしな。


 でも、学校に行って良い男を見つけて、帰ってきたら寿退社してました何て言われたら、凹むな。
 確実に。
 絶対に。
 子供の頃から見ているし、母親様の修行仲間でもあるんだし。
 妹が結婚する時用の自棄酒とは別に、ノウラの分も用意していたの俺だ。
 なのに、飲む前に全てが終わってたとかなったら、もうね。
 言葉に出来ないレベルで凹む自信がある。
 このウチの可愛い子ちゃんが居なくなるなんて、想像するだに恐ろしい。

 が、それでも、それを自分で選んだのであれば祝福したい。
 祝福出来る人間になりたい。
 ノウラにも幸せになって欲しいのだから。
 メイドが卑業だなんて、口が裂けても言わないが、家の中だけで世界が終わるなんて寂しいからだ。

 正にアンビバレント。
 相反する気分だが、ドッチも俺の本音だ。


「ビクター様?」


 俺が黙りこくったからだろうか、此方をノウラが心配げに見てくる。
 そんな顔をすんなっての。


「有難う。オマジナイが効いたよ」


 口元を引き締めろ。
 背筋を伸ばせ。
 顎を引け。

 面倒事は後で考えよう。
 今はただ、ノウラが誇らしく思ってくれるような、そんな俺で居よう。


「ビクター様、ご準備宜しいでしょうか」


 部屋の外から声が掛けられた。
 どうやら始まるらしい。
 口元を緩めて、応える。


「行ってくる」


「はい」


 見上げてくるノウラ。
 くそ、可愛いなぁもう。

 何時もには無いおめかしに、魅力は倍プッシュだよ。
 だから、チョッとだけしてしまった。


「コレはオマジナイのお礼」


 当然、おでこにだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-16
壮行会は大荒れです(主に俺にとって

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 壮行会の場所に居るのは、きらびやかにして錚々たるお歴々だった。
 エレオノーラ陛下がご息女と共にご出席ってのは主催者として当然だしオルディアレス伯が居るのも必然だが、他の三頂五大の御当主さん方がそろい踏みとかマジ有り得ない。
 というか他の6家の当主は兎も角、リード公爵やテルフォード伯爵という王国防衛の前線に立っている家々の当主まで出席しているってのには呆れる限り。
 どんだけ政治的根回ししたんだろうかオルディアレス伯。
 息子さんの一世一代の晴れ舞台にって頑張ったんだろうね。

 あ、見れば女王陛下の後ろに母親様とマーリンさんが並んでる。
 あそこら辺の武装している連中が女王陛下直轄の人外集団、<十三人騎士団>か。
 一際でかいフルプレート装備の偉丈夫が<鉄甲騎>ガルンスト卿で、その隣で黒いマントを羽織って立っているのが、この国で唯一の黒の名が入った字名を持つ<黒騎士>グレン卿か。
 グレン卿って確かミリエレナの義理の父親でもあったって話だな。
 戦災孤児だったミリエレナを救って、神殿に入るまでの間、育てていたとかの話だ。

 ふむ、そう考えると光源氏に失敗した御仁である訳か。
 少しだけ親しみやすさを感じるね。

 とと。
 顔を動かして周りを見る訳にいかないので、ばれないように視線の脇で周りを見る。
 おっ、親父殿発見。
 妹もおめかししている。
 可愛いね。

 他にも見知った顔が幾つか見える。

 おめかししたレニーが居た。
 一度だけ会った事のる親父さんと一緒に、だ。
 素直に女装というかドレスを着ている。
 珍しい事だ。
 学校じゃ男と同じ服装をしていたし、私服も動きやすいからと男物の仕立てを着ていたから、あ、初めてみたかもしれん。
 というか眼鏡が無い素顔って事も相まって、日頃のヅカ系僕っ子の雰囲気が無い。
 深窓の令嬢みたいだ。
 ドレスアップしたのが見事に決まっている。
 猫を被るのが上手いもんだ。
 その意を込めて、一瞬だけのアイコンタクト。

『馬子にも衣装だな』

『オマエモナー』

 少しだけ顔が緩みそうになった。
 以心伝心のダチってのは有難いね、本当に。


 と、割と近くにトービーが居た。
 ドワーフみたいな体格を、あんなに嫌がってた礼服に包ませて、ここに居る。
 俺の顔を見にきてくれたのか。
 何か、嬉しいね、これは。


 <剣嵐>パークスも居た。
 奴さん自身は爵位持ちでも爵家の一員でも無かったが、リード公爵家の次期当主の腹心として居るのかもしれない。
 と、考えれば隣に居るイケメンがリード公爵家の若君、ヤンリー・アルレイドか。
 パークスと一緒に美人さんを連れている。
 くそ、金持ちで美人侍らせるイケメンだと。
 爆発しろ。もしくはもげろ。
 但し、お行儀良くする為に嫉妬の視線は送らないけどね。

 と、他にも拳王ドズルなアティリオさんも居る。
 コレはどっちかと言うとなんて評するまでもなく、エミリオ枠だけども。



 隣を歩くエミリオをチョッとだけ確認。
 まだまだ緊張でガチガチっぽい。
 俺たちの前を行くミリエレナが堂々と歩いているのと、対照的だ。
 ノウラのお陰で緩んだが、まだ俺もそれなりに緊張しているから、一番に神経が太いのはミリエレナか。
 やっぱり女性が肝が太いものなのかもね。



 気付けばひな壇前。
 女王陛下の御前に達する。

 見ると女王陛下の直ぐ傍にディージル公爵、というか王太子であるブリジッド殿下が居た。
 一緒に、朗らかな雰囲気の女の子が居た。
 その顔立ちが似ているので、多分にパークスが有名になったと云うか、字名を貰う切っ掛けになったアルリーシア殿下か。
 お姉さんと違って、柔らかそうなお嬢さんである。
 パークスの奴め偉い、そして良い人と縁が繋がったな。
 羨ましいぞ。
 かなり本気で。

 俺のほうの縁の繋がっている殿下ってば、美人ではあるけど “柔らかい” って表現からは離れた御仁だからな。
 ヘッドハントを掛けられた時にサシで話したが、何だろう、女性的な部分を捨てていないけど男前だった。
 もちっと乙女分のある、それこそ銀河の妖精さんチックだったら落ちてたけど、どっちかと言うとバラライカの姉御かシーマの姐さん系なんだよね。
 俺と年もそう変わらんのに凄いものである。

 さておき。
 あの時と変わらず、今日も今日とてキリッとした美人さんである。
 というか服装が凄い。
 着ているのが爵家の礼装ではなく、白を基調とした軍の正装っぽいのを着ているのだ。
 ドレスコード的にどうよとか思うのだが、そんな疑問を吹き飛ばすように、実に似合っているのだ。
 金のモールとかパイピングとかが、金糸の髪に映えて、実に美しい。
 といっても、金髪は殆どを後頭部で纏めて、何房かだけ垂らしている辺り男装系でもある。
 似合っているけど。
 そもそも、詰襟のタイトラインの軍装とか、どんだけスタイル自慢してやがりますか。
 似合ってるけど。
 大事な事なので3度言いました。

 ただ、少しだけ俺への視線が厳しいのは、自前の騎士団への勧誘を蹴ってこの大遠征だからだろう。
 直々に勧誘された時に、マーリンさんの居る<北の大十時>傭兵騎士団に入りたいとも言ったから、言行不一致めと思われているのかもしれない。
 なまじ美人なので、厳しい視線とかを打ち込まれるともう堪らない。
 ボスケテ。



 そして女王陛下。
 何だろう、改めて面向かってみて思うけど年の割りに綺麗な人である。
 ドス黒さというか、漂うエゲツナサの無い。
 無いのだ。
 <白>の東方守護国として、武断というか軍事優先のわが国のトップだからさぞかしと思っていたら、実に普通な感じだ。
 というか、慈愛に満ちた表情をしている。

 何だろう、拍子抜けした感じがする。
 勝手な期待をしていた、そういう事だろう。
 辣腕の女王なんて評されている、このエレオノーラ陛下に。
 或いは名前が原因か。
 陛下の名前、正式に言えばエレオノーラ・テレジア・オーベル・トールデェ。
 女王としての名前がエレオノーラで個人の名前がテレジア、オーベルは家の名前でトールデェは言うまでも無く国家の名前。
 そう、テレジア。
 マリア・テレジア。
 ハプスブルク家の女傑を思わせる名前に騙されたのだな。
 多分。


 ツラツラと阿呆な事を脳内で弄びつつ恙無く壮行会は進行する。
 流石にエロイ事は考えない。
 万が一にもエレクチオンしたら、洒落にならない赤っ恥だからだ。
 というか、ほら、幾ら若く見えるとはいえ女王陛下にエレクチオンしたとか思われたら、割腹自殺したくなるじゃない。
 姐さん女房も好きだけど、それも限度があるし。
 女王陛下の御年を考えるに。

 兎も角、司会進行の侍従長さんっぽい人が、アレコレと進めていく中で素直に冷静に、素直に落ち着いて、素直に右から左に流しながら時間を数えていく。
 ツマラナイとまでは言わないが、別段に面白い訳じゃない。
 だが、それを顔に出さずに頭を下げ、それから勇気を讃えられたり言葉を貰う。
 余り実感の無い褒められ方をしても嬉しくない訳で。
 とはいえ、それらを聞き流せる様じゃないと、こんな場所では大変な訳で。
 と云うか、ここで下手をうって、女王陛下もだが、壮行会開催に尽力したであろうオルディアレス伯の顔を潰すなんて、おっそろしい真似なんかしたくないってもので。


 儀式めいた事の最後に、女王陛下が壇の中央に立った。
 それだけで大ホールの空気が変わったのを感じた。


「久しく出された神託を背負った若人よ ――」


 そこから先は、何だ、俺にとって未知の領域だった。


「艱難辛苦、様々な事がこの旅であるかもしれません。ですが、私はあなた方を信じます。決して挫けず神託を遂げる事を」


 染み入る様な言葉だ。
 何だろう、言葉自体もだが抑揚や雰囲気など人を惹きつけさせるものがある。
 俺たち以外にも、この大ホールに居る人間が揃って女王陛下の言葉を聞いていた。
 コレがカリスマか。
 一国を統べる資格、か。


「我が国の未来を背負っていく若人が、<白>の前衛である我がトールデェ王国を支えて行くであろう者達の勇気が挫けぬであろう事を、私は信じます」


 その言葉に、素直に頭を下げる自分が居た。
 何だろう、悪い気分じゃない。
 と、頭を下げたのは俺だけじゃなかった。エミリオもミリエレナも、頭を下げていた。
 壮行会の参加者の誰もが、背筋を伸ばしていた。





 さてさて、女王陛下の言葉が終わると共に壮行会は終わった。
 普通、壮行会が終われば懇談会に突入するってものだが、半分は俺たちのお披露目 ―― 特にオルディアレス伯にとってはだったので、終わると共に、そのまま大ホールの脇に控えていた侍従さん達に導かれて、別室へと向かった。
 これから大ホールは上級貴族と云う名の魑魅魍魎さん達の社交場バトル・ステージとなるのだ。
 んな所からは、退散退散である。
 後で、一度は顔を出さなきゃならんけど、ね。
 一応は主賓サイドなので、出さなきゃ出さないで拙いのだ。
 マーリンさんに逢いたいってのもあるけども。


 そんな後での事を頭の片隅に押しやって、別室に入る。
 お待ちかねの下賜品って訳だ。
 テーブルが3つ、用意してあった。
 各人向けって事だろう。

 俺の分のテーブルには灰色のマントと銀色の腕輪、そして簡素な拵えのロングソードが乗っていた。


「此方が旅装として下賜されるトラベリング・マントと護身用のロングソード、そしてご要請のストリングリングです」


 テーブルに付き添っていた文官さんが説明してくれる。
 トラベリング・マントは身に纏った者を保護する魔法が掛けられており軽量なのは当然として、暑いときは涼しく、寒いときは暖かく。
 しかも風は遮り雨だって弾く。
 流石にUVカットは無いだろうが、それでもゴアテックスも真っ青なステキ素材の逸品である。
 流石に防刃機能は無いが、オマケとして表にならない場所に、トールデェ王国の紋章が所有者の情報と共に魔法で刻まれており身分証明にもなると言う、ひいふうみいと、6得なアイテムなのだ。
 コレは便利である。

 対して護身用のロングソードとは、普通のロングソードの柄などの拵えを簡素なものにしただけの武器だ。
 一般的に、ソードという武器は、対<黒>用として、攻撃力を増すために刀身が巨大化重厚化してきた経緯がある。
 10cm。
 或いは大きいものだと15cm級な幅を持ち、それ故に幅広の剣ブロード・ソードと名付けられているのだ。
 が、このロングソードは5cmにも満たない幅しかない。
 これは対人用の用途のままである為、威力よりも携帯性が重視されたからだった。
 そして旅人も、携帯性を重視するが故に、ロングソードを愛用していた。

 マントとロングソードとは、一般的な旅人の旅装であったのだ。
 だから俺にも用意されていたのだろう。
 俺はメインの武装がショートソードだが、旅人の常装としてロングソードが使われているのも知っているから、有難く頂戴しておく。
 タダだし。

 短く、鞘から刀身を引き出してみる。
 美しいが優雅さよりも実用的を、機能性だけを引き出したような刀身だった。

 ゆっくりと鞘に戻す。


「綺麗な剣だ」


「有難う御座います」


 思わず漏らした言葉に、文官さんが慇懃に頭を下げてきた。

 人に頭を下げられると、何だろう、何か偉くなった様な気がする。
 だがそれは誤解。
 若輩の、まだ何も成していない身なのだ。
 慣れたら人間として駄目な気がする。

 気分を紛らわせる様に周りを見る。
 エミリオは、盾を持っていた。
 いや、只の盾じゃない、ハンドガード付きのロングソードが仕込まれた盾だった。
 その刀身には、金属的では無い白さがある。

 エミリオが呆然と抜き剣した刀身を見ている。
 うん。
 俺も、呆れたように件のロングソードを見つめた。


「アレって、まさか……」


「はい。神造剣、剣槍ロンゴミアントです」


 チョットマテーイ。
 思わずそう言いたくなった。
 ソードであるが、刀身に魔力を送り込む事でランスにもなるという逸品。
 別名、騎装剣。
 使い手が能力を完全に掌握しきれれば対<黒>の、正確には巨人とも戦えるパワードスーツ的な龍装騎パンツァー・キャバリー形態にまで成れると言う代物だ。
 神造剣にあっても希少で、稀有な能力を持った、正に超一級品なのだ。
 エミリオも吃驚している所から見て、サプライズなのだろう。
 と云うか、アレを引っ張り出したなんて、オルディアレス伯、どんだけ親馬鹿なのだろうか。

 ベイビー。
 頭が痛くなってきた。
 俺としては別に欲しくはないが、世の中アレを欲しがる人間は多そうだ。


「盗まれないように注意しないとな」


「はい。宜しくお願いします」


 天然系の持つ国宝品。
 これは怖い。
 それでも、売ろうとかする人間じゃないだけマシかもしれんけども。



「いえ、御下げ下さい」


 と、良く通るミリエレナの声が聞こえた。
 見ると、部屋の入り口の方でワゴンを押してきた文官さんに言っている。
 何事? と近づけば、ワゴンに乗っているのは、お金っぽかった。
 有無、旅費か。

 納得した。
 が、それをミリエレナは下げろと言う。
 何でさ。
 というかマテ。
 かなりマテマテマテ。

 慌てて駆け寄る。


「いっ、いったいどうしたっ」


 言葉のしりが少し不安定化する。
 だって、ワゴンに乗ってるのって、どれだけあるんだ? な量のルグランキグ金貨だからだ。
 概算でも、きっと億単位越えな量なのだ。
 仕方が無い。
 仕方が無いだろ、常識的に考えて。

 目が金貨の山を追ってしまう。
 実に素晴らしい量だ。


「いえ、ミリエレナさんの言う通りです」


 おっと、金貨を見ていたらエミリオが加わった。
 というか話が金貨の辞退する方向に流れているんですか。
 凄くマテ。


「神託の旅は、<白>の全ての国からも支援を受けられます。だったら、このお金は神殿に寄付をするべきです!」


 迷い無く言い切りやがったよエミリオ。
 ミリエレナも深く頷いてやがる。
 クソッタレ。
 流石は純粋培養型のコンビ。
 その世間知らずっぷりは半端じゃない。

 ワゴン押して来た文官さんが、俺に救いを求めてきている。
 ダヨネー。
 と云うか、文官さん以上に俺が救われる為に頑張らないと洒落にならない。
 金の無い旅なんて、最悪を通り越すってもので。


「そうですよね、ビクターさん!!」


「それは違うな」


 下手に理屈を回すよりも真っ向から立ち向かおう。
 但し武器は正論ではなく、詭弁じみたモノではあるが。


「え?」


「良いかエミリオ、そしてミリエレナ。旅をするには途中で色々なモノを買わなければ、旅は立ち行かない」


「でも、それは各神殿や国々から支援を ――」


 神託遂行に関する支援は、<白>の全国家に於いて行うべしとされている行為だ。
 その協定が結ばれている。
 だからこそ、昔、神託を受けた人間は着の身着のままで旅をして、神託を遂げたと言う。
 清貧の旅なんて言われている。

 そんな旅に憧れているのだろう、2人とも。
 神族からの託された使命を、人々の絆で乗り切る。
 御伽噺や、冒険譚では定番でもあるのだから。

 だが、話はそんなに簡単じゃない。
 だって人間だモノ。
 神託の旅への支援なんて、一文の得にもならない事を、今時は何処の国もしたがらない。
 それが現実なのだ。
 とは言え、それをどストレートに教えた所で意固地になるだけだ。
 であるからには、詐術と詭弁とを使いこなして、納得させるしかない。

 こいつ等に、現実はまだ早いってものだ。


「慌てるな。最後まで聞け、エミリオ」


 指先を突きつけてエミリオを黙らせる。
 不承不承という感じだ。


「良いか、旅は北周りで行く。という事は辺境の寒村なんかを経由して行く事も多くなる。それは理解出来るな?」


 ミリエレナに確認。
 此方も、不満げな表情ではあるが、首肯はした。
 取り合えずは聞いてくれる様だ。

 宜しい。
 ならば説得だ。
 全身全霊を掛けての説得だ。


「寒村というのは、物資が少ない場所だ。生活する上でそんなに余裕は無い。そんな場所で、神託の協定だからと、物資を融通して貰った場合、どうなる?」


「国や神殿が補う事に成ってます!」


「確かに。だが、寒村で少ない物資を消費させて、さて、その消費した物資が補充されるのは何時だろうかな」


 物流に乏しい寒村なのだ。
 所属する国に物資の補給を要請しても、直ぐ直ぐに行われるなんて在りえないだろう。
 国に要請して、その要請を精査して、で適量を補充という形になるまで、相当に時間が掛かるだろう。
 神託詐欺なんてシロモノまであったご時勢だ。
 或いは、詭弁として物資の補充申請を突っぱねられる可能性だってある。
 あるのだ。


「物資を貰うのではなく、買う。買った対価を払う事で、相手は面倒な事をせずに他所から買って来る事が出来る」


「でも、それは………」


「或いは、物資の少ない村で物資を求めても、生活に不足したら困ると言われれば、貰えやしない。一応、アレは善意に基づく喜捨なのだから」


 だから、対価を用意するのだ。
 買うという形であれば、誰も傷つかないのだから。


「ビクターさん」


 エミリオが感心した様に頷いている。
 ミリエレナも渋々といった按配で、頷いてくれた。
 助かった。
 どうやら説得は出来たっぽい。

 嗚呼、怖かった。





 別室でのゴタゴタを片付いたので、心のオアシスを求めて大ホールへと戻る。
 マーリンさんだ。
 最近の<北の大十字>傭兵騎士団はリード高原の先、王国接触領に居たので1年ぶり位の再会な訳だ。
 旅立つ前のもう一回逢えて、良かったってものだ。
 さっき顔だけはみれたが、それだけでマーリンさん分は補充できていないのだ。

 ウキウキ気分で歩く廊下は、全てが輝いて見えた。
 と、その廊下の端っこ、窓辺にレニーが立っていた。
 なにやら消耗しているっぽい。


「どうした?」


「ん、主賓のお帰りか」


 顔色が蒼い。
 気分が悪そうだ。


「大丈夫か? 何か辛そうだが」


「ああ。着慣れない格好なのでね、息が詰まってしまったのだ」


 我ながら貧弱だと笑うレニー。
 だがその笑い方にも余裕が無い。
 衣装1つでそんなに、と思ったが、良く考えてみたら原因が1つあった。
 コルセットだ。

 体のラインをスッキリと見せる為、女性はドレスの下にコルセットを締めて、ギュウギュウに絞り上げている。
 そら、男装している時は全く使っていないのだから、消耗しても当然だろう。

 動きやすさ優先のショートヘアのまま、ドレスを着ているので、髪型的にはきつくないだろうが、にしたって、である。


「僕はもう駄目かもしれない」


 淑女的な意味でだな、きっと。
 少しだけ余裕があるっぽい。


「なら脱げば?」


「変質者め、この様な公衆面前で、同盟相手を落としいれようとは、ヴィック、恥を知れ」


「レニー、君は良い同盟相手だが、少しばかり自己評価が高過ぎる」


 主に身体の凹凸の面で。
 小柄かつ、スレンダーな、男装しなくても男性と間違えられかねない所があるのだから。


「馬鹿め、無駄な肉の無い僕の魅力、君が判っていないだけだ」


 軽口の押収、楽しい奴である。
 だが、軽口を叩いて気分転換させるだけじゃなく、だな。


「了解した。なら、俺の判らない魅力持ちのレニー、何か飲み物でも持って来るから待ってろ」


「いや、それは良い。今、飲んでしまうと大変な事になりそうだよ」


「そうか」


 コルセットってのは大変である。
 そう言えば、慣れないと水も飲めないとかいう話もあったな。


「だがヴィック、君のお陰で大分気分が良くなった。僕も戻ろう」


 ならば、と手を取ってエスコートの構えを見せる。
 笑ったレニーは、本当にお嬢様みたいに見えた。

 アレ? いやいやレニーはお嬢様だったか。


「宜しく頼むよ」


「任せろ」


 恭しくやって見せる。

 エスコートといっても、軽く手を取って歩き、扉を先に開ける。
 その程度の事ではあったけれども。

 戻ったら、大ホールは酒宴と化していた。
 オーイェー。
 俺は飲まないようにしよう。
 直ぐ最近、失敗したばかりだし怖くて仕方が無い訳で。
 で、マーリンさんをと探したら、別の人に見つかりました。


「ビクター卿」


 ディージル公爵 ブリジッド・O・トールデェ。
 王太子殿下だ。
 良い笑顔で近づいてくる。
 でも、笑顔なんだけど、何か怖い。


 えーっと、どうしましょう。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-17 淑女戦争 私はいかにして悩むのを止め、アルコールに逃げるに到ったか
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/07/22 19:31
 
 良く小説とかで “肉食獣の笑顔” とか、“猛禽の笑み” とか、そんな表現を見た事はあったが、まさかそれを身をもって実感するって事になるとは思わなかった。
 誰からって、言うまでも無いだろう。
 我らがトールデェ王国の次期国王 ―― 女王であるブリジット王太子の、だ。
 キリッとした男前な女性で、しかもタイトラインな軍服っぽいのを着ているのと相まって、実に勇壮で似合ってはいる。
 似合っているのだが、間違ってもその矢面には立ちたくない。

 なのに何故、私の前に居るのでしょうか。
 俺が何をした! だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-17
淑女戦争 私はいかにして悩むのを止め、アルコールに逃げるに到ったか

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 とはいえ正直に言って、ある程度だがブリジッド殿下がキレてる理由は推測出来てるんですけどね。
 先に勧誘に来た ―― 行ったのに蹴られて、しかも別の勧誘にはホイホイと乗った。
 そりゃぁ普通に考えて面白い筈が無い、と。

 更に言えば、別の勧誘が三頂五大の一角なのだ。
 王家の顔が潰された! と思っても仕方が無いだろう。
 ついでに言えば今のエレオノーラ女王の実家は、三頂五大の一角にして副王家の異名を持つフォルゴン公爵家なのだ。
 うん、色々な意味で対抗心があるのかもしれない。
 フォルゴン公爵家は、元々が王家の分家であり、家が興されて以後も度々、王家との婚姻が行われていて、同じように王家と血の近いリード公爵家を除く、他の6家とは隔絶した立場にあるとは言え、それでもやっぱり面白く無いのかもしれない。

 うん。
 そう考えると、俺って何でオルディアレス伯の依頼を受けちゃったんだろう。
 本気で頭が痛い。
 金は大事だけど大切だけど、その対価で面倒事を背負い込むってのは、その面倒事が国のトップ近辺ってのは、どうにも割りに合わないと思える訳で。
 クソッタレ。
 判子は良く考えて押しましょう、だ。
 全く。



「これはこれはディージル公」


 レニーともども、恭しく頭を下げる。
 本来貴族間の礼節は、そこまで上下関係に厳しいもので無いのだが、この相手は別格。
 次期国王なのだから。


「久しいな。勇名は聞いていたが、顔を合わせるのは一年ぶりか? 壮健で何よりだ」


 親しげに話しかけてくる。
 視線こそ厳しいが、態度と口調は穏やかで友好的なものだ。
 流石は次期国王陛下、鋼の如き自制心をお持ちの様で。
 視線のほうは、年齢からそこまで自制出来てたら怖いって事だろう。
 気付かないフリをする優しさ。
 人間関係に優しさって、大事だよね。

 特に、女性相手には。


「しかも此度は、その実力を認められての任。実に素晴らしいな」


「有難う御座います。今だ未熟の身ではありますが、多くの方々のお陰をもちまして、栄誉を賜る事となりました」


 神託への随行は、名誉な事なのだ。
 一応。
 面倒事でもあるけれども。


「謙遜をする必要は無い。卿の実力あってこその推挙もあったのだろう」


「有難う御座います公」


 深々と頭を下げる。
 言葉の内容は全くのほめ言葉なので、こそばゆくなる。
 美人に褒められるって、うん、凄いご褒美である。
 閨で楽しむよりも、褒めれる方が嬉しいって思えるのは、男ってのが、俺が気取り屋だからかもしれない。

 我ながら、安い人間ってなもので。


「ふむ、卿の私の仲で、爵位で呼ばれるのもこそばゆいな。良いだろう、我が名、ブリジッドを呼ぶ事を許そう」


 名前を呼ぶ事に許可の要る世界。
 マンドクセ ―― とは言わない。
 貴族社会ってか、王家の人間に対する宮廷内に於ける距離感ってのは難しいものだからだ。
 王と目が合っただけで、嬉しいとか、そんな風に思える人も貴族の中には居るって話しだし。

 我らがトールデェ王国は国がまだまだ若い事や、強烈な外敵が存在する事もあって、そこまで強い階級化というか、宮廷文化というかは出来ちゃいないが警戒しておくにこした事は無いのだから。
 王家という権威に寄り添い、利用しようと云う手合いは少なくないのが現実だし。


「有難う御座います、ブリジッド卿」


 というか、何でこんなに親しげに来るんで御座いましょう、この王太子殿下ってば。
 直で会話したのって、コレを含めても3度目な筈なんだけども。

 そんな気分を、俺としては顔に出さなかったのだが、我がバディ殿は見抜きやがった。


「(心配するな。悪い状況じゃない)」


 耳打ちしてくるレニー。
 口元をそっと白い手袋を纏った手で隠している辺り、実に令嬢っぽい。
 後、読唇を阻止しているのだろう。

 俺と違って搦め手にも強い奴だからな。
 直接戦闘なら負けないが、この手の事はからっきしだ。
 面倒だと考えて来なかったのが悪いのだろう。


「(解説頼む)」


 此方は、レニーの耳元で喋る事で、口元を隠す。
 日頃のショートカットだと難しいが、今日はウィッグでボリュームアップさせた髪型をしているので、余裕で隠す事が出来た。


「(要約すればヴィッグ、君の匂い消しだ。政治的な、ね)」


 政治的な匂い消し。
 要するにアレか、俺がオルディアレス伯からの依頼を受けたので、政治的にオルディアレス派に分類されそうな俺を取りに来た、という事だろうか。
 或いはアピールか。
 ビクター・ヒースクリフはオルディアレス派に入った訳ではない、との。
 オルディアレス伯への牽制って考える事も出来るな。
 共に新興の派閥なので、人材確保では鎬を削っているって話し出し。

 んなに取り合う奴でも無いと思うんだがね、俺って奴は。
 バーゲンで見つけたら、別に欲しかった訳でもないのに争奪戦になる商品 ―― そんな感じだろう。
 きっと。


 兎も角、有り難きは同盟相手。
 と、そんな俺たちのやり取りを、王太子殿下が笑ってみていた。
 というか、割と表情が柔らかくなった。


「ふむ、そう言えば私はまだ、卿の連れている淑女の名前を知らなかったな。伺っても宜しいか?」


「申し訳ありません。此方はマイヤール子爵家の令嬢、レニー卿です」


 レニー。
 我が同盟相手殿は紛いなりにもマイヤール子爵家の跡取りである為、卿の敬称が付く訳で。
 俺の紹介を受けて、恭しく腰を折るレニー。
 常日頃はヅカ系僕っ娘のクセに、隙の無い仕草だ。
 女って、化けるねーって思う。
 マジに。


「初めましてディージル公爵様。マイヤール子爵家長女、レニーで御座います」


「ほう! 貴女がレニー卿か。ビクター卿の盟友、ゲルハルド記念大学の誇る奇才の名は、かねてより聞いていた。知己を得られた幸運に感謝しよう」


「有難う御座います」




 談笑をおっぱじめた2人。
 何か楽しそうだ。
 共に、女性としての規格から少しばかり離れているので、何か話が合いやすいのかもしれない。
 というか、話のネタがスイーツや可愛い服とかじゃなくて、即物的だったり実戦的だったりするのは、年頃の娘達の会話としてどうなんでしょ。
 ブリジッドの王太子殿下だって、俺よか年上だけど、まだ10代の “少女” なのだ。
 なのに、なにこの色気の無さ。


「それが貴方たちの馴れ初めか。しかし、強脅威下生還訓練とは、ゲルハルド記念大学も面白い事をしているのだな」


「はい。泥に塗れ、荷を背負い、満足に眠れず、動く。食べるものとて山野に残ったモノを ―― ですが、大変に面白い経験で御座いました」


「尊敬をしよう。その試練を乗り越えた貴女を」


 羨ましげに目を輝かせる王太子殿下に、嬉しそうに答えるレニー。
 うん、話の内容が女の子がするようなモノじゃない。
 俺ってば、女の子に幻想を持ちすぎているのかしらん。


「有難う御座います。ですが、私だけの力で成し遂げたモノではありません。我が友、ビクターの助力あってこそです」


「そうかそうか。ビクター卿、武の才だけではなかったか。此れは実に欲しくなるな。そうだ卿よ、この神託の務めを終えた後に、我がディージル騎士団に加わらぬか?」


 他人の色を消して、あわよくば自分の色を付けようか、と。
 実に見事だ。
 偶々に握ったバーゲン商品をそこまで欲しがる心理は判らんけども。
 女性だし、彼岸の彼方の女って事か。
 全く。


「申し訳御座いません、殿下。お言葉は実に嬉しくありますが、まだ神託の旅にも出てもいないのです。にも関わらず、先の先まで思う事は若輩、未熟な身としては出来かねます」


 王太子殿下に膝を着く事が嫌な訳じゃ無いけど、何だろう。
 出来物な訳だし、話していて気性も良いし。
 なのに何故か、嫌な俺。

 アレだ、奇跡で得た2度目の人生、そうそう首輪に繋がれたくない奴か。
 うむ、ニート。
 働いたら負けだと思っている。

 戦闘は、まぁ何だ、趣味の範疇だ。


「卿をもって未熟などと言えば、どれ程の人間が未熟では無いのだろうな」


 褒めてもらえるのはうれしいが、ぶっちゃけて魂レベルだと30オーバーで40近い人間なのだ。
 そら年の近い連中よりは成熟しているっぽく見えるだろうさ。

 でも、社会経験はそれ程に積めてないから、ガキだと思うのですよ、俺は。
 俺自身は。


「私もそう思います。このビクターの欠点は、自己評価が厳しいのが難点かと思います。先に話題にしました強脅威下生還訓練でも随分と助けられましたし」


 それまでの令嬢然とした顔に、レニーは何時ものヅカっぽい男らしい笑いを浮かべた。
 そして、滔々とレンジャー訓練の経験を話していく。

 アレは、あの内容を乗り越えたのは誇っていいけど、俺のネタは勘弁して欲しい。
 例えば訓練の最終日前日の夜の事。
 積もった疲労と、風雨の酷さから低体温症になりかけていたレニーを介助した話とか、流石に恥ずかしいから。
 低体温への対処法として、乾いた服に着替えるとか暖めるとか基礎レベルの話だけど、訓練中は予備の服なんて無かったので、剥いて、乾いた一枚のマントで一緒に包まって、抱きしめて夜を越えたとか、もうね切腹ものの恥ずかしさ。
 あの時、俺も睡眠不足でどうかしていたんだろう、きっと。
 幾らレニーが意識が朦朧としていたとはいえ、口移しで気付けのアルコールを飲ませて剥くとか、ナイワー。
 というか、アリエナーイ。

 訓練課程の前半で見せていたレニーの執念 ―― 男に負けない、負けたく無いという気迫を覚えていたから、最終日前日まで頑張ったのに低体温症でリタイアとか、それは可哀想だと思ったわけだ。
 が、よーく考えると、本人の了解無し酒を飲ませて裸に剥いたとか、どこの変質者かよ!? ってなものだ。
 その意味では恥辱の記憶。
 俺にとっての。

 レニーはその、何だ、冷静に状況を聞いて、怒る事無く感謝の言葉を述べました。
 なもので、逆に凹んでしまったりする訳で。


 そんな俺の黒歴史を思いっきり王太子殿下に暴露してけっさる我が同盟者。
 なぁお前さん、俺って同盟相手だよな? な?


