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[6859] Reines Silber 【ストライクウィッチーズ・オリキャラ憑依】
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2012/04/29 13:31
-01 Preface
ちょっとだけ帰ってきたぞい!
経緯は感想掲示板252の辺り参照

Sage更新したら友人にチキン野郎呼ばわりされたので羞恥プレイの為にage


00 Preface 「前書きと言い訳(本当に)」

 なんか気づいたら海外から書き込みできるようになってたので今更ながらけじめをつけに帰って来ました
 待たせ続けるのも不義理だしほっぽって逃げたと思われるのも癪なので。事実なんだけどっ

 待っててくださった方、ごめんなさい。本当に。
 実生活が忙しかったり軽く引越ししたりゲームに熱意を思いっきり殺がれたり。
 そんな諸般の事情で、おそらく本作はお蔵入りとなります。
 プロットとかは一応全部立ててあったので、展開だけ気になりそうな人のためにとりあえず公開しておきます。
 Episode5は書き終わってたんだけど保存してあるフラッシュドライブが出てこないので。
 まだ開けてない荷物の中にあると思うので出てきたらそのときに。
 二期はDVDボックス出たら本気出す。
 そうでないと見れないです…見たら熱意が戻ってくるかも。
 あるいは統合戦闘航空団全記録集がムックでまとめて出るとか。
 一万までなら出す。

******

 御託は要らん! と言う方は右上の次を表示する、をクリッククリック!
 
******

 どうもはじめまして。
 kdと申します。

 SS書きからはかなり離れていたのですが、この掲示板で多くの作品に触れ、創作意欲を刺激された次第。
 本当は流行? の、なのはさんで一つ書こうかと思ったのですが。
 友人と戦闘機のMe262とF22どっちが格好いいか議論していたら何故かストパンで書くことになっていました。
 以下やりとり。

「レシプロ機が700km/h前後でヒィヒィあえいでる中で亜音速でかっとぶんだぜ」
「スーパークルーズ(超音速巡航)も出来ない旧世代の老害が何か言っております」
「馬鹿野郎! Me262やHe162(注1)が無かったらF22(注2)も生まれるのが5年は遅れてんだよ!」
「ふーん、それで?」
「うぎぎ」
「くやしいのうくやしいのうwwwwww。 でも、F22のフォルム格好いいよな。 ほれ画像」
「うんそれは同意する……うーん、ラプたん(注3)萌え。
 でもこの初期ジェット戦闘機に対する熱いパトスはどうすれば良いんだろう」
「書け。 仮想戦記とかマスとか」
「なんでマス目書かなきゃいけないのさ……」

 あれ、懐柔されてね?
 しかも仮想戦記ではなくTS憑依SSを書いている業の深い自分が居る……

 長い間長文を書くことから離れていたので、かなり文章がおかしいかと思われます。
 また、私生活がやや忙しめな為、更新頻度も比較的遅めになると思います。
 その辺の訂正・批判等も頂ければ、習作という側面もあり非常に有りがたく思います。

 まだまだなのはさんが微妙に流行してる臭いので前文の修正は要らんだろ……多分。
 前文自体が要らないとか言わない!


注1:どっちもWW2末期にドイツが開発したジェットエンジン採用機。 欠点も多いが圧倒的な速度を誇る。
注2:アメリカ軍が誇る現行最強の戦闘機……のはず。 実戦経験は無しのはず。 Muv-Luv板ではよくかませ的ポジションにいる。
注3:F22の愛称、ラプターのさらに愛称。猛禽という意味だが語感からラプたん♪の方が萌ゆる。

2/12:このくらいに第一話投稿。
2/24:第6話投稿。チラ裏から移転。しようとして全削除。
2/26:第7話投稿。
3/02:第8話投稿。
3/07:第9話投稿
3/09:第10話投稿。
3/14:11話投稿。
3/27:12話投稿。
3/29:誤字修正、あと長すぎる更新履歴を整理。
3/31:Extra追加。本編には一切関わりがございません。
4/11:13話投稿。あと修正。
4/20:14話投稿。
4/27:15話投稿。あと14話ほんのちょっと修正
4/29:15話修正と気にくわなかったのでちょこちょこ加筆修正。
4/30:そしてあっという間に書きあがるExtra2。
5/13:16話投稿
5/20:17話投稿
5/26:18話投稿
5/30:19話投稿
5/31:19話修正
6/01:20話更新
6/03:そしてあっという間に書きあがるExtra3。Ex系三部作、とりあえず完。
6/10:21話更新、Ep3誤字修正、そして感想レス返し。
6/17:22話更新
7/09:23話更新。
7/10:23話、見つけた誤字と二行ほどの加筆。
7/23:24話ようやっと
7/24:各種修正
7/25:25話さっさと更新。
7/27:なかがきと設定更新。
7/29:誤字修正ッ。 そして時間制限ががが
10/07:繋ぎの嘘予告うp。
11/23:Interudeようやく。
12/07:26話更新。 あと、24話とInterludeに入れ忘れてた時事ネタを追加。
   いやー、プロットの隅っこにメモしてたの今頃気づいた駄目人間が此処に。
11/19/2010:今更公式に更新停止のお知らせ
04/27/2012:次を始める前に義理を果たすのと恥を晒そうと凶鳥のように舞い戻ってみんとす
04/28/2012:若干の修正。 あと羞恥プレイ。 ビクンビクン!



[6859] 01 Prologue
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/27 22:24
Episode 0 :Prologue

01 「説明的展開と画一的導入」


******

 1944年、7月初旬。
 第501統合戦闘航空団司令、“女公爵”ミーナ=ディートリンデ・ヴィルケは執務室で数日前に送付されてきた書類を眺めていた。
 端的に言ってしまえば、それは本国から補給の――それも、新型機の配備がなされる連絡だった。

 Me262“シュヴァルベ”。

 去年の五月末に試験飛行に成功し、カールスラント皇帝の裁可の元、生産がようやく開始されたばかりの最新鋭ストライカーユニット。
 通称、ジェットストライカーである。
 大気中のエーテルを吸入・増幅利用して使用する噴流式を採用しており、その速度は従来機を遙かにしのぐという。
 術式を回転させて機動力を得る従来のタイプとは全く違った概念であり。
 添付資料に書かれていた性能諸元はにわかには信じがたい物であったが、本国がわざわざこんな物を冗談で送ってくるはずもない。

 ミーナはそれを信じるしかなかったし。
 それが事実ならばこの部隊が、いやカールスラントが誇るスーパーエース達に優先的に配備されるのも納得がいく。
 現時点でゲルトルート・バルクホルンは250機以上、それに続くエーリカ・ハルトマンは200機ものネウロイ撃墜を達成しており、ミーナ自身も100機以上の撃墜を誇っている。
 これは全戦線を見ても驚異的なスコアであり、彼女らの技量と、そのスーパーエース達が三人集まる501部隊にかける本国の期待が解ろうという物だった。


・ 正式生産型Me262A-1a 6機
・ 複座型練習機Me262B-1a 1機
・ 30mmMk108/F 2丁
・ MG131 4丁
 上記に加え、各種弾薬、従来装備の補充リストが長々と続き。
 最後に、教導要員として一名のウィッチが随行する旨が記載されていた。


 何にしろ補給はありがたいし、六機もの新鋭機……教導ウィッチが一機を使用するとすれば、ミーナ、トゥルーデ、エーリカ全員が機種転換したとしても二機も予備機があることになる。
 その上に新機軸の機体故か、複座練習機まで付いて来るという、何とも至れり尽くせりな内容であった。

 空戦ウィッチの数も、空戦用ストライカーユニットの数も、その戦果の大きさにもかかわらず軍という巨大な組織の中では少数と言わざるを得ない規模だ。
 空戦適正のある者は少なく、ストライカーユニットの製造には高度な工作力が必要となる。
 貴重な戦力であるウィッチを一人教導要員に、同じく貴重な機材であるストライカーユニットをこれだけの量だ。
 本国にこれだけ期待されているとなれば、軍人冥利に尽きるという物でもあった。

 尤も、最新鋭の軍事機密を守る、と言う意味では司令官としてミーナはこれまで以上の努力が必要になるのだが。
 

 木の板を叩く堅い音――ノックの音が部屋に響く。
 ミーナは書類に目を向けたまま入室を促した。

「ミーナ、私だ……と、すまない。 執務中だったか?」 

 灰色の服に身を包み、焦げ茶色の長髪を後ろでまとめた少女――ゲルトルート・バルクホルンは、ミーナが机で書類に向かっているのを見て、間が悪かったかと問うた。

「いいえ、大丈夫よトゥルーデ。 どうかしたの?」
「いや、そろそろお茶の時間だそうだ」
「あら、もうそんな時間?」
「ああ……まったく暢気なものだな。
何時ネウロイが海を越えてやってくるかも知れないというのに」
「いいじゃない……休める時に休んでおくのも軍人の仕事の内でしょ?」

 それに、とミーナは書類を置きながら続ける。

「解析部の報告では次にネウロイが来るのは明日の午後。
 今の内から張りつめていては気が持たないわ」
「それもそうだが……ん? それは次の補給の?」
「ええ、そうよ。 スオムスに間借りしている工廠からの特別便。
 今日の日没前には船団が到着予定ね……物資が届くのは明日かしら。 見る?」
「良いのか?」
「ええ、もちろん」

 どれどれ、とトゥルーデは書類を受け取る。
 トゥルーデが書類を見ている間に、ミーナは机の片づけを始めた。

「む……30mm機関砲? 本体重量56kg? 私でも重いな。 誰が使うんだ?」
「その新型機の魔力補正次第だけれど……
どう? トゥルーデ、MG151の代わりに使ってみる?」
「装弾数が24では心許ないな。 今回の補充で151の弾丸も来る……暫くは保つさ。
それと、新型機だって?」
「ええ。 噂のガランド少将の、ね」
「従来機より巡航速度が100以上も勝っているなど……
 将軍の言を疑うわけではないが、士気高揚のプロパガンダに聞こえてしまうな」
「人数分来るわよ……どう、乗り換えてみる?」

 トゥルーデは、んむ、と一瞬考え込んでから

「どうだろうな……フラウやおまえ次第だな。
 それほどに足が速いストライカーなら、私一人乗り換えたところで隊の足並みを乱すことになるだろう?
 ロッテ(二機編隊)を組むにしても、ケッテ(三機編隊)を組むにしても、私の一存では決めかねるな」
「高い魔力適正が必要だそうだから……
 貴女やエーリカは大丈夫でしょうけど、私に扱えるかどうかは少し不安ね」
「本国としては、私たち全員に扱えると判断したから送ってくるのだろうが……
 それに三人揃って機種転換……それで戦果を上げれば良い広告塔、ということか。
 余り目立ちたくはないが……」
 
 例えそうなるとしても手を抜く気は全くないが、とトゥルーデは続け、ミーナは当然ね、と返した。


 壇上。
 新型機を装備したまま、多くのカメラに囲まれて敬礼と笑みを振りまいている自分たちを想像して、トゥルーデは苦笑を漏らす。
 似たような事を想像したのだろう、ミーナも困ったような笑みを浮かべていた。


「まぁ、案ずるより産むが易し、と言ったところだろうな、坂本少佐の言葉を借りるなら。
 後は……MG42、131、151の弾薬補充、私たちのストライカーの補修部品に……
 魔力加工済み戦鎚4振? ザウアクラウト? 誰だこんな物頼んだヤツは……」
「教導要員のウィッチじゃないかしら?」
「ほう、どんなヤツが来るんだ?」
「たしか、貴女の原隊であるJG52の……名前は何だったかしら」

 JG52――第52戦闘航空団。
 トゥルーデやエーリカにとっては古巣であり、欧州戦線の地獄を共に駆け抜けた戦友達。
 ダンケルク撤退戦で散り散りになり、ミーナの指揮下に入っていた二人はそのまま501統合航空団に組み込まれてしまったため、残りの団員がどうなっているかは解らなかった、のだが。

 古い知り合いかもしれんな、と呟くトゥルーデの表情は少し嬉しそうで。
 書類をめくる速度を上げた友人を、ミーナは微笑みながら見つめた。
 
「最後の方に資料があったはずよ」
「そうか」

 ――ありがとう。
 そう続くはずだったトゥルーデの言葉は、唐突に鳴り響いた電話のベルと、警報の音にかき消された。
 ミーナは受話器をひったくり、警報の音を遮るように反対の耳を手で塞ぐ。

「な――敵襲!?」
「報告! …………っ! 了解、ウィッチーズ全員に出撃準備を指示して。 それと、該
 当海域を担当するブリタニア海軍に連絡を」
「どうした、ミーナ!」
「事は一刻を争うわ。 格納庫に急ぎましょう」
「っ、了解」

 廊下を、格納庫へと走る。
 普段廊下を駆け回っているルッキーニを注意したりしているトゥルーデだが、今はそんなことも言っていられない。
 ウィッチがネウロイと戦う為にはストライカーユニットが必要であり、警報の音はストライカーユニットを装着したウィッチが早急に必要であることを声高に主張しているからだ。

 敵襲。
 すなわち、ネウロイの襲撃である。

「スオムスからの補給船団が大型ネウロイに奇襲を受け、現在当基地方面に逃走しながら応戦中。
 救援要請を受けたわ。どうやらネウロイは北方から迂回してくる途中に補給艦隊と遭遇したようね」

 走り出す直前、疑問の視線を投げかけてきていたトゥルーデにミーナはそう伝える。
 比較的安全な航路故に最小限の護衛で、隠匿性を優先したのが徒になったらしい。
 大型のネウロイともなれば通常兵器では対抗がほぼ不可能だ。
 防備の薄い補給船団の全滅は時間の問題だろう。

 どうも最近観測部の予報が外れる事が多くなってきた気がする。

「……これが何かの前触れでなければいいのだけれど」

 ミーナの呟やきは、警報の音と廊下を駆け抜ける音にかき消されていった。
 


***Side ????***

 「が」

 果たしてオレは、そんな単音節すら上手く喘げていただろうか。
 全身を衝撃が襲う。
 何だ、これ、一体、何が。
 状況が把握できない。
 視界は明滅し、耳鳴りがする。
 衝撃のためか触覚は混乱しており、三半規管が悲鳴を上げる。
 外界の認識が出来ないまま、それでも体が宙に浮いている事は理解できた。
 思考が加速する。

 ああ、どうしたんだっけ、オレ。
 遅い昼飯を買いに、近所のコンビニまで出かけようと思って。
 愛用のMTBを走らせて、近所の交差点まで何事もなく走っていったんだよ。
 今日はなんだか調子が良かったから、気が緩んでたから、左右確認しなかったんだ。
 そしたら、右からトラックが来たんだ
 そうそう、そうだったそうだった
 
 そういえばさ、昨日の晩飯は良く出来てたっけな。
 煮込み料理は楽で美味しくて量があっていい。

 去年、お袋と親父、死んじまったんだっけな。
 こっちもトラックとの衝突事故だったよな。
 親子揃って運がわりぃのか仲が良いのか。

 おお……この風景は成人式だな。
 高校の頃ちょっと憧れてた同級生がボテ腹で現れてちょっと引いたっけなぁ。

 ああ、で、高校か。
 あんまり良い思いでも悪い思い出もない詰まらん三年間だったなぁ。
 がっついてない方が格好いいとか思ってたけど、もっと積極的に行動してたらとっくの
 昔に童貞卒業できてたかなぁ。

 脳裏に去来する余り輝いてない過去の思い出。
 ……あれ、ちょ、これやばくね?
 俗に言う走馬燈ってヤツだろ?
 一説では、迫り来る死という究極のストレスを回避するために脳みそが過去の経験を全力で検索・分析するっていう。
 今こうやって、冷静っぽく思考が出来ているのも、脳が全力稼働中なお陰なのだろう。

 さあ、冷静に現実を見つめよう。
 オレはきっと、死ぬのだ。

 そう思った直後、どぼん、と液体にたたき込まれる感覚。そして

「ぐ……がッ」

 全身に焼けるような痛み。
 いや、痛みなんて物じゃない。
 全身を紙ヤスリで削られた後、塩を揉み込まれるとか、そんな類の感覚だ。
 最早痛いとかじゃなくて熱い、だからな。
 あと、痛みが一定以上になるとかえって脳内麻薬がドバドバ出て平気になるとか事実だったのね。
 痛みは感じるし苦しいとも思うけれど、ほら、割とまともに頭働いてるじゃない。
 はは
        は

                    結構面白

   い経験だなぁ。
 
 ん?
 あ、れ。 今意識飛んでたか?
 いかんな、まだオレは生きてるよ?
 生きてますよ? 生きてるよね? ははは、さっさと殺してくれ畜生痛いよ。
 
「……ッ、ヴィルヘルミナ!? 大丈夫か!」

 どこか遠くから女声が聞こえる。
 どうやらオレ以外にもトラックに吹っ飛ばされた人が居るらしい。
 オレはヴィルヘルミナなんて外国人な名前じゃないしね。
 外人の女の子さんを吹っ飛ばすとはふてぇトラック野郎だ。
 交差点の一時停止標識無視しやがって……慰謝料百億円くらいふんだくられて路頭に迷いやがれ。
 あと、オレの葬式費とかな!

「た……すけ」
 
 ――え、あれ、おかしいな。
 此処にもいるよー、という意味を込めて言った、つもりだった。
 ついさっきまでもう死にたいと思っていたのに。
 殺してくれと思っていたのに。

 助けて欲しい。

 そう意識した瞬間、狂おしいほどの衝動がこみ上がってくる。

 脳が冷える。
 心が萎える。
 体が震える。
 全身の痛みを強く感じる。

 冷静に思考できていたなんて、とんだ思い上がり。
 そんなのは現実逃避も良いところだった。
 殺してくれとか思ったけど嘘です。
 ああ、ごめんなさい。
 いざ助かるかも知れないと思えばこんなに簡単に涙がこぼれてくる。

 ああ、浅ましいと思う。
 
 助かりたい。
 もっと生きたい。
 オレは。

「しに……たくな……」
「私だ、ゲルトルートだ! もう大丈夫だ、安心しろ。 今病院につれていってやるからな」

 オレは先ほどの声の主らしき人に見つけて貰ったのだろう。
 緊張してはいるが、優しい声音の良い娘さんだ。
 ふ、と体が浮き上がる感覚。
 抱き上げられる。
 全身は未だ焼けるように痛いが、残った感覚がオレが誰かに触れられている事を教えてくれる。

 誰かが助けてくれようとしている。
 誰かがそばにいてくれる。

 それだけで、不思議なほど安心できた。
 張りつめていた心が解けていくのを感じる。
 ……意識が遠のいてく。 今度ははっきりと自覚できた。
「ぁ……」

 あ、これはヤバいかもしらんね。

「おい、しっかりするんだ! ……こちらバルクホルン、ウィッチ一名、要救助者を確保! 
 火傷が酷い、医療施設への早急な移送が必要だ」
「了解。 ……イェーガー中尉、戦線を離れて彼女を病院まで移送して頂戴。 ルッキーニ少尉は私の指揮下に。
 ビショップ軍曹はバルクホルン大尉が要救助者を引き渡した後、復帰するまでハルトマン中尉達とケッテを組んで」
「「了解!」」「りょ、了解!」
「イェーガー中尉の離脱を援護、中尉の離脱を確認後フォーメーションBで仕留めます。
他の生存者捜索のためにも、各員の奮戦を期待します!」

 ……そんな、軍隊じみたやりとりを聞きながら、オレの意識は闇の中へと沈んでいった。




[6859] 02
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/27 22:24
02 「イメクラとお約束」

***Side ????***

 涼しげな風が頬をなでる感触で目を覚ます。
 鼻につく薬品の臭い。
 清潔感を感じさせる白い天井。
 目が覚めるとそこは病院でした。

 ……お? おお……生きてるよオレ。
 凄いね、トラックに轢かれて生きてるとか夢にも思わなかったぜ。
 いや、吹っ飛んでたからむしろはねられた? の方が正しいのだろうか。
 あれだけ生きたい生きたいと思ってたけど、それは逆に言えば死が正しく目前まで迫っていたからだろう。

 だってトラックですよ?
 中学校辺りで習った運動エネルギーの法則とかで考えると、確実に人体を破壊しまくって余りあるエネルギー量だろうし。
 内臓破裂とか脳挫傷とか全身粉砕骨折で人間スライム化とか。
 ……おおう、考えてると怖くなってきた。
 ごっごごごっごっ五体満足だよねオレ!?
 半身不随とか美少年もしくは美少女なら絵になるし萌える物もあるが。
 オレは美少年でもなければ美青年でもない。
 三十路まで後数年のしょぼいにーちゃんである。

 こ、こえぇぇ……親の遺産があるけど半ニートだから保険効かないし。
 いや治療費はトラックの運転手に払わせれば良いんだよな、そうだよな!?
 う……現実を直視するのが怖いな、しかしオレは男の子。

 男 は 度 胸 !

 という訳で体を起こそうとしたわけだが

「ぎ……がッ」

 痛い痛い痛い死ぬ死ぬ死ぬ。
 こらあかんわ、全身がひりつく様に痛い。
 あと、打撲系の痛みとよく解らん痛みが混在している……手術かな?
 そんなことを思っていると。
 
「あっ、まだ動いては駄目です!」
 
 可愛らしい声が聞こえた。
 あ、看護婦さん居たんすか。
 声のした方向に、視線を向けて――オレは絶句した。

「目が覚めたんですね? 大丈夫ですよ、此処は病院です。
 大変な火傷だったんですよ? まだ暫くは安静になさっていてください」

 大変な火傷? いや大変なのはあんたの方ですッ!?
 スカート! もしくはズボン! 履いてねぇぇぇぇぇっぇぇぇ!!!!
 栗色でウェーブのかかった若い白人系の看護婦さん(結構好み)、しかしその下半身はパンツ(白)丸出しだった!
 え、何これ、死にかけたオレへのボーナスステージとかそういうの?
 というかキャバクラとかイメクラとか思い浮かぶんですけど。
 眼福とかそういう事考える以前にいきなりこれは引く。

「喉が渇いていらっしゃいませんか?」

 状況について行けず、頷くことしかできないオレ。
 湯冷ましっぽい水を飲ませてくれるやたら扇情的なカッコの看護婦さん。
 ぅあ、うめー……五臓六腑に染み渡るわー。
 こんなに水が美味しいとか思ったことは久しぶりだ。
 口の端から少しこぼれた水を手ぬぐいで拭いて貰って……じっと見つめているのに気付かれたのかにっこりと微笑まれる。
 
 ごめんなさい、湯冷まし一杯10万円、とかぼったくりじゃねーだろーな、と疑ってしまいました。
 ……うん、格好は変だけどちゃんとお礼を言わないとな。

 ありがとうございます。

「礼を……言う」

 ……あっるぇぇぇぇっぇぇぇ????
 え、なんで思ったことと口に出したことに此処までギャップがあるのさ。
 おかしいだろ、常識で考えて。
 しかも掠れてたけどなんかやたらと可愛らしい声だった気がするんだが。

 え、ああ、そうか! そうだね!
 両親が死んでから十ヶ月くらい誰とも話してなかったから喋り方忘れちゃったんだ!
 声は多分声帯の筋肉が萎えてたとかそんな感じの理由で一つ。
 っていうか今の礼の言い方だとすごい失礼だな。
 オーケー、今度はゆっくり、喉を湿してから。

 本当にありがとうございます、水、とっても美味しかったです

「感謝する……水、美味かった」
「いえいえ、美味しかったなら何よりです」

 なんでさ!
 うーん、気付かないうちにオレの言語機能は相当死んでいたらしい。
 ネトゲのチャットで毎晩会話はしてたんだけどなぁ……やっぱり実際に喋らないと駄目か。
 元々無口な方だとは思っていたが、敬語すら使えないとか駄目だろ、成人として。
 要練習だな、うん。

「落ち着きましたか?」
「ああ……」

 いや、落ち着いたと言うより落ち込んだ感じだけどね。
 自分の社会不適合さに打ちのめされて。

「それではヴィルヘルミナさん、今担当医の方を呼んできますので、待っていてくださいね」

 は? ヴィルヘルミナ? 誰それ?

「ヴィルヘル……ミナ?」
「? はい、ええと……カールスラント空軍の、ヴィルヘルミナ・H・バッツ中尉……で
すよね?」

 えぇぇぇぇっぇぇ誰それぇぇぇぇぇっ!?!?



***Side Witches***

「ねぇミーナ、病院の方から連絡はない?」
「おいハルトマン、何度も言うが心配しすぎだぞ。
……それはそれとしてミーナ、何か連絡はないか?
 そうだな……たとえばヤツのことについてとか」

 そう聞いてくるエーリカとトゥルーデを前にして、ミーナは掌で額を押さえた。

「……貴女達ねぇ」

 はぁ、とため息一つ。 
 今まで離れていた戦友がここ、第501統合戦闘航空団の基地へとやってくる最中に重傷を負って。
 最寄りの病院へと担ぎ込まれたのだ。
 安否が心配になる気持ち痛いほどよくわかるが、少々浮つきすぎではないだろうか。

 連絡がないかと聞きに来ること、当日の夜から始まって、三日間でエーリカが9回、トゥルーデは4回だ。
 流石に忙しいのか自制しているのかトゥルーデの訪問頻度は低いが、エーリカなど午前午後に夕食後、と聞きに来ていた。  
 それは純粋に友の事を案じている様であり。
 撤退戦の地獄を共に戦ったという強い仲間意識から来ているのだろう。
 そしてそれはきっと、撤退の最後で合流したミーナとのそれよりも幾分か強いのだ。

 どうせもうすぐ昼食だからと作業の手を休めていたミーナは、椅子に深く腰掛けて表情を緩める。
 そして聞いた。

「どういう娘だったの? その、ヴィルヘルミナ中尉は」

 書類上、彼女の経歴は既に把握している。
 ミーナは、信頼するトゥルーデとエーリカの目から見たヴィルヘルミナの情報を欲していた。

「ん……確か年齢は17歳。 軍に入ったのはフラウより先だが、実戦に出たのは後だったな」
「そうだよー。 あ、でも別に成績が悪かったとかじゃないよね。
 たしかそのまま教官やってたんだって」
「教官? 書類にも書いてあったけれど、その若さで?」
「そうだ。 腕も良かったし、無口なヤツだったがなにかと人に物を教えるのが上手くてな……
 ああ、そういう意味では教導員としては申し分ないな」
「ホントに無口だったよねー。 何か教える時でもさ、最低限のことしか喋らないの」

 だけど、そのお陰で色々考えさせられるんだよね、とエーリカは笑い。
 だが、行き詰まった時には必ず助け船を出してくれた、とトゥルーデは頷いた。

「二人とも、彼女のことを信頼しているのね」
「ああ……規律を守り、祖国と人々のために勇敢に戦う。
 同じカールスラント軍人として誇れる人間だ」
「そう? 一緒に昼寝とか良くしたけど?」
「お前とは違って節度ある範囲での休憩だろう!」

 えへへー、と笑うエーリカに、全くお前は規律あるカールスラント軍人としての自覚が、と説教を始めるトゥルーデ。
 そんな何時ものやりとりを始めた二人を見て、ミーナはため息一つ。
 そろそろ昼食の時間だから、ほどほどにね、と。
 立ち上がったところで電話が鳴った。 受話器を取る。
 
「はい、こちら司令室……え、意識が戻った?」
「本当か!?」
「本当!?」
「しっ……二人とも静かにして……ん、失礼。 で、状態は……え?
 ああ、そう……了解しました。 追って連絡すると先方に伝えて頂戴」 

 受話器を置く、堅い音が部屋に響く。
 ミーナは心を落ち着けるように軽く深呼吸する。
 こういう時、自分が司令官で有ることを疎ましく感じる。
 明るい雰囲気を壊す時も、悪いニュースを伝える時も。
 だが、それも彼女の責務である。
 だから、ミーナはヴィルヘルミナの安否を気にしている二人に伝えた。

「彼女が、ヴィルヘルミナ中尉が目を覚ましたそうよ……ただ、記憶に障害があるそうなの」

 ままならないものね。

 二人の表情が強ばるのを見て、ミーナは今度は心の中でため息を吐いた。



***Side Wilhelmina?***


 目を覚ますと、女の子になっていました。
 あ、ついでにストライクパンt……もといウィッチーズの世界な様です。

 ブルネットの白衣の女医さん(パンモロ)が色々話しながら治癒魔法をかけてくれました。
 お陰で上体を起こしてももうそんなに痛くありません。
 凄いね魔法。 何か暖かかったし、何にでも効く全身温湿布て感じ。
 
 で、先ほど出て行った女医さんの話によると。
 オレはどうやらヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツという名前の、カールスラント空軍中尉らしい。

「記憶に障害が……」

 とか言っていたけど、失礼な。
 若年性痴呆症じゃねーよ、単に知らないだけですっ!
 まぁ客観的に見れば記憶認識障害と疑わざるを得ないよね。
 お仕事お疲れ様です。
 オレの精神もお疲れ様です。

 鏡で自分を見せて貰ったら顔の左半分に包帯巻いたブルネットの長髪のかわいらしいお嬢さんでした。
 毛先のウェーブが微妙におしゃれです。
 あ、微妙に視界が狭いと思ってたけど片目塞がってたのね。
 絶句していたら、凄い痛々しい顔で「ごめんなさい、顔に火傷の跡が……」とか言い出したので気にしないでください、と言っておいた。

 ……なんか、「心配は無用だ、そなたは良くやってくれた」とかそんな感じの返事になったけれど。
 ……なんか、涙ぐまれてしまったけれど。

 ごめんなさいっ!
 ぶっきらぼうな言い方でごめんなさい……ッ!
 文句を言ったつもりはなかったんです。
 貴女は本当に良くやってくれました。
 回復魔法とかね。


 うーん、しかし、なんか何処ぞのロシアンマフィアの女ボスみたいなフライフェイスになってそうだなぁ。
 しかしカールスラントで空軍で中尉で17歳?
 なにこれウィッチになって空戦するとかそういう設定?
 自慢じゃないけどコンバットフライトシミュレータとか超得意だぜ?
 あとエースコンバットとか! 


 ……覚めてねぇー。 絶対目、覚めてねぇー。
 ああ、これきっと、死の直前に脳が見せるスーパー現実逃避大戦EXってやつだな。
 そうそう、そうに決まってるさ。
 よりによってストライクウィッチーズとは思わなかったけどね。
 両親の死後、ぼーっと見てたのがそんなに記憶に残ったんだろうか。
 や、確かに衣装はやたらとインパクト強いけどさ。
 でも流石にこれは夢だろ。
 目が覚めたらオレ、霊安室に居るんだ……とかそんな感じの。
 綺麗な顔だろ? これ、司法解剖後縫合して死化粧済みなんだぜ……とかそんな感じの。
 

 うん、目が覚めなくてもいい気がしてきた。
 というわけで看護婦さんが持って来てくれたオートミールをずるずる啜ろうと思います。
 遅めの昼食です。
 ずるずる……不味っ。

「いかがですか?」
「……ああ、美味い」

 ミルク麦粥とかマジ勘弁。
 しかし社交辞令を言うオレ大人。
 あと、自分の会話力に関してかなり諦めがついてきました。
 これは長期的な療養が必要なようです。 
 まぁ、直しても死んでるかも知れないんだけどね!


 …………


 それではゆっくり休んでいてくださいね、という台詞を残して。
 食器を持って看護婦さんは出て行った。
 後ろから見る尻はなかなか味があったが、介護してくれる人にそういう感情を持つのはいかんよね。
 ……嘘ですごめんなさい、心のアルバムにしっかり記録しました。

 
 ……はぁ。
 ため息を吐く。
 吐息を吐く感覚と、そのために体が動いて、火傷の跡がひりつく痛みがあまりにリアルで。
 一人になった病室は否応なくオレに考えることを強制する。

 おなかも一杯になってきたことだし、そろそろ現実逃避は止めようか。
 ポジティブロジカルに考えようぜ、オレ。
 
 相変わらず窓から吹いてくる風は涼しくて気持ちいいし。
 カーテンが翻るたびに見える外の景色は明らかに日本の物ではないし。
 先ほど食べたオートミールは不味かったがそこそこお腹に貯まった。

 痛みもある。
 感覚もある。
 今、生きているという実感がある。

 転生とか、憑依とか、にわかには信じがたい現象かも知れない。
 ただ、親父も、お袋も、親類縁者まとめてとっくに鬼籍に入っているオレにとっては自分が何処にいようと余り関係ない。
 好きな人も居なかったし、友人と言える相手もごく少数だ。
 収入はあるが別に就職しているわけでもないので仕事で迷惑をかけることもない。
 これが現実で、この世界で生きていかなければならないとしても。
 これが夢で、何時意識が死んでしまうか解らないとしても。
 そこに、なんら差はないのだ。

 そう、これが現実だろうが夢だろうが、オレにとっては一向に変わりがないのだ!
 我思う、故に我有り。
 竿と玉は無くなってしまったけど問題ないね! 童貞だから!
 むしろ下半身防御が薄いこの世界に来れてラッキーとか思わないとやってられないよね!

 うん、よし!
 今は体を治すことを考えよう。
 治癒魔法とかあるから早晩退院は出来るだろうけど、その後のことはそのときに考える!
 ぶっちゃけた話、情報が少なすぎるしね。
 と言うわけで寝ます、おやすみなさーい。

 と言うところで扉が叩かれる音がした。
 え、何、出鼻をくじかれるとかすげー幸先悪いんですけど。
 でも入室を促すオレ。
 どうぞお入りください。

 「……入れ」

 何様だろうねオレ。 泣きたくなってきた。

 ドアがゆっくりと開かれて……あれ、誰も入ってきません。
 開け放たれたドアから、こちらをのぞき込むように顔を覗かせている金髪の少女。
 うん、可愛いねぇ……ん、て、この顔つきは……

「エーリカ……ハルトマン?」

 原作キャラ来たー!?








-------------------
自分の中ではカールスラント組はみんなすっごい仲間思い・仲間意識が強いイメージ。
劣悪な環境での地獄の撤退戦、失われた祖国、散り散りになった僚機たち。
そんな環境から生まれるひねりのないイメージです。



[6859] 03
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/27 07:47
03 「ハルトマンと決意、そして飛翔」

***Side Wilhelmina***

 はい、皆さん。
 あれから一週間、怪我が完治したオレは現在、第501統合戦闘航空団の格納庫でストライカーユニットを絶賛装着中です。
 何故かバルクホルンお姉ちゃんと一緒に模擬戦を行うことになりました。
 うーん、自分でも何でこういう事になってるのかよくわからん。
 いや、経緯はわかるんだが……

「どうしたバッツ、さっさとストライカーを起動させてこっちに出てこないか」

 うん、バルクホルンさん、それ無理。
 いやだってさ、このストライカー、足突っ込んでるけどうんともすんとも言わないよ!

 っていうかそもそも、そっちのストライカーユニットと違って足がすんなり入ってかなかったし。
 ぬるっ……って感じで、泥の中に足突っ込んでるような速度だったよ。

 あ、あと、足突っ込む時に初めて体験する妙な感覚だったんで勝手に意識が行ったんだけれど。
 魔力を流すプロセスって意識を向けるだけでよろしかったらしく、尻尾と耳出ました。
 耳は兎も角尻尾とか、尻穴のちょっと上がすんごいむずむずして、そりゃあ頬も赤く染まるわけです。
 ……思わず出ちゃった妙に色っぽい自分の吐息に反応したりも。
 オレキモイです。 マジ凹む。

「? やっぱり、まだ本調子じゃないのか……?」
「いや……もう少し、頼む」

 適当に応えながら思考する。
 「新型機は起動に時間が……」とか言ってるが無視無視。
 オレが現在履いているストライカーユニットの型番はMe262。
 コンバットフライトシミュレータから入ったにわかミリオタの知識によれば、世界初の実用的なジェット戦闘機である。
 
 ……そんなすげー機体をオレなんかが使って良いんでしょうか。
 ああ、もう、なんでこんな事になってるんだぜ……?




 ――時は一週間前にさかのぼる。



***Side WItches***


 金髪の少女、エーリカ・ハルトマンは戦場での凛とした雰囲気とはかけ離れた表情で病室の前に立っていた。
いつもの飄々とした表情とも少し違う、不安のそれ。
 彼女の脳裏に、数時間前のやりとりが思い出される。


//////


 JG52所属、ヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツ中尉は一命を取り留めたものの、記憶障害の疑いが強い。
 その報を受けたミーナ、エーリカ、トゥルーデの気は重かった。

 発見時の状況と、その後の救助・回収・検証作業の結果から、彼女は迎撃のために緊急発進しようとして。
 その直前にネウロイのビームが搭乗していた駆逐艦エーリッヒ・ギーゼの弾薬庫を直撃。
 爆発に巻き込まれ吹き飛ばされたと推測されている。
 とっさに魔力シールドを張ることに成功したのか、骨折や内臓破裂などの重大なダメージ負っては居なかったが。
 爆発の熱波と衝撃に晒されたため、全身に重い火傷と打撲を負ったと見られている。

 四肢を欠損したわけでもない。
 肉体的なダメージは直る。
 それを可能にするのが治癒魔法であり、この世界の常識だ。
 民間・軍事を問わずに、治癒魔法の使い手達は多くの人々の命を救っている。

 だが、精神や記憶と言った物は無理だ。
 精神に影響を与える魔法技術の使い手は数えるほどであり、一般的ではない。
 また、魔法と平行して発展してきた科学的療法でもそれらの分野は全くと言っていいほど未知のままだ。
 
 結局の所、形が有ろうが無かろうが、ひとたび失われてしまえば帰ってこない。
 それが世界の摂理である。

「……ミーナ、どうする」

 数時間とも思われた――実際は数秒だったのだが――沈黙を破ったのはトゥルーデだった。

「そうね……指揮官としての立場から言わせて貰えば、戦えない者は必要ないわ」
「そうだろうな」

 ウィッチで、空戦適正があり、その魔力適正はMe262を運用できるほどに高い。
 そして戦況は膠着しているものの決して楽観視はできない。
 正直なところを言えば戦力はあればあるだけ欲しい。
教導員だとしても、前線基地であるこの地に来るのだ。
 まさか、ヴィルヘルミナが教師役だけやって後は寝て過ごす事はないはずであり、ネウロイが来れば戦列に加わっていただろう。
 だが、軍隊は別に戦えない者にそれを強制する場ではないのだ。

 訓練過程を修了したばかりのリネットがこの隊に居るのは、統合部隊に自国のウィッチを組み込むというブリタニアの政治的な思惑だけではない。
 彼女が戦力になり得ると判断されたからである。

 だが、記憶に障害があるとなれば別の話だ。
 話を聞く限り、ある程度の記憶は維持されてはいるらしいが。
 戦闘関係の記憶や知識が無くなっていれば、それは素人と同じである。

 再び訪れた沈黙を破ったのは、エーリカだった。 

「私、行ってこよっか?」 
「ハルトマン、お前、何を言って……」
「いや、解らないなら会いに行って話を聞いてくればいいじゃない?
 忘れられてるかも、と思うと不安だけどさ」

 どうせこのままだと一度も会わないまま後方に移送されて療養でしょ? と何でもないように続ける。

「一度も会わないままと言うことはないだろうが……ああもう、しかしそういうことは私かミーナが直接行くことだろう?」
「えー、トゥルーデ行きたいの?」
「違う。 私は副官代行としてだな……」
「でも結構心配してたじゃん、ヴィルヘルミナのこと」
「当たり前だろう、戦友なんだぞ」
「二人とも! ……解ったわ。 ハルトマン中尉、昼食後、彼女が収容されている病院に行って、彼女の様子を見てきて頂戴」
「ミーナ! 行くなら私が……」
「はぁ……バルクホルン大尉、午後は先日回収された補給物資の引き渡しの監督があるはずなんだけど。
 回収作業の監督も任せてしまったけれど、これは信頼できてある程度階級の高い人じゃないと」
「う……そういえばそうだったな。
 じゃあ、ハルトマン、あいつのことは頼んだぞ」
「まかされた~♪」


//////


 本当に大丈夫だろうな。
 そう心配していたトゥルーデの顔が脳裏に浮かぶ。
 その瞬間は失敬な、と思ったエーリカだったが、いざその瞬間になってみると、不安がぬぐいきれない。

 忘れられているかも知れない。

 エーリカは別に、ヴィルヘルミナと特に親しかったわけではない。
 むしろ、トゥルーデの方がよほど彼女と親しかっただろう。
 軍の広報関係ではあったが、一緒に写真に写っていたこともある。
 そのころはトゥルーデ、ヴィルヘルミナ共にエーリカより階級が上であったため、部隊運営上の話し合いも良くしていた。
 それに引き替え、エーリカは何度か彼女とロッテを組んで戦闘を行ったり、一緒に昼寝をしたりしただけだ。

 それでもエーリカは、ヴィルヘルミナのことがどちらかと言えば好きである。

 そして、そんな友人に完全に忘れられているかも知れないというのは。
 命を預けあった戦友に、誰ですか、と問われるかもしれないというのは。
 撤退の時に毎日感じていた、隣にいる友が明日には居ないかも知れないという恐怖とも。
 命のやりとりを行っている時に感じる恐怖とも、違う物だった。
 
 
 エーリカの、普段は武器を握っている小さな手が、ドアを叩いた。
 木を叩く独特の柔らかい突音が響く。

「……入れ」

 聞き覚えのあるトーン。
 
動悸がやや速くなる。
 ドアノブを握り、押す。 それだけの動作だ。
 二秒もかからずにドアは開かれる。
 エーリカは出来た隙間から、そっと室内をのぞき見た。

 士官用の、しかし決して広くない個室の病室。
 窓際のベッドに、彼女は居た。
 肩の下まで伸びた、毛先にウェーブのかかったブルネットの髪。
 エーリカより年上にもかかわらず、部隊最年少のルッキーニと同程度の体躯。
 半身を起こしてこちらを向く顔の半面には包帯が巻かれ。
 病院着の隙間からは包帯が見え隠れしていて、非常に痛々しかった。

 その身体は満身創痍だったが。
 「ちび」の愛称で呼ばれていた、ヴィルヘルミナがそこに居た。

「エーリカ……ハルトマン?」

 彼女のことを覚えて、そこにいた。

「あ……」

 忘れられていなかった。
 彼女は私のことを知っている。 
 そんな安堵がエーリカの胸中を満たした。
 心配していたのが馬鹿みたいだった、と。

「あはは、久しぶり! 大丈夫そうで何よりだよ」
「ああ……」
「それにしても災難だったね、トゥルーデも心配してたよ。
 トゥルーデ、覚えてるでしょ? もう心配ッぷりが半端じゃなくてさー」
「トゥルーデ……」
「……覚えてない?」
「いや……ゲルトルート、バルクホルン?」
「そうそう! それでね……」

 変わらない。
 ほとんど単節で喋るような喋り方も。
 その優しそうな声音も。

 今までの、柄にもない緊張をごまかすように。
 今まで離れていた分を取り戻すように。
 生きて再び出会えた喜びを伝えるように。

 隊のこと。 バルクホルンのこと。 ミーナの事。
 ブリタニア戦線のこと。 此処にたどり着けなかった者のこと。 たどり着けた者のこと。

 エーリカが一方的に話し、ヴィルヘルミナが簡単に返事をする。
 昔通りのやりとりだったから、エーリカはそれに気付くのが遅れた。

「どうかした?」

 この数年で何があったのか、一時間ほど話していたら。
 ヴィルヘルミナの視線が下がっていた。
 何度か逡巡するように目線が彷徨い。
 その言葉が、口から流れ出た。

「……すまない」
「え?」
「オレは知っている…… お前が、どんな人間か……どんな風に戦うか……
 バルクホルン……のことも。
 だけど」
「……」
「オレは……知らない……
 お前と……お前達と飛んだことを……知らない。
 オレは……お前達が知っている……オレ、じゃない……」

 すまない。
 一つしかない鳶色の瞳を瞼の下に隠して、ヴィルヘルミナは口を噤んだ。



***Side Wilhelmina***

 ごめんなさい。
 それ以外の言葉が思いつかない。
 
 目の前にいる少女は、エーリカ・ハルトマンは、元々アニメの登場人物で。
 つい先ほど、オレの現実の登場人物になった。
 別にそのことに関しては今更どうとも思わない。

 ただ、心苦しい。
 この、少女のことをなまじっか知っているから余計に。
 オレは多分、この世界で、ヴィルヘルミナさんとして生きていくしかないわけで。

 エーリカは、オレに期待している。
 以前のように、彼女に接することを。
 以前のように、バルクホルンに接することを。
 だがそれは無理だ。

 オレは以前のヴィルヘルミナさんを知らないし。
 オレは自分を殺してまで彼女の真似をする気はない。
 ……もっとも、この喋り方に動じないと言うことは、案外ヴィルヘルミナさんもオレと一緒で引き籠もりだったのかも知らん。
 
 だから謝るのだ。
 すまない、と。
 彼女たちが望む物は、此処では得られないのだと。 

「……実はさ、ミーナに、ああ、さっきも話した、今の私の部隊の司令官ね。
 ミーナに、ヴィルヘルミナの様子を見てきて貰うように言われたんだ。
 元々、ヴィルヘルミナは私たちの所に、新型機の教導に来る予定だったんだよね。
 ……覚えてる?」
「いいや」
「そっか。 ……飛び方、覚えてる?」
「……いいや」
「そっかー」

 それじゃ、しょうがないかな、なんて悲しそうに苦笑しながら。

「ミーナに言ってさ、安全な後方に送ってもらうよ。
 そこでゆっくり身体を治せば、きっと記憶も戻ってくるから」

 絶対この年齢の女の子がしないような表情で。
 絶対この年齢の女の子が言わないような台詞を言う。

「大丈夫、ネウロイは私達が絶対に食い止めてみせる。
 ここから先には進ませないし、これ以上街を焼かせもしない」

 ――――おいおい、そんな顔でそんなこと言われちゃあさ。
 オレも覚悟決めなきゃ駄目だろ。

「カールスラントも、絶対に取り返してみせる。
 だから、ヴィルヘルミナは、安心して――」
「断る」

 休んでていいよ、なんて言わせねぇ。
 オレにだって男としての意地って物がある。
 転生だか憑依だかを経験して、真の意味で天涯孤独になったオレ。
 そこで、少ない時間ながらも言葉を交わした相手だ。

 しかも確かまだ年齢的に高校生だぜ、この子。
 そんな子供がこんな台詞を吐いて良いわけねえだろ。
 んでもって、この子が所属している部隊には、元々のオレの年齢の半分くらいの子だって居る。
 そんな年端もいかない子達に守られて、後ろの方で安穏と暮らすとかほんと無いわ。
 オレには耐えられない。

 戦う力があるとか無いとか関係ないし、力で言うならあるはずなんだ。
 今のオレはウィッチだから。
 尤も、飛び方とか知らないから空に上がれば足手まといだろう。
 だが、空戦するだけが戦いじゃない。

 なんでもやるさ。 それこそ、掃除婦でも炊事でも書類整理でも。
 こいつの、こいつ等の力になれるなら。
 こいつ等の助けに少してもなれるなら。

「なんでもやる……オレを……使え」
「……でも、出来るの?」
「出来るか……出来ないかじゃない……やるんだ。
 それに……お前達だけを、戦わせたくない」

 男一人暮らしの半ニート舐めんなよ、二週間42食、同じ献立しなくて良いくらいにはレパートリーあるんだぜ!
 掃除だって得意な方だし、書類整理とかだったら……なんとかなるだろ。

 エーリカはしばらく迷っていた様だったが、オレがじっと見つめて頷いてやったら、決心してくれたようだ。
 
「……わかった! じゃあミーナには伝えておくから!」

 そう言って、笑顔で部屋を出て行くエーリカさん。
 それを決意を込めて見送るオレ。
 このときは、まさかこんな事になろうとは思っても居ませんでした……


//////


 以上回想終わり。



 エーリカァァァァァァァッ!!!!
 確かに主語や目的語が曖昧だったオレも悪いけどさぁぁぁ!
 雰囲気に流されて、これでよし……とか思っちゃったオレも悪いけどさぁぁぁ!!
 病み上がり一番に模擬戦とかさせんじゃねぇよぉぉぉぉ!!! 

 病院から朝イチに連れてこられて、そのまま格納庫に直行ですよ。
 そこでバルクホルンお姉ちゃんに、入団試験である模擬空戦を行う!
 とか言われた。

 無茶苦茶である。
 無茶苦茶であるが、やたら嬉しそうに説明するバルクホルンを見ていると、なんか邪魔をするのが非常に申し訳なくて……
 あとオレ、朝は血圧とテンションが低いので……

 ん?
 そういえばこの惨事をセットアップしたはずのエーリカが見あたらないな。

「バルクホルン……エーリカは?」
「ん? ハルトマンか?
 ヤツは確か今日は非番だったから……まったく、ヤツのことだからまだ寝ているんじゃないか?」 

 オレがこんな危機的状況にあるというのに惰眠をむさぼっているだと!?
 あンのアマァァァァァァッ!!!
 オレが後から、雰囲気に飲まれたオレの発言きめぇ……とか反省してたのに!
 これが終わって生きてたらぜったいあの微妙な胸を揉み倒してやるからな!
 この身が女であることを最大限に利用してやる……最早手段は選んでいられねぇ……!
 ンでもって桃色吐息でヒィヒィ言うくらいにだな……!

「? ハルトマンがどうかしたのか、バッツ」
「いや……」

 おかしなヤツだ、とか言われるオレ。
 ……まぁ落ち着けオレ。
 桃色桃源郷到達のためには
とりあえず飛ばなくては。
 
 ――魔法は精神的な物である、らしい。
 全く魔法に関して無知なオレだが、反射的に意識を向けるだけでストライカーユニットも、ケモ耳尻尾の装備も出来たのだ。
 精密精緻に、手足のように魔法を扱うには、専門の教育や知識、訓練が必要だろう。
 だが、ただ魔法を使うだけなら、オレにだって出来る。
 ウィッチの身体は、そういう風に出来ているのだろう。
 とにかく、知識が無くても、オレは魔法を、魔力を使えるのだ。

 目を閉じる。

 ストライカーユニットの中、異次元と言う名の不思議空間につながっているはずの両足に、意識を向ける。
 目に見えるのも、足に感じるのも金属の感触だ。
 金属で出来た、空を飛ぶための、足。
 ストライカーユニットという鉄の義足に、イメージという名の血管を伸ばしていく。
 バネが弾ける音。太ももの外側で軽い衝撃。
 おそらくは、その位置にあった装甲が閉じた音だろう。太ももが強く固定される。
 良い感触だ。やり方は間違っちゃ居ないらしい。

 伸ばした血管に、血を流し込む。
 ゆっくりと、ゆっくりと、決して焦らず、蛇口を慎重に緩めていく。
 こいつはジェットエンジンだ、それも初期の。
 初期のジェットエンジンは耐熱性が無くて、いきなりフルスロットルにすると燃焼室が融解したらしい。
 魔道エンジンだから違うのかも知れないが、だからといって乱暴な賭は出来ない。
 
 やがて、バルクホルンの魔道エンジンの音を上書きするように、叫声にも似た吸排気音が響き始める。
 ……きたっ!

「ほぉ……なかなか面白いエンジンの音だな。
 しかし、起動で二分か……即応性に問題がありそうだな」

 うるせー、多分もっと速く起動できる。
 オレの能力経験不足だ。 お前がやればきっともっと速い。
 
 胸中でぼやきながら、目を開く。
 Me262を装着台に固定していたロックが外れる。
 浮遊感。
 足元を見れば、小さな青白い魔法陣を展開させて、オレは地上数センチを浮遊していた。
 前に、と思えばするすると氷の上を滑るように前に進んでくれる。
 案外姿勢と機動制御は楽かも?

「バッツ。 お前の分だ」

 長い金属の塊を手渡される。
 両手で受け取ったそれはオレンジ色に塗装されたMG42だ。
 箱形のやたらでかい弾倉付きである。
 あれ、案外軽いな。
 お米袋担いでる感じ?

「……軽いな」
「まぁ、装填されているのはペイント弾だからな。
 それに、新型の魔力増幅率はかなり高いから、身体強化もそれに比例して強くなってるんだろう。
 ついでに言うならお前の魔法技術は質量・重量操作だろう?」

 ……重力を自在に操り光速の異名を持つなんとやら、とかそんな中二病能力の持ち主だったんすかオレ。

「なんだ……それは」
「……すまん、それも忘れていたのか。
 バッツ、お前の固有魔法技術は触れている物の重量と質量を擬似的に上下させるんだ。
 軽くなれ、とでも思いながら魔力を流してみろ」

 ……おおう、なんか軽くなってきました。
 すげー、軽ーい。 中身入りのリッターペットボトルくらいの重さになりました。

「逆に、重くなれ、とでも考えれば重くなるんじゃないか?
 最も、お前は質量は重く、重量は軽くすることしかできないらしいがな。
 まぁ、前に……ん……前のお前の言っていたことだが、軽くしても質量は変わらないから振り回す時に注意しろよ」
「気にするな」

 声のトーンが落ちかけていたバルクホルンをとりあえずフォローしつつ、魔力を流したり流さなかったりしてみる。

 うーん……要するに、重量は軽くできても、質量は重くすることしか出来ないから慣性とかに振り回されないように、ッてことね。
 ……やっぱ重力操作じゃねーか!
 しかも質量操作とか分子構造変わるじゃない!
 どうやってんだ……あ、いや、流し込んだ魔力の分だけ重くなるとかそんな感じなのか?
 耳と尻尾生えるとか物理法則無視なパワーだからな……
 それにしても大して役に立ちそうもないな……質量減らすことも出来るなら重火器自由にぶんぶん振り回せそうなもんだけど。

 そんなことを思いながら、バルクホルンに促されるまま滑走路上にするすると動いていく。
 ……歩かなくて良いのは楽だな。
 
「判定はミーナが行う。 模擬戦の開始も、ミーナが地上から通信でやってくれる。
 インカムはつけたな?」
「……ああ」
「ミーナ」
『こちら第501統合戦闘航空団司令部、ミーナ=ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。 二人とも、聞こえるかしら?』
「……ああ」
「感度良好、問題なしだ、ミーナ」


『こちらも感度良好よ。
 今回の模擬戦だけれど、いつもどおりユニットに被弾した時点で戦闘不能・撃墜判定とします。
 シールドの出力は調整してあるから、ペイント弾でも規定値を超えれば貫通するわ。

 戦闘空域は基地周辺20kmとします。
 エリアから外れそうになった場合はこちらから警告を送ります。
 これを無視した場合には敵前逃亡と見なし、自動的に敗北。
 制限時間は三十分。
 決着が付かなかった場合は、こちらで判定を下させて貰うわ。
 これで良いかしら?』

「……ああ」
「了解した」

『……バッツ中尉、本来なら貴女は後方で静養するべきなの。
 それを蹴ってまで此処に居たいと言うのだから……それなりの物を見せて頂戴』

 ミーナさん微妙に怖いよ!?
 劇中だともっと優しくなかった!?
 芳佳さんの時とは大違いだよ!
 実は身内にしか優しくないとかそういうのなんですか!

「……解っている」

 だけど、オレだって此処まで来た以上何もせずに帰れるか。
 コンバットフライトシミュレーターで鍛えた実力、見せてやるよ!

「先に行くぞ、バッツ。
 ……ゲルトルード・バルクホルン、いくぞ!」

 プロペラとエンジンの回転数が一気に上がる音。
 バルクホルンの足下の魔法陣が大きく拡大される。
 前傾姿勢になり、プロペラの推力を水平方向に向けた彼女は、風をまき散らして加速。
 滑走路を1/3ほど走ったところで離陸していった。

「……行くか」

 その姿を、綺麗だな、かっこいいな、なんて思っている余裕は今のオレにはない。
 原型機はシミュレーターで散々飛ばした事があるとはいえ、これは現実だ。
 しかも、ストライカーユニットとか言うよくわからん代物である。
 余裕ぶって虚勢を張っていた精神が、緊張で冷えていく。

 ……オーケー。やってやろうじゃねえの。
 流す魔力の量を徐々に上げていく。
 それに比例するようにエンジン音も甲高くなっていく。
 よーしよし、良い子だ……この辺は気むずかしいバイクをあやすのと似たような感じだな。

 オレの足下の魔法陣も、バルクホルンのそれよりは少し小さいが展開される。
 噴出口からはき出される風が、周囲にまき散らされ、オレの長い髪がはためくのを感じた。
 こんなもんか? ……ええい、男は度胸!

「ヴィルヘルミナ・バッツ……出る!」

 バルクホルンに習い、前傾姿勢になる。
 前に倒れそうになる身体。
 だが、ストライカーが押し出すオレの身体は倒れない。

 前に出る。
 速度が上がる。
 陽光に輝く海を横目に滑走路を駆け抜けていく。
 だけど――畜生、加速が温い!
 滑走路の1/3程度を走りきっても、バルクホルンの半分も出てないぞ。
 焦るな、焦るなよオレ。
 此処で意地になってフルスロットルとかして、エンジンチャンバー溶けたらそこで終わりだ。
 
「飛べ……」

 加速は続く。
 焦りの所為か、声が震える。
 滑走路の半分を走りきる。
 まだ速度が足りない。

「飛べ……ッ」

 加速は続く。
 吹きすさぶ風の所為で涼しいはずなのに、汗がしたたり落ちる。
 滑走路の2/3を走りきる。
 まだ少しだけ、速度が足りない。

「……飛べよッ!」 

 もう後がない。
 滑走路の終わりが、広がる海原が見える。
 ここでドボンはあまりにもみっともないだろうが!
 飛翔するイメージを強く持つ。
 上へ。
 空へ。

「オレは……!」

 ――浮遊感。
 その瞬間は唐突に訪れた。
 ゆっくりと身体が上昇していく。
 眼下の、滑走路の灰色は消え去り、海の青が全面を支配した。

 視線を上げる。
 そこには、果てしない青空と、点在する白い雲が。

 ……あ、ははは! オレ飛んでるよ!
 ああ、うん、今、オレは空を飛んでいる!
 こりゃあアニメで芳佳がはしゃいでたのもよくわかる。
 オレは今、生身の人間が一生かかってもたどり着けない場所に居るんだ。

 そんな言いようのない感慨にふけっていると、インカムから声が聞こえた。

『……良く帰ってきたな、ヴィルヘルミナ』
「……バルクホルン?」
『お前の右斜め後ろ上方だ』
 
 インカムの通信に従い、そちらの方に視線を向ける。
 遙か上方に、空を飛ぶ人影が小さく見えた。

 高度をあわせる。
 一度空へ上がってしまえば、基本的な機動は案外楽に行えた。
 才能があるのか、身体が覚えているのか、それとも基本的な機動は簡単なのか。
 まぁ、三つ目だろう。
 一つめを選ぶほど自惚れちゃ居ない。
 基本はスキューバみたいなもんだった。
 バタ足しなくてもストライカーユニットが勝手に推力を生み出してくれる。
 オレはその推力の方向を足を動かして操作するだけだ。


 高度を合わせた後は、適当に慣らし運転。
 ……うん、これなら、やりたいことは割と出来そうだ。

 次いで、背中に担いでいたMG42を手に持つ。
 えーと……ファイアリングロックはこれか?
 うん、これだな。 よし、命中精度は期待できないがそこは機関銃。
 弾数が命中率を補ってくれるだろう。

『準備は良いか、バッツ』
「……ああ」
『そうか。 本気で行かせて貰うぞ』

 ああ……て、ホワッツ!?
 ちょ、おま、待って! 待って!

『……二人とも、安全高度に到達。
 準備も出来たみたいね。

 現時点より双方の無線を封鎖。
 司令部との交信のみを許可します。
 模擬戦闘訓練……開始!』 



--------
自分のエーリカに対するイメージはこんな感じ。
一般的なイメージとのぶれはそんなに無いと思う。
主人公のキャラとしての軸はぶれまくりだけどな。


あと、こんな無茶なテストする理由も一応あります。
詳細は次で。

改行をちょっと変えてみるテスト。
横幅が広いから別に38文字付近で改行しなくてもいい気がしてきた。



[6859] 04
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/27 07:47
04 「銀の飛翔と、想い」

***Side Witches***

「たいした事ありませんわね」

 テラスから、基地上空で行われている模擬戦の様子を眺めながらペリーヌ・クロステルマンはそう呟いた。
 天気のいい日は普段から人が集まりがちなこのテラスに、今、501統合戦闘航空団の面々がそろっている。
 居ないのはエーリカ、サーニャ、ミーナ、そして美緒だ。
 この事態を画策したエーリカは非番だからと絶賛爆睡中で、サーニャは夜間哨戒が終わって現在休息中。
 ミーナは管制室で彼女の魔法技術と機材を併用して模擬戦の監督を行っており、美緒は現在扶桑へとウィッチのスカウトに行っている。

「まったく……坂本少佐、早くお戻りになられないものかしら」

 もはやペリーヌは、この模擬戦に価値を見出せなくなっていた。
 ミーナに、見ていてほしいと頼まれていなかったらとっくに退出して、自身の訓練なり仕事なりをしていただろう。
 それほどまでに上空では一方的な戦いが行われていた。

//////

「どう見るよ、エイラ」
「無理ダナ、完全に遊ばれてる」

 同じく空を眺めていたシャーリーの問いに、指でばってん印を作りながらエイラは答えた。
 珍しく雲が少なく、見渡しの良い空には縦横無尽に二種類の飛行機雲が描かれている。
 片方は、まるで美緒が振るう刃のように、滑らかに鋭く空を切り裂いていて。
 もう片方は対照的に、戸惑うような、雑な軌跡を描いていた。
 ドッグファイトが得意でないリネットのそれと比較しても、どっこいどっこいという所である。

 どちらがヴィルヘルミナのものであり、どちらがトゥルーデの物か、一目瞭然であった。

「あーあ、それにしても期待はずれだよ。 新型機っていうからどんなものかと思ってたら……
 加速も、旋回性能もてんで駄目じゃないか」

 シザースでは競り負け、後ろに着かれても旋回性能が悪いのか、簡単にはブレイクできない。
 シールドを張り無理やり急減速し、危険を冒しながらトゥルーデをオーバーシュートさせてどうにか後ろに回りこんでも。
 加速が足りず追いつけずに、旋回性能の差で結局はまた後ろを取られてしまっていた。

 そういった機体の性能差もあるが、相手はカールスラント屈指のエクスペルテン、ゲルトルート・バルクホルンだ。
 ハルトマンと組んでの前衛を最も得意とする彼女相手に、格闘戦ですでに10分ほど耐えているだけでも、評価に値するのだが。

 あまりに一方的な展開だからだろう、隣の席でうとうとしはじめているルッキーニの頭を撫でながらシャーリーはぼやく。
 彼女としては、噂で聞き及んでいたカールスラントの新型機の速度性能をその目で見たかったから、ここにいるのだが。
 残念すぎる結果に、ずいぶんと落胆していた。

「エイラ、お前の占いだと、結構面白い事になるかも……って言ってたじゃないか」
「うーん、そのはずだけど……」
「相変わらず微妙にあたらないねぇ」
「ム、失礼なヤツだな……まだ勝負は決まってないだろ」
「はいはい。 あ、リーネー、コーヒーお代わりー」
「はぁい」 

 小走りにリネットがコーヒーのポットを持ってくる音を聞きながら、シャーリーはルッキーニが枕にしている速度計測器を見た。
 夢への道のりはまだ遠そうだ、と思いながら。
 
//////

 リネットは、 シャーリーのカップにコーヒーを注ぎながら空を見上げた。

「えっと……ヴィルヘルミナ中尉、でしたっけ。
 なんだか苦しそうに見えます」 
「そりゃ苦しいだろ。
 ドッグファイトってのはお互いがお互いのの後ろを取るために食いつきあってるんだ。
 しかも相手はバルクホルン。 かかってくるプレッシャーは半端じゃないだろうね。
 覚えとけよリーネ。 ドッグファイトでは先にプレッシャーに負けて仕切りなおそうとか逃げ腰になった奴が負けるからな。
 じっと耐えて、執念深く食らいつけ。 運がよければチャンスがめぐってくる」
「ま、リーネは遠距離戦向きだかんな。
 大抵は前衛が押さえてくれるし、必要に迫られなければ味方のとこまで逃げればいい。
 それに、この戦線だとドッグファイトを挑んでくるような小型ネウロイは滅多に出てこないしな」
「は、はい、頑張ります!」

 シャーリーとエイラのアドバイスを胸に刻みながら、依然として空を見つめていたリーネは。
 ふと、思ったことを呟く。

「でも、そういう苦しさじゃなくて、自分の得意な事が出来ないような……そんな感じが」
「そうだなぁ……アイツくらいになると勘からくる先読みもすごいからな……
 挙動の機先を潰されて、やりたい事をやらせてもらえない、ってことも十分ありえるよ」
「そういうのとはまた違うような気もするんですが……」
「なんだそれ、曖昧だな」
「うーん……あたしには分からないなぁ……あ、コーヒー溢れてる」
「あ、ああっ!? す、すいません!」

 ソーサーの上で被害は収まってるから大丈夫大丈夫、と笑うシャーリーに、それでも謝ってからリネットは再び空を見上げた。
 耳には、今日何度目かの、のこぎりの様なMG42の独特な発射音が小さく聞こえ。
 シールドに着弾し、ペイント弾が弾かれる火花が見えた。


「あ」

 もう三分ほどたった頃だろうか。
 誰かが声を上げた。
 
 何度目かの火花のあと、ヴィルヘルミナが海面に向けて落下してくる。
 誰もが魔力切れや、墜落を想像した。
 だが、その想像は即座に撤回される。
 追いかけるように急降下を開始したトゥルーデは、依然として断続的に銃撃を行っていたし。
 ヴィルヘルミナはそれを避けるように、歪なバレルロールを繰り返しながら、シールドの展開も何回か確認できた。

「終わったな」
「終わりですわね」

 シャーリーとペリーヌが呟いた。

 ヴィルヘルミナがプレッシャーに耐えかねて、離脱しようとしたのだろう。
 加速が悪いから、急降下によって高度を速度に両替して、距離をとろうという心算にちがいない。
 だが、皆の知っているトゥルーデは、相手にそんな事を許さない。
 このまま追い立てられて、魔力をたっぷり乗せたペイント弾がヴィルヘルミナのシールドを食い破り、彼女とストライカーユニットをしこたま打ち据えるにちがいなかった。

「あーあ、やっぱりバルクホルンの勝ちかぁ」
「当然の結果でしたわね。
 面白みのない戦いでしたわ」

「あれ……?」

 リネットの声が、立ち上がろうとした二人を止めた。

「どうしたリーネ?」
「どうしましたの? リーネさん」
「いえ……何か……ううん、気のせいかも」
「いや、気のせいじゃない」

 エイラが立ち上がり、真剣な目で直線飛行を続ける二機の方を見る。
 二機は海上数百メートルといったところで機体を起こし、水平飛行に入っていた。
 相変わらずトゥルーデが後ろを取っており、一見ヴィルヘルミナが劣勢に見える、が。

 エイラが目を細め、告げた。

「トゥルーデが離されはじめてる」




***Side Wilhelmina***

 五分ほど前。


 アホかぁぁぁぁぁぁ!!
 なんだこの化け物!
 ドイツの戦闘機は速度はともかく旋回性能はイマイチとか言ってたの誰だよ!
 ってやべ!

「ぐ、ッ」
 
 とっさに体をひねり、後ろに手を向ける。
 青白い光を放つ、直径一メートルほどの魔方陣がオレの後方に展開されたと思った直後、火花が連続して散った。
 手にプレッシャーがかかり、硬いものが硬いものにぶつかる重い音が断続して響く。
 この魔力シールド、どんな理屈なのか当たる物がペイント弾だろうと火花が散るらしい。
 そして、とっさに張ったシールドは、オレの出力が弱いとか構成がぬるいとか、きっとそんなどうしようもない理由で貫通された。

 ハエが飛ぶような音が、耳元を通り抜けていく。

 って、そんな事考えてる余裕ないよ! 現実逃避するなオレ! 怖い怖い!
 ペイント弾だって分かっていても怖いものは怖いんです!
 ブレイク、ブレイク!

 体を無茶苦茶に振り動かして射線を留めさせないようにしながら、取りうる機動を脳内で検索。
 痛い! 体捻れて痛い! 火傷のあとが引きつって痛いよ!
 ついでに生まれてはじめての三次元戦闘は厳しいです!
 被弾してないのが正直奇跡です!

 スプリット・S――すなわち、下降することによる180度方向転換を行うことに決める。
 射線から無理やり逃れるように下降、すぐに体を水平に持ち直し相手の下方で交差して。
 で、すぐに上方に宙返りすれば相手の後ろにつける、はずなんだけど。

「くぅ……ッ」

 恐怖で歯の根がなりそうなのを、歯を食いしばって耐える。
 びっしょりとかいた汗が邪魔っけなオレの長髪を肌に張り付け、不快感を増す。
 依然としてプレッシャーは後ろからたたきつけられてくる。
 バルクホルンはそこにいる。 オレの後ろに。

 こっちがこんなに苦しみながら回避機動取ってるのに、なんでついて来れるんですか!
 っていうかついてくんな! オレの尻を狙うな!
 オレの尻の純潔は墓場まで持ってく事に決まってんだよ!
 それに、パンツ隠しのためにせめてタイツ欲しいんだけど、買う前にここに連れて来られたからオレ今パンモロなんだよ!
 っていうか病院着の上にコート一枚です。 何処の変態だよオレ!
 パンツ見んなこのすけべお姉ちゃん!

 ああ、糞ッたれ、これならどうだ!
 自分の後方にシールドを張りながらストライカーユニットを振って急制動をかけ、ついでに後方にMG42をめくら撃ちでばら撒いてやる。
 片手で、しかも肩や逆手での保持とかぜんぜんしなかったので、さぞや頭の悪い撃ち方に見えたことだろう。
 三回ほどオレがシールドで防御したときと似たような音が遠くから聞こえてきたが、そんなの意味無いのだ。
 速度が一時的に揚力に変換され、少し浮いたオレの下をバルクホルンがシールドを張ったまま通過していく。
 よ、よっしゃ、なんとか後ろ取った……!
 このまま加速して相手を抑えつつ有利な位置キープでお願いします……!
 
 ……そんなことを考えてた時期が、僕にもありました。
 Me262の加速の無さを失念しておりました。
 お姉ちゃんは悠々と距離をとった後、華麗にスライスターンで方向転換。
 なんとか追いつきつつあったオレも果敢にシザース勝負に挑んだわけですが、余裕で競り負けました。
 
 ああ、もう、無理ゲー過ぎるぞこれ!
 なんかガン○ムVSザ○って感じだ。
 ちなみにオレが○クです。

 っていうか、なんで撃墜数オーバー250のエクスペルテンとドッグファイトしなきゃいかんのだ!
 終身撃墜数300機以上だぞ?
 世界第二位だぞ?
 そんなの相手にオレが後ろ取るとか本気で無理ですから!
 あれ、しかもこれ訓練の勝敗条件は教えてもらってるけど、オレの試験の合格基準って何なのよ!? 
 くっそ、エーリカの野郎……もとい女郎!
 桃色吐息だけじゃなくて、夜のドッグファイトとかやってやろうか、性的な意味で!?
 ああもう糞ったれが!
 
 いや……ちょっと待て、ドッグファイト?

 ユニットを振り回し、ユニットに振り回されながら思考する。
 落ち着け、オレ。
 慌てるお馬鹿は貰いが少ない、親父やお袋もそういってただろう?
 オレは馬鹿で慌てやすい。
 だけど、貰いが少ないのは納得いかない。
 なら無理にでも落ち着かなきゃ駄目だろうよ!

 MG42を胸に抱え、銃身を額に打ち付ける。
 痛い。
 そして冷たい鉄の感触。
 ほとんど弾を放っていない鋼の塊は、魔法によって保護されているオレとは違い、高空の冷たさをその身に帯びる。
 それは、打ち付けた痛みを上書きするほどの冷たさだ。
 その冷たさで、痛さで、無理やり心を静めていく。

 ロジカルに考えろよ、オレ。

 そもそも、自分がバルクホルンに敵う訳が無いのだ。
 相手は歴史に残る予定のスーパーエースで、オレは多少フライトシュミレーターが得意なだけの凡人である。
 ついでに、あっちが使用しているのは、フォッケウルフだかメッサーシュミットだか、どっちだか忘れたが、ドイツが生んだ傑作機。 のストライカーユニット版。
 こっちのMe262は、最新鋭機と聞こえはいいが、欠陥だらけの発展途上機だ。

 さらに、射撃精度も段違いだ。
 オレは機関銃なんて撃ったの今日が初めてです。
 反動は魔法による増強のお陰かびっくりするほど小さかったが。
 それでも狙いをつけるとか本当無理です。
 ついでに言うなら、無理な体勢で無理矢理シールドを展開した所為かどうか知らないが、やたら体力が消耗している。
 さらにさらに言うなら、なんか火傷の影響か左目が霞んできやがった。

 機体性能、ウィッチの技量、知力体力時の運。
 勝っているところは何も無い。
 ある一点を除いて。
 
 オーケイ、これしかないよな、やっぱり。
 Me262ならこれしかない。

 そう、速度しか無いのだ。

 腹をくくろうぜ、オレ。
 バルクホルンと軸が少しずれた瞬間、下を見る。
 はるか眼下には広がる大海原。
 そこに向かって――落ちる!

 バルクホルンは当然追いかけてくる。
 そりゃそうだ、同じように重力加速をつければ距離は離されない。
 むしろ直線的な機動に移ったオレは、通常の格闘戦なら負けが確定しているだろう。
 
 肩越しに後ろを見やる。
 あまり速度を減ずるようなことは出来ない。
 大きな一本の柱を抱くように体を回しながら落下。
 シールドは最低限の展開に留める。
 
 海面が視界いっぱいに迫ってくる。 
 あとは速度を維持したまま引き起こして……逃げきるッ!



