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[16077] Muv-Luv Alternative TOTAL ECLIPSE その手で守る者(本編更新)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2011/07/13 02:23
はじめまして、鬼神「仮名」と申します。

この掲示板でいろいろな人の作品を見て「自分も書いてみるかな?」と思ってこの作品を書いてみました。

自分実はマブラヴはオルタしかやったことがありません(笑
EXとULは小説での知識くらいです。
ポンコツです(笑

この作品の主人公は武ではありません。

オリジナル主人公となります。(ちなみに若干チート気味です)

マブラヴのお約束?となっている並行世界(オルタネイティヴ4が成功した世界)の住人で現役衛士です。
こいつには1999年8月6日の横浜に飛んでもらいます。
理由は特に話しに関係ないです。
それと、題名どおりこの作品はTEに関係してくるので武たちとはほぼかかわりを持ちません。
香月博士やA-01、斯衛の幾人かとはかかわりを持ちますがそれ以外はほぼ皆無と言ってもいいです。
そのかわりTEメンバーにはベッタリと関わりますのでご了承を。

シナリオ的には最初がオリジナル?で始まり、それからTEへと入っていきます。
TEに関しては話を変えすぎないようにしていこうとは思ってますが、まぁ変わってしまうでしょうね。
文力が無いので。

ちなみにですが機体はほぼ現存する機体の改造機を使用する予定ではあるんですが、個人的な気分でオリジナル出すかもしれません。
まぁあまりにもチートすぎる機体は出さない予定ではいますが・・・すでに主人公機がチートなので何もいえません!

独自解釈や独自設定、ありえない物、その他人物の性格が若干がったりこうじゃないだろうってところもありますが、できれば笑って許してください!
ギャグより変なシーン(決していかがわしいのではなく、どの分類か自分でも分からない)のほうが多い作品ですが、よろしくお願いします!!

それでは

3月17日 遅れてしまっていて申し訳ありません。昨年より就職活動に入る準備をしておりましてそのためなかなか書けませんでした。本編は多少書きだめと読み直してなるべく誤字や修正個所を減らすようしていくためまだしばらくかかると思います。なのでしばらくの間は思いつきなどでできた番外や短編を主に書いていくと思います。なにとぞよろしくお願いします。

2月1日 第1話の誤字について修正しました。ご報告知れくれた方、ありがとうございます。

2月6日 題名の文字が足りていなかったため修正。ご指摘してくれた方、ありがとうございます。

5月5日   設定(1999年時)における修正と追加。

5月22日  話数の後ろに(~編)と追加。

5月22日  設定(1999年時)における修正と追加。
       第8話の修正と追記。

6月24日  設定(1999年時)における修正と追加。

8月5日   設定(1991年時)における大幅な修正。

6月28日  久々の更新



[16077] 第1話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2010/05/22 01:30
2005年8月現在
人類のBETAへの反抗が始まって3年。
地球は少しずつだが人類によって取り戻され始めていた。
2002年1月のあ号標的の破壊から始まり、同年7月には東シベリアを奪還。さらに2004年には欧州奪還作戦が始まり、少しずつだが順調に人類は地球を取り戻し始めた。

2005年8月20日
アメリカ合衆国フロリダ州
アメリカ陸軍フロリダ戦術機開発局(通称フロリダ技術基地)

<明仁>
そこにとある技官がいた。
「黒田技官、これはいかがしますか?えぇ~と、新型のHUDらしいのですが」
「ん~、それは12番ハンガーに送っておいてくれ。そこにおいてある戦術機の何体かに装備させるから」
「了解しました」
「黒田技官も少しは休んでください。いくらBETAへの反抗作戦が順調だからといっても黒田技官が倒れてはこの研究はお終いなんですよ」
「あぁ~、分かった。分かったからもう言うな」
黒田技官。
本名を黒田明仁(くろだあきひと)。
日本人にしてアメリカの戦術機技術開発局に所属する、俗に言う天才発明家とでも言うのだろうか。
よく言えば斬新。悪く言えば変態。
どちらにせよ常人には理解できないようなものを作っている。
・・・俺は否定しているが。
「そういえば例の試験機はどうなった?」
「『世界一高価な鉄屑』の改修機ですか?」
「そうそう」
世界一高価な鉄屑-YF-23。
第3世代をYF-22と競い、その運用概念により正式採用を逃した高性能の機体である。
エドワーズ空軍基地にて野外係留されていたために「世界一高価な鉄屑」と呼ばれるようになった戦術機だ。
「それに関しては大丈夫です。機体の最終調整も済んでいますし。まぁ、黒田技官の無茶な設定だけは苦労しましたが」
「そかぁ。戦術機に乗るのも半月ぶりだなぁ」
「まさか黒田技官が衛士であったなんて知りも知りませんでしたよ、本当に何が飛び出すかわからないですね黒田技官は」
そう、俺は衛士でもある。
現在(2005年)の日本帝国の徴兵制度で男性は16歳から軍で基礎訓練をし、後に戦術機適正テストにより衛士になるか歩兵となるかに分かれるのである。
俺の適正は平均より高い適正を示していて、階級も技官になるまでは大尉として中隊指揮官などをやっていた。
なぜ技官になったのかというと、ある計画に関わるためだ。
「まぁ、俺の国は最前線といえるくらい近くにハイヴがあったからな」
「佐渡島ハイヴでしたっけ?」
2001年に消滅した佐渡島ハイヴ。
その存在は日本人からすれば屈辱以外の何物でもなかった。
過去何度となく苦しめられ、多大な犠牲を支払ってきた因縁なる相手だった。
佐渡島ハイヴが消滅したときはすでに米国にいた俺は、詳細は知らないが佐渡島を奪還したことを聞いて喜んだ。
「日本のハイヴには相当な戦力をつぎ込んだと聞きます。成人にも満たない子供まで戦ったそうで。自国にハイヴがあるというのはそれだけ厳しいものなのですね」
「まぁな。お前たちはそんな思いはしなくて良いさ。まだ若いんだし」
「同い年のあなたに言われたくはないですよ。その前にそのときあなたもまだ若者です」
今年で25歳になります。はい。
「ははは。それで、試験機のほうはもう準備は良いのか?お前たちの腕を疑うわけはないがな」
「えぇ、とりあえず実弾を使用した試験ということで実弾装備となっています。試作兵器に関しては装弾数より少ないですが。でも、普通ならペイント弾を使用すると思うんですがね」
「新型跳躍ユニットの調整のためだ。より実戦に近い形で調整したいからな」
新型跳躍ユニット、仮定だが試06型跳躍ユニットという。
それは推進剤を使用しない新しい跳躍ユニットだ。
ハイヴ内では補給ができないため、必然的に短期戦となる。
だが、ずっと飛行するのは効率が悪く燃費も悪いし、かといっていちいち地面に降りていては時間がかかるし間接部分に負荷がかかりすぎる。
その問題を解消するための新型跳躍ユニットを作り出したのが自慢ではないが俺である。
俺だけでなく、桜花作戦成功時に初めて知らされたオルタネィヴ第4計画の責任者香月夕呼もこの跳躍ユニットに携わっている。(他国との交渉カードにするらしい)
「でも、本当にこの機体の試験が成功した場合の次期主力戦術機候補に入れるつもりなのかねぇ」
「それは分かりませんね。正直に言いますとこの機体は量産するべき機体ではないですよ。黒田技官の技術は量産するべきですけど。機体の性能が高すぎて衛士が死にますよ。桜花の英雄なら平気でしょうが」
桜花の英雄は衛士であれば誰でも知っているだろう。
甲1号標的を破壊した英雄だ。
それ以上は話さなくとも誰でも分かる一般知識にもなっている。
「あ、そろそろ時間なのでは?」
ふと時計を見ると試験機が置いてある第1ハンガーへと行く時間になりつつあった。
「そうだな。じゃぁほかの事は任せるな。今日中に終わるものじゃないからな、あれは」
「とかいって本当は『あの娘』と離れたくないだけでしょ?」
「うるせー!」
部下にあれこれ言われながら俺はハンガーへと向かった。

ロッカールーム

「これを着るのも久しぶりだな」
黒い99型強化装備を着る。
それと一緒にロッカーにしまっておいた一振りの刀を取り出す。
黒田家の長男が受け継ぐ家宝のようなものだ。
特に名前が決まってるわけでもないのだが、何故か家宝のようなものになっている。
戦術機に乗るときこれだけは欠かせない大切なお守りのようなものだ。
鞘から取り出し、軽く振るう。
「ん?」
ふと、ちょっとした異変に気づいた。
(刀身が曇っている?)
今までこんなことはなかった。
(何かあるのか?)
疑問を残しつつ、刀を腰に下げながらロッカールームを出た。

黒田専用第1ハンガー

「あ、黒田さん!」
一人の少女が俺へと走りながら近づいてくる。
「そんなにあわてるとこけ「あわわ!」・・・言う前からこけちゃったか」
目の前でこけた少女に手を差し伸べる。
「えへへ。すみません。黒田さんが来てくれたから嬉しくって」
「そっか。俺もうれしいよ、ミリィ」

レミリー・テルミドール。
名の無かった彼女につけられた名前だ。
ちなみに考えたのは俺である。
俺の開発等に携わっているやつらにはある程度説明してあるが、この子は米国がとある実験のために連れてこられたいわば被験者だ。
その実験がどんなものなのかは知らない。
管制ユニットが少し特殊なものに変わっていること意外俺にすら話が来ていないのだ。
正直ミリィがはじめてこのフロリダに来たときは驚いたと同時に怒りが沸いた。
今では明るく笑ってくれているが、来た当初は感情がまったくなかった。
それどころかやせ細っていて体が折れてしまうのではないかと思ったほどだ。
それなのに米国の上層部は何を思ったのかミリィに衛士適正検査を行いそのまま流れるように衛士になった。
他にも汚い政治家がミリィのことを物を見るかのようにして「これは使えるのか?戦えないのなら俺が買い取ってやろうか?夜伽ぐらいには使えるだろう?」とぬかしやがった。
『この国の政治家は狂っている』
その時俺はそう思った。

「黒田さん、今日は新しい試験をするんでしたっけ?」
「あぁ、ミリィと俺が乗る戦術機の試験だ。正直やりたくないんだけどね」
そう、試験機YF-23には狂っているやつらが作った管制ユニットを搭載させてある。
いや、させられたといったほうがいい。
そうでなければミリィは『殺されていた』のだから。
「おおきいねぇ」
「そうだな」
通常のYF-23より一回り以上大きな戦術機を眺める。
「ごめんなミリィ。こんな辛いことをさせて」
「ううん。黒田さんといられるからこのままでもいいよ」
そういってミリィは微笑む。
(なんで子供が苦しまなくちゃいけないんだ)
俺は拳を強く握りしめた。

フロリダ技術基地第1演習場

「システム正常機動確認。火器管制システムも正常起動。新型跳躍ユニットも正常機動。今のところはすべて正常だな」
ちなみにミリィは複座型管制ユニットの後部に座っている。
「では演習場に移動してください。標的は自立行動型のF-4を使用します」
「了解だ」
(何もなければ良いんだけどな)
さっきの刀のこともあり嫌な感じがするまま演習場へと移動した。

演習場

「標的を出します。黒田技官・・・いやこの場合は黒田大尉とでも言ったほうが良いですか?」
管制官は少々笑いながら話しかけてきた。
「馬鹿言え。今の俺はただの技官だよ」
「黒田さんはただの技官なんかじゃないですよぉ!」
何を思ったのかミリィは俺の言葉に反応してそう言い返した。
「・・・・・・そんなにイチャついて独り身の自分に対しての嫌味ですか?」
「馬鹿言ってないで続けてくれよ。まだデスクの仕事あるんだから」
「了解了解っと。では黒田技官、よろしくお願いします」
「おう」
「そういえばまだ機体の名前決めてませんでしたね」
正式な番号は振られてなかったからな・・・そうだな。
「YF-23SBってのはどうだ?ストライクブラックウィドウってな感じでさ。他に何かあるか?」
「私は黒田さんが選んだ名前でいいと思いますよ?」
「え?いいの?適当な思い付きだよ?」
「名前なんてそんなものじゃないですか」
「ま、まぁな」
(本当にあれでいいのかよ)
話しているうちにF-4が運ばれてきた。
「反撃してこないってのも面白くはないよな」
「これもお仕事ですから」
「そうだな」
俺はトリガーに指をかけた。
その時だ。
標的となっていたF-4に突撃砲が装備されているのが見えた。
「おい、突撃砲装備してるけど演習プランが変更にでもなっているのか?まだ撃ち合いは先のはずだが」
「いえ、そんな報告は」
「今日のプランで使用するF-4は廃棄されたものを使うはずなんですけど、あの機体廃棄された割にはきれい過ぎますよ」
そして、管制ユニット内に警報が鳴り響く。
「ロックオンアラート?」
目の前にいるF-4がこちらに突撃砲を向けていた。
「おっと」
俺は回避行動をとった。
だが、撃たれたのはペイント弾でも模擬弾でもなかった。
「黒田さん!」
36mmの劣化ウランが機体の横を飛んでいく。
「おい!どういうことだ!実弾装備じゃないんじゃなかったのか!畜生!そっちの遠隔操作で突撃砲にセーフティーをかけてくれ!」
「駄目です!こちらからの制御もききません!・・・機体内に熱源があります!相手は無人ではありません!」
(無人じゃないだと!)
「おい!こちらフロリダ戦術機開発局だ。そこの戦術機に乗っているやつは即刻外に出ろ。そいつは俺の標的なんだ。出て行ってくれよ」
「それはそれは。こちらの標的はその機体とあなた、そしてあなたの後ろにいる彼女なのですよ。ならば、私たちがあなたの標的であることには変わりはないでしょう?」
F-4から男の声が聞こえてきた。
すると、標的であった10機のF-4が周囲に集まってきていた。
「完全に囲まれています。装備はおそらく対AH装備のようです」
(くそ、何だこいつらは!)
目の前のF-4は動こうとしない。
(こちらから手を出すか?それとも様子を見るか?)
「言い忘れていましたが、私たちはあなた以外に危害を加えるつもりはありません。標的はあなたがたのみです」
「なぜ俺とミリィを狙う?」
「簡単なことです。あなた、そして彼女が今や邪魔となったからです」
(俺とミリィが邪魔になったということだけで殺すというのか!)
「あなたは確かに天才的な技官です。衛士としてもすばらしい。ですが、合衆国は日本人であるあなたがこの新技術によって多大なる功績を得ることを認めるわけにはいかないのです。そして、彼女はオルタネイティヴ4が成功してしまったため、我々にとっては邪魔。脅威でしかないのです」
「オ、オルタネイティヴ4?」
「じゃぁこの技術は、この研究はどうなるんだよ!」
「無論我が母国合衆国ですよ。この世界をすべるのは力ある国だけなのですから。その力としてあなたの技術を使わせてもらうんですよ」
「それが本音か!私利私欲のためだけで俺たちを殺すって言うのか!」
俺は目の前にいるF-4へとXAMWS-24を向ける。
「我々もそう簡単と撃たれるわけには行かないのですよ」
そういうと、F-4は持っている何かをこちらに見せた。
それは見慣れたものだった。
「それは!」
「S―11です。私たちの機体すべてに装備されています。私たちのいずれかを破壊すると自動的にすべてのS―11が起動し、このあたりの地形を変えてしまうでしょうね」
「卑怯な!」
「第2次世界大戦時より奇襲を行ってきたあなた方には言われたくありませんね」
そういって突撃砲を管制ユニットへと向ける。
「それでは先に地獄で待っていてください。どうせこんなことをしている私たちが行く場所も地獄ですから。すぐにそちらへ向かいますよ。そのときは仲良くしましょう」
「くそ!」
「く、黒田さん」
(くそ!俺は・・・何もできないのか!)
俺は撃たれると思い、目を瞑った。

<テロリスト>
突撃砲のトリガーを引くときだった。
「な、何だこれは!」
目の前の機体が光っていた。
それは開くことさえままならないほどの膨大な光だ。
そして、光が収まっていくのと同時にYF-23SBは姿を消した。

???

<明仁>
(俺は、死んだのか)
意識が朦朧としていた。
あの距離だ。
はずすことはまず無い。
36mmや120mmをあの距離で管制ユニットへ食らったのなら無事でいられるわけがない。
だが、なぜこうも体中が痛いのだ?
死んだのなら何も感じないはず。
(なら、俺はまだ生きてるのか!)
急速に意識が回復していく。
全身に激痛が走るが、死んではいないようだ。
機体が地面に倒れている。
痛みはおそらく倒れたときの衝撃によるものだと推測した。
モニタのバイタルでは俺もミリィも何も問題はないようだ。
ミリィは衝撃で気絶しているらしい。
しかし。
「こ、ここはどこだ?」
とりあえず地形照合を行ってみる。
目の前にはハイヴのモニュメント。
大きさ的にフェイズ2あたりだろうか。
さらには戦車による支援砲撃の音であろう砲撃音や爆発音がしきりに聞こえてくる。
「ハイヴの攻略作戦か?」
だが、米国にハイヴは存在していないしそれに突撃砲が87式でもない。
(いったいここはどこなんだよ)
地形照合が終わり、結果が報告された。
モニタに映し出された文字を見て言葉を失った。
そこに映し出された文字は『日本国神奈川県横浜近辺』だった。
「はは、ははははは。これは何の冗談だよ」
さっきまで米国で機体のテストをしてたんだ。
テロに襲われたのだとしても横浜にいる理由が分からない。
(夢なら覚めてくれよ)
だが、目の前の光景は夢などではなかった。
望遠レンズが捕らえたF-4やF-15がBETAに破壊されていく光景。
歩兵や指揮車両、戦闘車両が潰されていく。
機体から脱出し、逃げるも戦車級に食われていく。
「・・・くそ!」
すぐさま機体のチェックを始め、主機に火を入れる。
機体が甲高い起動音を発し始めた。
スロットルを全開にして戦域へと突っ込む。
(ミリィ、ごめん。少しの間だけ我慢してくれ)
試験機YF-23SBは戦場へと躍り出た。

あとがき?
初めての投稿なので緊張しっぱなしです。
いっそ、身投げでもすっか・・・
とりあえずの第1話です
楽しんでくれたのならいいんですがねw
誤字などがありましたら教えていただけると幸いですw



[16077] 第2話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2010/05/22 01:30
1999年8月6日
日本帝国神奈川県横浜ハイヴ周辺

<帝国軍第15戦術機甲大隊ブラボー中隊>
明仁が現れる少し前。
「ブラボー1!各機状況を伝えてくれ!生きているやつは返事をしろ!」
要撃級を突撃砲で撃ちながら部隊長は隊員に通信で声をかけた。
「こちらブラボー3です。隊長、生き残っているのは私とブラボー5のみです。ほかは光線級に焼かれました・・・」
ブラボー3の言葉を聴いてブラボー1は言葉を失った。
「糞!一旦下がって他の隊と合流して体制を立て直す!」
「ブラボー3了解!」
「ブラボー5も了解ッス!」
3機の不知火が戦域を離れようとした。
だが、そのとき。
「た、隊長!異常震源が・・・・・・こっちに向かって移動してきます!」
「何!?」
「震度が浅く・・・・・・こ、この波形はBETAです!」
「畜生!全機散開して戦域を離脱!」
「駄目です!すでに囲まれています!」
「こ、こんなところで!」
もう既に逃げ場は無い。
突撃級が先陣を切って突撃してくる。
(鈴乃・・・すまない。俺は、先に逝く)
ブラボー1の叫びは地中から現れたBETA達によってかき消された。

????年
日本帝国神奈川県横浜周辺

<明仁>
目の前の破壊されている戦術機から74式近接戦闘長刀を拝借する。
自機の長刀は米国でしか製造していないため代えが無い。
そのためここで消耗するわけにはいかなかった。
「マッチングは合わないがないよりかましだな」
背中の6つのマウントのうち2つは専用武装で埋まっており、ほかの4つも突撃砲と長刀で埋まっている。
手に持っていた突撃砲は腰の予備マウントにつけてある。
「横浜・・・ハイヴ・・・まさかな」
横浜ハイヴは1999年の本州奪還・明星作戦の時に2発のG弾によって攻略されている。
その後その上に横浜基地が作られ、2001年に壊滅的ダメージを負い2006年の時点では修復と改修をしているはずだ。
ハイヴが再建されたとは聞いていない。
ここは横浜では無いのではないかと思った。
(でも、地形は横浜と一致している。それに陽炎と撃震を使っているのは日本だけだ)
「本当にどうなってんだ畜生!」
ふと、その時オープンチャンネルで通信が流された。
『こちらHQ。戦闘中の各機に告ぐ。直ちに戦域より離脱しろ。繰り返す、直ちに離脱しろ』
(離脱命令?この状況で?)
決して勝っていると言える状況ではないようだが、このタイミングでの離脱はありえない。
光線級さえ叩いてしまえば沿岸からの攻撃と戦車や榴弾砲との攻撃が可能となり、状況を打破することができるからだ。
(横浜・・・突然の離脱命令・・・・・・G弾?)
それは明星作戦の時と同じだった。
あの時も突然の離脱命令があり、そしてその後ハイヴに2発のG弾が落とされたのだ。
(まさか・・・でも、可能性としては高い)
未だ推測の域を出ていないが、可能性としては十分に在りうる。
だとすれば、この辺りは完全にG弾の影響下になる。
(俺も離脱しねぇと)
機体を旋回させえようとしたときだった。
ふとカメラが一つの光景を捕らえた。
1機の不知火の背後から要撃級が迫っていた。
周囲の振動のためか、またはレーダーが故障しているのか。
あの不知火は気づいてはいないようだった。
「・・・クソったれが!」
俺は試06型電磁投射砲(レールガン)を選択する。
マウントが高速展開し、砲身が固定される。
レールとレールの間に電流が流れ、電磁場が生まれる。
「間に合え!」
俺はトリガーを引き、轟音と共に数発の36mm弾が放たれた。

オルタネイティヴ計画第1戦術戦闘攻撃部隊第9中隊
<みちる>
『こちらHQ。戦闘中の各機に告ぐ。直ちに戦域より離脱しろ。繰り返す、直ちに離脱しろ』
「離脱!?」
オルタネイティヴ計画第1戦術戦闘攻撃部隊第9中隊、通称伊隅ヴァルキリーズ隊長である伊隅みちるはHQが出した突然の離脱命令に混乱していた。
現状を維持するためにはこの場を離れるわけにはいかない。
ましてやこの作戦は本州を奪還するための第一歩なのだ。
「大尉!HQは一体何を考えてるのですか!?」
「分からない。だが、離脱しろとの命令だ。今は従うしかない!」
「ですが!」
「大尉!」
みちるは混乱して気づいていなかった。
すぐ背後まで要撃級が迫ってきていたことを。
アラートが管制ユニット内に鳴り響く。
だが、要撃級はすでに逃げられないところまで迫ってきていた。
(いつの間に!)
要撃級は攻防一体の前腕を大きく振り上げた。
(私は、ここまでなのか!)
みちるは死を覚悟して目を瞑った。
だが、要撃級の腕が振り下ろされる間際に管制ユニット内に轟音が響いた。
轟音が鳴り止むと同時に機体背後にあったBETAのマーカーが消えていた。
「な、何が起こった!?」
「わ、分かりません。何かが要撃級を貫通したことしか」
「貫通?」
「は、はい」
振り返り要撃級を目視する。
息絶えた要撃級には36mmが当たったにしては大きな穴が開いていた。
(これはいったい・・・)

<明仁>
「間に合ったか」
展開した試06型をマウント状態に戻す。
「砲身に異常は無し。まだ大丈夫だな。まぁ弾は諦めるしかないか」
兵装を試06型から74式長刀に切り替える。
まだ国連カラーの不知火周辺にはBETAの反応がわんさかとある。
機体数と動きを見るにあの数から離脱するのは難しいだろう。
ならば、俺にできることはそれを援護してやることだけだ。
それも時間制限付だ。
「さてと、楽しい楽しい接近戦とでも洒落込みますか」
俺は進路を不知火の元へと向けた。

<みちる>
「クソ!C小隊は右翼を固めろ!A小隊は左舷と後方を!B小隊はそのまま前方維持!」
「「了解!」」
みちるは焦っていた。
さきほどのこともあった。
だがそれ以上に厄介なことが起こっていた。
BETAの出現頻度が急に上がってきたのだ。
それも進路上に次々と。
まるでここから先には行かせないと言っているようだった。
(そろそろ弾薬も底を尽く。それに新人たちの精神も限界だ。何とかして安全区域までいけないだろうか!)
「く、来るなくるなくるなくるなぁ!!・・・あぁぁぁぁぁぁ!」
「おい、どうしたヴァルキリー10!返事をしろヴァルキリー10!!」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
「・・・ヴァルキリー10シグナルロストです」
また一人部下が戦車級に食われた。
それが引き金となったのか一人の新人の精神が崩れていった。
「この!このこのこのぉ!」
「やめろヴァルキリー11!単独行動はやめろ!」
「ヴァルキリー10を!美佳を返せぇ!!」
その新人は前に出すぎて左右を要撃級に挟まれていることに気づいていなかった。
管制ユニットに警告音が響くまで。
ヴァルキリー11はその場で硬直した。
「あぁ・・・」
「に、逃げろ!」
突撃砲ではヴァルキリー11を巻き込んでしまう。
みちるは助けようと全速力でヴァルキリー11の元へと向かった。
だが、要撃級の腕はすでにその機体を捕らえようとしていた。
(間に合え!間に合ってくれ!)
だが、要撃級の動きのほうが一歩早く、腕が振り下ろされようとしていた。
(間に合わない!)
みちるはそう思った。
だが、要撃級の腕は上がったまま下ろされることは無かった。
「え?」
よく見ると要撃級の胴体に何かが突き刺さっていた。
「長・・・刀?」
突き刺さっていた長刀はゆっくりと引き抜かれていった。
2体の要撃級の後ろ。
そこに1体の戦術機がいた。
いつからそこにいたのかまったく分からなかった。
レーダーに全く反応が無かったからだ。
黒い機体。
(F-22A?)
最初はそう思った。
ステルス機能を持った機体は実戦稼動しているものは米軍のF-22Aしか存在していないはずだ。
だが、この機体は形状が全く違う。
また、機体に桜のパーソナルマークが入っているのも気がかりだった。
(米軍が何故?それに桜のパーソナルマークは確か斯衛の)
『そこの不知火、大丈夫か?』
「え!?は、はい!!」
その声は男のものだった。
それと、驚くべきことに日本人のようだ。
『そうか、なら隊に戻れ。BETAの中での孤立は自分の死だけじゃなく仲間を巻き込むぞ』
「わ、分かりました!」
そういい、部下は不明機から離れ、隊に戻った。
それと同時に不明機がこちらへと近づいてきた。
「部下を救っていただき、ありがとうございました」
みちるはとっさに部下を救ってくれたことに対して謝罪を述べた。
すると、オープンチャンネルで音声のみで返答が返ってきた。
『いや、この混戦の中だ。それにあの様子だと精神的にきていたんだろう。新任のようだしな。まぁ助かったんだ。あまり攻めるようなことはしないでやってくれ』
(随分と若い衛士だな)
それがみちるが思った第一印象だった。
声だけを聞いての印象だが、その甘い気遣い方だけを見ても十分若いような感じだ。
『そちらの損害状況はどうだ?』
「現存している機体は動くことはできますが弾薬が残りわずかです」
『そうか。ならすぐに離脱してくれ。援護をする』
「たった1機で、ですか!?」
『あぁ、そのつもりだが?』
彼の申し出は正気の沙汰ではない。
BETAとの戦闘でもっとも怖いのは孤立することだ。
そのためBETAとの戦闘では基本的に2機連携を原則として行動している。
だが、この衛士は1機で援護をするといったのだ。
「せめて2機連携で動いてください!私の隊から誰か1人でもパートナーを!」
『いや、遠慮しておこう』
「しかし!」
『さっき満足に戦える機体がないといったのは君だろ?』
「うっ」
その言葉にみちるは黙るしかなかった。
確かに彼の言うとおりだ。
現存している機体の殆どが弾薬や推進剤不足という状態だ。
援護となればかなりの数のBETAと相対することとなる。
こんな状態で援護などできる機体は1機もいなかった。
『・・・もう時間が無い。早く離脱するんだ』
「時間が、無い?」
『あぁ』
彼がそう答えた時、管制ユニット内にアラームが鳴り響いた。
「な、何が起こっている!?」
『畜生!米軍め!まだ残ってるだろうが!』
「い、いったい何のことだ!」
『G弾だ。噂や話くらいは聞いたこと無いか?G元素を用いた新型爆弾だ。あれが落ちれば少なくともここいら一帯は5次元の作用でさようならだ』
「な!」
『話は後だ!いいから離脱しろ!』
そう言って彼は後方から迫ってくるBETAにガンマウントの突撃砲を撃ち始めた。
「な、何をして!」
『いいから離脱しろ!不知火の最高速度じゃギリギリだ!部下の命背負ってるんだったら迷わず行け!』
「・・・申し訳ありません」
『謝るくらいだったら酒くらいご馳走してくれ』
「必ず」
そう言ってみちるは部下を引き連れ全速力で離脱を開始した。

<夕呼>
夕呼は1つの戦術機を見ていた。
黒い色を纏うどのデータにも存在しない機体。
(米国が介入してきた・・・にしては規模が小さいわね)
いくら極秘任務だったとしても、BETAがいる場に1機だけを投入するとは思えない。
それに、
(伊隅の報告ではあの機体の衛士は日本人。しかもG弾が落ちてくることをわざわざ教えてきた)
ふと、夕呼の顔に笑みが浮かんだ。
「・・・ふふふ、これは楽しみね」

<明仁>
「さてと、どうしたものかな」
目の前にはBETA。
頭上からはG弾。
(まったく、本当にG弾かよ)
アラームがなった直後に頭上から何かが急接近していると警告が出た。
不知火には感知できなかったのだろうが、このYF-23SBには広範囲索敵型強化レーダーを装備している。
予想通り落下してきているのはG弾だったわけだ。
「そろそろ俺も離脱しないとな」
無茶な使い方をしてボロボロとなった74式長刀をBETAへ向けて放り投げ、不知火たちと同じ方向へと進路を変えた。
あの不知火たちが離脱してからも尚ギリギリの時間までBETAと戦い続けた。
そうでもしなければ逃げているところを後ろから光線級にやられる。
生きたBETAや死骸をうまく楯として使うには多少の時間がかかった。
「頼むから動いてくれよ!」
スロットルをレッドゾーンにまで踏み込む。
試06型跳躍ユニットが機体をどんどんと加速させていく。
「ぐぅぅ!」
それと同時に身体に多大なGがかかってくる。
「う、うぉぉぉ!」
最大速度が1050kmを超えた時だった。
後方で途轍もない重力異変と爆音が鳴り響いた。
「畜生!もう落ちたのか!」
機体の加速を超えるほどの速度で衝撃波が機体を襲った。
「うぅあぁぁぁ!」
計器は滅茶苦茶に振るえ、身体も前後上下左右にと揺れている。
しばらくして衝撃が徐々に弱くなってきた。
それに伴い計器の異常と振動も収まってくる。
レーダーはG弾の有効範囲外に出たことを告げていた。
「た、助かったのか・・・」
俺は肺に溜まっていた空気を吐き出した。
「こ、これでとりあえずは一安心・・・・か」
無事を確認すると俺はミリィの様子が気になり後ろを振り向いた。
「・・・すぅ・・・・すぅ」
ミリィは気絶したまま眠っていた。
バイタルモニターには異常は出てないから大丈夫だろう。
「しかし、これはいったい」
突然のことで未だに現状を理解できない。
「仕方ない、とりあえず何か無いか探すか」
管制ユニット内の格納用扉に手を伸ばしたときだった。
(あれ?この強化装備こんなに大きかったっけ?)
戦闘中は気づかなかったが、伸ばした手先より強化装備の方が少々大きかった。
ふと、思った。
(まてよ、さっきのが明星作戦と仮定すると・・・ここは1999年だ。なら俺は19のはず)
それならばこの強化装備のことが頷ける。
(・・・今の俺は19歳ってことか?若返ったのか?)
そう思ったとき、突然ロックオンアラートが鳴り響いた。
「は、はぁ!?」
すると、廃墟の影からさっき助けた不知火が姿を現した。
レーダーを確認してみると完全に包囲されていた。
どうやら逃げ切ることに精一杯で囲まれていることに気がつかなかったようだ。
『申し訳ありません』
ナンバー01と表示されている機体、あの戦域で話した女性衛士が音声のみの通信を始めた。
『助けていただいた上でこのようなことはしたくないのですが、これも命令なので。あなたを拘束させていただきます』
「拘束?しかし、何故?」
『分かりません。ですが、我々の上官が、貴方が計画の邪魔になる危険性があるため直ちに拘束せよと』
「計画の邪魔?いったい何が?」
『分かりません。とりあえず我々に同行してください』
そういって10数機の不知火は銃口を向けながら歩き始めた。
(何がどうなってんだよ)
俺はそれに従うしかなかった。


あとがき?
こんにちわ。
車の実技教習を予約しようとしたら向こう1月先いっぱい埋まってるって・・・
そんなこんなで2話目です。
やっぱり難しいですね。
それとみちるさん、ぜんぜん原作っぽくない気がするw
力が足りずすみませんw
とりあえず週1か2でいければいいなと思っています。

これから明仁とミリィは香月博士に出会います。
知らされる現状。
変わってしまった歴史。
明仁は何を選んでいくのでしょうか。
次回もできれば見ていただけると幸いですw



[16077] 第3話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2010/05/22 01:31
戦闘指揮車内

<黒田>
「初めまして。私は・・・・って知ってるわよね?でも驚いたわ。本当に日本人なのねぇ」
拘束され、連れて行かれたのは作戦指揮車だった。
ミリィは連れて行けない状態だったので機体内で寝かせてある。
無論、その存在を伏せたままだ。
今そのことを言っても何の特にもならない。
それどころかこちらが不利になりかねないからだ。
降りてから連れられた指揮車に懐かしい顔がいた。
香月夕呼。
YF-23SBの試06型跳躍ユニットの開発を共に行った人物だ。
他にもオルタネイティヴ第6計画でも結構なお得意さんでもあった。
今となってはこの場で頼れる人は香月博士くらいだろう。
「アンタには聞きたいことが山ほどあるんだけど、平気かしら?」
「こっちも貴女に聞きたいことがあります」
「へぇ。いいわ、アンタの話を先に聞きましょう」
そういって、デスクに置いてあったマグカップを手に取る。
(相変わらずマイペースだな)
「さぁ、話せる範囲でなら答えてあげるわよ?」
「はい。では、さっきの戦闘。あれは何ですか?ここは本当に横浜なんですか?」
「えぇ。ここは確かに横浜よ。さっきの戦闘は明星作戦、まぁ米軍がG弾落としたせいでめちゃくちゃになったけどね・・・というか変な質問をするのね」
自分の耳を疑いたかった。
(明星作戦は6年も前の作戦じゃないか。何がどうなっているんだ?俺はからかわれているのか?それとも本当に過去の日本に?だとしたらさっき考えた仮説が正しいってのか?)
からかうにしては冗談きついものだ。
確かにあれは実戦だった。
それはこの腕がちゃんと感じている。
だとしたら考えられるのは後者しかない。
「ってことは、ここは1999年の8月6日ですか?」
「えぇそうよ。なにそんな当たり前なことを聞いてくるのよ。それも作戦なの?」
「作戦?」
そういうと香月博士はマグカップの中身を一口飲んだ。
「あんたのあの機体はどう見てもYF-23の改造機。あんな高価な鉄屑を使ってあの作戦区域をうろちょろしているなんて普通はありえない。考えられるとしたら現場観察か実戦試験くらい。ご自慢のステルス機能で隠れたつもりだったんでしょうけどね。けどうちの部隊を助けてそのせいで自分たちが撃ったG弾に殺されかけるなんて傑作ね」
博士は細く笑みを浮かべていた。
「・・・何が言いたいのかさっぱり分からないんですけど」
俺がそういうとマグカップを置き白衣に手を入れた。
「じゃぁ単刀直入に聞くわ。まぁこれは私が聞きたい事なんだけど」
そういって白衣から手を出した。
45口径USPを手に持って。
そして、その銃口を俺へと向けた。
「オルタネイティヴ5は何を考えているの?G弾なんか持ち出して」
「オ、オルタネイティヴ5?」
いきなり第5計画のことを聞かれて俺は戸惑った。
「惚けないでよ?あんな機体を動かせるのはそれくらいでしょ?それにうちの部隊長にG弾が落ちてくることを知らせてくれたそうじゃない。そんなの米軍、それもオルタネイティヴ5関係者以外に考えられないわ」
そういいながら銃口を突きつけつつこちらへと進んでくる。
だが、俺は何のことだかさっぱりと分からなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください!ただでさえこっちは混乱しているんです!少し整理させてください!」
「混乱って、あんたたち米軍がやっていることなのに何言ってるのよ。それともあんたは日本人だから作戦内容だけ聞いて動いていただけとでも言うの?はっ!だとしたら傑作ね!」
少しだが、博士の言いたいことは分かる。
確かにあの作戦にあのような米軍機が混じっていれば疑うだろう。
それも正式採用されなかった試作機の改造機だ。
そう疑うのも分かる。
だが、今は分かってもらうしかない。
何せ現在頼れるのはこの人だけなのだから。
「そもそも自分は第5計画に関係していません!自分は貴女が発案した第6計画の協力者だったんです!って、第6計画なんて知らないか・・・ともかく自分は第5計画とは無関係です!」
「第6計画?アンタ嘘言うならもっとマシな嘘にしなさいよ。さすがにそれはありえないでしょ?」
「いえ!本当のことです!何故だか知りませんが2005年からこの1999年に飛ばされてきたんです!」
それを聞いて何か思ったのか確認するかのようにモニタに目を向けた。
すると博士の表情がそれまでとは違うものとなった。
それは驚くものを見たかのような表情だった。
「博士?」
「・・・」
博士は黙ったままだった。
すると、突然通信機を手に取った。
「私よ。えぇ、そう。で、どうだった?・・・そう。分かったわ」
誰かと話したと思いきや通信機をデスクへと置いた。
そして、急に態度が変わった
(な、何がどうなってるんだ?)
「・・・そのときの様子を詳しく話してくれる?」
「え、あ、はい」
俺はその時の状況と様子を博士に話した。
技官としてオルタネイティヴ6に貢献するためにアメリカのフロリダにいたこと。
そして、そこでテロにあったこと。
敵に撃たれる寸前奇妙な光に包まれたことなど。
「なるほどね。それが本当だとするならアンタは因果量子理論を証明したということになるわね」
「因果量子理論・・・ですか」
それは、以前博士と会ったときに話してくれた理論だ。
確か並行世界云々の話だったような気がする。
難しすぎて未だによく分からないが。
「えぇ。簡単に言うとこの世界とは違う平行世界、そこからアンタが飛ばされてきた」
「平行世界・・・」
やはり分からなかった。
いや、平行世界までは分かる。
しかし、その平行世界に飛ばされるというところがいまいち分からなかった。
だが、博士はそれで何かを納得したかのようだった。
「そういえば、アンタの名前は?」
「黒田明仁大尉です」
「黒田・・・黒田明仁・・・黒田って斯衛のところの黒田少将の?」
「まぁ、息子になりますが」
すると、博士はまたデスクの通信機を取り、どこかへと連絡をし始めた。
数分後、博士はデスクに通信機を置くと同時に何かを考え始めた。
「・・・・・・」
「何か、まずかったんですか?」
「まぁ、ね」
「何か・・・あったんですか?」
「そうね。因果量子理論を前提に話を進めると、この世界には2人の黒田明仁がいることになる。でもね、実際この世界には黒田明仁は1人しかいないわ。それがどういう意味だか分かる?」
(え?)
確かに、この時俺は確か明星作戦にブラボー隊として参加していた。
確か部隊は半壊したが生きているはずだ。
いや、でも俺は現にここにいる。
博士は1人しかいないと言ったんだ。
つまり、
「この世界の俺は既に死んでいると?」
「そうよ」
「・・・そうですか」
自分が死んだわけではない・・・いや、平行世界なのだから自分自身で合っているのか。同じ自分が違う世界の自分が既に死んでいるということは少しショックだった。
「それで、いつ死んだのですか?」
「ついさっきよ」
「え?」
「だから、ついさっきの作戦で死んでいるのよ」
「さっきの作戦で?」
「そうよ。アンタ自分の世界のときも明星作戦に参加していたんでしょ?」
「えぇ」
「アンタが所属していたブラボー隊はBETAに飲み込まれてほぼ全員戦死だったわ
よ。アンタを含めた数人がMIA認定になってたけど恐らくは死んでいるわね」
「そ、そんな」
ブラボー隊は斯衛軍第12戦術機甲大隊から選ばれた衛士を中心として作った臨時部隊だ。
俺はその時部隊長として戦場指揮を執っていた。
そして、俺の親戚である白河家次期当主も副隊長として参加していたはずだ。
「そういえば、アンタの世界で白河のご息女は作戦に参加していたの?」
「え、あ、はい」
「ならよかったわね。彼女だけなら生きているわよ」
「え?」
「さっきの話では訓練か何かのときに怪我か何かをしてて作戦に参加してなかったそうよ」
(よ、よかったぁ!)
俺は1人でも生きていることに少しだがほっとした。
だが、不審な点がある。
それは彼女が作戦に参加していないことだ。
「・・・やっぱりここは違う世界なのか」
「さっきも言ったけど、因果量子理論のとおりなら、アンタがここにいる時点で歴史は多少変わっているわ。この世界のアンタが死んだのだって恐らくはアンタがこの世界に来たからよ。世界が2人の黒田明仁という存在を認めなかった。どっちかが消えなきゃいけない。結果的に平行世界からやってきたアンタの因果が強かったために生き残った。もしかしたらアンタが来たために彼女が死ぬという因果が消えた。そういうことじゃない?」
「・・・」
「それよりこの後アンタはどうするの?アンタの部隊は全滅したことになっているわけだから自由に動けやしないわよ?黒田家は白とは言っても白河家の親戚でもあるからね。斑鳩家なんかとも関係があるわけだし。死んだと思われたところに同姓同名というか並行世界からやってきた当の本人が戻ってきたなれば相当混乱するでしょうね。それにあの機体も、おそらくは目をつけられているわ」
「・・・そう、ですね。でも、いくところなんて無いですよ」
黒田家には当然戻れない。
帝国にも戻れない。
だから、今唯一頼れるのは目の前の人物だけなのだ。
「なら、もう一度黒田明仁をやり直してみる?」
「え?」
「アンタを国連軍衛士として雇おうってことよ。国連のデータベース程度なら改ざんは可能よ?まぁさすがに今の階級でって言うのはさすがに怪しまれるから訓練兵ってことで始めてもらうけど。ちょうど知り合いが近くの基地で教官やってるからそこに入れてあげる。任官後はある程度自由の利く階級をあげるわ」
「え、いやしかし」
「いいから頷いておきなさい。確かにまだアンタを信用し切れてないわ。これは因果粒子理論を大前提とした結果での私の考えよ。それに、もし黒田家にアンタのことがばれたとしても私が拾ったといえば多少は誤魔化せるだろうしね。それに斯衛に借りを作っておけばそれをパイプとして利用させてもらえるし。何よりアンタの記憶が一番優先よ。この理論が正しければ多少の誤差はあるとしても未来の情報が手に入るわけ。私としてはこの利益を利用したいわ。アンタはオルタネイティヴ4が成功した世界の人間なんでしょ?その対価としての提案として、アンタを国連に入れてアタシの元で保護してやるってことよ。私の元であれば探りなんて簡単に入れられないからね」
「・・・なるほど」
「どう?悪くは無いと思うんだけど?」
確かにその提案は嬉しい。
そうなればミリィの安全も確保できる。
だが、当然リスクもある。
それは俺が香月博士の駒になることだ。
恐らくはそこまで考えているのだろう。
私の元にいればという言葉がそうだ。
『横浜の女狐』
まさしくその通りの人物だ。
しかし、現状これ以上の待遇は無いだろう。
別に訓練兵という立場に問題はない。
任官してしまえばいいのだから。
ミリィのこともそうだが、機体のほうも気になる。
ここは甘えておくのがベストであろう。
「分かりました。その提案お受けします」
「そう。じゃぁ早速だけど手続きを始めるわ」
「えっと、その前にひとついいですか?」
「何?」
「自分の機体にもう一人衛士が乗っています。彼女も一緒に出来ますか?」
「可能だけど、何?アンタ一人じゃなかったの?」
「えぇ、まぁ。あの機体は実験中だったもので。一応階級は中尉で実戦経験はあります」
「・・・分かったわ。アンタと一緒にしてあげる」
「ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げた。
「じゃぁ早速だけど訓練部隊に向かってもらうわ。私も一緒に行くからよろしく」
「分かりました。でも、自分の機体はどうしますか?さすがにあれは目立ちすぎると思いますが」
全身が黒いYF-23SBは確かに目立ちすぎる。
いや、黒くなくてもあの機体は目立ちすぎるのだが。
ここにつれてこられる間も他の機体がこちらを何度見ていたか分からないほどだ。
「あぁ、その辺は私関係の機体ってことにしとけば大丈夫よ。それと、ハンガーに関しては私の部隊と同じ場所を使うから一般兵にいられる可能性は少ないわ」
なるほど、確かにそれなら大丈夫そうだ。
「それじゃ、先に外に出ていて頂戴。まだちょっとやることがあるから」
「はい」
俺は香月博士の声に従い指揮車を出た。

