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[4170] Overs System -誰がための英雄-
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2009/07/25 03:07
投稿数20行ったしチラ裏から移動します。

####
ガンダムとか他の作品の[鉄板ネタ]についての作者のスタンスについてはお手数ですが感想の

[108]Shibamura◆f250e2d7

をお読みくださいますようお願いいたします。
####


夢を見た。







初めまして、異世界のプレイヤーさん。

貴方には今回も世界を救って貰います。

滅亡間近の人類の中の一つの軍、さらにその中の一つの隊の一人の男として。

貴方が持つ力は余りに弱く、かつ絶望は大きいでしょう。

でも大丈夫。


貴方はいつもあらゆるゲームで、漫画で、アニメで、ノベルで、世界を救ってきた筈です。

さぁ、介入を始めましょう。

貴方が介入する先は白銀武。

解っているかとは思いますが、この世界の人類には余り時間はありません。

貴方がこの世界に変化を齎さなければ、この世界の人類は予定通りに滅びるでしょう。


御武運を。




overs system boot...


パラメータ補正が発生しました。


クリア報酬 あ号標的300体の撃破
特典称号 『神翼不墜』の獲得
回避率補正が発生

クリア報酬 全ルートクリア
特典情報 オリジナルハイヴ攻略までの全情報


特典開放による新しいルートが開放されました。

『決戦存在ルート』


  シナリオ
 倒すべき相手は無限ループの原因、「あしきゆめ」から生まれた決戦存在。
それを探して滅ぼして下さい。
滅亡を前に「人類という種そのもの」もまた、決戦存在を生み出す可能性があります。
人類側の決戦存在が現れれば、「あしきゆめの決戦存在」もそれに呼応するように出現するでしょう。



…え?


ブツン、と。

テレビのスイッチを切るように夢の中で俺はさらに意識を失った。





~がいよう~

まず最初に。

この作品はハートフルギャグシリアスを目指したい…なぁと思ってます。


~更新スタイル~
仕事とかイロイロ有ってちょっと変則更新をします

OversSystem 01 サイズ大
OversSystem 02 サイズ大
OversSystem 03A サイズ小
OversSystem 03B サイズ小
OversSystem 03C サイズ小

OversSystem 01 サイズ大
OversSystem 02 サイズ大
OversSystem 03 サイズ大(A+B+C)
OversSystem 04A サイズ小

みたいな感じである程度足したらストーリー修正しつつ纏めます。
なんかこのペースで話数増やしたら100超えそうだったんで。
更新のタイミングはサイズ小の加筆を追加でアップしたタイミングに準じます。

##まずOversSystemと見てコテコテの第七世界とか式神の城とかが出てきた人へ##
すいません俺がプレイしたアルファシステムのゲームはガンパレードマーチだけです。
あの世界観好きなんで前から多少調べてたりはしたのですが、丸ごとクロスさせるともうどうにもならなくなってストーリーとして終わりそうに無いので用語とか一部設定だけもってきてる感じです。
タイトル負けしててホントすいません。



##がいようほんぶん##
オルタネイティヴを"プレイした側"の人間が白銀に入るストーリーです。
彼女達を助けるため意図的にフラグを立てまくる場合があるかもしれませんが、シロガネタケルオリジナルに気を使ってハーレムとかそういうのにはなりません。
オープニングの通り外側は白銀って言えば白銀なんですが中身は全然白銀じゃないです。
むしろ白銀の中の人はほぼ俺です。

第三視点(状況描写視点?)での呼称は無しじゃこまるんで一応白銀とします。

つたない所多々あるでしょうがよろしくおねがいします。

あと超絶俺理論が時たま展開されます。
どちらかというと俺理論を吐き出したいために書いてる感があります。

解釈とかのぶつけ合いとかは好きなので何か頂ければありがたい限りです。



筆者の能力の低さから、ストーリーの中心人物以外は例え207メンバーとて空気化する場合があります。
ご了承ください。

さいと
http://shibamura.jugem.jp/?pid=1



[4170] OversSystem 01 <新たなる介入者>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2009/06/26 01:28
10月22日(月)


----白銀宅----


(眠い…)

 でもほら、起きないと。
 だって窓から入る朝日が…


 …朝日が?


 随分眩しいんだが…不吉な暖かさを持っていないか?
 あぁ、そうだ、明るすぎるんだ。

「ってその明るさは拙いだろー!」


 外の明るさがどう見ても朝ってレヴェルじゃねーぞ!
 寝坊は拙い、だって俺は社会人二年目なんだから――――


 ってあれ?
 起きて気付いたけど、ここ俺の部屋じゃないよね。

 うん、俺の部屋じゃない。

 だってベッドはあるのに足元にフェレットのゲージが無いもん。
 それに知り合いの部屋にだってこんな場所は…あれ?俺昨日どうしたっけ?



バシュッ


「うわっツ」

 頭の中に突如フラッシュバックする言葉


『貴方には今回も世界を救って貰います。』

 今回も?

『異世界のプレイヤーさん』

 プレイヤー?

『貴方はいつもあらゆるゲームで、漫画で、アニメで、ノベルで、世界を救ってきた筈です。』

 救う?

『貴方が入る先は白銀武。』


 白銀って



 部屋を見回して一言。


「マブラヴ…」


 あぁ間違いない。この部屋はゲームで見たことある。


「できれば幻聴と幻覚か夢だと思いたいんだけどなぁー」


 それはまずい。非常にまずい。だってその場合無印学園パートじゃなくてオルタって何故か俺確信しちゃってるもん。
 死にたくないし。


「寝よう」


 そう、寝て起きればきっと元のベッドに戻れるさ。
 ほら、夢の中で「これって夢じゃね」って気づく事あるでしょ。
 俺それで夢の中で階段駆け上がって疲れた事あるんだよ。(作者実話)


「あ、疲れたから夢じゃないや、それに壁を触ったらこんなに細かい質感が―――」


 とか考えて結局夢だった事あるし。
 だから寝よう。夢の中で寝れば起きれるだろ。

『解っているかとは思いますが、この世界の人類には余り時間はありません』

「ぐおっ」


 また頭の中にフラッシュバックする声。


「あぁクソ解ったよ起きればいいんだろ?起きれば」


 せめて会社の先輩にメールをしよう。


「世界を救うんで遅刻します。もしかしたら数日休むかもしれません」


 うん、間違いなく殺されるな。

 誰に?

 先輩に。

 いやだから誰に?

 あれ?


 先輩って誰だっけ?

 つーか俺会社勤めてんだよな?
 場所は?出た大学は?友達は?


「思い…出せない」


 その代わりと言う様に思い出したくも無いのに、というより記憶に無い筈の情報が頭の中に沸いてくる沸いてくる。

戦術機 BETA オリジナルハイヴ あ号標的 00ユニット クーデター 鑑 御剣 榊 珠瀬 彩峰 鎧衣

新理論 00ユニットの運用方法の障害とその対策 パワーバランス 生き残る術

「あぁ…」


 これがクリア報酬か…
 オーケイ、今唐突に理解した。


『貴方はいつもあらゆるゲームで、漫画で、アニメで、ノベルで、世界を救ってきた筈です。』


 つまりFFやドラクエとかゲームをプレイするノリで世界を救えと。
 感情移入してる時点でゲームも漫画も関係ないのか。
 まぁストーリーは決まってるんだからどっちでも結局は同じなんだよな。
 救うまで元の俺の主観記憶もボッシュートか。元に戻れる可能性は1つきり。
 ゲームクリアか?しかし本来の俺の主観記憶が無いと戻るっつってもな…
 BETAが居ないだけましか。

 あれ?オルタなら俺ゲームやってるし余裕じゃね?
 ここまでのノリから言って今この体白銀のだろ?白銀の中に入るって言ってたし。



 特典開放による新しいルートが開放されました。

『決戦存在対決ルート』


 あ…そうだったわ。
 地球上の全ハイヴじゃ駄目なの?決戦存在ってなんだよそれ?
 っていうか因果導体の原因は解除されたんじゃ?

 …駄目か。

 とりあえず鏡を探そう。うん。先ずはそれからだ。

「つっても部屋にあるのな…はぁ」

 明らかに俺じゃない誰かが映ってる。
 どうみてもゲームで見た白銀武です。本当にありがとうございました。
 勘弁してくれよ…


 よし、まず現状を把握しよう。

 俺。主観としての俺。

 今までの頭の中に響く声と今の意識から、「どうやら俺は白銀本人じゃない」というのは解る。
 白銀に「なった」んだろう。だけどなる前がどうだったかが思い出せない。
 とりあえずオルタはプレイしてるんだが…

 で白銀としての記憶。

 ループに継ぐループ。

 平行世界を全て救う旅。終わる訳ないじゃないか、無限にあるんだから。無茶しやがって…

 望んでやったんじゃないんだよな、無理やりループさせられてるんだし。
 思い出せる範囲で既に主観時間500年を軽く超えてる。

 オルタ5の発動、それを教訓とした4の発動、ミスからのまた5の発動、判断を間違えて副司令に射殺される。
 操作をミスってBETAに轢かれて戦死、オリジナルハイヴで自爆、その次は生還。

 あぁ、死んだ分もあるって事は統合される前の情報も全部あるのか…

 死んだ戦友、死ななかった戦友、愛した人、愛してくれた人、自分が死ねばまたループは廻り…


「初めまして、白銀武訓練兵であります!」


 あぁ、これは痛い。友情も愛情も全部リセットか…

 積み上げて来たのが全部きえちゃうのはなぁ…精神的に持たないだろこれは。

 最適化される歴史、最短ルート、最低の犠牲で最大の戦果、ハイヴの攻略、米国の暗躍。


「暗殺までされてんのか白銀…」


 そして最後、つまり一つ前のループは全ハイヴをA‐01に一人の欠員も出さず攻略達成。

 その後戦術機に爆薬を仕込まれ死亡…か。

 その代わり決戦存在ルート分岐発生っと。ルート到達フラグはA‐01全員の生還っておいおい随分無茶だな。


「まずいんじゃないか…いや、間違いなくかなりまずい」


 うん、まずい。そもそも前回と同じ所まで持っていけるかが怪しい。
 白銀は何度もループを行う内に「自身の人間性」を成長させた筈だ。
 それは覚悟だったり、性格だったり、生き方だったりしたんだろう。

 俺にはソレは無い。技術は引き継いでるんだろうが、魂が引き継げてない。

 人間として成熟できていない。

 つまりひょんな事であっさり死んだり知識を生かせず死ぬ可能性がかなり高い。

 白銀と同じアプローチじゃ…無理だろうな…俺なりのって事か。

 俺のやり方ねぇ…変な所で率直というか素直というか「ぶっちゃけて」ってカンジが俺のやり方なんだよなぁ…

 じゃあぶっちゃけて助けてもらうか。信じて貰えなくて殺されたら次のループで生かそう。

 とりあえず頼れる味方が必要だよな…

 覚悟完了!さて、じゃあいっちょやりますか。

 さしあたっての問題は、俺に役者としての才能があるかどうか。
 …あるような気もするし、無いような気もする。

 それにしても何で俺が主観なんだ白銀、恨むぞ。

「痛いのは嫌いなんだよなぁ…」


 枕元にあるクラック済みのcfwPSPが唯一、俺が「白銀ではない」という個人の証明だった。





---横浜基地---


 桜並木の中の一本の前で立ち止まる。


「たぶん、この木だよな」


 うん、多分そうだ。お祈りしとこう。利益があるか解らないが、何かのフラグになるかもしれない。

 最低だな俺。
 まぁこれからもっと最低な事をする予定なんでぬるい目でみてやって下さい、先輩方。

 まず守衛の二人の攻略だな、さて、一芝居打ってみましょうか。

 正門の前にいるのはご存知の二人組みだ。


「こんな所で何をしてるんだ?」

「外出していたのか? 物好きな奴だな。どこまで行っても廃墟だけだろうに」


 とりあえず任務って言っておこう。


「えぇ、任務でして。守衛お疲れ様です」

「任務だったのか、それはすまなかった。さ、許可証と身分証を出してくれ」


 いや、持ってないんだが。


「それが香月副司令の任務にて階級や氏名を含めた個人を特定する全てを没収されています、こちらが中間報告書になります。明日成果物を纏めて運びに来るのでその搬入要望が書いてあります。ピアティフ中尉経由で副司令に届けてもらえませんか?」


 とりあえず持ってないんじゃなくて没収された事にしてみて封筒を渡す。

 あとなんかピアティフさんを経由したらそれっぽいので混ぜてみよう。


「何の証明も無いのか?お前脱走兵じゃないだろうな?」


 チャキッと銃に手を掛ける。まだ構えちゃいないが拙い空気だ。


「脱走兵だったら丸腰で来たりしませんって、それに自分のような場合を想定して副司令からは司令自身に関わる事は全て報告するよう指示がでてる筈なんですが…」

「あぁ、確かにそれは出てるが…」


 よかったこの辺原作通りで。


「ではよろしくおねがいします」


 こういう場合必要なのは誠意だ。多分。

 任務を受けている以上尉官クラスの可能性のある人間が頭を下げれば軍人なら動いてくれるだろう、そう信じたい。


「了解した、司令部付きのピアティフ中尉でいいんだな?」

「えぇ、お願いします」

 そう言って元来た道をゆっくり歩いて戻る。出来れば走って帰りたいが不審者としてとっつかまる可能性を上げたくない。



「さて、鬼が出るか、蛇が出るかってか」


 殺されないといいなぁ…

 ちょっと贅沢し過ぎたかもしれない。

 そんな事を考えながら、元来た道を歩く。




 ---香月執務室---

「何なのよ…これ」


 握り閉めた手が震える。当然アルコールが切れたとかそういった理由では一切無い。
 突然ピアティフ経由で渡された(もちろん各種検査済みの)茶封筒の中にはA4の紙を半分に切ったメモが一枚。
 表には数式らしきものが半分、ちょうど切られた部分で後半がわからなくなっている。
 そして裏には時間と場所と人名の指定。

 最初はふざけてるのかと思った、またどこかの嫌がらせかと。
 だけど数式を見て思わず息を呑む。この前半部分は、明らかに自分が求めている計算の冒頭の処理を担う数式だ。
 それも自分が組んでいた物と比べてもより洗礼された。では破かれているその先は?

 そこまで考えて自分に嫌気が差す。
 答えが解れば何でもいいのか、この先に自分が求めた答えがあったとして、つまりは結局誰かに先を越されたのだ。

 何が天才だ、何が私にしか出来ないだ。

 ドス黒い怒りが私を満たすのを感じる。

 だがこの数式がそろえば、オルタネイティブ4は発動できるかもしれない。
 そんな思いも確かにある。

 何にしろ、送りつけた張本人の顔を見なければ気がすまない。
 それにメモにあった「鑑の待ち人」という単語はある可能性を私に示した。

 デスクのコンソールを叩いてピアティフを呼び出す。

「今すぐこれから言うメンバーを集めなさい、それと車両の準備を」

 待っていなさい、すぐ顔を拝みに行ってあげる。



 そう呟いてポケットの中に入れたメモの裏には





「 お初にお目に掛かります。
  数式の続きに対し自分は金銭その他の要求を致しません。
  その代わり以下の場所へ、指定時間に指定したメンバーでお越しください。
  また、護衛等の人数に上限は設けませんので、必要と感じられた場合は連れてきて下さって構いません。

  香月副司令 伊隅みちる大尉 月詠真那中尉 神宮寺まりも軍曹 殿

  本日16:00
  私の自宅にて。

  鑑の待ち人にして、かつてシロガネタケルだった者より 」 


 見るに耐えないヘタクソな字で、そう書いてあった。



[4170] OversSystem 02 <世界を救う同志募集中>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/11/28 01:00
----白銀宅----


「正直に吐きなさい、アンタ…何者?」


 まさか行き成り銃を向けられるとは…その発想はなかった。

 …ゴメン嘘、ちょっぴりありえるかなとは思ってた。
 守衛に封筒を預けてから荒廃した自宅に戻り、リビングでひたすら待っていたのだが、
 顔を合わせて2秒で銃を向けられるケースは可能性としては低く見ていたんだ。


「!」

ジャッ ジャキンッ カチンッ

 恐らく何ら事前説明を受けていなかっただろう同伴の神宮司軍曹、伊隅大尉、月詠中尉は一瞬驚きの表情を浮かべた直後、
 即座に俺を敵性と認め、今合計4丁の銃口が照準を俺に合わせている。

 撃鉄を起こす音がこんなに怖いとは知らなかった。

 …正直生きた心地がしない。
 この世界の最も敵に回したくない女上位4人が全員揃ってこっちに敵意を向けてるっていうのは中々にシュールだ。

 まるでグラウンドゼロってか。出来れば半径500km以内に居たくないねぇ。

 とりあえず目標の半分は既に達成できたので後はもう思い切るしかないだろう。
 
 さて、俺は役者になりきれるだろうか?


「まず御足労頂き感謝します、香月副司令、伊隅大尉、斯衛中尉殿、神宮司軍曹。自分は、白銀武と申します」


 とりあえず挨拶をして深々と頭を下げる。もちろん腰は90度。

 不敵な笑みを浮かべてちょっと首を傾げただけで済ませた場合即座に引き金を引きそうな人がいるし。
 どっかの副司令とかあとどっかの博士とか。それとどっかの物理教師とか。

 鎧衣の親父さんみたいな態度を取ったら確実に殺されるんじゃなかろうか。

 完全に下を向いているので顔は見えないが相手全員が反応に困ってるのが解る。
 言うか迷ったが「以後お見知りおきを」なんて言わなくて良かった。
 多分俺の事をテロリストかどこかの組織の人間だと思い込んでただろうからまさか思い切り頭を下げられるのは想定外だったんだろう。
 けどまだ顔を上げちゃダメだ。俺としては今回の接触で俺の事を信じて貰わないと速攻で詰んでしまう。

 あ、下向いて気付いたけど俺以外全員土足だ。まぁ廃墟化してるからしょうがないか。
 主観的に言えば俺ん家でもねーし。


コッ…コッ…コッ…

ゴリッ

 痛い。


「で、だからアンタ何なのよ?あの紙の続きは?どこの天才さんが考えたのよッ?!」


 頭頂部に感じるこの嫌に重厚な感触は…銃口だろうなぁやっぱり。じゅうこうなだけに。
 この距離だと確実に指先一つで脳漿をブチ撒ける事になる。斗貴子さんもビックリだ。

 それはイヤだ。

 そんでもって多分かなり怒ってる。
 まぁ先に数式送りつけるのは今回が初だしなぁ…

 数式入手の可能性の喜びよりも自分以外がそこに行き着いた事に怒ってるのかな?
 となると他人にじゃなくて先を越された自分に怒ってるのか。
 相変わらずというか…だからこそ尊敬できるんだけど。

 相手は香月博士、最低限の単語で短く言えば理解してくれる…だろう、多分。


「自分は元・因果導体です。数式の続きは約束通りすぐそこのテーブルの上に置いてあります。そしてその数式に辿り着いたのは…」

 数式の場所を話した時点で銃口が俺から離れ、テーブルに向かう気配。

 重要なのは、切り出すタイミング。目を瞑って…耳を澄ます。

かさ…


「辿り着いたのは別の確率世界の香月博士です」


「なっ…」


 あー驚いてる驚いてる。まぁ精神的な隙を狙ったんだけど思ったより切羽詰ってるのかな、俺に驚かされるなんて。

 というか残りの3人が放置喰らってるけどやっぱ今動いたら撃たれるよなぁ、俺。

「これ…は…そうゆうこと、見つけたのね…私…」


 まぁ他じゃ誰も到達できないだろ。
 スピンの回転の複素数平面上にある虚数軸方向の不定空間積分式を5次元平方根した波動関数なんて。
 暗記こそできてるが、それ以上は記号の意味が解らなかった。
 このゆとり時代にスピンの回転と積分記号の∫を理解できただけで褒めてくれ。


「はい」


 数字は嘘を付かない、その数式が求めていたものかどうかは香月博士が一番解るだろう。
 けどまだ頭を上げない。上げろと言われるまで上げないほうがいい筈だ。

 "俺はあくまで貴女より下です"とアピールしないと。


「アンタは"シロガネタケル"なのね?」

「はい」

「証拠は?」

「自分は、"鑑純夏"の幼馴染です。純夏に呼ばれて平行世界を渡りました。純夏の存在はこの世界で香月博士と社霞しか知らない筈です。付け加えるならこれから発生する事象も知っていますので、お時間を頂ければ予知と的中と言う形で証明できます」


 そして降りる沈黙。

 おそらく彼女は今物凄い速さで考えている。

 数式の正当性を計算して勘定し、俺の話の中の単語から事実を述べているか、また発言の中に自分しか知らない情報が含まれていないか…

 5分ほど経っただろうか、1分かもしれない。

「頭を上げなさい」

「はっ」

 何分か振りに見た博士の顔は…随分謙が取れているようだ。

 よかった…って顔に出したら失望されるんだろうな、ほっぺたの内側を噛んで無表情、無表情。

 痛ぇ、畜生。


「今回で何回目なの?」

「恐らく最低で301回目です」


 実際は途中でバタバタ死んだ分を含めると多分1000回を超えてるんだろうけど、正直記憶があやふや過ぎる。


「随分具体的な数字の割りにハッキリ言い切らないのね」


 やっぱそう来るよなぁ博士なら。


「前回のループで"あ号標的"の終身累積撃破数が300になったためです。他途中で死んだ分を含め記憶が風化しているため、正確な数はわかりません」

「へぇ…」


 眉が上る。オリジナルハイヴの攻略数が300って事は、俺を信じた場合人類が生き残る確立がそれなりに高いって事だ。

 つまりオルタネイティヴ4は発動できるし、この戦況をひっくり返せる。


「でも途中で死んだ分の記憶だけ風化したワケないわよね、その300回の出来事は全部覚てんの?」

「いえ、覚えていません。300というのは今回のループで目が覚める前に声が聞こえて…おそらく"世界"からそう言われました。ただそういった事は今回が始めてなので、正確な所は解りません」

「そう…」


 絡み合う視線。再び落ちる沈黙。


「副司令、お話中申し訳ありません」

「何?伊隅」

 沈黙が30秒も続いたあたりで今まで黙っていた伊隅大尉が口を開いた。

 銃はまだ俺を狙っている。


「今のお話にあった"あ号標的"とは、オリジナルハイヴ反応炉の事ですか?」

 オリジナルハイヴの反応炉に付けた名前はそれほど機密レベルの高いものじゃないので俺が知っていてもそれほど気にはならなかっただろうが、300回撃破したと口にし、あまつさえ博士がそれに不信を抱く素振りを見せなかったので口にせずにはいられなかったんだろう。


「そうよ」

「なっ…それは…ですが」


 本当ならば「お言葉ですが副司令、妄想狂に付き合ってる暇はないのでは?」とでも言いたかったのだろう。
 というか顔に書いてある。

 でも立場的に抗議できるワケないよなぁ、想いっきり博士の私兵だし。
 月詠中尉も神宮司軍曹もバリバリの疑いの目を向けてる。
 ガンパレードマーチのゲームだったら視線ビームで俺は火達磨になってるだろう。

「そうね。伊隅には、いえ私以外の人間にとっては馬鹿の妄想に聞こえるかもしれないけどね、でも私には信じる根拠があるのよ」


 残念ながらね、あと銃を下ろしなさい、と付け加えた博士の言葉に流石に驚愕の色を隠せない3人。


「で、なんで態々私だけじゃなくてこのメンバーなワケ?もちろん説明してもらえるのよね」

 さらに三人の顔が強張る、香月副司令を含めた自分達4人をここに呼びつけたのは目の前にいる男なのだ。
 確かに俺がここで第四計画の事をポロっと話しちゃダメなんだろう。

 本来伊隅大尉ですら知らないような機密が末に今までの会話でボロボロ出ている。
 ここまで話した以上、そしてこれから話す内容を考えると俺の目的は先に話しておかないと。


「まず、大前提として必要だからお呼びしました。理由は…自分、いや自分達の敵はBETAだけじゃ無かったからです。早期に横浜国連軍と帝国軍に協力体制を作れないと米国の邪魔が入ります。自分は前回、全てのハイヴを破壊した直後にG弾派による破壊工作により死亡してしまったので…で、手っ取り早く信頼できる人と…早い話がグルになって貰えないかなと。自分の話を聞いて乗ってもらえた場合、ある意味"人間やめる"事になりますから。そういう意味では香月博士には毎回人間やめて貰ってはいるのですが…」

「面白い事言うわね、まぁ私はアンタの言う意味じゃ元々人間やめてるけど?つまりこの場にいる3人にもオルタネイティブ4の全容を話すって事ね。どういう意味か解ってんの?」


 ある程度予想してたんだろう、精神的な再構築が恐ろしく早い。くすくすと笑みすら浮かべてる所は流石だ。

 しかし幾らなんでも信じすぎじゃないか。霞が外で待機してイヤホンか何かで連絡取ってるのか?

「えぇそうなります、話すのはこれが初めてでもありませんし。ですのでこれから自分の正体、自分の知っている事、自分の目的をお話したいと思っていますが、幾つか条件というかその…お願いがあるんです」

「言ってみなさい」

「まず自分の話を聞くか聞かないか、皆さんの意思で選んで欲しいんです。これから自分はオルタネイティブ4と5、そしてこれから起こる事象をお話します。そして自分の話がどの程度信じられるかは…香月博士が保障してもらえると思います。これから起こる事象については、小さい規模なら発生する事で後から確認が取れます。その代わり、未来を知った以上未来を変えるために協力して下さい。そしてそれは…"この世界の人間"を辞める事になります。大げさに言うと"神の視点"を得ることになるので。あと一度聞くと決めたら自分がどんな内容を話しても最後まで…聞いてください」


「だそうよ?こればかりは個人の意思で言いなさい。もちろん私は聞くわ」


 そう言って後ろの3人に振るが…軽々と付いていける話ではないだろう。
 第四計画、オルタネイティブ計画の名前こそ聞いたことはあるがその詳細などこの3人が知る筈も無いのだ。
 それを目の前の不審者は知ってると言い、副司令がこれほど言うのならばもしかしたら本当にオルタネイティブの詳細が出てくるかもしれない。

 自分はその重さに耐えられるのか?知る事の重さに。
 特に月詠中尉の心境は複雑な筈だ、そもそも博士の事を人間的には信用していないのだから。

 それにもし本当に第四の詳細等が出て香月博士が認めた場合、
 個人的な重圧としての云々より職務意識上知った知識のやり場に頭を痛める事に成るのは明白だ。


「自分は副司令を信じています。副司令が聞くのならば、自分も聞きます」

「自分も軍曹と同じです」

「………」


「斯衛中尉殿?」

「…何だ」


 急かしてると思ったのだろう月詠が声を荒げる。
 このまま硬直してしまっても話が進まないため、一つ揺さ振りを掛けてみる事にした。

「お名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 一瞬明らかに「(゚Д゚)ハァ?何言ってんだコイツ?」という顔をしていたが次の瞬間には合点が言ったといった表情に変わり、

「先ほどから私にだけ名前で声を掛けなかったのはそういう事か、また妙な所で…」

「いえ、"前に"いきなり月詠中尉とお呼びして半殺しにされた事があるので…」

「くっ…貴様…いいだろう、聞いてやる」


 勝った。月詠中尉に俺は初戦で勝ったぞ!
 熟慮した結果というか勢い感があったがまぁきっとイロイロ考えたんだろう、月詠さんだし。


「それでは、始めます」



 そして話した。

 >まずBETAの居ない世界に生まれた事。

「そんな天国みたいな世界があるワケ?想像も出来ないわね」

「此処と比べれば天国かもしませんが相変わらず人間同士で戦争してますし餓死者もいっぱい居ますよ。汚職とかも多いですし腐ってはいますね」



 >この世界の横浜ハイヴで死んだ"もともとこの世界に居た"白銀の事。

「そう、それで鑑はアンタを…」

「俺が誇れる数少ない物の一つです。女守って素手で兵士級に殴りかかるなんて今の俺じゃやれないですしね」


 >207分隊に入っての総合演習。

「それじゃああの子達受かったの?」

「えぇ、神宮司軍曹。俺が足を引っ張りすぎてそれぞれの立場所じゃ無くなったみたいで。ホントいいチームですよ。アイツ等は」


 >紫の武御雷が搬入された事。

「貴様…」

「御剣訓練兵は現状では帝国からの圧力もあり、総合演習に合格する事すら誰も考えて居ない筈です。今後合格した上で、誰も殿下にお伺いを立てないまま紫の武御雷が搬入されれば、俺が未来を知っているっていう証拠の一つになるでしょう」


 >そしてあのクリスマス。

「早い話、先ほどお渡しした式に辿り着けなかったのが原因ですね」

「…そう」


 >10万人だけ逃げ出して、後はBETAに殺られるか、G弾で汚染された地に果てるか。

「そんな…一部の人だけで逃げ出すなんて…」

「でも神宮司軍曹、この宇宙にはオリジナルハイヴクラスの反応炉が10の37乗、つまり100億掛ける100億掛ける100億掛ける100万体存在するんですよ。人間が住める星がそもそもあるのか、あったとして辿り着けるのか、辿り着いた先でBETAに襲われないか、その途中では?資源も入手できない、部品も作れない閉鎖空間でそんな長旅…そもそも成功する可能性なんて最初から全然無いんです」

「よくよく考えれば、まだ地球に残ってG弾に賭けた方がマシかもね?まりも」


 そして、歴史を変えようとした2週目。

 >噴火前の住民強制退去、及びクーデターについて。

「まさか人類絶滅間際にクーデターなんてね、そんな事するバカ本当にいるのかしら?」

「人類の危機だからこそ、自分の正義に酔った恐るべき莫迦が出てくるんですよ。その内鎧衣課長から前兆を知らせる連絡が着ます。まぁもっと早く手を打つ算段ですが…月詠中尉が反論しないのも、理由を聞いたら”ありえない話じゃない”って思ったからじゃないですか?」

「殿下と冥夜様のやり取りをそこまで細かく言われればな…それにクーデターを行った者達の気持ちは…わからんでもない。手助けする気は無論無いがな。そういう意味では、逆説的にことクーデターに関する貴様の考えには賛同できん」



 >数式の回収について。 

「つまり最終的には夕呼先生が考え出したんですよ」

「夕呼先生?」

「あぁ、最初にお話しましたが自分の元居た世界じゃ物理の先生だったので」



 >新OS、XM3の概念と実績、及びお披露目の演習について。

「死んだの…私が?」

「そうです。そしてその原因はBETA開放を命じた人でも、討ち漏らした衛士でもありません。歴史を変えた俺です」

「…続けて」



 >00ユニットの完成、調律。

「アナタの幼馴染が?」

「えぇ、伊隅大尉。そして鑑が自分を呼んだから、自分はこの世界に来れたんです」

「連れてこられた、とは言わないのね」

「感謝すらしてましたから」



 >佐渡島ハイヴ攻略について。

「そうか…、貴様にアイツの事まで話していたのか…」

「えぇ、ですが…ヴァルキリーズの長として立派…な最後でした。それだけは自分も確信してます」

「そうか…」



 >BETA横浜基地襲撃について

「帰巣本能ね…佐渡島を叩いたからって…ド忘れしてる自分を殺してあげたいわ」

「壊滅的打撃で済んでよかったですよ、お披露目の時のBETA襲撃が無かったら壊滅的所か壊滅して横浜ハイヴが復活してましたからね」



 >00ユニットの運用上の欠点、反応炉の機能とその破壊について。

「じゃあ反応炉を破壊した時点で…」

「A-01に元から居た方は全て戦死ないし入院で戦線を離れる事になります…それでも、自分達は最後まで伊隅ヴァルキリーズでした」

「喜んでいいのかわからんな」

「確かに死人が出てる以上判断は付きませんが…」

「何だ?」

「自分が言うのはおこがましいですが…誇ってもいいと思います。自分も、死んだ仲間も伊隅ヴァルキリーズに配属された事を誇りに思っていますから」



 >反応炉破壊による00ユニットの活動限界、オリジナルハイヴ攻略について。

「結局生き残ったのは…」

「オリジナルハイヴから帰ったのは自分と社と鑑の3人、その内鑑は機能停止。
ヴァルキリーでは風間少尉と宗像中尉が負傷により衛士生命を断念。
事実上ヴァルキリーズとして生き残ったのは茜少尉だけですね」

「そんなに…」

「それにしてもBETAが唯の作業用有機ユニットとはね。ナメられたもんだわ、炭素生命体も」



 そして3週目へ。

「因果導体じゃなくなったんじゃないの?」

「えぇ、確かに因果導体じゃ"無くなった感触"もあったんですが…どうやら"そういう存在"としてこの世界が認識してしまったようです」

「そう…2週目のアンタは元の世界をベースにさらにBETAが居る並行世界から掻き集められた。今更元の世界に戻すにも他の世界の情報が宙ぶらりん。だから世界は、最もシンプルで簡単な手段を取ったのね…」

「シロガネタケルは世界を渡る存在である。そういう事みたいです。もともと統合後の2週目という"事実"がありますから…」


 そしてループは続く。

 3週目、神宮司軍曹を救い、オリジナルハイヴを攻略した時点での生き残りが増えた。

 だが結局攻略後白い光に包まれループした。

 戦った、負けた、死んだ、死なれた、ループし、考えて、またループした。

 そして終に、身近な人間を誰一人殺さずオリジナルハイヴを落とした。

 白い光は、現れなかった。

「めでたしめでたし、じゃなかったのね?」

 そう、この世界にスタッフロールは存在しない。

 勝利、敗北、転戦に継ぐ転戦。各ハイヴ攻略、櫛の歯が抜ける様に死に行くA-01。そして白銀の死亡。ループ。

 貴方が好きでした、はじめまして、せめてそなたの手で、これからよろしく頼む。

 繰り返す。何度でも。


「そして前回、全部のハイヴを仲間を死なせずに落とせたんです。まぁ自分は死んじゃいましたけど」

「つまり見えない目標をクリアする毎に次の目標が増えるわけ?最短で最良の未来を選び続けて最高を出すまで?」

「その様です。そして今回の目標は…決戦存在の打倒」

「決戦存在?」

「自分にも解りません。ただそう言われたんです。ループが始まる前に」

「そう、じゃあその件については考えてあげる。とりあえず続きは基地でね、もう真っ暗だし」


 気づけば話し始めて3時間。電気も通わぬ白銀宅は真っ暗になっていた。

 ここまでの流れでそれなりに白銀の話を信じる気になったらしい3人からも文句は出なかった。

 そしてここから始まる、今度は俺自身の物語。

 "今回の白銀"は恐らく本ループの中では最後になるだろう景色、"かつて白銀武が住んでいた家"を振り返り、心の中で呟く。



「そっか…白銀、ようやくお前が消えた理由が解ったよ。


お前…



死んじまったんだな」







---------------


冒頭の「目標の半分」について。

机の上に数式の後半が乗っているため、この時点で殺されても数式は手に入り、調律に手間取るだろうけど00ユニットは完成するだろう…多分。

という白銀モドキの甘い考えを表わしています。



[4170] OversSystem 03 <かすみのほっぺた 商品化決定>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/09/23 02:00
「そっか…白銀、ようやくお前が消えた理由が解ったよ。


お前…



死んじまったんだな」



 ループにより確かに彼は死なない、だが彼の精神は、長い時を掛けて少しづつ死んでいったのだ。

 人間の精神や魂は100年以上生きる事を想定されて設計されていない。
 さっき自分で話していてようやく解った。
 そしてその代打に選ばれたのは"このループした世界"と"白銀武"の情報を持った人間。

 つまりマブラヴをプレイした俺。

 成るほど、いい条件だ。それなら俺が駄目になっても俺の居た世界だけで1万人は候補がいるんだからな。
 そして俺の世界に近い平行世界も無数にある。

「俺は代理だ。お前が最初にこの世界に来た時以上にこの世界に愛着がない。確かにゲームで泣いたし過去のお前の記憶を引き継いではいるけど、俺が直接彼女らに会うのは今回が初めてなんだから。だけどまぁ、戦ってみるよ。一つの軍隊、その中の一人の人間が何処までできるか、お前がどれほどスゲェ奴だったか、お前に見せてやる」



 そこまで言って、

「そういやアイツも決意表明好きだったよな」

 とどうでも良い事を思い出した。





----香月副司令執務室----

 起こりうる事象とその解決方法を伝え、白銀の身の振り方も決まり解散した頃には、時刻は22時になろうとしていた。

「香月博士」

「何よ」

「言わなくてもそうするってのは解ってますし、ガキ臭いって思われると解ってるんですが、これだけ言わせてください。自分の事は…気にしないで下さい」


 へぇ、と目を細める香月博士に俺は続ける。
 そうだ、ガキっぽいと言われても、失望されても、この会話のせいで単なる駒として使い捨てられるとしても。
 それでも俺は、俺だからこそ言わなくちゃいけない。

「自分としては仲間を全員助けたいとは思っています。ですが、毎度毎度何もかも上手くいくと思っているほど莫迦じゃない積もりです」

「まぁ、500年近く生きてそんな"軽さ"じゃねぇ」


 クスクスと笑う香月博士を見て、やっぱりな、と思う。


「俺の我侭優先して仲間助けるために世界が滅んだら意味無いですから、だから…先生の好きにしちゃって下さい。ぶっちゃけ裏で何されても最悪先生の選択で誰かが死んでも、俺が死んでも…少なくとも俺だけは先生を恨みません。"今"を生きてる人に偉そうな事言える立場じゃないですしね」

「言われなくてもそうするつもりだったけど?」


 当然じゃない?と笑っているけど、きっとそうじゃ無いんだ。

 香月博士も、きっと、いや間違いなく辛いはずだ。
 500年見てきた記憶が、そして元のゲームをプレイした俺は知ってるから。

 香月博士もやっぱり、一人の人間だって事を。

「それも解ってます。でも1ナノグラム位はプレッシャーが減ったんじゃないですか?少なくとも俺だけは例え解剖されようが先生の敵にはなりません」

「……」


「自分の知り合いに昔、一人の人生に疲れた女性が居ました。
いいことなんて、生まれて一度も無かった女性です。

その人はただの女性でしたが、ある日、知恵を貸して他人の問題をひとつ解決しました。
でもひとつ解決したら、次の問題が待ってました。
次を解決すれば、また次が出ます。

適当なところで折り合いをつけて、やめればいいのに…文句と運命を呪いながら、ハイヒールのかかとを折って、
髪を振り乱し、歯をくいしばりながら人類の明日のために走り、そして戦いました。
持ってた武器は、ただのボールペンです。

けど、俺は思いました。
その人はもはや、ただの女性じゃない。
英雄だって。

人生に疲れてもいなければ、迷いもない、その暇もない。
本来の人間が居るべきポジションに戻った、誰もがその勝利を願う人の中の人。
人間の本懐たりえる英雄だと。

必要となれば、その人は、ペン一本で、刺し、切り、罠を突破し、図を書き、そしてエンジンを爆発させることが出来ます。
戦争を阻止し、化け物どもを倒し、名前も知らぬ誰かのために、明日を作る事ができるんです」

「…その女はどうなったのよ」 

「…心臓が止まるその最後の一瞬まで立派に戦って、そして死にました。…人類を守って。

俺はその結果、まだ戦う事ができます。
ループの度に皆は忘れるけど、俺は知ってます。

世界は、何人もの英雄達によって、いつも最後の一線を守り続けて来たって。
次は、俺の番です。

俺は、英雄じゃないかも知れません。
その"代役"も果たせないかもしれない。
でも、最悪でもオルタネイティブ4発動までの時間稼ぎにはなります。

本物が現われるその時まで、人類を守って戦います。
借りは必ずお返しします。俺は決めました。
その女性をこの腕で抱きしめたその時に。
泣くのはやめて。戦おうと」

「私はそんな大それた女じゃないわよ」


 睨んで来るその目は、本気で怒ってるのか?テレ隠しなのか?俺にはまだ解らないな。


「兎に角今日は、今日だけはっ…ゆっくり寝て下さい…色々考える事が増えてしまったのは解ります…でもそこを曲げてお願いします」


 再度90度頭を下げる俺。


「わかったわよ…後ろを向いてそのまま一歩進みなさい」

「はい…おやすみなさい、夕呼先生」

「はいはい、おやすみ、白銀」



 香月博士は扉が閉まってから手元のコーヒーを飲み干すまで閉まった扉を睨め付け…


「今日くらい早く寝てやろうかしら…それにしても500歳…か、いくら年下が圏外って言ってもおじいちゃんじゃあねぇ。霞?ええ、そう。じゃあ彼が寝てる間も試して。報告は昼過ぎでいいわ」


 (それにしても"夕呼先生"とはね…)

 ため息をつきながら彼女は明日の為にデータを整理して寝室へ向かう。

 (しかし本当に、面白い男だ)







----横浜基地 グラウンド----

「まだ居りゃいいんだけどな…」


 そう、俺は御剣冥夜に会うためにグラウンドにやって来た。
 正直、ヒロインの一人に生で会ってみたかったってのもある。

 もしかしたら走り終わって帰ってくる冥夜に会えるかもしれない。
 何を隠そう、俺は冥夜派なのだ。

 純夏も悪くないとは思うんだけど、なんというか、可哀想な言い方をすると"ズルい"。

 同じ理由でFateの桜も苦手だ。だって知ったら愛さなきゃダメみたいな空気があるじゃん?
 いやもちろん嫌いってワケじゃなくて好きだよ?好きだけどさ、人には好みってもんが…


「もし、そこの方」


 ん?

 思わず何の心の準備もしないまま振り返ってしまった。
 アホか俺。この基地で話しかける時に「もし、そこの方」なんて言うヤツは一人しか居ないだろうに。

 間違いない、"彼女"だ。賭けてもいい。

 倍プッシュだ……!


「あっ…いえ、どうかなされましたか?」


 うん、さぞかし面白い顔をしてるんだろうね、俺。
 だってあの御剣冥夜が当初の用件を忘れて心配するくらいだから。


「えっと、いやー…驚いちゃって」


「何をですか?」


 君の髪型。とは言えない。いやしかし髪型にも驚いた。

 イベントで冥夜のコスプレイヤーさんは見たことがあるけどやはり3次では2次には敵わないのか、それは俺のド肝を抜くには十分過ぎるインパクトだった。
 どう見てもGP-02サイサリスです。本当にありがとうございました。


「や、君も訓練兵だろ?日中も体動かしてる状態でさらに自己鍛錬なんて、誰にでも出来る事じゃないよ」


 現に今君しか居ないしね、と続ける。


「一刻も早く衛士になる為ですから。君も、という事はまさか貴方も…」


 横浜基地に訓練部隊は一つしか無い筈だから確かに俺の言動はちょっと変だよな…


「ん?あぁ、俺も明日から此処で訓練兵なんだ。207Bって部隊らしい。もし会ったらよろしくな」


 そう言って手を差し出す。やっぱ最初は握手だろ。


「そなたは私と同じ部隊に配属されるであろう、この基地に訓練部隊は一つしか無い故な。207は私の所属する部隊でもある。こちらこそよろしく頼む」


 うん、知ってる。
 しかし階級というか社会的ランクが同じと判ると突然口調が変わるな。
 いや、軍隊じゃコレが普通なのか?俺も慣れないと…
 握り返してくる手が柔らかい。凄いな。元の世界の俺!見てるか?俺今冥夜と握手してるぞ!

 というかヤヴァイ。スゲェ美人だ。肌とか超白い。健康的な白?化粧とかしてないんだろ?これで。
 

「何だそうだったのか、俺は武。白銀武だ。特技は…戦術機かな?」


 本名思い出せないし白銀の名前しかどの道名乗れないんだが…なんかオフ会でハンドルネームで自己紹介してるみたいでなんか変な感じだな。


「そなたまだ総技演習所か配属すらしていないというのに…特技が戦術機なのか?」

「ん?あぁ、嘘じゃないぞ。まぁ色々事情があってな、明日着任の挨拶で話す予定だったんだが」

「そうか、詮索する様な真似をしてすまなかった。許すが良い。よろしく白銀。私の名は…御剣冥夜だ。接近戦では剣術を修めている」

「御剣…冥…夜?」


 俺はちょっと驚くように反芻する。冥夜の顔に浮かぶのは諦めと失望の色。
 まぁ安心しろって。そういう所はお前の期待ってヤツに答えて見るよ。


「成る程、名は体を現す…か」

「……」

「御剣…冥夜か、いい響きだな」

「はっ?」

「うん、その研ぎ澄まされてるようでいて静かにたゆたう水面のような君の瞳にぴったりじゃないか。
冥夜…か、うん、この響きは、実に君に似合っている」


 言ってみたかったんだ。アー○ャーの台詞。


「そ…そうか、そなたは…変わって…いるな」


 ガラにも無く焦ってるみたいだ、可愛いヤツめ。


「ん?あぁそうだなぁー俺変人らしいんだよ。まぁ同じ部隊だし早いうちに諦めてくれ。よろしくな、冥夜」

「なっ」

「どうした?冥夜」


 さっきから驚いてばっかだな、まぁ知ってて驚かしてるんだけど。


「いや、今度はこちらが驚いていた。行き成り名前を呼び捨てとは…」

「あれ?ここじゃ違うのか?」

「何が違うというのだ?」

 フフフ、甘いぜお上ちゃん。質問すれば答えが帰ってくるとでも思ったのか?
 何故そんな風に考える…
 とんでもない誤解だ。
 世間というものはとどのつまり、肝心な事は何一つ答えたりはしない。
 個人でもそうなのだ…大人は質問に答えたりはしない…それが基本だ。
 それに何時までも気づかねば…気づいたときには手遅れっ…泥沼…
 そう、地の獄に落ちた後ようやく気付くっ…!

 あ、しまった。つい脳内利根川先生がっ…

 そんなワケで俺は嘘八百の出鱈目をソレっぽく教えた。


「俺の居た前の隊じゃな、名前で呼ぶのが当たり前っつーか、世の中の部隊は全部そうだって教わったんだよ」


 訓練兵の訓練期間。それは人類に余裕が無くなるにつれ短くなり続けていった。
 四年から三年、三年から二年、二年から一年。

 時間も人手も、人類には足りなかった。
 だが絶対的に現場に人間は必要なのだ。
 だから訓練期間が短くとも戦場に出す。

 そんな短い期間でどうやってチームを、戦友を作る?

 そうやって先人の教官達は考えた。
 如何に短時間にチームを纏められるか。

 思いついた手は何でも試した。

 そんな中最初の方に考案されてなんだかんだで一番効果があったのが…


「名前で…呼ぶ事だというのか?」

「そうだよ。苗字はソイツの家系とか家柄をモロに反映するからな。だから皆下の名前で呼ぶのさ」


  金も時間も掛からないし何より手っ取り早いだろ?と締めくくった。
 俺流のセリフ回しというかセンスのつもりだったんだが、見事にスルーされた。くそう。

「そうであったか…では私もそなたの、いや世界の衛士の流儀に習おう。タケル…武…か。フフっ、そなたも戦う為に生まれてきたような名前ではないか。では…よろしく、武」

 そう言って笑う冥夜が…やばい、かわいい。どんくらいやばいってマジやばい。
 思わず見とれた。


「それじゃ、また明日な。おやすみ、冥夜」

「おやすみ、武」








「硬いな…この簡易ベッド」

 こうして俺の、この世界での一日は終わった。社に会うのは…明日でいいよな、どうせもう寝てるだろうし。







10月23日(火曜)


----白銀個室----


 目が覚める時って同時に目を一度はあけると思うんだけどどう思う?

 テレビとかでスパイが捕まった時目を閉じたまま起きて、

「バイタル反応はどうた?」「まだ眠っています」「今だスキあり!」

 ってなったりするのって凄くね?だって"目覚める"って言うくらいだしもう無意識の内に目開いちゃうだろ。




「おやすみなさい」

 パタンーと

 俺が起きた瞬間ベッドに倒れこんで来た社を見て現実逃避してしまった。
 あれ?起こしに来てくれたんじゃないの?

 そこで「そうですか…起こしてたんですね」じゃないの?

 ゆすられたりしなかったし…イミフ。というか何故俺のベッドに倒れこむ。初対面だぞ。フラグか?フラグなのか?

 すうすうと寝息を立てて完全に寝始めた社を見る。

「これは…」

 うわ…寝顔やべぇ。破壊力やべぇ。(なんかヤバイしか言ってないな最近の俺。だって俺の表現できる範囲を超えちゃってるんだもん)

 2次元の寝顔の破壊力は、俺の本来の人生で見てきた3次の寝顔を遥かに上回る破壊力を持って俺の心臓を掴んで離さない。

 家飲みして床で寝たら、起き抜けに目の前15chに眉毛のない寝顔がドアップであった時に比べたら…

 それはもう道頓堀のヘドロとアルプスの湧き水くらい違う。
 天使だ…君は。

 ちょっとほっぺたを触るか真剣に悩んだのは俺だけの頂点秘密だ。

 もちろん触った。すまない同士諸君、即決すべきだったな。悩む事すら失礼だった。
 しかしなんだコレは…マシュマロっていうか赤ん坊の肌っていうか…ぷにぷにっとしているようでさらさらしてるようでもある。
 それにこの弾力…弾性を計測して癒しアイテムとして商品化できないだろうか。 

 商品名はそうだな…『やしろのほっぺた』なんてどうだろう。俺なら買うね。間違いなく買うね。
 税込み3500円だ。
 マウス操作する手の手首の下に置いてリラクゼーション及び関節への負担をだな…

 しまった、またトリップしてしまった。

 とりあえず社を起こさないよう努力しつつベッドから出る。


「床に似顔絵無し…か。起こしに来たんワケでもないっつーとなぁ…」

 通常ループとちょっと違う俺を世界に固定するために香月博士が手配したのかとも思ったけど…似顔絵落ちてないしなぁ。

 見てたのか?やっぱり。俺の頭を?

 どの道香月博士の差し金だろう。
 まぁあの人の精神構造は俺の理解の遥か外側にあるし、気にするだけ損か。

 掛け布団の上に倒れこんでいる社をベッドにしっかり横にし、布団を掛けてやる。


「そのまま寝たらシワになるからっつってスカートなんか脱がせた日には処刑されんだろうな…やっぱ」


 すまん社よ、服は後で自分でアイロンを掛けてくれ。

 今日は午後から207Bへの入隊挨拶があるから…午前は香月博士の所に顔出すか。


「でもまぁもうちょっと…いいか」


 そんな事より社の寝顔である。出来れば写真に撮って置きたいくらいなんだが、残念ながら俺の一眼レフは自宅に置いて…きたのか?
 どうやらそうらしい。

 社はというとうつ伏せに寝て顔を預けている枕の端を掴んでいたりする。

 つまり頭が撫で放題だ。
 しかし社よ、俺は確かにあまり体臭が強いほうでは無いが、流石に枕はちょっと臭くないのか?大丈夫なのか?

 そんな事を考えながら後頭部を優しくなでる。

 時折頭に圧力が掛からないように髪だけを梳くように撫でてみたり。
 寝顔を見るに…嫌がっては無いな。んじゃもうちょっとやっちゃえ。


 結局気付いたら一時間近く撫で続けてた。満足。






----香月副司令執務室----


「で、何でああなったんですか?事情の説明と謝罪と賠償を要求するニダ!」

「朝からうっさいわねぇ。そんな驚く事なの?まさか襲っちゃった?」

「えぇ、余りに可愛かったんで…性欲を持て余してたしつい…」

「ぬゎんですってぇ!」

「…冗談ですよ」

「知ってるわよ、モニターしてるから」


 見も蓋もねーな。んで危ねーなオイ、※[1]セルフバーニング(別名:シャドーセクロス)なんてしなくてよかった。

 という事は俺コレから先ずっと禁止か?※[2]オナキンスカイウォーカーか?
 うぅむ、フォースの暗黒面に目覚めなければいいが…


「で、今朝は何の用なワケ?XM3のプロトタイプなら昨日話した通り夕方には出来るわよ」

「えっと…俺に回ってくる分の不知火なんですが…場合によっては複座型にできないかなー…と。確か昔は作られてたじゃないですか。まぁ不人気で廃止されちゃいましたけど」


 そう、複座型は存在する。正式には複座型管制ユニットに換装した戦術機だ。
 オペレータを乗せたり、射撃補佐、特にパイロンに格納してある武装の操作を行う事ができた。
 衛士がバタバタ減ったんで廃止になったけど。

「ふーん…、アンタの事だからまぁ何も考えてないワケは無いと思うけど、誰乗せるのよ。殿下は乗せる必要無いんでしょ?」


 クーデターは…ねぇ?と目で語る香月博士。正直ちょっと怖い。


「あぁこれは本人に確認してからでいいんですが、社で「何ですってぇ!」…す」


 さっきより声がデカイ。今度はマジに驚いてくれたみたいだ。
 まぁ凄乃皇・四型でもないただの不知火に乗せる価値があるのかって事なんだろうけど。


「いや、それが500年間やって来て戦術機で自分が一番強かった状態が社との複座なんですよ」


 そして話した。

 社が自分だけ基地に居る事を悔やむ事があった事。

 オリジナルハイヴを落とした後衛士になりA-01に入った事。

 社をとりあえず複座に乗せて出撃した時に機体がダメージを受けてメインパイロットの射撃システムパネルが壊れた事。

 そして攻撃システムを預かった社が恐ろしく強かった事。


「相手の空間座標把握なら社にとってはリーディングするまでも無い初歩の技術ですからね、どんな姿勢でもどんな機動中でも確実に急所に当てるんですよ」


 自分はただ、走り回る事、突っ込む事、回避する事だけ考えればよかった。
 シュミレータと無人機相手じゃ流石にその能力を発揮しないが、有効射程内の相手なら目を閉じてても撃ち抜くその正確無比さ。
 有効射程外でもブチ当てる珠瀬もアレはアレで規格外だが、珠瀬の場合は狙わないと当然当たらない。

 社は無造作に打って当たるのだ。なんという中二病設定。

 この二人が乗った不知火複座型は同じ人類からも『ネメシス』と謳われ恐れられた程だった。


 「まぁ、社がやるって言ってからでもいいので、頭の片隅に置いといて下さい」

 「はいはい、…それにしてもあの社がねぇ」


 うん、俺もその記憶を見たときは相当ビックリした。
 純夏への白銀の愛を知り、何より自分の気持ちを知り、恋人になれないなれないのならばせめて戦場で一緒に…
 と社が思っていた事にも驚いたが…
 (死ぬまでそれに気付かないお前もどうなのよ…白銀)


 「あ、あとコレ見てください。腕に関する追加武装の案件なんですけど…これこうしたら…アレじゃありません?あと強化外骨格にも付いてるんですからアレも着けましょうよ…で、こう…ね?」

 「ウフフフフフフ、面白そうね、ソレ。今まで無かった発想な上効果もありそうだし、まずシミュレータでデータ上の有効性だけしめしてみなさい。その程度の改造ならすぐ出来るから」



 ケケケケケ、と擬音が聞えて来そうな程、俺が具体的に示した例は凶悪だった。
 いつか開発したら月詠中尉相手に試して大爆笑してやろう。
 …殺されなきゃいいが…





---------------

※[1]セルフバーニング
ググって下さい。ちょっと俺の口からは…

※[2]オナキン・スカイウォーカー
エクストリーム・オナ禁によりフォースに目覚めた状態。
超賢者タイム、スーパーサイヤ人とも言われる。



[4170] OversSystem 04 <鋼鉄の子宮>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/09/23 02:00

----横浜基地 グランド----


 「207B分隊集合!」
 「207B分隊、集合しました!」

 うわぁ…ちょっとコレは…感動だ。
 白銀の記憶もあいまって相乗効果で天使が4人…いや軍曹を入れて5人見える。


「喜べ、今日から貴様らと一緒に訓練する事になった白銀武『元中尉』だ!この時期男は貴重だぞ、それに戦術機の腕は折り紙付きだからな、白銀から多くを学べ。白銀、挨拶しろ」

「はっ!白銀武訓練兵でありますっ!よろしくおねがいします」


 『元中尉』の単語に皆が反応する。

 まさか何か問題をやらかして階級を剥奪された馬鹿が配属されたのでは、とでも思ったんだろうか。
 思ったんだろうなぁ…


「まず先に白銀について説明する。『元中尉』というのも実は正確ではない、白銀はある特殊部隊に所属していてな、機密の関係で所属どころか"軍に入ってすらいない"事になっていた」

 臨時中尉どころの話じゃないってのがミソだよなー。
 まぁ臨時中尉はよく使われるネタだからな…って何考えてんだ?俺。


「任務中部隊が壊滅し、特殊部隊が解体される運びになった所を腕を買われて横浜基地に拾われた。白銀の資格も、階級も、全て非公式の物だ、書類の1枚も残っていないため、横浜基地で1から衛士を目指す事になった。よって今は貴様らと同じ訓練兵だ。しかし白銀の中にある衛士としての経験と腕が消える訳では無い。貴様らは運がいいぞ、訓練部隊の身内に現役衛士が居るんだからな。では今日はここで解散とする。PXで夕食でも共にして挨拶をしておけ、解散」

「「「「はっ!」」」」



----横浜基地 ぴーえっくす。----


「じゃあまず自己紹介からね。榊千鶴です。207B分隊の分隊長をしてるわ。宜しく。貴方からは色々学ばせてもらうつもりよ」


 それと今は入院中で居ないけど、鎧衣っていう訓練兵が居るから。と続く榊。
 うーむ、アレか、この娘は朝倉と同じ"太眉"属性か。眼鏡のセンスもいい。

 俺もこうなる前は眼鏡…だったのか?そうらしい。
 でも慣れてないとお互い眼鏡掛けてるからキスする時カチャカチャ当たって興が削がれるんだよなぁ…


「よろしく、榊」


「彩峰慧、よろしく」


 サッパリした所は相変わらずだなーホント。
 よろしく頼むぜ、ある意味お前と榊にこの隊の未来が掛かってんだからな。


「ああ、よろしくな、彩峰」


「た、珠瀬壬姫です!よろしくお願いします!」

 上り症の克服か…何か考えてあげないとなぁ…実力が発揮できないってのは可哀想だ。
 っつーかホントちっちゃいのな。


「うん、こちらこそよろしく、珠瀬」


「私は自己紹介は要らないな、よろしく、武。しかし昨夜の話はそういう事であったか。少々驚かされたが、共に励むとしよう」


 お前…わざわざ俺から一番遠くに座ったのは自分でオチを付ける為か、中々侮れないな…


「あぁ、よろしくな、冥夜」

「「「えっ?!」」」

「うおっ」「むっ」


 えっ、が余りに大きかったんで俺も冥夜もビックリしてしまった…が、恐らくこいつら3人の方がもっとビックリしたんだろうな。


「御剣貴女…名前で?…え?」

「とてもすごく親しい…旧知?惚れた?」

「えっ?えっ?御剣さん白銀さんとお知り合いだったんですか~?」


「あぁいや、昨日たまたま会ってちょっと話したんだよ」

「そ、そうだ!そうだともっ!別に惚れたとかそういった話はだな…」

「でも名前…」


 あー、やっぱソレだよな。


「あーそれはだな」

「いや、べ、別に特別な意味は無いのだ、彩峰よ。昨日武と話した時にだが、他の一般の衛士の話を聞いたのだ。なんでもBETA戦争が始まってから訓練期間が縮む一報でチームワークを成立できないまま実践に出る部隊が増えたらしいのだ。
そんな中苦肉の策として会ってすぐ下の名前を呼び捨てる事で親睦を深める文化が生まれたと言われてな。
我々は横浜基地の中しか知らぬ故そのような文化があるとは知らなかったが、費用も手間も掛からない上に手軽にできると武が豪語した故、私も賛同し下の名前で呼び合うようになったのだ」

「…だそうです」


 物凄い早口だったな、珠瀬なんか聞き取れたんだろうか。
 てれ隠しか?かわいいヤツめ。


「へ、へぇ~、そうだったの、御剣」

「う、うむ。だからやましい事等何一つ無いのだ。それ故、できれば私の事も名前で呼んでくれると嬉しい。無論無理にとは言わんし呼びやすい方でいいのだが…」

「御剣…とても物凄く焦ってる」

「なっ…何を言うかっ」

「ふえぇ~じゃあわたしも壬姫って呼ばれるのかなぁ~」

 聞き取れたらしい。

「あぁ、珠瀬が、というか皆が許してくれるならそうしたいと思うよ。特に俺なんか途中から飛び込む形だからな、お前らの中に早く馴染みたいんだ正直な所」

「確かに手間も費用も時間も掛からないわね…けど」


 やっぱ榊は男にそう呼ばれるのは抵抗があるか。

 まぁ大抵ここで彩峰あたりが対抗するから


「慧でいい。よろしくタケル」

「あぁよろしくな、慧!」

「あ、あたしもよろしくおねがいします…えっと、タ、タケル…さん?」

「徐々に慣らしてくれりゃいいよ、よろしくな、壬姫」

「はぅ~やっぱりちょっと恥ずかしいです~」

「えっ?ちょっと…貴女達本気?」

「榊は頭が固いから無理」

「何ですって!」

 うむ、流石は彩峰。俺の期待を裏切らないそんなお前が大好きだぜ。

「なぁ榊」

「何よ、私はまだアナタの言ってる事認めたわけじゃ…」

「いや任官して配属先が野郎ばっかだったらさ…大変だぞ?マジな話」

「う…なによそのマジって」

「いや、真面目な話な」

「…好きにしなさい、でも私は当分白銀って呼ばせて貰うわ」


 素直じゃないなぁ。

 まーそういう所がまたイィんだけどね。

「あぁ、よろしくな千鶴!いつかお前にも武って呼ばせて見せるから覚悟しとけよ!」

「はいはい、期待しないで待ってるわ…」

(同年代の男の子に名前で呼ばれるのって…やっぱりくすぐったいわね…)

「榊、顔に出てる」

(ムカッ)

「まぁ待て千鶴、慧も。そんな事より武に聞きたい事があるのではないか?」


 今までのチームではイザコザの元になっていた二人の一触即発をそんな事扱いするとは…

 俺に出会ってからメキメキとタフに成ってくな…冥夜。
 っていうか冥夜からの呼び捨てには無反応かよ。
 まぁ男の俺が居たお陰で女同士が気楽になるなら多少は効果アリって事でいいのかな?


「そなた年齢はいくつなのだ?我等と年が近いように見えるが…非公式とはいえ中尉まで上り詰めたのだ、参考に聞きたいのだが」

 ん?あぁ確かにそれは気になるよな。
 仮に同じ年だとしても普通だったらまだ少尉だし。

「あぁ俺な、多分冥夜達と同じ今年で18だ」

「私と…同じか」
(今年…という事はまだ17というのも同じだな)

「壬姫もおんなじですよぅ~」

「へぇ…」

「ふぅん…」

 彩峰に榊、目が怖いぞ。
 榊は上に行きたいと思ってるし彩峰に関しては無能な上官とか大嫌いだからなぁ。
 きっと俺がどっかのボンボンで肩書きだけ中尉だろうとか思ったのかな。
 この隊って生まれがワケ有りしか居ないし。
 でもここで俺の元居た隊の話を上手くできれば、今後XM3をこいつ等にまかせるのに違和感を減らせるだろう。
 とっつきにくい彩峰からの評価も今の内に修正しておきたい。

「中尉ならそんなに凄くはねーよ。まぁ任官した時点で少尉だしな、俺んトコは特殊部隊だったからまぁ色々事情があって配属時点で全員中尉になるんだ。書類に残る階級じゃねーし呼び方だけドンドン上っちまう部隊でなー。だから中尉だから凄いとか凄いから中尉とかそんな話はあんまりないんだぜ?」

「タケル…口だけ?」

 確かにそう取られても仕方ないよな、この説明じゃ。

「んー尉官教育とか受けてないしなぁ…中尉相当なのは多分戦術機くらいだな。他は並以下かもしれない」

「そんなんで中尉ってありえるの?白銀」

「あーいや、だから俺の隊は特殊でだな…何つったらいいか…」


 うーん、なんか俺が"口だけ中尉"って扱いになりかけてる。
 後々XM3関連のイベントは用意してあるからそれ見てくれりゃ評価も変わると思うんだが…
 もうちょっと修正しとくか。

「無理に詮索するものでは無い、榊。それに特殊部隊という事は、機密も多分に含まれるのであろう?」

「いや、別に機密じゃないんだ、というか"機密じゃなくなった"って方が正しいんだけど…そうだな、よければ俺の居た部隊の話を聞いて欲しい。実は今後の207の身の振り方に関わるんだ」

 207の未来に関わると言われ誰もが身構えるが、それも果たして本当か?と顔に出ている。
 確かに18で中尉は少々驚きだが、それにしても1部隊を、しかもよりにもよってこれだけアクの強い背後関係を持つ207の先を左右するなど、言っては悪いが中尉如きにできるワケがない。
 それにもうひとつ。
 "機密じゃなくなった"とはどういう事だ?つまり今までは機密だったという事だろうか。
 機密とは洩れては困るから機密なのであって、通常その部隊が解散したのではい公開、という訳にはいかないだろう。

「武、まずはその"機密じゃなくなった"という部分から聞かせて貰えないか?どうにも私を含めた面々はまだそなたの話に納得が行っていない部分があるようなのだが…」

 うんうんと頷く榊。
 どうやら珠瀬の方はアッサリ好奇心に軍杯が上ったようだ。聞きたそうにしている。
 彩峰はまだ睨んで来る。

「あぁ、それに付いちゃ簡単だよ。部隊は全滅して解散したんじゃなくて、"最初からそんな部隊なかった"事にされたんだ。元々書類上の、公式記録に無い部隊だったからな。だから"俺が昔居た部隊の機密"なんてものは存在しないし、存在しない事を訓練小隊の昼飯で話した所で存在しないんだから罪にはならない。まぁ大勢の前で話したら"誤情報の流布"とかでとっ捕まるかもしれないけど」

「それは…そういうものなの?私には疑問にしか感じられないんだけど」

 んー、やっぱ委員長は頭が固いなぁ。俺の話に無理があるのも承知なんだけどさ。

「じゃあ例えばさ、俺が"環境に優しいG弾と一機で全ハイヴを落とせる戦術機を作った"つったら憲兵隊が俺を捕まえに来るか?来ないだろ?そんなのある訳ないんだから。それの延長だよ」

「言葉遊びにしか聞こえないんだけど」

 ジト目の榊。だけどここで少しでも硬い頭を砕けないかとさらに俺のホラは続く。

「ルールも言葉で定義されてるんだから同じようなもんだよ千鶴。んで俺の話だがある基地の特殊戦略戦術偵察戦隊ってトコに居たんだ。基地名までは流石に言えないけどな。特殊戦とかブーメラン戦隊って言われて基地中から嫌われてる部隊だった」

「嫌われてる?」

「あぁ、任務の関係でな。俺が居たのは其の中の三番隊。ポジションは三番機だった。早い話3番目に強かったんだな。ちなみにその隊に戦術機乗りは13人居た」

「ほう…じゃあその話を信じる所そなたの腕は相当の物な訳だな?」

「でも嫌われてた…ひがみ?」

「いや、嫌われてたのは任務内容だ。偵察部隊っつっても斥候じゃなくて最初から最後まで戦闘の記録をとり続ける部隊なんだよ」

「記録って?レコーダーじゃダメなの?」

 記録と言っても戦術機にはそれぞれ操作や戦闘推移のログが残る。破壊された機体もブラックボックスが回収できれば戦闘情報は得られる。CPにはもっと多くの情報が保存されているだろう。

 だが白銀が集めていた情報はそれだけに留まらないのか?

「俺が集めてたのは観測可能なBETAの動き全て、そしてそれに対応した戦略、戦術、個人レベルの戦術機の扱いと勝敗に於ける因果関係。またBETAの戦術研究の下地になるデータ、だな。機体も戦略偵察機仕様っつって常に高レベルの電子計測器を乗せた複座型だった。基地にある最新型がまず最初に配布される所も嫌われる原因だったけど…やっぱ部隊方針っつーか命令が一番の原因だな」

「それは…立派な任務ではないのか?」

「そうですよ~何で嫌われちゃうんです?」


 ここまで聞く分には立派なお題目に聞こえるんだけど、運用方法がなぁ…
 作り話にしてもコレはヒドイな。
 俺は成るべく口調を落として、さもそう命令された事を反復するように口を開いた。

「自機を危険に晒してはならない、友軍が危機に陥っても援護をしてはならない、全ての戦闘情報を収集し、必ず帰還せよ」

 みんなの目が見開かれる。

「白銀、それってつまり…」

「そ、味方を見殺しにしてでも帰還しろって事。ついでに言うなら一人の時にピンチになったら自力で抜けられる実力も必要って事だ。なんせ助けない代わりに助けてくれるヤツなんて居ないしな。んで最後の最後までウチの三番隊は設立以来一機も撃墜されなかったから『必ず帰ってくる』になぞらえてブーメランって言われてたんだよ。階級だけ無駄に高いのも面倒ないざこざを回避するためって事だな」

「そんな…」

「………」

 うお…彩峰、目が怖いぞ。
 まぁ親父さんの件もあるし逃げるとかそういうのが嫌いだからなー。

「結局最後は、ハイヴの枝の伸び方の振動調査でBETAに囲まれちまってな。データ全部渡されて、一番新任だった俺だけを逃がすために全滅しちまった。今思えば…確かに一機逃がすのが精一杯だったけど、みんな本当は他の友軍と一緒に戦って死にたかったんだと思うんだよな…」

「白銀も死にたかった?」

 俺と沙霧大尉がダブったかな?
 いやもちろん死ぬ気なんてこれっぽっちも無いけどな、作り話だし。

「いや、一緒に戦いたいとは思ったけど、まだそこまで達する程長く居たワケじゃなかったからな。んでその情報ごと俺は横浜基地に拾われて、今副司令と一緒に新概念の戦術機の研究をしてるんだ。いろんな命が乗ってる結晶だから…絶対役に立つと思う。これは副司令のお墨付きだ」

「それは…そうか、そなたは修羅場を潜ってきた衛士だったのだな」

 皆が聞くだけで精一杯の中、やはり冥夜は再構築が早い。
 珠瀬なんてどの部分に反応したのか涙目になってる。
 冥夜のただそれは口からぽろっと出たただの感想の様にも聞こえたが、目を見ると俺を気遣う感情が浮かんでいるのが覗えた。

「ま、そういう事になるのかな?んでその成果の一つのプロトタイプがそのうち完成する予定だから、総合演習に合格し次第前らにも見て貰おうと思ってる」

「え?それ私達でも見られるんですか?タケルさん」

「そりゃあ新概念の戦術機が見れるのは嬉しいけど…大丈夫なの?白銀」

 私達訓練兵よ?と目で訴えてくる榊。

 けど大丈夫どころか今回の俺の計画としては表向きはむしろお前らがメインなんだよな。

「その点は大丈夫だ。なんせ総合演習が終わったらお前らに使って貰ってその有効性を証明してもらう予定だからな。まだ詳細は機密だけど副司令のお膝元で開発してる所があるから正規のテストルートはスケジュール上もちょっと通し辛いんだ。おいおいそんな顔すんなよ、効果の見込みは副司令の折り紙付きだからよ。お前らなら直ぐ強くなれるさ」

 それぞれ思う事もあるんだろうが、とりあえず総合の後に触って貰うからという事で矛を収めてもらった。 

 それじゃ俺打ち合わせがあるから、と言いながら自分のトレイを片付ける。

 みんなはまだ食べてる最中なので、今のうちに戦術機操作の記憶の掘り出し確認しがてらシミュレータルームへ行こう。

 兵士は早食い…って話はしなくていいか、任官すりゃ風間少尉と宗像少尉から話が出るだろ。



「そうか…我等も武に負けてはいられないな、なんとしても総合演習を突破しなくては…」

「うん…そうですよね、冥夜さん。がんばらないと…」

「…………」
「…………」

 榊と彩峰は無言。
 白銀が去った後のテーブルでは、それ以上会話が起きる事は無かった。


(武…そなたと出会い丸一日もたたないというに…私には半年以上超えられなかった壁を、"隊のみんなに冥夜と呼ばれる事"という壁をそなたはあっさりと壊してくれた。だが私はそなたの期待に答えられるだろうか?まだ207には壊さねばならぬ壁は多々あろう、それをそなたは…いや、甘えだな。これは)

 壊さなければならない壁がある。
 解決しなければならない問題あがる。
 冥夜はそれを自覚しつつも時間に任せ放置し、あまつさえその解決を白銀に期待した事を恥じた。

(白銀、総合演習を来月に控えてもまだ一つになれない207に来た最後のチャンス、現役の衛士。もう後が無いんだから、分隊長の私がしっかりしないと)

 榊は総合演習が必ず来ると解っていても頭の中で「まだ先の話」と何もかも後回しにしていた事を辞めた。

(タケルさん…期待してくれるのは嬉しいけど、総合戦闘技術演習クリアできるかなぁ)

 珠瀬は不安を抱えるだけで精一杯だった。
 彼女にはまだ、自分自身の中に超えなければいけない壁がある。

(タケルは、逃げるような任務じゃなくて戦いたいって言ってた。それなら…あたしと同じ?)

