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[11659] [完結]冒険の書に記録しますか?(現実→DQ3っぽい世界)
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/11/14 12:14



現実世界から来た一般人が主人公です。

ヒロイン(予定)は人外で主人公にチートな能力を与えます。

独自設定多めです。

主人公最強物になるかもしれません。

そういう話が嫌いだったり苦手だったりするならスルーしてください。





090906/初投稿
091114/完結



[11659] 01
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/06 23:15


「次のレベルに必要な経験値は15です。」
「おいこらちょっと待て、とりあえず事情を説明しろ。」


どこもかしこもボロボロで、大きな穴の空いた天井からは日の光がさんさんと降り注ぐ石造りの建物に俺は居た。


「これまでの冒険を、冒険の書に記録しますか?」
「はいはい、記録でも何でもするから、なんで俺をここに連れてきたのか説明しろ。」
「冒険の書に記録しました。 では、冒険の続きを頑張ってください。」
「説明しろって言っているだろうが!」
「おお、魔法使いよ、よくきてくれました。」
「誰が魔法使いだ、このやろう。」
「次のレベルに必要な経験値は15です。」
「いい加減にしろよ?」
「これまでの冒険を、冒険の書に記録しますか?」
「そんなのはどうでもいいから、説明しろよ!」
「冒険の書に記録しませんでした。 では、冒険の続きを頑張ってください。」


ばきぃっ

俺の右ストレートがさっきから同じ事しか言わない誘拐犯の顔面に当たる。


「殴ったね!? 親父にもぶたれた事ないのに!」
「なんでファンタジー全開の妖精っぽい何かがそのセリフを知っているんだ?」
「私は妖精っぽい何かじゃないわ、精霊よ!」
「どうでもいいから、説明しろよ」
「今のセリフを知っているのは、ちょっと前まであなたの世界にいたからよ。」
「いや、それはどうでもいい。 俺をココに連れてきた理由を言え。」
「えー。」


ばきぃっ

俺の右ストレートが以下略。


「話す! 話すからもう殴らないで!」
「よし、言え。」
「私はこの世界の精霊でルヴィスと言います。」
「お前の事はどうでもいい。」
「この世界で生まれたんだけど、他の世界の文化に興味があって色んな世界を旅して回っていたの。」
「何で俺をココに連れてきたのか言えよ。」
「この世界を留守にするのは少しの時間だけのつもりだったんだけど…」
「それでさっさと家に帰せ。」
「あなたの世界が面白すぎて、気が付いたらこの世界悪いモンスターに乗っ取られちゃってね?」
「…」
「それで、戦える素質のある子を探しては連れてきているの。 ちなみにあなたは44番m」


ばきぃっ ばきぃっ ばきぃっ ばきぃっ ・・・ ・・・ ・・・


とりあえず44回殴った。



――――――――――



「それで、お前が拉致した43人は何処に居るんだ?」
「みんなモンスター退治の旅に出たわ。」
「ほう、こんなわけのわからない世界でよくもまあ戦おうなどと思えたものだな。」
「『他所の世界から来た子は、私の祈りによって何らかの力を手に入れている』って言ったら、殆どの子は『よっしゃ』とか『キタコレ』とかいって旅立ったわ。」
「何らかの力? 異世界へ来たら不思議パワーに目覚めましたとか、ありきたりな感じだな?」
「ありきたりとか言われても、事実だから。」
「で、俺の場合は魔法が使えるっていうのがそうなのか?」
「違うわよ?」
「ん? でもさっき俺のことを魔法使いって言ってなかったか?」
「『なんらかの力』って言ったでしょ? どんな力かわかっていたらそんな言い方しないわよ。」
「んん?」


意味がわからん。


「この世界はあなたたちの世界のドラクエ3ってゲームに似ているのよ。」
「は? どらくえすりー?」
「そう、ドラクエ3。」
「なんでドラクエ3?」
「さぁ? この世界の情報があなたの世界に流れたか、あなたの世界でドラクエ3が生まれたからこの世界が生まれたのか、ただの偶然か、私にはわからないわ。」
「わからないのか?」
「世界が生まれる瞬間なんて見たこと無いもの。」
「ほー。」


っと、世界がどうやって生まれるかなんて、正直どうでもいい。


「まぁ、そんな事よりも」
「そんな事よりも?」
「この世界がドラクエ3に似ているのと俺の『なんらかの力』について続きを言え。」
「そう言えばその話だったわね。」
「ああ、その話だった。」
「この世界では誰もが職業を持っているの、で、あなたは魔法使いだったわけよ。」
「俺の職業が魔法使い…」
「そうよ。」


ドラクエの魔法使いって貧弱なイメージしか無いな。
下手に魔法使うより戦士や武道家が攻撃したほうがMPの消費もないしダメージもでかかったような記憶しかない。


「で、『なんらかの力』はなんだ?」
「さぁ? って、殴らないで!」


右の拳を見てルヴィスが叫ぶ。


「俺の力はなんだ?」
「さっきも言ったと思うけど、わかっていたら『なんらかの力』なんて言わないわよ。」
「どんな力かわからないのに43人は旅に出たのか?」
「そうよぅ。 あ、でも」
「でも?」
「5人の力はココでどんな物かわかったわ。」
「ココで?」
「ええ、確か…
 日の光に当たると空が飛べる。
 影に入ると怪力になる。
 すごく遠い場所も見える。
 ものすごく速く走れる。
 1歩ごとに1ずつ経験値が入る。」
「おお、なかなかいいな。 特に最後の、戦わなくてもレベルが上がると言うのは楽そうだ。」
「とにかく色々やってみたらどんな力かわかると思うわ。」



歩いたり走ったり遠くを見ようとしたり、柱を殴ったりジャンプしてみたり空を飛ぼうと手を振ってみたり…



「何もわからないな。」
「そうね。」


ばきぃっ


「すっかり暗くなったし、今日はもう寝て明日旅にでることにする。」
「しくしくしく…」



――――――――――



翌朝


「それじゃあ、行ってくる。」
「あ!待って。」
「ん?」
「これまでの冒険を、冒険の書に記録しますか?」
「なんでだよ?」
「だって、旅に出る前にセーブは基本でしょう? 意味無いけど。」
「…意味無いのかよ」
「ええ。」
「はぁ。 まあいいや、はいって言っておいてやろう。」
「冒険の書に記録しました。 では、冒険の続きを頑張ってください。」
「はいはい、行ってくるよ。」
「気をつけてね!」


精霊ルヴィスと別れの挨拶を交わし、無駄に広い建物から出る。
石造りの建物は外から見たらお城のような形をしていた。 ボロボロだけど。

建物の外は廃墟だった。 すると、今出てきた建物は城で、この廃墟は城下町だったのだろうか?

ドラクエ3だけに限らないが、ゲームって建物も人も数え切れるくらいしか出てこない。
しかし、この廃墟は結構広く、壊れた建築物も少なくとも100軒以上ある。 ゲームでは省略されていると言う事か?


「ピギィ!」
「ピギ!」
「ピギギ!」
「ピギャー!」
「ピギッギ!」


げげぇっ! なんで街の中にスライムが5匹もいるんだよ!


「ピッギャー!!」


1匹がそう叫ぶと、残り4匹が俺に向かってくる。


「メラ!」


指先から火の玉が出る。 昨日寝る前に実験しておいて良かった。
俺は指先の火の玉をスライムに放つ! メラはスライムを確殺だったはず…って、当たらない!?


「呪文は必中じゃないのかよ!」
「ピギー!」


ドカ! ボコ! バキ! ドグシャー!







・・



・・・



「やっと目が覚めたようね。」


気が付いたら今朝起きた時に見たボロボロの天井だった。


「ぅ、ぁ、」
「感謝しなさいよ? ザメハしてあげたんだから。」
「俺は二度寝したのか?」
「違うわよ。」
「じゃあ何で寝ていたんだ?」
「さあ? あなたは旅に出て一時間もたってないのに気が付いたらそこで寝ていたのよ。」
「うん?」
「だから、気が付いたらそこで寝ていたのよ。」
「いやまて、俺が旅に出たってどういうことだ?」


俺は今から旅に出るところだったんだぞ?


「あなた、寝すぎてボケたんじゃないでしょうね?」
「なるほど、寝ぼけた状態で旅に出たのか。」
「そうなの?」
「わからん。」


その一時間くらいの記憶がまったく無い。


「とにかく、行ってくる。」
「あ!待って。」
「ん?」
「これまでの冒険を、冒険の書に記録しますか?」
「またか?」
「うん、本当なら何の意味も無い事なんだけど…」
「なんだ?」
「勘よ、女の勘。 とにかく『はい』って言いなさい。」
「はいはいっと、行ってくらー。」
「冒険の書に記録しました。 では、冒険の続きを頑張ってください。」







・・



・・・



「ザメハかけたんだからいい加減に起きなさいよ。」


気が付いたらルヴィスが俺の顔を覗き込んでいた。


「ぁ?」
「勘が当たったわ。」
「うん? 俺は三度寝したのか?」
「違うわよ。」
「じゃあ何でまた寝ていたんだ?」


まさか、この建物には罠があって、外に出ようとしたら強制睡眠なのか?


「あなたは確かに建物の外に出たわ。」
「うん?」
「そして、一時間位したらそこでまた寝ていたのよ。」
「いやまて、どういうことだ?」
「これよ。」


そう行ってルヴィスは『冒険の書』を俺に見せた。


「それがどうした?」
「あなたの『力』は『死んだら冒険の書に記録した時点の状態に戻る』事なのかもしれないわ。」





090906/初投稿



[11659] 02
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/08 21:33
「44人目にして、ついに勇者が現れたわ!」
「ちょっと待て。」
「これでこの世界の平和を取り戻す事が出来るのね!」
「だから、ちょっと待てと言っている。」
「勇者よ? 勇者なのよ? もっと盛り上がりなさいよ!」


ばきぃっ


「痛いじゃないの…」
「痛くなかったら殴る意味が無いだろうが。」
「何がそんなに不満なのよ?」


不満だらけだ。


「死んだら記録した時点の状態で復活するのが俺の『力』だと言ったな?」
「うん。」
「じゃあ、他の43人は死んでも生き返らないのか?」
「当たり前じゃない。」
「…」
「死んだ命は蘇らない。 あなたの世界でもそうだったでしょう?」
「…」
「様々な世界を旅したけど、どの世界でも死者復活なんて不可能だったわよ? あ、でもそうか。 43人目までの人でも、あなたと同じ『力』を持っていたら復活できるわね。」


ああ、そうだろうよ。
死んだら生き返らない。
確かに改めて言う事でも言われる事もない…


「俺は、ついさっきまでだが、この世界に連れてこられたのは全員、死んでも生き返れるんだと思い込んでいたぞ。」
「は?」


何を言っているのこいつ?という顔で俺を見る馬鹿。


「お前が」
「私が?」
「この世界は」
「うん?」
「ドラクエ3に似ていると言ったから」
「言ったわね?」
「死んでも」
「死んでも?」
「所持金が半分に減るだけで生き返られると思っていたんだよ!」


俺の叫びを聞いてルヴィスは首を右に傾けてこう言った。


「馬鹿?」


ばきぃっ ばきぃっ ばきぃっ ばきぃっ


「うう、レベル1の魔法使いの力だから良いものの、レベル30台の戦士の力だったら私死んでいるところよ?」
「死ぬ前に、自分がした事をきちんと反省しろ。」
「だって…」
「あのな、俺も勘違いしていたから言うけど、そういう大事な事はきちんと言えよ。」
「死んだら終わりなんて、言うまでもなく当たり前の事じゃないの。」
「そうだな、この世界がドラクエ3に似ているってお前が言わなければ、言うまでも無い当たり前の事だったな。」
「しくしくしく」


顔を真っ赤にして泣く馬鹿に、殴りすぎたかと少し反省する。


「今までの子達が、そんな勘違いをしているなんて思わなかったのよぅ。」
「ここがゲームの世界だと言われたらそう勘違いする。」
「『似た世界』って言ったじゃないの!」


やっぱりもう少し殴っておくか


「反省してる! 反省しているから、殴らないで!」
「よし、それじゃあ俺の質問に答えろ。 嘘はつくなよ?」
「イエッサー!」


軍隊物の映画などを見た事があるのか、びしっとポーズを決める。


「まず、昨日の夜も聞いた事から確認しよう。」
「はい!」
「俺を今すぐ帰す事はできないのか?」
「できません!」
「それは何故だ?」
「世界間を移動するゲートは一方通行で、今の私ができるのは他の世界からこっちの世界に移動させる事だけです!」
「なぜ、この世界から他の世界へ移動できないんだ?」
「モンスターのボス、ヴァラモスがこの世界から何者も出て行かないようにしているからです!」
「ヴァラモスを倒せば俺は帰れるんだな?」
「はい!」
「お前では倒せないのか?」
「はい! 倒せるなら他の世界の人間を呼び出したりなんてしません!」


昨日確認した事はこれで全部だが…


「よし、それじゃあ次は初めて聞くことだ。」
「イエッサー!」
「この世界はドラクエ3に似ていると言っていたし、俺の職業が魔法使いだとも言っていたな?」
「はい!」
「経験値はモンスターを倒せば手に入って、ある程度貯まると自動的にレベルアップするんだよな?」
「え?」
「なんだ?」
「自動的にレベルアップなんてしないわよ?」
「ほう?」
「なるほど、当たり前すぎて気づかなかったわ。」
「言ってみろ。」
「この世界は、んーと…」


額に手を当てたポーズで固まる。 待つこと数分。


「世界は、マナとかエーテルとか気とかオーラとか、そういう不思議エネルギーで満ちているの、今はとりあえずマナと呼ぶことにするわね?
 で、人間や動物は綺麗なマナを取り込んで汚いマナを出すわけよ。」
「酸素を吸って二酸化炭素を吐くみたいなものか?」
「そう! そんな感じ!! それで、モンスターは汚いマナを取り込みすぎた事で変質した物なの。」
「変質? じゃあ、モンスターを倒すっていうのは」
「あ、変質してモンスターになった時点でまったく別の存在になるから気にせず倒しちゃってね。」
「そうか。」
「そうなの。」


なんだか、あっさり断言するな…


「それよりも、経験値とレベルだ。」
「あ! そうだったわね。」
「なんとなくどんな仕組みかわかったような気がするが、勘違いだと嫌だからな。 最後まで聞くぞ。」
「そうね。 私も勘違い野郎に殴られたくないから最後まで聞いて欲しいわ。」
「いちいちイラっとさせるな。」
「と、とにかく!
 モンスターを倒すと汚いマナが飛び出して、近くにいる生き物や物に取り込まれるわ。 これが経験値ね。
 そして、その経験値を私が浄化して綺麗なマナにして体に定着させると、力が強くなったり魔法を覚えたりするの。これがレベルアップね。」


やっぱりそうなのか…


「めんどくせー。」
「モンスターを倒せば自動的にレベルアップする、なんて世界だったらモンスターに取られる前に人間に取られているわよ。」
「ああ、それは確かに。」
「他に聞きたい事は?」
「今のところ思いつかんな。 お前はどうだ? 言っておかないといけない事は無いのか?」
「私も思いつかないわ。」


そもそも、ここが本当に異世界だという証拠が目の前の駄目精霊しかいないし、
そんでもって、すでに2回死んだと言われても実感が無い…


「あ」
「なに?」
「もしかして、戦える素質って、俺みたいな性格って事か?」
「ん~。 あなたみたいな性格というよりも…
 異世界に来た事を受け入れる事に抵抗が無くて、生き物を攻撃する事にさほど抵抗を持たない性格って言ったほうが正確かしら?
 あ、そうそう、私が祈る事で『なんらかの力』に目覚める事ができる。 これが一番重要ね。」
「ふぅむ… ん?」


そういえば、昨日から何も食べていないのに腹が減っていないな


「おい。」
「なんでしょうか?」
「この世界に来てずいぶんたつが、全然腹が減らないのは何でだ?」
「ああ、旅の途中やモンスターと戦っている時にお腹が空いたりしたら大変でしょう?」
「大変だな。」
「だから、大気中のマナだけで生きられるように改造しておきまs」


ばきぃっ


「俺の体に何をした?」
「大丈夫よ? マナを体を動かすエネルギーに出来るだけで、むしろ、あなたの世界に帰ってからも食費を減らせるわ!」
「他には?」
「モンスターとの戦いに備えて、マナを取り込むことで自己治癒能力を向上させたり体力の回復を早めたり。」
「他には?」
「後は… この世界で使われている言葉を話せるようにしたり。」
「他には?」
「これだけよ!」
「本当か?」
「本当です!」
「俺以外の43人にも同じ改造をしたのか?」
「はい!」


ばきぃっ


「ぅぅ、なんで?」
「言っておかないといけない事は無いのか?と聞いて、思いつかないと嘘を言ったからだ。」
「嘘なんて」
「そうか、他人の体を無断で改造した事は言わないでもいい事だと思っているのか。」
「ごめんなさい。 許してください。」
「いいや、だめだn あ」


そうか、レベルアップ以外にも強くなる手段があるって事か。


「あ?」
「改造で、他に何ができる? モンスターからのダメージを減らすとかできないのか?」
「できるけど…」
「できるのか!」
「体が鋼になるわよ? そんな体であの世界に帰ったら珍獣扱いされちゃうわよ?」
「くっ 使えないな!」
「ガーン!」


見た目が変化したら帰るに帰れないわ!
って、俺の見た目はそんなに変わっていないような…


「じゃああれだ、外見の変更無しで強化できるのはどこだ?」
「それなら… 視力とか聴力とか… 筋肉の質とか肺活量とか?」
「よし、やれ。」
「…わかったわ。」
「あ! その前に」
「え? ああ!」


「これまでの冒険を、冒険の書に記録しますか?」
「おうよ。」
「冒険の書に記録しました。 では、冒険の続きを頑張ってください。」



――――――――――



城の外の廃墟


改造されたと言っても視力が1.0から8.0になったわけではない。
100キロメートル先にある物を見えるようになったわけでもない。

例えるなら、アナログからデジタルになったような感じ。

その目で、1匹だけのスライムを見つける。


「メラ」


メラを使うたびに『どう表現していいのかわからない疲れ』を感じる。 ルヴィス曰く、この感覚がMPを使っている証拠なのだそうだが…

指先に生み出した火の玉を、スライムに向かって放つ。


ぐちゃ!


気分はスナイパーってか?

メラが当たって破裂したスライムの残骸から黒い煙のような物が出る。


「汚れたマナ…」


あれを体に入れないとレベルアップできない… すごく嫌だ。


「でも、行かなきゃな。」


できるだけ音を出さないように走って汚いマナを浴びに行く。

筋肉の質とやらが変わって、持久力と瞬発力が増した。 前より速く走れるのにあまり疲れない。

スライムから経験値を得るのはこれで3度目になるが、思っていたような気持ち悪さはない。 精神的にはキツイけど。

でも、これって接近職が誰よりもレベルアップするんじゃないか?

遠くから敵を倒したのに近づかないと意味が無いって、魔法使いには不利な気がする。


「そういえば、スライムがゴールドを落とさないな? …そろそろMPもキツイし、城に戻ってルヴィスに聞いてみるか。」


気が付いたら城からかなり離れた場所まで来ていたようだ…ん?

他と比べて大きな建物があった。
大きな扉の上には大きな看板があり、当たり前だがこの世界の文字で何か書いてある。


「この建物は、まさか…」


中に入ってみると、向かって右側に大きなカウンター、その奥に大きな鉄(?)の金庫がある。
それを無視して進むと、机や椅子の残骸がたくさんある。 ここでも戦闘があったのだろう。


「これだけの机と椅子、そして金庫…」


頭に浮かぶのは…


「ルイーダの酒場? …この廃墟はアリアハンなのか?」





090908/初投稿



[11659] 03
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/10 21:43


ルイーダの酒場ではないかと思われる場所で、休憩のついでに考える。

アリアハンがこんな状態だと言う事は、他の場所も絶望的なんじゃないか?
ルーラを覚えるまではここでレベルアップしようと思っていたが、イオラぐらいまで頑張るか?

というか、人が居ないと言う事は店も無いんだよな?

ずっとTシャツGパンでいないといけないのか?
魔法使いっぽくローブを買って着ようと思っていたんだがな…

誘拐されたのがコンビニに弁当を買いに行く時で良かった。
家の中だったら靴履いて無いからな。 裸足で旅する事になっていたぞ…


がたがた


2階で何かが動いた音がする。
びびった。 「ひっ」と声を出しそうになったじゃないか。

モンスターか? スライムならいいが…


「ァァァアアア」


変な声まで… でも、これって人間の声じゃないか? あ、まほうつかいってモンスターもいたか。

音を立てないように慎重に階段を途中まで上り、すぐに逃げられる体勢でそっと2階を覗く。

そいつは黒髪で茶色の目で、彫りが浅い日本人っぽい顔の女だった。

だが、顔や腕が変に黒い。
なんというか、『健康に悪い日焼け』というか、そんな黒さ。

目は充血している。 息はかなり荒い。

そして、何故か椅子の上で体育座りをしている。

この世界のまほうつかいが俺の知っているのと同じような姿なら、あれはまほうつかいではないだろう。
着ているのがローブではなく俺と同じような私服(と言っても少し派手な感じ)だし…

他の人型モンスターである可能性はあるか?


「グルジイヨヴ…」


よし、たぶん人間だ。
俺は女の前に姿を出す。

…距離はまだ余裕があるからモンスターだったとしても逃げきれるはず。


「よう!」
「!! オデガイ、タズゲデ!!」


女は助けてと言うが、その場から動こうとはしない。

…ふざけているのか?


「助けてと言われてもな? 近くにモンスターもいないし、何から助ければいいんだ?」
「アルグトグルジクダルノ」
「歩くと苦しく? 歩くと?」


なんとなく、理由がわかったような気がする。
だが、俺は学んだのだ。 わかった気になって行動すると痛い目に会うと。


「もしかして、『1歩ごとに1ずつ経験値が入る』のか?」


ルヴィスから聞き出した知識から考えて、それが一番可能性が高いと思う。

女はこくこくと首を縦に振る。 そのとおりだった。


なんという事!

最悪じゃないか!

何が最悪かって、体に汚いマナが溜まるとこんな風に体が黒くなって気持ち悪くなるという事がだ!

くそっ! ルヴィスに聞かないといけない事が増えた。





「よっこらせ。」


触りたくもないが状況が状況だ。
歩くと苦しくなるのなら、これが一番安全で確実な方法だろうしな。


女を背負ってルヴィスの居る城に向かう。

が、発見!


「お!」
「ズライム?」
「すまん、少しの間ここで待っていてくれ。」
「ワダジモダタガヴワ。」
「一匹だけだから必要ない。」


女の足を地面に着けないように下ろす。

…匍匐前進させてもいいかもしれない。


「メラ」


その一言で指先に生まれた火の玉を放つ。

ぐちゃっ


「よし、もう少し待っとけよ?」
「ヴェ?」


走ってスライムの残骸から出る黒い煙を浴びる。


「グロイケヴリヲアビルド、グルシグナル!」


また背負うために戻ると、女はそう叫んだ。

…やっぱり経験値の事を知らないんだな。


「精霊から説明を受けろ。 そうしたらわかる。」


そう言って女を背負って走る。

筋肉改造をしといてよかった。 人間一人背負ってこの速度で足音を立てないように走るなんて、改造前では不可能だった。



本当はもう一戦くらいしたかったが、スライムが見つからないまま城に着いた。


「あら、4日前に旅に出た43番目の子じゃないの。」
「いろいろ聞きたい事があるが、とりあえずこいつのレベルアップを頼む。」
「わかったわ。」





女の肌から黒さが無くなるのに二時間かかった。



――――――――――



レベルが15まで上がった女戦士と一緒にボロボロになったルヴィスに質問を続ける。


「レベルを上げるために廃墟を歩き回ったりスライムを倒して回ったりしたのに、全然強くならないどころか気持ち悪くなった理由がやっとわかったわ。」


戦士で良かったな?
魔法使いだったらそんな状態でスライムと戦うなんてできないぞ。

…改造で治癒能力を強化されていたのもプラスに働いたんだろうな。


「ねぇ、私が死んだら元の世界に帰れないってわかってる?」
「死んでないから問題ない。」
「今知った。」
「ん?」
「ゾーマを倒したら帰れるんだと思ってた。」


俺も最初はそう思った。
けど、バラモスならぬヴァラモスでいいんだぜ?


「…」
「ある種の詐欺だよな。」
「だね。」
「…ごめんなさい。」


レベル15の戦士の力で殴られたのは流石にきつかったのだろう。
だが、まだ聞き出さないといけないことがある。


「さて、これで俺が聞いた事はお前も聞いたわけだ。」
「そうなの?」
「そうね。」
「それじゃあ、今日気づいた事を聞くぞ。」
「うん。」
「よし、じゃあまずは」


女戦士に視線を送ると、うなずいてルヴィスの後ろに移動した。
初対面から四時間くらいしか経っていないのに良くわかってくれる。


「ちょっと! 何のつもり!?」


コブラツイストで拘束されたルヴィスが怒鳴るが無視する。


「モンスターを倒して経験値を得るとあんな風になるのなら、この世界の人間は全員モンスターになっているんじゃないか?」
「え?」
「答えろ。」
「それはね、ほら、ドラクエ3ではセーブしに王や神父に会いに行くでしょう?」
「? それがどうした?」


どこでもセーブできれば良いのにと何度思ったことか…


「あいつらは浄化の力を持っているのよ。」


なんと!


「王や神父がお前と同じ事ができるということか?」
「ううん。 あいつらに出来るのは浄化だけ。 浄化したマナでレベルアップできるのは私達精霊だけよ。」
「ふぅむ…。」


チッ この駄目精霊の世話にならないで済むと思ったのに…

しかし… 言われてみれば、だな。
死んでも生き返らないのなら、わざわざ王様に記録をしてもらう理由は無い。 大臣とかに任せれば良いだけの話だな。
だが、そういう力があるのなら外でモンスターを倒すたびに王様や神父に会いに行く理由として納得できる。


「あ、でもたまに浄化されたマナを取り込める人間が現れるわね。」
「うん?」
「例えるなら… そう、ドラクエ3の勇者の父親の、オルテガみたいな?」
「『みたいな?』と言われてもな?」
「ほら、勇者とその仲間は死んでも生き返るけど、オルテガは死ぬでしょ?」


オルテガも勇者と呼ばれているんだから、死んだら棺桶になっとけと思ったことはある。 が、


「う~ん、言いたい事はわからんでもないんだが…」
「とにかく、そういう体質の人間が時々居るのよ。」


ん?


「そういえば、この前俺を勇者とか言っていたが…」
「そうよ! 何度死んでも何度でも蘇る。 勇者って感じがするでしょ!?」
「へー。 あなた勇者なんだ。」
「俺は貧弱な魔法使いだよ。」


だが、貧弱でも魔法使いで良かった。

モンスターを遠距離攻撃で倒した後に近づきさえしなければ、経験値を得る事がない。
これ以上経験値を獲得したくないという時に、モンスターを倒しても大丈夫というのはかなり便利だ。


「貧弱な魔法使いが私を背負いながらあんなに速く走れるなら、私も改造してもらおうかな。」
「してもらえ。 話が終わった後でな。」
「そうね、私も聞きたいことがあるし。」
「勝手に決めないでよ。 改造って結構疲れるのよ?」
「さて、次の質問だが」
「無視された!」


無視もするさ。
こっちは命が懸かっているんだ。 できる事はやっとかないと。


「ここはアリアハンなのか?」
「え? ここってアリアハンなの?」
「ここはアーリハーン城よ。 ゲームのアリアハンとだいたい同じような場所にあるわ。」
「だいたい同じか」
「ドラクエ3を知っている人にはわかりやすいスタート地点でしょ?」
「わかりやすいけど…」


アリアハンってモンスターも弱くて一番安全な場所だって思っていただけに、廃墟になっていると思うと精神的にくるものがあったんだが…
コイツにはわからんか。


「ここが廃墟になっているという事は、他の城や街も廃墟なのか?」
「ん~と…」
「どうした?」
「世界は、モンスターが人を襲う、兵士が倒す、兵士に経験値が溜まる、王や神父が浄化する、モンスターが人を襲う… というサイクルが行われているのよ。」
「それで?」
「今この世界はモンスターに乗っ取られているから、モンスターが人を襲う頻度が増えて、兵士が倒す事も増えて、経験値が溜まるのも…って感じでサイクルが速くなっているの。」
「ああ、なるほど…」
「この子を浄化するのにかなり時間がかかったでしょう?
 サイクルが速くなると王と神父が浄化するのが間に合わなくなっちゃうから」
「ココに住んでいたやつらは、他所の城へ行ったのか。」
「そういう事。 モンスターの数が多すぎて兵士が足りないとか、どうせ防御しか出来ないのなら頑丈な場所に避難したほうが良いとかって事もあるみたいだけどね。」


良かった。
最悪、こいつに拉致された44人… 下手したら俺とそいつの2人で戦わないといけないのかと思ったぜ。


「それじゃあ次の質問だ。」
「まだあるの?」
「この世界でお金を得るにはどうしたらいい?」
「働けば?」





090910/初投稿



[11659] 04
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/12 16:05



「お腹も減らない、時間はかかるけど怪我も治る、そんな体に改造してあるんだからお金なんていらないでしょう?」
「武器とか防具とかはどうするんだよ?」
「え? レベルアップしたら力は強く、体も丈夫になるのよ? 武器も防具もいらないじゃないの。」


赤く腫れた顔でそんな事を言うルヴィスに俺は呆れた。

それとも、これが精霊と人間の価値観の差ってやつなのか?


「俺はさ… 最初、この世界はゲームと同じだと思っていた。」
「うん。」
「魔法使いの装備に期待もしていなかったから、着の身着のまま旅に出ようとしたんだ。」
「そうだったの?」


そうなんだよ。


「だけど、お前からこの世界の事を聞いて、この世界はファンタジーっぽいだけで、魔法使いでも剣や鎧を装備できるんじゃないかと思ったわけだ。」
「そうね、誰でも装備できるわよ?」


できるのか。
無駄金使う前に確認取れて良かったが…


「ゲームみたいに雑魚を一撃で倒せるような攻撃力の高い武器とか、雑魚からのダメージが1になる防御力が高い防具とかはないだろう、あってもお店にないだろうとも想像できた。」
「確かにエルフとか精霊が作った武器や防具でならすごいのもあるけど、人間が作る武器や防具なんて、どれも似たり寄ったりね。」
「それでも、無いよりはましだろうと思って金を貯めようと思ったんだ。」
「へぇ。」


その顔ムカツク…


「で、スライムを倒しても手に入らないからどうしたらいいのかと聞いたんだが!」
「が?」
『働け』だと? ヴァラモスを倒す旅をしながら『働け』だと!?」
「え?」
「ヴァラモスってのは何か仕事をしながらでも倒せるようなやつなんだな?」
「! そ、そんなわけないじゃない!」


ほう?


「それじゃあ… この世界は、一日二日働いたくらいでヴァラモスと戦う時に使える武器や防具が買えるんだな?」


もしそうなら、経済システム的にも社会システム的にも、すごい世界だな?