<夕呼>
「ふふふ、何てことかしらねぇ」
最初は敵の工作員か何かと思っていた。
だが、社のリーディングによればそうではないようだ。
嘘をついてもいなかったようだ。
「まさか、こんな大物が釣れるなんてねぇ」
まさかあの理論をここで実証されるとは思ってもみなかった。
だが、これは使える。
夕呼は通信機を手に取った。
「社、これからあの男を常にリーディングしていなさい。そう、出来ればずっとね」
(社のことは隠していたほうが良いわね。とりあえずアイツが任官するまでに同じくらいの階級を用意してやろうかしら)
「さて、これからどうなっていくのかしらねぇ」
女狐は細く微笑んだ。

<みちる>
「お待ちしてました、博士」
みちるは指揮車から出てきた香月博士に敬礼をした。
「そういう堅苦しいのは嫌いって行ったでしょ。まったく。それよりアンタたちにこの男の護衛というか引率を頼むわ。私は先に仙台に行くから準備しておいて」
「彼の、護衛ですか?」
彼、博士より少し前に出てきたあの黒い機体の衛士だ。
「えぇ。重要人物だから丁重にね」
「分かりました」
みちるはあの黒い機体の衛士を見た。
思ったよりも若い。
20前後といったところだろうか。
「私は伊隅みちるといいます。階級は大尉。博士の特務部隊の部隊長を勤めています」
「自分は黒田明仁。階級は大尉。アメリカフロリダ州技術研究所の技官兼開発衛士だ。仙台までだけどよろしく頼む」
みちるは驚いていた。
こんなにも若い男が大尉で技官だとは。
みちるも若い方だが彼はそれより若い。
(いったい彼は何者なんだ?博士の協力者なのか?)
「そういえば、生き残ったら一杯奢ってくれる約束でしたよね?」
そういって黒田大尉は話しかけてきた。
「えぇ。そうでしたね」
「じゃぁ、仙台についたらよろしくお願いしますよ」
そういって笑いながら握手を求めてきた。
みちるは、その手をしっかりと握った。
「えぇ。喜んで」
(ともあれ、命を助けてくれた恩人に変わりは無い。それに)
とてもじゃないが彼が博士と敵対できるようには思えなかった。

それから数時間後。
宮城県仙台市
帝国軍仙台基地

<黒田>
「はい到着」
着いた場所は仙台の第207衛士訓練学校という場所だった。
ちなみに博士直属の部隊であるA-01とはハンガーまで一緒だったが、戦闘後の機体チェックなどもあるため現在はハンガーにいる。
未だ気絶したままのミリィは博士の副官らしき人が医務室へと連れて行ってくれた。
その後、用意された訓練兵用の制服を着て博士の研究室へと向かった。
「今は仙台に移してあるけど本来は白凌基地の訓練学校なのよ。まぁ私の親友が教官だから大丈夫だとは思うわ。一応アンタのことは私の知り合いってことにしておくから話を合わせておきなさい」
「了解です」
「あと、そうね。アンタにはこれを渡しておくわ」
そういって博士は1枚のカードを取り出した。
「これは?」
「この施設のセキュリティカードよ。一応あたしの研究室に入れるくらいのものだから無くさないように」
「はい」
博士の研究室に入れるとなるとそれ相応の意味を持つ。
俺はセキュリティカードを受け取り、懐にしまう。
「さてと、私はこれからアンタとあの娘のデータの改ざんをするから。一応父親が帝国軍人ってことでいいかしら?あの娘はまぁ私のほうの知り合いだってことにすればいいし」
「そうですね」
「部屋を用意してあるから今日からそこで暮らしなさい。ちなみにあの娘と相部屋だけどかまわないわね?」
「えぇ、逆にそうしてもらえて助かります」
「?まぁいいわ。とりあえずあの娘は状態が回復しだい部屋に運ぶわ。今日は部屋に戻って休むのね。明日からアンタの世界の話を詳しく聞かせてもらうわよ」
そう言って博士はニヤリと笑った。
(・・・俺の選択は間違ってないよな?間違ってなんかないよな!おい、博士の副官!何で哀れんだような目で見るんだ!おぉ~い!)
・・・前途多難だ。


あとがき?
こんばんわ。
天気が不安定で気温が・・・
その成果体調が崩れたようで・・・
第3話、出来ました。
なんか話が出来すぎてますよね。
既にこんなの香月博士じゃねぇ!
ごもっともです!
博士はちょっと書きづらいです・・・いや、本当に。
ちなみにミリィあんまり出てないですね。
彼女はこれから出番があるんです!
それと関係のない話ですが、人物紹介などをある程度キャラクターがそろいましたら書かせていただきます。


訓練兵として仙台基地へとやってきた明仁とミリィ。
そこの訓練兵たちはちょっと個性が強い面子。
仲間たちと何とか共に過ごして行く。
そんな時斯衛ではとある動きを見せていた。
次回も見ていただければうれしいです。



[16077] 第4話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2010/05/22 01:31
1999年8月7日
日本帝国宮城県仙台
第207衛士訓練学校ミーティングルーム

<まりも>
神宮司まりもは頭を抱えていた。
普段から悩んではいるが今回は今まで以上に悩んでいる。
それは親友から渡された2枚の履歴書のせいだ。
「この時期に訓練兵ね・・・」
別に訓練兵の移動自体なんら問題は無い。
ただ、それを連れてきた人物に問題がある。
その証拠として、
「何よこの履歴書。ほぼ真っ白じゃない」
出身国と年齢など以外はほぼ白紙の状態だった。
普通はこんなことにはならない。
連れてきた人物。
香月夕呼に問題がある。
それに。
「この、凄腕ってのがよく分からないわね」
黒田明仁という訓練兵の履歴書にはなぜか凄腕と書いてあった。
基礎訓練は明星作戦前に終了し、今日から戦術機の基礎課程に入る。
(なら、それが凄腕と言うの?)
どちらにしろろくなことが起きない気がする。
「夕呼はいったい何をする気?」
まりもは親友に若干の不安を感じた。

<明仁>
「本日よりこの第207衛士訓練学校に通うことになりました黒田明仁訓練兵です」
「同じくレミリー・テルミドール訓練兵です」
俺とミリィはともに神宮司教官へと頭を下げた。
神宮司まりもという人物については、面識は無いが話だけは聞いたことがある。
『狂犬』などと呼ばれ、富士教導隊にも所属していたという腕利きの衛士だ。
香月博士の親友でもあるそうだ。
人の関わりというものは何が起こるか分からないものだ。
「私が神宮司まりも軍曹だ。これよりしばらくの間貴様たちの教官となる。今までどんな訓練を受けてきたのかは知らんが私が教官となったからには地獄が天国だと思えるような訓練をしてやる。覚悟しろよ?」
そういって軍曹は不適に笑った。
「では第207の訓練兵たちを紹介してやろう」
そういって軍曹は3人の訓練兵を紹介してくれた。
大柄で唯一の男性訓練兵である板井翔太。
ロングの黒髪が特徴のお嬢様風な一之瀬彩。
ショートな髪の毛で活発的な雰囲気を持つ神野美穂。
それぞれが特徴的な3人だった。
「本日はシミュレーターによる訓練課程Aから開始の予定となっている。貴様らは急いで強化装備に着替えてシミュレータールームへ集合だ。いいな?」
「「「「了解!」」」」
軍曹の言葉とともに俺たちは敬礼をし、ロッカールームへと向かった。

ロッカールーム

ロッカールームは真ん中に仕切りがあり、男女を分けていた。
前線基地ではそんなものは無い。
そもそも恥ずかしいなどと言っていられるほど戦場は甘くはないのだ。
訓練兵用の強化装備の生地があのように恥ずかしく出来ているのは羞恥心を無くすためだ。
まぁ、まだ訓練兵であり、初めての強化装備だ。
別室ではなく仕切りにしてあるところが多少譲歩しているところだろう。
「よ!」
不意に方を叩かれた。
えぇと、確か名前は。
「板井翔太だっけ?」
「そうそう!俺のことは翔太でいいぜ。俺も明仁って呼ばせてもらうから」
「あぁ」
「これからよろしくな!戦術機過程に合格できた男は俺しかいなくてさ。だから明仁が来てくれてよかったぜ」
「どっちかって言うとハーレム状態で嬉しかったんじゃないのか?」
「いや、そんなんじゃないよあれは。まぁ確かに彩はいいけど美穂は女というよりおt―ごばぁ!!」
「誰が何ですって?」
ロッカールームの真ん中にある仕切りの向こう側から軍用ブーツが飛んできて翔太の頭へと当たった。
しかももっとも重い踵部分が後頭部に。
・・・何という命中精度。
「いてぇ~。てめぇ!それが女のすることか!?だからお前は男女なんだよ!薄いしガサツだし色気ないし!」
「なっ!人が気にしていること言わないでよ!馬鹿の癖に!」
(に、賑やかなやつらだな・・・・・・)
それが、俺が今思ったこの2人の第一印象だった。
「ま、まぁまぁ美穂も翔太君もそろそろやめようよ!時間が無いよ!」
そこへ確か一之瀬彩だったか。
彼女が止めに入った。
(まぁ、なんだかんだでいいチーム・・・なのか?)
「この男女!」
「何よ!このヘタレ!」
「もう時間がないよぉ~!」
だが、喧嘩は止まるどころかエスカレートしていく。
(・・・本当に大丈夫なのか?)
少々不安が生じた。
「く、黒田さぁ~ん!」
「どうした?ミリィ・・・って!」
仕切りの向こう側からミリィがこちらへとやってきた。
下しか強化装備を切れていない状態で。
俺はなるべく上半身を見ないように顔を背けた。
(あぁ、忘れてた。ミリィはまだ1人じゃ着れなかったんだっけ)
基地の人間に手伝ってもらっていたのを今更だが思い出した。
(しょ、正直目の毒だな)
「手伝ってくださいぃ」
「おい、こっちは男子側だぞ?俺だけならともかく他の男もいるんだから。他の2人に頼めなかったのか?」
「美穂さんは喧嘩中です。それと彩さんは美穂さんを止めるのに精一杯のようで」
「あぁ~、悪い。俺が悪かった」
確かにあの状態で頼むのは無理だろう。
それ以前にあの中に入りたくない。
かといってこっち側にこられても困る。
俺だけならまだしも翔太なんかは絶対免疫が無いだろう。
「あぁ~、まぁそうだな。というか翔太も他の2人ももう着替え終わってるのか。喧嘩してるはずなのに・・・はぁ、手伝ってやるから。ほれ」
強化装備の袖を通して上まで上げてやる。
「はふぅ。ありがとうございます」
「まぁ気にするな。これからは一人でできるようになれよ?」
そうでないとこっちが困る。
「はい!」
そういってミリィは反対側へと向かっていった。
そんなことをしている間も3人はいまだ揉めていた。
「それでも女か!」
「アンタこそ男なの!」
「2人ともやめてぇ~!」
「・・・はぁ。俺もちゃっちゃと着替えるか」
ロッカーから愛用の強化装備を取り出した。

訓練兵用シミュレータールーム

「これより訓練を始める・・・と、その前にお前たち何かあったか?」
「さ、さぁ?自分には分かりません」
そう、答えるしかなかった。
軍曹がそう思うのも無理は無いだろう。
顔面に靴の跡や生傷が残る翔太。
機嫌の悪い美穂。
苦笑いし、ため息をつく彩。
これで何もありませんでしたというのは無いだろう、普通は。
「まぁいいだろう。それと黒田とテルミドール。強化装備が正規兵のもののようだが、どうした?」
「はい、香月博士にこれを着るようにと言われているのですが、駄目でしょうか?」
「博士がそういうのならそれでいい。私にどうこうと言う資格は無いからな」
そういって納得してしまった。
博士の親友というのだからあの性格を熟知しているはずだ。
(すいません、軍曹)
実際は俺が頼んで今まで来ていた強化装備を使わせてもらっているだけだ。
やはり使うのなら同じもので使い慣れているほうがいい。
それにデータを蓄積してあるからその分有利にもなるからな。
「・・・はぁ。とにかくシミュレーターに乗れ。板井が1号機、一之瀬が2号機、神野が3号機、黒田が4号機、テルミドールが5号機だ。午前中に訓練課程Cくらいには行ってもらうぞ?」
「「「「了解!」」」」

数時間後

『訓練課程Fを修了します』
「ふぅ」
画面に終了の文字が写される。
やはりOSが古い分若干の操作の違いがあるが概ね良好だった。
むしろ時間が余りすぎるくらいだ。
まぁほかの皆の様子はというと歩行すらままならない状態からようやく走れるくらいにはなっている。
ちなみにだが俺とミリィは最初から今日中にシミュレーターでの訓練課程をすべてクリアするようにと博士に言われている。
普通30時間以上もかかるものを1日で終わらすなど滅茶苦茶な話だがそう言われているのだからしょうがない。
「はふぅ」
ミリィも俺と同じくらいに訓練課程Fを修了させている。
まぁ実際今まで乗っていたのだから簡単なのは当たり前だ。
「貴様らこれはどういうことだ?」
軍曹が不思議そうに俺たちを見ていた。
確かにそうだろう。
何も知らされていない訓練兵が普通ではありえない速度でF過程まで終了させたのだから。
「いくら適正があるとしてもこの速度は速すぎるぞ?」
「いや、そう言われましても」
「まぁあの香月博士が推薦したんだ。最初は訓練課程すら必要ないほどだと言っていたほどだからな。只者じゃないとは思っていたが・・・まさかこれほどとは」
そういいながら残りの3人のほうのモニタリングを始めた。

「よし、午前の訓練はここまでだ。とりあえず全員がC過程まで行ったようだな。午後からは最低でもD過程までには行ってもらうぞ?では1300にシミュレータールームに集合だ。いいな?」
「「「「了解!」」」」
「では解散!」
「敬礼!」
美穂の敬礼の号令を終え、軍曹が去っていく。
「腹も減ったしPXに行こうぜ!黒田たちとも話がしたいしな」
「そうね。こんな馬鹿と話しているよりかよっぽど有意義だし」
「馬鹿とは何だ!馬鹿とは!」
「はいはい。落ち着こうね。美穂もすぐに口が出るんだから」
3人は相変わらずの様子でPXへと向かっていく。
「なぁミリィ。この先大丈夫かな?」
「?」
とりあえず俺たちもPXへと向かうことにした。

PX

正午ということもあってPXは活気に満ちていた。
そんな中辛うじて5人座れる席を見つけた。
「さてと、もう教官に紹介されたがもう一度。俺は板井翔太だ。これから卒業までの間よろしく!」
「一之瀬彩です。この部隊の副隊長を務めています。よろしくお願いしますね」
「神野美穂よ。一応隊長ってことになっているわ。短い間だけどよろしくね!」
「黒田明仁だ。事情があってここに転入することとなった。ここのことはさっぱり分からないんでよろしく頼む」
「レミリー・テルミドールです。よろしくお願いします」
「おし!自己紹介も終わったし食べようぜ!」
そういって翔太は合成A定職を食べ始めた。
「そうね。私もさすがにお腹が空いたわ」
そういって美穂も合成焼き魚定職を食べ始める。
ふと、質問をしてきたのは彩だった。
「そういえば、2人は今までどこの訓練学校にいたの?」
質問内容はありきたりのものだった。
「あぁ、俺たちは帝都の方にいたんだ」
とりあえず誤魔化す事にした。
書類上はそこいら当たりも白紙のようだから適当に言えばそうなるだろう。
「へぇ。そういえばテルミドールは外国人だよな。よく帝都に住めたな。あそこは外人を嫌ってるだろ?」
「まぁな。一応うちの知り合いで預かっていたんだがミリィの家族がBETAにやられたらしくてな。天涯孤独になっちまったからうちで引き取ることにしたんだ。問題が無かったわけじゃないがうちの親父がねじ込んだ」
「そうか、すまんな。悪いこと聞いちまった」
「いいえ、大丈夫です。だって黒田さんがいますから」
そういってミリィは明るく笑う。
実際ミリィが天涯孤独なのは本当だ。
話によれば人工子宮で生まれたらしい。
つまり意図的に作られたということだ。
その後どこかの施設で育てられていたらしいが、詳しいことは俺にも分からない。
まぁ他の話は作り話だなのが。
「ほほぉ。ミリィちゃんは黒田君にご熱心なご様子で」
「ご熱心?」
「えぇ~と、簡単に言えば好きってことかな?」
「うん!だって黒田さんは優しいよ?眠れないときは一緒に眠ってくれるしご飯も作ってくれるし」
ミリィの発言を聞いた瞬間場の空気が止まった。
「ちょっと、黒田。一緒に眠るってどういうことよ?」
「いや、そのままの意味なんだけど?」
俺には本当にそのままの意味でしか答えることが出来ない。
怖いから一緒に寝てや寝ぼけて一緒に寝ていたなどは小さい子供にはよくあることだ。
ミリィは外見こそ17だが中身はまだ子供だ。
どうと言われてもどう答えればいいのやら。
「黒田君は料理ができるのですか。家庭的な男性なんですね。素敵だと思いますよ!」
素敵と言われても、米国の料理は味が濃すぎるから自分で作るしかなかっただけだ。
不意に両肩を翔太に摑まれた。
「・・・・・・よし、その羨ましい状況を俺と変わってくれ」
真面目な表情でそういうこと言わんでくれ。
「いや、変われとか言われてもな。そもそも俺とミリィは年齢的に見れば兄妹みたいなもんだし、兄が妹の面倒を見るのは当然だろ?」
「妹って、そういえばミリィちゃんは何歳なの?」
「17だよ」
「明仁は?」
「19だ」
「・・・ロリコン?」
「断じて違う!!」
やかましい昼はそうやって過ぎていった。

それから午後の訓練課程を一通り通過した。
博士に言われたとおりに俺とミリィはシミュレーターの訓練課程をすべて終わらせた。
それこそ死ぬ気で。
出ないとあの博士だ。
何を言われるか分かったものじゃない。
他のメンバーはそれこそ頑張ってはいたがやはりC過程までが限度だったようだ。
それでも1日でCまでいけたのだから早いほうだ。
「それでは今日の訓練を終了する。解散!」
「敬礼!」
敬礼が終わり、自室に帰ろうとしたとき軍曹に呼び止められた。
「すまんが黒田、香月博士の所に向かってくれ。博士の秘書が私のところに来て黒田を探していたのでな」
「分かりました」
「ではな」
そういって軍曹は去っていった。
「黒田さん、博士の用事って何でしょうか?」
「さぁ、機体のチェックとか頼んでおいたんだけど、それか?まぁいいや。俺も頼みたいことがあったしな。ミリィはこのままPXか?」
「そのつもりですよ?」
「なら簡単に食べれるものを作ってもらえないか?たぶん結構時間がかかると思うからさ」
「分かりました!」
ミリィはそのままピョコピョコと翔太たちの元へと向かっていった。
「さて、何の話やら」
俺は博士の研究室へと足を向けた。

研究室

「遅かったわね」
「すいません」
途中道に迷ってしまい何とか博士の研究室に着いたのが軍曹に言われてから30分後だった。
一応道は覚えたはずなのだが・・・ボケたか。
「まぁいいわ。時間がもったいないし」
「はぁ」
そう言うと博士は書類を取り出した。
「一応アンタに言われたとおりに機体の検査をしたわ。生体認証でロックがかかっているところ以外だけどね。それで気になる報告があったんだけど」
「気になる報告ですか?」
「えぇ」
そういって書類の数枚を俺へと渡す。
そこには機体の細部情報と赤い下線が引かれた文字がいつくもあった。
そんな中に一際大きな赤丸で囲まれた文章が目に映った。
「核反応炉。これについて教えてくれないかしら?」
「分かりました」
俺は核反応炉、YF-23SBの主機についての説明を始めた。
核反応炉は重水素を核反応させて膨大な電力を生み出すものだ。
電磁投射砲を搭載するにあたって必要電力を生み出すために作ったものなのだが環境に影響を与えず、それでいて出力が他の物とは段違いのものであったため一時期は量産しようと計画がでたが、俺が止めさせた。
「何で止めさせたのよ。量産したらそれこそ各国が欲しがるでしょうに」
「それが、量産するに当たって問題があるんですよ」
「問題?」
「えぇ。1つ目はコストの問題です。あれは確かに半永久的に動くことができるし出力も桁違い。ですが、整備できる人間は限られてきます。さらには衛士もその知識を持たなければなりません。その結果として訓練期間や整備士の育成などの無駄な時間と育成費用が掛かるという結果となる。また、維持コストもそれ1つでかなりの金額になります。それが1つ目の問題です。2つ目は機体の大型化と強化をしなければならないという点です。機体を調べたのなら分かるでしょうがあの機体はATSF計画で生まれたYF-23。その試作機をより日本風に、しいて言えば武御雷を超える機体を作るという観点で生まれた機体です。たまたまその時に機体を副座型にするための拡張があったため核反応炉を積める結果となりました。ですが、一般機に搭載するにはフレームを作り直したり、内部構造配置を換えたりと色々といじくる必要があります。それが2つ目の問題です。3つ目として自分がいます」
「何でアンタが関係あんのよ?」
「あの核反応炉、作ったのは自分なんです。また、その設計図は自分の頭の中にしかありません。これが3つ目です」
博士は唖然とした。
核反応炉を作るということは並大抵のことではない。
しかもそれを戦術機サイズにまで縮小させたのだ。
おそらくこの時代の技術では到底不可能だろう。
「アンタ、化け物?」
「単なる技官ですよ」
俺はそう答えた。
「はぁ、分かったわ。ありがとう。とりあえず今聞きたいことはこれだけでいいわ」
「・・・この先の未来のこととかは聞かないんですか?」
「それは横浜の基地が完成してからでいいわ。それまでは忙しいから未来のことを考えるほどの余裕がないのよ。それに、もし大きな出来事が起きるのであればアンタのほうから連絡しに来るんじゃないの?」
「なる程、そこまで見通してですか。分かりました。あの、また別件で頼みたいことがあるんですがいいですか?」
「今度は何?利害が一致しているから協力しているけど、これ以上の過度な要求はさすがに協力できないわよ?」
「えぇ、ですから現時点ではこれが最後の頼みです」
「・・・はぁ、言ってみなさい」
博士は嫌そうな顔をして許可をくれた。
「はい。あの機体の保守部品と新概念兵器のライセンス生産、それと機体専属の整備士ですかね」
「・・・・・・かなり無茶な要望ね。でも保守部品は必要ね。突撃砲とかも試作品だし替えがないとまともな戦闘が出来ないでしょうし。まぁそっちノースロックに掛け合って何とかしてみるわ。向こうも不採用になってから不況だろうしね。専属整備士について現状手配は出来ないわ・・・まぁ仕方ないからしばらくは私の部隊の整備士を貸すから指示はアンタがして頂戴。設計製作したんなら整備も出来るでしょ?」
「すいません、お手数かけて」
「じゃぁ話は終わったわよね。今日はお疲れ様。また用があったらこっちから呼ぶわ」
「はい」
そうして俺は博士の研究室を出た。

<夕呼>
明仁が出て行ってから夕呼は1枚の書類を眺めていた。
「・・・間引き作戦ねぇ~」
その書類には国連軍への間引き作戦参加要請と書かれていた。
明星作戦の後だ。
戦力が足りないのは分かる。
「まぁ、A-01でも出してやればいいか」
連隊だったA-01も今では中隊と少し程度にまで減ってしまっている。
(所詮はその程度の集まりだったってことかしら?)
伊隅たちは優秀だったが、他の連中は使えたものじゃなかった。
(そう言えば、黒田の実力ってまだ知らなかったわね)
対人戦闘ならこれからの訓練で知ることが出来る。
だが、BETAは?
それにあの機体もどれだけ高性能なのか多少ながら興味がある。
「そうね。なら、そうしましょうか」
夕呼は通信機を手に取った。
「えぇ。私よ。すぐに帝国とつないで欲しいのよ。すぐにね」

1999年8月8日
帝国斯衛軍帝都本部
会議室

<鈴乃>
「おぉ、鈴乃ちゃん!元気だったか?」
「おじ様、相変わらずですね」
私はとある人物に呼ばれていた。
黒田徳人。
斯衛軍少将で第12戦術機甲大隊隊長、私の上司である。
「徳人よ、少しは落ち着かんか」
「何言ってる雅人よ。こんな可愛い娘を持て余しおって!そんなに見せびらかしたいのか!?儂を愚弄するのか!?」
・・・こんな性格だが。
「・・・もう、どうでもいいよ」
雅人と呼ばれている人物が私の父、白河雅人。
同じく斯衛であり同じ少将であり親友でもある。
一言で言えば・・・苦労人だ。
「まぁ、その話は追々。ところでお前も聞いたのではないのか?」
「国連か?今回の間引き作戦に参加するらしいが、いったいどういう風の吹き回しだ?」
「分からん。ただ、国連とは言っても香月の私兵を使うらしい」
「あぁ、A-01と言ったか。確か今は仙台であったか?」
「あぁ」
A-01、聞いたことがある。
国連の精鋭を集めた部隊だと聞いている。
だが、今では連隊規模だったものがかなり減ったと言う。
(所詮は国連か)
どうせ米国と繋がっている国連のことだ。
その精鋭など高が知れていると私は思っていた。
「実は、この国連参加について向こうが一部追加を言ってきてな」
「追加?」
「新型戦術機の投入と仙台の訓練部隊の参加だそうだ」
「どういうことだ?」
「この写真を見てくれ」
そう言って徳人様は1枚の写真を取り出した。
そこには1体の戦術機と衛士が移っていた。
黒いボディーになにやら文字が書かれている。
「この機体は?」
「分からん。ブラボー隊が壊滅した直後にその場に現れたらしい。その後BETAと戦闘を行っていたそうだ。腕部のナイフシースらしきところに名前らしきものがかかれてあってな。そこにはYF-23と書かれてある」
「ふむ、つまりこれは米国の機体という分けか。Yナンバーというのなら試作、または試験機と言ったところか。米国はこのことを何か言っているのか?」
「いや、何も言っておらん。むしろこの機体については何も知らないと儂は見ている」
「どうしてそう言える?」
「機体の左肩をよく見てみ?」
私と父は写真の機体の左肩を見た。
そこには小さいが白色の何かがついていた。
「これは・・・パーソナルマークですか?徳人様」
「そうだよ鈴乃ちゃん!いやぁ~、さすが鈴乃ちゃんだぁ~!」
「・・・いいから話を進めろ徳人」
「おっと、そうだな。この部分を拡大したものがあるんだ」
そういって違う写真を取り出した。
「え・・・これって?」
私はその写真を奪い取るようにして手に取った。
「・・・桜のパーソナルマークは明仁が好んでつけていたものだったな」
だが、それだけならどこにでもある話だ。
だが、写真に写っているのは白い桜のパーソナルマークだった。
それは、明仁お兄様だけが付けられる唯一のパーソナルマークだった。
「どうして・・・」
「儂にもよく分からん。この機体、その後香月の私兵部隊と共に仙台に向かったからな」
「仙台、ですか?」
「あぁ。おそらく新型戦術機というのはこれのことを言うのではないかと儂は睨んでおる。明星作戦中、この機体を目にした者が言っておったのだが、なにやら光る弾丸を放っておったそうだ」
「光る弾丸?」
「気になって偵察衛星の録画記録を漁ってみたら面白いものを見つけてな。見るか?」
私と父は頷いた。
徳人様はディスプレイの接続部に記憶媒体を差し込んだ。
ディスプレイに再生映像が映し出される。
「こ、これは!」
「・・・電磁投射砲ですか?」
「うむ。おそらくはな」
ディスプレイには確かに光る弾丸を放つ写真の機体が映し出されていた。
「しかし、電磁投射砲は未だどの国も開発が難航して実戦レベルの物は出来ていないはず。G弾運用を主とする米国が作ったとは思えません」
「うむ、そうだな鈴乃ちゃん。だから儂は言っただろ?米国は何も知らんと」
徳人様は映像を消してこちらを向いた。
「さっきも言ったが儂はあの機体が香月の言う新型戦術機だと思っておる」
「新型という言葉については俺もそうは思うが、根拠が無い」
「根拠はあるではないか」
「は?」
「帝国が電磁投射砲を作るに当たって協力を要請したのはどこの誰だ?」
「!?な、なるほど。確かにそれなら納得できる」
「そして、次の話がもっとも重要なんだよ。追加の2つ目にあった参加する仙台訓練部隊。気になって調べたのだがその中につい最近入隊した者が2名おる」
「作戦に参加するってことは既に戦術機過程には入っておるのだろ?どこかからの移動か?」
「そのようなのだが、その情報がまったくの白紙でな。よく分からん」
「白紙?難民か?それとも何か別の事情か?」
「あぁ。だがらそれを調べようとしたんだが、香月の名でセキュリティが施されておって調べられんのだ」
「ほぅ。香月にとっては重要人物というわけか。して、名前くらいなら分かったのであろう?」
「名前はな。1人がレミリー・テルミドール。17歳と出身国だけ書いてある。そしてもう1人が・・・黒田明仁19歳」
「「!?」」
私と父は同時に驚いた。
死んだと思われていた人が生きていると聞かされたからだ。
「儂も驚いたよ。顔写真もこのとおり」
テーブルに2枚の書類が置かれた。
そこには1人の少女と、明仁お兄様が写っていた。
(ま、紛れも無くこれはお兄様だ)
「そ、そんな!お兄様はKIA認定されていたはず!」
「そう、確かにKIA認定をされた。だからと言って絶対に生きていないと確認をもったわけでは無い。何せあの騒動じゃからな。だから儂は今回の間引き作戦に参加しようと思っている」
「・・・直接調べるつもりか?」
「あぁ。あんな馬鹿息子だが、儂にとっては一応宝なんだ。生きているのならもう一度会って話がしたい。そう、いろいろとな。フフフフフ」
「・・・そうだな。分かったからその笑いは止めろ」
「おっと、すまん。とりあえず儂か、それとも他の誰かを選ぼうとは思っている。出来れば単独が好ましいな。複数人では目狐に気づかれるかもしれん」
「な、ならその任私が勤めます!」
私はとっさに席から立ち上がり、立候補した。
「鈴乃・・・」
「・・・そうだな。鈴乃ちゃんが適任だな。何しろ許婚だからな。い・い・な・ず・け、だからな・・・うぅ」
「だから、そういうのを止めろと言っているだろう」
父が呆れている最中、徳人様は私の目の前まで来た。
それはさっきまでの馬鹿親な顔でなく、少将としての顔だった。
「白河鈴乃中尉、本日より3週間後の間引き作戦参加を命じる」
「はっ!」
(・・・お兄様)
「うぅ~」
「だから泣き止め!」
(・・・この人たち本当に大丈夫かな?)
不安が晴れない鈴乃であった。


あとがき
第4話をお届けしました。
ちょっと今回は長くなりました。
書いた(タイプした)本人でさえびっくりしてます。(文字数にして1万文字以上でした)
やはり博士とか書きづらいです。
他のキャラはオリキャラが多いので楽なのですが。
あの博士の雰囲気を出すのが難しいです。
そして、ようやく斯衛でてきました!
変なおじさんですみません。

順調に進んでいく訓練部隊。
打ち解けてきた明仁たち。
皆それぞれの思いを秘めていく。
このまま任官まで何事も無いように思えたが、事態は変わっていく。
訓練部隊の間引き作戦参加。
斯衛もまた明仁の安否確認のために行動を始めていく。
近づいてくる間引き作戦に訓練兵たちと明仁は何を思うのだろうか。
次回もよろしくお願いします。



[16077] 第5話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2010/05/22 01:31
1999年8月21日
日本帝国仙台基地第207衛士訓練学校
ハンガー

<明仁>
訓練兵としての生活が始まって2週間が経った。
今日はシミュレーター訓練での慣熟訓練が終わったのでいよいよ実機訓練に移る日だった。
本来なら1週間もあればシミュレーターの慣熟は終わるのだが吹雪の納入が遅れているためシミュレーターで埋めていたのだ。
「喜べ貴様等。今日より実機訓練へと移行する。お前たちが乗るのはこの97式高等練習機『吹雪』だ。練習機だが第3世代、それなりに高価な機体だ。慎重に扱えよ」
そういって軍曹は俺たちをハンガーへと連れて行った。
そこには5機の吹雪がハンガーに収まっていた。
「す、すげぇ!」
「これが実機かぁ」
「ようやくこの時が来ましたね!」
3人はそれぞれ自分の練習機を見つめていた。
ミリィも始めてみる吹雪に目を光らせていた。
(みんな若いな)
そういう俺も訓練兵時代は同じような感じだった。
俺のときは吹雪なんて贅沢品じゃなく古びた撃震だったが。
「黒田、どうした?他の皆はあれほど喜んでいるのに。何か不服か?」
「いえ、単に感動しすぎて言葉が出なかっただけです」
「そうか。まぁお前とテルミドールは博士関係の人間だったわけなのだから戦術機を見る機会はいくらでもあっただろうな」
「いえ、そんなことは」
「まぁ、頑張れ」
そう言って俺の肩を叩くと他の4人の元へと向かった。
「さぁ、訓練を始めるぞ。繰り返しになるがまた歩行訓練からだ。今までのシミュレーターと違い今度は実機だ。微妙な違いがある。それに慣れるまでは歩行訓練だ。いいな?」
「「「「了解!」」」」
俺たちはそれぞれに割り当てられた機体の元へと駆け出した。
「まぁ頑張りますか」

数時間後

「ん、もうこんな時間か。全員聞け。今日の訓練はこれで終了だ。今日の様子を見て皆実機になれてきたと思う。明日からは基礎訓練とともに2チームに分けての模擬戦闘訓練も行う。各自今日のことを忘れずに明日の訓練に取り組んでくれ。それでは1番機からハンガーに戻れ。以上だ」
「「「「了解!」」」」

ハンガーについた俺たちはそのまま解散となり、皆でPXへと向かっていた。
「しっかし、本当に黒田とテルミドールはすげぇな。俺なんかすぐにすっころんだってのに悠々と歩きやがって。羨ましいぜ」
「はいはい、やっかまないの。この2人はシミュレーターのときから分かってたでしょ?これが天才ってやつなのよ。私たちには届かない存在なのよ」
「それは言い過ぎなんじゃ・・・」
「そんなんじゃねぇよ。前にも言ったけど俺の親父は帝国で衛士やってて操縦の仕方を教えてもらってただけだって。それに戦術機なんて乗るの今日が初めてだし」
「それでもすごいと思いますよ?聞いただけでそこまで出来るなんて。ミリィちゃんもすごいよ」
「えへへ~」
その後も今日の訓練や吹雪のことなどを話し合っていた。
「明日から実機でのチーム戦でしょ?組み分けはどうなるんでしょうね」
「ん~、俺は明仁と組みたいな。男子対女子なんてもの面白いだろうし」
「はぁ、そう言うと思ったわ。でも戦力をちょうど良くするには彩と黒田ってのが一番いい気がするのよね」
「わ、私と黒田君が!?」
「えぇ、それに・・・・でしょ?」
「っ~!!」
何を吹き込まれたのだか顔を赤くしていた。
「どうしたんだ?」
顔を覗き込んでみるとさらに赤くし、そのまま硬直してしまった。
「はぁ~、鈍感って本当にいるのね」
「今回は同情するよ、美穂」
「ご飯おいしいねぇ~♪」
「?」
訳分からん。

自室

「実機か・・・」
自室に戻った俺とミリィは今後の訓練のことを思っていた。
「吹雪って綺麗な機体ですね」
「そうだな。不知火は知っているだろ?アレのプロトタイプ的なものを練習機にするってことで余分な部品を省いてるからな。でも主機を換装すれば実戦にも耐えられるんだぞ?それだけの汎用性はあるんだよな、あの機体」
「なるほど。勉強になります」
「おう、勉強しとけ。日本の機体は結構ピーキーなやつばかりだからな」
俺はそのままベッドへと仰向けに倒れた。
「ミリィ。今こんな状況だけどミリィは大丈夫か?」
「はい。黒田さんもいますし新しい友達も出来ました。・・・何より今までこんな体験をしたことがなかったので今はすごく楽しいです」
「そうか、ならこの世界に来てしまったことも悪くは無かったな」
「そうですね」
(ミリィが笑顔でいるんならそれでいいか)
そう思いながら俺は次の訓練のことについて考え始めた。

