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[18261] Road to God online (VRMMORPG)
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:13
はじめまして、Ethmeldと申します。

このたびは思いつきで書き出したSSをとりあえず投稿してみることにしました。
処女作なのでひどいものですがお付き合いいただけると幸いです。

もともとRPGツクールで作ろうとして挫折した設定がもったいないので書き始めたという経緯なので、無駄に設定ばっかりこってます。
書き起こしたら最初のほうはひたすら説明してるだけだったりするのでわれながらどうかとは思うのですが、せっかくなのでそのまま投稿してみます。

一応オリジナルのVRMMORPGでの冒険を書いていこうと思ってます。
一部終了までの大まかな構想はありますが、細部がまったくないのでどうなるかは不安です。
とりあえず、一部終了まで書き切れたら私の中で満足だったりします。

感想などでの批評は励みにさせていただきますので、どんどんお願いします。

2010/5/11 注釈追加

VRでの冒険になりますが、実際の異世界系とはちがってコンピュータのシミュレーション上での世界であることを念頭に書いています。
よって、物理演算を超えてシステマティックに決まっていることが多々あります。

あと、さして重要でない重い処理なんかも省かれています。
たとえば、モンスターは生物のように動きますが、基本的にハリボテで中身は適当な何かが詰まってる感じです。

逆に言えばそういったシステムの隙を突くようなことが出来れば大きな利益が得られるかもしれません。
でも、見つけたからってあんまりやる過ぎると垢BAN食らうかもね!

2010/5/7 移動報告

話数も溜まってきたので、チラ裏から移動しました。
これからもよろしくお願いします。

チラ裏からお付き合いいただいている人は既に気づいているかもしれませんが、私が今までで一番はまったMMOはRagnarok Onlineです。
そのため、いろんなところで影響を受けているのを否定できません。
ROはオープンβ時代からプレイして4年ほど前に引退したのですが、β時代の未完成だからこそ楽しいという雰囲気を出せたらなと思います。
私の腕では難しいでしょうけども…

2010/8/10
別で書いてた話が一段落したので、こちらに着手。
とりあえず話を思い出すのをかねて改訂していきます。
文の整形の問題で話自体を大きく変える予定はありません。



[18261] オフィシャルホームページ
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 19:17
ロードトゥゴッドオンライン オフィシャルホームページ

 メニュー
トップ:ストーリー:キャラクター:システム:神性:ステータス:ファンサイト


----------ストーリー --------------------------------------------------------------------

あなたは、今ロードトゥゴッドオンラインの世界に降り立ちました!
この世界では、神と人との距離が短く気ままな神たちは時として人に大きな影響を与えてきました。
また、人でありながら力を溜め神への昇華を果たして神の一柱として認められた偉人が幾人も出ているのです!
現在でも世界を旅し自らを鍛え、時に神たちのわがままをかなえるなどによって力をため神への昇華を目指すものが多くいるのです。
あなたもまた旅人となり世界を回りながら力をため神への昇格を目指す一人なのです!







----------キャラクター ------------------------------------------------------------------

このゲームでは、あなたの分身となるキャラクターを自由に作成することができます。
ヴァーチャルリアリティの世界でのキャラクターは圧倒的な臨場感をあなたに約束するでしょう。
また、階位の上昇時にはステータスを自由に振ることができ、加護を願う神も自由に選択できるため、
あなたの思いのままのキャラクターエディットを楽しむことができます。
あなただけのキャラクターを用いて広大なロードトゥゴッドオンラインの世界を満喫しましょう!








----------システム ----------------------------------------------------------------------

このページでは基本的なシステムについていくつか紹介します。
その他の要素については実際にゲームしながら調べていってください。
すべてのなぞが解けたとき、あなたのキャラクターは神に匹敵する力を得ているでしょう!

○階位
いわゆるLvです。戦闘やクエストなどを終了することによって得られる経験点によって上昇していきます。
ただし、自動的にステータスが上昇することはありません。
また、階位が上がったことが明確に分かるエフェクトなどは有りません。
階位が上がった場合、信仰する寺院に礼拝することによって階位の上昇を認識でき、ステータスを上昇する種を得ることができます。
この種を使ってあなたの思い通り自由にステータスを上昇させてください。
しかし、ステータスが上昇するにしたがって種の上昇効率は下がってしまいます。
階位の上昇でもらえる種の個数は階位が上がるにつれて増えていきますが、その数は有限です。
十分に考えて、食べる種を選択することをオススメします。

○スタミナ
いわゆるHPです。戦闘時に敵から攻撃を受けると減少していきます。
この値が0になった場合、戦闘不能となります。
また、技と呼ばれるスキルを使用した場合、対価としてスタミナが消費されます。
大きく消費する技の後に攻撃を受けると一気に劣勢に追い込まれることがあります。
使用するタイミングなどには注意しましょう。
また、行動を行っていると徐々に回復していきます。

○マインド
いわゆるMPです。戦闘時に敵から特殊な攻撃を受けた場合減少することがあります。
この値が0になった場合、戦闘不能となります。
また、術と呼ばれるスキルを使用した場合、対価としてマインドが消費されます。
マインドにダメージを受ける攻撃をする敵は少ないですが、不意を撃たれると危険な場合があります。
使用するタイミングなどには注意しましょう。
また、行動を行っていると徐々に回復していきます。

○熟練度
ロードトゥゴッドオンラインでは、さまざまなものに熟練度が設定されています。
一例を挙げると、各武器種ごとに熟練度が設定されており、武器を使用するごとに熟練度が上昇していきます。
各武器には制限Lvなどは設定させていないので、未熟なキャラクターが強力な武器を使うことも可能です。
しかし、各武器には必要熟練度が設定されており、それに満たない熟練度を持つキャラクターでは武器の性能を十全に発揮することができません。
強力な武器も未熟なものが扱えばなまくらに過ぎ無いのです。

○ステータス曲線
これはロードトゥゴッド独自のシステムであり、正しく理解し運用することができれば、神への道を歩くあなたに大きな力を与えてくれるでしょう!
このシステムを簡単に言えば、スタミナ、マインドの残存率によってステータスに補正かかかるのです。
ただし、この補正はプラスの効果だけとは限りません。
一般的にスタミナ、マインドともに減少するにしたがってマイナスの補正が掛かる傾向があります。
しかし、この傾向は、曲線といわれるとおり一様な変化をするものではなく、あなたが自由に曲線を決めることができるのです。
瀕死時の大幅な弱体化と引き換えに快調時に強化を図ったり、瀕死時にステータスを上昇させ生存率を高めるなど柔軟な戦略が可能となります。
ぜひ、いろいろなパターンを試してみてあなたに最適な曲線を見つけ出しましょう!











----------神性 --------------------------------------------------------------------------

○信仰神
信仰神はいわゆる職業と理解されるものです。
ロードトゥゴッドオンラインの世界を旅する旅人たちは職業というものを持たず、ただの旅人ということになります。
しかし、信仰し加護を願う神によって取得スキルの変化、ステータスのボーナス、武器熟練度ボーナス、
各種成長率のボーナスなどが変化します。また、この世界には多くの神がいるため加護を願う対象も多くいます。
さらに、気ままなこの世界の神たちは信仰者を束縛することはありません。
あなたの好きなタイミングで他の神へ信仰を切り替えることが可能なのです。
また、変更前の神の加護も若干あなたに残っていることでしょう。
信仰の変化は前の神を信仰していたときに得られていた各種ボーナスを一部受け継ぐことができるのです。
ただし、それは神同士の相性もあるため常に十全に発揮されるわけではありません。
また、あまりに節操無く変更しているとさすがに気ままな神たちもあきれてしまうかも知れません。
信仰を選択する場合は十分に考えて行いましょう。

加護を与えてくれる神は下位神12柱、上位神10柱となっています。
上位神への加護を願う場合は、下位神の推薦が必要となるため複数の下位神に一定以上の信頼を勝ち取らなくてはなりません。

○信仰度
信仰度はいわゆる職業Lvと理解されるものです。
神の加護を得た状態で、戦闘やクエストなどを終了することによって得られる経験点によって上昇していきます。
また、その神の好むような行動を取ることも上昇していく一因となります。
信仰度が上昇するにつれて、その神の特有のスキルツリーによるスキルが取得していくことができます。
また、信仰度の上昇によって加護によって得られるボーナスの一部が上昇します。
神への信仰を篤くすることによって更なる加護を得ることができるのです。







----------ステータス --------------------------------------------------------------------

ロードトゥゴッドオンラインでは、6種類の基本ステータスがあり、階位があがることによって上昇させていくことができます。
どのステータスを伸ばしていくかによってあなたの分身は大きく性格を変えることになります。

○STR(腕力)
武器攻撃力、アイテム所持量などに影響を与えます。
ステータス曲線の補正を受けます。

○VIT(体力)
スタミナ最大値増加、物理攻撃ダメージ軽減、スタミナ自動回復量上昇などに影響を与えます。
ステータス曲線の補正を受けません。

○AGI(速度)
攻撃速度、回避力、移動速度、命中力などに影響を与えます。
ステータス曲線の補正を受けます。

○DEX(器用)
攻撃力、命中力、回避力、クリティカル率上昇、武器熟練度などに影響を与えます。
ステータス曲線の補正を受けます。

○INT(知性)
術攻撃力上昇、影収納量上昇などに影響を与えます。
ステータス曲線の補正を受けます。

○MND(精神)
マインド最大値増加、魔法ダメージ軽減、マインド回復量増加などに影響を与えます。
ステータス曲線の補正を受けません。









----------ファンサイト ------------------------------------------------------------------

ロードトゥゴッドオンラインはMMORPGという形態を取っているため、あなたのほかに多くの旅人が存在します。
彼らと情報を共有することは、あなたの神への道の道程を大幅に短縮してくれることでしょう。
ぜひ、多くの旅人たちと交流してロードトゥゴッドの世界を楽しんでください!

ゲーム内においても基本的な掲示板システムが搭載されているためそちらでも情報の交換をするとよいでしょう。

ここには、オフィシャルで認められたゲーム外ファンサイトのリンクを掲載していく予定です。
ファンサイトを運営されていらっしゃる方はぜひオフィシャルに報告してください。



[18261] 1. 旅立ち
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 19:32
真っ白に染まった視界の中で、俺はゆっくりと落ちていく感覚を味わっていた。

物理法則に真っ向から喧嘩を売る事態。本来ならどんどんと落下速度が速くなっていくはずだ。
しかし、ここは仮想世界。いわゆるヴァーチャルリアリティの中なのだ。

21世紀初頭からブームを起こしたネットゲームの市場。多くのゲームが開発され、淘汰されていった。
世界的なブームの熱が冷め始めてしばらくしたとき一つの大きな技術革新が起きた。
仮想現実、ヴァーチャルリアリティの発明である。
もともとのコンセプトとしては古くからあり、多くの研究がなされてきた分野だ。
新技術はすべて軍事から発達するとの言葉通り、兵士の訓練用のシステムとして開発されたこのシステムが一般に出回るようになったのは最近のことである。
黎明期では、VRシステムを家庭で導入するにはなかなか大きな投資が必要だった。
しかし、平面での擬似的な3Dに飽き飽きしていたコアな人間どもは一般発売をされるや否や新車が買えるような値段だったにもかかわらず飛びついたのだ。
その初期の滑り出しよさが次の生産に繋がり、VRシステムのよさが広まることによって需要も順調に伸びた。
大量生産によってコストが下がるのは自明であり、いまやVRシステムはちょっと高級な家庭用ヴィジュアルシステムとしての地位を確立するにいたったのだ。

そのような大きな市場もあり、VRシステムの特性を最大限に生かす娯楽として注目されたVRを用いたゲーム産業が活性化するのは当然だろう。
その中の1ジャンルとして既に斜陽にかかっていたネットゲームの市場も新たな産声を上げ多くのゲームが開発される現在の状況に至る。


白い光に囲まれる中、落下していた俺の足は地面の感触を思い出した。
着地したその場所から、波紋のように石畳が広がっていくさまは圧巻だ。
10mほど広がったその波紋は次に無数の石の柱を生み出して止まった。

「ロードトゥゴッドオンラインへようこそ!」

そんな鈴を鳴らすような声とともにいつの間に現れていたのか天使の姿を模した美しい少女が目の前に下りてくる。

「貴方は一人の旅人として、この世界を旅し、力を付け、やがて神に至る力を得ることができるでしょう。
 この世界は新たな神の誕生の可能性として、貴方の来訪を歓迎します!」

雨後のたけのこのように多く出てきたVRを用いたMMORPGだが、なかなか設定に凝ったものが多かった。
VRの発達の前に発表された無数のゲームがそれぞれ差別化を図るために用いた手法がそのまま残っていたのだ。
しかし、今プレイを始めようとしているゲームの目的はしごく単純である。

――強くなれ。

ただそれだけだ。俺はこの割り切りっぷりが逆にすがすがしく好感を覚えた。
ネットでの評判をみると同じように考えるものは結構いるらしく、下馬評も悪くなかった。
そして、来るクローズβ。俺も当然βテスターに応募したが、残念ながら落選してしまった。
それからは、オープンβが始まる今日までネットで情報を集めながらプレイするときを待ちわびてきたのだ。
クローズからオープンへのデータの引継ぎはキャラメイクの外見グラフィック設定のみ。
スタート地点は同じ状態からはじめることができる。
俺は不良大学生という地位を最大限に生かしてプレイするのだ!

「現在のキャラクターデータを用いてゲームを開始しますか?」

実は俺はオープンβからのプレイだが既にキャラクターの外見設定を終えている。
なぜなら、このゲームでは他のVRゲームの外観設定を引き継ぐことが可能だからだ。
この外観の引継ぎが可能という点は、他ゲームからの移住組みの敷居を大きく下げるのに多大な効果を発揮した。
実際にキャラに乗り移ったかのようにプレイするVRゲームは自キャラへの思い入れは、昔の平画面時代とは比べ物にならない。
事実、俺の周りでいろんなゲームを渡り歩いている奴もおおむね同じような外観にしていると言っていた。
そこを引継ぎ可能にしたことで新しい外観を作る手間を省き、さらに細かな違和感も無くなるのだからすばらしい。
ただし、このゲームでは種族がヒューマンしかないためそれを大きく逸脱する外観は使用できないのだが。
ということで、当然俺の返答は「YES」だ。

「では、プレイヤーネームを登録します。希望するプレイヤーネームを入力してください」

その言葉と同時に、俺の目の前に半透明のキーボードが浮かび上がる。
いくら時代が進んでもこういうインターフェースは変わらないなと愚にも付かないことを考えながら決めていた名前を入力する。

[ジスティア・ネイシー]

名前に自体には特に意味はない。
初めてやったVRRPGでキャラを作ったときに思いつきでつけた名前を使い続けているだけだ。

「ジスティア・ネイシー様ですね。了解しました。重複を確認いたします、少々お待ちください」

ここで、漢字やアルファベットなどを用いた名前だと読み方を登録するステップがあるらしいが俺の場合は自明なのでスキップしたようだ。
ここで重複があるようだと別の名前を考えなければならないので少々面倒だ。かぶらないことを願う。

「確認完了しました。重複は存在しません。
 ジスティア・ネイシー様、ようこそロードトゥゴッドオンラインの世界へ!」

名前が決まり、いよいよ冒険が始まると思うとわくわくしてくる。

「チュートリアルを開始できます。参加いたしますか?」

流石にはじめたばかりのゲームではいくら調べていたとはいえ、経験不足は否めない。
チュートリアルの存在は渡りに船だ。

「了解しました。それではチュートリアルを開始いたします」

その宣言と共に周りの景色が一変する。
今までいた荘厳な神殿がもやに消えるように姿を消し、変わりに浮き上がってきたのは円形の木造建築に囲まれた中庭のような場所である。
俺は足元の赤茶けた土を踏みしめ、これからの冒険に胸を躍らせるのだった。



[18261] 2. チュートリアル
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 19:57
訓練場に景色が変わった直後、さっきまで対話していた少女が消えていることに気づく。
その代わりに俺の前にいるのは筋骨隆々なむくつけきおっさんだ。

「よう、ひよっこ! 俺の名前はサビーノだ! 短い間だがよろしくな!」

外観通りに無駄に大きい声で話しかけてくる。お前の名前よりさっきの少女の名前のほうが知りたいわ!
そんな俺の思いを置き去りにおっさんは話を続ける。

「さて、チュートリアルだな。お前は戦士、魔術、僧侶、盗賊のどのチュートリアルを受けるんだ?」

どうやら、4系統に分かれた解説をしてくれるらしい。
とりあえず戦士系キャラにしようと思っていたので、戦士を選択する。

「ほう、戦士か。ならば、俺の担当だな! じっくり教えてやる! 期待していろ!」

なんてこった。俺はこのおっさんからは逃げられないらしい。
いい加減音量を落としてほしいと切実に思う。

「さて、基本からだ。この世界には多くの武器がある。戦士系は近接戦闘を中心にするスタイルだ。
 使える武器としては、剣、槍、斧、槌、棍だな。
 これらは力の大きさに依存して大きなダメージを与えるものが多いぞ。
 よし、では好きな武器を選んで、あの案山子を殴ってみろ!」

おっさんはオーバーリアクションで奥にある案山子を指差す。
すると、俺の目の前には5種類の武器が何種類かづつ現れていた。
俺はなんとなく適当な長さの見栄えの良い槍を選んで手に取った。

「お、槍を選んだか。
 槍はその長い間合いを生かして中距離もでき、斬る、突く、叩くと3種の攻撃を高い水準で可能にするよい武器だ。
 だがその分扱いが難しいといえる。やってみるとわかるだろう」

俺はそのまま、案山子の前に立ち案山子に攻撃しようとする。
しかし、ただ構えて突く、それだけの動作がうまくいかない。

VRシステムでのゲームは実際に体を動かす感覚でプレイするため現実での体捌きなどを修得していると有利であるといえる。
しかし、そのような敷居の高いゲームに人が集まるわけも無く、その対策として多くの基本行動はすでに最適化された動作がキャラクターにインストールされており意識して動こうとすればそれに伴った行動をしてくれるのが一般的だ。
俺は武道など学校の体育でやった剣道ぐらいしか経験が無いが、ほかのVRゲームをやった経験でそれなりに動くことができると自負している。
まさか、このゲームでは動作補助機能が無いというのだろうか…?

「ふむ、うまくいかないようだな。それではこれで試してみるといいだろう」

そういって、明らかに見た目がみすぼらしい槍を手にとって渡してくる。
NPCに逆らってもしょうがない。
かっこいい槍を手放し、ぼろい槍を使うのは抵抗があるが…
俺はそれを受け取り、再度構えて案山子に向かう。
そして、突く!

今度はうまくいき俺の持った槍は案山子の心臓があるであろう部分にきれいに突き込まれた。

「ほう、クリティカルか。筋は良いようだな!
 さて、先ほどうまく行かなかった理由だが、武器の性能を十全に発揮するにはそれなりの技量が必要なのだ。
 お前は現状、槍に関する技量は全く無いに等しい。
 しかし、一本目はなかなかに良い槍であるから、使いこなすための技量がお前には足りなかったのだ。
 一方、今お前が持っている槍は最もグレードの低いもので使うのに技量を必要としない。
 よって、お前はうまく扱うことができたというわけだな!」

なるほど、これが武器熟練度というやつか…
聞いていた話では足りていない武器を使った場合は、武器のステータスにマイナス修正が入るとのことだったが、まさか動作補助機能が効かなくなるとは…
これはよくよく武器の選択を慎重にやらなければならないようだ。

「さっき言った槍は扱いが難しい武器というのはこういうことだ。
 同時期に手に入る他の武器種に比べて槍は比較的扱いが難しいものが多い。
 また、若干扱い方を覚えるのも遅い傾向があるという話だな!」

つまりは、必要熟練度が高めの設定が多く、槍の熟練度自体も上がりにくい設定になっているということなのだろう。
他の武器種ではどのような設定になっているのだろうか?

「ん?他の武器の話も聞きたいのか?
 いいだろう!戦士たるもの体を鍛えるだけではいかん!
 多くの知識を有効に使ってこそ戦術が生きるのだぞ!
 やはりお前は見込みがあるな!」

おっさんはそんな事を言い出す。
唯でさえうるさい事この上ないのだから、早く説明してほしいのだが…

「おっと、話がずれたな。
 まず、剣だがオーソドックスな武器だけに非常に素直な性格をしている武器が多いな!
 使い慣れるのも早いだろう。
 ただし、体が硬く衝撃を体に通すような攻撃が有効な敵には梃子摺るかも知れないな!

 次に槍だ!
 先ほど言ったように扱いが難しいものが多いし、扱いに慣れるもの時間が掛かるな。
 だがその分、この武器に苦手な攻撃は無い。
 すべての敵に対して有効にダメージを与えられるだろう!

 次に棍だ!
 この武器は扱いは難しくは無いが簡単というわけでもない。
 使い慣れるのには特に問題は無いだろう。
 槍の穂先が無くっている分、切断を必要とする敵は苦手だが、衝撃と突きの攻撃は自在に行うことができるだろう!

 次に斧だ!
 この武器も扱い自体は難しくないし、慣れるのも特に問題ないだろう。
 切断や衝撃といった攻撃を自在に行えるが、敵の装甲の隙間を突くような攻撃は苦手だな!

 最後に槌だ!
 この武器は非常に特徴的だ。
 まず、大きな力が無いとまともに扱えないだろう。
 扱い自体は難しくないし、使い慣れるのも問題は無い。
 しかし、この武器は突いたり斬ったりといった攻撃が全くできないのだ。
 その代わりに、打撃の攻撃は他の追従を許さない。
 さらに、打撃を敵の頭などに入れるとよろけさせたり、さらには気絶させたりすることが可能なのだが、槌の攻撃は特にこの効果が強く現れるぞ!
 一人で旅をするには不向きな武器だが、的確に急所を狙える槌使いが仲間にいれば大きな戦力となるだろう!」

長い…、長いが有効な情報が多く聞けた。武器の性格をつかむのはプレイスタイルの選択に大きく影響を与える。
チュートリアルを受けたのは間違いではなかったようだ。
ただ、ただひたすらおっさんの声がうるさいのと暑苦しいのを除けばだが…。

その後一通りの武器を使って案山子をいじめた後、チュートリアルを終了することにした。
別の職業種を聞くこともできるようだが、ひとまずは良いだろう。
今聞かなくてもこの場に戻ってくれば、いつでも受けることができる様であるから、必要だと思ったときに聞きに来ることにする。
別に耳がおかしくなってきたわけでは決して無い。

「ふむ、そろそろ旅に出るのか!
 俺は残念ながら至る前に挫折したが、お前の道行が至ることを祈っているぞ!
 ここから出たらまずはじめに加護を願う神を決め、神殿に行って加護を受けると良いだろう。
 神への信仰を迷ったら、またここに戻ってくるがいい。
 相談にのってやるからな!」

俺は頼もしいがそのときはもっと静かな人がいるときを見計らって来ようと思いつつ、訓練場を後にした。



[18261] 3. ビルド
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 19:42
訓練場の出口を抜けると、視界いっぱいに石畳の街路と立ち並ぶレンガ造りの家屋が広がっていた。
多くの人が行きかい町は活気に満ちている。
少しの間そこで景色を見ていると後ろから人が来たためあわてて歩き出す。
訓練場には俺以外に人はいなかったと思ったが…。
外見は同じで中だけ別空間というのはVRでは良くあることだ。
多分そういうことなのだろう。

さて、これからの行動だがまず信仰神を決めなければな。
といっても、ずっとネットで調べて妄想してきた身。
当然、方針はすでに決まっている。

話は変わるが、このゲームの体力値であるスタミナは敵の攻撃だけでなく、技と呼ばれるアクティブスキルをしようすることによっても消費される。
とあるレトロゲーの中で暗黒とかいう技が有った気がするが、すべての技で消費するということだ。
一方、術と呼ばれるアクティブスキルを使用するとマインドという値が消費される。
これは一般的なMPだとか言われるものと同じだ。
ただし、違うのはスタミナだけでなく、マインドが0になっても戦闘不能となってしまうことだろう。

簡単に言えば、アクティブスキルを使用すると必ずスタミナかマインドのどちらかが消費され、そのどちらも0になると戦闘不能になるということだ。
元から消費するのが前提のシステムだからなのか自動回復速度がそれなりは速くなっており、バランスはなかなからしい。

さて、防御用のステータスとしては、VIT(体力)とAGI(素早さ)があげられるだろう。前者は耐久力を挙げ、後者は回避力を上げる効果がある。
クローズβのプレイレポートを見てみると戦士型では圧倒的にVITを伸ばしている人が多いようだった。
戦士系の覚える技はスタミナを消費する。
元から消費するのが前提のシステムなので自動回復が重要でVITを伸ばすと自動回復量が上昇するし、スタミナの上限値も上昇するからだ。

一方、AGI型だが回避力はAGIのみ依存でなくDEX(器用)にも影響されるためAGIのみをあげて行ってもいまいちらしい。
AGI型の利点としては攻撃速度の上昇が挙げられるが、スタミナ上限の低さ、自動回復の低さから技をあまり使えないデメリットといいところ相殺が限度だろう。
あとは、VITとAGIの差といえばステータス曲線の補正がかかるか否かぐらいだろうか。
最大で1.2倍の程度補正がかかるのは大きいといえるが、不安定な補正であるし一般的に1倍ぐらいの値が長く続くように曲線を設定するのが通説になっているためあまり甘みは感じられない。
まぁ、そんなこんなで圧倒的にVIT型が席巻していたのがクローズβの状況だったらしい。


そこで俺が当然選ぶのは…


 AGI型だ!!


なぜ俺が不遇と言われるAGI型を選んだかといえば、端的に言って俺が天邪鬼だからだろう。
他人の通った道をなぞるだけでは面白いと思えないのだ。
クローズからオープンへの移行で仕様変更が着てるかも知れないが、多くはとりあえずVIT型にするだろう。
そんな中、少数派のAGI型を邁進する俺。たまらん。

マゾ?うるせぇ、楽しんだもんが勝ちなんだよ。所詮ゲームなんだからな!
つーか、食らいながら耐えるよりも華麗に回避したほうがかっこいいだろうが!

まぁ、取りあえずAGI型ということで回避メインのキャラビルドを目指すということだ。
ということで、主に伸ばすステータスは、攻撃力アップのためにSTR、回避力と攻撃速度のAGI、回避と命中のためにDEXの3本柱になるだろう。STR≧AGI=DEXといったところか。
スキルの修得にINTが必要になる場合もあるらしいが、それはそれ出てきたときに考えることにする。
3本柱で多くの余分なステータスを振ることが出来ないからVITは初期値のままになるだろう。茨の道だな…。

ちなみにVIT型の基本はSTR≧VIT>DEXとなり、STRとVITにより多く振れる。
こんなところでもAGI型の不遇さが…。
だけどそんなのには負けない、俺の不良大学生の特権である時間というもので補ってくれるわ!
まぁ、俺と同じ状況でVIT型なやつはとっとと進むんだろうがな…

方針を改めて確認したところで信仰神に加護をもらいに行かなければな。
信仰神は現在実装されている分で12柱ある。
戦士、魔道、僧侶、盗賊にそれぞれ3柱ずつである。
まぁ、大まかな分類だし首を傾げざるを得ない所属があったりするが気にしない。
一応挙げておくと、僧侶にネクロ系の加護を与える死神ボーメルベリーとか盗賊に鍛冶の加護を与える鍛冶神ワディムが所属するなどだな。
うわさでは未実装の上位神にこの括りが関係するのではないかという話だ。

さて、戦士系は、戦神アラナス、闘神エルプフ、狂神バルバゲンの3柱だ。
簡単に言えば、アラナス=攻撃重視、エルプフ=防御重視、バルバゲン=狂化と言ったところ。

アラナスは攻撃系スキルが多くSTRやAGI、DEXにプラス補正、剣と槍、棍に熟練度補正。
エルプフは防御系スキルが多くSTRやVIT、DEXにブラス補正、剣と棍、斧に熟練度補正。
バルバゲンは狂化スキルがあり、STR、VIT、AGIにプラス補正、槌、斧、槍に熟練度補正。

となっている。

俺の基本ビルド方針からすると悩む余地すらない。アラナスで決定だ。
ついでに、アラナスはこの3柱の中で唯一女神なのもポイントが高い。
むくつけきおっさんを崇め奉るとか俺には無理です。

ちなみにVIT型でも信仰神は結構バラけるようだ。
攻撃スキルや女神と言う点でアラナスを信仰したり、素直にエルプフに信仰したり、槌やら狂化のためにバルバゲンに信仰したりまちまちであるらしい。

後は使う武器種の選択か…。
正直、これは迷う。
さっきのチュートリアルではじめて聞いた情報が多いから今まで考えてたのを修正しないといけない。
とりあえず、選択肢としてはアラナスに熟練度補正のある剣、槍、棍のどれかだろう。

当初予定ではオーソドックスに剣を使うつもりだったんだが…
武器による攻撃属性があるとは…、多分クローズからオープンでの変更のひとつだろう。
棍はなんとなく性に合わないので、剣と槍のどちらかなんだが…
まぁ、もともとマゾい型で行くんだし、熟練度のあがり難さよりも汎用性と性能を取って槍にすることにしよう。

そんなこんなで方針を確認したことだし、アラナスを祭る神殿を探しにいきますかね。


ステータス曲線の説明?
めんどくさいからオフィシャルホームページで確認してくれ。
最もあそこにも大した情報乗って無いけど。



[18261] 4. 神殿へ
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 19:57
戦神アラナスの神殿を探して街を歩く。

さすがに事前調査ではNPCの配置場所や建物の配置場所などは調べてないので自分の足で探すしか無い。
この町はどうやら区画整理がしっかりしているようだ。
中央公園を中心に十字に大通りが延びており、その大通りから各小道が広がっている。
訓練場は中央公園に面していたため現在値の把握は容易だったのが救いだろうか。

自分の周囲の範囲の地図を確認することの出来るミニマップを脳裏に確認しながら思いつくまま足を進める。
ミニマップの倍率を下げれば街全体を俯瞰することも可能だが、目的地がどこに有るかすら分からない現状では意味が無い。
つまり、今俺は道案内してくれそうなNPC(ノンプレイヤーキャラクター)を探しているのだ。

大きな街には案内NPCがたいていはいるものだし、ましてや初期地点の街にいないわけが無いだろう。
経験的に、衛兵なんかの格好をしているやつが道を教えてくれることが多いのでそんなやつを探しているわけだ。

考えてみるに訓練所のおっさんに聞いておけばよかった気がするが、あの声で街の施設場所の説明などされたら半分以上も覚えていられ無かったに違い無いから悔いはないな。
むしろチュートリアルをスキップしたら開始時に現れた少女が説明してくれたのだろうか?
もしそうだとしたら、そちらは大いに悔いが残るぞ…

俺はくだらないことを考えながら街を闊歩する。
いわゆる中世ヨーロッパ風というのだろうか。
石畳の道路にレンガでできた家が立ち並んでいる。
こういった見慣れない景色の中を歩くのはそれだけでも何だか楽しい。
言ってみれば海外を旅して観光しているような気分とでも言うところだろうか。
程なくして見慣れてしまいこの感覚も薄れてしまうだろうから、今のうちに楽しんでおくことにする。
 
そういえばVRシステムの普及と同時に旅行客が減少すると言う現象が起きて各地の行楽地は結構な打撃を受けたらしい。
現在では、各地の頑張りや法改正によって旅行者数なんかはだいぶ取り戻したらしいが。

さて、周りには結構人がいるのだが、このうちどれぐらいがPC(プレイヤーキャラクター)なのだろう。
サービス開始直後にログインしたので、それなりに早い部類だと思うのだが…
ちなみに、今日は平日なので昼間からログインしているのは俺のような不良大学生が多いだろう。
大学の講義をサボってやってるわけだが、このゲームのために今期は今までまじめに授業に出ていたのでたぶん大丈夫だろう…

しかし、すぐ見つかるだろうと思ってた案内NPCだが以外に見つからないな。
中央公園の外周のどこかにはいるもんだと思ってたんだが…
しょうがない、そこら辺の適当なNPCに聞いてみるか。返答パターンが登録されていると良いんだが…
とりあえず、近くにいた公園の露天で果物を売ってるおっさんをスルーし、そのひとつ向こうの花売りのかわいらしい少女に近づく。

「いらっしゃいませ!お花はいかがですか?」
「こんにちわ。一輪いただけますか?」
「ありがとうございます!2cになりますっ!」

訓練所のおっさんで減っていた何かが補給されていくのを感じつつ、お金を渡して花を受け取り当初の目的であるアラナスの神殿の位置を聞くころにする。

「ありがとう、ところで戦神アラナスの神殿がどこに有るか知ってるかい?」
「アラナス様のしんでんですか?えっと、あんまりおぼえて無いですけど、
 たぶんここから南通りをあるいていったとちゅうにあったはずですよ」

はっきり言って全く期待していなかったんだが予想以上に具体的な返答が帰ってきて驚いた。
分からないといわれると思って案内人の場所を聞きなおすつもりだったが無駄になったようだ。
まぁ、中央公園という場所柄で登録されていたんだろうが細かいところで気が利いている。

「すごい、お嬢ちゃん物知りだね。ありがとうとても助かったよ」
「えへ…」

少し恥ずかしそうにはにかむ少女を見て心の中で何かか溢れるのを感じつつ、手を振って教えられた道を行くことにする。
うむ、有意義な時間だった。

少女に教えられたとおり街を見物しながら南通りを南下していく。

ちなみにcはカッパと呼び、貨幣の最小単位だ。100cで1s(シルバ)となり、100sで1g(ゴルド)となる。
開始地点の街の宿屋が一泊大体20cぐらいだったと記憶している。
ちなみに払ったお金は初期所持分の1sの一部だ。真っ先に装備をそろえるのに使うべきだが俺は全く後悔していない。

少女の笑顔はプライスレスだ。

やはりくだらないことを考えつつ、道を歩いていく。
神殿を探して視線を飛ばしていると興味深いものを見つけた。
武器屋だ。
武器や防具はこんなゲームをやる男にとって逆らえない吸引力を持っている。
当然その一人である俺もその力に抗えるはずもなく、気づくと体が勝手に暖簾をくくっていた。

「いらっしゃい。なにをお探しかな?」

店に入るとすぐに店主であろうおっさんに声をかけられる。
どうやら俺以外の客はいない様だ、しかし常識的な声量でよかった…。

「何というわけでも無いな。興味を引かれたから入っただけだ」
「なるほどね。…おや、お前さん、まだ神の加護を受けてないのかい?」
「確かにそうだが…、なぜ分かったんだ?」
「はは、武器屋たるもの客の腕前を見て分からなけりゃ、高い武器を薦めることもできないだろ?」

親父は闊達に笑って返してくる。

「戦神アラナスの加護を受けようと思って神殿に向かっていたところでこの店を見かけてね」
「ああ、アラナス様ならもう少し南に下った左手に神殿があるよ。
 ひときわ大きい建物だし、建築様式もだいぶ違う。見れはすぐに分かると思うよ。
 武器屋にくるなら加護を受けて無いと試し切りも出来ないからね。
 その後に来てもらわないとどうしようもないよ」

おっさんは丁寧に神殿の場所を教えてくれた。
そういうことならしょうがない。楽しみは後に取っておいて神殿に向かうことにしよう。

「加護を受ける前に入ってくるほど武器が好きとは恐れ入るね。武器屋の身としてはうれしい限りだ。
 無事に加護を得ることが出来たらうちに来な。ちったぁサービスしてやるよ」

おっさんの笑いを含んだ有りがたい言葉を背中に受け、後ろ手に振りつつ武器屋を後にした。

しかし、先ほどの花売りの少女といい、この親父といいNPCとはとても思えない返しをしてくる。
話しているとNPCだということを忘れてしまいそうになるぐらいだ。
事実、親父との会話の間は完全に忘れていた。
AIの発達は著しいとは聞いているが、ゲームのNPCにこれほどの技術を使うとは運営陣のこのゲームにかける思いが感じられる。

運営の思惑にのって余計なことを考えずに楽しんでみよう。



[18261] 5. 加護
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 19:57
武器屋のおっさんの言うとおりもう暫く道を南に進んだところで、左手に特徴的な建物が見えてきた。
ギリシャ時代の建物に有るような柱が多く立ち並び屋根を支えている。
名前を登録した場所と雰囲気が似ているかも知れない。

神殿の大きさの割りに小さい出入り口から中に入ると、そこにはそれなりに人がいる様だった。
このうち何割かはPC(プレイヤーキャラクター)なのだろう。
俺と同じようにアラナスの加護を受けるために来ていると思われる。
奥に進んでいくと神殿の最奥には美麗なステンドグラスから差し込む色とりどりの光を受け、勇壮な姿を見せる戦乙女の像が鎮座していた。
あの像がアラナスの姿を象ったものなのだろう。
荘厳な空気と共に心地よい緊張感が回りに漂っている。

俺は暫く勇壮な神像を眺めていたが、当初の目的を思い出し加護を受けるために行動を始める事にした。
周りを見回して観察するに、どうも像の右側にある受付のシスターに話しかければよい様だ。
神像の前では、おそらくPCであろう人が跪き祈りを捧げている。暫くして、祈りを捧げていた人は立ち上がると神殿の外へと出て行った。
外見的には特に変わったところを感じれなかったのだが、あれで加護を得たということなのだろうか?
疑問を抱きつつも、俺は受付をしているシスターの元に向かった。

「こんにちわ、貴方もアラナス様の息吹に包まれますように。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちわ、アラナス様を信仰するものたちの末席に加えていただければと願いにきたのですが」
「あら、新たにこの街にいらした旅人の方ですね?
 この街を代表して歓迎させていただきますわ。
 貴方が道行きの末、至ることが出来ることを願っています。
 アラナス様に加護を願うのでしたら、神像の前に行き貴方の思うとおりにお祈りください。
 アラナス様はきっと貴方の願いに答えてくれることでしょう」

特に祈りの方法などについて手順などの形式はあまり重要視されていないようだ。
個人的に非常に好感が持てるスタイルだが、実際の神が分かりやすい形で答えてくれるこの世界だからこそなのかも知れない。
神像を見るにちょうど人が途切れているようだ。早速お祈りにいってこよう。

さて、祈りを捧げるのに形をこだわらないとは言えさすがにこの雰囲気で拍手を打つのは場違いだろう。
見よう見真似ではあるが、キリスト教的な姿勢で祈ることにする。
神像の前にひざ立ちになり胸の前で手を組み目を閉じて頭をたれる。

ふと、周りの空気が変わったのに気づき頭を上げ目を開くと一面が真っ白になっている空間に変わっている。

目の前にはアラナスと思われる剣を佩き鎧を身に着けた凛々しい女性が現れていた。


「ジスティア・ネイシーよ、汝に我が加護を与えよう。
 我が加護にふさわしき振る舞いを心がけ、力だけでなく心をも磨くことを我は望む。
 旅により力を蓄え、いずれ我らが元へとたどりつかんことを楽しみにしているぞ」


その声は美しく、まさに天上の調べといえるだろう。
短い言葉ではあったが心に響く言葉であったのは間違いない。

そしてふと意識を戻せば、自分は神像の前に跪いた状態に戻っていた。
これで加護を受けることが出来たのだろう。

確かに、さっきまで感じられなかった存在を自分の中に感じることが出来る。
俺は立ち上がると体の調子を確認しながら祭壇から降りる。
ステータスボードと呼ばれる半透明のガラス板のようなものを表示させ、ステータスを確認してみると、STR、AGI、DEXが増加しているのが確認できた。
これが信仰神によるステータス補正なのだろう。
また武器熟練度に関しても剣、槍、棍が10、その他近接武器が5に増えていた。
これが熟練度補正というものだろうか。
中空に浮いているガラス板のようなステータス画面を眺めてながら考え込んでいるとシスターから話しかけられた。

「無事に加護を得ることが出来たようですね。おめでとうございます。
 共にアラナス様を信仰するもの同士、助け合っていきましょう」
「あ…、はい、ありがとうございます」

考え込んでいたときに話しかけられたのでちょっと動揺してしまった。

「貴方は加護を得ることによって、神の力の一端を受け入れることが可能になりました。
 この種をお受け取りください」

そういって横に置いてあった色とりどりの種が入った箱を指し示す。

「この種は神々の力の一端を封じ、非力な私たち人間に受け入れることができるようにしたものです。
 これを飲むことによって、力、体力、速さ、器用さ、知性、精神力などの力を得ることができるでしょう。
 今初めて加護を受けた貴方であれば、全部で12個分の種に宿る力を自分の物とすることができるでしょう。
 たとえそれ以上に飲んだとしても、貴方の体では受け入れきれず意味が有りませんよ」

取り合えず、初期ステータスの設定をしなさいという事だろうか。
特化したほうが良いか分散したほうが良いか悩むところだが、どうせその内すべて上げていくのだから均等に上げることにする
STR、AGI、DEXに対応する種をそれぞれ4個ずつ選び飲み込んだ。
勘違いかも知れないが、なんか強くなった気がしないでもない。
ステータス画面を確認すると、ちゃんとあがっていたので問題ないだろう。

「貴方が経験をつむことによって、貴方の体はまた種に宿る力を受け入れることが可能になることでしょう。
 この状態を私どもは『階位が上がった』と表現しております。
 しかし、特に目立った変化が起こるわけでは有りませんので、貴方がそれに気づくことは難しいかも知れません。
 神殿に来ていただければ、階位の上昇を確認することが可能となります。
 ですので定期的に神殿に足を運んでいただき確認することをお勧めします。
 また、この確認は守護を受けた神の神殿でなくても可能ですのでご安心ください」

つまりは経験値が溜まっていても自動的にLvアップはしないから、最寄の神殿に行って認定してもらう必要があると。
さらに、上がっているのなら種を食ってステータスを上げなさいとそういうことなのだろう。

「また、これから信仰している神殿に来ることによってステータス曲線の調整が可能になります。
 ステータス曲線の説明をいたしますか?」

なるほど、いろいろな説明のための強制イベントなわけか…。
そういえば、出ようとはしなかったけど加護を得る前に街を出ようとすると止められたのかも知れないな。
ステータス曲線については事前情報で大まかなことは調べていたが、チュートリアルでの武器種のこともあり変更が有るかも知れない。
俺はありがたく説明を聞くことにした。

「貴方はスタミナ、マインドの量によって力や素早さ、器用さ、知性といったものが変動していくのです。
 スタミナが多く残っているときに比べ、少なくなっているときに十全に力が出せないのは当然ですよね?
 マインドに関しても同じことです。つまり、その変動を示すものがステータス曲線なのです。
 しかし、神の加護によりこのような変動を有る程度自由に変更することが出来るのです。
 ただし、何処かを増強すれば他が弱体してしまうため注意が必要です」

つまり、特化するか平均化するかの二種類を選べるという事だろう。
前者は瞬間火力を期待し、後者は安定感を期待するといったところだろうか。

「分かりにくいでしょうか?
 では、具体例を挙げてみましょう。例えば、スタミナが十分に残っている状態では普段の力よりも大きな力を発揮できるようにすることも可能です。
 しかし、その分スタミナが大きく減ってしまったときに全く力を出せない事態になってしまうかもしれません。
 逆にスタミナが十分に有るときはあまり力を出せませんが、スタミナが減り危機が訪れたときに普段以上の力が出せるようになるといった調整も可能となります。
 細かくは実際に設定をしながら覚えていくのがよいでしょう。
 この加護は使いこなせば貴方に大きな力を与えてくれるでしょう。
 貴方がアラナスの息吹に包まれますように」

事前に調べたて理解したものと大差ない説明であり、これに関しては大きな変更点はなさそうだ。
どうやら神殿内部でしか変更か出来ない仕様のようである。
せっかくなので実際にいじってみよう。
 
ステータスボードをスタミナ曲線の変更画面に切り替える。
どうやら割合の各点にステータス倍率を指定していくようだ。0%、25%、50%、75%、100%の5点で指定できるようになっている。
現状は、100%=1倍、75%=0.9倍、50%=0.8倍、25%=0.7倍、0%=0.6倍で設定されて直線を描いている。
この単純減少が初期設定なのだろう。
取りあえず、全項目を下げれるだけ下げてみる。するとすべてが0.5倍となり余剰ポイントが15となった。
曲線は0.5倍の位置を横一文字の直線を描いている。
そのまま100%の項目をあげれるだけあげてみる。すると100%が1.2倍となり余剰ポイントは8に減った。
曲線は0.5倍の位置の横一文字の直線から75%を越えたあたりで急激に立ち上がって100%の1.2倍につながっている。
なるほど、大体システムが把握できた。

とりあえず、悩んだがスタミナ曲線は100%、75%、50%が1倍で、25%、0%が0.5倍となる無難なところにしておくことにした。
次はマインド曲線だが、これはあまり悩まないでいいだろう。
当分使う余地がないのだから取り合えず100%時に最大値にしておくことにする。
スタミナ曲線と違いこちらの最大値は1.1倍、最小値は0.6倍といじる範囲がスタミナに比べ少なくなっている。
これも信仰神による差別化の一つなのだろうか?
結果として、マインド曲線は100%、75%が1.1倍、そのほかが0.6倍と設定しておくことにした。

さて、なんだか結構時間を食ったな。
後回しにしていた武器屋に向かおう思い神殿の出口へと足を進める。
その途中に入ってきた人を見るとなんとなく加護を受けていないということが分かる。
どうやら、加護を受けたことによってそうで無い人との見分けができるようになったようである。
多分、他のPCを見て信仰神の判別ぐらいは出来るようになったのだろう。
そんなことを考え、燦燦と照りつける太陽の下、神殿を後にし来るときに立ちよった武器屋に向かった。

---ステータス----------------------
名前 ジスティア・ネイシー 位階1
信仰神 戦神アラナス 信仰1

STR 5+4(9)
VIT 1+0(1)
AGI 5+3(8)
DEX 5+3(8)
INT 1+0(1)
MND 1+0(1)
-----------------------------------



[18261] 6. 装備品
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 19:56
再び武器屋に戻った俺は親父に何本かの槍を見せてもらっていた。

「今のお前が使える槍はこの程度だな」

そういって奥から出してきたのは、訓練場で使った最低グレードよりも幾分かましといった槍ばかりであった。

「知ってると思うが、槍は扱いが難しいからな。あまりオススメしない。
 それでも使うというなら、当分はその槍を使って弱い敵で練習するのがいいだろう。
 他の武器はすぐ先に行ってしまうだろうが、そこは槍の我慢のしどころだな。
 極まった槍使いはすべての敵を単独で粉砕することが出来るとも言われている。
 それを目指すのならぜひともがんばってくれ」

どの槍も性能に大差ないようなので、一つ一つふってみて使いやすい長さの槍を選んでいく。

「槍には通常の2mほどのもののほかに片手で使える1.2m~1.5mほどの短槍、3mを越える長槍などがあるな。
 長槍は主に戦争などの密集隊形で使うもので、おまえの用途にはあわないだろう。
 短槍はとり回しがよく、場合によっては盾等と併用することが可能だな。ただし、その分攻撃力に劣るといえる」
「短槍を2本持つことは出来ないのか?」

俺はふと思った疑問を口にする。
対して武器屋の親父は渋い顔をして返してきた。

「不可能ではない。ただ、オススメはしないな。
 槍に限らず片手で扱える武器はすべて二刀流が可能だ。
 だが、大きな力を持っていないとまともに振り回すことも出来ないだろう。
 さらに、意識が2分されるわけだからそれぞれの武器を片手で使う場合の倍ほど慣れていないとダメだ。
 両手で別の武器を扱うこと自体に慣れてくれ問題は解決するだろうがこれは組み合わせが違えば感覚も全く違うはずだ。
 少なくとも今のお前の技量では夢物語もいいところだぞ」

分かりにくいが、まとめると二刀流をやるにはSTRの制限が大幅に増える、熟練度が2倍程度必要になる、二刀流という独立した熟練度が存在する。それは組み合わせる武器種毎に別で蓄積されるといったところだろうか?
このNPC特有の回りくどい説明はどうにかしてほしいところだが、直接的に言われると興ざめなのは確かだしな…
こちらを立てればあちらが立たずというやつだな。

「いや、思いついたから言ってみただけだ。やってみようと思ってるわけではないよ」
「そうか、それならばいいのだが。二刀流も極めれば非常に強力になると聞いている。
 いつか試してみるのもいいだろう」
「分かった、ご忠告痛み入る。ふむ、とりあえずこの両手槍にするか」
「おう、それなら30cといったところだ。まぁ、負けるといった手前だ、25cでいいだろう」
「ありがとよ」

俺は親父に例を言いながら金を渡し槍を受け取る。
ぼろっちいのは確かだがこの世界で始めて手に入れた武器だ。
思い入れの深いものになるだろう。

「西に2つ向こうの通りに、知り合いがやってる防具屋がある。
 裏通りで分かりにくいがよってみると良いだろう。その旅人の服だけでは不安だからな。
 ステファンの紹介だと言えば多少負けてくれるかも知れんぞ」
「おう、また武器を代えようと持ったときに世話になりに来るよ」

そういいつつ、武器屋を後にし紹介された防具屋に向かうことにした。

少々入り組んだ場所にあったがすぐに防具屋を見つけることが出来た。
ミニマップに詳細な位置が表示されていたからだ。
どうやら、道を聞いたり紹介を受けたりするとマップに反映されるらしい。なかなか便利だから覚えておこう。

防具屋に入ると、表通りにあった武器屋と違い若干埃っぽい空気だった。
中にいた陰気な爺が話しかけてくる。
店構えからして期待してなかったが、また女の子じゃなかった…

「いらっしゃい…」
「ステファンの紹介できたんだが」
「ほお…、あいつの紹介とはお前さんなかなかやるねぇ」
「取りあえず、70cでそろえるだけそろえたいんだが良いものはあるか?」
「ふむ…、お前さん獲物はその両手槍かねぇ…、耐久と回避どちらを重視するんだい…?」
「回避だな」

ビルドの基本コンセプトだから即座に答える。
その様子をみて、爺は若干目を開いた…気がしないでもない。

「めずらしいねぇ…、まあいい、そこでまってな…」

そういって奥へ引っ込む爺。
手持ち無沙汰になった俺は適当に周りにおいてある防具を眺めて暇をつぶすことにした。
武器や防具はこんなゲームをやる男にとって逆らえない吸引力を持っている。
ただ眺めているだけでも十分楽しめるものだ。
暫くそうしていると、奥から爺が戻ってきた。
手に持っているのは、靴と膝当て、篭手、額当ての4つだ。
小物ばかりなのが少々意外だ。

「まずはこの靴…。回避を重視するなら足元をしっかりさせるのが基本だよ。
 これが少々いいもので35cといったところかねぇ…
 次に膝当て、これも回避を重視する足元の補強だねぇ。これが15cだのう。
 小手は盾を持っていなくても軽い攻撃ならブロックする事できるぞい。
 両手武器のような重いものは無理だがね…
 まぁ、これは20cと言うところだのう。
 最後に額当てだが、安物だが急所を守るのは当然の心構えじゃ。これが10c。
 まぁ…、あわせて80cだがステファンの紹介と言うし70cに負けてやるわい。
 鎧については今着てる旅人の服で当分は良いだろう。
 下手に重くても回避には邪魔だしのう。
 もっとも軽い皮鎧なぞ70cじゃそもそも足らんからのう。
 金がたまって皮鎧がほしくなったらまた来るがいい。
 適当に見繕ってやるわい」

俺は爺に渡された装備を一通り身に付けてみる。
今までわらじのようなサンダルのようなものを履いていたのに比べると、なるほど確かに確りとした靴を履くと足回りの動きやすさが段違いだ。
膝当てを付け、篭手をはめ、額当てを頭に巻くといよいよ冒険が近い気がして、気分が盛り上がる。
この爺さん見かけによらずいい人っぽいな。
女の子じゃなくてがっかりしてごめん。

「ありがとう、これで心置きなく外に出られるよ」
「まぁ…、先はながいだろうがせいぜい死なないようにがんばんな」

これで残りの所持金はたった8cだ。
稼ぐためにも早速、街の外に行ってモンスターを狩ることにしよう。
俺は防具屋の爺に礼を言って外に出ると、ここから一番近いであろう南門に向かって歩き出した。



[18261] 7. 狩り
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 20:01
さて、意気揚々とはじめての狩りに向かうため槍を担ぎ南門へと足を進めていた。
南門が見え、入出者のチェックをしている門番の顔が見えるぐらい近づいたとき、俺は恐ろしい事実に気づいた。

――回復剤を買ってねぇ…!

しかし、今となっては手遅れ。既に残金は8cしかない。
というか、そもそも消費系のアイテムはどこに入れればいいのだろう?
その疑問によって初めて腰についている小さな袋の存在を認識したのだった。

どうもこの袋がいわゆるインベントリという奴なのだろう。
このゲームではアイテム所持数はSTRに依存すると言う話だったはずだ。
この袋は今まで気づかなかったように現状まったく重みがない。
一定以上のアイテムを入れると重くなるのだろうか?
とりあえず、小袋に何か入っていないか確認することにする。

袋の口に手を突っ込む。
明らかに握りこぶしよりも小さい袋なのに手首までしっかり入りきる。見た目の違和感で気持ち悪い。
しかし、外と中の空間が違うことなどVRではよくあること、いちいち気にしていたら始まらない。

肝心の中身だが、手首まで入れてるのに手は当たる感触はまったくない。
なんだか、とても広い空間があるようだ…。
とりあえず、何が入っているか確認するためできる限り手を突っ込みかき回してみる。
一向に手に物があたる感触はないが、不意に脳裏に袋に入っているもののリストが浮かび上がってきた。
それを見た俺は思わずほほを緩めてしまう。

---小袋-------------
初級傷薬 5
--------------------

運営さんの心意気という奴だろう。
今の俺には非常にうれしい贈り物だ。
さらに、袋に傷薬が入っていると認識したとたん、手に物が当たる感触が発生した。
それをつかんで引き出してみるとどうやらこれが初級傷薬らしい。

いろいろためしてみたところ、袋に触りながら中身を確認しようと思うと脳裏にリストが浮かぶようだ。
また、袋に手を入れて取り出したいものを思い浮かべると手の当たる位置に出現し取り出すことが可能になる。
さて、期せずして回復剤の問題が解決したところで、心置きなく外に向かおう。

とうとう、南門へとたどり着いた。
門を守る兵士になんとなく会釈しながら門を通ろうとする。

「やあ、そこの旅人の君。君はここから外に出るのは初めてだね。
 ちょっと外に行くならお願いがあるんだ。受けてくれないかな?」

こいつ…、ここを出入りしている人間をすべて記憶しているというのか…!?
もしそうだとするなら、なぜこんな優秀な奴が門番なんて下っ端の仕事をしているんだ…?

と、NPC相手に大人気ないことを考えてしまった自分を反省する。
これも強制イベントの類だろうか?
しかし、断ることは可能そうである。
取り合えず、詳細を聞いてから進退を考えることにしよう。

「なに、簡単な仕事だよ。最近、南門を出てすぐの草原にリビが異常繁殖していてね。
 道を歩くと結構見かけると思うんだが、やつは弱いくせに数がそろうと凶暴になる性質を持っていてね。
 できればいくらか狩って間引きをしてほしいのさ。
 もちろん、俺たちもやってるんだがどうしても片手間になってしまってね。
 いまいち効率が悪いのさ」

つまり街でNPCから受けるクエストのチュートリアルのようなものなのだろう。
どうせ、外で適当に狩ろうと思っていたところだし渡りに船だ。
受けることにしよう。

「そうか!受けてくれるか、助かるよ。
 間引く数自体は指定しないから、適当に狩ってきてくれ。
 ただし、狩ってきたことを示すためにリビの牙を持ってきてくれよ」

ちょうどよいクエストも受けることができたし、俺は意気揚々と門をくぐり外壁の外へと向かうのだった。


無事、街からの脱出を果たした俺の目の前には視界いっぱいに草原が広がっていた。
VRではめずらしくない景色とはいえ、現実ではコンクリートジャングルに囲まれて生活する身。
何度見ても心振るわせられる景色だ。

しばし、その景色を眺めていたが視界の端に白っぽい動くものを見つけてそちらに目を向ける。
すると、草むらの間から豚と兎を足して割ったような不思議な生き物がこちらを見ている。
たぶん、あれがリビという動物なのだろう。
俺にはよく分からない感覚だがブサカワイイというやつかもしれない。
それなりに大きな牙を持っていることからして無力な存在というわけでも無いようだ。
確かに集まってれば怖いかも。

よし! いよいよ初戦闘だ!
俺は槍を腰溜めに構えてリビに近づいていく。
やつはこちらを見ていた目を他に逸らしてそのまま佇んでいた。
俺は腰を落とし、行動補助機能で半ば自動に動く自分の体を意識しながらリビに向かって槍を突き出した!

シュッと風切り音を出しながら穂先が奔る。
突き刺さる前にこちらに気づいたリビは体を捻って避けようとするも、避けきれ無かったようでリビの体に傷を残こすことに成功した。
なかなか深そうな傷だが、リビは傷に頓着せずこちらに向かって突進してきた!

俺はあわてて槍を引き戻し縦に構えて持ち手の部分でブロックしようとする。
リビは悠々と構えた槍をやり過ごし、腹に体当たりを慣行してきた。

体当たりを食らった腹にずいぶんな衝撃を受ける。

厚手の服で軽減されたとはいえ、5kgぐらいは有りそうな塊が結構な速さでぶつかったのだ。ダメージは馬鹿に出来ない。
予想外の痛みに咳き込み、たたらを踏みそうになるのを必死にこらえ、縦に構え ていた槍を上からリビにたたき付ける!

若干動きが鈍った攻撃だったが、突進から体勢を立て直そうとしていたリビはその攻撃を避けることが出来ず直撃した。
それで倒し切れたのか、リビは短い鳴声を上げて地に伏した。

そこまで確認すると、たまらず俺は腹を押えてしゃがみこむ。

…、痛い…。

VRシステムでの戦闘ゲームでは痛覚が鈍く設定されているのが大半である。
そのため、痛みに関しては全くの不意打ちだった。
その混乱の中では我ながらいい行動が取れたとは思う。
ステータスボードを呼び出し確認して見ると愕然とした。
すでにHPが4割ほどしか残っていない。

さっきの一撃で6割持っていかれたのか…?こいつ初期の敵じゃ無いのかよ…?門番は弱いって言ってたよな?

さまざまな疑問が頭の中をぐるぐる回る。
やがて俺は答えを見つけた。

――俺のVITは1のままだからか!

答えはとても簡単なことだった…。
まぁ、一撃で6割持っていかれるようなダメージを食らえば、痛覚を鈍くしてあってもそれなりに痛みを感じるのも道理だろう。
ひとまず落ち着いた俺は倒したリビが消えて行くのを見て、後に残った牙らしきものを拾い袋に放り込む。
ついでに回復剤を取り出して使用する。

5本しか無いのに早速使う羽目になったことに先行きの不安を感じる…。



[18261] 8. クリティカル
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 20:02
取りあえず、次のリビに挑む前に今の戦いの反省をすることにしよう。

真っ先にいえることはさっき飲んだ回復剤がもったいないと言うことだ。
大ダメージを受けてしまったことに動揺して取りあえず使ってしまったのは間違いだった。
周りを見渡すに明らかにアクティブなモンスターがいる気配が無い。
連戦するつもりも無かったのだから自動回復に任せればよかった。
VIT1の俺でもそれなりの回復はするのだから。

次にいえるのは敵の攻撃への対応の拙さだろう。
とっさに持っているもので防ごうとしたのは人間の行動としては間違っていないだろうが、ゲームの中では違う。
なぜなら、槍にブロックを行うような機能はついていないからだ。
もちろん出来ないことは無いだろうが、少なくとも行動補助は働かないだろう。
俺程度の適当な腕でとっさにとった行動がまともに機能するわけが無いのだ。
敵の攻撃を弾くつもりなら腕につけている篭手で払った方が幾らか効果が有っただろうと思う。
こちらはシステムにブロックが組み込まれているはずだからだ。

また、一撃でしとめることが出来るか分からなかったのだから反撃が来ることを考えに入れていなければならなかった。
これは完全に俺の落ち度だ。初めての狩りに浮ついていたようだし、VRということで危機感が薄かったようだ。
あの痛みがあることを考えると、死ぬのはペナルティを食らうからでは無く単純に痛いから嫌だ。
俺はなるべく死なないようにしようと決意する。

そもそも、俺は回避力メインのビルドなのだから避けることを考えなければならなかった。
足を止めて攻撃を受けてしまっては全く持って意味が無い。
これが一番大きい反省点だろう。

よし、反省点をまとめて次に生かすことにしよう。

1、反撃が来るつもりで初撃を行う。
2、反撃は回避を試みる。
3、避け切れそうに無かったら篭手で払う。
4、反撃の隙に二撃目を入れて仕留める。

このぐらいのことを基本戦略として心がけて置けば良いだろうか。
早速、次の獲物を探すことにしよう。



ちなみに、モンスターを倒したわけだが当然回りは汚れていない。
現実だったら死体やら血の跡やらでひどいことになっているはずだ。
この点もVRならではといえるが、これに関しては少し面白い話がある。

ご存知の通りVRシステムの前身は、軍事用訓練シミュレーターだ。
当然、それに流血がカットされるような機能がついているわけが無い。
むしろ、積極的にそういった表現を盛り込み耐性を付けさせるのも目的のひとつであった。
ということで、システム的にそういった表現はVRが得意とするところであったりする。

さて、VRシステムが一般的になりゲーム業界でも多くの会社がソフトを作成するようになった。
それまでのゲーム全体の落ち込みから、刺激を求める傾向が顕著になっていたリアル嗜好派で鳴らしたゲーム会社も
VRゲームの製作に乗り出し、そして一本のソフトを作り出した。

まぁ、詳細は伏せておくがそれはそれはすごいものが出来上がったらしい。
それも当然のことで、平面画面の向こうで虐殺を起こすのとVRで体感するのでは全く話が違う。
聞くところによるとそのゲームによってPTSDに陥った人がいたとかいないとか。
なぜ伝聞系かと言えば、そんなソフトが平和主義の幻想を頭から信じているわが国で発売が許されるわけが無いから。
そういった表現が比較的緩い国でも発売後1週間ですべて店頭撤去の命令が下ったほどだ。
当然、非常に大きな問題になった。
社会現象とまでいってもいいぐらいの騒ぎだ。

暴力表現がどうだとか、教育に悪いだとか騒ぐことでご飯を食べている人たちがこんな絶好のえさに食いつかないはずが無い。
製作者やらその会社やら、はたまた発売を許可した審査機構などをすべて訴えた。そして勝った。
彼ら、あるいは彼女らはとうとうVRシステム自体を目の敵にするにいたり、VRシステムが馬鹿に出来ない主力製品となっていた電器メーカーは大いにあせった。
VRシステムをつぶすわけにいかないメーカーと、燃え上がった『奥様』たちの戦いは泥沼の様相を呈し、とうとう国政が動くまでになった。
最終的に新たな専門監視組織が立ち上げられ法整備によって過剰表現が禁止されるにいたって何とか小康状態にまで収まったのだ。

このRtGoも当初計画では、リアルな表現を行うモードも盛り込む予定だったらしいが、そのあおりを受けて立ち消えしたわけだ。
俺としては現状の方が性にあっているので全く問題ないのだが、残念がっている声はいまでもちらほら聞くことが出来る。

ちなみにジョークで、
『「VRでモンスターを殺すなんて可哀想。」だとか「VRで武器を振り回すなんて野蛮。」と言った意見と共にVRRPGが規制される日がくる』
というものが有るが、俺はあんまりジョークになって無いんじゃないかと思ってしまったりする。


閑話休題



狩りを再開してからすぐに二匹目のリビをみつけることが出来た。
幸いまだこちらに気づいていない。
槍を構え、気づかれないように接近して槍を突きこむ。

俺の槍は、鋭い音と共にリビの体のど真ん中を貫いた。
短い鳴声共に動きを止め、やがて光の粒となって消えていく。
後に残った牙を拾いながら考える。

今度は一撃で倒すことが出来た。さっきと何が違うのだろうか?
確かにダメージを大きく与えるそうな場所に攻撃を与えることが出来たが、一匹目も決して浅い傷ではなかった。
普通なら死んでしまうような傷をつけていたのだ。
だからこそ油断して反撃を食らってしまったともいえるが。

攻撃方法も同じ突きだから、モーションによる補正も変わらないだろう。
なぜ与えたダメージが違うのかが分からない。
もしかすると今倒したリビの個体差で弱いものだったのだろうか?
だがそこまで大きく変わるものだろうか…。

いろいろ考えるうちにひとつの予測が出てきた。
先ほどの攻撃がクリティカルの判定だったのではないかということだ。
訓練場でのうるさい親父も心臓に突きこんだ時に言っていたではないか、「クリティカルだ」と。
そう考えると奇襲によってクリティカル率が大幅に上がるというのも非常に納得できる。

体の中心や急所などにまともに攻撃を食らうとクリティカルと判定されるのだろう。
思えば先ほど大ダメージを受けた攻撃もブロックに失敗しまともに攻撃を食らってしまった。
あれもクリティカルだったのかも知れない。
さすがにVITが1だからといって初期フィールドの敵に6割も食らってたら話にならないだろう。
クリティカルはダメージが2倍になるはずだ。
すると本来は3割ほどだったのかも知れない。
まぁ、それでも十分痛いが。

よし、基本戦略に新しい項目だな。

5、なるべく奇襲を行い、攻撃はクリティカルを狙っていく。



[18261] 9. ユニーク
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 20:08
その後の狩りは順当だった。
ただ、自動回復を待つ時間は長かったのだが。
狩り方に適時工夫を重ねながら、リビ狩りにいそしむ。

槍の利点である3種の物理属性(切断、刺突、破砕)を試しながら狩る。
突きはモーションが小さく、起こりも小さいため奇襲するときの攻撃に最適だとわかった。
柄を使った打撃や、穂先での切断では攻撃モーション中に気づかれ奇襲に失敗することが多くあったのだ。
しかし、突きでのダメージは他に比べて若干少ないようである。
また、奇襲ではなく動いている敵に当てるのはなかなかに大変でもある。
 
穂先を使った切りは、今使っている槍の特性かも知れないが若干使いづらい。
横方向の範囲の広さは優秀ではあるが、有効打突面が小さすぎるため間合いの調整に苦労するのだ。
薙刀のような形のものならこの点は問題にならないかも知れない。その分突きが弱体化しそうだが…。

最後に柄や石突を使った打撃だが、これが一番使いやすい。
柄をたたきつけるもよし、振り回すのもよし、石突で突くのもよしでとてもやりやすい。
だか、リビの特性なのかどうも打撃ダメージの通りが悪いようだ。
感覚的にやわらかいてきには打撃が通りにくいという感じになっているのかも知れない。

防御面に関してはそれなりに安定してきている。
奇襲が成功すればクリティカルで一撃死させることも出来るし、そうでなくても2発当てられれば倒せる
また、回避を意識することにしたらそれなりに避けることが出来るようなった。
少しはAGI型らしくなっただろうか。
あたりそうになるときに篭手で払うことが出来るようになってからはたまにブロックが発動し被ダメの軽減に貢献してくれた。

この装備をそろえてくれた爺さんには感謝している。
たまに食らう攻撃もいい所2~3割程度のダメージだったので最初に食らった攻撃はやはりクリティカルだったのだろう。

ダメージを食らったときは大人しくその場で回復しながら槍の素振りや戦闘の考察などを行っていた。
出てくるときに心配した傷薬は最初に無駄に飲んだ一本以外、すべて残っている。
VIT型だと回復剤を結構使うと聞いていたが、AGI型は金銭効率はいいのかもしれない。
序盤にあまりお金が掛からないのは非常に助かる。
ただ、時間効率はあまり良いとはいえないが…


□□□□□□□□□□□□□□□□


気づけば狩り始めてから結構な時間が経過していた。
どうも狩に没頭してしまったようだ。

今しがた倒したリビが落とした牙を拾い、所持品を確認してみる。

---小袋-------------
リビの牙 20
リビの毛 9
リビの皮 4
初級傷薬 4
--------------------

クエスト依頼主の兵士は数を指定しなかったが、これだけ有れば十分過ぎるだろう。
夢中で狩りをしているときには感じなかった疲れを感じる。
今回はここら辺が潮時だろう。街に戻ることにする。Lvもあげなければいけないことだしな。


町に戻ろうと後ろを振り返って見れば、町の姿が小さく見える。気がつけば結構遠くまで来ていた様だ。
確かに、このあたりではリビ以外にも何種類かモンスターを見ることが出来る。
幸いすべてノンアクティブである様なので特に気にせず景色を楽しみながら街に向かって足を進める。

時折、草むらの影に見慣れたリビの姿を見つけることが出来た。
散々虐殺しておいて何だが、こうやって見るとリビもかわいいかも知れない。


いい気分で歩いていると、えらくあせった様子で後ろから人が走ってきた。

「おい!ここを急いで離れた方がいいぞ!
 近くにユニークが沸いた!」

そんな台詞を置き土産に俺を追い越すとそのまま街へと走っていった。
まさかと思い後ろを振り向くと、そこにはえらくデカイ塊がこちらを見ていた。というか、目が合った。
そのでかい塊はまるで豚と兎を足して割ったような…

…つまりはリビが10倍ほどでかくなった感じだ。
俺は先輩に習い、街に向かって一目散に走り始める。

初めてユニークモンスターに出会ったのは感慨深いが、その感慨に浸っている時間は無いようだ。
リビの攻撃ですら4分の1ほど食らう俺が、やつの攻撃を受けたらどうなるかなど考えるまでも無い。
必死に走りながら好奇心に負けてちょっと後ろを振り返って様子を見てみる。

…すくに後悔し、前を見据えてよりいっそう足に力を込めることにする。
明らかに俺を目指して走って来ている。
あれだけの巨体が自分に迫ってくる様は非常に恐ろしい。
VRならではの恐怖だと思う。
 
周りには俺以外に人がいないのだから俺を狙ってくるのは当然といえるかも知れない。
他の人はもう逃げたのだろう…

やつの存在を教えてくれた先輩に感謝しかけるが…

…よくよく考えるとこれって擦り付けられたんじゃ?

