<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

エヴァSS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[10220] 新世紀エヴァンゲリオン血風録(新世紀エヴァンゲリオン×東京魔人學園)
Name: ゼロ◆7d1ed414 ID:20be66f6
Date: 2009/07/11 16:51
第零話(陰)『鬼龍』

2,015年、15年ぶりの使徒襲来の運命の日の一週間前、かつての日本の首都、第一東京市…かつて、東京寛永寺と呼ばれていた場所。

表向きには知られていないが1,999年の春、その場所…かつて、寛永寺と呼ばれていた場所では、世界の運命を左右する一つの戦いが行なわれた場所でもある。

一部だけが銀色になった真紅の髪を持った中性的な顔立ちの美しい外見の少年がかつての寛永寺の有った場所を見下ろしている。周囲は海に沈み陸地からでは、けして、見下ろす事の出来ないその場所を少年は見下ろしている。…上空から…

翼は無いがその美しい外見から、地上に降りた天使とも見間違う少年はその瞳に強く深い憎しみを浮かべて呟く。

「感じる…この場所で消えた男の憎しみに満ちた声が…。君の力と怨念…その全てをオレが貰う。」

少年が手を伸ばすと血に染まった赤い学生服がいつの間にかその手に握られていた。少年は無言のまま、その学生服を着ると今までそれを染めていた血が少年の体に吸収されるように消えていく。

「クックックッ…さあ、断罪の時…復讐の時が来た…碇ゲンドウ、葛城ミサト、ゼーレの老人共…下らない欲望、身勝手な欲望でお前達が犯した罪は重い…。ただじゃ殺さないさ、これ以上無いほどの最高の苦しみを味合わせてやろう、神はお前達など選んではいない!!!」

彼は叫ぶ己の中にある憎しみの全てを吐き出すように。

彼の吐き出す憎しみか彼の持つ人の域を超えた《力》に呼応する様に海が割れ、かつて寛永寺と呼ばれていた場所から一振りの刀が少年に向かって飛ぶ。少年は十年以上の長い年月、海水につかり続けながら、今だ曇り一つ無い新品同然の輝きと禍々しい陰の《氣》を放つその刀を手に取ると静かに鞘に収める。

何度もその動作を繰り返し続けた者だけに許されるであろう美しい動作で再びその刀を抜き、感触を確かめる様に遮るものの無い彼だけが支配する空間である空で縦横無尽にその刀を振るうと再び鞘に収める。




彼は幾つもの名を持っている。

「お前の名を受け継ごう、凶星の者よ。」

一つは過去との決別と同時に捨てた名、一つはこの瞬間に戻った時に与えられた名、一つは新たに手に入れた名、そして…

「オレの名は…。」

怨念と共に少年が手にした名、最悪の剣鬼にして、不死の体を持ち、邪を司る凶星の者の名

「我が名は『柳生 鬼龍』!!! ネルフ、ゼーレ!!! そして、碇ゲンドウ!!! 貴様らに復讐する者にして、貴様らを断罪する者なり!!! さあ、復讐劇の始まりだ。」

彼は吼える、彼はその地に眠る怨念達に宣言する、己が内に秘めた憎しみを忘れぬようにその全ての憎しみを己が復讐の相手に叩きつけるように

《陰》の鬼《陽》の龍、そして、《邪》の柳生…その全てを名に持つ者…彼の名は『鬼龍』、復讐の為、其の地に戻りし者





つづく…



[10220] 第一話(陽)『襲来』
Name: ゼロ◆7d1ed414 ID:20be66f6
Date: 2009/07/11 16:54
西暦2015年

『緊急警報! 緊急警報をお知らせします! 本日12時30分東海地方を中心とした、関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えします…。』

女性の様な美しい外見をして、その瞳には何者にも負けない意思の強さを映し出し、華奢な外見ながら、その動作一つ一つには隙が無く鍛えられた武道家の様な印象を与える少年は不機嫌を隠さずに立ち尽くしていた。

「約束の時間に向こうが勝手に遅れた挙句に避難警報…。まあ、それは別にいいとして…。」

実際、モノレールの停止が原因なのだから、遅刻の責任については向こうにも無いと考え、少年は一枚の手紙をポケットの中から取り出し、それへと視線を向ける。


『来い ゲンドウ』


単語だけ書かれた手紙と言うより悪戯と思われそうなそれを握りつぶした。

「…随分とふざけた手紙だな…。大体、何年も会っていない実の子供のはずだろう。クックックッ…五体満足でいられると思うな…『碇 ゲンドウ』…。」

そこまで考えると少年はふと自分の知り合い、義兄の友人の一人が似たような…自分の一応身内に似たような手紙…しかも内容が物騒なだけにもっと性質が悪い物を送った事を思い出すと深く悩んでしまった。

「…あの人と比べると…イヤ、相手に恨みがある分だけあの人の方がいいか…。…まあ、こっちは、ただ照れくさくて他の言葉が書けなかったとも考えられるしな…うん。」

少年がぶつぶつと呟きながら無理矢理納得していると空には巡航ミサイルと戦闘機が飛んでいく。

「ミサイルと戦闘機…戦争か…? それにしても…あの連中も我が義兄ながら地上最強の《魔人》を敵に回すなんてバカな事をしたもんだな、兄さんを倒すには核ミサイルやN2地雷でも足りないぞ、あの人間戦略兵器は。」

ミサイルと戦闘機を眺めながら現在は遠い異国の地に居るであろう歳の離れたなぜか15年前から外見の変わらない義理の兄とその恋人(将来の義姉)と兄の親友の顔を思い浮かべていた。

「なに!?」

和やかに兄達一行の無事を祈っていると少年は突然現れた異形に驚愕した。

「……巨人……兄さんは文字通りの鬼とかクトゥルフ神話の下級奉仕種族と独立種族とかと戦ったと言ってたけど…これはすごいな…。」

そこまで考えた後、少年の中に新しい疑問が浮んできた。……それと同時に対して信じてはいないが…以前見た古文書に書かれていた記述、幕末の頃の先祖が《北欧神話の神々》を相手にして勝利を収めたという記録の事も思い出す。

「江戸時代から今から16年前の20世紀末まで生きた不死身の化け物と比べるとどうなるんだろう…?」

あまり驚いた様子も無く悠然と闊歩するラグビーの全身タイツにプロテクターを着けた様な外見の巨人を眺めながらノホホンと『兄を超えたかな~』などと考えていると何かが近づいてくる音が少年の耳の中に入ってきた。

「ん?」

少年が音の先に視線を向けると一台の青い車が制限速度をオーバーしたスピードで少年に襲いかかって来た。

「チッ、鍵ぐらい抜いて非難しとけ!」

窓から中は確認できないがドライバーが鍵を付けたまま避難して、何かの衝撃で暴走している無人車両と推測して車に向かって手をかざすと少年の全身から青い陽の《氣》が湧き上がる。

「掌底…。」


『キキィー』


少年が技を撃とうとした瞬間、車はターンするとそのまま少年の手前で急停車してドアを開ける。

自分に向かってきていた車が無人で無い事を確認した少年は全身に纏っていた陽の《氣》を霧散させる。

「碇 シンジ君ね、乗って!」

ドアが開き車の中にいた女性が少年に声をかける。

「あ、いえ…オレは碇…。」

「いいから、早く乗って、死にたいの!?」

少年の腕を引いてその女性は強制的に少年を車内に連れ込むと車はそのまま走り去っていく。

「って! だから……ちょっと待てェェェェェェェェ!!!」

少年の叫び声だけが虚しく響いていく。




『うわぁぁぁぁぁぁぁぁー!!! 人攫い!!!』




少年を乗せた青い車はその場を離脱していく…少年の叫びを引っ張って…ジェットコースターも真っ青な危険な運転とスピードで…。





突然連れ込まれた蒼い車の中で不機嫌そうな表情で少年は手紙に同封されていた写真の人物と車を運転する人物とを見比べている。

「えーと…葛城さん…でしたっけ? どうして一時間も遅くなったんですか?」

不機嫌さを隠そうともせずに少年は目の前の相手に言う。

「うっ。ご、ごめんね~、ちょっ~ち、道路が壊れてたりしてたからね、それでなのよ~。それとシンジ君、私の事はミサトでいいわよん。」

ミサトの言葉に呆れた様な眼差しを向けながら少年は大きく溜め息をついて言葉を続ける。

「それと…オレは『緋勇 龍牙(ひゆう りゅうが)』、彼の代理の者で碇 シンジではありません!」

不機嫌そうに言い切る少年…龍牙の言葉に表情を変えると慌てて話しかける。

「ちょっと、それって、どういう事よ!」

「…シンジは現在、意識不明の重態で動ける状況では有りません…。」

龍牙の言葉に驚いたように表情を変えるとミサトは誰にとも無く文句を続ける。

「意識不明の重態って…そんな事、報告には…。えーと…龍牙君だっけ? 詳しく説明してくれる?」

ミサトの言葉にきびしい表情と突き刺さるような視線を向けながら龍牙は言葉を続ける。

「…未遂に終わりましたけどシンジは今から三年前に海に投身自殺を…。幸いオレと偶然、帰省していた義兄と将来の義理の姉のおかげで一命は取り留めましたが…現在も意識不明です。将来の義理の姉が居なかったら、間違いなく手遅れでしたね。」

「その将来のお姉さんって、お医者さんなの?」

「違います。」

龍牙はキッパリと言い切った。

「あの時は海に飛び込んだものの水も飲まず、飛び込んだ時に打った頭の傷の方が問題でしたから、将来の義理の姉の場合…外傷なら変な医者よりも…。」

そこまで言うと龍牙は慌てて口を閉じる。

「まあ、三年前に海に投身自殺を計って寸前の所でオレ達に救われたものの現在も意識不明の重体とでも思ってください。後で病院の住所と電話番号は教えるので…詳しい事はそちらに連絡して聞いてください。」

龍牙の説明を聞いたミサトの表情に動揺が浮んだ事を彼は見逃さなかった。実際にミサトが動揺した事に気が付いたのは表情の変化だけでは無いのだがそれは本人曰く『企業秘密』だそうだ。

(『予定』か『計画』が狂った。…そう言う感じだな…。シンジの父親…ゲンドウとか言ったか? ただ自分の子供に会いたいから、あんな手紙を出した訳じゃ無さそうだな。)

読心術…それに近い物でミサトの考えを感じ取ると龍牙はそんな事を考えながら助手席に置かれていたパンフレットの様な物に視線を送るとそのパンフレットの様な物に書かれていた文字を見て動揺を浮かべる。

(『ネルフ』だと!? チッ、兄さんの友人を頼って調べてもらうべきだった! ……思いっきり敵地じゃないか!? …兄さん、姉さん…御免なさい…責任とってオレがネルフ潰しますから、お仕置きだけは…。)

一心不乱に心の中で遠い異国の地に居る義兄とその恋人に懺悔しながら龍牙の意識は思考の中にいた。

確実にこんな状況で自分が原因で彼女が危なくなったら絶対に命が幾つ有っても足りない状況になる事を確信しているからの判断である。

高い確率で義兄に殺される。助かっても半殺しでは済まないという。

(あいつらに付いて来て貰うんだったー!!!)

