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[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/21 17:53
どうも、はじめまして。緑茶爺と申します。

これまでは拝見させていただく側でしたが、一念発起、書かせていただきます。
至らない点、不自然な点、多々あるかと思いますが、何卒ご容赦ください。
初っぱなからご都合的な展開ですが、お付き合いいただければ幸いです。

誤字、脱字等ご指摘くださいませ。



[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第一話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/21 11:49


「…えっと、何だコレ…?」



俺が最初に口にした言葉。

端的に言って訳がわからない。



「…どーなってるの…?」



疑問型の言葉しか出てこない。それ位、気が動転していた。



…んーと、落ちつこう。
とりあえず自分の行動を思い返してみる

俺は確かいつも通りに勤務明けに友人たちと飲み会。そこそこ飲んで日付が変わる前にお開き。
タクシーで自宅に帰ってきて、風呂に入って、風呂上がりのビールを堪能して、疲れてたのか、そのまま居間で眠りこけて…。



「…うん、俺は家で寝てたはず。」



自分の行動を反芻してみたが、どうにも今の状況に至る経緯がわからない。

どうやらココは森の中。しかも人が立ち入った気配のない深い森の中。太陽もはっきり見えない薄暗い、鬱蒼と茂る森の中。

「…夢遊病にしちゃぁ、ちっと派手すぎやしないかい…?」

もともと俺は夢遊病の経験なんてない。

だがしかし辺りを見回してみても森、森、森…。どう見ても森の中。



「…あー、なんだ、ドッキリ?」



なんてことはない。

「…よなぁ…。」



ひとまず立ち上がろうとして、自分の格好が普段と違っていることに、ようやく気づく鈍い俺。


「…え?…何コレ?…盾?…え?…ぅえ?」


やけに左手が重いと思ったら、盾を握っていた。ゴツイやつ。

「おいおい…。本格的にどーなってんの?」

と、ふと足下を見ると剣も落ちている。




「……………。」




……固まってしまった。見覚えのあるその剣に。




「…やっぱりコレ、ドッキリだろ…?」

落ちていた剣は、俺の記憶が確かなら、「雷神の剣」だ。ドラクエの。
剣を拾い上げ、ズシリとした感触を確かめながら、まじまじと見つめる。


「……………。」


ドッキリにしても、まぁ、素人がやるにしちゃ手が込んでる。どう見ても本物にしか見えない質感、重厚感。
この左手の盾にしてもそうだ。やたら頑丈そうだ。コレは発注して作ってもらったらスゲェ金かかりそう。


「あ、よく見りゃコレ「力の盾」だ。」


そこでまた新たに気づいたことが。


「しかも鎧は「魔法の鎧」かよ…。」


この鎧もまぁ、良くできてる。質感はさることながら、至る所にあるひっかき傷や凹みなど、まるで実戦を経験したような風格すらある。
改めて剣と盾も見てみると、剣は刃こぼれこそないが、柄には使い込んだ染みや汚れがついているし、盾にも細かいとは言えないような傷も付いている。
腰には剣を納める鞘まで。おいおいホントにイイ出来だな。

本格的だなぁ。ホンキでドラクエの世界かと思っちゃうわ。
しかし詰めが甘いな。
兜がないのだよ、兜が。

この装備に見合った兜なら、そうだなぁ、「ミスリルヘルム」が欲しいところだねぇ。
なんて思ってたら、少し離れたところに落ちてました。ええ。


「ここまでするなら、ちゃんとかぶせておけよな、もう。」


なんていいながらミスリルヘルムを拾い上げると、これまた良い出来。
しかし、少し血糊みたいなのが付いてるのが、ややヤリ過ぎな気もするが。


「えーっと、ここまでされると、ちっとばかしホンキでだまされないと気が引けるな…。」


一通り装備品やら道具をチェックしたところ、薬草やら毒消し草やら満月草、はては世界樹の葉らしきものまであった。
しかも腰袋には金貨(ゴールドなのか?)も入っていた。結構ぎっしり。


「ホント、どこまで作り込んでるんだか。」


正直呆れる。
素人だますにゃ金がかかりすぎてる。だれがこんな手の込んだことを?
友人達が…? いや、たかだか一人騙すのには手間暇がかかりすぎてる。
そこまでするような連中じゃない。結構長い付き合いだから、それ位分かる。

となると職場か?
…あり得なくもない。やたらと良い意味でも悪い意味でもノリの良い連中が集まった職場だ。
悪ノリが過ぎたのかもしれない。
何かの記念なのかと思ったが、特に心当たりはない。誕生日でもない、ましてや入社記念日などであるはずもない。

「んー、まぁ、いいか。ここまでやってくれるなら、気持ちよく騙されないとな。」

ひとまず何処からか監視されているだろうから、まずは冒険者らしく振る舞わないとな。
といっても何をすればいいのやら。



うーん。とりあえず移動するか。



しかしイイセレクトだ。俺がドラクエが好きだと常日頃から公言していたからだな。うん。
装備品から察するに、設定はドラクエ3か。それも尚良し、だ。
ドラクエは3が一番はまったからなぁ。FC版・SFC版を夜通しプレイした頃が懐かしい。

そんな事を考えつつ歩くこと暫し。少し先の森の茂みが揺れている。
モンスターの出現か? 

心憎い演出だ。これは後でしっかりとしたお礼をせねば。

そんなことを考えつつ茂みを眺めていると、案の定というかゲームで見慣れた物体が現れた。


「わお!マジか!マジで『スライム』かよ!」


スゲー!スゲー!と俺が一人で興奮していると、そのスライムはぷるぷると左右に揺れだした。


「おい、スゲェな。ホントに半透明じゃねぇか。」


どういう素材で作られたのか、そのスライムは見事に青い半透明の物体に愛嬌のある目と口が付いていた。
それが自然に、あまりに自然にぷるぷると動いている。


「…うーむ、しかし良く手来ている。どういう作りなんだ?」


俺がそのスライムに触ろうと近づくと、スライムは身体を揺らす速度を速めた。


「うわ、ホントにスゲェ。なんだこれ、動力はなんだ?」


好奇心から手を差しのばしたその時、


「ぉうわっ!」


スライムは俺めがけて体当たりしてきた。完全に無警戒だった俺はモロに受けてしまった。

が、


「あー、ビックリした!何だよ!マジで動くのかよ!」


腹辺りに体当たりをくらったのだが、特に痛みはなくビックリしただけだった。
俺のその様子をみたスライムは、怯えたような顔をして一目散に林の中に消えていった。


「…え? 逃げた? …え?」


俺は呆然とスライムが逃げていく様を見ていた。そのあまりに自然な逃げ方が、あまりに不自然で。


「…作り物…だよ…な?」


ふいに過ぎる不安。


「……………。」


今の今まで、何て言うことないただの森。そう感じていたはずの森が急に別のものに思えてきた。
鬱蒼と茂る木々。光もあまり届かない。風もほとんどなく淀んだような空気。
冷静になってみればこの状態は異常だ。



俺は誰に、ここに連れてこられた?

いつ?

どうして?

どうやって?

何のために?



それに変にリアルな武器防具類。

そしてついさっきの不自然なくらい自然なスライム。

今になって嫌な予感がする。





そして、ふと浮かんだこの考え。





いや、そりゃない。あり得ない。あるはずがない。

が、否定できない。否定したいがしきれない。

先ほどのスライムがある意味決定打か。
あんな自然にあんなものを動かす技術を俺は知らない。

いや俺が知らないだけで、あーいう技術はあったのかもしれない。

だが、こんな森の中で? 
足場の悪いこんな所で、あれ程自然に動き、茂みの中に逃げ隠れできるものを? 
中身は何も入っていないような半透明の物体を作って操作する?

ありえない。少なくとも身近な人間に、あんなものを作れる技術を持った奴はいない。
 


「……………。」



やはりこれは…。
いやいや、いくら俺の妄想が逞しくても…。それは流石に…。だがしかし…。



「……これってトリップ……なのか…?」



口に出してはみたものの、自分自身信じられない。そんな夢物語が俺に…。
まぁ、正直な話、憧れはあった。あったよ。
でもそれは起こるはずがないことに対する憧れであって、実際起こって欲しいことではなかった。



冗談じゃない。トリップなんてあってたまるか。俺は現実に生きているんだ。ふざけるんじゃぁない。


「おいっ! 誰かいないのかっ!? 悪ふざけはもうやめろ!」




しかし待てど暮らせど帰ってくるのは木々のざわめきだけ。




「…おい!いい加減に…」


その時だった。またもや茂みから何かが俺に体当たりしてきたのだ。


「ぅおぁっ!」


とっさに盾をかざしてそれを防ぐ。今度の衝撃は先ほどスライムの比じゃなかった。
がしかし、やはりこの装備のおかげなのかダメージはさしてなく、尻餅をついた程度だった。


「なんだってんだ! くそっ!」


悪態をつきながら身体を起こした時、俺は固まってしまった。


「…うわぁ、団体様のお着きだぁ…。」


そこに居たのは、いっかくうさぎ×2、ああおりくい×1、おおがらず×1だった。

これは…。
普通に死ねるんじゃないか? ホンキでそう思った。
だって人間サイズの、しかも角の生えた凶悪な面のうさぎに、これまた人間以上のサイズのアリクイ、鷲なんて目じゃないカラス。
これがトリップ、ドラクエの世界なんだと強制的に実感させられた。

「…いやいや、こりゃ覚悟きめてかねぇと、あっという間に死ぬ?」

こちとら平和な日本で、平和な生活を送ってきたんだぞ?
そりゃケンカはしたことあるが、命のやり取りとは無縁の人生だったんだ。

人間相手じゃないとはいえ、自分が生き残るために他の生き物を殺すってのは…。
ま、虫くらいは殺してきたさ。ただ犬猫その他を手にかけたことはない。


「…あー、手が震えてるなぁ…。」


武器に手をかけようとした時、手が震えてることに気がついた。
情けねぇ。でもしゃーねぇわな。ここで死ぬわけにゃいかねぇんだ。


自分が生き残るために、殺す。


相手の命を奪う。奪わなければならない。


悪いな魔物諸君。俺は何としても生き残らにゃならんのだ。
これが現実なのか、何なのか。
分けも分からないまま縊り殺されるなんてまっぴらゴメンだ。

覚悟を決める。

そして鞘から、雷神の剣を引き抜いた。
すると、


「うお! なんだ、こりゃ!?」


雷神の剣が帯電?している。パリパリと火花なのか電気なのか…。
原理はさっぱりだが、何だか強そうである。


「そいえば、雷神の剣つったらかなり強い部類だったなぁ。」


今更ながらその事実に気づく。
というか、トリップでこの装備ってよくよく考えたら破格の扱いだな…。
雷神の剣、魔法の鎧、力の盾、ミスリルヘルム…。

それと俺のレベルっていくつなんだ?
レベルとか強さってどうやって調べるんだろうか…。


ま、ひとまずそれは置いておいて。
冷静に考えると、この装備なら例え低レベルでも何も問題なし、だよな。
このモンスター達から考えるに、ここはアリアハン周辺のはずだからな。

「んじゃぁ、いっちょやってみますか!?」

剣を構えてモンスターの様子を見る。
うーん、見れば見るほど凄い。ゲームがリアルになるとこんな感じなのか。
あんなのに生身で襲われたら呆けなく死ねるな。リアル日本人は。
っていうか銃でもあれば対抗できる、のか? あんなのに。
長物でもなければ対抗できないんじゃなかろうか。
まぁ、銃を持ってても、できればお会いしたくはないが。

なんてことを考えていたら、おおがらすが飛びかかってきた。
嘴で攻撃してきたんだが、待て待て。そんなの生身で食らったら身体に穴が空くぞ?


「うぉっと!」


その攻撃を自分でも驚くように簡単に盾で受け止める。
俺ってば何でこんなに冷静に動けるんだ?

そんな自分に戸惑いつつ、おおがらすに剣を振り下ろす。

「おりゃっ!」

いなした態勢からおおがらすを上から真っ二つ。
何の抵抗も感じさせずに両断されるおおがらす。
怖ろしいくらいの切れ味だな。これ。

そして真っ二つになったおおがらすはグロテスクなことに……はならず、宝石になった。


…アニメ版か、おい。


その宝石を確認したかったのだが、続けざまにいっかくうさぎとおおありくいの波状攻撃。
だがしかし、いっかくうさぎの体当たりを盾で防ぎつつ、躍りかかってきたおおありくいの喉元を一突き。
それでおおありくいもまた宝石になった。


「いやはや、雷神の剣さまさまだな。」


そんな感想を漏らした時ふと頭に浮かんだことが一つ。


「…雷神の剣って道具でベギラゴンの効果があったよな、確か…。」


お誂え向きにいっかくうさぎはABの2匹。
こりゃちょうどいいって事で試すことに。
悪いな、いっかくうさぎ。実験台になってくれ。

雷神の剣を構え、いざベギラゴンの効果を


「…って、道具で使うってどうすんだ?」


そんな固まった俺を見てチャンスと思ったのか、二匹のいっかくうさぎは同時に突進してきた。
道具として使うのがどういう原理かわからない俺は一旦防御態勢に。
がやはり、というか突進程度でダメージは受けないようだ。
盾ではじき飛ばし、いっかくうさぎたちとの距離がまた離れる。

態勢を整えた後、俺は剣を見つめて


「うーん、気合いを入れて振るえばいいのか?」


漠然と呟いただけなのだが、まるで剣が呼応するかのように電気というか火花が迸る。


「おいおい、ホントかよ?…ま、いいか。OK、やってみよう。」


まるで剣に促されように構え直し、そして気合いと共に


「だぅりゃー!」


何とも適当な掛け声で振り下ろす。

そして俺は見た。
火炎なんて言葉じゃ表しきれない、現実世界では見たこともないような、炎の濁流、迸りがいっかくうさぎに向かっていくのを。

いっかくうさぎたちは逃げる間もなく、あっと言う間に炎に飲み込まれ、蒸発してしまったかのように、その姿をかき消した。あとに残るは焼け焦げた木々と宝石だけ…。


「……すげぇ。」


やった本人が一番驚いているかもしれない。
全く予想外だった。リアルで見るベギラゴンってこんなにスゲェんだ。
こんなの持ってりゃ、敵なしなんじゃないのか。





ひとまず初の戦闘が終わった。
肉体的にはそれほど疲れはないんだが、精神的に疲れた。色々な事が一片に起きすぎた。ゆっくり整理する時間が欲しい。
ここがどこなのかもはっきりと分からないし。
それ以前にホントにトリップしたドラクエ世界なのか。

まぁ、あんなのが居るんだ。もう疑う余地もないのかも知れないが。

出現した魔物から考えるに、ここは多分アリアハン付近で間違いないだろう。
ただ、町がというか、この森の出口がどっちなのか。それすら見当がつかない。

「……ひとまず宝石を回収して、町を目指すか。」

しかし勘を頼りに町を探すしかないのが辛い。いきなり森で遭難なんてまっぴらゴメンなんだがなぁ。
あー、こんなのでちゃんと現実世界に戻れるのか。というか戻る方法はホントにあるのか。



早くもホームシックになりそうだった。





[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第二話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/22 09:25
「…うわぁ…。やっぱりというか何というか。ホントにドラクエなんだなぁ…。」



俺は、アリアハンと思われる城下町を眺めながら呟いた。



俺が彷徨っていた森は、思っていたより奥深くはなかったようで、小一時間ほど歩いて抜けることができた。
初戦闘の後、モンスターに出会うことがなかったことも順調に森を抜けることができた一因だろう。

しかし俺ってこんなに体力あったか?
こんな重装備で、平坦だったとはいえ、足場の悪い道を一時間余り歩いたのに、大した疲れも感じていない。
この世界にトリップしたことによって、何か補正でもかかったんじゃないのか?って位だ。
この辺もまた折を見て調べたい事なのだが、調べようがあるのか…。
教会やら、ルイーダの酒場、もしくはダーマ神殿でなら可能か?

などと考えつつ、草原を順調に歩を進めること暫し、遠目に城下町らしきものが見えた。
遠目からでも分かるほど立派な城。それに城下町。

現実で、こんな立派な町や城など見たことがない。
改めてここがドラクエの世界なんだと実感させられる。




「…こういった所ってのは、通行に厳しいかと思ったんだが…。」


俺は町の入口で特に止められるでもなく、至って普通に町に入ることができた。
大丈夫なのか、こんなセキュリティで。
魔物以外はホント、フリーパスだ。テロやら犯罪やらってのは無縁なのかね?
まぁ、盗賊なんていう職業が、職種として登録されている世界だもんな。人に対しては大らかなのかも?
問題は大ありな気もするんだが。カンダタなんて輩もいるわけだし。

余談ではあるが、第一町人によると、やはりここはアリアハンだそうだ。
ちょっち世間話程度に話したところ、勇者様が半年ほど前に旅立ったそうな。
なんだ、憑依系とはいえ、俺が勇者だってことじゃないのか。
ちと残念…。デイン系呪文って一回試してみたかったのだが。

で、魔物が最近凶暴化してるらしい。とはいえ町まで襲って来るほどではないんだとか。
だよなぁ。こんな警備程度しかしてないんだもんな。
これじゃ、あっと言う間に攻められるぞ。

と思ったら、町全体に結界が施してあるんだと。なんだそりゃ。初耳だ。
だから大した警備もいらない。そこらの魔物じゃ入れないと。

ってことで町に入れる=人間だから大丈夫なのか。はぁ、そんな仕組みが、ね。

ん? ってことはサマンオサの王様が入れ替わったのって…。
そうか、それだけの魔物となると結界も効き目がないのか、それとも薄いのか? それともまた別の要因?
なんて事を考えてると町人が訝しんできた。この世界の人間には常識だったか。
「すいません、急ぎますので…」なんて曖昧に言い訳して早々に退散しました。
町人も町に入れた時点で魔物ではないと安心してるのか、大した追求もなく。
危ないとこだった。気をつけないと。


「さてと。ひとまずはルイーダの酒場だな。」


俺は町に入って左手、かなり立派なバー、ルイーダの酒場に向かう。

っとその前に兜だけは取っておくか。平時にこんなの被ってたら怪しい人だよな。
現実世界ではだけど。
こっちでは別段、普通なのかな?

で、中に入ってみると薄暗いが、空気は淀んでいない。
何だか、イメージしていた酒場とは大分違うようだ。
むしろ清潔感のある、酒場とはほど遠い感じ。普通に瀟洒なレストランといった所か。
店の奥にカウンターが見えた。そこに店員らしき人もいる。
まずはカウンターで話を聞くか。

俺がまるでお上りさんの様にキョロキョロしながら、カウンターに向かうと女性から声をかけてきた。


「そこのお兄さん、何の用だい?」


おお、美人さんだ。
ん? この人がルイーダか?
だとすると、なるほど、ただ美人さんなだけでなく、眼光が鋭い。酸いも甘いも知った眼だ。
これまでの経験上、こういった眼を持った人には逆らわない方が良い。人間関係を円滑に回すためには。


「あー、いえいえ。初めて来たもので、ちょっとお聞きしたいことが…。」


何てことを言ったら、


「初めて? 本当にそうなのかい? 大層立派な身なりだが…。」


…やっぱりこの装備は目立つよな…。装備品全てがこの大陸にはないものばっかりだし。
雷神の剣に至っては売ってすらいないからなぁ。


「ええ、かなり田舎から出てきたものですから、この様な栄えた街自体が初めてなもので…。
 それにこの装備品も、父や祖父から譲り受けたものでして、詳しい由来は知らないんですよ。」


ひとまず嘘をついてしまったが、この際しょうがないだろう。
本当のことを言っても信じてもらえるはずもないし。余計に怪しまれるだけだ。
それに、ゲーム中ではそれほど感じなかったが、このアリアハン大陸はかなり広い。
まぁ、レーベ以外にも村などは存在するだろう。ちっと賭ではあるが…。


「そうなのかい? まぁ、最近は冒険者も増えてきて、このギルドも出入りが激しくなってきたからね。
 田舎から出てくるヤツなんてのは、それこそ数え切れない位いるしね。」


とりあえずやり過ごせたようだ。すいませんルイーダさん、騙してしまって。心の中で謝ります。


「で、だ。アンタはギルド登録にやってきたってとこかい?」


これは渡りに船だ。ここの厄介になれば冒険者達から情報も集められるだろう。
どうやらゲームのドラクエとは少し違うようだからな。


「ええ、そうなんです。ですが如何せん田舎者でして。右も左もよく分からず…。
 それで、教えていただきたい事が多々あるのですが、よろしいでしょうか?」


ルイーダはさして疑いもせず、この冒険者ギルド「ルイーダの酒場」について教えてくれた。
俺みたいな新参の志願者が結構いるんだろうな。



やはり基本システムはほぼゲーム通りだった。ここで冒険者として登録し、依頼された仕事を仲間やその依頼に応じたメンバーを募り、こなして報酬を得る。
そのまま固定メンバーになる者や、また別の依頼を個別に受けてこなす者、それはその都度それぞれのようだ。
だが、一つゲームとはだいぶ異なるものがあった。
それはレベルなどを確認する「つよさ」などのコマンドメニューだ。


「このギルドカードにそれぞれの職業、レベル、強さ、使用できる呪文や特技などが記される。」


これには驚いた。
ミスリル製らしい、名刺の倍くらいあるサイズのカード。
これは竜の神様の洗礼を受けると、このカードに自動的に書き込まれるのだとか。
竜の神様ってなんぞや? と思ったんだが、光の玉を守っていた竜のことか? それともまた別の存在?


「このカードはレベルが上がる毎に発光震動し、冒険者に自分の強さを教えてくれるのさ。
 どういう構造かって? それがねぇ、私たちでもイマイチよくわからないのさ。昔からのやり方でね。
 それこそ神話級の昔からさ。文献にも載っているのかいないのか…。」


ということらしい。まぁ、分かりやすいからコチラとしては文句はない。
それと、次のレベルまで幾つ必要なのかは、やはり教会で聞くんだそうだ。神のお告げとして。
ただセーブなんてのは無いらしい。当たり前か。ここはこれが現実なんだから、やり直しなんて有るわけないもんな。


「…分かりました。で、その洗礼ってのはどこで受けられるんです?」


「それはここ、ルイーダの酒場でだよ。」


これまた驚きだ。ここで受けられるとは。更に驚いたことにルイーダ本人がやるんだと。


「これが「ルイーダ」と呼ばれる人間の受け継がれる能力だからね。」


そういってルイーダは店番を他の店員に任せると、「こっちにおいで」とカウンター横の小さな部屋に入っていった。
中に入るとそこには小さな祭壇。その真ん中には立派な竜の置物。これがいわゆるご神体になるのかな?


「さ、ここに座りな。」


ルイーダに促され、部屋の真ん中、なにやら魔法陣めいたものの中心に座らされた。


「目を瞑り、気持ちを落ちつかせるんだ。」


言われるまま目を瞑る。気持ちを落ちつかせろって言われても、知らず気分が高まってしまう。
緊張とは違うな。楽しみなんだ。年甲斐もなくワクワクする。子どもか。

なにごとかルイーダが呟いている。
と、身体全体が何かに包まれているというか、暖かくなるというか。不思議な感覚が身体を包んだ。

そして頭に直接響くような声がする。これが竜の神様の声なのか?
ただ、何かを言われているようなんだが、遠いのか、声が小さいのかうまく聞き取れない。
そうこうしている内に身体を包んでいた不思議な感覚が薄れていくのに気がついた。


「もう目を開けても大丈夫だよ。無事アンタの洗礼も終わったから。」


早い。こんなもんで済むのか。ってゲーム中じゃこんなのもなかったから、比較しようがないんだが。
俺は先ほど聞こえた不思議な声についてルイーダに尋ねてみた。


「声? 声だって?」


ルイーダは訝しむ。


「ええ、ただ遠くで喋っているような感じで、何を言ってるのか分からなかったんですけどね。」


ルイーダはそれを聴き、考え込むように腕を組んだまま黙ってしまった。

そして考え込むこと暫し。


「ふーむ、その声に心当たりがあると言えばあるんだが…。いや…。しかし…。」


何とも煮え切らない態度だ。何か不都合があったのか?


「あー、何か言いづらいことであれば、また今度の機会でもいいですよ?
 ルイーダさんの方で整理がついてからでも。」


俺がそういうと、ルイーダは何か思い出したかのように、祭壇へ向いて何かを確認した。
そして…。



「はぁ…?」



ルイーダの何とも間の抜けた声。

そしてこちらに向き直り、祭壇から持ってきた一枚のカードを見ながら、何だか納得できていないようだが喋りだした。


「いやね、ギルドカードなんだが…。」


そう言いつつ、ルイーダは新しい、俺のだと思われるギルドカードを手渡してくれた。

そのカードには不思議なことに日本語で文字が書かれていた。
ってこれば別に不思議でもないのか。問題はそこではないようだった。


「職業の所を見てごらん。」


職業? 
そう言われて確認した俺の職業は…。



「……使者……?」



なんぞこれ?

使者…。
使者って職業か? 職業じゃぁないだろう。
そりゃルイーダも固まるわ。こんなん。


「…えーっと、何ですかね?これ。」

「私が聞きたいよ。」


ごもっともで。



職業ってのは大別して9職種。まぁそのうち勇者ってのは特別職みたいなもんなので、勇者を除いた8職種が基本。
それから転職をしたりして二次職になる奴もいる。

まぁ、この二次職ってのも世界で数人しか居ないらしいんだが。
そりゃそうか。レベルでいったら相当のレベルだもんな。
っていうか、そいつらが世界を救う旅に出たら、全て問題解決だと思うんだが。それは言いっこなしなのか?

っと話が逸れたな。その二次職、三次職と転職を繰り返しても、「使者」なんて職業は聞いたことがない。

それがルイーダからの情報だった。
確かに、俺がゲームやっててもそんなのは聞いたことも見たこと無い。


「どうしましょうかね、これ?」

「どうもこうもないよ。竜の神様からのお告げだ。ありがたく受け取っておきな。」


まぁ、俺の存在自体イレギュラーだからなぁ。職業もイレギュラーになってしまったのか。
深くは考えないでおこう。おいおい分かってくるだろう。
なーんて楽観的に考えておく。

そしてカードでステータスを確認してみたんだが…。


「…なんです? この数値は…?」

「…言っておくけど、そのカードに間違いは無いはずだよ?」


ですよねー。

何というかその数値たるや驚くものだった。



レベル35。



既に標準クリアレベル辺りなんだが。そういえば装備的にも、やろうと思えばクリア可能な装備だし。
俺は一体どういう意図でこの世界に連れて来られたんだ? 
冒険してレベルを上げるとかって必要がほぼ無いんだが。


「私も長くこの仕事をしてるけど、洗礼の段階でそんな高レベルな奴は初めてだね。」


そりゃそうだ、こんなレベルあり得ない。よっぽど長旅をした冒険者でもない限り、こんなレベルになるなんてな。
道理で森での戦闘や、その後の行動が堪えない訳だ。身体がもう出来上がっていたのだ。


「で、どうする?この後。パーティメンバーを探す? それとも何か依頼を受ける?
 あんたのレベルなら、どちらでも引く手数多だと思うから、依頼も選り取り見取りだよ?」


そうなんだよな。この後どうするか。定石から言えば、まずは経験を積みたいところだ。
レベル的にとか強さ的にみたら経験なんぞ、無理に積まなくても大丈夫そうだ。
しかし、実体験的に経験値が足りない。自分で自分がどこまで出来るのか把握しておかないと…。

ってことで、まずはパーティーを組んで、経験者から戦闘における常識や立ち振る舞いを学ばないとな。
そんなことを考えているとルイーダが思い出したように質問してきた。


「そういえば肝心なことを忘れてた。アンタ名前は?」


…そういえばここまで名乗らずにきてしまった。

名前。どうするか。ってここで名乗るのにあまり時間がかかると怪しまれそうだな。
無難に名前だけ名乗っておくか。それとも渾名にしておくか?