そのことに思い至ると感謝の気持ちが反転し、むかついてきた。
いやいや、先輩もしょうがなかったに違いない。
とてもかなわない敵に遭遇すれば誰だって同じ行動を取るだろう。多分、俺も。
声をかけてくれたのが一抹の良心だったのだろう。

まぁ、そんなことを考えて現実逃避(もともと仮想空間だが)したところで背中に迫る脅威は近づいてくる一方だ。
なんだかやつが走る振動すら感じられるようになってきた気がする。
もはや、後ろを振り返る勇気は俺には無かった。
そんな鬼ごっこが続き、リアルのマインド値がガリガリ削られていく。


VRじゃなかったらこんなに走る事は出来なかった。
VRでよかった…。

と思うも、そもそもVRじゃないとこんな自体に陥らないと正気を取り戻す。


そして唐突に後ろで響く振動音が止まった。
俺は念のためそのまま幾分か走ってから後ろを振り向く。
どうやらあのモンスターの追跡圏内から脱出することに成功したようだ。

こちらに尻を向け尻尾を振りながら向こう側に戻っていくデカイ塊を見ることが出来た。
VRであるため体力的には問題ないが、精神的な疲労からその場に座り込んでしまう。

そんな俺をすぐ脇の草むらからリビが見ているのに気づく。
やっぱり、リビがかわいいとは思えない俺だった。

 

ユニークリビとの鬼ごっこの後に少々休んだ俺は改めて街まで歩き始めた。
鬼ごっこで結構な距離を移動したため、街までもうすぐの場所まで来ている。

早々あっても堪らないが特にイベントも無く門を通りクエストを受けた門番に話しかける。

「おう、約束どおり狩って来てくれたようだな!
 助かったよ。これで俺のノルマは…、っと、なんでも無い忘れてくれ。
 …えっと、そうそう!報酬だったな!
 これが今回の報酬だ。そんなに多くは無いが悪くもないだろ?」

そういって50cを渡される。
相場が分からんから多いのか少ないのかいまいち分からん。

「そうだ、リビを狩って手に入れた素材だが特に当てが無いのなら俺が買い取るぞ?
 そこら辺の道具屋に売るよりは高くなると思うがどうする?」

なるほど、これもボーナスのひとつなのだろう。
そういえば、モンスターを倒してもお金を落とすことは無かった。
落とした素材を換金することで金銭収入を得るというシステムになっているようだ。
なじみの店といわれて、南通りの武器屋のおっさんと裏通りの爺さんが思い浮かんだ。
あそこにもっていって聞いてみるのもいいかも知れない。
だめ元で保険をかけてみよう。

「ちょっと持って行ってみたいところが有るんだが、
 そこがダメだったときに改めてここで買ってもらうのはいいのか?」
「別にかまわんぞ、ただしさすがに今持ってる分だけだからな」

なんともまぁ、お優しいことである。
その優しさに免じて「お前、全部暗記してるのか?」という質問はしないで置くことにする。

「分かった、そのときは頼むよ」
「おう。この街には俺以外にも困っている人がたくさんいるだろう。
 そんな様子の人たちに話しかけたら何か仕事がもらえるかも知れないぞ。
 見かけたら話しかけてみな」

どうやら、街でのクエスト受注の出来るようになったみたいだな。
気が向いたら適当に受けてみるか。

「そういえば、お前見たところそろそろ階位が上がっているんじゃないか?
 神殿に行って確認してみるといいと思うぞ」

ありがたい助言をもらった俺は早速神殿に向かうことにした。
欠乏し始めている何かをシスターで補充しなければ…

「また、俺からも何か頼むかも知れないがそのときはよろしくな!」

俺はそんな台詞を背に受け、我が信仰神がおわす神殿に向かって歩き始めた。
 

神殿への道すがらちょっとした違和感を感じる。
どうやら俺が外に行っている間にずいぶん人が増えたようだ。
俺はサービス開始後すぐにログインしたのだが、ある程度時間が立ってきたため人数が増えたのだろう。
 
きょろきょろと何かを探しながら歩く様はほんの少し前の俺と全く同じにもかかわらずほほえましく感じてしまう。

目的地である神殿にたどり着き、頭をぶつけない様に気をつけながら中へ入る。
奥へと進み、種の入った箱の前にいるシスターに話しかける。

「こんにちわ、貴方もアラナス様の息吹に包まれますように。
 本日はどのようなご用件でしょうか?」
「階位の確認をお願いしたいのですが」
「それでしたら、神像の前でその旨をお祈りください。
 アラナス様はきっと答えてくれることでしょう」

その言葉を受け、神像の前に向かう。
ふと思うがNPCに話しかけるときや、今向かっている神像の前などいつもちょうどよく開いているのだが、
もしかしたら他のキャラクターと空間がずれていたりするのだろうか。


神像の前に到り、膝立ちになって祈りを捧げる。
すると加護を得た時のように周りの景色が一変し、白一色の空間が広がる。
そして、前回同様にいつの間にかアラナスが目の前に現れていた。
神々しく冷厳な面持ちから、涼やかな美声が発せられる。

「力をつけてきたようだな。
 汝の位階は1から3に上がった。
 汝は新たに6つの種の力を得ることが出きるだろう」

どうやら調子に乗って狩りすぎていたようだ。2を超えて3まで上がってしまった。
往々にして、序盤のLvはあがりやすいものだからこれぐらいなのかも知れないが。

「汝は我が加護を持つものとして相応しき様を多く見せた。
 よって我が力の一部を使うことを許可しよう。
 汝の我への信仰が3の階位にあることを認める。
 その力をもってよりいっそう我が加護を持つものとして励むがよい。
 我は汝を見守っているぞ」

どうやら、信仰度も3にあがったみたいだ。
信仰度はいわゆる職業Lvとでもいうもので、階位の数だけスキルを振ることが出来る…はず。
まぁ、いつものごとくシスターが説明してくれるだろう。
スキルに関しては、仕様変更が一番ありえる要素であるから、クローズ時代の情報を鵜呑みにするのは危険だろう。
参考程度に考えておくべきだな。

気づけば、神像の前で跪いた体勢に戻っていたので種の箱の前にいるシスターの元へと戻る。

「無事、階位の上昇がなされたのですね。おめでとうございます。
 貴方に必要な種を取り、貴方の道をまた一歩進むとよいでしょう」

さて、ステータスを確認して何をあげるか決めないとな。
ステータス画面を呼び出して表示を確認する。
するとステータス画面が変化していた。

---ステータス----------------------
名前 ジスティア・ネイシー 位階3
信仰神 戦神アラナス 信仰3

STR 5+4(9)
VIT 1+1(2)
AGI 5+4(9)
DEX 5+3(8)
INT 1+1(2)
MND 1+1(2)
-----------------------------------

補正値が信仰度の上昇によって少し増えたみたいだ。
いまいち喜びにくい微妙な増加だな…。
アラナスの性質としてバランスよくあがっていくものなのかも知れない。
こういうのは尖ったほうが強くなるものだから、その点では不利なのかも知れない。
とりあえずVIT1から抜け出したことを喜んでおこう。
それはさておきステータスの割り振りを考えなければ…。

まず力の種を一つ飲む。するとSTRの値が「6+4(11)」になった。
ん?右のカッコ内は単純な合計値を示しているわけではないのか?
ためしにもう一つ飲んでみる「7+4(12)」だ。よく分からん。
これ以上STRに振って実験するとAGIとDEXに回す分がなくなってしまう…、とりあえず保留しよう。

今度は速さの種を一つ飲む。するとやはり「6+4(11)」になる。
どうも10になると+1のボーナスがつくようだが…
しかし、そんなシステムは無かった筈。変更されたのだろうか。

しばらくして悩む俺に天啓が閃いた。ステータス曲線だ。
確か俺はマインド曲線を100%時に1.1倍に設定していたはず。
10になることによって初めて補正の効果が出てきたのだろう。
ためしに曲線の設定を変更し倍率を下げてみると、案の定「6+4(10)」となった。

このことを踏まえステータスを振ることにする。

---ステータス----------------------
名前 ジスティア・ネイシー 位階3
信仰神 戦神アラナス 信仰3

STR 8+4(13)
VIT 1+1(2)
AGI 6+4(11)
DEX 7+3(11)
INT 1+1(2)
MND 1+1(2)
-----------------------------------

階位が3にあがっただけだがステータスの数字を見るとだいぶ上がった気がして、テンションが上がる俺だった。



[18261] 10. スキル
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:04
ステータスの上昇が一段落したのでいよいよスキルの修得を行う。
スキルは大きく2つに分類できる。
パッシブスキルとアクティブスキルだ。
さらにアクティブスキルは技と術の2つに分けることが出来るだろう。
技はスタミナを消費して発動し、術はマインドを消費して発動する。
一方、パッシブスキルはそういった消費を伴う行動ではなく、修得すれば常に効果を与え続けるものである。

アクティブスキルは信仰神によってバリエーションに富んでいて数も多い。
パッシブスキルは信仰神同士で共通のものが多い傾向がある。

また、アクティブスキルの特殊なものとしてエンチャントスキルがある。
術に属するエンチャントスキルは他のアクティブスキルと同じように、マインドを消費して指定したキャラに一定時間継続する効果を与えるものである。
しかし、技に属するエンチャントスキルは少々性質が変わっている。
自動回復が無効になることで発動し、制限時間が無く永続的に効果が続く。
ただし、自分にしかかける事が出来ず複数のエンチャント技を重ねがけることが出来ない。
VIT型では自動回復が止まるのは致命的であるために、あまり人気の無いエンチャント技であるが回避型の俺は有効に使えるだろう。

「スキルとは、信仰を捧げる神の力の一端を借りさまざまな奇跡を起こすことです。
 人の身で一端とは言え神の力を借りて行使することは、貴方の体に負荷をかけることでしょう。
 強力な力ですが、その反動も大きいので使用する際には注意が必要ですよ。
 また、神からの加護をよりいっそう願うものも有ります。
 こちらは常に貴方の力になりますし、体への付加も少ないでしょう。
 より強い加護を得た身でなければ耐えられない奇跡なども存在します。
 まずはより強い加護を得るスキルを覚えた方が良いかもしれませんね」

一応シスターにも確認したがクローズから大きな変更は無いようだ。
細かい調整などは入っているだろうが、シスターはスキルを個別に詳しく説明してくれるわけではないのでそれを知るすべは無い。
ゲーム内外の掲示板で情報を集めようにも始まって間もないこの時点ではさすがに有益なものは少ないだろう。
さらに、俺はマイノリティーなAGI型であるし、情報量が少なくなるのは仕方ない。

とりあえず無難なところから取得していくことにしよう。
俺は階位が3になったので新たに2つ修得することが出来る。

  長物修練: 槍、棍の武器攻撃力にプラス補正、武器熟練度にボーナスおよび熟練成長率にプラス補正
  足捌き : 回避力にプラス補正。複数の敵に囲まれたときの回避力減少を軽減

この二つのパッシブスキルをとりあえず取得することにする。
多くのスキルは性能が5段階まであげることが出来き、入門、門下、熟練、達人、皆伝と段階をあげるごとに性能が強化されていく。
また、他のスキルの修得に関して前提条件となることもある為、計画的に取得していかないと後で取り返しのつかないことになったりする。
情報がある程度そろうまで温存するのが正しいのかも知れないが、AGI型の情報が早々出てくるとは思えないので振ってしまう。
手探りでやっていくことになるが、それを楽しむためにマイノリティーな型を選んだわけであるし。

とりあえず、この2つなら無駄になることは無いだろう。
足捌きを拾得したことで、回避と攻撃が上昇するエンチャント技が修得できるようになったが、残念ながら信仰度が足りないたので、修得することが出来ない。
しょうがないので次の機会に回すとしよう。

さしあたり神殿でやることを終えたため、武器屋に向かうことにする。
なんだか、神殿に入る前とくらべて一回り強くなった感じがする。
こういう感覚が直接味わえるのがVRPRGの醍醐味だろう。
平面の向こうにいるキャラの数字が上がっただけではこういう感覚は味わえない。


武器屋への道すがら、周りを見回しながら歩く入ってきたばかりであろう人にちょっとした優越感を抱いてしまうのもしょうがないだろう。
彼らも是非がんばってほしいものだなどと上から目線で物を考えて…、自重しようと反省する。
俺もまだ始めてからさして時間がたっていないのだ、彼らはすぐに追いついてくるだろう。

武器屋に着き、中に入ると街の外に出る前に寄ったときと全く同じ場所に店の親父が座って新聞らしきものを読んでいた。
どうも俺が入ってきたことに気づいていないようだ、今度はこちらから声をかけることにする。

「よう、さっきぶりだな」
「ん…?ああ、あんたか。どうした、買った槍に何か問題でもあったか?」
「いや、確かにぼろいが世話になってるよ。特に問題ない」
「そいつぁ、良かった。不良品を売ったとなるとうちの信用にかかわるからな。
 しかし、そうじゃないとすると何のようだ?」
「さっき外で狩りをしてきてリビの素材を手に入れたんだが、こういうものは顔なじみを通すといいと聞いたんでな。
 あんたのところに持ってきてみたわけだ」
「ほぉ、うちじゃあんまりそういう買取はして無いんだが、とりあえず物を見せてみな」

快活に笑いながらのやり取りだったが、商売の話になったら目の色が変わった。
さすがに大通りに店を構えるくらいだからなかなかやり手の商人なんだろう。
俺は言われるとおり3種類の素材をカウンターに載せる。

「へぇ、毛と皮もそれなりの数あるのか。
 なかなかの数を狩って来た様だな…。
 …よし、牙は俺が買い取ろう。一本4cで20本で80cといった所だな。
 毛と皮は防具屋の爺に持っていったほうが俺より高く買ってくれると思うぞ。
 こういったものの相場は大体決まってるんだが、一見の店に持っていくと足元を見られる場合がある。
 特にこの街に着たばかりの旅人だと分かればなお更だな。
 その依頼主の兵士が買い取ろうと申し出たのはその対策だろう。
 一度適正な売値が分かれば早々だまされることもなくなるからな」
「なるほどな…、ところで話は変わるんだが俺が使えそうな槍を見繕ってくれないか?」
「ん?なんだ?やっぱりさっきの槍に問題があったか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、さっき神殿に行って階位も上がったしスキルも得たからな。
 俺の使える槍が増えてるんじゃないかと思ってな」
「ほう、確かにあれだけ素材を持ってくれば上がりもするか。加護を得たての癖に無茶をするやつだな。
 そういうことなら、武器屋としては願ったりだ。ちょっと待ってろ」

そういって俺のことをじっと見てくる。
親父に見つめられてもうれしいことは何も無いが、熟練度やらなにやらを確認してるんだろう。
はじめてあった時にも一目で加護を受けてないと看過したことだしな。

「む?おまえさん、槍使いにしては熟練度の上がりが早いじゃないか。
 訓練所の案山子でもたたいてきたのか?」
「そうなのか?俺は外に行ってリビと戯れてきただけだぞ?」
「ふーむ、もしかしておまえさん元々槍の心得があったりするのか?
 そういった場合は自分の意思で体を動かすことが多いから熟練度が上がり易いと聞いたことがあるが」
「俺はいままで槍を使ったことはあまり無いが…。
 そういわれると確かに槍を使うときにいろいろ考えて試しながらやってた気がするな」
「じゃあ、多分そのせいだな。なんにしろ熟練度の上がりが早いのはいい事だ。
 よし、槍を持ってくるからちょっと待ってろ」

そういっておっさんは奥へと引っ込んでいった。
何気ない会話だったのだが、すごく重要なことを聞いた気がするぞ…
補助機能に頼って漫然と振り回すよりも、ちゃんと自分の動きを意識しながら扱う方が熟練度が上がりやすいということなのだろうか?
言われると確かにありそうな話だが、完全に盲点だった。
これは掲示板なんかで報告した方が良いんじゃないだろうか…?

数本の槍を抱えて戻ってくる親父を見ながら俺は考え込むのだった。


「ここら辺が今のお前に使えそうなところだな。大体1s前後といったところだ」

カウンターに槍を並べながら親父が説明する。
熟練度の件を掲示板に報告するか否かを悩んでいた俺はその声で新しい槍に意識を戻した。
命を預けるものを選ぶのだから真剣に選ばないとな。

俺は5本ほど並んだ槍の中から、今まで使っていた槍と同じようなサイズの物を手にとって見る。
ずっしりと手に感じる重みは今まで使っていた槍と比べるとさすがに強そうに思える。

「ふむ、それが気になるか。
 今まで使っていたものと似た大きさだしな、取り回しもさして変わらないだろうし無難なところだろう。
 使っていた槍で何か気になったところとかあるか?」
「そうだな…。特に不満は無かったがあえて言うなら切断するような攻撃がしにくい所だな」
「それはこういった直槍ではしょうがないところでは有るな。
 薙刀や戟、十字槍なんかだと切断するのも容易になるが、残念ながら今のお前の技量で扱えるものは無いな。
 それ以外に不満が無いというなら、その槍で良いだろう。
 1sと言いたい所だが、負けて90cにしてやるよ」

そう言って槍をこちらに渡してくる。
金と引き換えにして受け取った槍の手に感じる重みはとても力強い。

「ところで今まで使っていた槍はどうする?
 下取りするなら15cになるが」
「いや、予備に持っておくよ。最初に手に入れた武器だから思い入れもあるしな」
「そういうなら無理強いは出来ないな。だが、たまにはそいつも使ってやれよ」

どこと無くうれしそうな顔をして親父は引き下がった。

「ところでこの槍はどこに保管するのが良いんだ?」
「そうだな…。まぁ、うちで預かってやっても良いんだが金は取るぞ。
 腰の袋に入れることも出来るだろうが、重いものを入れておくには不向きだしな。
 街の倉庫サービスを利用するかのが良いんじゃないのか?」
「倉庫か…。それはどこに有るもんなんだ?」
「中央公園と四方の街門の近くにあるぞ。ここからなら一番近いのは中央公園だな」

倉庫か。そういえば、その手のシステムが無いはずが無かったな。
これからいろいろと物も増えてくるだろうし、確認しておくか。
とりあえず、古い槍は袋に入れておくことにする。
次の目標が決まった俺は、親父に別れを告げ新しい槍を担いで中央公園に向かうことにした。



中央公園への道すがら、宿屋を見つけることが出来た。
そういえば、ゲーム内の掲示板を確認するのは宿屋でしか出来なかったはずだ。
さっき発見した熟練度のことも有るし、少しよって確認してみよう。
中に入るとカウンターに恰幅のいいオバちゃんが座っている。

「いらっしゃい。泊まりかい?」
「ああ、一泊いくらだ?」
「15cだよ。一週間なら1sだね」

俺は一泊分の金を払い、案内された部屋に入る。
中には質素なベットと机、小さな棚が置いてある。
こじんまりとしているが掃除は行き届いていて、ベットにも洗い立てのシーツが置いてあり気分の良い部屋だ。
小さな棚の上には水差しと小さな花瓶が置いてあった。
俺は懐に入れたまますっかり忘れていた一輪の花を取り出し、花瓶に生けると机に向かう。

この宿屋の部屋でのみゲーム内掲示板の確認が可能だったはずだ。
ステータス画面を表示した透明な板を取り出すとページを切り替えていく。
やがて目的のページが見つかり、早速内容を読むことにする。

やはり、序盤であるので余り活発な意見交換はまだ行われていないようだ。
めぼしい情報が無いか探していくが大した情報が無い。

やがて一つのスレッドにたどり着いた。

   熟練度の上昇に関して

   1: Aurore  20XX/6/22 15:34:56
   
    宿屋のNPCに聞いたんだけど、ずっと狩りをし続けてると熟練度の伸びが悪くなっていくんだって。
    宿屋に泊まって休むとリセットされてちゃんと熟練度が伸びるようになるらしいよ。
    
   2: クルーズ=ジョーンズ  20XX/6/22 15:44:32
    
    その話、マジなのか?
    俺も宿屋にいるけどそんな話聞かなかったぞ。
    ほんとだとすると宿屋すげぇ重要じゃん!
    
   3: Luda  20XX/6/22 16:01:43
    
    宿屋にいるのはみんな同じだろ、システム的に考えてw
    
    その話聞くと宿屋の重要さがわかるけど、このスレッド見てるってことはみんな宿屋にいるってことだろw
    宿屋にとまって無いやつこそ、この情報が必要だとはとんだ皮肉だなw
    

掲示板を確認するために入った宿屋だったが、なんともまぁ重要な仕様が隠されていたものだ。
街に戻ったときは宿屋によって休むのを心がけた方が良いみたいだな。
いいことを教えてもらったし、さっき武器屋で聞いた話を書き込んでおこう。

   4: ジスティア・ネイシー  20XX/6/22 16:23:16
    
    いいことを聞いた。情報提供感謝。
    俺からも一つNPCから聞いた話を書いておくよ。
    
    武器を使うと熟練度が上がるわけだけど、動作補助に胡坐をかいて漫然と振り回してるよりも、
    ちゃんと自分で考えながら使ったほうが武器熟練度の上がりが良いらしいよ。
    俺は槍使ってるんだがいろいろ試しながらリビ狩ってきたら熟練度の上がりが良いって、
    武器屋の親父にほめられた。



さて、他にめぼしいスレッドも無いようだから中央公園に倉庫を探しに行くことにしようかと思ったが、
せっかく宿屋にいるので一端ログオフして雑事を片付けることにした。
朝10時にサービス開始だったから、結構な時間入っていたことに掲示板の日付で気づいたというのも大きい。
俺はステータスボードのメインメニューからログオフを選ぶ。
 
意識が遠くなる感覚に身を任せて夢の世界から戻ることにした。



[18261] 11. いったん現実へ
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:19
さて、VR空間から戻ってきた俺は時計を確認する。大体夕方の5時ごろ。
朝10時のサービス開始からずっと入っていたのだから7時間ほどずっとやっていたわけだ。

現実に戻ってくるとさすがに生理現象が気になってくる。
トイレに行った後、メシを適当にでっちあげてかきこむようにして食べる。

一応、VR空間に滞在中でもこういった生理現象はシグナルとして認識することが出来る。
だが、集中していれば感じにくくなるものだからログオフ直後に襲ってくるのはしょうがないだろう。

生理現象のシグナルを意図的に無視することは当然可能で、平画面でも廃人といわれるほどゲームに没頭する人たちがVRゲームでどのような行動をするかなど想像したくも無い。
VRMMORPGが稼動し始めた当初、その衝撃と共に『大人用オムツ会社の株が上がるに違いない』というジョークが流れたが、現在実際に上がっているのが恐ろしい。

いや、きっとVRは関係ない、高齢化社会による影響だろう。
少なくとも俺はそう信じている。そうであってほしい。

他のゲームで同じPTを組んでいた人が不自然に動きを止め、なぜかやりきった表情をしたことがあったことも無いではないが、きっとこの件とは関係ないに違いない。
少なくとも俺はそう信じている。そうであってほしいなぁ…。

ちなみにVR空間での擬似的な飲食は厳しく制限がかかっている。
これはVR空間で飲食したことによって物を食べたと勘違いし、現実世界で食べ無くなっての栄養失調や、拒食症などが頻発したせいだ。
これは、どちらかといえばゲームがというよりも、いつの時代も大儲けが出来る業界であるところのダイエット法の一つとしてVRが持て囃されたからだ。
男の俺には、なぜそれほど必死になるのか理解できないが、世の女性たちには大きな問題であるようで、VR黎明期にはワイドショーに大きく取り上げられ盛んに有用性が喧伝されたのだ。
多くの女性たちがこれに飛びつきVRシステムの一般普及の大きな推進力の一つになったらしい。

ちなみに世の男どもがVRシステムに飛びついた理由となるコンテンツなどわざわざ言うまでも無いだろう。

男にはエロ、女にはダイエットを餌にすれば物が売れるといったのは誰だったか…

そんなこんなでいろいろと法整備が進み、制限が多くなってきたVRだが、当然世の中には違法だと言ってやめるような善人ばかりではないため地下では違法コンテンツが多くあるらしい。
通信は発達したために、そういったものを比較的簡単に手に入れられるようになっているのも減らない原因なのかもしれない。
まぁ、エロにはお世話になっているけど。

そうそう、VRは体感時間をいじることも出来る。
それによって、睡眠を時間を稼ごうと考えたやつも当然いたようだ。
研究では2倍ほどまで体感時間を早めることが出来たそうだが、結局これも規制され一般には流れなかった。
脳への負荷が非常に高く各種脳神経系の疾患に陥る確率が跳ね上がることが医学的に判明したからだ。
まぁ、普段の2倍の処理を脳がしなければならないのだから当たり前といえば当たり前の結果である。

ちなみに、2倍時間状態での睡眠も脳が実際に休んでいる時間は変わらないので全く意味が無い。
むしろVRへの接続でノンレム睡眠まで入ることが出来ず、意味が無いどころか害悪ですらある。
これも睡眠時間に対して疲労の回復が出来ず、不眠症や慢性疲労などを引き起こすらしい。
流血表現の過剰反応事件で、こういったことに神経質になったメーカー各社は問題が起こらないようにいろいろ対策をしている。
その一つとして、現在のVRシステムでは脳波計測によって睡眠と判定されると強制的に接続が切られる。
オンラインゲームのように常時サーバーセーブが効いているゲームならともかく、オフラインのゲームでは地味に痛い。
何度となく寝落ちによってセーブ前のデータに戻され涙を飲んだ事か…。


 閑話休題


メシを食って、腹がひとごごちついたところで携帯端末を用いて現実での掲示板を確認してみる。
案の定大した情報は無い。俺を含め、攻略するようなやつがわざわざVRの外に出て掲示板に書き込むはずが無いからだ。
掲示板の関連スレッドは、何らかの理由で現在プレイできない人たちが愚痴を言い合って憂さ晴らしをするだけの場になっている。

そういえば、今日は無理だと言って血の涙を流していた某VRゲーム仲間を思い出す。
特に示し合わせていたわけではないが、お互い同じ名前を使い続けているのを知っているので、そのうち連絡があるかもしれない。

一時間半ほど仮眠を取ってからVRに戻ることにしよう。
この一時間半の仮眠が寝落ちするか否かを決める重要な一手なのだ。


□□□□□□□□□□□□□□□□


仮眠から覚めたおれは早速VRシステムを起動しRtGoにログインする。
眠るときとはどこか違う意識が遠くなる感覚があり、気がつけばログオフした宿屋の一室に立っていた。

早速机に座り、ログオフ前に書き込んだスレッドがどうなっているか確認する。


   熟練度の上昇に関して

   4: ジスティア・ネイシー  20XX/6/22 16:23:16
 
    いいことを聞いた。情報提供感謝。
    俺からも一つNPCから聞いた話を書いておくよ。
 
    武器を使うと熟練度が上がるわけだけど、動作補助に胡坐をかいて漫然と振り回してるよりも、
    ちゃんと自分で考えながら使ったほうが武器熟練度の上がりが良いらしいよ。
    俺は槍使ってるんだがいろいろ試しながらリビ狩ってきたら熟練度の上がりが良いって、
    武器屋の親父にほめられた。
 
   5: Adalbert  20XX/6/22 17:12:52

    武器屋の親父にほめられたって何だよ。NPCほめられて喜ぶとか馬鹿じゃないのか?
 

   6: キャリー ボルネオ  20XX/6/22 17:33:03
 
    このゲームのNPCのAIはほんとにすごいよ。
    意識しないとNPCって思えない。わたし、気持ちは分かるな
 
7: Luda  20XX/6/22 17:49:51

    >5,6
    スレ違い。
    >4
    情報提供THX
    ちょっと意識して動くようにしてみるよ。
    他にもいろいろと隠し要素がありそうだよな。
 

何だか変な流れになっているが、取り合えずめぼしい情報の追加はないようだ。
掲示板を閉じて、当初の目的どおり倉庫を求めて中央公園へと向かうことにする。
部屋を出て、カウンターにいるオバちゃんに声をかけて外に出ようとする。
そこでふと疑問が浮かんだため、足を止めてオバちゃんに聞いてみることにする。

「なぁ、技量を上げやすくする為には定期的に宿で休んだほうが良いと聞いたんだが、宿の中でなにをしたら休んだことになるんだ?」
「へぇ、あんたさんなかなか耳が早いねぇ。そうさね、部屋の中で幾らかすごしてたら十分だったと思うよ」
「なるほど、参考になったよ。それでは、出かけてくる」
「あいよ、気をつけて行ってくるんだよ」

思ったよりも条件が緩い。
つまりさっきまで部屋で掲示板を見ていた時間もシステム上では休んでいたことになるようだ。
宿で休むというとベットで寝るというのが真っ先に思い浮かぶが、ご存知の通りVRシステムでの睡眠は強制ログアウトを食らう行動だ。
それに、リセットのために長く時間を拘束されるのは正直苦痛であるのでなんらかの特定行動で回復すると思ったのだが。
短時間部屋の中にいればいいのなら掲示板でも見てすごせばいいだろう。


さて、中央公園まで来た。
倉庫番を探さないといけない。
自分で歩き回ってもいいのだが、せっかくここまで来たのだし、最近減る一方だった何かを補給するためにも彼女に聞くことにしよう。
チュートリアルの後、神殿への道を教えてくれた花売りの少女に向かって歩き出す。

「こんばんわ、花を一輪もらえますか?」
「ありがとうございます!2cになりますっ!」

元気いっぱいに返してきてくれる姿を見て、俺の中の何かが満ちてくるのが分かる。
コインを渡し、花を受け取りながら話を続ける。

「さっきはどうもありがとう。おかげで神殿に辿り着けたよ」
「いえ…、そんなたいしたことじゃないですよ」
「いやいや、本当に助かったんだよ。ところでまた聞きたことがあるんだ。
 倉庫を管理している人がこの近くにいると聞いてきたのだけど、どこにいるか知っているかい?」
「そうこ屋さんですか?それなら、あそこにいるおんなのひとがそうこ屋さんですよ」
「ああ、彼女か。ありがとう、とても助かったよ」

少女に礼を言って、倉庫番と思しき女性の元に向かう。
うむ、実に有意義な時間だった。

さて、倉庫番の女性に話しかけることにする。

「こんばんわ、ガーデン倉庫サービスにようこそ!
 ガーデン倉庫サービスは旅人さんたちの荷物を安全に保管し世界中どこにでも転送するサービスです!
 使用するための条件はただ一つ、神の加護を受けていることです。
 このサービスはこの世界におわす神々が力を出し合って成立しております。
 どこで預けた荷物でも、貴方の目の前にある倉庫口から取り出すことができるでしょう。
 また、貴方が預けたものは貴方にしか取り出すことできません。
 普段持ち歩くのに不釣り合いであるアイテムも安全に保管することできるのです。
 安心してご利用ください!」

RPGではおなじみの利便性だけど、その理由すら神の力か…何と便利な口実だろう。
不敬なことを考えつつ説明を聞く。

「アイテムの預け入れや引き出しは、このような倉庫ボックスの口を介して行います。
 現在、この街にはこのような倉庫ボックスがここ中央公園のほかに、東西南北の街門近くに設置してあります。
 冒険を始める前に倉庫ボックスを用いてアイテムの整理を行うと良いでしょう。
 ガーデン倉庫サービスは、貴方様のご利用をお待ちしております!」

彼女の横には大きめの箱が鎮座していた。
思い出してみると、確かに南門の近くにこんな箱があった気もする。
あれが倉庫ボックスだったのだろうか。
そうだとすると、ここまで足を伸ばしてきたことに若干むなしさを感じる。

まぁ、ここにくるまでにいろいろあったのだから無駄ではなかったが。
それはさておき、倉庫ボックスを早速使用してみる。
腰の袋からふるい槍を引っ張り出す。なんだろう、この光景をどこか別のところで見たことがある気がする…

…ああ、思い出した。動画ライブラリの片隅に有ったのを暇つぶしに見た前世紀に作成されたという青い狸のアニメだ。
そう思い起こすとまさにそんな気がしてくるから不思議だ。
取り出すときにアイテムの名前を叫べば完璧だろう。
一発芸として使える気がするが、分かる人がどれ位いるかは不明ではある。
俺は目の前でやられたら爆笑する自信が有るが、分からない人にはただの頭のねじが緩んだ人にしか見えないだろう。


俺は取り出した槍をボックスの中に入れる。
やはりボックスの中は謎空間が広がっているらしい。
基本的な使い方は袋と変わらず、触って内容のリストを取得。
取り出したいものを考えながら手を入れることによって引っ張ってくるようだ。

倉庫の使用法を覚えた俺は残った素材を防具屋の爺に持っていくことにした。



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蛇足

本文内で大人用紙おむつが~というネタが分からない人は正常です。
純真な貴方のままで居てください。

どうしても知りたい人は「ネトゲ オムツァー」「FF11 ボトラー」
などの単語をぐーぐる先生に聞いたら分かるかも知れません。
激しく下ネタなので、そういったものが嫌いな人はスルーすることをお勧めします。



[18261] 12. 爺
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:24
大分、見慣れた町並みを横目に南通りを下っていく。

防具屋にたどり着くが、夜の時間に入り周りが薄暗くなったせいか、えらく不気味な様子だ。
中に入ると、相変わらず埃っぽい空気が俺を迎える。

「いらっしゃい…」

中では陰気な爺さんが、蝋燭一本に照らし出されてカウンターの向こうに座っていた。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎に照らされた爺さんは正直いって大分不気味だ。
昼にあっていなければ即座に出口に向かって他の店を探していたことだろう。
雰囲気に呑まれて自失していると、向こうから話を降ってきた。

「…おや、なんだ、昼間に来た坊やかい…。どうした、何か防具でも壊れたのかね?」
「…ああ、いや、狩りで拾った素材を見てもらいに着たんだ。
 ステファンの所にも持っていったんだが、皮と毛はこっちのがいいと言っていたんでね」
「ほう、ステファンの洟垂れはすぐにわしに仕事を押し付けるからいかんな。
 まぁ、いい…。その素材とやらを見せてみな」

俺は袋から出した素材をカウンターに置く。

「ふん、リビの素材か…。まぁ、今の坊やにかれるのはこれぐらいしか無いしのう…。
 …ふむ、物自体は悪くないな。
 だがいかんせん今は出回る量が多い。大した値段は付けれんの…。
 一般価格で、毛が10c、皮が15cといったところだな…。
 高く買ってやることは出来んが、うちで何か買うってなら少しは勉強してやるぞい」
「今手持ちで40cほどあるがそれとあわせて、鎧や盾なんかでいいのは有るか?」
「そうさな…、1sほどの皮鎧ならあるぞい。
 どうやら、おぬしは力も増えたようだし何とか使えるだろ…。
 それと、盾といってもおぬしの獲物は両手槍だろうが…、盾なんぞ持てるわけが無かろう」
「片手武器だったら使えるのか?」
「だから、そういっとる」

盾は防御力が上がるほかにも、篭手よりも優秀なブロック効果がついていた筈だ。
回避だけでは苦しくなってきたときの選択肢としては有りだろう。
盾と片手槍か…、見た目的には両手槍の方がかっこいいよな。
まぁ、現状は両手でいいだろう。
この槍も新調したばかりなのだし。

「なら、その皮鎧とやらを見せてくれ」
「ふん、そこで待ってな…」

爺は鼻を鳴らして奥へと引っ込む。
客にその態度とは…、さすが爺、世の中に怖いものは無いようだ。
暫くして爺が皮の塊をもって奥から戻ってくる。

「着てみな…」
「着方が分からん」

爺がぶっきらぼうにそれだけ言うと皮の塊を渡してくる。
それに対して俺は偉そうに返してみることにする。
爺はよく分からない視線で俺をしばし見ていたが、やがてため息をつきながらカウンターの前に出てきた。
俺が持っていた塊をカウンターに置き分解し始める。

「今着てる服を脱いで後ろを向け…。ついでにこの下着を着ておけ…」

塊から真っ先に分離した所々に金具の付いた皮製の服をこちらによこしながら言ってくる。
逆らってもしょうがないので言われるとおりにする。
しかし、爺に言われても全くうれしくない台詞だ。
これが女の子だったら…と思うと、女装した爺を思い浮かべそうになりあわてて思考を中断する。
危ない…。とんでもないグロ画像が脳内に展開されるところだった…。
精神安定のために、花屋の少女、神殿のシスター、倉庫番のお姉さんを思い浮かべる。
くだらないことを考えているうちに爺は塊の分解を終えたようだ。

次いで爺は、分解されたパーツを俺の体に当ててベルトで繋いでいく。
なるほど、こういう風に着けるのか。素直に構造に感心する。
これなら確かに極端に体型が違わない限りフリーサイズで通用するだろう。
いや、感心していないで付け方を覚えておかなければ…
爺は見た目に似合わず手際よく鎧を付けていく。

パーツをすべて付け終え、最後にベルトの調整をして体に合わせていく。
最終的に違和感を感じないほどフィットするまでになる。
さすがに本職ということだろう。
素直に爺さんに感嘆の念を覚える。

「どうだ。どこか違和感がある場所はあるか…?」
「いや、全く無い。すごいもんだな」

せっかく褒めたのに、爺は面白く無いように鼻を鳴らすだけで答える。
ここでうれしそうにしてくれれば、この爺にも萌えら…、いや、さすがに無理だ。
危うく2枚目のグロ画像を製作するところだった。
これ以上は俺の心に傷を作りかねない、気をつけよう。

「いくらだ?」
「1sだな…」
「おい、負けてくれるんじゃなかったのか?」
「ふん、負けてやっただろう。鎧の着方の指導料で相殺だのう」

指導って、お前一言もしゃべらなかったじゃねぇか…。
しかし、助かったのも事実ではある。
長い付き合いになりそうだし、ここは俺が折れておくか。

「分かった…。それでいいよ。次ぎのときにはちゃんと負けてくれよ」
「まぁ、考えておいてやろう…。ほれ、差額の50cだ」

そういって50cのコインを投げてくる。

「今まで着ていた防具は如何する?下取りするなら5cだが」
「いや、予備に取っておくよ。普段から鎧姿でいるわけにもいかないだろ」

旅人の服の安さに驚きながら断り、脱いだ服は袋に放り込んでおく。
結構、資金に余裕ができた。装備可能な枠は埋めておいたほうがいいだろう。

「他にそろえた方がいい防具ってのはあるのか?」
「そうさなぁ、腰はその皮鎧に含まれ取るし、後は肘当て位だのう。
 他に首輪、指輪、腕輪などがあるが、装飾屋の領分であるからうちでは扱っとらん」
「なら、適当に肘当てを見繕ってくれ」
「ふん、まとめて言わんか…。二度手間だろうが」

爺はぶつぶつ言いながら奥からいくつか肘当てとその他もろもろを持ってくる。

「ついでに額当てもまともなものにしておけ。まぁ、お前が使うなら、これとこれだろう」

そういって、出してきたのは見た目はあんまり変わらない額当てと肘だけでなく腕全体を覆うような形の肘当てだった。
肘当ては腕の動きを邪魔しそうな見た目ではあったが、つけてみるとそんなことも無く問題なく動く。

「あわせて50cに負けてやるぞい。俺が約束を守る男で良かったな…」

その言葉に先ほど受け取り持ったままだった50cコインを爺に投げることで答える。

「世話になったな、また金がたまったらくることにするよ」
「ふん、せいぜい頑張るんだな…」
「あー、そうだ爺さん、何処かいい道具屋を知らないか?」
「道具屋だと…?門の近くに行けばいくらでもあるだろうが」
「ステファンがボラれるから気をつけろといっていたんでな。一応聞いて置いてみようかと思ったんだ」
「そんな悪どい商売してるやからが一等地に店を構えられるわけが無かろ。
 もっとも、ここら辺にある店は怪しいがな…。
 門の近くなら特に安くも無いだろうが、高くも無い値段で売ってるだろう。
 とりあえずおどかしておけば騙されるやつも減るだろうから、洟垂れ小僧はそんなことを吹いたんだろうよ」
「なるほど、参考になった。またな」

俺は爺に後ろ手を振りながら店を出た。
俺を見送ってくれたのは相変わらず埃っぽい空気だけだった。



[18261] 13. 夜の時間
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:25
防具屋を出たあと、南門に向かう。
道具屋によってアイテムを買った後はそのまま狩りに行くことにしよう。
暫くして、門の近くまで来た。
聞く所によるとここら辺に道具屋があるらしいが…
と、周りを見渡すと探すまでも無く明らかにそれっぽい看板を掲げた店が何軒かあるのが分かる。
折角だし、まずは冷やかしで値段を比較してみよう。

3軒ほどはしごした結果、防具屋の爺さんの言うとおりほぼ値段に差は無かった。
どこで買ってもさして大差なかったので最後に見た店で、初級傷薬を6個、念のための解毒薬を1個買って所持金が尽きた。
厳密には残り1cである。前回出発時よりも金が無い。
ちなみに、道具屋の主人は非常に丁寧な対応をしてくれた。
こんな激戦区では当然かも知れないが、何処かの爺は見習ってほしいと思う。

さて、装備の強化をしアイテムも補充したことだし、昼間よりも楽にかれるだろう。
何匹かリビを狩って新しい装備の感触を確かめたら、他のモンスターに挑戦するものいいかもしれない。
門を潜って外に出ようとすると、またしても門番の兵士が声をかけて来て止められた。

「お、お前はリビの討伐を請け負ってくれた旅人だな。
 夜に街の外を出るのは危険だぞ?
 昼にはいないモンスターも出現するだろう。
 また、多くのモンスターは昼に比べて活発になっているだろう。
 外に用事があるのなら、無理をせず朝まで待つことをオススメするぞ」

もはや、定番となった説明台詞のようだ。
用はモンスターが強くなっているから気をつけろということだろう。
ついでに昼に居なかったモンスターも登場するということか。
しかし、このゲームは現実の時間に合わせて昼夜が起こるようになってるわけだが、決まった時間しかログインできないプレイヤーから文句が出たりしないのだろうか?

VR内での日照タイミングが現実と著しくずれると、現実に戻ったときに体調を崩す可能性があることはVR黎明期から示唆されてきた。
そこまで行かなくても、寝不足や不眠、ストレスの増大など細かい影響は避けられないらしい。
そのため、VRゲームは屋内を活動圏内としたソフトが圧倒的に多い。
屋内であれば、そんなことを考えなくても問題ないからだ。
RPGゲームで言うならダンジョン探索系のゲームがとても多い。

既存のフィールドが存在するゲームも日照の差によるゲーム内での変化はなるべく無いように配慮してある。
光量の差による視界の範囲などはどうしようもないが、敵ステータスの変化などもってのほかだろう。
ましてや、特定モンスターの出現などどうなるか分からない。

運営側はどのようにこの問題に対処するのか非常に興味深い。
ただの思いつきであるだけで、そのうちいつの間にか無かったことにされる可能性も高いと思うが…
まぁ、こういったゲームは夜のほうがログイン率が良くなるのは確かだから夜が優遇されるのは良いのだろうか?

ちなみに、今も周りは暗くなっている。
当然街中なので焚き火や謎動力の街灯などで光はあるが現代社会の不夜城っぷりと比べるべくも無いのは明らかだ。
しかし、なぜか視界は昼と余り変わらないような気がする。
夜であると脳が認識すればそれでよいのは確かだが、VRならではの理不尽さも感じるな。

話を戻すと外は危ないから出ないほうが良いよと言われたわけだが、そんなのことを気にしていてはRPGなんぞやってられない。
兵士に生返事を返して街の外へ向かう。
普通の人間ならこの態度は怒りを買うだろうが、門番の兵士は特に気にしている様子は無い。
街中のNPCなどびっくりするぐらい人間くさいのに、多くの人間がかかわるイベントNPCであるこいつがそうでないのは、何か理由があるんだろうか…?


さて、街の外に出てきた。
早速、モンスターを探すとしよう。

さして探す必要も無く、近くの草むらにリビの姿を発見する。
どうやらまだ此方に気づいていない。

槍を構えてゆっくり近づき、リビに向けて素早く突き出す!

リビは攻撃を始めた段階で此方に気づき回避行動を取り始める。
残念ながら奇襲は失敗したようだ。
リビの反撃を避けることを意識しつつ突き出した槍がリビに大きく傷をつけた。
残心しつつ、足に力をためリビの攻撃に対応しようと構える。
しかし、クリティカルに失敗したはずだがリビは短く声を上げ地に伏した。
俺は驚いて構えを解く。

どうやら、強化したことによってクリティカルでなくても一撃で倒せるようになったようだ。
向こうも夜の時間の効果でステータスが上がってるはずなのだから自分もなかなか強くなったのだろう。
こう自分の成長が目に見える形で現れるのはうれしいものだ。

どうやら、リビは今の俺の敵ではなくなったらしい。
少し街を離れて新たな敵を探すとしよう。

目に付いたリビを虐殺しながら、移動していく。
こういうときに間合いが広い槍は便利だ。
まぁ、虐殺といってもそう対して数が狩れたわけでもない。
なぜなら、同じフィールド内に人が多いからだ。
ステータスボードで確認すると現在夜8時過ぎ。
いわゆるゴールデンタイムに突入している。
注目を集めていたゲームのオープンβ初日に人があつまらないわけがない。
現実で休憩していたときに確認した、某巨大匿名掲示板で血の涙を流していた面々もきっとゲームに参加できて感涙していることだろう。
これから、まだまだ人が増えるだろう。
運営も予想していた様でいくつかワールドを開設していたはずだがそれでも足りなかったようだ。
運営としてはうれしい悲鳴とやつだろう。
はじめから閑古鳥が鳴いているゲームに先があろうはずがない。

リビの屠殺場と化している南門近縁を抜け、まだ余り人が増えていない範囲にたどり着いた。
ここら辺に居るのは、リビが大きくなったリビリオン。
でかくなったハエのようなチェンパーというモンスターらしい。
他にも居るかもしれないがとりあえず見える範囲に居るのはこの二種類だ。
リビリオンはリビが大きくなったといっても常識的なサイズだ。
昼に追い回されたユニークほど埒外な大きさはしていない。
昆虫系はモンスターの定番だが、デカイ姿は生理的に気持ち悪い。
何であのサイズの物体が、あの薄い羽で飛んでるんだよ!と思わず突っ込まずには居られない。

最も、『日本人は竹槍で戦車に突っ込むの訓練をしてるのだ』と海外から揶揄されるところである、某国民的狩猟VRゲームの開発陣は翼があれば何でも飛べると思ってるので、それに比べればましかもしれない。
余談だが、この某狩猟VRゲームの大会優勝者が、大会の帰り道に事故に巻き込まれトラックに引かれそうになったが、華麗な飛び込み前転で難を逃れたというのは伝説になっている。


ちなみに、モンスターの名前はそいつに視点をあわせると頭に表示される用になっている。

さて、まばらに居る人が狩っているのを観察していると、どうやらどちらともノンアクティブであるようだ。
此方が不意打ちを食らうことはないのは非常に助かる。
まずは近くに居るリビリオンを相手にすることにする。
此方に背を向けているのでいつもどおり構え、突きで奇襲を狙う。

しかし、行動を開始した直後に気づかれ奇襲は失敗。
突きはリビリオンの体に刺さるが大きな傷とはいえなさそうだ。
右手で刺さった槍を引きながら、左手を槍から離して弾きやすい体勢を作りつつ回避に備えて足に力を入れる。

リビリオンは前足を大きくあげて殴りつけてきた。
槍を引きつつバックステップでその攻撃を避ける。
離していた左手を槍に戻し構えるが、右手だけでは槍を引ききれなかったため攻撃後の隙を突くことは出来なかった。

両手に持ち直した槍を大きくふるってリビリオンの頭を打ち据える。
これがいい所に入った様でリビリオンがよろけ隙をさらした。

その隙を見逃さず俺はリビリオンの頭に向かって気合と共に槍を突き出す!

槍は見事に頭に刺さり、脳髄を破壊したと思える一撃だった。

会心の手ごたえを感じ、仕留めたと気を緩める。

だが、脳髄などあるわけが無いリビリオンをその突き一つで殺しきれるとは限らない。
ここは現実ではなくVR空間なのだ。
殺しきれてなかったリビリオンは最後の足掻きとばかりに、こちらに向かって猛然と突進してきた。
完全に気を抜いていた俺はとっさに避けることができず、苦し紛れに篭手ではじこうとする。

だが、払おうとした腕は逆に弾き飛ばされ体勢が崩してしまった。
何とかクリティカルは回避できたが、ダメージを受けてしまう。

リビリオンは瀕死であるためか、突進の後に足がもつれて倒れこんでしまった。
その隙に俺は崩れた体勢を立て直すことに成功する。

体に走る痛みを堪えて流されてしまっていた槍をしっかりと握りなおし、踏み込みと共に横なぎに槍を振るう!
穂先が風を切り、立ち上がろうとしているリビリオンに一撃を叩き込む。

その一撃を受けたリビリオンは鳴き声をあげて地に伏せた。
今度は油断せず、俺は残心を意識して構え続ける。

やがて、リビリオンの体が光の粒となり消えていく段になって、俺は漸く構えをといた。

さて、例のごとく回復を待ちながら今回の戦いの反省をしないとな…。



[18261] 14. レア
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:26
さて、先の戦いの反省だが、まず何より途中で気を抜いてしまったことだろう。
頭に突きが決まり、完全にしとめたと思ったのだがここはVRの世界だ。
モンスターに脳髄などあるわけもなく、おそらくクリティカルの判定は出ていただろうがそれで即死などあるはずがない。
スキルなどで即死効果などがあるものもあるだろうが、ただの通常攻撃ではそんなことはないだろう。
見た目が派手な攻撃が決まったからといって油断してはいけないという事だな。
本来、確かめるまでもなく基本的なことだが、大きな火傷をするまえに気づけて僥倖だったと思うことにしよう。

もうひとつ気になるのが、最後の突進にブロックを試みたときのことだ。
単なるブロックの失敗という感覚とはどうも違う感じがした。
今までの場合、失敗してこちらの体勢が崩されるというようなことはなかったのだ。
リビとの戦いではせいぜい攻撃が止められず、こちらにダメージが通るぐらいだ。
視覚的に見れば、巨体の突進を篭手で払うぐらいでとめられるわけがないので当然と言えば当然だが…

うーむ、よく分からんな。
今度、防具屋の爺にでも聞いてみようか。
或いは掲示板で情報を募っても良いかもしれないな。
まぁ、なんにせよ、分かるまでは突進を篭手でのブロックするのはやめて置くのが良いだろう。

後は特に問題はなかったように思える。
頭への打撃のよろけ誘発からクリティカル攻撃など我ながらすばらしい動きだと自画自賛しても怒られないだろう。
最初の回避で体勢を崩してしまったのは良くなかったが、向こうがどのような反撃をしてくるかが不明だったのだったのだからしょうがない部分があると思う。

後は、必要攻撃数の問題か。
突き、打撃、クリティカルの突き、斬りと4発必要だった。
クリティカルがないなら都合5発ほど攻撃をしないと倒せない計算だ。
リビの一回り大きいだけの癖にえらく体力が上がってる…。
もっとも、攻撃自体を避けることは難しくなさそうであったから何とかなるだろう。
打撃によるよろけを積極的に狙っていくべきかもしれないな。
うまくすればそこからクリティカルのチャンスだし、そうでなくても攻撃を受ける可能性が減るのだから。

久しぶりに、戦闘の基本方針に項目を追加だな

6、打撃による頭部攻撃を積極的に狙い、よろけ、気絶の誘発を狙う。

しかし、こう考えると槍は本当に強い武器だと思う。
熟練度の上がり辛さなど、如何とでも補えるのだからデメリットといっても大きい物ではないと感じる。
もっとも、ほかの武器を使用してみて比較しているわけでもないので実際には何ともいえないだろうが…

ちなみに、周りを見るとオーソドックスに剣を使っている人が多いようだ。

…お、遠くに槌を使ってる戦士がいるな。バルバゲンの信徒だろうか。
体力もまだ回復しないし、なかなか珍しいのでしばらく観察してみる。
彼女はやはりリビリオンを相手にしているようだ。


…、ふむ…、
リビリオンが8割がたよろけて一方的に殴られている…

打撃が効き難いためか手数は多く必要としているみたいだが、ほとんど反撃がないのだから関係ないだろう。
あれはちょっと反則なんじゃ…?
見ていると相手になってるリビリオンがかわいそうになってくる。
まぁ、あれは槌が強いというよりは彼の人のPS(プレイヤースキル)が尋常ではないようだと思うが…
きっとクローズからのプレイヤーなんだろう。
そうすると尖ったビルドであることも考えられるな…、STR=DEXの二極とか…
マイノリティを愛する俺としては師匠と呼べるかもしれない。
向こうからしたら、勝手に師匠扱いしたら迷惑だろうが。


さて、俺も負けないようにがんばらないとな。
体力も回復したことだし次の敵を探すとしよう。

その後、間に休憩を挟みながらリビリオンを何匹か狩る。
それで分かったことは突進以外の攻撃は篭手でブロックすることが可能だったということだ。
調子に乗って再度突進をブロックしようとしたらやはり弾き飛ばされて危機的状況に陥る羽目になった。
スタミナ曲線の効果で体力が半分減ると通常回避すらおぼつかなくなるため、あわてて回復剤を使い事なきを得たが危なかった。
この前追いかけられたユニークリビ(ドスリビリオンというらしい)に追いかけられた時よりも現実的に危機を感じた。

なんにしろやはり突進にブロックは無理みたいだ。
これはシステム的な問題なのだろう。
やはり爺に聞くのが一番早いかもしれない。

あと、とても重要なこともわかった。

リビリオンはおいしくない。

リビとドロップ素材変わらないくせに確率も多少高くなる程度。
そのくせ体力が5倍近くで攻撃力も高くなってるため倒すのに時間がかかるし、場合によっては回復剤を使わないといけない。
つまり、金銭的に見てリビと比べると圧倒的にまずい。
経験点に関しては、ステータスボードに表示されていないため分からないが…
経験点は優遇されてると期待しないとやってられない不味さだ。

そりゃ、南門前でリビの虐殺が起こるわけだな…
あれは初心者用のボーナス的な設定になっているのだろうか?
しかし、あの場は既にいも洗い状態で、いまさら中に入っていっても意味がなさそうし…

しょうがないから諦めてリビリオンを狩ることにしようか…
まぁ、武器屋の親父の言葉が本当なら、こちらの方が熟練値は上がりやすいはずなわけであることだし。

たまに湧くリビを狩りつつ、リビリオンメインで狩りを続けていく。
何とか回復を使わないで数匹狩ることに成功している。
ブロックをはじかれるようなことがなければ、せいぜい1,2発攻撃を受ける程度で倒せるからだ。

皮鎧を新調したことで防御力もそれなりのものになったのだろう。
確実に攻撃力が上がっているであろうリビリオンに、前回のリビ程度のダメージで抑えることが出来ているのだ。
素での防御に期待できない俺が防具に金をかけるのは間違ってなかったようだ。

相変わらず休みながらではあるが、それなりに安定してきた狩りを続けることしばし、リビリオンを倒した後に見慣れないものが落ちているのを見つける。
どうも首飾りで有るように見える。

これは!と期待に胸を膨らませてあわててその首飾りを拾い上げる。
どうもレアドロップであるようだ!

この感覚は何度経験してもたまらない。
狙っていたレアであろうが無かろうが、見つけたときに心臓が踊るような感覚がある。

さて、一体これはどんなものなのだろうか?
わくわくしながら首飾りを調べる。
どうやら、リビリオンの顔をかたどった装飾の付いた首飾りのようである。
正直、不細工な顔が木彫りになっているようにしか見えない。
若干、がっかりしながら外れかなと考えかけるが、頭に浮かんできたこの首飾りの効果にそんな考えは消し飛んだ。

 リビリオンの首飾り:防御上昇(微) スタミナ自然回復量上昇(小)
        リビリオンの顔が象られた素朴な首飾り。持つものにリビリオンのごとき体力が備わるといわれる。
        都市部の一部女性の間ではファッションアイテムとしても通用するらしいが、真偽は不明である。

スタミナ回復量上昇効果!
すばらしい!俺が今求めてやまないものだ!

さっきまでリビリオンが不味いと考えていたのを棚に上げ、リビリオンを礼賛する思考でいっぱいになる。
俺は有頂天になりながら早速首飾りを身に着ける。
不細工な木彫りの装飾を、俺はそっと服の中に入れた。
別に、不細工なのが首にかかってるのを隠すためじゃないよ、戦闘中にぶらぶらすると邪魔なだけだよ。ほんとだよ。
このドロップをしてくれたと思えば、このリビリオンの顔も可愛いとも思え… …そうも無いな。
まぁ、いい、なんにしろこの首飾りは俺の狩りにとても助けになってくれるだろう。

そういえば装飾品関係の装備を見てくるのを忘れていた。

今度街に戻ったときには確認しよう思う。



[18261] 15. モンスター特性
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:28
首飾りのおかげで狩りの回転数が早くなった俺は調子よくリビリオン狩りを続ける。

倒した後に残るアイテムをいつもどおり拾おうとして、いつもどおりでないことが起こった。
近くをフラフラ飛んでいたチェンパーが、いきなり機敏な動きで近づくとアイテム掴みあらぬ方向へ飛んでいこうとする。

――ルートモンスターか!

そういえば、奴はルートモンスターだった。
ルートモンスターとは、地面に落ちているアイテムなんかを持ち去ってしまう甚だ迷惑なモンスターだ。
まぁ、倒したときに何処かで手に入れたものも一緒に落とすかもしれないので夢があるといえばそうなのだが、もって行かれた方としてはとても悲しい。
唯でさえ金銭効率が悪いリビリオンだ。ドロップを持っていかれてはたまらない。
しかも、今もっていかれたのは一番高く売れる皮だ。
俺はあわてて飛び去ったチェンパーを追いかける。

何とかチェンパーに追いつき一撃を与える。
これでとりあえず自分に向かってくるはずで逃げられることは無いだろう。

あせった心を落ち着けて、こちらに向かってくるチェンパーに相対する。
先に仕掛けてきたのは向こうだ。
流石に空を飛んでるだけあって動きが機敏である。
これは攻撃を当てるのは大変かも知れない。
クリティカルや突きを狙うのはやめ、柄をつかった打撃を中心に立ち回るべきだろう。

チェンパーの攻撃をギリギリで避けると、強く握った槍を振り回して殴りかかる。
しかし、敵は変則的な軌道を描いて槍を避けた。
予期していた反動が無かったため、上体が槍に流され隙を晒してしまう。
チェンパーはその隙を見逃さず体当たりをして来る。
とっさに体をずらしクリティカルこそ回避したが、ダメージを受けてしまった。
攻撃力が低いのか、そこまで大きなダメージでないことが救いだ。

再度俺は、槍を振って殴りかかる。
今度は避けられても良いように加減したため、向こうも余裕を持って避けたようだ。
そこで俺は無理やり槍を止め、敵が避けた方向に槍を跳ね上げる!