***Side Witches***

「速い!」

 シャーリーがテラスの手すりから身を乗り出してヴィルヘルミナの機体を注視する。
 ヴィルヘルミナの機体はゆっくりと、しかしまるで天井知らずの様に加速を続けた。
 もはやトゥルーデをはるかに引き離して、それでもさらに加速を続けている。

「おいおい嘘だろ……ルッキーニ! ちょっと、速度計測器貸して!」
「うにゃ……? 終わったの~?」
「いいからはやく!」

 枕にされていた速度計測器をルッキーニから奪い取り、計器に垂れていた涎をテーブルクロスでふき取ってから、周波数をヴィルヘルミナに合わせた。
 まだ寝ぼけているルッキーニ以外の全員が、シャーリーと、彼女の持つ機械に詰め寄る。

「830……840……すごい、まだ上がってる!」
「信じられませんわ……」
「うわ……シャーリーの記録を大幅に上回ったな」
「わ……すごいです」

 シャーリーの使用するストライカーユニットはP-51D。 ノースリベリオン社の作り出した、リベリオン製ストライカーユニットの中でも快速を誇る傑作機だ。
 マスタングの最高速度は700km/h。
 彼女は魔力の分配比率を変更し、もはや自身にしか扱えないほどのピーキーなセッティングと引き換えに、さらに速度を出せるように自ら調整している。
 それでも、800km/hに届くか届かないか、というのが限界値だ。
 それ以上に至るには、彼女自身の魔法技術である”加速”を使用しなければならない。

 しかし、彼女が先ほど見損なったカールスラントの新鋭機は、そのはるか上の速度で飛んでいる。

「……あ、870で止まった……いや、ちょっと下がってる……でも」

 シャーリーが視線を向けた先では、ヴィルヘルミナが、戦闘空域のほぼ端でやや高度を上げながら悠々と大きく旋回していた。
 大きく旋回するのは速度を殺さないためだろう。
 それでも、旋回中、しかも高度を上げている最中は速度は上がらない。
 今や、テラスの全員が、ヴィルヘルミナがどこまで速く飛べるのか、ということに集中していた。

 旋回と海面3000メートル程度への上昇を終えたヴィルヘルミナはトゥルーデを捕捉したらしい。
 海面2000メートルあたりを飛んでいるトゥルーデへと、緩降下しながら一直線に飛翔する。

「また上がり始めた! 890……900……!」
「……古くて機械故障してんじゃないのか?」
「あたしもそれを疑いたいけど、こいつはつい一昨日使ったばっかりなんだ。
 あたし自身の速度計測のためにね」

 その日も記録をやや伸ばしたのだが、それに駄目出しするの?
 そう目で聞いてくるシャーリーに、エイラは悪い、とだけ返した。

「910……止まりましたわね、でも、これほどの速度差があると」
「ああ……トゥルーデでもヤバイかもしんないな。
 雲もないから隠れらんないぞ」
「そんな……バルクホルンさんが」
「リーネさん、速度差があると言うことは、自分の得意な距離に簡単に入れさせてもらえないと言うことですわ。
 ですから私たちは優速を保とうとし、イニシアチブを握るのです。
 速度で劣る者は技量と創意工夫……雲を利用したり、相手の死角に回り込むような機動で捕捉から逃れるのですわ。
 それも、此処までだと……並のウィッチでは対応できずに一方的になぶり殺しにされますわよ」
 
 通常、空戦では相手より30km/h早いだけで優勢を保てるという。
 当然、ウィッチの実力や諸々の要素により、それは絶対ではない。

 だがこれはどうだ。
 トゥルーデの使用するFw190/D-6は最高速度680km/h程度。
 だが、ヴィルヘルミナのMe262A-1aは現在それを遥かにしのぐ900km/hで飛んでいる。
 200km/h以上という驚異的な速度差は、二人の間の実力差という圧倒的な溝を埋めて余りあった。

 
 トゥルーデの右やや上方から襲い掛かったヴィルヘルミナは、MG42の射程よりすこし外側から射撃を開始。
 多くの弾丸は当然当たらず、また至近弾もトゥルーデが余裕を持って展開したシールドに弾かれる。
 ヴィルヘルミナはそのまま銃撃を続け、相手に防御と回避を強要しつつ脇を通り過ぎるように通過、離脱した。
 トゥルーデも体を回し追いすがろうとしたが、たった数秒で、ヴィルヘルミナの姿は彼方へと飛び去っている。

 
 ヴィルヘルミナは速度を高度に変えるように、再び上昇しながら旋回。
 速度を高度に変えても、依然として従来機を凌駕したままだ。
 トゥルーデもなんとか追いすがり、高度を取ろうとするが。
 その絶対的な速度差は如何ともしがたい。

「あんなのずっこい!」

 ようやく目を覚ましたルッキーニが、その光景を見て文句を言った。

「……そうだな、でも……」
「ええ。あの戦い方じゃないと駄目ですわ。
 むしろアレ以外では無理です。
 ルッキーニだって解りますでしょう?」
「ううー……そだけどさ~」

 部隊最年少でも、空戦に関しては天才的なセンスを持つルッキーニだ。
 エイラとペリーヌが言いたいことはよくわかる。

 圧倒的な速度を最大限生かした一撃離脱戦法。
 旋回性能も加速性能も平均より劣るヴィルヘルミナのストライカーユニットの武器は、速度しかないのだ。
 そして、戦いに置いて自分の得意な武器を使うのは、当然のことである。


 戦闘は続く。
 あれからさらにヴィルヘルミナは突撃を繰り返し、、今5回目の一撃離脱が終わっていた。
 ヴィルヘルミナが一方的に攻撃しているように見えたが、実際の所トゥルーデはその巧みな回避機動により、シールドをほとんど張らずに済んでいる。
 ヴィルヘルミナも、トゥルーデも有効な打開策が見出せぬまま、状況は膠着の兆しを見せていた。
 
 また暫くはヴィルヘルミナが旋回しているだけだろうと思い、エイラは視線を空から地上に戻した。
 意地の悪そうな笑みを浮かべてシャーリーに問いかける。

「ふふん。 どうだシャーリー、面白いことになったろー?
 ……おい? 聞いてんのか?」

 返事がないのをいぶかしんでみると。
 シャーリーはまるっきり恋する乙女の目で、飛翔するヴィルヘルミナを見ていた。 
 正確にはヴィルヘルミナの着用しているストライカーユニットを、だったが。
 その側で、シャーリーに無視されてぶーたれているルッキーニを、リーネが必死にあやしていた。

 コリャダメダ、とエイラはお手上げのポーズをして、ため息一つ。
 再び視線を空に向ける。
 数分前まではまるで面白みが無いと思っていたのだが。
 面白い余興だったから、後でサーニャにも話してあげよう。
 今ではそんなことを思っていた。

 数瞬後。

「バルクホルン大尉が動きましたわ!」

 戦況が動いた。
 再度突撃軌道に入ってくるヴィルヘルミナに対し、トゥルーデは進行方向を彼女にあわせる。
 そのまま加速。

「ヘッドオンか……確かにアレなら速度差もあまり関係ない、でも」
「下手すると相打ちだし、あの速度で正面衝突は正直想像したくないですわね」
「やっちゃえー! バルクホルンー!」

 トゥルーデが勝負に出た。
 誰もがそう思った。
 そして、誰にも勝者の予測は出来なかった。
 戦っている本人を除いて。


***Side Wilhelmina***

 来たか。
 これしかないよな、オレもそう思う。
 全くの素人のオレが貴女みたいなスーパーエースとここまでやれてるなんて、夢みたいだと思う。
 このストライカーユニットの性能におんぶにだっこして貰ってるのはよくわかってる。

 今のオレは無様だ。
 戦闘の緊張からか。
 まだ身体が完全に治っていないのか。
 ドッグファイトをしていた時よりも、精神的には楽なはずなのに。
 頭痛がする、冷や汗が止まらない、全身が疲れてものすごい怠い。
 左目は霞んでもうよく見えないし、さっきから自分のはぁはぁ言う声が五月蠅くてたまらない。
 だから、勝負をかけてきてくれたのは、オレにとっても非常にありがたい。

 いくぜ。
 この交差で勝負が付かなかったら、オレは多分負ける。
 体力的に無理だ。
 今ですらほとんど根性と意地で飛んでるような物だし。

 意地。
 そう、意地だ。
 エーリカがどうとか、501部隊の女の子達がどうとか、それもある。
 だけどな、男が一度勝負事に本腰入れたら、諦めるって選択肢はないんだよ!
 男の子にはな、意地が有るんだよ!
 身体は女の子でも、オレは28年男やってきたんだ! 

 加速。
 ヘッドオンだ。
 お互いが正面から弾丸をばらまきあって、交差する、相打ちも珍しくない状況。
 バルクホルンがシールドを張りながら真正面から突入してくるのが見えた。
 こちらもシールドを展開し、MG42を構え、撃つ!
 最初の突撃から何度も感じだ、重機関銃相応の射撃音と増強魔法故か不相応な反動。

 弾丸が嵐のごとくはき出されていく。
 脳内麻薬が一気に分泌され、認識が加速する。
 バルクホルンのシールドにペイント弾が着弾し、巻き上がる火花の一つ一つまで見える気がした。
 こちらのシールドに着弾。
 バルクホルンのMG42だ。
 だがそれも数瞬で終わる。
 どうした、弾切れか?
 ドッグファイトの際散々撃ってたからな。
 同時に、こちらの射撃音が変質。
 何かを弾くだけの、軽い音へと変わる。
 オレも弾切れか。
 糞、引き分けか!
 一矢報いれなかったのが心残りだが。
 この勝負、次の機会に預ける……!

 お互いシールドを張ったまま接近しあう。
 軌道をやや下に。 衝突を防ぐためだ。
 バルクホルンの軌道がやや上に向くのが見えた。
 よし、衝突はしない。
 そのまま交差しようとした瞬間、バルクホルンと目があった。

 まだ、戦っている目だった。

 え、なんで。
 引き分けじゃ。
 頭上を通り過ぎるバルクホルンを肩越しに視線で追いかける。
 そして、オレは信じられないモノを見た。

 バルクホルンが大きく左腕を振り。
 両足を跳ね上げ。
 空中で片手倒立するように、姿勢を変えていた。
 脇に挟まれしっかりと固定されたMG42が。
 未だ戦意を燃やすその瞳が。
 オレを狙っていた。

 は、ははは!
 阿呆かオレは!
 ヘッドオンは交差して終わり、それは戦闘機の話だろうが!
 オレ達が使ってるのはストライカーユニットで、戦闘機じゃない。
 多少無茶すれば、無理な姿勢制御が出来るってのは自分でもやったじゃないか。
 いや、それ以前に。
 お互い弾切れで、引き分けだと、安易な想像に走ったのが。
 そこで、気を抜いてしまったのが。

 オレの、敗因か。

 MG42の銃口が光を放ったと思った瞬間、両足のストライカーユニットに軽い衝撃が無数に走った。
 見るまでもない。
 濃緑色の機体に、鮮やかなオレンジ色が盛大にぶちまけられているのだろう。

 今のオレにはそんな物を見ている暇はない。
 視線の先にはやはり無茶な姿勢制御だったのか、失速してやや高度を落としながらも即座に体勢を持ち直したバルクホルン。
 やっぱり、人は自分よりも上の存在に憧れるんだろう。
 惚れた腫れたとかじゃない。
 純粋に、凄いなと思わせてくれた彼女を、見ていたかった。

 見ていたかった、のだが。

 ふう、と気を抜いた瞬間。
 あれ、なんかエンジンの回転音が下がってきましたよ?
 というか止まりそうですよ?

『ヴィルヘルミナ機、撃墜判定。
 これにて状況を終了します。
 無線の封鎖を解除。
 ご苦労様、帰投して頂戴』
『了解、バルクホルン、帰投する。
 バッツ……いや、ヴィルヘルミナ、その、なんだ……』
「……バルクホルン」
『……以前のお前とは全く違う飛び方で……本当なんだなと思った』
「バルクホルン」

 いや、あのね、バルクホルンさん、そんなことはどうでも良いんです。

『だが、今の戦いでわかった。
 お前はやっぱりヴィルヘルミナなんだと』
「バルクホルン」
『私は――聞こえている、ヴィルヘルミナ!
 というかこっちが話している最中だろうが』

 いや、なんか大事そうなことを話してくれているのはよくわかります。
 空気の読める子ですから。
 でも、大事なのは、空気を読んでなお何を言うかだと思うんだ。

 というわけで。 
 ごめん、フレームアウトしそうです。
 というか今した。
 再起動したいがMe262はその、アレがアレしてアレなので、あとオレの技量がアレいので再起動前に海に墜落しそうです。
 さて、せーのっ!

 たぁぁすけてぇぇえっぇぇぇぇっぇ!!!

「助けて……くれ」
『は? お、おい? 何、フレームアウトしたのか!?
 さ、再起動しろ! いや、あれだけ起動に時間がかかるから無理なのか!?
 ええい、今行くぞ!』

 助けてお姉ちゃぁぁぁん!



***Side Witches***

「ふう……あわただしいこと」

 ミーナは指揮所でそのやりとりを聞いて呆れかえっていた。
 なんとも緊張感のない。
 まぁ、それもこの部隊らしいわね、と思える辺り相当毒されてきているなと彼女は思った。
 何時も冷静で生真面目なトゥルーデがああまで取り乱したりするのも滅多にないのだし。
 根を詰める事の多い彼女のガス抜き役としても、ヴィルヘルミナというウィッチはシャーリーに次いで役に立ってくれそうだった。

「それにしても……フラウの期待に応えてくれたわね、彼女」

 この模擬戦を提案したのはエーリカだ。
 今は部屋で思いっきり爆睡しているだろう彼女はこう言った。

 ヴィルヘルミナは色んな事を、飛び方を忘れている。
 でも、飛ぶ意味はきっと覚えている。
 飛び方さえ思い出せれば、彼女は大丈夫だ、と。
   
 思い出させる方法として、模擬戦を選ぶ辺り相当の荒療治であり、賭であった。
 ろくに説明をせずにストライカーユニットを装着させ、戦闘を行わせる。
 もし潜在的なトラウマが表面化してしまえば、下手をすれば彼女は一生空を飛ぶことが出来なくなるかも知れなかったのだし。

 現に、離陸の際にミーナは聞いている。
 ヴィルヘルミナの荒い息遣いと、飛べ、飛べ、と自分に言い聞かせている声を。
 ミーナは見ている。
 本来なら魔法陣を利用すれば離陸の際の助走距離や速度はほとんど意味がない。
 初期速度を無視すれば、地上静止状態から垂直上昇すらできるのだ。
 それでも、滑走路のほぼ全てを使用するまで彼女は飛び立てなかった。

 彼女は緊急離陸直前に爆発に吹き飛ばされ、重傷を負ったのだ。
 そのことを本人は覚えていないそうだが、身体や潜在意識が覚えていてもおかしくはない。
 今回のことでそれを乗り切ったと考えるのは早計だろうが、不安要素として小さくなったのは確かだ。
 
 そして、戦闘。
 実際の所、ヴィルヘルミナはよくやっていた。
 トゥルーデは本気でやる、等と言っていたようだが、何カ所か手抜きしている様子が見られた。
 それでも前半戦、ドッグファイト中に彼女が撃墜されなかったのは評価に値する。
 戦闘の記憶を失っていながら、トゥルーデの戦意をたたきつけられても酷いパニックに陥らなかった事もある。

 そしてドッグファイトを切り上げ、速度戦に持ち込んだ判断。
 ヴィルヘルミナにも、トゥルーデにもMe262の詳細は説明していない。
 そして、彼女は離した距離を仕切り直しに利用するのではなく、即座に一撃離脱戦法に切り替えた。
 つまり、ヴィルヘルミナはMe262の特性を戦闘中に思い出したと言うことだ。
 エーリカの読みが当たっている。
 
 その後の展開は見ての通りだったし、全般に於いて銃器やシールドの扱いは雑だったが。
 優位に立ったからと言って油断せず、自分が取りうる最善の戦法を彼女は取り続けた。
 堅実に、歴戦の戦士のように。
 もっとも、それに固執するようであれば、それは問題となるのだろうが……今回はいい、とミーナは考えていた。

 思考する。

 そこそこ戦う事が出来、勇敢で、新鋭機を扱うことが出来るウィッチ。
 そして、その実力は欠けてしまっている――すなわち、これからも上昇する。
 ヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツ中尉は第501統合戦闘航空団にとって有用である。
 そう判断する。

 ふ、と微笑み、司令官としての打算に満ちた思考を断ち切る。
 そして、想う。

 ヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツ。
 エーリカとトゥルーデの友人であり、彼女たちが信頼を置く人物。
 記憶を失い、重傷を負いながらも、その小さな体躯に、恐怖に負けない、友を思う心を持ったウィッチ。 
 きっと彼女は、私たちにとってもかけがえのない友となってくれるだろう。

「……ヴィルヘルミナさん、貴女を歓迎します」

 きっと、もうすぐ本人に直接伝えるであろう言葉を呟きながら、ミーナは格納庫へと向かった。



***Side Erika***

 私は、ずっと開いていたカーテンと窓を閉めた。

 自分の知っているヴィルヘルミナの機動ではなかった。
 自分の知っているヴィルヘルミナの戦い方ではなかった。
 
 自分が知っていた彼女はもう居ない。
 だけど。
 それは終わりではない。 
 始まりなのだ。

 失われてしまった思い出は帰ってこない。
 でも、これからもっと楽しい思い出をみんなで作っていけばいい。
 この501航空団には、トゥルーデやミーナだけじゃない。
 たくさんの愉快なやつらが揃っているのだから。

 欠伸をひとつ。
 眠いけど、寝るわけにも行かない。
 欠伸の拍子にこぼれた涙を拭き取って、いつもの服を着る。

 さあ、格納庫へ行こう。
 トゥルーデと、ついでにヴィルヘルミナを迎えに。



-----------
やべぇ。戦闘シーン書くの楽しい。
あ、別にバルクホルンが主人公にフラグを立てたとかそういうのじゃないので悪しからず。
というかヒロイン居るのかこのSS。

エーリカ視点とか超無理ぃ。
誰か才能をください。
ポリタンク一杯分くらい。

人数大杉! もっと少なくしておけば良かった!
リーネとルッキーニに注ぐ分の愛が足りねぇよ!
次回全員登場するけどどうすれば良いんだ。
死ぬか。

超欠陥浪漫機体Me262。
このSSの8割はMe262に対する熱いパトスで出来ています。
主人公最強じゃないよ!
同機種同武器対決やったら主人公が一番弱いんだから!



[6859] 05
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/02/27 11:34
05 「おっぱいと医務室」

***Side Wilhelmina***

「そら、バッツ、着いたぞ」
「……助かった」

 マジ助かりましたバルクホルンさん。
 あざーっす!
 たぶん模擬戦の中で一番怖かったです。
 重力加速を得るための落下のときはそんなに感じなかったけど……高度数千からのパラシュート無しフリーフォール……もう二度と経験したくないね!
 思わず漏らす所だった。
 洒落にならんわ。
 
 格納庫前に降り立つ。
 いやぁそれにしても恥ずかしかったね。
 お姫様抱っことかされてしまった。
 で、まったくお前は……とか呟きながらすげぇ優しい顔でこっち見てくんのこのバルクホルン。
 滅茶苦茶ドキドキしたけど、俗に言う釣り橋効果だとおもうので睨み返しておきました。
 べ、別に好きになったわけじゃないんだからね!

 はいはいつんでれつんでれ。

「まったく、ヒヤッとしたぞ。
 気を抜くと簡単にフレームアウトするとは……だが、カールスラント軍人たるもの、常在戦場の心構えでいなくてはならん。
 今度からは気をつけろよ。 さ、降りるんだ」
「ああ……気をつける」

 アスファルトで固められた滑走路に足をつける。
 起動していないストライカーユニットが硬い音を立てて接地。
 おそらく、歩行時の衝撃吸収用なのだろう内部機構が小さな音を立てた。
 ……案外普通に立てるもんだな。

 バルクホルンが担いでいたオレの訓練用MG42を受け取ったところで、耳に足音が届いた。
 視線を向ける。

「ミーナ………………中佐」

 おおっとあぶねえ階級付け忘れるところだった。
 なんかこの人おっかないよなぁ……きっと身内以外には「修正してあげるわ!」とか言ってんだよ!
 親父にもぶたれた事ないヤツとかぶん殴ったりさ。
 ほら、立ち位置的にも、もしこれが戦艦モノだったら左舷弾幕薄いよ!とか言う立場だし。

「何か失礼な想像をされているような気が……」
「何を言っているんだミーナ?」
「???」

 勘鋭いよ!?
 とりあえず何言ってんですか、的な表情はしておいたけどこの体になってから妙に表情筋が動いてくれなくて困る。
 いや、よく考えたらこの身体になる前からか……
 ネットとか見てて、時々にやっ、ふふっ、とかするだけだったからな。

「こほん。 ……バルクホルン大尉、ご苦労様でした」
「は。 バルクホルン、模擬戦闘を終了し、帰投しました」
「二人とも楽にして頂戴。
 それで、トゥルーデ。 どうかしら? 彼女は」

 う……ついに試験評価ですか。
 ……前半の格闘戦はボロボロだったし、後半はそこそこだったと自分でも思うけれど、あんだけ有利だったのに負けちゃったしなぁ。

「そうだな。 実際に戦ってみた感触だと、ほとんど素人だな。
 後方にシールドは張るし、銃の照準はまるででたらめ。
 特に銃撃など、ろくに魔力すら込められていなかったぞ」

 えぇー。
 マジすか。
 っていうか銃って引き金引くだけじゃ駄目なんですか……
 良い勝負してたと思ってたのはオレだけで実は掌の上とか……凹む。

「基本的な機動は一通り行えるようだが、どうにも歪だ。
 格闘戦の最中なんか何度か勝手に失速しそうになっていたしな」
「そうね、それはこちらでも見ていたわ」

 ……これはだめか?
 すまんエーリカ、啖呵切っときながらこれは無理っぽいわ。

「……しかし、こいつが普通のウィッチだったら、このまま訓練所に速攻送り返すんだがな」

 はい?
 バルクホルンさん、何ですかその思わせぶりな台詞は。

「ヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツ中尉。
 貴官はカールスラント空軍第131実験部隊から、当統合戦闘航空団に新型ストライカーユニットの戦技教導のために出向された。
 ……合っているかしら?」
「ああ……ん、はい。
 エーリ……ん、ハルトマン……中尉から……聞いている……ます」

 頼むから敬語を喋ってくれオレの声帯。
 明らかに真面目モードなんだからミーナさんは。

「本国に問い合わせてみたところ、貴官は教導終了後、そのまま当航空団に編入予定でした。
 人事部でもそうなるようにもう処理が終わっているそうよ。
 ……ヴィルヘルミナ中尉、貴女は戦闘訓練中に、Me262の事を思い出したわね?」
「……はい」

 途中、ドッグファイトから危険を冒してまでも離脱し。
 その後、即座にMe262に適した戦法に切り替えたものね、とミーナさんは言った。

 ああ、この人もオレが記憶障害(という設定)だって知ってるのか。
 考えてみれば当たり前だよな、多分報告を最初に受けとる人だろうし。
 いや、思い出したというか、原型機のことを知っているだけなんですけどね。
 そんな事言っても電波っ子扱いされるだけなので言いませんが。

「Me262が取るべき適切な戦闘方法と、操作方法を思い出せる?」
「……はい」

 というかこれも、ある程度は前世?知識というか。
 あとは飛行中に理解したんですけどね。
 それも、ある程度そういった以前の知識がなければ気づけなかったことだろう。
 気を抜くとフレームアウトするとかどんだけかと思いましたが。

 ミーナさんがふわり、と微笑んだ。

「ならば、私は貴女が我々がMe262の操作を習得するに当たって、有益な知識を維持していると判断します」

 ……え、ということは。

「……ようこそ第501統合戦闘航空団へ。
 私たちは貴女を歓迎します」
「またお前と共に飛べることを誇りに思うよ、バッツ」

「ヴィルケ中佐……バルクホルン……」

 ぐっ……何という人心掌握術。
 なんか涙腺に来ます。
 落としてから救済するとか……わかっていてもすごく嬉しく思ってしまう。
 しかもこれ多分計算とかしてないんだろうなぁ……

「何をほうけた顔をしてるんだお前は……」
「ふふ、意地悪な真似をしてごめんなさいね?
 こういう形式ばった物言いも軍隊には必要なのよ。
 あと、作戦中でなければ階級は付けなくていいわ」

 同郷だしね、と微笑むミーナさん。

「バルクホルン……ミーナ……ありがとう」

 うん、言葉が足りないのはわかってる。
 自分の語彙の無さに情けなくなってくる。

 でも、ありがとう、と思う。
 寄る辺のないこのオレが、一方的にとはいえ知っている彼女らを頼り。
 それを、紆余曲折はあるといえ受け入れて貰えたと言うことが。
 そして、彼女らみたいな子供に守られるだけではなく、その助けになれそうだと言うことが。
 どうしようもないほどの幸運の上に成り立っていると、思ったから。

「ありがとう……」

 ……っていうか、ミーナさんもバルクホルンもそんなにニヤニヤオレを見るんじゃない!
 今凄い良い所なんだから!
 あー、くそ、決まらないなぁ……!

「話は終わったかい?」

 んあ、この声は?

「あら……シャーリーさん、どうしたの?」

 おっぱい来襲。
 いや、すげー失礼なのは解ってるけどおっぱいしかイメージが……
 えーと他にもなんかあったような……ルッキーニの保護者?
 で、そのルッキーニは……ああ、なんか格納庫の扉の陰に隠れてこっち見てる。
 ……あっかんべーされた。
 何年ぶりだよ、あっかんべーされるとか。
 というか何かオレ嫌われる事しました?
 
「リベリアン……お前、仕事はどうした」
「今日はあたしは非番だよ。 勤務シフト表見る?」
「いや、いい。 別に疑うつもりもないからな。
 だが、どうしたんだ? 格納庫なんかに」
「いやー、それがさ!」

 そこでオレを見るシャーリー嬢。
 う、なんかやたらきらきらした目で見られてるんですが……
 ああ、この人スピード狂だっけ。

「凄いね、そのストライカー! それにあんたも小さいのに凄いよ!」
「…………」

 あ、えーと……うん、なんて言ったら良いんだろう。
 言い方は悪いが、こっちに来てからはじめてこういうタイプに会ったというか。

「興奮するのはわからんでも無いがな、自己紹介くらいするべきだろう」
「ああ、そうだった、悪い悪い。
 あたしはシャーロット・E・イェーガー。 リベリオン空軍中尉。
 グラマラス・シャーリーとはあたしのことさ!」

 胸を張る彼女。
 ……おおー、すげぇ、揺れる……なんというおっぱい。
 ストライカーユニットを履いてるのでなんとか身長釣り合っているが……
 履いてなかったらオレ、今身長すっごく低くなってるから、見上げる形になってさぞや見事なおっぱいだったろう。
 腰も細いし……男だった頃に会いたかった。
 いや、会ってるんだけどね、二次元と三次元の境界越しに。

「ヴィルヘルミナさん、貴女を病院に運んでくれたのは彼女なのよ」

 え、マジですかミーナさん。
 なんか、ヴィルヘルミナさんは海上でネウロイの奇襲を受けて吹っ飛ばされたんでしたっけ。
 ……どうも記憶が曖昧だけど、吹っ飛ばされた直後から「オレ」だった気がする。
 つまり、命の恩人だ。

「……オレを……助けてくれて、ありがとう」
「いや良いよ。 あんたが無事で本当に良かった。
 それにあたしは足が速いから運んだだけで……一番に見つけたのはそこの堅物だよ。
 その……跡は残っちゃったみたいだけどさ、命さえあれば何とでもなるしね」
「……気にしてないし……それでも、ありがとう。
 バルクホルンも……」
「いや……当然のことをしたまでだ」

 今明かされる驚愕の真実。
 うん、本当にありがとうございます……
 貴女達二人には感謝してもし切れません。
 バルクホルンさんには先ほどトラウマを植え付けられた気もしますが。
 
「で、あんたは?」

 ああ、そうだな、オレも自己紹介しないと。

 ひと呼吸して心を落ち着かせる。
 今まで会ってた人たちは、前からヴィルヘルミナさんのことを知っていて。
 幸いにして、オレは自己紹介をせずに済んでいた。

 だが、ここからは違う。
 オレは、以前のオレではなくなる。
 28年間慣れ親しんだ名前を胸の奥にそっとしまい込む。
 生まれて初めて親から貰った物を捨てる訳にもいかないからね。
 ただ、おそらくは二度と使う事のない物だから。
 胸の奥の方に、大事に、大切にしまって。
 今からオレは――ヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツになる。

「……ヴィルヘルミナ。 ヴィルヘルミナ……ヘアゲット・バッツ。
 カールスラント空軍……中尉?」
「何で疑問系なのさ?」
「……彼女にも色々事情があるのよ。 彼女はカールスラント空軍中尉で、本日付でこの航空団に配属になったわ。
 正式な紹介は明日になるでしょうけど」

 あ、記憶障害は積極的には表に出さない方針ですか。
 了解しました。
 とは言っても簡単に気付かれるでしょうけど。

「ふーん……少佐がそういうなら。
 まぁ、よろしくたのむよ!」

 手を差し出してくるシャーリー。
 オレはその手を取ろうと、一歩踏み出そうとし――
 
「?」
「ちょっ!?」
「ヴィルヘルミナッ!?」
「ヴィルヘルミナさん!?」
「ヴィルヘルミナ!?」

 ぐらり、と視界が揺れる。
 あ、れ、なんだこれ、力が抜けて。
 目の前が白く染まっていく。
 そういえば、飛んでる最中から体調悪いんだった。
 あの程度の運動で体力切れかよ……

 くそ、本当に格好つかねえな。
 身体を支えようとしてくれるバルクホルンとシャーリー、ミーナさん。
 駆け寄ってくるエーリカを視界に入れながら。
 オレの意識はそこで一端途切れた。


***Side Witches***

 シャーリー、エーリカ、トゥルーデの三人は。
 医務室でヴィルヘルミナの容態を聞いて、各々安堵したり多少の後悔を胸に抱いていた。
 ヴィルヘルミナの気絶は、魔力切れと、体力低下と、精神的疲労が理由だろう、とのことだった。
 一日しっかり休めば問題なく回復するだろう、と。

 シャーリーは最初、そりゃあ病み上がりにバルクホルンにあんだけ追い立てられれば死ぬほど疲れもするだろうよ、とけらけら笑っていたが。
 医師が退室してから、エーリカとトゥルーデの表情が生彩を欠いているのに気が付いた。
 
「どうしたんだよ堅物、こんな事で落ち込むなんてあんたらしくないね。
 訓練でぶっ倒れるまでやりあうなんて、日常茶飯事だろう?」
「……ん、そうだがな」
「無茶だと解ってても、そうさせたのは私たちなんだ……
 ちょっとは責任感じちゃうよ」

 そう呟くトゥルーデとエーリカ。
 シャーリーの深いため息が医務室に響く。

「……事情を話してくれないのはちょっと気にくわないけどさ、そんなに気にすんなよー。
 こいつ、言ってただろ? ありがとう、って。
 上辺だけでそんな台詞を言う奴には見えなかったけどね、あたしには」

 そんなに悪いな、って思っているなら。
 こいつが目を覚ました時にきちんと世話してやれよ。
 先輩だろう? 
 シャーリーは笑って二人にそう言ってから、部屋を出て行った。

「トゥルーデ」
「なんだ、フラウ」
「私、ヴィルヘルミナとまた一緒に飛べるのが嬉しいよ」
「私もだ」
「今度は、私たちが色々教えてあげる番かな」
「……そうだな。 こいつには色々と世話になったからな。
 そろそろ借りを返しても良いな」

 さしあたっては、こいつの入団手続きとかな。
 そう言って、トゥルーデは微笑んだ。




 ―余談―

「しかし、もし軍人としての規範も忘れているとしたら……フラウ、お前には任せられんな」
「えー、どうしてよー」
「馬鹿者! お前のようにずぼらな奴を手本にしたらヴィルヘルミナまで堕落してしまうだろう!」
「ひどーい、トゥルーデおうぼーう」
「まったく、お前は自分の日頃の行いを胸に手を当てて思い出してからだな……
 っ、私の胸じゃない、自分の胸だ!」
「あれ、トゥルーデちょっと大きくなった?」
「ばっ、ばっ、ばかものーっ!?」

「医 務 室 で は お 静 か に !」

「す、すまん」
「ごめんなさーい」


 お後がよろしいようで。



----------
短いなぁ……このくらいだったら前回にくっつけても良かったかも。
ようやく1エピソード終わりました。
こっから本編の再構成に入ります。

予定を変更して全員出すのは諦めた。
もうちょっと自分の実力を考えてから展開を考えねば……

出待ちしてたエーリカ、出そびれるの巻。
主人公の気絶の理由は、魔力切れ+体力切れ。
名前変更のストレスがトリガーになりました。
気楽そうにしていても。
なんだかんだ言って、見知らぬ土地に名前と身体すら奪われて放り出されるってしんどいとかそういう言葉を陵駕しそうだよね。

シャーリーさんマジ大人。
明るくてスピード馬鹿だけど、多分部隊で一番割り切ってる。
シャーリーのイメージはそんな感じ。



[6859] 06 Raising Heart
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/02/27 11:32
Episode 1 : Raising Heart
06 「新感覚と癒し系」

***Side Wilhelmina***

「十一日前のスオムス補給船団奇襲の際に負傷したため、着任が遅れていましたが。
 彼女が、本日付で本航空団に配属となった、ヴィルヘルミナ・H・バッツ中尉です。
 通常任務は私やフラウ、トゥルーデとの訓練が大部分を占めてしまうけれど……皆さん、仲良くしてあげてね」
「ヴィルヘルミナ……ヘアゲット、バッツ。
 今後とも……よろしく」

 うん、皆の前での挨拶くらいしっかりやりたかったけど、この言語能力じゃ無理だわ。
 変人だと思われるのはまぁしかたないが、これがオレの本性じゃないんだ、解ってくれ……!

 今オレは、教室のようなミーティングルーム、壁に掛かっている黒板の前に立っていた。
 目の前にはウィッチーズの面々が座っている。
 あ、ルッキーニだけ毛布に寝転がりながら何か微妙に敵意を含んだ目でこっちを見つめている。

 うげぇ……まぁ、予想してたけど、皆美少女過ぎる。
 男だった頃にお知り合いに……と一瞬思ったが、よく考えたらこの子等ほとんどローティーンだよな。
 ……うん、もうちょっと後でいいや。 具体的には五年後くらい。
 この年頃だとみんな可愛い感じが強いからなぁ……一部を除き異性として見れん。

「今居ない人もいるけれど……みんなの紹介をしましょうか。
 今更紹介する必要も無いでしょうけど、私はミーナ=ディートリンデ・ヴィルケ。
 階級は中佐。 この航空団の司令を務めているわ」
「……はい」

 何かあったら遠慮無く言ってね、とウィンクしてくるミーナさん。
 やべぇ可愛い。 昨日怖いとか思ってすんませんっしたーっ!

「今此処には居ないけれど、副官として美緒……扶桑海軍少佐である、坂本美緒さんが居るわ。
 今、彼女は扶桑に新しいウィッチをスカウトしに行っているの。
 彼女には戦闘隊長も務めて貰っているから、彼女が帰ってきたら色々相談しないとね」
「……はい」

 坂本さんですか。
 多分帰ってきたら芳佳さんと一緒にめっちゃしごかれる予定です。

 ミーナさんが視線で、最前列に座っているバルクホルンとエーリカを促す。

「ゲルトルート・バルクホルンだ。 階級は大尉。 今更自己紹介するのも何か不自然な気もするが……改めてよろしくだ、バッツ」
「エーリカ・ハルトマン。 中尉。 また楽しくやろうね」
「ん……」
「ヴィルヘルミナさんは、欧州戦線で彼女たちと同部隊だったの。
 それに、昨日の模擬戦で、トゥルーデの相手をしていたのも彼女よ」

 ミーナさんの捕捉に、カールスラント勢以外がへぇ、と声を漏らす。
 うん、今君たちが何を想像したかは予想が付くが、それは現実とは大いに剥離した想像だから考え直すように。

 あと、エーリカ。
 今オレが履いてるサイハイソックスはお前の私物で。
 貸してくれる、というのはほとんどの私物や生活用品が船と一緒に沈んだらしいオレにとっては非常にありがたい事だが。
 てめーのおっぱいを揉みまくるという復讐、オレは忘れた訳じゃないからな……!

 ちなみに上はバルクホルンの姉ちゃんのです。
 15cmも身長差があるとずいぶんだぼだぼですが、余り肌を晒したくないオレにとっては助かります。
 お給料入ったら私服とか制服とか、なるべく丈の長いの貰おう……

 あーくそ股がすーすーするぜ……
 タイツも買おう。

 では次の方お願いします。

「わたくしはペリーヌ・クロステルマン。 ガリア空軍中尉。
 バルクホルン大尉やハルトマン中尉と共に戦っていたというのは、頼りになりそうですわね。
 よろしくお願いいたしますわ」
「……うん」

 うん、それ無理。 頼らないでくれ。
 あとごめん。 こんな喋り方なんです。 眉をひそめないでください。
 っていうかペリーヌ、普通に挨拶できるのな。
 作中だとツンデレが強調されてたけど普通に普通の子だった。

「わたしはエイラ・イルマタル・ユーティライネン。 スオムス空軍少尉。
 こっちはサーニャ・リトヴャク。 オラーシャ陸軍中尉」

 うつらうつらしているサーニャを支えながら挨拶してくるエイラ。
 エイラーニャは相変わらず仲が良いですね。
 あと棒読みですね。
 というかサーニャはあれだな、昼間はずっと寝ッ放しな感じだな。
 オレが昨日正午頃気絶して、今朝5時まで爆睡してた理由であるところの魔力切れの所為もあるだろうけど。
 寝過ぎてちょっと頭痛いのは秘密だ。 

「昨日の模擬戦、格闘戦はダメダメだったけど、その後の速度は凄かったな。
 新型使いらしいけど、あんま機体に振り回されてんじゃないぞー?」
「……大、丈夫……」

 大丈夫です、既に振り回されております。
 っていうか、Me262で格闘戦して落とされなかったオレの運の良さをほめて欲しいね!
 一生分の運を使い果たしてる気がして仕方ないんだけどね。

 次、おっぱい二号こと、リーネちゃん。

「あ、と……リネット・ビショップです。
 ブリタニア空軍所属、階級は軍曹で……ついこの前配属されたばかりです。
 よろしくお願いします……」

 ……あー、暗いね、そういえば自信ない子だっけ。
 目線あわせてくれないし。
 いや、左目の周りの火傷と、微妙な無表情が怖いのは解るけどね。
 確かに修羅場慣れしてそうにないしなぁ……
 フォロー入れとくか。

 こんな面だけど、オレも新参だから何かと仲良くしような!
 にっこり~

「すまん……こんな……顔だけど……よろしく」

 ……
 ガッデム!!
 なんかオレめっちゃ威圧してない?
 っていうか多分片唇つり上げて嘲笑ったりしてるよ、オレの表情。
 ひっ、とか小さく言われたよ! 涙目だし。
 泣ける。
 もうオレ下手なこと言わない方が良いよなぁ……でも練習しないと改善は見込めないし。

「まぁまぁ、そんな睨んでやるなって」

 お、次はシャーリーさんですか。
 フォローあざーっす。
 良いおっぱいですね。

「あたしはもう自己紹介したよね。
 シャーロット・イェーガー。 出身はリベリオンで階級は中尉。 シャーリーで良いよ。
 いやぁ、それにしてもあの速度は凄かったねぇ! 背はちっこいのにさ」
「背は……関係なく……ない?」
「あっはは! そうかもね、まぁあたしより若いんだしこれからだろ?」
「ヴィルヘルミナはこれでも17歳で、私やシャーリーより年上だよ」

 一杯食べなきゃな、と言いかけたシャーリーに対し。
 エーリカがそう発言した瞬間、部屋が凍り付いた。
 いやー、そうだろうな。
 オレ、身長とかルッキーニとほとんど変わらないしな。
 17だと成長期も終盤だしこれ以上伸びないんじゃね?
 
「ほ、本当? 中佐?」
「……事実よ、シャーリーさん」
「あー、ええと、悪いことを聞いちゃった……かな?」
「……気にしてない」
 
 事実だ。
 別に身長なんて高いところのモノ取りやすいかどうかだけだし……
 身長高いと靴のサイズ大きくなって値段上がったりするしな。

「あ、でもさ、確かヴィルヘルミナって結構胸おっきかったよね」

 ――風が、吹いた。
 
 その早さは、後に聞いた彼女の使い魔たる黒ヒョウを容易に想起させるモノであり。
 にわかに立ち上がりかけた、歴戦の勇士たるエイラを超え。
 彼女はその双腕を伸ばした。

「……なッ!?」

 胸の辺りに圧迫感と。
 まるで体験したことのない異様な感覚が走る。

 一瞬で後ろを取られた。
 ……殺られた、と思った。

「おー……さーにゃんよりおっきい」
「なんだって!?」
「なんですって!?」

 あ、その、ルッキーニさん、貴女何を。
 あと、エイラが驚くのは解る。 何でお前まで驚くんだペリーヌ。

 う、あー!
 と、いうか、揉むな。
 こねるな。
 つねるな!
 う、ぐぎぎぎぎぎぎぎ、死ぬ、殺される、この、感覚は
 オレの男が殺される……ッ

「おい、ルッキーニ、いい加減にしないか!」
「えー? にひひー、いいじゃん、ちょっとくらい。
 でも背はアタシと同じ位なのに……ずるい!」
「あらあらまあまあ」

 助けてお姉ちゃん!
 ミーナさんは当てにならないから!
 オレの心のライフはもうゼロよ!
 ……あ、もう無理。
 
「……ふぇ」

 意識したらもう無理。
 ああ、年甲斐もなく涙が勝手にぼろぼろと……
 うううう……

「う……ぐっ」
「え? あれ?」
「ルッキーニ!」

 もうやだー! おうちかえる!
 おうち帰って寝る!
 変な趣味に目覚めないうちに帰って寝るのー!


***Side Witches***

 まさか、胸を揉まれて泣き出すとは思っていなかったが。
 その場で皆に慰められて、ルッキーニが素直に謝ったことで場は収まり。
 むしろ、口調や顔に残った火傷の跡からくるその堅い印象が泣き顔で崩れたためか、ウィッチーズの面々もヴィルヘルミナに接しやすくなったようだ。
 と、ミーナは感じていた。
 
 今はヴィルヘルミナは自室待機中であり。
 他のウィッチ達が各々の任務に就いている中、カールスラントの三人は今後のための話し合いをしていた。

「結局の所……誰がMe262を使用するか、よね」

 ミーナが呟き、手元の書類をのぞき込む。
 トゥルーデの署名が為されたそれは、スオムスからの補給の納入書だ。
 ネウロイに襲撃された補給艦艇の損耗は激しく。
 回収できたユニットは、ヴィルヘルミナが装着していたMe262A-1a/U4を除けば、半分の2.5機だった。
 訓練用の複座型も片足分しか回収できておらず。
 補修部品はほとんど回収できていない。
 1機を予備機、片足分しかない訓練用複座型と制式型を緊急時のパーツ取り用に取っておくなら、実質三人の内誰か一人しか使用できないことになる。

 操縦技術に難のあるヴィルヘルミナにBf109かFw190を使用させ、Me262を他の二人で運用する案も考えられたが。
 むしろ、彼女がMe262を使用し、その圧倒的な性能で生存率と戦闘力の底上げを行うべき、というトゥルーデとエーリカの意見により、これは破棄されていた。
 それに、Bf109やFw190ではまた荒療治で操作方法を思い出させなければならないかも知れない。
 技量と運と勘が生死を分ける最前線である。
 訓練ですり切れてしまっていては元も子もないのだ。

「私は戦場に出る際は戦闘指揮官としてだから……ストライカーユニットの戦闘力は二人ほどは必要ないかしら」

 ミーナの魔法技術は狭い範囲ながら、周囲の敵味方の位置・速度情報を三次元的に認識するというものである。
 現代で言う戦域管制であり、彼女自身は指揮官と言うこともあり積極的に戦闘には参加しないでいた。

 逆に、バルクホルンやエーリカはその速力と戦闘力を生かしての前衛――いわば切り込み役である。
 戦ってなんぼの役割であり、速力や魔力増幅率は高ければ高い方が良い。

「私は別に良いかなぁ……ヴィルヘルミナが持って来てくれた機体には興味有るけど……あまり小回りの効きそうな機体じゃないし」

 増速ならシャーリーほどじゃなくても魔法で出来るしね、と。
 眠たそう言うエーリカに、トゥルーデが応える。

「……となると私か。
 私としては、一通り全員で一機をローテーション組んで使用してみるのも悪くないと思うんだが……」
「トゥルーデはアレと実際やり合ったから解るでしょ? どうなの?」
「実際に使用してみないと解らないし、ヴィルヘルミナも万全の状態ではなかったようだから、確信はないが……
 起動は遅い、加速は悪い、旋回性能は低い。
 あの様子だと魔力消費も高めだろうな」
「駄目ユニットじゃん、それ」

 その通りだな、とエーリカの言を肯定し。
 だが、と否定する。

「あの速度。 あれが全ての欠点を帳消しにするだろう。
 ひとたびトップスピードに乗りさえすれば、遊撃役や囮役として戦場を引っかき回せる。
 魔力増幅率の高さもあるから、重火器も装備出来る……高速打撃戦力としては既存機体の追随をゆるさないだろう」
「そうすると、大型相手にはヴィルヘルミナさんともう一機……今の段階ではトゥルーデね、がロッテを組んで先行、攻撃を行い敵の目を引きつける。
 足止めと誘引を行っている間に私たちが有利な位置に展開し、勝負を決める……と言った感じかしら」
「でもそれだと二人の負担が大きすぎない?」

 トゥルーデは兎も角、ヴィルヘルミナには難しいのではないか、と。
 エーリカは問う。

「あいつの勘を信じる……と言いたいところだが、楽観はできんな」 
「今後の訓練次第……かしら。
 一度思い出し始めれば後は早いって聞いたことがあるし……」
「んー……」
「どうかしたのか、ハルトマン」
「いや、なんでもない」

 そうか、とトゥルーデが応え。
 それじゃあ、とミーナが続けた。

「……とりあえずMe262は全員が触ってみる事にしましょうか。
 ローテーションを組んで、とりあえず今日はトゥルーデで……明日がエーリカ、その後が私。
 いいかしら?」
「うん、いいよー」
「かまわない」
「トゥルーデ、ヴィルヘルミナさんに基地を案内してあげて。
 その後、そのまま訓練に入って頂戴」
「了解した」

 では、そういうことで。解散。
 ミーナのその言葉で、席を立つ音が三つ響く。
 
「あ、フラウ、ちょっと良いかしら」
「ん? どうしたの、ミーナ?」

 トゥルーデに続き部屋から出ようとしたところを止められ、振り向く。
 足音が、遠ざかっていき。
 聞こえなくなる。

「……言い留まってくれて、ありがとう」
「本当は……トゥルーデが守ってくれれば安心なんだけど、さ」 

 負担はこれ以上増やせないから。
 未だに妹の事を引きずる友のことを、もっと上手く支えてあげる事が出来れば、と。
 少女二人は、思った。


***Side Wilhelmina***

 耳のすぐ側で重低音が響き、肩を起点に全身を衝撃が貫く。
 構えた機関砲から放たれた洩光弾は、光っている為か驚くほど簡単に目で追えた。
 海の彼方に飛んで、消えていく。

「……どう?」
「駄目だな。 元々命中精度に難があるとはいえ、此処まで外れるといっそ清々しい。
 左にかなりずれた」

 双眼鏡を覗きながらバルクホルンがそう伝えてくる。
 そらそうだ……っていうか、魔力の補助があるからって1kmくらい離れた1m四方のターゲットに当てれるか!
 そりゃあ空戦ではそれくらい簡単に離れることも多いだろうけどさ……
 それにこれ、軽くなーれ魔法(オレ命名)つかってもなんか重いし……反動は強いし……
 ストライカーユニットの補助がないと厳しいんじゃないか?

 先ほどから射撃訓練に使用している機関砲。
 Mk108と呼ばれるたそれは、口径30mm、重量60kg、長さ1.3mという、長大で巨大な凶器だった。
 ……いやあんた、ジョギングしながら出番待ちしてるリーネの対戦車ライフルより口径でかいじゃない。
 サイズも今のオレの身長に匹敵するくらい大きいし。
 胸のサイズは無理ですけどね!

 何をしてるかって?
 あの後、バルクホルンに軽く基地内を案内して貰った。
 まぁまさかオレも胸を揉まれたくらいで泣けるとは思っても見なかったが……男の自尊心を打ち砕く、何とも凶悪な攻撃であった。
 うう、恥ずい……思い出したくない……年甲斐もなく泣くとかマジ恥ずかしい……死にたい……穴があったら埋まりたい……
 で、でも、びっくりしたんだからしょうがないじゃないか!

 げに恐ろしきはルッキーニ……まるで気配がなかったぞ。
 ああ、あとは芳佳さんがおっぱい魔神だっけ……前途多難だなぁ。

 で、案内して貰った後。
 滑走路のはじっこで絶賛射撃訓練中なのである。

 オレの立場としては、この基地にMe262の操作教導訓練の為に来ているわけで。
 ついでに言うなら記録上、オレは普通にベテランウィッチなわけだ。
 射撃訓練など実力維持の為に行う物であり、今更積極的に行っても劇的な能力向上があるはずはない。

 が、実際は、オレはそんな歴戦の勇士ではなく、その中に入っている全くのど素人。
 確かに基礎体力は男だった頃とそんなに変わらない……一部は上、というのが子供とはいえ流石軍人の身体、と思うのではあるが。
 技量はそうもいかない。
 よって、書類上、現在オレはバルクホルンにMe262の操作教導をしているはずであり。
 実際はバルクホルンに射撃の指導を受けているというわけだ。
 書類上の飛行時間と実際の飛行時間に余り齟齬が出ても問題があるから、もうしばらく撃ったらMe262の方に行くけどね。

「もう数射してみろ。 魔力を込めるのを忘れるなよ」
「……ん」

 思い出しかけた胸の感触を必至に振り払って、集中する。

 機関砲に、意識の枝をからみつけていくイメージ。
 そして、弾倉の辺りで枝を練り上げ、結実させる。
 ……と言う感じらしいが、いまいち上手くできてる自信がない。
 まぁ、バルクホルンからコメントが無い以上、上手くやれてる……と信じよう。

 彼方にある米粒以下の大きさの的を睨む。
 魔力による増強のお陰か、多少ズームして見えたりするのが不思議だ。
 巨大な機関砲の底部にある、取って付けた感満載のショルダーストックを肩に当て、照準と照星をあわせた。
 ……えーと、風がこういう方向に吹いていてさっきはあの辺を狙って左にずれたから……うーん、この辺か?

 爆音。
 爆音。
 爆音。
 爆音。
 今度は4発連続して撃つ。
 うー、反動で肩痛ぇ。
 まぁ魔法って便利よね……生身でこんなサイズの大砲抱えて撃ったら吹っ飛んじゃうよ。
 というかそもそも重くて持てねぇ。
 それに、響く砲声で耳が痛くなってもおかしくないはずなのに、別に何ともありません。
 インカムの所為かね。
 あと、このケモ耳って別に音が良く聞こえるとかじゃないのね……聞こえてたら今頃悶絶してそうですが。

「命中弾1、至近弾1……駄目だな、姿勢が特にぶれている訳でもないのに思ったより集弾率が悪い……砲身が短いせいか」
「……そう」
「この砲での遠距離狙撃は諦めた方が良いな」
 
 っていうか当たったことの方が驚きです。
 うーん……この調子だと大型目標に叩き込む位にしか使えないか?

「じゃあ次はMG42だな。 機関銃にしては集弾率、命中精度も高いから今度はまともに当ててくれよ」
「……うん、はい」

 世界中でパクられまくった傑作機関銃の登場です。
 これで命中率悪かったら超恥ずかしいね……頑張るとしますか。


 20分後。


 超恥ずかしい……結果には、まぁならなかったけど。
 うーん、8割くらい……かなぁ?
 本当はダメなんだけど、左目使わずに照準した方が当たりやすいね。
 やっぱり火傷の関係で視力落ちてんのか……?
 三次元認識力が下がるし、視界は歪むし、純粋に視界が狭まるから片目を閉じて射撃しない方が良いって聞いたんだけど。

「……こんなものか。 リネット軍曹! もういいぞ」
「は、はぁい」
「返事を延ばすな!」
「はいっ!」

 やべぇカールスラント軍人厳しすぎる。
 走り終わった直後で息も整わない子に言う言葉じゃねえ。
 坂本さんより厳しくないか……?

 うーん、しかしこのまま飛行訓練に行くのもアレだな……
 リネット放置しちゃうし。

「……少し、見てって……良い?」
「別に構わんが……リネットの射撃を見ても自信をなくすなよ」
「い、いえ、私なんかの射撃を見ても……」
「……トゥルーデ……先に行って……準備」
「! わ、わかった」

 双眼鏡を手渡し、バルクホルンは格納庫の方へと去っていった。
 やべ、勢いでトゥルーデって言っちゃった。
 なんかビクっとしてたけどまぁいいか……あとで絞られるかな。

「あ、あの……ご指導お願いします」
「……気に……するな」

 ……うん、ちょっとフォロー入れとこうかと思っただけなんだけど。
 よく考えたらこの子芳佳と一緒に初戦果取るまで超ダウナー系なんだよな……
 今オレが何を言っても届かないだろうし……
 あああああもう、オレの考え無し!
 お馬鹿ー!
 どうすんだこれ!


***Side Witches***

 滑走路脇にはいつくばり、射撃姿勢を取りながら。
 リネット・ビショップは緊張の極みにいた。
 ぼそり、とヴィルヘルミナのつぶやきがリネットの耳に届く。
 
「……外れた」
「……ッ」

 三射目。
 当たらない。
 いつもより調子が悪い。
 知らない人に見られているためか。
 
 リネットは伏射の姿勢のままちらりと横に立っている人物を見る。
 ヴィルヘルミナ・バッツ中尉。
 怖い人だ、と思う。
 可哀想な人だ、と思う。

 左目から左頬の周辺と、襟口から覗く火傷の跡が残る肌。
 身長は低いが、自分よりも年上だといい。
 そして表情に乏しく、ぶっきらぼうな話し方をする。
 ルッキーニに胸を揉まれて泣いていたが、この人の本質は、今隣で振りまいているような堅いモノなのだと。
 リネットは思った。
 
 坂本美緒のように、わかりやすいものでなく。
 ミーナのように、穏やかなわけでもなく。
 訓練所の教官達のように、トゥルーデのようにただ厳しいわけでもない。

 ただ、淡々と告げてくる声は、彼女にとって初めての経験であり。
 
 緊張に耐えかねた心が、弱音を漏らす。

「……駄目ですよね、私」
「……」
「訓練では、何時も上手く出来るのに、実戦になると本当に駄目で……
 訓練でも、今日はなんだか駄目で……」

 吐露する。
 胸に溢れる、薄暗い劣等感が口の端からこぼれ落ちていく。

「……わたし、役立たずなんで」
「リネット」

 プラスチックが、コンクリートに触れる音がする。
 ヴィルヘルミナが、リネットの傍らに双眼鏡を置いた音だ。
 ああ、見限られる。
 そう思ったリネットの耳に聞こえてきたのは
 
「……リネット。 料理は……するか?」
「はい?」

 全く関係のない単語だった。

「……料理はするか?」

 何言ってるんだろうこの人、と思いもするが。
 律儀に返事をする。

「え、ええと……失敗は多いですけど、できます……」
「お前の……母親が……料理を、失敗……したことは?」
「え……あ、有ったと思いますけど」
「……リネットは……調理場の、全部の、道具を……使ったことが……ある?」
「え……いえ、多分使ったことのない道具もあると思います」
「……その使ったことのない道具は、役立たずだと……思うか?」
「……いいえ」

「ああ……何時か、きちんと使われる時が来る」

 それまでは、いざその時に錆びて使い物にならないように、日々の手入れを欠かさないように。
 そう告げて、ヴィルヘルミナは格納庫の方へと小走りに駆けていった。

「ええと……励ましてくれた……のかな?」

 なんだか要領を得ない、要点の解らない話だったが。
 ため息を一つ。
 気を取り直して、銃を構え、風を読み、魔力を込め、よく狙い、撃った。

 銃声が海に響く。
 
 双眼鏡で確認すると、的のど真ん中が打ち抜かれており。
 リネットは、心が少し軽くなった気がした。
 


------
遅くなってすいません。
っていうか公式サイトが! アニメ二期か!? 二期なのか!?
始まる前に完結しないと!

オリ主だから説教しないとね!
説教しないオリ主はオリ主じゃないと聞いたので。

オリ主、泣くの回。
ルッキーニは乳揉み魔! エイラも揉みたい派!
なんかルッキーニだけ自己紹介してないけど有耶無耶になってるだけで実際にしてないです。
ルッキーニは、なんかジェットエンジンの音が嫌いっぽいので。
ジェットストライカー使いのヴィルヘルミナにはちょっと敵意があります。

……全削除してしまった感想から。
小咄に出来そうだった質問があったのですが、私生活で時間的余裕がなさげなので此処で回答。
ヴィルヘルミナの使い魔は白毛のジャーマン・シェパード。
使い魔設定無視してるわけでなく、むしろ中の人が彼のことを見れないので、無視してます。
そんな状況でも、ヴィルヘルミナに力を貸してくれる忠義篤いわんこ精霊です。
……でも小説媒体持ってないから、使い魔の実際の扱いがどんなのか知らないという暴挙なので引き続き出てこない方向で。



[6859] 07
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/02 15:09
07 「噴流式と猫」

 ***Side Witches***

「……絶対に……全力をそそいでは……駄目」
「……分かった」

 格納庫。
 ストライカーユニットの懸架台で、Me262を装着したトゥルーデは、しかしその制御に苦戦していた。
 主機の制御の勝手が違う。
 それが最大の理由である。

 装着した時は、やや時間がかかるな、くらいの印象を彼女に与えたに過ぎなかった。
 彼女や、ほかのウィッチが使用しているストライカーユニットは、装着に5秒もかからない。
 大き目の筒の中に足を突っ込む。
 慣れてしまえば、文字通りその程度の行為であり、そういったユニットしか装備してこなかった。
 Me262はその点、やや抵抗があるか、と思わせたのみである。

 起動も、思っていたよりは簡単に行えた。
 ヴィルヘルミナが起動するまでに二分弱かかっていたので、初期起動魔力によほどのものを要求されるか、と覚悟していたのだが。
 たしかに初期起動に必要な魔力は大きいものであったが、トゥルーデにとっては特に問題はなかった。
 魔力適正の高さもあるのだろうが、少し拍子抜けしてしまった。

 問題なのはここからだった。

 Me262は、絶対に、地表付近でスロットルを全開にしてはいけない。
 ヴィルヘルミナがまず真っ先にトゥルーデに伝えた言葉だった。
 曰く、エンジンが溶けるとの事だったが、魔道エンジンは別に何かを燃焼しているわけではない。
 ウィッチの魔力を吸い上げて、増幅し、各種術式を任意駆動する補助具の役目を果たしているだけなのであり。
 通常のストライカーユニットが持つプロペラも、実際は発動される飛行魔法が大気中のエーテルと干渉する際に視覚的に輝いているに過ぎないのだ。

 通常、ストライカーユニットは離陸時に主機をフルスロットルで回転させる。
 推力を得るためであり、カタパルトの役目を果たす魔法陣を展開するためであり。
 魔力増幅を行うためであり、エーテルの濃度がやや薄い地表での出力を確保するためである。
 
 また、トゥルーデが主に使用するユニット、Fw190/D-9は。
 繊細で癖のある操作性のBf109に対し、より実戦的なユニットを目指してフラックウルフ社が開発したユニットだ。
 生産も比較的容易で、整備性もよく、機構にも冗長性のある、いわば多少荒っぽく扱っても問題がない機体。
 その癖さえ把握すれば高い性能を発揮できるエース好みのBf109と好対象に、非常に慣れやすく、扱いやすいユニットで。
 Bf109を優雅なサラブレッドにたとえるなら、Fw190は戦場を駆ける軍馬である、とは設計者の言だった。

 ヴィルヘルミナの言葉を、無理をするなという忠告と受け取ったトゥルーデはまず、全力の五割ほどの魔力を流し込む。
 そして、驚愕した。
 まるで手ごたえがない。
 いや、主機は起動し、甲高い吸排気音を立てている。
 しかし思った以上に出力が伸びない。

 なんだ、と気を抜いた瞬間、主機の回転音が低くなった。
 慌てて、魔力を全力で注ぎ込んだところで。
 まるで底なし沼のようにMe262がその全力の魔力を飲み込んだところで。
 魔力計を見ていたヴィルヘルミナに、強制停止させられた。

 何かまずかったか、と問うトゥルーデに、ヴィルヘルミナは再び答えたのだ。
 エンジンが、溶け落ちると。
 意味はいまいち不明瞭だったが、言いたいことはなんとなく理解できた。

 あのまま全開で魔力を注ぎ続けても、出力は伸びなかっただろう。
 そして、魔力を使い果たしたトゥルーデは半日ほど寝込むのだ。

「ん……これは……思ったよりも厄介だな」
「……焦るな……落ち着いて……」
「ああ、分かっている」

 それから十分ほど、噴流式エンジンの扱いを試行錯誤しながら。
 トゥルーデは思考する。
 力んでしまえば魔力は勝手に流れ、かといって力を抜きすぎるとフレームアウトする。
 焦ってしまえば魔力を無駄に吸い取られるという始末だった。
 一体どうすればいいのか。

「やらせておいてなんだが、バッツはよくこんなものを記憶のあいまいな状態で扱えたな」
「……オレは……臆病だから」

 水道の蛇口を、少しづつ、少しづつ捻るように。
 真っ暗な夜道をおっかなびっくり進むように。
 初めて触るものだったから、と。
 ヴィルヘルミナはぼそぼそと語った。

「なるほど。 既存の機体に慣れすぎて、そういった感覚は忘れていたな……」
「……一度……適正高度に、上がれば……そんなに気にしなくてもいい……」
「そうか……確か、噴流式ストライカーはエンジンで飛行術式を駆動するのではなく、大気中のエーテルを吸入・圧縮噴射して推力を得るんだったな」
「…………」
「つまり……ええと、停止時から低速時には魔道エンジンの出力のみでエーテルの吸入と排気を行うため、推力はほとんど得られない……
 一定高度・速度を出せば、エーテル吸入量が自動的に増え、推力が伸びる、ということか。
 なるほど、まるで飛び方が違ってくるな……これは副座練習機が必要なわけだ」
「…………うん」

 一瞬考え込んだヴィルヘルミナに一抹の不安を覚えたものの。
 理屈と、ヴィルヘルミナが伝えたコツのような物さえ分かれば、あとはトゥルーデは歴戦のウィッチである。
 それから10分もしないうちに、起動と低回転数での維持をマスターしてしまった。

「ん……よし、起動に時間がかかりそうだが……慣れてしまえば一分前後、といったところだろうな」
「……速い」
「いや、それでも遅いが。 即応性に疑問が残るな。
 警戒網がしっかりと機能してくれればいいんだが……」
「……たしか……専属の、護衛機を……上げて……離陸を、援護させながら。
 起動と……離陸を、していたような」
「護衛機……それはまた大仰なことだ。
 それにしても、少しは思い出したのか?」

 かすかに眉をひそめて考え込んだ様子をしたヴィルヘルミナに期待したものの。
 彼女は首を振り。
 その様子が、トゥルーデに、先は長そうだな、と呟かせた。

「まぁいい……急かす様なことを言ってすまんな。
 少し、飛んでみるか。 副座機でお前に補助してもらいながらが理想なんだろうが、無いものはしかたない。
 バッツ、お前もストライカーを装着して……ああ、念のためだ、 パラシュートはあそこの棚にある。
 私の分とお前の分、付けていこうか」
「……うん」

 パラシュートなんて単独初飛行の時以来だ、と苦笑するトゥルーデの横で、ヴィルヘルミナが小さな体で動き回っていた。



***Side Wilhelmina***

 いてぇ。
 
「大丈夫か、バッツ。 それにしてもなんというか……随分と派手な着陸だったな?」
「……痛い」 

 痛みがあるならまだ生きてる。 よかったな、とか言ってくるバルクホルンさん。
 なめてんのかこの……! とか思ったけどうん、痛いって言うのはマジ大事だよね。
 トラックに跳ね飛ばされた瞬間とか痛くなかったもんね。
 今思うとあれは怖いわ。

 着陸後の減速に失敗して、格納庫の中までオーバーランして。
 盛大にずっこけまくりました。
 MTBの前輪になんか挟まって回転止まって、そのまま前に投げ出された時位びっくりしたし痛かったよ!
 っていうかスピード結構出てたはずだけど、痛いで済んでるのは魔法による保護のおかげですか……魔法便利すぎる。

 で、一時間半ほどバルクホルンと一緒に飛んだけど、やっぱりこの人すごいわ。
 最初の10分で二、三回ストールしかけた以外はすげぇスムーズに飛び回ってやがんの。
 何その才能。 嫉妬するし憧れてしまう。
 旋回半径オレより小さいし……「トルクが無いな……だがそれならそれでやりようも有る」とか言ってるし。
 くそ! 歴史に残るエースと凡百の差がこれですか!
 キャーおねえちゃーんかっこいい!
 何でこの人と戦って10分以上生き残ったんだろうオレ。

「ほら、いつまで逆立ちしているつもりだ……お前もカールスラント軍人だろう、しっかりしろ」

 逆立ちしてるんじゃなくて逆さまに壁に張り付いてるんですけどね。
 あと純粋に疲れた。
 体力というか、なんだろう……魔力? みたいなのガンガン吸われるんですもの。

 あ、手差し伸べてくれた……これが飴と鞭か。

「……ありがとう」
「気にするな」

 立たせてもらって。
 そのあと、全身の間接を動かしてみる。 問題なく動いた。
 うん、よかった。 背中のパラシュートが無かったら即死だった……もとい体をもっと強く打ってたかもしれん。
 なんだかんだ言って女の子の体だからな、あんまり無理しないようにしないと、どっかで大失敗するかもしんないな。

 とりあえずバルクホルンもオレも空中でパラシュート使うような事態にならなくてよかった。
 だってオレパラシュートの使い方知らないしな!
 飛び立ったあとに使い方説明してもらってないの気づくとかオレ駄目人間過ぎた。

「機動性能は概ね予想通りだったな……低速時の加速の伸びが悪くて、小回りもFw190に比べると利かない。
 無理矢理旋回しようとすると途端にスピードが落ちる。
 だが、あのトップスピードは……慣れればこの上ない武器になるな」
「……うん」

 ですよねー。
 速さは力です! 戦闘は速度です!
 STGとかと違って範囲火力が無い空戦の世界では速さイコール力なのです!
 まぁ、リアル指向のゲームでもたまに散弾ミサイルとか空気読んでないトンデモ兵器が出てくるけど、あれは、ああいう荒唐無稽さも面白さの一つだしね。

「それに、お前の飛び方も昨日よりはマシになっていたな」
「……バルクホルンが、居たから」
「そう謙遜するな。 悪くなかったぞ?」

 ちなみにオレ、バルクホルンの右斜め後ろに付いて飛んでいました。
 なんか本来なら教導役が長機を務めるそうなんだが、オレが一緒に飛ぶのってフレームアウトした時のためと、機動中に変な事したときに警告するためだからなぁ……
 この人そんなの要らなかったし。

 というわけで後ろからバルクホルンの足捌き、体捌きをたっぷりと見学させてもらいました。
 ……ぱ、パンツなんか見てないんだから! 本当だよ!
 空の上では誰も見ていない、とか嘘だよ坂本さん。
 僚機から丸見えだよ。

 とにかく、オレは飛びながら、パンツでなくバルクホルンの足捌きや体捌きを見て、真似する事で。
 なんとかついていけたわけです。
 やっぱ見本があると参考になるわー。
 でも結構無理やり動かした感もあるから、きっと明日筋肉痛とかあるんだろうなぁ……

 とか何とか思っていると。

「よ! お二人さん。 相変わらず惚れ惚れするスピードだったね。
 ねー、ちょっとで良いから、あたしにも使わせてくんない?」

 ……うーん、このおっぱいヴォイスはシャーリー嬢か。
 よく格納庫で会うなぁ。

「またかリベリアン……貴様まさか狙ってここに来ているのか?」
「まさか。 非番だった昨日はともかく、今日はこのあとルッキーニと飛行訓練だよ。
 で、話を戻すけど……駄目?」
「駄目だ。 一応国家機密に関わるからな」
「相変わらずかったいなぁ……多国籍部隊の基地に持ってきておいて、機密も糞もないだろうに。
 それに中見せてくれって言ってるわけじゃないだろう?」
「とにかく……駄目なものは駄目だ。 それに第一」

 ……なんでそこでオレを見るのさ、バルクホルン。
 いやな予感が。

「Me262の管理責任は今のところミーナとバッツの連名になっている……聞くなら私じゃなくてこいつにするんだな」

 ほわっつ!?
 いや、管理責任者て。
 記憶障害者にそんな役職おしつけてんじゃねー!
 Me262に何か不都合が起こったら全部オレの……いや、連名だから半分はミーナさんの責任か、になるじゃねーか。
 ……いや、本当はオレ個人が責任者だったけど、オレの記憶障害設定のおかげでミーナさんも面倒事ひっ被ってんのか?
 ちくしょー、実年齢より若い子に尻拭いて貰ってるとか……
 早いとこ勉強なり何なりしないとオレのなけなしのプライドが傷つく一方だぜ。

「お、そーかいそーかい! というわけでヴィルヘルミナ、駄目?
 同階級のよしみでさー。 おっぱい触らせてあげても良いよ?」
「何だそのふざけた提案は……バッツ! お前も何つばを飲み込んでるんだ!」
「……ごめん、バルクホルン」

 いや、だって、あーた……うーん……この質量は、なんだ、すげー魅力的なんですが。
 たゆーんて。たゆんて。
 漫画の中だけかと思ってたら世界は広かった……井の中の童貞大海を知らず。
 あーうー、どうしようかなー。
 これが美人局に引っかかる心理か!
 色仕掛けに引っかかるとか馬鹿だろ……とか思ってたけど、目の前に餌を吊されると厳しいモノがある。

「どーだい、あんたも身長の割りには大きいらしいけど、あたしには敵うまい……ふっふっふ」
「お前という奴は……第一、まだお前たちの飛行訓練までは10分くらいあるだろう!」
「ああ、そうだった。 悪い悪い……本題はこいつだよ。
 ん、あれ、どこいった? ルッキーニ?」

 ルッキーニ?
 う、なんか背筋がぞくってした。
 軽くトラウマっぽいかも。

 そういえば、この格納庫の梁の上にルッキーニの巣が一個あったよなぁ……
 と思って見上げてみると。

「!」
「……」

 居たよ。
 なんか、梁の上の毛布に寝転がってこっち睨み付けてます。
 猫みたいだ……というかまるっきり猫だ。

「あー、あんな所にいたか。 ほら、ルッキーニ、下りて来いよ」

 またあんな所にあいつは……とぼやくシャーリー。
 うーん……なんでそんなにオレ嫌われてるんだろう。
 むしろ唐突に胸を揉まれたオレの方が嫌って当然の気もするんだが。
 いや、子供のすることだし、オレもびっくりしただけで怒ってないけどね。

「んー……ああ、そういえば二人とももう飛ばないんだよな?」

 頷くオレとバルクホルン。
 というかこれ以上飛べとか言われたら空中でへばってまたフレームアウトする自信があるね。

「じゃあ悪いんだけどさ、エンジン落としてくれない? なんかあの子その音が苦手らしくてさ」

 ……あーあー。
 そういえばウォーロックのジェットエンジンの音、嫌いとか言ってましたね。
 子供特有の、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い理論で嫌いなのかと思ってたら、普通に苦手なのね。
 と言うわけで魔力の供給を止めると、エンジン音が途端に弱まり、バネの音と共に太ももの装甲板が開いた。
 バルクホルンも、まったく……子供かあいつは、とか言いながらエンジンを落とす。

「ほら……ルッキーニ! 約束しただろー、ちゃんと挨拶するって」
「はぁーい……」

 うわ超嫌そう。
 梁の上からひょいとオレの目の前に飛び降りてくるルッキーニ。
 そのままじっと見つめ合う。
 ……あ、目逸らされた。

「ホントはこんな子じゃないんだけどね。 昨日の模擬戦で、あんたの飛び方が気にくわなかったみたいでさ」
「下手……だった?」

 いや、ごめんなさい……ルッキーニのお眼鏡にかなわないとはドンだけ酷い機動してたんだ。
 自分では良い線行ってたと思ったけど、所詮いっぱいいっぱいの状態だったしなぁ……

「酷かったな」
「まぁ……要努力?」
「へたっぴ」

 ……うわーん!
 みんなして言わないでも良いじゃないか!
 泣ける。
 いいもん! 凡人は凡人なりに頭使ってなんとかしてみせるもん!

「堅物、お前さりげなく一番酷い……おっと、違う違う、そうじゃなくてさ。 トップスピード出してからだよ」
「そうそう! あんなのずるい!」

 噛みつきそうな勢いで言うルッキーニ。
 あと、どうでも良いけど指さすな。

 しかし……ずるいて。
 いや、確かに……そうなのか?
 圧倒的という言葉すら生ぬるい優速を生かしての一撃離脱戦法は、今オレが思いつく、Me262唯一にして最高の攻撃法だ。
 既存のストライカーユニットは大型ネウロイより多くの場合高速で、こちらも一撃離脱戦法がよしとされている。

 だが、ストライカーユニット同士ではそれほど速度差が付くこともなく、また多少の速度差も技量でどうこうできる範囲のものだろう。
 そして発生するのは奇襲からの一方的な打撃か、格闘戦の末の決着、と言ったところだろう。
 そこに突然、技量差を容易に覆す機体が現れたら……確かに反則だなぁ……
 基本、ウィッチの敵はネウロイだから、模擬戦は半分くらいスポーツ感覚だろうし。
 怒るのも理解できる。
 誰だって競輪場に突然バイクが乱入してきてオレTUEEEEEE!!! したら怒るだろう。
 しかしその状況で負けるオレって一体……

「ごめん……」
「バッツ?」
「バッツ中尉、べつに謝らなくても……」
「オレは……弱いから……ああいう、風にしか、飛べなかった……
 ……ルッキー……ニ。 機会があれば……飛び方を……教えて欲しい」

 ……半分計算で、半分本音な、発言。
 飛び方は教えて欲しいし、凄い切実な願いで。
 ずるいと思ったのも、たしかで。
 そして、こういう風に言えば子供っぽいルッキーニはきっと乗ってくるわけで。
 黙って聞いてる大人二人。 
 あー、今オレすんげーずるい大人だわ。
 自己嫌悪。

「……うん、いいよ! あ、あと! シャーリーにそのストライカー貸してあげて!
 シャーリー、頑張ってたのに、突然現れてもっと速いの履いてるなんて……ずるい!」
「ルッキーニ……そんなことお前は考えなくて良いの!」

 えー……それが本音ですかルッキーニ少尉。
 真面目に考えたオレが超恥ずかしいじゃないですか。
 あーうん、まぁ、いっか。
 別に履かせて減るもんでも無し。

「えー、だってー」
「それとこれとは話が別だろう、ルッキーニ!」
「バルクホルン大尉の堅物ー。 おっぱいは柔らかいくせにー」
「胸は関係ないだろう胸は!? 第一、言っているだろう……ほらバッツ、言ってやれ」
「……いい、よ」
「ほらバッツもこう言って……バッツ?」

 眉間にすげーしわを寄せて睨んでくるバルクホルン。
 ごめんね、でも、こうするのも良いと思うんだぜ。

「別に……使っても良いけど……いくつか、条件が……ある」
「へぇ、結構話がわかるね。 バルクホルンと一緒の隊だって言ってたから同じくらい堅物かと思ってたけど……実はエーリカ寄り?」

 それには速攻首を振らせて貰う。
 あの適当すぎるアマと同列に考えられるのも困る。
 ちくしょー、ホントにどうやって揉んでやろうか奴の胸……いや、今はそんなことより。

「使うのは……オレと、だれか、もう一人の……立ち会いの元で……。
 絶対に……一人で飛ばないこと。
 暫くは……オレと、カールスラントの皆が……ローテーション組んで、訓練……するから。
 その後に……なるぞ?」

 まぁこんな感じなら妥当だろう……どうよバルクホルン?

