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[31875] 魔眼転生記―NINJA―伝
Name: シオンβ◆8ace1640 ID:0c155718
Date: 2012/03/07 21:50
“忍び”という言葉の定義の限界を片足ぶっ飛びに踏み越え潰していく、自己主張の激しい“忍”達が蔓延る世界。

 俗に言うNARUTO二次創作。

 全く忍ぶ気配のない忍者達の台頭する世の中に転生してしまった主人公が、それなりに好き放題するかもしれないお話。
ぶくぶくと湧いてくる難事、増えていく一方の疑問。

 いつか回収したいと願いたい(誤字にあらず)、伏線を掘りっ放す大喝劇を見たい方はどうぞ。


※以前ににじふぁん等で挫折したものです。少し改稿して挑戦します。



[31875] 1.転生サラブレット
Name: シオンβ◆8ace1640 ID:0c155718
Date: 2012/03/09 01:35
 物語などでよく使われる“異世界”“パラレルワールド”“平行世界”。
 呼び方は様々在りそれが定義するものも幅広く、類するものは無限に存在する。
 そして、それらの全てに共通することは『もし〜なら?』と人が想像した物、ということだ。





 あぁ、それっぽいことを言ってるが二次創作の話だ。

 もしかすれば実体験を基にしたものもあるのかもしれないが、少なくとも俺自身は存在しないものだと思うし、有無の証明云々はその道の人に任せておけばいい。特に興味無いし。


 ……ここで問題なのは、有り得ないはずの“それ”があってしまった場合のこと……回りくどい言い方を止めれば、俺は“その”異世界にいる。それが問題だ。





 前提ぶち壊し。はい、こんにちは皆さん。

 俺の名前は氷河才蔵(ヒョウガ サイゾウ)。
 親は、“うちは”と“日向”それぞれの、本家・宗家から見た外戚の内戚と内戚の外戚──────即ち一族の括りでギリギリ間違いはない。恐らく。





 ……はい、NARUTOの世界に転生です。本当に、有り難うございました。












 とまぁ、よくありがちな紹介をついカッとなってやってしまったわけだが、そう、転生してしまったのだ。

 と言っても特に前世に思うことも無い──わけは無いわけだが、ここで語ることはしない。ので、状況の確認に移ろうと思う。

 まず、自分の身体。
 連呼してるように転生なのだから当然赤ん坊だ。いや、もしかしたら赤子に憑依の可能性もあるが、体感的に関係はない。
 暫くの間は人としての尊厳が揺らぐ自体になりそうだがこの際どうしようもないし、できたとしても面倒なことになるのは面倒なので耐えるしかない。


 次、前述した親。
 父は、うちは一族に名前を連ねていた忍。とは言え一族の下っ端であり、一応上忍らしいが写輪眼も開眼していない。
 九尾来襲のときに怪我を負ったため、今は後衛に回っているようだ。

 母は、日向一族の分家の分家にあたり、元医療忍者。この人もまた、白眼を開眼こそしていれど、殆んど適正がなく、実戦で活用するまでの事は出来ないらしい。
 二人とも、血は流れているが親兄弟で適正のあった者はなく、限りなく薄くなっているとされた為、結婚と同時に改姓して氷河と名乗っている。



 余談だが父と母の年齢差は3つ程で、更に母はかなり童顔で小柄な体型だ。
……他意はない。


「サイゾウ、ご飯の時間ですよ。あなたは大人しいから放って置いたらひっそりと餓死してしまいそうね。
 全く、私に似て妙な所で意地っ張りなのに、身体はあの人譲りでしっかりしているから心配は無いですけどね。
 さぁこっちにいらっしゃい、可愛い坊や」

 暫く、暫くの我慢。
 このロリ母と××した父を生暖かい目で見ることを決めながら、今日も今日とて現実逃避する他ない。





──────────────────────────────────────




 そしてこちらに来てから三年の月日が経った。近況報告としては、読み書きを出来るようになったことだろうか。

 一歳半ばくらいの時から始めたのだが、母のご近所付き合いでの話では、やはりこの年ではかなり早いとのことだ。
 とは言えまだまだ拙いもので、微笑ましいくらいに留まっている程度だが。思う様に体が動かん……。
 事実、読みはともかくとして書きの方は、中途半端な漢語混じりの行書体が現代日本人の俺(中の人)には慣れず、結果ミミズののたくったような字になってしまうのだ。まぁ下手に勘ぐられずにすんで結果オーライだったと言えよう。

 それはともかく、情報収集の手段を得たので、父親が読み終わった新聞(報誌というらしい)を落書きするフリをして読むことが出来るようになったのは大きい。
 これによって大体の世間の常識を得ることができたのだが、どうもここは一概にNARUTOの世界と同一とは言えないのではと考え始めている。
 原作では間に合わせの設定が目立ったが、それとも違うどうもよく分からない事象が多いのだ。

 まず文化水準からしてちぐはぐで、かなりしっかりとした家具を初めとする生活用品の製造、ラーメン等の一部食文化の発達、高度な建築様式や上下水の設備、そして電力ではない謎の動力源で供給される光源などなどの、なかなかなインフラぶり。
 そのクセ明らかにクナイを投げるよりも速く、画一的で扱いもずっと楽な筈の銃火器の類は汎用化を見せないまま未発達であり、道は誰が整備するのか結構整っているにも関わらず交通手段は殆ど徒歩。

 こんな話も矛盾のある原作やアニメということでスルーするべきところなのかしれないが、出て来ていた筈のものがないというのが気になった。
 原作を特に事細かく究明していた訳ではないが、恐らく電力はあって、綱手が通っていたパチンコ屋等の近代設備がある現代に近いものが舞台になっていたと思う。

 これは割と重要な見落としや何か途方もない絡繰りがあるのかもしれない……………………………………とも考えたが、勿論忍が世を動かしているのは変わらないし、何か不味いことでもあるかと聞かれれば特に思い浮かばないのであった(爆)

 強いて言えばオーバーテクノロジー満載の映画の舞台は前提が崩壊しているような気もするが、知ったことではない。
 逆に、そのうち火薬や何かを使って現代技術チートをするのも一つの道か。

 新聞には五大国の情勢や火の国の政情などが当たり障り無く書かれ、残りは一風変わった広告等が載っている。
 当然と言えば当然だが、俺の当たり前であろう根本的疑問が今更に話題になることはなく、謎は謎のまま解消されることは無かった。
 ……それらは放置する気満載だが、推測では忍の無茶苦茶過ぎる存在が文化の発展を置いてけぼりにしているのだと思われる。

 それか、原作との相違点は忍の活躍を邪魔されないようにするためのご都合主義だと考えると全て丸く収まってしまい、ちょっと笑えるものがある。


 閑話休題。
 次に自分が保有する原作知識の価値だが、一応今のところ原作沿いに進んでいるようである。
 まず九尾の来襲は俺が生まれた年で、木の葉隠れに大きな打撃を与えたものの、最近やっと復興の目処が立ってきた状態のようだ。