流石にこの動きは意表をついたのか、槍はチェンパーを見事に捉えた。
不安定な体勢からの一撃で倒しきることは出来なかったが打撃のおかげで奴は怯んでいる、次の一撃で決められるだろう。

我ながら今の一撃はうまくやったと思う。
これもVRゲームならではの醍醐味である自由度の高さだろう。

確実にしとめるよう気合を入れ、力を込めて槍を振り下ろす。

だが、突然背中に強い衝撃を受けて踏鞴を踏み、攻撃が外れてしまう。

―なんだ!?何が起こった!?

予想外の事態に混乱し体勢を立て直すのが遅れる。
その間に怯んでいたチェンパーは体勢を立て直してしまった。

チェンパーはそのまま俺に体当たりを行ってくるが、体勢が崩れたままの俺に出来るのは苦し紛れに篭手でブロックを試みることぐらいだ。
幸いにして、ブロックは成功しダメージを減らすことは出来たが、安心するまもなくまたも横から衝撃を受ける。

―くそ!一体なんなんだ!?

まったく状況がつかめず、反撃の糸口が見つからない。
とりあえず現状の把握が最優先だと思い、勢いに逆らわず地面を転がっていったんその場を離れることにする。
転がった先で立ち上がり振り返るとそこには2匹のチェンパーがこっちに向かって飛んできているところだった。

―しまった!リンク効果の援軍か!

リンクモンスターとは通常時はノンアクティブだが、近くで同種のモンスターが戦っていると救援に来る性質を持ったモンスターだ。
手を出したときに回りにいないのを確認したつもりだったのだが、あせっていたため見逃したか、あるいは戦闘中に寄ってきたかのどちらかだろう。

そのまま突進してくる二匹に対し一匹の攻撃は避けるものの、もう一匹の攻撃を食らってしまう。
さらに最悪なことに、いったん目を離したためにどちらがダメージを与えていたチェンパーかが判別できない。
さし当たってどちらかを落とさないと、このままどんどん敵が増えることになる。
そうなれば、いくら攻撃が軽いとはいえすぐにダメージが蓄積してしまうだろう。
スタミナ曲線の効果で50%を切ればもはやまともに戦うことも出来なくなる。
VITに振っていない俺はスタミナ総量も低い。
先ほどから何発がもらっているためリミットも近く、まさに危機的状況だ。

まず俺は袋から傷薬を取りだし使用する。
その間に二匹のチェンパーの攻撃を食らうが薬の回復量のほうが多く、さし当たっての危機を回避する。
次にあてずっぽうだが狙いを一匹に定め、渾身の力で槍を振るう。
後の回避を考えずに振るった槍は一匹を見事打ち据えることに成功する。
しかし、そいつは新しく入ってきた方だったらしく倒すには至らない。
追撃をしてしとめ切ろうとするがもう一匹の横槍が入り、避けられてしまう。

もう一度、二匹の攻撃に甘んじながら傷薬を使う。
その上で再び攻撃を行うが今度は避けられてしまう。
再び2匹に攻撃を受け、薬で回復した分が飛んでいく。

しょうがないので、また薬で回復して被ダメ覚悟の攻撃を敢行する。
この攻撃が当たらなければ、また傷薬を使うはめになるだろう。

幸いにして俺の振るった槍は何とかチェンパーを捉え、一匹を始末することが出来た。
思わす安堵の息を吐く。

しかし、後一匹残っている。油断は出来ない。
俺は残っている一匹に向き直って構え直し…

…またも背後からの衝撃に体勢を崩された。

―くそが!また追加か!

心の中で盛大に毒づきながら、二匹ともを視界に入れるために横に移動しながら後ろを視界に入れる。

新たに開けた視界に入ってきたのは、憎たらしい援軍のチェンパーではなく…

…唸る木槌とそれに打ち据えられ弾け飛ぶチェンパーの姿だった。

予想外の出来事に、思考がとまりかけるが敵は一匹ではない。
援軍がいなくなったのなら好都合だ。

残る一匹に改めて向き直ると、こちらに向かって突進してきたところだった。
攻撃を何とか回避することに成功し、こちらに向かって方向転換をしているチェンパーに槍を叩き込んだ。
その一撃で何とかしとめ切れたらしく、チェンパーは地に落ちた。
とりあえず戦闘が終了したのを確認して構えをといてへたり込む。

そんな俺に、鈴の転がるような澄んだ声が話しかけてくる。


「危なそうだったから手を出しちゃったけど、余計なお世話だったらごめんね?」


それは、先ほど見たラビリオンを一方的に撲殺していた槌使いの女性だった。



「師匠…」
「え?ししょう?」
「あ、いえ、なんでもないです。危ないところを助けてもらってありがとうございました。
 おかげで何とか凌げたようです」
「そっか、横殴りで怒られたられたらどうしようかと思ってたんだ。助けることができて良かったよ。
 お互いなかなか大変そうだけどがんばろうね」
「あ、はい、がんばりましょう」

それじゃね。と声を最後に師匠は離れていった。
予想外の事態に思考がもれて思わず師匠と呼んでしまった。
本人は気に留めてなかったようだが、気づかれていたらと思うと顔から火が出そうだ…

とりあえず、周りに散らばっているチャンパーのドロップを回収する。
彼女が仕留めた分も落ちたままだったがいまさらそれを渡すだけに追いかけるのも変な話だ。
まぁ、ここはありがたく頂いておこう。
この乱戦のきっかけとなったリビの皮もしっかりと回収し袋に入れる。

袋の中身を確認すると結構な数の素材が集まっていた。
今の一件で回復剤もだいぶ消費してしまったしそろそろ街に戻るころあいかも知れない。
結構な数のリビリオンを狩ったことだし階位も上がっているだろう。

サービス開始からずっとやってるにしては階位の上がりは遅いほうだろうが、その程度もともとの覚悟の上だ。
幸い、同じ敵を狩るのはそう苦痛に感じる性質ではない。

じっくりと育てていこうと思う。



[18261] 16. 友
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:40
俺は街に戻るために歩き始めた。

この状況は、前回ドスリビリオンに追い掛けられたことを思い出す。
周りを見渡してみるが、あの特徴的な巨体はいないようだった。

階位が先行しているであろうスタダ組みにでも狩られたんだろう。
いつか俺もあれを狩れる日が来ると思うとわくわくしてくるな。

南門すぐ前の草原はいも洗いの状況がさらにひどくなっていた。
時間を確認すると大体よるの10時ごろ。

南門から街に戻り、階位の確認のために神殿に向かっている途中に唐突に頭の中に少し高めな女の子の可愛らしい声が響いた。

『よう、ジスか?こっちはベリトだけど、合ってるよな?』
『なんだ、武か?バイトは終わったのかよ?』
『ゲーム内でリアルネームで呼ぶんじゃねぇよ!
 まったく…、何度も言わせるなよな。 バイトはやっとさっき終わって帰ってきたところ。
 なんか今日は人がぜんぜん居なくて帰れなくてよ。マジで勘弁してほしいかったよ…』
『ああ、すまん。ベリト…だっけ?
 でもな、お前を女の名前で呼ぶのはいつまでたっても抵抗がな…』
『ゲームの中じゃ見た目は女なんだから問題ないだろうが』

相手は大学の友人であるところの武…、いや、ベリト・ヘルツベリ嬢だ。
会話の内容から分かるようにネカマである。
ネカマとは「ネット・オカマ」の略称で簡単に言えば、現実世界での男が仮想世界で女性のキャラクターに成り切ることである。
ちなみに、ベリトをネカマと呼ぶと「俺は成りきってない!」と猛反論を食らうので注意が必要である。

ベリト…いや、武とは大学での悪友でゲーム仲間である。
大学生活ではお互いに世話になっている。
具体的には代返とか代筆とかシケタイのノートとか。

それはさて置き、この武だが、なぜかVRRPGでは女性キャラを使用する。
ネカマ自体は平面画面のネトゲ時代から結構多く生息していたと思われるが、VRゲームではだいぶ数を減らした。
ここでも画面の向こうで操作するのと、自分の体のように動かすこととの差だろう。
VRゲームでのネカマが出来る人は、本質的に女装趣味があるとしか俺には思えない。

基本的にゲーム内でリアルのことを詮索するのはマナー違反だが、もともとリアルの知り合いなのだからどうしようもない。
初めて一緒にVRMMORPGをプレイすることになって、少女の姿でプレイしているのを知ったとき俺は真剣に友達付き合いを考え直そうかと悩んだりもした。
我ながら偏見であることは分かっているのだが、実際の姿が結構体格のいいやつであるからギャップに苦しめられたのだ。

奴がなぜそんな姿をしているかと言えば、初めてやったVRMMORPGでヒーラーをやっていたらしく、「男に癒されるよりも女の子に癒されるほうが如何考えてもうれしいだろうが!」という思考でやり始めたらしい。
まったく持ってその意見に賛成するのは吝かではないのだが、現実を知っている俺としては非常に微妙な心持だ…
それでやり始めたらその姿に愛着を持ってしまい、今に至るまで使い続けているということらしい。

彼曰く、ロールプレイで女の子を演じているわけではないので口調は変えないらしい。
女言葉をしゃべると気味が悪くて背筋が痒くなるらしい。

姿が良くて言葉ダメというその線引きは俺にはもはや理解不能だ。
ちなみに、彼が自分がネカマというのを否定する理由はそれだ。
別に女の子をロールプレイしてるわけではないのでネカマではないというよくわからん理論だ。

まぁ、人の趣味にけちをつけるほど無粋ではないし、実際に気が合うのは確かだからいまだ友人として成り立ってる。

『で、このゲームのジスの感想はどうよ?』
『よく出来てると思うぞ。一週間ほど自主休講しようかと思う程度にはな』
『…、お前は相変わらずやることが極端だな…。今入ったところだがお前がそうまで言うなら期待しておくとするか』
『チュートリアルは終わったのか?信仰神は何にするんだ?』
『僧侶系を受け終わったところだ。クールビューティなシスターが優しく教えてくれたぞ。
 ま、とりあえずはいつもどおり回復系かな。このゲームで言うなら治癒神シャルライラだな。
 そっちの進み具合はどうよ?』
『マジかよ、うらやましい。戦士系のチュートリアルなんて声の馬鹿でかいおっさんが相手だったぞ…
 進み具合については、まぁ、それなりってところかな。アラナス信仰の3-3ってところだ』
『はぁ!?3-3って…、お前一日中入ってたんじゃねーのかよ?
 お前、それにしちゃ低すぎるだろ』

ベリトは素っ頓狂な声を上げて、指摘してくる。
自分でも遅いほうだとは確かに思うが、それを他人に指摘されるとむかつくのは何故だろうか…

『うるせぇなぁ。別にいいだろ。あと、このゲームは自動レベルアップじゃない。
 今狩り終わって神殿行くところだから多分いくつかあがると思うぞ』
『まーた、何時もどおりマイナーなビルドでやってんだな。
 ビルド考えながらにやけるお前の顔が浮かぶようだよ』
『余計なお世話だよ。それはいいとして、目的の神殿の場所は分かるのか?』
『いや、まったく分からん。どこにあるか分かるか?』
『俺が分かるわけ無いだろう…。そこら辺にいるNPCにでも聞いてみな。多分教えてくれるぞ』
『は?NPCがそんなファジーな質問に答えられるわけ無いだろ。常識的に考えて。』
『その常識が通用しないんだよ。俺も初めは驚いた。
 NPCはみんなむちゃくちゃ人間くさい。どんなAI積んでるのか非常に疑問だ』
『ふーん、まぁいいや、聞くのはタダだしやってみるか。終わったらとっとと追いつきたいから促成栽培でレベル引き上げてくれよ』
『やだよ。他人に頼り切って育てるのは良くないぞ。せめてファーストキャラぐらいまともに育てるべきだろう?』
『まぁ、お前ならそう言うと思ってたけどな。さしあたって、困ったことがあったらまた連絡するわ』
『了解。そのときは遠慮せず連絡してくれ。
 もっとも街の用事終わらせたら、いったんログアウトして仮眠取るからなんかあったら携帯に連絡してくれたほうが早いかも知れんぞ』
『分かった。後なんか気をつけることあるか?』

ベリトにそう聞かれた俺は、武器屋の親父どものことを思い出した。
一つの指針として教えて置くのもいいだろう。

『そうだな…。一応俺が使ってる武器屋とか防具屋なんかの施設の位置を教えとくよ。
 確かマップにマーカー飛ばせたよな』
『お、それは助かるな。よろしく頼むよ』
『武器屋、防具屋に関しては俺の名前出したら多少は安くなるかも知れんぞ』
『なにいってんのお前。そんなことあるわけ無いじゃん』
『だめもとでやってみな。それがありそうなぐらい人間くさいから』
『ふむ、覚えてたら試してみるか。ありがと助かったよ』
『じゃ、また後でな』
『おう、またなー』

どうもだいぶ話し込んでしまった。
話しながら歩いていたためもう神殿は目前だった。


神殿に行き階位を確認すると、階位と信仰ともに5にあがっていた。
序盤は一気に階位が上がるから正直自動レベルアップシステムじゃないのは面倒だ。
何でわざわざこんなシステムなんだろうか。

20世紀台にテレビゲームが開発された当初は、ゲームに使用するコンピューターの性能の問題で負荷をなるべくかけないようにするために拠点レベルアップ方式が主流だったと聞いたことがあるが、今ではそんな理由はありえないだろう。
製作者がそういった時代のゲームが好きなのか、はたまたVRの規制に関する対策なのかどちらかだろうか。

そういえば一定時間以上、精神に負荷をかける状態は好ましくないとか言う条文が有った気もする。
なるべく頻繁に街に帰ってこさせようという意図なのかも知れないな。

本当かどうか知らないが、取り合えずそう思っておくことで心の安寧を計っておこう。

さて、また新たに種を6個得ることが出来た。
まず俺はSTRに二つ使う。これで素のSTRが10になったのだが、もう一個使うかどうかは悩みどころだ。
なぜならこういったゲームは値が大きくなれば消費するポイントも多くなるのが通例だからだ。
そして大抵の場合10区切りでかわることが多い。
序盤だし、確かめる意味を込めてSTRに振ってみるか。
すると、やはり一個使っただけでは値が上がらずもう一個使ってやっと素が11になった。
これは、取り合えずAGIとDEXを素10まで先にあげるほうが正解だったかもしれないな…
まぁ、過ぎたことはしょうがない。
残った二つをAGIとDEXに一個ずつ使う。

---ステータス----------------------
名前 ジスティア・ネイシー 位階5
信仰神 戦神アラナス 信仰5

STR 11+5(17)
VIT 1+2(3)
AGI 7+4(12)
DEX 8+3(12)
INT 1+1(2)
MND 1+2(3)
-----------------------------------

さて、次はスキルだ。
今回も二つ信仰をあげることが出来たので2つ習得することが出来る。
今覚えているスキルのランクを上げてもいいのだが、取りえず不満は無いので新しいのを2つ習得することに決める。

一つは前回から取ろうと思っていたエンチャント技であるバトルスタンスを取得することにする。
もう一つは盾や篭手でのブロック率が上昇する防御修練にしよう

  防御修練:篭手、盾でのブロッキング成功率にプラス補正。
  バトルスタンス:エンチャント技 回避力と攻撃力にプラス補正。

バトルスタンスはパッシブではなくエンチャント技なので常時発動ではない。
使うことによって自動回復が停止する代わりに効果が発動するタイプのものだ。

取得する前は戦闘前にバトルスタンスを発動、終了時に解除して自動回復を繰り返せばデメリットがまったく無いと妄想してたのだが、流石に運営はそれぐらい予期していたのかリチャージタイムが10分ついていることに取ってから気づいた。
情報を集めてからだったら取得する前に気づけたはずなので少々早まったかも知れない。
防御修練は篭手や盾のブロック率を上げるものだが、回避に失敗して篭手でのブロックを多用するため取得することにした。

次からの信仰度上昇は今もって居る4つのスキルを伸ばしていく方向で進めることにしよう。



[18261] 17. 合流
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/10 21:52
次は武器や防具を見に行こう。


数時間前に来たばかりの武器屋にいき、素材を換金してもらう。
牙が16本で80cになった。
これで手持ちのお金が81cになったが、武器を新しくするには足らなかったので武器の新調はまた次の機会だな。
俺の知り合いにこの店を薦めておいたと伝えると、親父は融通を利かせてくれると言っていた。
やはり、このゲームのNPCは柔軟性が高いと改めて思う。

さて、次に向かうのは防具屋だ。
まずは素材を買い取ってもらう。毛が11個に皮が6個で、全部で2sの金になった。
チェンパーからの素材も買ってもらおうと爺に渡すと、そのうち一つを指して忠告してきた。
これは素材ではなく魔法の羽根というアイテムらしい。
俺は手にとってしげしげと確認してみると脳裏に効果が浮かんでくる。

魔法の羽根:魔法のかかった羽根。使用した者を最後に登録したポータルへ転送させる。

「ポータル?」

はじめてみる単語に思わず、疑問の声を上げてしまう。
それをきいた爺は、驚きに目を見開いた…ような気がする様子で此方に話しかけてきた。

「おぬし、ポータルを知らんのか?それでも旅人か?」
「しらないのだからしょうがないだろうが」

爺はやれやれとでも言いたげにため息と共に首を振って答える。

「おぬしが戦闘不能になったら加護を与えたもうた神の力によって安全な場所に移動させてくれるのは分かっておるか?」
「理由は今まで知らなかったが、移動するのは知っていたな」
「ふん、不信心な。では、そのときどこに運んでくれるのかしっておるか?」
「知ってるよ。中央広場にあるモノリスの下だろ?」
「なんぞ、しっておるではないか。そのモノリスの近くにあるのがポータルだ」

セーブポイントのことかよ!
全く、紛らわしい名前にするから分からなかったよ。

「ポータルを使えば、一度開いた事のあるポータルならば他の場所から転送していただけるぞい。
 大抵の大きな街にはポータルとモノリスが鎮座しておるから他の街に行ったら真っ先に確認するべきだのう」

ああ、新しいシステムが加わってそれに伴って名前に変更されたのか…
街と街との間の移動が面倒だというのはクローズ時代に多くあった意見だった。
それに対応した結果なのだろう。
一度たどり着いた街なら即座に移動できるのは便利で助かる。
もっとも、俺が次の街に移動できるのがいつになるのかは全く持って不明ではあるが…

しかし、このアイテムを使えば狩り場などからすぐに街に移動することが出来たのか…
これをあらかじめ知っておけばドスリビリオンに追いかけられるようなことは無かったのかもしれない。

「そのアイテムを売るなら25cで買い取るぞい」

ん…、買取で25cってことは売値が50cってことか?
高っ! やはり、俺のドスリビリオンとの追いかけっこは回避不能だったようだ…
これは何かの時のために取っておくのが良いだろう。
売らずに袋に残しておくことにする。

「ならば、虫の触覚が一個で6c、虫の足が1個で12cであわせて18cだな」

死にそうになるまでがんばったのに、その成果が18cとは…
いや、魔法の羽根を手に入れたのだから十分リターンはあったのか?

何はともあれこれで所持金がほぼ3sになった。
折角だから、防具の更新をしよう。

「爺さん、靴と篭手を新しくしようと思うんだが良いのは無いか?出来れば、篭手はブロックしやすいものが良いな」
「そうさな…。ほう、お前さん速さと器用さはなかなかのもんじゃないか。それならこれも扱えるだろう」

そういって、奥から新しい靴と篭手を持ってきてくれる。
靴は確りした皮で出来ているようで頑丈そうだし、足首までの網上げで確りと足を守ってくれそうだ。
篭手は少々重そうだが、鉄板を一部に使っているのか頑丈そうに見える。
今までのに比べると格段に心強くみえる。

「靴はここで手に入るものとしてはだいぶ良いものだぞ。
 篭手はブロックを重視したもので若干重くなっているが、おぬしの力なら大丈夫だろう」
「ああ、よさ気だな。いくらだ?」
「靴が90c、篭手が1sだな」

若干高いが必要経費だろう。俺は購入する事に決める。
靴が上のほうに来たということは、この街での想定滞在時間は結構短いのかも知れない。
他の街への移動を考えてもいいのかも知れないが、まだ一日目であることだし、どうせレべリングレースには乗れないのだから、あせらずいくことにしよう。

「ああ、そうだ爺さん、聞きたいことがあるんだが」
「なんだ…?藪から棒に」
「さっきまでリビリオンを相手にしていたんだが、そいつの突進を篭手でブロックしようとして弾き飛ばされたんだがどういうことか分かるか?」
「なんだ…、そんなことか。
 はじめにも言っただろう、大きい攻撃はブロックできないと。
 小型の相手の攻撃なら篭手でもすべてブロックが可能だが、中型の攻撃は弱い攻撃でないとブロックはできんぞい。
 リビリオンは中型だし、突進は強攻撃だ。ブロックできんのも道理だのう。
 渡すときに説明しただろうが、鳥頭め」

そんな詳しい話は聞いてねぇよ!と反論したくなるが、そういわれていたのを忘れていたのは確かだ。
というか、客を罵るとかこの爺は客商売なめてんのか。
ベリトに紹介したのは間違いだったかもしれん。
そういや、この爺にもそのこと言っておかないとな…

「ああ、理解した。ありがとよ。
 そうだ、爺さん、俺の知り合いがここにくるかもしれん。
 そのときはよろしく頼むよ」
「ふん、気が向いたらな」

まぁ、この爺さんならこれ以外の返事は期待できないだろう。
さしあたってここでの用事は終わったことだし、宿屋に行っていったんログアウトすることにしよう。

さて、宿へと移動し部屋に入って机に向かう。
ログアウトしに来たといっても折角だし掲示板で情報がないか確認してみよう。
ステータスボードを呼び出して、ページを変更し掲示板を表示させる。

だいぶ人も集まりスタダ組も一息ついたのか結構な情報が交換されていた。
とりあえず、興味深く今後も注視していこうと思うスレがいくつかあった。

  新しいスキルについて語るスレ
  ドロップしたものを報告するスレ
  スキル変更点まとめ
  武器熟練度に関して
  マイノリティーな型のやつ集まれ!

あたりが興味を引かれる。
くだらないスレも乱立しているが、それなりに面白そうなものもあったので気が向いたときに読んでみようと思う。
あと、晒しスレが立っていたがゲーム内掲示板は書き込んだ人のキャラネームが強制的に表示されるので全く意味を成してないようだった。
とりあえず、それなりにレスがついている様だったが大半はスレ主に対する罵声のようだ。
罵声を書き込んでる人たちは自分の名前が表示しているのに気づいてないのだろうか…?
もしかすると、スレ主の目的はこれだったのかもしれない…
ある意味、正しく晒しスレの目的を達しているともいえるな。

新しく分かった情報としては、エンチャント技系にリチャージタイムが追加されたこと。
そのほかにもリチャージタイムが追加されたスキルが多いこと。
剣士系のいくつかのスキルの詳細が分かったこと。
リビリオンの首飾りはなかなかのレア率であったこと。
AIがすごいと思っている人が結構いること。
宿屋での熟練度成長率減少のリセットの条件の詳細が広まっていること。
スタダ組のLvが15を超えていること。
大人用紙オムツ会社の株がまた上がったこと。
ポータル移動には金がかかって一回50cだということ。
ぐらいだろうか。

有益な情報もいくつかあってなかなか有意義な時間だった。
さて、今が大体夜の11時ぐらいか…
ログオフして3時間ほど仮眠を取ろう。
明日も平日であるから、起きたころにはこの人入りも一段落していることだろうしな。

俺は、宿屋で一端VRからログアウトし、現実に戻ってきた。
そのまま3時間後にアラームをセットして仮眠を取る。
ここで、朝まで寝してしまうとおきたときガッカリするので注意が必要だな。


□□□□□□□□□□□□□□□□


無事に仮眠からおきることができ、大体時間は夜の2時ほどだ。
ベットから這い出した俺は、眠気を覚ますために熱めのお湯でシャワーを浴びる。
その後、ありあわせの材料でメシをでっち上げて食べる。
うまくも無いがまずくもない。

メシを食べ終えて、腹が落ち着くまで携帯端末で匿名巨大掲示板にアクセスする。
やはり此方では余り情報が流れていないようだ。
多少あったとしても、ゲーム内の掲示板ですでに紹介されているようなものだった。
俺が書き込んでもいいのだが、めんどうだし、時間がもったいないのでやめておく。
多分俺のような思考をするやつが多いから、あちらに情報が流れていないのであろう。

そんなことをやっていると大体2時半ほどになった。
腹も落ち着いたので早速VRに接続して、RtGoにログインする。

降り立った先はログアウトした場所であるところの宿屋の中だ。
この宿屋は一日15cだと言っていたが、24時間という意味なのだろうか?
そう考えると大分安く感じるな…
少なくとも俺は後数回は利用するだろうし。
そういえば、ログアウトした状態で宿屋の制限時間が着たらどうなるのだろうか?
ポータルに飛ばされるか、そのまま宿屋に出て一回出るまでは居られるのかどちらかか。
まぁ、そう大した問題ではないし忘れることにしよう。

さて、あたらためて此方の掲示板を確認するが寝る前とさして変わった情報は無かった。

ふむ、活動を開始する前に武…いや、ベリトがどうしてるか確認してみるか。
俺はステータスボードを呼び出し、コンタクトページを表示させてチャットを開始する。

『こちら、ジスティア。今、仮眠から復帰した。そっちの調子はどうだ?』
『まぁ、ぼちぼちだな。3-4になったぞ』
『お前…、それは早くないか?第一、おまえ支援職だろ。どうやってあげたんだよ』
『道歩いてたら優しいお兄ちゃんが回復剤いっぱいくれたから、がぶ飲みしながらリビ狩ってた。
 つーか、それに関してはむしろお前が遅いだろ』

なんと言うことだろう…。
俺はやはり友達としての関係を見直さなければならないようだ。
対応する声が冷たくなるのもしょうがないだろう。

『ネカマめ』
『いや、俺はネカマじゃねーから!』
『その行動のどこがネカマじゃないんだよ。このロリコン女装趣味』
『ネカマじゃねーっつってんだろ!
 …いや、さっきのは冗談だって。装備そろえてあまった金で回復剤を買ったんだよ。
 んで、回復剤使いながらリビの牙が出るまでがんばって倒して、門番のクエ終わらせたあとは街の中でお使い系クエストこなしてあげたんだよ!
 あと俺はロリコンじゃない!』
『どうだか。とりあえず、今の姿を鏡で見てから言い直せ』
『嘘じゃねーよ! 証拠に俺の信仰だけ妙に高いだろ?
 なんか、神様が言うにはいっぱい人の役に立つ行動をしたのを評価するとか言ってあげてくれたんだよ!』
『ほう、なかなかによく出来た言い訳だな』
『嘘じゃねーって!
 正直、回復剤が切れる前にリビの牙が出なかったらお前を呼び出そうと思ってたんだぞ!
 はじめから入ってた5本の傷薬のおかげで何とかなったけどな。
 第一リビの狩り場はいも洗い状態で、回復剤がぶ飲みだろうがまともな狩りにならなかったんだぞ』

どうやら嘘では無さそうだな。
友人関係を考え直さなくても良いようだ。

『分かった分かった。最初から疑って無かったよ。お前はちゃんと一線は守る男だと信じてたよ』
『さっきの声は本気としか思えなかったがな』

まぁ、本気だったしな。

『で、感想はどうだ?』
『よく出来てると思うぞ。一週間自主休講する程度には…な』

皮肉げに言ってくるが、その程度はなんとも思わん。

『そうか、なら当分一緒にプレイできるな』
『…、まぁ、そういうことだな。どうする?合流するか?』
『そうだな、お前今どこにいるんだ?』
『シャルライラの神殿だな。今階位あげたところだ。大体、南門の近くかな』
『なら、南門の倉庫前で集合しよう』
『倉庫って?』
『南門の前にデカイ箱が置いてある。その前だな』
『ああ、あの箱か。了解。今から向かうよ』

行き先も決まったことだし宿屋を出て南門に向かう。
だが、歩きながらでも話せるのがボイスチャットのよい所だ。

『階位上がったんだろ。大体どんな感じにしたんだ?』
『どんな感じっていわれてもな。回復系に必要そうなものを適当にとっただけだぞ。
 ステータスは、INT=MNDだな。そのうちDEXも伸ばさないといけないだろうが、 現状じゃ詠唱のあるスキルを取ってないから後回しだ』
『詠唱とDEXに関係があるのか?』
『まぁ、簡単に言えばDEXが高いと詠唱を短縮してもよくなる。それと、口が回るようになるらしい』
『へぇ、それでスキルは?』
『魔器修練、ヒーリング、湧き上がる精神の三つだな。現状じゃ、後ろでヒールするぐらいしか戦闘には貢献できんぞ』
『十分だな。今の俺の狩りは半分以上が自動回復待ちの時間だ。お前と経験点を半分にしてもおつりが来る』
『お前…、人を歩く回復剤扱いとは、えらくなったもんだな』
『事実、それしかできないだろうが。心配しなくてもお前の成長には期待してるよ』
『残念ながらVRだから、これ以上胸は大きくならんぞ』
『お前は…、…相変わらず面白い脳みそをしているな。このロリコンが』
『ロリコンじゃねぇっつってるだろうが!この鳥頭が!』
『どうだか。とりあえず、今の姿を鏡で見てから言い直せ』

馬鹿話を続けながら集合場所に向かう。

『まぁ、お前がロリコンなのは置いておいて、装備なんかは整えたのか?』
『俺はロリコンじゃねぇ! …まぁ、装備は一通りそろえたぞ。
 あ、そうだ。お前の言って店に行ったらほんとにおまけしてくれたぞ。
 このゲーム、力を入れるところを明らかに間違えてるだろ』
『へぇ、一応あの後に店に行ったからよろしく言ってはいたんだが…。このゲーム、力を入れるところを間違ってるな』
『全くだ、会話してるとNPCだということを忘れそうになる』
『俺はもういっそNPCと思わないことにした。運営も其れを望んでるだろうしな』
『まぁ、それが賢いかもな。てことで、装備は一通りだな。クエスト報酬で金も結構たまったからさっき買い足したばっかりだ。
 当分はこれで大丈夫だろ。お、俺は倉庫前に着いたぞ』
『俺ももう少しだな。ちょっと待ってろ』

すこしして、俺も倉庫が遠目に見えるあたりまでたどり着いた。
よく見ると、倉庫箱の近くで暇そうに杖をいじっている深い藍色のローブを来た女の子がいるのが分かる。
年のころ14歳ぐらいだろうか、腰ほどまである紫がかった綺麗な銀髪を首の後ろで纏めて流し、綺麗な青い瞳をもつ小さな顔がバランスのよい体の上に乗っている。
その少女は俺が近づいたのに気づくと、こちらに向かって太陽のような満面の笑みを浮かべ、手を振って存在をアピールして来た。

その姿は通りがかった人が思わず一端足を止めてしまうぐらいにはかわいらしい。
そう、見 た 目 は とてもかわいらしい。

俺はそれに手を振り返すような愚行を犯すような真似はせず、仏頂面のままそこに近づく。
ちなみに俺の容姿は黒髪黒目で現実から余りいじってないような十人並みだ。

彼女は、一向に急ぐ気のない俺に焦れたのか俺の方に自分から近づくことにしたようだ。
手を振るのをのやめ、胸に抱いた大きな杖で走り難そうにしながら此方によってくる。
一生懸命走っているように見えるその姿もまた可愛らしい。

注目を集めていた彼女が走り始めてその方向を見、その目的地が俺であることに気づいた男どもが俺に殺意のこもった視線を向けてくる。
そんな男どもに俺は声を大にしていいたい。


――こ の 中 身 は 男 だ !


俺の下にまでたどり着いたベリトが、息を整えている様子は確かに可愛らしい。
が、中身を知る俺にそれ以外の感情が沸くはずもない。
というか、こいつがロリコンの女装趣味でないとしたら、そのカテゴリーに当てはまるやつはいないと思う。
俺にガンを飛ばしてくる男どもももう少し考えろと言いたい。

VRの姿はおおむね現実の姿をベースにするのが一般的だが、ここまで作ってるのが分かるキャラもそうそう居ないだろうが。
ちなみに、この姿を知ってるから最初にあったお兄さんに回復剤を貰ったという話を即座に信じたわけでもある。

全くもって男は馬鹿ばっかりだな。



[18261] 18. 夜の散歩
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/11 00:54
「相変わらずの変態的な姿だな」
「顔を合わして早々、失礼な物言いだな。そんな礼儀知らずだったとは知らなかったぞ。
 そもそも、なんでそんな言葉が出てくるんだ、どこから如何見ても美少女だろうが」
「その姿が美少女なのは認めるさ」
「うむ、姉貴渾身の作だからな」

こいつの姉貴はアバターアーティストと呼ばれる職についている。
非常に新しい職業で、名前が広まりだしたのもここ数年だろう。
その中でも彼女(彼)の姉はさきがけとなった存在で業界で一目置かれているらしい。

仕事内容はわざわざ説明しなくても分かるだろうが、見栄えのいいVR用の外装を客のニーズに応えて作るという仕事だ。
一般のゲーマーにはなじみが薄いが、VRで広告を展開している企業の受付嬢やVRショッピングでの店員など外見を気にする仕事は現実と変わらず多岐にわたる。
その外見が自由にいじれるのがVRなのだから、見栄えの良い外装データを作る腕を持った人間が引っ張りだこになるのは当然だろう。

しかも、この業種は半ば彫刻家のような芸術性が求められる比重が多く、本人の感性など特殊技能に近いものを必要とする。
そのため本当に腕の良いアバターアーティストは数が少ないのだ。

この男は、VRで支援職を始めるに当たりかわいい女の子の姿でやりたいと姉に相談したらしい。
正直、この時点で奴の正気を疑うが、さらにすごいのがこの後だ。

この話にかの姉が尋常じゃなく食いついてきた。
何でもたまには仕事ではなく趣味全開で外装を作りたかったらしい。
これは秘蔵のデータだと言って引っ張り出してきたものに、武の意見を加え、アーティストのネットワークを駆使して評価をもらい作成したとのこと。
武がデータをもらったとき姉貴は恍惚とも取れるとてもやりきった表情をしていたと言っていた。
この弟にしてその姉ありとしか言うことが出来ないだろう。
そして、そのデータとやらが目の前の少女の姿である。

まぁ、確かに光の加減によって淡く紫に輝く銀髪など一般的な商取引では奇抜すぎて使えないだろう。
そういったフラストレーションを全開にしてこの姿を作ったと言っていたそうだ。
だからといって弟が女装するのに全力で支援する姉というのはいかがなものか…。

というわけで、その道のプロが集まって全力投球した姿が美少女でないわけが無い。

…ないわけが無いが、だからといって中身が男だと知っているとそれ以上になんというか…こう…
素直に見ほれることが出来ない気持ちになるのだ…

ちなみに、この姿で愚かな男が良くつれるのは先ほど見たばかりだが、何もつれるのは男ばかりではない。
女も釣れるのである。もっとも、感情は180度逆だが。

一目で作っていると分かる外見なのだから気にしなければいいと思うのだが、世の女性たちはそうは割り切れないらしい。
「わー、すごいかわいいねぇー」と目が笑っていない笑顔でよってくることがまれにある。
まぁ、本心から言っている場合もあるが、その場合は別の意味で目が怪しいときだ。

女同士の「かわいい」は決してほめ言葉ではないとは誰の言葉だったか…

ちなみに、そういった女性は中身が男だと分かると一気に好意的になる。
いや、外見上はもともと好意的なのだが…
しかも、別に演じているわけでなく男の態度を通しているのもつぼに嵌るらしい。
ああ、ちゃんとドン引きして離れていく常識人も居るので心配しないでほしい。

あと、自分も外観を作ってほしいという人も後を絶たないらしいがすべて断っているとのことだ。

ここまで衆目を集める容姿をしているのに本人はまったく気にしていない。
横に居る俺のほうが気まずいぐらいだ。
まぁ、一緒にVRをやって長いのでもうなれたことではあるのだが。

ちなみに、ここまでした奴の行動理念はタダ一つ


「かわいい女の子に癒してもらったほうがうれしいだろうが!」


その意見には全面的に賛同するが自分が癒すほうにまわっては本末転倒だと思うのだが…




さて、無事にたけ…ベリトと合流を果たし、もはや慣れてしまった視線による洗礼を受けたところで狩りへ向かうとしよう。

「さて、取り合えず外に出て狩りに向かうか」
「おう、て言うかお前の武器は槍かよ…。相変わらずだなお前」
「馬鹿、槍はすごい武器だぞ。昔から槍の三倍段といってだな…」
「それを言うなら剣道だろ。てか、もしかしてお前、回避槍か?」
「なんか文句あるのか?」
「いや、文句は無いけどさ…。相変わらずだなお前」

さっきも聞いた台詞を繰り返すベリト。失礼な。
ちなみに、ベリトは高めのかわいらしい声をしている。
非常に外見とマッチして可愛らしい。
外見とはマッチしているが口調とはマッチしていないのが悲しいところではある。
この声もどっかの有名な合成士から提供をうけたとかうけないとか…真偽は知らない。

「さし当たって何を狩るかだな」
「何でもいいぞ。俺は後ろで応援してるだけだし」
「いや、働けよ」
「むしろ、お前が俺のためにしっかり働けよ♪」

いやらしい事を、すばらしく可愛らしい笑顔でのたまう。
残念、だが俺にその笑顔は通用しない!

「はん、あほなことを言うな。働かざるもの食うべからずだ、ドロップ品分配してやらんぞ」
「いや、冗談抜きで戦闘中にヒール飛ばすぐらいしかできねぇし」
「心持の問題だろ。そういうのは」
「だから、真心込めて応援するって言ってるじゃねーか。先にけちをつけてきたのはお前のほうだぞ」

…あれ?
釈然としないがそういわれると俺が悪い気がしてきた…
まぁ、いいか、どうせ泥沼な話だし流しておこう。

「話を戻すと、どこに行くか決まらないと移動できないだろうが。どこか無いのか?」
「どこかって言われても、街で引きこもってた俺が外のことなんか知るわけないだろうが。
 お前こそ掲示板とか見てたんだったらなんか無いのかよ」
「そういった情報は無かったな…。まぁ、ここでグダグダしててもしょうがないな。
 とりあえず歩いていってめぼしいもの見つけたら狩ってみることにするか」
「賛成~」


とりあえず、方針が決まったところで歩き出す。

「ところで、お前は成長したら何が出来るんだ?」
「まぁ、胸で挟めるまでになるのは無理だな」

…なにを?などと誰が返してやるものか。

「…っ、このロリコン女装趣味やろうが…。それ以上下ネタ振ったらPT解消するぞ」
「ロリコンじゃねぇっつってんだろ! しかし、お前も相変わらず潔癖だなぁ…
 ゆとりを持って生きたほうが人生楽しいぞ?」
「鏡見てから言い返せ。潔癖じゃねぇよ。
 その姿のお前とその手の話をしてると、俺がロリコン扱いされるんだよ!
 下ネタ禁止でさっきの質問に答えな」
「それに関しちゃ、ペア組んでる時点で手遅れだろ。
 まぁ、一般的な支援職と思ってもらえれば構わんと思うぞ。
 回復したりステータス上げたりとか。光属性の攻撃魔法も基本的なのだけ覚えるな。
 光属性の攻撃魔法は光神タリアヴィーの領分だから、シャルライラでは重視されてない。
 一言でいえば純粋火力にはなれない、完全支援系だ」
「お前…、自覚があったのかよ…。
 あと、俺としてはお前こそ相変わらずだといいたいがな。ところでステータス上げるのはすぐ覚えられそうなのか?」
「いくつか前提スキルがあるからすぐには無理だな。もしかしたら、クローズからスキルツリー変わってるかもしれないが」
「掲示板で確認した情報ではスキルツリーの追加はあっても変更は無いんじゃないかってことだったけどな」
「掲示板ねぇ…、どうせまだ実際に確認したやつは居ないんだろうからどうなるかわからんだろうが…
 まぁ、話半分ぐらいで聞いておくか」

話をしながらフィールドを歩く。現在は大体夜中の3時。
いくらサービス開始初日だと言ってもこの時間になればさすがに人は減る。
南門前のフィールドはいも洗い状態からまともに狩りになるかもしれない程度には回復していた。

ちなみに、ベリトは歩きつつ周りの苦戦してそうなPCにヒールを飛ばしている。
ベリト曰く、ただの熟練度稼ぎだそうだ。が、された方はかわいい女の子に回復してもらってうれしそうである。

リビが多く生息していた地域を抜け、俺がハエに殺されそうになった辺りだ。
周りにはリビの代わりにリビリオンが多くなってきた。

「うお、デカいリビがいる」
「リビリオンだな。俺は階位を3から5までこいつを狩って上げた」
「こいつにするか?」
「階位3の俺がソロで安定して狩れる程度だぞ。階位5に上がって、さらにヒーラーいるんだからもっと先に進もう」

デカいリビというと俺はドスリビを思い浮かべるのだが、そういえばドスリビに追いかけられたのもこの辺りだったかも知れない。
この時間だと処理されずに闊歩している可能性がある。
警戒しておいて損は無いだろう。

「ここらへんにどでかいリビがいるぞ。多分エリアボス。
 この時間帯だと処理されてなくてそこら辺歩いてるかもしれないから注意して行くぞ」
「まじで!?よし、そいつを見物に行こうぜ!」
「おいおい、話聞いてなかったのか?
 たぶんエリアボスだぞ。今の俺らが勝てるわけないだろうが。踏み潰されるのが落ちだ」
「見に行くだけだって!」

そういってベリトが意気揚々と歩き出す。
俺はため息を一つついてその後に続いた。

目的が変更され、ドスリビ見学ツアーに早変わりした俺たちは適当にふらふらとフィールドを彷徨っていた。
俺は時折見かけるリビを一刀の下に光に返しながら、一人勝手に進むベリトについていく。
まぁ、街に引き篭もってたというから、この景色が珍しくてテンションが上がっているんだろう。
気持ちはわからなくもないのでしばらく好きにさせて置こう。

夜の草原の中、月明かりに照らされ淡く輝く銀の髪をなびかせて楽しそうに歩く様は非常に絵にはなるのだが…

「見つからないものはしょうがないだろ。誰かに狩られたのかもしれないし、狩り場探しに戻るぞ」
「残念だが、そうするか…」

そのまま先に歩いていくと、遠めに見えていた森が近づいてきた。



[18261] 19. PT戦
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/11 00:59
いつの間にか大分街から離れたようだ。

そこで新しいモンスターを見つけた。
それは鳥のようでいて、しかしそれはそれなりの大きさの体の割りに羽根が小さいため飛べそうではない。
だが、明らかに物理的に飛ぶのが不可能なデカハエが飛んでいるのだから案外飛ぶのかも知れないが。
もっとも名前がアースバードとなっているので多分飛ばないんじゃないだろうか。

「はじめてみるのが居るな。殴ってみるか?」
「おう、いいんじゃないか?リビリオンが居る範囲を抜けた所だし、そう強さが隔絶してるもんでもないだろ。」
「そうだな、リンクかも知れないし回りの確認頼むぞ」
「りょーかい」

俺はエンチャント技のバトルスタンスを使用する。
ベリトが居るため、自動回復がなくなっても特に問題ないだろう。
首飾りのリビリオンは泣くかもしれないが。

奇襲を試みるため槍を構えて、ゆっくりと近づく。
しかし、ある程度近づいたところで気づかれてしまった。
どうもあの敵は接敵に敏感である設定のようだ。
奇襲はあきらめた方がいいかもしれない。

奇襲を失敗した俺は槍を持って走って迫る。
ノンアクティブなのか、鳥はつぶらな瞳を此方に向けているが特に攻撃の姿勢は見せていない。
走った勢いのまま鳥に向かって突きを繰り出す。
その段になってようやく鳥は反応し始め、避け切れなかった槍は羽根に大きく傷をつけた。

その攻撃を受け、怒ったのか高らかに鳴いて猛然と嘴で突付いてきた。
一撃はたいしたことがないのだがいかんせん手数が多いため対応に苦慮してしまう。
また、命中力も高いのか回避しようとしてもその動作に追いついて突付きを食らうことがままある。

命中力が高く、手数が多いと回避型には相性が悪い。
ある程度の被弾は覚悟し攻撃を当てることに専念するしかないだろう。
そのとき急に体の疲れが回復する。
どうやらベリトがヒールをしてくれたようだ。

すると、こちらを突付いていたアースバードはベリトの方を向くと猛然と走り始めた。
突然の行動に俺は焦るが、結果的に俺に背を向ける形になったため俺から見ると絶好のチャンスだ。
とっさにその背中に槍を走らせる。
ギリギリ槍が届き背中に傷をつけることが出来た。
傷を受け足が鈍ったアースバードは此方の方が脅威だと感じたのか、再度此方に向き直る。
俺は横なぎに穂先を振るったままの勢いで槍を横に回転させ、遠心力の乗った石突を振り向いた頭にたたき付ける!

たまらずアースバードはたたらを踏み、頭を振りながら2,3歩下がる。
その隙を見逃さず、嘴を砕いた反動で止まっていた槍を左足で踏み込みながら右脇で縦に回すように穂先を袈裟に叩き下ろした。

その一撃は過たず鳥の首の付け根を切り裂く!

それが止めになったのが地に伏せた鳥が光の粒になって消えていく。
後に残った嘴と羽毛を袋に入れ、俺はベリトの下へと戻っていった。

「鳥がお前の方に行ったときは焦ったぞ」
「おう、まさかヒール飛ばしてヘイトが稼がれるとは。まさかこの序盤で設定されるとは想定外だったよ」
「全くだな。何とか此方にタゲを戻せたからよかったが、逃してたらお前がやばかったな」
「即死じゃなければセルフヒールで多少は粘れるだろうけど防御ステが全く無いからなー」

『ヘイト』とは、敵が誰を攻撃するかを決める指針となる値だ。
敵は基本的にヘイトが一番高いPCをタゲる(ターゲティングする)。
このヘイトはモンスターに対してそのPCがどのような行動をしたかで蓄積していくわけだ。
一般的に敵に攻撃するなどしてダメージを入れるとヘイトが上がる。
他にも今あったようにタゲっているPCに対する支援行動を取るとヘイトが上がったりすることもある。

つまり今の状況は、俺が攻撃してダメージを与えたため鳥は俺をタゲり攻撃してきた。
その俺にヒーリングを使用したベリトのヘイトが上がったため俺へのヘイトを上回り、ベリトを殴ろうと向かっていったのである。
そこで俺は何とかベリトに近づかれる前に攻撃を当てることが出来、それによって俺へのヘイトが増加。
再び俺のヘイトがベリトのヘイトを上回り俺に殴りかかってきたのである。

正直、これらの行動は大分高等な部類に入る。
他者の支援行動という自分のダメージにならないことでヘイトが加算されることや、ヘイトの増減によって逐次ターゲットを変えてくるのも厄介だ。
後者はうまくすればハメ殺すことも可能になる特性ではあるが。
後半の敵ならまだしも、序盤の敵など一度タゲるとその敵が死ぬまで馬鹿正直に攻撃を繰り返す敵など珍しくも無いのだ。

戦闘が終わった後ベリトが俺にヒールをして回復してくれる。
エンチャント技の代償で自動回復が無いのでありがたい。

「意外と強いぞ、この鳥」
「いやいや、見事な槍捌きでしたよ。ジスティアさん」
「茶化すな。正直こいつは回避型では相性は悪いな。高命中でさらに手数が多い」
「だからといってまた獲物を探すのもなぁ。何とかなりそうだし何とかしてみない?」
「なんとかするのは主に俺なんだがな…」
「まぁ、次来るときはちゃんと狩り場調べてから来ようってことで」
「情報に挙がる様なのは大抵VITがうまい場所なんだよな…」
「それならそれで選択肢が絞られるじゃん。VITが苦手ならAGIにはうまいことが多いし」
「それもそうか。まあ、実際に情報があればだな。この場で話しててもしょうがない」
「ごもっとも。とりあえずはここで狩るってことで」

さて、さしあたってさっき戦闘の反省会と対策の相談だな。

「見ててなにか問題点とか気づかなかったか?」
「んー?問題ないと思うぞ。というか茶化すわけじゃなく普通にうまい槍捌きだったと思うぞ」
「まぁ、散々リビとリビリオンを狩る時に練習したからな。そもそも、大半は行動補助だし」
「行動補助ったって頭に動きがイメージできなけりゃ効果も半減だろ」
「とりあえず、その話はもういい。賛辞は受け取っておくから建設的な話に戻るぞ」
「了解、って言っても俺が気をつけることなんてヒールのタイミングぐらいだろ」
「それでタゲが移るんだから重要だろうが。俺が二発当ててからならヒールしても移らないと思うか?」
「どうだろな、移った後一回殴ったらそっちに戻ったからそうかもね。
 でも、図らずもバックアタックになってたからそれでヘイトが余分に上がってるかも知れないし。
 なんにしろ試してみるしかないんじゃないの?」
「それが確実か…、出来ればやりたくないんだが」
「あえて俺が一発目の後ヒール飛ばしてタゲとって、ジスがバックアタック狙うってどうよ?」
「リスクが高すぎるだろ。お前が落ちたら狩りが終わるんだぞ」
「俺としては其れぐらいのリスクがあったほうが楽しいんだがな…」
「まぁ、狩りに飽きてきて終わってもいいぐらいになったらそれでやってみるか」
「あと、俺が眠くなったらだな」

さて、後は俺個人の問題だが、どうするか。
どうせ奇襲が出来ないようだから、初撃も打撃にしてしまうのがいいかもしれない。
打撃メインでひるみを誘って被ダメをなるべく受けないようにしよう。
なるほど師匠の戦い方の真似だな。
よし、それでは次の敵に向かうとするか。

「ヒールするときは声かけろよ」
「あいよ。お前も2発入れる前に死にかけるなよ?」
「善処するよ」

そんなことを言い合い、近くにいたアースバードに接敵する。
アースバードはこちらの存在に気づいたようだが、気にせず地面を突付いている。
俺はいつもの腰溜めの構えではなく、大きく振りかぶると鳥が頭を上げるのを見計らい、柄を頭に向かって打ち付ける。
だが、鳥はこの攻撃を頭を下げることでやり過ごした。
その後、鳥は先ほどと同じように猛然と突付いてくる。
体勢が崩れていた俺は、篭手でその攻撃のブロックを試みながら数歩下がって体勢を整える。
その間も突付かれてスタミナが減っていくが、一撃は余り多くないため体勢を直すのに成功する。

まずは一撃でも当てないと、ベリトは俺にヒールをすることも出来ないだろう。
まだ一撃も当ててないため振り向いたときに攻撃を当ててもこちらにタゲが戻る可能性が低いからだ。
だか、俺のスタミナも半分近く削られてきた。これ以上貰うとスタミナ曲線の効果でまともな戦闘すら覚束なくなる。
そこにいたってはベリトが回復をためらう理由はなくヒールをかけることだろう。
それは自分の身が危なくなることが分かっていてもだ。

今度は当てることを第一に、力を込めた横なぎの一撃をどてっぱら目掛けてぶちかます。
腹に攻撃を受けたことで、若干うめき声を上げるが当然ひるむことなど無く突付いてくる。

「ジス!いくぞ!」

その言葉と共に、ヒーリングが発動しスタミナが回復する。
それを見たアースバードは、予想通りベリトの方へ向き直り突進を敢行する。
前回と違い今回はその行動を予想できていたのだ。ましてや、そのタイミングを知らせる声すらあった。
完全に無防備になったアースバードの背後から万全の姿勢で穂先を使って突きかかる!

その突きは見事にアースバードの身を傷つけた。

渾身の手ごたえを感じて、次の攻撃に意識を移行する。

…だが、アースバードは足を止めることは無かった。

俺は、振り向くであろう鳥頭を捕らえることに意識が行っており…

…そのまま、ベリトに向かうアースバードを無様に見送った。

予想外の事態に意識が止まりかけるが、あわててアースバードの背中を追いかける。

しかし、アースバードの足は見た目どおり早く、ベリトが一撃を貰うのは避けられないだろう。
こうなってはベリトが一撃を耐え切るのを願うほか無い。

持っている槍を投げつけたい衝動に駆られるが、必死に自制する。
そもそもあたらないであろうし、奇跡的にあたったとしても無手となった俺にアースバードをさばくことなど出来ないのだから。

「ベリト!避けろ!」

我ながら無茶を言う。
だが、避けようとする行動自体は無駄ではない。
クリティカルを回避する可能性が上がるからだ。

その言葉を受けベリトは回避を試みようとしたのか体を捻ろうとする。

次の瞬間、その体とアースバードは衝突し、ベリトが弾き飛ばされた。

アースバードは再度攻撃を開始しようと走りだそうとして構えている。

だが、ベリトとの衝突で動きを止めた間に追いついた俺がそれを許す訳には行かない。
走ってきた勢いをそのまま握り締めた槍に伝え、力の限りぶちかます。

走り始めようとしていたアースバードは、その横からのベクトルに逆らいきれず吹っ飛ばされた。

俺は振り切った槍の惰力を使い、吹き飛んだアースバードの方を向き直る。
俺の目にはまだ地面に倒れこんだまま立ち上がろうともがいているアースバードが写る。
その優位を無にするような愚行は犯さず、そのまま走りよって上から地面と共に突き刺した。

それが止めになったようで、アースバードは鳴声を上げて動きを止めた。

アースバードは、光の粒となって消え、後に残るのは地面に突き刺さったままの槍と小さな羽毛だけだった。

それを確認すると、俺は槍を放して倒れたままのベリトの下に走った。



[18261] 20. PT戦2
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/11 01:02
「おい!大丈夫か!?」
「…っ、痛い…」

よかった、どうやら最悪の事態は逃れたようだ。
俺は袋から傷薬を取り出し、ベリトに使用する。
もともとのスタミナ総量が少ないベリトは傷薬一つでも大分回復したようだ。
立ち上がろうとするのを手を取って手伝う。
そして、ベリトは自分にヒールをかけて回復する。

「…ふぅ、死ぬかと思ったぜ」
「死んでなくてよかったよ」

とりあえず、お互いの無事を喜び、共に放り出したままだった各々の武器を拾いに行く。
俺が槍を刺さったままだった槍を引っこ抜き、傍らに落ちていた羽根を拾って袋に入れると、杖を拾って座りこんでいるベリトの元に向かう。

大分焦っていたため気づかなかったが、考えてみるにアースバードが追撃をしようとしてたのだからあの時点で死んでいないことは確定していた。
もし、戦闘不能になっていたらタゲは即座に俺に来ていたはずだからだ。
ベリトの下にたどり着いた俺は、座り込んでるベリトに声をかける。

「すまなかったな。今のは俺の完全なミスだ」
「全くだ。ただの見込みを確定として振舞うのはお前の悪い癖だぞ」

ベリトの批判にぐうの音も出ない。
ソロで狩っていたときだって、それが原因で何度も危ない目にあったというのに。

「ベリト、さっきの一撃どれぐらい食らった?」
「大体8割近かったな。
 曲線のせいで0.6倍に減算食らうし、杖もないし、そもそも痛いしでまともにヒールも出来なかったぞ」

真っ先に傷薬を使ったのは正解だったようだ。

「あれだけ派手に吹っ飛ばされたらクリティカルなのは疑い様はないな。
 2倍ダメを食らったとすると通常時で4割程度か。
 まったく…、よく耐えたもんだな」
「クリティカルか…。まぁ、なんにしろ防御力を高くしておいて正解だった。
 防具屋のお爺ちゃんに感謝しないとな」
「…おじいちゃん?」
「ん?お前の紹介してくれた防具屋のお爺ちゃんだがどうかしたのか?」
「いや…、あの爺をお爺ちゃんなんて呼び方をするのが違和感を感じただけだ」
「そうか?孫娘みたいにお爺ちゃんって呼んでくれって言われたぞ。
 いろいろおまけもして貰ったし、あのお爺ちゃんやさしいよな。
 今装備してるのもお金が足らなくておまけしてもらったやつだから、それが無かったら耐えられてなかったかもな」

あのくそ爺ぃ!
NPCの癖にPCを差別するとか許されると思ってるのか…!
いや、俺もなにかと世話になってるが、それとこれとは別問題だ。
もはやNPCじゃなくて中に人が入ってるとしか思えんぞ…

「そうか…。それは助かったな…」
「おう!街に戻ったら礼を言いに行かないとな」



それはさて置き、狩りを続けないとな。
まずは恒例となった反省会だ。

「ジスが悪いよな」
「全く持ってその通りだけどな…
 一応お前もクリティカル貰わないような工夫をした方がいいんじゃないのか?
 クリティカルじゃなきゃ、あそこまで切羽詰ら無かったのも確かだぞ」
「なんだ?責任転換するつもりか?」
「そうは言ってないだろうが…」
「分かってるって、…そこまで凹むなよ。
 つっても、どうすりゃいいのか俺には検討がつかないぞ」
「まともに食らわなければクリティカルにはならないんだが…」
「とりあえず、避けるのは無理だったな。避け始めたのが遅かっただけかもしれんが」
「後は防御か…。今度来るときは盾でも持ってくるか?」
「あー、盾か。俺に装備できるのかな?
 盾のステ制限って何?STRだと絶望的なんだが」
「そのためにSTR振るとか愚行の極みだな。
 おじいちゃんに聞けば分かるだろ。お前になら優しく教えてくれるさ、…お前にならな」
「ん?なんか引っかかる言い方だな…」
「まぁ、とりあえず現状では避けるしかないか。がんばれ」
「やってはみるが期待するなよ。AGI,DEX初期値をなめんな」

これで、ベリトのほうはいいだろう。

「さて、次は俺の問題だな」
「決め付けて動くな。以上」
「…、はぁ…」

まぁ、確かにその通りなんだが…
ある意味、議論の余地は無いのは確かではある。単に俺自身の問題だからな。

思考の幅を広く持たないといけないとは思ってはいるんだが。
うまくレールに乗ってくれるといいんだが外れると一気に弱くなる。
言ってみればアドリブに弱いといえるだろうか。

とりあえず、一撃目の打撃を頭を狙うより上から叩いたほうがいいだろうか。
それなら、頭に当たらずとも体には当てることが出来るだろう。
それから…

…いや、こうやって動きを決めて掛かるからダメだと反省したばかりではないか。
とりあえず最初の一撃さえ当てることが出来たら何とかなるだろう。
それすら出来なかった事態を乗り越えることが出来たのだから。


よし、気を取り直して次のアースバードを狩ることにしよう。

時間も3時半を過ぎ、周りには俺たち以外に人がいない。
もともと人気の無い狩場なのか、この時間までやってるような人たちはこの段階をとうに過ぎたのか…。

何はともあれ、敵を探すのは簡単だ。
近くにいたアースバードに狙いを定め、気を引き締めて近づいていく。
ある程度近づくとやはりこちらに気づいてくる。
やはり、奇襲はさせてもらえないようだ。

そのまま近づき槍を振り下ろす。
アースバードはその槍を避けようと頭を傾けるが、俺は頭に当てるのをあきらめ少し調整することで体に当てることが出来た。
今度こそ最低限はこなせただろう。
被ダメ覚悟の攻撃でアースバードと殴りあう。
二発目を当てたとき、ベリトから知らせる声と共にヒールが飛んできた。
それを受けてやはりアースバードはベリトのほうを向く。
俺はその隙を見逃さず、槍を振り回して石突で頭を狙う。

俺は頭の中で、この攻撃があたった場合、あたらなかった場合共にどうするかを検討する。
あたればそのまま回して穂先で斬りつけ、あたらなければ槍を止めて突きに移行する。
そう方針を決め槍を握る手に力を込める。
幸いにして、狙い通りに頭に打撃が通り、アースバードがひるむ。
一匹目と同じように、反動で止めた槍を右脇で縦に回しながら踏み込んで、上から穂先で切り下ろした。

そのままの姿勢で様子を見るが、あたりが浅かったのか決めきることが出来なかったようで、アースバードはこちらを向いて攻撃しようとしてくる。
俺はそれをみながら下段の構えになっていた槍を跳ね上げ、下から突き上げる。
それは過たずアースバードに突き刺さった。

それが決め手となり、アースバードは鳴声と共に地に伏し、光へと変わっていった。
後に残った嘴を袋にいれてベリトの下に向かう。
ヒールを貰いながら次のことを相談する。

「やっぱり一回俺のタゲに移した方がいいんじゃないか?」
「たしかにその方が楽になるが、今のも結構綱渡りだったぞ。
向いたときの攻撃でタゲが戻らないと、さっきと同じ事態になりかねん」
「最悪の事態でも死ぬことは無いって分かったんだし、やる価値はあると思うがなぁ」
「そうだな…、とりあえず次は3発当ててからヒールしてみてくれ。
それでタゲが移らないようなら、その策の安全性も増すだろ」

方針を決め、次のアースバードに向かう。
一撃目、二撃目を削られながらではあったが当て、三撃目を当てたところでヒールが飛んでくる。
しかし、今度はアースバードはベリトに向かわず、こちらを攻撃してくるままだ。
ベリトのヒールを貰いながら泥臭く殴りあい7発目にしてようやくアースバードは沈んだ。

「正直、今の戦いの方が見てて怖いぞ。
3発当てた時点で曲線の減算域に入りそうだったじゃないか」
「確かにな…、お前のマインド消費量も多いし2撃目にヒールで回復とタゲの移動するのが一番いいようだな。
3発有れば確実にタゲを取り返せるようだし、危険度もそう多くなさそうだ。
しかも今回7発もかかったことを考えると、振り向きなどに当ててるのはクリティカルになりやすいのかも知れない。
2匹目のタゲを取り返せなかったのもその辺りが関係してるのかもしれん」

俺たちは3戦目の戦略を狩りの基本にしてアースバードを狩ることにした。

そして、これが大当たりだった。
確実に2発当て、その間にたまったダメージをヒールで回復しつつ、タゲの移動を図る。
タゲの移動で隙だらけの鳥頭に打撃を浴びせ、当たって怯めば大きな攻撃を入れて討伐時間の短縮を図り、怯まなくても追加で2、3発当てれば沈む。
最悪の場合である当たらなかった場合だが、ベリトに向かう背中を突きで傷つければ安定してタゲを取り戻すことが出来た。

そもそも、ベリトに向くときに狙う頭が回避されることはほとんどなかった。
なぜなら、クリティカルになりやすいタイミングであると言うことは奇襲と同じということでもある。
避けられる可能性自体が低いのだ。
さらに言うなら、クリティカルが出るため怯みやすく一石二鳥どころか三鳥である。

ベリトにしても初めの突進で痛い目を見たため、狙われる緊張感があって楽しいらしい。
ベリトのマインド使用量もタゲ取りを兼ねる1回と戦闘終了後の1回、たまに泥仕合になったときは2、3回と増えるが、少し休めば取り戻せる量だ。
常に泥仕合になるよりもはるかに効率がいい。

安定した狩り方を確立した俺たちは調子に乗って狩り続けた。
ベリトが眠気を訴えるまでの4時間ほどで狩った数は3桁に迫るかもしれない。
尋常ではないペースだが、VRであるため肉体の疲労は無く、徹夜のハイテンションが加わればお星様を手に入れたイタリアの赤い配管工にも似た状態になる。

そこに安定した狩りかたを確立し、ノンアクティブしかいないため事故の起こりようが無く、全く人のいないフィールドでモンスターを全て独占できたのだ。

もう朝の8時近い。俺も腹が減った。
ベリト…いや、武にいたっては昨日はバイトしてたんじゃなかったんだろうか?
むしろよく今まで起きていたと思うぐらいだ。

街にもどること決め、緊張感を切らしたベリトは歩いて街に戻るほどの気力も無かった。
俺は虎の子の魔法の羽根をベリトに渡して先に帰らせた。
俺はじっくり歩いて戻るとしよう。

『そうだ、まだ気力が有ったら宿屋に泊まって落ちとけ。熟練度が上がりやすくなる』
『無理。もう落ちる。また昼ごろ戻る』
『俺も落ちて寝るからおきたら携帯に連絡してくれ』
『了解』

眠さが限界なのか、会話が短い。
その会話を最後に音信不通になる。
ログアウトしたのだろう。

俺はゆっくりと街に戻ることにした。



[18261] 21. 準備
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/11 01:18
街に戻った俺は神殿に向かう。
階位の上昇などを行うためだ。

いつもどおりシスターに挨拶し、女神像に祈ってアラナスに拝謁する。
凛々しい姿から美しい声が流れ出るのを聴く。

「力をつけてきたようだな。
 汝の位階は5から8に上がった。
 汝は新たに9つの種の力を得ることが出きるだろう。」

今回は、あほみたいに狩っただけあって階位が3も上がって8になっていた。

「汝は我が加護を持つものとして相応しく無き行動があった。
 圧倒的弱者を弄ぶ様に命を摘んだことだ。
 だが、汝は相応しき行動も数多くあった。
 弱きものを背中に庇い、幾多の戦いを潜り抜けたことだ。
 よって我が力の一部をさらに使うことを許可しよう。
 汝の我への信仰が8の階位にあることを認める。
 その力をもってよりいっそう我が加護を持つものとして励むがよい。
 我は汝を見守っているぞ」

気が付けばいつもどおりに女神像の前に戻ってきている。
階位だけでなく、信仰も3つ上がって8になったようだ。
しかし、弱者をもてあそぶとは何のことだろうか?
考えても分からなかったので、取り合えず棚に上げステータスを振ることにする。
種を8個使ってSTRを4あげるこれで補正こみで20となりボーナスがもう1もらえる。
種1個で上がるところまでAGIとDEXをあげて完了とする

---ステータス----------------------
名前 ジスティア・ネイシー 位階8
信仰神 戦神アラナス 信仰8

STR 15+5(22)
VIT 1+3(4)
AGI 10+5(16)
DEX 9+5(15)
INT 1+2(3)
MND 1+2(3)
-----------------------------------

次にスキルだ。
悩むな…、ベリトが居てくれるためスキルの選択に幅が出来た。
アクティブスキルの運用を視野に入れても良いだろう。

選択肢としては三連突き、長物修練強化、足捌き強化辺りであろうか?
アクティブスキルの三連突きは、槍と相性がよく剣や短剣などでも十分使える。
各一撃は通常攻撃よりも少なくなるが、3発トータルで見ると大幅な瞬間ダメージのアップを見込める。
入門で一撃が6割*3発で1.8倍のダメージが期待できる計算だ。
スキルを強化するに従って一撃のダメージ減少率が下がり、皆伝になると100%のダメージが与えられるため都合3倍ダメージが期待できる。
しかし、強化するに従い消費スタミナも上昇するため、総スタミナ量の低い俺では無計画にスキルを強化するわけに行かないので悩みどころである。

とりあえずベリトとも相談してみよう。
俺がアクティブスキルを取ると使用するのは回復だよりになってしまうのだから。

とりあえず、長物修練と足捌きを強化して後一つは保留としておこう。
候補としてはバトルスタンスの強化なども考えられることだしな。
武器屋と防具屋に行ってもいいが、どうせ明日ベリトと合流してからも行くだろうから、そのとき一緒に済ますことにして今行くのはやめておこう。

となると、さし当たってやることが無くなったな…。
宿屋に戻って俺も寝るかな。

宿屋の部屋に戻った俺は、掲示板をざっと流し読みし、狩り場の選定によさそうなスレッドが無いかを確認していく。
いくつか参考になりそうな物を見つけ見当をつけたところで、眠気を覚えたためログアウトして寝ることする。

眠気とはまた違った意識が遠くなる感覚を覚え、気づけばVRシステムとの接続が切れ現実に戻ってきた。

現在時は朝の9時ごろだ。
武がいつ起きるかにもよるが、昼過ぎぐらいに起きるつもりでいればいいだろうか?
トイレに行った後、枕元に携帯端末を置きベットに潜り込んだのだった。



確りと熟睡し、携帯端末のアラームによって起きたのが大体昼の1時ごろだった。
着信履歴を確認するが武からの連絡はまだ無いようだ。
武がログアウトしてから5時間ほど経つが、計画的に仮眠を取っていた俺に比べて武はバイト終わりから朝までやっていたようだから、まだ寝たり無いかもしれない。
こういった事態は結構あって、ここで俺から連絡を取って起すかどうかは毎回悩む。
疲れてるのを起すのはかわいそうだが、起さないと時間を無駄にしたと怒られる。
どうしたもんか…。

まぁ、さし当たって俺もすぐログインするわけでもないから、もう少し様子を見ることにしよう。
冷蔵庫の中身が空だから買い物をしてこないと飯も食えない。

俺は近くのスーパーに買い物に行き、ついでに寄った大学の学食でメシだけ食って帰ってくる。
ちなみにうちのアパートは大学から徒歩5分である。

部屋に戻ると、時間は1時半ごろだった。
そろそろ、武に連絡することにしよう。
携帯端末を取り出し、武にコールする。
暫くコール音が続いた後電話口に武が出た。

「よう、おはよう。よく寝れたか?」
「おー…、おはよー…。…すまん、…いまおきたとこ」

まぁ、そんな眠そうな声出してれば申告されなくても分かるがな。
ちなみに、武の声は普通に低くて太めの男の声だ。

「大丈夫か?もう少し寝てるか?」
「あー…、いや…、大丈夫。うん起きるよ。助かった、放って置かれたら夕方まで寝てたところだな…」
「俺は今からRtGoにログインするから、また中でな」
「了解、俺も飯食って風呂に入ったら向かうよ」

通信が終了し、俺は言葉通りにVRシステムに向かう。
VRシステムを起動し、RtGoの世界に旅立つことにした。

起動時のシステムメッセージや、プレイング注意点なんかをパスしてRtGoの世界に降り立つ。
場所はログアウトした場所と同じ宿屋の中だった。
武がログインしてくるまではもう少し間が有るだろうし、ログアウト前に引き続き狩り場の選定でもしておくことにする。

昨日の狩り場は図らずもとてもよい場所であったと思う。
武…ベリトのスキル構成で敵のタゲを一瞬引けるというのは行幸であった。
攻撃魔法系はほとんど覚えないと言っていたので今後はこういった狩りのスタイルは厳しいかもしれないな。

やはりVIT型での狩り場報告が多く直接的に参考に出来るデータがない。
回復と回避槍という特殊性故だが。
また、俺は回避型としてはそれなりに早い方である様でそういった意味でも情報が少なかった。

回避型がおいしいモンスターというと、単発の攻撃力が高い代わりに、動きが遅く、命中が低いものである。
一般的に重量級のモンスターがそれに当たるわけだが、序盤のフィールドには余りそういったものが配されていることが少ない。
序盤のフィールドには、動物系や植物系などが多く、軽い攻撃の代わりに動きが機敏で捕らえにくいものが多いのだ。

VIT型の狩り場報告を眺めながらどうした物かと考え込む。
すると一つの報告が目についた。
この街は北と東を川に面しているのだが、北の川沿いに西に進むと海に出るらしい。
その海辺にポップする(出現する)亀が、攻撃が痛くてまずかったというものだった。

 亀!