 BETAと勇敢に戦うためにのみ訓練兵になった彩峰は、先ほどの話で具体的に戦う姿勢を見せた白銀に少しばかりシンパシーを感じていた。






----横浜基地 シミュレータルーム----

(いちいち思い出しながら操作してどうにかなる相手じゃないしなぁ…)

 みんなは総合戦闘技術演習試験が今のところ最大関門かもしれないが、俺は今日夜これから行う模擬戦が目の前の壁だな。
 コレを超えれば神宮司軍曹も、月詠中尉も、伊隅大尉も、そして香月博士も俺の事をもうちょっとは認めてくれるだろうか。


 昨晩月詠中尉らと解散する間際、俺はこう提案した。

「よろしければ明日の夜にでも模擬戦しませんか?自分を知るにはその方が武人らしくていいでしょう?月詠中尉」

 その時の月詠中尉の顔は今でも鮮明に思い出せる。

 ニヤリ、じゃないな。ニタリって感じだった。
 元々胡散臭い俺の話をグダグダと聞かされて、その上どうやら本当の事っぽいってんで短時間でかなり鬱憤がたまってらしい。

「ほう…では早速明晩行おう、楽しみにしている」

 獲物を目にしたハイエナみたいな目だったなぁ…アレが殺気っつーのかな。 
 勿論神宮司軍曹と伊隅大尉、香月博士、それとピアティフ中尉にも同席をお願いしておいた。
 ピアティフ中尉はバグ取り等OS開発のソフト面のお手伝いをしてもらう心算なので、どうせなら動いてる所を見て欲しかった。




 そんなワケで俺は、今夜の準備のためにシミュレータルームに向かうのだ。
 あと一時間くらいでそれなりに"白銀の記憶と経験"と自分をマッチングさせなきゃ死亡フラグが立ってしまう。


「とりあえず…市街地戦で適当にやってみっか」

 まず固定位置に二箇所光線級を配置。あと兵士級を10対ランダムに配置し、兵支級を全部倒したら要撃級を5。それも倒したら突撃級を5。次が要撃級と突撃級を同時に5体づつ。
 光線級は撃破せず、常に2体に狙われている状態で3次元起動ができるように練習だ。
 そしてそれからは倒すごとに、6体づつ、7体づつと増やす設定にした。

「そういやこの時期不知火はA-01しか持ってないんだっけか」

 シミュレータの機体選択画面に表示される最新機種は吹雪だった。
 ひとまずやってみるかって事でシミュレータ筐体に潜り込む。

「密閉型か…そりゃゲーセンとは違うよな、軍機のシミュレータなんだから…」

 戦術機のコックピットを再現してあるため、当然気密され外部から隔離される。
 これなら独り言とかも外に洩れないだろう。

 それにしてもこの強化服…ウォードレスに似てんなー。
 そういや一応生体電流を計測して機体のとっさの動きに反映させてるらしいけどどんくらい補正かかるんだろ?
 マトリックスみたいに首に刺すヤツじゃないのは知ってるけど…操縦レバー握らずに動かせたら面白いのに。
 そうするとサイコミュみたいだな、やっぱ強化人間手術とかいるのか?

 なんてどうでもいい事を考えながらシミュレータスタート。


「さて、問題は私にもニュータイプとしての素養があるかどうかだが…」

 がんばれ、シロガネ・アズナブル。


「貴様の行為を侵略行為と断定する!当方に迎撃の用意あり!」

 バリバリバリバリッと軽快な音を立てて突撃砲から吐き出される劣化ウランの弾丸は兵士級を細切れにしてゆく。
 射撃動作が出来た事から基本的な操作はイケルのか?


「次は飛ばないとな…っと!うおっ…なんだ初期照射か、こえーなオイ」

 要撃級が出たので一先ずジャンプしてみた瞬間、途端に警告が鳴ったんで一瞬ビビってしまったが、機体は流れるような動作で空中で反転し目下の要撃級を射撃撃破。
 反転した時の勢いのままさらに反転し足から着地。即要撃の死骸を盾にしつつ建物の影に飛び込む。
 ちょうど空中で縦に一回転した形だ。


「イケルな…」

 だがコレで確信した。白銀の記憶がどうこうじゃないんだ。


「500年間反復して体に染み込んだ殺しの技…か、業だな」

 って言うとカッコいいな、中二病っぽくて。

 見も蓋もない。

 が、まさに体が覚えてるという状態。下手に細かく何かしようとしないで本能に任せる感じがいいのかな?

 キツツキが木に穴を開け、中の虫を食べる方法を誰からも教わらず生まれながらに知っているように、今俺の体の無意識とか本能とかいった部分を500年戦った白銀が担当してるらしい。
 しかし本能が殺し合いの技術のみっつーのなんというか…殺すために生まれて来たみたいだな。まぁそんなもんだけどさ。
 
 今度は先ほどの操作を参考に自分の意思で動かしてみる。


「突撃級は上空をフライパスっと…うわぁっ!」

 ペダルを踏み跳躍した方向まではよかったんだが、光線級を意識し過ぎたのと、"エースは突撃級をギリギリでかわす"っていう余計な意識のせいで低く飛びすぎた。


ガシャァン!

「くっそ、マッチングがまだまだイマイチだな」

 足が突撃級の上部に引っかかって向こう側に頭から落ちてしまった。ダサイ事この上ない。
 とりあえず機体の操作性の悪さのせいにしてみた。
 キャンセル無いから受身も微妙な動作のオート制御で残念な感じだ。

 網膜に映る数々のレッドアラート。
 今ので頭部ユニットが軒並みオシャカになったらしい。
 生身の人間と違って中枢コンピュータを頭部に積んでるわけじゃなかったのが唯一の救いか。


「データリンクと通信が死んでも元々単機だから関係無し…げっレーダーサブに変わって範囲落ちてやがる」


 さらに追い討ちをかける様に外の様子が胴体のサブカメラに変わることで目線がいきなり変わった上画質が悪化した。
 そして通り過ぎた突撃級がもう向きを変え、此方への突撃を再開している。


「まだだ!たかがメインカメラをやられただけだ!」


 言ってやったZEEEE!この台詞。
 突撃砲は落としてしまったので背中の長刀を装備し、今度は体の動くままにまかせる。


「またつまらぬ物を…斬ってしまった」


 またっつーか斬るのは初めてだけどな。
 さて!次は?!


 本能(白銀)に任せて目に付いたBETAを片っ端から無双乱舞よろしくデュクシオウフしてゆく俺。

「不甲斐無いぞ貴様ら!斬られるだけなら犬でも出来る!斬って来い!突いて来い!骨のあるヤツ出て来い!」


 ずっと俺のターン!


 ベキンッ! あれ?

 突撃級に後ろから切りかかったら長刀が折れた。マジか。

 今は10体づつ出たBETAを半分くらいだから…
 合計でえーと、最初と最後を足して回数の半分を掛けて…
 等と考えながら本能に回避を任せる。


「ちょうど100匹くらいか?」

 長刀の寿命としてはどうなんだ?短いのか?長いのか?
 突撃砲は最初に落としたとき踏まれて壊れたし長刀もとりあえず一本しか持って来てなかったんでもう武装が無い。
 当然補給地点の設定もしてない。予備のマガジンも無い。

 だって最初はすぐ撃墜されると思ってたんだもん…どしよっかな。


「フタエノキワミ!」


 とりあえず回避は大丈夫そうなんで機体限界を試そうと要撃級に殴りかかってみた。
 もちろん正面からやったら硬度15の腕部装甲は砕けないだろうから回り込んでよ?
 スラスターをニ方向へ、右腰スラスターを右後方に最大出力で吹かしつつ、他のスラスターで微調整。
 そうすると"左前方に進みながら機体の向きが変わる"。ようするに相手中心の円運動ね。
 ガン○ムバトル系のゲームがロックすると相手の方向いて同心円移動するから感覚的に楽なんだコレが。

 あとはスラスター角度と噴射出力で回転径と速度を調節してやれば…
 3パターンくらい先に用意しといて選択すらかなり高軌道が得られるかも?
 機動中に上下ブースト掛ければかなりランダムな動きが出来そうだ。


「アッー!!」


ドグチアッ!


 要撃級の後頭部にカチ込んだ吹雪の左拳は見事に致命傷を与えた…が。
 鳴り響く警告。左腕マニュピレーター全損。まぁ殴りつけりゃ指なんて一発で壊れるよなー。

「だからこれからの時代指じゃなくて爪だろうが常識的に考えて…砲なんて内臓にしちゃえばいいんだよな。アッガイの時代きたこれ!」

 そのまま次の要撃級に踊りかかり警告を無視して左手でブン殴る。まぁ指壊れてても殴れるしね。
 ジョルジュ長岡よろしく「アッガイ!アッガイ!」と呟きながら良いペースで殴り殺す。

 お、この回り込みってちょっと三次元にすれば突撃級にも有効じゃね?
 途中で横から周り込むだけじゃなくて、角度を付けて斜めから回り込む事もできる事に気付いた。
 これもやっぱりガンダムバトルク○ニクルの宇宙ステージの発想。ガンダムすげぇ。 


「左腕パージ!」

 ついに左は肘関節までイカレたんで肘から切り離してみた。

 関節に設置された小型の爆薬が点火し、装甲が剥離して腕がメンテモードに入り接続が緩む。
 流石にボタン弄っただけで完全に外れはしないので、右腕で左手釘を掴んで無理矢理パージする。(千切るとも言う)
 軽くなるつってもバランス崩れるから本当は使えなくなっても取らない方がいいんだけどねー。
 バランサーがどこまで補正してくれるのか知りたかった。
 ただ単にパージしてみたかっただけなのは秘密。

「姿形どうが変わろうとも関係なし!我が身は必勝の手段なり!」

 だが残った右で殴ったらそっちも直ぐ壊れちまうだろう。 
 だけどホラ、武器なら今できたじゃない。右手の中に。


「うおおおおお!」

 右手でちぎった左手を掴み直し、それで要撃級に殴りかかる。
 市街地演習で、俺と握手!

「俺はぁー!!生きる!!」

ドガァン!

 関節が悲鳴を上げんばかりの勢いで要撃級の頭にフルスイングしたら頭が千切れて飛んでった。ワロス。


「生きて!」


 さらにその勢いで右腕を振り上げ、


「生きて…冥夜と添い遂げる!」


 冥夜派の俺は叫びながら別の要撃級の頭に全力で振り下ろす。
 でもこっちの世界ルートだとウェディングドレス無いんだよな
 …無印プレイしてない身としては死ぬ前に見てみたい。
 結婚式には呼んでくれねーかなー。

ベキャッ

 Oh,Shit!シロー隊長、やっぱ腕は鈍器に向いてないよ…どうやら全力を出しすぎたらしい。
 元々キワミでガタガタだった究極鈍器エスカリボルグこと元左腕が手首から千切れやがった。


「ジーザス!ファッキンガム宮殿!」

 しょうがないので決闘を申し込む貴族の手袋投げよろしく俺は手元に残った左手の残骸を突撃級にペチン!と投げつけスラスターで距離を開く。

 そろそろマジで詰んできたな、推進剤ももう切れそうだし…光線級片付けてみるか。
 低空を跳ねる様に移動しつつ接敵し、踏み潰す。
 重光線級にしようかなと最初は思ったんだけど、それだとインターバル長いしね。
 もう一匹はちょうどマップの反対側。噴射持つかな?
 空中で推進剤切れた日には鴨討ちも良いところだからナー。

「28…27…推進剤持つか?!」

 うん、大好きなんだ、08小隊。アレは名作だよ。是非見て欲しい。
 今は無き「ゆっくり動くモビルスーツの美」ってヤツが見れるしね。 
 画面が一瞬光った後相手のMSの手足が切断済みなんて認めないよボカァ。


「このまま!」

 辿り着く直前で推進剤が切れてしまったが、もう光線級は目の前。
 相手もインターバルが空けて初期照射の警告がコックピットに鳴り響いている。
 つっても推進剤無いし今更避けられないのでカンフーキックの姿勢で突っ込む。


「間に合えぇぇええええ!」

 くそっ…フルバーニアンなら!

メメタァ!

 結論から言うとほんのチョット光線級の方が先だった。ほとんど同時だけどね。
 でもビームじゃなくてレーザーは光学兵器だから、当たってから加熱して装甲が解ける前というか装甲の温度が上ったかな位の刹那の時間差で俺のケリでデュクシしてやった。
 まぁほとんど同時だったからケリを入れる瞬間ピカッと光ったように見えただけだったけど。
 そのまんまの体勢でマトリックス着地ですね、わかります。

「残った戦力は…孤拳ただ一つ…ブチ極(き)める!」

 覚悟完了した俺は「残った右がやけに熱いぜ!」とか叫びながらBETAの大群の中に走って突っ込んでいった。
 推進剤が無かったので右腕も壊れ、右足がケリで壊れた時点で行動不能で即アボン。

「しっかしこれは…面白いな」

 そう、不謹慎だが面白い。本当に面白い。
 思わず素で「くっくっくっ」とか笑っちまった。俺きめぇ。
 今までアーマードコ○とかガン○ムバトル系とかエース○ンバットとかイロイロやったけど比較にならない。
 ゲームとして面白いとかじゃなくて体の奥から湧き出るような喜び?みたいのがある。
 まるで生まれて来て今初めて呼吸をしたかのような爽快感。
 そして光を失ったモニターを眺めてると湧き出る寂しさ、喪失感。

 待ってろ!今再設定して光を取り戻してやる!
 この時俺は、戦術機そのものに恋し始めていた事に、まだ気付いていなかった。

 それにしても俺も白銀、過去の白銀も白銀、でも俺と過去の白銀は違うってのは紛らわしいな。
 前の白銀には何か名前考えるか…俺のを変えるわけにもいかなしいな。
 とりあえずシロガネオリジナルでいっか。
 そして俺に受け継がれる魂もシロガネオリジナル。
 何故なら俺もまた、特別な子供だからです。

 そうだ、サブタイトルは『受け継がれる魂』なんて中二病っぽくていいんじゃないだろうか。
 って何のサブタイトルだ?シラネ。



---A-01専用シミュレータ室----

「「嘘…」」

 流石は神宮司一家といった所だろうか、白銀と月詠中尉の模擬戦を見て洩れた言葉は同一。
 ぽかんと開いた口元まで一緒なのはご愛嬌だ。

 普段A-01が専用に使っているこのシミュレータルームには香月博士、伊隅大尉に神宮司軍曹、オペレータにピアティフ中尉、そしてシミュレータの中に白銀と月詠中尉が入っていた。

「あー!しまった!月詠中尉!もっかいやりましょ!ね?もっかい!まだ三次元機動の真価はこんなモンじゃ…」

「いや…貴様の実力はようく判った。その上全力を出していなかっただと?ふざけおって」

 ストレスの発散をしたかった月詠中尉は余計ストレスを溜め込んでしまったらしい。
 こりゃ明日あたり荒れるな。3馬鹿、スマン。

 や、勿論勝ったんだけどね。
 さっきの独りで特訓してる時に思いついた同心円機動を不知火の全速で行ったら白銀本来の機動を見せる前に終わってしまった。







 モニターで見ていた4人も驚愕の色を隠せない。

 お互い機体は不知火。
 横方向へのランダムな移動を繰り返しながらまるで落雷のような勢いと軌道で接近。
 武器性能の射撃有効範囲ではなく、経験からの"月詠中尉の射撃有効範囲"に入ろうとした瞬間、横方向の機動に加え、ランダムな縦方向の機動を白銀は追加した。

 吹雪とは比べ物にならないその速度と身軽さと切り返しの前に月詠機の射撃はついにその影を打ち抜くに留まり、まるで月詠機を目とした台風の如く白銀機は両腕から銃弾を巻きつつさらに距離を詰め、最終的に月詠機が接近戦に持ち込もうとしたその瞬間、撃破された。
 強いて言えば横方向の機動が余りに早かったため、急に追加された縦方向に咄嗟に対応しきれず中距離までの接近を許してしまったのが直接の敗因だろうか。


 まるで月詠中尉が素人に見える程の一戦。だが月詠中尉とて赤を背負う斯衛。弱い筈も無い。
 油断も慢心も無かった筈だが、それを圧倒する不知火のあの機動。
 確かにスペック数値上は可能かもしれないが、そもそもあんな速度で動いて中のパイロットが無事で済む訳が無い。
 よしんば耐えられたとしても激しい揺れとランダムな方向に掛かる大Gで繊細な操作など出来る筈は無い。
 特に切り返し時に掛かるG等、いつ気絶してもおかしくない数値がモニターに出ている。

 だが白銀はそれをあっさりこなして見せた。
 その上終了直後に筐体から飛び出し、月詠中尉に手の平を合わせて再戦を懇願している姿を見るに、本人にダメージは全くと言って良いほど無いらしい。
 本当に人間か?。
 それが横で見ていた4人の正直な感想だった。




----シミュレータ操作盤前----


「それにしても不知火より頑丈な人間が居るなんてねぇ?見てごらんなさいまりも、脚部の関節に掛かった圧力分布図なんてスゴイわよ?」

 そう言って香月博士が画面に出した不知火の膝関節のグラフィックには、マーブリングのような模様が描かれていた。
 そしてその模様の殆どの色を占めるのは赤、もしくはオレンジ。

「人間で言うと両足の靭帯断裂寸前と関節の軟骨磨耗。下手すりゃ一生歩けないわね。腰なんかヒドイもんよ?耐え切れなくてフレームが変形してる…このパーツがここまで歪んだのなんて初めて見るわ」

「そんな…たった一戦で?」
「これは…」

「そう、彼はたった数分間で機体をここまで壊したのよ。安全装置がちゃんと動作してたのか疑問に思うわね…解除してたとしてたら何で生きてるのかの方が疑問になるけど。伊隅、アンタ外的ダメージを与えず戦術機の内側をここまで壊せる?」

 無理だろう、コレは。常識の範疇を超えすぎている。
 伊隅大尉と神宮司軍曹の顔からそれはありありと覗えた。

「ま、少なくともこれでアイツがあの歳でありえない能力を持ってる事だけは証明されたわね。XM3も明日にはある程度バグを取っておくから、そうしたらアナタ達二人もテストに参加しなさい。完成し次第A-01に実装してあげる」

 白銀の教官付きでね、と話すとコンソール付属のマイクと口頭で白銀と月詠中尉に伝える。

「じゃあこれから新OS『XM3』の評価テストに入るわ、白銀機を新OSに切り替えるから今まで作ってきたOSとコンセプトに大きな違いが無いか、月詠中尉はXM3の有効性の評価をして。ピアティフ?管制よろしく。二人はモニターでチェック、いいわね?」

「「「「「了解」」」」」





30分後


「覚悟しろ」

「わ、ちょっと待って下さい!待ってくださいってば!左脚の駆動命令系にフリーズが!ぎゃぁああああああ!」

「…ふぅ」



 その時の白銀機の筐体は、もしかしたら先ほど月詠中尉を翻弄していた時より揺れていたかもしれない。
 後に外から見ていたピアティフ中尉はそう語ったという。

 
「発生時間2045、両腕長刀装備での着地キャンセル時フリーズ…っと、白銀、今日はこんなもんでいいわ、月詠中尉もご苦労様。上ってちょうだい」

 …ヒドイ目に会った。
 動作系の改修をしたOSなんで兎に角バグが出ると即フリーズしたりあらぬ挙動をしたりするのだが、その度に月詠中尉はコックピットを狙ってしかも打撃で攻撃を仕掛けてきたのだ。

 いくらなんでも直線200メートルも助走付けてドロップキックはねーだろ常識的に考えて…首いてぇ。

「ご愁傷様。で、お二人の衛士から見てどうなの?新OSの方は」

「どうもなにも、そうでしょう?神宮司教官」

「えぇ、このOSなら確かに今までの常識が崩れるわね。明日のテストが楽しみだわ」

 うえっ、だから二人して殺気込めてこっち見んなwwww勘弁して下さい。怖くてたまりません。

「昨日の話の通り斯衛への配布も確約してもらえるのですね?」

「勿論よ、といっても最初は横浜基地にある武御雷だけだけどね」

「いえ、初期はそれで十分でしょう。先ずは我等が使いこなさねばなりませんから」

「ピアティフと社も使ってOS自体は明日の夜までに形にしとくわ。あ、白銀以外はログ転送が終わったら伝達事項があるからちょっと残りなさい。じゃ、そーゆーことでー」

「了解です。あ、神宮司軍曹!」

「何?白銀」

 このメンバーで居る時はある程度は階級を気にしないで話す。というのも昨日決めたルールの一つだ。
 香月博士がそういう性格だったり、俺がこんな立場なのに階級が訓練兵だってのもあるけど、何よりこれからはどんな些細な情報でも口に出して共有した方がいいって考えでまとまったからだ。
 因果導体とか決戦存在とかけったいな存在になった俺が居るだけで、幸運スキルで周りから有益な情報がポロッと出る可能性もあるし、何かのきっかけで新しい策が浮かぶかもしれない。
 横浜基地副司令に近衛中尉、特殊部隊隊長に元富士教導隊。
 これだけバラエティーに飛んでいれば、色々な視点から物事を見られるだろうって事だな。
 だからちょっとした事でも口にしやすいように、普段からこのメンバーの時は多少は砕けた口調で話すように努力するって事になった。
 さっき伊隅大尉が神宮司軍曹を「教官」って言ったのもそこから来てる。
 さすがに神宮司軍曹の教え子としては大尉と軍曹でもタメ語は無理らしい。まぁ昔スパルタだったって言うしな。


「実は今日互いの呼び方についてこんなホラを吹きまして…」

「へぇ…、あの御剣が下の名前で呼ばれるなんて、また随分上手い嘘を付いたものね?」

「えぇ、まぁその辺は俺自身グッジョブとか思ってるんですが、出来ればそういう話が出たときには合わせてもらえると…あともうちょっとイロイロショック療法を試したいと思ってるんで効果が見込めたら…」

「そうね、チームワーク以外は水準を大きく超えているから、それさえ解決できれば」


 鎧衣が退院し次第総合演習を前倒しできる。

 XM3のお披露目に向け、ひいてはハイヴ陥落を考えるとなるべく早いうちに彼女らを衛士にしてあげたい。
 総合の合格基準は帝国から圧力が掛かって吊りあがるが、逆にそれさえ超えてしまえば何とかなる。
 新OSのテストパイロットって事で「前線には出しませんから安心してね」と帝国側には建前を立てておき、お披露目で一気にヒーロー化して後は強引に…って方向でいくつもりだ。
 細かい内容も一応検討してある。
 00ユニットについても稼動に向けて準備が始まっているので、A-01も名前を非公式にする必要は無い。

 ちなみに伊隅大尉に「コレで活躍が幼馴染の人にもちゃんと伝わるようになりますね」って言ったらグーで殴られた。 

「じゃあ俺は行きます。お疲れ様でした、神宮司軍曹」

「お疲れ様。でもそういえば砕けた口調で~って言い出した割りに、私と伊隅には苗字階級付きなのね」

 振り返って走り出そうとした瞬間追加で神宮司軍曹から疑問が投げかけられる。
 俺が神宮司軍曹を軍曹と呼ぶ理由?決まってる。

「それは…階級とか立場とか、そんなの抜きに一人の人間として尊敬してるからです。500年生きても、大佐よりもっと出世した事があっても、どんな勲章を貰っても、誰よりBETAを殺してもそれは変わりません。神宮司軍曹と伊隅大尉なくて今の俺はありえません」

 そうだとも、白銀がいっぱしの衛士になれたのも、男として強くなれたのも、500年ものループに耐えられたのも、全部誇るべき人が居たからだ。
 それはループを重ねても、いや、重ねるたびに強くなる。

「だからってそんなに畏まらなくていいわ、白銀。アナタは別の世界で学校の先生になれた私の存在を教えてくれた。そしてBETAの居る世界で戦い続けて、今私がいるこの世界に来てくれた。ループはアナタが望んだ事じゃないかもしれない、けど、それでもアナタは戦う事を選んでくれたわ。だから私も一緒に戦おうって思った。だから、今は同じ目線に居て欲しいのよ」

 いくら元が優しい性格だからといって、軍に身を置いていた"ここの"神宮司軍曹からすれば有りえない口調だ。
 それだけ俺に気を使ってくれたんだろうか。
 これに答えなかったら男じゃないだろう。
 しかし、この呼び方は予想していまい!喰らえ!
 トラップカード発動!ちゃーちゃららーらららー


「わかりました…あ、いや、わかったよ、まりもたん」

「これからもよろしくね、白銀」


 やべぇ!流された!
 じゃあ俺これからも香月博士の前で「まりもたん」って呼ばなきゃいけないのか?
 大丈夫か?いや大丈夫じゃないだろう。俺の脳が先にダメになる気がする。

 訂正しよう、今を逃したらもう修正が効かなくなってしまう。
 まりもさん?神宮司?じんぐーさん?まりも軍曹?


「すいません、やっぱまりも先生で」

「じゃあ生徒白銀君?明日も早いんだから、さっさと寝なさい」

「はーい先生」

 今度こそ俺は振り向かずに出口までダッシュした。

「まりも先生…か。なんか本当に先生になったみたいね。ありがとう、白銀」

「まりもー!早く来なさーい」

「はいはい今行くわよー」

 先生発言で神宮司軍曹は気付いていなかった。
 管制室からこちらを呼ぶ香月博士の顔に、「今世紀最高のギャグを開発したような笑顔」が張り付いて居た事に。




[4170] OversSystem 05 <独白と誓い>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/09/23 02:01
----脳みそるーむ。----


プシュッ

 こっちに来てまだ二日目、バタバタしてしまうのは仕方が無いが、俺はそろそろ社に挨拶をせねばと脳髄シリンダールームへやってきた。

 確かにこれは…ヒドイな…クソッ、BETAの野郎…

 脳と脊髄を生で見るのが初めてってのもあるが、そんな状態にされた鑑の不幸と絶望を考えると胸が痛む。
 まぁそれに俺の中にも入ってるしな、脳と脊髄。
 そのシリンダーに向かってこちらに背を向けているのは社か。
 うん、似合うぜ、ウサミミ。
 声を掛けちゃまずいような雰囲気だったので、恐らく鑑との会話が終わるまで黙って待っていた。

「初めまして、って言った方がいいよな?白銀、白銀武だ。よろしく。」

  方膝を着き、こちらを向いた社と同じ目線にして俺は自己紹介をした。


「………」

 社が無言なのは想定してたが、様子が何かおかしい。
 耳はピコン!と天井に伸び、表情もどことなく…緊張か?してるみたいだ。
 これでちょっと恥ずかしそうにしてたらフラグ?とか思うのだが、残念ながらそうじゃないらしい。


「………」

 よろしい、ならば沈黙だ。
 こちらも黙って社を見る。
 しっかし本当にかわいいなぁ社は。
 ついつい目尻が緩んでしまうのはしかたないだろう。
 何を隠そう俺はルートは無くても社派でもあるのだ。

「…社霞です」

 
 待つ事3分。ウルトラマンはサヨウナラだが霞はこんにちはをしてくれた。
 ならば俺も次の段階に進まねば成るまい。
 俺は可能な限りゆっくりと、野良猫にエサを上げようとする独り暮らしの寂しいOLの気分で立ち上がると、同じようにゆっくりと霞に近づいた。
 やる事は決まってる。

「じゃあ、初めましての握手だ、社」

「?」

 警戒心を抱かせないように手を伸ばしても触れない距離で立ち止まり、右手を差し出す。
 …が、社は握手を知らないらしい。

「こうやるんだよ」

 そう言って社の右手を掴んで握手させてやる。

「純夏といつも会話してくれてありがとうな」

「!」

 またピコン!と耳が動く。
 アレどういう仕組みになってんだろう。
 バッファイト素子だっけ?あれって精神感応でまさか動くのか?
 ファンネル作れねーかな。無理か。
 でもあのハマーンが幼少時萌えキャラだったと知った時の衝撃っつったら。
 あ、だめだ。やっぱ無し。霞にはこのまま真っ直ぐ育って欲しい。

「ちょっとおてんばなヤツだけどさ、いいヤツなんだ。だから純夏があそこから出たら…友達になって上げてくれないか?アイツもきっと社の事が好きだと思うからさ」

「…はい…それと、霞でいいです」

「あぁ、わかった。霞。ありがとうな」

 俺もタケルとか好きなように呼んでくれ、と言いながら頭を撫でてやる。
 髪がサラサラしてて触ってて気持ちいいな。っとそうだ、本題を伝えないと。
 俺は名残惜しそうに頭を撫でるのをやめ、もう一度膝を着いて目線を合わす。

「俺が平行世界をループしてるのは知ってるよね?」

「…はい…聞いていました…」

 ん?聞いてた?そこは「知ってます」じゃないのか?まぁいいや伝わってるなら。
 とりあえず本題に移ろう。
 俺はつとめて真面目な顔で話し始めた。

「でだ、霞。会っていきなりこういうのを言うのは失礼だろうとは判ってるんだけど、聞いて欲しい」

「…はい」

 んー、また霞が緊張してる。
 まぁ真面目な雰囲気だからしょうがないか。

「霞には、霞の人生を、霞だけの人生を生きて欲しいんだ」

「?」

 首を傾げる仕草も可愛いが、意味がわからないみたいだ。
 まぁ俺も話の途中だしな。

「人生ってのは思い出を作りながら生きていく事だと思うんだ。だから霞には霞だけの人生、霞だけの思い出を作って欲しい、俺も協力するからさ」

「…思い…出…私だけの」

「例えばそうだなー、霞絵をたまに描くじゃん?好きかどうかは俺はよく知らないけどさ、正門の所の桜とか俺と一緒に描いたらそれはこの世界で俺と霞だけの思い出になるんだよ」

 そう、作れるんだ。作り方さえ知れば、何時だって思い出は作れる。
 目を見開き驚愕する霞。ウサミミは天を突かんばかりに直立している。
 怒髪天を突く、ではなく兎耳天を突くってところか。
 口を開いて何か喋ろうとしたが、言葉が出ないみたいだ。
 あ、とかう、とかそんな意味のない言葉を呟いたと思ったら顔を赤くして口を閉じてうつむいてしまった。

「まぁ俺は絵がヘタクソだからその辺は期待されても困るけどな。一緒に練習とかできたらいいなって思う。これは霞のためだけじゃなくて、俺もやりたいと思ってるんだ。俺にとっても思い出になるから」

 霞はさらにビックリしたみたいだ。本物のウサギみたいに目を見開いている。
 真っ赤になったり目を見開いてみたり今日の霞は忙しいな。


「はい…思い出…作りたいです」

 よかった。他のループで知ってる所に行き成り踏み込んだから拒絶されるかもと薄々ビビッてたけど…
 そういや霞はリーディングが使えるんだから俺が本気で気遣ってるのは伝わったのかな?

「よしよし、あぁそうだ。俺が学生の時美術の先生に教わったんだけどさ-----」

 そして俺は高校時代に、シロガネオリジナルじゃなくて"俺"が教わった絵の練習方法を教えた。

「---になっちまうからな、今度二人で練習してみようぜ」

 あれ?
 俺の話の途中からちょと俯いてたとは思ったけど…

「…うっく……うっ」

 泣いてる?
 やべっ、まさか絵の練習方法なんて話したから「絵が下手」って思われてると思ったのか?
 いやそんな事はないけど…深層心理まで読まれたらちょっとはそう思ってる事が…
 いやいやそれでもいきなり泣きはしないだろう。
 泣いた霞をあやす方法がわからず、というか悲しくて泣いてるなら抱きしめるとか選択肢もあるんだけど、絵がヘタなのを指摘されて泣いてるなら逆効果だろう。
 どうしたもんかとオロオロしていたら霞が急に顔を上げた…
 まずい、マジ泣きだ。
 霞の頬をぽろぽろと伝う涙が…

「辛いこと、いっぱいあったんですね…」

 キレイだと思った。
 ほら、3次元だとさ、目尻から涙なんて流れないんだよ。
 目頭から流れるんだよな。そんで鼻筋とか口とかを通ってぶっちゃけ見てられないんだよ泣き顔なんて。
 でも目の前にいる霞は違った。
 目尻に溜まった宝石のような涙が、瞬きする度に長い睫毛に押し出されて頬を伝う。
 そしてその宝石は顎から地面へとはたはたと落ちるのだ。
 思わず見惚れた。
 今まで何かをキレイだと思って見惚れた事があっただろうか?
 あったかもしれない…が、断言できる。今俺の目の前にある光景は、俺が今まで見てきた中の何より最も美しいと。
 そして言われて気付いた。
 なんでこの涙にここまで心惹かれるのか。

「…とっても…グスッ…長かったんですね」

 これは"俺のために"流してくれてる涙だ。
 だからこんなにも美しい。
 しかし何で?
 その疑問に頭を巡らそうとした瞬間、霞に抱き付かれた。
 しがみつくって言った方がいいのか?
 手を回すわけじゃなくて俺の胸の当たりの複を掴んでるから。
 よくわからないが、言葉から察するに今でループしてきた俺に対する涙だったんだろうか。

「俺は大丈夫だよ、まだこうやって笑えるしな」

 そう言って俺は、なるべく優しい笑顔を作る努力をしながら、霞の頭を撫でた。

「大丈夫じゃ…ないです」

 でも俺の言葉は、霞に否定された。
 いや、大丈夫だよ?
 "俺の元の世界"の主観記憶は殆ど消えてるから、ホームシックとか家族に会いたいと思った事もないし。(まーまだ二日目だけど)
 霞は何に泣いてるんだ?

「霞…」

「私…タケルさんと…明るい思い出作ります…明るい色…作ります…っ」

「ああ」

 それから暫く霞は俺の腕の中で泣くと恥ずかしそうに離れて涙をごしごしと拭う。
 そろそろ夜の11時を回る。
 あ、そうか、もしかしてXM3のバグ取りあんのか?
 今日朝まで起きてたみたいだし昼夜逆転してんだろうか。

「今からバグ取りか?」

 コクリ。
 さすがに止める事はできないな。

「霞が手伝ってくれたOSは、きっと世界のためになる。いや、俺がためにしてみせるよ」

 コクリ。
 だからせめて、お前のやってくれる事は無駄にしないと、そう伝えた。
 しかし、出て行くタイミングがわからん。
 
「じゃあ、また明日な、霞」

「…ば…ばいばい」

 これも直接言われると結構傷着くなぁ…

「霞、また会いたい時は、またねっていうんだぜ」

「はい…………またね」

 俺は背を向けながら手を振り、今度こそシリンダールームを出る。






 「タケルさん…私、強くなります」

 閉じたドアに投げた言葉は、白銀に届く事は無かった。







霞サイド

 社霞が最初に白銀武を認識したのは昨日の夕方。
 香月博士に車に詰め込まれて久しぶりに横浜基地の外、その廃墟の中にある一つの廃屋に居る人物をリーディングしろと命令された。
 渡されたのは一対の小型マイクとイヤホン。
 そして廃屋の中に居る人間は「かつてシロガネタケルだった者」を名乗っている事を伝えられる。

 意思がある存在は廃屋にひとり分しか居ない事を話すと、香月博士は伊隅大尉達と廃屋に入って行った。
 そしてリーディングを開始した時、社霞は初めての感覚を味わう事になる。

「見え…ない?」

 内部にいる「シロガネタケル」の思考が見えないのだ。
 いや、全く見えないわけではない。意思は確かに存在する。居場所を感知できるのだから。
 
「…灰色…全部…灰色です」

 彼の心は一色の色で塗り固められていた。
 そこに感情も風景も見えない、ただ何処までも灰色が続く意識。
 ありえない。こんな事はありえない。
 望んで手に入れた力ではないとしても、散っていった姉妹達、その中でトップクラスを誇る自分の能力と経験に掛けて断言できる。
 こんな心はありえない。
 だってどう考えてもその心は完全に停止、つまり既に死んでいるのだから。

 だけど彼は生きている。
 そうだ、博士にこの事実を伝えないと。

「心が…灰色で塗りつぶされています…何も見えません」

 それでもイヤホンからは室内の会話が聞こえてくる。
 その内容も霞の想像を遥かに超える物だった。

 因果導体とループ、オルタネイティブ。
 言っている事は矛盾は無いし、彼の話す内容の中には博士どころか自分にしかしらない内容まで含まれていた。
 それも伝えないと。


「博士…今聞こえた…"俺は純夏の目の前で殺された"というのは…多分事実です」

「…それ本当?」

 イヤホンに小声で帰ってくる博士の声。
 先ほどから聞こえてくるシロガネタケルの話を受けて、自分が読み込んで漠然としか認識できなかった鑑純夏の色の記憶ががおぼろげに頭の中にイメージできるようになった。

「断言は…できませんが」

「そう」

 そしてその夜、博士に寝ている間の白銀武のリーディングを命じられ、彼の部屋に入った。
 結局灰色一色のままリーディングは進展せず、私は朝眠気に負けて布団に倒れこんでしまう。
 昼に起きたら布団が自分に掛かっていたので、恐らく彼が掛けてくれたのだろう。

 彼は優しいのだろうか?それとも気まぐれに掛けてくれたのだろうか?
 本当にループをしてきたなら私の事も友達だと思ってくれているのかもしれないけど…

 怖い。

 今まで自分で嫌っていたリーディングに、如何に自分が頼っていたかを再認識させられる。
 不安でたまらないのだ、極端に好かれていたり嫌われているわけじゃないとわかっていても。
 僅かな感情の揺れを、今彼が何を考えているかわからないのが怖い。

 起きた私は地下に戻り、この基地の全ての彼を写す監視カメラで彼を観察し続けた。

 「…変」

 おかしい、彼は確かにおかしかった。

 時と場合に於いて性格が変わりすぎるのだ。
 上官と仲間で接し方を使い分けるとかそんなレベルじゃない。
 完全に人格が入れ替わっている様に見える。
 彼は私にとって、完全に未知の存在だった。

 そしてさっき。
 彼は私を、いや純夏さんと私を尋ねてきた。
「初めまして」
 挨拶をしてくれた。
 この時改めて思い知る。怖いのだ。
 会った人にはほぼ無条件反射で気付かない内に表層をリーディングしていたようなのだけど、それが効かない。
 どうしよう…と時間だけが過ぎてゆく中で、彼は微笑んでくれた。
 何かそれだけで救われたような、安心してしまうような、"この人は私を守ってくれる"という気がした。

「…社霞です」

 なんとか名乗る事ができた。
 そして彼は握手のし方を教えてくれて、純夏さんの友達になってくれと言ってくれた。
 私だってそうなりたいと思う。
 そしてさらに彼は…タケルさんは私を驚かせてくれる。

 私だけの人生を生きて欲しい、私だけの思い出を作って欲しい、一緒に作ってくれる。
 今までそんな事夢にも思わなかった。
 そもそも思い出は自分には作り出せない物、リーディングとプロジェクションとの引き換えで失った機能だと思っていた。

 それが作れる?
 それもタケルさんが居ればいとも簡単に作れてしまうようだ。
 なんという事だろう。
 この人は昨日突然奇跡のように現れて、今目の前でまた奇跡を起こしてくれたのだ。
 お礼を言いたい。一緒に作りたいって言いたい。
 でもあまりに想いが強すぎて、開いた口からは声にならないうめきのような物が出て行くだけ。
 それでも彼は言ってくれた。

 「俺にとっても思い出になる」

 じゃあ私は思い出を作ってもらいながら、同時に彼に思い出をプレゼントできるのだろうか。
 そんな素敵な方法がこの世界に存在するなんて、彼が居なかったら私は一生気付けなかっただろう。
 私にとって、タケルさんは魔法使いなのかもしれない。

「はい…思い出…作りたいです」

 ようやくそれだけ言えた。
 そしてそれを聞いた彼は…とても嬉しそうな、救われたような顔をしてくれた。

 あぁ、そうか。
 これも思い出なんだ。
 社霞と白銀武が出会ったという一つの始まりの思い出。
 さっき奇跡を起こしてくれたばかりなのに、また彼は魔法を掛けてくれた。
 きっとこの人は、こうやって魔法を掛けるようにBETAも倒してしまうに違いない。

「よしよし、あぁそうだ。俺が学生の時美術の先生に教わったんだけどさ-----」

 む、これは聞き逃さないようにしないと。
 なにせこの基地には、いやソ連の研究所にも、"絵の描き方の本"なんて無かったから。

「色を混ぜる練習なんだけど、わざと3種類くらいの色だけで描くといい練習になるらしいんだ」

 たった3種類で?でも空と地面と建物と、それぞれ一色じゃのっぺりした絵になってしまわないだろうか。

「そうだなー、例えば夕焼けって太陽からオレンジの光が出て景色が一面オレンジっぽくなるだろ?それを赤、黄色、肌色だけで描くんだ。少しづつ色を混ぜて新しい色を作って」

 そっか、最初から似たような色につつまれた景色を選べばいいんだ。
 それなら色を混ぜても変な色にはならないし、混ぜたらどのくらい色が変わるかわかる。

「沢山の色を用意するとね、選択肢が増えすぎちゃって結局全部使おうとしちゃうんだよ」


 ざわり。
 その一言がどこか、私の心に引っかかった。
 嫌な予感。
 今まで私に掛かっていた魔法が解けたような、さっきまでの奇跡の残りがが消えてしまう程の予感。
 私に取って色は心。
 沢山の色、全部の色…?

「そんで最終的には全部混ざってぐちゃぐちゃになって、灰色になっちゃうんだよな。そうなっちゃったらもう最後、何塗っても灰色になっちゃうんだよ、不思議と」

「ぁっ!!??」


 気付いた。

 気付いて…しまった。

 そうだったんだ。
 この人の灰色は、灰色一色で塗りつぶしたんじゃなくて…

 明るい色も、暗い色も、赤も黄色も青も緑も何もかも混ざってしまった灰色。
 もう何を足しても変わらない灰色の心。

『---神宮寺軍曹が、戦死しました』『佐渡島と一緒に…』『俺がこの手で…冥夜を…』『また守れなかった』『遺書なんて書かないってアイツら言ってたのに…遺書代わりにラブレターなんて残して逝きやがって…』

 それは彼を包む闇の色。

『生きてくれた』『俺の事好きだって言ってくれたんです』『握った手が温かかった』『俺が泣いたとき背中を押してくれた』『俺は一人じゃなかった』

 それは彼を包む陽の色。

『純夏はBETAに拷問されて…生きたままあの姿にされたんです』『そして…が戦車級に…』『この世界のBETAのクソ共は、残らず駆逐します』

 それは彼を焦がす復讐の炎の中心の色、青。

『そうえば珠瀬外務官といえば神宮寺軍曹、アイツ親父さんに結構めちゃな内容の手紙送ってるんですけど』『えぇ、207の連中で演習相手の斯衛を叩き潰した時のみんなのはしゃぎ様といったら…』

 それは彼を支えた楽しい色、黄色い色。



 復讐にだけ生きればもしかしたら、灰色にはならなかったのかもしれない。
 暗い色が集まればそれは悲しい事だけど、彩りを失ってしまう事は無い。
 それはきっと深海の様な深い藍だったり、全てを溶かすようなマグマの赤だったりしたのかもしれない。

 でも彼はそうならなかった。

 理由は簡単。

 彼がループした全ての世界を愛したから。

 何度失っても、失う恐怖を抱えても、それでも今度こそはと守ろうとして、愛した。

 その結果が、その報酬が彼のあの何も感じさせない灰色なら、あぁ神様。

 それはあんまりじゃありませんか。

 それはあまりに悲しすぎる。 

 だめ、気づいたらもう涙が流れてて…止められない。

「辛いこと、いっぱいあったんですね…」

 じゃあ私に出来る事って何だろう?
 私のリーディングは彼には通用しない。

 でもリーディングのお陰で、彼の灰色の心に気づけた。

「…とっても…グスッ…長かったんですね」

 じゃあ気づいた私にできることは?

 違う、私は彼に何をしてあげたいの?



「俺は大丈夫だよ、まだこうやって笑えるしな」


 そんなの全然大丈夫じゃない。

 昨日からずっとモニターしている最中彼の性格がコロコロ変わる理由も解った。

 あれは人間らしさを失った彼が…
 周りの反応を真似したり、昔の記憶にある人物の真似をして、ようやく人間っぽく見えるように振舞ってるだけなんだ。

 だから妙に落ち着かなくて、きっと掴み所というのが無いんだろう。

 感情なんてとっくに全部無くなった彼が周りと人間関係を作るために仮面を被ってるなんて…それに比べて、私にが今まで人間関係で抱えていた悩みは、なんてちっぽけなんだろう。
 自分の能力のせいにしてただ悲観して、何の努力もしてこなかった…

 能力なんて関係無い、私は今を生きているのに。


「大丈夫じゃ…ないです」



 そうだ、今さっき教えてもらったじゃないか。

 思い出は、私からもプレゼントできる。

 彼の心が一面灰色なら、その上から思いっきり明るい色を塗りつけてみせる。
 灰色は変えられなくても、少しでも白に近い灰色にしてみせる。

 だから私も誓います、神でも自分にでもない、他の誰でもない貴方に誓います。

 今度はタケルさん。私が、タケルさん。今度は私がタケルさんを守る番です。

 私が貴方を守ります。

 貴方の心を守ります。

 貴方がそれを知らなくてもかまいません。

 私は今まで、こんなにも強く何かをしたいと願ったことはありません。

 こんな強い想いを、願いを私の中から生まれさせてくれた事、それすらも貴方に感謝します。

 だからタケルさん。


「私…タケルさんと…明るい思い出作ります…明るい色…作ります…っ」

「ああ」


 貴方の背中に誓います。

 もう迷わない。

 私にとっての"本物"を見つけたから。

 失いたくない、ううん、それだけじゃない。

 傍に居たい、その痛みを和らげてあげたい。

 貴方が嵐の中を一人歩くなら、そして共に歩く事も許されないのなら、私は例えひと時でも、貴方を包む外套になろう。

 貴方を暖めて、風を遮る一枚の外套になろう。

 それこそが私の望む唯一の報酬。

 もう他に何も要らない。

 そう、もう私は決めてしまったのだ。


 「タケルさん…私、強くなります」


 貴方の心を守るために。

 何もかも灰色に染め上げてしまった、やさしい魔法使いさんのために。





 私は私の全てを奉げよう。










 overs_system/Muv-Luv/SS/Shibamura/20080912_Kasumi_pm3.log

 view 20080912_Kasumi.log


 本編に存在しない新ルート"霞、出撃す"が開かれました。
 ルート変更に伴い社霞のパーソナルパラメータに変更が発生します....
 複座型タイプへのパラメータの変更が終了しました。

 RUN.

「これで脳内霞が光臨して好き放題できるぜ!ヒャッハー!」

 どこかの世界にあるワールドゲートを前に、そんな事を叫んだ男がいたとかいなかったとか。
 仕事しろ。





----同刻 A-01シミュレータるーむ。----


「まりもー!早く来なさーい」

 一連のテストのログを自分の執務室に送ってピアティフに整理を命じ、私はシミュレータルームに残ったメンバーを集めた。
 先ほど見つけた"ちょっと面白いもの"を皆で観賞するために。

「伝達事項っていうのはね、ウ・ソ。そのかわりちょっと面白いものを見せてあげるわ」

 そう言って私は一般用シミュレータからあるログを転送する。

「白銀は此処に来る前に一人でシミュレータに入ってたのよ、これはそのログ」

 白銀が単独で操作しているログと聞けば、伊隅やまりも、そして月詠が興味を持たない訳が無い。
 それに先ほどあれだけ驚かせてくれたのだ、まりも達はさぞ今回も愉快な反応を見せてくれるだろう。




『貴様の行為を侵略行為と断定する!当方に迎撃の用意あり!』

『次は飛ばないとな…っと!うおっ…なんだ初期照射か、こえーなオイ』

『イケルな…』

『500年間反復して体に染み込んだ殺しの技…か、業だな』

『突撃級は上空をフライパスっと…うわぁっ!』

『くっそ、マッチングがまだまだイマイチだな』

『まだだ!たかがメインカメラをやられただけだ!』

『またつまらぬ物を…斬ってしまった』

『不甲斐無いぞ貴様ら!斬られるだけなら犬でも出来る!斬って来い!突いて来い!骨のあるヤツ出て来い!』



 結論から言おう。このログは安易に再生すべきでは無かった。
 まりも達はまだおそらく気付いて居ないだろうが、私の予想が正しければ白銀は今、危険な状態にある。
 それは後々リカバリーできるからいいが、月詠中尉にそれを気取られるのは拙い。
 確かに白銀の話を聞く限り横浜基地と帝国は早期に協力体制を整えるべきだが、その橋渡し役になる月詠中尉に今の白銀の状態を悟られてはいけない。
 彼女は何より忠義に生きている所がある。故に白銀が揺れれば、今後こちらも彼女を信用し辛くなる。

 次の瞬間には変わっている話し方や、戦術機の操作方法。話し方については、直接会話していても違和感を感じていた。
 国連軍のようでもあり斯衛のようでもる。
 熟練のパイロットかと思えばド素人のようでもあり、兵士ではなく戦士のようでもあり、剣士のようでもある。
 空中で華麗に反転したと思えば、次の瞬間には突撃級に足を取られて転ぶ。

 そしてループを繰り返し統合された彼の存在。

 そして導かれる結論。
 "今回の白銀武は、統合の最中、もしくは統合に失敗している可能性がある"
 彼の知識は確かに役に立つが、人間的に未完成どころか欠陥品だった場合、例えば失敗が許されない場面に置いて戦術機の素人の顔が表にでたら…
 これから先、失敗などひとつも許されない状況が続いていく中で、それはあまりに致命傷だ。
 だがそれはまだこれから先安定させる事ができる。
 00ユニットが平行世界に接続しても尚安定できるように、彼の精神状態を安定させれば、彼はひとつに統合される可能性が高い。
 だからそれまでは、月詠中尉や伊隅には気付かれないようにしなくては…

「何と言ったらいいか…強いのか弱いのかよくわかりませんね」

 ナイスまりも。ここで私の空気を読んでくれるなんて、後で今思い付いたご褒美を上げよう。

「多分…吹雪に慣れてないのね」

「500年乗ってですか?」

「だからよ、彼は最初こそ吹雪に乗るけど、XM3や知識を使ってA-01に即配属して不知火に乗るわ。それ以降も場合によっては新型の戦術機に乗る事も多かったでしょう」

「…つまり従来の機体とOSでの運用期間はそれほど長くないと?」

「短いって事は無いでしょうね、合計で最低数十年は乗っているはず。でも彼の目的を考えるに、それ以上の時間新型に乗っていたんでしょうね」

 伊隅がはっとして口を開く。

「つまり先ほどの"500年戦って染み付いた殺しの技"というのは…」

「ある程度新型じゃないと全力を出せない自分に対する彼流の皮肉かしら?」

 どうやら上手く勝手に勘違いしてくれたようだ
 そしてログの再生は続く。

『二重の極み!』

『あああぁぁぁぁああああ!』

 何かの武術の応用だろうか?
 それにしてもいくら戦術機でも素手でBETAに殴りかかるとは…
 常識的に考えれば数体と刺し違えて終わりだが、白銀はまた常識をひっくり返すのか?
 さぁ見せてみなさい、アンタの規格外っぷりを。


『左腕パージ!』

『姿形どうが変わろうとも関係なし!我が身は必勝の手段なり!』


「ぶっ」

 思わず吹いてしまった。
 武器がなくなったからといってまさか壊れた腕をその場で引き千切って武器にするようなバカがこの地球上に存在するとは。
 伊隅なんて完全に固まっている。


『俺はぁー!!生きる!!』


 …まただ、今度は生存願望が強く出て来た。
 やはりコイツの状態は予断を許さな…


『生きて…冥夜と添い遂げる!』


 なんかもう、私の中で、緊張とか、帝国との信頼関係とか、ループとか統合とか、何もかも崩れ去ってしまった。
 それはもうキレイサッパリ。


「ぷっ…くくっ…あははははははははははははは!」


 何やってんのコイツ?人が真剣に悩んでやってるというのに、何シミュレータ相手にプロポーズしてるワケ?
 私って何なの?何か全てが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
 いや一番の馬鹿はコイツだ。
 断言しよう、コイツは平行世界イチの馬鹿だ。

「そっ…添い遂げるって…あーはっはっはっ!コ…何言ってんのコイツ…だめだめ我慢できないっくふっうふふふあはははははっ!」

 笑っている間にも白銀は戦闘を続け、遂に『ファッキン!』とか叫びながら左手をぺちん!と突撃級に投げつけてくれやがった。
 これは私を笑い殺す壮大な作戦だったのだろうか。



 ひとしきり笑いの発作が終わった時には既にログの再生は終わっていた。
 月詠中尉が今までに見たことの無い表情をしているが、この件について白銀がどんな目に会おうと死なない限り私は関与しないと先ほど笑いながら決めたので無視する。

「何か気付いた事ある?」

「はっ、先ほど戦闘中にあった[アッガイ]という概念についてなのですが…」

 流石伊隅はやれば出来る子だけある。私の空気を読んで先ほどのプロポーズを無視できるとは、まさに私が求めるA-01の中隊長だ。

「腕に爪を着け砲を内臓…という概念は昨日の説明ではありませんでしたが…」

「あぁアレね、到底実現不可能な内容だしちょっと思いついて言ってみたんでしょ、ちょっと考えれば解るわよ」

 そう、確かに戦術機のマニュピレータ、つまり指は壊れやすい。
 だがだからといって指を捨てたら人型の強みである「人間と同じ概念の武装運用が可能」という絶対的なアドバンテージが無くなる。
 それにいくら爪の強度が高いとしても、砲なんて腕に内臓した時点で腕全体の強度が致命的に落ちる上、暴発の危険が上がる。
 ようはちょっと頑丈な突撃砲で相手に殴りかかるものなのだから。

「本当に使えそうな物が浮かんだらちゃんとアイツは持ってくるわよ、昨日も追加で…」

「戦術機の装備が提案されたんですか?」

「えぇ、その内シミュレータで試してみて、有効だったら量産するわ」

「はっ!ありがとうございます」

 他には…無いか。ツッコミ所は満載のログだったが、戦術的に見てすぐにどうこうという話しが出るログではなかったし、まだ一度流し見しただけだ。

「じゃ、解散。まりもは一言あるから残って」

 さて、じゃあ先ほど決めて"ご褒美"を差し上げるとしよう。
 しかしあのプロポーズを聞いた後でまりもがどう行動するか、興味がある。
 ピアティフに明日から白銀だけでなくまりもの行動記録もカメラに追わせる設定にさせようかしら。




30分後

----シリンダールーム----


「…そうだったの」

 私の白銀に対する予想が見事に外れている事を、涙ながらに霞に訴えられてしまった。
 ピアティフと先の模擬戦のログを調べ、OSのバグ取りに入ろうとしたが霞が来ない。
 居る場所はここしか考えられなかったので立ち上がるピアティフを制止しここまで来たのだが…
 私の顔を見ると突然号泣しながら今の白銀の状態を伝えてきたのだ。
 霞の号泣等初めて見て驚いたが、その口で伝えられた白銀の情報についてはもっと驚かされた。
 全くアイツはどこまで私を驚かせれば気が済むのか。

「でもそれは私にとっては好都合かもね」

「博士?」

 しかしそんな事私が予想出来てもよかったのだ。
 『シロガネタケルさんの心は灰色です』と事前に霞に言われていたのだから。
 もし統合最中や統合に失敗していれば、『ぐちゃぐちゃです』と言っただろう。
 私も数式入手やここ二日間の情報量の多さに頭の回転が鈍っているのだろうか。

「もし白銀のあの軽い態度が表層だけ物なら、その奥には絶対的に揺るがない精神があるってことでしょう?」

「そう…ですが」

「つまり私は今までもより白銀を信用できるって事。だからそんな顔しないでさっさとバグ取りにかかるわよ。それともまた白銀の部屋に行きたい?」

「はい…行きたいです」

「え?」

 ここ二日間で私は何度「え?」と言っただろう。
 そんなにヤワで軽い精神はしていないと自負していたのだが、正直自惚れていたのかもしれない。

「でも…今はOSを作った方が白銀さんは喜ぶと思います」

 うーん、本人もきぼうしてるし、霞には悪いけど暫く白銀に張り付いてもらおうかしら?
 まりもをけし掛けちゃったからねぇ。今更「アタシの勘違いだったからヤッパなし」なんて言えないし…

「そ、じゃあOSが完成したらアイツは任せるわ。今後やらなきゃいけない事は加速度的に増えるだろうし、サポートが居るでしょう」

「…はい…ありがとうございます。…あと」

「何?」

「ひとつ…お願いがあるのですが」


 ひどく申し訳なさそうにこちらを見る霞。
 それは自分の"お願い"が私にとってマイナス、つまりオルタネイティブ4に対してマイナス要因を持つという事か。

 
「言ってみなさい、アンタの個人的な要望なんて滅多に出ないから、よっぽどの事が無い限り聞いてあげる」

 まさか「衛士になりたい」なんて言葉が出るとは予想だにしなかった。
 訂正しよう。

 私もまだまだのようだ。










同刻
----神宮寺軍曹私室----

「白銀を支えてやって、って言われてもねぇ。夕呼も無茶言うわー」

 先ほどのシミュレータ室での最後のやり取りに、私は頭を悩ます。
 どうにも白銀武は"平行世界の自分との融合"に失敗しているか、まだ融合途中である可能性があるらしい。
 確かに言われてみれば思い返すと不安定な所があるとは思うが…

『アイツのメンタル面、わかり易く言えば心を支えてやって』

「って言われてもさー、恋人じゃないんだから。それに白銀には御剣が…」

 そこまで言って白銀の絶叫プロポーズを思い出す。

(女なら一度はあのくらい必死で愛されてみたいわよね…)

 ん?
 ここまで考えて気付いたけど、自分がためらっているのはあのプロポーズを聞いたから?
 つまり彼が御剣冥夜訓練兵に好意を寄せているのが自分にとってネックになっているからなのか?
 それを理由に彼を支える事を拒否するのは私の個人的な感情ではないか?
 それに複数の人格が混ざっているのなら、"この世界で統合された白銀"が御剣を愛するとは断言できないし…

(もう、何考えてんのよ、私ったら)

 それに今までの彼から直接聞いた話しの限りでは、彼は誰とも結ばれるつもりは無いように思える。
 どうも過去の世界で愛した人に対して遠慮しているような所があった。
 だが逆に言えば、今フリーとも言えるのでは無いだろうか。
 それに他の世界の人は他の世界、ここはここである。

(でも戦術機の腕は確かに良いし、顔も悪く無いわよね、それに世界を本気で救うつもりの人間の鏡…)

「だっダメよ!まりも!相手はぶ、ぶぶぶ部下なんだから!」

 だが彼なら任官してすぐに出世し、大英雄になるだろう。

「だ、だめなんだからー!」





 頬を押さえてイヤンイヤンをする姿を見たら、彼女の友人は何とコメントしただろうか。










------------------------ ネタ帳 -----------------------------

ここから先には次回予告という名のネタばれというか考えているイベントリストが書いてあります。
書くかどうかも解らないネタが転がってます。









内容もある程度考えてある小ネタ集。

アクエリオンを歌っている所を霞に見られ泣かれる。もしくはまりもに見られてフラグが立つ。むしろ両方。※著作権の関係上やっぱなしで。
白銀、霞への愛の創作料理 ~第一級指令 鯖味噌定食から更に何か作れ?無理だろ、常考~
霞、朝のラジオ体操
白銀の絵画教室 ~ね?簡単でしょう?~
霞に菅野洋子を歌わせてみた※著作権の関係上やっぱなしで。
複座型演習、霞の絶対防壁 ~有象無象の区別無く、私の36ミリは逃がしません~
御剣とシグルイごっこ~500年の鍛錬とヒテンミツルギスタイルは、剣士サイサリスの体を捉えられるのか?出来る、出来るのだ。~
御剣がJAMプロジェクトを気に入ったようです ~GONG~※著作権の関係上やっぱなしで。
発進!社霞専用機、大地母神『キュベレイ』~「俗物がっ…です」~
柏木の膝枕 ~御剣「神への祈りは済ませたか?」霞「死にたいんですか?」~
複座型サブパイロット争奪戦勃発 ~貴女たちごときではタケルさんの背中をまかせられません~
戦時アイドル00ユニット鑑純夏 ~アイドルはおならしません~
空気扱い、元207と愉快な仲間達 ~白銀奪還作戦 目標はホワイトラビット~

…まともなネタが一個もねぇ。


一応考え済みの中二設定とかワード

最強の存在とは 白銀のループの本当の理由 2つの決戦存在 絢爛舞踏vs神翼不墜
近衛も帝国も国連も特殊部隊も皆平等に価値が無い 零式防衛術 忠義vs星義(せいぎ)
「なんてこった、敵は全部リボン付きだ…」 XM3は勝って当然。美しくなければ意味がない。
激突!二重の極み 超魔法少女プリンセスカスミ~奥義プリンセスヘッドロック~ 男のロマン武器
誰も自重しない整備班 エッチなのはよくないとおもいます 白銀乳論 昔彼女居たんじゃないか疑惑

あれ?どんどん変な方向に… 

つかコレだけネタあれば普通に最後まで書けそうだなぁ。
あとはラストのオチをどうするかデスネ。
配役とかは結構グッドな設定が浮かんでいるんですが…これから捜索していきたいと思います。


----------------------------------------


霞が大好き過ぎてここで息切れしてしまいました。

霞かわいいよ霞。 

このパートはキモイかもしれませんが自分としても超お気に入りなのでほぼ毎日微妙に加筆してます。



[4170] OversSystem 06 <世界を救うとは死狂いなり>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/10/21 23:13
10月24日(水)[三日目]

----横浜基地 グラウンド----


「ほう、そなた居合いを使うのか」

「なに、抜刀術をさわり程度にな」


 俺の207としての最初の訓練は模擬接近戦、しかも剣術だった。
 もともとはまりも先生、いや今は神宮司軍曹が「白銀の力を計りたいだろうから午前は希望を取る」と言った所、壬姫の射撃訓練を押し切り冥夜の接近戦訓練が採用された。
 「予定外射撃訓練は準備と申請が云々」と行って壬姫をまるめこんでしまったが…さすがカリスマスキルを持つヤツは違うなぁ。
 ちなみに千鶴は座学を押そうとしたが、午後に座学の授業があると知ったら大人しくなり、一方慧は黙ってそんなみんなの様子を見ていた。

 冥夜は鞘から模造刀を抜き放ち正面から正眼の構え。
 俺は抜刀せず左に鞘を掴み、腰を落として抜刀切りの構え。右手は西部のガンマンをイメージして柄を掴むか掴まないかの位置でリラックスさせる。
 互いの距離は10メートル。

(冥夜の剣先…やや熱いか…?)

 正面からやっても多分勝てるが、どうせなら負けても良いので面白い方向にもっていきたい俺は、のっけから最終奥義を使う。


「支店を板に吊るして…」

ダッ

 刀を揺らさないように、さらに地面と平行になるようにしたまま俺は全力で突っ込む。

「ギリギリ太るカレイセット!」

 柄を掴み気を吐いて右足を踏み込む。
 だがまだ半歩遠い。
 
(うお…お…これは確かに…)

 ここからさらに左足を踏み込まねば剣先は相手に届かない。
 しかしその一歩のなんて遠いことか。
 本能が全力で否定する。
 それは危険だと。

(死には…)

 でもコレ模擬戦だし。

(しねぇだろっ)

「アッー!」

「衛(えい)!」


 けたたましくぶつかり合う鋼と鋼。
 確かに俺の放った一撃は…そこ、カレーセットは九頭龍閃だろとか言わない。そう、その天駆龍閃の一撃はそれなりの速度で冥夜に飛んでいった。
 それなりの、というのは、経験上冥夜を打ち倒すのに必要な意味でのそれなりの、だ。


カラン――

 なのでこの結果は少々意外だった。


「そなた今のは海外の剣術か?確かに発想は面白いが、そう易々と無現鬼道流は突破できぬ」


 確かに俺の方が、俺の刀の方が早かったんだが…
 抜刀した俺の刀が刃途中で叩き切られた。
 …これ刃ツブして切れなくしてるよな。
 つまり単純に、技術の差か。
 しかし、俺の"本命"はヒテンミツルギスタイルなんていうギャグマンガじゃない。

「じゃあ手本を見せてくれるのか?」

「武――勇気と無謀は違う。そなた…首が飛ぶぞ?」


 確かに刀を切り落とされた俺と冥夜の間には、明らかな剣術の力の差がある。
 そう言って後ろを向いた冥夜をもう一度振り向かせるのは今までのシロガネオリジナルになら無理かもしれないが。

「おい冥夜、俺の刀はまだ半分残ってるぜ?無現鬼道流ってのは残心も教えないのか?」

 
――ピタリ

 おぉう、今冥夜が立ち止まった瞬間ピタリって擬音が聞えた。

「ほう…そなた」

「次俺に打ち勝ったら冥夜の言う事を一つなんでも聞いてやるよ、ごはんのおかず一品提出から添い寝だろうが何でもな」

 訓練兵としての冥夜とEXとしての冥夜の両方を抑えるこの俺のチョイス。
 とてもシロガネオリジナルには思い付けな…いだ…ろ…あれ?


「吐いた唾は飲めぬぞ、武」


 ドドドドドドドドドド
 そんな擬音が聞えてきそうな剣気…いや殺気か?
 とにかく何か不吉な波動が、目の前の少女から流れ出している。
 ただのヒトがここまでの威圧感を出せるものなのか…

 そうか、シロガネオリジナル、お前は本能的にこの殺気を避けてたんだな…
 やっぱたいしたヤツだよ…お前は。


「だ、だめだ!御剣!」


 そして何故そこでツッコミが入る?まりも先生。


「申し訳ありません神宮司教官。しかし今は一人の武人として、引く訳にはならぬ時もあるとご理解下さい」

「ぶ、武人として戦うのなら、何かを掛けるなどは…」


 だからまりも先生、何かツッコミ所が間違ってはいませんか。


「お言葉ですが教官殿、自分は、いえ、自分達はいつでも、命を掛けているつもりです。この横浜基地の門をくぐった時から。特別扱いは要りませぬ」


 そして冥夜、誰が上手いこと言えっつった。
 しかもなんか回答方向が斜め明後日の方向向いてるぞ。


「御剣!命と貞操は別だ!」


 ――――――まりもさん?

 それは「俺が勝ったら冥夜と寝る」とか言い始めた時に出るセリフだろ?
 冥夜が勝ってもそんな事は言い出さないだろうし。
 とりあえずここで原因不明の修羅場を展開しても時間の無駄…どころじゃねぇ、慧達が白い目でこっちみてやがる。
 そういうわけでこのままだと無駄どころかマイナスになってしまうので、俺はさっさと始めるよう声を掛けたのだ。


「何チンタラやってんだよ冥夜!衛士になる前に戦争が終わっちまうぜ!」

「…! よかろう、すぐ楽にしてやる」

「そうそう楽にこの首が落とせると思うなよ?」

「いや、その首、貰い受ける」

 よし、ようやく対峙まで持ってこれた。
 冥夜は納刀し、抜刀の構え。
 そしてその右手は人差し指と中指の間に掴みこむような、猫科の動物を思わせるような握りで刀に添えられた。
 

 そして俺は――


「武!そなた――」


 刃途中で叩き斬られた刀のまま、右手で祈るような姿勢。
 右手に掴んだ刀は地面と垂直に俺の顔の正面に添えてある。
 左手は、刀の下に添えるように。


「………」


 集中、集中だ。
 あれだけ首首言ったんだ、おそらく首、最低でも上半身に渾身の一撃が来る。
 下半身だったら諦めて死のう。

「…その構え、どういう意図かは解らんがその気迫…本気でやらせてもらうぞ、武」

「来いよ冥夜、お前のその流星で俺の首を落として見せろ」

「知っていたか。いや、最早驚くまい」



 無現鬼道流 秘剣


 ――『星流れ・抜刀』










 御剣冥夜の左から放たれた斬撃は、人間一人の首など容易く切断できる威力を持って…


ザシュゥウウ


(しまった、殺してしまったか――何?!)

 渾身の一撃で放たれた星流れの剣先は、既にヒトの視認速度を越えて白銀に迫った。
 そして指先に伝わる感触は、硬い物を5,6cm切り込んだ感触。
 しかし現実を直視した瞬間、冥夜が見た光景は、今まで一目たりとも見たことの無い――

「な…"茎(なかご)受け"…?」

 見えた時には、冥夜と白銀は刃と刃で結ばれていた。

 白銀は星流れが放たれた瞬間に自身の剣を水平に倒し、刀の柄の先で受けたのだ。
 冥夜の刃は柄頭から"本来左手で握られる部分"を切り裂き、右手の甲の小指側を2mmほど切り裂いて静止していた。
 白銀の左手は、万力のような力強さを持って右手首を支えている。


 茎(なかご)とは刀身の下部、柄に覆われている部分の名称であり、木剣の稽古等で突きを払う際に柄頭を用いる事はあるが…

 超高速の一閃に柄頭を合わせるのは、飛来する弾丸を弾丸で叩き落すに等しき無謀――――

 そう、薄き刃は厚き装甲と化して、死の流星を食い止めたのだ!






「な…ぐぁっ」

 冥夜の剣は切っ先で俺の手元に固定されている。
 つまりテコの原理で簡単に剣をひねり上げる事ができる。

「所詮お前は流れ星」

 そして冥夜の空いた左アバラに

「落ちる運命(さだめ)にあったのさ」

 俺の左の掌底が決まってエンドだった。






----横浜基地、救護室----


「しかし、まさかあんな受け方があったとはな、全く驚かせてくれる」

 俺は今救護室に居る。
 というのも、右手がさっきの"茎受け"で少し切れてしまったからだ。
 まぁ傷は浅いんだけど、血が止まらなかったので包帯だけ巻きに来た…のだが。
 何故か冥夜が「自分が傷着けたから付いていく」と言って制止する神宮司軍曹を振り切り、さらには「救護手当て講習は受けているので自分にやらせて欲しい」と救護室の担当医まではねのけてしまう始末だ。

 そう、俺は今冥夜に包帯を巻いてもらっている。
 くそっ、胸が近いぞ。たゆんたゆん揺れるんじゃない。
 それに俺のてのひらの周りをくるくると回る冥夜の手が…その…たまに触れるのが妙にこう…いいんだよな。(←オナ禁の為、対女性抵抗値がほぼ0までダウン中)
 いいなぁ、こういうの。ずっと続けばいいってヤツ?
 そうか!これが青春か!←絶対何かが間違ってる。


「あの時私は武の喉元ギリギリに剣を走らせるつもりであった。当てる気では無かったので手加減などしなかったのだが…」


 そうだったのか、やけに速いと思ったんだよな。ほとんど見えなかったし。


「それをよりにもよって柄頭で止められるとは…私もまだまだ精進せねばならぬな」


 さっきからちょっと落ち込んでたのはそれか。
 まぁしょうがないよな、一番の特技だった剣術で負けたんだから。


「いや、お前の腕はすげーよ?殆ど見えなかったしな」

「ふっ、結果が全てを物語っておる。あれはどう見てもそなたの完勝、わたしの完敗だ」


 実はタネも仕掛けもあるんだが…冥夜に黙ってるのは悪いな。


「いや、実際冥夜の方が強いと思うよ。首に来るって解ってたから後はタイミングの問題だったしな。まぁ心理戦だ、心理戦。首以外に当てに来てたらまず間違いなく俺死んでたしな」

「そなた…成る程、そういう事か。それならばやはりそなたの勝ちだ」

 え?どゆこと?
 それならばって今のは"剣術は冥夜の勝ち"、"心理戦は俺の勝ち"って事でイーブンなんじゃないの?