<美穂>
「ねぇ彩、明日どうなるんだろうね」
「だね。初めて実機に乗ったけどやっぱりシミュレーターとは違うね」
私は彩とお風呂に入りながら明日の模擬戦の話をしていた。
彩と私は相部屋だ。
この基地は基本相部屋である。
訓練兵は普通全員同じ部屋で寝るのかと思っていたがそこまで広い部屋が無いためこの部屋を使っている。
ちなみに黒田はミリィちゃんと一緒の部屋らしい。
・・・翔太に限っては2人部屋で1人だ。
(翔太、アンタ本当に恵まれないね)
もう同情するしかなかった。
「それにしても、相変わらず黒田はすごいね」
「そうだね。シミュレーターの時からだけどすらすら操っちゃうんだもん」
黒田は突然現れたにも関わらずその腕を私たちに存分に見せ付けている。
教官が言うには凄腕らしい。
何の意味で凄腕なのだか分からないが、おそらくは戦術機なのだろう。
アレだけの動きを見せられればそう思うしかない。
「でも、ボケっとしてていいの?彩」
「え?」
「だって、黒田はミリィちゃんと一緒の部屋なんでしょ?今頃しっぽりと・・・って冗談よ!そんな泣きそうな顔しないでよ!」
「うぅ~、だってぇ~」
「分かったから!分かったからもう泣かないで!」
彩は顔が半分になるまで浴槽に浸かった。
(はぁ、黒田の鈍感野郎)
彩が黒田のことを好きになったのはシミュレーターでの戦闘訓練が始まったあたりからだった。
最初は操縦が一番うまいから教わっていたのだが、自然と一緒にいる機会が多くなりいつしか好きになっていったそうだ。
気持ちは分かる。
おそらくだが黒田はエースクラスの衛士になれる素質がある。
それにそこらの男と違って頼りになるし性格もいいし面倒見もいい、顔だって悪くない。
鈍感なのが玉に瑕だがそれを置いておけばこんな男はほいほいいるものじゃない。
女性が頼れる男性に惚れるのはまぁよくあることだ。
(でも、いっつも傍にミリィちゃんがいるんだよねぇ)
どこに行くにも隣にはミリィちゃんが一緒だった。
ミリィちゃんは親戚らしいのだが、どうにも納得できない。
それに、戦術機の腕や知識は良いが性格が子供過ぎる。
(まぁ、私たちに知る権利は無いんだろうけどね)
しばらくして彩が顔を上げた。
「ねぇ、これからもみんな一緒にいられるよね?」
「いきなり何言ってるの?」
「だって、任官したら離れ離れになるかもしれないでしょ?それに、BETAと戦うってことはいつ死ぬか分からないってことでもあるから」
「はぁ、馬鹿ね」
「ば、馬鹿ってなによ!?」
私はそのまま彩を抱きしめた。
「いつだって、どんなところにいたって私たちは仲間よ。それに、もし誰かがピンチになったら駆けつけてやるんだから!」
「・・・うん!」
彩は顔を涙目で真っ赤にして頷いた。
(こんな娘を惚れさせて・・・これで彩を泣かせたら許さないんだからね黒田)
私は彩を見た。
「?」
(それにしても)
「また育ったな!この凶器が!」
私はそう言って彩の胸を鷲摑みにした。
「ひゃぁ!」
この手に余るほどのボリューム。
肌触り。
(うぅ~、私もこれがあったら今頃は!)
「この!この!ったく、これ使ってさっさと黒田を落としなさいよ!」
「や、やめてぇ~!」

「ヘクシュン!」
「黒田さん、風ですか?」
「いや、そんなはずは」
「じゃぁきっと噂されてたんですよ」
「まさかぁ~」
「だって黒田さんって結構モテモテなんですよ?」
「そんなわけ無いよ。俺よりいい男なんてそこらへんに沢山いるさ。きっと悪口だろ」
明仁は知らない。
というか言われなければおそらく知ることが無い。
何故ならば鈍感なのだから。

研究室

<まりも>
「ねぇまりも、最近訓練兵のほうはどう?」
「みんな真面目よ?それぞれ個性もあるし。いい衛士になるわ。特に夕呼が連れてきた黒田には驚かさせられるわ。対人戦闘ならもう教えることはほとんど無いし」
研究室でまりもと夕呼はお茶をしていた。
「そう。連れてきて正解だわ」
そういって夕呼はマグカップに入っていたコーヒーモドキを飲み干した。
「私としても優秀な訓練兵が育ってくれるのは嬉しいわ。けど、あの2人。黒田とテルミドールはどこか違うような気がするの」
「違う?」
「えぇ。年相応というか、大人びすぎている感じがするのよ。貴女が連れてきたから文句を言う訳じゃないけど」
「何よ。それじゃ私がいつも問題を起こしているみたいじゃない」
「・・・・・・いつもそうよ」
そういってまりもは肩を落とした。
「・・・でも、やっぱりあの2人のことは教えてくれないのね?」
「2人のことは書類の通りよ。それ以外は私も知らないわ」
「分かったわ。もうこれ以上このことは聞かない。でも、それとは別件で聞きたいことがあるの」
そういって1枚の書類を取り出した。
「これ、夕呼は知っているの?」
その書類には間引き作戦で国連軍への参加要請だった。
「えぇ、もう返答はしてあるわ」
「この基地からも1個大隊が出るらしいけど、それとは他に1個中隊と1個小隊規模と書かれているんだけど、A-01を使うの?」
「えぇ、仕方ないじゃない。使える駒がそれしかないんだから」
「それは分かっているわ。でも、この1個小隊規模って何なの?」
「あぁ、それはアンタの訓練部隊のことよ」
夕呼の言葉を聞いたまりもは唖然とした。
「ちょ、ちょっと待ってよ!まだあの子たちは訓練兵なのよ!?それを実戦投入だなんて、貴女何考えているの!」
「別に、最前線に送るって言ってるわけじゃないわよ。後方、それも最終防衛ラインあたりで小型種の掃討をしてもらうだけよ。それにA-01から護衛を付けるわ。アンタも出るんだしそこまで心配することじゃないと思うんだけど?」
「でも!」
「それに黒田がいるんだからたぶん平気よ」
「いや、確かに黒田の腕はいいがまだ訓練兵よ?いきなり実戦なんて無理よ!」
「まぁ確かに『今は』訓練兵ね。でもねまりも。貴女黒田の過去に何の疑いも無かったの?」
「そ、それは確かに思ったわよ。でも、夕呼が調べるなって言ったんじゃない」
「そうだったかしら?」
そういいながら夕呼はデスクから2枚の書類を取り出した。
「それは?」
「まぁ簡単に言えばこれがあの2人の本来の姿よ」
そう言ってまりもへと書類を渡した。
それを見たまりもの表情は一瞬にして変わった。
「え!?これってどういうこと!?」
その書類には『この世界』の明仁の情報が記載されていた。

8月22日
第2演習場

<明仁>
『それではこれより実機による模擬戦闘訓練を開始する。始め!』
俺は跳躍ユニットを吹かし、一気に廃墟群へと突入した。
『黒田君、がんばろうね!』
「あぁ!」
パートナーとなった彩は後方での支援射撃へと移った。
(さて、がんばりますかね)

1時間前
ミーティングルーム

「では組み分けを発表する」
今日から始まる実機での模擬戦闘訓練でのチーム組み分けを行っていた。
「神野、板井、テルミドールがA分隊。一之瀬、黒田がB小隊だ」
大体想像のつく分けかただ。
もっとも操縦技術が高いのは自慢じゃないが俺だ。
それに続いてミリィ、美穂、翔太、彩だ。
彩の操縦技術はそこまで高くない。
だが、狙撃に関してはこの訓練部隊の中では1位だ。
俺はどちらかというと接近戦主体だからそれを彩が援護するという形は理想的だろう。
A小隊も突破力のある翔太にオールマイティな美穂、『前の世界』ではCP訓練も積んだミリィの判断能力と高レベルでまとまっている。
「それでは各自強化装備に着替えて機体に乗り込め!」
(面白くなりそうだな)

<彩>
「黒田と一緒でよかったね!」
「う、うん」
私は緊張していた。
そうだったらいいなと思っていたことが現実となってしまったからだ。
「何?緊張してるの?」
「だ、だってぇ!」
おどおどしていると美穂に両頬を引っ張られた。
「い、いひゃいよぉ~」
「なぁ~に生意気に緊張してんのよ!いいのよ。思いっきり黒田を困らせてやりなさい!そうすれば私たちA小隊が勝つ確立があがるから」
「み、美穂ぉ~!」
美穂はそう言って逃げるようにロッカールームから出て行った。
(もう、美穂ったら)
あんなことを言っていたが、美穂はたぶん私の緊張を解そうとしてくれたんだ。
(私もがんばらなくちゃ!)
彩はガッツポーズを決めて、ロッカールームを後にした。

1時間後

<明仁>
俺は廃墟群に身を隠し、相手の出方を伺っていた。
(ミリィが支援打撃だとすれば、うかつに上がれないな)
ミリィは彩ほど精密な狙撃は出来ないが、予想射撃というものが出来るらしい。
普通なら予想射撃などは当たる確立は低いのだが、ミリィの場合は9割近い確立で当ててくる。
味方にすれば心強いが、敵にすると厄介だ。
俺は突撃砲1つに長刀1つ短刀1つという最低限の装備だ。
突撃前衛でも強襲前衛でもよかったが、どの道そこまで時間のかからない模擬戦闘だ。
デットウェイトになるくらいなら装備しないほうがいい。
それに、吹雪の出力は高くは無い。
今までの感覚でやるならこれくらいがちょうどいい。
「彩、俺のいる位置分かるか?」
『は、はい!分かります!』
(まだ緊張してるな)
彩は何故か知らないが緊張をしていた。
普段はそんなそぶりを見せないが、こうして2人になる場面になるとこうなってしまう。
(俺、嫌われているのか?)
そう、俺は思っていた。
『A小隊も動きを開始しました。レーダーで反応があるのは2つだけです』
「そうか。俺の周囲に他の機体または反応はあるか?」
『いえ、無いようです』
「OK。俺はこれから移動を始める。俺の周囲100mほどを警戒してくれないか?無論彩も自身の安全を第一に考えてくれ。以上だ」
『分かりました』
俺は彩にそう指示をし、移動を開始した。
(翔太は強襲掃討、美穂は追撃後衛だったな。なら、ミリィさえ仕留めれば上が開くわけだな)
俺はウィンドに第2演習場の全域マップを表示する。
(A小隊の開始地点がここより約1,5km先か・・・ミリィの予想狙撃ポイントを絞り込むと、4箇所位か)
突撃砲の有効射程は約3kmだ。
支援突撃砲は射程を延ばしているからこの演習場のほぼ全域をカバーできる。
だが、カバーできるとはいえ自分の身が丸見えでは意味が無い。
それを条件に入れた場合に予想できる地点が4箇所なのだ。
「虱潰しに行くだけだな」
じっとしていても何も始まらない。
俺は機体を予想地点へと向けようとした。
その時、管制ユニットに警告音が鳴り響いた。
「来たか!」
俺は跳躍ユニットを逆噴射させ、その場から離れる。
僅かな差で俺がいた地点にペイント弾が大量に撃ち込まれていった。
(翔太か!)
美穂の追撃後衛の装備ではここまでの量の弾を撃てない。
なら、残るは強襲掃討の翔太だけだ。
翔太機は正面へと回ってきてまた4門の突撃砲を撃ってくる。
(おいおい、ただ撃ってるだけか?それならこっちから行くぞ!)
俺は回り込むようにして移動を始めた。
だが、またも警告音が鳴り始めた。
「チッ!後ろか!」
後ろから長刀と多目的装甲を構えた美穂機が突っ込んでくる。
(そうか、翔太は囮ってわけか)
突撃砲を撃ってこないところを見て背後から1撃で仕留めるつもりだったのだろう。
俺の得意な接近戦で。
「このぉ!」
俺も長刀を装備して応戦する。
長刀同士がぶつかり合い、火花を散らす。
「うぉぉぉぉ!」
そのまま鍔迫り合いに持ち込み、押し込む。
(多目的装甲を持っているのが仇になったな!このまま押し切る!)
片手だけでは両手で握っているこちらのほうが有利だ。
押し切ろうと思ったとき、ウィンドに背後から迫ってくる機影が映った。
(翔太か!?)
短刀を装備した吹雪が迫ってきていた。
なぜ突撃砲を使わないのかと思ったが、この状態で突撃砲を使用すれば仲間も巻き添えにするからだと思った。
「だったら!」
俺は翔太の吹雪が近づくのを美穂の吹雪を抑えつつ待った。
(今だ!)
長刀を弾き、そのまま左へ急反転する。
翔太機は勢いがつきすぎていたため、そのまま美穂機へと追突し数十m転がっていった。
そこへ後方から数発のペイント弾が両機に降り注いだ。
彩の狙撃だ。
(これで2機撃破か)
後は簡単だった。
ミリィは予想していた地点にやはりいた。
ミリィの予想射撃は遠距離では脅威だったが近距離になってしまえば単発の支援突撃砲はその威力を発揮しない。
とっさに突撃砲に切り替えたようだがその間を与えず突撃砲で撃破した。
『状況終了だ。各機開始位置にて待機。以上だ』
「了解」
俺は所定の位置へと戻った。

ハンガー

「あら、今日はこれで終わりなの?」
ハンガーに普段いるはずの無い人物が立っていた。
「香月博士?どうしてここへ?」
「私がここに来ちゃいけないのかしら?」
「い、いえ。そういうことでは」
少しして美穂たちと軍曹がやってきた。
「敬礼!」
「・・・まりも、私がそういうの嫌いっての分かっててやってるでしょ」
「これもけじめですので」
「はぁ~、そんなんだから男に逃げられるのよ」
「ゆ・・・!博士には関係の無いことです!」
そう言って軍曹はそっぽを向いてしまった。
「まぁ、それは置いておいて。アンタたちに知らせることがあるのよ」
「知らせることですか?」
「えぇ。1週間後の新潟間引き作戦。アンタたちはそれに参加してもらうわ」
「「「「!?」」」」
俺たちは呆然としてしまった。
「わ、私たちが実戦に参加ですか!?」
「そうよ」
博士は簡単に言ってしまった。
(ど、どういうことだ!?まだ任官まで2週間以上はかかるんだぞ!?)
「軍曹はこのことを聞いていらっしゃったんですか?」
「まぁ、な。基地指令も承諾されていて私個人の意思ではもうどうにも出来ん」
「大丈夫よ。護衛は付けるし、それに優秀な大尉殿が守ってくれるわ」
「「「はぁ?」」」
翔太たちは同時に首をかしげた。
「ねぇ?黒田大尉?」
「!?」
俺は本来の階級を言われ、戸惑った。
「黒田大尉?」
「誰なのですか?その人物は」
「黒田って・・・まさか」
「そのまさかよ。そこにいる黒田明仁は本来斯衛軍の大尉よ。テルミドールは国連の中尉、二人とも現役衛士よ」
「「「!?」」」
「は、博士!」
「もう隠す必要性がなくなったわ。そういうことでアンタには表に立ってもらうわよ」
「斯衛はどうするんですか!俺は向こうではおそらくは死んだとされているんですよ!」
「それも平気よ。ちょっとした情報を斯衛にリークしたわ。たぶん間引きの時に接触してくるわね」
「いや、ですが!」
「それと、アンタにはあの機体に乗ってもらうわ。テルミドールには別の機体を要したから勝手に改修でもなんでもして頂戴」
「ちょ、ちょっと!」
「じゃぁねぇ」
言うだけ言って博士は去っていった。
「・・・なんだって言うんだよ、まったく」
「ね、ねぇ黒田。大尉って本当なの?」
「明仁が大尉って」
「く、黒田君?」
「あぁ~、まぁ~、実は何だぁ~」
「黒田さんは間違いなく大尉ですよ?私も中尉ですよ?」
そう無い胸を張って言うミリィ。
(いや、無い胸張っても)
「黒田さん何か言いましたか?」
「い、いや!何も言ってないぞ!ミリィの思い過ごしだ」
(声に出してたか?俺)
そう思っていると軍曹が説明を始めた。
「お前たちの疑問は分かるが、これは本当のことだ。大尉殿と中尉殿は事情があり仕方なく訓練兵をやっていたそうだ。私も最近聞かされていたので驚いているのだが」
「まぁ軍曹の言うとおりだ。明星作戦の時ある事情があってな。俺とミリィはその時に博士に拾われたんだよ。それで俺という存在を隠すために訓練兵をやっていたんだ。まぁ俺としては俺が大尉だからって遠慮されるのは嫌だから今までどおりに接してくれ」
「「「は、はぁ」」」
「軍曹も砕けた感じで良いぞ?」
「い、いえ!それでは!」
「い・い・な?」
「・・・はい」
軍曹は諦めたように返事をした。
「はぁ~」
(どうすりゃ良いんだよ)
俺はハンガーの天井を見上げた。

同日
白河家

<鈴乃>
「それは本当ですか?」
「あぁ。たった今確認した」
白河家には鈴乃をはじめ雅人、徳人がそろっていた。
「国連が動いたというよりは香月が動いたと言うべきか。しかし所属から階級までそのまま使うとはな」
3人が見つめるテーブルには黒田の詳細が記された『国連』の書類が置かれていた。
内容は『この世界』の黒田のものとまったく同一のものだった。
「もう1人、レミリー・テルミドールの書類もあった」
「・・・中尉、私と同じというわけですか」
「みたいだな。だが、発言権は大尉並みのようだ。明仁にいたっては大佐レベルにいたっているぞ?まぁ、それだけ香月に気に入られているのか使われているのか」
「しかし大佐レベルの発言権とは。香月の行動は予想できんな」
そう言って父と徳人様は頷き合っていた。
「それに、なにやら今回は大きなことを言っていたらしい」
「大きなこと?」
「あぁ。単機で師団規模のBETAを殲滅するとな」
「師団規模だと?今回での予想個体数は?」
「推定10万ほどだと」
(推定10万、か)
10万という数字は決して多い数字ではない。
ハイヴでのBETA個体数は10万などというレベルではないのだから。
間引き作戦で10万という数字はそれほど珍しいものではない。
それに単機で師団規模ということは1万から3万ものBETAを倒すということだ。
(あの電磁投射砲を装備した機体を使用することでそれが可能なのか?)
「10万か・・・今回はずいぶんと多いのだな」
「明星作戦で逃げたBETAが佐渡に渡っていたらしいのでな。大方反応炉で補給でも行っていたのだろう」
「ふむ」
「それにしても、師団規模か。可能だと思うか?」
「分からぬよ。帝国で開発している99型が完成したとして、それをもってしても可能かどうか」
「虚言か、それとも自信あってか。まぁ単機で師団規模を殲滅してくれるというのはこちらとしてはありがたいがな。それだけこちらの負担が減るしの」
「まったくだ」
2人の少将は顔を上げた。
「そういえば、鈴乃ちゃんは瑞鶴に乗っていくつもりなのか?」
「えぇ、そのつもりでしたが」
「あぁ~、あの機体は止めておけ。目立ちすぎる。ということで俺が機体を用意した」
そう言って父はディスプレイに映像を映した。
「これは、不知火ですか?」
「いや、これは不知火・壱型丙と言う。不知火の強化型だ。鈴乃にはこれに乗ってもらいたい。なに、まだ時間はある。明日から機体の完熟訓練をしてほしい。最悪動かせる程度でもいい。別に間引き作戦に参加するわけではないのだからな」
「了解しました」
「うっかり間違って明仁を背中から撃ってもかまわんからなぁ」
「おい徳人!自分の息子だろ!」
「だってあいつが生きてると鈴乃ちゃんを取られてしまうではないか!」
「子はいずれ巣立つ。仕方のないことだろう!それと、鈴乃の父親は俺だ!」
そのまま2人の言い合いは勢いを増していった。
(・・・・・・お兄様)
「だから、お前は何で鈴乃にちょっかい出すんだ!」
「だって可愛いではないか!明仁のような無愛想で可愛げの無い息子などいらぬ!」
「それでは明仁が可愛そうではないか!」
「あんな息子死んでも構わん!」
(・・・・・・お兄様。私、強く生きていますよ!)
少し涙ぐみながら2人の馬鹿親から離れた。


あとがき
第5話をお届けしました。
このところ検定試験やら教習やら体作りやらで時間がなかなか取れません!
睡眠時間がすっごく減ってます。
それに最近筋肉痛でキーを叩くのが痛いです・・・
今回は馬鹿親が最後に目立ってしまった。
馬鹿親です。
間引き作戦での10万と言う数が多いのか少ないのか分からないので珍しくは無いという表現使いましたが実際のところどうなのか分かりません。
なので独自解釈だと思ってくだされば。

間引き作戦に参加するために新たな訓練を始めた訓練兵と黒田たち。
黒田の生存を信じ、確かめるために動く鈴乃。
裏で動き始めた夕呼。
そして、ついに間引き作戦の日が訪れる。
次回もまたよろしくお願いします。



[16077] 第6話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2010/05/22 01:31
1999年8月23日
日本帝国仙台基地
第10ハンガー

<明仁>
「これが戦車級駆逐機か」
「大きいですね」
俺とミリィの目の前にはその巨体をハンガーに納めたA-10が鎮座していた。
うわさ以上のゴツイ巨体だ。
両肩に装備しているGAU-8に大型弾倉。
そして膝部分に装備しているジャベリン。
A-10はまさに第1世代究極の姿だろう。
「小型種相手ならこれが一番いいって上層部が言っていたからね。とりあえずこれをもってきたわ。一応は最新型らしいわよ」
「てことはC型ですか。なるほど」
C型は確か性能を第2世代基準にまで上げたモデルだったはず。
それならOBWを採用してあるはずだ。
(なら、M5システムを搭載できるな)
「改修はしてもいいけどこれは使った後国連、言っちゃえば米国に返上するからやるなら適当にね」
「分かりました」
(まぁ、M5システムを解析するには俺のコードが必要だし、かまわないか)
M5システムには明仁の生体認証キーがなければその中を見ることすら出来ない仕組みになっている。
無理にすれば自動的に破壊されるよう仕掛けもしてある。
だからそのあたりは特に心配することではない。
「それと、ノースロックのほうから突撃砲や長刀短刀なんかが届いたわ。保守部品は間引き作戦後には届くらしいから。とりあえず覚えておいて」
「すみません」
「別にいいわ。じゃぁ私は行くわね」
そういい残して博士はハンガーから去っていった。
「とりあえず今日中にこいつを改修するぞ」
「分かりました。そうしないと訓練できませんからね」
「そうだな」
「それに、黒田さんの機体もまだ完成してませんからね」
俺の乗機であるYF-23SBは今だ完成していない試作機。
A-10も改修しなければならないが、A-10のほうは改修するだけだ。
それほど時間はかからないだろう。
問題は23SBだ。
博士は帝国側にYF-23SBを新型戦術機として公開するらしい。
その話を聞いたのが昨日だった。
さすがにA-10とYF-23SB両方を間に合わせるとなると訓練すら危うい状況だ。
「後1週間も無いんだよな。大変だ」
「そうですね。あ、そういえば美穂さんたちは対BETA戦闘訓練に移ったらしいですよ」
「そうか。まぁいずれはやることだが、あいつらはまだ訓練兵だ。俺たちが守ってやらないとな」
「はい!」

1時間後・・・

「なんじゃこりゃぁ!!」
明仁は叫んでいた。
A-10の改修作業を始めてから気づいた事がある。
(これ欠陥品じゃん!)
駆動系は滅茶苦茶、電子機器は何故か全滅、唯一使えるとしたらGAU-8、ジャベリンとそれくらいのものだった。
(俺の機体も完成させなくちゃいけないってのに!なんでこう!)
プツンと何かが切れた音がした気がした。
「はは、はははははははは!これは俺を試しているのか?そうなんだな!だったらやってやるよ!有無言わせない機体にしてやるよ!あははははははは!」
「く、黒田さんが壊れた!だ、誰か衛生兵を!メディックゥ!」
「あははははははは!」
それから数時間にかけて第10ハンガーに笑い声を上げながらA-10を改修する明仁の姿が多数目撃されたそうだ。
近くにいた整備兵の話によるとA-10に「お前いい装甲(肌)してるなぁ」とか「手のかかる機体(女)だなお前は」などと怪しい言葉を連呼していたそうだ。

8月24日午前7時頃
第10ハンガー

「で、出来たぁ!!」
「ふぁ~、出来ましたねぇ~」
2人の目の前には完成したA-10が鎮座していた。
駆動系などはさすがに2人では出来ないので整備兵に協力してもらった。
後は電子機器とM5システムの組み込みは2人だけで行った。
M5システムに関してはこの世界にはまだないものだ。
迂闊に表に出すわけにはいかない。
そのおかげで徹夜となってしまった。
最後のあたりになるとミリィも首をこっくりこっくりとさせ瞼も開いているのか閉じているのか微妙なところだった。
「ふぅ~、これでようやく寝れる・・・ミリィ、部屋に行って・・・て」
「すぅ~、すぅ~」
「寝ちゃったか。まぁいいか」
ミリィもよくがんばってくれていたし、ここで起こしてしまうのも可愛そうだ。
(ま、2時間くらいなら寝られるかな)
俺は寝ているミリィを背負い、自室へと向かった。

約5時間後
自室

<ミリィ>
「んぁ~。あ、あれ?」
気づくとすでに自室のベッドで寝ていた。
(私、いつの間に?)
自室に戻った覚えはない。
記憶もA-10が完成したあたりから消えている。
ふと、傍に誰かの気配を感じだ。
「え?」
すぐ傍、というか同じベッドにうつ伏せになって黒田さんが寝ていた。
「く、黒田さん!?」
「ぐぅ~!がぁ~!お、俺が悪かったぁ!だからもうやめてくれぇ!36mmなんて突きつけないでぇ~」
(へ、変ないびき・・・というか、どんな夢を見てるんですか?)
と、それはともかく何でこんな状況に?
(確か、新しい機体を改修して、それが終わってから、それから、えっと、あれ?)
その先の記憶が無かった。
(もしかして、私寝ちゃってたのかな?)
だとすれば、ここまで黒田さんが連れてきてくれたことになる。
たぶんだがそのまま疲れて寝ちゃったのだろう。
そう考えればこの状況を説明できる。
(黒田さん、ありがとうございます)
「そういえば今何時?」
壁掛けの時計を見るとすでに正午を回っていた。
「く、黒田さん!黒田さん!起きてください!もうお昼過ぎちゃいましたよ!黒田さん!」
「だから俺が悪かったぁ!もう変な装備つけないから許してくれYF-23SBぃ!」
「私はミリィです!起きてください黒田さん!」
その後、明仁が起きたのは1時になってからであり、担当整備兵たち全員に酒を奢ったそうだ。

8月26日
A-01用ハンガー

<明仁>
明仁はYF-23SBを見上げつつ悩んでいた。
(最大の問題だよなこいつは)
YF-23SBに積まれている試06型跳躍ユニット。
これは完全にワンオフパーツだ。
予備など存在しない。
(これを複製するのは間引きまでには間に合わないな)
この機体には詳細なステータスデータを取るために設計図が入力されている。
それを元に作ることは出来る。
だが、これには時間がかかる。
何しろ従来の跳躍ユニットとまったく違うのだ。
この跳躍ユニットを設計、開発しただけでも半年以上はかけていたのだ。
複製をするとしたら半月くらいは必要だろう。
パーツなどをそろえる必要もある。
「とにかく本格的な戦闘できるぐらいまでには仕上げなくちゃなぁ」
跳躍ユニット以外は殆ど完成している。
その仕上げくらいしておけばいいだろう。
(とにかく跳躍ユニットを仕上げる!)
俺は早速作業を開始した。

同日
シミュレータールーム

<まりも>
「次は大規模BETA群との戦闘プログラムだ」
『『『了解!』』』
まりもはシミュレーターの管制室で3人の様子を眺めていた。
(大分BETAとの戦いに慣れてきたな)
初めて見たときはその姿に怯えたり気分を悪くしたりとさまざまだったが、今では多少の興奮などがあるが皆慣れてきたようでメンタル的にも安定している。
『3時の方向よりBETA接近中!距離1000、数60!』
『俺が出る!彩、援護頼む!』
『了解!』
コンビネーションも概ね良好。
動きも悪くない。
だが、
(それでも、新兵には変わりない)
いくらBETAとの戦いに慣れたと入っても所詮シミュレーターだ。
実戦では何が起こるかわからない。
この子達が死の8分を生き残れるかも分からない。
シミュレーターで再現できることもあれば想像もしないことも起きる。
(仲間の断末魔や悲鳴を聞いたらこの子達はどうなるのだろう)
今となりにいる者がいつ死ぬか分からない。
そんな時、この子達は何を思うのだろう。
モニターに全員が戦死したとの表示が映る。
(これが、現実のものになったら)
そうならないことを祈るしか今のまりもには出来なかった。

8月27日
A-01用ハンガー

<明仁>
『各部正常起動してますね』
「見たいだな」
俺はミリィに機体チェックをしてもらいながらYF-23SBを動かしていた。
今日は電磁投射砲の試験を行う日だった。
ちなみに興味があるのか博士、それと正式な顔合わせということでA-01の面々が揃っていた。
A-10の方は昨日試験を行ったが特に問題がないので塗装を行っているところだ。
『博士が戦術機用射撃場の使用許可を取ってくれたので向かいましょう』
「了解だ」
あれから跳躍ユニットは実戦レベルにまではいたったが、100%の出力を出すことは出来ない状態だ。
リミッターを取り付けて80%しか出力を出せないが、それでも現存の戦術機を凌駕する速度を出せるので戦闘での問題はないだろう。
電磁投射砲も完成はしているが何が起こるか分からない。
何せまだ試作段階の兵器だ。
1度使ったとは言えちゃんと使えるのかどうかを調べる必要がある。
俺は使えなければ使えないで装備を担架に変えるだけだから撃てればいいという頭でいる。
だが、博士は電磁投射砲を撃つことを前提にしている。
何せ今回の目的が異常だ。
(師団規模のBETA殲滅か)
師団規模となれば1万以上のBETA群となる。
今回の予想個体数が約10万というのだから10分の1を相手にすることになる。
(確かに電磁投射砲は必要になるよな。10万なんて佐渡島の予想保有個体数だからな)
いくら横浜のBETAが合流したと言っても10万は多い。
それに、いかに高性能な機体であろうと単機で師団規模を相手にするのはきついというレベルの話ではない。
それこそフェニックスミサイルなどをフル装備でもしなければ普通は無理だろう。
(まぁ師団規模を相手にするって時点で無理な話だよな、普通は)
『黒田さん?着きましたよ?』
「あ?あ、もうついたのか」
考え事をしていたせいか、いつの間にか目的の場所へと着いていたようだ。
『タイミングは黒田さんのほうでお願いしますね』
「分かった」
俺は兵装を電磁投射砲で決定する。
稼動担架が展開し、電磁投射砲の砲身がYF-23SBの脇の下から現れる。
同じタイミングで正面に標的が現れる。
「発射する」
俺はトリガーを引いた。
ローレンツ力によって加速した36mm砲弾が砲身より吐き出され、標的を砕いていく。
メインカメラを博士たちのほうへ向けてみると、博士はうっすらと笑みを浮かべ、A-01の面々は驚いたような顔をしていた。
『発射試験はクリアです。次は耐久テストを行います』
「了解っと」
その後も電磁投射砲の試験は順調に進み、その全ての項目を終了した。
『黒田さん、博士が制服に着替えてからミーティングルームに集合とのことです』
「了解」
(さて、A-01の面子に会いに行くとするかな)
俺は着替えるためにロッカールームへと向かった。

ミーティングルーム

「えっと、博士から説明を受けたと聞いているが改めて自己紹介をする。帝国斯衛軍第12戦術機甲大隊所属の黒田明仁大尉だ」
「国連軍海外派遣部隊所属のレミリー・テルミドール中尉です」
俺は斯衛、ミリィは国連の制服を着てA-01の前へと立った。
「オルタネイティヴ計画第1戦術戦闘攻撃部隊第9中隊隊長の伊隅みちる大尉だ。とは言っても、もう知っているとは思うがな。あの時は助かった。礼を言う」
「いえ、そんなの結構ですよ。あ、ならあの時の約束で返してくださいよ」
「あぁ、分かった。しかし、斯衛とはな。あの時は米国所属と聞いたが、何か事情が?」
「まぁ、そんなとこです。俺こう見えても技官もやってるんですよ。戦術機弄くるんで一時的な転属です」
「そうか。その歳でよくやるな」
無論これは誤魔化す為の嘘だ。
(だが、さすが博士直属の部隊体長だ。聞かなくて良い事は分かってるみたいだな)
軍には『Need to Know』というものがある。
上役が知ってさえいれば下が知る必要はない。
軍とはそういう場所なのだ。
「さて、それでは私の仲間を紹介しよう」
みちるはA-01のメンバーを紹介していった。
隊員全員が女性のみの部隊。
何故ヴァルキリーズと呼ばれているのか今分かった。
「さて、自己紹介も終わったようだしこれから黒田・テルミドールの対BETA模擬戦と行きましょうかね?」
「「え?」」
「大丈夫よ。一応アンタとテルミドールの機体データはシミュレーターに入れてあるから。再現できる限りのところまでしか出来ないけどね」
「「はぁ」」
「伊隅たちも2人の実力は知りたいところだろうしね」
確かに、俺たちの実力を知ってもらうにはちょうど良いだろう。
A-01の面々も興味津々と言ったと様な顔をしている。
「分かりました。なら、フェイズ4あたりのハイヴデータでお願いします」
「あら、そんなに大きく出ていいの?」
「中隊規模ならフェイズ4で中層あたりが限度でしょうから。それを分隊で行って見せるということで俺たちの実力を知ってもらおうと思っただけですよ。それに、いい刺激にもなりますでしょうし」
その言葉に反応してA-01の様子が変わった。
「黒田大尉は分隊でフェイズ4を攻略するというのか?」
「えぇ。博士、機体データは『全て』入力されているのですよね?」
「入っているわ。でも、こちらで分かる範囲の物だけよ。ブラックボックスになっている部分は憶測での数値でしかないわ。乗る前に確かめて頂戴。調整はアンタに任せるから」
「分かりました。じゃぁ皆さんは管制室で見ていてください」
「分かったわ。伊隅、行きましょうか」
「分かりました博士。黒田大尉、お手前拝見させてもらおう」
「えぇ。期待し過ぎない程度に期待していてください」
「・・・・・・どういう意味だ?」
「さぁ?」
博士とA-01は管制室へと向かっていった。

シミュレーター室

俺とミリィは1、2番機に乗り込んだ。
「一応確認しましたが、まぁ規定の範囲内の誤差があるくらいでシミュレーターに使うにはいい具合ですよ」
各種ステータスを確認したが、特に問題は無い。
まぁさすがに主機の出力や最大速度などはしょうがないとして、電磁投射砲をかなり詳細に再現されているようだ。
跳躍ユニットに関してもかなり再現されている。
とりあえず装備は標準タイプでかまわないか。
『そう?なら特に変更するところはないわね?』
「ミリィも問題ないか?」
『はい!大丈夫です!』
「こっちは準備が整いましたのでいつ始めても構いませんよ」
『そういえばコールサインはどうする?』
「じゃぁホワイトグリントでお願いしますよ」
『分かったわ』
それからすぐにウィンドに地下茎構造の映像が映し出される。
『それじゃぁ初めて頂戴』
「了解」
『了解です』
俺とミリィは地下茎構造内を移動し始めた。

<みちる>
始まってから役1時間、みちるは目を疑うような光景を目の当たりにしていた。
たった2機の戦術機によってすでに中層近くまで到達していた。
すでに師団規模並みのBETAと戦闘をしたというのに2機には未だ損害は無い。
それどころか一方的にBETAを屠っていた。
常に飛んでいる黒田がテルミドールの進路を確保し、テルミドールの乗るA-10のGAU-8が黒田があけた進路周辺にいるBETAを薙ぎ払いながら進む。
電磁投射砲やA-10の重武装にも驚くが、それ以上に2人のコンビネーションにも驚かされる。
互いにカバーをし合い、無駄の無い動きを見せている。
(これが、この2人の実力だと言うのか!?)
いくら高性能は戦術機とは言えど、自分が使ったらここまでうまく行くのだろうか?
この2人のようなコンビネーションが出来るのだろうか。
皆も同じことを思っているのか2人の映像に釘付けだった。
『こちらホワイトグリント1中層に到着した。これより最下層へと向かう』
「了解よ。しっかし、あっという間に中層まで着いたわね。正直驚きよ」
『そうですか?中層までなら単機でも可能ですよ』
「・・・アンタ、本当に同じ人間なの?」
『失礼ですね。これでも普通の軍人だとっ!思ってますがっ!』
「そんな戦術機造ってる癖に普通とか言ってんじゃないわよ」
『ははははは』
喋りながらもBETAを着実に倒していく。
それも異常なほどの速度で。
「・・・・・・ずいぶんと余裕のようね」
「そのようですね。正直自分の目を疑いたくなりますが」
「そうね。でも、これであの2人の実力は分かったわよね?」
「えぇ。これ以上に無いほど。むしろ自分たちとは違う次元の人間なのだと理解を改めたところですよ」
「まぁ、そうね」
博士はモニターを見つめる。
丁度地下700mほどの地点を過ぎた時だった。

<明仁>
『前方と後方より旅団規模のBETA群接近!前方との距離1500、後方距離2000!』
「後方は無視する。前方1600にある広間まで噴射地表表面滑走しながら邪魔なBETAのみを駆逐する。その後に最短距離の横坑に入る」
『了解です!』
ここまでは順調に来た。
弾の消費が少々多いが、特に問題は無い。
ミリィの方も何も問題が無いようだ。
(中層は超えた。さて、どこまでいけるのやら)
『02フォックス2!』
GAU-8が正面に展開していたBETA達に劣化ウラン弾を降り注ぐ。
(考えても仕方ないか。行けるとこまで行くかぁ)
「01フォックス1!」

最下層反応炉まで約4000m手前付近

『こっちの残弾は0です!』
「こっちもだ。最初遊びすぎたな」
電磁投射砲は反応炉破壊のために最低限残しているため使えず、突撃砲の最後の弾倉も使い果たした。
ミリィのA-10も大型弾倉を排除し、使えなくなったGAU-8も強制排除している。
MK57中隊支援砲も俺が弾切れになるのと同じタイミングで弾切れになったようで投棄したようだ。
『すみません、短刀を貸してくれませんか?』
「おう」
俺はナイフシースに搭載していた短刀をミリィ機に渡す。
『反応炉まで後約4000m。その手前1000m付近に軍団規模のBETA群反応があります』
「長期戦は無理だな。よし、最短距離で反応炉まで飛ぶ。邪魔になるBETAだけ排除するぞ!」
『分かりました!』
俺は突撃砲を捨て、長刀を装備する。
「行くぞ!」

それから30分後
管制室

「なんともまぁ、随分と奥まで行ったわね」
「そうですか?最初のほうで師団規模なんて相手にしなければ多分反応炉まではいけたと思うんですけどね」
俺は博士とともにさっきのシミュレーターでの結果を見ていた。
結果的には反応炉は破壊した。
結果的には、だ。
反応路2000m手前でBETAに囲まれ身動きが取れなくなってしまった。
跳躍ユニットを暴走自爆させ、進路を作り、近づけるだけ反応炉に近づいてから自爆した。
「それでもアンタ1人で2万以上のBETAは相手にしてるわよ?しかも半分は接近戦で」
「そうですか?そんな感じはしなかったんですが」
「・・・アンタ、本当に同じ人間?」
「失礼な!これが普通ですよ!そう思いません?伊隅大尉」
そう言って伊隅大尉を見るとなにやら言いづらいような顔をしていた。
「え、あ、いや。私も博士と同意見なのだが」
「大尉まで!」
そして、その言葉にA-01メンバーとミリィですら頷いた。
「ミ、ミリィまで」
「さすがに分隊でのフェイズ4はちょっと普通じゃないですよ」
「え、いや俺斯衛にいたとき親父にこれくらいは普通だって教えられていたんだけど・・・・・・鈴乃も一緒だったし」
「・・・それきっとイジメですよ」
ミリィの言葉にその場の全員が頷いた。
「あ、あのクソ親父がぁ!」
叫び声が管制室に響き渡った。

同日
斯衛軍第12戦術機甲大隊用ハンガー

<鈴乃>
「おい!こいつは通常カラーに塗り替えるのか?」
「いや、カラーリングは露軍迷彩だ。間違えるな!?露軍だからな!」
「装備はどうするんだ?」
「C型の強襲前衛だ。間違えるな!」
ハンガーでは不知火・壱型丙の塗り替え作業と換装作業を行っていた。
「後2日か」
鈴乃はこの数日間で壱型丙を乗りこなせるようになっていた。
第1世代の瑞鶴から第3世代の不知火・壱型丙への機種転換は思いの他難しかった。
反応速度や機動性、挙動がまるで違うのだ。
だが、それでも乗りこなす必要がある。
(お兄様のために)
鈴乃はそれだけを胸に必死になって壱型丙の操縦訓練を続けた。
今では自分の手足のように扱える。
それに、
(自分には第3世代の戦術機の方法が合う?)
いつの間にか不思議と機体との一体感を覚えていた。
それは瑞鶴では味わえないものだった。
「それにしても」
鈴乃は壱型丙の横に置かれている物に目を向ける。
試製99型電磁投射砲。
現在開発が進められている世界初となる戦闘用電磁投射砲だ。
「開発が進められていると思ったらもうここまで完成していたのか」
「形だけね」
後ろから誰かがやってきた。
「ちゅ、中佐!」
「元気かい?鈴乃ちゃん」
その人物は帝国陸軍技術廠・第壱開発局副部長巌谷榮二中佐だった。
「どうしてこの場所に?」
「いや、娘の友人が単機で間引き作戦に参加すると聞いたのでな。出撃の前に話をしておこうと思って来たのだが、邪魔だったか?」
「いえ、そんなことは」
「なら、向こうで少し話をしよう」
私は中佐の後に着いていった。