それを見た俺は天啓を得た気分だ。
亀は動物型モンスターの一種で序盤から水辺のマップに出現することが多く、亀のイメージどおり移動が鈍重で、重量に物を言わせた攻撃が痛い。
正に俺が求める条件に一致している。
ただ、気になるのがアクティブなどの性質が書かれていないことと他に出現するモンスターなどの情報が無いため安全に狩れる場所なのかが疑問である。
また、移動速度が遅く設定してあるため、遠距離系の神を信仰するPCが多くいる可能性がある。
なんにしろ、それらの問題は実際に行って見て様子を見てみないといけないだろう。

他にめぼしい物は、森に生息するツタで攻撃してくるウッドスピリットなどだが、動物系アクティブであるウルフが徘徊しているため後方のベリトの危険が高く余り適しているとはいえない狩り場だ。

場所によってはウルフがいないところもあるかもしれないので森にいってみるのも一つの選択肢だな。

そうやって、情報を確認していると武がやっとログインしてきたらしく、チャットで話しかけてきた。
当然チャットの声は、すこし高めの可愛らしい声だ。

『よう、さっきぶり、待たせたな』
『ああ、武か。確り寝れたのか?』
『ゲーム内でリアルネームを呼ぶんじゃねぇよ!
 もう、眠気は取れたぞ。万全だな』
『ああ、すまん。俺は今宿屋にいるんだが、そっちはどこだ?』
『モノリスのすぐ脇だ。街に戻ったら力尽きたからな』
『ならとりあえず、宿屋に行って宿泊して来い。熟練度の成長率に関する制限がリセットされる』
『なにそれ?』
『狩り続けると熟練度成長率が落ちてくるんだそうだ。宿屋に泊まるとリセットされるらしい』

俺は、仕入れていた情報をベリトに教えてやる。
まあ、こういうのは先にはじめてたやつの義務だろう。

『ほー、まぁ、分かった。後は神殿行ったりしないとな…』
『ああ、俺は階位と信仰ともに3Lv上がったぞ』
『お、それなら俺も期待できるな』
『とりあえず、俺は宿屋で狩り場調べておくから、神殿行った後宿屋に来い』
『りょーかい。あ、宿屋の場所マップに送ってくれ』
『送った。そういやスキルで相談したいんだがいいか?』
『ありがと。べつにいいけど、あらたまって何だ?』
『アクティブスキルを取ろうか迷ってるんだよ。今の俺が取るとお前の回復頼りになるだろ。
 お前の意見も聞いてみようかとおもってな』

俺がそういうと少しの沈黙の後、ベリトは答えた。

『…別に俺としては、取ってもいいんじゃないかと思うが…
 四六時中おれと組めるわけでもないだろ。そういうときに死にスキルになるんじゃないのか?』
『そこが悩みどころなんだよな。臨時のPTでヒーラーがいないことは無いと思うが、そうなった場合は回復薬頼りになっちまう。
 ソロの場合は封印しかねんな。金があまってりゃ回復薬飲んでもいいが…。現状では少々きついのは確かだ』
『でも、アクティブを1個も取らないのも寂しいよな。試しに1個とってみるのもいいんじゃないか?』
『三連突きがLv1でも1.8倍ダメだからありかなと思うんだがな。消費スタミナの関係でLv上げるつもりもないし』
『一つぐらいはいいんじゃないのか?AGI型の人柱になるつもりで』
『そうだな、取ってみるか』
『そうしとけ。お、神殿に着いた。一端切るぞ』
『了解』

俺はそのまま宿屋にとどまり掲示板を確認する作業に戻る。
狩り場以外の情報も見ていくが、さして有益な情報は投稿されていない様だった。
まぁ、この序盤では情報を発見しても出し渋ることは十分に考えられる。
当分新しい情報は入ってこないかもしれないな。

『LvUP完了、7-8になったぞ。いまから宿屋に向かう。身を挺して戦闘に参加したことをえらく褒められたぞ』
『へぇ、俺も似たようなこと言われたな。そういえば、シャルライラってどんな感じの神様なんだ?』
『胸部に母性を感じさせる天然系な感じ』
『神様が天然系って…、さっぱりイメージが出来ないんだが…』
『端的に言えばあんまり威厳が無い』
『こっちのアラナスはえらく緊張感があるんだがな…。母性に関してはノーコメントで。
 まぁ、クールビューティな麗人って感じだな』

暫くして、ベリトが宿屋に到着する。
部屋を取るように薦め、ついでに俺も更新しておく。
手持ちの金も1sあったので一週間にしようかとも思ったが取りあえずは1日分で15cを払っておく。
ベリトが部屋で休んでいる間に俺は宿屋のオバちゃんと話をしてすごしていた。
大した話をした訳ではないが、こういうときにAIが優秀なのはたすかる。

暫くして、ベリトが出てきて宿屋のオバちゃんに十分休んだと太鼓判を貰ったところで移動を開始することにした。



[18261] 22. 準備2
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/12 11:41
「とりあえず武器屋と防具屋、道具屋に装飾屋に行けばいいか。
 スキル取得のために神殿に寄りたいが、武器屋の後に行くのが効率がよさそうだな。
 スキルを取るだけだからすぐ終わるだろうし」
「他には何をとったんだ?」
「長物修練と足捌きのランクを上げた。そういうお前は?」
「似たようなもんだな、魔器修練とヒーリング、湧き上がる精神をランクアップして神の祝福を取得した。
 神の祝福はお待ちかねのステータス増幅系だぞ。STR,INT,DEXにボーナスがつくエンチャントスキルだな。
 AGIが上がるのもあったんだが、現状の情勢では様子見だな。
 皆伝すると移動速度が上がるらしくてそれは魅力なんだが、そのために序盤のポイントをつぶすわけにはいかん」

確かに、移動速度が上がるというのは非常に魅力的だ。
移動速度はどの狩場に行っても狩効率に直結する要素だからな。

「なるほどな。ところで狩り場を調べたんだが海へ亀を狩りに行こうかと思うんだがどう思う?」
「それだけの情報で意見を求められてもな…、まぁいいんじゃないか?AGI型に相性のいい定番種族だし」
「ただ、狩り場が混んでそうではある。遠距離とかにしてもおいしいだろうからな」
「平日の真昼間なんだし大丈夫だろ」
「あと、狩り場の情報に詳細がなかったから、危ないアクティブなんかがいる可能性があるな」
「それは、行ってみないと分からないからどうしようもないだろ」
「それはそうだが…、他に案はあるか?」
「一つ希望があるんだがいいか?」
「なんだ?」
「どでかいリビとやらを見に行きたいぞ!昨日は結局会えなかったからな!」

予想外の答えが返ってきた。
まぁ、いまさら急ぐわけでもないし別にかまわんか。

「別にいいけどな」
「おろ、すんなり賛成したな。昨日は嫌そうだったのに」
「危険に突っ込むのに、うれしいわけが無いだろ。今回はいい機会かなと思っただけだ」
「危険がうれしい人はいるだろうけど、確かにおまえには似合わんキャラクターだな」
「褒め言葉と受け取っておくよ」

暫くして、武器屋に到着。
アースバードの素材を換金する。ちなみにドロップした物は、
地鳥の嘴63個、地鳥の羽毛28個、地鳥の爪17個、やわらかい羽毛4個だ。
このうち武器屋では嘴と爪を買い取ってくれた。それの合計が9s12c
2人で割っても4s56cと大金だ。しかも、まだ素材は残っている。

俺は早速、槍を新調することにして見せてもらう。
やはり今までと同じような直槍型を選ぶとそれが2s40cであった。
槍を下取りに出すか迷ったが、下取り額が50cと馬鹿に出来なかったので手放すことにする。
これでも俺の所持金は3s60cとなり懐はあったかい。
金銭的にはもっと高い槍も買えるのだが、自身の熟練度の不足で扱うことが出来ないため泣く泣く断念した。
高い熟練度が必要だという槍の欠点を改めて認識した出来事だ。

一方ベリトのほうだが、まず店主に盾のことを聞いてみると盾を扱うには力よりも技術が必要らしい。
つまりDEX依存で装備できる盾が決まるということだ。これはうれしい誤算だ。
さすがにタワーシールドなど大きな盾は筋力が必要となる場合もあるらしいが、通常使われるような盾ではその限りでないとのことだ。
DEXであれば、ベリトの基本ビルドからも大きく逸脱することなく振ることが出来るだろう。
ベリトは先ほどの階位上昇の際にステータスアップを見送っていたため、DEXを振れば現状でも盾が使える可能性が出てくる。
ベリトは嬉々としてDEXを振ってくることを決めた。
よほど前回のアースバードの突進が痛かったらしい。

その後、片手で盾を持つことが半ば確定したため、杖ではなく片手でも扱える魔具であるところの本へシフトすることに決めて、その旨を親父に伝える。
本に関しては武器屋で売っておらず(当たり前ではあるが)神殿で売ってあった信仰書を買って来るとのことだ。
ちなみに今まで使っていた杖は売らずに予備に取っておくらしい。

そこで俺たちはそれぞれの神殿に分かれて用事を済ませ、防具屋で改めて集合することにした。

武器屋を出た俺は神殿を目指して歩く。
やがて神殿に着いた俺は、中に入り三連突きのスキルを修得した。

その後、防具屋に向かった俺は、もうすぐ防具屋だということころで陰気臭い裏通りに似合わない二つの朗らかな笑い声が聞こえてきた。
そのうち一つはベリトだろう。聞きなれた声だ。
では、もう一つは誰だろうか…?
脳裏に一つの仏頂面が浮かんでくるが、まさかそんな、と考えを否定する。
だが、状況証拠的にそれしか浮かばない。

防具屋に近づくにつれて時々響きそれらは次第に音を増していく。
もはや、自分を誤魔化すのはやめて置こう。
ここから先は、心してかからないと心不全に陥りかねない。

俺は心を決めるとたどり着いた防具屋の扉を押し開けるのだった。

扉が開いたのに気づいたのか、ベリトに向けた笑顔のまま此方を見やる爺。
そこからの爺の変化はいっそ見事だ。
目じりをたらした笑顔は急速冷凍され、何時もの仏頂面へと変化する。
俺はその変化が終わりきってやっと何時もの爺と認識することが出来た。
表情を一変させるだけでなく、舌打ちすらしやがった爺。
ベリトも此方に気づき俺の方を向いていたため気づかなかったようだが。
俺が来たことを悟って笑顔を見せるベリトを見て、再度俺を見ながら舌打ちをしやがった爺。

こいつ…、二重人格なんじゃないのか?
というか、絶対NPCじゃなくて中に人が入ってるだろ。
GM(ゲームマスター)のひとりじゃないのか?
そんなことを考えるも、それを確認する術は残念ながら俺には無い。

それはさて置き、素材の売買と装備の更新を行うことにする。
正直、さっきの様子をみて、素材をベリトに渡して置いて売ってもらっていたほうが高くなったんじゃないかとすら思ったが、後の祭りだ。
素材は羽毛28個が4s48cになり、さらに資金が増えた。
俺の個人でも5s34cとなり、大幅に資金面で楽になった。

結局、靴と篭手以外を新調し大幅に装備が増強された。
皮鎧2s、額当て65c、肘当て70c、膝当て80cで総額4sにもなった。
今まで使っていたものを下取りに出して80cほど戻ってきたため、残りは1s99cだ。
一気に懐が寒くなったな。

一方ベリトは、懇切丁寧に盾の使い方を習い、1sほどの丸盾を買ったらしい。
ローブも新調したのだが、その時に下取りに出したローブが妙に高かったのが気になったが…、俺の精神衛生上よろしくないので忘れることにした。
ベリトも気づいていないようだから問題は無いだろう。
他にも靴や、レギンスなども一通り新調したのだが、なぜだが俺と出費が同じ程度だったようだ。
盾という丸々新しい装備を買ったというのに。
爺さんが中身入りなことを半ば確信しつつ防具屋を後にする俺たちだった。

さて、次は道具屋と装飾屋だ。
装飾品は、前衛系では余りなじみが無い。
なぜなら腕につけるものがほとんどなので篭手を付けていると付けられないのだ。
せいぜい首輪が一つぐらいが関の山だろうか。
一方、魔術師系ならば篭手を付けることは少ないため、腕輪に指輪に首輪などをつけることが出来る。
自力で出したレアのリビリオンの首輪を持っているため今まで特に装飾屋に用事は無かったのだが、ベリトが新しくしたいというのでついていくことになったのだ。
最も、ベリトとペアで狩っているときはリビリオンの首輪は無意味なので俺もちょうど新しいものが欲しいと思っていたところではある。

差し当たりベリトが世話になっているという装飾屋に行くことになった。

そこは何でも神殿の斡旋を受けているらしく信用出来るらしい。
こういう話を聞くとすぐに後ろに流れる金を想像してしまうおれはきっと心が汚れているのだろう。

当然のようにシャルライラの神殿の近くに出店しており、俺は行き道で初めて他の神の神殿を間近に見ることになった。
もっとも、特に外観は変わらなかったので、違うのは中においてある神像ぐらいのものなのかもしれない。

その神殿の前を通り過ぎ、少し行ったところにある店に入る。
中にいたのは中々に美人なお姉さんだった。

「あら、ベリトちゃん。いらっしゃい」
「こんにちわ、マルガさん。見せてもらってもいいかな?」
「ベリトちゃんならいつでも歓迎よ。ゆっくり見て行って頂戴。
 あら?そちらの後ろにいる殿方は誰かしら?」
「今、一緒に行動してるジスだよ。前々からの友達なんだ」

話が俺に飛んできたので自己紹介しておく。

「ジスティアです。今後ともよろしく」
「こちらこそよろしくね。ところで…、ジスティアさんはベリトちゃんの彼氏なの?」

予期しない質問を唐突にされ、目を白黒させてしまう。

「あはは、ジスはただの友達だよ。俺にその趣味は無いからね」

笑いながら否定するベリト。
言いたいことは分かるし俺もその趣味は無いので願い下げだが…。
その姿で言うとお前の方が特殊な趣味かと思われ兼ねんぞ。

「ふーん、まぁいいけど、ジスティアさんは見たところ近接よね。ここに来たのはベリトちゃんと付き添い?」
「いや、回避なんかに効果が有る首飾りが無いかと思ってきたんだが…、あるいはスタミナの総量が上がるようなものがあると助かるな」
「へー、回避ねぇ…、スタミナが上がるものはこの辺りでは作られてないから扱ってないわ。
 ごめんなさいね。回避に関するものを出してくるからちょっと待っててね」

そういってカウンターの下に引っ込んだと思うと、何かごそごそと探している音がする。
ちなみにベリトは店の中の装飾品を好きに手にとっていろいろと見ている様だった。
少ししてお姉さんの頭がカウンターから出てくる。
髪の毛に埃がついているのは指摘しない方がマナーだろうか?

「回避というとここら辺かしらね。手にとって見れば効果が分かると思うわよ」

そういってカウンターにいくつか首飾りを並べる。

俺は言葉どおり手にとって眺めてみると脳裏に効果が浮かんでくる。

  チェンパーの首飾り:防御上昇(微)・回避力上昇(微)
          チェンパーを象った首飾り。見た目の問題で使用する人は少ない。
  アースバードの首飾り:防御力上昇(微)・足捌きスキル効果上昇(小)
          アースバードを象った首飾り。これをつけたものには大地が少しだけやさしくなるらしい。
  ジタンの首飾り:回避力上昇(小)
        ジタンを象った首飾り。可愛らしいサルの姿は、都会では中々に人気がある。

なかなかの性能なのだろうか?
書き方が抽象的過ぎていまいちどれぐらい上がるのかがわかりづら過ぎる。
この中で選ぶならばアースバードが一番だろうか。
足捌きスキルを持っていないと無意味であるため、持っている俺ならば相対的に優秀である可能性が高い。
正直判断基準が無いため直感にしたがってアースバードを購入することにする。

「はいはい、それなら50cよ」
「お、ジスは何を買ったんだ?」
「アースバードの首飾り。防御力微増、足捌きスキル効果が小増だってさ」
「あ、スキル効果UP系買ったのか…」
「何だよ。歯切れが悪いな」
「あー、いや、スキル効果UP系は補正がかかる元が少ないだろ?
 だから、単純に限定条件だから高いだろうと思って買うとそうでもなかったりするんだよ」

言われてみればそうかも知れない…、失敗したかな…。

「あらあら、あんがいそうともいえないわよ?
 アースバードは回避をあげるというよりも足場の悪い場所でも回避が落ちないって効果が大きいのよ。
 悪くない選択だったと思うわよ?」
「へぇ、それならよかったのかも知れないな」
「ところでベリトちゃんは何にするか決めたの?」
「おう、この三つをくれ」
「あら、三つもなんてお金は大丈夫なの?」
「今は結構懐があったかいんだよ」
「うらやましいわねぇ、これなら合計で1s30cって所ね。大丈夫?」
「おう」

カウンターに三つ置かれたアクセサリの内訳は腕輪が一つ、指輪が2つだった。
そういえば、今ベリトがつけている装飾品は首輪と腕輪が一つずつだった。
これで大まかにそろったということだろうか?

目的を達した俺たちは、それぞれ新しいアクセサリを身に着けて店を出た。
ちなみに指輪は最大で片手に4個までつけることが出来るのだが2個以上つけると器用さが損なわれるらしい。

道具屋は南門周辺にある店に適当に入ればいいだろう。

さて、次に目指すのは南門だ。



[18261] 23. ドスリビ戦
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/12 14:11
俺たちは南門へ向かって足を進めていた。

しかし、ベリトと連れ立って街を歩いていると周りの視線がいたい。
中身を知らずに、黙ってれば文句なしの美少女だし、しょうがないのかもしれないが…

南門に近づき適当な道具屋に入ることにする。
とりあえず俺が必要なのは初級傷薬をぐらいのものなので楽だ、とりあえず10個買って50cを払う。
ただ、使ってしまった魔法の羽根を補充するかどうかが悩みどころだ。
50cは払えない額ではないが、なかなかに大きい出費だ。
まぁ、何かあったときのために一応買っておくか。
これで財布の中身は残り49cだ。だいぶ寂しくなってしまったな…。

一方ベリトは結構悩んでいるようだ。
まぁ、マインドを回復する初級高心薬は初級傷薬に対して中々に高いからな。
しかし、精神を回復する薬ってなんだか危険な香りがするな…

暫く悩んでいたが、初級傷薬を俺がそれなりの量買ったので初級高心薬一本に絞って幾つか買うことにしたようだ。

これで、とりあえず準備は終わりだ。
ドスリビ見学ツアーに出かけるとしよう。

ちなみに、腰の袋がSTRで内容量が決まるのは前述の通りだが、それだと魔術師系が不利になってしまうと思うだろう。
だが、魔術師系は袋とは別に自身の影の中にアイテムを保管できるらしい。
また、その内容量はINTと共に上昇するらしい。
買ったアイテムを影に放り込んでいたベリトの話だ。
4次元ポケットからいろいろ出せるよりも、影にしまえる方が明らかにかっこいいと感じる俺は中二病なのだろうと思う。

南門を抜け、太陽の下で草原を歩いていく。
熟練度稼ぎと言って近くにいるPCにヒールを掛けながら進むベリト。
手持ち無沙汰な俺も近くにいるリビでもいじめようかと思ったとき、神殿でのアラナスの言葉を思い出した。

――圧倒的弱者を弄ぶ様に命を摘んだ

あの時も、こうやって見かけたリビを殺していた記憶がある。
もしかして、アラナス様とやらはこれが気に入らなかったのだろうか?
さしておいしさも無いのでリビ狩ることはやめて、大人しく歩くことにした。

暫くすると夜にはなかった大きなものが見えるようになる。
どうも動いている様にも見える大きなものはどう考えても目的のドスリビリオンだろう。
それを見た隣のベリトは、無邪気にはしゃいでいる。

「おお、すげぇ!なんだあのデカいリビ!」
「エリアボスだしろうな…、しかし、冷静に見ると牛よりも大きい程度なんだな。
 追いかけられたときはもっとでかく感じだもんだが…」
「精神的プレッシャーで大きく見えると言うやつだな!
 よし!行けジス!俺ここで応援してるから!」
「はぁ!?あれに殴れっていうのか?」
「いや、真面目な話いけそうじゃね?ここらの敵は狩れるわけだし、早々無茶な強さはしてないだろ」
「そういわれたらそうかも知れないが…」
「男は度胸!行ってみようぜ!」
「度胸を出して行ってくるのは俺だけどな…」

俺はバトルスタンスを発動させる。
ベリトは俺に神の祝福をかけてくれた。
確かに、ここら辺を攻略したころに比べ装備も一新したことだし倒せないこともない気がする。
気合を入れて突っ込んでみよう。


ドスリビリオンは意外なことにノンアクティブだった。
前追いかけられたときは、殴った奴が逃げたためのタゲ移動だったようだ。
くそ、やっぱりあの時は擦り付けられただけだったのか…。
いまさらの事実が判明した。

そのまま後ろを向いている時を見計らい一気に距離を詰め横腹に突きかかる。
その突きは見事に突き刺さり会心の手ごたえを感じる。
そこでドスリビは、怒りの雄たけびを上げ前足を上げて此方に殴りかかってきた。

唸る風がその威力を感じさせるが、巨体ゆえの鈍重さは回避するには容易い。
危なげなくバックステップで回避した俺は、攻撃後の隙をさらすドスリビの頭に石突を叩き込んだ。
通常なら怯むであろう攻撃を受けたはずだが、ドスリビは意に介さずに攻撃を仕掛けてくる。
怯まなかったことに少々驚き、反応がわずかに遅れて攻撃をかすってしまう。

かすっただけなのに結構なスタミナを持っていかれる。
まともに食らえば、ましてやクリティカルを貰えばどうなるかは想像したくない。
少なくとも曲線での弱体化ゾーンに入ってしまうのは確実だろう。

その時、俺の後ろからベリトのヒールが飛んでくる。
一瞬アースバードの時のことを思い出し、ドスリビの動きに注視するが、タゲが変わることなく引き続き俺を攻撃してきた。
食らったダメージを回復して貰い、ドスリビの攻撃を回避する。

ドスリビの攻撃は回避が容易く、たまにかする程度貰うぐらいだ。
そのダメージもベリトが即座に回復してくれるため全く問題ない。
体力が馬鹿みたいに多い様で、此方の攻撃が効いているのかよく分からないが、全く減っていないことは無いだろう。
ベリトに回復してもらう頻度もマインドの自然回復量でまかなえる程度らしく、このまま戦い続ければ問題なく倒すことが出来そうだ。

暫く戦闘が続き、殴り続けてきたドスリビの動きが精彩を欠いてくる。
どうやらもう少しのようだ。槍を握る手にも力がこもる。

と、その時、突然ドスリビは高らかに鳴声を上げた!

今までに無い行動に俺は戸惑う。
だが、目の前のドスリビを見るにただ隙を晒している様にしか見えない。
俺はチャンスだと思い、ドスリビの頭を目掛けて突きかかる!

「ジス!後ろ!危ない!」

その時、後ろからベリトの切羽詰った声が飛んできた。
状況は分からないが、何か異変が起きたのだろう。
俺は攻撃を中止し、とりあえず横に移動しようと思考する。
だが、力の限りで行動していた体は、急な命令の変更を受け付けてはくれなかった。

次の瞬間、後ろ脇から激しい衝撃と共に俺は吹き飛ばされた。
痛みが走り思考を邪魔するが、すぐに飛んできたヒールのおかげで痛みは軽減され思考をする余裕が戻ってきた。
転がった後すぐさま立ち上がり、自分がもといたほうに視線を向けるとそこにはリビリオンが突進の体勢で此方をにらんでいた。

何が起こったかはわかったが、なぜそんな事態になったかが分からない。
突進しようとしているリビに思考がとらわれ掛けるが…、

…俺が相手をしているのはあいつではない!

棒立ちしてしまっていたその場所を直感のまま転がり離れる。
数瞬前まで俺がいたその場所は唸る風と共に蹄が通り過ぎ、地面を粉砕した。

あれが当たっていたらと考えると冷や汗が止まらない。
そう、俺が相手をしているのはなぜか乱入してきたリビリオンではなく、そのボスのドスリビリオンなのだ。
だからと言ってリビリオンを無視するわけにはいかない。
なぜなら、意識をしていないと回避できるものも出来ないからだ。
大きな一撃を終えたドスリビリオンは隙を晒しており、急所に攻撃を叩きこみたい衝動に駆られるがそれはかなわない。
突進の構えをしていたリビリオンが突っ込んできたからだ。
俺は泣く泣く攻撃をあきらめ、下がることで突進を回避する。

まずはこいつを倒さなければ手詰まりだ。
回避した後、隙だらけの後ろ姿を晒しているリビリオンに三連突きをお見舞いする。
自身では再現できないほどの速さで行われた3回の突きは過たずリビリオンの背中に刺さり…

…そして倒しきるにはいたらなかった。

――くそ!多分もう少しなのに!

昔に必要だった攻撃回数から考えて、自分の強化、槍の強化で今の一撃でリビリオンは落とせても不思議ではなかった。
いや、落としておきたかった。

即座に追撃を入れて倒し切ってしまいたいが、そこに図ったようにドスリビリオンの唸る蹄が迫る。
これを食らえば即座に戦闘不能だ。
追撃をあきらめ回避を優先する。

三連突きで減ったスタミナはベリトのヒールによってすでに回復されている。
また、リビリオンが突進を敢行してくるが、同じようにすれば今度こそこいつ落とすことが出来るだろう。
そうなればまたドスリビリオンと1対1の状況に戻る。
まずはそれを最優先すべきだ。

だが…

…ベリトの叫び声に視線を向けると、一匹のリビリオンがベリトに襲いかかろうとしているではないか!
ベリトが先に落ちてしまうと俺の優勢など砂上の楼閣だ。
俺はあわてて、そちらに向かう。
俺が都合三匹を抱えるのは正直苦しいが、不可能ではない。
ましてやうち一匹は瀕死なのだ。何とか持ち直すことも出来るだろう。
少なくともベリトが一方的に殴られる状況になるよりははるかにマシだ。
ベリトもそれが分かっているのか此方に向かって走ってくる。
何回か攻撃を受けたようだが何とか盾で致命傷は避けているようだ。

―――そして、余裕の無くなった俺たちは…

ベリトに向かっているリビリオンに攻撃を当て、タゲを引き受ける。
俺は追いかけられているはずのドスリビリオンとリビリオンを背中に感じることが出来た。

暫定目標を達することができたベリトが自身にヒールをかけながら周りを確認し…、表情が固まった。
それを見た俺は、それが何を意味するかに気づいたが…、時既に遅く、なすすべなく横からの衝撃に吹き飛ばされる。

―――3匹目の乱入に気づくことが出来無かったのだ。

吹き飛ばされるままに、地面を転がる俺。
とっさにベリトがヒールをかけてくれるが、その回復は次の一撃でたやすく削られる。
立ち上がろうとしていたところであった俺に、後ろから追ってきたリビリオンの突進が入ったのだ。

今度は敵が瀕死であったためか何とか吹き飛ばされるのを堪え、たたらを踏むにとどめるが…

…歯を食いしばって顔を上げた俺に見えたものは、唸る風を伴った巨大な蹄だった。



[18261] 24. 雪辱戦準備
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/12 14:16
気が付くと俺は真っ白の空間に現れていた。

俺はさっきまで草原でドスリビリオンと戦闘をしていたはずだ…
そう、なぜかリビリオンの横槍がはいって…

…最後に思い出せる光景は、視界いっぱいに広がる巨大な蹄だけだ。

そこまで記憶をさかのぼってやっと何が起きたのか理解した。

どうやら俺は死んでしまったようだ。
一撃死だったせいかいやだと思っていた痛みはまったく感じていない。
拍子抜けしてしまうぐらいだ。

だが、一体この場はどこなのだろうか…、ここはまるで…

「ジスティア・ネイシーよ。
 汝の果敢な戦闘は評価に値する。
 だが、志半ばで倒れるとは何と情けない。
 汝には、我が守護を得た者としての他者の目標となるべき行動が求められているのだ。
 そのことをゆめゆめ忘れてもらっては困ることであるぞ」

気が付けば、いつの間にか現れていたアラナスに説教されていた。
そう、ここはまるで階位の上昇などで女神像に祈ったときにくるところと同じだ。

「汝が背後に弱きものを背負い強力なモンスターに立ち向かうのはよき事だが、そこで汝が倒れてしまっては何にもならないではないか。
 汝が倒れればその後ろのものも危険にさらされるのだ。
 それを望まないがために前に立ち続けるのだろう?
 それを思えば汝が倒れることは許されぬのだ。
 今後このようなことが無いように精進し我を失望させることがなきようにな」

そう、アラナスは説教を締めくくると、神殿での邂逅と同じように気が付けば周りの景色が変わっていた。
どうやら俺は街の中に居るようだった。

俺は自分が転送されたことを理解して、そしてベリトのことを思い出す。

――あいつは?

あわてて周りを見渡すがあいつの特徴的な銀髪は見当たらない。
あの後一体どうなったのか…

俺が覚えているのはドスリビリオンの蹄に頭を蹴られようとしていた場面までだ。
多分俺は、あの一撃でクリティカルをもらい即死したのだろう。
順々に記憶を辿り多少落ち着いた俺は、チャットを飛ばせば良いことに気づく。
こんなことにも気づかないほど動転するとは我ながら情けない。

今回のように事故ったら即死するのがAGI型の宿命だ。
このモノリスにも多くお世話になることだろう。

『こちらジスティア。今復帰ポイントで復帰した。そっちはどうなったんだ?』
『おお、復帰したか。俺は絶賛鬼ごっこ中。
 いまは周りに人が居無いから良いけど、いたら列車行為でさらされかねん勢いだな』
『がんばれ。というかドスリビってPCより足早くなかったっけ?』
『マジで!?後ろ見る暇ないから確認してないけどそんな気もするな…。
 如何思う、おとなしく死んどくべきだと思う?』
『判断は任せるが、俺はそれで擦り付けられたことがあるぞ』
『マジかよ、最悪じゃんそれ。まぁ、俺が狩ろうって言い出したのに俺だけ残るのもあれだしな。
 覚悟を決めるか…』
『ああ、一つ朗報。ドスリビの攻撃だと多分一撃死だから逆に痛くないぞ』
『ああ、ありがと…。少し気が楽になったよ…』

その言葉を最後にチャットが途切れる。
多分ドスリビに殴られたのだろう。
経験上、戦闘不能判定が出た時点から狩場に関する記憶が無い。
そのためフィールドマップに死体をさらしている時間がどれ位か分からなかったのだが、尊い人柱のおかげで計測できる。
時計を見ながら待つことしばし。

5分経ったところで目の前に光が集まり、その中から銀髪の少女が現れる。
ベリトは何が起きたのかいまいち把握していない胡乱げな目で周りを見回している。
そして俺に気が付くと経緯を思い出したのか目がはっきりして来た。

「5分か…」
「あん?なにがだ?」
「戦闘不能からここに現れるまでの時間だ。
 お前の尊い人柱のおかげでこの世界の謎がまた一つ解けたな」
「ああ…、そうですか…」
「ところで、このゲームのデスペナってどんなだったか覚えてるか?」
「普通に経験値が減るってことだったと思うけどどれぐらい減るかまでは覚えてない」
「ふむ…。とりあえず序盤の俺たちにはそこまで致命的ではないか」
「だな。後半だと失う量も多くなってくるし、気をつけないとダメだろな」
「ところで死んでる間にアラナスに説教食らったんだが、あれは何なんだろうな?」
「へぇ、俺は優しく慰めてもらったけど…」

こんなところにも神の性格が出るのかよ…
しかし、デスペナの詳細がいまいち分からないな。
蓄積経験値の値も表示されないからどれぐらい減っているかが今一わからん。
とりあえず、金や装備品のロストが無いのは助かったが。

「さて、これからどうする?」
「当然、雪辱だろ!」
「まぁ、さっきの死に方は俺も納得できなかったしな。俺も賛成だ。ということで恒例の反省会だな」
「反省点なぁ…。別に戦闘自体は悪く無かったよな。乱入するされるまでは安定してたんだし」
「確かにな。となると何で乱入がきたかってことだが…
 どう考えてもあの不自然な鳴声だよな。あれは取巻き召還か?」
「んー、行き成り沸いてきたわけじゃないからちょっと違う気がする。
 俺にはどちらかと言えば周りにいた奴が寄ってきた感じに思えたな。
 あと、取巻きだったら俺に方に来ずにお前の方にいくんじゃない?」
「そうとは限らないと思うぞ。お前だって戦闘参加していたわけだし…
 乱入してきたほうは俺がダメージ与えてないからお前に行っても不思議じゃない」
「結局あの鳴声は何なんだろうな」
「行き成り沸いたわけでもなく、お前にもタゲがいったことを考えると、周りのリビリオンをアクティブ状態で呼び寄せるとかそんな感じか?」
「あー、その表現はしっくり来るわ」
「まぁ、細かくは違うかもしれんが、とりあえずそのつもりでいれば大丈夫だろう。
 そこまではこれでいいとして、肝心の対策だがなんかあるか?」
「単純に人を増やすか、予め周りを掃除しておくぐらいしかないんじゃないか?」
「戦力増強は単純で有効だけどな…」
「まぁ、募集するのも面倒だなぁ」

俺は臨時でPTを募集して集まらないことを危惧しているのではなく、集まりすぎるのを危惧しているのだが。
こいつのせいで人は集まりやすいが、こいつのせいで変な人も集まりやすい。
臨時で組んでいい目を見たことが余り無い。
当然いい人も多いのだが…。変なのは一人いるだけで妙な雰囲気になるからな…若干の忌避感がある。

「よし、周りを掃除してからもう一度挑んで、無理そうだったら臨時で募集するか」
「おう、異議なし。ところで、今思いついたんだが…
 あいつの討伐クエストぐらい有りそうじゃないか?」
「確かに有りそうだな。探してみるか?」
「それがいいだろ、折角倒すんだし報酬は多いほうがいい」
「どうする。この街結構広いぞ。手分けして探すか?」
「ああ、俺ちょっと心当たりがあるんだ。
 最初にやってたクエストの中でそんなようなこと言ってたNPCがいた気がする」
「ほう、なら俺は宿屋に戻って掲示板で情報を探してみる。ドスリビ戦の対策なんかもあるかもしれないしな」
「ならいったん分かれるか。こっちが当たりだったらチャットで呼ぶよ」
「分かった、それじゃまた後でな」

俺は言葉どおり掲示板で情報を探すため宿屋に向かった。

『はじめから調べてたら、死なずにすんだかな?』
『無計画に突っ込もうと提案したのはお前だろうが…
 もっとも、俺も賛成したんだから同罪だけどな』

宿屋に着いた俺は早速掲示板を確認していく。

その中にユニークモンスター報告、攻略スレを発見。
ためしに読んでみる事にする。

   ユニークモンスター報告攻略スレ
   
   1:アニエス 20XX/6/22 10:30:34
    
    ここはユニークモンスターに関して攻略するスレです。
    未発見のユニークモンスターを発見したときは報告しましょう。
    ユニークモンスターの行動特性なども大歓迎です。
    みんなで攻略していきましょう!
    
    クローズ時代に確認されたユニーク
    ・ドスリビリオン タートスの街南草原、下のほう。 デカいリビ。
    ・オールドタートル タートスの街北の河を西に行った海岸。 デカい亀。ひげがりりしい。
    ・ヘビーワーウルフ タートスの街南東の森の中。 デカい狼。強敵。
    ・カッパの大将 タートスの街北の河の上流。 デカい河童。水の中に逃げるのがいやらしい。
    
   2:Arrigo 20XX/6/22 11:25:45
    
    スレたて乙
    ドスリビリオン、クローズと同じ場所で確認。
    
   3:Sarah 20XX/6/22 11:43:55
    
    1乙
    大将いなくなってた。
    ワールド広がったから移動したのかな…?
    
   4:ウゴリーノ 20XX/6/22 13:54:12
   
    乙 ←これはおつじゃなくてオールドタートルのひげなんだからね!
    海岸でデカい亀を発見。
    でも名前がオールドタートルじゃなくて、ビックタートルになってた。
    ひげがあんまり凛々しくない感じ。
    若造ってことかな?
    ちなみにノンアクだった。
    
   5:Belinda 20XX/6/22 14:11:23
   
    あのひげはいいものだ。
    
   6:オルヴァー 20XX/6/22 14:51:43
   
    重狼を確認しに行ったら、途中で普通の狼に食い殺された。
    あのひげはいいものだ。
    
   7:ホセファ=オラーリャ  20XX/6/22 15:21:54
   
    え、あの髭いなくなっちゃったの…?
    
   8:ティリー 20XX/6/22 15:35:55
   
    たぶん移動じゃないかな?
    あれだけ人気だった髭を削除するとはおもえないし
    
   9:Gustav=Kokorev 20XX/6/22 16:46:31
   
    お前ら髭すきすぎだろww
    初期街南西の草原でなにかでかいのを見た。
    名前確認する前に昇天したんで詳細分からず。
    
   10:ヨッヘン 20XX/6/22 17:01:22
   
    >>9
    報告GJ
    お前の死を無駄にしないためにもちょっと見てくる。
    
   11:Ewald 20XX/6/22 17:34:26
    
    そしてその後>>10の姿を見たものはいなかった…
    
   12:エウジェーニオ 20XX/6/22 18:43:36
   
    ドスリビTUEEEEEEE!!!
    クローズのころってこんなに強かったっけ?
    なんか鳴いたと思ったら周りにいたデカリビが乱入してきたんだが…
    
   13:フォンダート 20XX/6/22 19:11:54
   
    なにその新動作。
    クローズじゃ単純に殴ってくるだけで装備そろえりゃ余裕だったのに。
    
   14:アナトリー 20XX/6/22 19:23:32
   
    >>12 詳細希望
    
   15:エウジェーニオ 20XX/6/22 20:44:11
   
    詳しくったってなぁ…
    単純に殴り合ってて向こうの動きが悪くなったからそろそろかなって思ったら、
    なんかデカい声で鳴いたの。
    何事かと思って見てたら、周りにいたデカリビに群がられて死んでた。
    なんだったんだあれは…
    
   16:イングベルト 20XX/6/22 22:32:03
    
    >>15確認してきた。
    確かに瀕死になると鳴声出すね。んでそれを聞いた周りのデカリビがアクティブになるっぽい。
    俺も一回それで死んだけど、周り掃除してからリベンジしたら、あの声はただの的だよ。
    
   17:エウジェーニオ 20XX/6/22 23:59:05
   
    >>16
    報告GJ!
    周りを掃除してから試してみるわ。今日はもう寝るけどw
    
   18:Nils・Thyrestam 20XX/6/23 03:54:50
   
    >>16を参考に俺も行ってきた。
    鳴声動作中に頭殴ったら怯んでキャンセルしたぞ。
    俺は棍使ってるから打撃系で怯ませないといけないかもだが。
    
   …


はじめのほうはユニークモンスターの発見情報ばかりだったが次第に行動解析などを行うレスも増えてきた。
スレによるとやはりドスリビリオンは最初にであうユニークモンスターであったようだ。
この後行こうと思っていた海岸にもユニークが出るらしい。
だが、ノンアクティブで危険度は低いらしく安心する。

ドスリビリオンのあの鳴声は周りのリビリオンをアクティブかするだけらしい。
そのために乱入してくるタイミングがまちまちだったのだろう。
呼び寄せる効果がないということは、さし当たって回りを掃除してからなら危険度は格段に減るだろう。
また、鳴声中は頭への打撃で怯みやすく、怯めば鳴声をキャンセルできる上、大攻撃のチャンスになるとある。

ちなみに、ドスリビリオンがノンアクティブに戻るとリビリオンたちもノンアクティブに戻るのではないかとの推論も書かれていた。
ベリトがあのまま走り回っていたら被害が拡大していたかもしれないな…

うむ、大変参考になった。
チャットでベリトに報告しよう。

『こっちは調べ終わったぞ。いろいろ分かった。やっぱ序盤のユニークだけあって情報がそろうのが早いな』
『おう、こっちも発見したぞー。細かいのを進めてるところだな。
 最終的にPT単位で登録しなきゃいけなさそうだ。マップにマーカー送るからこっちに来い』
『了解。今から向かう』

俺は宿屋を後にし、ベリトの下へと歩き出した。



[18261] 25. 雪辱戦
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:16
ベリトと合流した俺はクエストを消化する。
といっても、NPCの間をたらいまわしにされているだけだが。

最終的にある民家にたどり着き、中の商人からドスリビリオンが居るせいで旅に出ることが出来ないから倒してくれと頼まれた。
俺は途中からだったのでさっぱり話が見えなかったのだが、ベリトに聞くとそれなりに面白かったらしい。

よし、それじゃあ雪辱に向かうとしようか!
折角街に戻ってきたが、特にやることも無いのでとっとと南門を抜け、ドスリビの下に向かう。

「そういや、ドスリビのリポップってどれ位なんだろう?」
「掲示板にはそのあたりの情報は載ってなかったな。まぁ、他のPTに狩られないように祈るしかないだろ」
「確かにそうだが…、これで取られると不完全燃焼だなぁ…」

さて、幸いにしてドスリビはまだ健在だった。

さっきのようにならないように念入りに周りにいるリビリオンを排除する。
当然、余裕で倒せるので熟練度上昇もかねて三連突きを多用してみる。

やはり予想通り三段突きを入れれば、後一撃で沈めることが出来た。
さっきの戦いでリビリオンを一撃で落としていられれば大分違ったんだろうと思う。
だが、終わったことを言ってもしょうがない。

リビリオンを掃除し終えた俺たちは再度ドスリビに挑戦する。

いくら掃除をしたからといって、新たに近寄ってくるかもしれないし新たに出現することもありえる。
警戒することは必要だろう。
もっともその役目はベリトが負ってくれるだろうが。

俺が避けて攻撃し、かすったダメージや時々使う三連突きでスタミナが減ったらベリトが回復してくれる。
前回同様、ドスリビリオンは当たればタダではすまない攻撃だが、いかんせん鈍重な動きである。
注意して立ち回ればそうそう当たることはない。
だが、やはり元の回避力が足らないのかかする程度に食らうのは避けようが無かった。
冷や汗をかく場面もあったがベリトの支援で事なきを得た。
やはり、ベリトが居るのは心強い。

ドスリビリオンの攻撃の方法も前か後ろの足で殴りかかってくるぐらい。
不用意に離れると突進が来るのがその巨体ゆえ脅威であるが、立ち回りで離れすぎなければ問題ない。

俺はダメージを着実に重ねていき、いよいよドスリビリオンの動きが鈍くなる。
そろそろ鳴声を上げて味方を増やそうとするだろう。
だが、その機が大体分かり、こちらはてぐすね引いて待っているのだ。

前回のような無様を晒すわけには行かない。

俺はドスリビの鳴声を警戒しつつ、戦闘を続ける。
さすがに注意力が散漫になったせいで被ダメが増えたが、すかさずベリトがフォローしてくれる。

ドスリビリオンはいったん攻撃をとめ空に見上げる。
前回は、予想外の行動にあっけに取られてしまったが、今回は万全の体勢で待っていたのだ。
この千載一遇のチャンスを逃すことは出来ない。

俺は鳴声をあげようとしているドスリビの鼻っ面に渾身の力で石突を叩き込む。

その攻撃を食らったドスリビは驚いたように声を出すのをやめ、怯んでいる。
それまでも頭に打撃をいれていたのに全く怯ま無かったことを考えると、やはり鳴声を上げるタイミングでの打撃は有効であるようだ。

そのまま、何時ものように槍を右脇で縦に回して上からの袈裟切り、振り切った下段の構えからの突き上げを叩き込む。

周りにリビリオンが居ないため、鳴声の効果を防げたのかは今ひとつ分からないが、大きなダメージを与えることには成功しただろう。
元々弱っていたのだ、あと少しで倒せるだろう。
だが、気を抜くわけには行かない。
一発のラッキーパンチで形成が一気に逆転することがありえるのがAGI型の宿命なのだから。

周りに敵が居ないことは常にベリトが確認してくれているはずで、俺は目の前の敵に集中すればいい。

そのまま俺は堅実にダメージを与えていって…

とうとう、ドスリビリオンは力尽き地に伏せたのだった。

戦闘が終了した俺は、緊張の糸が切れその場に座り込む。
そこにベリトが近づいてくる。

「ご苦労さん」
「おう、疲れたよ。避け続けるのが神経使うな」
「マインド値は減ってないだろ?」
「まぁ、そうなんだけどな」

くだらないジョークを言い合い、終わったことを実感する。
やはり、一撃でもいいのを貰えば昇天しかねない攻撃を延々と避け続けたのだ。
VRでは体の疲れを知らないといっても精神的なものは別である。

「なんかいいもの出た?」
「確認してないが…、装備品の類はなさそうだから期待しないほうがよさそうだな」
「そいつは残念だな」

光と消えたドスリビリオンの置き土産は幾つかの素材アイテムの様だった。
一見、リビ系列のドロップ素材だが、さすがに同じものということは無いだろう。
見た感じ質も高そうだし、高く売れそうである。
もっとも記念に残しておこうかとも思っているが。

「フォロー助かったよ」
「まぁ、俺に出来ることはこれぐらいだしな」
「謙遜するな、それが無かったら倒すのは無理だったぞ」
「まぁ、それはいいけど。しかし、あれだな。鳴声を防いだらえらく余裕だったな」
「前回失敗した原因はあの鳴声による乱入だしな。それが無けりゃこんなもんだろ」
「それもそうか」
「よし、目標も達したし街に戻ってクエストの完了報告に行くか」

俺たちは連れ立って街へに向かって歩き出した。



街へと着いた俺たちは受けたクエストの報告をした。
商人のおっさんは大仰に俺たちを迎えたあと散々俺たちのことをほめながら、報酬金を渋ろうとしてきやがった。
当然、拒否し続けるとついに観念したのか話通りの報酬金を出してきた。
NPCの癖に報酬金を渋ろうとは、油断も隙も無いな…
報酬として2sのお金を貰った。
今回は予め掃除のために狩ったリビリオンのドロップぐらいしか直接的な金銭収入が無い。
この2sは助かった。

経験点の現在値が分からないため、報酬に経験点がもらえるのかは不明だが序盤のベリトはそれでLvをあげたといってるのだから含まれるのだろう。
苦労した分ぐらいの量があるといいのだが。


この後俺たちは分かれて神殿に向かい階位の上昇を確認したが、どちらも上がっていなかった。
ボスを倒したとはいえ、デスペナの後にさして量を倒したわけではない。
階位が上昇していないのも当然といえるだろう。

その後、宿屋で集合し次の目的地である海岸に向かう予定だ。
そこでベリトが花を摘みに行くと言って一旦ログアウトした。
こういった雑事でいちいちログアウトしなければいけないのはVRの不便なところなのかも知れない。

余談だが、「花を摘みに行く」というのは、トイレにいってくるということを示す隠語だ。
元々は登山用語の筈なのだが、なぜかネットゲームの世界でもよく使われる。
さらに言うなら「花摘み」は女性が使う表現であり、男が使うならば「雉を撃つ」が正しい。
つまり武が使うなら雉撃ちに行くと言うべきである。
いや、その台詞はベリトが言ったんだから花摘みであってるのか?

武が戻ってくるまでの間の暇な時間を愚にもつかないことを考えて潰す。
掲示板を読んでくるほどの時間は無いだろうなと思ったからだ。

少ししてベリトが再度ログインしてきた。

俺たちは海岸に向かうため北門に向かって宿屋から出発したのだった。


中央公園を素通りし、北門に向かって歩く。
中央公園は、中央と謳っておきながら若干待ちの北のほうにある。
よって、南通りよりも北通りの方が短い。
ちなみに俺は、中央公園よりも北に行くのは初めてだったりする。

さして掛からず北門にたどりつき、道具屋を見つけるもドスリビ雪辱戦では結局アイテムを使わなかったため見送ることにする。
北門を出るのにも特に問題は無かった。
南門の時と同じように門番に止められるかと思ったのだが…
あれはどの門からでも出ようとしたときに起こるイベントであったのだろうか?

北門を出ると南門からの景色とは、全く違う大自然を感じられる。
足元の草原は変わらないが、前を見たときには大きな河の流れを見ることが出来る。
ここから程近い川岸にはいくつもの船が止まっており、河渡しを行っている様である。
なんだか、RPGでよくある川を渡ったら敵が一気に強くなるという法則を満たしている気がするな…

まぁ、とりあえず現在の目的地は河の向こう側に渡る必要は無い。
このまま河を下流に下っていけば目的地の海岸に着くだろう。
そのまま西に向かって歩き出そうとしたところをベリトが引き止めた。

「あの船使って下流に送ってくれねーかな?」

たしかに、船があって川下に下りるんだからわざわざ徒歩で行く必要は無いだろう。
もしかしたら送ってくれるかもしれない。
出来るのなら大幅な時間短縮になることだし、確認してみることにする。

…結果は残念ながら出来ないとのこと、この川は結構流れがあるのでいったん河口まで降りると戻ってくるのが大変なんだそうだ。
まぁ、そんな簡単に狩場に直行できるほど甘くは無いらしい。

しょうがないので俺たちは川にそって歩いて移動することにする。
VR内なので体力は関係なく、ずっと走って移動することも可能ではあるが、取り合えずはじめてくる場所であるのでのんびり歩いて景色を楽しむことにした。

しかし、定期的に街に戻らなければならないシステムが多々あるのに、こうも狩場までの移動に時間がかかるのはよろしくない。
VR空間でのことだから見た目と実際の移動距離が違うのは十分ありえるのだが、なんらかの対応策がほしいところだ。
もしかしたら、初めの街に無いだけで馬のような乗り物を売っている場所もこの世界にはあるのかもしれない。
もしあるのであれば、出来るだけ早く手に入れたいものだ。

川沿いに進み田園地帯を抜けてしばらく進むと海岸が見えてくる。
海というのはなかなかに心躍る要素だ。
内陸出身のおれはなかなか現実において海を見る機会はないため特にそう思う。

白い砂浜が海岸線に続いてる。
其処ではのそのそと歩く亀とそれらを狙うPCが散見された。
予想よりも混んでいない。

周りを見ると、やはり遠距離系が多いらしく火の玉などや矢が飛んでるのが見える。
どうも近接系はこの場では少ないようだ。

そのため、槌を振るって亀と殴り合っている女性の姿は結構目立っていたのだった。



[18261] 26. 師匠
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:22
「あ、師匠だ…」
「師匠?なんのことだ?」
「あー、あの槌使いの女の人。いや、師匠ってのは俺が勝手にいってるだけだ。
 前、狩場であったことがあってその時助けてもらった」
「へぇ、で、何で師匠なんだ?」
「見てれば分かるが、そう呼びたくなるぐらいうまい。ついでに多分だが防御ステを振ってない」
「それは…。また…、マゾってレベルじゃないだろ…。そんなのソロでどうやって狩ってるんだよ」
「俺が見たのはリビリオンを狩ってる所だったんだが、8割がたリビリオンが怯んでダメージ受けてなかった。
 槌使いだからというより、あの人のPSが異常なんだと思う」
「世の中、変人がいるもんだな…」
「マイノリティを愛する心でも師匠と呼ばせてもらってる。まぁ、一方的にだが」
「正直キモイぞ、それ」
「うるさいな。しかし、何でこんなところにいるんだろ?」
「ここがおいしいからじゃないのか?
 それだけ動けるならクローズからの参加者だろ。情報は持ってるんじゃないか?」
「亀は打撃に弱かったり、怯みやすかったりするのか?」

そういいながらその人を観察するが、確かに亀は怯みまくっている。
引っ込めようとしてる頭を的確に狙ってるんだからやっぱりあの人がうまいんだろう。

「それだけのPSがあれば、まともな型ならトップに行くのも可能そうなのにな」
「其処をあえてマイノリティーに行くのが良いんじゃないか」
「お前に言っても無駄なことは分かってたよ…」
「STR=DEXで槌とか…、この序盤じゃこの世界でたぶんあの人だけだぞ。
 そう考えるとわくわくするだろうが」
「ならお前もやれば?」
「俺が真似したってリビリオンも狩れねぇよ…。
 というか単に火力特化だから後衛みたいな扱いでPT戦を考えるなら悪くないだろ。
 それをソロでこなしてるあの人は恐ろしいが…」

彼女の戦いを見物する観客となる俺たち。
見ている先で、攻撃を食らった様で彼女は回復剤を使おうとしている。

「あ、食らった」
「そりゃ、あのスタイルで無傷はさすがに無理だろ」

ベリトはとりあえずヒールを飛ばした。
辻支援は熟練度稼ぎであると共に、支援職のたしなみだ!
と、この前ベリトが力説していた。
俺はもっぱら有り難くいただく側であるので、その説を否定するようなことはできない。

彼女はちらりとこちらを見ると、傷薬をしまい、すぐに視線を相対する亀に戻し戦闘を継続する。
暫くのち、亀が腹を向けてひっくり返り光へと変わっていった。

彼女はそれを確認すると、改めてこちらに目を向け…驚いていた。

ベリトの姿を初めて見た人は大抵その反応なので別段気にしない。
彼女はずっとその場で一部始終を観戦していた俺たちに向かって走ってきた。

「ヒールありがと、助かったよ!」
「いや、ただの熟練稼ぎだからきにすんな」
「そうだとしても助かったのは確かだからね」
「役に立ったなら良かったよ。それにしても師匠。素晴らしい腕前だね」
「ししょう?」

ベリトがさりげなくとんでもない単語を混ぜやがった!
しかも、目の光り具合からして確実にわざとだ。
俺は思わず額に手を当て頭痛を堪える。

聞いた単語の意味が分からず聞きなおす師匠の様子はデジャブを覚えるな…。

「ああ、こっちのキモイのが貴女のことを師匠と呼んでたんでうつっただけ」
「へ?」

おい、しかもネタばらしてんじゃねーか!
きょとんとした表情でこっちを見るししょ…いや、彼女。
その顔はパッと見の姿よりも幾分幼く見える。
ついでにベリトはこっちを見ながらニヤニヤといやらしい顔をしている。
それはともかく、とりあえず話を逸らしておこう。

「また会いましたね。南門ではお世話になりました」
「えっと…、ああ!君か!回避で槍の人だよね?
 珍しかったから覚えてるよ。
 
 …そういえば、あの時も師匠って呼ばれた気がするな…?」

全く逸らせていませんでした!
むしろ薮蛇で自体が悪化しております!