「! ぁぁ…」
「いいだろう! 働いてやろうじゃないか!」
「ごめんなさい! 私が悪かったです!!」


謝るのが遅い!


「そもそも… ヴァラモスと戦うのに武器や防具があったほうが良いとは思わなかったのか?」
「あ、はは… そう言われれば、そんな気がしないでもないわぎゃああああああ。」


女がコブラツイストの力を強くした。

いいぞ、もっとやれ。

この駄目精霊には良い薬だ。



「で、話を戻すが… 働いたとして武器や防具を買うのにどれくらい時間がかかる?」
「…」


黙り込むルヴィスに止めを刺すべく、女に視線を送ると、女はこくりと頷く。


「旅に出たのは良いけど、スライムを倒してもゴールドは出ないし、そもそもお店も無いしで、装備を整える事すら出来なかった恨みを受けろ。」
「…なんであんな所で座っていたのか疑問だったが、探索しているうちに歩きすぎてこいつの所まで戻ろうにも戻れなくなっていたのか。」
「職業が戦士って聞いて、剣と鎧を求めてあの廃墟を… あんたがきちんと説明していてくれればあんな目に会わなかったのに…」


無視された?

…こいつは絶対に怒らせないようにしよう。


「ギブ! ギブギブギブ!!」
「ギブ? ああ! ギブミー、もっとしてくださいって事ね?」
「ちがぅうぁぁぁぁああああ!!!」


ごぎごぎって鈍い音がしたが、大丈夫なのか?





「コブラツイストって結構すごいんだな。」
「でしょ?」
「もうやめて…」
「死なれても困るから、ほどほどにしとけ?」
「あら? コブラツイストで死んだ人なんていたかしら?」


 …


「それもそうだな。」
「しくしくしく。」
「で、あなたの聞きたい事はもうないの? 私も聞きたい事あるんだけど?」


ううむ…

何か、大事な事に気付けそうで気付けない… 頭の中がすっきりしない…


「今、情報を整理中だ。 だからお前の番って事で良い。」
「よしよし。 じゃあ質問に答えてね?」
「はい…」
「ルヴィスがここから動けないのは何で?」


おお!
言われてみれば、確かに疑問だ。


「え?」
「私、あなたが来るのをずっと待っていたのよ?」
「そうだったの?」
「そうだったのか?」
「ルヴィスが動けないって知っていたら気持ち悪いのを我慢してココに戻ってきたわよ。」
「あー、そういやお前2階にいたな。」


助けが来ると思っていたからこそ、モンスターの近づきそうに無い2階でじっとしていたのか…
助けがこないと知っていたら、ジャンプするとかで歩数を増やさないように戻る事を考えるよな。


「精霊は汚れたマナを浄化できるって言ったでしょう?」
「言ったね。」
「で、あなた達の世界から戻った時に、浄化するようにって言われたのがここなのよ。」
「浄化するように言われた?」
「うん。」
「もしかして、精霊ってあなた以外にもいるの?」
「いるわよ?」


なんだと!?

何当たり前なのこと聞いているの?って顔がムカツクが、それよりなにより、


「ちょっと待て。」
「ん?」
「今私の番なのに…」


五月蝿い。 少し待っとけ。


「精霊は全部で何人で、どこにいるんだ?」
「悪いけど言えないわ。 基本、精霊の居場所は人間に知られちゃいけないの。」
「たわけ。」
「いきなり侮蔑!?」
「旅をしたら経験値が溜まるんだ。
 王様や神父に浄化してもらうより精霊に浄化してもらってレベルアップしたほうがいいに決まっている。」


そんな事にも気付かなかったのか。


「そうか! それじゃあ、後で地図を描いてあげる。」
「よし。 じゃ、質問を続けて良いぞ。」


やっぱり気付いていなかったのか…

まあいいさ。 その地図さえ手に入れば…

いざと言う時のためにルーラを覚えてから旅に出るが、避難場所は多ければ多いほどいい。


「じゃあ次。 剣や鎧をよこしなさい。」
「次とか言っておいて、質問じゃない!?」
「その発想は無かった。」


しかし、当然の要求だな。 俺も貰おう。


「私、この世界に帰った瞬間にココの担当になったから、何にも持ってきてないの。」
「…使えない。」
「痛い! 痛い痛い痛い!!」


この駄目精霊に一瞬でも期待した俺が馬鹿だった!

…まあ、何か持っていても1人目とか2人目とかに渡しているか。


「じゃあ次! 転職はできるの?」
「転職?」
「ああ、それは俺も知りたい。 イオナズン覚えたら僧侶になって回復できるようになりたいと思っていた。」
「私は魔法使いになってルーラを覚えたい。 経験値溜まったらココや他の精霊のいる場所に帰らないといけないし。」
「あー。」


確かに、歩くごとに経験値が溜まるコイツには重大だな。


「ダーマの神殿があるのかどうか… あっても人がいないと話にならないか。」
「転職なら私ができるわよ?」
「本当!?」
「ええ。 でも、経験値がある程度溜まっていないとできないわ。」
「レベル20でできるわけじゃないんだ?」
「あのね、レベルが高くなると体に溜めておける経験値の量が増えるわけよ。」


それは初めて聞く情報だぞ?


「それじゃあ、レベル20になったら、ひたすら経験値を溜め続ければ転職できるの?」
「レベル20って決まっているわけじゃないんだけど… それくらいあれば体に無理なく溜められるわね。」


レベル20で体に無理なく溜められる… ん?

んんん? もしかして


「なあ、」
「なに?」
「ソイツさ、レベルアップしなければ転職できたのか? ほら、レベル1から一気にレベル15になっただろ?」
「…」
「…」
「…」



沈黙の後



「…少し足りなかったわね。」
「嘘じゃないよね?」
「沈黙の後だと嘘っぽいよな。」
「…」
「…」
「…」
「まぁ、あれ以上経験値が溜まっていたら死んでいたかもしれないし… 3日も歩けば転職できそうってわかっただけで良しとする。」
「過ぎたことだしな。」
「嘘じゃないのに。」



――――――――――



翌日


俺達は廃墟を探索する事にした。
他の42人が探索した後で、何も無いという可能性は高いがナイフでもなんでもいいから武器が欲しいのだ。

が、その前に


「とりあえず記録を頼む。」
「わかっ そうだ!」


突然叫ぶな。 耳がキンキンするだろうが。


「なんだ?」
「なに?」
「2人、手をつないだ状態で記録してみましょう。」
「?」
「なんでだ?」
「あなたの力がこの子にも及ぶのかって事よ。」


こいつが死んだ時にどうなるのか?

…なるほど、確かに気になるかもしれない。


「俺は別にかまわんが…」
「記録するだけなら別にいいけど、死ぬのは嫌だよ?」


死にたい奴なんていないだろうさ。
俺も、蘇るといっても記録した時点の状態で、死んだときの状況がわからないから絶対に死にたくないし…


「そんな事わかっているわ。 でも、このモンスターだらけの世界で戦っていたら、いつかその時がくるかもしれないでしょう?」
「それは…」


明らかに俺よりも強いお前が戦線離脱するとヴァラモスへの道が遠くなるから、少しでも可能性があるならやっておきたい。


「ほら、手をつないで… 冒険の書に記録しますか?」


ルヴィスが無理やり手をつながせる。
効果があれば良いんだが…

できれば、効果があったのかわからないまま全てが終わればもっといいんだけど。


「ああ。」
「ええ。」
「冒険の書に記録しました。 では、冒険の続きを頑張ってください。」





090912/初投稿



[11659] 05
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/13 19:02



廃墟は廃墟でも、まずは城を漁る。

アーリハーン城は二階建ての単純な作りだった。 …流石にゲームのアリアハン城ほどではないが。
ルヴィスのいる二階は区切りの無い大広間なので一階を調べる。


「中身は空っぽだね。」
「この箱、盗難防止の為なのか無駄に重い。 アーリハーンの人達が中身だけ持って行ったんじゃないか?」


この小さな部屋には、王族の貴重品があったのだろう。


「そうだね… 『ひのきのぼう』でもいいから欲しかったんだけどなぁ…」
「気持ちはわかるが、宝箱に『ひのきのぼう』を入れるような王族なんていて欲しくないな。」
「…」
「もっとも、入り口から謁見場まで直通という、王族を守るつもりが微塵も感じられない構造の城に住んでいた時点で、この世界の人間の常識なんて俺には理解できないわけだが。」


後でこの世界の文化とかをルヴィスに聞いたほうがいいだろうか? …理解できそうに無いが。


「あのさ、」
「ん?」
「それはほら、行商人とか旅人とかは街に入ってすぐに浄化しないといけなからじゃないの?」


なるほど!!


「そう言われると理解できるな。 そう言う理由なら、山のある東側に小さな扉しか無いのも頷ける。」


城下町を囲う高く大きな塀には、大きな門が海の方向の南側と橋のある北北西側にあることがすでにわかっている。


「廃墟を調べるのに三日はかかるだろうから、夜はルヴィスにこの世界の文化について聞くことにするか。」
「建物は西洋風だけど、ココはファンタジーな世界だもんね。」


旅に出たらこの世界の人に会うだろうから、知っておかないといけない事って意外と多そうだ。


「それじゃ、次は厨房を探すか。 包丁とか刃物があればいいが…」
「すりこぎ棒とかでもいいけどね。 あれって結構固いからスライムくらいなら叩き潰せそう。」
「棒に関してはお前がいた建物の壊れた椅子の足とかでもいいんじゃないか?」
「角ばってたから、握りが甘くなるわよ?」
「ふむ…」


そんな感じで城の中を漁ったが、使えそうなのは厨房にあった大きくて丈夫な袋くらいだった。


「鍋とかの金属製品は武器や防具に再利用できるだろうから全部持っていったんだろうけど…」
「スニーカーっぽい足跡から考えると、すりこぎ棒とかは42人の内の誰かが持って行ったな。」
「もうっ!」


がん!


「壁を叩くな。 城の中の物を持って行った奴は城下町の物を持って行ってないって事だ。 城下町を探して何も無かった時に悔しがればいい。」
「…うん。」





同じように城下町を探索してから三日後、俺は魔法使いレベル3になって、戦士レベル15は魔法使いレベル1になった。


一応、戦士から魔法使いに転職する前に、あったら楽なので『職業・遊び人』の有無をルヴィスに確認した。

これまでに知った『ゲームとこの世界の違い』と、『レベルアップが精霊にしかできない事』と『職業が魔法使いなのに勇者と呼ばれた事』から、予想していたけれど…

「貧弱な魔法使いのあなたを『勇者』って呼んだでしょ? 勇者も遊び人も、ついでに賢者も、他人からの評価であって『職業』じゃないわ。」

俺の問いに「何当たり前の事を?」という顔でそう答えたルヴィスには右ストレートをしておいた。


しかし、遊び人から賢者になれないという『予想していた残念な真実』とは別に、『予想外の嬉しい真実』もわかった。

レベル15の戦士は椅子の足でスライム5匹を薙ぎ払うことができたのだが、魔法使いになってもそれができたのだ。


「ステータス半減じゃないんだ?」
「ええ。」
「魔法も近接戦もできるようになるのか…」
「でも、無限に強くなるわけじゃないのよ? イメージとしては… そう! ステータス255までは上がるけど、それ以上にはならないって感じね。」
「…この前、モンスターを倒すだけでレベルが上がるなら世界は人間に取られているとか言っていたような気がするんだが? 人間の成長に限界があるのなら」
「レベル30の戦士に殴られ続けたら死ぬとも言ったでしょう?」
「ふぅむ…」


それなら、この駄目精霊が武器や防具はいらないと判断したのも仕方ない。

仕方ないのだが…


「レベル1の時には武器があったほうが安全だって事に変わりは無いのよ?」
「痛い痛い痛い! やめて! プロレスの技って間接が本当にやばっ」
「安心して、これはプロレスの技じゃないわ。」
「え?」
「柔道の技よ!」
「いたたたた!!」


腕挫十字固は確かに柔道の技だが、腕挫ぎ逆十字固という別名があって、プロレスではそっちの方で呼ばれているんじゃなかったか?

あれ? プロレスから柔道に? 柔道からプロレスに? ??? こんがらがってきた。

まあ、この馬鹿精霊には良い薬だ。

魔法使いはレベルが上がって力が増えても、スライムを倒すのに椅子の足で3回も叩かないといけないしな…


そしてさらに二日後、俺のレベルは変わらないのにコイツはルーラを覚えたわけだが…


「レバの村に行ってみない?」
「うん?」
「ギラとイオを使えるから行けると思うのよ。」
「レバの村はアーリハーンとロマルア間の休養地、農業が主要産業だけど現金収入の殆どは旅人の宿泊料ね。」


レバの村? ああ、レーベの村か。 で、ロマルアがロマリアだったか?

ギラの指先から出る細い火炎放射はスライム複数を薙ぎ払うし、イオの威力はギラと同じくらいだが効果範囲がまさに爆発だった。

…レバの村までなら行けるか?


「ほら、結局このアーリハーンじゃナイフの一本も無かったじゃない?」
「ああ。 武器になるものは全部持っていったみたいだな。」
 …スニーカーやジャンパーがあったから、俺達の前に来た42人の先輩達が漁った後って可能性もあるけど。」
「それよ! それ!」
「?」
「先輩達が持って行ったんなら、レバには何か残っているかもしれないわ!」
「ん? 42人もいたんだぞ? 期待できるか?」
「ほら、レバは農村じゃない? 鎌とか、あれ… 大きいフォークっぽいやつ、ああいうのがあったとしてよ?」
「フォークっぽいやつ? …あれの名前はフォークでいいぞ。」
「とにかく、そういうのが残っていたら、ココから持って行った物と交換しているかもしれないじゃない?」


ふぅむ…

可能性は低いが、いつまでもココでスライム虐めをしているわけにもいかないし


「お前がルーラを使えるし… 駄目で元々、行ってみるか。」
「もし、私が呼んだ子がいたら連れてきてね? 新しい子を呼ばずに力を溜めているのはあなた達と同じ改造をするためなんだから。」
「もちろんよ。」
「わかっているさ。」


俺達の言葉にルヴィスは笑顔になった。


「それじゃあ、冒険の書に記録しますか?」
「ああ。」
「はい。」
「冒険の書に記録しました。 がんばってねー。」





しかし…





レバの村に着いた俺達は倒れていた。


「はあ… 疲れた。」
「本当、二日もかかるとは思わなかった…」
「途中で小屋が無かったら夜も歩く事になっていたな。」


ボロ小屋だったがあって良かった。


「ねえ?」
「なんだ?」
「ここまでスライムしか出なかったってことは、この島に動物は私達しかいないってことなのかな?」


マナは生き物が汚す。
汚れたマナが動物や物に溜まってモンスターになる。
そして、ルヴィスはこの島で浄化を続けている。

俺達が汚した分はこいつの経験値になっているらしいから、廃墟のスライムは人間が生活していた時に溜まったものから、外にいるスライムは木々や草等の植物が汚したマナから生まれているわけだ。
もしも、俺達2人と植物の他に生き物がいたら、スライムの数が増えるか他のモンスターが生まれているとルヴィスが言っていたが…


「どうだろうな?」
「?」
「襲ってくるスライムの数は増えているだろ?」
「そうだけど… 考えてみてよ。」
「うん?」
「東京ドームの中心に家庭用の空気清浄機が1台あったとして…」


シュールだな。


「綺麗になるのは空気清浄機の周りだけだから、東京ドーム中の空気が綺麗になるには綺麗になった空気と汚い空気が入れ替わらないといけないでしょ?」
「なんとなく言いたい事はわかった。
 …要するに、ルヴィスから離れれば離れるほどモンスターの種類が増えるはずなのに、スライムとしか会わないって事は、この島の汚れは殆ど浄化できているじゃないかって事だな?」


例え話って以外と難しいから無理はするな…


「うん。」
「う~ん…」


この島から人がいなくなって一年たった頃にルヴィスはここの担当として呼び戻されて、その後は三日から五日おきに1人ずつ拉致したと言っていた…


「何よ?」
「この島が無人になって二年もたっていないらしいのに、城も町もこの村もボロボロになりすぎていないか?」
「それが?」
「島から他所へ移らないといけないくらいの襲撃があったとして、そのモンスターが全部スライムって事はないと思うんだ。」


スライムがやったとは思えないような、大きな爪の跡が残っている建物とかがたくさんあった。


「そうね。」
「アーリハーンの船が足りなかったらしいから、レバの村の人達は旅の扉を使ったって言っていただろ?」
「…結局何が言いたいの?」
「モンスターが旅の扉を使っていないかぎり、ルヴィスから離れた場所に避難している可能性は高いんじゃないか?」


例えば、このレバの村あたりに…


「でも、ルヴィスがこの島に来たのは人がいなくなって一年後でしょ? 一年の間に人間を追いかけて行ったんじゃない?」
「その場合はロマルアが滅びている可能性が増すな。」


アーリハーンの王族と兵士が船で向かったのがロマルアなら味方と敵でトントンかもしれない。

しかし、地図で見ると船ならロマルアよりダァマ(ダーマ)のほうが近いので…
その場合ロマルアは戦力にならない村人を受け入れた上でアーリハーンからの敵を迎え撃たなければならない。


「…」
「旅の扉から汚れたマナがどれくらい流れてきているかどうかが知りたいな。」


汚れたマナがたくさん流れてきているなら、それは扉の向こうに生き物たくさんがいるって事で、つまりロマルアが無事だということだ。


「城に戻ってルヴィスに聞いてみる?」
「…村を探索してからな。」
「うん。」



休憩の後、二手に分かれて村の探索をした。



「1個だけど、フォークがあったわ。」
「それは上々。 俺も1個見つけた。」


小さなスライムに当てる自信は無いが、相手が人間サイズならよほど素早くない限り何とかなるだろう。


「これで接近戦もやれるわ。」
「ああ、元戦士の実力を見せてもらおう。」


まあ、それよりも、だ


「それはそれとして、だ。」
「え?」
「俺が担当した方に、武器屋っぽいのと防具屋っぽいのがあったんだ。」
「私のとこには鍛冶屋さんみたいながあったよ。」
「スニーカーの靴跡があった。」
「あったの?」
「俺達のと違う靴跡が10はあった。」
「本当!?」
「ああ、本当だ。」
「それじゃあ、最低でも10人はここまで来れたんだ!」


喜びの声を上げているとこ悪いが、続きがあるんだ。


「ちょっと来い。」
「え?」


そう言って俺は道具屋っぽい家に向かう。


「なんなの?」
「天井を見ろ。」
「天井? え!?」


『ダーマ に います

 きゅうじょ 正正
 ししゃ   正

 きめらのつばさ が なくなった
 ロマリア への たびのとびら あけとく』


「これって…」
「これを書いたのが何人目かわからんが、ダァマには最低でも11人の先輩がいるみたいだな。」
「…すごい。」
「たぶん、これを書いたのは『すごく遠い場所も見える力』を持っている人だろう。」
「ダァマからココが見えているって事!?」
「たぶんな。」


だが、重要なのはそこじゃない。

はあ…


「生きている先輩も見つけた。」
「本当!? どこにいるのよ!?」


ああ、ある意味『生きている』。


「いいか、絶対に攻撃するなよ?」
「何言っているのよ? 先輩に攻撃なんてするわけないじゃないの!」


どこどこ?と辺りをキョロキョロ見渡してもなぁ…


「…出てこいよ。」


俺の言葉にぴょこりと姿を現す一匹の


「僕、悪いスライムじゃないよ!」





090913/初投稿



[11659] 06
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/16 21:46


「えい。」


躊躇なくフォークで突き刺そうとしやがった。


「うわぁっ!」
「ちょっ! 攻撃するなって言っただろうが!」


スライムはとっさに避ける事ができたが、石の床に深い傷が出来ている。

…当たっていたら人殺しになっているところだぞ?


「どいて! そいつ殺せない!!」
「落ち着け、これがこいつの『力』なんだ!」
「え?」
「『スライムに憑依する』のが僕の『力』みたいなんです。」


死なないと発動しない『力』だったらしい。
そう聞いたとき、俺は親しみを感じたね。


「え?」
「スライムには憑依できるけど一角うさぎには憑依できないし…」
「気が付いたらスライムになっていて、自分の体を食べてたんだとさ。」
「なによそれ…」


本当に… 不可抗力とはいえ、自分の体を食べるのは嫌だ。

しかし、それはそれとして…


「今の一言に、このスライムの『力』よりも重要な事があっただろうが。」
「え?」
「一角うさぎに憑依できないって事だ。」
「? それが?」


わからないのか?


「だから! 一角うさぎがこの島にいるってことだよ!」
「!!!」
「アーリハーンから人がいなくなった理由の、モンスターの群れがココから東の方にいるんだとさ。」
「それって、大変じゃないの!」


そうだよ。大変なんだよ!

…だけど、チャンスでもある。


「だから、一度戻ってレベルアップしよう。 二日も歩いたから、お前はベギラマ使えるんじゃないか?」
「ベギラマ? …そうか!」
「スライムの話が本当なら、ルヴィスのおかげでかなり弱っているらしいし…」
「わかった!」


弱っているなら俺のメラでも倒せるかもしれない。
それが無理でも、ベギラマの威力はギラの倍だったはずだから何とかなるだろう。

つまり、経験値大量獲得のチャンスって事だ!


「お城の近くに行くと苦しくなるから、僕はここで待っているよ。」
「それじゃあ、お前の遺品をルヴィスに渡しておこう。」
「頼むね。 僕はもう帰れないけど、せめて」


自分がもういないと言う事を、か…


「わかっている。」



スライムの案内でレバの村及びその周辺で死んだ先輩達の遺品(靴の数からおそらく8人分)を回収してルーラで帰る。



――――――――――



「こんなに?」


レバの村で回収した遺品を袋から取り出して並べた俺にルヴィスはそう聞いてきた。


「ああ。 墓も5人分あったから、併せると13人が死んでいるな。」
「なんてこと…」
「ココの廃墟でもスニーカーとかあったわよね?」
「…後で回収しよう。」


スライムに食べられると骨まで溶けるとは…

「人の遺体は骨まで溶けるのに、なんで化学繊維とかゴムは溶けないのか?」と不思議に思う俺はやっぱり人としての感性がおかしいんだな。 うん。


「お墓に入った人のはどうするの?」
「掘り出して靴と髪だけでも回収しよう。」
「やっぱり、掘り出すのね…」


それだけあれば遺品としt


「ああ、鞄とかがあるならそれも回収だな。」
「…」
「できれば遺体をメラで燃やしてゾンビにならないようにしたほうがいいだろうし?」
「…そっか。 そういう可能性もあったね。」


この島は浄化が進んでいるといってもモンスターがたくさんいる事も事実。
不確定要素は排除しておいて損は無いだろう。


えぐえぐと涙を流す駄目精霊を放置したまま、遺品回収についての話し合いを続ける。


「レバの村から旅の扉に向かう途中でモンスター達の犠牲になった奴もいるだろうから、そいつらの遺品回収もしたいところだけど…」


スライム以外のモンスターは巣に持ち帰ってから食べる可能性もある。 捜索範囲の広さが溜息ものだ。


「ねえ、ベギラマで燃えちゃうんじゃない?」
「…今回はレバの村から少しだけ離れた場所で戦おう。 それで、ヒャダルコ?を覚えたら遠慮なく殲滅しに行くって事でどうだ?」
「そうだね、レバの村周辺の遺品はスライムが集めてくれていたし、ベギラマ使っても大丈夫だよね。」


床に石を擦りつけて字を書く。


『かいたひと 44にんめ

        いひんかいしゅう
 アーリハーン
 ればのむら  lllll lll      』



「こんなもんだろ」
「これで私達が留守の間に先輩達がココに来ても状況がわかるのね」
「ルヴィスがいるから書かなくても良かったかもしれないが…」
「この島の浄化が終わったら別のとこに行くかもとか言っていたし、これでいいんじゃない?」
「そういえば、そんな事も言っていたな。」


人や動物さえいなければスライムが増える程度ですむし、ある程度浄化したら場所を変えるというのは当然だな。


「でも、なんで誰も戻ってこないのかな?」
「ダァマから見える限界がレバの村なのかもしれないな。」

地図を見るに、ダァマとレバの村の間に高い山などはないようだし…



ふと気が付くと、壊れた天井から光が入らず、窓や壊れた壁から夕日が差し込んでいる。
そろそろ夜だ。 スライムの話だとモンスターは夜になるとレバの村に来るらしいから…


「そろそろ行くか?」
「ええ。」
「俺がスカラで防御を上げて、お前がギラやベギラマで殲滅する。」
「経験値は私が優先。 ヒャダルコってレベルいくつだったかしらね?」
「20前後だったと思うが… 敵の数が多すぎたら俺が囮になっている間にルーラで逃げろよ?」
「わかっているわよ。」


立ち上がり、手を繋ぐ。


「ルヴィス!」
「いつもの頼む。」
「…うん。」


両手で涙を拭った後で、いつものように冒険の書を取り出した。


「私が言えた義理じゃないんだけど、この子達の敵討ち、お願いね?」
「ああ。」
「ええ。」



「冒険の書に記録しますか?」



――――――――――



「ベギラマ」


掌から出る火炎放射が、前方にいる敵全てを焼く。


「メラ メラ メラ はっ!」


ぼひゅっ ぼひゅっ ぼひゅっ ざすっ

ベギラマに耐えた奴らには俺のメラや2人のフォークで止めを刺す。

焼死したモンスターから経験値を獲得したいが、次から次へとやってくるので魔法で倒した奴らの所へ行く余裕が無い。


「最初は兎やアリクイだけだったのに!」
「まったく!」
「なんできのこやカニがいるのよ!」
「この島から人がいなくなった理由が良くわかったよ! くそっ!」


べぎぃ

ジャンプして、いつの間にか近くにいたカニの上に着地する。

ぶんっ!

フォークを大きく振って、敵を牽制する。


「メラ」


これで打ち止めだ。

ざく

ベギラマを受けて黒焦げのくせに突っ込んできた奴にフォークを刺す。

筋肉の質を改造してあるはずなのに、すでに疲れが出てきた…


「ここは一旦退却しろ!」
「うん!」


レバの村に一時退避…
いや、こんなに敵がいるならルーラで逃げたほうが確実だ。


「ルーラで逃げろ!」


そう叫びながら、フォークを振るう。
倒せはしないが払うくらいならまだできる。


「イオ」


爆発で敵をぶっ飛ばしたか! やるな!


「ほら!」
「俺にかまわず逃げろ!」


伸ばされた手を取らずに、そう返す。


「そんな!」
「最初から決めていただろうが!」


最悪、『記録した時の状態で復活する』俺が囮になると。


「でも!」
「いいから行け!」
「黙って手を取りなさい!」


そう叫んで、また手を伸ばしてくる。

くそっ!
この数相手にそんな隙を見せるなんて、自殺行為だぞ!

ざす


「ぇ?」


にぶいおとがして


「ぁ」


のばされていたてが


「ぅそ!?」


そらにまって


「ぃっっくっしょうっっ!!! ルー」
「マホトーン」


のこされたかのじょのからだから


「ラ」
「馬鹿野郎! 走れ!!」
「なんっ!?」


ふきだすまっかなちが


「ぎゃぁぁぁぁあああああっ!!」
「くそっ! くそっ! くそっ!」


あたりをそめた













・・



・・・



「やっと、起きたね…」





090916/初投稿



[11659] 07 アーリハーン編終わり
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/19 17:44


「ぐ ぅ?」


ルヴィスの声で目を覚ます。


「俺は死んだのか?」
「そうね…」


ルヴィスに膝枕してもらっているので、首を動かすだけで壊れた壁から朝日が差し込んでいるのがわかる。

あー

昨夜のモンスター討伐で、俺はリタイヤしてしまったようだな。

ギラも使えない魔法使いじゃ何も出来なかったって事か…


「で? あいつはどこだ?」
「…帰ってきてないわ。」


俺が死んだ後も戦い続けたのか?
だとすると、スライムが安全な場所を知っていてそこで休んでいるのかもしれな


!!!!!!!!!!!


「ぐぁぁぁぁああああああ!!!」



頭がっ!


「頭がぁぁあ!」
「どうしたの!?」
「ぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」









知らないお父さんが私の頭を優しく撫でる。

あいつの名前で私を呼んで、俺はそれに笑いながら応えていた。

場面が変わる。

知らない女性が俺を呼んでいる。

お母さんと私は手をつないで知らない実家に続く道を歩いていた。

場面が変わる。

知らない親友と毎日を楽しそうに楽しく過ごす。

場面が変わる。

あいつの両親と一緒に乗ったバスが事故に会う。

場面が変わる。 変わる。 変わる。

葬式で泣く。 一人になる。 それでも働いて。

場面が変わって、変わって、変わって、変わって…

俺の知らない私の大事な人達が生かしてくれたこの―――――









そうか



そういう事なのか…



「ルヴィス…」
「なに?」


心配そうに俺を見るルヴィスに宣言する。


「レバの村に行ってみる。」
「うん。」


壊れた天井の真下まで歩く。
…お前は、いつもこんな感覚だったんだな?


「待って! 寝すぎて馬鹿になったの?
 階段はあっちだし、記録はどうするの?」


ルヴィスを無視して、俺は呪文を唱える。


「ルーラ」









レバの村では、真っ黒でドロドロな形になったスライムが待っていた。


「なんでそんな事に?」
「君の『力』を聞いていたから、君達が倒したモンスター達の経験値を全部受け止めたんだ。」
 自我を失くさないようにするだけでも結構大変なんだよ?」


ほう?
スライムのレベルアップってそうやってするのか?


「ほら、あそこに彼女の遺品がある。」


遺品…


「ルーラが使えなくなるくらいベギラマを使ったのか?」
「マホトーンを使えるモンスターがいたんだよ。」


魔法使いの天敵がいたのか。


「でも、あいつは戦士レベル15の強さがあったはずだが?」
「マホトーンを使えるのがいたんだって言ったろ?」





「お前の知らないモンスターが結構いたのか?」
「そうだよ。 カニやらキノコやら… こんな事になるならもう少し深く潜入しておけばよかったよ…」


そう言えば、スライムだと一角うさぎにさえ踏み潰されかねないとか言っていたな。


「思った以上に種類がいたのか…」
「君は、彼女に1人で戻れと言ったんだけど、彼女が『君と一緒に戻る事』に固執してね。」


ごたついている間にマホトーンをされてしまったのか。


「死んだら記録した時の状態に戻ると言うのも良し悪しだね。」
「うん?」
「死んだ瞬間の記憶があれば、僕が説明しなくてもいいだろう?」
「そうだな。」


どうやって死んだか覚えていたら対策を考えやすいからな。


「もっとも、死んだ時の事を覚えていたら、ココに来る君の心は復讐で一杯だったんじゃないかな。」
「そうなのか?」
「命を懸けた戦いだったからね…」
「吊橋効果とかそういう事か?」
「だね。」


それは考えてなかった。


「でも、彼女の死ぬ瞬間を覚えていないのは良い事だと思うよ?」


ん?


「あいつ、俺より先に死んだのか?」
「君に手を伸ばしたせいで隙ができたんだよ。」
「あちゃー…」
「ああ…
 あの場面を覚えていたら、ここに戻ってこようとは思えなかったか、復讐心に囚われていたかだと思うよ?」


そうかなぁ?って、どうした!?