「武、例え剣術で勝っていたとしても、最終的に勝利を掴む事に必要な力は別だ。私がそなたに負けたように、持っている力を全て出し切り、その上で如何に運用するか。総合力とでも言う物が最終的に勝敗を決するのだ。わかり易く言うならば、それが一般的に言われる"器(うつわ)"が大きい、といった事であろう」


 うおっ、俺すげー褒められてる。
 やったよ源之助!お前の新技は無駄じゃなかったぜ!


「よし、これで動かさねば直ぐに傷も閉じよう」

「サンキュ、冥夜」


 うん、もう痛みも感じないしイイ具合だ。
 コイツがドジっ娘属性なんて持ってなくてよかった。


「所で武、その、先ほどの話なのだが…」

 途端に両手で自分のズボンのヒザのあたりを掴んでもじもじする冥夜。
 なんだ?トイレか?

「さっきって?俺が使った技の事か?」

「いや、負けた方がひとつ言う事を聞く…という約束についてだ」

 あれ?俺そんな事言ったか?いや言ってないよな。


「わ、私も武人のはしくれだ。約束は守る…その、なんなりと申すがよい」

 うわー、上目遣いでこっち見んなよ。良心の呵責に苛まれるじゃないか。


 しかし…そうだな…


 死なないでくれ?
 いやまだ戦術機にすら乗ってないしな…

 エロイ頼みごと…さすがにフラグが足りない…というか手を出す気は最初から無い。却下。

 無難にご飯を一品もらう。
 いや、訓練期だし3食べて欲しいな。

 添い寝、論外…いやかなり魅力的だが…まずいだろ。
 まだ死にたくない。

 武御雷に素直に乗れ…コレだ!
 その手があったか。
 うはwww俺孔明www


「冥夜」


 俺はなるべく姿勢を正し、正面から冥夜の目を見据えて話しかける。


「な、何だ」

「ツケにしとくわ」

「そんな…」


 流石に「殿下から武御雷が届くからつかってNE☆」なんて言えんだろう。
 「近い内、お前に新しい剣が届く、それを使って欲しい」とか言おうと思ったんだけどそれだと気付きかねないしな…
 べ、別に一度書いて展開に失敗したから諦めたとかそーゆんじゃないんだからね!


「そなた…私の覚悟を何とこころえる…」


 何覚悟完了してんだよお前。武士だからってやり過ぎだろ常考…
 いかん、コイツとは二度と決闘まがいの事なんてしちゃだめだ。その内切腹するかもしれない。


「言われなくてもお前がその辺キッチリしたヤツなのは知ってる。だけどな、頼む俺にもそれなりの覚悟がいるんだ」

「なっ…なるほど、承知した。それは確かに道理だ。私は敗れた身。座して待つとしよう」


 よかった。納得してくれたみたいだ。
 

「成る程、武にも覚悟が必要か…ブツブツ」


 聞えない、俺は何も聞えないぞー。悪いが搬入日まで放置プレイするからなー。
 冥夜に放置プレイをするのはちょっと申し訳ないが、ひとまずコレで戦術機搬入まで待ってもr


ドバターン!!!!

「白銀ぇぇぇええ!!貴様冥夜様に何をするつもりだあああああああああ!!!!!!」




 救護室にもう一人の覚悟完了した緑の雷が落ちた瞬間であった。






けど俺はこの時、もっとよく考えるべきだったんだ。

 500年の経験値を踏まえて切りかかった最初の一撃が、いとも簡単に冥夜に切り伏せられたその理由について。
















MEIYA

 私は…負けた。
 油断した訳でもない、手を抜いた訳でもない。
 確かにその前の一合では私が完全に白銀を上回ったが、それでも何かを感じさせる力が武にはあった。
 だから全力、そう、私の持てる心技体全てを掛け、私に一度刀を折られながら尚立ち上がった武に敬意を表し、全てをぶつけた。

 それが止められたのだ。
 一度鞘という檻から解き放たれた私の流星は、全てを切り裂く、そう自負していた。
 今でも忘れぬ、あの「星流れ」を会得した大木の前での修行―――

「1分まで切り込める者、5分まで切り込める者、8分まで切り込める者。そして切り抜けれらる者。
 剣は己を映す鏡。
 1分までしか切り込めぬ者は心の何処かで、[1分しか切り込めぬ]と諦めが出る。
 己を信ずる事、それは膨大な研鑽の上に始めて産まれる。己を信じろ冥夜。

 挑めるのは一度きり。

 今すぐ斬れとは言わぬ、己の中に信ずる物が産まれた時、この巨木に挑むのだ」

 
 そう私に教えて下さった師匠の言葉を。
 だから私は信じていた。


「今斬ります」

「ほう…斬れるのか」

「今対した目標は今倒します。
 退けば時が経ち、時が経てば迷いが出ます。
 迷いは鈍りを呼び、一度鈍れば次はありますまい。

 故に今斬ります!今!」




 無現鬼道流 秘剣
 ――『星流れ・抜刀』



 そして会得したのが、あの流星であった。
 何者にも止められず、何者も追いつけぬ天掛ける閃光。
 だが喜ぶ私に向ける師匠の顔は…どこか浮かない物であった。
 今ならば理解できる。
 

『退けば時が経ち、時が経てば迷いが出ます。』


 私は弱かったのだ。


『迷いは鈍りを呼び、一度鈍れば次はありますまい。』


 何で今まで気付かなかったのか不思議でならないほどに。


『故に今斬ります!今!』


 あの言葉は、私の臆病の表れだったのだ。 
 歯を食い縛り今を耐え、目標に向かって長時間耐える事に…耐えられなかったのだ。
 だからそれ以上を目指すことも無かった。
 それ以上に挑むことも無かった。

 [私の流星は全てを切り裂く]

 その私の中の神話が崩れるのを恐れて。

 だから武の作った壁を乗り越えられなかった。


 しかし、今の私は過去の私とは違う。
 今の私には武、そなたが居る。
 絶対に超えられぬ壁として存在した師ではなく、産まれて初めての仲間としてのそなたがいる。
 ならば私はそなたを超えよう。
 そして次は、そなたが私を超える。
 これがきっと、師の最後に言った「友に切磋琢磨できる良き友を手に入れよ」という言葉の意味なのだろう。

 武、そなたに感謝を。
 私はそなたのお陰で、私に生涯最も必要だった物を手に入れる事ができたのだ。


 手当てが終わり、私は一つの覚悟を持って武に問い掛ける。
  

「所で武、その、先ほどの話なのだが…負けた方がひとつ言う事を聞く…という約束についてだ」

 
 約束を違える訳にはいかぬ。
 それに我が生涯の友との約束となれば、尚更だ。
 た、例えそれが如何なる願いであったとしても、私は受け入れる覚悟がある。
 如何なる…?
 だがそれが婚姻ともなれば流石に私も考えねば…しかし、武の様な友人と呼べる男は他に―――
 いや、武人に二言目は無い、私も覚悟を決めねばならぬな…

 そして、真面目な目で私を見る武の口からでた言葉は…



「ツケにしといてくれ」


 そなた…私の覚悟を何と心得る…


「言われなくてもお前がそのへんキッチリしたヤツなのは知ってる。だけどな、頼む俺にもそれなりの覚悟がいるんだ」


 なっ、武にも覚悟が要るだと!
 どういう事なのだそれは。
 いや、あえて口には出すまい。その覚悟、私はしかと受け取った。


「なっ…なるほど、承知した。それは確かに道理だ。私は敗れた身。座して待つとしよう」



 そう、慣れぬ待つ身としても、それは敗者が背負うべき積。
 私に武の何を責められようか。

 ふっ、まさかこの私が待たされる事を好ましく感じる…


ドバターン!!!!

「白銀ぇぇぇええ!!貴様冥夜様に何をするつもりだあああああああああ!!!!!!」


「ヒッ…つ…く…よみ?」

 事…な…ど…



 月詠、そなたが私の身を常に案じてくれているのは知っておる。感謝もしている。斯衛という立場も理解しているつもりだ。この国連基地で肩身の狭い思いをしている事も承知だ。
 だがな…



 何故今なのだ?


 完全に油断していた所に突然飛び込んだ月詠の、余りの殺気の鋭さに思わず武に抱きつきながら、そう呟くのが冥夜には精一杯だった。 











TSUKUYOMI

「α01よりα02」


 そう、私のこの判断は間違っていない。


 『はっ、こちらα02』

「弾種変更、捕獲用麻酔弾から対テロ制圧用ラバースブリットへ」


 間違ってはいないのだ、冥夜様に降りかかる災害は、全て排除せねばならぬ。


 『それでは場合によっては負傷させる事になりますが?』

「私は命令を下したぞ。α02」


 だから、私は間違っていない。

 視界の中では、冥夜様が『あの』白銀と剣を交えようとしていた。


 『はっ!弾種変更了解しました。麻酔弾からラバースブリットへ』



 現在横浜基地に駐屯している帝国斯衛軍第19独立警護小は本日より全て第2種警戒態勢で任務に当たっている。
 神代は屋上より望遠監視、巴は同場所にて狙撃用意、戎は私のバックアップを命じてある。
 そして私は…


『次俺に打ち勝ったら冥夜の言う事を一つなんでも聞いてやるよ、ごはんのおかず一品提出から添い寝だろうが何でもな』


「α02、撃鉄起こせ」


 矢張り私は間違って等いない。


 『α02了解』



 私は指向性マイクを持って冥夜様達の会話を拾っているのだ。


 『コレ撃ったら国際問題にならないかな~』
 『きっと月詠様には深い思慮があっての事にちがいありませんわ~』


 何か無線の中から聞えてきたような気もするが、無視する。
 私は今その様な雑事に構っている場合では無いのだ。


(それにしても白銀のあの構えは何だ…?少なくとも無限鬼流にあのような構えは…)


『来いよ冥夜、お前のその流星で俺の首を落として見せろ』

『知っていたか。いや、最早驚くまい』


「んなっ!?」


『所詮お前は流れ星』



「冥夜様の[星流れ]を…」

 馬鹿な…



『落ちる運命(さだめ)にあったのさ』


「止めただと?」


 『え?なんで?なんでだよ?』
 『きっと冥夜様があの不埒物の柄を狙ったに違いありませんわ~』


 屋上組から聞える声も共感できる。

 何故アレが止められる?

 私の見る限り、冥夜様は全力で星流れを放った筈なのに…


「それすら超えて見せるか、白銀…」

 『α02よりα01へ!対象が移動します!』

「追うぞ、α02,03はそのまま待機、04、私をバックアップしろ」

 『『『了解!』』』

 そして私は、救護室の前まで来たのだ。
 救護室と言えど、油断は出来ぬ。
 もし冥夜様がヤツと二人きりにでもなった場合最悪…
 いや、冥夜様に限ってそんな事はある訳が


『わ、私も武人のはしくれだ。約束は守る…その、なんなりと申すがよい』


 待て、いや、待って下さい。冥夜様。
 流石の私にも解ります。
 冥夜様はその様な約束交わしておりませぬ。
 何があったのです?この救護室に来るまでに。


『言われなくてもお前がそのへんキッチリしたヤツなのは知ってる。だけどな、頼む俺にもそれなりの覚悟がいるんだ』

『なっ…なるほど、承知した。それは確かに道理だ。私は敗れた身。座して待つとしよう』



 今何が聞こえた?
 イカン、私とした事が何を躊躇していたのだろう。
 すぐ突入だ。今すぐたちどころに突入しなければならない。
 何が何でも救護室を制圧せねばならない。
 最悪殺しても…問題ないか、今はもう新OSも歴史の情報もある。
 ヤツが居なくては少々やりづらいが、それでもやれない事は無い。
 白銀不要。
 ならば――――今は斯衛としての使命を果すのみ。
 (この間0.3秒)



 私はドアを壊さんばかりの勢いで蹴り開け、冥夜様に寄る害虫を駆除するため、救護室に飛び込んだ。



「白銀ぇぇぇええ!!貴様冥夜様に何をするつもりだあああああああああ!!!!!!」



 そして飛び込んだ私が見たのは、呆然とこちらを見る白銀と。 


「ヒッ…つ…く…よみ?」


 私に脅えながらも白銀に抱きつく、冥夜様の姿だった。








SHIROGANE


 オーケー落ち着こうか。
 いや、頼むから落ち着けって。
 俺にも何がなんだかわからないんだからさ。

 状況を整理しよう。

 冥夜、今俺に抱きついている。
 月詠中尉、そんな俺を射殺す様な殺気で睨んでいる。

 そして完全に凍りついた場。
 第三者の乱入もしくは援護は望めない。
 むしろ取り巻きの3馬鹿の乱入が危ない。

 以上、状況終了。

 この状況を打破するには?逃げるか?いや逃げられ無いな。
 誤解だと話すか?いや、口を開けた瞬間斬られるな。

 じゃあなんだ、簡単じゃないか。


「あ、お疲れ様です」

 よっ、と片手を上げてフランクに挨拶する俺。
 諦めればいいじゃん。俺天才。


「お疲れ様…だとぉ?」


 うはっ超プルプル震えてる。
 でもほら、どの道殴られるならさ


「貴様一体、何をしている!」


ドゴォッ

「オウフッ」


 ドシャアアーッ

 
 殴られる覚悟を先にしといた方がいいよね。いや、でもコレは想像していたより数倍痛いぞ。
 泣きそうだ、目がチカチカする。くそっデュクシティウンしそうだぜ。
 そもそも何で俺殴られてんの?!

「つ、月詠中尉!何をするのですか!」


 あと倒れた俺を介抱してくれる気なのは嬉しいが冥夜…

「冥夜様おやめくださいそのような呼び方!我等斯衛は…」


 ただ抱き締めるのは介抱とは言わないぞ。
 あとアレだ。おっぱいが顔にあたってるんだ。顔に。


「ならば月詠!これはどういう事だ、説明しろ!」


 いやーしかしここまで胸のデカイ女と付き合った事なんて無かったなぁ。
 二人目の彼女は割と大きかったんだけどやはり大きい分地球の重力に魂を引かれて…な。現実はいつも厳しいものだよ。君。
 それにしても今の切り替えの早さを見るに冥夜はますます応用力が付いてきたな。やればできるじゃないか。
 あとその説明は俺も聞きたい。


「冥夜様!その男は危険です、すぐさまお離れ下さい!」

「だから事情を説明しろと言っているだろう!謂れ無き理由で武を渡す事など出来ぬ!」


 この世界には重力に逆らう存在がある。3馬鹿の髪の毛とかな。
 だから冥夜のこの張りのあるおっぱいもそういう事なんだろう。
 しかし張りのあるとはまた絶妙な表現ではないか。今にも弾けそうな水風船と言うのか?いやここは果実と言っておこう。
 アダムとイヴに続き人類が手に入れた二つ目の林檎、それがこのおっぱいに違いない。
 いや、女性としての成長を終え、しかし少女の一面も持つ10代最後という禁断の数瞬が、彼女にこの刹那的な美しさをだな…


「それは…その男が…」

「何だと言うのだ…」


 さて、場も煮詰まって来たし現実逃避も辞めてそろそろ起きようか。


「あ、お久しぶりです。月詠中尉殿」

「武、月詠を知っているのか?」

「あぁ、俺のお母さんだからな」

「…武?」

「冗談だよ」


 しまった。めちゃくちゃ滑った。
 冥夜と月詠中尉がもう『バラも砕けます』って位冷たい目線でこっちを見てる。
 というかどうしよう。どうやってコレ片付けるの?
 助けてよママン。





 バンッ


「タケルさん!」




 うおっここで助っ人第三者の登場ー!


 …いや、助けてくれとは言ったよ?


 でもなんでよりによって




「「社?」」「霞?」



 目を真っ赤にした霞が来るんだ?








タタタタッ

「タケルさんっタケルさんっ!タケルさんタケルさんタケルさんっ!」

 放心している俺に駆け寄り、顔に両手を添えて声を掛けてくれる霞。
 天使だよ、君は。

 しかし、救護室がシュールな状態にある事に変わりは無い。


 床に倒れた俺。

 その上半身を横から抱き締める冥夜。

 正面から俺の顔を掴んで涙ながらに俺の名前を呼ぶ霞。

 凍り付く月詠。

 現状はまだ好転したとは言い辛いが霞、君はこの惨劇を回避できるのか?!


 コクリ

 俺の目を見て頷いた後、冥夜とも目線を合わせ頷き合う二人。
 通じた!今俺と霞の心が通じたぞ!って当たり前か、リーディング使えるんだから。


「め…冥夜…様?」


「「キッ」」


「うっ」



「タケルさんは…何もっ…してません…何で…何でですか?」

「月詠?この件についてはキッチリ説明して貰えるのだろうな?」



「ううっ」


 おお、凄いぞ二人とも。あの月詠中尉を完全に押してる。
 といってもこのままじゃ月詠中尉も引けないだろうし、いい加減おっぱい祭りから開放されないと俺の登山隊がテントを張りかねない。


「月詠中尉殿、申し訳ありません」

「武っ?」
「タケルさん?」

「いや、そもそも冥夜と一つの部屋に二人で居るのが問題なんだった。配慮が足りませんでした、月詠中尉殿」


 そう立ち上がって謝罪すれば、流石に月詠さんも退かざるをえまい。


「くっ…次は無いと思え!」

―――バタンッ


 そんなありきたりな…
 しかし何とか乗り切れたけど思いっきり殴られ損だな俺。
 結局何で殴られたんだ?俺がどんな人間か知ってるんだよな?あの人。



「タケルさん…タケルさんっ」

 まだ俺の正面には涙を流す霞が居る。
 そうだ、考えるより先に助けてくれたお礼をしなきゃな。

「霞…ありがとう」

 そう言って霞を抱き締めてやる。
 しかしなんで俺のピンチが解ったんだ?

「いいんです…私が…そうしたかったから…」

 ぐりぐりと胸におでこを押し付ける霞が可愛くてしょうがないんだが…あ、そうだ冥夜?


「知って…いたのか?」


 どこか探るような、地雷原にゆっくり一歩を踏み出すような口調だ。
 そりゃそうだよな、さっきの遣り取りを聞いてればそうなるよな。


「あぁ、知ってた。それでもお前は俺にとって、この基地に来て出来た最初の仲間。御剣冥夜だよ」

「そうか…重ね重ねそなたに感謝を」

「ん…気にすんなよ、仲間なんだからな」


 ふー、これでひとまず危機は去った…のか?
 しかし毎度毎度殴られる訳にも行かないしなぁ。


「しかし社よ、よく駆けつけてくれたな」

「…私もタケルさんに会いに来たので」

「「え?」」

「いえ…博士に白銀さんを…呼ぶように言われて来たんです」

 今ちょっとドキッとするような事に聞えたけど…香月博士が呼んでるのか。


「香月博士が…何の用だろ?」

「武に解らないものは流石に私も解らぬ」


 だよね。


「じゃあ冥夜、教官に副司令の所に行くから戻るのは何時になるか解らないって言っといて貰えないか?そろそろ皆も心配してるだろうから、さ」

「わかった、伝えておこう。月詠の件、すまなかった。私が代わりに謝罪を」

「気にすんなって、あの人も自分の仕事をしただけだろ?」





 さて、そして部屋には俺と霞だけになった訳だが。


「そ、そろそろ行こうか?霞」

フルフルフル

 霞が離れないのだ。
 さっきと変わらず俺にくっついたまま震えるだけで離れようとしない。
 香月博士の元に行こうとしてもただ首を振るばかりで動かない。

「霞?」

―ギュッ

 それに先程から声を掛けてもただ俺の服を強く掴むだけ。
 まるで本物の小動物であるウサギの様に、何かに脅えて震えてる感じだ。
 とにかく霞を落ち着けないと、ってまるで俺霞の調律してるみたいだな。


「霞、俺は何処にも行かないからさ、まず座ってくれ」

 
 そう言って何とか霞をひっぺがしてベッドに座らせた。
 俺は霞を安心させるため、床に跪いて霞と目線を合わせる。

 何か迷っている?正面から見て俺はようやく、霞がただ震えているだけじゃない事に気付いた。
 何か悩みでもあるのなら、出来れば力になってやりたいが…


「霞」

「………………………………はい」


 今にも消えてしまいそうなか細い声。やはり何か悩みがあるのか?
 なら俺が力になってやらないと。
 霞の対人関係は元々なんとかするつもりだった。
 純夏に対してだけじゃない、なんとか207の連中とも友達になって欲しかった。
 そうすれば例えば俺以外の誰かに相談する事も…
 もちろん霞に相談されるのが煩わしいとかそういう訳じゃない。頼ってもらえるのは嬉しいしな。
 だけど俺にしか相談しないってのは、つまり俺に依存してるだけって事だ。
 それじゃダメだと思う。一個の個人として確立するには、"自分以外"という存在が不可欠だからだ。
 それでも今は、俺が支えてやるべきなのは当然わかってるけどな。


「俺には言えない事か?」

「……違います」

「そうか」


 俺に言うべき事なら、霞は自分から言うだろう。
 それなら俺は、ただ待てばいい。
 そう、急かさず、焦らず、ただ、待てばいい。
 にしても、霞がこんな表情(かお)をするなんて…
 それは拒絶を恐れる心とその中に眠る小さい決意をうかがわせる顔。

(いや、この表情、前にどこかで――――)


「…タケルさん」

「ん?」

「…お願いがあります…聞いて…くれますか?」

「あぁ、聞くよ。俺に出来ることなら何でもする」


 こんな状態の霞を放って置ける白銀なんてどの平行世界を探しても居ないだろう。だってその確率はゼロなんだから。
 それに霞なら、そうそう無茶な事は…



「…私を……私を衛士に…してください」


「ふぇ?」



 今、何て言った?





KASUMI


(これから私は、多分平行世界のどの私も歩いた事の無い道を、歩く)


 霞は言った。
 「私を衛士にしてください」と。


(でも不思議…怖くない)


 博士からは意外とあっさり許可が下りた。
 将来的に私が、私の知っている人が死んでいく中何も出来ない事を嘆いて衛士になる可能性がある。
 そうタケルさんに博士は聞いていたから。
 最初は驚いたけど、後でXM3のバグ取り中に横の画面で流していたタケルさんの記録を見ていてそれを気付き、理解して―――

 そして涙した。


 手は動かしながら、それでも涙を流す事を止められなかった。
 私が涙を流した理由は3つ。


 タケルさんは私が望むかも解らない事を手伝おうとしてくれたこと。

 タケルさんが私を必要としてくれたこと。



 そして、そんなタケルさんを裏切ること。


 ごめんなさいタケルさん。

 霞は悪い子です。

 私の知っている多くの衛士の人たち。

 
 A-01の人たち、207の人たち、そしてこの基地の大勢の衛士の人たち。
 私の知っている人が戦争で亡くなるのは確かに悲しい事だけど、私が戦う事を選んだのは、もっと個人的な理由だから。


 ただ貴方を守りたい。

 他の何より、他の誰よりもただ貴方を守りたい。

 貴方の負担を減らしたい。

 
 少しでも長く一緒に居たい。


 ただそれだけ。
 だからOSのバグ取りも徹夜でやって、終わってすぐタケルさんの元に駆け込んだ。

 だからそれはもう私の"したい事"なんかじゃなくて、


 私の"生きる理由"そのもの。














SHIROGANE

 霞は衛士になる事を決意し、香月博士はそれを承認し、そして博士は霞の扱いを俺に一任。
 そこまではまぁいい。けど待てよ?

 俺この世界来てまだ三日目だぞ?鎧衣すら退院するのは確か明日だ。


「霞」

「…はい」

「それは何故か…聞いていいか?」


 霞が衛士になる等、よほどの決意が必要な筈。それがこの時期に衛士になるなんて…、まさか俺の知らないイレギュラーが?
 それに今までそんな素振りは…無かったな。凄乃皇・四型に乗る訓練なら別にしている筈だし…何故このタイミングで衛士に?
 それなら俺は聞かなければならない。彼女の決意の、その理由(ワケ)を。


「…護りたいからです」


 その表情(かお)から発せられたその一言を聞いて、俺は少しでも霞の決意に対し疑念を抱いた事を恥じた。


「そうか」


 護りたいから?理由なんてそれで十分過ぎるじゃないか。そんな理由で500年も戦争をしたバカが現に俺の中に居る。
 だからその一言で十分だ。なら俺は、それを助けよう。


「わかった」


 そして死なせはしない。霞も、当然俺の護りたい人リストの中に名を連ねているのだから。





 霞は恐らく凄乃皇・四型に乗る訓練をしている…が、アレは戦術機というより移動可能な要塞兵器と言うべきだろう。
 高速戦闘機動なんてまずしないしな。
 となると霞を衛士にするにはまず体力が必要だ。
 走ったりしていちいち基礎からやってたら正直間に合わないな。どの道まずは適正値をチェックしないことには…


ドサッ


「うおっと」

「…ありがとう…ございます」


「いや、あぁ…いいんだよ」


 思考の海にまた沈みかけている所で不意打ちの様に霞に抱きつかれた。
 今俺は跪いているから、視線は霞とほぼ同じ高さ。
 その状態で抱きつかれたもんだから、なんというか子供が親に抱きついてるようないつもの抱きつき方じゃなくて、女が男に抱きつくみたいになってる。
 つまり霞の腕は俺の首を回り、霞の顔は今俺の横にある。

 この状態で霞を振りほどける男がこの地上に存在するだろうか、いや居るはずが無い。
 よしよし、と背中と頭を撫でてやる。
 正面から抱き締められて初めて解ったけど、霞って体すげぇ細いのな。今にも折れちまいそうだ。
 こんな体の何処からあんな決意が…いや、魂の熱さに体のサイズなんて関係ないか。
 でも俺がこの華奢な体を守ってやんなきゃいけないんだよな。
 万が一にもコイツは死なせちゃいけない。

「…タケル…さん」

 そう呟くと、そのまま霞は安心してたのかすうすうと寝息を立て始めた。
 考えてみればこの所俺のリーディングやOSの手伝いで殆ど寝てない筈だ。


「無茶しやがって…」


 どの道霞は一度休ませないと。
 俺はひとまず救護室のベッド霞を寝かせ、PXでメシを食っているだろう207B分隊の仲間の元へ向かった。


(午後は座学…か、知識はあっても"まりも先生"を生で見るいい機会だしな)



 後で小隊の仲間に聞いたところ、その日からの座学中における神宮司軍曹は"まるで学校の授業"の如く優しくゆるやかな雰囲気を纏っていたという。







ISUMI

午後

----A-01専用シミュレータルーム----

「午後はシミュレータでのヴォールグデータ演習の予定だったが…検討会に変更する」

「えー!またミーティングですか?」


 私の言葉に真っ先に反応したのはやはりというか速瀬中尉だった。
 だが私は、どうしてもコイツ等に見せなければならんものがある。


「そうボヤくな速瀬、今日のは普段のミーティングじゃない。ある衛士の戦闘挙動の検討会だ」

「えー!そりゃ私達より強いヤツはいるでしょうけど~、見本にするまでの人が居るんですか?」


 速瀬の言葉ももっともだろう。口には出さないが他のメンバーも表情で同意しているようだ。
 確かに我々には誇りがある。
 特殊部隊として、ヴァルキリーズとしての誇りが。
 ただあの映像は、あの戦闘は、ヴァルキリーズとしての精神を体現したようなあの戦いは、皆に見せておきたい。


「速瀬、いいのか?これから見せる記録は私がこの世で最も強いと信じている衛士のログだぞ?」

「えっ?えっ?ホントですかっ?!早く見ましょう!ほらほら大尉~」

 
 …切り替えの早さも相変わらずか。
 とにかく始めない事には前に進まないので、昨日のログを副司令の持つデータ空間から呼び出す。
 ちなみに白銀達が昨日直接操作した筐体からは全てデータが削除され、副司令のサーバに移されている。


「この映像は、全ての武装を失った状態での吹雪が、BETAを相手に戦闘を続行するテストのログだ」


 あと白銀の発言はいろいろとアレな物が多かったので、パイロットの音声は全てミュートにしてある。
 私は戦闘映像記録を、ちょうど長刀が折れるシーンからスタートさせた。






HAYASE

「なっ…えっ?」

 私はそのログの再生中、感想とも言えない様な情け無い声しか出せずに居た。
 それほどまでにこの戦術機は、吹雪は常軌を逸していた。

 多数の要撃級、突撃級に囲まれた状態だというのに確実に後ろを取りBETAを屠ってゆく。
 周りが囲まれたと思えば、光線級が居るというのに半円を描き空さえ飛んだ。

「何で…レーザーが…」

 それだというのに、光線級は一度としてレーザーを照射できなかった。
 さらに攻撃に使用していた左腕が肘関節まで壊れた途端、関節の接続を緩め引き千切り、武器にしてしまう。

 これが素人のした事なら、私は、いやA-01の誰もが笑っただろう。
 その程度で機体を軽くしたつもりか?バランスってものを知らないのか?と。

 だが画面の中の吹雪は違う。

 左腕が壊れたら右腕で殴ればいい。
 だけどそれでは右腕も左腕のようにいずれ壊れてしまうだろう。

 だから

 一匹でも多くのBETAを倒す為、ただそれだけの為にこの吹雪は、まず先に左腕を武器として完全に遣い潰す方を選んだのだ。
 そしてそれは、左腕一本失った程度ではこれだけのBETAに囲まれていても問題無いという、確固たる技術に裏打ちされての行為。

 そしてその腕も無くなり、続く光線級との戦闘で推進剤も無くなった。
 でも…それでも吹雪は戦い続ける。決して諦めず。
 やがて右腕も肘や肩が壊れ応答しなくなり、それでも諦めず蹴りを放った右足も壊れ、最早完全に一歩も動けなくなった状態まで故障してやっと、画面の吹雪は突撃級に粉砕された。


「…生ある限り最善を尽くせ」


 再生が終わっても誰一人口を開ける事が出来ないでいると、伊隅大尉はポツリとそう言った。


「この衛士は、私の知る誰よりもヴァルキリーズのモットーを体現している。私よりもだ」


 ギリッ

 悔しさに拳が固まるのが解る。
 そうだ、この中の誰であってさえ武装を無くした戦術機であれほどまでのBETAを破壊する事なんて…いや、それ以前にあそこまで戦術機が壊れても戦闘を続行して戦おうなどとはしないだろう。
 もっと早い段階でS-11を起爆させている筈だ。


「コイツと同じように戦えとは言わん。そんな訓練をしろともな。武器も持たさずにBETAと戦わせるほど、私は指揮官として無能では無いつもりだ」


 そんな事は言われなくても解ってる。
 だって私達は伊隅ヴァルキリーズなんだから。
 隊員の誰もが伊隅大尉がどれだけ私達の事を考えてくれているか知っているのだから。


「だが知っておいて欲しいんだ。戦術機は、人間は、ここまで戦える事が出来るのだと。決して最後まで諦めるな。我々衛士は、たとえ武装を失ってもこれほどまでの力を残しているんだからな」



「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」


「では検討会を始める、まず接近戦闘時におけるダメージコントロールについてだが…」


 この後行われた検討会に、ヴァルキリーズの誰もが真剣に参加し、質問し、意見し、考えた。

 そう、この吹雪は私達にとってもはや信仰に近い形として、私達の心の中にに存在した。








同日夜
----白銀武自室----

「今日は冥夜に…んー、迷い所だなぁ」

 夕方から神宮司軍曹、伊隅大尉、月詠中尉、ピアティフ中尉での5人でXM3の慣熟訓練を行った。
 大きなバグが出易いモジュールやメソッドは予め香月博士に報告していたため、あとは小さいバグをちょこちょこ潰すだけだ。
 2vs2を永遠とやってみたが、キャンセルの使い方は流石斯衛と言うべきか、月詠中尉が長刀を混ぜた操縦で伸びを見せた。
 バージョンアップしたCPUの恩恵を受けた反応速度の鋭敏化と3次元機動は伊隅大尉が一歩抜きん出た。これはA-01の任務の多様性から来た応用力だろう。
 そして神宮司軍曹はコンボ。特に新任衛士の動作を如何に簡略化させてより強くさせるか、そんな事を常に考えてる所は流石だ。

 さて、慣熟訓練も終わり自室に戻った俺は、夜冥夜がやってる自主鍛錬を見に行くか迷っていた。
 確かに俺はマブラヴでは冥夜派だし、実際会ってみた冥夜はすげー美人な上に芯も通っていて、なんつーかこっちの心が洗われるような存在だったんだが…

「これ以上フラグ立ててもなぁ…」

 そうなのだ。
 別にこれ以上俺は冥夜フラグを立てる積もりは無い。
 月詠中尉の救護室凸のお陰で俺が冥夜の正体を知っている上で名前で呼んでいる事は伝えちゃったし、あとは総合演習に向けてチームワークの不和を修正してやればいい。
 俺個人としては会いたいが…冥夜がお気に入りというだけで愛してるワケじゃない。出会って三日目で愛せってほうが無理だろう。
 それに今まで立てたフラグも、これから立てるフラグも、全部ズルして立てたフラグだ。
 俺はアイツの過去や未来を知ってるし、悩みも性格も、どんな事を言えばどんな反応をするかも知ってる。
 ゲームだったらいいんだけどさ、一人の人間として俺の前に立ってる相手にそれを使って近づこうなんて流石に卑怯じゃないかな。
 小さいプライドかもしれないけど、キモオタの良くわからないポリシーだと解ってたとしても、これは譲れない。


「それとチームワークか…」

 そう、あと問題はチームワーク。
 出来れば明日の鎧衣の退院に合わせて一気にまとめてしまいたい。
 総合戦闘技術演習はいつでも前倒しできる前提で準備がしてあるしな。
 だがそのためには、また一つ嘘を付かなきゃならない。
 恐らくその嘘に気付けるのは…せいぜい冥夜くらいのものだろうし、冥夜も手伝ってくれるだろう。


「クソッ…」

 
 まただ、俺は今
 "冥夜はチーム内のいざこざを知ってて放置した負い目があるから嘘だと気付いても黙ってるはず"
 なんて考えちまった。
 いや、間違っていない。俺のしてる事は間違っていない…筈だ。
 全部アイツ等のためにやってはいる。
 それが俺の自己満足だろうと、俺はその点にかけて嘘は無い。

 ただそれでも…

 そうやって一人上から見た視線でアイツ等と平然と関わろうとする俺に、吐き気がするだけだ。
 だけど他に方法が…


コンコン――――――


 ん?こんな時間に誰が…



「白銀、起きているか?」 



 何故こんな時間にあなたが?




「えぇ、起きてますよ。まだ考え事してたんで」


 そう言ってドアを開けた先に立っていたのは。



「何か一人で抱え込んじゃったりしてないか、ちょっと心配でね、白銀」



 神宮司軍曹。いや、この口調は…


 まりも先生が、そこに居た。
 




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なんか読んでてメリハリがないっていうかグダッてる感じがすごいする。

一人で何十回も読み返してるからかなぁ?

なんかそんな感じしたら教えて下さい。

あと無駄に話数が増えてるので1日単位でそのうちまとめようかと思います。


+ ちょっとまとめてみました。

話数変更に伴いその内マブラヴ板に移動するつもりです。

変なところとかあったらご指摘いただけるとありがたい限りです。


 
読み返してて思ったけど07話の「[アッガイ]という概念」って何ぞwwwwwwwwwwwwwwww

自分で書いおいて意味不明すぐるwwwwwwwwwww





[4170] OversSystem 07 <それなんてエロゲ?>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/09/23 02:02
「どうぞー」

 トリアーエズまりも先生には中に入ってもらった。
 ちなみに公私を使い分けるというか、[訓練兵:教官]の時と[ループした存在:協力者]の時でお互い話し方を使い分けてる。
 といっても俺は本来の白銀じゃないから、まりも先生以外は基本的に普段と余り変わらないけど。
 ちなみにこれは[未来を知ってる人間]だけの時にのみ適用されるルールだ。
 しかしもう夜もいい時間だが…
 とりあえずこの部屋には椅子が一つしか無いのでそっちに座って貰い、俺は何か少しでも距離を取りたくて、靴を脱いでベッドに深く座り壁に背を預けて足を投げ出した。
 投げ出した足はちょっとかっこ悪いが、まぁしょうがない。


「ねぇ、白銀?」

「はい」

「アナタ…何か悩みがるんじゃないの?」

「えっ……っとー」


 あれ?何で解ったんだ?
 確かに悩みは一応ある。現に今まで悩んでたし、それ以外にも俺が悩んでいる事はある。

 まず第一に俺の主観記憶の消失。
 つまり決戦存在を倒して戻った先の人生がここより幸せであるとは限らない。「BETAは居ませんが人間同士の戦争で絶滅しかけてこことほぼ同じでした」、では立場が良いだけオルタの中の方がいいに決まってる。

 それに死への恐怖。
 生とは途切れない意識の連続。ループした先の俺が今の俺の記憶を持っていたとしても、それはあくまで俺のコピーなわけで、[今ここにいる俺]はほぼ間違いなく死んだらそのまま死ぬ。つまり主観的に考えれば俺もこの世界で生きてる連中と同じく、死んだら死ぬんだ。最終的に突き詰めると寝る事すら恐怖の対象になるので普段は考えないようにしているが…

 さらに言えば鑑純夏。
 俺は当然鑑を愛していないし、抱くつもりも無い。しかし肉体的接触が無くとも調律が出来るとは言え、今の俺の頭をリーディングさせるのは拙い。安定してからなら制限すべきだが、初期の不安定な時期を考えるとリーディングが無い場合かなりのスケジュール遅延が考えられる。だがそんな事は香月博士は許さないだろう。そしてその状態でリーディングされたら?本当の事を話すべきか?それならいつ話す?どのタイミングで?

 あと俺は白銀ほど上手くこの世界をいい方向に導けるのか?って事も。ここまでやって人類滅亡なんて笑えなさ過ぎる。
 しかし導くなんてこれまた随分大層な物言いだな。

 そして何より決戦存在について。
 情報が全く無さ過ぎる。あの『声』のヒントは『人類側の決戦存在が現われれば[あしきゆめ]の決戦存在も現われる』という事だけ。そもそも決戦存在って何だよ?俺の事なのか?でも俺がこの世界に来てから三日目だけど新種のBETAが現われたなんて話しは…つーか[あしきゆめ]ってBETAでいいんだよな?

 そういうワケで悩みは一杯あるんだけど…
 外には出てないと思ってたんだがなぁ。

「…顔に出てました?」

「ううん…何となくね、そんな気がしたから」


 成る程なー、流石平行分岐世界で教師をしてるだけの事はある。完敗だ。
 それに今のやり取りって思いっきり[悩み持ってます]って言ってるようなもんだよな…


「悩みっつーか、なんというか…まぁあるにはあるんですけどね」


 バレてしまっては仕方が無いが、だからといってそう簡単に開き直れる物じゃない。ひとつひとつがヘヴィ過ぎる。
 …俺なんでこんな事してんだろ。


「…ハァ」


 思わず俯いてため息の一つも出てしまう。
 あ、俺仕事中にもこんな事言ってた気がする。
 しかも毎日。
 大体開発チームに配属された時にゃ納期二ヶ月前で残ってるのはシステムテストだけってどんだけつまんねーんだよ。
 リリース後もバグ対応でテストテストテスト…


「白銀?」

「っと、あ、はい」


 またトリップしてしまった。どうも"元の俺"(とでも言えばいいのか?)の記憶が突発的にフラッシュするようで…
 …んでなんの話しだっけ?


「白銀アナタ…本当に大丈夫?」

「ダメですとは言えないのが、正直一番辛いところですかね…」


 しまった、ボケーっとしちまったか。
 でもそうなんだよなぁ、ダメとは言えないんだよ。もう俺が居なくても00ユニットくらいなら作れるだろうけど、俺が頑張れば人類側の死者も減るかもしれないし、俺が知ってる人も守れるかもしれないし。
 でも死ぬの怖いしなぁ。


「…ねぇ白銀?」

「何でしょう」

「アナタが私達をどう考えているかは知らないわ。けどね、そんなに一人で抱え込まないでいいのよ?」

「ふぇ?」


 そう言うとまりも先生は一度立ち上がり、椅子を180度回転させて座りなおした。
 背もたれが体の前側に来たので、その上に腕を組んでアゴを乗せる。


「私は例え白銀がどんな弱い面を持っていてもアナタを軽蔑したりなんてしないわ。いいえむしろ、そんな弱さを抱えたまま戦うアナタを尊敬する」

「そんなモンなんですかね」


 なんというか、お互い恐ろしくラフな姿勢なんで家庭教師と生徒の人生相談みたいなノリになってきた。


「そうよ、例えば私も昔は現役の衛士だったから、仲間は沢山失ってきたわ」


 知ってる。だからまりも先生は、常に訓練兵に少しでも長く生きられるように教え込んでるんだから。


「もし人生がやりなおせて、彼らを助けられたらと思った事も一度や二度じゃない、だけどね…
 次は全員助けられる保障なんて無いのよね…一人二人は助けられても、また別の仲間が死ぬかもしれない。
 そして助けられなかった度にまた嘆いて、後悔して、またやり直して…
 それだけじゃないわ。戻る場所が彼らと出会う前だったら、また赤の他人からスタートしなきゃいけないのよね。
 そんな事を永遠と、それこそヒトの本来の一生を超えてまで続けるなんて、私には…到底できないわ」


 そんなまりも先生の言葉を、ただ俺は黙って聞いていた。
 そして聞きながら驚いた。
 まりも先生は俺の弱さを容認を容認してくれる?
 これが香月博士なら「何弱音吐いてんのよ、アンタとっくに戻れない道を歩いてんでしょ?」とか言いそうだけど。
 そういやどのループでもまりも先生と腹割って話した事なんて無いんだよな。
 シロガネオリジナルの奴、あぁもういいや長いからシロガネで。
 そのシロガネの奴どうも完全にまりも先生を女神か何かと勘違いしてて崇拝してる所あったしな。


「白銀、アナタは世界で一番強いかもしれない。けどね…その代わり、きっとアナタは世界で一番疲れていて、世界で一番傷付いているのよ」


 そうなの?
 いやそうなのか。あのシロガネが精神的に寿命が来て磨り減って死ぬ位だしな。
 でもそうなると…また勘違いってワケじゃないけど…そこまで戦ったのは俺じゃなくて"シロガネ"なんだよな。


「気遣って貰えるのは嬉しいんですけど何か複雑ですね」

「どうしてなの?」

「あーいや、えーと…何て言ったらいいか…あぁそうだ、俺の悩みってのはもっと個人的な事なんですよ」


 しまった、口に出てたか。
 あんま本当の事も言えないんだけど、できれば嘘は言いたくないな…


「俺は…死ぬのが怖いんですよ」







JINGUJI

「死ぬのが…怖い?」


 ちょっと待って、彼は―――白銀は、死なないんじゃないの?


「アナタ…死なないんじゃ?」


 思わずそう口にすると、彼は苦虫を噛んだような顔になってしまった。
 そう言われると解ってたんだろう。


「いえ…俺は死にますよ?確かに今この世界に生きる人にとっては「ふざけるな」って感じでしょうけど…俺は死ぬんです」


 「ふざけるな」、確かにそうだろう。現に彼は何度も世界を繰り返してるんだから。
 でもそれなら何で死ぬ事に恐怖を覚えるのだろう。
 仲間と積み上げてきた物が消えるとかそういった抽象的な概念じゃなくて、本気で怖がっているように聞えた。


「俺は死んだらそこで死にます。別の世界で今の俺の記憶を持った"白銀武"は現われるでしょうけど、それはいろんな世界の"白銀武"の記録を移植して作った寄せ集め、"別の存在"なんですよ」


 色々な世界の白銀を移植して集める?
 それはつまり…


「統合…と関係があるの?」

「やっぱ鋭いですね、まりも先生は」


 統合、それは1つの"白銀武"から始まった無数の"白銀武"を掻き集め、また1つの"白銀武"からスタートする事。


「一本の道のりなら、迷う事なんて無かった。死んでまた生き返って…寝て起きるようなモンですからね」


 でも彼の場合はそうじゃなかった。


「生きてるって事は意識の連続です。寝て起きた時、一回意識が途切れても起きた自分と寝る前の自分がほぼ同一だから、人は生を実感できる」


 でも"統合"された白銀は?


「けど統合は違う。世界空間から白銀武の残骸を集めて無理矢理人間の形にした存在、それは最早俺じゃない。俺と同じように考えたとしても、俺の記憶を持っていても、それはただの劣化コピーなんですよ」


 つまり彼の主観は、死ねばそれで終わる。


「そして俺には"死んだ"時の記憶もあります。仲間を守れずパラポジトロニウムの光に包まれた事も有れば、BETAに殺されたり人間に殺されたりもしました…だからより解るんです」


 私達の多くは仲間の死をもって初めて命の重さを知る。


「どれだけこの世界が死に満ち溢れているか、どれだけ身近に死が存在するのか…俺は知りすぎて…しまったんです」


 だけど白銀は、まさしく自分の命でそれを学んだのだ。
 私の死を糧に強くなってくれたと言っても、それは人間として高度な次元の認識での話し。
 "自分が死ぬ"というのは、余りに原始的で、本能的で、直球過ぎる。それも…10回や20回じゃ効かない程に…


「白銀は…本当に衛士として生きているのね。アナタが死んで次に託すその想いは、仲間に生き様を残して消えてゆく衛士その物…例え想いは残っても、生き様を語り継がれても…死にたくはないものね」

「周りみんなが死を覚悟してる中で一人ビクついてるなんて…かっこ悪い所の話しじゃないですよね」

「それは違うわ!」

「え?」


 自嘲気味に呟く白銀にストップを掛ける。それは違う。絶対に違う。

「確かに口で怖いって言う人なんて少ないけど、みんな死ぬのは怖いのよ?そしてアナタは世界で誰よりも死ぬのが怖いはず」


 でもそれでも


「でもそれでもアナタは……戦ってくれたじゃない」


 そう言って椅子から立ち上がる。
 自分でも何故そうしたのかは解らないけど、今は白銀の頭を抱き締めて上げたかった。
 この臆病で傷だらけの英雄さんを。

ギシッ――


「えっ…ちょっ…」


「いいのよ?白銀。私の前なら怖かったら怖いと言っても。私には解ってるから。それでもアナタは必ず立ち上がってくれるって」

 白銀の頭を抱き締めながら、頭を撫でてやりながらそう言ってあげた。
 いじめで相談しにきた生徒と教師ってこんな感じなのかしら?等と思いながら。

ギシッ


 ――――え?私何やって…
 自分が動く反動で軋んだベッドの音で"教師"に酔って自分が結構トンでもない格好をしている事に気付いた。
 白銀は壁に背を付けて足を投げ出して座っている。
 そして私は、膝立ちで白銀の足を跨いで白銀の頭を自分の胸に…
 これはその…男女の関係としてのアレと勘違いされても仕方の無い格好なのでは?
 えぇぇぇええ!でも白銀は襲ってこないわよね?こないわよね?今こんな話ししてるし。
 でも白銀も一応10代の体なワケじゃない?
 それに私ってば思いっきり胸押し付けちゃってるじゃないの!
 これじゃ押し倒されても文句は言えないわよね…って何言ってるの私?
 大丈夫よ、ここで白銀が手を出してきても、ストレートを一発入れれば後頭部を壁に打ち付けて一撃で倒せる筈。
 あぁでもそれに耐えられたら私もう抵抗する手段が無いじゃない…
 って軍服のスカート気付かない内に結構たくしあがってる?!



「先生…」


 結論から言うと。


「ありがとうございました」


 彼は指一本動かさなかった。
 それこそ金縛りにあったかのように。
 私を押し倒す事も、どかそうとする事すらしなかった。
 ただそこに居て、そう言ってくれた。
 よかった。私の言った事…無駄じゃなかったのね。
 ただいくら動かないといっても胸の中で喋られると流石にお姉さんくすぐったいかなー。


「後はもうちょっと…自分の中で折り合いをつけて見ます」

「うん」

 ただ今急に退くのも何か不自然だし、とりあえず頭をなでてやりながらそう答えた。


「あと恥の掻きついでにひとつお願いが…」

「何?」

「流石にどうこうする積もりは無いんですけど…まりも先生くらいの美人に胸を押し付けられ続けるのは精神衛生上ちょっと…」


「えっあっゴメンなさい!…きゃあ!」

 その言葉にあわてて飛び退いた私だったが、シングルのベッドは当然横方向に飛び退くほど幅に余裕が無い。

「先生!大丈夫ですか…ぁ」

 私は飛び退こうとしたままお尻から床に転げおちてしまったのだ。
 そしてそんな私を見て立ち上がろうとした白銀のその…ねぇ?

「いや、先生、これはですね、生理的現象というか、あの体勢でこうならない方が男性として問題があるというか先生が魅力的だったとかいやそういう話でも無くてですね…」

「ご、ごごごゴメンなさい!」

 部屋から逃げ出してしまった。
 最低だ、私。






SHIROGANE

 いやいやいや、アレ耐えられる男なんて居るワケないだろ。居るとしたらガチホモだろうか。
 まぁ、いっか。仕方ないよね。まりも先生も大人だし時間を置けば理解してくれるさ…きっと。

「寝るか、今度こそ」


コンコン―



頼む、寝かせてくれ。


コンコン―


だが断る。

俺は部屋の電気を消すべく立ち上がり…


ガチャ…


ドアを少し開けてこちらを覗き込んだ霞と目が合ってしまった。


「あがー」


パタン



 あれ?俺そんな事教えてないよね?
 っていうか何しにきたの?

 すまん霞、追いかけもできない俺を許しておくれ。

 寝る。








10月25日(木)[四日目]


----横浜基地 グラウンド----

「鎧衣美琴訓練兵、これより訓練に復帰します!」

 そう元気よく挨拶をしたのは今更説明するまでもない、鎧衣だ。
 ちなみに朝飯食った後に廊下でニアミスはしたんだがスルーした。
 別に出会いイベントが必要なワケじゃないしね。
 フツーな出会いってのも大切だと思うワケよ?ボカァ。
 あと"神宮司軍曹"は昨日の事を引きずって無い…と思う。
 ただ"まりも先生"の顔の時がちょっと怖いな。


「あれー?知らない人が居るけど」

「あぁ美琴よ、そこの男だがな」

「え?御剣さん僕の事名前で呼んでくれるの?嬉しいなー」

「あぁそれはその男がな」

「そういえばさっきから気になってたんだよねー皆が名前で呼び合う事増えててさ、何々?僕も名前で呼んでいいの?」

「相変わらずだな、そなたは…」


「まぁ、ああいう娘よ」

 完全においていかれた俺の肩にポンと手を置き、千鶴はそう呟いた。
 まぁなんとか神宮司軍曹の助けもあって自己紹介も終わり、名前で呼ぶ話もする事が出来た。

「じゃあ僕も美琴でいいよ、よろしくタケル!」

「あぁ、よろしくな、美琴」


 ちなみに美琴が来てから射撃イベントをこなしたかったので"まりも先生の時"に射撃訓練を今日までやらないでおいてもらった。
 まぁあのイベント自体は普通にアリだと思うんだよな。

「成る程、一度戦術機に乗った人間の言葉は違うな」

「あぁ、あと射撃以外でもこと戦闘訓練に至っては全部に言えることだけど、せっかくだからBETA相手にするのを意識した方がいいかな」

「BETAを意識?」

「例えば戦術機でBETAに殴りかかったら確実に一発で指が全部壊れる。本当にピンチならいいんだけどさ、その後補給できる可能性があっても指潰しちゃ武器持てないだろ?」

「じゃあ接近格闘…無駄?」

「無駄じゃあないよ、日本の戦術機は接近戦が出来るよう作ってあるからな。様は長刀やナイフも使い様だって事。あとナイフは相手を掠めるように浅く切る練習がされてるとベターだ」

「浅く切っても生き物は死にませんよ?」

「いや違うんだ慧、BETAにゃ戦車級つって戦術機に噛り付く小型種が居んだよ。前線じゃそいつに噛み砕かれていく仲間を助けようとして間違って殺しちまったり、見てるだけで助けれない時がある。そんな時メインでナイフを使うんだが、慣れてれば死ぬ筈の味方を助けられるんだよ」

「おおー」

「だから正直俺はお前にかなり期待してる」

「照れるぜ」

「またまたご冗談を、嬉しい癖に」

「「ハッハッハッハッハ」」


「おしゃべりはそれはまでだ!早速白銀のアドバイスを活かして射撃してみろ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」



 あぁそうだそうだ、珠瀬のイベントもあったっけか。
 俺は姿勢を低くしたまま珠瀬に近づいていく。

ターンッ…ガチャッ……ターンッ…ガチャッ

「…流石だ」

「ふぇ?!」

「あぁそのまま続けてくれ」

 いや、知っていたから的に当たる事には然程驚きもしなかったが、珠瀬の集中力には驚かされた。
 まるで珠瀬っていう人間そのものが銃になったみたいな、精密機械っつーの?
 生きた人間をそう感じさせてさせてしまうのは余程の殺気とかオーラみたいのを放つ必要があるんだけど…
 それが無いんだ。
 あのコロコロと猫みたいに可愛い珠瀬から、完全に生き物としての気配が消えてる。
 成る程、確かにこれは、極東最高のスナイパーってだけはある。

「いやぁ…スゲェよ。雰囲気からして今まで見た誰とも違う」

「そ、そんな事ないですよー」

「あとこれで上がり症が治ればな…」

「えっ!?えっ!?」

「何で知ってるの?って顔してるけどさっき俺が来てからちょっと精度落ちたろ、それでも常人を遥かに超えてるからあんま人に言われなかったんだろうけどさ」

「バレちゃいましたか~」

「バレちゃいました」

 しかしどうやってアドバイスしたもんかな、自信を着けさせてやれりゃいいんだけど。
 そういや珠瀬って自分の事はどう思ってるんだ?

「ひとつ聞きたいんだけど」

「何ですか?」

「壬姫は自分の狙撃の腕はどう思ってんの?他の人と比べて」

「うーん、狙撃は私の中では得意なんですけど…他の人と比べた事が無いですから」


 どうも変だな、自信とか云々じゃなくて、争うのが嫌ってのの延長でなのか?

「比べるのは嫌いか?」

「そうじゃないんですけど…なんていうか」

「自分が相手に勝つとなんか申し訳ない気分になる?」

「…そんな感じです」

「やっぱそうか…」


 どうすんだコレ。
 ただの上り症よりタチ悪いぞ。
 ゆとりか?争わないゆとり教育の弊害か?ってここ文部省ねーだろ。
 参ったな…

「壬姫」

「はい」

「俺はお前に俺たちの背中を守って欲しいと思ってる」

「私に…ですか?」

「うん、比べた事が無いなら、比べるのが嫌でも教えてやる。お前は俺が見てきたどの衛士よりも狙撃が上手い」

「え…」

「だから他の誰でもない、世界で最高だと俺が信じてる壬姫、お前に俺と仲間達を守って欲しいんだよ」

「そんな…事…」

「今は信じられなくてもいい、だけど壬姫がしてきた訓練は壬姫を決して裏切らない。それでも自分が信じられないなら…」

「信じられないなら?」

「壬姫を信じてる俺達を信じてくれ」

「タケルさん…達を?」

「そうよ、私達を信じてくれればいいわ」
「うむ、武や榊の言う通りだ」

「みなさん…」


 いつの間にか榊達が集まってきてる。
 そういやシロガネんときは珠瀬と射撃の腕比べやってるのを見に来るんだっけか。

「ねぇ珠瀬、私はとても射撃じゃ貴女にかなわないし、接近戦じゃ御剣に敵わないわ。でも私は貴女を信じてるって事、それだけは胸を張って言えるわ。だから、私の胸を張って言える事を信じて欲しいの」

「我々も榊と同じだ、我らが壬姫を信じる事を信じて欲しい」

「冥夜さん…みんな…あ、ありがとうございますっ!ミキ、207のみんなを信じます!」


(よかった…それにしても榊達良いタイミングで助けてくれたな。やっぱりお前らは、最高だ)


「「で」」



「…で?」



「白銀、貴方の腕はどうなの?」
「武、そなたの腕はどうなのだ?」


 前言撤回。お前らやっぱそれを言いに着たのか。



 とりあえず目立ち過ぎない程度にそれなりに撃っておいた。





同日1230
----PX----

「あぁそうだ、みんなに話しとく事があるんだった」

 そう、これはなるべく早めに片付けないと。
 遅いとそれこそ手遅れになる。
 俺の真面目な雰囲気に、食事をしていた皆の手が止まり静まり返った。


「総合戦闘技術評価演習だけどな、多分前倒しになる」

「なんですって?」
「それはまことか?」
「…嘘?」
「ホントですか?タケルさん」
「僕退院したの今朝なんだけどな~」


 口々に帰ってくる反応。
 たしかに現状のまま演習に突っ込んだら、それこそ受からない確立が高いってみんな薄々解ってるんだろう。
 でもそれは早まらなくても同じ事だ。じゃあ俺がなんとかしてやんないと。

「みんなの言いたいことも判るがちょっと聞いてくれ。まず第一にな、もう時間が無いんだよ、人類。ハイヴを抱え込む日本じゃ特に消耗が激し過ぎて、今のペースじゃ衛士の補充が間に合わないんだ。だから新戦術機の衛士育成カリュキュラムのテストも兼ねて、207Bのカリキュラムも変更になる可能性が高いって話を香月博士から昨日聞いたんだが…」

「それは…そうだけど」

「ちなみに前回の演習の検討会とかは…したんだよな?当然」

 軍に関わるイベント事、特に演習等では検討会は[当然するもの]だ。
 個人レベルの反省じゃ、チームとしての成果は決して改善されないのだから。
 そしてそれを怠る事は、また同じミスを招く事に繋がる。
 例え好成績を残したとしても、よりリスクを減らして同じ成績を取る事を目指したり、より高得点を狙うのは当然。
 他の何物でもない、自分と仲間の命が掛かっているのだから。


「それは…」

「まさかして無いのか?」

「「「「「………」」」」」


 皆鎮痛な面持ちをしてる。
 本人達もわかってるんだろうな、やらなきゃいけないって事くらいは…
 でもやらなきゃいけないなんて生易しい事を言ってる時点でおかしいんだ。やるんだよ。それが当然。
 メシを食ったらトイレに行くのと同じ、演習を行ったら、それを何がなんでも血肉にしなきゃいけない。特に訓練生は。
 だけど今更前回の演習を血肉にするもないだろう。
 だから俺は、また一つ、コイツ等を騙す。


「よしっ、じゃあ今からやろう」

「えっ今から?今昼食よ?」

「じゃあそうやって演習日まで後回しにすんのか?」

「そうじゃなくて、夜にやるとか…」

「すまん。千鶴には悪いが後でやるとかは信じられない」

「「なっ?」」
「「えっ?」」
「…」

「うん、みんなにも悪いけどこの点についてはこれっぽっちも信じられない。だってありえねぇもん衛士になれるかどうかの演習に落ちて検討会してねぇとか。そんで半年もやらずに放置してて、せっかく今キッカケが出来たのに流すようなヤツを信じろっていうのか?できないだろ常識的に考えて。お前なら信じられんの?」


 「常識的に考えて」には特に念を込めて言ってやった。
 とりあえず「自分達は他と比べて異常」と気付いてもらわないと話にならない。


「昨日今日来た貴方が…随分解ったような口を利くじゃない…!」

 榊や皆の視線が冷たいが、そんな事は気にもならない、どうでもいい。

「おいおい分隊長、本気か?食ったメシの栄養分がまだ頭に回ってないのか?新規隊員の俺が解らないから検討会するんだろ?それとも何か?俺に演習当日になって「この隊にこんな欠点があるなんて知らなかった」なんて言わせるつもりか?俺が間違った事を言って無いのは頭の良いお前なら解ってるんだろ?」

 そう、屁でもない。コイツ等の生存率が上がるならば。コイツ等が衛士に成れるならばそんな事は苦痛でも何でも無い。
 それに現時点で俺は間違った事を言ってない。

「…くっ」

「今やるべきだ。他の場所でも、他の時間でもない、今、ここで。…お前等の本気で衛士になりたいって気持ちだけは俺は一点も疑ってない。そうだろ?千鶴。お前は衛士になりたいんだよな?」

「「「「………」」」」

「…なりたいんじゃない、なるわ。私は衛士になる」


 そこまで言える程芯が強いのに、何でコイツ等は…、いや人の事は言えないか。
 俺だっていくらループ経験を継いでるつっても首相の息子として生まれたり征夷大将軍の双子で生まれた事なんざねーしな。


「なら聞かせてくれ、皆が何を見て、何を考えて、何をしたのか」

「そんなに難しい事じゃないわよ……チームをまとめられない無能な分隊長と指示に従わない部下、見切りをつけて独断した部下……主にこれが理由」


 俺が突然暴言を吐き出してヤケになったのか、それともそれだけ根が深いのか。
 榊の口からでた言葉は、やっぱり"アレ"だった。

「ちづ…るさん……」

「ど、どうしてそんなことわざわざ言い出すの?」

「……違うね。最後はあんたの指示に従って地雷原の餌食になったんだ……」

「慧さんまで?!」

「……美琴は迂回すべきだと言っていた。美琴の勘が尊重されるべきことは事前に了解済みだと思っていたのだがな……」

「冥夜さんっ!」



「お前等…」


 思わず盛大にタメ息をついてしまった。
 これが検討会か?そうだよな?さっきそう言ってたし。
 まぁこれ以上の暴言は例え焚き付けるのが目的でも拙いだろう。


「何、白銀?何か意見でもあるの?」


 逆ギレかよ…榊もこんなガキじゃない筈なんだが…
 ソレだけ追い詰められてるんだろうな。他の連中も。


「あぁ、今ので大体解った」


 全員「何が?」という顔をしてこっちを見てる。
 そりゃそうだろう、今のやりとりを見てる限り、「あぁこのチーム仲が悪いんだな」以外の感想は普通出てこない。

「…何が?」

「だから大体だよ慧。そうだな…演習に落ちた最大原因と具体的な改善案って所かな?」

「…武…それは本気で言っているのか?」


 まぁたったコレだけでそこまで解ったつっても信じられるワケないが…


「あぁ本気だよ冥夜。まぁとりあえず結論から言うとだな…」


 でたー!「とりあえず結論から入りたがる」中二病デター!


「ぶっちゃけこのまま演習やっても絶対に受からん、最初から"受からないようになってる"演習だからな」

「…そなた今何と言った?」


 俺の言葉を聴いた瞬間、皆の顔が引きつる。


「だからこのままじゃ絶対に受からない。受けるのが例えお前等じゃなくてもな」

「受からないって…受からないようになってるってどういうことよ!何で貴方がそんな事断言できるの?!」


 千鶴のその一言は最もだが、お前等は肝心な事を忘れてる。


「そりゃお前等が全員帝国の要人の娘だからだ」

「「「「「――――ッ!?」」」」」


 考えたく無かったのか、それともそこまで考えが回らなかったか。
 回らなかったとしても責められるもんじゃないな、コイツ等は周りを押し切って、ようやくここまで来れたんだから。
 でも人生にスタッフロールなんて流れないように、国連軍に入ったからっつってそこがゴールになるワケじゃない。


「帝国側から確実に圧力が掛かってる。"奴ら"もお前等を衛士にさせて殺させる為に国連に放り込んだんじゃないんだしな」


 そう、207B分隊は言うなれば帝国が差し出した人質だ。
 オルタネイティブ4を握る香月博士との関係を維持する為の…
 その位は、うすうす皆も気付いてるんだろう。

「お前等の力が足りないから合格出来ないんじゃない。合格出来ない演習を最初から組んであるから、結果合格できないんだよ。原因と結果が逆なんだ。だからいくら話し合っても解決出来ない」


 だから万が一こちらが合格としたとしても、任官される事は永遠に無い。
 それこそオルタネイティブ5が発動するか、クーデターが起こりでもしない限りは。


「そん…な」


 誰ともなく、そう呟く声が聞こえた。

「お前らの個人能力も"奴ら"に報告書で上ってんだろうな、そっから合格出来ないような無理な難題を基地司令経由で流して来るんだろう」


「じゃあ…ミキ達が今までして来た事って…全部…」


 無駄だったの?なんて言わせないぜ。
 お前等の歩いて来た道は確かに遠回りだけど、決して無駄じゃないからな。

「…だから俺達は"奴ら"の計算を、少しズラしてやればいい」

「えっ?」

「報告書として上ってるのは数値化された個人のデータだけ。まぁ教官の所感でチームワークに不備あり、とかも言われてるだろうな」

「くっ…」
「………」

「お前等の部屋だけが特例で個室なのも、特別待遇にさせた上でチームワーク作りの足かせになるようにと考えられての物だろうしな。全く"奴ら"も良く考えたもんだよ」

「個室が特別扱いなのは気付いてはいたが…まさか…そんな裏があったとは…」

「じゃあ俺達はどうすればいい?簡単だよ、書類に出てる数値以上の力を出せばいいんだ。"奴ら"の意表を突けばいい。早い話が…チームワークって奴でな」

「チームワーク…」

 仲間を大切にしろ、仲間を守れ、チームワークが必要だ、そんな事はきっと神宮司軍曹から散々言われて来たんだろう。
 でも実践で仲間を失ってない207Bの連中はイマイチ軍曹の言葉に共感できなかった。必要だと思えなかった。
 なら、コイツ等に解り易い形で教えてやればいいんだ。


「逆に言えばそれが無けりゃ何がどうひっくり返っても絶対に合格しない。何度も言うが"奴ら"は演習を"絶対に合格しないように出来てる演習"にしてるんだからな」

「「「「…………」」」」


 皆の表情が陰る。
 無理も無いよな、じゃあ今からチームワーク作りましょ、なんて上手くいくわけが無い。
 一年近く今までダメだったんだから。

「…そこまで言うからには、いや先ほども言っていたか。何か策があるのだな?」

「ある」


「あるの?そんな魔法みたいな事が?」

「要は"奴ら"がやった措置の逆をやればいいんだよ。つまり」

「「「「「つまり?」」」」」


「今日から全員同じ部屋で生活するんだ」


「「「「「えーっ!?」」」」」




 自分で言ってて思った。



 …それなんてエロゲ?






MEIYA

「今日から全員同じ部屋で生活するんだ」

「「「「「えーっ!?」」」」」


 武、そなたの言い分も理解できる。いや、寧ろ目が開いたかのうよな感銘を受けた。
 その発想は無かった。
 我等の誰一人として、そこまで視野を広げて考えられた事などありはしないのだから。
 だが武よ、いくらなんでもそれはあまりにもアレではないだろか…


「…同棲?」
「えっ?えっ?どどど同棲ですか?」


 慧よ、そなたはちょっと待て。


「僕エプロンと包丁よりナイフ一本で外がいいなぁ」
「ちょっと!何でそうなるのよ!」

 鎧衣はもっと待て。
 何故エプロンとかそういう話が…いや決して私の料理スキルが低いとかそういう話では無くてだな。
 いやいやそんな事より武の提案に付いてだ。確かに効果的であるようにも思えるが…

「武?誰も納得していないようだが、もしそなたがそれなりの考えを持って発言をしたのなら、きちんと説明すべきではないか?」

「あぁ、ちょっと結論を急ぎすぎたな。つまり…」


 武の言う所によると、1からチームワークを作る時間が無いこと、また総合演習まで間もないことから、今日から「常時演習」として生活しよう、という事らしい。
 つまり場所が基地であるだけで、24時間サバイバル演習として生活するのだ。
 寝る場合も必ず2人歩哨として起き、寝るメンバーは当然寝袋で床で寝る。その他食事も移動も、何もかも「任務」として扱う。という事だった。

「まぁ[演習ごっこ]みたいなもんだな。常に誰かに襲われる可能性がある、そんな感じで考えてくれればいいよ」

 と、本人はそんな事を言っているが…いくら寝袋とは言え、同じ場所で寝るというのは…

「それともお前等演習当日になって傍で俺が寝てるせいで寝不足になったりしていいのか?」

 そう言われれば引き下がるワケにもゆくまい。
 また彩峰が「白銀、大胆」等と発言してひと悶着あったが、どの道このままでは演習突破は難しいという事で、変な言葉だが全会一致でしぶしぶと可決された。
 その後武が千鶴に何かゴニョゴニョと耳打ちをしていたが、何かまた新しい策でも考えたのだろう。
 聞いた千鶴が頭を抱えていたのは少し気になるが…

「じゃあ俺午後はまたちょっと香月博士の所で準備があるからそっちに行くよ」

 ふむ、また新戦術機の手伝いか。しかし準備ということは稼動が近いという事か?
 全く、多忙というか仕事が速いというか…

「ま、待ちなさい白銀」

「「「「?」」」」

 全員が発言者を振り向く。千鶴だ。
 そうであった。まだ我等は彼に礼のひとつも…


「あぁそうだった、俺が言い出した事なのにな…。榊分隊長、副司令付きの任務に出る許可が欲しい。終了予定時刻は1900だ」

「許可します。ならランデブーポイントは1920に今と同じくここ。私達は先に場所を確保して待ってるから」

「了解した分隊長、行ってきます」「えぇ、行ってらっしゃい」

 そう言ってビシッと敬礼を交わし、歩き去る白銀。
 …何が起きた?
 恐らく千鶴以外誰も理解できていないだろう。


「千鶴…今の武とそなたのやり取りは?」


 なので皆を代表して私が聞いてみる事にした。


「さっき[これからはずっと演習のつもりで]って言ったでしょう?だから白銀は分隊長である私に別行動の内容を報告して許可を求め、私が受諾したのよ」


 分隊長である自分が今の武の直属の上官って事になるからね…か、どうせならば部隊発足時に分隊長に立候補すれば…いや、何でもない。何でもないぞ。
 しかし、まさか武がそこまで考えていたとは…

「分隊長、私も単独行動の許可が欲しい。5分、いや3分でいい」

 よし、私も申請はした。後はホラ、その、あれだ。事後承諾というヤツだ。
 そう言い残し私は武の後を追ってPSを出る。

「え?み、御剣が?えぇと、単独行動は基本的には許可できないから、トイレだったら珠瀬とエレメンツを組んで…」

「榊榊」

「何?」

「もう居ない」
「はう~」
「いやー、世界を狙えるスタートダッシュだったねぇ~」

「私、貴女の事は信じて頼りにしてたのに…」


 そう呟いた榊分隊長の言葉は冥夜に届くこと無く、PXの喧騒の中に消えていった。





 PXを出て最初の曲がり角を曲がった所で、武の背中を確認出来た。

「武!」

 少々距離は離れていたが、此方の声が聞こえたのか、立ち止まって振り向いてくれた。

「…どうしたんだ?冥夜」

 ――――?
 その時の武の表情に、私は違和感を覚えた。
 どこか寂しげで、すまなそうな、気まずそうな、今にも消えてしまいそうなその表情に。
 何故そなたがそのような顔をするのだ?
 そなたはまた一つ我々の壁を破壊し、一つの目標に向かって歩く道を示してくれたではないか。
 いや道を示してくれただけではない、その道を舗装した上に案内板まで付けてくれたと言うのに。

「武、そなたに言っておきたい事があったのだ」

 そうだ、まずは礼を言わないと。
 今言わねば駄目だと思い私は、榊に許可まで求めて此処まで走って来たのだから。
 ――――だから何故、その様な辛そうな顔をするのだ。

「たけ「解ってる」…え?」


 どうしたと言うのだ?
 武が私の話を遮る等、出会ってから三日間一度たりとも無かったと言うのに。
 やはり今の武は何処か変だ。


「やっぱ冥夜には気付かれちまったか…。

 解ってる。俺は…真実だけを並べて…アイツ等を騙したんだ」


 ―――何を


「居もしない特定の"奴ら"なんて言葉で共通の敵を意識させて」


 ―――言って


「個人個人の背景を無視して、共同生活なんて話を最初に持ってきて混乱してる内に無理矢理一つに纏めて」


 ―――いるのだ?