「……あと、これは当然だが、無断で勝手に触ったりいじったりするなよ、リベリアン」
「……それも……追加」
「当然。 泥棒猫みたいな真似は絶対しないよ」
「ありがとヴィルヘルミナ!」

 満面の笑顔で抱きついてくるルッキーニ。
 あーうんうん、可愛いね。
 やっぱ仏頂面より笑顔向けられる方が嬉しいし。
 身長差がほとんど無いから結構支えるの大変だけど。

「まったく……何か問題があった時はお前が困るんだぞ、バッツ」
「まさか……シャーリーの腕か……起動や、飛行中に……煙を吹くと……思ってる?」
「……それこそまさかだ。 こいつはいいかげんだが腕は確かだし……
 作っている場所が変わったとはいえ、カールスラントの技術力は世界一だぞ?」
「なら、後は……人材が、傷つかないように……すればいい」

 そいつはどーも、とニヤニヤするシャーリー。
 やれやれ、ミーナには報告するからな、と額に手を当ててうなるバルクホルンに。
 ありがとう、と伝えた。

「まぁ、仲も良くなったところで、ほら、ルッキーニ」
「あ、うん! アタシ、フランチェスカ・ルッキーニ!
 ロマーニャ空軍所属で、階級は少尉! よろしくねー」
「……よろしく」

 うん、これでいい。
 
「話もまとまったところで、ほら、デブリーフィングでもやってきな。
 あたし達は訓練にはいるからさ」
「言われなくてもそのつもりだ」
「あ、そうそう、ヴィルヘルミナ。 お前さんの料理、期待してるからなー。
 エーリカは茹でジャガイモだし、この堅物は適当な煮込み料理だったし……あ、そういえば中佐の料理も食べてないな……」

 ……何、そんなイベントあったっけ?
 あー……納豆? 納豆イベントか?
 さりげなく芳佳さんが来るのを楽しみにしています。
 白米! 納豆! みそ汁! 和食に飢えるオレ!

「適当な煮込み料理じゃない、あれはアイスバインという歴としたカールスラント料理だ」
「適当に肉と野菜切って煮込んだだけの代物じゃないか」
「そういうお前が作ったのはハンバーグと野菜をパンに挟んだだけの物じゃないか」
「あれは良いんだよ、そういう料理なんだから!」

 仲良いですね。
 しかし、カールスラント料理……そんなもん作れんぞ?
 オレのレパートリーは主に和食だからな……しかし、和食、じゃなくて扶桑料理なんて作ったら明らかに怪しいし。
 うーん……あ、材料さえあればどうにか出来る……か?
 近所にあったオーストリア料理出す軽食屋に通った記憶を思い出せ……むむむ。
 オーストリアもドイツも料理の質は大差ないだろう……隣接してるし、気候も似た感じだし。
 メニュードイツ語だったし、当時は読めねえ! とか思ってたけど、こんな所で役に立つとは……
 
「……大丈夫か、バッツ?」

 心配そうに小声で話しかけてくるバルクホルン。
 あー、うん、多分。

「大丈夫……」
「覚えているのか?」
「うっすらと……だけど」
「……まぁ、食べられるものを出せよ」

 手伝うとか無いんですね。
 まぁ、そんな手間暇かける物じゃないから、焦がしたりしなければ大丈夫だろう……

「お、結構自信有りそうだな……楽しみだな、ルッキーニ」
「うん!」
「大抵のモノは厨房に置いてあるから、あとで確認しておくといいよ」
「……わかった」

 それじゃあ、と。
 二人はストライカーユニットの懸架台へと歩いていった。

「ほら、バッツ。私たちも行くぞ。
 デブリーフィングの後、座学だ」
「……ん」

 さて、お勉強しっかりして……みんなの負担を減らせるように頑張りますか!



---------

料理フラグと、ルッキーニと仲良くなる回。
あと、シャーリーの好感度UP、バルクホルンの好感度Down。
しかし、お姉ちゃんの好感度はちょっとやそっと下がった位じゃ問題ないレベルなのだ!
戦友設定万歳!

ルッキーニのイメージはこんな感じ。猫っぽ。
あと、シャーリーとルッキーニの関係のイメージも。
この辺も、一般的な認識との齟齬はそんなに無い……と思いたい。



[6859] 08
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/14 17:11
08 「天才とお料理、そして足音」

***Side Witches***

「……それで、どうだったの? エーリカ」

 翌日の午後。
 ミーナはヴィルヘルミナとの飛行訓練を終えたエーリカを執務室に呼び出していた。
 
「どっちの話? ヴィルヘルミナ? Me262?」
「両方よ。 その、両方」

 勝手に椅子に座ってくつろいでいる様子のエーリカに背を向けたまま。
 ミーナは窓から外を見ていた。
 視線の先には、滑走路脇の壁にもたれ掛かって空を見上げているヴィルヘルミナが居る。
 彼女の表情は執務室からうかがい知れるものではなかったが。
 その所作は、多少の疲れを表しているようであった。

 無理もない。
 ほんの十分ほど前まで、椅子に座ってけろりとしているエーリカと模擬戦をしていたのだから。

 今日で三日目。
 身体が覚えているのか、ヴィルヘルミナの飛行の節々には明らかに戦闘機動を意識した物を感じるが。
 今日でもう三日目。
 ミーナが地上から眺めたそれは、未だ不安を感じさせた。

「Me262だけど……昨日、トゥルーデが言ってた通りだったよ。
 癖が強いけど、思ったより悪くないんじゃない?
 巡航速度が既存機より300km/hも伸びるんじゃ……後でBf109に戻した時、振り戻しが怖いかな」

 ミーナの心情を知ってか知らずか、Me262の評価から切り出す。
 まあ、私はBf109を気に入ってるからあんまり乗り換える気はないかなー、と。
 エーリカは足をぶらぶらさせながら応えた。

「使い慣れた機体だし……そりゃあ、本国が乗り換えろって言ってくるならどうしようもないけどさ?」

 そうじゃないんでしょー、と。
 眠たげに言う。

「ええ……襲撃により補充機体の過半を損失したという報告を出したら、流石に、ね。
 ただ、エーリカかトゥルーデ、出来れば両方に乗り換えて欲しいみたいだけれど……」
「うーん……なんかあんまり好きになれないんだよね……重い、っていうか」

 レスポンスが重い気がする、と首を捻るエーリカに、そう、と ミーナは短く答えて考える。
 Me262はトゥルーデには好印象だった様だから。
 このままだと彼女が使うことになるだろう。
 尤も、その彼女も、今までのストライカーユニットとは違った操作性に戸惑っている節もある。
 今まで使用していた機体の癖が容易に抜けるはずもないので、出撃の際は暫くはFw190だろう。
 昨日の飛行や、今日のエーリカの様子を見る限り、特に問題はなさそうなのだが、実戦でそれが出ては困るのだ。

 しかしそうすると、それまでヴィルヘルミナとロッテを組む相手が居なくなる。

 戦闘になってしまえば、彼女は当然全速で戦うのだろうし、それこそがMe262の持ち味だ。
 そして、それについて行ける人材は、この部隊では同機種を使う以外ではシャーリーくらいしか居ない。
 それも彼女の魔法技術に頼り切ったものであり、多用すれば無用の消耗を招く。

 そういった意味で、彼女は問うのだ。
 ヴィルヘルミナのことを。
 しばらく、彼女を一人で飛ばせても良いのかどうかを。

「トゥルーデは、機動に関しては及第点だって言ってたけれど……どうかしら、ヴィルヘルミナさんは」
「んー、なんか、私の後ろを10秒以上取れたら胸を揉ませてくれって言ってたけど」
「……は?」

 絶句する。
 思わず膝から力が抜けて、ミーナは目の前の窓枠に手をついた。

「多分、ルッキーニの影響?」
「……まったく、あの子の行動がこんな事態を招くなんて……その、別に記憶障害って知能が下がるとかそういうのはないのよね?」
「聞いたこと無いけど。 ヴィルヘルミナって時々変なところで抜けてたから……」
「ああもう……純情な子だと思ってたらそんな簡単に影響を受けるなんて……
 コホン。 いえ、そうじゃないでしょ、フラウ。 彼女の飛び方に関してよ」
「色々問題はあるけど……悪くないんじゃない?」

 エーリカは思い出す。
 今日、彼女はヴィルヘルミナと飛行訓練を行い。
 最後の10分間で、模擬戦を行ったのだ。

 起動には手間取った。
 エーリカはトゥルーデにコツを聞いていたため、容易に制御できるだろうと思っていたし。
 ヴィルヘルミナが容易に起動させ、低速運転を制御しているのを見て、油断していたのもあるだろう。
 だが、聞くのと実際にやるのとでは、雲泥の差があった。
 しかし、実際の所、戸惑ったのはそれくらいであり。 後は割とスムーズに飛行まで持って行くことができた。
 ヴィルヘルミナから、トゥルーデよりも早くマスターしたと聞いて、少し嬉しくなったものだった。

「確かに、低速時の機動や姿勢制御はまだまだ危なっかしくて、リネットに毛が生えた様なものだけど……躊躇がないよ」
「……」
「むしろ、三日だよ。 まだ三日。
 たった三日でここまで来た……それは、記憶が戻ってきてるって事じゃないかな。 戦闘に関するのが」 
「その可能性は否定できないわね……
 あと、躊躇がない、って言ったわね」
「うん。 そこはやっぱりヴィルヘルミナなんだな、って思ったよ。
 行動に移るまでの考える時間が短い。
 だけど、本能的な、反射的な行動じゃない……ちゃんと考えてる」

 ミーナの耳に、足音が聞こえる。
 隣にエーリカが立った。
 二人の視線の先には、ヴィルヘルミナが居る。
 先ほどやってきたエイラと何かを話している様だった。

「それに、銃を向けられた時……ちょっとぞくってしちゃった。
 思わず本気で後ろ取って、そのまま落としちゃったけど」

 穏やかでない言葉の内容とは裏腹に、エーリカの顔は嬉しそうだ。
 今の彼女が昔の彼女では無いと言うことは、トゥルーデとの模擬戦を見た時にはっきりと理解している。
 それでも、ヴィルヘルミナの行動の節々に、かつての面影を見る時、エーリカは嬉しくなってしまうのだった。

「じゃあ、大丈夫そう、彼女?」
「ミーナだって解ってるでしょ。
 躊躇わないウィッチは、生き残るよ」

 撃つ時も、逃げる時も。
 躊躇わない奴の方が上手くやれる。
 エーリカはそう言っているのだった。

 二人が見守る中、そうと知らないヴィルヘルミナが立ち上がり、エイラと一緒に基地内へと向かう様子が見える。

「……観測班の報告によれば、次のネウロイがやってくるのが、恐らく明後日から明明後日。
 夕食の時に話すけれど、美緒が帰ってくるのは明日よ。
 明日、私もMe262を使って彼女と飛んでみて……美緒と話し合って、決めるわ」
「ありがと、ミーナ。 いっつも優しいよね」
「当たり前じゃない。 大切な友人の友人で……私とも、きっと良い友人になれるだろうから」

 そう、ミーナは思うのだ。
 


***Side Wilhelmina***

 滑走路脇の壁にもたれ掛かり、重い、ため息を吐く。
 雲の隙間から見える空はさわやかな青色だったが、オレの心中はむしろ周りの雲のような灰色だ。

「……何してんだ?」
「……」

 声のした方を眺めると、そこには青い服の銀髪ッ子がいた。 
 エイラか……放っておいてくれ。
 今オレは自分の才覚の無さに絶望しているところなんだ……

 昨日の飛行訓練の後の座学は、オレが独語……いや、カールスラント語を全く読めないという事が露呈してしまっただけの場であり。
 そしてそれはカールスラント三人娘にさらなる余計な負担を強要することなのだろう。
 彼女たちが話す言葉を理解できていたし、あちらもこっちの言葉を理解してくれていたから、油断していた。
 きっと、話し言葉を理解できるのは魔法か、この身体のお陰なんだろうが……なんとも不便な物だ。
 
 そして、今日の飛行訓練。
 使い魔との意思疎通が出来ない、と言うことが解ってしまった。
 っていうか、ケモ耳と尻尾、使い魔の影響で生えるのな。
 アニメでは1mmも触れられてないから知らんかったよ。

 これが出来ないと言うことは、飛行中に方位のナビゲートなどをして貰えない……らしい。
 これまでも飛行したり魔法が使えたところを見ると。
 どうやらヴィルヘルミナさんの使い魔は忠義にとても篤いらしく、声を聞いてやれないオレでも魔法の制御補助等はしてくれてるんだとか。
 ……本当にありがとうな。

 まぁ、これは良い。
 飛行の時はみんなにくっついていけば良い訳だし。
 それに、インカムからの誘導もあるだろう。

 さらに、である。
 バルクホルンの空を飛ぶセンスにも舌を巻いたが、こいつが残ってることを失念していた。
 エーリカ・ハルトマンである。

 人の言葉を曲解して、病み上がりに模擬戦させたり……ああ、いや、これはオレも半分は悪いのは理解してるんだが。
 しかもセッティングした本人である奴は、人がひいふう言ってる間ずっと爆睡してたらしいし。
 朝食の時は寝ぼけてたし、なんか雰囲気もゆるいし。
 まぁ、そんな印象のお陰で、模擬戦で後ろを10秒以上取れたら胸を揉ませろ! という半分以上本気のジョークを飛ばせるくらい油断していた。
 ……実際に空を飛ぶその瞬間まで、こいつがスコア上、史上最強(予定)のウィッチだって事を失念していた。
 
 バルクホルンだって多少苦労したMe262の起動を、この天才は一回失敗させたくらいであっさりと理解し。
 高度を十分に取った後、数分慣らしただけで、まるで数年来使った機材であるかのように自在に動かして見せた。
 それでも2回ほど急旋回しすぎて速度を落としすぎたのを見た時は安心したものだが。

 だが、最後の十分。
 軽い気持ちで始めた戦闘訓練は、オレと彼女たちの才覚の差を十二分に見せつける物だった。
 本気で落とすつもりで追いかけ、狙いを付け、撃ったはずなのに。
 弾丸自らがエーリカを避けるように飛び。
 次の瞬間、オレの後ろに彼女がいて、シールドを向ける余裕もなくストライカーに鮮やかなオレンジの花が咲いていた。

「だんまりかよ……態度悪いぞー」
「……ごめん。
 ちょっと、疲れて……」

 主にメンタルで疲れております。
 飛ぶこと自体には、三回目という事もあり慣れてきた。
 保護魔法ごしに当たる風を、気持ちいいな、と思えるようになってきたし。
 ロールしてみたり、尾翼がないストライカーでヨーの動きを再現してみたりと、飛行を工夫する余裕すら出てきた。
 危惧していた筋肉痛や関節痛も無いことに、この身体の頑丈さに感謝もする。
 
「……そか。 エーリカとの簡単な戦闘訓練見てたけど……結構苦労してるな?」
「…………うん」

 オレは、弱い。
 バルクホルンと多少渡り合ったくらいで、自惚れていた。
 二日続けて、スーパーエースの飛ぶ様を間近で見ることで、思い知らされた。

 事務も出来ず、戦うことに必要な空を飛ぶことすらもろくに出来ず。
 ただ、十以上も年の離れた子供に守られる事が我慢できなくて、此処にいる。
 まったく知らない世界で、一方的に知っている相手から離れるのが怖くて、此処にいる。

 それではガキの我が侭だ。
 オレが此処にいるためには、オレが此処にいる価値を証明しなければならない。
 そして、オレは経緯は兎も角、今はウィッチで。
 空を飛ぶことが出来、Me262を使うことが出来る。
 だが、それだけでは駄目なのだ。
 ここは、軍隊で、戦えなければ、駄目なのだ。

「……オレ、は……」
「話したくないなら別に良いぞ?」
「……」

 気、使われてるし。
 はぁ……情けねえな。

「……ユーティライネン……少尉」
「エイラかイッル、で良いぞ。 階級はそっちが上だしな。
 っていうか、別にこの部隊じゃそういうの気にする奴、いないぞ?」

 時々トゥルーデが五月蠅いけど、あいつもミーナ隊長のこと結構呼び捨ててるしな、とニヤリと笑うエイラ。 

「じゃ……エイラ」

 あ、ちょっと残念そうな顔した。
 ……イッルの方が良いのかよ。
 確かにフィンランド風ではあるが、イッルって日本人には超発音しにくいんだよ、勘弁してくれ。

「……強くなるには……どうすれば、いい」
「……そういうこと私にきくなよー」

 ……そうですか。
 っていうか露骨に面倒くさそうな顔しないでください。
 いやまぁ、確かに、昨日今日会った人間に聞く話じゃないよね。
 聞くならバルクホルンとか坂本さんとかだよなぁ……
 エイラに聞いても……というかこの人。
 確か勘がめちゃくちゃ鋭い上に未来視能力で、初飛行以来被弾ゼロとかいう、この部隊の化け物その3だった。
 聞く相手を間違えたか。

「っていうか、お前十分強いじゃん。 今まで生き残ってんだろ?」
「よく……知らない」
「なんだよそれ……はっきりしない奴だな……」
「覚えて……無い。 色んな事……」 
「もしかして……怪我の、影響?」

 頷く。
 まぁ実際知らないし覚えてないんだからしょうがない。
 なんとも難しい顔をされる……あ、そういやミーナさん、あんまりばらしたくなさそうだったけど……何やってんだオレ。

「……スオムスに居たって聞いたから、あっちのことちょっと聞けると思ったんだけどな」
「……ごめん」
「ま、そっちは気にすんな……あと最初のことも気にすんな」

 額の方に一瞬、暖かみを感じたかと重うと。
 オレの頭にエイラの手が置かれていて。

「……わぷ」

 くしゃっ、と。
 その手がオレの髪を数回かき混ぜる。

 うわ……漫画とかじゃよく見るけど、なんか実際にやられると、恥ずかしいなこれ……!
 っていうか、わぷ、とか何だよオレ、くそ、うがー!

「うお、ヴィルヘルミナ、髪の毛ふわふわだな……」
「……う、うるさい」
「見てたけど、別に悪い飛び方じゃなかったぞ?
 まるっきり素人にも見えなかったから、機体に振り回されてるだけに見えたしな。
 変な癖もないし……それに、戦いたいから此処に居るんだろ?」

 じゃ、あとはパニックにならないようにだけど、トゥルーデとあんだけやり合って何とかなってんだ、大丈夫だろ。
 そう言って、エイラはオレから離れた。

 うう、くそ、年下の女の子に手玉に取られるとか……
 変な快感に目覚めてしまいそうで、その、なんだ、困る。

「それに、今日の晩飯はヴィルヘルミナが作るんだろ?
 辛気くさい顔した奴の作った飯なんか誰も食いたくないからな」
「……うん」

 ああ、そういえばそれが有りましたね。

「……っていうか、ちゃんと作れんのか?」
「そっちは……ちょっとだけなら……覚えてるから」

 ……うん、そうだな。 まぁ確かにしけた面でご飯作ったら食材に失礼だしな。
 気分転換になるだろうし、結局オレはもう此処にいる以上、此処でやれることをやるしかないよな。
 その結果、ここから追い出されたとしても……その時はその時か。

 あー……お袋、やっぱりあんたの言ったとおりでしたよ。
 一人で悩んじゃ駄目ね。
 誰でも良いから、話題も何でも良いから適当に話さないと。

 立ち上がる。
 食材準備して、適当に調理場の配置を調べて……そろそろ下準備しないとな。  

「……エイラ」
「ん?」
「……ありがとう」
「きにすんな」
「あと……記憶のことは……」
「ん、解ったけど……じゃあ、後でちょっと胸揉ませろよ?」
「それは……駄目」
「ケチだなー」

 ……やっぱり話す相手間違えたか?
 っていうか何でこの部隊はそんなに胸に固執するんだ……

 ため息を一つ。
 今度のため息は、ずいぶんと軽い物だったと自覚出来た。


***Side Witches***

 厨房に、ヴィルヘルミナが食器や調理器具を持ち運びする音が響く。
 エイラは食堂の椅子に座りながら、小さな新入りが働く様子を何とはなしに眺めていた。
 彼女の制服は未だ支給されず、ぶかぶかのバルクホルンの上衣を纏ったその姿は、何ともアンバランスな雰囲気を醸し出している。

 髪や瞳の色、つり目だったりと、容姿のパーツは全く違うのだが。
 先ほど触った髪質や、本質的には穏やかそうな雰囲気が、サーニャに似ていて。
 彼女に口調の小生意気な妹がいればあんな感じなのかな、と。
 エイラは想像した。
 この時点で既に、エイラはヴィルヘルミナの実年齢を失念している。

 サーニャ。
 エイラは彼女のことを思う。
 彼女のことを思うと、胸が切なくなる。
 抱きしめたいと思うし、一緒にいたいと思う。
 それ以外も色々思うがとりあえず今は置いておいた。
 
 ヴィルヘルミナ。
 こっちは、別に胸が切なくなったりはしないが。
 その顔に負った傷と、先ほど告白された心の傷を思うと、どうも放っておけない感じがした。

 そして、自分の左右に二人が並んでいる様子を思い浮かべる。
 二人とも、頬を染めて何故かエイラの服にしがみついていた。

「結構良いかも……」
「……何、が?」

 厨房からヴィルヘルミナがエイラを眺めていた。

「え、あ、いや、何でもないぞ!」
「……そう」

 興味なさそうに作業に戻るヴィルヘルミナを確認しながら、エイラは今度は別の意味でどきどきしていた。
 現在、東部戦線の地獄を生き抜いた多くのカールスラント・ウィッチを除けば、世界でも有数の撃墜数を保持するスオムスのトップエースは。
 なんとも駄目な思考をするへたれであった。

 そんな彼女の耳に、静かにドアノブを回す音が聞こえる。
 入ってくるのは、儚い雰囲気を纏った少女。
 サーニャだ。

「あ、エイラ、おはよう……」
「ん! あ、サーニャ! おはよう」
「それと……ヴィルヘルミナさんも、おはようございます」
「おはよう……り、りと……りとび……」
「サーニャ、でいいです」
「……ごめん、サーニャ……おはよう」

 サーニャとヴィルヘルミナは、シフトの関係かほとんど喋ったことがない。
 尤もこれはウィッチーズ全員に言えることなのだが。
 ヴィルヘルミナとサーニャがまともに名前を交換したのも今日がはじめてであるという始末である。
 サーニャが覚醒している状態ではじめて会ったのが昨日の夕食の席で、その後に夜間哨戒任務があるサーニャは食中・食後の歓談に参加する余裕があまりなかった。

 あまりにも部隊との交流を行う時間が限られている所為か。
 フリーガーハマーという部隊最高火力の使い手であるにもかかわらず。
 サーニャの存在感は部隊の中で薄れていく一方であり、ペリーヌなどには居るか居ないか解らないなと揶揄されていた。

「どうしたんだサーニャ?」
「ちょっと、何か飲むもの貰おうと思って……」
「そっか。 よし、ヴィルヘルミナー! なんか一丁!」
「あ、そんなに気を遣わないでも……」

 厨房のヴィルヘルミナがサムズアップで応える。
 結構ノリが良い奴だな、とエイラは呟いた。
 ガスコンロに火を灯す音が聞こえる。

「エイラ……ヴィルヘルミナさん、何かしてたんじゃないの?」
「いや、今晩の飯はあいつが作るらしいからな。 はじめて使う厨房だから色々確認したいんだってさ」
「あ……ヴィルヘルミナさん、お料理できるんだ」
「いや……今までのカールスラントの奴らの料理の腕を見ると、案外焼きジャガイモとかかもしれないぞ?」
「お芋も、アイスバインも美味しかったけど……」
「ああ、確かにトゥルーデのは一見、手間掛かってそうだったな……でも煮込み肉だろ」
「もう、エイラったら……」
「そういえば、サーニャ……」

 二人の少女が話す声が、食堂に響き。
 5、6分ほどしたところで、ヴィルヘルミナが厨房から出てきた。
 手には、薄く湯気を上げるカップが二つ。

「お、なんだ? ホットミルクか?」
「……飲め」

 サーニャがぶっきらぼうな口調にちょっと気圧されたが。
 ヴィルヘルミナからほんのり暖かいカップを手渡され、エイラとサーニャはそれをほぼ同時に傾けた。
 一口。
 そして、二人の口の中に広がる味は

「ん……甘い」
「これは……蜂蜜だな。 あと、ちょっとシナモン入ってる?」
「起きた……ばかりだと……あんまり、冷たいのは……良くない、と思ったし。
 ただの……ホットミルクだと……苦手な人も……居るから」
「気が利くじゃないか」
「ありがとう……美味しい」
「ん……」
「ヴィルヘルミナさんの分は?」
「蜂蜜の……量、見るのに……最初に……飲んだから」 
「そっか」
「美味しかったなら……よかった」

 そう言って、机に片手を突いて二人を見るヴィルヘルミナの眼差しは優しげで。
 それを見たエイラは、やっぱこいつ年上っぽいかな、と、意味もなく思った。

 それからしばらく、カップを傾ける無音に等しい音が続き。
 エイラのカップがほとんど空になったところで、ヴィルヘルミナが言葉を放つ。

「エイラ……の、分は……さっきの、お礼」
「ああ、別にそんなの良いのに」
「どうかしたの、エイラ?」
「ちょっと……励まして、貰った……から」
「エイラは、優しいから……」
「もー! 照れるからよせよー……。
 それに、お礼するならこんなちゃちな物じゃなくて、夕食にきちんとした物だせよな」
 
 サーニャの言葉が効いたのか、そっぽを向いて困ったような顔をするエイラの言葉に。
 うん、とヴィルヘルミナは応えた。

「おいしかった……ありがとう、ヴィルヘルミナさん」
「……ん」

 ほどなくして、サーニャもミルクを飲み終える。
 二人からカップを受け取ったヴィルヘルミナは、厨房へと戻っていった。

「それじゃ、エイラ、ヴィルヘルミナさん……わたし、行くから」
「あ、サーニャ、私も行くよ。
 ヴィルヘルミナ、晩飯期待してっかんなー!」

 その声に、無言のガッツポーズで応えるヴィルヘルミナが妙に可愛らしくて。
 エイラとサーニャの二人は含み笑いを零しつつ、食堂を出て行った。


 そして、その日の夕食。
 ウィッチーズの面々は、この基地に集結してからはじめて、まともなカールスラント風の食卓を見ることになる。



***Side Wilhelmina****


「あら……これは結構な物ですわね」

 ペリーヌが、オレが皿を長机に置くなり呟く。

「へぇ……バルクホルンやエーリカが作ったのとは大違いだねぇ」
「どういう意味だリベリアン……私たちが作ったのも、立派なカールスラント料理だぞ」
「いや、あの塩ゆでジャガイモの山と、煮込み肉オンリーに比べたら……ねぇ」

 いやいやいや、そんなにたいした物ではないです!

 食卓を、意味ありげな目線で眺めるシャーリー。
 そこには、確かに、山盛りの塩ゆでジャガイモも、アイスバインも並んではいなかった。
 ていうか、作成過程で茹でジャガイモは使ったけどな。
 アイスバインは作り方解らん。

 では、現在食卓に並んでいる料理を解説させて頂きましょう!

 主菜である、香ばしい臭いを放つこんがりと焼かれたブルスト。
 傍らには、ディジョンマスタードとケチャップを。
 辛いの駄目な子居そうだしね。

 副菜には、ハーブを振りかけたジャーマン・ポテトに、ザワークラウト。
 こっちも、脂っこい物が苦手な人の為に、ビネガーベースのハムとグリンピースのポテトサラダもご用意しております。
 これらが、それぞれ別々に大皿に盛られ、好きなだけ取れるようになっている。
 ポテトサラダ以外は追加作成も楽だ。 なんか、ザワークラウトだけ大量にあったし。

 各々の席の前には、スープ皿に注がれたショルダーベーコン、キャベツ、タマネギ、ジャガイモの入った塩スープ。
 本当は固形ブイヨン欲しかったんだけど、探してもなかったからな……この時代だと無いのかもしれん。
 まさか出汁取るところから出来ないし……確か洋風出汁ってものすごい大量に材料使って、ほんの少ししか取れなかったはずだしな。

 あと、付け合わせのサワードゥ・ブレッドには、自信作のホイップバターを添えて。
 ぶっちゃけこのホイップバターがこの食卓の中で一番手間が掛かっている。
 泡立て器ないんですもの……泣ける。

 バター以外に手間の掛かる調理をした物は一つとして無かったが。
 どうよ、これならドイツっぽいきちんとした晩餐だろう。
 見たか、これが一人暮らし半ニートの実力だ!

「凄いな、ヴィルヘルミナ……もしかして部隊の中で一番料理が上手いんじゃないか?」
「そんなこと……無い。 全部……簡単に作れる、から……」
「東部戦線にいた頃は料理などしている余裕が無かったから知らなかったが……料理、出来たんだな、バッツ」
「うん、私も知らなかったよ」
「そんなに……言う事じゃない」

 いやいや……照れるな!
 もうこれはあれだな、弱いから除隊! とかなったら、コックとしてやってくしかないな!
 軽くなーれ魔法のお陰で、重いフライパンとか寸胴鍋とかすんげぇ楽に持ち運べたし。
 うん、魔法はやっぱ平和に有効活用しないといかんよ……砲撃とかドラまたとか堕天使メイドとかしてる人たちに今のオレの姿を見せてあげたいね!

 バルクホルン、エーリカに目線を向けて。
 サムズアップしておく。
 ……サムズアップが帰ってくる。 よし。

 エイラの方にも、サムズアップを飛ばしておく。
 ……こちらも同じようにサムズアップが帰ってきた。 よし。

 合格点なようです。
 ピンポイントでオーストリア軽食屋に通ってたオレグッジョブ。
 まさかこんなところで料理をコピーされてるとは夢にも思わんだろうな、あの爺店主。

「ん……ポテトの……炒めた奴が、少し油っぽいから……苦手な人は……ポテトサラダを、どうぞ。
 お酢で作ってるから……さっぱり……してる、はず」
「ありがとう、ヴィルヘルミナさん。
 それでは皆さん、頂きましょうか」

 ミーナが音頭を取り、各々が祈りを捧げたり手を合わせたりして。
 食事が始まった。

 ブルストにたっぷりマスタード付けて……んむ、美味い!
 いやー、やっぱ本場のディジョンマスタードは違うね。

「おかわりー!」

 もうかよ。
 ルッキーニ食うの早いな。

「ブルスト……ソーセージ以外は、沢山あるから……どんどん、食べて」
「ほら、ルッキーニ、自分で好きなだけ取って良いってさ……それにしても、焼きソーセージきかぁ。
 国でバーベキューしたのを思い出すなぁ……こう、どかーっ! とステーキとか野菜とか肉とか焼いてさ」

 シャーリークール。
 その胸がどうやって成長したかですね、解ります。
 ああ、でも久しぶりにステーキ食いてえ……
 あれは良いよなぁ……この時代なら狂牛病とか気にしないで良いだろうし。
 もしかかっても治癒魔法で何とかなるかもだしな。

「ん……このホイップバター、美味しいですわね」
「これ、作るの手間がかかるんですよね……」
「全体的に油っぽいですけど、なかなかですわ」

 リーネと食通ペリーヌにも好評なようです。
 ていうかペリーヌは絶対駄目出ししてくると思ったんだがな。

 エイラとサーニャはいちゃいちゃしながら食べてるし、ミーナさんも特に変な顔してる様子はないし。
 みんなの反応を見る限り、結構好評なようでよかったよかった。
 昨日も思ったけど、やっぱり、多人数で食卓を囲むのは良いな…… 
 一人で適当に飯食うのも、気楽と言えば気楽なんだが……こういう雰囲気は多人数じゃないと味わえないしな。

 しかし、このザワークラウトは超うめぇな……ありえん美味さだ。
 これなら何杯でも行けるぞ。

「そういえば、みんな、食べながらで良いから聞いてくれないかしら」

 おや、ミーナさんが何かあるそうです。
 なんだろ。

「明日の午後、予定通り扶桑の遣欧艦隊がブリタニアに到着するそうです」

 ……何だと?
 確か、扶桑遣欧艦隊って……

「坂本少佐がようやく帰ってらっしゃるんですのね!」

 やたら嬉しそうな食通ペリーヌ、サンクス。

 ああ、つまり、これは。
 もう、本編が始まるの、か。

 1944年の7月、と言っていたから、遠くないことは解っていたけれど。
 予想以上に早かったことも確かで。
 心の準備は出来ていると言えば嘘になり。
 しかし、それ以上に、なにかよくわからない緊張感がオレの心を縛る。

 原作を、これから起こる未来を知っている所為なのか。 
 実際に戦闘に出ることになるかも知れないからなのか。
 それとも、全く別の理由からなのか。

「バッツ? どうかしたのか?」

 皆が美緒さんの事や、彼女が連れて帰って来るという新しいウィッチの話をしているのに、余り聞いてなさそうなオレに気付いたのだろう。
 バルクホルンが、心配そうに聞いてきたから。
 大丈夫、と短く答え、皿の上のブルストにかぶりつく。
 今度は、酷く、変な味がした。



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エーリカとミーナとエイラ(とヴィルヘルミナ)による過大評価タイム!
実際は、身体の動かし方がだんだん解ってきて、ゲーム内でやりまくってた空戦機動をなんとか再現できる様になってきたため。
シンキングタイム短いのは焦って一杯一杯だから。
ヴィルヘルミナからのエーリカ/バルクホルン評価は、ベテランの経験からくるマスタリーの早さは時に素人からは化け物に見える、ッてことで。

言語関係、ちょっとツッコミが入ったので修正して見んとす。

そしてエイラタイム。
なんか、ヴィルヘルミナが無口な辺りがサーニャに似てるので。
ちょっと気にかけてあげるエイラ。でも本命はサーニャ。

ブラートブルスト+ブラートカトフェルン+ザワークラウト+ポテトサラダ+ベーコンとジャガイモとキャベツのスープ。
なんというジャガイモとキャベツ乱舞……これは間違いなくカールスラント料理。

あと、以下、やりたかったおまけ。
なんか何時も以上にぐだぐだになりそうだったから省いた。

------
「ん……これは、ワインが欲しくなりますわね」
 さすがペリーヌ、フランス担当なだけはあるな。
 だが、このメニューならビールだろ……きんきんに冷えた奴。
「オレは……ビール……かな」
「ビールなんて! あんな苦い物……何時も思うのですが、カールスラントの方はよくあんな物を飲めますわね」
 ああ、まぁ、子供の時はみんなそう思うんだ……大人になれば解るよ。
 ん、エーリカが何か言いたそうだな。
「ペリーヌ、ワインは食事中に飲むには甘すぎるよ」
「甘くないワインもありますわ。 それに、肉料理の風味を引き立てる物だって有ります!
 苦いだけの物なんて……料理を駄目にしてしまいますわ」
 うん、確かにそうかもしれんがな、とりあえず他のお国の食事文化を一方的に否定するのは止めようぜペリーヌ。
「まったくこれだからガリア人は……味覚がお子様だというんだ」
 ほら、バルクホルンもちょっと怒ってるし。
「む……バルクホルン大尉、聞き捨てなりませんね」
「どうでも良いけどツンツン眼鏡、もうちょっと静かに食べろよ……自分じゃ料理できないくせに」
「くぅ……」
 エイラさん収拾あざーっす。
 あんたも料理できないけどな。
------

ドイツ人とフランス人の酒に関する意見の下りは割と有名なので入れてみたかった。
ヨーロッパだと、公共の場では兎も角、家庭でのアルコール摂取年齢は割に低い(水質的な問題で)ので……ティーンなウィッチーズでも多分大丈夫!
ちなみに当たり前ですが、彼女たちは名目上、全員勤務中なので飲みません。非番の人は知らん。



[6859] 09
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/07/24 16:06
09 「Raising Heart」

***Side Wilhelmina***

 ――そして、運命の日は訪れた。

 っていうかあれだ、格好良さげに言っても結局の所ご飯食べた後、カールスラント語の勉強して寝ただけなんだよね。
 料理したり訓練で凹まされたりと、何かと疲れていたから普通に爆睡しました。
 ああ、緊張感の持続しないこの身が恨めしい……

 燦々と照りつける太陽の光を避けるように、格納庫の入り口付近でぼーっとしております。
 ストライカーユニットを装着して、ミーナさんを待っている状態。
 ミーナさんは急な仕事が入ったとかで、遅れると連絡があった。
 部下を待たせるのが上司のステータスだと思ってるなら、それは間違いですよ!
 いや、普通に忙しいんだろうけどね。
 しかもそのうちの何パーセントかはオレの所為で。

 まぁ、飛行訓練中に警報鳴るよかマシだけど……
 とりあえず、待機中なのに何もしてないのは新入りとしてアレだと思うので、ストライカー装備して低速運転維持の自主練習しております。
 巡航速度ですら平均的なストライカーの速度を大きく上回るんだよね、このMe262。
つまり、普通に飛ばしてるとあっという間にみんなより前に出るのである。
 みんなが三輪車運転してる隣でF1かっ飛ばすようなもんだ。
 低速で安定運転させる技能がないと、一緒に行軍出来ないことに気付いた。

 史実のMe262はフルスロットルもしくはエンジン停止しかチョイスがなかったみたいだけれど。
 このストライカー版はある程度ならスロットルの制御が効くっぽいのです。
 というか、流す魔力の量で調整するらしい。
 なかなかに便利だけど、その分量を間違えると簡単にフレームアウトしてしまうと言う難しさ。
 むぅ……面倒な。

 アイドリング状態を維持しつつ、滑走路脇を見る。
 そこでは、シャーリーとルッキーニが甲羅干し……じゃないな、女の子だからひなたぼっこ……肌を焼いてる……のか?
 何とものんびりしててうらやましい話である。
 だが、それ以上にオレの意識がそっちに行く、理由。
 
 水着姿である。
 
 そういえばそうだったねぇぇぇぇぇ!!!
 シャーリーさん、そんな、俯せになったらおっぱいがつぶれて凄いことに!
 しかも下のビキニのローライズっぷりがとんでもないことに!
 肌の白さとかもうね!
 これで16歳の子供とか……けしからんな!
 恐るべしリベリアンである。
 スピード伸び悩んでんの、胸部の空気抵抗の所為じゃねえの。
 
 ルッキーニは別にいいや。
 普通に年齢相応で、健康的な子供体型です。
 本人も言ってるとおり5~6年後くらいに期待。
 きっとスレンダー美人になるぞー。
 
 っていうか、一応戦闘待機中なんだからもっと緊張感もとうぜー。
 もうすぐネウロイ来るよー。
 美緒さんに告げ口するよー。
 主に今来たペリーヌが。
 
「相変わらず緊張感のない方々ですこと……しかもそんな格好で。
 戦闘待機中ですわよ?」

 噂をすれば影である。
 日傘をさして優雅に登場。
 お嬢様丸出しである……ああ、でもペリーヌ、サーニャやエイラと並んで肌弱そうだしな。
 肌の露出少ないし、シャーリーに輪をかけて肌白いし。
 そう考えると日傘、結構必須なのかも。

「なんだよ……中佐から許可貰ってるし、解析チームも、あと20時間は敵は来ないって言ってたぞ。
 それに」

 仰向けになって胸を張るシャーリーさん。
 おお……すげぇ。
 揺れる揺れる。
 なんという視線誘導効果。
 高速道路脇に居たら確実に事故が増えるね。

「見られて減るもんでもなーい」
「ペリーヌは減ったら困るから脱いじゃ駄目だよー」
「大きなお世話です!
 まったく……まもなく坂本少佐がお戻りになられます。
 そうしたら、真っ先にあなた方の緩みきった行動について進言させて頂きます!」
「うわ、告げ口だよ……」
「ぺったんこーのくっせにー♪」
「お黙りなさい! って、貴女にだけは言われたくありませんわ!
 バッツ中尉も……見てないで何か仰ってください!」

 へ? オレですか?
 突然オレに無茶振りするなよ……うーん……
 とりあえず……

「……小さいのも……需要は、ある……よ……?」
「どういう意味ですの!? というか何で疑問系!?」

 物凄い勢いで睨んでくるペリーヌ嬢。
 おお怖い。
 そんな怒んなくても……わかったわかった。
 ほらそこ、ニヤニヤしてるシャッキーニのお二人さん。
 指ささない。
 お行儀悪いですよ。

 はぁ……まぁ言いたいことはあるんだけどね。

「……あまり、気を、緩めすぎるのは……どう……かな」

 もうすぐ警報鳴るよー?
 多分。
 この世界がアニメと同様の流れをたどるなら……だけど。
 オレというイレギュラーが此処にいる以上、その通りにならない可能性だって当然あるのだ。
 出来れば鳴らないで欲しい。
 オレがここに来たからネウロイが世界から一気に消えてハッピーエンドとかどうよ。
 で、オレは手に職つけて……そうだな、パン屋でもやるか。

「……ほ、ほら、バッツ中尉もこう仰ってます!」

 待てペリーヌ、きちんと期待に応えてやったというのにその微妙な間は何だよ。

「えー、ヴィルヘルミナも一緒に日向ぼっこしようよー」
「そうだな。 どうだい、一緒に。
 ……そういえば、ヴィルヘルミナなら別に見られて多少減っても平気なくらいあるんだっけ?」
「ペリーヌの倍は大きかった!」
「っく……!」

 こっちを涙目で睨んでくるペリーヌ。
 えぇ……だから何でそこでオレに矛先が向くのさ……?
 いやまぁ確かに身長に比べて大きめだけどさ……
 
 とりあえず水着持ってないし、身体見せたくない理由有るし……
 それに、オレ一応訓練中だしね、シフトだと。
 新任がサボりすぎるのも問題あるでしょ。
 
「……オレは……いい。
 ミーナ……待たないと、駄目」
「ああ、そういえばそうだったね」
「うぇー、つまんなーい」
「本当に貴女達は……」
「でも……二人とも、本当に……気をつけた方が……いい。
 ペリーヌ、も……」
「ご心配には及びません。
 坂本少佐の教えの通り、常在戦場の心構えで日々を過ごしておりますから!」
「その割りには坂本少佐のことぼけーっ、と見てること多いよね」
「確かにな……これはつまり、ペリーヌは少佐のことを敵性として見てるって事か?」

 お黙りなさいっ、と日傘を振り上げて威嚇するペリーヌ。
 あ、耳まで赤くなってる……肌白いから余計わかりやすいなぁ。
 なんというかみんながペリーヌをからかう理由がよくわかる……リアクションが可愛い。 

 ふと、耳にストライカーが飛翔する音。
 見れば、エイラとサーニャのペアだった。
 早朝からの哨戒任務の帰りだろう。
 お疲れ様な話である。

「はぁーい、おっかえりー」
「おか……えり」

 とりあえず唸ってるペリーヌは放置プレイしておいて、シャーリーと一緒に二人に手を振っておいた。
 あ、サーニャ小さく手を振り返してくれた……和むわー。
 とりあえずこの二人の出撃は無しか……帰還直後だから疲れてるだろうしな。
 二人はそのままオレの脇を減速しながら通り過ぎ、格納庫の奥の方へと向かっていった。

「まぁ、休める内に休んで置くのも兵士の仕事だよ」

 そうそう、とルッキーニがシャーリーに続こうとしたところで。
 それが、来た。

「な――、敵襲!?」
「嘘、早すぎますわ!」
「…………やっぱり」

 ――基地に警報が鳴り響いた。


***Side Witches***

 南方よりブリタニアに接近しつつある扶桑遣欧艦隊が、大型ネウロイの奇襲を受けている。

 ミーナはその報告を受けたとき、真っ先に二週間前の出来事を思い出した。
 あの時点では、北方に回り込むことでこの基地を迂回し、ブリタニアの東北部に攻撃を仕掛けようとしていたのだと思った、が。

「ネウロイが補給線の妨害を狙っている……?」

 今までにはあまり見られ無い行動。
 膨大な火力と、金属同化能力による魔力を付与されない物理攻撃に対する防御力。
 ネウロイの基本戦術は、人の手ではたどり着けぬ強力な剣と盾、さらには物量に物を言わせた蹂躙戦である。
 ネウロイがビーム兵器を使用し始め、大型ネウロイの火力が飛躍的に増加してからその傾向は加速していた。

 水を嫌うため、島国であるブリタニアへは大型ネウロイが単~数体での牽制的、散発的な攻撃を繰り返しているに過ぎず。
 さらに、その水嫌いのおかげで進行ルートはドーバー海峡周辺に限られており、迎撃を容易としていた。
 現行の大型ネウロイそれ自体の火力は、単体で町を廃墟に変えることが可能なのである。
 ウィッチーズがこれら大型ネウロイを上陸前に迎撃していなければ、ブリタニアの沿岸地域はとっくの昔にぼろぼろになっていただろう。

 ただ、補給を妨害するならば、もっと積極的に行ってもいいはずなのに。
 二週間前の輸送艦隊はともかく、扶桑遣欧艦隊…しかも、今度はそれなりに防御能力のある艦隊を――

「ミーナ、どうした!」

ノックもせずに入室したトゥルーデを咎める事無く。
 その声で、今すべきでない思索を中断。

「――扶桑遣欧艦隊が当基地南方約150kmの地点で大型ネウロイによる奇襲を受けているわ。
 現在、扶桑海軍所属空母『赤城』の航空隊と、美緒が応戦中。
 出撃準備。 ネウロイによる陽動の可能性も考えて、基地には半数を残します。
 トゥルーデ、指揮と編成をお願い」
「了解した。 確か、今待機中なのは……ルッキーニ、ペリーヌと……イェーガーか」
「……あと、飛行訓練のために、ヴィルヘルミナさんが格納庫で待機しているはず、よ」
「……ミーナ」

 バルクホルンが問い。
 ミーナは目を瞑り、考える。
 距離約150km。 ストライカーにとってはさほど遠くは無い距離だ。
 もし、時間があるならば、の話だが。
 平均的なストライカーユニットの速度では20分とすこし。
 それは絶望的な長さである。

 美緒ほどの戦士ならばその時間持ちこたえるのは可能だろう。
 ただ、彼女の後ろには扶桑遣欧艦隊がいる。
 後ろに守るべきものが居る場合、ただ逃げ回っている訳にはいかない。

 坂本美緒というミーナの親友は。
 守るべきもののために壁となってネウロイの正面に立つだろう。
 そしてそれは、彼女の生存率を悲しいまでに引き下げるのだ。
 
 美緒が落ちる。
 それが意味するところは、扶桑艦隊の全滅であり。
 大勢の人々が、祖国から遠く離れたヨーロッパの海で果てることになるのだ。

 そしてそれ以上に。
 ミーナには、美緒が失われるという事が耐えられない。
 
 その間、たった三秒の思考。
 ミーナは航空隊司令としての決断を下す。

 目を開ける。
 迷いはない。
 インカムを取り出し、耳に装着しながら、トゥルーデに指示を飛ばす。

「行って、トゥルーデ」
「……、了解」

 目線で促されたトゥルーデもそれに倣い、インカムを装着しながら。
 駆け足で部屋から出て行った。

「……バッツ中尉、聞こえますか」
『……ん、はい』
「今、格納庫かしら?」
『……はい……ストライカーユニットを……装着……アイドリング状態で、待機中……』
「……都合がいいわ。
 現在、基地の南南西約150kmの地点で、扶桑遣欧艦隊が300m級航空型ネウロイに襲撃されています。
 艦隊所属のウィッチと航空隊が応戦していますが、ネウロイのサイズから、航空隊の援護があってもウィッチ単騎での撃退は困難と判断。
 バッツ中尉、当該戦区に救援のために最大戦速で急行しなさい」
『……』
「……バッツ中尉、復唱を」
『…………了解、これより……当該戦区に、救援に向かう……ます』
「貴女の任務は、後続のバルクホルン大尉達が到着するまで、艦隊所属のウィッチを援護、戦線を維持すること。
 あちらに着いたら、美緒……坂本少佐の指揮下に入りなさい」
『了解』

 ヴィルヘルミナのMe262ならば、確実にほかのウィッチより早く戦場にたどり着けるだろう。
 たとえ一機だろうと、早くたどり着くことが出来れば、それだけ多くの人が助かることになり。
 ネウロイの攻撃対象が増えれば、それだけ美緒の負担も減ってくれる。
 
 後は、ヴィルヘルミナが、ネウロイとの戦闘時にパニックを起こさないで居てくれることを祈るのみで。
 そんな不安定な彼女を一人で戦場に先行させなければならない現状が、ミーナをいらだたせた。
 

***Side Wilhelmina***

 出撃だそうです。
 ……覚悟はしてたさ。
 なんて事はない、緊張の度合いも大学受験に行った時に比べればまぁどっこいどっこい。
 現実味が無い分軽いくらいだ。

 だが、これは嘘でもなければ夢でもない。
 今此処にある、オレが直面した現実である。

 深呼吸。

 ……やるか。
 やるしかないのだ。
 オレの望みを、ただのガキの我が侭でなく、意味のある要求にするために。
 オレを信じて、此処に置いてくれている、彼女たちのために。

 オレのストライカーユニットの懸架台。
 武器ラックのロックを解除する。
 レールを滑る金属の音と共に、右からはMk108、左からはMG42がせり出してきた。
 訓練用のオレンジ色に塗装された物ではなく、鈍い鋼の色を放つ、それを。

「……」

 手に取る。 
 魔力による増強の上からでも感じる重み。
 金属のこすれる重い音。
 その重量感が、なんとも心強い。

 MG42を背負い、Mk108はひとまずその辺に立てかけておき、傍らに引っ掛けてあったバッグを肩にかけた。
 バッグにMG42の弾倉二箱とMk108の弾倉を2クリップ突っ込む。
 あと、MG42の予備の銃身も。
 ……はじめて見た時驚いたが、これ四次元バッグなんだよな。
 忘れ物無いかな……予備弾持ったし、水筒とレーションは突っ込みっぱなしだし……今回はそれだけあれば、良いか。

「バッツ!」
「……バルクホルン?」

 どうしたよ、バルクホルン、そんなに慌てて。
 ……ああ、心配してくれてるのか……ありがとうございます。

「持って行け!」

 何か輝く物を投げつけられる。
 受け取る。 軽い、金属の質感。
 見れば、それは長い鎖の輪に繋がれたシンプルな真鍮製の外装を持ったコンパスだった。

「エーリカから聞いた。 あいつはミーナには言ってないみたいだが……迷子になるなよ!」
「……」

 うなずきを返す。
 その心遣い、感謝します。
 コンパスを首から提げ、服の中に突っ込んだ。
 バルクホルンの体温が少し残った金属の温度を、微かに感じる。

「……無茶はするなよ、私たちが到着するまで持ちこたえればいい!」
「……わかった」
「行ってこい!」
「……ん!」

 それだけ言って。
 バルクホルンは自分のストライカーの懸架台へと走っていった。

 Mk108をひったくるように両手で抱え、Me262を滑走路まで移動させる。
 脇にはシャーリーとルッキーニが寝そべっていた椅子が二脚そのまま放置されていた。
 今頃は二人ともペリーヌと一緒に出撃準備をしてこちらに向かっている頃だろう。

 強い日差しの下。 滑走路と、その向こうに見える海と空の境界を見据える。
 鳴り響く警報の音が世界を緊張という名で浸食してくる。
 進路上に障害物無し。
 風の音。
 ストライカーの音。
 風の感触。
 ストライカーの振動。
 胸の鼓動が早くなる。
 オーケー、なんかテンション上がってきた……!

「……ヴィルヘルミナ・バッツ……出る!」

 加速。
 高ぶる心に反応してくれているかのように、ストライカーがエーテルを吸気、排出する音が響き。
 足下の魔方陣が光り輝いて。
 オレは、生涯四度目にして、初陣となる飛翔を始めた。



***Side Fuso Fleet***

 無数のまばゆい赤光が空から降り注ぐ。
 その光景は一種幻想的ですらあった。
 だがそれは、その場に居るすべての人類にとって死と破壊を呼ぶ滅びの光である。
 空母「赤城」 右前方にて対空砲火の弾幕を展開していた駆逐艦「うらかぜ」の中央部に、赤い光の槍が突き刺さった。

 爆発。
 水しぶきの柱が数十メートルも吹き上がり、艦の姿を覆い隠した。
 その傍らの海面に、翼を片方失い、煙の尾を引いた戦闘機が墜落する。

「駆逐艦うらかぜ大破!」
「航空隊、坂本少佐を残して全滅!」

 もはや悲鳴に近い報告の声が、艦隊旗艦である空母「赤城」の艦橋を駆け巡る。
 赤城艦長は、依然として空を悠々と飛び回るそれを睨み付けた。

 それは、強弁すれば黒い西洋凧に似た形をしていた。
 だが、むしろその漆黒の翼は、伝説に言う黒い禍つ鳥を連想させる。
 そして、大きい。 翼長は空母である赤城の全長と同じか、それ以上だろう。
 それが光を放つたび、遣欧艦隊の周囲には暴力の嵐が吹き荒れ、命の灯火が吹き消される。

 ネウロイ。
 圧倒的な暴威と生命力を持つ、人類の敵がそこに居た。 

「くそっ……援軍はまだか、ブリタニアのウィッチ隊はまだ来んのか……!」

 回答の解っている問いだ。
 援軍はまだ来ない。
 距離と速度というものは絶対であり、人類が魔法をもってしても覆せない世界のルールのひとつだ。
 十分ほど前にブリタニアから援軍が出発したという連絡があり。
 ブリタニアまでの距離、そして配備されているだろうストライカーユニットの速度を考えれば。
 さらに十分は耐え抜かねばならないのだ。
 
 そしてその十分、たったの600秒は絶望的な数字であり。
 それが解るからこそ、問わずにはいられなかった。
 神に祈らずにはいられなかった。
 援軍はまだなのか、と。
 
 数瞬後。
 艦橋からみて左側の空が赤く染まり。
 直後、艦全体に大きな衝撃が走り、巨大な水柱が「赤城」の甲板を洗う。

「至近弾! このままではスクリュウがやられ、航行不能になります!」
「ぐっ……援軍の到着までなんとしても持たせるんだ……!」

 一ヶ月の航海を経て、もはやブリタニアは目と鼻の先にあるというのに。
 友邦国のために物資や、ウィッチを運んできたというのに。
 そして、今、空でこの艦隊を守るために単身飛んでいるウィッチのために。
 ここで、沈むわけには行かないのだ。、

 だが、現実は常に希望を打ち砕かんと無慈悲に襲い掛かる。
 海流の乱れにより船足の鈍った赤城の艦尾近くに、ビームが突き刺ささり。
 これまでで最大のゆれが「赤城」を襲った。

「損害報告!」
「蒸気圧低下!」
「第三艦橋大破!」
「機関停止!」
「駆逐艦『たにかぜ』に被弾! 応答ありません!」

 駆け巡る報告はすべてが絶望的なもので。
 「赤城」艦長は、艦長としての勤めを全うするしかなかった。
 
 帽子を目深にかぶり、告げる。

「総員……退艦準備」
「総員退艦準備!」


***Side Witches***

「しまった!」

 坂本美緒は、煙を噴き上げる「赤城」を目にして最悪の事態を想像した。
 「赤城」の中には、あの少女が――宮藤芳佳が居る。
 扶桑から連れて来た、宮藤博士の一人娘。
 軍人にとって守るべき対象である民間人であり。
 美緒にとっては、それ以上に優先度の高い保護対象。
 
 だが、インカム越しに聞こえた悲鳴を最後に、その彼女からの言葉が無い。

「宮藤! 大丈夫か、宮藤! 宮藤!」

 呼びかける。
 返事は無い。
 心が萎えかける。
 今すぐにでも「赤城」に戻り、芳佳を探し助けたいという欲求が湧き上がる。

 だがそれは、空に脅威を残したままでは命取りだ。
 逃げ腰な感情を噛み潰し、敵を――ネウロイを睨み付ける。
  
「貴様の相手は、私だと、言っただろう!」

 美緒は手にした扶桑刀に魔力をありったけ篭め、空を翔る。
 魔力の残滓が黒煙に染まりつつある空に青い軌跡を描いた。
 だが、その光は黒い巨体に対してあまりにも小さい。
 その光景は巨象に蟻が挑む様に似ていて。
 そして、それ以上に絶望的だった。

 迫る魔力の塊、すなわち美緒に対してネウロイが反応する。
 その黒い装甲表面、赤い六角形群。
 ビーム照射部位が光と熱を帯び、数十の赤い矢を美緒めがけて投射した。
 狙いはやや甘いが、火線数に物を言わせたそれはもはや文字通り壁といって差し支えない密度を持つ。
 突撃を行う美緒にとっては、絶望的に広大で、隙間のない壁。
 その弾幕の前に彼女はシールドを張り、後退せざるを得なかった。

 伝統的に極近接戦闘を得意とする扶桑の魔女でも、圧倒的な火力の差の前には、懐にはいることも敵わず逃げ惑うことしか出来ない。
 その事実に、自分の力の無さに、歯噛みする。

「くッ……!」

 せめて、銃が有れば。
 もしくは、一人でもウィッチがいてくれれば。
 目の前の仇敵を墜とすことが可能かも知れないのに。

 無理なのか。
 また、失ってしまうのか、と。
 黒い絶望が美緒の心にひとしずく落ちようとした瞬間。

 彼方、やや上方から飛来した光の弾丸がネウロイの翼を撃ち貫いた。
 弾丸は六発飛来。
 六発の弾丸の内、三発は当たらずにどこかへと飛び去っていったが。
 命中した残りの三発は、それでもネウロイにとって十分痛打と言える物だった。
 まるでハンマーで叩かれたかのようにネウロイの翼が大きく沈み、金属を毟る様な悲鳴が響き渡る。
 その悲鳴にかき消されるように、遠雷の様な音が六回連続して響いた。

「この威力……リーネか?
 いや、あの連射速度は違う……誰だ?」
 
 美緒は一瞬、遠距離狙撃を得意とする新人の顔を思い浮かべたが。
 砲声の間隔が短い。 短すぎる。
 リネットの使用する対戦車ライフルはボルトアクションであり、連射の効くような物ではない。
 何より、早すぎる。
 まだ援軍が基地を出発してから15分も経っていないのだ。
 
 なら、誰が。
 いや、何が来た。

 疑問が感情の段階を脱するよりも早く。
 無数の光線が上方、まばらな雲の方向へと放たれ、それを吹き飛ばした。
 赤い光は青い空に吸い込まれるように消えて行く。
 雲が吹き飛ばされたあとの空には、一見何も無いように見えた、が。

 弾丸の飛来した方向をにらみ、右目の眼帯をよける。
 坂本美緒の右目は遠見の魔眼であり。
 その目が、彼女にとって信じられない物を捉えた。
 期待と疑問の混じった言葉が口をつく。
  
「カールスラントのウィッチ……だと?」

 MG42を背負い、巨大な機関砲を構え、ストライカーユニットを履いたウィッチ。
 見慣れないストライカーユニットには、カールスラント空軍であることを表す十字模様が描かれていた。
 
 驚く美緒の耳に、抑揚の薄い、インカム越しの少し変質した声が届いた。

『こちら……501……統合航空……戦闘統合航空……む。
 ……ストライクウィッチーズ……所属、ヴィルヘルミナ・バッツ。
 これより……美緒……少佐の、指揮下に入る……ます』



***Side Wilhelmina***

 めっちゃどもったぁぁぁぁぁぁ!!
 っていうかすげー焦る!
 そう、それはたとえるなら、中学校の学年集会で突然原稿を読まされる時の気分!
 なんて言ったら良いかわっかんねえよ!

 戦闘が起こっている場所は、比較的見つけやすかった。
 遠くからでも赤い光と黒い煙がよく見えるんだもん。
 コンパス頼りに進んでたけど、あんなにネウロイが目立つもんじゃなかったら今頃海の上で迷子になってたかも知らん。

 空戦の基本を思い出し、とりあえず速度と高度を稼ぎつつ戦場に到着し。
 とりあえずビビって雲の隙間からMk108撃ってみたけど。
 あんな大型ターゲットなのに命中率50%ってどうよ……。
 何という下手くそ。
 これは間違いなく才能がない。
 
 ビームで反撃された時は驚いたけど、案外大した事無かった。
 狙い甘いんだもん……シールド張った意味無かったね! 疲れただけだ!

 とか何とか思っていると、インカムからかすかなノイズのあと、女の声が聞こえた。 

『こちら扶桑遣欧艦隊所属、坂本美緒だ。 援軍感謝する。
 しかし、随分と足の速いストライカーだな……お前がミーナの報告にあった新型使いか?』
「うん……あ、はい」

 もっさんはじめまして!
 この世界に来る前から一方的に知ってました!
 あと敬語むずい。

『緊急時だ、喋り方など気にはしない。
 現在、艦隊が受けた被害は甚大、旗艦『赤城』は航行不可能な状態にある。
 ……後続は来るのか?』
「……バルクホルンと、あと三人……来る。
 オレは……足が、速いから……先行して、美緒……少佐の援護を」
『そうか。 ネウロイの尾の付け根の辺りに、ヤツのコアがある。
 ……私が注意をひきつける。 やれるか?』

 どうもこの人囮になりたがるな。 目立ちたがり屋か。
 やってみます、と返事をしようとした瞬間。
 ネウロイが光った。
 直後、オレの周囲をビームがすごい音立てて雨あられと飛んでいく。
 ……悠長に喋ってる場合じゃねえよ!

 体を捻り、下降する。
 高度を速度に変えるのも慣れたものだ。
 一気に加速し、ビームの雨の範囲から抜け出して。
 そのままネウロイを中心に大きく定常円旋回する。
 これ、動きののろいヤツとか相手の基本戦術ね! テストに出るよ!

 オレが飛びぬけた何もない空間を、撃ち貫いていく破壊光線。
 うははは! どうよ、美緒さんの速度に慣れすぎて偏差射撃の修正が追いつかないか?

『……速い!』
「……美緒少佐、今」
『ああ!』 

 こっちに火線が向いている間に、美緒さんが反対側からアプローチ。
 ほらほら、お前の相手はあっちに居ますよー。

『はぁぁぁぁぁっ!!』

 美緒さんの気合が聞こえた次の瞬間、ネウロイの翼の付け根が光り輝き。
 光が収まったときには翼がぶった切られている。
 実際に目の当たりにすると非常識な切れ味だな……魔法すげぇ。

 やたら不快なネウロイの叫び声が響き。
 オレに向いていた赤い光の束が美緒さんを追いかけ始める。
 ははは、単純なやつめ!
 体を捻り、アプローチ軌道を取った、次の瞬間。

 火線のすべてがこちらに向いた。
 くそ、お見通しかよ!
 シールドを全力で展開。
 青く光るシールド全面が赤く染まり――て、え、ちょ、待て!

 重い。 押される。 速度が落ちる。
 シールドの青色が薄くなる。
 青色を赤い色が浸食し始める。
 え、おい、マジかよ……!
 
 左肩を思いっきりぶん殴られる。
 そんな感覚と共に、オレの意識は混濁した。

 
******

 落ちる。
 落ちていく。
 死んだ、と思った。

「ひ」

 ……死んだ?
 またオレが?
 二回目かよ。
 女の身体にされて。
 アニメの世界に飛ばされてよ。
 しかもそのままだと女子供に守られるとかクソッたれな話で。
 ンな事、やってられる訳ねえからこうやって此処に居んのに。
 何も出来ないまま落とされる?
 
「ひ、は」

 そんで無様に海面にぶつかってミンチになる訳だ?
 お魚の栄養素になってそのうち誰かの腹の中に直行という寸法ですね?

「はは……ッ」

 どんなジョークだよそれは。
 すげー笑える。
 腹の底から笑いがこみ上げてくる。 
 なんという今世紀最大の出オチ!

「ははははははははははは!!」
   
 目を見開く。
 視界はめまぐるしく回転しており、どちらが上か下かも解らない。
 だが、視界の隅に、一瞬、黒い影がよぎった。

 オレの奥の方で、何かが千切れる。

 ……ブッ殺。
 舐めんなよこのデカブツがッ!
 でかくて黒くて堅いからって調子乗ってんじゃねえ!
 手前ェ、誰に断ってオレの前飛んでやがる!
 首根っこひっつかんで鼻ッ柱削るぞゴラァ!



***Side Witches***
 
 ヴィルヘルミナが撃ち落とされた瞬間。
 美緒のインカムは拾っていた。
 ひ、という小さな悲鳴を。
 
 美緒は、それがヴィルヘルミナの末期の声だと思った。
 魔眼によって強化された視覚が捉えたのは、微かな血飛沫を上げて落ちていく姿だった。
 だが。

『ひ、は、はは……ははははははははは!』

 戦場に笑い声が響く。
 その涼やかな笑い声は、黒煙のぼる戦場には場違いなもので。
 
「落ち着け、落ち着いて体を持ち直せ、中尉!」

 だから、美緒は彼女が錯乱していると思った。
 死の淵に置いて取り乱す事は誰にでもあり得ることで。
 静かに死を見つめられる者など、実際にはほとんど存在しないのだから。
 だが、返ってきた言葉は、想像とは裏腹にしっかりとした物だった。

『……目は、覚めてる』

 強引に姿勢を立て直したのだろう。
 木の葉のように錐揉みしながら落ちていく姿が、一瞬歪な機動を描き、落下。
 速度を稼いでから水平飛行に戻った。

「まだやれるか、中尉?」
『ブッ殺……』
「ぶ、ぶっころ?」
『ロジカルに……考えろ、オレ……』
「……大丈夫か?」

 主に頭が。
 そう問いたくなったが、美緒はその言葉を飲み込む。
 戦闘中だ、余計な話をしている余裕はない。

『美緒……少佐』
「なんだ」
『このクソを……堕とす』
「そうか……よし、もう一度だ。
 私が囮になり……」
『馬鹿が……逆だ。 オレが……引きつける。』
「……ッ」
『五月蠅いだけの……偶に、噛みついてくる虻と……
 積極的に……刺してくる蜂、どちらが……驚異だ?』

 馬鹿、と言われて一瞬苦い顔をした物の。
 美緒はヴィルヘルミナの言葉を理解していた。 
 目の前のネウロイは、近接攻撃しか出来ない自分よりも。
 速く飛び、遠くからでも痛打を加えてくるヴィルヘルミナの方を敵視している。

「……わかった。 しかし、大丈夫か?」
『やると……言って、るだろう。
 やると言ったら……死んでも……やる!』
「ふ、言葉遣いは些か気に食わんが……その意気や良し!
 解った。 しかし、私にはこの刀一本しか……」
『……とりあえず、下の奴から……火器を、貰ってこい』

 美緒がその声の通り下を見れば。
 赤城の甲板に。 青く光る広大な魔法陣が描かれていた。
 
 その中心部。
 風見の水蒸気の中、ストライカーユニットを履いた宮藤芳佳が立っていた。

『坂本さん!』
「宮藤! 無事だったか!」
『私も手伝います!』
「っ、そこで待っていろ! 今行く!」

 視線を一瞬だけヴィルヘルミナの方に向ける。
 そこには、ネウロイの周りに、出鱈目な速度で無茶苦茶な軌道を描きながら。
 MG42をばらまいている姿があった。


***Side Wilhelmina***

 ロジカルに考えろ、オレ。

 戦闘は速度と火力!
 ケンカは度胸と根性!
 手前ェみたいなドンガメにはわかんねぇだろうがな……オレの方が速いんだよ!

 左手に構えたMG42をフルオートでばらまきながらネウロイの周囲を飛び回る。
 ちらりと見れば、美緒は赤城の方へと向かったようだ。
 ったく……囮とか壁になりてぇなら手前で勝手にすればいいがな、よく考えろよ……お前の方が飛ぶの上手いだろうが。
 こっちはかっ飛ばしてぶっ放すしか出来ねえんだよ。
 戦達者が攻めないでどうすんだボケが。

 しかし、アホみたいな火点と火線の量だな。
 赤い斑点が黒いボディに上面と下面に四つずつ、合計八。
 それぞれが数十本の火線を放てるとか、常識的に考えて難攻不落も良いとこだろ。

 だがそんなの関係ないね。
 人に本気の喧嘩吹っかけて来たんだ……手前ェは此処で潰す。

 とりあえず、MG42の弾が切れたんで、ベルトをひったくってMk108を腰溜めに構え、適当にぶっ放し。
 命中して相手の姿勢が崩れたところで弾倉の交換に入る。
 ああ、ついでだ。 赤熱する銃身を、手が焼けるのも構わずに魔力保護に頼って無理矢理交換。
 熱ィな痛ェな……それもこれもみんなオレとお前の所為だネウロイ!

 ネウロイが崩れた姿勢のまま旋回を始め。
 ん……あ、手前ェ、何よそ見こいてやがる!
 腹を赤城の方に向けようとしてるとか……やろうとする事見え見えなんだよ!

 ネウロイの翼に向けて――加速!
 劇中でシャーリーだってやってたんだ、お前の薄い翼じゃこれは耐えれんだろ!
 シールドを全開にしながらその真っ黒な装甲に向かってMG42を叩き込み、ほどよく削れたところで接触。
 目の前が黒一色に染まり、シールドがたわみ、火花を上げて――貫通した。
 青い海と赤城を無視してそのまま身体を無理矢理捻り、左肩が軋むのも無視してMk108をネウロイの土手っ腹にぶち込む。

 徹甲弾が黒いボテ腹をしこたま打ち据え。
 光の矛先が悲鳴と共にオレに向き。
 オレがコンマ数秒前までいた場所を、赤い光が薙ぎ払った。
 オレはそのまま落下しながら、翼を貫通する時に低下した速度を回復。

 よそ見するからそんな豚みたいな悲鳴を上げることになるんだよ……さあ、お前の相手はこっちだ!
 足をめちゃくちゃに振り、ロールしながら、全身に魔力を通した。

 身体が重力を感じなくなっていく。
 ……世の中には空戦エネルギーという考え方がある。
 通常の戦闘機は、高さと速度をそれぞれ交換しながら消耗していく、が。
 今のオレが使ってるのは戦闘機じゃねえ。
 ストライカーユニットだ。
 それに、オレの魔法技術は――重量軽減は、上昇する時の必要エネルギー量をしこたま軽減してくれるんでな……!
 
 上昇しながら加速する。
 落ちる時とほぼ同じくらいなんじゃないかと思う速度で上昇。
 相手の上を取ったところで重量軽減を解除。
 Mk108の質量を増やし、振り回すことで無理矢理にベクトルの方向をいじる。
 肘が変な音立てたが、まだ動く! まだ問題ない!
 本来なら失速しかねない角度で曲がり、低下した速度は稼いだ高度を換金して埋め合わせる。

 そして相手の直上を横切る軌道を取り、相手が直下に来たところで。
 MG42の弾倉に質量増加の魔力を叩き込み、撃ち降ろした。
 本来の数倍の質量を持たせた弾丸は、口径初速を鈍らせつつも重力加速度を身に纏い、ネウロイの背中を砕く。
 
 おうおう、必至に撃ち返してきやがって……だけどな、どっかの誰かも言ってんだよ!
 当たらなければ意味はねえってな!

『……中尉、無事か!』

 インカムから美緒さんの声。
 ようやくお出でなさったか!
 遅ぇ……美緒さん、あんたが来るまでにクソしてションベンしておつりが来るほど遅い!

 見れば、右手に刀、左手にはきちんと機関銃を持ってこちらに飛んでくる姿。
 だが、これで準備は整った。
 たっぷりとぶん殴っといたからな……今更美緒さんが豆鉄砲持って来たとしてもメインターゲットは変わりゃしないだろう。

 とりあえず会話に集中するためにネウロイから少し距離を取る。

「……戦ってる……なら、生きてる……でしょ?」
『酷い姿だが……いや、そうだな』
「……美緒……少佐。 道は、オレが……作る」

 Mk108の弾倉を投棄。
 なるべく持って帰ってくるようにとか言われてたけどそんなの無視だ無視、欲しいなら勝手に拾いに来やがれ!
 そして、残しておいた最後の弾倉をバッグから引っ張り出し、装填。
 弾種は、何時だかの座学でバルクホルンが自慢げに解説していた

「薄殻……榴弾頭。 これで……。
 少佐は、前から……オレは、後ろから、行く」
『榴弾……バルクホルンも使っていたアレか。
 ……なるほど、そういう手か……ならば私はそこを通り抜ければいいか』

 流石美緒さん、よくわかってらっしゃる。

『タイミングはそちらに合わせる。
 合図は任せたぞ!』
「了解……!」

 オレは速度を生かして大きな旋回円を描き、ネウロイの右側から後方へと向かい。
 美緒さんはその旋回性能と、操縦技術を生かしてまるでダンスを踊るように左側からネウロイの正面へと回り込む。

 興奮に比例してアドレナリンだかβエンドルフィンだかが盛大に分泌され、意識が加速する。
 さあ、お前は此処で――墜ちろ!

「――エンゲージ!」

 加速する。
 相手と同高度、真後ろからの突撃。
 お前は、そのでけぇ尾っぽが邪魔になって真後ろにはさぞや撃ち難いだろうな!
 所詮装甲と火力を重視した大型のネウロイだ、オレの最大速度とお前の最大速度の間には二倍ほども差がある。
 あっという間に追いつくが、飛んでくるビームはまばらで。

 それも当たり前だ。 射線が通るほど近くに来たら、自分の身体に当たるのが怖くてそりゃあ迂闊にビームは撃てねぇだろうな……!
 弾の切れたMG42を放り投げ、それがビームに焼かれて消滅するのを最後まで見届けることなく、MK108を構え、魔力を込めて。
 照準や照星なんて関係なく、眼前に広がるネウロイの背中に向けて、フライバイしながら腰溜めにフルオートでばらまいた。

 魔力を込められ、炸裂力の増した炸裂弾は。
 薄い弾殻のお陰で爆発力をなんら減ずることなく、その破壊力でネウロイの装甲殻を粉砕し、粉塵を巻き上げた。
 それを隠れ蓑に、オレは身体を捻りネウロイから角度を取りつつ離脱。
 ひときわ高いネウロイの叫び声が空に響き渡り、狂ったように乱射されるビームがオレの後ろを焼き払っていく。

 ……おいおい、面白い位に引っかかってくれるな……そんなに一方的に殴られるのが気にくわないか?
 オレを追っかけるのは勝手だがな……ずいぶんと懐がお留守だぜ?