「すいません、俺も忘れてました。名前はイルハと言います。以後よろしくお願いします。」


そう言いつつ深々とお辞儀をする。ひとまず渾名で通そう。
呼ばれ慣れた名前じゃないと咄嗟に反応できないだろうしな。


「あいよ。じゃあこのペンでそのカードに署名しな。それでアンタもこのギルドの登録メンバーだ。」


そう言ってルイーダから手渡された羽ペンは不思議なものだった。
羽が銀のように固く見えたんだが、触ってみるとふわふわしている、何とも不思議なペン。
ペン先が仄かに光っているのも面白い。

では、署名を…。

ペン先をカードに走らせると筆跡が光り、カードに名前が刻み込まれた。
まるでレーザーカッターで刻んだかのように、固いカードにはっきりと。


「OK。これで正式な登録メンバーだ。これからよろしくな。」


そう言ってルイーダは手をさしのべてきた。


「はい。こちらこそよろしくお願いします。」


俺もそう言いながらその手を握り返す。



さて、これでとりあえずのスタートラインに立ったかな?
何とかして現実世界に戻る方法を探さないとな。
長い旅か短い旅か。どちらにせよ大変な旅になりそうだなぁ。

これからの事を考えると気が重い反面、ワクワクしている少年のような気持ちがあることに気がついた。


「…まったく、これだから男はバカだって言われるんだよな…。」

「ん? 何か言ったかい?」

「あー、いえいえ、独り言です。お気になさらず。」


怪訝な顔をするルイーダに、愛想笑いを浮かべつつ誤魔化す。

何はさておき、今はひとまずこの装備を脱いで、ひとっ風呂浴びたい気分だ。


「さて、イルハ。改めて聞くがアンタこれからどうするんだい? 早速依頼や仲間を探してくのかい?」

「あー、それなんですが、ちょっと疲れてしまいまして…。今日は宿に帰って休もうかと。」


ホントに色々ありすぎた。体力的には大丈夫なんだが、精神的にクタクタだ。
ゆっくり休みながら気持ちの整理をしたい。今後の方針も考えないと。


「そうかい、じゃぁ、まただな。明日は来るのかい?」

「そうですね、明日またお邪魔します。本当に今日は色々とありがとうございました。」


いいってことよ、と言うルイーダに一礼して洗礼室を辞した。

さて、ああ言ったものの、依頼ってのも少し気になるな。ちっと見ていくか。
何か小さくてもいい、情報があればいいんだけどなぁ。



店の壁一面が掲示板になっていて、そこに張り紙で依頼やら仲間募集やら雑多に張り出されている。
こりゃ、お目当てのものを見つけるだけで骨が折れるな。
その雑然とした情報と張り紙の多さに辟易する。

やっぱり明日ゆっくり見ることにして、今日は宿へ行って休もう。





ルイーダの酒場から出ると外は既に夕暮れ時だった。

通りにも先ほどより人があふれ、家路に就くもの、飲み食いに出かけるものなど様々なようだ。
この時間の空気感は現実世界と変わらないように感じられた。

さて宿屋はっと。
確か大通りを城に向かった方にあったはず。

大通りは結構な人で溢れかえっていた。
商店の呼び込み。主婦達の井戸端会議。子どもたちの追いかけっこ。
ホントにこういったところは変わらないんだな。不思議なもんだ。

そんな風景を見つつ宿屋を探す。

っと、あったあった。
分かりやすく[ INN ]と、でかでかと看板が出ている。
この世界の宿屋はチェーン店か何かなのかと思ったんだが、どうやらそうでもないらしい。
宿屋を示す記号としての「INN」なのであり、宿屋名としてはちゃんと別にあるようだ。

INNと掲げている店が数軒並んでいる。この辺は宿屋街のようだ。
その中でも派手でもなく、かといって寂れているようでもない、普通に小綺麗な宿に入った。
今俺がもっているゴールドでどのくらいの宿に泊まれるか分からないので、一番平均的な店を選んでみたのだ。
この袋に入っている量から、アリアハンでなら問題なく泊まれるとは思うんだけどな。



「いらっしゃいませ、お客様。お一人でのお泊まりでしょうか?」


カウンターには洒落た老紳士が立っていた。一見すると執事のような人だ。


「ええ。一人でお願いします。」

「お部屋のタイプは如何いたしましょうか?」


部屋のタイプ?


「はい。シングル、ダブル、ツイン、セミスウィート、スウィートとなっておりますが。」


なんと。そんな風になってるのか。
とはいえ、別にそんな豪華な部屋に泊まらなくてもいいので、ここはシンプルにシングルで。


「それでは2ゴールドでございます。」


2ゴールド。
この袋の中身はいったい何ゴールドなのか。
ひとまず入っていた金貨2枚をカウンターに置いてみた。


「………お客様、これはちょっと…。いさかかチップとしても頂き過ぎかと思うのですが…。
 それとも長期滞在をご希望でございましょうか?」


「え?」


いわれてカウンターに置いた金貨を見てみた。
今初めて気づいたことなのだが、金貨の真ん中には数字が振ってあった。


カウンターに置いた金貨は、

10G×1
1000G×1

の計1010G。
あー、こりゃ流石に店も引くな。1年以上泊まれる金額出されたとあっちゃ。


「す、すいませんすいませんっ」


主人は、いえいえと気さくな笑みを浮かべていた。
ちゃんと確認しないからだな。これからは気をつけねば。

って冷静に考えれば15000Gの武器買うのに15000枚の金貨なんてあり得ないよな。
どうやって持つんだっつの。しかも数える方もキツイって話だな。

宿代はチップ込みで10G手渡しておいた。釣りはいらねぇぜ。なんつって。


あー、しかしビックリした。なんだこの手持ちの金額は。後で部屋に行ったらキッチリ確認しておこう。



そして通された部屋は簡素ではあるが、掃除の行き届いたキレイな部屋だった。
ベッドもふかふかだ。ただ、水回りなんかは無い。風呂なんかも大浴場へ入りに行くようになっている。
トイレも共同だった。ちと不便だが、まぁ、それほど気にすることもないだろう。

そして鎧などの装備品を外そうと思ったんだが、この世界では装備品を収納しておく棚なんかが標準なのか?
装備一式納められる開き戸があった。そこへ鎧やら兜やらを外していって、気づいたのだが普通に外し方が分かるのだ。
鎧なんて着たこともないのに、脱ぎ方が分かる。なんかこう気持ち悪いな。原因が分からないってのは。
トリップだからって気持ちの整理がつかない。

そしてまた新たな事実発見。
俺の左手に星降る腕輪が付いていた。おいおい、ホントになんだコレ。
強くてニューゲームか?


まぁ、今はひとまず置いておいておこう。星降る腕輪も外して、今度こそベッドにダイブ!



あー、いいね。このふかふか感。身体の疲れが外に染み出していく感じ。



そんな感じで小一時間ほど何も考えず横になってました。




[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第三話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/22 09:28

「…うわー、お金持ちだぁ…。」



ひと休みした後、所持金のチェックをしたんだが、これがまた結構とんでもない金額だった。

総合計 16万5224G。

ドラクエでこれってもう何でも買い放題だぞ。ってそういえば装備的にはあまり買う必要がないんだった。
じゃぁ何に使えばいいんだ。というか、それ以前に価値がわかったら怖ろしくて、こんな大金もってられないぞ?

預け所に行くか? 確か夜でもやっていた筈だし。
そうだな、ルイーダの酒場で食事がてら預けに行こう。
ここアリアハンなら治安も良さそうだし、持ち歩いていても大丈夫な気もするが、万が一ってこともあるだろう。
備えあれば憂いなし。

となれば善は急げ。
と行動したときに、自然と剣を装備していることに気づく。やっぱこの自然さが不自然だなぁ。
まぁ、いいか。些細なことだ。もう何か慣れてきている自分に呆れるやら何やら。

部屋のカギを閉め、必要な荷物を持っているか確認する。
ギルドカードも持ってるし、お金も武器も持っている。OKだ。
さて出発。


「ちょっと、出かけてきます。」


カウンターにカギを預け、一路ルイーダの酒場へ。
明日来るって言ってたのに、その日の内に来ることになろうとは。





日はすっかり沈み、夜の帳が下りた街。
夕方の喧噪は落ち着き、行き交う人もまばらだ。
だが食事処や遊戯店などは、まだまだ人の出入りが激しいようだが。

こうして街を見渡すと、実に様々な店がある。
道具屋や武器防具屋などとっても、色々な店が軒を連ねる。
もう閉まっていて確認できないが、値段や品揃えの差異などもあるのだろう。
買い物のときは気をつけないとな。ぼったくられる可能性もあるかも、だ。



そうこうしてルイーダの酒場にたどり着いた。

なるほど。このルイーダの酒場が本来の姿か。煌びやかな灯りの灯った華やかな外観。
ただ、店のあり方から考えるに、一般市民はあまり近づかないのだろう。
店の近くにいる連中は、あまり堅気には見えない。一癖二癖ありそうな連中だ。

店に入ると、それは更に顕著に見てとれた。
昼間来た時とは雰囲気が明らかに違う。
柄の悪そうな連中やら、やたらおどおどしているような連中やら、実に様々だ。

人間観察はひとまず置いておいて、預け所に行かないとな。



「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件で?」


いかにも人の良さそうな、恰幅のよい男性。まるでトルネコのようだ。


「お金を預けたいのですが。」

「はい。こちらのご利用は初めてでしょうか?」

「ええ、そうなんです。」

「では、こちらに御署名をお願いします。」


そういって差し出されたのは、口座開設に必要な書類だった。
この辺はしっかりしているようだ。これなら安心して預けられそうだ。

必要事項に記入を終え店員に渡すと、店員は書類をチェックし不備がないことを確認した。


「結構です。ではお客様、今回のお預け入れ金額はいくらほどで?」

「15万Gです。」


…あ、一瞬店員が固まった。そりゃ固まるわな。この世界の平均年収がいくらかは知らないが、結構とんでもない金額だろう。15万Gなんてのは。
店で買える最強装備でも3〜4万Gだもんな。


「…すいません、聞き間違いでしょうか? 15万Gで?」

「ええ、そうです。」


店員が聞き返すのも無理はなかろう。俺もゲーム内で一括で入金する時に、こんな金額入れたことないしな。

これです、とカウンターにGの入った袋を載せる。


「…かしこまりました。少々お待ちください…。」


そう言い残し、店員は袋を持って店の奥に消えていった。
まぁ、数えること自体、時間はさして掛からないだろう。
1000G金貨が何枚もあったし。


そして待つこと暫し。


「お待たせいたしました、お客様。確かに15万Gお預かりいたします。
 では、こちらに預かり確認のサインをお願いします。」


はいです、…イルハっと。


「確かにお預かりいたしまた。では今後とも何卒ご贔屓によろしくお願いいたします。
 なお、武器防具、道具類のお預かりも同時に承っておりますので、そちらも是非ご利用くださいませ。
 本日はご利用いただき、誠にありがとうございました。」


さてっと、これで気兼ねなくゆっくりできるってもんだ。
あんな大金もってたんじゃ、おちおち昼寝も出来やしない。

さぁ、腹も減ったし、飯飯っと。

んーと、ここって注文はどうするんだろうな? 食券? 注文?

なんて事を考えていると、店員が席へ案内してくれた。おお、意外に行き届いたサービス。
腰後ろに下げていた武器を外し、机に立てかけておく。

店員さんが預かってくれるといったのだが、丁重にお断りした。
何となく、武器が近くにないと落ち着かない。


…俺はいつからそんな物騒な気性になったのか。まったく。


ちなみに店員さんは皆女性。そしてその格好は皆メイド然としたものだ。
バニーかと思ってたんだが…。ちと残念。なんつって。

店員さんから渡されたメニューに目を通してみる。
うーん、名前を見る限り、現実世界と大差ないように見受けられる。

腹が減ったので、パスタ、パン、スープ、サラダ、ドリンクがセットになった物を頼む。大盛りで。

料理が来るまで、まわりの様子を見ていたのだが、いかにも冒険者然としたのは意外に少ない。
そりゃそうか、こんな時間だもんな。皆飯食いに来てるのにフル装備なんて落ち着かないし、周りも迷惑だ。
軽装で、武器も持ってないのもいる。ってアレは普通の人なのかな?
俺みたいに武器を携帯したままってのは半数も居ないくらいか。

掲示板近くの席に座ったこともあったので、掲示板も眺めてみる。
うーん、依頼やら募集やらってのはホントに沢山あるんだな。正に多種多様。
レベル上げ仲間募集や、護衛の依頼、一緒に○○の街を目指しませんかなど、この中から探し出すのだけで骨が折れそうだな。

と、掲示板をつらつらと眺めていると、ふいに声をかけられた。


「あの、ここの席ご一緒してもいいですか?」


ん?
声をかけられた方を見ると、そこには活発そうな肩程まで長さの黒髪の女のコが。格好から察するに魔法使い、か?
活発そうな感じだから、武闘家と言われても納得してしまいそうだ。
…無粋な話だが、スタイルがいいな、このコ。顔が幼く見えるんだが、実年齢はもう少し上なのかな?
などと、若干邪なことを俺が考えていると、そのコは再度尋ねてきた。


「ダメでした? 誰か待ち合わせがいましたか?」

「…いや、そういったことはないんだが…。」

「じゃぁ、ご一緒しても大丈夫?」


まぁ、一人飯より人数が居た方が食事も進むしな。見るからに純朴そうなコだし。特に裏はなさそうだ。


「ああ、いいよ、座りな。」

「やったぁ!ありがとうございます! …で、あのー、実はもう一人いるんですけど…。」


なんだいそりゃ。まぁ、4人掛けのテーブルだから一人二人増えるくらい構いやしないが。


「ああ、良いよ、俺は。人数が多い方が食事も楽しいしな。」


そう言うと、ありがとうございますっといってもう一人を手招きした。

そうしてやってきたのは、年の頃は黒髪のコと同じくらいの綺麗な緑がかった、髪の毛をお下げ、ではないな。
何と言ったか、確かツインテールだったか。そんな髪型にした不思議な髪の色の女のコ。
身なり的におとなしめな感じ。どことなく僧侶っぽい雰囲気だ。
…しかし、このコもスタイルがいい。この世界のコ達は、みんなこんなにスタイルがいいもんなのか…。

お兄さんには悩ましいぞ。

そして二人に席を勧めると、黒髪のコは俺の隣に、緑髪のコはその隣、俺の正面に座った。


「で、君たちは食事は済んだのかな?」


ルイーダの酒場に来るんだ、主な目的は食事かギルド関係だろう。
で、こんな時間だ。目的は自ずと知れる。


「あ、まだなんです。二人とも。」


ん? こりゃたかられたかな? って、まぁいいか。手持ちもあるし、こんな可愛いコ二人と食事できるんなら安いもんか。


「そうか、じゃぁ、何か好きな物頼みな。お代は俺が持つよ。」


えっ?と顔を見合わせる二人。


「折角、こんなに可愛いコ達と話す機会があるんだ。晩飯の一食や二食、奢るさ。」


二人ともその言葉に頬を朱く染める。初心な反応だなぁ。まったく若い子はみんな小悪魔だ。

「でも…。」と渋る二人だったが、そこは年長者に格好つけさせろ、と無理矢理納得させた。

というこで二人の分も追加注文。
で、店員さんを呼んだんだが、そこに来たのは何とルイーダだった。


「あら、色男。もう二人もひっかけたのかい?」


…アンタは注文取りなんてやってないでカウンターに居なさいな。


「…そんなんじゃないですよ。一時の交流って奴です。」

「それが引っかけたっていうんじゃない。」


ねー、なんて二人に視線を送るルイーダ。ほら見ろ、返答に困ってるじゃないか。

二人がルイーダに注文を伝え終わると、そうそうに追い返した。からかいに来ただけか。まったく。


「…あの、あなたはルイーダさんと親しいんですか?」


黒髪の子がおずおずと聞いてきた。


「え? いや、今日の昼間に知り合ったばかりだけど…。」

「…とてもそんな風には見えなかったんですけど…。」


あー、ゲームでも知ってたし、この世界に来て、初めてちゃんと喋った人だからかな?
もともと俺は人見知りする質でもないし、普通に喋ってたと思ったんだがな。


「あー、人見知りしないしな、俺。」

「そうなんですかって、そうですよね。私たちが声をかけても特に動じた様子もなかったですし。」


まぁ、別な意味で動じたがな。こんな可愛いコ達に声かけられた経験なんてないから。


「そうだ、そいえば、何で俺なんかに声を?」


そうなのだ。別に一人で食事を取ってるやつなんかざらにいる。
何でその中で俺なのかが気になっていたのだ。


「…それは、あなたの横に置いているその剣が、物凄い立派な剣のようだったんで…。」


なんだいそりゃ。剣目当てってかい。


「いえ!そうじゃなくて、そんな立派な剣を持っているなら、持ち主であるあなたは、さぞや経験豊富な冒険者なのかと思って…。」

なるほどね。興味本位からか。だが…。


「うーん、期待に背くようで申し訳ないんだが、俺は今日、ギルドに登録したばっかりの初心者だよ?」


えぇっ!?と二人して驚く。そりゃそうだわな、武器に不釣り合いだよな。


「とてもそんな風には見えないんですけど…。堂々としてるし、身構えも落ちついてるし…。」


う、昔からそれは言われてるんだよな。
年のわりに落ちついてるとか、雰囲気が年寄り臭いとか。


「そうかな? 俺としては普段通りにしているだけんだが…。」


そこでふと気づいたことが。
そいえば、折角卓を共にしているのに、それぞれの名前を聞いてなかったな。


「気がつかずに申し訳ない。名乗ってなかったな。俺の名前はイルハだ。よろしくな。」


二人とも、あっという顔をした。あまりに自然に会話が進んでいたので気づかなかったのだ。


「こちらこそすいません、あたしの名前はニル。職業は魔法使い、見習いです…。」


黒髪のコはやはり魔法使いだったか。そして語尾が小さくなって伏し目がちになる。別に見習いだっていいだろうに。


「私はハイネ。職業は僧侶見習いです。よろしくお願いします。」


そう言って深々とお辞儀をした。礼儀正しいコだ。


「ああ、よろしく。で、俺は申し訳ないが初心者な訳だが、この剣について聞きたいことでもあったn

「この男は初心者じゃないよ。」


おいおい、話を遮らないでくれよ。
料理を持ってきたルイーダが話の腰を折る。

え?っとまた固まる二人。


「…どういうことですか? ルイーダさん?」


話をややこしくしないでくれ…。


「いやね、確かに登録上は初心者かもしれないが、こいつの身なりや立ち振る舞いを見てれば、とても初心者とは思えないだろ?
 現にギルドカードがそれを証明しているしね。」

「「 ? 」」


二人の頭の上にハテナが見える。盛大に。

器用に運んできた料理を並べながら、ルイーダはさらに続ける。


「ほら、イルハ。あんたのギルドカードをそのコ達に見せてあげな。」


そう言って俺を促す。
まぁ、別に見せたところで減るもんじゃないしいいんだが、無用の混乱を招くような気が…。

って、この期待の視線じゃ見せないわけにもいかないな。


「…見てもでかい声だすなよ? これ以上騒ぎになりたくないんでな。」


そう言って二人に俺のギルドカードを手渡す。



あ、固まった。


「…な、なんです? これ…。このレベルといい、職業といい…。」


そりゃ不思議に思うよな。俺もよくわかんないもん。


「…うわぁ、凄いですね…この能力値…。これなら…。」


ん? これなら?


「あ!いえいえ、こちらの話で…。」


何事かニルちゃんが誤魔化そうとしたところにルイーダが、


「あぁ、そのコ達、パーティーを組みたがってるのよ。でも、その二人じゃまだ経験も浅いし、レベルも低い。
 他のパーティーでもお荷物になってしまうかもって事で、中々メンバーが集まらなかったのよ。」

「っル、ルイーダさんっ!」


二人とも、わたわたしながらルイーダの話を遮ろうとする。
だがルイーダは何処吹く風。話を続ける。


「で、そんなところへ、大層立派な武器を持った一人の男が現れた、と。身なりも身のこなしも経験十分。
 こりゃいいってんで、パーティーを組めないか声をかけたってとこなのよ、ね?二人とも?」


二人とも顔を朱くして頷く。


「「…はい。」」


あー、こりゃルイーダが一枚噛んでるな…。


「で、ルイーダさんは何が目的なんです?」

「あれ?ばれてる?」


わからいでか。あからさまにけしかけてるだろうが、この二人を。


「いや、別に深い意味は無いのよ。このままじゃ二人が可哀想ってのと、アンタみたいに変わったのが組んだら面白そうだなぁって。」


おいおい、安易だな。


「そんなんで組まされたら、この二人が可哀想でしょうが。」


なぁ、と二人を見ると、あれ?


「いえ、私たちはあなたとパーディーが組んでみたいんです。これは嘘偽り無い本心です。
 確かにきっかけはルイーダさんからの助言でしたが、あなたがここに入ってきたときから、あなたに惹かれていたんです。
 その立ち振る舞いや、装備品、私たちの目から見ても熟練の冒険者だと直ぐ分かりました。
 それで、ルイーダさんに聞いて助言を頂いたんです。
 本当は初心者ではないんですよね?ギルドカードは嘘をつきませんから。何か事情がおありなんでしょう。


 それで…、出会ったばかりでこんなことをお願いするのも心苦しいのですが、是非ともパーティーを組んで、私たちを鍛えていただけませんか?」


真摯にこちらの瞳を見つめながら話すハイネちゃん。

…まいったな。確かに初心者ではないといえばそうなんだが、初心者といえば初心者なんだよな。
だが、今事情を説明するわけにもいかないし…。
しかし、こんな瞳で見つめられたら断りづらいしなぁ。

うーん…。


「…そうですね、じゃぁ一回この3人で依頼を受けましょう。それでも続けられるとなったら正式にパーティーを組んでみましょうか。」


まぁ、何とも中途半端だがしょうがない。
二人は見習いだと言うし、俺もギルドカード上の能力は確かに高いんだが、実体験が乏しいので両方のテストを兼ねてってとこかな。

その返事を聞いた二人は表情を明るくさせる。


「「ありがとうございますっ」」


綺麗にハモった返事だ。


「いやいや、俺も迷惑をかけることになるかもしれないからな。こちらからもよろしくお願いするよ。」


そう言って二人と握手をする。

こんな華奢な手で冒険に出ようとするんだからな。
何か事情があるのか、それともこの世界では当たり前のことなのか。
ま、それは今はいいだろう。
この二人に迷惑が掛からないように、俺も気合いを入れないとな。


「さ、話がまとまった所で料理を食べておくれ。せっかくの料理が冷めちまうよ?」


ルイーダに促され、俺たちは席に座り直す。
ルイーダはなにやら満足げな表情で、俺の肩を叩いてからカウンターに戻っていった。
…何か、上手くしてやられてみたいだな。





「あの、イルハさん。」

「ん?」


食事の手を止めることなく、ニルちゃんを見る。
不作法だとは思うのだが、空腹にこの料理では手を止めることは出来そうもない。
それくらいここの料理は旨い。


「イルハさんの職業の「使者」って一体何なんですか?」


そうだよな、そりゃ見たこと無い職業だもんな。


「すまん。それについては俺にも説明できないんだ。俺自身、何のことなのか分からなくてね。
 ルイーダさんにも分からないそうだ。こんな職業見たことも聞いたこともないってね。」

「そうなんですか…。でも何か格好良いですね。他に誰もいない職業なんて!」


素直な子だなぁ。俺なんかは何か裏があるんじゃなかろうかと、正直怯えていたりするんだが。


「でも使者って何の使者なんですかね。色々考えられると思うのですが。」


ハイネちゃんの言うとおり。捉え方は幾らでもある言葉なんだよな、「使者」って。


「あぁ、そうなんだ。何処からの、誰からの使者って所が問題なんだよな。
 こんな抽象的なものじゃなくて、もっとはっきりした職業が良かったよ、俺は。」


苦笑しつつ、最後の一口のパスタを食べる。うん、旨い。





そして今日はひとまず、これにて解散となった。

勿論会計は俺持ち。でも3人分でも6Gだからな。安いモンだ。
って宿代の2Gって物凄く安いんだな。素泊まりではあるが、風呂もトイレもついててこの値段だもんな。



驚いたことに宿は同じ宿だった。彼女らは俺より上の階のツインだそうだ。
こりゃいいやってことで、宿のロビーで明日の軽い打ち合わせをした。
依頼はやめて、周辺でのレベルアップを兼ねた腕試し。
行程は1泊野宿予定だ。それ以上だと彼女らも負担が大きいだろう。
俺も自分がどの程度やれるのか、様子を見たいってのが本音だしな。

いくらギルドカードが嘘をつかないとはいえ、心配は心配だ。
二人の女のコの命を預かるようなもんだかなら。過信は禁物だ。



そして二人と別れた後、宿の大浴場へ。

これが思いの外、良い風呂だった。
まぁ、シンプルな大浴場だったんだが、疲れていたせいもあるんだろう。
正に極楽だった。あー、極楽極楽。



さて、明日はちと気合いをいれていかないとな。

あー、おかしいな、今日がこんな冒険の初日。
こんなに色々なことに、訳も分からず巻き込まれた筈なのに、結構普通に対応してしまっている自分が居る。

これからどうなるか。どうなっていくのか。



俺の明日はどっちだ?




[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第四話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/22 14:44

「おはよー、ちゃんと休めたか?」



待ち合わせ場所の、ホテルのロビーで待っていた俺は、駆け足でこちらに向かってきた二人に声をかける。


「はい、バッチリです!」


ビシッとブイサインなんかしながら、元気一杯にニルが応える。
おぉ、馬子にも衣装ってか。一端の魔法使いに見えるぜ。ただ装備的には、見習いだけあってお世辞にもいいとは言えない。

その後ろでハイネもまた笑顔を浮かべている。
ハイネもまた、しっかりとした僧侶然としていた。しかし、やはりこちらも装備が心許ない。

こりゃちっと装備を整えてやらにゃいかんか。


「おし、んじゃこれから出発する。
 が、ちと君たちの装備が心許ない気がするので、装備を調えにいこう。」


え?と同じ反応をする二人。と表情が曇る。


「でも、私たち手持ちがあんまりなくて…。」

「…そうなんです。新調しようにも宿泊費などで使ってしまっていて…。」


二人とも俯きながら、声のトーンが落ちる。
そう言えば、依頼もあんまりこなせてなかったんだっけか。
それじゃ、蓄えもそんなに無いんだろう。


「あー、そのことだけど気にするな。俺が買ってやるから。」

「えっと?」


ハテナが浮かぶ表情のまま、ニルが聞き返す。


「袖振り合うも多生の縁ってな。さ、行くぞ。」


そう言って宿を出ようとする俺にハイネが、


「いえ!そこまでしていただくわけにはっ」

「いいんだよ、俺が買ってやりたいから買うの。それにこれは、これからの君たちの安全にも繋がるわけだ。
 冒険で安全ってのもおかしなモンだが、君たちの損傷に繋がる因子を取り除けるなら、安いモンだ。
 装備品をケチって、怪我したんじゃ意味無いからな。」


そういって宿を出る。

さてっと武器防具屋はっと。確かあっちだったかな?


「おーい、二人とも俺はまだこの町に不慣れなんだ。案内頼むぞ?」


そう言って声をかけられた二人は、まだ納得してないのか、困惑気味だ。
気にしなくてもいいんだがなぁ。若いウチは年長者に甘えとけってのに。


「んー、まだ気にしてるんなら、出世払いってのはどうだ?
 君たちが稼げるようになった時に返してくれればいい。それまでの貸しってことでな。それでどうだ?」


しばらく二人は顔を見合わせた後、「それなら…」と、やっと二人は納得してくれたようだ。


「よし、じゃぁ案内してくれ。」



そして二人は、新調した装備として

→ニル
 E.ひのきのぼう
 E.旅人の服

→ハイネ
 E.銅の剣
 E.革の鎧
 E.革の盾

という装備になった。

二人とも、見習いだったせいもあって、貧弱だった装備が少しはましになったかな?
ハイネはまぁ現段階いいとして、問題はニルだな。
魔法使いだから装備できるのが少ないのはしょうがないんだが、ちと辛い。
まぁ、二人とも後衛だから、ひとまずよしとするか。


「いいなー、ハイネは色々装備できて…。」


ニルが恨めしそうに文句を言う。


「しょうがないじゃない。職業的にどうしようもないでしょう?」


確かに。そこに文句を言われてもどうしようもない。


「腐るな腐るな。君たちには、危害が及ばないように俺が気をつけるから。」


ニルの頭をぽんぽんと軽く叩きながら言う。



そして次は道具屋。

ここでは薬草×5、毒消し草×5、キメラの翼×2、お鍋の蓋×1を購入。

早速お鍋の蓋を装備したニルだったが、


「…こんなのやだよぅ…。」


そりゃごもっとで。でもしょうがないだろう。
見た目は悪いが、何にもないより随分マシだぞ?

後は野宿に必要な食料品やら水、そして雑貨類を購入。
1泊だけの予定だから、荷物的には大したことはない。





そんなこんなで街の出口。


「さて、昨日言ったとおり、俺が前衛、君たちは後衛。基本的に補助だ。」


昨晩の打ち合わせで確認したのだが、基本的に彼女らは見習いっていうか、新米の魔法使いと僧侶だ。
なので、経験が不足している。ということは戦力的にも期待はかけられないと言うことだ。

みんな初心者パーティーであれば、そんな事はいってられないが、事今回は俺みたいな特異な存在がいるからな。
ひとまず、俺が二人を引っ張り上げていかないと。

…あー、なんで俺はこんなにまとめ役みたいになってるんだ?
俺だって、昨日が初戦闘だったのになぁ。





「じゃぁ、出発しますか。」

「「はい!」」


二人とも元気がいいな。あんまり最初から張り切りすぎてると、すぐにバテるぞ?



