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[18026] Muv-Luv Alternative -Ave Maria-
Name: Exige◆2f2ac254 ID:f7dd6cb9
Date: 2010/04/17 15:07
  Ave Maria, gratia plena,(めでたし、聖寵みちみてるマリア、
  Dominus tecum,(主、御身と共にまします
  benedicta tu in mulieribus,(御身は女のうちにて祝せられ、
  et benedictus fructus ventris tui Jesus.(御胎内の御子、イエズスも祝せられたもう。
  Sancta Maria mater Dei,(天主の御母聖マリア、
  ora pro nobis peccatoribus,(罪人なる我らの為に、
  nunc, et in hora mortis nostrae.(今も臨終の時も祈り給え。

  Amen




 1944年 大東亜戦争が終結し、翌々年から宇宙開発が盛んになる。
 1950年 本格的な宇宙探査を目的としたダイダロス計画が始動した。
 1958年 火星探査衛星ヴァイキング1号が地表で生物と思われる影を発見し、人類は地球外生命とのコンタクトに沸く。
 1967年 前年に始動した世界的巨大プロジェクト、オルタネイティヴ計画により、火星への橋頭堡として派遣された地質探査基地、プラトー1所属隊員がサクロボスコクレーターにて火星で発見された生命体と接触。以後消息を絶つ。サクロボスコ事件と命名。
 1973年 人類に敵対的な異星起源種、通称BETAによる本格的な地球侵攻開始。中国カシュガルへと着陸。以後オリジナルハイヴと命名。中国軍によって焦土作戦が行われるも、進行速度は衰えず。
 1974年 BETA侵攻により世界人口が30%減。これは人口の集中していた中国、インドが多大な損害を受けたためである。その後も人口減少の一途を辿る。
 2001年 欧州・ソ連・アジア圏がほぼBETA支配下に置かれる。欧州は大英帝国、ソ連はシベリア・カムチャッカ半島、アジアは日本帝国と東南アジア諸国を残すのみとなった。この時点で世界人口は約10億人。




西暦2001年10月22日 時刻0900 横浜基地衛士訓練学校 グラウンド



 それは余りにも唐突で、誰もが反応し得なかった。
 第2滑走路に詰めていた監視員は語る。ほんの数瞬、空が光ったと思うと、直後に巨大な物体が猛烈な速度で飛び出してきたと。
 それは勢いそのままに、滑走路に接触。舗装面のコンクリートを削り取りながら、何度かバウンドし、オーバルコースのある訓練学校のグラウンドを砂煙を上げながら転がった。そして遂には校舎B棟に激突して停止した。
 校舎の窓ガラスは粉々に砕け散り、コンクリート壁は瓦礫の山となった。あちらこちらから捻じ曲がった鉄筋が顔をのぞかせ、周囲は舞い上がった砂埃で視界が酷いことになっていた。
 その日、いつもの通り朝一番の20キロ持久走を終え、15分の休息を取っていた207B訓練部隊の訓練兵たちは突然の暴風に煽られ、全員が転倒してしまっていた。

「うぅ……げほっ、な、何、何なの!?」
「あぅぅぅ、い、痛いですぅ……」

 呻きながら顔を上げた少女たちは酷い有様だった。持久走で汗をかいているところに大量の砂埃を浴びたのだ。全身埃まみれになり、整った顔立ちが台無しとなっていた。
 口の中に砂利が入り、えづきながらどうにか吐き出す。

「何だあれは。……不知火?」
「けど……ちょっと違うね」

 この日は朝からやや風が強く、砂煙は割りとすぐに吹き去っていった。そして姿を現したのは校舎の瓦礫に埋もれている戦術機の姿だった。背中から叩きつけられたようで、項垂れているようにも見える。
 そしてその機体は通常の戦術機に比べて明らかに小さかった。なぜなら左腕と下半身が無かったのだから。




 内線を通じて、雑多な書類が散らばった書斎に呼び出し音が鳴り響く。その番号を見ただけで香月夕呼は相手が誰であるか分かっていた。相変わらず煮詰まって遅々として進まない己の研究に腹を立てていたところに電話が鳴り、仕方無しに苛立ちを腹の底に隠しながら受信機の1番ボタンを押した。

「こちら副司令室です」
「おはようございます、香月博士。少々お時間をいただいてよろしいですか?」

 声を聞くなり、夕呼は面倒くさそうな声音を隠そうともせずに、相手、神宮寺まりも軍曹に先を促す。

「現在より5分前、横浜基地に正体不明の戦術機が落着しました。現場に居合わせた我々としては判断のしようが無いため、指示を仰ぎたいのですが」
「戦術機? 今日の予定に実機演習は入っていないはずだけど」
「はい。私もそのような予定は聞き及んでおりません。副指令もご存知ではないとなると、いかがいたしましょう」
「ううん……、とりあえず今あんたが分かる範囲でいいから詳細を教えて頂戴」

 まずは指導監督していた訓練兵たちを避難させたこと。不用意に接近するのは危険と判断し、安全と思われる距離から大雑把に観測したこと。落着した戦術機は不知火の面影が残っているが、肩部等が著しく異なっていること。その塗装とマーキングから国連軍所属であること。そして最早修理して実戦に出すことは不可能であると、一目で分かるほど大破していることを説明した。
 夕呼はしばらくだんまりとしてから、口端を軽く吊り上げてニヤリと笑った。

「分かった。この件はあたしが預かるわ。伊隅……と伊隅は今いないんだった。速瀬たちを回収へ向かわせるから、あんたは通常任務へ戻っていいわよ」

 了解しました、とまりもが通信を切ると、夕呼はすぐに己の直轄部隊の臨時指揮官に連絡を取る。

「ああ、速瀬? ちょっとあんたたちにやってもらいたいことがあるんだけど……」




 不知火のコクピット内で速瀬水月はぼやいていた。

「ったく。なーんでこのあたしが土木作業なんてやらなきゃなんないのよ」

 副指令直々に命じられた不明戦術機回収が、水月の不満の直接的な原因ではなかった。原因は、自分が居残り組みであるというところにあった。2日ほど前からA-01部隊隊長である伊隅みちるを筆頭に、CP涼宮遥、宗像美冴、風間祷子、配属後半年も経っていない新人が3名。
 居残りを命令されたのは自分と、残りの新人組、涼宮茜と柏木晴子である。新人をシミュレータでしごいてみたりしてはみたものの、やはり退屈な基地待機。そしてそこに降って沸いた残骸の回収作業。もとより突撃前衛隊長である彼女にとって、このような後方任務は出来ることなら敬遠したいものであった。

「にしても何なんでしょうね、この不知火モドキ。もうボロボロじゃないですか。おまけに校舎まで……」
「装甲が熱で溶けちゃってるからBETAとの戦闘じゃないわ。まあ要塞級に溶かされた可能性もあるけど、多分対戦術機戦での損傷ね。ミサイルかヒートハンマーか、何でこうなったかは分からないけど」
「あ、速瀬中尉、生体反応あります! 乗ってる衛士は生きてますよ!」
「よし、それじゃあとりあえずは衛士を救出するわよ。ハッチは歪んでるし、何もリアクションを起こさないところを見ると間違いなく気絶してるわ。この損傷だと重症を負っている可能性が高い。くれぐれも手荒に扱うんじゃないわよ! こいつには事情を聞かせてもらわないといけないんだからね!」
『了解!』

 愚痴をこぼしたりと余り緊張感がないが、いざ方針が決まると彼女たちの行動は速い。
 歪んだコクピットブロック周辺をレーザートーチで慎重に切断、不知火の腕で少しずつ手前に引き出していく。当然急激な動作は禁物である。
 そして引き出したコクピットには、年の頃25・6と思われる男性が頭部から血を流して気を失っていた。国連軍正式強化装備を身に付けているので、飛び散った破片による裂傷などはなさそうだった。頭部の怪我も打撲傷であるようだ。
 あれだけの損傷で、この程度の負傷で済んでいるのは運がいいとしか言いようが無い。無論、脳挫傷や脳震盪を起こしている可能性は大いにあるので、即座に救急処置をしなければならないのだが。

「あんまり激しく動かすんじゃないわよ! そう、ゆっくり、ゆっくりとね」

 水月は素早く脈拍、呼吸、瞳孔を調べていく。若干の呼吸の乱れと、やや脈拍が速いという懸案事項はあるが、瞳孔が完全に開くということは無く、とりあえずはよしとする。
 次に骨折が無いかを調べる。強靭な強化装備を着ているため、中で腕が千切れても分からない場合がある。装備の上からそっと手を添えて確認。どうやら骨折も無いようだった。

「本当、信じられないぐらい悪運強いわね、こいつ」

 そう呟いて水月は男性の顔をまじまじと眺める。薄く茶色がかった黒髪は男性にしては細く、長めであった。顔つきは、まあそれなりに端整と言えるかもしれない。苦痛のためか眉間に皺がよっている。
 肉体の方は、衛士として何年も過ごしているであろう男性なので、当然強靭なものであると思われた。がっしりとした肩に厚い胸板。ただ、やや細身の骨格でもあるようだった。
 ややして救護班が到着し、男性を担架へ乗せる際に、彼の首にかけられたネックレスというには少々大きい長方形の白銀のプレートが目に入った。

(ロケットかしら?)

 戦場へ赴く際、恋人や家族の写真を持っていくものは珍しくない。おそらくこの男性もそういう人間の一人だったのだろう。水月は至極普通にそう考えた。
 搬送されていく男性を見届けたあと、彼女たちは副指令の命令通り大破した機体を、基地関係者に幻と噂されている90番格納庫へと降ろす作業にかかった。





 人類は滅亡という現実が、日に日に目前へと迫るのを感じていた。
 未だ世界は国家間でのしがらみを捨て切れず、どこかで反目しあっている。もしも最初から手を取り合ってBETA殲滅へと動いていたならば、今日のような状況は避けられていたかもしれない。
 しかし、それは異星技術独占を目論んだ中国のエゴイズムによって早々に崩れ去った。
 これにより、最初期においての原子爆弾・水素爆弾による飽和攻撃によって、比較的柔和であり反応炉を内包した状態である着陸ユニットを破壊するという最大の防衛手段を人類は失ってしまったのだ。
 地表で航空爆撃によって比較的中国軍が優位に立ったのをいいことに、胡坐をかいてしまった。そうしているうちに反応炉は穿孔されたシャフトを通じて地下深くに降ろされ、当時の主戦力であった戦闘車両では対処不可能となった。
 反応炉の存在を知らず、BETAの抵抗に手を焼きつつも、どうにかして異星技術を手に入れようと躍起になる中国共産党本部は、機動部隊と歩兵部隊にBETAの巣、ハイヴへの突入を命じた。とはいうものの、アリの巣のようなハイヴ内を戦闘車両が走行できるはずもなく、多数が各坐した。
 歩兵部隊は小銃やロケットランチャーを手に突入したが、戦車砲という最大火力を欠いた状態では手も足も出ず、突入部隊全員が未帰還となった。
 徐々にジリ貧となっていく戦況に危機感を覚えた共産党本部は戦略核の複数投下という決断を下した。この時点でカシュガルハイヴへ航空爆撃を開始してから18日。
 翌日に戦略核を搭載した爆撃機が基地を飛び立ってからまもなく、彼方から飛来した光線によって瞬く間に撃墜された。それは周囲の空気をプラズマ化させるほど強烈な光線であった。調査するとどうやら新種のBETAによる攻撃のようだった。
 その後、何度も爆撃を試みるも、完全に補足されてしまう。この時点で人類は航空戦力という最大の攻撃力を失った。歩兵と機甲部隊という地上戦力のみとなった中国軍は、どうにか抑えていた戦線をいとも簡単に突破され、戦場は急速に拡散する。
 インド・ソ連・欧州。BETAの進行速度は緩まず、爆撃という切り札を封じられた人類は新たな兵器を作り出す必要性に駆られた。そして1974年に米国にて開発され、正式配備が開始されたF-4は瞬く間に世界中に輸出され、各国で多数の派生機を生んだ。
 戦闘機に変わり、戦術歩行戦闘機という新たな兵器は人類の大きな力となったが、所詮はBETAの侵攻をいくらか遅らせる程度の効果しかなかった。だが、それでも人類は何十年かという猶予を手に入れることは出来た。
 そしてその裏では人類救済のために色を変え形を変え、オルタネイティヴ計画が着々と進行していた。しかし、やはりそこでも対立は避けられず、様々な軋轢が不協和音を奏でていた。