 ヤバいのはうちはの一件だ。
 生前──という言うべきか判断に困るが、ジャンプを立ち読みしていた最新のものは鬼鮫が八尾とナルトの所に襲ってきた辺りで、単行本では読んでないが五十何巻かだ。
 これから終結にむかってまとめに入るだろうという雰囲気だったが、やはり最後はマダラに勝って終わりか。
 これは上手くやっていけば結構、いや、かなり優位に進めていける程の情報量だろう。

 目先の問題としては、取り敢えずうちは一族のクーデター未遂辺りと……後は日向一族の影武者事件なんかも。
 後者はいつだったのか覚えていないが、原作キャラに確執を生むもの。これは、当事者達には悪いが自分のことで精一杯なので、放置することになるだろう。別に善人を気取るつもりも無し、ここで介入して未来が変わってしまっては困るのだ。

 それもさて置き、父は2世代前から写輪眼を開眼していない分家の者同士で成された家系の三男で、一応血はうちはの物だが、もう開眼の見込みが無いとされているらしい。
 こういった家はいくつかあるが、それらは一族内では専ら下っ端としてバックアップをしている。
 上に挙げた認められている者とは開眼する可能性のある者の人数で、実際開眼している者は当然更に少ない。エリート中のエリートといったところだろう。

 うちは一族も全体としては九尾事件の際に結構な数が減っているのだが、本家を中心とした上流の家々は被害が余り出ていない。これは分家の宿命で、本家を護るために父の近しい親族の家々はこの時かなり少なくなったそうだ。
 この手際の良さが仇となって、九尾襲撃の犯人だと疑われるのではないかと思うが。それ程、他の名家にも被害がでているということだ。

 このことで里がうちはを更に疎外し、クーデターという形で暴発してしまうわけだが……肝心なのは、一族のどこまでがこれに参加するのかということだ。
 現実的な話として、我が家の様に“うちは”から名前を変えたり、忍ではない一般人であったりする者もいるのだが、そういった人達はどうなるのか。

 あと6年程の猶予があるが、飽くまでもうちはの血を引く者の皆殺しが目的ならば、少なくとも忍をやっている者の子供を逃すことは無いだろう。
 今後もどうなるかは注意していく必要があり、そして自分の力を鍛えておくのが懸命だろう。

………
……


 というわけでは有言実行、流石にまだ身体を極端に鍛えるわけにはいかないのでチャクラの確認をする事に。



 ……と色々やってはみたが、ここで今更な話ながらこの“チャクラ”という縛りはよく分からない。


 はっきり言ってNARUTOの世界でいう“忍”というものは、元の世界で実在した忍とはかけ離れている。
 まず忍んでないし、自己主張の激しい“NINJA!!”という名の何かであるという話しだ。

 なまじに元の忍びの事を知っているため、「考えるのではない。感じるのだ」とかいうスタンスだったらどうしようもなかったが、幸いなことにちゃんと研究と解明がなされ体系的にまとめられてるため何とかなりそうであった。

 自分なりに解釈するとこんな所だ。
 チャクラとは漫画などでよく使われる“気”の様なもの。あまり深く考えない方が良さそうだ。
 詳しくは、身体エネルギーなる身体を構成する膨大な数の細胞各々から取り出すエネルギーと精神エネルギーなる修行や経験によって蓄積したエネルギーをを合わせることでチャクラとなるらしい。
 要は前者が先天的な能力によるもので後者は後天的な努力によるもの。

 原作でも解説していた気もするが、改めて確認するとかなりシビアなものだ。
 忍術が使えないロック・リーなんかは、身体エネルギーが足りなかったということか。字的にはあり溢れてそうなものだが。
 まぁ精神エネルギーの方はこれからとして、身体エネルギーの方は俺はどうなのだろうか。身体のスペックは、はっきり言って元の世界での三歳児とは比べものならないと思うが。

「まーけっきょくさいごはかんがえるより、じっせんするほーがはやいか。とにかくからだのしんからながれるものをかんじてしゅーちゅーして……」

 地の文ばかりで初めてしゃべったように見えるかもしれないがそんなことはない。
 何を言ってるか自分でも分からないがそれは置いといて、新聞のコラムに載っている『誰でも解る忍の極意Part3』の通りに実践。
 ……いや、深くは考えるまい。いつか必ず、忍べよ、と言ってやる。誰にかは分からないが。


 反応があるのか無いのか判断出来ず、何度かやっていると徐々に視界が赤くなってくる。

 お、成功か?等と思っていると、いきなり地面が挨拶を敢行してくる不思議。

 ……ベタだな……。



[31875] 2.とある追憶と展望
Name: シオンβ◆8ace1640 ID:0c155718
Date: 2012/03/07 22:22
※いきなりの別視点です。





 九尾の来襲は木の葉の里とその人々に大きな爪痕を残した。
 共に戦った同僚が何人も先に逝き、生き残った者も何らかの代償を払わされ。これが原因で一線を退いた者は少なくない。
 かく言う私も利き腕と片目を負傷したが、事件後の人手不足はかなり深刻なもので、当時のソレよりも大幅に戦力が落ちたこの身でも、主に後方ではあるがそれなりの任務に駆り出されていた。


 この事件の最大の功労者である“あの”四代目火影様ですら亡くなってしまわれたため、指導者を失って空中分解の危機に陥った木の葉を纏めるのは並大抵のことでは無く、再び三代目火影ヒルゼン様が就任するという異例の事態となった。
 これは、復興に向けて人々の心を繋ぎ止めることが出来たので成功と言えたが、同時に四代目火影様が築いていた新しく自由な気質の体制から、過去のある種保守的なものに戻ってしまった。

 三代目様はとてもいい方なのだが如何せん皆に優し過ぎるため、火の国の上層や里の上役らに付け込まれる隙が出来てしまうのは仕方ないことなのだろう。

 かく言う私にもどうする力も無い。四代目様の“若い力”に託そうとしていた三代目様のこと、この事を一番実感しておられるであろう本人はさぞ歯痒い思いだろう。

 このことが里の未来にとってどの様な結果を生むのかは神のみぞ知る事だ。




 悪いことばかりが目立つ昨今、対して私事ではあるが喜ばしい事もあった。
 事件以前から交際していた女性との間に子が生まれたのだ。
彼女とはアカデミー時代からの付き合いで、名門の一族同士からか、惹かれるものがあった。
 とは言え、お互い一族の中では落ちこぼれと言われていたため、初めの頃は傷の舐め合いだとも言われた事もあった。
 だがそんな事は関係ないとばかりに彼女はよく笑い、一族のことなどで荒みかけていた私を癒し、力を与えてくれた。
 そんな彼女に思いを寄せるのは必然な流れで、彼女から先に思いを告げられた時は何にも勝り喜び、同時に自分から言えなかった事を悔やみもした。
 同じ班に所属し共に切磋琢磨して成長してゆき、私は上忍として前線に、彼女は医療忍者として後方に配属されるまでになった。
 配属が変わっても交流は続き、やがては将来を誓い会うまでになった。