「それにしても中佐自らお話とは一体どうしたのですか?」
私と中佐はハンガーにある整備士の休息所を借りて話をしていた。
しばらくは使わないということだったのでちょうどよかった。
「そんなに硬くなることも無いだろう。別に知らない仲ではないのだから」
「そう言われましてもこればかりは」
「はぁ・・・そういうところは唯衣ちゃんそっくりだな」
「私と唯衣が、ですか?」
「そういう堅苦しいところとかそっくりだ」
わははは、と中佐は笑って私の肩を叩いた。
唯衣というのは譜代武家である篁家の現当主であり、私の数少ない友人でもある。
斯衛内では生真面目で厳しい堅物などと割と有名人でもある。
中佐は唯衣の父親と友人だったらしく、唯衣の父親が死んでからは唯衣を引き取り親代わりとして育ててきたそうだ。
巌谷中佐といえば瑞鶴で当時最新鋭だったF-15Cを模擬戦で倒すなどの伝説的な記録を持つ有名人だ。
「唯衣は生真面目なだけですよ。きっと本心では中佐に甘えたいところなどがあるでしょう」
「そうか?唯衣ちゃんは俺を父親と見てないんじゃないかと思うときがあるんだが」
「そんなこと無いですよ。恥ずかしがっているだけですよ」
「それならいいんだがな」
そう言いながら目を細めて微笑した。
「で、話って何ですか?まさかそれだけのことを話だけでここにくる中佐じゃないですよね?」
「本当に唯衣ちゃんに似てるなぁ。まぁ、実際そうだがな」
さっきまでの緩い空気が一瞬にして変わった。
これが、歴戦の勇士の持つものなのだろう。
「話は今回の間引き作戦についてなのだが。鈴乃ちゃんは明仁君の生死を確認するための単独行動ということだったな?」
「はい。父と徳人様にはそうするようにと言われています」
「そうか。そこに唯衣ちゃんを入れてほしいのだが」
「唯衣をですか?」
「あぁ。いくら実戦部隊である白い牙中隊に所属しているとは言ってもまだまだ経験不足だ。少しは実践を踏ませてみたいのでな。瑞鶴では目立つので不知火を使うつもりだ。今回は国連側が1機で師団規模を相手にするとの虚言を言っているからな。まぁ、そうでなくても今回は洋上から戦艦での対地砲撃、戦車部隊の後方援護、戦術機1個連隊規模と戦力的には十分すぎる」
確かにそれだけの戦力をつぎ込めば10万のBETAに対抗することが出来るだろう。
「それに場所が場所だからな」
「場所、ですか?」
「確か国連の訓練部隊が第2か第3防衛ラインあたりに布陣してるはずだ。そのあたりに行ってもらおうと思っている」
「なるほど」
確かにそのあたりなら光線級でもない限りさほどBETAの脅威も無いだろう。
「それと、俺も国連、いや香月の言う新型機には興味があるからな。唯衣ちゃんに頼んで実際の映像を取ってもらおうと思っている」
「やはり、主席開発衛士時代などを思い出しますか?」
「まぁ、な。これでも開発局副部長だ。新しい戦術機となれば見てみたいものさ」
そういうと中佐は席から立ち上がった。
「時間をとらせて悪かったな、鈴乃ちゃん」
「いえ、中佐とお話が出来て良かったですよ」
「そうか。いつでも家に来てくれてかまわないぞ?唯衣も喜ぶ」
「はい。暇を見つけて伺います」
「そうか。明仁君、生きているといいな」
ではな、と言い残して中佐は休息所を出て行った。
「きっと、お兄様は生きていらっしゃる」
そう信じ、私は休息所を出た。

8月28日
日本帝国仙台基地
ブリーフィングルーム

<彩>
「いよいよ明日実戦か」
「そうね。まだ任官もしてないけど、私たち戦うのよね」
私たちは軍曹が来るのを待っていた。
今日は出撃前日、明日の作戦内容の説明を受けるためブリーフィングルームに来ていた。
「・・・黒田たちも明日参加するんだよね」
「そう言ってたな」
黒田君たちは現役の衛士、黒田君は斯衛の大尉でミリィちゃんは国連の中尉。
2人とも実戦経験は当然あるに決まっている。
そんな2人に私たちは守られながら戦うことになる。
「本当のところ、あいつらとは肩を並べて戦いたかったよ。同じ部隊で背中を守りながらな」
「うん」
いろいろと話しているうちに軍曹がやってきていた。
「敬礼!」
「話は終わったな?それではこれより間引き作戦の内容を説明する」
軍曹がディスプレイに新潟沿岸部の詳細マップを表示する。
「BETAの予想上陸時刻は29日午前9時頃。作戦はまず洋上、海中に待機する連合艦隊による機雷攻撃から始まり、次に海神による魚雷攻撃、BETAが上陸したらまずこのラインまでBETAを誘う」
そう言って沿岸部より150m付近を指す。
そこには無数の光点が移っていた。
「この地点周辺には地雷が設置してある。あらかじめデータを送るから後で詳しい位置を覚えておけ。次に戦艦による艦砲射撃とMLRSでの攻撃を開始する。それまで我々戦術機部隊の出番は無い。我々の出番は艦砲射撃やMLRSを逃れたBETAの駆逐だ。我々は第2防衛ラインと第3防衛ラインの間に布陣する。第3防衛ラインは言わば最終防衛ラインと同じだ。ここまでBETAが早々来るとは思えないがBETAとの戦闘はいつ何が起こるかわからない。後方だからといって気を抜くな?」
「「「了解!」」」
次に第2防衛ラインと第3防衛ラインが映し出されていた。
「第2防衛ラインにBETAが近づいてきたらまず戦車部隊が砲撃を開始する。我々は戦車ではカバーできない側面からのBETAを撃破する」
ディスプレイには戦車部隊の位置と戦術機部隊の位置が表示された。
「戦車部隊はBETAが来るであろう予想進路の正面に布陣している。我々戦術機部隊はこの両側面にて待機、BETAを側面から叩く」
軍曹はディスプレイを全体マップへと切り替えた。
「光線級の上陸が確認されたら帝国軍第12戦術機甲大隊が殲滅するために突撃する。その時点で我々は第3防衛ラインへと下がり、状況が終了するまで即応体制で待機。以上がこの作戦の内容だ。何か質問はあるか?無いならもう1つ話すことがある」
「話すこと、ですか?」
「あぁ。明日の作戦で、我々の布陣する位置に斯衛の2名の中尉殿が来ることになった」
「「「!?」」」
「斯衛軍第12戦術機甲大隊所属の白河鈴乃中尉殿と白い牙中隊所属の篁唯衣中尉殿だ。名前くらいなら聞いたことがあるだろう?」
確か、白河家と篁家は同じ黄色だったはず。
白河家は斯衛でもかなり有名であの斑鳩家とも親交がある譜代武家だ。
篁家は確か現当主が17歳で現在帝国軍の第壱開発局副部長で斯衛では伝説的な衛士である巌谷中佐が親代わりとなっていると聞いたことがある。
「あの」
「何だ?板井」
「第12戦術機甲大隊ってことは、あ―黒田大尉と何か関係が?」
そういえば、黒田君も確か同じ部隊だったはず。
「そうらしいな。黒田大尉の部下の1人であることは間違いないらしい」
軍曹はディスプレイの映像を消した。
「こんな形での初陣は例に無い。今夜の出発までに十分に休んでおけ。以上だ」
「敬礼!」
軍曹は何も言わずにブリーフィングルームを出て行った。
(明日、がんばらなくちゃ)
そう、心の中で意気込んだ。

8月29日
午前8時
新潟第2防衛ライン周辺

<鈴乃>
『この辺りか?』
「うん、間違いない。ここで合ってる。国連の部隊は後10分で着くみたい」
『そうか』
私と唯衣は国連との合流地点へと来ていた。
本来なら合流するはずがないのだが、急遽合流することとなった。
『鈴乃、明仁様は生きていると思うか?』
「分からない。だけど、死んだと分からない以上生きてると信じたい」
『・・・そうか。強いのだな、鈴乃は』
「強くないよ。ただ、本当のことを知りたいだけ」
『分かった』
レーダーに接近する機影を見つけた。
(5つ?)
『こちらは、国連軍第207訓練部隊指揮官神宮寺まりも臨時大尉です。鈴乃中尉と篁中尉で間違いないですか?』
『間違いない。遠いところご苦労だった。よろしく頼む』
「ところで大尉。黒田大尉の姿が見えないのだが」
そう、レーダーには機影が5つしか映っていない。
機種が撃震、吹雪、A-10と表示されている。
だが、明仁が乗っているのはYF-23という機体の改修機。
つまり、この場に明仁はいないのだ。
『黒田大尉は香月博士の提案ですでに第1防衛ラインのほうへと向かっています』
「な、何故?」
『後方にいては宝の持ち腐れだと』
「・・・そうか」
確かに師団規模を相手にすると香月は言っていた。
なら、ここではなく第1防衛ラインへと向かったほうが良いだろう。
『それと、黒田大尉からお言葉を預かっています』
「大尉は、なんと?」
『「訓練部隊のほうを頼む。頼りにしているよ、鈴」と、それだけを』
「!?」
これを聞いて1つだけ確かなことが分かった。
(間違いなく、お兄様は生きていらっしゃる!)
ウィンドに警告表示と共にアラームが鳴る。
『コード911か』
『始まりましたね』
遠い沿岸方面から艦砲射撃の音が鳴り響いた。
間引き作戦が始まった。



あとがき
すっごく時間かかりました。
卒業式とかその練習とか車の教習(現在進行中)などで1日の半分以上は家の外でなかなかかけない状態でしたので。
おまけにキーボードが壊れたので新しいものに交換したりと。
本当はこんなに何日にも分割せずに2日ていどで書くつもりだったんですがそれでは詰めすぎになるだろうと思って何日かに分けましたので結構滅茶苦茶になっています。

始まった間引き作戦。
単機で師団規模に挑む明仁は1つの疑問を感じていた。
いつになってもレーザー属種が表れない。
その疑問は最悪の結果となって現れた。
次回も見ていただけると幸いです。



[16077] 第7話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2010/05/22 01:32
午前7時半頃
新潟沿岸部
第1防衛ライン周辺

<明仁>
明仁とA-01は訓練部隊とは別行動をとっていた。
理由として国連の中隊が訓練部隊と始めから行動を共にしていると目立つからだそうだ。
それ以前に国連と言うだけでこの場で目立っているし意味は無いと思うのだが・・・まぁ、そこはさすがに伊隅大尉でなくても分かっているだろう。
『我々はBETA上陸開始を確認したらB小隊とC小隊を訓練部隊の護衛へ、A小隊は黒田大尉の後方援護だ。黒田大尉もこれでいいか?』
「そのつもりだけど?本当は1人の方がこの場合は楽でいいんだけど、博士がそういうんだから仕方ないさ」
実際電磁投射砲は取り回しが難しいため密集での使用は向いていない。
間違って味方を撃つなんて事はごめんだ。
だが、博士は最低限ということでA-01の1個小隊を俺につけるよう伊隅大尉に言ってきた。
まだ、俺に死なれては困るようだ。
「本当ならここまでしなくてもいいと思うんだけどねぇ」
『黒田大尉も苦労していますね』
「伊隅大尉ほどではないですよ」
伊隅大尉は苦笑した。
『CPよりヴァルキリーズ及びホワイトグリント01へ。震源の移動を感知。BETAが進行してきている。推測される予想時刻は0800だ。BETA出現を確認しだい艦船による艦砲射撃を開始する。以上だ』
『聞いたな?お前たち!BETAが出現したら予定通りB小隊とC小隊はひよっ子たちの護衛だ!』
通信越しに隊員達の声が聞こえてきた。
「いい部隊ですな」
『えぇ。自慢の部下たちですよ』
「それにしても、1時間も早いとは。本当に、BETAとの戦いは何が起こるかわからないですな」
『そうですね』
「あ、ちょっと向こうの仲間と連絡を取りたいのですが構いませんか?」
『テルミドール中尉のことか?別に禁止されているわけでも無いので平気だが』
「わかった。じゃぁちょっと連絡してるので、何かあったら教えてください」
『了解。程々にな』
俺は秘匿回線でミリィへと通信を繋いだ。
『あれ?黒田さん?』
ウィンドにミリィの顔が映る。
久々の実戦ということもあって若干緊張しているようだ。
「そっちはどうだ?」
『もうすぐ目的のポイントに着きます。黒田さんは?』
「俺はもう着いたよ。BETAの上陸予想時間が1時間早まったが、そっちには連絡が行ったか?」
『いえ、何も』
どうやら帝国はもっとも後方に位置する部隊、つまり207訓練部隊のところへは通信を送っていないようだった。
(帝国は何を考えているんだ?まぁ、始まれば始まったで分かることだろうが)
「そうか。まぁ始まれば艦砲射撃の音で分かるか。とりあえずA-01から2個小隊ほどがそっちの護衛に付くし鈴乃や唯衣ちゃんもいるんだろ?訓練部隊のほう頼むな」
『分かりました。黒田さんもがんばってください』
「あぁ。じゃぁな」
俺は秘匿回線を切った。
「しかし、何故唯衣ちゃんがここに」
鈴乃がいるのは分かる。
情報をリークした時点でそのことは考えていた。
しかし、何故この場に唯衣ちゃんがいるのか。
それが不思議でならない。
俺の記憶では今は確か斯衛の実戦部隊である白い牙中隊にいるはずだ。
こんなところにいるはずが無いのだが。
(巌谷中佐あたりが動いたのか?)
おじ―――中佐ならこの機体に興味を持つことだろう。
あの人はどちらかといえば国産機主義の固い連中とは違い取り込める技術は貪欲とまでは言わないが取り入れていく人だ。
それに、中佐は俺のことをかなり気に入ってくれていた。
となれば、この機会を見逃すはずが無い。
『黒田大尉、BETA予想上陸時間まであと15分です。そろそろ移動を開始しては?』
「そうだな。それじゃ、後方頼むな。できれば100mくらいは離れていてくれ」
『了解した』
俺はA-01A小隊と共に、もっとも前面へと出ている帝国軍第14戦術機甲大隊の元へと向かった。
『そこの衛士、所属と名前と階級を述べよ』
「斯衛軍第12戦術機甲大隊所属黒田明仁。階級は大尉だ。後方に待機しているのは国連からの派遣部隊だ」
それを聞いた帝国軍の衛士たちは動揺し始めた。
『こ、斯衛!?』
『何故ここに!?』
『おい、それに斯衛の第12戦術機甲大隊の黒田って・・・』
『あの黒田少将の息子の!?』
やはり斯衛と第12戦術機甲大隊、そして黒田の名は目立つようだ。
『お前ら黙れ!・・失礼、私はこの大隊を指揮している武島少佐だ。しかし、斯衛の実戦部隊所属である貴方が何故国連と共にこのようなところに?』
「帝国には新型機のお披露目とその新型機による単機での師団規模BETA殲滅をすると伝えてあるらしいが、少佐は聞いていないか?」
『一応は聞いているが・・・それが新型機か?』
「そうだ。とはいってもまだ完成はしていないが」
『噂に聞く斯衛専用機か?』
確かに斯衛専用機である武御雷は現在開発されているがアレの配備は2000年だ。
「いや、これはどちらかというと新技術の概念検証機と言ったところか。取り合えずは今のところは俺専用機扱いになっている。この機体はどちらかというと米国の技術が使われているのでな」
『ふむ。しかし何故そこに国連が?』
「国連、というよりは香月博士が携わっていいてまぁその護衛として国連の部隊をよこしてきた、ということで理解していただきたい。さすがに斯衛の中でこの技術は使えないので米国とのコネを持つ香月博士に協力をしてもらったというわけだ」
『そうか。そちらも苦労をしているようだ』
『隊長!震源が浅くなってきています!BETAの上陸が近いようです!』
『分かった。黒田大尉、お話はここまでのようですな。我々はこれより任のためこの場を離れます。武運を』
「そちらもな」
武島少佐率いる36機の陽炎が跳躍ユニットを噴かせ、一斉に移動を始めた。
同じタイミングで管制ユニット内にアラームとBETA出現を表すコード991が表示された。
『BETAの上陸を確認!繰り返す!BETAの上陸を確認!』
CPの通信が入ると同時に洋上からの艦砲射撃が沿岸部へと飛んできた。
頭を出した突撃級や要撃級が飛んでくる砲弾によって次々に粉々になっていく。
だが、BETAの上陸はその程度では収まるわけが無い。
次々にBETAが上陸していき、次第に艦砲射撃では対処しきれなくなってきた。
地雷が突撃級を足止めする。
効果的な方法であるが、それでもBETAの物量の前では気休め程度にしかならなかった。
「BETAとの戦いなんてそんなものだろうがな」
俺は電磁投射砲を選択する。
背面に装備されていた砲身が沸き下より現れ、甲高い充電音が周囲に響く。
ウィンドに発射準備完了との表示が映し出された。
「ホワイトグリント01よりHQへ」
『こちらHQ。どうした?』
「洋上艦隊の艦砲射撃をやめてくれ。事前に打ち合わせたとおりにこれよりフェイズ1へと移行する」
『了解した。非常時にはこちらも艦砲射撃を開始させてもらう。幸運を』
通信が終わった直後に洋上艦隊からの艦砲射撃が止まった。
「本当に博士は無茶なことを言う」
出撃前に博士から通信があった。
内容はある程度のBETAが上陸したら艦砲射撃を止めさせ、BETA群へと突入するというものだった。
無論に洋上に待機している帝国艦隊には伝達済みだそうだ。
俺は新潟に着き次第艦隊旗艦でありHQでもある最上へと通信をし、事前に打ち合わせを行った。
艦隊指揮官には同情され、通信士には何度もがんばれという言葉を貰った。
「さてと、派手にいきますかぁ」
俺は安全装置を解除しトリガーに指をかける。
居ないとは分かってはいるが一応レーダーで前面に味方機がいないことを確認し、トリガーを引く絶好のタイミングが来るまで待つ。
地雷で出来た噴煙が少しずつ晴れてきた。
ウィンドに噴煙の中からこちらに向かってくる影が映る。
「フォックス1!」
トリガーを引くと同時に36mmの砲弾がローレンツ力で加速し、発射されていく。
発射された弾は地雷原を越え、突出してきた影―突撃級の強固な装甲を貫通し致命的ダメージを負わせていく。
貫通した弾はそのまま後続の突撃級や要撃級にもダメージを与えている。
だが、
「やっぱり数が多いな」
いくら威力があってもさすがにこれだけではBETAの物量には勝てない。
ガンマウントを展開し、電磁投射砲とマニピュレーター及びガンマウントの突撃砲を組み合わせてBETAへ36mm砲弾と120mm砲弾を撃ち込む。
電磁投射砲から放たれた36mm砲弾が突撃級や要撃級に致命的ダメージかそれに順ずるダメージを負わせ、突撃砲の36mm砲弾で止めを刺し、120mm砲弾が小型種などを吹き飛ばす。
だが、それでも一向にBETAの数は減らない。
「数が多いんだよこん畜生がぁ!」
俺は愚痴りながらも突撃砲と電磁投射砲を駆使しBETAの群れへと接近していく。
だが、接近と同時に電磁投射砲から砲弾のローディング音が途絶えた。
ウィンドにはエンプティマークが点滅している。
「もう弾切れかよ」
俺は弾倉を強制排除し、ナイフシースを取り外し代わりに備え付けた電磁投射砲用予備弾倉保持アームから弾倉をリロードする。
試06型は99型を改良して作った36mmタイプの電磁投射砲だ。
主電力を本体であるYF-23SBの核反応炉から供給することにより小型化。
連射速度も99型の時の問題点と改善点を考慮し、毎分1200発ほどにし、冷却性、耐久性、砲身の過熱問題などをある程度クリアしている。
また重量軽減のため99型のようなベルト給弾式ではなく弾倉式にした。
さまざまな問題点を改善はしたがそれでも問題は残っている。
装弾数と威力だ。
突撃砲とは比べ物にならないほどの連射速度を誇っているため、5000発しかない弾倉ではすぐに底を尽くのだ。
また、36mm砲弾を使用するため99型よりも威力や貫通力は減少している。
(だが、無いよりかはマシか!)
突撃級の突撃を避け、その大きな尻に突撃砲で36mm劣化ウラン弾を食らわせる。
「そろそろ電磁投射砲じゃきついか」
ここまでBETAの群れに接近しては取り回しが悪い電磁投射砲は逆に邪魔になる。
電磁投射砲をマウント状態へと戻し、手にする突撃砲を腰部の保持アームに固定。
長刀を抜き、そのまま目の前にいる要撃級へと切りかかる。
顔とも見えるその感覚器官を切り落としながら機体を跳躍ユニットと各所に備わっているスラスターを使い捻るようにして回転させる。
その回転を利用し、長刀で群がってきた要撃級を斬る。
長刀では届かない位置にいるBETAにはマウントしている突撃砲で攻撃をする。
「まだまだぁ!」
俺は噴射跳躍でさらに奥へとBETAの群れへ侵入した。
逆噴射で小型種を吹き飛ばしながら着地し、すぐさまその周囲一帯にいるBETAを長刀で薙ぎ払い、突撃砲で撃ち殺していく。
群がる要撃級を120mmでミンチにしていく。
「まだまだぁ!」
俺はそのままBETAを斬り捨てながら前進していった。

それから1時間がたった。

「おらぁ!」
要撃級を長刀で一刀両断する。
「これでこのあたりのBETAは一掃したな」
俺はBETAの群れへと突入したが、あまりの数に一時後退していた。
第1防衛ラインまで後退し、そこで第14戦術機甲大隊と共にBETAを駆逐していった。
A-01A小隊は補給のために一旦第2防衛ライン周辺にまで下がっている。
俺の機体は日本の36mm弾倉や120mm弾倉とは形状が一致しないため補給は出来ない。
なので自機の突撃砲はなるべく温存し、落ちている突撃砲や長刀を使いながら何とかここまで戦ってきた。
それ以外は特に問題が無いのでこうしてこの場にいる。
「お、もう師団規模近くまではやったのか」
『・・・本当に単機で師団規模を相手にしたんですか?』
武島少佐が俺のつぶやきに唖然としながら言葉をかけてきた。
「まぁ、それが命令なんで」
ウィンドを見るとBETAの駆逐数がようやく師団規模まであと一歩というところとなっていた。
ふと、ウィンドに通信が入っている表示があることに気づいた。
『HQよりホワイトグリント01へ・・・ようやく繋がったな。前へ出すぎだ。おかげで艦砲射撃がまったくできなかったぞ。我々の見せ場が無かったじゃないか』
通信士は笑っていた。
「申し訳ない。だが、これも命令なので」
『はぁ・・・通信をしても返事をしない。途中で後退しなければ貴官ごと吹き飛ばすところだったぞ?』
「そ、それは危なかった。BETAを殺すのに集中していたのもで、つい」
本当に危なかった・・・・・・。
いまさらになって汗が吹き出てきた。
46cmや50,8cm砲弾が飛んでくると思うとゾッとする。
『BETAを殺すのに集中するのはいいが周りの状況をよく見ろ。これでは迂闊に撃てやしない。もう少し後ろで戦ってくれ』
「了解。しかし、何か不自然ではないですか?」
『不自然?一体なにがだ?』
「ここまで突出してきたにもかかわらずレーザー属種が見当たらない。もう上陸が始まってから2時間近くは立つ。そろそろ見えてきてもおかしくは無いのだが」
レーダーを確認してもどこにも見当たらない。
要塞級が現れ始めているというのにレーザー属種がいまだに出てこないのが不思議だ。
「BETAの動きが予測不可能なのは分かっている。だが、なんだか嫌な気がしてならない」
『BETAと戦って嫌な気がしないなんて聞いたことが無いが?』
「それはそうだが」
ふとレーダーを見る。
BETAを表す光点が沿岸部から広がってはいるが、始めのときよりもだいぶ収まってきている。
「とにかく、落ち着いているようなので部下と通信をしたいので援護頼めますか?」
『任された』
俺は秘匿回線を繋ぎ、ミリィへと通信を行う。
「01より02へ。そっちは大丈夫か?」
『はい。ですが、何かおかしくないですか?』
「やっぱりミリィもそう思うか?」
『はい』
やはりミリィも同じことを考えていたようだ。
『ずっとレーダーを見ていたんですが上陸したBETAの数が予想の7割程度しかありません。それに、レーザー属種がまったく確認できません』
ミリィのA-10にはこのYF-23SB以上に高精度なレーダーを搭載している。
ミリィがそういうのなら間違いない。
「こっちでも要塞級が上陸し始めているんだがレーザー属種を確認していない。やっぱりおかしいよな」
『はい・・・あれ?』
「どうした?」
『今微弱ですが地下で振動が・・・・・・これは!』
次第にこっちでも確認できるほどの振動がおき始めた。
そして、ウィンドにコード991が表示される。
『コード991!繰り返す、コード991だ!』
HQの叫びと同時に空へと無数の光線が立った。

10分前

<鈴乃>
私は唯衣と国連の訓練部隊と共にBETAが来るのを待っていた。
上陸が始まってすでに2時間近い時間がたっているが依然としてこちらに来る気配は無い。
(作戦が順調に進んでいるということか)
順調なのはいい。
むしろ早く間引き作戦が終わってほしいと思っている。
(早く・・・会いたい)
目の前にその大きな体をさらす機体、A-10の衛士であるレミリー・テルミドール中尉。
(何故、何故お兄様は彼女と一緒に行動を?)
国連での情報ではお兄様は香月博士の計画の手伝い的なことをしているらしい。
彼女がその計画に必要な人物なのだか知らない。
だが、先ほどからちょくちょく秘匿回線を使っている。
距離的にここから香月博士に通信をしているとは考えずらい。
なら、残る人物はお兄様だけだ。
今彼女だけがお兄様と喋っている。
今彼女とお兄様だけが繋がっている。
そう思うだけで胸が苦しくなる。
(そんなのは、嫌だ)
『鈴乃?どうかしたのか?』
「え?いや、なんでもない・・・」
『そうか。なにやら深刻そうな顔をしていたからな。何も無いならそれでいい』
「そう・・・ごめん」
(顔に出てしまっていたのか)
自分ではそう思っていなかったが・・・これではいけないな。
「現状は?」
『相変わらずこっちにBETAが来る気配は・・・・・・まて?』
「どうした?」
唯衣がなにかを発見したようだ。
『微弱な振動が・・・・・・近い!』
それと同時に振動と、ウィンドにコード991が表示された。
『BETAだ!鈴乃、周囲警戒!』
「了解!」
私が行動を始めると同時に地面から噴煙が舞い、地中からBETAが現れた。
だが、現れたと同時に横から飛来した弾によって次々に死んでいった。
『鈴乃中尉、ここは私が抑えます!出来れば訓練部隊のほうを頼みます!』
それはレミリー・テルミドール中尉だった。
彼女が駆るA-10が持つMK57中隊支援砲とGAU-8が火を噴き、10kmはあろう先にいるBETAをあっという間に死骸にして積み上げていく。
(有効射程外だというのに、なんという腕だ!)
A-10の装備は10kmも先に届くものは無い。
テルミドール中尉は弾丸が重力によって落ちていくことや砲身の角度を手動で調整して攻撃をしているのだ。
並大抵のことではない。
だが、それも長くは続かなかった。
管制ユニット内に警告音が鳴り響いた。
「第1級光線照射危険地帯警報!?」
それと同時にレーザーが飛び交い、戦車に、戦術機に、その猛威を振るい始めた。
機体がレーザーの照射を受ける前に回避機動を取る。
戦術機には自動でレーザーを回避するように設定がしてある。
だが、どうしても足の遅い第1世代戦術機では避けきれないこともある。
『く、くそぉ!足がぁ!俺の足がぁ!』
『支援砲撃を!支援砲撃をくれ!このままじゃ全滅しちまう!』
『くそ!光線級の排除を専念だ!部隊を早く展開させろ!』
『く、くるなぁ!近づくんじゃねぇ!あぁ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
さっきまで優位に進んでいたが、予想もしないところからのBETA襲撃。
それもレーザー属種が現れたことによって事態は変わった。
「神宮寺大尉!そちらは平気ですか!」
『平気です。被害は無いです。ですが、訓練兵たちが使い物になるのだろうか』
訓練兵たちはいきなりのBETA出現とレーザーの恐怖を目の当たりにし、戦車級に食い殺され、突撃級に押しつぶされ、要撃級の打撃で死んで行った衛士達の声を聞き精神的に大分来ているらしい。
『今のところは耐えてはいますが、駄目だと判断しましたらこちらでHQへ許可を取り、後催眠暗示を施します・・・本当はしたくなは無いところですが』
「分かりました。我々も最善を尽くします。どうか、がんばててください」
とは言ったものの、現状はそこまでいいものではない。
戦車部隊とMLRS部隊はAL弾およびALMへの交換をしている。
洋上艦隊もAL弾への交換で5分以上は時間が必要だろう。
(その時間が踏ん張りどころか)
艦砲射撃と戦車砲、MLRSさえ機能すれば大分楽になる。
それまでは我々戦術機部隊が何とかしなければならない。
(だが、どうする!?こっちはひよっ子共を抱えているし、戦力的に見てもとてもじゃ無いが対抗できるとは思えない)
第1防衛ラインからの増援は見込めないだろう。
艦砲射撃が始まるまで後4分弱。
(何か・・・手は無いのか?)
『こ、来ないで!近寄るなぁ!』
『彩!』
1機の吹雪に数匹の戦車級が取り付いていた。
『いやぁ!近づかないでぇ!あっちいってぇ!』
戦車級は容赦なく吹雪の脚部を食い千切っていく。
『彩!動かないで!今取るから!』
だが、混乱しているためその言葉は届かず、余計暴れるだけだった。
こんな状態ではうかつに突撃砲も短刀も使えない。
次第に戦車級が管制ユニットへと近づいてゆく。
『2番機に鎮静剤を!動かなければ対処が出来る!』
『駄目だ!遠隔操作を受け付けない!』
『助けて!誰か助けてぇ!』
「くそぉ!」
管制ユニットに戦車級が辿り着いた。
私はもう駄目だと思った。
だが、戦車級は体液を待ち散らし、崩れ落ちた。
取り付いていた他の戦車級も次々と飛来する弾丸によって崩れ落ちていく。
「・・・え?」
『だ、大丈夫!?彩!』
『おい、これって・・・』
『鈴乃・・・これはいったい』
私は、弾丸が飛んできたほうへとカメラを向けた。
そこには突撃砲を構えた1つの黒い機体がいた。
「・・・お兄様?」
『ん?何だ?鈴乃』
その声は間違いなくお兄様の声だった。

<彩>
私は涙を流しながら喚いていた。
初めての実戦。
BETAの脅威。
それを目の当たりにして体が硬直した。
そして、いつの間にか戦車級に取り付かれていた。
機体の足が食われていく音が自分が死ぬまでのカウントダウンのように聞こえ、私はなす術が無かった。
(嫌だ!嫌だ!こんなところで死にたく無い!まだ、何も伝えてもいないのに!)
頭の中に黒田君の姿が映った。
走馬灯というやつだろうか。
死ぬんだ、と思った。
管制ユニットのハッチが食い破られ、硫黄のような匂いと共に戦車級の顔とも呼べる部分が見えた。
(あぁ、もう死んじゃうんだ)
そう思った。
だが、目の前に移る戦車級は体液を撒き散らしながら吹き飛んでいった。
「え?」
機体に取り付いている戦車級が次々と崩れ落ちていく映像がウィンドに映った。
『だ、大丈夫!?彩!』
『おい、これって・・・』
『鈴乃・・・これはいったい』
美穂や翔太君、神宮寺教官や篁中尉の声が聞こえてくる。
(私、助かったの?)
呆然とする中、白河中尉の声が聞こえた。
『・・・お兄様?』
そして、それに答えるよう聞きなれた声が聞こえた。
『ん?何だ?鈴乃』
それは間違いなく少し前まで一緒にいた人物だった。
「くろだ・・・くん?」
『大丈夫か?彩』
「は、はい!」
『間に合ってよかったよ』
黒田君はそういって苦笑した。
ウィンドには黒い機体YF-23SBが映っていた。
機体のあちこちに傷がある。
『黒田大尉、申し訳ありません。私が不甲斐無いばかりに』
『軍曹・・・今は大尉か。大尉が気に病むことじゃない。BETAとの戦いはいつ何が起こるか分からないんだからさ』
『しかし、大尉は第1防衛ライン方面にA-01A小隊と共にいたのでは?』
『こっちにBETAが出たって聞いてな。向こうは海軍と第14戦術機甲大隊のほうで何とかなるだろうって。数も相当減らしたからな。A-01A小隊は他のB,C小隊と合流して別に動いてもらっている。問題はこっちだ。さすがにここにレーザー属種が出てくるとは思わなかったよ』
黒田君はそう笑いながら答えた。
(・・・・・・本当に本物の衛士だったんだ)
イマイチ実感できていなかったが美穂や翔太君がこんなにもいっぱいいっぱいなのにミリィちゃんは私たちよりも落ち着いて行動をしている。
黒田君もこんな状況なのに笑っていられる。
(これが本当の衛士なの?)
1歳しか違わない2人に少し壁を感じた。
『明仁様、お久しぶりです』
『そう硬くなるなよ、唯衣ちゃん。もうちょっと柔らかくなったらどうだい?』
『明仁様もそう呼ばないでください!ここは戦場ですよ!・・・はぁ、しかしこの状態では柔らかくなろうにもなれませんよ』
『そうだな。現状はよろしくない』
黒田君や篁中尉たちが言うとおり現状は良くない。
沿岸部とこの第2防衛ライン上のBETA。
しかもこちら側にはレーザー属種がいて、戦力の大半は第1防衛ライン付近だ。
戦力的にきつい。
『彩の機体はもうどうしようもないな。よし、俺の機体に乗れ』
「え?・・・えぇ!」
突然の提案に私は驚いた。
他の人たちも同様に驚いている。
何しろ黒田君の乗る機体は博士が関わっている最新鋭の機体だ。
私なんかが乗れる機体ではない。
『大尉!その機体は博士の!』
神宮寺教官も同じことを思っているのだろう。
『今この状態で機密も何も無いだろう?人命が最優先だ。それに、これは俺が作った物だ。博士が作ったものじゃない。どう使おうが俺の勝手であろう?』
そう言ってハッチが開き、複座型管制ユニットが前進してくる。
そこには黒い99式衛士強化装備を着た黒田君が座っていた。
機体が跪き、その手を吹雪の管制ユニットへと近づけてくる。
『彩はまず手に乗ってくれ』
「は、はい!」
私は吹雪から出て、黒田君の乗るYF-23SBの手に乗った。
手が動き、複座型管制ユニットへと近づく。
「こっちだ」
黒田君が手を伸ばしてくる。
私は、その手を握り引っ張ってもらい、管制ユニットへと乗り移った。
私が後部座席へ座ると同時にユニットが後退し、ハッチが閉じる。
ハッチが閉じると各種電子機器が光り始める。
ふと、視界に1本の刀が写った。
斯衛では刀を帯刀している人は多く、高位の武家になるほどその確率は高いと聞いたことがある。
大抵はお守り代わりらしい。
「軽い鎮静剤だ。今は落ち着いているようだけど、念のためな?」
そう言って黒田君は私に鎮静剤を打ってくれた。
「それと、悪いが彩にはCPの真似事してもらいたい」
「真似事・・・ですか?」
「あぁ。というか喋り辛いだろうから前のとおりでいいからな」
「う、うん」
黒田君の言う真似事というのは後部座席での簡単なナビゲートすることらしい。
さすがに1人では戦域全てを把握できないそうだ。
「BETAがどう動いているかとか、味方がどこにいるのかとか俺が聞くからそれに答えてくれればいいよ」
「う、うん!」
「じゃぁマップを繋ぐな」
ウィンドに広域マップが映し出される。
「・・・す、すごい!」
映し出されたものは吹雪では到底足元にも及ばないほどの情報量を持つものだった。
マップ内の全ての戦術機の位置や、BETAの現在上陸が確認されている種類と数、その割合などが細かに表示されている。
『黒田大尉、指示をお願いします』
「へ?なんで俺?」
『現状この場でもっとも階級が上なのは大尉だけです』
神宮寺教官は大尉ではあるが臨時だ。
現大尉である黒田君のほうが発言権は高い。
それに確か博士が黒田君には大佐レベルの発言権が与えてあるらしい。
つまり、通常の大尉よりも実際の階級は高いということらしい。
「あぁ~、そうか。そうだな」
黒田君はマップを見る。
10km先にはBETAを表す光点が無数に動いている。
その中でも一際大きな光点があった。
「とりあえずはレーザー属種の駆逐が最優先だ。俺をトップとした鈴乃、唯衣の3機で行う」
その提案に、神宮寺教官が反対した。
『む、無茶ですよ大尉!さすがに敵の数が多すぎます!』
「無茶でも何でもやらなくちゃならないのが現実だ。そっちの部隊にはミリィを組み込む。さすがにA-10の足じゃ無理だからな。みんなを守ってやれよ?」
『分かりました!』
「彩、レーザー属種までの距離と数を」
「は、はい!えっと、レーザー属種との距離はおよそ10km、数は光線級が22、重光線級が10です!」
「まぁ、その程度なら平気だろう。そうだよな?鈴乃」
『はっ!この身に変えても』
「唯衣」
『分かりました』
2人は即答した。
「では、行くか!」
『『了解!』』
黒田君は跳躍ユニットを吹かし、進路をレーザー属種のいるほうへと向けた。

<明仁>
本当に、俺の提案は無茶だろう。
分隊以上小隊未満というこの不安定な部隊でレーザー属種を狩に行くというのだから。
(鈴乃と唯衣にも無理をさせるな)
2人はこの若さで斯衛でもそれなりの実力を持つ衛士だ。
だが、経験が圧倒的に不足している。
(・・・中佐、荒療治でもするつもりなんですか?)
おそらくだが、中佐が唯衣をこの場にこさせたのは実戦慣れさせるためなのだろう。
・・・本当に親馬鹿だ
「前方6km先より突撃級!数30!」
彩のナビゲートの声が自分の耳と通信機越しに聞こえてくる。
彩も始めての実戦でアレだけの思いをしたのによくがんばっている。
「了解!聞いたな?これよりBETAっていう波に乗るぞ!前方の邪魔な突撃級への攻撃はまず俺が行う!それに続いて2人が仕掛けろ!」
兵装・電磁投射砲を選択する。
「突撃級を叩いたらレーザー属種まで直進だ!やつらは仲間に当たるような攻撃はしない。うまく他のBETAを楯にして進むぞ!」
『『了解!』』
ウィンドに発射準備完了のアイコンが点滅する。
「行くぞ!」
安全装置を解除し、トリガーを引く。
放たれた36mm砲弾が突撃級のモース高度15度の硬さを誇るその装甲を貫いてゆく。
「うぅ!」
巡航速度以上で電磁投射砲を使っているせいか、振動が強く彩がうめき声を上げていたがここで止まるわけにはいかない。
4秒足らずで電磁投射砲の全ての弾薬が無くなった。
デッドウェイトになるので弾倉を強制排除する。
俺は続いてXAMWS-24を両手に選択する。
「鈴乃!唯衣!左右に展開!突撃級の穴を抜けながら殲滅!いくぞ!」
2人は俺が作った穴へ針が布を縫うようにして通っていく。
俺は、突撃級の横を通り過ぎながら柔らかい後部を突撃砲の銃剣で切りつける。
鈴乃や唯衣も長刀を使い、同じように通り過ぎる手前で後部に攻撃を与えていく。
突撃級の壁を抜けると、そこには66mの巨体ともっともよく見るタコ野郎が並んでいた。
「彩、敵の数は?」
「要撃級が40に要塞級が12です。あとは小型種が無数に・・・っく!」
彩の様子が少しだがおかしくなっている。
鎮静剤と急加速や急減速を行ったせいだろう。
吹雪では到底到達できないもののはずだ。
(これは早めに終わらせないと危ないな)
「目玉の周りにタコ助60体と要塞級が22体いる。チビには構うな!まずはこいつらを片付けるぞ!」
『『了解!』』
目の前に広がる要撃級と要塞級。
手早く片付けたいところだが遂行弾薬がそろそろ最後となりつつある。
(一応積めるだけ積んだんだけどな・・・弾倉)
この機体には通常のYF-23には無いウェポンラックが存在する。
機体の大型化の時余ったスペースを使って作ったものだ。
最大でXAMWS-24の36mm弾倉6つに120mm弾倉8つを積むことが出来る。
だが、現状36mmが2つに120mmが3つだ。
既にガンマウントの突撃砲は残弾0でマニピュレーターのほうは既に100発を切っている。
(ここにせめてAMWS-21でもあればなぁ)
アレなら機体とのマッチングがいいので戦力的にも使えるが、87式突撃砲ではマッチング出来ず、弾がなかなか当たらないのだ。
『ホワイトファング01フォックス2!』
『ホワイトグリント04フォックス2!』
鈴乃と唯衣が群れを成している要撃級へ120mmを撃ち込み、そこへ突入していく。
やはり旧知の仲である2人だ。
コンビネーションがいい。
「うだうだしてられないな」
「な、何か言った?」
「いや、なんでもないよ」
俺は残っている弾を全て適当に要塞級へと撃ち、空にする。
弾倉が排除され、最後の弾倉が2丁の突撃砲に自動装填される。
「邪魔なんだよ!」
目の前に現れた要撃級を銃剣で突き刺し、そのまま36mmを撃ち込む。
体液を撒き散らして絶命していく。
マップには現在位置と、ミリィがいる訓練部隊の位置が表示されていた。
向こうもBETAと戦っているようだ。
(さっさと終わらせないと、あいつらが危ない)
俺はフットペダルを踏みしめた。