「ほう ―― それはそれは」


 何かこー アレだ、王太子殿下の声が怖い。
 視線がコッチに来ないけど、何だろう2人の視線は真正面から絡み合っている。

 というかアレ、貴女達ってばさっきまで談笑してましたよね? ナニこの雰囲気。
 怖いんですけど。


「正直、目が醒めた時には衝撃を受けましたが、それも私の為だったと目隠しをしたまま真っ赤な顔で言われては」


 いや、女の裸と一緒だったから赤くなった訳じゃ無い。
 只、目隠しをしたらその、なんだ、見えない分に良く感覚が鋭くなってしまったのだ。
 アレは実に失敗だったと思う。

 まっ、それはさておき。
 真面目にエロイ展開は無しです。
 寝込みを襲う趣味は無いし、そもそも傍には試験審査官が居たし、だ。
 俺は、剥く前に、その事を告げ、訓練内容から逸脱する事が、俺もレニーも失格にならない事を確認して行ったのだから。
 体温維持の上で、裸で抱き合うってのは遭難時には割りとポピュラーなので問題にはならなかった訳だ。

 尚、レニーが体調を崩したのはこの1回きりであり、翌朝、最終日の内容を疲れ果てていながらも歯を食いしばって乗り越えていた。
 レニー・マイヤール。
 小柄な女性って点を考えれば、及第点以上のモノを与えられてしかるべき、正に女傑だ。


「その時に、話したのです。何時か王国東方を旅してみたい、と」


 ね、ビクター? って、内心で褒めた矢先に、唐突に話を振らないで下さい。
 お願いします。
 言葉の魔術は苦手ですし、俺の言葉は剣じゃないんですから。


「ほう。ビクター卿は私の誘いだけではなくレニー卿の誘いも蹴っていた訳か」


「卒業後、何時かはとの話でしたので、蹴られた訳ではなく、少々、時間が延びただけですわ、公爵様」


「帰ってきてから行く、と。レニー卿も気の永い話だな。家族は良いのかね?」


「はい。私の弟や妹も中々に努力しておりますので、家の家督を受け継ぐのは、何も私でなくとも良い話ですので」


「それは、それは大した覚悟だな」


 子爵家の、それも割りと経済的に裕福な家の家督を得られなくても構わない。
 そう言えるレニーは、確かに大きな覚悟を持っている。
 だがその目的が、俺との王国東方探索ってどうなんでしょうね。
 俺の場合だと、<北の大十字>傭兵騎士団への入隊希望とかがあっての願望だったんだけどね。
 レニーの趣味的に、未探索領域への冒険行って好みっぽくは見えなかったんだけれども。


「ふむ、そうだ1つ良い事を考え付いた。レニー卿、貴女も我がディージル騎士団に参加しないか?」


「はぁ?」


「え?」


「我がディージル騎士団は、錬度向上と将来の国土開拓に向けて王国東方の探索 “も” 行っている。であれば貴女もビクター卿共々派遣する事も出来るだろう」


 我がディージル公爵家の金で、将来であれば王家の金で。
 男前に言い切りやがったよ、この次期国王陛下。
 国是として、王国の東方拡大でも狙っている模様。

 国境線を東へ押し込む事で、国内の安定化でも狙っているのか? ある意味で悪手だぞ、それは。
 本来はリード高原が<黒>との緩衝地帯であったのが、最近は開発が進みつつあるので、戦乱によって荒らされるのを阻止しようって狙いがあるのかもしれないが。
 だが、リード高原から東は肥沃だが広大な平野が広がっている。
 そりゃぁ豊かではあるが、<黒>の大軍に囲まれては、数の利益に鏖殺されかねない危険地帯でもあるのだ。
 比較的狭隘といって良いリード高原だから、何とか成っていただけの筈なのだ。

 言ってしまえば、ポケットに入りきらない金貨を与えられても、宝の持ち腐れになるって事だ。
 或いは、我が王国衰亡のフラグか。

 まっ、今のところは推測だし、関係の無い話だけれども。


「どうだ。音に聞こえた<鬼沈め>とゲルハルド記念大学の奇才だ、給与も下手な部隊よりは出すぞ」


 うわーい。
 王太子殿下、まじ男前。
 言葉を剣に戦いつつも、ヘッドハントは忘れない。
 なにこの人材収集狂。って按配だ。

 でもレニー、断るんだろうな。
 なんでこんな雰囲気になったんだろうか。
 敵対したくないんだがな、国家権力に。
 というか国家に。


「それは ―― それは良い考えかもしれませんね」


「え?」


 それどういう事ですか? さっきと丸っと違う感じの雰囲気になっておりますが。
 意味不明。
 マジで意味不明。


「そうか! そう言ってくれると嬉しいな。正直、魔術系の人材が薄くて困っていた所だ」


「公爵様のお立場であれば、1つお声を掛けさえすれば、方々から馳せ参じたいと思う者も多くいらっしゃるでしょうに」


「いや、それが残念な話だが、騎士団に属したいという魔術師は少ないのが現実でね。難儀をしている所だったのだ」


 というか、意気投合してきてね? ねぇ何で。
 なんでさ。

 誰かヘルプ!
 ヘルプ!!

 このままだと神託を遂げて帰国したら、そのままディージル騎士団に就職が決まってしまう。
 援軍を望んで周りを見渡す。
 おい、誰も居ないじゃねぇいか。

 何だろう、俺らの周りに人が居ない。
 ワロスwwww 隔離状態って、笑えないっての。

 救いの女神、マーリンさんを探したら、コッチを見ながら親指を立てていた。
 ありゃぁ、助けてくれそうに無いな。

 トービーは手をふっていた。
 別れの意味の。
 絶対、助けてくれる気ねぇな。
 エミリオとミリエレナは、それぞれの関係者っぽいのに囲まれている。
 アティリオさんとかはエミリオ達の所に居るし、パークスとかはリード家の所か。
 というか、傍にアルリーシア殿下がいる。
 くそ、リア充め、爆発しろ。

 他の連中も、視線を合わせようとすると、ズラシやがる。
 ファック。

 救いの手は無いのか。



 居た。
 救いの主、その名は妹。
 妹が、ホール付きのメイドさんを連れて笑顔でやってきた。
 その顔が今は何よりも頼もしい。


「お兄様………」


 妹よ! 兄の死地に来てくれたか。
 レニーとは微妙に仲が悪かったと思ったけど、にも関わらず来てくれた妹よ。
 キッスだってしてしまいそうだ。


「おお、これはヴィヴィリ-嬢ではないか」」


 妹と面識のあったレニーが、王太子殿下との会話の途中で声を挙げた。
 契約がどーとか、そんな単語は聞こえない。
 聞かなかった事にしよう。


「お久しぶりですレニー様。随分とお話が盛り上がってらっしゃったご様子でしたので、飲み物をお持ちしました」


 その声にメイドさんが、持っていた盆を前に出してくる。
 軽めのアルコールドリンクっぽいのが載っている。


「有難う。所で私と貴女は初めて会ったのだ。紹介をして貰えないだろうか?」


 その言葉は、レニーに向けられたものだったが、答えるのは俺にさせてもらう。
 コッチを見たレニーにアイコンタクト。
 と、頷いてくれた。
 有難い。

 こんな妙な形とはいえ、王族に身内を紹介するってのは嬉しい事だから。
 可愛い妹を紹介できて嬉しい、そんな意味で。

 うむ、俺は馬鹿兄貴である事を認める。


「公。我が妹、ヴィヴィリー・ヒースクリフを紹介させて頂きます」







 救助に来てくれた妹。
 だが、その結果は二重遭難だった。
 いや違うか。
 もっと酷いか。
 妹まで俺の就職ネタで盛り上がってやがる。


「お兄様が真人間になる為の就職です、私は全力で支えさせて頂きます」


「可愛いねヴィヴィリーは。だけど、僕とヴィックの東方行きを止めるのだけは、駄目だ」


 ファック。
 3人とも顔を真っ赤にして盛り上がってる。
 ありていに言って酔っ払っている。


「私はどちらも良いぞ。我が騎士団に参加するのであれば、問題はない」


「我らが殿下は、全てを持っていく気ですか。実に豪気だ」


「当たり前であろう。私はブリジッド。次期国王だ。全てを飲み込み立つ、そうでなければ国王になぞ成れる筈も無いからな」


「ならばいっそ、このヴィヴィリーも殿下の騎士団に呼んではいかがか」


「おぉ、それは素晴らしいかもしれないな、レニー卿、貴公は実に柔軟な発想をしているな!」


「ですけどレニー様は、少しばかり自由過ぎます」


「ははははははっ、囲おうとしては逃げられるよヴィヴィリー。君は良い淑女だが、男はもう少し見た方がいい」


「お兄様だけで十分ですわ」



 アーアー (∩ ゚д゚)アーアーキコエナーイ

 妹もレニーも、平素の言葉遣いになっている。
 王太子殿下だって、も常とは違う、砕けた口調になっている。
 この場にアルコール満載のワゴンが来てて、メイドさん達がひっきりなしに酌をしたりしているのだから、当然だろう。
 皆して酔っ払い果てている。
 どうにも成りそうにない惨状だ。
 3人とも、それぞれにキッチリとした淑女教育は受けている筈なのに、何この状況は。
 最初によっぽど強いアルコールでも持ってきたか、妹よ。
 ため息が出る。


 もうね、逃げていい? 俺もアルコールに。
 
 
 
 
 
 



[8338] 1-18 旅立ち
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/07/23 00:02
 
 目が覚めた。
 気が付くとベットの上だった。
 昔っから使っている、俺のベットだ。
 手足を伸ばすと柵に当たってしまうようなサイズだが、愛着のあるベットだ。

 思えばこのベットにも色々な改造をしたっけか。
 主に寝心地改善の為に。
 元々は藁のベット ―― 藁束にシーツを敷いたものだったが、そのままでは寝苦しかったので、色々と試したのだ。
 例えばスプリングを仕込んだマットレスとか作ろうとしてみたが、スプリング自体の製作が難しくて断念したりとか。
 ではと、馬車の時に試したバケット式をやってみたが、そうなると寝具の下が板って事になってしまう事に気付いて、計画案を廃棄とかとか。
 一歩進んで、ハンモックみたいにシーツを浮かせるってアイデアもあったのだけど、試作品というか、ハンモック自体の寝苦しさから断念したのだ。
 正に試行錯誤の連続。
 そして最終的に、畳ベット方式とでも言うべきものに行き着いた。
 具体的には、藁を束にして敷き詰め、その上にシーツを張り、更にその上に綿を詰めた寝具を置くってな按配である。

 寝心地が実に向上したのだ。
 後、ベット上での運動がし易くなったのも良かったものだ。
 マーリンさんとの楽しい思い出が満載なのだ、このベットは。


 あれ? そう言えばだが、夕べは俺、どうしたっけか。
 体を起こして考える。
 考えようとすると、目に飛び込んできたベットの膨らみ。
 何ぞ、コレ? だ。


「??」


 シーツを捲ってみる。
 みた。

 見た。
 裸体だった。
 ボンキュボンの王太子殿下がマッパで寝ていた。


「あっ!?」


 声を上げたら、ストレートなレニーが胸元に俺の頭を抱きよせた。
 肌と肌が触れ合うが、肉が薄いからか柔らかくない。


「いぃっ!?」


 慌ててレニーから離れようとしたら、それなりの起伏な妹とが俺の脚に抱きついていて動けない。
 抱きつかれて痺れているからか、感覚がない。
 というか、何故に妹もマッパ!?


「うぅぅっ!?」


 脚が駄目ならと、手を動かそうとしたら、右腕が割と微妙にストレート気味なノウラがひしっと抱きかかえていた。
 胸元だったにも関わらず、筋肉質だからだろうが、凄く硬い。
 いや、そういう問題じゃないっての。


「えぇぇぇっ!?」


 なにこの状況!? と狭い視野で周りを見れば、絞り込まれたマッシブなマーリンさんが立っていた。
 その魅力的な裸体を隠す事無くフルオープンの仁王立ち。
 いや、女性がその姿勢はどーかとーっ!!!!!

 と、蠱惑的な笑みを浮かべて、艶やかな唇を寄せてくる。
 唇にって、いや、違う!?
 まって、まって、マジでまって。
 今、この状態でソレはヤヴァイ。
 嬉しいけど、嬉しいけどマジでヤヴァイのーーーーーーーーーおぉぉぉぉぉ!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
1-18
旅立ち

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おぉぉぉぉっ!!!!」


 飛び起きた。
 周囲を見る。
 何もない。
 誰も居ない。

 只、薄暗い俺の部屋だった。


「夢、だったか………」


 心臓がバクバクとなっている。
 ある意味で恐怖とか、そんなレベルじゃない衝撃を受けた。
 寝起きなんだが、眠気の一切が吹っ飛んだ。


「そらねー」


 冷静に考えて、俺のベットである。
 2人以上の人間が乗れるもんじゃないのだ。

 というか、夢の中に妹とノウラが居た件。
 身内に欲情とかナイワー マジに。
 ねぇMy Son。
 愛があっても身内にエレクチオンは駄目だと思うんだよ。

 それ以外にも、王太子殿下とかレニーとか。
 マーリンさんが居たのは大歓迎だけど、知り合いの女性連中を丸っと揃えて放蕩の夢とか、俺ってどんだけ溜まっているんですか、っての。
 最近、色々と忙しくて娼館とかもいってなかったのが原因かしらん。
 クソッタレ。

 夢精しなかっただけ、マシだな。
 きっと。





 素振りを、薄暗い朝靄の中で行う。
 まだノウラやマルティナも起きてきていないので、猿叫は上げずに、黙々とする。
 目的は1つ、煩悩退散だ。
 自家発電も悪い選択肢じゃないが、後の処理を考えると体を動かして昇華した方が良いってなもので。

 後、貰ったばかりのロングソードを腕に馴染ませたいってのもある。
 蜻蛉に構えて、振り下ろす。
 ひたすらそれを繰り返す。

 直剣両刃のそれは、柄が少しだけ長くて両手持ちも出来るのだ。
 しかも携帯性を考慮してか鍔が小さく作られており、ナンチャッテ薩摩拵えって感じになっている。
 だからか、なんというか素振りに馴染む感じがする。
 尤も、自顕流はおろか剣道なんてやった事すらないので、どこまでいってもパチ自顕流の枠を出ないレベルの俺が抱く感想なので、感じる、気がする程度の話だけれども。


 剣を振るう。
 振るう。
 振るう。


 どれだけ一心不乱に振るったか判らなくなってくる。
 剣を持っているのではなく、腕の先が剣になっている ―― そう感じられるまで振るう。
 そこまで使い込んでこそ剣は、武器は、戦場で信頼できる相棒となるのだ。
 そうマーリンさんに教えられ、そして俺は信じている。
 或いは信仰しているのだ。

 我ながら馬鹿な話である。
 だが、そもそも男なんて馬鹿が基本で、最初の女性を忘れられない生き物で、しかも俺の場合、その最初の相手が最高のヒトだったってんだから仕方がない。
 魂叩き売りってなものだ。


 そんな男の純情マーリン☆ラブは別にしても、積み重ねた時間は、決して主を裏切らないってのは分かる話なので。
 要するに感情と理性とが揃って是としているのだ。
 であれば剣を振らぬ理由はないってなものである。

 後、漸くながらもエレクチオンが収まってきた。
 やれやれだぜ、ってなものだ。

 ロングソードを鞘に収める。
 拵えが良いのか、汗をたっぷりとかいたが握った柄が滑るような感じがない。
 実に良いものだ。
 まじまじと見てしまう。
 超一流の職人が作り上げ、そこに壊れない為の魔法が掛けられた、旅人の護身という目的に沿って生み出された実用本位の逸品だ。

 流石は王室下賜品ってなもので。


「気に入ったかい?」


 振り向けば親父殿だった。
 まじまじとロングソードを見入っていたから、近づいて来たのに気づかなかったのだろう。


「ええ。かなり」


 素直に褒めておく。
 悪くない、なんて軽口を叩く気にならない程の逸品だ。
 基本、ショートソードでの戦闘スタイルを好む俺だが、それ以外の武器が嫌いって訳じゃないのだ。
 というか、良い武器は良いのだ。
 最近になってみて、母親様の武器収集癖も分かるというもので。


「それだけ喜んで貰えれば手を回した甲斐はあったね。だが、こうやって見ると本当に親子だな。よく似ている」


「え?」


 前半の意味が良く分からないが、後半の意味も今一つ分かりかねる。
 何、何事で御座いますか。


「いや、気に入った武器を見つめる目がね、アデラに良く似ていたんだよ」


 母親様に、それは真に光栄の至り。かな? 多分。
 きっと。



 父親殿との会話。
 気がつけばタバコを燻らせながら駄弁っていた。
 中庭の片隅に置かれた椅子に腰掛けて、男同士の会話だ。
 何というか、意味のある事って訳じゃなく、何だろうか、心落ち着くものがある。
 俺の、ビクター・ヒースクリフという人間の父親だからか。
 職業とかスキルとかで謎っぽいものを持っている御仁だが、息子としてみてみればキチンと安心できる相手だった。


「なぁビクター」


 それまでの雰囲気から一変して、真面目な表情になる父親殿。
 気が付けば、パイプの火も消えていた。
 ならば俺もと、葉巻を灰皿に乗せて背筋を伸ばす。


「僕は至って普通の官吏だ。だから君に大きい事を望まない。間違っても英雄として帰還しろなんて言わない。願う事は一つだ。生きて帰って来い。生きてさえいれば良い。手足の1本2本無くしたところで、何とかしてやる。失敗は経験になるが、それは生きてこそだ。だから生きて帰って来い。僕が言えるのはそれだけだ」


「はい……………はい。有難う御座います」


 何だろう、くそ、頬が熱いぞクソッタレ。
 俺、こんなに餓鬼だったんだろうか。
 トータルで40越えな人生経験もあった筈なのに、泣けるぞ。
 マジに。

 気づけば親父殿は、再びタバコに火を付けて天井を見上げている。
 有難い気遣いだよ。
 あーくそ、クソッタレ。
 煙が目に沁みやがる。



 盛大に葉巻を吹かし、親父殿と取り留めのない会話をする。
 出発の日の朝としては豪勢な時間の使い方かもしれない。
 旅の事、タバコの事、妹の事、母親様の事、ノウラの事、マーリンさんの事、色々とだ。

 そんな時間は、マルティナが朝食の支度が終わった事を告げてくるまで続いた。





 朝食は淡々として終わった。
 少しだけ豪華な食材が並んでいたりしたけど、それだけ。
 只、妹とノウラが少しだけいつもと違って見えたが、よく分からない。
 夢のせいで、何だろう、微妙な罪悪感というかケツの座り心地の悪さから、正面から見れていないから、目の錯覚かもしれない。
 何にせよ、別に今生の別れって分けでもなければ、末期の食事って訳でもないから当然だろう。


 ゆっくりと飯を喰って、最後にもう一度装備を確認する。
 剣は7振り。
 ショートソードは銘なしの魔力付与が4本と初陣時に貰った上級魔法付与ショートソードが1本。
 それにペネトレーター。
 旅装時の護身用であるロングソードが1本。
 戦闘用の、魔道巻き上げ支援装置付きのコンパクトなボウガンが1つ。
 狩猟用のショートボウが1つ。
 後、投擲用のナイフが20本だ。
 ボウガンやショートボウがあるのに、攻撃レンジの短い投擲ナイフを持つなんて奇妙に見えるかもしれないが、短いがゆえに使いやすい局面があるのだ。
 一足で迫れないが、ボウガンで撃つには近すぎる ―― そんな局面が。

 後、ナイフなので色々と使い道があるってのもあるけれども。
 狩猟とか料理とか、はたまた小さいので万が一の時の暗器的な使い方も出来るってなものである。
 しかも安い。
 使い捨てにしても怖くない。
 それが投擲ナイフな訳で。

 並べて見て思うけど、俺、戦争でもする気だろうか。
 ガッツさんより一部重装備ってな感じである。
 まっ、火薬系は薄いってか無いんだけどね。

 これらを携帯したりストリングリングに放り込んだり、馬車に積んだりする。
 というか予備過ぎるモノとかだと馬車に積まないと、直にスゴリングリングの枠を使い切ってしまうだろうから。

 防具を着込む。
 軽くて動きやすい革の防具、一般にソフトレザーアーマーと言われる種類の防具だ。
 旅が長くなるであろうから、疲労軽減の為のチョイスだ。
 但し、防御力に関して手抜きは無い。
 防御フィールドの魔法を付与していて、そこら辺の量産型の鉄製アーマー程度よりは高い防御力を持っているのだ。


 そう言えば鎧に関しては、エミリオが凄い選択をしていやがった。
 フルプレートだ。
 全身板金鎧で旅に出ようとしていやがった。
 もうね、馬鹿かと阿呆かとである。

 モノ自体は極めて良いモノだ。
 防御力強化の魔法もだが、疲労軽減に重量軽減の魔法とか山ほど乗せた特注品なのだ。
 流石は三頂五大でも有数の裕福っぷりを誇るオルディアレス家! と言いたくなる。
 それを本人、スゲェ良い笑顔で 「家族からの贈り物なんです!」 と自慢しやがった。
 いや自慢は良いし、自慢するに相応しい逸品なんだけど、それで旅に出るってどうよ? と思うわけだ。
 戦場で、しかも馬に乗ってならまだしも、旅をするには疲労しやすいし、そもそもフルプレートで歩くなんて、もうね正気を疑うって話である。
 バイクのツナギにフルフェイスヘルメット着用で電車に乗ってるとか評すれば、誰だって俺の気持ちに賛同してくれるだろう。
 馬にでも乗ってれば良かったんだが、ソッチは辞退しやがった。
 まだソレを行える自分じゃないとか何とか言って。

 ならば止めておけと、止めた。
 徒歩でフルプレートじゃ他人が退くと、どストレートに告げたのだ。
 そしたら凹みながらも納得してくれた。
 エミリオ、素直でよい子だ。
 代替として、ミスリル製の対魔法防御効果付きのゴーセーなチュインメイルが出てきたのには吹いたが。
 後、フルプレート自体も持っていく事にもなりました。
 盗難防止の魔法が掛けられた箱に放り込んで。
 しかも、ストリングリングと同系統の異次元収納魔法が付与されており、全身鎧を入れても重さは無くコンパクトという便利な箱だ。
 とっても便利なので、その内、一緒にロンゴミアントまで封印してやろうと思っているのは秘密である。


 兎も角。
 ソフトレザーアーマーの上に装備を取り付け、最後にトラベリング・マントを羽織る。
 鏡を見る。
 中々に悪く無い。
 というか、自分の姿なので悪いとかなると素で凹む。



 ふと、部屋を見渡した。
 子供この頃から慣れ親しんだこの部屋とも、当分はお別れだ。
 俺が俺である事を自覚してからはや10年以上。
 その時間の多くを過ごした部屋だが、人間、何時かは旅立つのが定常ってものだ。


「有難さん」


 誰に言う訳でもなく、言葉が漏れた。
 他の荷物は全て馬車に積んでいる。
 後は2人と合流するだけなのだ。



 中庭に停めていた馬車に、旅立ち前の最後の点検をしてからロバを繋ぐ。
 そう、ロバだ。
 馬車だけどロバで引くのは、単純にコストパフォーマンスの問題、ロバの方がライフサイクルコストが安いのだ。
 エミリオはビミョーな顔をしていたが、旅は長いのだ。
 削れるところで削っておかねば、後々が大変ってなものなのだ。

 少しだけ嫌そうな顔で馬車に繋がれるロバ。
 なんとなく、人間くさい感じだ。
 やる気の無いロバって感じでもあるが。


「そんな顔をするな。ドン、これから宜しく頼むぞ」


 ドンキーから取ってドン。
 この世界の人間では分からない命名則かもしれないが、まぁ気にしない。
 チェックリストをつき合わせて確認する。
 乗せ忘れがあると、悲劇だからだ。
 途中で買い足したり、はたまた取りに戻ったりとか面倒臭いという意味で。


「お兄様」


「お?」


 振り返ればそこに、妹。
 何か、思いつめたよーな顔をしている。
 どうしたい。


「ノウラから聞きました。お兄様、 “オマジナイ” 貰ったそうですね」


 オーイェー ナニこの語感。
 背筋にゾクゾクくるぞ、ゾクゾク。
 言ってしまえば、ゾクゾク美。
 逃げたい、かなり本気で。


「お兄様?」


「ああ、いや、うん。緊張していた俺を、解してくれたよ」


 悩みを吹っ飛ばしたとも言う。
 が、問題はアレか。
 妹からすると俺は、マブなダチのノウラの唇を自分の為に奪ったクソッタレ野郎とかなるのでしょうか。
 下り最速なお兄ちゃん株は、もう取引停止なストップ安ってな感じか。
 帰ってこれるのかね、俺、この家に。
 塩を投げられて 「お兄様は不潔です」 とかならんか。
 想像だけど、想像しただけで泣けてきた。

 でもさ、貰ったのってほっぺだぜ? しかも奇襲で受けたんだぞ。
 何でソレで俺の株が下がるんでしょうか。
 ホントに泣けてくる。
 男として言い訳はしないけど、男泣き程度は許されると思う。
 本気で。


「そうですか。…………所でお兄様、オマジナイにはもう一つ、効能があるんですけどご存知でしょうか」


 こっ、効能? というか効果じゃなくて?? ナニソレ怖い。
 魔法的な意味でだろうか。
 意味不明。
 それは知らなかった。
 というか、本当かよ、ソレって。

「本当です」


「分った分った。ヴィーの言うことだ、信じよう」


「素直な人は、他人に好かれるんですよお兄様。では目を閉じて下さいませ」


「何故?」


 問いかけへの返事は無かった。
 只、笑顔があった。
 妹よ、そこら辺の笑顔、実に母親様そっくりだ。
 お兄ちゃん、少しだけお前の未来予想図が怖くなった。
 子供の頃から、そんな豪い笑顔なんで出来る奴に嫁として貰ってくれる相手、いるのかなーってな。
 いや、キモギモは論外だが。


「お兄様?」


「はい。分りました」


 降参して目を閉じる。
 ビンタの一発で済めばよいのだけれども。

 足を肩幅に開いて、衝撃を受け流せるように立つ。
 覚悟も決めた。

 衝撃は来た。
 インパクト、それは脳みそに。


「ゑっ!?」


 目を開ければ、顔を真っ赤にした妹が居る。
 口元を大事に押さえて肩を寄せている姿は、凄く愛らしい。
 って違う。
 そこはほっぺたじゃねぇよって事だ。
 ビンタでも無いし。


「抜け駆けをしたノウラが悪いのです」


 耳まで真っ赤にして言う妹。
 なに、この可愛い生き物。


「お兄様、私、待ってますから。必ず帰ってきてください。必ずですよ」


「あっ、ああ。必ず、な」



 走って母屋に行く妹。
 もしかしてだが、俺って好かれている、のか。
 いやいやいや。
 あんな可愛らしい格好を見せられて、そこで疑問符は人間として屑だろう。

 しかしブラコン、ブラザーコンプレックス。

 ノウラと同じだろうが、コレ、どーするよ。
 受け入れてよいものやら。
 だめな理屈は無いのが我がトールデェ王国だが、俺の魂 ―― 「    」としてのモラルが、受け入れに難色を示している。
 何だろう、学校に良い男なんて居なかったのか。
 いや、居ても胃が痛いってのは俺がシスコンだからか。
 据え膳なんてされたら、迷わず喰いそうで自分が怖いし。
 というか、そうなると夕べの夢とか、無意識下に沈めていた俺の願望が頭をもたげたって事か。
 あうあう。

 でも、それってどうなの? って真剣に悩む訳で。
 それに、妹を受け入れたら、何でノウラを受け入れないって話になっていくリスクも大だし。
 ハーレム?
 重婚??
 俺が???
 信じられん。
 というか、その場合だと我が君たるマーリンさんはどうなる。

 うぉっ! 頭がフットーしそうだよ。


「心、ここにあらず、かな?」


「まっ、マーリンさん!」


 振り返ればマーリンさん。
 莞爾と笑っている。
 そっと顔を寄せ、艶やかに笑う。


「見てたよ」


 耳打ちが心を抉る。
 どっ、どこから。


「最初から、かな。情熱的な口づけだったね」


 妬けるね、というマーリンさん。
 いやいやいや、その感想もどうかとおもうのですが。


「或いは “若い” だね」


 その感想は、もっとどうよと思うのですけど。


「悩んでいるのかい?」


「正直に言えば」


「そうか。じゃぁそれが宿題だね。君が愛をどう捉えるのか、帰ってきたら教えてくれ」


「僕は貴方を愛していますよ」


 僕。
 そう、俺はマーリンさんの前では常に僕だ。
 肉欲から始まった愛。
 でもそれで良いと思う。
 魂を売っても良いと思う。


「有難う。私も愛しているよ。だけどそれだけじゃ世界は狭くなる。君はもっと世界を広げるべきだ」


「えっと、それは ――」


 のど元まで、捨てるのかって聞きたくなってしまった。
 違うだろう。
 この人の愛は深く、大きい。
 愛欲故に独占したいと思うのとは、全く別のベクトルで存在する愛。
 僕を愛してくれるのと同等に、僕を育てようとしていてくれる、そんな愛。

 だから、歯を食いしばる。
 歯を食いしばって見栄をはる。


「―― はい。宿題を受けました。帰ってきたら、聞いて下さい」


「楽しみにしているよ」


 最後にキスをする。
 深い深いキスを。










 目的がある。
 宿題がある。

 この旅はきっと良いモノになるだろう。
 玄関ホールには、皆がいた。
 父親殿が母親様が。
 マーリンさんがマルティナが。
 妹がノウラが。
 俺を見送ってくれている。
 だから俺は背筋を伸ばし只一言、声を掛ける。


「行ってきます」


 旅立つにはいい日だ。
 
 
 
 
 
 



[8338] 【第二章】   ――七転八倒的わらしべ長者――     (第二章 登場人物紹介)
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2016/02/19 00:07

 物語は、ルッェル公国を舞台に巻き起こる嵐。



「大丈夫。勝つよ、勝ちますよ」


 眼下に広がった怖気を奮う程の<黒>の群れを見て尚、不敵に笑う。
 笑ってみせるビクター。
 ふてぶてしくも気障ったらしく笑う。


「ビクターって名はね、遠い国じゃ “勝利” って意味を含んでいるらしいのさ。ああ。勝利の栄光を貴女にって事さ」






異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント

第二章 旅立てば七転八倒的わらしべ長者編






○キャラクター紹介
ビクター・ヒースクリフ
地位:トールデェ王国従騎士
字名:<鬼沈め>
 敵と男には強いけど、女子供と酒に勝てた例の無い主人公。

「一宿一飯、女の涙、子供が掻き集めた二束三文。戦の理由なんざそれで十分だ」
 ―― 嘯き。
 ある意味で、今の人生を “余禄” と考えており、それ故に自分の利益を軽視する向きがある。
 後、家族を離れてはっちゃけている面もあり。