『後悔先に立たず』…そんな古い諺が龍牙の頭の中には浮かんだ。

「ちょっと、龍牙君、どうしたの?」

意識が向こう側に行っていた龍牙はミサトの言葉で意識を呼び戻されると突然、助手席に置かれていた『ネルフ江ようこそ』と書かれていたパンフレットの様な物を渡された。

「着くまでに読んどいて。」

「一応…って言うかオレは完璧に一部の隙も無く部外者ですけど…いいんですか?」

「大丈夫、大丈夫、ちゃんと許可も取っておいたから。でも、読んだら、後で返してねぇん。」

疑わしげな視線を向ける龍牙にミサトは軽い口調で言い切る。

(…チッ、オレとした事が考えに集中してそんな大事な事を聞き逃していたのか…。…『緋勇』の名を出したかどうか…大事な事を確認するのを忘れたか…。まあ、ネルフみたいな末端組織は兄さんの事は知らないのか…? まあいい…それは行けば分かる事、《力》を持たない相手が何人いてもそんな相手に負けるほどオレは弱くない…。今、問題なのはオレをシンジの代わりに利用しようとしていると言う事か…。)

実際、銃を持って訓練された相手を何人相手にしても勝つ自身はある。その自身を裏付ける《力》も彼にはあり、普通の人間なら一撃で絶命させるだけの技や一瞬で消滅させる技も持っている以上、少なくとも人間相手ならば恐れるものは何も無い。

そんな自信により作られた根拠の元、龍牙は冷静に考えを纏めていた。人間の域を超えている自信の元に龍牙は後方に視線を向ける。

彼の視線の先には街を闊歩する黒い巨人…第三使徒サキエルの姿があった。

(…あの巨人は兄さんの修行の時に相手にさせられた奴らとは違うようだ…それに…。)

サキエルから視線を外すと車を運転しているミサトに視線を向けると再び考えを続ける。

(…こっちの方が…なあ。ん?)

視界の中にあるバックミラーから後方が確認できた。サキエルから攻撃していた戦闘機が離れていく。その事から、考え出される事を龍牙はすぐに理解した。

(…み・・味方を巻き込む危険のある兵器を…。)

龍牙の考えは大当たりだった。国連軍の使う核に変わる最終兵器である『それ』、N2地雷がサキエルに向かって落とされたのだ。

もっとも落とされた位置…サキエルの現在地からはかなり離れていて、そのまま進んでいけば自分達は大丈夫だろう…だが…。

龍牙がそう思った瞬間、後方を閃光が包んだ。

(な!? なんて事を…あんな物を落として…あそこに有ったシェルターは…そこにいた人達は…。)

龍牙の表情から全ての感情が消え去った。考えなくてもその答えはすぐに理解できる…N2地雷の破壊力はよく知っている。そんな物が落とされた以上、シェルター等は何の意味も無い。

「危ない所だったわね~。龍牙君、あと少し遅かったらあなたも死んでたわよ。」

多くの命が文字通り消えてしまったと言うのに軽い口調でいうミサトを龍牙は怒り…イヤ、殺意に満ちた視線で睨みつける。

(この女…その態度は何だ!? 今の一瞬で大勢の人が死んだんだぞ、人の命を何だと思っている! …この場でオレが殺してやろうか…。)

龍牙の殺意に気が付かないのかミサトは自分を睨み付けている龍牙に対して再び軽い口調で言葉を返す。

「やーね、そんな怖い顔で睨まないでよ。」

プチ(龍牙の何かが切れた音)

ミサトのその一言で龍牙の中の何かが切れた。

(決めた…絶対殺す…。)

決意を固めると常人では見る事も出来ない《氣》を高めてその体制と位置からミサトを確実に殺す事の出来る技の選出に入る。

(これだけ《氣》を高めて撃ち込めば普通の人間なら確実に仕留められる。奥義クラスを使う必要も無いな…。)

龍牙がそんな危険な事を考えている瞬間、ミサトにとっては幸運にもネルフの入口らしき物が見えてきた事で龍牙は再び《氣》を霧散させる。

(チッ! …運のいい奴だ…。)

『機会があれば殺そう。』と危ない事を深く心に誓って龍牙はミサトに連れられてネルフ本部の中へと入っていく。






ネルフ本部の通路…再び『葛城ミサトの死刑執行』の瞬間が近づいていた(汗)。

(何度目だ…ここ通ったのは? やっぱり、この場で殺した方が…。)

そう考ていると近くに有った監視カメラに気が付く。龍牙は監視カメラに気が付くと監視カメラの映像からこちらを見ているであろう人物に殺意と『さっさとこのバカの迎えに来い』という意思をこめた視線を向ける。

爆発寸前の火山の様に危険な状態を理性を総動員して落ち着かせている状態である今の龍牙にミサトが話しかけよう物なら、彼の言う『奥義クラスの技』と言う物を叩き込まれる事は間違いないだろう。

龍牙は自分を少しでも落ち着かせようとして怒りを発散させるために近くに有った壁に掌打を叩きつける。龍牙が掌打を叩き付けた所には丁度、彼の掌の程の大きさの穴が開いていた。

「ところで龍牙君、シンジ君のお父さんの仕事は知ってる?」

『どの技で殺そうかな~』『監視カメラの死角に不自然にならない様に連れ込んで一撃で悲鳴も上げさせずに…』などと危険な考えを巡らせている最中に突然、そんな事を話しかけてきたのかと言う疑問が怒りを一瞬だけ上回った事と先程の壁への一撃のおかげで葛城ミサトの死期は先延ばしになった様だ。

「…あいつの父親の仕事なんて、本人も知らないのに知っている訳が無いだろう…バカ。まあ、あいつから聞いて『特務機関NERV』とか言う物の司令だとか聞いたけど。」

不機嫌この上ないという表情と態度で龍牙に言い切られたミサトは一瞬だけ固まってしまった。

(バ・・バカって、ちょっち迷っただけでそんなに怒らないでもいいのに~。)

論点のずれた事を考えていた…龍牙が不機嫌な理由は道に迷った事も含まれているが、それ以前に彼の怒りの大部分は葛城ミサトの犠牲者に対する態度だった。…『当然の犠牲』…そんな言葉で片付けられるほど命は安くは無い。そう考えている龍牙は完全にミサトに対して怒りを感じていた。

「それに『あいつの父親がどんな仕事をしているのか?』なんて事には興味は無い。そんな下らない事より、あの化け物はなんだ?」

龍牙のその言葉を聞くとミサトは突然、真剣な表情を浮かべる。

「あれは『使徒』、人類の敵よ。」

「…使徒…人類の敵?」

その言葉にも疑問を感じたがそれ以上に龍牙は別の所に考えを向けていた。

(あの女から感じられるのは…憎しみに満ちた陰の《氣》…? 憎しみは深いが弱すぎて鬼になる心配は無いな、中途半端と言った所か…。)

龍牙にはミサトの体から《氣》を見る事が出来る彼でも気をつけなければ見る事が出来ないほど弱い紅い陰の《氣》が浮んでいた。

力量としては『凡人並み』と言った所だろう。元々《氣》の力は生まれつきの才能に左右される所もある。人並みならば良い意味と悪い意味、二つの意味で陰の者との闘いにも巻き込まれる事は無いが。

(…『特務機関NERV』…壬生さんや御門さんからの情報だとゼーレの末端組織でふざけた計画の鍵の一つが有るとか…。)

龍牙は自分達の元に向かって近づいてくる気配を感じ取るとミサトに向けていた殺意を霧散させた。

(やっと、迎えが来たか…。)

『ミサト、あなた、また迷ったわね。』

背後から掛けられた声に対して慌てて振り向くミサトに対して龍牙は表情一つ崩さずに振り向く。

「ごめ~ん、まだ不慣れで。」

「自分の勤め先位覚えとけ、バカ。」

感情の篭らない声でミサトにツッコミを入れる龍牙に後から声をかけた染めている金髪と黒眉に白衣を着た女性が興味深そうに視線を向ける。

「あなたは誰? 碇 シンジ君じゃないようだけど。」

「オレは緋勇…緋勇 龍牙…意識不明の重体のシンジの代わりにここに来た者だ。」




滅びに向かい流れる運命は流れを変える…《力》、『黄龍』と言う二つの巨石が落とされた事で…。



[10220] 第二話(陽)『福音』
Name: ゼロ◆7d1ed414 ID:20be66f6
Date: 2009/07/11 18:02
龍牙に後から声をかけた、染めている金髪と黒眉に白衣を着た女性が興味深そうに視線を向ける。

「あなたは誰? 碇 シンジ君じゃないようだけど。」

「オレは緋勇…緋勇 龍牙…意識不明の重体のシンジの代わりにここに来た者だ。」

「え?」

そう龍牙が言い切るとその女性は一瞬だけ固まるとすぐに再起動し、ミサトを睨み付けて、龍牙から離れた位置までミサトを連れて行く。

「ちょっと、ミサト! サードチルドレンはどうしたの!?」

「う・・それが…その…彼が言うにはシンジ君は三年前から意識不明の重体で今も意識が無いって言うのよ…。」


遠く離れた位置で龍牙はしっかりと二人の会話を聞いていた。

(サードチルドレン? 日本語に訳すと『三番目の子供達』? 日本語になってねぇ…『チルドレン』を何かをさす言葉として考えれば…『三番目の何か』か…。人間を番号で…マリィ姉が昔いたとか言う、兄さんとその仲間達に全滅、壊滅、建物に至っては爆破までさせられた学園の名を語ると研究所と同レベルかここは?)

などとネルフに対する不信感を雪ダルマ式に大きくしていた。余談だが確かに彼の義兄を中心とした『人類規格外の集団』が組織を壊滅させたと言う所までは正しいがその学園の爆破まではしていない。彼らが爆破したのでは無く建物に関しては組織自身が機密保持の為に自爆させただけだ。


その女性の迫力に圧されながらもミサトは慌てて次の言葉を告げる。

「それに…その事は司令にもちゃんと報告したわよ。そしたら、『問題ない』って言ってたし…。」


(もしかして、ゲンドウとか言う男、あのバカの報告聞いてなかったのか…?)