 だがここに来て、端者とて名門の肩書きが障害となる。
“日向”と“うちは”、共に木の葉の誇る血継幻界の保有一族。
 一族の外に秘技を持ち出す訳にはいかず、ましてや里内で一,二を競う一族同士などが共になることなど許されなかったのだ。

 お互い一族から反対され引き離されてしまい、さりとて引く気は無かった私たち。かくなる上は里抜けでもするしかないか等とまで思い詰めていた時、悪夢の災厄……九尾が里を襲った。
 第一次忍界大戦などで猛威を振るった、六道仙人が遺した“尾獣”と呼ばれる口寄せの魔物である。

 里では居るだけ総員で対処にあたり、当然うちはにも出動命令があった。それは謹慎中だった私も例外ではなく、四代目様が戻るまでの時間稼ぎにあたった。
 戦線は正に地獄と言える酷い有様で、一流の大忍術が生温く見えるほどの圧倒的力の差で、一方的に捻じ伏せられるがままという現実。
 結局途中で負傷して気絶してしまい気付けば終わっていたのだが、事後処理は被害の大きさに皆が途方に暮れるものであった。
 そんな中、誰からともなくある噂が流れたのが、不謹慎ながらも自分の転機になったのだ。

 曰く、うちはの本家からは被害が無さすぎる。又、日向も都合よく任務で里を離れていた宗家周りの帰還が遅かった。

 これ等は表だって話題にあがるものでは当然なかったのだが、共に足止めに参加していたうちは分家の者から聞いた話で、布いては一族・里内の問題にまで発展した。
 この為か定かでは無いが、両一族共に何処と無く結束に亀裂が生じていったのだ。

 そんな折に彼女の妊娠が発覚したが、一族は分家の下っ端のことに一々構っている余裕は無くなっていたようで、二人共に一族の名前を捨てて新たな性を名乗ることを条件に、一緒になることを容認されたのだ。
 これはタイミングも良かったようで、新たな家を興すのは人手不足の里としても推奨していて、他にも名家の分家から新たに興す者もちらほらいたようだ。


 間もなく妻となった彼女は無事出産を終えて、私も徐々にだが任務に復帰するようになった。
 生まれた我が子は、私の唯一の資本を引き継いでかとても健康体で、初めて自らの腕で抱いたときは妻に良くやってくれたと何度も感謝した。
 サラサラとした黒髪にはっきりとした目立ち。
 両目を丸くし、小さな手を掲げて妻と私を交互に見つめる様には、天地が崩れ落ちるほどのダメージを与えられた。正直、親馬鹿と言われようと否定できないだろう。独り者の部下に自慢して一騒動あったりもした。

 そうして成長していくに連れてとても悟い一面を見せ始め、贔屓目抜きでも秀才であろうことが窺える。
 えらく手の懸からない子で、妻としてはもっと世話を焼きたいそうであったが、何事も無く成長してくれることに越したことは無いだろう。

 家では穏やかな時を過ごし、任務でも配属先もあってか大事ない生活が続いた。

 息子が3歳になったころからはいよいよ成長ぶりに驚かされる程活発に動き、まだ判りはしないだろうに、書に興味を持ち始めた。
 妻もこれには大いにはしゃいで、子供用の文字の本を与えると拙いながらも筆を走らせるようになった。
 直ぐに文字は覚えたようで練習し始め、報誌を欲したので与えると記事を見てうなりながら落書きするのは、それはそれは微笑ましいものであった。



 そのようにして過ごす内に、早いもので九尾事件から5年の月日が経った。
 月日が流れるのは早いもので、木の葉の里も嘗てのものとまではいかないまでも、勢いを取り戻しつつある。
 若い世代も育って来たようで、私の出る幕も徐々に無くなってくるだろう。

 これを機に逸走のことアカデミーの教師にでも転職してみようか。
 引退するには早いと後輩に言われ、どうかと誘われたのだが、そう捨てた考えでもないように思える。


 今ちょうど来ている九尾を封じられた少年の監視の任務も少々(・・)思うところがあり、その性質上並行して出来るようならいいかもしれない。


 九尾事件を転換期としてこの幸福を得たことに躊躇いはない。だが、だからと言って嘗ての同僚の事を忘れることは決してない。
 先に逝った奴らに報えるよう里のために尽くすのが、せめてもの供養となるだろうか。


 願わくばこの平和の礎となっている少年にも強く生きてもらいたい。



[31875] 3.覚醒する何か
Name: シオンβ◆8ace1640 ID:0c155718
Date: 2012/05/20 17:41
※少し時制が戻ります。


 四歳になり遂に、遂に念願の血継限界を取得した。永かった。


 それは、一人で行動出来る時間が増えてきた事もあり隠れて体を鍛えていた時のこと。何せスペックが高いため調子に乗り、限界まで己を追い詰める多少の無茶を繰り返した結果。

 ある日、部屋の中。
 熊のぬいぐるみが、スローモーションで……落っこちたのだ。

 前に母が買い与えてくれたやけにリアルなソイツは、つぶらと言えなくもない黒眼で夕陽を反射しながらこちらを観ていた。
 その角度での陰影は筆舌し難いほどに雰囲気のある絶妙なもので、怪談にでも出てきそうなソレが逆さまに頭から落下していくのを瞬間刻みに視てしまった時は、死なずにして走馬灯という新手の死亡フラグにでも目覚めたのかと思ったが。



 まぁ、なんてことはない、白眼の開眼である。



 暫くしてまたその違和感が表れた時に窓ガラスに映った自分をると、あの目尻のところに血管(?)のようなものが浮き出ていたのだ。ぞっとした。
 リアルで見ると余り見栄えのいいものでは無いというのが正直な感想だ。
 後に調べたところ、目の横に浮き出るのは三又神経という器官で、本来は奥にあり目からの映像を知覚するのだが、これをを体質で更に表面にも発生させることで通常では有り得ない知覚の支配領域を増設できるのが、日向一族の白眼なんだとか。
 なので俗に言う魔眼の括りとは違ってこれら作用の鍵が遺伝による眼であり、能力を使いこなすためには自らの鍛錬によってこの疑似知覚器官を発達させる必要があるのだ。
 この発展具合の差が、才能の有る無しというわけである。


