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[2937] みなが幸せになるために 逆行 LAS
Name: 翔矢◆663b9378 ID:9a288620
Date: 2008/05/12 23:28
初めましてー
えぇと、最初に言っときますと、これは自サイトに掲載されてるやつをちょこっと弄って投稿しただけです。
昔から、Arcadiaに何か連載を投稿してみたいとは思ってたんですけども、他に始める時間も無いので、とりあえず二重投稿って形で(ぉ

一応、逆行でLASでNotスパシンとなってます

誤字脱字とか、変な改行とかあったら教えてくれると助かります。



[2937] 第零話「逆行」
Name: 翔矢◆663b9378 ID:9a288620
Date: 2008/05/12 23:28
そこに広がる赤い海は誰の目にも異様で、空の星空がまたその赤さを際立たせ、聞こえる音といえば寄せては返す赤い波の音のみ。


みなが幸せになるために
第零話『逆行』


シンジは呻きながら、横たわっていた体を起こして周りを見渡した。

そしてしばらく考えると、ぽつりと呟く。

「なんなんだよ………これは」

その言葉が引き金となり、悲しみと怒りが入り混じった言葉が、を切ったようにシンジの口から溢れ出る。

「僕は、僕はこんな世界を見るために戦ってたんじゃないよ!ねえ、なんで誰もいないの?!どこに行ったのさ!
トウジ!ケンスケ!委員長!リツコさん!ミサトさん!綾波!父さん!アスカ!ねえ、誰か返事してよ!」

叫ぶ、シンジは力の限り叫ぶ。そして、叫びすぎて声が枯れ、声が出なくなっても聞こえるすすり泣く声。
今となっては、誰も返事を返す者はいない。

「ねえ、誰かぁ………」

その声には既に希望などは消えていたが、ふと彼の耳に声が届く。

「碇君………」

「あ、や、波?」

聞こえてきた声は夢か、はたまた幻か………それとも現実なのか。
しかし、ようやく人の声を聞けたシンジはそれが何であろうと安堵の溜め息を漏らし、数刻ほど置いてから喋り始める。

「ねえ、綾波………何処にいるの?なんで、姿が見えないの?」

「これは、夢であって、現実の世界」

「………よく、分からないよ」

「碇君………貴方の望みは…なに?」

「何が………言いたいの?」

シンジは話が噛み合わない事をもどかしく感じながらも、話を続けていく。
しかし、レイには話を合わせる気など無く、自分の言いたい事を淡々と喋る。

「貴方の望みは…なに?」

再度聞かれたシンジは、自分の"望み"を語る。

「………時を巻き戻す事、かな。
過ぎた時が戻せない事は知ってるけど、それでも僕は戻りたいんだ。あの頃に。
そして、今度はエヴァに乗って、みんなを守りたい。こんな世界を見たからこそ、同じ過ちを繰り返したくはい」

そう語るシンジの目には、知らず知らずの内に涙が溜まり、次々と零れ落ちている。
しかし、それでもレイは淡々と、淡々と喋り続ける。

「そう………でも、それには碇君は世界を知らなすぎる」

「世界…を?」

「ええ………この世の出来事は起こるべくして起こされた」

「それは、誰かが裏で操っていた………って事?」

「だから、碇君は全てを知る必要がある」

「どうやって?」

「………さよなら、碇君。また、会いましょう」

急すぎるその言葉にシンジの頭は全く付いて行けてないが、世の中の時計は急速に左向きに回っていき、同時にシンジの意識は遠のいていった。
そして、意識が飛ぶその最後の瞬間、シンジはまた声を聞いた気がした。

最後に一つだけ…碇君は、セカンドの事をどう思ってるの?

アスカの事?アスカは、一緒に戦ってた仲間だよ

それだけ?本当は、心の何処かで、強く惹かれていたんじゃないの?

え?………

何故、飛び込んでまで助けたの?何故、キスをしたの?

………そうか、僕は、アスカに惹かれてたんだ。きっと、いつからか分からないけど、好き…だったんだ

リリンの心は、繊細で、傷つきやすくて、壊れやすくて、そして分かりにくいねぇ。そう思わないかい?シンジ君

時計は、いつまでも回り続ける

あとがき

えと、自サイトとの二重掲載です。
昔から、ここの投稿掲示板に何かしら連載書きたいと思ってはいたものの、特にアイデアも浮かばずにふと二重掲載を思い立ってしまったのでした。
ちょいちょいと加筆修正したものを乗っけようかと思います。



[2937] 第一話「使徒再び」
Name: 翔矢◆663b9378 ID:9a288620
Date: 2008/05/12 23:28
みなが幸せになるために
第一話『使徒再び』


「う、ん………こ、ここは?」

ぼんやりと意識を取り戻したシンジの視界には、初めて第三新東京市に来た時と全く同じ光景が映り、手に持った受話器からは電話不通のアナウンスが聞こえてくる。

これは…?何が起きたんだ?ここは、間違いなく僕が第三に来た時と同じだ。

不可解な状況に、シンジは頭を悩ませつつ考え込み、一つの事に思い当たる。

そうか…綾波、それと最後に聞こえたカヲル君………どうやったのかは分からないけど、僕はあの二人のお陰でやり直す機会を貰ったんだ。
………考える必要、ないじゃないか。僕はこの先起きる出来事も、黒幕の事も知ってる。
だから、僕はやり直せばいいんだ。みんなが戦いから解放されて幸せになれるように、また戦うんだ。使徒と、そして裏で動く………人類補完計画と。

……………

……………

……………

……でも、具体的にどうすればいいんだ?

ふと、その問題にシンジはぶつかる。

良く考えてみれば、僕が逆行して来たなんて言ったって信じてもらえないし………むしろ信じられると、僕は邪魔な存在、てことで、排除されかれない………
かといって、いくら先を知ってても協力無しでどうにか出来る程軽い問題でも無いし。
………取りあえずは、前と同じように進めるようにするしかないのかな?
前途多難だなぁ。

とりあえず、起こせるアクションは特に無いといった結果を導き出したシンジが振り返ると、奥の道路にレイの姿が蜃気楼となり現れる。

「………!綾波!!」

シンジが呼びかけるが、レイは何も答えることは無く、ただただそこに立っている。

そんなレイを見つつ、シンジは何を思ったのか一言叫ぶ。

「ありがとう!」と

それを聞いたレイの顔は、僅かに微笑んだかのように見え、その後ゆらりと消えていった。

確か前も綾波の姿が急に現れて、目を背けたら消えたんだよな。

シンジがそんな事をぼんやりと考えていると、突如地面が、周りが、大きく音を立てつつ揺れる。
反射的にシンジは頭を覆い、揺れが収まるのを待つ。
そして、揺れが収まると山の陰から国連軍の戦闘機が姿を現し、それに引き続いて第三使徒サキエルが現れた。





現れた戦闘機はサキエルに向かって何発ものミサイルを放ち、それは全弾命中したように見えた。
しかし、衝撃で傍の電車を吹き飛ばすほどの威力があるそれも、サキエルには一切のダメージを与える事は出来ずに、逆に反撃されて無残にも戦闘機は墜落してゆき、その中の一機がシンジの傍へと落ちてくる。
それから自分を庇うように頭を覆っシンジだが、戦闘機に続いて使徒がシンジの目の前に落ちた戦闘機を踏み潰すように降りてくる。
そして、踏み潰された機体が爆発し爆風が今にもシンジを襲う寸前、一台の車が、タイヤが道路と摩擦して起きた大きな音をたてながら、シンジを庇うようにしてシンジの目の前に止まり、即座に扉が開かれ中からミサトがシンジに声を掛けた。

「ごめーん、お待たせ」

ミサト、さん。お久しぶりです。

シンジは心の中でそう呟くと、ミサトの車に乗り込む。

そして、シンジが車に乗りこんだ刹那、車は後ろ向きに急発進して下りてきた使徒の足を間一髪で交わすと、戦闘の場から急速に遠ざかって行った。





戦闘地から大きく離れ、既に戦闘の余波を受けない所まで来たミサトとシンジは一度車を止めると、戦況を双眼鏡で確認する。
すると、今まで使徒に向けて攻撃をしていた戦闘機が全機一斉に撤退を始めた。