ジョブ:
 遊撃班 班長 > 南方混成群邀撃部隊 指揮官


エミリオ・オルディアレス
地位:バルブロクト神 神官
字名:無し
 旅する中で成長している。
 しているけど甘い。
 将来は栄えある聖堂騎士! かもしれない。


ミリエレナ・ハルメルブ
地位:ブレルニルダ神 神官
字名:<聖女>
使い魔:銀の戦獣
 学術的、分類的には聖女。
 でもベイビー、その中身はガチンコ主義者。
 多分、パーティで一番の武断派。
 神殿での純粋培養系なので性格は天然系。
 だもので、戦獣を使い魔としてしまった訳で。





クルト・ローレンツ
地位:行商人
字名:無し
 若いながらも1つの馬車商隊を纏め上げている苦労人。
 嫁さん曰くで「武器はからっきしの人」との事。


ヒルッカ・ローレンツ
地位:クルトの嫁
字名:無し
 美人さんで、特技は皮なめし。
 夜中に血の付いた包丁を持ってという衝撃的登場をかました人。
 基本的に、豪快系。


バルトゥール
地位:吟遊詩人
字名:無し
 中年男性な吟遊詩人。
 この世界で、吟遊詩人は娯楽の提供者であると同時に、情報の伝播役でもある。
 この人と知り合い、冒険を見られた事で、後々、ビクターは厄介事に巻き込まれる事になる(南無南無


アデン
地位:ベルヒト村 村長
字名:無し
 老いてなお、矍鑠として御仁だが、馬に乗るのは厳しいらしい。
 昔は槍働きをしていた。
 ルッェル王国では、士分以上の身分でないと、苗字は無い。


ゲルロト
地位:ゲーベル郷土隊ベルヒト村分隊 隊長
字名:無し
 アデンの息子であり、次期村長。
 それ故に、郷土隊第1班と共に王の下へと行く事が禁じられた面がある。
 言葉遣いは荒いけど、根はいい人っぽい。
 多分。


ヘイル
地位:ベルヒト村青年組 長
字名:無し
 アデンの息子(次男坊)。
 村の若年層のまとめ役。
 ビクターに対抗心をバリバリ燃やしています。
 年は若いけど、ガタイが良いので自負があったのです。
 が、単純に力を示されてからは、懐きました。


ストーク
地位:ゲーベル郷土隊ベルヒト村分隊第2班 班長
字名:無し
 基本的に若過ぎるかおっさんしかいないベルヒト村分隊第2班の班長。
 ベルヒト村の豪農の次男坊、まだ若い。
 というか幼い。
 にも関わらず指揮官に選ばれたのは、家柄の面がある。

 第2班は定数50名の充足率6割、33人で構成されていた為、今回の交戦で兵力の約2割を喪失し、5割が治療中という有様。
 直ぐに動けるのは、軽傷の人間を含めて17名しかいない。
 ゲルロトさんが直接指揮する、予備というか、第1班が抽出されたので無理やりに仕立て上げた第3班の44名(26名の女性を含む)を入れても61名しかいない。
 ベルヒト村に今、459名が居る事を考えると、圧倒的に人が足りていない訳で。
 うわぉ。
 どうすんだろ、コレ(作者の言う台詞じゃない
 神様が悪いんじゃー!!(※被害判定で振ったサイコロの神様がががが


アルハン
地位:ブラウヒア家 執事
字名:無し
 ブラウヒア郡を統治するブラウヒア上士家の執事。
 割と涙もろい。
 後、脱出行で自分の息子も参加していた自警隊は壊滅した、不幸な人でもある。
 戦争って、嫌だよね。


ディルク・ギーゼン
地位:ブラウヒア家 近侍
字名:無し
 苗字を持っている理由は、現ルッェル公王の妹でもあったブラウヒア家夫人ヘレーネが降嫁する際に付いてきたルッェル公国士分の人間(ギーゼン上士家5男坊)であった為である。


ヘレーネ・ブラウヒア
地位:ブラウヒア家当主
字名:無し
 サイコロ神の悪戯によって、トンでもない年齢の寡婦となった少女。

 ルッェル公国に限らず邦国群は、盟主であるトールデェ王国をならって女性の継承権を認めている。


大婆様
地位:大婆様
字名:無し
 ヘレーネ嬢から見ての大婆様。
 茶目っ気と器量を持った婆様。
 ブラウヒア家の残党s’が纏まっていられる、精神的大柱。
 婆様☆ラブ。


フリーデ
地位:メイド
字名:無し
 ソバカスとひっつめ髪をした厳し目な顔立ちが特徴的な、ブラウヒア家のメイド少女=サン。
 先代当主であるアレクシスの幼馴染であり、乳兄妹でもあった。
 小柄というよりは歳相応に小さい。
 尚、性格もキツイ所もあるけど戦闘力は無い。


フォルクマー
地位:クートヌ村 村長
字名:無し
 クートヌ村の村長さん。
 老境にさしかかりつつある文官系っぽい雰囲気の人だけれども、肝は据わってる。
 後、性格は割合に明るめ。


オイゲン
地位:クートヌ村 防衛隊隊長
字名:無し
 村長=サンの息子、やっぱり線が細い人。
 義勇兵部隊を纏めてはいるが現場の指揮はしていない。
 フォルクマーといい、文系な家柄である。


クラーラ
地位:クートヌ村 井戸端大会議々長
字名:地獄耳のクラーラ
 太ましいオバちゃん。
 オバちゃん。
 実にオバちゃん。


アーディ
地位:クトーヌ村 猟師
字名:無し
 猟師__


バイル
地位:クトーヌ村防衛隊 現場指揮官
字名:無し
 鍛冶屋なので筋骨隆々の脳筋親父。
 でも、学も少しある。
 学があるので、ビクター君に<万騎不倒> ―― 無双野郎万を越える様な相手を前にしても倒れない、と。


グロッセ
地位:ブラウヒア家
字名:
 片腕失って戦線離脱。
 魔法で回復も出来るけど、欠損部位の修復はかなり高位の治癒魔法なのでミリエレナも行使不能な訳で。
 命あってもモノだねではあるが。


デリア
地位:無し
字名:無し
 ゲーベル家の先々代の当主の奥方の弟の奥さんの娘さんの娘さん。
 ブッチャケけ、赤の他人な商家の奥方さん。
 商人としてはやり手な所もあり。


ドレラ
地位:自由傭兵
字名:〈岩砕き〉
 自称、元トールデェ王国騎士団スーパーエリートであるが、実力はトールデェ王国の一般兵士級。
 鳥なき里の蝙蝠。






[8338] 2-01 平穏な旅がしたいのですが、避けようとすれば相手から来る。それがトラブル Orz
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/07/28 00:29
 王都を旅立っての馬車旅は快適そのものであった。
 何故なら、トールデェ王国の街道は主要な道のみならず、ある程度の大きさの支道にまで舗装が行われているからだ。
 石を敷き詰め踏み固めている道は、一番狭いところでも左右幅で5メッツ(※約5m)はあり、離合も楽になっている。
 理由は、言うまでも無く軍事用だ。
 先軍政治という訳では無いが、わが国は常に<黒>の脅威に晒されているのだ。
 であれば、国を民を守る上で軍隊の都合を優先するのも、当たり前の状態であろう。

 さて街道の整備が軍事目的となってはいるが、これは基本的に<黒>に対して数的劣勢な我が王国の戦力事情が原因であった。
 呆れる様な勢いで子供を増やせ、そして成人に達するまでが短いゴブリンに比べ、人間は増えるのにも、兵士として1人前になるのにも時間が掛かるのだ。
 それ故にわが国は、その国是の1つとして、多産を推奨しており、5人以上の子を産んだ母親には褒章をだしている有様なのだ。
 富国強兵。
 だがそれでも、歴史を紐解けば、わが国の軍が<黒>に対して数的優位を確保して戦いを挑んだことなど、片手の指を超えた事などないのが現実だ。

 この数的劣勢にどう立ち向かうか。
 その回答が機動力、或いは運動力であった。
 各拠点に部隊を貼り付けて運用するのではなく、的確に部隊を集散させる事で必要な部隊規模を小さくする事を狙っているのだ。
 その的確な集散を実現する為の街道なのだ。
 部隊の展開速度の向上と、伝令部隊の早期展開が狙いなのだ。

 当然、街道を整備した事で<黒>の側も侵攻してくる速度が上がったりもしたが、その場合への備えも考えられている。
 街道10km程度おきに宿場町を兼ねた砦が設けられているのだ。
 大規模なものであれば石造りの堀や塀、そして城郭が設けられており、小規模なものであっても堀と土塀は用意されている。
 この宿場町に拠って<黒>が暢気に街道を使えば即座に捕捉し、近隣の部隊をかき集めて撃破する ―― そういう仕組みとなっているのだ。

 良くもまぁ考えたものだと思う。
 又、建設されるのに投じられた資材を考えると、眩暈がしてくる代物だ。
 だが王国と王都にとって街道と宿場町とは、前進陣地や警戒陣地の役割も兼ねているのだから手は抜けないのだろう。
 実際、幾度もの<黒>の侵攻を、この街道と宿場町のシステムによって無力化しているのだ。
 その価値は、投じられた資材の分以上にあるとは思える。
 それに、物騒な由来を持っているとはいえ、この街道のお陰で旅が快適なのも事実なのだ。
 文句を言うだけ野暮と言うものである。

 のんびりと馬車で進み、宿場町ではそれなりに快適な宿に止まれる。
 山海の珍味に舌鼓という訳にはいかないが、それでも実に文化的で素晴らしい。
 野宿の準備もしているが、好き好んで野宿をする必要も無いのだ。
 時が来れば、嫌でも野宿をせねばならぬのだから、それまでの間、英気を養うのも大事な事である。

 それに、宿に泊まれる事で野営準備を行わずに済んだ事も大きい。
 その分も先に進む事が出来たのだ。
 我々の旅は先を急ぐ種類のモノではない。
 私が街道と宿場町の効率的利用を告げた時、エミリオとミリエレナは揃って、そう主張した。
 2人の主張も間違ってはいない。
 だが、旅する距離は<白>の領域のほぼ縦断なのだ。
 であれば、のんびりとしていては何時になっても<北ノ聖地>に着かない可能性だってあるからだ。
 稼げる時に時間は稼ぐべきなのだ。
 その点を説明した所、2人は素直に納得してくれた。
 有難い事だ。

 尤も、そんな快適で文化的な旅は今日までだ。
 北鎮武伯なる尊称を持った三頂五大の一家、テルフォード伯爵領をもってトールデェ王国の領域は終わるのだ。
 テルフォード伯爵家の中心であり、北壁の異名を持つ大都市ミラが、我が王国の北限であり、王国の整備した街道の終点であるのだ。
 ミラは、かつての帝国継承戦争The Hundred years War時代に作られた要塞は、王国が歴史を重ねるのに併せて発展してきた都市だ。
 <黒嘯>の時代に灰燼に帰したが、その基礎を利用して再建された大要塞なのだ。
 王都以上に実用本位、戦闘本位と思しき部分がある。
 観光には不向きな街である。
 積み重ねられた歴史の持つ重さは、王都とは比較にならない重苦しさを見るものに感じさせる。
 或いは無骨と言っても良い。
 これは治めているテルフォード伯爵家の当主が代々 “武辺者” で鳴らしている事も無関係では無いだろう。
 領地を繁栄させるよりも、武事を優先させるという。
 同じ尚武の家であるリード公爵家が、個人の武勇よりも指揮官としての知略を尊んでいるとのは対照的である。

 だが、無骨ではあるが活気はある。
 王国北部に存在する北方報国群との交易が盛んであるからだ。
 工業や農業的な面では、荒廃した旧帝國領に近いだけ盛んとは言い難いが、牧畜などの面では優れた邦国もあり、その取引で儲かっている模様だ。

 そんなミラから、王国から我々は明日、旅立つ。
 この旅がよき物であらん事を切に祈る。

     ――― 「日記  王国最後の夜にて」 ビクター・ヒースクリフ





 ペンを置く。
 インクが生乾きなページを見る。
 目が痛い。
 長文乙ってな感じである。
 旅に出るから暇つぶしにと日記を用意していたのだが、日中の馬車が暇で暇で、文章を練っていたこのザマだ。
 インクも紙も無限じゃなんだけど、ついつい書いてしまう。
 別段に司馬遼太郎のファンって訳じゃねぇっていうか、どっちかというと福田定一一佐な方がとかいってしまう軍事趣味者だったんだけどね。
 「    」って。

 まぁ今更、どうでも良い話だ。
 買い込んだ紙とインクが勿体無いので、書くさ、書き続けるさ。

 それはさておき。
 紙が、実に書きづらい。
 神族の1柱が生み出した紙は、和紙の親戚みたいな代物で、筆ではなくペンで書くには少しばかりコツが居るのだ。
 それが面倒臭い。
 調子に乗って書いてしまったが、何で俺、こんなに長々と書いたのかしらん。


 目元をマッサージして、肩を回す。
 肩が凝った。
 動かすと違和感がある。

 軽く動かしていると、エミリオが来た。


「ビクターさん、ご飯の支度が出来たそうです」


「判った。行こうか」



 外をみればまだ明るい時間だ。
 そんな時間に日記なんて付けるなって話もあるが、疲れていると夜書く気になれん訳で。
 それに、暇つぶし目的なので、時間なんてどうでも良いのである。
 それよりも飯である、飯。
 アルコールだけは当分、ノーサンキューであるが。
 王国最後の夜って事で、こんな時にワインでも飲めれば最高なのだが、アルコールに逃げる失敗は2度で十分。
 というか2度目の失敗、内容を聞く前に逃げ出したので、アレだ、ノーカンだよね。
 ノーカン。





「ここからが本番です! 頑張りましょう!!」


「はいっミリエレナ様!! かんぱーい!!!」


「乾杯です!」


 禁酒な俺をほっといて、アルコールを入れているエミリオとミリエレナ。
 非常に楽しそうだ。
 妬ましい。
 料理だけでも美味しいけど、でも、やっぱりアルコールも欲しいのだ。
 クソッタレめ。


「結構調子よくこれましたね」


「はい。ですけど、これからが本番です。頑張りましょう」


「はい」


 すっかり出来上がって気炎を上げる理想趣味な聖女様ミリエレナに、合いの手を入れる浪漫趣味な新米神官エミリオ
 野外生活を甘く見ているような気がしてならないぞ。
 人間の手が余り入っていない自然なんて、人間にとっては脅威そのものな筈なんだけどね。


 まがりなりにも街道があるんで、極端な心配はしていないが、楽観は出来ないわけで。
 さてさて、どうなりますやら。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-01
平穏な旅がしたいのですが、避けようとすれば相手から来る。それがトラブル Orz











 結論。
 どうにもなりませんでした。

 彼らの意思は肯定しよう。
 努力は賞賛しよう。
 だが能力、テメェは駄目だ ―― そんな気分だ。

 王国を出てはや1週間。
 その間、シチューの火番をさせれば焦がすし、ご不浄の場所ではオロオロするし。
 尚、料理でミスるのは両者平等にだが、ご不浄に関してオロオロしていたのはエミリオだけである。
 エミリオが殆ど涙目になっているのに対し、ミリエレナはドライに 「見ないで下さいね」 の1言と共に草むらに入っていけたのだ。
 何だろうなーって気分である。
 男だろ!? って言いたい。

 対してミリエレナだが、コッチはコッチで料理駄目具合が酷かった。
 エミリオが火加減をミスする程度なのに対し、端的にいって料理の根本からおかしい。
 端的に言って、壊滅している。
 出来ないわけじゃないし、出来上がったものが食えない訳じゃないんだが、正直美味しくない上に、調味料他を使いすぎなのだ。
 食材でも、無駄な部分が多すぎる。
 大雑把な料理過ぎるのだ。
 例えば、今日の晩飯として作ったこのシチューの様に。


 日が暮れて、光源は馬車に吊ったカンテラと焚き火だけ。
 実に野外生活だ。
 本当は宿にでも泊まりたかったが、ここら辺を治める北方邦国群の1つマルリ公国は、ぶっちゃけて過疎っており人もまばらな国なので無理だった。
 というか、7日間も連続して野営する羽目になるとは思わなかった。
 マルリ公国は、街道を中心とした国づくりをしていないのかもしれないが、物流から離れて国を作るってどうよ? ってなものだ。
 街道から<黒>が来るから、国の中心は別の場所に置きたいとか、色々な考え方があるのかもしれないけども。
 ともかく、街道沿いに宿場町が無いのは残念である。

 余談はさておき。
 シチューを食べる。
 うむ、濃厚だが微妙な味。
 野菜が不揃いで、火の通り方が微妙。
 しかも味が不均衡というか、食う度に味が違うというか。


「………少し、失敗しました」


 スプーンを口に銜えながら、ポツリと言ったミリエレナ。
 うん、この味で “少し” ってのは謙譲表現にしても過ぎるんじゃないの? と正直思う訳で。
 口にはしないけども。
 人間は、ほめて育てるのが基本ですから。


「でも、美味しくなってますよ」


 前が悪すぎたって視点は無いのか、エミリオ。
 但し、その気分を口には出来ない訳で。
 そこはほら、人間関係の問題って奴でね。


「努力の跡は見えるよ、本当に」


「ですよね、ビクターさん」


「ああ。少なくとも喉に絡まないし」


 最初はトロミアップでも銜えたのか!? という代物が出来上がっていたミリエレナ謹製スープも、今では普通のスープに近いものとなっている。
 その意味では確かに努力している。
 但し、食材の無駄はまだまだであるが。
 後、塩っ気の多さも。


「有難うございます」


 でも、笑顔は暗い。
 自分で食っていて違和感も判るのだから、その内に何とかなるとは思うけどね。


「努力あるのみ、さ。というか、エミリオ、お前ももう少し考えてた方が良いぞ」


 そう、成長の後が見えるミリエレナに対してエミリオが作ったというか焼いたパンは相変わらず真っ黒焦げなものとなっていた。
 焼くだけなのに、なんでこうなるのか、不思議に思える。


「僕も頑張ります」


「気合を入れすぎるなよ? 先ずは基本に忠実に、だ。武器の訓練と一緒さ」


「はい、ビクターさん!」


 素直なんだよエミリオは。
 そして善意もあるけど、如何せん経験不足はどうにもならない。

 今、エミリオが作ったのはパンはパンでもイースト菌なんかを加えない、無醗酵パンだ。
 一般的な主食としては、醗酵パンが食べられているが、無醗酵パンは旅の、それも水が得られる場所の旅で、主食として用いられるのだ。
 鉄板で一度焼いてから直火でって手順から考えると、インドとかのチャパティがイメージに近い。
 あ、インドカレー食いてぇな。
 いや、そもそも日本風のカレーが食いたい。
 神保町とか贅沢は言わない。
 Cocoイチだって大感謝する自信がある。
 残念だ。
 神様のクソッタレ。
 我にカレー粉を! 然らずんばレトルトカレーを!! だ。
 今ならガリーライスですらも喜んで食うかもしれない ―― いや、無理か。
 取り合えず出されたボコボコにしてやるだろう。
 ガリーを。


「ビクターさん?」


「あっ、いや、何でもない」


 野外でカレーなんぞ作ってたら、獣だ敵だが匂いに釣られてやってくるので、無くて正解だったのだろう。
 多分。
 きっと。
 そう思ってなければ、やってられん。

 というか、水を加えた小麦粉を捏ね、鉄板に乗せて焼いて、次に直火で炙るだけの簡単料理でどうしてこうも失敗が出来るのか、不思議不思議である。
 本気で。

 コレは最早、パンではなく焦げた煎餅である。
 あ、そう思うと美味しいかも知れない………ん、無いな。
 ないない、それは無い。


「火加減が安定しないってのもあるから、エミリオだけの責任じゃないしな」


 プロパンガスだの何だのの無い野外での料理なのだ。
 火加減を調整できなければ、それはもう、経験の乏しい素人じゃどうにもならない。
 そう考えるべきかもしれない。


「頑張ります!」


「ああ、頼むよ」


 エミリオの最大の美点は、この素直さだろう。
 何にだって素直に愚直に努力する。
 きっと、そう遠くない時間に、美味いパンを焼ける事だろう。
 そう祈りたい。
 焦げたパンは美味しくないでありますよ、と。


 焦げたパンと微妙な味のシチュー、そして俺謹製の炙り肉。
 口直し用にと濃い目の下味を付けて焚き火で炙った一品だが、大正解だった。
 狙い通りに口直しになってくれた。
 問題は、調味料の消費がチトばかり激しい事だが、この2人の成長の為なので我慢すべき事柄だ。
 最初のうちに苦労していないと、後でトンだ苦労をする羽目になるのは見えているから。


「………ん?」


 何かが聞こえた様な気がした。
 周りを見る。
 エミリオも頷いている。
 ミリエレナは目を閉じて精神を集中させている。

 馬車を中心に置いた、犬サイズ以上の生物が接近したときに警報を発する警戒結界の魔道具に反応は無い。
 だが俺の耳は、俺のみならず他の2人の耳も、何かを捉えた。

 手元に置いていたロングソードを掴む。
 まだ抜剣はしない。
 音の方位と種類を探る為に集中する。

 俺たちが野営しているのは主要街道から少しだけ入った平地だ。
 この辺りは山がちで、まだ木々もあるので周りの見通しが悪い。
 状況が掴みづらい。
 と、エミリオが魔法を使った。


「偉大なるレオスラオの名に於いて ――発動せよ遍くを捉える力! 鋭き耳 」


 魔法は、攻撃だけじゃなくて防御、そして日常でもあらゆる目的に使える万能な存在だ。
 その中には聴覚強化も含まれている訳で。
 実に魔法的な魔法だ。
 羨ましい。
 何で俺、使えないんだろうね、全く。
 俺も俺Tueeeeeeeeeeeeeeeeeしたいってもので。

 そんな、少しとは言わない嫉妬の加わった視線でエミリオを見ているが、当のエミリオは真剣な顔をしたまま俯いている。


「……………」


 エミリオの邪魔をしちゃいけないからと押し黙っているミリエレナ。
 ミリエレナも当然ながらも魔法は使えるが、彼女が覚えている魔法に、この手の便利系は含まれて居ないんだそうな。
 治癒魔法各種に、身体能力向上系の魔法が得意な魔法だそうな。
 実にガチンコ系である。
 ただの聖女じゃものたりない、戦乙女な聖女って感じである。
 おお怖っ、だ。


「!」


 エミリオが顔を上げた。
 顔には緊張感が浮かんでいる。
 頷いて、言葉を促す。


「誰かが戦っています。結構数は多いです」


「相手は?」


「判りません。でも、ゴブリンやオークのほえ声は聞こえません」


 なら恐らくは獣にでも襲われているのだろう。
 ミリエレナが確認する。


「距離はどれだけですか?」


「そう遠くないです」


 遠ければ、音は届かないだろう。
 きっと数百m以内の筈だ。


「行きましょう、ビクターさん!」


 即決のエミリオ。
 既にミリエレナは抜剣している。
 いや、得物はグレート・ソードなので鞘に入れていても邪魔なのかもしれないけど、にしても、イエローカードを出したいレベルで危険行動だ。

 それはさておき、2人の行動に迷いは無い。
 であれば、俺の行動も決まる。
 基本的に2人の護衛であるのだからアレだ、雇い主の意向は最大限に尊重ってなもので。


「おうさ! ミリエレナ、貴方はここに留まっていてくれ」


「駄目です。私はブレンニルダの信徒です」


 駄目元で聞いたら即答だった。
 勇気をもって護民に立ち、決して退かぬがブレンニルダって訳か。
 まぁいい。
 けが人が居れば治癒魔法は必要だ。

 ドンと馬車とを放置していくのはチトばかりリスキーだが、人命には替えられないってものだ。
 馬車に下げていたカンテラを取って、足で砂を蹴って焚き火を消す。


「なら行くぞ」


 走り出す。





 魔法の効果で目的地が判っているエミリオが先頭を行き、それを俺とミリエレナが追う。
 街道沿いに、もう少し先っぽい。

 全力疾走しようとする2人を抑えて走らせる。
 音の場所へと着く事が目的なのではない、目的地で戦闘乃至は救助活動をする事が目的なのだから。

 と、木々の向こうに光が見えた。
 音も、俺の耳にもしっかりと聞こえた。

 戦闘音だ。
 剣を振るう音、そしてほえ声。
 剣戟の音がしていないので、どうやら<黒>の連中では無さそうである。


「ビクターさん!」


 木々を抜けた先にあったのは円陣を組んだ複数台の馬車、そして周囲に群れている狼だった。
 であればする事は1つ。


「行くぞ!」


 駆け足から全力疾走へとシフトする。
 既に勢いがあるので、3歩目にはトップスピードに乗せられる。

 ショートソードに装備は変えない。
 相手は狼、人から見れば小型な相手だ。
 であれば刀身の長いロングソードの方が当てやすいからだ。

 狼側も、此方に気付いたか、複数のが向かってくる。
 その意気や良し。
 但し、足りない・・・・がな。


「Kiiiiiii Etu!!」


 トンボの構えからの斬撃は、狙い過たず狼の頭を唐竹割していた。
 うん。
 このロングソード、実に良い。








[8338] 2-02 狼は ゴブリンよりも 強かった(節語無し
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/08/01 00:57
 狼は、只の狼なんかじゃなかった。
 普通の野生な生き物であれば、自分への危険を察知すれば基本としては逃げ出すものだ。
 しかし、この馬車の群れな野営地を襲った狼どもは、俺らによって出会い頭に数頭が屠られたにも関わらず、戦意旺盛であった。
 野生の生物としては、有り得ない。
 <黒>の連中が使役しているっていう戦獣、或いはそのはぐれか。
 兎も角、普通じゃない。

 戦獣は基本的に制御しやすい犬系が基本であり、狼もまた犬系 ―― というか、たしか犬のご先祖が狼なのだから、アリなのだろう。
 剣牙虎みたいな洒落にならない化け物は、猫科なのでそうそうは居ないらしい。
 全く居ない訳じゃないのが怖い所だが。



 狼を一刀両断したが、斬撃を放ったが故に、どうしても生まれてしまった隙。
 その隙を狙って、別の1頭が襲い掛かってきた。
 しかもジャンプして。
 振りぬいて姿勢が下向きである事から、死角を狙ったと思える。
 知恵が回る。
 俺のやや右の上方から迫る顎門は、暗闇にすらも白く光って見える。
 迎撃、無理。
 チトばかり力を込めすぎていたらしく、残心が出来ていなかったのだ。
 必殺だったからというか、決闘染みた戦いタイマンばかりしていた悪影響か。
 クソッタレ。

 だから、姿勢を崩す悪手と思いつつも腰を膝を落としての緊急回避。
 左膝を着き、そこから蓄えた左脚のバネを使って右へと飛ぶ。
 ロングソードを抱くように、そして柔道の前回り受身っぽくだ。
 肩から、それもただの土の上での前回り受身なんて、かなり痛い。
 が、コレには1つだけ利点がある。
 その勢いで、そのまま立つ事が出来るのだ。
 隙は最小限度であるのが最上なのだから。

 一回転して立つ。
 膝をたわませて、力を溜めながら狼の着地点を探る。

 すぐ隣だ。
 パックリと大きく口を開けてやがる。
 食いたいか? なら、くれてやる。
 この切っ先をなっ!!


「Ietu!!」


 最小のモーションでロングソードの切っ先を叩き込む。
 半歩踏み込みながら、口から頭蓋骨へと斜め上へのベクトルで、だ。


「っ!」


 唾液と返り血とが顔を濡らしたのが判るが、拭っている暇は無い。
 それよりも先に警告を発さねばならない。


「気をつけろ、並みの狼じゃない!!」


 普通じゃないとは思っていたが、ここまでとは予想外。
 というか、予想できるかっての。


「はい」


「つぅっ!」


 エミリオは盾を使って見事に戦えていた。
 問題はミリエレナだ。
 武器がグレートソードと、大きい上に重いので俊敏な狼に翻弄されつつあった。

 完全に間合いを詰めきられてはいないが、それでも危険域に近づかれつつある。
 というか、1匹がグレートソードを潜りやがった。
 コレはヤヴァイ。
 咄嗟にナイフを引っこ抜いて、投擲する。
 牽制目的の、割と適当な狙いだったが、見事に狼の横っ面に突き刺さる。


「ギャヒン!!!」


 怯むと言うか、のたうった狼。
 ミリエレナはその隙を逃さず、グレートソードを叩き込む。
 狼は、斬られたというよりも潰されたと評すべき惨状、即ち大地の染みになった。
 威力は十分なんだがな。


「エミリオ、ミリエレナのフォローに入れ。後、闇を照らす系の魔法があったら頼む」


「判りました!」


 討てば響くの返事。
 その点でエミリオ、実に良い。


「偉大なるレオスラオの名に於いて ――発動せよ闇を閉ざすの力! 輝ける空 」


 エミリオが唱えた発光の魔法は即座に効果を表した。
 蛍光灯っぽい明かりの玉がエミリオの手の内に生まれ、そして10m位の高さに浮かんだのだ。

 要請してナンだが、正直に言って驚いた。
 盾の形成に、音の収集、そして光を生む魔法。
 エミリオって、意外と魔法の才能があるっぽい。
 或いは、便利系魔法の習得に努力していたのか。
 どちらにせよ凄いものだ。
 子供の内は、見栄えの良い魔法とかを優先して覚えようとかするものだけど。
 内の妹みたいの。

 兎も角。
 生み出された魔法の光が、狼たちの布陣を教えてくれる。
 此方を警戒して半円で囲ってきているのだ。
 猪突猛進に突っ込んでは来ない。
 魔法の光にすらも怯みやしないってのは、凄いもんだ。
 知恵が感じられる。


「2人とも、突っ込むなよ」


 明確に “命令” する。
 突進した挙句に接近され、包囲されて弄られるなんて、願い下げだからだ。
 視野の隅で、2人が頷いたのを確認する。
 旅の前に、事、戦闘だけは俺の命令に従ってくれと言ってある。
 それをキチンと守れるのだから、この2人、良い。

 さて、どうするか。
 こう着状態から、相手が退いてくれるなら有難いが、同時に面倒になる。
 チョッとだけ離れた場所に、ドンが居るからだ。
 である以上、目指すのは完全な無力化ジェノサイドしか有り得ない、か。
 無駄な殺しは好みじゃないが、仕方が無い。


「エミリオ、攻撃魔法は使えるか」


 具体的には、広域殲滅魔法の類が使えると有難い。
 狼は俊敏さこそ優れているが耐久力などは劣っているので、面制圧で押しつぶすのが一番簡単なやり方なのだ。
 言ってしまえばスコア稼ぎサイ・フラッシュ乙の相手でもあるのだ。

 が、返事は残念なものだった。
 教義として使用が禁じられているとの事だった。
 武神バルブロクト、拳骨を象徴とするが故に、魔法によるアシストは認めても、魔法による直接攻撃は否定している模様。
 納得はする。
 近接戦闘の武を肯定する神様なのだ。
 であれば、それを否定する存在を受け入れられる筈も無い訳で。
 神様、神族ったって元々は人間なのだ、その本質がそうそう変わる筈も無い訳で。
 なので感想は一言。
 デスヨネー だ。


 どチクショウ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-02
狼は ゴブリンよりも 強かった(節語無し











 睨み合い。
 距離を詰めて離れての膠着状態。

 いっそ、ナイフでも投擲してやろうかとも思うが、自制する。
 この暗闇で放って回収出来るとも思えないからだ。
 幾らナイフが投擲用で安いとはいえ、牽制というか、様子見で失うのは流石に惜しい。
 さて、どうしたものか。


「フォォォォォォォン!」


 悩んでいたら咆哮一声と共に、暗闇から大型の狼が出てきた。
 他の個体が茶色や灰色を基調としているのに、コイツだけ黒基調だ。
 しかも、一回りと言わずに大きい。
 モロの三輪神様程じゃねーが、それでもポニークラスはある、見事な化け物だ。
 しかも、瞳には知性の色がある。
 間違いなく<黒>の戦獣だな。
 昔の<黒嘯>で侵攻してきた連中、そのはぐれの末裔だろう。
 どの世界でも、野良は迷惑な事だ。

 しかし、隙の無い挙動をしてやがる。
 コッチが剣帯からナイフを抜こうとしたら、姿勢を低くして全身のバネを撓ませてやがる。
 投擲の予備動作って判っているのか。
 知恵が回る。
 こりゃぁ、今のエミリオじゃキッツい相手かな。


「下がってろ。俺が相手をする」


 視線の中心を戦獣に合わせながら言う。
 油断の出来ない相手だ、気を抜くなんて出来やしない。
 しかも、周りの狼どもも戦獣の動向に合わせて微妙に陣形を変えてきている。
 良く躾けられていやがる。
 こんな連中がウロウロしていたら、夜が安心できないので殲滅しないとヤヴァイね。
 警報装置な魔道具もあるけど、これだけ頭の良さげな相手では、安心出来ないってもので。