あとがき
教習所がようやく第2段階になった作者です。
忙しいです。
4月10日までには卒業しなければならないです。(笑)
・・・言い訳です。(苦笑)
書く(タイプ)する時間がかなり無いですね・・・
1日30分あればいいところですよ。
そろそろ機体やキャラクター説明みたいなものでも書こうかと思っています。
早ければこれを投稿した日には上げるつもりです。

レーザー属種を殲滅するために行動をする明仁たち。
一方ミリィや神宮寺大尉率いる訓練部隊も死闘を繰り広げていた。
次回をもまたよろしくお願いします。



[16077] 第8話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:f89a1e8b
Date: 2010/05/22 14:59
明仁と別れてから30分。

<美穂>
「翔太!バックアップよろしく!」
『分かった!』
私は長刀を抜き、要撃級へと斬りかかる。
体液が飛び散り、要撃級の体はそのまま崩れ落ちた。
『下がれ!美穂!』
私は咄嗟に跳躍ユニットを逆噴射させ、後退する。
さっきまでいた場所を120mmAPFSDS弾が飛来し、接近してきた突撃級の強固な装甲を貫通した。
『危なかったぁ。大丈夫か?』
「問題ないわ。ありがとう」
『そか。まぁ、お前ならあのままでも平気だったかもしれないがな』
翔太の笑い声が聞こえる。
(私たちは、まだ生きてるんだよね)
戦闘が始まって約3時間以上。
実質的な戦闘をしたのは大体30分前。
私と翔太は“死の8分”を超えることが出来た。
新任少尉が始めて戦場に出て、そして初陣で死ぬまでの平均時間と言われている8分間。
臨時処置ではあるが少尉としてそれを乗り越えることが出来た。
今更だが体が震えている。
吸水性の良い強化装備を着ていても、自分の手が汗ばんでいるのが分かる。
『笑っている暇があったら1匹でも多くBETAを倒さないか馬鹿者め!』
『す、すみません!』
『“死の8分”を乗り越えたからって楽観的になるんじゃない!』
そう言いながら神宮寺大尉は要撃級へ突撃砲を放つ。
36mm弾が要撃級の体に無数の穴を開けていく。
『そうそう、BETAとの戦いはいつ何が起こるか分からないからねぇ』
そう言いながらミリィが乗るA-10がGAU-8とMK57を一斉に放ち、向かってくる大小さまざまなBETAの死骸を作り上げていく。
だが、この2人はただBETAと戦っているわけではなく、神宮寺大尉の死角をミリィが、ミリィでは倒せないBETAを神宮寺大尉が倒すなどちゃんとした連携を取っている。
初めて分隊を組んだとは思えないほどのコンビネーションだ。
『神宮寺大尉のことは聞いていたけど、ミリィがここまですごいなんて』
「そうね。まるで歴戦の衛士コンビのようね」
2人を見ていると自然とそう思えてくる。
『美穂、前方200mから要撃級が接近してくるぞ!』
「分かった。私たちも負けていられないわよ!」
『おう!』
私と翔太は近づいてくる要撃級を倒すため機体を加速させる。
「接近戦で倒す!バックアップよろしく!」
『任された!』
私は要撃級へと長刀を振りかぶった。
要撃級が同じように前腕を振りかぶったが、私の長刀がそれよりも早く届いていた。
続いてすぐ横にいた要撃級へ翔太が36mmを撃ち込む。
「はぁぁぁ!」
長刀を構え、美穂はBETAへと突撃した。

<ミリィ>
MK57中隊支援砲とGAU-8を使いBETAを倒していく。
さすがは米国製といったところか、A-10の命中精度は高い。
MK57中隊支援砲との相性もよく、着実にBETAを倒している。
神宮寺大尉も同じ第1世代機である撃震を操りBETAと戦っている。
重い機体であるにも関わらず神宮時大尉は長刀を使い、流れるような動きでBETAを倒していく。
さすが元教導隊出身というとこだろうか。
(2人はどうなってるかな?)
私はメインカメラで2人の機影を確認する。
2機連携で1体ずつBETAを倒しているようだ。
まだまだ無駄な動きが多いが連携としてはまぁまぁだ。
突撃前衛である美穂機を強襲掃討である翔太機がカバーしている。
「あの2人なかなかに動きますね」
『あれくらい動いてくれなければ使い物にならない。私が教えたんだ。あれくらい出来なければ一生訓練学校を卒業させないさ』
その顔には笑みが浮かんでいた。
それは、教え子がちゃんと育ったことへの笑みなのだろう。
『そう。あれくらい出来なければ戦場では一瞬で死ぬ』
「大尉・・・」
大尉の顔が暗くなった。
大尉はこれまで何人もの訓練兵を育ってきたはずだ。
そして、それと同時に、死んだという報告を受けることも多々あったはず。
『死ぬときは一瞬だ。ここで生き残っているからといって慢心してほしくは無い』
「そうですね」
私たちも死ぬときは一瞬で死ぬ。
それはエースであろうと新任であろうと変わりない。
それがBETAとの戦いであり、衛士の定めとも言うべきものなのだろうか。
『しかし、砲撃が生きているというのは嬉しいことだな。おかげで戦術機の損害が少ない』
洋上からの艦砲射撃の音がこっちまで響いてくる。
「恐らくは黒田さんの機体を飛行物体の次に最優先としているのでしょう」
『黒田大尉の機体を?』
「はい。黒田さんの機体には小型の核反応炉が搭載されています。他にも電磁投射砲や高性能CPUやコンピューターなど戦艦クラスに匹敵するレベルの物を搭載しています。恐らくはここにある電子機器の中ではもっとも高性能なものを。レーザー属種の有人機や高度コンピューターを狙う性質から考えると恐らくは黒田さんが今狙われています」
実際、レーザー属種が出現した時以外ではこちらへと照射されていない。
そして、黒田さんが離れてからもこちらへと照射されることは無い。
つまりは黒田さんを優先して狙っているのだ。
『しかし、それでは黒田大尉が危険なのでは?』
「大丈夫ですよ。黒田さんはこの程度では死ぬような人ではありませんから」
それは別に機体の性能とかそういう視点から言っているわけではない。
本当にそう信じているからそう言えるのだ。

同時刻
第2防衛ライン周辺

<明仁>
「さすがに数が多いな!」
俺は74式長刀で迫る要撃級を一太刀にて両断する。
横に振り、刀についた体液を振り払う。
『はぁぁ!』
唯衣もまた長刀で突撃級の外皮を切り裂き、後部へと突きたてることで絶命させた。
なぜ俺が74式近接戦闘長刀を使っているのかというと、自分の持つXCIWS-2Bを使うのがもったいないからだ。
何せ突撃砲は弾倉さえあれば使えるが、長刀は刃こぼれを起こしたら交換しなければならない。
しかも試作品であるため俺が提案したライセンス取得が不可能となる可能性もある。
なら、なるべく温存したほうがいい、ということで適当に落ちていた74式長刀を使っている。
逆柄なのでマニピュレーターとの相性は悪いが使えないわけではない。
ただ、その分マニピュレーターへの負担が大きい。
そのところだけを注意して使えば問題ない。
無論最悪XCIWS-2Bを使うつもりではいる。
それはあくまでも最終手段であるが。
ちなみに突撃砲はすでに弾切れとなっている。
さすがに僅かな弾数しか残っていなかったのだからしょうがない。
120mmはもっと重要な場面が来るだろうから温存させている。
『明仁様、本当に大丈夫ですか?』
「あぁ。まぁ大丈夫だろう」
『しかし・・・』
「唯衣が気にすることではない。お前はお前の任に全力で挑んでくれ。俺は俺で何とかするさ」
確かにこの数のBETAを相手にするとなれば大丈夫かと思う気持ちも分かる。
今目の前にいるBETAの数はおおよそ4000ほど。
対してこちらは戦術機が3機だ。
普通相手になるはずが無い。
補給がうまく機能したとしてもこれほどの数をたった3機で相手になどできるはずが無い。
さらに言えば鈴乃と唯衣は落ちている武器を使えばどうとでも戦えるし、過剰な加速などはしていないから推進剤もまだ半分以上は残っているだろう。
こちらも推進剤の心配は無い。
だが、この機体の装備はこの場には存在しないものだらけだ。
突撃砲の弾倉も無ければ長刀も無い。
唯一使える74式近接戦闘長刀を使い個々まで来たが、やはり騙し騙しにしかならない。
少し前から切れ味が悪くなってきているし、マニピュレーターへの負荷もかなり掛かっているだろう。
まして俺の乗るYF-23SBの中身は徹底的にチューンのされた近距離特化型の機体だが、外見は米国のままだ。
唯衣が気にするのも当たり前だろう。
『話している暇があったら敵を倒してください唯衣!』
突撃砲を構えBETAを狙撃していた鈴乃機から通信が入った。
『それは、分かっているが・・・』
『なら実行して。別にすべてのBETAを相手にするわけでないのだから、平気でしょ?』
確かに、すべてのBETAを相手にするわけではない。
むしろそんなことできるはずが無い。
俺たちがここまで突撃してきた目的はレーザー属種を殲滅するためだ。
別にここにいるすべてのBETAを倒すわけじゃない。
邪魔になるものだけを倒せばいい。
まぁ、ぶっちゃけてすべて邪魔なんだが。
「まぁそういうなよ、鈴乃。唯衣だって頑張ってるんだからさ。彩、レーザー属種の数、分かるか?」
「は、はい。光線級が18、重光線級が7です」
最初に聞いたときよりも数がほんの僅かだが減っている。
(砲撃を撃ちもらしたか?それとも他の部隊が攻撃を?)
だが、レーザー属種周辺に砲弾が落ちた後が見当たらない。
あるのは現れたときに出来た大穴だけだ。
(今気にしても仕方ない、か)
「数が減ったか。砲撃が生きているからか、それとも偶然なのか。まぁいい。俺たちのすることは変わりない。このままレーザー属種を殲滅するぞ」
『了解。このまま前進、と言いたいのですが』
『そう簡単には行かせてはくれないようですね』
目の前に要撃級や突撃級、戦車級などが散らばっている。
そして、その置くには要塞級。
まるでこの先には行かせないとでも言っているかのように。
「まぁそうなるよな。ったく、人気者はつらいな。ははははは!」
「く、黒田君!?」
彩が驚いた顔で俺を見ていた。
いきなり笑い出したのだから当然だろう。
俺は74式長刀を破棄し、XCIWS-2Bを両マニピュレーターに選択する。
もうここまできたら温存するだけ無駄だと思った。
「もう、面倒臭い!邪魔するBETA片っ端から殲滅するぞ!」
『了解。お供しますよ、明仁様』
『了解!それでこそお兄様です』
2人が同時に答える。
「行くぞっ!」
俺は手近に居た要撃級へと斬りかかった。

一方
新潟県高田平野
高田城跡周辺

<徳人>
城跡に2個中隊の瑞鶴が並んでいた。
その構成はほとんどが白。
そして、全ての機体共通である左肩の12の数字。
斯衛が誇る実戦部隊であり、黒田徳人少将率いる第12戦術機甲大隊の証だ。
「状況はまずまず、といったところか」
モニターを眺めていた徳人はそう呟いた。
押しているわけでもなく、押されているわけでもない。
だが、確実にBETAの数は減っている。
「情報によれば例の機体の衛士が宣言どおり師団規模のBETAを壊滅させたそうです」
「そうか。それだけを単機で落としたってんなら勲章ものだな」
モニター越しに徳人の目には連携を組む黒い戦術機と不知火、不知火・壱型丙が映っていた。
2本の長刀のみで戦っている黒い戦術機の姿は米国機には見えないほど優雅で、そしてその性能は共に戦っている日本が誇る不知火すら凌駕しているように見える。
(さすが明仁と言ったところか)
傍から見れば1人の無謀の突撃のように見えるが、あれはそうではない。
明仁は仲間と連携をとりながら戦っている。
明仁が攻め、不知火・壱型丙に乗る鈴乃が援護し、不知火に乗る唯衣が脇を固める。
小隊レベルの戦術をあの3機でこなしているのだ。
「しかし、あの戦術機すごいですね。単機で師団規模のBETAを倒し、今は長刀2本でBETAと戦っている。いったい誰があれに乗っているのでしょうか。米国の衛士・・・とは思えません」
部下が疑問に思うのも無理は無い。
長刀を運用しているのは日本を始め欧州やアジア周辺国だ。
米国はその運用ドクトリンから長刀を使わない。
いかに長刀を装備していようとも使い慣れない米国の衛士が使いこなせるわけが無いのだ。
だが、今長刀を持ち戦っているのは紛れも無い米国の機体。
部下はそのことを疑問に思ったのだろう。
「さぁな。日本人かも知れんぞ?」
「・・・確かにそうかもしれませんね。あの戦い方はどこかで見た覚えがありますし」
まぁそれはそうだろう。
何せアレに乗っているのは明仁なのだから。
斯衛で明仁を知らぬ人物は居ないだろう。
黒田家と斯衛軍第12戦術機甲大隊所属となれば自然と有名になる。
この場に居るものは皆明仁と供に戦ったことのある者たちだ。
仲間の戦い方くらい知っているだろう。
『徳人、聞こえているか?』
「あぁ、聞こえている」
妙高高原にある指揮車から雅人が通信を行ってきた。
『今帝国と話が終わった。徳人、参加しても良いそうだ。ただし、第2から第3防衛ラインのみだそうだ。それ以外は斯衛でも認められないらしい』
「分かった。それだけで十分だろう。ったく、頭の硬い奴らだ」
徳人たちは、この作戦に参加するためにここに集まっていたのだ。
元々、鈴乃と唯衣が参加すると決まった時点から第12戦術機甲大隊の参加は決まっていた。
ただ、斯衛は簡単には介入できず、そのため帝国側への参加許可が出るのを待っていたのだ。
「よしお前ら。よく聞け。これから俺たちはここ高田城跡から観音崎まで向かう。観音崎にBETAの野郎が土足で上がってきたそうだ。日本の礼儀をよぉく教えてやれ!」
「「「「オォー!!!」」」」
部下たちの怒声が通信越しに響いてきた。
『こんなことをお前に言うのもあれなんだが・・・死ぬなよ?』
「へっ!ここで俺が死んだら鈴乃ちゃんが悲しんじゃうから死なねぇよ!」
『・・・いや、それは無いな』
返答と同時に通信が切れた。
「・・・ったく、ひでぇダチだなぁおい。おし、野郎共!行くぞぉ!」
徳人率いる第12戦術機甲大隊が出陣した。

同時刻
第3防衛ライン周辺

<ミリィ>
『20700より小隊各機へ。聞こえているな?』
『20703、聞こえています!』
『20701、同じく』
「同じく」
『よし。この先に補給コンテナがある。1度そこで補給を行う。順番は01を先頭に03と私、それから中尉だ。いいな?』
『『「了解」』』
美穂たちは順番に従って補給を始めた。
ここに来るまでに大隊か連隊規模のBETAと戦った。
私の機体はまだ十分過ぎる弾薬が残っている。
推進剤が不安だが、ここで補給さえすれば作戦が終わるまでは十分だろう。
『しかし、向こうは大丈夫なのだろうか』
「黒田さんたちですか?」
『あぁ。さすがに3機だけではきついだろう』
「そうですね」
あのBETAの群れの中であの3人は戦っている。
レーダーで確認できる数で約20000近く。
とてもじゃないが3機でどうこうできる数じゃない。
あの中で3機だけで戦うとなるとゾッとするものがある。
無論3機だけでは無く、帝国の部隊もいるが同じようなものだ。
『01補給完了しました』
『次、03だ』
『了解』
(もうすぐ終わりそうかな)
レーダーに映るBETAの光点は着実に減っている。
レーザー属種は健在のようだが、それも時間の問題だろう。
ふと、レーダー上に戦術機を示す光点が接近してきていることに気づいた。
(2個中隊規模?でも、どこから?)
国連とは考えづらい。
なら斯衛?
それも考えづらい。
斯衛は帝国から許可を貰うか将軍直々に命を貰わなければ動けない。
(じゃぁ、どこの部隊?)
『中尉、どうかしたか?』
「え?」
『中尉の番なのだが?』
大尉ほか、美穂たちの補給が終わったようだ。
「すみません。すぐに始めます」
私は急いで補給を始めた。
(言わなくても平気か)
戦術機であれば、私たちの味方だろう。
それに近づいてきているといってもまだ50km近く離れている。
第3世代の巡航速度でも10分ではたどり着かないだろう。
補給がもうすぐ終わるという時だった。
『よし、中尉の補給が終了次第行動を―』
突如ウィンドに第2級光線照射危険地帯警報の表示とアラームが鳴り響いた。
「なっ!」
数本の光の線がこちらへ向かって照射された。

<美穂>
突然のことに体が反応できなかった。
機体が自動で回避行動をとり、レーザーを避ける。
「ぐぅぅぅ!」
急激なGが体へとかかる。
正面を見ると他のBETAとの隙間からのぞく目があった。
『全機回避行動を取れ!光線級に丸焼きにされるぞ!』
だが、回避行動をとる前に第2射が照射された。
機体が再度自動回避を行おうとするが、間に合わず脚部と跳躍ユニットにレーザーが被弾した。
「きゃぁぁぁ!」
機体がバランスを失い、崩れ落ちた。
『美穂!?うわぁぁぁ!!』
翔太もレーザーを受けたらしく、機体の腰から下が無くなっていた。
下半身を失った吹雪が地面へと落ちていく。
『あ、足がぁ!あしがぁ!』
「翔太!?」
『どうした!』
『くそぉ!俺の足を焼きやがってぇ!』
翔太の機体。
レーザーを受けた部分から管制ユニットが見えていた。
そして、そこには膝から下を無くし、血を流している翔太の姿が見えた。
『しょ、翔太ぁ!!ぐあぁぁぁ!』
背後から突撃級が突撃してきた。
その巨体から繰り出された突撃で機体が地面を10mほど転がっていった。
機体各所が赤く染まり、ウィンドに戦闘不能状態と表示された。
機体の中にも回線がショートし、火花を散らす音が聞こえてくる。
「く、くそぉ!いっ!ぅ・・・・・・っ!」
背中と左足、左腕に激痛が走った。
左腕には金属片が突き刺さり、左足は突撃されたとき歪んだ管制ユニットのフレームに挟まれていた。
太ももから血が流れ、足元へと流れ落ちていく。
背中からも血が流れていく感覚がある。
背中にも金属片などが刺さっているのだろう。
「こ、こんな所でぇ!くっ!」
私は機体を起こそうとしたが、いくら動かそうとしても機体は動くか無かった。
不意に影が機体を覆っていた。
『逃げろ!神野!』
「え?」
ウィンドを見ると、そこには要撃級が居た。
まるで地面に這い蹲る私を見下ろし、笑っているかのように。
(あぁ、私ここで死ぬのか)
腕を振り上げるモーションがゆっくりと見える。
走馬灯というやつなのだろうか。
ゆっくりと、要撃級の腕が動き始めた。
大尉が何か言っているが、うまく聞き取れなかった。
私は、来るであろう衝撃を想像し目を閉じた。
(ごめんね、彩。約束、守れないや)
死を覚悟した、が要撃級の腕は振り下ろされることは無かった。
『ふぅ。危なかったなぁ譲ちゃん』
目を開くと、そこには要撃級ではなく白い戦術機・瑞鶴が立っていた。
その手には長刀が握られていて、BETAの体液が付着していた。
『おい!そっちの坊主は生きてるか?』
『まだ息はあります!ですが、出血が酷くこのままでは命にかかわると思われます』
『よし、この譲ちゃんとその坊主を2個小隊で後方に連れて行け!その2人の状態が安定するまでそこで待機だ!息子の友人だ。絶対に死なせるな!』
『了解!』
私の吹雪が両脇から瑞鶴によって支えられ、起こされる。
翔太の吹雪は抱きかかえるようにして持ち上げられた。
機体が揺れ、大尉の機体やミリィの機体が遠ざかっていく。
揺れる際に体へと突き刺さっている金属片が痛みを私に与える。
(あぁ、私、まだ生きているんだ)
私はそのまま気を失った。

<明仁>
俺がその報告を受けたのは鈴乃と唯衣の機体の装備および推進剤補給をするために一時的に後退しているときだった。
内容は、翔太と美穂が光線級に攻撃され、戦線を離脱したということだった。
それを聞いた彩は一瞬錯乱状態になったが、生きていることが分かって今は落ち着いている。
「それで、2人は大丈夫なんだな?」
『はい。ただ、翔太君はレーザーで両足を無くしたそうです。美穂さんのほうも助けてくれた部隊の黒田徳人って言う隊長さんが言うには出血多量と下半身と背骨に金属片が突き刺さっていて危ない状態だそうです』
「え?黒田・・・徳人だって?」
『はい。隊長さんは黒田徳人少将と言っていますが、もしかして黒田さんの知り合いですか?』
「あ、あぁ。俺の親父だ」
まさか斯衛が、しかも第12戦術機甲大隊が参加することになるとは思いもしなかった。
いくら数少ない実戦部隊であろうとそう簡単に参加することは出来ないはずだ。
それに、少将という立場上親父が直接出ることはさらに難しいはずだ。
(今度はいったい何をしでかしたんだよ・・・親父は)
いつも何かを仕出かす親父のことだ。
今回も雅人様に迷惑をかけたのだろう。
(・・・雅人様、白髪、また増えるんだろうな・・・もう真っ白だけどさ)
『明仁様。補給完了しました』
『こちらも終了しました』
話しているうちに2人の補給が終わったようだった。
俺の機体はこの場では補給が出来ない。
(この場で使えるのは65式短刀くらいしかないな)
俺も補給コンテナへと向かい、65式短刀を取り装備する。
『この不知火・壱型丙という機体。推進剤の減りが異様に早いですね』
『仕方ないさ。発展性の無い不知火を無理に改修しているのだ。後は鈴乃の腕しだいだろう』
確かに不知火は発展性の無い機体だ。
でも確か、弐型ってのがあったはず。
(あれ?でも開発されるのはいつだったっけ)
『お兄様?どうかなされましたか?』
「え?あぁ、いや、なんでもない」
余計な心配をさせたようだ。
(この件はこの戦闘が終わってから考えるか)
『そうですか。こちらはいつでも大丈夫です」
「分かった。実は、今ここに第12戦術機甲大隊が援軍として来たらしい」
『おじ様が!?』
『なぜ黒田少将がこのような場に?』
「分からないが、まぁあの馬鹿親父のことだ。特に理由がなくても来るだろう」
確か明星作戦のときも参加しようとしていたはずだ。
自分の立場を考えない親父らしい行動と言えばそうなのだが。
「ともかく、後方はこれで固まった。後は俺たちでできる限りの光線級たちを潰すだけだ」
今はとにかくレーザー属種を潰すことが最優先事項。
補給コンテナから短刀を2振り取り出す。
これが今できる最大限の補給だ。
(帝国は・・・大隊規模がこっちへと移動中か)
上陸したBETAの7割は殲滅できたはずだ。
後はレーザー属種さえ潰せば艦砲射撃と戦車、MLRSで潰すことができる。
俺は跳躍ユニットに火を入れ、機体を加速させる。
鈴乃と唯衣がそれに続く。
跳躍ユニット主機の出力が次第に上がり、巡航速度に達する。
レーダーが正面にBETAの集団を捉えた。
「前方11時要撃級10!突撃級8!小型には構うな!」
『『了解!』』
ガンマウントから120mmAPCBCHE弾を左右4発発射し、直撃、衝撃、爆風で要撃級と突撃級にダメージを負わす。
俺に続いて鈴乃と唯衣がダメージを負った要撃級と突撃級へ36mmを撃ち込み、止めを刺していく。
『あっ』
撃ち洩らしたのか、唯衣が機体を止め戻ろうとした。
「戻るな!仕留め切れなかった奴は後から来る帝国に任せて俺たちは目玉潰すぞ!次!2時要撃級9!突撃級4!」
『『了解』』
俺はさっきと同じように120mmを3発放ち、前へと進む。
撃ち終えた弾倉が強制排除され、新しい弾倉が自動装填される。
鈴乃と唯衣も同じように仕留められる奴だけを仕留め、深追いはしない。
「うぉぉぉ!!」
俺は最大速度で通り過ぎる突撃級の側面へと向かい、短刀で脇を切り裂く。
突撃級の亡骸は体液を撒き散らし、勢い止まらず小型種複数と要撃級を巻き込んでいった。
後続にいた2体の突撃級が止まりきれず、先ほどの亡骸へと衝突する。
それが連鎖していき、突撃級は自らの突撃で仲間を殺していった。
(・・・馬鹿だな)
『はぁ!』
『せやぁ!』
一方鈴乃と唯衣は長刀で突撃級に平面機動挟撃を仕掛け、仕留めていた。
長年の付き合いのためか絶妙なコンビネーションで戦っている。
(2人が武御雷に乗ったらいい前衛コンビになるな)
武御雷の近接戦闘能力なら2人の技術を100%引き出すことができるだろう。
事実元の世界、というか未来では武御雷を十分に使いこなしていた。
部隊こそ違うが、この2人の連携は長く同じ部隊で共に過ごしたかのように見える。
「この調子で―」
と、言いかけた時、アラームが鳴り響いた。
「何が―うぉ!」
「うぅっ!」
機体がいきなり自動回避を始め、急激なGが俺と彩の身体を襲う。
アラームの正体が光線級によるものだと理解したのは右肩先端部分をレーザーがかすり、溶かされてからだった。
溶かされた部分から火花が散り、ウィンドには左肩スラスター使用不可そしてスラスター部分が真っ赤に表示されていた。
(あ、危なっ!)
ほんの少しでも遅かったら管制ユニットをごっそり持っていかれていただろう。
辛うじてM5システムのお陰で避けられたような物だが、迂闊だった。
(俺がしっかりしないでどうする!)
今、この機体に乗っているのは俺だけではない。
彩も共に乗っているのだ。
こんなところで死なせるわけにはいかない。
「大丈夫か?彩」
「だ、大丈夫・・・」
そうは言っているがバイタルモニターを見る限り外面的な問題は無いが、息遣いなどから推測してかなり身体にきているだろう。
心拍数もかなり上がっている。
もしかしたら加速度病になりかかっているのかもしれない
それもそうだ。
高速巡航での3次元多角機動などは並みの戦術機ではできない。
まして吹雪しか乗ったことの無い彩にとっては苦痛でしかないだろう。
『お兄様!大丈夫ですか!?』
「心配ない!それより次がくるぞ!」
鈴乃が心配したのかこちらへ来ようとしたが、そんな暇は存在しない。
インターバルを終えた光線級が再度こちらへと照準していた。
「クソが!」
俺はガンマウントから残っている120mmを全弾光線級共へと撃ち込む。
だが、光線級から放たれたレーザーとかぶり、12発中5発が蒸発した。
生き残った7発も間に入ってきた要撃級や突撃級に阻まれ、命中したのは僅か3発のみだった。
鈴乃と唯衣も120mm、36mm砲弾を撃つが他のBETAが邪魔でうまく当たっていないようだ。
削れたのは光線級僅か4体のみだった。
『明仁様!このままでは!』
「あぁ。分かっている」
分かっている。
このままではいずれ退路を失い全滅するのは目に見えている。
それに、さっきから洋上からの艦砲射撃と戦車からの支援の勢いがなくなり始めている。
どちらにせよ支援が不十分な状態でこのままはまずい。
「そうなれば、やっぱりこれしかないか!」
俺は短刀を捨て、XCIWS-2Bを装備する。
突撃砲による殲滅が難しいのなら後は長刀で斬り込むしかない。
ここで立ち往生しているくらいなら出来るだけ攻め込み、光線級達をより多く倒しておいたほうがいい。
「鈴乃!唯衣!援護頼むぞ!」
『承知!』
『分かりました!』
「・・・行くぞ!」
俺はフットペダルを踏み込み、最大速度でBETAへ突撃を開始した。







あとがきめいたもの?

更新が遅れて本当に申し訳ありません。
ごめんなさい。
時期的にいろいろと事情が重なってしまったことと自分が入院していたことが重なってかなり遅れました。
学校から家に帰っても課題が山積みでキーを打つ時間が本当に取れませんでした・・・
いろいろと間が開いてしまったため第8話は大分継ぎ接ぎになったような気も・・・・・・
ご指摘がありましたら何なりと言ってください。

収縮し始める戦闘。
一方香月博士はミリィに関してとある確信にたどり着いた。
それは、ミリィの出生にかかわり、そして香月博士にとっても無視しがたい事実だった。
次回も出来ればご覧ください。

PS
トップにも書きましたがTE編での試験小隊名とYF-23SBの和名を募集しています。
ご協力お願いします。



[16077] 第9話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:f89a1e8b
Date: 2010/07/07 04:56
日本帝国仙台基地
香月夕呼書斎

<夕呼>
夕呼は1つの結論に到達していた。
別に半導体150億個の並列処理装置を手のひらサイズにしたわけでもなければ、オルタネイティヴ4が順調に進んでいるわけでもない。
ただ、気になっていたことが解決しただけだ。
「まさか、本当にねぇ」
手に持つ1枚の書類には『極秘』という文字と『オルタネイティヴ3』という文字が載っており、その中に1人の少女・レミリー・テルミドールと同じ顔の少女が写っていた。
書類上の名称は060999。
06は世代、0999は番号を表している、と表記されていた。
「人工ESP発現体の生き残り、第6世代999番ねぇ」
オルタネイティヴ3によって生み出された人工的にESP能力を発現させた人間。
それが人工ESP発現体であり、その殆どはパレオロゴス作戦で死んでいる。
戦闘に出れない、調整が出来ていないなどの理由でほんの僅かな人工ESP発現体が施設に残っていたが、まさかこんな所で出会うとは。
それも平行世界からの来訪者として。
「でも、そうしたらこっちの世界のテルミドール、060999に何か異変が起きてもいいはずよね?」
平行世界からやって来たのなら因果の影響でどちらかが消えるか、歴史が変わるか何れにせよ何かが本人のどちらかに起きているはず。
だが、実際今新潟にいるテルミドールには何も起きていないようだし、こちらの世界のテルミドールも死んだ情報は無いし黒田が言ったとおり今は米国の施設にいる。
その施設のデータを覗いたが特に異変は無いようだ。
「世界が2人を認めたとでも言うの?」
この世界が、同一人物が同じ時間に2人いることを認めているの?
だとすれば、この世界が変わり始めているとでも言うのだろうか?
だとすれば、黒田の言っていたオルタネイティヴ4が成功するという世界にはたどり着かない?
考えに浸っていたところに備え付けられている電話のアラームが鳴り響いた。
「ったく五月蝿いわねぇ」
夕呼は渋々受話器を取った。
「はい、もしもし?あぁ、アンタか。忙しいときに邪魔をしないで頂戴」
『アンタとか言わないでください。こちらも博士の邪魔をするつもりは無かったのですから』
電話の主は反オルタネイティヴ5派であり、オルタネイティヴ4推進派でもある米国女性士官の1人だった。
「分かった分かった。で、用件は?」
『はい。先日連絡したノースロック社から連絡が来ました。承諾してくれましたよ』
「・・・そういうことは早く言いなさいよね」
『博士がいきなり邪魔とか言わなければ直ぐにでも話しましたよ』
あぁ、そういえばそうだったわね。
夕呼は目を泳がせた。
「で、内容は?」
『はい。武装関連は問題ないそうで、むしろ喜んで受けてくれました。場合によってはライセンス生産の許可もしてくれるそうです。保守部品に関しても快く引き受けてもらえましたが、なぜ保守部品が必要なのか理由が知りたいそうです』
「理由ねぇ」
同じ機体を持っているというのは現実的ではないし理由にすらならない。
なにせ、YF-23は正式採用をされなかった試作機だ。
他国が持っているはずが無い。
かと言って理由を話さずに協力をするほど向こうも馬鹿ではないだろう。
なら、どんな理由を付けられる?
(ここで第4計画のことを話して無理やりにでもこちら側に引き込む?いや、それは危険ね)
向こうも1枚岩ではない。
ノースロックはグラナンと合わさっている。
グラナンはソ連へ戦術機のデータを提供するなどソ連との関わりを持っている企業だ。
ソ連は特に第4計画阻止に動いているわけではない。
だが、オルタネイティヴ計画自体に反対的体制であり第4計画責任者である夕呼自体を殺したいほどに嫌っている。
となればここで第4計画の話を持ち出すことは出来ない。
(他にいい手は・・・)
ふと、夕呼はアラスカにあるユーコン基地を思い出した。
あそこは戦術機開発の最前線とも言える場所だ。
そこへ新概念実証試験機として黒田の機体送り込むことは出来ないだろうか?
(あそこに黒田、あと適当に補佐を送り込んで試験を行わせるってことにすれば?))
あそこでならどの国の戦術機を開発しようが国連の管轄だから問題は無い。
それに、ノースロックとてせっかく作り上げた機体だ。
このまま日の光を浴びずお蔵入りになるのは勿体ないだろうし、ここでノースロックの技術力を他国に見せ付ければスポンサーが増え、他のライバル企業との差を埋められるだろう。
それに、あそこは他国がそう簡単に手を出せない場所だ。
ならば、黒田の身もここにいるよりかは安全だろう。
未来の情報は追って連絡させればいいし、それ以上に黒田の政治的利用価値は高い。
「そうね。ノースロックには後で書類にして送るわ。とりあえず、こちらで開発した新概念の実証機としてYF-23が選ばれたとだけ伝えて頂戴」
『分かりました。あ。それと』
「なに?まだ何かあるの?」
『はい。ノースロック社が勝手ながら試作品を送ったとのことを承りました』
「試作品?」
何?
向こうの独断?
こちらに恩でも売っておこうってこと?
でも、そんなことをしても向こうには大した利益は無いはず。
『はい。保守部品が欲しいと言ったのは黒田明仁大尉で間違いないんですよね?』
「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」
『実はノースロック社の現社長と多数の社員の方が黒田大尉のことを大変気に入っているようで、今回の用件がスムーズに決まったのも黒田大尉の名前があったからのようです。それで、黒田大尉が今戦場に出ていることをお話したところ『黒田君に試して欲しいものがある。実機で現場に持っていかせるから宜しく』と。それと、その社長からの話なんですが、試作戦術機1個中隊が日本の新潟へ向けて2日前に米国を出発したそうです。目的地は新潟県沿岸部。何をするか分からないので注意したほうがいいとのことです。それでは』
通信が途切れ、書斎に静けさが戻ってきた。
「ふぅ」
夕呼は息を吐きながら椅子に深く座る。
(試作品の件はまぁ放っておいてもよさそうね)
新しい武器が手に入るのならこちらとしては得する以外は何も無い
ノースロックが黒田のことを知り、さらにいい評価を持っていることには驚いたけど。
問題は。
(黒田をアラスカに行かせるのは良いとして、斯衛が素直に肯いてくれるはずが無いわね)
斯衛はあまり相手にしたくは無い。
特に黒田の立ち位置では斯衛では特別だからだ。
理由として黒田少将の息子であること、白河少将の娘である白河鈴乃中尉と許婚関係であること、巌谷中佐のお気に入りと大きく3つが上げられる。
黒田少将の息子という時点で斯衛内部での黒田への見方はかなり変わっている。
さらに、譜代武家である白河家は今でこそ黄色という地位であるが血筋には将軍家の者が混ざっており、譜代武家の中でも特別視されている。
その家の娘と許婚関係なのだからさらに変わる。
そして、政治嫌いであり伝説的なテストパイロットとしても有名な巌谷中佐のお気に入りであるのだ。
黒田がどれほどまでに注目を浴びている存在なのかは簡単に分かる。
そんな黒田に国連からの要請でアラスカに行って欲しいと言っても斯衛が簡単に頷くはずが無い。
(・・・はぁ、まったく、手間のかかることね)
夕呼はデスクの上で冷え切った天然物のコーヒーを一気に飲み干した。
(それにしても、米軍が今更なぜ新潟に?)
ノースロックの社長が言ったのだから間違いは無いのだろうけど、それにしたって今更援軍というわけではないだろう。
それに1個中隊ぐらいじゃ援軍にもならない。
それに試作機と言っていた。
(機体のテスト?)
だが、それならもっと適した場所があるはずだ。
なら、他に何がある?
(明星作戦の時に黒田の機体を見て破壊しに来たとか?)
まさかとは思ったが、可能性が無いわけじゃない。
もしかしたら、破壊が目的ではなく拿捕するためかもしれない。
仮に、仮にだが日本内に第4計画反対派か、第5計画推進派のスパイがいるのなら・・・日本政府に第4計画絡みの機体だと伝えたのが裏目に出たのかもしれない。
(とりあえず、黒田に連絡しておくか)

帝都
第壱開発局副部長室

<榮二>
榮二は新潟から送られてくる映像を見つつ、笑みを浮かべていた。
「これか。第4計画が、明仁君が作った機体か」
黒い機体が長刀を操り、BETAを切り刻んでいく。
その姿は戦っているというよりか舞を踊っていると言ったほうが似合うほど優雅で洗礼された動きをしていた。
米国機にしか見えないが、あの機体は不知火以上の近接戦闘能力を持っていると思える。
そのスペックは今まさに開発がされている斯衛専用機以上にも見て取れる。
「まったく、こんなものを作り操るとは。計り知れぬよ、彼は」
戦術機の操縦センスもだが、明仁にはそれまでの考え方をひっくり返すようなアイディアをよく提案していた。
今回のことに関しても米国機をここまで近接戦ができるように改良をしている。
米国の技術と日本の技術の融合。
あの機体は、今考えている次期主力機の未来の形なのかもしれない。
さらに、香月から送られてきた書類に書いてあったあの機体の仕様書には電磁投射砲や核反応炉など今まででは考えられない装備をしている。
電磁投射砲にいたっては日本以外で開発しているという話は聞いていないし、日本で製作している99型にしても完成はしていない。
それを独自で開発させたのだとしたら、勲章ものの功績だ。
それにあの機体の動き。
大型機で、しかも重装備であそこまで軽快に動けるというのはすごい。
従来のOSであった動きの無駄がない、連続した到底真似できないレベルの動きだ。
となれば新型のOSを開発したということだろうか。
だとすれば戦術レベルでの戦力強化が見込める。
(だとすれば、これを量産すれば衛士の死亡率を減らすことも、少ない戦力でのハイヴ攻略も夢ではなくなるのではないか?)
だとすれば、明仁の持つ技術は世界を救う可能性を秘めていることになる。
「・・・戦術機に愛された天才か」
榮二はモニターを眺め続けていた。