「ちょっと!まさか…N2地雷を使うワケ?!………伏せて!」

そう叫んだミサトはシンジをシートに押し倒し、自らはシンジの上に覆いかぶさってシンジを庇うような形でシートに伏せる。
瞬間、今まで戦闘が行われていた場所で今までの兵器とは比較にもならない程の爆発が巻き起こり、その爆風は戦闘地から相当な距離を置いていたにも関わらず、ミサトの車を横転させ

る。
一回、、、二回、、、三回と転がり続けた車は、爆風が収まってきた頃にようやく転がるのを止めたのであった。





「大丈夫だった?」

「ええ、口の中がなんかしゃりしゃりしますけど」

「そいつは結構。じゃあ、いくわよ?」

「はい」

「せーの!」

完全に爆風が止んだのを見計って車の中から出てきたシンジとミサトは、互いの無事を確認した後に横たわった車を渾身の力で持ち上げて、元の状態に戻した。

「ありがとう、助かったわ」

「いえ、僕の方こそ…えと………」

礼と同時に名前を呼ぼうとしたシンジだが、そこでふと疑問が頭に浮かぶ。


なんて、呼ぼう。ミサトさん?いや、確かこの時は葛城さん………の方がいいかな?


どう呼べばいいのか分からずに迷ってるシンジに、助け舟が渡される。

「ミサト…で、いいわよ。改めて宜しくね、碇シンジ君」

「はい、よろしくお願いします。ミサトさん」





二人は先ほどの衝撃でボコボコに凹んでしまった車に、応急処置としてガムテープを貼り付けどうにか動けるようにすると、再び目的地へと向かっていく。
その道中、ミサトは運転しながら心の中でぶつぶつと愚痴を零す。


しっかしもう………最っ低!せっかくレストアしたばっかだったのに早くもベッコベコ。
はぁ、ローンが後三十三回プラス修理費かぁ。おまけに一張羅の服も台無しじゃない。せぇっかく気合入れて来たのに。とほほ………


そんな、激しく落ち込んでいるミサトにシンジは声を掛ける。

「あの、ミサトさん」

けれども、落ち込みすぎたミサトはその呼び掛けに気付く様子すらない。
仕方なく、シンジはミサトを先ほどよりも多きめの声で呼んだ。

「あの、ミサトさん!」

シンジの呼び掛けに気付いたミサトは、まだどこか思考の中に漂いながらシンジに返事を返す。

「ん、なに?」

「いいんですか?こんな事して」

そう言うシンジの視線の先には、近辺にあった車から勝手に拝借したバッテリーの数々。
そんなシンジに対して、ミサトはカラカラと笑いながら答える。

「あ~…いいのいいの。今は非常時だし、車動かなきゃどうにもならないでしょ。
それに、私こう見えても国際公務員だし万事オッケーよ」

何がどうオッケーなのか分からないシンジは、苦言を呈す。

「説得力に欠ける言い訳ですね」

しれっと言い放ったシンジに、ミサトは笑いを収めてボソッと呟く。

「………かわいい顔して、意外と冷静なのね」

そんなミサトに、シンジも嫌味まじりで言葉を返した。

「そうですか?ミサトさんの方こそ、年の割りに子供っぽいんですね」

年の事を言われたミサトは、カチン…と来たのか急に車を右に左に激しく揺らす。
シンジが、急に襲ってきたその揺れにまともに対応出来る道理も無く、なすすべ無く右に左に体を揺られ、まともに走り出した頃には顔面蒼白になっていた。

「シンジ君?…レディーに年の事言ったらこうなるのよ。分かった?」

「は、はい」


………ちょっち…やり過ぎたかな?…ま、シンジ君が悪いのよ、うん。


気持ち悪い………


そんなこんなで、二人の乗る車は、目的地…NERVへと到着した。





カートレインに車を乗せ、運転をする必要の無くなったミサトに、シンジが話し掛ける。

「あの、さっきのは何ですか?」

「さっきのは、使徒と呼称される正体不明の物体よ」

「そうですか」

が、話題はすぐに途切れて沈黙が流れる。


……………


……………


……………

しばし静かな空気が車内に漂うも、またシンジの方から話しかける。

「これから、父の所へ行くんですか…?」

「そうね、そうなるわね」


父さん…か。
出来れば、会いたくなかったな。
全てを知ったって言っても、それは起きた事実と原因だけで何を考えて起こしたかなんて分からなかったから、父さんが何を考えてあんな計画を推し進めたのか分かんないし。
父さんについて知ってるのは、父さんが母さんとリツコさんの二人を愛してたって事くらいで、これからもたぶん詳しくは分からないし。
正直…会い辛いな。会って、何を話せばいいのか僕には…分からない。


この後の事を考えて自分の中に入り込んで行きそうなシンジだったが、ミサトの声でふい現実へとに戻される。

「あ、そうだ、お父さんからID貰ってない?」

「あ、はい」

シンジは返事を一つ返すと、自分の持ってた鞄の中を探って、IDとゲンドウから届いた来い…とだけ書かれた手紙を取り出てミサトに差し出すと、ミサトはそれを確認して今度はミサト

がようこそNerv江、と書かれたNERVの資料のような冊子をシンジに手渡す。
受け取ったシンジは、その冊子をしばらく見つるとミサトに話しかけた。

「あの…父さんはなんで僕の事を呼んだんでしょうか?」

「気になるの?呼ばれた理由が」

「ええ。父さんが何を考えてるか全然分からなくて。だから、出来れば会いたく無かったんで」

「そう…シンジ君はお父さんが苦手なのね」

「…苦手です、ね」

「じゃあ、私と同じね」

「どうして………」

ミサトが何を考えて、同じ、と言ったのか聞こうとした所で車内が急に明るくなり、眼前には地底湖や森林が広がって、その景色はシンジが今しがた聞こうとしていた事さえも忘れさせ

るほどに幻想的、且、綺麗な光景を作り出していた。





「おっかしいわねぇ…たしかこの道のはずよね…?」

車から降りたミサトとシンジは、ミサトの案内で先に進むが肝心のミサトが先程から地図をみつつ頭を悩ませている。
そんなミサトに、シンジは言い辛そうに口を開く。

「あの、ミサトさん…?」

「ごめん、ちょっち静かにしててくれない?」

「でも…言い辛いんですけど、この道、さっき通りましたよ」

シンジの言葉にミサトは歩みを止めてシーン、と黙り込む。


……………


……………


……………


沈黙の時がしばし流れて出てきたミサトの第一声は…

「でも、大丈夫。システムは利用するためにあるのよ」

そして、リツコが呼び出された。





「何やってたの?葛城一尉。私たちには時間も無ければ、人手も無いのよ」

「えへへ、ごめん」

いつまでも道を覚えないミサトにリツコは怒りの言葉を混じらせるも、ミサトはその怒りを気にも留めず謝る。
そんなミサトに、リツコは溜め息を付きながらもシンジの方に話を移す。

「ふぅ……で、この子が例の男の子ね?」

「そ、マルドゥックの報告書によるサードチルドレン」

「私は赤城リツコ。よろしくね、碇シンジ君」

「あ、はい。よろしくお願いします。えと…」

「リツコ…でいいわ」

「はい、よろしくお願いします。リツコさん」

「じゃあ、私に付いてきて」

リツコに付いていきながら、シンジは頭の中で考え始める。


これで、またエヴァに僕は乗るんだ。そして、ついに父さんと会う事になる。
たぶん、ここからが本当の意味での始まりになるんだろうな…


シンジは一人そんな事を考えつつ、リツコの後を付いて行った。






リツコに連れられ、シンジは扉を潜り大きな部屋へと入るとその部屋のは電気が付いておらず、傍にいる人が誰なのかも分からないほどに真暗だった。

「あの…真暗で何も見えませんけど?」

シンジがそう言ったすぐ後、パチリ…と電気のスイッチを入れた音から少し間を置いて部屋に明かりが灯ると、シンジの眼前一杯に、エヴァ初号機が広がる。

「う、うわ!」

初号機は既に見慣れていたシンジでも、やはり急にその厳つい顔を眼前にドアップで差し出されると少なからず驚く。


幾らなんでも、急にコレは心臓に悪いよ………で、今の僕がエヴァの事知ってたらおかしいんだから、知らないフリして話を合わせないといけないんだよな。


と、シンジは思いつつ、エヴァの事を知らないかのようにリツコに表れた物の事を尋ねる。

「これは……ロボット…ですか?」

「厳密に言うと違うわね」

「じゃあ…?」

「これは…人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオンよ」

「さっきの、使徒?と何か関係が…あるんですか?」

「ええ、少なからずね。エヴァは、我々人類最後の切り札。これは、その初号機よ」

「それで?これを僕が見て、どうするんですか?」

シンジが尋ねると、今度は今まで話していたリツコでは無く、上から声が聞こえて来た。
その声の方に目を向けると、そこにはシンジの父親…碇ゲンドウが威圧的に見下ろすように立っていた。