***Side Neuroi***

 これまでで一番の痛打を与え、粉煙の中から飛び出し、離脱していくウィッチをビームで追いながら。
 ”それ”は一瞬の疑問を持った。
 もう一人のウィッチは何処へ行ったのか、と。
 ”それ”の意識が周囲の空に向いて、その何処にももう一人のウィッチが見えないことに気付いた瞬間。
 ”それ”は、恐怖を抱いた。

 飛び去っていくヴィルヘルミナを追っていたビームが、今だ全身にまとわりつく煙を薙ぎ払い、

「ずいぶんと無茶をする奴だな……だが、そういうのは嫌いではないな」

 そして、”それ”は見た。
 己の心臓部、コアを覆う装甲殻の真上に立つ、一人の黒髪の女性の姿を。
 青く炎のように輝く魔力を纏わせた刀が、彼女の右手を握られているのを。
 彼女の左手に保持された、機関銃の銃口がコアへと向けられているのを。
 その何れもネウロイである”それ”にとっては驚異ではないはずだった。
 彼女がウィッチでなければ。

 ”それ”がビームの照射の準備を整える前に。
 機関銃が毎分500発という、文字通りの弾雨を解き放った。
 この至近距離で、しかも魔力の込められた弾丸には、コアを守る装甲殻と言えどガラス細工に等しい。
 数秒の射撃が装甲殻を吹き飛ばし、貫通したいくつかの弾丸がコアをかすめ、”それ”に耐え難い苦痛を与える。
 苦痛はその巨体を駆けめぐり、ビームの照射準備を滞らせ。
 ……それが致命的な遅れとなった。 

「ここで、貴様は……墜ちろ!」

 坂本美緒は、ストライカーの推進力と己の技量全て、そして裂帛の気合いを以て刃を突き出す。
 渾身の魔力が込められたその切っ先は青く鋭い軌跡を描き。
 コアの硬度という最後の抵抗すら紙のように切り裂き、深々と突き刺さった。

 ガラスが砕けるような音が、響く。

 ”それ”は、己のコアと、ひいては全身を焼き焦がす魔力の奔流に耐えきれず絶叫を上げ。
 直後、”それ”の意識体は世界から永久に消滅した。
 




***Side Yoshika***

 ――みんなの歓声が、周囲に響く。
 ネウロイという巨大な化け物が、白く砕け散っていく。
 その光景は、一種幻想的とも言えるほど、綺麗で。
 赤城の甲板の上、ただ此処にいることしか出来なかった私を、凄くちっぽけな物に感じさせた。

 あのとき、鉄砲を取りに来た坂本さんは、一緒に戦うと言った私に言ったのだ。
 シールドの張り方は解るか。
 解るなら、この艦と、周りのみんなを守ってくれ、と。

 それは多分、本音だったのだろうし、私を戦わせたくないという言い訳だったのだろう。
 それぐらいは、解る。
 解るからこそ、自分の無力さが惨めで。
 一度撃ち落とされた、他のウィッチ……それも、私よりも小さそうな子が、血を流しながら必死に戦っているのを見て。
 私は思う。
 
 私も、あんな風に空を飛べるようになりたい。
 あんな風に空を飛んで。
 お父さんとの約束を守るために。
 みんなを守ることが出来る力がほしいと――――
 



------
軍艦が壊れたらとりあえず第三艦橋大破!って言っとけば間違いないってばっちゃが言ってた!
というか何処だよ第三艦橋。

なんか途中で単なるノベライズやってる気がしてきた。
でも、この辺の描写やりたかったんだもん!

格好いいオリ主は初陣で華麗に活躍して人気者になる!
へたれたオリ主は初陣で華麗にパニックに陥ってみんなに慰められる!
ヴィルヘルミナは……初陣で華麗に冷静にバーサークする!
多分前者のカテゴリーなんだろうけどー。



[6859] 10
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/12 02:58
10 「馬鹿者の末路と宮藤」

***Side Wilhelmina***

 死ぬ。

 ちょっと身体をよじらせただけで痛い! 痛すぐる!
 ぺろっ……この味は間違いなく重傷!
 嘘です!
 というか痛くて味とか解りません!

 現在、オレは全身に包帯と湿布を貼り付けて、自室静養を申しつけられております。
 基地に帰投直後に意識ぶっ飛んで。
 さっきまで医務室とお医者さんのお世話になっていました。

 ぶん殴られたと思ったらビームがかすってたらしくて。
 左肩は打撲に骨にひびが入ってその上軽く抉られて靱帯損傷。
 ついでに質量増やしたMk108ぶん回したもんだから肘も関節と靱帯が痛みまくりんぐ。
 ……すげー、良く動いたなオレの左腕!
 靱帯、もとい人体の不思議!
 戦ってる最中は全く痛くないんだもんなぁ……脳内麻薬様々である。
 というか、ネウロイのビームって瘴気帯びてるらしく、かすっただけでも普通の人間なら致命傷らしい。
 それを聞いた時は心底ウィッチで良かったと思ったね!!

 その他、全身の筋肉や関節、特にストライカーユニットを無茶苦茶に動かしまくったため。
 股関節を筆頭に、鍛えられたヴィルヘルミナさんの軍人バディの限界を超えてしまったらしく。
 身体の節々が凄い痛い……うう……
 歩くと……股が……股がいてぇよ……!

 あと、オレのハートも痛い。
 というかオレの行動と言動がイタい。
 
 ああ……思い出すだけでも恥ずかしい!
 何アレ! 何テンパっちゃってんのオレ!
 もっとクールにファニーに、が信条だったのに!
 黒歴史が! 成人式と共に捨て去った若さゆえの過ちの記憶が!
 峠攻めてた頃のアホみたいなオレそのままじゃないか!
 今思えば、周りに囃し立てられてF峠の狂犬とか呼ばれて、自慢げに名乗ってたとかねーよ!
 スゲェ真面目に「オレはピリオドの向こう側を目指すんだ……」とか言ってた気がする!
 何その中2病……うあああああ!!!

 しかも何、美緒さんに「バカメ!」とかなんとか言った気がする!
 馬鹿はオレだぁぁぁぁっ!!
 上官に対して馬鹿とか洒落んなってねー!
 これは間違いなく再教育という名の調教→目からハイライトが消えて廃人ルート……!

 オレのばかばかばか!
 頭を両手で抱えて猛烈な勢いで振る。
 振動で痛い! 痛いけどこれってきっと神様がくれた罰なのよね!

 振り回した右肘が、ベッドの角に思いっきり当たって。
 とりあえず痛みとはまた違ったものすごい苦痛が半身に駆けめぐった。
 うずくまる。
 おおおおお……いてぇ……今、神谷明の渋い声で「ファニーボーンを突いた……貴様はもう死んでいる」って幻聴が……

 肘の痛みでテンションが猛烈に下がる。
 うう……少し落ち着くか。

 とりあえず半身を起こして、壁にもたれ掛かる。
 それだけで全身が筋肉痛にも似た痛みを訴えた。

 はぁ……まぁ、やってしまったことは仕方がない。
 それに、経過は何とも不本意な物だったが、何とか初戦を生き残ったのである……半死半生だったけど!
 半死半生というか九死に一生っぽいけど! 
 
 とりあえず、昨日の昼過ぎに基地に帰投して。
 そのままぶっ倒れて、一時間ほど前に目を覚ました。
 時計が10時を指してて、窓の外が明るいって事は、また寝過ごした訳ですね、解ります。
 っていうかオレ倒れる頻度高すぎない?
 貧弱すぎるオレの精神……

 まぁ、なんだ……とりあえず腹が減ったが。
 身体痛くて食う気が起きねえ……治癒魔法プリーズ!
 っていうか芳佳さんそろそろ来るだろ。
 あの出鱈目魔力でサクッと一発よろしくお願いします!

 腹減った……血が足りねぇ……レバー! ほうれんそう! 生卵!
 
 という三大欲求の一つに基づいた思考は、ノックの音で遮られました。
 返事しないうちにドアが開かれ。

 エーリカさんが入室しました。
 ……え、なんでそんな怒った顔してんの。
 なんでそのまま無言でこっち歩いてくるのさ。
 ……なんで両手をオレの胸部に伸ばしてるんですか!
 ちょ、てめぇ、ま

「……」
「――――」

 ――人の胸揉むな、馬鹿! 握力訓練ボールじゃねえんだぞ!?
 痛い! 痛いから! 傷に響くから!

「……馬鹿」
「――」

 入ってきた時の倍速でエーリカさんが退室しました。
 逃げた! 逃げたよあのアマ!
 人が絶句してる間に逃げました!
 何という逃げ足の早さ……
 うう、この基地はおっぱい魔神の巣窟ですか……リーネ、遅くはない、今からでも転属願いを出すんだ……

 胸を押さえて悶えていると。

「あれはあれで怒ってるんだ……察してやれ、バッツ」

 バルクホルンお姉ちゃんが来ました。
 ……お、お姉ちゃんも揉みに来たんですか!?
 もう止めてー!

「……いや、そんなに胸を必死に隠さんでも、揉まんから……」
「本……当?」
「バッツ、お前は一体私たちをなんだと思ってるんだ……」

 ぱんつアニメの振りをしたおっぱいアニメの登場人物!
 とはまさか口が裂けても言える訳がないのですが。

 やたら脱力してるバルクホルンがすっごい哀れなので、真面目な話に戻そうか。
 っていうか、怒ってたのかエーリカ……ごめんね、心配かけてごめんね。

「……ごめん」
「無茶をするな、と言ったはずだがな?」
「……我慢、出来……なかった」

 何年ぶりかでブチ切れちゃったよ……うーん、反省反省。
 もう、腹の底から熱い物が脳天までぶち抜ける感じ……もっと冷静に戦わないと死んじゃうよね、きっと……

「……生きて帰ってきてくれればいい。
 私も人の無茶をどうこう言える立場じゃない……からな」
「……うん」

 生きて帰ってきてくれて。
 その言葉が染み渡ります。
 親父とお袋死んでから心配してくれる人居なかったからなぁ……
 その声の半分以上が、オレではなくてこのヴィルヘルミナさんに向けられているのは解っているけれど。
 それでも、ありがたいです。

 あ、やべ、ちょっと泣けてきた……



***Side Witches***

 トゥルーデは、謝りながら涙ぐんだヴィルヘルミナを見て、怒気が萎えていくのを感じていた。

 本当なら、命令に従わず無茶してネウロイの撃破を試みたことや。
 ネウロイの撃破直後に合流したにもかかわらず、重傷を隠して単機帰投していったりしたことを怒ろうかと思っていたのだが。
 しかも後者は「オレは……ピリオド、の向こう側……まで……!」とか訳のわからんことを呟いていた事もあってその場にいた全員が本気で心配した。
 ヴィルヘルミナが全速で飛べば、魔法を使用したシャーリーですら追いつけないのだ。
 基地にちゃんと帰投したという報告を無線で聞いて安心し、着陸に失敗してそのまま昏倒して医務室行きになったと聞いて、落差で余計心配が増えたりもした。

 だが、ヴィルヘルミナの少ない言葉を聞いて、トゥルーデは思う。
 我慢できなかった。
 それはきっと、彼女の心の奥に残る、カールスラント陥落の光景が引き起こした物なのだろう、と思う。
 もしくは、ヴィルヘルミナが負傷した、あの補給艦隊の光景か。

 実際、トゥルーデ達が戦闘空域にたどり着いた時の情景は、壊滅と言って差し支えない物だった。
 艦隊を構成する艦の内半数が中破以上。
 旗艦である空母と、駆逐艦が二隻大破もしくは航行不能であり、その他の艦もなんらかの損害を受けていたのである。
 死傷者も、少なからず居ただろう。
 
 戦場の記憶がヴィルヘルミナの心に狂気を招いた、というのなら問題は大ありだが。
 美緒の証言によると、興奮はしていたようだがその思考は比較的正常と言って差し支えない物だった、とのことである。 
 ネウロイに対する怒りは現場にいる多くの将兵が抱いている物であり。
 あとは、それを制御出来るようにすればいいだけの話だ。

「そういえば……バルクホルン」
「なんだ?」

 ヴィルヘルミナの語りかけに思考を中断し、バルクホルンはいぶかしげに応えた。 

「その……ごめん。 服……」
「ああ、そんなことか……別に構わん。 予備の制服だからな、換えも効く」
「……そう」
「……バッツ。 別に泣かんでも良いだろう……まぁ、その怪我だ……暫くは静養するんだな。
 余り怪我の程度が深くなくて良かった。 一週間も待たずに病院に出戻ってみろ、医者に嫌な顔をされるぞ」
「そう……だね」

 妙な顔をして返事をするヴィルヘルミナに、トゥルーデは苦笑を返した。
 この表情なら、大丈夫だろう。
 ヴィルヘルミナの顔に見えたのが、謝罪と後悔の気持ちであり、恐怖や狂気の兆候が見られないのに安心して。
 トゥルーデは軽くため息を吐いた。
 
「さて、私はもう行くが……ああ、フラウとは後でちゃんと話をしておけよ。
 お前が一人で飛んでったと聞いて、ミーナの執務室に殴り込まん勢いだったからな。
 諫めるのが大変だったんだぞ?」 
「……うん。 あと、バルクホルン……」
「ん? どうした?」
「……来てくれて、ありがとう」

 当たり前だろう、戦友なんだから。
 その言葉を残し。
 トゥルーデは退出した。


***Side Wilhelmina***

 と言うようなことがあったのが6時間ほど前です。
 昼食と夕食はとりあえず運ばれてきたオートミールをずるずると食いつつ、というかオートミールばっかだな畜生!
 もしかして怪我して寝込む度にオートミールか?
 ぶっちゃけこの不味いオートミールを食べなくて済むように、怪我しない戦い方を勉強しないと駄目臭いです。
 現実味のない生死より、直面した食糧事情の改善!

 バルクホルンが来た後、仕事の合間を縫ってちょこちょこ人が見舞いに来てくれました。
 マジありがとう……一人暮らししてると寝込んでもずっとひとりぼっちだから。
 人が居るのが本当に嬉しいなんて感じたのはどれだけぶりだろうか。

 トゥルーデの後に来たのが、ミーナさん。
 最初に適度に叱られた後、リンゴ剥いてくれました。
 忙しいはずなのに……これが部下の人心を掌握する手法ですか!
 あと、もっと仲間を信じて欲しい……とも言われた。
 うぃ……ごめんなさい、気をつけます。

 次がシャッキーニのコンビ。
 シャーリーは割と本気で心配してくれていた。
 ルッキーニはなんか見舞いに来たんだか騒ぎに来たんだかよくわからなかったが子供は元気な方が見てて安心するのでまあ良しとした。
 心配してる理由だが、なんか、オレ、あんまり記憶にないんだけど、勝手に単機で基地に帰投したらしく。
 しかもその時「ピリオドの向こう側を目指すんだ……!」とか呟いてたらしい。
 うぎゃぁぁぁぁぁ!
 穴があったら埋まりたい!
 その上から漬け物石で封印して!
 そりゃあ頭逝っちゃったとか思われるよぉぉぉぉ!
 と、頭を抱えて悶えてたら余計心配されました。
 いや、別に戦いの記憶が怖かったとかじゃなくて、黒歴史がね、黒歴史が。
 とりあえず説明しておいたが、相変わらずの口調だったんで理解して貰うのに結構時間食った。
 最終的には、血が抜けてて頭が良く回ってなかった……ということに帰結して頂いた。
 オートミールじゃなくてもっと肉とか食いたい。

 その後がエイラ。
 あれ、サーニャにしか興味ないんじゃないの……と思ってたら。
 きちんと生きて返ってきたじゃないか、偉い偉い、と、また頭撫でられた。
 だから恥ずかしいんだってそれ……早く慣れないと。
 案外怖くなかったろ、とか言われましたが……うん、実際の話そんなに恐怖は感じなかったかなぁ。
 戦闘中、半分以上ブチ切れてたからかも知れないけど。
 そりゃあビームに押し切られた時は怖かったですが。
 あまりプレッシャーのような物は感じなかったよな……ぶっちゃけバルクホルンやエーリカが後ろにいる時の方が精神的圧力が凄い。
 自分の全力を尽くしてもことごとく封殺されるあの恐怖感や焦燥感はネウロイからは余り感じなかった。

 そして、最後。
 日が沈んだ後、美緒さんと新人ウィッチさんが来るというので、皆で出迎えるらしく。
 オレの体調を聞きに来たのが……

「……エーリカ」

 と言う訳でエーリカさんです。
 ああ、まだふてくされてんのかよ……この子ずぼらキャラだったはずだろ、何でこんなに根に持つんだよ。
 先人は言う……女の子が怒っていたらとりあえず謝り倒せ、と。
 経験は言う……謝り倒す前に、謝る理由は考えておけ、と。

 ……ああ、うん、心配かけてごめんなさい、だよね?

「……ごめん、エーリカ」
「……任務だよ、仕方ないよ……でも、もっと、後続のトゥルーデとか……みんなを、頼ってよ」

 ……違うか。
 馬鹿だよな、オレ……助けて貰いっぱなしなんだよな、結局の所。

「ミーナ……にも、言われた」
「私たちはチームなんだからさ」

 チーム……か。
 ……彼女達に借りを返すためには、色々学ばないといけなくて。
 きっと、それを学ぶためには彼女達により負担をかけねばならないのだろう。
 それは、みっともない行為だけど、必要なことで。
 オレが、彼女達と同じ高みで飛ぶためには、必要なことで。

 だから、オレは決める。
 
「エーリカ……オレ……強く、なる……
 みんなと……一緒に、飛ぶために……だから」
「……うん、私も、手伝うから」
「……ありがとう」

 ああ、こっちの世界に来てから。
 オレお礼言ってばっかりだよ。 
 
「じゃあ、行こっか……行ける?」
「ん……肩、貸して」
「おっけー」

 う、いてて。
 エーリカの華奢な肩を借りて、ベッドから立ち上がる。
 案外力あるのな……いや、オレが軽いのかも知れないけれど。

 ふと、エーリカがいぶかしげな顔をしてオレを見る。

「……ヴィルヘルミナって、寝る時ソックス履くんだ?」
「誰かが来るって解ってたから……着替えてた」

 当たり前だろう……何を言ってるんだエーリカ。
 っていうか初対面の人に寝間着見せるとか無いよ……マナーだろマナー。
 しかも相手は乳魔神芳佳さんだぜ?
 薄着なんか見せたら襲われてしまう……

「そういえばさ、ヴィルヘルミナ……さっき胸揉んだ時だけど」
「……痛かった。 ……傷に、響いた……」 
「ああごめんごめん。 でさ、ちょっと大きくなった?」
「……ッ、知ら、ない」

 っていうか、ああもうマジで知らないよ!
 しんみり締めたと思ったらこういうオチかよ!
  


 その後の芳佳さんの顔見せの時。
 オレの方を微妙に熱視線で見てたのは何でだぜ?
 エーリカに肩借りて立ってたから目立ってたのか?
 それとも既にロックオンされてますか……?


------
というわけでアニメ版1-2話相当のエピソード終了。

中の人の過去の一端が垣間見えた!

アニメだと、その日の晩にウィッチーズ基地に着いたように書かれてましたが。
いくら島国と言ってもグレートブリテン島も広いはずなので。
芳佳さんともっさんは、なんとか航行可能にした赤城、もしくは無事だった駆逐艦に乗ってそのままブリタニアの最寄りの港に入港。
そこから一日かけてお父さんの足跡をたどり、実際に基地に着いたのは戦闘のあった翌日かもう一日後の夜何ではなかろうかと言う予想に基づき書いております。

見舞いに来るキャラがなんか、好感度一定以上稼いだキャラっぽくなってしまったのが。
もっとペリーヌとか……リネットとか……サーニャとか……ミーナさんとか……出したいよ!
っていうか約半分とかねーわ……もっと複数人を描写出来るスキルが欲しすぎる。

あ、別にこのSSはエーリカルートとかそういうのじゃないです!(視線を逸らしながら)



[6859] 11 Reason Seeker
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/27 07:50
Episode 2: Reason Seeker
11 「コントロールと、質問」


***Side Wilhelmina***

 今日も今日とてブリーフィングルームである。
 毎度思うけど此処ってすげぇ教室っぽいよな……
 学園ウィッチーズ! とかどうよ、スピンオフ作品でさ。
 ミーナ先生の誘惑授業とかエイラがサーニャの首にロザリオかけてお姉さま……とかやんの。
 もう第二次世界大戦とかメカ少女とかまったく関係ないけど、資源の無理な使いまわしから来るぐだぐだ感が良いんじゃなかろうか?

 ああ、いや、思考がそれたな。

 あれから――芳佳さんの顔見せから二日経ったけど、多分なんか色々手続きが必要だったんだろう。
 今日が、航空団のみんなと芳佳さんの正式な顔合わせとなる。
 そのため、傷病人であるところのオレもこうやって出てきている訳だ。
 そろそろ身体動かせるようになってきたからある程度は無理矢理動かした方がいいんだけどね。
 あまり動かさないと体固まっちゃうし。

 オレも普通に安静に寝込んでたわけで。
 その間、暇だったので英語で書かれてる本とか解読作業してました。
 とりあえず世界を知るのには歴史が一番いいと思い、世界史の本を図書室で借りて読みましたが……全然読めねえよ。
 もっと英語の授業真面目に受けとけばよかった!

 さて、筋肉痛や関節痛はこの二日間寝たらかなり何とかなった……若いっていいよね。
 だけど、左腕の痛みはどうにもならん。
 今も首に包帯かけて吊っております。
 そりゃあ骨までやっちゃったらそうそう簡単には直らんだろうし……ミーナさんとの飛行訓練も延期しております。
 で、そのミーナさんは、昨日ロンドンに出張してました。
 帰ってきた時不機嫌だったなぁ……あれか、お偉いさんに呼び出されて牽制食らってたんだか牽制してきたんだか。
 原作だと芳佳さん一人で変な事言われてたし……今はオレもいるから上乗せで無茶な事言われたんだろうなぁ……。
 なんともはや……現場と上の意見が行き違うってのはどうも解決できない問題なのかねぇ。
 いやまぁ、現場の人間と上の人間の見るべき物は全く違うから、行き違っちゃうのは仕方のないことなんだけど。

「ヴィルヘルミナ中尉」

 そんなどうしようもないことをぼんやり考えていると、声をかけられた。
 んあ……オレか?
 誰だっけなこの声。 聞きなれないんだが……

「……誰?」
「おいおい、一緒に戦った相手を忘れたのか?
 ん、そういえばしっかりと自己紹介するのはこれが初めてだったか?」
「美緒……少佐?」
「みっ!?」

 ペリーヌがなんか奇声をあげたがまぁいい。
 ボーっと黒板を見ていた視線を脇に向けると、そこには右目に眼帯をした、黒髪の美人さんが居た。
 坂本美緒さんである。
 ああ、畜生……もっさんもえらい美人だなオイ。 ウィッチには美人しか居ないのか。
 いや、美人だったほうが目にうれしいのでそれは構わないんですが。
 なんだ、魔力の働きとか遺伝形質がどうのこうのとかそういう理由ですか?
 とりあえずモンゴロイドでもう二十歳らしいので、ウィッチーズの中では一番身近に感じるんだぜ。
 男だったときにお知り合いに以下略!

「どうしたペリーヌ?」
「な、何でもありませんわ!」
「そうか。 ああ、自己紹介だったな。 私は坂本美緒。 扶桑皇国海軍、少佐だ。
 ミーナに聞いていると思うが、この航空団の副長を務めている。 これからもよろしく頼む」
「……ヴィルヘルミナ……ヘアゲット・バッツ。 カールスラント、空軍……中尉」
「はっはっは、覇気のない奴だな。 私の事を馬鹿だと言い切ったあの時の威勢はどうした?」

 そう豪快に笑う美緒さん。
 覇気がないんじゃない、上手く喋れないだけです!
 あと、あんまり根に持ってないみたいで良かった。

 っていうか、それよりも、ペリーヌの前でそんな発言しないでよー

「さっ……さささささ」
「さては……南京……たま、すだれ?」
「坂本少佐のことを、ばばばば、馬鹿ですって……ッ!?」

 誤魔化されなかったか!
 というか無理がありすぎたか。
 ほらねー、ペリーヌが噴火しちゃうじゃないか。
 後ろの席で寝転がってたルッキーニが不機嫌そうなうなり声を上げ。
 あ、エイラがさりげなく寝てるサーニャの耳を塞いでる。
 オレの耳も誰か塞いで欲しかったです。

「ああ。 戦闘中に負傷したときに言ったんだが、なに、興奮して口調が荒くなるのは誰だってあることだぞ、ペリーヌ。
 一々目くじらを立てていては日が暮れてしまうからな……お前も気にするなよ、ヴィルヘルミナ」
「う……坂本少佐がそう仰るなら」

 しゅんとなるペリ犬。
 坂本教・教祖の肩書きは伊達じゃないな美緒さん……信者の暴走も一発鎮静!
 ……いや、しゅんとしてねえな、普通にこっち睨んできたし。
 これはキレちゃったオレも悪いので甘んじて受ける。 ごめんなさーい!

「それよりも、私はお前の無茶な戦い方のほうが気になってな。
 ……私や扶桑艦隊を援護する為だったのだろう。 遅くなって悪いが、皆に代わって礼を言わせてくれ。
 お前が居なければ今頃はどうなっていたか解らない」
「オレの……ストライカーの、速度が……速かっただけ、だから……。
 戦い方は、皆にも……言われた……。 今度からは……気を、つける。
 それに、オレが……来なくても、あの子が……飛んでたと、思うから……」
 
 ああもう皆に突っ込まれまくるなオレの無茶……しばらくはこれで怒られたりからかわれたりするんだろう。
 あと、オレが居なくても芳佳さんが飛んで何とかなってたはずですよ?
 ……あ、今気づいたけど芳佳さんストライカーは履いても飛んでねえな……この手の変化はまずかったりするんだろうか?

「……確かにそうかも知れんが、私としてはほっとしているよ……宮藤は特別な訓練を受けているわけではないからな。
 飛ぼうという決意と度胸はすばらしいものだが、結果として素人をいきなり実戦に出さずにすんでよかったと思っている」

 流石に考え方が普通である。
 ミーナさん十八歳より年上なことだけはあるね!
 あ、なんかペリーヌが会話に参加したそうだな。
 
「その……ミヤフジ、というのは、坂本少佐が連れてきた子のことですわよね?」
「ああ、そうだ。 魔力のコントロールがいまいち下手だが、治癒魔法の使い手で、魔法の素質もなかなかのモノだ。
 芯もまっすぐだし、勝負度胸もある……あれは磨けばきっと良いウィッチになるぞ。 いや、私がそうしてみせる」
「わ、私もお手伝いさせてもらっていいですか!?」
「ん? ああ、そのときはよろしく頼むぞ、ペリーヌ」
「はいっ!」

 ほほを染めて満面の笑みで応えるペリーヌさん。
 だがな、美緒さんべた褒めの相手に対する微妙な嫉妬心とか……隠せてないぞ?
 原作知ってるからよーく透けてみえる。
 うーん……でもまぁ陰湿ないじめとかに発展しないはずだから可愛いものか。

 二人の会話を適当に聞き流していると。
 ドアノブが握られ、ドアが開く音がして、ミーナさんと……可愛らしいといって差し支えない、栗色の髪の少女が部屋に入ってくる。
 ペリーヌも美緒さんも自分の席に帰っていった。
 そしてオレは

「――ふぐ」
「大丈夫、ヴィルヘルミナ?」
「ん……平気」

 思わず吹いてしまいそうになったのを飲み込んだのが、傷が痛んだと思ったのか、前の席のエーリカが心配してくる。
 ……いや、うん、この世界の標準、すなわち下半身丸出しにも随分慣れてきたと思ったけれど。
 これはちょっとインパクト強すぎたね……スク水セーラー服。 どこの風俗だよパート2である。
 なまじ芳佳さんが純朴系で可愛いもんだから、ミスマッチがすごい事この上ない。
 坂本さんは士官服で大部分が隠れてたからいいものの……あの人も、上着の下スクール水着なんだよな。
 二十歳がスクール水着。
 想像したらなんかエラくエロい事に、というか企画モノAV、とかそういう単語が浮かんできたので、オレは考えるのをやめた。

 ミーナさんが講壇の前で軽く手を叩き、皆の注意を集めて言う。

「はい、皆さん注目。 改めて、今日から皆さんの仲間になる、新人を紹介します。
 坂本少佐が、扶桑皇国から連れてきてくれた、宮藤芳佳さんです」
「宮藤芳佳です、皆さん、よろしくおねがいします!」

 ……うーん、やっぱこっちをちらちら見てやがる。
 服はバルクホルンのお古をもう一着借りてるから、相変わらずだぼだぼでオレの胸のサイズは目立たないはず……
 どういうことだ……?
 

  
***Side Witches***

「宮藤さんの階級は軍曹になるので、同じ階級のリーネさんが面倒を見てあげてね」 
「あ、はい……」

 そんなやり取りではじめられた、略式の入隊式という名の挨拶はおおむね滞りなく進んだ。
 途中、芳佳の、拳銃は必要ないという甘さの残る発言に対する一言を、まるで真面目に聞いていないルッキーニに無視されたペリーヌが一瞬激昂しかけたものの。
 手伝うと言った手前、中座してしまうわけにも行かず、美緒のおかしなヤツだな、という笑い声に飲まれるように誤魔化された。

 これから新聞の取材――ネウロイ200機撃墜達成の件――のあるエーリカと、その付き添いであるバルクホルンは簡単に名前だけ交換したあと、早々に退室し。
 ミーナも、改めて、という形で自己紹介をし、後を美緒に任せて部屋を出ていった。
 後に残った者が、各々簡単に自己紹介をしていく。

 相変わらずマイペースなエイラと寝ぼけているサーニャ。
 ペリーヌは美緒の手前、友好的な態度は崩さなかったものの、階級を付けずに坂本さん、と美緒のことを呼ぶ芳佳に憤ったりした。
 尤も、その後、芳佳の胸をもんだルッキーニの「残念賞……あれ、だけどペリーヌよりちっさい……かな?」という発言に。
 美緒の後ろでひそかにガッツポーズを取ったりしていたのだが。

 シャーリーのいつもどおりの、胸を強調する自己紹介のおかげで、彼女の胸に期待、嫉妬などのさまざまな種類の視線が向けられたり。
 リネットが逆にその積極的な胸を隠して消極的な挨拶を経たりしたが。
 その間中、話が途切れたり、小さな間が生まれたりするたびに。
 芳佳は視線を頻繁に一人の少女に向けていた。
 ヴィルヘルミナである。 

「あ、あの……!」
「ん、どうした、宮藤?」
「坂本さん、あの子って……私たちを助けてくれた」
「ああ、そうだ。 おい、ヴィルヘルミナ、ずっと黙っているなんて人が悪いぞ?
 自己紹介してやってくれ」

 美緒の言葉に反応し、ヴィルヘルミナがゆっくりと立ちあがる。
 左腕を包帯で吊っている姿は痛々しくて。
 顔の火傷が、余計にそれを芳佳に感じさせた。

「……ヴィルヘルミナ。 ヴィルヘルミナ……ヘアゲット・バッツ……カールスラント空軍、中尉」

 感情の読めない、しかし左目周りの火傷痕がかすかな威圧感を与える視線が芳佳に向けられ。
 涼やかな声で、しかし極めてぶっきらぼうに、言葉がぶつ切りに放たれる。
 その後に何か続くと思って黙っていた芳佳だったが、ただよろしく、と言われ。
 軽く頭を下げ着席しなおす彼女に、拍子抜けした。

「えと、よろしくおねがいします!」
「……ん」
「あの、その! 先日はどうも本当にありがとうございました!」
「……ああ、いい……任務、だったし……」
「えっと、それで、傷……悪いの?」

 ヴィルヘルミナは首を振るが、良くは無いだろう。 芳佳はそう思う。
 実家の診療所にも、こういう処置を必要とする人が来ることもある。
 腕を吊るのは、つまり関節や骨に負担をかけないためだ。
 被弾した瞬間は見ていなかったが、ヴィルヘルミナが戦闘傷を負ったという話は美緒から聞いていたから。
 その話を聞いたときから、ずっと思っていた。

「あの、私に治させてもらえない……かな?」

 ああ、そういえばミーナ隊長も言ってたな、治癒魔法が使えるって。
 へぇ、お手並み拝見かな。
 そんな声が外野から漏れ、ヴィルヘルミナは問う様に視線を美緒に向けた。
 それにつられて美緒を見る芳佳。

「ん? なぜ私のほうを見る?」
「……これから、芳佳の、訓練……あるんじゃ」
「ああ、宮藤の消耗のことを気遣っているのか?
 そうか……そうだな、別にこの後すぐに始めるわけじゃないから大丈夫だろう」

 どうせ午前中は所用があるからな、と美緒は続けた。

「……じゃあ……お願い」
「はい!」

 一歩、ヴィルヘルミナのほうに近寄り、両手を肩にかざし。
 芳佳は己の魔法を行使した。
 柴犬の耳と尻尾が生え、体が青白い光を放つ魔力を纏う。
 かざした手のひらからも、強く、暖かな光が生まれていった。

「へぇ、これは……」

 美緒とヴィルヘルミナ、芳佳以外の誰かがそんな声を上げた。
 その治癒の光の大きさと強さから、芳佳の魔力量や適正が見て取れるためであり。
 それは、彼女の潜在能力の高さを思わせる。

 周囲の感嘆とは裏腹に、芳佳は自分の未熟さをかみ締めていた。
 自分達を守って負傷したヴィルヘルミナの傷を治してあげたい。
 自分が至りたい高みに居る彼女に少しでも近づきたい。
 思いは力を生み、しかしそのほとんどが単なる魔力として放出されていった。

 魔力をコントロールしろ、と美緒に言われたことを思い出す。
 コントロール、コントロール、と心中で何とも呟きながら、それが出来ない。
 焦りが焦りを生み、脂汗が額から一筋流れた瞬間。

「……」
「ぐにゃ」

 芳佳は奇声と共に魔力の集中を解いた。
 
「な、なにふゆのぁ」

 ヴィルヘルミナが、無表情のまま芳佳の鼻をつまんでいた。
 そのまま上下左右、さらには右回転左回転。
 突飛な事態に混乱していた芳佳の意識が戻りかけた瞬間、弾くように放した。
 少し赤くなった鼻をさするように、芳佳は抗議の視線をヴィルヘルミナに向ける。

「……緊張……しすぎ」 
「ふぇ?」
「もっと……手抜きで、いい……。
 あと……もう、良くなった……ありがとう」

 立ち上がり、吊っていた包帯をはずして肩を回すヴィルヘルミナ。
 その動作にはややぎこちないものがあったが、何回か動かすうちにスムーズになっていった。
 最後に、軽くジャブを放ってから、満足したように頷く。

「十分……動く。 ありがとう……」
「うん、私にはこれくらいしかできることないから」

 芳佳はヴィルヘルミナの快復した姿に安堵のため息を吐き。
 その様子と壁に掛けられた時計を見て、頃合いか、と美緒は呟いた。

「よし、挨拶はその辺で良いだろう。 各自、任務に就け。
 リーネと宮藤は午後から訓練だ」
「はいっ!」
「はは、返事だけはいいな。 リーネ、宮藤に基地を案内してやってくれ。
 あと、ヴィルヘルミナ。 私と一緒にミーナの所に行くぞ」
「……え?」

 美緒の言葉に、席を立ってそのまま退室しようとしていたヴィルヘルミナの動きが止まり。

「おっ、ヴィルヘルミナ、いきなり呼び出しかぁ? 少佐も厳しいねぇ」
「やーい、叱られるー」
 
 シャーリーとルッキーニの茶化すような言葉に、困ったような怯えたような視線を美緒に向けた。

「そんなんじゃないさ。
 確かに余り無茶が続くようならこうやって呼び出さなければならないだろうが……本人も反省している様だしな。
 ヴィルヘルミナの配置についてミーナと話し合うのに、本人の意見も必要だと思ったんだ」

 ああ、なるほどね、とシャーリーやエイラは納得し。
 ルッキーニはよかったね! と笑みをヴィルヘルミナに向けた。

「それでは、解散」

 美緒の声によって、少女達は己の仕事のために各々退室していく。
 ヴィルヘルミナも、美緒と連れだって部屋を出て行った。



***Side Wilhelmina***

 左腕を振りながら美緒さんと一緒に廊下を歩く。
 動かすたびにまだ鈍い痛みが残るが、芳佳さんの魔法を受ける前よりか全然良くなっております。
 いやー、しかし芳佳さんの魔力すげーわ。
 この世界に来てすぐに病院でも治癒魔法貰ったけどアレとは段違いの威力……じゃない、気持ちよさです。
 なんつーの? 病院を温湿布とするなら芳佳さんは温泉……?
 暖かさは一緒くらいなんだけど、染み渡り方が全然違いました。

 美緒さんを放置してそんな事考えてると、話しかけられました。
 放置プレーはお好きでないらしい。
 
「ヴィルヘルミナ」
「……?」
「宮藤の事に気を遣わせた様だな……礼を言わせてくれ」
「何の……事?」
「惚ける気か? 謙虚な奴だな……
 あいつの消耗を気にしたこともそうだが、治癒魔法を途中で止めさせただろう」

 ああ、あれですか。
 うん、実を言うと、痛みが完全に消えるまでもっとやってて欲しかったんですが。
 なんて言うか……

「……肩に、力が……入りすぎ……てた、から」
「そうだな……あいつは素質は良い物を持っているんだが、どうにもコントロールが苦手でな……」

 余分に魔力と体力を消耗してしまうんだ、と続ける美緒さん。
 うん、見ればわかるし。
 どうも、なんていうか気持ちが空回りするんだか先走るんだか、そんな風ですよね。
 アニメでもそんな感じだったし。

「魔法のコントロールは本人がコツをつかまないとどうしようもないから、言葉ではどうにもな……」 
「もっと……気を抜いて……やれば、いいと……思う」
「そうだな……それは解っているんだが、余り気を抜かせるのもな……」

 どうした物か、と唸る美緒さん。

 うーん……一生懸命なのが芳佳さんの良いところだからねぇ。
 一生懸命すぎるというか常に乾坤一擲な感じもするけど。
 短所を治すのは簡単だが、あの子の場合は長所が行き過ぎて弊害が起こってるから。
 下手に弄ろうとすれば、一生懸命な所を曇らせてしまうかも知れない。
 美緒さんも苦労してんなぁ……
 頑張ってください。 オレはオレのことで手一杯です。

 因みにオレも初飛行のあと、自室で結構練習しております。
 オレの魔法は物軽くしたり重くしたりするだけだから楽だね。
 芳佳さんとかけが人居ないと十分な練習できなさそうだからね。
 ベッド片手で持ち上げたり出来るとかどんだけ怪力だよ! と最初は思ったけど、案外良い練習になってます。
 最初の頃は5分持ち上げてるだけでヘトヘトになったもんだ……今じゃもう20分くらい持ち上げてても平気だけどさ。
 そのほかにも射撃訓練でMk108軽くするのもずいぶん練習になってるし。

「そういえば、よくあいつが魔力と体力を大きく消耗するだろうと事前に解ったな?」
「…………」

 ……やべぇ、失言だったか?
 普通に気遣うつもりで言ったんだが……
 何がヤバいのか解らんあたりが実にヤバイが、どうしよう、答えれんぞこの質問には。
 まさか以前から知ってました、とか言う訳にもいかんし、魔力に関する知識なんてねぇから適当な事言えないし……

「……なんで、だろう?」
「おいおい、質問したのは私だぞ?」
「本当に……わから、ない」
「……そうか、そういえばミーナに聞いていたが……記憶障害だったか?」
「……うん」
「以前コントロールの下手な治癒魔法使いに会った事がある……とか?」

 それなら、そう言う事もあるかもしれんな……と難しい顔をして呟く美緒さん。
 何これ! 記憶喪失設定超便利だよ! 助かった!

「まぁ、大変だと思うが、この部隊に残留する事を望んだのはお前自身だと聞いた。
 あの戦いぶりを見ても、最悪足手まといにはならないだろうが……あとは、何度も言うようだがせっかく助かった命だ、無茶だけはするなよ」
「……気をつける」

 無茶ねぇ……
 そりゃあオレだって無茶はしたくないし辛いのは嫌いだけどさ。
 女子供が目の前で頑張ってるならオレだって頑張るしかないだろ。
 足りない部分は無茶するかもしれんが、そこはしょうがない。

 いや、しょうがなく……ないのか?
 オレが無茶したお陰で芳佳さん飛ばなかったし……
 今思えば飛んでないのに芳佳さんが何故ウィッチーズに入ってきたのか微妙に謎だ。
 あれは確か、芳佳さんが自分も空を飛んで戦えるから。
 皆を守れる人になれ、とかいう親父さんとの約束を守るためにウィッチーズに入ろうと決心したとか、そういう話だったはずだし……

 オレというファクターが、物語の流れを変える事で。
 もしかしたら要らん犠牲や損害を強いる事になるかも知れないのだ。
 この世界がアニメの通りに進むという根拠は何もないが、今のところオレの記憶通りに進んでいる訳だし。

 あー……畜生、どうすんべぇさ……寝ながらゆっくり考えたいが今は昼だしこれからミーナさんと美緒さんのどきどきスパルタン誘惑授業だし。

「ああ、そういえば、ヴィルヘルミナ。 ミーナに伝えておいてくれと言われていた事があったな」
「……何?」
「何でも、お前の制服一式が届いたんだとか。
 そのぶかぶかの服……バルクホルンのお下がりだろう?」

 案外似合ってるぞ、妹みたいだ、あっはっは。
 など朗らかに笑いながらの美緒さんの発言は、っていうか妹かよ!
 いやいや、そんな事はどうでも良い。
 ついに! ついにオレの服が! ついにこの世界初めてのオレの私物が来るそうです!

 注文してから一週間か……長かった!
 バルクホルンのお古も着心地は悪くないんだが、その、微妙に香るお姉ちゃんの残り香に慣れるまでが実は大変でした!
 最初袖を通した時はどきどきしたよ……
 ついに童貞心を無駄に刺激する衣服からの解放が! 解放が!

「お、おい、ヴィルヘルミナ、どうした、急に足を速めて」
「……急ぐ、ミーナ……待ってる」

 これは急がなきゃ男が廃るね!
 

――――――
今回もノベライズタイムから始まっております!
整合性の取れるオリジナル展開考えれる人すげぇ……爪の垢を寄越すんだ。 煎じて飲むから。
あと多人数シーン書ける人の爪の垢も頼む。
独り言でのら抜き言葉くらい勘弁してぇ!

一定規模の基地なら要員の娯楽用に小さな図書室くらいあるよね……あると言ってよバーニィ!
この時期なら刑務所にすらあるくらいだから軍事施設にもそれくらいある……よね?



[6859] 12
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/03/29 15:59
12 「制服と羽ばたき」

***Side Witches***

「それで、どうしましょうか?」

 黒髪の女性、坂本美緒は目の前に佇む親友からの言葉の意味を考える。
 その内容は二つ。
 ひとつはヴィルヘルミナの運用に関して。
 もうひとつは美緒が連れてきた少女、宮藤芳佳についてだ。

 ふむ、と手をあごに当てて考える。
 まず思いつくのは宮藤に関してだが、こちらは既に美緒の中では結論の出ていることだ。
 相談の優先順位は低い。

「ヴィルヘルミナに関してだが、やはり当初の打ち合わせどおりしばらくは単騎での高速遊撃戦力として……どうしたミーナ」
「ふふ……いえ、少し彼女のことを思い出しちゃって」

よって、ヴィルヘルミナの事から済ませようと思ったのだが。
 その言葉はミーナの笑いによって遮られた。
 訝しげな視線を向ける美緒に、ミーナは思い出し笑いをこらえて応える。
 彼女――すなわち先ほどまでこの執務室に居たヴィルヘルミナだ。
 
「ああ、随分と無愛想で、何か急いでるのか話をさっさと切り上げたそうだったが……」
「あれはきっと浮かれてるのよ。 うれしいのね」
「……あれで? うーむ……」
「制服とはいえ、新しい服をもらってあんなに浮かれるなんて……可愛いじゃない」
 
 私には随分と淡々としているように見えたんだが、とぼやく美緒に、すぐに解るようになるわよ、とミーナは言った。

「まぁ、私はあいつとまだ半日も過ごしてないからな……わからないのも道理か」
「無感動に見えるけれど……あれで案外動きのある子よ?」

 ふむ、そうかもしれんな、と呟いて、美緒は先日の戦闘の事を思い出す。
 人間、窮地に陥ると本性が現れるという話は良く聞くが。
 あの無鉄砲な性格がヴィルヘルミナの本当の顔なのか、それとも。

「記憶を幾分か失っているんだろう……そういった差異は仕方のない事なのかもしれんな」
「そうね、それが危険な方向に向かなければ良いんだけど……その心配も薄くなってきたようだし」
「そうだな、多少気になるところはあるが今のところは些事だろう。 で、ヤツの配置に関してだが」

 ごめんなさいね、話の腰を折って、というミーナに気にするなと答えてから、美緒は改めて切り出す。

「まぁ、ヤツの話を聞く限り、当初の予定通り高速遊撃戦力、もしくは独立打撃力としてフォーメーションに組み込むのが妥当だろう。
 バルクホルンやハルトマンの訓練状況……Me262、だったか? はどうなんだ」
「ほとんど手付かずね。 ネウロイの来襲があったのと、ヴィルヘルミナさんの怪我の所為で私の試用も遅れているし……」
「単独飛行による練習や、別のヤツとの組んでの練習は?」
「正直、既存機と速度が違いすぎて、組み合わせても緊急時の対処に疑問が残るから……
 エーリカかトゥルーデがもう少し慣れてくれれば一人や二人で練習させても良いんだけれど」
「ふむ……そちらは結局、ヴィルヘルミナ次第か」
「そうね」

 暫く、執務室に思案の沈黙が満ちた。
 時計の音が数十回響いた後、ミーナの声が発せられる。

「……彼女にとって『はじめて』の戦いで、私が一番危惧していたことは起こらなかったし……暫くは彼女はロッテを組まずに飛んで貰うしかないわね」
「そうだな。 周囲に仲間が居ればヴィルヘルミナもあんな事をしないだろうし……正直足並みが違いすぎて、どうしたものか。
 巡航速度ですら我々の常識を塗り替える速度だが……行軍時に速度を落とせない訳じゃないだろう?」
「ええ。 少し難しいみたいだけれど……練習次第で何とかなりそう、って言ってたでしょう?」

 美緒は再びふむ、と唸ってヴィルヘルミナの発言を思い返し。
 低速に関して質問した時に、しばらくの間と共に、難しいが、やって見せる、と言っていたのはそう言う事だったのか、とようやく理解した。
 不明瞭どころの話ではない。
 言葉遣いに関してはサーニャやルッキーニよりも手強い相手になりそうだ、とため息を吐いた。

「彼女の怪我もあるし、様子を見ましょうか……ああ、そういえば、腕を吊っていなかったけれど……あれは宮藤さんが?」

 尋ねるミーナに、ああ、と美緒は誇るように頷く。

「アイツの魔力はたいしたものだよ……もっとも魔力が強すぎてコントロールできていない節があるがな」
「そう……大丈夫かしら」
「大丈夫なようにして見せるさ。 やる気もあるし、度胸もある」
「午後からの教練、頑張ってね」
「任せておけ。 二週間で物にしてみせるさ。
 まだ実際に飛んだことは無いが、初めてでストライカーユニットを起動させ、見事な離陸用魔法陣も展開させたんだ。
 間違いなく才能があるよ、宮藤には」
「貴女がそんなに入れ込むなんて、珍しいわね」
「ん……そうか?」
「ええ。 美緒ったら凄く楽しそうなんだもの」

 机に肘をつき、組んだ指に顎を乗せてミーナは微笑む。
 美緒はそれを受けて困ったように耳の裏をかいてから、何かを堪えるように目を閉じた。

「……そう見えるなら、きっと、それは私が後ろめたいと思っているからさ」
「……美緒?」
「あいつの父親の……宮藤博士の墓の前でな。 大泣きされたよ。
 焚き付けたのも此処に連れてきたのも打算にまみれてはいて、覚悟はしていたが……」
「覚悟は出来ても……辛い物は辛いわ」
「……すまんなミーナ、我が侭に付き合わせてしまって。
 だが、宮藤には、どんなウィッチにも負けない素質がある。
 責任は全て私が持つし、お前にも絶対に損はさせないさ」
「貴女の我が侭に付き合うのも、いつもの事よ。
 今更この程度の事で改めて言われても、ね」

 そうか、とだけ美緒は言い。
 数瞬の後、閉じていた隻眼を開いた。
 
「はは、そうか……ん、弱音を吐いたな、すまなかった」
「まったく……美緒、私は貴女の上官で、この部隊で唯一弱みを見せても構わない相手なのよ?」
「私の方がお前より年上なんだがな……」
「あら、じゃあお互い弱みを見せ合えておあいこじゃない」
「それもそうだな」

 不敵に笑う美緒の表情に影はなく。

「宮藤さんの事……まかせるわよ」
「ああ」

 そのミーナの言葉に、力強く頷きかえした。



***Side Wilhelmina***

 勢い込んで浮かれながら服を着てみたものの。
 なんというか、その、露出度が高い訳でもない、というか非常に低いのですが。
 頼んで裾の長い型の、さらにワンサイズ大きい奴を頼んだので、ぱんつ丸出しにならない上に。
 エーリカから最早分捕ったも同然のサイハイソックス履いてるので、見た目には両手と顔しか出てない。
 が、その、なんというか……

 恥ずかしいのである。

 いや、こんなパンモロの世界で今更何を……っというのは大いに思う。
 そろそろこの世界に来て二週間以上経つのだ。
 日常の常識など、慣れてなきゃおかしい……と言う感もある。
 だが、今までは病院のスモックに上着だったり、バルクホルンのお古だったりしたのである。
病院着は普通のスモックだったし。
 バルクホルンのお古……裾が燕尾服っぽい制服にカッターシャツの組み合わせも大概だったが。
 あれはバルクホルンという、同じ格好をした人間が身近に居たから違和感が薄れていたのだろう。
 ペアルック的な恥ずかしさはあったけどね。

 しかし、今のオレの格好は、まぁ、此処ではオレオンリーの格好なのである。
 ぶっちゃけると、今のオレはコスプレしてる感覚だよ!

 まぁ、おかしいと言えばぱんつ……じゃない、ズボンか。 あれも制服の一部らしく、何着か付いて来た。
 が、そのうちの一つには閉口したね。
 一つだけ黒塗りの豪華な箱に入ったぱんつがあるから何かと思ったら……騎士鉄十字章柄のぱんつだった。
 リッターアイゼンクロイツって書いてあるから間違いない。
 いや、オレの私室の机には、ヴィルヘルミナさんが受賞したらしい騎士鉄十字章が入ってるけどさ……パンツとセットなのかよ。
 カールスラント皇帝マジ自重しろ。
 この分だとイギリスのガーター勲章とかマジ物のガーターベルトだったりしないだろうな。

 ああ、とにかく何か気になる……服の前合わせの部分とか、かなり上のほうまで入ってるサイドスリットとかがとっても気になる! 
 正直28歳のおっさん予備軍には厳しい物があります。
 冬季用コートとか上から羽織ろうかと思ったくらいだ。
 しかしこれに慣れんといかんのです……現実は厳しい。
 厳しすぎて涙がチョチョ切れるね。

 とりあえず、誰かに会わないかおっかなびっくり廊下を歩いて。
 現在バルクホルンの私室の前に居ます。
 幸いな事に、誰にも会いませんでした。 というか廊下を少し歩くだけだしな。
 まぁ、ミーナさんの命令かどうだか知りませんが、ウィッチーズ居住区画にはほとんど人が来ないようです。

 何故バルクホルンの部屋の前にいるかというと。
 服返さないといけないしね……あ、やべ、洗濯するべきだったか。
 うーん、まぁいいや。 これは半日しか着てないし。
 しわにもなってないし。

 ノックする。
 木を叩く軽い音が無人の廊下に響いて、それだけだ。
 返事が返ってこないのに安堵して、畳んだ服を入れた袋をドアノブに引っ掛けて。
 ミッションコンプリーツ! と一人悦に入っていたら。

「……ヴィルヘルミナか?」
「……ッ」

 ゆゆゆゆ油断大敵でした! 
 背後から声、お姉ちゃんです!

 ゆっくりと振り向けば、そこには怪訝そうな顔をしたバルクホルン。
 なんというか、何時もと同じ視線のはずなのに、恥ずかしい……恥ずかしいんだよ……ッ!
 青灰色の制服の裾を握りしめて。
 隠れる場所もないのになんとか投影面積を減らそうと、身を縮めてしまう。
 ……冷静に想像すると、多分このモーション、男の時にやったらすんごいキモいんだろうなー。

「……気持ち悪い動きを止めろ。 何か用か?」

 あ、今の外見でも普通にキモいらしいです。 凹む。
 凹みついでに、なんか胸の動悸も凹んだというか醒めた。

「制服……来たから、服……返す」
「ああ、そういえば……わざわざ持って来てくれたのか」
「ん……礼を、言う……」
「ああ、別に構わん」

 そう言って、バルクホルンはオレから袋を受け取って、部屋に入っていった。
 ……あれ? なんか淡泊だなー。
 倦怠期か?
 もうすぐ昼食だし、シフト表だとあいつは午前中は広報任務だけだったし……
 此処にいるって事は広報は終わったんだろうし。
 うーん、実は人前に出るのが苦手とか……それとも生理か?

「あっ、ヴィルヘルミナー!」
「……エーリカ」

 エーリカ、なんか淡泊なバルクホルンの後にそうやって笑顔でやってこられると、まぁ和みはするんだが。
 廊下走るなよ……転ぶぞ。
 中央部は赤絨毯敷いてあるとはいえ、その下はコンクリートか石ッぽいからな……堅いぞ痛いぞ。

「おっ、新しい制服? 結構似合ってるね!」
「……ありがと」
「それよりも聞いてよ……いやー、大勢の前で敬礼してると肩凝っちゃってさー」

 勲章とかよりも、もっと機材の補給とか休暇とか欲しいよねー、とかなんとかしゃべり始めるエーリカ。
 ああもう……話振ったならちょっとは続けようよ。
 お前は女子高生か。
 いや、女子高生だったな、年齢的には……
 ……しかし、うん、テンションの差はあれ、バルクホルンも普通だったら似たような社交辞令くらい言うよな?

「……仕事……お疲れ」
「写真に撮られるのは結構気持ちいいんだけどさ、やっぱもっとこう、堅苦しくないのが良いよね」
「……そう、かな」
「絶対そうだよ。 でさ、ヴィルヘルミナ……」
「――二人とも。 そう言うのは余所でやれ」

 ドアノブを捻る音と、ドアを開く音が連続して。
 部屋から顔を覗かせたバルクホルンは、それだけ言って、ため息一つ。
 ドアを閉じた。

 エーリカと顔を見合わせる。
 ……なんかピリピリして余裕ねえなぁ、バルクホルン。

「ちょっと場所、移そっか」
「……ん」


//////


 と言う訳で、やってきましたテラス。
 あー、今日も微妙に良い天気だわー。
 雲が7割に青3割って感じである。
 そりゃーイギリス沿岸部だから快晴は滅多にないよねー。
 日本人の感覚だけど、夏だっていうのに結構肌寒いしね。
 ほかのカールスラント勢とか美緒さんとかルッキーニとか足寒くないんだろうか。
 特にルッキーニとかぱんつにシャツ一丁に見えるんだが。

 備え付けのカフェ・テーブルに二人でかけて、一心地付く。
 コーヒーとか飲みたいところだけど、もうすぐ昼ご飯だしな……我慢するか。

「でさ、その制服、ちょっと裾長すぎない?」
「そうでも……ない」

 両手を上に振り上げて、伸びをしながらエーリカが言ってくる。
 いや、これくらい、膝くらいまで裾長くないとぱんつ見えちゃうじゃん!
 この辺がオレが譲れる最低ラインです。
 本音言うと今からでもジーパンとかスラックス履きたいです。
 早いところタイツとか欲しいです。

 そして、それっきり沈黙がオレたち二人の間に降りる。
 いや、ごめんね、口下手で……会話続けられなくてごめんね!
 
 とも思うが。
 解ってるんだよ……うん。
 出したい共通の話題は有るんだけど、お互い何となくそれから目を逸らしたい感じ。
 嫌な事だから目をそらしたいんだけど、此処に来たのはそれを話すためだろうって事くらいは解るさ。
 あーくそ、気まずいなぁ……!

「……バルクホルン」
「うん」
「……バルクホルン……生理?」
「ぷっ……あはは、違うよ。
 トゥルーデの生理はもうちょっと先だし」

 っていうかバルクホルンの生理周期知ってんのかよお前。
 え、あれ、そういえばオレの生理ってどうなってんだろうな……?
 あ、くそ、なんか深く考えると不味い気もする!
 今は! 今はバルクホルンの事を考えるんだ!

「クリス……って覚えてる?」
「……バルクホルン……の、妹……だった、か?」
「覚えてるんだ?」
「……名前、だけ」 
「そっか……」

 そして、少しづつ語り出すエーリカ。
 曰く、バルクホルンの妹が、ネウロイの破片を浴びて昏睡状態に陥って、今もロンドンの病院で入院中らしい。
 そして、妹を守れなかったことが彼女の大きな心の傷になっていると言うことも。

 あー、なんか思い出してきた。
 なんだっけ、確か宮藤の雰囲気が妹さんに似てるとかそう言う話だったよね? 
 雰囲気と自己紹介だけであの感じか……共同生活が続くと劇中みたいな状態になる訳だ。
 脆いのか傷が深いのか……両方、かな。
 
「ヴィルヘルミナが来て、ちょっとは元気になったかと思ったんだけど……ね。
 悪いんだけど、少しフォローしてあげてくれないかな」
「……ん」

 言われんでもあの程度じゃあ腹も立たんですよ、命の恩人ですから。
 まぁ、あの調子でテンション下がってくのを見せられるのはきつい物があるけど……オレが何か言ってもなぁ。
 何とかしたいのは山々なんだが、オレが何か言って聞くようならミーナさん辺りがとっくの昔に何とかしてるだろうし。
 多分今のオレがなんか言っても、バルクホルンに余計な負担かけるだけだろうしな……

 それに、仮に聞いてくれたとしても。
 オレの知っている筋書きを違える事になってしまうかも知れないのだ。

 何も解らないこの世界で。
 このウィッチーズの傍に居るというのは、アニメの流れを知っているオレにとって、かなり都合の良い拠り所だ。
 最低限知っている流れから逸脱するのが、怖い。
 芳佳が飛ばなかった、ウィッチーズに来なかったかも知れなかった。
 それはつまり、彼女が居た事で助かったウィッチーズの子達が最悪、死んでしまうかも知れないという事で。
 その可能性が有った事を自覚しただけで、積極的に動く意欲が、萎える。

「とりあえず……昼食、行く」
「ん、そうだね」

 エーリカと連れだってテラスを出て行く。
 ……オレに出来るのは、バルクホルンに負担をかけないように、なるべく自立して行動する、くらいだろうか。
 この部隊に来てからバルクホルンやミーナさんにはホント世話になってるから。
 とりあえず早いところ、無難に戦えるだけの実力を見につけんと。
 オレにだって、この世界に来て削れる一方だが、プライドという物があるし。

 さしあたっては、午後の坂本教室に参加する事か。
 一応、オレは未だ怪我人扱いで、今日のシフトに名前入ってなかったはずだしね。
 芳佳さんの様子も少しは気になるし。
 さて、そうと決まればさくっとご飯食べるとしますか!


//////


 魔道エンジンが唸る音が、格納庫に木霊する。
 滑走路で、離陸用魔法陣を展開させながら戦闘脚の回転数を猛烈に上げている芳佳さん。
 自身も戦闘脚を付けて、鞘に入った刀を振り上げて叫ぶ美緒さん。

「準備は良いか! 宮藤ィ!」
「はいッ!!」

 何だこの熱血絶叫系師弟。
 食後、当初の予定通り芳佳とリーネの訓練に自主参加しようと格納庫に来たら。
 いきなり宮藤さんがストライカーユニット履いてました。

 あれー、なんで?
 初日は基礎体力訓練とか射撃訓練とかじゃなかったっけ?
 お前達の仕事はなんだー!
 ネウロイDie! ネウロイKill!
 キル・ゼム・オール! デストロイ・ゼム・オール! とかそんな感じの掛け声しながらの。
 ……激しく間違ってるような気がするな。

 とりあえずその辺に突っ立ってたリネットさんに近づき、聞いてみる。

「……リネット?」
「ひゃっ!?」

 あ、ビクってされた。
 まだ怖がられてるといか、苦手意識もたれてますか……そろそろ慣れてくれんかなぁ。
 あんまそう言う反応されるとオレとしてもかなり切ないんだが。

「何が……どうなって?」
「え、えっと……その、坂本少佐が、宮藤さんにストライカーユニットを装着させて……
 いきなりは無理だって思うんですけど……こんな物は気の持ちようでなんとでもなるって少佐が」

 わっはっは、宮藤! 気合いだ気合い!
 と豪快に笑う美緒さんの姿が容易に想像できる。

 なんつー精神論だよ。
 っていうか海軍のはずだよな美緒さん。
 その思考はむしろ陸軍に近いと思うのですが美緒さん。

 まぁ、オレもいきなり履いて飛んだんだけどね。
 自慢じゃないが身体の動かし方とか飛行機の飛び方とか知ってたし、高速に慣れてたからなんとかなったんじゃないかと今じゃ思う。
 一生分の運をあそこで使い果たした気がしてならないが、実戦に出て生きて帰って来れたしなぁ……

 で、芳佳さんだが。
 原作で、知識もない、訓練もしてない子がいきなり飛ぶとか凄いよね。
 凄いというかまさしく天与の才としか言いようがない。

 しかし、それでもいきなりストライカー履かせるとか……スパルタというか狂気の沙汰だろ。
 ……エーリカ、お前の事だぞ。
 美緒さんだけじゃないぞ。

「ペリーヌ……は?」

 なんか訓練手伝うとか言ってたはずだけど、と思いペリーヌのことを聞いてみる。。
 抑止力にはならんだろうが、諌言くらいは……しないんだろうなぁ。
 なんか嬉々として芳佳が失敗するのを期待しそうだ。

 リネットは、ちょっと考えるようなしぐさをしてから。

「ペリーヌさんは、今別の仕事中のはずですけど……」

 あ、そうだっけか。
 正直自分のシフトしか覚えてないしな……特に此処最近は病欠扱いだったからそんな大したことしてなかったし。

「……リネット、は?」
「五分くらいで済ますから準備運動して待っているように……って」
「行きますっ!」
 
 リネットとオレは、その声に反応するように芳佳さんのほうを見る。
 掛け声と共に魔法陣が解放され、弾丸のような速度で飛び出していく魔女。
 あー、そっか……初速稼ぐのには、魔法陣解放して速度に変えた方が良いのか……?
 だけど、聞いた話によると、あの魔法陣、加速効果以外にも滑走を容易にする効果が有るみたいだし……
 こういうきちんと整地された場所なら別に良いの……か? そうなのかもしれん。 

 滑走路の長さは約500メートルで。
 その半分をあっという間に走り抜ける。

「飛べぇ! 宮藤ィ!」

 美緒さんの声に呼応するように、じわり、と芳佳さんの身体が宙に浮く。
 お、ついに行きますか?
 


***Side Witches***

「飛んでぇぇぇぇッッッ!」

 芳佳が滑走路を走る。

零式艦上戦闘脚は、要求される魔力適正も低く、挙動も素直で非常に扱いやすいストライカーユニットだ。
 強度や最高速度、高々度での魔道エンジンの出力低下などの短所もあるが初飛行は1939年であり。
 最初期のストライカーユニットの一つで有る事を鑑みれば、それらはむしろ使用されている技術の古さであろう。
 それでも旋回性能や航続性能で新鋭機種に引けを取らない名機である事は、実際に使用している美緒がよく知っていた。 

 零式は初心者ウィッチにも扱いやすい。
 しかし、それでも。 空を飛ぶというのは言うほど易しい事ではない。
 ミーナには二週間でなんとかしてみせる、と言ったものの、実際はそんなに甘くないだろうと美緒は思っていた。  
 いきなりストライカーユニットを履かせて、飛んでみろ、と言ったのも多少の思惑有っての事である。
 
 飛べればそれで良し。
 宮藤博士の娘である彼女だ、きっと戦闘脚を使いこなせるだけの才能があるだろう、という根拠の無い期待もあったし。
 飛行適正の証明にもなるし、伸び悩んでいるリネットに対する発破になってくれるだろうという期待もある。
 飛べなければ、それはそれで芳佳の努力を喚起する材料になるだろう。
 基礎訓練と共にしっかりと飛び方を教え込んでいけば良いだけだ。
 その場合、二週間という己に課した期日は芳佳の努力に大きく依存する事になるだろうが、美緒は彼女の決意を信じている。

 そんな事を思いながら、美緒は自身の零式のエンジンの回転を上げた。
 もしもの事態の時に咄嗟に動けるようにである。
 滑走路の周りは海で、別に突っ込んでもそれほど危険な事はないのだが。
 
 いろいろな思いを胸に、美緒は見据える。
 この世界に、そして戦う魔女達に多くの救いをもたらした、宮藤博士の一人娘を。
 そして、その身体が地面から離れていくのを見て、笑みを零した。


//////

 そして、同じ滑走路に、美緒と同じく様々な思いを秘めた瞳で芳佳を見つめる少女が居た。

 自身の声が、鳴り響くエンジン音によってかき消されて自身にすら聞こえなかったとしても。
 喉が震えた感触が、自分は発声したのだとリネットに告げる。

 初めてストライカーユニットを履き、そして空を飛ぶ。
 たったそれだけのことがどれほど難しいかを、リネットは嫌と言うほど知っていた。
 自分が初めて、それも複座練習機で空を飛んだ時の事など恥ずかしくて思い出したくもない。
 訓練校を卒業し、実戦を何度か経た今でさえ、空を飛ぶだけで精一杯で。
 射撃と飛行の魔法制御を同時に行うなど、自分には不可能とすら思えた。

 自分の故郷を守りたいと軍に志願し、501統合戦闘航空団に配属されて。
 周囲には各国のトップエース達が集まる中で、目立った戦果もないまま時が過ぎていくのは、彼女の劣等感を必要以上に煽っていた。
 
 リネットは、歪で、しかし確かな速度と軌跡で空高く舞い上がる少女を見上げる。

 悔しいと思う。
 妬ましいと思う。
 そんな感情を抱く自分が浅ましいと思う。
 そしてそれ以上に、自分の平凡さ、才覚の無さが嫌になる。
 
 そんな自分が本当に此処にいて良いのか。
 自分よりもふさわしい魔女が他にいるのではないか。
 常日頃から胸にしまい込んでいた不安が表ににじみ出てきそうになったところで。

 リネットは、ようやく隣に立つ、自分よりも小さな年上の少女の事を思い出し、そちらの方を見た。

「……」
「――、」

 ヴィルヘルミナは、ストライカーユニットをいきなり履いて飛んだという輝かしい才能の片鱗を見せている芳佳ではなく、リネットを見ていた。
 睨むでもなく、哀れむでもなく、ただ、リネット自身を凝視している。
 その無表情な視線に、自分の暗い感情すべてが見透かされているような気がして、逃げるように視線を下へとむけた。
 雄大さを感じさせる空の青が消え、滑走路の暗い灰色が入れ替わりで視界を支配する。

 その色が、リネットの心に染み込んでいく。

 美緒が芳佳に何かを言っているが、エンジン音の所為か何を言っているかまでは解らない。
 目を伏せ、腹にため込んだ物が少しでも軽くなるよう、ため息を吐きながら。
 自分なんかには、彼女たちウィッチが舞い踊る空の青よりもこんな暗い色の方がお似合いなのかも知れない。
 リネットは、そんな事を思っていた。
 


------
美緒さんならこういう事思っててもおかしくないはず。
因みにヴィルヘルミナの制服はみんな大好……き……? フリーガーブルゼ。
裾丈膝まで伸ばして、代わりに後ろ(尻尾用)と左右に腰までスリット入れた感じで一つどうか。



[6859] 13
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/04/14 10:07
13 「腕立てと夜明け」

***Side Wilhelmina***

 海に、射撃音が響く。
 走り込みを含む基礎体力訓練の後、リネットと芳佳は射撃訓練に入っていた。
 それを美緒さんと一緒に見ているオレ。

「よし、命中」
「わぁ、リネットさんすごーい!」
「……そんな事……無い、です」
「的なんて私全然見えないよ」
「ぅ……ごめんなさい」

 伏射の体勢を取り、沖のほうにあるターゲットを得物である対物ライフルで撃ち抜くリネット。
 芳佳に無邪気にほめられて、照れているのか卑屈ってるのか、しゅんとなるリネットの獣耳と尻尾がかわい過ぎる。
 うおー! 耳撫でさせろ! 尻尾モフモフさせろ!

と、本当ならハッスルしてしかるべきシーンなんであるが。

 参るね。
 何が参るって、そりゃあ……色々である。

 たとえば、5分に満たない、初めての芳佳さんの飛行。
 こっちは飛べるって解ってたから構わないが、リネットは劣等感にブーストかかってんぞコレ。
 ……嘘です。 芳佳さん、よろけながらも上手に着陸しやがりました。
 オレ、まだ着陸のとき転ぶんだよなぁ……。 オレもやや凹む。
 ぐむぅ……Me262は着陸が難しいんである。
 空中に居る間はあんなに簡単に速度落ちるくせに、地上だとぜんぜん速度落ちてくれないんですもの。

 しかし、美緒さんはいったい何考えてんだ……ああ、いや、たぶん物凄いポジティブな考え方してるんだろうけど。
 確かに負けん気が強かったり、ある程度自尊心がある人なら強力なライバルが現れたら奮起するだろうけどさ……
 自尊心フルボッコ状態のリネットさんには、ちとヘヴィブロー過ぎると思う。
 本編でも最初は芳佳に相当劣等感を持ってたが、実際に見たから余計に感じてしまっているだろう。
 
「そんなこと、ないです」

 リネットが搾り出すように呟く。
 いや、そんな別に大事な事でもないのに二回言わんでも。
 とりあえずフォロー入れときますか。

「……当たる、だけで……十分、凄い」
「そんな、ヴィルヘルミナ中尉まで……」
「いや、ヴィルヘルミナの言うとおりだ。 あの程度の大きさのネウロイなら、当たれば落ちる」

 補足してくれる美緒さん。
 たしかにね、対戦車ライフルの威力だったら2Mくらいまでのネウロイだったら当てれば文字通り木っ端微塵じゃなかろうか。
 っていうか人間だったら掠っただけでショック死のはずだし。
 それに確かリネットの魔法技術は弾丸の精度・速度・貫通力・破壊力を大幅に引き上げるものだったはずだしね。
 ……いったいどんな魔法だよ。 強化系とかそういうのだろうか。

「オレは……射、撃が、下手、だから……当て、られる、ヤツは、十分……すごい」
「ふむ……そうなのか。 では、リーネ、あと二回当ててヴィルヘルミナと交代だ」
「は、はい」
「頑張って、リネットさん!」

 リネットが申し訳なさそうに、芳佳が心配そうにこちらを見てくる。
 ああ、いや、良いよ……うん、これ、自業自得だから。
 息あがってるように見えて、実際息あがってるけど、見た目ほど大変じゃないから。
 あと、芳佳、微妙にリネットにプレッシャーかけてんじゃねえよ。

 参る理由その2。
 アニメ通り走り込みやった後、射撃訓練の体勢に入ってる二人の後ろで延々と腕立て伏せやっております。
 回数は、リーネが五発命中させるまでずっと。
 美緒さんの言いつけです。
 
 そりゃーそーだよねー。
 女の子ばかりの緩くて華やかな雰囲気があるが、なんだかんだ言って軍隊なのである、ウィッチーズは。

 上意下達、上からの命令は絶対なわけでして。
 アニメとかゲームじゃ士官が簡単に部下に意見を求めたり、部下が勝手に意見具申したり動いたりするけど、本当はああいうのはタブーなんだよな。
 待機時や地上任務なら兎も角、ブチ切れてたとはいえ戦闘時に上官である美緒さんに抗命してるのだ、オレは。
 ウィッチーズ、特にミーナさんや美緒さん等の部隊上層部にはフレキシブルな思考の出来る人が多いので大丈夫かな、と思ったんだがなー。
 ……本音を言うとこういうのは少し、どころかかなり面倒くさく感じる。
 だが、組織で、チームで戦う以上こういう意識は持たないとダメだから……本当に気をつけないと。

 それに、多分、芳佳に見せつける意味もあるんだろう。
 根拠は、新人二人が射撃に注意を向けてる間、美緒さんがこっちをちらっと見て苦笑しながら『すまん』のジェスチャーを送ってきたからだ。
 あの場にいてインカムの音声拾えたのだから、オレの声も聞こえてたのかも知れない。
 現場で簡単に自分の意見が通ると思われたり、通されたりしても、困るのは芳佳だけじゃない。 部隊のみんなである。
 
 まぁ、とにかく。
 この身体、ヴィルヘルミナ・ボディだが。
 体重が軽くて大いに助かっております。
 基礎体力も十分にあるのだが、低身長のお陰かとても軽いので、腕立ての負担がほとんど無い。
 多少左肩が痺れるが、その辺は力のいれ具合を調節してやればごまかせる範囲だ。
 調子に乗って腕立て伏せしながら喋ったりしてるから息は上がってるし、二人に付き合って走り込んだ後そのままだから汗はかいたりしてるけど。
 あと、制服脱ぐと肌晒しちゃうので脱げないのとか、陽光に焼かれる滑走路が熱かったりするのも汗かく要因だったりな。
 うん、でもちょっと苦しいほうが脳内麻薬が出て楽しくなってくるんだよ!
 うひょー、テンション上がってきた!

 腹のそこに響く銃撃音を聞きながら、腕立てがんばる!

「命中だ。 的の中央に近づいてきたな」

 あと二発ですか。
 何度見てもこの銃をぶっ放すんだから凄いよなぁ……だってバイポッド立てずに対戦車ライフル撃って、しかも反動で銃身跳ねあがんないんだぜ? 
 オレもMk108の単射モードだったら似たような事は出来るけど、それでも銃身ぶれるし。
 まぁMk108は口径がリネットのボーイズの二倍以上あるから仕方ないと言えば仕方ないんだが。

 そのままストレートにリネットが二発続けて命中させて、オレは腕立て地獄から解放された。
 うーん、腕がだるい。 Mk108が重い。
 今日はお風呂入りたい気分だ。
 入浴時間何時からだっけな。

「よし、じゃあ次はヴィルヘルミナだな。
 先任としての実力を宮藤に見せてやってくれよ」

 はい無理ー!
 努力はするけどな!