真実は定かでは無いが何故か龍牙はそう思えて仕方が無かった。


「はぁ、だいたい三年前から意識不明って…そんな事、報告には何も…。」


(…報告…? なんだ、シンジの事を監視していたのか…あの連中。確か、如月さんと壬生さんの二人が叩き潰したとか言っていたけど…敵に間違われただけか…。)

心から彼らのご冥福をお祈りする龍牙であった。もっとも死んではいないが。

(オレの事…と言うより、『緋勇』の事は知らないようだな…ならひとまずは安心だな。)


話を終えたのかひとまず切り止めたのかは謎だが、その女性とミサトは龍牙の待っている位置まで戻ってきた

「ここの技術部長を務めている赤木 リツコよ。よろしく、緋勇 龍牙君。」

(モルモットでも見る目だな、そんな事をした時には地獄に叩き落すが。)

リツコから向けられる視線の意味を感じ取りながら、不快感を隠そうともせず龍牙は口を開く。

「ああ、始めまして。オレが『緋勇 龍牙』です。こちらはよろしくお願いされたくないんですけどね、赤木さん。」

言葉に弱めの殺気を込めながら龍牙はそれとは正反対の笑顔を浮かべて挨拶を返す。目は笑っていないが。

「リツコでいいわ。それにそうなるかどうかはまだ分からないけどね。そんな事より、あなたに…と言うより、本来ならシンジ君に見せたかった物があるの。」

龍牙の言葉に柔らかく微笑みながらそう返す。

「ちょっと、リツコ。龍牙君は完璧に部外者で一般人よ? ケージに連れて行くのはまずいわ。」

リツコの言葉にミサトはすぐに反論するが、

「龍牙君、これから見聞きする事は決して口外しない事を約束してもらえる?」

「ええ、いいですよ。」

ミサトの言葉を無視しながら二人は会話を続けていた。

「でも、そんな重要な所になぜオレを?」

「今からシェルターに向かうよりは安全だからよ。」

表情を変えずに尋ねる龍牙を不信に思いながらもリツコは微笑を浮かべている。だが、その瞳には冷酷な輝きを秘めている事を龍牙は見抜いていた。そして、龍牙もその内に冷たい物を秘めている。…そう、それを解き放った瞬間、その場にいる人間を一瞬で殺せるほどの冷酷さを、

(ネルフの重要情報…御二人の情報に有った計画の鍵を見る事が出来れば、幸運かな? それにしても、面白くなりそうだな。)

龍牙は二人に見られないように気をつけながらその表情に歓喜の笑みを浮かべた。兄の知人達には彼の兄によく似ていると言われている『面白いこと』に出会った時に浮かべる笑みを…。






発令所

「司令、使徒前進! 強羅最終防衛線を突破!!! なおも進行中! 予想目的地、第三新東京市!」

オペレーターの一人が男に使徒の情報を告げる。

「総員第一種戦闘配置。冬月、あとを頼む。」

後に立つ老人にそう告げると男は部屋を出て行く。

「ああ。」

男の言葉にそう答え、部屋から出て行く男の背中を眺めながら、冬月と呼ばれた老人は思う。

(三年ぶりの息子との対面か。…碇、今の俺達を見たらユイ君はなんというのだろうかな…? 待てよ…そういえば葛城君から碇の息子が意識不明でその代理が来たとか言う報告が…。碇、分かっているんだろうな?)

そんなあまりにも今更な考えに冬月と呼ばれた老人は一人自嘲してしまった後、その事を思い出して心から不安に襲われるのであった。







龍牙、ミサト、リツコの三人を乗せたエレベーターがそこに着くと扉が開かれる。

「暗いな…停電でもしたのか?」

冗談半分にそう言いながら龍牙は暗闇の奥に存在している異質な《氣》を感じ取ろうと神経を集中させる。

(この《氣》は明らかに人の物とは違う、どちらかと言うと上にいる、あの巨人に近い物だ…。)

その異質な《氣》の存在している場所に視線を向けると龍牙はすぐに目を閉じる。龍牙が目を閉じた瞬間、今まで消えていた照明が点き、天井にあるライトの光に照らされて、異質な《氣》の正体を明らかにする。照明が灯った瞬間、龍牙は瞼を開き、視線の先に存在している【それ】を視界の中に収める。

「…紫の鬼…? でかい顔だな。」

彼の視界の中に現れた紅い水の中から顔だけを出している紫色の鬼、それに視線を向け、龍牙は意識の中で自分の考えを纏める。

(前に家の古文書で読んだ幕末の時代に凶星の者が幕府に造らせたとか言う、『鬼兵』か?でも、あれの技術はそこで途絶えた様に書かれていたよな?)

当然ながら、龍牙自身そんな幕末の世にその時代の宿星達に倒されたものを見る事も無いので自分の考えが正しいかどうかは確認する術は無い。それでも、彼の頭の中に真っ先に浮んできたのは、その一言だった。

龍牙の表情に浮んでいる疑問の表情を驚きと考えたのかリツコは嬉しそうに次の言葉を告げる。

「これは人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン…。これはその初号機よ。」

「究極の…ねぇ…。」

リツコとミサトに聞えない様に小さくそれだけ呟くと龍牙は冷ややかな視線を初号機に浴びせる。

(…これでか? 見た所、武器になりそうなのは持ち前の怪力だけって、オチになりそうだし。)

その時の龍牙の直感がある意味、正しい物だったと言う事に彼自身が気付くのはそう遠くない事だった。

「しかし…『人造人間』って、そんな物を造ってる時点で正義の組織って言うより、悪の秘密結社とかの方が似合いそうな事だな。ここの大幹部をやっている、シンジの親父さんって、そのまんまの悪人面だったりして。」

露骨なまでに二人に聞えるように龍牙は言い切った。何故かリツコは必死に笑いをこらえているのに対して、ミサトの方はと言うと大笑いしていた。

「そ・・それは…ノーコメントとさせて貰うわ。」

「…それで悪の大幹部がオレに…と言うより、シンジに何の用だ? 結局、オレは代理のまま、ここに連れてこられたけど…。『世界征服するから、手を貸せ』とか言う理由で呼び出して、『我が手足となって働くのだ、我が息子よ。我等がこの世界を支配しようではないか、我こそ、世界を支配するに相応しい存在なのだ、偉大な血を受け継ぐ後継者よ、目覚めの時だ』とか言ってくるんじゃ…。」




『その通りだ!』




そんな声が響いてしまった…最悪の(ある意味、最高の)タイミングで。

その場にいた、そう言ってしまった張本人を除いた全員が最も出ないで欲しかったタイミングでの最悪の答えに真っ白になった。

イヤーな、沈黙が流れている…認めちゃってるし、ここが『悪の秘密結社』で自分がその『大幹部』だという事を(^_^;)

その沈黙を真っ先に破ったのは龍牙だった。

「…あのー…赤木さん、ここって、本当に悪の秘密結社だったんですね。」

これ以上ないほど真剣な表情でリツコに露骨に後退りしながら、龍牙がそう質問すると沈黙から復活したリツコは必死に訂正をする。

「ち、違うわ、龍牙君!!! 変な誤解しないで!!!」

必死に龍牙を説得しようとしているが…龍牙はぜんぜん信用していない。

「ま、まさか…実は上にいるのはこの悪の秘密結社を潰そうと現れた正義の使者で…オレは騙されてここに…? ハッ!? まさか、赤木さん…技術部長と言う事は…オレを悪の怪人エヴァンゲリオン二号に改造しようと…。オレの事を変な目で見てのは、そのための品定め…。」

変な誤解を最悪な方向に向かって発展させていく龍牙、リツコ自身、彼に気付かれるとは思っていなかったがそう言う目で見てしまっているのでその点だけは否定出来ない。

「ちょ、ちょっと待って、龍牙君、私はそんなつもりは…。」

「止めろ、来るな、衝撃を与える者のイカ怪人の科学者!!!」

なぜ仮○ライ○ーの敵組織を知っている、龍牙?

「な・・なんでそんな、セカンドインパクト前の特撮を知ってるの? って、ここはシ○ッ○ーじゃない! って、誰がイ○デ○ルよ!!!」

答:それは大宇宙の名を持つ元練馬のヒーロー達の影響です(^_^;)

「そ・・そうよ、龍牙君。私達はむしろ逆、逆なのよ!!!」

やっと復活したミサトも説得に加わるが逆に龍牙は警戒を強めていく。

「…信じられない…。…もしかして、遅刻したのもあそこでわざと殺して改造手術の際の抵抗を…。」

「「お願いだから信じてー!!!」」

「来るなぁー!!!」

必死で逃げ回る龍牙とそれを追いかけながら否定するリツコとミサトの二人…演出が悪すぎる為に完全に信用されていない。…見ている方にはある意味コントだ。

ただ一人何が起こっているのか分かっていなかった悪の組織『特務機関NERV』の大幹部にされている(ある意味、その通りだが)ゲンドウは部下からの報告を聞いて慌てて訂正する。



『ま、まて! あれは間違いだ! って、お前は誰だ? シンジはどうした!? なに、意識不明の重体だと!? あの役立たずがぁ!!! って、そんな無関係な餓鬼を誰の許可を得てここに連れてきた!? 許可は有る? 誰の………って、オレのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?』



訂正しよう…一番錯乱していたのはこの男、碇 ゲンドウだった。…知らない内になぜか悪の大幹部にされ(ある意味、その通り)、呼んだはずの自分の息子はいないで…なぜか別人がいて、彼がそこにいるのは自分のシナリオ通りに進んでいる事に笑みを浮かべながら、『もうすぐ会えるぞ、ユイ~』等と考えていて、シンジの代わりに代理の者が来たと言う報告が有った時も聞いておらず、いつもの様に『問題ない』と言ってしまったために自分が許可を出してしまったからだと言う事に今、やっと気が付いたのだ。…錯乱しても無理は無いだろう。

今、この四人の頭の中から使徒の事は完璧に消え去っていた。哀れなり、第三使徒サキエル…。

…さてさて…彼らが本題に戻ったのは、逃げ回る龍牙を取り押さえようとしたミサトが龍牙に返り討ちにあう事、数十回…その内何回かは彼の撃ち出す不可視の衝撃によって吹き飛ばされていた。

時間にして一時間も過ぎ去っていて、リツコの説得を龍牙が聞き入れた事でやっと本筋に戻れたのである。

この時点…と言うよりもシンジが意識不明になった時点、イヤ、『碇 シンジ』と言う計画の鍵が『緋勇 龍牙』と言う存在と友人になった瞬間、完璧にゼーレとゲンドウの考えている二つの計画は完璧に崩壊しているのだが…ゲンドウはその点以外は計画通りに進んでいるので『フッ、問題ない』と考えていた、彼の計画ではシンジはレイの予備でしかなく、その予備が仕えなくなった。ただ、それだけだとしか認識していないのだから…。

だが、彼の存在はそんな物ではすまない。…ゲンドウの計画の予備の代わりにゲンドウとゼーレの老人達にとって最悪とも言うべき存在が訪れたのだ。

シンジと言うカードの代わりに現れたそのカード、それはジョーカーにしてエース、持つ者に勝利を与え、持たざる物に敗北を告げ、あらゆるカードに姿を変える道化師のカードであると同時に最強の切り札。

だが…そのカードを持っているのは愚者達ではない…。

そのカードを持つ者は龍牙の義兄である彼…世紀末の魔人達を従え、今もゼーレと戦い続ける者にして、ゼーレがこの世界で唯一恐怖する存在…《器》である彼なのだ。

ゲンドウはまだ自分の目の前にある存在の力と《力》を知らない、この時点では『所詮は子供』と言う認識でしかない。だが…もうすぐ彼と言う存在の持つ恐ろしさの片鱗をいやというほど知る事となる、他の誰でもなく、全ての黒幕たる老人達の口から…。

だが…その老人達も知らない、彼自身も知らない龍牙の持つ真の《力》を…それを知るのはこの世で大地の力を宿す器たる存在とそれに従う四神よりも高位の存在である四人だけなのだ。



さあ、物語の幕は開く、『緋勇 龍牙』…もはやこれは生贄となるべく育てられた少年『碇 シンジ』主演の愚者達の書く物語では無い! これは黄龍の器『緋勇 龍麻』のもう一人の…『緋勇』の名を与えられた義弟である、君が主演の《宿星》の描く物語なのだ! 君の義兄が《宿星》に導かれ、東京の新宿は真神学園に転校し、龍脈を廻る戦いに身を投じたように君の《宿星》がその場に導いたのだ! 恐れる事は無い、龍牙よ! 君の義兄がそうであった様に君にも頼りになる仲間達がいる。何よりも強い《宿星》の絆で結ばれた仲間達が!!!