 すり足で近づく。
 戦獣の方は、更に姿勢を低くしやがった。
 食らわす一撃を避けられたら、体の何処だろうが確実に噛み千切られるだろう。
 こういう時は、自分の防具が軽装なのが悔やまれる。
 鋼鉄製のガントレットとかであれば、腕に噛まれても問題は無かったろうが、今は魔法で耐久力を強化しただけの革手袋だ。
 これでは心もとない。

 深呼吸と共に、ロングソードを両手で大上段に構える。
 プチ自顕流 「蜻蛉っポイ」 だ。
 「蜻蛉の構え」 とは言わない。
 本物の薬丸自顕流を修めている人達は 「構え」 って言葉を嫌っていたって話にあやかっての事だ、。
 何でも 「構え」 ってのが防御の型を意味する言葉ので、んなの先制攻撃初撃必殺を標榜する流派に合わぬと嫌っていたそうな。
 どんだけ攻撃優先よ!? と思わないでも無いが、伝説的人斬り包丁集団の局長さんですら 「初太刀は外せ」 と言ったらしいので、らしいといえばらしいのかもしれない。
 そんな、馬鹿な事を脳みその片隅で思い出しつつも、意識は戦獣から外さない。

 ヒリヒリする様な緊張感。
 そうか、俺って自分よりも小柄で優速、乃至は俊敏な相手とするのは初めてか。
 母親様たちにすら、速度では負けなかったってのに。
 戦獣ってのは、凄いものだ。


 距離が1足の間合いに達した。
 戦獣の顎先は、殆ど地に着かんばりになっている。
 彼我共に戦準備は十分ってな。
 踏み込む。
 振り下ろす。


「Kieeeeeeetu!!」


 耐えるならやってみせろ。
 避けるならやってみせる。
 出来るものならな! という気合の込めた一撃だ。
 このロングソード、手に馴染むというか、実に具合が良い。
 特に、このプチ自顕流との相性など最高だ。

 衝撃


 が、その切っ先が戦獣を切り裂く事は叶わなかった。
 というか信じられん。


「ビクターさん」


 エミリオが悲鳴じみた声を上げた。
 俺も上げたいぞ。
 真坂、刀身を噛むなんて。

 ガッチリと噛まれていて、動くに動けない。
 というか一瞬でも気を抜くと、ロングソードが持っていかれそうになる。
 両手で、それも全力を込めているというのに、だ。
 ファック。
 信じられない奴だ。
 オークやオーガーだって、ここまで非常識な事はしないぞ。
 クソッタレ。

 刃で顎の何処かを切ってか、血を滴らせながらニヤリと笑いやがる。
 実に人間臭くて気持ちが悪い。
 コレで、俺から武器を取って勝ったと思ったか。
 甘いんだよ。

 戦獣がロングソードを取り上げようと全力を入れた瞬間、手を離す。


「!」


 姿勢が崩れ、喉元が、腹が魔法の光の下に晒される。
 そう、弱点が。
 だが戦獣は満足気に嗤っている。
 俺の武器を取り上げた ―― そう思っている。
 その幻想をぶち壊す、っていうか殺す。

 武器はある。
 呼び出すだけで、ここ・・にある。
 ストリングリングに命じる。
 本当は契約した持ち主であれば言葉を発しなくとも収納物を呼び出せるのだが、俺はまだそこまで慣れていない。
 だから、収納物の収納順のナンバーを呼ぶ。


「2番 3番! 開放!!」


 左右、体の両脇に具現化した2振りのショートソード。
 握る。
 そして振るう。
 否、突く。
 左右同時に、心の臓を目掛けて打ち込む。
 突き刺さる。
 後は刀身を、戦獣の体の中心線に沿って振りぬき、開く。

 それで、赤黒いオブジェの出来上がりだった。





 残った狼の掃討は簡単だった。
 或いは、失敗したと言うべきかもしれない。
 馬車の連中が矢を放てば、直に逃げ散っていったのだから。
 慌ててドンと馬車を取りに行ったら、ドンは寝ていた。
 神経の太い奴である。
 再度の襲撃を警戒して、馬車群の所まで戻る。

 魔法の光が、この辺り一帯を煌々と照らしている。
 というか凄いなこの魔法。
 何時まで効果が持続するんだろうか。


「おっ、馬車は無事だったか」


 戻ったら、この馬車群のリーダーらしき人がコッチに手を振っていた。
 壮年の男性だ。


「ええ。コッチに集中していたらしいですね」


「難儀な話だが、悪いだけじゃなかったな」


 集中していたからこそ、来てくれたんだと笑っている。
 なかなかにタフな御仁だ。


「けが人とかは大丈夫ですか?」


「何人か酷いのが居たが、アンタの仲間のお陰で皆、持ち直しているよ。魔法様々だ」


 どうやらエミリオとミリエレナは大活躍の様だ。
 2人とも治癒魔法が使えて、しかも救急処置技術も持っているのだ。
 戦闘もだが、戦闘後に活躍する人材と言える。


「それは良かった」


「ウチの甥っ子も怪我をしていたんで、本気で有難い。有難う、俺はクルト・ローレンツ。見ての通りの行商人だ」


 そう言って、手を差し出してくる。
 握手だ。
 旅を友とする行商人らしい日焼けした手はガッチリとしているが、その動作は柔らかい。
 本人は見ての通りなんて言っているが、その人相風体で行商人らしさが出ているのは日焼け位で、後は普通な感じだ。
 根無し草な商人と言える行商人は、どこか山師的な雰囲気があったりするか、或いはスレた所を感じさせるのだが、このクルトさんに、そんな雰囲気は無い。
 柔らかというか、素直というか。
 何にせよ、善人っぽい雰囲気をかもし出している。


「ビクター、旅の巡礼者って所です」


 神託とかのネタは、説明が面倒臭かったりするので省く。
 この事は2人にも言い含めてある。
 この世界には神託詐欺なんて連中も居たので、神託って単語自体が他人の警戒を呼び起こす事があるからだ。


「君は………2人の護衛って所か」


「ええ。でも、2人とも中々の腕をしていますけどね」


 まだ甘い所が多分にあるが、それでもそこら辺の兵士よりはよっぽど使える連中だ。
 尤も、2人揃って世間知らずが故に、その甘い所がメッチャ怖いのだけれども。


「それでも君みたいな腕利きが居れば安心だろうさ、なぁ<鬼沈め>」


「あれま、バレましたか」


「おっ、本物か。いや、半分は当てずっぽうだったんだよ。双剣持ちでビクターって部分で、ね」


 少しばかり恥ずかしくて、頭を掻くと、後ろから声を掛けられた。


「ウチの旦那、剣はからっきしだけど振るうのを見るのは好きなんですよ。武闘大会も毎回見に行っている位に」


 振り返ると、女性が歩いてきた。
 妙齢の、小柄で顔立ちは整っているが服装に飾りっ気の無い、健康系美人さんだ。
 手にナイフを持っている。
 似合っているけど、血塗れなのを剥き身で持っていられると、少し、怖い。

 というか、よく聞こえたな会話が。


「おいおい。おい前だって一緒に行ったし、楽しんだじゃないか」


「でも、誘ったのはアナタよ」


「それはそうだがっと、すいませんね。ウチの女房、ヒルッカです」


 そう言った後でこっそり耳打ちしてくれた。
 地獄耳なんですよ、と。

 尤も、それも聞こえていたらしく、側に来るなりクルトさんの耳を引っ張っていた。
 コレってアレだね痴話喧嘩。
 ご馳走様、だ。


 当てられちゃ敵わんと逃げ出そうとしたらヒルッカさんに止められた。
 何でも、戦獣の皮はどうするのかって話だった。
 抜き身のナイフは、それまでに倒していた狼たちの処理をしてきたからだった。

 置いてこいやと突っ込みたくもなたが、我慢する。
 なんとなくだが、突っ込みに突っ込み返しが来そうな気がするので。


「割と良い毛皮が取れそうよ?」


 一緒に剥いておこうかと言う。
 え、毛皮を取るっていうか、皮をなめすの?
 マヂで??
 つか、クルトさんが旦那さんって事はヒルッカさんも定住していない訳で。
 にも関わらず、皮をなめせるのって感じだ。
 ビックリしてクルトさんを見ると苦笑していた。


「上手いんです、ウチの女房は」


 どうやら普通の事の様だ。
 馬車に揺られながらするのか、凄いな。
 だが、俺はいらないな。
 防寒着の類も十分だし、そもそも面倒だし。
 という訳でプレゼントとする。


「差し上げますよ。俺はそんな処理は苦手ですから」


「あら、良いの? 素直に貰っちゃうわよ?」


「どうぞどうぞ」




 ルンルンな感じでヒルッカさんが歩いていく。
 血塗れな包丁が無ければ、ホノボノな絵なんだけど、其れがあるせいで正にスプラッタ。
 ねーよって感じだ。

 兎も角、頭をふって脳みそから余計な事を逃す。


「すいませんね、助けてもらった上で頂いてしまって」


「なに、私達に皮をどうこうする技術なんて無いですから、出来る人が有意義に利用した方が良いんですよ」


「そう言われると、何も言えませんな」


 苦笑いするクルトさん。
 それよりも重要な点がある。
 さっきの狼連中に関しての事だ。


「何か疑問が?」


「いや、警戒の魔道具とかの反応はどうだったのかなって思いましてね」


 一般的な警戒用の魔道具が敵を察知すれば、警報を発するのだ。
 それも、結構な音量で。
 基本的に、野生の動物ってのは音に寄って来ない。
 だって人間を襲ったら、大抵は反撃にヌッ殺されるからだ。
 もしくは、襲うことに成功しても、大抵は利益を帳消しにする様な損害を食らうのだ。
 単独で動く動物のみならず、群れで狩をする様な連中ですらも、普通に撃退出来るのだ。
 今回のような、戦獣に率いられてもいない限りは。
 実際、戦獣を俺が殺すと、途端に弱気になって、矢を射られただけで逃げ散った。

 だから、野生動物に対しては音を発するのは有効なのだ。
 但し、知性のある<黒>に対しては “獲物がここに居る” って教えるのと一緒だが、コレはコレで音を出す事に意味があるのだ。
 動ける奴を全部叩き起こして、迎撃の準備をすると言う。
 要するに、万が一の可能性を信じて息を殺しての危険回避では無く、正々堂々と全力で撃退を図ろうって代物なのだ。
 ある意味で、我が祖国たるトールデェ王国が<白>の領域の盾となって、<黒>の大規模侵入を防いでいる現状であればこそのアイテムであった。

 そんな大音量警戒装置であるにも関わらず、警報音は聞こえなかった。
 より小さな戦闘音などが聞こえたにも関わらず、だ。
 この事態には警戒するべきだろう。


「いや、それがお恥ずかしいですが設置に失敗したらしく、上手く動かなかったのですよ」


 詳しく話を聞けば、簡単な話って訳では無かったが理由に納得の出来る話であった。

 以前に使っていた警報魔道具が経年劣化で破損。
 で、購入しようとしたら、新製品を薦められた。
 まだ市場に出回らせていない新製品で、使い勝手の感想をレポートすれば値段を割り引いてくれる。
 しかも、予備として通常の警報魔道具も貸し出す。
 そんな破格な話を受けて新製品の魔道具を買ったのだが、コレが新製品であるが故に、従来型と同じ手順で使おうとして、失敗してしまっていた、と。


「えっと、予備の警報装置は作動しなかったんですか?」


「いやそれが、警戒機能の重複とかで2基揃って使うと、要求されている使用感の報告書が書けなくて」


 旧型も新型も同じレベルでの警戒範囲を持っているので、同時に使用していると使用感覚のレポートが書けないのだという。
 だから、皆が起きていて、物事への対応力がある時間は新型で、寝入る時は、実績の旧型を使っていたのだという。
 で、この辺りは基本的に危険や動物や野良な<黒>の居ない土地なので、いままで警報魔道具が作動する事態も無かったという。
 それらの理由が重なったせいで、今の今まで設置ミスに気付かなかったのだと言う。

 アレだ、油断大敵というべきか。


「ご愁傷様です」


「ははははははっ、困ったものです」


 クルトさん、何とも言いがたい表情で笑っていた。
 俺も、引きつった笑いを浮かべていると思う。
 人の命が懸かっているので、笑うところじゃないけど、笑うしかないって気分なのだろう。

 個人的には、ンなもんさって思うけれども。








[8338] 2-03 牧歌的なのはここまでだ
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/11/06 17:41

 牧歌的な感じで進む馬車。
 ドンはやる気無さげに引いている。
 流れに乗っているから、問題は無いけども。


 今、俺たちはクルトさんの商隊と一緒に動いている。
 用心棒というか、護衛役としてである。
 ここら辺、戦獣に率いられた狼の襲撃みたいな事もあるが、本来はそんなモノを必要とする程に治安は悪くない。
 素人でも護身用の武器を携帯していれば身を守れる程度には安全なのだ。
 ごく稀に、はぐれ戦獣みたいな洒落にならない連中も居るが。
 というかあのレベルの戦獣って稀を通り越すって感じだ。
 何であんなのがいたのかしらん。

 兎も角。
 襲撃の翌朝、まだ怪我が治り切っていない人が居たので、随行を申し出たのだ。
 旅を続けながら治癒をしましょう、と。
 提案者は無論、ミリエレナ。
 流石は<聖女>様、只の脳筋なんかじゃなかった。

 但し、これに対してクルトさんが反対の声を上げた。
 正確に言えば、反対とは違う。
 昨夜助けてもらった上に、アフターケアまで無償でされては、行商人として面目が無いと言ったのだ。
 流石は独立独歩を胸とする行商人らしいというべきか。
 そこら辺の妥協点として、俺たちは護衛役となったのだ。
 飯代+αなお値段で雇われて、護衛と治癒をする事となったのだ。

 正直、エミリオとミリエレナの2人は無償でやりたかったみたいだが、クルトさんの一言で収まった。
 曰く 「堕落したくない」 と。
 確かにロハで治癒魔法も使える護衛が雇えるなんて有り得ないから、正しい選択だろう。
 多分。

 で、一緒に旅する様になってはや1週間。
 やってみての感想。
 コレ、実に良かった、と。
 交易路を行きなれた人たちと一緒に動けるので、水場の確保や休憩のパターン、宿場町での交渉のやり方など等が至極勉強になっているのだ。
 旅する上でのノウハウを効率的に吸収できるのだから、コッチが銭を払っても良い位だと思える位だ。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-03
牧歌的なのはここまでだ











 のんびりとした旅。
 街道はトールデェ王国内のモノほどに整備されてはいないが、それでもアブラメンコフ式非魔道型衝撃緩衝機構と、バケット式の椅子のお陰で快適そのものである。

 又、水場の情報があるので途中で水浴びなんかも出来るのが有難い。
 体質的に汗が出にくくはあるが、それでもやっぱり浴びると快適なのである。
 流石に、お湯は無理だが。
 ここら辺は既に北方邦国群でもかなり北側、旧帝国領 ―― 所謂<翠の砂漠>に近い領域であり、薪に使えそうな木々はそう多くないのだ。
 荒野という訳では無いのだが、間違っても自然豊かと云う訳じゃない。
 なもので、調理用などで回収できる薪は精一杯なのだ。
 真に残念な話である。


「風呂に浸かりたいね」


 1週間から入浴しなければ、体が痒くなるってものだ。
 尤も、そんな感想はこの時代で考えると、かなり贅沢な話ではあるけれども。


「ビクターさんは贅沢ですね」


 ほら、怒られた。
 馬車の中、備え付けの簡易寝台 ―― 担架としても使える展開式の寝台に寝ていたミリエレナが、ポツリと言った。
 声に元気が無い。
 別に怪我をした訳ではない。
 月一で来る、女性特有のアレなのだ。
 どうやら重たい体質らしく、旅の疲れもあってか熱を出していた。
 有無、その点ではこの隊商に加わったのは正解正解大正解だ。
 ヒルッカさんを筆頭に、主婦が何人も居るのだ。
 対処法はバッチリだった。

 俺は俺で知識皆無だし、エミリオはあわわわわっ!? とフリーズしていたし。
 はわわわわっ じゃ無かっただけ、許すってな勢いで。



「清潔第一だよ」


 大事とも言う。
 主に感染症対策の意味で。
 破傷風とか、怖いから。
 幾ら治癒の魔法があるからって、過信は出来ない訳で。


「それは分かりますけど……」


 毎日入浴なんて、コッチの基準じゃ確かに、贅沢だしね。
 薪、燃料だって無限じゃない訳だし。


「それが<鬼沈め>の趣味という訳ですか」


 からかう様に言われた。
 言ったのは馬車に乗っている怪我人さんで、名前はバルトゥールさん。
 中肉中背、常に笑っている様な感じの人だ。
 先の戦いで棒で狼を牽制していたら足を齧られてしまい、肉をごっそりと持っていかれたという可愛そうな人でもある。
 傷が深かったので治癒魔法での完治が出来ず、振動の少ないウチの馬車に便乗する事になっていた。
 この隊商の馬車には、ウチの以外にアブラメンコフ式の衝撃緩衝機構付きが無かったのだ。

 割と安い値段で提供している衝撃緩衝機構だが、まだまだ居住快適性アメニティって概念は、広く受け入れられていないっぽい。
 残念である。
 主に金儲け的な意味で。


「趣味って訳じゃないですよ。ただ、習慣になってますからね」


「幼い頃からの訓練とか、その延長ですか」


「そこまで過酷な理由は無いですけどね」


 悪い人ではないのだが、問題が1つ。
 この人の職業が吟遊詩人って事だ。
 職業の貴賎とかじゃなくて、ネタの為に根堀葉堀してくるのだ。
 コレは困った。


「でもビクターさん、怪我の悪化予防で清潔をって言ってましたよね」


「まぁね。減らせる危険性ってのがあるなら、減らすにこした事は無いしね」


「流石は、トールデェ王国次世代の要って事ですね」


「勘弁して下さい。だいたい、そんなのは、パークス殿とかの役目ですよ」


 パークス・アレイノート、ガチで英雄候補ったら奴だろ、普通は。
 俺は、何だろう。
 間違っても英雄の類じゃないと思う。
 勇者ってのは正義とか愛とかそんな理由さえ在れば、後は “後先考えないバカ” って連中だから、絶対に違う筈。
 割と打算で生きてるからな、俺って。
 惰性もだけど。



 っと、道が開けて先が見えた。
 小振りな感じではあるが、堀があり木塀がも見える。
 今日泊まる予定の村だ。
 名前はベルヒト、この隊商の目的地の一つらしい。
 主要な交易路から入り込んだ場所にあるこの村は、トールデェ王国の属国、北方邦国群の一つであるルッェル公国の村だ。

 ルッェル国は、その国土の南部の1/3を占める大平野を用いて畜産放牧が主要産業との事だ。
 無論、隊商も商売なので人の多い場所 ―― この辺りで一番大きな町、行政区分で郡とかの中枢の町でもあるゲーベルトや、公国の首都であるブラウ・ルッェル等にも行くし、そちらが商売としては本命となっている。
 が、このベルヒトの村は、隊商というかクルトさんにとっては馴染みの場所であり、であるが故にある程度の融通を利かすのだそうだ。

 尚、隊商としては、馬を買いに来た訳ではなく革を仕入れて、その対価にトールデェ王国などから物資を売りさばくらしい。
 この辺り、というかルッェル公国自体はそれなりの自給自足が出来るらしいのだが、砂糖とか、嗜好品の類の生産は出来ずにいるので、良い商売となっているらしい。
 空気の乾いた感じや、木々はあっても森は無いって辺り、なんだろう、中央アジアな国々を思い出すってなものである。
 あそこら辺は、行った事無いけど。


 気のよい人たちが多く、行くと酒盛りになるとかクルトさんは行っていた。
 馬の乳から作る馬乳酒とか、クセはあるけど美味しいとか………禁酒、どうしよう。
 馬乳酒って、乳製品の一種だからセーフだよね、セーフ。
 久方ぶりのアルコール、もとい、振る舞い酒を拒否するってのは失礼だよね。
 うん。
 世の中、礼儀を忘れちゃいけないよね。


「ビクターさん?」


 ミリエレナが訝しげな声を上げてくる。
 いかんいかん。
 酒の事は脳みそから追い出そう。
 一時的に。


「いや、村が見えてきたんだ」


 後ろの荷台から顔を出してきたミリエレナに村を指し示す。
 ん。
 ノウラの故郷の村よりは規模が大きいが、良く良く見ると堀や塀の程度は良くない。
 手入れが悪そうだ。
 ここら辺まで<黒>の連中が来るなんて、滅多に無いから弛んでいるのかもしれない。
 平和なことはいい事だって、あれ? 村の様子が何かおかしい。


「…」


「どうしました?」


「いや、なにかね……」


 バタついているというか、ゴタついているというか。
 お祭り気分でとかいう風には見えない。

 というか、良く見ると塀の上に槍か何かで武装した連中が居る。
 物騒だね、おい。


「ああ、お祭り騒ぎの類じゃなさそうだ」


「戦士の勘って奴ですか」


 ワクワクと言わんばかりの表情でバルトゥールさん。
 そう表現すれば神秘的だが、現実はもう少し散文的なのだ。
 具体的には観察力って事で。


「何事も無い事を祈りたいですよ」


 多分、無理だろうけど。



 俺の諦観を受けてって訳じゃ無いだろうが、入り口の門を抜けて入った村の様子は、何だろう。
 戦の準備or戦の後って風には見えない。
 言うならば、夜逃げの準備に見える。
 金目のものをかき集めて、馬だの馬車だのに括り付けている様に見える。
 なんぞ、これ。
 通りが占拠され、隊商の馬車が前に進めない。
 交易者向けの宿場は、村に入って直ぐにあるのが定石なのだが、そこまでも行けない。
 動けない。
 凄いものである。


「何事、ですかね」


 傍を歩いているエミリオが尋ねて来るが、そんなの俺でも判らんよ。
 が、それを正直には口に出せない。
 不安ってのは伝染する。
 悲観は感情で、楽観は意思でとかまでは言わないけど、悲観した気分のままで動いたら、体の動きが悪くなるってものだ。
 絶望が人間を殺すってなもので。
 特に、エミリオやミリエレナみたいな若くて経験が少ないと、イザって時が危ない。
 なので、ポジティブな事を言う。


「さぁな。だが、大丈夫さ」


「だっ、大丈夫ですかね」


「ああ。何とかすればいいさ」


「そうですね、ビクターさんが居るんだもの」


 そう言って貰えるのは嬉しいが、丸っと俺任せというか、俺頼りだとエミリオが成長出来ない。
 目指せ英雄! って奴だろ、お前は。
 だから、背中を叩いてやる。


「俺とお前で、だ」


「僕が、ですか!?」


「ああ。誰にだって最初はある。後は如何に成長するか、だ」


「はい!」


 いい返事だ。
 表情に張りがある。
 大変に素直で結構。


「ビクター! 来てくれ!!」


 っと、クルトさんのお呼びである。
 どうに、この村の騒ぎがらみだろう。


「はい! エミリオ、悪いが、馬車を頼む」


「判りました」



 御者台から飛び降りて、馬車列の先頭へ向かう。
 クルトさんが頭を掻きながら立っている。
 傍に、村の若い衆が立って、深刻な顔をしている。


「悪い、厄介事っぽいので、付いてきて貰って良いか?」


「構いませんよ、でも何処まで?」


「アデン…ああ、この村の村長の所でね、あっちだ」


 クルトさんが指したのは人混みがというか、喧騒が凄い所であった。
 少しだけ腰が引けそうな気分になるが、クルトさんが歩き出されてはついていくしかない。
 建前として俺は、クルトさんの隊商の護衛役なのだから。


「どうにも<黒>がらみらしいだが、理解し辛くてね」


 さっきの若い奴によれば、この国の北部から<黒>の軍勢の侵略を受けている。
 久方ぶりの大規模侵略であったので、これ対して国王は常備軍の投入と、郷土軍の総動員を決定したという。
 郷土軍ってのは王家の陪臣が管理している、徴兵上がりの若手世代(といっても40代まで含まれるが)を中心にした部隊との事だ。
 で、働き手&守り手を総動員する事で地方が無防備になるので、非戦闘員は公国首都へと集合せよとの命令が出た ―― という事らしい。

 なんぞそれ、だ。


「<黒>の連中、どれ位の規模なんですか?」


「上を見ても5桁には届かない規模という話だ」


 10000に満たないって表現から5000は確実に超えているだろうし、“群”規模複数って辺りか。
 それも北から。
 進行方向じゃないか、厄介だな。

 しかし、態々と各村々を放棄せねばならぬ程の敵なのかは不思議だ。
 トールデェ王国の徴兵軍と<黒>のゴブリン主体の部隊との損害比率キルレシオは、一般的な部隊で3:1となる。
 ゴブリンと人間の体格差だけで、この数値が出る。
 更に、徴兵軍ではなく常備軍であれば5~10:1を超え、精鋭を超える様な連中、要するにウチの母親様の如き基地外レベルだと優に100倍を超えて1000倍に近づいていくのだ。

 尤も、質が如何に凌駕しようとも、それこそ隔絶しようとも、戦略レベルから上で勝つことは難しいのだ。
 その場では勝利出来ても、部隊の居ない場所を狙われては堪らないからだ。
 相手がゴブリン風情であっても一般の人間にとっては大敵であり、軽い訓練を受けた程度では圧倒する事は困難だからだ。
 人が<黒>に勝利しきれない理由の1つは、この数の問題なのだ。
 後、オークだのオーガーだのの大型な連中が部隊に含まれていると、損害比率は一気に悪化する。
 トントンか、下手するとひっくり返るのだ。
 全くもって、やってられん。


 兎も角。
 この平地に於ける損害比率とは別に、砦等に篭って防御戦闘を行うのであれば更に2~3倍の数値になる。
 この国の軍備や兵員の質を知らないから何とも言えないが、予備役までの根こそぎ動員を掛けるのは少し大げさに思える。
 トールデェ王国だと、リード高原とかの<黒>の領域に接した地方では、このクラスの侵攻を受けるのは年中行事で、その都度、2000人からのリード騎士団<鉄槌>を中心にした部隊で迎撃戦を行っているのだ。
 根こそぎ動員して2000人前後なのかもしれないが、確か、このルッェル公国も万を超える人口があった筈なので、それは無い。
 理由が判らない。
 尤も、俺の知りえない理由があるんだろうけども。


「北には天槍山脈がある。あそこを抜けてくる大規模な<黒>が居るなんて、信じられないな」


「だけど、来ている現実を否定する訳にはいかないでしょう」


「確かに」


 想定外で驚くよりも、新しい状況に対応した方が建設的ってものだ。
 と、クルトさんの足が止まった。
 防御拠点としても考えられてか、漆喰と煉瓦で造られた、この村で一番に大きく見える建物だ。
 ここが村長宅なのだろう。


「しかし、何で俺を?」


「話を聞いて判断する上で、正規の訓練を受けている人が居てくれると心強いからね」


 それは納得。





 さてさて。
 そんな訳で面会となった村長さん、名はアデン。
 この村を預かる事から、ベルヒトのアデンと名乗ったこの御仁、年の頃は50を過ぎた、この世界では老境に達したと見える人だった。
 背筋も曲がり気味であり、顔には疲労の色が濃いかった。


「久しぶりだなクルト」


「ええ。お忙しい中、すいません」


「構わんよ。わしもアンタに頼みたい事があったからな」


 挨拶もそこそこに、実務的な話を始める2人。
 俺は、われ関せずとは言わないが、口を挟まずにバター茶っぽいものが出されたので有難く頂く。
 基本的に俺って、余所者だしね。


「出来る事であれば、何だって」


「助かる」


 あ、このバター茶ウメェ。
 コクがあって、腹がポカポカとしてくる感じだ。
 実にグッドだ。
 そう言えば、最近は冷え込むしな。
 寒暖の差が激しいというか。
 ここら辺は内陸もいい所なんで、寒くなり易いんだよね。
 もう少し北に行くと砂漠っぽい荒野なので、念の為にここら辺で防寒用具の類も揃えておいた方が良いのかしらん。


「しかし大変ですね。王都までの移動なんて。それ程の敵なのですか」


「王は………王はまだお若い。それ故にだろうな」


 深いため息をつくアデンさん。
 ルッェル公国の王っていうと、えっと確か事前で集めた情報だと、ウリッヒかウルリヒとかだったっけ? 確か20代の半ばとか。
 うん、邦国群の中でも群を抜いて若いね。
 先代が邦国列王では武威を誇る人だったけど急死して、長男が家督を継いだとかだったっけか。

 そら、アレだ自分の力を誇示したいというか先王と比較されたくないというか、だ。
 王権の継承を確たるものにする為に権威付けしたいのかもしれない。
 なんにせよ、命令される側としては迷惑千万だけれども。


「では、危機故にとは違うのですね」


「ああ。北の砦に王自らが4000からの兵を率いて入っているのだ。問題は無かろうよ」


 砦に詰めた4000、確かに大抵の相手は一蹴出来るだろう。
 このルッェル国の特産品は馬だし、であれば優秀な騎兵も居るだろう。
 先王が育てた精兵も残っているだろうし。
 この状況で負けるとか、普通はあり得ないだろう。
 多分。


「とはいえ、王命であるからには我々は王都に動かねばならない」


「いやはや、ですね」


「建国以来初の王都集合令、手間も仕方あるまい」


 雑談している2人。
 このルッェル国にも色々とあるっぽい。
 現王は微妙っぽい御仁で、弟妹に嫉妬していたりとか、その弟妹は嫉妬されるに相応しい能力持ちとか。
 うむ、ここの王様ってば、即位した事が己も周囲も不幸だったのかしらん。
 他所の国の事だから、どうでも良いが。


「そう言えば彼は何なのだ?」


 俺、俺は食客みたいな用心棒? 本命は治癒魔法のあるエミリオとミリエレナだし。
 そこら辺は暈す予定ではある。
 その事は予めクルトさんにも言ってある。
 国の外に居るのだから、地位も肩書きもねーもんだってなもので。


「ビクター・ヒースクリフさん、私の隊商を護衛してもらってます」


「ん? どうした、護衛を付けるとは。易路で何かあったのか」


「ええ。はぐれの戦獣に襲われましてね」


 事の顛末を説明するクルトさん。
 それに、深く頷くアデンさん。
 顔に同情の色が浮かんでいる。


「それはそれは、厄介事だったな ―― ビクターと言ったな。わしからも君に礼を言いたい。有難う」


「あっ、いえ。はい」


 頭を下げられるというのは、予想外だったので、少しだけあわててしまう。
 うん。
 仕方が無いじゃない。


「このクルトは昔からの馴染みでな、こんな街道から離れた村にも様々な産物を持ち込んで売ってくれる有難い商人なのだ」


 照れて笑っているクルトさん。
 対してアデンさんは真顔だ。
 確かに、主要な商業ルートから外れていると、特に嗜好品などの入手が困難になるから、村長としては死活問題か。
 ある意味で。


「友の恩人であれば、村を挙げての酒宴でも開かねばならぬが、今はこの有様だ。すまぬな」


「いえ。お気持ちだけで」


 殊勝と見える様な表情を作るように努力する。
 振舞いの馬乳酒が無いのは残念です。
 実に残念ですが。


「ん、そうだビクターは護衛であったな。ならばこの村の郷土隊にも紹介しておこう ―― 誰か、ゲルロトを呼んで来い」


「お、今は息子さんがベルヒトの隊長を継がれたのですか」


「ああ。流石にわしも歳なのでな、お役御免となったわ」


 アデンさんも昔は槍働きをしていたのか。
 言われて見れば、確かに腕や顔に傷跡が見える。


「ご苦労様でした」


「ようやくよ。引き止められたんじゃが、如何せん体が動かんようになってな」


 馬上で弓を使えなくなっては、ゲーベルの馬弓隊は勤まらぬと笑うアデンさん。
 と、そこに壮年の男がやってきた。
 何処と無くアデンさんに似ているので、この人が息子のゲルロトさんなのだろう。
 顔には疲労の色が出ている。
 この御仁も忙しくしているのだろう。


「親父殿、用か?」


「おう、クルトが来た。馬車に乗せて貰う話は受けてもらった」


「有難てぇな。どうにも爺婆様方で、馬に乗れそうにないのが出てたからな。すまねぇな、クルトさん村の馬車、荷は下ろさせたが、乗り切れんのが少し出てな」


 その声には真摯さがあった。
 言葉遣いは荒っぽいが、根は良い御仁っぽい。


「なに、困った時はお互い様ですよ」


「そう言って貰えると、助からぁな。で、この若ぇのは?」


「ビクターです。クルトさんの隊商の護衛をしています」


「ビクターさん、まだ若いですけど腕利きですよ。あのトールデェ王国のゲルハルド記念大学で学んだそうですから」


「ほうか。良く判らんが腕が立つなら有難い。村ん隊は弓馬組みは出払って、今は50もおらん。イザって時は頼りにするぞ?」


「ええ。宜しくお願いします」


 握手。
 差し出された手を握ると、力を込めてきた。
 俺を、俺の力を計ろうって事だろう。
 判りやすいので、こういうのは大好きだ。

 なので、少しだけ力を入れて返した。


「…」


「…」


 少しづつ力を増やしていく。
 段々とゲルロトさんの表情が変わっていく。
 平常から驚きに、そして今は焦りの色が加わっている。
 うん。
 楽しい。

 と、そこへ闖入者があらわる。


「ゲルロト隊長、大変です! <黒>が出ました!!」




 敵の侵入は北側からで、ここの村って、この国の中では一番に南側だったよな。
 どゆう事?