これ以上、誤魔化す方向で行くのは無理な気がする。
大人しく開き直るか…。

その意図を悟ったベリトは、ニヤニヤ笑いがいっそう深くなる。
くそ、見た目はいいからその顔も中々かわいいのがさらにむかつく。

「ああ、ちょっと貴女のPSは目を見張るものがあったので、心中でそう呼ばせてもらってました」
「キモイな…」

ベリトが間髪いれずに茶々を入れてくる。
お前がややこしくしたくせに…、さらにかき回してきやがる。

「うるさい。だまってろ。
 あと、マイナーな型を選ぶ心意気とかもですね。たぶんSTR=DEXの二極ですよね?」
「え?あ、う、うん。よ、よく分かったね…?」

うむ、完全に引かれている。

「すいません、ビルドとかを考えるのが好きなたちで…、珍しいタイプを見ると考えちゃうんですよね」
「キモイな…」
「あ、それはわかるなぁ…」

お、好感触、持ち直したか?
まぁ、そういうのが好きじゃなかったらマゾプレイはしないと思うが。
ちなみに、ベリトの茶々は完全に無視することに決めた。

「お互い大変そうですけど頑張りましょう」
「うん、そうだね!」

さすがに初対面に近い女性に嫌われるのは悲しいので、フォローがなってよかった。

「そうだ、師匠。よければ名前を教えてよ。俺はベリトっていうんだけど」
「師匠…。私はセシリーシャだよ。名前教えたんだから師匠って言うのやめてよね」

彼女は俺をじと目で睨みながら名前を教えてくれた。

ベリトの野郎!
折角うやむやになったと思ったのに!
当のベリトは、やはりニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。
しかし、この流れで俺が自己紹介しないのは逆に変だろう。

「ジスティアです。回避重視で槍使ってます。ジスとでも呼んでください」
「ああ、なら私もセシーなりリーシャなり好きに呼んでくれていいよ」
「なぁ、セシー、フレンド登録してもいい?」
「おい、唐突過ぎるだろ。あと、行き成り慣れ慣れしいぞ」
「呼んでいいって言ってるんだから別にいいじゃん。
 あと、お前がそれだけ褒めるんだからお近づきぐらいにはなっておかないとな!
 あ、ちなみに俺の名前は短縮しようが無いからそのまま呼ばれることが多いな。
 それと信仰がシャルライラの支援系だ!」

こういうときのベリトは無駄に活発だ。
しかも、それが容姿とあいまって嫌味にならないのだから始末が悪い。
あの笑顔でフレンド登録を頼むと大抵の場合了承される。
こいつやっぱ分かってやってるんじゃ…、やっぱネカマだよな…。

「えっと、ベリトちゃん?私は別にかまわないけど…」
「よし、これで俺のフレンドリストがそこの仏頂面以外で増える!しかも、かわいい女性をゲットだ!」
「え、そんな、ベリトちゃんのほうが…」

セシリーシャさんが、よく聞く台詞を言おうとしていたので、さっきの意趣返しに俺も場をかき回すことにする。

「セシリーシャさん、そいつ中身男だよ」
「え!?ほ、ほんとに?」
「あ、うん、俺は男だよ」

しかし、ベリトはあっさり肯定するためまったく面白くならなかった…

「VRで性別変えてる人、久しぶりに見たなぁ…」
「VRでネカマやる奴ってあんまりいないよな」
「ネカマじゃねーっつってるだろうが!
 俺は形はこんなんだけど、別に女の子の態度を作ってるわけじゃないからネカマじゃないの!」
「と、いってますけどセシリーシャさん、どう思います?」
「いやぁ、それはネカマだと思うなぁ…、あ、いや、別にネカマを否定するわけじゃないよ!?」
「俺はネカマじゃないっての!」

うむ、やはり世間一般ではこいつはネカマだよな。
俺の常識が間違っていたわけではないことが証明されてよかったよかった。

「えっと、ならなんで女の子の格好してるの?」
「だって、かわいい女の子に支援してもらったほうがうれしいじゃん」
「えー、私は女だから格好いい男の人にしてもらったほうがうれしいなぁ」

え!突っ込みどころそこなの!?
自分がなったら本末転倒だろとか他に突っ込みどころはいくらでも…
…やばい、何気にこの人天然臭いぞ…

「それはそうと、ジスもフレンド登録して貰えよ。お前が先に見初めたんだしな」
「誤解を招くような発言をするな。技量に感嘆を覚えたんだ」
「初めて会ったんだから、用法的には間違ってないぞ」

お前、現国の成績大してよくないのによく堂々とそんなこといえるな…。
まぁ、俺もちゃんとしたかわいい女性がフレンド登録に同意してくれるなら願ったりだ。

「俺もフレンド登録してもいいですか?」
「あ、はい、かまわないですよ」
「ありがとうございます」

よし、ベリトほどあからさまではないがフレンドが増えるのはうれしいものである。
それがまともな人物であれば特に。

さて、大分話し込んでしまったな。
こういった不意に友人が出来るのは楽しいものだがここには狩りにきたんだからそろそろ其方に掛かるべきだろう。

「どうも、結構な時間を話してしまいましたね。ベリト、とりあえず俺たちも狩りにかかろうか」
「んー。名残惜しいけどそうするか。セシー見かけたらヒールするよ」
「ありがと、助かるよ!」

ベリトがセシーに神の祝福をかけてから俺たちは、少し移動することにした。



[18261] 27. タートル戦
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:24
やがて、比較的にすいている場所を見つけ、そこで狩りをすることにする。

さて、紆余曲折あったがやっと亀狩りだ。
ちなみに、今から狩る亀は名前がそのまま「タートル」だ。
少し離れた狩場にはヘビータートルという上位種が居るらしい。

さて、どうやって攻略するか…
セシーさんに情報貰っておけばよかった…といまさらに思う。
フレンドリストからチャットで話しかけることは出来るが向こうも狩り中なのだし控えよう。
向こうの狩りかたは俺たちよりもはるかにシビアなのだし。

とりあえず、打撃が向くものとして打撃中心でやるのがいいか…
後は、顔を引っ込めたりしたらそこを突きだな。
斬り攻撃は余り通りそうにない気がする。
少なくとも甲羅に閉じこもったら斬りではダメそうだ。

ふむ、打撃中心でたまに突きか…
今まで余り使ってこなかった連携だな。
打撃から斬りにつなぐのは大分スムーズに行くようになったと思ってるんだが。
石突きを使った打撃の後だとどうしても刃先が後ろにあるため、回して斬った方が動かしやすい。
むしろ石突きで突くのがいいのかも知れないな。

とりあえず、基本方針を決めたところでタートルに向かって接近する。

む、足元が砂浜なせいで若干動きづらいな…
アースバードの首飾りの効果が出てるからこの程度なのだろうか?
それとも、首飾りの効果は微々たる物なのだろうか…

ちょっと実験するために首輪を付け外ししながら動き回ってみる。
だが、効果を実感することが出来ない。
やっぱりこの首輪の効果は微々たる物なのだろうか?
そうだとすると大分がっかりだな…
取りあえず俺は実験を中止し、狩りに戻ることにする。

タートルはアースバードのように妙な索敵範囲を持っているわけではないらしく、後ろから近づけば気づかれずに接近することが出来る。
さすがに不審を感じたのかタートルは首を上に伸ばして周りの確認をしようとしている。
俺はこの好機を逃さず、握った槍で伸びた首を狙って槍を突き出した。
その気配を感じたのか、亀はこちらに顔を回して気づき、顔をあわてて引っ込める。
その行動によってクリティカルこそ出せなかったが、ダメージを与えるのに成功する。
その後、亀はこちらを向きのしかかってくるように攻撃をしてきた。

その攻撃は亀らしく幾分遅めであり、回避に重点を置いた俺ならば十分によけれるものだ。
さらに言えば、回避する時妙に足が軽く感じる。
攻撃や移動の時は砂に足を取られる感じがあるが、回避しようとすると若干その感じが少なくなるのだ。
これはもしかしてアースバードの首輪の効果なのだろうか?
ふむ、どうやら回避する行動に対して地形効果を軽減するということなのかもしれない。

亀の攻撃は当たれば致命傷を受けかねないが、当たらなければどうと言うことは無い。
昔の偉い人もどこかでいっていた事だ。

回避し、攻撃後の亀を石突で殴る。
それを繰り返す。

たまにやわらかい部分を出してくるので刃を使って斬ろうと試みるがすぐに縮めてしまい成功しない。
やはり、自身の技量が低いことを再確認させられるな…

それはともかく、ダメージを食らうことも無く正直楽勝だなと心に油断が生まれるが…

…次第にそれも焦りに変わっていく。

なぜなら一向に亀が沈む気配が見えないからだ。
すでに10発は殴っているしかし、亀は動きを鈍らせることすらない。
このまま行けば倒すことは可能だろう。攻撃は受けにくく、こちらの攻撃は当てやすいのだから。
だか、こうも時間がかかっては意味が無い。効率が悪すぎるからだ。

俺は失念していたのだ亀類は総じて防御力が高く体力が多いという、手数を重視する俺のようなタイプでは分が悪いということを。

セシーさんのように圧倒的攻撃力があれば高い防御を突き破って体力を減らすことが出来るだろう。
魔術師系のように物理防御が意味を成さない攻撃手段を持つならおいしい的だろう。
弓手のように、遠距離によって顔を出す動作が頻繁に誘発できる武器ならそこを狙えばいいだろう。

だが、俺にはそのどれも持って居ないため、結果、倒すのに時間がかかってしまう。
結局20発以上も殴ったぐらいであろうか、やっと亀は引っくり返って光となり消えていった。

ベリトの下へと帰りながらどうしたものかと頭を捻らせる。

「ダメージが通らん。これじゃ効率が悪すぎる」
「それこそ俺にはどうしようもないぞ。能力低下系の魔法は僧侶の枠組みですらない。
正直俺もただ見てるだけだったから全く面白くなかったな」
「セシーさんほど攻撃力があれば別なんだろうが…、近接は厳しいなこれは」
「まぁ、もともとVIT型のまずいって話で来た狩場だしなぁ」
「VIT型だけでなく近接全般に不味かったってわけだな…」
「だけど、このまま帰るのもな、なんかいい方法ないかねぇ」
「斬り、突き、打撃全部試してどれも大きなダメージにならなかったからな…
槍の強みが全く生かせんぞ」

しばし二人で黙り込む。

「そうだなぁ…。セシーさんに手伝ってもらうとか」
「で、その間俺は何をしてればいいんだ?」
「壁とか?」
「どうやってだよ。ダメージで勝てないからタゲなんてこっちにこねぇぞ」
「庇えば?」
「回避型が庇ってどうする。避けるのが身上だぞ。食らったら死に掛けるわ」
「ちっ、使えねぇな」
「なんてこと言いやがる」

軽口を叩きながら、頭をつき合わせて相談するもいい案が出てこない。
すると、ベリトがいいことを言った。

「亀といったらひっくり返したら有効なんじゃねぇか?」
「そうかもしれんが、そもそもどうやってその状態にするんだよ」
「お前の手に持ってる長いもので出来ないか?」

なんと言う発想の転換、槍を攻撃手段じゃなくただの棒だとおもってないと出てこない。
俺は完全に槍に出来ることは、斬る、突く、叩くの3種の攻撃だけだと思考が停止していた。

「おまえ…、天才か…」
「おおう、お前がそう素直に褒めるのは珍しいな。もっと褒めるがよい」
「まぁ、ひっくり返したところで特に何も無い可能性も有るけどな」

つい出たつぶやきにベリトが増長しやがったので、とりあえず叩き潰しておく。
自分で否定の可能性を言っておきながら、ひっくり返すのは相当有効なのではないかと思う。
少なくとも甲羅よりは腹の方が柔らかそうだ。
もっともモンスターに部位によるダメージ変化があるかは不明だが、たぶんクリティカルは取れるのではないかとおもう。
後は、実際にひっくり返せるか、どうやったらひっくり返すのが簡単か、ひっくり返った状態からの復帰がどれくらいなのかが問題だが、それはやってみながらでなければ分からないだろう。
幸い、向こうの攻撃にあたることは早々無いのだし、実験するのは簡単だ。

そういえば、ひっくり返った状態ならベリトも攻撃に参加しても構わないのではないだろうか?
微々たるダメージだろうが、無いよりマシだろうし杖は一応打撃属性だ。
まぁ、確実に殺せるための攻撃回数に変化が無い様ならやめればいいだろう。

よし、これ以上は考えてもしょうがない。
実戦でやってみるとしよう。

近くを歩いていたタートルに接敵する。
とりあえず、初戦と同じように首を伸ばしたところをきりつける。
今回は伸びきったところではなく、伸ばし始めたところを狙ったのでうまく奇襲になったようだ。
頭に打撃がクリティカルしタートルは怯んで動きをとめた。
その隙を逃さず、槍を横からタートルの下に滑り込ませる。

体の反対側に石突きが見えたところで、石突きを支点にして槍を持ち上げる!

亀の体が浮き上がり、うまくひっくり返せそうだと思ったとき、タートルはもがいて前へ進もうとする。
その動きで槍は腹の下をすべり、後ろのほうから外れてしまった。
ひっくり返すのは失敗だ。

簡単そうに思えた亀をひっくり返す試みは意外な難易度で俺に立ちはだかった。
ネックはやはり棒が細い点であろう。
当然、槍なのでそれなりに太いのであるが、根本的に形状として棒はひっくり返すのには向いていないと思う。
もっと平らな板のようなものがあれば…
あるいは棒が2本あれば…
バスターソードや槍の二刀流ならば、もっと簡単にひっくり返すことが出来ると思われる。

だが、ここに無いことを言ってもしょうがないし、そのために槍の二刀流を行うのも間抜けだ。
いや、短槍二刀流はいつかやってみたいとは思ってるのだが。

ひっくり返すのに失敗した亀だが、それはそのまま俺に向かって攻撃を仕掛ける。
俺は危なげなく避けるが、再度腹の下に槍を入れるのは難しそうだ。
なぜなら槍を腹の下に入れるには亀のそばでかがまなければならず危険極まりない。
避けやすいから何とかなっているのであり、食らえば一気にスタミナを持っていかれるのは自明である。

怯み…と考えセシーさんが思い浮かぶが、今は望むべくも無いので却下する。

結局そのまま泥臭く殴りつづけ一匹目と同じように時間をかけて討伐するのだった。



[18261] 28. タートル戦2
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:27
何が悪かったかなどを考えながらベリトの元に戻ると、心無い言葉を投げつけられる。

「へたくそだな」
「なら、お前がやってみろ。地味に難しいぞ」
「かよわい少女に何を言ってるんだ、お前は」
「むしろお前が何を言ってるんだ…。
 とりあえず、やってみた感想としては棒一本だとひっくり返すのは大変だな。
 あと、怯んで動きが止まっときじゃ無いと危なくて試すことすら出来ん」
「ひっくり返すのは足とか使ったらいけるんじゃないか?
 ある程度傾いたら蹴り上げるとか…」
「…ああ、なるほどな…、それは思い浮かばなかった」

やはりこいつの発想には驚かされる。
槍を装備してるのだから槍で攻撃しなければならない物でもないのは確かだ。
動作補助がなさそうだから実際の攻撃には難しいだろうが、ひっくり返すのに使うぐらいは出来るかもしれない。

「どちらにしろ怯まないとダメだというのがきついな。
 初撃の奇襲が成功しないと俺の技量では頭を殴るタイミングが無い。そこで失敗すると、泥試合確定というのはな…」
「それはお前ががんばるしかないよなぁ…。後、考え付くのはセシーに頼むとかぐらいだぞ」
「それは俺も考えたんだが、あの人ソロで狩れてるんだぞ。俺たちを手伝う理由が無いだろ」
「確かになぁ…。まぁ、とりあえずお前が頑張る方向で進めようか」
「相変わらず人事だと思って簡単に言いやがるな…」

口では文句をいったが、それしかないことは俺もわかっている。
とりあえず次の亀で足技を試してみよう。

だが、次の亀は奇襲が成功せず怯ませることすら出来なかった。
そのまま泥試合に突入し、。
うーむ、時間ばっかり流れていくな。

ベリトにいたっては、俺に神の祝福をかけなおす位しかやることが無いため、非常に暇そうだ。

気を取り直して次に挑戦する。
このまま成功しない様なら狩り場の変更も視野に入れないといけないだろう。

今度は奇襲が成功し、タートルが怯んで動きを止めた。
俺はすかさず横に回って槍を使ってひっくり返そうとする。
タートルが怯みから復帰し暴れ始めるが、持ち上がった甲羅に足を掛けるとそのまま力いっぱい上に蹴り上げる!

会心の手ごたえ!
これならひっくり返るだろう!

実際に亀は足をじたばたさせながら回転し、亀は腹を見せる。

それを見た俺は思わずガッツポーズをしてしまう。

…だが、勢いが強すぎたのか、ひっくり返ったタートルは甲羅の丸みを利用してまた反転する。
ひっくり返ったのが、またひっくり返った。

つまり、今、タートルは、4本足で、這っている。

…失敗だ。

俺は思わず両手を地面についてうなだれた。
会心の手ごたえで成功したと思っただけに反動がデカい。

打ちひしがれていた俺は戦闘中だと思い出しあわてて立ち上がりその場を離れる。
気を引き締めると共に敵を確認すると、タートルののしかかり攻撃がさっきまでいた位置に決まったところだった。
危うくタートルの攻撃を食らうところだった…。
タートルの攻撃は俺にとって致命傷になりえる。
クリティカルをもらったら一撃とはいかないまでも動きの鈍ったところに次の攻撃を食らって死んでしまっていたかもしれない。

え?ベリトがヒールしてくれるから死なないって?

甘いな…、今俺の背中から聞こえてくるのは…

ベリトが可愛らしい声で笑う…いや、爆笑している声だ。

今、振り向くとタートルの前にあいつを殴りに行きたくなるのは明白なので我慢する。
とりあえず、奴を殴るのは目の前のタートルを殴り殺してからだ。

何時ものように泥試合でタートルの殴り殺したあと、いまだ笑い続けるベリトの下へ向かう。
俺はベリトの下にたどり着くなり、笑い続けるベリトの頭を叩く。
ちなみにこのゲームにPKは無いのでダメージにはならない。

「いってぇな!」
「明らかに笑いすぎだろうが!」
「いや、だって…くくっ…おまえ…、ぶっ、む、無理だって、あはは!
 だって…か、亀が…一回転して…おまえの落ち込みようったら…あはははは!」

笑いやめる気配が無い。
むしろ、俺の顔をみて悪化しやがった。
とりあえずもう一度叩く。

「いてぇだろうが!」
「笑い過ぎだっていってるだろうが!」
「わかった、いま落ち着くから…ぶふっ…んっ、すーはー、すーはー」

笑うのを堪え、目を閉じて深呼吸をはじめるベリト。
深呼吸が終わることにはどうやら落ち着いたようだ。

「よし…、たぶん、落ち着いた」
「人が苦労してる横で爆笑しやがって」
「ぶっ!ばか、思い出させるな、ぶり返すだろ!すーはー、すーはー」

やはりこいつは俺に喧嘩を売っているのだろうか…
俺が憮然とした表情をしてしまうのはしょうがないだろう。

「ん、んんっ。いや、惜しかったな。もうちょっとだったんだけどな。
 勢いあまって元に戻るとはな…ぶふっ…そう、もとに…、くはっ!、だめ、無理!、あははははは!」

三度ベリトの頭を叩いた俺を責められる奴は居ないだろう。

当てにならないベリトを放置して、俺は次の亀に向かった。
次こそは成功したいものだ、また一周してしまうようなことになったらベリトの腹筋が崩壊してしまうに違いない。

次のタートルに狙いを定め、奇襲を敢行し、幸いにして成功する。
この亀は奇襲に弱いのかもしれないな。

怯んで動きを止めたタートルの下に槍を差込み、力いっぱい持ち上げる。
暴れ始めたタートルの甲羅の縁に足をかけ、3度目の正直!
力いっぱい蹴り上げる。

今回もしっかりした手ごたえを感じ、タートルがひっくり返っていく。
このまま見ているだけではさっきの二の舞いだ。
ひっくり返るタートルに走って近づき、蹴り上げた縁とは逆側の縁を足で押える!

ひっくり返った勢いで押えた足が浮き上がりかけるが必死で堪える。
だからといって力を入れすぎるとこちら側に戻ってきかねない。
ぶっつけ本番の力加減だったが何とかうまくいってくれたようだ。
足を離すと、ひっくり返った亀の腹が見える。

――やりきった!

俺は達成感に包まれる。
後ろから聞こえるベリトの感嘆の声が気持ちいい。
その声を聞けば、さっきまで響いていたベリトの笑い声も許せる気になる。

そして、前を向くと、必死になって直そうと頑張るタートルが見えた。
俺はあわてて持っていた槍を握り締め、ひっくり返ったままのタートルに殴りかかった。
都合5回ほど殴ったところでタートルが通常姿勢に復帰。
その後は5発足らずで倒すことが出来た。

クリティカルの2倍ダメで計算しても攻撃回数が少なくなっているので、やはり腹は柔らかいのかもしれないな。
モンスターの部位によるダメージの差があるというのは大分重要な情報だろう。

最初に達成感に浸っていた時間を殴るのに回せば、復帰してくるころには瀕死まで持っていけるのではないだろうか。
ここまでたどり着く時間は長かったが、この成果は大きいだろう。
今後はこの戦術を基本方針に狩る事にしよう。

ひっくり返った状態なら殴られる要素がないので、ベリトも本と盾ではなく杖を持たせて腹を殴るのに参加することになった。
うまく行けば、ひっくり返っている間に殺しきれるかもしれないな。

「タートルの姿勢が戻ったらすぐに離れろよ。タゲは俺に来てるはずだろうけど、念のためな」
「分かってるよ」

タートルへの奇襲成功率は8割を超え、成功したらひっくり返して2人でいじめ、失敗したら俺が泥試合で倒すというルーチンが確立された。
たまに発生する泥仕合のせいで討伐数が多くはならないが、それなりに狩れるようにはなったと思う。

しかし、あれだな。
ひっくり返して苛めてる様子は他から見たらすごいシュールなんだろうな…。

そう、たまたま近くに来ていたセシーの発言で気がついた。

「また…、すごい狩り方してるね…」
「そうかな?亀見たらひっくり返すのは基本じゃない?」
「ひっくり返すのは結構大変なんだがな…」

お前はどこのいたずらっ子だ…。
浦島太郎が現れても知らんぞ。



[18261] 29. ヘビータートル
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:30
セシーが呆れ…いや、感嘆する様に俺は同意する。

「正直、ベリトの発想は常人には計り知れん」
「セシーも参加する?
 ジスがひっくり返して、セシーが殴って、俺が応援する。完璧な布陣だな!」
「どこが完璧だ。最後がおかしいだろうが」
「あはは…」

セシーは乾いた笑いを浮かべる。

「いやー、真面目な話セシーがいてくれるとワンランク上のヘビータートルも狩れるんじゃないかと思ってさ。
 セシーが怯ませてくれれはひっくり返すチャンスも増えるし」
「で、お前はなにするんだ?」
「勿論、応え…、いや冗談だって。微力ながら殴るのに参加するさ!
 というか、お前、この状況で支援職にその質問はいかんぞ。PTが崩壊しかねん」
「お前だから言ってるに決まってるだろうが」
「二人とも仲いいねぇ…」
「まぁ、腐れ縁だしな」
「それとしても、ジス君のさっきの言葉は意地が悪いよ。
 エンチャント術を使ってもらってるんだし、もしもに備えるのが支援職なんだから」

ああ、2対1で旗色が悪い…
普段の軽口の延長だったのだが、確かに失言ではあった。
大人しく謝っておこう。

「ああ、すまん、口が過ぎたよ」
「うむ、許してやろう。で、さっきの提案はどう思うんだ?」
「俺は構わんと思うがセシーさんがどうかだろ」
「私も面白そうだから構わないよ」
「それじゃ、何回かここの亀で練習するか」

図らずして、3人目のPTメンバーが加入した。
ベリト以外の人と組むのはこのゲームでは初めてだな。

まず、最初の奇襲をセシーに任せる。
セシーならほぼ100%怯ませてくれるだろうからだ。

俺は亀が怯んだところに槍と足を使ってひっくり返す。
もはやなれてきた作業だ、早々失敗しない。
失敗してもセシーならまた怯ませてくれるだろう。

ひっくり返った後をみんなで殴る…、と言ってもすぐに亀は光へと変わっていった。
やはりセシーの攻撃力は半端ない。
腹といった弱点を殴ることで余計に際立つな。

「うわ、楽だね、これ」
「だろー?」
「お前が威張ってるのを見るとなにか釈然としないものがあるな…」

とりあえず、連携としては問題ないように思える。

「うまく行きそうだし、ヘビータートルが居る所に移動しようぜ」
「そうだな。どっちか分かるか?」
「俺は知らないよ。セシーは分かる?」
「確かここから南のほうだったと思うよ」

三人で移動を開始する。

「タートルとヘビータートルってどこが違うんだ?」
「俺は知らんぞ、狩場を調べたときに名前しか出てなかった。
 タートルでまずいって結論だったのにその上位に手を出そうとはしないだろ」
「ヘビータートルってクローズにはいなかったから私も知らないなぁ」
「あ、セシーってやっぱりクローズからやってるんだ。クローズはどうだった?」
「どうだったって言われても…。
 今よりワールドは狭かったけどここら辺はあったからね。
 ここでうろうろしてる分にはあんまり変わらないよ」
「このゲーム、ワールド広いから狩場行くまで面倒だよな。なんか特殊な移動方法があんのかな?」
「先に進んでる友達が馬を手に入れたとか言ってたよ」
「マウントか…。順当な手段だな。出来れば早く手に入れたい」
「馬に乗れるのは楽しみだな!」
「クローズにはなかったから私も楽しみだなー」

雑談しつつ南に向かうとやがて色違いの亀が見えた。

「あの、黄色いのがヘビーか?」
「緑の亀の中に一匹だけ黄色いと目立つな」
「よく生態が分からないから慎重に行こうか」
「りょーかい」
「多分避けれると思うから威力偵察してくる。ベリト、やばそうだったらフォロー頼む」
「任せとけ!」
「いってらっしゃいー」

二人の声援を背に、俺は黄色い亀に向かって歩いていく。
タートルは知覚範囲は狭かったのだが、ヘビーはどうだろうか。
ある程度近づいたところで、奇襲をかけようと槍を構えて進む。
すると、ヘビータートルは不意にこちらに視線を向けてきた。
どうやら、タートルよりも知覚範囲は広いようだ。
奇襲をするのは難しいかもしれないな。

しかし、その考えがそもそも成り立たないことを理解する。
なんと、こちらを見たヘビータートルはそのまま、俺に向かって突進してきたのだ。
予想だにしなかった反応に対応が遅れるが、所詮亀の突進である。
なんとか避けることが出来た。

――こいつはアクティブなのか!

このゲームで初めてアクティブモンスターに遭遇する。
アクティブモンスターとは、PCを発見すると向こうから襲い掛かってくる敵のことである。
おおむね強力なモンスターは大抵アクティブに設定されている傾向がある。
後のほうに出現するようなモンスターは大半アクティブだと考えても間違いではないだろう。
ファーストアタックを確実に取れなかったり、接近に気づかずに不意をうたれてしまったりと危険な性質だ。

俺はあわてて黄色い亀を引き連れて2人が待つ場所へ引き返していった。
この場にとどまり続け、もう一匹黄色い亀が襲い掛かってくるような事態になったら目も当てられないからだ。

「こいつはアクティブらしいぞ!」
「みたいだね。道理でこのあたりに人がいないわけだね」
「初アクティブだな。俺も仕事のし甲斐があるってもんだ」

ベリトの言うとおりVRRPGにおいて、後衛の仕事は支援や火力だけでない。
周りの状況把握が非常に重要な仕事になる。
VRという性質上、すべてのPCはFPSでのプレイになる。
FPSとはFirst Person Shooterのことで、いわゆる一人称視点。
平面でのゲームが盛んだったころには一部のガンシューティングなどでしか採用されていなかった。
そのころのPRGやアクションゲームなどでは三人称視点、俯瞰型の視点が多い。
つまり自分の操作するキャラを後ろから見下ろしているかのような視点、或いは天上から全体を見下ろしているような視点である。

まぁ、FPSの特性は端的に言えば後ろが見えない。
よって、前衛が敵に相対しているときに周りの状況を完璧に把握するのは非常に困難である。
そこで、後衛が的確に周りを把握することによって状況の確認をしなければならない。

別にいままでのようなノンアクティブの敵ばかりがいるところであれば、後ろから襲われるようなことはありえない。
だが、アクティブモンスターが跋扈するようなフィールドでは、気をつけておかなければ不意を打たれ、そのままPTが崩壊してしまうこともありえるのだ。
そう、俺たちがドスリビリオンの鳴声によって援軍にきたリビリオンたちに蹂躙されたように。

取り合えず、現状では見える範囲に黄色い亀はほかには見えない。
だが、安心は出来ない。
「横湧き」といわれる事態がありえるからだ。

「横湧き」とは、敵のモンスターがいきなり近くに出現することである。
PCはモンスターを狩って倒していくわけだが、フィールドに歩き回るモンスターの数は基本的に変わらない。
なぜかといえば、その分どこからか補充されているからだ。

そして、"どこから補充されるのか?"という質問には、"どこからでも"としか答えようが無い。

もし、ある一点からモンスターが現れるようになっていれば、(たとえば巣穴があってそこから這い出るなど)その目の前に陣取れば一部のPCがその狩場のモンスターを独占することが可能になってしまう。
こういった事態になると、まともにプレイできる人数が激減してしまう。
つまり運営としてはありがたくない事態だ。

このようなことを防ぐために補充のモンスターはどこからとも無く、どこにでも出現する。
それは完全に予測不能だ。

つまり、現状で回りにいないからといって周りの確認をおろそかにしているといつの間にか強力なモンスターが現れていることがあるのである。
そういった事態に備えることもVRRPGでの後衛の仕事なのである。

まぁ、そういったことはセオリーどおりベリトに任せ、俺は連れてきたヘビータートルに対処することにする。
時折仕掛けてくるヘビータートルの攻撃を避けつつ、俺は二人のもとに戻ってきた。

「セシーさん、怯みよろしく」
「まかせて!」

つれてきたヘビータートルの攻撃を避け、セシーが怯ませるのに備える。
セシーの槌がうなりを上げ、避けようと動かしたヘビータートルの頭を動かす先が分かっていたかのように打ち抜く。
流石の技量だ。
ヘビータートルは案の定怯み、俺の仕事の番が来た。

すかさずタートルで散々なれた行動を開始する。
まずは槍を腹の下に突っ込み、力いっぱいに持ち上げ… …れない!


――くそ!重くて持ち上がらん!


予想してしかるべきだった。
名前からしてヘビータートル。直訳すれば重い亀。
タートルと同じように行く保障はまったく無かったのだ。

そんなこんなでもたもたしていると、亀は怯みから復帰してしまう。
このまま、亀の脇に無防備にしゃがんでいるのは自殺行為以外のなんでもない。

舌打ちしながら、亀のもとを離れる。
結果的に、今の怯みはまったく意味が無かった。
なぜなら、持ち上げるのに邪魔になるためセシーは攻撃していないからだ。
もし攻撃していたならクリティカルでそれなりのダメージを与えられたかもしれなかったのに。

「こいつ、タートルよりもだいぶ重くて持ち上がらんぞ!」
「このへたれが、役にたたねぇな」
「ちょっと!この亀どうしよう!?」

俺がタゲを取っているときは攻撃はよければいいが、先ほどの攻撃でセシーにタゲが移ってしまっている。
彼女は防御ステがほとんどないのだ。避けきれるわけではないし、一撃も致命傷になりえる。
本来の彼女のスタイルならば、怯んでいたときに攻撃し、怯みからの復帰の時点で次の怯みを起こすような攻撃が出来るよう立ち回るが、今回はひっくり返すために待機していたためそういったことをしていない。
もちろんヘビータートルはそんなことを察してくれるはずも無い、容赦なくヘビータートルはセシーを襲うのだった。



[18261] 30. ヘビータートル2
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:36
危機的状況に後ろで待機していたベリトから指示が飛ぶ。

「セシー、ヒールするからもう一回怯ませてくれ!」
「わ、わかった!」

セシーは、ヘビータートルの攻撃をクリティカルにならない程度に避け、被ダメを覚悟した動きで再度怯ませるため頭を狙う。
言うのは簡単だが、尋常じゃないスキルだ。

「ジスは、もう一回槍使ってひっくり返そうとして!」
「だが、重くてもちあ…」
「いいからやれ!」

ベリトからの指示に反論しようとするが叩き潰される。
なにより悠長に考えてる時間はない。
とりあえず、ベリトの指示に従うことにする。

俺の行動指針が定まったところで、セシーが頭を殴って亀を怯ませた。
なぜ、あの体勢から頭を殴れるのかもはや理解不能だ。
その見事な動きに見ほれそうになるが、そんな余裕はない。
俺は、再度亀の腹の下に槍を突っ込み、持ち上げようとして… …やはり持ち上がらない。

「セシーも持ち上げるの手伝って!」
「え、でも私、武器持って…」
「放せばいいだろ!」
「えぇ!?」

セシーはその指示に目を白黒させるが、やはりそんな場合ではないと取り合えず指示に従うことにしたようだ。
持っていた槌をその場で放し、俺が持つ槍に手をかける。
俺たちはそのタイミングを見て、無意識に掛け声をかけ同時に力を入れた。

「「せーの!」」

二人の力で何とか亀が持ち上がる。
俺よりも高いSTRを持つであろうセシーがいるからかも知れない。
だが、それまでに若干のタイムロスがあったため持ち上がる前に亀が怯みから回復し暴れ始めた。

ここでひっくり返すのに失敗すると、まずセシーの戦闘不能は避けられない。
今度は武器すら放しているのだ。
再度怯ませるなど望むべくも無い。

俺は必死になって、持ち上がった甲羅の縁に足をかける。
セシーも散々俺がやっているのを見たせいか、同じように足をかけている。
俺たちは再度掛け声をかけて脚に力を込め、甲羅を蹴り上げる!

「「せーの!」」

重い!重いが…出来ないほどではない!

二人の蹴りによって甲羅は見事に反転し、青い空にその白い腹をさらす。
しかし、ここで安心してしまうといつかの二の舞だ。

俺は反転した甲羅に走りより、そのままもとに戻ろうとしている甲羅の縁を踏んで戻らせないように踏ん張る。
当然ひっくり返すとき亀の甲羅が重くて強い力を入れたのだから、その反動も強くなっている。
俺が甲羅の縁にかけた足ごと持ち上がろうとする力で体が持ち上がる。
体が持ち上がった以上、重力に支配されているこの体では体重以上の力を出すことは不可能だ。

それを悟った俺は持ち上がろうとする甲羅の縁に逆らわず、膝を曲げ…
十分、曲り力をためたところでその力を解放する!

思惑通り俺の体が飛び上がる反動で、辛うじて亀の甲羅が再度ひっくり返るのを阻止する。

俺が戻らないようにと悪戦苦闘している間に槌を拾ってきたセシーが強烈な一撃を白い腹にぶちかます。
俺も着地するなり槍を構えて白い腹に攻撃を入れる。

俺とセシーが3回ずつ腹を殴ったところでヘビータートルが鳴き声をあげて、動きを止めた。

ヘビータートルが光となって消えていくのを確認し…

俺とセシーは思わず目を合わせ、…同じようにため息を一つついた。

「綱渡りにもほどがあるな」
「真っ先に死にそうなのが私だからね。助かってよかったよ」
「あれだな、意外と思いつきでも何とかなるもんだな」
「おまえなぁ…、うまくいったから良かったものをめちゃくちゃだぞ」
「私も武器はなせって言われたときは、どうしようかと思ったよ」
「うまくいったんだからいいじゃん」

戦闘中の近接前衛に武器を放せとか、正気を疑われかねない指示だ。
むしろ、その指示に対して実行して見せたセシーはすごいと思う。
俺がその立場になったとき武器を放せたかは正直疑問だ。
さらに言うなら、ほかのPCが持っている武器を一緒に持てとかゲームシステムに喧嘩を売ってるとしか思えない。
考えれば考えるほど良くうまくいったものだと思う。

「この綱渡りを毎回やるのは正直きつくないか?」
「そうか?今のぶっつけ本番だってうまく行ったんだから次はもっとスマートに行くんじゃないか?」
「それはそうかもしれないけど…」
「相変わらず、人事だと思って簡単に言いやがって…」

しかし、ベリトの意見に一理あるのは確かだ、半ば混乱しつつ行動した結果でもうまく行ったのだから、意識して手順を考えながら行える次回以降は成功率は大きく上がるだろう。
だが、見過ごせない大きな問題点がある。

「失敗したときのリスクが大きすぎるぞ。
 セシーさんが武器を放した状態で亀のタゲをとることになってしまう」
「確かに…。その状況は流石に遠慮したいなぁ…」
「さらに言うなら、ひっくり返ったのがまた戻るのを踏んで防ぐのも、今回たまたまうまく行っただけで毎回成功させる自信は無いぞ」
「ふーむ、何かいい方法は無いかな?せっかくならヘビータートルを狩りたいよね。
 まったくジスが一人でひっくり返せるなら問題ないのに…。根性出せよ。」
「いや、根性論とか無理だろ。多分システム的にSTRが足らないとかそういう感じだぞ」
「てこの原理を利用するとか…、落とし穴掘るとかどうよ?」
「支点に何を使えばいいか分からんし、どうやって穴を掘るんだよ。
 流石に初期配置のオブジェクトを大きく弄るのは自由度がどうこうってレベルじゃ無理じゃないのか?」

俺は、足元の地面を蹴って掘ろうとしてみるが、砂ははじくことが出来るのになぜか深さが下がっていない。
つまりは、まったく掘れそうな気配が無い。

「んー、ジス、亀はまったく持ち上がらなかったのか?」
「少し隙間が広がる程度は上がるけどな。それ以上は無理だ」
「なら、その隙間をセシーが槌でたたき上げるとかは出来ない?」
「え!?わたし?
 どうだろうなぁ、それってどれ位上がってるの?」
「そうだな…。だいたい30cmぐらいじゃ無いかな」
「それなら出来ないことは無さそうだけど、やってみないとなんともいえないなぁ…。
 あと、それでひっくり返したとしたら反動を抑えるジス君が大変になるんじゃない?」
「ギリギリの勢いで転がしても精一杯だからな…。余計に勢いがいいとやっぱり難しいな」
「セシーが上から槌で叩けない?うまく行ってたら振り上げた状態だと思うし。」
「あー、打ち上げた後だからね、確かに出来るかも。それで止まるかはわかんないけどね」
「お、うまく行きそうじゃん。ジスはどう思う?」
「まあ、試してみる価値はあるんじゃないか?
 ただ、セシーさんの負担がずいぶん大きいように思えるのが気になるけどな」
「確かに…。セシーはいけると思う?」
「イメージ的には出来そうだよ。私もやってみる価値はあると思う」

どうやら、全員一致で試すことに賛同のようだ。

よし、最後に今度こそこれだけは決めておかないとな。

「もし、うまく行かなかったらどうする?」
「全力逃げる」
「だね、それしかないだろうね」
「まぁ、確かに亀なら足遅いし逃げ切れるか。逃げるときは声かけること」

そうまとめた俺は、ベリトに神の祝福をかけ直してもらうとヘビータートルを釣りに移動を開始した。

ここで言う釣りとは、文字通り自分を餌にして特定のモンスターだけをほかのメンバーが待っているところにつれてくることである。

PTで狩りを行うときは大体2パターンであり、そのうちの一つが拠点を決めPTMが待ち構えるところにモンスターを連れてきて倒す方法、もう一つは素直に全員で移動しながら目に付いたモンスターを倒していく方法だ。

前者は基本的に一匹ずつ倒していくことが可能なので比較的安全だし、あらかじめ準備しておくことも出来る。
しかし、その分モンスターを倒す数も少なくなるので効率面では後者に一歩譲る。

後者は、全員で索敵するためモンスターを数多く相手に出来る反面、不意打ちなどで前者に比べると危険が多い。
周りがノンアクティブばかりならばモンスターが多いところでも安全だが、アクティブのモンスターがいるところではそうは行かない。
モンスターの群れに突っ込もうものなら、いっせいに攻撃を受けてしまう。
当然、今の俺たちにそれを奇貨として経験点に変える戦力は無い。

先ほど立てたヘビータートルに対する戦術も1対1の状況が大前提である。
必然的に拠点を決めてそこに敵を誘い込む方法が取られるのだ。

そして、その敵を誘い込む役を追うのは当然俺の仕事である。
回避型であるため、敵のタゲを取りながらも比較的自由に動くことが出来るし、敵の攻撃を回避できるならば単体生存力が高いからだ。
ましては今のPTは支援特化と攻撃特化との3人である。
俺以外は敵を釣ってくるのにとてもではないが適しているとは言えないだろう。

俺は周りの確認をしながら索敵する。

ちなみに、俺たちのPTが拠点に選んだのは少しくぼんだ形になっている壁際である。
こういった地形ならば後ろからの不意打ちの危険性が格段に少なくなるし、左右からくるのもあらかじめ視認しやすく対応が取りやすい。
こういった待ち伏せに適した地形も同フィールドで狩りをする人が多くなっていくと取り合いになってしまうのだが、現状では見える範囲に俺たちしかいないようなのでまったく問題が無い。

さて、ほぼベストな位置に拠点を構えることが出来たが、それだけでは問題は終わらない。

これは俺の問題になるが的確に一匹ずつ拾ってこないといけないのだ。
先ほど言った通り、俺たちのPTが相手に出来るのは一匹ずつ。
許容量を超えて拠点に持っていっても狩りにならないのだ。
アクティブな敵を釣るときには気をつけないと複数のモンスターのタゲをとってしまう。
そうなると、適当に走り回るなどして一回タゲを切らなければ拠点に持っていくことが出来ない。
非常に大きな時間ロスになるし、場合によってはそのまま俺がつぶれてしまうかも知れないのだ。
釣る側としては、結構神経を使う作業なのである。

せめて遠距離系の攻撃手段があれば釣るときに楽になるのだが、残念ながら俺は持っていない。
そのため、気をつけて単独行動している敵を見計らって釣ってくるしかない。

幸いにしてヘビータートルはフィールドに対してさして生息数が多くないようで、まばらに点在していることが多いようだ。
本格的に狩りの処理速度が上がってくると物足りなくなってくるかもしれないが現状ではありがたい。
もしかしたら、フィールドの奥の方に行けば生息数も多くなり密度も高くなってるのかもしれないな。

こういった作業を担当する場合が多くなりそうな俺は、やはり何らかの遠距離攻撃の手段を手に入れることを考えたほうがよさそうだな。


俺は、索敵を開始してすぐに一匹でのそのそ歩いているヘビータートルを発見し、そいつに狙いを定めることにする。
別にそいつに気づかれるのは望むところであるので、特に気づかれないように気をつけることも無く無造作に距離を詰める。
そのとき気にするのは狙ったやつ以外に敵がいないかどうかだけだ。

俺が接近するとヘビータートルはこちらを認識し、アクティブの行動指針に基づいてこちらに攻撃を仕掛けようと向かってくる。
ヘビータートルは移動速度が遅いため、距離に気を付けながら走る速度を調整すれば自由につれまわすことが出来る。

俺は新しいヘビータートルの追加が無いことを確認しながら拠点への帰り道を戻っていくのだった。



[18261] 31. ヘビータートル3
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:40
拠点で待機していたベリトとセシーは戻ってきた俺を見てビータートルをつれて来たことを認識し、戦闘態勢に移る。

俺は槌を構えるセシーの隣まで来ると足を止めて亀に向き直る。
ここからは先ほど決めた戦術通りにことを進めることが出来るかどうかが焦点となる。

主役は俺ではなくセシーに移っているが、俺は改めて気合を入れ、此方に近づいてくるヘビータートルに意識を集中した。

「セシーさん、よろしく!」
「まかせて!」

俺が引き連れてきたヘビータートルをセシーの槌が襲う。
その槌は狙い過たずヘビータートルの頭を打ち据えた。

横から見ている分には無造作に振るっているようにしか見えないのだが、その槌はいつも的確に頭に向かう。
それを見ていると、ひょっとすると実は簡単なのではないかと勘違いしてしまいそうになるほどだ。
だが、俺も打撃属性の武器を持つものとしてそれがいかに難しいかを実感している。

今のも移動中のモンスターの、細長い先についており走るたびにフラフラと揺れる目標であるというのに…

槌の方がその重量ゆえ、繊細な動きが槍よりも難しいはずであるはずである。
なのに、槍を使う俺は彼女のように打ち据えることは出来そうに無いのだ。

毎度のことながらその見事な動きに見ほれそうになるが、この仕事での俺の唯一の見せ場がこの次なのだから気を抜いているわけには行かない。
ヘビータートルは頭に痛烈な打撃を食らって動きを止める。

「おっけー!怯んだよ!」
「よし!俺の番だな!」

ヘビータートルの横につき、腹の下に槍を差し込んで力の限り持ち上げようとする。

ある程度持ち上がった所で、それ以上はぴくりとも上がらなく成ってしまう。
力は変わらずに入れ続けているつもりなのだが、全く上がらない。
やはりシステム上での制限がかかっているとしか思えないな…

ただ、うれしい誤算だったのが予想よりも高く持ち上がったことだ。
作戦検討時には、うろ覚えだったので余りはっきりとしたことが言えなかったのだが…

この作戦において予定より低くて困ることはあるだろうが、高くて困ることは無い。
後はセシーさんがうまくやってくれることを期待するだけだ。

「やっぱり、ここが限界だ。セシーさん任せた!」
「りょうかい!いっくよー!」

セシーは、頭への打撃の後に右へ体を捻って体の後ろで槌を振りかぶっている。
俺が槍を使って亀を持ち上げ広くした隙間を狙い、まるでゴルフのスイングのように振り下ろした!

「てーい!」

若干気の抜ける掛け声と共に振り下ろされた槌は、声とは裏腹に大きな力をもって亀に向かう。
槌の頭は地面のすれすれを通り、そのまま掬い上げるような形で俺が持ち上げた亀の甲羅に上ベクトルを叩き込む!

その一撃が当たった瞬間、亀の甲羅が打撃の衝撃で持ち上がるのにあわせて全く持ち上がる気配がなく止まっていた俺の腕が持ち上がるようになった。
俺はその浮いた甲羅の勢いを殺さないように、曲げていた膝と肘を伸ばしながら力いっぱい持ち上げる。
半ば甲羅が横に立った状態になると、俺は立ち上がった勢いのまま甲羅の上部を蹴りつける!
セシーさんもゴルフスイングを振り切った状態から槌を肩に担ぐようにしつつ、左足を使って同じように甲羅の上部を蹴りつけた。

その2発の蹴りの勢いを持って、横に立った甲羅は臨界点を超え、向こう側に倒れていく。
即ち、その白い腹を太陽の下にさらすように。

あとは、この甲羅の丸みと倒れた勢いによってもとに戻るのを防ぐだけだ。
いつもならば走りよって足で押えるところであるが、前回でそれだけでは押えきれないことは分かっていたし、作戦ではセシーさんが再度甲羅に打撃を入れて転がる勢いを相殺するのが目標だ。
俺が甲羅に足をかけてはセシーさんが甲羅をたたく場所が難しくなってしまう。
だからといって俺も何もせず見ているだけと言うのは芸が無い。
おれも槍と使って打撃による反動相殺を試みるべきだろう。

俺とセシーさんは獲物を握り締め、もとに戻ろうとしている亀の腹に叩きつけた!

それら打撃で甲羅が反転しようとする勢いは殺され、ヘビータートルは無様にその白い腹を空にさらしている。
後は、ヘビータートルがもとに戻る前に殺しきれるように俺とセシーさんでいじめるだけである。

ちなみにベリトは攻撃力に期待できないのと、周りの状況の確認のため取り囲む子供の役ではない。
前回の状況から2人でたたいても、ヘビータートルが復帰する前に殺しきれるのが分かったことも一因だ。

ひっくり返ったあと俺とセシーが2回ずつ腹を殴ったところでヘビータートルは動きを止め、そのまま光になって消えていった。

俺とセシーさんはその様を確認し、目を合わせると全く同じタイミングで息をついたのだった。

「予想以上にうまく行ったじゃん!」

ベリトは喜色を浮かべてこちらに走ってくる。

「まぁ、さっきよりは綱が太くなった気はするな」
「冷や汗ものの場面も結構あったしね」
「ひっくり返った後の攻撃回数が少なかったのを考えると、掬い上げの一撃と反動相殺の一撃もちゃんとダメージとして通ってるみたいだな」
「多分、そういうことだろね。すぐ終わったからびっくりしちゃったよ」
「つまり、最初の方法と比べたらあらゆる面で上位互換ということだな!」
「まぁ、そういえるかもな。というか、えらくテンション高いな、お前」

俺は、なぜかテンションが異様に高くなっているベリトに若干押されてしまう。

「え?そうか?でも、考えた作戦がうまくはまるのを見るとテンション高くなるだろう?」
「まぁ、分からんでもないが、とりあえずお前は上がりすぎだと思うぞ…」
「ベリトちゃんはそういうのが好きなんだ」
「ああ、そういやこいつシミュレーション系のゲームも好きだな」
「おう!後はパズルゲーにも通じるところがあると思うぞ。
 なんにしろ、こういう工夫が出来るところがVRのいいところだよな!」

一向にテンションが落ちる気配が無いベリトに付き合っていると疲れそうなので、とりあえず話を進めることにする。

「とりあえず、狩ることは出来たけど何か改善点とか心配なこととかあるか?」
「んー、とりあえず最初のひっくり返すのが失敗したときにどうするかを改めて決めておいたほうがいいんじゃないかな?」
「なるほど、一理あるな!
 と言っても、逃げる以外には、もう一回怯るませてひっくり返そうとするしかないんじゃないのか?
 セシーにタゲが来るだろうから俺もヒールの集中しやすいし…
 さすがに一撃で落ちることは無いよね?」
「死にはしないと思うけど、クリティカル受けたらその後すぐに動けるようになるかは怪しいなぁ…」
「なら、俺はセシーさんがクリティカルを受けないように、ヘビータートルの攻撃に横槍を入れる形で動くことにするか。
 どうせ、俺の攻撃じゃタゲを取り戻すのは無理そうだ」
「あ、それなら何とかなるかも」
「それにミスったら逃げるってことにしておこう。あと他になんかある人いる?」
「俺たち以外に狩り場に居ないようだから余り無いかもしれんが横脇したらどうする?」
「それこそ、一目散に逃げるしかないんじゃね?」
「だねー。まぁ、お亡くなりになったら運が悪かったと諦めるぐらいしか無いと思うよ。
 一応、一旦離れられたら足は遅い敵なんだし逃げ切れるんじゃないかな?」
「まぁ、俺が一番最初に気づくだろうから、声かけたらどんな状況でもヘビーの居ない方に逃げることにしよう」
「了解。ベリト、期待してるから気づかないで全滅とか言うのは無しにしてくれよ」
「任せとけって。俺がどんだけVRで支援職やってきたかお前なら知ってるだろ?」
「まぁ、確かにな」
「へー、ベリトちゃんは支援職が好きなんだ?」
「そのためにネカマになるぐらいだしな」
「ネカマじゃねぇっていってるだろうが!
 まぁ、支援職が好きなのは確かだよ。どこがって言われると困るけど」
「なるほどねー」
「まぁ、雑談は後にして俺から一つあるんだが、ミスって二匹釣ってきたらどうする?」
「へたくそって盛大に罵ってやるよ♪」

相変わらずのいい笑顔でいやなことを言いやがる。
とりあえず俺はその台詞を無視することにした。

「ベリトちゃん…。
 まぁ、一旦タゲ切って貰ってから再度釣ってきてもらうしかないんじゃないかな?」
「やっぱりそれしかないか。大きな時間ロスになるけど現状じゃしょうがないもんな。
 遠距離系の攻撃手段があれば大分楽になるんだが…。
 こういうときばっかりは盗賊系のハイディングがうらやましいな」
「ハイディングはどうにもならないけど、遠距離攻撃なら投げナイフ使えばいいんじゃない?」
「投げナイフ?それってアラナスでも使えるのか?」
「べつにどの神様でも使えるよ?
 単に熟練度の補正が入らないから苦手な神様だと強いナイフを使えるようになるのに苦労するだけで。
 でも、釣りに使うだけなら別にダメージ関係ないから弱いナイフでも関係ないでしょ?」
「なるほどな…。帰ったら武器屋で相談してみようと思うよ」
「でもDEXが高くないと、当たらないかも知れないけどね。
 ジス君はAGIも上げててそっちでも命中が上がってるはずだから結構使えるんじゃない?
 熟練度が上がっても命中に補正が入るはずだからやっぱり熟練度はあればあるだけいいけどね。
 あと、強いナイフには命中補正がついてることがあるらしいよ」

ありがたくセシーさんの解説を聞いているとベリトが興味を持ったのか話に入ってきた。

「それならさ、そこら辺に落ちてる石を拾って投げたらタゲ取れるの?」
「え!?ど、どうなんだろ?」
「相変わらずお前の発想には意表をつかれるな…。だが、残念ながら無理そうだぞ」
「む、何で確かめたわけじゃないのに分かるのさ」
「周りを見てみろ。ここをどこだと思ってるんだ?砂浜なんだぞ、そもそも投げれるサイズの石が落ちてない」
「あ、ほんとだ。んー、なら、木の枝とか岩砕くとか…」
「オブジェクトを壊すことはさすがに無理だろ」
「そりゃそうか…。いい案だと思ったんだが無理ならしょうがないな」
「とりあえず、俺の遠距離攻撃は町に戻ってからと言うことだな」

俺の中で結論が出て、スッキリするがそもそもまた話題がそれていた。

「というか、また話がそれたな…、話を戻すぞ。
 他にヘビータートルを狩る上で問題になりそうなこととかってあるか?」
「私は特に思い当たらないかな」
「俺もだな」

みんな大体話は終わったと認識したようだ。
そろそろ次の獲物を釣ってくることにしよう。

「よし、大体反省も終わったようだし次のヘビータートルをつれてくるぞ」
「はーい、がんばってね」
「おう、行って来い」

待機組み2人に見送られながら、俺はフィールドに向かって走り出した。



[18261] 32. 亀狩りの終わり
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 00:54
その後の狩りは特筆すべきことは無い。

ヘビータートルを呼び込み、セシーと二人でひっくり返し亀をボコる。
ベリトは俺が釣りのときに受けたダメージを回復させたり、うまくひっくり返らなかったときにセシーに来た攻撃の回復をしたりなどで活躍した。

当初の予定から変化したのは、ヘビータートルをひっくり返し終わった時点で俺が戦闘から離れ索敵に戻るようになったことぐらいだろうか。
これは、ひっくり返した後はセシーの打撃だけで十分殺しきれることが分かったからである。
そのため、待機時間を出来るだけ短くするために早めに索敵に戻ることにしたのだ。

一番の懸念材料であった横脇きも、この狩り場にはごく少数の人数しか居ないため横脇きで不意をつかれるようなことは無かった。
一番近くに現れた場合でもヘビータートルの感知範囲外だったのだ。
これは嬉しい誤算であるが、人がいなさ過ぎるのはメリットがあるばかりではない。

簡単に言えば時間が立つにつれ釣りで引っ張ってくる距離が長くなるのだ。
その移動時間のために狩りの効率が落ちてしまう。
なぜかと言えば簡単で、新しい敵はランダムの場所で出現するが、討伐されているのは一部分の場所なのだ。
当然、時間が経てば経つほど討伐されていない場所に敵が固まることになり、討伐を続けている場所のモンスターは少なくなる。

これを解消するには、定期的に移動狩りを行ってモンスターの偏りを解消してやればよいわけだが、俺たちのPTではそのような移動狩りは望むべくも無い。
亀に群がられて、3人とも一瞬で昇天することだろう。
あるいは十分な時間を置いてやれば、モンスター自体のランダム移動で自動的にマップ全体に離散する。
だが、もともと足が遅いヘビータートルは、そのための時間も大分かかってしまうだろう。
少なくとも、今の狩りで望むべくも無いことは確かだ。

では、このような事態が起きないためにはどうすればいいかというと、適度に人がいて狩り場に分散していればいいのだ。
そうすれば、何処か一箇所にモンスターがたまる事が無くうまく回転するために狩りの効率も維持することが出来る。
狩り場に自分たちだけでモンスターを独占できるというのは一見美味しいように見えて、実はそうでもないということだな。

とはいえ、人が居過ぎてモンスターの総数を上回るようなことになれば全く話は別だ。
モンスターが倒されてから何処かで出現するまで若干のタイムスパンがあるため、マップ全体においてモンスターを狩る速度が早くなると、そのタイムラグのせいで狩り場に生息するモンスターが少なくなってしまう。
当たり前だが、人が多すぎると自分が倒すことの出来るモンスターの数も少なくなり効率は悪くなる。

釣りを担当する俺としても敵が密集してくると、その中の一匹だけを連れてくるといったことは難しくなる。
そうなってくると1匹のだけ釣るのに失敗し2匹以上のタゲを取ってしまうこともたびたびあり、それを切るために走り回る時間が増えて、よりいっそう効率が悪くなる。
まぁ、そのたびにベリトにへたくそ呼ばわりされるのだが。

そんなわけで、俺たちは何回か慎重に状況を確認しながら拠点の位置を変更して狩りを続けた。

そんなことを繰り返し狩りを続けるうちにいつの間にか周りが暗くなってきているのに気づく。
時間を確認すると、すでに夕方の7時半を回っていた。

「周りが暗くなってきたと思ったら、もう夕方の7時を過ぎてるな」
「お、もうそんな時間なのか」
「ここに来てヘビータートルを狩り始めたのが4時ごろだったと思うから、結構な時間ここで狩ってたねー」

セシーの話からすると3時間半ほど狩っていた事になるのか…
ぜんぜん気づかなかった。

「どうする?そろそろ街に戻る?」
「確かに、ちょっと疲れたかな。そろそろお腹もすいたしね」
「なら、街に戻ることにするか」
「賛成~。ジス、また魔法の羽根くれ」
「あほか、あれ高いんだぞ。
 昨日は緊急だったし、無理させたと思ったから持ってたの分けてやっただけだ」
「マジで?いくらぐらい?」
「あー、あれ買うと50cぐらいするよね」
「高いな!基本アイテムなんだからもっと安くてもいいじゃん!運営なに考えてるんだよ!」
「まぁ、後のほうになれば50cとかはした金になるんじゃないのか?
 正直この狩りでも収集品売ったら相当な金になりそうだと思うが」

今回の収集品は数も質も今までとは比べ物にならないだろう。
清算するのが楽しみである。

「まー、確かにな。
 というか、タートルとヘビータートルでドロップが変わらないのはやっぱり寂しいな。
 リビとリビリオンもそうだったけどさ」
「モンスターごとにアイテム作ってたらいくらあっても足らなくなるから、似た系統のモンスターならドロップを流用でもしょうがないんじゃない?
 一応、ドロップテーブル的にいいものが出やすくなって見るみたいだし」
「所で俺たちは歩いて帰るけどセシーさんはどうする?」
「あ、私は羽根使って帰るよ。ご飯の時間で呼ばれてるからすぐにログアウトしないと怒られちゃう」
「了解、なら急いでドロップ品の分配しないとな。
 えっと全部で"亀の甲羅片"が25個、"亀の甲羅大片"が14個、"亀の甲羅"が5個だね」

俺たちは3人で狩り始めてからのドロップが其れまでのものと混じらないように、ベリトが持っていたドロップ品を全部俺が持ち、新たに拾ったものはベリトが持つようにしていたので数の把握は簡単だ。

「みごとに中途半端な数ばっかりだね…。どれぐらいの値段がつくか分からないから、この場は二人が預かっててよ。
 街で換金してからの方が分けやすいでしょ。戻ってきたらまた連絡するからそのときに分配分をもらえればいいよ」
「なるほど、了解。売る店はどこでもいい?」
「私はかまわないよー。北門辺りの適当な道具屋でいいんじゃないかな?
 とりあえず、私は羽根使うね」
「あいよ、それじゃまたな」
「また後でな」
「またねー」

そういってセシーは道具袋から魔法の羽根を取り出して使用した。
セシーの体は光の粒になってその場から消える。

しかし、まぁ、えらく信用されたものだ。
この状態でログオフするとは、このまま収集品を持ち逃げされるとは思わないのだろうか…
いや、当然そんなことをする気はないのだが、一般的に危機管理的にどうなのだろうと心配になってしまう。
まぁ、天然っぽいせいなのか、観察眼に絶対の自信を持っているのかどちらかだろうか?
まぁ、大方前者だとは思うが。

ちなみに、VRをプレイ中では外からの音などの刺激には基本的に反応しない。
よってメールのような形でプレイ中の人間にメッセージを送ることが可能になっている。
セシーも家族であろう人からメッセージを受けたのだろう。

「さて、俺たちは歩いて街まで帰るとするか」
「そうだな。つってもここから街まで結構あるよな。次からは羽根使うことにしようぜ」
「時間ロスを考えたら、それがいいかもしれんな」

俺は潮騒を聞きながら海岸線を歩く。
すでに、ヘビータートルの生息域からは外れているため特に回りに警戒する必要もない。
少しして、タートルが多く生息する辺りに戻ってきた。

昼間はそこそこの人が居る程度だったのに、今では非常に人が多い。
やはり、この時間の人気狩り場では狩りをする気にはならないな。

「おい、この後どうする?めちゃくちゃ人がいるぞ」
「まったくだな。俺たち2人じゃヘビーを狩るのなんて無理だし。
 新しい狩場を開拓する元気も今日はないな…
 人入りが一段落するまで、街でクエストを消化するのはどうだ?」
「俺はそれでいいぞ。
 今のうちに仮眠取ってもいい気がするが、あんまり眠くないし、セシーがいつ戻るか分からんからそうそう落ちれないしな」

俺たちは今後の方針を話し合いながら街へ向かって足を進める。
周りに人が多くなってきたために、ベリトの容姿に目を留める人が増え、必然的に俺への視線も増える。
慣れたとはいえ、余りありがたくない類の視線である訳で気持ちのいいものではない。

俺はため息を一つついて、歩く足に力を入れた。
ベリトはその様子を不思議そうに見ていたが、やがて気にしないことにしたのか変わらず横を歩く。

そんな俺がふと横目に見える海岸線に目を向けると、そこにはえらくでかい亀が居た。
甲羅の最長部が人の身長ぐらいあるのだ。重量はいったいいくらあるのか…。
どうやらあいつがビックタートルとか言うユニークなのだろう。

「おい、ベリト。みてみろデカい亀が居る」
「うん? …おお!あれはでかいな!」
「多分ビックタートルって名前のユニークだな」
「ほう。そのまますぎるネーミングだな。ビックタートル…デカい亀…の頭…」
「…言いたいことは分かったから、それ以上言ったらどつくぞ」
「なんだよ、男なら当然の連想だろ」
「お前の今の姿は男じゃねぇだろ。
 その姿のお前とその手のことを話すと、ただでさえ痛い視線がさらに強くなるんだよ!」
「これだけの美少女を侍らせてるんだから、それくらい安いもんだろ」
「もういい…、好きにしてくれ…」

心底疲れた様子で諦めの言葉を吐くと、さすがにベリトもやりすぎたと思ったのか心配そうに声をかけてきた。

「そう諦めるなよ、そんな様子だと俺が面白くないだろうが」
「…このロリコン女装趣味の、ネカマ野郎が…」
「俺はロリコンでもネカマでもねぇっつってんだろうが!」

訂正しよう全くフォローしようなんて気は無かったようだ。
とりあえず、俺は使い古されたカードをきることで一応の反撃を試みるのが精一杯だ。

そんなやり取りをしているうちに街へと続く河にたどり着いた。
後はこの河にそって上流に向かっていけばいいだけだ。

「そういや、初期の街の周辺でまだいってないところってどれぐらいあるんだ?」
「たしか、この河の上流の山と街から南東の森の中ぐらいじゃないか?
 クローズではどちらもユニークがいたって話だったが、山の方は居ないのが確認されてて森の中は未確認だったな。
 少なくとも俺がユニークスレを見た時の情報だが」
「ふむ、次の街に行く前に一通り回ってみたいもんだな」
「クエスト消化する過程でいかないといけない事態にもなるんじゃないのか?」
「そういや、そんなことも有りそうだな」

暫く、河に沿って東へ足を進める。
来たときと同じように田園地帯を抜け、街にたどり着いた。

「さて、街についたがどうする?まずは素材の換金か?」
「そうだな…。
 そういや、これからクエストやるなら素材残しておいた方がいいんじゃない?
 売った後にまたとって来いってことになったらダルすぎる」
「確かに…。でもセシーさんのこともあるしな…」
「とりあえず、数で分けれない端数の分だけ売っておこうぜ。後は、現品と売った金を分割すれば均等に分けれるだろ」
「それはいい案だな。そうするか」

俺たちは北門をくぐってすぐに目に付いた道具屋に入る。
そこで甲羅片1個、大片2個、甲羅を2個売って1s42cを手に入れた。
残りは甲羅片24個、大片12個、甲羅3個である。
一人頭の割り当ては、甲羅片8個、大片4個、甲羅1個と47cである。

俺たちはセシーと狩りはじめる前にタートルを狩っていた分の素材も分けることとにした。
幸いにして甲羅片6個大片4個と共に偶数であったためすんなり分けることが出来る。
俺は甲羅片11個、大片6個、甲羅1個を袋に放り込む。

「よし、とりあえず雑事は終わったな。クエストを探すとするか」
「あー、そのことなんだがな。さすがに俺も腹が減ったんで一旦ログアウトして飯食ってくるよ」

そういえば、すでにいい時間だったな。
さすがに、8時近いと俺も腹が減った気がするな。

「そういわれると、俺も腹が減ったな…」
「一旦落ちるか?」
「そうだな…、二人とも居ないのはセシーさんが戻ったとき連絡取れないから、俺は先に神殿行ってくるよ」
「そこまで対応しなくてもいいと思うが…。
 まぁ、いいか。その案でいくと俺が戻ったら後退でお前がログアウトして、俺はその間に神殿いってくればいいわけだな」
「そういうことだな」
「なら俺は一足先に落ちさせてもらうぞ。なるべく早く戻るようにする」
「あいよ、いってらっしゃい」

そういうとベリトは光の粒へと変わり消えていった。
俺はそれを見送ると神殿に向かって歩き出した。



[18261] 33. 投げナイフ
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 01:10
神殿で階位の上昇を確認する。
祭壇に上がり、女神像の前で祈りを捧げる。
すると、いつもどおり不思議な空間に自分が居るのが感じられた。
そして、目の前に現れる…いや、居たというべきか?
俺は現れた瞬間を認識できていないのだから。
そんな凛々しくも不思議な存在から、涼やかな声が流れ出る。

「ジスティア・ネイシーよ。
 汝は順調に力を伸ばしておる様だな。
 汝の位階は8から9に上がった。
 新たに3つの種を得ることが出来るだろう。
 新たな力を持って次なる試練へと挑むが良い。

 汝は難敵に果敢に立ち向かい、人たる知恵をもって退けたるは評価に値するぞ。
 汝が仲間の信頼を勝ち取り、連携を行うなどすばらしきことである。
 また、危機に際し一丸と成りてその苦境を脱することも見事であった。

 だがな、ジスティア・ネイシーよ。
 確かに、汝の行動は我が信仰に背くことは無かった。
 だが、戦士としての心が聊かかけておるようにも感じられたぞ。
 我が信仰は規律有る行動によって守られる。
 だが、同時に戦士としての心も強くあるように我は望む。
 汝の進む道では聊か難しいことであるだろう。
 だが、その険しき道を進みきったときこそ、汝は大きな力を得ることが出来る。
 汝ならばその道を進むことが出来ると期待しておるぞ。

 さて、これらの行動を鑑みて、我が力の一端を貸し与え、更なる力を振るうことを許可する。
 汝の我への信仰が9の位階にあることを認めよう。
 我が信仰の体現者としての立場をゆめゆめ忘れることなく、更なる活躍を期待するぞ。
 我は汝を見守っておる。より一層精進するがよい」

結果は階位と信仰が1Lvずつの上昇だった。
しかし、アラナスの言う戦士の心ってのはガチンコでがんばれってことなのだろうか?
別に釣りに専念しててもペナルティは発生しないようだけど、好みの美人さんに頼まれたら否とはいえないよな。
たとえそれがNPCだったとしても!
ふーむ、改めてPTでの立ち位置を考えるべきかもしれないな。