君の義兄がそうであった様に始まってしまった物語の舞台からは降りる事はできない、だが、その物語は君が自由なる意思の元に愚かな計画を愚者の描くシナリオを破壊する物語なのだ。

さあ、もうすぐプロローグは終わる、物語はここから始まるのだ、《宿星》に導かれし《力》持つ者達よ、その手で愚者達の物語を打ち砕くのだ…。






「…………………。という訳で信じてもらえたかしら?」

肩で息をしながら疲れきった表情で言うリツコに対して龍牙は表情一つ変えずに平然とした顔で返事をする。

「はい、一応は理解しました、赤木さん。まあ、納得できない所と突っ込み所の方が多すぎる事には目を瞑らせて貰います。」

一度だけ、真上から見下ろしているゲンドウを睨み付けると龍牙は再びリツコに視線を戻す。余談だがミサトの方は龍牙の一撃によって頭から壁に突き刺さっています。

「ここが悪の秘密結社ではなく、とりあえず使徒撃退の組織ではあるとは理解しました。かなり、無理矢理にですが…。」

そう言った後、龍牙は呼吸を整えると龍牙はリツコに次の言葉を告げる。

「…それで…オレに何をしろと?」

「え・・えーと…。」

リツコは本来、初号機の専属パイロット、サードチルドレンとして『碇 シンジ』を呼ぶはずだったのに意識不明の彼の代わりに来た龍牙に対してなんと言っていいのか困っていた。



『ふっ…出撃。』



「何がだ? 碇ゲンドウ。」

強引に自分のシナリオ通りに進めようとしたゲンドウに龍牙の極めて冷静なツッコミが突き刺さる。




「『……………………………………………………………………………………………。』」




再び長い沈黙だった…。

この沈黙を誰も破ってくれないと思われていた時、ゲンドウは次のセリフに入る。



『………座っているだけでかまわん。』



「だから、何に座ればいい? お前、冗談抜きで小学校レベルから『国語』をやり直せ。」

再びゲンドウの言葉に対して、龍牙の冷静すぎるツッコミが突き刺さる。

「…あの…赤木さん、あの髭の言葉を要約すると…エヴァンゲリオンが出撃する事までは解読できたんですが…? オレは人間以外の言葉は解読できないので…『通訳』をお願いします。」

龍牙の中でゲンドウに対する評価は落ちる所まで堕ちていた。ゲンドウに対して龍牙の中には敬意と言う言葉の『け』の字も無い。

それと同時にもう一つ、龍牙は心の底から今は意識不明の重体で眠り続けているシンジに対して同情していた…『こんなの』が父親で有る事に。

「つ・・つまり、そう言う事でいいのよ。そ・・それでシンジ君に乗って欲しかったんだけど…?」

「じゃあ、シンジを初めから手元置いとけよ。」

冷ややかな視線でゲンドウを睨みながら、きっぱりと言い切った。バカと言わないだけ、まだゲンドウはミサトよりも評価はいいのだろうか…? まあ、すぐに落ちる所まで堕ちるだろうが…。



『乗るなら早くしろ! でなければ帰れ!』



「うるせー!!! 少し黙ってろ、このクソ髭!!! そこから引き摺り下ろして、顔面ごと、その似合わねぇサングラス叩き割るぞ!!! 大体、帰っていいなら、喜んで帰るぞ。」

《氣》を乗せた一言がゲンドウに突き刺さった…完全に切れた…龍牙君でした(^_^;)

龍牙に一喝された上に殺気の篭った視線をぶつけられたゲンドウは分厚い強化ガラスに阻まれた部屋の隅でガタガタと震えていた…息子と同じ年齢の少年にである。

まあ、龍牙自身、露骨に床の一部を引きちぎって握りつぶしているが…彼曰く、兄の仲間の援護系、術者系の人達以外なら、《氣》による身体能力の強化で普通に出来る事らしい…。

「り・・龍牙君…驚くかもしれないけど、よく聞いてね。」

その姿に興味と恐怖を覚えながら、とりあえず彼を怒らせたら助けを呼ぶ前に一度くらい簡単に死ねるだろうと確信したリツコは言葉を選びながら言う。












「…………つまり、このエヴァとか言うの使って使徒を殺らないとサードインパクト起こって、人類滅ぶんですね。」

エヴァ初号機を指差しながら、答えるとリツコの説明に驚いた様子一つ見せずに冷ややかな視線を再起動した時に床に叩き付けられて再び気絶させられたミサトに向ける。

「あのバカの妄想じゃなかったのか…。」

「…え・・ええ…。」

多少、先ほどゲンドウに向けていた殺気に近い物(冷静な分だけまだマシな方だが)が篭った声に少し怯え気味なリツコであった。

龍牙は殺気を消して何かを考える様に視線をエヴァ初号機と天井に向ける。

(…人類の危機ね…あれがどうやって、起すのか知らないけど…あれが人類を滅ぼす存在なら消すしかないよな…オレに与えられた『緋勇』の名に誓って…。)

会った事の無い義理の父、幕末の時代、最初に凶星の者と戦った緋勇の祖、そして…この世で最も尊敬(崇拝に近いかもしれない)する存在、義兄『緋勇龍麻』…彼等も世界を守る戦いをやって来た。

…ここで彼が逃げ、そんな彼等の名を汚す事を龍牙に出来ようか…? 否、そんな事が出来ようはずもない。龍牙の選択はすでに決まっていた…彼の決断…それは…唯一つ。

「分かりました、オレがシンジの代わりが勤まるかどうかは分かりませんができる限りの努力はします。」

龍牙は流暢な口調でそう言い切り、舞台俳優もかくやという見事な礼をする。その動作は彼のその外見と合わせて見事なまでに絵になっている。

そして、龍牙は今まで部屋の隅で頭を抱えてガタガタと震えていたゲンドウが再び同じポーズで自分を見下ろしているのに気が付くと再び睨みつける。

「碇ゲンドウ!!! 後でシンジの事で話がある、あの怪物が居なくなったら、時間を空けておけ!!!」

すでに龍牙にはゲンドウに対して敬意を払う気は完璧に無いらしい。怒りを込めて怒鳴りつけるとゲンドウは少しは慣れたのか…先程の物より軽かったのか…そのポーズを崩さずに立っていた。

『………分かった。赤木博士から説明を聞け。』

通行の邪魔だったので気絶しているミサトをエヴァ初号機の浸かっている赤い水の中に蹴り落とすと龍牙はリツコに視線を向ける。

「赤木さん、そう言うわけだから、あれの操縦方法や武装などの説明を…時間が無いみたいなので要所だけを抜き出して…手短にお願いします。」

「ええ、分かったわ。」

先ほどまでとは正反対の穏やかな口調で言う龍牙の言葉に答えるとリツコは白衣の中から取り出した物を渡しながら話し始める。

「龍牙君、これを着けてもらえるかしら。後の説明は向こうでするわ。」

「ええ…分かりました。」

「変ね…。」

リツコはそんな龍牙を見て、彼に聞えないように呟く。

表情も変えずにリツコの言葉に答え、歩き出す龍牙…そんな龍牙にリツコは疑問を持つ…。それは『なぜ、今から戦いに行くというのに怯えと言った感情を持たないのか…?』と言う物だ。

今の龍牙には恐怖心が無い、それはあまりにも冷静すぎる。最初は『彼には変な英雄願望や戦場への憧れでも持っているのか?』等という考えも浮んだがそれは真っ先に考えの中から消し去る。事実、彼には戦場への憧れと言った様な感情や英雄願望から生まれる高揚感も無く、龍牙の様子は例えるならば…『ちょっと近所のコンビニまで、買い物に出かけてくる』という物でしかなく、まるでそれが日常の一部でしかない。そんな龍牙に対してリツコは疑問を持たずにはいられなかった。


そんなリツコの疑問もよそに…龍牙が戦場に立つ刻は一歩一歩近づいてきていた…。











リツコからの説明も終わり、初号機のエントリープラグ内…

エントリープラグの中を見て、初めて驚いた様子を見せていた龍牙が目を閉じて座っているとどこからか赤い水が流れ込んできた事に驚いて、龍牙は叫びだす。

「うわ! 赤木さん! これはなんですか? …というより、これはなんだ、マッドサイエンティスト!!!」

『失礼ね、誰がマッドサイエンティストよ!』

…彼はまだ引きずっているようだ…。最初のゲンドウによる悪の秘密結社と言う言葉に対する肯定を…。

『オッホン! まあいいわ…。それはLCLと言うの。肺に取り込めば直接、血液に酸素を供給してくれるわ。』

一度、咳き込んで気を取り直しながら、『後で覚えてろ、このクソ餓鬼』と言う雰囲気を消すとリツコは説明をする。…ただ何人かは現在も…特にその中でも童顔の彼女の弟子が怯えている。

「ヘェー。肺に…というのは溺れればいいのか…どうりでさっき叩き落した『それ』がまだ生きているはずだ。どれどれ。」

発令所にいるミサトを指差した後、丁度、膝の辺りまで水位が上がってきている液体を少し取り、口にした瞬間、龍牙は思わず噴き出してしまった。

「な・・なんだこれ…!? 血の味か…こんな物を溺れるほど飲むか…最悪。当分、肉は食えないな…。」

嫌悪を浮かべながら履き捨てるように言う龍牙に雑音が聞える。

『我慢しなさい、男の子でしょう!』

「…血の味に慣れたら…人間として、終っていると思うぞ。まともで正常な人間ならな。」

侮蔑の意思を込め、モニターに映る発令所の面々を侮蔑の意味を込めて見渡すとミサトで視線を止める。

『うっ…。』

「この際だから言わせて貰うが…お前等…一応、合意の上とは言え、無関係な未成年を戦場…殺し合いの場に送り出すという自覚有るのか? だいたい…そこのバカ、何でお前がそこにいる。」

ミサトを指差し、侮蔑の視線で見下しながら龍牙はそう言う

『あたしは作戦部長よ!』

「………………………………………………………………はぁ? おいおい…今、なんて言った? こんな時に下らない冗談は止めてくれ…。」

『だから、あたしは作戦部長だって言ったでしょう! だから、こうして指揮を執るためにここにいるのよ!』

「…………………………………………………………………あの~…赤木さん…そこのバカの戯言は…マジですか…?」

『残念だけど事実よ。』

その一瞬で龍牙は沈黙した…発令所にいる、約二名以外は龍牙の沈黙の理由が理解できていた…それ以前に考えが一致していた。『初対面の相手にそこまで言われるなんて…いったい何をやったんだ、あんたは?』と。

理解していないのは当の本人と『こっちの都合も何も知らない餓鬼が何言っているんだ。』と相手の事も自分が大人と言う事も考えずに龍牙に対して憤りを感じている『日向 マコト』の二人だけである

どうでもいいが日向マコトよ…その心の内を龍牙に聞かれたら、ミサトの前に殺されるぞ…確実に…イヤ、間違いなく。

「ちょ………ちょっと待て、ふざけるな!!! すぐにここから出せ!!! そんなバカの指揮の下で戦えなんて、死ねと言っていると同じ事だろうが!!! 大体なんだ、この組織は…そんなバカがトップなんて、何考えていやがる!!! ふざけんな!!!」

『なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! このクソ餓鬼!!!』

『ミサト…ちょっと、黙っていてもらえる。龍牙君、あなたの言いたい事は分かるけど…今は我慢してもらえるかしら…。』

「ええ、バカとナントカは紙一重だといいますし…普段と戦闘中は違う事だけを神に祈ります。」

発令所の大騒ぎを完璧なまでに無視して、そう答えると心を落ち着けるように龍牙は目を閉じる。

龍牙がそうしている間にもそれなりに優秀なオペレーター達は作業を進めている。

『思考言語は日本語をフィックス…』
『神経接続…第一次接続開始…』
『主電源接続…』
『全回路動力伝達…』
『第二次コンタクト…』
『A10神経接続、異常なし…』
『初期コンタクト、オールグリーン…』
『双方向回線、開く…』

それは単純な流れ作業、何度かこの兵器の機動実験が有ったはずなのだろうから彼等には手馴れた物であるのだろう。…だが…異変と言う物はいつも突然起こる物である…。

『第二ステージ問題なし! 第三ステージもクリア。シンクロ開始しました!!! 現在38%!』

そう…順調に行っている…その瞬間だった…異変が起こったのは…

『え? せ・・先輩! シンクロ率の上昇が止まりません! 現在158.78%! なおも上昇中!』

『なんですって! 緊急停止! 接続をカットして!!! エントリープラグ緊急射出!』

『………ダメです! 初号機から、拒絶されました!!!』

『そんな…また、繰り返すというの…?』

龍牙の意識がどこかに引きずり込まれていく…彼の耳には発令所の騒ぎも入らない…。

(な・・なんだ…これ…は…。)

龍牙の彼の意識が現世から消えたのはその瞬間だった。

『…役立たずが…。』

何の感情も篭っていないあの男…友人である碇シンジの父親である、碇ゲンドウの言葉が最後に聞えた言葉だった…だが彼はこう考えた。…それももう、どうでもいい…と、

―ごめんな…弓…オレ…お前との約束、守れそうもない…―

…その瞬間…龍牙はLCLへと消えた…。

そして、彼が消えた瞬間にそれは現れる…。

「大変です、第三新東京市に未確認物体出現!」

『それ』は突然、その場に現れたとしか言いようがない…。

「何ですって!? こんな時に。」

ミサトが叫ぶ…。

「まさか、新たな使徒!?」

リツコが問う。

「いえ、ATフィールドは計測されておりません。」

「映像で確認、主モニターに回します。」

モニターに映し出されるは…第三使徒サキエルと対峙する存在…蝙蝠の様な翼と山羊の様な角、そして、刃のごとき爪を持った巨大、そして、邪悪にして醜悪なる異形…それは古代より、こう呼ばれ、人に嫌悪され、恐怖を持たれ続けて来た存在…そう…それを見た人々は『それ』をこう呼ぶ事だろう…『悪魔』と…。



[10220] 第三話(陽)『龍牙』
Name: ゼロ◆7d1ed414 ID:20be66f6
Date: 2009/07/18 17:51
『え? せ・・先輩! シンクロ率の上昇が止まりません! 現在158.78%! なおも上昇中!』

『なんですって! 緊急停止! 接続をカットして!!! エントリープラグ緊急射出!』

『………ダメです! 初号機から、拒絶されました!!!』

『そんな…また、繰り返すというの…?』

龍牙の意識がどこかに引きずり込まれていく…彼の耳には発令所の騒ぎも入らない。

(な・・なんだ…これ…は…。)

龍牙の彼の意識が現世から消えたのはその瞬間だった。

『…役立たずが…。』

何の感情も篭っていないあの男…友人である、碇シンジの父親である、碇ゲンドウの言葉が最後に聞えた言葉だった。…だが彼はこう考えていた…それももう、どうでもいい…と。

―ごめんな…弓…オレ…お前との約束、守れそうもない…―

…その瞬間…龍牙はLCLへと消えた…。



???

「…………………。ここは…?」

龍牙は意識を取り戻すと周囲を見回す。彼のいる場所、そこは一言で言えば真っ暗で何もない…そう…『何も無さ過ぎる』のだ。

「…光源もないが自分自身だけははっきりと見える…変な所だな…ここは…。」

そう呟き、右手を胸の辺りまで上げて《氣》を練り上げると龍牙の全身を青い陽の《氣》が包む。

「…《力》は十分に使えるか…。オレは確かにあのエヴァとか言う鬼兵のコックピット…エントリープラグとか言う奴の中にいたはずだけど…ここは…?」

周囲を見回して、疑問を呟いても龍牙の疑問に答える者は居なかった。

「仕方ない…歩くしかないか…。」

その場に立ち止まっていても何も始まらないと考え、龍牙は歩き出す。

それから、何十分…何時間が過ぎただろうか…? 時間的な感覚が麻痺してしまう様な静寂と暗闇に包まれた場所を歩き続けながら、龍牙は極めて冷静だった。

「…普段から非常識に慣れているから、ある程度には耐えられるけど…これは、そろそろ限界が近いな…。」

龍牙自身、『限界が近い』と口ではそう言っているがそんな様子はまったくと言っていいほど見せてはいない。

実際、見た目には、まだまだ余裕は十分と言った感じでしかないが精神的にはどうなのだろうか? 正確に言うと精神的にも余裕は十分である。

まあ、今まで非常識が日常と言う人生を送っていた龍牙にはこの程度と口で言えるほどでしかないのだろう。

どれほど非常識かと聞かれると…説明するのも大変なことなのだが一例を挙げるとすれば…修行として、怪物相手に戦う事は常日頃。初めの頃は最低、日に一度は修行の中で死にかけていた身の上なのだ…緋勇龍牙君…(^_^;)

そして、彼の師でもある義兄の友人の一人からの教えの中のひとつにはこんな言葉がある『何が有っても必ず生き残る事、死んで何かが出来ると思うな、死んだらその時点で全て終わりだ。』と言う言葉…借り物、贈り物の言葉だが…それは龍牙にとって、二番目に大事な言葉となっている。

彼にとって、一番大事な言葉は彼の義兄からの言葉…記憶にも残らないほどの昔に、彼の義兄が今は無き父親から送られた言葉を彼の口から今度は龍牙へと送られた。

その二つの言葉を元にする事によって、龍牙はこの訳の分からない場所でも戻る方法を考える事を忘れずに行動する事が出来ている。もっとも、この場合は、どちらかと言えば前者だが。

「ん?」






その頃、発令所では…モニターに映し出されている第三使徒サキエルの前に現れた悪魔が咆哮し、サキエルとの戦闘…イヤ、虐殺を開始する。

使徒と言う人類の敵と言う存在と新たに現れた恐怖を体現した様な怪物…二体の異形の怪物に対する恐怖に支配される中、異形の怪物同士の戦い。イヤ、悪魔による一方的な虐殺をモニターしようとオペレーター達は必死に作業を続けていた。現時点において、ネルフで一番働いているのは彼らだろう。



そして、一番働いていないTOPの二人はと言うと…

「碇、これはシナリオには無いぞ。」

「問題ない。…エヴァ以外では使徒は倒せん…。」

隣に立つ冬月と呼ばれた老人の言葉にゲンドウは無表情のまま、いつも通りの答えを返す。



悪魔は咆哮と共に右腕を振り上げ、刃の様な爪をサキエルに向かい振り下ろすがそれはサキエルの一歩手前で発生した紅い八角形の壁によって止められる。

「「ATフィールド!!」」

絶対領域『Absolute Terror Field(アブソルト・テラー・フィールド)』、使徒が持つ無敵の防御フィールドである。サキエルはこれを展開し、悪魔の振り下ろした爪から身を守っていたのだ。

それを見てゲンドウがニヤリと笑う。ミサトも何故かニヤリと笑った。リツコも同様だった。そして、誰も気が付いていなかったが何故か爪を受け止められている悪魔も顔を歪めて、笑みを浮かべている。

「ダメだわ、ATフィールドが有る限り、使徒には接触できない!!!」

そして、彼等の研究でATフィールドは同じ、ATフィールドによって中和する事が出来る…使徒かエヴァであるならそれが可能だが…悪魔はそれが出来ていない。…それこそが悪魔が使徒とは違う存在であると言う事を物語っていた。

「ハッ、あの怪物も大した事ないわね。」

ミサトは悪魔を鼻で笑う。その瞬間、モニターの中に映るはずの悪魔がその場にいるようにモニターの向こう側からミサトを睨みつけ、その顔をより邪悪に歪めた

「待ってください!」

オペレーターの一人の叫び声が響いたと同時に悪魔に異変が起こる。

今までATフィールドに止められていたはずの悪魔の右腕が消え、ATフィールドを挟んで向こう側に存在しているサキエルの片腕を捕獲していた。

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

悪魔は咆哮と共に自身の右腕が捕獲しているサキエルの右肩から右腕を引き千切り、サキエルの血液が引き千切った右腕と本体から、飛び散る。そして、引き千切ったと同時に悪魔の右腕は再び元の場所に戻っていた。

「うそ…。」

発令所でそれを目撃しているリツコはそう呟いた。ATフィールドを展開しているにも関わらず、悪魔は使徒の腕を引き千切ったのだ。

確かにサキエルのATフィールドは破られてはいない。そう、『破られていないだけ』であって、悪魔はその絶対的な障壁の存在を嘲笑う様に引き違った右腕を握ったまま、醜悪な笑みを浮かべる。

そして、悪魔は自身の右腕に握っているサキエルの右腕を…喰らう…。

『GA…。』

食べ残した腕を投げ捨てると、その返り血で口元を…牙を染めて、まだ食べ足りないのか、悪魔は一歩一歩、サキエルに近づいていく。それに脅威を感じたのか、サキエルは一旦、間合いを取ろうと考え、双眸を輝かせ光線を放つ。

だが…サキエルの放った光線は悪魔の体を透過し、その背後に有った武装ビルの一つを吹き飛ばす。




…それからの戦いの例え方は幾つもあるが一番適切なのはこれしかないだろう…『一方的な虐殺』




ジオフロント、ネルフ本部…作戦指揮所であるはずの中央作戦室発令所は静まり返っていた、スーパーコンピューター・MAGIの微かな稼動音、データをモニタリングする電子音、そして地上の様子を映すメインモニターから聞こえる戦闘音以外の音は無く、その場にいる誰一人として声を上げることができなかった。

それは戦闘音では無い、それは戦いで聞える音ではない。その映像から目をそらす事が出来ない。耳を逸らす事が出来ない。肉を引き裂く音と映像、それを喰らい食い尽くす悪魔の捕食の音から…。

その原因となる、異形の怪物『悪魔』をある者は凝視し、ある者は口元を押さえ必死に嘔吐感を押さえ込む。発令所を共通の感情が支配していた。それは使徒が相手に向けている物と同じ感情…『恐怖』

だが…ただ一人だけ、その支配から逃れられている者がいた。…『葛城 ミサト』である…自分の復讐の対象である使徒をその腕と爪で引き裂き、その口と牙で喰らう悪魔に対して、ただ一人だけ…『憎悪』の感情を向けていた。誰もがそれを羨ましく思うだろう。その女だけが心臓を握られた様な恐怖から逃れられているのだから。