「ぐ ぁ ぁ あああ」
「おい! どうしたんだ?」
「言ったろ? 自我を失くさないようにするだけでもキツイんだよ。」


スライムのレベルアップとかじゃないのか?


「じゃあ、ルヴィスのとこに行くか?」


あいつならなんとか出来るかもしれない。


「いや、それよりも良い方法がある。」


そう言って俺の足元までぴょこぴょこと跳ねてくる。


「なんだ?」
「無駄にしないでね?」


スライムだった物から噴き出す黒い煙を、全て受け止めた。



――――――――――



床の傷が1つ増えて、俺のレベルも20まで上がった。

あいつと手をつないで記録したからだろう。 歩くたびに、経験値が入っている。

生き返った俺は、あいつの記録した時点の状態が『追加』された状態で復活した。

おかげで俺のモノだけじゃなく、あいつの記憶や経験なども持ってしまっている。


「今回はアイツが俺より先に死んだからこういう状態なのか?
 一緒に記録した人が生きている状態で俺が死んだらどうなるんだ?
 死ぬのか? それとも、生きたままで俺に『追加』されるのか?」


俺の疑問に、ルヴィスは「わからない。」とだけ答えた。





アーリハーンの廃墟では、スニーカーだけでなくハイヒールやイヤリングなども発見できた。


「これで5人分か…」


レバの村で13人、アーリハーンではあいつとこの5人で併せて6人。


「44人の内19人がすでに… はぁ…」


レバの村の東でも結構死んでいるだろうから、もしかしたら生き残りはダァマにしかいないのかもしれない。


「早く、生き残りにレベルアップの事を教えて戦力を増やさないとな。」


ドラクエ3では、勇者1人でバラモスは倒せる。
でもこの世界で勇者でもないやつが1人でヴァラモスに勝てるのか?


「独り言が増えた。 …精神的にやばいな。」





アーリハーンの廃墟での捜索の後、レバの村の東でヒャダルコを連発して遺品を捜す。

走っているうちに脱げたのだろうか? すでに3人分の靴が見つかった。

この舗装もされていない小石だらけの道を裸足で走っても、モンスターから逃げられる速度が保てるとは思えない。


「旅の扉に近づくとスライムしかいないってことは、ここまで来れた人はロマルアまで行けた可能性は高いが…」


浄化の効果はルヴィスを中心に円状に広がっていると確信した。





「行くのね?」
「すでに22人が… 半分が死んでいる。」
「ええ。」
「ダァマで生きている可能性のあるのが11人、残り10人が生死不明だ。」


ロマルアにどれだけ辿りつけているか…


「ロマルアに着いたらすぐに戻ってきてね?」
「ああ、王や神父に浄化される前にレベルアップしに戻る。」
「それじゃあ… 冒険の書に記録しますか?」
「ああ。」
「冒険の書に記録しました。」



――――――――――



ルーラでレバの村まで飛んで、新しい相方と共に歩く。


「死ぬ前に元気なスライムに憑依できて良かったよ。」
「そうだな。」


あの後、ひょっこり出てきて驚いた。


「城や町や村では別れないといけないけど… これからよろしく!」
「…ああ。 よろしく頼む。」


俺達はロマルアを目指して歩き出した。





090919/初投稿



[11659] 08
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/28 21:10

「うぉぉぉおおおおおおおお」


旅の扉からロマルアへ続いていると思われる道を歩いていると、マッスルな覆面マントの男が斧を振り回してモンスターの群れを相手にしていた。


「おらぁああ!」


どずん!

斧による大振りの攻撃が見事に当たる。


「グァァアア」


断末魔の悲鳴を上げながらぶっ飛ばされるモンスター…

ぐぁっはっはっはと豪快に笑う男。


「俺の目はおかしくなってしまったようだ。」
「僕の目もおかしいみたい。 別のスライムに憑依し直すかなぁ…」


覆面は… 百歩譲って良いとしよう。
マントも… 千歩譲って良いとしよう。

しかし、パンツと長靴『だけ』という組み合わせは許せない。
それをして良いのは美人でエロいお姉様だけだというのに…

せめて服とズボンを着てくれ。 その格好は犯罪だ。


「…お前は旅の扉の向こう側に戻っていてくれ。」
「そうだね。 他のスライムに」
「奴がこっちに気づく前に早くいったほうgいけ!」
「うん!」


ぴょんぴょんと低く飛び跳ねながら逃げるスライム。

戦いながらこっちに近づいてきているあの変態の注意を、こちらに向けてスライムに気づかせないようにしなければ。


「ヒャダルコ」


ダメージを与えるだけでなく壁としても使える便利なヒャダルコで変態の援護をする。 …壁と言っても低くて薄いが。


「ヒャダルコだと!?」


木の陰から人が現れた事よりもヒャダルコの方に驚くのか。 ならば


「そっち側にもヒャダルコ」


もっと驚かせてやろう。
これで、こそこそ逃げるスライムに気づくこともないだろう。


「伝説の呪文を使えるなんて… お前、『精霊に選ばれた者』か!?」


ヒャダルコって伝説の呪文なのか? 精霊に選ばれた者というのはなんとなくわかるが…


「話は後で。 今はこいつらを倒しましょう。」
「ふっ そうだな!」


おりゃあああっと群れに突っ込む変態。

もしかして、こいつは浄化されたマナを取り込んでレベルアップできる体質なんだろうか?

モンスターの攻撃を受けても、たいしたダメージではないみたいだしなぁ…


「ふん!」


フォークで芋虫の頭を貫く。

戦士レベル15の力に魔法使いレベル20の力が上乗せされているからか、魔法無しでもそれなりにやれる。

もっとも、ヒャダルコで敵を分断したからこそ1対1の状況にできるのだけれど。





20分ほどで戦いは終わった。


「ちっ 穢れが酷い。 そろそろあの野郎のとこに行かないと…」
「穢れ?」
「ああ、早いとこ王に浄化してもらおう。」


なんだ、経験値のことか。 って!


「王に浄化してもらうって事は、ロマルアは無事なのか?」


覆面のせいで表情が見えないが、その覆面がわずかに縦に動いたと言うことは無事なのだろう。


「そうか、お前はアーリハーンの精霊に呼ばれたばかりなのだな?」
「おう。」


アーリハーンの精霊ってルヴィスの事だよな?
拉致されてから10日以上過ぎているが、そういう事にしておこう。

でも、精霊の居場所は基本的に人間に知られちゃいけないんじゃなかったのか?
ロマルアに辿り付けた先輩達が自分達の事を説明する時に話したか?

もしかして、『精霊に選ばれた者』って他称じゃないくて、自称だったりするんだろうか? だとしたら痛すぎるんだが…


「ならばロマルアに案内してやろう。」
「頼む。」
「俺の名はカンタダ。 生まれた時に魔物と戦う力を精霊に与えられた者だ。」
「カンタ?」
「カンタダだ!」
「カンタダ? 微妙に言い難いな…」


生まれた時に魔物と戦う力を精霊に与えられたというのは、レベルアップできる体質の事か?

いやまて、そんな事より… こいつ今、自分のカンタダと名乗ったよな?

もしかしてカンダタなのか? 王様の宝を盗んだりしているのか? でも、浄化してもらうって事は…?

気になるけど、「昔、盗賊していました?」なんて聞けないしないなぁ…





二時間ほどで高さ3メートル程の土と石でできた塀が見えてきた。 …しょぼい。


「あれがロマルア…」
「あれはアーリハーンとレバの村の連中が来てから作られた外塀だ! ロマルアの城壁はもっと大きい石造りだ!!」


さっきまで穏やかに話していたのに怒鳴り声を出す。
ロマルアの事を馬鹿にされたと思ってしまったかな?


「ですよねー。」
「あれでも効果はあるんだぞ。 スライムなどの小型の魔物は飛び越せないし、人間サイズの魔物も目の前で塀を乗り越えたりしない限り中に入ってこないんだ。」
「大型の魔物は?」
「やつらはコレの5倍の高さの石塀でも簡単に壊せるからなぁ…」
「そうなんだ…」


こえぇ…





そんな話をしながらさらに一時間歩いて、やっと門に着いた。


「おお! アーリハーンよりも大きい塀と門だ。」
「そうだろう? ロマルアの守りはアーリハーンよりも優れているのだ。」


すごいだろうと自慢するカンタダを半分無視して門をくぐると、頭の中でスイッチのような物が押されたような感じがした。

この感覚が、この場所にルーラで移動できるようになったという事なんだなと、何故か『理解できた』。


「カンタダ。」
「ん? なんだ?」
「ロマルアは無事だったとアーリハーンの精霊に教えてくるから、三時間ほど待っていてくれ」


王様に会うまでにこれまで歩いて稼いだ分とさっき大量に獲得した経験値でレベルアップしたい。


「今から戻るのか? アーリハーンまで五日はかかるだろう? 王に浄化してもらってからのほうがいいんじゃないか?
 って、三時間!?」
「ルーラなら数分でアーリハーンに着くし、精霊と色々話したい事もあるし」
「ルーラだと!?」
「ルーラがどうした?」


なんだ?
俺がヒャダルコを使えるのを知っているだろうに…


「そうか、お前はヒャダルコを使えたのだからルーラも使えて当然か…」
「ああ、それじゃあ、三時間くらいしたら戻ってくる。」
「わかった。 アーリハーンで浄化を続ける精霊様に、我らの国ロマルアが健在であると伝えてくれ。」
「あ、ああ… それじゃあ行ってくる。 ルーラ」


もしかして、アーリハーンに誰も帰ってこない理由は、ルヴィスのしている浄化作業の邪魔をしない為だったりするのか?

そんな事を考えながらアーリハーンに帰った。



――――――――――



「なるほどねぇ…」
「誰もここに戻ってこないわけだよなぁ?」
「レベルアップの事を知らなくても、聞きたい事ができたら聞きに来てもよさそうだとは思っていたけど…」


レベルアップしながらそんな話をする。


「で、カンタダみたいに体質のあるやつはいいとして、魔法使いと僧侶を1人2人、レベルアップさせに連れてきても良いか?」
「それは駄目よ。」


なんでだ?


「本当はこの世界の人達全員をレベルアップさせたいけど…」
「うん?」
「そうするとヴァラモスを倒した後で人間が暴走するかもしれないでしょ?」


ああ、なるほど…


「それが、他の世界の人間を拉致した理由なのか?」
「そうよ?」


言ってなかったっけ?という顔をグァシッっと右手で掴む。 そう、アイアンクローだ。


「ぐぅっ!?」
「拉致した時に、そういう事をきちんと説明していたら、レベルアップやその他もろもろの説明も出来ていたんじゃないのか?」
「ぎ、ギバデデヴィデヴァ」(い、言われてみれば)
「本当… しっかりしてくれよ、精霊様よぅ…」
「ズヴィバゼン」(すいません)


アイアンクローをしながら、予想通り三時間ほどでレベルアップが終わった。



「まあ、精霊の邪魔をしたいと思う奴はいないって事がわかっただけでも良いとするさ。」
「うぅ… 頭全体がジンジンするよぅ…」


それは良かったな?


「で、今回の成果は?」
「んと、レベルが22になって新しくバイキルトの呪文が備わったわ。」
「バイキルト…」
「攻撃能力大幅アップね。」


カンタダにでも使ってみるか?


「あの子に使って攻撃力を上げてみたら?」
「うん?」


なんでスライム?


「モンスターはバイキルトやスカラの様な呪文の効果が長続きするの。」
「ほう。」
「だから、呪文で強化して強くしたらスライムでも戦力になると思う。」
「それで?」
「あなたが町にいる間にあの子が経験値を溜めて、街から出たらおいしく頂けば?って事よ。」
「なるほど!」


それができれば僧侶になるまでの時間がかなり縮まる。


「それで、レバの村の東側のモンスターを倒してくれれば一石二鳥なのよ。」
「それは駄目だ。」
「なんで!?」
「俺が居ない間にお前がどっか行ったら困る。」
「え? そ、それって…」


島の浄化が終わったら別の場所を浄化しに行くらしいからなぁ…


「妖精の村と世界樹の精霊が俺に協力してくれるまではここに居てもらわないと…」
「ぶー。」


この馬鹿は俺の世界でどんな文化に染まったんだか…


「スライムには他の場所で頑張って貰う事にする。」
「ぶー。」
「カンタダを余り待たせるのも悪いから、ささっと記録してくれ。」
「ぶー。」
「記録してくれ。」
「わかりました。 します。 しますからどうか顔から手を離してください。」
「記録してくれ。」
「うう… 冒険の書に記録しますか?」
「ああ。」
「冒険の書に記録しました。 だから手を離して…」





090922/初投稿
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[11659] 09
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/28 21:12


記録した後、ルーラでロマルアに飛んだら門の外に着いた。

そういえば、レバの村に飛んだ時も、村の入り口が着地地点だったな。

この世界は変なところがゲームと同じで、時々イラっとする。


「待たせたな!って… いない?」


それはそれとして、カンタダを待たせては悪いと門を通って叫んでみたら、そのカンタダがいなかった。


「ふぅむ…」


門から、おそらく城へと続く道の先に、城壁より少し上くらいの高さで赤と黄色の大きな旗が風に吹かれている。


「ずいぶんと眼に悪そうな柄の旗だなぁ。」


あれがロマルアの国旗なのか?

国旗なら派手でもおかしくはないかもしれない。 でも、モンスターに見られないか?



そんな事を考えていると、複数の視線を感じた。

ぐるりと辺りを見回すと、白い長袖長ズボンを着ている疲れた顔の男が数人、こっちを見ている。

服の上から鎖かたびらを着けている奴もいる。

なるほど、肌に直接鎖かたびらつけたら痛いだろうからなぁ…

ロマルアの兵は全員パンツに長靴の覆面マントだと思っていたが、ただ単にカンタダが変態だったという事か。


「待っていたぞ!」


噂をすればなんとやら、カンタダが兵達の宿舎と思われる建物から出てきた。


「それでは、城へ案内しよ… ん?」
「なんだ?」
「穢れが浄化されている?」


変態なのにそんな事がわかるの ああ

レバの村からロマルアまで歩いて、途中のモンスターもできるだけ倒していたから、体が黒くなっていたのかもしれない。


「精霊に浄化してもらった。」
「ああ、お前達は精霊に浄化してもらえるのだったな。」


ん?

ルヴィスの話だと、精霊は基本的に不可侵な存在なんじゃないのか?

だと言うのに、『俺が精霊に浄化してもらえる』という事をあっさり受け入れすぎていないか? それに…


「お前達?」
「ああ、お前達『精霊に選ばれた者』の特権なのだろう?」
「…ああ。」


そうか。

おそらく、ダァマにいる先輩達の誰か、もしくは全員がルヴィス以外の精霊と接触しているのだろう。

距離で考えるとエルフの村が近いか?

でも、ダァマを拠点にしていそうだし… どういう事だ?


「だいたい十日に一度、お前の仲間が飛んでくるからそれまでロマルアにいるといい。」
「飛んでくる?」


キメラの翼はもうないんじゃないのか?

ルーラが使えればレバの村で13人を救出できたはずだ。

そもそも、ルーラを使えると言ったらめちゃくちゃ驚いていたじゃないk ああ!


「『日の光に当たると空が飛べる』人か?」
「うむ。 立派な方だ。」
「立派?」
「外塀を覚えているか? あれは、あのお方のルカニとニフラムによって安全を確保できたからこそ、あれだけ広い範囲を囲えたのだ。」


空を飛べる人は僧侶なのか。
そして、外塀から城壁まで一時間歩いた事を考えると、結構な範囲を塀で囲って土地を確保したのも事実だろう。

でも


「ニフラムとルカニで安全確保?」
「そうだ。 ルカニで脆くなった魔物を我ら戦士が攻撃して、弱ったのや死骸から出る穢れをニフラムで浄化するのだ。」
「なるほど。」


ふむ。 弱ったモンスターはニフラムで止めを刺せるのか。 …経験値は溜まりそうに無いけど。


空を飛ぶ仲間は頭脳明晰で回復もできる。 これは、期待しても良さそうだな。





そんな話をしながら、てくてくと城に向かって歩く。

アーリハーンは門を通ってすぐに城が見えたがロマルアではそうではな 見えた。

城はアーリハーンと同じ二階建てか。 どの国でも城は二階建てなのかな?

そういえば、ゲームにはナジミの塔があったけど、アーリハーンの周辺に塔はなかったな… もしかして、この世界には高い建物がないんだろうか?

おや?

さっきから見えていた赤と黄色の旗は城の屋上に立っているんだな。 何の意味があるのかわからんが。

高い建物とあの旗の事… カンタダに聞いてみるか? それとも空飛べる人に聞いてみるか? ちょっと悩む。


「我らの城は他国と比べて門から少し遠いのが欠点だったが、魔物が溢れる今の世ではそれによって王の安全が確保されている。」


へえ、城が門から離れているのは欠点だったのか。

でも、多少不便でも浄化の事を考えると王の安全を確保するほうがいいと思うぞ?


「城の上に赤と黄色の旗が見えているだろう? お前の仲間はあれを目印にしてロマルアに来るのだ。」
「魔物に狙われないのか?」
「最初は俺もそう思ったが、あの高さだと、塀の向こう側からは見えないんだ。 あれ以上高くても低くても上手くいかないらしい。」


遠くから良く見えるように赤と黄色、城が塀から離れているから、塀の向こうからは旗は見えない。


「なるほど。 悪趣味な旗だと思ったが、あれでも結構色々考えてあるんだな。」
「うむ。 色々と考えてあるのだ。」


でも、あんな旗を選んだのが俺と同郷だと思うと悲しくなる。




さらに歩いて、気がついたら城内で玉座の前。

不思議な事に、その玉座には誰も座っていなかった。


「王様は透明人間だったのか…」


流石ファンタジーな世界。 俺の想像の斜め上を行く展開だ。


「そんなわけがあるか!」


カンタダはそう叫ぶと玉座の側に立っていた高そうな服を着ている男に怒鳴りつけた。

ちょっとした冗談なのに… やっぱり堅物キャラなのか?


「何で王がいねーんだ!? 精霊に選ばれた者が来ると連絡が来たはずだろうが!!」
「カンタダ殿! 落ちついてください!」
「落ち着けるか! 穢れを浄化しないと気持ち悪いんだよ!」


ぶっちゃけた!
俺よりも浄化の方が大事だとぶっちゃけやがった!


「王は今、北門で浄化をしております!」
「まだ北門にいるのか? 俺が南の敵を片付けてどれだけ経っていると…」


おそらく大臣だろうと思われる人に怒鳴り散らすカンタダ。

もしかして、ロマルアって南側をこの変態1人に守らせているのか?

…違うか、疲れた顔の兵士も数人いたな? それでも少人数過ぎる気がする。


「くそっ 俺も北に行く! さっさと片付けて浄化させる!!」
「俺も行こう。」


北にもいけるのか… どういう立場なんだカンタダ?

疑問は残るがそれはそれとして、王の浄化ってどんなのか見てみたいのでついていく事にする。


「ありがたい。 伝説の魔法があれば怖いもの無しだ!」


マホトーンには弱いけどね。


「できれば武器と防具が欲しいのだけど?」
「む? 魔法使いなのに武器が要るのか?」
「強力な魔法を近距離で破裂させてもいいのか?」
「それは困るが… 扱えるのか?」
「そこはかとなく。」
「そ、そこはか?」


何を言っているのかわからないだろうが、俺もよくわからない。 そこはかとなくってなんだ?


カンタダは装備を着るのに時間がかかるだろうからと言って、先に北に向かった。 せっかちな人である。
そして俺の言葉に困惑しながらも、大臣っぽい人が鎖かたびらと鋼鉄の剣を持ってきてくれた。


「思ったよりも軽いな。」
「そうなのですか? 兵の中には鎖かたびらさえも重たいと言って皮の鎧を着る者すらいるというのに…」
「そうなの?」


戦士レベル15が効いているのかもしれない。 それとも筋肉の質を改造した成果か?


「それじゃあ、行ってくる。」


鎖かたびらを着るのにかなり時間がかかってしまったので、少し慌てて北門に向かう。


30分ほど走ると、学校の運動会とかで使うような物のよりもさらに安っぽい感じのテントが見えた。

ホイミホイミと聞こえると言う事は、僧侶が兵隊達を癒しているのだろう。

このテントを一つ一つ探せばすぐに王が見つかるだろうが…


「思ったよりも苦戦しているみたいだし、戦闘に加わったほうがいいな。」


そう判断して、俺は門から出て外塀、戦場に向かう。



――――――――――



「メラ メラ」
「メラ メラ」
「メラ メラ」


外塀を出ると100人ほどの兵隊がその倍以上のモンスターと戦っていた。

…3人1組の魔法使い達が外塀の上に立ってメラを連発している姿はなかなか愉快だ。


「メラミ」


どおん!!

掌から出たが炎の玉が、メラの届かない場所にいるモンスターを焼く。


「おお! なんという炎だ!!」


魔法使いや戦士が驚いているが、そんな事よりも戦おうよ?


「カンタダはどこだ?」
「カンタダ様はあちらで1人、最前線を支えています。」
「へえ…」


1人で最前線ねぇ…

前の俺なら褒めているところだが、無理をした結果仲間を失くした今の俺には無謀としか思えない。 …記憶は無いが。


「本来なら魔法使いの援護をつけるところなのですが、魔物の数が多すぎて」
「わかった。 俺が行くからお前達はそこで無駄な怪我をしないように頑張ってくれ。」
「よろしくお願いします。」



「ヒャダルコ」
「ヒャダルコ」
「ヒャダルコ」


カンタダと初めて会った時と同じように、ダメージを与えながら分断する。


「おお! よく来てくれた。」
「すまん、鎖かたびらを着るのに手間取って思ったよりも遅れてしまった。」
「気にするな。 それよりも奥の魔物どもにベギラマを。」
「わかった!」


無事にカンタダと合流、バイキルトとスカラを自分とカンタダにかけて、コンビで最前線を切り開いていく。


「はっ! やっ! ていっ!」


ざしゅっ! ざく! ざん!


「いいぞ! いい! 鋼鉄の剣! 素晴らしい!」


蛙や芋虫、足が腐って動きの鈍い犬ゾンビをばっさばっさと切り裂ける。

さほどダメージを与えない薙ぎ払いや、ダメージを与えても次の攻撃に繋げられない突き刺ししかできないフォークと違って、次から次へと攻撃できるなんて… 素晴らしいぞ、鋼鉄の剣!!

バイキルトの効果もあるのだろうが、それを差し引いても扱いやすい!


「ヒャダルコ」


もちろん、魔法を使うのも忘れない。

ベギラマだと燃えた敵に体当たりされる間抜けな兵士がいるのでヒャダルコを使う。 …ヒャダルコ連発って、MPの消費が結構厳しい。


それと… 凍って動けなくなったモンスターに鉄の槍で止めを刺すのはいいけど、それで勝ち誇った顔をするのもどうかと思うぞ? 兵隊さん。





「これで終わりだ!」


カンタダの斧が最後の1匹に止めを刺して戦闘は終わった。

モンスターの遺骸から出る経験値がもったいない。
それに、さっき浄化しないと気持ち悪いと言っていたよな? なら


「穢れは俺が引き受ける。 精霊に浄化してもらえば王の負担にはならないからな。」
「わかった。 浄化が終わったら城に来てくれ。」


俺の言葉に、カンタダは兵達と共に帰っていった。

これだけの経験値、浄化が終わるのは深夜になりそうだから… ロマルア城に行く前にスライムと話し合っておくのもいいかもしれない。

浄化に時間がかかったと言えば信じるだろう。





090925/初投稿
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[11659] 10
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/09/28 21:30
10



スライムに会うためにロマルア側から旅の扉へ向かう途中、小さな声が聞こえた。


「ここだよー。」


この声は


「スライムか? どこだ?」
「ここだってばー。」


さっぱりわからん。

夜にスライムを探すのってこんなに難しいのか…


「ここだよとか言ってないで、普通に出て来い。」
「目の前にいるよー。」




目の前って、草くらいしかないんだが? って、今、月の明りで何か光ったような…


まさか


「バブルスライムだよ!」
「お前…」


スライムはバブルスライムになっていた。

暗闇の中、スライムの青色を探す。 ただでさえ大変な作業だったのに、さらに探しにくい緑色になっているとか…


「なぜに?」
「ぴょんぴょんぽちゃじゅわっって感じで」


意味がわからん。


「ちゃんと説明しろ。」
「OK! あの斧を持った変態から逃げるために、必死な気持ちでぴょんぴょん跳ねながら旅の扉に向かっている途中、うっかりバブルスライムの上に」
「わかった。」


想像できたが酷いな。


「着地しちゃって、毒でじゅわっって溶けちゃ」
「わかったから!」


それ以上は何も言うな!


「…わかってもらえて嬉しいよ。」
「つまり、スライムだけじゃなくて、スライム系なら何でも憑依できるかもしれないんだな?」
「どうしてそんな結論になるのかさっぱりだけど、可能性はあるね。」


どうしても何も、どう考えてもそういう結論になるだろうが。

よし


「ホイミスライムになってこい。 話はそれからだ。」
「酷い! 『スライムにしか憑依できなかったら危なかったな』の一言すらないなんて、君は鬼か!?」
「結果が良ければ全て良かろうなのだ。」
「くっ」


悔しがる元スライムにバイキルトとスカラを2回ずつかける。


「こ、これは…!」
「モンスターは補助呪文の効果が長持ちするんだとさ。」
「す、すごい! 今なら一角うさぎだって倒せそうだ!!!」


バブルスライムになっている時点で楽勝だと思うが、それはそれとして


「盛り上がっているところ悪いが、お前に頼みがある。」
「わかっている… レバの村の東の奴らを皆殺しにして来い、だろ?」
「違う。」
「えー。」


意外と過激な事を言うな…

でも、あの島はルヴィスに任せとけよ。


「ナニールの村に行って欲しい。」
「ナニール?」
「ドラクエ3で言えばノアニールの村だ。 ほら、エルフに眠らされている」
「ああ! あの村か。 夢見るルビーだっけ?」
「そう、その村だ。」


ドラクエ3という共通の知識があると説明が楽でいいな。


「でも、この世界はドラクエ3に似ているだけって話じゃなかったか? あの村の人達はエルフに眠らされているのか?」


そんなことは知らん。


「重要なのは、近くにエルフの隠れ里があって、そこに精霊が居るという事だ。」
「うん?」
「精霊がいるなら、そこを拠点に」
「そうか、僕達と同じ境遇の仲間がいる可能性があるって事か。」
「そういう事だ。
 後、余裕があったらプートガ(ポルトガ)の様子も見てきて欲しい。 エルフの隠れ里にいる精霊の浄化範囲を考えるとエジンバ(エジンベア)に避難しているかもしれない。」


ダァマにすごく遠い場所が見えるやつが居て、その限界がレバの村だと仮定した場合、プートガとエジンバは範囲外だろうからバブルスライムに偵察を行かせる意味はあるだろう。


「わかった。 じゃあちょっと行ってくるよ。」


そう行って北に去っていく元スライム。

どういう原理なのかわからないが、どろどろな体のバブルスライムの移動速度は、スライムだった頃よりも速かった。



――――――――――



バブルスライムと分かれてから、ルーラでロマルアに飛んだ。


「お待ちしておりました。」
「うん?」


暗闇の中、門を通るとたいまつを2つ持った体格の良い兵士が1人、城へ向かおうとした俺の側によってきた。


「夜は魔物が活発になります。 ですので、夜は1人で行動してはいけない事になっているのです。」
「町の中でも危険なのか?」


兵士はそう言いながら俺にたいまつを1つ渡して歩き始める。

町中でモンスターが出るのか? それとも、国民の安全を守るための規則なんだろうか?

1人で行動する奴は不審者として取り締まる事もできるから犯罪を未然に防ぐ事にもなるし…


「少し前、影の魔物が現れた事があるのですが、1人で行動していた者達が7名犠牲になりまして…」
「影の魔物?」
「はい。 2人共たいまつを持っていたので不自然な影に気づくことができたのです。」


不審者がどうこうって言うよりも、もっと切実な問題だったんだな。

それに、たいまつを1人1つ持つのはそういう理由からだというのも納得だ。 でも


「兵士2人で倒せたって事は、その魔物は弱かったのか?」
「いえ、1人がカンタダ様だったのです。 それに7名も死んだので町中警戒態勢でした。 戦いの音を聞いて30人ほどがすぐに駆けつけました。」
「なるほど。」


カンタダのレベルは幾つなんだろう?

兵士の言葉に頷きながら、そんな事を考えていると城に着いた。


「では、私はここで待っています。」
「わかった。 ありがとう。」
「いえ、お気になさらないでください。」


その言葉に、今更だがこんな夜中までいつ来るかわからない俺を待たせてしまった事と、帰りまで付き合わせてしまう事を申し訳なく思う。




城に入ってまっすぐ進むと、玉座のある大部屋でカンタダがパジャマ姿のおっさんと口喧嘩していた。


「さっきから眠い眠いと言っているが、『精霊に選ばれた者』が来るまで起きているつもりなんだろうが! 来るまでの間に俺の浄化をしろよ!」
「だーかーらー! 俺は昼間もずっと北門で浄化していて疲れているんだよ! 今お前を浄化したら『精霊に選ばれた者』に会う前に倒れてしまうわ!」


俺のために眠いのを我慢しているのか。 悪い事をしたな。

でも…
ルヴィスに浄化してもらった後でロマルアの南門から一時間ほど歩いてバブルスライムと話して…

三時間以上経っているんだが… その間ずっと「浄化をしろ!」「浄化はしない!」って喧嘩していたのか?

それに、あのおっさんはパジャマ姿で俺と会うつもりなのか? はっきり言って威厳も何も感じられないぞ?


「嘘をつけ!」
「なんだと!」
「それだけ元気なら俺を浄化しても倒れたりしないだろうが! この前、お前がもっと疲れている時も、俺を浄化した後でさらに3人浄化していただろう!!」


んん?


「はっ あの3人はほんっっっのわずかしか穢れていなかったんだよ!」
「なんだと! 顔から腕から全身真っ黒だったぞ!」
「あいつらは元々肌の色が黒だったんだよ!」
「そんなわけあるか!」
「本当だ!」


ふむ… 俺も南側でも北側でも、黒い肌の兵士を見た記憶が無いんだが?

まあ、南側は宿舎で寝ていたのかもしれないし、北側は戦闘中で忙しかったから確認できなかっただけかもしれんが…


「ならそいつらを連れて来いよ! 確かめてやる!」


言い争うより眼で確認したほうが確実だが…

おっさんがニヤリと笑いやがった。 


「カンタダ、お前は酷い奴だな。」
「なんだと!」
「こんな夜中にそんなくだらん用事で呼び出すなんて、あまりに酷い。 酷すぎる!」


そう返したか。 でも、3人いれば1人くらい夜勤の奴がいたりしないか?


「くっ」
「『ロマルアの英雄』カンタダも地に落ちたな。」
「…」
「もっとも、親の」
「オヤジの事は言うな!!」


うわぁ… めっちゃ怒ってる。 空気の震えがここまで来た。

それにカンタダに親の話は厳禁なのか。 覚えておこう。


…まあ、それはそれとして、そろそろ王様に挨拶を?