 取り敢えずは発動できるだけでも性能的には申し分のないもので、基本状態で視界が広がるのと反射神経が跳ね上がるという、1人で鍛えていくのにはお誂えの能力なのは間違いないだろう。まぁ本来(…)の写輪眼だとか写輪眼だとか、成長チートなアレと比べるのはアレだが。それまでの環境を鑑みるに、やっと希望が見えた感動は筆舌しがたいものである。
 因みに隠れてというのは、両親のことを見ていても雰囲気から察することができるがやはり余り目立つのは止めておいた方が良さそうだからだ。
 恐らくだが、両一族の出身だというのを、隠している訳でもないが余りそのことを表に出すことはせず、またそのどちらでもない「氷河」の家名を名乗っていることが関係しているのだろう。
 まだ俺が生まれたばかりの頃に、両親が一族のらしき人物とその辺りのことを話していたのを聞いてなかったら、教えてもらうまで気付かなかったかもしれない。
 一族のことはそれとなく尋ねると困ったように母が聞かせてくれたが、大したことは聞けなかった。


 まぁそれは今後として、両親からでさえ隠れてなのは母の過保護ぶりからだ。今までやってきてこれからも続けるつもりの無茶なやり方は、どう考えても許可されそうにない。
 母は俺が忍になることを反対はしないだろうが、どちらかと言えば座学方面に力を入れて欲しそうで、この先それとなく水面下での攻防が繰り広げられることになる。
 休憩の手持ち無沙汰の時に歴史書や考古学(みたいなもの)の本を何となく読破したのを目撃されてから、いつの間にか俺の部屋にその類の本が増えるようになったのだ。
 最初は特に気にせずそこらにあった本を適当に読んでいたのだが、明らかに持ってきた覚えのない医学書関連の本が増えていて、母に「これ俺のところにあったんだけど」と尋ねてみると
「あぁ間違えて貴方の所に持って行っちゃったのね。折角だから、それも読んでみなさい」
等と口実を作られてしまう。

 母は別に自慢するでも無いが、ご近所付き合い(一般人が多い)で俺の成長ぶりをもてはやされるのには満更でもないらしく、反則をしている身としてはこちらに純粋な期待の眼差しを向けてこられると正直少々後ろめたいものがある。


 ともあれ虎の子・白眼も習得したので、此方を悟られない距離から演習場等で修行している大人を対象に早速活用することに。
 それまで自分でやっていた鍛錬が児戯に等しいくらいの中々の人外ぶりであったが、さりとて自分でもやれると信じ、お手本を見ながら必死に見様見真似した。

 足捌き、跳躍、重心の推移。
 この世界では皆簡単に木の上を移動したり馬鹿みたいな跳躍が当たり前だが、やはりこれも忍補正なのか。
 小さな植木を飛び超えを何度も飛び越えるのに始め、毎日反復することによってその木の成長に合わせて長い年月を重ねて精進し、いずれは木をも飛び越すほどに……というくらい気長にやるのが認識だったのだが、白眼で動体視力を上げてそれら忍の人達の動きを見て実際に真似してみると、跳躍力は見違えるほどになった。原理は不明だ。
 同様に重心の取り方にしても、体勢を真似すれば何らかの力が加わったように整えることかできた。イメージとしては、重りを付けたパラシュートは必ず重りが下になって落ちていくのと似ている。
 この体勢を整えることができれば、よっぽどの事がない限り頭から落下するようなことはないだろう。何というか、便利なものである。

 まぁこんな感じで色々と習得していく。
 このよく判らない原理は変則的な重力の作用だったりするのか、この世界の人々の体質による一種の特技なのか……いつもの如く神のみぞ知ることである。





──────────────────────────────────────────────────────────────





 6歳になり、死ぬ気での修行の結果からか、身体能力面で同年代には負けないであろうくらいの自信はついた。

 ここまできて……いや、もうとっくに自覚してはいたが、チャクラの使用無しではどうしようもないという現実から目を逸らすのを止める。

 厳密に言えば、白眼でチャクラの流れが見えるので身体の内でのある程度の運用は出来るようになっている。
 原作では下忍になってから教わるのであった気がするが、意外といつの間にかに出来るようになっていたのだから仕方ない。
 基本はある程度やったので、例の件と向き合うことに。

 そう、あれは3歳のときに初めてチャクラを初めて使った日。
 社説の説明に従って手順通りに生成しようと、精神エネルギー+身体エネルギー=チャクラ!!を確認したときのことである。



……
………




(赤い……?ん……体が、ダルい……)

 確か俺はチャクラの確認をしようとして、そしたら地面が迫ってきて……

 あぁ、何のことはない。気絶したのだろう。
 だとすれば母なり父なりが気付いてくれるのを待つしかなかったわけだが、見たところ此処は病室でもなければ自分の部屋でもない。

 赤い床。
 それは元からの色ではなく、床一面に広がる液体が染める朱。
 少し霞がかって不明瞭視界となっているが、そこはごくごく普通に家具が並ぶ一室。 
 ここは一体なんなのか……は心当たりというか、嫌と言うほど見覚えがあるが、ここにいる理由が判らない……と思った瞬間、唐突に等身大の鏡台が現れる。

 いきなり出現したそれに驚く暇もなく、鏡に映った己の姿を見て納得する。

(……あー、そういうことか……。全く……やっぱ、死んじゃったわけか……)

 正確には自身の両眼。
 赤く光る瞳に浮かぶ勾玉の型取る変形五棒星。


 ……つまり万華鏡写輪眼である。
 うちは一族の保有する血継幻界、写輪眼。
 謂わば魔眼の一種で、その眼で観たあらゆる忍術・幻術・体術を解析してしまうもの。
 忍者としては延髄ものの能力だが、この能力には更に上の段階があり、それが万華鏡写輪眼と呼ばれる。

 一族の中でも秘中の秘であるこの能力の覚醒条件は『親しき者の死』。


 ……とされているが実際にはかなりアバウトで、原作でカカシが開眼したあたりから雲行きはかなり怪しくなっている。
 親しき者の死など、経験してた者は過去にも何人もいるのではと思うが、にも関わらずその存在さえ知っているのは極僅かだったのは……まぁ実力も兼ね揃えてということだと仮定しておこう。

 で、問題は自分がそれを覚醒させているということだが。
 根拠はこの空間。この場所は前世で過ごした家であり、思った瞬間現れた鏡。要は自分が望むものを顕現させたということだ。
 そんな幻想世界(・・・・)、思い当たるのは……万華鏡写輪眼を覚醒して得られる恩恵の一つである『月読』(つくよみ)による精神世界。
 ここは、その類によるものだろう。