[8338] 2-04 <聖女>様、マジパネェっす!
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/11/04 10:55

 流石は現役の隊長さん。
 ゲルロトさんは、弾かれた様に走り出した。
 俺も、その背を追って駆け出す。
 村長宅から飛び出してみれば、村の中はそれまでとは違った、切迫した雰囲気となっている。

 怒声や悲鳴も飛び交っている。
 その中でゲルロトさんは、迷うことなく村の入り口へと向かう。

 と、扉はまだ開けられたままだった。
 というか、外から外から人が入ってくる。
 さっきまで、村の外に人なんて出ていなかった筈なのに。

 尤も、そんな事を考えている暇は無い。
 先を行くゲルロトさんが、門扉の脇に立っている物見櫓に駆け上がっていくからだ。
 おくれまいと、俺も梯子を上る。

 高さ約6メートルってな感じの物見櫓だが、この村があるのが平地のお陰で、遠くまで見える。
 索敵。
 馬車が、人がこの村へと駆け寄ってきている。
 追われる様に。
 否、真実追われているのだ。
 <黒>から。
 その<黒>は何処かと、物見櫓に詰めていた人の視線を追う形で探す。
 居た。
 見つけた。

 この村から1キロとは言わないが500mからは離れた場所、まばらな木々の間から飛び出してくる騎兵の姿を、見た。


「<黒>が馬に乗っとるか!?」


 馬。
 いや、違う。
 毛深いし、馬よりも小柄だ。
 速度は馬ほどでは無いものの、その動きは俊敏だ。

 脳裏に蘇る、闇夜に開い相手だ。


「戦獣、<黒>の戦獣騎兵か」


「狼ち?」


「恐らく」


「なんでそんな連中がここまで………」


 呆ける様に呟くゲルロトさん。
 本来、戦獣なんて珍しい相手なのだ。
 と考えれば、あの時の戦獣は、この連中から逃げ出した相手なのかもしれない。
 いや、そんな事はどうでも良い。
 頭を振って、脳内から不要な事を追い出す。

 それよりも、戦獣騎兵が此処まで来るまでの状況だ。
 連中、馬には劣ってもそれなりに速い。
 そんな連中に追われる様に、コッチの村に逃げ込もうとしている馬車の群れ。
 ざっと見て、難民だと判る。

 その馬車列を救おうというのだろう、槍を抱えた連中が迎撃に向かっている。
 恐らくはベルヒトの郷土隊って奴らか。
 数は2~30人位、戦意があるのが判るが、その動きは余り良くない。
 それに走っている為に方陣が崩れている。

 相手の戦獣騎兵が、10騎も居ないってのを考えても、チョイとヤヴァイ。
 蹂躙されっちまう。
 戦獣騎兵ってのは、いや、騎兵ってのはそれだけ厄介な連中なのだ。


「ゲルロトさん、あの馬車列の収容と後詰の準備を!」


 強めの口調で声を上げ、意見具申する。
 今のこの状況で、指揮官に呆けているなんて贅沢は許されないのだ。


「おっ、おお!」


「俺は、少し手伝いに走ってきます」


「はっ?」


 時間が惜しい。
 返事を聞く前に、俺は梯子を駆け下りていた。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-04
<聖女>様、マジパネェっす!











 村の入り口は人でごったがえしていた。
 逃げ込もうとする馬車が詰まって身動きが取れ辛くなっているのだ。
 こんな所に、戦獣騎兵のカチコミを喰らったら、洒落にならない。


『馬車を捨てろ! 人だけなら余裕で入れる!! 家財よりも命を惜しめっ!!!』


 物見櫓の上から、ゲルロトさんの大声が響いた。
 決断が早い。
 うむ、どうやら指導者としては一角の様だ。


「ビクターさん!」


「エミリオかっ!」


 騒動に気づいてエミリオもコッチに来たのだろう。
 悪い事じゃないんだが、ミリエレナを放りだして無いだろうな? と思う訳で。


「何事ですか?」


 と思ったら、そのミリエレナさん、コッチに来てた。
 顔色は悪いが表情はしっかりとしている。
 流石は<聖女>、戦神ブレルニルダの巫女って事か。
 合流して、門を出る。
 まだ村の外には少なからぬ馬車と人が居た。
 怪我をしている人も見える。
 血を流し、呻いている人が居る。


「敵襲です。<黒>の戦獣騎兵が迫ってます」


「っ、それは…」


 相手として厄介だと言う事は判るのだろう、2人とも表情は硬い。
 騎兵と聞いて怯えないのは立派だが、今回は前に出られると、チト、困る。
 拠点防衛戦なのだから。


「俺は前に出ます。2人は、この辺りの人たちを村の中へと避難させ、手当てを」


 2人は戦力としてもだが、治癒技術を持っているのだ。
 この状況では、其方の比重が重い。


「ぼっ、僕も戦います」


 慌てて自己主張するエミリオ。
 戦力外通知とでも思ったか。
 説得する手間が惜しいので、叱る。


「優先順位を間違うな!」


 先ず目的は護民、人を護る事なのだ。
 その手段として戦闘があり、治癒もあるのだ。
 戦う事は代替可能な手段でしかない。

 声を張り上げて、物見櫓の上のゲルロトさんに叫ぶ。


「ゲルロトさん、この2人は治癒魔法が使えます!! 指示して下さい」


「助かる!!」


 と、物見櫓ではなく、コッチへと人を連れてきながらゲルロトさんが返してくる。
 連れているが武装している事から、この村に残っている兵か。
 数はボチボチだが装備の具合や動きなどから、余り頼りに出来そうもないのが判る。

 おーいぇー
 これは俺がチトばかり、頑張るしかないか。


「後はあの人の指示に従え! じゃ、後でなっ!!」


 2人が何かを言い返す前に、走りだす事を選択する。





 避難してくる馬車列を抜けると、その先には、駆けてくる戦獣騎兵の姿があった。
 3騎、残る連中は向うでベルヒト村の郷土隊を蹂躙しているのが小さく見える。
 殲滅されてはいないが、時間の問題だろう。
 救助しなければならない。

 その前に、槍を掲げてコッチに突っ込んでくる3騎を潰さねばならないけども。


「6番開放!」


 手に重みが生まれた。
 ボウガンだ。

 魔道巻上げ支援装置付きで、しかも弾倉付きなので連射可能という一品だ。
 残念ながらコストの問題で、命中修正とかダメージ拡大みたいな機能は付与されていないが、それでも自慢の一品である。
 特にグリップのデザインは、人間工学っぽい感じで、握りやすいものに拘った。
 ぶっちゃけて、WWⅡな頃の小銃の銃床デザインを丸っとパクった訳で。
 通称、アブラメンコフ式ボウガン。
 当然ながらも商品のラインナップに載せたが、余り売れてない。
 従来型とのデザインの差とか、大きくなったとかの問題なのかもしれない。
 使えば良さが判るのだけども。
 残念である。

 兎も角。
 銃床のお陰でサイズは大きくなったが、保持しやすくなった。
 脇を絞る様に保持し、狙い、撃つ。
 命中。
 先頭を来ていた騎の騎手、その頭部を串刺しにする。

 巻き上げ装置が、軋みを上げて弦を引っ張り、弾倉から鉄製の矢が装填される。
 秒単位の時間で装填は終わったが、その間に戦獣はかなり距離を詰めてきた。


「カァァァァァァァ!」


 鬨の声を上げて迫ってくる戦獣騎兵。
 良く見ればゴブリンじゃない。
 より小柄な、犬のような頭をしたコボルトだ。

 狼の上に犬が乗る。
 笑い話にもならない、これが現実。
 距離がもう30mも無い。
 狙い、撃つ。
 命中。

 鉄製の矢は狙い過たず、コボルトの喉を貫いた。
 手綱を握ったままだったので、そのまま戦獣ごとに倒れる。
 だが、ボウガンが使えるのは、これまでだった。
 距離が詰まりすぎた。

 ボウガンを手放し、そして腰に佩いていたロングソードを抜剣する。
 いや、抜かない。
 居合いの要領で構える。
 剣帯で下げた鞘を左手で掴んで脇に挟む様に構え、柄を右手で握る。

 戦獣騎兵、一体となって涎を垂らして突進してくる。
 振りかぶられた槍が、陽光を反射して鈍く光っている。
 さて、俺のロングソードと、どっちが切れ味は良いかな。


「Kiiieeeeeeetu!!」


 下からの斬り上げ、戦獣と騎兵共に一刀で切り捨てる。
 派手な血しぶきが上がる。
 真っ二つだ。

 これだけは、ショートソードでは出来ない。
 刃渡りの長さが違うからな。
 というか、この下賜のロングソード、切れ味が凄い。
 骨すらも斬ったのに、殆ど抵抗が無かった。

 っと、んな余計な事を考えている暇は無い。
 目的地を確認。
 郷土隊の連中が、弄ばれているのが見える。
 急がないと全滅しちまうか、アレは。
 クソッタレ。
 人の足で間に合うか。
 間に合えと祈りつつ走り出す。

 と、俺の前の方で騎兵を失った戦獣が身を起こそうとしている。
 なんてグッドなタイミング。

 その背に飛び乗る。
 手綱を掴む。
 が、暴れようとする。
 ですよねー ご主人様コボルトじゃないんで、従う義理は無い、と。
 振り落とそうとしてくるが、それは困る。
 コッチも人命が掛かっているんで、命令を聞いて貰う。
 ニーグリップで振り落とされない様にしがみついて、右手に持っていたロングソードを口元へ ―― 柄を噛んで保持し、右手をフリーにして、戦獣の首を掴む。
 絞める。


「ギャヒッン!?」


 悲鳴と共に、抵抗が小さくなる。
 いい子だ、言う事を聞け。
 手綱を引っ張り、鐙で腹を叩く。
 首を振ろうとするが、締め上げる。


「キャヒッ!」


 最後に一声啼くと、大人しくなった。
 よしよし、いい子だ。
 であれば後は、突撃だ。





 疾駆する戦獣、その乗り心地は実に微妙だ。
 イヌ科だからか、疾走時の体は激しく上下に揺さぶられるのだ。
 酔いそう。

 クソッタレ。
 この戦獣に乗った事を少しだけ、後悔。
 だがその対価は人の倍以上の速度な訳で。
 時間と命が等価交換となれば、乗り心地もクソも無いってなものだ。

 口で噛んでたロングソードを右手に握る。
 3刀流は普通に無理でってなものだ。

 加速させようと鐙で腹を叩いたら、戦獣が吼えた。


「ウォォォォォォォンッ!!」


 響く叫びに反応して、郷土隊の連中を嬲っていた連中がコッチを向いた。
 ひぃふぅみぃと、11騎が居る。
 まだまだ郷土隊も抵抗している様だ。
 グッド。
 根性だけはあるようだ。
 では助けよう。


「Siiiiiiiiii!」


 ロングソードを、振るうスポポポポーン





 逃げていく2頭。
 正直、逃がしたくは無かったが、身の軽いコボルトが乗って本気を出されては、追いつける筈も無かった。



「助かったよ」


 郷土隊のリーダーっぽいのがコッチに声を掛けてくる。
 まだ若い顔は傷だらけだが、その表情は明るい。
 戦獣騎兵相手に生き残ったのが、自信に繋がったのかしらん。


「どういたしまして」


「俺はストーク。見ての通り、ベルヒト郷土隊の第2分隊長をやってる」


 手を伸ばしてくる。
 戦獣の上からだが、此方も手を伸ばす。
 というか、この戦獣がどれだけ落ちついているか読めないので、降りれないのだ。
 降りた途端に暴れられては、話にならないから。


「ビクターだ。巡礼者って所だ」


「なんだ、義侠心で来てくれたのか」


「目の前で戦ってる奴を見捨てられる程に薄情にはなれないんでね」


「有難いな。なら客人として酒を振舞わせてくれ」


「喜んで」


 ええ。
 全身全霊本気で、ね。





 結局、郷土隊の死者は6名だった。
 重軽傷者は18名にも達している。
 見事に撃退出来た事からゲルロトさんがけが人回収にっと、人と馬車を持ってきてくれた。
 当然な顔をしてエミリオとミリエレナも来た。

 ………馬車が、荷物が盗まれていない事を祈ろう。

 さておき。
 重い奴にはこの場で治癒魔法を掛けて行く。
 先に収容した難民っぽい馬車の連中にも魔法を使う必要があるらしく、命に関わる部分にだけ掛けて行くのは、仕方が無い。
 この村には薬師はいても、治癒魔法の使い手は居ないとの事だ。
 それは、ね。
 仕方が無い。


 うめき声を上げる人を手当し、或いは魔法を掛けて馬車に乗せていく。
 死体も、乗せてやる。
 その他、穴を掘ってコボルトや戦獣の死体を埋めてもいた。
 戦の後片付け。
 それを俺は、呆っと見ていた。
 先の戦いで真っ先に戦ったのだからと、ゲルロトさんが休む様に言ってくれたのだ。
 正直、疲労自体は余り無いが、火照った体を冷ましたかったので、有難く受け入れた。

 風が心地よい。
 が、静かではなかった。
 何と、怪我人の回収とかする人に混じって、バルトゥールさんが来ていたのだ。


「凄いですねビクターさん。流石は<鬼沈め>」


 鼻息も荒く、俺にインタビューでもするかの如き勢いで迫ってくる。
 まだ足は完治しきってないのに、ご苦労な事だ。
 この人も、飯の種作りに必死なのだろう。
 そう考えると、邪険な扱いをする気にはなれない。
 鬱陶しいけども。


「私は腰が軽いのが取り得ですからね」


「いやいや、ご謙遜を。真っ先に駆け出すなんて、簡単に出来る事じゃありませんよ」


「あー、あ、いや、まぁ、ね」


「しかも、さっと<黒>の戦獣を奪い取って、それに乗って助ける為に駆ける。格好良かったですよ。味方の危機に駆ける若き戦士。しかも手際よく相手を屠り、撃退する」


 コレが立て板に水と云うものか。
 呆れる位に舌の滑りが良い。
 こうでないと、吟遊詩人は務まらないのかもしれない。


「余り俺を褒めないで下さい。図に乗りそうですから」


「相変わらずの謙虚ですな」


「それに、撃退出来たのはストークさん達が組織的に対抗出来ていたからって面もありますしね」


 フォローを入れておく。
 実際、数的な有利があったとはいえ、戦獣騎兵相手に壊乱せずに戦えたのは立派なのだ。
 それは本当に、そう思う。

 勝てないってのは、騎兵相手に方陣も組まない軽装槍兵である以上は仕方の無い事だから。


「はっはっはっ」


 その笑いの意味は何だろう。
 が、その疑問に頭を使う前に尋ねられた。
 どうするんですか、と。
 バルトゥールさんの視線は、俺の横で寝そべっている戦獣に注がれている。


「どうしましょう」


 まじりっけ無しの本音だ。
 正直に言えば、頭を抱える気分である。

 何だろう。
 降りたら暴れだすかと思ったら、俺に寄り添いやがった。
 コイツもイヌ科なので、序列的なもので、俺に負けたと受け入れたのかもしれない。

 暴れたら斬ろうと思ってたのに、つぶらな瞳で穏やかに俺に付いて来るのだ。
 流石にコレは斬れない。

 とはいえ、けが人の回収に来た連中の目つきは厳しい。
 当然か。
 戦獣なんて<黒>の尖兵、害獣でもあるのだ。
 好意的になれる筈がない。

 かといって馬具つうか、戦獣具を外して野に放てば、それは害獣を生む事になる。
 どうすりゃぁ良いんでしょ、コレ。
 困った顔をしたら、顔を擦り付けてきやがった。
 畜生、可愛いじゃないか。

 大きさを別にしたら。


「ビクターさん、お怪我はありませんか?」


 と、ミリエレナが来た。
 どうやら一通りのけが人の手当ては終わった模様だ。
 手を振って否定する。


「大丈夫、もう治ってますよ」


 かすり傷が殆どだったので、マーリンさんのアミュレットで即回復ってなものだ。


「あら、そうでしたか ―― この子は?」


 視線は戦獣に釘付けだ。
 通常は人に害意を振り撒くような奴が、大人しくしているのだ。
 そりゃぁ好奇心が刺激されるってなものである。
 なのでカクカクシカジカと経緯を説明する。

 さて、どうしたものだか。
 悩ましい。
 と、思ったらミリエレナ、いきなり戦獣に抱きついた。
 突発的な行動に、俺もストークさんも慌てる。


「なっ、何を!?」


「静かにして下さい」


 驚くほどに落ち着いた声で、ミリエレナが俺たちを制止する。
 どうやら何かの意図がある模様だ。
 暫く、黙って見ている。


「どうしました?」


 エミリオが来た。
 唇に人差し指を当てて、黙るようにジェスチャーすると、不思議そうに頷いてくれた。

 そして待つこと暫し。
 ミリエレナは唐突に離れて、決断を下した。
 この子を祝福しましょう、と。


はかり・・・ましたが、心根に邪悪はありません。ですので私が祝福を与えます。そうすればビクターさん、連れて行けますよ」


 殺さなくて済むなら有難い。
 が、祝福ってナニ? が正直な感想。


「ミリエレナ様!!」


 何か興奮しているエミリオと、びっくりしているバルトゥールさん。
 俺だけ仲間外れ。
 聞いてみる。


「祝福って、ナニ?」


 尋ねたバルトゥールさんは、嬉々として説明してくれた。
 要するに、使い魔ファミリアを作ると云う事だ。
 但し、普通の使い魔を作るのとは異なるのだという。
 それも当然。
 神の、ブレルニルダの名において行うのだから。


「私も初めて見ます」


「僕もです」


「しかし凄いですね。確か祝福の出来る人など、今は殆ど居ないと言われますが」


「だからミリエレナ様なんです」


「流石は<聖女>という訳ですか」


「はいっ!」


「実に凄い」


 そこから更に神話の、ブレルニルダがこの世界に存在していた頃の逸話を、熱く語り合うエミリオとバルトゥールさん。
 2人ともある意味でオタ系だから、話があうのかしらん。
 細かい逸話とか、ブレルニルダが連れていた3つの使い魔とかの事で盛り上がっている。

 そんな2人は無視して、ミリエレナは戦獣の周りを回って、魔道具で魔方陣を刻んでいく。
 既に魔力が通っているのか、刻まれた陣が発光していく。

 戦獣は少しだけ怯えている。


「大丈夫、痛くはありません」


 コッチを見る戦獣に頷いておく。
 というか、意思疎通が出来ているというか、この戦獣って言葉を判っているのだろうか。
 判らん。
 身を縮こませている辺り、判ってなさげだが。


偉大なるブレルニルダと魔法の祖レオスラオの名に於いて、我、ここに祝福を請う! 我と異なる生まれなれど、汝、我が同胞となる者なり!


 祝詞パワーワードに従って、魔方陣が光っていく。


「 ――祝福よ今 」


 光が炸裂した。
 視野が真っ白になる。


「っ!」


 そして、チカチカする目を開けてみると、そこには真っ白な体毛と成った戦獣が居た。
 いや、背中には金色の毛が生えている。
 そう言えばブレルニルダの好みの色って、金色だったっけか。
 実に祝福された感じである。
 高貴さとまでは云わないが、気高さっぽいのが感じられる。
 改めてスゲェな、魔法。
 俺も使いたい。
 使えたら、な。





 しかし、アレだね。
 銀毛の狼を連れてとか、ホントに<聖女>様って感じだね。








[8338] 2-05 会議は踊らず、ただ進む(ウダウダやっている暇は無い!
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/11/06 17:46

 義侠心だけで助けました。
 最後に、ミリエレナが使い魔ファミリアを作りましたけど、それは俺はカンケーねぇですだよ。
 常に戻れば、クルトさんの隊商の用心棒でしかないんですけど。
 なのに、何故、こんな所に居るんでしょ。
 村の首脳陣かき集めての会議の場に。
 村に戻ったら、クルトさん共々、連れてこられてしまいました。

 大きなテーブルの真ん中に地図が置かれ、喧々諤々の議論が進んでいる。

 問い詰めたい。
 普通は部外者立ち入り禁止じゃないんですかと小一時間問い詰めたい。


「東のブラウヒア郡は、ウルヒアに集まっていた郷土軍も壊滅したそうだ」


「あそこの郡都は大規模な堀があったぞ、それが短期間に、か!?」


 今後の方針を決める上での情報収集、この村に来ていたの馬車列は、ベルヒト村からはやや北東に位置する郡、ブラウヒアからの難民であった。
 元々、ブラウヒア郡でも王都への集合命令が出ていた為に郡都であるウルヒアに集まっていた所、<黒>の強襲を受けて、壊乱。
 此方へと逃げてきていたそうだ。
 馬車列には郷土軍の将兵は護衛に付いておらず、有志が武器を取っていたとの事。

 ブラウヒアの郷土軍は、その郡を統括する上士ブラウヒア家の当主が陣頭指揮を執っていたが、いつの間にか状況は混乱し、難民達がウルヒアから逃げ出している頃には命令系統など、無きが如しであったという。


「はい。郡外に居た民が多すぎて、軍は上手く動けずに…………」


「ブラウヒア家の当代は、まだ若いながらも文武に優れていた聞いておったが、無理であったか」


「私がヘルベルト様を見たのは、軍を率いて出陣される所でしたが、もうそれっきり………」


 嗚咽する男。
 大の男がみっともない ―― そんな事を言う気にはなれない。
 このべウラウヒア郡からの難民を取りまとめている、この男はブラウヒア家の陪臣だという。
 であれば、ブラウヒア郡にもその家にも思い入れがあるだろうし。

 しかし、問題はそこではない。
 このブラウヒア郷土軍は、大体が2000人近い規模だったと云う。
 それが、状況は不明だが鎧袖一触みたいな感じである。
 どれだけの規模が、コッチに来ているんだかと、思う。

 この地図を見る限り、ルッェル公国の形は歪なY字に近い3角形だ。
 であれば、北の砦を襲っているのは囮で、このブラウヒアやゲーベルといった国の柔らかな下腹部と言える農村地帯を襲っているのが本命か。
 <黒>の連中は、食い物を奪い、人を殺す事を楽しみにしている連中なので、そう考えると、辻褄は合う。

 その事を口にすると、ゲルロトさんが信じられんと呟いた。


「北の砦、いやその周辺のノルト郡からブラウヒアに南下するには、大きな山脈を越えなければならない。アレは、アレを簡単に超える事は出来ない筈だが……」


 この国の東から伸びてくるソレは、<黒>の領域と人類の領域とを隔てる大山脈 “壁の山脈グレート・ウォール” に連なっているのだ。
 それを聞くと、突破できないと思わないでもない。
 が、現に突破してきているのだ。
 山脈が抜かれたと見て、問題は無いだろう。

 それに、問題は原因ではない。
 対処なのだから。
 その事を思いっきり告げる。


「確かにビクターの言うとおりだな。ここで悩んでいても始まらない」


 ゲルロトさんが頷いた。
 参加者一同に、危機意識はあったのだろう。
 それから話はあっさりと、今後の方針に移った。

 王命として、王都集合令が出ている以上、如何に状況が危険と化しているとはいえ、行かない訳にはいかない。
 いっそ、この村が<黒>に包囲でもされていれば話は違うが、そうでない以上は万難を排して王都に行かねば抗命罪として処罰されるだろう。
 今のラッェル公王は、自分の権威付けに必死なので、それに傷を付けたと成れば、死罪となる可能性も高い。
 全く持って、やってられない話である。


「しかし、戦獣騎兵が出回っているのだ。何の手段も無しでは、襲われて終わるぞ」


 それに関しては、一つだけアイディアがあった。
 手を挙げて、発言許可を求める。


「案があるのか?」


「何もしないよりは、その程度ですけどね」


「ほう。言ってきれ」


「では―― 」


 俺が提案するのは、ある意味での護衛船団方式だ。
 護衛部隊を3つに分け、1つは馬車列を直衛する班とし、そしてもう1つは馬車列に先行乃至は周囲に展開して警戒を担当する。
 最後の1つは、戦獣騎兵などが接近してきた場合に邀撃する、戦闘能力の高い連中をかき集めるのだ。
 可能な限り馬車列よりも遠距離で迎撃すれば、馬車列の被害はある程度は抑えられるだろう。
 多分。

 直衛護衛艦とレーダーピケット艦、そして迎撃機とか、そんな風に考えれば、空母機動部隊の護衛方式っぽいかもしれない。


「 ――聊か、人手を要しますけど、これならある程度の対応が可能です」


「人手か。ゲルロト、今の郷土隊はどれだけ残っている?」


「61人、だぞ親父殿」


「うむん。あーブラウヒアの。そっちは何人くらい使えるのがおる?」


「アルハンです。私も含めて、武器を持っているのは10名も居ない。若い者で自衛団を組んだが途中で戦獣騎兵に見つかって………」


 アルハンさんの顔色が悪い。
 殿を務めて喰われた、となれば、生還は期待出来ないのだろう。
 難民の取りまとめ役としては、嘆く他はないだろう。
 悲しい話だ。

 が、今の問題は兵員数だ。
 俺やエミリオを入れても、70名チョイって感じだ。
 厳しい数値だと言えるだろう。


「何とか出来るか、ビクター?」


 え、更に俺に話を振るの? と驚くが、驚いたのは俺以外にも居た。
 まだ若い、というか子供が怒ったように立ち上がった。


「コイツは余所者じゃ、親父!!」


 子供か。
 その反応はデスヨネー だ。
 俺だって、余所者に村の命運をとか言われると、退くってもので。


「だがヘイル、クルトの話だとビクターは南の大国の軍学校を出たと言う。戦の知識はわしらよりもあるじゃろう。その意見を聞かんでどうする」


「じゃけど、余所者じゃ!!」


 不満げに叫ぶヘイル。
 今まで自分には発言を許されなかったのに、俺には意見を求めたので、気分が荒れている模様。
 若いって思う。
 跳ねっかえりってのは、若さの特権だと思う。

 というか、俺って余所者なので黙って聞いておこう。
 あぁバター茶がウメェ。


「黙らんか。命が掛かっている時に、余計なことを考えるな」


「じゃっけども!」


「わしは、村長が黙れと言うとるんじゃ。ヘイル、お前は村長の言葉に不服か?」


「不服じゃなかです」


「判ればよい。座っとれ」


 静かになった室内。
 バター茶を啜る音がしない様に気をつけよう。


「良い機会だから先に言う。俺はビクターを信じるど」


「兄ぃまで!?」


「馬鹿たれが。身一つで戦獣騎兵に仕掛けて勝った男ぞ。信じる理由は十分じゃ」


「言っておくがヘイル、俺と第2班もだぞ」


 ゲルロトさんが重々しく宣言し、ストークさんも同意しやがった。
 期待が少しだけ、重たい。
 というか個人的武勇と作戦の立案と指揮能力って別ものなんだけどねとか思ったり。
 基本的にそこら辺は、学校でもレニーに頼りっぱなしだったので、ブッチャケて不得手だったりする訳で。

 が、人命が掛かっているので頑張りましょう。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-05
会議は踊らず、ただ進む(ウダウダやっている暇は無い!