<明仁>
「うぉぉぉおおお!」
右マニピュレーターに持つ、刃こぼれを起こしただのスーパーカーボンの棒と化したXCIWS-2Bを振るい、打撃による攻撃で要撃級の感覚器官を潰し、左マニピュレーターに持つXAMWS-24の銃剣で斬りおとす。
動きを止めた瞬間ウィンドに敵接近の警告メッセージとアラームが鳴り響く。
背後から要撃級が接近してきていたのだ。
「大人気だなぁおい!」
近づいてくる要撃級を長刀で薙ぎ払う。
もうすでに打撃、としか言いようがないがダメージを負わせられるのだから頼るしかない。
ウィンドにはマニピュレーターの負荷が限界域近くになっているようで黄色を示していた。
「さすがに、負荷がかかり過ぎたか」
だが、この場で使える武器は切れない長刀と銃剣しかないのだ。
「やるしかないんだよな!」
フットペダルを踏み、機体を加速させ目の前にいる要撃級へ突きを打ち込む。
顔、ともいえる部分を潰された要撃級は血飛沫を上げ倒れた。
「彩、重光線級まで後どれくらいだ?」
「はい!重光線級との距離は約8km。だけど、その間にBETAが沢山いるよ。確認できるだけでも要撃級105、要塞級43、小型種は・・・計測不能!」
「そうか」
ここにきてようやく要塞級が出てきたか。
しかし、あれがいるとなるとこの装備ではかなり厳しいことになる。
2人の機体もそろそろ弾薬が尽きるころだろう。
(何かいい考えはないのか!)
「黒田君!」
「!?」
彩に名前を呼ばれるまで、俺はウィンドに表示されている文字に気づかなかった。
気づいた時には機体内に照準警報が鳴り響き、機体が自動回避機動を取り始めていた。
「くぅっ!!」
機体が元いた場所をレーザーの一筋が通って行く。
機体が自動制御で着地し、照準されないようBETAの亡骸の後ろへと下がる。
「どうすりゃいいんだ!」
左マニピュレーターにXCIWS-2Bを装備し、亡骸から表へと機体を出す。
接近してくる要撃級を長刀で叩く。
1匹が倒れても次から次へとBETAは現れ、行く道を塞ごうとする。
「このぉ!」
『明仁様!前へ出すぎです!』
突撃砲と長刀を構えた唯衣機がこちらへと接近してきた。
左から接近してくる突撃級の足を狙い撃ち、動きを封じる。
『ご自身のことをお考えください!貴方は今斯衛に必要な人物なのですから!』
「だが、そうは言っても向こうさんがそう理解してはくれない!ならば生き残るためにBETAを倒すしかあるまい!」
目の前にいるBETAはこちらが死ぬまで、脅威がなくなるまで攻撃を止めることはまず無い。
そんなことは分かりきっていることだ。
(くそ!予想個体数は10万だったよな。いったい俺はいくつ倒してるんだ?)
ウィンドを見ると、倒したBETA総数約31929匹と表示されていた。
それは、予想個体数の3割にもなっており、普通であれば勲章が貰えるほどの功績だ。
(がんばった、と言うにはお釣りがくるくらいの数だな)
だが、俺がいくらBETAを倒したところで状況が変わるわけではない。
いくら倒そうが無尽蔵に湧き出てくるBETAの前では俺1人のこんな数字はたいしたこと無いのだ。
いくら最新鋭機をもってしても、強力な武装を持っていても俺1人ではBETAの物量の前では他と変わらない。
補給も無く、いつ増援が来るか分からないこの状況は絶望的といってもいい。
鈴乃と唯衣もよく頑張ってくれたが、そろそろ精神的にもきつくなってくる頃合だろう。
戦えるだけ戦ってきたがそろそろ潮時、と言うべきだろうか。
「はぁはぁ・・・くぅ!」
それに、このまま戦闘を続けたら彩の身体が持たない。
3次元多角機動という無理な機動をしているのだ。
男であり慣れた俺にしては大差ないが、女でまだ訓練兵で経験不足である彩にはかなりの負担がかかっているだろう。
どちらにせよこれ以上の戦闘継続は不可能だ。
(これ以上彩を巻き込むわけにはいかない。どこか、安全な場所へ移動させなければ)
ふとウィンド端に電文が送られてきたと表示された。
「電文?」
電文を開くと送り主の欄に香月と記されていた。
(博士から電文?いきなりなんで?)
機体を自立制御へと切り替え俺は電文を開いた。
電文には『ノースロックからの協力は得たわ。ライセンス生産も認めてくれるそうよ。それと、社長からアンタに試して欲しい試作品があるからそっちに実機で送ったそうよ。貰えるだけ貰っておきなさい。で、その社長から米軍1個中隊がそっちに接近してきているらしいという情報を貰ったわ。おそらくだけどアンタの機体の破壊か拿捕でしょうね。たぶん第4計画反対派か第5計画推進派でしょう。今アンタを失うわけにはいかない。だから、攻撃されたら構わず倒しなさい。それが無理なら逃げなさい。どんなことをしてもね』と記載されていた。
(まさか。でも、だとすれば大分厄介だな)
このごちゃごちゃした状況でさらに米軍機を相手にしなければならないとなるとかなりきつくなる。
それに、装備が接近戦用しかないから1体1体を相手にしなければならない。
(機体の搭乗者保護設定を最低にして戦わなくちゃいけないかもな)
突撃砲が無いこの状況ではもう一撃離脱で行くしかない。
となれば、足は出来るだけ早いほうがいい。
また、斯衛軍と米軍が戦闘を行ったとなれば国際問題だ。
そうなればかなり厄介なことになってしまう。
事をなるべく早く終わらせるにも、やはり搭乗者保護設定は最低にしなければならないようだ。
(鈴乃たちを巻き込むわけにはいかないな)
関係のない2人を巻き込むわけにはいかない。
俺は鈴乃と唯衣に通信回線を繋げた。
「唯衣、少しの間だけ時間を稼げるか?」
『出来ますが、どうかしたのですか?』
「いや。鈴乃、聞こえているか?」
『はい、お兄様』
「悪いが彩を頼みたい」
「え?」
俺は管制ユニットの開閉ボタンを押した。
ハッチが開き、ユニットがゆっくりとせり出してくる。
開くと同時にBETA独特の体液の臭いと火薬と金属の臭いが鼻に突き刺さる。
「く、黒田君?」
何が起こっているのか分からない、という顔をして彩が俺を見ていた。
「悪いが交代だ。ここから先は鈴乃の機体に乗ってくれ」
「え?で、でもどうして?」
「ちょっと野暮用でな」
彩は困惑したように俺の顔を見つめてきた。
『お兄様?』
「鈴乃!早くしてくれ!このままでは光線級の的だ!」
『りょ、了解!』
鈴乃も同じようにして管制ユニットを開き、こちらへと近づいてきた。
唯衣が周囲警戒をし、接近してくるBETAに向けて突撃砲を放っている。
ユニット同士の間にYF-23SBの手を当てる。
「さぁ」
「う、うん」
「こちらへ手を」
彩は俺の指示に従い、鈴乃機へと乗り移った。
簡易ハーネスへと固定し、鈴乃がOKの合図を出した。
鈴乃機の管制ユニットが収納されるのを見届けてから俺も管制ユニットの収納を始めた。
『明仁様、これはいったい?』
「鈴乃、唯衣。2機はこのまま第3防衛ラインまで退避。以後親父の指揮下に入れ。俺は残り光線級を可能な限り殲滅する」
『な、何を!』
『私もここに残ります!』
無論、2人がそう返してくることは予想していた。
「駄目だ!2人は彩を守りながら後退しろ!別に死ぬために残るわけではない。危なくなったら俺も後退する」
『し、しかし!』
納得できない、という表情が2人の顔から見て取れた。
上官を残していくのだ。
命令とはいえ、この2人の性格からしてこの反応は当然来るだろうと思った。
「正直、に言う。2人の機体ではこの機体の全力に追従することははっきり言って無理だ。そんな機体についてこられても邪魔にしかならない。きつい事を言うが俺の邪魔をしたくないのならここで後退してくれ。2人を庇いながら戦うのはさすがにもう出来ないからな。それに、光線級たちは『なぜか』俺の機体を頻繁に狙ってきている。となれば、俺が囮としてここに残るのが最善の策だろう」
ウィンド左端に落ち込んだ2人の顔が映っていた。
邪魔だと言われ、今まで庇いながら戦っていたと言われたのだ。
落ち込むなというほうが無理か。
『・・・分かりました。唯衣、大丈夫?』
『えぇ・・・明仁様、どうかご無事で』
『お兄様、必ず戻ってきます!それまでどうか!』
『黒田君・・・死なないでね』
「あぁ、分かった」
そう言い残し、2機は後方へと下がっていった。

遠ざかる2機の後姿を見ながら制御パネルに手を伸ばす。
「行ったか・・・」
俺は搭乗員保護設定を最低へと設定する。
ウィンドに警告メッセージが表示されるが俺はそれを無視し、表示を強制終了させた。
「これを使わなくちゃいけないかぁ」
手を伸ばし、シート後ろにある緊急キットから急激なGを軽減させるための薬を取りだし、右腕に注射器を押し当てる。
圧力を感知した注射器が圧縮空気で針を右腕に刺し、薬を注入していく。
「くぅ・・・」
若干の苦痛と眩暈が身体を襲うがそれも一瞬。
直ぐにいつもと変わらない状態へと戻っていく。
「・・・はぁ。これで1時間くらいは持つか」
薬に頼らなければならないというのは情けないことだが今はこれしか手が無い。
この薬がなければこの機体の速度と機動に体が耐えきれず、操れないからだ。
BETAと戦術機両方を相手にするというのならこれくらいはしなければ無理だ。
(ノースロックの持ってくる試作品がせめて飛び道具であることを祈り、頼るしかないか)
レーダーを見るが、ノースロック所属の機体らしきものは見当たらなく映るのは未だ大量に残っているBETAの光点だけだった。
「先ずはBETAを先に屠っておかなければならないか。ん?」
フットペダルを踏み込もうとしたとき、レーダーが何かを発見した。
レーダーが微かに映る4つの光点が約10km離れた場所からこちらへ向かってくるのを補足していた。
機体のデータバンクが接近する機体を照合する。
(不明、だが形状的にはF-18。それが4機。小隊ってことはノースロックが送ったって言う機体か?)
確かめるべく俺は機体を接近してくる小隊の元へと向かおうとした。
だが、BETAはそれすら許さないのか行く手を阻むかのようにして現れる。
「邪魔だ!」
目の前に現れた要撃級へと加速しながら接近し、長刀を突き立て振り上げる。
が、蓄積した負荷と無理に使った影響で要撃級に半分刺さった長刀が鈍い音を立てて折れた。
「クソッ!」
迫る要撃級の前腕をかわし機体を反転させながら要撃級後方へと回り、銃剣を背部に突き刺す。
(やっぱり持たなかったか)
折れてしまったものは仕方がない。
柄のみとなった長刀を放棄する。
(畜生!でも、どうする!小隊とはまだ距離がある)
もう残すは突撃砲の銃剣か、機体各所にあるハイパーカーボン製のエッジのみだ。
さすがにそれだけで戦い続けることは不可能に近いだろう。
絶望的状況、といってもいいだろう。
(どうすりゃいいんだ!)
『クロダ大尉!』
「!?」
いきなりオープン回線で俺の名前が叫ばれた。
その声がなければ俺は死んでいたのかもしれない。
気づくと目と鼻の先までに要撃級が迫っていたのだ。
「くっ!」
(なんで気づかなかった!警告音に気づかなかったのか!)
警告音が鳴り響く管制ユニットの中、とっさに機体を垂直軸反転させようとした。
しかし、要撃級の動きのほうが早く、モース高度15度を誇る腕を待ち構えたかのように振り上げた。
(くそ!間に合わん!)
俺は反転操作をキャンセルし、かわりに腕で要撃級の攻撃をガードするような体制をとらせた。
腕を失うことになるが、それで生き残ることができるのならそれに越したことはないと思った行動だった。
だが、要撃級による攻撃の衝撃は無く、要撃級はその背後から放たれた36mm砲弾によって肉塊へと変わっていった。
「な、に・・・」
いつの間にか4機の戦術機が自機を囲むようにして展開していた。
(いつの間に!レーダーには・・・これは、ステルスなのか?)
レーダーに映る機影は小さなもので、それは周囲に展開している戦術機がステルス機能を持っていることを証明していた。
その内、1機の機体。
F-18ホーネットらしきものがこちらへと接近してきた。
形状はF-18と全く同じ。
だが、通常のカラーリングではなく、何か特殊な塗料を使用しているようで全身真っ黒だった。
おそらくはステルス用の電波吸収塗料だろう。
ウィンドに目の前の機体から秘匿回線の接続要請メッセージが映っていた。
俺は、その要請に応えた。
すると、そこには見知った顔が映っていた。
『お久しぶりです、クロダ大尉』
「ロイス・・・ロイスなのか?」
ロイス・ハーネク。
かつて米国へ留学していたときに知り合った、ノースロック社専属の衛士であり、兵器部門の顧問でもあった男だ。
たまたま俺の案内係となっていたのだが、ウマが合ったらしく向こうではいつも一緒に行動をしていた。
俺は、まさか彼が来るとは思いもしなかった。
『はい。こんなところで再開はしたくなかったんですけどね!』
『隊長!早く例の物を!さすがに長くは持ちません!』
『分かっている。03は周囲にいる光線属腫を潰せ!04は俺たちを守れ!02はクロダ大尉に捕球を!』
『『『了解!』』』
3機のホーネットがロイスに指示された通りの動きを見せる。
ロイス同様他の3機の衛士もノースロックの専属衛士なのだろう。
02と呼ばれた稼働担架の代わりにドロップタンクを背負った機体が俺の後方へとやってきた。
『はじめまして。ノースロック社専属衛士のエディックといいます。社長に認められた貴方に出会えて光栄です』
「あ、あぁ。ありがとう」
『おい!話をするなら後だ!まずはクロダ大尉の機体の補給をしろ!時間は無いぞ!』
ロイス機とその部下である04ナンバーの機が迫る要撃級に対し突撃砲を撃っていた。
レーダーに映るBETAの光点がこちらへと向かって来ている。
『了解!クロダ大尉、申し訳ありませんが機体後部をこちらへ向けてもらえますか?補給をしますので』
「あぁ。分かった」
俺は言われた通り機体後部をエディック機に向けた。
エディックはドロップタンクを下し、そこから弾倉を取り出した。
そして、取り出した弾倉を突撃砲へと装填していく。
『補給できるのはここまでです。大した力になれず申し訳ありません』
「いや、これだけあれば十分だ。感謝する」
補給が終わったところへロイス機がやってきた。
『クロダ大尉、社長から預かった試作兵器をお渡しします』
ロイスは自機の稼働担架から突撃砲よりは長く、長刀より短い物を2つ取り出した。
『XAMWS-27新概念近接戦闘突撃砲です』
それは、XAMWS-24に短刀数本分ほどの長さの銃剣を着けたような形だった。
36mmチェインガンは備えているが、長い銃剣を取り付けるためか120mm滑空砲は付いてはいなかった。
『それはXAMWS-24を元に作られた近接戦闘兵器と突撃砲を組み合わせた兵装です。従来のXAMWS-24とは違い、接近戦を重視した突撃砲として開発されました。弾倉は24と共用です。貴方に使っていただきたいと、社長は言っていました』
「そうか・・・」
俺は、装備していたXAMWS-24を機体腰のマウントに保持させ、ロイスが差し出したXAMWS-27を受け取った。
それと同時にレーザー照準警告音と「UNKNOWN」の文字がウィンド映されていた。
(なっ!光線級に狙われたのか!)
そう思ったが、光線級に狙われたのならば即座に機体が自動回避行動をとるだろうしUNMNOWNと表示されるはずがない。
だとすれば
『隊長!レーダーにデータ不明の機を発見しました!数12!距離10000!時速800kmほどで接近中!』
『クソッ!予想よりも早い!なんで気がつかなかった、04!クソッ、03!光線属腫はどうだ!』
『駄目です!要撃級と要塞級の壁が邪魔でうまく狙えません!』
『3時の方向よりBETA接近!要撃級7!戦車級測定不能!この場は危険です!』
レーダーには俺たちの光点を押しつぶすかのようにしてBETAの光点が迫ってきていた。
また、それとは別の12の機影も見て取れる。
それがおそらく博士の言っていた米軍部隊だろう。
(前はBETAで後ろは米軍戦術機1個中隊。サンドウィッチ状態か)
こちらとの不明機との距離が約5kmとなったところで突如攻撃回避の警告表示がウィンドに映された。
その数秒後、手前500mほどの地点に36mm砲弾が飛来してきた。
それは、BETAを狙った射撃ではなく、明らかにこちらへ向けた威嚇射撃だった。
『撃ってきた!?隊長!あいつ等我々を敵として見ています!』
『IFFが敵と認知した!全機散開!個々で対応し、敵を殲滅「待て!」っ!』
俺はロイスが出した命令を中断させた。
ロイスは突然の俺の命令に戸惑い、その部下は何が起こったのかわからない様子だった。
「ロイス、メンバーは皆実戦慣れした衛士だよな?」
『えぇ。皆優秀な衛士ですが』
「よし、あの部隊は俺が引き受ける。ロイスたちは光線属腫のほうを頼む。同じアメリカ人同士戦いたくはないだろう?」
ロイスと、その部下たちが驚いた顔をしていた。
周りからすればそれは酷く愚かな選択だといわれるだろう。
だが、ロイスたちに同族を殺すようなまねはさせたくない。
それに、相手がデータに無い機体ならこちらもデータに無い機体で対応したほうが相手を牽制しやすい。
ましてやこの時代にある米国の最新鋭と言えばF-22Aくらいだろう。
ラプター1個中隊レベルならYF-23SBでも十二分に対応できる。
『・・・わかりました。光線属腫の排除が完了したら直ぐに向かいます。どうかご無事で!』
「分かった!試作品、さっそく試させてもらうよ!」
俺は機体を垂直反転させた後にフットペダルを踏み込み、真っ直ぐ米国部隊向けて進んでいった。
その時既に、こちらの突撃砲の有効射程圏内であった。



あとがき

PCが壊れてから1月近く?立ってしまってだいぶお待たせしました。
実は壊れたPCのHDDからデータ戻そうかと思ったらそっちも御釈迦だったので新しく書き直していました。
しかも後半かなり詰め込んでしまったためすこし雑かもしれないと、個人的にちょっとだけ不安だったり。
とにかく頑張っていますので!

米国の1個中隊と対峙する明仁。
政治的思惑などが介入し始めた戦場で明仁は予想外の真実を知り、疑問を持ち始める。
次回は本格的?に対戦術機戦闘になるかも!
おたのしみに?



[16077] 第10話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:f89a1e8b
Date: 2010/08/24 04:03
<鈴乃>
『・・・やはり、我々も残ったほうが良かったのではないか?』
「今更何と言って戻れというの?唯衣」
もう明仁とは大分離れた位置へとたどり着いていた。
離れてからだいぶ時間がたつ。
全力で引き返したところで推進剤が切れ、孤立するだけだろう。
現状いる地点は平野だが、傾斜や光線級、重光線級の高さ、他のBETA壁となっているため跳躍さえしなければレーザーに狙われることはない。
「私たちはこの娘を無事第3防衛ラインに居られる黒田少将の元へと無事に連れて行く。それがお兄様からの任だ。放り出すわけにもいかない。それに、この状態であれ以上の戦闘が続けられると思う?」
『それは確かにそうだが』
装備の大半が弾切れ、損傷によって使えない。
推進剤も足りないし、機体の各所が負荷限界値である赤を示している。
それに、自分でも精神的にキツイ状態だと分かるほど追いつめられていた。
これ以上の戦闘は望めない。
もし戦闘を続ければおそらく死ぬだろう。
「ならば、速やかに後方へと戻り、捕球を済ませたのちに救援として向かったほうが現実的ではない?」
『・・・そうだな。今悔いても仕方がない』
「そう、我々がすべきことはお兄様より与えられた護衛の任をこなすことだ」
その言葉を聞いてか目の前にいる護衛対象は身を震わせた。
私の膝の上で縮こまっている女性。
確か、一之瀬家のご令嬢である一之瀬彩と言ったか。
帝国の中でもそれなりの権力をもった政治家の娘が何故このような場所に参加しているのだ?
国連兵だからという理由から出た疑問ではない。
一之瀬家が政治的な理由で娘を国連軍へ所属させなければならなかった理由があるのかもしれないし、もしかしたら後方でおそらくもっとも『安全』な国連を選んだだけなのかもしれない。
それに、国連にも正義はあるのだ。
それまで否定するほど私は落ちていはいない。
ただ、不可解なのは『訓練兵』である彼女がこの場にいることだ。
それも女狐の差し金と聞く。
(何か思惑でもあるのか?)
元々今回の作戦参加の内容に国連軍の訓練兵が参加すると明記はされていた。
だが、護衛付きでだ。
今更だがかなり不審に思うだろう。
たかが訓練兵小隊に1個中隊規模の護衛。
しかも女狐の私兵である特務部隊と言っている。
そして、もっとも不可解なのがお兄様も参加しているということだ。
(既に政治的レベルの話になってきているのか?たった1人の存在のために?お兄様を巻き込んで?)
政治的理由での話なら、もう私などが介入できる話ではない。
譜代武家の出身であるとは言っても私はただの衛士なのだから。
ただ、香月が一之瀬のために動くとは考えづらい。
女狐と呼ばれる女だ。
自分の利益か研究のためにしか動かないだろう。
では、本当に何故彼女は、彼女たちはこの場に送られてきたのだ?
それにお兄様も関わっているの?
考えても考えても理解が出来なかった。
『鈴乃、もうすぐ黒田少将のいる第3防衛ラインになる』
唯衣からの通信で考えることを止めた。
どの道私が関わっていいものではないことぐらい誰かに言われなくても分かる。
ならばもう考えることを止めよう。
「分かった。今通信を繋ぐ」
少将と通信を繋ぐためコンソールに手を伸ばした。
通信画面を表示し、黒田少将のIDを選択、通信を繋ごうとした。
だが、通信が繋がることはなかった。
「通信が、繋がらない!?」
『何!?』
黒田少将へと再度通信を繋ごうとしたが、聞こえてくるのはノイズのみで少将と回線がつながらなかった。
唯衣も試してみるが結果は同じだった。
いや、それだけじゃない。
他との通信も繋がらないし、よく見ると唯衣との通信がインターフェイスでの短距離間通信に切り替わっていた。
短距離間通信には自動的に切り替わるか、こちらから手動で切り替えるしか方法が無い。
手動で切り換えた覚えはない。
なら、自動的になったということだ。
自動で切り替わるには何かしらの通信妨害にあったか、戦術機での通信が出来なくなった場合のみとなっている。
つまり、この場では遠距離間通信が出来ない状態になっている、ということだ。
「いったいどういうことだ!?機体がおかしくなったのか!?」
『いや、仮にそうだとしてもこっちの機体も同時に、なんてことは無いはずだ。ちょっと待て、鈴乃!レーダーを見ろ!おかしいぞ!私たち以外の機影が見当たらない!』
私もレーダーを見た。
唯衣が言った通り、私と唯衣の機体を除いた戦術機や戦車などの光点だけがレーダーから消えていた。
無論BETAの光点も映ってはいない。
私たちの機体も完全に映っているわけではなく、互いに離れると光点が薄くなっていくようだった。
(くそ!どうなっている!)
『鈴乃!それ以上加速するな!BETAに突っ込む気か!?』
「!?」
言われてから自分が焦って必要以上の速力を出して少数のBETA集団へと向かっていることに気がついた。
逆噴射をかけ、機体速度を巡航速度までに落とす。
戦闘を避けるため、目の前のBETAを迂回して、再度目的へと向かう。
(冷静になれ!こういう時こそ冷静になって現状を把握するんだ!)
私は気持を落ち着かせるために1回深呼吸をした。
今分かっているのは遠距離通信が出来ないことと、唯衣の機体が範囲限定でレーダーに映るぐらいで他が全く映らないということだけだ。
おそらくは広範囲にまで効果があるタイプだろう。
ECM・・・とは違う。
ECMなら機体が検知するだろうし、レーダーへの影響のし方が全く違う。
バグ、でもない。
そもそもバグなら唯衣が言ったように2機同時に、なんてことは無いだろう。
(やはり、何かしらの電波妨害か?)
帝国にはそのようなことを行える戦術機も車両も存在しない。
ならば米国が関与を?
いや、関与したところで向こうの利益になるようなものはここにはない。
それに米国は今回の作戦に関与しないと断言している。
日本にあるそれぞれの基地に米軍が来たという事実も無い。
『これは、一体どういうことだ?鈴乃、分かるか?』
「分からない。だが、これは一刻も早くお兄様に言われた通り第3防衛ラインに向かったほうがよさそうだ」
『分かった。急ごう!』
私と唯衣はBETAのいる地点を避けつつ、目的地である第3防衛ライン近辺に展開している黒田少将の部隊の元へと向かった。
(お兄様、どうか無事で!)

<明仁>
敵機12機から36mmの砲弾が一斉にして襲いかかってくる。
俺は、フットペダルを軽く踏み込み瞬間的な加速を持ってそれをかわす。
外れた砲弾が地面を、近くにいた戦車級を砕いていった。
「この野郎!」
背部マウント4つを前面展開し、6丁の突撃砲から36mmを放つ。
だが、放たれた36mm砲弾は敵機に当たらず、その後方にいたBETAに命中した。
回避した敵機は再度隊列を組み、突撃砲を放ってくる。
即座に左へと避け、敵の砲弾を避ける。
「この野郎!」
俺はガンマウントの突撃砲を36mmから120mmへと切り替え、敵部隊の中心へと撃ち込む。
敵機はすぐさまその場から離れようとする。
「喰らえ!」
俺は避けようとする敵機へとマニピュレーターに持つ突撃砲から36mmを撃ち込んだ。
避け切れなかったのか3機が36mmの餌食となり、爆散した。
(ったく、ラプター1個中隊相手なんて、本当に骨が折れるわ!)
予想をしていたとはいえ、実際相手になると嫌になる。
十二分に対応は出来るとデータでは出ているが、それはあくまでもデータであって経験じゃない。
それに、今電磁投射砲は弾切れだ。
弾数少ない突撃砲と短刀だけで戦うしかない。
突撃砲も120mmはさっきので使い切ったから残りは36mmだけだ。
(相手は電子戦機並みの統合電子戦システムを持つ最強の戦術機1個中隊。一方その相手は総合性能で上回る世界で最も高価な鉄屑の改修機1機、か。なんとも皮肉な)
飛び交う砲弾を避けつつ、数発ずつ敵機へと36mm砲弾を放っていく。
だが、RCSが小さいため、射程がかなり限定され、離れられるとロックオン出来ず、弾を撃ってもかすりすらしない。
だが、それは向こうも同じはず。
(ならば接近戦を・・・ん?)
ふと、レーダーに異常があることに気付いた。
(これは・・・広範囲電波障害?)
ウィンドの小型マップが自動的に広範囲マップに切り替わり、電波障害の範囲が表示された。
範囲は俺がいる大体の地点から第3防衛ライン付近までを円形に広がっていた。
その中に映る光点が若干だが薄くなっている。
おそらく、レーダーの電波を打ち消すような妨害電波か何かを出しているのだろう。
憶測を立てると同時にレーダーが1機の機体を赤く丸い光点から赤い三角の光点へと変えた。
(電波の元は・・・あの機体か?)
敵機を発見した時から不審に思っていたドロップタンクを背負う機体。
おそらくレーダー異常の発生源が入っているのだろう。
これほどの範囲をカバーする装置だ。
おそらく戦術機程度の電力では稼働できる時間は短いだろう。
そのため、ドロップタンクを装備し長時間稼働出来るようにした、という感じだろうか。
(だが、どうして今になってこんなことを?)
今更こんなことをする理由が相手にはない。
もともとステルス機であるラプターはこの混戦状態でなら発見されることは少ないはず。
なら、何故こんなリスクのあることを奴らはするんだ?
よくよく見ると敵機は行動を止めていた。
レーザー照準は無く、こっちをロックオンしている様子でもない。
(ん?通信?)
ウィンドに不明IDからの通信要請が届いていた。
(発信源は・・・・・・目の前って、敵機からか?)
ますます意味が分からない。
なんで敵である俺へと通信を繋ぐんだ?
(とりあえず、応答すればいいのか?)
どちらにせよ今の状況では他にすることが無い。
俺は、敵からの通信に応答した。
『おぉ。通信に応じてくれるのですか。ありがたいことです』
(!?)
この声、いや、まさか。
続いてウィンドの端に男の顔が表示される。
『いやはや、たった1機相手にここまでてこずったのは久しぶりですよ』
(間違いない!あの時基地を襲った男の声だ!)
俺たちがこの世界に来る鯨飲となった男。
だが、どうしてあの時の男がここへ?
あの時の奴は確かあの時この機体とミリィを狙っていたはず。
そして、おそらく今回はこの機体だろう。
(あの時はオルタネイティヴ4。第4計画が成功し、そのためミリィが邪魔になったとか言っていたな)
後から知ったことだが、俺の協力していた第6計画などの総称をオルタネイティヴ計画というらしい。
そのことを全く知らなかった俺はあの時はなんで狙われるかなど知る由もなかった。
だが、今は違う。
(おそらくこいつ等は第5計画にかかわる奴らだ。この機体が、第4計画によって作られたと周囲に告知したことから、邪魔と判定して破壊しに来た。と、そういうことなんだろうな)
そうなれば米国がここにいる理由もうなずけるし、この機体を狙う理由にもなる。
それだけ、第5計画側は香月博士とその成果が邪魔なのか。
(とりあえず、会話で本当のとこを引きずり出してみるか)
「その機体、最新のF-22Aラプターだよな?まだ正式採用もされてないのに、よくそんなもの持ってくるな。米国はよっぽど俺かこの機体を排除したいみたいだな」
『確かに、このラプター1個中隊をもってしても倒せない。それどころか3機も損失してしまうとは。その機体が量産されてしまえばこのラプターなど相手にもならないでしょう。我が国のことを考えたら障害となるその機体は是非とも排除しておきたいものです』
「本当は俺のことなんて眼中にないと?」
『そんなことは無いですよ。むしろ、本来の任務よりも貴方と戦うことのほうが私としては有意義なんですがね。フフフフフフ』
男は、嫌味な笑い声をあげていた。
(どういうことだ?俺か機体を破壊するのが任務じゃないのか?)
男の口ぶりからして、俺が目標だったというわけではないらしい。
なら、本当の目的はなんなんだ?
おそらく博士の計画関連でこの場に来るというのなら俺かこの機体以外何もないはずだが。
「そりゃどうも。で、本当の目的ってやつはなんなんだい?どうせどっちかが殺し殺され
るだ。それなら話しても構わないだろう?どうせ、そのためにここら一帯をレーダー、通信機使用不可の状態にしたんだろう?」
あくまで推測だが、この広範囲の電波障害はこうして会話をするために仕組んだのだと、俺は思っている。
そうしなければならない事情か何かがあるかのように。
『お察しの通り、この状態を作り出したのは貴方と会話をするため。我々の目的はレミリー・テルミドールの確保ですよ』
「!?」
『いや、びっくりしましたよ。何せ同じ人物が2人もいるのですから。施設にはしっかりと本人がいるのに、日本にもう1人同じ人物がいる。なんとも不思議なことだ。そこで、私の上司がここにいる彼女を確保してほしいと命令を下した、というわけですよ』
ミリィが、2人いる?
確かに俺たちは過去であるこの世界へと偶然来てしまった。
過去であるならこの世界に俺たちが存在しているのは当たり前だ。
だが、この世界の俺は俺が現れたのと同時に死んでしまった。
この世界が2人の俺を認めず、未来から来た俺だけを認めたからだと博士は言っていた。
ならば、ミリィも同じなのではと思っていた。
しかし、あの男の話が本当であるのならそうではないということになる。
だが、何故ミリィのことを必要とするんだ?
そもそも、俺はミリィがどんな存在でどんな実験をさせられるのかを知らなかった。
(クソッ!一体何がどうなってんだよ!)
『おそらく、同じ人物が2人いるということを貴方は理解できないでいる。無論私も同じですよ。ですが、貴方も私もそんなことを考えなくて良いのです。私は任務遂行のためレミリー・テルミドールを確保する。貴方はそれを阻止するために私と殺し合う。簡単なことじゃないですか?』
たしかに、男の言うことは正しい。
(俺はあの男からミリィを守ればいい。確かにその通りだ。だけど)
正直言って勝てる気がしない。
抑えるくらいなら出来るだろうが、それが何分持つかだ。
弾数などを考えても30分以上戦えるとは考えられない。
そもそも、薬の効果時間が持たないから戦えて10分と言ったところか。
辛うじて3機倒すことは出来たが、もう同じことは出来ない。
なら、逃げるか?
だがそうしたらミリィが連れて行かれる。
乗り移すにもその間に攻撃されたらお終いだ。
(戦うしか、無いか)
俺は強く操縦桿を握りしめた。
『さて、では殺し合いましょうか―――と、言いたいとろなんですが、時間切れのようですね』
「え?」
『もうBETAの残り数が少なく、またこの周辺にのみしかいない状態で、我々が戦っていれば必然と日本帝国に見られてしまいます。こちらとしては余り公にはなりたくないのですよ。致し方ありませんが、任務は失敗、レミリー・テルミドールの確保は諦めますよ。元々そこまで必要ではありませんでしたから』
確かに、もうBETAはこの辺りにしか見当たらない。
帝国の部隊も次第にこちらへと向かって来ている、
そうなれば、目視で俺たちを確認できるはずだ。
俺は公に動いても問題は無いが、こいつ等にすればそれは避けたいのだろう。
『次はきっと、貴方を殺して見せます。それでは―――』
「お、おい!」
そう言い残し、男はそれ以降何も言わずにその場を去って行った。
(何なんだよクソッ!)
BETAとの戦いは仕方が無いと思っていた。
だが、まさかこんなことになるとは思っていなかった。
この世界のミリィはまだ存在している。
おそらく、第5計画の施設か何かにいるはずだ。
(いずれまた、あいつとは戦うことになるのか)
『クロダ大尉!』
ちょうど敵機の姿が目視できなくなったところでロイスたちが戻ってきた。
機体のほうは大分損傷しているようだが、全機健在のようだ。
『あいつ等はどうしましたか?』
「状況が悪くなって帰って行った。だけど、またどこかで会うことになるだろうな」
『そうですか。一体あいつ等の目的はなんだったのですか?』
「・・・・・・秘密だ」
『・・・分かりました。そういうことにしておきます』
「すまな―――ぐふっ!?」
俺は咄嗟に口を手で押さえた。
だが、手の隙間から血が溢れ、管制ユニット内に飛び散っていた。
吐血は止まることが無く、手で押さえることが辛くなって来た。
「ごふっ!ごほっ!ごほっ!ごほっ!」
『た、大尉!?負傷したのですか!?』
(くそ、もう限界か)
保護設定の解除は戦術機の性能のリミッターを外し、戦術機本来の出力を出すことが出来る。
だが、搭乗する衛士には多大な負荷がかかってしまう。
解除するときに注射した薬は一定時間身体にかかる負荷を軽減するものだ。
軽減と言っても負荷は蓄積していくし、単にその感覚を麻痺させているだけだ。
当然薬の効果が切れてしまえば蓄積していた負荷が一気に身体を襲うことになる。
そして、その負荷が最も大きいのが内蔵系の臓器だ。
負荷が一気に掛かったことで、かなりのダメージを負ったようだ。
破裂はしていないと思うが、おそらくしばらく戦術機に乗れないくらいのダメージは受けているだろう。
「ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ!」
(くそ、もう、意識が)
吐血はおさまったが今度は意識が遠くなってきていた。
意識を保とうとするが、そればするほど逆に遠くなっていく。
(だらしねぇ)
そう思ったところで、俺の意識は途切れた。

<鈴乃>
(レーダーの異常が回復した?)
第3防衛ラインに着き、周辺BETAをほぼ一掃した時だった。
今まで異常状態だったレーダーが急に回復したのだ。
(何が起こっている?)
『鈴乃、レーダーが』
「あぁ。分かっているっ!」
目の前の要撃級へと長刀による一撃を叩きこむ。
要撃級は崩れ、私は止めに36mm弾を数発撃ち込んだ。
『これで、周辺にいるBETAは一掃したはず』
「あぁ。そのはずだ」
『見ろ。明仁様の方もBETAの反応がないようだ。あの人はそう簡単に死ぬはずがない。そうだろう?』
「あぁ。分かっている」
(いや、私は分かってなどいない。何も知りやしない)
私は何も知りはしない。
お兄様が何をなさっているのか、お兄様と一緒にいたあの少女は何者なのか、何故国連の訓練兵が戦場へと出てきているのか。
それが、私の知るところではないということは分かる。
でも、それでも私はお兄様の傍にいたい。
出来る限り一緒に居たいと思っている。
(私には、何が出来るんだ?教えてくれないか?唯衣)
『鈴乃、レーダーを見て!』
突然唯衣が慌てて声をかけてきた。
私は云われた通りにレーダーを見ると、そこには高速でこっちへと接近する機影が映っていた。
(識別は・・・不明機4と、お兄様!?)
レーダーお兄様の機体とそれに随伴する4機の不明機を捉えていた。
それもかなり近くに。
捉えている、とは言っても辛うじてというぐらいの程度だ。
おそらく近づいてきたから捉える事が出来たのだろう。
「これは、どういうこと?」
『分からない。帝国でも斯衛でもないということは、国連の部隊か?ちょっとまて、通信をしてみ―――』
『そちらは、帝国軍斯衛部隊の方々か!?』
『!?え、あ、はい』
『こちらはノースロック社所属ロイス・ハーネク中尉です。現在クロダ大尉が意識不明の重体。至急病院へ移送しなければ危ない状態です!』
(え、今何て・・・)
ロイスという中尉が云うことに頭が反応しきれなかった。
(お兄様が・・意識不明?)
不明機とお兄様の機体の光点がこっちへと接近してくる。
機体のカメラがその姿を捉え、ウィンドに映した。
そこには、不明機に支えられたお兄様の機体が映っていた。
「お兄様!?」
『鈴乃!今すぐ少将連絡を!』
「わ、分かった!」
(どうか、無事でいて!)
私は、必死な思いで少将へと通信を繋いだ。

<夕呼>
「えぇ。そう。黒田が負傷をねぇ。分かったわ。手配は私がしておくから。機体?確かあの機体には黒田のセキュリティが付いてるらしいから大丈夫でしょう。えぇ、そうよ。じゃぁお願いね・・・・・・ふぅ」
伊隅からの連絡はある程度予想の付いたものだった。
(結局は戦って負傷したってわけね)
1個中隊相手に1機で戦い、そして意識不明ではあるが生きている。
それも、相手からの負傷ではなく高Gによる内蔵系へのダメージが原因だという。
(悪運が強いのか、それともも単にしぶといだけなのか・・・どっちも一緒ね。まぁ、死ななくてよかったわ。まだ未来の情報を全部聞き出したわけじゃないし。それに、斯衛とのパイプは持っていることに越したことは無いしね)
今黒田に死なれては困る。
未来の情報もだが、黒田の持つ技術力は確かなものだ。
自分の手駒を強くするためにも黒田という存在は必要である。
それに、黒田は斯衛の斑鳩家、斉御司家、白河家などの家との交流もある。
手放すにはもったいないと思わせるモノを黒田は持っているのだ。
(問題は、これからの黒田の立場よね)
黒田の言う未来が正しければこれから私が横浜ハイヴ跡地に基地を建設することを国連へ要請、2000年1月には第4計画の占有区画が稼働するらしい。
元々ハイヴ跡地に基地を作ることを見越して横浜ハイヴ攻略を提案した。
未来がどうであれそれは変えないつもりだ。
(そういえば、これからボーニングが何か戦術機関連のことを始めるんだっけ?)
確か、フェニックス機構とかいうものを始めるとか言っていたはず。
黒田の機体をフェイズ2へと移行させるにはフェニックス機構の技術協力がどうしても必要らしい。
(そして、そのボーニングと帝国とが手を組んで不知火の改良をするのがXFJ計画、だったかしら)
あれ程嫌っていた米国と手を結ぶとは到底思えなかったが、米国の持つ最先端技術というものは魅力的なものだ。
それに、帝国内も国産主義派と他国の技術を取り入れようとする一派に大まか分かれているという。
その第一人者が確か巌谷中佐だったはず。
XFJ計画も彼が提案したと黒田は言っていた。
(彼は黒田のことを一目置いていると記録されているわね)
だとすれば、おそらく黒田にも声が掛かるのでは?と、夕呼は思う。
おそらく開発チームに黒田を参加させるだろう。
黒田の技術を見ればそう予想できる。
そうなれば、黒田は間違いなく行くはずだ。
この時代の最先端技術が結集するアラスカの地へと。
(そうすれば、こちらが動かなくても自然と黒田をアラスカへと向かわせることが出来る)
本来なら手元に置いておきたい人材だが、今回ばかりは仕方がない。
(まぁ、いいわ。未来の情報を聞き出せるだけ聞き出す。れから、この1年で働けるだけ働かせてやるわ!覚悟してなさい!)
夕呼はニヤリと、小さく笑いながら書斎を後にした。




あとがき
最近すごく忙しくて書いている暇がないくらいです。
来年には就職活動が待っているので今のうちに知識を身につけていないと本気でまずいです・・・
さて、戦術機の戦いを書こうと思ったら、なんかそんなに戦ってませんね。
構成を考えていたら、ここでこのキャラを殺すのはもったいないなと思いまして、その代わりTE編では思いっきり書かせていただきますよ。
TEはどちらかというとそっちメインだし。
とりあえず1999年編は残すところあと1~2話で終了となります。
実はこれまだプロローグの段階なんですよね。
TEに入るにあたっての下準備です。
自分自身早くTE編を書きたくてうずうずしています。
ご意見感想などがありましたら是非ともコメントを。
それでは次回予告?っぽいものを

新潟での戦闘は終わた。
初めての実戦で友人を傷つけられた彩は決意を胸に、訓練学校を卒業していく。
一方黒田は帝国軍技術廠・第壱開発局副部長である男からとある提案を受ける。
できれば1か月以内に仕上げます。
では



[16077] 第11話(1999年編)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:444d9be0
Date: 2010/09/13 04:05
9月1日
黒田家
明仁の部屋

<鈴乃>
「一応これで大丈夫だとは思いますが、やはり内蔵系へのダメージが大きかったようで戦術機などでの高G機動は無理です。しばらくの間戦術機に乗るのは無理でしょうね」
「そう、ですか」
「私の見解ではありますが、2週間ほどで完治すると思いますので、それまでは絶対安静でお願いします。絶対安静とは言っても、派手に動きすらしなければいいので。それでは私は失礼します。何かありましたら何時でも連絡をください」
「ありがとう、ございました」
医師は荷物をまとめて部屋から出て行った。
部屋には、私と麻酔で寝ているお兄様だけが残っていた。
お兄様は規則正しい寝息を立てて寝ている。
「お兄様、どうしてあんな無茶をなさったのですか?」
返答は無い。
寝ているのだから当たり前だ。
たとえ、起きていたとしても「そうするしかなかった」と言って話を逸らされるのだろう。
もう、あんな光景は見たくなかった。