 生まれて初めて発動してしまった写輪眼。しかも万華鏡、という上級のもの。
 発動したことはともかく、少なからず発動の条件を満たしているということは……


………
……




「俺はあの人を殺した、ってわけだ。……まぁそのつもりだったんだから、それが確定しただけなんだけどな……」

 あの後、精神世界からは直ぐに抜け出した。
 チャクラ切れを起こして維持できなくなったようで、次に起きたときは死ぬほど筋肉痛が酷く、このせいで母の過保護が加速したのは間違いない。
 やはり体力は忍の資本なのか、身体エネルギーの仕組みを改めて実感した瞬間だった。

そしていく日か後に、再び件の“眼” を発動した所で最悪の欠陥が判明した。
体質故のものなのかそれとも他の要因によるものなのかは定かで無いが、チャクラを練ると自然に写輪眼が発動してしまうのだ。それ自体は、目立つが仕方の無いものとして諦めることも出来なくは無かったが、それだけで時間が限られる中でチャクラを使おうとしない様な愚かな選択を取ることは勿論なく、言わずもがな、精神世界のアレである。
そう、俺は制御も禄に覚えず“万華鏡写輪眼”――身の危険(眼の奪取)を誘い、更には盲目へと常時突き進む、爆弾を手にしてしまったのだ。
慣れないうちは膨大なチャクラを消費する写輪眼をしかも単体で使う事が出来ず、制御するため訓練をしようにも時限爆弾(失明)は到底待ってくれるとは思えず。

肝心のチャクラを練ることが出来ないのでは無茶を繰り返すして文字道理に命を燃やすしか無い。そう言った意味では白眼を手に入れるまでの日々の絶望は、他人には到底理解し得るものでは無い。そうした苦労の末に、どうにか身体エネルギーを身に付けていったのだ。




……と言うのも全ては問題の先送りにする言い訳だったのは、自分自身でよく分かっていた。
 死への恐怖、罪の呵責。それらが付いて回るがこの世界なのだ。そしてその最も身近な象徴が、兄殺しだ。

 俺は死ぬ間際、兄を殺した。ただ、それだけ。
 そのことに関して他にどうしようも無かったし、次に同じ状況になっても同じことをするしかないのだろう。そう思い、考え、言い訳を連ねても、1と0の差はどうしようもないもの。その経験は、人としての……現代を生きた者としての一線を越えるものだったのだろう。


 この世界にいる限り殺しは付き物である。


 現代人の感性でははっきり言って吐気がする感性だ。その筈である。現に、何回も吐いた。
 吐いて、そうして徐々に克服していくものなのだと思いたかったが、俺が吐瀉物と共に吐き出したのは倫理感であったらしい。
 理論的に考えればこれはメリットなのだろう。それは価値観が変わった後に理由付けても失ったものを正常に測ることは出来ないのであろうが。


 まず、認識の変化を実感した。
 これから生きていくために“人の命”というものの価値に折り合いを見つけ、向き合っていくつもりであった。それは確かである。だがそれは一足飛びに無用なものになってしまっていたのだ。

 始めは、クーデターに対する策を考えるとき、最初に考えることは誰を片づけるの一番いいかということであった。
 極自然に浮かんだそれは“片づける”とはどういう事なのか、意識さえしていない自然な思考だったのだ。
 そのことに、今後の計画を立てて記した自分の手記を見て気付いたとき、恐ろしいと思う筈の考えになのに、何も感じていない自分がいる。
 自室だったが、構わず吐くことにした。

 この考えを忘れようと、ひたすら身体面を鍛えることにひた向き、無心になってやった。
 訓練の為密かに森に通い、訓練をしていてふと気付くと、自分の周りには野性動物の死骸で溢れていた。
 全てが急所を一撃で刈り取っていて、中には首輪の付いた猫でさえも含まれていた。
 気分など殆んど動いていなかったが、指を喉に突っ込んで無理矢理にでも吐いた。


 狂気が、迫って来る音がした。


 結局それから死ぬ気で命を刈ることの容易い力の制御を必死で覚えて、されど里を歩いていた時見付けた光景に……自分の中の倫理感(ストッパー)は、完全に砕け散ったのだ。








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――








「――と言うわけで貴方達、老害の起こしたクズな教えに習うゴミ肥溜めには消えて貰うことにします」


 街の路地裏。
 昼間そこで、筋違いな悪感情や単なる劣情からの鬱憤を晴らしていた者達が、今度は己の身にその代償を受けていた。


 額充てをした者が幾人も。何れも里に所属する者であり、服装から、名門うちは一族の者までいることが判る。
 中には、中忍以上の実力を持った実力者もいるのだが、拘束されているわけで無いにも関わらず、一人の“少年”の前に跪いていた。


 その眼は紅く、見下げる瞳に浮かぶのはほの暗い諦感の星。


 その、何者も窺うことの適わないどこまでも冴え渡ったような視線の前に、幾年も年の離れている筈の大人達は只々呆けるしかなかった。
 少年は、その年頃には到底持ち得ない“無”の表情で、されど嘲いながら一言、告げる。


「……月詠(つくよ)」


 翌日、木の葉の里では忍の集団失踪事件が取り沙汰された。
 里抜け・暗殺・誘拐などが疑われたが、里を挙げた調査に関わらず、遂には手懸かりの一つもなく真相は謎のままとなる。



[31875] 4.雲隠れタクティクス
Name: シオンβ◆8ace1640 ID:0c155718
Date: 2012/05/20 17:35

 木の葉の里、縁外部。
 満月の覗く闇夜空の下、皆が寝静まった瓦造りの住宅街の屋根上を移動する集団があった。

 皆が顔深くを覆面(マスク)で覆い、暗がりに忍ぶ黒装束、そして洗練された物腰。
 4人編成の小隊──4マンセルで、何かを脇に抱える者を守るように、進行方向に向かって逆三角形の陣を成しながら突き進む。

「(……追って来たか)」

 一番後方で殿の役割を務める集団のリーダー格の者は、油断無く退避経路の距離を測り、後のメンバーに合図をする。
 それを受けた左衛と右衛は、歩みを止めないまま懐から札のようなものを取り出して素早く印を結ぶ。


「「変化!」」


 札は一瞬の内に人型へと変わり、幼子を抱えるシルエットが三つとなる。
 それを確認したリーダー格の男は、踵を返しその場に止まり、後の面々は全員別方向へと散って行く。


 リーダー格の男は腰の刀を抜き、刃を立てて鍔を口元まで引く──八双の構え――から、疾風の如く迫る追跡者の刃を迎え受ける。

 闇夜の月明かりの下、視界に疾風の如く現れて襲い来る追跡者が一人。

 男の長刀に斬り突けるのは犬の面を被る者で、リーチは短いながらも両手の大クナイを使って手数を多く攻め立てる。
 男はクナイの連撃を横凪ぎの一撃で強引に払い、そのまま器用に返しの袈裟斬りを見舞おうとして、