 村の中枢な人たちって、基本的に郷土隊ってので軍役を得ているので、基本的な部分では話を進めやすかった。
 ここら辺、トールデェ王国の属国としてといか、北方邦国群の構成国として、軍を重視している影響だろうか。

 跳ねっかえりなヘイル君は、まだ参加した事が無かった模様。
 郷土隊に入る前の子供たちが、村の手伝いをする青年組という組織のトップだった模様だが、そこで天狗になってしまっていたご様子。
 親兄が出来物系なので、弟もと煽てられたりしたのだろう。
 が、それが通じたのは子供の社会だけで、大人の世界だとさっきの如く調子に乗るとペチコンされる訳で。
 その意味では可愛そうなものである。


 兎も角、実務的に話を進める。
 基本的な部分はさっきの3班編成で、人員の配置や班の編成。
 そして避難する際の手順や荷物に関しても決めていく。


「避難に於いて優先すべきは速度です。それ以外の要素は切り捨てます」


 言い切る。
 馬車は限られている為、当座の食料と金品以外の家財道具の持ち出しは禁止。
 家畜の連れ出しも禁止。
 中々に厳しい条件が決められていく。
 が、<黒>の大部隊が迫っているかもしれないのだ。
 避難時の速度を遅くする様なものは極力、排除する必要があった。

 戦争とは、非情なものだと深く思う。
 かなり真剣に。


「仕方が無い、か」


「はい。戦獣騎兵が2騎、逃げられてます。万が一、アレが本隊を連れてきたら………」


「対処は出来ぬ、か」


 この村の城郭もそれなりのレベルで整備されてはいるが、流石に4桁以上の連中に襲われると心許ない。
 というか、無理。
 兵士が居ないのだ。
 彼我兵力差が10倍超えているんじゃ、抵抗しようがない。


「それでは村人が納得せんぞ、村長」


「命が掛かっている。無理でも納得してもらう。ブラウヒア郡が蹂躙された状況で、四の五のは言わさせん。明日の朝までに出立の支度を済ま無い分は置いていく」


「やれやれ、今日は眠れそうに無いな」


「徹でしろ。でなければ起きれん眠りになる可能性があるぞ」


「判ったよ、村長殿。誰か、村衆へ布告を ――」




 手早く物事を決断し、進めていく。
 既に<黒>の脅威を実感しているが故に、だろうか。
 というか、村長であるアデンさんがかなり決断力があるんで、助かっている。
 これ、優柔不断だと、物事が動かないから大変なんだけど、その点は実にグッドって事で。

 そして最後は部隊の編制だった。
 3つの部隊。
 哨戒、直衛、迎撃。
 哨戒に関しては、青年団からも人を出す事が決まった。
 若いのに危険を押し付けるのは良くないが、部隊の目的が戦闘ではなく<黒>の警戒と、発見時には即時撤退を厳命という事で、決着した。
 大人を班長として青年団から2人出す事で3人を1班として6個班、18名が選ばれた。
 ヘイル君も参加している。
 交代要員が居ないので、村から郡都までの一昼夜動きっぱなしになるが、頑張って貰うしかない。

 直衛は、郷土隊の生き残りに軍役経験者を入れて、ありったけの武器を持たせて編制。
 3個の班を編成して、それぞれに指揮官は配置したけど、どこまで戦えるかなんて未知数を通り越す。
 ゲルロトさんが指揮官だけど、兵卒の質が、もう訓練もクソも無いってな有様だ。
 ぶっちゃけて、民兵だしね。
 尚、エミリオ達はこのチームへの協力をしてもらう予定。

 で、迎撃。
 これは、生き残った郷土隊でも腕に覚えのあって、度胸のある奴らを選抜して編制。
 何で度胸かと言えば、28名しかいないのに、必要であれば戦獣騎兵相手だろうがゴブリンの戦列だろうが、相手構わず突撃をせにゃぁならないからである。
 迎撃班が相手に突撃して、相手を混乱させている間に、避難の馬車列は脱出するのだ。
 うむ、実に無茶な部隊である。


「隊長は、私が」


 ストークが志願する。
 透明な笑顔をしてやがる。
 あー、コレはアレだ。
 死ぬ気になってやがる。

 提案した俺が言うのもナンだけど、アレだよね、迎撃班って。
 決死よりも必死寄りと言うか、ね。
 なので、責任を取る形でも俺も手を挙げておこう。


「じゃぁ私も、志願という事で」


「ビクター? いや、村人でない君が危ない橋を渡る必要は無いぞ」


 うむ、ストーク。
 止めてくれるか、良い奴だ。
 が、ぶっちゃけて俺、勝てなくても死ぬ気はないので問題無し。
 コボルトやゴブリン相手に脅威は感じられない訳で。

 後、危ない事の提案者が、逃げるってのは気に入らないのだ。
 正直な気分としては。
 迎撃班ってのは、馬に乗る事になるのが憂鬱だけど、それは我慢しよう。


「わしとしては願ったりやが、良いんか?」


「させて下さい」


「ならば、頼む」




 ある程度、話が纏まった所で、夕食となった。
 肉が大量に振舞われている。
 持って行けない分で、日持ちしないのを消費しきる予定だという。

 肉たっぷりの煮込み料理とか、ウマウマである。
 旅していると、どうしても食料調達の面での問題から必要最小限に食料の消費は削る傾向があるんで、こう、肉が大皿で来ると嬉しいものである。
 炙った羊肉、ウマウマである。
 香辛料がもう少しあると嬉しいけど、まぁ贅沢は言うまい。
 塩っけが効いているだけでも有難い。


「良いか?」


 ストークが来た。
 右手には杯がある。
 左手には瓶がある。
 うむ、昼の約束を果たしにきてくれたのだろう。

 振舞い酒じゃ、アレだね、善意を無にしちゃ駄目だよね。
 有難く杯を受ける。
 有無有無、馬乳酒だ。


「先ずは乾杯だ」


「勝利に?」


「明日に ―― 乾杯」


「乾杯」


 飲む。
 チョイとクセがあるが、なかなかに旨い。
 でも、アルコール度数は低そうだ。
 飲みやすくて良いし、この後もあるので、酔っ払う訳にはいかないから、コレで良いのだけど。
 良いのだけど、少しだけ、残念だ。


「初めて飲むが、旨いな、コレ」


「俺の母が仕込んでいる。旨くて当然だ」


「そうれは嬉しいな」


 杯を重ねる。
 ウマウマである。
 余り酔った気にはならないけども。


「ビクター、お前はどうして遊撃班に参加するんだ」


 ストークが、ポツリと漏らした。
 酔っていない目だ。
 真剣なので、率直に返す。


「勝率を上げるためさ」


 言っちゃ悪いが、この場に居る誰よりも俺は強いのだ。
 多分。
 ざっと見た限り、ウチの母親様クラスの人間は居なかった。


「危険だぞ」


 顔をしかめているストーク。
 そんな顔をしていたら酒が不味くなるぞ。


「邪魔か?」


「それは無い。だが、有難いが………」


 好んで危険に飛び込む理由が判らない。
 判らないからモヤモヤしたりしているのだろう。
 良い奴だ。


「俺の仕事は、護る事だ」


「クルトさんの隊商だろ?」


「いや、より狭い部分で、護るべき人が居る」


 クルトさん達も護る積もりだが、最優先はミリエレナとエミリオの護衛だ。
 あの2人を護る事こそが最優先なのだ。

 で、護るために直衛班に参加していたとする。
 迎撃班が失敗して、避難の馬車列に<黒>が迫ってきたらどうするだろうか。
 うん、間違いなく矢面に立とうとするだろう。
 護れる ―― なんて、とても思えない。
 護るべきものは多すぎて、ある意味で広すぎるから。
 そうなっても戦うだろう。
 多分、死ぬまで。
 まだ短い付き合いだが、その程度は判る。

 だから、なのだ。
 直衛班が戦闘をしない様に、俺は俺で努力するのだ。
 2人には、クルトさんの馬車を護っていてとか、ああ、そうだ。
 ウチの馬車は乗り心地が良いのでって事で妊産婦を乗せ、その護衛とか言えば、2人は引き下がるだろう。
 多分。

 うん、俺、頭良いね。


「理由がある。だから俺は遊撃班に参加する」


 護衛と言えば、戦獣をミリエレナが使い魔にしたので、微妙に俺の価値って下がった気がする。
 うん。
 気のせいだろう。
 そう言えば、名前は決めたんだろうか。


「じゃぁいっそ、指揮官にならないか?」


「それは遠慮するよ。ガラじゃない」


「トールデェの軍学校を出たと聞いたけど?」


「それは、ね。だが駄目だ。誰だって頭にするなら見知った人間の方が良い筈だ」


 特に、死地に飛び込もうって事なら。


「それもそうか」


「なんで、俺は指揮官より突撃隊長を任せてくれ」


「判った。よろしく頼むよ突撃隊長殿?」


「任せて貰おう、指揮官殿」


 杯をぶつける。
 乾杯。





 ちょっとだけ。
 そう、ちょっとだけほろ酔い気分で隊商の所へ戻る。
 諸々の報告とか、役割分担に関してエミリオ達に言わないといけないからだ。

 戻る先は、村の入り口の近くに設けられた隊商宿所。
 村営で、馬は勿論馬車まで入れられる、大型施設だった。


「ただ今ですっと」


 荷の確認をしていたヒルッカさんにご挨拶。
 後、旦那さんは隊商で行う協力とかの事で、帰ってくるのがまだ遅くなる事を報告しておく。
 だってこの人が隊商の実質的支配者だから。
 クルトさんって、商人としてはやり手っぽいけど、お人よし指数が高い人なので、〆る人が居ないとどうにもならない訳で。


「ご苦労様。活躍だったみたいだね」


「それなりに、ですけどね」


「おやおや。おっきなのが来ているのに?」


 戦獣か。
 そう言えば、デカイよね、アレは。
 前に襲ってきた戦獣も大概だったけど、今度のは輪を掛けて大きい。
 ポニークラスの狼って、どんだけって感じだ。


「驚かせてすいません」


「いいよ、可愛い感じだし。そうそう、ミリエレナが貴方を待ってたわよ」


「え? 何ですかね」


「名前をって言ってたけど?」


 何のことだかさっぱりだ。
 ヒルッカさんが言うには、洗い場で衣類を洗ったりしている筈だと言う。

 この騒動で洗濯? と思ったのが顔に出たらしく、ヒルッカさんに笑われた。
 次に洗濯できるのが何時になるか判らないから、井戸の使える今のうちに溜まった物を洗うのだという。


「そりゃぁそうですね。じゃ洗い場に行って見ます」



 隊商宿所に備え付けられた洗い場は、真夜中だけどエミリオの魔法によって昼並みの明るさが保持されていた。
 うむ。
 魔法って本当に便利だ。

 そんな洗い場で隊商の女性陣がザブザブと衣類なんかを洗っている。
 いや、エミリオも混ざっている。
 エミリオは、ミリエレナがする事であれば何でも参加したがる所があるから、納得である。
 子犬属性と言うべきか。


「お疲れ様です」


 ご挨拶って大事だよね。
 すると、ミリエレナが寄ってきた。
 顔つきは、割と真剣。


「どうしました?」


「あの子の名前を決めてませんでしたから」


 指で指し示されたのは、洗い場の傍で寝そべっている戦獣だった。
 穏やかな表情で、隊商の子供達をお腹の所でだいている。
 なんだろう、この癒される絵は。

 今後、戦獣を殺しづらいじゃないか。
 いや、まぁ歯向かったら普通に殺すけど。
 一寸だけ、躊躇しそうな癒しの絵だ。


「ミリエレナさんの使い魔ですよ? 自分で決めて良いとおもうのですが」


「だって、ビクターさんが最初に拾ったみたいなものですから。ご意見を聞こうと思いまして」


 それに、何かパッと似合いそうな名前が思いつかないってのもあった模様。
 ですよねー だ。
 神話ネタで決めようとしても、戦獣ないしは狼って大抵は悪役っていうか、<黒>の使役獣での登場が殆どなので、良い名前が無い。
 名前か。
 うむ、名前が無いと不便だし、その意味では決めてやりたい。

 フェンリルは、強そうだけど不吉過ぎ。
 ホロは、いや、アレはアレで。
 ロボは、うーん、色がどうにも。
 モロは、いや、色的には似合いだけど、コイツはそもそもメスなんだろうか。

 色。
 色は白を基調として、金色がある。
 白も、使い魔に契約したときは真っ白だったけど今では、銀色にも似た深みが出ている。
 そう言えばツンドラ狼って、確か白基調だったよな。
 だけど、そっから名前を引っ張ってくるのは、どうにも難しい。
 だってロシアなネーミングは知らんし、な。


「何か、無いですかね」


 期待に満ちた眼差し。
 というか、何故か洗い場の人間が皆してコッチを見ている。
 そんなに期待してもらっても、その、困る。


「ビクターさんって、博識ですから」


 お前かエミリオ、原因は。
 というか、わが事の様に褒めるな、照れるじゃないか。
 宜しい、明日の朝練ではタップリと絞ってやろう。
 愛の鞭だ、愛の。


「因みに、案は無いの?」


「一応、神話で登場するグラーバスとか、或いは直接的に白狼とか、ですかね」


「白狼は直接的過ぎるけど、グラーバスは何で駄目なの?」


「いや、グラーバスって “犬” なんですよ」


「あぁ、納得」


 オケィ、じゃぁ真面目に考えて見よう。
 神話ネタは微妙だったので色から。
 そう白を基調として、金色が1部配されている。
 しかも単純な白じゃなくて、深みのある銀色に近い色。
 白銀、か。
 悪くないな。


「Sirogane って、どう?」


「し?」


「Si Ro Ga Ne ―― しろがね」


「“しろがね” と」


「そうそう。遠い国の言葉で、銀色を意味する言葉だよ」


「いい名前です。今から貴方の名前はしろがねです」


「ワフッ!」


 提案した俺が言うのもナンだけど、即決したよ、この聖女様。
 グダグダ悩むよりは良いけど。
 後、戦獣も気に入ったっぽい反応で何より。



「うわっ!? 何で狼がこんな所にっ!!」


「あ?」


 慌てた声に振り返ったら、洗い場の入り口にはヘイル君が居た。
 ビビった顔でしろがねを見ている。
 戦獣、このサイズの狼を見て腰が引けるのは普通だよね。
 しろがねの腹に子供を寝かせてられる、隊商の母親s’の正気を疑いたいよ。
 ヒルッカさんの薫陶が行き届いているのかしらん。


「私の使い魔です」


 にっこり笑顔を見せるミリエレナに、ヘイル君、頭を掻き毟る。


「なんじゃ、信じられん!?」


 その反応は、正直、否定しづらい。
 が、そもそも何用だ? ヘイル君。
 こんな時間に。

 俺の質問にヘイル君、背筋を伸ばして睨み付けてきた。


「決まっとる。ビクター、貴方に決闘を申し込む為じゃっ!!」


 おーいぇー
 流石にそれは予想外。








[8338] 2-06 教育的指導は鉄拳で
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428
Date: 2011/11/09 11:11

 決闘だと言うヘイル君。
 なんだろーなーって思う反面、判り易くて良いとも思う。
 なので、受けてはやる。
 受けては。


「明日からのことがあるから、1本勝負な」


「おう、そいでええ!!」


 やる気満々である。
 幸い、この洗い場の周りは広く、そしてエミリオの魔法のお陰で明るい。
 一寸した運動程度・・・・は余裕だ。

 隊商の女性陣に、少し下がって貰う。
 それで6m四方程度の空間も出来た。

 持ち込んできた剣をブンブンと振っている。
 力があるのは判る。
 下手な大人より良いガタイをしているんで、迫力は、ある。


「じゃぁ始めようか」


「何で武器を持たんかっ!」


 出せばあるけど、アレは真剣だけ。
 エミリオとの朝錬用にと、木剣も作ってあるが取りにいくのが面倒くさい。
 何より、必要無い。
 挙動から、その程度の事は読める。


「あぁ、無手で良いよ。とっとと来い」


「ビクターさん!?」


「俺のは真剣だぞ!?」


「だから? 真剣は手加減が難しいんだ」


 面倒くさいとも言うが。


「馬鹿にするでねぇぇぇっ!!!」


 右手に持った剣を振りかぶって突っ込んでくる。
 上段にというよりも、単純に振りかぶっているだけの構え。
 踏み込みの速度は悪くないが、これも腰が浮いていて、只、足が速いだけの感じだ。

 あーなんだろう。
 予想通りというか、真剣に鍛錬した風では無かったなぁとは読めていたけど、ここまで素人な動きだとは予想外だった。
 ある意味で予想以上。
 角度45度以上の斜め上。


「てぇぇぇぇっ!!」


 上半身が、泳いでいるがな。
 眠たいし面倒くさくなったので、手早く済ます。
 手早くなら殴り倒しても良いのだけど、もうちょっと面白い事をしてやろう。

 此方も踏み込んでヘイル君の間合いの内側に潜り込むと、左手で振り下ろしてくるヘイル君の右手を、右手首を掴む。
 掴んだ。
 一瞬掴み損ねた位には、パワーはあった。
 自信を持ったのも理解は出来た。
 が、それだけだ。

 重心もクソも無いのでチャッチャカとケリを付ける。
 右手でヘイル君の胸元を掴み、そして更にその右側へと踏み込む。
 右手は相手を釣るように、左手は下げる様に力を加える。
 そして、腰をける。
 右足でヘイル君の足を後ろから前へと向けて刈る。
 大外狩りだ。

 見事にぶっ倒れた。
 俺も鬼じゃないので、投げっぱなしはしない。
 右手を引き上げて、頭が地面に叩きつけられないようにする。
 本当は相手を巻き込むような一本背負いとかが好きだったんだけど、受身の “u” の字すら知らんボウやを苛めるのも趣味じゃないし、剣を持ってて危ないので、このチョイスとなった訳だ。


 しかし、意外と上手くいくものだ。
 20年っぷりっていうか、今生生まれて初めてな柔道だけど、意外と覚えているもんだ。
 魂の記憶か。
 或いは肉体能力がチートなお陰で、適当な動きでも強引に実現させたか。
 まぁどっちでも良い。
 大事な事はヘイル君が地面に倒れて、キョトンとした顔をしている事。
 なんで自分がこうなっているか、理解出来ないんだろうな。


「なっ、ナンじゃ!?」


 うん。
 その気持ちは非常に判る。
 判るが、説明してやる気は無い。
 眠いので。
 俺、正に外道。
 そう言えば、放り投げたクロスボウの整備もしておかないとな。
 アレ、歯車なんかの機械的部品が多いから、乱暴に扱うと、後でチェックしとかないと、駄目なんだよね。
 それも明日にしよう、明日に。
 眠いから。


「という訳で、俺の勝ち。とっとと帰りな」


 槍働きして会議して会議して、もう1個会議して飯食って、酒まで飲んだのだ。
 しかももう夜中。
 人間、眠くなるのも当然ってものだ。
 明日明後日はチト、気合を入れなきゃならんのだし、休まねばならないのだし。
 兵士にとって、休むときに休むのは義務でもあるのだ。


「なっ、納得できるけっ! 武器を使わずっ!!」


「要らなかったろ?」


「なっ、何かの偶然じゃ!!」


 おーいぇー
 勝つまで負けない、負けを認めないって人種ですか。
 明日があるんで怪我をしないようにしてやれば、付け上がっているのですか。
 ふむ、骨の一本でも折ってやろうか。

 ゴリっと黒い事を考えたら、エミリオが出てきた。
 手に木剣を持っている。


「いい加減にして下さい。納得できないなら僕が相手です」


 ビシっと木剣の切っ先をヘイル君に突きつけて宣言。
 顔がマジである。
 真面目に鍛錬していないのに、鼻っ柱の強い姿に、腹でも立てたかね。
 子供なんて、そんなモンだろうに。
 要ってしまえば第2反抗期。
 うん。
 俺に反抗するなとか思うけども。


「オメみてぇな生っちろい奴に俺が負けるかっ!!」


 うん。
 エミリオは肌が白いし、体の線は細い。
 だけど、そんな一面しか見れないからまだまだなんだよね、ヘイル君は。
 坊や扱いでも良いか。
 ガタイはそれなりだけど顔つきは幼い。
 察するに、10代前半、12~3って辺りだろう。

 うん、ヘイル坊やだ。


「じゃぁヘイル坊や、エミリオに勝てたら、もう一回相手をしてやるよ。今度は木剣でな」


「俺は坊やじゃねっ!!」


「そうかい、坊や。まぁやって見せろ」


 エミリオにも一応は釘を刺しておく。
 怪我をさせないように、っと。


「大丈夫です。治癒魔法は後1回は使えそうですから」


 素振りして見せての発言は、おいおいおい、だ。
 好戦的だね、どうも。


「なら、いいさ」


「来なさい!」


「うおぉぉぉぉっ!」


 掛け声だけは勇ましいんだけどね。
 体がついていっていない。
 体格は良いのに、勿体無い。



「さて、寝るか。部屋割りってどうなってるの?」


「いや、放っておいていいんですか?」


「優しいね、エミリオは。だが、これも良い経験さ。子供の内に痛い目に合うってのもね」


 俺もあったし。
 マーリンさんの一撃は、トンでもない威力だった。
 アレは、本当に、痛かった。


「治癒魔法は掛けてあるんだ。後は風邪をひかないように、毛布も掛けたし、後は良い薬さ」


 脳天直撃、そんなエミリオの一撃で気絶したヘイル坊や。
 大の字に伸びている。
 庭の隅っこに移したけど、目が覚める気配が無い。
 無理に起こさず、寝かせておく。
 毛布だけは掛けて、風邪対策はしておくが。


「気合だけじゃ越えられない壁ってのを味わうのも、良い経験さ」


 実体験としてね。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-06
教育的指導は鉄拳で











 兵士戦士、他のにせよ体を動かす仕事にしている人間が旅に出ると、1つ重要な問題が発生する。
 命に関わると言っても良い。
 ある意味で。

 それは “体が鈍る・・・・” という事だ。

 旅に出た事で日頃の訓練を練習を止めると、直ぐに体は怠け者になる。
 楽をしたがる。
 かといって、旅先では十分な練習時間を確保する事は出来ない。
 旅ってのは移動するもので、一箇所にとどまり続けるものじゃないからだ。
 頭の痛い話である。
 朝起きて、キャンプの後片付けをして、移動して、キャンプの支度をして、寝る。
 そんな生活パターンでは、訓練の時間は取り辛い。
 かといって、訓練をしていないと、イザって時に動けない。
 本当に、頭の痛い話である。
 結局、何が言いたいかと言えば、朝は絶好の鍛錬時間だと云う事だ。

 だが、クルトさんの隊商に加わってからは、飯の支度などはお世話になっているお陰で、鍛錬の時間が取りやすかった。
 しかも今は、馬車から荷物も降ろしていないし、片付けるものも殆ど無い。
 お陰で、朝の鍛錬は3人で動いていた頃よりも充実している。

 人より少しだけ早起きして、剣を振るう。
 ロングソードを、ショートソードを。
 振って振って振って、自分の体に馴染ませる。
 手の延長にする。
 しなければいけない。

 もうそろそろしたらエミリオとミリエレナの2人も起きてくるだろう。
 起きてきたら、今度は実戦形式だ。
 旅を始めた頃に比べてエミリオの動きは格段に良くなった。
 訓練は積んでいたが、実戦経験が無かったのでぎこちなかった部分が、滑らかに動ける様に、動きを組み立てられる様になってきているのだ。
 教え甲斐があるってものだ。

 尚、ミリエレナはある意味で完成している。
 神殿戦闘団の一員として実戦経験を積んできた<聖女>サマは、自分の戦闘スタイルを持っている。
 グレートソードをぶん回し、突撃するという。
 ブレルニルダ第3神殿第1戦闘班、通称ブレルニルダの切っ先。
 攻勢任務向けの編制がなされている部隊の一員だったのだから。

 実戦経験、俺よりもあるかもしれんな。
 俺よりも年下なのに。
 あーあー、クソッタレ。
 タバコが欲しくなる。
 感傷って訳じゃないが、実践経験豊富とか考えると、少し、切なくなったりする。
 例えソレが、ミリエレナ自身が選んだ事だったとしても、だ。

 ん。
 タバコを吸おう。
 まだもう少しだけ時間がある。
 タオルを被って、体を冷やさないようにして、少し、リフレッシュをしよう。


「すげーな、何回振っとんじゃ?」


 振り返ると、ヘイル坊やだ。


「目覚めたか」


「あんなビュンビュンビュンビュン音がしてりゃ、目覚って」


「悪かったな。だがそんなに神経が細いと大きくなれんぞ」


「体ぁもう、大きくならんでも良いっちゃ」


「そうか」


 確かに、並みの大人よりは大きい。
 俺ももう少し、身長が欲しいのに、羨ましい事だ。

 葉巻を取り出して、吸う。
 良い味だ。
 朝の清浄な空気を汚す紫煙、それがゆっくりと立ち上っていくのを見るのが好きだ。
 朝を支配している気になれる。


「アンタと、あの生っちろいの、ツエェなぁ」


「今まで、自信があったか?」


「あぁ。村で一番の力持ちっち思とった」


「確かに力はある。だが使い方が駄目だな。練習をしろ」


「素振りか? 俺は ――」


「嫌いか?」


「おもろないで、な」


「それじゃぁ強くなれんぞ。10回や100回じゃない、千と万と振れ。そうすれば体は剣を覚える」


「俺は使えっちぃ!!」


「使えるかもしれない。だが、軽い・・


 思い当たる節があるのだろう。
 ヘイル坊やは黙り込んだ。


「振りぁ重くなっか?」


「当然だ」


「あの生っちろいのみたいに、か!?」


 凄く食いついて来る。
 エミリオの一撃が効いているらしい。

 体格に劣るエミリオだが、その一撃の重さはヘイル坊やとは比べ物にならなかった。
 只の1合。
 それだけでヘイル坊やは剣を叩き落され、追撃で、隙だらけになった脳天に綺麗な一撃を喰らったのだ。


「積み重ねた時間は、自分を裏切らない。強くなりたいなら今からでも始めて見ろ」


「おぉ、すっぺ!!」


 しかし、何でこんなに素直なのか知らん。
 夕べはコイツも酒を飲んで酔っ払ってたのだろうか。

 まぁ、どうでも良いさ。
 可愛いものではあるけども。
 ああ、タバコが旨い。



「おはよう御座います、ビクターさん!」


「おはよう、エミリオ」


 エミリオも起きてきた。
 珍しく、ミリエレナは一緒じゃない。
 基本的にミリエレナの後を追ってくるエミリオなんだけれども。


「あっ、ミリエレナ様は体調が悪いらしくて………………」


 顔を赤らめてくるエミリオ。
 ん、女性は大変だね。

 と、自前の剣で素振りをしていたヘイル坊やが、自分からエミリオに声を掛けた。


「はよっざいますっ!」


 エミリオが固まった。
 夕べの敵愾心ガチガチだったヘイル坊やから挨拶されたのだ、まぁ気持ちは判る。
 意味が判らない的な、だが。


「ビクターさん?」


「まっ、体を動かそうか」


 驚いているエミリオの頭を、乱暴に撫でてやる。
 笑って、だ。
 朝の鍛錬をすれば、朝飯は旨いのさ。
 後、強くなりたいって努力する奴は、そうだ、嫌いじゃない。










 進む馬車列。
 前後長く伸びている。
 ベルヒト村を出てすでに1日経た今、目的地の郡都まで大分近づいているが、今の所は問題は無い。
 後数時間の、小さな山一つ越えれば、着くらしい。
 哨戒班も定期連絡をキチンと実施していて、穴は無い。
 先行させたチームによると、ゲーベルの郡都までの街道沿いにも問題は無いという。
 あと少し。

 この馬に乗り続けるという苦行に耐えるのも、それだけで良いのだ。
 どうにも、馬ってのは苦手だ。
 ゲルロトさんが、良い馬を充ててくれたらしいけど、俺には宝の持ち腐れっぽい。
 名前は、
 鉄馬なら幾らでも乗れるんだが、どうにもキツイ。
 気に入らない。
 ロートヤヌアール、1月の赤い月の夜に生まれた馬だそうな。
 愛称はロット。
 と、ロットが体を震わせた。
 うん、コッチの気持ちは、なにか判るっぽい。
 なので、侘びを入れる意味で首筋を撫でてやる。


「ブルルゥン」


 あと少し、宜しく頼むよ。
 鞍の添えつけてある装備を確認。
 借りた武器がキチンとある。
 ゲーベルの馬上弓、要するに馬上で使いやすい様にコンパクトに作ったショートボウだ。
 普通の弓の材料とは違うのが使われているらしく、サイズと比較して威力が大きい。
 弓なら、トービーの作ってくれたものがあるが、狩猟用なので、ナンだろうか、戦争に放り込みたくないってな気分である。
 人間って、我侭なんだよね。

 後は槍、ハルバード。
 古ぼけた感じの、村の倉庫の奥に眠っていたモノだ。
 村の人は使ってないっぽい。
 そのハルバードを俺が持ってきている理由は、馬上から背の低いゴブリンとかを相手にするには、ロングソードやブロードソードではチト、骨だからだ。
 人数が少ないので、弓だけではケリは付けられないだろうから。



「ビクター!」


 と、声を掛けられた。
 ストークだ。


「どうした?」


 馬を寄せて、小さな声で言う。
 <黒>が来た、と。


「そうか。規模は?」


「数百って感じらしい。但し、ゴブリンが中心らしい」


「なら徒か」


 ゴブリンは戦獣には乗らない。
 乗れない、らしい。
 今までに目撃例が無いので、多分、そうなのだろう。


「ああ。なので判断を決めかねている。ゲルロトの所にいくぞ」


「あいよ」




 馬車と徒歩のゴブリン。
 普通であれば追いつかれる事は無いだろう。
 が、その馬車は500からの人が乗ってて数が多い、即ち、速度が出ない。
 しかもこれから、上り坂だ。
 そう考えると、追いつかれる可能性は大であった。

 世の中、そうそう簡単には行かないっぽい。
 俺はシンプルなのが大好きなんだけどな。


 ゲルロトさんは、街道の横で、地図を広げて唸ってた。
 村の中枢な人たちや遊撃班、直衛班の人も要る。
 皆して表情が暗い。


「遅れました」


 挨拶をして群れに加わる。
 地図は、国土地理院印の地図と比べると子供の落書きレベルの情報しか載ってないが、それでも状況はわかる。

 俺達が来たのを確認したゲルロトさんは、挨拶抜きで説明してくれた。
 ああ。
 その点で、状況は切迫しているのが判る。


「東からだ。規模は200から、ゴブリンらしか。こんままじゃと捕捉されるど」


「一直線でコッチに向かっているのか?」


「や、俺達じゃなかて、郡都やろ」


 間の悪い事に、コッチの馬車列と同じか、それより少し早い程度でゴブ助どもは郡都に着きそうだという。

 この馬車列が郡都に逃げ込む時間は、少なくは無い。
 持ち出す物資を必要最小限に絞ったが、それでも50台からの馬車だ。
 しかも駄馬が引く荷馬車まで使っているので、速度を上げるのはキツイ。


「それはそれは」


 否が応にも、かき回してこないとヤヴァイね。


「じゃぁ頑張らないと、いけませんね」


 200と相手をみて、コッチが28。
 ナンだ、母親様がノウラの故郷でかました事に比べると、なんて難易度が低いんでしょうか。
 有難くて涙が出るってもんだ。


「……………やれるのか?」


「殲滅は無理ですけ、かき回して壊乱させるのは簡単ですよ」


 リーダー達が暗い表情をしていると、その気分が馬車列の人たちに感染するので、意図的に朗らかに言ってみる。
 悲観ってのは、感情だからね。


「なら、任せすっ」


「任せて下さい」


 ニィっと、笑ってみせる。
 怖い笑顔 ―― 例えばヒラコー風味の、自負と武威とを感じさせるような風に見えていると良いんだけどね。
 人を戦に狂わせるような、狂奔させるような笑みに。


「びっ、ビクター……」


「ああ。派手にやろうぜ」


 派手に、蹴散らしてみせるさ。








[8338] 2-07 スキスキ騎兵!
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:61cfcd94
Date: 2013/04/21 08:46

 俺達迎撃班がゴブリンの群れを発見するのは簡単だった。
 哨戒班がキッチリと位置を把握し、移動ルートを観察していたお陰だ。
 それに、戻ってきた奴の先導が正確だったのも大きいだろう。
 青年団の奴でまだ若いってか幼かったが、かなりしっかりした奴だった。
 お陰で迷う事なく発見できた。
 距離は、馬車列を離れて小一時間程度東北の方へと原野を走った辺りか。
 丘陵を幾つか挟んでいるお陰で、馬車列が見つかっている様子は無い。

 丘陵に身を隠して、ゴブ助集団の様子を観察する。
 こういう時に双眼鏡が欲しい。
 目は悪くないが、詳細が読めない。
 カールツァイスだのニコンだのと贅沢は言わないから。


「居るな」


 ストークだ。
 2人して丘陵に上って、しかも草地なので寝そべってだ。
 コッチの姿が見えない様に念の為にって奴だ。
 下に残した連中にも、隠れておくように言ってある。
 奇襲ってのは突然に受けた方が、高い効果が望めるからだ。


「ああ。連中、緩んでるな」


 ゴブ助どもは隊伍も組まずに歩いている。
 規律なんて欠片も無い。
 数は流石に数え切れないが、100以上の200以下って感じだ。


「おっ、オークだ」


「何処だ?」


「中心の、やや後ろ側だ」


 ストークの指差した先を見る。
 居た、オークだ。
 周囲のゴブリンよりも頭2つか3つは大きいので良く判る。
 楕円ちっくに動いているゴブ助の真ん中っぽい辺りだ。
 数は、距離があるので読みきれないが、大体で3~4匹って辺りだろう。


「目標確認っと」


「良いのか」


「ああ、下に戻ろう」


 大体の位置と数さえ判れば問題は無い。





「なぁビクター、どうする積もりだ」


「指揮官はアンタだぞ、ストーク。どうしたい?」


「いや、だって正面からぶつかる積もりだったから。俺たちが全滅しても、時間が稼げればそれで良いって思ってた」


 その覚悟や良しであるが、ちと今回は過剰だろう。
 なんたって相手は200も居ないゴブ助主体でしかないのだ。
 対するコッチは弓を主武装とするとはいえメイスを持ち、しかも鎧は板金補強されたハードレーザー・アーマーを備えているのだ。
 要するに突撃上等の騎兵サマってなものである。
 尚、騎兵の定番である槍系を装備しない理由は重量というか、馬の持つ積載能力が理由だという。
 馬上弓戦用に大きな矢筒を抱えてた上で至近距離での戦闘用に柄の長いメイスを装備し、更に槍なんてモノまで持っていたら重くなり過ぎて馬の疲労が早まる ―― とかいう判断との事だった。
 何と云うか、割り切りである。

 何にせよ装備自体は古臭い面もあるし魔法の掛けられた装備なんて見当たらないが、にしてもパッと見でも裕福とは感じられないルッェル公国の、それも第2線級部隊の装備と考えれば奢ったものである。
 ここら辺、この国の祖となった帝國貴族ルッェル家の兵であった頃からの伝統って奴なんだろう。
 多分。


「一寸待て。あの程度なら、そこまで酷い事にはなら無いはずだ」


「そうなのか? 俺は単に年齢とかで選ばれた指揮官だから判らんのだ………なぁビクター、お前は確か専門の軍事教育を受けているんだろ? せめて説明を頼むよ」


「あー うん、そうだな…」


 ストークのまなざしには縋る様な色があるってか、感じて思わず言葉が鈍った。
 ほとんど経験無しで人を率いているんだ、当然か。
 その経験も先の負け戦、蹂躙されかかった迎撃戦とくれば、その気持ちは判らないでもない。
 だが俺だって演習ならまだしも実戦で指揮官なんて立場、やった事なんてある筈が無い。
 それで昨日今日知った連中の命を預かって良いのかって、思うのだ。
 28人からの遊撃班の、命だ。
 しかも、今の俺よりも若い、いや、幼い奴までいるんだ。
 そんな命を預かるのは、決して軽いもんじゃない。
 マジでプレッシャーだ。

 とはいえ、この状況下で向いているのは俺の方となれば、グダグダと言う訳にもいかないか。
 俺が学んできた事で、人の命を護れるなら、全力を尽くすべきなのか。
 クソッタレ。
 やってやるよ。
 頬を叩いて気合を入れると、俺を見ている31対62の瞳に背筋を伸ばして言葉を発する。


「狙うはオークの首、只一つだ」


 言葉は腹に力を込め、目に気合を入れて紡ぐ。
 断言するのは、聞き手を鼓舞する為に。
 指揮官は冷静じゃなければならないが、かといって冷静なだけで勤まるものではないからだ。

 今、俺は指揮官じゃないが、かといってぺーぺーな立場でもない。
 指揮官ちっくに頼られているのだ、であれば応えねばならねぇってなもので。


「集団の率いる奴を潰せば連中は壊走する」


「そんなに脆いのか?」


「脆い」


「お、俺達だって勝てっけぇ?」


 懐疑的に言ってくる遊撃隊員A。
 他の連中も頷いている。
 確かに、そんな脆弱な集団なら何でトールデェ王国が負けたり押し込まれたりしているのかって話にはなる。
 が、事実なのだ。
 ある意味でって言葉は入るが。
 普通のゴブ助であれば、ごく普通に訓練された兵士なら1対1で楽勝で1対2になると辛勝、そして3匹に囲まれると敗北してしまう。
 背中を取られて勝てるなんてごく一部の、それこそ母親様やマーリンさんの様な高い戦闘能力を持った人間バケモノだけだからだ。

 その意味でゴブ助は手ごわい。
 だが、そんなゴブ助が集団戦法を維持できるのは指揮官による督戦があってこそだ。
 一匹一匹は小柄で、弱兵と言って良いゴブ助が逃げないように叱咤し、束ね、戦わせる力を持ったオークの様な存在するからこそ、脅威なのだ。
 だからこそ、オークを討てばゴブ助集団を撃退出来るのだ。


「勝てない筈がない」


「そげに簡単に行くけ?」


 コッチの合いの手はヘイル坊やだ。
 坊やの居るチームが、補足に成功したのだ。
 敵を間近で見ていたので、顔つきがかなり真剣になっている。


「いく。何故なら俺たちは騎兵だからだ」


 精神論じゃなく、事実として、だ。

 本来、ゴブ助の集団を突破し、その中枢に居るオークを屠るのは難しい。
 だがそれは歩兵の場合が、だ。
 騎馬であれば、騎兵が突撃をかました場合、ゴブ助側の指揮官がよっぽどに腰が座ってない限りは簡単に蹂躙できるのだ。
 それだけの力、突破力を騎兵の突撃チャージは持っているのだ。


「但し、突っ込んでから脚を止めるなよ。止めたら殺されると覚悟しろ」


 脚を止めた馬は、その巨体故に的にしかならない。
 的になってダメージを受けた馬は容易に暴れて、御者を放り出す。
 放り出された御者がどうなるかなんて、考えるまでも無いだろう。

 後、この捕捉として、騎兵は突撃に大きな空間を必要とするので、集団として単位ユニットが大きく成り過ぎると突撃に於ける統制がし辛くなる欠点がある。
 その上で<黒>が、それこそ万から居る団規模となると、突破する過程で殺したゴブ助の死体が邪魔になって、切り込めば切り込むほどに衝突力を喪失し、脱出できれば御の字。最終的には鏖殺されたって事が多々発生しているのだ。

 しかも、騎馬による戦闘集団だけでの殴りこみだから、負傷者の回復乃至は回収すらも困難という有様なのだ。
 治癒魔法なんかの使い手を付ければとかいう話もあったが、激しく動く馬上で治癒魔法を使うなんて無理無茶無謀な訳で。
 更には、怪我して落馬した連中を救おうとすれば、その時点で救出しようとした奴まで潰される有様だ。
 突破力に定評のある騎兵は、同時に、ダメージに対する耐久力がいちじるしく乏しいのが現実だった。

 なので、<黒>の団規模以上の大集団を相手にした場合に安定した対応は、槍兵で方陣を組んでの削りあいとなっている。
 で、正面へは弓兵や魔法兵が火力支援し、側面を食い破られない様に騎兵がサポートするのだ。
 普通に諸兵科連合です有難う御座います、だ。
 尤も、数で圧倒され包囲されてしまう事も多く、その場合は最後に全ての人間が剣を抜いての殴り合い ―― 泥仕合化してしまう。
 <黒>の持つ数というアドバンテージは、簡単には突き崩せない代物な訳である。
 困ったものだ。

 尚、こんな悲しい現実にも、例外が1つある。
 マーリンさんや母親様みたいな英雄クラスの連中バケモノで構成されている強襲兵アサルトによる突撃ヒーロー・ストライクだ。
 徒で騎馬級の突破力を持っている変態集団なのだ。
 しかも徒だったりするので小回りが利くし、お互いをカバーしあって治癒もし易いと良い事尽くめの兵科だ。
 問題は、なり手と云うかそのレベルに達する人間がそう多くないって事だろう。
 居てたまるかっても、思うが。
 兎も角、駒の少ない強襲兵だが<黒>側の突破戦力であるオーガーなんかへの対応戦力、即ち予備戦力としての役割をも兼ねているんで、初手から投入出来ないってのも地味に辛いのである。

 まぁ何だ、今回の事にはまーーーーったく関係ない話ではあるが。


「ビクター?」


 うん、考えすぎていた。
 高笑いで戦場を蹂躙する、あんな姿に憧れるが、今は目の前の現実が最優先だ。
 小さく、だが誰もがみて判る様に笑って誤魔化し、ゆっくりと皆の顔を見て言う。


「判ったか?」


 そうだよ、俺は俺の言葉が皆に浸透する時間を取ってただけですよ。
 本当に。
 絶対に。

 皆が頷いた。


「宜しい。では諸君、ゴブ助どもに騎兵の戦い方ってものを教育してやろうじゃないか!」











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-07
スキスキ騎兵!