それはさて置き、さすがにそろそろ一気に2Lv上がるのは難しくなってきたようだ。
だが、3~4時間の狩りで1Lv上がるのだから、ネットゲーとしてはまだまだ上がりやすい方だろう。
経験点が確認できないのでその狩り場が効率の計算が出来ないため、良し悪しがはっきりしない。
そのため、亀が経験点的に美味しいかどうかは不明では有るのだが。

ステータスだがSTRが一段落したので、DEXとAGIに振ることにした。

---ステータス----------------------
名前 ジスティア・ネイシー 位階9
信仰神 戦神アラナス 信仰9

STR 15+6(23)
VIT 1+3(4)
AGI 11+5(17)
DEX 10+5(16)
INT 1+2(3)
MND 1+2(3)
-----------------------------------

スキルは、迷うがとりあえず保留としておくことにする。
槍修練を上げることも考えたのだが、投げナイフを使うのならば遠距離修練を新たに取るのも良いかもしれないと思ったからだ。
とりあえず、武器屋の親父に投げナイフのことを相談してみてから考えようと思う。
しかし、そろそろ長期的視点に基づいた中期計画をまじめに立てるべきかもしれないな。
刺し当たってLv20あたりでどんな感じのステータスにするかを考えておくべきだな。
まあ、今すぐやらなければいけないことでもない。
今は取りあえず、先に用事を済ませておくことにするか。

俺は神殿を後にし武器屋に向かった。
いい加減この道も通いなれたものだな。

「よう親父、また世話になりに来たぞ」
「おう、お前さんか。今度はどうした?あの槍は当分使えると思うんだが」
「ああ、今回は槍の話じゃないんだ。
 さっき組んだ仲間に投げナイフを使ってみたらどうかってアドバイスを貰ってな。
 どんなものがあるのか見に来たんだ」
「ほう、投げナイフねぇ…。
 お前さん確かアラナス様の加護を受けてるんだったよな?なら確かに悪い選択肢じゃないな」
「ん?アラナス様は投げナイフにも加護があるのか?」
「なんだい、お前さん。知らないのか?
 戦士系三柱で唯一投剣に加護を与えてくださるのがアラナス様だぞ」
「へぇ、それは知らなかったな。
 なら何もしなくても最低限のものは装備できるんだな。
 ダメだったら投擲修練のスキルを取ろうかと思ってたんだが…」
「遠距離修練のスキルが取れることからもアラナス様の加護が投剣にもかかることが分かるだろうに。
 加護の範囲から出る武器であったならその武器に対応するスキルなんかも修得することは出来ないぞ?
 現に杖や本なんかはアラナス様では加護を受けられんから、魔器修練も取れんだろうが」

確かに、そういわれればそうだったかも知れない。
まぁ、何はともあれ投げナイフを使うことは可能であるようだ。

「なら、俺でも使えそうなものを幾らか見繕ってくれないか?予算としては2sほど有るんだが」
「投げナイフはある意味消耗品だからなそんなに高いもんじゃない。
 ただ、ある程度の数を持っていかないとすぐになくなってしまうだろうな。
 とりあえず、今のお前さんが使えるのは、下から2ランクぐらいのものしかない。
 当然攻撃力は期待できんし、投げてもバランスが悪くてうまく当たらんこともある。
 それでも良いなら用意するが」
「まぁ、最初はしょうがないだろう。それこそ使っていって慣れないとな。
 それに、もともとダメージに期待して使うわけじゃないからそれで構わないさ。よろしく頼むよ」
「あいよ。それで何本ほど要るんだ?」
「そうだな…、さっき消耗品っていってたが、一回使ったら壊れるのか?」
「さすがにそこまでやわじゃないさ。
 だが、投げた先が分からず拾えないと数が減っていくから、少し多めに持っていくのが良いと思うぞ」
「なるほどな…。まぁ、とりあえず20本ほど有れば十分だろう」
「まいどあり。一本2cだから全部で40cだな」

俺は金と引き換えに錆びかけたボロい鍔の無いナイフの束を引き取った。

「投剣は慣れないとうまくいかないからな、実戦で使う前に訓練場の案山子相手に練習した方が良いぞ」

動作補助があれば何とかなるんだろうが、それに頼り切るのは俺の趣味ではない。
ベリトもまだ帰ってこないし、暇つぶしがてら訓練場で練習しておくことにする。

折角中央広場に来たので、ついでに花売り少女と会話を楽しんでおくのを忘れない。
この世界に降り立ったとき以来ご無沙汰だった訓練所は、続々と人を吐き出している。
まだ、2日目で、今はゴールデンタイムなのだ。
新規参入者はまだ多いのだろう。

俺はその流れに逆らうように中に入ると、俺の願いを裏切って例のうるさいマッチョがこっちを見ていた。
また、こいつにかかわることになるのかと気が滅入るが他にNPCも見当たらないためこいつに話しかけるほかにない。
俺はため息をついて、そいつのもとに向かった。

「よう、久しぶりだな」
「おう!お前か!今日は一体何の用でここに来たのだ!?」
「投げナイフの練習にきたんだが…」
「なるほどな!それならば右の扉に出たところで練習すると良いぞ!」
「分かった。ありがとよ」

なぜ、練習場所を訊くだけの会話ですでに耳が痛くなるのか…
俺は気を取り直して、言われた扉に向かう。

扉の向こうには少し広めの広場があり、その一角に案山子が何体か立っていた。
投げナイフは投げた後に見つからないと無くなるといっていたが…
流石に練習フィールドなら減らないで居てくれるかも知れない。
やはりタダではないので、出来れば減らないでほしいところである。

さて、練習ということだが基本的には動作補助で前に飛ばせることは出来るだろう。
投げナイフの経験はまったく無いのでこれがないと満足に的に投げることすらできない。
逆に言えば、投げること事態の練習はすることが無いとも言える。
熟練度が少々上がるだろうが、現状では焼け石に水であろうし、狩り中に使うほうが多分熟練度の上がり早いと思われる。

ならば、なぜわざわざ訓練場に来たかといえば、いくつか確かめておきたいことがあったからだ。

一つは槍を持った状態でなげることができるかどうかである。
これは両手武器を使っている俺には非常に重要なことだ。
盾と片手などの装備であれば、どの道どちらかを放さなければナイフを持つことが出来ないが、両手武器の場合片手で持ちつつナイフを投げるといったことが出来てしまう。
これがシステム上許されるのかが焦点だ。


俺は、まず槍をその場においた状態でナイフを袋から出し、的となる案山子から数歩離れてナイフを投げる。
俺の体は半ば自動的に動き、無意識のうちに効かせたスナップによってナイフは刃先を前に風を切って飛んでいく。
これが現実ならば、ナイフは無様に回転してしまっているだろう。
そして、ナイフは見事に案山子の腹に突き刺さった。

今度は、槍を左手に持ち、右手にナイフを持って、そのまま案山子に向かってナイフを投げる。
今度は明らかに先ほどの動きが出来ず、ナイフは刃先を前に飛ぶどころか無様に回転しながら案山子にぶつかり手前に落ちるのだった。

やはりシステム上の両手武器を持った状態で、片手を使うような動作は認められないらしい。
動作補助が無ければ満足に投げることが出来ない俺ではナイフの投げるときには武器を手放さないといけないようだ。

この結果は予想通りではあるが…、出来れば外れてほしい予想であった。
せっかく投げナイフというサブウェポンを得て行動の幅が広くなったのに、槍を放さなくてはならないとなると一気に選択肢が狭くなってしまう。
だが、システム上そうなっているのだから嘆いていても始まらない。

どうにかやりやすいように考えなければならないだろう。

俺が投げナイフを使う状況として考えられるのは今のところ2つの場合だと思われる。
一つはモンスターを釣ってくるときに使う場合。
もう一つは、後衛へアクティブモンスターが迫ったときにタゲを取るための攻撃である。
敵を釣る場合には、武器を放していたところでさして問題は無いだろうが、後者の場合は別だ。
投げた後に、敵が迫ってくるのが確実であるし、そもそもほかの敵を相手にしているときに投げなければいけないかもしれない。
そんなときに悠長に武器を放していては命がいくらあっても足らないだろう。

しかし、武器を放さなければナイフを投げれないのだからとんだジレンマだ。

こうなった以上は、放した後に再度持ちやすいように、或いはシステム上放していると判定させるような持ち方を見つけなければならないようだな…



[18261] 34. 投げナイフ2
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/13 01:11
さて、取りあえず投げた後に取りやすい槍の放し方という方向で考えてみるか。

真っ先に思いつくのが、その場の地面に槍と刺して立てておくことだろう。
これならば、片手でナイフを取り出しながら槍を立てそのまま投げるといったことが出来るだろう。
実際にやってみれば、ちゃんとナイフは投げれたし投げた後に槍を持ち直すことも簡単だった。

しかし、この方法には大きな問題がある。
戦闘を行うのが、ちゃんと槍が刺さる地面ばかりではないだろうということだ。
槍が立たないほど硬い岩盤の上かもしれないし、石畳の床の上などもありえるだろう。
現状ではやわらかい土ばかりのところだったので当分困らないかも知れないが、こういったものは癖になる。
あらかじめそういったことを想定して練習しておかないといざというときに咄嗟に失敗しかねない。
まぁ、悪くない方法だと思うが、ほかにいいものが無いときに採用することにしよう。

うーむ、そうは言ってもなかなかに思いつかないな…
とりあえず、刺さずに立てて槍が倒れる前に投げれないか試してみることにしよう。

…結果は惨敗だ。
倒れ始めた槍を掴みなおすのは大変だし、自分の体と反対に倒れはじめたときには掴む事すらおぼつかない。
あらかじめ倒れる方向が決まるように若干の角度をつけて放せば、投げて掴もうとする前に倒れきってしまう。
そもそも、そんな角度の調整をしながら立てるなんてことを戦闘中に咄嗟に出来るわけが無いではないか…

と、今気づいたが地面に突き刺すのも敵を相手にしていたときでは無理だな…
うーむ、やはり投げナイフと槍の共存は無理なのだろうか…?

本来的に短剣を主とする盗賊系が多く使うようだが、短剣だったら仕舞うのもすぐだしもともと片手だから使いやすいのだろうな。
だがせっかく買ったんだしどうにか使えるようにしたい。

とりあえず、こういうときは一つ一つ段階を踏んで検証を進めた方がいい。
まず、何を持って槍を装備していると判定されるかだな。

まずは柄を握らずに手のひらで支えている状態で投げてみる… 
…失敗。これは持っていると判定されるようだ。
ならば次は手のひらでなく手の甲で支えてみる…
…失敗。ものすごく投げにくい上やはり持っていると判定される。
肘で挟んでみる。
…失敗。
脇に抱えてみる。
…失敗。

肩にもたせかけてみる。
…成功した!


紐でくくって腰につけてみる。
…やはり成功。
腰につけた槍を手で支える
…失敗。
そのまま手を放す
…成功。

これはどうも手が槍に触れていると装備しているという判定を受けるようだ。
それまでの実験から考えると肩から先の腕全体がその判定を受ける部位であると考えられるな。

これを踏まえると腕全体を使用せずに槍を保持しナイフを投げるということか…
うーむ…、やはりいい手段が思いつかない。
足を使うにも投げる動作に踏み込みが必要な場合もあるだろうし、なかなかうまく行かないだろう。
そもそも、そんなに器用に足が動かない。

これは素直に地面に投げておくのが一番なのか?
だが、戦闘中にそんなことしたらやはり危険だよな…。
そもそも、敵と相対してるのにナイフを投げるなんてほかに意識を割く事事態が間違いなんだろうか。
タダでさえ回避型で敵に注意を払わなければならないのだし…
しかし、これが出来るようになるとドスリビ戦でベリトにいったタゲを受け取りに行ったような行動が非常に楽になる。
さらに言うなら、投げナイフはほかの戦士系の信仰神では習得が難しいと言うのだから出来れば物にして差別化を図りたいところでもある。

回避しつつナイフを投げて敵を引き付ける…
うむ!考えるだにかっこいいではないか!

む…?
かっこいいといえば…
たとえば、槍を上に投げてみるのはどうだろう?

後衛に敵がが着たら、すかさず槍を上へ放り、ナイフを投げ、落ちてきた槍を掴み戦闘継続…

やべぇ、中二病全開だな…

だが、それがいい!

よし、技術的に難しかろうがこの方針で行くか!

正直、地面に槍を転がすよりはマシだし。
失敗して掴み損ねても同じ条件になるだけだからな。
槍を立てておくのも敵の攻撃の余波を受けやすくて、受けた場合槍が遠くに飛んでいきかねない。
それに比べれば上にある分攻撃を受けずらいだろう。
うむ、理論武装も終えたことだしこの案を採用しよう!

あ、そうだ。まだ試しておかないといけないことがあったんだった。
この練習はとりあえずおいておいて、次の検証に移らないとな。
まぁ、これはすぐ終わるだろうしさっさとやってしまおう。

次に確かめておかなければならないのは、距離による命中率の変化である。
動作補助によって投げるのだから距離による命中はシステマティックに決まってくるだろう。
現在、ナイフ自体の補助や投剣熟練度も低いからある意味検証に適している。
まぁ、そこまで詳しく検証つもりは無いから、とりあえず現状の有効射程距離を確認するだけだが。

とりあえず案山子からどのぐらい離れるのかという基準だが…
まぁ、槍の長さでいいか。親父も大体2mぐらいと言っていたしそんなもんだと俺も思う。
俺は案山子から槍の長さごとに横線を引いて投げる位置を決めていく。
部屋の角から対角までで10本の横線を引くことが出来た。
対角線で20mか…以外にこの部屋広かったんだな。

先の実験で投げたナイフを回収して2mラインに立つ。
取りあえず手持ちのナイフ20本を投げる。すべて命中した。
胴体の中央を狙ったのだが、全部狙った中央付近に集まっている。
検証として信頼性を考えるととてもではないが試行回数が足らないが、当たった場所の集まり具合を考えて2mでは必中として良いだろう。

次に4m…すべて命中。さすがに2mのときより集まりが悪いが大体狙いからそんなに外れない位置で当たっている。
これも必中と考えておいていいだろう。

次に6m…すべて命中。何本が外れそうになったのも有ったが取りあえずすべて当たった。
それなりに大きい的であるなら必中と考えておいていいだろう。
リビやチェンパーのサイズはたまに外すことがあるかもしれないな。

次に8m…17本命中。やはり、狙った場所から外れる距離が長くなってきている。
だが、概ね当たるものと思っておいても大丈夫だろう。
後衛に行った敵を引き付けるなどの行動では少々不安が残る距離ではある。

次に10m…10本命中。だいぶ外れる本数が多くなってきた。
この命中率では何をするにも正直信頼できない。

結論とすると釣りなんかで使う分には10m~8mほど、出来れば8m以下。
タゲの引き受けなどには8m~6mほど、出来れば6m以下という結論だろうか。

熟練度の低さとナイフ自体の補正が無いことを考えれば十分すぎる結果だろう。
もっとも戦闘の火力として考える、或いは遠距離武器のメインとして考えるにはまったく足らないだろうが…
現在俺が求めているのは取りあえず当たればいいというだけなのだからこんなものなのかも知れない。
今度AGIとDEXを振ったり熟練度が上がっていけば命中率が上がるらしいから狙える有効射程距離も上がっていくだろう。

とりあえず、投擲修練のスキルは取得しなくても何とかなりそうである。
これが分かったことは大きいだろう。
結構、のりでスキルを決めているところがあるのは自覚しているが、取らなくて良いものが分かればそれに越したことは無い。
それと狙った中央から外れたナイフが均等に散らばっているのを考えるとやはり狙いに関しては予想通りシステマティックに決まっているのだと思われる。
これも大きい情報だな。

よし、さし当たって検証するのも終わったし、槍を持った状態からの投擲を練習するか!

とりあえず俺は腰溜めに槍を構えた状態から槍を軽く上に投げ、投げナイフを取り出して投げる。

うむ、余裕で間に合わない。

俺の足元には取り損ねた槍が転がっている。
うーむ、もっと高く上げるべきだったか。
それを踏まえてもう一度やってみる。

槍を構えさっきよりも高めに放り、ナイフを取り出して投げる。

うむ、今度はギリギリだったが間にあった。
しかし、取り損ねる所だったからまだ高く放る必要があるみたいだ。

再度挑戦する。
先ほどよりも高く槍を放り、ナイフを取り出して投げる。

タイミング的には十分槍を取ることが出来たが、高く上げたため落下の速度が速くなっており非常に掴みにくい。
あと、高く上げた分だけ落ちてきた場所がずれるな…
案の定、掴むのに失敗し槍は地面に転がることとなった。
うーむ、難しいな…

かっこよさを考えてこのスタイルにしたのに、槍を取り損ねるとかかっこ悪いにもほどがある。
どうにかして物にしないと…

余り高く投げるのも問題だろう、槍から手を話している時間は最小にすべきだ。

ん…?
放す時間を最小にか…。
そういえば、放した状態で行動補助が起動しモーション中に槍に触ったらどうなるのだろうか?
触った時点でモーションがキャンセルされるのか、そのままモーションが続行されるのか…
キャンセルされるならされるで使いでが有りそうだし、モーションが継続されるなら投擲の行動補助を開始するときだけ放していれば良いことになる。
まぁ、モーション中に槍を持つことでバランスが崩れて狙いが逸れる可能性も考えられるな…。

早速試してみることにしよう。
同じように左足を前に槍を右の腰溜めに構えた状態から、左手で槍を持ったまま右手でナイフを取り出す。
この時点では槍も投げナイフも共に行動補助を受けることはできないだろう。

左手て持った槍を手の中で軽く投げ、掌に槍が接触しないと感じたところでナイフを投げ始める。
当然すぐにやりは手の中に落ち左手を握るが、右手は自動的に動く感覚のままだ。
そのままナイフを投げきり振りきった右手でそのまま槍を持ち直す。

おお、成功した。
ナイフもちゃんと狙い通り案山子に突き刺さっている。
足を構えたままにして、右手の肩から先だけで投げるように意識したおかげか、左手で槍を掴みなおした影響はほとんど無いようだ。
当然本来なら全身を使って投げるよりも威力も射程も劣るはずだろうが、威力はともかく射程に関してはシステマティックに決まってくることを考えると案外変わってないことも考えられる。
先ほどざっと検証した感覚として、投げ方を変えても命中力に変化が無かったからだ。
もしそうであるならばこの投げかたは非常に有益であると思える。

ほとんど槍を放す時間が無く、投擲の熟練度が上がってモーションの中断が任意にできる様になれば危機的時間を圧倒的に減らせる。
槍を上に放ってナイフを投げると言う中二病的かっこよさがお蔵入りになってしまうのが唯一の難点か…。
後は、体勢的にとっさに出来るようになるのが大変だと言えるが、それは上に放る方法でも同じことだ。
練習して慣れていくしかないだろう。

手順のおさらいとしては、

1、槍を片手で持ち、もう片方でナイフを取り出す。
2、槍から手を放して、ナイフを投げ始める。
3、モーションが始まったらすかさず槍をキャッチ。
4、投げモーションが終わったら、槍を両手で持って投擲終了。

こんなところだな。

言葉にすれば簡単だが…、なかなか慣れるのは大変そうだ。
いい加減時間も経った事だし、そろそろベリトが戻ってくるだろう。

それまで出来るだけ練習することにしよう。



[18261] 35. 酒場へ
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/14 01:11
何回か練習しているところで案の定ベリトから連絡が来た。

『ただいまー。すまんな、ちょっと遅くなったよ』
『おう、こっちは投げナイフの練習してたからちょうどよかったよ。訓練場だとナイフの消費が無いようで助かった』
『お、これで遠距離の選択肢が増えたか』
『これで釣りのときや、後衛にアクティブが向かったときに対応しやすくなった』
『へぇ、そいつはいいことだ。ぜひとも俺のためにがんばってくれ』
『なんか引っかかる言い方だが…。まぁいい、それなりに当てにしてくれ。
 ただ、慣れるまではとっさに投げるのが難しそうだからうまく行かないことがあるのは覚悟しておいてくれ。』
『りょうかい。ま、そのときは現状と変わらず盾で凌ぎながらお前の方によっていくしかないからな』
『まぁ、そうだな。とりあえず、俺も落ちて雑事を片付けてくる。
 セシーさんが来たらさっきお前に渡した分を渡しておいてくれ。
 俺が戻ってきたら俺が預かっていた分をお前にまた渡すから。
 合流してから落ちるのは面倒だからな。』
『あいよ。そんじゃ、俺はとりあえず神殿に行ってくるかな。あ、武器屋と防具屋は行ったのか?』
『武器屋には行ったが防具屋はまだだな。
 とりあえず、前回買った装備で困ってないから更新は今回見送ろうと思う。
 行きたいなら、お前だけで行っておけばいいぞ。その方があの爺も喜ぶだろうしな…』
『NPC相手になにいってんだよ。まぁ、いいや。とりあえず神殿と店周りして時間つぶすことにするよ。
 なるべく早く帰ってくれると助かるな。』
『分かった。それじゃ落ちるぞ。』

チャットで会話しながら訓練場を出てきた俺は、その場でそのままログアウトした。


現実に戻った俺は、生理的欲求を片付けることにする。
トイレに行って、昼に買って来た食材で飯をでっち上げて食べる。
なんだか最近、適当に作れる料理ばっかりうまくなってきたな…
一人暮らしの性なのかもしれないが。

時間を見れば9時半ごろ。落ちたのが9時前ほどだった
もう少しゆっくりしても怒られないだろう。
あいつもなんだかんだで一時間ほど落ちてたのだし。
俺はシャワーを浴びることにして、出てきたのが10時前ほどだった。
そろそろログインすることにしよう。

ログインし、訓練場の前に降り立った俺はベリトへチャットを飛ばす。

『こちらジスティア。今戻ったぞ。現在宿屋に移動中』
『おせーよ。とりあえず俺も宿に向かうわ』
『すまんすまん。そっちはどうしてたんだ?』
『いろいろ店を回ってたな。あとは、スキルをどうするか悩んでた。まぁ、結局「神の祝福」の上昇に使ったけど』
『そういや、俺はスキル保留中だったな。なにあげようかな…
 投げナイフに遠距離修練いるかもしれんと思って保留していたんだが、訓練所でやってみたら無くてもいけそうだったからな。
 どうしたもんか。今持ってるパッシブ系を伸ばすのが鉄板ではあるが…』
『いくつ上がったんだ?』
『さすがに1ずつだぞ。そろそろ一回の狩りでいくつもLvが上がるようなことはなくなってきたようだな』
『俺も1ずつだったな。2桁に行こうかってところだから順当なところか』

確かにほかのゲームでもそろそろあがりにくくなってくる頃である。
スキルがまだ揃わず、Lvもあがりにくくなるこの時期はいろいろと辛い。

『そういや、セシーさんには会えたか?』
『おう、セシーさんにお金とか渡しておいたぞ。あと、セシーさんは他の友人と狩り行くっていってた。
 俺も誘われたけど、お前待ちだってことで遠慮しといた』
『何だ、遠慮せず行けばよかったのに』
『んー、俺の場合、不用意に人間関係広げると面倒なことが多いからな。
 緩衝材が居ないと中々そういう気にはなれん』
『お前の自業自得だろ、それ。
 あと俺を矢面に出すのはやめてくれ。俺がロリコンに見られるだろうが…』
『心配しなくても手遅れだから諦めろって』
『俺はお前と違ってロリコンじゃないんだよ。言われ無き様に言われるのは勘弁して欲しい』
『俺はロリコンじゃねぇっつってるだろ!』
『そういうなら鏡を見てから出直して来い。それでも言うなら良い眼科紹介してやるぞ』
『なんにしろだ、お前が居ないところだとうるさいのが沸いてくることが多いからな』
『中身は男だって言えば良いじゃねぇか』
『直結君はこちらの主張なんて聞きやしねぇよ。
 十中八九、中身の女が男を演じてると取られるのが落ちだ』
『全く男は馬鹿ばっかりだな』
『俺たち男だけどその意見には全面的に賛同するよ』

話しながら歩いていると、いつの間にやら目的地の宿屋に到着していた。

『お、宿屋到着。休むついでにクエストの情報集めるか。』
『俺もそろそろ着くな。
 そういや…、これって同じ部屋に入れるのか?見ながら相談したほうが早いだろ』
『どうだろな?とりあえず俺は先に入っておくから受付のオバちゃんに聞いてみたらどうだ?』
『まぁ、そうするか。』

俺は宿屋に入り、オバちゃんに挨拶してから部屋へと向かう。
部屋に入ると早速机に向かい、掲示板を確認し始める。
暫くすると扉の向こうからオバちゃんがベリトを部屋に上げていいか確認してきた。
わざわざ口頭じゃなくてもよさそうな物だが妙にこったつくりになってるな。

俺が了承の旨を伝えると、扉が開きベリトが入ってくる。

「いらっしゃい」
「おう、これって同じ部屋に入るのは可能なんだな。料金とかどうするんだろう?」
「入れないならそれはそれで不便だしな。金はほかに部屋取った人しか入れないとか?
 しかし、わざわざ口頭でオバちゃんが聞きに来るとは思わなかったな」
「ん、そうなのか?確かにちょっと裏に行ってたみたいだったが…。
 結局入る扉は一緒だよな。いつも入る部屋にお前がいたって感覚のほうが近い」
「この部屋は確実に俺の使ってる部屋だけどな。ほらそこに花が挿してあるだろう?」

俺はそういってチェストの上に置いてある花瓶を指す。
そこには三輪の花が挿してある。

「お、ほんとだ。というか、その花どうしたんだ?」
「中央広場の花売りで買った。道聞くときにな」
「ふーん、それって枯れるのか?」
「とりあえず、まだ2日目だから分からんが多分枯れないんじゃないか?」
「それじゃ、花屋の仕事も先がないな…」
「ああ、そういわれるとそうだが…、NPCにそんなこと言うのもナンセンスだろう。
 ちょっとあの子がかわいそうな気もするが…」
「あの子?」
「ああ、花売りの子はティーンに届かないぐらいの女の子なんだよ」
「なんだ…、人を散々ロリコン扱いしておいて、実はお前はペドだったのかよ…」
「お前…、言うに事欠いて何てこと言いやがる。
 だいたい、そういう方向の発想しか出てこないお前の方が頭沸いてるだろうが」
「いやいや、お前を客観的な視点で見た評価ですよ?」
「お前の視点の時点で信用に値せんわ。…とりあえず、馬鹿なこと言ってないで本題に戻るぞ」

何で、花の話からこんな馬鹿な話に繋がるのかベリトの脳みそに疑問を抱くが、切りがないのでとりあえず方向を修正する。

「まぁ、今回は誤魔化されておこう。なんだっけ?クエストを探すんだっけ?」
「ああ、さっき調べてたんだが、街に酒場ってあるんだな。そこでクエストの斡旋があるらしいぞ」
「いや、知ってるよ。というか今までお前が知らなかったことにびっくりだ」
「そういわれてもな、行く用事も今まで無かったし。特に説明もされなかったんだからしょうがないだろう。
 そういうお前は、お前はどこで知ったんだ?」
「いや、俺は序盤はクエストで上げたっていっただろ。そのときにお世話になったぞ」
「なるほどな…。どうする酒場に行くか?」
「悪くないと思うが、あそこにあるクエストは宅配だとか素材集めだとか、よくて雑魚の討伐がいいところで面白そうなのはなかったと思うぞ。
 できるなら、街NPCから受けられる固有のイベントクエストがやりたい所だろ」
「まぁ、それはそうだが…。あんまりよさげな情報は挙がってないな。
 やっぱ、クエスト攻略をするようなプレイヤーは現状じゃLv上げに力を注いでるんだろうな」
「あー、確かになぁ。BOSS討伐系のクエストだと越すのにも有る程度のLvが必要になっちまうしな。
 さすがに2日目じゃ、奴らのLv上げの熱もまだ冷めないわな。じゃあ、どうするんだ?」
「とりあえず酒場へ行ってみよう。
 お前が受けてたときのLvより上がってるんだから受けることができるクエストが増えてるかも知れんからな」
「確かにそれはありえるか…
 なら、とりあえずは酒場に向かって置いてあるクエストを見た塩梅で次の行動を決定することにしよう」
「異議なし。妥当なところだな」
「うし、なら動くとするか!」

俺たちは酒場に向かって歩き出す。
と、言っても俺は酒場の位置を知らないので先に歩くベリトについていくだけだが。

「酒場ってどこら辺にあるんだ?」
「4つのメインストリートにそれぞれあるらしいぞ。俺が行ってたのは、例のごとく南通りの店だが」
「店によって受けられるクエストが違ったりするのか?」
「他の店に行ったことが無いから知らないけど、それもありえるかもな。
 でもまぁ、店を回ってまでやるクエストじゃないぞ。ほんとに雑用系ばっかりだからな。
 コンプリートしたいようなやりこみをしたいなら別だが」
「はじめの街でこれなんだから、この世界全体でいったいいくつのクエストがあるんだろうな…?」
「どうだろな?
 町がいくつあるか知らないけど、さすがに全部がここ並に広いってことは無いんじゃねーか?
 たしか、公式設定でもこの街は発展してるほうって話だったと思うぞ」
「かもしれんが、そうだとしても結構な数があるよな」
「まー、確かにな。全部消化しようと思うと相当たいへんそうではあるな」
「ネトゲなんだからそれぐらいでちょうどいいのかもしれないが…」



酒場に着くとベリトは真っ先におくにある掲示板に向かっていった。
俺はなんとなく、カウンターの奥でグラスを磨いているマスターに会釈をしながらそれに続く。

しかし、正にイメージどおりの酒場だな…。
少し暗めの店内に、いくつかの丸机とそれを囲む椅子がある。
そこには冒険者だろうか、幾人かが座って何かを飲みながら話しているようだ。
さらには、カウンターの向こうには強面のマスターが仏頂面でグラスを磨いているなど正に冒険者の酒場といった感じだ。
暫く周りを眺めていた俺は、ベリトがすでに掲示板の内容を確認しているのに気づき足を進めることにする。。
俺がベリトに追いつくと、それに気づいてベリトがこちらを向く。

「ダメだな。俺が来てたころとさして変わってない。雑用ばっかりだな」
「ふむ、そいつは残念だな…」

そういいながら俺も掲示板に目を向ける。
いくつかのメモが張ってあり、それぞれに依頼内容と報酬、依頼人とその位置が簡単に書かれていた。

 ○人を探しています。手伝ってください。 20c 南西街3-4 マリア
 ○材料買取!リビの皮売ってください。1個16c 南東街1-5 皮工房マイク
 ○固定PTM募集。時間に余裕がある方一緒に狩りませんか? 気軽に「Anton」までチャットを飛ばしてください。
 ○討伐依頼。リビの異常繁殖のため間引きの手伝いを願いたい。狩った数にて歩合制。 南門門番アントニー
 ○わたしのねこちゃんをさがしてください。 5c みなみまち3-2 ターニャ
 ○素材採集の護衛を願いたい。目的地:南東の森 1s 南通り西5番 調合屋:加調封薬 シャルロッタ
 
 …etc
 
「数は多いがぱっとしないのが多いな…」
「まぁ、あえて言うなら素材採集の護衛かな。
 言ったこと無いところに行く依頼だしそれなりに楽しそうだ」
「確かにな。ところで…、なんだこのPTM募集ってのは?
 PCも掲示板に張り出せるのか?」
「まぁ、ここに張ってあるってことはできるんだろうな。こんな方法でほんとに集まるのか疑問ではあるが…」
「別に悪くないんじゃないか?掲示板でもPTの募集スレがあったし、同じことだろ」

俺たちめぼしいものを掲示板横のサイドテーブルにあったペンとメモ用紙を使ってタイトルだけ書き取るとそのまま空いている机に向かった。

少し落ち着いて、メモした物をもとにどれがいいかを相談することにしたのだ。



[18261] 36. 酒場にて
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/14 01:16
席に着くと、俺は飲み物を注文してくることにする。
さすがにただで居座るのは居心地が悪い。

「飲み物かってくるけどお前は何が良い?」
「メニューが分からんのに答えられるわけが無いだろうが」
「それもそうか。なら、俺と同じのでいいな」
「かまわんぞ」

俺はメモの睨むベリトを机において、相変わらず仏頂面でグラスを磨くマスターに近づく。

「よう、飲み物を頼みたいんだが、何があるんだ?」
「…何でもある。好きのものを言え」

なんでもって何だよ。そういわれると逆に迷うだろうが…。
というか、アルコールは出してくれるのだろうか?
まぁ、VR空間でアルコールを飲んだところで酔うことなどありえないのだが。
ためしに言ってみるか。

「生ビール2つくれ」
「…ダメだな、あと一年は我慢しな」

やっぱりダメだった。ちなみに俺はいま19だ。現実の飲み屋だったら案外気にせず出してくれるのに…
VRだと年を誤魔化せないし、そこら辺に融通が利かないからダメだな。

「ならコーラ二つ」
「…ちょっと待ってな」

コーラがあるのかよ…
親父はどこからとも無く取り出した氷をグラスにいれ、やはりどこから取り出したのか分からないまま手に持っていた瓶からグラスにコーラを注ぐ。
それを二つ作ってこちらによこしてきた。

「いくらだ?」
「…酒場で酒飲まない奴に貰う金なんざねぇよ」

ただでくれるのかよ。案外太っ腹じゃねぇか。
つっても原価なんて全くかかかってないのは確実だが。
いや、商標権的に問題があるか?
コーラは種類の名前だからセーフだったっけ?

まぁ、くれるものは貰っておこう。
あの言い方だと、酒を頼んだら金を取られるのだろうか?

そんなことを考えつつ両手にコーラを持って席に帰ろうとすると、ベリトの隣に見知らぬ男が座って話しかけていた。
対応するベリトは非常にめんどくさそうだ。

おお、ナンパじゃないか!
このゲーム始めての犠牲者だな。中身が男とも知らずにかわいそうなことだ。
まぁ、本人的には女と思い込んでるんで幸せだろうけども。

この事態にあって俺の取る行動は一つ…


手に持ったコーラをカウンターに置きなおし、そこにあった椅子に座って眺めることにする。
ベリトはめんどくさそうなのを隠しもせずに話しかけている男に対応している。
”気を持たせるようなことを言うわけにもいかないが、単純にぶった切ると逆上して粘着されかねない。
大抵のやつは話してて脈がなさそうだと分かると諦めるもんだ”とベリトが言っていた。
それが本当なのがどうかは知ったことではないが。

めんどくさそうに対応していたベリトがちらりとこちらに目を向けた。
あ、これは用事が終わっているのに高みの見物をしてるのがばれたな。
案の定ベリトは憎憎しげにこちらを睨んだ。

だが、大声を上げて注目を集めるのは得策ではないとベリトも分かっているのだろう。
さすがにそんな愚行をしないだろうとたかをくくって見物を続ける。

『見てないで、用事終わったんなら戻ってこいよ!こいつめんどくさいんだよ!』

ああ、そういやチャットシステムがあったっけ…。
行き成り頭に響いた怒鳴り声で思わず額に手を当てる。

『俺がその場に言ってどうしろって言うんだよ』
『俺の女に手を出すな的、王道台詞を…』
『やめろ、気色悪い。だれが俺の女だ』
『…ああ、俺も言ってて自分でダメージを受けた…。
 とりあえず、早く戻って来いっていってるんだよ』
『俺がその場に行ってもしょうがないだろうが。』
『そうかもしれんが少なくとも場は動くだろ。
 普通ならもう離れていきそうなのに全くその気配が無い。マジ鬱陶しい』
『めんどくさいからいやだといったら?』
『お前が来てくれないなら俺がお前のところに行くことになるな。
 お前の名前叫びながら、胸に飛び込んで行ってやるよ。
 うれしいだろ?』
『…わかった、今行くよ…』

くそ、結局こいつに口で勝てる気がしない…。
抵抗を諦めた俺は、再度コーラを手に持つとベリトの座る席に向かって歩き出した。

「なんだ、知り合いか?」
「いや、知らない。さっきから話しかけてくるだけ」

白々しいやり取りをする。
話しかけていた男はこちらを睨みながら誰何してきた。

「何だあんた?」
「今、こいつと一緒に行動してる。今後の方針きめる予定だから関係ないなら離れてくれると助かるんだが」

男は俺に質問しておきながらその回答には反応を示さず、ベリトに向かって話しかける。

「なぁ、こんなのじゃなくて俺とPT組まないか?稼がせてやるぜ?」
「間にあってる」

ベリトの短い返答を聞いて男はとうとう諦めたのか、こちらを睨みながら席を立ち、

「ちっ、ロリコンが…」

とんでもない捨て台詞を吐いて去っていった。
その対象をナンパしてたお前はどうなんだと、脊髄反射で突っ込みそうになったが折角去っていってくれたのを引き止めるのはあほらしい。
俺は何とか堪えることが出来た。

「あー、鬱陶しかった」
「自業自得だろうが」
「そりゃそうだが、ああいう奴のために何で俺が主義をかえにゃならんのだ」
「なら、お前がそういうなら我慢するしかないだろう」
「分かってるよ。だからって愚痴くらい言ってもいいだろ。
 というか、やっぱりお前が着たらさっさと引いたじゃん。
 眺めてるだけとか性格悪いぞ」
「嬉々として状況を引っ掻き回して、悪化させるお前に言われたくないぞ」
「なんだ?師匠の件を気にしてるのか?
 あれのおかげでお近づきになれたんだからむしろ感謝して欲しいぐらいだぞ。
 第一、女の子と拗れるのと男に付きまとわれるのじゃ天地の差があるだろうが」
「それは…まぁ、確かだが…。一歩間違えばドン引きで印象最悪だっただろうが」
「なに、好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だ。印象に残ってくれれば、そのまま遠くで見てるよりは進んでるだろ」
「いや、そういうことを望んでたわけじゃないんだが…
 分かった、悪かったよ。次があったら素直に戻ってくるよ」
「分かればよろしい」

やっぱこいつに口で勝つのは無理だな…。

俺はようやく席に着き持ってきたコーラをベリトに渡す。

「酒場だけど酒は出してくれなかったぞ」
「ふーん、俺はアルコール好きじゃないしどうでもいいな。ちなみにこれはコカ?」
「しらん。そこら辺の名前出すと商標でもめるんじゃないか?」
「まぁ、それもそうか」

俺は持ってきたコーラをのどに流し込む。
炭酸がのどに痛くなるまで流し込むのが俺のスタイルだ。

VR内での飲食事情は食べ物に比べて飲み物は比較的制限が緩い。
よって、食堂は余り無いがこういったカフェや酒場などといったものはそれなりにある。
ただ、つまみが無いのであんまり人気は無いが。

「さて、どのクエストにするかだっけか」
「おう、やっと本題に入れるな…」
「めぼしいものは…
 ”南東の森への採集の護衛”、”北の河の上流への採集の護衛”。
 候補としてはこの二つで、俺たちがいったことが無いところってことだな。
 後は、隣町への荷物の配達を移動するときに受けるってのと、今度からは狩りに行く前に対象モンスター討伐クエストが無いか確認した方がいいってぐらいか。
 亀の討伐とか、アースバードの討伐とかもあったからもったいなかったな」
「どっちも護衛依頼かー。NPCを守らないといけないってことだよな。
 森にしろ河の上流にしろアクティブが居るってことなんだろうな。
 今までみたいに定点で狩りするわけにもいかなそうだし、今までに無い感じで中々面白そうだな」
「確かに面白そうといえばそうだが…、その分死亡率も高くなるな…。
 アクティブが居る中で移動しようと思うと2人はきついんじゃないか?」
「森のほうに居るアクティブってウルフだっけ?」
「ああ、そんな話があったな。動物系は群れで動いてそうでいやだな…」
「なら、河の方にするか?」
「そっちはそっちで何が居るのか分からんのがいやだな…」
「文句ばっかり言ってんなよ。俺はどっちでも良いから好きなほう決めろ」

うーむ、悩むな。
ウルフは中々に素早さが高そうで回避型には向いていない気がするのは確かなんだが…。
河の方は何が居るのかすら分からないからな。
掲示板での狩り場報告が全く無かったことを考えるとあんまり美味しくないのだろうか?
それならそれで、こういったクエストでしか行かないなら行ってみるというのも一興だとも思う。
予想されるモンスターはやはり近くにボスが居たというカッパ系だろうか。
あるいは魚や蟹といった水生系が有力だろう。

「よし、一応ながらモンスターの情報がある森に行くことにしよう」
「ん、俺は異存は無いぞ」
「そこでお前にスキルのことで相談があるんだが…」
「またか?俺に相談するってことはアクティブ系を取るのか?」
「ああ、また迷っててな。
 三連突きで殲滅速度上げるのはいいんだが、アクティブの相手だからどうしても複数と戦わざるを得ない時が出てくるだろ?
 範囲攻撃系のスキルを取ったほうがいいかと思ったんだがどう思う?」
「範囲ねぇ…、悪くは無いと思うがお前に有効かって言われると、ちょっと首を傾げるな」
「やっぱりそう思うか?」
「だって、回避型はダメージを分散させるよりも一転集中して敵の数を減らすのが最優先じゃないか?
 相手にする敵の数は回避の成功に直結するからな。
 俺としては、新しく取るぐらいなら三連突きを上げてダメージ倍率伸ばした方がいい気がするけどな。
 回避型は範囲攻撃より追加が来る前に殺しきれる瞬間殲滅力の強化を目指した方がいいと思う」
「そうだよなぁ…
 お前が居る分には通常時もスタミナを惜しまず三連突きを使って行こうかと思うけど良いよな?
 ただ、三連突きのLv上げると消費スタミナがあがるのも…。
 消費スタミナに対するダメージ倍率の比率は上がってるから強化には違いないんだが…」
「俺が後ろにいるを前提に範囲取るならってことだぞ。
 第一そんなこといったら、範囲攻撃をしなきゃいけないようなすでに囲まれてる状況でスタミナを消費して大丈夫なのかよ?」
「まぁ、大丈夫じゃないだろうな…」
「なら、ダメじゃん」
「だけど、槍っていったら範囲攻撃ってイメージあるだろ」
「いや、そんな趣味の範疇で決めるんだったら俺が意見できることは何もねぇよ」

ベリトの言うことは全く持ってその通りなんだよな…。
雑魚を蹴散らすために使うとしても雑魚相手なら回避しきれるから要らないし、強敵に囲まれたらスキルにスタミナを回す余裕が無い。
ついでに、囲まるという危機に際して起死回生でスキルを使うなら敵の数を減らすように一点集中の方がいいのも確かだ。

でも、槍振り回して範囲攻撃ってかっこいいじゃん!
しかし、さすがにそれだけでスキルを取るほど余裕があるわけでは無いのも確かだ。

「でも、槍と範囲攻撃って相性いいと思わないか?」
「まぁ、確かにそうはいえるだろうけど…
 …このゲームの性格として単純にメリットがあるだけとは思えないぞ。
 スキルLvが上がると大抵は消費スタミナが増えるぐらいだし。
 効果範囲が広い武器だと消費スタミナが多くなるとか普通にありそうじゃないか」
「確かにありえる…
 もしそうだとすると、スタミナ総量が少ない俺には致命的だな…。
 よし、やっぱ情報が出揃うまで『なぎ払い』を取るのはやめて置くことにするか」
「それがいいと思うぞ。まぁ、趣味で取るというなら止めないけど」
「あとは三連突きのLvを上げるかどうかだな」
「まぁ、いざというときのために瞬間火力を上げるのは悪くないと思うぞ」
「ただな…。やっぱソロのときに封印するのが目に見えてるからな…。
 正直な話、回避剣士ってのは火力は後衛術師や火力特化に負け、盾としてタンクVIT剣士にまけ、釣りをするには盗賊系に負け…。
 つまりは器用貧乏なんだよな。
 これだけは他キャラに負けないってセールスポイントが乏しいというか。
 唯一の利点がソロプレイがしやすいことだろうけど、そうなるとアクティブスキルにスタミナ回したときの回復手段に悩まされることになる」
「茨の道がんばってくれたまえ。
 つーか、逆に言えば今後PTプレイをするうえで瞬間火力ぐらい高くないと不味いんじゃないか?」

おっと、なるほど。そっちの話は思いつかなかったな…。
俺の中でソロをやるのが前提になっていたようだ…。
となると最終的に三段突きはMAXまで上げることになりそうだ。
さし当たって今週はベリトと組む機会が多そうだし、先に多少上げるのもいいかもしれん…。
よし、三段突きのLv上げることにするか!

「確かにな、保留していた今回のスキルアップは三連突きの強化に使うことにする」
「なら、お前の神殿にも行かないとな。
 えっと…、南通りの西5番に依頼人の店があるらしいな。
 それが何処かは今一分からんが、アラナスの神殿も南通り沿いだし途中で寄っていくか」
「依頼人の店はカウンターの親父に聞けばいいだろ。神殿はここより南だから、依頼人の店が北だったらそっちからだな」

俺たちは、コーラを飲みきってから席を立ち、空いたグラスをカウンターに返すついでに店の親父に道を聞く。
どうやら、南通りの5番とは門に近い区画を指すらしい。
これなら俺が神殿にいった後に、依頼人の方に行けばいいな。
道を確認した俺たちは、カウンターに置いたグラスの中で氷が転がる音に見送られアラナスの神殿に向け出発した。



[18261] 37. クエスト受注
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/17 00:35
俺たちは連れ立ってアラナスの神殿へと進む。

「なぁ、俺は他の神の神殿に入ったこと無いんだがどんな感じなんだ?」
「どんなって言われても…、普通に神殿だと思うぞ。静謐な空気が漂ってるっていうか…」
「へー、というかその時点でうちと大分違うぞ。うちはそんな感じじゃないな」
「そっちはどんな感じなんだ?」
「なんていったらいいかな…。例えるなら、地方の診療所待合室?」
「いや、その例えじゃさっぱり分からん」
「んー、アットホームな雰囲気で、信仰してるんだけど結構身近な存在に対する感じというか…。
 ほら、うちって治癒神だろ?
 健康祈願とか、祈願じゃなくて怪我したのを神官に直してもらったりとかする一般市民が来ているわけよ。
 なんで、その順番待ちとか…、基本大人しくしてるけど押し黙ってる感じじゃないし…。
 なんというか、やっぱり病院の待合室ってのが一番正しい表現だと思うな。
 うちの神の影響で神官連中も堅苦しい雰囲気があんまり無いしな」

ベリトの説明を聞いて俺は唖然とする。俺がイメージする神殿とかまったくかけ離れているにも程がある。

「それは…、神殿というか、もはや病院じゃねぇか。
 うちに一般市民が居ることはほとんど無いし、全然雰囲気が違うな。
 どちらかといえば、お前のところが異常な気がするが」
「まぁ、よくありがちな荘厳って表現はどうひっくり返しても出てこないのは確かだな」
「うちは、荘厳というよりは静謐って感じだけどな」
「用はまともに神殿らしい神殿なわけだよな。楽しみだな」
「なんだ?中まで来るのか?」
「ダメなのか?」
「ダメじゃないが…。やること無くて暇だろう?」
「神殿の入り口で待ってるよりは中で見物した方が暇つぶしになる」
「それもそうか…。まぁ、他信徒が中に入って怒られるわけでもないしな」

俺たちはアラナスの神殿につくと狭い入り口を頭に気をつけながら中に入る。
中はやはり静謐な空気に包まれており、ベリトとの会話の声も自然と押さえ気味になってしまうのも仕方ないだろう。

「しかし、この入り口が狭いのも疑問なんだよな。入りにくくてしょうがない」
「何だっけ?たしか、神殿に満ちる神の息吹が外に逃げないようにとかそんな意味があるんじゃなかったかな?
 それがこのギリシャ調の神殿にあっているかまでは知らないけど」
「なんという無駄知識。お前そういうの変に詳しいよな」
「オタクとしての嗜みだろ。
 しかし、やっぱうちの神殿とぜんぜん雰囲気が違うな…。なんか静かだし、確かに静謐って感じ」
「俺も今度シャルライラの神殿行ってみるか。面白そうだ」
「そうだな、来るといいぞ。
 というか、神殿めぐりしてみると雰囲気の違いがあって結構面白いかもだな」
「確かにな。狩りに飽きたら気分転換に回ってみるか」
「そうだなー。俺も機会があったら回ってみるとするか。
 しかし、こういう人がいるのに静かなところに居ると、『くけ~!』とか唐突に奇声を発したくなるよな?」
「ならねぇよ。ベリト、頭大丈夫か?」



さて、神殿にてスキルの取得を終えた俺たちは、依頼人が居る店を探してさらに南通りを南下する。
掲示板の情報では西とあったので向かって右側に店があるはずだ。
注意しながら、道を歩いていくとフラスコのマークの下に加調封薬と書いてある看板を発見した。
中に入ると、奥にカウンターがありそこまでの道のりの棚によく分からない薬品類が並んでいた。

カウンターに誰も座ってないのだが、いささか無用心なのではないか?
万引きしようとすれば簡単そうだぞ…。
まぁ、この薬類がどんな効果なのかは俺たちには知るすべがないので、手に入れたところでしようもないが。

俺たちはカウンターに行き、上に乗っていたベルを鳴らす。
すると奥から何かをひっくり返す音が派手に聞こえ、ついで悲鳴が聞こえてくる。

「なぁベリト、今の悲鳴は何だと思う?」
「まぁ、状況的にに考えて慌てた店主が何かをひっくり返したって所じゃないか?」
「ほんとにこのゲームのNPCはなぁ…」
「まぁ、この程度は演出としてありえない程じゃないだろ。
 規定されていない動作なことも考えられるのがこのゲームの恐ろしさだが」

奥から響く悲鳴と物音をBGMに俺たちは雑談に興じる。
暫くして、奥からなんだか妙に煤けた雰囲気を出しながらなみだ目になった女性が出てきた。

「いらっしゃい…。歓迎したいところだけど、現在開店休業中なの。
 何をお求めに来たのかは知らないけれど、ご要望のものは提供できそうにないわ…。
ごめんなさいね…」
「…なんだかすごい音がしてたが大丈夫なのか?」
「ははは、大丈夫な訳ないじゃない…。
 ただでさえ材料が切れて崖っぷちだったのに、最後の材料を使って作ってたものを全部ひっくり返したわ…。
 ああ…、月末までに溜まった材料費を払わないといけないのに…」

乾いた笑いと共に煤けた雰囲気が加速した女性は、とうとう目がうつろになってきた。
俺は慌てて小声でベリトと話しあう。

「おい…。これって俺らのせいなのか…?」
「そうは思わないけど…、結果的にはそうなんじゃないか…?」
「でも、俺は用意してあったベルを鳴らしただけだぞ…?」
「まぁ、確かにそうだけど…」
「正直、彼女が報酬の1sを払えるとはとても思えないんだが…、どう思う…?」
「確かにな…、でも、この状態の彼女を置いていくのは無理だろ…。
 間接的とはいえ、俺たちが止め刺したみたいだし…」

彼女に視線を戻すと、

…確なる上は体を…、…でもまだ私…、…覚悟を決めるときか…

と、カウンターの上で頭を抱えて不穏当なことをつぶやいている。
さすがにこれを放置するだけの強さは俺にはないな…。

「…これはさすがにしょうがないか…」
「まぁ、さすがにクエスト終わらせて報酬がないってのはないだろ…」
「でも、ドスリビ倒したときの商人は値切ろうとしたんだぞ…。ありえないとは言い切れないだろ…」
「…確かにな。でもこれは放置できないだろ…」
「俺も同意見だよ…」

密談の結果、ベリトも同様の意見であるようなのでクエストの件を伝えることにする。

俺は相変わらず、カウンターで頭を抱え、

…最初は好きな…、…でも、それ以外には…

と、不穏当なつぶやきを続ける彼女に話しかける。

「もしもし、お取り込み中のところ申し訳ないんですが、私たちは買い物をしにここに来たわけじゃないんですよ」

彼女は、完全に脳裏から消えていただろう俺たちに意識を向けてくれる。
頭の抱えた状態から、多少意思のこもった目でこちらを見てきた。相変わらずなみだ目なのは変わらないが。

「酒場の掲示板で、護衛の募集をされてましたのはあなたですよね?」
「…え、ええ、そうですけど…」
「その依頼を受けようと思ってきたんですけど…」
「え…、えっと、それほんと?」
「ええ、本当ですけど…」
「ほんとにほんと?うそって言ったら硫酸投げるわよ…?」
「ええ!本当です、なぁベリト!」
「え!?ここで俺に振るのか!?」

うつろな目から一転して鬼気迫る様で向かってて来た彼女の圧力に単身立ち向かうのが苦しかった俺は、ベリトを巻き添えにする。

「なに?やっぱりうそなの…?その綺麗な目に塩酸ぶちまけられたいの?」
「い、いや、ほんとだよ!素材採集の護衛依頼だよね!?」

それでようやく彼女は信じたのかその場に膝を着いて神に祈り始めた。

「ああ!メストレス様、私シャルロッタはたった今貴女の救いを感じました!貴女の加護を得た同胞たちに同様の救いがあらんことを!」

その勢いに、やはり俺とベリトはあっけに取られるほかない。
その後、俺たちを完全に置き去りにした彼女は暫く黙祷を続ける。

黙祷を終えた彼女は、一転して理知的に光る目でこちらを見てくる。
確りとした笑顔をたたえ、こちらに握手のつもりか右手を出しながら自身の紹介をしてきた。

「こんにちは、旅人さんたち。
 あなたたちのお陰で最悪の事態にはならなそう。
 原因の貴方たちを刺す包丁の代金が必要なさそうで何よりだわ!
 お互いの信仰する神にこの出会いを感謝しましょう!」

おい!何気に恐ろしいことを言われたぞ!
俺はこの手を素直に握って良いのか疑問に駆られる。
横に居るベリトを肘でつつき目で言いたいことを伝える。

――お前が握手しろ!

ベリトの目を見ると奴のいいたいことが伝わってきた。

――これはお前の仕事だろ!お前が行け!

なぜかチャットで会話しても目の前の存在には気取られそうなのでアイコンタクトでの牽制が続く。
そのまま、数秒たって最初に動いたのは右手を出したままの彼女だった。

「なに?いまさら受けないって言うの?」

やばい!彼女の目のハイライトが消えかかっている!
俺とベリトは慌てて彼女の右手を両手で握る。

「いやいや!そんなことないですよ!」
「そうです!いっしょに森まで行きましょう!」

そういったわけで俺たちはこのクエストを受けることにしたのだった…。



[18261] 38. 森への道
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/17 00:38
その後、彼女は裏の片付けと採集の準備をしてくるといって裏に引っ込んでいった。
俺は、ベリトと雑談に興じるぐらいしか暇つぶしがない。

「なぁ…、彼女はNPCなんだよな?」
「ああ、たぶんな…。PCだったら月末締めの支払いとか言わないだろ…?」
「確かにな、そんなのあるわけないしな…」

いや、俺はNPCと思わないと決めたではないか。
心の平穏のためにそうそう思おう。

裏からは何かを片付けたり、引っ張り出したりする音が聞こえてくる。
片付けるのを手伝おうかとも言ったのだが、素人が触ると危険なものもあると断られた。
そんなものをひっくり返して本当に大丈夫なのか非常に疑問だが…

暫くすると、店主の女性が表に出てきた。

「お待たせ!
 さっきは御免なさいね。
 お恥ずかしいところ見せちゃったみたいで…。
 といっても混乱してたのか私はあんまり覚えてないんだけど…。
 改めまして、薬屋、加調封薬の店主をやってるシャルロッタ・ラーションよ。
 よろしくね」
「アラナス様の加護を受けているジスティアです」
「シャルライラ様の加護を受けているベリトだ。よろしくな」

簡単な自己紹介を終わらせたところで、俺は彼女の服装に目がいく。
彼女は採集用の装備なのか丈夫そうな布地の服を着て、腰にはショートソードを佩いている。
大き目のザックを背負い、腰には採集に使うのであろうナイフや、鋏、鎌などが括り付けてあった。
剣を佩いているとは戦闘が可能なのだろうか?

というか、先ほどのことを覚えてないとは…それほどまでに混乱してたのだろうか…。
ある意味本音が聞けたということなのかもしれないが…

「いえいえ、さほど待ってませんよ。ところで、剣をお持ちみたいですけど戦闘は可能なのですか?」
「んー、護身術程度といったところよ。まぁ、自分の身は守れるぐらいには使えるつもり。
 貴方たちには私が素材を集めているときに警戒してもらうのが主な仕事ね。
 道中のモンスターは私も戦闘を手伝うわよ。
 まぁ、帰り道は素材を持って帰らなきゃいけないから完全に貴方たちに頼っちゃうことになるけどね。」

腕前は分からないが、こういっている以上は目的地である森の中で戦力になる程度には使えるのだろう。

行きは助力してくれるが、到着後から戦闘の参加がないということか。
特に帰り道は行きと比べ戦力が減った状態で移動狩りを行わなければならない。
行き道と、採集中にウルフとの戦闘になれておかないと、帰り道が危ないかもしれないな。

「分かりました。早速、出発することにしましょうか」
「あ、その堅苦しいしゃべり方やめてよね」


俺たちは店を出て南門に向かって歩き出した。

「所で、シャルは森に何を取りに行くんだ?」
「ん、薬の材料なんじゃないのか?」
「なに言ってんだよジス、そんなことは馬鹿でも分かる。その材料がどんなかって聞いてるんじゃないか」
「そうねぇ…。まぁ、薬草とかキノコとかそんな感じのものね。」
「ふーん、想像してたのとさして変わらないんだな。」
「うーん、普通の人が意外なものねぇ…。あ、あと森の中の湖で水も汲むわよ。
 これが結構重いのよね。だから、最後に汲んで帰る予定だわ」
「へぇ、水かぁ。やっぱり蛇口を捻って出てくるのとは違うの?」
「そうよ。ちゃんとした場所に沸いてる水を使ったほうが薬の効果は高くなるわ」
「やっぱ、そういうもんなんだ」
「ポーションはやっぱり飲みにくい味をしてるものだけど、きれいな水を使うだけで結構改善されるのよ」
「ポーションって使ったことないな。道具屋には売ってないよね?」
「そうね。私のところみたいに錬金術師が作るものだからね。
 安定的に供給されるものじゃないわ。どちらかといえば、作成を頼んでおいて出来たのを買い取るって形が一般的よ」
「ほう、受注生産なんだな」

南門を通り抜け周りは見慣れた草原が広がっている。
ここら辺にはアクティブが居ないので雑談を続けながらの移動は変わらない。
ベリトとシャルロッタの聞き役に徹していた俺だったが、ポーションの話になったので参加することにする。

「ポーションは傷薬みたいに長期保存には適してないのよ。
 作って売っても良いのだけれど売れ残ると素材丸損になってしまうの。
 だから、注文があったときにあった分だけ作るのが一般的な形態になってるわ」
「なるほど、でシャルのところには滅多に注文が来ないと…」

ベリトが空気読まない発言をする。
そりゃ、あの困窮具合を見ればそうなのかも知れないけど直球過ぎるだろ…
ベリトもつい口を滑らしたらしく、しまったと顔に書いてあった。
案の定、シャルロッタはその発言を聞いて落ち込んでいる。

「まぁね、確かにうちは顧客が少ないわよ…。
 でも、店開いたばっかりなんだからしょうがないじゃない…。無理していい所に店開けたんだから…。
 そう…、きっとそのうちバンバン注文が入ってくるようになるんだわ…」

やばい、ネガティブモードに入りかけている。
その状態が加速した時の恐ろしさを見ているので、ここら辺で引き上げて置かないと不味いだろう…。
というか、そうして無理していい所に店を出したのが困窮の原因だったのか…。
まぁ、それはともかく話を変えるか…。

「所でシャルロッタ。傷薬とポーションでは何が違うんだ?」
…うん、…そう、これから何とかなるんだよ。…きっと、メストレス様は私のことを見守ってくださるんだから…

…こちらの世界に帰ってきてくれない。
肩を叩いて強制的に注意をひきつけ質問を重ねることにする。

「おーい、シャルロッタ。無視しないでくれ。傷薬とポーションの違いを教えてくれよ」
「…え?えーと、傷薬のポーションの違い?」
「おう、どっちも体力を取り戻すための物だろ?」
「そうね、傷薬は傷に塗るだけですぐ使える点で便利だわ。
 ポーションは口をつけて飲まなきゃいけないから戦闘中に使うには向いてないけど、傷薬よりも性能は高いのよ。
 あとは、回復だけじゃなくて、硫酸とか毒薬とか、敵に投げつけることで効果を出すものなんかもあるわね」
「へー、ならジスはポーションのほうが向いてるのかな。どうせ回復するの戦闘終了後だろ?」
「確かにな。ソロでやるなら、そっちのスタイルになるだろうな。
 単価辺りの回復量が優秀だってなら選択肢に入るな。
 ただ、保存期間が短いってのは気になるけど…」
「あ、それは売り手側の問題なのよ。
 旅人さんたちが持ってる袋だとか、影に入れたりするとずっと使えるから大丈夫。
 信仰神様たちも気が利いてるわよね」
「え、でもシャルもメストレス様の加護を受けてるんだよね?」
「そうだけどね、そういった加護の力って神を目指す旅人さんを助けるためのものなの。
 だから、私みたいに定住して商売するものには与えられないのよ」
「へぇ、そんなふうになってるんだ…」
「所で単価辺りの回復量が傷薬よりも多いってことだけどどれ位違うんだ?」
「そうねぇ…、ポーションの回復量は作った人の技量によっても変わってくるから一概にはいえないけど…。
 私が作ったら倍ぐらいかしらね?
 これでも、技量にはそこそこ自信があるのよ?」
「倍だって!?そいつはすごいな…」
「まぁ、なんたって直接取引きだから、道具屋でのマージンもないしね。
 入れ物の容器を再利用で持ち込んでくれたらもうちょっと安く出来るわよ。
 あと、材料も持込だったら手数料だけでもっと安くなるわね」
「なるほどな…。そいつは逃す手はないな。
 なぁ、シャルロッタ、この採集が終わったらぜひ俺にも作ってくれないか?」
「断るわけないじゃない!
 ありがと!こちらからお願いすることだわ!」
「おー、シャル、うまくやったじゃん」
「ふふ、ありがと。
 実はね、こういう採集の護衛を頼むのって営業活動を兼ねてたりするのよ。
 ポーションを一番使ってくれるのは旅人さんたちだしね。
 こういう機会でもないとなかなか知り合いになれないでしょ?」
「お、ジス。お前うまくやられたみたいだぞ。」
「確かにな。だがお互いにメリットがある話なんだ。特に問題ないだろう?」
「貴方ならそういってくれると思ってたわ」

シャルロッタは、初めて会ったときの様子が嘘のように微笑みを向けてくる。
うむ、一歩間違ったらこの顔で背中を刺されていたかも知れないわけか…
そう考えると、背中にひやりとしたものを感じるが、…精神の安定のために忘れることにしよう。
彼女も混乱していたときのことは覚えていないといっていたし、そうすればこの世からそんな事実はなかったことと同義だ。

「とりあえず、金策のめどが立ったみたいだからあえて聞くけど、この護衛の報酬は大丈夫なの?」

その言葉で、シャルロッタの笑顔がそのまま固まった。
それをみたベリトはまたも「しまった」と顔にありありとあらわしている。
普段は空気読めるくせに、何でこんなときだけそうなんだお前は…
いや、まぁ、冒険者として考えるなら確認しておかなければならないことは確かであるのだが…

「え、う、うん、そう、ジスティアさんがちゃんと買ってくれるなら大丈夫!…な、はず…」

動揺しすぎかつ、語尾に怪しいものがついていたが、まぁ、スルーしておこう。
俺としては現品支給でも問題ないし。

「心配しなくても、俺はポーション類の現品支給でもかまわないよ。ベリトの余剰分も俺が買い取ろう」
「ジスティアさん、さすがにそれは悪いわよ…」
「なに、お金で貰ってもそのうちポーションに変わるんだから同じさ。
 そうだな…、まぁ、悪いと思うなら多少色をつけて貰えるとうれしいな」
「ジスティアさん…、ありがと。今回は言葉に甘えさせてもらうわ。腕によりをかけて作るから期待しててね!」
「んー、何はともあれ懸念だった報酬関係も解決したようだし、後はちゃんと採集できれば問題ないな!」
「おう、がんばらないとな」

長々と話ながら歩いていたため、そろそろ目的地の森の入り口まであと少しといったところまで来ていた。
ここまではアクティブモンスターが居ないためのんきにしゃべりながら歩いてこれたが、森の中に入るとどうも行かないだろう。
話も一段落したことだし、気合を入れていきますか。
…一つ疑問なのは、俺がポーションを買うのに乗り気にならなかったらどうしていたんだろうか…?