そして、のんびりと歩きながら、とりあえず昨日俺が倒れていた森へ向かう。
あそこなら若干地理がわかるしな。
ついでに何か見つかればいいかな、と淡い期待も抱いている。


「イルハさん。」

「んー?」


ニルが先行して歩く俺に声をかける。


「イルハさんって、どこでそんなレベルになるまで修業していたんですか?
 イルハさんのレベルって多分、今旅をなさっている勇者様達より高いと思うんですが…。」



…痛いところと突いてくるな、キミは…。

どうするか、ってホントのことは言えないわな。信じられないだろうし、説明もしづらい。
かといって下手に嘘をつくのも、ボロが出そうだからな。
でも、この世界的に考えれば、結構でっち上げの村の名前でも分からないのかも。
連絡を取るといっても、ルーラやキメラの翼くらいだもんな。行ったこと無ければ行けない訳だし。

うーん、適当に誤魔化しておくか。
ばれたらばれたで白状するなりすればいいしな。信じてくれるかどうかは別として。


「レベル的にはどうなんだろうな。会ってみないとそれは分からないな。
 どこで修業してたかっていうと、故郷を出てからずっとだな。
 旅をしながら、経験を積んできたんでな。一箇所にとどまってたこともない。」


すらすらと嘘を並べる俺。ごめんよ二人とも。


「「へぇー…。」」


あぁ、二人の素直な視線が痛いっ。


「それにしてもレベル高いですよね。そんなレベルの人、世界にn「来たぞ?」


ニルが喋っていると、少し離れた所の草むらが不自然に揺れる。


そしてそこから現れたのは、おおがらす×2、いっかくうさぎ×2。

もしこの二人だけなら、ちと荷が重かったな。


ちらりと後ろを見ると、二人とも身構えているが、表情が硬い。緊張しているのがありありと分かる。
それじゃぁ、身体が硬くなって動けないぞ。


「…二人とも、そんなに緊張するな。大丈夫、落ちついて敵を見るんだ。初めての戦闘って訳じゃないんだろ?」

「それはそうなんですけど…。」


ニルが心配そうに言う。


「…大丈夫、俺が切り込むから、ニルは魔法の用意。俺がおおがらすに切り込むから、いっかくうさぎに向けて放ってくれ。どっちのヤツでもいい。
 ハイネはニルの援護。もし魔法を放った隙に襲ってくるやつがいたらそれの対処。いいか?」


コクリと頷く二人。
よし。良いコだ。


「じゃぁ、三人での初戦闘だ。張り切っていくぞ?」



そして俺は鞘から雷神の剣を抜く。

バチバチと紫電を走らせる剣。ホントこの武器って構えるだけで、敵を威嚇できるな。

そして後ろから聞こえる、感嘆の声。…こらこら、二人とも戦闘に集中しなさい



さてまずは、おおがらすっ

本気ダッシュから右のおおがらすに斬りかかる。
横薙ぎに一閃。返す刀でもう一匹のおおがらすも切り伏せる。

さて残りはいっかくうさぎだ。

ニルの魔法は? まだ来ない?

なぜ? と確認すると、ニルが固まっている。何してるんだ。魔法っていっただろうに。

しゃーない、ってんで、いっかくうさぎにも斬りかかる。

まずは一匹目のやつの眉間を一突き。そして隣のやつには横蹴りを一発。吹っ飛んだところを追い打ちっと思ったら、何とその蹴りでケリがついてしまった。………洒落に非ず。



なんだ、拍子抜けだな。ってそりゃそうか。レベルがレベルだったな。
昨日の戦闘では、自分の能力が分かってなかったから余裕が無かったが、今回は比較的広い視野で戦闘ができたな。
収穫収穫。

と、そう言えば二人は?


「…どうした? 戦闘は終わったぞ?」


剣を鞘に納めつつ、まだ身構えたままの二人へ声をかける。


「「……………。」」


まだ、固まってる二人。


「おいおい、早く宝石を回収するぞ。ボーッとしてるなよ、また魔物が襲ってくるかもしれんぞ。」


それでやっと二人は再起動して、落ちていた宝石を拾いに走る。

拾ってきた宝石を俺に手渡しながら、ニルが、


「イルハさんって凄いんですね!今の戦闘を見て改めてそう思いました!」


そうか?


「えぇ、正に目にもとまらぬ早業というのは、こういう事なのだと思いました。」


ハイネにも誉められた。

まぁ、二回目の戦闘だったし、自分の能力がどの程度か少し分かったから、やりやすかったってのもあるな。
それに、ここいらの敵なら問題ないってのも知識として持ってるわけだし。

でも全力で動いてみて、自分がどの程度動けるのか少し分かったかな?
ここでの戦闘はやはり本物だ。コマンドを選択して、自分のターンがあって敵のターンがあってって訳じゃなく、機先を制した者がやはり有利なんだ。
先ほどの戦闘でも敵の攻撃は一回も無し。それに対して俺の攻撃は4回。
先手を打てる力があれば、敵の攻撃を受ける、というか、敵が攻撃する前に撃破することも可能だ。

うん、これからの戦闘も出来うる限り、速攻で潰そう。
そうすれば二人の負担も減るし、二人は労せずレベルアップもする。
まぁ、あまり経験が積めないかもしれないが。 
でも最初のウチは二人に戦闘はさせなくてもいいだろう。

ゲームではダメージを受けても、回復すりゃいいやってな感じだったが、ここではホントの損傷として受けるのだ。ホントの痛みなんだ。
そりゃ、回復呪文や、回復アイテムなどもある。が、実際に目の前で怪我をされるのはご免被る。
どの程度綺麗に直るのかもわからないし。試したくもないしな。女の子の肌に傷でも残ったら一大事だ。


「しばらくの間、出来る限り俺が敵さんの相手をする。君たちはまず戦闘の空気に慣れるんだ。
 俺がどう動くのか、敵がどう動いてくるのか。それをよく観察してくれ。
 それと、いくら俺のレベルが高いと言っても俺も人間だ、ミスもある。それをフォローしてくれると助かる。」

「「ハイ!」」


うん、ホントに素直な良いコ達だ。こんなコ達が戦闘するなんてなぁ。





「…不躾だが、君たちの冒険者になる目的ってな、なんだ? 聞いても大丈夫なら教えてもらってもいいかな?」


歩きながら尋ねると、一瞬二人の表情が曇る。んーと、こりゃ聞かない方が良かったかな…?


「いや、言いづらいのなら言わなくていいんだ。気にしなくていい。」


と、俺はこの話を切り上げようとしたんだが、


「…いえ、そんな大した理由ではないんです。」


そう言って二人は語り出した。



この二人はアリアハンから離れた村で過ごしていた幼なじみなんだと。
で、小さい頃から遊ぶのも、学校に行くのも一緒だったんだそうだ。

ある時二人、村はずれで遊んでいたときに魔物に、スライムに襲われたんだそうだ。
二人はその時に、初めて間近で魔物を見たんだそうだ。で、二人とも怖くて動けなくなってしまった。
スライムとはいえ立派な魔物だ。身体は柔らかいが、あの身体で体当たりされたら子どもなんて簡単に吹っ飛ばされる。
もうダメだ、と二人で抱き合いながら目を瞑ったんだが、攻撃は一向に来ない。
どうしたのかと、目を開けてみるとそこには冒険者の姿が。
彼がスライムを倒してくれたんだそうだ。

で、その時の感謝の念から、自分たちも冒険者になって、魔物に虐げられる人たちの手助けになりたい、と。
それから、二人は冒険者になるために、勉強をし、彼女たちなりに鍛えていたんだそうだ。

そして学校を卒業し、彼女らの両親を説得して、冒険者になるべくアリアハンへ上京。

ギルドに登録して、いざ冒険者にと思ったんだが、初心者の女の子二人だ。
殆ど誰もパーティーを組んでくれなかったようだ。
組んでくれても、おっさん連中のイヤらしい眼に晒されたり、女だてらとバカにしたような態度を取られて、報酬も約束の額より少ないなんてこともあったと。



………ひどい話だ。
どこの世界も変わらんなぁ。



でも、二人支え合って何とか一人前になろうと頑張っていたそうだ。なんて健気な話だ。
そんな健気な二人をルイーダが放っておく訳なく、何かと助言していたんだそうだ。

そして昨日、変わったやつが来たってことで俺についていけと。
どうしてそうなるんだ。


「ルイーダさんが、あの人は悪いやつじゃないって。あの人は信用出来る、心配するな、あたしが保証するって…。」


なんだそりゃ。無茶苦茶な理由じゃないか。

…しかし、まぁ、そこまで期待されてるなら、こりゃいよいよ頑張らないとな。
こんなコ達の期待を裏切るわけにゃいかんよ。
俺も初心者なんて泣き言、言ってられないな。


「了解。そこまで言われちゃな。俺も出来る限り手助けするよ。よろしくな」


そう言って二人の頭をぽんぽんと軽く叩く。


「「はい、よろしくお願いしますっ」」


そう言って二人は深々とお辞儀をした。
うん、素直で良いコたちだ。

しかし、ルイーダからこの二人を紹介した、ちゃんとした理由を聞きたいもんだ。
会って直ぐの人間に、こんな良いコ達を任せるってどういった考えがあったのか。
昨日は勢いで受けてしまったが、今度行ったら尋ねてみよう。





それからは、森に着くまで何度か戦闘があった。

その中で俺はニルのメラを初めて見た。正直感動した。
ニルの指先にサッカーボール程度の火球が渦巻き、それが敵に向かって飛んでいく。
そして、それがおおがらすに当たり、炎を伴いながら吹っ飛ばした。
それが致命傷になったのか、おおがらすが宝石になる。

なんだよ、ニルってスゲエじゃん。
っていうか魔法って、こんな小さな女の子でも十分戦える力を与えてくれるんだな。
こりゃ強力だわ。初歩のメラでコレだもんな。
これからの成長が楽しみだ。



「さて、今回はこの森の中で一昼夜戦ってみよう。大丈夫、出てくるモンスターは大したことないから。
 さっきまでのやつと同じだよ。」


森に入る手前で、ニルとハイネに向かいながら話をする。


「今回の目的は二つ。一つは昼間の移動しながらの魔物狩り。レベルアップ+資金調達の為だな。
 そしてもう一つは野営、野宿だな。交替で番をしながら、夜を明かす。
 まぁ、今回は一日だけだから、夜の番は俺がやるつもりだ。そんなに気にしなくてもいい。
 野宿とはこんなもんだと肌で感じてくれればいい。」


こくりと頷く二人。素直だなぁもう。

と言いつつも、実は俺もちっと緊張してたりする。
キャンプはよく行っていたし、事情があって森で夜を明かした経験もあるから、さほど、と言うわけでもないが。
まぁ、とはいえ命の危機まで感じたことはなかったけども。

今の能力を考えると俺は少し余裕があるから、俺がしっかりした所を見せていないと、二人が心配するだろうからな。
完徹には慣れてるから大丈夫だろう。





そして森に分け入ること、数時間。


何度か魔物と遭遇し、戦闘を繰り返す度、ハイネが意外と実戦向きな事が分かってきた。

まぁ、僧侶であるから武器での戦闘もそつなくこなすであろうとは思っていたが、俺が思っていた以上にセンスがあるようだ。


「ハイネ、キミは誰かに師事して、剣技の指導でも受けたことあるのかな?」


ハイネは剣技の筋がいい。ホントに見習いなのか?と思うような動きをする。

先ほどの戦闘でも、多数の敵相手にも視野の広い戦闘を見せてくれた。

ニルが魔法を放つ時は、いつでもニルの傍によれる距離に、敵が近づいたときには無理に突っ込まず、俺の対応を見てからアクションを起こす。

俺が言いたいことを、俺が言う前にやる。これは凄い事だと思う。初心者ではなかなか出来ない動きだ。


「いえ、学校で習った程度で、特に…。
 ただ、強いて言えばイルハさんの動き、ですかね。」


俺の?


「ええ、イルハさんの動きをよく見ていると、本当にムダがない。一連の動作に流れというか、淀みがないんです。
 で、その動きを真似、ってそんな簡単に真似出来るわけはないんですけど、手本にしてるというか…。」


そうなのか。


「ええ、そうなんです。」


そう言いながら微笑むハイネ。それで動きがよくなるなんて、お前は写輪眼使いか。

出来の良い生徒を持つと楽ではあるが、気が抜けないなって、まぁ抜くつもりは無いんだけどね。
この動きってのも、本来の自分ではないというか、何というか…。
自然に動いちゃうんだよな。頭より先に身体が動くっていうか。



そうして何度か戦闘を繰り返す内に、元々暗かった森がより一層暗くなってきた。
こりゃ、ぼちぼち野宿の準備かな。



「よし、今日の所はそろそろ野営の準備に取りかかろう。」



休むにはちょうど良さそうな大木があったため、今日はそこを塒にすることにした。
近くに綺麗な小川も有ったことだしな。

お、魚や虫も居る。水質は大丈夫そうだな。

まずは周囲から薪を集め、火を起こす。
明るくなる事で少し気分が和らぐ。なんでなんだろうな、この感じ。
やっぱ、基本的に人間は闇を恐れるからか。

周囲に落ちている石などで簡易的に釜戸を作る。
そして、腰袋の中から小さめの鍋を取り出し、その中に買ってきた干し肉と調味料、野草を入れる。

野草はニル達に食べれるのを教えてもらった。学校でこういうことも習うんだと。
えー知らないんですかーなんて言われてしまったが、しょうがない。
現実世界でもキャンプなんかは好きだったが、流石にそこらに生えてるやつは中々喰う気になれない。
知識がないってのもあったが。
やっぱ、世界が違うなぁ。サバイバルな野外授業なんて受けてみたい。

そして近くの小川から汲んできた水を入れ、一煮立ちさせる。うん、なかなか良い匂いだ。
そして十分火が通ったことを確認すると、それぞれに持たせておいた皿に入れ分ける。

そして保存が利くように乾いたパンを、それに浸して食べる。

おお、存外に旨いじゃないか。勘頼りに作ったわりに上出来だ。
二人も美味しいといってよく食べている。おかわりも少しならあるからな。



そして食事の後片付けをして、とりあえずの寝床の準備。



各員が小さくまとめた寝具を携帯している。
シュラフのようなものでもあるが、こんな中に入っているときに魔物にでも襲われたら一溜まりもない。
幸い陽気的にも日が暮れたとはいえ、それほど寒いわけでもない。
これを掛けて寝ることにする。



そこで重大問題が。


トイレだ。


って俺が焦ってたんだが、娘っコ二人はあっけらかんとしたもんで、
覗いちゃダメですよ、何つって用を足しに行ってしまった。

そうか、俺の感覚では重大事だったんだが、こんな事に慣れているこの世界の人たちからしたら、さしたる問題でもないのか。
確かに、そこらに公園があってトイレがあって、なんてことはこっちの世界じゃあまりないもんな。

いやはや、逞しいもんだ。俺も見習わないと。



寝床の準備も整ったということで、


「さて、今日の成果を確認するとしよう。」


そういって全員のギルドカードを見せ合う。

俺は特に変化なし。ま、しかたないだろう。この辺りで稼げる経験値なんて、今の俺にすると微々たるもんだし。

で、二人はっと。

おお。ニル凄いじゃないか。レベルが4になっていた。
誉めてやると、えへへーとニルは嬉しそうだ。

ハイネはっと、おおハイネも凄いじゃないか。同じくレベル4だ。
はい、ありがとうございます、と微笑んでいる。

ということは、使える呪文も増えたのか?
二人は、はいっと嬉しそうにギルドガードの裏側を俺に見せてくれた。

そこには呪文の名前が刻まれていた。

ニルのカードには、
メラ・スカラ・ヒャド

ハイネのカードには
ホイミ、ニフラム・ピオリム

と刻まれていた。

二人とも順調な成長をしている。
戦闘は俺が殆どこなしているが、ちゃんと経験値としては割り振られているようだ。


それにしても裏? ギルドカードの裏なんて何か書いてあったの?


俺も自分のギルドカードの裏を確認してみる。

そこには、


「すっ、凄い…!」

「こんなに沢山…!」


…何というか、小さい文字でびっしりと書いてあった。っていうかコレ、文字だったのか。てっきり模様か何かかと思ってたよ。

あー、なになに…。

確認してみるとそこには、魔法使いと僧侶、さらに商人や盗賊の特技などまであった。


…おいおい、どんな極めキャラだよ…。



「…イルハさんってホントに何者…?」



二人から訝しんだ視線を送られた。

俺だって自分が正直よくわかんねーよ。

しかし、よく見ると呪文には幾つか足らないものある。
レベルが上がれば覚えるのか?それらも。


「いや、俺も正直驚いてるんだ。呪文なんて今まで使ったこともないしな。」


そう言ったら二人から驚かれた。当たり前だが。


「…剣一筋できたんですか…? そのレベルまで…?」

「凄いというか、呆れるというか何というか…。」


何だか生暖かい視線を送られた。なんだよ、こら。仕方ないだろ。込み入った事情があるんだってば。

しかし、二人の中の俺の位置付けが、若干変わった気がするがまぁいいだろう。



二人からは呪文を見てみたいと言われたが、取りあえず却下。
こんな所で高位呪文を使って、どんな影響が出るのか分からないからな。
しかも、今は夜だから余計にダメだろうが。そんなことしたら魔物が寄ってくるぞ。
いや、反対に寄ってこなくなるか?恐れをなして。
ま、明日また開けた所ででも試してみるさ。



さて、夜番は俺がしているから、君たちはもう寝なさい。
寝て身体を休めることも、立派な冒険者の仕事の一つだ。

とはいえ、中々寝れるもんでもないんだがな、なんて言ってたら速攻寝息が聞こえてきた。



おいおい、そりゃ疲れてはいたんだろうが…。逞しいなー。




[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第五話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/22 19:06

…辺りが白んできたな。



もう何度目かの薪をくべた時、辺りが明るくなってきたことに気がついた。

昨日から、野営を始めてこのかた、魔物の襲撃はなかった。
いやはや、ちと拍子抜けだったな。
まぁ、この辺りの魔物はそれほど凶暴じゃない。
テリトリーに入ってこない限りは襲ってはこないのか?

しかし、現実世界に居たときから完徹には慣れていたが、ここまで体調に変動がないとは。
かれこれ、20時間近く寝てはいないが、自分でも驚くぐらい疲れがない。

まぁ、楽でいいか。

しかし、野営の時は夜露に注意だな。
ここはそれほど酷い夜露ではないが、天候次第では身体が冷えて体調崩しそうだ。

それと雨などの時も要注意だな。
雨で濡れることは当たり前として、雨音のせいで敵の接近を許しかねない。
っていうか、雨での行軍もキツイだろうなぁ。考えただけで面倒だ。
あー、どうするか。まぁ、時間に余裕があれば、天候の回復を待った方が得策だろうな。

というか、野営自体を避けた方が楽だよな。やむを得ない場合はしょうがないが。


…あ、そうだ。馬車だ。馬車を買えば良いんだ。
そうすれば大体の問題は解消する。
荷物も載るし、休憩もできる。まぁ、場所を取るだとか、目立ちやすい、馬車自体を襲われるかもしれないってのはあるが。
それを差し引いてもメリットはありそうだ。

うん、街に帰ったらその辺を検討してみよう。
馬車が幾らくらいするのか知らないが、預けた金で多分買えるだろう。…買えるといいなぁ。





そんなことを考えつつ、番をすること暫し。

辺りがだいぶ明るくなってきた。
明かり取りとしての焚き火はもう不要だな。

と、もぞもぞする娘っ子が一人。


「…よぅ、起きたか?」


先に起きたのはハイネだった。


「……………。」


どうやらまだ、半覚醒状態のようだ。

毛布代わりのシュラフを被ったまま、左右にゆらゆら揺れている。…大丈夫か?


「…おはよう…ございます…。」

「あぁ、おはよう。」


このコは朝が弱いのかな?
まぁ、このくらいの年なら、朝はなかなか起きれないだろう。
とはいえ、今は野営中。直ぐにでも起きてもらわないと困る。


「ハイネ、今の状況が分かっているか?」


その言葉を聞いて自分の置かれている状況を思い出したのか、目つきがしっかりしてきた。


「…そうでした。寝ずの番、ありがとうございました。」

「いや、大丈夫だ。それより、川行って顔でも洗ってこい。すっきりするぞ。但しここは森の中だ、気をつけろよ?」


はい、といってハイネは川へ向かう。愉快な寝癖をつけたまま。気づくかな? あの寝癖。



さて、もう一人の娘っ子はと。

よく寝てるな…。

ま、いいか。起きるまで放っておこう。今はまだ無理に起こさなくてもいいしな。

さて、じゃぁ、朝飯の用意でもするか。



顔を洗って、寝癖もしっかり直してきたハイネに手伝ってもらいながら、朝飯の用意をする。

朝飯はおじやだ。…訂正、おじや風だ。
ちょっとビックリしたのだが、こっちにも米はあるのだ。考えてみると、まぁ、別段不思議でもないのかもしれんが。
で、その米を使って、おじやを作ることにする。
とはいえ、米を他の具材と煮るだけなんだけどな。

んで、この料理はこっちの世界にもあるとのこと。それならってハイネが作ってくれるそうだ。

それで分かったのだが、ハイネって料理の手際がいいな。料理しなれている。

これなら昨日も頼めば良かったか?



そして朝飯の準備が整った頃、ニルが起きた。


「…美味しそうな匂いがする…。」


起き抜けの第一声がそれか。


「おう、おはよう。ハイネはもう起きてるぞ。ニルも川行って顔洗ってこい。そしたら飯にするから。」


はーい、と返事をして、ずるずると怠そうに歩いていく。

おーい、足下だけじゃなく周囲にも気をつけろよー。




「「「いただきます。」」」


みんな揃ってご挨拶。大事な事だ。

うん、美味しいね。
ハイネは良いお嫁さんになるぞー、何て言ったら、じゃぁ貰ってくださいね、とにっこりと返された。
…この小悪魔め、どきりとしたじゃないか。お兄さんをからかうんじゃない。

それを見ていたニルが、あたしだって出来るもん!と対抗意識を燃やしていた。
じゃぁその腕前を、また今度にでも見せてもらおう。



食事を終え、みんなで片付けをする。食器類を洗いつつ、水も補給しておくことも忘れない。水は大事だからな。

そして野営の撤去。といっても火を消して、釜戸を崩しておく位なんだが。



「うし、じゃぁ、来た道を戻ろう。夕方までには街に戻れるはずだ。」

そして、また森の中を進んでいく。

その後、数度の戦闘があったが、二人もだいぶ慣れたもんだ。

レベルが上がったことで、体力的にもだいぶ楽になったんだろう。
動きも、昨日森に入った頃よりは格段に良くなっている。
ニルは的確に魔法を使用し、ハイネはきっちりニルの援護。
時には自ら、敵に斬りかかっていく。
まぁ、反撃されても、ここらへんの敵なら、さしてダメージもうけないしな。



なんて油断していたら、おおありくいがハイネに痛恨の一撃を喰らわせた。



殴り飛ばされ、木に叩きつけられるハイネ。



くそっ! しまった!



直ぐさまハイネに駆け寄り、その身体を抱き起こす。


「うっぐ、だ、大丈夫です…よ。」


強がってはいるが、ダメージは大きいのだろう。その表情が如実に物語っている。
俺はハイネの殴り飛ばされた胸当たりに手をかざす。

そして、


「…ホイミ」


ボウッと俺の手とハイネの胸辺りが、淡く緑色に光る。

すると、ハイネの苦しそうな表情が和らいだ。
良かった…。俺にもちゃんと魔法は使えるみたいだ。


「悪かった、俺が油断したばっかりに…。」

「いえ、イルハさんは何も悪くなんか…。」


気丈に振る舞うハイネ。だが、俺の油断が招いた事。
下手をすると、取り返しがつかないことになるところだった。

ひとまずハイネをニルに任せ、俺は魔物に視線を向ける。



…今回はいい教訓になった。俺みたいなやつが油断なんて10年早いってのが、よーく分かった。
ありがとうよ、この野郎。

俺は雷神の剣を構えると、おおありくいに向け、気合いと共に振り下ろす。


「喰らいやがれっ!」


雷神の剣から迸る炎の濁流。
その濁流に呑み込まれたおおありくいは、瞬時に蒸発したかのように姿をかき消す。

後に残るは、残り火と宝石だけ…。



改めて、ハイネの具合を確かめる。

殴られた所は、特に痣にもなっていなかった。……実際に見て確認したのは俺じゃないぞ?

これはホイミの効果なのか、防具類のおかげなのか。おそらくホイミの効果が大きいだろう。
まぁ、落ちついて考えれば痛恨の一撃をもらったとしても、今の二人ならすぐどうこうってのはないだろう。
が、喰らわないに越したことはない。


「本当にすまんかった。俺の油断が原因だ。これからはより一層気をつける。」

「いえ、ホントにイルハさんのせいじゃないんですよ。私が敵の間合いを読み違えたからなんです。
 だから、イルハさんは謝らないでください。」


ハイネは笑ってそう言ってくれたが、俺は自分を許せなかった。

二人の負担を極力減らそうと気をつけていたつもりなのに、この体たらくだ。
確かに、手助けをし過ぎるのは二人の為にならないとは分かっているんだが、こと今回は三人での初めての旅だ。
いきなり、キツイ目に遭わせまいと考えていたのに…。はぁ。



その後、沈む俺を明るく振る舞い、場の空気を戻してくれたニル。


「ニルもごめん、それとありがとな。」

「いーえ! 気にしないでくださいっ」


ホント良いコ達だ。こりゃ一層気を引き締めていかないとな。



「それにしてもさっきの炎、あれは何ですか?」


ハイネが雷神の剣の効果について尋ねてきた。
二人ともあれ程の炎を見たことがなかったんだろう。不思議に思うのも当たり前だ。


「ああ、あれはこの剣の効果でな。ベギラゴンと同等の効果があるんだわ。」

「「ベっ、ベギラゴン!?」」


二人はよほど驚いたのか、同じように目を丸くしている。面白い顔してるぞ、二人とも。
まぁ、驚くのも無理はないか。ギラ系の最強呪文だもんな。


「そんな武器を持ってるイルハさんって…。」

「ホントに何者…?」





その後は俺が敵を全部薙ぎ倒し、たかったんだが、ニルとハイネの願い出で、俺がむしろフォローに廻るようになった。


「私たちのレベルもだいぶ上がって、それなりにやれるようになったんです。大丈夫です。やらしてください。」


二人から、こんなにまっすぐに見据えられてお願いされたら、そりゃ断れないよ。


「…ああ、分かった。だが俺が少しでも危ないと感じたら…。」

「ええ、その時はお願いしますね?」


ハイネ。そこでちょこんと首を傾げながら言うな。破壊力抜群だから。ニルも一緒になって真似しない。
まったく、この小悪魔達が。



しかし、たった一昼夜の行軍で見違えるもんだな。
操る魔法もだいぶ強力になったし、体術に関しても格段に動きがよくなった。

ニルは使える呪文も増えたこともあって、ノリノリだ。
これで、ギラ、イオを覚えたら魔法使いとしてひとまず第一段階ってとこか?

ハイネもマヌーサを覚えてから、より積極的に突っ込むようになった。
マヌーサで敵の視界を奪ってから、ニルの魔法。そして生き残った敵にトドメを差す。
スゲエな。たった一昼夜でこんな連携ができるようになるなんて。

とはいえ、まだMP自体がさして多いわけでもないので、ニルは夕方前にはガス欠。
ってことで、後衛で待機。

ハイネはまだMPにも余裕があるってことで、マヌーサを駆使しつつ攻撃を繰り返す。

おいおい、僧侶っつうより魔法戦士みたいな戦い方だ。
俺も負けてられないってことで、ニルをカバーしつつ、ハイネの漏らした敵を狩っていく。

しかし、こりゃースゲエわ。
こんな有能なコ達が今まで埋まってたなんて、ギルドのメンバーが知ったらさぞ驚くだろうなぁ。





今回のこの腕試しで感じたことは、このコ達とこれからもパーティーを組みたい、ということだった。
このコ達の成長を見るのが楽しいんだ。勿論楽しいことだけじゃない。
むしろ辛いことの方が多いだろうな。冒険の旅なんて。
でも、それでもこのコ達となら、旅を続けられそうな気がする。





「さて、お疲れさまでした。今回の旅は短いけど、ここまでで終了としよう。」


街の入口で二人に向かいながら、旅の労をねぎらう。


「こちらこそ、ありがとうございました。色々助けていただいて、物凄く勉強になりました。」

「あたしも、すごく勉強になったし楽しかった! ホントにありがと! イルハさん!」


二人にそう言ってもらえると、こっちも嬉しいよ。こんな至らない指導で申し訳なかったけどな。



「…それで、これからのことなんですが…。」


ハイネが神妙な面持ちで聞いてくる。


「ああ、そのことなんだが、…もし…君たちがよかったらなんだが、俺と一緒に旅を続けてくれないか?」


ちと気恥ずかしい気持ちもあるんだが、正直に俺の気持ちを伝える。


「俺にはちと旅の目的があるんだ。…今はまだ言えないんだが、それは時機を見て話すよ。
 それで、その手助けをして欲しいんだ。…物凄く身勝手なお願いだと思う。
 ただ、今回一緒に闘ってみて、何というか、凄く充実した時間だと思ったんだ。」


二人は真剣な面持ちで俺の話を聞いていてくれる。


「君たちの成長を見ているのが楽しいんだ。君たちはどこまで強くなるのか。それを見てみたい。
 それと一緒に俺自身も成長していきたいんだ。」


あー、キャラじゃないなぁ。俺ってこんなこと言えるヤツだったっけな?


「…即答してくれとは言わない。君たちの都合も勿論あるだろうから、ゆっくり考えてから返事をしてくれ。」


言い終わって、一息。
ふぅ、柄にもなく緊張しちまったよ。

と、俺を見つめる二対の瞳に気づく。


「即答できます。私はあなたの旅についていきます。行かせてください。」

「あたしも勿論ついていくよ。それに、それはあたし達が最初にお願いしたんじゃん!
 もう忘れちゃったの? イルハさんっ」


ん? と、顔をのぞき込んでくるニル。そういやそうだったな。
いや、だが、もう少し考えても…。


「その必要はありませんよ。ね?」

「そうだよ! 最初から決まってたことだよ!」


そうだったっけ?


