ファミリーコンピューター、通称ファミコンのドット絵から始まったゲームグラフィックは、いまや三次元の域にまで達している。
2Dから3Dへ、平面から立体へ、もはやその技術はほぼ現実と変わらない域にまで来ている。それに比例するかのようにゲームの機体は巨大化の一途を辿っていったが、いつの時代も変わらず、ある一定の技術が確立されてしまえばあとは改良あるのみである。
もう知る人は殆どいないが、開発当初の携帯電話は「携帯」などと名づけるにもおこがましいようなひどくかさばる代物で、しかも通話しかできなかった。
しかし今やどうだろう?携帯電話は携帯していることすら忘れてしまうほどコンパクトになり、軽量化が進み、更にはインターネットだろうがテレビの録画だろうが会話の通訳だろうが可能になっている。
それとほぼ同じことが、携帯電話の数倍早く、かつスムーズに行われた結果、立体ゲームは仮想現実を構築することに成功し、その仮想現実空間で人々が遊ぶことに成功した。
開発当初、精々山や海のグラフィックを見せるだけだった空間は、次第に広がり、広大なフィールドを作り出すことに成功し、「感触」を確かめられるほどに精度の高いものになっていった。
プログラミングを段々と複雑化させることにも成功し、研究室の責任者がレトロゲーム「スーパーモリオ」の熱心なファンだったことから「リアルスーパーモリオ」を遊び心で作り上げた。
今の技術から見ると大してリアルでもないのだが、当時はもちろん画期的なことだったし、何しろその遊び心が支持されて、さまざまな媒体でそのニュースが流れることになる。
その話題性に目をつけたゲーム会社が研究室と共同開発を行うことになり、バーチャルリアリティ技術は一気に娯楽化していくと同時に一般化していった。
そして、研究室一杯に広がっていた機材は段々と縮み、やがてはゲームセンターのアーケードに並べられるほどになり、ついには一般家庭にも普及している。
開発の間に、ゲームの複雑性もあがり、格闘ゲームやレーシングゲーム等、リアル感を追及したものも作られるようになった。
そこから、更に普及していた「ネット対戦(インターネット上で対戦相手を募り、戦う形式)」の要素を取り入れることにより、物珍しさからダイブ(仮想現実空間に入ること)していた人々は、純粋にゲームとしての楽しみを見出していった。
――――「仮想現実空間技術とゲームの関係」
家庭用体験型ゲーム機の成功によって、満を持して家庭用体験型オンラインゲームが台頭すると、一番はじめに規格に手を出したのは当然ながら「格闘モノ」「体験モノ」と呼ばれるジャンルだった。
もともとアーケード筐体で人気があったためか、それらのゲームは実にすんなりと人々に浸透していった。勝算を十分に見込んだ各メーカーは力の入った名作を数多く生みだし、そこに名作があるのならやりたがるゲーマーは集う。
当然のごとくネットゲーム界では隆盛を誇り、一時代を築いた、今でも人気の高いジャンルだ。
そして、この成功を見てオンラインゲームの一大ジャンルである「MMORPG」も同様の集客を見込んでせっせと開発がなされることになった。
単発でぽつぽつとそれに近いものは開発されていたが、何しろ手間のかかることこの上ないジャンルを、新しい形態で開発しなければならない。結局本格的な「MMORPG」が「体験型オンラインゲーム」に殴りこみを掛けたのは、かなり後発だった。
その記念すべき作品が「ファイナリスト・ファンタジー」だった。
家庭用ゲーム機がファミコンだった頃から続く老舗のソフトの体験型オンライン版である。
もともと、オンゲーム(媒体がパーソナル・コンピューターのオンラインゲームのこと)でもかなりの集客率があり、「廃人率(寝食も仕事もなにもかも忘れてゲームに全てを注ぎ込む人々)」も高く、かつネームバリューもある作品だ。
発売当初はありとあらゆる媒体に「ファイナリスト・ファンタジー」のウリである美麗かつ繊細なグラフィックが喧伝された。誰でも一度は「最後の冒険を――あなたに。」というキャッチフレーズを聞かされたことだろう。
従来ではありえないほどの金の掛け方には、開発元の「ここでコケたら終わる」という意気込みが感じられた。
そして、その熱意に応えるように、というべきか、なるべくして、というべきか。
「ファイナリスト・ファンタジー」は体験型MMORPGの記念碑的作品になった。
バーチャルとはいえ、魔術師ならば魔法が使え、剣士ならば剣の達人となれるゲームの中にずっといたいと考える人々は数多く居た。
それは数多く排出されてきたアクションゲームでも同様だが、「ファイナリスト・ファンタジー」は何しろMMORPGなのだ。
衣服の自由度・装備の充実度は他ジャンルの追随を許さず、そして「人の目」の存在も他の追随を許さない。
MMORPG体験者であれば分かるだろうが「あの装備すげー」という賞賛と羨望の眼差しは、所有者にものすごい快感を抱かせるものなのだ。
その快感に溺れたごく一部が、ゲーム内での「視線」を勝ち取るためにアイテムの買取等を「リアルの現金」で行ったり、そのせいでリアルで一ヶ月暮らせるくらいの値段になってしまった「レアアイテム」の争奪戦は恐ろしい競争率を生み出したりもした。
結果、「ファイナリスト・ファンタジー」は数多くの廃人を生み出し、RMT(リアルマネートレード)が蔓延し、ゲーム内レアアイテムの取り合いは熾烈を極めた。