 丘陵を縫うように進む。
 静かに、悟られぬ様に注意して。
 此処ら辺、流石に馬の産地ベルヒトの人間って事だろう。
 ロットもストークが撫でたら、それっきり声を上げなくなった。
 騎馬民族テラスゴス、だ。

 そんな訳で、遊撃班はゴブ助に発見されずにその内懐に潜り込める場所まで接近できた。
 ざっと見てで500mを切る位か。
 馬が全力疾走すれば30秒と掛からずにその隊列へと突っ込めるだろう。
 しかも隊列の右、やや後方にコチラは位置している。
 中心に居るであろうオークに、ある意味で薄い●●側面から仕掛けられるのだ。


「好機って事だ」


 全員の顔を最後に確認する。
 これで見納めになる可能性があるからだ。
 俺が率いて突進するのだ。
 名前も知らない奴も多いが、だが、仕方が無い。


「総員、装具確認」


 最後のチェックを下命する。
 これが済めば後は頭を空っぽにして突撃するだけだ。
 ペアで装具の具合をチェックさせる。
 1人で出来る様なベテランは、この遊撃班には居ないのだ。

 そんな皆の具合を見ていると、一際に大きなバトルアックスを持った奴が居た。
 ヘイル坊やだ。


「おいヘイル坊や、哨戒班のお前が何で此処にいるんだ?」


 哨戒班は、避難する馬車列の触覚でもあるのだ。
 他の方向からゴブ助どもが接近してこないか警戒し続ける大事な役目を負っているのだ。
 その大事な役目を放っておくなんて、とんでも無い事だ。


「俺も戦えっ!!」


 バトルアックスを大きく振り上げてみせて、やる気のアピールかよ。
 おいおい、だ。


「今から俺たちが行くのは遊びじゃないんだぞ」


「戦力は1人でも多い方がええじゃろがっ!!」


 俺は強いと言うヘイル坊や。
 だが、まだガキだ。
 力があっても、その使い方の判らない坊やを戦場に連れていけというのか。


「それは正しい。だが、断る」


「なぜじゃっ! 俺は弱く無ぇぞ!!」


「かもしれん。が、哨戒線に穴は開けられん。趣味で仕事の手を抜くな」


「ああ、そっちの失敗なら問題ねど。代わりにゲントに行ってもらったけな」


「あっ?」


 周りを見る。
 28名、俺とヘイル坊やを入れて29名だ。
 あれま。


「手際が良いな」


 呆れた、そんなに煉獄が見たいか。
 バカ野郎め。


「どうじゃ! 問題はなかっぺよ!!」


 おーけーい。
 問題は無ーし、自己選択の結果だってなら、精々こき使ってやるとしようか。
 命くらいは、守ってやるがな。


「なら、俺の尻について来い ―― はぐれるなよ?」


「まかっせい!!」


 胸をドンと叩くヘイル坊や。
 ナリはデカイが可愛いものである。
 では、行くとしようか。


「総員、騎乗! 俺にぃ続けぇっ!!」


 いざ、疾風怒濤とならん。





 全力疾走中な馬の上で弓を放ち、それを命中させる様なスキルなんて持ってないので、一群の先頭でハルバードを振りかぶって突進する。
 彼我の距離は残り約200m、駿馬揃いなルッェル馬は空を飛ぶような勢いで突進しやがって、ゴブ助の潰れ顔が良く判る。

 泣きたい気分だ。
 本気でも怖い。
 何がって言えば、馬の本気がだ。
 たった1馬力が洒落にならん。
 ロット、お前は良い馬なのだろうが、良い馬過ぎて俺の手には負えん。
 クソッタレ。

 恐怖を吐き捨てる為に喉を震わせる。


「Uraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 ロシア式だ。
 万歳は言い辛いし、マンセーは論外だ。
 英式仏式独式、よーわからん。
 だからと選んだ熊式の叫びは、体に眠っている何かを目覚めさせてくれる響きだ。


 グングンと大きく見えてくるゴブ助の隊列。と、頭1つ以上も大きいオークを発見。
 反射的に手綱を操って、ロットの向きを変えさせる。
 真っ向からぶち抜くのだ。

 と、俺を追い抜いて矢が降り注いでいく。
 後続する28騎から射撃が、ゴブ助の列を崩していく。
 5~6秒に1発な勢いで放っていく、凄いねゲーベルの馬弓隊ってな按配である。
 奇襲効果もあって、大混乱だ、ざまーみろ、だ。


「ヘイル! オークを喰うぞ!!」


「はっはい!! ヤァァァァァァァアッ!!」


 馬蹄がゴブ助を踏み抜いて駆ける。
 向かってくるより逃げ出している連中の方が多い。
 接敵する前から割り単位で味方を潰され続けたゴブ助は、騎馬の迫力に喰われて恐慌状態だ。
 実にグッドだ。


「死ねやあぁぁぁっ!!」


 片手振り回すハルバードだが、その切っ先が良いようにゴブ助を引っ掛けて飛ばし、切り裂き、そして潰している。
 俺の道は、いまだ塞がれていない。
 否。
 道は俺の前に無く、後に出来るってんだ。

 チラリと脇を見ればヘイル坊やは見事に追従してきている。
 つか、馬術自体はアッチが上っぽい。
 チョッとだけモニョりたくなる気分を声に出して発散する。


「Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 後続してくる連中も、矢を放ち続けている。
 アレだ、熱したナイフでバターを裂くが如くってな按配だ。

 進む。
 進む。
 突き進む。
 立ち向かってくる健気な連中を破砕し、逃げる正直ものどもの背を粉砕する蹂躙戦だ。
 正に、鎧袖一触ってなものである。

 幾つもの血煙を吹き上げさせ、気付けば前にはオークの豚面がひいふうの2匹あった。
 驚いているってか、棒立ちだ。
 コッチの突進力を甘くみたか。
 だが哀れまん。
 情け無用で容赦なし、ファイヤーだ。


「こんにちわ、それしてさようなら!!」


 ハルバードのフルスイング一発で、胴体泣き別れって奴だ。
 血飛沫が汚く跳ね上がった。

 さぁもう一匹と見れば、ヘイル坊やのバトルアックスで真っ二つにされていた。
 おうおう、やるじゃないの。





 指揮官役のオークを潰し、ついでに5~60匹くらいのゴブ助も潰した。
 作戦成功、しかも味方に死者は出なかった。
 怪我した奴はいたが、重傷者は居ない。
 怖いくらいの完勝である。

 後は帰るだけと言いたい所だが、問題が一つ発生した。
 連中は首輪に繋がれた壮年と思しき男性、捕虜を連れていたのだ。




「慌てずに、ゆっくりと ――」


 疲労状態で一気に水分を摂ると、少しキツイってんで、慌てないようにと声掛けながら水筒を差し出したが、捕虜の人は逆さにして浴びるように飲んだ。
 咽ったりもしているが一心不乱ってな辺り、尋常じゃない雰囲気だ。

 <黒>の捕虜になるのは、死に囚われるのと同義なのだ。
 その恐怖から開放されたのだから、仕方の無い事なのかもしれない。
 それよりも大事な事が幾つかある。
 1つはけが人の手当てであり、もう1つは残敵の掃討である。
 けが人の手当てが重要なのは当然だが、オークを獲られて散り散りになったゴブ助の背中を討つのは、重要と云うよりもスケベな理由がである。
 要するに、経験値稼ぎってな按配なのだ。
 正確には経験値を積んでってなモノではなく、掃討戦というリスクの少ない環境で、敵を討つという経験を積ませる事が目的である。
 迎撃班のメンバーはまだ若いのが多いので、この手の事も必要なのだ。

 そんな経験値稼ぎの必要も無い俺が、この捕虜の具合も見ていたのだ。
 乱暴に扱われていたらしく怪我は満載だが命に関わりそうなものはなかったので、と水筒を渡したらこの勢いである。
 元は、それなりと思しき、だが今はぼろ雑巾の親戚状態となっている衣装を濡らしながらも一心不乱に水を飲んでいる。
 と、水筒を飲み干して人心地ついたのか、捕虜だった男が俺に顔を向けてきた。
 なんとも必死な顔をしている。


「助けてもらった上で厚かましいが、一つ、頼みがある」


 血を吐くような、泣きそうな、縋るような顔で頼みとは、救援の願いだった。




 話が大事になりそうなので、話を一旦止めさせてストークを呼ぶ。
 隊の親玉はストークだ。
 俺が勝手に聞いて勝手に判断する訳にはいかないってなものだ。



 ストークと、他の連中も集まってきて改めて言われた救援要請は、当然ながらも襲ってきている<黒>のゴブ助どもから助けて欲しいという事だった。
 場所はここから東へ徒歩で半日程度の距離にある、クトーヌとかいう村だった。


「頼む、あそこには夫人がいらっしゃるんだ」


「夫人?」


 ブラウヒア郡を統括する領主家、ブラウヒア郡士家ってのの若奥様が、壊乱した軍民の避難民や村人と共に篭っているという。
 けが人が多く、何とか村の外郭に拠ってはいるが、十重二十重に囲まれていているので、何時までも維持できるかは甚だ心もとない状況だという。
 だからこそ、なのだ。
 このブラウヒア家の家人であったディルク・ギーゼンという男が、救援を求めて包囲を突破したのは。
 ただ残念なのは、包囲を突破した後に別集団のゴブ助に捕らえられてしまったという事だろう。

 事情を話し終えたディルクは男泣きとなる。
 救援を求めての脱出行の途中で、疲れて眠り込んでしまった所で捕虜となってしまったのだ。
 そりゃ、泣きたくもなるってなものである。
 問題は俺達の行動、対応であろう。


「ストーク」


 名を呼べば、厳しい顔で頷いて来る。
 仕方が無い。
 この迎撃班としては、最優先がベルヒト村の住民の護衛なのだから、別の村への支援は躊躇が出るだろうと思うのだ。
 俺としては手伝ってやりたいって思う訳で。
 義を見てせざるは勇なきなりってね。
 なので、一人ではあるが援軍に行くかと俺が腹を決めた時、ストークが口を開いた。


「ああ。なら、急がないとならないな」


 予想外の一言だった。
 完全に予想外だった。
 だから思わず、言ってしまった。


「良いのか?」


 対してストークは、俺の発言の真意を読んだらしく、ビクターこそ良いのか? と尋ね帰してきた。
 何でも、かつて村が飢饉に襲われた時にブラウヒア郡からの食糧支援を受け、そのお陰で村人は誰一人として餓死せずに冬を乗り切れたのだという。
 その大恩あるブラウヒアの人間が居るのだ、ベルヒト村の人間が行かない筈が無いのだ、と。
 周りを見れば迎撃班の面々は皆、戦意に溢れた顔で頷いている。
 何ともまぁ恩義を忘れない、義侠心に溢れた連中である。

 問題は俺なんだろう。
 気が付けば、皆、俺を見ていた。
 今回よりも更に危険な場所へ、縁も何も無いのに ―― そう思っているのだろう。
 だが正直な話、迷うような部分は無いのだ。
 女を抱くのも飯を食うのも酒を飲むのも大好きで、ついでに剣を振るうのも大好きな俺としては、義とか義侠みたいな理由で求められるのであれば、拒否する必要なんて、欠片も無かった。

 尤も、それをストレートに表現すると評価が終わると思うので建前を口にしておく。


「俺は ―― そうだな、人を助けるのに理由は要らないのさ。特に心底困っている人間相手ならな」


 イエス! 建前、ノー! 本音。
 いやコレも建前じゃなくて本音なんだけどね。
 人助け美味しいですペロペロ(^ω^) 的な意味で。

 ヘイル坊やが尊敬っぽい眼差しでコッチを見てくる。
 悪いが、コレが大人のやり方って事で一つ。


「ならば ――」


「ああ、共に行こう!」








[8338] 2-08 激戦! 騎兵対戦獣騎兵
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:61cfcd94
Date: 2013/05/03 18:38
 クトーヌ村への救援に向かう旨、避難中の本隊へと伝令を出し総勢29名で動く。
 29人、1人伝令で出しているのに総数が減っていないのは、救助したディルクが此方に加わってきたからだ。
 本来であれば伝令と一緒に下げたかったのだが、本人が行くと言って聞かなかったのだ。
 コイツはコイツで忠義に厚いものである。

 ディルクの乗る ―― 小柄な奴の後ろに乗せた馬を見れば、疲労もあってか顔色が良くない。
 <黒>に捕まって引きずり回されての今なのだ、当然だろう。
 だが目は死んでいない。
 必死になって前を見ている。
 家人として主らを、ブラウヒアの奥方さん等の事を案じているのだろう。


「その心意気、応えたいものだな」


「あ? 何かあったか?」


 何とはなしに呟いた言葉に反応してか、ストークが馬を寄せてくる。
 良く聞こえたなと関心するより先に気になったことが一つ、その顔色だ。

 曇ってるというよりも青ざめている。
 目つきは先の一合戦の前の、縋るようなものに戻っている。
 出発するまでは落ち着いていたから、コレは現状に対する不安、というか戦闘を指揮する事への緊張や或いは指揮を執る事への忌避感が強いって事だろう。
 何と言っても、指揮官としての初陣が死にかけた徒歩での戦獣騎兵戦だったのだから仕方が無い。
 指揮官って立場は、命を預かるってのは、決して軽くないのだから。

 にも関わらず、それを背負うストークはと言えば、平素では牧場で働いている人間で、年齢も俺とそう離れていないときている。
 牧場が村で一番大きかったという、ある意味で政治的な都合で就けられた指揮官の座なのだ。
 そりゃ、そんな人間が簡単に肝を据わらせられるかってなものである。
 いや、肝というよりも戦度胸か。
 仕方が無いけれども。

 とはいえ、余り良い傾向じゃない。
 指揮官がコレでは隊の兵も、士気が上がりきらないってなものである。
 そして士気が上がらない兵ってのは戦にならない訳である。
 なので、気分転換というか、精神の再建ってなモノをさせるとしよう。
 本当はコレ、指揮官の仕事な筈なんだけどね。
 仕方が無いが。


「いや思い出したのさ」


「何をっ?」


 好奇心というよりも警戒感が顔には浮かんでいる。
 なので、それを緩和するようにしよう。

 指揮官の弱気は禁物ってなものである。
 調子に乗ってるのも駄目ではあるが。


「いや、村の戦いは何だったのかってね」


 話題を変える事もだが、本気で不思議ではあったのだ。
 この連中は馬の扱いが本当に上手くて、簡単にゴブ助ども蹂躙してたのに、最初に会ったときは歩兵だった。
 徒歩で戦獣騎兵と戦い、そして蹂躙されていたのだ。
 あの時だって馬に乗ってれば、あそこまで一方的に叩かれることは無かったんじゃないかと思う訳で。


「あ、あれは……その、軍制の問題って奴だ」


「は?」


 編成ではなく? と思わず変な声をだしたが、よくよく聞くと正に編制の問題だった。
 何でも、このルッェル公国の2代目さんが軍を整えた際に、騎馬部隊は常備軍の極一部のみにし、他は全て徒歩部隊にする事を定めたのだという。
 具体的には、公称で2000名に達しているというルッェル公国常備軍の1割以下、100人も居ないルッェル騎士団だけが騎馬部隊なのだという。
 他には指揮官や伝令も騎乗してはいるが、その総数は100にも足りないという話だ。
 馬が名産というか特産の国ではあるのだが、基本、輸出品状態らしい。
 何とも馬鹿らしいが、仕方が無い事かもしれない。
 騎馬部隊ってのは展開力や突破力こそ優れているものの、飼葉や水といった後方への負担の大きすぎるのだ、裕福とは言えない国家にとっては、おいそれと揃えられるものではないだろう。
 そもそも今のルッェル公国は<黒>の大侵攻である<黒嘯>に於いて一度は滅びた国なのだ。
 そんな国が、大規模な騎馬部隊を維持できる筈も無かった。

 しかし、そうなると疑問が出る事になる。
 俺も他の連中も、現在進行形で馬に乗ってるのだが、文句は言われないのだろうか、と。


「今は良いのか?」


 ポンポンと優しくロットの背筋を叩いた俺の仕草で意図を察したらしく、ストークは茶目っ気のある笑いを見せた。


「緊急的避難措置で、私物に乗ってるだけさ」


「いい加減だな、おい」


「そんなもんさ。一応言っておくが、王命で軍に加わる時は流石に禁じられてはいるんだぞ? だがルッェル公国もそれなりに広いから、簡単な軍役の場合だと飼葉とか自弁出来さえすれば、見逃されるのさ」


 どこそこで訓練があるので集まれとか、はたまた、はぐれの<黒>だの賊だの戦獣だのが領内に潜り込んできたみたいなので自衛しとけとか、そんな時に、という事らしい。
 尚、前にアデンさんの言ってたゲーベル馬弓隊ってのも、昔々にはぐれ<黒>狩りにゲーベル郷土防衛隊が活躍した時に、時の公王が戦果を褒め称えて与えた異名なのだという。


「何ともまぁ」


「とはいえ、公都に着いたら流石に馬は降りなければならないけどな」


「だな。馬を抱えて城に篭る訳にもいかないからな」


 飼葉も水も、消費量が半端ではないのだ、馬という生き物は。
 後、城内では馬の巨体が邪魔ってのもあるだろう ―― と思っていたら否定された。
 飼葉はタップリと備蓄しているし、水は公都の隣が大きな湖なのだという。


「んじゃなんでさ?」


「いや、それがな………」


 声を小さくしたストーク。
 回りも見る。
 遊撃班のほかの連中と、少し距離があるのを確認して、口を開いた。

 理由。
 それは嫉妬なのだという。
 それも、他の郷土軍からのではなく、常備軍からの、である。
 正確には、常備軍の中に居るルッェル公国の家臣団である14陪臣家とその眷属、総称して士分なんて言われている連中に、にである。
 このルッェルという国は身分差、というか差別意識のある手合いが士分には多い為、下の筈の連中が自分達の乗れない馬に乗ってくるのが気に喰わないと、臍を曲げるのだそうだ。
 実に呆れる理由だ。

 しかも、この差別意識を辿ると更に呆れる理由があるとの事である。

 公家たるライヒャルト伯爵家は祖を辿ると大帝國<イェルドゥ>の貴族、軍閥たる帝國軍伯ルッェル家である。
 言わば、トールデェ王国の王家の祖たる帝國選帝侯オーベル家と、家柄の古さだけで言えば同格に近い血筋だ。
 しかも80年近い前まではルッェル王国として、紛いなりにも独立国でもあった。
 だが<黒嘯>によって滅び、そして紆余曲折を経てトールデェ王国の邦国としてルッェル公国として再建されたのだ。
 それが気に喰わないのだという。
 邦国としてトールデェ家に膝を屈し、家名を改めて臣下となっているのが、と。
 更に言えば、士分の連中は家臣ではなく陪臣として呼ばれるのが勘弁ならないのだ、と。

 それをストークは、軍の演習の際に酔っ払った士分の連中が叫んでいるのを聞いたのだと言う。


「あー その、何だ………」


 言葉にし辛い。
 要するに鬱屈がプライドを歪ませ、下の人間に発散してしまっているのだろう。
 もう、呆れすらも通り越す話である。
 ストークが小さな声で言うのも当然だ。
 こんな阿呆な話、若い連中コドモに聞かせられない。


「大変だな」


「ハハハハハハ」


 搾り出した慰めに、乾いた笑いを浮かべるストーク。
 笑うしかないってものである。

 しかし、今の話で少し思うところがある。
 ストークだ。
 コイツ、只の牧場の跡取り息子と言う割りに学があるというか、物事を見る目があるというか。
 評価を上方修正しておこう。
 知力を + ってな感じで。




「しかし、そうなると公都に篭ってからは面倒くさい事になりそうだな。頑張れよ」


 言外に、俺は知らんぞと言っておく。
 いやストークやヘイル坊や、或いは遊撃班の連中と縁が付いたので死んで欲しくないし、手伝いたいとも思うけど、ヘイトな連中とは仲良くなりたくないってなものである。
 俺にせよエミリオにせよ、連中からすれば憎っくきトールデェ王国貴族の子弟サマである。
 どうみても面倒事にしかならない。
 要するに、面倒からは逃げるに限る、って事だ。

 そもそも、俺はレイシストと特亜な連中が大嫌いだし。
 いや、まぁなんだ、流石にこの世界にアルニダが居るとは思えないが。
 居ないよね? お願い神様! だ。

 と、お馬鹿な考えを脳ミソで転がしていたら、


「ああ。大丈夫さ、士分も、若い連中はそうでもないからな」


「そうなのか?」


「最近は士分や裕福な家の子がトールデェへ留学するようになっててな。それで、帰ってきた奴の大抵はそんな事はしなくなる」


「あー うん。うん、何か納得した」


 トールデェで脳筋思想に染まったのですね、判ります。
 強くあれ! 武功を上げれば栄耀栄華は思うまま!! 強ければ身分だって上がる!!! というある種で修羅の国シンプルな身分制度があるからね。
 つか、ヒースクリフ家だって母親様が武功で爵位を賜った新興の貴族家なのだ。
 そんな国を見れ来れば、コップの中の嵐的な身分での差別なんて、馬鹿らしくてやってられなくなるんだろうね。
 きっと。
 因みに、文官だって区別なく国家に益する大功を上げれば爵位を賜れる辺り、実に実力主義の国である。

 しかし、国を離れてしみじみ判るが、トールデェ王国、何かやっぱオカシイ国だわ。



 兎も角、そんな馬鹿話をしつつクートヌの村を目指して馬を走らせた俺達たが、その手前で厄介事が待っていた。
 突如として少し間抜けな、だが良く通る音が響いた。
 ゲルハルドの授業で聞いた<黒>の角笛、その警戒警報音だ。
 どうやら<黒>のピケットに引っ掛かったらしい。


「なっ!?」


 ストークが馬を止め、慌てて周りを見ようとするが、今はそれどころじゃない。
 今、俺達が居る場所はクートヌ村に繋がる街道、道の両側に木々が生えた見晴らしの悪い場所だ。
 馬にとっても動き辛い場所だ。
 危険。


「足を止めるな!!」


 叱責を飛ばす。
 今は混乱して良い時間じゃない。


「アレは警報笛だ! ストーク!! 村までは後、どれ位だ!?」


「この先を少し行けば、角を曲がれば林が途切れて見える筈だ! どうする!?」


 一般的に村は周辺を畑にしているし、<黒>などの外敵の接近を早期に察知する為にkm単位で拓いておくのが通例だ。
 であれば、引く進むの判断の先に、クートヌの状況を見るべきか。
 どの道、この角笛で<黒>には俺達の存在が伝わった筈だからな。


「なら前へ行くぞ! 村の状況を見るぞ!!」


 強い口調で言い切る。
 混乱した状況を立て直すには強引さも必要ってなものだ。


「おお!! 皆、ビクターに続けぇ!!」


「おお!!」





 俺を先頭に、街道を疾駆する。
 なし崩し的に俺が指揮官っぽくなったが、今はグダグダとやってる暇は無い。
 それよりも前へ、前へ、前へ。
 ロットのたてがみにしがみ付く様に身を寄せて、掛けさせる。
 俺が指示するよりも先走りやがるこの馬サマ。
 馬怖い、ロット怖い、マジ怖い。
 角笛は鳴り響きっぱなしで鬱陶しいが、構ってる暇は無い。
 というか、本気で走ってる馬の上からだと、今の俺じゃ周りを見る余裕がない。

 と、視野に光が広がった。


「抜けた!」


 誰かが上げた声に、俺は手綱を引いて速度を緩めさせる。
 見た。
 街道の先、クートヌの村を。

 アバウトで数キロ先のその村は、ウジャウジャと余裕で3桁台は居る<黒>の連中に取り付かれちゃいるが、煙は上がっていない。
 まだ外郭を抜かれていないっぽい、間に合ったか。
 が、その事に安堵を覚えるよりも先に、誰かが悲鳴を上げた。


「せ、戦獣騎兵だ!!」


 周囲を索敵、するとクートヌの村からやや離れた方向からコッチに向かってくる集団が居た。
 ああ確かに犬に乗った狗助だ。
 犬2乗がコッチに向かって全力疾走してきやがる。
 数は、40~50は行かないがコッチよりかは多そうだ。
 しかも距離が近い。
 1分としないうちに接敵されっちまいそうだ。

 ファック、面白くなってきやがった。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-08
激戦! 騎兵対戦獣騎兵











 俺個人としては実に面白い状況であるが、ストークにせよ他の奴にせよ慌ててしまっているので、面白がっては居られない状況な訳で。
 逃げ腰になる奴、思わず馬にしがみ付く奴。
 逃げようと言う奴も、逃げ出した奴も居ないが、完全に冷静さを失っている。
 この状況で喰らい付かれると危なすぎる。


「ストーク! 進め!! 距離を取れ!!!」


 四の五の言う前に指示を出す。
 物事を動かす為、単純に言い切る。


「なっ!? どうするんだ! 突っ込まないのか?」


 怯えても退くを口にしないその意気は見事だが、こんな状況で突っ込んでも勝てる筈が無い。
 勇気と無謀を吐き違えるのは、断じてノー ってものだ。


「腰が引けたまま突っ込めるかよっ! 今は距離を取ってから弓戦を仕掛けさせろ。俺は時間を稼いでくる」


 馬と戦獣の足は、短い時間であればほぼ同じレベルで動ける。
 にも関わらず、此方は今から動き出そうってのに、相手は既にトップスピードである。
 こんな状況だと馬が加速しだす前に食い付かれるってなものだ。

 だから、時間を稼ぐのだ。


「なっ!?」


「じゃ、後でな!」


 手綱を引いて正面から喧嘩を仕掛ける。
 ハルバードは脇を締める形でしっかりと保持し、吶喊だ。
 連中の構えているロングソードが陽光を煌かせている。
 怖くないと言えば嘘だが、血湧き肉躍るってのも事実だ。
 蹂躙しようとしてくる連中を蹂躙するってのは、気持ちのいいものだ。

 ロットの腹を蹴って、走らせる。


「ビクター!」


 呼ばれてチラリと後ろを見れば、ヘイル坊やだ。
 付いてきてやがる。
 馬鹿野郎め。
 後で● ●叱ってやる。
 大目玉だ。
 後で死んだほうがマシだと思う位に叱り倒してやる。

 だが、それは今じゃない。


「付いてくるなら俺の命を聞け! 迷うな!! 離れるな!!! Uraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


「うっ、ウラァァァァァァァァァ!!」


 キツイ口調の命令に、目を白黒させながらもロシア式を真似て来やがった。
 可愛いものだ。





 真っ向から殴りかかる ―― そう見せかけて、接敵の寸前に手綱を取って右にかわす。
 だが避けるんじゃない。
 勢いを逸らして側面から喰らい付くのだ。


「Siiiiiii」


 左手で保持したハルバードを下から上へと振りきる。
 狗助もだが、下の戦獣にもダメージを与えてないと暴れられても厄介なのだ。
 狙いは顔、バイタル部位だ。


「Iiiiiii!!」


 1騎の顔面を粉砕し、更に2騎にダメージを与える事に成功する。
 更に振るえば、オマケで1騎をふっ飛ばせた。
 1当りで4騎にダメージは幸先良いってなものだが、彼我の兵力差は10倍以上だ。
 ちっぽけな強襲の成功に酔ってる暇は無い。
 狗どもが混乱している間に一度離れて、連中の塊に取り込まれないようにしなければならない。