「父さん…!」

「久しぶりだな…シンジ」

「どうして、僕を急に呼んだの…?」

「それは、どうでも良い事だ」

「何だよ、それ…ワケ分かんないよ!父さんは、父さんは何を考えてるの?!」

分かっていた事であった。
しかし、それでもやはりゲンドウの無粋すぎる答えに、シンジは怒りを散らすが、ゲンドウは意に介せずに鼻であしらうと命令を与える。

「ふん…出撃」

「出撃?…僕がこれに乗るって事?」

「そうだ、他に何がある」

「…勝手すぎるよ!急に呼んで、いきなり乗れ?!ふざけるな!父さんは、父さんは一体何を考えて…」

シンジは息が続かずに、喋り切れない。

「考えてることか…?ふん、そんなのはどうでも良い事だ。問題は、貴様が説明を受けて乗るか、それとも乗らないかだ」

「…じゃあ、乗らないって言ったら?」

「乗らないならば帰れ!」

「そう…じゃあ、あの使徒は…どうなるのさ」

「変わりを乗せるまでだ」

「…でも、変わりがいても、初めての僕に乗せるって事は…なにか事情があるんでしょ?」

「それは、どうでも良い事だ。お前に教える必要は無い」


……………


……………


……………

二人の話に割り込むことも出来ずに、蚊帳の外にいたリツコとミサトは何の口出しも出来ず、気まずい静けさが漂う中、シンジが重い口を開く。

「分かった…乗るよ。僕が、乗る」

意外な答えに、ミサトはともか、感情を出す事の少ないリツコの表情にも驚きの色が浮かぶ。

「シンジ君…!本当に、乗ってくれるの?」

「はい、ミサトさん。僕が乗らなきゃ、誰かが傷ついちゃいますから、だから僕が乗って、戦います」

シンジの言葉にミサトは何を言えばいいのか分からず、結局謝る事しか出来ない。

「そう……ごめんなさい、ね急なのに、説明もろくに受けないで」

そんなミサトに、シンジは声を掛ける。

「…大丈夫ですよ」

シンジは、ミサトが謝るのに対して微笑を浮かべて返事を返すと、再びゲンドウの方に向き直る。

「それで…僕はこの後、どうすればいいの?」

「そこにいる赤城博士から操縦の説明を聞くんだな」

ゲンドウはそういい残すと、踵を返して去っていった。

「良く決心してくれたわね、シンジ君。さ、こっちに来て。簡単に操縦システムをレクチャーするから」

そうして二人が歩いていく中、ミサトは二人を見つめつつ、一人その場に立ち尽くして、心の中で自らと会話していた。


ようやく、私の戦いが始まる。
直接戦う事は出来ないけれど、やっと使徒と戦える…
………違うわ、始まるのは戦いじゃない。復讐、ね。






母さん…いるんだよね?初号機の中に。
これから、戦いが終わるまで…お願い。僕の助けになってね。

良いわよ…かわいい、シンジのためになら。

………っ!!母…さん?

……………

…そんなわけ、ないか。





「これは…?!」

「間違いは…無いのね?」

「ええ。間違いはないわ」

「訓練無しの初回搭乗で、このシンクロ率…シンジ君は一体…何者なの?」

「分からないけど、一つだけ分かる事があるわね」

「そうね…」

「いける……!」

「…発進!」

そして、エヴァ初号機は、戦いの場へ向けて射出された。


…この重力、慣れないと気分悪いや






さてと………君には悪いけど、今回は暴走無しでケリを付けさせてもらうよ。


シンジはそう呟くと、ミサトの指示を待たずにいきなりサキエルへと走り始める。
当然驚く、発令所の面々。そして、ミサトがシンジに怒鳴る。

「ちょっと、シンジ君!いきなり何してるの!?」

「ミサトさん…すいません」

「は?!ちょ、何する気な…」

ミサトが喋り切らない内に、シンジは回線を遮断して、一気にサキエルとの間合いを詰めろと、ナイフを取り出してコアに突き刺そうとするが、A・Tフィールドに阻まれる。

「A・Tフィールド?!やはり使徒も…!どうする気なの、シンジ君は…」

回線を遮断されては、もはや見守る以外の術が無いためにある者は指を噛み、またある者はただじっと戦況を見つめる。


僕が…そんなA・Tフィールドなんかに負けるわけないだろ!


「A・Tフィールド展開!」

「初号機よりA・Tフィールド確認!使徒のフィールドを中和して行きます!」

「うそ!なんで…なんでそんな事が出来るの?!訓練もしてないのに!」

「これで、終わりだあぁぁぁぁぁあああああ!!!」

叫び声と共に、シンジはナイフをコアに突き刺すと数秒後にコアは光を失った。

「目標…完全に沈黙しました」

「何者なの…彼は?」

「マルドゥック機関の報告書通りの子よ」

「そう…でも、何か裏があるんじゃないかしら…?」

「えぇ…でも、今は彼に頼るしかないのが現状ね」

こうして、初めての使徒戦は大した被害を出さずに終了した…人々に不安と疑問を残して。






シュン…と音を立てて扉が開くと、中の部屋からシンジが出てくる。

「取り合えず、検査の結果は良かったけど何か体調おかしくなったら報告して頂戴」

「分かりしました。失礼します」

そう言ってシンジがリツコに別れを告げ、少し歩くとミサトに出くわす。

「あ、ミサトさん」

「検査の結果どうだったの?」

「取り合えず大丈夫でしたよ」

「良かったじゃない」

「ありがとうございます」

簡単な会話の後はどちらも話す事が出来ず、ただ黙って歩いていたが、ミサトが話を切り出した。


「シンジ君、見事だったわね。今日の戦い」

「ありがとうございます」


また、黙り込んでしばらく歩くが、幾つ目かの曲がり角でシンジは自らの居住区へと向かうために曲がろうとすると同時に、別れの挨拶をした。

「じゃあ、失礼します」

そう言ったシンジが角を曲がって歩き出すしてすぐにミサトが呼び止める。

「シンジ君」

「何ですか?」

「シンジ君の部屋まで送ってってあげよっか
ほら、NERV始めてだし迷ったら困るでしょ?」

「あぁ…じゃあ、お願いします」

そして、再び二人は何も喋らずに歩いていたが、ミサトがふと口を開いた。

「でも、シンジ君は一人でいいの?」

「え?…」

「申請すればお父さんと住むことも出来るのよ?」

「いいんです。一人のほうが気が楽ですしね」

「でも、やっぱ家族は一緒の方が自然じゃない」

「別に、どうでもいいじゃないですか」

そう言ったシンジに、ミサトは僅かに頭に来たのか語気を強める

「どうでもってっ!それがシンジ君を気にかける私に返す言葉?
大体ねぇ、シンジ君ってば何処と無く暗いのよ!苛められそうって言うか何と言うか、ともかくそんな感じ!」

「そうですか?」

「ええ、暗い!だから私が叩き直したげるわ、その性格!」

「はい?」

ミサトの言葉に付いて行けないシンジだが、ミサトはお構いなしに電話を掛け、勝手にシンジとの同居を決めてしまう。

「さ、家はこっちよ、付いてきなさい」

「あの…ミサト、さん?」

「何か文句、ある?」

そう問うミサトは、身体の周りに絶対に断れないオーラを纏わせ、シンジはまたもうやむやのままに同居が決まった。


まぁ、ミサトさんと暮らすのは一人より楽しいし…別にいっか、これで。


シンジはそう考えて気を取り直すと、何とはなしに上機嫌になりながら帰って行った。






「ちょっち汚いけど、我慢してね」

「じゃあ、お邪魔します」

「あのねぇ、ここは今日からあなたの家でもあるのよ?」

「それもそうですね…じゃあ、ただいま」

「お帰りなさい、シンジ君」




その後、部屋の片付け等やあまりに多いレトルト食品のお陰で一騒動会ったのは余談。



[2937] 第二話「シンジ学校へ」
Name: 翔矢◆663b9378 ID:9a288620
Date: 2008/05/12 23:28
シンジが葛城家に越してきたその日の夕飯を一緒に用意をしていたミサトとシンジだが、大方の準備が完了した所でミサトがシンジに声を掛ける。