俺たちは、いよいよ森の入り口まで来ていた。
ここから先はさっきまでのようにのんびりするわけにも行かない。
アクティブモンスターであろうウルフや、移動をしないが範囲に入れば攻撃してくるウッドスピリットなどが生息している。
もっとも後者はそれこそ遠距離系のいい的なので、乱獲されていると考えらる。
もしかしたら横沸きする可能性が高いといえるな。
注意してしすぎることはないだろう。

また、今は夜なので森の中を見通すことが出来ないのも不安だ。
不思議な効果で視界自体は、昼と同じだけ効いてるのかもしれないが、やはり暗がりに潜まれると発見しにくい。
本来なら、夜の森に入るなど愚行にもほどがあるので、シャルロッタからストップがかかりそうな状況だが、特定クエストの進行が昼だけ可能なのは流石に無理がある。
そういった意味でたずねて行ったすぐに出発となったのだろう。

また、シャルロッタの技量がどの程度なのかも不明なので注意が必要だろう。
ただ、森に入る前に一回リビリオンを倒してもらったのだが危なげない剣さばきだったので、自分の身を守るぐらいには使えるというのは本当なのだと思うが…。

布陣としては俺が先頭で、中にベリト、後ろにベリトの護衛を兼ねたシャルロッタと言うことで決まった。
道を知っているシャルロッタが先頭になるという案もあったのだが、小回りの聞くショートソードのほうが護衛に向いているだろう。
道に関しては後ろから声をかけてもらうことになった。
本来なら、猛獣を招き寄せかねない危険があるが、モンスターがそういう行動を取るかは不明なので良しとすることにしたのだ。

目的地は森の中ほどにある泉の湖畔辺りらしい。
たしかこの森にはベビーワーウルフという強敵なユニークが出没すると情報があったのでシャルロッタに伝えると、そこまで奥には入らないという話だったので胸を撫で下ろす。

そうして、森の中を進む俺たちだったが、俺には非常に大きい誤算があった。
そう、森の中では槍が使いづらいのだ…
足場も落ち葉や柔らかい土などが多いのでよいとはいえないのだが、アースバードの首飾りのおかげか回避する分には気にならない程度なのはよかったのだが。
間合いが長いのが槍の利点だが、障害物が多いフィールドにおいて長物は取り回しが悪くてその長いリーチは欠点にかわってしまう。
これでは中段構えからの突きを基本に立ち回らなければならないだろうし、そう戦うなら横に回りこまれたときに大幅に不利になる。

正直、スキルと取るときに考えていたなぎ払い攻撃などできるはずもない立地だ。
三連突きを伸ばす方にしておいてやはり正解だったといえるだろう。
他にできる対策としてはなるべく開けたところを移動するように心がけるぐらいだろうか。
幸い移動する道はある程度決まっているため、多くの人が通るためかそれなりに木の間隔が広くなっている。
全く振ることが出来ないというほど絶望的状況でないのに感謝するべきだろう。
本当に槍の達人ならば、こういった場所であっても苦にしないのかもしれないが、それを俺に求めるのは不可能である。
少しでも自分がやりやすいと思う方法で誤魔かしていくほかないな。



[18261] 39. 森の中にて
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/17 00:41
俺たちは道を進んでいくと、道をそれたところにウッドスピリットらしき木を発見した。
ぱっと見はただの木に見えるが、気をつけてみると枝のつき方やそれにまきつく蔦などがなにか違和感を感じるのだ。
極め付けが、周りが風になびき揺れる中で奴だけ不自然に風に対抗してる。
俺たちは、無駄な消耗を避けようとそのまま道を行こうとするが、惜しいことに奴の攻撃圏内に入っているらしく、ウッドスピリットは枝を振り蔦を使ってこちらに攻撃を仕掛けてくる。
一応、警戒していたため難なく避けることが出来たが、このまま進むより倒してしまった方が安全だろう。

だが、ウッドスピリットは移動しないため、比較的開けている道におびき寄せて戦うということが出来ない。
俺はやむなく森の中に入るしかない。
ベリトに三連撃を多用してしとめるからフォローを頼むと伝え、俺は槍を構えてウッドスピリットに突進した。
その突進に向かって蔦が振るわれるが、枝をしならせてからの大降りな攻撃である。
アースバードの首飾りで足場の確保が容易なこともあり、俺は何とか敵の攻撃を避けることに成功した。

そのままの勢いを持って槍をウッドスピリットに突き刺す。
その槍を引き抜き足場を確立した後、俺は三段突きを発動させた。
スキルLvを上昇させたので、消費スタミナも多くなったがまだ実用可能な範囲だ。
俺は自分ではとても真似できない速度で槍を3回突き刺す。
実力ではせいぜい1度ぐらいしか攻撃できない時間に鋭く3回の突きを行った俺は大体2倍のダメージをたたき出しているはずだ。
スタミナは2割以上消費してしまうが、Lv1の発動の時点で相当減るのでそれと比べればそこまで増えてないようにも感じる。
このまま、連続で三段突きを行い息の根を止めてしまいたいが、スキルのクールタイムの制限でそうも行かない。
また、ウッドスピリットが蔦を振るってきたため回避しなければならないのもあるだろう。

先ほどのように突進中に回避できる程度の攻撃であるので、その攻撃を避けるのはたやすかった。
その攻撃をやり過ごした後、枝を振った反動を戻そうとしているウッドスピリットに突きかかる。

その突きがとどめになったようで、青々と茂っていた葉が急速に枯れ落ちたウッドスピリットは光となって消えていった。
後に残った蔦のようなものを拾い袋に入れる。

「やっぱ、こいつはそんなに強くないな」
「ま、亀より弱いって話だしな。しかし、移動しないとは遠距離攻撃型には格好の餌食だな。
 それに関わらず人が見えないってことは既にウルフの生息域に入ってるってことか?」
「そうかもな…、遠距離か…、次の奴は投げナイフを使ってみるか。
 今の感じなら、敵の攻撃圏外からでもそこそこに当てられそうだしな」
「お、新しい武器のお目見えか」
「へぇ、ジスティアさん投げナイフも使うんだ?」
「いや、今回が初投入だよ。
 ちょっと、訓練場で練習した程度だし、ナイフも安物だから手持ちを投げきって殺しきれるかも怪しいな。
 今回使うのも投げナイフの練習を兼ねてだな」
「なるほどね」

俺たちは道沿いに進んでいく。
アクティブが居るマップなので暢気に会話しながらの移動は難しい。

しばらく進むと、またも道脇の森の中にウッドスピリットが生えているのが見えた。

「お、また木がいたな」
「よし、それじゃ、投げナイフの実戦初投入だな」

俺は手に持っていた槍を横の木に立てかけ、袋からナイフを取り出した。
そのままウッドスピリッドに歩みよっていく。

幾らか近づいたとき、ウッドスピリットは枝をしならせてこちらに攻撃しようとしてきた。
俺はその攻撃が届く前に一歩下がる。
予想通り、ウッドスピリットは攻撃を中止ししならせた枝はそのままもとの位置に戻るだけだった。
どうやら、ここがウッドスピリットの攻撃範囲なのであろう。
もしかしたら、索敵射程よりも攻撃射程の方が長く設定されているかもしれないと思っていたが、攻撃を中止したところを見ると同じ射程になっているようだ

さて、俺の投げナイフの有効射程は6m以下である。
後ろが森であるので、狙いを外したらほぼナイフはロストするの思っていたほうがいいだろう。
深い森の中という不利な状況でナイフを探すなど、本末転倒にもほどがある。
多少の金銭をケチってデスペナを貰うなど笑い話にしかならない。

と言うわけで、ウッドスピリットから俺までの距離だが…

まぁ、分かるわけがない。

目視で正しい距離を把握するのは特殊な訓練が必要だと聞いたことがあるが、当然俺はそんなもの受けたこともない。
とりあえず、横にある槍を持ってくると足元からウッドスピリットに向かっておいてみる。
こういう目安があれば、俺でも大まかには分かる。
投げナイフの練習をしたときに槍で距離を測ったのは正解だったな。

まぁ、結果は3.5本分ぐらいだろうか?
誤差をみて3本から4本分、つまり6m~8mといったところか…
うーむ…、微妙に困る長さだな…
当たらないこともないが必中は難しい。
訓練場で的としていた案山子よりはでかいので、多少バラけても案山子よりは当たるだろうが…。

考えていてもしょうがないし、とりあえず投げてみるか。
測るのに使った槍を横の木に立てかけ、俺は手に持ったナイフをウッドスピリットに投擲した。
ナイフは見事ウッドスピリットに命中したが…、ナイフはそのまま後ろへ飛んでいった。
つまりは横の端にギリギリ引っかかるように当たったが、丸みをおびる円筒の横端に当たれば刺さるはずはないな…
幸いにして偶然その後ろにあった木に突き立ったので回収自体は難しくなさそうなのが救いだろうか。

行き成りほぼはずれに近い辺りとは幸先が悪い。
どうせダメージにもならないであろうナイフは諦めて素直に槍を使おうか…
悠長にそんなことを考えていると、ベリトからのチャットが頭に響く。

『ジス!後ろからウルフが来た!
 シャルが相手してるところだから、遊んでないで早く戻って来い!』

遊びとはひどい言い草だが、あながち外れていないため反論できない。
俺はあわてて脇に立てかけておいた槍を手に取るとベリト達が戦闘している場所に戻ってくる。

ウルフは、その名の通り狼の様で大体中型犬程度の大きさであるようだ。
ベリトの援護もあり、シャルロッタ一人でも何とか相手に出来ているようだが、アクティブの恐ろしさは放っておくとどんどん敵が増える可能性があるところである。
いち早く殺しきるに越したことはない。

俺は槍を腰ダメに構えて突進し、ウルフがシャルロッタから離れた所を見計らってそのままの勢いで突き刺した。
ウルフは野生の勘なのか突き刺す直前に察知し身を捻っていたが、突進の勢いの乗った突きはウルフに突き刺さる。

ダメージだけでなくその衝撃で体勢を崩したウルフに追撃を入れるべく、槍を引きぬき即座に三段突きを発動する。
神速の勢いでの突きの連撃が入りダメージを稼ぐ。
さらに、シャルロッタの一撃が入りウルフは地に伏せるのだった。

俺はベリトのヒールでスキル使用により減ったスタミナを回復してもらう。

「案外あっけなかったな」
「お前が遊んでなきゃもっと早く終わったはずだけどな」
「遊びって…、否定は出来んのがつらいところだが…。
 何はともあれ、亀と違って正攻法ですぐ倒れてくれたのは助かったな」
「動物型のモンスターは防御力や体力はそんなに多くないのが多いわよね。
 怖いのはその素早さと命中力、そして群れで行動することが多いところかしら」
「なるほど…、群れでこられるのは少々困るな…」
「今のジスだと、スキル連打でとりあえず数を減らすぐらいしか対策がないな」
「こんな森の中じゃ、槍を振り回すことも出来ないからな。
 とりあえず、ナイフで遊んでる場合じゃないってことはよく分かったよ。
 さし当たって邪魔なウッドスピリットを倒してくる」
「あいよ、いってらっしゃい」
「ベリトさんのことは任せてください!」

二人の声を背に受けて、投げナイフの的となったまま放置されていたウッドスピリットに近づく。
とりあえず、とっとと倒して先を急ぐべきだろう。
いま、優先されるべきはいち早くこの不利な場所を抜けることであるのだから。

槍を使えば、ウッドスピリットは大した敵でもない。
突進による突きとその後の三連突き、駄目押しの一発を叩き込みノーダメージで撃破する。

先ほど投げたナイフを回収し、今倒したウッドスピリットのドロップも回収する。

俺たちは改めて道を進んでいく。
暫く進むと、できれば会いたくない事態に遭遇した。
前方にウルフの4匹の群れが居たのだ。

「どう思うベリト、ナイフで一匹だけ釣れると思うか?」
「リンクでないなら釣れるんじゃないか?」
「まぁ、どちらにしろそれがだめなら4匹に突っ込むしかないんだから投げてみるしかないだろ」

ウルフの索敵範囲は意外と狭いようだ。
幸いにして必中だと思える距離まで気づかれずに近づくことが出来た。
もっとも、目算が適当なので本当に必中なのかは不明だが。
多分当たるだろうなと思うギリギリまで近づいたと言うことだ。

俺は槍を木に立てかけ、一番手前に居るウルフへとナイフを投擲する。
投げきった俺はすぐに下がり槍をもって構えた。
気まぐれに動いた残りのウルフの索敵範囲に入らないようにするためだ。

ナイフは無事に狙い通りのウルフに中り、そいつはこちらを向くと猛然と走り寄ってくる。
他の三匹は特に動く様子はない。
どうやら、ウルフにはリンクの特性はないようだ。
うまく釣ってやれば、群れでも一体ずつ始末できるかも知れない。
投げナイフがなければ出来ない戦術で、優位に戦闘を進めることが出来る。
やはり投げナイフを買ってきたのは正解だった。

こちらに走ってくるウルフだが、槍は元来そういった遠い間合いで一方的に攻撃が出来るのが強みだ。
寄ってくるウルフに槍を突き出し攻撃を加える。
特に足元への攻撃を意識し、進行速度を遅らせることに腐心する。
俺はウルフがこちらに接敵するまでに都合3発の攻撃を繰り出したが、一発は残念ながら避けられてしまった。

ウルフは走ってきた勢いのままこちらに噛み付こうとしてくる。
俺はそれをバックステップで避け、その間に遠目の間合いに対応するために長めに持っていた槍を中ほどへと持ち変える。
着地と共に発動した三連突きは過たずウルフを突き刺す。

先の戦いから考えれば後一発当てればウルフを倒すことが出来るだろう。
俺は小回りの利くウルフに確実に攻撃を入れるためにさらに槍を短く持ち替える。

ウルフはその間に俺に左足に噛み付いてきた。
俺はそれをあえて避けず、痛みを堪えながら噛み付き動きが止まったウルフに最後の一撃を落とすのだった。



[18261] 40. 森の中にて2
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/27 00:45
ウルフの噛み付きと、三連突きの消費で結構減ってしまったスタミナをベリトの回復してもらう。

「どうやら、リンクではないようだな。個別撃破が出来そうでよかったよ」
「そうだな、一匹殺すのにこの減りじゃ4匹きてたら死んでたかな?」
「どうだろうな。シャルロッタさんの頑張りにも寄るからな…」
「私は1匹ぐらいなら抱えられるでしょうけど、2匹となると自信がないわ」
「ま、行き当たりばったりなのはいつものことだ。情報がない以上は出たとこ勝負なのはしょうがないだろ」
「確かに他にやりようがないとは思うが…」
「とりあえず、追加のウルフが来る前に目の前のを始末しようぜ」

俺は2匹目のウルフにナイフを投げるため槍を置いて再度近づいていく。

俺は先ほどと同じように間合いを計り、ナイフを投擲する。
だが、投擲モーションに入った時点で狙ったウルフとは違う個体がこちらへと歩いてきた。
俺はいやな予感がするがいまさらモーションは止められない。
腕を振り切ってモーションが終わると共に、歩いてきたウルフは不意に顔を上げ… …目が合った。

俺はチャットを使ってベリトに報告する。

『ミスった。2匹来る。三連突きを多用するからフォロー頼む』
『あいよ。任された』

先ほどと同じように投げた後すぐさま下がり槍を取る。
すでに目が合ったウルフはこちらに向かって走ってきている。
このときばかりは投げたナイフが外れてくれるのを願うが、願い届かずナイフは狙い通りに中ってしまった。

だが、幸いにしてこちらに向かってくる2匹のウルフは時間のずれがある。
最上は2匹目がこちらに来る前に1匹倒しきってしまうことだが…、さすがにそれは厳しいだろう。
なるべくダメージを重ねておくぐらいしか方法がないな。

敵との間合いにあわせ長めに持った槍を構え、1匹目のウルフを待ち構える。
間合いに入ったところで俺は即座に三段突きを発動させた。
突きは点の攻撃であるので斬るなどに比べて避けられやすい。

だが、三段突きは俺が一回突くことが精々な時間で三回の突きを放つのだ。

つまりは…、比べ物にならないほど穂先の速度が速い。

ただの突きであったなら、野生の勘と身のこなしで避けられていただろうが、その加速された突きは避ける間を与えず見事に突き刺さる。
一度刺されば、それによって動きが鈍るのも当然で続く2,3発目も過たず刺さる。
出来ればすぐさま三連突きをもう一度打ちたいが、システム上無理なものは俺にはどうしようもない。

俺は、絶妙のタイミングで飛んできたベリトのヒールでスタミナが回復するのを感じつつ、バックステップして体ごと後ろに下がり槍を引き抜くと、着地と共にそのまま突く。
三連突きのダメージから復帰したばかりのウルフはあえなくその突きにも食らうのだった。
さらに俺は同じようにバックステップしながら槍を抜き、3度目の攻撃に備える。

1匹目は見事に足止めに成功しているが、もう1匹にはなんら妨害がないため勢いよく走り寄ってきている。
この時点で、とうとう2匹目は1匹目を追い抜き俺の間合いに侵入してきていた。

俺は、牙を見せ唸りながら寄ってくるウルフに攻撃をしたい誘惑に駆られるが、ここでこちらを攻撃しても意味がないのは分かっている。
第一に、1匹目のウルフを倒しきるのが大事なのだから。
心理的圧迫に耐え、俺は1匹目のウルフに向けて三連突きを発動させた。

間に入れた普通の突きでは動きを鈍くする程の効果は見込めなかったのだが、三連突きは先ほど言ったように避けられずらい。
すでに、大きなダメージを与えているウルフはその攻撃をあえなく食らい地に伏せるのだった。

それを確認すると共に、俺は次の目標へと意識を移すが…
すでに、その攻撃を避けるタイミングは逸していた。

わき腹に走る激痛。
1匹目に止めを刺した隙を突かれ、避ける間もなく腹に噛り付かれたのだ。
痛みからしてクリティカルをもらってしまったのか大分スタミナを持っていかれた。

三連突きを使った直後でスタミナが減っていた所だったのもあり、すでに5割を切っている。
スタミナ減少による曲線効果でステータスが減り始めている俺はウルフの攻撃を避けることすらおぼつかないかもしれない。

噛み付いていたウルフは牙を抜くとそのまま横に回って再度噛み付いてきた。
唯でさえクロスレンジが苦手な槍という武器で、1匹目をつぶす為に長めに持った現状ではまともに対応が出来ない。
俺が出来るのは、篭手を使ってブロックを試みることぐらいだ。
だが、篭手のブロック成功率はDEXに依存する。やはり、曲線によって減算を受けており成功率は落ちているのだ。
この攻撃を受けると、本格的にステータスが下がるため次の攻撃を凌ぐのはさらに難しくなるだろう。

だが、その攻撃が決まる前にベリトからのヒールが飛んできた。
俺の心配は何とか杞憂に終わりそうだ。
曲線効果で下がっていたステータスも戻り、ブロック率が戻ったのも影響したのか、はたまた俺の運がまだ捨てたものではなかったということなのか。
ブロックは成功し、大幅にダメージを減らすことに成功する。

俺はすぐさまバックステップで距離をとり槍を持ち替える。
接近戦に対応するため、短めにもった俺はウルフに相対するが…。

すでに戦闘は俺の手から離れていた。

後ろからこちらに来ていたシャルロッタが2匹目のウルフに切りかかったのだ。
俺の投げナイフなんてちんけなダメージしか入ってないため、タゲはすぐさまシャルロッタに移っている。

あせる必要が無くなった俺は、確りと力をため気合一閃、三段突きを繰り出す!
後ろからの不意打ち気味で繰り出された三段突きを食らい動きが止まったところでシャルロッタの攻撃が入る。
それで殺しきるまでは行かなかったが、2人に挟まれたウルフはすでに詰んでいる。
すぐに命を散らす結果となるのだった。

「予想以上に危なかった…。ベリト、2回目のヒールが遅かったから焦ったぞ。
 1回目はすぐに飛んできたのに。どうしたんだ?」
「あー、ほら、シャルにお前の援護をするように指示してた」
「うん、私が頼まれてたのはベリトちゃんの護衛だから。
 ベリトちゃんにジスティアさんの加勢して欲しいって頼まれたからそちらへ行ったのよ」
「ああ、なるほどね…。助かったよ、ありがとう」

あんまりにも言動が人間臭いから忘れてたけど、そういえばシャルロッタはNPCだったな…。
初期の指示がベリトの護衛と固定されていたから、能動的にこちらに加勢するような行動を取ってくれるはずはないか。
で、ベリトはその指示のためにヒールが遅れたと…。

「ところで、1匹目を倒したのは大分うまく行ったと思うんだがどうだ?」
「よかったんじゃないか?もっとも、攻撃外してたら致命的だった気がするが」
「それは確かにな、三連突きの命中増加に助けられたのは否定できないな。
 長めに槍を持った状態で接敵されると本当にどうしようもないのは今回でよく分かったよ。
 特にこんな障害物が多い場所だとな…」
「とりあえず、残りの1匹倒して先に進もうぜ」
「おう、そうだな」

俺は残った一匹をしとめるため、再度ナイフを投げる。
別に残り1匹なので投げナイフで釣ってくる必要はないのだが、練習のために投げておく。
どうせなので、槍を持ったままの投擲を試してみる。
案山子相手の練習では出来るようになっても実戦で使えなければ意味がないからだ。

槍を左手で持ったまま右手でナイフを取り出し、左手の槍を一瞬浮かし手から離れたところでモーションを開始する。
投擲モーションが開始するとすぐさま手に落ちてきた槍を握る。
傍から見る分には槍を持ったまま投げているように見えるだろう。

肩から先しか投擲に使用しないため飛距離が短くなるようだが、どの道そんな遠い距離では狙いがずれすぎて中らないため関係ない。
ナイフは見事ウルフに刺さり、ウルフはこちらに向かってくる。
それを待ち構える俺は、三段突きを駆使して近づく前に殺しきるのだった。



投げたナイフを回収した後、俺たちは道を先に進んでいた。
シャルロッタの話ではもうすぐ目的地に着くらしい。
このままモンスターが現れないと楽なのだが…。

俺の願いが通じたのか、目的地の湖畔にたどり着くまで戦闘は発生しなかった。
道の横に入った場所で何本かウッドスピリットが生えているのも見かけたし、ウルフが歩いているのも発見したが、わざわざ狭い場所に入っていくほど酔狂ではない。

特に射程圏内に入るわけでもなかったので俺たちは無視して先に進んだのだった。




目的地の湖畔は木が立ち並んだ森の中とは一転して開けた草原のようになっていた。
ここから先はシャルロッタは戦力としてカウント出来ない。
いっそう気を引き締めなければならないだろうが、森の中で槍を振るうことに比べたらこちらのほうが楽なものである。
視界が広く確保できるため奇襲も早々受けないだろう。
あったとしても横沸きしたときぐらいだ。

また、月明かりに照らされた夜の湖畔というのもまた乙なものだ。
この景色を眺めるぐらいは許されるだろう。

シャルロッタは採集を行っているのか草原をうろちょろしている。
たまに森から出てくるウルフにタゲられているが、その前に俺がナイフ投げてタゲをとり処理をする。ベリトは主に索敵を担当だ。
言ってみればこの状態は固定拠点で狩りをしているのと変わらないようなものだ。
たとえ戦力が落ちていたとしても、移動しながらの行き道よりも気分は楽である。

暫くの間そのように掃除をしながらシャルロッタの採集を見守るのだった。




「よし、これだけあれば十分でしょう!あとは水を汲んで帰って終わりね」

持ってきた袋にいっぱいに何かを詰めたあとそれを背負ってシャルロッタが話しかけてきた。

「水はどうやって持って帰るんだ?」
「瓶に入れて抱えて帰るのよ」
「瓶?」

そんなものは持ってなかったと思うのだが…
そう思い聞いてみると、シャルロッタは腰の袋から一抱えの瓶を取り出した。

「そこにはいるなら、袋に入れて帰えればいいんじゃないの?」
「残念ながらね、旅人さんのものと違ってこれは入れることが出来るだけなのよ。
 そのままの状態で保存したりは出来ないって話をしたわよね?
 水とかハーブとかは私の袋に入れると劣化しちゃって台無しになっちゃうのよ」
「なら、俺たちが入れて帰るとか…」
「貴方たちのことは信用してるけど、こればっかりはね…。それに、他の神を信仰する袋に入れると調合がうまく行かなかったりするのよ」

まぁ、クエスト進行上しょうがないことなのだろう。

「ということで、帰り道は私は戦闘に参加できないからよろしく頼むわよ!」

さて、帰り道の布陣だが最優先で守るべき人が変わったため隊列を変更する。
先頭が俺なのは相変わらずだが、真ん中にシャルロッタ、一番後ろにベリトという並びだ。

ベリトにウルフが来た場合は、ナイフを投げて俺がタゲを受け取る。
それまでは盾を駆使して耐えてもらうほかない。

今回は戦闘中に後ろからこられると行き道とは比べ物にならないほど危険だろう。

今考えれば、戦力が多い行きの行程で無理をしても道そばに居たウルフを狩っておくほうがよかったのかも知れない。
いまさら後悔してもしょうがないことであるが。

シャルロッタは、重い瓶を抱えているため移動速度もそれ相応に遅くならざるを得ないのだから帰り道思っていたよりもハードな行程になりそうだ。



[18261] 41. クエスト終了
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/27 01:01
帰り道は予想以上に難易度が高くなった。
どうやら、シャルロッタが抱えている瓶を落としただけでもまた水を汲みに湖畔まで戻ってやり直さなければならない上に、シャルロッタがまともにダメージを受けるだけでもアウトなのだ。

それなりに進んだところで横から来たウルフがシャルロッタを攻撃し振り出しに戻ることになったとき、俺とベリトは思わず頭を抱える羽目になった。
これではもう一人シャルロッタの護衛を専任する前衛なりが居なければ相当きつい。
だが、すでに受けてしまいここまで来ているのだからどうしようもない。

一度振り出しに戻ったあと、道半ばまで散発的に道に居るウルフを狩るだけで何とか進行できていた。
一対一ならばおれでも危なげなく狩ることが出来るのだ。もっとも、ベリトのヒールが有ればという注釈は付くが。
ゆっくりとしか進めないため、特に慎重に索敵し不意打ちを受けないように注意しながら進むしか方法は無い。
たまに居る群れも投げナイフを駆使して各個撃破で処理をしながら進む。

一番怖いのが横湧きによっていきなりシャルロッタがタゲられることだ。
現に、一度目の失敗はそれに対応出来なかった為に守りきれなかったのだ。
俺が気づいてナイフが間に合えばよかったのだが、そうも行かない場合も十分考えられる。
そういう場合は、ベリトが盾を使って庇うほか無いとの結論になった。

初撃を耐えれば俺の投げナイフで何とかタゲを取ることができる。
正直投げナイフを持ってきていなかったらとてもではないが、クエストを越せたとは思えないな…。

そして、俺が道を進むのに邪魔なウルフを排除しようと戦闘を開始した直後、恐れていた事態が起きた。

『ジス、後ろから来た!タゲ取り頼む!』
『ぐ、こっちの敵と戦闘を開始したばっかりだってのに!
 俺が倒しきるまで持ちこたえられるか?』
『お前にヒールしなくていいならいけるがな!』
『それは不味いな…、分かったナイフ投げるぞ!』

素早く右手でナイフを取り出すと、槍を一瞬放す投法で半身に返してベリトを襲うウルフに投げる。
ベリトは俺の射程を考え近寄っていたため、確実に当てることが出来るだろう。
投げたナイフの行き先を確認する暇は無い。
俺は槍を握りなおし、前から来るウルフに相対する。

『ベリト!後ろから来る奴のタイミングを教えてくれ!』
『まかせとけ!』

後ろから来るウルフの攻撃の感知はベリトのアナウンスに任せ、目の前を走ってくるウルフに意識を集中させる。
乱戦が予想されるので、槍は半ばで持って構える。
近寄る前に殺しきるのは難しいだろう。

待ち構えている俺の槍の射程に入ったウルフにすかさず三段突きを発動させる。
三段突きは過たずウルフの体を穿ちダメージを与えた。

『後ろから行ったぞ!避けろ!』

ベリトによるヒールを貰いながら、ベリトの声にしたがってすぐさま横に転がる。
寸前まで俺が居た場所を後ろから来たウルフが通り過ぎていった。
ガチリと牙が噛み合った音が響き、俺の背筋が寒くなる。

俺は転がった姿勢から立ち上がると、手傷を負わせているウルフが襲い掛かってきた。
俺は地面についた手を持ち上げると同時に槍を掬い上げるように繰り出す。

下からの攻撃が予想外だったのか、突進してきた勢いそのままに上ベクトルを付加されたウルフは後方へ弾き飛ばすのに成功する。

『今の奴が戻ってきたときも頼むぞ!』
『おうよ、安心して前向いてな』

心強いベリトの声に後押しされ、前に残る一体に三段突きを繰り出す。
こちらに向かって走り出そうとしていたところだったそのウルフに決まりダメージを与える。

すかさずヒールが飛んできて消費したスタミナを回復すると共にベリトが後ろから来る敵のタイミングを教えてくれる。

『後ろから行くぞ!……今!』
『おう!』

今度は体勢が十分なところで合図があったため、俺は余裕をもってサイドにステップ。
避けた俺の横を牙が噛み合わさる音と共にウルフが過ぎ去っていく。
着地した硬直を狙って俺は三段突きを発動する。
俺は3発目の攻撃が入ったのを確認するとすぐさま横に転がった。

後回しにしていたもう一匹が襲ってくることは分かりきっているからだ。
だが三段突きの硬直もあり若干間にあわなかった。俺の腹をウルフの爪がかすっていく。
まぁ、クリティカルにならなかっただけ儲けものなタイミングだったのでしょうがない。

転がる直前に三段突きを食らわせたウルフはすでに地に伏して動かない。
残るは今しがた俺にダメージを与えた一匹だけだ、もはや消化試合のようなものである。
スタミナがベリトのヒールで回復するのを感じつつ俺は残ったウルフを料理するのだった。



その後はさして大きな山場も無く、散発的にウルフを討伐していくだけで森の出口にまでたどり着いた。
なぜか視界は確保されているとは言え、暗い森の中を集中して索敵していたのだ、精神的な疲労が大きい。
俺たちは、森から出たところで思わず座り込んでしまった。
フィールドに出てしまえばアクティブモンスターは出現しないのだから気楽なものだ。



少しの休憩を挟んだ俺たちは雑談をしながら月明かりの下草原を歩く。

「何度か危ないところもあったけど、何とか無事に終わりそうだな」
「そうだな。とりあえず俺は特別な用がない限り森の中には入らんと決めたぞ…」
「ま、それがいいだろうな。でも意外に何とかなってた様にも思えたが」
「三連突きのお陰だな。ここに来る前にあげておいてよかったよ。
 スタミナの消費量も上がるが、元が多いからかそれに比べたらさして増えてないようにも感じるしな…」
「何はともあれ報酬を貰うまでがクエストだ。気を抜かずに帰ろうぜ」
「確かにな。前みたいにドスリビを擦り付けられることもあるかもしれないしな…」
「あと少しだから二人ともよろしく頼むわ」
「おう、まかせとけ!」

重そうな瓶を抱えたシャルロッタは、俺たちのその返事を聞いて笑顔を浮かべている。
彼女はその水がいっぱいに入った一抱えもある瓶をずっと抱えて歩き通しだったわけだが…
一体どういう体力をしているんだろうか…

ああ、いや、VRということでいくら走っても疲れない俺たちもやってみれば案外簡単なのかも知れないが…
見た目というか、状況というかそういったものの違和感はぬぐえない。
これも、遠くに見えてきた南門を入ったら終わりだ。気にしないことにしよう。



無事に南門を通り過ぎ、俺たちはシャルロッタの店へたどり着くことが出来た。

「本当にありがとう!これで当分の間は凌げるわ!」
「こっちも無事に依頼が達成できてよかったよ」
「早速報酬のことなんだけど…。ごめんなさい…やっぱり現物でもいいかしら?
 すぐに現金を用意するのは難しそうなの…」
「前にかまわないって言ったじゃないか」
「そう?本当にごめんなさいね。
 ただ、ポーション類で支払うとしてもすぐに作れるわけじゃないのよ。
 また明日あたりに改めてきてくれないかしら?」
「ん、分かった。明日の何時ごろか分からないが寄らせてもらうよ。ベリトもそれでいいよな?」
「俺は何でもかまわねーぞ」
「それじゃ、明日作って待ってるわ。作るものは回復系のポーションだけでいいのよね?」
「ああ、細かい種類は任せるよ。ただ、できれば回復量が少なめのものを多めでよろしく」
「分かったわ。それじゃ楽しみにしててね。腕によりをかけて作るから!
 それじゃ、今日は本当にありがとう!」

そういってシャルロッタは瓶を抱えて店の中に入っていったのだった。
それを見たベリトが締めの一言を述べる。

「よし、これにてクエスト無事完了ってことだな!」
「そうみたいだな。苦労した気はするが、なかなか楽しかったな」
「そうだなー。俺としては、デカい狼とやらが乱入してくるのも面白かったと思うぞ!」
「そんな死亡確定の状況面白くもなんともない」
「わかってないなぁ、そこがいいんじゃないか」
「…お前も大概、支援職に向いてない性格してるよな」
「おいおい、この海よりも広い慈愛の心を持つ俺は支援職に最適だろうが」
「バトルジャンキー的発言をしたその口で何を言うと思えば…
 俺が分かったのはお前の辞書では海と言う言葉と雨の後の水溜りが同じ意味だってぐらいだな」

いつも通り軽口を叩きながら移動する。目標はとりあえず宿屋である。

「さて、この次はどうする?」
「んー、そうだな…、そろそろこの街の周りも大体行ったし、Lv的にも次の街に移動してもいいころなんじゃないか?」
「たしかに、いい頃合ではあるかもしれないな。なら、次の目的地は隣町で決定するか」
「隣町なら馬が帰るんだよな。楽しみだぜ!」

まぁ、さしあたっての移動は宿屋、神殿、武器防具屋といった定番の店周りルートだな。

俺たちはまず宿へ行き、隣町の位置を調べることにする。
すると予想通り北の川を渡ったところからさらに北に位置するらしい。
さらに北には町のすぐ北を流れる大河と同じような河が有りその河口に位置する港町だそうだ。
今居るタートスの町からはひたすら北に向かえばその内見つかるらしい。
まぁデカい河の河口にあるということならその河さえ見つければどうとでもなる。
余り神経質にならなくてもよさそうだ。

ただ、気になるのは北の河を船で渡してもらうにはちょっとしたクエストを越さないといけないらしい。
どうやら、河口の上流部分に行かないといけないようだ。
初めていく場所なのでどういった場所なのか分からないが、出来れば開けた場所であって欲しい。
狭い場所で神経を削るのは当分勘弁して欲しいところだ…
俺はそれぞれの部屋に分かれていたベリトにチャットを飛ばす。

『ベリト、そろそろ宿屋を出るぞ』
『りょーかい、そっちは何か分かったか?』
『北の河を越えた先に次の町があるらしいぞ。あと、河を越えるのにクエストを越さないといけないらしい。
 じゃないと船頭が向こう岸まで送ってくれないんだってよ』
『お、俺もそれは見たぞ。どうやらクエストの一環でダンジョンに入らないといけないらしい。このゲーム始めてのダンジョンだな!』
『ダンジョンか…、やっぱり槍には不向きな気がするな…』
『さすがにそんなに狭くもないだろ』
『そうだといいんだけどな』

俺たちは部屋から出て合流する。

「さて、次は武器屋と防具屋だっけ?」
「それなんだが…、これから次の町に向かうならそっちで買ったほうがいいものがあるんじゃないのか?
 当然、ダンジョンに備えるって意味はあるだろうが…」
「まー、それはそうだが…。世話になったんだし、顔ぐらい出していこうぜ。
 もしかしたら、次の町での店を紹介してくれるかもしれないしな」
「あー、確かにな…。顔見せるだけでも寄っていくか」

普通だったら、そこら辺のNPCに気兼ねすることなんてないんだが、ああも人間臭いとそんな気になってしまう。
というか、シャルロッタとは知り合ったばかりなのに移動するんだが大丈夫なんだろうか?
街同士で転送機能があるらしいが、その値段によってはわざわざこの街に来て作ってもらうとコストがかかってしまう可能性があるな…

まぁ、明日報酬のポーションを取りに行ったときに聞いてみることにするか。



[18261] 42. 挨拶回り
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/27 01:20
武器屋に到着した俺たちは店の親父に声をかける。

「よう、さっき振りだな」
「お、またお前か。今回はベリトの嬢ちゃんも一緒か、久しぶりだな」
「おう、久しぶりだな、おっさん」

俺は短剣の件やらで頻繁に顔を出しているが、ベリトは本をメインに使うようになったため余りこちらに来ていないようだ。

「どうだい、ベリトちゃん。最近いい杖が入ったんだが、見て行かないか?」
「へぇ、それは興味あるな。でも、俺が今使ってるのは本だからなー」
「ぬ、そいつは残念だな…」
「ところで、前に買ったナイフを補充したいんだが良いか?」
「お安い御用だな。というか、今のお前ならもうちょっといい奴が使えるんじゃないのか?」

俺がそう頼むと、親父は俺のほうをじっと見詰めてからそういった。
どうやらそれなりに熟練度が上がったらしい。

「ほー、そいつはありがたいな。そのナイフはやっぱり投げやすいのか?」
「お前が今使ってる奴よりは狙いやすいと思うぞ?」
「なるほどな、一本いくらだ?」
「5cって所だな。ちなみに投げナイフの下取りはやってないから諦めてくれよ」
「一気に倍額か…。ま、命には代えられんか。とりあえず20本ほどくれ」
「まいどあり!」

ここでは買い換えないつもりだったが、どうせ俺の熟練度じゃここにおいてあるものでも使えないものも多いだろう。
投げナイフに関しては下手にLvの高い武器屋に行くと装備できるものがなくなるかも知れないし、構わないだろう。

「ところで親父。そろそろ、この街を離れて北の街にいってみようと思うんだがいい武器屋を紹介してくれよ」
「ほう、とうとうお前さんたちもこの街から離れるのか…、寂しくなるがそれが旅人ってもんだしな。この街に戻ってきたときは顔を出してくれよ!
 そうそう、いい武器屋の紹介ね。といっても、北の町はここほど大きくないからな。
 武器屋も数件しかないし、扱ってるものも偏ってるからな。槍類を扱ってるのは一軒しかないはずだ。紹介なんて大層なことは出来ないよ」
「へぇ、やっぱこの街はでかい方なんだな」
「ま、自慢じゃねーけど、この街と同じぐらいの大きさの街はこの大陸に2~3個ぐらいしかないんだぞ。
 もっとも、俺が見て来た訳じゃないから話に聞いただけだけどよ」
「いろいろ参考になった。ありがとよ。またこの街に戻ったら顔出すよ」
「おう、土産話を期待してるぜ!」

威勢のいい親父の声を背中に受けて俺たちは武器屋を後にする。次の目的地は防具屋だ。
久しぶりにあの爺と顔をあわせるわけだが…、あの変態爺のことだ。きっとベリトがゴマすってくれたら素材を高く買ってくれるに違いない。
俺は手持ちの素材をベリトに預けると、先に行ってベリトに売っていてもらうことにする。
渡したのは亀ドロップの俺の取り分だった甲羅片*11、大片*6と、先ほどの狩りで手に入れた植物の蔦*3、植物の若葉*1、植物の若枝*1、狼の牙*17、狼の爪*6、狼の毛皮*1だ。

「なぁ、ベリト、お前一足先にいって素材を換金しておいてくれないか?」
「あん?なんでだ?一緒に行きゃいいじゃねぇか。何処か用事でもあるのか?」
「いや、そういうわけでもないんだが…。あー、ほら、あれだ、ちょっとした実験だな!」
「実験?」
「いや、買い取り価格を交渉出来たりするんじゃないかと思って、お前だけで行ってみて欲しいんだよ」
「んー、それならなおのこと俺がお前の分売ったらダメだろ。比較対照がない対比実験なんて意味がないにもほどがあるぞ」
「む…」

俺の中でベリトが売ったほうが高くなるのは確定事項なんだが…、それをどうやって説明したことか…。

「ほら、全く同じ内容を連続で持ってこられたら同じ内容にせざるを得ないだろ!
 だから、時間を置いてやろうと思ってな!ということで、今回はお前がやってくれ」
「何がどう”ということで”なのかさっぱりだが…、まぁいいか」
「おう、受けてくれるか。それじゃ素材渡すぞ」
「あー、亀の分だけ別に計算するのがめんどくさいな…、俺も甲羅残して全部うっちまうか」

ベリトはめんどくさそうな顔をしたがどちらにしろいつか換金しなければならないことは確かなので引き受けてくれた。
ちなみに、明らかにレアっぽい亀の甲羅は一応残しておくことにしたのでリストに入ってない。
ベリトは亀素材とその他の素材を分けるのが面倒らしく、俺と同じように甲羅を残して全部売ることにしたらしい。

俺は防具屋から少し離れたところで待機し、先に防具屋に入っていったベリトを心の中で応援する。
暫くして、道具屋の爺とベリトの笑い声が聞こえてくる。
ふむ、商談はまとまったのだろう。そろそろ俺も行くとしよう。

『ベリト、戦果はどうだった?』
『あー、ダメだったぞ。多分規定額でしか買ってくれなかった』
『えっ!?マジで?』
『マジだが…、何でお前はそんなに驚いてるんだ?』
『え…、いや…、その、ほんとに定価でしか買ってくれなかったのか?』
『だから、そういってるだろうが。なんだ?俺が誤魔化して着服してるとでも言いたいのか?』

ベリトの声に不機嫌なものが混じる。
確かに、俺の態度はそう取れないこともない。

『いや、そんなことはいってないぞ。唯ちょっと予想外だっただけだ』
『なんでだよ。単にシステム上認められないだけだろ?NPCなんだからおかしくないじゃん』
『ああ、そうか、NPCだもんな…』

うーむ、俺の防具屋爺中身有り説が揺らいできたぞ…。

『あー、ほら、前にここでお前がローブ買ったときさ、下取り価格が高かったじゃないか。
 それでてっきりお前なら高く買ってくれるのかなと思ってたんだが…』
『なんだ、そんなことか。それは単に後衛の装備の下取りが定価の2/3だからだぞ。前衛だと1/2なんだっけ?』
『え、なにそれ、ずるくないか?』
『こっちはその分単価が高いんだけどな。後衛のほうが装備の消耗が少ないからだって聞いたぞ。
 まぁ、分からんでもない理由ではある。ゲームバランス的にどうなのかは疑問だが』
『そうなのか、俺はてっきり…』
『てっきり?』
『いや、なんでもない…。まぁ、いい、俺も店に行くよ』
『何だよ歯切れ悪いな』

なんということだ、防具屋の爺はやはりNPCであったのか…
半ば本気で腹を立ててた俺があほみたいだな…
いや、そう勘違いさせるだけのAIがすごいと褒めるべきか。

俺は、釈然としないものを感じ、唸りながら防具屋の暖簾をくぐるのだった。

「よう、爺、まだお迎えが着てないようで残念だな」
「ふん、若造が…」
「何でお前はそんな喧嘩腰なんだよ?
 それとこれが換金したお前の取り分だ。端数は手数料で俺が貰っておくぞ。つっても1cだけどな」
「おう、構わんよ」

そういってベリトは俺に金を渡してきた。
その金額は5s18c、換金してなかった亀の分もあり結構な金になったな。
もともともっていたのが56cだったから、全部で5s74cが今の俺の手持ちということだな。
取り合えず、現状の装備で特に困っていないのでやはり装備の更新は次の街に行ってからにすることにする。

「でだ、爺。ベリトから聞いたかも知れんがそろそろ次の街に行こうと思ってな。
 不本意ながら挨拶に来たわけだ。世話になった気がしないでもないしな」
「ふん、お前なんぞ顔をみせんでも構わんわ。
 ベリトちゃんは、戻ってきたらぜひこの寄っとくれよ。老い先短い爺に話を聞かせておくれ」
「殺したって死なないだろ、あんた」
「うるさいぞ若造が」
「なんか楽しそうだな、あんたら…」
「おいおい、ベリト冗談はよしてくれ」
「そうじゃぞ、ベリトちゃんがそんな検討違いなことを言うとは、わしゃ悲しいぞ」
「…まぁ、いいか。それじゃ、お爺ちゃん、世話になったな!」
「おう、次来るのを待ってるからの」
「爺、せいぜい世にはばかるんだな」
「うるさいぞ、小童。お前は顔を見せるんじゃない」

俺たちは、心温まる挨拶と共に防具屋を後にするのだった。



さて、次の目的地はそれぞれの神殿である。
クエストの進行が第一目的だったため指して数はかれなかったので余り期待できないだろうが、一応確認しておくべきだろう。
俺たちは一旦別れてそれぞれの神殿に向かうことにした。

俺は神殿に着き、Lvの上昇を確認するが残念ながら上がっていない様だった。
半ば予想できていたのでさして落胆することもない。俺はそのまま集合場所の中央広場に向かう。

『ベリトどうだった?俺は上がらなかったが…』
『こっちも据え置きだな。ま、さすがに2桁にいきそうになってるんだから、序盤と違ってぽこぽこ上がることはなくなってきたんだろ』
『今回はクエスト進行がメインで経験値目的じゃなかったってのもあるか』
『ウルフ美味しそうだったけどな。おまえ、ソロでもいけそうだったじゃん』
『まー、一対一ならいけるだろうな。でも、開けた場所じゃないとやる気にはならん。
 というか、普通に狩れる敵だからこのレベル帯の戦士系の鉄板狩り場な気がするな。
 俺らが居たのは森の中だったから人が居なかっただけで、開けたところでウルフが居るところは混んでそうだ』
『あー、たしかになー。でも逆に言えば人がいる分、複数を相手にすることも少なくなるだろ。
 ゴールデンタイムで芋洗い状態じゃない限り、いい選択肢だと思うな』
『たしかにな、ソロやるときには選択肢に入れてみるか。っと、俺はそろそろ中央公園に着くぞ』
『おう、俺はもうちょっとかかるな。適当に時間つぶしておいてくれ』

さて、中央公園といえば花売り少女にも挨拶しておくか。
というか、すでに夜中の3時を回っているのだが…。幼い少女がこんなところで花を売っているとは親は何をしているんだか…。
おっと、またNPCに対して益もないことを考えてしまった。

「やぁ、こんばんは」
「あ、お兄さん。こんばんはです!お花はどうですか?」
「ああ、一輪貰うよ。ちょっとここで人を待っててね。少し話し相手になってもらえると助かるんだけど…」
「おはなしですか!わたしもうれしいです!」

ああ、かわいいなぁ。いや、俺はそういった嗜好はないよ?
子供は純粋にかわいいものだと思うのが普通だよね?
まぁ、小憎たらしいガキも世の中におおいけどさ。

「俺もちょっと北の街に行くことにしてね。お世話になった人に挨拶して回ってるのさ。ということでお嬢ちゃんにもね」
「あわわ…、そんなおせわだなんて…。いつも花をかっていただいてわたしがおれいをいうほうですよ!」
「なに、道を教えてもらったり、こうして話に付き合ってもらったりしてるからね」
「あの…、わたしこのまちからでたことがないので…、もどってきたらおはなしきかせてくださいね」
「お安い御用だよ。期待して待っててくれ」
「ありがとうございます!」
「ところで…、このはなはお嬢ちゃんが育てているのかい?」
「いえー、お母さんといっしょにもりにつみにいくんですよ」

あれ、なんとなく振った話題だったんだが意外にバックボーンが確りしてる…。
まさかこの街のNPCにちゃんと背景が決まってるとかないよな…?

「え、森って結構危なくないかい?」
「だいじょうぶです!お母さんはとってもつよいんですよ!
 …でも、さいきんとっても大きい狼さんがいるらしくてあんまりとりにいけないんです…」

あれ?これってもしかして、ヘビーワーウルフの討伐クエストにつながってるのか?

「お兄さんが、お母さんぐらいつよければいっしょにいってもらいたいんですけど…
 お兄さんはお母さんほどつよくなさそうですね…」

あー、この言い回しは受注レベルが足りてないのか?
でも、幼女にお前は弱いって言われたんだが…、なんだろう…すごく…心が痛いです…。

「あー、なら、俺がもっと強くなったらまた相談してよ」
「え!、いいの!?とっても大きい狼さんはとってもつよいってお母さんがいってたよ」
「なに、いずれやらないといけない目標だからね」
「ありがとうございます!また、おねがいしますね」
「おう、任せておけ」

そんな話を花売り少女としてると、背後からいきなり声をかけられる。

「…よう、ペド野郎。ずいぶん楽しいそうだな」

背後からベリトが近づいていたらしい。俺は不意に声をかけられ少々びっくりする。

「なんだ、ベリトか。いきなり声をかけるなよ。着いたのならチャットなりで報告しろよ」
「いやー、ずいぶん楽しそうに話してたから邪魔したら悪いかと思ってな。どうも、一段落したようだから声をかけたんだが…」

ベリトは、無駄にかわいいニヤニヤ笑いでこちらを見てくる。
とりあえず、合流した俺たちは少女に別れを告げ北門へと歩き出した。

「何でそう邪推するんだお前は、そういう思考に行くお前のほうが問題だって前も言っただろう」
「お前のその弁護の言葉は、廃人の引退宣言並に当てに出来んぞ」
「なんだ、そのいやな例えは…。全く当てにできない代名詞じゃないか…。
 というか、多分あの子がヘビーワーウルフの討伐クエストのキーっぽいぞ」
「へぇ?どうやったら花売りの少女がつながるんだよ」
「なんでも、売ってる花は母さんと一緒に森で摘んできてるんだってよ。んで、最近、とてもでかい狼がでて困ってるってさ」
「なるほどな…。で、受けたのか?」
「いや受けれなかった、多分受注レベルが足りてないんだと思う。あの子にお兄ちゃんはお母さんほど強くないってダメだし食らった…」
「ご愁傷様。というか、そんなショック受けてるとマジでペドだと疑いたくなくから止めてくれ」
「いや、邪気のない笑顔でそんなこと言われたら普通ショック受けるだろうが…」
「あながち否定できないのがつらいところだな。まぁ、がんばれ?」

さて、俺たちは気を取り直して北門を抜け船が止まっている桟橋に向かうのだった。



[18261] 43. 洞窟へ
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/27 23:49
川岸にたどり着いた俺たちは、船を浮かべる船頭に話しかける。

「よー、おっさん。俺たち向こう岸に行きたいんだが乗せていってくれないか?」
「おう、一人20cだぞ。…ん?お前さんたち猿花草を持ってないのか?それがないと乗せられないぞ」
「猿花草ってなんだ?」
「なんだ、それも知らないのか。この河を上流に上っていったところに、大きな滝があるんだがその裏に洞窟があるのさ。
 そこに生えてる草なんだが、よく分からんがもってると猿の気配がするらしい。
 河童どもは猿が大嫌いだからな。それを持ってると寄ってこないのさ」
「持ってないで船に乗るとどうなるんだ?」
「寄ってきた河童のいたずらで船が沈められちまうんだ。そういうわけだから、向こう岸に渡りたいなら猿花草を取ってくるんだな」

なんというか、あからさまな説明台詞だったがとりあえず船に乗るためにアイテムを取って来いというお決まりのクエストか。
で、前情報どおりそのアイテムは洞窟の中にあるというわけだな。
というか、それで客商売として稼いでるんだったら自分で持って置けよと激しく思う。
まぁ、NPCにそこら辺の話をしてもしょうがない。とりあえず、指示通りに猿花草とやらを採りに行きますか。

「ということで、指示通りに洞窟に行くとするか」
「なージス、どうせこのクエストって次の街に行くには終わらせないといけないんだからセシーも誘おうぜ」
「お、それは構わんが…、彼女は起きてるのか?」
「今3時半か…、どうだろうな?ま、声かけてみていないようならしょうがないよな」

そういうとベリトは黙り込む。おそらくセシーにチャットを飛ばしているのだろう。
とりあえずすることのない俺はボーっとその姿を眺めている。…黙っていれば文句なしに美少女なんだよなぁ…
 
「…んー、つながらないな、俺がブラックリスト入りしてない限りは落ちてるんだろうな」
「相変わらず、お前はさくっといやなことを言うのな…。まぁ、つながらないならしょうがない。二人で行くことにするか」
「あいよ。というか、意外に時間が立ってたな。こりゃ、次の街についたら落ちる時間かな」
「そうだな。なるべく早く終わることを期待しておこう」

俺たちは河を横目に上流へと登っていく。
暫くすると、見たことないモンスターが何匹が見える。
蟹がでかくなった"クラブ"、蛙のでかくなった"フロッグ"。ともに大体中型犬ぐらいの大きさだ。
しかし、相変わらず名前がそのまますぎる。もうちょっと捻っても良いんじゃないだろうか…?

「何だこの名前…、適当すぎるにもほどがあるだろ…」
「いいじゃん分かりやすくて。上位モンスターはなんか枕詞がつくんだろうな。
 蟹だと硬いとか重いあたりが有りそうだ。蛙は…、なんだろうな?」
「さあな。ベリト、どうする?殴ってみるか?」
「アクティブかどうかだけ確認して放置しようぜ。こいつらレベルも低いだろうしさっさと進もう」
「了解。ならちょっと確認してくる」

俺は、少しはなれたところに居る蛙に近づいてみるが特にこちらに向かってくる様子は無い。
どうやらノンアクティブであるようだ。同様にして、蟹の方も近寄ってみるがやはりこちらもノンアクティブだった。

その事を確認した俺たち、蟹と蛙が歩いている横をずんずんと進んでいく。
すると不意にベリトがこちらに話を振ってきた。

「なぁジス、そういや、落ちてる石でタゲ取れるかどうかって件はどうだったんだ?」
「ああ、そういえばそんな話があったな…、すっかり忘れてた。河原でちょうどいい石も有るし試してみるか」

俺は、道を河の方に外れ河原に落ちている適当な大きさの石を手に取ると、近くを歩いている蟹に向かって投げる。
当然のことながら動作補助などかからないので実力で当てなければならないが、ナイフのように刃を立てていなければ居ないわけでもなし別段難しくは無い。
案の定、投げた石は狙った蟹に当たった。
だが、当てられた蟹は気にせずにたたずんだままで、こちらをタゲってくる様子はないようだった。

「ダメだな、落ちてる石じゃタゲを取るのは無理みたいだぞ?」
「いや、石が当たってないんだからタゲが取れないのは当然だろ?なに言ってんだ?」
「お前こそなに言ってんだ?ちゃんと当たってたじゃないか」
「お前、投げるモーションをしただけで石を持ってなかったじゃん」
「おいおい、俺はちゃんと投げたぞ?」

どうも、話が食い違っている…
俺はしっかり石を拾って投げたはずだが、ベリトは石自体持ってなかったと言っているわけだ。
うーむ、これは一体どういうことだろうか…

「なら、ベリトも投げてみればいいじゃねぇか」
「おう、分かった。向かってきたときは処理頼むぞ」
「任せておけ」

そういうとベリトは、屈んで石を拾おうとするがまるで見当違いな所を掴み、空手のまま投げるそぶりを見せる。
どうやら一投目は外れたようで、ベリトはもう一度石を拾う動作をし、やはり何も持っていないのに投げる様子を見せる。

「よし!当たった!ふーむ、やっぱりタゲを取るのは無理みたいだな」
「いや、そもそも、お前何も持ってなかったじゃないか」
「はぁ?何をいってんだ?ちゃんともってたじゃん」
「いや、何も持って無かったって」

そんな不毛なやり取りをしていると俺は不意に一つの仮説を思いついた。
俺は早速確認のために足元にある石を拾ってベリトの前に出してみる。

「今俺は石を持ってるんだが見えるか?」
「いや、何も無いな。…なるほどそういうことか」
「まぁ、考えてみれば当たり前といえば当たり前だけどな」

石を見せただけの動作だったが、どうやらベリトも同じ答えに行き着いたようだ。多分だが、原因は分かった。
簡単に言えば、小石程度のオブジェクトは各キャラクターのオフラインで処理され発生してるものであり、オンラインでの同期は取られていないのだ。
考えてみれば当然で、この程度の情報をすべてサーバーに送って同期を取っているとすると膨大な情報量をやりとりしなければならなくなる。
当然、サーバーの負荷が無駄に大きくなるし、通信回線も相当に太くなければやっていられないだろう。

「石とかは同期されないんだな…。そう考えると、そこら辺に生えてる草とか、木の葉っぱとかも非同期なんだろーな」
「モンスターとか、進入禁止のオブジェクト、PC、NPCあたりぐらいか確実に同期されてる物ってのは」
「多分そんなもんだろな」

また一つ新たな事実を発見したところで気を良くした俺たちは足取り軽く先に進むことにする。
しばらく河沿いに上流を歩いていくと、NPCが言っていたものと思われる滝らしきものが見えてきた。

「話にあった滝ってのはあれかな?」
「多分そうだろうな。というか、あれじゃないとすると崖を上らないとこれ以上上流にさかのぼれないぞ…」
「結構な落差が有るな。空気がしっとりしてて気持ちいい。うむ、マイナスイオンの癒し効果という奴だな!」
「お前…、工学部の癖にマイナスイオンとか、似非くさい話を出すんじゃない」
「なに、効果が嘘だったとしても信じて気分が良くなるんだったら効果があるってものだろ?」
「…俺にはお前が何を言いたいのかが分からない」
「相変わらず、頭が固いなぁ。"信じるものは救われる"って言うだろ?」

周りはノンアクティブの敵ばかりなので、雑談しながらのんびりと進んでいく。
滝に近づくにつれ、水が落ちる大きな音とともにひんやりとした空気を感じられる。
こういった大自然の凄さというのは、VRであることを差し引いたとしても気持ちがいい。
こういったものはダンジョンメインのVRゲームでは味わえない良さだな。

「おー、これは凄いなぁ!」
「そうだな!これはぜひとも明るい時に来て見たいもんだな!」
「お!こっちから裏にいけそうな道があるぞ!」
「分かった!そっちに向かう!」

水が落ちる爆音で、会話をするのも大きな声を出さないと聞こえない。
だが、それもなんだか楽しくなってくる一因なのかもしれないな。
俺たちは発見した小道を通り、滝の裏側へと入っていく。
水しぶきがかかって冷たいのだが、別段服がぬれるような感じはしない。VRならではの現象だな…

滝の裏を通る小道を少し行くと、大体滝の中心部あたりで奥へと続く洞窟の入り口があった。
俺たちはそこの入り口にたどり着くと奥を覗き込む。

「なぁ、ジス。真っ暗だな…」
「ああ、真っ暗だな…」
「奥のほう見えるか?」
「お前には見えるのかよ?」
「いや、まったく見えんな」
「…これ、松明とかそういう光源になるようなアイテムが必要なんじゃないのか?」
「おう、俺もまったく同じことを考えていたところだ、気が合うな」
「どうする?一端街に戻るか?」
「まー、取りあえず先に進んでみないか?今町に戻るとそのまま就寝コースだし、中途半端すぎる」
「だからって…。この中で戦闘になったらきつくないか?」
「んー、森の中だって似た様なもんだったじゃん。意外といけるって!」

相変わらずベリトは楽天的に考えているようだが…
本来俺がストッパーになるべきだろうが、若干眠くなってきてどうでもいい気がしてきた。

「まぁ、いいや、行くだけ行って見るか。戻るのも面倒だし…
 初めてのダンジョンなんだし必須だったとしたら渡し舟のおっさんもなんか言ってただろしな」
「おう、そう来なくちゃな。んじゃ、初めてのダンジョンに突入だな!」

俺たちは、真っ暗な洞窟の中へと足を進めるのだった。



[18261] 44. 洞窟内部
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/28 00:10
無謀にも暗闇の中に突入した俺たちだったが、中に入ってみればお先真っ暗と言うほどでもない様だった。
夜とはいえ、外は豊富な月明かりで暗いとは言えない状況である。
明るい場所から、暗い場所を覗き込めば先が見通せないのも当然であって、中に入って見れば入り口から入ってくる光で意外と視野が確保されているようだ。

「お、中に入ればそこまで暗くはないなぁ」
「そうだな、少なくとも道がどうなってるか位は分かる。と言うか、この道は湖の中を渡ってるのか?」
「そうみたいだな…。これ、道踏み外すと水に落ちるな…」

入り口の光が入ってくるといっても、細い洞窟が続く様ならすぐに光は届かなくなってしまうだろう。
だが、幸いにして中は広いドーム状になっているようで入り口からの光は遠くまで届く。
さらに地面の大半が湖面であり光が反射しやすいと言うのも一因かもしれない。

「だが、森の中ほど不自然に周りが見えたりはしないな…。
 この明るさにしては物が見えるとはいえそうだが、水に落ちない程度に道が分かる程度だし…。
 少し先に何があるかまでは分からん」
「確かにな、何が違うんだろうな?」
「そうだな…。考えられることとしては、ここが洞窟だからじゃないか?
 森の中で暗いのに目が利くのは、昼との条件の差を少なくするためだと思う。
 そう考えると、洞窟の中は昼だろうが夜だろうが暗いのは変わらんだろ」
「お、中々の説得力。それっぽい意見だな。つまりは結局のところ洞窟なんかに入るときは光源をもってこいってことか」

なんにしろ、俺としては広い空間が確保されている様で一安心だ。
ここなら特に気にせず槍を振るっても問題なさそうである。もっとも、道幅を考えないと水に落ちる可能性があるのだが。

「なぁ、ジス。これって水に落ちたらどうなるんだろ?」
「どうにもならないんじゃないか?そのまま上がってくればいいだけだろ。
 さすがに落ちただけで死亡扱いとかそんなことはないと思うぞ」
「まぁ、俺はすぐ浮いてこれそうだけど、お前は鎧着てるんだし案外そのまま沈むんじゃねぇの?」
「…溺れてデスペナ貰うとか恥ずかしいにもほどがあるな…」
「あと、アイテム落としたらロスト扱いなのかとか…。ありえそうだけどちょっと無体過ぎるよな?」
「ためしにいらない物を適当に投げてみるか?女神様が拾ってきてくれるかも知れんぞ。3つの選択肢を携えてな」
「ははは、正直に答えたらグレード上がって帰ってくるわけだな。よし、お前のその槍投げてみろよ!」
「あほか、やりたいなら自分の持ち物でやれよ」
「やだよ、十中八九ありえねぇし」
「なんにしろどうなるかは少し興味があるな…。槍を投げるのはともかくとして、要らないものを投げてみるか…」

俺は袋から初級傷薬を取り出すと、道の横に広がる湖に投げ入れてみる。
余り遠くに放ると見えなくなってしまうので道から観察できる程度の位置に投げる。
小さな水音を立てて水に入った傷薬はぷかぷかと水面に浮かんでいるようだ。

「俺が入れておいてなんだが、これって槍使ったら普通に回収できそうだな…」
「暫くたって何もなかったらそうやって回収するか。
 というか、それだったら回収できない時にどうなるのかが確かめられないねぇじゃん」
「そういわれてもな…。とりあえずなくなっても困らないものってあれぐらいしか持ってないぞ」

そうやって、暫く二人で水面の傷薬を観察していると、何かが水面をスーと通り傷薬に近づいたと思うと、ぽちゃんという水音と共に傷薬は沈んでしまった。
暫く様子を見るが再び浮いてくる様子はないみたいだ…。

「なんだいまの?」
「分かるわけないだろ。とりあえず分かるのはジスの傷薬が尊い犠牲になったってぐらいだな」
「ああ…、ああなっちゃ回収するのは不可能だな…」
「というか、あれってもしかしてルートモンスターなのか?」
「え!?」

そういえば全く戦闘がないから気を抜いていたが、今はダンジョン探索中だった。
言われて気づくのもどうかと思うが少し気を引き締めないとな…

「おいベリト、それが本当だとすると水の中にモンスターが要るのか?
 そうだとしたら、水に落ちたら溺れるとか言う以前にすげぇ危険じゃないか」
「まぁ、そうだとしても落ちないように気をつけるしかやり用がないけどな。
 いくら槍の間合いが広いっていってもさすがに水の中の奴には届かないだろ」
「逆に言えば陸にいる分には安全なのか?現にこうしている分には襲われないようだし…」
「そうなのかもな、まあ、傷薬は諦めて警戒しながら先を進むしかないだろ」
「警戒しながらっていってもこの視界じゃ気休め程度だけどな…」

俺たちはとりあえず先に進むことにする。当然俺が先頭で後ろからベリトがついてくるという陣形だ。
幸いにして、道はそれなりに広く、さして曲がりくねっているわけでもないので不注意で脇に落ちることは無さそうである。
ただ、入り口から離れるにしたがって光は弱くなってくるのは当然で、それに伴い視界が狭くなっていく。
まだ、辛うじて足元に地面があるのは確認できるがそれもいつまで続くか怪しいものだ。

「おい、そろそろ視界がやばい。敵襲がきたらほぼ100%食らうぞ…」
「まー、よろけた先に道が途切れてないのを願うばかりだな」

慎重に足元を確認しながら移動しなければならないため、必然的に行軍速度は遅くならざるを得ない。
だが、ここまでそれなりの距離を進んでいるのだが一向にモンスターとエンカウントする様子はない。
もしかしたら、ここにはアクティブな敵が居ないのかもしれないな。
そうであってくれると助かるのだが…

そのまま進むと不意に左手の方に光が見えた。
どうやら壁の陰になって見えなかった出口が見える程度になったようだ。
真っ暗な中をゴールも見えずに進むのは正直精神的にかなり重圧がある。
ベリトと雑談をしながらなので何とかなっているが、正直ソロだったとすると敵が現れなかったとしてもすでに逃げ帰っていただろうな…

「おい、ベリト。ようやくゴールが見えたぞ…」
「おお、やったな。掲示板では道のりは長くないって話だったけど十分長いだろ…」
「まぁ、確かに距離的には短いんだろ…。暗かったりでとてもそうは思えないけどな…」

気力が大分削られていた俺たちだったが、ゴールが見えるとなれば削れていた気力も復活するものだ。
まぁ、道の先が見通せないから、ゴールまで蛇行しているなどで距離が長くなってないのを祈るばかりだが。

気を取り直して歩く俺たちにいいことは続く様で道に何かが落ちているのを発見した。
俺はそれを手にとって観察する。どうやらそれは火のついていない松明である様だ。

「おお!喜べベリト!松明拾ったぞ!」
「お、やったじゃん。さすがに視界がやばくなってきたところだったからな。
 ふむ、これも運営の救済措置という奴か。運営もやさしいじゃないか!」
「うむ、まったくだな!必要なところに不自然に置いてある道具というのもご都合だが助かるな!」

正直、暗闇に辟易としていた俺たちは松明を拾ったことでテンションが駄々上がる。
だが、根本的な問題に気づきあがったテンションは急降下することになる。

「なぁ、ジス、拾った松明はいいんだが、それどうやって火を点けるんだ?」
「…さぁ?少なくとも俺は火種になりそうなものは持ってないが…」
「当然俺も持ってないぞ…。一緒に落ちてなかったてことはきっとそれ単体で火をつけるのが可能だということなんじゃないか?
 ほら、なんか取っての当たりにボタンがついてたりとかしないか?」
「いや、木に布巻いて油を染み込ませた物にボタンとかあるわけが…」

そういいながら俺は手に持ったたいまつをまさぐる。
すると、なんと柄の中ほどの所に小さく突起が感じられるではないか…

「……あるな」
「おお!やったじゃん!火種問題解決だな!」
「え、そんなに素直に喜んでいいのか?俺としてすごい不条理を感じて微妙な気分なんだが…」
「相変わらず細かいなぁ。便利なんだからどうでもいいじゃん。ほら、ファンタジーらしくきっと魔法の力が宿ってるんだって!」
「まぁいいか…。確かに現状ではありがたい限りだからな」

俺は木の柄についているボタンらしきものを押すと案の定、松明はかってに火がついて周りを照らし出した。
真っ暗なところにずっと居た反動だろう、光がともるのを見ると気が緩むのもしょうがない。

「おお、明るいってのはやっぱいいなぁ」
「まったくだな」

松明を持って後ろを振り返れば、今まで歩いてきた道が見えるわけだが…。
こうやって明るいところで見れば大した距離でないのが分かる。気分的には大分距離を移動してきた気がするのだが…。

そのまま、周りを見渡せば丸いドームのようになっており天井は光が届かないため見えないが周りの壁は見える範囲にある。
道はこの先緩やかに左に曲がり、その先に出口となる穴があるようだ。
出口の光はここから漏れ出ているのだろう。

そのまま周りを見渡していると湖面にぽつぽつとよく分からないものが頭を出しているのが見えた。
目を凝らしてみると、緑の肌に嘴のある顔、頭の天辺は丸く禿げ上がっており、まるで皿を載せた様にも見える。

…つまりは、どう見てもカッパだ。
多分、さっき傷薬をもっていったのもこのカッパたちなのだろう。
外の明るいところで見れば愛嬌のある顔なのかもしれないが…、こう薄暗いところで松明の光で照らし出されているのを見ると正直不気味だ。

しかも、何体かの河童が湖面から顔を出しこちらを見ている。
さっきまでの松明がなく周りが見えなかった状況でもこうして見られていたと思うと気分が悪くなるな…

「おい、ベリト。カッパどもがこっちを見てるぞ」
「ん?おお…、正直不気味だな…」
「まったくだな…」
「お、なんかあのカッパに動きがあるぞ」

顔を出してこっちを見ていただけだったカッパたちだが、ベリトが指差す奴に目を向けると確かに奇妙な動きをしている。
嘴を水面につけ、どうも水を吸っているように見えるが…。
そのまま観察していると、そのカッパは再び湖面に顔を出し…、胸を大きく膨らませた。

そしてそのまま水をこちらに向かってすごい勢いで飛ばしてきたのだ!