「やめて! 私のために争わないで!」
「姫様!?」
「こら! こんな夜遅くまで起きていては、せっかくのすべすべお肌がカサカサに荒れるだろう!!」


突如現れたお姫様に、王様が怒る理由はそれでいいのか?


「カンタダ様、浄化なら私がいたしますわ。」
「明日で良いです。」


お姫様はそっとカンタダの手を取る。 美人で優雅、言う事無しだな。

それなのに、カンタダ… お前って奴は…
女性の、それもお姫様の顔も見ないで即答か…

お前は服のセンスは変態だけど、国を愛する熱血漢な紳士だと思っていたのに… 残念だ。


「そんな、遠慮なさらないでください。 さ、こちらへ」
「待てぃ! 浄化するのに何故部屋へ行こうとする!」
「お父様…」


怒鳴るおっさんに優しく声をかけるお姫様。


「私、お父様と違って浄化の技が未熟なのです。 ですから落ち着ける場所でヤリたいのですわ。」


ヤリたいって…
話の流れとしてはその言葉は合っているけれど…

ロマルアのお姫様はすごく積極的な人のようだ。 カンタダは幸せ者だな。


「くっ 『ロマルアの英雄』である事を利用して娘を手篭めにしようとは…」
「してねええええええ」


…さっきより面白くなってきたから、もう少し様子を見よう。


「お父様…」
「姫よ…」
「ご心配なさらないで、カンタダ様と一緒になっても私がお父様の娘である事は変わりませんわ。」
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃあああ!」


おいおい…
浄化をするじゃなかったのか? 今ので完全に話が変わったぞ… 確信犯だな。

それにおっさんも…
いい歳した男が、それも一国の王が、床に寝転んで手足をじたばたして「嫌じゃ」と叫ぶなんて情け無いぞ。


「俺も嫌だ!」


その声… 覆面の下は涙でぐしゃぐしゃなのかい?

それに、非常に残念な事だが、この親子はどんな大声を出しても…


聞く耳を持っていないようだぞ?


「この筋肉ダルマめ! 姫を篭絡して、この金の冠を狙っているのはわかっているのだぞ!!」
「そんなもんいらねええええええ!!!」
「まぁ、そうだったのですか? 確かに私と一緒になればその冠はカンタダ様の物…」
「くっ この筋肉め! この筋肉め!」
「冠なんていらねーって言ってるじゃないかああああ!」
「あらあら、そうやって照れているカンタダ様も素敵ですわ。」
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃー!! こんな筋肉ダルマが婿になるなんて…

 姫と結婚させるなんて絶対に嫌じゃー!!」


カンタダが王様を「あの野郎」と言っていた理由がわかったような気がする。

…苦労しているんだな。



でも…


姫がカンタダを部屋に連れ込む直前まで、もう少し見ておこう。





090928/初投稿



[11659] 11
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/01 21:16



その後も王とカンタダとお姫様のコントは一時間ほど続いた。

しかし、お姫様がたおっさんの死角から、とてもいい角度で右の脇腹を打ち、悶絶している間にカンタダを連れ去るという恐ろしい展開で決着となりそうになったので


「カンタダー! きたぞー!」


仕方ないから、俺参上。

カンタダの目には俺が救世主のように見えているだろう。

おっさんは左手で右の脇腹を押さえながら、玉座の後ろに置いていたのであろういかにも王様が着るっぽい豪華な赤いマントをパジャマ姿を隠すために着ようとしている。


「おお! やっと来たか!」
「どうしたんだお前? 綺麗な女性に手を掴まれて…」


王様を見ないようにしながらも、『城には今ついたばかりで何も見ていないし聞いていない演技』をしながらそう言って、お姫様を見る。

彼女は邪魔をした俺に微笑んだ。


…綺麗で優しそうな笑顔なのに、すごく怖い


駄目だ、この人を見ていると… なんだか負けそうな気分になる。 …何に負けるのかわからないけど。

カンタダに視線を戻す。


「もしかして、お邪魔だったか?」
「そんな事はない!」


冷や汗が出ているかもしれないが、なるべく軽い感じでカンタダをからかうと、そう返事を返した。

とにかくこれで計画どおり! カンタダは俺に貸し1つd ん?


「魔法使い様はここでお父様、 ロマルア王とお話しをなさるのでしょう?」
「へ?」
「私達はお話の邪魔にならないように、あちらの部屋で浄化作業をしますので、どうぞごゆっくり。」


そう言ってカンタダの手を… いつの間にか腕を取って去ろうとする。

すごいよこのお姫様。 でも、まだだ! カンタダに貸しを作る事を諦めないぞ!

これまでのこいつの行動パターンから性格を考えて、ここで貸しを作っておけば少なくともロマルアで前衛に困る事は無いのだから!


「浄化か…
 精霊が浄化をする所は何度か見たが、人の手による浄化はまだ見た事がないな…」
「な、ならば! 王が俺を浄化するところを見てみないか?」


カンタダさんはこちらの思ったとおりの行動をしてくれて扱いやすいな。

お姫様に勝てるとはまったく思えないが、カンタダを間に挟めばなんとか戦えそうだ。


「浄化するところを見せてもらってもいいですか?」


震えながらも頑張って豪華な赤いマントを身に纏い、パジャマを隠す事ができたおっさんに聞く。


「え? あ! ああ、いいぞ。 …だが、つまらんぞ?」


それは想像がついている。

…それにしても、このおっさんは本当にこのお姫様の親なのか? なんだか全然負ける気がしないぞ?





「仲間が来るまでここで魔物討伐とかして過ごさないか?」
「是。」


カンタダを浄化しながら話し合った結果、こんな感じで話は終わった。

城まで送ってくれた兵隊さんの宿舎で泊る事になったので…カンタダも一緒に宿舎に帰った。





そして翌朝


「昨日あれだけ魔物が襲ってきたからなぁ…」
「ふぅん。」


魔物の襲撃はだいたい十日に一回あるかどうか… という事なので、空から仲間が来るまで暇だと判明。


「それはそれとして、昨日から気になっていることがあるんだが。」
「なんだ?」
「それだ。」


俺は壁を… 壁にかけられている10個ほどのキメラの翼を指差す。


「キメラの翼がどうかしたか?」
「なんで、そんなにあるんだ?」


キメラの翼がそんなにあるなら、レバの村で13人も… あいつも死なないですんだかもしれないのに…


「ん? …そうか、アーリハーンから来たのならコレを見るのは初めてか。」
「ああ。」


説明書か攻略本か4コマ漫画のどれかで見た事があるが、知らないフリをする。


「これはキメラの翼と言ってな? 念じて使うと使用者の知っている城や町に4人ほど移動する事ができるのだ。」
「ルーラと同じか。」
「そうだ。 この宿舎には40人が住んでいるから壁に10個掛けてあるのだ。」


なるほど… でも


「魔物との戦いで危なくなったら使うのか? でも、昨日の魔物の襲撃の時、誰も持っていなかったと思うが?」


それに、ルーラと同じなら到着地点が城の外だろうから、城の近くでしか戦わない兵士に必要なのか? 


「…これは、ロマルアを去らねばならぬ時に使うのだ。」
「うん?」


ロマルアを去る?


「ロマルアに住む者は… いや、どの国でもこうして備えているらしいぞ?」
「備えている?」


国を去る。 備える。 …!!


「なるほど、アーリハーンでは船が足りずに、旅の扉を使って徒歩でロマルアに来たんだったな。」


それを教訓にしてキメラの翼を確保したんだな… キメラの翼が足りなくなるわけだ。


「そうだ、城の外は魔物で溢れているからな。 いざという時、皆それぞれ行った事のある国へ逃げることになっているのだ。」


改めて考えてみると、キメラの翼って、思っていたよりも重要なアイテムだったんだな。


「キメラの翼が余っていれば、ルーラで行ける場所が増えるんだが…」
「おとなしく仲間を待て。 キメラの翼は国民全てにまだ行き届いていないのだ。」
「…ああ、命には変えられないからな。」


色々と思うところはあるが、それはぐっと飲みこもう。

できれば4人で1つではなく、1人1つ持たせたいだろうし…


「さて、俺は見回りに行くが、お前はどうする?」
「町を見て回るにも、金が無いからなぁ…」


鎖かたびらと鋼鉄の剣貰ってしまったから、金を貸してくれと言うのは… 返すあてもないし…


「ならば城に行って大臣から貰ってくるといい。 昨日あれだけ魔物を倒したのだから、それなりの額をくれるだろう。」
「そうなのか?」
「ああ、お前はロマルアの兵ではないからな。 剣と鎖かたびらの代金を差し引いても… 金貨で1000枚くらいはもらえるんじゃないか?」
「金貨で1000枚というのが高いのか安いのかわからんが、貰えるなら貰ってこよう。」


金の単位は金貨なのか。
1ゴールド100円くらいと何かで読んだ事があるが…


「銀貨で12000枚だぞ? 上手に使えば二ヶ月はもつ。」
「ふむ。」


金貨1000=銀貨12000=二ヶ月分の生活費?

物価がどんなかわからんが、薬草やら毒消し草やら買う分には問題なさそうだな。


「じゃあ、ちょっと言ってくる。」
「うむ。 ロマルアの美しさをその眼と心に焼き付けてくるがいい。」
「はいはい。」


悪い奴どころか、とってもいい奴なんだけど… 少し面倒な奴なんだよなぁ。





テクテクと経験値を稼ぎながら城へ行くと、カンタダの言っていたよりも少し多め、金貨1200枚を貰えた。

のだが…


「お待ちください。」


お姫様に呼び止められた。

…昨日の事で文句でもあるのか?


「あなたはルーラを使えるのですよね?」
「それが?」
「あなたのお仲間がダァマから来て、ココとダァマを自由に行き来できるようになったら、カンタダ様をダァマに連れて行って欲しいのです。」


うん?

カンタダをダァマに連れて行く?


!!


「転職か?」
「はい。 カンタダ様には魔法使いか僧侶になって貰いたいのです。」
「なんでだ?」


確かに呪文が使えると便利だろうけど、今でも十分に強いと思うが?


「魔法使いになれば穢れることなく魔物を倒せます。 僧侶になれば怪我をしても治せますわ。
 私、カンタダ様に死んでほしくないのです。」
「なるほど… カンタダが好きなんだな。」


俺が笑いながらそう言うと


「あの方は私の命です。」


お姫様は凛とした声でそう言った。

そして、その眼はまっすぐに俺を見ている。


カッコイイな、この人。


でも、「好きなんだな。」と聞いたのに「命です。」って、答えになっていないよ?

いや、ダァマに連れて行くのはいいんだよ? いいんだけどさ?


「駄目ですか?」
「いや、駄目じゃないよ。 うん。」


ちょっと気になったんだよ。


「それじゃあ、ダァマに行けるようになったら連れて行くよ。」
「はい! よろしくお願いします。」


おー。
昨日と違って怖くない笑顔だ。



…カンタダはさっさと人生の墓場に入ってしまえばいいと思うよ。



――――――――――



「薬草は金貨8枚なんだ?」
「傷口に当てたり食べたりするだけで効果のある特別な方法で作ってあるからね。 普通の薬草なら金貨2枚でいいよ?」


ほほう。
食べるだけで回復って、ファンタジーな感じがしていいね。 …手の平よりも大きくなければもっといいのに。


「いや、8枚の方でいい。 5つくれ。」


今度怪我した時に試してみよう。


「あいよ。」
「それと、毒消し草を2つくれ。」


間違えてバブルスライムに触ってしまった時のために買っておいて損は無いだろう。


「満月草はどうします?」
「それも1つ貰っておこう。」


って、毒消し草も満月草も薬草よりでかい。 …丈夫な袋を持ってて良かった。





皮の帽子も購入して防具屋へ向かう。 武器は鋼鉄の剣があるからいい。



「皮の鎧って、鎖かたびらの上に着れるんだ?」
「お前さん魔法使いなんだろう? 動き難くなるけど、遠くからメラを撃つだけなら問題ないんじゃないか?」
「う~ん。」


バイキルトとスカラと鋼鉄の剣さえあれば、前線で魔法を撃ちながら剣で切る、唱って踊れる(?)魔法使いなんだが…

試着させてもらって、これくらい動けるなら問題無いと判断して購入する。


「魔法使いなのにそんなに動けるなんて… 驚きだ。」


戦士レベル15が効いているんでね。 言わないけど。


「靴は今履いているスニーカーのほうが歩きやすいな。」
「そのようだね。 以前、お前さんと同じ『精霊に選ばれた者』が来た事があって、その度に言っている事がある。」
「なんだ?」
「『壊れたらでいいんで、その靴売ってくれ。』」


なんだ、そんな事か。

でも靴を作るものにとって、スニーカーは研究対象として魅力的かもしれない。 …なら


「一番高く買ってくれる所に売るよ。」
「あっはっはっは。 そりゃそうだよな!」


いい気分で店を出て、ふと空を見る。

見上げた空は黒い点が1つある他は雲一つ無い快晴d



黒い点?


いや…


あれは人だ!


それも、すごい速さで近づいてきている!!


「空飛ぶ僧侶! さんじょぉぉぉおおおお!」


うわぁ…

自分で自分の事を「空飛ぶ僧侶」と大声で叫ぶ痛い子だったんだ…





091001/初投稿



[11659] 12
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/07 21:14



「ニフラム」


オレンジ色の全身タイツの上に法衣(?)という恥ずかしい格好をした少年が大きな声で唱える。

すると、少年を中心にマイナスイオンがたくさん含まれているような風がびゅわっと吹き、それによって辺りが浄化されたのがわかる。

離れていて正解だった。 もう少し近くにいたら折角の経験値が少し無駄になるところだったかもしれない。


「ニフラムで土地を浄化するってこういう事なんだな。」
「う、うん。」


少年は恥ずかしそうに顔を染めて頷く。 …恥ずかしいならそんな格好しなければいいのに。



――――――――――



あの後、どういう原理なのかわからないが、ものすごい勢いで飛んでいた僧侶は空中で急ブレーキをかけたように止まり、城のほうへ降りていった。


「空飛ぶ僧侶様がいらっしゃったぞー!」
「外塀内の浄化作業が始まるぞー!」
「準備急げー!!」


彼の自己主張を聞いたロマルアの人達は、男も女も大慌てで家屋に入り、兵達は城へ向かう者と宿舎へ向かう者が互いに手話っぽい… 野球のサインのようなやりとりをしながら走って行く。


「多分あれが日の光にうんぬんだよな? …とりあえず城へ行った方がいいよな?」


俺は精神的ダメージから回復するために独り言を吐きながら考えをまとめて城へ走った。



城に着くと、玉座に偉そうに座っているおっさんと話している彼が居た。

空を飛んでいる姿を遠くから見る分には「ドラクエ僧侶のコスプレだー。」と思うだけだったが、近くで見ると… その『いろんな意味で目に優しくない』姿に思わず目をそらしてしまった。

すると、


「か、勘違いしないで下さいね? この格好はダァマの神官達に無理やり着せられたんです!」
「…」
「僕だって、全身タイツは嫌だったんですよ? でも、元々着ていた物が駄目になっちゃって、『何か着る物を下さい』って言ったらこれを渡されたんです!」
「…」
「僕は『これ以外の服がいい!』って言いましたよ? でも、『僧侶ならこれを着るべきだ』って言って他の服をくれないんです!」
「…」
「だから、勘違いしないで下さいね? 僕は」
「そんなにその格好が嫌ならロマルアで別の服を買えば良かったんじゃ?」


俺の言葉に衝撃を受けた彼は目を大きく開いて


「あ」


小さくそう言った。

どうやらこの子は頭がよろしくないようだ。 期待していたのに…


「それに、自分で自分の事を『空飛ぶ僧侶』と叫ぶのも正直どうかとお」

「あ、あれは! 無理やりにでもテンションをあげていかないとこんな恥ずかしい格好できなく」

「だから、その服が嫌ならロマルアで買えば良かっただろうって」
「だから、それは、その… その…」



――――――――――



なんだかんだで、ロマルアに来たら必ずやっているという城壁と外塀の間の新農業地帯を浄化して回る事になり、その間にダァマの状況を聞く事になったわけだが…


「ど、どうしましたか?」
「いや、なんでもない。」


城から南門までの間に服を売っている店は何軒かあったが、結局こいつは服を買わなかったな…

実は全身タイツを結構気に入っているのかもしれない。


「それにしても、ニフラムって結構効果があるんだな?」
「はい。 少しレベルを上げるだけで覚えられる割には効果が高いですね。
 …ニフラムを多用するせいでレベル8からなかなか上がらないっていうのが難点ですけどね。」
「やっぱりそういうデメリットがあったか。」


あれだけの速度で空を飛べるなら、強いモンスターに囲まれても逃げる事が可能だと思う。

それに仲間も10人ほどいるはずで、経験値を稼ぐことはそんなに難しくないだろうに、カンタダやロマルアの人達から、こいつがバギを使ってモンスターを退治しているという情報が出てこないのはおかしいと思っていたのだ。


「あなたは魔法使いなんですよね? ベギラマが使えるって事はレベル14以上あるんですよね?」
「ああ、『歩くだけで経験値が溜まる』のが俺の『力』だからな。」
「すごく便利な『力』ですね。」
「まあな。」
「だから魔法使いでもココまでこれたんですね…。」


復活できる事は隠しておく。
どうせ復活できるのだからと、単独で危険地帯に派遣されるのはごめんだ。


「ダァマに魔法使いはいないのか?」
「…いるって言えばいるんですけど、レベル9で止まっています。」
「魔法使いがいるなら優先的に経験値を溜めさせればよかったのに…」


10人以上仲間が居れば魔法使いのレベルを上げる事なんて楽勝だと思うんだが?

それに、この世界では僧侶のバギよりも魔法使いのルーラのほうが重要性は高いし…


「キメラの翼が不足している今、ルーラを覚えて欲しいってリーダーが何度も要請しているんだけど…」
「レベル上げを嫌がっているのか?」


補助魔法とか地味なのが嫌いなのか?

でも、それならそれで、ベギラマやイオラ、ベギラゴンやイオナズンとかの破壊力のある魔法に興味が無いのか?


「あの人は高所恐怖症なんです。」
「なんという想定外な答え…」
「キメラの翼でレバの村からダァマに飛ぶ時、気絶しちゃってね… 僕が空を飛べなかったら気絶した状態で着地する事になっていただろうね。」


気絶状態で着地… 


「下手したら捻挫… 骨折とかしそうだな。」
「本当に、危なかったよ。 って、ちょっと離れていて。」
「ああ。」


歩きながら会話をしていると兵士や町人の方々が、「ここが穢れが溜まっている場所ですよ。」と言ってきたので俺は彼の忠告どおり距離をとる。


「ニフラム」


その一言で、言われてみないと気づかない程度の穢れが浄化された。 

しかし…


「実際のところ、ゲーム的にはどこらへんまで攻略が進んでいるんだ?」


こうやって僧侶がロマルアとダァマを行き来しているという事は、ダァマは安全なのだろう。
それなら、元の世界に帰るために必要な情報を手に入れておきたい。


「攻略しているといえばしているし、していないといえばしていないって感じで…」


どういう事だ?


「例えば、ゲームだと船はポルトガで手に入れるでしょう?」
「ああ。」
「この世界のポルトガはプートガって名前で、そこの人達は船を全部使ってエジンベア、エジンバに行っちゃったみたいなんです。」


船を全部使って…


「それじゃあ、俺達は船を手に入れる事ができないのか?」
「いや、ダァマにアーリハーンの船がある事はあります。」


想像どおり、アーリハーンの王がロマルアにいないのはダァマに行っていたからか。

アーリハーン出身者やレバの村の人達をロマルアに丸投げなのはどうかと思うが… そのおかげで船が確保できているのなら良しとしよ


「けど、あなたは、帆船を操縦できますか?」




なん… だと…?


「帆船の操縦なんて、できるわけがない。」
「でしょ? 船の免許を持っている人もいるけど、その人も帆船は無理だって。 船乗り達もモンスターだらけの海に出るのはもう嫌だっていうし…」


そうか… そうだよなぁ…

モンスターだらけの海を越えて、せっかくダァマに着いたんだから安全になるまで船に乗りたくないと言う気持ちは当たり前だよなぁ…


「それでね、とりあえずキメラの翼を世界中に行き届かせて、余るようになったら、僕が空を飛んでラーミアの卵のある島まで飛ぶって事になったんだ。」


キメラの翼があれば危険な時にすぐに帰る事ができるからなぁ…

でも待てよ? 今の話で重要なのは


「なるほど… ラーミアの卵はあるのか。」
「うん。 世界樹に宿っている精霊が教えてくれた。」


世界樹の精霊と接触していたのか。

だったらエルフの隠れ里の精霊とも接触済みかもしれないな?


バブルスライムに無駄働きさせてしまったか…


「ヴァラモスの城はいつも暗闇で包まれているから見る事が出来ないし、僕も飛んでいけないんだ。」
「ふむ。」
「だから、ラーミアの卵を孵らせてその背中に乗せてもらえって言われた。」


孵ったばかりの雛の背中に乗れとは…

世界中の精霊もルヴィスと同じくらい酷い奴のようだな。


「それにしても、空を飛べると言うのは便利だな?」
「そうかな? 歩くだけで経験値が溜まるほうが便利だと思うけど??」


確かに戦闘しないで経験値を溜められるのは便利だけれど


「船が無いのに世界樹まで行けたんだろう? 便利じゃないか。」


定期的に行き来しているなら雲の陰くらいなら問題ないんだろうし?


「いや、それほど便利じゃないんだよ。」
「でも」
「その説明はダァマでするよ。 百聞は一見にって言うし、僕も説明しにくいし。」


そんなに面倒な、説明しにくい欠点があるとは思えな

…俺の『力』も結構欠点があるな。 うん。


「わかった。 それで、ダァマへはどうやっ」
「待って、ここに穢れが溜まっているみたいだ。」
「ほいほい。」


その言葉に慌てて離れる。


「ニフラム」


あの風に直接当たると気持ち良さそうだな。

…ニフラムでどれくらい経験値が無駄になるのかというのも少し興味が湧いたけど、それは僧侶になってからいくらでも調べる事ができるから今はやめておこう。


「それで、なんだっけ?」
「ああ、ダァマにはどうやって行けばいい?」


俺を抱えて空を飛べるとは思えないからな。 体が華奢すぎる。


「え?」
「普通に歩いてか? それともお前がキメラの翼を持ってくるのをココで待てばいいのか?」
「えっと、もう1人仲間がくるからその人に運んでもらえばいいよ。」
「もう1人?」
「うん。 その人h」
「おお、ココにいたのか、僧侶様に魔法使い殿。」
「あ、久しぶりですねカンタダさん。」
「僧侶様、あちらのほうに穢れの溜まっている場所が五箇所あります。」


見回りってそれを探していたのか。


「わかりました。」


むう… 話の続きがしたいが、カンタダに聞かせていいのかどうか… …


「忙しそうだし、話の続きは浄化が終わってからって事にしようか。」
「そうだね。」



――――――――――



夜、ロマルア城の廊下で僧侶から太くて長い紐を渡された。


「これをどうしろと?」
「明日か明後日には仲間が来るから、それを使って体を固定するんだよ。」


体を固定?


「ああ、空を飛んで行く時に落ちないようにって事か。」
「…落ちないようにっていうのは当たっているけど、飛んでは行かないよ。」
「うん?」


飛ばないのに体を固定するのか?


「今から来る仲間と俺と、2人をこの紐で固定して飛ぶわけではない?」
「2人を紐で固定するっていうのは当たっているよ。」





「情報を小出しにするのはやめないか?」
「…僕はもう慣れちゃったけど、普通は恥ずかしいと思う方法なんだよ。」


全身タイツを着れる人間が恥ずかしいと思うだと?

知るのが怖いが、知らない方がもっと怖い…


「いったい、どんな方法なんだ?」
「おんぶだよ。」


おんぶ?


「僕はロマルアで待っているから、ダァマに着いたらルーラで迎えに来てね?」
「いやいやいや、意味がわからんのだが?」
「彼が来たらわかるよ。 むしろ、彼が来ないとわからないよ。」


うわぁ…

俺の顔ではなく、斜め上の方向を見ながらそんな事言われるとすごく不安になるじゃないか…

ん?


「僧侶様と魔法使い様、こちらにいらっしゃったのですね。」
「姫様、こんな時間になんの用でしょうか?」
「早く寝ないと王が怒るんじゃないか?」


お肌が荒れるって。


「大丈夫ですわ。 今日は人と会う約束や魔物の襲撃も無かったので、お父様はすでにベッドで寝ているはずです。」


おっさん… お前が寝ている間にカンタダと何かあるとは考えていないのか?

…考えていないんだろうなぁ。


「用件はカンタダ様のことです。」
「転職についてですか…」


なんだ、こいつにも相談済みだったのか。


「ルーラがあればダァマに連れて行くのは可能だと思うけど、彼が転職するとは思えません。」
「そうなのか?」
「うん。 『精霊に選ばれた者』は大丈夫らしいけど、普通は転職をすると能力が下がるらしいよ。」


…人間の暴走を抑止するために、転職する時に能力を下げているんじゃなかろうな?


「ですが、魔法使いや僧侶になれば今よりも」
「姫様、言いたい事はわかります。 ですが、彼が転職すると言わない限り協力はできません。」
「そんな…」


ん~…


「ヒャダルコやベギラマを便利だと言っていたから、魔法使いに転職する分には説得しやすいんじゃないか?」
「本当ですか!?」
「たぶんな? でも、説得はあんたがしろよ?」
「わかりました!」


そう叫んでお姫様は走っていった。

ん? なんだその目は?


「はぁ… 彼の個人的な事情だから話せないけど、彼は魔法使いになる気は無いんだよ。」


どういう事だ?





091004/初投稿
091007/誤字脱字修正



[11659] 13 ロマルア編(とりあえず)終わり
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/07 21:50


結局、カンタダの事は個人情報保護という理由で何も教えてくれなかった。


まあいい…
次にモンスターがロマルアを襲撃する時、俺はダァマにいるはずだから、恩を売る必要がもうないし。





翌日


「それで、仲間はいつ来るんだ?」


ダァマからロマルアへは空を飛べるのにロマルアからダァマへは飛べないっていうのはどういう原理なんだろう?

ダァマには遠くへ飛ぶために必要な何か… 滑走路みたいな物でもあるというのか?


「えっとですね… いつもはニフラムでの浄化が終わる頃に到着する事になっているんですけどね?」
「ふむ。」
「今回は、あなたがロマルアにいるのを発見したため、急遽予定を変えて急いで来たので…」


そうだったのか。

それは面倒をかけてしまったなぁ… 言わないけど。


「だから… 明日か明後日くらいには来てくれると…」
「明日か明後日…」


つまり、それまで暇なのか。


「町はもう見て回ったし、モンスターの襲撃も無いし、やる事ないんだなぁ…」
「あ、それじゃあお願いしたい事があるんですけど。」


ん?


「何だ?」
「その、一度アーリハーンに連れて行ってくれませんか?」
「ん?」
「さっき教えてもらった肉体改造っていうのをしてもらおうかなって。」
「ああ…」


魔法使いなのに前線で戦える理由を聞かれたので、それを戦える理由にしたんだったな。

…世界樹の精霊はルヴィスが俺達にしてくれたような追加の改造をしてくれなかったらしいけど、お前達も自分が改造されている事に気づけていれば世界樹の精霊に頼めたんじゃないか?

そもそも


「俺が言うのもなんだけど、世界樹の精霊が勧めなかったって事はやめておいたほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「いいか? 俺は魔法使いで、戦う手段がメラしか無かったからレベルアップ以外の方法で強くなる方法として改造を選んだ。」


ルヴィスは馬鹿だから思いつかなかっただけかもしれんが…


「だけど、俺達を改造したルヴィスでも、ここまでの改造は元々していなかったわけで…」
「ああ、そうか…」


カンタダがコイツを褒めたのって、小さい割には頭が回るからかな? でも…


「あの時の俺は魔法使いレベル1だから改造は効果を実感できた。
 でも、お前はすでにレベルアップで強化されているから、改造してもそれほど意味はないと思うぞ。」


実際、僧侶レベル8の動きは改造を受ける前の俺よりも確実に上だと思う。


「ん~。」
「なんだ?」
「でも、たくさん動いてもあまり疲れないっていうのは魅力的なんですよね。 視覚の改造も。」


ああ… もう、面倒だ。


「わかった。 行くだけ行って、改造するかどうかはルヴィスと話しながら決めよう。」
「うん! お願いします。」


この反応…
俺が何を言っても改造してもらうつもりだったな。


「それじゃあまずは、王と話しておこう。」
「あ、そうだね。 僕達がアーリハーンに行っている時に万が一仲間が来た場合、引き止めて貰わないといけないよね。」


そのとおり。


「カンタダにも話しておくか。」


世話になったし。


「…彼は今頃姫様に」
「わかった放置する。」


説得と言う名のセクハラを受けているんだったな。


「あ、それと」
「なんでしょう?」


さっきからずっと気になっていたんだが


「ですます調で話すなら徹底しろ。」
「ぇ?」


俺が気づいていないと思っているのか?


「時々タメ口になってるぞ。」
「そ、そうでしたか? すいませ」
「確かに子供のフリを続けたほうが得だろうけど、それならそれでもっと気をつけなよ?」


童顔で小さいから勘違いしていたが、コイツ中学生じゃない。 二十歳過ぎてる。 間違いない。

俺の言葉に絶句して口を開けたままのアホ面を見て、そう確信した。



――――――――――



「これは?」
「上。」
「正解。」


正解したので、今居た位置から1メートルほど離れる。


「これは?」
「右。」
「正解。」


さらに1メートルほど離れる。


「じゃあこれは?」
「わかりません。」
「これは?」
「さっぱりです。」
「やっぱり視力が良くなっているわけではないんだな。」


これで確認したいと思っていた事が1つ確認できた。


「でも、前よりもくっきり見えています。」
「アナログからデジタルにしたみたいに?」
「…その例えは微妙だと思います。」


視力検査に使う記号っぽいやつ(名前がわからない)を書いた紙をくしゃくしゃにしてルヴィスに投げる。


「ちょっ ごみを投げないで。」
「すまん。 ゴミ箱かと思った。」
「どういう間違いよ!」
「はっはっは。」
「仲良しですね。」


コイツは…
怒るルヴィスとそれを見て笑う俺の様子を勘違いしているのか? …面白い。


「ああ。」
「仲良しじゃないわよ!」
「『力』のせいで経験値がすぐに溜まってしまうんで、なかなかアーリハーンから離れられなかったからな。
 そのせいでずっと一緒にいたから、こうやって軽口を叩ける仲になったんだ。」
「なるほど。」
「仲良しじゃないってば!!」
「照れるな照れるな。」


いいぞルヴィス。
お前の反応で、より深く勘違いしたっぽい。


「うーー」
「視力の後は… 聴力の検査方法なんてわからないから調べてないし…」
「さっきの素振りはどうでしょう?」
「ああ、そういえばやったな。」
「忘れないでくださいよぅ。」


子供のフリに磨きがかかったような気がするな。 俺の忠告が効いたか?