「コレじゃ殆ど洗脳だ…最低なのは解ってる。けど…これしか浮かばなかった。これしか出来なかった。今の…俺には」


「武…」

「お前には…その内ちゃんと話すよ…話せる範囲になっちゃうけど。じゃ俺…行くわ」


 そう言って走り出した武は、今度こそ振り返る事無く、通路の先へと消えてしまった。
 私は追う事も、声を掛ける事もできなかった。

 我らを…騙す?聞いていて嘘は言って無いと感じたが…
 事実だけ並べて騙したと言うなら、嘘を言ったのではなく、言わないで隠した事がある?
 いや、確かに今になって振り返れば、我ら全員を"帝国の要人の娘"と言っていたが、武は207B全員の背景を知っている?
 "個人個人の背景"とはその事か?我らを取り巻く環境がそれぞれ違うのに、それを"奴ら"とまるで一つの存在のように話したのも…
 そもそも武は、何故私に話こんな話をしたのだ?
 黙って居れば私も恐らく気付かなかったと思うが…

『やっぱ冥夜には気付かれちまったか…。』

 いや、武は私が気付いたと思ったのだ。
 だから話した。



 つまり…




 武が私にだけ弱さを見せている?

「ふっ、馬鹿な、あの者は強い」

 そう、強い筈だ。現役の衛士なのだから。



 しかし私が衛士になったら、弱さと言えるものを即座に全て切り落とせる物なのだろうか。



 ――――わからない。

 私は頭を捻りながら、元来た道をPXへ向けて歩き始めた。


####################
歌アリストーリーを家に帰る途中考えてみた。

どうせ歌を使うんだから全面的に押し出したいよな。
もう「歌で勝っちゃいました」くらいの…
となるとBETAに歌が有効って設定にして…
人間を生物と認めていないから、生物だけが持つ文化を見せるってのはどうだろう。
でも建築物とか壊されてるから美術品はダメなんだよな…
そこで歌の登場ですよ!
よし、オルタネイティブ3で一人生き残りを追加で作ろう、設定上。
で、その少女(この時点で少女に大決定)はBETAに殺されそうになる瞬間、神への祈りの歌を歌うんだよ。
神様へ届くように無差別にプロジェクション能力を開放して。
そしたら少女が乗ってる複座型戦術機の周りだけBETAからの攻撃が止まって、援軍が来て殲滅、脱出。
少女はBETAに襲われたショックで廃人、病院行き。
いや、やめよう。
その時の生き残りが霞だ。
で、霞はもうBETAに対してトラウマを持ってて、それを何とかして(恋愛原子核に頼って)武と戦術機に乗る。

で、ピンチになって武を励ます為に歌うんだよ、武に教えてもらった歌を。
そしたらBETA止まる。武殺す。キタコレ!ヤックデカルチャー!
うはwwwテラチートwww
んで味方からは「何だ…歌声が…聞える?」「バカな、通信チャンネルは閉じているはず…」みたいな声が聞えてきちゃったりして。
サーセンプロジェクションだから暗号通信とか全く関係ありませんwwwみたいな。
あと00ユニットの応用で戦術機にプロジェクション能力の拡声器みたいな機能をつけよう。
じゃあじゃあその戦術機と霞を「直結」するためになんか霞にジョイントを差し込む設定にしよう。
エロイから背中か腰で!
そう、アルトリネコとかあんなかんじ!
「タケルさんに差し込んで欲しいんです」ってそれなんてエロゲ?それなんてエロゲ?
「うっ…あぁ!うくぁっ…ああっ」「ごめん、痛かったか?」「いいんです、また次もタケルさんにお(ry」
よし、その設定大採用。
ってどんだけ俺霞好きなのwwww同じ設定なら純夏でもいいじゃんwwwwwww
でも霞以外ねーよwwwwwwww俺の嫁だもんwwwwwwwwwwww
純夏はアレだ、「ぜろぜろゆにっと」ってアイドルユニット組めばいいじゃん。ソロで。(それユニットじゃないよね)
悠陽はホラ、ラクス様光臨だよ。
「ほーしのー降る場所でー」「うおぉぉぉ悠陽様ぁぁぁぁああ!」みたいな。アホスwwwwwwwww

んでそうだな、最終話一歩手前のサブタイトルは「愛覚えてますか?」、最終話は「天使のラブソング」。
これしかない!いい感じに中二病臭くて最高!映画化決定!




何してんだろうね………もう俺人としてだめかもしれんね。


あ、一つ前の話をいじって夜あのメンバーでXM3の慣熟をした事にしました。サーセン。







白銀→冥夜
過剰評価 言わなくてもいい事まで言っちゃう

冥夜→白銀
そんな白銀に戸惑う。
私にだけ教えてくれるってことはフラグ?と勘違いしそうな時がある。
あと榊との会話で出てきたけど例え本人が居なくても「武と千鶴」みたいに口に出して話す時にも武が一番最初に来る。



[4170] OversSystem 08 <衛士、霞>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/10/05 11:43

 14:00
----シミュレータルーム 複座型筐体----

「さて、始めるか」

「…はい、よろしくおねがいします」


 昨日言われた霞の[衛士にしてくれ発言]を叶えるべく、俺はまず霞を戦術機に慣れさせる事から始めた。
 言うまでも無いが、本来搭乗する筈だった凄乃皇・四型と違い、通常の戦術機はその機動により搭乗者に対し様々な方向へGが掛かる。
 それに備えるには体力ももちろん必要なのだが、俺はほとんど[慣れ]だと思ってる。
 俺やシロガネがこの世界の戦術機適正にやたら高かったように、ある程度揺れやGに子供の頃から慣れておけば、戦術機適正はかなり上がるんじゃないだろうか。
 その点霞はまだまだ延び幅がある。
 逆に言えばまだ慣れていない上、体力も致命的に無いので訓練にも細心の注意が必要だが…


「フィールドバックを15%に設定。霞、いくよ?」

「はい…お願いします」


 まぁようするに戦術機に乗る練習は戦術機に乗ってする事にした。
 「人を殴る訓練など人を実際殴ってやれ」って某オーガも仰ってる事だしね。
 霞を後ろに乗せた複座型の吹雪のシミュレータがスタートした。
 市街地戦設定、目標は固定目標を先ずは3体。

 まずは歩いて建物の影へ。
 あまり機体を揺らさないように…
 そういえばこういう挙動はあんまりした事無いな。
 同乗者を酔わないようにする…か、見えるところに水入れた紙コップでも用意すっかな…


「霞、ビルから半身出すから機体が止まってから射撃3秒」

「…はい」


 ガシュン、と一歩建物の影から機体を出し、機体が止まったのを確認してから霞はトリガーを引く。
 機体と目標が制止している事と射撃制御ソフトのお陰で突撃砲から吐き出された弾丸は、吸い込まれるように目標に着弾した。


「撃破を目視で確認…っと初めて撃った割には悪く無いな…」

「…お互い止まってます」

「いやアレで外すヤツも居るんだよ、意外にな。じゃ次は噴射移動」

「…はい」


 次は一回噴射して移動、ビルの陰に着地、半身を出して射撃。


「次、接近戦。これは俺がやるからとりあえず見ててくれ」

「…はい」


 接近戦は俺の領分だ、そこまで取られたら俺が移動オペレーターでおまけみたいになっちゃうしな。
 それに接近戦は接近戦のコツみたいのがあるから、そこまで霞にやらせるのは酷だろう。


「低空噴射で接敵、正面から切りかかる。Gに備えろよ」

「…はい」


ゴオッ―――


「……っ…!」

「よっと」


 動かないヤツを正面から長刀でバッサリやっただけなんで俺としては余裕というかなんともないが…


「よし、霞。10分休憩だ」

「…まだ大丈夫です」

「呼吸数と心拍数のバイタルは誤魔化せてないぞ?今日はこれでおしまいなんて言わないから、一回休もう」

「…はい」


 衛士としての適正はゼロでは無い…が、現状では限りなくゼロ。適正訓練をしたら文句なしの落第だ。
 体力その他全ての面でまるで足りないが、しかしこうやって少しづつ慣らさないと戦場には出れない。
 当然俺としても3次元機動に耐えられるまで戦場に出す心算は無いので、出撃は早くても半年か一年後だろう。

 筐体から出て休むにも周りの視線があるし、つーか霞の強化服は犯罪的な空気を出しているのでとても外には出せないので、筐体に入ったまま休憩を取る。
 霞は何か積極的に話すタイプでもないし、俺としても無理に喋らせる気も無いので、今後の事とかをボケッと考える。
 そうしている内に10分を示すアラームが鳴り、俺はまた先程とほぼ同じような訓練を繰り返す。
 それを5回、つまり一時間半して今日は終了とした。
 霞はまだやりたがって居たが、バイタルを見るとかなり疲労が溜まっているのが伺える。


「おつかれさま、霞」

「…ありがとうございます。…タケルさん」

「ん?」

「私…役に立てますか?」

「やれるよ、お前ならな」


 霞としては今日の訓練で思っていた程高いレベルの挙動を俺がやらなかったのを気にしてるんだろう。
 確かにあんな動きで戦場に行ったら全く使い物にならないだろうしな。


「まだ戦術機に乗って初日だろ?普通の訓練なら武器持つ所かせいぜい走る曲がるくらいしかしねーし気にしなくていいよ」

「…私が動かしたんじゃありません」

「それでいいだろ?俺と霞でひとつの戦術機乗りなんだから」

「!」

 ピコン!

 と耳をつけていたら反応したであろう表情をする霞。
 残念ながらヘッドセットをつける関係上ウサミミは外さないといけないのだ。


「…他に出来る事はありますか?」

「んー、まず体力つけなきゃ行けないから、なるべく沢山食べる事、なるべく歩き回ったりして運動する事、早く寝る事、かな?」


 基本中の基本だ。あと走れってのは無理な気がしたので、長時間運動できる歩きにしてもらった。
 でもまさかシリンダールームを永遠と行ったり来たりなんてしないよな…いや霞ならやりかねない。

「歩く方はメシ食い終わったら俺も付き合うからさ」

「…はい…ありがとうございます」


 なので俺が付く事にした。
 霞と散歩が日課なんて今までのループでもなかったんじゃないだろうか。



 その後霞の着替えを待ってシリンダールームへ送り、俺は香月博士の部屋でまりも先生、伊隅大尉、月詠中尉らと合流した。




 17:00
----香月副司令執務室----


「何故そうなるのだッ!」


 で、とりあえず行き成りキレ気味の月詠中の怒声が執務室を振るわせる。


「いやーだから俺としてはクーデターを死者ゼロで終わらせたいんですけど、それには殿下の協力が不可欠じゃないですか」

「だからと言って何故…私が紅蓮閣下と貴様の一騎打ちの段取りなどをせねばならんのだ!」

「それに武御雷に新OS入れるにも斯衛の上の許可がいりますし、帝国側の上層部にXM3の有効性を速めに匂わせる事はですね」

「だから!」

「それに武御雷のシュミレータを実装するのにも斯衛の協力と許可が要りますしね」

「私の話を聞いているのか?!」

「聞いていないのはアンタでしょ?」

「ぐっ!」

 ようやくここで香月博士から援護射撃が来た。
 何故かは解らないが…いや、昨日の救護室の一件が絡んでいる事は間違いなさそうだが、兎に角俺がどんなに理論立てて説明しても聞いてくれない。
 一体月詠中尉は何をファビョっているのだろうか。


「アンタが話しが解るヤツだって信用したからコイツも話しもしたんだし、私も[ここ]までの通行パス出してるのよ?」


 今からでも降りる?とたしなめてくれるのは助かるんですけど挑発もセットメニューで付けないでください。ランチタイムは4時間も前に終わってます。

 さて、何でそもそもこんな運びになったかと言うと…

 1.クーデターは起こす、但し死者はゼロで。
   これによって米国、もといオルタ5推進派を押さえる。
   場合によってはノコノコやってきた第三艦隊の一分の物資が欲しいので国連本部に証拠を提出をチラつかせて交渉。
   実は"ちょっとした"じゃ済まないネタを先に掴んである。
   帝国内ではスパイの粛清と政治の膿出しを一気に行い、ついでに沙霧大尉の身柄を横浜で貰う。


 2.そのためには事前の殿下による沙霧大尉への説得が必要。
   それには月詠中尉の存在では足りない。
   そこで月詠中尉と面識のある紅蓮大将と接触をしてみたいが、どうせなら武御雷及び帝国にXM3を提供する布石として、一回模擬戦ができればなおよい。
   目先の意味では横浜基地の武御雷へのOS換装と、シミュレータの武御雷データを貰う許可が欲しい。


 なので月詠中尉には「横浜基地最強の男が一手手合わせを望んでいる」とか言って俺と帝都に乗り込む。
 その辺のプロセスは紅蓮大将と面識のある月詠中尉に任せるというか丸投げ。


 …あぁやっぱり無茶かも。
 しかし多少無茶でも何とかしないと多くの犠牲が出る事はここにいる全員が理解している筈だ。
 だから俺のプランを否定するにも何か建設的な代替案が出て然るべきなのだが…
 先程から一方的に否定されているのだ。


「ですが香月副司令…」

「で、できるの?できないの?」


 何かもう出来ないって言った瞬間計画から完全に外しかねない目で博士が月詠中尉を睨めつける。
 いや、この人は外すだろうな。場合によっては帝国対策で突然"事故"なんて事が起こりかねない。


「…できます」

「そう、ならよろしく」


 悔しそうに歯を食いしばって俺を睨み付ける月詠中尉。
 ちょっと待て、お前どんだけ俺の事嫌いなんだよ。
 下手したらっつーか間違いなく通常ループより嫌われてるぞコレ。


「で、日付なんかももちろん考えてあるんでしょうね?」

「えぇ、11月11日のBETA侵攻前がいいんでその前となると…来週の週末がいいと思ってましたが」

「そうね、じゃ月詠中尉はソレに合わせて。それと来週頭からXM3がをA-01に配布できるレベルになったわ。白銀?」

「……はっ」

「んー、じゃあ早速月曜からA-01に対する教導を始めましょう。俺と伊隅大尉と神宮司軍曹で、あと斯衛の白三人にも不知火で先行で触れてもらいたいんで月詠中尉にも協力を願いたい所です」


 出来ればあの白三人にも新OSをマスターして貰いたい。んで許可が下り次第一人づつローテーション組んで帝都に戻って斯衛側の教導とかをいずれしてもらう予定だ。
 あと動作系OSなんで当然ハードである戦術機が変わればOSもそれに合わせて改装しなければならない。
 武御雷の改造許可も下りてない上に、システム設計書の一つも無い状態では手の打ちようがない。
 コンピュータプログラムというのはコンパイルされて実行ファイル化された物がいくつあっても、そこから逆に設計書を作るのは非常に難解な作業なのだ。
 リコンパイルというのをすればマシン語レベルでプログラムの状態まで戻せるが、それは膨大な解読困難な計算処理式を産むだけで、各関数がどういった目的で作られ動作しているのかが全く解らないのだ。
 そんなわけでいちいちそんな解析作業をしている暇の無い俺達としては、とりあえず不知火に乗ってもらうしかない。
 それに横浜基地に駐留している斯衛の戦力強化は月詠中尉としても嬉しい筈だ。


「…いいだろう、では私は準備があるので此れにて失礼する」



プシュン――――――


「俺が何したっつーんだよ……」


 つーか此処まで嫌われるってフツーねーだろ。目線で殺されるかと思った。
 それは閉まった扉への俺の独り言だったのだが…


「ハァ?アンタが御剣にプロポーズなんてするからじゃない?」


 横浜の女狐の囁きにより独り言では済まなくなった。


「は?…えぇ?!いや意味わかんないんんですけど」

「してたでしょ、シミュレータ相手に一人で」

「え?………………… ア ッ ー ! 」




 …アレか。
 そういう使われ方の発想は無かった。

「…いや、人のログ見るなら一言くらい…やっぱなんでもないです」


 俺の機動ログをチェックするなんて当たり前じゃないか…シローアマダの真似なんてするんじゃなかった。
 せめてノリスにすればよかった…
 とりあえず途方に暮れるしかない俺だったが、ため息をつくと同時に一つ目線を感じた。


「白銀は御剣と結婚するつもりなの?」

「…まりも先生?」

「あぁいや!気になるじゃない、だって御剣は帝国の…ねぇ?」


 まさかこの人も本気にしたのか。
 流石男不足社会というか何と言うか…
 スイーツ脳乙とか言ったら殴られるだろうか。



「いや、俺は誰とも結婚する予定は無いですよ」

「でも『添い遂げる』って…」

「そりゃお互い寿命をまっとうしようねって意味ですよ、毎度毎度俺を含めて誰かしら死んでましたからね。当然その中にはまりも先生や香月博士、伊隅大尉も含まれてます」

「そ、そうだったの。ならいいんだけど」
(私ったら…なんて勘違いを…)


 俺としては寿命までなんてこの世界にあんま居たくないってのもあるにはあるんだけどね。
 しかし俺の無くなった記憶か…戻る前に知っておきたいな。本当に戻りたいって感じる様な世界に生きていたのか…
 まぁ兎に角今を乗り切らないとそれもどうにもならないか。

「じゃあ今日の最後の話題で、XM3のロゴと教導システムの件なんですが…」



(フッ認めたく無いものだな。自分自身への、若さゆえの過ちというものは。白銀、私は貴様を誤解していたようだ)

 部屋を出たフリをして聞き耳を立てていた赤がそんな事を呟いたらしいが、バッチリカメラに撮られていてその後永遠にその赤は香月博士に逆らえなかったという。


CHIZURU

19:10
----PX前廊下----

「鎧衣と彩峰でエレメンツを組んでPXを斥候。問題が無い場合、かつ座席を確保した場合は榊がその場に残り座席を維持。
 鎧衣は報告に戻ってきて。その後鎧衣を含めたメンバーで食事を取りに行くわ。
 彩峰の分はその中で確保しておくから予め鎧衣に注文を伝える事。いいわね?」

「「了解」」


 てけてけてけっと緊張感の無い歩き姿を後ろから眺めつつ、私はため息を隠せなかった。

(何やってんだろ…私達)

 やってる事に意味はあるんだろうと思いつつも、どこか子供の遊びの延長のような気がしてならない。


「榊」

「ん?どうしたの御剣」

「そう深く気にせずともよいのではないか?」

「えっ?」

「確かに今我らがやっている事は…子供の遊びの様ではある。だが一日中共に居る事を意識しつつ行動する事は今までに無かった事だ。寧ろ余計な緊張をせずため息が出るくらいが好ましいのであろう」

「…それもそうね、ありがとう御剣」

 そうだ、これは遊びじゃないのだ。
 白銀にも言われたじゃないか。「お前が真面目にリーダーをまずやらないと、誰も本気にならないから。ぶっちゃけコレ成功すんの千鶴次第なんだわ」って。
 つまりこの[お遊びのような演習]の成否がそのまま総戦技評価演習の合否に繋がるのだ。
 ピシャッと自分の頬と叩く。
 切り替えないと。ここでぼーっとしてる時間だって無いんだから。


「ありがとう御剣…ちょっと弛んでたわ」

「何、気にするでない。分隊長の補佐は副長の務め故な」

「フフッ」


 御剣は強い。
 前からそう感じていたが、何処が強いのか最近解った気がする。
 変わらないのだ。どんな状況に置いても、芯というか根っこの部分は変わらない。
 それでいて変化してゆく状況への対応力もある。
 彼女が部下としてただ居るだけでこんなにも心強いとは…

 …そうだ、心強いのだ。
 今の御剣は特に特別な事をしているワケでもないのに、私は今までで今ほど彼女を頼もしく思った事は無い。
 そう言う意味では、先程行かせた鎧衣は[偵察を誰にさせよう?]と考えた時まず真っ先に浮かんで来て安心して任せられる相手だし、何かあっても彩峰ならまぁなんとか適当に考えてこなすだろうとも思った。
 何かこじれたら珠瀬が笑ってくれればなんとか話し合い位には持っていけそうな気がする。


「…そうだったんだ」

「ん?どうかしたのか?千鶴」

「ううん」


 そうだったんだ。
 今まで分隊長とか言われたり分隊長だと言ってみたりしたけど、結局ただのお友達ごっこに過ぎなかったんだ。
 誰かに命令する時も、[軍曹に任命された私が命令するんだから聞きなさいよ]とかどこか心の中で逃げていたんだ。
 それが1から自分で考えて人に命令する時に悩まず発令できるこの気軽さ。そしてその気軽さを与えてくれる仲間。

 あぁ、ウチの小隊ってこんなに頼りになるんだ。

 そこまで考え付いて急に恥ずかしくなって頭をぽりぽりと掻く。
 っていうかそんな事にこんな遊び半分みたいな任務でやっとこさ気付くってどういう事?
 私バカなの?
 いや世界一頭がいいとまでは思った事は無いが、それなりにバカでは無い…と思う。
 となるとやはり…
 それぞれの出身とか、そういうのを気にしてたんだろう。
 その考えは自分の努力を放棄するような結論なのであまり認めたくなかったが、でもそうなんだろう。
 私は不干渉なんて勝手にルールを作って、それに逃げてたんだ。

 そんな常識をあっさりバカみたいにぶち壊してくれちゃって…


「ホント…変な人」



廊下をこっちに向かってくる一人の訓練兵を見て、思わずそう呟いてしまった。

19:45
----PX---
食後

「分隊長、私はこれより自己鍛錬にゆきたいのだが…許可が欲しい」

 自分の行動予定と許可を求める冥夜。うんうん、わかってきたじゃないか。
 お兄さんは嬉しいよ。
 なんか全員ちゃんとやってるみたいだしな。

「それなんだけど御剣…やっぱり今は個人行動は抑えて欲しいのよ」

「むぅ…それは確かに道理だが、私とて衛士になるために「だから私も付き合うわ」…何?」


 テーブルに着いている皆がびっくりする。
 'あの榊'からあんな頭の柔らかい発想が出てくるとは…
 てっきり冥夜を押さえて冥夜もそれに従うと思ってたけど。

「な、なら僕もやるよ~」
「私もやりますー」
「…同意」


 次々と挙がる手、手、手。


「ど、どうしたのよみんなして?」

「個人行動がダメなら全員一緒に居るのが良い」

「彩峰…貴女…」

「それに榊が追加訓練で倒れたら救護室に運ぶ人が必要」

「まったく…」


 おぉ、しかも怒らないぞ!なんか知らんが半日で随分とまぁ成長したなぁ。
 言い出した甲斐があったってもんだぜ。


「俺もって言いたい所だけどな、俺は新型の面倒を見てくるよ」

「わかったわ白銀」

「でさ分隊長、後でちょっと鎧衣を借りたいんだけど…」










21:00
----PX---

「あ、居た居た!タケルー」

「お、来たな」


 新型の面倒というのはぶっちゃけ嘘で、霞と地下を歩き回って散歩していた。
 さすがに一時間ぶっ通しで歩かせるのも酷なので休憩半分歩くの半分って所だ。
 まぁ霞と将来複座に乗る事を考えるとあながち嘘ではないのだが。

「あれ?社さんも居るね?で僕は何をすればいいのかな?」

「あーそれなんだけどな、今日歩哨立てるだろ?」

「うんうんそうするって話しだったよねー、ボクは長く寝たいから最初か最後がいいなぁ。あ、もしかして霞さんも来るの?」


 や、だからお前はもうちょっと人の話を最後までな…


「…はい」

 だから霞さん、俺は霞にそーゆー意外性は期待してないんだが。勿論初耳だ。
 何故そこで力強くうなづく。
 これから'ここですること'が終わったら今日は霞とは解散しようと思ってたんだけど…
 とりあえず訂正しようにも霞も退かなそうな雰囲気を出していたのでスルーしてしまう事にした。
 もちろん後で後悔するハメになるとは知らずに。


「だから美琴は最後まで話を聞けって。それでな、みんなに夜食を作ろうと思うんだ。おばちゃんの許可も貰ったし美琴は器用そうだしな」

「えー、ボク本格的な料理なんかしたことないよータケル?」

「大丈夫だ、本格的じゃないから」


 夜食に本格的なメシって受験生かお前は。


「んでな、今日作るヤツなんだが…」


 と言ってもおばちゃんの下ごしらえでほぼ8割完成はしている。
 俺は用意してもらった具無しのヤキソバとパンを片手に作りたい物の説明を始めた。

 これなら霞にも作れるしな。
 もちろん俺の分は霞に作ってもらい、彩峰のおかわり用も準備した。

 しかし美琴の方は俺の作り方を一度みただけでテキパキと作っていったが、霞はどうも上手く行かずに苦労した。
 浅く切りすぎては具が入らず、かと言って深く切れば具を挟んだ瞬間にパンが二つに千切れてしまったのだ。
 ようやく俺用に完成したヤキソバパンはかろうじて具を挟んでもパンが千切れない、ある意味絶妙なバランスの上に成立するヤキソバパンだった。

 ちなみに'失敗作'は全て'つまみ食い'という形で主に俺と美琴の腹の中に消えた。
 「こういうのも作る側の醍醐味なんだぜ」と言いながら霞の頭を撫でてやると、ちょっと照れていたようだ。



 そして俺は散歩と調理を霞に経験させてやれた嬉しさから完全に忘れていた。


 霞が寝袋を持っている筈が無いと言う事と…



 霞が寝る時、どんな格好で寝ているかを。





----白銀私室前廊下----

 俺は霞が「着替える」と言い出したので廊下で待機していた。
 俺を含めた207Bのみんなは野戦服、つまり緑のズボンに黒のタンクトップだけど霞は…………あ、しまった。
 ――――まずい。
 俺の頭をリーディングできる霞なら空気を読んできっと野戦服を持ってきてくれている。
 と思いたいが多分用意してないだろう。今までの流れからして。
 気になって扉に耳を当ててみると案の定というかやっぱりというか残念な声が流れてきた。

「えっ…社さんそんな格好で寝るんですかぁっ?!」

「…はい」

「流石にそれは無い」

「確かに寝やすいってのは解るけどそれはちょっと…」

「まて榊、問題はむしろこの格好を武に見られてもかまわないと社が思っている事では無いのか?」

「御剣?!えっちょっと社さん?!いいの?私達だけならまだしもアイツ男よ?」

「…大丈夫です」

「大丈夫じゃないよ~、タケルだって男の子なんだからさ、社さんの事襲っちゃうかもよ~」

「…白銀さんは何も感じないので大丈夫です」

「えっやっぱりタケルって胸がちっちゃい女の子はダメなの?」

「えぇ~!そんなぁ」

「フフン」

「慧さんも何勝ち誇ってるんですか~!」


 待て、ちょっと待ってくれ。オーケイ。俺が霞の寝巻きを忘れていたのは悪かった。
 しかしそれとこれとは違う。
 頼むよ霞。俺に勝手に巨乳属性とかおっぱい星人とかそんな属性を付けないでくれ。

 流石に耐え切れなくなった俺は「マダー?チンチン(AA略」と言わんばかりに扉をノックする事にした。


「「まだ入っちゃだめ(だよ)!」」
「まだ入る事まかりならぬ!」
「入ったら殺す」
「まだよ!」


 いやまだなのは知ってるけど殺すはねーだろ彩峰。


「それに社、よく見ればそなた寝袋も持っていないではないか」


 正規兵でもなんでもない社が寝袋を支給されているはずもなく、万が一支給されていたとしても当の昔に何処かに仕舞い込んでしまっただろう。
 今更発掘は難しそうだ。


「まぁまぁ御剣、それならベッドが一つ空いてるじゃな「白銀さんと一緒に寝ます」ってちょっと待ったぁ!認めません!認められませんそんな事!」


 霞の添い寝…か。しかも一つの寝袋で…だと?!
 なんてこった!ソレナンテエロゲ?

「タケルさん…起きてますか?」
「ん、どうした?霞」
「タケルさんの背中…大きくて温かいです」
「そう?」
「ここも…大きくて温かいです」
「か、霞!そこは…」

 キター!霞ENDキター!


バターン!

「ゲフッ」

「どうなってんの!白銀!」

「いや…俺も何がなんだか…」


 千鶴に叩き開けられたドアのノブに見事な角度でレバーブロウを入れられようやく現実に戻る俺。
 くそう、耳をつけていたのがアダになったか。


「と、兎に角!これは私達207の演習の為の練習なんだから、社さんは白銀のベッドを使う事!それ以上は譲歩しないわ!ってドコ見てんのよ!」

ドゴォ!

 どこってお前…部屋の中だけど…って千鶴お前そこさっきそのドアにレバーブロウを喰らった場所なんだけど。
 流石に同じ場所への二連撃には俺も耐えられず膝を着いてしまった。
 千鶴の一撃はシロガネの記憶にある鑑の'レバッ'とほぼ同じ威力があった。
 アレと同程度だと?ここラブコメ世界じゃないのにか?化け物め。
 俺じゃなかったら内蔵に甚大なダメージを被っていたかもしれん。

 とりあえずなんとか霞にはベッドの上に移動して貰ったのだが、また霞が「…白銀さんの匂い」とか言い出して俺は本日通算三度目のレバーブロウを受け今度こそ床に崩れ落ちた。
 ちなみにシーツその他カバーはロッカーの中の予備と交換され、今まで使用されていた分は何処かへ消えた。
 廊下にある洗濯ダッシュートに放り込まれたと思うけど。

 そういえば霞をベッドから出そうとする千鶴を止めてシーツ交換案を具申したのは冥夜だったな。
 霞をベッドから出したら出したでまたネグリジュ?を見た俺が意識をトバされる事になるだろうから冥夜の咄嗟の機転に感謝だ。

 俺はそのまま這うように寝袋に向かったが、いつの間にか俺の寝袋はベッドがある反対側の端に投げ捨てられていた。
 ご丁寧に足跡まで着いてやがる。
 俺が何したっていうんだよ…

 そんなワケだったんで、夜食の件に関しては鎧衣と霞にしか礼は言われなかった。





(これが…武の匂い…)

 後日、そう呟きながら青いGP-02がベッドの上でクンカクンカしている姿がこの世に存在していやかもしれないし、していないかもしれない。
 知らない。俺は何も知らない。



---------------

状況描写を多くすると今度はストーリーが全く進まなくなったり脱線したりするので今回シーンごとにぶった切ってさくさく進めようとしたんですがこういうのはどうなんでしょう。


あ、あとアップした後に携帯電話から読み直すと推敲しやすいですね。
「マブラヴ ~限りなき旅路~」さんとか「Muv-Luv Alternative 夢の続き」さんとかみたいに文章量多くても、読みやすい記事は携帯で見ても読みやすいです。

ぶっちゃけ俺の記事は携帯でみたら見づらかったです。
ギャフン。



[4170] OversSystem 09 <失われた郷土料理>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/10/05 11:43
AYAMINE

深夜
----白銀私室前----

 流石に冬の廊下は恐ろしく寒いのでズボンと同色のジャケットを着てはいるけど…やっぱり寒い。
 隣に立っているタケルも寒そうだ。
 時折足踏みをしたり、腕をさすったりしている。
 言いだしっぺだから口には出していないけど多分後悔はしているんだろうね。


(あー、クソッ。寒さ対策をしなかったのは失敗だったな…珠瀬とか大丈夫か?)
 ↑違う意味で後悔していた。


「…そろそろ小腹減ってきたし夜食でも食うか」


 ドカッと床に座りタケルはそう提案してきた。


「そだね」


 私も腰を降ろして胡坐を組み、足元に置いてあった袋を膝の上にのせる。
 宿舎での歩哨は恐ろしく暇だった。
 何せ聴覚的にも視覚的にも変化が全く起きないのだから。
 これが最初の組だったらまだ時たま通りすがる基地内の誰かを見る事もあったかもしれないが…
 そんな中唯一の楽しみがこの「夜食」だった。
 よくよく考えると確かに上手い手だと思う。
 食べてる間は気がまぎれるし、食べるまでは何が出てくるか楽しみでもある。(各自袋に入れ「食べるまで開けるな」と言われていた)
 のんびり食べれば暇つぶしにも持って来いだし、夜起きてるっていうのは意外とお腹が空く。
 日中あれだけ訓練していれば当たり前か。道理で国連軍に来てから朝食が多めに入ると思った。
(もちろんその前から彩峰は他人の1.5倍は食べていた)

 いやいや、のんびり食べれば暇つぶしになるんだ。のんびり食べれば…
 私は若干の空腹感に負けて一気に食べてしまわないよう、深呼吸してからタケルを見据えた。


「シェフ、本日のメニューは?」

「フ、フフフフフ。違う、間違っているぞ彩峰」

「は?」


 何か思うところがあるのか何処かのギアスユーザみたく不気味に笑うタケル。ちょっとキモイ。
 流石に正面からキモイと言ったら落ち込むかもしれないので。


「タケル、ちょっとキモイ?」


 夜食のお礼も兼ねてちょっとの疑問系にしておいた。
 だが私のそんな気遣いどころか、キモイすら彼の耳には全く届いていないようだ。



「他人からメニューを教わり、その味を想像する事は確かに面白いかもしれない。それは充実した、やさしい時間かもしれない。だが忘れたか彩峰よ、その袋の中身を誰が作ったかを!そう、お前の目の前に居る男、今極東で最も新しい伝説と呼ばれたこの俺だ」


 ズビシッ っと親指を立てて自分の顔に向けるタケル。


「いや、誰も呼んでないですよ?」

「そうんな事はどうでもいい。そう、その袋の中身は彩峰。お前が料理名を聞いても想像できないもの、全くの未知が詰まっている」


 全くの未知?
 いや、それはおかしい。
 だってこれはタケルと美琴が"PXで作ったもの"だ。
 いくらなんでもちょっとした夜食を作る為にオリジナルの材料を外から仕入れる筈が無い。
 ならば材料はPXでおばちゃんから提供を受けた物の組み合わせ…それが想像も着かない?


「ありえないね」

 フフン、と私は鼻で笑って答えてやった。
 そう、それはありえない。
 何故なら私は彩峰慧。
 日替わり定食は勿論全パターン完食済みだし、固定定食も日替わりがダブった時に全種制覇している。
 その私が想像できない筈がないのだ。
 だがタケルはそんな私を完全に無視する事に決め込んだようだ。ちょっとムカツク。


「それにな彩峰」

「何」

「お前の目の前に今ある物は何だ?」

「夜食の袋?」

「ならば言葉は無粋…自らの手で開けてみろ。他の誰でもない、お前の手で」


 いちいち芝居掛かっているがそんなに面白いネタがこの袋の中につまっているのだろうか。
 それなら私もリアクションの準備をしなければならない。
 さて、以外性…か。


1.弁当箱、開けてみると[ハズレ]と書かれた紙切れが一枚。
  →殴る


1.5 さらに「ハズレか、仕方が無い。俺のをやるよ」と差し出したタケルの分の弁当には
    [当たり]と書いてある紙切れが入った二段構えのギャグ
   →やっぱり殴る


2.量的な意外性で天然のゆで卵がひとつ
(卵の類は最も合成食品の味が天然に近づけないと言われている、技術がどうではなくそれだけ卵が旨いから)
  →量的な不満があるし天然の卵くらい食べた事があるので殴る


3.兎に角笑いを狙ったもの
  →私は笑いたいのでは無くお腹が空いているので殴る

4.ヤキソバがこれでもかというほど入っている
  →………どうしよう


 個人的にはネタとしておいしいのはやはり1.5なのだけど、でも本当に嬉しいのは4だ。
 でもその場合どう反応すべきかな…
 多分そうなったら今何を考えて居ても喜びのあまり体が勝手に動くだろう。
 そうなったらその時考えればいい。
 私は意を決して袋の結び目を解いた。


「あれ?」


 袋の中は…ぱっと見1枚の紙切れだった。
 ただその紙切れの下にはなにやら重量感のある物体がさらに包まれて入っている。
 何だろう…つまりタケルは「コレを見ろ」と言いたかったのか?
 つまりこの紙切れに料理名ないしはそれに順ずるものが書いてあるのだろう。
 まったくこんな物を先入観なしで見せる為とは言えこの男も中々馬鹿な男だね。
 そういう馬鹿は嫌いじゃないけど、それも結果が全て。
 もしこの紙切れの中が詰まらないものだ…った……ら……






”失われた郷土料理  やきそばぱん”






 その文字列を見た瞬間、私は声を失った。

 なんだコレは。

 やきそばぱんとは何だ?

 ヤキソバとパンなのか?

 ヤキソバがパンなのか?

 パンがヤキソバなのか?

 はたまたパンヤキソバなのか?

 パンとヤキソバが同時に存在する?

 炭水化物と炭水化物…その発想だけは…なかった…

 まさに禁断の発想。

 解らない、味どころか姿形も想像がつかない。
 確かに完全に未知の存在どころか理解の外側にある物体が今目の前に鎮座している。
 そしてその物体を包むヴェールは恐らく残る所あと一枚…

 私は恐る恐る震える手でその物体を持ち上げ、ゆっくりと、本当にゆっくりと包みを剥がした…はずだった。


「あれ?」


 ――――無い。


 気付いた時にはソコには何も存在しなかった。
 いや、何も無いわけじゃない。
 今自分が恐る恐る開けた包みが手元にある。
 ならばその中身は?
 最初から空だった…わけがない。
 あの時袋から"やきそばぱん"を出した時、それは確かな重量感を持って私のてのひらに包まれて居た筈だ。
 そして口の中に残る、ヤキソバのソースの余韻…


「スゲェな、一瞬で食べるとは思ってたけど………まさに"瞬殺"だったな」

「なっ!」


 まさか、私はもう食べてしまったのか?
 味わう事も、その見た目すら記憶に出来ぬままに。
 それってひどい。
 だって食べれたと思ったら食べた事を覚えてなくて、食べた事実だけが残っているのだ。


「タケル、おかわり」


 だけど私はこんな事ではへこたれない。
 "やきそばぱん"とのファーストコンタクトを失ってしまったのは悲しいけれど、それならまたゆっくり知り合えば、もとい味わえばいい。
 だから私は要求する。
 おかわりを。


「お前なぁ…」

「無いならタケルの貰うね」


 無いなら貰う。当然だ。
 一瞬で消えてしまう料理など作った方が悪いに決まっている。
 そうに違いない。
 そう決めた。
 今決めた。
なんだ、じゃあタケルの分は私のじゃないか。


「落ち着け、まだ慌てる時間じゃない」

「いいからそれ頂戴」


 両手を地面と水平にしてヒラヒラとこちらを制止するタケルを無視してタケルの"やきそばぱん"に狙いを定める。


「だから俺にたかる前にその袋の底を良く見てみろって」

「えっ?」


 袋の底?
 そんなものは二個目を期待した時に見た…あれ?

 また紙切れだ。
 さっきは包みが入っていないので全く気にしなかったが、また紙切れが入っている。
 最初の包みの下に敷いてあったんだろう。
 私は全ての望みを掛けてその紙切れを開いた。


"おかわりが欲しかったら隣に居る男を見てみろ"


 私は条件反射のようなスピードでタケルを見て…そして固まった。


「ほれ、あーんだ」


 そこには満面の笑顔で"やきそばぱん"をこちらに向けるタケルの姿があった。
 その神々しさ。
 パンに挟まれたヤキソバ。
 私には解る。始めて見る物体だが直感で解った。
 あのパンに与えられた"切り込み"の"深さ"こそが重要なのだ。
 正面から見ておおよそ7:3。そしてその比率は、恐らく見えない部分も均一にそうである事を一目で私に確信させた。
 つまり少なくともこの"おかわり"は美琴や社が作ったものではなく発案者のタケルが作ったもの。
 ならば私は、今度こそゆっくりと味わおうと、本当にゆっくりと口を開けた顔を近づけた。
 しかし自重を知らない私の舌が"やきそばぱん"を求め前に前に出て行こうとする。
 口の中はもう涎で一杯だ。
 舌を目一杯伸ばした状態なので呼吸も次第に荒くなってゆく。

 廊下には、私の呼吸音だけがやけに響いていた。


「あっ…」

 私の舌は、何より先にまずヤキソバに触れた。
 舌先に感じるソースの味。
 冷めてしまっているのは残念だがそこは夜食、仕方が無い。
 けどそのまま"やきそばぱん"を咥えて噛み切った時、私は知った。
 冷めているからこそいいのだ。
 確かに熱くてもおいしいかもしれないが、それだけじゃない。
 この冷えて少し硬くなったヤキソバの歯ごたえが、パンの具として見事に成立している。
 しかし冷めてからでは硬くなったヤキソバをやさしくパンに包み込む事は困難…
 つまりこの料理は、できたてもしくは一度暖めなおしたヤキソバをパンでつつみ、さらにそこから冷やす事で初めてその真価を発揮する!
 成る程、誰も思いつけないワケだ。

 何と言う手間と時間を使った贅沢――――

 それにコレは同じ炭水化物でもパンにしか出来ない芸当だろう。
 流石に今後"やきそばおにぎり"が出てきても私は今ほど感動に浸れないに違いない。


「ソバメシっつーのもあるんだけどな、あっちは熱い方がうめーから」

「む"ー!む"ぅー!!」

「興奮するのは解るが吹くなよ、頼むから」


 "ソバメシ"だって?
 何だそれは。先程思いついた"やきそばおにぎり"でさえ私にとっては"焼蕎麦鬼斬り"と名づけてもいいほどの発見だったというのに。
 この男は私のその更に斜め上を行くんだろうか?
 というか吹くわけないじゃないか、この私のヤキソバへの愛を舐めているのk「イテェ!!ちょおまっ(かろうじて小声」


「ふぁ(あ)…」


 どうやら私とした事が冷静じゃなかったみたいだ。
 気付かぬ内に体は次の一口を求め、気付けば思いっきりか噛り付いていた。
 …その、タケルの指ごと。


「だから離せぇ!前歯で噛み切ろうとするな!犬歯で噛み千切ろうとするな!ちょっと奥の歯でゴリゴリするなぁ!やめろやめろやめろあ"-!ソースが!ソースが物量作戦に!(ギリギリ小声の範囲」


 私の行為に小声で怒鳴るというちょっとした神業を見せてまで抗議するタケルだが、私の体は正直なもので、その声を無視してその場で"やきそばぱん"咀嚼していく。


「ふぅ、ごちそうさま」

「くっ、この外道め…」

「それは正直スマンかったかもしれない」


 涙目になっているタケルの指を見ると、うっすら血が出ていた。
 恐らく最初の前歯の一撃で切れてしまったのだろう…とすると途中の「ソースが!」というのは…

 彼の傷口にソースを塗りこんでいたのだ、しかも奥歯で。
 流石の私も申し訳なくなってきた。
 私は態度はデカイが、恩とアダくらいの区別は付く。

 でも言葉で謝った事なんて、もう随分無いかな。

 そう思った途端「ごめん」の一言が出てこない。
 私はこういう時に限って動いてくれない自分の口が恨めしい。

 謝罪もできずただタケルの眺めていると、彼はフーフーと指に息を吹きかけている。
 あぁそのくらいなら私にも出来るかも知れない。
 そう思った私はタケルの手を取って―――


「え?」


 ペロッ


 舐めた。いや、別にタケルの指がまだヤキソバ味かどうかを確かめたかった訳じゃない。断じて。
 けど舐めたかったかと言われると…正直難しいところかもしれない。
 しかし私の鋭敏な味覚は感じていた。
 燃えるような鉄の味とは別に、微かに感じるソースの味を。


「ちょ…彩峰おま…んっく…」
(ちょっと痛気持ちいいけどまずいんじゃないか?喜ばしてやろうかとは思ってたけどここで彩峰フラグを立てるつもりは…)


「あ…」


 そして私は当初の目的を何とか思い出して気付いた。
 彼の指は私に噛まれて傷を負った。
 つまり傷は一つではなく指の反対側にもある。
 今更てのひらをひっくり返して舐めなおすのはバツが悪いので、私は両方叶える手段を選択した。

 パクッ

 咥えた。
 決してソースの味を心行くまで楽しみたいとかそういうわけじゃない。と思う。


 チュルッ―――


「わ、何吸ってんだお前っ…」

「ふぉーふふぁなふぁにふぁいってふふぁもふぃふぇなふぃふぁらふいざす(ソースが中に入ってるかもしれないから吸い出す)」

「入らねぇよ毒蛇じゃねーんだかっらっつっ…彩峰っ…」
(ちょっこのアングル…彩峰の指ちゅぱの上目遣いもやたら淫靡でアレだがそれにプラスされて谷間が!タンクトップから谷間が!触りたい!触りたい衝動が!だっておっぱいなんだもん!だからたゆんと揺れるんじゃない!コレはもう大量破壊兵器だ!そうか、だからお前はこの寒い中ジャケットのジッパーを上まで上げないんだな!その大量破壊兵器のせいで!その大量破壊兵器のせいで!なんとけしからん大量破壊兵器だ!)


 チュパッ―――

 ん、残念。
 暫く舐めていたら直ぐにソースの味はしなくなってしまった。
 少し指の付け根に近い所も舐めてみたけどそんな所にソースが僅かでも付くはずもなく…
 残るは…さっきタケルが自分で食べていたタケル用の"やきそばぱん"の残滓!


「やっと開放されってうぉおおおっ!」

ガンッ

「痛っつ!」


 私は全速で彼の口、口内を狙ったのだけど、タケルはそれを全力で横に回避する事で避けてしまった。
 しかし彼も焦ってたんだろう、ドア側に避けて頭を強かにぶつけてしまったようだ。
 ただそこで生じた硬直は、私を前にして余りに致命的―――

 今度こそ狙いを外さない為にタケルの顔を掴んだところで…



「ほう…深夜とはいえ廊下で乳繰り合うとは、随分いい度胸だな?貴様ら」




 般若の面容を顔に張り付かせた神宮司軍曹が現われた。
 いや、突然現われたんじゃない、多分いくらか前から居たんだ。
 それにすら気付かないなんて…


 なんて迂闊―――






SHIROGANE

 さぁここで選択次第で即ティウン、恐怖のチキチキ問題レースの時間です。
 彩峰に押し倒されそうになった瞬間現われたまりも先生。
 二兎を追う白銀は一兎も得ずと言うけど君はどうするんだい?
 兎って書くと霞も居るみたいだけどどうするんだい?
 回答時間はなんとたったの3秒!
 さーんのーがー!

 はいどうぞ!


「あぁ!軍曹いいところに!助けて下さい!」


 これで「こ、これは違うんです」とか言ったら確実に死亡フラグが立つので、大人しくまりも先生に助けを求める事にした。
 俺の中では10:0(じゅーぜろ)でまりも先生派が手を上げている。
 すまん彩峰よ、ぶっちゃけお前のフラグとかどうてもいいんだ…
 敵にさえ回らなければまりも先生はやれば出来る子だから助けてくれるはず…!


「ほぉう白銀、イイトコロだったのか、それは邪魔をして悪かった」

「げ」


 悪魔の微笑で、そう仰ってくれやがりました。

 しまった、俺何か逆鱗に…触れてないよな?別に。
 となるとまさかアレか?彩峰と俺がまさかイチャついてるようにでも見えたのか?
 そして嫉妬ですか?
 あきれた。
 ごっついあきれました。
 お前どんだけ男日照りなんかと。

 じゃあ俺はこのままじゃ体育館裏に連行されてドコ中ワレのデュクシオウフですね。わかります。
 クソッこうなった場合はシロガネの経験でも打つ手なしってあるし大人しくしばかれるしか…


ドゴォッ

「ゲフッ」

「女ばかりの部隊に配属されて随分ご機嫌のようだな、いいだろう、そんなに女に興味があるなら今日は私が付き合ってやろう。泣いたり笑ったり出来なくしてやる、付いて来い」



 な、成る程。そういう事だったんですね軍曹。

 イイ感じの蹴りを入れられた俺は、襟をグイと掴まれ廊下をズルズルと引きずられていった。
 彩峰は完全にフリーズしている。
 次の冥夜珠瀬組を起こすのは30分後だから…忘れんなよ。





「本当にビックリするくらいに何もかも変えてしまうのね、白銀は…」

「いえいえそんな事は…あ、ヤキソバパンどうっすか?」


 通路を曲がってまりも先生の自室に放り込まれる形で俺は引き回しの刑から開放された。
 さっきの蹴りは足の甲で音を出すように蹴られたので実際はなんとも無い。
 あれがつま先だったら多分今頃はまだ廊下でのたうち回っているハメになっていただろう。


「……おいしいわね、貴方のオリジナル?」

「やー、"元居た世界"じゃどこにでもある食べ物なんですけどね」

「そう…ならこんな食べ物の文化すら…無くしてしまったのね…私達」

「ま、それはおいおい取り戻せばいいですよ、BETAを倒した後に」


 どうやら俺をあの場から助けてくれたらしい。
 やっぱりまりも先生はやればできる子だ。
 シロガネのヤツが頭が上がらないだけはある。
 そうだな…ここで戻るのも変だし少し時間を潰して行くのも悪くないかな。
 つってもわざわざ俺を連れてきたって事はまりも先生から何か話でもあるのか?


「ねぇ白銀」

「はい?」

「貴方が居た…BETAが居ない世界の事、教えてくれない?」


 成る程。確かに興味沸くよね。
 そんな事ならお安い御用って事で…


「俺の居た日本は経済的に豊かだったんでその余裕からか娯楽の発生の最先端でもありましたね。カラオケボックスも確か日本人の発明ですし」

「カラオケ?」

「あぁ、カラオケっていうのは…」



 そうして俺は主にこの世界で生まれる事の無かった"娯楽"についてまりも先生に話した。

 ちなみに朝部屋に帰ったら霞が俺を探してオロオロしていた。
 どうやら起こしたかったらしい。
 スマン。霞。





[4170] OversSystem 10 <コンボ+先行入力=連殺>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2009/06/26 01:30
10月26日(金)[五日目]


----ぴーえっくす----

「それにしてもアナタ…よく彩峰の好みなんて知ってたわね」

「そんなのお前…おとといのヤキソバ食ってるシーン見たら誰でも気付くわ」

「見られてた…ぽっ」

「えー!いーなーいーな!ボクも好物で何か作ってよタケルー」

「美琴…残念ながらこの基地周辺にサバイバル素材は居ないと思うんだ」

「ヒドイよ…ボクだってちゃんとしたご飯好きなのに…」


 ―――クイクイ


 そんなアフォなやりとりを朝食を食べながらしていたら、横で食べていた霞に袖を引っ張られた。


「ん?どうした?霞」

「合成鯖味噌定食…好きです」

「そ、そうか」

「好きです」

「うっ――」


 これが他のヤツだったら「おいおい朝っぱらから愛の告白かよ、照れるじゃないか」とか茶化すんだが、霞が相手じゃ当然俺は超紳士になるため、霞の願いを聞いてやる事にした。


「つまり鯖味噌から何か作って欲しいと?」

「…はい」

「うーむ…」


 なかなか難しい注文だ。何故なら鯖味噌とは…


「タケルよ、流石に今度ばかりはそなたでも荷が重いのではないか?鯖味噌というのはアレはアレで完成された一つの料理ゆえな」


 そうなのだ。
 鯖味噌は煮込んである為、そこからさらに昇華させる事が難しい。
 しかし他ならぬ霞の希望である。
 恐らく[今まで見たことのないような一品]を期待しているに違いない。


「…やってやる」

「そなた…本気か?」

「俺を誰だと思ってる…我が名は白銀武。不可能を可能にする男だ」

「またタケルの変態ごっこが始まった」


 やれやれとため息を付く慧を無視し、俺は霞に振り返る。
 つーか慧にすら呆れられる俺って…いやいや、今は霞の事だけを考えろ!


「霞…今夜までに必ず、必ず俺は至高の鯖味噌を作ってみせる。だから今は…これで我慢してくれ」


 そう言って俺はまだ残っている霞の鯖を霞のご飯の上に乗せ、醤油を数滴垂らした後合成玉露をブッ掛けた。
 その瞬間好物を台無しにされたと思ったのか真っ青になる霞。


「霞は見たこと無いか…俺の実家のある地方の食べ方で[お茶漬け]って言うんだけど…。とりあえず味は保障するから食ってみ」

「………」


 そんな悲しそうな目で俺を見ないでくれ。
 お茶を掛けた事による塩っ気の減衰は味噌味を崩さない程度に垂らした醤油がカバーしてくれる。
 基本的に砂糖と塩と他最低限の味の組み合わせさえ間違えなければ、不味い物なんて出来ないしな。


「…ったくしょうがねぇな、ちょっと待ってろ」


 何時までも俺と茶碗を交互に見つめるだけで食べようとしなかった霞に業を煮やした俺は、おばちゃんの所に行って小ぶりのレンゲを貰ってきた。


「ほれ霞、あーんだ」

「……あーん」

「「「「「!」」」」」


 パクッ


「………おいしいです」

「だろ?見た目に騙されちゃダメだぜ。味わってみないと本質ってのは解らないからな」

「はい…もっと食べたいです」


 いや目の前にあるだろ。まだお茶碗一杯。
 まさかあーんか?あーん希望なのか?
 仕方が無い。ここで「食べさせて欲しいのか?」なんて言って霞を不用意に傷付けるようなデリカシーの無さを俺が発揮するワケにもいくまいて。


「霞は甘えん坊だな…ほれ」

「…はい…パクッ………おいしいです」


 甘えん坊発言で顔を赤くして一瞬かたまった霞だったが、お茶漬けの魔力に負けたのかすぐに食いついてきた。


 さて、午前は207で訓練して、午後は香月博士に提案してた新兵装のシミュレータテストだ。
 フッ…今から楽しみで仕方がねーぜ。

 ぴょこん!

 余程獰猛な表情をしていたのか、霞の耳がビクッと反応した。
 なんか随分久しぶりに動く所見た気がするなぁ…
 あ、考え事してて手が止まってたか。


「あぁ、悪い霞。ほい、あーん」

「あーん」


(例えば私が事故で両腕を骨折したら、タケルは私に食べさせてくれるだろうか?)

 何か危険な思考があったのかもしれないが、そんなのはソイツの脳内での話しなので、俺は知らない。知らないぞー。

 しっかし鯖味噌ねぇ…こりゃおばちゃんの秘蔵アイテムを頼るしか無いかな。







午後

----A-01専用シミュレータルーム----

 コッチに来て早五日。
 伊隅大尉に無理を言ってXM3を使う時にはA-01にはミーティングや打ち合わせをやって貰っているが、それもそろそろ限界かもしれない。
 大尉は顔に出さないけど速瀬中尉あたりが随分ストレスを溜めてるだろうな…
 まぁ今日金曜日だし、月曜からXM3教導始まるからギリギリなんとかなるのかな?


「じゃあ月詠中尉…始めてよろしいでしょうか?」

「ああ、いつでも構わん」


 今日はとりあえず週明け教導に入る前の仕上げとして、この前香月博士と企んでいた新兵装と新機能について試験評価をする事になっている。
 管制はピアティフ中尉、香月博士も見に来ている。
 まりも先生は201Bで"神宮司軍曹"のお時間だし、伊隅大尉はA-01を連れてどっかで別の事をしてる筈だ。
 もちろん後でお二人も交えて検討会をする予定だけどね。


『それでは"対戦術機用"兵装試験評価、開始します』


 さて、どこまで"魅せ"る事が出来るかな?やっぱインパクトがないとな…。

 つーかこの前ブン殴られたばっかりなんだが俺大丈夫か?





TUKUYOMI

 シミュレータ内の市街地に私は不知火で乗り降り立った。
 武御雷との性格の違いに当初は戸惑った私だが、XM3の評価試験から慣熟を行ったこの数日で、相手が旧OSでの1対1ならばこの基地…いや斯衛軍でもそうそう私に勝てる者は居ないだろうと自負するまでになった。
 …これは自惚れでは無い…純然たる事実なのだ。
 恐らくXM3を手に入れ、三次元機動を軸にしたキャンセル、コンボを"完全に学習した人間"ならば、誰でもこの高みまで上る事が出来る。
 だがただ単にOSを受け取っただけでは…反応速度の恩恵を少々受けられる程度だろう。
 その点では奴の言っていた教導システムには…一理あるかもしれん。


『それでは対戦術機用兵装試験評価、開始します』


 しかし"対戦術機用"とはな。
 白銀の話では米国の新型である"ラプター"は対人類、いや対戦術機の色がかなり濃いようだが、その対策案だろうか?

 そして遂に、新兵装を装備した不知火が私の前に現われた。


「……アレが……新兵装なのか?」


 その不知火が手に持っているのは…恐らく私が今装備している物と同じ…只の長刀だ。


「となると…あの腕か」


 白銀の搭乗している不知火は、肘から手首に掛けてが妙に太い。
 肘部から段々と太くなり手首付近が最大…平均は約1.7倍といった所だろうか。
 突撃砲の重量を考えるとあの程度ならばギリギリ許容量内ではあるのであろうが、その卓越したバランス故にそれ以上改良が出来ぬと言われた不知火としては…いやそれを今から試験するのであった。
 まさか私が緊張している?
 あの少々太くなった腕にそこまで危機感を覚えているのか?

 私は白銀に通信を繋ぎ、こちらから戦闘開始の意思を伝える。


「…貴様により齎された未知の兵器、味わさせて貰おうか!」

「……了解!当方に迎撃の用意あり!」

 戦闘中奴はよく小声で何かを呟く事が多い。
 往々にして我々の操作ミスに対する愚痴や一見意味の無い言葉なのだが、余程のレベルでは無いと奴は我々に注意しないため、自己向上のヒントとして私は奴からの声のみ少々音量を上げている。
 時折奴が攻撃時に叫ぶため、その度に頭痛に悩まされるのは考え物だが。

 兎に角戦ってみなければ解らない。
 今の私は新兵装に初めて相対した仮想敵でもある。
 まずは攻めなければ!

 噴射剤を一気に燃焼させ、私は正面から突撃を掛ける。
 どの道どうフェイントを掛けた所でお互い基礎機体とOSは同じ不知火XM3。
 極めて遺憾ではあるが私はまだ1対1で奴に一度も勝った事が無いのだ。
 ならばまずは正面から仕掛け、新兵装の評価活動を第一に行おう。


 ガァン!


 長刀による一合目を互いにぶつけ合い、私は白銀に尋ねる。


「ほう…意図的にこの状態に持ってきた様だが…どうするのだ?」


 我々の不知火は…戦術機戦闘では珍しい事に、長刀で鍔迫り合いをしていた。
 長刀の刀身が不知火の主機の出力に耐えられず、ギリギリと悲鳴を上げている。
 こうなってはお互い、下手に動く事が出来ぬが…

 しかしその私の疑問は、奴の叫びと共に一気に吹き飛ぶ事になる。


「衝撃のォ…」


 カチンッ…


(アレは…杭か!)

 音と共にカバーが外れた奴の不知火の腕からは、一本の太い釘の頭が見えていた。


「まさ…かっ」


 白銀機は腕を強引に捻り、杭の先端を私の機体の腕に向ける。
 本来ならばその隙があればこちらから押し切る事も可能かもしれなかったが…こちらからアクションを起こすには、あまりに奴の攻撃は早かった。



ファーストブリッドォオオオオオ!!!!


(この状態ではっ!)


 グシャァ!


 次の瞬間には、白銀の右腕の膨らみから飛び出た杭に私の不知火の指は…長刀の握りごと完全に破壊された。


(まさか近接戦用爆圧式戦杭(パイルバンカー)とはっ!)


 アレは確か、強化外骨格にも装備されていた筈だが、サイズを変えここで持ち出してくるとは!
 私は武器も、武器を持つ指も完全に破壊されてしまった。
 接近戦闘用のオプションが完全に無くした私は、ペダルを床まで蹴りつけ全速で離脱――――



「それで済むかよっ!」


 しかし白銀はその場から動かず、今度は左腕をこちらに向け、"何か"を射出した。


(何だ?!分銅?)


 ガチッ


 その分銅は電磁石か小さい爪でも付いているのか(実際には両方)、素直に真後ろに後退してしまった私の戦術機の胸部に張り付いた。


「ヒートロッドォ!」


 バチンッ


「なっ!?」


 慌てて回りを見渡す。
 妙に耳障りな音がしたと思った瞬間、"コックピットの光源"が網膜投影を含めほぼ全て落ちたのだ。



「何が起きた!?ぐっ!」

 そして即座に体を襲う衝撃。
 恐らくシミュレータとしてはあのまま何も操作せず背中から地面に落ちた事になっている?!
 この真っ暗なコックピットを見る限りオートバランサー等期待できぬか。


 ヴン…


 再開される網膜投影に映るのはXM3のロゴ…

(システムがリブートだと?)

 私は実機には無いシミュレータ筐体にのみに付いているスイッチを操作し、盲目投影の端に新しい映像を表示させる。
 自機の大破後にシミュレータ内で続行される演習をモニターするシステムだ。
 私は急いで自機のメインカメラの座標からの映像を投影させた。(メインカメラそれ自体はシステムリブート中に付き起動していない事になっている)

 その映像の中、白銀機はパイルバンカーを装備した右腕を天に掲げ何かを排出した。

(薬莢か?)

 この位置と距離からの映像では断言は出来ないが、恐らくアレは薬莢だ。
 杭の射出エネルギーは弾丸のような物から得ているらしい。

 そして白銀機はその右腕をこちらに向けたまま、一直線にそれこそ弾丸のように飛んでくる。


「追撃のォ!」

「くっ動け!動け!」


 レバーをいくら動かそうにもまだシステムは各モジュールを順次呼び出して起動している最中のため、全く反応しない。



セカンドブリッドォ!


『主機大破。月詠機致命的損傷。演習を終了します』


 私の機体はパイルバンカーによりコア部分を完全に破壊され、その機能を完全に停止させられた。


「はっ…ははははっはははははははははっ!」


 私は額を押さえ、それでも高らかにコックピット内で笑い続けた。
 ここまで一方的ではむしろ清々しい。

 本当に、面白い男だ。




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……こっから今まで以上の衝撃の原作レイプが始まります。


       ____
     /  作者  \
   /  _ノ  ヽ、_  \    他のマブラヴ板のSS面白すぎるんだお
  / o゚((●)) ((●))゚o \  ほんとはもっと他のSSに無いような話にしたいんだお
  |     (__人__)    |
  \     ` ⌒ォ     /



       ____
     /  作者  \
   /  _ノ  ヽ、_  \
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \  でもクオリティの高い設定は既に誰かが書いてるお…
  |     (__人__)    |  
  \     ` ⌒ォ     /




       ____
     /⌒作者⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   だからヒテンミツルギスタイル使うお!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /


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SHIROGANE

「1分12秒か…また2秒、世界を縮めてしまった…!」


 感極まったように今この場で思いつく限り最高にKOOL(誤字ではない)なセリフを呟く俺。
 やりきったぜ…完璧だ

 って流石にちょっと調子に乗りすぎたか?
 スクラ○ドごっこはやり過ぎたかもしれない。
 でも気持ち良かったよなぁ…やっぱ男の拳っつったらス○ライドだよな…


「はっ…ははははっはははははははははっ!」


 いかん、月詠中尉が余りの屈辱に発狂なさっておられる。殿中でござる!殿中でござるー!
 このままではリアル無双乱舞+リアルジェットストリームアタック=YES!YES!Oh,my GOD!!な事になりかねない。
 というかなってしまう。
 よし、俺の超絶フォローを!「○○さんって良い人ですよね///」と23年間言われた俺の実力を見せてやるぜ…
 うるせぇどうせ良い人止まりだよ。

 …って今の演習月詠中尉褒めるトコロ一個もねぇー!


「真っ直ぐ下がってしまうのは…ちょっと素直過ぎましたね」


 そして思ったことを直ぐ喋るんじゃない俺の口!
 率直さは美徳と言うがそれ以上に空気を読むことも大切なんだぜ?


「くくくっいや全くその通りだ。先のパイルバンカーは強化外骨格のシステムを流用したな?」

「あ……えぇ。そんでアレはBETAに使うより対戦術機に使った方が射程も使用回数も効果的だったんで今回盛り込んだんですが…」


 あれ?なんか心底嬉しそうだ。
 はっは~ん。
 そうか、そんなに俺にパイルバンカーを打ち込みたいのか?

 …死ぬかもしれない。後で土下座しよう。


「それにヒートロッド、とか言ったな」

「あぁ、アレですか」


 ヒートロッドは主機の生み出す余剰電圧をコンデンサに一時的に溜めて攻性に使用するシステムだ。
 戦術機の外装は確かに絶縁処理はしてあるが、それはあくまで外的要因に対する破損からの、戦術機内の漏電対策に過ぎない。
 大電圧に弱い事は…オルタの美琴の最後からも知っている。
 主機の余剰電圧ではそこまでの大出力は得られないが、メインメモリ、つまり主記憶装置の電気的記録をブッ飛ばす位の電圧は稼ぐ事ができる。
 つーか空気中を漂うホコリよりも細い回路を組んでいる為、ヘタすりゃ基盤が完全に死ぬ。
 ハードディスクやレーザディスクに保存されている情報は電気を流した所で消えないので完全に破壊までは至らないが(元々構造上電気を流すような作りでも無いし)、メモリ上のデータが全て飛ぶため、システムは強制リブート、つまり再起動する。


「つまり相手をその場で強制的にシステム再起動状態にするのか」

「そうなります。そして何よりこの新兵装の強みは」

「接近、及び超接近戦闘に於いて既存の武器を装備したまま使用が可能な事…か」

「鋭いですね」

「フッ身をもって知ったからな」

「特に長刀が振れない程のインファイトとかは、即座に捨ててパイルバンカーを使用すればナイフすらマトモに使わない米国相手に対しては"懐に潜りこんだ時点で勝ち"になるでしょう」


 短刀と違って"振る"も無ければ"刺す"必要もない。ただ腕を向けてスイッチを押すだけで、相手に対し致命的な物理破壊能力を与えられる。


「"懐に潜りこんだ時点で勝ち"、か。良い響きだ。使わせて貰おう」


 気に入る所そこなの?
 まいっか。
 ってよくねぇよ。接近戦つったら斯衛のお得意戦法じゃねぇか。
 今後接近戦は特に注意しないとな。

 と対月詠中尉戦術をわざわざ考えなければならない己の不幸を嘆いていると、良いタイミングでピアティフ中尉が次のテストの開始を通信してくれた。


「検討時間が過ぎましたので次のXM3に於ける複合機能"連殺"のテストに入ります」


 この機能はXM3を完全に使いこなせる一分の人間にのみ開放される予定のシステムだ。
 殆ど狂気のシステムだしな。
 アイディアはゼノギ○スを参考にした。


 俺は短刀を両手に一本づつ持ち(本当は小太刀がよかったが横浜のシミュレータには無かった。斯衛には小太刀所か薙刀もあるらしいが)再び市街地の中心で月詠機と向かい合う。


「ほう、長刀に対し短刀二本とは…余程自信が有るらしいな…その"連殺"とやらは」

「えぇ、問題は俺自身が耐えられるかどうかですけどね」


 そう言いながら俺は戦術機の操作モードを連殺モードに切り替え、操作を次々に入力してゆく。


「耐えられるか?だと」

「えぇ。このシステムはコンボと先行入力を組み合わせたシステムでして、特殊な先行入力モードに入ると一定時間の入力時間が発生します。その間に入力した行動を、任意の速度で実行するんですよ」

「任意の速度で…だと?」


 それはつまり、入力した速度を遥かに超える、それこそ機体限界までの挙動を可能にする究極のコンボ。
 搭乗者保護システム解除、つまり"リミット外し"も連殺入力モードに入ると同時に行われる。


―――カチカチカチカチカチカチ


「えぇ、搭乗者へのフィールドバックも機体へのダメージも無視しますから。その上入力時間中は動けませんしね。まぁキャンセルすれば入力モードからは出られるんですが」

「殆どデモンストレーション用と言う事か」


―――ガチャガチャガチャッガチャガチャ


「そうでもないですよ、他のコンボと違って長い動きを入れるので事前に用意する事にあんまり向いてませんが、OSのシステム開放序列の低い機体に転送して強制的に動かす事も出来ますしね」

「つまり…攻撃だけでは無く離脱にも使えると?」


―――カタカタカタカタッピピッ、チーッチカチカッ


「初陣で恐慌状態に陥った部下を低空跳躍で一時的に離脱させたりも出来ますね、足手まといになる位なら居ないほうがマシですし」

「パイロットすら殺すシステムで新人を助けるか…貴様の発想には驚かされるばかりだな」

「買い被りですよ、月詠中尉は優しすぎるんです(ニヤリ)」

「なっ、何を突然!」

「だって俺の話に付き合ってくれた上に」


――カタッ、ピー!


「勝利まで、くれるんですから」

「なんっ」

 俺は息を全て吐き出した上でシートに頭を押し付け、この後来るだろう地獄のシェイクに備えた。


 ドンッ


 主脚の初速跳躍から噴射剤への追加加速まで、流れるような速度で加速する不知火!
 それは"理論値最速"の機動と速度を持って、弧を描くよう月詠機に肉薄する。
 ここまでは只の噴射のため、コンボさえ入力すれば誰にでもできるだろう。
 だが"連殺"は、この狂気のシステムはここからが違う!