「ねぇ、シンジ君?」

「なんですか?」

シンジが聞き返すとミサトは真剣な表情でシンジに語りかける。

「今から私が言う事をよく聞いてね」

「…いいですよ」

そのミサトの顔に何か只ならぬものを感じたシンジは一体何を言われるのかと思いながらも、ミサトの次の言葉が出てくるのを集中して待つ。
そして、ミサトは一つ息を付くといきなり腕を振り上げた、勇ましい掛け声を発した。

「ジャーン、ケーン、ポン!!」

掛け声と同時に、振り上げた腕を勢い良く振り下ろした。





急にジャンケンを始めた理由、それは食事当番と掃除当番の分担表を作るためだった。
ジャンケンをしながらその勝敗の結果でカレンダーにはミサトとシンジの名前が書き込まれて行き、ついに最後の一マスに名前が書き込まれた。

「さて、と…これで公平に決めた生活当番表も出来上がったし、シンジ君同居祝いと使徒戦初勝利祝いを兼ねて早速乾杯しましょうか」

にこにこと笑いながら陽気に喋るミサトに対して、シンジは納得行かない顔で黙り込んでいる。

「……………」

「あっれー?シンジ君どうしてそんなに煮え切らない顔してんのよ」

あくまで陽気に問い掛けるミサトだが、シンジはやはり納得いかないながらもとりあえず返事は返す。

「いや、なんでもないです。えぇ、なんでも」

そのシンジの言葉には、先程のジャンケンに対する不平不満がたっぷりと含まれていた。
確かにミサトの余りに唐突なジャンケン開始の合図はシンジにとっては奇襲で、先制攻撃を食らったままの流れでカレンダーのマスの三分の二が自らの名前となってしまった事にシンジ

はどうしても煮え切らない所がある様子。
しかし、ミサトはそんな事は我関せずに杯を手に持って乾杯を持ちかける。
まだ煮え切らない気がしなくもないシンジではあったが、負けは負けで諦める事にしたのか頭を横に二度三度振ると、オレンジジュースの入った杯を手に持つ。
シンジが杯を持ったのを見たミサトは、朗らかに乾杯の合図を告げた。

「じゃ、かんぱーい!」

ミサトの第一声に伴い、グラスがぶつかり合うカチン…という音が鳴った。





談笑を交えながらの宴は進み、いくつかの皿が空になってきた頃ふいにミサトが何かを思い出したかのような声を出す。

「あ、そうだ…シンジ君、今回の戦いで特に怪我も無かったでしょ?
だから、すぐに転校手続きをして学校に行ってもらおうかと思うんだけど、大丈夫?」

そのミサトの問いにシンジは了承の返事を返す。

「はい、僕は大丈夫ですよ」

そう言ったシンジに、ミサトは無茶なノルマを課す。

「じゃあ、学校行ったら友達100人程作ってらっしゃい。作戦課長からの命令よ!」

無茶な要求を出されたシンジは苦笑しながら返事をした。

「100人は無理ですよ…」

「あはは、やっぱり?
まぁ、それくらいの心づもりでいなさいって事よ」

みなが幸せになるために
第二話『シンジ学校へ』      by翔矢

久々の学校と言う事で、どこか弾んだように聞こえる声で挨拶する。
顔もいつに無く明るい。

「行ってきます」

そんなシンジに、ミサトは寝起きで乱れた髪の毛をくしゃくしゃと掻きながらいかにも眠たそうに返事を返す。

「んー、行ってらっしゃい」

ミサトの格好を聞いて、シンジは果たして聞いてるのかどうかと訝しみながらも声を掛けた。

「ちゃんと朝ご飯食べてくださいよ。簡単な物ですけど、机の上に置いときましたから」

言われたミサトは、髪の毛を掻いていた手を背中にずらして、やはり眠たそうに返答した。

「分かってるって」

「じゃあ…」

シンジは、まだまだミサトの事を気にしてはいたが、取り合えず言うべき事は言ったので学校へと向かう。
そしてシンジが出て行った後、ミサトは少しの間ボー…っとしていたが、十分ほどしてようやくのそのそと動き始めると洗面所で顔を洗い、続けて歯を磨き終わると、再びリビングへと

向かう。
食卓の上には、まだ温かさの残る食事がきちんとラップを掛けて置いてある。
それを見たミサトは、早速ラップを取り外すと「いただきます」と一言言って食べ始めた。





「シンちゃんってこんな事も出来るのねぇ…これからは安心だわ」と、何か保護者と庇護者の立場が逆転してる気がしなくもない事を思いつつ食事を進めていたミサトだが、ふと何かを

思い出したように立ち上がると、食パンを銜えたまま自分部屋へ向かい机の上から“サードチルドレン監督日誌”と書かれたノートに手近にあったペンを手に取ると、再び食卓に戻って

ノートを開きペンを走らせる。


ん…と、今日は…月の…日で、天気は快晴。
サードチルドレンは定時に学校へ。


「とりあえず今書くのはこんなもんかしらね」

一行だけ書いて呟きながらペンを置いた時、急に玄関のドアが開くとシンジの声が聞こえてきた。

「忘れ物したんで取りにきました」

言いながらシンジは靴を脱いでリビングに近づいて来る。
監視をしているのを知られてシンジが良い気持ちがしないであろう事は明白なだけに、ミサトは急に帰ってきたシンジにそのノートを見られないように急いで立ち上がって部屋へ戻ろう

とした。
だが、余りに急ぎすぎた所為で思わず机の足に小指をぶつけてしまい、呻きながら蹲る。

「いっ…つぅ」

小指をぶつけたその痛さに、目に涙を浮かべながら蹲っているミサトに気付いたシンジは一体全体何をしているのか疑問に思って問いかける。

「ミサトさん…何をしてるんですか?そんな所で」

後ろめたい事のあるミサトは、普通に言えば良いのに、思わず口篭りながらさも何かある雰囲気を醸し出して返答をする。

「え…あ、あぁ、今机の足に小指ぶつけてね、うん」

そう言いながら、小指をぶつけた拍子に落としたノートに、そろりそろりと手を伸ばしていくが、シンジがそのミサトの手の動きに気付いてしまった。

「あれ、何か落ちてますよ?」

言いながらノートを拾おうとしたシンジに特に悪気は無いのだが、ミサトとしてはは見られる訳にはいかないそのノートを素早く拾って背面に隠した。
そんなミサトの行動に何かあると感づいたシンジは、そのノートの正体を尋ねた。

「なにを隠したんですか…?」

しかし、ミサトはあくまで白を切り通そうとする。

「か、隠す?何の事からしら?」

だが、シンジは確実に何か自分に見られては都合の悪い物を隠されてる事を確信し、問い詰める。

「何を…隠したんですか?僕に見られちゃ都合の悪い物なんですか?」

「そ、そーいうワケじゃないわよ」

問い詰められたミサトは、後ろ手にノートを持ちながら座ったままずりずりと部屋へと引き下がろうとする。
が、シンジはそんなミサトを壁へ壁へと追い詰めるように迫っていく。
やがて、ミサトは壁にぶつかり逃げ場が無くなる。
そして………