「…改造前は素振り80回で疲れちゃいました。」
「だったな。
 …とりあえず80回やってみて、疲れるかどうか、疲れないなら改造の効果があったって事で」


農業用のフォークで素振り80回って普通にすごいんだろうけど、僧侶レベル8だからだと思う。

俺も一緒にやったけど、100回やってもまだまだ余裕だったし… 学生時代、竹刀で20回くらいやった事があるが、あの時よりも疲れも痛みもなかったし。





「80回でまだいける。 100回できつい。 110回でダウン。」
「この、はあ、世界に、ぜえ、連れて、はあ、こ、ぜえ、られた、はあ」
「この世界に拉致された時点で怪我や体力の回復力が増している事を考えても、筋肉の質を改造した結果は出たな。」
「そう、はあ、です、はあ」
「呼吸が整うまで無理して話そうとするな。 な?」
「はあ、はあ」


俺の世界で素振り100回以上できるやつなんて、剣道やってた人なら簡単なんだろうけど、俺もこいつも剣道の経験どころか、『運動が得意』と言えるほどスポーツをしていたわけもはない。

それに振っているのは竹刀よりも長くて重たい農業用フォーク。

だというのにこれだけの事ができるという事が、ルヴィスによる肉体改造や経験値によるレベルアップの効果の恐ろしさを物語っている。

そういう風に考えれば考えるほど、精霊が人間のレベルアップをしない事を納得できてしまう。


「そろそろ、ロマルアに戻りませんか?」
「えー。」
「もしかして、眠いのか?」
「…はい。」


改造して素振りして…
肉体的なのは放っておいても回復するは… 回復能力を超えるほど疲労したか?


「改造もレベルアップも終わったし、ロマルアに飛ぶか。」
「ねえ、もう少しお話していきましょうよ。」


なんだかなぁ…

目をウルウルさせて頼まれても、ルヴィスじゃなぁ…


「もしかして、ずっと1人で暇なのか?」
「そうなの。 森とかなら植物とお話できるんだけど…」


え?


「お前、植物と話せたのか?」
「話せるわよ?」


おお…

異世界から拉致するとか、浄化とかレベルアップとか、そういうのよりも『ファンタジー』って感じのする能力を持っていたのか。


「なら、何か持ってきてやるよ。」
「本当!? じゃあ、お花よりも木を持ってきて! 」
「はいはい。」


花を持ってきてやろう。


「芽吹いたばかりの子でもいいからね!」
「はいはい。」


嬉しいのはわかったが、あまりしつこいと『忘れた』事にするぞ?


「ほら、この天井の穴から行くから」
「あ、はい。」
「しっかり掴まれよ?」
「はい。」


ぎゅうっ

子供のフリをするのはいいが、力を入れすぎだ。 改造受けた事を忘れるな。


「あ、冒険の書に記録しますか?」
「ああ! しておくよ!」
「え?」
「冒険の書に記録しました。 冒険の続きを頑張ってください。」
「おう。」
「何? 2人のお約束的な物なんですか?」


俺の『力』は『歩くと経験値が増える』という事になっているから真実は言えない。 でも


「仲良しだからな。」
「いいですね。」


まさか、さっきの嘘が言い訳に使えるとは思わなかった。



――――――――――



どどどどど


「スカラ バイキルト」
「おおお! バケモノどもを弾き飛ばせる!!」


どどどどど


む? モンスターの群れがあるな。


「イオラ」


どおおおおん


「おお! バケモノの群れがぶっ飛んだ!!」
「いちいち五月蝿い。 だまって走れ!」
「おう! そうだったな!! すまん!!」


どどどどどどどどど


ただでさえ、おんぶ紐が体にくいこんで痛いのを、落とされると置いてけぼりにされるから我慢しているのに…


「くそっ ピオリムが使えれば二日でダァマに着けるらしいのに…」
「はは、そんなに落ち込む事はないぞ? 二日と言っても、時々空を飛んで山越えをしたりするからであって… 今みたいにバケモノを回避しないで済んでいる事を考えると、思ったよりは早くダァマ着くぞ?」


おっさんの野太い声なぞ聞きたくない!!


「だまって走れー!!」
「はっはっはっは、君は怒りっぽいなぁ。」


こいつにおんぶされて移動する事に慣れたと言ったあいつは偉いわぁ…




ロマルアから出て三日半でダァマに着いたが、ルーラで僧侶を迎えに行く気力が俺には無かった。





091007/初投稿



[11659] 14
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/10 15:39



ピキィィイン!

ルーラで飛べるようになった時の感覚とは別にもう一つ、『何か』を感じた。


「これは?」
「結界だな。 コレのおかげで外のバケモノはこの中に侵入できないんだそうだ。」


ほう。

そんな素敵な物が存在するのか。 …神殿だからか?


「もっとも、外から入ってこないというだけで、浄化を怠ると結界の中でスライムとかが沸くのだがな。」


おい、それは「はっはっは」と豪快に笑いながら言う事では無いと思うぞ?

やっぱりこのおっさんは苦手だ。 …『苦手じゃないおっさん』というのも居ないけど。


「それじゃあ、ここで紐を解いておくか?」
「おう… そんな結界があるなら安全だろうし、何より疲れたし。」


きつく縛りすぎたと笑いながら言うおっさんの頭に拳骨をする事七回、やっと、大地の上に立てた。

ああ… 揺れないって気持ちいい。

自分のペースで歩けるって、なんて快感なんだろう。

いや、むさい男の背中から離れる事ができた、ただそれだけでも最高だ


後は寝床を探すだけだと思って辺りを見渡すと、モンスターの襲撃時にロマルアの北門で使われていたようなテントがいっぱいある。

あの童顔から聞いた話だと、確かダァマは神殿で働く神官達と、神殿を中心として難民キャンプのようにダァマ周辺の町や村、アーリハーンの民などが住んでいるはずだったな。

元々建っていたのであろう家屋はまばらで、その何倍ものテントっていう町並み(?)はなかなかシュールだ。


「まさかテント暮らしだとは思っていなかったけど… この際そんなのはどうでもいい、早く寝たい。」
「こらこら、ここではまだ休めないぞ?」


なん… だと…?


「我ら『精霊に選ばれた者』はなるべく神殿を使用するように言われている。 原則としてこのキャンプを利用してはいけないことになっているのだ。」


うええ


「だりい。」
「はっはっは。 もう少しの辛抱だ。」


うぜえ…

体調が万全だったらメラで燃やしてやりたいところだ。


「しかも、神殿は丘の上にあるし、階段長いし…」
「なんなら、もう一度おんぶするか?」
「断固拒否する!」
「はっはっは。」


くそう…

これなら普通に歩いてエルフの隠れ里を探したり、バブルスライムと合流したりすればよかった。

ギャザブやアッサーラムーやイススがどうなっているのか詳しく探索しながら、のんびりダァマを目指せばよかった。

そうしていたら、『精霊に選ばれた者』ではなく一般人としてテントを使わせてもらえていたかもしれないのに…


「ほら、ゆっくりでいいから歩こうじゃないか。」
「…わかってるよ。」





一時間ほどかけて丘と階段を上りきったら、オレンジ色の全身タイツの団体… 僧侶の服を着たのが50人くらいで出迎えてくれた。


「ダァマの神殿へようこそ。」
「どうもー。」


見た目で日本人だとわかる人が―― 5名?


確か、レバの村で救出されたのが10名。

それとは別に、『日の光に当たると空が飛べる』僧侶と、隣で笑っている俺をおぶっていた『ものすごく速く走れる』武道家、そしてリーダーの『すごく遠い場所も見える』僧侶と『影に入ると怪力になる』武道家の、『最初から自分がどんな『力』を持っているのかわかっていた4人』がいると言っていた。

つまり、ダァマの仲間は全部で14人。

1人はロマルアだから… 残りの8人は?


「待っていましたよ。」
「それはどうも。」


黒髪ロン毛の女の言葉に適当な返事を返す。

気になる事はある。
聞けば答えてくれるだろうとも思う。 けれど… 今はとにかく寝かせてくれ。


「ふふ。 疲れているようですね?」
「わかっているなら」
「ええ、気持ちはわかりますから。 ついて来て下さい。」
「おう。」


三日の間、寝るとき以外ずっとおんぶ状態で、それも猛スピードに揺らされていたために溜まった疲れは、改造されて回復力が増したはずの体でも休息がしなければならないほどみたいだ。

…駄目だ。 さっきから疲れている事しか考えられない。





「ここです。」


案内された部屋は1人部屋だった。
ちょっと狭い気がするが、宗教施設の建物の1人部屋ならこんな物なのかもしれない。


「明日、お話しましょうね?」
「はいよ。 おやすみ。」


やっとぐっすり眠る事ができる。



――――――――――



翌日


遅い朝飯を食べた後、黒髪ロン毛の女… リーダーと話し合う。


「肉体改造ですか。」
「ああ、2人はすでに処置済みだ。」


あのうざい武道家も処置済みなのだ。

アイツが来るまでロマルアを歩き回って経験値を溜めていたので、レベルアップのついでに連れて行って処置させたのだ。

元々体を鍛えるのが趣味だったおっさんの身体能力は馬鹿みたいに上がったのが憎らしい…


「それほどの効果があるのなら、希望者は全員… あ、もちろん戦士や武道家を優先して」
「ああ、そうしたほうがいいだろうな。」


戦力が爆発的に! …とはならないだろうが、持久力が上がればそれだけ生存率が上がるだろう。


「それが済んだら、キメラの翼を生産するのに協力してください。」
「キメラの翼を生産?」
「はい。」


実物を見た事無いけれど、翼に傷をつけないようにしてキメラを倒せばいいのか?

それともある程度レベルが上がった魔法使いが必要という事なのか? …でも、それだと道具屋に並べるほど生産できていたという事と矛盾しないか?

そもそも、ダァマ近辺にキメラがいるのか?


「全員の改造に数日かかるでしょうから、その間に準備をしておきます。」
「具体的に何をするんだ?」
「ちょっとグロい事です。」


わあ、素敵な笑顔ですね。


「いや、だから具体的に」
「ちょっとグロい事です。」
「具体的に」
「ちょっとグロい事です。」
「…」
「ふふふ。」


怖い。

コイツの笑顔はロマルアのお姫様と同じくらい… それ以上に怖い。 そして、それ以上に『黒い』。


「キメラの翼を作ったら、それで世界樹の精霊に会いに行ってもらいますね。」
「世界樹の?」


城でも町でも村でもないのに、キメラの翼で行けるのか…

まあ、行けないとこいつらのレベル上げができていないよな。


「はい。」
「何かあるのか?」


世界樹の精霊に興味はあるが、レベルアップとかならアーリハーンでルヴィスにして貰えばいいんじゃないか?


「機嫌が良い時に会えば世界樹の葉をくれます。」


え?


「死んだ人間を生き返らせる事が」
「できません。」


あ、やっぱりできないのか。

まあ、できるんだったらルヴィスが言っているよな。
あの言い合いの時に、『死んだら世界樹の葉を使わない限り生き返らないわよ。』って。


「このダァマの結界を維持するのに必要なんです。」
「へえ?」


この結界って世界樹の葉のおかげなのか。


「最初はいざと言う時の死者復活用として持っておきたいと思ったんですけど」
「そうだな。 もし俺に空を飛ぶ力があったら、できるだけ早い段階で世界樹の葉を取りに行っていると思う。」


死者復活できるアイテムは最高の保険になる。


「それで、おんぶして貰って空から世界樹を見つけて」


…山とかの障害物は、あいつにおんぶして貰う事でクリアしたのか。


「影を作って、怪力でぶん投げて」
「ちょっと待て。」


今、すごい事を聞いた気がするぞ?


「なんですか?」
「ぶん投げたってどういう事だ?」
「え?」
「だから、ぶん投げた」
「あら? 聞いていないのですか?」


ああ。


「あの童顔チビ、日の光の下でしか空を飛べないので雲の影に入っちゃうと落ちちゃうんですよ。」


なんという欠点。
雲の影くらい大丈夫だと思っていたのに…

というか、今すごく酷い言葉を聞いた気がするんだけd 気のせいですね、はい。


「目的地が晴れかどうか、近くに雲は無いかを私が見た後で…
 ほら、神殿の入り口に黒い布が巻かれて置いてあったでしょう? あれで影を作って怪力になってもらって、あの童顔チビを目的地まで投げ飛ばして、目的地に着いたら『力』でブレーキと着地をするんですよ。」


あの速度で空を飛べるなんてすごいと思っていたのに…
おんぶされてダァマに帰るという事を聞いた時にもっと疑えば良かった。

ん?


「という事は、世界樹にはあいつが一番乗りだったのか?」
「ええ。 それで精霊から色々聞いて…」


みんな、ショックだったんだろうなぁ…


「それからは… 晴れの日はできるだけ毎日空からレバの村を見て仲間を集めたり、経験値を溜めては世界樹に行ってレベルアップしたりを繰り返していると…」
「繰り返したりしていると?」
「その… ダァマにあるキメラの翼を使い切っちゃいまして…」


なるほど。


「それで、レバの村を見る事をやめたんですけどね。」


ん?


「なんでだ?」
「だって… 助けられないとわかっている人を見つけても辛いだけじゃないですか。」


それは… そうだな。

キメラの翼が無くなった時点で、俺達の運命は…





それはそれとして



改造希望者をアーリハーンへ連れて行き、それが終わったらキメラの翼を作るのを手伝い、世界樹の精霊に会いに行って…

これから忙しくなるな。





091010/初投稿



[11659] 15
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/13 21:20


ダァマに着いて仲間と合流できた事だし、ここらで状況をまとめてみよう。


この世界は俺達の世界のゲームのドラクエ3に非常に似ていて、現在ヴァラモスというモンスターに支配(?)されている。

精霊であるルヴィスが様々な世界へ旅をしていて、俺達の世界で予定以上に留まってしまった間に奪われてしまったとの事。

そう言えば、何の目的で世界を旅する事になったのか聞いてなかったな… どうでもいいけど。


で、この世界には精霊が3人。(1人、2人という数え方で良いのかは不明。)

それぞれアーリハーンと世界樹とエルフの隠れ里に居て、穢れを浄化し続けている。 面識があるのはアーリハーンのルヴィスだけ。

俺以外の仲間(1人除く)は世界樹の精霊と面識がある。


ルヴィスによってこの世界に拉致されたのは44人。
内22人は死亡(元スライム現バブルスライム含む)。 7人は生死不明。

そして、ダァマに集まった俺達『精霊に選ばれた者』は全員で15人。 それぞれ何かしらの『力』に目覚めている。


1人目は『すごく遠い場所も見える』リーダー(僧侶レベル9)

黒髪ロン毛の女性。 年齢不詳。

その力でモンスターの群れが襲ってくるのを誰よりも先に見つけていたら、いつの間にかリーダーだったらしい。

…みんなをなんとかまとめている苦労人。 毒舌になるのも仕方ない、と思っておく。



2人目は『日の光に当たると空が飛べる』使いパシリの童顔チビ(僧侶レベル8)

ロマルアやイススでニフラムをして回っている。
もしかしたらこのメンバーの中で一番忙しく働いている人。

子供のフリをしている。 それが上手くいってカンタダに『立派な人』と言われていた。

俺のルーラで精霊に会いに行ける事をすごく喜んでいた。 レベルアップがしたいらしい。



3人目は『ものすごく速く走れる』うざいおやじ(武道家レベル11)

喋り方がうざい。 もう二度とおんぶされたくない。 でもその足の速さは少し羨ましい。

レバの村でダァマに仲間が居る事を知って、1人でダァマまで走ったと言っていた。
リーダー達による救助活動が終了してから合流した最初の1人らしい。


「その足の速さがあれば、アーリハーンに戻ってレベルアップできたんじゃ?」


そう俺が聞いたら、


「1人だけレベルアップしたら皆に悪い気がして…」


魔法使いに転職してルーラを覚える方がよっぽど『皆のため』になったと思うんだが?

まあ、童顔チビをロマルアからイスス、イススからダァマに運び、またロマルアに走ると言う生活をしていては無理か。



4人目は『影に入ると怪力になる』おかっぱ娘(武道家レベル14)

高校三年生らしい。 出席日数計算したら今すぐ戻れても留年だと愚痴られた。


「大丈夫、ココにいる皆は全員捜索願が出されているさ。」と言ったら殴られた。 レベル高くなかったら骨折していたな。


おそらく対ヴァラモス戦で… というか屋内での戦闘全てにおいて一番の火力。

世界樹やロマルア、その他に僧侶をぶん投げるお仕事ご苦労様です。



5人目は『世界樹の葉を使って結界を張れる』引篭もり(僧侶レベル2)

世界樹の葉を見たときにキュピーンと感じたのだそうだ。

その力でダァマを守っている。
一度結界を張ったら効果がきれるまで放置してもいいのにずっと部屋に篭っている。


「戦闘だりぃ」と言っていた。


たまに神殿内をニフラムで浄化している。 レベルを2に上げたのはそれが目的だったんだな?



6人目は『話しかける事で植物の成長を促進する』ダァマの食料事情を支えるゲーマー娘(武道家レベル3)

植物は話しかけたり、音楽を聞かせたりすると良く育つという説を実践している高校三年生。 先に紹介したおかっぱ娘と仲がいい。

…いろいろ考えると『植物を操る』のが本当じゃないかと皆思っているが、ダァマやアーリハーンの人達との交渉の要なので誰も突っ込まないのだそうだ。

植物を育てるのに忙しいので神殿で見かける事は少ない。



7人目は『問答無用で経験値を浄化する』永遠のレベル1(僧侶)

最初はどうしようもない足手纏いだと思われていたが、キメラの翼が無くなってからは浄化要員として大活躍中。

一度挨拶しただけなのでそれ以上の事はわからない。 とっても忙しいらしい。

可憐な美少女だったら間違いなくヒロインな『力』なのに、残念ながら痩せている男。 大卒のプー。



8人目は『魔法の威力or効果を増加する』高所恐怖症(魔法使いレベル9)

メラなのにメラミよりもすごい炎だった。
ギラなのにベギラマよりもすごい炎だった。

だけど高所恐怖症。 神殿の階段の上り下りさえ怖いらしい。

こいつがルーラを使えれば救えた命がどれだけあったか… 本人もそれを自覚しているから言わないけどね。

最大の火力キャラ。 …MPさえあれば。



9人目は『未だ不明』自称社長(戦士レベル12)


「昔、野球少年だったんだ。」


そう言って特注の鉄の棒を振り回していた。

…野球って、バットを横に振る事はあっても縦に振る事は無いと思うんだ。

危険人物その1



10人目も『未だ不明』コンビニ店員(戦士レベル12)


「剣で切ると血で汚れるから」


そう言って、自称社長と一緒に鉄の棒を振り回していた。

血以外の物が滅茶苦茶飛び散っているんだが、それについてはどう思っているんだ?

危険人物その2



11人目も『未だ不明』腐女子?(戦士レベル15)


「おんぶ紐で固く結ばれる2人…」


ハァハァと荒い呼吸をしながらそう言っていた。
ネタなのか、それとも本性なのかわからないが、どちらにしても変人。

何気にレベルも高い。

危険人物その3



12人目も『未だ不明』空手家(武道家レベル15)
13人目も『未だ不明』空手家の弟子(武道家レベル11)

2人、神殿の外で鍛錬していた。 この世界に来てから師匠と弟子になったそうだ。


「はっ! はっ! はっ! はっ!」


ダァマの神官達が、朝の早い時間から訓練をするのはいいのだけれど…と前置きした上で、五月蝿いのをどうにかできないか?と文句を言っていた。



14人目も『未だ不明』ニフラム大好き(僧侶レベル8)

前衛が倒した敵にニフラム。 弱った敵にニフラム。

それだけなら問題無いのだが、元気な敵にもニフラムをする問題児。

確かに、ニフラムで敵は弱体化するけど、ルカニのほうが効率がいいぞ?



最後に『死んだら冒険の書に記録した時点の状態に戻る』『1歩ごとに1ずつ経験値が入る』俺(戦士レベル15、魔法使いレベル26)

最近覚えたマヒャドで敵を凍らせてバイキルトで強化した攻撃で砕く!
鎖かたびらと皮の鎧を着け、さらにスカラで防御力上げているので大怪我もしない。

ルヴィスの改造のおかげでMPは徐々に回復するし、切れても近接攻撃をしながらマホトラで回復する。

これで回復魔法とピオリムがあればなぁ…



――――――――――



「どうしました?」
「なんでもない。」


…ちょっと現実逃避をしていただけだ。


「そうですか? それじゃあ、ささっと終わらせましょう。」
「はいはい。」



キメラの翼の作り方。


用意するもの

①強めのモンスター数匹(雑魚でもいいが、その場合大量に必要。)

②そのモンスターを遠距離で倒せる戦力。

③ヒヨコっぽい何か

④翼を傷つけないようにキメラモドキを倒せる戦力。

⑤職人と専用の道具



手順


①遠距離から大量のモンスターを倒します。

②モンスターから穢れが出るのでヒヨコっぽい何かを投げます。

③一時間ほど待つと、ヒヨコっぽい何かに穢れが集まってキメラモドキに変化します。

④変化した直後はそんなに強くないので翼に傷をつけないようにキメラモドキを倒します。

⑤職人が翼に特殊な処理をします。

完成

戦力に問題が無いなら、倒したキメラモドキから出る穢れにヒヨコっぽい何かをまた投げて繰り返しましょう。





「バイキルト」
「スカラ」


自分にバイキルトをかけ、高所恐怖症にスカラをかけてもらう。

戦士は3人いるのに剣を使えるのが俺だけとか… 何の罰ゲームだよこれ…


ごおおお


「ヒャド」


火の息を吐こうとしたので嘴を凍らせる。

最初の一匹、ヒヨコっぽい何かの変貌ぶりに驚いていたらいきなり喰らってしまったが、同じ失敗はしない! …まあ、喰らったところでそんなに痛くないのだけれど。


「くそったれ!」

ざしゅっ

すっかり使い慣れた鋼鉄の剣は『叩き切る』タイプの剣なので今回は使えない。

なので専用の剣を振り下ろして右の翼を切り落とす。 幅広片刃の… 刃渡り1メートルほどの中華包丁と言えばわかるかな?


「もーうっ いっちょぉぉおおお!!」


ざしゅっ

下から切り上げて左の翼を落とす。


「確保ーー!!」
「おおおーーー!!」


落とした翼をその足の速さを活かして回収するおっさん。


「ヒャド!」

カチーーン!!


地面に落ちたキメラから距離を取ると、高所恐怖症が止めを刺した。


「元気に育てー。」
「すぐに切られるけどねー。」


すぐさまヒヨコっぽい何かを投げる高三女子ズ。

最近の子って…


「これで翼が6個。 遠距離で倒せているので… 翼に残ってしまう分を考えても後三回はヤレますね。」


うげぇ… まだ続けるのk

ん?


「なあ…」
「なんでしょう?」
「疑問に思う事があるんだが?」
「お前達、キメラの翼を100個以上使ったんだよな?」
「はい。 それがどうかしましたか?」


わからないのか?


「肉体改造もレベルアップもしない奴らが50匹以上もアレを倒したのか?」


それほど強くは無いけれど… 普通の魔法使いが使えるのはメラという事や、俺達と違ってレベルアップできない事などを考えると連戦も難しい…


「ああ、それはですね」


俺の疑問に笑顔で答えるリーダー


「この翼、かなり大きいでしょう?」
「それが?」
「これ1個でキメラの翼が20個は作れるらしいですよ?」





「あらかじめ翼に切れ目を入れて、火の息に気をつければガチガチに固めた戦士10人で何とかなるそうです。」





「あの、どうしました? 急に黙り込んじゃって。」





「もしもーし?」





「どうしまs」
「俺がルーラ使えるんだから、20個もあれば十分だっただろうが!!」





091013/初投稿



[11659] 16
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/16 21:10



キメラモドキの翼を職人さんが加工している間に、ちょっとした実験をする事になった。


「それじゃあ、行くよ?」
「嫌だ。」


こんな情けない死に方は嫌だ。
というか… 「失敗したら死ぬ」って言っているのに、無理やりこんな危険で無謀な事を実験しないといけないのか?


「いざという時はルーラを使えば大丈夫ですよ。」


黙れ、この童顔チビ…


「空中でルーラを使える事は実証済みだが、だからと言ってこんな」
「とりゃぁぁぁあああ!!」


ぶおぅん!!!

おかっぱ娘が大声と共に世界樹の方向に童顔をぶん投げた。


「って!? うぉああああ!?」


何してやがるんだこのおかっぱ娘!? 人の話を聞いてねぇぇええええ!!


実験のために、童顔チビと俺は丈夫な縄で結ばれていたので…

がくん!!


「うわぁぁああああんん!!」


腹が! 内臓が! 縄が食い込んで苦しい!!!


「世界樹の元へ!!」


そんな童顔チビの声を、気絶する瞬間に聞こえた様な気がした。



――――――――――



目が覚めると、そこは木がたくさん生えている場所だった。


「あー、縄の跡が腹にくっきり…」


どんなプレイだよ…


「あ、本当に起きてる。」
「『起きてる。』じゃねーよ。 ほんと、死んでたらどうするつもりだったんだよ?」


お前達にとっても貴重なルーラだろうに…


「大丈夫ですよ。 高所恐怖症で暴れられるよりも気絶していてくれたほうが楽でしたし。」


確信犯か!!


「そんな事よりも、ほら、世界樹の精霊に会いに言ってください。」


この野郎…


「そんな怖い顔で僕を見ないで、あっちのほうを見てください。」


あっち?

指さされた方向には、とてつもなく大きい樹があった。


「あれが、世界樹…」
「そうだよ。」


なぜだろう?
目の前にあるそれを、ただ見ているだけなのに…


「はい。」


ハンカチ?


「涙が出ているよ。」


ぅぉ… いつの間に…


「僕も、初めて見た時… 同じように涙が止まらなかったからね。」
「そうなのか?」
「うん。 今じゃもう慣れたけど、それでも心に感じるものがあるし…」


この感動に慣れるのか…

人間って便利だけど、残念な生き物だな…


「君が気絶している間に僕の用事は終わったんだ。 で、君とは2人だけで話がしたいって事だったから、僕は先に帰るね。」
「わかった。」


その後も1人、ずっと世界樹を見ていた。

涙が止まるまで、そこから動けなかったのだ。



って! キメラの翼持っていたのかよ!?





「あなたの事は良く知っている。」


遅すぎるツッコミの後、溜息をつきながら世界樹に近づくと、淡い光と共に現れたルヴィスのお姉さんって感じの精霊が、開口一番そう言った。


「なんでだ?」


ストーカー?


「私は世界樹。 この世界の植物全てと繋がっている。」


なるほど。

世界樹『の』精霊と聞いていたが、世界樹『が』精霊なのか。


「俺の… いや、俺達の情報は全て知っているという事か。」


つまり、この世界の草木全てがこいつの情報源という事。

隠し事はできない。

…ヴァラモスを倒したら元の世界に帰る予定の俺とアイツらには精霊に隠し事をする事なんて何もないから別に良いけど。


「ふふふ。」
「何がおかしい?」


ルヴィスにそっくりな顔で笑われるとムカツクな…

そもそも、この世界で笑われるような事をした覚えは無いんだが?

…三回死んだっぽいけれど、それは笑われるような事ではないだろうし。


「その不機嫌な顔が全てを物語っている。
 あなたは、私が積極的にあなた達の情報を集めていると思っているのだろう?」


む?


「違うのか?」


俺の問いに首を縦に振る精霊。


「あなたはあの子に花を渡した。」





「それが嬉しかったのか、あの子は毎日あなたの話を花にしている。
 だから、私はあなたの事を知っているのだ。」


あの子? 花? …!


「ルヴィス?」


でも、花を持って行ったら「どうして木じゃないのーー!」って怒鳴っていたんだが?


「そうだ。」


ルヴィス…
首を洗って待っていろ…


「人工物の中で穢れを浄化し続ける事が、勝手に外の世界に行った罰だったのだが…」


あの場所にいる事って罰だったのか?
浄化が終わったら別の場所に行くとか言っていたはずだが?


「あなたが渡した花に毎日語りかけるほど精神的に参っているようだ。 罰として正解だったな。」


ニコニコ笑いながらそう言い切った。

もしかして、コイツってSなのか?


「私はあなたの本当の『力』も知っている。」
「そりゃ、そうだろうな。」


世界樹の精霊は微笑みながら近づき、両手を俺の胸に重ねた。


「何だ?」
「あなたの『力』なら、この『力』を『絶対に無駄にしない』だろう。」
「何の事だ?」
「すぐにわかる。」


!!!


「がっ  ぁ?」






ものすごい衝撃と共に、精霊から送られてくる力が俺の体の中で形になる。





「さあ、あの子に記録をして貰ってくるといい。」
「無理。 まだ体中が痛い。」


それに、全身が… 正座をして痺れた足みたいになっている。


「ならばなおさら早く行くといい。」
「なんでだよ?」


俺の問いに世界樹の精霊は、綺麗に微笑みながら


「その苦しんでいる状態をあの子が見たら、膝枕… それ以上の事をしてくれるかもしれないぞ?」


そう言った世界樹に、俺は文字通りの意味で雷を落とした。



――――――――――



ルーラを唱えた後、目的地までテクテクと歩く。

廃墟を抜けボロボロの城の中に入り、二階に上る。


「あら? 今日は1人なの?」


最近は改造やレベルアップのためにダァマの仲間を連れてくる事が多かったからか、来たのが俺1人なのが気に入らないらしい。


「ねえ? どうしたの!?」


ぐぁし!っとその顔を掴んで床に投げ倒す。


「ぎゃぴっ!?」


悲鳴を上げて倒れるそいつにさらに技をかける。


「お前は、本当にろくな事をしないな?」
「痛い痛い! 関節技はやめて!!」


馬鹿が泣き叫ぶが、それは想定の範囲内。


「俺の事をべらべらと喋っていた罰だ!!」
「いーーたーーーいーーーー!!!」


あいつの記憶のおかげで技のレパートリーは豊富なんだ。


「『痛い』の他に、言うべき事があるだろう!!」
「ごべんばばいいい!!」


その言葉で技を解く。


「ぅぅぅぅぅ。」
「お前の独り言のせいで俺の個人情報が世界樹に駄々漏れだった事についての弁明を聞こうか?」
「う!?」





「今まで一人で寂しくって、お花さんとお話できたのが嬉しかったの…」
「だからと言って、俺の話をしなくてもいいだろうが?」
「ぅぅぅぅ…」


まったく。 本当にこの駄目精霊は…


「私だって、いろんな話がしたかったわよ…」


ん?


「あっちの世界の歴史とか科学技術の話とか、たくさんの子供達が笑顔になる玩具やゲーム、私が好きなライトノベルやアニメの話とか…」
「おい?」
「ちょっとえちぃのとかやおいとかの話もしたかったわよ!!!」


…こいつ、自分が何を言っているのかわかっているのか?


「でも、お花さんが全然興味を持ってくれないんだもの!」


花がそんな話に興味津々だったら、そっちのほうが嫌だと思うのは俺だけか?