 これはあいとゆうきのおとぎばなし。
 たったひとりのいっすんぼうしがおにがしまにのりこんで、おにをたいじするようなむちゃくちゃなおはなし。

 そして絵本のページは再び開かれる。



[18026] Muv-Luv Alternative -Ave Maria-
Name: Exige◆2f2ac254 ID:ea93ec0d
Date: 2010/04/17 15:31
西暦2002年1月2日未明 桜花作戦最終フェイズにおいて、フェイズ6カシュガルオリジナルハイヴ超大型反応炉『あ号標的』通称コア 機能停止を確認。

 桜花作戦。BETA支配圏最外縁部に位置する全てのハイヴに、大規模な同時陽動作戦を展開。可能な限りBETAを引き寄せるというものだった。この作戦において、陽動部隊の帰還は度外視、完全に彼らを捨て駒とすることを前提に立案されている。
 衛士は最低限の教導官・防衛戦力を残し、腕の立つ者は片端から選出されていった。彼らは自分たちの生還が叶わないだろうことを承知で戦場に飛び込んでいった。
 そして同作戦の本命、カシュガルオリジナルハイヴへと突入し、反応炉『あ号標的』の完全破壊を託された決戦部隊は僅か8名に過ぎなかった。彼らは再突入駆逐艦に搭乗し、国連軍横浜基地より衛星軌道上に打ち上げられた。
 年若い少年少女たちに背負わされた、玉砕同然の特攻作戦。常識で考えれば成功率などありはしない。しかし、人類には辛うじて切り繋いだ希望、最後の切り札が残っていた。
 前高180mを超える超大型機動兵器。3隻の駆逐艦が打ち上げられた後、それはふわりと浮き上がり、単独で衛星軌道へと上昇していった。この時、横浜基地総司令官パウル・ラダビノット准将の演説を聞いていた者は皆、人類のために捧げられる生贄に縋り付いていた。
 表向きは最重要機密となっており、部隊の内訳等を知ることは出来ない。しかし実のところ、それなりの数の人間が薄々気が付いている。基地から飛び立っていく巨大機動兵器、凄乃皇四型。それに付き従う5機の武御雷。これだけの戦力を運用する権限が与えられているのは香月副指令とその直轄部隊であることは周知の事実である。
 直轄部隊A-01部隊において、同作戦開始までに健在であることが確認されたのは6名。奇しくも同じ訓練部隊に所属し、つい1月ほど前に任官したばかりの新任少尉たちであった。横浜基地がBETAの大規模攻勢をどうにか凌いでから、食堂を任されている篠塚曹長と共にまかないに奔走していたのは多数目撃されている。
 BETAという津波が去り、心が磨り減ってしまっているところに自分たちのために、強化装備も脱がずに精一杯動き回る少年少女たち。つい先刻まで戦術機を駆って戦っていたはずなのに、それでも何か出切ることはないかと献身的に働く彼らの姿は、少なくない数の人間に再び力を取り戻させた。
 そしてその直後の桜花作戦発動。斯衛軍より一時貸与された5機の武御雷と、ジョーカーとして用意された凄乃皇四型。選抜されたのは現在五体満足で健康かつ操縦技能に優れたもの。でなければ武御雷を御することはできない。最早選抜されたのは、まかないを振るってくれた彼ら以外にありえなかった。
 最終的にこの作戦に投入された全戦力のうち、約70%が未帰還となった。特に最前線にて決死の陽動を行っていた部隊の生還率は0。攻撃手段を失った時点でS-11による自爆。戦術機が動かなくなってもベイルアウトし、前面装甲のない機械化歩兵装甲で戦った。一分でも一秒でも長くBETAを引き付けるために。
 燃料弾薬は湯水のように消費され、事前に投下された補給コンテナは作戦開始より5時間が経過した時点で、優に6割が消費された。
 後方支援部隊も当然無傷とは言えず、抑えきれないBETAの圧力によって、多大な損害を被っていた。
 そして、オリジナルハイヴへと突入していった若者たちもまた、世界を救わんとその命を燃やし尽くし、進度4000という光の届かない暗い地下で儚く散っていった。しかし、それでも2名の生還が叶ったことは正に奇跡であった。
 あ号標的を破壊し、今後BETAが新たな戦術を駆使することはなくなった。オリジナルハイヴ大広間でのあ号標的とのコンタクト。全世界の戦力を大量に消費して得られた結果は決して小さいものではなかった。
 新たな対BETA策の練り上げ、磨耗しきった国家戦力の早急な建て直し。30年という追加の猶予を手に入れた人類は、明日を生き延びるため、今日もあがき続ける。




 日本帝国、横浜国連軍基地。白銀武はいつもの通り起床ラッパが基地内に鳴り響く5分前に目を覚ました。起き上がりこぼしのように勢いをつけて体を起こすと、眠気を覚ますために顔を洗い、手早く身支度を整える。朝食をとろうとPXへと向かう途中、数名の訓練兵とすれ違った。

「お、おはようございますっ! 白銀大尉!」
「おう、おはようさん。今日も訓練、頑張れよ」
「は、はいっ! 頑張りますっ!」

 緊張しつつ、挨拶をするのは皆、自分よりも一周り以上年下の少年、少女たちだった。年の頃は13、4といったところだろうか。中にはそれこそ小学生としか思えないほど幼い姿の者もいる。武は毎日感じる憂鬱を胸の内に隠しながら、緊張しっぱなしの訓練兵に軽く激励を送る。
 桜花作戦の成功によって幾ばくかの時間を稼いだとはいえ、未だ人類は安寧を許されず、困窮した日々を送っていた。同作戦に投入された戦力には当然帝国軍の将兵も数多くいた。そして、戦術機甲部隊の衛士は、そのほとんどが年若い人間だった。最終損耗率7割超という数字は帝国にも、そのまま跳ね返っており、今となっては20歳以上で現役の戦術機乗りは100名に満たない。その穴を埋めるために、更なる徴兵年齢引き下げが断行され、教官を担当するのが18,9歳の衛士という基地まである有様だった。
 ぽりぽりと頭を掻きながらPXへとやってくると、カウンターで合成サバ味噌定食と合成宇治茶を注文する。やはり、朝はこれでないと気が引き締まらない。

「ああら、武。またサバ味噌定食かい。毎朝毎朝、あんたも飽きないねぇ」
「俺の朝食はこれに決まってるんですよ。それにおばちゃんが作ってくれるメシに飽きるなんてありませんって」
「言うねぇ。あたしを口説くつもりかい? まったく、達者になったもんだねぇ」

 そういって笑いながら注文を受けたのは、PXの厨房を一手に引き受ける京塚曹長だった。出世し、大尉となった今でも、昔と変わらない態度で接してくれる数少ない人物である。彼女にかかれば、その憂鬱になるほどに不味い合成食もそれなりに食べられる味となる。そのため、横浜基地に所属する者は、他の基地からの出向組に少なからず羨ましがられるといった笑い話もある。

「あ、白銀。今日は先を越されたかぁ」

 そういって武の隣の席に腰を下ろしたのは、同じくA-01部隊に所属する涼宮茜だった。今となっては数少ない同僚である。
 創立当初は108名という連隊規模であったA-01部隊は平均的な部隊に比べて損耗率が激しく、幾度も人の出入りを繰り返した。当然入ってくるよりも出て行くほうが圧倒的に多く、2001年12月、207B訓練小隊の任官により、どうにか中隊を構成する人員を確保したが、直後の甲21号作戦・横浜基地防衛線にて半減。そして翌2002年においては最早4名の小隊規模にまで落ち込んだ。
 加えて、その4名のうち3名が重傷を負っており、治療とリハビリを終えるまで1年以上も必要とした。その間、桜花作戦の生き残りであり、唯一実働可能であった白銀武は様々な雑事に追われていた。
 帰還したその日、質素ながらも祝勝パーティでもみくちゃにされた。散っていった仲間たち、誇張無しに命を燃やし尽くして静かに果てた幼馴染のことを思い浮かべながら、馬鹿みたいに大騒ぎをした。やもすれば零れそうになる涙を抑えるのに苦労したものだった。
 とりあえずは特別に1週間の休暇を貰い、負傷してはいるものの、歩き回れる涼宮茜と共に正門前の桜に足を向けた。伊隅大尉に速瀬中尉に涼宮中尉、そして神宮司軍曹たちが戦死したときにも、こうして黙祷を捧げた。そこに御剣冥夜・榊千鶴・彩峰慧・珠瀬壬姫・鎧衣美琴の名が新たに加えられた。昏睡状態にある宗像中尉と風間少尉も、いつここに加わるか、分かったものではなかった。とても寂しくなってしまったが、それでも彼らは前を向いて歩き続けた。散っていった仲間たちの生き様を後世へと伝えるために。
 
「何だ。珍しく早いじゃないか白銀。今日はレーザーの雨が降るな」
「本当、いつもなら私たちが食べ終わる頃に来るのにね」

 そこに宗像美冴と風間祷子が連れ立って姿を現した。この二人は大抵の場合において共に行動している。基地職員からはもっぱら性別を超えた恋人同士なのだ、と噂されている。
 宗像は昏睡状態に陥ってから3ヵ月後、奇跡的に意識を取り戻した。その後は武と茜の見舞いを受けながら治療に専念し、リハビリも精力的に行い、その一年後には現場復帰を果たした。
 風間は宗像と異なり、2週間後には目を覚ましたが、両足が使い物にならなくなっていた。幸い脊髄は無事だったので擬似生体移植によって一応は自由を取り戻した。しかし、今は亡き涼宮遥と同様に神経接続が完全にいかず、戦術機に乗るのは不可能となってしまった。これは戦闘中、破れた装甲から管制ユニット内に飛散したBETAの体液を浴びてしまったためである。現在はA-01部隊―武たちはもっぱら伊隅ヴァルキリーズであると言って憚らない―のCPを勤めている。
 
「まあ俺だって時々はこういう時もありますよ。なんてったって今や大尉ですからね。率先して身を正さないといけないぜ、ってなもんです」
「よーく言うわねぇ。いつも率先して身を崩してるくせに」

 きりりとした表情で殊勝なことを言う武に、隣の茜からツッコミと共に肘鉄が入る。それを見て、宗像と風間が笑い、つられて武と茜も笑い出す。
 今は恐らく平和で幸せな時間なのだろう。武はそう思う。桜花作戦が成功してから早や8年、ヴァルキリーズの人員損耗はない。2003年に朝鮮半島鉄原ハイヴ攻略、錬鉄作戦に参加した時も、一人として欠けることはなかった。彼らは余りに減りすぎてしまった部隊に、強烈な帰属意識を持つようになった。最早家族とすら呼べるかもしれない。
 他にも様々なことがあった。休暇中に夕呼に呼び出され、何事かと駆けつけてみたら、今作戦においての功績に、政威大将軍直々に勲章と特別昇進を伝えたいらしい、ときたものだ。
 休暇を邪魔するなと言えるはずもなく、とにかく夕呼・霞と共に城内省へと向かった。夕呼たちもその多大な功績によって勲章を貰うことになっていたのだ。