「サードチルドレン監督日誌…?」

「あは、あははははは」

ミサトは乾いた笑い声を出しつつ、言い訳をする。

「そ、そのぉ…べ、別にそういうワケじゃなくてね、だから、えーと…?」

どもりながらもなんとか上手い言い訳を考えるミサトを、シンジはたった一言で遮った。

「正直に答えてください…」

そう言うシンジの顔があまりに真剣で、ミサトは乾いた笑いをピタリ…と、止める。

「僕と同居することにしたのは…何でですか?」

「……………」

「答えて…下さい」

とうとう観念したのかミサトが口を開く。

「半分は…仕事、監視がしやすいからよ」

半分は、そう言ったミサトにシンジはもう半分を問うた。

「じゃあ、もう半分は?」

「それは…家族が欲しかったから、よ。ずっと一人だったから、誰かが家にいると楽しいと思ったから」

そう言ったミサトは、黙って監視をしようとした事への罪悪感が身を焦がす。
そんなミサトの心内を知ってか知らずかシンジは一言だけ口にして暫らく黙り込む。

「分かりました…」

その沈黙の時の間ミサトは心の中で、「もし自分が一緒に住むと言い出した人に監視されてた時は何と思うだろう」等色々な事を考えていた。
やがて、沈黙を打ち破るようにシンジが閉じた口を開いた。

「じゃあ、これから、家族として、よろしくお願いします」

そのシンジの答えに拍子抜けしたミサトは、ポカン…と、口を開く。

「だって、家族にしてくれようとしたんですよね?じゃあ、それでいいです」

「でも、私は監視…をしようとしてたのよ?」

「いいですよ、そんなの。それより、これからは隠し事したり嘘付いたりしないで下さい。辛いですか…」

「…分かったわ。それじゃあ…よろしくね、シンジ君」

「はい…じゃあ、行ってきます」

そういい残してシンジは忘れ物のお弁当を手に取ると、学校に遅刻しないよう走って出て行く。
一方、残されたミサトは監督日誌をゴミ箱に放り込むと、NERVへ出勤する身支度を始めたのであった。





所変わって、第三新東京市立第壱中学校の2-A教室。

朝のホームルーム開始のチャイムが鳴ると、教室のドアが開き担任の老教師が入ってくるがクラス中のざわつきは止まずに、クラス委員長であるヒカリの静かにしなさい!という声が響

いてようやくクラスには静寂が訪れ、教壇に立った担任がしゃべり始める。

「え~、今日は転校生を紹介します。碇君、入って来なさい」

そう担任が言うと、再びドアが開きいてシンジが入って来くると担任の老教師の隣に立つ。

「じゃあ、自己紹介をお願いします」

そう担任に促されてシンジは簡単な自己紹介を始める。

「初めまして、碇シンジです。先日こっちに引っ越してきたばかりなんで、街についても学校についても分からない事があると思いますが、よろしくお願いします」

そう言ってシンジは軽く頭を下げると、再び老教師が話す。

「はい、よろしい。みなさん、仲良くしてあげて下さいね。
席は、空いてる所に座りなさい」

シンジが空席を見つけてそこに座ると、老教師はそのまま一時間目の数学の授業に入った。





数学が始まって十分ほど経った頃、既に授業は老教師の昔話へと姿を変えており生徒達も思い思いに雑談に耽っている。
その中、一部のグループでは何故この時期に転校生が?という話題が始まって色々な噂が飛び交う中、やがてシンジがロボットのパイロットでは?との推測に一際大きく盛り上がる。
そして、やがて真相を聞かずにはいられなくなったそのグループの中である一人の女子が、シンジに直接尋ねて来た。

「ねえ、君があのロボットのパイロットだって…本当?」

そう聞いてくる女子の目は期待で爛々と輝いており、いつの間にかクラス中がシンジの答えに耳を傾けている中でシンジは口を開いた。

「本当…だけど」

シンジが答えた瞬間にシンジの周りには一斉に人が押し掛けてシンジの周りに輪を作って矢継ぎ早に質問をする。
その質問の一つ一つにシンジは丁寧に何とか答えていた。
輪の外から自分を凝視する視線には気付かずに。





キーンコーンカーンコーン…と、昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴ると、各自がそれぞれいつも通りのグループで集まって持ってきた弁当を広げる。
その頃シンジは人目の少ない場所へと、朝のシンジを凝視していた視線の持ち主である鈴原トウジその人に呼び出されていた。

「君の妹が…怪我?」

「せや、誰のせいやと思う?お前のせいや!お前が暴れ回ったせいでなぁ、ビルの破片の下敷きになって今入院しとんのや!どないしてくれるん!?」

それを聞いたシンジの顔は悲痛な想いを浮かべながらも、トウジにその事実を信じられないといった風に確認する。

「………それ、本当なの?」

「ワイが嘘付いてなんになるんや!」

そのトウジの言葉に紛れも無い真実だと思い知らされたシンジは更に顔を歪ませながら、必死に言葉を搾り出した。

「………ごめん」

だが、その言葉はトウジの怒りを増長させただけに終わり、トウジは一言「誤って済む問題かぁ!」と、叫ぶと同時にシンジに殴りかかり、その拳を左頬に受けたシンジは吹っ飛ばされ

る。
そして、地面に倒れこんだシンジに最後に一言言い残してトウジは去っていった。

「ワイの妹が受けた痛みはこんなもんやないんやで!次からはよう足元見て戦えや!」

残されたシンジはただただぼぅっ…とその場に座り込んでいるだけで、そんなシンジの制服のポケットの中で非常召集が掛かった事を持ち主に伝えようと震える携帯の振動が虚しく響い

ていた。





出撃準備の進められる初号機の中でシンジは一人考え込んでいた。


僕は、何の為に一度経験したこの世界に戻ってきたんだ?
起きうる事を防ぐためじゃなかったのか?なのに、またトウジの妹を怪我させてしまって…どうにかすれば怪我させないで済んだかもしれない事なのに。
僕は、僕は…!この先本当に結末を変える事なんて出来るのか?友達の妹すら守れないで、世界を守る事なんてっ…!!


時を遡って来て、初めての失敗。その出来事にシンジは悩み、悔やみ、その思考からの出口が見付けられない。そして、弱気になって行く。
そのシンジの思考中に一つのノイズが入った。