「共通の話題があなたの事しかないんだから、他の話なんてできるわけないじゃない!!」


がすん


「もういい、黙れ」
「ぅぅ… せめて拳骨をする前に言って欲しかったわ…」


世界樹の半分… 1%でもいいから威厳があればあなぁ…

そんなどうしようもない事を思いながら袋から預かり物を取り出す。


「ほらよ。」
「これは?」


全身の痛みと痺れがとれた後、あいつはルヴィスに渡すようにと小さな箱を渡されたのだ。


「お前が開ければわかるらしいぞ?」
「何かしら?」


ルヴィスは、さっきまで泣いていたのが嘘のように笑顔で箱を開ける。


「これは!」
「なんだ?」


箱の中には世界樹の葉をクッションにして一粒の小さな種が入っていた。


「世界樹の種…」
「ほう?」


なんか、重要アイテムっぽ


「私… これがあれば世界樹とお話できるわ!!」


なんだ… 期待して損した。





091016/初投稿



[11659] 17
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/19 21:04


ダァマにはアーリハーンの他にもたくさんの村や町から避難民が押し寄せている。

ドラクエ3で黒胡椒イベントのあるバハラタの町に相当するバーラタの町から三百人近く。

オルテガがポパなんとか?と呼ばれていたムオルの村に相当するモールからは百人ほど。

そんな避難民と元から住んでいる神官、そして俺達を合わせて千人ほどがダァマで生活しているわけだが…





「はぁぁぁっ!」


ずばぁっ


どう見ても『ビキニアーマー』としか言えない格好をしたバーラタの町出身のダニアさんという女戦士がいる。

彼女はカンタダと同じレベルアップできる体質らしく、カンタダが持っている様なのと似た形の斧でモンスターをばっさばっさと…


「というか、どう見てもカンタダの関係者だよね?」
「腹違いの妹らしいよ?」


高所恐怖症の彼は神殿に住む事を嫌がって志願兵達の宿舎に寝泊りしているからいろいろ知っているみたいだな。


でも、腹違いねぇ…

あの日、王に「オヤジの事は言うな」みたいな事を叫んでいたのはそこら辺の事情か?


「詳しい事は言えないけどね。」
「いや、面倒な事情とかはどうでもいいんだ。」


そこら辺は姫様がカンタダを説き伏せれば言いだけの事。


「へえ。 結構ドライなん」
「それよりも気になる事がある。」
「なんだい?」
「露出狂の家系なのか?」

「は?」

「『はっ?』じゃない。 レベルアップできる体質イコール露出狂なのかどうか…」
「いやいやいや、それこそどうでもいい事じゃな」
「はぁ…」


結構重要な事なのに…


「なにさ、その溜息は?」


今度レベルアップする時にルヴィスに聞いてみるかな…


「お前、1人だけレベルが高いからっていい気になってるんj」
「今度ルーラで世界樹まで飛ぼうか?」
「すいませんでした。」


見事だが、戦闘中に土下座はやめとけ。 命に関わるぞ?


「高所恐怖症は仕方ないけどさ、おんぶして貰ってアーリハーンまで行けば良かったのに…」


そうしたら高レベルな武道家と魔法使いのコンビが出来て、もっと攻略できていたはずなんだぞ?


「冗談はやめてくれ。」


残念ながら、冗談を言った覚えは無い。


「ダァマからロマルアまでピオリム無しだと四日だよ?
 アーリハーンまで行ったら一週間おんぶされっぱなしって事になるじゃないか」


そこは我慢しろよ。


「レベルアップするために経験値を溜めている状態であの揺れに一週間とか、俺に死ねと言うのか?」
「ルーラやキメラの翼よりはいいんじゃないの?」

「どっちも嫌だ!」


わがままだなぁ。

だったらロマルアに住んで、経験値溜まったらアーリハーンに行くとか、色々考えればよかっただろうが…

どうせ十日に一回は浄化のためにあの2人が来るんだから、不可能な事ではないぞ?


「はあ… 言いたい事はいろいろあるけど、とりあえず大声を出すのはやめておけ? モンスターが寄ってくるじゃないか。」


『モンスター討伐』兼『キメラの翼作り』のためにダァマの外で狩りをしているのを忘れるなよ?


「出させているのは誰だよ…」


知らん。





それにしても暇だなぁ。


「なあ、MP切れの魔法使いを守るMP切れていない魔法使いってどうなんだろ?」
「レベル低くてすいませんねー。」


まったくね。


「俺は剣でも戦えるのに…」
「へーへー」
「お前の我慢が足りないから、戦力を無駄にすることになる。」


もったいない。


「そんな事言っているけどさ… お前、ただ単に切りたいだけだろ?」
「酷い。 人を精神異常者のように言うなんて… この鬼畜!」
「鬼畜て…」


どっちかというと魔法をガンガン使いたい。



――――――――――



キメラの翼を量産して、レベル15の腐女子と空手家を魔法使いに転職させた。


「これで私も魔法少女か…」


腐女子だと思ったらそっち系もいけるのか。


「魔法かぁ… 別に殴ってもいいんだろう?」


別に構わんが、MP切れてからにしろ。


「キメラの翼も2人がルーラを覚えるまでは余裕であるから、頑張ってレベルを上げるといいよ。」


さっきまで経験値が溜まり過ぎて気分悪いとか言っていた2人にそう告げる。


「はーい。」
「ああ、わかっている。」


ムカツクくらいいい返事だな。


「先に帰ってくれ。 俺は服が乾くまで世界樹と雑談しとく。」


着地と同時に吐きやがって…

2人を運ぶために軽装で良かった… 皮の鎧とか着ていなくて本当に良かった…


「えー? 節約しようってリーダーが言っていたじゃない。」
「そうだぞ? 節約は大事だ。 キメラの翼が要らなくなったら売って活動資金にすると言っていたじゃないか。」

「てめぇらのゲロで汚れたのは誰だ?」

「すいませんでした。」
「申し訳ない。」


帰れ。 もう帰ってくれ。





帰ったな?


「で、バブルスライムの居場所はわかったのか?」
「うむ。」


ルヴィス経由で頼んでおいて良かった。


「プートガでエジンバから逃げてきた人間の遺体を見つけたようだ。」
「うん?」


どういう事だ?


「エジンバはプートガからの避難民を拒否したらしい。」
「なんでだ?」


いざという時の避難協定があるんじゃないのか?


「それはわからないようだ。」
「それじゃあ、エジンバのある島に生えてる植物達から情報を集めて」
「できぬ。」


人が話している時は最後まで聞こうね?


「あなたに頼まれてから、ずっとバブルスライムの事を探っていた私が、その事を調べなかったと思うのか?」
「これから調べるんじゃないのか?」


世界樹はルヴィスと違って常識を知っているから、俺が提案しなくても調べるとは思っていたけど?


「エジンバに生きている植物がおらんのだ。」


は?


「そんな事ができるのか?」
「できるのだろうな。」
「例えばどうやって?」


エジンバのある島は結構でかいぞ?


「火の魔物が焼き尽くしたのか、海の魔物が大津波でも起こして島を塩だらけにしてしまったのか…」


そんな事ができるモンスターがいるのかよ…


「あるいは、飢えた人間が食い尽くしたか。」
「なんだそりゃ?」
「あの島はそれほど実り豊かな地ではないのでな? ありえない事ではない。」


救いがねぇ…


「エジンバが協定を破ってまでプートガの民を追い返したのだ。 食料の問題があったと考えたほうが自然なのかもしれんな?」
「なんなんだか…」


でも、モンスターにやられたと考えるよりもそっちのほうがいいかな?
ヴァラモスを倒す事だけでも大変なのに、それ以外の強いモンスターも倒せとか言われたらキレる自信がある。


「あの者は渇きの壷を手に入れようと考えているようだぞ?」
「はぁ? なんでそんな物を?」


大量の水を持ち運ぶくらいにしか使い道がないぞ?


「あ! まさか、最後の鍵を手に入れるのに必要だと思っているのか?」


アーリハーンの島からロマルアへの旅の扉を利用した時、迷路みたいな通路ではなく馬車が3台は通れるくらいの一本道だと知って

「下手に迷路を作ってモンスターの姿が隠れるよりも便利かもしれないな?」
「そうだね?」

と話し合った事もあるのに… でも


「俺もダァマに行く道で魔法の鍵が必要な扉が無い事を知るまでは、鍵が必要な扉はイオで壊そうと思っていたからな…」
「なかなかに過激だな?」
「そうか?」


過激と言われるほどではないと思うんだが?


「だが、あの者はもっと過激なようだ。」
「うん?」
「『ヴァラモスが城の地下にいるなら、渇きの壷で海の水を汲んでおくのもありだよね!?』と叫んでおる。」


まさかの水攻め!?


「ヴァラモスが海の水の中でも生きていられる魔物だったらどうする気なのだろうな?」
「まったくだ。」


肉体改造とレベルアップで強くなっているといっても海中で息を止めながら戦える自信はない。 呪文を唱えられないから魔法も使えないし。


「これをお前に託そう。」
「ん?」


どこかで見たような気がs!

これってロトの紋章じゃないか!?


「こ、こ、これは?」


レアアイテムか!?


「それを持っていればエルフの隠れ里に入る事ができる。」






どーせその程度のアイテムだと思ったよ!!


「どうした?」
「なんでもない。」


俺は何も期待していない。 期待していないんだ…


「話は通してあるからエルフとドワーフが作った武具を貰ってくるといい。」


武具!? って駄目だ。 期待してはいけない。

この中途半端にファンタジーな世界で何かを期待しても裏切られるだけだ。


「他の誰かではなく俺に渡すって事は、俺が『無駄にしない』からか?」
「そうだ。」
「わかった。」





091019/初投稿



[11659] 18
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/22 21:16



「何というか、悲しい『力』ですね?」
「ああ。 でも、良いヤツだ。」


世界樹との話し合いの後ダァマに戻り、エルフの隠れ里に武具を貰いに行くついでにアイツと合流する旨をリーダーと他数名に話した。


「そうですね… なら、あの人と組んでもらいましょう。」
「そうだな、普段戦闘を避けているせいでレベルが低いままだし…」





善は急げという事で、会議が終わってすぐにルーラでギャザブの村まで飛んだ。

ロマルアからダァマへのおんぶ移動の時に「ルーラで行ける所を増やしておきたい」と我侭を言っておいたのは正解だった。


「世界樹からの情報によれば、ここに」


いるはずなのだが… と続ける前に自己主張してきた。


「ここだよ! ここ! 久しぶりだね!!」
「よう。 二週間ぶりくらいだな。」


バブルスライム発見。 元気そうで何よりだ。


「あれ? 君一人だけなのかい?」


ん?


「俺以外の誰が来ると思っていたんだ?」
「そう言われると答えづらいんだけど…」


何だ?


「突然目の前の草がさ? こう… うねうねって動いたかと思ったらさ? 『ギャザブにおいで』って文字になって驚いたんだよ。
 だから… そういう… 植物を操るような『力』を持った人も一緒なんじゃないかなって思ったんだよ。」


なるほど、そういう事か。

確かに植物を操れそうな仲間もいることはいるが…


「残念だったな。 あれをしたのは世界樹の精霊だ。」
「世界樹の精霊?」


あいつはなかなか話がわかる奴だ。


「じゃあ、魔法の鍵とか船とかは先輩達がすでにGET済み?」


世界樹=船が必要という知識があるというのも問題だな…


「はあ、一から説明しないといけないんだったなぁ…」


面倒… だが仕方ない。



これこれしかじかかくかくうまうま



「そっかー。 じゃあエジンバに行けなくて良かったんだ。」
「ああ。」


例えエジンバが無事だったとしても、バブルスライムを入れてくれるとは思えないけどな?


「ボートを見つけたのはいいけどこの体じゃどうしようもなかったから途方に暮れていたんだよねー。」


エルフの隠れ里に入れなかったからって、1人でどこまで行っていたんだか…


「それで、僕はこれからどうすれば?」


ふふふ


「三択!!」
「え?」
「1、仲間と合流。 ただしバブルスライムはやめろ。
 2、イススのピラミッドへ単独で潜入。 要は宝探し。
 3、ホイミスライムかメタルスライムを探して憑依。 この中から選べ!!」



突然の大声にバブルスライムは驚いている。 追撃チャンス!


「選べ!」
「え?」
「選べ!」
「ちょっとまっt」
「選べ! 選べ! 選べーー!!!」



――――――――――



ギャザブの村からナニールの村まで一日、さらにエルフの隠れ里まで一日かかった。

ダァマのようにな結界が張ってあった為に途中でそれ以上前に進めなくなったのだが、世界樹からもらったロトの紋章っぽい物を掲げるとすんなり進めるようになっ


「これ以上進むと死ぬ。」
「だな。」


ルヴィスに関節技をかけている時に感じたのと同じくらいに澄んだマナの気配… ようするに穢れが殆ど無いのがわかる。


「予想通りだけど、残念。」
「できればそこで、キツイならナニールで待っていてくれ。 貰うもの貰ったらすぐに合流する。」
「わかった。」


合流したばかりでまた離ればな…

ん?


「誰だ?」
「魔物の気配を感じて来てみたら、紋章を持つ人間がいるとはな…」


おー、エルフだ。 当たり前だけど初めて見た。


「お前の事は精霊様から聞いている。」
「そうなの?」
「そうだ。 紋章を持つ人間が来たら精霊様の下へ案内するように言われている。」


それはありがたい。


「そこの魔物を殺したら案内してやるから、少し待っていろ。」


ちょっ!





「精霊様がこちらでお待ちです。 こちらへどうぞ。」


…とても丁寧な言葉使いだけれども、その仏頂面で全てが台無しになっていると教えてあげるべきだろうか?


「そう言えば、外のホイミスライムを攻撃してはいけない事を皆に伝えなければならないな…」
「ああ。 よろしく頼む。」


それに、ホイミスライムを探すのが大変だったんだぞ?


「無害な奴だから放っておいてくれってな?」
「正直、あの姿を見ていると哀れに思う。」


ん?


「肉体が滅んだ後も生きられるという『力』… だが、あの様な姿に成らねばならぬとは…」
「それ以上は言うな。」


ムカッときた。

あいつは、もう元の世界に帰る事を諦めているのに…


「生き残った同郷の仲間のために(アイツなりに)頑張っているんだ。 それ以上は俺への侮辱と取るぞ?」


それに、確かに間抜けな顔だけど、バブルスライムよりはましだと思うんだ。


「ぁ… そんなつもりではなかったのだ。 すまない。」


気まずい空気のまま精霊の元に案内された。

はあ… エルフさんと仲良くなるのは無理っぽいな…





「何故に?」
「そちらの世界の書物を読んで気に入ったのだ。 何か問題が?」


どんな本を読んだのか気になるが、気に入ったのなら仕方ない。


「いや… 似合っていますよ、アフロ。」


悲しいほどにね…


「ふふふ… どうだい? 君達には不人気だったけど、人間にはわかって貰えたよ。」
「くっ!」


なんてこったい。 エルフの皆様には不人気だったとは…

あああ… エルフさんに睨まれた…
友好的とは言わないまでも、せめて嫌われないようにしようと思っていたのに…





アフロ談義の後に案内された倉庫のような建物の中では、数十人がコールドスリープみたいな状態になっていた。

コールドスリープと言っても別にポッドの中で凍っているわけではなく、ただ寝ているだけのようにしか見えないが。

おそらくはナニールの村の人達なのだろうけど…


「すごいな…」
「プートガとエジンバにこの人間達を受け入れる余裕が無い様子だったのでな。 私がエルフ達に頼んだのだ。」
「なるほどなぁ…」
「ふふふ。」


さっきもその笑い方だったが、精霊は「ふふふ」と笑うのがデフォなのか?


「知っていると思うが、この世界は君達の世界の『ドラクエ3』というゲームに似ている。」
「ああ、そうだな。」
「人間を保護するこの方法、エジンバに向かった君と同郷の者の記憶から知ったのだ。」


ん?


「エジンバに向かった?」
「そうだ。 『モンスターに気づかれる事無く水の上を歩く事ができる』者だったようだな。」
「それはなかなかいい『力』だな。」


水の上を歩けて、その上モンスターに狙われなくなるって、使い勝手が良さそうだ。


「私は『ドラクエ3』の存在を知った時、いくつかの可能性を考えた。」
「うん?」


可能性?


「例えば、『ドラクエ3があるからこの世界がある』と仮定した場合、ヴァラモスを倒してもゾーマに相当する者がいる可能性がある。」


あ…


「『可能性』でしかないが、な?」
「う~ん。」


この世界はゲームのようには行かないと思っていたけれど、「ヴァラモスを倒せ」と言うのを鵜呑みにしていた。


「他にも色々と考えられる『可能性』があるが、最悪なのがそれだ。」
「確かに…」


ヴァラモスを倒してもゾーマが居たのでは元の世界に帰れるかどうか…


「そこで、私は考えたのだ。」
「何を?」
「ヴァラモスの結界を逆に利用して世界を閉ざす。」
「は?」


世界を閉ざす?


「この世界は、他所の世界からこの世界に召喚できるが、この世界から他所の世界に行く事ができない状態にあると聞いただろう?」
「ああ。」


それが出来ていたらルヴィスは真っ先に逃げ出していると思う。


「それを逆にする。」
「つまり、この世界から他所の世界にいけるが、他所の世界からこの世界に来られないようにする?」
「そうだ。」


それならゾーマが居たとしてもこの世界に干渉できない…


「この方法なら君達も元の世界に帰れるだろう?」
「ああ。」


それはいいかもしれない。


「ほら、これを見てほしい。」


そう言うと精霊は懐から真っ白な玉を取り出して俺に見せた。


「これは?」
「浄化したマナの結晶だ。」


うん?


「普通、浄化したマナは世界に散るのだが、結晶にする事でそうならないようにしている。」
「それで?」


なんだか話が変な方向に行こうとしている気がするぞ…


「この世界はマナで満ちているからこそ、穢れも多いのだと考えたのだ。
 君にわかりやすく言うと、『酸素が多いから火が燃える。 最初から酸素が無ければ火はつかない。』という事だ。」
「つまり、この世界全てのマナを結晶化することで、穢れそのものを無くし、モンスターが生まれないようにするって事か?」


方法としてはいいのかもしれないが…


「全てではない。 私達が管理しきれない分だけ、だ。」


う~ん…


「これってどれくらいのマナが固まった物なんだ?」
「これは… そうだな、レベル1から10になれる程度だな。」


たったそれだけ?


「ふふふ。 言いたい事はわかるが、まあ、聞きなさい。」
「うん?」
「他所の世界から何も来られないようにした後で、こうやって結晶化したマナを他所の世界に放出するのだよ。」


何という外道発言。


「それだと他の世界がマナで溢れて困った事になるんじゃないか?」


異世界のゴミでモンスターだらけになるなんて、酷すぎる。


「そこはちゃんと考えている。」
「ほう?」
「知的生命体どころか… 生物の居ない世界をすでに見つけてあるのだ。」


ならいいか。


「それと… そうだ、地図を持っているだろう?」
「ん? ああ。」


俺は袋から地図を取り出して広げる。


「ドラクエ3の知識から、ここに世界の穴を開けようと思う。」


そう言ってアフロが指差したのは、ドラクエ3で言うところのヴァラモス城の東側…


「ギアガの大穴を開けるのか。」
「そうだ。 その位置なら、ヴァラモスを倒した時に放出されるであろう大量の穢れをそのまま異世界に捨てる事ができるだけでなく、ゾーマが居た場合の邪魔にもなる。」


なるほど、なかなか考えているじゃないか。


「なんなら、ヴァラモス自体を穴に落としてしまってもいい。」


それは素晴らしい。





091022/初投稿



[11659] 19
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/25 18:00



「え?」


なんで?


「なんでまだその程度なの?」


エルフの隠れ里で精霊と話し終わった後、ルーラでアーリハーンに飛んでルヴィスに記録してもらった直後に、レベルアップしにきた高所恐怖症のバーンモドキと足の速いおっさんの報告を聞いてがっかりした。


「魔法使いに転職した2人がルーラを使えるようになる事を優先した結果なんだから、仕方ないだろう?」
「そうだぞ?」
「それにしても遅いだろう?」


最大火力のお前がいるロマルアでさえ、誰もレベル15にすら成っていないとか…

なにより


「ロマルアとイススとダァマの三箇所に分かれているから経験値を取り合う事もないと言うのに…」


僧侶以外は全員魔法使いになって、ルーラとリレミトで緊急脱出できるようになってから攻略を開始する計画なのに…


「バケモノの襲撃が十日に一回あるかどうかだからなぁ…」


え?


「積極的にモンスターを狩って行こうって話だったんじゃないのか?
 俺は今からダァマまで歩いて、襲ってくるモンスターを全部倒して経験値にする予定なんだが?」


ロマルア側の旅の扉まではホイミスライムにバイキルトとスカラをかけて戦力にしたり、怪我した時にホイミをしてもらったりする予定でもあったけど。


「そう言われても、MPが切れたらそれ以上戦い続ける事はできないし。」
「はっはっは。 俺なんかその三箇所を往復しているだけだからレベルアップなんてたま~にしかできないぞ?」


ちっ

そう言えば、このおっさんはキメラの翼を節約するために伝令役をしているんだったか…


「ダァマでリーダーに詳しく聞くか…」
「ああ。 そうしてくれ。」


エルフの里で貰った『種』の分配についても話さないといけないしな。


「あ! アーリハーンの入り口にホイミスライムが居たと思うけど、倒してないよな?」


折角一緒に飛んできたのに、ただのスライムにランクダウンとかしていたら面倒くさい。


「ああ。 ホイミンなら入り口でスライムを殴っていたぞ?」
「ホイミンて…」


元バブルスライムで、その前はスライムで、さらにその前は俺達と同じ人間だったんだが…

というか、アイツはスライムをいじめて楽しいのか?


「『こんにちわ! 僕、悪いホイミンじゃないよ!』って本人もいっていたぞ?」
「自分で言ったのか!」


何考えているんだ?


「レベルアップも終わったし、情報交換も一応したし… そろそろ行こうか?」
「そうだな。 コイツの言うとおり、レベルアップをしないといけないしな。」


やる気はあるのか…

まぁ、『MP切れたらただの人』と『伝令』じゃあ、やる気があってもレベルが上がらないか。


「そうだ、ロマルアまで一緒に行かないか?」
「旅は道連れだ。」


う~ん。

一緒だと経験値を独り占めできない… けど


「ロマルアまでと言わず、おっさんとアイツがある程度連携ができるようになるまで面倒みるよ。」


おっさんとホイミスライムを組ませる事で、これまでモンスターを出来るだけ避けてきたおっさんのレベルを上げる事ができるようにしようというのも計画にあったはずだし。


「ホイミスライムのMPは無限じゃないから、あまり頼り過ぎないようにもしたいし。」
「はっはっは。 では、よろしく頼む。」


はいはい。

とりあえず武道家1人と魔法使い2人、それにホイミスライムというパーティーで旅をしようじゃないか。


「もっとも、お前が居る時点で俺はバイキルトくらいしかやる事ないけどな。」
「いや…」


なんだ?



――――――――――



ロマルアに着いてすぐ城に向かう。


「ちょっ なんなんだよ?」
「一体どうしたのだ?」


ホイミスライムは旅の扉に置いてきた。 夜になったらロマルアの北に移動しているはずだ。

っと、目標発見。


「よう。 久しぶりだな。」
「おお! 魔法使い殿ではないか! 久しぶりですな!」


カンタダ… あいかわらず変態な格好だな。

ま、それはそれとして


「とりあえず、聞きたい事がある。」
「ん? なんだ?」
「アイツの評価だ。」


高所恐怖症のバーンモドキを指差す。

「俺の評価?」とか言っているが無視する。


「彼か…」
「言い難いかもしれないが、はっきり言ってくれ。」


もっとも、カンタダの様子が、悪印象である事を物語っているけど。


俺も前は…


『メラミよりも強い…おそらくメラゾーマと同等の威力のあるメラが使えるとか反則だろ? おそらくギラもベギラゴン級だよ?
 …高所恐怖症だけど、モンスターとの戦いでアイツ以上に貢献できる奴なんていないと思うんだが?』


と思っていたのだ。


「あー…
 その、彼のスクルトは一度に20人以上の防御力を上げるから、魔物の襲撃の際、大怪我をする者が減ったのだが…」


そうか…

攻撃魔法よりも補助魔法の方を評価する事でごまかすつもりか。

しかし、そうはさせんぞ!


「イオで外塀を壊したり、ギラで大火事を起こしたりして、魔物の攻撃で怪我人が出た頃よりも… なんて事はないか?」
「あー… その…」


やっぱりか。


「やっぱり、お前はヒャダルコが使えるようになるまで攻撃魔法を控えたほうがいいな。」
「そんな…」


魔法を使わないほうがいい魔法使い…

でも仕方ないだろう? アーリハーンからロマルアまで、敵を倒して経験値が放出されたのにコイツのメラやギラの炎が邪魔で回収できないって事が何度あったか…

あ、でもヒャダルコはヒャダルコで問題があるかもしれないか…

馬鹿でかい氷が長時間維持されたら、やっぱり邪魔だし…

はあ… ほんっとうに面倒くさいなコイツ…


「じゃあ今度は… そう、僧侶も来ただろ? 彼女はどうだ?」
「彼女か…」


やっぱりこっちも問題児か?


「彼女のおかげで、彼(空飛ぶ僧侶の事だろう)が来ていた頃よりもロマルアの穢れは減ったと思うのだが…」


ニフラムが大好きだからなぁ…


「魔物との戦いの後、そこの彼にニフラムをかけて喧嘩しなければ、その、優秀… なんだと思う。」


コイツのレベルアップの邪魔をしているのかよ…


「それじゃあ、戦士2人は?」


危険人物だが、奴らの振り回すバットモドキはなかなかの威力だ。


「彼らか…」


ぇー。 その反応だとやっぱり問題児なのかよ…


「彼らの強さは確かに認めるが…」


認めるが?


「その… 他の兵が怯えてしまってな?」


なんじゃそりゃ…


「そんなにグロいのか?」
「グロい? あれはそんなレベルを超えてしまっている。」


何しやがったあの2人!?


「正直、俺も彼らと組むのは遠慮している。」
「そこまで酷いのか…」


現地の人との協力関係を結べていないって…

レベルアップってこんなに難しい事だったとは思わなかった。



――――――――――



ロマルアでバーンモドキにすらなれない高所恐怖症と、イススとダァマの分かれ道でおっさんとホイミスライムと別れた後は一人旅だった。

イススの女王はすごい美人だと言っていたが、砂漠が面倒だったので同行を拒否した。

…ホイミスライムって砂漠大丈夫なのか? 水分の塊で熱に弱そうなんだが。


それはそれとして、ダァマでリーダーと今後に付いて話し合う。


「これが『力の種』でこっちが『素早さの種』ですか…」
「『賢さの種』は無いんだってさ。」


アフロに「賢さが上がる種があったらルヴィスに食べさせていると思わないか?」と言われてすごく納得してしまった。


「『賢さの種』はゲームでも扱いが難しかった気がするから、まあいいです。」


そうなの?

俺、種は全部勇者に使ってたんだが… ま、昔の事だ。


「個人的には素早さが欲しいけど、童顔チビとかの強化に使ったほうがいいかもしれないとも思ってな?」
「?」


わかんないかな?


「ほら、ラーミアのいる島に一番乗りするのはアイツだろ?」
「ああ! なるほど。」


着地予定地点にモンスターがいたら大変だからな。


「あと、全員のレベルアップについて考えがあるんだけど。」
「なんですか?」
「ヴァラモスの居る城の付近は穢れだらけで見えないんだったよな?」


アフロと話し合って、効率の良いレベルアップの方法を思いついたのだ。


「…そういう事ですか。」
「そういう事です。」


ゲームのように城があるのなら、城を隠してしまうくらいの規模の穢れがそこにある事になる。

ならば、その穢れでレベルアップしたら良い。


「でも、あれほどの穢れですよ? 高レベルな敵がうじゃうじゃ」
「うじゃうじゃ居るなら『穢れの状態のまま』で存在しているかな?」


あの周辺に大量のモンスターがいるかどうかは、植物経由で世界樹に確認してもらえばいい。


「ああ…」
「もっとも、人間が近づいたらモンスターになる可能性はあるけどな?」


それでも、試してみる価値はあると思う。


「童顔チビのレベルアップを優先して、ラーミアを確保する事にしましょうか。」
「だな。」


どうせ、初めて世界樹に行った時みたいに俺が同行する事になるんだろうけど、背に腹は代えられないからな…

オーブが必要なのかって事も少し気になるが… たぶん…





091025/初投稿



[11659] 20 ダァマで仲間と合流&精霊達とラーミア編終わり
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/28 21:36

「ここがランシーラの村です。」
「カンタダさん、わざわざありがとうございました。」
「いえ、僧侶様のお役に立てたのならそれでいいのです。」


『へそ』で有名なランシーラの村に行った事があるというカンタダにキメラの翼を渡して童顔チビと一緒に送ってもらった。

これで、ランシーラにはルーラで移動できるようになった。

後はリーダーと怪力娘を連れてきて、ラーミアの居るほこらの場所を確認した後、晴れている日に… 初めて世界樹の場所に飛ばされた時と同じように…

想像するだけで鬱になるが、仕方ない。


「村に人がいませんね?」
「『へそ』と『神殿』があるだけで、他には特に何も無い村ですから。 ロマルアにも10名ほどキメラの翼で避難した者がいるはずです。」


ふーん。


「きえさり草がないらしいから、村人が居ても居なくてもどうでもいい。」
「そうですね。 それに、きえさり草を使うエジンバも、もう…」


カンタダはエジンバにも行った事があるので、少し前にこのパーティーで確認しに行ったのだ。

城門は固く閉ざされいたので上空から侵入しようとしたら… 城壁内は海水で一杯で、そこかしこにどざえ…


「ぅぇ… 思い出してしまったじゃないか…」
「ぐ… すいません…」


とにかく、リーダーと怪力娘を連れてこよう。



――――――――――



「ここがラーミアのいる島…」
「寒いな。」


あらかじめ靴に布を巻いておいていなかったら、地面が氷なので滑って転んで大変だっただろうな。


「さっさ中に入ろう。 凍えてしまう。」
「そうですね。」


空を飛んでいる(飛ばされている?)時も滅茶苦茶寒かったし…


「モンスターに姿を見られちゃったしな。」





ほこらの中は広く、天井も高かった。

中心には巨大な卵が巨大な台の上に置かれている。


「おっきい卵ですね?」
「だな。」


あれだけでかいと、何人分の卵料理ができるのやら…

でも、入り口はそんなに大きくなかったな… ラーミアはどうやってここに入ってこれたんだ?


「ドラクエ8でラーミアは3と8の世界を行き来できるって設定だったと思うんですけど、この世界でもそうなんでしょうか?」
「すまん。」
「え?」


本当にすまん。


「8はやってないからわからん。 8でラーミアでるの?」
「8やってないんですか?」
「ああ。」
「そうなんですか…」


そうなんです。

…でも、そこまで残念そうな顔をしなくてもいいと思うんだが?


