そこに広がる赤い海は誰の目にも異様で、空の星空がまたその赤さを際立たせ、聞こえる音といえば寄せては返す赤い波の音のみ。
みなが幸せになるために
第零話『逆行』
シンジは呻きながら、横たわっていた体を起こして周りを見渡した。
そしてしばらく考えると、ぽつりと呟く。
「なんなんだよ………これは」
その言葉が引き金となり、悲しみと怒りが入り混じった言葉が、を切ったようにシンジの口から溢れ出る。
「僕は、僕はこんな世界を見るために戦ってたんじゃないよ!ねえ、なんで誰もいないの?!どこに行ったのさ!
トウジ!ケンスケ!委員長!リツコさん!ミサトさん!綾波!父さん!アスカ!ねえ、誰か返事してよ!」
叫ぶ、シンジは力の限り叫ぶ。そして、叫びすぎて声が枯れ、声が出なくなっても聞こえるすすり泣く声。
今となっては、誰も返事を返す者はいない。
「ねえ、誰かぁ………」
その声には既に希望などは消えていたが、ふと彼の耳に声が届く。
「碇君………」
「あ、や、波?」
聞こえてきた声は夢か、はたまた幻か………それとも現実なのか。
しかし、ようやく人の声を聞けたシンジはそれが何であろうと安堵の溜め息を漏らし、数刻ほど置いてから喋り始める。
「ねえ、綾波………何処にいるの?なんで、姿が見えないの?」
「これは、夢であって、現実の世界」
「………よく、分からないよ」
「碇君………貴方の望みは…なに?」
「何が………言いたいの?」
シンジは話が噛み合わない事をもどかしく感じながらも、話を続けていく。
しかし、レイには話を合わせる気など無く、自分の言いたい事を淡々と喋る。
「貴方の望みは…なに?」
再度聞かれたシンジは、自分の"望み"を語る。
「………時を巻き戻す事、かな。
過ぎた時が戻せない事は知ってるけど、それでも僕は戻りたいんだ。あの頃に。
そして、今度はエヴァに乗って、みんなを守りたい。こんな世界を見たからこそ、同じ過ちを繰り返したくはい」
そう語るシンジの目には、知らず知らずの内に涙が溜まり、次々と零れ落ちている。
しかし、それでもレイは淡々と、淡々と喋り続ける。
「そう………でも、それには碇君は世界を知らなすぎる」
「世界…を?」
「ええ………この世の出来事は起こるべくして起こされた」
「それは、誰かが裏で操っていた………って事?」
「だから、碇君は全てを知る必要がある」
「どうやって?」
「………さよなら、碇君。また、会いましょう」
急すぎるその言葉にシンジの頭は全く付いて行けてないが、世の中の時計は急速に左向きに回っていき、同時にシンジの意識は遠のいていった。
そして、意識が飛ぶその最後の瞬間、シンジはまた声を聞いた気がした。
最後に一つだけ…碇君は、セカンドの事をどう思ってるの?
アスカの事?アスカは、一緒に戦ってた仲間だよ
それだけ?本当は、心の何処かで、強く惹かれていたんじゃないの?
え?………
何故、飛び込んでまで助けたの?何故、キスをしたの?
………そうか、僕は、アスカに惹かれてたんだ。きっと、いつからか分からないけど、好き…だったんだ
リリンの心は、繊細で、傷つきやすくて、壊れやすくて、そして分かりにくいねぇ。そう思わないかい?シンジ君
時計は、いつまでも回り続ける
あとがき
えと、自サイトとの二重掲載です。
昔から、ここの投稿掲示板に何かしら連載書きたいと思ってはいたものの、特にアイデアも浮かばずにふと二重掲載を思い立ってしまったのでした。
ちょいちょいと加筆修正したものを乗っけようかと思います。