「忍法・手裏剣影分身!」


 犬面の背後から大量の弾幕が迫る。
 男は追撃を諦め即座に後方に大きく跳んでかし、犬面がクナイを投擲してきたものを弾く。
 後から弾幕を張ろうとする人物をを狐面との位置取りを巧みに操り牽制する。


「(追跡者は四人……私に二人、後は迂回して目標(ターゲット)を追うつもり、か……?)」


 すると今度は狐面が退き、すれ違い様に後方から猿の面をした者が突出し、印を結んで術を放出する体制に入る。


「火遁・豪華球の術!!」

「甘い。忍法・雷球の術!!」


 猿面の者は空いた口元の穴から広範囲に炎を吹き出し、男は高速で結んだ印から眩く迸しる(ほとばしる)特大の光球を放出する。

 両者が衝突し、雷撃が炎を圧すものの、猿面が辛くも炎の出力を上げて打ち消す。
 熱気と紫電を帯びる空気の先、面の者達が視たのは男が印を組み終わった姿だった。


「……雷幻・雷光柱!」


 先の術とは毛色の違う、突き刺すような光が辺りを包む。
 面の者達は、咄嗟に避ける術無くそのまま崩れ落ちる。
 その強力な光は夜闇という条件も相まって、かなりの広範囲に影響し、迂回して、潜んでいた者の一人をも捉え無力化する。
 男は更に全員に、落ちていたクナイを投げて効果の消えた後も行動させないようにする。


「(こいつらの役割は殺害というよりも足止め……差し詰め応援が来るか外に待ち伏せして各個撃破か……)……解」


 男は、部下が向かう逃走ルートとは真逆の方面を行くべく、自身の傍らに伏せた呪符を剥がし、其処から現れた幼子を脇に抱えて走り出す────かに見えたが、それは為らず、抱えた子供を手放してしまう。

 
「馬、鹿な……!?」

「我が一族の秘技を欲したのにその効果を知らなんだか。百眼の前にはあらゆる幻術は効かぬ」


 手離された子を受け止め、逆の手で男の心臓を貫いて語るのは、和装の男。
 その両眼の瞳孔は総てを見逃さんないかのように見開いており、その縁には血管が浮き出ていて迫力を増す。
 木の葉が誇る血継限界・白眼を持つ一族、日向家の現当主・日向ヒアシその人である。


「貴、様……何、故此処に……!?」

「……やはり内通者がいたか。誘拐犯風情が知る必要はない」


 淡々と語るも、その眼には怒りが滲んでおり、そのまま貫いた手を抜くと、大量の血が吹き出る。
 男は崩れ落ち、自らの血の池に溺れながら最期の呪詛を吐くように呟く。


「後悔、す、るがいい……日、向ぁ……かはっ」


 男はそれきりに物言わぬ骸と化す。
 それを無表情に見下げる日向ヒアシだったが、男の覆面を剥がしてその正体を知り、平素では見せることのない驚愕の表情を浮かべる。


「雲忍、忍頭……」


 月明かりの照らす中、月を写し出す血貯まりの朱は、これから起こる闘争を象徴するかの如く────









「────なんて感じで解説してみたり」


 木の葉の里、郊外。
 
 額充ては群雲のマークである雲忍の中忍の男は焦っていた。

 木の葉から追っ手を振り切り、仲間との合流場所に向かおうとしたら、いきなり訳の分からない事を言い出す巫山戯(ふざけた)た仮面を被った子供が現れたのだ。

 本来なら無視するか、口封じのために殺すかをするのだが、少年の話す内容は聞き捨てならないものだった。
 曰く、日向の子供を誘拐するため組まれた4マンセルは、最初から置かれていた囮と後から足した囮に目を向けさせて、実は足止めしていた実力者が本命をもって逃走するというものだったと言うのだ。

 男は、小隊の上忍から目標(ターゲット)の運搬を任された。
 それは間違いない事な筈であった。その筈なのだが、今自分が抱えているもの(・・)は、クナイが刺さって変化した呪符人形になっているではないか。


「アンタは信用されて無かったってことだ。まぁ、元から駄目で元々な作戦なんだけど。その上忍さえもが捨て駒なんだから何ともね。……まぁ、来世頑張れ」


 どういう意味だ。
 男は不気味な雰囲気の小児に怯みながらも更に問いただそうとして、急速に意識が遠退いていく事に気付く。
 何らかの術にかかったのか。そう思った時には既に遅く、抗うことは適わぬ紅く輝る瞳に溺れていくのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




 今日は珍しく両親が家に帰って来ないため遠出したせいで、遅くまで訓練をしてしまった。
 訓練を何時もよりも長く、場所も遠くまで移動したため、当然着いた頃には里を囲む外壁に備えら付けられた門は、完全に閉まっていた。
 なので抜け道を使うしかなさそうだと裏手に回ったところ、何かを抱えながら塀を飛び越えて来る人物と遭遇したのだ。
 遠方から察知して進路に潜んでいた此方には気付かなかったのか、それとも無視したのか。
 どちらか悩む所だが、放っておくのは何と無く止めた方がいい気がして追いかけた。
 中々に速かったが、熟知した周辺地理によって何とか先回りして偶々居合わせたかのように立ち塞がる。
 こんな夜中に子供がいるのを相手は怪訝そうに足を止めたが、いざ止めて何を言うのか考えてなかったので、取り敢えず指摘。


「ねぇお兄さん。その抱えてるモノ、偽物だよ?」


 不審者(仮)は何かを言いかけたが、それよりも早く相手の持つ人型のモノに攻撃。

 不審者は攻撃された事に反応して後退するが、直ぐに持ち物の異常に気付く。
 混乱しているようなので、俺の推測に基づく話をしてやると更に動揺する。
 そこに出来た、忍にとっては致命的な隙を突いてチェックメイト。

 ……毎度の疑問だが、バトル漫画でよくある自分の技のことをべらべら喋る奴はNURUTOの世界にもいるが、忍にはその隙は絶望的な気がするのだが。まぁ漫画的にそれは仕方の無い事でそれを言ってはお終いだが。

 例を出せば、霧隠れの抜け忍斬不斬(ザブザ)は無音暗殺術(サイレントキリング)が得意だという話だったが、あれは馬鹿正直に出ていったせいでかなり弱く見える。
 物語の性質上、後から出てくる敵ほど強くなっていくため、仮に原作の行動準拠の斬不斬が成長した主人公達の前に現れても話にならないのでは?……という話だ。
 しかしその実、有無を言わせず暗殺に出てくるような闘い方をすれば、かなり手強かっただろうとも思う。