「シンジ君?シンジ君!…聞こえてるの?!」

ミサトに呼び掛けられたシンジは心ここに在らずと言った風に返事を返す。

「あ…はい、なんですか、ミサトさん」

そのシンジの様子を見たミサトは注意を促す。

「どうしたの、シンジ君?集中しないと今度はあなたがやられるわよ」

「…すいません」

しかし、注意してもやはり虚ろな目でぼんやりとした返事しか返さないシンジに、ミサトは何かあったのかと心配して問い掛ると、シンジは少し黙った後にやがて重い口を開く。

「同じクラスの人の妹が、前の戦闘で怪我をしたんです。僕は、みんなを守るために戦ってたはずなのに…それなのに、僕が戦って壊したビルの破片で怪我をさせたんです」

「このサイズでの戦いよ、多少の怪我人は仕方無いわ」

シンジの口から吐き出された言葉に、ミサトは軍人として当然の意見を返すも、シンジはどうしてもやり切れないのかついつい怒鳴ってしまう。

「そんな!守るために戦って怪我をさせて、戦う意味がないじゃないですか!」

「それで、悩んでどうなるのよ!悩んで、戦いにミスが出たら、余計に大勢の怪我人が出るのよ?!」

「でも、でも…!」

このままでは埒が明かないと悟ったミサトは、まだ何か言おうとしていたシンジを一括した。

「うるさい!今は目の前の敵に集中しなさい!そして、被害を最小限に抑えて、その後にいくらでも悩みなさい!」

言われたシンジは、ぐっと出掛かった言葉を飲み込むと、やがて口から言葉を搾り出した。

「………分かりました、発進させて下さい」

そして初号機が地上へと射出される直前、ミサトが言い忘れた事を思い出したかのように、一言シンジに叫ぶ。

「悩み事には私も付き合ってあげるから、だから絶対に帰って来るのよシンジ君!」

「ミサトさん………」

ミサトの言葉に温かみを感じ、それによって自分の心の中が少しだけ晴れたのをシンジは感じながら新たな使徒との戦闘へと向かった。





「ちぇ、まただよ」

ケンスケは愛用のビデオカメラでテレビを見ながらぼやく。

「なにがや?」

そう尋ねて来たトウジに、ビデオカメラを見せながらケンスケはぶつぶつと愚痴を零す。

「ほら、これ見てよ!」

「なんや?また文字だけなんかいな」

覗き込みながら言ったトウジに、ケンスケは声のボリュームを一段階上げて愚痴る。

「報道規制ってやつさ。僕達にはなーんにも見せてくれないの。あーあ、一度でいいから見てみたいなぁ」

「見たいって、上のドンパチをかいな?
止めといた方がええんちゃうか?死んでまうで?」

戦闘を見たいと言うケンスケの気持ちを一切理解出来ないトウジは、怪訝そうな顔で意見した。
しかし、それでもケンスケは言葉を紡いでいく。

「ここにいたって分かんないよ。どうせ死ぬなら見てから死にたい」

「あほ!なんのためのネルフや」

トウジはさも馬鹿らしいと言ったようにケンスケに言うが、それに対してケンスケは内心ニヤリとしながら言葉を返す。

「でも、ネルフの決戦兵器って一体なにさ?あのロボットだろ」

「せやな」

「そのロボットのパイロットをお前が殴っただろ」

「せ、せやな」

「もしかしたら、機嫌でも損ねて前みたいに守ってくれないかもよ?だから、お前には戦いを見届ける義務があると思うんだけどなぁ」

「うっ………しゃーない、なんや言い包められた感じがせーへんでも無いけど外、出るか」

「そうこなくっちゃ」

そして話を纏めた二人はシェルターの外へと出て行った。
ケンスケは話が自分の思い通りに進んだのを心中でニヤリと笑いながら。





やがて地上にその姿を現したエヴァ初号機。
その時を少し前から山の上で待っていたケンスケは、歓喜と驚きの声と共にビデオカメラを回し続ける。
しかしシンジは、前回も二人が出て来ていたのを先程のトウジの一件の所為で、二人がいる事を忘れていたために少々の苦労を強いられるのは少し後の話。





あいつは…確かあの鞭のような手が凄い速さで他には何の取柄も無い使徒だよな。
てことは、あの鞭さえ気を付けてコアを狙えば簡単に済む…
よし!…

前回戦った時の事を思い出しながら戦法を決めると、隠れていたビルの物陰から飛び出す…が、
前回とは違って戦法を考えていた所為でビルの陰から飛び出すのに僅かな時間差が生まれ、その結果前回は遥か遠くから向かってきた使徒の鞭は既に鼻先にまで迫っており、初号機に襲

い掛かる。
それを、ライフルを盾にして横に跳んで何とか避けるも、肝心の武器は真っ二つになり使い物にならなくなってしまう。

「っっっ!ライフルが!!」

その状況を見ていたミサトはすぐに次の武器を取りにいくよう指示を出す。

「シンジ君!早く次の武器を!」

「はい!」

一言だけの返事を返したシンジは、武器を格納してあるビルに向かって走り出すが、使徒がそれを許そうとせずに背を向けている初号機の足に鞭を巻きつけ、ビルまであと僅かの所で初

号機の足を止める。

「…くそ!離せ!」

しかし、離せと言われて離す訳も無く、ビルから遠ざけようと思いっきり初号機を投げ飛ばすが、その場所が悪かった。
ケンスケとトウジが戦いを見物している山の方に初号機は迫っていく。

「おい、ケンスケ!逃げなあかんとちゃうか?!」

「あ、ああ!」

しかし、二人とも迫ってくる初号機の迫力に圧倒されて足が竦んでその場から動く事が出来ない。
そして、初号機は二人を指の間にした格好で叩き付けられる。

くぅ…ケーブル、は?…よし、今回は切れてないな。

シンジは呻きながらも、電源がしっかりと供給されてるか確認すると立ち上がろうとするが、その時に左手の指の間に倒れてる二人を視認し安易に動けなくなる。
そして、その様子は発令所にも伝わっていた。

「シンジ君のクラスメイト?!」

「なぜ、こんな所に!」

その時、動かない初号機に迫ってきていた使徒が丁度初号機の真上に到達して鞭を振り上げ、ヒュン…!と振り下ろした。
しかし、それが初号機の体に到達する直前に両手でしっかりと受け止めるが、その場から起き上がることすら出来ないでただ装甲が溶けていくのを待つだけとなってしまう。

「な、なんであいつは受け止めたまま動かないんや?!」

「僕たちが、僕たちが此処にいるから。だから自由に動けないんだよ!」

ケンスケとトウジは焦るが、眼前の恐怖で足が竦んで逃げる所では無い。
そうしてる内にも、初号機の手の平を包む装甲は溶かされて行きシンジは素早い決断を迫られる。

くそ!くそ!!どうすればいいんだよ?!どうすれば、二人を押し潰さないで使徒を倒せるんだよ?!
……………二人をプラグ内に入れるか?けど、僕の独断でそんな事…!

焦っていたシンジに、発令所からミサトが声を掛ける。

「シンジ君!二人を操縦席にへ!その後は戦況をみて判断!」

しかし、その指示にはリツコが猛反対をする。

「許可の無い民間人をエントリープラグに乗せられると思っているの?!」

だが、ミサトは毅然とした態度で返事を返す。

「私が許可します!」

「越権行為よ、葛城一尉!」

しかし、リツコの一言を無視してミサトは命令を下した。

「エヴァは現行命令でホールド!その間にエントリープラグを排出。急いで!」

その指示に伴ってエヴァからプラグが排出されると、プラグからミサトの声が流れる。

「そこの二人乗って!早く!」

指示を受けた二人は、何が何だか分からないままにプラグに乗り込んだ。





「二人とも、次こんな事したらタダじゃすまないわよ!」

二人を乗せた後、使徒の一瞬の隙を見逃さずに一気に接近してコアをナイフで突刺し、先程の戦いは辛くも勝ちを収めた。
そして、その後にケンスケとトウジは地獄の説教タイムに突入したのである。
そして、突入2時間目を向かえようやく説教タイムが終わろうとしていた。

「はい、もう…しません」

「ほんま、すんまへんでした」

二時間もの間説教を受け続けていた二人は、すっかり弱り切った様子で謝る。
そんな二人を見かねたのかシンジが助け舟を出した。

「ミサトさん、もういいんじゃないですか?結果オーライって事で」

「結果オーライって…シンちゃんも意外とアバウトなのね。ま、いいわ。二人とも、もう今日は帰っていいわよ」

シンジの言葉にミサトがようやくお許しを出すと、二人はそれぞれの家に帰っていった。
そして、二人が帰っていくのを見届けたミサトはシンジに声を掛けた。

「さて、と。それじゃあ私達も帰りましょうか」

「はい、そうですね」

長い一日は無事に終わりを告げた。



[2937] 第三話「戦う為に」
Name: 翔矢◆663b9378 ID:9a288620
Date: 2008/05/12 23:28
「ふぁ…おはよー」

寝ぼけ眼を擦りながらミサトがリビングへと出てくるが、いつもはとうに起きてミサトにお小言を零しているシンジの返事が聞こえて来ない。
それを不思議に思ったミサトはシンジの部屋へと向かいドアをノックする。