「「そうです!」」


そうだったのか。





「じゃぁ、改めてこれからもよろしくな。」


そういって右手を差し出す。


「それじゃだめです。」


え?ダメだし?


「二人なんですよ?」


…はい。

両手を差し出すと、しっかと二人が手を握ってきた。


「よろしくお願いしますね?」

「よろしくねー!イルハさんっ」

「あぁ、精々迷惑かけないように気をつけるよ。よろしくな二人とも。」





そして俺たちは、一旦宿へ戻ることにした。

装備品を脱いでおきたかったってのと、風呂に入りたかったからだ。
一日とはいえ、やはり風呂に入らないと気持ちが悪い。
今回の旅の戦訓会議やら品評会やらは、さっぱりした後にしようということに。





「あー、良い風呂だったー。」

部屋でベッドの上に寝転がる。だー、やっぱり風呂上がりのごろ寝は最高だー。
至福の一時…。

そんなまったりとした時間を過ごして、うとうとしかけた時、部屋のドアがノックされた。
おっと、来たかな?


「ニルとハイネかー? 開いてるぞー。」

「はーい、お邪魔しまーす。」

「おぅ、どうz…


そして二人が入ってきたのだが、俺は思わず言葉の途中で固まってしまった。

なんというか…。これはちと刺激的な格好だ。

ニルは艶めかしい風呂上がりの洗い髪に、黄色のロング丈タンクトップとデニムのショートパンツ。

ハイネはツインテールではなく、さらさら(ちゃんと乾かしてあるようだ)と長く下ろした髪に、アイボリーの胸レースキャミソールと紺色のプリーツミニスカート。

ニルもハイネも、二人ともスタイルがいいからこの格好はちょっと…。その谷間は反則ですよ、お嬢さん方。
…君たちはなにかね? 会議や打ち合わせではなく、俺を悩殺しにでも来たのかね?

俺が眉間に手を当て俯いていると、ニルが声を掛けてきた。


「どうしたんですかー? どこか具合でも?」


その表情は普通に心配しているようだ。


「イルハさん、大丈夫ですか?」


ハイネもいたって普通に心配してくれている。

お兄さんは、そんな君たちの無防備さが心配だよ。


「…体調は大丈夫。頗る快調だ。」


他の所も快調になってしまいそうだ。快調というより怒張? なんつって。


「…あー、君たちは普段からそんな刺激的な格好を?」

「あ、いや、ハイネが…」


ニルが何か言いかけたところで、ハイネがニルの口を塞ぐ。


「いえ、なんでもないんです。この格好はお風呂上がりで熱かったためです。ええ。他意はありません。はい。」


普段より随分早い口調で一気にまくし立てるハイネ。ちと怖いぞ。

ハイネの様子から、これ以上追求するのは得策ではないと判断し、二人に席を勧め本題に入る。
まぁ、席と行っても椅子がないので、ベッドの上に座らせるだけなんだが。



今回の反省点といっても、二人に関しては特にない。
が、俺は「油断」というデカイミスをした。これは非常に問題である。
年長者たる俺が油断をするなど言語道断だ。
今回はたまたまリカバリできる範囲で納まったが、これがもっとシビアな展開にならなかったとも限らない。
ハイネのレベルや、装備を調えたことも幸いしてか、今回は事なきを得た。今回は、だ。
だが、ここはアリアハンだ。魔物のレベルが最も低い地域。
ここでちゃんと自覚しておかないと、後々怖ろしいことになりかねない。

俺は素人だ。能力が高いだけの素人。今はその能力によって誤魔化されてはいるが、これから旅を続けるにあたって、敵の強さは強くなる一方だ。そんな誤魔化しはいずれ効かなくなる。
まぁ、俺も実戦を経験し、自分の能力を少しは理解できてきた。
これからの旅の中で、更に己を磨いていくしかない。

俺をこの世界に連れてきたのは「誰」なのか。そしてその「目的」は?
それが何であるか、知らないうちにくたばってたまるか。
しかも死ねない「理由」も増えたしな。



この二人がどんな冒険者になるのか。



それを見るのが、今の一番の楽しみかも知れない。




[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第六話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/23 13:25

そして三人で今後の方針を決める。


第一目標として、死なないこと。
これが大前提だ。そりゃ、ザオリクや教会など生き返らせる方法はあるようだ。
だが、どうやら一定時間経過するとそれも無効となるようなのだ。これはかなりシビアな問題だ。
死んでも生き返ることができるという、ゲーム特有の楽観的な考え方が条件次第だが通用しない。
もう、気をつけろとしかいいようがないが、痛恨の一撃や即死呪文など厄介な問題が山積みだ。頭が痛い。


そして第二目標は二人が一人前になること。
これは順調に旅を続ければ、遠くない将来達成できるだろう。俺はそれの手助けをするだけだ。
ある意味、今の生きがいといっても過言ではないだろう。


そして第三の目標として、俺自身がここに連れられてきた理由を探る。
何だか優先順位が低いかと思うが、これは俺の中での変化が関係している。

一昨日、こちらの世界に来たばっかりの頃は、そりゃ元の世界に今すぐにでも帰りたいと思った。

だが、昨日今日とこの世界に触れるにつれ、この世界に惹かれだしている。

そりゃ、突拍子もない話で、魔物と闘うなんて正直、腰が引ける。
だが、この二人の存在が俺の意識を大きく変えてきている。
守りたいものがあるってのは、ホントに大きいんだな。

で、よくよく考えると、そんな大切な二人なのに俺が何者なのか隠しておくというのが、とても心苦しく思うようになってきた。
この二人には、俺が誰なのかを知っていてもらいたい。

信じられないかも知れない。

それによって、二人との距離が離れてしまうかも知れない。

だが、こんな隠し事をしたまま、仲間として旅を続けることが、俺にはどうしても出来そうにない。

ということで、二人には俺が別の世界から来た何者か、というところまでだったが告白した。
ここがゲームの中ではないかと、というのは伏せておいた。流石にこれは言いづらかったからだ。
これも、いずれ話さなくてはならないと思ってはいるんだが…。むぅ…。



二人は最初は信じられないといった様子だった。
無理もない。普通に考えればあり得るはずがない。
そして常識的に考えれば、怪しいこと事この上ない。頭がおかしいとも疑われるだろう。



「…それでなんですね、イルハさんがどこか「違う」と感じられたのは…。」



そういってハイネは俺を初めて見たときの感想を教えてくれた。

ハイネが俺を初めて見たのは、俺がルイーダの酒場に入ってきたとき。
風貌は、特に平均というか目立たないものだというのが第一印象だったそうだ。
だが、なぜか気になる。目が離せない。そしてよく見ていると気になることが。


「イルハさんのマナが、他の人とは明らかに違っていたんです。」


マナ?


「はい、マナとは誰しも持っているもので、資質であり、力であるといいましょうか。人によってその質や量は異なっているんです。ただ、この概念自体、一般的とはいえないものなので、知っている方はあまりいらっしゃいませんが。」


一つ質問。俺は君たちのマナってヤツが見えないんだが…。


「ええ、それなんですが、私は祈祷師の家系の出なんです。その血によって、人に宿るマナが見えるのではないかと…。」


なるほど、ウチラで言うところの霊能力者のようなもんか。


「それで、普通の人のマナは殆ど見えません。冒険者といえど、マナがうっすら見える人がいる、という程度で。」


なるほど、で、俺はどう違っているんだ?


「あなたのマナは何と言えばいいのか…。マナ自体が大きいし、濃密なんです。
 マナがこんなにはっきりと見える人自体、非常に珍しいんですけど。
 でも他を圧倒するようなものではなく、包んでくれるような不思議なものなんです。
 今まで見てきた方の中でもこんな大きくて濃密で、こんな温かいマナは初めてです。」


なるほどねぇ。でも自分で知覚できないのが惜しいなぁ。見てみたいぞ、マナ。


「それと、ギルドカードが示した職業「使者」。これも今の話を聞けば、納得もできます。」


なるほど、異世界からの「使者」か。確かにね。ただ、お使い事はなんなんだろうな。
その、お使いってのを教えてくれないとな。神様だか誰だか知らないが。まったく。
しかし肝心の依頼主が解らないってのが、ねぇ。



しかし、二人ともよくこんな突拍子もないことを信じてくれたもんだ。感謝。

ただ、このことは他言無用にしてくれよ?


「わかっていますよ。」


ハイネが唇に人差し指を当て、しーっのポーズをした。可愛いな、こんにゃろう。

ニルも「はーい!」と元気のいい返事。うん、良いコだ。


「でも、それでだったんですね。変にレベルが高いのにギルドに未登録だったり、この世界の一般常識がなかったりしたのは。」


すんません、勉強に励みます。



「魔石の換金方法を知らないなんて、不思議な人だなーって思ってたんですよ。
 どうやって、これまで生活してきたんだろうって。」



そうなのだ、魔物を倒したときに落とす宝石っていうのが、「魔石」と呼ばれるものなんだと。宝石じゃないのか。
で、これの換金方法なのだが、ほぼ、どの街や村にもあるという「魔石換金所」。
ここで魔石とGを換金するということだった。魔石の交換レートは魔物の強さにほぼ比例するという。
強ければそれだけ希少価値が高く、交換レートも高い。ただ需要と供給で若干レートは変動するのだという。

なんでもその魔石ってのは、魔法の媒介としても使えるんだそうだ。
武器防具などに埋め込まれたり、祈祷用、祭事用など用途は様々ということだ。

ということで、今回の腕試しで獲得した魔石を換金したところ、それなりの額になった。
これはニルとハイネの二人で山分けにしてもらった。

二人は遠慮して三人で山分けにといったんだが、俺にはひとまず不要であったし、おこづいかいにでも使ってもらうことにする。なに、好きなものを買えるってのは幸せなことだ。



さて、本題のこれからの行動方針を検討する。

まずは馬車の調達。これは必須だろう。

聞くところによると、その種類はピンキリらしく、ほんとに荷馬車程度のものから、冒険者御用達の長旅用のものまで様々あるのだという。水回りの充実したものや、装甲の厚いもの、無駄に豪華なものなどあると。
それに値段もピンキリで安いものは数百G、高いものは数万Gもするそうだ。うーむ、そこそこのものなら、何とか買えなくはないかな?
なんによせ、明日実物を見に行くことにしよう。うーん、オラ、ワクワクしてきたぞ。

馬車を手に入れてからは、まず、この大陸を見て回ろうということになった。

ストーリー的に見て、あまりこの大陸にいる意味はない。
旅人の扉は勇者一行が開いているだろうし、鍵にしてもアバカムが使えるから、何ら問題ない。
二人のレベルを見ながら旅を進めようと思う。

ただ、どこに俺がこの世界に連れてこられたヒントがあるか分からないので、主要な村は一通り廻りたい。
余力があれば、近隣の村なども見たいところだ。

そして勇者一行なんだが、これはどうするか悩むところだ。

下手に接触してもいいものなのかどうか。
今現在どこまで進んでいるかわからないが、接触は慎重にしよう。
俺の存在も、何らかの影響があるかもしれないからな。
勇者一行の動向はなるべくこまめに、可能な限りチェックしていこう。



さて、腹が減ってきたな。ぼちぼち飯でも食いに行くか。

今回の旅の報告がてら、ルイーダにでも行くか。あそこの飯は旨いしな。

そして二人は支度をすると言って部屋に戻っていった。
そりゃそうか。流石にあの格好のまま出てったら、ちとまずいか。

そして俺も支度をすませ、部屋を出る。
もう、雷神の剣を持ち歩くことに何ら抵抗がない。慣れってのは怖ろしいもんだ。

そんなことを考えつつ、ロビーへ向かう。



主人に鍵を預け、ロビーにあるソファへと座る。
何かここも馴染んできたなぁ。まだ宿泊して数日なのに。

そして主人と世間話をすること暫し。

二人が下りてきた。

お? 二人ともうっすら化粧してる?


「なんだ二人とも、化粧もしてきたのか?」

「お!よく気づきましたね! イルハさん、えらいえらい!」


ニル、撫で撫でするのは止めなさい。恥ずかしいから。

バッチリメイクではなく、うっすら上品な化粧だ。
ニルもハイネも化粧上手いんだな、っていうか女の子はみんな上手いやね。

二人とも羽織るものとバッグを持ってきただけか。
まぁ、女の子が食事行くのに武器持つなんて無粋だよな。俺が持ってりゃひとまずは大丈夫だろう。
っていうか二人とも魔法が使えるから、護身的に考えれば問題はあんまり無いのか。

そして三人連れだってルイーダの酒場へ向かう道中、二人はきゃいきゃいとウインドウショッピングをしながら歩いていく。
俺はそんな二人より、二歩ほど引いたあたりを付いていく。
服屋、雑貨屋、書店…。色々なお店を見て回る。二人は今回入ったお金で何を買おうか迷っているようだ。
うーん、お兄さんは腹が減ったので、できれば早く行きたいんだがしょうがないか。

このぐらいの年齢の子達だったら、これが当たり前だよな。冒険者になるってのが幸か不幸か…。
こんな日常的な時間位は大切にしないとな。



そんなこんなで、二人は雑貨や服を買ったようだ。嬉しそうだな、二人とも。
自分で稼いだお金だから、その感動もひとしおだろう。

俺も、初任給で買い物した時の感動を思い出したよ。



そうこうして一日ぶりのルイーダの酒場へ到着。

が、なにやら入口に人だかりが…。


「なんでしょうね?」


ハイネが隣に立って言う。

うーん、ケンカやらいざこざって訳じゃなさそうだな。
別段静かだし、何かを遠巻きに見てるって感じだ。 野次馬?


「まぁ、行ってみればわかるだろ。」


はい、ちょっと失礼しますよ? ほら二人とも、気をつけて付いてこいよ。

人混みをかき分け、店内に入る。
何だ、店内は別に込んでないじゃないか。野次馬達は何を見てるんだ?

テーブル席の客はまばら。そのテーブル席に座る客も、なぜか視線は皆カウンターへ。

カウンターに誰かいるのか?

皆に倣って俺もカウンターに視線を移す。

そこには、明るい茶色のショートカットの小柄だが、風体からするに冒険者だろう。
カウンターに立てかけてあるのは鋼の剣だな。鎧や盾、兜も恐らく鉄装備。なかなかの重装備だ。結構、熟練者かな?

その人物とルイーダがなにやら話し合っている。

冒険者の顔は伺えないが、ルイーダの表情は困り顔だ。

なんだろう、厄介ごと? 



…嫌な予感がする…。



俺が二人を連れて店外へと引き返そうとした時、後ろから声を掛けられてしまった。


「お! イルハ良いところに! ちょっとこっちに来な!」


…あぁ、遅かったか…。
こういう時って外れないんだよな。俺の勘。やだなぁ。


「あー、ちと急用を思い出しまして…。」

「あからさまな嘘付くんじゃないよ。」


さっくりと切り捨てられてしまった。

仕方がない。話だけでも聞いておくか…。そして二人を促し、カウンターへ向かう。



「さてイルハ。一つ相談があるn

「厄介ごとでなければ、承りますよ。」


ルイーダの言葉を遮りながら言う。


「…人の話は、ちゃんと最後まで聞いくもんだ。」


ジト目で見るルイーダ。

…アンタも以前、俺の話をぶった切ったでしょうが…。


「あー、はいスイマセン。で、何でしょうか?」

「何だい、そのやる気のない反応は。…まぁ、いい。イルハ、このコ、誰だか分かるかい?」


そういってカウンターに座っていた冒険者を紹介される。

綺麗な茶色の髪。これはさっき後ろから見えてたから分かってたんだが、それ以外にも不思議な翠色の綺麗なクッキリ二重の瞳。スッと通った鼻筋。控え目な小さい唇。
…あれ? このコって女の子?

こんなコが冒険者? それにあんな重装備を?…ってもしかしてこのコって…。


「…勇者…?」

「大当たり。」


やっぱり。俺の勘は外れなかった。外れて欲しかったんだが…。



「で、だ。イルハに相談事っていうのなんだが、このコの手助けをして欲しいんだ。」



あー、何だコレ。さっき三人で相談したことって何? あっさりと、勇者様と遭遇、しかも手伝え?
手伝えってことはパーティー組めってことか?
だが、勇者一行は半年も前に旅立ったって聞いてたんだが手伝えってのは?


「あー、そのことなんだけどね…。」


む、ルイーダと勇者の表情が曇る。こりゃパーティーに何かあったな。


「それについては私から説明するよ。」


勇者本人ではなくルイーダが説明を?
本人からは言いづらいことなのか…。更に厄介っぽいな。



そしてルイーダの説明によると…



勇者一行は昨日の夜明けと共に、イシスの北にあるピラミッドを目指して出発。
ピラミッド自体は特に問題なく攻略、目的である魔法の鍵も入手できたため、イシスに帰ろうとしていた。
が、パーティーの一人の武闘家がここには「黄金の爪」なるものが眠っていると言い出した。
武闘家として黄金の爪は非常に憧れの存在だと力説したそうだ。
そのあまりの力の入りっぷりに他のメンバーも渋々探索を了承した。それが全ての始まりだった。

もともとピラミッドを攻略したあとだったのが災いした。
少なくない損耗。しかし敵は、戦い慣れた魔物ばかりであったため、油断もあったんだろう。負けはしまいと。
一旦脱出し、装備や体調を調えてからなら、結果はまた違ったのかも知れない。

探索を進める内、最下層の奥の部屋にそれはあった。

光り輝く黄金の爪。

確かに見た目も物凄く立派だし、伝説にも残る武器だ。威力の方も申し分ないんだろう。
嬉々として、黄金の爪を台座から外して装備する武闘家。

その偉容は素晴らしく、確かに他者を圧倒するものがあった。

そしてピラミッドから脱出しようと出口へ向かうと…。

急に凶暴性を増す魔物たちが。
倒しても倒しても、後から後から溢れ出てくる。
そして何故か目指すのは武闘家。
慌てる勇者一行。だが、そこは歴戦のパーティーだ。僅かずつではあるが、出口へ向かいながら戦闘を繰り返す。
武闘家も水を得た魚のように黄金の爪を振るい魔物を切り伏せていく。
勇者たちもそれをフォローし、何とか脱出を試みる。が、何せその数は尋常じゃない。

まさしく、ピラミッド中の魔物が一挙に押し寄せてきているような猛攻だった。



何とか地下2階を抜け、もう少しとなったことろで、まず力尽きたのが魔法使い。



何故か魔法が使えないことで、打撃力、防御力共に低い魔法使いは、魔物たちに為す術無く蹂躙された。
回復を行おうにも、僧侶も勇者も自分のことで手一杯でとてもじゃないが、助けに行くことが出来なかった。

その時点で戦闘を回避し、脱出を最優先にすべきだと考えたとき二人目の犠牲者がでた。



僧侶だった。



魔法使いに比べれば打撃力、防御力のある彼は、何とか猛攻をしのぎつつも後退の機会を探っていた。

その時見えた武闘家の危機。
さしもの歴戦の武闘家も、押し寄せる魔物たちに押されて防戦の一手だった。
そして疲れからくる体力や集中力の低下。

一瞬の反応の遅れに、背後からの一撃で態勢を崩す武闘家。

それを見ていた僧侶は、最後の力を振り絞り、何とか武闘家に駆け寄ろうと試みる。

が、それが致命的な隙を生んでしまった。

僧侶は一瞬のうちに魔物の波に飲み込まれ、断末魔の悲鳴と共に姿が見えなくなった。



その後も勇者が必死の抵抗を試みるも、魔物たちの圧力に押されていく。





このままでは全滅は必至。





焦りだけが募り、有効な打開策は見出せない。

ここまでか、と勇者が諦めかけたとき、武闘家が咆哮する。


その声の方向を見ると、武闘家が勇者に向かって叫んでいる。



逃げろ、と。



その言葉の意味を理解できないまま、呆然とする勇者。

そこを目前まで迫った魔物に吹き飛ばされる。

だが、九死に一生を得るとはこのことか。吹き飛ばされた先は上へと繋がる階段だった。

しかし、武闘家を一人放ってはおけない。

踵を返し、再び武闘家の元へと駆け寄ろうとしたとき、武闘家と一瞬視線が交わる。



その視線で勇者は理解した。理解させられた。



武闘家は死を賭して、この死地から自分を逃がそうとしていると。



そしてその視線が交わった一瞬の後、武闘家の姿は魔物の波の中に消えていった。



その後のことはよく覚えていない。死に物狂いで階段を駆け上がり、立ち塞がる魔物を時に切り捨て、時に逃げ。

何とかピラミッドからの脱出を果たしたのは、既に月が天頂に輝く頃だった。





「…そしてルーラで、ここアリアハンに帰ってきたのが昨日の夜半。」


それからは、ルイーダの酒場で事の成り行きを説明したあと、一旦休んだそうだ。
そして、朝一で同じことをもう一度王宮へ報告。

王様からは新しい仲間を募り、再び旅に出よ、と言われたそうだ。

無茶言うなよ、王様。

身体も心も傷ついている時に、投げかける言葉じゃないだろう。
いくら勇者だからって人の子だ。旅を共にした仲間が倒れたんだぞ?
こうしてここに居ること自体が驚きだ。普通なら引きこもったっておかしくない。


「…いえ、王様は暫くは休んでも構わないとおっしゃいました。しかし、私がそれでは仲間に会わす顔がないと。
 一刻も早く魔王を倒し、世界に平和をもたらさないと、同じ悲劇がまた繰り返される、と…。」


勇者がふりしぼるように言葉を紡ぐ。

で昨日の今日で再度仲間を集め出発すると。


「はい、そのつもりです。」


凜とした双眸。こりゃ一筋縄じゃ折れない眼だな。

だが、仲間はどうする。
キミのレベルが幾つだか知らないが、イシスまで行ったんだ。そこそこのレベルだろう。
そんなレベルの冒険者はざらには居ないだろう。


「ええ、確かにそうです…。ですがルイーダさんにお聞きしたところ、アナタはかなりの冒険者なのだとか…。」


うわ、藪蛇。

いや、確かにレベル的にはそうなんだが…と言おうしたらルイーダが要らんことを言ってきた。


「大丈夫さ、そいつは昨日も初心者を仲間に入れて鍛えているところでね。
 そいつらを鍛えがてら、勇者の面倒も見てくれるって。」


おいおい、そりゃなんt


「そうですよ!大丈夫です!」


ニル?


「そうですね、イルハさんなら勇者様の力になってくれます。」


ハイネ?

君らのレベルはまだ、10にも満たないってのに、何でそんなに乗り気なの?
勇者のパーティーだよ? 明らかに危険度が高いってのに…。


「ほらね。お仲間は賛成のようだ。じゃぁイルハ、よろしく頼んだよ?」


ルイーダさんよぅ。そんなニヤニヤ顔で言われてもな…。

っていうかこっちの都合はお構いなしか。

いやまぁ、俺の旅の目的上、勇者と連めば攻略に役立つことも多いだろう。
だが、ある程度ストーリーを知っているからこそ、ご遠慮願いたいんだが…。

はぁ、この流れで断ったら、すげぇ顰蹙だろうなぁ。



仕方がない、腹括るか…。



と、その前に。
昨日からの疑問をルイーダ本人にぶつけてみることにした


「…なんでルイーダさんは、俺のことをそんなに買うんです? 昨日知ったばかりの俺なんかを。」


と、ルイーダの表情が一瞬厳しくなる。が、すぐに元の人慣れした表情に戻る。


「…んー、何となくってのじゃ納得できない?」

「当たり前です。」

「…ん、まぁ…そうか。」


そう言うと、顎に手を当て何かを考えているようだ。
そして暫く考え込んだ後、


「じゃぁ、ちょっと説明するから、あっちへ行くよ?」


そう言って個室部屋を指さす。
あんな個室ってあったんだ。ここにも。
それにしても聞かれちゃマズイのか? ってあからさま過ぎる気が…。


ルイーダを先頭に勇者、俺、ニル、ハイネと部屋に入る。

そしてルイーダが「人払いしておきな。」と言うと、店員数名が部屋の入口の前に陣取り、扉を閉めた。



そして皆が着席したのを確認すると、ルイーダが話し始める。


「イルハ、アンタは洗礼の時に『声』を聞いたんだよね?」

「ええ、残念ながら何と言っているのか迄は解らなかったんですが…。」


そうだった。声を聞いた。恐らくは女性の声。意味までは理解できなかったが、確かに声を聞いた。


「で、だ。その声を聞いたのがイルハを含めて3人。」


3人? 他は誰が?


「まず一人目は勇者オルテガ…。その子の父親さ。」


オルテガ。勇者の父親…。


「そして二人目が、勇者オルテガの子。ティファだよ。」


ティファ…?


「そのコだよ。」


ああ、名前か。


「で、「声」を聞いた前例のある二人が揃って勇者。
 そうなれば素性が知れないとはいえ、竜の神様が一言くださったんだ。裏があるような人間じゃぁないだろうと。
 ま、話してみても、何か隠し事はしていそうだが、性根は真っ直ぐみたいだからね。
 これでも海千山千の酒場の主だ。見かけ通りの年齢でもないしね? 人を見る目はあるつもりだよ?」


今さらっと爆弾発言したような…?


「そこは流しておきな。」


あい、了解っす。


「で、引き取った二人、ニルとハイネの様子を見て、此奴なら大丈夫、と確信に至ったワケだ。」


あー、何だ。この魔女めっ。


「そういった経緯から、アンタと一緒にパーティーを組んでもらいたいワケだ。」


うーん、まぁ断るって選択肢は、ひとまず無いか。
俺の知識も役立つだろうし、勇者の存在は俺の目的にも利するだろう。

まぁ、大変な目には遭うだろうな、色々と…。
そうなると俺は、まぁ、諦めというか何というか、いいとして。


「ニル、ハイネ。二人の意見はどうだ…?」


この二人の意見を無視するわけにはいかない。
まぁ、さっきの反応を見る限り、反対するって事は皆無な気もするんだが…。


「アタシは賛成ですっ」

即答したのはニルだった。
しかもやたら元気がいい。というか興奮している様子だ。大丈夫か?


「私も賛成です。勇者様のお手伝いをするなんて少し荷が重い気がしますが、イルハさんやニルとなら…。」


そうか、ハイネもね。
ということは、いよいよ断る理由はないな。


「どうだい? 受けてくれるかい?」


幾分真剣な面持ちでルイーダが聞いてくる。


「…ええ、解りました。俺たち三人がどれ位手伝うことができるか、心配な部分もありますが、了解しました。」


そして勇者、ティファに向き直る。


「ということで協力させてもらうな。俺たち三人迷惑をかけるだろうが、よろしく頼むよ。」


そういってティファに頭を下げると、二人もそれに倣う。


「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けするかと思いますが、これからよろしくお願いします。」


深々とお辞儀をするティファ。
と、あ!と何かを思い出した様子。

「すいません、名乗るのが遅れました。ティファーナといいます。普段はティファと呼んでください。」


そういって俺はティファと握手をする。
勇者といえど、女の子だ。やはりその手は華奢に感じられた。




さて、これでウチラは勇者のパーティーになったわけだ。
だが、よもやこんな事になろうとは、人生一寸先は闇だ。………闇?