「ヘイル!」


 名を呼んだヘイル坊やは、見れば俺のやや左後方でバトルアックスを振るっていた。
 チト力み過ぎているが、足は止めていない。
 最低限度では、グッドである。


「離れるぞ、続け!!」」


 最初に釘を刺したのが効いてか、素直に頷いたのだが、離脱自体は上手く行かなかった。
 ヘイル坊やの馬が、足を、勢いを殺されてしまっていたのだ。


「チィ!?」


 疲労や、戦獣と相対した恐怖からかもしれないが、厄介な事になった。
 即座に狗どもに囲まれていく。
 慌てて駆け寄ろうとするが、ヘイル坊やが止めやがった。


「先に行っくれ!」


 覚悟を決めたような顔をしやがったヘイル坊や。
 だから言う事は1つだ。


「ド阿呆がっ!!! 簡単に命を諦めてんじゃねぇっ!!!!」


 ぶん殴ってやる。
 ロットの手綱を引いて、一気にヘイル坊やのところへと身を躍らさせる。
 飛ぶ。
 戦獣を飛び越え、ヘイル坊やの脇へと着地。

 あっ、戦獣を1騎は踏み潰してやがる。
 このロット、マジでスゲー×2なバケモノ様である。
 蹄が馬と違う。
 所謂黒王サマか松風かってな按配だ。
 騎手たる俺も負けてられないので、ハルバードを横なぎにする。
 が、残念。
 畜生どもは、見事にバックステップ決めて回避しやがる。
 ぬう、ゴブ助どもとは格が違うってなものだ。


「ビクター!? なんで!!」


「後で馬鹿な餓鬼テメェを殴る為に決まったるだろうがっ、ボケェッ!!!」


 英雄趣味ヒロイズムなんて大嫌いだ。
 そんなフラグは全部折ってやる。
 それが俺の趣味だ。

 とはいえ完全に囲まれたってのは痛い。
 俺とヘイルを中心に、直径で約5mな円が出来上がっていて、その様は四方八方、十重二十重ってな按配である。
 動けば、それに合わせて円も動く。
 狗は狗なりに頭が悪くない。
 少なくともゴブ助よりは知恵を感じる。
 面倒な相手だ。

 威嚇するようにハルバードを振るえば、それに合わせて動いてくる。
 此方の隙を窺うようにしている辺り、実に面倒くさいものである。
 というか、支配階層にして指揮官役のオークも居ないのに、それなりの連携が取れているってのが、迷惑な話である。
 連中の本隊を見れば、此方に少なからぬ数が分派されてきているから時間稼ぎをしているのかもしれない。
 指揮官役のオークも居ないのに高等戦術を使いやがるものである。
 というかここら辺の挙動を見るに、コボルトが種族としてオークに対し忠誠心じみた何かを持っているって話も本当なのだろう。
 でなければ、ゴブ助と違ってオーク抜きでも動く事が理解出来ないってなものである。


「どっ、どうするんじゃ!?」


「やる事は1つさ」


「決まったとるんか!? 何をすればええんじゃ!」


「目の前の敵を潰す。潰して潰して潰せば、何時かは相手は全滅してる。な、簡単だろ?」


「はぁ!?」


 ヘイル坊やが素っ頓狂な声を上げやがった。
 いや、確かに2人で40からと戦おうとすると無茶に感じられるが、これが、例えば1対1を20回か40回繰り返すと思えば、簡単な話になる。
 人間、何事も心の持ちようってなものなのだ。


「嘘だろがよ!?」


「マジさ」


 ざっと周囲を見れば、戦獣騎兵は尽くがコッチに集まっている。
 アホだ。
 所詮は狗だ、俺らに気を取られてストーク達を丸っと忘れてやがる。

 後はストーク達が戻ってくるまで時間を稼げば良い。
 良いのだが、それじゃあツマラナイってなものである。


「ドッチを向いても敵だらけ、味方は俺とお前。ならもう迷う事なんて無いだろうが」


 ヘイル坊やが返事をするより先に、ハルバードを振りぬき、切っ先で盛って突っ込んできた戦獣の鼻先を潰す。
 悲鳴と共に転げまわる戦獣、狗は胴体で潰されてやがる。
 繊細な鼻先は、痛みが倍なご様子。
 ザマァミロ、だ。

 だが笑ってられたのもそこまでだった。
 そこから一挙に戦獣騎兵が踊りかかってきた。


「ヘイル、死にたくなければ気合を入れろよ!」


「おっ、おぉ!!」


 ロットの腹を蹴って前進を命令。
 動かずに応戦なんてのは趣味じゃない。
 イニシアティブを握らない戦いなんて、大嫌いだ。
 前へ! 前へ!! 前へ!!!
 道を辿るんじゃない、道を切り開くのだ。
 手綱は放す。
 ロット、この馬は気合が入っていて、手綱を握っていなくても前に進んでくれる、そう信じるのだ。

 空いた手もハルバードにそえて、長大な両手で保持する事で切っ先でも石突でも自在に撃てるようにする。


「Kiei!」


 機を狙ったでもなく、隙を見つけたのでもなく、ただ本能のままに飛び掛ってきた阿呆な戦獣の頭に向けて石突を叩きこむ。
 頭蓋骨は頑丈だが、振り下ろすハルバードだって自重で5kgからあるのだ。
 そこに俺の力が加われば、如何に戦獣とはいえ1発で潰れ、血と脳漿とを撒き散らす事となる。


「遅れるなよ!?」


「おぉ!!」








[8338] 2-09 コレナンテエロゲ?
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:61cfcd94
Date: 2013/06/09 12:35
 戦獣騎兵の攻撃力で恐ろしいのは、その背に乗ったコボルトの武器では無い。
 一応、武器自体は持っているのだがコボルトの非力さ故に軽い武装しか出来ず、ある程度以上の防具を着込んだ人間にとっては深刻な脅威足りえないのだ。
 では戦獣騎兵最大の武器は何かと言えば、それは、その戦獣そのものだ。
 それなり以上に強靭な脚の爪は恐ろしいし、そして何より、凶悪な歯と咬噛力は脅威以外の何ものでもないのだ。
 人間程度の皮膚や肉なんて簡単に食いちぎって行く力を持っているのだ。
 更に厄介な事に、防御力の高さもある。
 毛皮と皮下脂肪によって、力の入らない斬撃など受け付けない強靭さを持つ、実に厄介な相手なのだ。

 ここら辺はゲルハルド記念大学にて実際に戦獣騎兵と戦闘をした経験のある教官から聞いた、伝聞だった。
 そして実際、ベルヒト村で戦った連中は、噂に違わぬ部分を持っていた。
 前に戦った野良戦獣に至っては、噂以上の相手だった。

 だが、今俺達が前にしている連中から、あの時程の脅威は感じられない。
 感じられないのだ。
 最初こそ威勢が良かったが、今では近づけば下がる。
 ハルバードを振るえば跳ね下がる。
 仕掛けてくるよりも吼える方が多い有様である。
 連中の1割方を喰ったからかとも思うが、どうにもそういう風でも無い。


「なぁ、こいつらぁ!?」


 その事に気付いたのか、ヘイル坊やも妙な声を上げてきた。
 中々に観察力のある事である。
 戦闘処女チェリーを卒業したてだってのに、肝が据わってるものだ。
 後で褒めてやろう。
 だが、今は釘を刺す事を優先する。


「ああ。だが油断はするなよ?」


「わかっちょる!」


 不満げな感じではあるが、素直には返事を返してくる。
 若いってなものだ。

 しかし、どうしたものか。
 半分はこう着状態に陥ってしまった現状を考える。
 進めば退くし、コッチが止まればジリジリと輪を縮めてくるし、と。
 いっそ一挙に突撃するってのもアリかもしれないが、万が一にもコレが擬態とかだった場合を考えると、容易に行動をし辛いってなもので。
 それに、この状況も悪いだけじゃないのだ。
 さっきから走らせ続けていたロットやヘイル坊やの馬を休ませる良い機会って面もあるから、収支面ではトントンかもしれない。
 ストーク達が戻ってくるまで時間を稼げば良いってのが、本来の俺達の役割なのだから。

 いや、駄目だ。
 それでは駄目だ。
 俺達の解囲戦までやってから、あのクートヌ村まで進撃するとなると時間が掛かりすぎる。
 というか、アッチからゴブ兵が分派されてくる可能性だってあるのだ。


「ヘイル!」


 声に力を入れて名を呼ぶ。
 それだけで意図が判ったのだろう、ヘイル坊やはバトルアックスを掲げて応えてくる。
 戦意旺盛、実に良いってなもんだ。


「やっか!」


「おおよ! ――」


 思いっきり息を吸う。
 睥睨。
 周囲を睨み付ければ、狗どもは身を低くして警戒している。
 はっ! 警戒しているだけで止められると思うなよ。


「―― Uraaaaaaaaaaaaaaa!!」


 ロットの腹を蹴る。
 突撃だ。



 先ずは戦獣騎兵の包囲網を食い破る! そう決意しての突撃は、包囲の一番手薄な場所を狙った。
 だが、食い破るよりも先に来るものがあった。
 矢、即ち、援軍だ。


「ビクター!!」


 目の前の戦獣騎兵達に矢が突き刺さり倒れていく。
 ストーク達だ。


「ヘイル! 流れ矢に当たるなよ!?」


「おおじゃぁ!!」


 しかし、意外と手早く立て直したモンである。
 ストーク、中々にやる。




「無事か!?」


「早かったな」


 遊撃班の殴り込みに、戦獣騎兵の狗どもは抗戦するのではなく逃走しだした。
 そんな負け犬どもの背を追いつつ合流した遊撃班の面々の顔には、少なからぬ自信が浮かんでるように見えた。
 良い傾向だ。


「俺達をなめるなよ?」


「ああ、悪い。で、悪いついでだがこのまま村まで突っ込むぞ」


 元から腰のひけていた狗どもは、勢いよく浴びせられた矢に後ろも見ないで逃げ出している。
 向かう先は当然、クートヌ村に仕掛けている最中の本隊だ。
 中々に数が居るが、この戦獣騎兵の壊乱に乗じて接触できれば、簡単に突破して村まで辿り着けるってなものである。

 深追いは本来禁物であるが、平地で兵を隠す場所の無い今のであれば問題は無いだろう。


「いいなっ! 乗った!! 指揮は頼むぞ!!!」


「おぉ!」


 あれ、俺、指揮官やん、いつの間にか。
 もう良いけどね。
 諦めたから。
 腹に力を入れて吼える。


「クートヌの村を! ブラウヒアの人々を救いに行くぞ!! ベルヒトの男を見せてみろ!!! 総員、突撃ぃぃっ!!!!」





 疾駆する馬午ウマ。
 馬上戦闘は上手くこなせるようになったけど、本気のこいつ等マジ怖い。
 というか、だ。
 ロットは本気で1馬力なんだろうか、なんかこー違う迫力を感じるんですけど。
 他の馬を数馬身以上も引き離して、でも何か余裕があるっぽい。
 化け物め。

 つか、そんな馬の背で鐙に体重を掛けて立ち乗りせにゃならんとかマジ洒落にならん。
 チビリそう。
 でも、こうじゃないとハルバードを左右へと振り回せない訳で。
 畜生め、跨ったままに振り回せる馬上双剣メーネが欲しい。かなり切実に。


「Uraaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 鬱屈というか恐怖を全て声に乗せて吼える。
 よく考えたらこいつ等がこんな村を襲うから、俺はまだ馬で戦わなければならない訳で。
 その意味では万死に値する。
 死ね、シネシネシネ。
 血と肉と糞便を撒き散らして大地の滋養になりやがれ。

 勢い良くハルバードをブン回せば、密集していたゴブ助を切り裂く。
 ロットの蹄が踏み潰していく。
 ゴブ助どもは皆して武器を捨てて逃げ出している。
 逃げる奴は敵だ。
 逃げない奴は訓練された敵だ。
 そもそも、戦獣騎兵が逃げ込んで隊列っぽいものもグチャグチャにした所へと突っ込んだのだ。
 訓練もクソも無い。
 まとめて皆殺しにしてやる。
 悲鳴が絶叫が心地よい。

 混乱が広がっていく。
 俺達と離れた所の連中まで武器を捨てて逃げ出している。
 俺達の10倍からは居るってのに情けないモンだ。
 こんな情けない姿を見ると、背を討つ気にもなれない。
 そもそも、村へと入るのが最優先なのだから背を追うよりもするべき事があるってなものだ。
 指揮官であろうオークの首だけは、この混乱で刈りたかったが、混乱が酷すぎて何処に居るのか判らないのだから仕方が無い。
 残念である。


「ビクター!」


 あ、ストークが追いついてきた。
 玄人なこいつ等が操る馬を置いてけぼりにする、若葉マークな騎手を乗せたロットって、ホント、どうなってるだろうか。
 まっ、どうでも良いが。


「ああ。村へ向かおう」


 そう言えば村にはブラウヒアって家の若夫人が居るって話だったよな。
 しかも未亡人、夫を亡くしての逃避行であるにも関わらず、人々を纏め上げているのだ。
 ディルクが心っから心配し、敬愛している風な所からも、見事な御人なのだろう。
 うむ、不謹慎ではあるが、チト、萌えた。
 はてさて、どんなご婦人さんなんだか。











異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント
2-09
コレナンテエロゲ?











 クートヌの村は、城の様なというには足りないが、それなりに立派な城壁が築かれている。
 これがあればこそ、<黒>の連中を凌げたのだろう。
 所々で破口が作られかけているが、致命傷にはなっていない。


「ぎりぎりで間に合ったか」


「ああ。みたいだな」


 見れば正門と思しき場所、扉も破れかかっている。
 周囲にゴブ助の死体がかなり転がっている辺り、激しい攻防戦をしていたのだろう。
 本当に、ギリギリだ。
 城門の櫓に居る人々の顔は、信じられないものを見たと言わんばかりの表情になっている。

 と、馬から飛び降りたディルクが門の前へと駆け寄った。
 俺達は伏兵を警戒しつつ進んでいたので、それが待ちきれなかったのだろう。
 後ろから見ていても、その動きに喜色が溢れている。


「開門を! ディルク・ギーゼンです!! 彼らはベルヒトの勇士たちです!!!」


 その声に、城壁の中の人々が感情を爆発させたのが聞こえた。
 櫓の連中も抱き合って喜んでいる。
 少しだけ、誇らしい気分になれた。


「やったな」


「ああ」


 隣に居たストークと拳と拳を討ち合せた。
 達成感がある。
 ミッションインコンプリートってなものだ。
 あ、いやインは要らないか。

 そんな馬鹿な事を考えていると、ゆっくりと門が開いた。
 度重なる攻撃で痛んだか、軋みを上げている。


「どうぞ中へ!」


 櫓の上からの声に誘われて、城門を通る。
 と、中はお祭り騒ぎ染みた状態になっていた。

 さもありなん。
 いまや門扉を破られ、命を奪われ ―― となりそうな所で大逆転ホームランだ。
 濡れる! とか、きゃーっ! 抱いて!! とか思っても不思議じゃない。
 というか、それが妄想じゃないって思えるレベルで、女性から男性まで歓迎してくれている。
 一寸と言わない位に満足感がある。

 思わず手を振り返してしまうくらいの。
 というか、ふと見ればヘイル坊やや若い連中は当然だが、ストークまで鼻の穴が開いている辺り、実に可愛いスケベなものである。
 間抜けではあるが。
 なので、自分の鼻の下が伸びない注意しながら馬を下りるとしよう。





 他人様に感謝されながら揉みくちゃにされると云うのは得がたい経験である。
 その意味で若い衆が盛んに手を振ってたりする気持ちは良く判る。
 ヘイル坊やがバトルアックスを掲げて大声を上げている。


「ウラー!!!」


 共産趣味者なロシア式だ。
 意味判ってるのか、判ってないのか。
 いや、大意においては間違ってはいないから良いか。
 多分。


「ウラー!!」


「ウラー!!」


「ウラー!!」


 あ、若い衆に感染しだした。
 遊撃班も村の若い衆も、皆して武器を掲げてウラー ウラー と叫びだした。
 語呂が良いというか叫びやすいからかもしれないけど予想外。
 うむ、どうしよう。


「ビクター!」


 よし、ストークに名前を呼ばれたので気付かなかった。
 そういう事にしておこう。





 さてさて、ストークに呼ばれた理由は単純でした。
 この村の村長とブラウヒアのご婦人サンへの紹介でした。
 いけねっ、この後の事をアレコレする為にさっさと話を通しておかなきゃならないってのに、俺も少し浮かれていたか。
 武闘大会の時と違って素直に受けれる賞賛ってのは、なんだ、気持ちがよいやね。


「此方がクートヌ村々長のフォルクマー」


「助かったよ、フォルクマーだ」


 ストークの紹介が終わるより先に、痩せた爺様があからさまに安堵した表情で、手を握ってくる。
 割りに細めな手は文官系っぽ。
 というか、武器を佩かないどころか鎧すらも着込んでいない辺り、荒事は期待出来そうにない。


「ビクターです。初めまして」


「ああ、初めまして。君達の働きには非常に感謝している。君やベルヒトの勇士は、正にこの村の恩人だ!!」


「出来る事をしただけですよ」


「それが出来ない人間が多いのが昨今なのだ。それに出来る事が、我が村の救援だったのだ。私からすれば感謝してもし足りない位だ」


「喜んで貰えて幸いです」


「喜ぶ? これは喜ぶではなく、大感謝だよ!!」


 感激屋さんか、或いは演説好きか。
 大声で、しかも口調が早い辺り、神経質っぽいのかもしれない。
 村の状態がそれだけ、存亡の危機だったって事の裏返しかもしれないが。
 そして更に口を開こうとした時、コホンっと咳が一つ、フォルクマーさんの後ろから聞こえた。


「あ、ああ。申し訳ない」


 そう言いながら、慌しく手を離して身を引いた。
 このパターンだと後ろに控えているのは、ブラウヒアのご婦人さんか。
 爺様よりは女性が良いよねとか見れば、妙齢や若いというよりも幼いって感じの小柄な少女が、やや顔を顰めながら立っていた。
 実用本位な服装をしている辺り家付きの侍女さんだろうか。
 流石に地方名士の御夫人さんが、こんな戦場までは出てきていなかったか。
 個人的噂のご婦人がこの場に居ないのは、夫を亡くしたばかりのたおやかな女性がこんな喧騒の中に出てこれる筈も無いとか、そんな感じか。
 最近の女性の知り合いって女傑系が多いので実に、良い。
 実に良いのだが、とはいえ、逆に言うとこんな場所に幼げな侍女を出してきたってのには、ブラウヒアの人への評価は下方修正しておこう。
 女性と子供は国の宝ってな。

 兎も角、侍女さん(多分)は顔をしかめているというか、相対して見れば苦笑に近い表情なのは、多分に、フォルクマーの爺様の勢いに呆れるとかしているのだろう。
 きっと。

 しかしこの侍女さんだが、しかめてはいても見える顔の可愛らしさが将来の有望さを示していて実に良い。
 ゴブ助や狗を狩った後なのだ、人間、美しいものを見ないと心が荒れるので、この侍女さんを見れたのは実に、実に良い。
 それは爺様からの感謝では補充されない何かってなものである。
 そんな気分を乗せて笑顔で挨拶をする。


「初めまして、ビクターです」


 背筋を伸ばして踵を打ち合わせ、淑女リトル・レディ殿とばかりに、ゲルハルド記念大学で学んだ礼儀も乗せてみる。
 こんな年頃ってさ、こういう扱いに憧れているよねってな按配である。
 だが帰ってきたのは予想外に貴婦人的な態度と返事、そして名前だった。


「見事な礼と、何よりも救援に感謝しますビクター殿。私がヘレーネ・ブラウヒアです」


「はい?」


 思わず酢頓狂な声を上げて、聞き返してしまった。
 だが、現実は非情だった。
 ブラウヒアのご婦人たるヘレーネ・ブラウヒアは御年13歳の、新婚4ヶ月目での未亡人さんであった。

 コレナンテエロゲ? だ。





 ロリ婆ならぬロリ未亡人という新ジャンルの開拓に、一瞬、脳ミソがフリーズしたが、それは人間として仕方が無いと思う。
 尤も、そんな馬鹿な事を考えたり出来たのは、ほんの一瞬の事だった。
 冷静に考えると割と良くある話 ―― まだ幼い内に政略結婚をするってな事は、戦国の世みたいな殺伐だとした時代じゃ日常茶飯事ってなものだ。
 重要なのは本人達ではなく、家と家との繋がりなのだから。

 それに、驚いてばかりもいられない現状ってのもあるのだ。
 <黒>は今は退いているのでその間にするべき事は山盛りなのだから。
 今後の方針の策定、策定と平行して村の城郭の破損状態の把握と応急修理などなどだ。
 生き残る為には手と頭を動かし続け成ればならないってなものである。

 割りに深刻っぽい話もするからって事で、俺とストークはフォルクマーさん達と共に村の指令所となっている集会所の、食堂っぽい部屋へと入った。
 部屋に装飾は余り無く、出されたのも白湯な辺り、戦時下っての差っぴいても、この村はベルヒト村に比べると、チト、貧しいっぽい。

 そんな事はさておき、戦闘の連続で荒れた喉には、白湯が優しい感じである。
 と、ストークもホッとしたような声を漏らした。
 お互い、疲労していたなと、ストークと笑いあう。
 それから、遊撃班の連中にも振る舞って欲しいとお願いしておく。
 気遣いって大事だよねってなものだ。
 この先を考えると、今しか休む時間は無いだろうしってな面もあるけれども。


 一服して俺とストークが人心地ついたのを見計らって、フォルクマーさんが口を開いた。
 今後はどうすべきか? と。
 本来であればよそ者に聞くべき話じゃ無いのだが、この村もまたベルヒト村と一緒で人員を軍に動員されてしまっていて軍事に詳しい人間が残って居ないのだという。
 防衛戦の指揮も、村長であるフォルクマーさんが陣頭指揮だったというのだから、ある意味で末期だ。
 対してブラウヒア家の方はといえば、そもそもが難民というか敗残兵の集団であり、戦える人間は撤退戦の最中で払底してしまっているのだ。
 有り体に言って、この村には少数の成年男子の他は女子供と老人、そして怪我人しか残っていなかった。
 おーいぇー ってな感じである。

 ストークを見ると、頷き返してきた。
 その意味はきっと全権委任だろう、きっと。


「私は学の無い人間ですが、このビクターはトールデェ王国で軍の勉強をした人間です。彼の判断に私は従います」


 言葉でも丸投げしやがったよこの野郎。
 というか、やり遂げたって顔をしているんじゃねーっての。


「おぉ! トールデェで軍の!! それは心強い事、限りない話だ!!!」


 即座にフォルクマーさんが、これで村も安泰だと感激しだした。
 これって演技だよね、他人様に責任をおっ被せる為の。
 老獪な村長って、タチが悪いよね。

 だよね? 天然さんじゃない事を祈りたい。


「だが、無思慮に従う訳にも行かないと思うのです」


 唯一、ヘレーネ夫人さんが冷静に突っ込んでくれた。
 実にありがたい。
 突っ込み役不在って、実に辛いからね。
 いや、本当に。

 そして話は、本道に戻る。
 即ち、今後の行動指針である。
 それに関しては包み隠さず、このままでは村を防衛し得ないと告げる。
 城郭は破られつつあって基本的に劣勢で、増援は少数。にも関わらず<黒>は、パッと見た村の住人よりも多いのだ。
 しかも、その増援の俺や遊撃班だってそれぞれに責任を負うべき人たちが居るのだから、何時までもこの村に居る訳にはいかない。


「やはり、そうなるかね」


 悄然とした声でフォルクマーさんが漏らした。
 痩せたその身が一層小さく見えた。
 激昂したり感情的にならない辺り、村の状況を理解していたっぽい。
 だがそれでも、言葉として村からの避難、実質的放棄を聞かされると、その先にある未来 ―― <黒>によって村が荒され、或いは廃墟となってしまうであろう事が辛いのだろう。
 こればっかりは、部外者である俺では何も言えない、受け止められない事である。


「村は棄てるしかないのだね」


「残念ながら」


 言葉少なくしか返事が出来ない。


「いや、いい。君が、君たちに求める筋の話ではないからな」


 力なく笑うフォルクマーさん。
 感情的になったり、村の固守を主張しない辺り、それなりに肝は据わった御仁っぽい。
 そんなフォルクマーさんに代わってヘレーネ夫人さんが口を開く。
 外見の幼さとは異なる力が目にあった。


「村から出るという方針は理解しますけど、それで我々は逃げ切れるのですか?」


 希望に縋るのではなく、このクートヌの村が<黒>の半包囲下にあるという現実を見て、状況を冷静に考へ、物事を判断しようとしているのが判る口調だ。
 まだ幼いのに大したものだ。
 壊乱したブラウヒア家の若夫人なのに、その残党を集団として纏め続けているだけはあるってなものだ。


「微力は尽くします」


「“必ずや” とは言わないのですね」


「何事にも、絶対はあり得ませんから」


 空手形は好きじゃない。
 それに、絶対ってのは絶対に存在しないってのが俺の信念だし、ね。


「ビクター殿は強いのですね」


 ヘレーネ夫人さん、何か、ほろ苦いものを舐めた様な口調で呟く。
 というか目つきが実に儚げで、年齢不相応ってな感じである。
 あーうん、なんだ、死亡した旦那さんとか、ブラウヒア家の兵士達がそんな台詞を言ってたんだろう。
 きっと。
 必ずや戻るとか言って、結局 ―― っと。
 やりきれんね、戦争ってのは。


「弱いですよ。だから足掻いてます」


 個人としては物理的にそれなり● ● ● ●だけど、指揮官として見れば、ひよっこ以下ってなのが実際だろうしね。
 第一、本当に強ければこんな時には、周りを安心させるような言動態度が出来るだろう。
 情けない話だ。


「そうですか。目標が高いのですね」


「どうですかね。買いかぶりの様な気がしますよ」


 比較対象というか目標が母親様とかマーリンさん達なので、指揮官像の目標が高いってのは否定しないけど、目標の高さと自分の低さってのは、また別の話な訳で。
 後、学生時代は頭脳労働を外付け思考回路レニーに依存してた弊害かもしれない。
 俺は剣で良いとか、敵をぶった切る剣で良いとかとか。
 マーリンさんの傍で剣を振るってられれば幸せとか、足を引っ張らないレベルの腕になれればそれで十分とか思ってたからな。
 要するに、今までは誰かの脳ミソの庇護下で調子に乗っていたのだ。
 その事が他人様を指揮する羽目になって自覚するし、悔やまれる。
 割と真剣に。


「買いかぶりかもしれませんが、貴方より私は貴方に期待させて頂きます」


 深い、或いは強い笑み顔に浮かべてきたヘレーネ夫人さん。
 なんぞレニーを思い出す、そんな笑顔でサラリと爆弾を落しやがった。


「我がブラウヒアの兵、そして私たち。合わせて69の命をビクター殿、貴方に預けます」


 要するに、指揮権を放り投げてきやがった。
 慌てて静止しようとするが、そこに追撃が来た。
 フォルクマーさんが、であれば村の防衛隊も預ける、と。


「我が村の295名、臨時防衛隊で武器を扱えるのは23人居る。頼むぞビクター君、いや、ビクター殿」


 二人揃って深々と頭を下げてきた。
 まてや、責任者や権力者ってのは責任とか権限を手放すのが嫌いってのが通り相場じゃないんかい。


「いや、一寸待って下さいよお二方。私は貴方たちと会ってから数時間も経ってないですよ!? そんな若輩の人間に軽々しく命を預けちゃ駄目ですよ!!」


「慌てるなビクター ―― 」


 慌てるというかなストーク、慌てない方がどうかしているだろ、常識的に考えて。
 と、慌てて見たストークは黒い笑顔をしてやがる。


「 ―― 俺は既に指揮権を預けてるんだぞ」


「その理屈は可笑しいだろうが!? 意味が判らん!!」


「それだけ期待したい何かがお前にはあるって事さ」


 期待で責任を押し付けるなやと叫ぼうとした時、ノックも無しに扉が開かれた。


「大変です、<黒>の連中が又、仕掛けてきました!!」


 おーいぇー 空気の読まない奴である。
 空気を読んで来る<黒>ってのも、怖いものではあるが。

 部屋の人間の視線が集まった。
 俺に。
 レーザービームを感じる。


「ビクター殿」


 代表してってな感じでヘレーネ夫人さんが口を開いた。
 何と云うか、隠してはいるが縋る様な色が目に浮かんでいる。
 はいはい判りました判りました、ってね。
 女性の願いを断れるかっての。

 踵を打ち合わせて背筋を伸ばし、敬礼を行う。


「拝命しました。全力を尽くします」


「頼みます」


 何だろうね、この最後の一言だけ、何だかヘレーネという年相応の女の子の声に聞こえた。
 この娘も、その幼さに似合わぬ責任を背負って頑張っているのだ。
 そんな期待を、或いは努力を無にさせるかってなものだ。


「お任せ下さい ―― んじゃストーク、一つ派手に暴れようぜ」


「任せろ。しかしお前、丸で騎士みたいだな」


 騎士叙勲なら国を出る時に受けてんだが、ここは黙ってよう。
 こういうのは隠しておくと格好良いってなもんだしな。
 水戸のちりめん問屋のご隠居さん風って奴だ。


「はっはっはっはっ」


 だから笑って誤魔化す。
 さてさて、先ずは<黒>の連中を凹るとしますかね。








[8338] 2-10 エクソダスするかい?
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:61cfcd94
Date: 2014/12/01 10:34
 俺たちがクートヌ村に入ってから夕暮れまでに、都合2回の襲撃があった。
 狙ってきたのは正門ではなく、城壁に破口が出来かかっていた2箇所だ。
 出来かけの破口は、木製の外壁が壊され壁の構造材である土だの石だのが露出し崩れ出ていたのだから、逆に、狙ってこなければ不思議ってな場所だった。

 城壁に取り付き破口を作ろうとするゴブリン共は、まるで砂糖菓子に群れるアリの様だった。
 だが、だからこそ防衛は楽だった。
 他の城壁には警戒用の人員だけを配置し、戦力の集中が出来たからだ。

 とはいえ、楽とは言っても比喩比較としてであり、壁を貫かれれば洒落にならん ―― という緊張感は大きかったので、この夕暮れの自然停戦にはホッとするものがある。
 後、身体が痒い。
 返り血で真っ赤になってしまったて、その生乾き。
 痒くならない筈が無い。
 冷水を頭から浴び、タオルで顔を拭きながら破砕された城壁への応急修理を見ていると、後ろから名が呼ばれた。
 ストークだ。


「お前はオーガーか何かか?」


 もう一つの場所で戦っていたが、どうやらあちらも一段落ついたらしい。
 つか鬼、オーガーね。
 ゴブリンやコボルト、或いはオークなんてのと違って、オーガーってのは<黒>の中では頭一つ抜け出た存在、戦力として認識している。
 なんたって1対1で打ち勝てば勲章が貰える様な相手で、ウチの母親様とだって3合は撃ち合えるのだ。
 凄いもんである。
 その意味で鬼のようなってのは賞賛なんだろう。
 俺にとっちゃ沈める相手でしかないけれど。


「酷い言われ様だ」


「お前の格好と、足元を見れば誰だってそう思うさ」


 城壁も俺も血塗れの真っ赤っかで、城壁の下にはゴブ助の死体の山山山だ。
 確かに、控え目に見ても地獄か、その親戚にしか見えない。
 そういえば、地獄の獄卒も鬼だったか。
 とはいえ、だ。


「所詮はゴブリンだぞ?」


 攻城戦は基本的にゴブ助だけが仕掛けてくる。
 城郭を崩そうって時に戦獣騎兵の牙や爪が出来る事なんてないし、オーク豚は偉そうにふんぞり返ってるのがお仕事。唯一、オーガーだけが稀に前に出てくるけど、その頻度は実に少ない。
 なんたって、平均身長3m台の連中が暴れたら、余波で周囲のゴブ助に被害が出るからだ。

 結果として、攻城戦の8割以上で失われるのはゴブ助の命になるのだ。
 今、俺の眼下のように。
 哀れなる汝、名はゴブリン。
 やった俺が言う台詞じゃないかもしれないがな。


「お前にとってはそうだろうが、俺達は30人からで仕掛けてようやく撃退したんだぞ」


「経験が違うのさ、経験がな。それより ―― あーどうだった● ● ● ● ●?」


 消耗率、という言葉が口に出せなかった。
 生き死に商売にしている人間相手ならまだしも、ストークも他の連中も娑婆の人間で、好き好んで血腥い事をしている訳じゃないのだ。
 そんな奴らをヒトではなくモノ的に数えるってのに抵抗を感じたのだ。

 ああ畜生め。
 それが俺個人の弱さってのは認めるが、な。


「1人が死んだよ。後2人の怪我が重い」


「そうか………」


 割り切りきれない俺と違って、ストークの奴はサラっと死傷者の数を応えた。
 30人中1人死亡って、損耗率約3%って辺りか。
 コ