「シンちゃん、起きてる?早くしないと学校遅れるわよ?」

ドア越しにミサトはシンジに声を掛けるが、少し待っても返事が聞こえて来ないためにまだ寝てるのかと思ったミサトは、もう一度確認を取ってからドアを開ける。

「シンちゃん?入るわよ?」

ミサトが部屋に入るとシンジは一応起きてはいるものの着替えておらず、顔は暗く沈んでいて、ベッドの上で壁にもたれて座っていた。

「どうしたの、シンジ君?」

「いえ…ただ、ちょっと頭の中で整理つかない事があって」

「整理つかないって…悩んでるって事?」

ミサトはそう問い掛けるがシンジは黙って何も言わない。


………………


………………


………………


………………


しばらく時が過ぎて永遠にも沈黙が続くかと思われたが、ふとミサトがシンジの悩む理由に思い当たる。

「もしかして、昨日の出撃前に言ってた事?シンジ君のクラスメートの妹が怪我したって言う」

言い当てられたシンジは、重たい口を開いた。

「まぁ、はい。そうです…」

「悩み事なら相談に乗るって言ったじゃない!」

ボソリとそう呟いたシンジに、ミサトは少しばかり語気を荒げてシンジに言葉を投げる。
そんなミサトにシンジは再び呟くように喋る。

「いえ、もう昨日の夜考えて、それで、仕方無いって、そう思うように決めたんです。けど…」

「けど…吹っ切れないの?」

「まぁ、そんな所です」

いつまでも暗い顔で物思いに耽るシンジに対してしてやれる事はないかとしばし考えあぐねていたミサトが、唐突に声を挙げる。

「………決めた!」

すると、その急な大声にシンジはビクッっと身体を震わせて顔を上げた。
そして、ミサトに問う。

「決めたって何をですか?」

だが、そのシンジの問いには一切答えず無理やりシンジの腕を掴みんで部屋の外へ、そして玄関へと連れ出す。
余りに強引なミサトにシンジは足でストッパーを掛け、ミサトに再び問いかけた。

「ちょ!ミサトさん!いきなり何を?!」

しかし、それにも答えず玄関に着いたミサトは靴を履き替えてくるりとシンジの方を振り向くと、声も高らかに宣言した。

「シンジ君!今日は学校サボりよ!」

「はい?!」

みなが幸せになるために
第三話『戦う為に』      by翔矢

「ミサトさん」

「ん?なーに?」

ジト目でミサトの名を呼んだシンジだが、それとは対照的にさも楽しそうに返事をしたミサト。

「いや…いきなり外に連れ出したかと思えば車に乗っけて、今遊園地。これ、どういう事ですか?」

ミサトに返事に続いてシンジはやはりジト目で言葉を続ける。
そんなシンジにミサトはあっけらと答える。

「んー、シンちゃんの気晴らしにでもー、と思ったんだけど」

「いや、そのお気持ちは嬉しいですけど、学校…」

「別に一日くらいどーって事無いわよ。いざとなったらネルフの権限でどうにでもなるわ」

いくら整理がつかないからと言って学校までサボる気は無かったシンジだったが、ミサトの一声に何を言っても今日は学校に行く事は出来ないと確信し、気持ちを切り替える。

「………まぁ、サボったものは仕方無いですけど」

切り替わったシンジの表情を見たミサトは、シンジに最終確認を取る。

「そうそう、それでいいの。じゃあ、気晴らしが出来る乗り物に今日はたっぷり乗るわよ?」

「はぁ…でも、ジェットコースターとかは嫌ですよ?絶叫系苦手なんで」

ジェットコースターは苦手、そのシンジの言葉を聞いた瞬間にミサトの顔はにんまりと歪み、その口からはシンジにとってはとんでもない言葉が吐き出された。

「ふふふ…シンちゃん。その願いは無理ね」

「へ?」

明らかに意表を突かれたシンジの呆けた顔を見て、ミサトは絶叫に何故乗るか?それを語り出した。

「だって、私は絶叫系に乗るの好きだし、やっぱり気晴らしイコール絶叫でしょ?」

「いや、ですから絶叫系は苦手だと今…」

「じゃあ、今日好きになるわよん♪」

「いやいや、ですから―――」

憐れシンジ。このまま無限ループ突入に思われた話し合いはミサトにより打ち切られた。
なぜ打ち切りかと言えば、ミサトがシンジの腕を引っ張り、強引に一番近いジェットコースターへと走り始めたから。
その異常なまでの勢いにシンジは反抗の術なくずるずると引きずられて行き、やがてはジェットコースターに乗る事となった。





平日の昼間と言う事もあり、一通りのジェットコースターを回ってもそれ程の時間が掛からず、正午少し前には最後のジェットコースターに乗り終わり、今は休憩のためベンチの上。
もっともシンジは完全に伸びてしまっていたのだが。

「気持ち悪い…」

真っ青な顔でそう呟いたシンジに、ミサトはピシャリと言い放った。

「男の子でしょ?もっとしっかりしなさいよ!」

そのミサトの無理な言い分に、シンジは幾分血の気を取り戻したとはいえまだまだ青褪めた顔で、口を開くのも億劫ながら何とか反論した。

「男でも何でも嫌いな物は嫌いなんです…」

「でも、絶叫系好きな女の子多いから、乗れるようにしといた方がいいわよ?そうしないとモテないわよん」

語尾にハートマークを浮かばせながら言ったミサトに、確かにアスカも好きそうだなぁ…などと思ったシンジは、好きにならないと、と少しだけ思い、善処を示す返事を返した。

「…はい、頑張ります」

その言葉を聞くと、ミサトはうんうんと頷いてシンジに昼食の提案を持ち掛ける。

「んー、よろしい。じゃ、丁度お昼時だし、どっかレストラン入りましょう」

すると、シンジも大分元気になると同時に朝食を取ってないのを思い出し、急激に空腹具合を感じ出した。

「いいですね。お腹も空いてきましたし」

二人は園内でも人気の高いレストランへと向かい歩いていった。





日の暮れ時。シンジとミサトは、お昼の後にもう一度ジェットコースター巡りをした後、見晴らしの良い公園に来ていた。

「もう、気分よくなった?」

昼食が今にも逆流しそうなのを必死で堪えるシンジにミサトは僅かに心配そうな色を顔に浮かべて具合を伺う。
だが、それに対してシンジは口を押さえながら、刺々しさが伝わるように必死で言葉を搾り出す。

「なるわけないじゃないですか…嫌いだって言ってるのに二回も」

そんなシンジの語調にミサトは苦笑いを浮かべながら言い分ける。

「いやー、時間潰しが思い浮かばなくてね」

「じゃあ、のんびりした乗り物でいいじゃないですか!」

ミサトの言い分にむっとしたシンジは軽く怒鳴るが、すぐさま口を押さえて身体を丸める。

「まぁまぁ、そんなに怒らないで。出てくるわよ?色々と」

明らかに悪気の無いミサトに何を言っても無駄だと感じたシンジは溜め息を吐きつつ荒げた言葉を鎮めに掛かる。

「………過ぎたことだからもういいですけど、今度からは絶対にミサトさんとは遊園地なんて行きませんからね」

「そんな事言わないで…と、もう時間ね」

ミサトは言いながらふと真顔になると腕時計を見て時間を確かめ、目的の時間が来た事を確認する。
それに対してシンジは何の用があるのかと尋ねる。

「時間て、なんの事ですか?」

しかし、ミサトはそれに直接は答えずに街の方を指差してシンジに言った。

「ほら…街の方見て」

そう言われてシンジが街を見下ろすと、夕日が街を綺麗に彩り、なんともはや幻想的な様子を見せていた。
それを見たシンジは、余りの美麗さに声も出せず、ただただその光景を見つめている。
そんなシンジにミサトはそっと声を掛ける。

「シンジ君が守った街、よ」

言われたシンジは、ゆっくりとミサトの方を振り向くとそっと呟いた。

「僕が、守った?」

「そう、シンジ君がエヴァに乗って、そして使徒を倒したから存在していられる、街」

「……………」

ミサトの言葉にシンジは黙って耳を傾け、ミサトはそんなシンジに自分の話を聞かせる。

「確かに、怪我人も出たわ。でも、怪我人が出る事を気にして戦っていたら更に多くの損害が出る。
シンジ君、私達も出来る限り一般の人が危険な目に遇わないように努力はしているわ。けど、それは完全な物じゃない。
だから、怪我人が出るのは当たり前。でも、それで立ち止まったら意味が無いわ。私たちに出来るのは、一刻も早くこの戦いを終わらせて、完全に街を安全な状態にする事よ。分かった