その後は四人でテーブルを囲み、親睦会を兼ねた食事。

と思ったが、一旦ティファは家に帰った。
そりゃそうだ。あんな格好で食事はできんよな。

そして暫くしてティファが揃ってから、自己紹介に始まり、他愛もない話や一転して真剣な戦訓討議など様々な意見や情報を交換した。

その中でも話題に上ったのはやはり俺の職業。初めて見る職業にティファも興味津々の様子だった。
だが、今は詳細を告げることができなかった。また早い時期にティファにも打ち明けないとな。

そして色々話す中分かった事が一つ。ティファも勇者とはいえ、女の子ってことだ。
買い物や可愛いもの好き。その辺はそこらの女の子たちと大差ない。
ただ、背負ったものが重すぎただけなんだ。
父親の存在、国や民からの期待。勇者という肩書き…。
よくこんな女の子が背負ってこられたもんだ。

…そうか、仲間か。
苦楽を共にした仲間がいたからこそ、このコは勇者たり得たのか。

しかしその仲間を失い、普通であればそのまま心まで挫けてもおかしくないってのに。
このコは再び立ち上がった。



俺は、このコの負担を少しでも減らすことができるだろうか。
いや、このコだけじゃない。このコ達3人の負担を少しでも軽くしてあげないとな。
普通の女の子で居られるように。普通に女の子してても大丈夫なように。

なんだろうな? 俺ってこんな殊勝な人間だったかな? 
まぁ、悪い気分じゃない。むしろ、それが心地良い。

この変化は歓迎すべきだろう。



この娘っコたちが幸せな結末を迎えられるよう、俺は俺の出来る限りのことをするまでだ。



それが、今、俺に出来る最良のことだろう。




[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第七話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/10/24 18:39

翌朝。



俺たちは馬車屋の前に集合している。

昨日、あれから4人で今後の行動方針を決めたんだが、やはりこれから旅を続けていく上で、馬車があった方が便利だろうと。
管理の手間が増えるが、それを差し引いてもメリットが大きい。

それでどのような馬車を買うか、なのだが、ここは妥協せずに実用的なものを、多少値段には目を瞑るということで探すことにする。



いやはや、しかし凄いな。これだけ馬車が並んでいると、壮観ですらある。
こんなにいろんな種類があるんだな。材質、形状、用途etc。実に様々だ。

まずは、この中からベースとなる馬車をチョイス。そこにオプションとして色々付けていくことにする。



ベース車は大した異論もなく全員一致で決定。
冒険者用御用達の高機能車だ。外装は目立たないようカーキ色。
そして屋根まですっぽりと覆った装甲材。この材質だが、スカラの魔力を封じ込めた魔石を溶かし込み、耐久性、防音性を確保してあるという。スゲェ。
数カ所に窓が開けられるようになっているが、その窓も有事の際は装甲で覆うことが可能だ。
魔法に対する抵抗力もあるんだとか。こりゃホントに軍用だな。
材質も魔石のお陰で軽量化できており、見た目ほどの重量もない。
車輪も同様の素材+高硬質ゴム+専用サスペンションを採用することにより、乗り心地、耐久性、静音性をアップ。
スペアの車輪も幾つか付属している。車輪の交換も思ったより手間ではなく、車のタイヤ交換のように楽に行えた。
気密性も高いが、換気はしっかり循環していると。高温多湿地帯、寒冷地帯とオールマイティーに対応する正に万能車だ。
その外観は正に機能美と言ったところ。
俺は気に入っているんだが、娘っコたちには若干不評だ。可愛くないだとか。
アホかい、冒険者用の馬車に可愛さを求めてどうする。

その反動なのか、内観は娘っ子たち主導で決められてしまった。
まぁ、俺は機能さえ満足できれば、中身はどうでもいいんだがな。
とはいえ、あまり恥ずかしくないのが好ましいんだが…。

内観は主に二つの部屋に分かれている。待機室と荷物室だ。
待機室には壁面収納式の簡易ベッドが4つ。左右の壁に2つずつ備え付けられている。
この待機室は結構広く、左右のベッドを出しても、真ん中で打ち合わせが出来るくらい広い。流石にテーブルは出せないんだが。
そして特筆すべきは、水道があることだろう。これは便利だ。
荷物室の天井裏にタンクが内蔵されているのだ。これは荷物室、待機室に一つずつ、それと屋外にも二箇所水をひけるようになっている。
これがあるだけで、旅がだいぶ楽になると思う。やりようによっちゃ、シャワーや風呂にも入れるのだ。
それ用に、馬車横に簡易シャワールームや、簡易浴槽なんかも取り付けられる。
そして荷物室には冷蔵庫なんてのまである。これは昔の冷蔵庫のようなもので、中に氷を入れることによって中を冷やすシステムだ。
氷はヒャドでいくらでも調達可能なので気兼ねなく使える。
荷物室には簡単な調理場もあり、ここでの調理まで可能だ。

そして内観の装飾なんだが…。
まぁ、ちっと少女趣味とも言えなくもない感じだが、まぁ許容範囲だろう。
明るく、清潔な雰囲気でいいんじゃなかろうか。
別段、居づらい感じもないしな。この環境で娘っコ達の精神が安定するなら大歓迎だ。
時間が無かったので、ざっとしか揃えられなかったが、まぁその辺りはおいおい揃えていけばいいだろう。

しかし、つくづく魔法ってホントに便利だな。いくらでも応用が効く。
他の材質と組み合わせられるなんてな。
他にも、何かもっと上手いやり方もあるだろう。



そしてこの馬車を引くための馬なんだが、何だか大層立派な白馬を用意してくれた。

ここまでフルオプションで買ってくれるんだからって、相当良い馬をつけてくれたらしいんだが。
確かに毛づややら肉付きやらを見ると、素人目の俺からしても、その迫力が解る。

これから長旅になるだろうけど、よろしくな。

撫でてやると嬉しそうに一声嘶いた。

娘っコ達もこの馬が気に入ったようだ。
名前を付けたいといってるんだが、こんな立派な馬だ。もうちゃんとした名があるだろう。
主人に聞いてみると、名前はジャンだそうだ。

なんだか活発そうな名前だが、娘っコたちもその名前で納得したようだ。

よろしくな、ジャン。



さてお支払いなんだが、結構凄い金額だった。
預けていた金額の1/3以上は持って行かれた。まぁ、こんだけの買い物だ。納得もできる。
支払ってもなお、まだ結構な額が残ってるからよしとする。

三人とも金額を聞いて倒れそうになっていたが、それを実際即金で支払った俺には、更に驚いていた。

ニルとハイネはまだ、納得できたようだが、ティファといえば絶句していた。


「イルハさんって…何者?」


あー、また旅の道中で詳しく説明するよ。なるべく早めに。



そして、旅の支度をするためにそれぞれ別行動に。

ニルとハイネは二人揃ってお買い物だが。

ティファも一旦家に戻ってから二人に合流すると。やっぱ女の子同士、仲良くなるのが早いな。

さて、じゃ俺はまず道具屋にでも、と思ったら二人に拉致られた。


「一緒に回った方が楽しいですよ?」


確かにそうなんだが、お兄さんはちと遠r



「「 行 き ま す よ ね ? 」」



「はい、行きますとも。行かせていただきます。」

「はい、よろしいです。」


ハイネさん怖いっす。



そしてまずは雑貨やらを見て回ることに。

必需品、消耗品は余分に購入しておく。道中どうなるか分からないしな。
色々物色していると、ティファが合流してきた。

おお、普段着だとやっぱ全然イメージ違うな。
って変わりすぎだろう。白のワンピースにオレンジのリボン付きミュールって。
誰も勇者だなんて思わんよ。


「…変ですか?」


上目遣いで不安そうな表情で聞いてくるティファ。そういう表情は止めてくれ。反則だ。


「いやいや、可愛いよ。ちとその変わりように驚いただけで。」


そう言ったらティファは、少し頬を朱くして二人の所へ小走りに向かった。
しかし、女の子ってなんであんなもん履いて小走りできるんだ? 俺なら足首がグネるぞ?


…おー、やっぱり二人もティファの変わりように驚いてるな。



雑貨類を買いそろえた後は、食料品、衣類品とテキパキと購入していく。

そして装備品なのだが、ティファの提案によりイシスに向かうこととなったので、ニルとハイネの装備を新調することとなった。

これはティファの、ピラミッドで倒れた仲間たちの弔いをしてやりたい、という願いを叶えるためである。



これは昨日の食事会中の出来事で、自分の気持ちに整理を付けるためにも、仲間たちの弔いをしてやりたいと。


「何も知らなかった私に、色々教えてくれた恩人でもある友人たちを、このままピラミッドに置いておくなんて、とてもじゃないけどできません…。」


しっかり前を見据えながら懇願してきたのだ。

ただ、これには二人のレベルが低いという懸念もあったんだが…。

二人は何としても手伝うと、頑として折れなかった。
そしてピラミッドに向かう条件として、まず装備を調えることと、イシス周辺で腕試しをして通用すると証明できること。

この二つをクリアして初めて、帯同を許可するというものだった。

厳しそうだと判断したら、俺とティファで向かうことにする。
黄金の爪にさえ手を出さなければ、おそらく大丈夫だろう。





そして旅支度が整い、皆で街の入口に集まる。

三人とも、先ほどまでの買い物気分が嘘のように、真剣な表情をしている。


「よし、では予定通り、まずはノアニールへ向かうが、準備はいいな?」


三人ともこくりと頷く。


「うし、ではティファ、頼む。」



「はい、では行きます。ルーラっ」



うおっ、これはスゲェ! 
この浮遊感といいスピード感といい、病みつきになりそうだ!
海を越え、山を越え、遠くに深い森が見えたかと思った次の瞬間、俺たちは既に森の中に立っていた。
ちゃんと馬車もついてきている。不思議なもんだ。ゲームの中では特に違和感なんぞなかったが、こうして目の当たりにすると、よくこんな物体が宙を舞ってついてくるもんだと、つくづく思う。



「はい、到着しました。ここがノアニールです。」


見た目は普通の小さい村のように見えるんだが…。まぁ、ゲーム中でもそれほど大きい村でもなかったか。

さて、では早速ニルとハイネの装備を調えに行くか。
早くピラミッドに行かねばならないので、急いで目的の物を揃えに向かう。

まずは「身かわしの服」2着と、「魔導師の杖」1本。締めて7300G。

それを見ていたティファは、また唖然としていた。


「そんな簡単に買えちゃうんですね…。」


でも旅を続ければ、自然とGは貯まっていくし今は消費しても大丈夫だろう。



さて、次はアッサラームだな。ちゃっちゃと行くぞー。



そしてアッサラームでは、鱗の盾と毛皮のフードを1つずつ。
ここではこんなもんかな?



おし、次はイシスへGO!



そしてイシスでは鉄兜、ホーリーランスを1つずつ。
鉄の斧は取りあえずスルー。ティファも斧は気乗りしないみたいだし。


ってことで、

ニル
E.魔導師の杖
E.身かわしの服
E.おなべのふた
E.毛皮のローブ

ハイネ
E.ホーリーランス
E.身かわしの服
E.鱗の盾
E.鉄兜

ティファ
E.鋼の剣
E.鉄の鎧
E.鉄の盾
E.鉄兜

となった。現時点ではこんなもんかな。ここまで揃えば何とかなる、だろう。





よし、ではいっちょ腕試しと参りますか。

パーティーバランスとしては、前衛2、中堅1、後衛1だからバランスは取れているな。

まずは俺とティファで突っ込み、それをニルが後方から魔法で援護、ハイネがどちらに対してもフォロー出来るようにしておく。
基本はこのスタイルだろう。場合によっては先制はニルかハイネ。まぁ、臨機応変ってやつだな。


で、砂漠を馬車で移動中なのだが、ジャンスゲェ、ホントにスゲェ。マジで馬なの?
馬っぽく見えて、実は何か別の生物だった、って言われても納得いくわ。
こいつが居れば何処でも行けそうだ。感動。

そして馬車も至って快適。この熱砂の砂漠でさえ快適と感じるのだから大したもんだ。
まぁ、御者は熱いんだけどな。こればっかりはしょうがない。
ちなみに御者は俺。熱いぜ。熱いぜ。熱くて死ぬぜ。

なんてなことを考えていると、少し向こうの砂が盛り上がり魔物が現れた。



「来たな。おい、お嬢さん方! 敵さんのお出ましだ!」


馬車の中に声をかけると、直ぐさま三人が飛び出してきた。

「うわ!熱!」

当たり前だろう、ニルよ。

「…これは、日焼け対策が肝要ですね…。」

問題はそこなの?ハイネ…。

「そうなんだよー。」

同意しちゃうんだね、ティファも。


さて、相手はじごくのはさみ×2、かえんむかで×3。
ニルとハイネには結構荷が重いだろう。俺とティファで切り込んで…

「ヒャドっ」

「マヌーサ」

おぉ!?

先制したのはニルとハイネだった。
かえんむかでにヒャドを、じごくのはさみにマヌーサを放つ。良い選択だ。

じごくのはさみに、マヌーサはちゃんと効いたようだ。

かえんむかでも右端の一匹がヒャドを受け、もんどり打っている。

しかしこの二人は物怖じしないっつーか、何つーか。逞しいね、どうにも。

そしてティファはというと、鋭い切り込みでヒャドを受けたかえんむかでにトドメを差している。

流石熟練者。抜かりがないね。

おっと、俺も負けてられねーな。


「そうりゃ!」


視界を遮られ、明後日の方向に攻撃を繰り出しているじごくのはさみを、大上段から振り下ろし真っ二つにする。
その隣にいたもう一匹も、下から切り上げた一撃で魔石となる。

次はっ

と思ったが、残っていたかえんむかでも、最後の一匹。

ニルがヒャドでダメージを与え、ティファが胴体をなぎ払いトドメとする。



ふぅ、ひとまず損傷はなし、かな?


「いえ、ハイネさんが…。」


なにっ!?


「大丈夫ですよ。左肩あたりのちょっとした打ち身程度でしたから。もうホイミもしましたし。」


ほら、といってハイネが肩をぐるぐる回す。まぁ、だいじょうぶならいいんだが…。


「イルハさんは心配性すぎます。私たち結構丈夫ですよ?」


ねー、といってニルとティファをみるハイネ。二人もうんうんと頷く。

どうも怪我をするってのがね。回復呪文で結構直るってのは、頭では理解しているんだが…。


「なんでイルハさんは、そんなに負傷を問題視するんですか?よっぽどじゃなければ、回復呪文ですぐ直るのに…。」


ティファが魔石を回収しながら聞いてきた。

ちょうどいい機会なので、ティファにも俺が何者なのか、打ち明ける。
ここなら周りに聞かれる心配もないだろうし。





「ってことなので、俺らの世界では損傷はそんな直ぐ治るもんじゃない。回復魔法なんてなかったんだから。
 程度によっちゃ、完治まで数ヶ月、数年なんてのもあるんだし。そりゃ損傷を恐れるよ。」

「…そう、なんですか…。イルハさんが…。」


ティファもやはり信じられないようだ。

そりゃそうだろう。異世界からの来訪者だなんて荒唐無稽もいいとこだ。普通は信じられない。



「…でも、私はイルハさんを信じます。ルイーダの酒場の一件もそうですが、アナタは信頼できる。
 そんな気がします。ニルやハイネを見ていてもイルハさんを使用しているのがよく解りますし。」



おいおい、そんな簡単に人を信y

「私もそう思います。付き合いは短いですが、イルハさんは信用できる、信頼できる方だと。」

ハイネ…。

「そうですよ! イルハさんはいい人ですっ!」

ニルも…。

…ホントに良いコ達だ。この子らの期待に応えるように、俺も気張らないとな。





「分かりました。ではイルハさん、これからもよろしくお願いします。」


そう言ってティファは深々とお辞儀をする。


「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。俺は君らの手助けをする。君らは俺の手助けをする。それで問題なしだ。」


しかし、この俺の問題は、いずれルイーダにも言った方がいいのかな…。
あの経験豊富な魔女なら何か知っているか? 今度行ったら打ち明けるか、な。





その後も数度の戦闘を経た結果、二人も連れて行って問題ないだろう、ということが分かった。
この二人は本当にセンスがある。逸材だ。
レベルも上がり戦闘にも慣れてきて、自分の仕事というのがしっかり分かってきたようだ。
もう、いちいち指示をせずとも、こちらの意図を汲んでくれる。大したもんだ。
自分の力量をちゃんと弁えているからか。無理に突っ込んだりしない。


「イルハさんとティファがいますからね。私たちはバックアップに専念できるので、視野も広く取れますから。」


いやまぁ、それはそうなんだが、今の時点でそれを出来るってのが凄いことなんだよ。お二人さん。


ティファも、流石歴戦の勇者という戦い振りだった。
素人の俺から見ても場慣れしてるってのが分かる。行動に無駄がない。


「…それをイルハさんに言われたくないですよね…。」


なんでだ? ティファ。


「その装備を使いこなす能力といい、実戦経験が少ないなんて微塵も感じませんよ。」


そうか、自分では気がつかないんだが…。


「イルハさんは異世界でも剣士だったんですか?」


ハイネが首をちょこんと傾げながら聞いてくる。


「いや、ちっとはかじったことがあったが、本格的な訓練なんてこれっぽっちも受けたこと無いぞ?」


剣道にしたって、短期間習ったぐらいしか経験ないからなぁ。やっぱりこれはトリップ時の補正なのだろう。


「「「嘘っぽい…。」」」


みんな、声を揃えて言わないでくれ…。





そして、一路ピラミッドに向かう。
時間的にみて、これからアタックしてもさして遅い時間までにはなるまい。
ティファも居ることだし、道に迷わず目的地にたどり着けるだろうし。

そしてここで一つ問題が。


「…馬車をどうするか…。」


一旦イシスまで戻って馬車だけ預けてくるか、このままここで待機させるか。
ってこのままじゃ、いくらなんでも危ないだろう。
こんな事なら最初から置いてくれば良かったか。
しゃーない、時間のロスにはなってしまうが、一旦イシスに戻って…


「聖水で結界を張っておきましょう。」





「そうだね、それで大丈夫かな?」


あの? それはどういうこと?


「…あ、そうか、イルハさんは知らないですよね?」


ハイネ、説明してくれる?


「はい、聖水を使って簡易的な固定結界を張り、魔物から陣営や物資を守ったりできるんです。」


そうなの?


「ええ、ジャンと馬車程度の規模であれば使う量も少ないですし、手持ちの聖水で事足りるかと。」


えっと、それは条件とかは?


「えと、聖水と魔法力があれば特にこれといった条件は…。」


…なんだよ。じゃ、俺が野営で寝ずの番しなくてもよかったんじゃ?


「…そうなりますね…。」


…なんで言ってくれなかったの?


「あの時は手持ちの聖水もありませんでしたし、イルハさんの事情も知らない時でしたので訓練の為かと…。」


…オーライ、これから聖水は常に持ち歩くように気をつけよう。



そしてティファが聖水を使って、 ピラミッドの日陰部分に結界を敷いてくれた。
こういった略式の結界は結構一般的なのだという。
魔法力を持っているなら、聖水の効果を増幅、固定できるんだと。
移動しながらっていうのは流石に難しいらしいんだが。
ん? じゃぁトヘロスは? アレと聖水の結界を組み合わせれば、移動可能で結構強力な結界が出来る?
これはいずれ試してみたいな。
街や城などの大規模な結界は、やはり神官や専門の結界師の仕事なのだとか。
掛かる手間も費用も段違いらしい。そりゃ、そうだわな。

そこにジャンと馬車を待たせ、ピラミッドに侵入する。
こんな時でもちゃんと待っているジャンは、ホントに良くできた馬だ。

ちょっと待っててくれな。直ぐ帰ってくるから。





ピラミッドの中は真っ暗なのかと思いきや、薄ぼんやりと明るい。通路もそれほど狭くもない。
各所に開いている通気口や明かり取りから陽が入り込んでいるようだ。
これなら戦闘も、さほどし辛くはないだろう。

ティファが先行してハイネ、ニル、俺の順番で進んでいく。
これはティファが路を知っているということと、攻撃力・防御力共に優れているという点だ。経験も豊富だしな。
そして万が一の後ろからの襲撃に俺が備える、と。勿論戦闘が始まれば直ぐに前衛へと移動、迎撃を行う。まぁ、今まで戦闘してきて、後ろから襲撃されたことってないんだけどな。律儀な魔物たちだ。

で、実際に戦闘をしてみた実感だが、ここの敵は打撃だけで押していける敵が大半だ。
通路が広くないので、敵からの打撃力は前衛に集中する。俺かティファだ。
装備が整っている俺とティファならまぁ、まず問題はない。ハイネのバックアップもあるしな。
打撃力的に見ても俺とティファは問題なし、ハイネは幾分威力が落ちるが、まぁ何とか押していける。
それとティファは魔法を使うのを極力抑えてもらう。緊急時のリレミトの為だ。
まぁ、地下は魔法が使えないから関係ないといえばないんだが。
そしてニルだが、極力後衛で待機していてもらう。魔法が使えない場所がある+ニルの使う魔法はメラ、ギラなど火を扱うものが多い。
こんな閉鎖空間で火系の呪文を使ったときに、酸素が吸われて…なんてことになったら堪らない。まぁ大丈夫だとは思うが。同じ理由で雷神の剣の使用も控える。アレは酸素を喰いすぎる。ここじゃ怖ろしくて使いたくない。
ヒャドは有効なんだが、これは後方からの遠距離支援として使用してもらう。

さて日が暮れればこの中も真っ暗になりそうなので、早めに進めよう。
まぁ松明等は常備しているから、長時間でなければ大丈夫だろう。
もともとの予定も長時間ではないしな。



順調に歩を進め、小一時間もしないうちにで地下への階段の入口に立つ。

この下がどのような惨状か想像に難くない。

ティファにはここからが最も辛いところだろう。


「…行きます。」





「……………。」


思わず息を呑んだ。

至る所に散らばっている魔石。どれだけ激しい戦闘があったのかが窺い知れる。

その中でまず発見できたのが魔法使いであったろう遺体。衣服から推測出来るんだが、大凡人体であったとは思えないサイズになっていた。
食い千切られたのか、引きちぎられたのか。四肢が無くなった胴体だと思われるそれは、とても人であったとは思えない。

無言でティファがその遺体に布を掛け、祈りを捧げる。
ハイネとニルもそれに倣う。

俺は周囲を伺いながら、他に何かあるか目を凝らす。すると少し離れた所に武闘着らしきものが見えた。

まだ3人が祈りを捧げているのを確認し、俺はその武闘家であっただろうものに近寄る。



以前の職業柄、人の死体にちっとは慣れていたが、これは流石にキツイな…。

こちらの遺体もまた、大凡人とは思えない。先ほどの魔法使いのものよりも酷いな。
これが身体のどの部分なのかすら分からない。衣類が無ければ、何なのかすら分からなかっただろう。


「イルハさん…。」


俺の隣にはティファが辛そうな表情で立っていた。

そっか、最後に見たのが、この武闘家だったんだよな。

ティファは魔法使いと同じように、その遺体の一部にも布を掛け、祈りを捧げる。



その後、僧侶の遺体も探したんだが、こちらは何も見つからなかった。無惨なもんだ。
せめて一部でも見つかればよかったんだが…。





俺たちは二人の遺体をピラミッドの外へ運び出し、馬車へと載せるとルーラでアリアハンへと戻る。
それからはルイーダの酒場へと向かい、彼らの遺体を確認してもらった。
ルイーダが正式に彼らが戦死したことを認定し、ギルドからの登録抹消を決定した。


「…しょうがない、こういうことも有るんだよ…。」


メンバー一覧に記載されている彼らの名前に、抹消の判を押すルイーダは酷く哀しげな表情に見えた。
彼らの出身はアリアハンでは無かったらしく、これから故郷に通知を送るとのことだ。
そんな通知を受け取るとは、彼らの親族も思ってはいなかっただろうに…。


そして遺体は、親族に送るために衣服の一部を切り取った後、街外れにある冒険者の共同墓地に丁重に葬った。
結局遺体は見つからなかったが、僧侶の墓碑も勿論建てた。
無理言って業者に手伝ってもらいながらの作業中も、ティファは気丈にも涙一つ見せなかった。
無言で、ひたすら彼らの墓を作っていた。見ているこちらのほうが辛くなってくる。



そして出来上がった三人分の墓標。辺りはすっかり夜の帳が下り、月が輝いていた。



気が滅入る。いつでも何処でも死に別れってのは辛いもんだな…。

ティファがその墓標の前に座り、水を掛けてやる。



「…ありがとね、みんな…。…本当に…ありがとう…。それと…ごめん…。」



涙声のティファ。そして聞こえてくる嗚咽。

よく今の今まで涙を堪えていたもんだ。

そんなティファを見かねたハイネとニルが、駆け寄り優しく肩や背中をさすってやる。

それに気づいたティファが二人に向き直り抱きつく。
と、さらに激しい嗚咽が聞こえてきた。もはや悲鳴のようですらある。

ニルとハイネにも辛かったんだろう。見せるべきでは無かったかもしれないが、いずれは通る道だろう。
遅いか早いか、だけだ。酷だとは思うが、今の内に乗り越えてもらいたい。



三人ともただひたすら泣いていた。嗚咽が夜の空に吸い込まれていく。

俺は無言で3人に近寄り、その肩を抱き寄せる。
それに気づいた3人が顔を上げる。それぞれが泣きはらした顔で。


「…いいか、3人とも。絶対に、勝手に死ぬんじゃないぞ? 俺が許さないからな?」


一瞬3人ともポカンとした表情を浮かべたが、すぐにその表情が笑顔に変わる。涙はそのままで。



「「「はい。」」」



うし、良い返事だ。



そうして3人は泣きやみ、一路帰るための準備を始める。
といっても、道具類を隣接する業者の納屋に持って行くだけだが。
その様子を見ていると、ティファも幾分落ち着いたようだ。
まぁ、そんな簡単に踏ん切りがつくとは到底思えないが、これで少しは彼女なりに気持ちの整理がつくだろう。



だが、俺は今回のことで惑いが生まれた。

いずれはこの三人を残して元の世界へ帰る、という選択肢が更に選ぶことが難しくなった。
出来るかどうかも解らないが、もし戻れるとしても俺はその選択肢を選ぶのだろうか。選べるのだろうか。
帰りたい気持ちも勿論ある。だが、それと同じ位、この三人とこの世界で一緒に居たいとも思う。
俺のこの気持ちもキッチリケジメをつけないとな。
いずれ選ぶときに、迷わないように。間違わないように。





片付けを終え、業者に手厚い謝礼をする。
そして三人がルイーダの酒場に向かったことを確認してから、俺は再び三つの墓標の前まで行き、その前にしゃがみ込んだ。





ティファにはこれ以上、哀しい思いはさせないようにするから、安心して休んでくれ。

俺たちでアンタ達の出来なかった、やりたくても出来なかったことを、やり遂げてみせるよ。





それが俺たちに出来る、せめてもの手向けだから。








後書き

初後書きとなります。
皆さま、沢山のコメント本当に、本当にありがとうございます。嬉しい悲鳴というヤツです。
後ほど、コメントの返信を差し上げたいと思いますので、もう少々お待ちくださいです…。

少し間が開きましたが、ひとまず投稿することができました。
で、これでひとまず第一部完!としたいかな、と。
パーティーも揃った事で物語を動かし始める事ができそうなので。
数日後にはまた投稿できるかと思いますので、申し訳ありませんがお待ちいただけると幸いです。





[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第八話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/11/06 12:12

さて、これからどうするか。



俺たちはルイーダの酒場に戻り、これからの目的を洗い直し、何処に向かうかの検討をする。

まずはポルトガへ向かうのが定石だろう。ストーリーを進めるのであればそれが無難だろう。

そうなると、一番の目的はバラモス退治になるだろうな。
まぁ、それだけでは事が終わるわけではないんだが…。今は言わない方がいいだろう。

それとティファの父親であるオルテガ氏の捜索。これも色々事情を含んでいるので難題だな。
何とか最悪の結果だけは免れたい。

それから全員のレベルアップ。

俺みたいなイレギュラーな存在がいるので、ストーリーを進めるだけならば、それなりに進んでいくだろう。
だが、それでは皆のレベルアップが疎かになってしまう。

俺が一人で強いだけでは、これからの旅は円滑に進んでいかないだろう。
皆が成長していかないと。特にニルとハイネは、まだ本来ポルトガに向かうようなレベルではない。
彼女らの戦闘センスは良いものだと素人目でも感じるが、流石にこれから長期的に見てもしっかりとしたレベルアップは必須だ。
俺やティファで極力フォローはしていくが、カバーしきれない場面も出てくるであろう。

自分の身は自分で守る。

酷な事かも知れないが、冒険者たる者、それが当たり前なんだろう。
ニルとハイネも、いつまでも守られてばかりでは納得もいかないだろうしな。二人の気性からいって。



しかし、改めて実感したのだが、何としてでも死ぬわけにはいかない。

遺体の埋葬を終えルイーダの酒場へ戻ったとき、俺にはザオラルが使えた筈だ、と言うことを思い出した。
もしかしたら、万が一にもと言うことがあるので、蘇生は可能なのか皆に聞いてみた。

しかし、ルイーダ曰わく、


「残念だけど、それはもう無理だね…。昨日の晩、彼らが倒れた「直後」であれば、もしかしたら可能だったかもしれないんだが…。」


というと?


「まず一番は遺体の欠損部分が大きすぎる。これじゃ、流石の蘇生呪文といえど、もう蘇生は不可能だね。」


ということは、欠損部分が少なければ蘇生も可能だった?


「まぁ、そう言う場合もあるね。腕や足がもし千切れたとしても、生きてさえいれば、回収して回復魔法でくっつけることも可能だ。
 だが、魔物に捕食されたり、消失していたりすると、いかに回復魔法といえど存在しないものの再生は出来ない。
 傷自体は治るけどね。」


そう言うことか。


「そう、蘇生呪文とはいえ、無い物を再生することはできない。例えば、遺体の一部が回収されたとする。だが、腕や足にザオリクをかけても身体がないのだから、蘇生はしない。そういうことだよ。」

「そして、身体があって腕や足が無い。この場合は蘇生はするが、腕・足は戻らない。四肢が千切れていても、それが揃っているならば、五体満足で蘇生が可能な場合もある。だが、一番の核となるのは頭部及び身体だ。ここを潰されるとほぼ間違いなく即死だからね。解っているとは思うけど気をつけな。」


なるほどなぁ。


「そしてザオリク・ザオラルの効果が出る期間だが、もって2〜3日。これは個人差があるんだが、大凡の目安だね。
 万全を期すなら、死亡直後か1日以内だね。まぁ、回復魔法が間に合うならそれに越したこたないんだが。」


期間については腐敗具合などが関係しているのか?
個人差があるというのも気になるな。

しかし、ザオリクですら蘇生できないということは…。こりゃいよいよ、死ぬわけにはいかないなぁ。
厄介なのは即死呪文と痛恨の一撃だな。今はまだいいが、これから出てくる敵は厄介なヤツが多い。
…ああ、気が重い。


「でも、まぁ、回復呪文さえ間に合えば、そうそう蘇生呪文の出番なんて来ないさね。
 要は、いかに回復呪文を効率よく掛けるか、ってことだね。特にアンタなんかは素早さも高い上、回復呪文も使えるんだ。
 よっぽどで無い限り、蘇生呪文は使わないだろ?」


そうなるよう努力します。はい。


ついでに回復呪文の効果範囲も確認しておいた。
敵からの直接打撃、呪文やブレスなどに対しての回復呪文は内傷・外傷問わず有効だということだ。
それとホイミ、ベホイミ、ベホマは効果の違いだけだということも解った。使い分けていこう。無闇にMPを消費することもないしな。


「しかし、イルハはなんで今更そんなことを確認してるんだい?」


ルイーダから尤もな疑問を投げかけられた。
そりゃそうだろう。こんなレベルで、これだけ呪文を使えるのに、何故今更そんな基本的なことを確認してるのか。

…やはり、ルイーダにも言っておいたほうがいいだろう。

この人の助けがなければ、これからも上手くやっていけないだろうしな。
幸い、ここは昨日の晩にも使っていた個室なので、ルイーダに打ち明けることにした。

娘っコ3人にも打ち明けることに同意してもらえたしね。





「…なんてこった…。アンタがねぇ…。変わったヤツだとは思ったんだが…。そこまで変わったヤツだったなんてねぇ。」


何か言葉の裏に込められたものが、若干呆れに感じるのは気のせいでございましょうか? ルイーダさん?