「勲章なんて何の役に立つってのかしら。しかも国連所属のあたしたちに与えたいだなんて……。あのお嬢様も無茶苦茶言うわね。役人どもがうろたえてるのが目に見えるわ」

 夕呼としても一蹴できず、呆れながらも笑っていた。桜花作戦後、沈みがちだった夕呼が見せた珍しい笑顔だった。皮肉の度合いが非常に薄かったのだ。彼女もやはり、気が滅入っていたのだろうと武は思った。
 作戦自体が建前上最高機密であるため、報道陣を迎え入れるわけにはいかず、内々での授与となった。武以下3名は同様に国民最高栄誉章を与えられ、更に武には2階級特進が加えられ、大尉となった。

「これでそなたが彼女たちに気後れする必要はなくなりましたね」

 とは後の武との私的な会談においての煌武院悠陽の弁である。
 実はこの私的な会談は、武が夕呼に拝み倒してセッティングしてもらったものだった。数ヵ月後に、将軍を守るために存在する斯衛の象徴、武御雷を無断で、あろうことか国連軍に貸与した罪で、月詠真那中尉以下3名の斯衛衛士が死罪の判決を受け、その1週間後に刑を執り行うと耳に挟んだのだ。
 それを聞いた武は大いに慌てた。そして激怒した。あの時彼女たちの申し出がなければ今自分はここに立ってはいない。それどころか人類は破滅へと一直線だったはずだ。
 武はすぐさま夕呼の執務室の扉を叩き、今すぐに、数日以内に煌武院悠陽に連絡を付けてくれと頭を下げ続けた。
 そうして実現した煌武院悠陽・香月夕呼・白銀武の緊急会談が実現した。そこで武は彼女たちの献身を訴えた。おそらく自分たちが極めて重い罪に問われることは予想していたはずだ。それでも人類の未来を、己の誇りを預けてでも取り返そうとしたこと。5機の武御雷がなければ間違いなく桜花作戦は失敗していたこと。彼女たちは自分たち決戦部隊に強力な剣を授けてくれたこと。それがあったから今人類が明日を見て生きていられること。
 武の言葉は幾分か感情的であったので、その都度夕呼がフォローを入れて説明した。本当は月詠中尉たちは冥夜を守りたいが一心で武御雷を預けたのだが、さすがにそれを発言しないほどには冷静だった。それに、悠陽としてもきっと分かっているだろうという思いもあった。
 悠陽は言い分は分かったと頷いたが、一度下された判決を完全に覆すのは難しいと答えた。とにかく死罪だけは必ず撤回させると、大将軍の名にかけて誓うと約束をした。
 結果として彼女たちに階級の降格こそなかったものの、月詠中尉は月詠家から放逐され、白服へと転籍。残りの3名は、黒服への転籍となった。
 武は案の定憤慨したが、いかに大将軍といえど、4名もの死罪を無罪へと変えてしまっては、今度は国家権力の乱用と謗られてしまう。帝国で将軍の求心力の低下は致命的である。日本主導のオルタネイティヴ4の成功もあって、世界での日本の発言力は急速に増大している。ここで付け入られる隙を作るのは非常にまずい。
 だからこれがどうにか角の立たない落とし所だったのだと夕呼は武を諌めた。
 色々と思い返しながら、武はおばちゃん手製の定食をそそくさと平らげると、4人連れ立ってヴァルキリーズのミーティングルームへと向かう。

「では今から本日の予定を説明するぞ」

 ミーティングルームにて、宗像が説明を始める。現在のヴァルキリーズ指揮官は宗像となっており、階級は少佐。CPの風間と茜は中尉、そして武が大尉となっている。宗像は現場復帰と共に大尉へと昇進し、3年前に佐官教育を受けて少佐となった。風間・茜も同様に復帰と共に昇進。以後全員が特に昇進もなく現在に至る。

「今日はXM5β版の最終調整だ。1週間後にはトライアルがあるから各員準備を怠るなよ」

 ヴァルキリーズはここ数年は実線に出る回数は以前に比べて極端に減っている。それは錬鉄作戦が成功裏に終わり、帝国に程近いハイヴがなくなったこと、オルタネイティヴ4により全ハイヴの地下茎図が手に入り、更に桜花作戦の成功で特殊部隊であるヴァルキリーズに過酷な任務を行わせる必要性が薄れたためであった。
 現在はもっぱら新兵装や、戦術機動のパラダイムシフトとなったXM3を祖とするOSのバージョンアップに付きっ切りであった。
 人の口に戸は立てられぬ。実戦に出ていないとはいえ、ヴァルキリーズの練度の高さは世界的に有名である。中でもXM3発案者であり、公然の秘密となっている桜花作戦の生き残りである武の評価は凄まじく、8年が経過した今でも、各国から国連基地に派遣してくれと要請が届く。
 とりあえず夕呼の朝一番の仕事はそれらのメールを破棄することであった。
 



 この日、実機演習によるXM5の最終チェックが行われ、各員特別な問題はないとの報告が上がった。ただし、現在はヴァルキリーズに合わせ、ややピーキーな設定となっているため、ローカライズの際にはもう少し角を落とさなければならないとの注記も記されていた。
 1900、仕事を終えた武は、いつもの通り地下19階S4フロアを歩いていた。8年前に夕呼より手渡されたIDは現在でも当然有効で、機密情報こそ閲覧できないものの、フロア移動に関して言えば一切の制限はなかった。とりあえず、かつてこの世界の幼馴染である鑑純夏の脳髄が収められていたシリンダー室へと足を向ける。
 中に入ると、これまたいつも通り社霞が浮世離れした表情で空のシリンダーを前にトランプタワーを作っていた。霞には色々な遊びを教えた。あやとりに始まり、お手玉、けん玉、トランプ遊びにこま回し。今では武よりも霞の方がずっと上手くなってしまっていたが。
 武に気付いた霞はこそりと何かをポケットに入れ、振り返った。この8年で霞は誰もが振り向く美女へと成長していた。その儚げな表情がより一層彼女の神秘性に説得力を持たせている。背丈は170cmまで伸び、武と10cmまで身長差を縮めていた。

「おかえりなさい、武さん」
「ああ、ただいま。今日はまた凄いな。記録更新したんじゃないか?」
「はい、5cmも更新しました」

 その余りにカッチリとしたタワーに違和感を感じた武は、近づいて指先でちょいとタワーを押してみた。するとタワーはパタリと倒れた。積み上げたそのままの形で。
 思わず無言になる武と、そっぽを向いている霞。武は呆れが混じった表情で苦笑する。

「ずるっこはいけないなぁ霞。さっきポケットに隠したもん出してみ?」

 霞のポケットから出てきたのは当然というべきか、ボンドであった。ご丁寧に細チューブがついている。
 武のジト目に晒されながらも、当の霞はそ知らぬ顔でうそぶいた。

「あんまりに崩れるから腹が立って使っちゃいました。それに記録更新しようとしたんじゃなくて、部屋の飾りを作ってたんです。……本当ですよ」
「なら、さっきの5cm更新したってのは何だったんだ……?」

 脱力しながら武はそうぼやいた。二人が微妙な表情で見詰め合っていると、とちらからかともかく笑い出した。

「ま、見たところもうすぐ完成しそうだし、大事に部屋に飾れよ?」
「……ふふっ。はい」

 最近霞はこうやって武をからかったり、冗談を言うようになった。とても喜ばしいことだと武は思う。生まれから特殊で、しかも万人には到底受け入れてもらえないような能力付きだ。実際今でもこうやって気兼ねなく話が出来るのは武と夕呼、そしてピアティフ中尉ぐらいのものだ。限られた世界でもいい。もっと人間らしく、笑って自分の存在を肯定してくれればそれでいい。自分は誰かに望まれてここにいるのだと思って欲しい。くすくすと笑う霞を見て、より強く感じた。





 それから武は夕呼の執務室に入った。今日の結果報告なのだが、本来ならば別段顔を出す必要は無い。報告書とデータを夕呼宛に送信すればいいだけの話だ。ただ、毎日仕事が終わってから霞のところに顔を出すのが日課になっているので、自ずと夕呼の部屋にも顔を出すという訳だった。

「先生、今日の報告書と運用データです。一応目を通しておいてください」
「はいはい、お疲れ様。ちゃーんと見とくから安心なさい」

 そう言うと夕呼は手をひらひらと降った。ちゃんと聞いているのかいないのか。実際はどんな小言でもしっかりと覚えている地獄耳なのだが。
 武は相変わらず書類やら研究書やらペンやら制服やらが散らかった部屋を見て溜息をつく。どうしてこの人は片付けられないのだろう。かつての平和な世界にいた頃の自分も中々に散らかしていたが、ここまでではなかった。この世界に来てからというものは、私物が少ないということもあるが、きっちりと整理整頓をするようになった。
 自分でさえ整頓するというのに、この人は36にもなって……。と武は呆れつつもいつものように片づけをはじめる。最初の頃は夕呼も分かるように置いているのだから手を出すな、と拒否していたが、長く共にいれば何だかんだと阿吽の呼吸になるというもの。実に分かりやすく整頓されるので、最近はむしろ歓迎しているようである。これではまるで武が母親のようである。
 聖母とは誰が言ったのか。果てさて、武はかつての夕呼の姿を思い出し、そっと胸の内にしまった。

「……ねぇ白銀」
「はい? 何でしょう」

 目の前のPCキーボードをバチバチと叩いていた夕呼は、指を止めずに武に話しかけた。

「あんた、どうして自分が未だにこの世界にいるのかって考えたこと……ある?」

 夕呼の言葉に片づけをしていた武の動きが止まる。かすかに顔の筋肉が緊張しているのが自分でも分かる。ふっと顔を上げて夕呼の瞳を見つめる。

「どうしたんですか、いきなり」
「いいから質問に答えなさい。はぐらかそうったって駄目よ」
「そりゃ……ありますよ。あるに決まってるじゃないですか。あの時、凄乃皇の脱出艇の中で霞に色々と聞いて、それからずっと消えてしまう覚悟はしてましたよ」

 桜花作戦の最終フェイズ、臨界を越えた過剰出力による荷電粒子砲によってあ号標的を破壊した後、シャフトを抜けて脱出したシャトルの中で、武は機能停止した00ユニット、鑑純夏を腕に抱きながら、霞より全てのあらましを聞いた。
 武がこの世界の純夏の強い思いで、大量のG元素と引き換えに生み出されたこと。因果導体となり、延々と記憶を失いながら無限の世界を繰り返していたこと。純夏と精神的、肉体的に結ばれたことで因果導体の宿命から開放され、武の望んでいた平和な世界に帰還できるということ。そして、これは後に夕呼から聞いた話だが、武がこの世界から去った後は、観測者がいなくなり、夕呼と霞を除き、あらゆる人間の記憶、電子媒体の記録からも消えてしまうだろうということだった。

「俺が元の世界に帰らないと、この世界の因果で壊してしまったあの世界も修復されないんじゃないかって今でも考えます。本当はまだ因果導体のままなんじゃないかって……俺が死んだらまたあの日に戻ってやり直すんじゃないかって不安で気が狂いそうになるときもありますよ。もしそうなってしまったら、この世界で精一杯生きたあいつらは何のために死んだんだって……。その事実も消えちまう……」

 武は正式に公表はされていないものの、稀代の英雄として世間から絶大な人気があった。訓練兵たちも初めて武を見れば、感動で目を輝かせるか泣き出すか。一種アイドル的な存在になっていた。だから己の心の内に、解消しようのない不安が纏わりついていること、やもすればその重圧に押し潰されそうになっていることなど、おくびにも出せなかった。
 うな垂れる武を見て、夕呼はデスクの引き出しから一枚のプレートを取り出した。表面はつや消しの銀といったところで、特別飾り立てたものではなかった。