 月詠機の目の前に着地した瞬間、膝のショックアブソーバと推進剤の逆噴射により無理矢理速度を3割まで落とす。
 こんな急制動を掛けた時点で通常のパイロットでは意識が確実にホワイトアウトしてしまう。。
 特にGに対する耐久値の高い白銀の体ですら、視界が赤く染まる。

 しかし既に先行入力を入力済みの連殺は搭乗者がキャンセルをしない限りその機動を続ける。
 前方方向に三割残った慣性はそのままに、今度は全跳躍ユニットが渦の様に一定の法則を持った向きに顔を向け、一瞬で全ての推進剤を燃やし尽くすかの如く火を噴く。
 推進剤の炎に彩られた不知火は、正に破壊の権化、死を振りまく竜巻だった。

 それでも電子制御された不知火はその暴風雨のような挙動の中で、左右に持った短刀で正確に三度月詠機を切りつけ、最後に自身の回転モーメント全てを込めた槍のような後ろ回し蹴りをブチ当てる。


――回転剣舞六連・改


 六連撃によって一瞬にして機能停止に陥った月詠機は、成す術も無く廃ビルに背中から突入する事になり、余りの衝撃に崩れたビルが完全に月詠の不知火を埋めてしまった。


「あッ…っく…」


 酷い頭痛だ。
 頭がくらくらして視界がボヤける。
 クソッ、"回転運動を再現しきれない"シミュレータ筐体でこんな有様じゃ実機じゃ確実に寿命が縮むな。回転剣舞は封印しよう。

 俺はフラフラする頭で、ようやく次のセリフを吐き出した。


「シェ…シェイクスピア曰く…」

「はっ、はぁっ……何?」

「口では何を言っていても…手は何をしているか解らないものだ」

「はっ…はっ…最早言葉も出ぬ…わ」


 後で見たら着地時に膝にかなりの負荷が掛かっていた。変形するほどじゃないのでまぁそっちはまだいいんだが。
 最後にケリに使った右足の足首と膝と股間の関節が完全にブッ壊れてた。

 ……胴体のど真ん中にブチ当てたけど月詠中尉大丈夫だったんだろうか?
 そういえば最後随分呼吸が荒かったような…

 とりあえず、俺の作った新兵装と新システムは「実装の価値あり」という事で実装される事になった。
 連殺については元々XM3にあるシステムを組み合わせただけなので即日実装になった。
 当分は神宮司軍曹に部下の外部離脱操作にトライしてもらおう。
 しかしようやく呼吸も落ち着いてきたが…筐体を出るのが憂鬱でならない。
 土下座で許してくれればいいけど…





[4170] OversSystem 11 <諦めないが英雄の条件>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/11/09 02:31
「すみませんでしたーッ!」


 シミュレータを出て、月詠中尉を確認した瞬間、俺は奥義 DO☆GE☆ZA をお見舞いした。


「何をしている?」


 し、しまった!DO☆GE☆ZAでも足りなかったのか!
 しかし腹を切れと言われてもそんな事は出来ない。
 頭を上げず俺は弁明する事にした。


「御剣の件ですが、アレは決してプロポーズではなく、寿命をまっとうしてほしいという…」

「その事か…それはもうよい」


 は?
 何がどう良いんだ?
 意味が解らない。


「貴様の真意は解った。いや、貴様の話を聞き、出会ってから今日に至るまでのたった数日間で貴様が成し遂げた事を思えば…疑う事すら早計だった。許せ」

「そ、そうですか…よかった」


 許しが出たようなので俺はようやく顔を上げる。
 よくわからんが何にせよ助かった。

 昨日俺がまりも先生に弁解している会話を扉に耳をつけ月詠中尉が聞いていた等と俺は知らない。
 可哀相に、あの部屋の周辺カメラで映らない場所無いんだよな…


「そろそろ立て、白銀。時間だろう?」


 そうだった。
 基地の時刻はそろそろ夕食時。
 どの部隊も時間をずらしながら各PXに食事に行く時間だ。

 別にこの後月詠中尉と食事をするなんて約束は無いが、"ある人物"を迎える事になっている。


――――プシュッ

「涼宮茜少尉、出頭しました!」


 後に涼宮少尉はこう語ったという。
 一瞬普段使い慣れた部屋が地獄に見えた。赤い悪魔と、白い魔王、そして鬼が二人居た、と。








「初めまして涼宮少尉、白銀です」

「帝国斯衛軍第19独立警護小隊、月詠中尉だ」


「はっ」


 互いに敬礼を交わし、自己紹介をする。
 つっても俺にだけ階級が無いのは変な感じだ。階級どころか戸籍すら無いんだけどな。
 涼宮少尉も戸惑っているみたいだ。


「俺はまだ任官していないため、階級がありませんので白銀と呼んで下さい。敬語もいりません。特殊部隊隊員である貴女を呼び出したのは俺という事実さえ忘れてもらえずにいる限りは」

「…!わかった…白銀」


 そう言って再度敬礼をする涼宮少尉。
 頭の回転の速さも悪くない。
 俺がA-01の隊員を名指しで呼び出せる位置にいて、なおかつ階級が無く敬語を使うなという単語から、特殊な位置にいる人間と推測したんだろう。
 俺の要望に答えて呼び捨てにしつつ、敬礼をする事で"俺の方が立場が上だとは理解している"事を示してきた。
 そう来なくちゃ張り合いがない。


「涼宮少尉、貴女を呼び出したのは一つ質問がしたかったからなんです」

「質問です…、あぁいえ、質問か?」


 妙に律儀な所が可愛いな。
 そういうの、嫌いじゃないぜ。



「そう、質問です。一度しかしませんのでよく考えて答えて下さい」

「はっ」

「同期の仲間を護りたいですか?」

「…は?」


 俺の質問に困惑する涼宮少尉に、踵で床を叩くように、足音を立ててゆっくりと近づいてゆく。


「先任や部隊長というのは、確かに部下を護るのも仕事の一つですが、当然他にも仕事を抱えています。そして往々にして、新任が死の危険に陥る瞬間には、他の事で忙しいものなんですよ。だから涼宮少尉。貴女に問いましょう。貴女は自らの仲間を、元207Aの仲間を助けたいと思いますか?誰でもない、貴女の手で」


 俺は涼宮少尉を"作り変える"気で居た。
 速瀬中尉を追っているだけでは…速瀬中尉が二人になるより、本来涼宮少尉はもっと誰かを護る存在になれる。その才能がある。
 だからまずは元分隊長として、誰かを護る存在という物を実感してほしい。
 築地少尉や…他二人を守り通せる存在に。


「はっ!彼女達とは共に戦い、護り護られる存在になりたいと思っています」

「なら涼宮少尉、俺達が貴女に必要な"力"を提供しましょう」

「"力"?」

「信じられませんか?階級も無い只の男が、新任とは言え特殊部隊である自分に力を与えるなんて」

「そ、そういうわけじゃ…」


 そう言って言葉につまり、目線を月詠中尉に泳がす涼宮少尉。
 月詠中尉もこの基地じゃかなり有名な存在だ。
 そのよりにもよって斯衛の赤がこの場に居る事が、俺の言葉に妙な真実味を持たせている。
 しかし今更になってわざわざこんな芝居掛かった事をして涼宮少尉の意識が変わるか不安になってきたが…まぁもうやちゃったし気にしなくてもいいか。

「いやいや、涼宮少尉。貴女は実に運が良い。今日は特別でね…もう二人着てるんですよ」


「もう…二人?」


 素晴らしき白銀武のセリフを合図にしたかのように、シミュレータルームの扉から二人の人物が追加で現われた。

「ご健在そうで何よりです、涼宮少尉」

「さて、とりあえず貴様には最低限速瀬よりは強くなってもらわないとな」



「じ…神宮司軍曹?伊隅大尉まで!それに速瀬中尉より強くなんて…」


 まぁ、もちろんこの二人だ。
 そう、今日から土日に掛けて、この四人で涼宮少尉を徹底的に鍛える。
 新任にボコられればA-01の連中にもインパクトがあるだろうし、何より涼宮少尉の衛士としての才能はそのまま押さえつけてしまうにはあまりにもったいない。


「涼宮少尉、貴女には月曜までに強くなって貰います。今までのA-01の誰よりも。講師はここに居る四人が交代でやりますから、多分今この地球上で最も贅沢な訓練になるでしょう」

「そっ、神宮司軍曹と斯衛軍中尉までって…えっえぇ~~!!」


 俺達四人のニヤリという顔を見て、涼宮少尉は本気でビビッて居た。







AKANE

「嘘…こんな事って…」

 よくわからない内にまずは座学の前に見学から、という流れになり、私は「白銀&神宮司軍曹 VS 伊隅大尉&月詠中尉」のシミュレータ模擬線を管制室で見学していた。
 私が管制室に入った瞬間反対側の出口から出て行く副司令が見えたけど…もしかして何かの計画の一部なのかな?
 管制をしているのは私達もある程度面識のあるピアティフ中尉だった。

 そして始まる演習…正直私は、何が起こっているのか最初には解らなかった。
 確かに目の前のモニターに移る戦術機は私も使っている不知火だけど…動きが違いすぎる。
 パイロットの動きも確かに特殊…そう、空中戦闘が多い事は特殊だけど…

 トンッ―――


「あっ、すいません。ピアティフ中尉」

「いえ、大丈夫です少尉」


 私は無意識の内に画面内の戦術機の操作を自分でも手を動かして真似ていた。
 その手がピアティフ中尉にぶつかってようやく気付いたけど…あの動きは少なくとも私の不知火じゃできない。
 どうやっても入力不可能な動きがあるのだ。
 それに一つ一つの動きが…速すぎる?私の想像の操作から実行までが格段に早い。
 これはパイロットの技量が違う可能性もあるけど…4機全てが妙に速いので反応速度自体が上がったと考える方が――――


「伊隅機大破、演習を終了します」

「えっ?」

 私が少し考えている間に、伊隅大尉と月詠中尉の機体は堕とされたいた。
 そんな…まだ始まって10分も経ってないのに…!
 だけど私のそんな驚きは、次のやりとりを聞いた時の衝撃に比べれば、あまりに些細なものだった。


「くっ、いつになったら貴様を落とせるんだ。神宮司教官、今度エレメンツのメンバーチェンジしませんか?教官なら!」

「私でも無理よ伊隅大尉…」

「そんな事言われても…でも生存時間の記録は新記録じゃないですか」

「それフォローになってないわよ…白銀」

「しかし貴様の機体への距離も随分縮んだ、もう数日あれば長刀の射程内に貴様を捕らえてやる」

「あぁ、そういうレベルになったらまた近づけない戦法に切り替えますから」

「くっ、減らず口を…!」


 アレだけの挙動をしていて、白銀と名乗る男は一度も落とされた事が無いらしい。
 伊隅大尉達の動きが今までのレベルと格段に違うのも、おそらくあの男が要因なんだろう。
 神宮司軍曹も伊隅大尉も尊敬してるけど…いくらなんでもアレは無い。レヴェルが違いすぎる。


「で?涼宮少尉、どうでした?見てて思った事をどんな細かい事でも良いので聞きたいんですが」

「えっと…見た目は不知火ですが、中身は完全に別の機体だと思いました」

「ほう…」「へぇ」「成る程」

「どうして別だと思ったんですか?」

「まず駆動系統の性能が違いすぎます。私が思いつく限り最速の入力をしても、あんなに早くは動きません。それに機体の駆動性能だけじゃ納得できない動きもあったので…多分完全な新型に不知火の外装を付けた別の機体だと思いました」

「ふーむ…」

「あの…何かまずかったですか?」

「いや…確かに正解じゃないんだけど…良い所突いてますね、やっぱ速瀬中尉の後追っかけてるだけじゃもったいないですよ伊隅大尉」

「なっ!」

「…そうだな。やれやれ、私も部下を見る目がまだまだ足りないようだ」


 私が速瀬中尉を目指している事はA-01では周知の事実だけど、それでも私の中では神聖な目標だ。
 "速瀬だけを見ていて自分の才能を潰している"と伊隅大尉に言われた事も一度や二度じゃない。
 それを今さっき会ったばかりの得体の知れない男に言われ、流石にカチンと来たけど…伊隅大尉に肯定されてしまった。


「い、伊隅大尉」

「私は上官として部下である貴様を見誤っていた。謝罪すら必要な程な。貴様は速瀬と一見似ているが、全く別のタイプの衛士だったようだ。もっと早めに気付いて日頃から強く言うべきだった…」

「そんな…」


 私が?私はそこまで持ち上げられる程大それた衛士じゃない。
 速瀬中尉には未だに全然勝てないし、射撃もガンスイーパーとしてはまだまだだし、近接もストームバンガード程じゃない。


「貴様と速瀬、どちらが優れているという話では無い。全く伸び方が違うんだ。白銀に感謝しないとな」

「またまたご冗談を。大尉のお陰ですよ」


 私と速瀬中尉が違う?
 違うっていうのはどういう事だろう。どちらが優れているとかじゃないって事は…少なくとも負けてないのかな?
 それにしても白銀…この男、やけに大尉達と親しげだけど前から交流があったのか?
 私は全然知らなかったけど…それに階級的に見て神宮司軍曹が一緒に訓練しているのも異常だし、斯衛の赤が居るのはもっと異常だ。


「じゃあ涼宮少尉、種明かしのブリーフィングと行きましょうか」

 ブリーフィングで私は知った。
 人類が作り出した切り札、XM3を。

 自分で動かして思い知った。
 この新概念の圧倒的なまでの力を。

 新概念を知る事で気付いた。
 白銀や、伊隅大尉達の挙動の特異性を。


 そしてまだ先の話ではあるが伊隅大尉以外ではA-01内で最も早く手に入れる事になる。

 あの光り輝く、銀の輪を。




23:30
SHIROGANE

「よっ」

「お疲れ」

「お疲れ様、タケル」


 あのブリーフィングの後、まずは向上した反応速度に慣れてもらうため、三次元機動の概念だけ話してひたすら市街地演習を繰り返した。
 そしてある程度慣れたら、今度は"涼宮少尉はあんまり狙わない"というルールの下でチーム戦を行い、涼宮少尉には俺達の機動を見ながらその場で再現をして練習をしたりなど、肌で感じる練習をしてもらった。
 最後に三次元機動の具体的な話やコンボやキャンセルの話を行い。今日は解散とした。
 明日からの土日で完全に仕上げる事になってはいるが…まぁまだ戸惑ってる感じが強くて上手く吸収しきれていない感じだ。
 その辺は今夜伊隅大尉がフォローしてくれるそうなので任せる事にした。

 そんなワケで寝る為に俺の部屋に帰ってきたんだが…
 当然昨日話したように俺の部屋には207Bの全員が集まっていて、よって当然俺の部屋の前には部隊の歩哨が立ってる。
 今回は慧と美琴だ。


 ―――――ガチャッ

「ただいまー」

 自分の部屋でただいまってのも変な表現だな。
 そんな俺を皆が迎えてくれる。

「武、おかえり」
「お帰り白銀」
「おかえりなさい~」
「……お疲れ様です」

「あ、霞。ちゃんと夕飯押さえてきたか?」

「…はい、少なめにしました。…散歩もしました」


 抜いたんかい!
 その状態で散歩か。いくら小っちゃいとは言え成長期の霞には辛いところだろう。
 俺は早速、今作ってきたばかりの夜食を霞に渡す。まだあったかいぜ。

「あったかいウチの方が上手いから今食っちまえ」


 そう言って俺が渡した包みを開けた瞬間、部屋の中に充満する芳醇な香り。

「…おにぎり」

「正確には焼きおにぎりだぞ、霞。この箸で食え」


 そう。俺が作ったのは焼おにぎりだ。ちなみに結構デカイ。
 当然具は鯖味噌であるのだが、もちろん俺の発想はそれに留まらない。
 京塚のおばちゃんの手元には、幾つか天然の素材があるのだ。
 今回は「霞が衛士になった記念」という事でほんの少し、本当にほんの少しだけ分けて貰えた。
 京塚のおばちゃんも昨日から霞が食べる量が少し増えた事に気付いていたらしい。

 ちなみに俺が貰ったのは、"醤油"と京塚のおばちゃん特製の"味噌"だ。
 醤油は当然おにぎりに塗るんだが、俺は三角に作ったおにぎりの片面にだけ醤油を塗った。
 分けてもらったのが少量だった事もあるが、反対側に味噌を塗るためでもある。
 じっくりと焼いた醤油面に、風味が飛ばないギリギリまで焼いた味噌の面。
 特に味噌の面に居たっては、表面は焼けた味噌が香ばしい香りを放ち、内側はご飯の熱と水分で味噌独特の風味を維持するという一口で二度おいしい設定になっているだ。
 しいて言えば醤油も味噌も焼くと合成ではアッサリ地金をさらす為、天然でないと同じ作り方では食えたもんじゃないブツが出来てしまうのが欠点だ。
 ちなみに天然調味料と引き換えに俺はおばちゃんにヤキソバパンを進呈している。


「……食べた事の無い…味がします」

「あぁ、焼いた味噌は初めてか。うめーだろ?」

「はい…とてもおいしいです」

「ちなみに貴重な材料を無理言って分けてもらってるのでお前等の分は無い」

「「「「「えー!」」」」」


 えーってお前…ガキじゃあるまいにって表の歩哨の二人コラァ!何でお前らまで居るんだっつーの。



「ちなみに焼おにぎり茶漬けってのもあってな、それはまた今度」

「…!お願いします」

 ピコピコピコーンと耳を逆立てて霞にしては随分元気な返事。
 こんなに目をキラキラと輝かせた霞がかつて居ただろうか…あれ?…いるよな、多分。

 霞と500年付き合いがあって一番霞が嬉しかった瞬間=[鯖味噌焼おにぎり茶漬けの存在を知った時]

 えぇー?!それちょっとマズイんじゃないでしょーか。


「あー、ゴホン。おにぎりの件はいずれ追求するとしてだな」

「冥夜?」

「今日の歩哨の組み合わせなのだが…」

「いや、それは分隊長に聞けよ…なぁ?千鶴」


 固定にしないでローテにしようって話はしたけど毎日の組み合わせなんて俺にとってはどーでもいい事だし、それは千鶴が決める事だ。

 千鶴と慧の組み合わせは初期は外していずれ組む(無理矢理接近させて反発させたくなかったから)、小柄な壬姫と美琴を最初か最後に持って行って睡眠時間を固まりで取らせてやる、等のちょっとした裏ルールは作ったが、それだけだ。


「今日は貴方に決めて貰おうと思って」

「………何故にwhy?」

「何その二重表現…あぁ、貴方だけじゃないわ。順番で皆に考えて貰おうと思って。だから分隊長命令でローテーションを考えて、白銀」

「ふーむ…なるほどね、わかった」


 その人間が作った組み合わせで作ったヤツの部隊内の人間関係が伺えるのか…でもあんまそーゆーのって分隊長レベルの身内でやらねーほうが良いと思うんだよな。
 もっとハッキリ上官とかだったら別にいいんだけど。
 となるとアレか。貧乏くじを引くのは…俺だよなぁ。先に俺が引かなきゃ後々問題起きるだろうしなぁ…


「じゃあメンバー発表」

「早っ」

「悩むほどのもんでもないだろ。1班、俺と冥夜。2班、千鶴と慧。3班、美琴と壬姫。以上」

慧「な」
千鶴「ちょっ」
壬姫「えっ?」
美琴「はーい」
冥夜「それは…」

「じゃあお前等遅いからもう寝ろ、って事で冥夜、そと行くぞー」


 全員が固まった一瞬の隙を突いて冥夜の手を取ってさっさと部屋を出る。
 ま、当たり先の俺が居なきゃ寝るしかないだろう。


「た、武」

「んー?」

「その…いくら任せられた人間の自由と言っても…もう少し考えるべきだったのではないのか?」

「考えたよバッチリ」

「考えて…あの結果なのか?」

「お前さぁ…千鶴のやりかたがドンだけ危険か解ってないだろ」

「危険?」

「これで慧が決める順番が最後になった上にさ、慧と千鶴が最初と最後になるように組んだ組み合わせとか慧が言い出したら気まずくなるだろ?」

「あ…」

「まぁだからアレだ…憎まれ役ってこったよ」

「そ、そうか。そこまでは考えが至らなかった。流石だな、武」

「よせよ」


 しかし千鶴と慧を一緒の組み合わせにした後の事は考えて無かった。
 まぁちょっと険悪になっても俺のせいになるから大丈夫だろ。


「それはそうとして…手をそろそろ離してはくれぬか?」


 あ、さっさと部屋を出ようとして冥夜の手を掴んだままだった。


「あぁ、スマン。イヤだったか」


 しぶしぶ離しながら余計な事を言うな俺のエロゲ脳。


「いや!嫌だとは少しも…」

 ガチャッ

「うおっ」


 ここでそれなんてエロゲ空間に乱入者が一人ー!さぁニューチャレンジャーは誰だ?


「「千鶴?」」

「な、何よ」

「いや…どうした?」


 千鶴が出てくるとは意外だった。
 まさか俺が決めたローテに対する抗議じゃないだろうな。
 そんな事したらブチ壊しだろJK…


「貴方達がすぐ出てっちゃったから渡せなかったじゃない。はいこれ。じゃ、歩哨よろしくね」

 バタン


 そう言って千鶴は二つの小さい包みを俺達に手渡した。

「…何コレ?」

「開けてみればいいのではないか?」

「ん、そだな………って何だ、杞憂だったのか」


 俺はさっそく千鶴から貰った包みを開けてみた。
 見るなとは言われて無いしな。

「フッ……どうやらそのようだ」


 冥夜も包みの中身を見てそう答える。

 その中身は…千鶴が用意した、あの"やきそばぱん"だった。






「あ、そういや俺冥夜と誕生日同じなんだよ」

「そ、そうなのか?」

「うん、12月の16だろ?」

「うむ、しかしそなたとはまた変わった縁(えにし)が…」

「おいおい絶対運命とか言い出すなよ?12月16日生まれなんて結構沢山いるんだから」


 悠陽とかな。とちょっと言いそうになったけど確実に拙い事になると思って自重した。流石俺。
 あとどこから赤と白が監視してるかわからないしな。


「絶対…運命…そうか、そうであったか」

「は?」

「い、いや何でもない」

「そっか」


「………」

「………」


 それにしてもやっぱ、基地居住区廊下の歩哨って暇だよな…




MEIYA

「………」

「………」


 無言が重い。
 どちらかと言えば騒がしさよりも静けさを好むこの私が、基地宿舎の廊下の静けさに胸を痛める日が来るとは思いもしなかった。

「…た、武」

「ん?」

「あっ…その、えーと…」


 しまった、私とした事が、用事も無いのに名を呼ぶ等と…
 きっとこれが珠瀬だったりしたら、「えへへ」と笑い合って済むのだろう。
 今だけは…今だけはそなたの無条件の愛くるしさが羨ましい。


「何か聞きづらい事でもあんのか?」

「そ、そうなのだ!実は聞くか聞くまいか迷っていた事があるのだ」

「聞くだけならタダだよ、まぁ答えられるかはまた別だけどさ」

「う、うむ」


 何とか方向もずらせた事もある、私はせっかくなので一つ質問をぶつけてみることにした。


「武は…何故衛士になったのだ?」

「え?…えぇ?あ、えーっとだな…」



「…機密であったか?ではせめて私の理由を…」

「いや、話せるよ。話せるけどちょっと待ってくれ…」


 そう言うと武は、何故今この場でそんな表情をするのか解らないが、酷く困ったような顔をした。


「そうだな…衛士になったのに理由は…無い、かな。気付いたら衛士だった」

「そっ、それは…そうか、それが…衛士」


 今しがた"この国を護る"等と口にする所だった私は急に恥ずかしくなってしまった。
 武が迷いながら、考え出た結論、それは―――

 "口にする理由などない"


 なんと強く、芯の通った言葉であろうか。
 それに比べ、家族や国を持ち出さねば衛士になる理由すら語れぬ私は…なんと矮小なのだろう。

「ただ……」

「ただ?」

「今はやる事がある、俺はそれで十分じゃないかなと思ってるよ」

「新型の開発の事か?」

「いや、アレはあくまで手段。目的は別」

「では…その目的とは…聞いてもよいか?」

「あぁ…何て言えばいいかな」


 そして暫く武は考え込み、やがてポツリポツリと呟くように、彼の目的とその理由を告げた。

「俺には目指してる男が居た。でももうそいつは居なくて…だから、俺は…その男を目指しながら、そいつがやれなかった事を代わりにやってる」

「その誰かが成し遂げられなかった事を成し遂げる事が…武の目的なのか?」

「大体そうなるかな。俺流にちょっといじってあるけどな」

「その目指している男とは…どんな男だったのだ?」


 武が目差す程の男なのだから、もしかしたら名前だけでも知っているエースかもしれぬ。
 だがその男は"もう居ない"と武は言った。
 やれなかった事を代わりにやっていると。
 おそらくその男というのはもう…


「んー名前は言えないんだけどな、どんな男かなら胸を張って言えるぜ」

「聞かせて貰っても構わぬか?」


 あぁ、と頷くと、武は空中を、廊下の壁を突き抜けて遥か先、何処か遠くを見つめながら語りだした。



「俺が、まだ弱かった頃。
 まだ弱くて、死んだヤツのためにただ悲しいと涙する以外に知らなかった頃だな。
 世界を、歴史を変えようとした英雄がいた。
 そいつが、俺が目指している男だ」


「世界を…変える?」


「あぁ。そんでそいつは最初は何処にでも居るただの男だったんだが、ある日戦術機に乗った。
 恋人が殺されたとか、家族が殺されたとか、理由は色々言われたけど、真実は違うと思う。
 ただ、人類の敵が、BETAが気に入らなかったんだ。
 別に正義感が強かったわけではない。
 だが、どうしてもアイツは我慢できなかった。

 ただ、仲間が、友人が死ぬのが我慢できなかった。
 そして戦術機に乗った。何度も負けたが、その度に立ち上がった。そして学んだ。
 自分がなぜ、負けたか。

 そして、負けない為にはどうするかを考えた。
 人に教わるのではなく、自分で考えた。
 アイツには信念があった。自分が、最後だってな」


「最後?」


「自分の後ろには、他に仲間を守る存在は何もないと。つまりはそういう事らしい。
 実際そうだったかどうかはわからない。
 だけど、アイツは信じた。
 血を流し、戦うその中で。
 叫びながら、操縦桿を握ってただひたすらそう信じた。
 言った言葉はただ、仲間のために。
 そして、人類を無礼るな、と吼え続けた。
 俺はアイツを見て、英雄がなんであるかを学んだ。
 本物の、本物の英雄の本質ってヤツを」


「英雄の…本質」


 つまりそれは、"英雄とは何であるか"の答えであろうか?
 英雄という扱いも、時代によって変わる。
 ただの人殺しか、それとも偉大な革命家か。
 その英雄を武は、今の時代に於ける英雄の一つの本質を掴んだと言うのだろうか?


「英雄は…血筋からも、魔法からも、科学からも生まれない。
 英雄は、違う。
 英雄は、ただの人間から生まれるんだ。
 英雄は、ただの人間が、自分自身の力と意志で、血を吐きながら人を守る為に人でない何かに生まれ変わったもの…
 そして、俺はみんなにそうなって欲しい」


「我々…に?」


 前半は、私にとってどうしようも無い程に"現実"だった。
 衛士になったら国が、民が、世界が救える訳では無い。
 私一人が衛士になって救われる世界なら、誰かの手によって当に救われているだろう。
 問題は、いつか自分が負けた時、また立ち上がれるか。

 そんな事、一度も考えたことなど無かった。
 自分が負けるという事すら考えなかった。

 そして英雄は、貴族や皇族、五摂家など血筋に因らず生まれる。
 つまりは誰もが英雄になる可能性を持っていること。

 魔法からも生まれない。
 ただ夢を見ているだけでは、待っているだけでは英雄は生まれない。

 そして科学からも生まれない。
 英雄とはあくまで人、優れた兵器があろうとも、英雄とはそれを使う人間か、それを作った人間だ。

 そして、ただの人間が、何度負けようと戦い続ける事で生まれる。

「諦めない事…」

「そうだ」

「何故…我らなのだ?」

「生き残って欲しいから…かな。本当の理由は、冥夜にはいつか話すよ」

「そうか…ならばその時を待つとしよう」


 そして私に"目標"を与えてくれた事に対する感謝を。

 恥ずべき事だが、思えば衛士になるご大層な理由はあるのに、"衛士になってどうしたいか""どんな衛士になりたいか"等の具体的な事を全く考えて居なかった。
 守ると言えば守れるのならば誰も苦労はしない。

 私は諦めない衛士になろう。
 例え傷付き、力尽きようとも。
 最後の瞬間まで諦めず戦い続けよう。

 一度や二度の敗北が何だと言うのだ。
 私は死ぬまで生きて、そして戦おう。




[4170] OversSystem 12 <不気味な、泡>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/11/09 02:33
10月27日(土)[六日目]

AKANE

13:00
----A-01シミュレータルーム----

 ここ数日伊隅大尉が居なかったり実機演習の割合が増えたと思ったらこの訓練の為だったんだ…

 私はXM3の基礎概念である反応性向上、コンボ、キャンセル、そして3次元機動を"彼"から直接教わった。
 彼が言うには私は神宮司軍曹や伊隅大尉よりも飲み込みが良いらしい。
 相変わらず、いや以前よりも遥かに鬼の様に強くなった二人を見ているととてもそうは思えないんだけど。
 そう彼に言ったら


「そりゃ衛士としての基本能力はアッチが当然上、XM3を使い始めたのはアッチが先。敵わないのは当たり前ですよ、涼宮少尉」


 そう彼は答えた。
 どうも彼が求めている強さは"今現時点でどれだけ強いか"よりも、いかにXM3の特性を引き出せるか、いかに3次元機動を理解できるかであるようだ。


「旧OSの操作に慣れていない方がXM3との親和性が高いんで。ま、これからに期待って事ですよ。特に涼宮少尉には」

「私には?」

「伊隅大尉達よりXM3の親和性に勝るが衛士の基礎能力としては劣り、榊分隊長よりは衛士としての基礎能力では勝るが親和性では負けますから。逆に言えば即戦力としても期待してるんですけどね」

「ち、いや榊達もXM3を使ってるの?」

「いずれですけど…そうなりますよ、まぁ総戦技評価演習クリアしたらですけど」

「な、なるほど…」

「それより…あ、神宮司軍曹!涼宮少尉の基礎講習が終わったんで午後はアレやりたいんですが!」

「アレですか?………わかりました、準備します」

「あの…アレって何ですか?」

「そんな特別な事じゃないんでスグ説明しますよ」


 そう言って彼は筐体に入ってしまった。
 ならばと私も筐体に入る。

 そして私は、彼のもう一つの顔を、知った。




MARIMO

(私は…あんまり好きじゃないんだけどね)

 好きじゃない、とは白銀が言ったアレの事。
 本人は"エクストリーム耐久バトル"と言っていたが、耐久の意味を間違っているのではないだろうか。
 基本的には戦術機同士の戦闘シミュレータなのだが、制限時間設定が無い上に、あらゆる機体ダメージが30秒後にリセットされ、残段数も5分おきにフル装填される。
 まさしく"誰かが根を上げるまで"戦い続ける事のできる設定だ。
 疲労が溜まった時に出る悪い癖というものもある、そして短時間で集中的に衛士の動きが把握できるため、白銀としても見やすいのだろう。

 ただそれでも、この訓練方法はあまり好きになれなかった。

 白銀は、教える時はそれこそこちらに敬意を持って触れてくる。
 それは私自信よく解っている事だけど…
 "教える時"ではなく、訓練というよりも半ば単なる"殺し合い"になった時、彼の心の別の一意面が顔を覗かせるのだ。

 時には獣の様に吠え、時には殺戮機械の如く静かに、ただ闘争の神に愛されるが如く貪欲に相手を求め、そして打ち砕き、最後には勝つ。

 最初はそれさえ恐ろしかった。
 彼が人間ではなくなってゆくような気さえして。

 そして、彼を追い詰めた時に彼が見せる"本当の顔"は…いや、今は考えるのはよそう。
 今はただ、エレメンツを組んだ彼の背中を追いかけるだけでいい。


「涼宮少尉、エクストリーム耐久バトルはそんな感じです。あと涼宮少尉の機体はダメージ無しにしてるので、俺達の機動をみて真似る事から始めてください。頃合を見て当たり判定付けますから」

「わ、わかった。白銀」


 彼のハイテンション、そしてその底にある本当の顔に彼女は耐えられるだろうか。
 もし、耐えられるのなら…彼女もまた…





SHIROGANE

「うろたえ弾が当たるかよ!チンタラ狙撃なんてしてるんじゃねぇ!」

「今死ね!スグ死ね!骨まで砕けろォ!滅殺の!ジェノサイド無礼ヴァアアアアアア!」



 のっけからこの男、ノリノリである。
 こうなるともう負ける気がしない。
 何せ未だに叫んだ瞬間相手が一瞬ビクッと硬直するからだ。
 そんなに痛いか?だがそれがいい。

 エレメンツ・パートナーはまりも先生だ。
 なんか初期メンバーでのOSトライアルの頃から何となくとっつきやすいまりも先生とずっとエレメンツ組んでたんだけど…一緒にやった時間が長いだけあってよく付いてきてくれる。

 ちなみに現在の組み合わせは俺+まりも先生VSその他3人だ。

「白銀!こっちに2!いえ全部来てるわ!」

「今行く!軍曹!」


 どうやらまず3人でまりも先生を落とし、復活までの30秒に全員で俺を落とす気らしい。


「成る程、悪くない作戦だ…がっ」


 だが目的さえ解ってしまえば、あとはそれを少し妨害してやればいい。
 まりも先生も回避に専念すれば俺が駆けつける間くらいは持ちこたえられるだろう。


 ザンッ

 戦闘区域に突入―――よし、まだ落ちてない!


「間に合わなかったか!」

「不可能って事を除けばねぇ!」

「白銀ェ!」


 俺は迷わず月詠中尉に戦闘をしかける。
 確認できる範囲に居るのは…伊隅機か。涼宮機はどこかに隠れて…


「させないよ!白銀!」

「チィ!」

 てっきりどこかから援護射撃をすると思っていた涼宮機が、月詠機のすぐ後ろの建物の影から飛び出してきた。
 俺は月詠機に攻撃を仕掛ける所だったため、間違いなく旧OSならやられていただろう。

「きゃあ!」

 まぁあくまで旧OSならばだけど。
 涼宮機の動きを先読みして突撃砲を叩き込み、戦果も確認せず月詠機に突っ込む。


 それにしてもてっきり伊隅大尉の援護に付くと思ったら…
 特に月詠中尉と特別打ち解けたって感じでもないし、彼女なりに戦局を考えて動いたんだろう。
 それでも斯衛の赤の援護を個人の思考で選ぶとは中々彼女にも戦略眼が…

ビーッ!

 左腕がやられた?!
 長刀、月詠機だ。

「涼宮機を落としたらもう油断か?白銀ェ!」

「ご冗談を、これは余裕っつーんスんよ!」

 こっちの右は長刀…ちょっとヤバイな。


 涼宮機はあの場合どちらの援護に周っても悪くは無かった。
 伊隅大尉とまりも先生の実力は結構拮抗しているので、涼宮少尉の介入があれば場合によってはまりも機を落とせたかもしれない。
 逆に言えば伊隅大尉は単独でも暫くまりも先生を足止めできるって事でもある。
 そして涼宮少尉の存在がプラスになるか、足を引っ張る結果になるかはやってみなければわからない。

 つまり、彼女は自分の訓練兵時代の衛士の基礎を見られているまりも先生より、まだ戦闘経験が一日の俺を選んだんだ。
 まぁこっちはこっちで衛士になったあとの共闘記憶が数百年分あるんだけどね。

 頭の中で"前回の"破損からの経過時間をカウントしながら、一気に先行入力を入れる。

 その中には、今中破した左腕を使った攻撃も含まれる。

 スタックされたものから順次実行される命令。


「莫迦なっ、何故左がっ…」

「それがアナタの限界だ、月詠中尉!」

 俺の機体は先程の中破から30秒を待たずに左腕の機能を取り戻し、同時に手の中に収められた突撃砲が月詠機に牙を向いた。


「何だ今のは…どういうカラクリを使った?」


 復活した涼宮機の相手をしながら、復活待ちの月詠機に俺は先程の動作の解説をする。


「あぁー"こっち"の人って"やり込み"とかしないんスよね」

「やり込み?」


 やり込み、とはいわゆるゲームのやり込みだ。
 システムテスト的にはブラックボックステストのような手法、つまり長い時間と注意力を持ってプレイし、システムの"性格"を知る。
 その上で最大効率を叩き出す方法をありとあらゆる方向から考え、試す。
 ネットゲームを見れば解る。
 アイテムが1つ増えただけで、モンスターの配置が数匹変わっただけで、モンスターの経験地が5%変わっただけで、HPがほんの少しかわっただけで、ゲームの世界はガラリと変わる。

 それこそ小さい穴が"ゲームバランスを崩してしまう"程に広がるほど、ゲーマーはその穴を探し出し、突く。

 今回はちょっとしたバグみたいな物を見つけたので、それを利用させてもらった。

 まず手首付近に小破判定のダメージを受け、その後腕全体に大破の判定を受ける。
 個別にダメージは復旧するが、腕ごと機能停止している状態で手首だけ完全復帰させる事は命令系統の使用上できない。
 肘関節が機能停止しているのに手首の関節だけ動くのはおかしいというか、最悪腕自体切り落とされて存在しないのに手首があるってどういうこと?となるからだ。
 そうなるととりあえず矛盾が発生しないように、と、このシミュレータは腕ごと回復させてしまうバグ回避の処理がしてあるようだ。

 つまり手首小破→20秒後腕中破→10秒後、腕完全復旧→たとえ更に腕にダメージを受けても、20秒後に更に完全復旧。となる。

 よってその復旧タイミングを先読みして先行入力を行えば、中破の時点から10秒後に左腕は完全復旧し、攻撃が可能になる。

 なので月詠機は攻撃がこないはずの所からの攻撃を受け、アッサリと主機を大破させた。


「まぁつまり頭良すぎたんですよ、中尉は」

「よく言う、どう考えても不正だろうそれは」

「何言ってるんですか?俺に言わせりゃこんだけやって気付かない方がどうかしてますよ。それに状況に応じて使える手段を模索するのは衛士としての最低限の義務でしょう?」

「うっ」

「スポーツじゃないんですから。如何に早く、効率的に、楽に、一方的に、確実にやる方法を常に模索しないと。悲しいけどこれ、戦争なんですよ」

「全く、口では貴様には敵わんな…」

「じゃあってわけでもありませんがとりあえず小休止しますか、3時間以上戦闘しっぱなしですし」


月詠「うむ、賛成だ」
まりも「賛成よ」
涼宮「賛成」
伊隅「賛成だな」

 ……つらいならそう言えよ。お前ら。
 つってもハイヴ突入ってのは長丁場になりやすいからなぁ…長時間緊張しっぱの戦闘に今の内に耐えて欲しいんだよな。
 つまり俺はハイヴ内のBETA役か。こんなBETAが居てたまるか。それこそ人類が滅んじまう。




「白銀って本当に強いんだね、まさか此処までとは思ってなかったよ」

 筐体を出た所で涼宮少尉が話しかけてきた。
 正直俺も我ながらチート全開なので強すぎるとは思う。


「まぁ一応技能カンストしてますから」

「カンスト?」

「カウンターストップの略で…なんつーかな、人間白銀武として強くなれる限界までもう強くなってしまった。って所ですよ。だかれ俺はこれ以上は強くなれません。まぁ概念的な物ではあるんですが」

「でもまだ底が見えてない気がするんだよね…白銀は」

「今日はまだ最終手段使って無いですからねー、んじゃ休憩明けにちょっとやりますか。軍曹ー!次俺対他全員で!」

「ハァ、言っても止めないんでしょうね。設定しとくわ」

(ちょっと、いくら強くてもさっきの感じじゃ流石に全員は無理なんじゃないの?)

「どうしました?涼宮少尉」

「い、いや、何でもないよ」



 それじゃあと俺は筐体に乗り込み、"最終手段"の準備に入る。

 俺の本気…それは俺の力じゃない。何故なら俺はただの無力なノイズなのだから。

 目線は定めず、コックピットの全体をぼーっと眺める感じに…

 ―――だから任せる。俺の自我を殺して。

 思考を鈍化し、手足の感覚を本能に直結する。

 それは今までの戦闘記憶をデータベースとして捉え、目に映る情報、耳にした情報、体が感じる触覚、Gを全てをキーにしてデータベースに流し込み、最良の選択のみを最速で実行する戦闘方法。

 シロガネ防衛システムとでも言えばいいのだろうか。



「彼の者は自動的が故に、世界に仇成す敵を滅ぼす――――」




「何でっ…何で!」

 白銀対他全員で始まったシミュレータ演習。
 いくら何でもこの人数比ならば圧倒出来る…そう考えていた私の予想は、もうこれでもかと言うくらい完璧に打ち砕かれた。

 当たらない。当たりそうなのに当たらない。

 さっきより射線は白銀機のより近くを滑り、斬撃はより近くを走るのに…何で…何で 当たらないの?!

「くっ…また!」

 何で当たらないのよ!

 再開してからの白銀の動きは…むしろ前より遅くなっているのに!
 「のれんに腕押し」なんて話じゃない…まるで幽霊とでも戦っているような妙な感覚が私の衛士としての部分を蝕んで行く。


「私ごと撃って下さい!どの道ダメージ無いですから!」

 そう叫び、もっと深く、もっと近くへ踏み込む。
 私へのダメージ無効設定はまだ生きている。
 だからあらゆる攻撃を無視して白銀機を追っているのに、それでも倒せないどころか掠りもしない。
 そしてまた目の前で―――――

「伊隅大尉!」

 伊隅大尉が撃破された。
 ギリ…ッ
 いくら歯を食いしばっても、届かない。何で届かないの?
 もう少し、ほら、今の長刀だって、あとほんの少し踏み込めて居れば…!


「あとちょっとなのに…!」

 そう私が呟いた時、オープンチャンネルから月詠中尉の声が流れた。


「白銀、このまま続けるよりここらで一度こちらでミーティングを開きたいのだが」

「"そっち"で?あぁ、わかりました。20分くらいですか?」

「うむ」




 「はっ…はっ…はっ…はっ………ふぅ~~~~」

 ミーティングをすると聞いてようやく自分の呼吸が異常な程荒い事に気付いた。
 シミュレータって息切れするんだ…そりゃ疲れる事は疲れるけど…息切れするような運動とはちょっと違うと思ってたんだけどなぁ。
 ひとつ新しい発見。
 そういえば実戦はどうなんだろう?早瀬中尉とか。
 あとで伊隅大尉にでも聞いてみようかな…

 そこまで考えてミーティングルームに入るとそこには―――――


「「「ハァ………」」」


 盛大にため息を付く大尉達が私を待っていた。






「何なんですか?あの動きは」

「流石に貴様でもわからんか…」

 私の質問にそう答える伊隅大尉の声は重い。
 というか本当にわからない。
 何か常識外れの概念の元動いているのは解るんだけど、それが何だか全く解らない。

 一つ間違いない事は、彼が何を考えてあの機動をしているか理解できたとしても、同じ機動は絶対にできないだろうという事だけだ。


「前回より白銀の機体…遅く感じただろう?それでも当たらなくて焦っていたな」

 伊隅大尉に言われたのはさっきからずっと感じてた事なんだけど…もしかして大尉達もそう感じてたのだろうか?

「え?あ、はい。そうです。毎回あと少しの所まで行けるのに…」

「それがそもそもの勘違いなのだ、涼宮少尉」

「勘…違いですか?」


 横から月詠中尉が何か知っているような素振りで口を挟んできた。


「口で説明するより見た方が速い、このグラフを見てみろ」


 そう言って中尉がスクリーンに出した映像の中には、四角形が5つ映っていた。
 その四角形の中身は棒グラフ、つまり先程のメンバー全員分のデータがあった。
 どうやらダメージ量と箇所をグラフにしたもののようだ。
 脚部や椀部…というより戦術機の関節を横軸に、ダメージを縦軸に取っているようだけど…


「これが何か解るか?」

「機体の総ダメージのグラフですよね」

「近いが違うな、それならば一度も被弾していない白銀の図は真っ白の筈ではないか?」

「あ」

 言われて気付いた。
 確かに白銀機のグラフにも、ほんの僅かだけど棒が立っている。

イメージ図

月詠機
|   ■          
| ■ ■          
| ■ ■■  ■      
| ■■■■ ■■   ■  
|■■■■■ ■■ ■ ■  
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______________________________
←脚部        頭部→


神宮司、伊隅機(ほぼ同じため割愛)
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←脚部        頭部→


茜機
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______________________________
←脚部        頭部→

白銀機
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| ■ ■  ■  ■ ■  
______________________________
←脚部        頭部→




 じゃあこのグラフは単純なダメージのグラフじゃない…?
 そういえば項目も関節ばっかりだし、主機とか管制ユニットとか装甲の項目が一切無いって事は…


「機動負荷…自分が機体に掛けた負荷のグラフですか?」

「そうだ。私は接近戦を好むので主に下半身、それと長刀を無理に振る事も多かったので椀部の消耗も激しいな」

「…機動ダメージなんて考えもしませんでした」


 特に私は機体ダメージがキャンセルされていたのを言い事に兎に角加速し続け、長刀や砲も無理矢理振り回していたので脚部と椀部の損傷が酷い。
 その割りに腰部のダメージは少し低めみたいだけど…私の癖かなにかが出てるのかな?
 伊隅大尉達は全体的にうまく押さえてる。サポートと前衛、後衛をその場その場でスイッチしてたから?



「ということはつまり…」

「最低限の動きと最低限の速さでの回避、つまり四人掛かりで攻撃してもヤツは本気の機動を出して居ない、という事だ」

「でもそれなら…」


 機体への機動ダメージを最低限に抑えるためとはいえ、例えば3秒後に来る長刀を3秒全部使って避けようとしたら、その間他の攻撃に対して無防備になったりしないものなのだろうか?


「それがヤツの凄まじい所でな、波状攻撃を掛けてもまったく揺らがないのだ」

「それじゃ殆ど無敵じゃないですか」

「人間である以上限界はある…白銀のグラフもほんの僅かだが初期より伸びているしな」


 彼に攻撃を当てるために、まず"彼に機体に負担を掛けさせる"所からなんて…
 一体彼と私達にはどれだけの実力の差があるのだろうか。


「回避にすら全力を出させて居ない等冗談としても笑えぬ故、我らの当面の目標はまず4:1であ奴を撃墜する事だな」

「そうですね、そろそろ白銀のヤツに一発入れてやら無いと、私にも特殊部隊としてのメンツがありますから」

「それを言えば私は斯衛だし神宮司軍曹は元富士教導隊であろうに」

「フッ、そうでした。そういう訳だ、涼宮。ヤツを落とすぞ」


 そういうワケとはどういうワケだろうか。
 そういえば私には○○に掛けて、とか誇りとかプライドとか、そういうの無いなぁ…
 衛士になってまだ半年くらいだけどその内見つかるんだろうか…
 この目の前の力強い3人の衛士のように、自分の中に真っ直ぐに存在する"何か"が。



[4170] OversSystem 13 <現実主義者>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2008/12/10 23:07
SHIROGANE

 午後の訓練もなんとか無事撃墜されずに終わった。
 正直そろそろ限界だ。
 あの人数相手に完封をするのも流石に大分辛くなってきた。
 "協力者"三人はもう短時間で到達できるレベルとしてはかなりの域まで到達してるし…
 涼宮少尉、彼女の伸び方もかなりのものだ。

 全く、頭が痛い。



 …頭が、痛い?
 彼女達の成長は喜んでしかるべきだろう?

 違う、コレは…


「…っつ…ま、それほどでもないか」


 本当に頭痛がする。
 戦闘の余韻から抜けてきてようやく気付くなんて…それ程強い痛みじゃないが…嫌な感じだ。
 まぁ直らなかったら医者に見てもらえばいいか。



 俺は今から夕食で207Aのみんなと合流すべくPXに向かっている。
 朝頼んでおいたから俺の分の鯖味噌定食は確保してあるハズだ。
 といっても少々シミュレータ訓練が押してしまったんで俺は遅刻。せっかくの夕食も少し冷めてしまっているだろう。




「お、いたいた。ワリィな。待ってたのか。待たなくても良かったのに」


 PXのいつのも席では皆がまだ食事をせずに待っていた。
 湯気が出ていない所を見るにそれなりの時間待っていたようだ。


「どんな事情にせよ白銀が遅れるのは私達が食べる時間を遅らせる事の理由にはならないし、食べられる時に食べるのが衛士…の予定だったんだけどね」

 ハァ、とため息交じりに俺に答えたのは千鶴だった。
 そう、彼女の言う通り食べられる時に食べるのが正しい。
 感情的には俺を待っていてくれるのは嬉しいけど、これで出撃が掛かって皆がハラペコで出撃になるなんて事はあっちゃいけない。
 それは千鶴が一番良くわかってるだろうし、皆も理解してくれる…筈なんだが。


「この子が待つって言うんだから、私達が先に食べるのも気分が悪いでしょう?」


 そう言った千鶴の目線の先に居るのは…まぁ当然というか霞だった。
 千鶴も責めている訳ではないのだが、事実を言うとそういう形になってしまったようだ。
 まぁ、全員納得済みなら構わないんだけどね、俺としても。

 当の霞本人は俺に困ったような、如何にも「HELP ME!」って目線を送っている。


「ありがとな、霞。千鶴も別にお前を攻めてるわけじゃないさ」


 そう言って頭に手を置き、ゆっくりと撫でてやる。


「…はい、わかってます」

「そっか。じゃー食べるかな。分隊長、せっかく揃ってんだから頂きますくらい音頭取って見たらどうだ?」


 霞の気分はスグに直ってくれたみたいだ。
 それならとせっかく霞を始めとしてみんな待っててくれたので、何かしようと千鶴に話を振ってみた。


「え、そんな…子供じゃないんだから…」

「そっか。じゃ、いただきまーす」

「「「「「いただきます」」」」」

「ちょ…貴女達」

「榊はいつもノリが悪い」

「彩峰!」


 千鶴が言わないんだから俺が、と試しに言って見たら冥夜、壬姫、美琴、慧、霞が唱和してくれた。
 千鶴と慧がまた言い争いを始めたが、昔と違って口調が丸いというか殺気を感じさせない物になっていたので誰もが安心し、スルーして食事をする事を選んだ。



「タケル、そなた夜はやはり新型の任務があるのか」

 少し、いやかなり冷めた夕食がひと段落した所で、冥夜がそう話を振ってきた。

「あぁ…これからもっと忙しくなっちまうと思う。年内に形にしたいしな」

「何か期限でもあるのか?」


 オルタネイティブ5があるから、とは言えないけど、他にも理由は勿論ある。
 まぁこっちはシロガネオリジナルも毎回間に合わせてるから焦らなくても間に合うんだが。

「お前等が総戦技演習に合格して任官して…実機に乗るのは最短でもしかしたら年内になるかもしれないからな…」

「タケル、そなた…」
「タケル…」
「白銀…」
「タケルさん…」


 なんか勝手に感動しているみたいだけど、好都合なのでそのままスルーする事にした。

「んじゃ俺行くよ、夜中には戻るから」

「行ってらっしゃい」

 手で立たなくていいよ、と意思表示した俺にピッと座ったまま手で敬礼してみせた千鶴に合わせて皆無言で敬礼してくれた。





----A-01シミュレータルーム----

「白銀は…疲れたりしないの?」

「流石に目がしぱしぱするな」

 夕食後、霞の散歩とシミュレータに付き合って筐体を出た所で、涼宮少尉と鉢合わせした。
 まぁ起きてる時間は移動か食事かトイレかシミュレータかってくらい乗りっぱなしだからな。

「じゃあ霞、おやすみ」

 しかもこの後一時間後にまたミーティングを挟んでシミュレータが待っている。
 メンバーは俺を入れて日中と同じ例の五人だ。

「……白銀さんはまだ乗るんですか?」

「ん?この後はミーティングだけどね(まぁその後乗るんだが)」

「…見ていていいですか(茜をリーディングして)」


 バレたか。
 んー、霞が見て参考になるような戦い方しないしなぁ…
 いや内容がとかじゃなくて単純に見る事事態に霞的には意味があるのか?


「でもなー、霞には睡眠時間確保してもらって早く背を伸ばして体力付けてもらいたいしなぁー」

「……わかりました。おやすみなさい、白銀さん」

「あぁ、おやすみ。霞」


 そうか、わかってくれるか、霞よ。
 残念そうな顔をしながらもクルリと振り返ってテクテク歩いていく霞。
 その背中を眺めながら

(そういや霞って俺と二人だけの時にしか"タケルさん"って言わないのか)

 と一人気付いて萌えていたりした。



 ミーティングでは俺の考案した例の"新兵装"が茜にも説明され、その後のシミュレータでも解禁となった。
 シミュレータではパイルバンカーが余程気に入ったのか、前回の恨みなのか、涼宮少尉に続き月詠中尉まで超接近戦を挑んできたのにはド肝を抜かれた。
 あのツートップで攻められるとマジほんとヤヴァイ。

 兎に角距離を取ったのでダメージは受けなかったが、こっちの撃墜数も0になってしまった。
 しかも弾切れが起きない設定なので終わる頃には腕が動かなくなっていた。




----白銀武室前----

「遅かったのね」

「ん、ああ。スマン千鶴。一人って事は…エレメンツは俺?」

 シミュレータ訓練も何とか終わり、部屋に帰ってきたら今日は千鶴が外で待っていた。
 後で聞いたが今日のスケジュール決め担当は千鶴だったらしい。


「そういや気になってた事が一つあったんだが」

「何?」

「昨日のホラ、俺が慧とくっつけたの…どーなったかなーと思ってな」


 今日は食事しか207とは一緒に居なかったけど、お互い憎まれ口を叩きあいながらも笑いあっているように見えた。
 きっと何か進展があったとは思うんだけど。


「あー、そうね。白銀になら話しても大丈夫かしら。最初はお互いだんまりだったけど私達ね、何で国連軍に入ったのかを話し合ったのよ」

「そりゃまた凄いな、アレだけ不干渉を押してたのに…やっぱ千鶴が分隊長ってのは適任だったか」

「やめてよ。それで私は父の庇護化で安全席に座ってるのが嫌で国連軍に入ったって言ったら彩峰…何て言ったと思う?」


 彩峰なら…本当に大事な場面ならおちょくったりしないだろうけど…想像出来ないな。


「羨ましい、ですって。最初はからかわれてるのかと思ったわ…でもそうじゃなかった」

「それは…確かにそう思うよな、普段のアイツ見てれば」

「流石に貴方にベラベラ喋るわけにはいかないけど、彼女ね、迷いっていうか…随分自分の中で葛藤みたいのがあるみたいなの」


 でもそれは自分で解決しなきゃいけないもの。
 千鶴もそれは解ってるんだろう。


「お互い何の為に戦うのか話せたら…壁みたいな物は気付いたら無くなってた。知らな過ぎたのね、私達。お互いを…」

「かなり遅れちまったのは確かだけどさ、まだ手遅れじゃないと思うぜ」

「そうね、総戦技演習はもう一回あるもの。白銀」

「ん?」


「ありがとう」


 そう言った千鶴の顔は、今までで一番の笑顔だった。






10月28日(日)[七日目]


----PX----

「ちゅ、中尉殿に敬礼!」

 ガタッ

 俺が珍しく207のみんなと朝食を食べていると、突然千鶴がそう叫んで立ち上がった。
 周りのみんなも慌てて立ち上がる。

 って俺も訓練兵だったか。
 最近中尉とか副司令とかそんな肩書きの人と話す事が多くて階級意識が無くなってきちまったな。
 …いや、最初から無いのか、俺には。
 こりゃマズイ。次から意識しない…と…あれ?

「うむ、楽にしていい。それよりそこの男を借りたいのだが」

 何で赤が朝っぱらから俺の前に?
 午前も涼宮少尉と戦術討論でしょ?
 俺達は美琴のサバイバル技術講習を受ける予定なんだけど。
 (ちなみに提案したのは美琴本人。いや、中々の成長振りだと正直思った。)


「なっ、タ、タケル!そなた月詠と面識があるのか!」

 冥夜が驚くのは無理も無い。
 てっきり副司令のお膝元で何かちょこまかとしていると思っていたら、よりにもよって斯衛の赤、しかも自分の護衛と面識があるのだから。


「面識も何も」

「何も?」


 冥夜を含め207の全員が俺を見ている。
 気になるといえば当然か。
 しかし俺は思わせ振りな先程のセリフだけを残し、月詠中尉に目線を合わせた。

「月詠中尉、予定は午後からじゃありませんでしたっけ?」

「あぁ、その件だが緊急の要件が入ったのでな…キャンセルになった」

「緊急って言うと…此処じゃ無理ですね、場所変えますか」

「タケル…また新型の話なのか?」


 そう言って歩き出そうとする俺を冥夜が呼び止める
 まぁ声掛けてくるのはある程度計算してたというかそういう風に仕向けたんだが。


「冥夜…無粋な事を言うもんじゃない」

「無粋…?」


 "機密の間違いではないのか?"と目が言っているが、そんな事は俺には関係ない。
 面白ければいいのだ。


「常識的に考えて俺が元中尉とはいえこっちは国連軍訓練兵で相手は斯衛の中尉、しかも赤が関わる訳無いだろ?」

「それは…そうだが今実際に」

「だからそれが無粋なんだって、態々中尉殿が軍務であるかの様に話してる意味が解らないのか?」


 確かに今までの会話で具体的な単語は何一つ出てこなかった。
 そしてその会話の口調を変えると…

「まさか…そなた月詠と男女の…」


ドゴォッ


「まさかその左は幻の…」


………ドサッ




「任務です、任務です。冥夜様。時が来れば冥夜様にもお手伝いして頂く事になりましょう。今は失礼します」



 いやー、顎から脳天に突き抜ける実にいい角度の一撃だった。

 そうやって俺は廊下の先にあるミーティングルームに引きずり込まれたのだった。








 ミーティングルームには既に神宮司軍曹、伊隅大尉が俺を待っていた。
 二人は既に事情を知っているようで、俺を待っているような雰囲気だった。
 …何か緊急事態が起きたのか?明日にでもクーデターが発生しそうとか。

 相変わらず引き摺られながら何が何やら、と頭を悩ませる俺を床に投げ捨てた月詠中尉は開口一番に紅蓮大将と話が着いた事を俺に話した。

「紅蓮大将と…話が着いた?どんな魔法使ったんですか?」


 どんだけ仕事が速いんだ。このツンデレめ。


「11/11日への準備を考えると…やはり可能な限り早いほうが良いと思ってな。連絡自体は早めにしたのだが、どうも昨日の夜に着いたらしい」


 そして二つ返事で早朝に連絡が入り、既に不知火四機の搬出準備は完了しつつあるらしい。

 まぁ物理的に間に合わないとどうにもならないし、俺はある程度突然言われても対応できるけどさ…


「一言くらい欲しかったなぁ…」

「そうは言うがな、本当に時間が無いのだ。あと45分で横浜基地を発たねばならん」

「げ…そんなに無いんですか。解りました。んじゃ俺博士の所に寄ってから…ん?」


 そういえば今説明の中に不自然な所が無かったか?


「どうした?」

「不知火が……4機?」


 紅蓮大将とは一騎打ちの筈だろ…いや、その後俺が紅蓮大将や場合によっては殿下と交渉している間に注意をそらす為演習を続行するのか?

 いやでも…月詠さん斯衛でしょ?


「フフフ、いやなに、斯衛である私が性能で劣る不知火によって武御雷を撃破すれば、XM3にとって良い噂が立つであろう」


 いや、嘘だ。このヒト絶対自分だけズルして無敵モードの間に斯衛に殴りかかるつもりだ。
 何と言う大人気なさ。流石マブラヴいちのツン………

「む?」


 こちらの視線に気付かれた!


「…何か良からぬ事を考えているな。よいか、余り私を侮るな。私は慢心でも無く卑屈でも無く、自分の価値を解っている。新潟侵攻を待たず一部の人間にとは言え斯衛や帝国軍にXM3を晒すのだ。"国連軍で開発した"と"国連軍に身を置く日本人が開発した"では印象が違いすぎる。更に言えば神宮司軍曹と伊隅大尉は表に顔を出せぬ…となれば斯衛の赤である私が先ず使ってその有用性を示せば、帝国の衛士にも受け入れられやすくなろう」

「そこまで気を使っていて貰えたんですね…ちょっと以外でした」

「私はあのOSを正当に評価しただけだ」


 なにそのツンデレ、なにそのツンデレ(二回言った。重要だから。

 耳までちょっと赤くしちゃって可愛いところあんじゃない。
 そんな事口にしたらまた殴られそうだし…時間も無いから行動するか。


「解りました、んじゃまた後で。詳しい流れは移動しながら聞きましょう」

「うむ、何を準備するか解らぬが急げよ」





----基地副司令執務室 前廊下------

「よっ」

「…タケル…さん」

 香月博士に一言挨拶と相談をしに地下に向かうと、廊下で霞と鉢合わせした。


「霞も博士の所へ?」

「…はい」

「じゃ一緒に行くか」


 そう言って俺は右手を差し出す。


「はいっ」


 霞は嬉しそうに手を繋いでくれた。
 霞の手ってやわらかいなぁ…
 そういや最後に女性の肌を触ったのは何時だったか…少なくとも此処に来る前か。
 未だに記憶は戻る気配を見せず、フラッシュバックのようなものも見えやしない。
 夢に誰かが登場するわけでもない。
 ほんと俺は一体…誰なんだろうな。


「タケルさん」

「おっと」

 考え事をしている間に部屋の前についてしまったらしい。
 プシュッと開くドアを潜るとそこは…真っ暗だった。

 あれ?俺こーゆーシーン知ってる。
 霞を見ると部屋の奥を見つめて固まっているようだ。
 やはり、誰か居る。

「霞、"奥の人"は多分味方だから、電気つけちゃって」

「は…はい、わかりました」


 パパッと電気が付き部屋の視界が確保されると…


「やぁ、こんな朝早くにレディの部屋を訪ねるとは、君も中々隅に置けないね?白銀武君」


 鎧衣左近課長その人が、其処に居た。



 フッ、先手必勝!

「どーもご無沙汰してます鎧衣左近課長!」

 そう言いながら俺はスタスタと距離を詰める。

「ほう?私の名をしっているのk」
「いやそれにしてもいいスーツですよね、俺も思うんですよ。スーツは男の戦闘服だって」

「死んだ筈の、いやこれはこれはお褒めいただk」
「冬はもちろん、夏場だって背中に汗が流れようともスーツは脱がない。それが正しい日本のペンを武器に戦う男の姿だと、俺はそう思っています。鎧衣左近課長もそうでしょう?それに比べてこの国連軍の制服ってやっぱデザインが派手過ぎると思うんですよね、やっぱり男は紺のスーツ、そう思いませんか?いやいや鎧衣左近課長のスーツの色がどうという訳では勿論ないんです。ただベージュや鎧衣左近課長のライトブラウンとかの明るい色のスーツはやっぱり年を重ねて大人の男の風格が出てからじゃないと似合わないと思うんですよね。そのスーツはやっぱり帝都の仕立て屋で?いいなぁ、今度俺にも紹介してもらえませんか?あ、でも訓練兵の手持ちでどうにかなるお店じゃないか。そういえば室内でも帽子を取らないようですが武器でも入ってるんですか?流石に室内で帽子被ったままじゃ少々怪しいので避けた方がよろしいかと思うのですが」

「何やってんのよアンタ達…」


 ノリノリだった俺のマシンガントークを止めたのはこの部屋の主、香月博士だった。

 俺は博士の反応にワクテカしつつビシッと敬礼し、声を大にして答える。


「ハッ、不審者が居た為足止めしておりました!」

「このクソ忙しい時に何やってんのよアンタ…」


 はぁー…と本気でデカイため息を付く博士。
 本当に呆れられてるらしい。


「これはこれは香月博士。朝からお美しい女性とお話しができるとは嬉しい限りですな。しかし私は君に名乗った覚えは無いのだがね、白銀武君」


 流石プロ、と言うべきか、いち早く精神再構築を果した鎧衣課長が口を挟んできた。
 何だよ、おとななんだからおとなしくまけをみとめてだまってればいいのに!


「ウチの部隊に娘さんの鎧衣美琴訓練兵が居るんですよ」

「それはおかしいな、息子に私の写真は持たせて居ない筈だが…まさか隠し撮りか?どう思う?白銀武君」

「まぁ、匂いですね。美琴を一度見てれば一発でわかりますよ、同類だって」

「ふむ…」


 で、結局何しに来たの?この人。
 クーデターは未だ先だろ?そもそも噴火してないし。


「で、アンタ何の用なの?もしかして帝国が保有するG元素をくれる気になったのかしら?それとも不知火二式が完成したの?」

「…帝都でこんな噂を耳にしましてね。横浜基地で今までの常識を覆す兵器が開発されている。しかもその兵器の試験には斯衛の赤が関わり、なおかつその開発者は衛士。さらにその衛士は今日これから紅蓮大将閣下と帝都郊外の斯衛専用演習場で一騎打ちを行うという話ではありませんか。しかもその男が…」


 なんか結構イロイロばれてるんだな。
 いや、結局中身の伴わない情報だし香月博士が情報を選んで最初からリークしたのか?
 それともわざと鎧衣課長が中身を語っていないのか…


「既に死んだ筈の男だとは。しかし君はこうしてここにいる。幽霊になって化けてでたのかね?」


 そう言って近づいてくる鎧衣課長を俺は手で「よってくんな」とジェスチャーした。
 大方顔でもつまむつもりだったんだろう。

「えぇ、実は帝国のピンチに呼応してついさっき息を吹き返しまして。で、今の征夷大将軍は煌武院 悠陽殿下でしたっけ?どうも数年死んでると時差ボケが酷くて困りものですよ」


 目的は…紅蓮大将に会う前に俺に会っておこうって線かな。
 人を見る目に自信があって、なおかつその能力を信頼されていないとできない事だけど…
 殿下を逃がす下準備とかバッチリするくらいの人だからなぁ。

「そ、そうか。君は中々に面白い男のようだね、白銀武」


 香月博士は「はいはいわろすわろす」といった呆れ顔で、完全に我関せずとなってしまった。
 俺の意味不明トークが鎧衣課長を微妙に煙に巻いてるので、自分で対応するのが面倒臭くなったのだろう。

「これからもっと面白くなりますよ。帝都まで行くなら一緒に行きます?」

「なに、大人の男は自分の足は自分で用意するものさ、白銀武君。では香月博士、失礼します。次は何かお土産を持ってきますよ」


 そう言い残して、鎧衣課長は退室してしまった。


「何しに来たのかしら、アイツ」

「俺を見に…ですかね。それだけ時間がなかったんでしょうけど…」


 あぁいう仕事にだけは付きたくないな。
 心底そう思う。


「あ、そうそうアンタそういえばいい所に来たじゃない」

 そう言って博士はさも今思い出したというかの様にポケットから何か小さいブツを取り出した。

「はいこれ」


 ひょいっと此方に放物線を描き飛んでくる何かを掴む。

「おっと…階級章?」

「じゃ、そういう事だから。白銀"大尉"」



 ――――前略母上様。
 俺はどうやら今日から"たいい"らしいです。





 俺に投げた階級章の階位を呼びながら、香月博士はダカダカとノートパソコンを叩き始めた。
 しかし大尉、か。
 "元中尉"っていう触れ込みだったからコレでいいのかもしれないけど、このタイミングって事は対外向けかな?
 外の都合に合わせて階級が上がるってもの…まぁ俺らしくて良いか。


「で、博士。聞き流して貰ってもいいので質問があるんですけど」


 2分ほど待ってみたが一向にキーを叩く手が休まらないため、俺は作業しつつ聞いてもらう事にした。


「…何?」


 此方に顔を向けてもガタガタとキーは叩かれ続ける。
 どうやら思考を分割するスキルがあるらしい。流石天才。


「俺……やっぱ手加減した方がいいですか?」

「そりゃねぇ……まぁXM3もこっちにだけ積んであるワケだしぃ?3割位の力で倒して貰えないとこっから先アンタの実力信じられなくなっちゃうかもしれないわねぇー?」

「そりゃまた…手厳しいッスねぇ…」

「まぁ私の前でそんな無様な事はしないでしょうけどねー」


 え?来るの?
 ってそう言えばそうか。
 いくら何でも衛士…それも最上位が大尉だけ寄越すなんて真似はできないし…
 対外の交渉事とか俺の解らない細かい所は自分でやるつもりなんだろう。

「しっかし、"忙しくなれた"モンよね。00ユニットの稼動の目処が立ったから、こうして対外に気を回せるんだから」

 そう、別に00ユニットの最終理論を手に入れたからといって博士が暇になるわけでは決してない。
 テストで言えば"テストを受ける資格が無かった"状態からやっと00ユニット、つまり"テストの受講資格を得た"状態になったのだから。
 そのテストが満点か赤点かは未だわからない。
 赤点は避けられる可能性が高いとしても、少しでも満点に近づける作業を惜しまない。
 それは交渉だったり、根回しだったり、人や物や軍を動かし、備える。
 ようやくそこに来れたのだ。
 といっても00ユニットを初めて稼動させた世界でもそれなりに両立させていたようだが、それはあくまで本腰を入れたものではない。
 今度は博士も割りと自由に動けるようになりそうだ。


「ま、差し詰め"運命の奴隷"ってトコでしょうか。最もお互い好きでやってるだけですけど」

「フン……じゃ、行くわよ。遠慮しないでブチかましてやりなさい」

「はっ!」



 そうして俺は、俺達は、帝都に出発した。







-------



―――――ブロロロロロッ


 ガタガタと悪路に揺れる不知火の管制ユニット。
 トレーラーに運ばれるそれの中には今、伊隅大尉と神宮司軍曹がそれぞれ乗っている。
 俺も同様にコックピットの中に座り込んでいた。
 ここならば他の機体に通信もできるし、何より先の二人は横浜基地を出てから戻るまで、不知火のコックピットを出る事を禁じられている。

「っとまぁ現地の流れはこんな感じですね。難しく考えなくても俺達は香月博士の駒だと思えばいつも通りだと思います」

 通信している相手は"いろいろと知りすぎてしまっている"ので物事を深く考え過ぎていないかと心配になってしまう。
 所詮はイチ衛士。基本的には香月博士から指示がでるだろう。


「その指示が一番怖いのよね…」


 まりも先生、怖いこと言わないで下さいよ…。



「伊隅大尉、月詠中尉も、それでいいですね?」

「つまりいつもと同じという訳か、問題ない。白銀」

「私の方は…一部にXM3の噂…もとい情報を流せばよいのだな?」

「えぇ…名前は出さずに「横浜基地で開発された新OS」って事でお願いします。XM3なんて行き成り言われるより馴染みがいいでしょう」

「わかった」


 月詠中尉の方はトレーラーの方の通信機を使っている。
 トレーラーと一口に言ってもそこは戦術機を運搬できるものなので、運転席とは別に合計6の座席があり、簡単な管制(といってもトレーラーからハンガーへの移動指示や演習の準備程度を想定した能力だが)も行えるようになっている。


「はいはい、おしゃべりはそこまで。そろそろ演習場に着くわ、主機を起こして準備しなさい」

「はっ!」


 香月博士の声に気付けば其処はもう日本帝国軍斯衛帝都郊外演習場まで目と鼻の距離だった。






-KOUDUKI-

「兵が哀れね…」


 私が居るのは特別管制室。いわゆる"お偉いさん"がふんぞり返って座り下らない事を口から吐き出し続ける部屋。
 今呟いた言葉はそう、揺さぶりだとか駆け引きだとか、そういう意味合いでも確かにあったけど、私の本音でもある。


「どういう意味ですかかな?香月博士」

 そう私に殺気立った目線を向けてくるのは誰だったか…名前も思い出せない冴えない男。
 私の記憶に無いという事は別段オルタネイティブ4に必要な人間でも、邪魔な人間でもないのだろう。
 こういう時にこそピアティフが居ればいいのだけれど、生憎私が横浜基地を空けるなんて滅多に無い事なので外のトレーラーで横浜基地とのホットラインの…いわゆる留守番だ。

「どうと言われましても…」


 そう答え私は演習場へ視線を移す。

(黒が3…か。まぁ向こうの立場から言えば当然と言えば当然ね)


 演習が開始する前に、斯衛側から要望があったのだ。
「紅蓮大将と一騎打ちを望む衛士の実力を是非見せて欲しい」
 と。
 つまりはそういう事。
 流石に赤の大将とコッソリ戦術機で一騎打ち…等となるはずもなく(その辺は解っていてやっているが)当然周りも口を出してくる。
 パイロットの名すら事前に明かそうとしない私に斯衛が出した条件は、斯衛が出す衛士にまず前哨戦として勝つこと。
 それに対して私も「じゃあ最低で白10機、前回の間引き作戦に参加した実戦経験済みの衛士を用意してくれ」と答えたのだが…


「香月博士、わたくしにもお話をお聞かせ願えませんか?」

「はい、殿下」


 特別管制室には日本帝国征夷大将軍煌武院悠陽まで来ていたのには少々驚いた。
 どうやら月詠中尉は思ったより頑張ってくれたようだ。


「これだけは断言できます殿下」

「何でしょう?」


 私は周りをゆっくりみまわし、ふとある事に思いついた。

(ええい、言ってしまえ…か。アイツも普段こんな気持ちなのかしらね)

 大それた事をさも当然のように。
 それは私も常日頃行っている事だけれど…征夷大将軍にここまでの口を叩くのは流石に今回が初めてだ。


「全滅です。殿下。もしこれが実弾での殺し合いなら…斯衛軍は武御雷3機分の鉄クズを生産したに過ぎません」

「貴様!不敬であろう!そのような出任せをこのような席で「出任せかどうかは!」…なっ」


「結果を見てからにしていただけませんか?」

 そう言って私は腕を組み、沈黙を決め込んで演習場を、いや其処に居る衛士を睨み付ける。

(絶対に勝ちなさいなんて…我ながらぬるくなったわね…もとより最後の瞬間まで一度も負けられない道だっていうのに)


 しかし、彼はきっと私の期待を別の意味で裏切るだろう。
 何故かそう確信できた。

 さて、どうなるものやら?
 最早周りの視線のプレッシャー等は遥か彼方に飛んで行ってしまった。


「香月博士、一つよろしいか」

 その男が、口を開くまでは。






 -SHIROGANE-


 演習が―――始まった。


「黒が3…か。まぁ妥当な所…なのか?」


「貴様が横浜基地の"自称人類一の衛士"か」

 どうやら相手とは通信が常につながっている設定らしい。
 そんくらい教えといてくれよ…
 リーダー格がやたら"自称"に力を入れて発言している辺り、やっこさん随分とトサカに来ているらしい。
 まぁフツーの斯衛ならそういう反応取るよね。
 お前んところの大将と一騎打ちさせろ、俺世界一の衛士だから。なんて言われたら。
 しかしまぁ、今日の所は俺の引き立て役で我慢してくれ。

「殿下を守護する斯衛の力…味わさせて貰おうか!」

「吠えたな!」



 こっちは実戦経験済みの白を十機程要求したけど…流石に(見た目は)ドノーマルの不知火一機にそこまでは出してくれないか。
 しかし黒くて3って…こいつ等ジェットストリームアタックとかしてこないよな…

 そのまさかだった。

 見事な三機連携。
 斯衛軍らしく長刀を手にまず先陣を切る一機、そのすぐ後ろにサポートに一機、そして距離を取って突撃砲で二機をフォローするのが一機。

 しかし


「凌いだだと?」

「そんな!」
「あれをか?!」


 遅い。
 コレは多分反応速度の処理速度に差が有りすぎるんだろう。
 それにいくら相手が三機連携つってもこっちは昨日1:4でドンパチやったばっかりだっつーの。


「しかし避けているだけでは勝てんぞ?横浜の自称最強衛士。斉藤、行くぞ!」
「応!」

 そうして今度は前衛二機が長刀を片手に一本づつ、二刀流でそれぞれ構える。
 流石に壮観だ…が、確かに今の一合は俺はやり過ごすだけで反撃しなかった。

 一機目、ほぼ真上と言って良いほど高く跳躍し、相手の感覚の死角を飛び越える。
 二機目、そこからスラスターユニットを反転、地面に向けて高速で進み、着地直前で横方向へキャンセルジャンプで回避。
 三機目、一機目よりさらに高く飛び、衛士が入力した予測射角を大きく超えてその向こうへ。


 反撃はできなかったと捉えられているみたいだけど…少々斯衛の戦術機の操縦を生で感じてみたかったのだ。
 月詠中尉だけだとサンプルには少ないというか…連携した武御雷なんて相手にする事そうそう無さそうだし。

 そう思ってはみたものの…やはりそれ程じゃない。
 確かに現状のA-01のどの三機連携よりも精錬されているようには見えるが…伊隅神宮司月詠の三機連携の方がよっぽど怖い。
 いや待てよ、それならこの今相手にしている三機にXM3を積めば…やっぱ帝国には早めに普及してもらいたいもんだ。
 さて、そのためには先ず君達には派手に負けて貰わないとな。
 武器は俺も長刀を使っている。
 同じ武器で負ければ、誰も文句は言えないだろう。


「俺をただ死ににくいだけの速さが売りの衛士だと思ってるんなら大間違いだ」

「何?」

「俺は覚える。食らった技を相手の動きを癖を呼吸を…仕留め損なう度に敵は大きく、敗北に近づく」

「負け惜しみを…!」

「次があるなら最初からそれを出すべきだったな。もうちょい弱けりゃその慢心もなかったろうに」


「これ以上奴に喋らせるな!斉藤、佐山、行くぞ!」


 低空を滑るようにこちらに向かってくる三つの黒。
 まるで狼が獲物に正面から襲い掛かるかのように…その獰猛さに普通の衛士ならただ牙に切り裂かれるだけだったろう。

 まぁ…俺は随分普通じゃないのだが。


 一機目、今度も同じく長刀の間合いギリギリでジャンプ…をキャンセルし、地面に這うような姿勢で膝を長刀で薙ぎ払う。脚部破壊判定。
 二機目、一機目の撃破に驚いたのかほんの少しできた操作の隙に長刀を投げつける。それをはじいた瞬間には、俺は短刀を装備して相手に躍り掛かっていた。
 短刀を頭部ユニットに走らせる。頭部破壊判定、コックピットの画像が一瞬消える。その隙にほぼ機体が水平になるような勢いで横っ飛び。
 三機目、縦方向も織り交ぜたランダムな三次元機動で射線を交わしつつ距離を取る。

 この間、約1分30秒。


「なっ…あ…」

「頭を取られた…のか?」


 敵勢力は未だ三機―――といっても一機は脚部を完全損壊。
 パイロンにすら銃を用意しない徹底振りは最早ギャグの領域に達しているように見える。



「どうした?呆けちまって。言ったろ?仕留め損なう度に相手は近づく。敗北へ……大きく…だ」


 俺は背中のパイロンから長刀と突撃砲を取り出す。

 此処までくれば、もう勝負は付いたようなもんだ。




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作者近況

残業やべぇ。



[4170] OversSystem 14 <ガーベラの姫との再会>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2009/01/26 23:14
-KOUDUKI-

「香月博士、一つよろしいか」

「何でしょう?紅蓮大将閣下」

「戦闘中の衛士の通信……こちらにも流して頂けないか」

「え?」


 しまった。
 私のポーカーフェイスというか表の顔というか、そういうのが一瞬にして崩れかけてしまった。
 しかしアイツも毎度毎度馬鹿を言う程馬鹿じゃないだろう。
 それに前回御剣の件で痛い目にも逢っているし…

「香月博士?」

「い、いえ。なんでもありませんわ。お繋ぎします」

 そんなのボタン一つで出来る。
 しかしスピーカーから流れてくる戦闘会話は、やっぱり私の予想の斜め上をブッ飛ぶ物だった。


『どうした?呆けちまって。言ったろ?仕留め損なう度に相手は近づく。敗北へ……大きく…だ』

「ほぅ…中々骨の有る男のようで。殿下、この紅蓮、久々に血が滾って参りましたわ。ハハハハハハ!」

「まぁ、紅蓮が惚れ込むなんて…しかし、本当に見事な操縦ですね、香月博士」

 …まぁ、よしとしよう。
 本当にギリギリのレベルだけど。
 しかしこの胸に残る”しこり”の様な、喉に引っかかる小骨のような不安は何だろう。
 それは多分、白銀が怒っているから。
 きっと私がそう感じたからに違いない。
 しかし彼が怒る理由がこの演習であっただろうか?
 不平不満で軽口を叩く事はあっても、本気で逆上したり怒ったり等するようには感じられない男なのに。
 だから私の気のせいだ。
 そうに違いない。

 そう思い直してモニターに再び視線を戻すと、其処には倒れた3機の黒い武御雷と、悠然と立つ青い不知火の姿があった。

 それでも…

(演習が終わって…いない?)