「お兄様!!」
安全なところまでお兄様の機体をロイス中尉たちと共に運び、そこで下した。
私は急いで機体をお兄様の機体向傍へと寄せた。
ウィンドで見たお兄様の機体は傷だらけだった。
私と唯衣が離れる前よりも酷い状況だった。
私は不知火の腕をお兄様の機体の管制ユニット付近へと寄せ、管制ユニットから不知火の腕を伝ってお兄様の機体へと向かった。
(早くお兄様を出さなくては)
私は強制解放操作を行うため管制ユニット共通の緊急パスワードを入力した。
だが、帰ってきたのはエラーの文字だけだった。
「え!?な、なんで!?」
私はもう一度パスワードを入力したが、やはりエラーの文字しか返ってこなかった。
「そんな!どうして!」
私は、悔しくて機体の装甲を叩いていた。
強化装備の中で血が出ているようだが気にすらしなかった。
「・・・すみません、どいていただけませんか?」
「え?」
振り返ると、そこにはレミリー・テルミドール中尉が立っていた。
気がつけば、傍にA-10が鎮座していた。
私は、戦術機が近づいてくることに気がつかないほど動揺をしていた。
「管制ユニットを強制解放します。少し下がっていてください」
そう言って、入力パネルに近づいて行った。
「いや、だが中尉。私がさっき試したがパスワードを受け付けなかった!無理だ!開けられない!」
私は当たるような口調で、言葉を発していた。
だが、テルミドール中尉は笑って答えた。
「大丈夫ですよ」
そう言って、テルミドール中尉は入力パネルにパスワードを打ち込んだ。
すると、電子音が鳴り、管制ユニットが収まっている前部装甲がスライドし、中からゆっくりと管制ユニットがすり出てきた。
「な!?ど、どうして!?」
「この機体は、ちょっとした機密の塊なので、関係者以外では扱えない仕様となっています。だから、このパスワードも特別なものとなっていて私か黒田さんしか開けられないようになっているんです」
「な、なるほど」
管制ユニットが停止位置までせりあがってきた。
「ともかく。今は黒田さんを早く出してあげることを優先しましょう」
「分かった」
私はテルミドール中尉とともにお兄様と運び出すため管制ユニットを覗いた。
「え?」
私は、その光景を理解できなかった。
せり出した管制ユニットの中で、お兄様は血まみれの状態で座っていた。
口の周りは真っ赤になっていて、コンソール辺りまで血が飛び散っていた。
「お、お兄様!」
私はお兄様の肩を揺らした。
だが、反応は無かった。
「お兄様!お兄様!」
「鈴乃さん!駄目です!落ち着いてください!」
私の耳にテルミドール中尉の声は届かなかった。
私は、目の前の現実から目をそむけたくて、お兄様の肩を何度も揺らした。
「鈴乃!何をしている!」
その後、誰かに取り押さえられたところからの記憶が無い。
気づいたら家の自室だったからだ。
後から知ったが、私は唯衣に取り押さえられ、麻酔で強制的に眠らされたらしい。

「・・・お兄様、目を覚ましてください」
あの後、直ぐにお兄様を帝都の病院へと運ばれた。
外傷はなかったが、内蔵系へのダメージが酷かったそうだ。
だが、普通戦術機には搭乗者を保護するための機能が備わっている。
その設定を解除するか、最低にしない限りこのような状態にはならない。
案の定お兄様の機体の搭乗者保護設定は最低になっていたそうだ。
それと、お兄様の身体から薬の反応が検出された。
機体内にそれを注射するためのものと思われる注射器も発見された。
その薬は、一般的に使われている加速病対策の物の数倍もの効果を持つ薬だった。
分かったことはそれだけじゃない。
お兄様の機体には戦術機の、36mm砲弾のものと思われる傷が多数残されていた。
テルミドール中尉が機体から操作ログを取り出したものを見たが、私たちが離れてから戦術機と戦ったことを記すログが見つかった。
記録映像もしっかりと残っていた。
お兄様は私と唯衣がいなくなってから薬を使って戦術機と戦っていたのだ。
おそらく、あの時私たちを下がらせたのは巻き込まないためだろうと、私と唯衣は推測した。
テルミドール中尉は『おそらくは、香月博士の研究に反対する一派によるもの』と言っていた。
あの博士が何を研究しているのかは知らないが、国家間にわたって、このBETA大戦に深くかかわるものだと、中尉は言っていた。
(結局、私には何もできないのか)
先の戦闘のときもそうだったし、明星作戦ときも私は共に闘うことが出来なかった。
いつも傍に居るつもりが、いつの間にかこんなにも距離が離れてしまっていた。
「どうすれば、いいんだろうか・・・」
私はお兄様の手を包むようにして握った。
すると、お兄様の手が僅かだが動くのが分かった。
「お、お兄様?」
顔を見ると、薄らとだが瞳が開きつつあった。

黒田家
専用ハンガー
<ミリィ>
「はい。分かりました。機体の方はこちらの方法でいいんですね?はい。では、あの機体は設定を初期化してそちらに送ってもらえるよう手配してもらいます。それでは・・・うにゃ~」
受話器を元の位置に戻し、私は深いため息(?)をついた。
電話の主は香月博士だった。
私たちが今帝都に居るからこれからのことを確認したかったらしい。
私が乗っていたA-10は米国へと返却をするため初期化作業をすることになった。
M5システムはこの時代では到底扱えないシステム。
それに、他国との交渉の切り札にもなりうるものだから、初期化し完全に使えないようにロックした状態で渡すしかない。
幸い私の権限でシステムにロックと強制介入された場合の自己破壊プログラムの設定は出来る。
問題は黒田さんのYF-23SBだ。
黒いから目立たないんじゃないの?と、博士には言われたけどノースロック社のマーキングが残ったままなので、帝国の人たちからは良い目では見られていない。
幸い黒田さんの部隊が他国の戦術機を試験運用している経緯があるらしく、この機体もそれと同じなのだと、黒田さんのお父さんが周りに説明してくれたおかげで何とかなった。
ただ、目立つだけならそれほどの問題でもない。
問題は整備にあった。
いくら国外の戦術機を扱っている部隊の整備士とは言っても、それは既存の技術で仕上げたもの。
この機体は世代で言えば第5世代相当の技術を使っている。
整備をするにはそれなりに整った環境じゃないと出来ない。
それに、新潟の戦闘で負った損傷が大きかったのもその要因だ。
負荷状況からみて、オーバーホールしなくちゃいけない。
(仙台に一度戻らないと修理が出来ないんだよね)
ノースロックから予備パーツが送られてくると博士が言っていたから外装はそれで補えるはず。
間接は通常機動程度なら問題ないはず。
マニピュレーターはもう持たないだろうからこっちのYF-23の物をしばらくは代用するしかないだろう。
最悪補強すれば突撃砲くらいは撃てると思う。
「さて、後はここの人たちにさっきのことを伝えてっと」
私は詰所に向かおうとした時、インカムに通信が入った。
「はい、テルミドールです。鈴乃さん?え!?黒田さんが目を覚ましたんですか!?はい。分かりました。直ぐに向かいます!」
私は急いで黒田さんのいる部屋へと向かった。

<明仁>
(あれ?俺はどこに居るんだ?)
目が覚めると、目の前には見なれた天井が映っていた。
(俺の部屋?でも確か)
あの米国のラプター部隊と戦って、それから薬の効果が切れて吐血して・・・それからの記憶が無い。
おそらくは薬で抑えていた痛覚が元に戻ってそのせいで気を失ったのだろう。
完全ではないが、それでも保護設定を解除しての戦闘機動を行ったのだ。
身体への負担はかなりのものだろうと、思う。
(とりあえず、起きないと)
そう思って身体を動かそうとしたが、手が何かに包まれているようだ。
(ん?)
気になって顔を動かしてみると、そこには俺の手を握っている鈴乃の姿があった。
「す・・・ずの」
かすれた声が口から洩れた。
「お兄様!目が覚めたのですね!」
鈴乃は、俺に覆いかぶさるようにして抱きついた。
「よかったぁ!本当に!」
俺は動かせる手で鈴乃の背中を撫でてやる。
「ごめんな、鈴乃」
それから、ミリィが来るまで俺は鈴乃の背中を撫で続けた。

その後、唯衣も現れ俺は意識を失ってから2日間の事を説明された。
「そうか。被害は戦術機及び戦車などが全体の約2割、人的被害は1割未満か。もはや幸運としか言いようが無いな」
実際10万という数字相手に戦ったのだからかなりの被害が出るだろうと思っていた。
いくら俺が師団規模を引きつけたとしても最低で全体の4割は被害が出ると予想していた。
だが、実際はもっと少なかった。
確かに守勢側としては戦いやすい立地条件だったのは確かだが、それをもってしても今回の被害は少ない。
明星作戦という大規模な作戦をした後であることを考えると上出来としか言いようがない。
「はい。それもこれも明仁様のおかげです」
「いや、俺はただ戦っただけだよ」
「ご謙遜を。これは白河少将からお聞きしたのですが、今回の功績を称え、明仁様に名誉勲章と少佐への昇進が決定されたそうです。明仁様の体調が整い次第、式を挙げるとのことです」
「え、嘘?」
「本当です」
「・・・・・・勲章ねぇ」
(勲章なんて、貰ったの何年前だろう)
前の世界ではそこそこな数を貰った経験がある。
まぁどれもこれもどうでもいいようなものばっかりだったが。
それに、所詮勲章なんて英雄作って士気を高めること以外には何も役に立たないと思っている。
貰っても服が重くなるだけだ。
「まぁ、貰っておけばいいんじゃないですか?黒田さんの階級が上がれば動きやすいでしょうから」
「まぁ、そうだけど」
「それと、博士から連絡がありました。しばらくはこっちで休養を取っても良いとのことです」
「そうか。ならお言葉に甘えるかな」
実際身体がこんな状態じゃ何もできないのと同じだ。
ならば、その言葉に甘えてしばらく休養を取るのもありだろう。
機体の方も仙台に戻らなきゃ整備が出来ないし、ちょうどいい。
「それと、美穂さんたちの任官式の日取りが決まったそうです。9月3日です」
「そうか」
あいつ等の、初めての初陣は酷かったそうだ。
ミリィから聞いた話では、翔太と美穂はもう衛士として戦えないそうだ。
神経がかなり酷く損傷したらしく、生体義肢を施したとしてもまともに動けないそうだ。
幸い、任官式だけは参加できるようなので3人ともに卒業になるらしい。
「そういえば、お前のA-10はどうするんだ?」
「データを初期化して米国に送ります。一応私の権限で処置をしておきましたが、確認しますか?」
「いや、別にいいよ。俺はミリィを信じるよ」
「むぅ」
鈴乃が何故かムスッとした表情になった。
「ん?どうした?鈴乃」
「な、なんでもないです!そ、それでお兄様。こちらにしばらく居るのですね?」
「あぁ。まぁ、どの道こんな身体じゃ何もできないしな。それに、おじさんにも久々に顔を合わせたい。あ、唯衣。巌谷のおじさんにも伝えてくれないか後で窺いますって」
「そうですか。では、お父様に伝えておきますね」
「私も、おじ様に伝えておきます」
おそらく2人には結構な迷惑をかけてしまったはず。
早めに謝りに行った方が良いだろう。
「そうときまれば日取りを―」
そう、言いかけた時、バンッという大きな音を立ててドアが開いた。
全員が同じ方向を見る。
「―はぁはぁはぁ。よ、よう。クソ息子」
ドアの前に立っていたのは、俺の親父黒田徳人だった。
「・・・なんでそんなに息切らしてんだよ」
「ま、まぁ・・・ハァ・・・江見ちゃんに・・・ハァハァ・・・追っかけられてたんでな」
江見というのは俺のお袋だ。
家事全般が得意で、元戦術機のエース衛士だったという。
性格もいいし、なんでこんな親父と結婚したのか分からないくらいだ。
「どうせ、他の女でも見てたんだろう?」
親父には変な癖があり、かわいい子(とくに鈴乃)を必定以上にかわいがっている。
いや、むしろそっちの気があるんじゃないのか?と言われてるくらいだ。
「し、失礼な!俺はこう見えても江見ちゃんと鈴乃ちゃん一筋だぞ!」
「おいおい。それは一筋と言わないんじゃないのかクソ親父。てか直ぐに死ね今すぐ死ね二度と顔見せんな死ね」
「てめぇこそさっさと鈴乃ちゃんとの許嫁関係切り捨てて黒田家から出ていけ。クソ息子死ね若い奴ら死ねかわいい子はみんな俺のものだ!」
「やんのかクソ親父!」
「てめぇこそ死にかけで何言ってやがるクソ息子!出来んのかゴルァ!」
容赦なく殺気をこめて睨み合う俺と親父。
これが、俺と親父との関係である。
一見すればただの親子喧嘩なのかもしれない。
だが、この親父は喧嘩だろうがなんだろうが俺の事を殺す気で殴ってくるし、戦術機での模擬戦闘では間違えたと言いつつ実戦用の長刀を装備して襲ってきたりする。
・・・・本当に俺はこれの息子なのだろうか。
「お、お兄様落ち着いてください!治るものが治らなくなりますよ!」
「そうだ!鈴乃ちゃんの言うとおり一生ベッドに寝てろ!そして俺は鈴乃ちゃんを第2の嫁に迎える!」
「いえ、それは断ります。出口はあちらですよ?」
(・・・・・・鈴乃も大分親父の扱いがうまくなったな)
「お、落ち着いてください!ここは病院ですよ!」
(ミリィ、君も大声出してるよ。落ち着こう)
「おぉ!こんなところにも美少女発見!どうだい?小父さんとしっぽり戦術機でデートでも行かないかい?」
「へぇ~。誰と誰がしっぽりとデートするのですか?」
「それはもちろん俺とこの可憐な美少・・・女・・・・・・」
親父の背後に、どす黒いオーラ―を纏った1人の女性、俺のお袋である黒田江見が立っていた。
顔は笑顔なのだが、体中からは殺気を超えた何かが漂っている。
「私とはなかなかデートをしてくれないのに、その娘とはいくのですか?徳人さん?」
「え、いや、これはね?言葉のあやだよ?ほ、ほほほほ本気じゃないんだよ!?」
「そうですか。なら、私とこれからデートしてくれますよね?地獄へのデート♪」
「い、いやだぁ!地獄なんて行きたくない!あ、明仁!た、たたた助けてくれ!」
「うふふふ♪あきちゃんは私の味方なの。黙って引きずられてなさい」
そのまま、親父はお袋に首根っこをつかまれ、喚きながら病室を共に出て行った。
「・・・・・・江見様、相変わらずですね。見習いたいものです」
「いや、見習わなくていいよ。あれ、駄目夫婦の地獄絵図だから」
騒がしい1日はそうして過ぎて行った。

9月3日
仙台基地
多目的ホール

<彩>
今、目の前で2人が少尉になったことを示す階級章を受け取っている。
本来なら、衛士でない2人がこの任官式に参加することは無いのだけれど、特別な計らいによってこうして参加できることになった。
(2人とも、大丈夫かな)
まだ、生体義肢を取り付けたばかりでまともに動くことが出来ない2人は座ったままで任官式に参加しているが、やはりそれでも少し辛そうだった。
美穂は、
『せっかくの任官式だから参加したい!』
て言っていたし、板井君は、
『ここまで来たんだから最後までやるぜ!』
と、美穂と同じようなことを言ってた。
(そういえば、黒田君はあの後どうなったんだろう。死んじゃったりしてない、よね?)
あの戦場で、無線から黒田さんが意識不明の重体だと聞いた時背筋に冷たいものが走った。
まさか私のせいでと何度も思った。
無事かどうかを調べようにも、訓練兵である私にはどうしようもなかった。
せめて、生きているかどうかだけでも知りたい。
(だって私は、まだ何も言ってないんだから)
きっと、私にとってはこれが初めての恋で、最後の恋になってしまうんだと思う。
私は任官したら欧州へ行くことになった。
所属はドーバー基地。
詳しくは知らないが、新型戦術機のテスト試験の1つに参加するためだとかお父さんが言っていた。
何故私が、と聞いてみたら向こうの貴族の人に私が大層気にいられたらしい。
お父さんは玉の輿だと大騒ぎだった。
きっと、そのまま政略結婚とかになってしまうのではと、私は思っている。
(そうなる前に、既成事実でも作っておけばよかったのかな?)
よく美穂に言われたが、既成事実さえ作ってしまえば黒田君の性格からして絶対に責任を取るのだそうだ。
私はその時そこまでしなくてもと思ったけど、今になってはそうすべきだったんじゃないかと思っている。
(はぁ、私の意気地なし)
でも、まだわずかだが時間は残っている。
(次に、黒田君に会ったら絶対に伝えるんだ。この想いを)
そう、心ん中で意気込んだ。
「・・・彩、前!前!」
「え?」
ふと顔を上げると目の前に階級章とウイングマークを持った教官が立っていた。
「し、失礼しました!」
「はぁ。最後まで手間をかけさせてくれる。とは言ったが、せっかくの門出だ。大目に見といてやる」
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、お前たちにこんな小言を言えるのもこれが最後だろうしな」
そう言って、私の胸にウイングマークを付ける。
「以上、任官式を終了。これをもって第207衛士訓練部隊を解散とする」
「敬礼!」
美穂の合図で私たちは教官へ、壇上に居る基地司令へ敬礼をする。
「敬礼止め」
「さて、ここで本来は終了なのですが、今回はとあるお方が少尉たちとお話をしたいとのことでここにお越しいただいております」
(え?)
「それでは少佐、お願いします」
そう言って、教官が下がるのと同時に現れた人物に私たちは驚いた。
「よう」
そこには、もう会えないだろうと思っていた黒田本人が斯衛の制服で立っていたのだ。
「あ、明仁!?」
「黒田!?」
「あ、あの少尉殿?良知り合いであろうと相手は斯衛の少佐ですので、お言葉づかいはしっかりとした方がよろしいのではないかと」
「いや、別に良いよ軍曹。同じ釜の飯食った仲間なんだ。敬語なんていらないさ」
そういうと、黒田君は壇上から私たちの傍までやってきた。
(嘘・・・)
目の前に居る人は、まぎれもなく黒田明仁本人だった。
「久しぶりっていうのもあれだな。元気だったか?」
「おう!元気だぜ!・・・でも、俺と美穂はもう衛士になれなくなっちまったよ」
「うん。神経が酷く傷ついちゃって、生体義肢に繋ごうにもうまくできないんだって」
「そうか・・・すまんな。守れなくて」
「いや、これは俺たちが弱かったからだ。別に明仁のせいじゃないよ。それより、明仁も意識不明の重体になったんだって?そっちこそ平気なのかよ」
「一昨日意識が戻ったよ。2週間は安静にしてろだってさぁ」
「じゃぁこんなところにくんなよ馬鹿!ったく、相変わらずだよ明仁は。自分の事考えやがれ」
「本当に。これで大尉とか聞いてあきれるわよ。そんなんで部下が付いてくるの?」
「あぁ~、俺今少佐ね。まだ階級章貰ってないけど」
「「余計あきれるわ!(ぜ!)」」
黒田君は同時に突っ込みをされていた。
「ふぇぇ・・・うぅぅ・・・」
「おいおい、泣かないでくれよ彩」
「だって、だって黒田君が心配で!ッヒク、無事だって分かって・・・グズ」
溢れ出た涙は止まることなく、黒田君の目の前だというのに私は泣き崩れていた。
止めようとしても止まらなくて、手で押さえても溢れ出てくる。
「たく、少尉になったのに泣き虫か?先が思いやられるな?少尉殿?」
そう言って、黒田君は私の頭をそっと撫でてくれた。
「はぁ~。まぁ、卒業おめでとうな」
「うん・・・」
ささやかな式は、そうして幕を閉じて行った。

それから、1年と約5カ月が経過した。
彩は、ときどきだが手紙を送ってきた。
ドーバー基地に配属となったらしく、周囲の風景写真や新型機で彩の乗機であるEF-2000タイフーンの写真などが送られた。(というか、それは軍事機密じゃないのか?)
翔太と美穂も今度は整備士としての技能を身につけるべく新たに道を歩き出した。
俺はと言うと、香月博士からの要望で150億個の半導体を手のひらサイズにするというものの手伝いをしたり私用部隊でもあるA-10の教導などをしていた。
デスクワークも多くなり、とくに博士が無理難題を押し付けるせいで腰が痛くなるほどだった。
まぁ、何とか半導体の件に関しては45cm四方にまで小型化することに成功したが・・・これは香月博士への切り札になるので公開ははしていない。
これは一種の賭けなのだ。
元の世界で博士は1人の少年、白銀武という少年と出会い、第4計画を成功させたと言っていた。
白銀武は、のちに語られる桜花の英雄で、因果粒子理論を証明した因果導体であったそうだ。
その彼がこの世界に確実に現れるとは限らない。
ならば、彼が現れなければこの先に待っているのは第4計画失敗と第5計画の実行だ。
それだけは何としても防がなければならない。
そのため、俺の理論を博士に教えていないのだ。
それを隠すだけでも大変なのだが、他にも未来情報を細かく文面化して教えたり、帝国での電磁投射砲の開発に関わることとなり、多忙というよりは地獄の日々を送っていた。

2001年2月5日
帝都
黒田家接客室

<明仁>
俺は、接客室で1人の客人を待っていた。
「お久しぶりです、巌谷中佐」
「おいおい、私用のときはおじさんって呼んでもいいって言っただろう?」
「はは。そうでしたね、おじさん」
接客室へやってきたのは、技術廠・第壱開発局副部長である巌谷榮二中佐だ。
「それでいい。さて、早速だがあの話の返事を聞かせてくれないか?」
「XFJ計画でしたっけ。不知火の強化プラン。その協力と警備としてアラスカに向かうこと、ですよね?」
「あぁ。それに、欧州から送られてきた戦術機の運用試験小隊としてもな」
「・・・多いですね。今抱えているものだけでも手一杯だというのに」
今現在A-01部隊の共同は終了したからしてはいないが、博士からの注文にこたえなければならないし、帝国からの要望である電磁投射砲の開発協力も行っている。
猫の手も借りたいとはこのことだというほどに忙しい。
「まぁ、そう悪い話ではないだろう?新型の戦術機を好きにいじることが出来る。運用試験とは言ったが、もうあの機体は明仁君にあげたものだ。あの、黒い機体のようにしてもいいんだが?」
「あぁ、漆風のことですか?」
漆風は、YF-23SBJストライクブラックウィドゥの正式呼称のことだ。
これを考えたのが俺の親父なのだから少々腹が立つ。
「あぁ。君の技量があれば欧州の新型もさらなる強化が見込めるんじゃないのか?」
「・・・そして、そのデータを帝国と欧州で利用すると?」
確かに魅力的な話だが、魅力的だからこそ裏に何かがあるはずだ。
「まぁ、そんなところだな。君を道具としてみているわけではない。純粋に、明仁君が持っている技術に興味があるからだ。欧州へ渡すデータは運用関連だけで君の持つ技術に関しては一切知らせることは無いと約束しよう」
「・・・はぁ、おじさんがそこまで言うのでしたらその話、お受けしましょう」
「そうか!いや、助かる。実は、XFJ計画に唯衣が関わることになっていてな。君と唯衣はそれなりに親しいし、これほどの適任者はいないと私は思っている」
「でも、それなら俺よりも鈴乃を向かわせるべきなのでは?」
「私は、運用試験『小隊』と言ったんだぞ?小隊に鈴乃ちゃんが入ることは必然だろう?」
確かに、俺と小隊を組める人間は限られているし、今手が空いているとすれば鈴乃くらいだろう。
「他の人選は君に任せる。メカニックの方も君が信頼できる人物を選んでくれ。国内外は問わない」
「分かりました」
「さて、話は以上だ。付き合わせてしまって悪いね」
「いえ。おじさんの頼みごとを断るようなことはそうそうないですよ」
「そうかそうか。唯衣がアラスカへ立つのは準備期間などを含めて5月ごろになるだろう。明仁君は先に、そうだな、4月ごろには向こうへ行って欲しい。その間に人選などをすましておいてくれ」
「了解です、中佐殿」
「頑張ってくれよ?」
「最低限の事はしてみせますよ」

こうして、俺のアラスカ行きが決まった。



あとがき
どうも。
詰めに詰めました。
結構淡々と話が続いてますし、構成上一番会話の多い話となっています。
完全に作者の技量不足です。
ちなみに、作者は今現在「早くTE編書きてぇんだゴラァ」という状態で、「なんでこんな長いプロローグ考えたんだ?」と今更に後悔をしています。ハイ。
「1話とか書いてたけど、これ11話までプロローグなんだぜ」とか最初はかっこつけてました。ハイ。
一応これで1999年編は終了となります。
機体名は脳内判定で漆風(しっぷう)となりました。
サンテラボルゾンさん、ありがとうございます。
小隊名はTE編内とあとがきにて発表となります。

次回予告?みたいなもの
2001年4月某日、黒田率いる運用試験小隊とその一行はアラスカの地へと舞い降りた。
そして、いきなり対AH戦を行うことに。
アラスカの台地での黒田たちの戦いが始まった。
・・・予告無駄にかっこつけてます。



[16077] 設定(1999年時)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:97b06adb
Date: 2011/03/17 08:27
一応簡単なものなので、こんな感じなんだってくらいに思っていただければ。

キャラクター

メイン

名前 黒田明仁(19)
階級 大尉
所属 帝国斯衛軍第12戦術機甲大隊

本作主人公。
位は白。
2005年フロリダの技術基地にてテロに会い、何故か気がついたら1999年8月6日明星作戦の真っ只中に飛ばされていた。(と、よくある設定)
気さくで任務以外ではかなりラフ、階級が下の者とでも気軽に会話をよくしている。
戦術機の操縦技量は高く、特に高機動近接戦闘や変則機動での射撃を得意とするオールマイティなタイプ。
本人は接近戦を好む。
技官も勤めていて本人が乗る機体はいつも自分でいじくっている。
また、父親が有名人でその息子ということと、その他大勢の人物とかかわりを持つために有名人である。
また、本人も周囲に「戦術機に愛されている男」とか呼ばれている。
人望もあって周囲の人たちに慕われている。
それと何故かいつも周囲に女性がいる。
決してたらし出はない。
ちなみに鈍感である・・・主人公のステータスですね。
身長179cm体重69kg髪型は若干ユウヤ似だが、していえば癖っ毛である。

名前 レミリー・テルミドール(17)
階級 中尉
所属 国連軍極東方面派遣部隊

本作ヒロインその1で決してメインヒロインではない。
2005年の時より明仁のそばにいる少女。
過去の計画で生み出されたらしく、その後は米国のとある施設にいた。
外見も中身も幼いが、状況判断能力や戦術機の操縦技術は高く、特に後方支援などで力を発揮する。
いつも明仁のそばにいることから好意があると思われるが詳細は不明。
むしろ明仁のロリコン疑惑のほうが大きい。
身長152cm体重44kg上から76、54、80で髪型は第3期のフェ○ト・T・ハラオウンで銀髪。

名前 白河鈴乃(17)
階級 中尉
所属 帝国斯衛軍第12戦術機甲大隊

本作ヒロインその2でこれまたメインヒロインではない。(そもそもメインがいない)
斯衛所属で位は黄色。
白河家次期当主であり一人娘。
明仁とは一応親戚的関係。
実は明仁とは許婚関係である。(政略的ではなく、実際惚の字だ)
接近戦を得意とし、抜刀からの切り込みは明仁よりも早く、独自の技術を持っている。
黒田のことを公の場であればお兄様か明仁様、酒が入ったり混乱したりするとお兄ちゃんとか言い出す。
実は若干の天然。
身長158cm体重47kg上から82、59、81髪型は黒でロング。しいて言えば兼本灯理(わかるかなぁ?)。

名前 一之瀬彩(18)
階級 訓練兵
所属 帝国軍仙台基地第207衛士訓練学校

本作ヒロインその3でメインヒロインじゃない。(またか)
いまだ訓練兵だが狙撃のセンスは高い。
だが、操縦技術は若干劣る。
接近戦も悪くはないが、本人曰く「(重量が)軽い」だそうだ。
実はそれなりに高貴な家庭のお嬢様でもある。
明仁に好意を持っているが、ライバルは多く、また相手との階級の壁などがあり、表に出せていない。(と、本人が思っているだけで丸分かりである)
身長163cm体重52kg上から86、60、83髪型はまた黒で腰まで伸ばしている。ウーノっぽいです。でも伸びるとシギュンっぽくなります。

サブ

名前 神野美穂(18)
階級 訓練兵
所属 帝国軍仙台基地第207衛士訓練学校

彩の同期で親友。
いろいろと悩みの相談を受けている姉御タイプな人物。
戦術機の腕もよく、分隊長を務める。
実は好きな異性がいるらしいが誰なのかは分からない。
身長165cm体重53kg上から82、54、83髪型はショートで茶色。

名前 板井翔太(18)
階級 訓練兵
所属 帝国軍仙台基地第207衛士訓練学校

彩たちの同期。
本当は男もそこそこいたのだが皆戦術機適正で落ちたので肩身の狭い思いを若干していた。
実は美穂のことが気になっている。
転入してきた明仁のことを気に入っている。
身長176cm体重65kg髪型は某魔を絶つ剣の名を持つ巨大ロボットが出てくるやつの戦闘執事さん。色は黒で。

名前 黒田徳人(49)
階級 少将
所属 帝国斯衛軍第12戦術機甲大隊

明仁の父親。
少将であるが事情があり帝国斯衛軍第12戦術機甲大隊の指揮官をやっている。
親馬鹿ならぬ鈴乃馬鹿で、自分の子供よりも鈴乃を溺愛している。
だが、実は斯衛ではかなりの有名人。
・・・馬鹿が無ければ本当に有能な人物。
身長175cm体重73kg髪型はリーゼントっぽい感じ。白髪混じりの黒?

名前 白河雅人(49)
階級 少将
所属 帝国斯衛軍(斯衛の中の詳しい役職が分からないので省略)

鈴乃の父。
徳人とは訓練学校時代からの友人で実は家が隣。
昔から徳人に振り回されてばかりの苦労人。
黒田家では唯一一般人である明人に何回励まされたことか・・・
本当に気苦労の絶えない人である。
身長180cm体重78kg髪型はオールバックっぽい感じでほぼ白髪。(理由は徳人)

戦術機

名前 仮名YF-23SBストライクブラックウィドウ

新技術実証試験機であり1999年現在フェイズ1である。
第4,5世代戦術機となっている。(機体性能自体は第4,5世代だが搭載している電子機器と主機は第5~6世代にまで及ぶと開発時点で言われていた)
近接戦闘能力強化のために機体間接部分を日本の不知火、武御雷の技術を使用し解決。
徹底的に強化されたことと2005年時に開発がすすめられたナノテクノロジーを取り込んだ自己修復型金属をいうものを使用しているため通常の戦術機の2分の1の整備数で済む。(決して受けた傷が治るというものではなく、金属への負担が減るという意味である)
射撃能力も小型センサーポッドを機体各所に装備し、不安定姿勢時での精度や高速機動時における精度など向上した。
また若干の設計変更でステルス性能も向上させてある。
機体各所に小型スラスターモジュールを装備し、これまでの戦術機とは違った機動性をもっている。(このスラスターモジュールは跳躍ユニットとは別の制御となっている)
これらのことがあり、1機あたりの生産コストと整備性の悪さは武御雷以上に悪く、製造金額においてはラプターの数十倍におよび、維持に10倍から15倍ともいわれる。
主機には超小型核反応炉を搭載しているため、実戦では被弾=核爆発という疑念があるが、実際は大破またはそれに順ずる被害を受けた場合に核分裂を停止させ、反応炉を完全凍結。機能を完全に失うため核爆発は起きない。
機能停止となるとその代わりとして、機体に装備された補助バッテリーが起動する。
補助バッテリーは主機によって生まれた余剰電力を蓄えているため主機が停止しても通常戦術機と同じくらい動くことができる。(補助バッテリーの容量は通常戦術機(例として不知火)と同じくらいである)
また、そのために機体の大型化、使用兵装の量などと大幅に変わっている。
機体の大型化したため、その余剰スペースを生かして副座型になり、ナビゲーター及び副操縦士が乗る。(だが、別に1人でも十分に運用できる。とある計画のために副座型になっているだけ)
新型跳躍ユニットについては下記参照。
機体の機動性は新型跳躍ユニットとXM3と新型CPUを改良したM5システム、新型アビオニクスを搭載しているため柔軟で俊敏な機動が可能である。
逆に言えばこれらの装備が無ければこの機体の機動性は実現しないとも言える。
副座の前部シートには明仁以外使えないよう生体認証システムを採用している。
これは前部シートのみなので後部シートには採用されていない。
ちなみに後から登録することも出来る。(血縁関係者か明仁の家族になるもののみ)
後のフェイズ2ではMSIP強化モジュールの搭載や脚部大型化などをする予定であったが、テロに会い、過去の世界に飛ばされてしまったため延期となっている。(というかアラスカに幾でもしない限りは出来ない)
余談であるが、この機体はYF-23PAV-2を元にしておりPAV-1は補修用パーツとして分解されている。また、姉妹機としてYF-23NSBという空母運用を考えた機体も計画されていた。発案者は無論黒田である。(運用理念としては空母運用だが太平洋を単機で横断できる能力を持つ。本作で勝手にウィルたちを救ってみたに出てきたのはこのYF-23NSBである)

名前 A-10サンダーボルトⅡ

最新型であるC型を改良したもので、D型があるのならこれは・・・まぁE型ともいえる。
実際米国から送られてきたのは欠陥機だったのだが、明仁とミリィ、そして基地の整備班が奮闘したため完成した。
M5システムを搭載し強化型レーダーを搭載しているため索敵範囲が広がっている。
また、跳躍ユニットの主機改良やさまざまな改良を施している。
欠点として跳躍ユニットの燃費が非常に悪く、連続噴射などが出来ない。
ついでに言えば主機の出力は上がっているが速度は撃震に劣る。
1999年の時点でhミリィが乗っているが、すぐに米国に返却することになっている。

兵装関連

M5システム
戦術機の総合統括システムというべきもの。
XM3を元に明仁の手によって製作された。
即応性4割増しに最大40以上の同時目標(有人機に対してのみで、BETAにたいしては2倍)の索敵、追尾、攻撃を可能としている。
簡単にいえばイージスシステムに近い能力を持つ。
また、強化装備のフィードバックシステムを利用して、衛士にもっとも最適と思われる調整を自動で行うようになっている。
簡単に言えば近接戦闘を頻繁に使うのであればそれをM5システムが学習し、衛士の動きを阻害することなく負荷を軽減するための制御をするというもの。
そのデータは強化装備に蓄積される。
また、衛士の癖なども細かく再現出来るため、このシステムを搭載している戦術機であれば(同じ世代機で同じ趣向で作られたのであれば)違和感無く操縦できる。
だが、試作の域を出ていないため管理のために明仁の生体認証システムを採用している。

試06型跳躍ユニット
ターボラムジェットエンジンを採用した電力式跳躍ユニット。
圧縮機で大気を圧縮し、核反応炉で熱膨張させた大気を噴流、圧縮した大気に吹きかけ推進するというもの。
初動にはターボジェットエンジンを使用し、既定速度に達すると核反応からの膨大な電力で高熱を生み出し、取り込んだ大気を熱膨張させることによって推進する。
一定の速度に達すると圧縮機が作動し、ラム圧によって圧縮された大気をバイパスし、熱膨張で噴流した大気を吹きかけ熱膨張を起こし、その反動でさらに加速するというもの。
本来ターボラムジェットエンジンは最低でもマッハ0,5でないと始動することが無く、もっともラム圧の効率がいいのがマッハ3から5であるが、圧縮機を使用することで低速時でのラムジェットエンジンの始動を可能とした。
また、初動こそターボジェットエンジンを使用しているが、これは戦闘機動や瞬間的に機動をする場合においてのことであり、始動自体はターボジェットエンジンを使用しなくとも出来る。
一度始動してしまえば跳躍ユニットを停止しない限りは基本的に止まることは無いためい、ターボジェットエンジンを使用することは無い。(非常時にのみ使用することがある)
これらのことから起動し続ける限り半永久的に動き続けることが出来る。
問題点として、整備性の悪さと構造の複雑さで1つあたりの生産額と維持費が膨大なものとなっている。(元々は量産するものではなく、あくまで実験的なものであり量産する場合は通常の跳躍ユニットと同様推進剤を使用するものとなる)
利点として、加速能力は格段に良いが機体制御が極端に難しくなるためまっすぐに飛ぶ以外ではあまり使用できないものである。
また、高速巡航時の静穏能力などがあり、元々がステルス機であるYF-23SBとの相性はいい。
1999年の時点ではまだ試作であるために100%の出力を出すことが出来ず、出せて時速1300kmが限度である。
完成すれば時速1300km以上まで出せる。(保護機能を解除すればそれ以上の速度を出せる)
形状としては元であるYF-23のものと殆ど変わりないが、若干の設計変更がなされている。
ちなみにこの跳躍ユニットにはハイパーカーボーン製のブレードが装備されている。(Su-37のものと同じ)
初動にターボジェットエンジンを使用しているが、使用しなくとも始動する事は可能なので原則的には『推進剤を使用しない』跳躍ユニットとなっている。

試06型電磁投射砲
99型の技術を応用した36mmタイプの電磁投射砲。
電力を核反応炉から供給されるために砲自体の小型化、また36mm砲弾を採用しているために砲身耐久性の欠点もクリアしている。
連射速度も若干抑え目で毎分1200発となっている。
その代わり、威力や貫通力が足りない。
また、小型化するために弾倉を採用しているため、装弾数の少なさなどのデメリットもある。
こちらも試作であるため、完成はしていない。
完成すれば装弾数3万発、毎分1500発となる予定である。(若干の大型化となる)



[16077] 第12話(TE編)(1)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:692cc713
Date: 2011/07/13 02:25
2001年4月25日
アメリカ合衆国・アラスカ州
国連太平洋方面第3軍・ユーコン陸軍基地周辺上空



『まもなく、当機はアラスカ州ユーコン基地に到着します。お客様は座席に着き、シートベルトを締めてお待ちください』

機体が細かく揺れ、窓の外を雲が覆い尽くしていく。
そして、雲が晴れると同時に見える広大な大地とそこに佇む巨大な基地。
国連軍アラスカ州ユーコン陸軍基地。
そこは、世界各国から選りすぐりの衛士と戦術機開発者たちが集う戦術機開発の最前線とも言える場所だ。
ここで完成された戦術機は各国の戦場へ配備され、この星を守っているのだ。

「戦術機開発の最前線、か」

黒田は窓の外の景色を眺めつつ、今回の任務を思い浮かべていた。

(XFJ計画への協力とその警護、運用小隊としての改修機試験か)

XFJ計画への協力は無論断るつもりはなかった。
漆風をフェイズ2へ移行させるにはどうしてもMSIP強化モジュールが必要だ。
それに、帝国よりもデータを取る環境はユーコン基地の方が適している。
実験機等が集まる場所ということもあり漆風が目立ち過ぎることもないだろう。
問題は警護と欧州の改修戦術機だ。

(警護と言っても小隊で小隊を守るってのもなぁ)

巌谷のおじさんが言うに今回の計画について国外の対応に疑問を感じているらしい。
特にソ連の動きが妙だと言うのだ。
その為、技術防衛と人物警護を含めてXFJ計画のチームを守ってほしいとのことだった。
無論4人で全て守りきれるわけじゃない。
整備やデータ関連は整備班に一任することにしている。
俺を含めた小隊は主に現場でのXFJ計画の運用小隊を守ることにある。
そしてその警備に使ってくれと言われたのが。

(ラファールとタイフーンか)

欧州を代表する第3世代の戦術機。
同じECTSF計画から分かれて生まれた戦術機で同形状の機体。
改修するにあたっても設計上の共通点が多いため楽だった。
操作性や特性も日本機に近いものがあり習熟に関してもすぐに終えた。
しかし、この機体を扱ううえでとある問題が付いてくる。
整備だ。
ただでさえ日本人が殆ど触れたことのない欧州機に加え、黒田の改修のため中身は別物となっている。
さらに機体は受理したものの補修や修理用のパーツが不十分なのだ。
警備や運用小隊ともなればそれなりにパーツは消耗するし戦闘になれば破損することもあるだろう。
その為負担をかけない操縦を常に心掛けないといけないのだ。
M5システム改のおかげでパーツの消耗はかなり減っているのだがやはり定期的に交換しなければならないパーツはいくらでもある。

(ユーコン基地内に同じ機体使ってる部隊は今のところいないしな。しばらくは動けないわけだ)

ダッスオー社は5月までには必ずパーツを送ると言っているし、それまでは漆風の改修をしていればいいのだから問題ないだろうが。
(なんか、いやな気がするんだよな)
何故だか寒気がするのだ。
こう首筋にタラーっと。

「「・・・じゅりゅりゅ」」

「そうそうじゅりゅりゅって、ほんとに濡れてる!?」

「黒田さ~ん、もう食べられないですぅ~」

「お、おにいさまぁ~。こんなところでだいたんな・・・・・にゃ、にゃぁ~」

俺の両脇で慣れない飛行機での移動で疲れていたのかミリィと鈴乃が俺の肩を枕にして寝ていた。
どうやら涎を垂らして完全熟睡しているようだ。
それにしても、
(どんな夢を見ているんだ二人とも。俺が出ているようだが)
ミリィは何かを食べているようだが・・・鈴乃はなんだ?
何がこんな所で大胆なんだ?
にゃぁってなんで猫語になってるんだ?
まぁそのことは置いておこう。
とりあえずまた一つ問題が起きた。

「・・・・・・制服どうしようか」

着陸態勢に入った輸送機の中、幸せそうに眠る少女二人と涎で首辺りと片が濡れた制服を着た青年のため息だけが存在していた。



「そうか、日本から小隊が。分かった。データを送ってくれ」

男のPCにデータ送信が行われる。
そして、完了と同時にデータが開いた。

「ほう、これは・・・」

そこに映っていたのは1体の戦術機と1組の男女の姿だった。
男は1人の少女に目を向けた。

「そうか。あれは、今は日本にいるのか」

男はふっ、と小さく笑っていた。



「はぁ」

俺は就任早々ため息をついていた。

「どうしたのですか?お兄・・・黒田少佐」

「いや、まぁ、いきなり無理言われてな。ちょっとまいってさ」

「無理、ですか?」

「あぁ、いきなり模擬戦闘訓練しろ、だってさ」

「それは・・・確かに」

就任直後にクラウス大佐から言い渡された日本からの伝令。

『就任後ソ連との共同模擬戦闘訓練を行え』

何の意図があるか分からないが命令である以上行わなければならない。
それに、俺としてもここにいる衛士たちの実力を知りたいとも思う。
どの道いつかは何かしらの条件で戦うこともあるのだろう。
それが早いか遅いかの違いだけで、ソ連がたまたま早かっただけの事だ。

「ソ連の小隊は小隊と言っても現状1機しか稼働してないようだから、俺が出ることにする。俺たちの任務の特性上俺が行くのが妥当だと思うしな。それにこの模擬戦は公式ではなく非公式で俺たちは部隊名と所属は伏せて行うらしい。俺がいない間部隊の指揮は任せた。それと、整備班に俺のラファールを接近戦装備への切り替えとBWS-3を用意させておいてくれ」

「了解」

(さてさて、どうなることやら)

俺は強化装備に着替えるためロッカールームへと向かった。



「本日のプログラムを少し変更します。これから貴方達には模擬戦闘訓練を行ってもらいます」

一つのミーティングルームに3人の姿があった。
一人は中尉の階級章を付け、残りの二人は少尉の階級章を付けている。

「相手はとある試験小隊。とある都合により部隊名と所属国は伏せることになっている。最低限使用する機体情報だけは貰ったので後で見ておいてほしい。なお、この模擬戦は非公式ではあるが戦闘記録は保存され、一般公開されることになる。祖国に恥じない働きに期待するよ同士」

「「はっ」」

中尉はミーティングルームを退室し、少尉2名のみがその場に残る。

「こんどのひとはどれくらいがんばるのかな?」

「さぁ、知らない。それよりもさっさと倒してしまいましょう。私たちが一緒にい
るためにも」

二人は顔を合わせて笑い合った。



「通信?誰から?」

『それが、横浜の・・・』

「あぁぁぁぁぁぁぁ、分かった。繋いでくれ」

俺は鈴乃からの通信を受け、ミーティングルーム

(一体博士は何の用なんだ?機体関連ってわけじゃないだろうし)

未来情報も言えないこと以外は全部教えたはずだ。
だとしたらどんな用だ?
特に問題を起こしたわけじゃない。
むしろここには来たばかりだ。
訳が分からない、さすが天才というところなのか?