***Side Witches***

 日々は過ぎていく。

 幾日目かの夜。
 ミーナは、格納庫の脇の壁にもたれかかりながら、滑走路の先端に座る二人の少女の背中を見ていた。
 芳佳とリネットだ。
 方や、輝く才能の片鱗を見せながらも銃を撃つことにためらいを持ち、その余りある力をもてあます芳佳。
 方や、十分な地力を持ちながら自信を持てずに、踏み出すことを恐怖しているリネット。

 彼女達が何を話しているのかは、彼方に居るミーナには解らない。
 ただ、外へと出て行く二人が少し心配で、彼女は後についてきたのだった。

 腕を組み、ミーナは考える。
 どちらも戦士として半人前。
 覚悟の軽重を問いたくは無いが。
 ペリーヌやサーニャ、そしてミーナを含むカールスラント勢――ネウロイに故郷や親しい人達を奪われた者とは、突きつけられているものが違う。
 そして同時に、同じ思いを彼女達にはして欲しくないとミーナは思う。
 
 ネウロイと互角以上に戦えるのはウィッチだけ。
 それは純然たる事実であり、現状では覆しようの無い現実だ。
 リネットと芳佳の二人が使い物になってくれれば、部隊としての戦力は充実し、より多くの人を守ることが出来る。

 力の無い人々を守る。
 だが、その過程において二人が空に散るような事があってはならない。 それでは本末転倒だ。
 だからこそ。 ミーナは司令官として、二人を切る選択肢を常に考えている。

 リネットが、このまま実戦で実力を発揮できなかったら。
 芳佳が自身の魔力を持て余すままだったら。
 自己の制御もおぼつかない人間が戦場に立てば、本人にとっても、周囲にとっても不幸しか呼ばないのをミーナはよく知っていた。 

 芝を踏む微かな音。
 ミーナが視線を向ければ、そこにはヴィルヘルミナが居た。 
 ミーナには気づいていない様子で、木にもたれ掛かって芳佳とリネットの二人の方を見ている。

 月明かりに照らされる相変わらずの無表情。
 所作や言動があれば、その心中をうかがい知れるのだが。
 ヴィルヘルミナは何も言わず、ただ二人を眺めていた。

 ミーナは思う。
 ヴィルヘルミナもそうだ。
 彼女は戦える。 その技量は決して褒められたものではないが、それでも戦い方を知っている。
 彼女がウィッチーズに編入されたのは、歓迎すべき事態である。
 だが、芳佳とリネットを見ていてふと思うことがある。
 ヴィルヘルミナは記憶を失っているのだ。
 彼女に戦う意思はあるのか――残留した記憶から来る義務感ではなく、戦いたいと言う感情。

 ヴィルヘルミナ自身の発言では、それがあると言う。
 美緒に聞いた話でも、ネウロイを撃墜する事に関しては十分な熱意を示していたと言う。
 だがそれが、曖昧な記憶に頼っているだけの、かつての自分の模倣であったのならばどうだろうか。

 戦場に出て、PTSDの発症やパニックに陥るという最悪の危険性は薄いと見て良いだろう。
 無茶をしがちだが、それは周囲に味方が居れば大丈夫だろう。
 判断の早さ、思い切りの良さは彼女の命を救うだろう。 それも、何度も。

 だが、しかし。
 それだけでは危ういかもしれないのだ。
 生死を賭けた場では、義務感だけでは生き残れない。
 精神論を声高に謳う気は無いが、美緒の言うように気迫と意志が生死を分ける瞬間は、必ず存在する。
 その事は、ミーナや美緒のみならず、実戦を潜り抜けた者なら誰でも知っていることだ。

 司令官としての目と思考で少女たちを見ていたミーナの視線の脇で、ヴィルヘルミナが動く。
 その視線は、東へ――ヨーロッパの方へと向けられており。
 視線と同じ方向へと右手がゆっくりと伸ばされる。

 何をしているのだろう、という疑問をミーナが抱くよりも早く。
 ヴィルヘルミナの体が青白い魔力の光を帯び、使い魔との合一の結果である獣耳が生えたところで、小さなうめき声が聞こえ。
 魔力の放出が止まった。



***Side WIlhelmina***

「ヴィルヘルミナさん? 何をしているの?」
「! ミー、ナ……?」

 うぉっ!? びっくりしたな!
 そういえば居るんだっけ、この人。

 風呂上りに夕涼みがてら、ちょっと物思いにでもふけろうと外に出てきたら、芳佳さんとリネットが滑走路の端っこでいちゃらいちゃらしていたので。
 そういえばこんなイベントもあったっけなぁ、と木にもたれかかりながら鑑賞していたのです。
 っていうか月明かり星明りがオレの居た時代とは段違いに明るく感じるとはいえ、ヴィルヘルミナさん、夜目利くなぁ。
 畜生め、500m先の相手を確認できるってどうよ。
 オレも利く方だったが、このくらい見えてれば峠攻めがもっと楽だったろうに……ああ、いや、峠のことはもう良いや。
 余計な記憶が励起されて悶え死ぬから。

 とにかく、ミーナさんである。
 不味いところを見られちまったなぁ……出来ることなら秘密にしておきたい。 

「……なんでも、ない」
「そう? 魔法を使おうとして、何か不都合があったように見えたけど……」
「大事……無い」

 本当に? と眉尻を下げて重ねて聞いてくるミーナさん。
 うう、芳佳さんに治してもらったとは言え、大事を取ってミーナさんとのMe262の訓練を先延ばしにして頂いてる以上、これ以上心配をかけるわけにもいかん。
 恥はかき捨て!

「その……木に……もたれて、たから……生えた尻尾が……つぶれて」

 ……その、なんだ。
 考え事をしていて、ちょっとヨーロッパのほうに手を伸ばして。
 究極魔法、エターナルフォース魔力ビーム! 効果、ネウロイは死ぬ。
 とか遊んでみようと魔法発動させたんだよ。
 いや、なんか気とか魔力っぽい物が使えるならなんかハドーケンとかカメハメハー、見たいのやりたくなるだろう、男の子的には。
 それはまぁ、兎も角。
 うん、耳が出るのも尻尾が出るのも覚えてたけど、木にもたれてた関係で、ちょうど尻尾の生える場所の周辺で体重支えてたんだよ。
 生えた尻尾が圧迫されて、ごりって……ごりって!
 痛いのな! っていうかケモ耳に聴覚無いのに尻尾に痛覚あるのな!
 犬猫の尻尾踏むと超怒る理由がわかるわ。
 うん、すんごく痛い。 尾骨神経に直にくる痛みです。
 ウィッチ同士で魔法使った格闘戦になったら尻尾握ったほうが勝ちだな……なんか国民的人気を誇る青狸ロボみたいな弱点だな。

 というわけで心の厨二の扉をほんの少し開けて遊んでいましたなんて言えなかったオレである。

「ああ、それは、その……痛かったわね。 大丈夫?」
「大丈夫……」

 わぁい、なんかすんげぇ微妙な表情された。
 なんかフラグがダース単位で折れた音が聞こえた気がする。
 
 微妙な空気が漂う。
 ああ、なんかエーリカとバルクホルンの事を話した時とはぜんぜん違う空気だが、居づらさとしてはどっこいどっこいだよ!
 ミーナさんがそんな空気を払うように小さな咳払いを一つしてから聞いてくる。

「そういえば、どうして此処へ?」
「少し……考え事が、あった……から」

 考え事――そう、考え事である。
 この三日間、芳佳やリネットの訓練に混じりながら、ずっと考えていることがある。

 オレは強くなる。 そう決めた。
 体はともかく、オレだって男だ。 決めた以上は血反吐を吐こうがやってみせる。
 だが、強くなる理由は戦うためであり、周囲の皆に迷惑を必要以上にかけないためだ。

 では、なぜ戦うのか。
 戦うことが目的じゃない。 少なくとも今のオレは戦闘狂じゃない。。
 戦うという手段をとるために、強くなる必要があるだけだ。
 もし、此処が、オレがまったく知らない世界であり、未来を知らなかったのならば。
 生き残るために戦う。 それでも構わなかったと思う。
 ただ生き残るために、がむしゃらに、その瞬間に使えるすべてのリソースを駆使して、もがき足掻けばいいのだから。

 だが、幸か不幸かオレは知っているのだ。
 何が起こるのか、誰が傷つくのかを。
 そして、このストライクウィッチーズというお話は、ハッピーエンドで終わるという結果を。
 数学の証明問題の応用に似ている。
 問題を解くのに必要な要素はすべて出揃っている。
 基礎問題の解法も知っている。
 導き出すべき答えもわかっている。
 なのに、オレという基礎問題には無い要素が存在するだけで、答えに至る証明が出来ないのだ。

 さらには、今朝のミーティングでミーナさんが伝えた情報もオレを焦らせる。
 明日、ネウロイが来襲する可能性が非常に高いと。
 オレは知っている。 それは必ず来るのだ。 それも早朝に。
 少しの変化が、どれだけ今回の戦いに影響するのかが解らない。

「よかったら相談に乗りましょうか?」

 そう言ってくるミーナさんに、甘えたくなる。
 だが、今だって十分甘えてるんだ。 これ以上甘えるわけには行かないし、何よりこういうのは自分で結論を出すものだ。
 せめて、こういうことくらいは自分の手で決着を付けたい。

「……いい」
「そう。 ……あまり抱え込まないでね」
「……ん」

 うん、良い人だ。
 しかし、ミーナさんもオレに構うくらいだったらバルクホルン頼むよ。
 最初ちょっと甘くしてもらってたから、厳しく当たられるとかなりクるものがある。
 訓練後の芳佳さんに「死にたくなければ帰れ!」って言った光景を格納庫の影でクールダウンしながらぼんやりと眺めてたら。
 立ち去り際にオレのところ来て「……お前もだぞ、バッツ」とか言われたときには切なかったね。
 一週間前には、おかえり♪ とか言ってくれたあのバルクホルンのここ最近のやさぐれっぷりや消沈っぷりには見てて滅入るものがある。
 あれ、音符飛ばしてたのってエーリカだったか?

 などと考えていたら。
 視界の片隅で動きがある。
此方に、いや格納庫の方へとかけてくる人影。
 リネットだ。 此方には気付かず、そのまま基地内へと走り去っていく。
 アニメ通り芳佳と折り合いが付かなかったんだろう。 

「リネットさん……」
「……」

 ふとミーナさんの方を見れば、心配そうな顔でリネットさんの走り去った暗闇を見ていた。
 自分もそんな歳食ってないだろうに……思春期の子供達を纏めるのはキツかろうな。

「もうすこし、自分に自信を持ってくれれば良いんだけれど……」
「……大丈夫」
「ヴィルヘルミナさん?」
「明日……解る」

 そう……多分、大丈夫、だ。
 明日のネウロイをリネットが撃墜して、それが彼女の自信になるはず。 
 自信さえ付いて、肩の力が抜ければ、リネットは上手くやれるはずなんだ。
 芳佳も飛んでるし、リネットは追いつめられてるし、流れそのものは変わってないはず、だ。
 
 オレが一体どうしたらいいのか。
 それがあと一歩で見えそうなのに見えなくて、解らない故の不安が胸の中に渦巻いていた。



***Side Lynett***

 部屋に駆け込んで、布団の中に潜り込む。

『……新人』
『あ、バルクホルンさん……』
『ここは最前線だ。 即戦力だけが必要とされている。
 ……死にたくなければ帰れ』
『私も……私に出来ることを』
『ネウロイはお前の成長を待ってはくれない。 後悔したくなければ、ただ強くなれ』

 バルクホルン大尉が、ミヤフジさんに言っていた台詞を思い出す。
 その言葉は、きっと、彼女だけではなく自分にも向けられていて。
 いつまで経っても成果を出せない私を責めているようで。

 自分にも何か出来る事があるなら、それをしたい。
 そう思って軍に志願したのに。

 何も出来ない自分が嫌いで。
 これ以上の失敗を怖がって何も出来ない自分が厭で。

 何も考えたくない。
 目を閉じて、意識を沈めていく。
 ――このまま、明日が来なければいいのに。



***Side Witches***

 迷う者は多く、道は容易に定められず。
 ただ、砂時計の砂だけが容赦なくこぼれ落ちていく。 

 夜間哨戒を終えたサーニャが滑走路に降り立つ。
 東の空が明るく染まり始めたのを見て、欠伸を一つ。
 日の出は、彼女にとっては眠気を誘う物で。
 ふらふらと格納庫へと入っていく。
 
 そして、警報が鳴り響いた。

 ストライカーユニットを脱いだ後、もう一度朝日を見ようと格納庫を出たところでサーニャはそれを聞いた。
 ネウロイの襲撃が今日だと、ミーナが言っていたのを思い出す。
 慌ただしい一日になりそうだった。



------
苦労人ミーナさん。 追いつめられるリネット。 そしてぐだぐだ悩む主人公。
くそー、Extra引きずってるな……

そういやぁなんだかんだいってウィッチーズって軍隊なんだよなぁ。
ミーナが信頼されてるのもあるんだろうけど、作中だと、軍隊慣れしてない芳佳さん以外は全員上からの命令には疑問や意見を挟まずストレートに従ってるんだぜ。
ラスボス閣下には反逆してたけどあれはあれで危うい命令だしなぁ。

そういえば。
Side Witchesは三人称で書いているのですが、時々登場人物の一人称で書いていると勘違いされる瞬間があるみたいで。
どの辺の書き方が不味いのかなぁ。 三人称なのに心理描写多くしてるのが問題なのだろうか。
心理描写は一人称のほうがやりやすいという話ですが、自分の感情を精緻に認識できる人間なんてそう居ないだろう……個人的には三人称のほうが心理描写しやすく思う。



[6859] 14
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/05/26 11:46
14「Reason Seeker」

******

 ブリーフィングルーム。
 いまだ朝日の登り切らぬ時刻、何時もは朝礼などに使われている部屋に12人の少女が集っていた。

「10分前に、監視所からの報告がありました。
 敵、グリッド東114地区に進入。 高度18000付近をブリタニアに向けて侵攻中」

 どうやら今週は想定通りのようね。
 そう続けたミーナの表情は、緊張の中にも安堵が見て取れる。
 七日に一回という極めて周期的なネウロイの侵攻が、2、3月前から乱れ始めていて。
 誰もが何かの前兆ではないのかと漠然とした不安を抱える中、”いつも通り”の敵の動きを見て安堵している自分。
 敵など本当なら来てくれない方が喜ばしいはずなのに、何とも皮肉な事だ、と部隊司令としての彼女は思考した。

 そのまま視線を隣に向ける。
 ついこの前まではトゥルーデが立っていた位置。
 今そこには、白い軍服を着て扶桑刀を鞘に入れたまま床に突き立てている美緒がいた。
 トゥルーデには悪いが、やはり美緒の方が安心感がある。
 同じくミーナに視線を向けた美緒に頷き返してから、言葉を続けた。

「今回はフォーメーションを少し変えます。 坂本少佐、今回の編成を」
「了解した。 今回はバルクホルンとエーリカが前衛。 シャーリーとルッキーニが後衛。 ペリーヌが私の直衛に就け」
「残りの人は私と一緒に基地で待機です」

 了解の声が9人分響く。
 エイラに支えられたサーニャは既に夢の中に旅立っていた。
 夜間哨戒、それも単独での飛行は肉体以上に精神と魔力を消耗させる。
 それが解っていたし、何時もの事だったから誰も気にはとめなかった。

 何時も通りに、戦うために部隊が動き出す。
 美緒を筆頭とする出撃組に着いていくようにミーナと芳佳。
 一拍遅れて、やや顔をうつむかせて着いていくリネット。

「あーあ、わたし達は基地待機か。
 とりあえずサーニャを部屋まで送ってくかな」

 そして、そう呟いて立ち上がったエイラは、少し違和感を感じて、すぐにその原因を悟った。
 ヴィルヘルミナが、一人だけ席を立たずに眉間に少ししわを寄せて東の空を眺めている。
 ああ、そうか、そういえばこいつの居る出撃前のブリーフィングは初めてだったか、と呟いて。

「行かないのか、見送り」

 そう問いかけた。
 出撃前の僚友を見送るのは何ら不思議な事ではない。
 現に居残り組の内、三名は出撃組と一緒に格納庫へと向かった。
 エイラも、サーニャが起きていたら見送りへと行っている。 もちろん、サーニャと共に、だが。
 エイラにとってはサーニャを一人でこのまま放置していく事の方がかわいそうに思えたからの残留であり。
 みんなもエイラがサーニャの世話役のような立ち位置に居る事を知っているのだった。

 ヴィルヘルミナは、ん、と一つ唸ってからいつもの調子で応える。

「……あっちは……大丈夫」
「大丈夫って……そりゃあ、かなり安定した布陣だけどさ」

 戦闘指揮官としてミーナ以上の経験と采配力を持ち、その上で個人の戦闘力も高い美緒。
 部隊が誇るスーパーエース二人を前衛に。
 実力は有るがスタンドプレーの多いペリーヌの心情を知ってか知らずか、美緒自身の直衛に就けることで押さえ。
 オールラウンダーの二人を後衛に置く事で、どんな相手にでも合わせる事が出来る布陣であった。

「信頼してるんだな、あいつ等の事」

 エーリカとトゥルーデの二人はヴィルヘルミナの過去の戦友で。
 過去の記憶が失われていると言っても、覚えている事もいくらか有ると話していた事を思い出したエイラは、その態度を信頼の表れと解釈した。
 一拍の間をおいて、頷きを返すヴィルヘルミナ。
 寄せていた眉根はいつもの無表情に戻っていたが

「ん、どうかしたのか?」
「……?」

 その無表情が、いつもより緊張していたような気がして。
 何か、予感のようなものを感じて。 気付けばエイラはそう問いかけていた。
 問うてから、馬鹿な質問だったと思う。
 だが、間違っているとは思わなかった。 未来予知の魔法を持つウィッチとして、自分の勘には絶対の信頼を置いていたから。
 感覚は依然として何かを訴えていたが、それが何かがわからず、とりあえず理性に主導権をゆだねたままにして。
 戦いに出るときも緊張するが、待つ方は待つ方で緊張するものだと言うことを、今更ながらに思い出して。
 不思議げな声を返すヴィルヘルミナに、何でもないと伝え、頭を軽く撫でた。

 上官、しかも年上相手にやることでは無いが、普段は兎も角、ヴィルヘルミナの容姿やふとした所作はそれを意識させない物であったし。
 む、と言う小さな唸りを上げながら、何時もの無表情が小さく困ったように変化し。
 その頬が微かに染まるのが可愛らしくて。 エイラは最初に撫でた時以来、どうもヴィルヘルミナの頭を撫でてしまうのだった。
 エイラ自身の中では、髪の毛のさわり心地が気持ちいいし、等という言い訳をしている。

「サーニャ……良いの?」

 5秒も撫でては居なかったろう。
 だが、ヴィルヘルミナにそう問われて、エイラは正気を取り戻す。

「ああ、そだな。 じゃ、わたしはサーニャ送ってくから。
 ヴィルヘルミナは先に待機室行ってろよ」
「送り……狼……」
「な、なにいってんだ! 部屋に置いてくるだけだかんな!」

 急に挙動不審になり、見る者が見れば送り狼というより酔っぱらいかもしれないと思うような妙な動作で。
 サーニャに肩を貸しながら退室するエイラの背中に、お返し、というヴィルヘルミナの小さな呟きが聞こえていたかどうか。


******

 待機室のソファーに背を預けながら、時計を眺める。
 時刻は朝6時ちょっと過ぎ……か。 夜討ち朝駆けは兵法の基本とはいえ、ネウロイがそれを意識して行っているとは到底思えない、が。
 どうもアニメでも、みんなに聞いた話でもネウロイが戦術とか戦略とか意識してやってる雰囲気じゃないんだよなぁ……
 結局の所、質と量に物を言わせた蹂躙戦メインというか。 でも、迂回戦術とか陽動戦術もまれに行うらしいし……どうなってんだろ。

 特に今回はその滅多にない陽動戦術である。
 数に圧倒的な余裕が有る勢力が陽動を効果的に運用しだしたらもう手がつけられないように思う……ネウロイがそれに気づいてないのか、意図して行ってないのか……
 この辺は考えても埒があかないことだ、が。

 まず思う事は、編成から外された、と言う事だろう。
 どういう判断でオレが外されたのかは解らないが。
 まぁ、ここ三日ろくにストライカー履いてなかったからなぁ。 病み上がりの人はメインから外す的な判断だろうか。
 それともミーナさんのMe262の試用もだだ延ばしになってるから、未だ編成に悩んでいるのか。
 予備戦力を少しでも残しておきたいという判断か……どれかだろう。

 安心するやら、不安になるやら。
 このままだと、オレは本命の迎撃にかり出される事になるのか。
 好都合と言えば、好都合なんだがな。

 今日がタイムリミットだと解っていて、回答も見出せず一晩寝てみれば、諦めもつく。
 結局の所、能動的に動くには情報が少なすぎて、受動的に動くしか選択肢がないのだ。
 オレという要素が、このストライクウィッチーズという物語を変えてしまうというのなら。
 オレ次第で、その歪みを修正する事だって可能なはずだ。
 引っかかる物はあるが、なんとか、するしかない。
 少なくとも、あと一ヶ月くらい、この居心地の良い場所を守るためには、そうするしかないのだろう。

 まぁ、それにしても、だ。

「……はぁ」
「ん? どうした?」

 ため息を吐けば、隣に座っているエイラが反応してくれる。
 隣に女の子が座ってる状況なんて、こっち来るまで大学の講義以来だったから、まぁ、悪くないといえばそうだし。
 うん、良いんだけどね、良いんだけどね……さっきから何やってんのさ君。

「ん? ああ、ヴィルヘルミナの髪ってふわふわしてるくせに結構素直だからな……ほら、サイドで三つ編み」
「……む」

 ……ああ、畜生、人が良い感じにシリアスに浸ってるのに、人の髪で何やってんですかこの子は。
 しかもなんかすんごい良い笑顔だし……くそっ、可愛いし!
 緩い雰囲気に流される。 その空気を厭と思わせない辺りが憎らしいやら愛しいやらすでに慣れて染まってしまったというか。
 ああもう……ほら、ミーナさんもにこにこしてないで。 椅子座ってくつろいでないで!
 え、結構似合ってる? いやいやいやいや、髪形なんてそんな事はどうでもいいんです!
 きちんと毎日、丁寧に洗ってるけど、結構鬱陶しいだけだから、これ。
 切ったらエーリカ辺りが微妙な面しそうだから切ってないだけで、本当は切りたいです。 五分刈りくらいに。
 いやまぁとにかく、戦闘待機中ですよ! 敵来ますよ!

「サーニャも結ってやりたいんだけどな……サーニャはヴィルヘルミナより髪短いし」
「そうね……サーニャさんも、もうちょっと伸ばせばお洒落の幅も広がると思うんだけど」

 とかミーナさんものたまうし。 いや、確かにサーニャの髪の長さで結ったり纏めたりしたらチョンマゲ尻尾とかそんな感じになりそうだけどさ。
 あれはあれでかわいいと思うよ? 小奇麗にまとまってるっていうか、そんな感じで。
 どっちかつーとバレッタとかピンとかでアクセント付けるとか? ……女の子の服飾はよくわからん。

「まぁ、そんな緊張してんなよ。 大丈夫だって」
「……敵……来る、よ」
「そんな時のために私たちが残ってんだろー?」 

 迎撃に出てる奴らが抜かれない限り私たちの役目はないから、と続けるエイラ。
 いやいや……陽動だよ、陽動。 オレたち現在進行形で釣られてるのですよ。
 言っても信じて貰えないだろうから言わないけど。

 それに、実働戦力二人……オレが居るから三人ですか。
 数えてもらえるほど実力があるとは到底思えませんが。
 ぶっちゃけ、三機……えーと、航空強化一個分隊で落とせる物なのかな、海越えてくるようなネウロイって。
 一応、オレと美緒さんで一機落としてる訳だが、かなり後先考えない戦い方だったしな。
 通常時、ウィッチ六人で出撃するって言うのはつまり、その程度で当たる事が大型ネウロイには必要ってことだろう。
 結局の所、芳佳とリネットが機能してない今、緊急時の時間稼ぎ用の予備戦力扱いだよな……だから、この後焦る訳で。
 今この場にいないリネットと、彼女を説得しているはずの芳佳が居なかったらこの基地がかなりの被害を受けていただろう事は想像に難くないのだ。

 かなりギリギリの綱渡り。 原作どおりに推移してくれなければ、困ったことになりかねない。
 
 囮に釣られた部隊が出撃してから約20分。 エイラに結って貰った三つ編みを弄りながら考える。
 予想通りなら、そろそろ。 今更ながら、流れが変わって、この後の奇襲が無しになって欲しいなんて事を未だに期待しながら。
 古めかしい、しかしこの時代なら割と新しい型であろうスピーカーがノイズを立てた事で、オレはその期待を破棄した。

「来た」

 オレがそう呟くのと、ミーナさんの側の電話が鳴り響くのと、基地全体に空襲警報が鳴り響くのは、ほぼ同時だった。
 受話器をひったくるミーナさん。 眉根を寄せるエイラ。
 警報の中、不快感を隠そうともしないミーナさんの舌打ちが耳に届く。
 彼女が受話器を置いて、此方に向き直る。 止める指示を出したのだろう、すぐに警報も止んだ。
 司令官の、戦う人の目でミーナが此方を向く。

「……敵よ。 坂本少佐達からも連絡があったわ。 どうやら先だって捕捉したネウロイは囮だったようね」
「うぇ、陽動かよー……ヴィルヘルミナが変な事言ったからだぞ」
「違う……」

 いや、オレが悪いのかよ。
 それは全力で否定させて貰う。

「先行隊も反転して基地に向かってるけど……間に合いそうもないわね。
 ……サーニャさんはどう、出られそう?」
「無理だな。 夜間哨戒で魔力を使い切ってる」

 出した方が足手まといだな。 そう続けながら、指でばってんを作るエイラ。
 続いて此方に視線を向けてくるミーナさん。
 言葉はなくても言いたいことはわかる。 頷いて応える。
 微妙なブランクがあるけど飛べば何とかなるだろう。 今回はリネット大活躍のはずだしな。

「そう。 ……じゃあ、三人で出ましょう」
「仕方ないな。 ほら、行くぞ」

 エイラが席を立とうとした瞬間、此方に駆けてくる足音が響く。
 解放されている待機室の入り口に、人影が立つ。
 芳佳だ。 警報を聞いてすぐに走ってきたのだろう、息が軽く上がっている。

「私も行きます!」

 分かり切っていた台詞だ。 強い意志を秘めた言葉。
 ミーナさんが出撃は許せないと芳佳を諭す。 予定調和の展開。 
 だけど、なんだよこのしっくりとしない感じは。
 その答えを自分で見つける前に、ミーナさんの言葉が答えとして届いた。
 
「……わかりました。 90秒で支度なさい」
「はい!」

 応える返事も、駆けていく足音も一つ分、芳佳の物だけだ。
 それが示す事実を理解した瞬間、背筋に冷たい物が走った。

 リネットが来てない……?


******

 赤絨毯の敷かれた廊下を走る。
 時間がない、リネットを呼んで来なきゃいけない。
 今回のネウロイはリネットに落として貰わないと、原作通りの流れになってくれない。
 ここで自信を付けて貰わなければ、彼女はもしかしたら遠くない未来に部隊から外されてしまうかもしれなくて。
 それは困る。 詳しい詳細は覚えていないが、此処以外でもリネットが重要なファクターを占める展開もあったはずだ。
 
 間違いなくそれは不味い展開で。
 大団円から遠ざかる事がほぼ確定で。
 エイラとミーナさんには、Me262は起動に時間が必要だからと言う理由で慌てて待機部屋から飛び出して、リネットの部屋の前まで走り抜けた。
 訓練で走った距離よりも遙かに短い距離だが、焦りの所為か息が上がる。 汗をかく。

 目の前には閉じられたままの木製の扉。
 手を当てて、部屋の中に問いかける。 耳を澄ませる。

「……リネット」

 微かな衣擦れの音。 中にまだリネットが居ることを確認してから、もう一度問いかけた。

「……リネット」
「なん、ですか」

 扉越しに、声。 よし、返事してくれたか。
 ……いざ声に出すと、自分の伝えたいことが半分も伝わらないのはよくわかっている。
 だから、口の中で、心の中でよく考えてから、伝える。

「……別の、敵が……基地に……向かっている。
 ミーナは、三人で……ん、四人で、迎撃に、出る……って言った」
「四人……サーニャさんが?」
「……芳佳」

 息を呑む音が聞こえる。 驚くのも当たり前だ。
 訓練を開始してまだ一週間も経っていない芳佳が、実戦に出るといい、それをミーナが許可したのだ。
 少しでも頭の回る奴が聞けば、どれだけ切羽詰まった状況かを理解するか、無謀な指揮官だと思うか。
 あるいはミーナが芳佳を使い物になると判断したと思うだろう――依然として、出撃命令の降りないリネットよりも。

「……それだけ、人が……足りないんだ」
「……私に何をしろって言うんですか……私なんて、何をやっても上手くできなくて……足手まといで。
 私なんかより、宮藤さんのほうがよっぽど上手にネウロイと戦えます、きっと」
「違う……本当に、人が……足りない」

 ああもう、この子は……! いいからうじうじしてないで、出て来いよ。
 芳佳の才能に嫉妬したり凹んだりするのは後でいいんだからさ……!

「役立たずの私なんかが出撃したって、皆さんに迷惑かけるだけで……。 
 ……ううん、違うんです」

 ……ん?

「私、怖いんです、怖くてダメなんです。
 みんなを守れたらって、誰かの力になれれば、ッて思って、ウィッチーズに志願しましたけど、戦うのが怖くて」

 もう厭なんです、という言葉に嗚咽が混じっていく。

「上手くいかなくって、迷惑かけてばっかりで、何時か取り返しのつかないことをしちゃうんじゃないかって、怖くて……!」

 扉越しに、すすり泣く声が聞こえる。
 ……女の泣き声ってのは、どうしてこう胸に来るんだろうな。 それが子供の物ならなおさらで。
 焦っていた意識が急速に醒めていく。 それと同時に、自分の愚かしいまでの間違いに、ようやく気付いた。
 オレはいったい、何を、やってんだ。

「怖く……ないんですか」

 絞り出すような声が、扉の向こう側から聞こえてくる。

「ヴィルヘルミナさんは……怖く、ないんですかっ」
「怖い」

 即答できる。 その問いには即答できるね。
 ああ、そうさ。 死ぬのも痛いのも怖いね。 出来れば死ぬまで一生お付き合いしたくない類で有ることは間違いない。
 なんせ、痛みも、感覚ももはや思い出せないけれど。 たしかに、この世界に来たときオレは死に掛けていて。
 思い出せないというのに、それが圧倒的な恐怖だったことだけを体が覚えている。
 だけど、な。

 ……何とか原作通りにハッピーエンドを目指す?
 違う、違うんだよ。 大間違いだよ。
 救いようのない阿呆だ、オレは。
 何故オレは此処にいる?
 なんでオレはストライクウィッチーズに居たかったんだ?
 保身だとか都合が良いとか、余計な事考えてんじゃねえよ。
 ……逃げんなよ、もう。 

 だって、もっと大事なことがあるだろう。
 
 オレが此処にいるのは、我慢できなかったからだろうが。
 アニメの登場人物じゃない、現実に此処でこうやって生きてる、まだ人に甘えてて良い年齢のガキどもが無茶して戦ってんのに。
 何も出来ない事が。 何もしないで居る事が。
 オレの戦う理由なんて、戦いたい理由なんてそれで十分すぎる。
 別に世界を救おうとか、そんな大それた事オレには無理だ。
 オレの手の届かないところで起こる事はしょうがない、どうしようもないし、実際の所どうでもいい。
 そう言うのはもっと余裕があって、もっと才覚があって、もっと優しい奴の気にすることだ。
 だけど、手が届くなら。 オレにだってどうにか出来るなら。
 命を賭ける価値があるだろう。
 女のために、子供のために戦う。
 それが男って物だし、年長者の務めって物のはずだ。
 まだまだ30年も生きてない若造でも、それでも、自分より10も幼い子供たちが戦うよりは万倍マシだ。

 性別も、世界も、名前すら変わってしまったこの命、どうせ拾ったようなモノ。
 痛みも傷も死も怖いが、オレの命くらい賭けてやろうじゃないか。
 あるいは、命をチップにこの先オレの我が侭を通して、誰一人として悲しませずに終わらせることが。
 オレがこの世界で生きていくための試練なのかも知れない。

「……怖い」
「だったら、どうして」
「自分が……何も、しないでいて……隣にいる、誰かが……居なくなる、方が、もっと、怖いから」

 それが女子供で、その上独りぼっちのオレを気にかけてくれる。 そんな相手だったら、なおさらだ。
 その中にはリネットも入っている訳で。
 そんな相手を、ただ原作通りに進めたいからと言うしょうもない理由だけで、鉄火場に引っ張り出そうとか。
 まったく、オレは何をトチ狂ってるんだ。 目の前に居たらぶん殴ってやりたい……あとで自分殴っておこう。

 別に、リネットがこの後この基地から、舞台から居なくなろうがどうなろうが、安全に過ごしてくれるならそれはそれで良い。
 怖いとか厭だとか、プレッシャーに押しつぶされそうになってまで、戦場近くにいるよりはよっぽどマシなはずだ。

「……すまん、リネット」
「え?」
「……無理を、させたかも、しれない……から。 オレ……いってくる」
 
 今は時間がないから、それだけ伝える。
 意地でも全員無事に帰ってきたあとで、しっかりと詫びる事に決めて。
 踵を返したオレの背中に、ドアを開く音が聞こえた。

「ま、待ってください」

 振り向けば、ドアから半身を出してリネットがオレを呼び止めていた。
 目尻が赤く腫れていて、目は軽く充血していて。 まだ涙の後が小さく残っていて。

「宮藤さんは……なんて言ったんですか」

 そんなことを聞いてきた。
 思い出す。
 あー、どうだったかな。 アニメとちっと違った気がするんだけどな……

「……『やれます、守るためなら』」

 この台詞を言った直後、オレは世界を呪い、猛烈に後悔し、そして背筋が震えた。
 この子に、こんな目をさせる世界を呪い。
 この子に、こんな目をさせた事を後悔し。
 言葉を聞きいて、リネットが目を閉じ、再び開いたその目。
 一瞬で、此処まで覚悟を決められるのかと思った。

「わたしも、やります。 怖いけど……やってみせます!」 
「……いいん、だな」
 
 リネットが即座に頷くのを見て、覚悟を決めている相手に我ながら馬鹿な問いかけだったと思いながら。
 オレはリネットを伴って格納庫へと――戦いの場へと走り出した。


******

『敵の進路予測は、基地へ向けて一直線……間違いなくこっちが本命ね』
『滅多に陽動とかしてこないから見事に釣られたなー』
『海面すれすれを航行して居たため、レーダー網に引っかからなかったらしいわ。
 哨戒艇が発見してくれなかったらもっと事態は切迫していたかもね』
『ま、ギリギリだったけど伏兵は奇襲前に見つけちゃえば楽勝だかんな。
 何時も通りペロっと食っちゃおう』

 ミーナとエイラがオレの下前方を飛びながらそんな会話をしている。
 口調は軽いが、発言とは裏腹に割と事態が切迫しているのは解っているのだ。
 初陣の芳佳や、今までの成果の著しくないリネットを気遣っての言葉だろう。

『リネット、宮藤の事ちゃんと見ててやれよ』
『はいっ!』

 エイラの言葉に、元気よく返事を返すリネットの声が、インカム越しに聞こえてきた。
 あの後、格納庫でMe262の懸架台に上ったところで、残りの三人もやってきたのだ。
 オレの準備が滞ってたのと、リネットが居たことにミーナさんが眉を微かにひそめたが。
 リネットの決意を聞いたのと、おそらくは時間が無かったのとで、全員出撃と相成ったのである。

 ……怒られなくてよかった。 あとリネットが空気読める子でよかった。

 現在、オレ達はずいぶんと変則的な編隊で予想戦域へと向かっている。
 ミーナとエイラが前衛、芳佳とリネットがバックアップ。
 オレは離陸直後、魔法全開で上昇して高度500mほどを飛ぶ彼女達の、さらに上空3000mほどで彼女達に追従していた。
 かなり鋭い方錐系、ピラミッド型。 魔力で視覚が強化されてなかったら皆を見失ってしまいそうだが。
 オレのMe262がある程度高度が有った方が性能を発揮しやすいのと、戦端を開いた際に降下加速度を利用するための、急場しのぎの陣形だった。
 本来ならオレは新人後衛の護衛か、エイラと共に部隊司令であるミーナの直衛につくべきなのだろう。
 んー、多分この場合、新人達に近接戦闘はさせたくないだろうから、ミーナの指揮下でケッテだな。
 名目上はリネットが遠距離支援、芳佳がその護衛とかそんな感じ。

『わたしと、エイラさんが先行するから、二人は此処でバックアップをお願い』
『はい!』 『はい!』

 後下方の二人が速度を緩める。
 記憶通りの展開で、ほっとするぜ。
 ん、ちょっと待てよ、新人コンビがバックアップ、ベテランが前衛……オレは?

『バッツ中尉は、優速を生かして右上側から迂回。 私たちが足止めを行うから、横撃をお願い』
「……了解」

 横撃……先行誘引とか足止めじゃなくて打撃力として使うつもりか。
 迂回してもMe262の速度なら十分間に合うと踏んでの判断だろう。
 現在の情報だと、その選択肢しかないな……エイラとミーナの火力はMG42で、オレはMk108。
 オレが最大火力であるMk108を確実に叩き込める状況を作り出すのが前衛二人の役目って所だろう。
 ……上手く行くといいけどな。 今回の敵は、たしか高速型だったはずだし。

『位置関係は使い魔にナビゲートさせて。 此方からも逐次連絡を飛ばすわ』
「……ッ」
『どうかしたの?』
「使い……魔……」
 
 いや、使い魔……だと……?
 不味い、不味すぎる。
 相変わらずオレは使い魔の声だか意志は聞こえない。
 これはオレの意識がヴィルヘルミナのそれで無いのと関係有るのか無いのか解らないが。
 バルクホルンに貰ったコンパスは相変わらず首に引っ掛けてるが、たかが方位磁針だ。
 前回みたいに派手で、なおかつ方角がハッキリとわかっている戦域に向かうなら兎も角、今回は役に立たないだろう。

『……使い魔がどうかしたの?』
「……」
『何もないようね。 それでは、作戦開始!』

 何か手がないか考えている間に、時間は過ぎていく。
 ちっ……時間がないんだぞ、迷うな、オレ。
 広い空で、ナビゲーション無しに離脱後合流なんてのは無茶なんてレベルじゃないのは解ってる。
 なんだかんだ言って、本来のシナリオ通り事態が推移していってくれている、なんて事じゃ安心は出来ない。
 バッグの中から双眼鏡を取りだして、首にかけておく。
 あとは、ミーナとエイラの二人が遠方から見えるほど派手な戦闘を行ってくれるのを期待するだけだ。
 MG42の曳光弾が見えてくれればなんとかなるはず。  
 
 身体を反らし、迂回機動を取る。
 先行していくミーナとエイラを見失わない様、その方向をじっと見つめながら。


******

「エイラさん、十二時、下方、来るわ!」
「ああ、見えた」

 先行して約5分。 それを先に発見したのは魔法によって周囲を走査していたミーナだった。
 海上、約十メートルという極低空を飛翔する円筒状の黒い物体。 ネウロイである。 

 指示もなく、魔力によって強化されたMG42が火を噴く。 先に撃ったのはミーナで、間髪入れずにエイラも射撃を開始した。
 毎分千発以上という驚異的な連射力が文字通りの弾雨となって上方からネウロイに降り注ぐはずであった、が。
 エイラが眉をひそめる。 

「速い……!」

 当たらない。 距離が離れているとはいえ、エイラもミーナも射撃の腕は水準以上だ。
 相対速度もあり、何時もなら何発かは当たっているはずなのに、一発たりとて当たっている様子がない。
 左右に機体を不規則に振り、回避運動を取っているのは解るが、何よりも顕著だったのはその速度だ。
 
「今までより圧倒的に速い……一撃離脱じゃ無理ね」

 海を越えてくるようなネウロイは、大抵が大型で航続距離を重視していると思われるような個体ばかりで、足は遅かった、が。
 眼下を此方に向かいつつある個体は中型から小型と言ったサイズであり。 明らかに速度を重視している。
 奇襲、強襲を迅速に行うための速度――あるいは、海を嫌うネウロイが渡洋時間を限りなく小さな物とするために選んだ道かも知れないと、ミーナは分析する。

「バッツ中尉、すぐに此方に合流の軌道を取って。 敵速が速すぎる。」

 この速度に抗するには、迂回中のヴィルヘルミナが最も適しているだろうと判断し、そう指示を告げた。
 小さく了解の意が選ってきたことを確認すると、一瞬に満たない時間を思案に費やし、ヴィルヘルミナが合流するまでに取るべき方策をエイラに伝える。

「多少危険を伴うけれど、速度を合わせるしか無い様ね」
「ん!」

 エイラの頷きとサムズアップを合図に、二人は雲を引いて急降下を始めた。
 高度が速度に変換され、それは縮まる彼我の距離という視覚的な情報で表れる。
 ネウロイとすれ違うか否か、と言ったところで二人は身体を傾け急激な方向転換。
 まるでヘアピンのように鋭いカーブながら、速度はほとんど落ちておらず。
 観客がいればその技量に拍手を送っていただろうが、生憎と二人の周囲にはネウロイ以外の観客は存在しなかった。

 ネウロイと、ウィッチ二人。 相対速度がほぼゼロとなる。
 一拍の間。
 迎撃のビームがが飛んでこないのを頭ではなく身体が理解した瞬間、二人は引き金を引いた。

 限界速度ぎりぎりを保ちながら、不規則機動中の相手を銃撃する。
 ほとんど経験のない状況に、二人の銃弾はことごとくが空を切った。

「……エイラさん、そっち!」
「了解!」

 ミーナの合図。 経験と勘と、あるいは魔法を使用してその意図を理解したエイラが、左方向へと水平移動していく。
 指示を出した本人はそれとは逆の方向へと。 二人の距離が適度に開いたところで射撃を再開した。
 二点からの射撃。 十字砲火は、極めて回避が困難であり。 
 そして、ついにMG42の7.92mm弾頭がネウロイの発光する尾部、おそらくは推進力を生み出している器官に連続して着弾した。

 着弾した部位から煙が上がる。
 例えネウロイといえども、推進機関が損傷すればその速度は落ちるはずであり、このまま戦闘を有利に推移させることが出来そうだ、と二人が思ったのもつかの間。

「……ッ、分離、したっ!?」

 エイラが驚きの声を上げる。
 その言葉通り、ネウロイはダメージを受けた機体後部を切り離していた。
 それはまるでトカゲの尻尾切り、あるいは重たい増糟を切り捨てる様に似て。

 推進力を失い、二人に急接近してくる巨大な黒い塊。
 本体と分離して力を失ったせいか、輪郭を白く輝かせながら海面をバウンドして迫るそれを回避した二人が見たのは。
 自分たちには到底追いつけそうもない加速と速度で遠ざかっていくネウロイだった。

「加速した!」
「くっ、速すぎる……不味いわね」

 ネウロイの進行方向には、今だ未熟な芳佳とリネットが居る。
 ミーナの魔法は此方に接近しつつあるヴィルヘルミナを捉えてはいたが、今少し時間がかかりそうで。

「リーネさん、宮藤さん、敵がそちらに向かっているわ。 ……貴女達だけが頼りなの。 お願い」

 結局、あの二人を戦わせることになるのかと、眉をひそめた。



******

 ミーナさんから、合流しろとの命令が届く。
 ああ、くそ、案の定見失っちまったよ!
 砂粒以下の人間サイズの物体を、数キロ離れてどうやって捕捉すれば良いんだよ!
 瞬きしたら普通に何処にいるか解らなくなるんだもん!

 大陸側の地形と、太陽の位置。
 大まかな位置は解るが、どっちの方向に飛んでいけば良いのか全然解らん。

 不味い、これは不味い。
 期待していた曳光弾の光も見えない。
 夜だったら良かったのだろうが、今は昼間。
 あるいは海面の反射に紛れて見えないのかも知れない。
 機体はしていなかったが、ネウロイがビームの一発でも撃ってくれればすぐに解ると思うんだが、世の中そんな都合良くできてはいない。

 双眼鏡を目に当てる。
 おそらくは此方の方じゃないだろうか、という方向に視線を向けてみるが、とてもじゃないが見える範囲が狭すぎてわからない。
 そんなこんなで焦っていると、さらに悪い情報がエイラの声で届けられた。

『……ッ、分離、したっ!?』

 もうロケット二段目かよ、マジかよ……!
 あるいはこのMe262の速度ならあの速度に追いつけるかも知れないが、くそ、場所が解らないんじゃどうしようもない!
 双眼鏡から目を離す。
 どうしろ、どうしたらいい、考えろ。

「く……ウロイは……みんなは、どっち……」

 焦りの所為か、思考が口をついて出る。
 ネウロイは基地に向かっている。
 基地の方向なら解る。
 その中間地点当たりを目指す……か?
 ネウロイの後ろに着くならそれで良し、もしくは前に出れるならそれはそれで良い。

 身体を捻らせ、基地の方に進路を取る。
 方角を確認しようと、懐からコンパスを取り出してみて。
 違和感を感じた。

「……?」

 あれ、針が……北を指してない?
 太陽の位置と、現在時刻を確認する。 やはり、方位磁針の赤く塗られた先端は、北を指していなかった。
 貰ってから一週間大事に使ってたつもりだったが、いきなり馬鹿になったか?
 いや、そんなはずはない。 別に磁気を帯びた物に近づいた記憶もないし。
 ん、待てよ。
 方位磁針が指す方向。 それは、もしかしたら。

「……ミーナ、達の……方向?」

 くるり、と。 肯定する様に、方位磁針が時計回りに一回転した。
 うぉ、なんだこれ。 心霊現象とか魔法とかそう言った類の物?
 そんな便利なお化けとか幽霊とか――いるじゃないか。

 使い魔。 聞いた話によれば、動物だとか、それらの姿をした精霊とか妖精とか、そういったモノ達。
 ヴィルヘルミナさんの使い魔が、オレと意志の疎通の出来ない使い魔が、コンパスを通じて手助けをしてくれている……?

「……使い、魔」

 また、時計回りに一回転。 そして、再び針は同じ方向を指す。
 確信する。 こいつは使い魔で、オレを助けようとしてくれていることを。
 ……助けてくれるんだな。 例え、オレがお前の本当の魔女じゃなくても。
 そのことを知らないのかもしれないし、騙してるようで気が引けるが、今はその助力に感謝する!

 コンパスの方向を確認して、その方向へと軟降下、高度を加速度へと両替しながら、魔力を思いっきりストライカーユニットに注ぎ込む。
 頼むから、間に合ってくれ! 
 

******

 機関銃とはまた違った、大口径の銃器の発砲音が響く。
 海の彼方へと、光を帯びて飛んでいく弾丸は、しかしそのまま虚空へと消え去っていった。
 弾丸の先に居るはずのネウロイは依然として健在で。

「……だめ、全然当てられない!」

 照準をのぞき込みながらリネットは焦りの声を上げる。
 後がない。 先ほど告げられたミーナの言葉がその焦躁を加速する。
 もはや逃げる気はない。 ただ、望んだ結果が、自分の実力が決意に付いていかない事に焦る。

 その焦りを慰撫するように、芳佳が声をかけた。

「大丈夫、訓練であんなに上手だったんだから」
「わたし、飛ぶのに精一杯で射撃を魔法でコントロールできないんです」

 そうなのだ。 それでも、何時もの大型で低速目標相手なら、何とかなったかも知れない。
 今回は的も小さければ、速度も速い。
 相性が悪い。 結局、自分はこの程度なのか。
 リネットが慣れ親しんだ諦めの思考は否定しても容易に彼女の中に染み込んできて。
 しかし続く芳佳の言葉によって容易に打ち消される。

「じゃあ、私が支えてあげる。 だったら、撃つのに集中できるでしょ?」
「え? あ、あの……」

 戸惑うリネットの視線の先。 芳佳は身体を沈め、リネットの真下に回り込んでいた。
 そのまま上昇する。 余りにも突飛なその発想にあっけにとられている間に、芳佳はリネットの股の間に収まっていた。
 いわゆる、肩車の体勢。 内股に芳佳の髪の毛が触れて、少しのくすぐったさをリネットは感じる。

「どう? これで安定する?」
「ぇ、あ、はい……」

 リネットはおそるおそる体重を預ける。 ホバリングするために浮力を生み出していたストライカーユニットが回転数を緩めていった。
 その制御に回していた意識と魔力が開放され、余裕が出てくる。
 ベストとは言えないが、この状況ではこれ以上は望めない。 そんなコンディション。
 愛用のボーイズ対戦車ライフルに魔力を通し、ただ魔力をこめるわけではなく、自分の本来の魔法を使っての射撃が出来ることを確認して。
 心の中の誰かが、いける、と喜びの声を上げた。

 風を――風向きを、風力を読む。
 敵の速度を、動きのパターンを読もうとして。
 照準の向こう、 不規則に上下左右に動きながら、それでもl此方にまっすぐ向かってくる黒い姿を睨み付ける。
 狙いが付けにくい。 弾丸がネウロイの位置にたどり着いたその時に、ネウロイが何処にいるか予想がつかない。
 どうすればいいか、とふと思考した瞬間、彼女の脳裏に閃くものがあった。
 
 予想が付けられない理由は、単純に敵が取りうる選択肢が多いからで。
 ならば、その選択肢を少なくするか、選択を誘導してやればいいのではないか、と。
 ハッキリとそう、言葉で思いついた訳ではなかったが、リネットが思いついたそれは長じれば予測射撃と呼ばれる物であった。

 相手の避ける先を予測して、そこを撃つ。
 リネットのボーイズ対戦車ライフルは装弾数五発で、無駄弾は撃てない。 だから。

「宮藤さん、私と一緒に撃って!」
「うん、わかった!」

 頼もしい返事が芳佳から返ってくる。
 何の根拠もなさそうな自信なのに、今は、それが自分を支えてくれていることを心強く感じて。
 リネットの視界の先。 ネウロイが、自分の望んだ回避行動を取ってくれる、取らざるを得ないだろう、その位置に来た瞬間。
 目を見開く。

「今です!」

 言い終わる前に、芳佳の機関銃と、それにコンマ数秒も遅れず、リネットのライフルが光を放った。
 魔力を帯びた弾丸は光の軌跡を空中に残し、彼方へと飛翔していき――

 しかし。
 
「――外した!?」

 今日何度目かの、しかし最も絶望に近い、悲鳴じみた声が上がる。
 放たれた弾丸は、確かにネウロイが芳佳の弾丸を避けたその先へと飛んでいた。
 しかし。 ほんの少しだけ、実際にはたった数十センチの差で、ネウロイには命中して居らず。
 依然としてネウロイは飛んでいた。

 第二撃を放とうにも、銃撃を警戒したのか、ネウロイの回避運動が先ほどよりも激しくなっている。
 萎えた心が身体を被い、構えた銃口が下がろうとした次の瞬間。
 魔力で強化された目が、上空からネウロイの背後に回り込む小さな影を捉えた。
 ミーナやエイラですら追いつけないネウロイに追従する存在。

 ヴィルヘルミナだ。


******

 くそ、空気抵抗が重い! 追いつけねぇ!
 低空で相当速度出してる所為で、ウィッチなんて人間サイズの物体でもかなりの空気抵抗を受ける。
 流線型じゃないのがきつすぎる。 クソ、この胸邪魔だ!
 気を緩めれば身体が大気に揺さぶられる。 かといってシールドを張ればそっちに魔力を持って行かれて速度が落ちそうになる。
 身体が大気に揺さぶられれば、それだけで加速が悪くなる。

 高度を両替して得た加速は、水平飛行を続ける内に使い果たしてしまった。
 彼我の相対速度はほぼゼロ。
 もっと近づけないと、近づかないと、有効な射撃は出来ないって言うのに……!
 あと少しで追いつきそうなのに……!

 リネットが狙撃を外した。 芳佳の助けを借りてなお、だ。
 此処に来て予想と期待を裏切られて。
 ここでオレがどうにかしなければ、このままじゃ詰みだ。
 打つ手無し……なわけないだろう! 諦められるか!
 ロジカルに考えろよ、オレ!

 速度か安定性かのシーソーゲーム、必要なのはシーソーの板というルールをぶち割る何かだ。
 もっと魔力が有れば、オレがシールドの安定を上手く行えれば、なんて思うが。
 無い袖は振れない。 訓練すればシールドと加速を両方行えるかも知れないが、今この瞬間に出来る手段じゃなければ意味がない。
 魔力――そう、魔力だ。
 加速するのに魔力を使う。 シールドを張るのに魔力を使う。 攻撃を行うのに魔力を使う。
 必要なのはこれだけだ。 じゃあ、必要ないのは?

 ……オーケ、怖がったり躊躇ったりするな。
 懐からコンパスを引っ張り出し、告げる。 この声を、使い魔が聞いてくれていると信じて。

「……保護……魔法、切って」

 コンパスの針が揺れる。 再考を促すように、否定を表すように、大きく左右に。
 解ってる。 ウィッチが、生身の人間が航空機の速度で飛んで、重火器を軽々と振るい、そのリコイルを受けてなお常態を保っていられる最大の理由。
 それはウィッチが、ストライカーユニットが恒常的に展開する増強・保護魔法のお陰だ。
 それを切ればどうなるか。 ああ、解ってるさ。
 此処は低空で海面近くで、幸いにも上空のような殺人的な低気温はない。
 問題は風圧だが、空気抵抗を軽減するためにシールドを張るためこれも――希望的観測に過ぎないが、なんとかなる。
 いいや、なんとかする。 してみせる!
 
「……それしか……ない」

 オレの思いが通じてくれたのかどうか。
 コンパスの針が一瞬躊躇うように振れて、くるりと一回転。
 それを了解の合図と見る。
 少しでも軽くなるために、MG42のストラップを外して捨てる。
 ついでにバッグも捨てた。
 必要なのは、胸に抱えるMk108のみ。
 そして、オレが前方にシールドを張った直後。 

「――ぐ、ぎ!」

 瞬間、全身をバラバラにしそうな圧力がかかった。
 一瞬視界が歪み、意識を持って行かれそうになるのを、Mk108を抱きしめて堪える。
 普段は無視できる、角張ったパーツが服越しに肌を刺激し、その痛みが意識をつなぎ止めてくれた。
 クソ、風避けにシールド張ってこれかよ……! 

 髪が後ろに引っ張られる。 どろどろとした空気を押しのけていく感覚。
 風圧で閉じてしまいそうになる瞼に、辛うじて前が見えるだけの隙間を空けて。
 だが、それでも。 速度は落ちない。
 加速する。
 ネウロイとの距離が縮まる。
 その姿が徐々に徐々に大きくなっていく。
 水平線の向こうには、ウィッチーズ基地。
 その手前には、小さすぎて見えないがきっと芳佳とリネットが居る。

 ネウロイの上を取る。
 ロケット弾みたいな、ミサイルみたいな形状をしたネウロイの姿がよく見えた。
 おうおう、盛大に身体を左右に振っちゃってまぁ……必死だな。
 よう、ネウロイ、なんて挨拶を投げたくなるが、そんな余裕は心身時間全てに置いて存在しない。
 胸に抱えたMk108を引っ張り出し、ストックを右肩に当てて。
 衝撃で狙いが付けられないが、そんなのは良い。 オレが望むのはそんな事じゃない。

「リネット――」
『はいっ』
「――撃てッ!」 

 リネットからの答えを確認する前に、引き金を引く。
 直後、右肩を吹っ飛ばそうとするほどの衝撃がMk108から伝わった。
 ああ、くそ、痛ェとかそういう感覚すっ飛ばして一発目で感触無くなるとかな……!
 防護魔法がどれだけウィッチを助けてくれているか、この瞬間に厭と言うほど理解する。
 余りの衝撃に、腕がくっついてるか――まだ、きちんと腕の形をしてくれているか心配になる。
 30mmの機関砲を人が防御策も無しに撃てばこうなるのは至極当然の道理。

 だけどな。
 男が女守るために命張ってんだ! 道理なんてモンはその辺にすっこんでろ!

 衝撃の所為か、左目が霞む。 悲鳴を上げそうになる反射神経を、奥歯を砕く勢いで噛みしめて押し殺す。
 だが、撃てている。
 保持できている。
 オレは未だ生きている。 戦える。
 その事実だけが今この瞬間は必要で。
 添えた左手に力を込めて、増強魔法の力も借りて暴れる機関砲を無理矢理押さえつける。
 腕一本吹っ飛んだ位じゃ人間簡単には死なない!
 大丈夫だ!

 毎分100発の速度で放たれる薄殻榴弾。
 それはネウロイからかなり逸れながらも、しかしオレの望んだ通りの方向へと着弾してくれる。
 海面に吹き上がる水柱。
 さあ、ここでお前は終わりだ。
 やってやれ、リネット!


******

『リネット』

 ヴィルヘルミナさんが私の名を呼ぶ。
 その声音は、何時も通りの淡々とした口調で。
 だからこそ、彼女が何も諦めてはいない事を私に教えてくれる。

 やっぱりダメだった、と諦めかけていた心が震える。

 視線を一瞬下に飛ばす。
 そこには、私を肩車してくれている宮藤さん。
 私を支えてくれている、まだこれが初陣の、自分とそう変わらない年の女の子。
 自分と同じように、戦うことが怖いけれど、じっとしている方がもっと怖かった、と言った子。

 ――怖い。
 ヴィルヘルミナさんの言っていたことを思い出す。
 隣にいる誰かを失うことが怖い。 その意味がよくわかる。

 宮藤さんが支えてくれている。 宮藤さんが一緒に戦ってくれている。
 彼女の体温を、息遣いを感じる。 私の射撃が外れて、動揺しているのが解る。
 今この瞬間、私が戦う事を諦めたなら。
 私の背後にある故郷を。
 部隊皆の思い出がある基地を。
 そして、何よりも。
 宮藤さんを――仲間を、友達になってくれるかも知れない人を失うかもしれないのが、怖い。

 だから、私は。
 
「はいっ」
『――撃てッ!』
「リーネさんっ!」
「宮藤さん、もう一度! おねがい!」
「わかった!」

 宮藤さんにお願いしながら、撃ちきった弾倉を交換。
 間髪入れずに照準と照星を合わせる。
 瞳に魔力が通り、先ほどよりも大きく、近くへと迫ってくるネウロイの姿がはっきりと見えた。
 黒と赤の異形であり、恐怖の対象。
 古来よりの人類の大敵。
 私の故郷を蹂躙しようと、此方に向かってくる暴力。
 だけれど、貴方なんかよりも、宮藤さんを失う事の方が、ずっと逃げた先に待っている物の方が何倍も怖いんだから!
 
 照準の先、ネウロイの左右に大きな水柱が連続して何本も上がる。
 ヴィルヘルミナさんの射撃だ。
 援護射撃――射撃が上手くないヴィルヘルミナさん。
 下手に狙ってネウロイに回避機動をとらせて動きを不規則化させるよりも、動きを押さえてくれてる……?
 それはつまり、私を信じてくれているという事で。 

 ……見える。
 ヴィルヘルミナさんの射撃で出来た水柱の回廊の中、回避の選択肢を狭められて。
 私の初弾と宮藤さんの銃撃を避けたネウロイが、動く先が!
 これなら!

「今です!」

 宮藤さんが返事をして、機関銃の引き金を引き、その発射音が響き渡ったはずだが、もう私には何も聞こえない。
 ただ、意志は魔力を銃身に注ぎ、相手の未来位置を予測するだけの装置となる。
 風向き、風力、ネウロイの早さ。 全てはさっきと一緒。
 引き金を引き、ハンドルを起こし、引き、廃莢され、ハンドルを押すと同時に再装填、最後にハンドルを倒してチャンバーをロック。
 意識するよりも素早く、今までの経験の中で最もスムーズに一連の動作が行われて。
 意志がなければ動かないはずの身体は、厭になるほど繰り返した訓練の動きを正確にトレースしてくれていて。

 何時だったか、ヴィルヘルミナさんが言っていた台詞を思い出す。
 使われない道具はない。
 ただ、それが使われるときまで決して手入れを欠かしてはならない。
 そして今この瞬間こそが、私という道具を、この力を使うべき瞬間だと信じる。

 だから――

「――当たれ!」



******

 機動こそ空を飛ぶ者の最大の武器である

 左右には吹き上がる水柱、そして続けざまに上方から飛来する高威力の弾丸。 下には青く黒い海面。
 ただ高速を持って敵を突破する事を求めた身体を持つ”それ”は行動の選択肢が突如として限界まで削減された事を知った。
 右にも左にも避け続ける事は出来ない――水柱を抜ける事、すなわち水に触れる事は”それ”に取って忌避すべきことであったし。
 海面も、水であるという事実以上に相対速度のお陰で、接触しようものなら自身の耐久度を大きく上回る衝撃を受ける事は間違いなかった。
 
 上しかない。
 それは、頭上に陣取る邪魔なウィッチを己の質量でもって押しのけ、空という広大な空間を利用できる位置への移動であり。
 ”それ”にとって許された唯一の選択肢だった。

 機動こそ空を飛ぶ者の最大の武器である。
 三次元空間における、取りうる選択肢の豊富さ。
 それは本来ならば極めて予測の難しい事象である。
 人類の物理常識を覆すことが可能な”それ”にとっても、大いなる武器であったのだ。
 たとえ、元々が前進速度に特化した存在である”それ”にとっても、いや、むしろビームの一本も撃てない”それ”にとっては。
 自由に動ける空間こそが、最も失ってはならない物。

 武器を失った者が、何時までも戦場を走っていられる道理は無い。

 前方から再び飛来する弾丸。
 それを、軽く浮き上がって回避した、直後。
 上昇軌道を取るために機首を軽く上げたその時、機体後部を青白い魔力を曳光する弾丸が貫いた。
 推進力を生み出していた器官が魔力による阻害を受ける。
 いかな高速飛行に適した身体でも、低下した推進力では空気抵抗を切り裂ききれず。
 腹を見せる事で増大した抵抗が”それ”を徐々に上へと押し上げていく。
 望んだ結果が、望まぬ過程によってたぐり寄せられていく。

 あらゆる生物にとって無防備な腹。
 それが、狩人の放った必殺の弾丸に晒されていく。
 弱点を見せた獣にとどめを刺すがごとく。
 まるで下から切り上げるかのように、光り輝く弾丸が次々と着弾、容赦なく貫いていった。

 ”それ”が悲鳴を上げる暇もあればこそ。
 その中の一発が、”それ”が最も守るべき物、コアを掠め飛ぶ。
 極限まで強化された大口径の弾丸と纏う魔力は、コアを守るはずの甲殻を易々と食いちぎり。
 ただ掠め飛ぶというそれだけでコアに致命的な亀裂を走らせ、制御が不確かになった機体に走る衝撃がトドメとなり砕け散った。

 
 

******

 目の前で、リネットに撃ち貫かれたネウロイが急減速し、オレに迫る。
 さながらそれは壁だ。

 危なッ!?
 Mk108の質量を増大させ抱え込み、ストライカーを思いっきり前に振って急減速と急上昇。
 機関砲が押しつけられ、身体をぶん回したので、足や胸に激痛を覚悟したが、痛みはいつまで経ってもやってこない。
 ……ああ、使い魔が保護魔法を復帰してくれたのか。 ありがたい。

 しかし、なんとか賭に勝ったな……ほっとする。
 オレの弾頭は榴弾で、口径もありリネットのライフルよりも単純な威力は高いだろう。
 だが、此処で必要だったのは必中であり必殺。
 榴弾という特性上、衝撃力とかは強いが、とてもじゃないが外殻を打ち抜いてコアまでダメージが通るとは思えない。
 一応、多分これ普通の航空機相手には一発当たっただけで致命的な威力なんだろうけど、相手が大型ネウロイじゃ仕方ないよな。
 連続して当てれば何とかなるんだろうが……あの状況じゃ狙いも付けられないしな。
 ネウロイの横移動が激しくて、当てられないという事態すら起こりうる。
 リネットがオレの意図を汲んでくれたから良かった物のあまりにも……いや、いいか。

 今は、大団円に一歩近づいたと思えば、それでいい。
 終わりよければ全て良し。 腕一本くらいどうってこと無いだろう。
 ……まぁ、ぶっちゃけ、腕がどうなってるか見るのが怖いです。
 Mk108を減速のため抱えたときも、左腕しか動かなかったし。
 血は流れてないっぽいから折れた骨が肉を突き破ってる、とかいうスプラッタな状態では無いだろうけれども。

『やった! やったよリネットさん!』
『私……出来たんだ!』

 喜ぶリネットと芳佳の声が聞こえてくる。
 だが、その声に何かねぎらいの言葉を返してやろうと思うよりも早く。

『――二人とも、避けなさい!』

 ミーナさんの声がインカム越しに響き渡った。

 な!?
 未だ生きて……いや、ネウロイの身体が白く崩壊するのは見た。
 撃墜は確実だ。 じゃあ、なにが?
 
 視線を向ければ、依然として慣性でかっとんで行くネウロイの残骸。
 それは、白く輝き砕けながらも――やべぇ、二人に近すぎる!
 一回撃ち損じてるから本来よりあいつらに近すぎたのか!?
 Mk108を構えようとして、出来ない。
 重量のあるこの機関砲じゃ、片手じゃ射撃体勢に持ってけない。
 まずい、不味すぎる……!

『――!』
「リネット……!」

 インカム越しに響くリネットの悲鳴。
 巻き起こる水煙。
 ああ、畜生! 此処まで来て油断したオレが馬鹿だってのかよ……!
 
『宮藤さん、リーネさん!』
『ミーナ、大丈夫だ。 見ろ』

 焦って二人に問いかけるミーナを、エイラが遮る。
 収まっていく水煙の中、青い輝きを見せるのは、巨大な魔法陣。
 扶桑系の文様……芳佳のシールドか!
 その向こうに人影が見える事を確認して、今度こそ本当に気が抜けた。
 大きくため息を吐く。
 本当に……よかった。

『うわぁ……やたらでっかいシールドだな』
『あれが、宮藤さんの力……』
 
 はい、そうですよ、ミーナさんとエイラ。  
 あのアホみたいな出力を叩き出すのが芳佳さんです。
 空戦ウィッチの魔力の出力なんて、ほとんどシールドの強度くらいにしか影響しなさそうだけどな。
 それにしても、崩壊中とはいえ結構な質量を残してそうなアレを受け止めるとは……脱帽だよ、本当に。

 耳には、芳佳とリネットが友情の証にちゃんづけで呼び合う事を約束して、じゃれ合っている声が聞こえる。
 先ほどまでの緊迫した状況とのギャップを余りにも感じさせるその会話が、気が抜けるやら安心するやらで。
 ミーナさんから帰還命令が出るまで、オレはぼーっと二人の方を眺めていた。


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 今回は実験的に一人称多め・かつフォーマットを変更してお送りしております。
 これならどうだろうか。 読み辛さ、解りづらさに関して何かご意見頂けたらと。

 ミーナさんが芳佳さん単体での随伴を許可したのはあれだ、余計な口論して時間食うよりは、基地上空哨戒とかいう名目で後ろ置いておいた方が良いと思ったため。
 その後、リネット合流で本来通りの展開に。
 ネウロイに引き離されるまでは、芳佳とリネットに何かさせる気全くなさそうだったし。

 高速戦闘! ばんじゃーい! Me262と直線レースで勝負なんざ10年早いんだよバーヤバーヤ!
 Me262に勝ちたかったらV2持って来いってんだ!
 kdは曲がれない止まらない戦闘機、Me262が大好きです。

 突っ込み来る前に答えておく。
 Mk108は30mmという口径にもかかわらず、毎分650発という(当時としては)頭おかしいんじゃないかというくらいの連射速度を誇ります、が。
 さすがにその連射速度じゃウィッチでも無理だろー、と思いまして。 単射/低速/高速のセレクター式にしてるって事にしておいてください。 
 技術的にはこの時代でも無理はない……はず。 ダメだったら魔法的な何かと言うことで。

 あと、(・×・)ムリダナ。
 エイラー、オレだー! (サーニャと)結婚してくれー! エイラはサーニャの嫁ー!!(可逆)



[6859] 15
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/05/13 14:44
15:「痛みと治癒」

******

 滑走路に降り立つ。
 今回はオーバーランして転ぶと右肩が心底痛そうだったので、何時も以上に、それこそ失速しそうなほど速度を落として着陸した。
 それでも結構ギリギリで停止するとか……どんだけだよ。
 それにしても地面の上に立ってるって言うのはやはり安心感があるね。
 今此処で意識失って倒れても、せいぜいが顔面強打くらいで済むだろう。
 
 っていうか、あれ?
 もしかして、戦闘後帰還して滑走路に降り立って、ストライカー脱ぐまで起きてそうなのってこれが初めてか?
 ……うわー、なんつーか、情けないな……正気を保ってた率が三割とかその、なんだ、ショボくね?

 気落ちした視界の先、格納庫の中では芳佳とリネットが何かを話しているのが見える。
 遠目にもその様子は楽しげに見えた。
 まぁ、そうだな、嬉しいよな。
 特にリネットは今まで鬱屈してた分、開放感も強いだろうし、初戦果を上げた興奮もあるだろう。
 それを手伝って、側で支えていてくれた芳佳もそれを共感できる。
 楽しさは二人で分かち合えば、倍以上の喜びとなるとはいったい誰が言ったんだっけか。
 うん、これであの二人は当分大丈夫だろう。
 
 何にせよ、良かった。
 誰も傷つくことなく、帰る場所が無くなりもせず。
 その上オレも生きてる。 言うことなしである。
 オレは傷ついたって言うより、どっちかってーと自業自得だからな……ノーカンで。

「お疲れ様、バッツ中尉」

 左手から近づいてくる、アイドリング状態のストライカーユニットの駆動音と、声。
 あ、ミーナさん、お疲れ様っす。
 無事な方の手を挙げて応えを返した。

「リネットさん、上手くやってくれたわね」
「ん」

 まぁ、これだけ痛い思いしたんだ、やってくれなくちゃ困る。
 実際のところ、戦闘中は痛さが限界を越えてたのか脳内麻薬が頑張ってくれてたのか、感覚無くなってたんだけどね。
 着地の衝撃の所為もあるだろうが、地面に降り立って安心したらとたんにじわじわ痛みはじめるし……たまらんね。
 これは折れてる系の痛みだし。 血が表に出てないけれど、きっと内出血凄いだろうし……きっと今夜熱とか出るなぁ。 面倒くさい。
 とりあえず芳佳に治癒魔法して貰いたいが、今すぐはなんというかその、いやだ。
 今のところは黙って医務室行って応急処置と鎮痛剤でも貰うか。

「? あら……そういえばヴィルヘルミナさん」
「……ん?」

 ミーナさんの呼び方が普段のそれに戻る。
 みんな無事に帰ってきて、ようやく戦闘思考を解除したんだろう。
 事後処理はもう暫くして、美緒さんたちが帰ってきてからだな。
 デブリーフィングとか超面倒くさそうだな……前回はオレ帰ってきてすぐぶっ倒れてたから結局出席しなかったし。
 どうせオレは報告書とか書けないしー。 撃墜もしてないから特に書くこともないしな。

「三つ編みが……」

 ん、三つ編み?
 反射的に左手を伸ばして、出撃前にエイラが結んでいた三つ編みの辺を触って、それが解けているのに気付く。
 あー、保護魔法消したときの風圧で解けたのか?
 あんまり固く結んでなかったとはいえ、保護魔法解くまでは解けてなかったように思えるしな。
 ……って、あれ、無茶したの速攻バレ、る?

「……貴女、まさか」

 ミーナさんの顔に緊張が戻ってくる。 あ、やっべ、この人勘鋭すぎ!
 三つ編みが解けて、髪が乱れてるだけでたどり着くとかおかしいだろ、常識的に考えて!
 あわてて、何でもない、飛行中にほどいた、と誤魔化しかけたところで。
 軽い言葉と共に、エイラが背後からオレの右肩を叩いた。

「ヴィルヘルミナ、おつかれー。 流石の速さだったな。
 やっぱお前のユニット、はやいよなー」
「――」

 ぽん、と。
 本当に軽い音がして、痛みが脳髄を焼き切らんばかりにほとばしった。

 ――――!
 痛い! 痛い痛い痛い痛い!
 出る! 死ぬ! 生まれる!
 エイラ、こんのてめぇ、殴るぞ! 泣かすぞ!
 いや、待て待て、落ち着けオレ、エイラは悪くない、悪くない、ビー・クール、ビー・クール。
 女の子殴るのはダメよ、オーケイ? オーケイ。
 神経を駆けめぐる刺激でパニックになりかける頭を必死に理性で押さえつける。
 痛くて身体が硬直する。 動きが取れない上に、倒れ込みたくてもストライカーユニットのお陰で無理だ。
 こんな時でも自分の表情筋が上手く動いてくれないことに感謝するというか絶望するというか。
 絶叫しなかった自分を褒めてやりたいです。
 良くやったぞ、グッジョブ。
 でも脂汗がだーらだら出ます。 背中がじっとりと湿って不快指数が急上昇。
 いや、そんなことよりも、、うぎゃー、いてー!