 私は手元のディスプレイを見てようやく気付く。

(これはちょっと……本当に手加減したのアイツ?)

 演習が終わる筈がない。
 武御雷は"まだ撃破されていない"のだ。
 それぞれ小破や中破しているものの、主機と管制ユニットは生きている。
 しかし脚部や噴射機構、椀部、頭部と、上記2つ以外のパラメータはその殆どが破壊判定。

(殺害判定無しで制圧するなんて…相変わらずと言うか何と言うか…)

 そう内心ため息を付いた私の耳に、再び白銀の声が突き刺さった。
 それは、先程の予感が…


『まさかとは思っていたが…本当に長刀しか装備しない莫迦がこの世の中に存在するとは…正直驚きだな』


 当たっている事の、証明だった。


『貴様…!我らの誇りを侮辱するつもりか!』

 当然、斯衛ならそう反応するだろう。
 しそれにしてもアイツは、少しは会話を聞かれている可能性を考えないのだろうか?
 いや、もしかしたら考えているのかもしれない。
 殿下の手前、どの道ここで通信を切るような真似も出来まい。
 私に今出来る事はただ、事の推移を見守る事だけだ。


『俺は斯衛の誇りを侮辱した事は一度も無いが?』

 そう言って不知火は今しがた反論した武御雷、最初に脚部を破壊された機体に向かって歩き始めた。

『今口から出た言葉をもう忘れたか!』

『忘れてなんざいないが…アレの何処に斯衛の誇りを傷着ける内容があったんだ?俺に詳しく説明してくれないか?』

『それは…!』

『もしかして長刀しか装備しない事に対してバカにした事が気に障るなら、それは貴様の勘違いだ』

『勘違いだと?!』

『あれは斯衛の誇りなんかじゃなく、お前のガキっぽい自己満足をバカにしただけだからな』

『貴様ァッ!』


 ――――ジャキッ


 不知火の突撃砲が足元に転がる武御雷の頭部ユニットに狙いを定める。
 中の衛士はどうにかしようと操縦桿を動かしているようだが…動作するのが左腕だけではどうにもならないだろう。
 そして白銀は…何を考えているのだろう?
 明らかに斯衛に喧嘩を売っているだけにしか見えないが、キチンと落とし所を考えているのだろうか?

 そして私の心配をよそに、白銀は浪々と語り始めた。


『……もし俺が殿下の命を狙う賊で、貴様が殿下を守る最後の武御雷だとしよう』

『突然何を…』

『今と同じく主脚が破壊され、賊は遂に殿下の武御雷に手を掛けようとしている。貴様の武御雷はまだ稼動するが、肝心の武装が長刀しか無く反撃の一つもできやしない有様だ。突撃砲の一つでもあれば、後ろから俺の背中を撃つ事ができたかもしれないのに!そして目の前で撃破される武御雷!それでも貴様は殿下の骸に向かって言うのか?!「斯衛の誇りがあるから突撃砲は装備していなかった」と!』


 ――――ガガガガガガガガガガッ

 不知火の突撃砲が火を噴き、ペイントで黒い武御雷の頭部を真っ赤に染めてゆく。

『ぐあああああ…っ!』

 それは不知火のマガジンが空になり、武御雷の頭部から地面へペイントが滴り落ちる程になるまで止まらなかった。

『はあっ…はあっ…はあっ…』


『斯衛の使命は殿下を守る事、それこそが誇り、それのみが誇りじゃないのか?ならば思いつくありとあらゆる武器や手段を使い、どんな方法をとっても殿下を守る、それだけが斯衛の誇りであるべきだ』

『はあっ…はあっ……クソッ』

 ガンッと武御雷のコックピットで何かを叩く音が聞えた。

『不知火より管制室、聞えますか?』

『こちら管制室、聞えている』

『棄権します』

『棄権?』


 止めを刺す価値すらない。
 そう言ってのけたのだ。


 白銀はそう言い捨て投げた長刀を拾い、マガジンを交換してその場で沈黙した。
 演習が終わり、機動制限を解除された武御雷が立ち上がる。


『………』

『『『………』』』

 武御雷も退くに退けないのだろう。
 演習場のど真ん中でまた睨み合いを始めてしまった。
 まぁ仮に彼らが白銀を襲った所で、今度は本当に武御雷を破壊してしまえばいい話なのだが…それではまとまる話もまとまらないだろう。

 白銀は一体何を…

「よろしいか?香月博士」

「は…どうぞ」

 気付けば紅蓮大将が私のすぐ後ろまで来ていた。
 よろしいか、というのはマイクの事だろう。


『一つ質問をしてよろしいかな?不知火のパイロット君』

『何でしょうか、紅蓮大将閣下』

『貴殿の考えは理解できる、無論納得するかと言われればそれはまた別の話ではあるが…』

『……ありがとうございます』



 …つまりこの男こそを引き出したかったのか、白銀は。
 彼に興味をもたれる為に。

『しかし誇りという名の自己満足の為に自らの命と貴重な装備を無駄に消費し、戦友や守護すべき存在を危険に晒す事は…自分にとって恥ずべき事なのです、紅蓮閣下。それはもう、耐えられぬ程に。罪悪ですらあります』

『そうか…それが貴殿という衛士なのか。とは言え貴殿のその極論は…国連軍の中でも異質なのではないかね?』

『そのようです、残念ながら』

『いいだろう、貴殿の決闘、受けよう。如何に黒とは言え武御雷3機を殺さずに制圧されておいて貴殿の実力を軽んじれば、それこそ斯衛の名に傷を付けるというものよ』

『お待ちしております、閣下』


 この会話は、この部屋に居る人間、つまり私と紅蓮大将、殿下、そして何人かの斯衛の上位の者にしか聞えていない。
 ヘタに斯衛全部に流れたりしていなくて本当によかったと心底思う。
 彼の思考回路は余りに人間味がなさ過ぎる。それを言えば私もそうなので彼の考え方には全く同感なのだが、命より誇りを重んじる斯衛には刺激が強すぎるだろう。


 かくして、斯衛軍、紅蓮大将閣下と帝国側にとっては名も知れぬ衛士との一騎打ちが、幕を開けたのであった。




 -Shirogane-

「凄い!これが赤の武御雷、これが紅蓮大将!」

『ファーッハッハッハッハ!吼えるだけあってやりおるわ!小僧!』


 演習開始から20分。俺はまだ、紅蓮機に致命的損傷を与えられずにいた。
 武装は互いに右手には長刀、左手には突撃砲を装備している。

「(Gが…重いッ!)…ぐっ、あぁっ!そこだぁ!」

『太刀筋は良い…だが!』


 ギャリリリリリッ!


 目まぐるしく体を襲うGに耐えながらまた一撃、死角から打ち込む。
 しかしもう何度目かも解らぬ俺の長刀の一撃は、紅蓮機の繰り出した長刀でその軌道を反らされ、またしても機体に届かなかった。
 俺は更に先行入力、動作キャンセル、3次元機動を使い斬り付ける。

 ジャンプをキャンセルし空中で姿勢を変え動作を途中で変更し、
 横方向に縦方向を追加したランダムな動きで死角に回り、
 時に突撃砲で、時に長刀で。

 攻める攻める攻める攻める攻める。
 自分の持っている全てをぶつけるような、まさに怒涛の攻め。


 そしてそれをいなし、弾き、かわし、逸らし、時に牽制し、全て受けきる紅蓮機。

 受ける受ける受ける受ける受ける。
 それは揺るがない、絶対の経験とセンスが齎す、まさしく鋼鉄の受け。


 流石は斯衛式操縦術、と言うべきだろう。
 事「守り」に関しては武御雷との操作相性も抜群で、旧OSと言えど押し切る事が出来ない。
 戦術機乗りとしての本質的な格の違いを思い知らされる。
 幾ら三次元機動を行おうとも、幾ら人間以上の機動をしようとも、人型であるという制限からは逃れられない。
 そしてその人型が同じく人間が使う武器と同じ武装で戦うのだから、結局最終的にはヒト本来の動きに準じてしまう。

 特に長刀においては対BETAと対戦術機では扱いが違いすぎる。
 ある程度力学に則りそれなりの型や手順を踏まねば当てた所で相手の装甲を突破できないのだ。
 そう考えると柔肌の部分があるだけBETAの方がずっと楽だと思う。
 なんせ武御雷は全身これ装甲なのだから。

 それでも攻める。
 攻めなければ勝てないから。

 いつまでも決着の付かない、それは一つの舞踏のようだった。
 ただし、先に舞い疲れるのは…

「推進剤…っ、4割切ったか!」


 当然、常時飛び回っている俺の方が先に推進剤が切れる。

 ――押し切れない。
 持っている全てをぶつけても。
 此方だけ新OSだとしても。
 それでも勝てない。

 畜生、これが個人の能力限界…"器の差"だって言うのか。

 それでも"この相手"なら。
 "シロガネオリジナルの器"、つまりシロガネ防衛術を使えば勝つ事は出来るだろう。
 けど…


「…すみません香月博士」


 俺は此処に来て、"楽しむ事"を覚えてしまった。

 まだ出し切ってない、まだ全力じゃない筈だ。
 俺にはまだ…!

「紅蓮閣下」

『…何か』

「俺は……今初めて、貴方に勝ちたい!」

『やってみよ!小童が!』

「雄オオオォォォッ!」
『破ァァァアアアッ!』


 更に速さを上げ、ぶつかり合う青と赤。


『セイッ!』
「ぐうっ…」


 そしてその嵐の中ついに俺の焦りを突き、赤が後の先、カウンターに出た。

-不知火頭部ユニット小破-
火気管制機能性能低下
メインカメラ性能低下
通信機能性能低下
データリンクダウン

 開始から時間が経ち過ぎた。
 俺の機動に紅蓮大将が慣れつつある。
 後の先、受けて流して攻める。それは見とれる程美しい動き。
 キャンセルを使って即離脱や防御、追加攻撃を行えていなければ最初の返しで俺はやられていただろう。
 
 そして攻勢に出た事で幾ばくか守りに隙が出来たようだが、その隙を埋めるには十分過ぎる程の攻勢技量が紅蓮大将にはある。

 例え隙を見つけようとも、其処を突く余裕が全く与えられない。
 先ほどとは様子が反転し、攻めているのは俺なのに、追い詰められているのも俺…

 挑戦しに来た立場上、俺が完全に守りに回る訳にも行かない。

「くっそ!」


 たまらず跳躍ユニットを吹かし一旦距離を取る。
 噴射剤は残り…2割を切り掛けているな。
 このままじゃ噴射剤が先に切れ、確実に負ける。

 どうすれば良い?

 まだ何か手元に…いや、連殺は隙が多すぎる。

 10秒、いやせめて5秒さえあれば…

 戦闘開始から30分、全力で1対1で戦い続けてこの有様とは…全く、自分の底が知れる。

 いや、自分だから30分耐えられたのか?
 …違う。

 首を振りなおし、後ろ向きな考えを頭から追い出す。

 俺が背負ってるのはXM3だけじゃない…やめるな!考える事を!

『儂のカウンターにすら徐々にだが対応してくる所は流石よの…だが、そろそろ幕としよう』

 そう言って、赤い武御雷は腰を落とした。

 ―――徐々に?
 俺はずっと、同じペースで戦って来た筈だ…
 あぁいや、そうか!コンボが対紅蓮機として登録され始めたからか!

 何だ、そうと解れば…あぁ、そうか!簡単な事じゃないか。
 恐ろしく――――――危険という点を除けば。
 …その為には、あと少し、あと少しだけ時間が要る。

「流石です紅蓮大将閣下。自分は貴方を、カテゴリーA以上の衛士として認識しました」

『む…?』

 操作コンソールを呼び出す。
 連殺で他の機体を強制操作できるように、XM3には搭乗者権限レベルという物が設定されている。
 勿論俺は最上位のS級権限。
 開発テスト者権限も含むこのクラスならばコックピット端末からでもメンテナンス用の外部端末とほぼ同じ事が出来る。
 当然使い勝手は外部端末よりは悪いが、戦術機のコックピットにシステム使用の利便性を求めてはいけないだろう。

/*************************************************/
/** Hello! Mobius 01 Captain TAKERU SHIROGANE **/
/** USER Rank S XM3 ver2.1 **/
/*************************************************/
#Shirogane@S:user/Shirogane$cd config
#Shirogane@S:user/Shirogane/config$vi KeyConfig.lst
.........
.....
..


「拘束機動制御第一号、第二号、第三号開放。状況A、クロムウェル発動による承認を認識」

『ほう…まだ先があるか』


 長刀しか装備していない右腕のトリガーボタンは要らない。 
 そして倍速を1.75倍でフィックス(固定)、コンボ使用頻度をMAXに設定。

KeyConfig
...........
......
..
right_trigger=on{
action=rensatsu(ON)
}

right_trigger=release{
action=rensatsu(OFF)
}
..........
....
Basic_High_Speed = 1.75
High_Speed_mode="fixed"
....
ComboUSD_Lv=MAX
.........
........
:wq
#Shirogane@S:user/Shirogane/conffing$


「目前敵完全沈黙までの間……システム、限定解除開始」


#Shirogane@S:user/Shirogane/conffing$./accept.sh -system
KeyConfig -user
Shirogane -pass XXXXXXXXXX
system:設定を反映します...
.................
..........
....

....all completed.

「自分もそう簡単には負ける訳には行かないんですよ……不知火、推して参る!」




-横浜基地 地下某所-

(このままじゃ…間に合わない)

 一人の少女が薄暗い部屋で端末の前に座り、画面を睨み付けていた。
 画面には衛士の一般の育成プログラムのスケジュールシュミレータと少女のバイタルデータ、スキルシートが並ぶ。

(新潟侵攻も、甲21号も、桜花作戦にも…)

 彼女には絶望的なまでに時間が無かった。
 確かに彼女は衛士になる事が出来るだろう。
 彼女の体格や年齢を考慮しても、確かに衛士になれる。

 しかし、それはあくまで数年後の話。

(今じゃないと…今じゃないと意味が無いのに!)

 彼女は"今"衛士になりたい、いやならなければならないのだ。
 "彼"がこの世界に居る間にでないと、その後どんなに優れた衛士になれようと、そんな事に何の意味は無いのだ。
 "彼"はいつまでこの世界に居られる?
 新潟侵攻を弾き返して?佐渡島を落として?オリジナルハイヴを落として?
 他のハイヴを落とすまで?
 "彼"は人間なのだ。
 英雄だけど、人間なのだ。
 誰が保障できると言うのだ、"彼"が最後まで生き延びられると。
 幾重もの並行世界の中で、確かに彼は最後まで生き延びた事もあるだろう。
 だけど幾つもの平行世界の中で、彼は戦死してきているのだろう事もまた事実。

 少女は目を閉じて数瞬迷った後、あるファイルを開き、ある決意と共にキーを叩き始めた。

(きっとこの決断を、貴方は快く思わないと思います。私の独りよがりの自己満足とも。それでも、私は―――――)


 少女が見つめるディスプレイには、ある計画の資料が映っていた。

-00ユニット素体案件 第六器官の強化と運用について-




 -帝都郊外 斯衛演習場-

 要は簡単だ、連殺を未だ使っておらず、これから使いたいのなら、ほんの少し連殺を入力できる時間が戦闘中にあればいい。
 ならばコンボの使用頻度を最高設定にして、先行入力を可能な限り入力。
 実行に移された瞬間に連殺入力モードに入り、先行入力行動終了後に出力を1.75倍に固定した連殺を実行する。


「あああぁぁああああああ!」
『甘いわ!』


 言葉で言えば簡単だが、紅蓮機相手に3秒から場合によっては5秒近く先まで読んで先行入力する事は自殺行為に等しい。
 そう簡単にこちらの予想通りに動いてくれるなら、初めから苦労等しないのだ。


「チィッまた!」
『浅はかなり!』


 よって殆どの場合は、トリガーを引いて連殺入力モードに入った次の瞬間には、トリガーから指を離して先行入力をキャンセルする事になってしまう。

 だがそれでも、俺は堕とされなかった。


『まだ耐えるか!』


 そしてその間にも、XM3は覚え続ける。
 実行されたコンボ、最後まで実行したコンボ、途中でキャンセルされたコンボ、先行入力とキャンセル率、それら全てを、XM3は覚え続けた。


『(こやつ…段々と…速く!)』


 レバーなんて常時全速で動かしているので、もう若干反応が馬鹿になってしまっている気すらする。
 それでも相手を睨み付け、一秒でも先まで、一手でも先まで読もうとペダルを踏み、頭をフル回転させる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」


 ―――――そして遂に

『チィッ!』


 ―――――俺の予測入力が


「いっけぇぇぇえええええええ!!!」


 ―――――紅蓮大将の操縦に


『なっ、ぬおぉおおおおおお!!』

 追いついた。



-shirogane-

 ハンガーで機体から降りてここまで、一人も帝国軍人を見かける事が無かったという事は、それなりに自分を評価してくれたという事だろうか?
 そんな事を考えながら目の前の人物、月詠"大尉"の後ろを歩く。
 しかしこの人、出会ってから一度も口を開いていない。何か嫌われる事でもしたのだろうか。
 さっきまでやっていた模擬戦だってなんとか落としどころを持たせて…

「…ここです」

「ありがとう、大尉」

 ここです。と言ったきりドアを開けてくれないのはやはり俺への当て付けだろう。
 どうも冷たくされるとぶっきらぼうに返してしまうな。まぁ階級的には問題無い…のか?同じだよね。
 仕方が無いので俺は、どう見ても謁見の間へ通じるとはとても思えない、ごく普通のドアを開けた。


「白銀武大尉、はいりま―[ドスッ]オウフッ」

 これが紅蓮大将の突きならまだ避けられたと思う。
 しかし許して欲しい。誰が想像できるだろうか。


 目が合った瞬間、征夷大将軍・煌武院悠陽が半泣きでタックルしてくるなど。



-Tukuyomi-

 彼、まだ名も知らぬ大尉の階級賞を付けた男を一目見て、私は驚きを隠すのにかなりの苦労をしなければならなかった。
 若い。年齢で言えば私よりもさらに…悠陽様と同じくらいではないだろうか。
 その男が"あの"紅蓮閣下と同等以上に戦うとは…真那からの横浜基地での新規開発の一報、信憑性が高い等で収まる話では無い。

 それに、この感覚。
 別段殺気を放っている訳でも、怒気を撒き散らしている訳でも、威圧感を出している訳でも、英気を感じる訳でもない、それなのに…
 ただ見られるだけで体の底が震える様な奇妙な感覚。
 それが正の感情なのか負の感情なのかもわからない。
 ただ、何かが震えるのだ。


 …私は一体、何を考えている?

 そうやって思考を追い出している内に、私は用意されたある一室の前へと到着した。
 大尉を促し、私も後に続こうと思った瞬間。


「白銀大尉、はいりま…オウフッ」

 ……斯衛として、この状態は何と判断すれば良いのだろう。
 今しがた白銀と名乗り、先ほど紅蓮閣下と激闘を繰り広げ、機体から下りても尚言葉に出来ぬ雰囲気を持っていた男は、今私の目の前で仰向けに倒れていた。

 その…悠陽様をその腕に抱いて。

 いや、現実を受け止めよう。
 悠陽様が、白銀大尉に飛びついたのだ。
 これが逆ならば即座に賊と判断して切り捨てればいいのだが、飛びついたのが悠陽様となると私も判断が…どうやら室内の香月博士や紅蓮閣下も固まっているようだ。

 廊下ごと室内の空気が凍る。
 常日頃から殿下を御守りする為、ありとあらゆる事に備えよと鍛えてきた我等斯衛だが、この状況ばかりは想定外だった。


「しまった!殿下!」

 一瞬の後、突如沈黙を破り叫んだ白銀大尉が、いや、もう賊でいい。賊と決めた。今。
 賊が突如、こともあろうか悠陽様を抱きしめ体を反転させ、悠陽様に覆い被さったのだ。

「何をしているかこのッ不敬者!!」

 これ幸いにととりあえず私は右のつま先で賊の腹を蹴り上げ、懐の銃を抜き放ち、自分でも驚く程の速度でうずくまる賊の後頭部に突きつける。
 しかし、素性を吐かすかこの場で殺すか迷っていた所で悠陽様の制止の声が掛かった。

「お止めなさい!月詠」

「はっ」

「ゲホッ…いや、扉開けた瞬間飛びついてきたんで…てっきりスパイか何かに襲われているのかと…」

「それは…確かに、失礼した。白銀大尉」


 言われてみれば確かにドアを開けた瞬間に飛び掛られた白銀大尉からは室内の様子は見えなかっただろうし、むしろ征夷大将軍に飛び掛られてから精神を再構築して誰よりも早く悠陽様を守ろうとしたのだ。
 どちらかというと蹴りよりも賞賛の言葉を送るべきだった。

 …が

「一体どうなさったのです?悠陽様」

「グスッ…いえ…月詠…これはその…"やっと逢えた"ので嬉しくなってしまって…」

 悠陽様とこの何処の馬の骨とも解らぬ大尉…いや横浜の馬の骨の大尉とはなんら接点は無い筈だが…
 何かこう、私の理解を超える出来事でもあったのだろうか。
 白銀大尉も怪訝な顔…というよりかなり難しい顔をしている。


「殿下を拝謁する栄誉を授かるのは今日が初めての筈ですが…まさか"前世"の記憶でも?」

「まぁ!やはり私(わたくし)を覚えていて下さったのですね、武様!」

 そう嬉しそうに、自分でも初めて見ると言っていいほど嬉しそうに白銀大尉の声に反応すると、悠陽様は再び倒れている白銀大尉に飛びついてしまった。

「ひとまず…部屋に入りましょう。白銀大尉も紅蓮閣下との模擬戦でお疲れかと存じます」

 万が一にも現在の悠陽様のお姿を余人に見せる事ができないのが本音ではあるが、話をするにも倒れた大尉を抱えながらではままならない。
 私がそう言うと悠陽様はハッと大尉から離れ…

(ようやくご理解頂けたか…って)

「私としたことがはしたない姿を…申し訳ありません、武様」

 そう言って大尉の手を引いてあっけに取られる私を横切りさっさと部屋に入りドアを閉めてしまった。

(これは…ていよく締め出されたのか?)

 そうであって欲しい。
 いきなり現れた名も知れぬ大尉に飛びつき、目の前に居る私を完全に思考の外側に追い出していたとは…流石に認めたくなかった。

 ガチャッ…

(悠陽様っ)

 二人が消えたドアが開く音に私の心は平穏を取り戻した。
 そうなのだ、いくらなんでもあの悠陽様が私の事を忘れる訳が………

「まぁ、その…なんだ…入れ」

「………はい」

 忘れてしまったようだ。
 開いたドアのノブを握っていたのは、これまたなんとも表現しづらい顔をした、紅蓮閣下だった。





-shirogane-


「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」


 居づらい。
 誰か俺を助けてくれ。
 助けてくれないのなら説明してくれ。
 そもそもなんでテーブルを挟んで2つソファーがあるのに


  ――
香月||
紅蓮||俺
月詠||悠陽
  ――

 この並び順は何だ。

 違うだろ。

  ――
 俺||紅蓮
香月||悠陽
  ||月詠
  ――

 普通こうだろ。
 なんで俺の隣に煌武院悠陽が居て、しかも俺と腕を組んで座ってるんだ。
 対岸からの視線が痛すぎる。
 月詠大尉はもう"視線で人が殺せます"って目で俺を睨んでるし、紅蓮大将はなんかニヤニヤしてるし、香月博士は…まぁいつものことか、なんか楽しそうにしている。

 しかもこの悠陽…どうも"ループした記憶"を持ってるらしい。
 ひとつなのか複数なのか…それは解らないが…因果導体でもない悠陽が何故…

「日本帝国征夷大将軍に一目惚れされるなんて、アンタもやるじゃない。白銀」

 はいそこ、火に油を注がない。
 月詠大尉からの視線が1.5倍くらい殺気立ってるじゃないか。

「いや……その……」

 しゃべれん。
 何かしゃべった瞬間俺の首は胴体と泣き別れする。そんな確信がある。

「私は佐渡島の消滅を見たことがあります。"解りますね?"」

「成る程、納得がいきました。殿下」

 どうやら一発で理解したらしい。
 こういう時天才は助かる。
 しかし佐渡島はそう毎度毎度消滅してる訳じゃない。
 ―――というかミスってアレを自爆させるような事態にそう毎度毎度なってたまるか。
 となると…すくなくとも2週目の"オルタネイティヴ"の記憶は最低でも持ってる事になる。
 "その先"がどこまで、つまり白銀オリジナルの世界離脱後の記憶まで持っているかは不明だが、そこまでは持っているはずだ。
 という事はむしろ、俺にとっては話が進め易いというか…好都合?
 となるとまずは…

「佐渡島消滅とは穏やかではありませぬが…どういうお話ですかな?殿下」
「…………」

 この二人を、共犯にしてしまおう。


「佐渡島についてはこの後キチンとお話ししますので、先ずは筋を通したいと思います」


 数秒考えて、考える事を放棄してまず本来最初にしなければいけないことから手を付ける事にした。
 というのも、この二人にループやら00ユニットやらの話を選り分けて話すには、長い時間が必要になる。
 そんな会話の内容をある程度頭の中で組み立てていたら、それこそ5分や10分は沈黙せねばならなくなってしまう。
 今の内からあまり不信感を上げるのも何なので、頭を使わない内容から話してその間に話を脳内で纏める事にした。
 幸い今回は香月博士も同席している訳であるし、何かあった時のサポートは望めるだろう。
 俺はなるべく頭の高さを変えないよう注意しながらソファーから降り、方膝を着いた。

「?」

(征夷大将軍をこの距離で"見下ろす"訳にはいかないからな)


「殿下、この度は拝謁の栄誉を授かり、誠に恐悦至極に存じ奉りあげます」

「武様、どうか悠陽とお呼び下さい。言葉も常の物を願います。私と武様の仲ではありませんか」


 だから"武様"はちょっと困るんだが…解って言ってるのだろうか。
 いやーこの人これで結構怖いところあるから解って言ってるんだろうなぁ。


「…………」


 いやーホント痛いなぁ。

 月詠大尉の視線が。


「殿下、どうか御戯れはお控え下さい。それに自分を様付けなど、自分は一介の国連兵に過ぎません。殿下にもお立場が」

「では二人きりなら構いませんね?香月博士、紅蓮、月詠、すみませんが少々席を…」


 構うわ、ヴォケ。

 オーライ、俺の負けだ。悠陽殿下。


「わかった。俺が悪かったよ、悠陽。"久しぶり"。でも様はやめてもらえないかな。正直くすぐったい」

「では白銀と。いえ、私こそ我儘を通してしまい申し訳なく思います。こうしてまた白銀と巡り逢えるとは思いませんでした。けれど所詮私は名ばかりの身、救国の英雄である白銀に様を付けた所で、誰が咎められましょうか」


 あぁ、そういやこの人腹黒というか隠れSだったっけ。
 絶対に楽しんでる。だって目がそういう目だもん。

 視線を右に移せば、完全に固まっている紅蓮大将と月詠大尉。
 固まっている間にこちらも片付けてしまおう。


「紅蓮大将閣下、名も名乗らぬ自分と手合わせ頂き、誠に感謝しています。結果は僅差でしたが、多くの物を得る事ができたと思っています」

「う、うむ。そなたも見事であった。敗北した儂が言うのも何だが先の試合での勝敗等、この場ではさして意味を持たぬであろう。儂も得る物があった」


 ちなみに、先ほどの試合、結果は俺の勝ちだった。
 最後の突きの一撃と同時に推進剤が底を尽き、一瞬俺の機体のバランスが崩れたのだ。
 そこから機体を何とか立て直して斬りかかったが、それがいいフェイントになり、紅蓮機を討ち取る事ができた。
 しかしもう、本当にギリギリだったが。アレを避けられていたら確実に負けてた。
 ほとんど激突寸前の僅差だったため、下手にどっちかが完敗するよりもギャラリーの受けは良かっただろう。


「月詠大尉」

「…あ、はっ」


 月詠大尉は俺の声掛けにはっとして姿勢を正した。
 といっても元々ちゃんと背筋は伸びていたが。そこから更に伸ばすとは…できるな。
 どうも俺が声を掛けるとは思っていなかったようだ。


「大尉とは初対面になりますが、横浜では"月詠中尉"に開発でお手伝い頂いております。この場を借りて感謝を」

「…そうですか。先の試合の結果がかの者の協力して得た成果なのだとしたら、私も嬉しく思います。大尉」


 月詠中尉の話が出るとは想定外だったらしく、素直に喜んでくれたようだ。
 ひとまず挨拶も終わった事だしとソファーに戻り、とりあえずはXM3の話から始める事にした。


「まずお二人の疑問にお答えしたいと思います。先ほどの模擬戦での自分の機体ですが…」

「待ってもらおうか、大尉」

「?」

「我々の疑問に答えるというならば、まず"そこ"から説明してもらって構わんかね?」

「ん……うおっ」


 俺の話を遮った紅蓮大将の目線を追うと…俺の左腕、というか俺の左腕にいつの間にか組まれた悠陽の腕に行き着いた。
 いつ組んだんだ…気付かなかったぞ。


「あぁいや、えーと…悠陽とは随分と昔に会った事があるんですよ」

「随分と昔とは…ワシも殿下とは長いと自負しているが、お主を見るのは初めてになるな」


 ですよねー☆


「紅蓮が預かり知らぬ程昔です。ですよね?白銀」


 横から援護射撃をしつつ、右手だけでなく左手も使って俺の左腕に寄り添い、俺に体を預けてくる悠陽。
 助けてくれるのか貶めるのはハッキリしてくれ、その方が対応しやすいから。
 くそっ、これが泥沼か。確かに容易には抜け出せそうにない。
 というかおっぱいを当てるな。お前意外と胸デカイんだから。
 オナ禁中の俺の身にもなってくれ。


「まぁ、今の所はそういう事にしておいて下さい。ではまず自分の搭乗していた機体ですが、通常の不知火とは隔絶たる性能を発揮したと感じられたと思います。あれは機体側ではなくOS側に……」


「新概念のOSとな」

「えぇ、性能の程は先ほどの試合でご覧になられた通りです。何処の馬の骨かもわからぬ大尉が斯衛の大将に勝てる程度の性能は保証します。そんなワケですので新OSを搭載した閣下には勝てる気がしないので二度と閣下とは模擬戦しません」


 悠陽を横にした俺は、ちょっと強気だった。


「ふっクハハハハハッ!成る程成る程、殿下に見初められるだけはある。見た目より余程面白い男だな。月詠よ」

「…ですが」

「解らんか?今白銀大尉は暗に言ったのだぞ?"斯衛にこの新OSを渡す用意がある"と」

「!」

「上辺だけを見てはならん、か。香月博士が黙っている意味も考えてみよ」

「………」


 流石悠陽パワーである。
 隣りに居るだけでこうまで好意的に解釈してくれるとは。
 元々"やたらと遠まわし"か"直球"のしゃべり方が好きな俺としては非常にしゃべりやすい。


「で、何だ。態々そんな事を伝えるためならここまで派手な真似はせんだろう。何が欲しい?」

「…そうですね、横浜には武御雷のデータが無いので新OSの搭載が現行のソフトウェアではできません。よって仕様書一覧と月詠中尉以下横浜基地に出向している4名の武御雷の改造許可、それとシミュレータ用のデータも下さい」


 横浜基地での開発もだが、シミュレータ用のデータも当然居る。
 というのも、武御雷は国産の斯衛にしか配置されていない機体なので、少々機密性が高いのだ。
 シミュレータも横浜基地内のものには武御雷が入っていないし、月詠中尉らが使っているのは帝国から持ち込んだ物だ。
 このままでは新OS搭載後の訓練に影響が出てしまう。月詠中尉もいつまでも不知火には乗って居たくないだろう。


「それは必要経費であって要求では無いな」

「そうなりますが…えぇもちろん別の要求もします。ですが自分の目的の一つに新OSの帝国への早期普及があるんです。となると何せ操作が特殊なので、OSの力を完全に引き出すにはある程度の訓練期間が必要になります」

「ふむ?」

「となると教導が出来る存在が必要になるのですが、自分はしょせん一人ですし国連軍人ですので、月詠中尉らを中心に横浜にXM3教導隊を作って帝国に逆出向してもらおうと考えています。そのためには先ず横浜基地内で一刻も早い武御雷へのOS換装が必要になります」

「一刻も早い…か。しかしそれは先ほどの答えになっていないようだが?」

「そうですね…」


 一度思案するフリをして香月博士に目線を送る。
 頷き。
 好きにしなさい、か。


「この小さな島国が、国土の半分を異星体に蹂躙され、さらにハイヴまで打ち込まれて尚国としての体裁を保っているのは、もはや奇跡の領域だと自分は認識しています」

「この国に先は無いと?お主はそう考えているのか?」


 紅蓮大将が目をギラリと光らせる。
 この国はこのまま行けば確実に滅びる。
 それを本気で受け止めている兵は意外と少ない。
 政治屋の連中は色々考えているようだが、兵士は絶望に向かっては突撃できないのだ。
 努力を積み重ね、正解を繰り返せば、最終的に勝利にたどり着ける。
 そう考える病気のようなものが、この国の戦う者の心に住み着いている。
 最もそうでなければここまで帝国が生き長らえる事はできなかっただろうが。

 自分のしている事には意味がある、自分の死がきっとこの国の礎になる。
 そう思えるから誰も彼もが戦う事が出来る。
 完全に何をやっても無駄。では命は掛けられないだろう。人間はそこまで強くない。


「えぇ、目を逸らしたい事実ではありますが、現実は最も見たくない所にこそ存在します。お話しましょう。


 年内に佐渡島を奪還する事が、横浜基地の"意思"です」



「つまり…それ以上は」

「この国が持たない。それが横浜基地の試算です」


 嘘だ。
 もうちょっと持つだろう。
 だがオルタネイティヴの期限がと言っても、証拠があるわけでもなし。
 この線でゴリ押しせざるを得ない。

「うぅむ…しかし」

「それに横浜基地に本当に求められている成果物も、完成の目処がつきました。新OSはそのオマケに過ぎません」

「完成するのか?アレが!」

「しますわ」


 此処に来て、ようやく香月博士が口を開いた。

「懸念していた理論面も既に完成し、後は素体への最終調整と転送、そして調律のみになっています。そしてそちらのサポートも、白銀に任せます」

 少し、嬉しそうなのは気のせいじゃないだろう。
 ようやく、ようやく彼女は胸を張って言えるのだ。
 00ユニットが完成する。と。
 どれほど歯を食いしばり、どれほどその身と心を削ってあの難題に挑んできたかは俺が一番知っている。
 誰にも頼らず、唯一人ペンを武器に戦い続けた彼女は、ようやく今勝利の切符を掴みかけているのだ。
 それに最早彼女は一人ではない、いつ、何処にあろうとも共に戦う仲間も居る。

「それも…白銀大尉に?」

「えぇ、彼にしかできません」

 俺もさらに畳み掛ける。

「今誰かがやらねば、この美しい国は文字通り消えて更地となってしまいます。明日の為に立ち上がるなら…今がその時です」

「…殿下は、どう判断なさるのですか?」

「勿論私は、白銀の行動を全面的に肯定します。それに紅蓮、佐渡島攻略と言っても、明日直ぐにという事ではありません。その時までにやらねばならぬ事は、決して少なくは無いのです。そしてその中で白銀がこの国の命運をその双肩に乗せる器であるかどうかを見極める事こそ、今我々が成さねばならぬ事なのです」


 正直鑑と横浜基地と帝国の総力戦を勝手に俺の双肩に乗せないで欲しいのだが。


「殿下…殿下は何故…そこまで白銀大尉を…」

「決まっています」

 紅蓮大将の疑問に答えるように、悠陽は立ち上がって言い放った。

「白銀こそ。いえ武こそ、私の絶対運命なのですから」





 ………アレ?

 この時俺は、もうちょっと別の手順を踏めばよかったかなと、正直後悔し始めていた。



-----------
うーん…まだ症状が軽いせいかはっきりとは断言できないんですが…
この背骨と背骨の隙間がちょっと気になりますね…
来週MRIしましょうか。

だそうです。



[4170] OversSystem 15<彼と彼女の事情>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2009/02/08 01:50
「白銀こそ。いえ武こそ、私の絶対運命なのですから」

 ………帰っていい?


 さしもの俺もちょっと帰りたくなったが。そうは問屋が卸してくれそうに無かった。

 それにしても気のせいか、周囲のミノフスキー粒子の濃度が高いような…
 総員デフコン1!総員デフコン1!戦闘はまだ継続している!

(左?いや、正面か!)

 スッ


「……コホン、私とした事が、熱くなり過ぎました。あら?」


 そう言ってストンと元のポジション―――では無く俺の膝の上に座ろうとした悠陽を右に逃げる事でなんとか回避する事が出来た。
 俺の右に空きがなかったらヤバかったぜ。(前話の席順参照)
 "ソファーの真ん中に悠陽が移動した"、という事実だけでこの場を何とか収めたい俺は、心の中で土下座しながら懇願しつつ悠陽に目をやった。
 しかし、悠陽は俺の方をチラリとも見ない。
 あせって口を開こうとして、しかし俺は思わず閉じてしまった。


「この日本に住む全ての人の悲願、佐渡島の奪還を成す前には、私には成さねばならぬ事があります」


 その悠陽の凛とした表情に。
 有無を謂わせぬ絶対感。
 征夷大将軍・煌武院悠陽がそこに居た。


「殿下、何を…」

「月詠、鎧衣を呼びなさい」

「は…はっ」


 俺だから今までと雰囲気違いすぎるだろうと心の中で突っ込めるが、他はそうもいかないだろう。
 他人に頼むように。ではなく、"命令"する。
 決して曲がらぬ絶対の意思が其処にはあった。
 元々芯の硬い女性ではあるが、ここまで威圧感を放った事は無いだろう。
 今なら内閣府の誰もが平伏す気がする。

「紅蓮」

「はっ」

 月詠大尉が部屋を出た所で、悠陽が再び口を開く。


「私は、解っていませんでした」

「殿下…?」

「私は常日頃から、征夷大将軍の名に恥じぬよう、そして妹に恥じぬよう…生きてきました」


 そう言って、悠陽は再度立ち上がった。
 そしてまるで宣言をするように、自分に言い聞かせるように言葉を紡いでゆく。


「誰もが望む征夷大将軍に、そう心に言い聞かせて生きてきたつもりでした」

「この紅蓮、帝国に生きる者ならば誰もがそれを理解してると確信しております」


 紅蓮大将の言葉に悠陽は首を振る。


「誰に理解されているかが問題では無いのです。紅蓮。
 重要な事は、本当に重要な事は…
 征夷大将軍に私が相応しいか等と悩む事では無く、私が征夷大将軍として何を成せるかを考える事なのですから。
 私はその考えから浅ましくも逃げていました。
 逃げ出して、投げ出して、他者の顔色を伺うだけの、ただ目の前の仕事を片付けるだけの機能という存在になっていました。
 悲劇が起きればただ悲観し、嘆き、気休めの言葉を紡ぎ出す事しかしてきませんでした。
 私は…征夷大将軍でありながら…生きることを手放していました…」

「殿下…」


 誰がそこまで望んだだろう。
 たかだか20にも満たぬ少女に。
 だが征夷大将軍という肩書きは、否応無くその責務を求める。
 少女に征夷大将軍を求めながら、征夷大将軍として足りぬ事を周囲が自覚しているという矛盾。
 その矛盾は、中身を伴わない肩書きだけという形で存在していた。

「私は…もうやめる事に致しました。
 己の力量不足に隠れる事も…
 嘘の自分に逃げ込む事も…
 戦う前から諦める事も…

 私は、今日今この瞬間から…征夷大将軍としての戦いを、始めます。

 鎧衣」

「はっ、殿下。しかし戦いとは、穏やかではありませんな」


 悠陽の言葉で気づいたが、部屋の入り口には月詠大尉が鎧衣課長を連れて戻っていた。


「先の報告にあった戦略勉強会の件、尻尾を掴みました。沙霧尚哉大尉を抑えなさい。シミュレータルームに隔離、白銀を当てます」

「はっ…ですが殿下、確かに戦略勉強会のメンバーに沙霧大尉は居ますが…何故彼なのです?」

「彼が戦略勉強会の首魁だからです。最も、彼一人では到底不可能な事。その点に付いても白銀に任せます。急ぎなさい」


 戦略勉強会それ自体はもう少し以前より存在していた。
 昨日今日結成した組織に首都を乗っ取られかける程この国はまだ甘くない。
 だがその戦略勉強会を内偵し、最も戦略勉強会に精通している筈の鎧衣でさえ、まだ組織の全貌は見えていないのだ。
 報告していない事を悠陽が知っている点も合点がいかないし、なにより横浜の魔女の前でおいそれと話していい内容ではない。
 そう鎧衣は目で訴えたが、悠陽は迷うことなくそれを一蹴した。
 そしてまた白銀、つまり俺の名が出てくる。
 まぁ俺が正体不明なのは今に始まった事ではないので、内心どうあれ彼は主の命に従う事にしたようだ。


「私だ…あぁ、沙霧大尉を第三シミュレータルームにお連れしろ。理由は何でもいい、これは勅命だ」


 耳に手を当て部下に通信を飛ばす。
 そりゃ課長なんだから、部下の5人や10人は居るだろうけど、この人の部下ってことはさぞ苦労してるんだろうな。

「これで良いですね?白銀」

「あぁ、あと贅沢を言えるならば巌谷中佐にも後で会談したいな。月詠中尉が新OSの噂を事前にそれとなく流してるから…多分演習をどっかで見てる筈だ」

「手配しましょう。沙霧の件では紅蓮と月詠、鎧衣を同席させます。いいですね?」

「勿論」


 そう答えて俺は部屋を出る。
 これから回りだす、運命の歯車に向かって。





-シミュレータルーム-

 悠陽を通じて沙霧には先に筐体に入って貰っている。
 他はの人員は全部締め出した(というより伊隅らが外で実機模擬戦をしているため最初から誰も居なかった)ので、部屋には香月博士、悠陽、紅蓮大将、月詠大尉、鎧衣課長の5人のみが待機している。


「月詠大尉、設定だけお願いしていいですか?管制とかは要らないので」


 あらゆる意味に於いて沙霧とはサシでやらねばならない。
 途中で俺が合図するまで口を挟まない事はあらかじめ全員に伝えてある。


「解った大尉。しかし本当にいいのか?先に言っていた設定で」

「えぇ」


 相変わらず演出重視の俺はまたしてもムチャクチャな設定を月詠大尉に依頼して筐体に乗り込む。
 電源は入っているが演習はスタートしていないので画面は暗いままだ。

ブゥゥゥゥウウウン

 モニターに光が点り、各パネルが意味を取り戻す。
 シミュレータが起動した証だ。

 そして網膜に投影される景色は、燃える様な夕焼けと――――

 草一本生えていない、荒野。


 その中心に沙霧機はただ一人、ポツンと配置されている。
 俺の機体はまだシミュレータ空間内に出現していないため、斜め上、バードビューから空間を見下ろす映像が投影されている。

(…そろそろか?っていうかできんのかな、あんな設定)

 月詠大尉は引き受けてくれたし、多分できるんだろうけど。
 一瞬不安になったあと勝手に納得した瞬間、上空に多数、いや数える事も出来ないほどの無数の長刀が現れ、地面に真っ逆さまに降り注ぐ。


ドドドドドドドカドドドドドカッ!


「…パーフェクトだ、ウォルター」

 思ってたよりも遥かにいい"舞台"の出来栄えに思わずどっかのノスフェラトゥの台詞を呟き、俺は空間内にマイクを繋いで朗々と語りだした。
 もちろん月詠大尉に頭を下げてエコーも効かせてもらっている。

「これは…一体…」

『体は 剣で 出来ている――』

「誰だっ!」

『血潮は鉄で 心は硝子――』

「誰かと聞いているっ」

 そう吼え、沙霧は近くの長刀を一本引き抜く。
 沙霧機は、というか俺のもだけど、完全に何も装備していない設定になっている。

『幾たびの戦場を越えて不敗―――』

「………」

『ただの一度も敗走はなく ただの一度も理解されない――――』


 演習見学中の突然の呼び出し、誰も居ないシミュレータデッキ、不可解な景色、そして声。
 沙霧の中では様々な憶測が飛び交っているだろう。
 でもまぁ、この演出で自分のクーデターがバレてるとは、まず思わないだろう。

『彼の者は常に独り 時の回廊で剣を研ぐ―――――』

ガクンッ――

 一瞬の浮遊感、俺の機体がシミュレータ内空中に出現したのだ。

ズン―――

『故に、その生涯に意味はなく―――』

 一瞬閉じた瞼を開く。
 この目の前に居る男も、できれば死なせたくない。
 可能ならば、誰一人死なせたくない。
 戦争さえなければコイツもきっと、どっかで医者だかなんだかを平和にやってた筈なんだから。

『その体は きっと剣で出来ていた――――』

「国連カラー……まさか、先の紅蓮閣下を撃墜した……」

『如何にも』

ジャキッ―――

 俺も沙霧と同様に右腕で剣を一本引き抜き相手に向け、一度回線を切り変えて管制に音声を直結する。

『悠陽、これから奴を説得する訳だが』

「はい、私の役割も解っているつもりです」

『それはそうだが…別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?』

「え?…えぇ、存分に。私達も、此処でそなたを見ています」

 そこまで聞くと俺はまた回線を空間内に戻し、先ほどの続きを始める。

『ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣、剣戟の極地――――

 恐れずして掛かって来い!沙霧尚哉ァ!』

「私を知っているのか?!貴様一体――――?」

『言葉は無粋……剣で聞け!』

 散々言葉による演出を好む俺が言う台詞でも無いのだが、アクセルをベタ踏みにして沙霧機に突撃を掛ける。
 お互い刺さっている長刀しか武装が無いため、遠距離武器の牽制は一切無視していい。

ガァンッ!

『ほぅ』
「ぬぅう…」

 叩き付け合う長刀と長刀。
 戦術機の重量をそのまま乗せ、さらにスラスターの圧力までその身に受けた刀身はいとも簡単に刃毀れし、変形――もとい曲がっていく。

ザクッ――

「!」

『はっ―――!』

 俺は左手で足元から長刀を一本掴み、下から撫で上げる様に一閃。
 沙霧は噴射剤を逆向き噴射で後退。
 しかし直前までの押し合いから速度が乗らず、一撃。

「浅いかっ」

 しかしこちらも押し合い中に体重移動をして腕の力だけで振った為、剣先が装甲をほんの僅か削った程度しかダメージを与えられない。
 それでも俺はそのまま左手が右肩付近に到達するまで剣を斜めに振り上げ―――手首だけを返して今度は逆に降り、長刀を投げつけた。
 俺を相手に真っ直ぐ後退するだけなんて、迂闊過ぎる。
 右の長刀を投げなかったのは変形した長刀が真っ直ぐに飛ぶ保障が無かったからだ。
 噴射剤を吹かし、自分が投げた長刀を追う様に沙霧機にぐんぐん接近する。

「チィ!」

 ガンッと持っている長刀で飛来した長刀を叩き落した所までは良いが、その空中で死に体となった姿勢で俺をどうする?
 同じ様に推進剤を吹かしても、後退と前進では前進の方が早い、俺は管制ユニットに狙いを定め平突きを打ち込むべく長刀を構える。

「このっ!」

『うおっ?!』

 このままではやられると判断したか、沙霧は地面に無理矢理足を着け急制動を計る。
 地面に突き刺さった長刀が時折足に当たるせいで不規則に減速し無理矢理長刀をこちらに向けた。
 確かに"振らなければ"それほど剣と言うものは威力を発揮しないものだが、随分とまた思い切った事をする。
 俺は突撃体勢から噴射剤を下方向に全開で吹かし、宙返りの要領で沙霧の上をフライパス、十分な距離を取って着地した。
 どうやら沙霧の足も、やはりダメージは殆ど無いらしい。
 流石月詠中尉の武御雷に従来機で押しただけはある…咄嗟の判断力が高いのか?

『初めまして』

「何?」

『国連軍横浜基地所属、白銀武大尉だ。帝都に乗り込んで紅蓮大将を堕とし、今お前の目の前に対峙してる男の名前だよ。沙霧大尉』

「白銀…大尉か。先程の演習にて閣下を墜とした腕前、そして今しがたの空中機動は見事。だが何故……私なのだ?」

『それは今少し…剣を重ねてから話そうか!』

 お互い会話中に示し合わせたように折れた長刀を捨て、それぞれ新しい長刀を手に取る。
 俺は長刀を1振り、沙霧は二刀。
 正直二刀はシミュレータでやってみたけど正面からのドンパチにあんまり向いていないと思うんだが…単に慣れなのか?
 戦術機自体に利き腕とか無いし、帝国軍なら長刀の使いにも慣れてるんだろうな。

「今度はこちらから…ッく!」

 沙霧が長刀を構え、機体を跳躍させようと一瞬腰を落としたタイミングに合わせ俺は自身の長刀をまたしても投げつけ、その後を無手で追う。
 そして手元では可能な限り先行入力を行い、Gに備える。

「丸腰で正面からとは!」

 中途半端に避ければ如何に無手とはいえ俺に隙を突かれる可能性がある。
 まず投げつけた長刀を弾くために一振り、その時点で俺はもう目の前に迫っているが、沙霧の腕にはまだ降っていない長刀が一本残っている。
 といっても俺も斬られる気はサラサラ無いので、長刀の斬撃範囲ギリギリで上に跳躍、今度は空中で錐揉み噴射剤を全力噴射、沙霧の真後ろに倒れこむ様に着地する。
 沙霧から見れば一瞬で消えたように見えただろう。

「このっ」

 沙霧も流石と言うべきか、噴射剤を時計回りに噴射し、横凪ぎで真後ろを掃う。
 だが殆ど地面に伏せている俺には当たらず頭上を空振り。さらに沙霧は体勢を崩す。

『ほらよ!』
「何と!」

 そして俺は手元に転がる"先程沙霧が蹴散らした"長刀を無造作に掴み、おりゃっと沙霧に投げつける。
 刃の半ばを握り適当に投げたため当たった所でダメージは無い。
 それでも沙霧はつい横方向に避ける事を選択してしまった。
 投げた長刀は中に舞うが、沙霧は完全に死に体。
 俺の方はと言えば投げながら機体を起こし、空いている手で別の長刀を引き抜いている。

 俺への牽制で片方の長刀をこちらに向けているが、それが精一杯。
 不安定な体勢で空中に居る沙霧機を追撃して地面に蹴り落とし、脚部に長刀を突き刺し離れる。


「(何故あんな錐揉み中に正確に噴射剤を操作できる?!)…貴様、化け物か?」

『よく言われるよ』


 脚部に刺さった長刀を引き抜き、沙霧はまた立ち上がる。
 俺も呼応するように新たに剣を抜いた。


 戦いはまだ――――――続く。




 次の一合こそ遅れを取るまいと両の手を構える沙霧を、俺は機体の手で制す。

「…何のつもりだ?」

『あと3秒もすれば解る』

 3…2…1、丁度俺が発言してから3秒後、沙霧の脚部に在った亀裂がフッと消え去る。
 横浜基地でも行ったダメージリセットだ。今回は10秒に設定してある。

「?!」


『この空間では全てのダメージは10秒でリセットされる。主機か管制ユニットを一撃で破壊されない限り撃墜にはならない』


 俺は長刀を構え直し、戦闘再開の意思を表明。


「そうか…ならば!」


 得心がいったのか、沙霧は両手に握った長刀の片方を捨て、一直線に踏み込んでくる。
 やっぱ正面からガチるなら一本の方が集中できるのか?まぁ剣道とかも基本一本だしな。

 その沙霧の一撃を長刀でいなし、蹴りを入れるも沙霧はそれを回避。
 攻めては守り、守っては攻める。
 俺は3次元機動を控え、前後と横移動のみの平面機動で沙霧に答える。


「(この男…やはり強い…)尋ねてもよろしいか?白銀大尉」

『……』


 おれは「どうぞ」の答えの代わりに長刀を大きく横凪ぎして沙霧と距離を取り、剣を降ろして促す。


「何故貴官程の男が…国連軍に?貴官も帝国人だろうに」

『…………俺は義に寄って戦っている。その為だ』

「義…か?国連に義を求めるのか?G弾で蹂躙された象徴の地に平然と居座る連中に…」

『国連に義を感じている訳じゃないさ。俺は俺自身の義を通す場所として横浜基地が最適だからそこで剣を取っただけ。依存している訳じゃあない』

「私を愚弄するか!」

 じりっ…と沙霧が距離を詰める。

「私にも義がある、決して曲げられぬ義が!」

『正義か?忠義か?それとも大義か?確かにそんなご大層な物を宣言できたなら、俺も帝国軍に入っただろうな』

「では貴官は何に寄って戦っていると言うのだ!」


 ドウッと双方から噴射剤の音。
 互いにフットペダルはベタ踏み。一直線に線引きされたその軌道をなぞる二機の相対速度は今までの中で最高速を記録する。
 俺は長刀を投げ捨て、限界まで踏み込んだペダルにさらに力を込める。


『それは俺に取って、正義よりも忠義よりも、大義よりも重い――――』


 沙霧の懇親の一撃を前に出した左腕で受ける。
 この速度だと一瞬で切り落とされて終わるが、一瞬もあれば俺には十分過ぎる。
 腕ごと長刀の軌道さえずらしてしまえば、後は互いにトップスピードでの超接近戦。
 そして俺には、渾身の一撃を放つために折り畳んで溜めていた右がある。

「なっ!」

 ドッゴオォォォォオン

 戦術機の全速での正面衝突に筐体は未だ嘗て無い程の振動で揺れる。
 それはまるで、俺達の戦いを筐体が恐れて震えているようだ。

-管制ユニット大破 撃墜判定-

 撃墜判定が下りたのは1機。
 俺の拳は、沙霧の管制ユニットにめり込んでいた。
 あの速度でぶつかったため、互いに機体はそこかしこ大破判定の異常だらけだが、俺の主機と管制ユニットだけはかろうじて中破に留まっている。

『俺は……恩義、借りを返す為に戦っている。俺を生かすために死んだ仲間、俺に想いを託して死んでいった仲間の為…ただその為だけに俺は存在する』

「恩だと…その様な個人的な…!」

 互いの機体のダメージがリセットされる寸前、また俺は距離を取る。
 次の瞬間には沙霧も立ち上がり、新しく剣を引き抜く。


『本当に護るべき大切な物が何なのか、お前は解っていない』


 両機は再び激突。
 俺の機体の方は素手だが、沙霧の攻撃のタイミングに合わせて跳躍、いわゆる「カンフーキック」の体勢で突っ込む。
 体を反らしている為、沙霧の長刀では俺の中枢ユニットの攻撃する事は出来ない。
 本来ならかわして後の先を取るべき沙霧だが、頭に血が上った為か俺の蹴り足を斬りつける。
 斬られた足はつま先から膝上までバッサリと斬られてしまうが、俺にはもう一本、足がある。
 畳んでいた足を全速で伸ばし、空中二段蹴りを行って沙霧の胴体に全慣性を乗せ蹴り飛ばす。
 やっている事は蹴りとパンチが変わっただけで先程と同じ。
 それにすら対応出来ないほど、沙霧は頭に血が上っている。
 この荒唐無稽な発言を繰り返す俺に対して。


「ぐぅあッ……くっ…それ程の力がありながら…貴様に…帝国人としての矜持さえあれば!」

『この国を滅ぼす男に言われる謂れは無い!』

 尻を着いて着地した沙霧に肉薄し、頭部ユニットを破損した足で蹴り吹き飛ばす。

「国を…滅ぼす…だと?貴様何を…」

『今から数週間後の話だ』

「だから何を言っていると聞いている!」

『聞きたいか?』

 俺はその場で長刀を二本手に取り、沙霧の双肩に突き刺し、大地に縫い付ける。
 常時異物が刺さっている状態では修復直後に破損判定が出るため、抜かない限り修復できないのだ。
 下から噴射剤を吹かそうがこちらもバーニアを上向き噴射して押さえつける。
 俺に戦術機2つ分の重力加速度がある分当然沙霧は抜け出す事ができない。


『今から数週間後、この国でクーデターが起きる』

「(まさか我々の情報が?この男?!)!」

『だが"何故かたまたま"米国の艦隊が東京湾近海にて演習を行っていてな、安保理を通しての圧力に首脳陣を軒並みクーデター軍に処刑された臨時政府は碌な抵抗もせず介入を受諾。これまた"何故かたまたま"乗せてきた新型の対戦術機用戦術機ラプターでクーデター軍は制圧され、米国は極東を始めとした亜細亜での発言力を取り戻すことになる』

「(米国にも…洩れている?)貴様…何を…」

『おまけに人類が確保している唯一のBETA反応炉、つまり横浜基地も米国に抑えられ、横浜基地が保有するG元素もすべて回収。そして米国主導によるG弾の大量投入による人類反抗作戦が始まる』

「G…弾…」

『そしてオリジナルハイヴ攻略前の"演習"で佐渡島は文字通り地図上から消えてただの海になる…20発のG弾でな』

「そのような事、帝国が許すものか!」

 恐らくコックピットでレバーをガチャガチャと動かしているのだろう。
 機体は抵抗をしようとするが、肩を長刀が貫いているため両腕は完全に機能を停止し、足をバタつかせる程度しかできていない。
 俺は噴射剤の燃焼速度を上げメリメリと沙霧の機体を大地に押し付ける。

『許すも何も、クーデターを米国が解決した事により唯でさえお飾りである征夷大将軍の国民からの求心力は暴落。クーデター軍は降参した部隊も含め全て米国のラプターにより全て処理。後に残るのは米国寄りの政府だけだ。…で、誰が誰を許さないんだって?』

「(それでは私は…何の為に…)馬鹿な…そんな…事が…」

 沙霧の抵抗がフッと止まる。
 米国に介入される事、それがどういう結果を招くのか考えもしていなかったのだろうか。
 俺は口調を落とし、訴えるように、哀れむようにトドメを刺した。

『国土の半分がBETAに侵略されてハイヴまで建設され、トドメにクーデターが起こって政府高官が軒並み殺される国は最早国としての機能を失っている。そう言われれば帝国を擁護してくれる国なんざ地球上に存在しない。
 そうでなくても…どの道、成功なんてしないんだよ。お前のやり方じゃ』

「(この男は…全て…知っていたのか…)」

『仮にクーデターが成功、もしくは失敗してもお前の忠誠心が民に受け入れられたとしよう。
 お前は例え自分が死んでも民の心に自分の理想が届いたと満足して死ぬんだろうな。
 だがそれはつまり、"結果が正しければ暴力による政府打倒を許容する"と全国民に認めさせる事になる。
 そんな事になってみろ、軍閥の中で次々クーデターが起こるぞ。適当な大義名分をでっち上げてな。
 前例を作るって事は、そういう事なんだよ』


「ならば…ならばどうしろと言うのだ!今義挙をせず何をしろというのだ!!」

[勝つのです]

「殿下?!」


 自身の行動が何を招くか、そして届くと信じていた信念が何を呼ぶか、自分の中にあった忠義の置き所を一瞬見失ったタイミングで、悠陽が介入する。
 これでもうこの男は、この後悠陽に言われた通りに行動してくれるだろう。
 ひとまずは俺の出番は終了だ。


「殿下…何故このような所に…いえ、失礼致しました。自分は軍帝都守備第1戦術機甲連隊――」

[よいのです、沙霧]

「はっ」

[此度の事は全て私の力量不足がその端をしての事。責任は全て私にあります]

「殿下!お言葉ながらこの国を恣にする奸臣は――――」

[それらを含め全てを背負うのが征夷大将軍という名なのです。上に立つ者に責任を求めるならば、まず最初に討たれねばならぬのは私なのですから]

「そのような…お言葉…」

[私は逃げていたのです。自らの未熟さに甘え、自ら何かを成すことも、責任を取ることもして来ませんでした]


 征夷大将軍として何をしてくれと――――沙霧は彼女に責任を求めなかった。
 征夷大将軍ならこうしてくれると――――沙霧は彼女に期待していなかった。

 ただ敬われるだけの象徴として存在し、それ故に無能が許され、そして政治から遠ざかる悠陽。
 それを政治の中心に戻すのならば、彼女は征夷大将軍相応の責任と、期待を求められるようになる。

 そんな事にも気付かないでただ悠陽に政権を押し付けようとしたクーデターの連中の思考には正直ヘドが出る。
 正直、この男が沙霧ではなく、207の誰とも知り合いでもない、どこの馬の骨かとも知れないただの大尉だったなら…
 俺はクーデター勃発まで静観を決め込み、その上で殺そうとしたかもしれない。
 尤も、俺に人を殺す勇気があるかはまた別の問題かもしれないが。

 そして沙霧も、今ようやくそれに気付いたようだった。
 崇拝とは理解より最も遠い感情――――とはよくいった物で、何もかも思考を挟まずに片付けてしまう。


[沙霧…そこまで国を……民を……この煌武院悠陽を想うのならば……私に力を貸しては頂けませんか?どうやら私一人ではまだ力量不足のようなのです]

「殿下…ははっ」

[白銀、大儀でした。しかしそなたの言葉は少々刺激が強かった様子。私と沙霧で今少し話をさせては頂けませんか?]