しかし、そんなマイナス面を補って余りある魅力が「ファイナリスト・ファンタジー」にはあった。体験型の名に恥じないリアルな感触、仲間との出会い、そしてストーリー性に満ちたクエスト。迷惑なプレイヤーも上記の理由でかなり数多くいたが、より多くの人々が「ファイナリスト・ファンタジー」の世界を心から楽しんでいた。
そして、MMORPGのタイトルが乱立する群雄割拠の時代がやってきたのだ。
己の手から生み出す魔術、仲間を生き返らせる神聖魔法、目にも止まらない剣さばき、圧倒的な拳の破壊力。
子供の頃夢見ていた世界に人々は静かに熱狂した。あまり大騒ぎすると世間の目が冷たかったので。
ありとあらゆる世界観のタイトルが次々と作られた。平安時代をテーマにした陰陽師ものの「式神」、三国志をテーマにした中華風ファンタジー「乱」、リアルな軍隊制度と完成度が話題になった「world war」、そのどれもがそこそこの集客を得ていたが、やはり一時期の「ファイナリスト・ファンタジー」の爆発的・圧倒的な盛り上がりには適わなかった。
そう、人々はいつでも「一番最初」を忘れない。
たとえそれが過ぎる日によって色あせ、時代遅れになろうとも、あのとき確かに与えられた感動を忘れることはないのだ。
「ファイナリスト・ファンタジー(このさい初めての体験型MMORPGでもいい)」に一番初めにダイブした興奮、感動、そして、かすかな恐ろしさ。
だから、人々は待っていたのだ。
もう一度、あの熱狂の渦の中に引き込まれることを心密かに望んでいた。
――――「体験型MMORPGの一考察」
「クロニクル・オンライン」は、豊作貧乏な体験型MMORPGの中で久々のヒット作だ。
近年のMMORPGにはストーリーはあまり重要視されない傾向にあったが、「クロニクル」は違った。もちろん、ストーリーに介さない、けれど需要の高いジョブ(「商人」「職人」「店主」など)は揃えていたが、基本的にほぼ全員がストーリーに付き合わされることになる。
なにしろ、テーマである「年代記(クロニクル)」とはプレイヤー自身のことなのだ。
プレイヤー達の歴史が刻まれていくストーリー、「あなただけのクロニクル(年代記)」のキャッチコピーと王道RPGのファンタジーな世界観が引き金になって、MMO界を代表する一タイトルになった。
クロニクル・オンラインは、三つの時代ごとにストーリーが別れている。
「神々の時代」「暗闇の時代」「戦いの時代」の三時代(ちなみに時系列は今並んだ順だ)は、それぞれ同じ大陸の、別の時代という設定でストーリーが繰り広げられる。
ちなみに、プレイヤーはある特定の魔法を覚えるか、掛けてもらうかすれば三つの時代を自由に行き来できる。
「神々の時代」は、別名始まりの時代と呼ばれている。
ティファリエ大陸の一番古い時代だ。まだ神々が存在し、人々が豊かで穏やかに満たされていた頃。主に初心者がチュートリアルがわりに使ったり、神職希望(騎士や神官)がクエストにいったりする。
「暗闇の時代」は、王道も王道なストーリーだ。
なにしろ「魔王」が現れるのだから、お約束ここに極まれり(ちなみに魔王はランダムでおっさんだったり龍だったりする)。クエストが一番数多く設置されているのでレベルの上下問わず、いついっても賑やかなパーティーがそこかしこにいる。
「戦いの時代」は最近になって導入された。
対人戦闘と集団戦闘に特化していて、あまりストーリーらしきものはない。と思いきや、個人個人の「クロニクル」以外にここには「戦記」が登場し、目覚しい活躍をしたり捻った作戦を成功させたりすると名前が載る。プレイヤーは各軍に属することになるのだが、それぞれ背景も作られているので英雄RP(ロールプレイ:つまり英雄になりきった言動をしてプレイすること)も盛んだ。
それぞれの時代は繋がっている、という設定になっているので、例えば「暗闇の時代」で魔王を倒したりすると「戦いの時代」で「伝説の勇者(ジョブによっては魔術師・神官)」とか呼ばれたり、相応の戦果をあげないとつかない「二つ名」が初めからついたりする。
この設定がなかなか好評なのだ。
MMORPG(大人数参加型RPG)ならではの、なんというか「人」の視線をなんともいえず意識できるからだろう。もちろん他のゲームでも、例えばレアアイテムを持っていたり、ものすごい廃人だったりPK(プレイヤー・キラー)だったりすると名前が知れ渡ったりした。
けれど、それはどちらかといえば多分にマイナスの要素を含んだ知名度である。
クロニクル・オンラインの知名度は、そういう意味では純粋にゲーム内でいかに頼りになるか、という知名度だった。
たとえば、隠しダンジョンを発見すれば「未開の探求者」という二つ名がついたり、新しいアイテムの合成に成功すると「○○○(アイテム名):(作ったやつの名前)」という説明がアイテム表示とともにされるようになっている。ついでに、アイテム名をある程度まで自分で決められたりもする。もちろん公序良俗に反する言葉は却下だ (ちなみに新アイテム合成の二つ名はどんなアイテムであっても一律「作りし者」)。
魔王討伐をクリアするともっとカッコイイ二つ名がもらえる。
二つ名持ちの人口は全体から見るとごくごく少数ではあるが、少数であるが故にプレイヤー達の間では憧れのマトだ。
自分の「クロニクル」が歴史に認められ、二つ名を持つことを数多くのプレイヤーが夢見ているからこそ、「クロニクル・オンライン」は今日も賑わっているのだろう。
――――「クロニクル・オンライン体験リポート」