「……右肩ね、ヴィルヘルミナさん」
「ヴィルヘルミナ?」

 ミーナさんの厳しい視線と、エイラのいぶかしげな視線が此方に向けられる。
 あーうー、バレるのもうちょっと後が良かったんだけどな……
 バレてしまっては仕方ない、無駄に抵抗するとオレが痛いのが増えるだけだ。 おとなしくしておこう。
 ミーナさんが無言でオレの右側に回り、触れるか触れないかの微妙なタッチで右腕全体を触ってくる。
 その手が肩関節や鎖骨の辺りを撫でるたびに、オレの身体が面白い様にぴくぴくした。
 反射行動だから仕方ないが、鬱陶しいやら微妙にいやらしいやら痛いやら。
 主に痛いだけなんだが。

「MG42は……投棄したのね。 スピードを出す為に、少しでも軽くして。
 ……ヴィルヘルミナさん、貴女、保護魔法を切ってMk108を撃ったわね?」
「って! お前、無茶しすぎ!」

 二人とも、非難するような目で此方を見てくる。
 だろうな……だけどさ、仕方ないじゃん。 だって。

「速度が……必要……だったし、オレしか……いなかった、から」

 そう伝える。
 それを聞いた二人は、苦い顔をしながらもそれ以上の追求をしては来なかった。
 欲しい結果をたぐり寄せたいときに、自分自身の優先度を下げて、取れる手段を増やす。
 それは、少なくとも芳佳よりは勝負事の経験を積んでて、目の前の二人よりは修羅場を越えていない中途半端なオレにとっての、たった一つの切り札だ。
 そりゃあ、自分の身は可愛いさ……でも勝負時に出し惜しみしちゃダメだろ。 死ぬはずは無かったし。
 ……ミーナにも、エイラにも、たぶんあっただろうしな、そう言う事が。
 特にミーナとか。

 ミーナさんが一瞬考え込む様に目を伏せた後、しょうがないわね、と溜息混じりに呟く。
 エイラも似た様な感じだった。
 続いて聞かれた歩けるか、という問いには頷いて答える。
 まぁ、歩いたら振動で痛そうだけど……何とかなんだろ。

「エイラさん、医務室まで付き添ってあげてくれる? 私は宮藤さんを呼んでくるから」
「……ミーナ、それ……駄目」

 了解、というエイラの言葉を遮って伝える。
 またしても変なモノを見る様な目でオレを見てくる二人。
 ああ、いや、オレだって今すぐにでも治癒魔法かけて貰いたいけどさ。
 アレ気持ちいいし、痛いのが薄れるなら望むところだ。
 だけど、さ。

 格納庫の方を見る。
 そこでは、まだリネットと芳佳の二人が仲良さそうにはしゃいでいて。

「……もう少し、喜ばせて……あげたい」

 うん、まぁもうちょっとだけ。
 勝利の味って奴を味あわせてやろうぜ。 リネットの満面の笑顔とかこっち来てからオレ初めて見たし。
 特にリネットにとっては上げて落とす、みたいな事になりかねないし……自意識過剰かも知れないけどさ。
 それに、芳佳は特に疲れてるはずだ。
 何だかんだ言って、あいつも初陣なんだ。 精神的にごっそり消耗してるに違いない。
 きちんと休憩を挟んでからのほうが、あいつもやりやすいだろ。
 どうかな、と言う感じでミーナさんやエイラの方を見る。

「……」 「……」

 呆れた顔でした。
 呆れながらも、エイラなんかは「ホント馬鹿だな……」とか言ってくれて。
 ミーナさんも、デブリーフィングが終わるまでは待ってくれるらしくて。
 とりあえず医務室で鎮痛剤を貰ってくることにして、エイラに付き添って貰って医務室に向かうことにした。
 あー……デブリ終わって早いところ解散できると良いなぁ。
 自分で言い出したことだから我慢するけど、やっぱ痛いぜ。
 ……何か痛みで気持ち悪くなってきた。


******

 夜。
 鎮痛剤と解熱剤の副作用で眠りについてしまったヴィルヘルミナに治癒魔法をかけていた芳佳は、ふと、机の上に置かれた時計を見た。
 九時半。 ヴィルヘルミナに、治癒魔法を中止してもう休めと言われた時間だ。
 言った当の本人は、ずいぶんと安らかな寝顔で寝入っている。

 その寝顔を見て、ようし、と芳佳は気合を入れなおす。
 スモックの下の肩部。 内出血で二倍ほどに膨れ上がっていたとは到底思えないほど元の華奢な太さに戻っていた。
 もう少しで完治させることができるはず。 もう少しだけ頑張れば、ヴィルヘルミナは明日を気持ちよく迎えられる。
 そう芳佳は自分に言い聞かせて、額ににじんでいた汗をぬぐい深呼吸した。

 一回五分から十分ほど治癒魔法をかけるたびに、間に一時間以上の休憩を挟んで。
 芳佳は、最初はいったい何処でこんな怪我を負ったのだろうか不思議に思ったが。
 すぐにその理由に思い至ってからは、間に挟んでいた休憩時間が酷くもどかしく感じられていた。
 今回の”敵”は非常に高速度で飛翔していて、新型機を駆るヴィルヘルミナですら容易には追いつけない相手で。
 だからその容易でない状況を覆すために、なにかとんでもない無茶をしたのだろう。
 そして無茶をしなければならなかった理由のひとつに、自分とリネットを守る事が含まれていたのだろうと芳佳は考えていた。

 本当なら、こんなに時間をかけなくてもいいはずなのだ。
 拙い魔力のコントロールでも、全力かつ連続で治癒魔法を掛け続ければ、もっと早くに完治していたはずで。
 芳佳は当然そうするつもりだった。 彼女にとってヴィルヘルミナは、今回も含めて二回、身体を張って助けてくれた相手である。
 その誰かを護ろうと飛ぶ姿は、芳佳の心に強く焼き付いていて。
 ヴィルヘルミナを自分が助けられるなら、全力を尽くすつもりだったのだが。
 その当の本人が、痛みに苦しんでそれをすぐにでも取り除いて欲しいと思っている本人が、それを止めたのだ。
 曰く

「芳佳も……疲れてる」

 だそうである。
 芳佳は、自分は少し飛んで、リネットを支えていただけだから大丈夫だと言ったが、にべも無く却下された。
 食い下がってみたりもしたが、やはりいつもの無表情で、同じ言葉を繰り返し言われるだけだった。
 当然、納得は行かなかったのだが。 その後、はじめてヴィルヘルミナに治癒魔法を施したときに何故止められたかよく理解した。
 治療を開始してから数分も持たず、いつもより早く体力が尽き、意識が簡単に途切れそうになって。
 付き添っていたエーリカに止められたのだ。

「初めて戦った後はみんなそんなもんだよ」

 戦った後はみんな興奮してね、興奮してると心はがんばれるんだけど、身体が付いていかないんだよ。
 そう言うエーリカに、芳佳はエーリカやヴィルヘルミナもそうだったのか、と聞き返したのだが。
 エーリカは笑いながらうなずき、ヴィルヘルミナは一瞬考え込むように動きを止めた後、二回の頷きをかえした。
 誰だってそうなのだから、芳佳まで無理して倒れて余計な心配事を増やさないでくれ、という言葉に彼女は素直に従うことにしたのだった。

 そして今。 これが今日最後になるはずの治癒魔法で。
 体力も自分では十分回復したと思っているし、部屋には誰もいない。
 怪我も、あと少しで完治させることが出来る。
 
「もうちょっと……できるよね」

 芳佳の自分に向けた問いかけは、ただ確認のためであって。 起こす行動はすでに決まっていた。
 自分はまだまだ半人前で、多くの人に助けてもらっている。
 そのために、ヴィルヘルミナが傷ついてしまった。
 それでも。 自分にもきっと、自分を助けてくれる多くの人や目の前のウィッチと同じように、多くの人を助け守ることが出来るはずだから。
 だから、これまで以上にがんばっていこうと、そう芳佳は思う。
 一日でも早く、自分が手を伸ばせる人々の数が多くなれば良いと、そう願って。

 ヴィルヘルミナの肩に手をかざし、魔法を発動させる。
 芳佳の頭に犬耳が生え、柔らかな青い魔力の光がヴィルヘルミナを包み込む。
 その光は、今日彼女が見せたどの魔力の輝きよりも、少しだけ強く見えた。


******

 トゥルーデは、目の前の扉のノブを握った。
 鍵はかけられていない。 そのまま押し開く。
 暗い室内。 薄明かりの中に浮かぶシルエットは、備え付けの机と小さなチェスト。
 廊下からの光に照らされたそこは、彼女の部屋以上に閑散としていた。
 彼女は視線を部屋の隅、窓際へと流していく。 視線の先には、机と同じく、部屋に備え付けのベッド。
 四角いはずのシルエットは、しかし丸みを帯びた影を持っている。
 ベッドで眠っている者と、そこに突っ伏しているもう一人。
 ヴィルヘルミナと芳佳だった。

 トゥルーデはそのままベッドに歩み寄る。 芳佳の寝顔を見て眉をひそめた後、肩を軽く揺すった。
 呻き声を上げる芳佳に、小声で語りかける。

「おい、新人」
「ん……ぅ? ……あ、えと、バルクホルンさん?」
「……消灯時間は過ぎているぞ、自室にもどれ」
「あ、あれ……私?」

 寝ぼけているのか、混乱した様子を見せる芳佳を見て、トゥルーデの表情が渋いものへと変わっていく。
 情けない、と毒づきながら、強い口調でトゥルーデは言った。

「大方、無理をし過ぎて気を失ったのだろう。 明日もあるんだ、早く自室に帰って寝ろ」
「で、でもヴィルヘルミナさんの怪我が……」
「他人の心配をしている余裕があるのか?」

 責める様な口調。
 疲れと寝起きで意識のはっきりしない芳佳は、ただ気圧されるばかりで。
 すみませんでした、と小さく呟いて退室していった。

 ドアが小さな音を立てて閉じられる。
 芳佳が小走りに廊下を駆けていく音が聞こえて、それっきり。
 ヴィルヘルミナの規則的な寝息の音だけが部屋を支配する。

 芳佳が逃げるように部屋を出た後、トゥルーデはじっとヴィルヘルミナのことを見つめていた。
 十数分間か、あるいは数分か。 闇に目が慣れてくる。
 カーテンの隙間からから差し込む月明かり星明りでも、十分に色々なものが見えるようになって来たころ。
 トゥルーデは、ヴィルヘルミナが左手に何かを握り締めているのに気づいた。
 そして、それが何なのかに気づいて、表情を歪める。
 真鍮製のコンパス。
 縋るように、離さないように握られたそれを見て、トゥルーデの表情が歪む。
 
 く、と呼気が口から漏れて。
 月が雲に隠れたのか、窓から差し込む光が弱まる。
 こらえ切れなくなったように、言葉が漏れ出た。

「他人の心配をしている余裕があるのか……か。 どの口が言えたものか」 

 皮肉げに、あるいは自嘲を含んだその声音は、微かに震えていて。
 暗くなった室内では、トゥルーデの表情をうかがい知る事は本人にすら出来ず。
 そのまま彼女は踵を返し、音を立てぬように部屋の外へと向かっていった。
  
 
******

 陽気に照りつける太陽の光を背中に感じる。
 たっぷりと陽光に照らされた、心地よい暖かさを持つ滑走路に寝そべって。

「……ん!」

 鈍い炸裂音と共に肩に衝撃が走る。 
 くすぐったい様な軽い痛みが走るだけで、なんともない。
 軽く肩を回す。 ほんの少しだけ引きつった様な感覚が残ったが、それも何回か回している内に綺麗さっぱり無くなった。

 ……芳佳さんサイッコォォォォ!
 一日でほぼ完治とかマジないわ。 この世界、事故での死傷率めっちゃ低いんじゃねえの?
 治癒魔法使いのところに生きてたどり着きさえすれば何とかなりそうな気がしないでもない……さすがにそんな事は無いんだろうけどさ。
 なんかこんな世界だと即死級の事故から転生、とかそういう二次創作が発展しなさそうだな。
 普通に治癒魔法で助かりました! よかったね! 完! もうあんな無茶はしないよ! みたいな流れになりそうだ。

 あれから一日。 今日も今日とて、芳佳さん達と一緒に訓練です。
 流石に基礎体力訓練は参加してもそう意味がないだろうとのことで、練成訓練、特に射撃訓練に参加することに。
 今朝のミーティングで、なんかミーナさんがこっちチラチラ見ながら美緒さんと話し合ってたのが気になる。

「ふむ、外れたが……肩はどうだ? ヴィルヘルミナ」

 その美緒さんが、頭上から問うてくる。
 このまま射撃訓練しても大丈夫だろうか、と聞いているのだろう。

「結構……平気」
「……もっと明確に、ハッキリと」

 ぐぅ、オレだってもっとハキハキ喋りたいんだけどな!
 こればっかりはなんというか容赦してください。
 えーと、うーんと、どうやって言ったもんだか……!

「……軽く……痛痒感が、残るけど……この程度なら、問題は……ない」
「そうか。 それならこのまま続けても大丈夫だな」

 長文を、頑張って出来るだけ詳細に喋って微妙に消耗したオレには目もくれず、頷きながら的を見る美緒さん。
 まぁ、良いんだけどね……なんか美緒さん苦手になりそう……

「では、宮藤はリネットと交代で、隣の的を狙って撃て。
 ヴィルヘルミナは……ふむ。 この前の宮藤のマガジンあたりの命中率を超えるまで、ずっと長距離射撃の訓練だ」

 うぇー、だるいなー、と思ってたら。 超えるまで昼食の時間が来てもずっとやって貰うからな、と続ける美緒さん。
 なん……だと……?
 いや、ちょっと、あんた! 昨日からまっずいオートミールしか食って無くて!
 今朝もオートミールだったんだぞ!? あんな腹に貯まらない上に不味いモノ食い続けて。
 いやまあ、エーリカやリネットにあーん、して貰ったのはある意味お腹一杯になったけどさ……
 何にしろ、昼食でようやくまともなモノ食えると思ったのに……!

 それに、このMk108って、バレルの短さもあって精度めっちゃ悪いんですけど。
 よく考えたら弾体も重いし、絶対長距離射撃向きじゃないって!
 バルクホルンもこいつで狙撃は無理だなって言ってたし。
 MG42だったら命中率7割行けるけど、こいつじゃ無理だってば!

「ほう……不満そうだな。 だが、ミーナと少し話し合ってな。
 今回のことも、お前が遠距離射撃を的確に命中させる技量を持ってさえいれば、無茶をしなくても良かったのだろうという結論に至ったんだ」

 いや、そりゃそーだろうけどさ……!
 その、人には得手不得手つー物があると思うんです。
 それに、あんまりMk108撃つと左目がちょっと霞んでくるんだよ……多分火傷の影響だけどさ。

「Mk108……は、長距離向きじゃ……無い」
「銃の所為にするか……良いだろう、ちょっと貸してみろ」
 
 にやり、と不敵に格好良く笑う美緒さん。 無駄に男前度上げやがって……吠え面をかくと良いわ!
 Mk108を美緒さんが耳と尻尾を生やしてから手渡す。
 彼女はその重さにちょっとびっくりして、しかし華麗に伏射の体勢を取った。
 
 砲声が三発とどろき、一拍遅れてから四発目が続いた。
 最初の三発は多分弾道を見るためだろうな……どれどれ。
 双眼鏡を借りて覗いてみれば。 的には、大きな穴が一つ。
 
「続けていくぞ」

 テンポ良く、一定のリズムを保って砲撃音が響き渡る。
 五発あたり約三発の割合で、標的が砕かれていった。
 うげぇ、なんだこいつ……凄いを通り越してキモい。
 美緒さんって近接戦闘一辺倒じゃなかったんだな……

「……と、まぁ、こんなものだ」

 そう言って此方を見るその顔に、紫色に輝く魔眼一つ。
 うわ! ずるい! チートだぞチート!
 ズーム機能付きのスコープで狙ってる様なモンじゃないか!

「魔眼……」
「わっはっは、お前だって撃つときに魔法で重量の制御をしたりするんだろう……持てる魔法を使うのは悪いことではないぞ」

 そりゃ、そうだけどさ。
 なんかこう、釈然としないぞ。
 そんなオレの思いは軽く無視して、Mk108を見て少し考え込む美緒さん。

「しかし、魔法を使ってこれか……確かに精度は宜しくない様だがな。 弾丸自体の進み方は素直じゃないか。
 自分の銃の癖を見抜くのは大事なことだぞ。 宮藤もリネットも、自分の得物の事はしっかりと理解してやれよ」

 正論過ぎてぐぅの音も出ないな……
 ついでになんかオレ、ダシにされた気がしないでもないし。
 凹むオレを横目に、はい、とリネットと芳佳の言葉が元気に響く。
 リネットと芳佳は、自分の持ち位置へと向かう前に

「頑張ってください、ヴィルヘルミナさん!」
「ヴィルヘルミナさんなら大丈夫だよ!」

 そう、笑顔で励ましてくれた。
 その笑顔が年相応に可愛らしくて。
 うん、こんなに可愛い女の子に励まされて、奮起しない奴が居たらそいつは確実にフニャチンだよな。
 まぁ、仕方ない……昼飯のためにも、頑張るとしますか!

「あ、そういえばヴィルヘルミナさん」

 昨日以来、オレの口調や表情に怯えなくなってくれたリネットが、笑顔で声をかけてくる。
 その笑顔は、彼女本来の明るさを十二分に見せてくれた、可愛らしいもので。
 恥ずかしながら、少し見惚れてしまった。

「何……リネット?」
「お昼ですけど……朝作ったオートミールの残りが有るので、それも食べてくださいね!」

 ……彼女が一体何を言っているのか理解しがたかったのは、決してその笑顔の所為だけではなかっただろう。

 ああ、うん……はい。 今、急にやる気が萎えたけど。
 まぁ……その、なんだ。 頑張るか……一応リネットの手作り料理だしね……ハハハ。
 





 結局、その日の昼食は。
 定時より少し遅れて、お腹一杯オートミールを食べることになったのだった。
 次に戦闘があったなら、決して無茶はすまいと心に決めた瞬間だった。

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今回のヴィルヘルミナの怪我:右肩部脱臼、上腕単純破裂骨折および右鎖骨亀裂骨折。
 見栄を張りまくるええかっこしいなお陰で、要らん長期間、苦しみを被ることに。 このおばかさぁん!

 なんていうか、本エピソードは非常に難産でした。 プロットはすらすら立ったのになー。
 創作の時間も取れないし……更新期間が開きまくっているのが恥ずかしく思います。

 次回予告。

ト「ヴィルヘルミナー!」
ヴ「バルクホルン……ん、トゥルーデ!」
芳「ああっ、エーリカさんが鎖鎌を握った!?」

 大嘘です。 わかる人居るのかこのネタ。




[6859] 16 Scarcaress
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/10 09:49
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 夢を見ている。
 明晰夢という奴で――つまり、自分が夢を見ていると自覚できる夢。
 何ともやっかいなモノだ。 夢なんてものは大体にして意味不明で混沌としたモノのくせに。
 こう言ったときに限って、積極的に見たくない過去が、醜悪なカリカチュアとなって再生される。

 例えばそれは、吹っ飛んでいく少女の姿だとか。
 峠道に横たわる、壊れたヒトガタだとか。 
 忘れてはいけない、だけど目を逸らしていたい事実。
 解っている、忘れていない、だから、オレは今此処にある。
 オレの身近な所で、お前の様な奴が出ることは二度と許されない。 オレが許さない。

 それはオレが、彼女を失った日の記憶。
 八年前の、今でもこうして夢に見る、今のオレを形作る記憶だ。

 目を開ける。 もはや見慣れてきた殺風景な部屋。
 本当は夢なのか現実なのか解らない、考えても仕方のない現状だ。
 今日も精一杯生き抜くしかオレには出来ない。

「よし……起きるか」

 勢いを付けて、シーツを蹴っ飛ばす。
 今日も頑張りますか!

******


Episode3:Scarcaress
16「夢と訓練」



******

 甘い。 いや、温い。
 それがゲルトルート・バルクホルンの芳佳に対する印象だ。
 それは別に特別な感情ではない。 リネットにも似た様な印象は抱いている。
 戦火に直接晒されていない、もしくは晒されていなかった国の、しかもついこの前まで民間人だった二人だ。
 仕方のないことだと理解はしている。 早くこの甘さを拭えねば、芳佳は遅かれ早かれ必要以上に傷ついてしまうだろうと言うことも。
 だが、それでも。

「でも、そうやって一人一人を助けられないと、みんなを助けるなんて無理だもんね」

 朝、食堂。 何時だって他の誰よりも早くこの場所に来るトゥルーデが聞いた、芳佳の台詞だった。
 いつもならば、甘い考えだと、子供の考えだと容易に聞き流せる内容が彼女の心の中で反響する。
 今朝見た夢を思い出す。 最近は見ることの少なくなったそれ。
 カールスラント陥落の日。 妹のクリスが傷ついた日。 たった一人の大事な人すら守れなかった日のこと。
 ならば、芳佳が今言った言葉は真実だ。  大切な一人すら救えない私には――

「――みんなを助ける……そんなことは、夢物語だ」
「えっ、なんですか?」
「気にするな、独り言だ」

 それだけ返して、トゥルーデはトレイを手に食卓へと向かう。
 清潔感溢れるテーブルクロス。 トレイを置いてから椅子に着いた。

 皆が揃うまでにはもう少し時間がかかる。 喋る相手も居なければ見つめる相手も居ない。
 外に何もないのなら、やはり思考は内を向いていく。
 理性が、宜しくない傾向だと彼女に告げる。 此処は最前線で、戦場に最も近くて、そして死に近い。
 見る方向を誤れば死角は大きくなり、大きな死角は危険を招く。

 それでも。 トゥルーデは、考えることを止めることが出来ない。 思い出すことを止めることが出来ない。
 それは、治りかけの瘡蓋を爪でひっかくのに似ている。
 一度掻痒感を感じてしまえば、その感覚が意識の一部分を占有するのだ。
 掻きむしり、その不快感を取り除きたいという欲求。 例えそれが、傷口を開き、痛みをもたらすとしても止めることが出来ない。
 慌ただしい生活の中で薄れていた記憶。 一度意識してしまえば、それを再び無視することは出来なかった。
  
 調理場で大きな金属音。 トゥルーデが反射的にそちらを見れば、芳佳が何やら慌てている様子が見えた。
 妹のクリスに似ても似つかない芳佳の横顔は、しかし何故かその妹の事をトゥルーデの脳裏に浮かばせて。
 視線を食卓に戻した彼女の眉根を歪ませた。


******

 来た! 来た! ついに来た!
 朝の食堂。 目の前にはトレイに載った朝食。
 みそ汁! 納豆! 漬け物! 何という芳佳ご飯……和食万歳!
 他にもグリーンサラダやなんかマッシュポテトの様な代物も有るが、リネットの作ったものだろう。
 この世界に来て苦節約一ヶ月、ようやく和食が食える……素晴らしい。
 今考えてみれば、もし後方に移送されてたら和食とか食えなかったかもしれんな。
 ただそれだけで501に残った甲斐があるというものだ……

 何時も通り、バルクホルンの対面に座って。 頂きます。
 とりあえずマッシュポテトとサラダから頂こう。 好きな物は残して最後に食べる主義です。
 
「どうしたの、トゥルーデ? 浮かない顔だけれど……」

 バルクホルンの隣に座ったミーナさんが彼女に語りかける。 
 ……考えない様にしてたんだけどなぁ。 かなりシケた面してるバルクホルンである。
 エーリカも何とか元気づけようとからかう様な口調で話しかけるが、焼け石に水だ。
 怒った様な、泣きたい様な、そんな表情で一口マッシュポテトを口に放り込んで、そこで匙が止まる。
 うーん、今日はとみに酷いな。 夢見が悪かったんだろうかね。 人のことは言えないが、心配かけてんじゃねーよ。

 ルッキーニがおかわりおかわり鳴いている中。
 もう何口か食べて、匙を置くバルクホルン。 そのままトレイを持って立ち上がる。

「バルクホルン……もっと食べ、ないと……駄目」

 おいおい、全然手付けて無いじゃないか。
 朝ご飯は一日の活力の素です。 いくら調子悪かろうが気分悪かろうが食わなきゃ駄目だぜ?
 ルッキーニのおかわりコールに応えようとしていた芳佳が戸惑う様な視線を向けるし。

「あ、あの……お口に合いませんでした?」
 
 そんな事を言う芳佳を一瞥して、無言のまま立ち去っていくバルクホルン。
 ……ったく、しょうもない奴だな……どうにかしないとな。
 食卓に、あまり歓迎したくない類の雰囲気が満ちかける。
 そんな空気を打ち破ったのは、ペリーヌの言葉だった。

「まったく……バルクホルン大尉でなくても、こんな腐った豆なんてとてもとても食べられたものじゃありませんわ
 ……って、何ですの、バッツさん、そんなに人をじろじろ見るなんて……」

 すげぇ……ペリーヌ、空気読めない発言にこんなに助けられたと思ったことは未だかつて無かったぜ。
 そのことに免じて納豆を侮辱したその発言、許してやろう。 畑のお肉なんだぞ。 納豆食ってると癌予防になるんだぞ。
 とりあえず納豆かき混ぜとくか……よく混ぜた方が美味しいからな。

「納豆は身体にも良いし……坂本さんも好きだって言ってましたけど」
「さっ!?」

 芳佳の発言にペリーヌが反応する。 坂本さんと呼ぶな、少佐と呼べとかなんとか……
 精神論とかが陸軍さんっぽいんだが美緒さん海軍だからねぇ。
 っていうかペリーヌよ、お前も別に坂本さんって呼べばいいじゃないか……別に怒られないと思うよ。
 初対面でオレ下の名前呼び捨てしそうになったけど怒られなかったし。

「おはようみんな。 お、今日は宮藤とリネットが食事当番か」

 噂をすれば影である。 バルクホルンと入れ替わりになる様な形で美緒さんがやって来た。
 その挨拶に皆が返事をする中、食卓に近づいて今日のメニューを眺める美緒さん。
 彼女の視線が納豆に向けられ、その表情が少し嬉しげになったのを見て、やっぱり日本人なら納豆好きですよね、と思う。

「ん? どうしたヴィルヘルミナ中尉……ああ、納豆が苦手なのか? はっはっは、この匂いは欧州の人間には辛いらしいからな。
 どれ、要らないのなら私にくれ」

 え、そんなこと無いですよ、美緒さん? かき混ぜる手が止まってたのは貴女を観察してたからですし。
 そう返そうとする暇もなく。 ひょい、とオレの手から離れる納豆の器。
 え、ちょ、あ、あ、あ゛ー! ペリーヌ黙れ! 騒ぐな!
 美緒さん混ぜるな! 醤油を差すな! あー! 食うなー!



******

「きゃっ!?」

 ミーナが何とも可愛らしい声を上げて姿勢を崩した。 支えるものの無い身体はそのまま重力に引かれていく。
 身体を傾け、急降下。 今のオレよりも結構大きな彼女の体だが、増強魔法のお陰でなんとか受け止めることが出来た。
 う……柔らかい、髪の毛さらさらで良い匂いする。 や、役得だよね? いいんだよね、触っちゃっても!?

「くっ、かなり厳しい、わね」
「……落ち着いて……再起動、する……」

 オレの腕の中、ミーナさんが目を閉じて額にしっとりと汗を滲ませながら精神集中を始める。
 十数秒ほど待てば。 先ほどフレームアウトしたミーナさんのMe262が再び吸気音を響かせ始めた。
 安定した音になるまでさらに数十秒。
 うーん、流石に起動自体は上手いなぁ……高度さえ有れば落ちながら再起動とかやってのけるかもしれん。
 オレとか起動に90秒切れな いからなぁ。

 もう大丈夫、という彼女の声に応じて、手を離す。
 少し降下して十分な速度を得たミーナさんは、余裕のあまり感じられない動きでオレに並んできた。

 何とも良い天気の午後。
 延ばし延ばしになっていたミーナさんのMe262試用をやっています。
 ああ、しかし此処に来て安心するやら微妙な気分になるやら……
 エーリカやバルクホルンが例外だったみたいで、Me262にかなり振り回されてるミーナさん。
 やっぱあいつ等が天才過ぎただけか……ここにきてミーナさんに親近感を感じちゃうぜ。 

 高度2000フィート程度で基地の周りをゆっくりと周回するだけの飛行訓練。
 まだ始めて三十分も経っていなかったが、その間彼女はずっとMe262の扱いに四苦八苦していた。

「安定させるだけで精一杯……私の魔法との併用はかなり難しそうね」
「慣れ……だと、思うよ」
「その慣れが怖いのだけどね」

 どういう事? と聞いてみると。
 やはり既存機と使い勝手が違いすぎて、機種転換後に通常のストライカーユニットに乗り換えた場合の感覚の差違が怖いんだそうな。
 また、ずっとBf109を使い続けてきた所為もあるだろう、という話である。
 そんなもんなのかなぁ……いや、オレ普通のストライカーユニット使ったこと無いから解らないんだけどさ。
 始めて動かしたときも思ったけど、結構コレ感覚的なものだからな……もしかして感性に合わないと使い辛いんだろうか。
 フライトシミュレータの感触だとどうだったかな。 もう一月近く触れてないから思い出せなくなってきた。

 ふらふらと不安定な速度で飛ぶミーナに併走しつつ、その姿を眺めていると。
 ふと、オレの方を見てくるミーナ。 なんぞ?

「そういえば、こういう風に二人きりになる機会は無かったわね」
「……そう、だな」
 
 何その思わせぶりな言い方。 いやまぁミーナさん普通に忙しいしねぇ……先週はオレ、新人組と自主訓練ばっかしてたし。
 バルクホルンの機嫌が悪くて座学も碌にやってないから、相変わらず図書室の戦史を解読するとかしかやってないし。
 本当はさっさとミーナのMe262試用を終わらせて、誰がこの機体を使うのかとかの話し合いと訓練ローテとか組まないといけないんだろうけど。
 それでも先週は良い休養になった。 新人組と一緒に色々やってリネットの事に関わってなかったら、大事なことを勘違いしたままだったかも知れないしな。 

「記憶のほうは、それからどうかしら」

 ふむ、その辺の話ですか。 確かに大空高くなら誰にも聞かれないからな。
 しかし別に本当に記憶喪失な訳ではないし……これ以上思い出すようなことも無いんだがな。
 首を振ってとりあえず否定の意を返しておく。

「そう……戦闘に関する記憶や、自分の能力等についての記憶は?」
「それも……ない、けど。 Me262とかには、大分……慣れて、きた」

 うん、とりあえず突発的にフレームアウトする様な事だけは無くなって来たかな。
 低速運転の練習してる最中に嫌というほどフレームアウトしまくったからな……お陰で多少自信が付く程度にはなんとかなってる。
 あと、いろいろ無茶したお陰で自分の肉体の限界というのがようやくわかってきた感じ。

「そう……まぁ、焦らずに気長にやっていきましょう」
「ん……」

 ごめんなさい、気長にやってもたぶん記憶は戻んないです。

「慣れるといえば、どう? 隊には慣れた?」
「……どう、だろう」

 こちらを伺うように見てくる彼女から目線をそらして呟く。 隊のみんなとはまぁ、うまくやってる方だと思うんだが。
 エーリカは何かと構ってくれてありがたい。 芳佳やリネットとは数日前の戦いで結構打ち解けられたと思う。
 美緒さんは何というか、マイペースな人だけど……人の納豆横からかっぱらっていったけど! 代わりにお漬け物くれたからまぁ良しとしよう。
 気の置けない相手として認識してくれてるんだったらそれはそれで嬉しいことだしね。
 エイラはよう解らん……暇あらば構ってくれるが、女の子特有のスキンシップの様なモノは正直男のオレには恥ずかしいやら鬱陶しいやら。
 シャーリーやルッキーニとは微妙に時間帯が合わなくて食事時くらいにしか顔を合わさないけど、そんなもんだろう。
 あいつ等にはMe262使わせる約束があるからな。 ルッキーニには動き方を指導してもらう予定もあるし、ミーナさんの試用もこれで終わるからそろそろ話してみるか。
 ペリーヌとサーニャは知らん……っていうかペリーヌは微妙な視線でこっち見てくるし、サーニャは本当に会わないからな。

「私には、結構みんなと仲良くやれてると思うのだけれど」
「オレも……そう、思う、けど……」
「けど?」

 胸中に浮かぶのは、最後の一人。
 バルクホルン。 今朝の情景がリフレインする。
 見てるのが辛い。 なんかイライラする。
 ガキのくせに気負いすぎなんだよ……しかも根が真面目だから他人に重荷を担ぐのを手伝って貰うとか考えないし。
 食後のミーティングというか朝礼の時も微妙に心ここにあらずって感じだったし……原因はわかってるんだし、手は打ちたい。 
 だがしかし、なんというか……最近のあいつを見てるとイライラすんだよなぁ。 こう、お腹の辺がムカムカするというか。
 年下相手にイライラするのが恥ずかしいわけじゃないが、冷静に振舞えそうになくてそっちの方が恥ずかしい気がする。
 エーリカにもフォローしてくれと頼まれた以上、ぶん殴るわけにもいかんし……

「バルク……ホルン」
「トゥルーデのことね……宮藤さんが来て、少しナーバスになってるみたい。 わからないでもないんだけれど、ね」
 
 困ったように眉根を寄せるミーナさん。 バルクホルンの事に気をとられたのか、ふっと考え込むような表情をしたとたんに、エンジンが異音を立てる。
 慣れてないのに集中乱さないでください、指揮官でしょ! マルチシンキングの真似事くらい出来てくださいってば!
 慌ててミーナさんの下に回りこんで背中で体を支えてやる……ああ! 背中になんかやわこい感触ががががががッ!
 はんにゃはらみったー! あびらうんけん! 精神集中! 出来ないとオレまで落ちるぞ!

「う、流石にここまでとは……これは本格的に訓練する必要がありそうね。 副座練習機が用意されるのもさもあらん、といったところかしら」
「早く……体勢を、立て直す……」

 ごめんなさい、という言葉に続いてミーナさんの口から漏れた熱のこもった吐息がオレのうなじを撫でる。
 彼女の髪が一房オレの顔の横に垂れてきて、飛行中だというのに女の子っぽいにおいが鼻に届いた気がして。
 保護魔法に包まれているはずなのに、彼女の体温が体重と一緒に伝わってくる気がして。
 何だこの拷問! オレに死ねというのか! 初めて小用を足したときにちんこ無いのに錯乱して以来、ちんこ無いのが切ないのでなるべく考えないようにしてきたが。
 今! この瞬間! ちんこ無くてよかったって本当に思います! 視覚的にバレないのが一番大きいね。
 ローライズぱんつもっこりさせる少女とかどんな変態だよ。 ていうか飛び出るよきっと。 何かが。
 煩悩よ……去れ! 

 オレが唸っている内に、背中からミーナの体重が消えていく。
 永劫の長さに感じられたが、ああ……助かった。 オレのMe262もなんとか回転数は安定してるみたいだし、二人そろって墜落とか洒落にならない状況は避けれたようだ。

「どうしたの? 頭を振って……気分でも悪いのかしら?」
「違う……大丈夫」
「そう? なら良いんだけど」

 いぶかしげな目線を向ける彼女にはこう言うしかない。 それ以外にどう言えというのか。
 とりあえずドキドキする心を落ち着けるために眼下の景色に集中する。 下手するとオレまでフレームアウトしかねん。

 眼下には陽光を照り返す青い海原に浮かぶ古城。 ウィッチーズ基地。
 強化された視覚に見える滑走路では相変わらず新人組が美緒さんにスパルタ教育を受けている最中で。
 一瞬だけ滑走路に面した窓に見えた人影が、バルクホルンに見えてしまって。
 腹の奥の方が微かに痛みを訴えた気がした。

「あの、ところでヴィルヘルミナさん?」
「……なに?」 
「今度また主機が急に止まっても大丈夫なように、降りるまで手を握ってて貰えないかしら」

 落ち着きかけた思考をふっとばさん勢いの台詞を吐きやがるミーナさん。 見れば、恥ずかしそうにこちらを見ている。
 今日はいったいどうしたことか! イベントってこんなに短時間にたくさん起きるもんじゃないとオレ思うんですが!
 断る理由が見つからないが断りてぇぇぇぇ! 
 

 結局、手を握ってミーナさんを滑走路まで誘導して。
 必要の無い脂汗をかいた為、部屋に帰って着替えようと思ったらなんかぱんつが湿っぽくて欝になりました。
 これは汗だ! 汗だと言ってよ!




------
 なんか 微妙に スランプ
 アバンタイトルを付ける実験。 っていうか文章媒体でもアバンタイトルって言うのか?

 ミーナさんはシャーリーと並んで天才というより努力の秀才っぽいイメージ。
 バルクホルンやエーリカ、エイラほど才能がキてるわけじゃないというか。
 撃墜数はかなりあるんだけど何でだろうなぁ……史実だと戦死してるからだろうか。  

Q.汗だと言ってよバーニィ!
A.汗です。 たとえヤマグチノボル版ストパンが明らかになんかこれ15禁というかなんだ、18禁か?
  という雰囲気を持っていても、当SSは清く正しい少女たちの友情物語を描きぬいてやるぜ……!



[6859] 17
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/10 09:50
17 「今と昔と」

******

 まばらに雲が浮かぶ空を、二条の白い軌跡が切り裂いていく。
 高速で飛ぶウィッチたちが姿勢を変えたときに、ストライカーユニットの整流翼の先端から生まれる飛行機雲。
 鮮やかな円弧が青空に描かれていくのを、美緒とミーナは滑走路から眺めていた。
 飛んでいるのはトゥルーデとハルトマン。 ストライクウィッチーズが世界に誇る二大エース。
 その機動は文句のつけようの無いほどに熟練したもので、しかしそれを見上げる二人の表情は浮かないものだった。

「バルクホルン……ノれてないな」
「ええ、遅れがちね」

 美緒が呟く。 誰の目から見ても完璧に近いトゥルーデの飛行に、違和感を感じていた。
 トゥルーデをよく知らない者なら勘違いじゃないかと思うだろう。
 彼女の飛行はもう一人の天才であるエーリカと同じく、それほどまでに完成型に近いのだ。
 だが、トゥルーデをよく知り、己も経験をつんだウィッチである美緒には完璧に近い――すなわち”完璧でない”事が違和感の対象になる。
 完璧主義者のトゥルーデが、ミスともいえないほんの些細な姿勢制御の揺らぎを連続で許したり。
 僚機との速度あわせに何時もよりほんの少しだけ時間がかかったり。
 長年の相棒であるエーリカとの連携機動に、ごくわずかな乱れを見せたり。
 そんな、傍から見れば気づかないような小さな相違が一見鮮やかに見える飛行機雲から透けてしまう。
 看過できない異常だった。

「調子が悪そうだな。 次のシフトは外したほうがいいか?」
「他が使えるようになってきたとはいえ……エースが一人抜けるのは少し不安ね」

 視線を空から地上に向けてミーナがそう答える。 視線の先には滑走路をランニングしている芳佳とリネットの姿があった。。
 今さっき言ったとおり、芳佳もリネットも使い物になりつつある。 芳佳は元々技術的にも魔力的にも適正が高く、その精神性も好ましいものだ。
 碌な訓練や知識も無しにストライカーを飛ばすその才能も大きいが、明るく前向きでひたむきな性格がそれを大きくサポートしている。
 リネットも先のネウロイ撃墜のお陰で自信をつけ、その才能を正しく開花させつつあった。
 良く笑うようになったのも、隣に居る芳佳が良い影響になっているのは明らかである。

「ふむ、確かにな。 火力が不足する……いや、ヴィルヘルミナを使うのはどうだ?」

 ヴィルヘルミナの主武装はMk108、30mmという大口径を持つ機関砲。
 十分な大火力と評価されている20mmを超える口径、しかも弾頭は破壊力に定評のある薄殻榴弾である。
 小型ネウロイ程度なら一撃で外殻ごとコアを粉砕するだろうその威力はMG42を二丁扱うバルクホルンの穴を補うのに十分だとの判断。
 だが、美緒のその言葉をミーナは否定する。

「それも問題があるわ。 確かに彼女の火力は十分だけれど、Me262は格闘戦を行うストライカーじゃないから」
「ああ、そういえばミーナも昨日使ったんだったな……そうか、格闘戦は無理か」
「ええ。 とはいっても、機体特性を見極めるよりも操作するだけで手一杯だったのだけれど」
「お前にそう言わせるとは、相当じゃじゃ馬なストライカーユニットらしいな……ふむ。 
 と、言うことは瞬間火力では勝っても継続火力ではどっこいどっこい、いや、寧ろ張り付くことの出来るバルクホルンの方が有利か」
「そういうことね」

 ブリタニア防衛戦線に出現する主な敵である大型ネウロイ、その最大の武器は巨体故の火線数である。
 いかにネウロイのビームに対して魔力シールドが効果的だとはいえ、集中砲火を受けきることは現実的ではない。
 人類側の最高戦力のひとつであるウィッチが大型ネウロイと戦うためには、ある程度近距離に張り付いてその火線数を制限する必要があり。
 そういった格闘戦こそがウィッチの戦い方である。
 Me262の速度はそれ自体が驚異的な武器であるが、それでもウィッチ単体を大型ネウロイと同列まで引き上げてくれるような夢の兵装ではない。
 今後の改良、あるいは運用方法によって良くはなっていくのだろうが、現状では単機を主戦力として取り扱うのは難しいと二人は判断した。

 口をふさぐように手をあて、依然としてバルクホルンの軌跡を眺めながら、美緒が唸る。 

「むぅ……しかし、体調でも崩したか? 完璧主義者のバルクホルンらしくも無い」
「何か、気にかかっているみたい」
「気になること?」

 美緒は訝しげにミーナのほうを見て、その視線が滑走路を眺めているのを悟った。
 リネットではない、もう一人。

「……宮藤か?」
「ええ。 ……宮藤さんが来てからよ、トゥルーデのあの様子」
「ふむ……宮藤ぃ! 顎を引け! もっと腕を振って走れー!」

 息を切らしながら半ばやけくそ気味に「はい!」と返事をしてくる芳佳の姿勢が正されるのを見て、満足げに頷いてから彼女はしばし黙考する。
 何か気になっていることがあれば、真正面から向き合ってみるのも一つの手だろう。
 延々と自分の中で悩むよりは、良い方向だろうが悪い方向だろうが結論が出たほうが良い。
 結論は、出せるうちに出しておいたほうが良い。

「……組ませてみるか、宮藤と」

 返事は無いが気配でミーナが頷いた事を感じた美緒は、今後の飛行訓練のスケジュールを頭の中で修正しはじめ。
 ミーナは視線を地上から再び空へと向けた。



******

「ヴィルヘルミナ、デートしよう!」

 そんなエーリカの台詞に慌てるやら驚くやら、むしろコレは新手の美人局ですかと警戒するやら一通り動揺したのが30分ほど前。
 まぁ美人局はエーリカの薄い胸では無理だとすぐに思い当たって棄却したけど。
 
 けだるい昼下がり。
 現在、バルクホルンを先頭に三機で鏃陣形をとって、大陸の方に向けて飛行中です。
 午後はバルクホルンの補助というか指示に従っての業務、ってシフトには書いてあったけど、偵察任務だったのね。
 いい加減他人のシフト表も見て覚えるようにしないとな……効率的なフラグ立て的な意味で。
 精神的には男だけど、女の体で女相手にフラグ立ててどうすんだという感じであるが。
 しかもフラグ立てる相手が半分以上ローティーンとかねーよ。
 男相手にフラグ立てるのもごめんだけどな。
 あ、午前中はミーナさんと座学でした。 美緒さんと話し合いがあるとかで半分くらい自習だったけど。

「偵察は楽だよねー」

 エーリカが無意味にロールしながら心底気楽そうに言う。
 お前何時も楽そうじゃねえか……

「気を引き締めろハルトマン」
「敵にも滅多に遭遇しないから大丈夫だよ」
「そう言う問題ではない!」

 うん、そう言う問題じゃないと思うよエーリカ。  っていうか、偵察対象何なの? 単なる定期哨戒とかそんな感じなの?
 彼方に見える真っ黒で巨大な積乱雲――ネウロイの巣から隠れるように雲に身を隠しながらの飛行。
 眼下には瘴気の影響の見られない、緑豊かな大地。
 しかし、少し飛ぶ方向を変えて都市部へと向かえばネウロイの兵站地になっている荒廃した町を見ることが出来るのだろう。
 
 まぁ、どっちに町が有るとかわからないんだけどね。
 ヨーロッパ周辺の地図とかまったく! 覚えてないから!

「……はぁ」

 エーリカと一通りじゃれあって疲れたのか、バルクホルンが飛びながら肩を落とす。
 その肩の力の抜けた姿は、最近ではあまり見られなかったものだ。 それを見て、ああ、なるほどと思う。
 つまり、昔馴染みだけの状況を作り出して、気分転換させてあげようというのね。
 ならばオレも協力しないとな。

「気を……落とさない。 エーリカは……何時もこうだし」
「えー、ヴィルヘルミナ酷いなぁ」
「いいや酷くない。 まったくもって的を得ている」

 ぶーたれるエーリカの横顔は、それでも少し安心した様子だった。
 
 視線を前に戻そうとした瞬間、視界の右端で何か光ったような気がした。

「? ヴィルヘルミナ、どうしたの?」
「……なんか……光った?」

 エーリカにそう答えながらバッグの中から手探りで双眼鏡を引っ張り出して、何か光ったように思える方角を見る。
 望遠鏡の狭い視界で走査することしばし。 見えたのは編隊を組んで飛ぶ、六体の黒い流線型。
 ネウロイ……だよな?

「……ネウロイ?」
「バッツ、報告は明確にしろ」
「10時方向下方、六機……見たこと無い……でも、ネウロイ」

 減速してこちらに並んでくるバルクホルンに双眼鏡を手渡して、そのままオレは押し黙った。
 エーリカも先ほどまでの雰囲気を消し去り、MG42のファイアリングロックを外して弾倉のチェックをしている。

「小型ネウロイ……ラロス改、旧式だな……距離は……6000、高度は3000といったところか。
 こちらには気づいていないようだ。 勢力圏内の哨戒中か」
「どうするの、トゥルーデ?」
「敵は倒す、それだけだろう」

 エーリカの問いにそう即答するバルクホルン。 ネウロイの居る方角を見るその表情はここ最近デフォルトとなった思いつめたような表情で。
 ……ファッキンネウロイ! もう少し空気読め!
 ああ、いやオレが見つけちゃったのが最大の過ちな様な気がしないでもないけどしょうがないじゃないか!

「三航過以内で仕留めるぞ。 増援を呼ばれては厄介だ」
「了解」
「……了解」

 偵察任務ということで、コレ一本しか持って来てないMG42を背中から引っ張り出して初弾を装填。 セーフティを解除。
 あー、そういえば初めての小型機戦か……当たるかなぁ、オレの射撃。
 とりあえず、一撃離脱に徹することにしよう。 Me262で格闘戦は無理だわ。

「バッツが初撃、そこから私とハルトマンで仕留める」
「ヴィルヘルミナ、格闘戦に持ち込んじゃだめだよ」
「……わかって、る」

 危なくなったら私のほうに逃げてきてね、と言ってくれるエーリカ。
 ありがたい話であるが、オレってそんなに不安げな存在かなぁ……と自問して。 
 うん、出撃のたびに怪我してるからな。 軽く凹む。
 そんなオレとエーリカを黙ってじっと見ているバルクホルンの視線が少し怖かった。

「……よし、行くぞ」

 鏃編隊を組んだまま、ネウロイの集団の左斜め後方に着くような軌道を取る。
 MG42のグリップと一緒に微かな恐怖と緊張を握り締め、ストライカーユニットに力をこめて。
 断頭台の刃のように、バルクホルンの手が振り下ろされる。
 振り下ろされる先は無論ネウロイだ。
 
 体を傾け、降下軌道を取ると同時に、エーリカ達に合わせる為に抑えていた速度を開放する。
 重力を味方に付けたオレは高度を燃やして絶対の武器である速度を精錬する。
 速く、速く、もっと疾く!
 その望みに応える様に咆哮するMe262の魔道エンジン。
 魔法によって強化された視覚が六つの黒いナニカを捉える。 軽く方向修正。
 数秒後、こちらに気づいたのか、ネウロイが散開する。 が、遅い。
 こちらもトップスピードにはまだ足りないが、それでも既存のストライカーより100km以上は速いはず。 反応が遅すぎるぜ!

 一番手前、一番遅れて旋回を始めた個体に向けてMG42を向ける。
 ああ、相手が人間じゃなくて本当に良かったな、なんて暢気な事を思いながら、トリガー。
 後ろから追いかける形とはいえ、圧倒的な速度差。 交差は一瞬だ。
 弾着も確認せずにそのままネウロイの集団の中を突っ切る。
 後ろを振り向けば、上手く致命的な部位に当たったのか煙を吐きながら墜落していく一機のネウロイ。
 そしてオレへと機首を向けつつある残りのネウロイ達。
 普通のストライカーや戦闘機だったらここで大ピンチ勃発なんだろうが、そうは問屋がおろさない。
 奴らが機首をこちらに向け終わる頃にはオレは十分な距離を稼いでいて。
 後続のエーリカとバルクホルンが再び背後からたっぷりと殴りつけるはずだ。

 それを信じて、速度を殺さないようにゆっくりと大きな旋回軌道をとる。
 体やユニットの重量を軽くして、高度を稼ぐのも忘れない。
 誰にも追いつかれない速度で悠々と円弧を描きながら、ネウロイ達のほうを見た。

 予想通りオレの方に気をとられたネウロイ達は、後続のエーリカ達に気づかなかったらしい。
 そろって突入してきた二人にそのまま一機ずつ撃墜されるのが見えた。 半数を一瞬で落とされて、ネウロイの陣形が崩れる。
 このままオレとエーリカ達で交互に、そして一方的に殴り続けるのがロッテやケッテでの一撃離脱戦の基本……のはず。
 速度に優れるドイツ製戦闘機のお得意戦法だ。
 実際は相手が散開したり、相互を援護できる陣形を取ったりするからそこまで一方的には出来ないだろうけどな。

 エーリカが離脱する。 それを見て、姿勢を修正。 ネウロイへと体を向けた瞬間、先ほど離脱したばかりのエーリカが急激に方向転換。
 何だ、という疑問の答えはすぐにわかった。
 珍しい、エーリカの焦った声がインカムを通して聞こえてくる。

『っ、トゥルーデ!』
「あの……馬鹿……!」

 バルクホルンが離脱出来ていない――いや、あの化け物に限ってそれは無いだろう。 離脱しようとしなかったのだ。
 流麗な曲線を持つネウロイが、バルクホルンの後ろに三機追従している。
 何やってんだあいつ……! 

 ネウロイ達からビームではない、光る何かが連続して発射される。
 ビームじゃないなら曳光弾、つまり実弾だろう。
 ウィッチが実弾にどれほど防御力があるか知らんが、ビームよりもはるかに連射性が高いのは見ればよく判る。
 放たれる弾丸全部が曵光弾なんてはずは無い。 見えている分の数倍の弾丸がバルクホルンに襲い掛かっているはずだ。
 バルクホルンはそれを鋭い旋回で器用に避け、さらに体を起こして増した空気抵抗で減速、旋回半径を縮小。
 そのまま足を振り上げる。 支えの無い空中で体が縦に半回転。
 上手い。 彼女の眼前には、無防備なネウロイの後姿がどうぞとばかりに並んでいるだろう。
 振りぬいたMG42から放たれた無数の光が、追従してきたネウロイのうちの一機を回避行動も取らせずに撃ち貫くのが見えた。

 そのまま姿勢を戻さずに落下するバルクホルン。 失速寸前だった速度が落下によって回復される、が。
 残りの二機のネウロイが二手に分かれる。 一機は上に、もう一機はバルクホルンと併走するように落ちていく。
 上に向かったほうはそのまま宙返りをはじめた。 バルクホルンの後ろを取るつもりだろう。
 二方向から攻められたら流石に厳しいはずだ。
 くっそ、まだ距離がある、調子に乗って距離とりすぎた!
 間に合わないか……ッ!?

『当たれぇっ!』

 バルクホルンの上を取ろうとしたネウロイを魔力を帯びた弾丸が貫き、煙を上げ、そのまま白く砕けていく。
 その横を通り抜けていく小さな影。 エーリカだ。
 間に合ったか……僚機を失ったことが無いって伝説は伊達じゃないな。
 バルクホルンと最後の一機は落下しながら撃ちあい、煙を上げはじめたネウロイが機体を起こしきれずに地面に激突するのが見えた。

 周囲を見渡し、増援か残敵が居ないかを確認。 コンパスを取り出し、使い魔にも手伝ってもらうことにする。
 結果は敵影確認できず。 つまり戦闘終了だ。
 とりあえずトゥルーデとエーリカに合流するか……ふう、一時はどうなることかと思ったぜ。
 速度を落とし、二人に近づいて。

「トゥルーデ、危ないよ!」

 そんなエーリカの声が聞こえてきた。
 大いに同意だ。 バルクホルンよ、イラつくのは判る。 判るけどな、頼むから生死の関わる場面では落ち着いてくれ。
 大人びてはいるが、お前もまだ女の子なんだぞ? オレと違って無茶したら後で後悔するかもしれないんだぞ?
 そんな感じの事を言おうと口を開いたら。

「……問題は、無いし、無かった。 私の事など気にするな。 ネウロイは倒せた……それで良いだろう」

 そんな台詞を、悲しそうな、鬱陶しそうな顔で言うもんだから。
 ――カチンと来た。
 
「……バルクホルン」
「なんだ、バッツ……お前もか? 敵の勢力圏内で悠長な話をする気は無い……帰ってからにしてく」

 最後まで言わせずに。 気づいたらバルクホルンの襟首を右手で掴んでいた。
 イラつきが最高潮に達する中で、頭の冷静な部分が何やってんだとツッコミを入れてくる。
 何やってるかって? わかんねーよ……本当に何やってんだオレ!

「……離せ、バッツ」
「……いい加減に、しろ」

 氷と炎に意識が分かれたような感覚。 自分の意思で喋っている自覚はある。
 だけど、止められない。 止まらない。 ここで止めては、オレはオレ自身を曲げることになる。
 バルクホルンの目が険しくなる。 その視線を真っ向から受け止める。

「手を離せ、バッツ」
「どれだけ……オレが、オレ達が心配したか……心配してるか……」
「手を離せと言っているだろう、バッツ!」
「大事な……物を、失ったからって……ずっと、それに囚われ」

 言い終わる前に、腕に強い痛み。 バルクホルンがMG42を持った腕でオレの手を払った痛みだ。
 彼女の視線が刺すように鋭い。 正直目を合わせてるのがつらくなってきました。
 だが逃げない。 腹の奥でどろどろと燃え盛る感情が、オレに逃げることを許さない。
 その刺すような視線のまま、バルクホルンが叫んだ。

「お前に……多くのことを忘れてしまったお前に、何も知らないお前に何が解るというんだ!」
「トゥルーデ、言い過ぎ!」

 エーリカの咎める様な小さな叫び。
 バルクホルンの表情が、苦々しいものに変わる。 自分が何を言ったのか理解して、後悔している、そんな表情だ。
 ……そうさ、解らんよ。 所詮お前とオレは別の人間さ。 ある程度は経緯を知ってるとはいえ、完全理解には程遠い。
 それにヴィルヘルミナなんて皮を被って、いくら頑張っても、オレはヴィルヘルミナにはなれない。
 そんなのは解ってるし、ヴィルヘルミナになるつもりなんてのは毛頭無い。 オレは何処まで行ってもオレだからだ。
 記憶喪失なんて嘘も――そっちが勝手にそう思い込んだだけだが――ついてるしな。
 だけどな。

「……解らない、けど」

 命の恩人で、この世界で出来た最初の知り合いの一人で、オレのことを気にかけてくれて。
 戦友で、迷惑もたくさんかけて、助けてもらって、年下で、守りたい人の一人で。
 そう言う相手を。

「……大切な……人を、心配しては……駄目なの?」

 答えは無い。
 高空の風がオレ達の間を吹き抜けていく。
 ああくそ、前半のぬるい雰囲気は何処に行ったんだよ……はい、オレの所為で因果地平の彼方へ吹っ飛んでいきました。
 うぎぎ、自己嫌悪自己嫌悪……

「……帰投するぞ」

 沈黙が数十秒場を支配した後、バルクホルンがそう呟く。
 オレも、エーリカも、ただ了解とだけ告げて。
 鏃の先端を飛ぶバルクホルンに追従していった。

 
******

「どうしたの、電気もつけないで」

 夜。 待機室。
 執務室から自室に向かう途中、通りがかったミーナは月光を受けて佇むトゥルーデを見つけていた。
 返事は無い。 トゥルーデはそのまま窓の外、月明かりに照らされた黒い海を眺めていた。

「妹さんの事でも……考えていたの?」

 息を呑む音。 暗闇の中、トゥルーデの肩が微かに震える。
 やっぱりね、とミーナは心の中でため息を吐く。 抑えきれない心配の情が、眉尻を微かに下げさせた。

「……あれは、貴女の所為じゃ無いわ」

 ミーナのその言葉に、バルクホルンは首を振る。

「……いいや、もっと早く、ネウロイを攻撃することが出来ていたら……クリスまで巻き込むことは無かったはずだ」
「敵の侵攻を遅らせて、街の人が避難する時間を作ったわ!」
「それでも、国を守れなかったのは……事実だ」
  
 二人の脳裏に、今でも焼きついて離れないビジョン。
 暗いはずの夜が、燃え盛る街の炎で真昼のように明るいのだ。
 羽を休めた宿が、遊びまわった商店街が、何気ない光景に平和と幸せを感じた遊歩道が破壊されていく。
 それが見知った街だろうと、見知らぬ町だろうと、励起させる感情は同じだ。
 すなわち、喪失感。
 空を飛ぶ彼女たちはその光景の全てを否応無しに視界に、そして記憶に収めていた。

 普段は意識して思い出そうとしない、その記憶。
 その一端と、そしてミーナ自身の喪失を思い出して。
 彼女は搾り出すように言った。

「それは……貴女だけじゃないわ」
「……ッ、すま、ない」

 ミーナの与り知る所ではないが、トゥルーデは昼間、ヴィルヘルミナに対して放ってしまった言葉を思い出していて。
 同じ過ちを繰り返したと、トゥルーデの声が沈む。 その姿まで小さく弱弱しく見えてくるようだった。
 
「そうだ、休暇も溜まってることだし、しばらく休みを取ったらどうかしら」

 お見舞いにも行ってないでしょう? そうミーナは続ける。
 彼女の記憶が正しければ、トゥルーデはヨーロッパ撤退戦でブリタニアに渡って。
 その後、無事を確かめる為の一度しかトゥルーデは見舞いに行っていないはずだ。
 それも、501が正式に発足されてからでは無く、撤退直後のごたごたした時期にである。
 
 それでなくても、ミーナにはトゥルーデに休息が必要なように見えた。
 元々がオーバーワーク気味なのだ。 ここに来て精神的な支えが弱くなっている。
 大きなミスを起こす前に暫く休みを取って欲しい。 だが、そんなミーナの望みとは裏腹な答えをトゥルーデは返した。

「その必要は無い」

 振り向く。 何時もどおりの、固い決意を秘めた力強い表情が、しかしどこか怯えているように見えて。
 
「私のこの命はウィッチーズに捧げたのだ。 ……クリスの知っている姉は、あの日死んだ。
 次の作戦にも必ず出撃させてくれ」

 足早に、確固とした足取りで退室していくその姿が、何かから急いで逃げているように見えて。
 旧知の友をどうにか助けてあげることは出来ないのかと、ミーナは目を閉じた。



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kdのイメージ
バルクホルン:中二脚・1000マシダブルトリガー。 OBは無し。
ヴィルヘルミナ:軽二脚・ハングレとマシンガン(ただしダブルトリガー不可)、無限OBアセン。
そして常時OB。 ただしQB無し。 曲がれない! 止まらない!
AC4やってる人にしかわかんねーネタだな!

ちょっといらん子中隊手に入れたのでラロスとか出してみた。
39年時点で新型だから44年だとほぼ型落ちだろ。
しかし……本当に使い魔の扱い悪いな! この作品に足りないのは何よりも、もふもふ分だ! もっふもっふ。

あと、Arcadia用のメアド取った。
ヴィルヘルミナさん書いてくれるというとかこっちに連絡あるとかそういう奇特な方がいらっしゃったら此方までどうぞ。
ウィルスとかはノーサンキューな!



[6859] 18
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/10 09:50
18 「お茶と約束」

******

「……」
「…………」

 ペリーヌ・クロステルマンは目の前の少女があまり好きではない。
 というか、好き嫌いの感情以前に苦手である。
 どういう相手なのか掴み損ねていた。 敵か味方か、判別しかねていたといっても良い。
 自身よりも年上なのに、あきらかに年下に見える容姿。 大き目の服に隠れたその胸以外。
 影の薄い、居るか居ないかも定かではないサーニャよりもぼそぼそとした喋りなのに、いやに主張する妙な存在感。
 トゥルーデやエーリカと同じくらい歴戦の戦士のはずなのに、いまいち洗練されていない戦闘機動。
 そして何よりもその無駄に威圧的な視線と表情である。
 何時も何かに怒っているかのようにも見えるその目つき。 無表情の癖に火傷痕のお陰で凄みを見せる表情。
 
 兎も角。 ペリーヌは自分を無言で睨み付けてくる少女――ヴィルヘルミナが苦手だった。

 そんな相手と一対一で相対している。 
 この場に他人が居れば話の振りようもあるのだが、あいにくと無人の廊下のど真ん中だ。

「な……何か用ですの?」 

 腕を組む。 妙な沈黙に耐えられず、そう聞いた。
 ヴィルヘルミナは無言で一歩前に出る。 怯みそうになったが、ぐっとこらえた。
 ペリーヌは歴史を持つ貴族の子である。
 たとえ祖国ガリアと共に領地も失ったとはいえ、誇りまで失ってはいけないと常日頃から自分に言い聞かせていた。
 ポケットに突っ込まれていたヴィルヘルミナの手が引き出される。
 普段なら何事かと問いただすところだが、ヴィルヘルミナの瞳から視線をはずせない。
 自分の頭へと向かってくるその小さな手が妙に大きく見えて思わず息が詰まった。
 思わず少し目を閉じてしまう。

「……髪」

 頭に手のひらではないやわらかい感触。 濡れ髪から、水分が取り払われていく。
 その時点で、ペリーヌはようやく自分が何をしようとしていたのか思い出した。
 ヴィルヘルミナの雰囲気に威圧されていたとはいえ、懸念事を一瞬忘れていた自分を少し情けないと思い、ため息をつく。 

「……綺麗、なのに……」
「あ、ありがとう……って、お礼は言いますが、余計なお世話です」

 それでも濡れている髪から水気をぬぐってくれているヴィルヘルミナを好きにさせつつ、素直に目を閉じる。
 親切でやってくれているのだ。 どうせこの後すぐシャワーを浴びるとはいえ、何時までも髪を掃除水まみれにしておくというのも気分が悪い。
 どうも最近入隊した二人はおせっかいが好きな様で。
 幸いなことは、ヴィルヘルミナの方は芳佳よりも幾分かしっかりしているように見えるところだが。

「まったく……あの豆ダヌキ……こほん、もとい、宮藤さんにも困ったものですわ」
「……」

 無表情で首を微かにかしげるヴィルヘルミナを少し不気味に思いながらも、ペリーヌは愚痴をこぼすように語りだす。
 髪の濡れている理由。 掃除中の芳佳に水をたっぷり含んだモップを頭に被せられた事。 二回もだ。
 芳佳の注意力散漫さ。 ペリーヌが注意をしている最中、余所見をしてまったく聞いていなかった事。
 基本的には芳佳の未熟さについての苦言だったが、話しているうちにだんだんとおかしい方向へと逸れていく。

 曰く、考え方が甘すぎる。
 曰く、いくらお国料理だとは言え、腐って糸を引いている豆を食卓に出すなど考えられない。
 曰く、坂本少佐に馴れ馴れしすぎる。
 曰く、坂本少佐は構い過ぎているのではないか。
 曰く、坂本少佐にもっと敬意を払って接するべきである。
 曰く、坂本少佐と一緒のお風呂に入るなど恐れ多すぎる。 私も一緒に入りたいのに。
 曰く、坂本少佐って素晴らしいですわよね?

 というか、いつの間にか主題がすり替わって坂本少佐――美緒の事ばかりで。
 髪を一通り拭い終わったヴィルヘルミナはそれをじっと聞いていた。
 
「――と、言う訳なのです。 ああ、素晴らしいですわ坂本少佐……貴女もそう思いません事?」
「……ペリーヌ、は」
「はい?」
「……美緒、少佐が……好き」

 ヴィルヘルミナの口から放たれた言葉。
 それがペリーヌの耳に届いた瞬間、白磁の肌が一瞬で耳まで上気する。
 美緒の話をしている間に自然と己の身を抱くように回されていた手が緊張のため強ばり。
 な、とかぬ、とか、声にならない音が彼女の口から壊れた楽器のようにこぼれ落ちた。

「な、の、そそそ、そ、そんなことは……」
「では……嫌い」
「う、ええと、その……そ、それこそあり得ませんわ! 第一、わたくしはその、好きとか……ごにょごにょ。
 そう言う感情ではなく、そう、純粋に尊敬しているのです!」

 自分の中で落としどころが見つかったのだろう。 やや落ち着きを取り戻したペリーヌの耳に追撃が入った。

「好き、は好き……そう言う……どんな、感情」
  
 好きというのに、それこそ好ましいという、それ以外の何があるのかと。
 まったく場面にそぐわぬ無表情でヴィルヘルミナはそう問う。
 実際の所、ペリーヌが美緒に持っている感情は崇拝に近い尊敬の念だ。
 そこに艶っぽい要素は一切無い。 無いが――いざ、こう聞かれてみると返答に詰まる。
 自分でも理解している。 明らかに、普通の相手に抱くような感情の段階を超えているのだから。

 じっと、ガラス玉の様な瞳に見つめられて、ペリーヌの思考は逃げ場を求めて疾走する。
 辺りを見回して、何か無いか、誰か居ないかさんざん探して。
 疾走して――結局、いつもの所に落ち着いた。
 すなわち。

「な、何を仰るんですか! 少佐の様に素晴らしい方にそんな……ありえません。
 それと、なんですか、バッツ中尉! 少佐の下のお名前を呼ぶだなんて……規律厳しいカールスラント軍人とはとても思えませんわね」
「……良いって、言った」
「本人が許可しようと、それとこれとは話が別でしょうに。
 それに、そういえば救援の際に、ば、ば、馬鹿と! 少佐のことを馬鹿と呼んだそうですわね!」

 逆ギレである。
 
「それに! 先日の朝食の際、坂本少佐にあの腐った豆……な、ナートゥ?」
「納豆……」
「そう、それですわ! そのナトーを処理していただいたでしょう!」

 北大西洋条約機構、などと彼女にとって意味不明な台詞を呟くヴィルヘルミナ。
 視線で射殺す。 無表情のままヴィルヘルミナが一歩後ろに下がった。
 もはやペリーヌにとって彼女は苦手な相手ではなかった。
 自分をからかった上に、美緒に必要十分な敬意を払ってない相手である。
 とりあえず、敵だった。

「あれは……美緒」
「坂本! 少佐!」
「……少佐が……」
「お黙りなさい、まだわたくしが喋っている途中でしてよ!」

 まったくもう、あの豆ダヌキと言い、中尉と言い、世界の空を守るウィッチーズとしての自覚が云々。
 勢いづいたペリーヌは止まらない。
 ヴィルヘルミナが黙っているのを良いことに、長々とお説教は続いていく。

 数分。

「ん、なんかぎゃーぎゃーやかましいと思ったら……何やってんだ」

 少し遠くの角を曲がろうとしてペリーヌの声を聞いたエイラが寄ってきた。
 通る人数が少ないとはいえ廊下、つまりは人員の移動経路である。
 最初の邂逅からずっと移動していないのだ。 流石に誰かが通りがかってもおかしくない。

「エイラさん、邪魔しないでくださいまし。 今、先任士官としてこの方に規律のなんたるかを説いているところですから!」
「カールスラント軍人相手に規律て……」

 いや、エーリカみたいな例外中の例外もいるだろうけど、と。 エイラの口からは呆れの吐息が漏れる。

「まぁ、ほら……ヴィルヘルミナもうんざりしてるじゃないか」
「…………」
「表情は先ほどと一切変わってませんわよ」
「ふっ……精進が足りないな、ツンツン眼鏡」
「何の精進ですの!?」
「…………」

 まぁいいや、わかんない奴には何言ってもわかんないだろうし、と手をひらひらさせて。
 わざわざ耳と尻尾まで生やしたエイラの狐のような笑みが余計にペリーヌの感情を逆撫でする。
 ペリーヌは反撃の為口を開こうとするが

「ああ、そういえば、少佐がなんか探してたっぽいぞ」

 そう、尻尾を揺らめかせたエイラに機先を制される。

「んぐっ……ほ、本当ですの?」
「本当本当」
「エイ、ラ……」

 何かを言おうとしたヴィルヘルミナの頭に手を乗せて。 いつもより強めに、かき混ぜるように撫ぜた。
 むぐ、とヴィルヘルミナが小さな呼気を吐くのを無視しながら。
 髪も汚れてるみたいだし、会うならシャワーとか浴びないと、とエイラは急かす。

「わ、わかりました。 ヴィルヘルミナさん、先ほど話したこと、くれぐれも心に留め置いてくださいね」

 そのまま、ペリーヌは大股歩きで進み出す。 向かう方向はシャワー室のようだった。
 その姿が角を曲がり、見えなくなったところでエイラは溜息一つ。

「んー、相変わらず扱いやすい……」
「美緒……少佐、嘘?」
「まぁ、嘘は言ってないから」

 それに、ペリーヌが少佐に話しかける口実を作ってやったんだから感謝して貰わないと。
 エイラはそう続けて、ヴィルヘルミナの髪を、今度は解かすように撫でた。
 乱れた髪がきちんと整うのを確認して、頷く。

「ん、じゃあ私はサーニャ起こしてくるから……お茶会でなー」

 そう告げて、軽やかに歩み去るエイラの背中を見ながら。
 ヴィルヘルミナもエイラやペリーヌと同じように息を吐いて。
 エイラに触れられた当たりを撫でながら、自室へと向かった。
 


******

 昼食後。 少し遅れてオレはテラスにやってきた。
 前にエーリカと話したりした場所。 白い丸テーブルが五組。
 そこに座っている人たちも五グループだ。 
 上官二人、エイラーニャ、シャッキーニ、カールスラントコンビ、あと若手三人組。
 若手三人組てなんかお笑い芸人みたいである。

 テーブルの上には茶器セットと焼き菓子らしき物が幾つか。
 誰がどこから見ても文句なく、お茶会だった。

 ネウロイ侵攻の合間に休息としてお茶会など開いているのはアニメを見て知っていたが、実際に目の当たりにするとアレだな。
 暢気だなー。 今回も予定より早くいらっしゃいますよ、ネウロイさん。
 前回、陽動作戦を取ったとはいえ予定通りの襲撃だったぽいし。
 ……油断してるのか、それとも本来の目的通り気を張りつめすぎないようにするためか。
 
 さて、少し出遅れたらしい。 何処に座ろうかという感じである。
 こういうのって微妙に悩むものがある。 こう、教室でグループ分けしたとき、一人だけあぶれてるあの気まずさとか。

 一番奥の方にある美緒さん・ミーナさんのテーブルはちょっと遠すぎる。
 あと、夫婦の中に割ってはいる気は無いです。

 芳佳を筆頭とした若手グループは、その、ペリーヌが面白怖いので遠慮しますです。
 いやぁー、ちょっとからかっただけで結構面白いのな!
 でもオレ、今は弁舌が全然立たないって自覚が無さ過ぎたな……反論とか口挟んだりとか一切出来ねえでやがる。
 軽妙なノリの無いからかいは苛めと変わらんトコもあるし、もっと上手く喋れるようになるまで自重しよう。
 ……三週間近く他人と触れ合ってて一向に改善の余地が無い今、美味く喋れるようになる日が来るのか不安で仕方が無いが。

 エイラとサーニャも、美緒さんと同じ理由で無し!
 二人だけの空間が出来上がっております。 なんか妙にエイラ構ってくれてるから突っ込んでっても厭な顔はされないだろうけど。
 でも! ぶっちゃけるとオレ、エイラとサーニャのセットが好きだから!
 そこに割り込んでいくのは気が引けるのです。

 ……カールスラントコンビも、無いな。
 なんというか昨日の今日ので気まずすぎる。 もう少し冷却期間置くか……オレも、バルクホルンも、多分必要だ。
 何でだろうな、最近妙に沸点が低い気がする。
 
 と言う訳で残る選択肢は一つ。 突撃ー。

「お。 お客さん、いらっしゃーい」
「いぇーい!」
「……いぇー、い」

 なんかお水っぽいシャーリーと意味のよくわからないルッキーニの歓声に応えつつ、彼女達のテーブルに混ざらせて頂くことにしました。
 いやぁ、このグループは良いね、何時もドライというか、いやこの言い方だとネガティブな感じだな。
 何時でもカラッとしてて、真夏の太陽の様な感じでございます。

 ……エーリカの視線がちょっとだけアレい。 すまんな。 でも、初日のお前さんよりは無責任じゃ、無い、はずだ!
 出来れば次の出撃までに決着は付けておきたいが……クソ、次のネウロイって何時だっけか。
 遠くないのは確かなんだが……

 オレが席に着いたのを見て、ミーナさんが、そして美緒さんが口を開く。

「皆さん、お仕事ご苦労様です。 観測班からの連絡によると、次の出撃は明後日になります。
 今日はゆっくりして、英気を養ってください」
「ああ、宮藤、リネットはこの後も訓練だ。 気を抜くなとは言わんが、切り替えだけはしっかりするように」
「「はい」」

 そして、そのまま各々のテーブルで好き勝手に会話や茶器をこすらせる音、お茶を啜る音が……いや、うん。
 芳佳さーん、紅茶は音立てて飲んじゃ駄目だよー。 日本茶も格式高いところだと音立てて飲むと怒られるんだよー。
 案の定ペリーヌに窘められて、リネットに指導を受けていらっしゃいます。 

 で、うちのテーブルであるが。 何故かポットが三つありやがります。

「……どの、ポットが……紅茶」
「ああ、こっちが紅茶用のお湯。 この背の低い奴が紅茶を注ぐ奴な。
 で、こっちがあたしのコーヒー。 どっちにする?」
「紅茶……」
「はいよ。 ほらルッキーニ、砂糖とミルク取ってやってくれ」
「はーい」

 割と茶器とか本格的なのが揃ってるな……さすがはイギリス……もといブリタニア。
 その割にはティー・バッグとか普通にあるけど。 まぁ別に紅茶の味なんぞ気にもしないし、飲めりゃいいけど。
 一回り小さなポットから、やや濃い色の紅茶を注いで貰って。
 匂いを一嗅ぎ。 結構良い匂いだ。 ティーバッグの癖に……良い葉っぱ使ってんだろうか。
 いや、オレの嗅覚が貧乏くさいだけかも知れないけれども。
 角砂糖を一個投入。 ミルクはいいや、匂い変わっちゃうし。

「んじゃ、乾杯するかー」
「乾杯……?」
「そうそう! シャーリー、偉くなったんだよ!」
「うむ、聞いて驚け。 あたしことシャーロット・イェーガーは先日付で大尉になりました」

 いやー、辞令が遅れてただけなんだけどねー、と朗らかに笑うシャーリー。
 ほう……それはそれは。 何にせよめでたい話だ。 シャーリーの性格なら人の上に立ってもきちんと人、纏める事が出来そうだしな。
 ペリーヌとかルッキーニとかよりはよっぽど上司にしたい人間である。

「いやー、悪いね、同階級で仲良くしようって言ってたのにさ」
「……ん、良い……めでたい」

 じゃあ、乾杯するか、と。 三人で見合って。
 各々の飲み物が注がれたカップを、小さくぶつけ合わせる。
 ……本当は最低のマナーなんだろうなー。 でもいいや、このテーブルの中に気にする人居ないし。

 一口二口。 うん、ほどよい甘みだ。

「それにしてもさぁ」

 シャーリーが自分のカップから口を離しながら話しはじめる。 うわ、ブラックだ。 シャーリー男前だな……!

「ヴィルヘルミナ、あたしゃてっきり、堅物ン所行くと思ってたけどね」
「えー、別にヴィルヘルミナ、こっち来たっていーじゃん」

 いや、別に悪いって言ってる訳じゃないけど、とルッキーニに返しながらも、その目はオレの方をぼんやりと見つめている。
 えー? いきなりその話題ですか。 何、オレ、いきなり選択肢間違えた?

「……少し……喧嘩、して」
「ありゃま。 あんたはそう言うのなさそうだって思ってたけど……」
「んー、でも、バルクホルン大尉、最近なんかイ゛ーッって感じだったよ?」

 ルッキーニよ、なんだそれは。 い゛ーて。
 いやまあ解らんでもない辺り、そのしかめっ面な表情の威力は素晴らしいと思うが。

「んー、その関係? ああ、話したくないことなら無理に聞かないけどさ」
「……ん、そんな……感じ」
「ふーん……夢見でも悪いのかねぇ」

 夢見……か。
 夢見と言えば、ここ最近オレもかなり最悪なんだよなぁ……イライラしやすいのもその所為かもしれん。
 はぁ、と溜息をついて、今朝見た夢を思い出す。

//////

 暗い峠道に血を流して横たわる彼女の姿。

 オレの所為である。
 彼女の死を直接招いたわけではないが、そう考えねば気が狂いそうだった。
 原因を外に求めるのは容易い。 それを殴り飛ばすのも簡単だ。
 だが、殴り終わったら、殴り終わっても気がすまなかったら何をすれば良い?
 当り散らし、暴れまわり、狂犬という冗談交じりの呼び名を真実にして。
 時間と周囲の善意を無駄に浪費して、それでも周りが見えなくて。

 周囲に怒りをぶちまけていた、そんな昔の夢。

//////

 まぁ、断片的だが、それだけでオレは何の夢か、どんな出来事だったかしっかりと思い出せる訳で。
 あまり積極的に思い出したくはない出来事だ。
 過去とか別にどうでも良い……訳じゃないが、ンな事よりも、今やる事の方が多すぎて気にしてらんないし。
 大事なのは忘れないこと、同じ間違いをしない事……そのはずだしそう思わなけりゃやってられんだろ。

 うー、なんかお腹痛くなってきたかもしれん。
 こんなこと程度でお腹痛くなるとか……メンタル面弱いなぁ、オレ。 

 バルクホルンを縛ってんのは多分、芳佳の姿と妹さんの姿が重なって。
 夢とか、ふとしたことで故郷が焼かれる様を思い出してんだろうが……重い、よな。
 本当ならそう言うの汲んでやってささやかに見守ってやるのが良いんだろうけれども。
 あるいは当の芳佳さんにガツンと一発やって貰うとか……アニメみたいに。
 そのくせオレ何やってんだよ……ああ、自己嫌悪ぶり返してきたわぁ。

「だいじょぶだよ、ヴィルヘルミナ。
 中佐だってハルトマン中尉だって、ヴィルヘルミナだって……天才のアタシやシャーリーだって居るんだし!」
 
 オレが凹んでるのを見かねたのか、そういって無い胸を張るルッキーニ。
 ルッキーニ……お前ほんまええ子や……お馬鹿だけど。

「そうそう、ルッキーニの言う通り。 まぁヤバくなったら容赦なくぶん殴ってでも止めればいいしな」

 友達なんだろ、と続けてくるシャーリー。
 友達かどうかは微妙なところだが……うん、大事に思える人間ではあるさ。
 とりあえずは次のネウロイ戦で怪我させないように、どうにかしないとな。
 それにしても。

「……顔に……出てた?」
「ん? ああ、いや、なんていうの? 表情じゃなくて……雰囲気というか……なぁ?」

 そう言ってルッキーニと顔を見合わせるシャーリーさん。
 ……雰囲気ですか。 うーん、オレってそんなに解りやすい、かなぁ?
 