「これ、あんたに渡しておくわ」

 板を武のほうへ押しやると、夕呼は話を続ける。

「あたしもね、ずっと考えていたわ。鑑が因果導体の原因となっていたのは霞のリーディングがあるから間違いはない。そしてそれが解消され、世界のループに歯止めがかけられたのも間違いなかったはずなのよ。なのにあんたは未だこの世界に留まっている。何があんたをこの世界に引き止めているのか。因果律量子論にまだ穴があるのか。どうしても分からない。……だから保険としてこれを渡すわ」
「……何ですかコレ」

 武はプレートを手に取り、360度くまなく眺める。

「XM3からXM5までの全プログラムとトライアルデータ。00ユニットの量子電導脳の構築理論に佐渡島で手に入れた全ハイヴの地下茎図。そしてあんたとあ号標的の会話記録よ。他にも細々としたファイルを入れてあるわ」
「はいぃ!? それってオルタネイティヴ4の集大成ってことじゃないですか!」

 事も無げに夕呼が口にした言葉に、武からは先程までの気落ちしていた表情は吹き飛んでいた。余りの驚きに目玉が飛び出るのではないかという勢いだった。これは問答無用の最高機密だ。そんなものを自分に持たせてどうするつもりなのだろうか。もしも万が一、自分が便所に置き忘れるとか、置き引きに遭うとか、そんな事態になったらどうするつもりなのか。

「そんなに心配しなくていいわよ。それ、あたし謹製の暗号化が施されてるから」
「あ、あぁ……。そうなんですか、なら大丈夫ですね……ってそうじゃないでしょ。なんでこんな物を作ったりしたんですか?」

 至極もっともな武の疑問に、夕呼はカラリと椅子を回転させて、武に背中を向ける。

「さっきも言ったでしょ。これは保険。賭けと言ってもいいかもね。もしあんたが未だ因果導体で、死んだらやり直すことになった場合。あんた言ってたわよね。この世界に来たときは、自分の家は何の問題もなかったって」
「はい。一瞬夢を見てたのかって思ったぐらいですからね」
「そこよ。その家にはあんたが向こうの世界で使ってた物がそっくりそのままこの世界に持ち込まれた。前回のループでゲームガイ?だかなんだかを持ち出したとも言ってたわね。つまりあんたが意識しているもの。自分にとって必要であると感じているものは、一種の結界になっているあんたの家から持ち出しても存在できることになる」
「はぁ……。そんなもんなんですか」
「そんなもんなのよ、きっとね。でここで本題。あんたがそのデータを絶対に手放すことの出来ない、重要なものだと意識した場合、万が一次回のループに放り込まれた時、その世界に持ち込めるかもしれない」

 ここでようやく武は理解した。夕呼は仮にループしてしまった場合、このデータを使って世界を救えと言っているのだ。とはいえ仮説の上に仮説を立てている訳で、そう上手くいくとも思えなかったが。

「つまり先生はその世界を救う可能性があるから、これを保険として持っていろって言いたいんですね」
「そういうこと。でも間違っても初っ端にあたしに渡しちゃ駄目よ。分かるでしょ?」

 その言葉に武は思わず頷く。初対面の夕呼にそんなことをすれば、必要なデータを取られて、主導権を完全にとられる可能性がある。情報は小出しに。交渉のお決まりごとである。
 ただし、問答無用で昏倒させられ、身体検査で奪われた場合はどうすればいいのだろう。それも質問してみた。

「ま、あんたからある言葉を聞いて、それで初めて暗号を解除できるんだけどね」
「なんですか、その言葉って」
「あ号標的と上位存在、10の37乗。この3つが揃わなきゃ解読は出来ない。だから安心なさい。それも次の世界があるとして、加えてそれを持ち込めたら、の話だけどね」

 確かにこれは武から直接聞き出さなければ絶対に分かるまい。さすがは稀代の大天才。抜け目はなかった。

「そういうことだから、念のため肌身離さず持ってなさい」
「分かりました」

 これまで鬱積していた本音を話せたこともあって、武は少しばかりすっきりとしていた。やはり夕呼と話すと落ち着く。これは、向こうの世界でも、こちらの世界でも世話になりっぱなしというところから来ているのであろう。このプレート型メモリーは肌身離さず持っていることとして、とりあえず目前の仕事は1週間後のトライアルだ。ようやく欧州の中隊支援砲に続いて、正式採用される可能性のでてきた電磁投射砲のプロモーションも同時に行われる。腑抜けている場合ではないのだ。





 トライアル当日。ヴァルキリーズは最終ミーティングを行っていた。予定は現在主流となっているXM4との性能比較。各地の基地から集められた精鋭たちを相手に3機で模擬戦を行わなければならない。かつての旧式OSとXM3のトライアルとは異なり、あそこまでの圧倒的な性能差はない。完全新規ではなくブラッシュアップなので当然なのだが、それでも誉れ高い伊隅ヴァルキリーズとして敗北は許されない。4人とも表情は引き締まっている。

「……という布陣でいく。なに、いつも通りだ。白銀が突撃前衛、涼宮が強襲前衛、私が強襲掃討。急に腹を下すかでもしない限り負けはしない」

 宗像の軽口に一同の表情が緩む。気負いは厳禁である。

「あとは、トライアルが開始される前に電磁投射砲の充電試験を行うと通達が来ている。連絡事項はそれぐらいだな。それでは各員トライアルに全力を尽くすように! くれぐれも伊隅大尉の名を汚すなよ!」
『了解!』

 武は一足早く不知火弐型に乗って演習場に出ていた。少し離れた場所では専用に改修された吹雪が電磁投射砲の充電を行っている。甲高い音が横浜基地に響く。
 今でこそ、もっぱらこの弐型が帝国において正式配備となっているが、聞くと様々な紆余曲折があったらしい。武としてはとても素直でいい機体だと思う。ただ斯衛の人間に聞くと、あまり色の良い返事は返ってこなかったりする。理由としては、少なくとも純国産機であった不知火が、米国のボーニングと協力して作り変えられたからだ。
 日本と米国のハーフ、一部では鬼子のような扱いらしい。しかも、ボーニングが日本との共同開発が気に入らなくなったのか、月虹という米国でのサイレント・イーグルをゴリ押しして時期主力機の座を入れ替えようとしたのだ。
 それまでのトライアルでほぼ弐型に決定というところまで来ていたのだが、そこで再び白紙に戻され、今度は逆転してしまった。その頃は帝国としては米国にあまり強く出ることが出来ず、月虹に決まるのもやむなし、と思われた。
 しかし、そこで日本帝国主導のオルタネイティヴ4によって明かされた衝撃的な事実。そこで手に入れた情報によって桜花作戦が立案され、多大な犠牲を払ったものの、オリジナルハイヴを陥落させ、人類を救った。そして決戦部隊の生き残りは当然日本人。
 これで日本の影響力に変化がでないはずがない。流石に国家レベルの力関係では米国と対等というわけにはいかないが、一企業の言い分など、一蹴できる程度には影響力が増大した。無論背後にいる国会議員についても同様である。
 そして、5年前、めでたく弐型が帝国軍時期主力機に決まった。ただ、国連横浜基地に配備されている、通称UNブルーの不知火弐型は、宗像・武・茜機の3機と予備機が1機のみであり、非常に珍しいカラーリングとなっていた。

「なんにせよ、いい機体だよな」

 武は呟いて、首にかけられたプレートを手でいじる。因果導体。戦争とは縁遠い自分が背負わされた数奇な運命。今となっては別に因果導体となったことを嘆いているわけではない。むしろ命がけで信じあえる仲間を手に入れたことで、有難くすら思っている。
 ただ、もう一度やり直すかと問われれば、もしかしたら拒否してしまうかもしれない。やり直すということはこの世界が消えてしまうということだ。やりなおして皆を救いたいという思いは確かにある。だが、この世界でのかつての仲間たちの生き様を消去するようなことは、やはり遠慮したいものである。
 自分が何時の日か、この世界から、皆の記憶から消え去って、あの平和な世界に戻れれば一番よいのだろう。戦争という非日常にどっぷりと漬かってしまっている自分がどれだけ上手く立ち回れるかは分からないが、またループするよりはずっとマシだ。
 今回ばかりは夕呼の心遣いが無駄になって欲しいと心から願う。だからせめて、運命の日が訪れるまでは精一杯生きるとしよう。宗像少佐、風間中尉、茜のためにも。
 武は少し長めに息を吐き出した。物思いにふけり過ぎたかもしれない。外の空気を吸おうか、と考えた瞬間、突然機内に警報が鳴り響く。どこからか照準されている。

「くそっ、どこのどいつだ! こんな馬鹿な真似する奴は!」

 即座に主機出力を戦闘機動レベルにまで上げようとするが、相手はそれを見逃そうとはしなかった。

「あのクソ野郎かっ、畜生!」

 武の弐型に照準を定めているのは、先程充電試験を行っていた吹雪だった。電磁投射砲の砲身が真っ直ぐにこちらを捉えている。あれの破壊力は武もよく知っていた。なぜなら本来であれば凄乃皇四型に搭載されるはずだった兵装なのだ。何度か試射の記録を見たが、携行火器としては空前絶後の破壊力を持っている。
 そんなものに至近距離から狙わている。そしておそらく横浜基地もただでは済むまい。超高出力の電磁砲は周囲の空気をプラズマ化させる。草木は吹き飛び、場所が悪ければ人体など電子レンジに入れた卵のように破裂してしまう。

「くそっ、上がれ上がれ上がれぇっ! ふざけんなっ! こんな唐突に終わるってのか!? 冗談じゃねぇんだよっ!」

 ここで立ち上がりがやや遅いと言われている弐型の欠点が祟ってしまった。
 ようやく巡航出力に上がり、武はどうにか機体を動かし、回避を試みようとする。しかし、それは遅すぎた。

「ちくしょおぉぉぉぉっ!!」

 電磁投射砲の砲身が輝き、武は閃光の中に掻き消えていった。



[18026] Muv-Luv Alternative -Ave Maria-
Name: Exige◆2f2ac254 ID:839f410f
Date: 2010/04/17 15:05
 完全な暗闇を知る人間は存在する。生まれつき視力を持たない者、不慮の事故で視力を奪われてしまった者。
 ならば完全な白い世界を知る者もいるのだろうか。究極の光に包まれて、己の影すら生まれ得ない世界に、一人立ち尽くす者の心の内はいかなるものなのだろう。
 幼い頃、生まれながら、または事故で視力を失ってしまった全盲患者を取り扱ったドキュメンタリー番組を見ながら、ふとそのようなことを考えた。暗闇しか知らない人間がいるのなら、光しか知らない人間もいるのではないか。黒か白。子供にありがちな二元論。どちらにせよ、生活する上で途方もない苦痛であることには違いない。しかし、番組に登場していた人たちは皆、今の自分を肯定し、前を向いて生きていた。なんて強い人たちなのだろうと武は驚いた。自分であれば、きっと余りの恐怖に泣き叫んで、そのような世界になどいたくはないと逃げ出してしまうだろう。
 ただ今にして思えば、その人々もかつてはそのような溢れ出した負の感情に心乱された時が絶対にあったはずなのだ。彼らが強く見えるのは、それを乗り越えたからなのだと、確信できる。
 物質的な意味での視力・世界に限らず、苦痛を乗り越えた人間は強い。親兄弟・恋人・伴侶。宗教・信条、はたまた、己が大切にしている他愛もない小物。
 全てがありふれたもので、全てが世界そのもの。世界とは絶対的な物ではなく、とても曖昧で、とても脆く崩れやすいものである。