 まぁこんなことを言っても、敵になりえる奴が強くあって欲しいと願うバトルマニアでもなし。
 で?っていうお話なのだが。


閑話休題。
 それは後に(・・)究明する予定(・・)として、問題はこの雲忍をどうするかだ。

 こいつが抱えていたのは一度確認したことのある原作キャラ『日向ヒナタ』の姿をした偽物だった。
 誘拐事件はもっと前だと思っていたので何も起こらない日々に焦りがあったが、取り敢えず原作沿いにイベントが起きて不謹慎ながらもホッと一息というところだ。

 本当はこの件には深く関わるつもりはなかったのだが、よく考えるとこの騒動は木の葉にとって無茶苦茶理不尽だ。
 このことに勘が働いたのかは判らないが、手を出してしまったものは仕方ない。
 兎に角この男には原作に近い動きをして貰うことにしよう。


「魔幻・獅子身中の謀り」


 写輪眼を使った幻術の応用技。
 やっとの思いで写輪眼その他チャクラの運用をできるようになってから、それまでの鬱憤を晴らすように我武者羅に鍛えた。その中での挑戦で試験的に開発した、相手が幻術による昏睡状態の時にのみ使用できるオリジナル技。
 簡単な記憶操作と暗示を掛けることができるものだが、正直な所は魔幻と銘打ってはいるもののそう大層なものではなく、何よりチャクラの消費が洒落にならないまだまだ不完全な術だ。
 背水の陣となるこの術は、今回のようなパターンでもない限りには使い処を考えなければならないだろう。


「アンタはここで誰とも話していない。木の葉の追っ手から逃れてから自分の担当した目標(ターゲット)は囮だったと自分で気付いた。アンタ以外全滅の様なのでそのまま里に帰還する」


 男は、虚ろな眼を僅かに開いてこちらの言うことを黙って聞く。
 最期にあるキーワードと指示を出し、そのまま雲隠れの里に向かって走り出した。

 徐々に意識がはっきりしていくようになっているので、撤退中にぼんやりした等と勝手に納得してくれるだろう。

 今の術でかなりチャクラを使い、残存量は一気に心許なくなってしまったので、家に帰って爆睡コースだ。
 いつぞやの筋肉痛再来に恐怖しながらもその場を後にしようと走り出そうとしたとき……



「ねぇ、アナタ。今何してたのか教えてくれないかしら」



 地獄の底から悪寒が爆走してくる声。それは例えるなら黒板に爪を立てて引っ掻きながら、Gを踏みつぶす音と比べても比にはならない類のものだ。
 恐る恐る不承不承渋々に、戦々恐々と振り替えってみると、そこには嫌というほど心当たりのある 変 態 が 生 え て い る で は な い か 。


「What a wonderful spectacle this is!!」



[31875] 5.遭遇戦!
Name: シオンβ◆8ace1640 ID:0c155718
Date: 2012/05/20 17:42
 そ こ に は 変 態 が 生 え て い た 。


 誤字にあらず。厳密に言えば雑木林の太めの木と同化しているのだ。
 上半身から徐々出てきてその全容が明らかになる。灰色の肌。貞子のように顔を隠す長髪。切れ長で、人間とは思えない──事実、違うのかもしれない──眼をした、蛇の人(?)が現れた。

「ワッ……?それは、何かのお呪い(まじない)なのかしら?」


「(やばい、やばいヤバいヤバイヤヴァイ……ッ!これはもしかしなくても奴だ。こんな所に何故?why!?幻覚か?否、NO,プライスレス!!これは、当然ながらに……)
 Yes!ハロー?そしてグッバイ!!」

 即座に瞬身の術で逃走、もといこれはもう闘争だ。
 動揺で自分でも何をほざいたのか判らない。
 もっとやりようは在ったはずだ。現にこんな訳解らん奴がいきなり逃げ出したら、あの変態のこと、当然…………



「いきなり逃げるなんて酷いじゃない。まぁそうやって逃げるのを追い回すのも嫌いじゃぁないケド」



 全力全壊で疾走してる横を、奴のシルエットが逆さまになって並んでくる。なんだこのホラーは。
 凍りつくという表現はこの時を置いて他には無い、心臓を鷲掴みにされた気分だ。……割と、この後に物理的に実行されそうな気がしてならない。
 ――久しく俯瞰を気取っておちゃらけを演じていた感情に、恐怖という氷水が冷たくが注す。


「フフフ、忍法・大蛇縛りの術」


 位置的には下から見上げられる形で、不自然なほど白い肌である怪人の口元が、口裂け某の如くニヤリと歪む。
 咄嗟に距離を稼ぐべく反対方向に跳ぶも、印は信じられない程のスピードで組み上げられて、奴の手元から首の太さ程の大蛇が飛び出す。
 大蛇はこちらに突っ込んできながら更に口から鱗を持つ大量の蛇が飛び出し、正面とサイドから逃げ場を無くすように覆い尽くす。


「くっ、!火遁・豪火球の術!!」


 進行方向の大木の面に着地、壁蹴り。急な静動に正面から来る以外の範囲攻撃が掠めるように脇を通り過ぎる。
 同時並行で結んだ二つの印で噛み付いて来る寸前の大蛇本体を焼き尽くして辛くもこれをいなす。後続に伸びてきた子蛇も両手クナイで回転切り一閃し、そこから即座に一点突破を目指す。
 牽制の初手から圧されているが、一つ間違えても詰み、これでも上出来だ。
 火遁の陽炎の先に目を向けると、距離をとった本人からは離れたのだが奴は特に動くでもなく佇んでいる。死んだ爬虫類のような目からのジトッとした視線が合った。

――恐怖は、加速する。

 本能からか、自分でも驚くべきほどの静けさで返って冷静になって思考する。
 瞬時に手裏剣を全方位にバラ巻き、次なる一手の為の布石。
 やり過ごした範囲攻撃が後ろから追尾してくるのを感じるがこの際無視。左手を後方にやり、右手のあらゆる仕込手裏剣を投擲。
 チャクラが殆は残っていないので長期戦は選べない。術者に向かうことで、背後から迫る弾幕を誘導するように術者に突っ込む!!