「じゃあ……今は」
「ん? んんー……」
「さっきよりはザワザワしてない感じ?」
「お、まぁ確かにそんな感じだな」
「……む」

 よくわからん。 解るシャーリー凄いな……流石ルッキーニのおかーさんだ。 そのおっぱいは伊達じゃないな。
 しかし、余り相談する人間が居ない環境で、変な意見のバイアスかからないこの二人と話せたのは良かったかな。
 なんだかんだ言って少しは気が軽くなったと思う。
 とりあえずルッキーニには褒美を取らすことにしよう。

「ルッキーニ……」
「んにゃ? 何?」
「……この……マフィンを……くれて、やる……」
「え、ホント? やったー!」
「良かったなぁ、ルッキーニ。 で、あたしには何もないのか?」

 ルッキーニに向けていた穏やかな視線から一転、どことなく悪戯小僧じみた表情でこちらに笑いかけてくるシャーリー。
 別に本当に欲しい訳じゃないだろうが……ん、そういえばそうだな、あれがあったか。

「……午後……お休み、だっけ」
「ああ、芳佳とリーネ、それに付き合う坂本少佐以外はみんな休みのはずだよ」

 当然、あたしもルッキーニも休みだよ、と興味深げな表情で続ける彼女にオレは伝える。

「じゃあ……多分、あの約束……出来る、と思う」
「約束? ……ってああ、ホントに!?」

 約束――すなわち、Me262を使わせる、という事。 
 それを聞いたとたん、机をひっくり返す勢いで此方に身を乗り出してくるシャーリー。
 本当! 本当ですから! おっぱいが強調されるので止めて頂きたい! 目に毒です。

 別に根拠無しに言ってみたわけじゃない。
 とりあえず、今のタイミングならなんとかミーナさんも許可出してくれると思うんだ。
 丁度ミーナさんの試用も終わったところで、今日の午後は一日オフで。
 多分、この機会を逃したら暫くはMe262の訓練ローテーションが決まっちゃうと思うんだよ。
 教わるほう、というか一緒に飛ぶほうは三人居るが、オレは全員について飛ぶはずで。
 そういった理由でオレの体力もあるから四六時中、という訳にはならないだろうが、それでも結構な率でヘビーローテーションになるだろう。
 仮にそうなったら、シャーリーに使用許可が下りるくらい余裕のある時間が出来るかどうかも少し怪しい。

「……ほ、本当……」
「うわぁ、うわぁ……よっし、ああ、もう居ても立ってもいられなくなってきた! ほら、ルッキーニ、行くぞ!」
「え、まだマフィン……」
「そんな物後でいくらでも食わせてやるから、ほら、計測器とか持って来てくれ」

 ……なんかルッキーニと大差ないレベルではしゃぎ始めたシャーリーさんです。
 もしかしてこの二人が仲良いのって、シャーリーの大人さとルッキーニの子供っぽさのバランスが取れてる訳じゃなくて。
 二人とも根っこの部分では同レベルだからじゃないのか……?

「……シャーリー……あの」
「なんだよ、今更約束は無しで、とか聞かないからな?」
「まだ……ミーナ……とかに、聞かないと……駄目、だから」

 うん、まぁ、駄目って言われたら素直に止めるからね?

「……とりあえず……今は、ゆっくり……する」
「う……解ったよ」
「オレの……マフィン、あげる……から」
「うん」

 オレの二つめのマフィンを手渡されたシャーリー。
 なんか見てて気の毒になるほどそわそわし始めてるし……伝えるタイミングを考えるべきだった。
 なんか最近オレこんなんばっかだなぁ。

 結局、シャーリーはお茶会がお開きになるまでそわそわしっぱなしで。
 みんなに訝しげな目で見られたのでありました。



******


「じゃー、先に行ってるからー!」

 そう告げて、ルッキーニと一緒に格納庫の方へと走っていくシャーリー。
 手を軽く振ってお見送りだ。 あっちにゃ見えてないだろうけどな。
 しかし、うーん……シャーリーは胸も見事だが後姿も良いな。 主に腰から尻にかけてのライン的な意味で。
 あと二、三年たったらさぞかし素晴らしいことになっているだろう。

 お茶会が終わって、解散間際にミーナさんと話し合った結果、思ったよりもスムーズに話が進みました。
 以前交わしたシャーリーとの約束どおり、立会人がもう一人必要だったのですが、ミーナさんがやってくれるとか。
 さすが軍隊、さすが公的組織だな。 一度身内になってしまえばなんと甘いことか!
 いや、ミーナさんが話のわかる人なだけなんだろうけどもさ。
 異国の人間に最新鋭兵器を惜しげもなく使わせるとか普通無いよな、オレが提案しておいてなんだけど。
 あるいは、ネウロイという全人類共通の敵が昔っから存在するお陰で国家間の諍いが現実よりもマイルドになっているのかもしれない。

 さて。 ミーナさんは少し残ってる仕事を片付けてから格納庫に向かうとか言ってたし。
 オレも一度部屋に戻ってコンパス持ってくるか……あれで使い魔と意思疎通できると解ってから、肌身離せなくなりました。
 ストライカーユニットも十分不思議アイテムだけど、勝手に動くコンパスとかなんかそれっぽくて良いんだよな。 マジックアイテムみたいでさ。
 寝る前とかに軽くお話、の様な事もしてるし。 見えないけど相棒なんだ。 少しでも意思疎通は出来たほうが良いに決まってる。
 お陰でコンパス握ったまま寝入ったりすることもあるけど、鎖が首に絡まなければ大丈夫だろ……

「あ、あの、ヴィルヘルミナちゃん!」

 んあ、この声は芳佳……か。 なんぞ?
 振り向いて、少しだけ顔を上に向ける。
 こげ茶色の髪に、セーラースク水の少女。 案の定そこには芳佳が居た。

「……?」 

 首を傾げて、疑問を表現。
 あ、いや、こういう事やってるから何時まで経っても口下手が直らんのか?
 まぁ今はいいか。

「あの、ちょっと話したいことがあって……良いかな」

 ふむ。
 なんか内緒話っぽいね……辺りを軽く見回して、誰も居ないことを確認してから、首肯する。
 ほれ、おじさんに何でも話してみなさい……うわ、なんか変態くさいな。

 芳佳は少し逡巡するように目線を漂わせてから、少しうつむいて。

「……あの、私って……バルクホルンさんに嫌われてるのかな」

 そう言った。 ……そりゃねーよ、断言できる。
 あのスーパーお姉ちゃんが妹のことを嫌うはずが無い……って、それは立ち直ってからの話だったか。
 今の段階でも芳佳の事は嫌いじゃないと思うんだけどな……

「私、なんだか避けられてるような気がして……リーネちゃんにも聞いたんだけど、バルクホルンさんは厳しいから何時もあんな感じだって。
 でも、なんだか少し違う気がして……カールスラントの人たちには別だって聞いたから、ちょっと気になって」

 不安げにもじもじしながら、こちらを上目遣いで伺う芳佳。
 ふむ……なんでミーナさんじゃなくてオレに聞くのか良くわからんが。
 仲が良いといえば普通、エーリカかミーナだろうに。
 まぁ、芳佳も若いし、平穏に暮らしてたらしいし。
 この性格だし、他人に拒絶されるって事が今まで無かったんだろう。
 ペリーヌもペリーヌで芳佳の事が気に食わないっぽいが、あっちは表に出る解りやすいタイプだしな。
 こういうのはそう言うもんだと理解するのが一番楽なんだが……
 まぁ、自分に非が有るように感じられるのは仕方ないか。

「……心、当たり……ある?」

 大体、自分に非が無いと解れば不安も小さくなるだろ。
 もしかしたら自分がポカをやらかしたかも、って不安も大きいしな、こういうのは。
 芳佳は一直線なところが有る分失敗したとき大きい気がするが、今のところなんも悪いことしてないしな。
 そう思っていたら。

「あの……うん」

 落ち着かないのか、やはり不安なのか、両手の指を絡ませながらそうのたもうた。
 え、あるんかいお前……何やったんだよ。

「ちょっと前の朝食のとき、リーネちゃんと話してたんです。 カウハバ基地って所で、ウィッチが迷子の捜索のために出動した、って。
 それで、私、そうやって一人ひとりを助けられないと、みんなを助けるなんて無理だもんね、って言ったんです」

 そうぼそぼそと語りだす芳佳さん。
 ふむふむ。 まぁ理想論だな……別に悪い事じゃない。 
 その迷子の捜索のための出撃とか、すっごいプロパガンダ臭するけど……
 思春期の女の子が多いウィッチなら有り得ない話でもない、かな。

「そのとき、バルクホルンさんが来て……みんなを助けるなんて、夢物語だって……よく聞こえなかったんだけど」

 ……なるほどな。 ため息を一つつく。
 どんだけ鬱屈してんだよ、バルクホルン……いや、アニメでもそんなシーンあったっけ? 
 まぁいい、この口下手なオレがどれだけ伝えられるか解らんが。

「……別に、芳佳は……間違ってない」
「え……うん」
「オレ、には……無理、だけど」

 オレには芳佳と同じ考え方をするのは無理だ。 それが無理な理想だって、真っ先に思っちゃったしな。
 自分の周囲で、女子供が傷ついたり、大事に思える人が苦しんだりしなければそれでいい。
 街がなんぼ滅びようが何万人死のうが多分数字や文字上の事として適当に流していけるだろう。
 それこそ、新聞を読んでる感覚だ。 まぁ平和な日本で育ったら戦争なんて基本的には新聞かニュースの出来事だしな……。
 血なまぐさい映像とかは自主規制されるし。
 
 だけど、芳佳にとっては戦争と言う修羅場に居る理由。 自分が居れば、多くの人が守れるから。
 曖昧で、現実味の薄い夢。
 でも、子供は年相応な夢持ってた方が健康的なんだよ……そのために無理すんのが大人の役目です。
 それに、若干シニカルな考え方だけれども。
 どうせ将来的には厳しくて辛い現実を見ることになるんだから、見れるうちに夢は見ておいたほうが良い。
 
「え、無理……って」
「……色々、あった……から」

 就職難とか……内定取り消しとか……初任給とか……生涯給与とか……ああ、なんか要らん事思い出してきたわー。
 親のマンションの管理人やって食ってたとか……え、何、やっぱ半分ニートみたいなものですよね……

 芳佳の表情がなんか訝しげなものになってきたので、気を取り直す。

「……芳佳の、考えは……大切な、もの」

 曖昧だろうが、現実味が薄かろうが。
 多くの人たちを守りたいって言う考え方は、尊いものだ。
 
「だから……自信を持って、良い……」

 それに、バルクホルンは最近ちょっとナーバスになってるだけだから、あまり気にしないでやってくれ、と。
 そう締めて、芳佳の肩を軽く叩いてやる。
 彼女は少しの間、難しい顔をして何かを考えていたようだが、力強く頷いて。
 その顔が上げられたときには、もう何時もの元気な表情だった。

「……元気、出た?」
「うん、頑張れると思う……ありがとう、ヴィルヘルミナちゃん!」
「早く……行かないと、美緒……少佐に……怒られる、よ?」
「わわっ、そうだった! じゃあね!」

 慌てて駆け出していく芳佳さん。 その姿が角を曲がって消えていったのを見て。
 さて。 オレもさっさとコンパス拾って格納庫に行きますか。
 操縦の講義くらいはしておかないとな、ミーナさんの時間を余りとるのも悪い気がするし!

 ……それにしても、なんでちゃん付けなんだぜ?


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 ペリーヌ書きにくいわー! 難しすぎるんじゃボケー! こんな感じなのか、ペリ犬よう!
 とりあえずペリーヌは相手を嫌うことから始める子だと思う。

 前回、ヴィルヘルミナのAC的扱いを書いてから仮眠した時に見た夢:
「芳佳のシールドは硬い……つまりアクアビットマンだったんだよ!
 芳佳のコジマが世界を救うと信じてッ!! ご愛読ありがとうございましたッ!!!」
 どんな夢だよ。 っていうかAC4とストパンって全然対象層違うじゃないか……!




[6859] 19
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/10 09:53
19 「Ahead」

******

「うわぁ……どろっ、っていうかぬるっ、っていうか……変なカンジだ」

 シャーリーさん、泥レスですね、解ります。 嘘。 解りません。
 Me262に足突っ込むときって、その妙な抵抗が気になるよね……どういう仕組みなんだろう。
 他のストライカーユニット履いた事無いからオレは解らないけど、やっぱシャーリーから見ても変な感じなのか。

「少し装着の勝手が違うから……練習次第で早くは出来るのでしょうけど、やっぱり即座に出撃しなければいけない状況では不利ね」
「そんな感じだなぁ……足をきちんと収納するだけで10秒くらいかかってるし」
「アタシも履いてみたい!」

 ミーナ、シャーリー、ルッキーニと各々勝手な感想を述べてくれる。
 ルッキーニにも履かせてやってもいいんだが……まぁ、今日は我慢してくれ。
 とりあえずミーナさんがルッキーニに何か言い聞かせてるのを横目に、現状を確認する。

 格納庫。 本来なら戦闘機を並べる予定だったのだろう広大なスペースには、ストライカーユニットの懸架台が並んでいた。
 外ではなんかペリーヌがうろちょろしてたが、空を見上げてたので大方美緒さん鑑賞会といったところだろう。
 あるいは豆ダヌキ視殺会。 一応魔女だから洒落んなって無いかもしれん。
 そんなこんなで、隅っこでやることも無いので、オレのMe262……
 えーと、A-1a/U4だっけか、と一緒に練習機にしている通常型を真ん中に引っ張り出してきている。
 このときも軽量化の魔法が役に立ったね。 いっそのこと終戦迎えたら引越し屋でもやるかな。
 っていうか、このU4って何よ……普通の奴と何が違うんだ?
 整備用のマニュアルざっと見たけど、ほとんど一緒だったぞ?

 シャーリーがMe262(通常版)を履いてる隣で、オレも一緒に装着の準備。
 エーリカやバルクホルンのときにも同じことをやった。
 オレ、別に人に物を教えるのが特に得意とかそう言うわけじゃないからな……
 隣で範例を見せながらやれば、わかり易いと思ったのだ。
 まぁ、喋りで丁寧に教えるのが普通に不可能だと思ったのもあるし。

「足……入った?」
「ああ、入ったよ。 うーん、こういったちょっとの違いがなんか新型って感じで良いなぁ!」

 ニコニコしながらこっちを見てくるシャーリー。
 興奮してる所為か、頬がすこし上気している。 そのうえウサ耳さんである。

「…………」

 ……ハッ、いかんいかん、やべぇ可愛すぎた……落ち着けよオレ。
 こういうときは素数を数えるんだ、1,2,3,4……いきなりミスってるじゃないか!
 首を振って雑念を払う。 今は、集中することがあるだろうに。 

「ボーとしたと思ったら突然首振って……大丈夫か?」
「……なんでも、ない」
「何処か、調子でも悪いの?」

 ミーナさんもすこし心配そうにそう聞いてくる。
 とりあえず、本当になんでもないと返しておく……が、まぁ調子が悪いといえば悪いんだよなー。
 なんか腹の調子が治らないし。 変なもんでも食ったかなぁ?

 とりあえずオレも足をMe262に通す。
 冷たい、滑らかな内布――ヴィルヘルミナさんがスオムスという寒冷地で試験運用していた所為だろう――に触れる感覚。
 滑らかなのに、両足がゆっくりと飲み込まれていく違和感。
 意識を向けて。 魔法を使う準備――使い魔との合一。
 頭頂部付近と、尾骨の辺りにむずがゆい感覚が生まれる。 ん、と吐息を吐いて我慢。
 この耳と尻尾が生える感覚は何時まで経っても慣れない……妙な声を上げる事はなくなって来たけど。
 毎回自分の吐息にドギマギしてたら魔法の練習すら出来ないからな。

「じゃあ……魔力を、少しだけ……通す。 ……サイドの……装甲板が」

 目を閉じて、魔力を通す。
 相変わらず正しいんだか間違ってるんだかわからない方法だが、枝葉を、血管をストライカーに伸ばして絡ませるイメージ。 
 太もものサイドにある小さな整流翼の付いた装甲板が勢いよく閉まって、足を強く固定してくれる。

「……閉まる」
「オーケイ」

 時々間違ってるんじゃないかと不安になるが、まぁ動いてくれるんだからいいか。
 原理を理解して無くても扱える、ってのが工業製品だしな。
 ストライカーユニットが魔法なんていうすこしふしぎパワーを利用してることはこの際無視だ。
 多分、科学的になんか解析されてるんじゃね?
 別にオレは魔法研究者とかになるつもりはないからどうでも良いけど。

 シャーリーも気分よさそうに目を閉じて。 その身体が薄く青く光り始める。
 魔法使ってるんだな……オレもああいう風に光ってるんだろうか。
 こういうときに不謹慎だけど、青く光るとチェレンコフ光を思い浮かべるんだよな……
 ウィッチってガイガーカウンターに反応しないだろうな?

 などとまったくどうでも良い事を考えていると、装甲板がしまる音が聞こえる。

「……? あれ、なんか変じゃなかったか?」

 シャーリーが首を傾げる。 うん、なんか変だった?
 なんというか、音が違うというか……なんだ? 

「そうね、少し、音が違ったかしら」
「んー、ヴィルヘルミナのはガチン! って音だったけど、シャーリーのはバチン! って感じだったよ」

 ……ルッキーニ、その二つ、全然大差ねえよ。 でも、確かにそんな感じではあった。
 普通の人間なら聞き流してしまえそうな、その程度の差だ。
 それこそ、ちょっと当たり所が違ったとか、その程度の誤差。
 オレやシャーリーはまぁ、機械いじりしてる人間だからだろう。
 バイクとか、ほんのちょっとのエンジン音の違いが気になることとかあるしな。
 ルッキーニもシャーリーと大体一緒にいるから、門前の小僧なんとやら、という感じで気になったのかもしれない。

「なんというか、そう……
 シャーリーさんの方は、勢いが弱かったというか……そんな感じかしら」

 そして音楽系を志していたはずのミーナさん。
 そう言う意味ではサーニャと並んで耳が肥えてるはずだよな、この人。
 しかし、勢いが弱いねぇ……バネか何かがヘタってんのかな?
 飛んでる最中に外れたら割と洒落にならないので、装甲板がしっかり固定されてるかどうか確かめてもらう。

「んー、大丈夫だな。 きちんと固定されてるよ」 

 それなら良いか……まぁ、単なる誤差だろ。 カールスラント系整備員のおじさんお兄さんたちの実力を信じるとしよう。

「よし、じゃあいよいよエンジン始動だな! 全力で行っちゃっていいのか?」
「駄目」

 即答です。 卒倒しちゃうぞ、全力で行ったら。
 えー? と聞いてくるシャーリーに、ミーナさんが説明してくれる。

「出力がなかなか伸びないのに際限なく魔力を飲み込むから、全力を込めてはは絶対に駄目よ」
「……ゆっくり、蛇口を……ほんの少しだけ、捻る……」
「ふぅん……わかった」
「がんばれ、シャーリー!」

 シャーリーは珍しく神妙な顔つきで、そのストライカーユニットに意識を集中させ始めた。
 ルッキーニが彼女に送る声援を聞きながら、オレも一緒にMe262を始動させる。
 伸ばした枝葉に水を、伸ばした血管に血液を、流動させて吸い上げさせて、ゆっくりゆっくりと。
 随分と慣れたけど、やっぱり一分以上かかるんだよなぁ、このプロセス……焦ってるともっと時間かかりそうだ。

 やがて、オレのストライカーユニットから、独特の、甲高い音が響き始める。
 よしよし。 頷いて、回転数を一定まで上げてから、少しづつ落としていった。
 回転数落としても疲れるもんは疲れるんだが、五月蝿いしな。
 フレームアウトさせないように普段より集中してないと駄目だが……まぁ、練習一杯したし。

 シャーリーのほうを見れば、まだ起動してないようだ。

「ねー、ヴィルヘルミナ」

 直ぐ側からルッキーニの声。 見てるだけじゃ手持ち無沙汰だったんだろう。
 オレの懸架台を弄って遊んでいたようだ。 ま、ミーナさんが直ぐ側にいるから悪さはしないだろうが。

「これ何?」

 その手に持っている物を見やる……え、何それ?
 彼女の手には、簡単な装飾を施された、鋼色の塊。 長さは60cm程。
 総金属製の……金槌?

「ああ、それはヴィルヘルミナさんの武器よ」
「へー、そうなんだ」

 ミーナの言葉。 へー、そうなんだ……っておい、なんか突然珍妙な代物が出てきたな!
 日曜大工品で戦ってたのかよヴィルヘルミナさん……え、何、ネウロイのコアに釘でもぶち込むの? で引き抜いちゃうとか?

「魔力の通りを良くしたウォーハンマーね。 欧州のウィッチは接近戦はあまりしないからこういう装備は珍しいけれど……
 ほら、ペリーヌさんもレイピアを持ってるし、美緒も刀を持ってるでしょ? あれと一緒よ」

 魔力を込めて投げつけたりするのよ、というミーナ産の説明。
 へー、と納得しているルッキーニから金槌……ウォーハンマーを受け取る。
 ずっしりとした重さ。 確かに、ウォーハンマーと言われてみれば、槌の逆側は釘抜きではなくピックの様に鋭くなっていた。
 これでネウロイ殴りつけるのか……大型ネウロイにはあまり意味なさそうだなぁ。
 美緒さんみたいな刀だったら切り傷付けたり、ぶった斬ったり出来るけど、ハンマーじゃなぁ。 結構重いけど、流石に質量負けするか。

 魔法をかけてみる。 軽く重ーく、重く軽ーく……
 体感する重さは全く変わらないが、徐々に手の中の手応えが重厚な物へと変わっていく。
 ん、おお……魔力を通りやすくしてるってだけあって、椅子とかベッドよりかなり楽に魔法がかかるな。
 まぁ使う機会もあるかも知れない。 手札は多いに越したことはないはずだ。

 再びシャーリーの方を見やる。 うーん、未だ起動してないか。
 他国の機種だからな、肌に合わないのかも知れない。
 ま、初めてだからな、こんなモンだろう。

 ……と、思ってたのだが。
 それから五分強。 それだけ経ってうんともすんとも言わない。

「うーん……何がいけないんだ?」
「うー、壊れてんじゃないの?」

 シャーリーが首を傾げる。 ルッキーニが文句を言う。 ミーナとオレは顔を見合わせる。
 ストライカーユニットの起動自体はシンプルなものだ。 足を突っ込んで魔力叩き込む、以上。
 というかそうでなければオレなんぞに扱えるわけもない。 知識の無かったオレや芳佳でも起動は問題なく出来る安心設計です。
 エーリカ達が問題なく起動できたのも、Me262と旧来のユニットのその辺に大きな差は無いという証左になる。
 配線ミスとかかなぁ……カールスラントの整備員のみなさん、怠慢だよ怠慢。

「どう……する?」
「なんかのミス……かなぁ。 でも、これ整備してるのってカールスラントの奴らだろ?」
「ええ、そうよ」
「だったら整備ミスってのは、にわかには信じがたいなぁ……でも起動しないし……うーん」

 信頼されてますねカールスラントの技術力。 オレ速攻疑っちゃったけど。
 装甲板開いて、中を見せて貰えば解るかも知れないけど、と続けるシャーリーさん。
 流石にそれはミーナさんが困りながら却下してる。
 シャーリーも無理だって解ってたんだろう、ゴネたりせずにどうしたものかと首を捻っていた。

「もう一機……予備機……そっちで……やって、見る?」
「そうするか。 まぁ仮に故障部分が有るとして、飛べないのならそれでよかったよ。
 飛んでる最中に不具合が起きるのが一番怖いからね」
「そうね、じゃあ、ええと、予備機の方は……」

 そう言って、他のユニットが駐機されてる懸架台の方を見やるミーナさん。
 つられてそちらの方を見るオレ。 何とはなしに、空の懸架台の数を数えてしまう……あれ?

「……四機」 
「ん、どうかしたのか、ヴィルヘルミナ?」
「ん……今、空に上がってるのって……」
「ああ、少佐達だけど?」

 美緒さんたち……だよな。 三機じゃねーの?
 ああ、いや、美緒さんの指導、基本はロッテ-シュバルム戦術に基づいた奴だから四機でいいんだよな。
 三機だと一人あぶれるし……あれ、でも。 こういうのに大体付き合ってるペリーヌって確か。

 格納庫の外、積み上げられた木箱に持たれかかりながら空を見上げる人影。 ペリーヌはそこに居て。
 ……って、事は。 まさか。

「美緒と宮藤さんたちと、トゥルーデが今上がってるけど……どうかしたの?」

 美緒の提案で、芳佳とバルクホルンでロッテを組んで飛んでいる、等ととんでもない事実を口にするミーナさん。
 バルクホルンと芳佳がペア組んで飛んでるだと……やべぇ、今日か、ネウロイ!?

「今日……だった?」
「え、何?」

 懸架台で遊んでいて傍に居たためか、エンジン音にかき消されかけていたオレの呟きが聞こえたらしいルッキーニが問いかけてくる。
 が、すまん、ちょっと相手に出来るほど余裕ないわ。
 手で何でもない、と合図を送ってから懸架台のロックを解除。 格納庫の床に降り立つ。
 ストライカーを履いていてよかった。 スクランブル発進なんて事になったら、準備に時間のかかるオレは確実に置いていかれる。

 予備機の懸架台を探しているミーナに、バルクホルンと連絡をつけてもらう為に近づいて。
 そして、時間切れを告げる警報の音が鳴り響いた。


****** 
 
 体に染み付いた経験が、意思よりも早く体を動かす。 いつの間にか切り替わっている思考のスイッチ。
 そんなまさか、と思う暇も無くミーナは格納庫の壁に備え付けてある通話機に駆け寄った。
 毟り取るように受話器を引ったくり、指揮所へと連絡を取る。

 約5分前、ガリア上空のネウロイの巣から、大型のネウロイが出現、ブリタニア方面へと侵攻中。
 出現直後のため、最終目的地は定かではない。
 しかし、これまでのパターンに照らし合わせると、高確率でブリタニア首都、ロンドンへと向かう模様。 

 誤報であって欲しいとの期待は、耳に聞こえてくる報告が何時もどおり容易に押し流してくれる。
 ネウロイに関する事象で、彼女の望み通りになってくれた事など両手で数えられるほどしかないのだ。
 はしたないと思いつつも、誰も見ていないのを良いことに舌打ちをしてしまう。
 誰が責めることも無かろうが、指揮官である以上、不快感や不安は出来るだけ表に出してはいけない。
 そう、自分に言い聞かせていた。

 通信機越しで、ミーナの指示を待っている気配。
 受話器を耳に当てたまま、情報整理、作戦立案、討議、その全てを瞬き一つのうちに行い、決断。
 幸いな事に今、空には美緒たちが上がっている。
 芳佳とリネットも良い感じに仕上がってきているとの報告もあり、特に芳佳はこの辺でちゃんとした形の初陣を経験させてもいいと判断。
 トゥルーデのコンディションが気になるが――ここは自分が出ればいい。
 彼女のことをよく知っている自分なら、いざという時のフォローも上手く出来るはず。

 これで五機。 定数には一機足りない。
 視線を走らせるミーナの目に、まず最初に映ったのはシャーリーだ。
 それに気づいたシャーリーは頷いて。

「中佐、いけるよ……って、うわっ、脱げないっ!?」

 Me262から足を引き抜けずにつんのめっていた。

「くそっ、おい、ルッキーニ、引っ張ってくれ!」
「わかった!」
「いいえ、イェーガー大尉、貴女はルッキーニ少尉と残って、残留組の指揮をとって」

 Me262を脱ぐときにも若干時間がかかる事はミーナ自身も経験してわかっていた。
 予定外の侵攻の、予想外の早期察知が出来たことは不幸中の幸いである。 前回の陽動と奇襲から、警戒度を上げていたのが功を奏した。
 何時もどおりなら洋上迎撃になるのだが、出来ることなら地面のあるところで迎撃したい。
 そして、報告された敵の予想巡航速度から、今回はそれが可能であるとミーナは判断した。
 撃墜される気も、させる気も全く無い。 しかしそれでもリスクコントロールは指揮官の役目。

 それに、シャーリーは先日大尉になったばかりだが、これは辞令が遅れに遅れていただけに過ぎない。
 トゥルーデやペリーヌは彼女のいい加減さを気に入っていないようだったが。
 ミーナは彼女の本質的な面倒見のよさ、場の雰囲気を重視する所、そして時折見せるドライな側面を信頼している。

「……了解。 ルッキーニ、手伝わなくて良い。 とりあえず先に戻って、エイラとエーリカ、起きてたらサーニャを呼んどいてくれ」
「わかった!」
「サーニャは無理に起こさなくてもいい。 多分使えないだろうし、四人居ればなんとか体裁は整うから」

 基地内へと駆けて行くルッキーニを見送ってから、シャーリーは再びMe262から足を引き抜く努力を始めた。
 その姿を見たミーナは、自分の判断は間違っていないと確信。 次に格納庫の外を見る。
 こちらに駆け寄ってくるペリーヌの強い視線に、頷きを返した。
 ペリーヌがそのまま走る方向を微調整して、VG39――彼女のストライカーユニットの懸架台に向かうのを確認。
 保持したままの受話器に向かって必要事項を連絡する。

「ロンドンの防空隊に念のため連絡……もうしてくれた? 流石ね。 後は……ブリタニア海軍に連絡。
 大丈夫だとは思うけれど、前回の轍を踏まないように洋上の警戒は必要以上に密にしてもらうよう、要請してもらえるかしら。
 ……ありがとう。 これよりウィッチーズ隊は迎撃に出ます。 現在訓練飛行を行っている四機に加え、私とクロステルマン中尉の六機が――」
「……ミーナ」

 警報の音にまぎれて気づかなかった、叫び声のようなエンジン音。 それにかき消されるような、重い金属がこすれあう音。
 そして、そのどれにも負けない存在感を持った、淡々とした声がミーナの耳朶を打つ。

 Me262を履き、MG42とMk108を背負い、バッグを肩がけにして、腰のラッチにウォーハンマーを据え付けたヴィルヘルミナが目の前に居た。
 二人の視線が絡まりあう。
 一寸の逡巡も無くミーナはプランを修正、一瞬中断されていた言葉の羅列を再開。

「――私とクロステルマン中尉、バッツ中尉の七機が出撃します。
 残留部隊の指揮はイェーガー大尉に委任、基地防空の指示は彼女に仰いで」

 了解、御武運を。
 最後に聞こえたその言葉をしっかり受け取ってから、受話器を戻して。
 自分のストライカーユニットへと駆け寄っていく。
 ――まだ、日は高い。
 
 
******


 風を切る音と魔道エンジンの音がイヤホン越しに鼓膜を叩く。 
 編隊飛行。 眼下には二列縦隊を取っている皆の姿が見えた。
 使い魔情報によると――針をくるくる回すその回数を数えた。 ちょっと目が回った――みんなは高度16000フィート辺りを飛んでるらしい。
 オレはさらに上、18000フィート辺りを飛んでいる。 やはり、加速に高度を利用しろ、という事なのだろう。
 ミーナさんの指示。 試用のお陰か高度の指示に前回のように淀みが無かった。
 敵はなんか15000を侵攻中らしいから……うん、基本的に戦いは上を取ったほうが有利だからな。
 結局オレなんてゲームの経験しか判断基準が無い。
 きちんと勉強したミーナさんの自信ありげな指示は安心する。 ありがたい事です。
 
 前衛はバルクホルンとペリーヌ。 中衛として美緒さんと芳佳。 後衛にミーナとリネット。
 さらにその下には、昨日見たと思しき森林地帯が広がっている。
 すでに、大陸上空だ。
 
『最近奴らの出現サイクルにはブレが多いな』
『カールスラント領で何か動きが有ったらしいけど……』

 美緒さんの苦々しげな呟きにミーナさんが応える。
 今まで当たり前のように通じていた予測が通じないんだ、そりゃ嫌だろう。
 準備に利用できる時間が解ってるのと解らないのとでは、色々大きく違ってくるだろうしな。
 その点、オレはある程度は解るはずなんだ……今回みたいに直前まで気づかないのは駄目だろ。
 くそ、何やってんだよオレは……気まずいとか言って避けてる場合じゃなかっただろうに。

『カールスラント……』

 バルクホルンの呟きは、切り裂いていく風の音に消えそうで。 しかし、イヤホンははっきりとその音を拾う。

『どうかしたか、バルクホルン』
『いや……なんでもない』

 何でもない訳、無いだろ。 だが、ここでオレが何か言ってバルクホルンに通じるのか?
 ……解らない、分の悪い賭けだ。 戦いは避けられなくて、バルクホルンのメンタルは多分最悪だろう。
 これ以上オレが何か言って余計悪化させたら目も当てられない。
 頭の痛い問題だ……う、本当に少し頭痛くなってきた。

 ……ロジカルに考えろ。
 最低条件は、誰も傷つかないことだ。 バルクホルンの心情は二の次でいい。
 安全なところでそれこそ殴り合いでもして解決すれば良いんだ。 
 とりあえず、此処を乗り切るにはどうすれば良いか? アニメのことを思い出せ、その通りに行くとは思わないが、参考くらいにはなる。
 ……確かあれは、ペリーヌがミスって、バルクホルンにぶつかったのがいけない……はずだ。
 あれさえなければ、バルクホルンだって腐ってもエースだ。 気分が悪かろうが全力のオレよりよっぽど上手く飛ぶだろう。

「……芳佳」
『はい?』

 ペリーヌ一人に何か言っても恣意的過ぎる。 とりあえず、宮藤を利用して、さり気なさを装わせてもらうことにする。
 芳佳はきちんとした編隊戦闘は今回が初めてのはずだし、何か言ってもおかしくは無いだろ。
 ……ああ、オレも今回が初めてだけど、どうせMe262のトップスピードじゃ編隊戦闘とか無理だから気にしない方向で行く。

「……大丈夫、前回より……楽だから」
『え?』
『おいおい中尉、楽観するのは良くないな』

 よし、美緒さんも乗ってきた。

「美緒少佐も……バルクホルンも……ミーナも……みんな、居る……から」
『味方を過大評価するのは良くないが……ふむ。 確か、前回は二人で後の無い状況を守り抜いたんだったな』
『ええ、そうね……本当に、よくやってくれたと思うわ。
 ヴィルヘルミナさんは、今回は皆が居るからあの時ほど緊張しないでいいって言いたいのよね?』
「……そう……」

 まぁ概ねそんな感じですミーナさん。 流石指揮官組だね、きちんと意図を汲んでくれる。
 どうせ表層的な意図だがありがたい事に変わりはない。
 今はバルクホルンのことが一番気になってはいるが、芳佳やリネットに限らず、皆無事で終わらせらることが出来れば良いと思ってるし。

『ありがとうヴィルヘルミナちゃん。 私、大丈夫だからっ!』
『芳佳ちゃん、私もちゃんと援護するからね』
『うん、よろしくね、リーネちゃん!』
『必要以上に気を張る必要は無いが、実戦では一瞬の判断が必要とされる。 気を抜くなよ』
『『はい!』』

 短期間でびっくりするほど仲よくなってんなお前等。 いや、女の子ならこんなもんか。
 さて、本題だ。

「ペリーヌも……無茶……」
『……言われずとも解っておりますわ。 宮藤さん達とは違うんですのよ』
『バッツ……お前は他人よりも自分の心配をしていろ』

 バルクホルンに怒られた……だが、これでいい。 というか、これしか出来ない。
 何か気をつけるように言われたって事だけ覚えていれば良い。
 行動判断のプロセスに少しでも引っかかってくれれば、それだけで少しは気をつけてくれるだろう。 

『よーしお前達、お喋りはそこまでだ……敵機発見、一時の方向、高度は予想通りこちらより下……距離約12000、大きいぞ』

 美緒さんの魔眼がネウロイを見つける。
 っていうか12キロ離れた相手見つけるとか本当半端無いな……視力20.0以上ありそうだ。
 まぁ魔法なんだけれども。

『バッツ中尉、先行して敵の進行速度の低減と注意を引き付けて頂戴。 ……出来るわね?』
「……ん」

 ミーナさんの指示。
 出来るわね? とか聞いてくるが拒否権なんて無いですよねー。
 前に話し合った、先行して誘引、本隊が奇襲を行いやすくする……ってアレですね。
 単機で行かなけりゃならないのがかなり怖いが、大丈夫のはず。
 どうせすぐに皆も追いついてくれる。 たった数分から数十秒耐えればいいだけの話だ。

 身体を傾けて軟下降、同時に抑えていたエンジンの回転数を上げる。
 風の音が強くなったことと、眼下に見えていた皆の姿が後ろに流れていくことで加速を実感。
 オーケー、スイッチ切り替えるぜ、オレ。
 要らない無茶はしない、皆を生かして帰る。
 それだけを考えれば良い。

 空を翔ける。

 対照物の無い高空では、自分の速度を理解し辛い。
 だけど、生身に近い状態で空を飛ぶオレは、身体を撫でていく風の強さでそれを実感できる。
 青い空に、黒点がポツリと一つ――ネウロイだ。

 背中のMk108を引っ張り出す。 弾種は何時もの薄殻榴弾。
 ストックを肩に当て砲口を進行方向に向ける。
 射撃体勢を整えた瞬間、ネウロイが赤く光った。
 ……反応早いな!

「……ッ、く」

 一瞬で光度を増す赤光を見て体が震える。 ……おいおい、一度撃ち落されかけたくらいでビビってんじゃねーよオレ。
 これから何万発もこの隙間をかいくぐって行かなきゃならないんだ、ビビッて泣きじゃくるのは当たって死ぬ時に取っとこうぜ?

 ……だが、うん、怖いものは怖い。 チキンだな、とは思いつつもシールドを展開しながらロール、身体を横に流す。
 神経を逆撫でする物凄い音を立てて、数秒前までオレがいた空間を無数のビームがなぎ払っていった。
 流石にこの距離だと当てて来る気は無いよな。 牽制のつもりか。
 
 そう思っている間にも、ネウロイの大きさは視界の中でどんどん大きくなっていく。
 まるでロケットのような姿に、先端近くにプロペラのような長大な翼が三枚。
 その三枚の翼を回転させながら悠々とその巨体を此方に進めるネウロイ。
 ハロー、トリープフリューゲル……だっけか?
 こんにちは、そしてもうすぐさようなら、だ。 オレが耐えられればの話だが、当然耐えさせてもらうしな。

 ビームの冷却だかインターバル中なのか、あるいはこっちが一機なのを確認して侮っているのか。
 どうでも良い。 隙を見せたらぶん殴る、それが喧嘩の鉄則。
 射撃姿勢は整っている。 ならやることは一つ。

 交差する瞬間。
 トリガー。
 慣れ始めた爆音と衝撃が耳と肩を叩いて、弾丸が吐き出されていく。
 相手が如何に巨体だろうと、相対速度は速く、交差は一瞬だ。
 至近距離なのにトリガー引くタイミングをミスって何発か外したが、ネウロイの表面が爆発に焼き払われる。
 黒い装甲が砕け散って白く輝くその中を突っ切った。

 ネウロイの絶叫が響く。

 ほれみろ、油断してるからそうなるんだぜ。
 ちらと後ろを見てみれば、その全身の赤い六角形――ビーム砲座を、さらに真っ赤に輝かせるネウロイ。
 うげ、やべ、旋回――は無理だから落ちる!
 
 身体を傾ける。 Mk108の軽量化を中断するのと同時に質量を増幅。
 揚力が死に、身体は即座に質量と重力に引かれて下降。
 直後、今度はコンマ数秒の誤差でビームが大気だけを撃ち貫いていく。
 ひぎぃ、とか言いたくなる嫌な匂い。 大気が焼ける匂いなんて嗅ぎたくない。

 下降する身体を持ち直して、相手のビームのインターバル中に旋回軌道に乗る。
 基本的に水平方向か垂直方向に移動する物体には、点の攻撃である射撃は命中させ辛い。
 そもそもの火点の多さのお陰で面制圧射撃になってたり、偏差射撃でどうにかなるのだが。
 レシプロ戦闘脚に慣れてるお前らにはオレの速さは厳しいはず。

 体重とユニットの軽量化。 最小限の速度ロスで高度を奪い返す。
 ネウロイは機首を持ち上げ、空中で直立。 全方位に自在にビームを放てる体勢だ。
 動きは止まり、一度に照射できるビームの本数は減ってしまう。
 しかし、相手がどの方向に居ようと迎撃できる――つまり、腰をすえて殴りあう姿勢。
 オレは圧倒的な優速で相手の周囲を旋回。

 敵の侵攻を止めるという第一目標は達成。
 後は美緒さんたちを待つだけである……が、此処に来て厳しくなってきた。
 腰溜めにしたMk108を適当にぶっ放すが、慣性のお陰か全然当たらない。
 ジャイロ付きの照準器とか欲しいです。

 そして一度に飛んでくる本数は減ったが、間断なく飛んでくるビームの束。
 ネウロイの周囲を周回中なので、必然的に相手の迎撃能力を発揮させてしまう。
 速度と上下移動のお陰で当たってないが、だんだん至近弾が増えてきた……って、ゲェ!

 シールド展開。 数回の衝撃がオレの身体を揺さぶって、最後の一発でシールドがはじけ飛んだ。
 シールドで逸れたのか、あるいは最初から直撃はしないコースだったのか、オレの右腕上方数十センチの距離を突き抜けていく光線。
 相変わらずオレのシールド脆いな! ちょっと漏らしそうになったよ!

『ヴィルヘルミナ、上昇をかけろ!』

 インカムから美緒さんの声。 随分久しぶりに聞いた気がする、なんて思いながらも逡巡する前に従う。 
 いくら重量を軽減できるからって、上昇するには速度を犠牲にしなきゃいけない。
 だから加速の弱いMe262で急上昇なんてしたくは無い――のだが、美緒さんが言うなら、理由はあるはずだ。
 自分の事を犠牲にしたがるきらいのある人だが、その経験は偽りじゃないはず。 

 相手の周囲を螺旋を描きながら急上昇。 相手より上にあるということは、相手の全貌を見渡せるということで。
 それは同時に、多くの火点の射角に入っていくことになる。
 今までの優に四倍を超える数の光がオレに狙いを定めて。
 
 ――ネウロイの側面が破裂した。 それも、二回。
 うひょう……この威力はリネットか! 
 金属をかきむしるような音が響き渡り、ぱっと見百条を優に超える数のビームが放たれるがその多くは見当はずれな空間を薙いで行った。
 至近弾は、余裕を持ってシールドで防ぐ。 流石に一発や二発じゃ貫通されなかった。 ……貫通されなかったの初めてじゃね?

『ヴィルヘルミナさん、大丈夫ですかっ!』
「……リネット……ありがと」
『バルクホルン隊、突入。 坂本少佐、援護をお願い。 リーネさんは私の指示に従って』

 ミーナさんの指示。 各員の了解の言葉がインカム内を駆け抜ける。
 ようやっと来たか……一時間くらい一人で戦ってた気がする。

『よくやったな、ヴィルヘルミナ。 少し離れて体勢を整えて来い』
「……了解」

 美緒さんの言葉にそう返して。 やっと小休止か……ふう、緊張したぜ。
 一旦距離をとるため、大きな旋回軌道を取る。 そのお陰で、皆の戦いの様子が良く見えた。

 ペリーヌを引き連れたバルクホルンがアホみたいに鋭い軌跡を描いて接近。
 リネットの作り上げた傷を二丁のMG42とブレンMk1が抉りぬく。
 それに気を取られたネウロイが即座に離脱しようとする二人にビームを放ち始めれば、別方向から接近した美緒さんと芳佳が追撃を加えた。
 ネウロイは離れていくバルクホルンたちに向けていた火線を緩め、至近に居る美緒さんたちに火力を集中しようとする。
 しかし今度はミーナの指示を受けたリネットが二人に一番近いビーム照射部、そして最初の傷を撃ち抜いた。
 痛手に悲鳴を上げるネウロイが自己修復に意識を向ければ、必然的に対空砲火は薄くなる。
 すでに切り返してきていたバルクホルン組が再接近。
 離脱を開始していた坂本組はその速度を緩め、さらなる攻撃を加える。

 おお……すげぇ、ネウロイがフルボッコだな。  これ、オレ要らないんじゃね?
 ……いや、そんな事無いか。 美緒さんも言ってただろう、味方を過大評価するなって。
 空になっていたMk108の弾倉を交換。 空の弾倉をバッグに仕舞うついでに、水筒を取り出して水分補給。
 気づけば、随分と汗もかいていた。 ……半分以上冷や汗だな。

 初撃が一方的だったこともあり、戦闘のイニシアチブはこちらが握っているように見える。
 このまま何事も無く終わってくれればいい……んだが。


******

「く、速い……わたくしが着いていけないなんて……ッ」

 凄まじい機動と、雷光のような切り返しで間断なく連続攻撃を仕掛けるトゥルーデ。 その僚機、ペリーヌは無意識にそう口走る。
 本音を言えば、増長していた。 自分はまだまだ未熟だと自戒する。

 ペリーヌはトゥルーデと組む事はあまりなかった。
 何時もは一歩離れたところからトゥルーデとエーリカのロッテを眺めていて。
 緩急の付いた流水のような攻撃と、流麗な機動、息の合った連携は素晴らしいと認めていたし。
 その境地に――出来うるならば美緒と共に――近づきたいと思っていた。
 同時に、自分ならばトゥルーデ、あるいはエーリカに着いて行くことも可能だと信じていた。
 その為の努力は常日頃から当然していたし、彼女は自身の才能を微塵も疑っては居ない。

 だが、それはとんでもない思い違いだったと思い知る。
 あるいは、僚機であるエーリカの地上でのあまりのだらしなさに、知らず侮っていたのだろう。
 緩急の付いた流水のような? まさか。 まるで吹き荒れる嵐だ。
 流麗? とんでもない。 全ての動きが次の、その次の、そのまた次の攻勢の為に計算された攻勢。
 連携など望むべくも無い。 着いていくだけで。 いや、先ほど自分で言ったとおり、着いていくことすら難しい。
 なまじ理解出来てしまうが故に、合わせようとしてしまう。 それが余計にペリーヌの心身に負担をかける。

 それでも。 喰らい着いていく。
 美緒は、ペリーヌが全幅の信頼を寄せる上官は、トゥルーデと組めと言った。
 それはつまり。
 ペリーヌならばトゥルーデの――この化け物のような戦闘機動を行うカールスラント・ウィッチの僚機に相応しいと言っているのだ。
 評価をされていることは嬉しいし、その期待に応えたいとも思う。
 だがやはり、出来ることならば美緒と共に飛びたい。
 美緒が何故か目をかけている小娘、芳佳を押しのけて彼女の後ろを飛びたいのだ。

 何回目かも解らぬ離脱。 回数を数えることに意識をまわす余裕は無かった。
 本来なら神経をすり減らす至近戦から逃れ、追撃のビームを避けながら一瞬でも息がつける瞬間。
 しかし、長機であるトゥルーデはすでにターンを開始している。
 今から同じ軌道でターンしていたのでは置いていかれる。
 幸い、トゥルーデのターンは何度も見たことがあるため、アプローチ位置の予測は出来なくもない。
 そこに合わせる。
 
 彼我の位置を確認するため、ネウロイに視線を向けて。
 砲座の一つに攻撃を仕掛けている二人組の姿が見えた。

「あの豆狸……ッ、坂本少佐と一緒に!」

 芳佳を引き連れて攻撃を行っている美緒の動きは、何時もより鈍く、あるいは単純に見えて。
 あきらかに、僚機である芳佳に遠慮しているのが見て取れた。
 美緒の隣に自分ではない、ただ同郷というだけのぽっと出の新参が居る。
 美緒の僚機が自分ならば、あのように遠慮した動きはさせないはずなのに。
 その事実と自負が、疲労したペリーヌの頭に血を上らせていく。

 無茶はしないで――ヴィルヘルミナが言った言葉。
 これから行うことは無茶なんかではない、自分の能力の範疇で。
 ネウロイは憎き敵であり、容赦や余裕など見せる必要は無い。
 何より、ヴィルヘルミナ自身、無茶をしてばかりではないか。
 そのような人間の言うことは聞けないし、あの中尉は目上に対する敬意が足りない。

 訓練でしかやった事のない、45度以下の鋭角ターン。
 ストライカーの出力に物を言わせて、強引に速度を保つ。
 雲と思しき白い塊が一瞬で通り過ぎて。 漆黒の塔にも似たネウロイがペリーヌの視界に飛び込んだ。
 完成直前でガリアが陥落したために、海を越えたブリタニアで生を吹き込まれた愛機、VG39の魔道エンジンが唸りを上げる。
 前進。
 狭まっていく視界の隅、ペリーヌはトゥルーデが飛び込んでいくのを確認。
 予想通りの位置。
 大丈夫、自分はやれる。 それを、美緒に、芳佳に見せつけてやる。

 ミーナが何かを言っているのがペリーヌの耳に届くが、意識を回している余裕はない。
 ネウロイから放たれた光の隙間を縫うようにして接近。
 バルクホルンが射撃するのに合わせて、その周辺に弾丸を叩き込んだ。
 目の前の赤い六角形の集合体、ビーム砲座が光を帯び、即座に砕け散って煙と悲鳴を噴き上げる。
 確認するまでもなく、リネットの援護射撃。
 流石ミーナ中佐、と内心で感謝しながらペリーヌはバルクホルンとは別方向に機を流した。

 各所から煙を上げるネウロイ。
 最後のあがきとばかりに、生きている照射部から赤光を数を頼りに乱射する。
 あと少し。 攻勢を乗り切れば、その後には必ず隙が出来る。
 波状攻撃は数によって行われる物であり。
 膨大な火力を誇るネウロイとはいえ、単機で後先考えずビームを乱射しすぎれば息切れをするのは解っていた。
 その間に、美緒が魔眼でコアの位置特定を行えば勝てる。
 誰もがそう思い、シールドを展開しながら若干距離を取る中。

『ちっ……バルクホルン! 焦るな、近づきすぎだ!』
『トゥルーデ、前に出すぎよ!』

 攻撃の手を緩めようとしないバルクホルンに、美緒とミーナが警告を投げつける。
 ペリーヌにもそれは聞こえていたし、そうするべきだとも思った。
 手負いの獣が暴れているその側に、わざわざ近寄る愚を犯す必要はない。
 だが、彼女の長機は前に進む。 ならば、そうせざるを得ない。
 前に出ている彼女も、ペリーヌが付いてこれると。 そう判断しているはずなのだから。

『バルクホルン大尉……ッ』
 
 悲鳴じみた声を絞り出しつつも、答えはなく。
 その後に必至に付いていく事しかペリーヌには出来ない。
 赤い灼熱が先行するトゥルーデの、そしてペリーヌの周囲を焼き払って。
 その熱さにたまらず瞬きした瞬間――前触れ無くトゥルーデが横に滑った。

「――ッ!?」

 ペリーヌの眼前が赤く染まる。
 その光量に反射的に瞼が閉じられるのと、無意識の、そして使い魔の反応がシールドを編むのは同時だ。 
 防御陣の展開に必要な集中も時間も不十分。
 目を閉じていたのが幸いしてか、ビームに対して角度の付いたシールド。
 貫通されず、しかし衝撃を殺しきれない。
 ペリーヌは大きくはじき飛ばされ――その先にはトゥルーデの背中が。

「きゃっ!?」
「ぐぁっ!?」 

 小さな二つの悲鳴。
 支えのない空中、運動エネルギーの多くはトゥルーデへと伝わる。
 旋回中だった彼女はそれを支えきれない。 そのまま姿勢を大きく崩す。
 今日初めての、大きな、そして致命的な隙。

 ネウロイは脅威を排除する機会を見逃さない。
 一番の痛打を与えているのはリネットの対戦車ライフルによる狙撃だが。
 その傷を抉り、広げ、それ以上に多くの弾丸を放っているのはトゥルーデだ。

 気付いたトゥルーデがシールドを張るが、その守りはあまりにも遅く、薄く、小さい。
 空に出鱈目な放射模様を描いていた赤い光が一転、トゥルーデへと向けられる。
 その数48閃。
 シールドに守られていないウィッチなどユニットごと蒸発させてあまりある熱量が迫り。
 
「…………!」

 声にならない叫びを上げて直上から落下してきたヴィルヘルミナに押し出された。
 爆発が起こり、二人の人影が煙の中から吐き出される。
 一人は一瞬ふらついたもののなんとか持ち直し、離脱軌道を取る。
 しかしもう一人は――バルクホルンは体勢を回復させる様子がない。 そのまま重力に引かれて落ちていく。
 
『大尉!』
『ヴィルヘルミナちゃん……バルクホルンさん!』

 先の一撃が息継ぎ前の最後の攻撃だったのか、ネウロイから放たれる光の数が大幅に減少する。
 その隙間を縫って、ペリーヌと芳佳がバルクホルンの後を追った。
 二人の姿が小さくなって、森へと消えていく。


******

 糞ったらぁ! 痛い! 痛すぎる!
 顔とか左手とか下腹部とか痛すぎるんだよ!
 痛すぎて意識遠のいたし。
 とりあえずネウロイから少し距離をとって水平飛行。

 制服とシールドを突き破って左腕に半ば刺さった小さな金属片が二、三。
 フリーになった右手で摘み抜いてそのまま捨てる。
 左頬もなんか痛いから触ってみたら切れてた。
 まぁこっちは火傷で元々見れたもんじゃなかったからいい。

 なんであの砲火の中突っ込んだりするんだよバルクホルンの野郎、もとい女郎。
 アニメの万倍分厚い弾幕だったよ!
 馬鹿なの? 死ぬの? っていうかオレごと死にかけたよ!

 危ないと思った瞬間、体が動いていて。
 直上から落下して、そのうえ自分の体重軽くして、質量増やしたMk108を踏み台にしてギリギリ。
 Mk108を捨てるのは最後の瞬間の思い付きだったけど……やらなかったと思うとぞっとする。
 たぶん今頃バルクホルンと一緒に仲良く蒸発していた事だろう。

『トゥルーデ……! く、宮藤さん、バルクホルン大尉は……』
『爆発で、金属片が……出血が多いです、動かすのは無理です!』

 ミーナさんの悲鳴のような問いかけに芳佳が答える。
 ここで治療しなくちゃ、という言葉に、泣きそうなペリーヌの懇願の声が続いた。
 金属片……オレと一緒か。
 時速900km超えでバルクホルンに体当たりをかけたら流石にお互い無事じゃないのは分かってた。
 だから、バルクホルンが張ったシールドにオレのシールドを当てる感じでぶつかった。

 結果として、バルクホルンもオレもビームの射線からはなんとか外れたんだが……
 ビームにうまいこと弾倉部を焼かれたMk108が爆発して、その破片をモロに浴びる事になったわけだ。
 オレのシールドはなんとか残ってたけど……バルクホルンのシールドは無理だったか、角度が悪かったか。
 というかそのおかげで結局バルクホルンに怪我させちまったとか……糞、最悪だ。

 歯軋りの音がイヤホン越しに響く。 美緒さんだ。

『ヴィルヘルミナ、お前は無事か!』

 大丈夫なはず。 どうせ腹痛なんてたいしたこと無い。
 手を持って行く。 制服越しに下腹部をまさぐって。
 ……え?

「…………」

 掌に、ぐちゅり、と湿っぽい感触。 手を眼前に持ってくる。
 破片を抜き取ったり、頬の傷をなぞったりした時とは違う量の赤い液体が付着していた。
 血だ。 誰の?
 ――不味い。 自覚するな。 理解するな。
 そう思っても、頭は勝手に疑問を解決していく。
 
 これが自分から流れ出た物だと理解した次の瞬間、腹の内側から、激痛が。
 くぁ――なんだ、これ、内臓系の痛みだぞ……ッ!?
 ヤバイ、ヤバイ、苦しい。 傷つけちゃいけない部位っぽい!

『どうした! ヴィルヘルミナ中尉!』
 
 美緒さんの声がやたら遠くから聞こえる気がする。
 興奮していた頭が一瞬にして零下まで冷え切った。
 一気に血の気が引いて、肌寒さすら感じてきて。
 そのくせ、脂汗が全身を濡らしていく。
 だけど。

「……大丈夫」
『そうか……また暴れだすのかと心配したぞ。
 ――よし、宮藤はそのままバルクホルンの治療を、ペリーヌはその護衛に当たれ。
 それで良いな、ミーナ?』
『……ッ、ええ』

 美緒さんとミーナのやり取り。
 リネットは時間稼ぎの牽制を行っているのだろう。
 彼女の対戦車ライフルの音が断続的に、遠雷のように聞こえてくる。
 今、空に居るのはこの三人。
 一瞬にして部隊の半数が居なくなったんだ、このままだと下手すれば瓦解する。
 意識があって。 とりあえずもうしばらくは満足に動けるはずのオレ。
 そして、この戦いをさっさと終わらせれば終わらせるほど、オレの生存率は高くなる。

 怖い。 歯の根が鳴る。
 骨折とかそう言うレベルの比ではない、死が近いという恐怖。

 ハ、なぁに……簡単な事じゃないか。
 美緒さんが魔眼でコアの位置特定して、誰かがを狙い撃ちするまで飛んでりゃ良いんだ……楽勝楽勝。
 銃もまだある。 ハンマーだってある……行ける行ける!
 男の子だからな、見栄の一つや二つきったってバチはあたらん!

 震える奥歯をかみ締めて無理矢理押さえ込んで。
 息継ぎを終えようとしているネウロイを視界に納める。
 てめぇ、よくもオレの命の恩人蒸発させてくれる所だったな……
 今から万倍にして返してもらうからな、覚悟しておけよ……!


******

 暖かい力が流れ込んでくる。 その感触で目が覚めた。
 身を捩ろうとして、腹部に激痛が走る。

「ぅく……っ」
「バルクホルンさん、気が尽きましたか! 今、治しますから」

 うめく私に応える声。
 霞んでいた視界が焦点を結び、私を覗き込んでいる少女を映し出す、
 ――宮藤芳佳。 何処か妹のクリスに似た、坂本少佐が扶桑からつれてきたウィッチ。
 不安そうに私を覗き込みながら、治癒魔法をかけてくれていて。
 その向こうでは、ペリーヌが降り注ぐネウロイの攻撃をシールドで防いでいる。
 
 その姿を見て、身勝手ながらも安堵を覚えた。
 よかった……ペリーヌ、無事だったのだな。
 私の無茶につき合わせて、悪い事をした……

「大丈夫です、さっき一番大きな破片は抜きましたから……あとは魔法で」
「離れろ……」
「え?」
「私に張り付いていては……お前たちも危険だ。 だから、離れろ」

 眉をひそめる宮藤にそう指示する。
 ウィッチは脆い。 シールドが有るとはいえ、私たちにとって基本的に攻撃は避けるものだ。
 私に構って、動かないでいたらいい的だ。 遅かれ早かれやられてしまう。

「私なんかに構うな……その力を、敵に使え」

 こんな……こんなミスで落ちるような私の為に、力を、戦力を割く必要など無い。
 ペリーヌはあんな無茶な動きをした私に合わせてくれるほど優秀なウィッチだ。
 宮藤も、未熟とはいえ坂本少佐によく鍛えられている。
 空ではまだ皆が戦っているのだ。 早くそっちにいって、これ以上被害を出さない為にも、戦って欲しい。

 私は、もういい。
 自分の身を危険にさらしてまで助けてくれたヴィルヘルミナには悪いが……
 無茶してばかりで……記憶を失っても馬鹿な奴だ。
 いくら勲章を貰ったってエースと呼ばれたって、私に成せる事などほとんど無いというのに。
 
「嫌です! 必ず助けます。 仲間じゃないですか」
「敵を倒せ……私の命など捨て駒で良いんだ」
「貴方が生きていれば、私なんかよりもっと、もっと大勢の人を守れます」

 ああ、そんな顔でそんな事を言うな、宮藤……もう、無理なんだ、私には。

「無理だ……皆を守ることなんて、できやしない……私は、たった一人でさえ」

 あの日、妹を、クリスを……一番大事な人さえ守り切れなかったその日に、思い知ってしまったんだ。
 私には何一つ守れない。 出来るのはただ、ネウロイを倒し続ける事だけだと。
 そして今、私はネウロイを倒す事すら満足に出来なくなってしまった。
 ――私にはもう、何も無い。

「もう、行け……私に、構うな」

 言葉を切り、目を閉じて。
 宮藤の疑問の声に耳を傾ける。

「何で……?」
「……」
「何で、バルクホルンさんも、ヴィルヘルミナちゃんも、諦めてるんですか……?」

 その言葉に、目を開ける。
 私が……諦めている。

「皆を守るなんて、無理かもしれません。 夢物語だっていうのも、わかります。
 それでも私、諦められません、見捨てられません。
 傷ついている人たちを、一人でも多くの人たちを守りたいんです。
 だって、きっと、私の力……私たちの力って、その為にあると思うから!」

 ああ……眩しい。
 なんて眩しいのだろうか、この子は。
 私が忘れていた物、無くしていた物を思い出させてくれる。
 坂本少佐が選んだのも、今なら理解できる。
 才能とか、血筋とか、そういったものじゃない。
 この子は……宮藤は、ウィッチとして一番大事なものを芯に持っている。 

「宮藤……」
「お願いです、バルクホルンさん……だから、もう行けなんて、悲しい事言わないでください」
「……わかった。 頼む」

 悲しそうだった顔が、一転して綻んで。
 その表情は、もう何年も見ていない妹の顔を思い出させた。 

 クリス……駄目な姉を許してくれ。 でも、もう忘れたりはしないから……
 私の力は、お前や宮藤、ウィッチーズの皆、そして一人でも多くの力のない人を守るために……!

「宮藤さん、早く……っ、もう、あまり持ちませんわよ……!」
「あと、少し……あと少しだから!」

 ペリーヌの苦悶に満ちた声に、宮藤が応える。
 見れば、宮藤の額には大粒の汗が光っていた。
 宮藤の限界も、ペリーヌの限界も近い。
 空では相変わらず黒い塔のようなネウロイが猛威を振るっていて。
 
 三枚の回転する翼の先端から光条が放たれる。
 塔の基部で一つにまとまったそれが、これまでに無いほどの輝きを見せて。
 それがヤツの主砲なのだと理解する。
 狙いは――私たち。

 頼む……誰か、誰でも良い。
 あと少しだけ、私たちに時間をください――



******

 ”それ”は少なくとも自身の存在が無駄に終わることはないと確信していた。
 自分の周囲を飛び回る羽虫のような存在――ウィッチ。
 ”それ”とその仲間にとっては天敵とも言える、絶大な戦闘力を発揮する脅威。
 戦闘開始後しばらくは良いように攻撃を受けていたが。
 破れかぶれで放った攻撃が功を奏した事が、”それ”を調子づかせていた。

 ウィッチは脅威であるが、”それ”は知っている。
 サイズ比を無視した絶大な性能を持つ代わりに、数が少ないのだ。
 金属資源さえあれば幾らでも増えることの可能な”それ”達との一番の違い。

 たとえ自身が壊されようと、その数を減ずることが出来るなら。
 それは決して無駄ではない。
 次の、次の次の、あるいはさらに次の”兄弟”達への礎となる。

 地上に降りたウィッチは三個体。
 撃墜された個体を回収に向かったのか、降り立った場所から動かない。
 動かないだけなら無視しても良かった――引き続き攻勢を仕掛けてくる方の優先度を上げるだけだ。
 しかし、そこから放たれた魔力の大きさに、”それ”は恐怖すると同時に幸運を感じた。
 
 ウィッチ達にはそもそも攻撃を当てるのが難しい。
 それが、動きを止めていて――そのうえ、位置まで知らせてくれている。
 好機。

 対空砲火に回していた熱線の何割かを地上に向ける。
 ピンポイントで狙うことは不可能だが、構わない。
 周囲の地形ごと吹き飛ばすつもりで火線の雨を降らせた。

 一向に消える気配のない巨大な魔力に焦りを覚えたものの、なんということはない。
 ビームによって視界の開け始めた空間には、シールドを張るウィッチの姿が認められた。
 相手の姿が見えてしまえば、後は簡単だ。
 全力で排除すればよい。
 
 三枚の回転翼の先端からエネルギーの照射、誘導。
 機体下部で収束、増幅。
 ”それ”の持つ最大の攻撃力。 命中精度も申し分ない。

 放つ直前。

「かぁぁぁああああッ!」

 急速に上方から接近する大きな魔力。
 地上で確認されている物ほどではないが、見過ごすには大きすぎた。
 咄嗟に注意をそちらに向ける。

 今日、一番最初に接敵したウィッチ。 規格外の速度で常に戦場を飛び回っていた個体。
 それが、青白い魔力の尾を引くT字型の金属塊を右手に急降下、投擲した。

 そのサイズから威力は低いと判断。 爆発物反応もない。
 速度も銃弾等とは比べるべくもない。
 致命的な損傷は受けないと判断。
 脅威度を低に設定。 主砲の発射シークエンスを継続。

 そして、その一撃が放たれようとする直前に。
 ”それ”は存在し始めてから初めて意識――そして巨体をを揺さぶられる衝撃を受けた。 
 重金属が同質の存在とぶつかり合い、打ち砕かれ、引き裂かれる音が響き渡る。
 爆発ではない。 最速の個体が最初に放っていった攻撃など比べるべくもない衝撃力。
 傾いた姿勢から放たれた主砲が見当違いの所に飛んでいく。

 先ほどの金属塊だ。
 サイズからは考えられないほどの巨大質量が装甲殻を砕き、内部構造まで到達している。
 即座に自己修復を試みて――失敗。
 魔力を良く帯びた金属塊が傷口に食い込み、再生を阻害している。
 同じ理由でその金属塊を取り込む試みも徒労に終わった。

 何よりも”それ”に再生を急がせた理由。
 重金属塊が砕いた装甲殻はコアの間近であった。
 自己修復阻害の効果はコアを守るべき部位にまで至っている。
 今、守りを剥がされたら、不味い。

「見つけた……ッ! コアはあの周辺だ! ヴィルヘルミナの槌を目印にしろ!」

 目を赤紫色に光らせたウィッチが何かを叫ぶ。
 その内容など、”それ”に理解できるはずもない。
 しかし、それが己の崩壊を招く言葉であろう事を。
 直後にウィッチ達の攻撃がコア周辺に集中しはじめたことで強制的に理解した。

 なりふり構わず弾幕を張る。 必至の抵抗もむなしく、コアが露出していく。
 もはや地上の事など構っては居られない。 第一に、地上の魔力反応は消失していた。
 後顧の憂い無く全火力を空中に傾ける。
 金属塊の魔力はすでに薄れはじめているのだ。
 倍に増やされた弾幕はウィッチ達の接近を許さない。
 あとほんの十数秒も耐えれば、装甲殻の修復を開始できる。
 そのはずだった。

 そのはず、だった。

 コアを、”それ”の心臓であり脳である部位を、未だ周辺に残る装甲殻ごと弾丸の嵐が削り取っていく。
 何処から、という疑問はすぐに晴れた。 
 下からだ――巨大な魔力が消えたことで注意を逸らした地上から、コアめがけて一直線に飛翔する矢。
 二丁の重機関銃を携え、その射撃音にも負けぬほどの叫び声を上げながら迫るそれは。
 一番最初に撃ち落としたはずのウィッチ。

 此処に来て、ようやくあの巨大な魔力が何をしていたかに気付いた”それ”の意識体は。
 しかしそれを何ら役立てることもなく。
 毎分1300発×2という狂気じみた破壊の奔流を受けて、粉微塵に吹き飛んだ。


******

 ネウロイが白く輝きながら砕けていく。
 ふ、う。 なんとかなった……バルクホルンもなんとか立ち直ったみたいだし。
 ……アニメ通りの展開なのが気にくわねえが……終わりよければ全て良し。
 しかしあのハンマー、全力で魔法突っ込んだらもの凄い重さになったが……投げた手首が痛い。

 痛いと言えば、腹も痛けりゃ頭も痛い……痛すぎて死ぬる。
 怖くてそんな激しい運動しなかったけど、別にモツとか出てないよね……?
 モツとか出たら痛くて動けないはずだ、よ、ね?
 
 おそるおそる手を下腹部に伸ばす。
 服の上からまさぐる。 相変わらず血でどろどろだが……ん?
 おかしい。 皮膚……ちがうな、表面的な痛みが一切、見あたらない。
 あれ、おいおい、まさかこれって――マジかよ。

 そのことを考えた途端。
 なにかが千切れる音と共に、オレの意識はブラックアウトした。


******

 雪のように砕け舞うネウロイの残骸の中、トゥルーデは空中に静止していた。
 まだ少し腹部が痛みを訴えるのを、これも罰だと思い甘んじて受ける。
 背後から誰かが近づいてくる。 聞き慣れた音だ。 ミーナのメッサーシャルフのエンジン音。

 トゥルーデの胸にあるのは感謝と、謝意。
 どのような事を言われようと仕方がない身、甘んじて受けよう。
 そう思い、振り返ろうとした彼女の耳に届いたのは、リネットの叫びだった。

『ヴィルヘルミナさん!?』

 ヴィルヘルミナ。
 あの瞬間、最後の数秒を稼いでくれた友の名。
 周囲を見回して――上から落ちてくる小柄な影。

「ヴィルヘルミナ!」

 飛び出す。 ミーナも慌てて後ろに付いてくる気配を感じた。
 落下速度を合わせて受け止めたその小さな身体は、驚くほど冷たくて。
 擦過傷のついた顔は蒼白で。
 衣服の暗い色で目立たないが、その下腹部から内股にかけて多量の出血でより暗く染まっていた。

『どうだバルクホルン?』
「馬鹿な! この出血で、戦っていただと……!?」
『何だと!? 宮藤、聞いていたか宮藤ィ!』
『は、はい! 応急処置くらいなら、行けます!』

 美緒の問いかけは。あるいはこの事態を予想していたようだったが。
 バルクホルンの答えまでは予想外だったらしい。
 幸いにして、宮藤は多少の余力を残しているようだった。

「すぐそっちに向かう、少しでも休んでいろ宮藤!」
『美緒、リネットさんと一緒に周辺警戒を』
『了解した』

 長年扱い慣れたフラックウルフ。。
 トゥルーデはヴィルヘルミナを抱えたまま限界速度で降下、否。 落ちていく。
 地上に近づくにつれ強引に減速。 芳佳の前に降り立った。
 その挙動を見て芳佳が慌てて諫める。

「だ、駄目ですよバルクホルンさん、けが人をそんな乱暴に扱っちゃ!」
「す、すまん。 あ、いや、謝るのは後だ! こいつを……ヴィルヘルミナを助けてやってくれ!」

 大丈夫です、やってみせます。
 そういう芳佳の顔は疲労の色が濃いものの。 もはやバルクホルンを心配させるような物ではなく。
 芳佳の小さな手が、バルクホルンが抱えるヴィルヘルミナにかざされ。
 暖かい青い光が彼女を包み込み――

「ぇ……あれ?」

 芳佳が首を傾げる。 その訝しげな表情のまま治癒魔法を続け。
 数秒後、光が消え去る。 そのまま芳佳は俯いた。

「どうした宮藤、限界か?」
「いえ、違うんです……」
「……なら、まさか!?」

 癒し手が、治癒を諦める。 それはつまり、そう言うことだ。
 最悪の状況を思い浮かべて、トゥルーデの顔がさっと青ざめる。
 それを察したのか、芳佳が反射的に顔を上げた。
 芳佳の眉根は困ったように寄せられていて。

「ちっ、違います!」
「じゃあ、何故止めるんだ!?」
「こっ、これ……私じゃ無理ですっ!」

 その頬は何故か赤らんでいた。



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のべらいず のべらいず
戦闘シーン大好きです。 っていうか大丈夫だよね? 解りにくい所無いよね?