「違う名前で呼ばれているんですけど、出るんですよ。」


へー… って!


「危ない!!」
「え?」


童顔を蹴り飛ばし、エルフ達から貰ったオリハルコン製の剣で振り下ろされた二本の杖を受ける。

ガガキィィィン!!


「私達は」
「私達は」


おお…

攻撃してきたのは例の双子さんでしたか…


「卵を守っています。」
「卵を守っています。」


ぅぇ…


「侵入者は排除します。」
「侵入者は排除します。」


向かって右側が杖を振り上げ… 左側は構えから考えて横薙ぎに攻撃をするつもりか?


「ちっ スクルトスクルトスクルト!」


パーティーの防御を固める。

くそ! この島は氷だらけで植物が無いから連絡が届かなかったのか?


「ピオリム」


お! ありがたい。 なら


「ボミオス」


これで速度の差がかなりあるはず。 袋を開けて中からあれうぉっ!

ブゥン! ガゴォォン!

横薙ぎの攻撃を何とか回避、振り下ろされた杖がさっきまで立っていた床にヒビを入れた。


「ボミオスしているのに速い!?」


ボミオスが無効なのか? それとも効いていてこの速さなのか?

どちらにせよ、たった2人でラーミアの卵を守っているだけの事はあ


「るっ!!」


がんっぶぉん!!

振り下ろされて地面に刺さった杖に、横薙ぎにされた杖が当たり、その反動を利用して追撃をしたのか?


「ヒャド」
「メラミ」


氷を炎で砕いて霧みたいにして俺の視界を!

何なんだ、このコンビネーション。 羨まし過ぎる。

くそっ

とりあえず袋の中身を全部ばらまい


「てい。」


ばらばら … …よし!


「アレを見ろ! 俺は怪しい者じゃない!」


俺はそう叫んで、袋からばらまかれて床に落ちた世界樹からもらった紋章を指差した。





「怖かった…」
「…ああ。」


双子強すぎ、たった2人でこんな辺境にいるだけの事はある…

でもまあ、今はそんな事よりも卵を孵すのが先だ。


「お2人さん。」
「なんでしょう?」
「なんでしょう?」
「ラーミアの卵を孵すのって、これで良いって聞いたんだけど?」


エルフの隠れ里で精霊から貰ったマナの結晶を6つ、袋から取り出して聞く。


「これは、オーブと同じ力を感じます。」
「これも、オーブと同じ力を感じます。」


よし! 大丈夫そうだ。

アフロに作らせただけの事はある。


「じゃあ、僕はあっち側の3つを」
「OK、俺はこっち側の3つをやる。」


マナの結晶を台座に納めていく。


「私達は」
「私達は」
「この日をどんなに」
「待ち望んでいたことでしょう。」


オーブ探しというイベントをスルーした甲斐があったかな?


「さあ 祈りましょう。」
「さあ 祈りましょう。」


OK


「時は来たれり。」


卵から孵れ~。


「今こそ目覚める時。」


卵から孵れ~。



「大空はお前のもの。」


卵から孵れ~。


「舞い上がれ 空高く!」





「何も起きないね?」


双子の祈りが終わったみたいなのに、変化が無い。

もしかして、双子の台詞を追うようにして祈らないといけなかっ


ピカー


なんという輝き!!

まさかフェイントとは!!





「私達は」
「私達は」
「卵を守っていました。」
「卵を守っていました。」


そうですか、それは良かったですね?

卵を見ていたせいで、まだ目がチカチカする…


「おっきい…」


くそう…

お前は卵を見ていなかったのか?



おお、本当にでかい…

目のチカチカしている間も大きい生き物の気配を感じてはいたけれど…


「伝説の不死鳥ラーミアは甦りました。」
「ラーミアはカミのしもべ。」
「ですが、特別に心正しき者だけが」
「その背中に乗れるそうです。」


でかいなぁ…

この大きさなら4人… いや、無理したら6人くらい乗れるか?

でも、心正しい自信がないなぁ…


「背に乗れなくても、籠みたいなのを作って持たせて、それに乗ればいいんじゃないですか?」


う~ん。

『背に乗れない』って言うのはそれで解決できるようなものなのか?





あ、あの双子はルーラで飛んでった。 たぶんエルフの隠れ里に帰ったんだと思う。



――――――――――



ダァマに行く前に、ヴァラモスの城を包んでいる穢れに触れに行ってみる。

童顔はラーミアに乗ったまま、その様子を見ている。


「近づいても、触ってもモンスターにならない。 むしろ経験値として溜まっていくぞ?」
「へぇ…」


俺の言葉に安心してか、ラーミアから降りて穢れに触れる。


「本当だ。」
「『闇の衣』みたいな物なのかもと思っていたんだけど、ただの穢れみたいだな。」


とりあえず気分が悪くなるまで経験値を溜めていく事にする。


「これならレベルアップが楽だね。」
「ルーラで来れる場所じゃないから… アイツは気絶させないといけないけどな。」
「はは、そうだね。」



しかし、光り輝くラーミアを見つけたのか、その数十分後に地獄の鎧と思われるモンスターが複数やってきたので慌ててラーミアに乗って逃げる。



「モンスターはいないはずだったんだけどな…」


まぁ、世界樹もルヴィスやアフロと同じ精霊だからなぁ…


「見て、僕達が離れたら鎧がくずれたよ。」


おお… なら、あの鎧を粉々にしたらいいのか?

それとも


「普段は穢れのままで、人間が近づいたら適当な物に穢れが集まって… って事なのか?」
「たぶん…」


鎧の足は遅かったから、なんとかなるだろう。


「他のモンスターも出るのか調査の必要があるが、モンスターを見つけたら即離脱ってやり方はできそうだな。」
「そうだね。」


しかし…

あれが本当にただの穢れだったという事は…





091028/初投稿



[11659] 21
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/10/31 22:07


砂漠のオアシスであるイススは今日も快晴だった。


「それじゃあ、今日もよろしくお願いします。」


はいはい。


「じゃあ、ちょっと離れていろよ?」


俺のその言葉に頷くが誰も離れない… というか、最初から被害の出ない距離に立っているのだ。

まあ、俺も念のために言っただけだからいいんだけど。


「ドラゴラム」


そう唱えると俺の体が変化する。

毎回不思議に思うのは、エルフの隠れ里で貰った水の羽衣や不思議な帽子、星降る腕輪は一体どうなっているんだろう?

魔法の効果が切れて人間に戻ると装備した状態のままだけど… ドラゴンになっているときは影も形も無いんだよなぁ…


びゅわあっ


うげぇ…
砂漠の風は砂が混じっているので口の中がじゃりじゃりするから嫌いだ。

まして、ドラゴンになって口が大きくなると口の中に入ってくる砂も増えるのでムカつき度もさらに倍…

目玉も大きくなっているので、砂で目が痛い。 ので、さらに倍


「毎回思うんですけど、ドラゴンの体と比べるとかなり小さいその翼で空が飛べるって…」
「難しい事を考えると頭痛くなるぞ?」
「おかげで団体行動ができるんですから、細かい事は置いておきましょう。」


どうでもいいからさっさと背中に乗ってくれ。





ラーミアをGETしてから数回、俺達はヴァラモスの居る城があるであろう場所を包むように存在する穢れを経験値としてレベルアップするというのを繰り返した。

そして、俺のレベル33になってドラゴラムが使えるようになると全体のレベルアップの効率が良くなった。

なぜなら、ドラゴラムで変身できるドラゴンは空が飛べたのだ。
それも4人を背中に乗せた状態でイススからあの穢れのある場所まで行けるほど効果時間が長い。

それによって
ドラゴンになる人+ドラゴンの背中に乗る4人+ラーミアに乗る5人の計10人が一度に行動できるようになったので、安全性がぐっと高まったのだ。

特に、レベルが高くて遠近両方で戦える俺はみんなの護衛として(ドラゴラムが使えるようになってからは移動手段として)毎回行くので、誰よりも先に魔法使いレベル40になれる、というか今回でなる。


ちなみに…

予想通り、俺のベギラゴンは高所恐怖症のギラとだいたい同じだった。
メラゾーマの威力もアイツのメラとだいたい同じだった。
おそらくレベル40で覚えるイオナズンも、アイツのイオと同等だろう。

だというのに、アイツはまだレベル15だったりする。 アイツのベギラゴンを見てみたかったのだけど…



――――――――――



そう…

アイツは、ラーミアに乗れなかった… いや、正確に言えば…


「おそらく、『嫌がる人を無理矢理乗せる』のが嫌なのだろう。」
「ラーミアは優しいからね。」


エルフの隠れ里の精霊にどうしたらいいか聞きに来たら、アフロとその付き人(付きエルフと言ったほうが良いのか?)がそう答えた。


「なんという…」


これではヴァラモスと戦う時に最大火力がお留守番という事に…


「お前がドラゴラムで運べば良いのでは?」
「それは無理だった。」


ドラゴンの固い鱗はツルツルしていて、乗るのにコツが居るのだそうだ。
まして気絶した人間を抱えながら乗るのは無理だとリーダーが嘆いていた。

というか、それができるならアフロやエルフさんに相談しないって…


「ならば、背中に鐙の様な物を」
「付けるのに時間がかかる。 穢れの所に着くまでにドラゴラムの効果が切れてしまう。」


先ほど効果時間は長いと言ったが、鐙をセットできるほどの余裕はない。

背中に鐙をつけた状態でドラゴラムをしたら装備同様姿形も見えなくなったし…

だからといってドラゴンの手で掴むと大怪我をさせてしまいかねないし…


「距離から考えると、テトンに行ければ一番良いのかもしれないけど、思っていたよりも穢れが大きくて…」


穢れはかなり大きく、テトンはその中にある。
というか、イススを南下すると肉眼で確認できるほどでかいのだ。


「ふむ…」


砂漠を徒歩で南下してからドラゴラムを使うという手もあるけれど、それはそれで色々と問題があったし…


「こちらでも何か考えておこう。」
「頼む。」


エルフさんが協力的な事を言ってくれるとは… 遂にツンからデレに!?


「あ、そういえば」
「ん?」


アフロも何か思いついたのか?

でも、アフロは精霊だからなぁ…


「あなた達が大量の穢れを浄化させてくれるから、おかげでヴァラモスの結界をこちらのものにできたよ。」


やっぱり、人の話をあまり聞いてない。

まあ、でも…


「やっとか…」


これでゾーマ出現の可能性は完全に潰せた。 …はず。


「結界の構成が思っていたよりも複雑で、穴を開けるにはもう少し時間がかかりそうなのが難点だけどね。」
「そうなのか?」


ちょっと残念。


「今の調子で穢れを浄化していくと、そろそろヴァラモスの城が見えるだろうから…」


ん?


「もしかしたら、ヴァラモスとの戦いに間に合わないかもしれない。」
「ふむ。」


ゲームのドラクエ3通りの強さなら俺1人でも楽勝だと思うが、念には念を… と思っていたのだけれどなぁ…

それに


「ヴァラモスがゾーマ並に強い可能性はまだあるから、ギアガの大穴を開けてくれるとありがたいと思っていたんだぞ?」
「すまない。」


はあ…


「仕方ないな。」





一番話を聞いておきたかったあの2人…
ラーミアの卵のあったほこらから帰ってきているであろう双子とは話せなかった。


「役目が終わったので暫く休みます。」


そう言って長期休暇に入ったのだそうだ。


対ヴァラモス戦に参加してくれるとありがたかったんだけどなぁ…



――――――――――



エルフの隠れ里でアフロ&エルフさんと話した後、俺はアーリハーンに飛んだ。


「アフロと世界樹にも確認したが、念のためお前にも確認するぞ。」
「なに?」


念には念を入れる。

精霊はちょっと信用できないからな。


「魔法使いはレベル40になったらもう他の魔法を覚える事はないんだよな?」
「なんだ、そんな事が聞きたかったの?」


そんな事って… 結構重要な事だと思うんだが?


「魔法使いが使える魔法はパルプンテまでよ。 転職して僧侶にならない限り新しく魔法が備わる事は無いわ。」


よし。

最後がルヴィスというのがちょっと不安だが、精霊3人から同じ回答を得た。


「それじゃあ、僧侶に転職させてくれ。」
「はいはい。 経験値が溜まっているのにレベルアップを頼んでこない時点でわかっていたわ。」


何でもお見通しと言った感じで胸を張るルヴィス。

でも、そんなに薄い胸ではなぁ…

だいたい、そんな事はわかって当然… むしろわからなかったら大問題だと思うんだが?





数時間後


「ほら、これで僧侶になれたわ。」


おお…

あいつの記憶で知っていたけど、転職というのはなかなか新鮮な感じがするな。


「ホイミ」
「きゃっ!」


おっ! アイアンクローで赤くなっていた顔が治った。


「ホイミすげー。」
「もう! 眩しいじゃないの! 顔にホイミをかけるときは相手が目を瞑ったのを確認してからにしてよね!」


そうなのか?
それは注意が必要だな。


「それはそれとして、記録を頼む。」
「むーーー。」


そんなにアイアンクローをして欲しいのか?


がしぃっ!


お?


「もうその技は効かないわよ!」


顔を掴もうとして出した右手を、両手で防いでそう宣言する。

でも


「いや、両手を使っちゃ駄目だろ?」
「え? ぎゅ!?」


ひだりてであいあんくろぉお。


「ぎゅびぃ…」


何を言いたいのかさっぱりわからん。


「痛いか?」
「びばい。」
「なら癒してやろう。」
「べ?」
「ホイミ」
「きゅっ!?」
「ホイミホイミホイミホイミ」


ぴかぴかぴかぴか


左手を見ないようにした状態で、ルヴィスの顔にアイアンクローをしたまま連続ホイミ。


「ホイミホイミホイミホイミ」

ぴかぴかぴかぴか


「安心しろ。 目がチカチカするだろうが、絶対に怪我をしないぞ。」


むしろダメージは即回復だ。


「ぎゅびぃいい。」


ふむ、MPは魔法使いレベル40のままのようだな。


「ほら、記録する気になったか?」
「ふぁい。」





091031/初投稿



[11659] 22
Name: 社符瑠◆3455d794 ID:5aa505be
Date: 2009/11/03 22:57



毎日ドラゴラムでドラゴンになって、「背中に人を乗せながら飛ぶのって、結構大変だよねー」等と視線でラーミアと意思疎通ができるようになってきたんじゃないかと思えるようになってきた。

穢れを経験値にしてレベルアップするのもすでに『作業』となってきて、そろそろ何かしらの変化が欲しいと思っていた頃…


「おお… うっすらとだけど、ヴァラモスの城が見える。」
「ラーミアに乗れるようになって一ヶ月… やっと最終目標が見えてきたな。」


長かった。

本当に長かった…


「この調子でレベルアップを続ければ、お前以外にも何人か接近職に転職できるだろうから…」
「ああ。」


ニフラム娘は魔法使いに転職したばかりだけど今回でルーラを覚えられるだろうし…

ザオラルがステータス異常防止でザオリクが治癒能力の上昇っていうのが意外で、なおかつ微妙だったけど。


「今回で元僧侶だった人を除いた全員がイオナズンを使えるようになるから…」
「いや、この調子ならイオナズンを使えないのはニフラムだけじゃないか?」


ちなみに、非戦闘メンバーの引篭もりとゲーマー娘と永遠のレベル1の3人はダァマで待機しているので『全員』から除外。


「もう少し穢れを浄化したら、あの城をイオナズンだね。」
「ヴァラモスと直接対決なんてやってられないからな。」


それが精霊達とも話し合った上でだした作戦…

題して『城ごとヴァラモスを潰しちゃおう作戦』だ。

…「作戦名がそのまま」「ださい」などのツッコミを期待して俺が名づけたのだが、後で聞いたら「ツッコミしたら負けかと思った。」そうだ。 …チクショウ。 慣れない事はしないほうが良いんだな。


「地下に居たとしても、瓦礫の除去もお前のイオナズン一発でできるだろうし。」
「ああ、まかせてくれ。」


やっと自分の『力』を活かす事ができるようになったのが嬉しいのか、最近こいつは調子に乗っていると思う。


「エルフさんの協力で高所恐怖症を抑える事ができて良かったな?」
「本当に… この世界に来て一番の収穫だと思うよ。」


完全に克服したわけではないけど、暴れたり気絶したりしないですむ様になって、特にラーミアに乗れたときはすごく喜んでいたものなぁ…

みんなに追いつこうとして穢れを体に溜めすぎて真っ黒になったりもしていたし…


あの姿を見て、エルフさんが「どんな副作用があるかわからんがな?」と言っていた事を秘密のままにする事にしたんだよなぁ… 墓場まで持って行くよ、うん。



「元の世界に戻れたら一緒に絶叫マシーンに乗りましょう!」
「それは断る。」


男2人の会話に突然割り込んできた。

…女の子の誘いを断るのはどうかと思うが、気持ちは理解できる。

高い所が好きになったわけでもなければ、そもそも高所恐怖症が治ったわけでもないんだから。


「じゃあ、私がぶん投げます!」
「ちょっ!」


あ、そうか…

元の世界に戻っても『力』はそのままなのか聞いておく必要があるな。


「女性2人に囲まれて… 幸せ者ですね。」
「異世界で三角関係って、ありきたりかなぁ。」


はぁ…

リーダーと怪力とニフラムと腐女子の4人が、このバーンモドキといちゃいちゃする関係になるとは思ってもみなかったなぁ…

顔は普通で、この4人にかっこいい所を見せた覚えも無いらしいのに、四股だなんて羨ましい事だ。

…これが副作用かもしれないと思ったりもするけど。


「ハーレムという状況は羨ましいけど、あの4人じゃなぁ…」
「はっはっは。 そういう事は思っても口に出してはいけないぞ!」


おっさん、声でかいよ。

童顔が言っている事もわかるけどな。


「師匠!」
「気持ちはわからないでも無い。
 だが、俺達は誓ったはずだろう? 僧侶になって回復の魔法を覚えたら、怪我を恐れることなく武の道を進む事ができるんだ。
 武の道を進み続ければ、そのうち女性の気を引こうとも思わないようになるさ。」
「ぅぅぅ…
 それはなんか違うと思います…」


弟子よ、君よりも先に僧侶になった師匠も泣いているように見えるのは気のせいなのか?


「泣くなよ。 俺もプロ野球を見たいのを我慢してるんだぜ?」
「あっちに帰ればきっと彼女ができるさ。 こっちに来たばかりの頃よりも体が引き締まっているって言っていたじゃないか? な?」


二組の師弟がいつの間にか仲良しグループを作っている…


あれ?

童顔も俊足のおっさんとコンビだし…

俺ってもしかして、そういうグループに入り損ねた?

単独行動多かったからなぁ…


ま、いいけ


ぽん

誰かが俺の肩を叩いた。


「僕がいるじゃないか。」





「ホイミスライムじゃあなぁ…」



――――――――――



それから数日後

ヴァラモスの居るであろう城がはっきりと見えてきた為か、みんなが最終決戦を意識しているようだ。

なのでもう一度全員の状況を適当にまとめておく。



①ダァマに待機 1人


・『問答無用で経験値を浄化する』永遠のレベル1(僧侶)

戦力外。

ヴァラモスに接触させて浄化させるという案もあるが、それは最終手段。

おそらく… というか、確実に一撃で死ぬだろうし。



②ヴァラモスの城を破壊する時のみ参加 2人


・『世界樹の葉を使って結界を張れる』引篭もり(僧侶レベル38、魔法使いレベル12)


「戦闘しないならレベルを上げる事はやぶさかではない」とか言っていた。


イオナズンで城の瓦礫がこちら側に飛んできた時の為にスクルトを全員にかけてもらう。


・『話しかける事で植物の成長を促進する』ダァマの食料事情を支えるゲーマー娘(武道家レベル15、魔法使いレベル34)


「MP節約の為にアッシーになったげる」とドラゴラムまで覚えてくれた。 当日はこの子に乗せていってもらう。


この2人は城を潰す時のみ参加してもらう予定。

ヴァラモスが地下に居るようならルーラでダァマに戻ってもらう。
地下に潜った俺達が全滅しても、こいつらがダァマに居れば人間が滅ぶ事は無いだろう。

地上に居るようなら引篭もりには後方支援を、ゲーマー娘にはイオラを連発かドラゴン状態で体当たりしてもらったりして、隙を見てダァマに戻ってもらう。



③地下突撃 Aグループ 5人+1


1人目『すごく遠い場所も見える』リーダー(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、戦士レベル10)

リーダーとしての仕事をしろと言っているが全然聞かない。


2人目『影に入ると怪力になる』おかっぱ娘(魔法使いレベル40、僧侶レベル38、武道家レベル20)

たぶん、狭くて広範囲の魔法を使うのを避けるべき地下空間での主力。


3人目『身に着けている武具の強化』腐女子?(魔法使いレベル40、僧侶レベル38、戦士レベル20)

怪力は無いが、地下空間でのもう1人の主力。

最近『力』が判明した。

どちらかと言うと『叩き切る』タイプの鋼鉄の剣で、岩を綺麗に切れ、その断面は曇り一つ無い鏡のようだった。

お前がキメラモドキを… もう遅いけど…


4人目『未だ不明』まだニフラム大好き(魔法使いレベル40、僧侶レベル38、戦士レベル10)

アイツに「ニフラム使うくらいなら…」と言い聞かせてもらったので無駄に使う事はなくなった。


5人目『魔法の威力or効果を増加する』元高所恐怖症(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、戦士レベル10)

このグループのまとめ役兼生贄。


この主力3人を含んだ5人にホイミスライムを入れる事でAグループとする。

『力』の事を考えると、別の組み合わせにしたいが… 女性を敵に回すような事はしない。

あと、武道家や戦士のレベル15で他の職に転職後、また武道家や戦士に戻るとレベルが15から始まると言うのがわかった時は何故か笑えた。



④地下突撃 Bグループ 6人


1人目『日の光に当たると空が飛べる』年齢が皆にばれた童顔チビ(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、戦士レベル10)

2人目『ものすごく速く走れる』うざいおやじ(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、武道家レベル21)

この2人はすごく仲が良い。

おそらく、俺が合流するまでロマルアとイススとダァマを2人で駆け抜けていて、他の誰よりも一緒に居た時間が長かったからだろう。

腐女子がはぁはぁ言っているが、どう見てもせいぜい仲良し親子って所だと思うんだが?


3人目『未だ不明』自称社長(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、戦士レベル20)

4人目『未だ不明』コンビニ店員(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、戦士レベル20)

この2人も仲が良い。 キャッチボールしているのを見かけた事がある。

2人とも『力』が不明のまま。 ヴァラモス戦に有効な『力』だといいんだけど…


5人目『気弾みたいのを出せる』空手家(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、武道家レベル22)

6人目『未だ不明』空手家の弟子(僧侶レベル38、魔法使いレベル40、武道家レベル21)

この師弟も仲が良い。

気弾みたいなのの威力はメラミくらい。
メラミと違って燃えないので、近接攻撃を続けてできるのが強み?

腐女子と空手家が他の人よりレベルが高かったのは『力』が戦闘向きだったからなんだろう。

練習したらあの『日本人なら誰でも知っているだろう漫画』のような技も出せそうだと言っていたが…


この6人をBグループとする。

仲の良い親父3人とその子供達って感じでまとまっているからなぁ…

バランスは悪くないんだけど『力』の事を考えると全体的にAグループより劣るのがなぁ…



⑤地下突撃 AとBの連絡係 1人+α


俺(魔法使いレベル40、僧侶レベル38、戦士レベル42)

レベルが一番高く、エルフから貰った装備もあるので単独行動が可能。 面倒だけど仕方ない。


+αはエジンバに向かったと言う『魔物に狙われる事なく水の上を歩く事ができる』人などの生死不明な人達。

世界樹に探してもらっているが、海の上にいたり、姿を消せたりなどの『力』である可能性があるので期待はできない。


ヴァラモスの城にアタックするまで後二週間くらい、それまでにこの7人を見つける事ができればいいけど…




書いていて悲しくなってきた。


はぁ…

リーダーが色恋沙汰に夢中になってるせいで、こういう仕事が俺のほうに来るようになったのはいつからだっけ…





091103/初投稿



[11659] 23
Name: 社符瑠◆5a28e14e ID:5aa505be
Date: 2009/11/14 11:47



ドスーン! ドスーン!

大きな足音を立ててゲーマー娘が荒野を歩く。

彼女が一歩踏み出す度に土煙が大きく舞い、遠くから見ていると戦争モノの映画や、昔見ていた戦隊モノのラスト5分くらいを思い出してしまう。


「やっぱり距離をとっていて正解だったな。」


そうだな。

遠くから見ていてもその存在感に圧倒されてしまうものな。


「アレを見たら、毎日お前から『離れていろ』と言われるまでもなく、距離をとっている理由がわかっただろう?」


ああ。

いくら安全だと言われても、自分からあんな生き物の傍に居たいと思うやつはいないよな。


「がぁ!」


がごおん!


ゲーマー娘の右パンチ一発で元々は柱だったと思われる岩がぶっ飛ぶ。

…飛んで行った方向は海だけど、どっかの村や町や城を破壊していたりしないかちょっと心配。


「ぐっ がががああああああ!!」


人がそんな心配をしている事を知りもしないで、彼女はそう叫んだ後に目の前の瓦礫の山にその巨大な尻尾で凄まじい一撃を放つ。

どがががああああん

瓦礫の山は先ほどの元柱と同じように跡形もなく空の彼方へ飛んで行った。


そう、彼女はドラゴラムでドラゴンになって瓦礫の撤去をしているのだ…

それもかなりノリノリで


「いつもニコニコ笑顔で草木に水をやっているとは思えない暴れっぷり。

 …アイツもストレスが溜っていたんだな。」


考えてみれば、ダァマの口煩い神官達や避難民達との交渉はアイツに頼りっぱなしだったからな。

…リーダーが居たのに。


「ま、あれはあれとして…」
「ん?」
「さっきは、結構すっきりしたな。」


すっきり? さっき?

…ああ


「イオナズンの事か?」
「ああ。
 それほどすっきりしなかったか?」
「したかしなかったかなら、すっきりしたが、その話の振り方では反応しにくいぞ…」


ヴァラモスの城は…

この四股男の特大イオナズン連発で半分は崩壊、さらに俺達12人のイオナズン連発で完全に崩壊した。

…ボスの城を大人数で爆破するRPGなんて、俺の知る限りでは存在しないんだけどな。


異世界に拉致されて数カ月、やっぱりストレスが溜っていたんだなぁ…

ちなみに、そうやって出来上がった瓦礫の山をイオナズンが使えないゲーマーなドラゴン娘が大きく叫びながら片付けているのだ。


「確かに、イオナズンの爽快感があれほどだとは思わなかった。」


道具に頼ることなく、自分の力だけであんな事ができるようになるとは数ヶ月前には考える事すらなかったぜ。

癖になったらどうしてくれるんだ。


「威力がありすぎて地下じゃ使えないのが残念だ。」


コイツのイオナズンの威力はもちろん、俺のイオナズンの威力も想像以上だったからなぁ… 地下で使ったら生き埋めになってしまう。

あ、通路が広ければドラゴンになって暴れるのも面白いかもしれないか。


って、俺はいつの間にそんな魔法中毒者になったんだ?


「それで結局、ヴァラモスは地上にはいなかったみたいだしな。」
「ああ…」


ヴァラモスの姿は瓦礫から発見されていない。

もし地上に居たなら城の一階か二階に居たはずなので、瓦礫が半分以上片付いているのにも関わらず遺骸はもちろん穢れの放出さえ確認できていないという事はそういう事なのだろう。

そもそも、ギアガの大穴を開ける事ができていたらヴァラモスは地上に居てくれたほうが楽だな… というだけの事だったわけだし。

それに、穴を開ける事ができなかっただけでなく、城の破壊にMPを半分以上使ってしまった今は「地下に引き篭もっていてくれてありがとう。」って気分だしな。


「おーい、急に黙り込むなよ。」


リーダーがあんなだし、お前が代わりに色々考えてくれるというなら黙り込む事もなくなるんだがな?


「あのさ、今日は地下への入り口を見つけたら一旦戻らないか?」


ん?


「イオナズン使いすぎてみんな疲れてるだろ?」
「ああ。」


確かに魔法の連発でみんな疲れているし、それでいいかな…

それに、城にアレだけのダメージを与えたのに襲ってくるのは地上を徘徊している鎧だけというのも気になる。

放っておけばドラゴンが地上を更地にしてしまうから、地下への出入り口を隠すために息を潜めている… という事はないだろうし。

やっぱり、ヴァラモスは俺が思っているj


「がおおおおおおおお!」


突然、瓦礫を片付けていたゲーマードラゴンの雄叫び(雌叫び?)が響いた。


「お!」
「どうやら、見つけたようだな。」


ゲーマードラゴンの報せを聞いて、俺たちと同じように瓦礫処理の巻き添えを避けて遠くでその様子を見ていたみんなが集まりだす。





途中で四股されている(?)4人が近づいてくると、隣を歩く四股している(?)男の顔が徐々に鬱になっていくが、面白いので放っておく。


「まったく、みんな一緒にいないといざと言う時危険ですよ? もっとリーダーの言う事を聞いてください。」


そういう事は前みたいにリーダーとしてまともに働いてから言え。


「あっちの木陰なら瓦礫が飛んできても私がガードできたのに…」


木陰よりも大きな瓦礫が飛んできたらどうしようもないだろうが。


「別に木陰じゃなくても私の『力』なら…」


あの勢いで空に飛んでいく瓦礫に、武器や防具が強化できるくらいじゃどうしようもないと思うんだが?


「男2人で何していたの?」


瓦礫とお前達から避難していたんだよ。

個人的には、お前達がもっと真面目だったら、コイツをどう扱ってくれてもいいんだけどな?


貴重な戦力を無駄に疲れさせるわけにはいかないからなぁ…





ゲーマードラゴンの足元にはとても大きな穴があった。

地下へ続く階段の一段一段の幅は広く、段差も人間には少し厳しいくらい… おそらく小型のモンスターでは登ることができないだろう。


「ほお… これが地下への入り口か…」
「思っていたよりも大きいですね?」


ゲーマードラゴンの側にはすでに空と陸の移動タイプ2人がやって来ていた。

仲良しなのはいいんだけど、できる事ならこの2人にはそれぞれ他のコンビとくっついてトリオになっていてくれたほうがありがたいのだけど…


まぁ、どっちのコンビと一緒に居ても精神をやられてしまいそうだけどな!


「確かに大きいな。」
「それに穢れも酷そうだ。」
「歯ごたえのある敵がいるといいんだが…」
「まったくです!」


少し遅れて一緒に居るだけで精神的に疲れるコンビ2組もやってきた。

鉄バットコンビ… ちょっと離れている間にバットが汚れているのは何故だ?
空手馬鹿師弟も、拳が汚れているぞ?