視力を持たない者は、何故自分は光を知ることも許されないのか、と神を責める。
 視力を奪われた者は、己の不運を嘆き、これからの人生に絶望する。
 親にお気に入りの玩具を捨てられた子供は大泣きし、もう親など知るものかと駄々をこねる。
 大切な人に先立たれた者は、何故自分を置いて遠い彼方へ旅立ってしまったのだと虚ろな心で問いかける。

 そこを乗り越えることができる人間とできない人間は半々だろうか。かつて存在した世界を失ったとしても、新たに世界を作り出せる者は強く前向きだと言われ、もはや塵と消えた世界に泥沼のように嵌まり込み、どうやっても抜け出せない者は弱く後ろ向きだと言われる。
 さて、自分はどちらに分類されるのだろう。
 かつて、自分は無知で愚かな子供だった。それまでどれほど平和な世界で暮らし、どれほど他者に守られ続けていたのか。見知らぬ世界に身一つで放り出されるまで考えたこともなかった。人より少し勉強ができ、人より少し運動ができる。心の底では、そんなちっぽけなことを自慢に思っていた。生活無能力者であった自分を、色々と世話を焼いてくれる心優しい幼馴染にも随分と身勝手で、酷いことをした。
 血と火薬の臭いに包まれた世界で、初めて自分が無力で情けない存在であることを知った。自慢に思っていたものは、全て打ち砕かれた。平和な世界の級友たちと同じ顔をした、自分を見知らぬ少女たちに。しかし、そんな世界だったからこそ、懸命に生きつつ戦った。本当の意味で自分は成長し、大人になったのだと新たな自信を持つことができた。
 そして、再び振り出しに戻されたあの日。これは神が己に与えた使命だと、確信した。閉じられた人類の歴史を取り戻すために選ばれた救世主だと、自分以外に世界を救える人間はいないのだと驕っていた。全てはただの思い上がりであり、散々な目に遭ってようやく目が覚めた。
 自分は強いか弱いか。かつての仲間は口を揃えて強い人間だと表現した。当人にしてみれば、師の無残な死に様を乗り越える前に現実から逃避してしまったし、画期的なOSの発案や、それを存分に駆使した超人的な機動技術は元の世界や前回から持ち込んだ、いわばチーティングである。なので手放しに自画自賛はできそうにない。
 ただし、最終的に認めがたい現実を全て受け止めることができるようになったのは成長したと言えるかもしれない。XM3や機動技術にしても、ゲームを結びつける応用力や、元々人間離れした才能があったことは間違いがないとも思う。かつては情けなくて非力な弱い者だった。今は己の歴史を積み重ねることで強くなった。そういうことなのだ。
 では、強い者が辿り着く先は幸福か不幸か、天国か地獄か。少なくとも己の行く先は決まっている。きっと地獄以外にありえまい。





 国連軍横浜基地の副指令執務室にて、香月夕呼はこの2日間、一睡たりとも眠っていなかった。焦燥感に塗れた表情で、血眼になりながら己の理論を再検証する。
 しかし、周囲の人間からすれば、表面上から彼女の焦りを窺い知ることはできない。彼女は常に冷静で、他人に付け入る隙を作ることをよしとはしないためである。

「これでソフト面の必要条件は出揃った。でも、肝心の受け皿が作れない……。あと少しなのよ……」

 夕呼は小さな溜息と共に、両拳で額をのせて頭を振る。かすかに紫がかった、大和撫子とでも呼べるような黒髪が、室内灯の光を反射して美しい艶を放つ。
デスクの上は、鈍器としても十分機能しそうなほどに分厚いハードカバーの本や、長々と数式が印刷され、意味不明な図表が乱雑な線で書き散らされた4用紙。インクの切れたものや、ペン先が潰れてしまった万年筆。整理するつもりなど更々ないと、その光景が声高に主張する。

「この仕様じゃ、何度エミュレートしてもクラックを起こしてしまう……。これ以上どうやれば演算速度を上げられるっていうのよ……!」

 それまで順調だった己のプランが暗礁に乗り上げてしまってからもう結構な時間が経つ。遅々として進まず、解決策の見えない現状に夕呼は苛立つ。
 本当を言えば、大声で叫んで暴れてとにかく壊しまわって暴れたい。しかし、それは彼女の矜持が許さない。精精が書類や本、ペンなどを壁に投げつける程度である。
 本日何度目かの溜息をついた時、短い音と共に執務室の扉が開いた。ウサギの耳のようなヘアバンドを頭に付け、白髪に近い銀髪を左右に垂らし、ゴシック調の衣装が施された黒いドレスを纏った少女が入ってくる。

「…………博士」
「……何、社。なにか変化でもあった?」

 少女は俯き、何も発言しない。心なしか纏められた銀髪も余計に垂れ下がっているようにも見える。

「……悪いわね社。ちょっと今立て込んでるから、なにか言いたいなら早く言って頂戴。彼女に変化、あったのね?」
「あ……、はい、そうです…………」
「そ。で、どんなビジョンが見えた?」
「……ハレーションが少し収まりました。彼女が求める彼のイメージもこれまでに比べて、かなりはっきりとしています」
「求める彼、ねぇ……」

 夕呼はデスクに置かれた一枚のカードを手に取る。それは国連軍における共通仕様のIDだった。これは先日横浜基地に突っ込んできた戦術機の衛士が所持していたものだ。
 夕呼専用の端末で照会してみたが、登録情報は存在しなかった。偽造IDかとも疑ったが、実の所夕呼は本物のIDであると半ば確信していた。
 それはID表面に小さく記載された登録者名とナンバー、有効期限のためである。

 TAKERU SHIROGANE
 UNP11-2001102201
 10/'14

 シロガネタケル。夕呼にとってはここ何ヶ月か、しばしば耳にする名前である。
 ここに存在する筈のない男。登録ナンバーは間違いなくここ横浜基地のものだ。ここまでなら偽造だとしてもまだ納得できる。
 しかし、どう考えても理解できないものがある。有効期限だ。国連制式IDは基本的に、交付から3年後に最初の更新。以後は5年毎に更新手続きを行うことになっている。仮に偽造だとして、有効期限を13年後に設定するような馬鹿な諜報員はいないだろう。潜り込む以前の問題である。
 更に言えば、登録ナンバーにも疑問が残っている。これはUNが国連、Pが太平洋、11がここ第11軍横浜基地、その後の20011022は初登録年月日、末尾の01がその日に入隊した順番を表す。つまり、この男は2日前、2001年10月22日に入隊した第一号ということになる。
 出現したその日が登録日で、有効期限が出鱈目。基地サーバーのホストには何の工作の後も見受けられない。工作活動としてはお粗末に過ぎる。
 そして決定打が、男性の首にかけられていたプレートである。適当にいじっていると、ハードカバーの表紙をめくるように開いたのだ。どうやらロケットのようで、中に一枚の写真が収められていた。

「信じられないけど……、現実なのよね」

 写真には国連軍制服を身に付けた8人の人物。夕呼は1名を除き、全ての人物を知っている。つい5ヶ月前に任官し、夕呼直属であるA-01部隊に配属された新人衛士1名。現在、政治的な理由から意図的に任官を認めていない訓練兵5名。
 そして残る2名は、正体不明衛士の若かりし頃の姿と思われる少年と、赤味がかった前髪の癖毛が主張している同年代の少女。その少女は、現在はこの基地深くで眠っている。
 先日の戦術機墜落騒ぎで、気分転換のタネができたと首を突っ込んでみたが、その箱はとんでもないびっくり箱だった。

「ったく。現実に引き戻すのが早すぎるわよ……」

 結局は自分が抱えている問題に集約されてしまう。自分は余程神様というものに嫌われているらしい。これではゆっくりと休む暇さえありはしない。
 置物のように立ち尽くしている社霞の目の前で大きく溜息をつく。おそらく霞は己の思考に、暗雲が立ち込めているような陰鬱さを感じ取っているだろう。それを今更気にしたところでどうにもならないが。
 今時そうそう手に入るものではない、大きい本皮仕様の椅子に身を預け、背もたれを軋ませながら天井を見上げたとき、デスク上の通信端末が着信を知らせた。夕呼が受信ボタンを押すと、副官のイリーナ・ピアティフ中尉が映し出された。

「なーにピアティフ。用件は端的にね」
「はい。先程件の衛士が意識を取り戻したと、医療班より連絡がありました。今すぐに向かわれますか?」
「……! 当然よ。念のため速瀬と宗像を対人装備で護衛に付けて頂戴。あんたも付いてくるのよ。あと社も連れて行くから警戒は十分するように」
「了解しました。そのように手配いたします」

 副官の言葉に、夕呼は一瞬かすかに顔を強張らせる。しかし、すぐに気分を切り替え、矢継ぎ早に指示を下していく。特に対人近接戦闘に秀でた直属部隊員を護衛に付けるのは、当然の話だが衛士の抵抗を憂慮してのことだ。相手は成人した男性衛士。大概の場合、その身体能力は高水準であり、衛士訓練を受けていない華奢な夕呼など簡単に組み伏せられてしまうからだ。一応は拳銃を携帯していくが、自分の筋力ではまともに扱えるか非常に不安である。霞にいたってはほんの子供であり、最初から戦闘など期待はしていない。

「ということだから、社。行くわよ」

 鬼が出るか蛇が出るか。さて、自分の思っている通りならいいのだが。夕呼は頭を振って気合を入れなおした。





 目を覚まし、最初に視界に入ったのは真っ白な天井だった。武は頭を動かし、周囲を見渡してみると、点滴ホルダに心電図。医務室であるようだが、隣のベッドとの仕切りカーテンはなく、個室となっている。
 室内に、心電図の鼓動を知らせる音が断続的に響く。

「俺……、生きてるのか?」

 直前の記憶を思い返してみる。演習場で弐型に搭乗しながら待機していた時に、電磁投射砲を装備した吹雪に狙われた。どうにか回避しようと試みるも間に合わず、電磁加速された弾頭に吹き飛ばされた。

「何で生きてるんだ? どう考えてもおかしいだろ……」

 電磁投射砲は、過去の運用試験でただの一撃で3000ものスコアを記録している。多少射線軸をずらしたからといって、助かるような代物ではない。自分の乗っていた弐型は原形を留めないほどに木っ端微塵になっている筈だ。だというのに今ここで呼吸をしている。
 自分が吹き飛ばされた後、一体横浜基地がどうなったか、今すぐにでも確認したいが、点滴やら心電図やらが繋がれているので歩き回ることもできない。昔なら機材を引っぺがしてでも歩き回ろうとしただろう。そのような短絡思考で行動すれば、結局は自分に跳ね返ってくることを、武は重々承知していた。
 ここはおそらく横浜基地医務室の個室だ。まず病室の状況は逐一管理されているはずだ。待っていれば誰かが来るだろう。
 その時、病室に白衣を纏った医師と思しき初老の男性が入ってきた。ロマンスグレーの頭髪を後に撫でつけ、黒縁眼鏡をかけた、実に医者らしい風体だった。

「目が覚めたかね。どこか気分の悪いところは? 見たところ、案外意識ははっきりとしておるようだな」
「あの、ここは横浜基地ですよね? 俺はどれぐらいの負傷だったんですか?」
「君の言うとおり、ここは国連太平洋方面第11軍横浜基地の医務室だ。君は2日前ここに担ぎ込まれ、今まで意識を失っていた。負傷の程度は頭を強打した程度で、後遺症などは一切残らんはずだ。安心しなさい」

 医師はしかつめらしい表情を崩すこともせず、淡々と疑問に答える。
 武はどうしても横浜基地、ひいては自分の部隊の宗像・風間・茜の無事が気に掛かった。無事であればいいのだが。

「教えて下さい。あの後、横浜基地はどうなったんですか? 攻撃の余波で少なからず損害が出たはずです」
「……? どうやら記憶の混乱があるようだな。まあ直にある方が面会に来る。聞きたいことがあれば、その人に質問するといい。 私にはそれほど発言権がないからね」