それ以外の人間は…リツコでさえも恐怖が好奇心を圧倒的に上回っていた。目の前で自分の常識を悪魔が引き裂き、喰らい尽くしている…彼女の中の常識が音を立てて崩れていることだろう…。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


咆哮と共に悪魔はすでに原形を留めていないサキエルの唯一無傷だった部分であるコアを噛み砕く。


…第三使徒殲滅…ネルフの初陣となるはずだった戦いは…突然現れた怪物による一方的な虐殺によって幕を閉じたのだった。


ただの肉片には興味ないのか悪魔の全身が霧散し、何事も無かったかのようにその存在を消え去っていた。

残されたのは街中に飛び散ったサキエルだった血液と肉片…そして、サキエルの墓標のように立つ…悪魔の食べ残した右腕だけ…。

『……………………。』

誰も何もいえない、言葉を告げる事が出来ない…そんな中で一つの報告が彼等を再起動させる。

「…あっ、シンクロ率、低下…99.89%で安定、龍牙君がエントリープラグ内に…。」

「…戦闘エリア内に逃げ遅れたと思われる人物が…モニターに映します。」

突然の二つの報告を聞いた発令所が再び再起動する…そして、今まで使徒の虐殺画面が映っていたメインモニターに一人の少年の姿が映し出される。

赤い学生服を着て、真紅の髪を持ち、日本刀を腰に差した全身を赤く染めた少年がメインモニターに映し出されていた。そして、その少年が監視カメラに視線を向けると映像が斜めに別れ、すぐに映像は途切れた。

それからの指示は早く、すぐに周辺にいる保安員達をモニターに映るその少年の元に向かわせた。…そして…


『…ここは…戻って…これたのか…?』


龍牙はエントリープラグ内でそう呟くと同時に再び意識を失った。今度のそれは単なる睡眠だが…




???…

時は少しだけ遡る…第三新東京市の街で悪魔によるサキエルの虐殺が続く中、龍牙は暗闇の中で自分以外の存在を見つけた。

「…シンジ…? 違う…年上だし…女だよな…? それに…。」

龍牙の目の前にいるのは外見上では二人の人間…一人は自分よりも年上…白衣を着た女性は彼の友人である『碇 シンジ』に似た印象を与えていた。

ただ…彼の目に付いたのはもう一人の女の子…紫色の髪のキリストの如く十字架に磔にされた少女の方だった。

(…な・・なんだ…? シンジに似た女にあの子は…? 助けようとした様子も無いし、あの女の方が悪物だよな…? うん、どう見ても。)

心の中でそう結論付けて頷いていると彼に気が付かないのか、その女性は恍惚とした表情で捉えられている少女の顔を撫でる。

『…放して…。』

『フフフフフ…逃がしはしない。貴方は私の願いをかなえるためだけに存在しているのだから…。』

それを見て、龍牙の感情の中に嫌な物が浮かんでくると同時に少女の助けを請う声と女の酷く歪んだ欲望の声が聞こえる。

龍牙は無意識の中で血が出るほどに拳を握る。

「………………ろ…。」

それと同時に無意識の中で注意しなければ聞き取れないほどの小さく、それでいて怒りが込められた言葉がこぼれた。

『おね…い…た…けて…。』

『誰も助けに来ない。誰にも知られていないから。…だから、このまま私の願いの為に消えなさい。』

首に廻された手は少しずつ少女の首に沈んでいくにつれて少女の声が段々とか細く、途切れ途切れになっていく。そして、それと比例する様に大きくなっていく女の声には悪意が込められている、普段の龍牙になら簡単にそれに気が付いていた事だろう…その女の放つ…欲望に染まった赤い《陰》の氣が…。

「………るな……めろ…。」

龍牙の心に浮ぶその感情はかつての戦いの中で彼の義兄が何度も敵に対して感じた感情である事は知らない…知る術もないだろう…。その感情の名は『純粋なる怒り』

『……た…けて……が…い…は…な……して…。』

『ククッ…私にエイエンヲ…愚かな人間にホロビヲ…。』

少女の首に沈む女の指が…少女の声が…《氣》が弱く小さい物になった瞬間、龍牙の感情が抑えきれない物へと昇華される。

『ふざけるな!!! 止めろって、言ってんだよ!!!』

心から怒りを込めて、龍牙は叫んだ。

感情のままに叫ぶ龍牙の存在に気付いたのか顔を龍牙へと向ける。サディズムに酔い、どこか恍惚とした顔に龍牙は見覚えがあった。その女とは出会った事は無いがその女に似た者なら知っていた。…彼の友人である『碇 シンジ』だ…。

だが彼は知らない、その女こそが全ての元凶にして、人類補完計画の立案者、彼の友人の『碇 シンジ』の母親である…『碇 ユイ』だと言う事を…。

『貴方は誰? どうしてここに…なんで私の邪魔をするの…?』

女は少女の首から手を離すと龍牙に視線を向け一歩一歩近づいてくる。龍牙はその瞳に怒りを浮かべて、大地を踏み砕かんばかりの震脚(体重を乗せるための強烈な踏込み)で女との距離を詰め。

「はぁ!」

ユイの腹に掌打を叩き込み、相手の顔を狙った上段蹴りを見舞う。その一撃はあまりにも美しい、破壊の為の美しさとでも言おうか…全ての運動エネルギーが相手の顔を砕くために使われた一撃。

徒手空拳《陽》の技の一つ『龍星脚』…龍が天に昇る姿を形容させた美しい上段蹴りだ。その美しさは正に破壊の為の美しさ…その一撃を受けたユイは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる姿から、その威力は理解しやすい事だろう…。

龍牙の全身から湧き上がる蒼い《陽》の氣が彼の力へと変わり、敵として相対する者に圧倒的な恐怖を与える。

「止めろ…私の…私の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

『碇 ユイ』…イヤ…それはもはや、こう言うしかないだろう…『碇 ユイだったモノ』…かつては美しかったであろう顔を醜く変え、両腕の爪を手の平ごと巨大な狂気へと変えたそれは…もはや、人とは呼ぶ事の出来ない存在…。

「…陰に堕ちたか…。」

《それ》を龍牙達はこう呼ぶ。…人の心を失い陰に堕ちたモノの成れの果てを…『鬼』…と。

冷静なままに呟く龍牙は自分に向かって来る『鬼』に掌打を叩きつけるが今度は単発ではなく、蹴りを混ぜた連打…それは義兄がかつての戦いの中で使っていた打撃系の最強の技にして、最速の技である瞬間連撃『八雲』。

「鬼に堕ちた以上、加減はしない!!!」

『加減はしない』とはいっているが元々加減はしていない。…鬼へと変わった以上、加減する理由が完全に無くなった…ただそれだけの事だ。

その打撃の一発一発の重みが最初の物とは桁違いで急所を打ち抜く高速の連撃、それが碇ユイであった『鬼』に無情にも叩きつけられる。

全身に力が流水のごとく流れ、その最後の一撃が今までの中で最上級とも言える破壊力を持った一撃となり、己の敵に叩き込まれる。

叩きつけられた最後の一撃は『鬼』の全身の骨という骨を砕き、内蔵に至っては致命的なダメージを与えられた事だろう。そして、『鬼』となっても元は科学者であり、女…その衝撃に耐え切れず吹き飛ばされる。

「…許さない…私の計画…ワタシノノゾミヲ邪魔するヤツハァァァァァァァア!!!」

『鬼』は狂気に満ちた叫びを上げ再び龍牙に向かって来る。

『死ィネェェェェェェェェェェェェェェエ!!!』

龍牙は自身に振り下ろされる凶器と化した腕…自身に振り下ろされる死神の鎌の如き、必殺の凶器を冷静に眺め、自身に振り下ろされる前にその腕を龍星脚で砕き、顔に拳を叩き込む。そして、相手の体を龍牙の軽く掌打が叩きつけられる。

「考えてみれば……冷静になって見れば、たいした事無い相手だったな……。」

はっきり言って目の前の鬼は相手の行動に対しての反応が遅すぎる。実戦ではそれが命取りだという事を身を持って知っている龍牙は怒りのあまり、自分の戦い方も忘れた上に一度でもそんな弱い相手に対して、本気になった自分を恥じた。

龍牙は相手に向けていた手を降ろすと無造作に鬼の隣を通り過ぎる。

鬼も今までの中で最もダメージが少ないと言うのに何もせずに通り過ぎる龍牙に一瞬、呆気に取られていると再び腕を龍牙に向ける。

『死ィ…。』

「ああ、そうそう…。」

龍牙は相手に叩きつけた右腕を胸の辺りまで上げると相手にも聞えるように呟く。

「言い忘れたけど…オレは《陽》の技の中で五行の『水』に位置するこの技が一番得意なんだ…。」

その技は彼の持つ技の中で最も使い慣れていると同時に初期の技でありながら純粋な殺傷力だけならば『八雲』も凌駕している。

『ナ・・ニ…。』

鬼の全身が凍り付いていく

「この技だけは兄さんを超えているという自信もあるオレの得意技…。徒手空拳技《陽》…《雪蓮掌》。」

徒手空拳技《陽》の初級技『雪蓮掌』…それは彼の流派の中で龍牙が最も得意とする技であると同時に彼が霊鳥の王の名を冠する奥義以外に唯一会得している…四神の名を冠する四の奥義が一へと発展する技…。

龍牙がその技の名を呟き、手の閉じた瞬間凍りついた碇ユイであった鬼は砕け散る。碇ゲンドウ…妻を求めたこの男がこの事実を知ったら怒り狂い、どんな手を使っても龍牙を殺そうとしただろう…だが…二つだけ、それを否定する材料があった。

龍牙は静かな視線で砕け散った碇ユイだった鬼に対する怒りを消した龍牙は磔にされている少女に視線を向け、手の平を向けると不可視の衝撃波が少女を捕らえている十字架を砕く。

「…ふぇぅ…ック…ィャぁ……ィャぁ。」

十字架から開放された少女を受け止め抱きとめると龍牙は抱き締め、髪を撫でる。…今まで敵に向けていた感情は無い。…有るのはただ…彼女に対する優しさだけ。

(…小さな女の子を泣き止ませる方法って…これがいいって…あの二人から聞いたけど…大丈夫だよな…?)