『了解しました。それでは沙霧大尉、失礼します。……それと今更ですが初対面での無礼、お詫びします』

「いや、いいのだ大尉。どうやら私が…間違っていたようだ」

『それは違います大尉』

「まだ何か?」


 俺は手元のスイッチを操作し、網膜投影に沙霧の顔を反映させる。
 あちら側にも俺の顔が映るようになった筈だ。
 さらに今まで掛けていた声のエコーも外す。

「大尉は"間違えた"のでは無く"間違えかけた"んです。まだ間に合いますよ」

「それは…そうか、感謝する」


 俺は言葉を返さずに無言で敬礼をして筐体から出た。

 …この後は巌谷中佐か。気さくな人らしいからアッチは話が早そうで助かるわ。
 さてそれで中佐と会うまでどうしたものかと辺りを見回すと、月詠大尉と香月博士がすぐ近くまで歩いてきていた。

「大尉、お疲れ様です。巌谷中佐にアポを取ってあります」

「流石月詠大尉。仕事が速いですね」

「……クーデターの件、沙霧大尉の反応と鎧衣課長の顔色を見るに本当の様ですが一体…いえ、失礼しました」

「まぁ話にも出ましたけどバックにはあの国が居ますから当然横浜にもネズミは居る訳でして、すいませんがこれ以上はお答えできません」

「…そうですか」


 答えになっていないと言えば何一つ答えになっていない答えを返す。
 要するに仲良くしたいけど話せませんよって事を言いたかったんだが、別に黙ってもニードなんたらってので片付けられたかもしれない。
 とにかくそれ以上の会話は無く、俺と香月博士は先程とはまた別の応接室に入室する。

「お初にお目にかかります。白銀武大尉です。先の模擬戦で――――」

「あぁ!見させて貰ったよ!あれは実に見事な戦闘だった!これはこれは香月博士、お久しぶりです。いやぁ、横浜基地の不知火は素晴らしいですな。先ほどまで演習を見て私なりに検討してみたのですが……」


 部屋に入った俺等を待っていたのは、A4の紙束にびっしり考察を書き込み熱く自分の推論を語る、ヤクザ顔のオッサンだった。


 部屋に着くなり挨拶もそこそこに巌谷中佐はまるで嵐の様に自分で推論した持論を熱く語りだした。

「状況に合わせた機体の挙動、いや反応が現行機よりも早い。これは衛士の未来予測に近い先読みでコンマ早く入力しているか、もしくは操作の反応速度そものもが向上していると考えましてな。その場合現在の管制ユニットの性能では処理が足りない。だとすると外部にサーバなりを立てクライアントサーバ処理か分散処理を考えましたが、それではタスクの管理とデータの送受信、何よりジャミングに酷く脆弱になってしまう。となると矢張り中枢演算装置そのものが根本的に違う可能性が高いと考えたのだが…どうですかな?それと白銀大尉の挙動で顕著に出ていたのが高速軌道時の機体制御だ。明らかにパイロットが操作不可能と思われる中でタイミングも確度も正確に行動を行っている。最早適正云々以前に人間の指の筋力では操作が不可能な状況下に於いてもだ。となるとコンピュータが操作処理を行っている可能性が高い。あらかじめ決められたパターンを任意に実行するか…操作を記憶させてそれを再現できる…と考えたのだが、どうだろう?」

 …凄い。どうだろうも何も殆ど合ってるのが凄い。
 流石テストパイロット上りの開発者というか、戦術機の分解考察能力が高い。

「えぇ、概ね仰る通りですわ。巌谷中佐。」

「何と!矢張りそうでしたか。…しかしよろしいので?帝国人の私に話してしまっても」

「そうですわね…」


 巌谷中佐の言葉に香月博士は少し考えるフリをして、アッサリとタネ明しを始めた。


「中佐のご推察の通り、横浜基地では戦術機の新OSを開発しています。このOSは現行の全ての戦術機に対応できる横浜基地の政治的な切り札でもありますが、概念自体は少し研究すれば誰にでも理解できる代物でもあります」

「それでは尚更…」

「構いませんわ。元々前線の衛士に支給すべく開発したのですから、解り易さは寧ろ望む所。ですが横浜以外で開発した所で、ウチのOS程の戦果は期待できないでしょう」

「それは…つまり私が同じOSを開発しても…という事かね?」


 香月博士は巌谷中佐の質問に頷いて答える。
 帝国としても紅蓮大将に土を付け、さらに今も現在進行形でその能力を如何無く発揮しているだろう神宮時軍曹らの模擬戦を見ればどうしても欲しくなるだろう。
 いや帝国でなくとも、戦術機を持つ国ならばどこも欲しがるだろうが、そうは問屋が卸さない。

「まず中枢演算装置は横浜基地オリジナルの物ですから、現行の物では処理速度不足で、OSの新概念の機能を引き出す事ができないでしょう。無理に今の技術で相応の精密で容積のある処理装置を載せたら、それこそ戦術機の機動に耐えられるとは思いません」

「むぅ、つまり処理能力不足とサイズ、それに電力等、今まで余り注目されていなかった部分のハードウェアの改修が必要となると?」

「それだけではありません。あの新OSはこちらの白銀大尉の3次元機動を高度に実装すべく開発された物。盛りこまれた機能や概念も全て彼が発案した物です。彼以外の人間が知らずにあのOSを使った所で、OSの20%も力を引き出せないでしょう。つまり彼に直接教導を受けた人間でない限り、あのOSの能力をフルに活用する事が出来ないのです」

「ハードウェアの性能限界に…専用教育が必須…しかしそれでもあのOSは、あまりに魅力的過ぎる」

「そうなります。ですのであのOSを見た方には是非コピーや劣化品を作成して頂きたい物ですわ。それだけ横浜のオリジナルの強力さが色濃くなるだけですから」

「ハッハッハッハ…これは一本取られたな、作れるものなら作って見せろとは。ウチの技術畑の人間が聞いたら狂喜してプロジェクトを立ち上げるだろうね」


 しかし、この世界全ての戦術機がXM3になるという事は、連殺を含めた他機体遠隔操作の最上位権限に居る俺の戦術機は、実質全ての軍の戦術機を指揮下に置ける事になる。
 まぁそんな危険な事は話すつもりも無いし、平和になった後で例え多国間で戦争が起こってもどうするつもりも無いが。
 そもそも俺はそれまでこの世界に居ないだろう。死ぬなり、生きるなりしていても。


「そうですわね。ですが失礼ながら巌谷中佐、今の帝国の技術廠には他にする事があると思いますわ。近々あの新OSは帝国にも差し上げますから。佐渡ヶ島ハイヴ攻略の為に」

「何と!本当ですかな?それに佐渡ヶ島というのは…まさかG弾を使わずに?」

「えぇ、本当ですとも。ですからあのOSとの相性の良さそうな不知火弐型には早く完成して欲しいと思っています」

「ぐっ」

 暗に「新OSやるから弐型よこせ」と言っているのだが、そもそもの弐型の開発がアラスカで暗礁に乗り上げかけているため、中佐は言葉に詰まる。
 今香月博士が横浜基地副司令としてではなく、一人の技術者に近い形でこれだけの話をしてくれたのに、何も返す事の出来ない自分に憤りを感じているようだ。

「これだけの話をしてもらって大変申し訳ないが、ご存知かもしれんがアレについてはまだ完成の目処が立っていないのだ…99型電磁投射砲も然り。いや、ハイヴ攻略に新OSの概念を是とすると99型電磁投射砲は無用の長物になってしまうかもしれ――――」

「それは違います」

 あまりの香月博士のオープンさに自嘲が過ぎた巌谷中佐を、俺は此処に来て初めて会話に割り込んで否定する。

「新OSの概念を開発した君に言われるのは光栄だが、今言った通り電磁投射砲に至っては制御装置にも問題を抱えていてね。恥ずかしい話、実の所完成の目処はついていないのだよ」

「そんな事はどうでもいいんです。巌谷中佐。自分が言いたいのは、99式電磁投射砲こそ帝国をBETAから守護するに必要不可欠な兵器だと言う事です」

「…何かあるようだね…聞かせてもらっていいかい?」


 完成の工期が何時などどうでもいいと切り捨ててしまったが、どうでもよくない。完成してもらわないと困る。
 俺の言葉に巌谷中佐も表情を変え、こちらに体を向ける。
 俺は「失礼します」と巌谷中佐の手元の紙を一枚貰い、その紙に斜めに二本線を描き、さらに左上に丸を書く。
 さらに二本の線の間に、二つ丸を書く。

「これが佐渡ヶ島」

 ペン先でコンコンと丸を叩き

「でこっちが本土、横浜基地、帝都です」

「ふむ」


 トン、トン、トンと更に三箇所ペンで叩く先を、中佐は目線で追う。

「此処だけの話、まぁどうせ攻略前に正式発表するんですが、佐渡ヶ島のBETAの数が当初の予定よりも大分多いようなんですよ」

「現在の予測は…3万から4万であるが…」

「はい。最低でのその3~4倍。12万から多ければ15万のBETAが居る可能性があります」

 俺は佐渡ヶ島の横に"15万"と書き込み、中佐の顔を見た。
 中佐は腕を組み、難しい顔で唸る。

「うーむ…数に対して確かに99型電磁投射砲は有効だが…その重量と取り回しがな…」

「解ってますよ。これは自分の予想ですけど…失礼ですがヴォールクデータ、結果が思わしく無いのでは?」

「其処まで見抜かれているとはな。いや、全くその通りだよ。だからこうして悩んでいる」

 開発資金も期間も既に多くがつぎ込まれてしまったため、今更後に引けないプロジェクトになってしまっているようだった。
 だがそれだけあって、99型電磁投射砲の威力には確か定評があった筈である。

「使い所が悪いと思うんです。尤もハイヴ攻略用に開発されたんでそれ以外の用途に目が行かないのもわかりますが…」

「聞いていいかな?」

「その前にハイヴ攻略を今シミュレートしてみましょう。まず海上からの砲撃により重金属雲を発生させ各地から上陸。BETAを誘引しつつ地上戦力を分散させ戦術機によりハイヴに突入。高速で反応炉に到達しS11でこれを破壊」

「理想論ではあるな」

「ですがこの理想通りに事が運んでも帝国は滅びます」

「むっ?」

 今言った佐渡ヶ島攻略は誰もが思いつく物、というか現状ではそれしか手段が無い。
 しかも全て上手く行くという理想的な前提付だ。
 俺も最初、ゲームで司令の甲21号作戦概要を聞いた時は「佐渡ヶ島フルボッコざまぁwwww」と思ったもんだった。
 俺は"佐渡ヶ島"をコンコンと叩き解説に入る。

「いいですか、地上に出るBETAを如何に誘引し、処理した所で今回倒せる数は…最低で4万から多くて8万前後でしょう。それ以上はもう火力が絶望的に足りません」

「うむ」

「ハイヴ突入部隊も高機動によりBETAとの戦闘は避けますから、実質5万以上のBETAが反応炉撃破後も佐渡ヶ島に残っている事になります。どうなると思います?」

「ふむ…む?今までに無かったアプローチだな。残存BETAか……佐渡ヶ島ハイヴの中枢が破壊されたのだから…ハイヴを直衛する必要が無くなるな…全てのBETAが地上に出現、上陸部隊が全滅。というシナリオは?」

「それもなかなか悲観的で悪くないとは思うんですが…もっと最悪のケースも存在するんですよ」

「聞きたいね、是非」

「BETAはその原動力や命令系統について、未だ人類側に明らかにしていない点が多いですがこういうのは如何でしょう。1.BETAは反応炉から命令を受けている。2.BETAは反応炉からエネルギーを補充する」

 ガタッ

「そ、それは本当かね!?」

 俺の"例え"を聞いて巌谷中佐が凄い勢いで此方に乗り出してくる。
 BETAの命令系統等誰一人解明していないのだから、当然と言えば当然だ。
 そしてそれを自分に話す事自体に異常性を感じているようだった。

「ですから"例え"です。中佐殿」

 例えを押し通し、殿を付ける事で俺は巌谷中佐に「とりあえず座ってくれ」と促す。

「失礼、取り乱した」

「いえ。そして3つめ」

「まだあるのかね?」

 巌谷中佐と目が合った瞬間俺は意識して露骨に嫌な笑顔を浮かべ、紙の上の"横浜基地"である丸い円をコツンと叩いた。


「佐渡ヶ島ハイヴから近い反応炉の中に…横浜基地があるっていうのはどうでしょう?そして佐渡ヶ島の"枝"が本土まで伸びていたとしたら?ちなみに横浜基地も帝国も佐渡ヶ島攻略に主戦力を殆ど捻出しています」

「あ…?!」

 巌谷中佐の顔色が一気に変る。血の気の引く音が此処まで聞こえてくるようだ。
 まさに真っ青という言葉を形にしたようだった。

「万単位のBETAの前に横浜基地は壊滅。反応炉でエネルギーを補給し終わったBETAが帝都に転進」

「(この男若いが…いや若さ故なのか、この発想は…それだけではない。香月博士も隣に居るという事は第4計画の成果が"表"に出始めているのか。となると先の演算ユニットの件も納得がゆく)…………」

「帝都には斯衛や帝都防衛隊がいくらか残っているでしょうが、数が違います。それでこの国の歴史は終了って事になりますね。佐渡ヶ島はヘタに爆発させると危険な爆弾でもあるんです」

「(そしてこの話を、態々私に直接持ってきた。殿下の勅命まで使って)そんな…事が………考えもしなかったよ」

 言葉は何とか返せているが、未だショックから抜け出せていないようだ。
 そりゃあそうだろう。佐渡ヶ島を落としたら帝国が滅びるなんて、それこそ帝国軍人にとって悪夢でしかない。
 俺にとっても頭の痛い話である。
 なんせ島ごと自爆したって3万近いBETAが襲ってきたのだ。
 反応炉破壊でとどめた場合、新潟に防衛線を引きつつ町田と横浜付近にも適切に部隊を配置しない限りこの国は終わる。
 昔枝を調査して片っ端から潰すって作戦もやったが、表面に近い所で爆破してもキャリアー級に掘り返されるわ、海底付近まで進むとハイヴ攻略並みに被害が出るわでボロクソだった。


「そ・こ・で、99型ですよ。実は横浜基地でBETAをおびき寄せる装置を開発中でして、佐渡ヶ島である程度99型で数を削り、さらに横浜にも配置してBETAの殲滅を図ります。防衛戦には打って付けでしょう?数さえそろえてしまえば機動火力としては人類最高ですから」

 要するに鑑の直衛部隊であるA-01に4機、横浜基地に10機ほど99型電磁投射砲を配備するのが当面の目標だった。
 俺としても佐渡ヶ島ではあまりと言うか全くギャンブルする気は無いので、なるべく手堅く戦力を整えたい。
 というか00ユニットの起動の時点で俺にとっては相当ギャンブルなのだが。


「新潟海岸線からの防衛ラインはどうするのだね?」

「枝がどの程度伸びているか未知数でして。空振りになってしまう可能性もあります。どうせBETAの侵攻線上には山と廃墟しかありませんから。ゴールで迎え撃ちますよ」

「(いや、網を多重に張り、長い距離を掛けてBETAを削るのは有効な筈だ。この男にそれが解らない訳が無い。と言う事は…佐渡ヶ島ハイヴの枝はもうかなり…)しかし、一口に枝と言ってもな…」

「まさに今現在の枝の長さ、となると正直全く解りません。ですが考えてみてください。戦術機どころかスペースシャトルの打ち上げセットですら楽々入るメインシャフト、戦術機が暴れる事が出来る程の中層。そして構造体を中心に張り巡らされている枝。これらをあの突撃級や要撃級が掘ったとは僕はどうしても思えないんですよ」

「君は…一体何を…?」

「掘る事自体は可能でもハイヴの内装も含めた建設とBETAの形状を考えるとどう考えても速度がおかしい。となると考えられませんか?地上には出てこないタイプの存在。掘削級とでも言えるような存在が」

「そんなBETAが…存在するのか?」

「個人的には確信しています。尤も、そんなデータは横浜でも観測できては居ませんがね」

 そう言って俺は乗り出していた身をソファーに沈める。
 巌谷中佐も天井を仰ぎ背もたれに寄りかかった。

「随分大きな話になってしまったな。十分私にとって実りのある話であった事は確かだが…規模が大きすぎる」

「でしょうね」


 巌谷中佐は視線を俺と香月博士へ交互に向け、再びテーブルに乗り出した。

「横浜基地の考え方は私なりに理解できたつもりだ。結論をそろそろ出すとしよう。香月博士?」


 前フリは長かったが、どうやら俺達はようやく巌谷中佐と対等に交渉できるテーブルにつけたらしい。
 どっちかっていうと無理矢理座った感が否めないが。


「えぇ、では。まずは新OSですが。佐渡ヶ島攻略開始までに可能な限りの数を帝国軍に提供する事を確約しますわ。手始めに先程第三シミュレータルームにサンプルをインストールしておきましたので、消さずに置いて行きます」

「それは…自由に見させて貰ってもいいのかね?」

「基幹のロジックのブラックボックス化とコピーガードこそしてありますが、表面的な設定や操作等は全て実際に普及した際と同じ操作が出来るようにしてありますわ」

「(上手すぎる話だな。見返りが怖いが…)それは嬉しい限りだが…要求は何かね?」

「そうですわね…まず1つ。これは必須条件になりますが99型電磁投射砲で今完成している分の資料を全て横浜基地に頂きますわ。私の方で完成させて送り返しますから。生産はそちらでお願いします。2つ、こちらは可能であればで構いませんが同じく不知火弐型のデータも完成している範囲で頂きたいですわね。その際は横浜基地と帝国での協同開発として全く弐型とは別の名前を付けて完成させます。もちろんこちらも完成した仕様書や各データは100%帝国にもお渡ししますわ。新OSの動作パターンのデータ付きで。むしろできれば名目だけでは無く横浜基地内に協同開発室を作ってそこで開発をしたいと考えています」

「(弐型はオマケ…という事は無くてもどうにかなる算段が付いているのだろうが…あれば良いに越した事は無い…か)むぅ…やはりそう来ますか」

「そして3つ」

「まだあるのかね?」

「こちらは重要度は低いのですが可能ならば明日にでも頂きたいのです。7年前にお蔵入りになった"約束された星の破壊"。アレも下さいな」


 "約束された星の破壊"?え?ナニソレ?俺知らないよ?そんな魔砲少女。
 7年前っつーとBETA横浜侵攻から1年だから…その時期にお蔵入りになった何か…ダメだ、わからん。

「何に使うかは…いや、確かにスクラップにはせず保存してあるが…あそこまで巨大な物になると些か決断に勇気が要るな…それに電磁投射砲も弐型も、各国の技術提供があってその上で成り立っているプロジェクトでもある」

「完成しないで帝国が滅びるよりはマシだとは思いますわ。それにアラスカでもプロジェクトは続ければいいではありませんか。いつ完成するかは知りませんけど」

「ふぅむ(アラスカか…実際現地では最終調整に苦労している。いっそ彼女を引き抜いてプロジェクトそのものを早々にダメには出来ないだろうか?彼女の期待や努力はご破算になってしまうが、それを横浜基地で…いやいや、この発想は危険だぞ…)」

「あとこれは要求ではないのですが、帝国側への教導のためにまず横浜に出向して新OSを教導できるようになって欲しいのです。国連軍衛士が教導しては何かと面倒でしょうから。なので帝国軍で新OS教導部隊をまず設立し、横浜に派遣して欲しいのです」

「(ウチの側の人間を教導に招き入れるとは…!先程の新OSの横浜基地の独占性が半分失われるではないか!そこまで譲渡されては…私も腹をくくるしか無いな)……わかった。条件は全て飲もう。もっとも私に出来る範囲に限らせて貰いたいが」

「それで問題ありませんわ」

 そう、彼さえ同意してくれるのならもうそれだけで十分なのだ。
 なんせ征夷大将軍の方を先に俺達は抑えてしまっているのだから。
 その後俺達は実際の開発手順、佐渡ヶ島攻略予定期間、そして99型電磁投射砲"試射日"を取り決め、解散する事となった。
 外の景色を見れば夕焼け。これまたやはり人気の無いハンガーに戻ると、そこらじゅう土と粉塵で汚れた不知火が俺を出迎えた。
 まずはと自分の機体に乗り込み、通信チャンネルをオンにする。

「お待たせしました。まりも先生、伊隅大尉。そちらの首尾は……って、その顔見れば解りますね」

 二人はここ数日見せた事の無い"スッキリ"した笑いを浮かべている。
 恐らく旧OSの武御雷、不知火、吹雪を圧倒的な戦力差でフルボッコにしたのだろう。
 しかも通信封鎖をしての戦闘だったため、黙々と敵を撃破し続ける月詠機を含めた3機は帝国軍にとって最早悪魔にしか見えなかっただろう。


「えぇ、手加減しないでいいって夕呼に言われたし。最初はローテーション組んで1対1だったんだけどね。最終的に対戦希望者殺到しちゃったから3機連携で一度に10対3で勝ち続けたら、その内挑戦する人居なくなっちゃって。結局時間余ったのよ」


 悪魔に見える所の話ではない。本当の悪魔だった。
 恐らく3人が3人とも俺に勝てない鬱憤を帝国軍にブチ撒けたのだろう。
 もうチャレンジャーの皆さんに同情してもいいレベルだ。

 あと月詠中尉の姿がモニターに現れないという事は、予定通り今日は帝都に残ったのかな。
 手順どおりなら最後の最後に搭乗者を月詠中尉だけバラしてるはずだし、彼女に質問に来た連中には"横浜で私も関わって開発した新OSだ"と答えるように頼んである。
 斯衛の人間が関わって開発したシステムで、なおかつ強力と解れば帝国軍へのリリースも幾らか楽になるだろう。
 夜は殿下や月詠大尉、紅蓮大将に場合によっては巌谷中佐からも話を聞かれるだろうけど、あの人なら上手くやってくれる筈だ。

「流石に…疲れたな…横浜まで寝ます」

「えぇ、おやすみ。白銀」


 この日、俺は顔と声を見せる相手を露骨に選んだ。
 正直どんな影響があるのか、いやもしかしたら全く無いのかもしれないが、上手く行く事を願うしかない。

 …そういや帰ったらまた歩哨だっけか。今日のパートナーは誰なんだろうな…

 俺は戦術機の電源を全て切り、暗闇と騒音、そして振動に抱かれて眠りについた。




-夜 横浜基地PX-

 帰ってきてから"メンバー"での報告会と、いよいよ明日に迫った月曜のA-01へのXM3導入の話も済ませ、俺は夕食をみんなと食べるべくPXに向かう。
 そういや斯衛の演習場なんだからアッチのメシも食ってみたかったな。結局昼抜きだったし。
 普段どんなの出るんだろう。
 あ、大尉の階級章…いいや、外しちまえ。

「ただいまー」

 俺は鯖味噌定食のトレイを置きながら食事中207のみんなに声を掛けた。

「あ、おかえりなさい」
「おかえりー」
「おかえり」

 みんなの声が染み渡るなぁ。半日しか離れてなかったのに何かひと月以上会ってなかった気がする。(いいいいいや、きき気のせいだよ?白銀君:作者)
 何々…?千鶴と壬姫と冥夜だけが食い終わってて、慧と美琴が手を付け始めた所って事は…
 食う時もローテーション組んでたんだな?よしよし。
 ってあれ?霞が居ない。
 まぁ何かやる事があるんだろう。

「どっこいせっと」

「タケルオヤジ臭い」

「酷っ、帝都まで出張してきたっつーのに」

「「「「「帝都?!」」」」」

「うおっ…あぁ、うん」

 全員の反応に俺はビクッと驚く。
 そう言えば朝行き成り月詠さんに拉致…もとい連行されたっきりだったか。
 話の内容を話せる程度に改変して俺は今日一日を語り出した。

「俺が香月博士んとこで開発してるっていう新型な。アレ一応形になったんで中間報告も含めて帝都でちょっとした開発会議があったんだよ」

「なっ、帝国軍にも配備されるのか?!」

「まーそんな所かな。有効だったらっていう話だったけど結構好感触だった。ちなみに話し合った相手は巌谷中佐っていう人なんだが…知ってる?」

「知ってるも何も…その人国連軍の軍歴教本にも載ってる人よ」

 流石千鶴、博識だな…って教科書に載ってんの?ソロモンの悪夢みたいだな。
 巌谷中佐と話し合いがあっただけでも皆相当驚いているようだが、帝国にも採用される可能性があると聞いて全員目の色が変っていた。
 あ、そうだ明日のA-01の話をしないと。

「で、せっかく完成したからな。お前らにも見せてやるよ」

「え?いいんですかタケルさん?」

「ちょっと…私達まだ任官もしてないのよ?」

「あぁ、大丈夫大丈夫」

 というか来てくれないと困るのだ。
 明日は例の白3人にも来てもらうので、冥夜の護衛役が居なくなってしまう。
 じゃあ冥夜も一緒にいればいーじゃん。という事である。
 管制室とはいえ特殊部隊のシミュレータルーム。そう易々と不審者が侵入できる作りになっている筈もない。

「というかこれはお誘いじゃなくて決定事項なんだ。明日1330にC棟地下3階のエレベーター出た所に集合な。そっから先は一部の人間しか入れないから迎えに行くよ」

「ちゃんとした手続きを踏んでるなら今更どうこう言わないわ、了解。迎えに来るって事は朝は白銀は居ないのね?」

「ん?あぁそうなる。朝起きたらすぐ別行動かな」

「しかしタケルの成果が見れるとは…楽しみだな」

「そうだねー、きっと変形合体してビームがでるスゴイのが出てくると思うんだよ僕は~」


 ゲッターかよ。と心の中でツッコミを入れながらも俺はガツガツとメシを片付け、千鶴に一言告げて席を立つ。

「…っぷぅ。すまんがその調整もあるから、またちょっと行って来るわ。そうだな…2300には戻るよ」

「「「「「いってらっしゃい」」」」」


 俺はトレイをさっさと下げ、地下に戻るが…
 霞が食事に居なかったのが気になる。
 目に付く場所に居ないとしても散歩に毎回付き合うって言った限りは無理と確定していない状態で放り出す事も出来ない。
 エレベーターに乗り階級章を付け直しながら考えるが、そこまで霞が切迫して何かをしなければならない案件も無かった気がする。




「……帝国軍にも配備って本当かしら?」

「武がその様な嘘を付くとも思えん。理由も無い故な…それにしても…もしかすると我等が想定している以上に武という存在は…」

「もしかするとじゃなくて間違いなく異常。私達の隊に配属されるくらいだし」

「ふえぇ、私と同い年なのに」

「これは演習……落とせないわね」

「そうだねー。部屋に戻ったらロープの結び方もう一回やろっか」

「あら?それいい案ね。(それにしてもここ数日の鎧衣…人が変わったみたいね)」


 俺が去った後のPXでそんな会話があったとかなかったとか。



--某地下--

「失礼します」

 プシュッ――――

 香月博士の部屋に入っても霞は居ない。
 ここに居ないとなるとシリンダールームだろうか?

「博士、霞は―――――」

「居ないわ」


 ガタガタと相変わらず忙しそうにキーを叩く香月博士が答えた。
 俺の話を遮るようにピシャリと言う香月博士に嫌な予感を覚える。


「あの、居ないっていうのは…」

「あの子は暫く別件で手が離せないから。…そうね、三日くらいかしら」

 それだけ言うとまたモニターに視線を戻し、ガタガタとキーを叩き始める。
 確実に俺に何か隠しているようだけど…博士が何を企んでも俺は非難しないって言っちゃってるしな…
 納得行かないが流す事にした。

「…了解です。じゃあシミュレータに行ってますね」

「行ってらっしゃい。あ、伊隅達は遅れて行くわ」

「はいッス」


 返事をしてシミュレータルームに向かったが、俺は後で悔やむ事になる。
 反対はしないにせよ、理由くらい何故この時もっと追及しなかったのか…と。




-A-01シミュレータルーム-

「うぃーっす、茜少尉」

「帝都に行ってきたんだって?お疲れ様、白銀……って大尉?失礼しました!白銀大尉!」

「あー、これからもインフレ起こしてどんどん上るんで今までのまんまでいいですよ。っと。一応階級上になるから俺の方は敬語控えないとな」

「そうなの?」

「そうなんです」

「…まぁ、最初からそんな感じだったしね。じゃあこれからもよろしく、白銀。あれ?今茜って呼ばなかった?」


 初っ端の出会いの流れもあってかすぐ順応して口調は砕けるが、敬礼だけはピシッとする茜少尉。
 切り替え早いなー前からだったけど。
 さて、結局今日は日中放置プレイだったんだが、何して過してたんだろう。

「あー、すまん。嫌だったら涼宮に戻すよ。それについても後でちょっと頼みがあってさ。で、今日は何してたんだ?」

「まぁ別にいいけど…出かける前に伊隅大尉から宿題貰って。いろんな状況で連殺で他の機体を動かす訓練をしてたよ。でもアレ難しいよね。自分の機体の事も考えなきゃいけないし。今ちょっといいかな?」

「そうだった。俺もあれの他機の遠隔は模索中なんだった。伊隅大尉達遅れるらしいんでミーティングしよう。で名前の呼び訳なんだけどさ」

「(まさか二人っきりの時は名前で呼んでいい?なんて言わないわよね)う…うん」

 茜少尉はちょっと困った顔、というか少し赤を赤くして答える。
 まぁ同じような年頃の男に下の名前で呼ばれれば階級付きとはいえテレも出るだろう。
 しかも最近知り合ったばかりだし。

「明日からA-01にもXM3を教えるんだけど…今と違って大人数だろ?やっぱ教える時は厳しくっていうか上から物を言う言い方にしないと締まらないんだよな」

「うん。それは解るけど…」

「かと言って俺は早く全員と打ち解けたい。ここだけの話出撃の話もあるしね。って事で俺が"茜少尉"って呼ぶ時は無理やりフランクな接し方をして欲しいのよ。茜少尉がタメ語なら他もやりやすいだろ?」

「(なんだそれなら先に言ってくれればいいのに…緊張した分損したみたいじゃない)それなら大丈夫だよ。了解っ」



 俺と茜少尉は管制室に入って今日の宿題の操作ログを再生する。


「網膜投影を一時切り替え…っていうか自機の映像を左半分にして他機のを右半分にするのが一番楽だったかな。ただ他の機体の操作をどのレベルまでにするかなんだけど…」

「あんまし手間かけると自分が死ぬしな」


 モニターの中では他機を操作している間に突撃級に突進されて大破する茜機が映っていた。
 自機の安全が確保できない様ではこのシステムも意味がなくなってしまう。
 これでは本末転倒だ。


「そうなんだよね。だから自機の安全をすぐ確保できるような戦い方?みたいのを最初からしてみたんだけど。それだと後衛でも前衛でも無くなっちゃって中途半端で…」


 再生中所々で止めてあーだこーだ思いついた事を交わす。
 そういや戦術機の扱いについてマトモに議論するのコレが始めてなんじゃないか?俺。


「指揮官機ってのはそういう感じなんだけどなー、でもただ居るだけじゃな…それならCPに遠隔操作要員一人置いたほうがリスク低いし」


 中距離の武装。例えば突撃砲のマガジンをなんとか大量に持ち込むなりして"中距離支援"って形にすれば戦闘もある程度イケルとは思うんだけどな。
 BETAとは接近戦等しない前提で足にもマガジンつけちゃうとか。

 これが人間ならガムテープでつければ済むんだが…


「そうそう。だから自分のエレメンツになるべく強力な制圧力のある機体を付けて、数秒間だけ守ってもらうようにしてみたんだけど…」

「あーそれいいな。で、これの場合…支援目標機体は一旦後方の風間少尉の近くに移動して任せちゃうわけね」

「(あれ…風間少尉の事も知ってるんだ。って当然よね)うん…戦車級の処理ならヴァルキリーズの先任なら一応誰でも出来るし。その間は支援が減るけどそこは元気な前衛が頑張るって事で。周りにBETAが居る前線で剥がすより最終的にリスクが低いと思って」

「んーそうだなぁ…今の手持ちの戦力考えるとそれが一番いいかな。それなら最初から後衛に戦車級の処理を少し練習して貰っておくってのはどうだ?短刀も一本は最低持つって事にしてさ。茜少尉側で出来る操作はもうこんな感じで十分だと思うんだよな。後は隊でフォローしよう」

「あ、それいいかも!となると柏木と風間少尉よね。あと私もやっておこうかな」


 等とそろそろ結論に到達しかけた所で管制室のドアが開いた。
 伊隅大尉、神宮司軍曹のご到着だ。

「随分やる気を出してるじゃないか。どうやら宿題はこなせたようだな?茜」

「はい!伊隅大尉。お疲れ様です」

「うむ…では白銀。早速だが明日に備えてのテストをしたい。例の物も準備出来たそうだ」

「了解」

「え…テスト?」

 突然の"テスト"の言葉に首を傾げる茜少尉だが、コレを今日中にしないと明日の教導に入れないのだ。
 頭の上にハテナマークが浮かんだ茜少尉はとりあえず置いといて、俺は伊隅大尉から木で出来た"箱"を受け取る。
 そして"涼宮少尉"を含む3人を自分の前に並ばせ、頭を切替えて背筋を伸ばして宣言した。

「伊隅大尉、涼宮少尉、神宮司軍曹に対し…これよりXM3教導過程終了テストを行う!」

「「了解!」」
「りょ…了解!」

「よし、では一人づつシミュレータに入れ。基本的に俺は手加減するから、今まで学んだ事を全部出してぶつけて来い!」

 "涼宮"と呼ぶ事で俺の頭の中の切り替えもし易かった。向こうもそうだろう。
 テストと言っても簡単な物で、順番に1対1で俺と模擬戦するだけ。
 俺は全力を出さずに相手をし、それぞれが3次元機動、OSの3概念をどこまで活用できているかをチェックするだけだ。
 一人頭30分づつ、計1時間半かけてテストを終了し、管制室にまた集合しログの検討会を始める。
 俺が片手に持つチェックリストにはテスト中気付いた事が書き殴ってある。
 生憎こっちも筐体に乗っていたので、テープで自分のフトモモに紙を貼り付けておいた。
 スキを見つけて咥えていたペンで書き殴ったので紙はぐしゃぐしゃ、文字も俺以外読めない有様だ。
 このままじゃ格好悪いのでバインダーに挟んである。

「涼宮少尉」

「はっ」

「この場面だがな、俺は既に突撃砲に持ち替えているのが障害物に隠れる前に見えていた筈だ。隠れた自分が出て行くタミングと方向を如何にランダムに選べるとは言え…障害物から安易に飛び出れば撃墜されるぞ?どうせなら出た直後に一度キャンセルをして方向を変えるべきだな。飛び出す際弾幕を張った所は評価する」

「はいっ」

「だけど大G下での機体制御、先行入力は大した物だ。俺が好き好む戦法だが…よく学んでくれた。キャンセルを織り交ぜればもっと幅が広がるだろう」

「はいっ!ありがとうございます!」

「伊隅大尉」

「はっ」

「反応速度向上を受けた素早い判断、先行入力とキャンセルを多用しているのは評価できる」

「ありがとうございます!」

「だが旧OSが長いせいかコンボの使用頻度が低いな。今回は1対1なので構わないが、指揮官である伊隅大尉が最前線で接近戦をする機会は多いとは言えないだろう。射撃でもコンボは使える。空いた時間を周囲を見回す時間に回せば指揮官としての視野も広がり余裕が出来るだろう。部下の生存率を上げたければもっと余裕を持て」

「はっ」

「神宮司軍曹」

「はっ」

「コンボを使おうと意識するのは良いが…意識し過ぎてキャンセル率が高い。最もその為のキャンセルではあるが…これは新任の初期戦力を底上げするためにコンボを練習した結果だな?構わないが訓練と実践では使い分けるように。君に死なれては…その…何だ…困る」

「はっ」


 俺は改めて三人とそれぞれ目線を合わせ、深呼吸をする。
 3人が息を呑む音が聞こえてくる様だ。
 俺はバインダーをバサッと閉じ、小脇に抱える。

「しかし3人とも3次元機動、3概念については十分に合格ラインに達していると判断した。よってここにXM3教導過程の終了を宣言する!これからも切磋琢磨し、俺を超えて見せろ!」

「「「はっ!ありがとうございます!」」」

 合格通知も終わったところで俺はバインダーを机の上に置く。
 そして先程の木箱からバッチを取り出してまず一つ自分の襟に付ける。
 うん、なかなかいい出来だ。

「ではXM3教導終了勲章を授与する。伊隅大尉」

「はっ」

 伊隅大尉から順番に名前をそれぞれ呼び、一歩前に出させて襟に付けてやる。
 バッジのデザインは銀色の∞の形に捻れたリング、メビウスの輪だ。勿論俺の好みだ。すまない。


 全員に付け終わり、俺はこのバッジの特性とXM3教導システムに付いての話を始める。
 尤も伊隅大尉と神宮司軍曹については、事前に話し合っているので知っている話だろうけど。

「バッジの裏にはナンバーが刻印されている。そのバッチを授与された者はXM3マスターとして半永久的に横浜基地のデータベースに登録され、また他の衛士にXM3を教導するに足りる技能を持つ事を証明する物だ」

 俺の言葉に茜少尉の顔が驚きに染まる。
 まさか他人の教導資格まで得るとは思っても居なかった様だ。
 もちろん明日からのA-01に対する教導を自分がするなんて想像も出来ていないだろう。
 実に楽しみだ。フハハハハハハハ。←外道

「メビウス02、神宮司軍曹」

「はっ」

「おめでとう。世界で2番目にXM3をマスターしたのは君だ。銀のリングの輝きに負けないようにせよ」

「はっ、ありがとうございます!」

 勿論メビウス01は俺だ。
 後で不知火の肩にもこのバッジと同じペイントをして貰おう。ダメって言われても絶対やってやる。
 つっても俺の戦術機ってあんの?なんか今日は朝いきなりトレーラーに不知火あったけど…まぁアレなんだろうな多分。

「メビウス03、伊隅大尉」

「はっ」

「おめでとう。これからも忙しくなるが…よろしく頼む」

「はっ、ありがとうございます!」

「メビウス05、涼宮少尉」

「はっ」

「おめでとう。すまんが4番は先約があってな。だが1桁ナンバー保持者は後にも先にもこの世に9人しか居ない。その事を胸に刻んで置け」

 月詠中尉が居ないのは残念だったが、居ないものはしょうがない。
 殆ど儀式みたいな物だし、テストなんてしなくてもあの人はもうほとんどXM3の基本概念は習得してるから明日朝イチで帰ってきた所で"卒業おめでとう"って言えばオッケーだろう。


「はっ」

「銀のリングの数に負けないようにな」

「はっ、ありがとうございま…す?え?」

 俺の言葉に違和感を覚えて胸元を確認する涼宮少尉。
 だがそんな涼宮少尉を無視して俺は"偉い人モード"を終了する。

「期間も短かったのに…よくやってくれました。明日からもよろしくおねがいします」

「うむ」「解ったわ、白銀」

「え?…あれ?私のだけデザインが違う?」

「何?…本当だ」

 実にわざとらしく伊隅大尉が驚くが、茜少尉のだけデザインが微妙に違うのだ。
 違うというか基本は同じなのだが、同じ形のリングが少しズレて2つ重なって並んで2重になっている。


「あぁ、それは基本行程をマスターしたのと、ついでに連殺機能を開放された証だ。俺のもそうだろ?」

「え?私だけでいいんですか?」

 茜少尉が驚くのも無理は無いが、そもそもこの機能の訓練を他の人は一切行っていないので授与しようがないのだ。

「他機体制御での救援技能があればいいんだよ。その点を考えると茜少尉の方が現状では俺よりスキルが高い事になる。攻性の使い方は副物的な物だから後から研究してくれ。機体とかの反動があるから出来れば事前に俺に相談するように」

「は…はぁ」

「やるじゃないか茜、これはもうヴァルキリーズの中隊長の座を貴様に譲るしか無いな」

「か、カンベンしてください伊隅大尉~」

「はっはっはっは、解っているさ。じゃあ祝賀会と行こう」

 俺達は胸に付けたバッジを誇らしげにPXに向かう。
 この2人はもう随分おばちゃんの料理を食べていないようだし、もうこの時間は207の連中はPXに居ない筈…あ

「ちょ!ストップ!ストップ!」

「どうしたの?白銀」

「いや…もしかしたらアイツら…今日の歩哨の夜食作ってるかも」

「あーそれは会っちゃまずいわね」

「夜食?」

「会っちゃまずいアイツらって…まさか榊達の事?」

「うんまぁ…そうなんだよ」

 とりあえず俺が一足先にPXに向かうと、ちょうど千鶴と壬姫が出てくる所だった。危ねぇ危ねぇ。

「あれ?白銀仕事は終わったの?」

「あぁいやすまん。まだなんだ。んでこれからここでコーヒー飲みながらちょっとシメの話し合いがあるんだが…ちょっと機密事項も有ってさ」

「丁度いいわ。こっちも終わったし。私達は近づかなければいいのね?」

「あぁ、そうして貰えると助かる。終わる時間は変らないからさ」


 流石千鶴だ。これが慧と美琴だったらさぞ苦労しただろう。


「タケルさん、頑張って下さいね~」

「あぁ、まかせろ」

 何とか違和感なく2人を含め207をPXから完全排除する事に成功し、3人を呼ぶ。
 といっても夕食は皆済ませてあるので、おばちゃんにおかずだけ数品作ってもらい皆でつつく事にした。
 それと茜少尉が話しを聞きたそうだったので、現状の207についての話も少ししてやる。

「えー!?白銀って207に所属してるの?」

「実はな。まぁ何とかチームワークもまとまる様になってきてさ。次の演習は合格すると思うぜ」

「そーなんだ。じゃあさ、さっき言ってた夜食って言うのは?」

「あーそれはな、カクカクシカジカってなワケよ」

「え?じゃあ白銀あの娘達と同じ部屋で寝てんの?」

「まぁ俺は一番端っこの寝袋だけどな。ってそんな顔すんなよ。全員揃ってんだから間違いなんて起きる筈ねーだろ」

「ホントー?」

「その辺にしてあげて下さい涼宮少尉」


 疑問と好奇で楽しそうに俺をいじめる茜少尉にまりも先生が助け舟を出してくれる。
 ありがとう…天使だ、君は。
 あれ?前にもこんなセリフ考えた様な…
 俺ってボキャブラリー少ないのかね。


「っちぇー、神宮司軍曹に感謝しなさいよね。白銀」


 いい感じで和んできたが俺はそろそろ戻って皆と合流せんとならん。
 酒も今日は出してないし明日もあるので程々にと伝え、俺はPXを出たのだった。



----白銀自室前廊下----

「お、一人って事は…今日は美琴がエレメンツか?」

「そうだよー。今日は僕がローテ決め係りなんだー」


 突っ立ってるのもアレなのでドカッとドアの前に座ってしまう事にした。
 正直俺も今日は少々お疲れモードだ。
 座った俺を見て美琴もストンとその場に座ると、足元にある袋をガサガサと開け始めた。

「ナニソレ?」

「何って…ロープだよ?タケルはヘビに見えた?」

「いやロープにしか見えないな」

「今日はタケルが居なかったでしょ?みんなでロープの使い方とかトラップの種類の講習をしてたんだよー」


 という事はつまり、居なかった俺にロープの結び方でもせめて教えようと美琴は俺と組んでくれたらしい。
 気付かなかったが原作よりしっかりしている…というかやる事はちゃんとやってるって感じだ。
 普段の会話の時は相変わらずだけど、行動に移すようになった。


「しっかり者になったモンだなぁ…お兄さんは嬉しいよ」

「ははは、嫌だなぁタケル。タケルの妹だったら同じ部隊に配属されないかも知れないじゃない」

「確かに、そいつは困るな」

「あ、そこはそっちに潜らせて…そうそう」


 ロープを二人でいじりながら、夜は更けていくのだった。







----時間巻き戻って香月博士の部屋----

 ったく、一時はどうなる事かと思ったけど。最終的には最良の未来が選べたって事でいいのかしらね。
 "約束された星の破壊"が入手出来たのは嬉しい誤算だったわ。
 私も余裕があったからアレコレ資料をひっくり返せたんだけど。
 アイツも交渉術が無いと思ったら中々どうして…

プシュッ―――

「おかえりなさい、博士」

「あら社、ただいま」


 この子も衛士になるだなんて言い出しちゃうし、ホント世の中何が起きるかわからない…



 ……ん?


「その手に持ってる資料は何かしら?私の記憶が正しければ00ユニットの昔の資料の筈だけど」

「その…博士にお願いがあって来ました」


 そう言って社は1枚のディスクを私に渡してきた。
 とりあえず開けてみない事には話が始まりそうにないのでドライヴに突っ込んでファイルを開いてみる。


「……………」

「……………」

「ねぇ社」

「はい」

「本気で言ってるの?」

「本気です」


 社が持ってきたディスクの内容には尋常ではない、とても正気の沙汰とは思えない内容が記されている。
 こんな事私が許すとでも思っているのだろうか?


「これ…私が許可だすと思ってるの?」

「思っていません」

「じゃあ何で…って社!」

 私が難色を示した瞬間、あろう事か社は懐から銃を引き抜き…クイと上げた自分の顎の下に突きつけたのだ。

「でもそれが叶わないなら…私は死にます」

「何言ってんのよ!馬鹿な真似は今すぐ止めなさい!私がそういう冗談嫌いって知らないのかしら?」

「意味が無いんです!」

「アナタ…」


 本気の目だ。
 この娘は…今私がノーといえば確実に引き金を引くだろう。
 なによりその目は、私がつい数日前まで良く見ていた目にそっくりだ。
 鏡に映った自分の…


「今じゃなきゃダメなんです!今じゃなきゃ…ダメなんですっ…」


 そう言ってボロボロと涙を流しながら社はカタカタと震え始めた。
 既に引き金に指は掛かっている…これでは何時銃口から弾丸が飛び出してしまうか解らない。


「解ったわ、話は聞くからせめて銃だけでも…」

「ダメです!」


 社を見る私と私を睨む社とで視線が絡む。
 私にやれですって?こんな事を!こんな…こんな事を!


「…彼が知ったら悲しむわよ」

「……グスッ……ヒック…構いま…せん…」

「アンタがこんな事しなくてもBETAはどうにか成るのよ?!今更彼をさらに苦しめなくてもいいでしょう?!」

「…私が…そう…したいん…です。私がやらなきゃダメなんです」

「………死ぬかもしれないわよ。もちろん成功しても」

「いいんです」


 揺さぶりを掛けても、白銀を持ち出してもダメとなると…私の言葉ではもうひっくり返せないだろう。
 クソッタレで気に食わないが、私にも責任はある。
 やるしか…ないか。


「わかったわ。やって上げる。死んでも後悔するんじゃないわよ」

「…グスッ…ありがとう…ございます」


 社はそう言って銃を下ろすと、深々と頭を下げた。
 これで私は、地獄ですら門前払いを受けるだろう。


「やるなら早いほうが良いわね…今日から準備に掛かりなさい。自分で言った以上、準備は自分でやるのよ」

「…はい…はいっ…ありがとうございます」


 小走りで部屋を出て行く社を見送り、私はモニターに視線を移す。
 何処まで私は罪を重ねれば良いのだろうか。
 私は今まで、最短で、最良の犠牲で済ますために自分で罪を重ねて来た。
 自分で被る泥なら喜んで被ろう。
 けどこれは…本来必要でないものだ。

 それとも…これが私に課せられた罰のひとつなのだろうか?


 社を探して訪ねてきた白銀を追い返し、私は再び思考の海へ沈む。


「副指令、入ります」

 伊隅とまりもが"現状の白銀の状態"の話を聞きに来た。
 白銀と行った交渉について、こっそり録音していた内容を元に評価を含めて話す。
 少し前までは重要な事だった筈なのに…心は完全に上の空。
 視線はモニターに釘付けだ。


"00ユニットの生体試験 第6器官強化及び戦術機へのデータリンク接続の手術についての計画書"


 私は、こんな世界を改めて恨んだ。

----------

反省文

もうね、今回キビシイ感想を下さった方もいらっしゃいましたが。
おっしゃるとおりです。なんかもうグダグダでした。

一番の原因は今まではギャグパートとシリアスパートを一応分けてたんですが、今回悠陽をはっちゃけさせちゃったせいでごちゃまぜになっちゃったんですね。
それでなんか中途半端というかなってないというか、とにかくグダっちゃいました。
ストーリーそのものもかなりガタガタというか、なんかすごい残念になっちゃったのを自覚してます。すみませんでした。
ちょっと連続更新目指して指に任せすぎて推敲もあんまりしてなかったのもダメですね。

沙霧→狭霧
斯衛→近衛

のミスなんて物語序盤じゃちゃんと書けてるのにここにきて2話まるごと間違ってるとかもうね…
すみませんでした。



このところ仕事が暇だったんで加速しましたが明日から忙しくなるのでまたちょっとペース落ちます。
すみません。



[4170] OversSystem 16<破壊者たちの黄昏>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2009/06/19 17:06
10月29日(月)[八日目]

----早朝 横浜基物資搬入門前----

 世界は動いている。
 全ては俺を引き金に、俺を取り巻くこの世界は未だ嘗て無い程に荒々しく加速している。
 俺がこの基地に訪れてから今日で2週目の1日目。
 俺個人の器不足を補うために何もかも前倒しにして、なるべく多くの保険を掛け続けて来た。
 全てはまず俺が生き残る為だ。
 死んだら何も意味が無い。

 かと言って仲間を死なせてしまっては、俺はきっと元の世界には戻れないだろう。
 それが誰から見ても間違っていなかった判断と状況に於いて発生した事象であったとしても、ループは許してくれない。

 そうすれば俺はどうなる?
 シロガネオリジナルに組み込まれるのだろうか?
 それとも確立時空に分解されて散るのだろうか?
 それともただ消えて居なくなるのだろうか?

 どう転んでも俺という個性はその場で死んでしまう。
 誰一人殺さず、かつ俺も殺されず…
 出来ること、しこめる種、改良点で思いつくのは全てやって来た。
 そしてコレからも続いていく。

 けどそれだけで良いのだろうか?
 そもそも鑑純夏はどうするんだ?
 アイツのリーディングの前に…いや仮にリーディングを抑えた所で…俺は彼女を失望させてしまうに違いない。
 万が一彼女が00ユニットとして稼動しなかった場合…それを考えなければ。
 しかし00ユニット素体というのも恐らくは…頼んですぐ出来る物じゃないだろう。
 内臓や人口筋肉は流用が聞くとしても…メインフレームや骨格、眼球等のパーツは新規作成になってしまう。

 いや、この際"覚悟"だけしてしまえば人型でなくとも…

 …等と少々危険な発想を弄びながら地平線を眺めていると、ついに俺の視界にトラックの群れが映った。


「……多いな」


 群れ、という表現は間違っているかもしれない。例えるならそう…アリの行列だ。
 横浜基地から帝都まで続く、いや実際はそんな事はありえないのだけど、しかしそんなアリの行列を連想させるような光景だった。

 やがてその列は視界だけでなく振動や音でもその存在感を明白にし、横浜基地物資搬入門入り口に停車する。
 列を丸ごと止めるなんてマネは当然せず、指示もしてないのに均等に2次元的に停車する所は流石帝国軍と言った所か。
 それにしてもデカイ。戦術機を搭載できる程の…というか戦術機用のトレーラーも実際にある。
 それ以外にも建築用か何かと思われるよくわからない物まで、帝都中の大型トレーラーを集めたようだ。

 香月博士と月詠中尉が言うにはこれが全て、"約束された星の破壊"らしい。
 けど俺が見た限り、こんなのが横浜基地に必要というのは少しありえないと思う。
 何故ならばトラックには幌やカバーは付いておらず、その荷台の中身はつまり丸見えで…

 そしてそれは須(すべか)らく無駄に巨大な鉄骨に過ぎなかったからだ。

 鉄骨ひとつ取っても幅3mから太いものでさらにその上。
 鉄板の厚さも20cmから一番太い物で50cmはあるだろう。
 それが"L字"や"H字"になって荷台に鎮座しているのだ。
 それなりの施設で保管されていたらしく、まっ茶色という程では無いが、所々錆びている。
 まぁこんな鉄の塊の表面が1mm錆びた位なら殆ど影響は無いんだろうけど…
 まさか横浜基地を要塞化するつもりなんだろうか?
 確かにこのサイズなら突撃級の一撃にも耐えられるかもしれないが、海のように数で攻める奴らに果たしてどれだけ耐えられるのか…


「……で、これ一体何なんです?月詠中尉」

「いや…私も見た目以上の事は知らんのだ。それこそ香月博士に尋ねるのが筋という物だろう」

「聞いたんですけどねー。[アンタも知らないことあるなら完成してから驚けば良いわ]だそうで」

「そうか…らしいと言えばらしいが…うむ、この図面の通り頼む」


 トラックから降りてきた月詠中尉も内容を全く知らないらしい。
 守衛に書類のサインを貰い、搬入指示だけ出した所で二人で基地に入る。

「とりあえず行き成りですがシミュレータルームに。他だとオチオチ話もできませんしね」

「了解した…む?貴様何時の間に大尉になった?」

「あー、えーと…昨日朝横浜基地を出る寸前ですね」

「ふん…おめでとうと言って置こう。いや、おめでとうございます大尉。の方がよいか?」

「いつも通りで構いませんよ。所属軍も違いますし」

「そう言うと思っていたよ、白銀大尉"殿"」

「そう苛めないでくださいよ…」


 シミュレータルームに入り、決まっている事から片付けようと俺は用意してあった箱からXM3教導終了勲章を出し、月詠中尉に手渡す。
 別に何も悪いことはしていない筈なんだが、何故か月詠中尉は苦い顔でこちらをにらめ付けて来る。俺なんかした?


「この勲章授与には…テストが要るのではなかったのか?」

「いやまぁ他の人はそうですけど…"メンバー"には必要ないでしょう。あんだけ散々シミュレータで…って中尉?」

「強化服に着替えてくる、貴様も着替えろ。10分後にここに再集合だ」

「へ?」

「駆け足!」


 事情は不明だが、どうやらテストを受けたいらしい。
 合格つってんのに…斯衛はやっぱ基本頭固いのか?いや当たり前か。
 あの人的には部下3人もいるしなぁ…

 一人だったのでせっかくだからと昨日と同じメニューに加えレベルを落としたヴォールクの入り口で対BETA戦闘もやってもらう。
 対BETA戦闘も俺は参加し、メモを忘れない。
 合計一時間後に俺達は管制室に戻ってきた。


「えーっと…評価に入ります」

「待て」

「はい?」

「今後の自分の為でもある、なるべく評価は厳しく頼む。口調も上官口調でな」


 辛口って言うと昨日やった感じでいいのか?
 上官口調と言われたのでとりあえず背筋を伸ばし直して咳払いをひとつ行い、手元のメモを元に厳しく行く事にした。


「了解、では評価に入る」

「はっ」

「接近、射撃技能共に非常に優秀である点は間違い無い」

「はっ」

「しかしそれは対人、それも上級者に対する物に限る。
 以前から思っていたが斯衛は対人訓練や技量ばかりを重要視しすぎている。
 人類とBETA相手との戦闘の切り替えをハッキリしろ。死ぬぞ。
 特に対BETAでは相手を完全に殺す事に執着しすぎている。
 歩けない程度、もしくは攻撃できない程度に痛めつければいい。
 弾薬なんざすぐ底を付くから、むしろそれでも足りない位だ。
 倒さなきゃいけない相手、足止めする相手、無視する相手の優先順位をハッキリつけろ。
 でなければ自らの無能は、部下の死となって自身に帰ってくるだろう。

 以上の点を考慮した結果、3次元機動、3概念共に十分な域に達していると判断した。
 よって斯衛軍月詠中尉に対し、XM3教導終了勲章及びメビウス04のコードネームの授与を行う物とする」

「はっ!ありがとうございます!」


 流石に俺の手で勲章を着けてやるのも憚られたので、手渡しで渡すと、月詠中尉はすぐさま自分で装着した。
 ラッキースケベ?なにそれおいしいの?


「で、どうでした?XM3の方は。いくらか印象がマシになってるといいんですが…」


 堅苦しいのはもうお仕舞いと言わんばかりに口調を元に戻し、俺は帝都に一晩留まった月詠中尉の首尾を尋ねる。
 結果的に昨日はイロイロオマケをGETしてしまったが、俺の中で今一番の重要所はXM3の導入なのだ。


「結論としては…何も準備無しで導入するよりは幾分か楽になったと考えていいだろう。貴様が紅蓮閣下に土を付けた点もだが、私が開発に関わったというのは大きいと思う。あの後かなりの質問攻めにあってな…後半の演習で我々が撃破した連中だったが…彼らの中には私と面識のあった者も居たようだ」

「…となると紫の武御雷の使用も」

「なんとか理由を付けられるかもしれん。元より殿下の御意向であらせられる故誰も反対は出来ないが…武御雷へのXM3導入、そして紫色(ししょく)の武御雷への導入テストと銘打てば…貴様の計画通りになるのだろう?」

「ま、そんな所ですね」

 手に持った記憶媒体を揺らしながら語る月詠中尉に俺はうなずいて答える。
 アレは多分武御雷のシミュレータデータだろう。

 帝都に行くのは俺一人ではなく、出来れば香月博士と月詠中尉も一緒に。
 この考えは間違ってはいないようだった。
 さっきのトレーラーの列を見るに恐らく巌谷中佐にも何らかの形…もしかしたら直接殿下からの接触があったのかもしれない。


「じゃあ強化装備も着ちゃいましたし…メンバーが来るのを待って仕上げしましょっか。武御雷は今日は間に合わないから…」

「仕上げ?」


 今日は午後からA-01への初お披露目があるのだが、その前にちょっと思いついた事をやってみようと思った。
 出来れば…というか完勝してもらうのは当たり前なんだけど、少しでも圧倒的な差で勝ちたいので、その布石みたいなもんだ。

(殿下の記憶に付いて問い正したかったが…夜の"全員"で話す場の方がよいか…)




-30分後-

「で、いつも通りの訓練に見えるんだけど」

「やだなぁ神宮司軍曹、これから始めるんじゃないですか」


 神宮司軍曹、伊隅大尉、茜少尉がそろった所でこの前やった4対1のシミュレータを起動させる。
 ただ今回の何が違うのかと言うと…
 3次元機動と高速戦闘を本気でやるのだ。
 100%中の100%ってヤツである。
 昨日紅蓮大将とドンパチしてる時に閃いた連殺の「連続短期加速」と「白銀防衛術」を組み合わせた本気で相手になる。
 今までの戦力差なら、俺の一人勝ちで終わるだろう。
 というか勝つ。

「早い話5kgの重しを付けた模造刀で素振りをして、慣れた所で竹刀を振り回すと考えて下さい」

「やれやれ…ヴァルキリーズが貴様にとっては竹刀か…」

「というか既存OSのヴァルキリーズくらい鎧袖一触で倒して貰わないとこっちとしても正直困るんですけどね…メビウス01、出る!!」


 この後はこの5人でヴァルキリーズ全部と白3人の相手をするのだが、俺だけ際立っても意味が無い。
 むしろ俺は若干手を抜くくらいで、"同じようなバケモノが5人居る"と思わせたほうがXM3も受け入れやすいという物だ。


「はっや!ロックオン追いつかない!」


 物凄い勢いで推進剤が目減りしていくがそこはシミュレータ。
 別にハイヴを攻略するわけでも無し。さっさと相手を全滅させてしまえばいいのだ。

 そういえば連殺と相性の良い機体は…つまり俺が一番生存率を上げられる機体は本当は武御雷なのだろうかとふと疑問に思う。
 高機動、高負荷の二面性を持つこのシステムは確かに接近戦に強いフレームを持つ武御雷に向いているかもしれない。
 しかし連殺で接近戦を行う訳ではない。
 確かに長刀も使うが、それはあくまで一撃離脱を前提としたものであり、剣術合戦のような事は出来ないだろう。
 となると個人的にはやはりバランスの取れた不知火を押したい所であるが、飛び回ってでの砲打撃能力を生かしての3次元機動を考えるとラプターも捨てがたい。
 いっそ接近戦を諦めてしまえば…そもそも通常のBETA相手に連殺を攻性に使う事すら無いと思う。
 機体に安易に負荷を掛けたくないし、対戦術機かどうしてもBETAの海をゴリ押しで突破しなければならない時くらいだ。
 殲滅戦…新潟防衛や凄乃皇直衛以外はBETAの海も基本的には飛び越えてしまえばいいのだが…
 となると人類同士の戦争が出来る程度にBETAを倒さない限り、攻性の連殺にはデモンストレーション以上の意味は無いのだろうか?
 まぁ副次的な物ではあるけど建前上メインは僚機の緊急時の遠隔操作なので、今の所さしたる問題は…


「…ッハ……流石に疲れるな」


 考え事をしている内に気付けば随分自分の息が上っている事に気付く。
 恐らく…というか間違いなく長時間の攻性連殺の断続使用が原因だろう。
 リミッターをパッツンパッツンと切りながら無茶な機動やキャンセルを行っているため、この体でも経験した事の無いGが俺を襲う。
 攻性に使うにはやはり人間のパイロット向けのシステムでは無い様だ。
 今後の教導では攻性に使う場合を限定するよう徹底しよう。
 コレじゃパイロットが気絶して返って死人が増えそうな気がする。
 それとさっきから妙に…

「…ッツ!…ッテーな畜生」

 ズキンズキンと頭が痛み出した。
 シミュレータに乗って頭痛がするのは二回目か?
 確か前回も4対1で白銀防衛術を使っていたと思うんだけど…

ズキン――――

「クッソ」

 明らかに前回よりも痛みが増している。
 ダメだ、本格的に後で医者に相談しよう。
 幸いな事に後10分でこの「ハイスピード慣れ演習」も終わる事だし、とりあえずそれまで持てば良い。
 それにしてもどうにも落ち着かない。嫌なフラグの予感がするなぁ…


-HAYASE-

「嘘…」

 油断は無かった。

 正体不明の相手に対する恐れも、伊隅大尉の不在も問題無いレベルに収まる見通しだった。

 数もこちらが多く、新任達は初の任務らしい任務に意気込み、先任はそんな新任のサポートをすべく心に余裕を持ち、私達に死角は無かった筈だった。



 ――――ただ、気付いたら全滅していた。

 ロックは掛けた次の瞬間外され、ありえない機動にチームは付いていけず、対応策を思い浮かぶ前に部隊は全滅してしまった。
 管制ユニット内を見渡す。
 網膜に投影されるデータの中では、いつの間にか斯衛の警護小隊も全滅していた。
 自分達より先か後かは…差して問題無いだろう。

 そんな事は些細な事なのだ。

 だって私達は全員、たったの180秒で全滅したのだから。


「シミュレータを終了します。各自筐体の外で整列して下さい」


 ブツンと網膜投影が終了するまで、私はただ呆然としていた事にようやく気付く。
 こんな様を伊隅大尉が見たら…考えたくも無い。

 ハッチを開けて筐体を飛び出し、A-01のメンバーを整列させる。
 同時に警備小隊の3名も私達の横に並んだ。

 なんとも違和感の激しい光景である。
 ピアティフ中尉から紹介された…というかピアティフ中尉が特殊部隊である我々を紹介した時は心底驚いたけどシミュレータに武御雷が出現した時はもっと驚いた。
 アレは警備小隊専用の筐体にしかインストールされていない筈だ。
 しかし今日使っているのは私達特殊部隊の筐体。
 ……後で使わせて貰えないかしら?

ガチャンッ

「って………えーーーー!!!!」


 現実逃避をし掛けていた私を筐体の開く音が現実に呼び戻す。
 恐らく私達が部屋に入ってきた時点で既に搭乗していたのであろう"対戦相手"は…伊隅大尉と神宮司軍曹、それに警護小隊の赤に……茜だったのだ。
 つまり先程の戦闘の敵側には茜が搭乗していたと言う事だろうか。
 いやいやそれ以前に幾ら伊隅大尉と神宮司軍曹が強いとは言えさっきのは幾らなんでも異常すぎる。
 一体…


「私が不在とは言え…ヴァルキリーズが3分か…」


 伊隅大尉の口から出た言葉に私達は全員震え上がる。
 あの敵の強さは幾らなんでも反則過ぎるけど、こちらも抵抗らしい抵抗を何一つ出来なかった事もまた事実。
 全員腕立て300回と一週間メインおかず抜きは覚悟しなければならないかもしれない。
 目を逸らせば斯衛の3人も怯えの色を隠せていないようだ。
 けど私達のそんな焦りとは裏腹に伊隅大尉は酷く上機嫌な口調で語り始めた。


「待て待てそう怯えるな、顔に出ているぞ。貴様らの言いたい事は理解しているつもりだ。我々も理不尽な戦力差だという事は解っている」


 理不尽な戦力差とは随分な皮肉だった。
 2機を除くヴァルキリーズの総力戦と武御雷3機でたった5機の不知火を相手にした時点で相当理不尽だが、たった5機でこちらを蹂躙した事はもっと理不尽だ。


「解説は…そうだな。開発者本人に聞いた方が早いだろう。涼宮、管制室から出て来い。―――――白銀」

 呼ばれた遥が私の隣に来たその時、筐体のハッチが開く音がした。
 そうだ、今出て着たのは4人。
 対戦相手は5機、1人足りなかった。


 開発者って?

 何が―――――


 ガチャッ

「なっ…えっ?…って!」


 その男―――
 そう、男だ。
 筐体から出てきた男を見て私の理性は一瞬で佐渡島のハイヴ辺りまでフッ飛んで行ってしまった。

 訓練兵――――いや、そんな事より。



 強化服すら着てないってどういう事よ?





-Shirogane-

「解説は…そうだな。開発者本人に聞いた方が早いだろう。涼宮、管制室から出て来い。―――――白銀」

プシッ

 筐体の気密ハッチが開く音がして数瞬後、俺は筐体からの第一歩を踏み出す。

(…フラつきも無い…か。いよいよもってコレは…)

 強化服無しでの戦闘。
 矢張り思っていた程の戦闘力の低下は無かった。
 いや勿論強化服と機体との電気的繋がりがなくなる為不都合はいくつも発生するが、致命的と言える物はなかった。
 そもそも重力加速度や慣性を打ち消す能力等無いのだから、体に掛かるGは最終的には減らす事はできないのだ。
 確かにそれでも一般衛士にとっては大きな違いだろうが、俺の"連殺"はどの道筐体ではフィールドバッグが再現しきれない。

 強化服をあえて着なかったのは確かにデモンストレーションの意味もあったが、俺にはそれよりも重要な、可及的速やかに確認しなければならない事があった。
 そしてそれはどうやら悪い方向で的中してしまったらしい。
 どうにか出来る物では恐らく無いが、後で博士に相談してみるべきか…

 コツ、コツとゆっくりとヴァルキリーズの横を抜け、前に立つ4人の中央で止まり、振り向く。
 目の前に並ぶのは"かのヴァルキリーズ"。そして警護小隊の3人。
 可憐で、哀れな、本来ならばまだ恋や友情という温もりに包まれ、その心地よさを甘受していて良いはずの少女達。
 そして、煉獄への切符を渡される事が確約されている少女達。
 出来れば、出来る事ならばその切符は…片道切符でなく往復切符を渡してやりたい。
 いや、それも全ては…俺次第という事か…

 目を閉じそんな思考を数瞬弄んだ後、俺はまた目を開く。


「白銀武大尉だ」


 訓練兵の制服を着たまま大尉を名乗る俺に一瞬の同様が周囲に走るが、そこは特殊部隊の面々。
 ざわつくような事は起こらなかった。

「伊隅大尉、月詠中尉…紹介してもらっていいかな?」

「ではヴァルキリーズより、速瀬!」

「はっ速瀬 水月中尉であります!」


 ヴァルキリーズから警護小隊の順に、一人づつ紹介をしてもらう。
 俺は彼女達の名前と、声と、顔を頭に刻み付ける。
 一人も減らしてやるものかと、強く決意しながら。

 全員の名乗りが終わったところで、俺は速瀬中尉に尋ねた。


「速瀬中尉」

「は…はっ!」

「率直に答えてくれると助かる。先ほど君が相対した相手を君はどう評価する?」

「はっ、不知火にしては"あるまじき"挙動をした強敵でした。"実機でも同じ事が出来る"なら、自分が知る限り最強の相手でした」


 "実機でも同じ事が出来るなら"
 まぁ例えばシミュレータなんてデータに過ぎない訳だから、不知火の耐久力を5倍にしたり、噴射剤の残量を無限にしたりする事は当然出来ると言えば出来る。
 彼女はそれを疑っている、というよりも今まで自分達が使ってきた不知火を振り返りそれしかないという結論に辿り着いたんだろう。


「…警護小隊の面々も恐らくは同じ意見かな?」

「「「…………」」」


 彼女達は無言を肯定として返した。
 シミュレータ上のみとは言え、確かに"あの不知火"は武御雷よりも勝っていた。
 衛士の技量だけでは無い何か別のステータスが入っているとしか思えなかったのだろう。


「"できる"」


 だから俺は、キッパリと、解りやすく、他にどうとも捉えられない言葉で断言した。


「あの不知火が行った機動は全て実機でも行う事ができる。そして武御雷についても同様に強化する事ができる。……神宮司軍曹」

「はっ」


 俺の声に合わせて神宮司軍曹が部屋の明かりを落し、プロジェクターを起動する。
 壁に映るのは大空を背景に浮かぶ銀色に輝くメビウスの輪。


「エクセムスリー……ありとあらゆる戦術機の能力を底上げし、この地上からBETAを叩き出すため、ハイヴを攻略するために俺が開発した次世代OSだ」

「「「じ、次世代OSぅ?!」」」


 ずびしっ!っと親指て自分の顔を指しながら言った俺の言葉に警護小隊の3人が仰け反る。
 だがまだ驚くには早い。


「そして君達はこのOSが配備される最初の大隊(ファースト・バタリオン)に配属される事になった。地獄へようこそ!あぁ、もちろん殿下の許可を貰ったから君達もだ」


「「「な、なんですってー!」」」



-HAYASE-

「あはははははは!覚悟しなさいよ茜!……ってきゃぁ!」

 次世代OSXM3先行配備大隊 部隊名"メビウスリング"
 私たち伊隅ヴァルキリーズは纏めて1中隊扱い、警護小隊もとりあえず斯衛中隊という扱いで白銀大尉率いる大隊に所属する事になった。
 警護小隊に関しては斯衛中隊所属・警護小隊となるらしい。つまり将来的に斯衛の人間も増えるって事。
 その上近いうちに帝国中隊というまんまの中隊も立ち上げるらしい。誰が配属されるのかは知らないけど。

 "ハイヴ攻略"なんて素で口にした時は正直ウンザリした。
 「防御だけではなくもっと攻勢を」「BETAを一掃する」「この戦争に勝つ」
 口で言うだけなら誰でもできるし、常に強気で居なければならない指揮官は着任の挨拶でよくそんな事を口にするからだ。
 そんなワケで最初は"はいはいワロスワロス"と思った私だけれど…XM3の講習を受けて慣熟訓練を始めた瞬間、その思いは消し飛んだ。

 感覚的に短く表現するならなんて言えばいいだろうか…
 "軽くて早くてズバーンでドドドドーでグワシャーでおりゃー!"って感じだ。

 今までと同じ不知火なんてとても思えない。
 だから思い知らせてやろうと思った。

 今日一発目のシミュレータで私を撃墜してくれたのは茜だと態々伊隅大尉が教えてくれたのだ。
 そして私達(私、宗像、柏木)の慣熟訓練の相手が茜だって言うんだから、これはひとつ先輩の本気を見せねばなるまい。
 しかも3対1だって?ナメてくれんじゃない。後悔させてやるわよ!

 ………えぇ、そう思ってた時期が、私にもありました。


「あぁ、もう全然ダメですね速瀬中尉。突撃前衛交代した方がいいんじゃないですか?」

「うっさい!」

「いやー、でもホント強くなったよね茜は」

「い、いやーそれほどても…あはははは」


 …負けた。
 それも3対1で。


「まだ反応速度の向上しか活用できていないようなのでもっとキャンセルとかを「もっかいよ!もっかい!」ひぃっ」


 聞けば茜がXM3に触れてからまだ一週間経ってないらしい。
 それならば私もすぐに追い抜いてみせる…と意気込んでいたのだけれど…

「ああっ!また!」

 全く歯が立たなかった。
 後で聞いたけどあの新任の白銀大尉と伊隅大尉、神宮司軍曹に月詠中尉の4人にスパルタされたとか。
 羨ましく思う反面、それだけはカンベンとも思っちゃう。

 まぁ見てなさい、直ぐに追い抜いてみせるから。
 伊隅ヴァルキリーズの突撃前衛は並じゃないのよ!