 武の質問に医師は眉をひそめて怪訝な表情を作るが、これ以上話すことはないとばかりに告げると、そそくさと退室していってしまった。

(記憶の混乱って……、何だよそれ。意識ははっきりしてるじゃねーか)

 医師の言葉に、武はどうにも納得がいかない。基地の敷地内で、電磁投射砲に水平射撃で砲撃された。弐型を挟んで反対側には基地施設があったのだ。弐型を吹き飛ばした弾頭が、そこで止まるはずもなく、基地にも被害が出ていない訳がない。いくら現場にいなかったからといって、この騒ぎ自体を知らないなどありえない。
 5分か10分か、悶々としながらベッドに横たわっていると、再び病室の扉が開く音がした。二人の女性が入室してくる。

「どうやらお目覚めのようね。気分はどう?」

 その言葉を聞いて、武は思わず安心した。なぜなら恩師の一人である、横浜基地副指令、香月夕呼の声だったからだ。先程の医師と第一声がほとんど同じであることに、武は少し可笑しく感じた。

「夕呼先生、一体何があった……んです、か…………」

 早速質問しようとした武の言葉は尻すぼみとなり、最後には掠れて消えた。目の前にいる二人の女性は、確かに自分の記憶にある人物だった。だが、決定的に違う点がある。
 余りにも若すぎるのだ。香月夕呼は異性との交際など興味はないという態度を貫いていたが、美容を保つための努力は惜しまなかった。そして元来の美貌も相まって、とても36歳には見えないぐらいに美しかった。しかし、それでも相応には老けてきていた。じっくりと見れば目尻に小皺があるのが分かるし、髪も昔ほどの艶はなかった。
 夕呼に関しては仮面もかくや、というくらい厚化粧をしたのだと無理矢理自分を納得させることもできなくはない。問題は夕呼の背後に隠れている銀髪の少女だった。
 社霞。彼女はもう20歳を超え、身長も自分よりも一回り小さい程度には成長していたはずではなかったか。だというのに、目の前にいるのは未だローティーンと思われる小柄な少女だ。
 全く訳が分からない。この光景は一体なんだというのか。

「……あたしの名前は知ってる訳ね。同年代の男に先生呼ばわりされる覚えはないんだけど、まあいいわ。あなたは現在から2日前、10月22日の午前9:00頃に、ここ横浜基地に墜落した。大破した戦術機からうちの隊員が救出したのよ。
 で、単刀直入に訊くわ。あなた、何者なの?」

 同年代の男・墜落・大破した戦術機。夕呼の質問に気を廻す前に、武の心中で消化しようのない違和感が生まれる。声をかすかに震わせながら、どうにか搾り出す。

「あの、すいません。手鏡か何か、ありませんか? あと、今西暦何年か教えて下さい。お願いします」
「……今日は西暦2001年10月24日よ。はい、手鏡。これでいい?」

 夕呼が引き出しから丸い手鏡を取り出し、武に手渡す。
 今しがた告げられた言葉を、武はもうすでに確信していた。これが夢であって欲しいと願うが、紛れもない現実であることは自身がよく知っている。やはりまたしても自分は死んだのか。未だ因果導体という鎖から逃れること叶わず、血生臭い世界に放り込まれたというのか。そして、手渡された手鏡に映った己の姿を見て、息を呑んだ。
 そこに映っているのは、毎朝洗面台の鑑で顔を合わせる、年相応に成長した自分の顔だった。

「で、もう一度訊くわよ。あなた、何者?」

 動揺した内心を無理矢理押さえ込み、武は頭を全力運転させて対応を考える。前回前々回のように最初に手持ちの情報を出してしまうべきか、それとも情報は可能な限り小出しにして今後の交渉を有利なものにするべきか。
 どちらにせよ、ある程度の演技は必要となる。無知を装うか、含ませた態度で撹乱するか。

「俺に訊くまでもなく、もう見当は付いているんでしょう? 夕呼先生」
「あたしはあなたに訊いているの。質問に答えなさい」

 武は後者の案で話を進めることにした。しかし、相手はあの夕呼だ。己の付け焼刃の交渉術が果たしてどこまで通用するか。正直、分の悪い勝負となることを覚悟する。

「……俺は2010年5月29日、1200に横浜基地演習場で同トライアルに参加する別部隊の機体に狙撃されました。そして気が付けばこの部屋にいた。それ以上のことは分かりませんよ」
「2010年? 今は2001年よ」
「そうみたいですね」

 武が早々に動揺を押し隠し、冷静に応対しているのを見て、夕呼は押し黙った。

「あたしを馬鹿にしているの? それじゃあ何、あなたは9年先の未来からやってきたって訳?」
「先生がそう思うんならそうなんじゃないですか? 稀代の大天才である先生と違って俺は頭が悪いですからね。難しいことは理解できません」

 いけしゃあしゃあと惚ける武に、夕呼の声が徐々に刺々しくなる。

「あんた、何を知っているの? 未来から来たってんなら、さぞかし物知りなんでしょう?」
「俺は未来から来たなんて一言も言ってませんよ。まあ、人様に言えない秘密くらい俺も持ってますからね。黙秘させてもらいます」
「答えなさい。あたしが優しい女だとでも思ってるわけ? あんたを白状させる手段なんていくらでもあるのよ」

 夕呼は白衣の中から小型の拳銃を取り出す。ベッドで横たわっている武に銃口を定めている。しかし、今発砲されたら対処のしようがないはずの武は、焦ることもなくじっと夕呼の瞳から視線を外さなかった。

「あれ、俺を撃っちゃっていいんですか? 後々先生が困ると思うんですけど。余計意固地になるかもしれませんよ」
「自白剤を使うって手もあるわ。鼻水や汚物を垂れ流すような廃人になりたい?」
「そう言われちゃあ、俺も黙っている訳にはいきませんね」
「動くんじゃないわよ」

 もぞりと足を動かした武に、夕呼の拳銃を握る手に力が入る。武と夕呼の視線がぶつかり、病室は一触即発の緊張感に包まれる。互いに相手の胸の裏を探りあい、どうにか主導権を握ろうとする。
 武は自分にできるのはここまでかと感じた。所詮はこの程度。精々挑発するぐらいで、政界の古狸を相手に百戦錬磨の夕呼からボロを出させるなど、不可能だったのだ。とりあえず、前回と大差ない部分について白状することに決めた。このままでは本当に自白剤を使われてしまうかもしれない。薬漬けの恐怖は9年前に散々味わった。できれば二度とは御免被りたい。

「分かりました。分かりましたよ。白状しますから自白剤は勘弁してください。ただ、こんな所で話せる内容じゃないんで、そこんとこ考慮してもらえませんか」
「……いいわ。今夜、ここに副官を遣すから、彼女についてあたしの執務室に来なさい。ただし、後手に手錠をかけて完全非武装の上でね」

 手を上げて降参した武に、夕呼は気を緩めない。拳銃を向けたまま油断ないままだ。夕呼の提示した条件は、それこそ囚人に対するようなものであったが、これほど怪しい人物に対して1対1で会話しようというのだ。今は武がベッドに寝転んでいるのでまだいいが、これが拘束なしとなると、今以上に警戒しなければならないのは至極当然である。
 武が了承の意を伝えると、霞を連れて病室から退出した。一瞬、霞と視線が重なったが、彼女はすぐに目を背けて出て行ってしまった。そして入れ替わりに2名のMPが入室し、扉の前に立った。武の脱走を防ぐ為の抜かりない対処である。

(参ったどころの騒ぎじゃねぇなこれは。またここからやり直しってだけでも気が滅入るのに、今回は若返りなしときたか……。本気で訳分かんねぇよ先生……)

 真っ白な天井を見上げて、武は心の中で大きく溜息を付く。あちらの夕呼すら予想していなかったであろう事態に、頭が疲労を訴えている。
 先程鏡に映った姿は17歳の己の姿ではなかった。紛れもなく見慣れた26歳になった自分の顔である。これはループと呼べるものなのだろうか。記憶の通り、純夏が自分をこの世界に呼んだのだとしたら、なぜ若返っていないのか。記憶にある2回のループでは共に17歳の肉体で出現した。それも元も世界そのままの自宅でである。
 26歳の肉体で戦術機―おそらくは不知火弐型であろうが―ごと横浜基地に墜落し、医務室に運び込まれるなど、最初から余りにも記憶との剥離が激しすぎる。
 ただし、登場の仕方に差はあれど、おそらくはこの世界でもオルタネイティヴ計画が進行しているのは間違いない。霞がいる以上、この事実は絶対に覆らないだろう。となれば前々回のループと同じく、第四計画に余り時間が残されていないのも同様だろう。いざとなれば、夕呼に託されたあのプレート型メモリーの内容でもって第四計画の成功とすることもできるが、気を失って2日も無駄に消費してしまったのは手痛い。
 最初から手札を全て晒す訳にはいかないため、それは奥の手ということになる。とにかくは夕呼とある程度の協力関係を構築するのが最優先だ。
 とそこまで考えた所で武は気が付いた。現在自分が身に付けているのは病院着である。強化衛士装備ではない。そして、強化装備には自分のIDやら何やらが納められている。そして首にかけていた、プレートもない。
 まずいと武は内心青ざめる。自分が戦術機ごとループしてしまっている以上、これらの装備も同様にこの世界に持ち込まれているはずだ。頭を打った程度の負傷で済んでいるところを見ると、破損して解析不能になっているとも思えない。そして、取り上げられた物品は最終的には、実質横浜基地を取り仕切っている夕呼の元に届くだろう。2日も経っていれば最早手渡っていると見て間違いはあるまい。
 夕呼のことなので、白銀武という第四計画に必要なファクターを自ら手放すような真似はしないだろう。しかし、仮にメモリーの方を解析されてしまった場合、武の交渉材料は全て奪われてしまうことになる。向こうの夕呼謹製セーフティがかけられているとはいえ、曲がりなりにも夕呼だ。楽観はできない。
 先程霞がいるところでこれを思い出さなくて良かったと武は安堵した。きっと脳裏に浮かんだビジョンを見てパスワードを読み取られてしまっていたに違いないからだ。
 事前に分かっていれば、鎧衣左近直伝の思考カモフラージュで凌ぐことができる。桜花作戦後、再開した鎧衣美琴の父親である左近と、色々と話をした。先に謝罪を受け、それから何故娘を守ってくれなかったのかと軽くではあるが武を責めた。父親として、そういう感情が起きるのは仕方のないことではあるし、武は黙ってその糾弾を受けた。ひとしきり言い終わった後、左近は先程の嘆きなどどこ吹く風でまたも意味不明な会話を始め、その中でこのカモフラージュ術を教えてくれたのだ。知っていれば何か役立つこともあるだろうと告げて。
 別段手助けをしたくないということではない。夕呼からある程度の評価を受けた後でなければ、一気に手札を晒してしまうのは危険である。武の評価を著しく減衰させ、発言力を持つことができなくなる可能性がある。そうなれば、仮に夕呼が明確に道を違えたとき、諌めて方向修正が困難になってしまう。

(俺には荷が勝ちすぎるぜ……)

 気絶したせいで、何もかもが後手後手になってしまっている。武は今夜の夕呼との対決を想像して、余計に気が滅入っていた。



[18026] Muv-Luv Alternative -Ave Maria-
Name: Exige◆2f2ac254 ID:839f410f
Date: 2010/04/26 19:54
 香月夕呼と社霞、その護衛である速瀬水月と宗像美冴、イリーナ・ピアティフは病室から執務室へと戻るため、エレベータに向かって廊下を歩いていた。金属製の壁が5人の足音を廊下に響かせる。
 エレベータの前に着くと、夕呼・霞・ピアティフの3人が乗り込み、水月と美冴はその場に留まった。ここより先は2人の権限では入り込めないからだ。
 ピアティフが扉を閉めようとしたとき、不服そうな表情を隠そうともしない水月が夕呼に尋ねた。