「いやいや、深い意味はないよ?」


そういうことにしときましょうか。

その後、俺はルイーダに今まで俺みたいな事例があったかどうかを聞いてみた。が、


「…悪いんだが、アタシがルイーダになってからは、そういったことは記憶に無いねぇ…。」


そうか、残念…。
まぁ、現状、今すぐ急いで戻るつもりも無いからなぁ。ひとまずこの問題は棚上げしておくかぁ。
だが、忘れないように頭の片隅には置いておこう。





そしてひとまずは、ニルとハイネのレベルアップをすることが先決ということになった。
幸い装備的にも充実しているし、装備の拡充を図る資金も潤沢だ。
それにレベルを上げていけば、自然と資金も貯まっていくだろう。

と言うことで、まずはレベル上げに決定。

で、問題はレベル上げをする場所だ。
正直イシスでは勘弁。何しろ暑い。暑すぎる。もうホント辛い。
よくこんな所で生活している人がいると感心すらしてしまう。強いよイシスの民。

そうなるとアッサラーム付近か、暑いとは思うが、イシスよりは環境的には楽だろう。
魔物のレベル的にも二人でも何とか通用するか?

幸いというか、バラモスは積極的に侵略をしているわけでもないし、地道に行こう。急いても事をし損じるってな。





そして今晩はアリアハンに泊まり、明日の朝一でアッサラームへ出発。と言ってもルーラで行くのだから、別に今日行っても構わないんだが、ティファの願い出で今晩はここに泊まりたいと。

そうだよな、元の仲間達と一番近くで泊まれるところっていったらここだもんな。ティファの家族もここに居るんだし。



「…あの、みんな…。」


明日に備えて、これから皆宿へと戻ろうとした時、ティファがなにやらもじもじしながら言ってきた。


「ん、どした? ティファ?」

「…あ、あの、ですね…。」


そう言って俯いてしまう。
何だ何だ、どうしたんだ一体。

暫くティファの様子を伺っていると、意を決したかのように顔を上げ、


「き、今日は本当にありがとうございました!」


そう言ってティファは深々と俺たちにお礼を言ってきた。


「イヤ、別段お礼を言われるようなことじゃないよ。俺たちは仲間だろ?」

「それでも…。」

「あぁ、勿論その気持ちはありがたく受け取っておくよ。 な? 二人とも。」


俺はそう言いながら、ティファの頭をポンポンと軽く叩くと、ニルとハイネも微笑みながらティファの肩を抱く。


「…ありがとうございました。本当にありがとうございました…。」


あぁー、泣くな泣くな。 な?

ニルとハイネで、ティファの背中をさすって落ち着かせている

さっきまで張り詰めていたせいでその反動がきているんだろうな。
まだ上手く感情のコントロールが出来ないようだ。
しばらくは引きずってしまうだろうが、まぁ、その辺は俺たちでしっかりサポートしていかないとな。
特に年の近いニルやハイネには適任か?
この三人の娘っコ達は出会ったばかりだというのに、やたら仲がいいからな。馬があったのだろう。


やっと落ち着いたティファを伴い、お会計を済ませてルイーダの酒場を出た。
そしてルイーダの酒場のほぼ向かいにある、彼女の家へと送り届けることにする。

ニルとハイネはティファに寄り添い、何事か話ながら歩いていく。
こうして後ろから見ていると、とてもじゃないが、冒険者、しかも勇者一行のパーティメンバーとはとても思えない。
普通に仲の良い女の子達としか見えないな。



「…ニル、ハイネ、ティファ。」


その道すがら、俺は少し先を歩く三人に声を掛けると、三人とも立ち止まり、同時のこちらを振り向く。


「さっき話したとおり、明日からは本格的な旅が始まる。ティファは旅の再開ということになるんだが、
 恐らく大変な旅になると思う。でも、みんなが居れば乗り越えていけるとも俺は思っている。
 みんなで力を合わせて、みんなが笑いあえる、ここをそんな世界にしよう。」


俺がそう言うと、三人とも笑顔でそれに応えてくれた。


「勿論ですっ!」


相変わらず元気一杯だな、ニル。


「微力ながらお手伝いさせていただきます。」


謙虚ながらもその眼には、確固とした信念が伺えるハイネ。


「はいっ」


短い返事だが、その表情は先ほどまでの沈んだ感じはもう無い。
生気に満ちた眼がそれを如実に物語っている。


このコ達となら大丈夫。迷わず、挫けず、止まらず、確実に前に進んでいけるだろう。

俺もこのコ達に負けない様、より一層気を引き締めていこう。





そしてティファを送り届け、俺たちも自分たちの宿へと向かった。

宿へ到着後、ニル、ハイネと別れ、自室に雷神の剣を置いてから大浴場へ。



身体の汚れを一通り落とし、湯船に浸かりながら、今日の出来事を思い返す。

今日も本当に色々な事があった。

まぁ、今日に限らず、この世界にやってきて数日。目まぐるしく状況が変わっていく。

トリップなんて事態になったことに始まって、冒険者になり、仲間が出来、挙げ句の果てに勇者のパーティーの一員になんて、どんなジェットコースタードラマだ。って表現が古いか。

いやいやしかし、怒濤の数日だったな。
しかし、明日からこそが本当の意味での冒険の幕開けだろう。
ここはもうゲームの世界じゃない。此処こそが現実世界なんだ。死んだら終わりの一発勝負。



自分の命を賭け金にした真剣勝負の世界。



この勝負を勝った暁に、俺は何を得るんだろうか。

元の世界に戻れるのか。それとはまた違った何かが用意されているのか。

願わくば面倒なことにはなりませんように。



お願いしますよ? 何処かにいる神様?










そして翌日。



さぁて、そろそろ起きるか。

と思いながらも、ベッドに座ってボーッとしているとドアがノックされた。


「おはようございます。」

「…おはよう、ハイネ。ちょっち待ってくれ。」


ドア越しの挨拶を済ませると、重い腰を上げ支度を調える。
とはいえ、出発の支度ではなく、朝食を取りにいく支度だ。

まず、桶に溜めてあった水で顔をざっと洗い、うがいをして口を濯ぐ。
寝癖も水を撫でつけて直し、タオルドライでそのまま放っておく。

寝間着から黒と白を基調にした上下の作務衣?と言うほど大げさでも無いか。でもジャージと言うほど楽でもないそれに着替えて、腰後ろに雷神の剣を下げる。
もう何だかこの重みが心地良い。俺もちったぁ冒険者が板についてきたってか?

そして必要小物が入った腰袋を下げて支度終了。


「お待たせ。」


ドアを開けると、そこにはハイネだけではなく、ニルとティファも揃っていた。


「「おはようございます。」」

「おー、おはようさん。」


早いな、三人とも。
んじゃ、朝飯食いに行くか。



アリアハンの街は、流石に城下町だけあって、人も多いし、国内の流通の中心であることもあって店も多種多様だ。

食事処も様々だ。
冒険者はまぁ、他に目的があったりするのでルイーダの酒場の使用頻度が高い。
だが一般市民が行く食事処は他にも沢山あるとのことだ。

ということで、俺たちは朝飯を食べるべく、飯屋が集まっている食事街へと向かった。

娘っコたちによると、チェーン店やファーストフード店、焼肉屋などまであるようだ。
いくら何でも、朝から焼肉っていう選択肢は流石に無いが。
こちらの世界でも焼肉は夜、と何となく決まっているようだ。
他にも屋台、生鮮品などを扱う出店などが集まった朝市もあるとのこと。



こういったものは、現実世界とやはり大した差はないようだな。

人懐っこい笑顔を浮かべた行商のおばあちゃんや、やたらと大きい声のおっちゃんの呼び声など。


「………………。」

「…どうしたんですか? なんだか嬉しそうですけど…。」


俺がそんな光景を眺めながら歩いていると、ティファが尋ねてきた。


「え? そうか?」

「ええ、どことなく嬉しそうな感じがしましたよ?」


表情に出ていたか。


「いや、こんな雑多な感じが、俺が居た世界にもあってね。ちょっと懐かしいというか、ね。」

「へぇ。イルハさんの居た世界にも朝市とかあったんですか?」

「あぁ、売っているものは少し違うが、雰囲気というか、おっちゃん、おばちゃんの元気の良さは同じだな。」


それを聞いたハイネが


「イルハさんの居た世界の話を聞かせてくれませんか?」


と言ってきた。

そういえば、娘っコ達に、俺の世界についてはあまり言ってなかったか。

んじゃぁ、朝食食べながらでも話すことにしよう。



そして娘っコ達お勧めのお店へとやってきた。

そこはオープンテラス付のカフェ然とした感じの店だった。

料理の品数はそれほど多くないが、その代わり飲み物のメニューが豊富だった。
娘っコ達は、やいのやいのいいながら色々メニューを見ているんだが、俺はこういった店があまり得意ではないので、さっさとメニューを決めることにする。

クラブサンドとスープ、そして紅茶のセット。


「えー、もう決めちゃったんですかー?」


何だよ、ニル。


「もっと、みんなで色々見ながら決めましょうよぅ」


俺はキミ等と違ってスパッと決めたいの。


「えー、だって誰が何食べるかって、色々見てから決めれば、みんなで色んな味が楽しめるじゃないですかー。ねー?」


うんうん、と頷く二人。…そういうもんなの?


「「「そうですよ?」」」


さいですか、お兄さんには解らないっす。



そしてテーブルに着き、一通りメニューも揃ったところで、まずはいただきますのご挨拶。
これ忘れちゃダメだからな。

そして食事をしつつの質問タイム。

とはいっても、生活習慣なんかはさして違いは無いので、俺のいた世界の文化や科学について。

やはりというか、クルマやヒコーキなんてのは信じられないようだ。
鉄の塊が走ったり、飛んだりするなんてな。

まぁ、魔法自体がないのだから、そもそもの技術大系が違う。

発達した科学は魔法のようなことすら出来るようになるのだから、技術が進歩すればいずれは疑似的に魔法も使えるようになる、か?



と、そんな話をしていたはずなのに、何故か話題は俺の私生活へ。


「イルハさんって、ご結婚されてたんですか?」


ハイネ、なんでそんなこと聞く必要があるんだ…。

ったく、どうせ独り者だよ、悪かったな。万年恋人募集中だコラァ。


「そうなんですか…。」

「イルハさんのご家族って、どうされてるんでしょうね…。」


ティファが幾分沈んだトーンで聞いてきた。
そうか、父親が行方不明なんだもんな、ティファは。


「あー、どうなんだろうな。俺が居なくなったことも、気がついてないかもな。」


実家から出て独り暮らしの上、実家に連絡を取ったのも、もう既に二年ほど前だったかな?
職場の人間はすぐ気がつくだろうけど、そうなると捜索願なんて出されるのか?
そうすると、実家にも連絡が行くだろう。でも、あの父親じゃ「放っておけ」とか言われそうだなー。

まぁ、探してもらっても、見つかるわけもないんだけどな。「ここ」じゃ。


「ま、そのことは置いておこう。今騒いでもどうこうできないしな。
 ごめんなティファ、ちっとした古傷なんだわ、それ。」


苦笑交じりに、この話題を切り上げることにする。

その後も趣味だ、特技だなんだと聞かれたが、趣味は身体を動かすこととゲームか。
特技は…。うーん、柔道と書道くらいかなぁ。長年続けてきただけと言えなくもないが。

ごく普通の、とは言えない部分もあるが、まぁ、極端に変わった人生でもなかったか。
まぁ、今のこの状況が一番変わっていることだしなぁ。



そして朝食を済ませた俺たちは、出発するべくそれぞれの準備に向かう。

宿屋のホテルへと戻り、装備一式を身につける。
ホントにもう慣れたもんだ。服を着るように鎧兜やらを身につけることができる。

暫く滞在したこの宿屋とも、今日で一旦おさらばだな。また、戻ってくることもあるだろうが。
荷物をまとめ、といっても題した荷物もないんだよな。着替えやら道具類だけだし。



ロビーへ向かうと、そこにはもう支度を終えたニルとハイネが待っていた。
二人は俺よりも滞在期間が長かったせいか、荷物も俺より多かった。
こりゃ重そうだ。
ってことで、二人の荷物も俺が持つことにする。
二人は遠慮したが、俺は荷物が少ないし、二人よりも力もあるしな。
女の子はそういう時は、素直に甘えとくもんだ。うん。

三人とも主人へ鍵を返し、滞在中の礼をする。
人当たりの良いここの主人は、いつ見てもニコニコしていたな。まさしく宿屋の鏡だ。
またこの宿に泊まりたいと思わせてくれる。

短い間でしたがお世話になりました。また来たときはよろしくです。



そして、俺たちは宿を出て、街の入口へと向かう。

街の出入口に向かいながら、改めてこの街を見回してみたんだが、やはりここは良いところだな。
アリアハン首都なのだから、治安も環境もいいのは当たり前といえるが、やはり良い街には良い人が多い。

だが、この世界の街が全て、ここアリアハンのように穏やかな街とは限らない。
サマンオサやテドンなどのような所は、他に沢山もあるんだろう。

そういった街が減るようにしないとな。人々が笑って、それが当たり前に生活できる世界。

元の世界でも自分の廻りは、別段変わったことのない普通の世界だった。
だが、一度外の世界に目を向けると、紛争や飢餓などが当たり前に起こっている場所もあった。
今まで俺はそういったものは、ある意味、仮想現実というか、俺とは関係の無い世界で起こっていることだった。

だがこの世界にやってきて、魔物に脅かされている人々を実際に目の当たりにすると、そんな認識は通用しない。
さらに、自分にそれを救えるだけの力があるならば、行動するべきだ。
行動しなくては何のための「力」か。

誰の意志でここに連れて来られたのか未だ解らないが、この力を使ってこの世界を救うべきだろう。
少なくとも俺はそう解釈した。

気恥ずかしい正義だとは思うが、そんなことは言っていられない。
現にニル、ハイネ、ティファといった娘っコ達や、色々な冒険者達が闘っているのだ。
それを手助けすることに、世界を救うことに気恥ずかしいなどと言ってはいけないことだと思う。

俺は俺の信ずる道を進もう。そうすれば世界を少しでも良くできる筈だから。



街の入口では既にディファが待っていた。


「おー、お待たせ。」

「いえ、今来たところですから。」


…なんか、カップルの待ち合わせみたいな会話になっちゃったな。ちと恥ずかし。

気を取り直して。

おし、荷物を積み込むぞー。娘っコ達ー。



街外れに停めておいた馬車へと荷物を積み込んでいく。
四人分とはいえ、大して多くない荷物だ。ものの数分で荷物の積み込みも完了した。



さて、ジャン。これから本格的な旅だ。よろしく頼むぞ。

俺が鼻先を撫でてやると、一声嘶いてそれに応えるジャン。
頼もしいお馬さんだ。



「さて、じゃぁティファ。すまないが、アッサラームまで頼む。」

「はいです。行きますよ? ルーラっ」


急激に流れる景色を眺めながら、とうとう物語が進んでいくんだな、と、どこか他人事のように思った。

だが、これからは誤魔化しの効かない、ほんとの冒険だ。
一瞬の油断が命取りになりかねない。



くどい位に自分に言い聞かせる。

俺は未だ素人なのだと。ただレベルが高いだけだと。本当の意味での強さはまだ持っていないのだと。



だが、世界のために、この娘っコ達のために、俺は「強さ」を身につけなければならない。

物理的な強さ、精神的な強さ、だ。

俺がそんな器なのかと自問してしまうが、こうしてここに居る以上、変わらなくては。





時間はないのだが、じっくり、焦らず、この娘っコ達と一緒に成長していこう。




[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第九話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/11/29 15:58

レベルアップ1日目



「やぁーっ!」


ティファが、キャットフライを大上段から切り伏せると、断末魔の叫び声を残し魔石へと変わる。


「これで終わりですかね?」


周囲を伺いながら、ティファが俺に声を掛けてくる。


「そうだな、辺りに魔物の気配も無いようだ。んじゃ、魔石を回収しよう。」


アッサラームに来てから何度目かの戦闘を終え、魔石を回収してから一息つく。


「…おーい、二人ともー。大丈夫かー?」

「はぁ、はぁ…、はい…。疲れたぁ…。」

「…はい。大丈夫、です…。」


ニルとハイネは若干息が上がっているようだ。

やはりちと二人にはきつかったか?
だが、ニルとハイネは頑として、ここアッサラームでのレベルアップを譲らない。

確かに獲得できる経験値もGも、現状行ける地域の中では高い。
だがその分魔物も強いので、さしものこの二人でも簡単に通用するわけではない。

ピラミッドの時は、敵はほぼ俺かティファで倒していた。
ハイネはバックアップ、ニルも後方待機か呪文で援護程度だったしな。

だが、レベルを上げるという目的上、いつまでも庇っているわけにもいかない。
自分で攻撃しなくてはならない。

まぁ、本当に危なくなったら俺が助けに入るんだが、その俺だっていつミスるか解らないのだ。

なので基本二人はバックアップなのだが、ハイネには今は少し前衛気味で、ポジションを取ってもらっている。
打撃に回る機会を増やして、前衛二人との連携を強化してもらいつつ、ニルにもハイネの打撃が、どの程度敵に通用するかを見ておいてもらう。
ハイネには負担増なんだが、頑張ってもらおう。

そしてニルは流石に前衛というわけにはいかないので、後衛から今まで以上に積極的に魔法による攻撃・支援を行ってもらう。
色々と魔法を使いながら、使用する魔法の種類やタイミング等を研究してもらう。
使える魔法も増えてきたことで、敵に対する戦術もだいぶ幅が広がってきたしな。
あとイオを覚えれば、ひとまず一端の魔法使いと言うところか。
イオは消費量が少し多いのだが、広域の敵に対して有効な為、早いところ身につけて欲しいもんだ。





「大丈夫か? 二人とも。もう少し休憩した方がいいんじゃないか?」

やはり二人のレベルで、ここでの連戦は結構キツイんだろう。バテバテというワケではないが、表情に疲れの色が見てとれる。
戦闘終了時に回復呪文はかけているが、精神的な疲れは魔法とはいえ、どうしようもないようだ。


「いえ、大丈夫です。やれます。」

「そうですよっ、だいじょーぶ!」


ふむ、まぁ、最初から飛ばしすぎるのもどうかと思うが、いざとなったら雷神の剣もあるしな。
って、この雷神の剣なんだが極力使わないようにしたい。

むしろ、武器としても使わない方がいいんじゃないか、とすら思い始めている。
なにしろこの武器は強力すぎる。

確かに戦力としては申し分ないんだが、俺の技量が本当に上がっているのか疑問に思うときもある。
この剣による所が大きすぎるのではないか、と。

なので鋼の剣を予備に一本買おうと思っている。

と、そんな話をしていたら、ティファ曰わく、

「そんな必要ないですよ。だってその武器をキチンと扱えている時点で、その武器を使うに足る技量はあるわけですから。」

ということなのだが。

うーん、まぁ確かに、そう言われればそうなんだが…。

まぁ、他にもちと、やってみたいこともあるので、やっぱり予備に鋼の剣を買っておこう。





「よし。じゃぁ、移動するぞ。」


隊列を組み直し、再度出発する。

隊列は、先頭から順にティファ、ハイネ、ニル、俺だ。ピラミッドの時と同じ。
これなら、後ろからの襲撃されても、俺ならある程度耐えられるだろうし、その間に隊列を立て直す時間も稼げるだろう。先頭がティファなら安心して任せられるし、俺もすぐに前衛のフォローに回れる。

ちなみに馬車は街に置いてきている。
長期の移動には馬車は非常に便利なのだが、今のように森などを周回しながらレベルアップするときには、ちと移動に不便な為だ。
ま、いざとなればアッサラームにはルーラで戻れるわけだし。



しかし、イシスよりは気候的に楽とはいえ、アッサラームもやはり暑い。
森の中ってことで少しは涼しいんだが、暑いもんは暑い。

基本的に鎧なんてのはさして通気が良くない。
ましてや兜なんてのは暑くてしょうがないんだが、外すワケにもいかない。
汗が眼に入らないよう、兜内にタオルを巻いているのだが、そのタオルも直ぐ汗でじっとりとしてしまう。

ニルとハイネも鎧ではないのだが、やはり暑いようだ。
熱中症には気をつけないとな。水分補給もしっかりと取らねば。



そしてまた歩くこと暫し。

頭上で葉が動くような音がしたので見上げると、そこにはあばれザルが。
厄介なことに確認できただけで3匹も。だが、まだ他にいないとも限らない。

娘っコ達も気がついたようで、既に臨戦態勢だ。

暴れ猿の動きを注視しつつ、ニルとハイネを後ろに下げる。

と、何とキャットフライが背後から滑空しながら突っ込んできた。
ギリギリで気づいたハイネが、その攻撃を紙一重でかわす。


「ちぃっ、ティファはハイネとニルの援護! 俺は暴れ猿をやる!」

「はいっ!」


ティファは直ぐさまハイネの元へ駆けつけ、キャットフライトと正対する。
その間に態勢を立て直すハイネ。ニルは俺とティファ、ハイネのどこにも対応できるように位置を遷移する。

だが、敵はまだ隠れていたのだ。
じごくのはさみとかえんムカデが1匹ずつ更に現れた。


「何だってんだ。 どうしてこんなに一片に出てくる?」


今までこんなに沢山で出てくる事なんてなかったのに。
悪態をついても何の解決にもならないのは解っているんだが、言わずにはいられなかった。

って、バカ。 俺が焦ってどうする?

こういうときは、トチ狂って遮二無二動いたらダメだ。落ち着け、俺。


まずは敵情の把握。


大丈夫、敵の数はまだこちらの2倍にすらなっていない。
彼我の数の差はあれど、戦力比からいえば、俺が居る分まだこちらが優勢だろう。
だが、あばれザルに頭上をとられているのは面白くない。



厄介なあばれザルを最初に潰すかっ



その時、あばれザルに向かってニルがギラを放つ。
ナイスタイミングだっ

それを喰らって、あばれザルが3匹とももんどり打って落下してくる。


「おぅりゃっ」


そこへ全速で突っ込み、雷神の剣を横薙ぎに振るう。
この図体のデカイ、筋骨隆々としたあばれザルの身体も、雷神の剣の前では大した障害にはならない。
態勢を崩しているところに一太刀目でまず一匹目。そのまま返す刀で二匹目。

そして三匹目と思ったところで、視界の隅に何かが入った。


俺に向かって何かが飛来してきているようだった。


俺はあばれザルにトドメを指すことを止め、回避運動に入る。
後方へ転がりながらそれをかわし、何が襲ってきたのかを確認する。


「…おいおい、また新手かよ?」


そこにいたのは、先ほどのキャットフライとはまた別のヤツだった。しかも3匹。

ったく、ゾロゾロと。

って、そう言えばティファ達はっ?



ティファとハイネは二人で連携しつつ、ニルから離れ、敵を押し出す形で攻めていた。
既にキャットフライとかえんムカデは倒したようだ。その姿は確認できない。

今はじごくのハサミに対して、左右から挟撃する形で攻撃を加えている。もう少しで倒せそうな雰囲気だ。
ん? 動きの鈍いじごくのハサミは、体表に氷の塊が突き刺さっている。ニルのヒャドだな? いい連携だ。


よし、向こうは大丈夫そうだ。


俺は改めて魔物に向き直る。
こちらはキャットフライ3に手負いのあばれザル1。
俺だけでも何とかなるか。

身構え、キャットフライ3匹の中央にいるあばれザルを目標にする。アレを潰せばあとはどうとでもなるだろう。


「ぅりゃぁっ!」


一直線にあばれザルに斬りかかる。左右から、キャットフライが牽制紛いの攻撃を仕掛けてくるが無視。
かわし、盾でいなし、あばれザルに肉薄する。

あばれザルも、その巨大な拳を振るって抵抗するが、手負いのその動きは鈍く、容易に盾で捌く。


「だっ」


遠心力を利用しての大振りな一撃。
隙はあるが、今のこのあばれザルに、それを突くだけの余力はない。

横薙ぎに雷神の剣を一閃。

それであばれザルは魔石となった。

残りはキャットフライ3つっ
横薙ぎの遠心力のまま後方へ向き直り、再び加速。

一気にキャットフライに接近、そして勢いをそのまま打撃にも乗せる。

一つめを突き刺し、二つめを横薙ぎ。三つ目は大上段からの唐竹割りで切り伏せる。


よしっ、これで全部か?

娘っコ達に向き直ると、あちらも片付け終わった様子だ。
しかし、油断は出来ない。また新手がいつ襲ってくるとも限らない。
直ぐさま三人と合流する。


「終わったな? 大丈夫だったか、三人とも?」


剣はまだ抜き身のまま、三人に声を掛ける。


「ええ、こちらは何とか…。イルハさんも大丈夫でしたか? 敵の増援が見えましたが…。」


おお、よく見てたな。流石ハイネ、視界を広く取れているな。
若干息が上がっている気がするが、まぁそこはご愛敬。


「ああ、キャットフライだけだったしな。そっちも上手く処理できたみたいだな。」

「ええ、ハイネの援護とニルの的確な魔法もありましたし、厄介なあばれザルもイルハさんが相手してくれましたから。」


ティファがニルとハイネを労いながら返答する。
うん。やっぱりちゃんと連携は取れていたみたいだな。


よし、じゃぁ、魔石を回収してしまおう。剣を鞘に収め、魔石の回収を始める。


「そういえばニルって、まだイオは使えないんだよな?」

「うー、そうなんですよぅ。アタシも早く使ってみたい呪文なんですけど。」


回収作業をしながらニルに聞いてみたが、やはりまだのようだ。
アレを使えると随分と戦闘が楽になると思うんだけどな。


「って、イルハさんは使えるんですよね?」

「ああ、そうなんだが、あんまり呪文って好きじゃないんだよな…。」

「何です? それ。」


ニルは盛大に「?」マークを浮かべて聞いてきた。


うーん、何て言うか、攻撃するなら自分の手でっていうか。
呪文は勿論便利だし強力だってのは解ってるんだけど、しっかりとトドメは自分の手で刺したい。


「…何だか物騒な話ですね…。」

「…ねぇ…。」


引くなって、ハイネ、ティファ。

なんつーのかな、感覚の違いっていうのかな。
相手の命を奪うんだ。その感触を忘れてしまってはいけない気がするんだ。例え相手が魔物でもな。
自分が生き残るために相手の命を奪う。
この世界では、というか、生きていくためには当たり前のことだと思う。
でも、安易に相手の命を奪ってしまったら、その重みを感じられなくなってしまいそうでな。

呪文を否定するワケじゃない。
ニルは魔法使いなんだから、その呪文で相手を倒すのが当たり前。それでいいんだ。

俺の矜恃とでも言えばいいのか。俺の中での問題なんだ。




その後も俺たちは歩を進め、戦闘を繰り返す。

ニルとハイネも少しずつ戦闘に慣れてきたようで、効率の良い攻撃をするようになった。
無理はせず、行くところは行く、引くところは引く。相変わらず二人とも良い判断ができている。
ティファも俺たちとの連携にだいぶ慣れてきたようだ。
さすがは勇者、順応力は抜群だな。やっぱり素材が違う。
俺も、レベルは上がっていないが、自分の身体の使い方が前よりもだいぶ解ってきた。
それに伴って、自分で工夫をしながら攻撃をするようにもしている。
ゲームや漫画などで見知ったような事も出来ないかな、と試行錯誤を繰り返しながら。

折角高い能力があるんだ。有効活用して旅の役に立てないとな。
ただ漫然と戦闘を繰り返しているだけじゃ、勿体ないってもんだ。

そして森の中にも夕闇が迫ってきた頃、俺たちは今日のレベル上げを切り上げ、アッサラームへ戻ることにした。

戻る手段はルーラなんだが、今回は俺がルーラをすることにした。

一回試してみたかったんだ。
感覚としてはティファに教えてもらったので、それを実践してみる。



えーっと、ルーラで行きたい場所の景色を思い浮かべ、そこへ飛んでいくようにイメージをするんだったな。



…うむむ、では行くぞっ


「ルーラっ!」


おおっ!?この引っ張られていく感覚!成功だっ


そしてあっと言う間にアッサラームに到着。
あぁ、やっぱりこれは非常に楽しい。頻繁にルーラを使ってしまいそう…。


街へ入り、まずはジャンのもとへ。
留守番ご苦労様。一日待っているだけだったからな。退屈しただろう。
ひとしきりジャンを労い、そして馬番へも礼を言っておく。ホントお世話掛けます。助かります。

それから皆揃って宿へと向かった。
一日戦闘を繰り返すと、汗やら砂埃やらでかなり不快感が高い。
気温が高いため、それは余計に感じたんだが。

ってことで、食事の前にひとっ風呂浴びておくことにする。

この街にも宿は沢山あった。
というか、アリアハンよりかなり多いな。さすが行商地。
部屋は皆で仲良く相部屋、は流石にマズイってことで、俺はシングル、娘っコ達はトリプルルームにした。
ちっと宿代がかさむが、まぁ、安眠は大事だからな。お金には換えられない。
娘っコ三人は全員で相部屋でも構わないといっていたが、俺が遠慮した。
これでも健康な男子なんだ。気が休まらないよ、こんな可愛い娘っコ達と一緒に寝てたら。



ここアッサラームはバハラタやイシスへの中継地ということもあり、人種も多種多様だ。
ただ比率的に多いのは、現実世界でいうところの中東系の彫りの深い、渋い格好いいおっさん連中が多い。
これがこの辺りにすんでいる人たちの人種なんだろう。

そういえばイシスも同じような人たちだったな。

それと女性も魅力的な人たちが多い。
じっくり見ていると、娘っコ達の視線が痛いから、あまり見れないんだけどな…。

そして風呂に浸かりながら、ふとパフパフ屋のことを思い出す。
たしかアッサラームだったよな、あれ。

…後で街中散策がてら、リアルで体験してみるか。なんつって。



そして娘っコ達と合流し、夕食に出かけることにする。

今晩の食事処は、地物の食材を活かした昔ながらの食堂。クチコミで評判が広まった店だとか。
これは期待できそうだ。

基本的に、この世界の食事は現実世界と変わらない。
ビックリするような下手物も、今のところお目にかかってないしな。

ただ一つ残念なのがカ■リーメイトがないんだよな。いや、当たり前なんだけど。
現実世界の俺の主食が…。
禁断症状とまではいかないが、あの味、恋しいぜ…。



街中をつらつらと見ながら店に向かっていると、やたら煌びやかな通りに出た。

…あー、何となくだがここいらが色街なんだろうな。漂っている空気が明らかに違う。
歩いている人も堅気じゃなさそうなのも沢山いる。それに呼び込みも多数いるようだ。


「…イルハさん、何見てるんですか?」


俺がその通りを見ていると、どこか不機嫌そうなハイネの声が聞こえてきた。


「あー、いやなに、やたら派手派手しい通りだなと思ってさ。」

「…仕方のない事だとは思いますが、えっちなことは程々にしてくださいね?」


えーっと、ハイネさん? 俺がソレ系の店に行くことはもう前提なの?