完全に不意をつれた俺だが、その唐突な遠距離攻撃に間一髪で避けるのに成功する。
水にぬれたわけでもないのに背中が冷たくなるのはしょうがないだろう。

「おい!何だ今の!攻撃されたぞ!」
「あっぶねぇ!我ながらよく避けたと思うぞ」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇ!次が来るぞ!」

その言葉に従って周りを見るとこちらを見やっていたカッパどもは胸を膨らませてこちらを狙っている。
俺は狙われたとしても何とか避けられるだろうが、ベリトはそうもいかない。
しかも、ヘイトによるタゲを取ったわけではないから、ベリトも均等にタゲられる可能性がある。

「おい、やばいぞ!伏せろ!」
「もうやっとるわ!」

その言葉通り既に地面に伏せていたベリトに続き、俺も慌ててその場にしゃがむ。
次の瞬間、俺たちの頭の上をすごい勢いで水が飛び交っていった。

「おい、どういうことだこれ!さっきまでこんなことなかっただろ!」
「そんなこと知るか!いや、さっきと違うのは…」

そこで言葉をとめ思案し始めたベリトは、すぐさま俺に指示を飛ばしてきた。

「その火だ!ジス、その手に持ってる松明を消せ!」
「ああ、分かった!」

とりあえず、どうすれば消えるのか分からなかったが、とりあえずつけたときに使ったボタンを再度押してみる。
すると燃え盛っていた松明は唐突にその炎が消え周りに暗闇が戻った。
明るかったところから暗闇に戻っため夜目が完全に利いておらず、来るときまで何とか見えていた足元の道すら見えなくなった。
当然周りから顔を出していたカッパどもの様子などさっぱり見ることなど出来ないが、とりあえず頭の上を飛び交う水の音は聞こえなくなったようだ。

「攻撃は止んだか?」
「どうやら、そのようだな…。つまりはあれか…、光に反応して攻撃してくるのか…」
「おいおい…、暗闇で精神的にきてるところに光を与えて安心させて、実はそれが罠とか…。運営の性格悪すぎだろ…」

ベリトは松明を拾ったときとはまったく正反対の評価を運営に下す。
だが、俺もまったく同意見であるので反論する必要などない。


「それはさて置きこれからどうするよ。へたに目が光に慣れたせいで、さっきまでみたいにゆっくり歩くのも無理そうだぞ…」
「ああ、また目が慣れるまでここで待機とか、余裕で寝落ちしそうだな…」
「こうなっちゃ、松明を灯して出口まで全力で駆け抜けるしかないんじゃないか?」
「やっぱそれか…。あいかわらずリスク高いなぁ…。俺は多少食らっても大丈夫そうだけどお前はどうなんだ?」
「まー、Vit1なのは変わらんのだし多分大丈夫だろ。さっきの様子でもそんなに命中率も高く無さそうだしな」
「なるべく姿勢を低くして走るしかないな…。
 火を持ってる俺を狙うとすると、俺の後ろを走ると流れ弾が当たる可能性が高くなるからお前が先に行け。
 俺なら、最初の奴ぐらいは避けれるだろうし」
「了解。で、どっちに道が続いてたか覚えてるか?」
「残念ながら分からん。
 とりあえず、さっきの様子では火をつけてから攻撃開始まで間があったからその間に走る方向の確認だな。
 それじゃ火をつけるぞ」
「おう」

その返事を聞いた俺は、持っていた松明のボタンを押して火を灯す。
ベリトはその光で道を確認しすぐさま中腰で走り始めた。

俺は周りを一瞥し、カッパの頭が出てくるのをみてベリトに続いて走り出した。



[18261] 45. 洞窟内部2
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/28 00:20
松明に照らされた湖面に渡る道を俺たちは駆け抜ける。

俺の通った後に水の集中砲火が続いていく。
もちろん俺は後ろを振り向く余裕などない。たまに、打ち出された水撃同士がぶつかる音がその存在を知らせてくれるのだ。
気分はシューティングゲームで弾を避けるようである。

だが、やはり予想通りカッパたちの狙い自体は荒い様で走っている分には食らうことが無さそうではある。
一方向に一定速度で動いているのだから予測射撃でもされると即座に撃墜されるわけだが、そこまでの知能はないらしい。
前を走るベリトを狙った流れ弾が時折辺りそうになるぐらいだ。

だが、問題となってくるのは後ろに置き去りにしてきたやつが出す水撃だ。
カッパの狙いに対して横に移動すれば当然避けやすくなるが、単に離れるように移動するだけでは飛び道具を食らってしまう。
後ろに置き去りにした奴が打つ水撃は、どんどんその角度が小さくなってしまうためどうしても当たりやすくなってしまう。
ましてや、この道は緩やかに左へと曲がっているため右側にいたカッパの攻撃は特に当たり易くなってしまうのだ。
これを避けるためにはジグザクに移動するのが正解であるわけだが、残念ながらそのような機動を十分するための道幅はない。
もはや、当たらないのを祈って頭を下げて一刻も早く走りぬけるしか方法がない。

逆に言えば、俺が壁になっているためベリトにはそういった攻撃は届かないため安全と言えるだろう。
防具の関係で比較的打たれ強い俺が後ろになるのも当然の選択である。

現に背中に何発かの水撃を貰い、地味にスタミナが減ってきている。
移動速度自体はステータスに影響されないためスタミナ曲線による減算は関係がないが、食らうたびに地味に痛いせいで足が鈍りそうになる。
VR的に不自然だと思っていた鎧なんかがぬれない仕様なのは正直ありがたいな…。

都合4発ほど背中に水撃をもらったぐらいであろうか、とうとうゴールが目前になってきた。
だが、俺のスタミナも既に限界である。あと2発も貰えばスタミナが削りきられてしまうだろう。

そう考えているうちにさらに一発背中に衝撃を食らう。
既に残りのスタミナは少なく瀕死状態だ。
後一発でももらえば死んでしまう。

食らう水撃に体勢を崩されることが有るため大分離されてしまっていたベリトが出口にたどり着き、湖のお立ち台から退場する。
俺ももうすぐ退場できると思うがそれまで攻撃を食らわないとは限らない。
むしろ、先ほどまでの食らう頻度からいってもう一度ダメージを貰う可能性は低いとは言えないのだ。
既に出口に着きこちらを見ていたベリトからチャットが飛んでくる。

『おい、後ろから当たりそうなのが来るぞ!』

俺はその言葉にしたがって前方へ転がって避ける。
だが、進行速度が落ちた俺は再び走り出すまでの間にダメージを食らってしまうだろう。
やむなく俺は手元のボタンを押し、松明の炎を消した。

さっきまでは前をベリトが走っていたため消すわけに行かなかったが、ベリトは既にゴールについているため消しても問題ないだろう。
もっとも、これも愚策といわざるを得ないのだが…
松明を消したことによって止んだ弾幕の隙に小袋から傷薬を取り出しながらベリトに状況を聞く。

『ベリト、そっちの部屋の様子はどうだ?』
『こっちは小部屋みたいだな。上に穴が開いてて月明かりが入ってきてるから明るいぞ』
『それはともかく敵は居ないのか?』
『んー、あ、やべぇ!隅っこにカッパが居る!』

くそ!恐れていた事態になってしまったようだ。
ベリト単体では殲滅力は無に等しい。その状況で敵とエンカウントするのは非常に危険だ。
こういう事態にならないように俺も一気に部屋まで走り抜けたかったのだが…。

『くそ!待ってろ、すぐ行く。それまで気合で耐えろ!』

取り出した傷薬をとりあえず使用して幾らかスタミナを回復させ松明をつけて再び走り出そうとする。
だが、次のベリトの声はまったく緊張感のないものだった。

『あ、なんか大丈夫そうだぞ。ゆっくり来い。あと、カッパも意外とかわいい』
『はぁ?お前は何をいってるんだ?』

ゆっくりしていいと言われたが、そうも言ってられないだろう。
だがまぁ、少なくとも緊急性はないのだろうと思われる。
俺は念のためもう2個ほど傷薬を使用した後、松明をつけて再び走り出した。

ゴールにたどりつくまでに案の定、水撃を一発貰うことになったがスタミナを回復したため特に問題はない。
俺はそのままゴールアーチをくぐるのだった。


ゴールアーチをくぐった先は直径が10mほどの円形をした小部屋だった。
天上は完全に吹き抜けになっており、天頂に浮かぶ月を望むことが出来るために外とまったく変わらない光量がある。
俺は部屋の奥にベリトとその横にいるカッパを見て槍を構えて慌てて駆け寄る。

「ベリト、あぶねぇぞ、離れろ!」
「おいジス!ちょっと待てって!」

そのまま駆け寄りカッパに攻撃をしようとするが、ベリトの制止によって攻撃を中断する。
すると、ベリトの横にいるカッパが口を開いた。

「いじめないで! ぼく わるいカッパじゃないよ!」

カッパが喋れるのが意外ではあるが…
その発言をされると殴るわけにはいかなくなるな…

「な?危険じゃないだろ?」
「まぁ、本家ほどの愛嬌はないけどな…。で、わるいカッパじゃない彼は何でここに居るんだ?」
「あ、あのね…、これさっき君が落としたものだよね?」

そういって差し出してきたのは確かにさっき水の中に消えていった傷薬だった。

「お、ありがとう。持って行ったのはおまえだったのか」
「どうやらそうみたいだな。さすがに3つの選択肢は発生しなかったみたいだなー」

つまりは、前の広間で湖に落としたものを回収してきてくれるのがこのカッパらしい。
もっとも、こいつが持っていかなければ槍を使って回収できたわけだが、それを突っ込むのは野暮というものだろうな。
俺は素直に受け取って礼を言うことにしたのだ。

「無事にお前の傷薬が戻ってきてめでたいことだが、どうやらここで行き止まりみたいだな」
「そうみたいだな。多分、この部屋の中央に咲いてる花が目的の猿花草なんだろ」
「なるほど、いかにもな所に群生してるな」
「これ摘み取ってもって帰ればクエストは終わりかな?」
「みたいだな。確かに話どおりダンジョン自体は浅かったな。その割には精神的にひどく疲れたけどな…」
「疲れた割りにまったくモンスター倒してないからうまみがまったくないしな…」
「さっさと目的の花を回収して、洞窟の外に出ようぜ」
「それもそうだな」


俺たちは、部屋の中央に群生している花に向い、それぞれ一輪ずつ手に入れる。

「なぁ、ジス、これっていっぱい採っていって船着き場の前で売ったら結構稼げるんじゃないか?」
「さすがに無理なんじゃないか?それが出来るんだったらもう船着場で売ってる奴が居てもおかしくないだろ」
「いや、それはわからんだろ。時間的に人が少ない状況なんだし。多めにとっていっても損はないだろうから、取っていこうぜー」

そういってベリトは花を摘んでいく。
膨大な量があるから大丈夫だと思うがこれを全部取ってしまったとしたら次に来る人はどうするんだろうな?
まぁ、多分問題なく復活してるんだろうが…。

ちなみに俺は多分無理だと思うから、採ってはいない。
そもそも、そんなところで売り子をする時間があったら狩場に行ってモンスターの一匹でも多く狩った方が楽しいしな。

暫くして、ベリトは満足するだけ摘んだのか手に持った花束を袋に入れて満足そうに立ち上がった。

「よし、それじゃ、帰るとするか!いい儲けになるといいなぁ」
「おー、せいぜいがんばれ。で、帰りはどうする?」
「また全力で駆け抜けるか?」
「まぁ、それでいいとおもうぞ。というかさ、一回で走りきろうとせずに時々止まりながら行けばいいだけじゃないのか?
 さっきお前が途中で松明消して難を逃れたようにさ」
「ああ、それもそうか…。なら、止まるときには合図するから暗くなっても慌てるなよ。あと、止まったときに回復頼む」
「おう、まかせとけ」
「よし、行くぞ!」

俺たちは松明を点けて小部屋の出口からいっせいに走り出す。
当然ベリトが前なのは変わらないがさっきほどは離れていないのが違うところだろうか。
全体の3分の1ぐらいの道のりを越えたあたりで、何発かの水撃を貰いスタミナが減ってきたため休憩をとることにする。

「ベリト、一旦止まるぞ!」
「あいよ」

俺はベリトに声をかけて松明の炎を消す。
当然ながら当たりは真っ暗闇に包まれる。
行き道では傷薬を使用したが、今回はベリトが居るからアイテムを消費しなくてもいい。
早速頼むことにしよう。

「ベリト、回復を頼む」
「任せておけって言いたいところなんだが…残念なお知らせだ。正直、真っ暗で何も見えないからお前を対象に取ることが出来ん」
「なんだそれ…、じゃあ盲目状態とかになったら単体魔法って使えなくなるのか?」
「そういうことなんだろうな…、範囲とかなら適当に指定しても発動しそうだけど…」
「範囲にしたって見えてなきゃ効果は低いだろ。盲目強すぎじゃねーか、魔法封じと言えば沈黙だが立場がないな」
「まったくだな。普通の会話すら出来なくなるのはきついかも知れんがチャット使えばいいだけだろうし…。
 いや、沈黙って状態異常があるのかどうか知らないけど。詠唱なくても発動する魔法結構あるし」
「しょうがないな…、傷薬使うか」

俺は小袋から傷薬を取り出すと2つほど使用する。
スタミナを回復させたところで楽しい楽しいランニングの時間が再開される頃合だ。

「ペース的に言って後一回は止まらないといけないんだが、これじゃまた傷薬を使う羽目になりそうだな」
「そうだな…、なんだったら手でもつないで走るか?見えなくても対象が認識できればいいんだし、触ってれば多分大丈夫だと思うぞ」

確かにその提案だとヒールを貰うのは出来そうだが…



  暗い洞窟の中、松明の明かりを携えて必死に走る男女2人。
  その手は硬く結ばれて、迫り来る脅威から必死に逃げる。



うん、とても絵になる構図だな。
で、その構図を演出するのがベリトと俺なわけで…

「…いや、遠慮しておくよ。手なんかつないでたら走りにくくて余計にダメージ食らいそうだからな。
 手持ちの傷薬も持ちそうだから気にするな」
「ん?そうか?お前がいいなら俺はどうでもいいんだが」

…俺は丁重にお断りすることにした。
うん、余計にダメージを食らうわけには行かないからな。
特に精神的に大きなダメージを食らうのが予想できる。

こんな想像をしなければ、何も思わずその手を取ることが出来たのだが…思いついてしまったものはしょうがない。
対価として傷薬数個分など安いものだ。

「良し、次行くぞ」

俺は掛け声をかけてから再び松明に炎を灯し、俺たちは走り出す。
その後、もう一度休憩を挟み無事に出口まで走り抜けたのだった。



[18261] 46. メンテナンス
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/28 21:45
その後、もう一度休憩を挟んで出口まで走り抜けた俺たちはほっと一息をつく。

「ふう、とりあえず最初のダンジョンはこれでクリアだな」
「結局まともな戦闘を一回もしないとは完全に予想外だった」
「確かにな。そういえば奥の部屋に居たカッパを倒しちゃったらどうなるんだろうな?」
「拾ったものがドロップとなって落ちるとか?まぁ、そのままアイテムがロスト扱いになることも考えられるけどな」
「そもそも、あいつ倒せるのかね?NPC扱いでダメージ通らなかったりするんじゃねーの?」
「ま、今考えてもしょうがないだろ。さっさと船着場に戻ろうぜ」

俺たちは来た道を戻り滝の裏の小道から川原にでると、その脇にある道を下流に向かって歩いていく。
相変わらずフロッグやクラブがうろちょろしているのを横目にのんびりと歩いていく。
うん、光があるってのはすばらしいな。

「なぁ、ベリト、この松明だけどどうするよ?」
「ん?何がだ?」
「いや、言ってみれば今回のクエストの実質的な成果はこれだけだろ。分け前としてどうしたものかなと思ってな」
「あー、そうだな…、それって貴重なんだっけ?」
「いや、道具屋行きゃそれなりの値段で売ってるはずだな。まったく同じものかは知らないが」
「なら、お前にやるよ。俺は猿花草の販売でうはうはの予定だからな!」
「そううまく行くと思えないけどな。お前がいいって言うなら貰っておく」
「まったくお前も取ってくればよかったのに。嫉妬は見苦しいぞ」

ベリトが何かほざいてるが、くれるというなら貰っておこう。
もっとも、今の発言で花売りが失敗したときに分け前よこせといってももう受け付けないが。

船着き場まで戻ってきた俺たちは滝の洞窟の話をしてくれた船頭に話しかける。

「よー、おっさん。猿花草を取ってきたぞ」
「お、意外と早かったな。なら改めて一人20cになるぞ。乗っていくか?」
「なー、おっさん。ちょっと聞きたいんだがここら辺で多めに取ってきた猿花草を着た人に譲っても怒られたりしないか?」

それを聞いたおっさんは、思わずといった様子で笑いをかみ殺している。
それを見たベリトは不機嫌な様子を隠そうともせずおっさんに詰め寄った。

「おい、おっさん、何がそんなに面白いんだよ」
「いや、いや、また出たなと思ってな。
 嬢ちゃん、猿花草をとって来いってのはただの行った証拠をもってこいってことなんだよ。
 いや、その花の匂いをカッパが嫌うのは確かなんだが、それだけで船によって来ないほどじゃない。
 じゃなきゃ、そんな花が咲いてるところの近くに住み着いたりしないだろ?
 それよりも重要なのがカッパの巣を突っ切って戻ってきた事なんだ。
 巣に入られて平然と返してしまった人間の顔を奴らは覚えているのさ。
 そんな奴らが乗ってる船にちょっかいをかけようなんて思わないだろ?」

うーむ、確かに言われてみればそうかもしれない。
近づくのも嫌なはずの花が群生してる部屋にいても平気な様子のカッパも居たわけだしな…。

「ということで、その花を他の人間に売るのはよしてくれ。
 その花をほかで手に入れて行ってきたことにしちまうのは不味いのさ。
 ま、ここらの船頭たちはなれたもんだから本当に行って来たのかはなんとなく分かるんだけどな。
 時折、嬢ちゃんみたいに多く取ってきてそこらで売ろうとする奴が出て来るんだが…
 嬢ちゃんはわざわざこっちに了解を得ようとしてきたのはえらいと思うぞ」

それを聞いてベリトは肩を落としている。
…ウハウハの予定が…とかつぶやいてるが、運がなかったってことだな。
まー、適当なところでPCを騙して売ることは可能だろうがベリトはそこまでのことはしないだろう。

「さて、ベリト、ガッカリしているところに申し訳ないが河を渡るか?」
「いや、一気に気力が萎えた。このまま町に戻って次の街への出発は明日にしようぜ…」
「あいよ、もう4時半か。そろそろ外が明るくなるころだし、そうするか」

俺たちは話をしていた船頭にまた明日来る旨を伝えると始まりの街へと戻っていくのだった。

北門を過ぎたあたりで俺たちは落ちることにする。
まともな戦闘すらしていないため、神殿に行く必要もないだろう。
出発前と変わったことといえば俺の傷薬の保有量ぐらいであろうか。

「もうここでいいや、俺は落ちるぞ」
「おう、また明日も起きたら連絡するよ」
「多分昼過ぎぐらいまで寝てるとおもうぞ。んじゃおやすみー」
「おう、おやすみ」

ベリトが光に変わって消えログアウトしたのを見て、俺もログアウトすることにする。
もはやおなじみとなった意識が遠くなる感覚と共に現実世界へと帰るのだった。

現実世界に帰って来た俺だったがまずはじめに意識するのは、いつものごとく生理現象だ。
腹は減っていたが寝れないほどでもない。
トイレに行った後、俺はとっととベットに潜り込む。飯やら風呂やらは起きた後でいいだろう。
風呂上りや飯を食ったすぐに寝るのは健康によくないと何処かで聞いたこともあることだし。




目が覚めた俺はむくりとベットから起き上がる。
枕元においてあった携帯端末を確認すると既に11時半。
ふむ、大体7時間ほど寝ていたのか。
元来自分は睡眠時間が少なくても平気な方であるといえる。
一日5時間ほど寝れば十分な性質だ。それを考えれば7時間というのは結構寝坊した部類に入るだろう。
もっとも特にアラームも設定せずに寝たため寝坊も何もないが。

俺は目を覚ますのをかねて何時も通り熱めのシャワーを浴びることにした。
シャワーから出て着替えを済ませると、たまっていた汚れ物を洗濯機に放り込んで回す。
俺はさしてマメなほうでもないが、この時期に余り放置していると取り返しのつかない事態に成りかねないのでしょうがない。
とりあえず、洗濯機が止まるまではRtGoにログインすることは出来ないようだ。

俺は空腹を満たすために飯を食べようと思うが、なんだか作る気が起きないので大学の学食にでも行くことにする。
一週間引き篭もるといっても、まったく外に出ないのも健康に悪いことであるし。
といっても、精々片道5分程度のウォーキングであるけれども。

外に出て歩き出した俺は暇つぶしに携帯端末で某巨大掲示板の関連スレッドに目を通すことにした。
今日もさして情報がないと思って期待していなかったのだが、予想外にレスが伸びている。

俺はスレに寄せられる発言を読み進めるとすぐに原因が分かった。
どうやらRtGoは現在緊急メンテナンス中であるようなのだ。
よって、掲示板ではログインできない暇な廃人たちがスレに出没し無聊を慰めているようであった。

俺はすぐさまRtGoのオフィシャルサイトへとアクセスする。そこのお知らせ欄には緊急メンテナンスの詳細が記載されていた。
それによると、緊急メンテナンス終了予定時間は昼の3時となっている。
現在時が12時ほどであるから3時間ほどRtGoはお預けになってしまったようだ。
もっとも、これは予定通りメンテナンスが終了すればの時間であって正直余り期待できない。
まぁ、どうせまた延長が入って実際にプレイできるのは夕方5時ぐらいからになるだろう。
クローズドβ時代でもメンテナンスの延長はしばしば行われていたようであるし、巨大掲示板に書き込まれた発言もそういった悲観的な意見も多い。
訓練された廃人たちはこの間時間に寝だめしておくのだろうが、俺は今さっき起きたばかりでさして眠くない。
まぁ、折角だから午後の講義には出席することにしよう。
俺は教科書やノートなどを取りに自室へと来た道を戻るのだった。

当初の予定通り、学食で昼食を終えた俺はそのまま講義の行われる教室に移動する。
途中であう学友たちに挨拶を返し、後ろのあたりの席に適当に座った俺は早速携帯端末を取り出しRtGoの情報を探し始める。
講義に出ては来たが、真面目に受ける気などさらさら無い。
とりあえず、そろそろまとめる必要があると思っていた今後の育成方針に関して考えることに集中する。
俺がその思考を中断したのは出席確認の紙が流れてきたときだけだ。
ちなみに、心優しい俺はついでに武の欄にもチェックを付けておいてやった。

さて、今後の育成方針だが…
まず方向性としてはPTプレイ中心にすえるか、ソロプレイと割り切るかの大きな二択を選択しなければならないだろう。
というか、PTプレイをメインでやりたいならそもそも回避剣士にするんじゃないと言われるだろうが…

ソロプレイを中心にすえるなら、生存力上昇のためにAGI、DEXあたりを延ばしつつ殲滅力に困らない程度にSTRに振っていく感じだろう。
スキルも、アクティブスキルの使用を諦めパッシブ系を中心に選択していけば間違いが無い。また、エンチャント技であるバトルスタンスを伸ばすのもよいだろう。

PTプレイをしようと考えると、ネックなのが自分の立ち居地が不明確な所にあるだろうか?
一度タゲを決めた後はタゲの変更が無いようなモンスターが多いとすれば、俺でも壁役として活躍する余地はあるのだろう。
だが、今までの敵はおおむねヘイトの変動に応じてタゲを切り替えて来るものが多かった。
今後の傾向がどうなるかは不明だが、こういった傾向は余り変わらない気はするな…。
かといって火力として活躍できるかといわれれば主力とされるのも難しい。
やはり火力特化型のキャラに比べれば殲滅力で劣るといわざるを得ないのだから。
さすがにまったく存在感が無いわけではないが、自分だけが出来るというものが中々無い。

うーむ、現状の情報だけではやはり絞りきれないな…
というか、ためしに掲示板に書き込んで意見をつつのってみるか。
"AGI剣士のPT内での立ち位置に悩んでるんで、誰か教えてくれ。"っと。
ゲーム内と違ってこちらは別にキャラネームが強制的にさらされるわけでもないので気軽である。

なんにしろ現状では決めかねるのは確かなので、当面はやはり共通なものを上げていくのがいいと思う。
俺はスキルの情報を睨み、何をとるべきかを考えていく。
キャラメイクが中心になるゲームは、実際にプレイしている時間も楽しいがこうやって悩む時間も楽しいものである。

あっという間に時間が過ぎ気がつけば講義が終了していた。
現在時刻は2時半である。3時にメンテが終了するなら家に帰ってもいいんだが、余り期待して居ない俺はついでに次の講義も出席することにする。
次の講義が終わるのが4時15分だから、家に帰って4時半ごろになるだろう。
まぁ、何かと競ってるわけでもないのだからメンテ復帰直後からやらなければいけないわけでもないことだし。

さて、当然次の講義も基本的に右から左へと聞き流し、ステータスをどのように振っていくのか時折計算を交えながら検討していく。
情報によると、階位の10の位が上がるごとにもらえる種も一つずつ増えていくらしい。
1~10では3個、11~20では4個、21~30では5個というように。

さしあたりステータスに関しての悩みどころはVitに幾分かポイントを振るかどうかである。
種をもらえる量が増えることや、上げるステータスの高さによって必要となる種の数も増えることを考えると、種が一個で1上がるVit9ぐらいまで振っても最終的なステータスが余り変わらないように思えるからだ。
とはいえ、現状の階位9というのを考えれば3Lv分、11以上の場合でも2Lv分以上必要となることを考えると安易に振るのも戸惑われる。
ただ、Vitを振ることによって狩りの安定感が増大するのは確実である。
しかし、ここで重要なのがVit9まで振ることによってVit1とどの程度変化があるのかということである。
現状であれば、9pあればAGi、Dexが4pも上昇させることが出来るため、それと比較した場合の有用性も重要な項目である。

十分熟成したゲームであれば、各種の計算式などの解析が終わっており、どれ位上昇するかなども計算によって出すことが出来たりするのだが、生まれたばかりであるRtGoはぜんぜん解析が終わっていない。
そのため、判断する基準となるのは実際にやってみた人の体験談ぐらいしかない。
だが、人の体験談など自分のキャラを優遇してしまうような思考のバイアスがかかるものであるから余り鵜呑みにしすぎるのもよくない。

うーむ、いくら考えても結局情報不足でやってみるしかないという結論になってしまう…
ベリトが居てくれるおかけであろうが、取り合えず困っていないのだからVitを上昇させるのは後回しにして置くことにしよう。

考え事に集中していた俺は唐突に揺れた携帯端末に虚を突つかれてしまう。
音声はカットしていたため、講義中の教授にはばれなかったようだ。俺は胸をなでおろす。

相手を見ると武から着信が来ている。
さすがに、俺は講義中の教室で携帯端末で連絡を取り合うほど非常識ではないので着信を拒否すると、メールで反応を返すことにする。

"今講義中だから電話は無理。RtGoはメンテ中で公式情報ならそろそろ終わってるはずだぞ。"
"了解。確認してみるわ。"

気がつけば既に3時を過ぎていたため、俺も公式情報を確認してみる。
ふむ、一部のサーバーを除いてメンテナンスは終了したらしい。
で、俺たちのプレイしてるサーバーは見事のその一部の枠に入っている…。

掲示板を確認してみると、その一部のサーバーでプレイするプレイヤーたちの怨嗟の声で溢れていた

 233:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) jnivoqL/
  
  ま た I r i s か よ !
  
 234:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) /GvYR2jV
   
   運営ちゃんと仕事しろよな。
   
 235:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) 87aouSlx
   
   >235
   いや、仕事してるから遅れてるんだろ?JK
   
 236:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) yjKebsNh
   
   くそ!時間通りに終わるって信じて待機してたのに!
   
 236:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) NMN9owOs
 
   負け組み鯖の皆さんは大変そうですねww
   俺は、今からログオンしてきますわwww
   
 237:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) yjKebsNh
 
   氏ね、草生やしてるんじゃねぇよ、ゴミカスが。
   
 238:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) NMN9owOs
 
   >237
   嫉妬は醜いですよwwwww
   
 239:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) yjKebsNh
 
   >238
   お前のレスは頭悪すぎてこっちが笑えてくるわw


うむ、予想通りひどいことになってるな…。
そういえば、さっき質問したのはどうなってるだろうか?

と、遡って確認してみるが残念ながら大したレスは着いていなかった。
大半が"PTのお荷物だから来るな"とか、"マゾプレイ乙"とか、"自分で考えろカス"だとかのあおり系のレスしか着いてない。
まぁ、この程度のことを流せない様ではこの掲示板ではやっていけないので華麗にスルーしながら読み進める。
暫くして、一つだけ有用な情報が手に入った。

 145:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) HySFnoJD
 
   AGI型がタゲ受け取るのにVit型よりも圧倒的に勝ってる場合もあるよ。
   
 146:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) jnivoqL/
   
   >145 kwsk
   
 147:ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 20XX/06/26(木) HySFnoJD
   具体的に言うならレイスとかの死霊系のモンスターを狩る時だね。
   
   何でかって言うと、レイスの攻撃はスタミナじゃなくてマインドが減る。
   VIT剣士だとマインド少ないから数発食らうとすぐ戦闘不能になって壁にならない。
   マインドの回復手段はスタミナと違って少ないしね。
   かといって、マインドが多い後衛がタゲ取るわけにも行かないから必然的にAGI型で避けるしかない。
   後こいつはファーストアタックでタゲ取ると死ぬまで変更しないからそういった意味でもいける。
   もっとも物理攻撃がほとんど通らないから、剣士がソロで狩るのは不可能なんだけど。
   
   まぁ、当然ながら圧倒的に不人気でぜんぜん狩られてないからこいつがうまいのかは不明。


なるほど!
確かにマインドに対して攻撃してくるような敵ではVIT型では対応できない。
避けることが前提のAGIならばどちらを減らす攻撃かなど比較的関係ないといえる。
俺はAGI型のPTプレイに対して一つの光明を見たのだった。

そんなことをしているうちに講義が終わり、俺は教室の外に出た。
俺のプレイしているサーバーは他のサーバーに比べ一時間遅れの4時に復旧したらしい。
俺もとっとと帰ってプレイすることにしよう。



[18261] 47. 教えて!シャルロッタ先生
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/08/28 21:48
昼から指して間が無く腹は減ってなかったが、俺は食いだめとばかりに学食で飯を食ってから自室に帰る。
自室に戻った俺は早速RtGoにログインするのだった。


RtGoの世界に降り立った俺は、とりあえずベリトに連絡を取ることにする。
多分あいつは既にログインして活動していることだろう。
ステータスボードを呼び出し、フレンドリストを確認すると案の定オンラインと表示されている。

『よう、ベリト、今ログインしたんだがそっちはどうしてる?』
『お、ジスか、やっと来たな。遅かったじゃん』
『遅かったって…ワールド開いてから30分だぞ。十分に早い方だろうが』
『俺は開いてすぐにログインしたんだから十分に遅いっての。
 とりあえず、隣町に行くわけにもいかなかったからこの街の行ってないところをぶらぶら見物してた』
『そうか、なんか面白いものはあったか?』
『そうだなー、目に付いたほかの神様の神殿を覗いてみたんだが結構面白かった。
 特徴的なところだとワディムのところは何だか工房っぽかったし、メストレスのところは研究所っぽい感じ。
 後はおおむね神殿って感じのするところが多かったな。雰囲気はそれぞれ違ってたけど』
『なるほどな、なら、お前のところの病院ぽい所とあわせて三大色物神殿ってわけだ』
『何だよ色物って…、あんまり強く否定できないのが悲しいところだが…』
『まぁ、いい。とりあえずシャルロッタの店で報酬を貰いに行こう。現地集合でいいよな?』
『りょーかい。お前は昨日ログアウトしたところに居るのか?』
『そう、今南に向かってに歩いてるところだ』
『なら、俺の方が先に着くか。中でシャルと話して暇つぶししてるよ』

俺は言葉どおり南に向かって足を進めているところだ。
北門からだと南門に程近いシャルロッタの店は地味に遠いな…。
途中、中央公園を通る際にいつもの花売り少女に手を振りつつ先を急ぐ。

時折、ベリトとチャットで雑談をしながら歩いているとようやくシャルロッタの店に到着した。
中からベリトとシャルロッタが会話している声が聞こえ、俺はそのまま店内に入る。

「お待たせ」
「お、遅かったな。無事ポーションは出来てるってよ。あと、街を離れるってことを伝えておいたぞ」
「ええ、腕によりをかけて作った自信作よ!効果は期待しておいてよ。街を離れるのは寂しいけど私のポーションを役立てて頂戴」
「ああ、とても助かるよ。効果のほどが楽しみだな」

そういってシャルは奥からポーションと思しき瓶が入った箱を持ってくる。

「細かい物を多くってご注文だったから、初級スタミナポーションが12個と初級マインドポーションが4個よ。
 後はおまけで解毒効果のあるリフレッシュポーションが1個ね。
 値段の計算はスタミナポーションが1つ5cで、マインドポーションが1つ10cってところよ」
「んー、てことは価格効率が倍ってことだから初級ポーションは初級傷薬の倍ほど効果があるってこと?」
「大体そのぐらいね」
「なぁ、ジス、お前は初級傷薬でどれ位回復するんだ?」
「そうだな…、大体2~3割って所だな。初級ポーションで半分ぐらい回復する感じか」
「ふむふむ、なぁ、シャル、このリフレッシュポーションって解毒薬とどう違うんだ?」
「ああ、それはね、解毒薬だと毒しか直せないけど、リフレッシュポーションは他にもいろいろな不調を整えてくれるのよ」
「へー、他の不調ってどんなものがあるんだ?」
「私が知ってるものだと…、毒、魅了、混乱、狂気、盲目、痺れ、麻痺、鈍足、石化、悴み(かじかみ)、氷結、恐怖、気絶辺りかしらね。
 もっとも、私が知らないものもあるかもしれないけどね。
 ちなみに、リフレッシュポーションだと毒、盲目、痺れ、鈍足、悴み、恐怖が治せるわよ。
 といっても、このほかの状態異常はなってしまったら完全に動けなくなる場合が多いからアイテム使うことすら出来ないのだけどね」
「えらく多いな…、幾つかは大体想像がつくけど、効果が分からないものもあるな…。シャルロッタよかったら教えてくれないか?」
「ええ、かまわないわよ。折角だから順番に行きましょうか。

 毒に関しては説明するまでも無いわね、時間が経つにつれて体力が減っていくわ。
 体力が減ると当然動きが鈍ってしまうから、いち早く回復するようにした方がいいわね。

 魅了は敵に味方するような行動を取ってしまうようになるわ。
 軽いものだと攻撃の際につい力を抜いてしまうぐらいだけど、ひどいものになると隣の仲間を攻撃したりする場合もあるわ。
 意識していればすぐ気づけるから、すぐにアイテムで回復できる分だけそこまで危険なものでもないわね。

 混乱は何が何だか分からなくなって意味不明な行動を取ることになるわ。
 正直、人前ではなりたくないわね…
 自分では解除アイテムを使えなくなるから危険ね。
 仲間の攻撃でも正気に戻すことが出来るからそういった方法も試すべきでしょうね。

 狂気はひたすら目の前の敵を攻撃するようになるわ。防御や回避なんかを無視してね。
 でも、その代わり打たれ強くなるし、狂気状態中はステータス曲線がどの時点でも最大値に固定されるのよ。
 これは、敵によって与えられると言うよりも、バルバゲンの信徒たちが意図的に行うことが多いわね。

 盲目は文字通り目が見えなくなるわ。当然、武器による攻撃も不可能だし、狙いをつけられないから魔法も当たらなくたってしまうのよ。
 混乱なんかと違って、まだ自分で意思を持って動ける分だけすぐにアイテムを使って直せるわ。

 痺れは力と攻撃速度が大きく下がってしまうわ。
 鈍足は速さと移動速度が大きく下がってしまうわ。
 悴みは器用さとクリティカル率が大きく下がってしまうわ。
 恐怖は知性が大きく下がるのと被クリティカルが上昇するわ。
 この4つは効果が出ている間に同じ効果を与える攻撃を受けてしまうと、麻痺、 石化、氷結、気絶となってまったく動けなくなってしまうの。
 この状態はとても危険だから痺れ、鈍足、悴み、恐怖のうちに直しておくのを心がけた方が身のためね。
 当然、麻痺、石化、氷結、気絶を直接与えるような攻撃をしてくる敵も居るそうよ」

長い説明だったが覚えておかないといけない情報だろう。
特に痺れ、鈍足、悴み、恐怖などのステータス減少系の状態異常を重ねがけされると行動不能になる状態異常にグレードアップするのは非常に重要だろう。行動不能状態ではもはや仲間に頼るしかなくなってしまうのだから。

「なぁ、シャル、それを直すための道具についても教えてくれないか?」
「ええ、勿論よ!」

面倒な説明を頼んでるはずのシャルロッタはなぜか生き生きとしてきた。
これは何だかいやな予感が…

「毒は"解毒薬"、盲目は"目明薬"、痺れは"解痺薬"、鈍足は"快足薬"、悴みは"火竜酒"、恐怖は"気付薬"でなおせるわね。
 これらは道具屋に売っているわよ。もっとも、ここら辺じゃ毒ぐらいしか発生しないから解毒薬しか置いてないところが大半だけどね。
 あと、今挙げたものは錬金術師が作る"リフレッシュポーション"で全て解除することが出来るのよ。凄いでしょ?
 魅了、混乱、狂気などの精神異常系の状態以上には"沈静の鈴"という小さな鈴を鳴らすことで正気に戻せるわ。
 これは魔法がかかった一品だから一回鳴らすと効果が消えてしまうのが残念ね。
 麻痺には"雲の雫"、石化には"星の雫"、氷結には"太陽の雫"、気絶には"月の雫"といったアイテムを振り掛けることで解除されるのよ。
 ただ、これらのアイテムは残念ながら特殊な道具屋でないと扱ってないのよ。
 私のような錬金術師も作ることが出来るけれどさすがに材料のストックが無いから持ち込んでもらわないと作れないわ。
 それで、それらの材料なんだけど…」

話しているうちにどんどんシャルロッタのテンションがうなぎのぼりに上がってきている。
このままほっとくとずっと喋り続けることになりかねないような気がするぞ…

「"雲の雫"の材料はね、まず"解痺薬"の材料でもあるハツカヤ草の根を10本用意して…」
「ちょっとシャルロッタ質問があるんだけどいいかな?」
「それを丹念にすりつぶして…え?
 ジス君、質問があるの?オッケー!どんどん聞いて頂戴!」

話をさえぎったせいで若干眉をひそめたシャルロッタだったが、それが質問だと分かると満面の笑みで促してきた。
その笑みに若干の悪寒を感じつつ質問する。

「さっき、この辺りには毒しか居ないって言ってたがどのモンスターが毒をもってるんだ?」
「ああ、それはね、北の川原にフロッグって言うのが居たでしょ?
 あいつは死ぬときに出す体液が毒なのよ。死に際の最後のあがきで出してくるから知らないと結構食らっちゃうのよね。
 まぁ、ここと次の街の周辺で状態異常になる攻撃をしてくるのは毒持ちぐらいね。
 私もそういう状態異常があるってのを本で読んだことがあるだけだから実際にどんな敵がやってくるのかってのはちょっと分からないわ。
 で、雲の雫の作り方の続きだけど…」
「いやいや、シャルの話はとってもためになったよ!なぁ、ジス!」
「おう、さすがはシャルロッタだな!」
「いやだ、そんなに褒めないでよ。恥ずかしいじゃない。
 それで雲の…」
「シャル!じゃ、俺たちはそろそろ出発するから!」
「おう、またポーションを作ってもらいに来るよ。
 そのときは頼むな!」
「え?もう行っちゃうの?
 あ、それとジス君、ポーションの製作依頼はメッセージを介して注文してくれれば作っておくわよ。
 ステータスボードのメッセージの送り先に私の名前があると思うからどんどん利用してね!
 それで、く…」
「おお、それは便利だな!ぜひ使わせてもらうとするよ!
 よし、ベリトそろそろ行くぞ!」
「そうだな、ジス!時間もあんまり無いしな。それじゃーなシャル!」
「…もういっちゃうのね…。分かったわ、また遊びにきてね」

寂しそうにこちらを見送るシャルに後ろ髪を惹かれるが、あのままだといつまでたっても終わりそうでないのでしょうがないだろう。
なんたって材料の説明がいつの間にか作り方の説明に変わっていた…
錬金術師でもない俺たちにそれを説明されても使いようが無いというのに…。
店から出た俺たちは北門の先にある船着場を目指して歩き出す。

「危なかったなジス、シャルが解説でヒートアップするキャラだったとは気づかなかったぞ…」
「まったくだな…。でも、雫の素材ぐらいは聞いておくべきだったかもしれんな…」
「とりあえず、当分それをやってくる敵はいないってことなんだから大丈夫だろう。全ての店ではないけど店売りもしてるって話だったし」
「まぁ、それもそうか。多分警戒しないと不味いようなところには売ってあると思っておくか。
 さて、勢いのまま出てきてしまったけど、貰ったポーションはどう分ける?」
「そうだな…初級スタミナを2個と初級マインドを全部貰ってちょうど半分って所か。
 おまけといいつつ一番価値がありそうなリフレッシュポーションはどうするよ?」
「状態異常を受ける可能性が高い俺が持つか、なったときにリスクが大きいお前が持つか一長一短だな」
「俺が状態異常の回復スキルを取ってれば悩まなくてもすむんだが…、当分は出ないって事だし後回しだしな」
「そうだな…、この前の松明は俺のものになったからこれはお前に渡しておくよ。
 俺の場合その内またポーション作ってもらうことになるし、必要ならその時また頼めばいいしな」
「おう、分かった貰っておく」

報酬の分配を終え、船着き場へとたどり着く。
船に揺られながら河を渡る俺たちはとうとうタートスの街周辺フィールドからの脱出を果たしたのだった。



[18261] RtGo攻略Wiki
Name: Ethmeld◆dc9bdb52 ID:ae2b5ac9
Date: 2010/06/03 21:17
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 ├ステータス | 当サイトは、「Road to God online」の総合情報サイトです。
 ├信仰神   | 誰でもページが作成できますし、修正することもできます。必要なページがありましたら追加をお願いします。
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 ├信仰神   | 階位:いわゆるLv
 ├ステ曲線  | 信仰神:いわゆる職業
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         | スタミナ(St):体力値。技で消費。0になると戦闘不能
マップ     | マインド(Md):精神値。術で消費。0になると戦闘不能
 ├街情報  .| STR:筋力。武器攻撃力、アイテム所持量などに影響。曲線補正○
 ├ダンジョン | VIT:体力。MaxSt、物理攻撃ダメ軽減量、St自然回復量などに影響。曲線補正×
 └ワールド  | AGI:速さ。攻撃速度、回避力、命中力などに影響。曲線補正○
         | DEX:器用。攻撃力、命中力、回避力、クリティカル率、武器熟練度などに影響。曲線補正○
アイテム    | INT:術攻撃力、影収納量などに影響。曲線補正○
 ├武器     | MND:MaxMd、魔法ダメ軽減量、Md自然回復量などに影響。曲線補正×
 ├防具     |
 ├装飾     |  注)
 ├消耗品   |  曲線補正○:ステ曲線の影響を受ける
 ├素材    .|  曲線補正×:ステ曲線の影響を受けない。
 └貴重品   |
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         | 信仰神詳細
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 ├ステータス|   各信仰神のスキル、信仰度補正詳細などは個別ページを参照して下さい。
 ├信仰神   |   このページでは神の名前と信仰度補正傾向、武器熟練補正傾向を紹介します。
 ├ステ曲線  | 
 └熟練度   | ●戦士系
         |  ○戦神アラナス(女) STR○VIT△AGI○DEX○INT△MND△ 剣○槍○斧△棍△槌×小剣△投剣△弓×杖×本×
マップ     |  ○闘神エルプフ(男) STR○VIT◎AGI×DEX△INT×MND△ 剣○槍△斧◎棍○槌△小剣×投剣×弓×杖×本×
 ├街情報  .|  ○狂神バルバゲン(男) STR◎VIT○AGI○DEX△INT×MND× 剣△槍○斧○棍△槌◎小剣×投剣×弓×杖×本×
 ├ダンジョン | ●魔術系
 └ワールド  |  ○魔神ギオルギー(男) STR×VIT△AGI△DEX△INT◎MND○ 剣×槍×斧×棍×槌×小剣○投剣△弓×杖◎本○
         |  ○闇神ヴェロニク(女) STR△VIT×AGI△DEX△INT○MND◎ 剣×槍×斧×棍×槌×小剣○投剣△弓×杖◎本○
アイテム    |  ○薬神メストレス(女) STR△VIT△AGI△DEX◎INT○MND○ 剣△槍×斧×棍△槌×小剣○投剣△弓×杖○本◎
 ├武器     | ●僧侶系
 ├防具     |  ○治癒神シャルライラ(女) STR×VIT×AGI△DEX○INT○MND◎ 剣×槍×斧×棍○槌×小剣△投剣×弓×杖○本◎
 ├装飾     |  ○光神タリアヴィー(男) STR×VIT×AGI△DEX○INT◎MND○ 剣×槍×斧×棍○槌×小剣△投剣×弓×杖◎本○
 ├消耗品   |  ○死神ボーメルベリー(女) STR△VIT△AGI△DEX○INT○MND○ 剣○槍△斧×棍△槌×小剣○投剣○弓×杖○本○
 ├素材    .| ●盗賊系
 └貴重品   |  ○森神ヴァルジニー(女) STR△VIT△AGI○DEX◎INT×MND△ 剣○槍△斧×棍△槌×小剣○投剣○弓◎杖×本×
         |  ○匠神ランドロール(男) STR○VIT×AGI◎DEX○INT×MND× 剣○槍△斧×棍△槌×小剣◎投剣○弓○杖×本×
スキル     |  ○鍛冶神ワディム(男) STR○VIT△AGI△DEX◎INT×MND× 剣○槍△斧○棍×槌◎小剣△投剣△弓×杖×本×
 ├パッシブ  |  
 └アクティブ | 上位神は現在未実装です。
         |  
モンスター  |
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FAQ      |
         |   
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システム    | ステータス曲線詳細
 ├ステータス | 
 ├信仰神   | 
 ├ステ曲線  | ステータス曲線とは、スタミナ、マインド残量によってステータスに補正が加わるシステムです。
 └熟練度   | 
         | その補正の変化をある程度ユーザーが設定することが出来ます。
マップ     | 設定は0%、25%、50%、75%、100%の5点のときのステータス倍率で指定します。
 ├街情報  .| 
 ├ダンジョン | 戦士系
 └ワールド  |  スタミナ曲線 各点上限1.2倍、下限0.5倍 0.1刻みで15ポイント分振り分けることが可能です。
         |  マインド曲線 各点上限1.1倍、下限0.6倍 0.1刻みで10ポイント分振り分けることが可能です。
アイテム    | 
 ├武器     | 魔術系
 ├防具     |  スタミナ曲線 各点上限1.1倍、下限0.6倍 0.1刻みで10ポイント分振り分けることが可能です。
 ├装飾     |  マインド曲線 各点上限1.2倍、下限0.5倍 0.1刻みで15ポイント分振り分けることが可能です。
 ├消耗品   | 
 ├素材    .| 僧侶系
 └貴重品   |  スタミナ曲線 各点上限1.1倍、下限0.6倍 0.1刻みで10ポイント分振り分けることが可能です。
         |  マインド曲線 各点上限1.2倍、下限0.5倍 0.1刻みで15ポイント分振り分けることが可能です。
スキル     | 
 ├パッシブ  | 盗賊系
 └アクティブ |  スタミナ曲線 各点上限1.2倍、下限0.5倍 0.1刻みで15ポイント分振り分けることが可能です。
         |  マインド曲線 各点上限1.1倍、下限0.6倍 0.1刻みで10ポイント分振り分けることが可能です。
モンスター   |
         |
FAQ      |
         | 
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         | 
システム    | 
 ├ステータス | 熟練度
 ├信仰神   | 
 ├ステ曲線  | 武器を使用する際にはその武器の設定熟練度を越える熟練度を持たなければまともに扱えません。
 └熟練度   | 
         | 未確定ですが熟練度上昇について次のような報告があります。
マップ     | 
 ├街情報  .|  ・連続で狩りを続けると熟練度の成長率が下がっていく。
 ├ダンジョン |    →宿屋で下がった成長率がリセットされる?
 └ワールド  | 
         |  ・動作補助によらず自分で意識して振るほうが熟練度の伸びが良い
アイテム    | 
 ├武器     | 
 ├防具     |
 ├装飾     | 
 ├消耗品   | 
 ├素材    .| 
 └貴重品   | 
         | 
スキル     | 
 ├パッシブ  | 
 └アクティブ | 
         | 
モンスター   | 
         |
FAQ      |
         |
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         | 街情報
システム    | 
 ├ステータス | ここでは基本的な街施設の説明を行います。
 ├信仰神   | 街での配置などは各町の個別ページを参照して下さい。
 ├ステ曲線  | 
 └熟練度   | 武器屋 :武器を売ってくれます。迷ったときはNPCに相談してみましょう。
         | 
マップ     | 防具屋 :防具を売ってくれます。迷ったときはNPCに相談してみましょう
 ├街情報  .| 
 ├ダンジョン | 装飾屋 :装飾品を売ってくれます。迷ったときはNPCに相談してみましょう。
 └ワールド  | 
         | 道具屋 :消耗品を売ってくれます。迷ったときはNPCに相談してみましょう。
アイテム    | 
 ├武器     | 宿屋 :ゲーム内掲示板が閲覧できます。熟練度成長に関係有?(未確定)
 ├防具     | 
 ├装飾     | 倉庫サービス :無料でアイテムを預かってくれます。内容最大値は現在不明。
 ├消耗品   | 
 ├素材    .| モノリス :復帰ポイント設定が出来ます。戦闘不能になった場合この場所でリスタートします。
 └貴重品   | 
         | ポータル :街ごとにあります。一度開いたポータル同士ならお金を払って移動できます。
スキル     | 
 ├パッシブ  | 酒場 :クエストを斡旋してくれます。ここで受けるのではなく直接、依頼されるクエストもあります。
 └アクティブ | 
         | 
モンスター   |
         |
FAQ      |
         | 
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         | 
システム    | ここでは武具の説明をします。
 ├ステータス | 
 ├信仰神   | このゲームでは特定の名前が付いている武器は非常に少ないです。
 ├ステ曲線  | 同じように見えても実は性能が少し違うことが普通です。
 └熟練度   | ワディムのスキルで詳細が見ることが出来ます。普通は分からないため強いことを祈りましょう
         | 大まかな武器種の特性を表記しますが、その中の細分で特性が変わることがあります。
マップ     | 
 ├街情報  .| 剣(片手、両手):(攻)Str>Dex 刺○斬○打△
 ├ダンジョン | 
 └ワールド  | 槍(片手、両手):(攻)Str>Dex 刺◎斬○打○
         | 
アイテム    | 斧(片手、両手):(攻)Str>Dex 刺×斬○打○
 ├武器     | 
 ├防具     | 槌(片手、両手):(攻)Str>Dex 刺×斬×打◎ よろけ効果UP
 ├装飾     | 
 ├消耗品   | 棍(両手):(攻)Str>Dex 刺○斬×打○
 ├素材    .| 
 └貴重品   | 小剣(片手):(攻)Str=Dex 刺○斬○打× 命中UP、クリ率UP
         | 
スキル     | 弓(両手):(攻)Dex>Str 刺◎斬△打× 命中計算Dex/2
 ├パッシブ  | 
 └アクティブ | 投剣(片手):(攻)Dex=Str 刺◎斬△打× 命中計算Dex/2
         | 
モンスター   | 杖(両手):(攻)Str>Dex 刺×斬×打△ 魔法威力UP(大 
         | 
FAQ      |本(片手):(攻)Str>Dex 刺×斬×打△ 魔法威力UP(小)、マインド回復量UP(小)
         |
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トップページ  |
         | 
システム    | ここでは防具の説明をします。
 ├ステータス | 
 ├信仰神   | このゲームでは特定の名前が付いている防具は非常に少ないです。
 ├ステ曲線  | 同じように見えても実は性能が少し違うことが普通です
 └熟練度   | パッシブスキル:防具知識をマスターすると詳細が見れます。
         | 普通は分からないので強いことを祈りましょう。
マップ     | ここでは装備部位の紹介と、主についていることが多いオプションを紹介します。
 ├街情報  .| それぞれの防具によって変わるので絶対では有りません。
 ├ダンジョン | 
 └ワールド  | 頭(INT系上昇、被クリティカル率減少)
         | 鎧(VIT系上昇、被クリティカル率減少)
アイテム    | 腰(VIT系上昇、被クリティカル率減少)
 ├武器     | 脚(AGI系上昇、回避率上昇)
 ├防具     | 靴(AGI系上昇、回避率上昇)
 ├装飾     | 肘(STR系上昇、被クリティカル率減少)
 ├消耗品   | 篭手(Dex値によって一定確率でブロック発動。ブロック率は盾と重複せず高い方優先)
 ├素材    .| 盾(Dexの値によって一定確率でブロックが発動。ブロック率は篭手と重複せず高い方優先)
 └貴重品   | 
         | ブロックが発動すると大幅にダメージを抑えることが可能です。0にはなりません。
スキル     | 
 ├パッシブ  | 
 └アクティブ | 
         | 
モンスター   | 
         |
FAQ      |
         |
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トップページ  |
         | 
システム    | ここでは装飾品の説明をします。
 ├ステータス | 
 ├信仰神   | このゲームの装飾品は同じ名前でも微妙に効果が違うことが普通です。
 ├ステ曲線  | 大まかに何が起こるかしかわからないため、強い効果であることを祈りましょう。
 └熟練度   | 
         | 腕輪:両腕に1個ずつ
マップ     | 指輪:片手に最大4個、両腕で最大8個
 ├街情報  .| 首輪:1つ
 ├ダンジョン | 
 └ワールド  | 腕輪と指輪は篭手との併用は出来ません。
         | 指輪は8個まで装備できますが、片手に2つ以上装備した場合は器用にマイナス補正がかかります
アイテム    | 
 ├武器     | 
 ├防具     |
 ├装飾     | 
 ├消耗品   | 
 ├素材    .| 
 └貴重品   | 
         | 
スキル     | 
 ├パッシブ  | 
 └アクティブ | 
         | 
モンスター   | 
         |
FAQ      |
         |
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         | ここでは良くある質問とその回答を載せてあります。
システム    | 
 ├ステータス | ○どんなゲームですか?
 ├信仰神   |  ヴァーチャルリアリティを用いたMMORPGです。
 ├ステ曲線  |  キャラクターを育成しながら、広大なMapを仲間と共に冒険します。
 └熟練度   | 
         | ○キャラクターの容姿や性格って作りこめる? 
マップ     |  非常に詳細なキャラクターエディットが可能です。
 ├街情報  .|  さらに外部データからの読み込みにも標準で対応しています。
 ├ダンジョン | 
 └ワールド  | ○ストーリーは面白い? 
         |  残念ながら現状メインクエスト群といったストーリーは、あまり作りこまれていません。
アイテム    |  β版なので今後に期待しましょう。
 ├武器     | 
 ├防具     | ○じゃあ何をすればいいの?
 ├装飾     |  キャラクターを成長させ、世界を回るのが楽しいです。
 ├消耗品   |  何気にサブクエストはそれなりにあるのでそちらを消化するのも良いでしょう。
 ├素材    .| 
 └貴重品   | ○死んだときのペナルティってなに?
         |  蓄積されていた経験値が減少するようです。 
スキル     |  しかし、ステータスに経験値が表示されないためどれ位減るのかなどは分かってません。
 ├パッシブ  |  公式の発表か、有志による解析待ちです。
 └アクティブ |  あと、死んだときに5分ほどプレイが制限されます。
         |  この間に蘇生を受けるとフィールドに戻れます。
モンスター   |  5分の制限時間中は、信仰する神様から説教されてます。
         |  
FAQ      | ○マップの移動がめんどくさいんだけど?
         |  オープンβにおいて馬のマウントが追加されました。
         |  しかし、初期の街では手に入らないので、最初は我慢しましょう。
         |  街同士ならば、お金を払うことで転送サービスが受けられます。
         |  
         | ○自分のスタミナ、マインドの値を常時知りたい。
         |  ステータスボードのオプションから、「常時情報表示」をONにしてください。
         |  PTMの基本データも見たいときは、その横と「PTMも表示する」をONにしてください。
         |  
         | ○拾った武器がうまく振れないんだけど? 
         |  熟練度が足りない可能性があります。
         |  熟練度が必要量に満たない場合、動作補助が入らないため、素人ではまともに振れません。
         |  経験者なら振ることは出来ますが、武器ステータスに大きな減算がかかるようです。
         |  おとなしく身の丈にあった武器を使いましょう。
         |  
         | ○蹴りとかってどうなるの?
         |  敵の体勢を崩すなどには有効ですが、ダメージは無いようです。
         |  
         | ○上位神っていつ実装されるの?
         |  運営に聞いてください。
         |  
         | ○NPCが人みたいで気持ち悪い。
         |  強制的なNPCは、そういった傾向が抑えられています。
         |  街の人たちにも性格に差があるので相性のいいのを探すといいと思います。
         |  
         | ○最強のキャラが作りたいんだけど、どうすればいいの? 
         |  がんばって研究してください。
         |  
         | ○二刀流って出来る?
         |  出来るらしいという情報はありますが、詳しい報告はありません。
         |  
         | ○防具ってつけている所で食らわないと効果が無いの? 
         |  被ダメージの減算には全身の総和防御力で計算されている模様です。
         |
         | ○武器や、防具の性能がよくわからないんだけど?
         |  どうも特殊スキルを用いないと詳細は把握できない仕様のようです。
         | 
         | ○じゃあ、何を基準に選べばいいのさ?
         |  街の武器屋、防具屋のNPCに訊くと大まかな性能を教えてくれます。
         |  現在、それで判別するほかありません。
         |  
         | ○掲示板を読みたいんだけど? 
         |  掲示板は宿屋の中でしか読み書きが出来ないようです。
         |  
         | ○敵を倒しまくってるのにLvが上がらないんだけど? 
         |  いったん神殿に行って祈ったタイミングでしか階位は上がりません。
         |  
         | ○街が広すぎてNPCがどこにいるか分からない。 
         |  そこら辺にいるNPCに話しかけると教えてくれる場合があります。
         |  そうでなくても指針ぐらいは出してくれるでしょう。
         |  
         | ○PTってどうやって組むの? 
         |  ステータスボードからチャットを要請するときのように、PTに誘えます。
         |  
         | ○MP使い切ったら戦闘不能になったんだけど? 
         |  仕様です。
         |  
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