「副司令、一つお聞きしてよろしいですか」
「なに? 速瀬。その馬鹿丁寧な口調気持ち悪いわよ」
「先程病室へと入る際、なぜ私たちの入室を許さなかったのですか? 肝心な所で同席しなかったら、何のために護衛を命じられたのか分からないんですけど」

 水月としては、どうしても理由を聞いておきたい所だった。救出にあたった当事者であり、衛士としてもあの不知火モドキには興味もあった。噂程度だが、不知火のモデルチェンジが行われると聞いていたのだ。もしかすればあの機体こそが、そのモデルチェンジ機なのかもしれないと、年甲斐もなくわくわくしていた。
 搭乗していた衛士が目を覚ましたという知らせにも、やはり興味を引かれた。どのような声で、どのような性格で、どのような会話をするのか、非常に気になった。非日常で、面白そうだと判断したら所構わず首を突っ込みたがるような性格の水月である。できるだけ詳しい話を聞きたいところだった。
 そして夕呼から護衛を命じられた時、やっときたきたとほくそえんだものだ。だというのに、病室の扉の前で待機を命じられた。目前にてご馳走を取り上げられたような格好となり、憤懣やる方なしといった気分だった。

「あんたたちに知る権利はない。ただそれだけのことよ」
「……ちぇ。少しくらい教えてくれたっていいじゃない……」
「悪いわね速瀬。とにかくそういうことだから。知りたきゃあんたも出世することね」

 そう言い捨てると、夕呼たちの乗ったエレベータの扉が閉じられた。S4フロア専用エレベータには現在階層を知らせる表示はなく、一体地下何階まで存在するのか分からない。
 口を尖らせ、半目で扉を見つめている水月の肩に、美冴が手を置いた。

「速瀬中尉、私たちも帰りましょう。まったく、分かりきったことを質問するなんて、新兵ですか?」
「っさいわねぇ。あんたなんかにおあずけ食らったあたしの気持ちが分かってたまるもんですか」

 美冴に促され、気のない溜息をついて仕方無しとばかりに水月は歩き出す。
 基地副司令というものは、中尉という階級から見れば雲の上の存在である。その人物に対し、水月の取った態度は本来であれば到底許されるものではない。帝国軍などで同じ行動を取れば、不敬罪で間違いなく独房入りだろう。このようなフランク過ぎる言動は、直属部隊であることと、夕呼自身がそのような堅苦しい態度を嫌っているために許されているようなものだ。

「あいつ、何者なのかしらねぇ。不知火モドキも続報、聞かないし」
「私は見ていないから分かりませんが、あんたが知る権利はない、でしょう?」
「……うるさい」

 美冴の肩を軽く小突きながら、二人はA-01ブリーフィングルームへと向かった。




 2200、病室へ迎えに来たイリーナ・ピアティフの後について、武は夕呼の執務室へと向かっていた。夕呼の言ったとおり、後手に手錠をかけられている。武装に関しては、医療室へと運び込まれた時点で全て押収されている。
 2度ほどピアティフに話しかけてみたが、彼女は一切の口をきかなかった。当然といえば当然だと武は腑に落ちたが、やはり前の世界でそれなりに会話をしていた人物に無視されるとなると、少しばかり物悲しいものがある。これから先、会う人間みんなと再び初対面となることを考えると気が重い。
 こつこつと二人分の足音が殺風景な廊下に響く。武にしてみれば見慣れた光景だ。何度となくこの道を歩き、足掛け9年に渡って衛士と夕呼の雑用係という二重生活をしていたのだから当然である。時間を遡ってしまう直前にもこうして歩いていたわけで、別段感慨深いということもない。強いて言うならば、BETA襲撃を受ける前の横浜基地を歩いている、ということくらいか。
 つらつらと思考の海に耽りながら歩いているうちにS4フロアへと到着した。夕呼の執務室へはもうすぐである。

「到着しました。私が同行するのはここまでですが、くれぐれも失礼のないように。何かあれば保安部が即座に対応するので、それをお忘れなきよう」
「……分かってますよ」

 そう忠告をすると、ピアティフは踵を返して今しがた来た道をつかつかと歩き去っていった。
 妙に棘のあるピアティフに、武は妙な違和感を持った。これまでは夕呼に便宜を図ってもらってからの対面となっていたために、このような彼女の一面に気付かなかったのだろう。
 お馴染みになっている夕呼の執務室の扉を前にして武は考える。

(どうやってノックすればいいんだ?)

 手錠をかけられているため、扉を叩くことができない。そのまま突っ立っていると、小さい駆動音と共に扉が開いた。
 思わず入り口から部屋の中を見回す。相変わらず床には書物やら筆記用具といった小物が散乱し、ソファには白衣や洗濯に出す衣服が適当に放り投げられている。前回は定期的に武が整理整頓していたので、ここまで散らかっている部屋を見るのは久しぶりだった。なかなか堂の入った散らかしっぷりである。

「何を突っ立てるのよ。さっさと入ってきなさい」
「っと。失礼します」

 武が入室し、奥の一際大きなデスクへと近寄っていくと、鋭い声で夕呼に止められた。

「そこまで。それ以上こっちに近づくんじゃないわよ。少しでも不穏な動きを見せたら命は無いと思いなさい」

 デスクの上には先程の拳銃が置かれている。衛士が標準装備しているものであるが、華奢な夕呼が取り扱うには少々辛い代物だ。病室での一幕でも、おそらく拳銃を突きつけるのに精一杯で、相当やせ我慢をしていたに違いない。思わず以前の執務室での記憶を掘りおこしてしまったが、おくびにも出さずに武は素直に立ち止まる。
 腕と足を組んで、厳しい表情で夕呼が見据える。

「単刀直入に聞くわ。あんた、何を知っているの」
「お教えするのはやぶさかじゃないですけど、それは先生が知りたい内容によりますね」

 これは聞かれた範囲でしか答えないという意思表明である。最初から手札をばら撒いていたのではただの馬鹿である。
 それを察してか、夕呼の瞳が細くなる。

「……この期に及んでいい根性してるじゃない。まあいいわ。まずは何時、どこから、どうやって来たのか答えなさい」
「さっきの繰り返しになりますが、2010年5月29日1200に横浜基地演習場にて友軍からの攻撃を受けて意識を失い、意識を取り戻したときには医務室のベッドに横になっていました」
「友軍の装備は何だった?」
「デモンストレーション予定の電磁投射砲を装備した吹雪です」

 このあたりは軽いジャブと言った所か。もっと詳しく懇切丁寧に説明したところで大勢には変わりない。夕呼にとっても特別知りたいことではないだろう。

「そ、じゃあ次。あんたは何故あたしを先生と呼ぶの? 大の男に先生なんて呼ばれたくはないわ」
「俺にとっては先生だからです」
「答えになってないわ。ちゃんと説明しなさい」
「聞きたい内容を詳しく質問してください。でないと答えようがありませんよ」

 そう言って口端を小さく吊り上げ、薄ら笑いを浮かべる。以前は元の世界ではやら白稜ではやら、べらべらと聞かれてもいないことを垂れ流していた。今思うと、脇が甘いにも程がある。己に知る香月夕呼と同じ姿をした初対面の人間に対し、余りにも不用意な態度だ。
 のらりくらりと追及をかわすというスタンスが気に入らないのか、夕呼の顔が苛立ちに塗られていく。
 実際のところ、このような会話を続けても意味は無い。時間を無駄に消費し、夕呼の警戒心を余計に煽ってしまうだろう。武は自分から一枚の手札を切ることを決める。夕呼に対し、ジョーカーとも呼べる札を。

「因果律量子論。さて、誰に聞いた話だったかな?」
「……! あんた、どこで誰にその話を聞いた?」

 流石に夕呼の表情が崩れる。といっても、長い間傍に居た武がようやく気付く程度で、付き合いの薄い人間からすれば超然とした態度を保っているようにしか見えなかっただろう。しかし、武は夕呼が動揺した瞬間を確かに目撃した。

「先生も分かっているんでしょう。一体この世界の誰が、因果だの平行世界だのといった無茶苦茶な理論を思いつくってんですか? そこいらの学者に説明してみたところで一笑にふされるのがいい所ですよ。こんな理論を提唱する人間なんて一人しかいないでしょう?」
「……あたしに聞いたと、そう言いたいわけ?」
「そういうことです。俺は正真正銘、香月夕呼博士直々に因果律量子論の説明を聞きました」
「……分かったわ。あんたは因果律量子論を知っていて、その裏付けがあってここにいる。そういうことね」

 頷くと、夕呼は額を押さえて深く息を吐き出す。武には夕呼が観念したように見えた。確かに未来からやってきたのだと、武から言質をとろうとしない辺りが余裕のない証拠である。

「じゃあ次。あたしと顔見知りで、しかも直接この理論を聞いたって事は、あんたは相当深く関わってたってことでしょう。どこまで知ってるわけ?」
「すいません、何に深く関わってると言いたいんですか?」

 またしても自分から積極的に情報を出さない態度に戻った武に、ついに夕呼の堪忍袋の緒が切れた。とんとんとデスクを指で叩いて、あからさまに苛立っていると表現している。常に冷静な夕呼にしてみれば、本気で怒っているといっても過言ではない。

「計画よ、オルタネイティヴ計画。あんた分かってんでしょう。白々しい態度もいい加減にしなさいよ」
「それはお互い様ですよ」

 そしてオルタネイティヴ計画について、知る限りのことを説明する。
 オルタネイティヴ計画は現在第5計画まで存在する。もっとも、前段階を接収して発展してきた計画なので、実際に5つの計画があるわけではない。第4計画は第3計画までのノウハウを使用し、人類に敵対的な地球外起源種、通称BETAに対する諜報技術の確立を最終目標とする。
 しかし、第3計画までは建前上は一枚岩でやってきたオルタネイティヴ計画であったが、日本帝国主導の第4計画をよく思わない米国が第4計画の停滞を見て第5計画の平行展開を決定。衛星軌道上に多数の大型恒星間宇宙船の建造を開始。第4計画の頓挫と同時に第5計画へと完全移行。全人類から選抜された10万人をバーナード星域の地球型惑星へと脱出させる。

「そこまで知ってるのね。一応最高機密なんだけど」
「まさか俺が反オルタネイティヴ計画の工作員だなんて言いませんよね?」
「ここまで聞いて今更言うわけないでしょうが」

 武としては前回の意趣返しをしてみたのだが、話の流れが異なるせいで余り意味がなくなってしまったようだ。

「で、あんたのいた未来では何かしら決着は付いたんでしょ? 第4計画はどうなったの?」
「未来から来たなんて言ってませんけどね。まあ、第4計画は成功しましたよ」
「……そう。ならこれの説明、できるわよね?」

 夕呼がデスクの引き出しから取り出したのは、向こうの夕呼から託されたあの銀色のプレートだった。暗号のパスワードを要求されるのかと、顔を強張らせる。
 しかし、予想が外れた。

「この写真。特にあんたの隣に写ってる女の子、どういうことか話してもらいましょうか」
「写真? ……っ!?」

 プレートが本のように開き、その中に一枚の写真が入っている。夕呼に見せ付けられたその写真に思わず声を失う。なぜならそれは、桜花作戦前に撮影した、これから散っていく仲間たちが写った写真だったからだ。

(おいおい、こんな写真が入ってるなんて聞いてないぞ……。先生何考えてんだよ……)
 