聞いた相手が相手なだけに心から不安になるが…それ以前にこんな少女を見捨てたという事が知られたら、確実に命が無くなる事だろう。

ただひたすら泣き止むまで…彼女が落ち着くまで龍牙は少女を抱きしめ、髪を撫でる…。










「………あ………。」

永遠に感じられるほど長い時間の後、少女が小さく声を出す。

「…落ち着いた?」

龍牙は手を止めると優しくそうささやく。

「あり…が…とう…。」

龍牙は優しく微笑む。…ネルフで見せたものとは違い心からの微笑みを浮べ、ゆっくりと体を離す。

「…落ち着いたみたいだね。」

その言葉に少女は首を振り肯くともう一度、口を開く。

「貴方は誰?」

「…龍牙…『緋勇 龍牙』…『緋色の『緋』に勇気の『勇』…それから、『龍の牙』と書いてそう読むんだ。」

「龍牙?」

「ああ、君の名前は?」

「私? 私の名前? 私は…貴方達がエヴァと呼ぶ存在。なら、私の名前は初号機?」

疑問形で聞かれて、龍牙は一瞬、返答に困ると的確なツッコミを入れる。

「いや、違うから。」

龍牙の力の無い裏拳が空気を叩く、そして、気を取り直して、龍牙は改めて言葉を続ける。

「それは単なる記号で名前じゃない…。」

当然と理解しながらも心のどこかではそれに対して怒りを感じていた。…兵器…戦うための道具であってもそれに命を預ける戦士にとっては相棒であり、何より、自我を持っている以上、名は与えられるべき物であるはず。

名前は自身を示す重要な物…彼が義兄から『名』を貰った時のように彼女の存在を表すそれを。

「貴方がつけて…。私だけの名前…私の名前を…。」

「…初音…。『氷川 初音』…。それが…君の名前…君だけの名前だ。」

彼が与えたのは初号機とエヴァを顕す名に…彼の知る《宿星》の絆で結ばれた大切な少女の姓…今更ながら、龍牙は多少後悔していた。その程度の物しか考えられない自分の感覚を…。

もっとも…他に彼女に与える姓として浮んだ『桜井』や『織部』などと言った兄の知り合い達の物は勝手に使うと後が怖そうなので、それら全ては全面的に却下したのはここだけの話だ。

自分の『緋勇』の名に関しては、自身はそれを義兄から与えられた物で自分に与えてくれた義兄になんの断りも無く仕えないので、即却下…。

そして、後で仲間の少女を説得しようとも考えていた…。初音に彼女の姓を与えた事に対して…。

それを伝えた時、彼女の右眼からゆっくりと涙が一つ零れ落ちた。

「ありが…とう…。」

龍牙の心の内に考えた事を知った場合も同じ事を言いそうに思えるほど嬉しそうに彼女…初音は言う。

「…ところで…ここからどうやれば出られるんだ?」

龍牙は初音に聞くが初音は首を傾けるだけで何も言わない…。

「…出た事がないから分からないか…。」

『予想していたが改めて言われるとな』等と考えながら龍牙は初音の持つであろう答えを告げる。

龍牙の予想を裏付けるように初音は縦に首を振る。

「はぁ…ところで…もう一つ、氣を感じるけど…オレ達以外に誰が…?」

「それは…あの女の善意…何度も自分の存在を外側から削られて、その結果、あの女の存在が希薄になって、自身を保てなくなったの…それで最終的に自身を保つために善意と悪意の二つに分離したけど…。」

初音は白く光る球体を取り出して龍牙に見せると彼の問いに対する初音の答えを確認する様に龍牙は言う。

「善意は残らず悪意の部分だけ大きくなり、自我を形成して形となった。…善意と悪意…《陽》の部分と《陰》の部分に分かれたなら、変生する訳だよな。元々《陰》の部分に支配された人間がそうなる訳だし…。」

砕け散った氷の破片は黒い霧と成り、黒い球を象ると白く光る球体の中に解け込み一回り大きい、赤の球体へと変わった。

「でも、龍牙がそれを倒したお蔭で元に戻った…でも…。」

「…存在自身は希薄になったままだけどな…。」

「うん。でも、元の形に戻れば元に戻る…多分だけど…。」

「…多分ね…。(でも、あの女、シンジに似ていたけど…まさか、あいつの母親…ってオチは無いよな…?)」

龍牙君大当たり。

そう呟いた瞬間、龍牙は何かに引きずられる様な感覚を覚えた。逆らえないほどに力強く、それと同時に心から安心できるそんな《力》に。

「ん? …帰り道は向こうか…。」

なぜかそんな感覚を覚え、龍牙は顔だけを自分を引き寄せる方向に向ける。それは自分が進んだ方向とは正反対の方向だった。

「…帰ったちゃうの…?」

「…まあ、あの鬼は消えてくれたから大丈夫…だよね?」

「…うん…。」

「オレは戦わなきゃならないみたいだ…人を滅ぼす『らしい』存在と…。」

まだ『使徒』と呼ばれた存在、本当にそれが人を滅ぼす存在なのか疑問に思っているが一応、引き受けた以上はやるしかない。本当に人を滅ぼす存在だった事を考えて、それが『緋勇』の名を持つ自分の使命と考えている以上は…。

「まあ、それには初音の力を借りなきゃいけないから…まだ連れて行ってあげられないけど…全てが終ったら、外に連れて行ってあげるよ。」

「ホント、約束だよ。」

「ああ。その時はオレの友達も…仲間達も紹介する…じゃあ。」

「うん、またね。」

龍牙は光に包まれ、気が付くと初号機のコックピットとなる場所、エントリープラグの中にいた…。

『…ここは…戻って…これたのか…?』

龍牙はエントリープラグ内でそう呟くと同時に再び意識を失った。今度のそれは単なる疲労から来る睡眠だが…。



[10220] 第四話(陽)『宿星』
Name: ゼロ◆7d1ed414 ID:20be66f6
Date: 2009/10/03 15:24
龍牙は光に包まれ、気が付くと初号機のコックピットとなる場所、エントリープラグの中にいた…。

『…ここは…戻って…これたのか…?』

龍牙はエントリープラグ内でそう呟くと同時に再び意識を失った。もっとも、今度のそれは単なる睡眠だが。









第三使徒サキエルと『悪魔』との戦い、エヴァ初号機の中に消えた龍牙が戻って来た時から、どれ位の時間が過ぎただろうか? 龍牙はエントリープラグから運ばれた病室のベッドの中で眠り続けていた。

「…う・・う~ん…に・・兄さん…許して…それだけは…命ばかりは…それだけはイヤだー。」

その反応から、どうやら、悪夢を見ているようだ。かなり、ハッキリとした寝言だが…。

「うーん…ビックバンアタック三連発…兄さん、竜宮さん…遠く離れて、死ぬなよって…あんたがやれと言った…竜宮さん…遠く離れた安全な所から冥福を祈らないでー…ああ…お前達、逃げるなぁー。」

助けを求めるように龍牙の手がそれはまるで天井を掴もうとするように虚空に伸びる。

「ウギャァァァァァァァァァァアアー!!!」

地獄から響くような断末魔の悲鳴と共に龍牙は目を覚まし、その視界の中に清潔な白い天井が飛び込んでくる。

「…知らない天井か…。」

そして、もう一言…

「…夢でよかった…。」

恐ろしい悪夢だったようだ。



息を吐いて、そのまま両腕を頭の後ろに廻すと再び目を閉じ、彼の意識は思考の中に沈んでいく。

(…ここが天国か地獄じゃない限り、オレがこうして生きていると言う事は使徒が倒された…そう考えた方がいいな…。まあ、ネルフから与えられた情報を全面的に信頼するとしてだけど…。)

その場合に出てくる『誰』が使徒を倒したのかと言う疑問も有るがそれは特に気にしない事にした。

(…それにしても、あれから…オレがエヴァとか言う奴に乗ってからどれくらい過ぎたんだ…。クソ、時間の感覚が無い…。)

そう考え、時計を確認すると時間は丁度、エヴァに乗った時から三時間後を示していた。龍牙の頭の中には『これが当日じゃなかったら、思ったより、過ぎてないな。』と言う考えと同時に次の考えが浮んでいた。

(…まあ、何日のかは分からないけど、学校も有るからな、竜宮さんにはあと一日ほど学校を休むと連絡を入れて、あの髭にシンジの事を伝えたら帰るか。話に聞いた例の計画の《鍵》も…多分…エヴァの…初音の事だよな…? それも見れたし…。SEELEとか言う連中とケンカしている兄さん達にも連絡しておいて貰わないと…。)

そう結論付けた後、龍牙は目を開き、上半身を起すと鬼と戦った際に着られた場所に手を触れる。痛みは無い、あの戦いが幻だったように…。

「…あの戦いの傷は無いか…。まあ、それはいいか…まずは竜宮さんに現状を連絡するのが最優先だな…ここの機密は抜きにして…。」

龍牙はベッドから起き上がると病室の外に出て、近くにいた職員を捕まえ様と周囲を見回した時、知っている顔が視界の中に飛び込んで来た。

「どうも、赤木さん。」

「あら、龍牙君、もう起きて大丈夫なの?」

「ええ…。それより、できれば家の方に連絡したいんですが…? それとシンジの父親にはもう会えますか? 早く伝えておきたいので…。」

龍牙の表情には友人の事を心配する者のそれが浮んでいた。

(一応、あれでも父親だしな…。)

「今日中に会う事はおそらく無理ね、戦後の残務処理に忙しいでしょうから。それより、気が付いたなら、あなたには病院で検査を受けて欲しいんだけど。」

検査と言う言葉に龍牙は反応し、納得したような…呆れたような表情を浮かべる。

「検査ですか? まあ、一応…オレは兵器に乗った訳ですけど…オレは戦った訳ではなく乗っただけですけど…それだけでも、それほどの影響が…。」

「そう言われると耳が痛いわね。あなたの体に異常がないかの検査と思ってもらえないかしら。それにすぐに終るわ。」

「そうですか…それでは、今日の所は病院に泊まる事にして…あいつの父親に会うには明日になりますか。」

「悪いわね。」

口ではそう言っているがそんな様子は無く言うリツコに対して、龍牙は変わらぬ調子で言葉を返す。

「いえ、別に急いで伝えた所で状況が変わるものでもないので…。ただ…できれば検査の前に家に連絡を入れたいんですが…。元々今日中には帰る予定だったので…。」

「えぇ、良いわよ。ただ、今日見た事はできるだけ話して欲しくなんだけど…それについては理解してもらえるかしら?」

「分かりました。(もう、大体は知ってるけどね…。)」





ネルフ本部…龍牙の前を歩いていたリツコが歩調を緩めて龍牙の隣に並び話し始める。

「龍牙君、少し聞きたい事が有るんだけど…良いかしら?」

「いいですよ。」

「どうやって戻ってきたの? それに最後の一瞬には信じられないシンクロ率を記録したんだけど…何か心当たりは有る?」

もう一つの疑問…『何故、碇 シンジ以外には乗れないはずの初号機にシンクロ出来たのか?』と言う物も有ったがその疑問はある事情から心の中に飲み込んだ。

「…確かに…あれに乗った時、意識が薄れてどこかに引きずり込まれるという感覚はありましたけど…戻ってきた時の事はよく覚えていません。それと…もう一つの疑問についてですが…シンクロ率と言うのは何を示す物ですか? それが分からないと答え様が無いんですけど…。」

龍牙はそう答えるとリツコに見えない様に小さな笑みを浮かべる。彼の直感が告げているのだ…『ここには面白い物が有る』と。

「…そうだったわね。シンクロ率というのはパイロットとエヴァの同調の程度を示す数値なの、この値が高いほどパイロットのイメージと実際の動きの間にタイムラグが少なくなるのよ。龍牙君のシンクロ率は『99.89%』、これは理論限界値なのよ。初めて乗った…それも…。」