?悩んでいても始まらないの」

その言葉をシンジは頭の中で反芻し、よく噛み締めてから再び言葉を出す。

「はい…よく、分かりました」

「そう…」

「ミサトさん…」

「…ん?」

「…ありがとう、ございます」

「どーいたしまし、て」

その後しばらく街を眺めた後、完全に日が暮れてから二人は車に乗り込んで家へと向かった。





「けど、ミサトさんは何であの時間にあの場所から見える街が、夕日であんなに綺麗に飾られる事知ってたんですか?」

「んー、それはねぇ…私も昔悩んでた時にその時の彼氏にあの場所教えてもらったから、よ」

その"彼氏"が加持をさしている事を、シンジは何となく感じ取った。そして、ミサトがその時の事を思い出して懐かしんでいる事も。
それをシンジが口に出すことは無かったが。



[2937] 第四話「レイとの出会い」
Name: 翔矢◆663b9378 ID:9a288620
Date: 2008/05/12 23:28
「シンジ君、頼みがあるの」

「なんですか?」

この日、リツコはミサトに食事を誘われて葛城家に来ていた。
そして、食事も半ばでそれぞれが食べる事よりも話すことに重きを置き始めていた頃、リツコはふと思い出したように言ってカバンから何かを取り出す。

「綾波レイの更新カード。渡しそびれたままになっててね。悪いんだけど、本部に行く前に届けてもらえるかしら?」

そうリツコに頼まれたシンジは快く了承した。
そして、カードを受け取りそこにあるレイの写真を僅かの時間見つめながら、今度はどうレイに接していこうかと考えていた。

みなが幸せになるために
第三話『レイとの出会い』      by翔矢

カードを受け取った翌日。シンジはレイの家の前に立ち、インターフォンを押した。
しかし、やはり以前と同様にそれは壊れて役に立たず、扉を叩いても返事は返ってこなかった為に、シンジは無断でレイの家に入る。
そして、家に入ったシンジは玄関からレイの名前を呼ぶが返事は無く、仕方なしに部屋の奥へと進んで部屋全体を見回すと、やはり以前と同じく殺風景な部屋で、家具や置物の類は必要最低限にしか用意されていない。
そして、さらにぐるりと首を巡らして周りを見たシンジは、机の上に置いてある壊れたメガネを見つけると、それに近づき手に持って眺め、頭の中の記憶の糸を手繰りながら物思いに耽る。


確かこれ、前の時もあった。そして、僕がこれを手に持って眺めてたらシャワーから揚がった綾波が出て来てひったくるように取り上げたんだ。
でも、何でこんな物大事そうに取って置いてあるんだろう?
ん?…待てよ、このパターン、前と同じに進めば確かこの瞬間綾波が…


しかし、シンジの考えはここで途切れた。
なぜならば、シャワールームから出てきたレイが、首からバスタオルを一枚掛けただけで出てきたから。
この出来事にシンジはうろたえるが、レイは一歩ずつシンジに歩み寄る。
無言で近付くレイに対して、シンジはパニックに陥って意味不明の言葉を吐き出すが、そんなシンジには目もくれずに一直線にシンジの元へレイは向かうと、シンジの目の前でピタリ…と立ち止まり、シンジが手に持ったメガネを奪うようにして取り返した。
そして、こうなる事を知っていたはずのシンジなのだが、パニックになってしまった今となっては何の対応も出来ず、メガネを奪い取られた反動でバランスを大きく崩すと、レイを押し倒す形で床に倒れこんだ。





なんとか更新されたカードを渡す、という元々の用事を終えたシンジはレイと一緒に本部内の長いエスカレーターに一段違いで乗っていた。
しばらくは黙ってエスカレーターに乗っていたが、やがてシンジが口を開く。

「あの…さっきは、ごめん」

しかし、レイから帰ってきた返事は「なにが」というそっけのない言葉。
シンジはそれに対して「押し倒したこと」と答えるが、それに返事は無く、再び沈黙の時が訪れる。


………………


………………


………………


………………


そして、この沈黙をシンジは再び破る。

「あのさ、今日はこれから再起動の実験だよね?」

レイに問いかけるシンジだが、レイはまるで自分に聞かれてるのに気付いていないかのように返事を返さない。
だが、シンジはそれでもしゃべり続ける。

「こ、今度は上手くいくといいね」


………………


………………


………………


………………

再び流れた沈黙。またもシンジがそれを破る。

「あの、さ…綾波はまた零号機に乗るの、怖くないの?」

そして、漸くレイも返事を返した。

「どうして?」

レイから返事が返って来た事にシンジは内心安心しながら、会話を続ける。

「前の実験で大怪我したって聞いて。それで、平気なのかな、って」

「あなた、碇司令の子供でしょ。信じられないの?お父さんの仕事が」

レイの言葉にシンジは何とも複雑な表情をして答える。

「…正直、良く分からないよ父さんの事は。あまり父さんとは話さないし、父さんから話してくれたりもしないし」

その言葉を聞いたレイの口調に始めて感情が―僅かではあるが―篭る。

「そう…そうやってあなたは自分から挑戦して、傷付くことを恐れているのね」

「別にそんなんじゃないよ。話せる時間があれば話してみるよ。たぶん、だけどね」

「…時間。もう、行くわ」

話はまだ中途半端だったが、レイは時計を見るとエスカレーターを小刻みに走り降りていく。
そして、エスカレーターにはシンジ一人が残されていた。


そう、今度こそは何事にも自分から挑戦するんだ。そして、必ず前とは違う道を僕は辿る。


シンジは強く心に誓うが、しばらくして心の中で苦笑した。


でも、まずは綾波との関係をどうにかしないとな。これじゃ、前とあまり変わりないし。取りあえず友達にはならないと、な。
……………あの綾波と友達になんてなれるのかな?
…て、いやいや前の時も結構時間経ったらある程度話せてたし、今度はその経験を生かせば案外簡単に心開いてくれるかもしれないよな、うん。

などとシンジが勝手に色々考え、自己完結していたら、エスカレーターはいつの間にか下に到着し、シンジがつんのめったのはおまけの話。





「レイ、聞こえるか?」

「はい」

「これより零号機の再起動実験を行う。第一次接続、開始」

ゲンドウの言葉により始まった再起動実験は順調に進み、一つ、また一つと壁を突破していき、遂に前回失敗の絶対境界線の突破を成し遂げた。
と、その時だった。未確認飛行物体、すなわち使徒の接近が報せられる。
その報を受けたゲンドウはすぐさま命令を与えた。

「テスト中断、総員第一種警戒態勢」

そう言ったゲンドウに冬月が訝しむ用に訪ねる。

「零号機は戦闘には使わんのか?」

この冬月の問いにゲンドウは表情一つ変えずに淡々と事実を述べると、今度はリツコに問う。

「まだ戦闘には耐えん。初号機は?」

「380秒で準備できます」

それを聞いたゲンドウは一言「出撃だ」と命令を与えると、レイに話し掛ける。

「再起動は成功した。戻れ」

その言葉を聞いたレイは緊張を解き、軽く息を吐き出した。
そして、ふと先ほどの自分の言葉を思い出し、浅い物思いの海へと沈み込む。


自分から挑戦して傷付くことを恐れているのね
私も…自分から何もしていないのは、彼と同じなのかもしれない…





使徒襲来を受け、出撃の命を受けたシンジと初号機は着々と準備を整え、やがて発進可能状態になる。
それを待っていたかのように、ミサトは凛とした声で出撃を告げる。

「エヴァ初号機、発進!」

しかし、初号機が発進されたのを感知した使徒が迎え撃つために、エネルギーを自分の体内中心へと集め始める。
そのエネルギー反応を感知した青葉が慌ててそれを伝える。

「目標内部に高エネルギー反応!」

「なんですって?!」

「まさかっ…?!」

そして指令所が感じた危険は現実の物となった。
使徒は出撃された初号機に向けて高い破壊力を持つ加粒子砲を放つ。
しかし、前回も同じ手を経験しているシンジは、今回は咄嗟にA・Tフィールドを展開して僅かだが、時間を作る。
その隙に、何とか無傷のまま初号機はネルフ本部へと戻った。


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