『通信繋ぎます』

「おう・・・通信変わりました、黒田です」

『はぁ~い、久しぶりね』

香月夕呼。
天才的な物理学者で国連軍横浜基地の副司令でもある。
そして、オルタネイティヴ第4計画最高責任者だ。
博士には俺とミリィを助けてもらったり機体のパーツ入手のための交渉を手伝ってもらったりと恩が多くある。

(まさか今になって無理難題言われるんじゃないだろうな?)

「いきなりどうしたんですか?今は特に急ぐことは何もなかったはずですが」

『あぁ、ちょっとね。そっちの・・・ユーコン基地だっけ?ちょっと気になる人物
がいてね』

「気になる人物ですか?」

天才が気になる人物・・・・・・政治関連かそれとも学者か?

「一体誰なんですか?」

『名前はクリスカ・ビャーチェノワとイーニァ・シェスチナよ。両名とも少尉。ソ連軍の試験小隊であるイーダル小隊所属』

驚いたことに博士が答えた人物は俺がこれから模擬戦を行う相手の少尉だった。
しかし、この二人に特殊な能力などは無かったと思ったが。

「え、衛士ですか?しかし、一介の少尉に何故博士が?」

『貴方、霞は知ってるわよね?』

「はい」

社霞。
オルタネイティヴ第3計画によって生まれた人工ESP発現体だと言っていた。
ミリィによく似ているとずっと思っていたがミリィも同じ計画で生まれたのだと言われた時は驚いたものだ。
しかし、彼女が一体どう関係しているんだ?
同じロシア人だからか?

『霞の本当の名前。覚えてる?』

「えっと確かトリースタ・シェスチナ・・・え?」

シェスチナって。

『そう、イーニァって子は第6世代の意を持つ名を持っている。そして、クリスカって子は第5世代の意を持つビャーチェノワの名を持っている。この意味が分かる?』

「ソ連の部隊は・・・人工ESP発現体を衛士として扱い、何かを行っていると。でも、それはたまたまなのでは?第3計画で生まれた子達は全部が全部作戦に投入されたわけでもなく、計画が放棄されてからだいぶ時間がたちます。行き場が無いため衛士として活用しているか、偶然ということも考えられるのでは?」

『それも考えたわ。でも、念には念をしたほうがいいと思わない?それに、リーディング能力で貴方の頭の中をのぞかれても困るわ。用意したあれは常に付けてるわよね?』

「バッフワイト素子ですか?常に持ち歩いていますが」

日本を出る前に博士に渡されたもので、なんでも特定の何かを放出しているらしくこれがあれはリーディングされることはないそうだ。

『貴方がそっちにいる以上それは絶対に離さないで頂戴。何なら身体に張り付けてでもいいわ』

「いや、さすがにそれは・・・・・・とりあえず肌身離さず持ち歩きますよ」

『そうして頂戴。話は以上よ。それじゃぁね』

そう言って一方的に通信が切れた。
というか、鈴乃からの通信も切られてしまったようだ。

「後で鈴乃に謝るとして、なるほどね」

確かに話を聞けば重要なことだった。
場合によっては重要機密が漏れてしまうと言う可能性も考えられる。

(まぁこれは予想しようにもできないことだし、博士が早く気付いてくれて助かったというわけか。とりあえずあの2人を少し注意しておくか)

注意するとは言ってもこれからその2人と戦うわけだが。

「っと、そろそろ時間だな。急がなくちゃ」

俺は急いでロッカールームを出た。



「なぁ、なんかあっちの方のハンガー忙しそうじゃねぇか?」

「そうだな、突撃砲なんかを準備してるあたりこれから訓練でもするんじゃないか?」

黒田たちのハンガーから離れたところで2組の男女がその光景を眺めていた。
片方は褐色肌の小柄な少女。
もう片方は白色の男性だ。
どちらも少尉の階級章を付けている。

「でも、あのハンガーさっき搬入してたばかりじゃん。急すぎない?」

「気になるか?」

「あぁ?まぁ、少しな」

「おしおし、そんなこともあろうかとこんなものを用意してみた!」

と、男が取り出したのはちょっと大きな通信・・・

「って、それ盗聴用の通信機じゃん!?」

「紳士たるもの常に身につけてるのさ!」

それは紳士とは言わない。

「あんたの場合盗聴がしたいだけだろが変態」

「まぁまぁ・・・お、聞こえてきたぞ」

雑音が混じる中、次第に人の声が聞こえてきた。

『班長!機体のチェック終了しました!』

『よし!使用装備は模擬の1番、2番、6番だ!ラファール用だぞ!タイフーンと
間違えるな!』

『機体の運搬はどうしますんで!』

『第2演習場ってのがすぐそばらしい。主脚走行で行くとのお達しだ!』

『了解!』

「なんか、すっげぇ切羽詰まってる感じだな」

「あぁ、というか第2演習場使うって言ってたな」

「それが・・・まさか覗く気じゃないだろな?」

「馬鹿野郎!今覗かず何時覗くんだ!」

「はぁ、分かったよ。アタシも気になるし。いいぜ。付き合うよ」

2人はにやりと笑い、その場を後にした。


あとがき?
こんばんわ
すごく眠いです
これ書いてるときもう眠気に半分以上負けてます
主がもう眠気に負けそうなのであとがきはこれにて、
次回後篇です
ようやく戦闘だ・・・



[16077] 第12話(TE編)(2)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:692cc713
Date: 2011/08/16 03:37
「うぃっす」

「おう、明仁。調子はどうだ?」

明仁はハンガーで機体の最終チェックをしていた整備士に声をかけた。

「まぁまぁだな。初めての土地ってこともあるし少し緊張してるよ」

「何言ってんだよ。栄えある斯衛の黒田少佐様は」

「いや、今のとこ階級の公開はしてないから、いうなればそうだな・・・・・・名もなき衛士ってとこだな」

「なんだよそれ」

明仁に気さくに声をかける整備士。
板井翔太は俺の信頼できる友人の一人だ。
諸事情でだが共に訓練生として同じ釜の飯を食った仲でもある。

「しっかし、俺みたいな新任の整備士を招集するなんてお前も何考えてんだか。まだ初めて1年だぜ?俺」

「馬鹿言え。日本機に慣れた熟練よりも新任の方がいいんだよ。それにお前欧州への研修経験あるだろうが。経験があるのと無いのとじゃ大きく違うだろ」

「さすが、技術少佐は云うことが違うねぇ~」

明仁の部隊の機体は漆風を抜いて全てが欧州機だ。
日本が今まで触れたことのない機体に日本機に慣れ親しんだ整備士を連れてくるのは酷な話だ。
だから整備班にはノースロック社の整備士と若手の信頼できる整備士だけを選んだ。
板井もそのうちの一人だ。

「それに、あれもいじれるんだからうれしいだろ?」

明仁はハンガー最奥に立つ機体を指差した。
YF-23SB、和名は漆風。
世界一高価な鉄屑が生まれ変わった姿だ。
今、漆風はオーバーホールを行っている。
外装を剥がされ、ちょうど背部の稼働担架接続部分から06式電磁投射砲を外している。
これから漆風はフェイズ2へと移行するための準備を始める。
そのため機体の細かな個所の改良と拡張を行うためのだ。

「ステルス機を整備できるっていうだけでも俺からすれば夢のような話なのに核反応炉やら電磁投射砲やら新概念やらで頭がついていけねぇよ」

「だが、遣り甲斐あるだろ?」

「馬鹿野郎、こんな機会に恵まれて、遣り甲斐を感じないなんてことはぜってぇねぇよ」

翔太は頭を下げ、衛士としては使い物にならなくなった自身の足を見つめていた。

「黒田さぁん!そろそろ時間じゃありませんかい?」

ラファールの準備をしていた整備班長が自身の腕時計を指差しながら声をあげていた。

「やべ!」

「さっさと行って来い!」

「おう!」

翔太と腕を交わして、俺は急いで乗機であるラファールの元へと向かった。



「ラファール・・・欧州の機体か」

サンダークから渡されたデータをクリスカはコックピット内で眺めていた。
スペックは自機のSu-37UB(チェルミナートル)より少し上。
固定武装を持っているところを見て自機と同じく接近戦を主体とする機体のようだ。
だが、そんなことはどうということはない。
機体性能が優劣を決めるわけではないのだから。

「クリスカ、あいてはつよいの?」

「そんなことないよ。私たちが負けるはずなんかない」

「うん!わたしたちとこのこはつよいんだよね!まけないよね!」

クリスカはイーニァの言葉に微笑んで返した。
無論負けるつもりなどない。

(相手が誰であろうと関係ない、戦闘になってあの『色』を見せたなら確実に倒す)

『CPよりイーダル1へ。間もなく対戦機が到着する。イーダル1は開始までその場で待機せよ』

「イーダル1了解。待機します」

CPとの通信が途切れ、クリスカは目を閉じた。

(大丈夫だ、なんてことない、いつも通り戦闘を終わらせるだけ)

通信が終わって数秒後、レーダーが1つの機影を察知した。

(きたか)

『CPよりイーダル1へ。対戦機が到着した。目視にて確認せよ』

「イーダル1了解。目視に機体を確認します」

クリスカは接近してくる機体へとカメラを向けた。
網膜投影には接近してくる黒い機体がくっきりと映っていた。

(なるほど、黒い死神と言うところか)

ラファールは周辺国などからその攻撃的なフォルムや使用する武器から死神とよばれることがある。
なら、目の前に降り立ったこの漆黒の機体はさしずめ黒い死神と言うところだろう。

(しかし死神にしては獲物が鎌より凶悪のようだがな)

ラファールの全長程かそれ以上もある大型の長刀。
何のための装備なのか分からないがその存在がラファールをより攻撃的な機体へと印象付けている。

『CPより対戦機へ。こちらは貴官を何と呼べばいい?』

『対戦機よりCPへ。そうだな、ボギー1とでも名乗っておこうか』

『CP了解。以降対戦終了まで貴官のコールサインをボギー1とする。イーダル1、問題ないな?』

「イーダル1問題ありません」

『よし、各機事前に指定してある位置へと移動。指示あるまで現状待機だ』

「了解」

『了解』

私は、指定されているスタート位置へと機体を走らせる。
しばらく走らせているとラファールのレーダーアイコンが消えていることに気付いた。

「消えた、だと?」

「クリスカ、あそこ。あそこにいるよ」

イーニァが指差す方向にカメラを向けるとそこにはスタート位置に立つ漆黒の機体が映っていた。

(ステルス機能を追加しているのか)

さらにいえばほんの数秒であの位置まで到達しているのだ。
大出力の跳躍ユニットを装備しているのだろう。

(・・・面白い)

大型の長刀にステルスにあの加速性。
そして、まだまだあの機体は何かを隠し持っている。
クリスカの直感がそう告げているのだ。

(あいつは、私を楽しませてくれる)

そんな機体を胸にクリスカは操縦桿を強く握りしめた。



「あれが『紅の姉妹』か」

明仁はスタート位置から彼女たちが乗るチェルミナートルを眺めていた。

(第3計画から生まれた人工ESP発現体。ミリィの姉妹か)

博士は危険な存在と言っていたが、明仁としてはミリィを会わせてやりたい気持ちがあった。
血は繋がらなくとも同じ場所で生まれた姉妹であることには違いが無い。
せめて、見るだけでもさせてやりたい。

(でも、博士が許可しないだろうな)

あの博士の事だから許可をしてはくれないだろう。
それに、俺たちは出来るだけ目立つのは控えなければならない。
目立つことはまだまだ先に計画がされているのだから。

『両機位置は大丈夫か?これより模擬戦闘訓練を始める。各機火器管制と模擬弾の確認を行え。ここで国際問題を起こされるのはごめんだからな』

『問題ない』

「こちらもだ」

明仁が火器管制のチェックを終えた時、相手から強烈なプレッシャーのようなものが自分に向けられているのを感じていた。

(・・・こりゃ、気を抜いたら喰われるな)

『よし、それでは模擬戦を始める。スタート10秒前・・・7、6、5、4、3、2、1、始め!!』

そして、明仁と『紅の姉妹』の模擬戦が開始された。




あとがき?

コミケで熱中症手前まで行きました。
初日ドイツ現行装備で最終日陸自装備と馬鹿やったせいです。
馬鹿です・・・・・・
こんばんわ。
前回からかなり時間が空きました。
就職やらなんやらとコミケの資金集めで時間が取れなく、コミケでの待機時間でいそいそと携帯で書いてました。
おかげで電池の消耗が半端ないです。
それと今回も戦闘シーン無しです。
すいません。
そして読んだ方はお気づきでしょうが電磁投射砲が試作ではなく正式に「06式電磁投射砲」へとなっております。
ただし、ものは1つしかありませんし実戦配備はされませんが。
他にもOSが変わっていたりようやくフェイズ2になったりと漆風は進化します。
それと今回黒田が乗るラファールにもいろいろと積まれていますが、それは次回ご紹介することになるかと思います。
次回はついに模擬戦です!
書けるかな~書けるといいなぁ~と思いつつ頑張ります!

非公開で始まる明仁と「紅の姉妹」の模擬戦。
はたして明仁はどのように戦うのか?
漆黒のラファールの性能はいかに!?
次回も気長にお待ちください。

・・・今月よりとうとう本命の試験などが始まるのでさらに遅くなるかも、です。



[16077] 本編関係無しネタ ウィル達を勝手にすくってみました
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:f89a1e8b
Date: 2010/08/13 18:04
この作品は作者が電車の中で思いつき、息抜きにちょうどいいと思ってちょっと書き始め、本編のほうが少し詰まったためそのつなぎとして作った作品です。
本編と主人公の設定以外は全く無関係、しんだはずの人間が生きているなどもうめちゃくちゃですが、まぁつなぎの作品なんだということで理解していただければ幸いです。
もし、需要があれば続きを書いてみます。
では、作者のご都合主義な物語をどうぞ







2004年6月1日 JFK甲板上

リリアの乗るスーパーホーネットがカタパルトより射出された。
希望は行った。
(後は、死ぬまでコイツ等を殺すだけだ!)
甲板に這い上がってくる戦車級を薙ぎ払うように突撃砲で殺す。
ふと、カメラが沈みゆくシドニーに人影を捉えた。
小銃で最後の抵抗を試みているようだった。
そして、その中に見知った顔が混じっていた。
(メルっ!?・・・まだ生きていたのか)
だが、海には戦車級が多数存在し、このままでは艦とともに沈むか戦車級に食われるかの2択しかない。
(畜生!生きてるって、分かったのに!死んで行くのを見ているしか出来ないのか!)
甲板に巨大な影が覆った。
(要塞級っ!?クソ!こんなところで!)
JFKの原子炉は既に停止し、ファランクスは使えない。
ウィルは死を覚悟した。
その時、大気が震えるような音とともに光る何かが飛んできた。
それと同時に、要塞級の頭部が吹き飛び、要塞級はそのまま崩れ落ちた。
「な、何が起きたんだ・・・・」
カメラを光の飛んできたほうへ向けると、塩の続く彼方から黒い1つの機体がこちらへと向かって来ていた。
(俺たちは・・・・・・助かったのか?)
その日、JFKを含む多国籍艦隊はたった1機の戦術機によって絶望から希望を見出していた。

これより約1時間半前

『―――低軌道偵察衛星からの画像を解析した結果、この空母は米国所属のジョン・F・ケネディということが分かりました。動かないところからして駆動系に何らかの損傷を受けたのか、座礁したのか、どちらにせよ危険です。現状もっとも現場に近いのが少佐の部隊です。接近しているBETAの規模は約5000、旅団規模です。光線属腫の存在は確認されていません。航空支援が可能なので、ガンシップおよび輸送機を至急そちらへと向かわせています。また、米国政府からJFKにあるヨコハマ絡みの積荷を確保せよとの女要請がありました。可能であればこれも確保してください。条約破棄などをしておいて勝手なことだとは承知していますが、今は貴方方の、日本の力が必要です。どうか、宜しくお願いします』
「了解。同じ人類同士、助け合うのは道理だろう?それに、米国にも横浜にも俺には返さなきゃいけない借りがある。ちょうど良かったのさ。それに、居るんだろう?JFKに。お兄さん、生きているといいな」
『―――はい。それでは、ご武運を』
通信士の米国人国連士官の女性は、最後に微笑みを見せた。
それと同時に通信不能状態となり、彼女と通信が不可能となった。
通信画面が切れ、代わりに広域マップが表示される。
(直線距離で600km程。現在の位置からもっとも凹凸の少ないルートを選んで602kmってところか。俺は地上ルートでいくとして、他の機体はこのまま空輸で近場まで送ってもらうか)
現状、空輸されているという時点では俺たちは幸運だったのかもしれない。
光線属腫の脅威が無い以上空は我々の支配下だ。
600kmとなると通常の戦術機では相当推進剤を消費する。
だが、空輸出来るなら話は別になる。
近場まで乗せられていればいいのだからだ。
通信画面より、部隊内通信を選択する。
「ホワイトグリントリーダーよりグリンツ各機へ。予定変更だ。実はいい知らせと悪い知らせが届いた。どちらから聞きたい?」
『04より01へ。良いほうからが妥当かと』
部下の1人がそう答えた。
「よし、他の意見が無いんじゃ良いほうから伝える。低軌道偵察衛星からのデータリンクによって飛行ルート上でBETAの反応を捉えたそうだ。規模は旅団。光線属腫は認められていないそうだ。これが、いい知らせだ」
その言葉を聞いた部下たちの顔は険しいものになった。
あれ程の犠牲を払って行われたオリジナルハイヴ殲滅作戦でBETAはほぼ全滅したと誰もが思っていたからだ。
世界各国から衛士を、機体を、弾薬をかき集めて行われた作戦で死んだものは多い。
俺の部下も何人かは戦地へと向かい、そしてKIAという文字で帰ってきた。
帰ってきたら軍を止め、母に恩返しをするという者がいた。
同じ部隊に居る恋人にプロポーズをすると言う者もいた。
我が子が闘わなくてもいい世界を作るために逝った者もいた。
皆それぞれの思いを持って死んでいった。
そんな犠牲を払って尚BETAは生き残っていたのだ。
『08より01へ。では、悪い知らせとは?』
1人が、こわばった顔で尋ねてきた。
「あぁ。そこでまた別のものを発見した。米軍の空母だ。それも正規空母クラスらしい。他にも3隻ほど護衛艦らしき存在を確認したそうだ。最悪なことに発見したBETAの進行上にな。それで、だ。国際法に基づいて俺たちはその米軍を救助することとなった。なんでもその空母には横浜がらみの特殊な物が積まれているらしく、上層部は出来れば回収したいそうだ。そこで、ちょうど近くにいた斯衛軍海外支援部隊である俺たちに話が来たってことだ。元々俺自体横浜の、香月博士には多少の借りがあったからな。返すにはちょうどいいというわけだ。私用に付き合わせるのは引けるが、部隊単位での御呼ばれだ。無視するわけにはいかない。異論があれば今回の作戦からお前たちを外す。異論が無ければこのまま作戦内容に移るがいいか?反応が無いなら異論なしってことで話し続けるぞ」
俺は、部下に簡易マップの情報を送信した。
「現在俺たちの位置は目的地より約600km離れた上空だ。無論移動しているため正確な位置は変わっているが。お前たちは奴らに接近して救助を開始。俺はその先手として地上より目的地へと向かい、面制圧を行う。言っておくが、ここで米国がどうとか抜かす奴は俺の部下ではない。即刻日本へと帰れ。我々人類は『今』は一致団結して宿敵であるBETAを倒す。そのためには米国の協力は必須だ。それを忘れるな」
『『『『了解!!』』』』
「我々は、BETAに勝たなくてはならない。我々の『今』の敵はBETAだ。それを間違えるな!」
『『『『了解』』』』
「斯衛軍第12戦術機甲大隊の名に恥じぬ仕事を期待する。作戦開始は10分後、以上だ」

「ふぅ」
堅い管制ユニットの座席に身を沈め、ため息をついた。
大半の奴らは作戦の概要を理解しているし、拒否している奴もいない。
だが、あのG弾を落とした国を喜んで受け入れられるほどの許容は持っていないのが現実だ。
無論、そんなことで任務を疎かにする我らではない。
(BETAを倒すまでだ。大戦さえ終わってしまえば奴らと手を組む理由はもうない。それからでも、遅くは無いだろう。あいつ等の仇を取るのは)
ふと、あの通信士を思い出した。
(あの娘のように、本当に世界の平和を望んでいる者だけしかいない世界だったらどんなに良かったことか)
「大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
後部座席に座るナビゲーターであり、この機体の能力を完全に引き出すために必要不可欠な少女。
「ミリィこそ、平気か?」
「はい!黒田さんと一緒なら私はいつでも元気ですよ!」
「それなら何よりだ!」
この機体開発のときより共に居た少女レミリー・テルミドールは笑顔で俺を見ていた。
『CPより01へ。作戦開始時刻まで後5分です。機体のチェックを開始してください』
「了解。01これより機体チェックを開始する」
ミリィが機体ステータスのチェックを開始する。
「FCSクリア、核反応炉クリア、各武装チェッククリア、跳躍ユニットの稼働クリア、補助ブースター接続クリア、M5システムチェッククリア。全て異常無し!いつでも行動に出られますよ、黒田さん!」
「分かった。CP、こちらは準備万端だ」
『了解。作戦時刻より早いですが、これより機体を投下します。カウントダウン初め。5・4・3・2・1投下!』
ガクン、という衝撃が来たかと思うと急激に体が宙へと浮くような感覚が襲う。
ムリヤから放り出された機体は自動で姿勢制御をし、逆噴射をかけながら地面へと着地する。
それと同時にターボファンエンジンに火を入れる。
FX-516-N16エンジンが唸りを上げ、塩の大地を黒い機体が音速で駆け抜ける。
まるで、地を駆ける妖精のように。


あとがき
電車の中で携帯使って作ったのでまぁ地の文やらなんやらは全く意識してないのでありません。
それについてのコメントはできれば控えてほしいkなぁって思っちゃってます。
作中に出てくるFX-516-N16エンジンは試06跳躍ユニットの主機の名前です。(本編より早く出しちゃったよ)
また、アンリミの世界ではオルタより1年早く機体が出来上がっています。
まぁ第4計画と第5計画での違いです。
ご感想などがありましたら是非に。
直本編を更新できると思いますので。



[16077] 思い付きでDAY AFTER EPISODE01での黒田たちを書いてみた(1)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:692cc713
Date: 2011/06/28 03:19
本編はDAY AFTERとは特に関係性はありません。
今作は勝手にウィルたちを救ってみたの続編に値します。
思い付き&速攻で描いたものなので拙いですがよろしければご覧ください。
なお戦闘は今回はありません。

2005年10月6日
太平洋のどこか

『大尉、地下より振動を感知。距離15km、北東に向かって移動中です』
「分かった。引き続きセンサーの監視を続けてくれ」
『了解』
部下からの通信を切り、黒田は今ある情報をまとめていた。
(BETAの進行方向が北東となれば、おそらく向かっているのはアメリカ大陸か?)
バビロン作戦によって引き起こされた大規模重力偏差によって、海水は移動しユーラシアは水の底へと消えていった。
祖国である日本も例外なく沈むこととなった災害を人類は『大海崩』と呼ぶようになった。
ユーラシアにあるハイヴはBETAと共に海中へと消えたと思われていたが、2004年6月にその姿を発見した。
以来、人類は自らが生きるための場所を守るべく必死の抵抗を行っている。
(最後の戦闘がハワイより北東1500kmぐらいの場所だったから・・・・・・かなり広範囲に動いてるわけか)
BETAの姿を確認した2004年6月のJFKでの戦闘以来、黒田たち斯衛軍第12戦術機甲大隊は塩の砂漠と化した太平洋を動き回り続けている。
これはBETAの情報を集めると同時に各国の状況を窺うためでもあった。
(こんなときまで人類同士の戦争を持ちこむなってんだ)
本来この緊急事態に人類同士が戦っている余裕などないはずなのだが、どうにもこの世界は戦争が好きなようでフランス・カナダ連合とアメリカでの対立が起こっている。
日本はアメリカの同盟国としてこの戦闘に加わったが多大な損害を出しただけだそうだ。
ただでさえ貴重な戦術機を多く失ったこの戦いはアメリカにも日本にとってっも痛恨の一撃となったはずだ。
だが、いまだに対立は続き依然として睨み合っている。
日本としてもアメリカとの同盟関係がある以上無下にはできない。
(手痛い板挟みか)
『WG12よりWG01へ。反応弾の爆発を観測。おそらくシアトルの方でBETAとの戦闘があった模様』
「向こうも形振り構ってられない状況か。緑の地球をいつか取り戻すんじゃなかったのか?」
『しかし大尉、生き残らない限り無理な話ですよそれは』
「そうだな」
人類が全滅したら後に残るのはBETAに食いつくされた何もない大地だけだ。
『それで、戦闘に参加しますか?距離からして輸送機を使えば約2時間で着くと思いますが』
「いや、補給物資の量も大分少なくなっているし、戦術機の損失も少なくはない。今は新たな補給を待ちつつ状況を見極めるべきだ。それに、向こうには米軍がいる。そう簡単に負けはしないだろう」
『了解です』
(確かにシアトルには日本人が大勢住んでいる。俺たちが動く理由としては十分だが、今ここで俺たちの存在を知られるわけにはいかないからな)
俺たちが独自に動いている最大の理由は、俺の乗っている戦術機と兵器によるものが最も大きい。
YF-23NSBと電磁投射砲だ。
核反応炉を持った半永久活動エンジンに突撃級の装甲すら簡単に貫通させる威力を持つ電磁投射砲を装備しているとすれば米国は喉から手が出るほど欲しがるだろう。
米国だけじゃない。
世界各国が欲しがるはずだ。
だからこそ俺たちはこの何もない太平洋を動き回っている。
人類同士の戦争に使われないように。
『あれ?おかしいな』
「どうした?」
『それが、先ほど感知した振動とは別の振動を検知したんですが、1秒も満たないうちに消えました。位置は地下20kmほどでここより北東20kmの位置です』
「もう一度確認してくれ」
俺は観測手と通信を接続したままもう一つ回線を開く。
「鈴乃、現在使える戦術機は何機残っている?」
『はっ、現状使用できるのは不知火5機にラファール2機、EF-2000が1機です。整備中の不知火は後2時間すれば先頭に問題ない程度には仕上げられると思います』
(俺を含めて9機か)
大隊だったころを考えると大分減ったな。
「ガンシップと輸送機は直ぐに飛べるな?」
『ガンシップは榴弾砲を積み込めば飛べます。輸送機はいつでも』
「分かった、整備班には悪いが急ぐように伝えてくれ」
『了解です』
『あの、大尉どうしたのですか?』
センサーの観測手が不安な表情を浮かべていた。
「可能性の話だが、BETAが接近している。あのでかいやつがな」
『あれが、ですか!?』
「だから、ほんの僅かな反応でも逃さないでくれ」
『りょ、了解!』
(あれがまた来るのか)
大隊だったこの部隊が一気に中隊規模になってしまった原因。
(空母級・・・)
どう呼ばれているか分からないが、俺たちはあのBETAを空母級と呼んでいる。
200mもの大きさを持つ口のようなものから要塞級などを吐きだすあのBETAは脅威だ。
全長がいくつあるか知らないが要塞級を10体以上吐きだしたことを考えるとかなりの長さがあるだろう。
(あのときはS‐11を使って辛うじて倒せたが、それが無い今どうやってあれを倒す?)
戦術核並みの威力を持つS‐11に匹敵する威力を持つ装備などこの隊には無い。
電磁投射砲も120mmならまだしも36mmでは効果は薄い。
(とにかく急いでこの場を離脱しなければっ)
『た、大尉!!振動が大きくなってきてます!これは間違いなくBETAです!』
「地表への出現予想時間とポイントは!」
『ここより南東2km先におよそ10分で出現します!』
(早い!早すぎる!)
このままではこちらが離脱する前にBETAが地面から噴き出してくる。
まだ榴弾砲の積み込みは終わっていない。
飛ぶことも考えると最低でも後40分は必要だ。
(どうする!榴弾砲を捨てるか?・・・いや、ここで捨てたら今後の戦闘がより厳しいものになる・・・・・・時間稼ぎが必要だ。BETAの出現予想ポイントはここから南東約2km。一番早い突撃級さえ足止めできればどうにかなるか?)
飛んでさえくれれば後はこの場から逃げればいい。
それまでに光線級に照射されないようBETA共の死体の壁さえ作れば逃げ切れる。
(スピード勝負だな。だが、やらなきゃならないだろう)
作戦は決まった。
「WGリーダーより各員に通達。これより防衛戦を展開する。B小隊は輸送機の護衛だ。全輸送機が離脱し安全を確保するまで全力で守れ」
『了解!死んでも守ります!』
「勝手に死ぬな。お前を殺すのは俺だ!っと、A小隊は一番に突っ込んでくる突撃級を止めるぞ。殺さず足だけを狙え。奴らの壁を作り時間稼ぎを行う。出来る・・・よな?」
『大尉、何をあたりまえなことを。私の腕は存分に知っているはずですが?』
と、少し拗ねて応える鈴乃。
「別に鈴乃の腕を疑った訳じゃないが」
『黒田さんは心配し過ぎなんですよ』
楽天的な回答をよこすミリィ。
「ミリィは心配し無さ過ぎなんだよ!少しは緊張感を持て!!」
『黒田大尉、もっと私たちを信用してください!もっと見てください!』
何故か怒っている彩。
「いや、そんなに怒らなくても・・・てか、見てってなんだ?」
『あぁ~、彩さん大胆発言~』
『えっ、そそそそそんな意味で言ったわけでは!?』
『人の婚約者に勝手に手を出さないでくださいませんか?』
『元だけどねぇ~』
『テルミドール中尉!?』
「おーい、お前ら俺の話聞いてるかぁ~」
俺の話を無視して何やら言い合いを始める3人。
(なんでこんな状況下でこう緊張感のない小隊なんだよ俺たちは)
後数分足らずでBETA出てくるのに。
『輸送機、離陸を開始します』
「分かった。よし、和やかタイムは終わりだ!異星人どもを俺たちの後ろに1体も逃すなよ!」
『『『了解!!!』』』
2人の透き通った返答が、インカム越しに響いた。





お久しぶりです。
鬼神「仮名」です。
本編を貯めていたHDDを紛失したため今急いで本編を書き直してます(笑)
さらには就職活動も重なりかなりのハードワークとなってしまってましたOTL
そんな中クロニクルズ02を買って今作を思いついて速攻でかいてみました。
とりあえず(1)とはしてみたものの次を書く時間がいつできるか分かりませんw
なのでこの先黒田たちがどうなるのかは今のところはごぞ想像にお任せしますw
それでは次回の更新で本編が上げられるよう最大級の努力をすることを誓いつつ今回はこの辺でお暇させていただきます。
それでは



[16077] 思い付きでDAY AFTER EPISODE01での黒田たちを書いてみた(2)
Name: 鬼神「仮名」◆af4fba6e ID:692cc713
Date: 2011/07/09 18:06
「もたもたすんじゃねぇ!黒田大尉たちが時間稼いでくれるってんだ!俺たちが急がないでどうする!」
「「「「了解!」」」」
整備班の怒声がガンシップ内に響き渡る。
現在全整備班が総力を持ってガンシップに140mm榴弾砲を積み込んでいた。
無反動砲の原理で空中使用可能なこの砲は光線級のいない状況下では相当な戦力となりえる代物だ。
ただでさえ補給のままならないこの状況で捨てるには惜しい。
それに、戦術機隊の援護が可能となれば今後の作戦行動が楽になるだろう。
「軍曹!輸送機の離陸が始まりました!」
「砲の固定は!」
「3か所までは!後2か所で完了です!30分もあれば終わります!」
「急げ!もうすぐBETAが―」
と言いかけたところで機体全体が揺れ始めた。
『全員何かにつかまれ!でかいのが来るぞ!』
機内放送の後に、窓から大量の粉じんを巻き上げながら現れる巨大な影が見えた。

『振動計振り切れました!きます!』
「お出ましか」
巨大な体が地面から飛び出してきた。
この巨体には苦い思いをさせられ、多くの部下を失った。
あの時の借りは返さなければならない。
『黒田大尉、こちらチャリオット01。離陸完了しました』
「了解。そのまま海嶺に入り光線級を抑えるまでは海嶺にそって飛んでくれ。海上に出たらそのまま米国方面へ進路を取り、近場の軍に救援要請をしろ。ただし、戦力となるものを奪われないようにな」
『了解。ご武運を』
短い会話を交わし、チャリオット01こと輸送機1番機との通信は切れた。
あの機体には貴重な完全整備済みの不知火が積まれている。
戦力低下となっている今、貴重な部隊の戦力を奪われるわけにはいかないのだ。
(米国との問題もそうだが、5機の護衛機と合計8機の輸送機、1機のガンシップが全機離陸するのに最低40分、光線級の射程圏外へ離脱するのに高低差を考慮しても20分から30分。俺たち4機で最低でも70分の間BETAの侵攻を阻止しなけりゃならないか)
空母級にプラスして連隊・旅団規模のBETAと戦うとすると4機だけでは到底無理な話だとは思う。
戦力差はざっと見て千分の一と言ったところか。
連隊や旅団規模となれば大隊規模で当たるレベルだ。
小隊編成の俺たちでは時間稼ぎもいいとこだ。
だが、
(やるしか、無いよな。ここには俺たち以外いないんだから)
「全機、兵器使用自由!あいつの口の中に思いっきりぶちまけてやれ!種類は何でもいい!とにかくぶち込め!総入れ歯にしてやれ!!」
『了解!』
『口の中を見せる下品な異星人にお灸をすえないと、ですね』
『ポリ○ントしないと臭いんですよ、入れ歯って』
各々がそれぞれの最大威力を持つ武器を選択し、空母級が口を開くのを今か今かと待ち構えた。
そして、200mもあろう口がゆっくりと開き始めた。
「行くぞ!」
俺の掛け声とともに12門の120mm砲と1門の57mm砲が一斉に空母級の口内へ砲弾を撃ち込んだ。
要塞級や要撃級の皮膚が避け体液をまきちらし、突撃級の装甲に大穴が開き、小型種は原型を留めないほどに砕け散った。
次々と放たれる砲弾は空母級の中にいるBETAを次々に死骸へと変えていく。
『奥より要塞級を確認!』
「御口の中に御帰り願え!」
『了解!』
鈴乃のラファールが続けざまに120mm砲を撃ち、要塞級の頭と関節部分を破壊する。
支えを失った要塞級は付近のBETAを巻き込みながら倒れて行った。
『突撃級の死骸が邪魔で砲弾の命中率が下がってきています!』
「命中を考えるな鈴乃!倒すことが目的じゃない!とにかく口から出さないことだけを考えるんだ!」
『了解!』
鈴乃たちの対応は概ね順調。
想定通りに事は進んでいる。
だが、それだけではBETAを止めることは出来ない。
撃っても撃っても次から次へと湧き出てくる。
あいつの腹はブラックホールかなにかか?
『くそ!数が多すぎる!あのミミズはどれだけ御仲間を腹の中にため込んでるの!?』
「ローディン!ミリィ!」
『了解!カバー入ります!』
俺は最後の120mmの予備マガジンを突撃砲に装填する。
これでもう120mm砲弾は7発。
各機の120mmの残弾も底をつくころだろう。
空母級の口はBETAの死骸や瀕死の山で埋められてる。
これなら大型種の出てくる時間を稼げる。
突撃級の足止めのためにもここで一旦攻撃を止めるか?
「お兄様!地中よりBETAが接近中です!間もなく出現します!」
「分かった!各機散開して地中からのBETA出現を警戒!」
鈴乃の言うとおり機体の振動計が砲弾でも戦術機の歩行でもない振動を感知していた。
間違いなくBETA出現の兆候となる振動だ。
もしこの空母級がシアトルに向かって行ったBETAの群れの中の1体だとすればそれに続いて連隊か旅団クラスの数がいてもおかしくない。
これからが本番だ。
「ちっ!予想より早い。だが、予定に変更はない!これより出現するBETAの足止めを始める!全機突撃級の足を狙え!殺すな!生きたまま楯として利用するんだ!BETAの習性を利用しろ!」
『了解です。ポンポン撃つだけは正直退屈ですよ』
『こらこらミリィちゃん。そんなこと言っちゃだめでしょ?』
『テルミドール中尉!一之瀬中尉!和気あいあいと会話をするな!』
通信越しに聞こえてくる部下の和気あいあいとした声に黒田は頭を痛めていた。
(鈴乃よ、そうやって会話に入っている時点で意味ないだろう・・・)
やはり男一人に女3人となるとこうなるのかな、と黄昏てみた。
「っと、そんなこと言ってる暇はもうないぞ?」
ちょうど言いきると同時に地面に穴があき、そこから突撃級が現れた。
空母級を中心にして次々に現れてくる
(数は出てきたのだけで100ちょっとか。少ないな)
空母級と共に行動していたとなれば初期出現数で200以上は想定していたが少なかったようだ。
だが、相手はBETAだ。
突然現れる可能性もあれば突発的な行動を取る時もある。
どの道俺たちにはここで足止めをすること以外方法はない。
「各自兵器使用自由!作戦通りに対処しろ!」
『『『了解!』』』
長い足止めが始まった。


本編よりこっちが先に書き終わった・・・・・・
本編いつになったら再開できるんだろう・・・・・・
こんにちは
とりあえず、時間がない。
就職活動で時間がない、ロードワークで時間がない
ある程度までは書いているんですがね・・・・・・
何とか頑張りたいと思います!
つなぎの短編もある程度ストック自体はあるからしばらく短編が続きますが今後ともよろしくお願いします!


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