-PX(京塚のおばちゃんが居る方)-


「まさか…あそこまでとはな…」

「ふぇえ…ビックリですよぅ」

「いくらなんでもアレは想定外」

「武御雷じゃないっていってもあの人たち…斯衛よね?っていうか茜達も居たのもビックリだけど」

「すごいよねー」

 御剣、珠瀬、彩峰、鎧衣、それに榊はPXで食事を取りながら、今日の午後イチのシミュレータを振り返っていた。


「新概念のOS、アレが…タケルの部隊が集めたデータの結晶だったのだな…」

「重いわよね…多分、私達が衛士になったら、配属先あそこよ」

「だろうね」


 彼女達とてダテに座学をしているワケではない。
 軍のしくみ、戦術の立て方(戦略についてはかなり割愛された)、戦って勝つ要素と手段。
 今まで見聞きしてきた経験、そして座学と戦況から考えられる戦術機の性能。

 あのOSは、その常識から間違いなく掛け離れている事だけは彼女達にも理解できた。

 だって"あの御剣冥夜の警護小隊"がボロ負けしたのだ。
 ここにいる全員、御剣の正体についてはアテが付いているので、その警護に優秀な人間が回ってくる事は解っていた。
 そしてそれが対人における警護だけではなく、戦術機も一流であろうという事があの"赤い服"が証明していた。

 それが鎧袖一触。

 白銀が言うには、あのOSは正式な訓練を受ければ誰であろうと現行のOSのトップクラスの衛士と肩を並べることが出来るらしい。
 しかも個人の才能がより色濃く伸びると。
 榊は御剣や彩峰の接近戦の才能はあのOSを使った瞬間、爆発的に延びるだろうと予想した。
 それはそれで間違いないのだが、戦場での死亡率の低下は部隊に延命を齎し、生き延びた者はその恩恵を受ける。
 つまり実践で今までもより長く生き、より長く学ぶのだ。
 榊の指揮能力も後々になれば開花するだろうし、珠瀬や鎧衣の才能も、何らかの形で開花するだろう。

 しかしそれはまだ先の話。


「絶対合格するわよ、私は白銀の言葉に乗るわ。ハイヴは…佐渡島ハイヴは私達で落す」


 力強く全員が頷いた。
 この日彼女達は注意力をフルに使って白銀の一挙一動とその発言を刻み込んだ。
 だから覚えていたのだ。
 エクセムスリー解説の前に、彼が言った言葉を。


『この地上からBETAを叩き出すため、ハイヴを攻略するために俺が開発した』


 彼がハイヴを攻略するために開発したなら、私達が使ってハイヴを攻略しよう。
 彼女達の中に揺ぎ無い目標が出来た瞬間だった。



-地下 ミーティングルーム-

 御剣の警護に行った月詠を除く、先のシミュレータに参加した全員が集まってPXからのデリバリーで立食をしていた。
 斯衛とヴァルキリーズには当初壁があったが、タケルの「今後斯衛も帝国軍も国連軍も増えるから今の内に慣れてくれ」との言葉に会話を作っていた。
 "これから増員する"という言葉が現実味を帯びていたからだ。
 XM3を一度体験すれば、あのOSの教導やらなんやらで今後人数が増える事も簡単に予想できた。
 共通の話題ならば困らない。何故ならお互い、戦術機乗りなのだから。


「武御雷のデータも貰えましたし、早ければ明日にはシミュレータに乗ると思いますよ。つってもまぁ最初の2日間くらいは動作確認とバグ取りがメインですけど」

「武御雷が?それなら明日から斯衛の真の実力を見せて差し上げます。今日の私達の戦果が実力だと思われるのは不本意ですから」

(いや…あんまデカい口叩かない方がいいんじゃないか)
(でも新OSの武御雷なら…ゴメンなさいやっぱムリでしょうね~)


「あぁ、期待してるよ。少尉」

 そう言ってタケルが出した握手に巴雪乃が答えようとした瞬間。
 くいっとタケルが腕を掴んで引いた。


「うわっと」


 よろけながらも何とか耐えた雪乃に対して、今度は横にグイッと引っ張る。


「ちょっと!何するんですか!白銀大尉」


 体格差から遊ばれているのかと思った雪乃を始めとした三人がタケルを睨むが、まるで動じずにタケルは切り返す。


「うん…柔軟で良く鍛えられてる、いい足腰だ。君らみたいな優秀なヤツはウチ大歓迎だから。んじゃまた」


 そう言って、あっけに取られている三人を尻目に他のメンバーにスタスタ歩いて行ってしまった。


「な…何なんだよ…あの人」

「まぁ、理解できないのも致し方無くはあるのだが」

「「「つ、月詠中尉!?」」」


 彼女達の後ろには、警護の任務から戻った盛大にため息をつく月詠が居た。
 新OS配備大隊への転属が発生したため、警護にフォローメンバーが追加されたのだ。
 といっても警護の任務自体は月詠の強い希望により継続とされたが。


「あの男はよく無駄にしか見えない行動や発言をするが…最終的に振り返ると最短距離を走り抜けているような男だ。全ての活動に何らかの意味がある、よく考えてみるんだな。もしかしたら貴様らの反応を見て性格を図っていたのかもしれん。時至らば、我等諸共にヤツの指揮下でハイヴに突入するのだから」

「我等の任務は…殿下に迫る危機を排除する事ではないのですか?」


 "ヤツの指揮下でハイヴに突入する"
 その言葉を二重に認められない雪乃は珍しく月詠中尉に異なる意見として尋ねた。
 タケルの指揮下に入る事も、斯衛の自分がハイヴ攻略に行くのも、まだ認めていない。
 もちろんハイヴに突入する事に臆した訳ではない。
 それは雪乃に取って"自分の仕事ではない"のだ。
 組織には役割というものがある。それに斯衛の白という誇りも当然持ち合わせているのだから。


「同じことをヤツの前で言って失望されるなよ。これはヤツの受け売りだが"国土の半分をBETAに制圧されてハイヴまで建設された滅亡まで秒読みの国"、それがこの国だそうだ。現実として今もう既に殿下にBETAの牙が向かっているんだ。帝都にBETAが攻め込むような事態になればもう何をしても手遅れだからな」

「それは…いえ、仰る通りです」

「貴様らにはヤツも期待しているようだ。明日から更に精進しろ。案外、その内佐渡島の反応炉と対面できるかもしれんぞ」

「「「はっ」」」


 この時はまさか本当に言葉通り佐渡島の反応炉と対面するとは夢にも思わない3人だった。
 ちなみにこの後で速瀬が「武御雷に乗りたい」と発言しその場で伊隅にブン殴られた上翌日のオカズを没収され事を記しておく。


 別の場所では、今度はタケルが速瀬、宗像、風間と会話をしていた。


「しかし白銀大尉…若いですね。もしかしたら私や祷子…あぁいえ、風間少尉よりも若いのでは?」

「えーと…あそこに居る人と…同じ年かなー…なんて」

「どれどれ…ってちょっと待ったぁ!どういう事よ!」


 タケルの視線の先を追った速瀬が吼える。
 視線の先に居たのは他でもない、茜だ。

「どうもこうも、こういう訳で」

 そう言ってタケルは自分の服装を指差す。
 白い制服、訓練兵の証だった。

「じゃあ何?私って訓練兵に負けたの?」

「ここ来る前にも特殊部隊に居たので素人って訳じゃないですが…多分その辺の衛士より出撃回数多いいですし」

「ううううぅ~」


 幾ら特殊部隊に居たとは言え、速瀬にとって白銀は年下である。
 しかも茜達と同世代である。
 突撃前衛の名に掛けて、はいそーですかとは引き下がれなかった。


「そう苛めないの、美冴さん。改めまして白銀大尉、風間祷子少尉です。よろしくおねがいします」

「よろしくお願いします、風間さん」

「訓練時との切り替えの激しさには驚かされるな。同じく宗像美冴中尉だ。改めてよろしく」

「まぁこういうタイプだと思って下さい。よろしくお願いします、宗像さん」

「美冴さん、ダメよ上官に対してその態度は」

「いいんだ祷子、本人がその方がいいって暗に言ってるんだから。それでそちらで唸っているのが戦闘に性的快楽を覚える三度の飯より血と暴力が好き、我等が変態突撃前衛の速瀬中尉です」

「むぅーなぁーかぁーたぁー!!」

「って涼宮少尉が「楽しそうだな?貴様ら」伊隅大尉?」


 宗像の対速瀬における伝家の宝刀、なんでもかんでも茜の所為にする作戦が発動する手前で、伊隅が乱入して来た。
 握り閉めた拳の振り下ろし先が見つからず速瀬は苦虫を噛み潰したような表情になる。


「速瀬、案外コイツとお前は気が合うかもしれんぞ?」

「な、何ですかやぶからぼうに?」

「何せコイツは寝てる時間とメシの時間と会議の時間意外はずっとシミュレータに乗り続けているような狂人だからな」

「あぁ、それはピッタリですね。速瀬中尉、おめでとうございます」

「何がピッタリなのよ!…って白銀大尉、今のは本当ですか?」

「えぇ…まぁ」

「じゃあ明日朝イチでシミュレータ、いいですよね?」

「構いませんけど」

「やったー!」


 突撃前衛っていうのは、血気盛んで、強くて、さらに強くなることを常に欲しているような人間にしか出来ない。
 そういう意味では間違いなく、速瀬には突撃前衛の才能があった。

「ふむ、それはいいな。じゃあ他はモニターしてダメ出し…いや戦術討論に回すか。お前が言い出したんだから耐久戦でいいな?速瀬」

「もっちろんですよ!何時間勝負にします?」

「は?」

「へ?」

「スマンが速瀬、貴様の言っている意味が私には理解できないんだが」

「いやだからシミュレータには何時間貰えるんですか?」

「耐久戦と言っただろう、根を上げるまでずっとだ」

「大尉、私も大尉の仰る意味がよくわからないんですが…」

「だから"ずっと"だと言ったろう。食事も休憩もトイレも無し。どちらかが根を上げるか気絶するまでだ」

「はぁ!?」

「少なくとも私と神宮司軍曹に月詠中尉、それに茜少尉はそれをこなしたぞ?」

「や、やってやろうじゃないですか!」


 この日から、XM3先行配備大隊に所属した衛士はその訓練の内容に地獄を見るのであった。



「それにしてもアイツがねぇ…ホント衛士は見た目じゃわかんないわ」

 茜達のグループに挨拶に行ったタケルの背中を見送りつつ、速瀬は思った事をそのまま零した。
 才能、その一言で片付けるには到底足りない能力を初日から叩き出した男だった。
 半日程度ではその違和感は到底拭えない。


「そうだろうな、私もアイツの戦闘記録を見るまでは正直半信半疑だった所がある」

「戦闘記録?……ってまさか」

「そうだ。貴様らにも見せた"あの戦闘記録"さ」

「アイツが?!」


 そう、私達の間で戦闘記録と言えば"あの戦闘記録"しかない。
 先日伊隅大尉が見せてくれた、素手の戦術機の戦闘記録映像だ。
 成る程、確かにあの新OSならあの動きも納得…


「しかもアレが旧OSでの戦果と言うのだから、完全に規格外の存在だよ。我々はヤツに追いつく前に、ヤツの足を引っ張らないようにしなければならん」

「……そりゃあ」


 私は手を額に当てて天井を仰いだ。
 バケモンだ。

 それが率直な、私の感想だった。




-地下 香月副指令執務室-

「改めて聞くけど、今までこんな事は無かったのよね?」

「えぇ、間違いありません。純夏を例外にした場合、俺意外に記憶の引継ぎが起きた事実は今までに存在しません」

「つまりもしかしたらそれが、アンタの言う今回の"特別"の原因かもしれないわね」


 世界移動による穴、もしくは因果導体白銀武という存在による記憶の流入。
 それならばいくつかの記憶をシーンごとにフラッシュバックする、そんな事もあるかもしれない。
 しかしあの時私が見た殿下は、明らかにハッキリ記憶を持っていた。
 佐渡島が消える瞬間を見たと断言した辺り、これは間違いないだろう。

「ひとまず今日はここまでね。武御雷も明日の午後にはバグ取りに入れるから」

「はっ、ありがとうございます」

「じゃ、解散」


 15分後、執務室には再び"メンバー"が再集結していた。
 ある人物を除いて。
 この会合にはその人物がどうしても邪魔だったのだ。
 その人物がメンバーに取って有益な事は既に承知している。
 ただそれとこれとは別。
 改めて、果たして信用できるのだろうか、どこまで信頼していいのだろうか。
 
 そう……


「昨日も一度流したけど、会談の音声ファイルよ」


 そう言って香月博士は先の悠陽や沙霧との会話ファイルを再生しはじめた。
 ある意味とんでもない外交ルール違反でもあるが、それを咎める人物は居ない。
 誰一人として声を上げぬ中、再生されたファイルはデータ通り空気を振動させ、ついにその長い再生過程を終了した。


「再生を聞いても…いや、信じるしかないのだが…コレが…あの男の口から出た言葉とは………」

("正しく狂った狂気"とでも呼べばいいのかしらね)


 会合から除外された人間は一人。
 部屋に居るのは女性だけ。

 そう、外されたのはタケルだった。


「結果だけ見ればそうね、こちらから出せるギリギリの情報だけを全て渡した上で必要な物は全て手に入れているわ。それも向こうから自発的に差し出すような形で」

「………交渉術にも優れているという事でしょうか?」

「…違うわね」


 何とか口を開いた伊隅の意見をバッサリと切る香月。
 そう、もっと違う何かだ。
 相手を伸ばした後で退路を全て断ち切り、その上で完膚なきまでに叩き潰した後に手を差し伸べる。
 こちらは痛くも無い出費で欲しい物を総取りし、相手からは感謝すらされる始末。
 都合の悪い事は話を逸らせて結局喋らない。
 脅迫とか洗脳、コレはそういう風に言われる何かだ。


「アイツは人を惹き付ける何かがあるとは思ってたわ。だってここに居る人間は全員、出会って数時間であんなに怪しいアイツを信用していて、気付けば信頼してるのよ?」


 しかしそれは、決して正しい力の流れではない。
 薄々誰もが感じていた事だが、今日ハッキリした。
 英雄たる英気では無い。

 それは狂気という毒だ。

 その狂気は相対した人間を容易く惹き付け、そして瞬く間に狂わせてしまう。
 人類の滅亡を笑いながら謳い、BETAの滅亡を泣きながら語るその根源。



「彼が人類の為にBETAを滅ぼそうとしている点については間違いないわ。私達を全員死なせまいとしている事も」


 けど気をつけなさい、と魔女は嗤う。


「彼にとってはそれだけが全て。他はどうでもいいの」


 それに何の問題があるのだろうか?
 話を聞いている人間の誰一人、その言葉の意味がわからなかった。

(アイツは"白銀だけど、白銀じゃない"。社の報告と社自身の変化………楽しませてくれるわ)


 魔女は心の底から震えていた。

 きっと"何か"が起きる。
 自分の想像も付かない"何か"が。



 夜は、更けて行く。










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オヒサシブリデス。ゼロ魔に浮気してました。すいません。
あと登場人物が一気に増えすぎてちょっと脳の処理限界を超えてしまいました。

訓練メニューは幾つかオリジナル(と少なくとも作者は思ってる)方式のを展開してきます。
なんでそんな訓練をするのかの説明とセットでイロイロやってくので、生暖かい目で見つめてやってください。

前回の鎧衣のでそろそろ皆さん気付いていると思いますが、
ローテーション決め係りになったヤツはみんな自分とタケルをセットでローテを組んでいるのだぁー。

築地のキャラが掴めない。
茜の話を書くとセットでくるキャラなのに…


佐渡島を攻略するのは何時の日になるのでしょうか…

SSブログ立てました。
http://shibamura.jugem.jp/?pid=1



[4170] OversSystem 17<暴力装置>
Name: shibamura◆be57115b ID:a82fe193
Date: 2009/06/25 21:23
OversSystem 17<暴力装置>

##「何かもう、何書いてるのか自分でも解らなくなってきた」 作者談##


10月30日(火)[九日目]

「これより戦術討論を開始する、各自白銀大尉の挙動をよく観察する事。これは言うまでも無い事だが、当面の我々の目標は彼に追いつく事だ」

 自分達の"完成形"を良く見て学べ、と話す伊隅にミーティングルームの全員がうなずく。
 流石に管制室には入りきらなかったのでミーティングルームのプロジェクターに投影する事にしたのだ。
 各自の真面目な表情を確認するように見回し、マイクに問いかける。

「準備はいいか?"10秒リセット"だ」

「了解っ」
「了ー解ー」

「よし、演習始め!」

「覚悟しなさいよっ!」


 命(タマ)とったらぁ!とヤクザ風に叫ばん勢いで突撃を掛ける速瀬を見て、伊隅はタケルが空気を読んで手加減する事を祈った。




「綺麗……」


 その言葉は誰の口からでた言葉だろうか。
 いや、実際に誰の口からでたのかは些細な問題なのかもしれない。

 何故なら全員、同じ感想を持っていたからだ。


「なんか教本の教材動画を見てるみたいですね"神宮司大尉"」

「もしかしたら……本気で流用する気なのかもしれないわ」

「まさか……いや、ヤツならやりそうな事ですね」


 未だ教官職が続いているためまりもの階級は"現在の教え子が衛士になり次第大尉に再昇進"という扱いとなったが、現時点でヴァルキリーズの全員が大尉と呼んでいた。
 その例外ではない伊隅に話しかけられたまりもはデータの流用に頭を巡らせる。
 自分としても特に何か考えがあった訳でもなく、ただ口からぽろっと出た言葉だったのだが、案外的を射てるかもしれない。

 こうして外から眺めているとその特異さがよくわかる。
 今までは自分と神宮司軍曹と月詠少尉、茜の先頭記録しか見てなかったからそれ以外の見知った人間との戦闘を見ると余計に目立つ。


「……はぁ」

「どうしたんですか?」

「何て言うのかな、正直に言うと……」

「安心した…ですか?」

「そうそう、それよ」

「気持ちは解りますけどね」


 まりもの想いに伊隅も同意せざるを得なかった。
 いくらタケルが強いと頭では解っていても規格外が過ぎるのだ。
 最近はまるで実は自分達の方が弱かったんじゃないだろうかという不安に駆られる程に。
 先日の帝都出張で旧OS機をフルボッコにして多少は自信を取り戻したがアレはあくまで旧OSに対してだ。
 同じXM3を使って勝てるのかと言われると、正直断言出来ない。

 それ故に目の前でボロ負けしている速瀬を見ていると杞憂だったのかと安心してしまうのだ。
 味方の劣勢を喜ぶのはどうとかいう道徳観念は、タケルとの圧倒的実力差という現実を前にして余りに無力だった。



「うぅ~~んがぁー!!当たれぇ!!」

「うろたえ弾などっ」


 両手に構えた突撃砲の火線を潜り抜けて一閃、恐らく長刀で主機が破壊された。
 アラームと共に力を失って地に膝を着けるシミュレータの管制ユニットの中で速瀬は気を吐く。


「ハッ、ハッ、ハッ、フゥ~~」


 このダメージが回復するまでのこの10秒間だけが自分に与えられた休憩時間だ。
 もうずっとそれだけでどれ位戦っただろう。
 何故か時間表示がoffにされているのでそれも解らない。
 少なくとも自分が思ってるより現実時間がかなり短かった場合、突撃前衛のメンツに関わるって事だ。
 たとえばフラフラになって管制ユニットを出てみたらまだ1時間も経っていないとか。
 そんな事になった日には宗像あたりに手ひどくからかわれる事間違いなしだろう。それは嫌だ。
 流石に1時間は無いと思うけど…二時間くらいだろうか?もう時間の感覚もよくわからなくなってきた。
 最前線での最高速戦闘機動を永遠と続けているのだ、初めての体験だったしもう脳がオーバーヒートしている。

ピッ

 ヴン…と力を取り戻した機体を立ち上がらせ―――る前に不安定な姿勢のまま噴射剤を拭かせてビルの影に横っ飛びする。


「そうそう同じ手に何度も!!」

 一瞬前まで自分が居た位置に突き刺さる射撃音を感じながら機体を立て直し周囲に気を散らせて気配を探る。
 今バカ正直にこのビルから飛び出したらどの角度から出ても狙撃される……流石にそれ位は学んだ。

 振動探知に感!

「上!!小さい?!」

 咄嗟に頭上に飛び出した物体に射撃を加える、命中。
 ――――が


「惜しい!」


 その影が一瞬やけに小さいと思った瞬間、ビルの上から顔を出す影。

(アッレは……突撃砲じゃない!!)

「目の良さが命取りだ!!」


 射撃を何とかキャンセルし照準を合わせ直した時には、地面に向かって噴射剤を吹かせて突撃を掛けるタケルの長刀が頭部ユニットの目と鼻の先まで迫っていた。






「頑張るなぁ速瀬中尉…」

「ふぉへっぐっんがっく……」

「多恵ホラ、飲み込んでからね」


 茜は自分の言葉に何かを返そうとして咽た少女にお茶を渡す。
 多恵と呼ばれた少女はサイドにまとめたポニーテールを揺らしながらガブガブと飲み干す。


「んぐっ、ありがとさ茜ちゃん。けんども本当に強かねー白銀大尉は」


 昼過ぎ、速瀬とタケルを除く全員は管制室でもくもくと携帯食料を食べていた。
 当初の予想より速瀬が粘ったからだ。
 今もスクリーンの中では激戦が……いや戦闘が繰り広げられている。
 訂正したのは他でもない、両機の機動が開始直後程の精彩を発していないからだ。
 開始から3時間、流石の速瀬も体力と闘争心には限界があるらしくその挙動は"普段の彼女程度"まで落ちている。(タケルは一応それに合わせてる)
 XM3に乗っているとはいえ昨日今日XM3を使った衛士がシミュレータで長時間あの戦闘レベルを維持出来るのは茜からすれば驚嘆に値する。
 講習自体は昨日済んでいるが…開始30分時点でのXM3に慣れて来た速瀬の戦闘能力は目を見張るものがあった。
 ぶっちゃけお互い全力が出せる状態でガチでやりあった場合、勝てるという自信はもう茜には無くなり掛けている。
 実際はまだ茜に幾らか分があるのだが、気迫では間違いなく負けていた。


「でもまだ今なら茜の方が強いと思うなー」
「確かに」
「同意かな……」

「貴女達まで…もう、晴子が余計な事言うから」

「まぁまぁ、大尉だって疲れて解説やめちゃったしさ。今食事許可も出てるんだから会話したって怒られないはずだよ?」

「……せめて小声でやりなさいよ」


 実際は許可が出たのは食事に対してなので私語はダメなのだが、柏木の言い方には反論しづらい雰囲気があったので茜も上手くつっこめない。
 柏木の横には腰まで届く緑色の髪を後ろに束ねた高原と、肩の辺りまでの長さの金髪を揺らす朝倉が二人で頷いている。

 タケルがこの二人の死亡フラグを折れるかどうかが昨日の夜大いに悩んだ事は言うまでもない。


「あれ?やめちゃったの?」

「ん?あれ、ホントだ」


 晴子の声に茜が顔を上げてみると、演習は終わったらしい。
 白銀大尉の根負け、という形で。

(でもアレ、この後の予定が詰まってなけりゃまだ当分やれるんだろうな……)

 終わった、と力なく呟く速瀬とは対照的にピンピンしてるタケルを見た全員が、そう思わずにはいられなかった。


--------------


「ではこれより、えーと何というか…君達の固定概念を破壊する」

「もっと他に言い方は無いのですか、白銀大尉」

「解りやすいでしょう?月詠中尉」


 午後、タケルは警護小隊のメンバーとヴォールクの中に居た。
 ヴァルキリーズは何チームかに別け、それぞれXM3の慣熟訓練を行っている。
 速瀬の顔がゾンビのようだった点は……タケルは見なかった事にした。
 顔色は悪いのに目だけが肉食獣のように爛々と殺気に溢れていて怖かったのは秘密だ。


「えー、コホン。君達が一流の戦術機乗りだって事は俺も理解している。それは斯衛だからと言う色眼鏡で見たからでは無く、昨日実際に君らの機動を見たからだ」


 自分が今から 相 当 に ア レ な事をするので、事前説明をしっかりする。
 説明って大切だよね。


「しかしそれがハイヴ内でも通用するか、となるとまた別の問題になる。ハイヴ突入専用教育はまだ確立されてないしな。せいぜいがヴォールクに挑んで部隊毎に得意な戦術を持っている程度だ」


 何しろ戦術機だけでハイヴを落としたことがないのだから、ハイヴ攻略も手探りになる。
 そもそもヴォールクにどれほどの意味があるのだろうか。
 ハイヴの攻略目処も立たない内は市街地や山岳地帯等の屋外のシミュレーションの方が有効な気もするが……
 いや、"いつかはハイヴを落すぞ"という気概も人類には必要だからかな?まぁいいか。


「我々が目指す物はG弾を使わない戦術機によるハイヴの陥落だ。その為の専用戦術はXM3と平行しいくつか考案されているが……その他に最も必要な物がある。何だか解るか?」

「「「…………」」」

 少尉3人は皆真面目に話しを聞いてくれている。
 ヴァルキリーズ相手も訓練とかの時はこんな雰囲気でやれりゃいいんだが……
 ま、やれるだろ。多分。


 ……やれるよね?




「その為にはそうだな……月詠中尉、ハイヴの内部と外部での戦闘に於ける、最大の相違点は何だろう?」

「ハッ……相違点は2つあると考えます。まず1つ目は一切の補給が出来ない事。2つ目は戦闘時間が長くなる事です」

「うん、そうだ。まずハイヴは補給ができない。いや、全くできないとは言わないが非常に困難である。先行して全滅した部隊の装備を拾う事程度しかできない。なんせ戦線を確保しようにも狭く長いハイヴだ、必ずBETAに襲われて分断される。そして俺達がハイヴ攻略専門部隊なのだから、先行してくれる部隊は存在しない。ここまでで聞きたい事は?」


 そこで区切って疑問が無いか確認すると、茶髪を左右にハネさせた雪乃が質問をして来た。


「BETAには補給線を破壊する、という知能があるという事ですか?」

「どうだろうな…BETAの知能については未知数だが、多分この場合はあまり関係ないと思う」

「関係ない、ですか?」

「さっきも話したがハイヴに補給線を張るとなると相当長く細くなる。BETAにどこか一箇所を襲撃されただけで、つまり補給線の破壊ではなく"侵入者の排除"というつもりで行動されればそこでその部隊は全滅してしまう。BETAが居る道を倒して進むわけでは……いや、説明方法が悪かったな」


 そこでタケルは一旦区切り、説明をやりなおした。


「まず戦術機に積める武装ではハイヴ内の万単位のBETAを全て倒す事ができない。よって突入部隊はむしろBETAを避けながら反応炉を目指すことになる。つまり突入部隊が通った道の周りには当然BETAは大量に残っている事になる。これは良いな?」

「はい」

「そして狭いハイヴ内では大部隊を展開できない。よって周りの枝から大量のBETAに襲撃された場合、補給線の維持という事で機動防御や攻勢機動、つまりハイヴ内のBETAが少ない場所を高速移動しながらBETAを削る方針が取れない。補給線が崩れるからな。この矛盾により結果的に補給線を構築することが出来ないんだ。これでいいか?」

「はっ、ありがとうございます!」

「うん、よし。次は戦闘時間が長い事だったな、こっちは今からする事に絡まないので後日別件できちんと対処する事にする」


 そこまで話してタケルは自分の機体を一人歩行で進ませる。
 ガシン、ガシンとその足音は薄暗いトンネルの中で妙に反響して響いた。


「つまり我々は非常に限られた資源でハイヴを進まなければならない。そこで必要なのは幅広い戦術の選択肢、応用力、そして咄嗟の危機に対応できる胆力と柔軟性だ。……ピアティフ中尉、ハイヴ攻略教導訓練"BETA壁"をロード」

『了解しました』


 俺の声にピアティフ中尉が反応してくれて10数秒後、俺の機体の200メートル先の通路が、"BETAで栓をされた"ような状態になる。

「あれは…」
「何ですの?」
「すごい…」


「屋外戦闘と違い、ハイヴでは突撃級が全て先頭に居るわけじゃない。となると足の遅いBETAが足場を完全に埋めていた場合、BETAがその上を乗り越えようとする、重量が掛かり速度が落ちる、また追いつかれて上に乗る、そうなった場合、通路が完全に塞がれる可能性もあるわけだ。月詠中尉」

「ハッ!」

「君ならこの自体に遭遇したら、どう対処する?ああ、機体のデータリンクにも知りうるデータが反映されているから参考にしてみるといい」


 月詠はしばらく考えた後、答える。


「この現象の性質上、上部のBETAが薄い事を踏まえ後方に跳躍噴射をしつつ上部に掃討射撃を行い、穴が開いた時点で突破します」

「他には?」

「ハッ!場合によると考えますがBETAの構成によっては最下部を狙い全体を"つまづかせる"ような戦術も選択できます」

「そうだな、一番贅沢な状態ならその選択も有効かもしれない」

「贅沢……ですか?」


 眉をしかめて月詠中尉が反応する。
 贅沢という表現を使われた事よりも、タケルがそんな皮肉めいた事を言うほどの"何か"がある事を見逃していた事が悔しかった。


「振動探知のレーダー幅(レンジ)を広げ忘れてるな。先程も言ったが突入部隊はBETAを基本的に避けながら、遭遇しても場合によっては噴射跳躍で置き去りにしながら進む、ここまで言えば解るな?」

「ぐっ……後方に…大規模のBETAが居る事を……失念していました」

「そうだ、月詠中尉の取った手段は確実な手段ではある。但しどれ程の距離をBETAを引き擦り回せばいいのか未知数になる。場合によっては挟撃されて身動きが取れなくなるだろう」

「……ハッ、仰る通りです」

「例えばS11を設置し全力で後退、機体を伏せさせ爆破後に突破する手段や追撃勢力の上を飛び越えてでも後退しルートを変更する手もある。月詠中尉の選択肢も悪くないが状況はその時々により違う。選択肢は常に多く持ち、リスクの少ない手段を常に選ばなければならない」

(な、成る程………)
(勉強になるなぁ…)
(その発想は想定外でしたわ…)


「要するに、型に嵌ってはいけないと言う事だな。今から見せる手段はあくまでデモンストレーションだが、"こんな手段もある"と思ってくれ」


 そう言うと一人先に進んでいたタケルは長刀を両手にそれぞれ持ち、まるで猛禽類が威嚇するように、羽を広げるように腕を開いた。













------------------------------------------------------------------

……こっから例の原作レイプが始まります。


       ____
     /  作者  \
   /  _ノ  ヽ、_  \    他のマブラヴ板のSS面白すぎるんだお
  / o゚((●)) ((●))゚o \  ほんとはもっと他のSSに無いような話にしたいんだお
  |     (__人__)    |
  \     ` ⌒ォ     /



       ____
     /  作者  \
   /  _ノ  ヽ、_  \
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \  でもクオリティの高い設定は既に誰かが書いてるお…
  |     (__人__)    |  
  \     ` ⌒ォ     /




       ____
     /⌒作者⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   だから今度はGガン使うお!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

※脳内で「我が心明鏡止水~されどこの掌は烈火の如く~」をお流し下さい。

------------------------------------------------------------------





デッ♪





「我が心、明鏡止水…」





デデッ♪



 タケルが静かに呟いた瞬間、場の雰囲気が変わった。
 ただの座学の場から、なにかよくわからない不思議な場に。

 他の世界ではソレを「熱血」とか「燃え」とかと呼ぶのだが、残念ながらこの世界に熱血系アニメは存在しなかった。
 


デッ♪



 両腕を構えタケルが大きく息を吸い込むのを後方に居た4人は感じていた。
((((白銀大尉、何を――――??!!))))



テー↓レー↑♪



「流派、東方不敗が奥義ィ!!」


「「「「りゅ、流派東方不敗?!」」」」


テーレーレレーレーレテーレーレレーレーレーテー♪



 両手の長刀を返し頭上に掲げる、その剣先は、僅かに交差していた。
 連殺モードに入りガチャチャチャチャと連続で操作を叩き込む。



 入力完了後の実行速度は―――――



テーレーレレーレーレテーレーレレーレーレーテー♪


 ――――MAX。


 最大速度でぶつける。
 機体が歪もうが腕が壊れようが関係ない、今はただ、目の前の壁を突破するのみ!!


「超級ゥ……覇王……」


テレレテーレッテテーレー♪


 入力が終わった連殺がついに実行シーケンスに移行する。
 完璧な機械制御の下、機体は入力された通り機動を実行する。

 例えそれが、中の衛士を殺す程の機動だったとしても!!


 バーニアが焼け焦げる。
 その場で回転し始めたタケルに4人は息を呑んだ。

 その出力、航空機でない人型の戦術機が回転などしたら通常だったら即座にキリモミ状態に入ってしまい、どこぞに吹き飛んでしまうだろう。

 それが――――――


「何であの速度で……安定してますの!?」
「それよりGは大丈夫なのか!?」
「操作なんて…出来ない筈じゃ…」



 機械制御された機動は全くブレない。
 例えどんなに優れた衛士でも入力が不可能な状況下でさえ。


 何故なら入力は、とっくに全て終わっているのだから

 4人の目に写るのは渦だ、噴射剤の燃焼が彩る炎の渦。


「電・影・弾ぁぁぁぁあああああん!!」




 掛け声と共に渦がBETAに向かって突撃を掛ける。
 その様子はまさに!BETAで作られた城門を叩く人類の怒りの破壊槌!!


 4人は目撃した!
 BETAを蹴散らす存在を!
 BETA等ただの路傍の石に過ぎないと言わんばかりに真っ直ぐ貫くその破壊槌を!



 次の瞬間


 BETAの壁、そのド真ん中に







 直径5メートル程の穴が






 開いていた。










## えっとその………ゴメンね? ##



[4170] OversSystem 18<なまえでよんで>改
Name: shibamura◆be57115b ID:a82fe193
Date: 2009/07/25 03:10
## 「正直、続き書く気が無くなくなる位叩かれると思ってた」 作者談 ##




「……………」
「……………」
「……………」
「……………」


 その光景を後ろで眺めていた4人は声が出せなかった。
 おそらく、彼女達の頭の中を文字という形で覗けるESP能力者が居れば皆一様にこう読み取れただろう。




 (なんという(操縦)技術の無駄遣い)





OversSystem 18<なまえでよんで>




 左腕全脱落、右腕格関節に異常、長刀劣化値危険域、頭部ユニット損害-程度不明。
 背部マウント群、全損。
 スラスターユニット、7割に異常あり、5割が使用不能。

 我ながらよく突破できたと思う。


「流派……東方…不敗…はっ!まさか!」

「し、知ってるのか巴?」

「思い出して、先日の冥夜様の"流れ星"を受けた大尉の剣術を」

「まさか、アレが…?」

「……確かに、わたくし達斯衛も武御雷の衛士として武術を修(オサ)めていますわ」

「それにしても東方不敗とは、大それた名前だ。最も、私も大尉が負けた所など見たことが無いが…紅蓮閣下にも勝つ程だからな」

「「「そんな……なんて恐ろしい流派!!」」」





 なんか通信が凄いことになってた。

 その後なんとか「超級覇王電影弾は流派東方不敗を極めていないと撃てないので真似しないように」と一言残し、ヴァルキリーズと合流した上でみんなの操作ログから検討会を行った。
 ピアティフ中尉からの報告で武御雷もシミュレータについては明日からバグ取りに入るとの事。
 よって警護小隊は明日もシミュレータに付き合うことになった。
 横浜基地に仕様書を渡した時点で誰が触ろうが帝国は文句を言えないのだが、シミュレータに乗った所で実機に乗る機会が国連軍衛士にあるワケでもなく、そのまま斯衛のメンバーに任せる事にした。


「今日はベッドで寝たかったのに……」


 さらにその後神宮寺軍曹と207Bの現状について報告会などを軽くこなし、今に至る。


「そんな事言わないでさ、タケルの分暖めておいたから。ハイ」

「あぁスマン美琴」


 今に至るのだが……


「どお?おいしい?」

「うまいよ。まぁ見た目はともかくさ」

「あはは、ヒドイなぁ。でもガマンしてよ」


 何故俺はグラウンドの隅にポツンと設置されたテントの前でヘビ入りカレー、いやヘビにカレー粉をかけて適当に煮ただけの料理?と言えるのか?コレは?を食べているのだろう。

 皆まで言うな、解ってる。
 アレだろ?常時演習って事で野外宿泊訓練でもしてたんだろう。
 当日はテント無いけどコイツ等それ知らないしな…。
 知らないよな?前回と同じ内容って事は無いだろうし。
 多分前回は完全野外装備だったってとこか。。

「醤油欲しいな」

「味噌もいいよねぇ、保存利くしさー」

「そうだな……」


 パチパチと音を立てる焚き火を前に、意味の無い事をお互いに呟く。
 今日の当直当番決めは壬姫のハズだったんだが……パートナーは美琴だった。
 いや、別に当番決めした本人が全員俺をパートナーに選んでくれるとは思ってないけどさ、"流れ"ってあんじゃん?
 そう思って今日の当番決めについて聞いてみたら意外な言葉が返ってきた。

 どうやら壬姫は自分で決められなかったらしい。
 普通そんな理由は通らない、というかそもそも悩むほどの物じゃないのだが、何故か周りの全員も納得する形で延期になったそうだ。
 で、代案として美琴が"次のローテーションの自分と交換しよう"という事になり、次回の美琴のローテ決めの日は壬姫が決めるらしい。
 ちなみに全員が納得した理由、とやらは何度か尋ねたが笑って誤魔化された。
 まー気になるっちゃ気になるが……言いたくない事を無理に聞いてもな。


 ……あれ?美琴がいつの間にか空気読める子になってる。
 まいっか、好転してるし。



 しっかし焚き火があるってのはそれだけで気がまぎれるから助かる。


 夜空を眺めながら飲んだ軍用携帯合成コーヒーは、やっぱり不味かったけど、温かかった。





10月30日(水)[十日目]


「今日はシミュレータ訓練の前に行う事がある」

 全員がシミュレータを起動させたタイミングを見計らって、俺は注目させた。
 武御雷のハードの方はまだ換装が完了していないが、データリンクのシステムを始めとする幾つかのAPI(アプリケーションプログラムインターフェース)の調整が終わったため、訓練のレベルを1ランク引き上げる事になった。

「全員まずはメニューから"XM3データリンク"を選択しろ…できたな?ではリンク先の選択…と言うかひとつしか表示されてないと思うが"横浜基地XM3大隊"を選べ。その後ヴァルキリーズはヴァルキリーズを、警護小隊は斯衛中隊から月詠小隊を選択後、自分の機体IDを選択してみろ」


 全員が言葉通りにシミュレータのメニューを選択して行くと、最終的に自分が所属している隊の戦術機一覧が開かれた。


「パスワード要求?何これ?」

「そこに表示されているのはハンガーにある各自の実機だ。つまりシミュレータのデータを機体に直結し、フィールドバックデータ等様々な経験を機体に覚えさせる事が出来る。いちいちこんなシステムを取ったのは機密保持の為だ。パスワードは8桁以上にしろよ。メモは取ってもかまわんが今日中に覚えて確実に破棄するように」


 最初に疑問を呟いた速瀬は早速覚えやすくて長い文字列を…


「ちなみに名前や生年月日とか覚えやすいものはダメだ」

「うっ」


 彼女がパスワードを決めるのに、時間は10分を必要としたという。

 ちなみにパスワードに余り意味は無かったりする。
 本来軍機で用いるなら8桁という桁数は少ないのだ。

 完全に個人を判別できる要素、かつコピーや複製が利かない、または非常にやりづらいもの。
 各自の思考パターンの波形を使っている。
 バァッフワイト素子に登録すると特定個人のリーディングが出来なくなるアレである。
 あれを逆転して使う事で、個人は完璧に判別される……最も遺伝子と同じく一卵性の双子の判別は出来ない事が難点と言えば難点だが、そこはパスワードで別ける事ができた。


「これから君達のシミュレータデータは全て、君達の機体が学習する事になる。一秒でも長く教えればより本人に使いやすいように最適化されていくように作られているからな。各自自分の機体に名前を付けて可愛がれ、浮気は許さん。名前は明日の朝までに考えるように」



 コンボや先行入力等、個人個人の癖を受け止められるのがXM3の最大の利点だ。
 それをより伸びやすくする為の手段。
 もちろん一般戦術データとしては各小隊、中隊、大体レベルでも統合蓄積はされる。
 ただし規模が大きくなればなるほどそれは万人向け用のデータになってしまうのだ。
 隊毎に特色や得意とする戦術というものがあるだろうし、それは個人レベルで言えばさらに顕著になる。

 だから、各自が、育てるのだ。

 従来の機体挙動等のフィールドバックは強化服に記録されていたが、コンボや先行入力、またそのキャンセル率等の高度なデータが増えたため強化服のデータ容量の上限を超えてしまった。
 そのため戦術機はそのシステムを戦術機、及び外部のサーバに保存する事となり、データリンクによる随時更新が行われる。
 最終的に、平均化(一般化)されたシステムがシステム的に届く限り地球上全てのXM3搭載機にフィールドバックされる予定となった。
 (この大規模なネットワーク処理を行える基幹処理装置は00ユニットの他に存在しないが、タケルは00ユニットと自身にある"調律問題"を棚上げした)

 そしてその蓄積されて"成長した戦術機"のデータは非常に価値が有ると判断され、機密性が大幅に向上された結果がこの認証システムだった。


 ちなみに名前については白銀の趣味である。






 ハンガー内、整備班も出払った夜に一人の女性が佇んでいた。
 ここ数日実機を動かす事も無かった所為か、静かで薄暗いハンガーは戦士を奉る霊廟の様な雰囲気を醸し出している。
 そう思った所で宗像はクスリと笑った。
 目の前に悠然と立つ戦術機が、奉り崇める武者鎧としては余りに巨大過ぎる事に気付いたからだった。

「名前、付けたんですか?」

「あぁ、祷子――――」

 いつの間にか宗像の斜め後ろには祷子、風間祷子が立っていた。
 それにすら気付かぬ程自分は呆けて目の前の機体を眺めていたのだろうか。
 バツの悪い表情も隠さずに宗像は振り返った。
 そんな素振りはこの地上に於いて風間にしか見せたことは無い。


「"紅葉"、そう名づけようと思う」

「あら、素敵だと思いますよ?」


 心なしか頬を染めて答えた宗像に風間な思ったままの感想を返す。
 恥じていたのだった、相変わらず彼女の本質は恋する乙女のまま。
 そんな友人の姿を知っている事に嬉しさと誇りを持っている彼女は、事恋愛に関する真面目な話は全面的に肯定すると決めていた。
 そうでなければこの実は初心な友人は、何時までも想いを遂げられないだろう。


「なら、この機体を大破させる訳にはいきませんね。美冴さんの故郷を打ち砕く訳にはいきませんから」

「そうだな……私は死ねない」

「勿論です。想いを遂げられるまでは…ね?」

「ぐっ」


 今度こそ完全に顔を赤くした宗像を置いて風間は踵を返す。
 そろそろ消灯時間である。特殊部隊と言えどいや特殊部隊だからこそ、破る訳にはいかない。

「ま、待て祷子!」

「あらあら、どうしました?もう消灯時間ですけど」

「……祷子は何て名前にしたんだ?」

「そうですね……」


 振り返らず数歩進んだ風間は振り返り、唇指に当てて答える。

「ヒミツです」

「全く、ずるい女だな、祷子は」

「フフフ、知らなかったんですか?」


 決して部下や上官の前では見せない年相応の二人の会話を、戦う為に作られた巨人だけがそっと見下ろしていた。





 -同刻-

「頭痛がする?」

 香月博士の執務室を訪ねたタケルは、ここ最近のシミュレータ搭乗時に発生する頭痛について相談に来ていた。
 何かのトラウマだろうか?と香月博士はまず一番に疑う。
 なにしろ気の遠くなる程の長い間戦術機に乗ってきた男だ、同じ人間の死を何度も見ているだろうし、彼自身も何度も戦術機の中で死んでいる筈。
 ならば戦術機に乗る事そのものに深層心理で拒否感を持っていても、それは誰にも責められる事では無かった。
 最も彼女から見ればそれは白銀が自分で最初から想定できる事であり、そんな事で悩むのならば「覚悟が足りない」と言いたい所だった。
 いや、実際にこれが2回目のループだったら間違いなくそう言っていただろう。
 今回に限っては彼自身が積極的に戦術機に乗ろうとしている事と、彼の心情風景を霞に聞かされて知らされていたためその点を責めるつもりは毛頭無かったが。

 となると何が原因なのだろうか。
 彼女の中に最初に浮かんだ原因が上記の理由に付き却下されたため、判断材料をタケルに求める事にした。


「ふぅん……つまりアンタが言う"白銀防衛術"…?って言ったかしら?何だか"無我の境地"みたいね。……それを使った時に頭痛が激しくなるのね?」

「そうなんです、他は別に何ともないんですけど……」


 となると…やはりトラウマだろうか?
 一度捨てた案を香月博士は頭の中で再検証する。
 過去の戦闘データを自分の頭の中から引き出して最適な判断をする……その過程で戦闘に関わる情報だけじゃなくて、その時の精神状態も引き出してしまっているのかもしれない。
 その場合現在の彼がどうではなく、過去の精神状態、つまり強すぎる感情が何重にもなって流れ込むことでの心が一種のバッファオーバーフローを起こしてしまったのではないか。

 原因は断定できないが、そうならば使わないに越したことは無い。
 この男に精神衛生や精神汚染がどうという事も考えにくいが、実際問題戦闘中の重度の頭痛という存在は邪魔だ。
 戦術機の操作の邪魔になる事くらい子供でも解る。

 だが本人はそれに反対した。
 現状で白銀防衛術を使っている状態が最も高い戦闘能力を出せるのだと、シミュレータの結果まで並べ立てて説明されてしまったのだ。
 件の"連殺"を用いた常態でも白銀防衛術に近い戦果を出しているが、現状ではまだ酷く不安定な上に大群を相手にする対BETA戦には不向きと来ている。
 (元々"連殺"は対戦術機用戦術の1つなので当然だった)

 つまりは何とか頭痛の原因を取り除いて使いたい。というのが白銀の望みのようだった。
 使わずとも普通に強いので無くてもいい物かもしれないが、戦力の安定した底上げが出来るならそれに越したことは無い。
 しかし逆に言えば現時点ではそれほど必要とされるレベルの力では無い、と言う事。

 ここで香月博士は原因解明に掛かる手間と解決した時の戦果を勘定し……とりあえず折衷案を取る事にした。


「原因は探すけどそこまで手間は割けないわ。時間も無いし。……とりあえずは使用を控えなさい。今言えるのはこれだけよ」


 タケルも香月博士が言いたい事は解っているのだろう。
 そうですか、と答えた。


「そう言えば霞はどうしたんです?まだかかるんですか?」


 じわ…と背中に汗が滲み出たような錯覚を香月博士は感じた。
 意図的に今まで話題に上げなかったのだが、彼が霞を見逃す筈が無い。
   
 実際はもし武御雷のバグ取りに霞が手を貸していたなら礼を言いたい。
 そうタケルが思っただけなのだが、香月博士は自身の後ろ暗さから完全に違う受け取り方をしていた。

 霞に何をした。と。


「前に言った仕事がまだ終わってないわ…予定より伸びそうよ」


 タケルはやはりそうですか、と一言で答えた。
 霞にしか出来ない事ならば、恐らくESP能力を使った機密の高い任務なのだろう。
 香月博士が自分に内容を言わないのは知るまでも無いこと、もしくは知らない方がいいことなのだろうと納得しての返事だったが、やはり香月博士は言葉通りには受け取れない。

 どんなに楽だろう。
 この場で何もかも洗いざらい喋ってしまえば。
 自分が如何に非道な魔女であるのか嘲笑いながら語り、彼に侮蔑の目線で睨み付けられればどれだけ楽だろうか。

 けれども今彼に知られて霞に接触されてしまったら……霞がどんな行動に出るか全く予想が付かなかった。
 今彼女を失うことは……物理面でも、つまり誰が見ても大問題である事は明白で、それを理由に彼女は自身の内に霞の現状を仕舞い込む他無かった。
 その中に人間らしい感情が僅かながらにでも混ざっている事を彼女は否定するだろうが、実際の所は彼女にも自分がよく解らないで居た。

 この先何が起きるのだろうか。
 勿論タケルの話を聞いていて大筋の未来は何通りも知っているし、今現在のこの世界も彼女が随分手を回している。
 それでもイレギュラーは起きるだろう。


 何しろ白銀の狂気に最初に感染した霞が、自分の傍に居るのだから。
 今のあの小さい少女なら、タケルの為となれば何のためらいも無く自分を殺す事も出来るだろうと確信していた。



 私は一体何を望んでいるのだろう。

 BETAの滅亡、人類の救済。
 その筈だ、そうでなければならない。

 今の私に、自分自身の未来予想図で悩む贅沢などありはしないのだから。

 




###########
「冷静に考えたらクラナドはねーよな常考」と素に戻ったため改定。
さて、この名前付けからどうやってシリアスモードへ持っていくか…

正直「浮気は許さん」って言ってみたかっただけだからあんまパーソナルネームを連呼する事は予定にないです。テヘッ☆

Q:フィールドバックデータって強化服に載るんじゃないの?
A:旧OSだとそうだったんですがコンボ、キャンセル、先行入力等のデータは量が多すぎてムリじゃね?
  どう見ても記憶媒体の体積足りないと思う。


 ……と勝手に外部記憶にしました。サーセン。



[4170] OversSystem 19<全ては生き残るために>
Name: shibamura◆f250e2d7 ID:d801e7ad
Date: 2009/07/25 03:10
#「何かを書けば書くほど、自分の低脳さを世間に大声で宣伝している気分になるのは気のせいじゃないと思う気がした」 作者談#
※前話のケツをこの前改定したのでまだ変更後を見てない方はドウゾ。流石にクラナドは無かった。


10月31日(水)[十日目]


「武御雷も明日には実機に実装できるわね」

 あくまでデータ上は、と香月博士はただ事実を確認するように呟く。
 今日、武御雷に対するXM3の調整の工程もその殆どが終了し、あとは実装を待つだけとなった。
 不知火からのシステム的なマッチングとバランスの再調整だけだったので、訓練と平行しながらテストを早期に終える事ができたのは僥倖であった。
 ついに新潟のBETA侵攻まで11日となり、タケルがこの地に現れてから新潟侵攻までの期日の内半分が経過した事になる。
 十分な期間があれば、せめてあと1ヶ月の余裕があれば帝国側にも多くのXM3を搭載できたかもしれなかったが、現状ではそれもままならない。
 いくらオルタネイティヴ計画の成果を流用できると言ってもホイホイ新型ユニットが作れる訳も無く、実の所データ上の準備は整っているがA-01の実機にも未だ搭載されていないのだ。

 タイミングは約一週間後、新潟防衛戦の3~4日前に実機に搭載させ、残りの日数を全て実機演習に回す予定となっている。
 それまでは毎日唯只管にシミュレータ上で訓練を行い、検討会を開き、またシミュレータに乗る。
 専用シミュレータを持つA-01の特権だった。
 XM3先行配備大隊としての体を作るために設備の増設、つまり隣や付近の大部屋の改装も始まっている。
 これによって問題提起も解決も、他の部隊ではありぬほどの迅速さで処理されるため、部隊の伸び率が頭打ちになる事は無い。
 衛士が訓練に耐えられぬ程疲労するか、全員がタケルの技能に短期間で近づける最大まで能力を引き伸ばすまで、彼女達の戦力は上昇し続けるだろう。

 現状では特にタケルは長時間の戦闘訓練を好で行っている。。
 単純な体力と衛士としてのスタミナは全く別物だと確信している彼は、昼食すら筐体の中で取らせた。
 もちろん筐体には歩行移動程度の揺れをかけて、また網膜投影にはBETAすら写した常態でそれを行った。
 当然部下から、というよりも誰よりも早く速瀬が文句を出したがタケルはそれをハイヴ攻略時を引き合いに出して説き伏せる。

 戦線の交代もままならないハイヴ内では、当然"最前線に長時間"居続ける事になる。
 シミュレータの筐体内とハイヴでの管制ユニット内、どちらがよりストレスが高いかと聞かれれば答えは全員決まっている。
 ならば"シミュレータくらい長時間乗ってもらえなければ困る"と言う言葉の意味を理解するまで速瀬はかなり長い時間を要した。

 そもそもハイヴ攻略を目標に訓練を行う部隊は殆ど存在しない。
 何故ならば目処も立っていないハイヴ攻略よりも、目の前のBETAを地上で叩く戦闘の方が余程多いのだから。
 唯一のハイヴ内の長時間戦闘をしたヴォールク隊ですら調査名目だったのだ。
 BETA侵攻の防衛かハイヴの間引き以外の戦闘を想定して訓練するなど、現実の見えていない馬鹿にしかできない。
 そして人類軍は馬鹿を要所に任命するほどの余裕を持っていなかった。
 それはつまり、衛士全体が持つ常識と言えた。

 ただしその常識は事横浜基地では、とりわけA-01に対しては全く逆になる。
 彼女達はハイヴを攻略する事が既に決定されており、全ての訓練はハイヴの攻略の為に存在する。
 ハイヴを攻略するために必要な技能があれば、それは今までの常識や基準を逸脱した物でも取得しなければならない。

 今の彼女達に必要な物は既存のどの想定戦闘よりも長時間の激戦に絶えうる肉体的、精神的なタフネスさであり、それを疎かにする選択肢をタケルは持たない。
 また食事によって得られる人間の体内のエネルギーは数時間で尽きてしまう事も問題だった。
 脂肪細胞から生きる分のエネルギーは捻出できるが、効率は格段に下がる。
 フルマラソンには給水があるし、ロードレースでは食料すら補給する場合さえあるのだ。
 飲料水こそ強化服に内臓されているが、ハイヴ攻略に於いては足りないとタケルは考えていた。
 実際香月博士らに相談を持ちかけた所、もっともだと支持されたため本日より実行するに至ったのである。
 平時からBETAに囲まれた管制ユニット内で食事を取っていれば、本番でのストレスによる消化吸収効率の低下を抑えられるだろうという狙いだ。
 実際役に立たなくても構いはしない、どうせ誰も損はしないのだ。
 タケルに誤算があったとすれば現在の訓練は全て、XM3とハイヴ攻略教育のマニュアルの雛形としてのデータ取りの側面を持つことだった。
 訓練の過程にキッチリと入れられたこの食事制度の所為で、実際にハイヴ内で栄養補給をする局面にぶつかるまで衛士の胃袋に彼は恨まれる事になる。


「他、何かある?」

 香月博士は改めて室内を見渡す。
 その表情からは何も読み取れない。
 普段の不敵さも、疲れも、何も。
 どうやら意図的に感情をシャットアウトしているようだったが、この奇行に定評のある人物に対してはその程度の変化では誰も驚かない。

「あぁ、じゃあもう一つ訓練に追加したいのがあるんですけど……やろうかどうか迷ってるのがありまして、まりも先生に伊隅大尉、月詠中尉の意見を聞いて見たいんですけど」

「珍しいわね?白銀が迷うなんて」


 珍しく煮え切らない態度を見せるタケルに(普段は兎も角として事戦術機では悩む事はあっても躊躇う事は無かった)まりもは思わず聞き返した。
 恐らくそれは先日自分が見た姿、彼のベッドの上でタケルが吐き出した恐怖の内のひとつが起因していると感じたからだ。
 そんな彼女の視線には気付かず、もしかしたら気付いた上で意図的に無視しているのかもしれないが―――――タケルは訓練内容を提案した。
 それはハイヴ内に於いて間違いなく必要とされる訓練だったが……それを聞いた彼の心の中の葛藤をまりもは正しく理解した。


「…こんな感じです。もちろんA-01を含めたみんなを犠牲にする積りはありません。何よりも僕自身の目的の為に」


 彼が最後に付け足した言葉を聞いてまりもは酷く心に痛みを感じる。



 "何よりも僕自身の目的の為に"



 成る程、確かにその理由なら納得できる。
 彼はそのためにこうやって私達に力を貸してくれるのだから。
 でもそんな事は言われなくても皆解っているというのに。
 誰から見ても間違いない部分から説明をしたがる、つまり誰に対しても納得させられるような話し方を恐らく自分に架しているのだろう。
 でもそれはつまり、話す相手が自分をまるで信用していない事を前提にしている。
 それだけは間違いなかった。
 だがその点についてまりもはむしろ彼を哀れんだ。
 それは一種の自虐行為であった事に気付いてしまったからだった。
 まず周りの誰よりも自分自身を納得させるための方便、その為に自らの心をナイフで切り裂いたとしても、そうせずには自分を維持できない。
 何と言う脆弱さだろう。


「私は賛成よ。……というより解ってるんでしょう?それは必要な訓練よ」

「まぁ…そうなんですけどね」


 タケルは鼻頭を親指で掻いた。
 彼は当然自覚していた、自分の発言がまず何よりも自分自身を騙す事で心の平穏を確保しようとする欺瞞に他ならない事に。

 そしてそれがまりもに気取られているだろうことも、彼は理解していた。





「遅かったなタケル、使え。これも飲むがよい」

「サンキュ……ふぅー」


 またも…と言っても最早連日の事だが、タケルは相変わらず日付が変更されてから随分時間が経った後に帰ってきた。
 どうやら今日もグラウンドらしい。
 タケルは冥夜が差し出したタオルケットをそのまま服の上からマントのように羽織り、腰を降ろしてコーヒーを飲む。
 本番ではタオルケットなど支給されない…というより夏の島なので無くともまぁ大丈夫なのだが、現時点での横浜は冬だ。
 本番前に風邪でもひかれたらと考えたタケルが千鶴に手配するように昨日の昼の時点で言っていたのであった。

「あぁー……あったけぇ」

「タケルは…その」

「ん?」

「疲れはしないのか?」

「いやぁ、疲れるよ。っていうか疲れてるよ、今」


 コーヒーを飲むタケルの姿に何かを感じた冥夜が尋ねた。
 普段殆ど疲れた所を見せない…
 というよりもXM3にかかりきりで最近は食事時と夜にしか会わなくなってしまった彼が、コーヒーを飲みながら遠くを見る姿が冥夜にとって珍しかったのだ。
 そんな冥夜にタケルはつい思った事をそのまま吐き出す。
 どうもタケルは冥夜には喋りすぎる所があった。


「だけどまぁ、休む訳にもいかないしな。それになんていうか……気持ちがハイになってるっていうんだろうな。何かしてる時は疲れを感じないんだ」

「ある意味非常に危険な状態だとも思えるが……衛士にもなっていない私には"まだ"手助けする事も出来ぬのが歯痒い。しかし無茶をしてくれるなよタケル?総戦技演習中に倒れられても困るからな」


 "まだ"という言葉に冥夜は意図していなかったようだが力を入れて喋った。
 そう、彼女はタケルを手助けする事が"まだ"できない。
 しかし衛士になってしまえば、任官してしまえば話は別だ。
 自分が衛士になった後のビジョンを彼女は持ち始めている。


「あぁ、そうか」

「む?」


 空になったコップをコトリと地面に置き、タケルはぽつりぽつりと呟く。


「いや、その件なんだけどな……俺は俺の方でXM3のまぁ……評価試験みたいのがあってさ」

「そっ…いやっ……………そう……なのか」


 この所どう見ても207Bの一員としては活動していないタケルが総戦技演習に参加する可能性は低い。
 しかしタケルなら参加してくれる――――そう冥夜は思っていた。
 思い込もうとしていた。

 そうであって欲しい。いや、そうであるに違いないと。

 しかしそうはならない。

 彼には新潟での防衛戦があるのだから。

 あるいは時期をずらしてしまおうか、タケルはそう考えた事もあった。
 けどそれをしたからと言って何が起きると言うのか。
 彼女達に対して出来る事はした。
 これで自分が居なくなった程度で演習を合格できないのなら…
 きっとまた何処かのハイヴで死んでしまうだろう。

 いや、もしかしたら彼女達を戦場から遠ざけたかったのかも。
 しかし彼女達抜きでオリジナルハイヴが落せるかとなると…いやはや、やはりこの世界はクソッたれだ。
 そんな他愛の無い事を考えてタケルは苦笑いする。


「ならば…」

「ん?」

「ならば待っていてくれ、タケル。我等は必ず演習に合格し……タケルの作ったXM3に乗る。皆でそう決めたのだ」

「そうか」


 タケルはどんな表情をすればいいのか解らなかった。
 ネタや冗談では無く本気で解らなかった。
 自ら死地へ向かう少女に対して、俺はなんて顔をすればいいんだ。
 いや、アイツなら、シロガネオリジナルならこんな時はきっと………

「待ってるなんて悠長な事は言わねぇよ」

「あぁ。そうだ、そうだとも、タケル。………必ず追いついてみせる。そなたが居る高みまで」


 タケルは笑った。
 声に出すことはせず、ただ満足そうに笑った。
 冥夜も笑った。
 彼女達はとうに合格すると決めている。
 ならば後は当日を待って合格するだけではないか。

 不可能なんて無い気がした。
 全てが上手く行く気がした。
 今世界にある何もかもが、手を伸ばせば自分の手で掴み取れる気さえした。

 冥夜はふと夜空を見上げる。
 そこには昔と変わらぬ、BETAに占領されてからも変わらぬ姿で佇む月が居た。

(月詠……私はようやく解ったのだ。衛士に必要な物が何なのか……そして)

 目を降ろす。
 直ぐ横にはタケルが居る。

(自分が何を成すべきなのか……私はようやく知ることが出来た)

 彼女は戦う。
 戦う為に自身を存在させると決めていた。

 少なくともこの地上からBETAを一掃できれば、彼女にとって大切な姉と、横に座る男は喜ぶだろうから。





11月1日(木)[十一日目]

 A-01と警備小隊がシミュレータ内でヴォールクに挑戦する姿を、タケルは管制室から見ていた。
 時折マイクで助言を入れながら、ハイヴ内で起きうるピンチの再現とその攻略法を指示してゆく。
 その声を背中で聞きながら、涼宮遥中尉は指定された操作を入力していく。

 一方ヴォールク内ではBETA壁を打ち破る為にS11を設置し、部隊を下げた所だった。
 爆風に備え機体の対爆風面積を減らすためにしゃがませたメンバーに、タケルの檄が飛ぶ。


「横着するな。しゃがむんじゃない、全員伏せろっ!」


 起爆地点からの距離はある。
 しゃがんだ常態でも機体は"ほとんど"ダメージを受けないだろう。
 しかし、彼は常にその"ほとんど"以外のほんの僅かな可能性の部分に強い拘りを持っている事に遥は気付いた。
 何か、理由があるのだろう。
 でもその理由は、わざわざ伏せる程のものなのだろうか。
 後ろからも例によってBETAはその数を増やしつつ迫ってきている。
 増員させたのは他でもない遥自身の指先だ。
 その常態で戦闘姿勢に戻るのに時間のかかる伏せの姿勢を取るだけの価値を、遥は見出せないでいた。
 水月も同じ考えのようで、さっきからイライラが溜まっているのがわかる。
 と言ってもそのイライラは遥だからこそ解る程度の物だったが。


「あの…白銀大尉」

「ん?」


 管制がひと段落した所で、遥はタケルに聞いて見ることにした。
 妹と同じ年の上官、というのは遥に取っては逆に接しやすかったし、訓練以外での彼の砕けた姿を見ているから出来る行為だった。
 それどころか、見た目さえ無視してしまえば、彼は自分より年上なのだと考えてしまえば非常に好ましい上官だと思っていた。

「何故あそこまで徹底的な防御姿勢を取るんですか?」

「ん?あぁ……そうだな。シミュレータと現実の機体の違は解るな?」

「えぇと…はい、わかります」


 涼宮も元は衛士志望の訓練兵だったし、尉官になった後もヴァルキリーズの管制官として参戦してきた経歴がある。
 それでも、実際に乗るのと見ているのでは……そしてシミュレータでハイヴを攻略する事と実際に攻略する事は違うんだなとタケルは思った。

「例えばシミュレータの機体は絶対に整備不良にならないし、原因不明の突発的な故障はしない。しかしハイヴでは起きる。……まぁ、端的に言えばそんな所かな」

「この前仰ってた長期戦闘についてですか?」

「鋭いな…まぁ実際の所、正式な運用としての実例じゃ今想定している本格的なハイヴ攻略程の長時間の活動データってのは少ないんだ。戦術機の開発側から見ても想定外の活動時間だし、一般の指揮官はその時間を超えないように部下に戦わせるからな。それに……普通なら衛士の集中力が先に潰れる」


 全てはそのため。

 今までの常識と知識と経験を書き換えなければ、ハイヴでは生き残れない。
 遥はタケルがそう考えている事に違和感は覚えなかったが、ならばなおさら隊員達には目的を明細に説明すべきだと思わずにはいられなかった。
 その事を尋ねるとタケルはこう答えた。

「ハイヴ攻略が今までの常識のみでは片付かない事はこの前伝えただろ。それをこの程度の訓練に直結できない程度の連中なら正直要らないよ。誰か一人が気付けば部隊内に周知するだろうし。それに日ごろから有る程度理不尽さを感じながら命令にしたがって貰ってないとな、いざピンチの時に一から十まで説明しなきゃ解らないようなヤツらじゃないのは解ってるが……」

「随分先まで見てるんですね。もう攻略時の指揮を考えてるなんて」

 遥はこの時本気で感心していた。

「いやぁ、考えてなきゃ指揮官失格だよ。伊隅大尉だって色々考えてるさ。さて、じゃあさっそく攻略時を想定した訓練でもしてみるか?涼宮中尉」


 ニヤリと口元を歪めたタケルの指示を聞いて、遥は内心"そこまでするか"と思ったが、すぐに思い直す。



 この人はヴァルキリーズが生き残る可能性を1%でも上げたいんだわ。
 ねぇ、水月。
 死んじゃダメだからね、絶対。








 ドォン!!

『伊隅機大破!!パイロット生死不明!!』

「何ですってぇ?!」


 水月が振り向いた時には、後方に居た伊隅機が黒煙を上げながら膝を突いていた。

(爆発音?何で?)

 周囲に、少なくとも直接攻撃される位置にBETAは居ない。
 伊隅機が被弾する理由が無かった。
 誰も射撃をしていないのだから誤射も無い。
 外じゃあるまいしレーザーが来るはずも…

 密集して全方位警戒?

 違う!

「突破するわよ!A小隊が前、Bが後ろで警戒しつつ跳躍移動!宗像ぁっ」

「はっ」

「後ろ任せるわ!行動開始!!」


 今なにより優先すべき事は伊隅機大破の原因を探る事と同時に、何より前に進む事。

(一体何が……って何よこれ!)

『速瀬機推進剤に異常!噴射剤残量ありません!』

「~~~~ッ!宗像!やっぱ今のナシ!アンタが先導して先行って!」

「速瀬中尉は?」

「後から追っかけるわよ!行きなさい!」

「了解っ」


 ゴオ、と吼えて遠ざかる味方機と、反対側から迫り来るBETA。
 ハイヴの中、絵に書いたような孤立無援だった。


「ったく!ヴァルキリーズをナメんじゃないわよ!」


 何が起きたか、それを考えるのは後でいい。
 とりあえず目の前の敵に自分は対処しないといけないのだから。
 そういえば部隊を宗像に預けるなんて今まで殆ど無かった気がする。
 なんせ自分が預かる事自体が稀なのだ。
 小隊長の経験があるから大丈夫だとは思うけど。



『演習修了、筐体前に整列して下さい』


 それから15分後、ヴァルキリーズは全滅した。







「伊隅大尉」

「はっ」


 声を掛けられた伊隅は思わず背筋を伸ばす。
 この時点で伊隅とタケルは階級が同じなためまだ先任の伊隅の方がパワーバランスが上なのだが、そんな事を微塵も感じさせない返事だった。


「速瀬中尉の指揮は悪くなかったと思う。宗像中尉も。ただその後がちょっとお粗末だったんじゃないかな?」

「そう…だな、確かにその通りだった」


 結局あの後、宗像の戦術機も故障が発生し、その後を引き継いだ風間の戦術機も故障。
 最終的に一人になるまで故障し続けたのだが、風間が引き継いだ時点で隊はパニックになり部隊の体を成していなかった。

「極端に意地悪だった事はまぁ認めるにしても、整備無しでの長時間活動やS11の大量活用等の運用によりハイヴ攻略中は何時どんなマシントラブルが発生するかわからない。それが誰に発生するのかも。もちろん俺は君達全員を生還させるつもりだが、同時に君達には最後の一人まで部隊が機能するようにしてもらわないといけない。伊隅大尉、後は任せる。解散」


 そう言うとタケルはさっさと部屋を出て行ってしまった。

 自分で考えろ。
 そう受け取った伊隅は隊員を集め検討を始める。

 そうだ、そうだとも。
 それが私達指揮官が抱える矛盾だ。
 飲み込んで見せるさ。私だってこれ以上隊員は失いたくない。

 そりゃ苦悩するわけだ、と伊隅は納得していた。
 昨日の晩、タケルの苦悩の理由。

 それは絶対に誰一人死なせてはならない状態で、隊員が死ぬことを前提とした訓練をする彼自身の中にある矛盾だった。
 けど、それは必要な事。
 何故なら伊隅達この世界に生きる人間にとってタケルの都合など"知ったことではない"のだから。
 まずはハイヴ攻略の可能性を上げる事。
 それだけは絶対に見失ってはならない。

 だがタケルの中にある条件は自分の願いと重なるモノである事も確かだ。

「よし、訓練を1時間追加する!全員シミュレーターに乗れ!!」

 何か形容しがたい力、意思の様なモノが自分の内から沸いてくるのを感じる。
 それが何なのか、伊隅にはまだ解らずにいた。






「タワー?」


 所変わって横浜基地屋上。

 外の空気を吸おうと屋上に出たタケルが見たのは、横浜基地を囲うようにそびえ立つ4つの鉄塔。
 それは遠近感が狂うほど巨大な塔で、今もなおその高さを増しつつある。

「ホント何に使うんだ?アレ」



 "約束された星の破壊"の全容は、まだ見えない。




[4170] ネタ解説 ~10話
Name: shibamura◆be57115b ID:d801e7ad
Date: 2009/07/25 03:07
作中で使ったネタ一覧。
ただ書き出してみただけで特に意味はないです。はい。




00話

導入
 ガンパレードマーチ
神翼不墜
 ギガウィングス、主人公カートの称号
決戦存在
 ガンパレードマーチ、主人公(絢爛舞踏勲章を獲得したプレイヤーキャラ)及びラスボスの総称。

01話
特になし

02話
特になし

03話
「自分の知り合いに昔、一人の人生に疲れた女性が居ました。
 ガンパレードマーチ 確か芝村舞 セリフ

倍プッシュだ……!
 アカギ

どう見てもGP-02サイサリスです。本当にありがとうございました。
 ガンダム0083.(元々冥夜はコレが元ネタ…らしい。)

冥夜…か、うん、この響きは、実に君に似合っている」
 fate アーチャー セリフ

質問すれば答えが帰ってくるとでも思ったのか?
何故そんな風に考える…
とんでもない誤解だ。
世間というものはとどのつまり、肝心な事は何一つ答えたりはしない。
個人でもそうなのだ…大人は質問に答えたりはしない…それが基本だ。
それに何時までも気づかねば…気づいたときには手遅れっ…泥沼…
そう、地の獄に落ちた後ようやく気付くっ…!
 カイジ

性欲を持て余して
 メタルギア

オナキンスカイウォーカー
 スターウォーズ

04話
白銀の昔話の設定
 戦闘妖精雪風 主人公の部隊の設定

「自機を危険に晒してはならない、友軍が危機に陥っても援護をしてはならない、全ての戦闘情報を収集し、必ず帰還せよ」
 戦闘妖精雪風 ジェイムズ・ブッカー(CV、アーカード、ギロロ) セリフ

「さて、問題は私にもニュータイプとしての素養があるかどうかだが…」
 ファーストガンダム シャア セリフ

「貴様の行為を侵略行為と断定する!当方に迎撃の用意あり!」
「不甲斐無いぞ貴様ら!斬られるだけなら犬でも出来る!斬って来い!突いて来い!骨のあるヤツ出て来い!」
「姿形どうが変わろうとも関係なし!我が身は必勝の手段なり!」
「残った戦力は…孤拳ただ一つ…ブチ極(き)める!」
待ってろ!今再設定して光を取り戻してやる!
 覚悟のススメ 葉隠覚悟 セリフ

「まだだ!たかがメインカメラをやられただけだ!」
 ファーストガンダム アムロ・レイ セリフ

「またつまらぬ物を…斬ってしまった」
 ルパン三世 五右衛門

「フタエノキワミ!」
「アッー!!」
 るろうに剣心 イントネーション 海外版

ドグチアッ!
メメタァ!
 jojoの奇妙な冒険 効果音

「俺はぁー!!生きる!!」
「生きて!」
「生きて…冥夜と添い遂げる!」
+自機の腕を武器にするシーン
 ガンダム0080 08小隊 シローアマダ vsノリス・パッカード戦

「ジーザス!ファッキンガム宮殿!」
 デトロイト・メタル・シティ

「28…27…推進剤持つか?!」
 ガンd(ry 08小隊

「間に合えぇぇええええ!」
くそっ…フルバーニアンなら!
 ガ(ry 0083

そして俺に受け継がれる魂もシロガネオリジナル。
何故なら俺もまた、特別な子供だからです。
 CM ヴェルダースオリジナル

トラップカード発動!ちゃーちゃららーらららー
 遊戯王

05話
前回の使いまわし。
新ネタは特になし。

06話
(冥夜の剣先…やや熱いか…?)
そしてその右手は人差し指と中指の間に掴みこむような、猫科の動物を思わせるような握りで刀に添えられた。
刃途中で叩き斬られた刀のまま、右手で祈るような姿勢。
右手に掴んだ刀は地面と垂直に俺の顔の正面に添えてある。
左手は、刀の下に添えるように。
無現鬼道流 秘剣
 ――『星流れ・抜刀』
「な…"茎(なかご)受け"…?」
見えた時には、冥夜と白銀は刃と刃で結ばれていた。
茎(なかご)とは刀身の下部、柄に覆われている部分の名称であり、木剣の稽古等で突きを払う際に柄頭を用いる事はあるが…
超高速の一閃に柄頭を合わせるのは、飛来する弾丸を弾丸で叩き落すに等しき無謀――――
そう、薄き刃は厚き装甲と化して、死の流星を食い止めたのだ!
 シグルイ

「支店を板に吊るして…」
「ギリギリ太るカレイセット!」
「アッー!」
 某キワミアニメ

「衛(えい)!」
 覚悟のススメ

衛士になる前に戦争が終わっちまうぜ!」
 映画フルメタルジャケット

「所詮お前は流れ星」
「落ちる運命(さだめ)にあったのさ」
 KOF ハイデルン

1分まで切り込める者、5分まで切り込める者、8分まで切り込める者。そして切り抜けれらる者。
 バキ

「今対した目標は今倒します。
退けば時が経ち、時が経てば迷いが出ます。
迷いは鈍りを呼び、一度鈍れば次はありますまい。
故に今斬ります!今!」
 散人左道黒月真君 ヒビキ

君はこの惨劇を回避できるのか?!
 ひぐらし

「壬姫を信じてる俺達を信じてくれ」
 これは別にネタは意識してなかったけどグレンラガンでこんなセリフがあるらしい。
 理詰めでいきたかったのに根性理論になってしまった自分の中で汚点。

真実だけを並べて…アイツ等を騙したんだ
 皇国の守護者

08話
認めたく無いものだな。自分自身への、若さゆえの過ちというものは
 ファーストガンダム シャア

ってちょっと待ったぁ!認めません!認められませんそんな事!」
 ギャグマンガ日和 天竺 三蔵法師(cvうえだゆうじ)

09話
「フ、フフフフフ。違う、間違っているぞ彩峰」
 コードギアス ゼロ

ドコ中ワレのデュクシオウフ
 ニコニコ動画 アサシンクリード プレイ動画 字幕

泣いたり笑ったり出来なくしてやる
 映画 フルメタルジャケット

10話
我が名は白銀武。不可能を可能にする男だ
 コードギアス ゼロ

「……了解!当方に迎撃の用意あり!」
 覚悟のススメ

「衝撃のォ…」
「ファーストブリッドォオオオオオ!!!!」
また2秒、世界を縮めてしまった…!」
 スクライド カズマ クーガー

「それで済むかよっ!」
 テイルズオブデスティニー2 カイル・デュミナス 必殺技→秘奥義へ繋げる時のセリフ

「ヒートロッドォ!」
g(ry vsグフカスタム(震える山 前編)

「だって俺の話に付き合ってくれた上に」
「勝利まで、くれるんですから」
 からくりサーカス ファティマ

回転剣舞六連・改
 某キワミアニメ

「シェ…シェイクスピア曰く…」
「口では何を言っていても…手は何をしているか解らないものだ」
 からくりサーカス ギイ

連殺システム
 ゼノギアス





振り返るとその時見てたマンガやアニメがよくわかるなぁ……


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