「だって男の人って、“そういう”ことは我慢できないものなのでしょう?」


いやまぁ否定はできないけどな。
かといって、嬉々としてそういう店に行くような人間でもないんだけど。


「えー、ホントですかー?」


なんだよ、ニルまで。俺がそんな我慢弱い人間だと?
これでもちったぁ堪え性があると思ってるんだが。


「そうですね、イルハさんは誠実な方ですし。」


あー、ティファ。ソレとコレとは、また話が違う気がするんだが。
論点がちっとばかしズレてやしないかい?


なんて下世話な話をしながら歩を進める。
こんな若いコ達とする会話じゃないよな。これ。

まぁ、現実世界でも風俗に行った経験はないんだよな。実は。
何となく行きづらいというか何というか。そこまでして行くような所でもないというか。
まぁ、人並みに彼女もいたし、溜まったら自分でしてたしなぁ。



お、ニルとティファが店を見つけたようだ。二人とも小走りで店へ向かう。

とその時、俺の横を並んで歩いていたハイネが、若干頬を染めながら何やら小声で呟く。


「…まぁ、どうしてもっていうなら、私が何とかしますよ?」


はい? 何の話ですか? ハイネさん?


「何って…。アレですよ。我慢できなくなったら…。」


え? いやいや、はい?


「…イルハさんなら、私、いいですよ?」


…あー、えーと、その、なんだ。落ち着け俺。
そうだ素数だ、素数を数えろ。って、あ、いや、そんなことをするんじゃなくて。


「………。」


…そんなに朱い顔で見つめないでくれハイネ。


「んー、あー、ハイネ。その申し出は非常に嬉しいんだが、あ、いやいや、そうじゃなくて、そういったことはだな、
 軽々しく口にすべきではないと俺は思うんだが、如何でしょうか。」

「………勿論、私だって軽々しく口にしたワケじゃないんですよ………?」


おーう、これはなんだ? 俺はいつの間にかフラグを立ててたのか?
あまりにも唐突すぎて頭がついていかないんだが。

俺が言葉を発せずにいるとハイネがため息を一つついて、


「…イルハさんは鈍感ですよね。」


…えぇ、よく言われてました。ハイ。


「……その鈍感さんに、私の気持ちは伝わりましたか?」

「…ああ、流石にな…。」


伝え方はだいぶ強引なストレートだったが。


「…私も強引過ぎたかなとは思いますけど、そういう風に言わないと、イルハさんには伝わらないと思って…。」


うーん、仰る通りです。


「私まどろっこしいのはキライなんです。自分に正直にいたいんです。」


あぁ、そうだな。ハイネはそういうコだよな。


「…私こんなこと言うの初めてなんですよ? 今、物凄く恥ずかしいんですから…。」


あぁ、解ってるよ。顔真っ赤だもんな。


「うあ…、そういうこと言わないでください。」


了解しました。


「…じゃぁ、また返事聞かせてくださいね?」


ん、今すぐじゃなくていいのか?


「はい、私の気持ちは伝わったみたいですし、イルハさんにもイルハさんの事情がおありでしょうから。」


こんな時でも慎ましやかなんだな、ハイネは。


「ええ、そうですよ?」


…そこでそう言ってのけるのは、ちっと違う気もするんだが。



「ハイネー、イルハさーん。席空いてるみたいですよー。はーやーくー!」



ニルが店先から俺たちを急かす。

おお、そうだった。食事をしに来たんだよな。あまりの出来事にすっかり忘れてたよ。
と、俺がハイネを促して店に向かおうとすると、ハイネはまるで何事もなかったかのように、ニルの呼びかけに応え店に向かい歩いていく。

が、急に立ち止まると、こちらにふり返った。


「………私、ハイネはイルハさんのことが好きです。大好きです。これは嘘偽り無い、私の本当の気持ちです。」


と、顔を真っ赤にしながら、声は小さかったがはっきりした口調で、しっかと目を見据えながら。

ハイネはそれだけ言うと、再び店に向き直り店へと小走りに向かっていった。


「……………。」


俺はその言葉を受け固まってしまった。

今まで女の子とつき合ったことはあったんだが、全て俺の方から告白していた。

これまで、女の子の方から告白された経験がなかったため、思考が停止してしまった。


「……………。」


あー、どうしたってんだ、俺。身体が動かない。鼓動が早い。口の中が乾いている。


「…年甲斐もなく…ってか。」


ふぅ、と大きく一息。

…ん。少し落ち着いたかな。



あー、告白されるってこういう気持ちなのか。今まで告白されたこと無かったからなぁ。

うー、柄じゃねぇなぁ。

よもやこんなにも動揺するなんて思わなかったな。
あまりにも不意打ちだったわ。改めて面と向かって言われると効くな…。


「…まぁ、悪い気はしないわな。」


それは本心だ。ハイネみたいな可愛いコから好かれているなんてな。

ただ、これからどうするか。
ハイネの気持ちに応えるとすると、何となくパーティーの空気が変わりそうだなぁ。

ってこれは俺の考えすぎ? うん、自意識過剰だな。
でも女の子達って男には解らないことだらけだしなぁ…。彼岸の存在だよ。


「…ま、ひとまず飯喰ってから考えるか…。」


俺の気持ちとは関係無しに、腹は飯を食わせろと急かしてくる。

だが、ハイネの顔を何となく見づらいな。変に意識してしまいそうだ。

気をつけよう。伊達に四半世紀の上、生きてきてないんだからな。
それくらい顔に出さないようにしないと。うん。ちと心許ないが…。うぅ。


「イルハさーん、なにしてるんですかー? 先に入っちゃいますよー?」


再びニルが店先から顔を出し急かしてくる。

それに手を軽く挙げ応えると、改めて店へと向かう。


「さて、平常心、平常心、と。」


そんなことを声に出している時点でダメな気もするが、そこはそれ、都合良く忘れよう。

さて、飯だ、飯。





飯は普通に美味しかったと思います。

店内も清潔感があり地域色も豊かで、楽しげな店内だったと思います。

なんで思います、なのかと言うと、正直よく覚えていません…。

食事に集中できなかったというか、平静を保とうとするのに精一杯だったというか。

多分、俺は不自然なくらい自然を装おうとしていたんだと思います。

何度もニルとティファに「どうかしたんですか?」と聞かれましたから。

…えぇ、動揺していましたとも。しょうがないじゃんかっ



とりあえず食事を済ませ、宿に戻りがてら街中をウインドウショッピング。
娘っコ達は、やいのやいの言いながら色々な店先を見て歩いていく。

でも店内には中々入らないんだよね。
今日のレベル上げのお陰で結構G溜まったと思うから、それ程気にせずに買い物できると思うんだけどな。


「あれこれ見るのが楽しいんですよー。」


そんなもんかねぇ。ニルさんや。

だが、うんうんと、ハイネとティファも頷いている。

うーん、お兄さんには、よくわからんです。



そのあと三人は少々の雑貨と服を購入。
俺はと言えば、付いて歩いていただけで、特に何も買わず。
買ったところで荷物になるだけだから、って頭だからなぁ、俺は。

そして宿へ到着。

娘っコ達と明日のスケジュールを確認し、自分の部屋へと向かおうとすると背後に気配が。


「イルハさん。」

「おう、どした? ハイネ。」


そこには、何やら表情の浮かないハイネが。


「…あの、さっきは急にあんなこと言ってしまって、すいませんでした。」

「いやいや、別に謝る事じゃないだろう? …まぁ、驚いたは驚いたけどな。」


苦笑しつつ、頬を掻く。


「すいません、イルハさんの負担になってしまったんじゃ、と思って…。」

「あー、大丈夫大丈夫。そんな柔な性根じゃないからな。女の子の気持ちを受け止める位の器量はあるつもりだ。うん。」


さっきはだいぶ焦ってしまったけどな。それは内緒だっ。


「そうですか、良かった…。」


そういうと、表情が幾分晴れる。


「ああ、ただ返事はちっと待ってくれな。なるべく早くしたいとは思っているんだが。」

「ええ、それは。勿論です。…でも、あんまり待たせないでくださいね?」


若干朱い顔をちょこんと傾げてそういうハイネ。

おーぅ、その表情は反則だぞ。


「…あ、あぁ。わかってるよ。」


思わずしどろもどろになってしまう。しっかりしろよ、俺。



それからオヤスミ、とハイネを見送り、今度こそ自分の部屋へと向かう。

部屋に入り腰から剣を外し、壁に立てかけておく。
そしてそのままベッドに倒れ込むようして寝転がった。



…あー、日中のレベルアップより、さっきの一件の方が疲れた気がする。



また懸案事項が増えてしまったな。
でもコレは男としては嬉しい悩みでもあるか。


あー、よもやこんなことになるなんてなぁ。

一人の男としてはハイネの気持ちには応えてやりたい。が、今俺たちの置かれている状況は結構シビアだ。

魔王討伐の任務。これが何事においても優先されるだろう。

事を済ませてから返事なんてのは無理だろう。いつになるか解ったもんじゃない。
バラモスの後にも、更に大きな問題が控えているのは確実だろうからな。
そもそも無事でいられるのかすら怪しいしなぁ。

ハイネの気持ちに応えたとして、ニルとティファにも何て言えばいいのか。

あぁ、これは結構大問題だ。こんなことを相談できるような相手もいないしなぁ。



うーん、ちと困ったな。






[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第九話 番外編
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/11/29 15:59

あぁ、告白した。してしまった。
いや、してしまったなんて言い方はないよね。



しかし、自分で自分に驚いてしまった。
よもやあんなタイミングで告白することになるなんて。

布石は確かにあったんだけど。

イルハさんが、というか男の人が“そういう”ことに対して興味というか、欲求とでも言えばいいのか、があるのは至って自然なことだと思う。

でも、イルハさんには“そういう”所に行って欲しくはなかった。

何と言えばいいのか。この感情は。

誰とも知れない人と、イルハさんが肌を合わせるだなんて。

考えただけで嫌だ。

だから自分が、なんて安易な考えだけど。

でも考えるより先に言葉が出てしまった。

私ってそんなに直線的で強引な人間だった?



「…まぁ、どうしてもっていうなら、私が何とかしますよ?」



私の口から、そんな言葉が出るなんて。

言っていて驚いてしまった。

私何言ってるんだろう? はしたないコだと思われてしまっただろうか。

でもそうでも言わないと、この人には通じない。

そんな気がしていた。まぁ、どうやらその考えは正解だったみたいだけど。

そのイルハさんといえば、思った通りというか何というか。

案の定オロオロしていて、正直見ていて微笑ましかった。



この人は純粋な人だ。



これがイルハさんに抱いた私の印象。

表も裏もない、まっさらな人。

ルイーダの酒場で初めて見たとき、まずマナに引かれた。

あんな人見たこと無かったから。

そして一緒に旅をするようになって、今度はその人柄に惹かれた。

人に接するときの誠実さ、謙虚さ。

多分この人は誰とでも分け隔て無く接することの出来る人。

この人と一緒に旅が出来るのは、多分凄く幸せなことなんだと思う。

勿論苦しいことも、哀しいことも沢山あるんだと思う。

でもこの人は、それを補って余りあるモノを、皆に与えてくれるんじゃないかな、と。

漠然と思ってしまうのだ。



だから惹かれた。

好きになってしまった。

心が欲してしまったんだと思う。



それに旅を続けていく上で、この気持ちを伝えられなくなってしまう事態に陥らないとも限らない。

なんて少し怖い想像をしたら、言えるときに言っておかないと、取り返しがつかなくなってしまうような気がした。

言わずに後悔より言って後悔した方が、自分の気持ちにもケジメがつけられる。


「どしたの? ハイネ。寝れないの?」

「…ううん、大丈夫だよ、ニル。ちょっと考え事してただけだから…。」


ニルが私を心配して声をかけてくれる。


「何か心配事があるなら相談にのるから言ってね?」

「うん、ありがとう、ティファ。」


ティファもまた心配してくれる。

でもこれは少し相談しづらいこと。

出来れば相談したい。でもちょっと難しいこと。

二人には打ち明けておいた方がいいのかな…。

イルハさんの返事が貰えたら打ち明けた方がいいよね。生来、隠し事をするのは下手な方だし。

例え良い返事でも、悪い返事でも、ちゃんと二人には報告しよう。

もし悪い返事だったとしても私は一緒に旅を続けたい。

みんなの手助けをしたい。

その時は少し哀しい気持ちになるかもしれないけれど。

イルハさんやみんなと一緒に、平和になった世界を見たい。見てみたい。

みんなで平和になった世界で笑い合おう。

昔、そんなこともあったねと笑い合おう。

うん、そうしよう。

そういえる日が来るように頑張ろう。



…でも、できれば良い返事を貰いたいものだけれど。

それは私の我が儘なのかな?



[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第十話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2009/07/04 20:49

レベルアップ2日目



「…外が白んできたな。…もう寝るのは諦めるとするか…。」



あー、結局一睡もできなかったな。

色々考えたんだが、やはり良い答えが浮かばない。
ハイネの気持ちには応えたい。が、応えることによって、ニルとティファとの関係が微妙に崩れそうでなぁ。
って別に気にすることでもないのかなぁ。やっぱ俺の自意識過剰なのかなぁ…。

男としてみれば、これは嬉しい事だ。
ハイネのように可愛い、しっかりしたコに好きと言われたんだ。嬉しくないワケがない。
個人としては、彼女に対して好意と呼べる感情も勿論ある。

だが、ハイネとつき合うとして、今と何が変わるのか。

同じパーティーメンバーなのだから、四六時中一緒にいることになる。それは何ら問題ない。
むしろ、ハイネをいつでも守れるのだから男冥利に尽きる。

だが、ニルとティファも一緒なのだ。
イチャイチャすることも難しいだろう。ってバカ。そうじゃなくて。

何となく空気が悪くなるような気がするんだよな。
女の子ってちょっちドロドロした所があるし。ってこれは偏見?

まぁ、ニルとティファなら別段、祝福してくれるとは思うんだよな。良いコ達だし。

うーん、今までこういう事で悩んだ経験がないから、にんともかんとも…。にんにん。





「おっはようございまーす」


気怠い身体を起こすため、朝風呂へと向かっていると後ろから声をかけられた。


「あー、おはよう。朝っぱらから元気だな、ニルは。」

「ええ! それが私の取り柄ですからっ」


ホントにこのコは明るいな。
何となくだが性格的に、魔法使いより武闘家なんかが似合うんじゃないかと思うんだけど。


「イルハさんどうしたんですか? まだ朝食に行くには早いですよね?」

「ああ、ちっと目覚まし代わりに朝風呂でも、と思ってね。」


そう言いながら、肩から下げたタオルを指さす。


「あー、なるほど。それはいいですね。あたしも朝のお風呂大好きですっ」


ニルは満面の笑みで同意してくれた。あぁっ、笑顔が眩しいっ。


「そういうニルも、何だってこんな朝早くに?」

「あ、実はですねぇ…。」

「イルハさん。おはようございます。」


そう言われて後ろを振り向くと、そこにはハイネとティファが立っていた。


「ああ、おはよう。二人とも。っていうか三人揃ってどうしたんだ?」

「実はあたし達、トレーニングに行ってきたんですよっ」


トレーニング?


「はい、昨日のレベル上げで痛感したんです。私たちっていうかニルと私がなんですけど、やはり体力が無いな、と。」


それで朝練を?


「そうですっ」


いや、そこでビシッとVサインされてもなぁ、ニルよ。


「折角ですから、わたしも一緒に走ってきたんですよ。」


ティファも努力家だねぇ。もともと持っている才能が段違いなのに。
努力する天才って末恐ろしいな。って、いや別に恐ろしくはないか、勇者なんだし。


「それで、これから一旦部屋に戻ってから、お風呂へ汗を流しに行こうかと。」


なるほど。だから、ニルの格好も動きやすいものだったんだな。私服にしちゃラフすぎると思ったんだ。
ハイネとティファもデザインはお揃いの色違いだな。よくよく見れば。


「いやぁ、トレーニングなんて偉いな三人とも。こりゃ俺も見習わないとなぁ。」

「イルハさんはもう十分じゃないんですか?」


いやいや、十分ってこたぁない。身体ってのは一日あけただけでも鈍ってくる。それを取り戻すのは結構大変なんだ。
出来るならば一日たりとも鍛錬を欠かさないようにしたい。
例え、こなす量は少なくとも継続すること。それが肝要だ。
幸いこの世界ならば鍛錬に事欠くことはない。って、幸いじゃないか?

それから俺はまた後で、と三人と別れ風呂へと向かう。

何か三人と話してたら、さっきまで悩んでたのが馬鹿らしくなってきちゃったなぁ。
あのコ達は本当に真っ直ぐだ。裏表がない。純真なんだな。

年長者たる俺がしっかりせにゃどうする。





「イルハさん。」

「ん、おう。」


風呂から上がり、ホテルのロビーで涼んでいるとハイネが声を掛けてきた。
どうやらハイネも風呂上がりのようだ。若干上気して朱くなった頬と洗い髪が相まって、非常に可愛らしい。


「? どうかしましたか?」

「あ、いやいや、何でもないです。」

「…隣、座ってもよろしいですか?」

「あ、気づくのが遅れてスマン、座ってくれ。」


俺がそう促すとハイネは、俺の隣にちょこんと座る、が。

…えーっと、これは…。ちょっと近すぎやしませんか?
膝と膝が触れ合ってしまうような距離なんですが…。

しかし女の子ってなぁ、なんでこんなに良い匂いするんだろうな? 風呂上がりなんかは特にそうなんだが。
同じ様な石鹸やら使っているはずなのに、ホントに不思議だ。

俺がちょっと咳払いをしつつ、少し間を開けようとすると、ハイネもぴったりと横移動してきた。


「…えーと、ハイネさん?」

「…近くに座るのはだめでしょうか?」


あー、そんな上目遣いで見上げないでくれ。女の子のその目線に男は逆らえないんだよ。


「やや、全然ダメじゃないんだ。っていうか、むしろ嬉しい? って、そういう話じゃなくてだな。」


情けない話だが、ちょっち慌ててしまう俺。中学生かっ


「ふふっ、イルハさんのそういうところ、すこくカワイイですよ?」

「ぶっ!」


…こんな十近くも離れているようなコに、よもやカワイイなんて言われるとは…。
嬉しいやら、情けないやら…。

って、そういえばハイネ達の年っていくつなんだ? 詳しく聞いたことなかった気がするんだが。


「あー…、そういえば、年齢については話していませんでしたね。」

「差し支えなければ、聞いてもいいかな?」

「ええ、私とニルは15歳、ティファは二つ上の17歳です。」



……………え?



じうごさいとじうななさい?



じ う ご さ い と じ う な な さ い ! ?



「? …どうかしましたか?」


固まった俺を見て、心配そうに声を掛けてくるハイネ(15)。

いや、確かに若いとは思ってたんだが…。よもやじうごだとは…。
俺の世界の成人と、こっちでの成人の年齢が違う? こっちでは15といえば立派な成人なのか?
そういえばゲームの勇者も旅立ちの年齢は16だったような。
まぁ、その辺りの年齢が妥当な所なんだろう。いや、しかし、よもや…。


「じゃぁ、イルハさんはおいくつなんですか?」

「………………28。」

「えぇっ!?」


コラ。なんでそんな驚くんだよ? あ?


「あ、いや、大きい声だしちゃってごめんなさい。…でも、イルハさんがそんなお歳だったなんて…。」


お歳っつーな。やたら歳食ってるみたいじゃないか。
それに28なんつったら、やっとこれから脂がのってくる頃だろう。


「ええ、まぁ、そうなんですけど。」


何だか納得してない様子だな。


「イルハさんの、見た目と年齢のギャップがどうも…。」


まぁ、それはいつも言われてきたよ。何度も何度も、ね。
この世界でも言われることになるとはね。ホント童顔ってなぁ困ったもんだ。


「えー、でも老けて見えるより良いと思うんですけど…。」


世の老け顔の人に怒られるぞ。


「その言い方の方が怒られると思いますけど。」


…確かに。



そういえば、ハイネはまだ冒険者に成り立てなんだったよな?


「はい、私とニルは普通の人より冒険者になるのがちょっと遅かったんです。」


とは言っても、ティファも今17なんだとすれば、旅立ちは16位だったんだろ?


「ええ、そう聞いています。」


じゃぁ、さして遅いともいわんだろう。天下の勇者様が16で旅立ちだったんだから。


「まぁ…、そうとも言えますけど。」


それと一つ大事なことを忘れているぞ?
俺は最近冒険者になったばっかりだっ


「あ、そうでした。ついつい忘れてしまうんですよね。余りにも、イルハさんの立ち振る舞いが自然なもので…。」


まったく、忘れないでくれよ?
しかし、こんなある意味で過酷な世界では、大人になるのも早いんだな。ならざるを得ないというか、なんというか。
俺の感覚でいえば、15、16なんてまだ世間も碌に解っちゃいない、てんでお子様って感じなんだけどな。
でも、この世界ではこんな年頃のコ達が、立派に手に職付けて働いてるんだもんな。文字どおり命を賭けて。
いやはや、今更ながらスゲェ世界だな。ドラクエって。

まぁ、よくよく考えれば少年兵なんてのは俺の世界でも聞いた言葉だったな。
知識としては知っているが、実感としてはやっぱり無いんだよな。画面の向こう側の話というかさ。
俺の半分しか生きていない若い子どもが、殺し、殺されている、なんてのは。

でも今は、こうして俺より十以上若い奴らが必至こいて戦っているんだ。
世界を救うなんて夢物語みたいなことを、大真面目な目標にして。

しかしまぁ、おっさんに入りかけた俺だが、気合い入れて若い奴らに負けないようにせにゃ。うん。


「うっし。」

「?」


俺が一つ気合いを入れ直してる隣では、ハイネが盛大に?マークを浮かべていた。そりゃそうだ。


「なに、俺がお前達を護ってやるって気合いを入れ直したんだよ。ここは一つ、この俺に任せなさいっ」


バンッと胸を反らせて見得を切る。これが男ってもんだってばよ。


「……………。」


軽くポカンとしているハイネ。
いやいやいや、男が啖呵を切ったんだ。何か反応してくれよ。

と思ったらみるみる頬が朱く染まっていく。


「…はい、お願いします。でも私、護られてばかりでは性に合わないので、一緒に戦いますからね?」


ちょこんと首を傾げながら笑うハイネ。


「お、おう。」


そんなカワイイ反応に、思わず軽くどもってしまう俺。…しまらねぇ。








「さて、飯も食い終わったことだし、少し休憩してから出発するからな。」

「「「はい。」」」


ん、いい返事だね。


「今日も、ここ周辺の森でのレベルアップでいいんですよね?」

「ああ、もう暫くはこの辺りで慣らそう。まだまだ学べることは沢山ある。」


そうだ、森での戦闘、草原での戦闘。
場所によって、相手によって戦い方は千差万別。
位置取り、連携、攻撃に移るときのタイミング。
皆で勉強することは山のようにある。

俺だってもとの世界じゃ、しがない一般市民だったんだから、そこら辺には疎いしな。
実地で経験を積まないと。
幸い、能力的にまだ余裕がある。今のうちに色々な対処法を考えておかないと、いざというときに身体が動きませんでした、じゃぁ取り返しがつかないからな。

俺たちは新参のパーティーもいいとこだ。
ちゃんとした経験を積んでいるのがティファだけなんて、危ういことこの上ない。
本当はもっと年長者がいれば楽になるんだろうけどな。指揮官タイプの人間が。

自己分析するに俺は兵士タイプなんだと思う。
戦闘レベルでの視野ならひとまず問題はないと思うんだが、更に広い、更に上のレベルでの視野はまだ持てそうにない。
まぁ、この世界は基本的に戦闘の繰り返しだから、それでも問題はないと思うんだけどな。

現状の4マンセルの戦闘であればいい。だが、相手は魔物だ。
いつ何時、大量な物量を持って攻めてこないとも限らない。
それに戦闘時、後方に指揮官がいると負担がだいぶ減る。目の前の戦闘に集中できるからな。
これからその辺りも考えていかないとな。
娘っこ達3人は皆、比較的広い視野で戦闘が出来ているから、現状そこまで気にしなくてもいいとは思うが。
年長者たる俺がその役を引き受けるのが妥当だろう。

って、これは俺の気負い過ぎ?





「やっ!」

振り下ろされるティファの一撃。

「たぁっ!」

鋭く繰り出されるハイネの一突き。

「イオっ!」

手傷を負った魔物達を一掃する、ニルの広範囲魔法。

「ふーむ、こりゃ俺の出番が無いなぁ。」

雷神の剣を肩に担ぎながら呟く。



この三人の連携は見事なもんだ
魔法が先制しても、直接打撃が先制しても一気に畳み掛けられる。
ティファが切り込み、ハイネが牽制、ニルがイオを放ち、再びティファとハイネが斬りかかる。

ニルがイオを覚えたことが大きいな。昨日とは打って変わって、戦闘が楽になった。
まぁ、消費MPが大きいのが玉に瑕だが。

「いぇい、いぇーいっ!」

…あー、なんだ、ニル。
イオを覚えて嬉しいのは分かるんだが、戦闘中にはしゃぐな。
俺に向かってVサインを向けるなって。分かった。分かったから。

なんて戦闘を繰り返していたら、ニルが早速ガス欠になった。

当たり前だ、アホタレ。配分を考えろっつーに。


「…あい…、すいませんです…。」


ってことで、ニルは後方待機。魔道師の杖でメラを使って貰う。
ニルに直接打撃をやらせるなんて、余りにも危険だ。
ゲーム中で魔法使いに打撃とかやらせてたが、現実じゃぁ恐ろしくて出来やしない。
杖で魔物を直接殴るとかあり得ん。



そんなこんなで、一旦休憩をすることに。ニルの魔力回復のためにもね。
聖水で簡易結界を張り、休憩。
街で買ってきた保存食、干肉や乾燥させたじゃがいもを火にかけて一煮立ち。
本来水は貴重な物だが、今回はすぐにでも街へと戻れるので惜しげもなく使用することに。
それから、これまた乾燥させ、細かく砕いた香味野菜と香辛料も一緒に鍋に加え、更にニル、もとい煮る。
十分に肉とじゃがいもに火が通ったら、鍋からそれぞれの皿に分ける。

うん、まぁこんなもんか。中々良い匂いだ。味の方は…。
俺は別段、味に頓着しないのでいいんだが、娘っコ達はというと…。


「ん、男の料理ですね。」

「ね。」

「うんうん。」


あんだよ、文句あんなら食うなよ。


「あ、いえいえ、別に文句なんてありませんよぅ!」

「そうですよ、美味しいですよ?」

「うんうん。」


それならば良し。

しかし…。
ニルよ、一心不乱に食いすぎ。なんつーか、もちっと女の子らしく、こう、さぁ。


「えー、何かおかしいですかー?」


いや、おかしいっつうか、なんつうか。
要するに、そんながっついて食べるなってことなワケですよ?