まあ、経験値を稼ぐのは良い事だからツッコミはしないけど。


…ま、心の中でツッコミをいれるのはこの辺にして


「それじゃあ… そこのおっさんとそっちの君、俺と一緒に少しだけ奥に行くぞ。」
「ん?」
「なんで? 今日はダァマに戻って休むんじゃないの?」


はぁ…


「リレミトが出来るか試すんだよ。」


足の速いおっさんと怪力娘がいればリレミトが出来なくても無事に帰ってこれるだろうし…


「なるほど。 リレミトができるかどうかって、攻略する上では重要ですね。」


そうだな。 でも本当はリーダーであるお前が発案すべきなんだがな。


「できれば後1人来て欲しい。」


3人ではちょっと怖い…
というわけではなく前衛と後衛の人数を2人ずつにしたいだけ。


「じゃあ俺が行くよ。 お前のリレミトが効かなくても俺のリレミトなら大丈夫かもしれないし。」


おお。 それは考えていなかった。


「言われてみれば、それは試してみる価値があるかもしれないな。」


…お前をこの4人から守っていて良かったよ。


「だろ?」
「ああ。 それじゃあ頼む。」
「頼まれた。」


まあ、お前はそのハーレム状態から脱出したいだけなんだろうけど…


「それじゃあ私達は暫くここで待っています。
 リレミトで戻ってきた時に4人だけというのも危険かもしれないですし。」


リーダーはリーダーで、怪力娘だけがこいつと一緒にいるのが気に食わないだけだろうが、何があるかわからない場所へ行ってへとへとになって帰ってきた処に大量の鎧が!って事になっても困るから、その申し出は快く受け入れよう。



――――――――――



両手を広げた人間が4人並んでまだ余裕があるくらいに幅の広い通路を進む。


「暗いな…」


考えてみたら、この世界に来て初めてのダンジョンじゃないか?


「今はまだ外からの明かりが刺してくるけど、そこの角を曲がったら…」
「明日突入は無理かな? 松明を用意しないといけないでしょ?」
「はっはっは。」


おっさん…


「会話に入れずに寂しいのはわかるが大きな声を出すな。 モンスターに気づかれたら面倒だぞ。」


少しは考えて行動してほしい。

例えば、地下への入り口が大きかった事と、階段(?)の段差が大きかった事、そしてこの通路の広さから考えて…


あー…


「ロマルアの城壁も、巨大モンスターには効果が無いというような事をカンタダが言っていたのを思い出してしまった。」


松明だけじゃなくて他にも色々道具を揃える必要があるかもしれないな。


「え?」
「は?」
「そういえば、そんな話を聞いた気もするな。」


思い出すのが遅すぎたかもしれない。


「そんな大きなモンスターがいるのか?」
「じょ、冗談でしょ?」


心外だな。 俺は冗談でこんな事は言わないぞ。 というか、巨大モンスターの話をダァマで聞いた事はないのか?

なかったとしても、ドラクエ知識からヤマタノオロチとかが存在するかもしれないとか考えたりしないか?


…でもまあ、簡単に説明はしておこう。 いざという時びびって動けないとか、死亡フラグになってしまうしな。


「『入り口の大きさ』と『階段の段差』と『通路の広さ』から考えられる事は3つだ。」
「3つ?」
「A.段差を無視できる飛行型モンスターや、影とかの実態のないモンスターが大量にいる。
 B.でかいモンスターがいる。
 C.AとBの両方が。」


沈黙が痛いな。


「…ねえ、戻ったほうが良くない?」
「…広いと言っても広範囲の魔法が使える程ではないし、そのほうがいいか。」
「ね? そう思うよね?」
「じゃあ戻ろうか。」


4人同時に来ると逃げるくせに、1人ずつとならそうやって話せるんだよな…

というか、今戻ってもどうせまた来る事になるんだが?

それに


「はあ… 地上であれだけドタバタしたのに何の反応も無かったんだから、そこまで怖がるな。」


俺の予想通りなら、おそらくモンスターはそんなにいない。


「う…」
「でも…」
「…」


あー… もー…


「それじゃ、そこの角を曲がって10メートルくらい進んだらリレミトを試してみよう。」
「うん!」
「そうしよう。」
「わかった。」


考えてみれば、初めてのボス戦がラスボスだったらびびってしまうのが普通かもしれない。

だって、この世界に来てから雑魚と戦った事はあってもボスと戦った事があるやつがいないんだからな…


ジバンクにヤマタノオロチがいるか世界樹に聞いてみるか?


「いっその事、イオナズンで地上からこの地下通路を破壊して、またゲーマーにドラゴラムで瓦礫を撤去してもらうか?
 うまくいけばヴァラモスが生き埋めになるかもしれないし…」


なんてなー。

それができるなら精霊達が異世界から隕石を召喚して城ごと地下ごとヴァラモスをぶっ潰しているってーの。





お前ら…

つまらない冗談に頷いたりするなよ。





091114/初投稿



[11659] 24 らすとばとる
Name: 社符瑠◆5a28e14e ID:5aa505be
Date: 2009/11/14 12:25

「ゲームでは、地下一階までだっけ?」
「だったと思うけど…」


あれから三日かけて、俺達は巨大な扉の前に立つことが出来た。

地下へ続く道をイオナズンで強引に広げて、邪魔な瓦礫はドラゴラムで排除し、またイオナズンで道を拓き…

そういう事を地味に、飽きても、呻きながら、時々ルヴィスを苛めてストレスを発散しながら、やっと…


四股男のイオナズンでも壊れない壁とこの扉が、そこにヴァラモスがいる事を俺達全員に想像させる。


「いよいよか…」


俺の考えが正しければ、そんなにキツイ戦いにはならないだろうが…


「イオラ」


どおおおん


扉の前に残っていた邪魔な瓦礫がそれで完全に取り除かれる。

扉のすぐ向こう側にヴァラモスがいる可能性もあるので、ゲーマードラゴンは結界士と一緒に少し離れた場所で待機していてもらう。


「ほら、扉の隙間から穢れが漏れ出ています…」


リーダー、あんたがどう考えていたかわからないが、俺としてはそれも想定の範囲内なんだ。

まあ、予想が外れたら責められるだろうから何も言わないでいたんだけど。


「なあ、このまま扉の隙間から漏れ出る穢れを浄化し続けるっていうのはどうだ?」
「名案だ!」


自称社長とその部下…


「そうですねぇ…」
「いいんじゃない?」
「確か、エルフの隠れ里にいる精霊が穴を空けるんでしたよね? それまでは…」
「燃えよりも萌え…」


お前らはアイツといちゃいちゃしたいだけだろ?

というか、腐女子は何が言いたいんだ?


「ここで修行を続けるのも有りか…」
「今戻ってもどうせ留年ですし…」


空手馬鹿もか…


「僕はどっちでもいいですけど?」
「はっはっは。 俺と同じだな。」


むぅ…


「俺はさっさと終わらせたい。」


お前は4人から逃げたいだけ… でも


「俺もさっさと終わらせたい。」


俺の考え通りなら、今が一番倒しやすいは


「それじゃあ、13対2という事で… ここで漏れ出る穢れを浄化していきましょう。」


ずなんだけどなぁ…



仕方ない



――――――――――



「一人で行くの?」
「ああ。」


みんなはこれまで通りイススとヴァラモス城跡を行き来して浄化をするつもりみたいなので、俺1人だけアーリハーンに戻ってルヴィスと話す。


「勝算は?」
「予想通りなら100%勝てる。 予想が外れたら死ぬ。」


だから俺1人で行く。


「そっか…」
「記録を頼む」


俺の言葉に頷いて、ルヴィスが冒険の書を取り出す。


「それじゃあ、冒険の書に記録しますか?」





「どうしたの?」





「ね」
「ヴァラモスは」
「ぇ?」


俺の考えが正しければ…


「ある意味、お前の被害者か?」
「ぁ…」


どうなんだ?


「ある意味では… ね。」


そうか


「でもっ」


でも?


「私が居ない間にこの世界を支配しようとしたんだから、自業自得なのよ。」





「記録を」
「ぇ」
「記録を」
「あ… 冒険の書に記録しますか?」
「ああ。」
「冒険の書に記録しました。 でも、死なないでね?」
「さてな。」


大魔王がいるのなら、なんのためにヴァラモスを送り込んだんだ?


こんな世界にどんな価値が…?



――――――――――



イススに飛んで、そこからドラゴンになってヴァラモス城跡地の、あの扉の前へ…

これで長かった冒険も終わり。


あ… 


結局水の上を歩ける人がどこにいるのか、わからないままだったな…


「ま、仕方ない。 ヴァラモスを倒せばアフロか世界樹のどっちかが元の世界に返すだろう。」


ルヴィスには期待しない。 それが俺のジャスティス。





「やあ。」
「おう。」


そういえば、ホイミスライムはイススにいられないのでここで寝泊まりしているんだったな。


「1人でここに来たって事は、僕と同じ結論に?」
「ああ、俺はお前のあの姿を見ているからな。」
「だよねー。」


アレを見た事のない奴らには信じてもらえないだろうから言わなかったけど。


「僕も一緒に行くよ。」





「ここらにスライム系なんて居たか?」
「死ぬ事前提で話をするんだね。」
「ホイミスライムVSヴァラモスだからな。」
「僕達の想像通りなら、戦いらしい戦いにならないで済むだろう?」


ん?


「それが?」
「僕が一緒に行くのは、想像が外れて戦う事になった時のためだよ。」


あー


「つまり、俺が逃げる時間を稼いでくれるって事か?」
「補助系を全部使ってくれればそれなりに戦えるだろうからね。」
「でも、俺は死んでも」
「死んだら駄目だよ。」


む。


「なんd」
「戦うことになるんなら、ヴァラモスの情報はみんなの元に持ち帰るべきだ。」
「でも、それじゃお前が」
「僕はすでに死んでいるんだ。」



…その言葉は、ずるい。





ぎぎぎぎ


人間1人がギリギリ通れる程度に扉を開けて進入する。

四股男のイオナズンでも壊せなかった癖に、人間1人の力でこんなに簡単に開くんだから、ファンタジー世界って怖い。



内部は巨大な神殿の様な造りだった。


「イオナズン」


どおおおおん


「いきなりイオナズンねぇ…」


ちょっとびっくりした。 けど


「残念だったな? あらかじめマホカンタをかけておいたんだ。」
「…そうか。 最初の一手を間違えたな。」


そう言ったヴァラモスは俺の思っていた通りの姿をしていた。


「やっぱりか。」


精霊から貰ったオリハルコン製の剣を構える。


「我の姿に驚かぬのだな?」
「予想していたからな。」


あの時、コイツもそんな風になっていた。

もしあいつらの言ったように少しずつ穢れを浄化する方法をとっていたら、完全な状態のヴァラモスを相手にしなければならなかったかもしれないな。

だけど


「今、楽にしてやる。」
「ホイミスライムのバイキルトパンチでな!!」


構えた剣がほのかに輝く。

後ろのホイミンを後ろ蹴りで黙らせるのも忘れない。

…思っていたよりもシリアスなシーンなんだから、それっぽく行動してほしい。


「ほぉ… 精霊はその剣と魔法を人間に託したのか。」
「俺なら『無駄にしない』だろうとさ。」
「もっとも、お前に止めを刺すのはこのバイキルトキックだがな!!」


一番面倒な役を押し付けられたと思ったが… 世界樹は俺1人で決着をつけることになると予想していたのかもしれないな。

ホイミスライムを踏みつけながらそんな事を考える。


「そうか…」


そうなんだよ。


「なんでこんな世界を支配したのかさっぱりわからないが、俺にはどうでもいい事なんで聞いたりはしない!」
「なっ!」


俺はラスボスにどうしてこんな事をしたのか説明させるような、テレビゲームの優しい主人公じゃないんだよ!


「さらばだヴァラモス!!

ライデイン!!!!」


手の平から剣、剣からヴァラモスへと雷が伝わる。


「ぐあああああああおおおおおおおお!!!!」


それが、穢れを溜めすぎて形を保てなくなった…

自我を失くさないようにするだけで精一杯になってしまったモンスターの、最後の声だった。





091114/初投稿



[11659] 25 えんでぃんぐ
Name: 社符瑠◆5a28e14e ID:5aa505be
Date: 2009/11/14 11:55



ピピピピ ピピピピ


「ふぁ?
 はいはい。 今起きますよ。」


目覚ましの耳障りな電子音で目を覚ます。

ベッドから出て台所へ行き、冷凍庫から冷凍食品を取り出して中身をレンジに突っ込む。


ジジジ


もうすぐ寿命のくるレンジがちょっと怖い音を出しているが、それを無視してパソコンの電源を入れてメールとニュースサイトを確認する。


「メールは無し。 ニュースは…」


『謎の金属バット2人組、また暴力団支部を壊滅させる。』
『17人の被害者は全員氷漬け!?』


「うげぇ…
 あれだけ目立つ事はするなと言っておいたのに、何してくれてるんだこいつら。」


前に燃やしたり(ギラ系)爆発させたり(イオ系)するなと叱ったけれど、氷漬け(ヒャド系)ならOKと思ったのか?

まったく…


カタカタカタ


ちなみに、記事の横に

『武術を極めろ! 究極の一冊!』

などという広告(良く知る顔が2つ載っている)があるが無視する。


「よし。 今日の日課終わり。」


ニュースサイトを閉じて、ゲーマー娘に勧められたオンラインゲームを起動する。

あっちで手に入れた金貨を下に、ちょっと人に言えない方法で作ったお金があるので、お店にある中で一番性能高いパソコンを買ったのだ。


チーン!


「お、できたできた。」


レンジも買い替えるかなぁ…



――――――――――



システム    :おはようございます。
システム    :日曜日はモンスターの出現率がアップします。
カレンちゃん  :ノ
ルヴィス    :ノ
カレンちゃん  :おはよー
ルヴィス    :朝飯食ってるから狩りはもう少し待って
カレンちゃん  :わかってるよ
カレンちゃん  :いつもだもんね
ルヴィス    :旦那はどうした?
カレンちゃん  :JAで集まりだって
ルヴィス    :何気に働き者だよな
ルヴィス    :あっちに居る時は働かなかったくせに
カレンちゃん  :それは言わないで
カレンちゃん  :あ
カレンちゃん  :社長と社員がまた暴れたっぽいよ
ルヴィス    :ああ
ルヴィス    :あの2人のこはあきらめた
カレンちゃん  :のこ?
ルヴィス    :あの2人のことはあきらめた
カレンちゃん  :あはは
ルヴィス    :ほかのやつらは?
カレンちゃん  :さあ?
ルヴィス    :休日は集まるって約束だったのに
カレンちゃん  :確かに集まり悪いね
カレンちゃん  :ネカマが精霊の名前を騙るくらい悪いね
ルヴィス    :うるせー
ステータス変化 :攻撃力が上昇しました。
ステータス変化 :防御力が上昇しました。
ステータス変化 :素早さが上昇しました。
カレンちゃん  :ノ
ルヴィス    :ノ
アフロ     :ノ
カレンちゃん  :おはよー
アフロ     :俺なんて精霊の名前どころか
アフロ     :髪型を名前にしているんだが?
カレンちゃん  :いつから聞いていたの?
ルヴィス    :四股お疲れ様です
アフロ     :今INしたばかり
アフロ     :うるせー
カレンちゃん  :大丈夫なの?
カレンちゃん  :城攻略中に背中を刺されたりしない?
ルヴィス    :ww
アフロ     :なにが
アフロ     :www
アフロ     :大丈夫
アフロ     :新居の場所は誰にも教えていない
カレンちゃん  :あーあ
ルヴィス    :あーあ
アフロ     :なんだ?
カレンちゃん  :いざというときに誰も助けにいけないよ
ルヴィス    :だな
ルヴィス    :そういえば、Lv1と連絡はとってる?
カレンちゃん  :うん
カレンちゃん  :暫くINできないって
カレンちゃん  :忙しいみたいだね
ルヴィス    :そうか
カレンちゃん  :空と陸は?
ルヴィス    :昨日メールが来た
ルヴィス    :休日出勤だとさ
カレンちゃん  :じゃあ、今日は3人だけ?
ルヴィス    :そうなるな
カレンちゃん  :狩り場が限られるね
ルヴィス    :回復2と魔法1で行ける場所か
カレンちゃん  :旦那が居ればバランス良かったんだけど
ルヴィス    :仕事じゃ仕方ないさ
ルヴィス    :アフロは何か狩りたいのあるか?
ルヴィス    :おーい?
ルヴィス    :3分以上動きがないぞ?
カレンちゃん  :トイレかな?
ルヴィス    :せめて朝飯かな?にしとけ
ルヴィス    :というか、話の途中で何も言わずに居なくなるか?
カレンちゃん  :う~ん
アフロ     :おひさしぶりです。
カレンちゃん  :?
ルヴィス    :?
アフロ     :りーだーです。
システム    :ログアウトまで後10秒
アフロ     :まさかこんなふうにれんらくをとっているとは
システム    :ログアウトまで後5秒
システム    :ログアウトまで後4秒
システム    :ログアウトまで後3秒
システム    :ログアウトまで後2秒
アフロ     :おもいませんでした。
システム    :ログアウトまで後1秒
システム    :お疲れ様でした。



――――――――――



「びびった…」


思わずログアウトしたけど、アイツ無事かな?

まさか本当に、背中から刺されていたりしないだろうな?

リーダーだけなのか? 他の3人も一緒なのか?

回復魔法があるから、喉を潰されたり即死じゃなければなんとかなると思うけど…


「新居がわからないから、こっそり様子を見に行くこともできないしな…」


どうしよう?


♪♪ダッダッダー♪♪


お!




「もしもし!」
『ょぅ』
「大丈夫か?」
『リレミトで脱出、ルーラで逃げた』


ほっ


「お疲れ。」


血みどろにはなっていないんだな。 良かった。


『なんでばれたんだろ?』


なんで?

んー


「あ」
『なんだ?』
「携帯じゃないか?」
『ん?』
「さっき、着信音が変わってなかった。 って事は、携帯変えて無いんだろう?」
『あ』
「GPSだな。
 次は気をつけろ。」
『GPS…
 俺、4人にそんなデータを渡した覚えはないんだけど』


4人全員で突撃したのか…


「アイツ等を過小評価しちゃいけないって、何度も言ってるだろ?」
『…そうだな。』
「とりあえず、携帯の電源を今すぐ落とせ。」
『わかった。 ネカフェでメールする。』
「ああ。」


プツ


「ゲーマーにメールしておこう。」


あいつもログアウトしただろうし、さっきの俺と同じように四股の心配をしているだろうしな。


ピピピ ピ ピピピピポ… … …


送信


これでいいだろう。


「まったく。
 ハーレムOKって言われているんだから、いっそ乗っちゃえばいいのに…」


痛い子ばかりなのが残念だけどな。


「何の事?」
「四股男の事だ。」
「ああ。」


あいつも馬鹿だよな…

こっちの世界に帰る時に携帯番号を教えたりしなければ今みたいな事には


「って! なんで!?」
「探すのに苦労したよ。」
「だからなんで?」


なんでここにいるんだよ?


「あっちの世界、精霊がモンスターや穢れをどんどん排除しちゃってね?」


排除?


「あ! アフロが別の世界に管理できないマナを放出するとか言っていたな。」
「そうそれ。」
「それで?」
「生き物の居ない世界にモンスターを捨てるのは仕方ないと思うけど」


おい


「マナどころか、モンスターごと捨ててるのか?」
「うん。」


それっていいのか?

ドラクエ3と違って、あの世界のモンスターって穢れが溜って変質した生き物だろ?

生態系に影響とかでないか?





「まさか…」
「『どうする?』って聞かれてさ。
 世界に1匹の魔物になっても居心地が悪いし、元人間の僕としては魔物だらけの世界にも行きたくないしで…」


…なるほど。


「だいたいわかった。」


あの糞精霊どもめ…

こいつの事はよろしく頼むと言っておいたのに…


「ねえ。」
「なんだ?」
「邪魔にならないようにするからさ、一緒に暮らしちゃ駄目かい?」


はぁ…


「お前には色々と世話に… 世話に?」


なってないな?


「見捨てないでおくれよー。」


なんで棒読み


「まあ、いいさ。」
「お!」
「ホイミスライムのままだったら困ったが、『はぐれメタル』なら最悪『置物』として扱えるし。」
「うわぁ…」


嫌なら出て行ってもいいぞ?


「色々と複雑だけど、ありがとー!!と叫んでおくよ。」
「まったく…」
「ははは。」


まあ、これからよろしくな。





091114/初投稿



[11659] 26 あとがき
Name: 社符瑠◆5a28e14e ID:5aa505be
Date: 2009/11/14 12:07



ここまで読んでくださってありがとうございます。

PV数が予想以上に伸びていくのを申し訳ないと思いながらも当初の予定通りの終わり方にしました。

できたら最後まで読んでくださると嬉しいです。



アーリハーン編

01

①ルヴィスと主人公が現在の状況を会話で説明。
②主人公の『力』も判明する。

ルヴィスが主人公に冒険の書に記録する事をしつこく勧めているが、別に主人公の『力』を知っていて勧めているわけではない。

性格の悪い作者が『読者が勘違いしてくれるかな?』と思っただけ。


02

①死んでも生き返らない
②マナの説明
③レベルアップの仕方

『村人でも10人くらいで戦えばスライムくらい倒せるだろうし、レベルアップできるだろうし、魔王だって倒せないか?』
という疑問を読者に持たせないための説明をルヴィスにさせる

「モンスターを倒せば自動的にレベルアップする、なんて世界だったらモンスターに取られる前に人間に取られているわよ。」

④主人公が拉致された理由
⑤勝手に肉体を改造

主人公がルヴィスの説明を簡単に信じる理由も

「異世界に来た事を受け入れる事に抵抗が無くて、生き物を攻撃する事にさほど抵抗を持たない性格って言ったほうが正確かしら?
 あ、そうそう、私が祈る事で『なんらかの力』に目覚める事ができる。 これが一番重要」

と説明させる。

⑥現在地はアリアハン?


03 04

①最初の仲間 女戦士登場
②経験値を溜めすぎるとどうなるか

ヴァラモスがどのような状態になっているかのヒント①

③王様や神父の仕事

RPGで一般人が魔物を根絶できない王や騎士達、宗教施設に不満を持たない理由

④装備と転職
⑤手を繋いで記録

主人公最強へのフラグ①


05 06

①転職しても弱体化しない

主人公最強へのフラグ②

②装備探し
③レバの村で『悪くないスライム』を仲間に
④女戦士の死

主人公最強へのフラグ③


07

①主人公の『力』

主人公最強へのフラグ④
わかり難かったと思うけど、この世界に拉致された人は天涯孤独であるという事を表現。
ルヴィスもそれなりに色々考えている。

②真っ黒でドロドロな形になったスライム

ヴァラモスがどのような状態になっているかのヒント②


アーリハーン編は世界観の説明と、主人公は人の『力』を奪って強くなるのだと読者さんに思わせるミスリードが主でした。



ロマルア編(とりあえず)

08~13

①カンタダと出会う

カンタダを仲間にする為のフラグ①

②スライムと別行動

スライム→バブルスライムへ

③ロマルア王家の変人っぷり

カンタダを仲間にする為のフラグ②

④キメラの翼
⑤モンスターの襲撃は十日に一度

ヴァラモスがどのような状態になっているかのヒント③

なせヴァラモスは魔物を『定期的に』『人間が倒せる程度の群れ』で城を襲うのか?

ヒント①~③でヴァラモスの状態をほとんどの読者が推測してしまったと思うけど、最後まで読んでくれてありがとうございます。

⑥童顔チビと出会う

こいつを女戦士のように殺して『力』を奪うと思った読者は多かったはず…

でも、考えてみて欲しい…
『自殺』するような精神の弱い人間がこの世界に拉致されるだろうか?

⑦足の速いおっさんにおんぶしてもらう


ロマルア編その2があって、カンタダが仲間になるんだと思っていた人も多いと思うけれど…

ドラクエ3は金の冠をロマリア王に返さなくてもエルフの隠れ里をスルーしてもいいゲームなのです。

それに、この主人公なら必要そうなイベントをスルーしてもいいでしょ?


ダァマで仲間と合流&精霊達とラーミア編

14~20

①生き残っている仲間と合流&状況説明
②キメラの翼の作り方
③世界樹とアフロ 精霊2人と交流
④カンタダの妹 女戦士ダニア

カンタダを仲間にする為のフラグ③

彼女がカンタダと話し合うためにロマルアに行ったのを彼女の恋人が「カンタダがダニアを誘拐した」と誤解してしまうという話を書くのが面倒になったからカンタダを仲間にしない事にしたわけではない。
誤解しないように…

⑤エジンバ全滅

『水を自在に操る』のが『力』だった。
だから、武器として渇きの壷が欲しかった。
壷の中の水を操って自分のいる場所まで持ってくるつもりだった。
しかし、渇きの壷は一度水が出ると最後の一滴まで出す仕様だった。

悲しいけれど、ただそれだけの事だった。

⑥ゾーマに相当する存在がいるのかどうか

知識があるのだから、対処方法を考えるべきだよね?

⑦ラーミア

アフロが頑張った。

ルヴィスなら「オーブを集めればいいじゃない」とか言いそうだけど…


レベルアップと対ヴァラモス

21~24

レベルアップしすぎたら、ラスボスとの戦いはつまらないものになる。


えんでぃんぐ

25


それぞれのその後


①『問答無用で経験値を浄化する』永遠のレベル1(僧侶)
 元々大卒のプーだったが、こちらの世界に帰ってきてからは老人ホームで働いている。

 「お前といると、なんか癒されてる感じがする。」

 そう友人に言われたので色々と試してみた結果、自分の『力』が俗に言う『癒し系』と呼ばれるモノだと気付いた。
 ちょっとした怪我ならホイミでこっそり治しているらしい。

②『世界樹の葉を使って結界を張れる』引篭もり
 こちらには世界樹の葉がないので『力』の持ち腐れ。
③『話しかける事で植物の成長を促進する』ダァマの食料事情を支えるゲーマー娘
 高校中退。 オンラインゲームではカレンと名乗っている。

 この2人実は付き合っていた。
 彼女の『力』はこちらの世界でも健在だったので、2人で小さな畑を買って慎ましく暮らしている。

 2人の栽培する野菜は地元のレストランで評判らしい。

④『日の光に当たると空が飛べる』童顔チビ
 こちらの世界でもちゃんと飛べた。
⑤『ものすごく速く走れる』うざいおやじ
 こちらもすごい速度で走れた。

 幅跳びやマラソンですごい記録が出せるだろうけれど、2人ともそれなりの年齢なので今更陸上競技の選手になれない。

 2人共元の職場になんとか復職できたらしく、忙しいながらも時々一緒に酒を飲んでいるらしい。

⑥『人間などに化けている魔物を見破れる』自称社長
 その『力』はミミックなどにも有効だったのだが…
⑦『山彦の声』自称社員(元コンビニ店員)
 近くにオーブがあると自分の声が返ってくる『力』

 自称社員はコンビニをクビになっていたので、自称社長と一緒に行動中。
 自称社長がいない間に好き勝手していた商売敵を潰して回っている。

 ちなみに、2人は自分の力を知らないままである。

⑧『気弾みたいのを出せる』空手家
 看板破りで道場をGET
⑨『麻痺攻撃』空手家の弟子
 師匠の言葉をまとめた本を出版社に売り込んだ。

 道場を経営。 お金持ち。

⑩『すごく遠い場所も見える』リーダー
 探偵事務所を立ち上げた。
⑪『影に入ると怪力になる』おかっぱ娘
 リーダーと一緒に探偵をしている。 留年していたので夜間高校に転校した。
⑫『身に着けている武具の強化』腐女子?
 リーダーと一緒に探偵をしている。 ポケットには違法でない武器が…
⑬『自分のMPを任意の相手に分け与える』ニフラム好き ドラゴラムも好きになった。
 リーダーの探偵事務所で事務をしている。

 4人仲良く暮らしている。
 仕事が無いときはバーンモドキを追いかけている。

⑭『魔法の威力or効果を増加する』バーンモドキ(元高所恐怖症)
 上記の4人から逃げる生活をしている。 
 高所恐怖症を抑えてくれたエルフさんへの感謝の気持ちを込めて、オンラインゲームではアフロなキャラを使っている。

 ちなみに…

 アフロの部下のエルフさんが行なった高所恐怖症を抑える術の副作用は女性恐怖症(軽度)でした。

⑮主人公
 あっちで手に入れた金貨をこっちの現金に換えて、その金で株を買って生計を立てている。
 オンラインゲームではルヴィスという名前の女性キャラを使っている。

 結局生死不明の7人がどうなったのか、ときどき思い出しては溜息をつく。


番外
ジョーマ

ドラクエ3でいうところのゾーマ 本編では一度も出てきていない。

あの世界にヴァラモスを送り込む事で『溢れるほどのマナと魔物だらけの世界』が計算どおり誕生したので、そこで大魔王として悠々自適な毎日をすごしている。

ヴァラモスさんご愁傷様です。



――――――――――



おきて…

ん…?

起きてってば…

んん?

起きなさい!」


「ん…!?」


ここは?


「まったく、起きるのが遅いわよ?」
「ルヴィス?」


って事は…


「俺はヴァラモスに負けたのか?」


俺の予想が外れたって事k


「あなたは勝ったわよ?」
「ん?」


なら、なんでここにいるん… そうか


「あっちの世界に行っても目覚めた『力』は有効だったって事よ。」
「そのようだな。」


まったく、こんな事態は想定外だ


「って、なんだココは? 世界樹?」


周りを見渡すと木ばかり…


「あのね、あなたがヴァラモスを倒してから五万年程経っているのよ。」


は?


「マナが無くなって魔物の恐怖が無くなると人間は人間同士で争いを始めてね?」





「その巻き添えになるのを避けてエルフが他の妖精達と一緒に世界樹に結界を張ってそこで暮らす事を提案してきたの。」
「ふむ。」
「精霊も全員避難して、結界の中で穏やかに暮らしていたのだけど…」
「だけど?」
「人間が私達の結界を壊せる程の威力のある兵器を開発しちゃって、私達はあの世界から脱出する事にしたの。」


精霊の結界を破壊できる兵器… こえぇ…

ん?


「それでね、あの世界から脱出した瞬間に」
「俺が、お前の前に現れたんだな?」
「うん。」


俺が、あれから五万年後にこうして復活したのは…


「アフロが、他の世界からあの世界へ行く事が出来ないようにしていたから、あの世界からお前が出てきた今、こうして復活したってところか。」
「アフロ…? あ、あの時はアフロだったわね。」


今は違うのか。

というか、五万年前の事を思い出せるのか… さすが精霊。 ファンタジーな存在だ。


「しかし、面倒な事になってしまったな…」
「ぁ…」
「俺が世界の危機を救ったと言っても五万年前の事… 妖精が人間を嫌っているっぽい世界では余り役に立ちそうに無い肩書きだ。」
「ぇ?」


面倒だが、死んでも復活してしまうしなぁ…


「ま、これからもよろしく頼む。」
「ぅ…」
「ぅ?」
「うん! これからもよろしくね!」


変なヤツだなぁ…


「あ! そうだ!!」
「なんだ?」
「何かがあった時の為に、記録しておきましょう?」





「何度も説明するのは面倒だし… 何? 私の顔に何かついてる?」
「なあ…」
「何?」
「この世界には、俺が死ぬような『何かがある』予定なのか?」
「…」
「おい?」


おいこら、何か言えよ。


「冒険の書に記録しますか?」





―――――完―――――





091114/初投稿


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