リツコの言葉が詰った瞬間を逃さず龍牙は言葉を告げる。

「…それも…最初から乗せる予定だった、シンジなら納得できるけど…突然、現れたオレが出した数値としては納得できない…そういいたいんですか?」

「ええ、そう思ってもらっていいわ。あなたがこの値を示した理由が分かれば、他のパイロットについても応用できるかと思ったんだけど…。」

「さあ、それこそ…最初の疑問に対する答え以上に分かりませんね。それはもう…全然。」

そう答えた後、質問してきたリツコをからかう様に全身で『ああ、これは困ったな』と言う意味の篭ったジェスチャーをする。

「そう。」

感情の篭っていない声による返事を聞くと龍牙はその言葉に込められた『意思』を感じ取る。『科学者特有の好奇心』…それに対して一瞬だけ嫌悪感を浮かべると、すぐに龍牙はその感情を消し去る。




病院の受付の前に着くとリツコは龍牙にカードを渡す。

「じゃあ、龍牙君、そこに電話があるから、検査が始まる前に電話を掛けると良いわ。このカードを使ってもらってかまわないから。」

「はい。」

龍牙はカードを受け取り、そう簡単に一言だけ答える。

「さっきも言った様に検査が終わった後、今日はこの病院の個室に泊まって貰う事になるけど…他に何か質問はあるかしら?」

「カードを返すのは明日で?」

「ええ、それで構わないわ。」

「分かりました。電話ボックス…なんですね。」

龍牙は答えると電話ボックスの中に入り、受話器をとるとカードを差し込み、電話番号を押す。

暫く続くコール音の後、『ガチャ』と言う音の後

『はい、竜宮ですが…セールス、勧誘、オレオレ詐欺等の電話は三秒以内にお切り下さい♪ 命の保障は…。』

「…オレは『緋勇 龍牙』です、竜宮さん。」

『…クックッ…冗談だ、龍牙。それで…こんな時間になったことに対する言い訳は無いのか…? 一応、オレが龍麻からお前の事を預かっている以上、オレに責任があるし…。オレ以上にあの子が…』

「あ・・ああ…その事なんですけど…。ちょっと、『お二人に関する』の事情が有って、今日はシンジに父親に会えなくて、明日には会えるという事なんですけど…それで今日は第三新東京に泊まって…。そう言う訳ですから、明日の学校は…。」

『お二人に関する』と言う点を強調する龍牙の言葉を聞くと電話の向こうの相手は平然とした様子で答える。

『ああ…『その事』か…分かっている』

「ええ、『その事』です。」

なぜか会話の中で『その事』が強調される。

『…ああ、その事は任せてとけ…明日は学校を休むという話は学校側に伝えておく、それと…あの子にもな…』

龍牙は直感的に感じ取っていた。電話の向こう側で電話の相手はこれ以上ないほどいい笑顔を浮べているであろう事を…。

「わ・・分かりました…。くれぐれも変な事や事実を曲げて伝えないで下さいよ…竜宮さん。」

『フッフッフッ…少しは自分の師匠を信じろ』

「…あなたが言いますか…? 何一つ、その辺が信じられない人が…。」

『さあ、少なくとも、オレには師匠なんて呼んだ相手は一人もいないからな。』

「『さあ』って…? あなたは…。」

『まあ、いいや…それと…そっちでの住所はオレ達が用意しておく、明日、三人に住所を持たせて行かせるから、伝えておいてくれ、保護者の方もオレが手配しておくから心配するなって言うのも忘れるなよ』

「え!? オレはそんなに…第三に長居するつもりは…。」

『残念ながら、お前の星はまだまだ戦いが続くといっているんだよ、じゃあな』

龍牙に有無を言わさず『ガチャ』と言う音が電話の向こう側で響くと…『ツー…ツー…』と言う音だけが響いていた

「まだ戦いが続くって、どういう意味だ? それに…大丈夫かな…? あの人に任せるのはすごく不安だ…。」

受話器を元に戻すと龍牙は『面白ければそれでよし、人の不幸は蜜の味』を信条にしている自分の師の顔を思い浮かべ疲れきった表情でそう呟き、電話ボックスから出る。








???…和風の建物の中、受話器を置くとその青年は呟く。

「…龍牙がネルフに接触したようだ…これがあいつの宿星が導いた結果と言う奴か…。」

その青年は自分の視界の中に映る五人に向けるとそう呟く。

「心配ないんじゃないか。」

「そうだな、こいつほど楽天的にはなれないが…その点については、オレも同感だ…。」

赤い服を着た青年と眼鏡を付けた青年の言葉に続くようにもう一人、黒い長髪の女性が答える。

「…ボクは翔の考えに賛成するけど…。」

電話に出て龍牙と話していた青年…彼女が『翔』と呼んだ青年に対して視線を向け、彼女がそう呟くと翔と呼ばれた青年も言葉を続ける。

「…まあ、龍麻達は当の本人、彼女と戦闘要員の大半が海外…後はここを守る為にオレ達も含めて動けない…現時点で自由に動けるのは、新しい宿星であるあいつ等だけだ。葉月…不安なのも分かるが今は信じて任せるしかない…そうじゃないか?」

「それは分かるけど…でも…。」

「…それは分かっている…それより。」

彼女に対してそう呟くと翔と呼ばれた青年は後に控えていた二人に視線を向ける。

「輝…それでシンジ君の様子はどうだ…?」

後に控えていた茶色の髪と左右で瞳の色が違う輝と呼ばれた青年は翔と呼ばれた青年の言葉に対してすぐに返事を返す。

「…ああ、今も意識不明のままだ…。今はマナが看病している…病院に許可は貰ったそうだから、病院に泊まるそうだ。」

「フッフッフッ…ついでに言うと…あいつの自称保護者共はオレがやっておいたぜ~。」

今まで無言でいた最後の一人が楽しそうに言う。

「…殺してはいないだろうな…?」

「イヤだね~、しーく~ん♪ 意識不明の重体の患者を無理矢理連れ出そうとする保護者失格な悪党をオレが一思いにする訳ないじゃ~ん。ああ言うのは、『生かさず、殺さず、遊びましょ♪』ってのが一番たのし~んだぜ~。」

「それはいい…だから、どうしたんだ?」

「まあ、多分、生きてんじゃないの~。今頃…『月のォ~砂漠をォ~♪』って感じでねぇ~。」

「………どこに送った………。」

「さあ、世界のどこかの砂漠だと思うよ~。一応、食料と水は一か月分送っといたし、装備も適当に送っといたから、死んでないとは思うぜ~。」

「…さ、流石だな…『空間使い』の名は伊達じゃないか…。」

「そーゆー事。それと戦自の連中の事も探っといたぜ、きーちゃん~。」

楽しそうに翔と呼んだ相手の言葉に答え終わると向けると彼は輝と呼ばれている青年に話しかける。

「幸いだったな、あの子が場所を知っていてさ。オレでも、自分が知らない場所には忍び込めないしぃ…。」

「…風間…結論から言ってくれ…。」

「ああ、お前が妹として引き取ったあの子…戦自の元少年兵で脱走兵だろう? しかも、新兵器のテストパイロット…。連中、取り戻そうと狙ってる様だぜ…。最初の追手はお前が全滅させて少しは静かだったけどさぁ。」

輝と呼んだ青年の表情が変わる瞬間を見逃さず風間と呼ばれた青年は楽しそうな笑みを浮かべながら、言葉を続ける。

「『シンジがネルフの超兵器のパイロット、サードチルドレン』とか言う情報も流れたようだしぃ。二人とも捕獲対象にされて、今はシンジが入院してる病院の周りに集まってるぜ…悪党共、イヤ、あの連中は外道といった方がいいかな? まあ、そんな連中が。」

風間と呼ばれた青年の楽しそうな言葉を聞くと輝と呼ばれた青年は表情を変えて、玄関の方に向けかって走り出す。

「おやおや…きーちゃん、可愛い妹と将来の弟の事が心配そうだね…。」

飛び出していく、その青年に対してそう呟きながら、風間と呼ばれた青年は見送る…言葉は楽しそうで表情も笑っているが…その目は笑っていない。

「…病院にはかつての宿星が二人…それも一人は《常世の歌姫》と呼ばれている娘がいるから、戦自の兵士程度が何人来ても大丈夫だろうけど…。心配なんだろう、あいつの恋人も病院にいるしな。それにお前もそうだろう、コウ?」

翔と呼ばれた青年の言葉を聞き…そのコウと呼ばれた青年はその表情に残酷な笑みを浮かべる。

「当然だろう…ふざけた事考えた連中は…死ぬほど後悔させてやるよ…。」

コウが指を鳴らすと彼の姿がどこかに消えていく…空間を操る《力》…彼は自分がイメージする場所と自分のいる現在地を繋ぐ門を開く《力》を持つ…それが彼の二つ名『空間使い』の由来である。

運べる最大人数は10人で最大重量は関係なく、開く門の大きさと門の維持から、それが限界だそうだ…すでにコウは仲間内で便利な交通手段扱いされている。

また、それと同時に倉庫として利用できる空間を持っており、仲間から預かった武器を保存している、ただ、それらの《力》は戦闘には向かず、前もって仕掛ける罠として利用する事が多く、彼自身、戦闘用の別の《力》を持っている。


翔は二人を見送ると残っている三人に視線を向ける。

「…病院のガードはあの二人で十分だよな…。」

「今、病院の守りには《常世の歌姫》とナース以外にもガードには《蒼竜》と《朱雀》もいるじゃないのか?」

「侵入される前に迎撃された方が幸せだろう…。」

「…まあ、ぼくは兵士に同情したくなるね…。」

静かに手を合わせて、顔も知らぬ兵士達の冥福を祈る四人だった。

「まあいい…翼、第三の方にお前の所有している。」

翼と呼ばれた眼鏡を付けた青年は翔の言葉を聞いて、反応する。

「ああ、別荘として所有している家は確かに第三にも一軒ある…そこを使えというんだろう? 広いから、保護者を含めて五人くらいなら不自由なく生活できる。」

「なら、それを向こうでの龍牙の住居に使わせてやってくれ…。それと…武流(たける)…。」

『お呼びですか、翔さん。』

翔の言葉が響くと同時にどこからかその場にいる四人以外の人間の言葉が響く。

「…お前の後継者も向こうに行くから、龍牙達四人の保護者をお前に任せたい。行くのは他の三人の一日遅れだ…。」

『到着では無く、合流が…と言う事ですね…。では、今から第三に向かい、ネルフの監視に付きます。』

「任せる、とは言っても本格的に動いてもらうのは明日以降になるだろうけどな。」

翔の言葉が響いた瞬間、彼等以外に存在していた気配が消える。

「…これでぼく達に出来る事は大体終ったね…あとは…。」

葉月と呼ばれた女性の静かな声が建物の中に響き、翔はその言葉に答える。

「ああ、今はオレ達の動く時じゃない。龍麻の予定だと最初に合流…正確には、ネルフと接触するのは…保護者代理以外では《六番目の天使》との戦いの際に来日する《二番目の適格者》と《三足草鞋》と同時にだから、オレ達の出番はまだ先だ。」

翔は笑みを浮かべてそう答える…。

「楽しくなってきたが…。」

翔が呟くと他の三人も同時に笑みを浮かべる。

「「「「祭りは見ているだけじゃ詰まらない。」」」」





宿星を廻る運命の車輪は回り始め、加速する…戦いの地へ…愚者達の楽園へ…新しき宿星達は集う…何のために…? …守る為…なにを? …この世界を…


つづく…



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.016282081604004