「あり、そんなにがっついてます?」


うーん、ちっとばかし女の子っぽくはないかな? 前々から思ってはいたんだが。
なぁ、とハイネとティファに視線を送るが、ハイネは見慣れているせいか、何か問題が?みたいな顔をしている。
お前に聞いた俺が間違いだったよ。そりゃハイネは見慣れてるよな。付き合い長いし。
ただティファは苦笑。
良かった。このコだけでも共感できて。


「でもでも、元気に食べる姿って、見ていて気持ちよくありません?」


ん、まぁ確かに一理あるな。


「でしょでしょ。ならOKですっ」

この娘は…。
…まぁ、ニルらしいっちゃらしいか。



さて。

「おし。ぼちぼち行くぞ。」

暫し食後の休憩を挟んだ後、行動を再開する。

休憩をしたことでニルの魔力も若干回復。
まぁ、魔道師の杖だけでも結構行けるのが解ったしな。いざって時のために魔力は温存しといてもらう。

結界を解除し、いざ出発。

と、

「ん?」

なんだ? この違和感?
いや、違和感っていうか、なんていうか?

俺が見るともなしに辺りに視線を向けると、森の奥、だいぶ離れてはいるが何かがある。
あるというか、居るというか。「何か」を「知覚」したというのか。
なんだこれ? 
なn…

「うおっ!」

考えるより先に体が動いた。動いてくれたと言った方が正しいか。
一瞬前まで俺が立っていた場所を何かが通過する。
ハッキリとは見えなかったが、恐らくだが炎? 鋭利に尖った矢のような炎?

「え?」

急に伏せた俺を三人が振り返る。

ヤバイ。よく解らんが何かヤバイ。背中を何かが這い上がってくる感じ。良くない予感だ。

「伏せろ! 三人とも伏せろ! 今すぐ!」

俺が怒鳴る。
三人とも一瞬ビックリしたような顔を浮かべるが、俺の表情を見て現状を理解してくれたのか、直ぐさまその場に伏せる。
幸いにも次の炎の矢は飛んでこなかった。

飛んではこなかったんだが。

「うん、やっぱりスゴイね。アレ避けるんだ。」

頭上からの声で俺は、直ぐさま伏せていた場所から横に転がる。
と、そこに突き立てられる無数の氷の矢。

なんだってんだ! くそ!

体勢を何とか立て直し、雷神の剣を抜く。

「へぇ、これって雷神の剣?」

今度は俺の真横から聞こえてきた。
横に視線を向ける前に、後方に倒れ込むように転がる。
と、前方から迫っていた短剣の横薙ぎの一閃を、間一髪でかわす。

「くっそ!」

後転の勢いそのまま立ち上がり、木を背負うように立ち上がる。

どうなってんだ!

「ホントよく反応するね?」

また上かっ。

咄嗟に左に飛び退く。と、立っていた地面が爆ぜ、土煙が上がる。
なんだ今のは!?

視線を上に向けた時、そこにはもう影も形もない。が、

「だっ!」

再び悪寒を感じ、地に伏せる。すると、頭上を何かが一閃した。

「…嘘だろ、オイ。」

俺の立っていたすぐ傍の木が、横に両断され、倒れてくる。

こんにゃろっ!

木を避け体勢を調えると、下段に剣を構える。
そして視線、意識を周囲に巡らせる。

木の倒れる音が響き渡る中、ふと背後に感じる気配。

「りゃぁっ!」

振り向きざまの下段からの切り上げ。

ギィンと鈍い、金属がぶつかり合うような音が辺りに響く。

「っとと、よく分かったね?」

剣と盾。その向こうに見えるは襲撃者。だが、俺はその姿を見たとき思考が一瞬止まってしまった。

「…え…?」

一瞬、ホントに時が止まったように感じた。
その直後、腹部に感じる衝撃。まるで、でっけぇ木槌で殴られたみてえだ。
堪らず、体ごと吹き飛ばされてしまう。

「ぐぁっ!」

直後、背中に感じる衝撃。木にぶつかったか。
肺から空気が一気に抜け、呼吸が止まる。視界が薄れる。
ヤバイ。ヤバイヤバイ。こいつは拙いぞ。

無理矢理、途切れそうになる意識を繋ぐ。

「っは、ぐっ」

あー、キッツイの貰ったなぁ。
体が上手く動かねぇ、なんてことは言ってられないな。だって、

「じゃぁ、次でオシマイ、ね?」

おいおい、なんだそれ。その凶悪なモノは。

そいつが掲げた右手の先にあるモノ。

紫電を放つ球形の物体。
人の背丈位は楽にありそうだ。

なんだろう、アレは。
稲妻を、捏ねくり回して丸く集めれば、あんな形になるのか?

「バイバイ。」

その何とも軽い一言と共に、ソレは俺に向かって放たれた。



[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第十一話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2009/12/15 18:06

「伏せろ! 三人とも伏せろ! 今すぐ!」


急に地に伏せたイルハさん。そしてかけられる切羽詰まったような声。
どうしたんだろう、という思考が最初に浮かんだが、その表情を見て今置かれている状況が理解できた。



『何か拙い事が起きている。』



私たちは一斉にイルハさんに倣い地に伏せった。
しかし、何も来ない?

と言うのは間違いだった。


「うん、やっぱりスゴイね。アレ避けるんだ。」


上から聞こえた声。
若い、少年のような、少女のような、透き通るような綺麗な声。

でもその声がもたらしたのは、脅威だった。

地面に突き刺さる無数の氷矢。

でも間一髪でそれを避けるイルハさん。

そして現れる影。「それ」が現れたのはイルハさんのすぐ隣。

あ、と声をあげる暇もなかった。

横薙ぎに払われる短剣。いや、短剣にしては大きい? 短剣と長剣の間?位の剣。

その軌跡は必殺の軌跡。
だがイルハさんは、後ろ向きに倒れることによってそれもかわす。
一体、あの人の反射神経はどうなっているんだろう。

そして現れたのと同じく、音もなく消える影。
速すぎて見えない? まるで瞬間移動しているかのよう。

体勢を立て直したイルハさんだったが、一瞬の硬直後、すぐさま動く。

そして爆ぜ飛ぶ地面。今のは何?


「だっ!」


またも伏せるイルハさん。

その上を何かが一閃する。

何か長いもの、剣でも槍でもない?

そして、その一撃を受けて倒れる木。

しかもイルハさんの居る方に向かって。

轟音と共に倒れ落ちる木。

巻き上がる葉や枝、堆積物。

それらに邪魔されてイルハさんが見えない!

私が起き上がりかけた時、金属がぶつかり合うような音が聞こえた。

その直後、近くの木に叩き付けられる人影。

あれは………イルハさん!?

背中からたたき付けられては、受身も何もあったもんじゃない。
その表情は苦悶に満ちている。


「っは、ぐっ」


呼吸すら厳しいのだろう。立ち上がることすら難しいのだろう。

あれは、あの状態は拙い。
私が体を起こしかけたとき、それは私の視界に入ってきた。

輝く球体。大きな、大きな光り輝く球体。でもその輝きがもたらしたのは、希望ではなかった。

だって、その向かう先に居るのはイルハさん。
しかもうずくまり、苦しそうにしているイルハさん。

ダメだ。アレはダメ。絶望的な感じがする。

でもどうしようもない。
動けない。
頭は動いても、体が動かない。

そんなこと嫌なのに。体が動いてくれない。

嫌。嫌だ。嫌だよ。

でも私の願いも虚しく、その禍々しい輝きは放たれてしまう。


「バイバイ。」


ひどくよく通る声。そんな一声と共に。








迫り来る光球。

こりゃ堪らん。

まともに喰らえば一溜まりもないか?

接近速度は、先ほどの炎の矢に比べれば早くはない。が、遅いというほどでもない。
今の一時的にとはいえ、体が上手く動かない状態を鑑みるに、かわすことは至難か。

こちらの世界に来て早数日。
やっとこさ少しずつ慣れてきたってのになぁ。

こりゃもう腹を括るか。って、


「んなワケあるかっ!」


今使える全力を振り絞り、紫電を放つ雷神の剣を振るう。
と、剣の軌跡をなぞるように猛烈な炎が空中に発生し、襲い来る光球を迎え撃つ。

襲撃者と俺の間でぶつかり合う炎と光。

これで対抗できなけりゃ、ちっとばかしキツイぞ。
何か他に良い手段はあったかいな?

炎が光球を完全に包み込んだとき、辺りを強烈な閃光と爆発が支配した。


「きゃぁっ!?」


っ!? 今の声はハイネか!?

しまった。娘っコたちの事をすっかり忘れてたっ

だが、確認をしようにも俺自身、爆風に晒され身動きができない。
こうなったら襲撃者が娘っコ達に向かわないのを願うばかりだが…。

くっそ、頭に血が昇ってた。回りが見えてなさ過ぎる。
冷静になれ。相手は俺より圧倒的に上手だ。
遊ばれているのが、ハッキリと伝わってきたからな。
頭を使わにゃ…


「うん、咄嗟にしては中々良い反応だったね。」


まだ晴れない視界。爆発で巻き起こった煙の向こうから声が聞こえる。
なんでこんなにクリアに声が聞こえるんだ?

そのことを疑問に思いつつ、剣を構え直す。
さっきと比べれば、呼吸もだいぶ楽になった。
体のあちこちも痛むが、まぁそれは気合いで無視。
この状態で何とかせにゃ。

さてどうするか、と身構えていると…。


「うーん、どうしようかなぁ。」


暢気な調子で煙の向こうから現れる襲撃者。

…おいおい、どういう了見だ? 馬鹿正直にそのまま姿を晒すなんて。


「…おい、アンタ一体何者だ? なんで俺たち、っつーか俺を狙う?」


剣は勿論構えたまま。
油断してたら一寸先は闇、だ。
視線を、意識を、コイツから離さない。

しかし…。コイツ…。


「女の子ぉ!?」


ニルか? まぁ、驚くのも無理はない。
表面上っていうか、外面だけみたら歴とした女の子だよな。
まぁ腰から下げている、鞭やら短剣といった剣呑なものを意識的に無視すればだが。


「あ、そっちのコ達も無事だったみたいだね。良かった良かった。」


何ともどうでもよさげだ。
いや、実際どうでもいいのだろう。コイツにとっちゃ。


「…俺の質問に答えてくれるとありがたいんだが?」


構えは解かず、先を促す。


「あー、そんなに警戒しないで。もう争う気はないから。」


手をヒラヒラさせつつ、そんなことをのたまう。

確かに、瞳や気配からはそういったモノは感じられない。
が、そう易々と警戒を解くわけにもいかない。


「そう言われて、はいそうですか、と警戒を解くヤツがいると思うか?」

「ま、そりゃそうよね。」


何ともアッケラカンとしたもんだ。事の張本人が。


「んじゃいいわ。そのまま聞いて貰っても。」


言外に、何かするつもりなら、どうとでもなる、って言われてるみたいだな。


「では改めて自己紹介を。魔王バラモス直属親衛隊が一人、ミーア。以後お見知りおきを。」


豪奢なローブの裾を持ち上げ、恭しく挨拶をする少女。
その挨拶は素晴らしいんだが、如何せんその内容が…。

今なんつった? 魔王バラモス直属親衛隊?

娘っコ達もポカンとしている。
当たり前か。バラモス親衛隊って。


「さっきも言ったけどバラモス様の親衛隊とはいえ、今すぐあなた達をどうこうするつもりは無いから。ひとまずは安心して。」


どうこうできるとも限らないしね、と俺にウインクしてみせる。やめろい。


「…んで、その親衛隊がどうして俺たちの所へ? それもどうやら単独行動のようだが。」

「ご明察。」


あんがとよ。まぁ、辺りに獣の気配すらないからな。
最初の違和感の正体はこれだ。辺りが静かすぎたんだ。動植物、皆が息を殺しているっていうか。


「まぁ、私がここに居るのは、上からの命令と私的な理由。」

「上からってのはバラモスか?」

「そう。直々の、ね。」

「用向きは何か聞けるか?」

「どちらの? 上の? 私の?」

「無論両方だ。」


どうもコイツは何か引っかかる。斥候と言うわけでもなさそうだし。
先ほどの戦闘も、こちらを試している節がある。
そしてあまりにも簡単に喋りすぎだろう。情報を小出しにして取引する、っていうところも無い。
まるで、最初から情報提供が目的のようだ。


「欲張りさんね。ま、いいケド。」


この少女、と言っていいのか、ミーアによると、やはり勇者のパーティっていうのは、何かと目をつけられていると。
程度の差はあれ、やはり勇者と呼ばれている者は一通りチェックするんだそうだ。玉石混淆。
で、現在、勇者と呼ばれている者は俺たち以外にも何人か居るんだと。
ほぉ。そうなのか。そいつは知らなかった。

で、それぞれのパーティ編成やら能力諸々を図るために派遣されるのだとか。
その人選(魔物選?)にも紆余曲折あるらしいが。
まぁ、それもコイツは実力で今回の任務を勝ち取ったとのことだが。
確かにコイツくらい強ければ、そうそう他の魔物に遅れをとるなんてことは無いと思うけどな。
それに、そうそう居てもらっちゃこっちが困る。こんなのがゴロゴロしてるなんて考えるだけでも気が滅入る。

ただ、待って欲しい。
戦力分析は「勇者のパーティー」なんだろう?
なんで俺にだけねらいを絞る? 攻撃を受けたのは俺だけだぞ? それに俺は勇者じゃねぇし。


「え、あれ? そうなの?」


ポカンとするな。馬鹿っぽいぞ。


「あれー、そうなんだ。え、でも、あれ?」


何だ、どうした。


「だって、あなた達のパーティーで一番腕が立つのってあなたでしょ?」


まぁ、レベルや装備的に考えれば、な。


「なのに勇者じゃないの?」


まぁ、何だ。色々あるんだよ。こっちにも。


「ふーん…。」


何とも腑に落ちないご様子。だが、説明するわけにもいくまい。何しろコイツは敵なワケだし。
おいそれと話していい内容でもない上、本来はこうやって会話している事すら異常だからな。


「ま、それは置いておくとして、勇者のパーティーの戦力分析。これが表だった理由。」

「置いておくのか。」

「いいじゃない。」

「まぁ、いいんだが。で、それが表だとすると、裏ってのが…。」

「そっちが私的な理由なんだけどね。」

「…それは?」

「それは………。まだ教えてあげない。」


なんだそれ。 

ん? あれ?
つい今し方まで目の前に居たのに!?


「今日はここまで。」


その声は樹上から聞こえた。いつの間に? 速いな。消えたようにしか見えなかったんだが。
娘っコ達もビックリしたようだ。そりゃそうだ。突然目の前から消えたら、誰だって驚くもんだ。


「“今日は”ってことは、いずれ教えてくれるのか?」

「そう、ね。まぁ、それはアナタ達次第。」

「…ふーん。ま、いいや。」

「なによ、あなたもえらいアッサリ引くのね。」


いや、聞きたいのは山々だが、ちと疲れた。体力的にも精神的にも。
娘っコたちも何が何やら、だ。勿論、俺もなんだが。
既存のストーリーにこんな奴は居なかったしな。

ちょっち、ゆっくりとこの事態を整理したい。
ってことで、このままお引き取りいただけるなら、願ったり叶ったり、だ。


「じゃ、今日はここまで?」

「あぁ、そうだな。話が終わったのなら、さっさと行ってくれると俺も助かるんだが。」

「…なによ、冷たいのね?」


五月蠅い。早いところ行ってくれ。


「ま、いいわ。それじゃね。」


その言葉と同時に、樹上の姿がかき消える。

やっと行ったか、と思ったんだが。


「一つ忠告。これからも不定期に刺客が送られると思うわ。気をつけなさい。」


…わざわざ気が重くなる忠告ありがとうよ。








襲撃者が去り、改めて全員の無事が確認されてから、俺たちは近場の岩に腰掛け、急ではあるが作戦会議を開いていた。


「しかし…。一体あの人は何者ですか?」


ハイネの一番の疑問だろう。と、同時にソレは皆の一番の疑問でもある。
詰まるところあの少女は一体何者なのか。
いや、バラモス親衛隊だってのはいいんだ。どうせ間違っていない。

問題は、まぁ俺たちが見る限りなんだが、どう見ても人間、それも少女だったことだ。

人間がバラモスの親衛隊?
ありえるのか? そんなことが。

いや、あの姿はモシャスの可能性もあるな。

あとは変化の杖か。

いやはや、しかし…。


「…ゼシカ…ねぇ…。」

「え?」


俺の呟きにニルが疑問符を浮かべる。


「あ、いや、独り言だ。」

「はぁ。」

若干ポカンとしたような表情のまま、生返事をするニル。
ちょっとダラしないぞ、その顔。あんまり人に見られない方がいいと思うが。

しかし…、うーん。
何故、あの姿だったのか。

俺の記憶が確かなら、アレは…。

あの姿はゼシカだ。ドラクエ8の。

頭の両方で結びあげた赤味を帯びた髪。少しキツそうな双眸。何より主張の激しい、ローブ越しですら分かったあの胸。
まぁ声は聞いたこと無いから分からんが、恐らく間違いは無いんじゃないかと思う。

だが、名前が違ったな。ミーアって言ってたか。
外見がゼシカで中身は別人?
どういうことだ?

しかも行動理由もよく分からん。
バラモスの親衛隊でありながら俺等を見逃すなんてな。

正直、まともにやり合えば、勝てる見込みは皆無だろう。
動きに全く目が付いていかなかった。気づいたときには移動している。
ホントに瞬間移動しているかのようだった、

そして攻撃手段はあの鞭。それと短剣、加えて魔法まで使う。多彩過ぎる。ホントにまんまゼシカみたいだ。
防御にしたって、俺の咄嗟だったとはいえ、全力で振るった筈の一撃が盾で防がれた。
ましてや、あの体格なのに、吹っ飛ばす事すらできなかった。少し身動ぎした程度だったな。

まぁ何か試されたらしいってのは分かった。
それで試した結果、こちらの戦力に納得したから引いてくれた、のか?

うーん…。こちらを混乱させに来ただけなのか、あいつは? 
結局、私的な理由ってのも聞けなかったしな。
何が目的なのか分からず終いだ。

…くそぅ、考えれば考えるほどよく分からん。

一つ分かったことと言えば、これからはより魔物達に狙われるってことだけだな。

全く…。憂鬱になるわ。





その後は、一旦アッサラームに戻ることにした。

事態を落ち着いて整理したかったのと、ニルの消耗もあったしな。
時間的にはまだ余裕があったんだが、なにせ精神的に疲れていた。





「たっだいまーっ!」


まず俺たちは待たせてあったジャンの所に向かった。

そして開口一番、ニルのやたら元気な“ただいま”だ。
このコはホントに元気な。
さっきの件でちと気が滅入っていたが、この元気な挨拶を聞いただけで、こちらにも元気を分けて貰ったように感じる。

そしてジャンもまた嬉しいのか、呼応するように一声大きく嘶く。


「うんうん、元気だねっ!」


いや、お前も相当元気だよ。


娘っコ達がジャンとひとしきりじゃれ合った後、厩舎の人にお礼を言い、宿に向かう。
また明日な、おやすみ。ジャン。



「あー…。何か色々疲れた…。」


宿に着くなり、ロビーのソファに腰掛ける。
何か、気が抜けたのか、急に疲れがきた。


「ほらほら、イルハさん。そんなところで休んでないで、部屋に行って装備品を脱いだ方が休まりますよ?」


ティファが俺の顔を覗き込みつつ声をかける。
おぅ、近い。近いぜこの距離は。
彼女の翠色の瞳に吸い込まれそうだ。


「お、おう、そうだな。…どれ、よっこいせっと。」


若干どもりながら立ち上がる俺。ちぃっとばかし格好悪い。


「ぅわ、イルハさん。それっておじさん臭いですよ?」


ニルがツッコミを入れてくるが、こればっかりはしょうがない。
昔から口をついて出てしまうもんでな。

そして、一旦部屋へ着替えに戻ることにする。
あー、それにしても体が重い。





「ふぅ。」


装備一式を外し、一息。

何だか疲れた。

何だかこっちに来て一番疲れた気がする。
ってまぁそりゃそうか。初めてだよな、多分。本気全部出しで動いたのは。

この体に慣れてきたとはいえ、どこか一線を引いて動いていた気はする。
だが、さっきの戦闘はそんなことを気にしている余裕は一切無かった。
正しく気を抜いたら殺られるって状況だったからな。
そもそも頭で考えるより、体が先に反応してくれた、って感じではあったが。

しかし、まぁ…うん、よく無事だったな。

冷静になって考えると、いったい何度殺されかけたのか。
あの時は必死で、いちいち深く考える暇なんてなかったが、まぁ今思えば随分と恐ろしい目にあったもんだ。

あれが正しく戦闘って感じだな。
今までは能力的に余裕があったから、どこか俯瞰して戦闘を見ていた。
が、今回はそんな余裕が全くなかった。
正直な話、はっきりと覚えていない。
どう避け、どう攻撃したかなんて、まだたいして時間が経っていないのに、若干朧気だ。
それだけ追いつめられたってことか。

ま、いずれにしろ、実害は無かったのは幸いだった。
娘っコ達に何も無かったってのが一番大きいんだが。

あいつが、もし気まぐれで娘っコ達に向かっていったら…。

考えただけで恐ろしい。
今の娘っコ達に、あいつに対処出来るだけの力量は流石にないだろうしな。

あー、また悩みの種が増えてしまった。

うー。どうしましょう?








「あ…、イルハさん。」


一息ついてから風呂にでも、と部屋から出るとハイネに声をかけられた。


「おう、お疲れさん。…どうした?」

少し離れた壁に、寄りかかるように立つハイネ。
が、何かその表情は曇っているように見える。
思い詰めている、と言うほどではないが、どこかその表情は暗い。

と、不意にハイネが近づいてくる。


「…何かあったのか? ハイn…」


スッと伸ばされるハイネの腕。
その指が掴んだのは、俺の服の裾だった。


「…ぇっと、どうかしたのか…?」

「……………。」

「…あー、何だ。何か心配事なら相談に乗るぞ?」


ひとまず声を掛けるが、俯き、服の裾を掴んだままのハイネ。
返答も無く、俺もどうしたらよいか分からず、無言の状態が続いてしまう。

そして、そのまま固まってしまう俺たち。

…何だ。
…何なんだ。

俺、なんかしでかした?

やっちまいましたか、俺?

気づかないうちに、傷つけるようなことをしてしまいましたか、俺!?

自分の行動を思い返す。が…。
何だ。何が問題だったんだ?

ハイネに対して何か言ったか? 何かやったか?

俺がぐるぐると思考を巡らせ、自分の行動を思い起こしていると、聞こえるか聞こえないか程の小さい声で、ハイネが呟いた。


「…ごめんなさい…。」

「…え?」


つい、聞きそびれてしまいそうな程の小さな声。
いつものハイネからは、想像できない程の小さな声だった。


「…ごめんなさい、って…?」


俯いたままのハイネ。だが、小声ではあるが、ちゃんと返答が返ってきた。


「…昼間、あの人に襲われたとき…。」

「うん。」

「…イルハさんが襲われているとき…。」

「ああ、ありゃビックリしたな。」

「…私、何も出来なかった。動けなかった…。」


そう言ったハイネは、更に顔を俯け、声が小さくなる。


「いや、まぁアレが相手じゃ、それもやむを得ないと思うが…。」

「でも、イルハさんは反応したし、対等に渡り合った。」

「…う、うむ、対等とはちと言い難い気もするが…。」


対等どころか、合わせてもらった、ってのが正解な気もするけどな。


「そして、あの人を追い返すことが出来た。」

「まぁ…、そうだな。お帰り願った、とも言う気もするが。」


実際アイツが本気だったら、と考えるのはやめとこう。精神衛生上。


「私たちが全員無事だったのは、イルハさんがいたお陰。」

「ん、その点においては、まぁ男の意地ってヤツが守れてホッとしてる。」


今の俺の大前提だからな、それは。
断固として覆すつもりはない。


「でも私たちは…。私は何も出来なかった…。」


そして、ハイネは掴んだままだった服の裾を放し、俯いたままだった顔を上げる。

瞬間、俺はハイネの瞳に吸い込まれるような錯覚に陥った。

その端正な眉を悲しげに歪め、いつもの勝ち気な瞳から零れた滴が頬をつたっていた。


「ハイネ…。」


考えるともなしに、その名が口から零れる。
そして俺は無意識のうちに、ハイネの、その華奢な肩を抱き留めていた。


「…何で泣くことがある?」


俺は出来るだけ優しく声を掛ける。慈しむように。


「…俺はお前達を護る。前にも言ったことだろ? 今日はそれを実行したまで、だ。」

「…でも…。」

「でも、も何もない。これは俺のやるべき事、それだけだ。」

「…はい。分かりました。」

「ん。素直でよろしい。」


そして、俺はハイネからそっと体を離す。
このままだと、ちと微妙な空気に変わっていきそうなので。

…もう、そうなってるじゃねぇか、とか言わないのが紳士の嗜み。


「…だた…。」

「うん?」

「今は…、まだ無理かもしれませんが、いずれ必ず、イルハさんの横に並びます。」

「…?」

「…今は、守られているだけです。イルハさんの背中に…。
 でも、いつか、きっと、隣に立てるようにします。あなたと並んで戦えるように。」

「…。」


その言葉に俺は何も言えなくなってしまった。

正直、悲しかった。
こんな少女が。年端もいかないこんな女の子が。
そんなことを考えているのかと。考えてしまうのかと。

…だがその反面、嬉しくもあった。
成長しようとするその姿勢が、気持ちが、言葉が。

言葉ってのは、気持ちがこもっていなければ、酷く軽くなるもんだ。
だが、今のハイネの言葉には「気持ち」「想い」がしっかりとこもっていた。
それが嬉しかった。


「私達も、守られてばかりでは、ありませんからね?」


そう言って涙を拭うハイネの顔は、先ほどとは打って変わって、晴れやかなものだった。



その後、ハイネに顔を洗わせる為に、フロア共同の洗い場へと向かわせた。
ニルとティファが、涙跡を見たらビックリするだろうからな。



しかし…。うーん。
あんな女の子が決意するにゃ、重すぎる事柄だと思うんだけどなぁ。
この世界じゃ、しょうがないことなんだろうけども。
ハイネの気持ちもあるだろうから、一概に悪いなどと言うつもりは毛頭無いが。

それにしても、やっぱりやるせない。

ハイネはああは言ってるが、やはり俺のやることは、娘っコ達を護りつつ旅を続けることだからな。
その点においては譲るつもりはない。今の俺の生きる指針でもあるワケだし。

まぁ、成長を見守れるってのは嬉しいことだがな。
本当はじっくり成長していけばいいんだろうが、今の状況がそれを許してくれない。

今日出会ったアイツがいい例だ。俺が知っている世界と食い違っている。
もとより、楽観視できる状況でもなかったが、より一層予測がつかなくなってきた。

ここからは、もう一度気持ちを引き締めなおさないとな。

この世界の明るい未来のために。
ひいては、娘っコ達の明るい未来のために。
あとは、ついでに俺のこと、かな。

しっかしまぁ、考えておかなければならないことは、正に山積している。
だが、弱音も吐いてはいられないな。
気は重いが、前を見据えてしっかり進もう。うん。




[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第八話終了時ステータス
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1
Date: 2008/11/06 12:11
イルハ  Lv.35
職業:使者
装備:E.雷神の剣
   E.魔法の鎧
   E.力の盾
   E.ミスリルヘルム
   E.星降る腕輪

呪文及び特技:
魔法使い系
メラ、スカラ、ヒャド、ギラ、リレミト、スクルト、イオ、ルーラ、ボミオス、ベギラマ、マホトラ、メラミ、インパス、トラマナ、ヒャダルコ、バイキルト、イオラ、マホカンタ、ラナルータ、ヒャダイン、メダパニ、ベギラゴン、シャナク、マヒャド、レムオル、ドラゴラム、アバカム

僧侶系
ホイミ、ニフラム、ピオリム、マヌーサ、ルカニ、ラリホー、キアリー、バギ、マホトーン、ベホイミ、キアリク、ザメハ、ルカナン、バシルーラ、ザキ、ザオラル、バギマ、ザラキ、ベホマ、フバーハ、ベホマラー

商人系
あなほり、おおごえ

盗賊系
タカのめ、フローミ、とうぞくのはな、しのびあし、レミラーマ



ニル  Lv.8
職業:魔法使い
装備:E.魔道師の杖
   E.身かわしの服
   E.お鍋の蓋
   E.毛皮のフード

呪文及び特技:
メラ、スカラ、ヒャド、ギラ、スクルト、リレミト



ハイネ  Lv.8
職業:僧侶
装備:E.ホーリーランス
   E.身かわしの服
   E.鱗の盾
   E.鉄兜

呪文及び特技:
ホイミ、ニフラム、ピオリム、マヌーサ、ルカニ、ラリホー



ティファ  Lv.15
職業:勇者
装備:E.鋼の剣
   E.鉄の鎧
   E.鉄の盾
   E.鉄兜

呪文及び特技:
メラ、ホイミ、ニフラム、ルーラ、ギラ、アストロン、リレミト、ラリホー



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