「あら、逃げるかと思ったけどなかなか勇気あるじゃない。だけどそれは下策ねぇ」


 奴は鱗蛇の範囲攻撃を器用に制御し逸らして消しながら、大口を開けて口内から蛇型の長舌を繰り出す。舌は嘘臭いほどの強力で、後ろ手に隠し構えていたチャクラ刀ごと俺を捕らえる。
 そしてその場に向かって舌を縮めながら奴が顔を近付けてくる。だが、それは奴の下策だ。


「魔幻・茨鋼線の舞」


 現状、体術・忍術共に伝説の三忍とまで言われたコイツ──大蛇丸には当然ながら足下にも及ばない。
 この攻防も奴はかなり遊んでいた節があり、その気になれば瞬殺できたのだろう。
 そんな今の俺が、万に一つ勝てる可能性は……


「幻術、ですって……?」


 相手が油断しているところに切り札の魔眼をぶち込んでやるしかない。今まで仮面を被っていたため大蛇丸は気付かなかった(?)が、写輪眼を使えばタイムラグ無しに発動できる。

 残存チャクラが僅かな中で、苦肉の策の触媒を使った節約術。
 これもまた模索中の術で、手裏剣にワイヤーを付けて縦横無尽に張り巡らせてそこに範囲を限定し、その中にいる人物に至近で直接写輪眼で目線を合わせる事で相手を拘束する術だ。

 今はまだ距離がネックで、前準備はともかくゼロ距離という条件が厳しいものの、普通の幻術と違って鋼糸ワイヤーを介して干渉するので、絡ませることで物理的・精神的に相手を強力に拘束するという、なかなかの効用だ。
 幻術耐性があってもこちらの効果が影響するので対象を選ばない。


「さて……こうしてお互い縛り会っている状況なんで、落ち着いて話し合いましょう。まず、アナタは誰なんですか?」


 とにかく、何か打開策を見つけなければならない。奴の正体など判っているが、ここはしらを切り通さないと話はややこしくなる。


「縛り合っている、ね……ふふ、いいでしょう。ワタシを知らないと言うのなら何故ワタシから逃げたのかしら?」

「質問に質問で返すとは礼儀がなっていないですね。見るからにヤバい匂いがしたから、と答えておきましょう」


 まず、こちらの正体はバレていないのはアドバンテージだろう。これが崩れるのは最悪の事態で、逆に言えばそこさえ抑えてられればまだチャンスはある。
 なので、下手にでるようなことは絶対にしない。


「アラ、それは心外ね。私は話を聞きたかっただけなのに。まぁいいわ、私は大蛇丸。アナタは見たところどこかの里の暗部と言った所みたいだけど?そっちは名乗ってくれないのかしら?」


 来た。取り敢えずこちらの流れに引きずり込むしかない。


「……火鼠。里の所属は、今は木の葉です。」


 更に撒き餌を仕掛ける。これに乗るかどうかが分け目だが……


「成る程。根の符合とその仮面、ダンゾウの子飼いかしら?でも今は、ということは……?」

「……一問一答が筋でしょう。ビンゴブックとも明らかに違うその姿……貴方は何故ここに?」

「フフ、なかなか言うじゃない。そうね、“草”の定期的な確認って所かしら。“変装”はそれに応じて。それで、さっきの質問はいいわ。変わりに貴方の秘密を聞こうかしら」


 流れを変えられたか。ここは流すところだが……敢えて挑戦してみるか?


「この幻術、私でも知らないのよ。さっきの戦闘の動きからしてなかなかイイ線いってたからてっきり戦闘特化なのかと思ったのだけど。もしかしたらまたまだ他の手を残してるのかしら?
 見たところ未だかなり若そうだし、この私を此処まで封じ込める術を使う秘密があるんでしょう?」


 そう言って幻術による腕の束縛を動かす奴――大蛇丸。術を解きでもしない限り、動かせばその分苦痛を伴うはずなのだが、そんなものは意にも介した様子はない。……早々に切り上げた方が良さそうだ。


「……よく言われますが、自分はかなり小柄なものでして。専門は後方支援です」

「そう。じゃあ最後の質問にしましょう。率直に聞くわ。あなたのソノ眼……写輪眼ね?」

「……一問一……っ!!」


 凄まじい殺気が重くのしかかる。
 やはり気付かれていたか、洗脳をした場面を正確にではないが見られていたのだろう。先の幻術でも当然使ったが、白眼の併用が前提の極小の眼穴という隠匿策ですら意味をなさなかったのかもしれない。
 確信とまではいかないが、されど見逃すことは無い程の執着といったところか。

 ……これ以上焦らすのは必要無さそうだ。


「……貴方は、今の木の葉をどう思いますか?」

「…………平和ボケして反吐が出そうよ。そう言うアナタはどうなの」


 待っていた言葉。今回はかなり際どい綱渡りとなったが、後で引っ掻き回されるよりはある意味良かったと言えるのかもしれない。
 ……一世一代の大見せ物といこうか。


「自分は木の葉を……過去の遺物を何もかも、潰したい」


 ――恐怖は、狂気へと変わる。






──────────────────────────────────────────────────────────



 あの後、火鼠と名乗ったお面の少年はワタシからまんまと逃げ切った。
 端からまともに相対する気はなかったようで、話し合いを始めた時には既に何らかの仕掛けを弄くってたんでしょう。

 まぁワタシも拘束を解こうと思えば解けたんだけど、そうしたら彼も全力で抵抗してたでしょうし、そうなればこうして興味深い話も聞けなかったのだから、いいとしましょうか。

 まだまだ荒削りで、その気になれば捕まえて吐かせることも出来たかもしれないけど、全てソレじゃあ詰まらない。
 それにアノ眼。ワタシが一番欲する器となりうる存在。だけれども彼はどちらにせよもっと泳がせた方がイイ。
 そのゾクゾクする憎悪は、まだまだ彼を強くする。

 あのいい感じの眼はワタシと同類でこちら側に来るべきモノ、必ず何かをやってくれそうだわ。

 これは良い収穫だったわ。カブトにも彼の事を調べさせる必要があるわね。

 フフ、フフフフフ……次に会うときが楽しみね。木の葉潰しも彼を絡めれば更に楽しめそうだわ。
 実験中のアレもプレゼントしておいたし、暫くは退屈しなさそうね…………




──────────────────────────────────────────────────────────


 木の葉に這々の体で逃げ帰った俺は、最後の力を振り絞って家に辿り着いたが、玄関先で遂に力尽きた。






 ……というのは大蛇丸に遭った手前、不要人過ぎる為、ちゃんと偽装して里のある場所に潜伏する。
 体中ボロボロの俺には睡眠が足りないのだが、カブトなんかに正体がバレたら一も二もない。

 服に仕掛けられた呪縛符も解除。なんかの口寄せだったみたいだがこの眼の前には無力であるのに。
 書き直せば逆口寄せなんかも出来そうだ。今はやらないが。

 その後兵糧丸で何とか保ちながら色々後始末を終え、家に着いた時はもう朝だった。

 出来れば3日間くらい思いっきり爆睡したいが、少しでも目立つようなリスクは避けたい。この世界に慣れてきたとは言え、まだまだどんな手で足元を掬われるか判らないのだから。

 ……と言うかまだ大丈夫だよな?
 かなり潔癖症になって隠蔽に重きをおいているのだが、これでも既に掌の中で踊らされているとかだったらもう生きていく自信が無くなる。


 とか何とか色々と思いに耽っているともう良い時間に。いつもなら適当に訓練でもするのだが、今日だけは勘弁させてもらおう。
 着いたら速攻寝るか。というか一番乗りして終わりまで目を覚まさない。これ決定。



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