 またしても予想外の展開に動揺してしまう。流石に顔に表れているだろう。しかし、ここで回答を誤ってはいけない。写っているかつての仲間たちに関してはまだいい。幼馴染の少女、鑑純夏に関する情報は余りにもデリケートだ。正直、いずれ明かさなければならないとはいえ、一番伏せておきたかった問題を、向こうの恩師の仕込によって暴露されるとは。頭を抱えたくなるが、生憎と両手は手錠をかけられており、それもできない。
 とりあえず深呼吸して呼吸を整え、一回咳払いをして心を落ち着ける。

「なんだ。その写真を持ってるなら、やっぱり大方の見当が付いてたってことじゃないですか。先生も人が悪いなぁ」
「誤魔化すのはやめなさい。あんた、この子のことどこまで知っているの?」
「さあ。昔の戦友としか言いようがありませんね」
「あたしは誤魔化すなと言ってんのよ。今すぐに答えなさい」

 夕呼がデスクの上に置かれた拳銃を手に取り、武に突きつける。表情は更に厳しいものに変わっている。
 武はこの時点で夕呼の置かれた状況を思い出してみる。この時期は第4計画が量子電導脳の開発に行き詰っていて、00ユニットの製作が頓挫しかかっているはずである。この問題をクリアしたとしても、次は00ユニットに人間性を取り戻す必要性が発生した。
 第4計画の成功を聞き出し、武の持っていた写真にて00ユニット、鑑純夏が写っているのを目撃した。つまり何かしら解決方法が存在することを夕呼は知ってしまった。稼動状態の00ユニットがあるのだ。そう思うのも当然である。
 しかし、問題を解決するには、武が平行世界へと赴く必要がある。そして平行世界の純夏から記憶を奪い、結果的には瀕死の重態にしてしまうことになる。可能ならばそれは避けたい事態である。純夏が因果導体の原因となっているとするならば避けられない事態ではあるが、それならば少しでも先延ばしにして、何らかの対応策を考えるだけの時間を手に入れたい。
 気付いているのかいないのか、夕呼はプレートに収められているはずのデータに関しては追求してこない。メモリー内の全ハイヴ地下茎図を見せれば、間違いなく第4計画は成功と見なされ、第5計画へと移行することはなくなるだろう。00ユニットにしても、BETAに対する諜報活動が主任務である以上、無理をして作る必要はない。
 要は既に結果が存在しているのだから、それを手に入れるため手段は不要ということだ。ただし、スピンアウト技術の可能性も考えて、量子電導脳は開発してもいいだろう。これもメモリー内に収められているが、開陳すれば地下茎図含めて全てを晒してしまうことになる。仮にデータに気付いていないのならば、とりあえずは説明をして協力の約束をしても構わないかもしれない。かつての白稜学園に理論の回収に向かうだけならば大した影響はあるまい。その後、純夏の記憶を奪ってこいと請われたら、その時点でデータを開陳すればいい。
 頭の回転数を全開にして武は今後の対応を決めた。

「先生の知りたいことは、まあ分かっています。量子電導脳の開発が行き詰ってるんですよね」
「分かってるんなら早く教えなさ……」
「でも先生はそれでいいんですか? 稀代の天才科学者である香月夕呼ともあろう人間が、他人から自分の研究の答えを恵んで貰おうと、そう言うわけだ」
「……っ!」

 夕呼の言葉を遮って痛烈な皮肉を言うことで揺さぶりを掛ける。プライドを傷付ける皮肉の効果は中々のもので、あの夕呼が思わず言葉を詰まらせる程だった。
 こうやって敵対的な態度を崩さないのには理由がある。夕呼の交渉術として主なものは、必要となる情報を可能な限り収集して、交渉の場で絶対的な立場を確保してから相手に反論させないタイプだ。無論はったりを使用することも多々あるが、共通するのは常に余裕を失わないということだ。冷静で超然とした態度で、相手を威圧するのである。
 この突発的な状況では、己の研究範囲ということと、人類の未来が掛かっていることもあって、やや冷静さを欠いている。ここで簡単には手札を切らないという意思を表明することで夕呼は一層警戒するだろうが、同時に交渉に足る人間であると認識させる。早急にギブアンドテイクの関係を作らなければならないのだ。

「お教えするのは構いませんよ。でも流石にタダと言うわけにはいきません」
「……あんた、この状況を理解して物を言っているの? 今ここで撃たれたい? それとも薬漬けにしてあげましょうか」
「先生こそ分かってませんね。俺が情報漏洩の対策、してないとでも思ってんですか?」

 銃を突きつけられながらも、そう言って不敵な笑みを浮かべる。自分に対して何らかの強硬手段に出れば、知り得るかもしれない情報は失われるかもしれないと暗に警告しているのだ。もちろんこれはブラフであり、実際はメモリーに掛けられたブロックだけで、武自身には何もない。しかし、目の前の夕呼がそれが真実かどうか確かめるとすれば、武に発砲してみるか自白剤を投与してみるかするしかない。そして武の警告が本物であった場合、保有している情報は失われる。そうなるリスクを抱えて強硬手段に出ることはまず不可能である。
 夕呼が何らかの便宜を図ることで、武から情報の提供を受ける。強硬手段を封じられ、更に逃げ道を与えられたことを感じ取ったのか、苦虫を噛み潰したような表情で、夕呼は銃を下げた。

「……いいわ。あんたのお望み、言ってみなさい」
「理解が早くて助かります。俺の要望としてはですね……」

 そうして希望を説明していく。まずは横浜基地での公的な地位。新概念OSのプラットフォーム開発。訓練部隊の臨時教官及びA-01部隊での新概念OSに関しての教導官としての配属。
 OSに関しては、コンボ・キャンセルといった新概念を交えて簡単に説明する。このOSは戦術機機動戦術のパラダイムシフトとなる程の物で、戦死者は大幅に減少することになるだろうことも告げた。そして、これは帝国や米国、その他列強に対し、少なからず交渉材料になるだろうとも付け加える。
 教導官云々は、真っ先にA-01部隊及び207訓練部隊に習得してもらいたいためだと説明した。これは夕呼直属であれば即座に採用、実用試験に移れるためである。帝国となれば諸手続きで何時まで経っても試験を開始できないだろう。

「A-01の教導官をしたいって……あんた何様なの?」
「まあ新概念OS、俺はXM3って呼んでますけどね。これを教えられるのが俺しかいないってことで納得してもらえませんか。それでも納得いかないんだったら、A-01の誰かとシミュレータで対戦させてくれればいいですよ。旧OSでも今のA-01隊長に土付ける位はできると思いますから」

 あんまりと言えばあんまりな物言い。何せ夕呼子飼いの精鋭部隊の隊長を負かせると言い切ったのだ。夕呼としても呆れて物が言えないようだった。しかし、武としては全くの無根拠という訳でもなかった。前の世界の横浜基地では、XMシリーズが主流となった時代でも旧OSのシミュレータは設置されていたからだ。
 最早型遅れとなって久しいOSを設置しているのには意味がある。現在衛士の消耗率が非常に低い水準にあるのは、XMシリーズの恩恵に他ならないのだという自戒を促すためである。新米衛士であってもそれなりに戦えるのは、XMシリーズという下駄を履かせてもらっているのだと、常に自覚させるのだ。
 武としても、度々このシミュレータを使用していた。バージョンアップしていくXMシリーズに対し、旧OSを比較するためである。そしてこの旧OSを作り上げた人々への敬意を忘れないためという目的もあった。ちなみに対人戦CPUとして最も選択した回数が多いのが、速瀬水月であり、次点が伊隅みちるであったりする。なので二人の癖は知り尽くしているし、近年では勝率は10割を切ることはついぞ無かった。

「教導官をしたいっていうなら階級はどうしたいわけ? 前の最終的な階級は?」
「一応大尉でしたよ。まあ少尉以上であれば好きに決めてもらって構いません。どちらにせよ一時的な臨時教官ですから」
「そう、そのあたりはこっちで調整するわ。で、そろそろさっきの質問に答えてもらいましょうか」
「分かりました。ただ、説明はしますけど具体的に提供するのは、今の契約が履行されてからってことを忘れないで下さいね。あと、一応簡単なものでいいので実印と自筆サイン入りの誓約書を作ってください」
「……分かったわよ」

 憮然とした表情を隠そうともせず、夕呼はPCで誓約書を手早く作り、印刷して捺印とサインを書き、武から書面が見えるようにデスクの上に置いた。

「これでいいでしょう。さあ、話してもらいましょうか」
「それじゃあ結論から言いましょう。おそらく先生が今持っている理論では量子電導脳は永遠に完成しません」
「……なんですって?」
「まあ落ち着いて聞いてください。もう言った所で驚かないと思いますが、その写真の女の子。00ユニットが稼動している以上、量子電導脳を完成させることは当然可能です。ただしここであるプロセスが必要になります」
「……言ってみなさい」

 既に予想はしていたのだろう。やはり夕呼は特別驚くことは無かった。

「こことは違う世界。BETAの侵攻を受けず、人類同士の小競り合いはあるものの、まあ平和といっていい並行世界における香月夕呼がその鍵を握っています」
「因果律量子論……」
「そうです。もうぶっちゃけますが、その世界ってのは俺が元いた世界です。唐突に別世界に飛ばされて現在に至ることになります。そしてその世界で俺が通っていた学校の物理教師をやっていたのが香月夕呼。だから俺は先生と呼ぶわけです。2番目の質問の答えはこれでいいですか?」
「……そう、そういうこと。つまりあんたは、その世界の香月夕呼からその情報を持ってこれると、そう言いたいのね?」
「ええ。ただし、向こうの世界に行くには先生と、隣の部屋にいる霞の協力がいりますけどね。あのでかい電子モデルみたいな機械、俺一人じゃ動かせないでしょう?」
「いいわ。少なくともあんたの言い分には信憑性がある。あたしにしか分からないけど。さっきの契約を履行すればあんたもこっちの契約を履行するわけよね。なら同じようにこの誓約書にサインと捺印しなさい。拇印でいいわ」

 そう言って夕呼はもう一枚の誓約書を取り出す。話の勢いで誤魔化せないかと少し考えたが、やはり抜け目が無かったと武は再認識した。
 ようやく手錠から開放され、両手が自由になった。夕呼のものに比べると随分と不恰好な文字だが、サインを済ませて拇印を押す。ついでに夕呼側の誓約書を手に取った。これで一応は契約成立だ。どうにか第一段階を乗り越えたと武は安堵した。
 夕呼はキーボードを少しばかり弄ると武に向き直った。

「今部屋の手配したから、ピアティフについて行って、とりあえずそこに入りなさい。まあ先にOSを作ってしまうから、しばらくはこっち往復するだけになるけど構わないわね?」
「それで構いませんよ」
「そ。後でIDと制服を届けさせるから。あとこれ、返しておくわ。分かってると思うけど、見つからない所に置いておきなさいよ」

 デスクの上に置かれたかつてのIDとプレートを手に取る。しばらく待っていると、ピアティフが執務室の扉を叩いた。
 武は彼女の後について、あてがわれた自室へと向かう。冥夜たちとは同じ部隊にいたと仄めかしはしたが、流石にあの部屋となることはないだろう。訓練兵と一仕官が同じブロックで生活するなど、訓練兵時代を思い返すと御免被りたいものだとしみじみ思う。
 廊下を歩きながら、手元に戻ったプレートを弄りながらふと考えた。結局夕呼はこれのメモリー機能に関して言及することはなかった。ということは気が付かなかったということなのだろう。
 もしかすると向こうの夕呼はこれすらも見越していたのではないか。プレートの中に、こちらの夕呼からしてみれば衝撃的な写真を収めておくことで、プレート自体のメモリー機能を誤魔化したのではないのか。煙に巻くためにわざわざあの写真を入れたのかもしれない。
 その後に発生するであろう雑事は自分で解決しろと、そういうことなのだろうか。もう会えなくなってしまった恩師が相変わらず意地の悪い笑みを浮かべているように感じ、武はやはり夕呼には敵わないと思い直した。


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