完全装備ヴィルヘルミナさん大出血サービスの巻。 そしてチート武器Mk108喪失。
鈍器大好きなのに加えて、レイピア=突、刀=斬、と来てるから、残りは打=ハンマーだろう、というTRPG的発想。

展開が なんか マンネリ化してきた 気分。
あ、芳佳さんの活躍が見たい人はDVD借りて来て見るが良いと思うよ。



[6859] 20
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/10 09:53
20 「Scarcaress」

******

 小さなチェストと、備え付けのテーブルとベッドしか無い、閑散とした空間。
 ヴィルヘルミナの部屋を、閉じられたカーテンの隙間から微かに漏れる月光だけが照らしている。
 そんな中、ベッドの直ぐ側に置かれた椅子にもたれかかり、眠っている人物を見守る影があった。
 薄暗闇の中、黒と見分けが付かない焦げ茶色の髪色を持った少女、トゥルーデ。

 小さな戸音。
 先ほどまで一緒にいてくれたミーナが帰ってきたのか、と。
 トゥルーデが振り返れば、かすかに開いたドアから見慣れた金髪が覗いていた。
 エーリカだ。

「今、大丈夫?」
「ああ……よく寝ている」

 トゥルーデの小さな返答に、ほとんど音を立てず部屋の中に滑り込む事でエーリカは応えた。
 凹凸の少ない身体はこういうときに役に立つのだ。
 そんな愚にも付かない思考を浮かべて直ぐ消して。
 そのままベッドに歩み寄り、ヴィルヘルミナの顔を覗き込む。

 月明かりに照らされてなお青白く見える、血の気の失せた顔。
 若干苦しそうにも見えるそれを見るエーリカの表情は。
 
「……ぷふっ」

 楽しそうだった。 吹き出していた。

「何がおかしいんだ、ハルトマン」
「いや、ミーナや宮藤に聞いたトゥルーデの取り乱しっぷりを思い出しちゃって」
「仕方ないだろう、私を庇って負傷したまま戦っていたのだと思っていたんだから!」

 頬を赤らめて反論するトゥルーデに、エーリカは声が大きい、と楽しげに注意する。
 慌てて口を噤んだトゥルーデは、ヴィルヘルミナが目を覚ましていないことに安堵。
 大きく深いため息をついて、顔を片手で覆った。

「まさか……月のモノだとは思わなかった」
「そうかな、最近ヴィルヘルミナちょっとイライラしてたじゃない?
 それにしきりにお腹に手をあててたし……近いのかなー、って思ってたけど」
「そんなの……解るか、ばか者」

 口ではそう言うが、トゥルーデは内心自分の身勝手さに呆れていた。
 ヴィルヘルミナの様子の変化に気づかなかったこともそうだが。
 そんな相手にすら気を使われ、負担をかけてしまったということに。

 生理――そう、ヴィルヘルミナの出血は、いわゆる経血だった。
 バルクホルンをネウロイのビームから守ろうと体当たりを行い、しかし適わず爆発で弾き飛ばされて。
 そのショックで生理が始まったのだろう、という診断だった。

 ヴィルヘルミナ自身が生理だったことに気付いていたかどうかは解らない。
 そもそも、自身の生理の事を覚えていたかどうかすらも定かではない。
 仮に知っていたとしても、具体的な出血部分が特定できるような余裕はあるまい。
 服越し、しかも戦闘中という状況なのだ。

 戦闘のショックや緊張で初潮を迎えてしまうウィッチも、それなりの数が居ると聞く。
 負傷してしまったと思い込むのは彼女達にありがちな誤解であるらしい。
 末端部なら兎も角、内臓の集中する部位の負傷は生死に関わる。
 仮に、生理のことを知らず、気付いても居なかったのだったら。
 下腹部――全ての生き物にとっての急所からの出所不明な出血は、大きな恐怖だったに違いない。

「まぁ、トゥルーデは何時も軽いからね」
「そう言うお前だってそうだろうが、ハルトマン」

 規則正しいと言える生活をしてないのに、なんとも羨ましい体質だな。
 そう毒づくトゥルーデに、よく寝て健康を維持してますから、とエーリカが答えた。
 溜息の返事。 それを最後に、沈黙が部屋に満ちる。

 三人の呼吸の音だけが部屋に流れて。
 その均衡に耐えきれなかった様に、トゥルーデが言葉を紡ぐ。

「……フラウ、お前にも厭な思いをさせたな」
「何言っちゃってんのさ、トゥルーデ。 別に私は気にしてないよ。
 何よりトゥルーデが真っ当に怒られるなんて珍しいシーン、滅多に見れるモンじゃなかったしね」
「……」 

 黙り込むトゥルーデの横顔を見て、エーリカも溜息を吐いた。

「悪いと思ってんなら、泣きながら怒ってくれたミーナと、助けてくれた芳佳とヴィルヘルミナにお礼言いなよ」
「ああ……そうだな。 ありがとう、フラウ」

 私じゃなくて、と言いながらヴィルヘルミナを指さすエーリカに。
 まぁ、照れるなよと。 トゥルーデは笑いかけた。
 それを受けたエーリカが憮然としながらも、安心した表情を浮かべて。 

「……ぅ」

 ヴィルヘルミナの声とごそりという音を聞いて、二人は口を噤む。
 寝台に寝かされていたヴィルヘルミナの目が微かに開かれた。
 焦点の合わない目はしばらく宙を彷徨っていたが、やがて直ぐ側のトゥルーデを捉える。

「すまない、起こしたか?」

 トゥルーデが問いかける。 その声は細く、しかし優しくて。
 対するヴィルヘルミナは、眠りと覚醒の中間の声で、彼女の名を呼んだ。

「バルク……ホルン?」
「ああ」
「私も居るよー」
「エー、リカ……?」

 ただ、声に反応しただけなのだろう。
 ヴィルヘルミナが、ぼんやりとした視線をエーリカにゆっくりと一瞬だけ向けて、直ぐにトゥルーデに戻すのを見て。
 エーリカは拍子抜けしたように、元々入っていなかった肩の力を更に抜いた。

 シーツがゆっくりと持ち上がる。
 ヴィルヘルミナが手を伸ばす。 その先にはトゥルーデ。
 弱々しく伸ばされた手を、彼女は優しく握り止めた。

「バルクホルン……生きて、る……」
「……ああ、生きているぞ。 お前と、宮藤のお陰だ」

 その言葉を聞いたヴィルヘルミナが、安堵するように大きく息を吐いて。
 空いている左手でその顔を覆った。
 嗚咽と、それに続く言葉が指の隙間から漏れ出て行く。

「……やだ」
「……ヴィルヘルミナ?」
「もう……こんな、辛いの……やだ」

 涙で震える、本音の弱気の言葉。
 それは、以前のヴィルヘルミナを知るトゥルーデも、エーリカも聞いたことのない物で。
 だから、エーリカはトゥルーデの肩を叩いて促す。

 親友の促しに、どういう事かと躊躇って。
 彼女は思い出す――妹のクリスがこうやって泣き出したとき、自分は何をしてやれたのかを。
 迷いと逡巡は一瞬だ。 即座に行動に移す。
 トゥルーデは片膝をつき、ベッドへと身を乗り出して。
 ヴィルヘルミナの頭を優しく撫で、抱き寄せた。

「ぅ……ぁあ……ぁ」

 そのままトゥルーデにしがみつくヴィルヘルミナの嗚咽が大きくなり、言葉は意味のない物へと砕けて。
 それは、彼女が泣き疲れて眠るまで続いた。


******

 夢を見ている。

 若いということは未熟ということで。
 未熟だった頃、自分がどれだけ周りの人に助けられ、守られていたか解らなくて。
 いたずらに暴力と危険の中へ彼女と共に飛び込んでいった日々。
 今まで得た上辺だけのどんな友よりも、彼女は自分のことを理解してくれて。
 
 だから、年下だった彼女が死んだときに。
 誓った訳でもない。 決断した訳でもない。
 もし、似たような事に出くわしたら。
 今度こそ、その場でオレが出来ることをしようと。
 だた、そう思った。

******

 シーツが引っ張られる感触、そしてベッドから何か重いものが落ちる音で、夢がかき消された。
 目が覚める。 部屋は薄暗く、カーテンの隙間から見える空もやはり薄暗い。
 ああ……なんだ、まだ全然早いじゃないか……もう一眠りできるな。
 そう思って寝返りを打って。

「ん……目が覚めたか?」

 眼前に、すごく優しい表情のバルクホルンの顔があった。
 ……あれ、なんだこの状況? 夢か? ドリームなのか?
 ああ、そうだ、夢に違いない。 まったく、欲求不満が過ぎるぜ、オレ……バルクホルンとベッドインな夢とかねーよ。
 どうせなら美緒さんとかミーナとかシャーリーだろ、常識的に考えて。
 しかも展開的に事後だな。 頼むから最中の夢見せてよね、童貞なんだからさ……

「どうした、まだ眠いか?」

 まだ時間はあるぞ、とこれまでに無いほど穏やかな声音で言うバルクホルン。
 こんな声で喋る人だったっけか? 最近聞いてなかった気がする。
 あー、やっぱりこれは夢だ……うん。 おやすみなさい。

 目を閉じて、深呼吸。 少し残っているシーツをたぐり寄せて、その質感に安堵する。
 よかった、バルクホルンがとんでもない怪我をした気がするけれど。
 夢でも元気なんだ、きっと目が覚めても元気な姿でいてくれるに違いない。
 衣擦れの音。 暖かい指先が軽く髪を梳いていく感触が気持ちいい――って。
 この感触、おかしいな。
 リアルすぎるだろう。 夢じゃ無くない?

 目を開ければ、やはりそこにはバルクホルンが居て。
 オレの頭へと手を伸ばしていて。

「バルク……ホルン」
「何だ?」
「……生きて?」
「どういう意味だそれは……ああ、生きているぞ」

 二度目の問いだが……あの時は寝ぼけていたのか。
 そう言うバルクホルンは、確かに両足がきちんと付いていそうだった。
 ああ、うん、よかった。
 血がドバドバ出て怖いのを我慢した甲斐があったってものだ。
 生きてて元気そうで……って、おい。 やっぱりこれ現実だよ。
 一体何事!?

「何で……此処に」
「本当に覚えてないのか? お前が離してくれなかったんじゃないか」

 困らせてくれるなよ、とまったく困ってないような表情で言うバルクホルン。
 離してくれなかったて……いや、艶っぽい事はなかった筈、だよな?
 酒飲んだ記憶もないし。 オレ、記憶飛ぶ前に吐いちゃうタイプだし。
 第一、バルクホルンは裸じゃない、ちゃんとシャツ着てる。
 オレもパジャマ着てるし変にはだけてない……うん、大丈夫だよな?

 落ち着いて思い出そう。
 えーと、確かネウロイと戦って、バルクホルンが結局負傷して、オレも腹から出血して……
 ああ、なんか、思い出して、来た。 
 ……うわああああ! 恥ずかしッ!

「…………ッ」
「その様子だと、本当に忘れていたらしいな……自分の、月のモノのこと」

 呆れた様子のバルクホルンに、小さく頷き返す。
 仕方ないじゃないか、男なんだぞオレ……ずっと生きてきて初めての衝撃だったんだ。

 月のモノ――生理。
 だんだんと意識がはっきりしてきたら、今も腹が少し痛かったり、軽い頭痛の様なものはあるが昨日ほどじゃない。
 戦闘終了後にそのことに気づいたら貧血かなんかで意識は遠のいちゃうし……
 頭はクラクラするわ吐き気はするわ、腹は痛いわ…… 思い出しただけで憂鬱になってくる。
 外からの痛みには多少強い自信はあるが、ああいう内側からの苦痛には耐えがたい。

 意識も定かじゃなかったし、恥も外聞も無くバルクホルンにしがみ付いて泣きじゃくった……と思う。
 あんなに辛いものだとは思わなかった……これから毎月あるのかよ。
 ああ、でも……生理、か。 オレ、今、女、なんだよな。

 昨日目を覚ました瞬間、それを理解させられた。
 心底男に戻りたいと思った。 何もかもが嫌になった。
 意地とか信念とか本当にどうでもよくなった。
 
 切羽詰った状況だと、人間の本性が見えてくるといったのは誰だったか。
 弱いな……オレ。 

「思い出したか?」
「……ん」
「何を思ってるのかは解らんが……大丈夫だ」

 忘れていたなら、お前にとって、初めてだったんだろう。
 そう聞いてくるバルクホルンに再び小さく頷きを返す。
 ヴィルヘルミナさんにとってはどうだか知らないが、確かに、オレにとっては初体験だ。
 というか男なら誰だってそうなんだが。

「気が抜けて、緊張が解けて……弱い部分が出てくるのは誰だってあることだ。
 私だってそうだ……だから、私には何のことかは解らないが、お前が本当に嫌だと思うなら」

 私は止めはしない。 バルクホルンはそう言った。

 ……苦しいのは嫌だ。 辛いのも嫌だ。 あの苦痛は思い出しただけで憂鬱になる。
 ぶっちゃけ逃げ出したい。 男に戻れるなら戻りたい。
 だけど、これは逃れられることじゃない。 弱音を吐こうが、何をしようが絶対に追いかけてくるものだ。
 たとえオレの本性が弱かろうと逃げたがろうと、なんとかやり過ごしていくしかない……よな。
 ポジティブに、ロジカルに考えようぜ、オレ。
 よく考えれば一月にたった数日だろ? よゆーよゆー! 多分余裕だって!
 男の子は見栄張って何ぼさ!

 そうやって内心テンション上げてると。
 彼女の手がオレの頭に伸びて、抵抗する間もなく頭を軽く抱き寄せられる。
 白いシャツ越しに、バルクホルンの体温。 暖かい。

「すまん……な」
「…………」
「お前にも、みんなにも、心配をかけて。 ミーナに……宮藤にも怒られたよ。 特にお前には、酷いことも言ったな」
「あれは……オレ、も、悪かった……」

 すまない。 軽く抱かれているため、そう言って来るバルクホルンの表情は見えなかった。
 いや、あれは言われても仕方ない。
 生理だかなんだか知らんがイラついてただけで自制効かないとか駄目すぎるし。
 受動的にだが騙してるのが事実だしな……まぁお互い気が立ってたってことで手打ちにしようぜ?

「それで、だな……その」
「……?」
「うう、いざ言うとなると……」

 言いよどむ声が気になって、上を見上げる。
 かすかに頬を染めて、なぜか目線を逸らしているバルクホルンが居た。

「バルクホルン?」
「そう、それだ」

 え、バルクホルンがどうかしたんですか?

「……お前、隊のみんなをどう呼んでる?」

 んー? どう呼んでるかって……まぁ、アニメ見たときの印象が一番強いんだが。

「エイラ……サーニャ……ペリーヌ……シャーリー……ミーナ……エーリカ……芳佳……リネット……ルッキーニ……美……坂本少佐」
「いや、美緒少佐でもかまわん」
「……美緒少佐、バルクホルン」

 うん、おかしいところ無いよね?
 何突然変な事聞いてんだこのお姉ちゃんは、と思っていると。

「その……私も名前で呼ばないか?」

 すごく恥ずかしそうな顔で。
 そんな、かわいらしい事をのたもうた。

 ……え? えぇぇぇぇ!? お姉ちゃんそんなキャラだっけ!?

「ルッキーニだって……ラストネーム……」
「フランチェスカよりルッキーニという感じだろう、あれは」

 こいつが何を言ってるか訳解らんが、言いたい事はなんとなく解る。
 ……なんかこういうの最近多いな。
 
「……別に、以前のお前が私の事を名前で呼んでいたから、という訳じゃない。
 だが、近しい友人だと……そう思っている相手に、隔意を持たれているような呼び方をされるのはその、少し……辛いんだ」

 うがー、なんだこの可愛い生き物は! 抱き寄せたまま至近距離でもじもじするな!
 オレの中のお姉ちゃんイメージが侵食されていくではないか! ベッドの上だぞ、襲うぞ!?
 いや、落ち着けオレ。 ビークール、ビークール。
 よし、別に名前で呼ぶことは別にかまわない……う、今更変えるのはやはりこっ恥ずかしい……が。

「……条件が……ある」
「何だ?」
「オレも……名前で……呼べ」

 部隊の中でバッツって呼ぶのあんたとペリーヌだけなんですよ! いや、ミーナさんも時々そう呼ぶけど任務中だけっぽいし。
 ペリーヌもラストネームで呼ぶけど、ペリーヌも階級付だからそんなに気にならないし。
 バッツバッツって呼ばれてると「バツ! ×!」ってなんか駄目出しされてるように聞こえて微妙な気分になるんです!

「ああ、そんな事か……以前のお前と違う、と自分に言い聞かせようとして……そう思ってたんだがな」

 バルクホルンは抱き寄せていたオレから離れて、咳払いを一つ。
 神妙な顔つきで、でも頬はすこし赤いままで。

「ヴィルヘルミナ」
「……ん」
 
 実にいい表情で、そう、オレの名を呼んだ。
 だから、オレも応えてあげないといけないな。
 しかし、ゲルトルートか。 なんか呼びづらいよな。
 ……やっぱあっちで呼ぶしかないか。

「……トゥルー、デ」
「……ああ」

 二人で顔を見合わせて、視線を逸らし合う。
 ああ、糞、なんか照れ臭いなー! 何処の学生だよオレ達は! オレなんかもうすぐ三十路だよ?
 バル……トゥルーデも、そんなに照れるくらいなら名前の呼び方なんて変えさせるなよ!
 うう……恥ずかしすぎるな。

「……そういえば、何故……一緒に、寝てる?」

 とりあえず、照れ隠しにそんな質問を投げかけてみる。
 既出の話題の気もするが、今は話しさえ逸らせればもうなんでもいい。
 トゥルーデもやはりこそばゆかったのだろう、気を逸らせる話題に乗ってきた。

「だから言っただろう。 お前が離してくれなかったので、今晩はここで過ごそうと思ってたんだが……
 エーリカの奴がどうせだから一緒に寝ようと言い出してな」

 またあいつかよ! いや、今回は良い仕事をした……のか?
 いやいや、あいつのことだから別に何も考えずにやってるに違いない。
 そういえばそのエーリカの気配が無いな?

「撤退戦の頃、皆で寄り合って寝たのを思い出して……まぁ、悪くなかったな」
「エーリカ……は?」
「……後ろを見ろ」

 軽く首を動かして、視線をそちらのほうに向けると。
 ベッドに引っかかるように突き出された、生足が一本。 ああ、オレを起こしたなんか落ちる音ってコイツか……
 すらりと伸びた、白くて綺麗な足。 でも、エーリカだと思うと艶っぽさのかけらも感じねー。

「こいつはこれでも目を覚まさないのだから……呆れて物も言えんな」
「……大物」
「はは、違いない」

 トゥルーデが小さく笑う。

「なぁ、ヴィルヘルミナ」
「……?」
「ありがとう」

 彼女の笑い顔は、本当に久しぶりに見た気がして。
 オレも多分、笑えていたと思う。


******

 戦闘があった翌日とはいえ、基地は何時もどおりに目覚め、活動を始める。

 この朝、食堂に食事をとりに来た者は、その光景を見て誰もが多かれ少なかれ安堵した。
 最近食の細かったトゥルーデが、何事も無かったかのように皿に盛られた料理を胃へと運んでいる様子。
 昨日意識を失って帰還したヴィルヘルミナが、のろのろとオートミールを食べている様子。
 尤も、後者は戦闘の翌日、お馴染みの光景になりかけていたのだが。

 仲の良い者、それなりの者。 それぞれが朝の挨拶を交わして。
 カウンターの芳佳とリネットから朝食のメニューを受け取っていく。
 ペリーヌがその内容に文句をつけたり、ルッキーニがお代わりを叫んだりする中。

「ん、ヴィルヘルミナ。 すまないが塩を取ってくれないか」
「あら」 「おや」 「へぇ」 「ふぅん」

 テーブルについて食事を取るトゥルーデの何気ない一言に、四人の少女が反応した。
 順に、ミーナ、シャーリー、エイラ、エーリカだ。
 ミーナは何時もどおりの優しい微笑で、残りの三人は何か面白いものを見つけたような表情。

「何だお前達……ミーナまで」
「ううん、なんでもないのよ、トゥルーデ」

 そうそう、とにやけながらミーナに同意する三人を見て、おかしな奴らだ、と呟くトゥルーデ。
 その目の前に、ヴィルヘルミナの小さな手につままれた塩の小瓶が差し出される。

「……はい、……トゥルーデ」
「あらあら」 「おやおや」 「……へぇ~」 「ほう」
「ああ、ありがとう……って、お前達、言いたいことがあるならはっきり言え」
 
 相変わらず何か含んだような物言いに、不快感を隠さずに言うバルクホルン。
 塩を受け取って、スクランブルエッグに振りかけた。
 シャーリーはテーブルに肘をついて顎に手をあてながら、その様子を眺めて。
 ソーセージを突き刺したままのフォークをバルクホルンに向けた。
 マナーの悪さにペリーヌが何かを言いかけたが、それよりも早くシャーリーは笑みを隠そうともせずに言葉を放つ。

「いや、随分と仲がよくなったなぁ、って思ってさ」
「?……別におかしな事じゃないだろう、リベリアン。 お前に詮索されるようなことじゃない」
「そりゃごもっとも」

 それきり、何も言わないシャーリー。 フォークに刺したソーセージを一口で頬張る。
 相変わらず何か楽しげな表情に疑問を感じたが。
 水が合わないだけの相手であり、このような事は日常茶飯事だ。 そう結論付けて、トゥルーデは食事に戻ることにした。

 二人がそんなやり取りをしている対岸では、エイラがオートミールを啜るヴィルヘルミナに話しかけている。

「なあなあ、ヴィルヘルミナ、私の事もイッルって呼んでくれよ」
「……無理」
「えー、バルクホルンは良いのに?」

 にこやかに語りかけるエイラの言葉を、スプーンの動きを止めずに一刀両断する。
 その態度に不満げな声を返すと、そこでようやくヴィルヘルミナはエイラの方に向き直り。

「イッルは……呼び、辛い……」

 そう言った。
 相変わらず抑揚もなく、表情も変化しない一言。
 それでも何かを読み取ったのか、エイラは仕方ないな、と肩を落とす。
 そのまま食事に戻るエイラを、しかしヴィルヘルミナは数秒間見つめて。
 それから、ぼそりと言った。

「エイラは……エイラ、が……良い」 
「――ん、そっか」

 満足したように頷いて、エイラは食事を再開。
 それに習うようにヴィルヘルミナも再びスプーンを器に沈めた。
 食器の音や咀嚼の音、少しの会話が朝の食卓に満ちていく。

 ――それっきり、何事もなく朝食の時間は過ぎていくと、誰もが思っていた。
 
「そういえばさ、ヴィルヘルミナ」

 エーリカがヴィルヘルミナに語りかけたときも、単に話を振っただけだったのだろう。
 しかし、確かにそれは惨事の始まりの言葉だったのだ。

「トゥルーデの呼び方変えたよね?」

 頷きを返すヴィルヘルミナ。 それを見て、トゥルーデが仕方ないとばかりに溜息をつく。

「お前もかハルトマン……別に呼び方くらい変わったって良いだろう。
 知らない仲では無いだろうし……少し話し合っただけだ」
「ふーん……ねぇ、ヴィルヘルミナ。 ちょっとトゥルーデのこと呼んでみてよ」

 お前は何がしたいんだ、と呆れるトゥルーデに。
 いや、ちょっと昔を思い出して、と。 エーリカは小声で答えた。

 当のヴィルヘルミナは、何かを考えるように動きを止めて。
 数秒。 頷いて、口を開いた。

「トゥルーデ……」
「ほら、別におかしいところなど――」
「……お姉ちゃん」
「「「「お姉ちゃん!?」」」」

 ヴィルヘルミナの言葉に、食堂が沸いた。

「な、ヴィルヘルミナ、貴様は一体何を言ってるんだ!」

 椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり叫ぶトゥルーデに対し。
 我関せずとばかりにオートミールを口に運ぶ作業を続けるヴィルヘルミナ。
 その様子は先ほどの発言が夢だったかのような錯覚さえ起こさせる、が。
 吐いた言葉は戻らない。
 そう、戻らないのだ。

「トゥルーデおねーちゃーん」
「バルクホルンおねーさーん」
「おねーちゃん!」
「お前達、ふざけるのもいい加減にしろ!」
 
 笑いながらからかうシャーリー、エイラ、ルッキーニ。

「ええと、その……流石にそう呼ばせるのはどうかと思うわよ、トゥルーデ」
「ミーナ、頼むから悪ノリしないでくれ!」

 随分と明るくなった友人に笑顔を向けるミーナ。

「え、何ですかこの騒ぎ……」
「あ、宮藤、リネットー、ごにょごにょ」
「こら、ハルトマン、貴様何を吹き込んでる!」

 食堂で作業をしていた芳佳とリネットが何事かと飛び出してくる。
 その二人に、エーリカが何事かをささやいて。

「さあ、宮藤、リーネ、どーぞっ!」
「えーと、その……バルクホルン……お姉ちゃん?」
「バルクホルン……姉さん、で良いんでしょうか」

 訳のわからぬままエーリカに促されてそう言う二人を見て、トゥルーデがの動きが一瞬止まる。
 が、すぐに再起動した。
 般若の形相でエーリカを睨み付ける。

「ハルトマーンッ!」
「きゃー、おねーちゃんが怒ったー♪」

 楽しそうに笑いながら、気炎を吐くトゥルーデに追いかけられるエーリカ。 
 その様子を見るペリーヌは、怒りを通り越した呆れの表情を浮かべた。

「まったく、食事の席を何だと思ってらっしゃるんですか、皆さんは」
「はっはっは、まぁたまには良いじゃないか、ペリーヌ」
「う、坂本少佐がそう仰せられるなら……」
「ふむ、しかし……姉か。 私には兄と弟しか居ないからな……妹が欲しいと思った時期もあった」
「え……じゃあ、あのその、……わ、わたしくしでよろしければ……ぉ、お姉様?」
「ん? 何か言ったかペリーヌ?」
「いいいいいいいえ、何でもございませんわっ!」
「はっはっは、おかしな奴だ」

 豪快に笑う美緒の隣で、真っ赤になっているペリーヌ。
 内心、美緒のことをお姉様と呼ぶのも悪くは無いかも、と思っていた。

 大騒ぎになった朝食。
 その日一日、「トゥルーデお姉ちゃん」が部隊の中で流行するのだが。
 それもまた、楽しい日々の思い出。

------
エピソード3、クローズ。
初潮は TS物の 醍醐味だー! 生理重い女の人はほんと頑張ってると思います。
知り合いの会社人曰く「働く女の根性とやる気の見せ所。 こちとら遊びでやってんじゃないんだよ」だそうです。
格好いい! 濡れる!

名前フラグ回収。 このSS書き始めてからずっと書きたかった物の一つがやっと書けたよ。
名前を呼び合ったその瞬間からお友達だそうです。 なのはさんが言ってたから間違いじゃない!

なんか最終回っぽくなってしまったけどまだまだ続く、はずだ!
っていうかサーニャ居ないし。


以下、入れたかったけどラストの部分が思いのほか上手く纏まって、蛇足だと思って切り取った部分:


******

朝、昼と相変わらずオートミールだったオレ。
ふざけんな、血が足りねえよ、肉くれよ!
と言った感じの台詞を朝食後に言ったら、昼食には大盛りの茹でほうれん草が付いた。
なんかオレに恨みでもあんのかリネット……いや、ほうれん草好きだけどさ。
流石に缶詰から出して煮なおして、クタクタになった奴を大盛りは遠慮したい。
すんごい水っぽくて全然美味くねぇー。

そして夕食。 

「……芳佳、これ……」

目の前の皿に盛られているものを指差し、問う。
これが意味するところはオレも日本人だから解らんでもないが……まさか、本当にそうなのか?
この世界でもそうだというのか?

薄い小豆色に色づいた、そのまま小豆入りのご飯。
米は何時もの物と若干違い、粘りけが強そうに見える。

「あの、お赤飯って言って……扶桑だと、その……お、おめでたい日に食べるのっ」

芳佳は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにそう言った。
あーあー……お赤飯、お赤飯ね、はいはいおめでたい日ね……
やっぱりそうなのか!?

「えと、坂本さんが、出してやれって……お、おめでと、ヴィルヘルミナちゃん!」

……さかもっさぁぁぁぁぁん! 余計な事をしやがって、あンたって人はーッ!
確かに正しい気遣いですが全ッ然嬉しくねぇー!
しかも芳佳とオレで相互羞恥プレイ強要とか最悪の上司だよあんたはッ!

――食べたよ、ああ、食べたさ!
久しぶりのもち米と小豆はとんでもなく美味しかったさ!


******

なお、kdは別にお赤飯前の子にしか反応しない変態ではありません。 ……本当だよ?



[6859] 21 Beyond the Bounds
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/07/29 14:53
Episode 4: Beyond the Bounds
21:「恋と針」


******

 ――私は、恋をしている。

 シャーロット・イェーガー――シャーリーは高空の風にその艶やかな長い茶髪を泳がせながらそう思う。
 雲に近い空。 遠くに見える、大地と海と空の境界線。 駆け巡る白と青の世界。 肌を乱暴に撫でていく大気。
 下には古城を改造した基地。 上には照りつける太陽。 しかし周囲には何も無いただの空虚。 だけど、そこには彼女の欲しい全てがあった。

 すなわち、速度。

 保護魔法越しに冷たい風が自分を撫でていくとき、彼女は何時も思う。 これはきっと恋なのだと。
 同じ人ではない。 速度に恋している――私は、世界で一番速くありたい。
 それは本当は虚栄心なのかもしれないし、あるいは単に自己顕示欲の発露なのかもしれない。
 加えて、シャーリーは人間相手に恋心を抱いたことは無い。 だから、本当の恋がどんなものかは解らないのだ。

 それでも、とシャーリーは思う。 きっとこれが私の初恋。
 自分の魔法が、何かを加速させる物だと気づいた時か。
 ボンネヴィル・ソルトフラットでスピード狂達が速度の限界に挑戦していることを聞いた時か。
 実際に、原形をとどめないほどに改造された、速度を出すための機械を美しいと感じたその瞬間だったか。
 それとも、光り輝くボンネヴィルでスピード狂達の頂点に立ったその瞬間だったのか。
 何時だったかはわからない――ただ、気づいたら誰よりも速度を求めていた。
 
 自分が最速であるという自負。 この地球上に存在する他の誰よりも何よりも、速度は私と共に在る。
 ずっとそう思っていた。 そのはずだったし、その為の努力は惜しんでは居ない。
 音の壁、その向こうの世界もいまだ遠いとはいえ、自分が必ず一番最初にたどり着く。
 それはシャーリーにとって決定事項であり予定調和であり、

『――シャーリー、今780を超えたよ!』

 その聞きなれた元気な声に、自己に埋没していた意識が浮上する。 フランチェスカ・ルッキーニ。
 501統合戦闘航空団において最年少の少女。 シャーリーの一番の友人で、相棒で、守るべき一人。
 地上で速度観測をしてくれている彼女を探すように、シャーリーは基地、滑走路へと視線を向けた。
 魔法で強化された視覚は、砂粒のような大きさのルッキーニとその傍に立つ数人のウィッチを、しかし確かに見つける。
 姿かたちではなく、衣服らしき物の色で判断。 ルッキーニと、芳佳と、リネットと――ヴィルヘルミナ。

「……」

 最後の一人、ひと月ほど前にシャーリーが病院へと運び命を助けた少女。
 出撃するたびに何らかの理由で怪我をして帰ってくる、無口で、顔に消えない傷を持った少女。
 その物静かな、あるいは無愛想な所作と外見。 しかし時折危うさや覚束なさを見せる、何処かアンバランスな存在。
 彼女にとっては仲間の一人で、多少心配なところはあるものの、それ以上でもそれ以下でもない。
 ただ、ペリーヌやトゥルーデなどの”口うるさい”奴らと比べれば、随分と付き合い易い奴だ、というレベルである。

 そのヴィルヘルミナを見つけて、シャーリーの口元が微かに強張った。
 首にかけていたゴーグルを引っ張り上げる。 視界が狭まる。
 前しか見えなくなり、地上が見えなくなる。 そして、視線をまっすぐ前、進行方向へと向けた。
 余計なことは考えるな。 今は前だけ向いていればいい。
 そう自分に言い聞かせ、上半身に感じる風の勢いと下半身に感じるストライカーユニットの振動に集中する。

『790……800キロ突破! やった、記録更新だよ!』

 ルッキーニがあげる、我が事のように嬉しそうな声。 記録更新――800km/hの大台だ。
 シャーリーのストライカーユニット、P-51Dマスタングはカタログスペック上、700km/h前後を限界速度としている。
 それは様々な要素のトータルバランスを鑑みた上での数値であり。
 P-51はそのバランスを高いレベルで維持してなお、快速と高らかに謳われるほどの速度を保っている。
 その魔道エンジンこそブリタニア製の傑作エンジン、”マーリン”だったが。 機体の善し悪しはエンジンのみで決まる訳ではない。
 リベリオン。 新大陸に生まれた新興国家の新型機。 世界に覇を唱える大国の意地と実力と地力の結晶だった。

 そしてシャーリーは、魔力割り振りのマッピングやエンジンの調整により、そのバランスを故意に崩している。
 その結果としての速度だ。 崩されたバランスは着用者を含めた様々な部位に負担を強いる。
 限界速度を100km/hも超過してなお平然と飛び続ける。 それは非常に危険な行為で。
 しかし同時にシャーリーの機体制御技術を、あるいはパイロットとしては希有なレベルの機体整備技術を燦然と光り輝かせる。
 そして、速度を求めるために最低限の安全装置以外を切り捨てて行ったモンスター・バイクを乗りこなしたという経験と自信が、その技術を支えた。
 
『804……5……6……!』

 ルッキーニが伝える。 加速は止まらない。 そうなるようにシャーリーが調整したからで、解りきっていた答えだ。
 前回の記録が799.4km/h。 一度に5km/h以上も更新したのは久しぶりで。 
 ――だが、足りない。 

『8……9……10!』

 足りない。 速度が、加速が、速さが、自分の欲しいものが手に入らない。 届かない。
 ゴーグルに保護されているはずのシャーリーの目が細まっていく。 
 細く小さくなっていく視界。 見なければならないはずの前方が、だんだんと見えなくなっていく。
 だというのに、彼女の目の前には、自分よりも速く飛んでいく何かが見えていた。

『13……14…………15!?』
『――シャーリー、大丈夫か?』

 インカム越しにシャーリーの耳に、今までにはない心配そうな声が届く。 坂本少佐、と認識と理解をするものの、返答する余裕は無い。
 追いつけない。 置いていかれる。 引き離されていく。 目の前の幻影に、今は地上に居るはずの彼女に。
 高空の風を今までに無く強く感じるほど保護魔法にまわす魔力を引き下げても。
 速度実験用に、強化魔法による身体ブーストを最低限まで制限しても。
 
 感じない。 あの日、光り輝く広大な塩湖で、既存の全ての記録を打ち破った、自分が風になったような感覚を。
 届かない。 カールスラントの新鋭機であるMe262と、それを駆るヴィルヘルミナに。
 新型のストライカーユニット。 噴流式。 既存の、呪式を展開する推進方式では容易にたどり着けない境地に、しかし到達している魔女。
 加速が急速に緩んでいくのを肌で感じる。 調整と改造と賭けを施したP-51が、これ以上の速度で空を飛べぬと悲鳴を上げた。
 風を切り裂くことが、大気の抵抗を打ち破る事が困難になっていく。 それはあたかも空が、シャーリーを拒絶している様で。

「――ッ」

 推進機構そのものが違う。 加速力が違う。 運動性が違う。
 そんなのはどれもシャーリーにとっては言い訳にも慰めにもならない。 重要なのは最終到達速度と、それによって得られる結果だ。
 ボンネヴィルの時とほとんど変わらない。 何時だって誰よりも速い奴が勝者で、それ以外は負け犬。
 唯一加速力だけが違うが、この広大な空には助走距離などと言うレギュレーションは存在しない。

 空想の魔女がP-51の打ち破れぬ壁を悠々と突きぬけ、シャーリーを引き離していく。 
 焦るな、と理性が訴える。 不要な無理では良い結果はけして生まれない、と知識が言う。 
 クール&ホット。 機械の、そして自分の本当の性能を引き出すためには心(エンジン)の熱を理性(ラジエタ)で制御せねばならないのに。
 だが、その熱が、泣き叫ぶ感情が抑えられない。 目の前に素晴らしい道具を突きつけられて、自分がそれを扱えないという焦燥。
 ――何故、自分ではないのだ。 何故、自分では駄目なのだ!
 
「……っそぉ!」

 不意に高ぶった感情が魔道エンジンに魔力を無意識に叩き込み、そして同時に己の失敗を悟る。
 真剣勝負、それは何時だって自分との勝負だ。 そんな時に余計な考え事をしていれば碌な事が起きないなんて解りきっていたはずなのに。
 唯でさえ大きな負荷による異常な振動を起こし、それを騙してあやして誤魔化して来たエンジンが突如として暴れはじめる。
 ひとたびバランスが致命的に崩れれば、待っているのは崩壊だ。 即座に出力を落とし、減速と負荷低減を計るが。 遅い。
 速度だけを求められたストライカーユニットは、しかしその速度で使い手の身を危険にさらす。

 左のストライカーユニットが、小さくはぜる音と共に黒煙を吐いた。
 


******

「――シャーリー!」
「「シャーリーさん!?」」

 周りでルッキーニ、芳佳、リネットが悲鳴じみた声を上げるのが聞こえる。
 青い空に描かれていた白い雲の軌跡。 その中に、突如として黒いものが混じった。
 それは間違いなく不味い知らせで、異常な事だ。 つまり、何らかの故障や事故が起こったってことで。
 ああ……シャーリー、やっちまったか。 大丈夫かと思ってたけど、やっぱりそうじゃなかったか……!

 テラスの上から美緒さんがオレ達に救助を命令する。 とはいっても、オレは除外なんだけれど。
 多分準備してる最中に落っこちてくるだろうし……畜生、時間がかかるって歯がゆいな。
 シャーリーの速度テストの後にトゥルーデとの飛行訓練だったから、履いておけばよかった。
 まだ少し残っている生理由来の偏頭痛を抑えるように頭を抑える。 これもオレが……多分原因、か? いや、違う……筈、だ。

 頭痛いから脳みそ使うのはとりあえず辞めにして、とりあえずオレはオレの出来ることをする。
 ストライカーユニットを履いて飛び出していく三人と入れ替わりになるように、格納庫の中に飛び込んだ。
 壁に設置されてる消火器と、そのすぐ傍にある応急キット。 その二つを引き剥がして、滑走路に走って戻る。

 見上げれば、黒い線と白い線が空中で合流していた。 シャーリーの黒煙と、芳佳たちの飛行機雲。 
 黒い煙の大本はゆっくりと速度と高度を落としてくる。 急降下する様子は無いから、無事ではあるんだろう。
 しかし、いくらウィッチがある程度までは無意識に魔力で防御をするからって……あの高さからフリーフォールするのはぞっとしない話だ。
 軽くするためにシャーリーはパラシュートとか付けずに飛ぶし……オレだったら漏らして気絶する自信あるね。
 バルクホルンとの模擬戦の時に失火した時とかマジ怖かったです。

 黒く細い煙を引きながら、芳佳達に先導されて――いや、支えられてシャーリーが降りてくる。
 滑走路にたどり着いて、着陸。 しようとして、そのまま皆で崩れ落ちた。
 「きゃん」だの「うわ」だの「あわわ」だの可愛らしい悲鳴が上がるのを聞きながら駆け寄って、消火器の安全ピンを引き抜く。
 とりあえず火を消さないと、と思っていると。

「あ、ヴィルヘルミナ、大丈夫だ! 燃えてないから」

 そう言って、シャーリーがオレを止めた。 よく見れば、装甲の隙間から微かに黒いものが上るだけで、何処も焦げたりはしていない。
 てっきりなんか火を吹いたのかと思ったが……エンジンの焦げ付きでも起こったか? まぁ念のため、消火器はそのまま準備しておくけどもさ。
 くんずほぐれつな少女たち、という描写だけは艶っぽい状況のシャーリーたちだが。
 なんというか普通にこんがらがってるだけだから見た目大変そうなだけで。
 とりあえず一番上に覆いかぶさっていたリネットが立ち上がり、シャーリーの安否を問うた。

「シャ、シャーリーさん、大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫大丈夫、ちょっとトチっただけだからさ」
「シャーリーさん、お、重い……」
「うわ、酷いな宮藤!」
「え、ええええ!? あ、いやそういう意味で言ったんじゃないです!」

 いや、流石に女の子に重いはねーだろ芳佳。
 リネットという重石が無くなったことで自由になったシャーリーは、横に転がるようにして芳佳の上から退く。
 ルッキーニはさっさとストライカーを脱いで立ち上がっており。 芳佳も慌てて立ち上がってシャーリーに謝っていた。
 謝罪を受ける本人は、仰向けに寝転がってその立派な胸を張り。

「ふぅ。 ま、あたしにはコレがあるからな。 さっき触ってただろー、宮藤?」
「え、そ、そんな事無いですよ!」

 ニヤリ、という形容詞がふさわしい表情で、余計に芳佳を混乱させていた。
 立派な胸ですね。 体重の10%くらい占めてそうである……くっ、重力に負けないとか若さって良いな! 

「芳佳はリーネの触ればいいじゃん、これはアタシの!」
「ぇええええっ!?」

 驚きの声を上げるリネットの胸を見て唾を飲む芳佳。 飲むな。
 というか着実におっぱい星人化してるな……オレも隙を見せたら危ないかもしれない。
 それに気づいて胸を隠すように腕を組んで一歩身を引くリネット。 それは逆効果だ、胸が強調されるぞ。
 どさくさに紛れてシャーリーの胸の所有権を主張しつつ、赤くなって慌てて弁解する芳佳を茶化して場を混乱させていくルッキーニ。
 茶化すな……といっても無理か。
 騒いでいる三人を横目に、さっさとストライカーを脱いで足の様子を見ているシャーリー。 マイペースだな。
 そしてそれを救急箱と消火器を手にして呆然と見つめているオレ、という構図が今の状態である。
 凄く蚊帳の外です……そして実にカオスだ。 まったく、事故直後だって言うのに暢気なもんだよ。
 緊急時でもなし、本当なら原因究明とか現場検証とかするんだろうが、そんなのお構いなしに騒いで。

 ――原因。 その単語が、心に引っかかる。
 それは多分、焦り、なのだろう。 結論から言えば、シャーリーはMe262が使えなかった。
 Me262の故障じゃない。 ただ単に、シャーリーの魔力的な資質や適正が足りなかったという、それだけの事。
 戦闘があった翌日、つまり昨日、生理痛を薬で誤魔化しながらシャーリーとルッキーニに付き合って解ったことだ。
 この時代に薬があって本当に良かったと心底そう思う。 もう頭痛とか腹痛とか色々本当にたまらねぇ。
 ……そのうえ、生理用品の使い方とかも教えてもらうとか羞恥プレイ以外の何物でもなかったし。

 とにかく。 元々、噴流式の魔道エンジンは新型で、つまり技術としての成熟度が足りないらしい。
 それを重くしたり負荷を高くしたり、あるいは使用者の敷居を上げることで誤魔化しているのだという。
 敷居上げるて……兵器としてはとんでもない欠陥のような気がするけど、枯れてない技術ならそんなもんなんだろうか。
 あるいは、戦時ゆえに最新技術でも惜しげもなく注ぎ込まれるという事なんだろう。
 因みに、幾らか誤魔化しの例を挙げたが、Me262のエンジンが採っている方法は「全て」である。
 重くて燃費悪くてスターターの魔力は質のいいもので無ければならないとか。 どんだけ人を選ぶんだよ。
 ……ああ、うん、ヴィルヘルミナさんの身体のお陰でオレの魔力資質は結構良い感じのものらしい。
 シャーリーには申し訳ない気分で一杯だけれども。 目の前に凄い料理を見せておいて食べさせないという、酷い生殺しをしてしまった事も含めて。

 シャーリーは少し残念そうに笑いながら、ルッキーニは凄く不満そうに許してくれたけど……思うところが無いというほうがおかしいだろう。

 芳佳とルッキーニ、それに巻き込まれたリネットの騒ぎを見ながらそんなことを思っていると、肩を叩かれる。
 叩かれた方向を見てみれば、その騒ぎを楽しそうに見つめているシャーリーが居た。
 その様子は何時もどおりに見えて、オレの心配など杞憂なんじゃないかと思わせてくれる。

「……シャーリー」
「なーに心配そうな雰囲気振りまいてんだい」
「ん……何でも、無い」
「ルッキーニも言ってたろ? お前さん、びっくりするほど表情が動かない代わりになんていうのかな、空気? が変わりすぎるんだよ」

 なんて言ったらいいのかな、と首を捻るシャーリー。 空気が動くって……そんなに動いてるのか、オレの雰囲気。
 まぁ、心配したくもなるさ。 シャーリーが無理したり失敗するところなんて、こっちでもアニメでも見たこと無かったからな。
 なんて返そうかと少し考え込んでいると、黙っていたのを気にしたのかシャーリーが見ている向きは動かさずに言葉を放つ。

「ヴィルヘルミナ、あたしを見くびるなよ?」
「……ん」
「今日のはあたしのミスだ。 あんたも、あんたのストライカーも関係ないよ」

 その視線の先には、からかうルッキーニと、言い返す芳佳、そして胸を隠してオタオタしているリネットが居る。
 さらにその先には、いまだ黒いものを微かに立ち上らせている彼女のストライカーユニット。
 シャーリーの横顔は何時も通りの、少し眠そうな飄々としたもので。
 ……シャーリーの方がよっぽど表情読めない。 ヘタに無表情なのよりも、こういう手合いのほうがなに考えてるかわからないな、と思う。

「ま、中見てみないと解らないけど、あたしでも修理できると思うし。 心配するなら無理だったときの整備士連中の業務時間の方を頼むよ」 
「……うん」
「さて、とりあえずアレ、ハンガーまで持ってかないとな」
「オレ……持つ」
「お、そかそか。 ありがとな、ヴィルヘルミナ」

 肩を二回、軽く叩いてきたシャーリーに返事をして、依然としておっぱい談義を続ける芳佳たちを迂回。
 まだ少し熱を持つストライカーユニットを軽くして脇に抱えたところで、シャーリーの唸り声が聞こえた。
 見れば両手を上に振り上げて、ストレッチ。 

「んっ、お腹へったぁ! よし、食堂行ってなんかつまみ食いするかぁ!」
「あっ、アタシも行く!」
「よっし、ルッキーニ、競争だー! じゃ、ヴィルヘルミナ、あと頼んだ!」

 芳佳たちをからかうのを即座に中止して飛び跳ねるルッキーニ。
 おー、と騒ぎながら駆け出していく二人を芳佳たちと一緒に呆然と見つめる。
 本当に元気だなあいつ等。 何時もなら安心感を一方的に与えてくれるその元気さだが、それが却って心に少し引っかかる。
 とりあえず、両脇に抱えているストライカー片して……オレもトゥルーデ来る前に履いとくかな、ストライカー。
 しかし、何とかならんもんかな……


******

 ノック、ノック。 背後から差し込む太陽の光を浴びる、ひときわ確りした造りの木のドアを叩いて、名前を告げる。
 中から返ってくるのはミーナの声。

「ああ、ヴィルヘルミナさん、来たわね。 どうぞ入って頂戴」

 その声に促されて入室。 眼前に広がる部屋は、相変わらず無駄に広いミーナさんの執務室である。
 基地司令ともなればそれなりに仕事も多いだろうに、ここは何時来ても片付いてる。 それが余計に広さを際立たせるのだが。
 大きな机のその向こう、椅子にかけているミーナさん。 その手前の革張りのソファには、何故かサーニャが居た。
 まだ少し眠そうにしながら、ぼんやりとこっちのほうを見つめている。
 何だろうと思って見ていたら目礼されたので、とりあえず此方もそうしておいた。

「悪いわね、トゥルーデとの”ミーティング”だったんでしょう?」
「ん……問題、ない」

 ミーナの問いに、そう応えて首を振る。 デブリーフィング、というかまぁカールスラント語講座だったんだけども。
 トゥルーデとの訓練飛行とその後の昼食を終えて、午後。
 そのままトゥルーデのフライトに関するデブリーフィングと反省会……という名目で、言葉を教えてもらっているのだ。
 その予定だったのだが、昼食時にミーナさんにお呼ばれしたので、デブリーフィングだけささっと済ませてこちらに来た所、というわけである。
 相も変わらずオレの記憶障害は部隊上層部のみの秘密事項らしいので、いつの間にか隠語というか符丁のようなものが出来てしまっていた。
 まぁ確かに本国や司令部に知れたりしたら後方に送られるの必至だよね。
 ただ、ルッキーニに聞いた噂だと記憶喪失のロマーニャ・ウィッチがスオムスの前線送りにされたりもしたらしいが。 容赦無いなロマーニャ。

「どうかしら、トゥルーデの様子は」
「……もう、オレ……要らない、よ?」

 あら、もうお墨付き? 私も負けてられないわね、と微笑むミーナさん。  ……っていうか、もうトゥルーデとか本当にオレいらねえよ。
 なんだあの習得速度、傍で飛んでるオレの方がいろいろ教わってしまうとか、地力というか経験値の差というかそういうものを思い知る。
 Me262の飛行時間が合計10時間弱で、都合30時間くらい履いてるオレより加減速上手いとか酷いです。

「さて、本題に入ろうかしら」
「……?」

 ミーナさんが姿勢を変える。 机に両肘を突いて、顎を重ねた手のひらの上に置いた。

「ヴィルヘルミナさん、貴女、魔導針を出せるかしら?」

 魔導針……って、何ぞそれ? 初めて聞く単語だ。 首を振る。
 ミーナさんが予想通り、といった表情でため息をついて、サーニャのほうを見て頷いた。 それを受けたサーニャが小さく頷き返して、目を閉じる。
 青い魔力の煌きと共に、ふわりと髪の毛が揺れて黒猫の耳が生え。
 それから一瞬遅れて左右の側頭部に淡く緑色に発光する線図形が出現した。
 象形化されたテレビアンテナ、簡略化された電気回路図にも似たそれは、劇中では確か見た目どおりアンテナの役目を果たしていたはず。

「魔導針――レーダー魔導針ね。 シールドと同じように一般化されている呪式だけれど、使用には特別な素質が必要なの」
「……サーニャの……魔法じゃ、無かったんだ……」
「彼女の魔法は広域探査で、魔道針の補助に使っているだけだから」

 ミーナさんの答えに、頷くサーニャ。 へぇ、そうなんですか……しかし、また素質か。
 魔法は生来のものらしいから仕方ないとはいえ、なんというかこう立て続けに聞くと少し考えさせられるな。
 かすかに光り輝くアンテナをじっと眺めていると、サーニャが少し恥ずかしそうにうつむいて。 その光がゆらゆらと微かに明滅する。
 う、じろじろ見るのは失礼でしたね、すいません。 とりあえず視線をミーナさんに戻して考える。

 さて、話の流れから行くと、ヴィルヘルミナさんはこのレーダー魔導針を使えた、らしい。
 そういう素質みたいなものはきっと履歴書というか経歴に書かれてると思うし、あるいはエーリカかトゥルーデの記憶にあったか。
 しかし、それとオレに何の関係があるんだろうか。

「レーダー魔導針は、必須……という訳でもないけどそれと同義になるくらい、夜の空を飛ぶナイトウィッチにとって非常に重要な魔法なの。
 そして、この部隊でそれを扱えるのはサーニャさんだけ。 サーニャさんが夜間哨戒をずっとやってくれてるのはその為ね」

 どういう物かは覚えてる? という続きの質問には頷いて答える。 まぁ、多分名前の通りレーダーの様な物なのだろうし。
 ふむ、なるほどな。 そこに、魔導針が使えるはずのオレがやって来た。 
 交代無しと、二交代制じゃやっぱり違うよな。 暗いところは結構気が滅入るし、そこを飛ぶとなれば疲れもするだろう。
 夜の峠とか、最初のうちは凄い怖かったからな……まぁ、すぐにそれが快楽に変わったわけだが。
 サーニャ、一人だけ夜組のお陰で仲のいい子が少ないみたいだし、オレに夜間哨戒のお鉢が回ってくるのは一向に構わないのだけれども。

「でも……オレ、使えない」

 と言うしかないのである。
 真っ暗な空がどれだけの物か知らないが、唯でさえだだっ広い空で、相対位置を確認できるものが視認し辛くなるはずなのだ。
 すみませんが迷子になって体力魔力切れで墜落する未来しか見えません。
 
「大丈夫、その為にサーニャさんを呼んだのよ」

 ホワッツ? 二人で飛べと? いやソレも有りだろうけど、それならオレじゃなくてエイラのほうが相性的に良いと思うんだが。
 黙っているオレを尻目に、おもむろにミーナさんが椅子から立ち上がる。
 そのまま静かに歩いてサーニャの後ろに立ち、座っている彼女の肩に手を置いて。
 寝かけていたのか身体を小さく震わせたサーニャと、オレを交互に見てから口を開いた。

「ヴィルヘルミナさん、貴女はサーニャさんに魔導針の生成方法を教わりなさい。
 もっとも、サーニャさんが起きてくるのはお昼過ぎだから、午後の作業の合間を縫って、という形になるけれど」
「……でも、それじゃ」
 
 いや、教わるのはいいけど……というか存在感が希薄で忘れてたが、こういう話をサーニャの前でするのは不味かったんじゃないか?
 何だかんだ言って直接的な言葉は言ってないけれど、使えて当然の物が使えないというオレの現状を聞いて何か思うところもあるだろうし。
 人の口に戸は立てられない。
 まだまだ十全とはいえないオレの知識と技量では、真剣に追求されたら誤魔化しきれない……のではないだろうか。
 
「大丈夫、サーニャさんにはもう話したし……彼女もエイラさんから聞いてたみたいだしね」

 にっこりと笑うミーナさん。 て、ちょ、エイラさん! 何喋っちゃってんですか! 秘密って言ったのに!
 人の口に戸は立てられないって比喩だと思ってたけど、こんな身近なところから裏切り者が出るとは思わなかったです。
 サーニャと仲良しだから話の種に話しちゃったんだろうけど、他の人たちに喋ってないだろうな。 ペリーヌとか知られたら五月蝿そうだぞ。

「その、エイラのこと……怒らないであげて」
「……ん」

 少し眉根を寄せて、申し訳なさそうに此方を伺ってくるサーニャに頷いて応える。 まぁ、別に怒るつもりは毛頭無いです……が。
 寧ろ貴女の後ろにいらっしゃるミーナさんがそこはかとなく怒気を放っていらっしゃいます。 主にオレに向けて。
 ……笑顔怖い、超怖い。 拝啓親父様、お袋様。 女の子の笑顔ってこんなに怖いものだったんですね――!
 
「とりあえず、そういう事だから……サーニャさん、ヴィルヘルミナさんをよろしくね」
「……よろしく」
「はい、わかりました」

 ミーナさんは頷いて、しかしそのオレに向けた視線も、表情も動かさないまま。

「じゃあ、サーニャさんはもう行っていいわ。 ご苦労様。 ……ヴィルヘルミナさんは少しお話があるから、残って頂戴ね」

 何時もの優しい声音で、サーニャに退室を促した。 オレにとっては死刑宣告ですね、わかります。
 シャーリーのことについて少し相談しようと思ってたんだけど、どうしてこうなるかなあ……!




------
なんとなくEx1-3の後に書いていた訳だが。
そのままシャーリーが飛んでっちゃいそうな気がしたが、彼女にはルッキーニって言うでっかい錘があるのであるので大丈夫だと思った。
そしてシャーリータイムと見せかけてサーニャのターン!

また別の方にヴィルヘルミナさんの画像をいただきました。 イメージかなりばっちり。
応援、ありがとうございます。 今回は金槌装備です。 以下URL。 パスは半角小文字でkd。
http://tomiya.bne.jp/cgi-bin/upup/src/myg_l1546.jpg.html
今回は本エピソードが終わるまで、もしくは自然消滅するまで放置します。
当然、著作権云々諸々の権利は作者さんにありますので、無断転載とか禁止。
オレ……このエピソードが終わったら、画像消すんだ……とか蒸発フラグ立てとく。 嘘ですけど。



[6859] 22
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/07/29 14:54
22:「理由と勉強」

******

 ミーナさんに静かに厳しく叱られ、今後迂闊な事は喋るまいと心に誓ったあの時から少しして。 今オレはサーニャの部屋に居た。
 薄暗い、締め切られた部屋。 お札で封印されたカーテンの隙間から微かに差し込む陽光がぼんやりと部屋を照らしている。
 オレの部屋は明るすぎるし、何よりちょっと色気が無さ過ぎた。
 絨毯も敷いてないし椅子は一脚だけだし、テーブルは備え付けのものしか無いのである。
 生まれて始めての札束なお給料も頂いたが、如何せん何かを買いに行く暇が無い。
 休暇の日はだいたいネウロイの襲撃直後なのだが、オレ、毎回寝込んでるしね。
 とりあえず、そんな家具に乏しい部屋でも。
 トゥルーデやエーリカ、ミーナさんとはミーティングという名のお勉強会だから机に向かっているのはオレだけでいい。
 反省会とかは先に会議室とかを借りてやるか、あるいは勉強会の後でオレが椅子で相方はベッド、逆も可、という按配で適当にやればよかった。
 しかし今回は魔法のお勉強である。
 それなりのスペースとか、或いは余り親しいとはいえないサーニャとの間を取り持つ要素としての環境が必要だった。

「ふぅ」
「はぁ」

 そして絨毯の上、広げられた無数の本を眺めて、隣にぺたんと座りこむサーニャと一緒にため息をつく。
 本に書かれた文字は、そのほとんどがアルファベットで書かれているくせに、文法や形式は全くの別物だった。
 まず、キリル文字――オラーシャ語で書かれたテキスト。 サーニャの所有物で、魔導針に関しての解説書らしい。
 次にオラーシャ語-ブリタニア語の辞書。 これは、オレがブリタニア語……つまり英語なら何とか読めるということで用意されたものだ。
 その隣にあるのが扶桑語-ブリタニア語の辞書……和英辞典と、美緒さんが持ってたえーと、なんだっけな、八木呪術陣に関する資料。
 本当なら扶桑語も文体は古いとはいえ日本語な訳で、一部旧漢字を除いてそのまま読めるのだが読むと不味いことになりそうだというのは解る。
 サーニャが参照することも有るかと思い、図書館から扶桑-オラーシャ語の辞書も借りてきた。
 最後に、トゥルーデがきちんと持ってたウィッチ訓練校の教科書。
 魔導針に関しての記述――内容自体はサーニャの本と似たようなものらしいが――が書かれているとの事。
 当然これもオレが目下勉強中であるところのカールスラント語で書かれており、辞書は欠かせない。

 合計七冊もの、字ばかりの視覚的に面白くない本を床に広げて、テキストの解読と知識レベルの相互理解を深める作業を始めてから二時間。
 文法間違いや誤読、お互いの誤解を経て、魔法というものを根本的に解っていないオレに、サーニャが我慢強く懇切丁寧に説明してくれた結果。
 なんとか、呪術陣がどういった物かを理解することに成功したところだった。 まじめに勉強したのなんて数年ぶりだよ。
 いや、マジ難しいわ……いや、基本は簡単なんだけども、オレの常識には微塵も存在しない全く異質な理論大系である。
 ”そういうもの”と理解するしか自分の中で落とし所の付かない情報だ。 28年間の人生で培ってきた知識が壁になって凄まじく納得し辛い。
 その上感覚的な記述も多くて、何とか納得しても違和感が付きまとっていた。
 魔法が感覚的な物だってのは判ってるが、解説書までそんな感じの記述が多いとは……書く方も若いウィッチだから仕方ないのか?
 だらしないとは思いつつも、仰向けに倒れこむ。 背中に触れる絨毯の冷たさとやわらかさが心地よい。

「……頭、疲れた……」
「うん、少し疲れましたね」
「理解……悪い、すまない……」
「ううん、仕方ないです」

 目を瞑っているから判らないが、サーニャの表情はきっとこっちの事を気遣ってくれているそれだろう。
 全然違う理由なんだが、それでもそう言って貰えるだけで少し救われるさ……安い男だよなー、オレ。
 とりあえず一段落着いて、集中も途切れて。 そんな時特有の、緩慢な空気が薄暗い部屋に満ちる中。

「サーニャ、今良いか?」
「エイラ? うん、大丈夫よ」

 ノックの音と、エイラの声。 反応したサーニャに応じて、扉が開かれる。 オレも寝転がりながらそっちの方を見た。
 廊下の光が逆光になって見辛いが、そこにはトレイを持ったエイラ。 その表情は笑みだ。

「差し入れ持って来てやったぞー」
「ありがとう、エイラ」
「サーニャも慣れない事やって疲れるんじゃないかって思ってな。 ホラ、サイダー」
「……礼を言う」

 ああ、気が利くなエイラよ……口の軽さによって低下していた好感度がやや回復しました。 起き上がってグラスを受け取る。
 グラスがかいた汗が冷たくて気持ち良い。 三口ほど飲んで、冷えた微炭酸が喉を通り過ぎていく感覚を楽しむ。
 ぷはー、極楽だー。 やっぱ集中した後は冷たいもの飲んでクールダウンしなきゃ駄目だな。
 それにしてもタイミング抜群なのはいいが、随分と氷のサイズが小さいし炭酸が少し薄いんだがな、エイラ。 
 当の本人は何事も無かったかのように極自然にオレとサーニャの間に座り込んで、自分のグラスを傾けている。 ……可愛い奴め。

「エイラ、仕事のほうはいいの?」
「んー? 良いって良いって、どうせ大した物じゃないしな」
「駄目よ、ちゃんとしないと」
「飛行計画表とか予定の提出とか面倒くさいんだよなー」
「もう、エイラ……」

 特に意味の無い会話。 まぁ、彼女達にとっては牽制のジャブというか、何時ものじゃれあいみたいなもんだろう。
 蚊帳の外感は否めないが、話に加わったとして特に面白いネタがある訳でもないし、見てると和むからそれでいい。
 っていうかエイラよ、そんな事言いながらも一番シフトに関しての要望書が多いのはお前だってミーナさんが言ってたぞ。
 結構頻繁に夜番してるらしいし。
 ぼんやりと娘さんたちを眺めながら炭酸飲料で喉を潤していると、エイラが唐突にこっちを向いた。

「で、ヴィルヘルミナ。 魔導針は出せるようになったのか?」
「エイラ……ヴィルヘルミナさん、まだ基礎が終わったところだから」
「……そう」

 サーニャの言葉にうなずきを返す。 理論は解ったけど、兎角魔法に関しては素人も同然です。
 色々知識と度胸と運動神経がものを言って飛べたストライカーユニットと違って、全く解らん分野だし。
 意識すれば使えるっぽい固有魔法と違ってちゃんとした技術だし、これ。
 そんなオレの気も知らずに、とりあえずやってみろよ、と言って来るエイラ。
 えー? とりあえずサーニャの方を見てみると、困ったような笑みをこちらに向けている。
 押し弱いなあ。 オレもだけど。 まぁ何時かは通る道だし、やってみるか……と、その前に。

「失敗しても……」
「だいじょーぶ、笑ったりなんてするわけ無いだろ?」
「違う……」

 いや、別に笑われるとかどうでもいいんですよ。

「……爆発とか……しない」

 ……何を言ってるんだこいつは、という視線を向けてくるお二人さん。 痛い! 白い目が痛い!
 だけどそういうデメリットとかあるならもうちょっと外堀を埋めてから初体験したいチキンハートです。
 飛行脚初体験はどう考えても無理無茶無謀の三拍子そろってたからな……余裕の有るときくらいは確りやりたい。
 とりあえずフリーズしてた二人を見て、そういう危険性は無いと信じつつ、ジョークだと伝え。 やってみる事にしました。

 サーニャと一緒に解読した本に書いてあった手順を踏めば、何とかなるだろうと思って。
 目を閉じて、脳裏に先ほどから散々眺めまくった呪術陣をぼんやりと思い描いて。
 魔法を使う。 頭頂部と尻の辺のむず痒さに気をとられないようにしながら。 こめかみの辺りから枝葉を伸ばしていくイメージ。
 形状のイメージは大丈夫だ。 サーニャが生み出す、あの二股になった鹿の角に良く似た形。
 やがて、脳裏に作り出した第三の耳に、ノイズが聞こえてくるような感じがして、それに手を伸ばして。
 触れた瞬間――脳裏を埋め尽くす砂嵐の音!

「……ッ」

 五月蝿ぇ!? と思った瞬間、集中が途切れたのかそのノイズが手の届かない彼方へと遠ざかっていった。
 大きく息を吐いて目を開けば、心配そうな顔で覗き込んでくるサーニャと、あちゃー、という顔のエイラ。

「大丈夫?」
「……ん。 ちょっと、驚いた……だけ」

 サーニャにそう応える。 というかまぁ静かな部屋に居て、突然拡声器のハウリングっぽい音が嵐になって脳裏に飛び込んできたら普通驚くさ。
 でも、なんというか、あれが電波とかを受け取る感覚なのだとしたら……随分と乱雑としたものだ。

「昼間は、色んな電波や魔力波が行き交ってるから……帯域を制限しないと、五月蝿いんです」

 と教えてくれるサーニャさん。 とは言ってもなぁ……ツマミやチューナーがある訳でなし、どうしたものだか。
 出切る様にならないと駄目なんだろうなぁ……それこそ、チューナー動かす感覚でフィルタリングとか出来ないと。
 
「うーん、やっぱすぐ出来る様になるわけじゃないのか。 魔導針がじわっと浮かんできた時にはやった! って思ったのにな」
「練習が必要な事だから……素質があるからって、簡単に出来るわけじゃないのよ、エイラ」

 まぁそりゃあね。 素質があるからって何でもすぐ出来る様にはならないのが普通なんだと思いますよ?
 サーニャも練習したんだろうしな。 オレが思っているのと同じことをエイラが指摘して。
 サーニャが照れたので、とりあえずオレも素直に凄い、との意を伝えておく。
 あのスゲェ五月蝿いのを慣れるまで聞きまくったって事だからな……凄いよ、サーニャ。

 しかし、また素質、か。 生理だったときとは違う意味で、自分が少し神経質になっているのがわかる。
 何気ない会話の中で発せられた台詞にも反応するとか、どれだけ意識過剰なんだかね。
 そこで、ふと思い出す。 そういえば、サーニャはピアニストを目指していたんだっけか。

「……サーニャ」
「何ですか?」
「……サーニャは……ピアノ、やってる」
「ぇ……はい、そうです、けど?」
「もし……」

 聞く。 少し怖いけれど。 なるべく心の動きが表に出ないように、ゆっくりと。
 自分が伸び悩んでるときに、自分の物よりも質の良いピアノを目の前で自慢げに弾く奴が居て。
 そのピアノを使うことが出来ればきっと何かが判る、そんな確信があるのに、それをどうしても使わせてはもらえない。
 もしそうなったら――どう思うのか、と。

 聞かれたサーニャは、至極不思議そうな表情で、少し考えてから口を開いた。

「……多分、悔しいと思います」

 でも、と続く。

「……私がピアノを弾くのは、それだけじゃないから。
 多くの人に、私の曲やお父様の作った曲を聴いて欲しいから……それに、何よりピアノを弾くのが楽しいんです」
「……」

 はにかんだサーニャの表情。 それがとても可愛らしくて、少しだけ見惚れてしまった。
 そうしていると、肩を叩かれる。 そっちを振り向けば、全てお見通し! 見たいな表情のエイラさんがいらっしゃいました。

「気にするなよな、ヴィルヘルミナ。 あいつなら大丈夫だって」
「……ん」
「?」

 その言葉に頷く。 多分こいつ、シャーリーにMe262の適正がなかったって事とか、シャーリーが落ちたって事知ってるんだな。
 あーもうオレ、例えが露骨過ぎるんだよな……恥ずかし。
 サーニャが疑問ありげな表情で此方を見つめていたが、まぁ夜番だし。 知らないなら知らないでいいよな。
 そんな事を考えていると。 何時ものようにエイラの手がオレの頭に伸びてきて。
 今回は乱暴にかき混ぜていくってオイコラそろそろ子供扱いやめて頂きたいのですが!

「ぐむ」

 変な声とか出ちゃうから! 恥ずかしいから! やーめーてー。

「やめてあげて、エイラ……ヴィルヘルミナさん、ちょっと嫌そう」
「そうかぁ? この髪の毛のふわふわした感じが気持ちいいぞ、サーニャもちょっと撫でてみる?」
「エイラ……ヴィルヘルミナさん、上官で年上なのよ?」

 む、そこまで言うならしょうがないな……とか言って、軽く髪を梳いてから手を退けるエイラ。
 普通に梳いてくれるなら気持ちいいんだけど、乱暴なのはちょっとな、って、いやいや、普通に梳いてくれるのも駄目ですやっぱり!
 なんだこのおかしい思考! なんとなく自分の考え方が駄目な方向に毒されはじめている事に恐怖を覚えつつ。
 心配そうな表情でこちらを見てくるサーニャの優しさに心打たることでその恐怖を誤魔化しておく。
 
 ん……いや? 確かに心配そうなのはそうなんだが、その視線がちらちらとエイラのほうを向くのは……ははぁん?  

「エイラ……」
「ん? どうしたヴィルヘルミナ?」

 何時もどおりの表情をこちらに向けてくるエイラさん。 はっはっは、何時も頭を撫でてくれるお返しにちょっとしたプレゼントだっ!
 唾を飲んで喉を少し湿してから、多分面白いことになるはずの言葉を放つ。
 
「……サーニャの、頭も……撫でて……あげれば、良い」
「うっ、ぇえ!?」
「どうしたの、エイラ?」

 目に見えて狼狽するエイラと、その様子を見て首を傾げるサーニャ。
 ふふふ、解りやすいなエイラさんよ。 なんともテンプレートな行動をとってくれるな……予想通り計画通り。

「なななんな、何を言ってるんだよ、そんなの……その、さ、サーニャが嫌かもしんないだろ!」
「エイラ……私、別に嫌じゃ無いよ?」
「ほら、サーニャもそう言って……無い!?」
「…………」

 腰を浮かせて混乱と羞恥の極地に至ってるっぽいエイラ。
 それを不思議そうに見つめているサーニャさんは、どうしたの? と顔をのぞき込んで。
 のけぞりながら、あー、だのうー、だの意味をなさないうなり声を上げる事しかできなくなった頭撫で魔の様子を見て、少し溜飲を下げるオレ。
 こういう仕返しの仕方もまぁ、楽しいからアリだろう。 その光景を目に焼付けつつも、しかし頭の隅では少し別のことを考える。

 楽しいから……か。 サーニャの言葉だ。 
 ふと思って聞いてみた、彼女の考え。 サーニャも、シャーリーと目指すものは違えど一つのことに打ち込んだことがある。
 ピアノとスピード。 サーニャも、音楽家として大成することを目指しているのだ。 その考え方に何かいいアイデアでもないかな、と思ったのだが。
 少したとえが悪かったか、或いはやはり方向性が違いすぎた……かな。 
 或いは本当に、エイラの言うとおり気にすることなんか無くて、単に余計なおせっかいを焼いているだけなのか。
 まぁ、今回はトゥルーデみたいに切羽詰ってるわけでもないからな……でも、何とかしてやりたいんだよなぁ。

 結局、テンパッたエイラが「ぐぐぐ、グラス片付けてくるっ!」と叫んで逃げるように部屋から飛び出して。
 それが契機になって、今日のお勉強はお開きとなった。
 エイラー、据え膳を前にしてそれはちょっとヘタレすぎやしないかい……サーニャの無垢な疑問の瞳に耐えるのも一苦労だったぜ。

******

 シャーリーが墜落したその日の夜。 夜間哨戒に出ているサーニャの為に開放されている格納庫。 
 いつもは非常灯を残して全て消えているはずの照明が、しかし今日に限って一部だけ、煌々と暗闇を照らしていた。
 明かりの下で、ストライカーの懸架台に座り込んで作業しているツナギ姿の人影。 シャーリーだ。

 背を向けたシャーリーに話しかける人影――芳佳。 手にはおにぎりが二つ盛られた皿と、湯飲みを乗せたお盆。 

「シャーリーさん」
「ん? ああ、宮藤か。 とと、悪い、七番の伝導管取ってくれる? そこの作業台に乗ってるから」
「え、で、伝導管?」
「なんか管みたいな奴、無い? 金色の奴」
「えーっと……あ、長いのですか? 中くらいのですか、それとも短いのですか?」
「中くらいの」

 いろんなパーツや呪符、工具が雑多に並べられている作業台。
 それと、手元のお盆を見比べて少し唸ったものの、妥協して一番平らそうなところにお盆を置いて。
 言われたとおり、長くも短くもない、真ん中で少し折れ曲がった細い金属の管をつまみあげて、手だけ後ろに伸ばしているシャーリーに手渡した。
 装甲板が開かれ取り除かれて、複雑な内部機構が剥き出しになったストライカーユニット。
 そこに受け取ったばかりのパーツを組み込んで微調整した後に、各稼動部を指で動かして整合性を見る。
 その結果に納得したのか、シャーリーはうむ、と頷いた。

「ん、よーし、引っ掛かりが無くなった。 宮藤サンキュ」
「いえ、どういたしまして。 ……まだ直らないんですか?」
「いや、ほとんど終わってるよ。
 推進用呪符の発生器に過剰に魔力が流れ込んでオーバーヒートしちゃったのと、導管の一部にクラックが起きてただけだからね。
 あ、後はワイヤも劣化が激しかったから交換したっけか。 エンジンの方はプラグが何本かおかしくなってただけで助かったよ。
 エンジン関係以外は機構の奥の方だったから、折角だし気になってるところ全部チェックしてたのさ」

 ま、時間はかかるけどこいつにも結構無理させてるから、良い機会だったよ。
 そんなシャーリーの言葉を聞く芳佳の表情は、眉根を寄せた難しいもので。

「……あの、ごめんなさい。 何言ってるのか全然判りません」
「はは、そっか、悪い悪い」

 芳佳が機械関係に縁の無い生活をしていた事を思い出し、シャーリーは苦笑しながら答えて、首を回しながら立ち上がる。
 夕食が終わってからずっと修理と点検を続けていたのだ。 芳佳の耳にも首の鳴る音が小さく聞こえるほどだった。
 振り向いたシャーリーの顔はグリスや煤などで多少汚れていたが、相変わらずの少し眠たげな表情で。
 伸びをして、深呼吸。 ツナギの前を開いて風を送り込みつつ、今になってやっと気づいたかの様に芳佳を見る。
 ただ、当の芳佳はシャーリーの顔ではなく晒された白い胸部にちらちらと視線を送っていたのだが。

「ふふん、気になる?」
「え、ぅぇえ!? な、何でもないです!」

 それに気づいたシャーリーが何時もの笑みを浮かべて流し目を送ると、芳佳は真っ赤になって首を振った。
 慌てて否定する様子を見てくく、と小さく笑いを漏らしてから、本題に入る。

「で、宮藤は何しに来たのさ?」
「え、ああ。 お夜食を持ってきたんです」
「おっ、悪いねぇ。 しっかし、もうそんな時間かー……中佐にまた怒られるかな?」

 壁にかけられている無骨な丸時計を見やれば、もうすぐ10時半。
 随分と良くしてくれるが、それでも規律を守ることを是とする基地司令の顔を思い浮かべて苦笑して。
 視線を、芳佳が指差す作業台の上に移す。 まだ少し湯気を上げる白い塊を見て、何だありゃ、とシャーリーが呟いた。

「おにぎりです。 今日の夕食のお冷ご飯を暖めなおして作っちゃいました」
「へぇ、そういえば少佐もなんか似たようなの作ったことがあったっけな……あの時は三角じゃなくてもっと……なんというか、変な形してたけど」
「あ、あはは……そういう事もあるかもしれないですね。 扶桑の、か、家庭料理だから、ほら、地方によって違うとか」
「ああ、解る解る。 リベリオンでも州をまたぐと味付け変わったり、北と南だと調理法違ったりするね」

 そうです、きっとそれと同じです、と力説して。 さり気なく憧れの上官の威信を守る芳佳だった。
 その勢いに少し不思議そうな顔をしつつも、シャーリーは作業台に歩み寄る。 お腹が減ったら食べるのが彼女の哲学。
 とりあえず手を伸ばそうとして、格納庫に繋がる廊下側から、テンポの速い足音が近づいてくるのにその手を止めた。
 開け放たれているドアから入ってきたのは、リネットで。

「芳佳ちゃーん!」
「リーネちゃん?」
「忘れものだよ、お漬物!」

 その手には、小さな陶器の器。 芳佳が付け合せにと用意した白菜の漬物。
 まだシャーリーが食事を始めていないのを見て安心したのか。
 歩くペースを普段のそれに戻してリネットが二人に近づき、お盆の上に漬物を置いた。
 一仕事終えた達成感に息を小さく吐いて。 そんなリネットに芳佳は素直に礼を言う。

「ありがとうリーネちゃん」
「どういたしまして、芳佳ちゃん」

 微笑みと共にお返しの言葉を述べて、そのまま直ぐに息を整えた。
 リネットとて伊達に毎日走っている訳ではない。 小走り程度で乱れた息など、数呼吸で元に戻る。
 その間にシャーリーは漬け物がどういう物かを思い出しつつ。

「漬物……って、扶桑のピクルスだったっけ。 リーネも手伝ってくれてたのか……なんか悪いなぁ」
「いえ、言い出したのは芳佳ちゃんで、私は手伝っただけですから。 暖かい内にどうぞ」
「ん、そっか。 確かサンドイッチと一緒で手づかみで良かったんだよな。 じゃあ、いただき――」

 リネットに礼を言いながらおにぎりに手を伸ばして、はた、と止まる。 そのままうなり声を上げ始めた。
 何事かと芳佳とリネットがのぞき込めば、シャーリーの視線は己の右手に伸びていて。
 軍手――それも、精密作業用の指ぬき手袋をはめていたその手は、やはり機械油や汚れにまみれていて。
 作業台にかけてある雑巾は真っ黒で、指の汚れを軽く拭う以上の仕事は出来そうにもない。
 唸り声が数秒続き、そして諦めたようにがっくりとうなだれる。

「たはは……その、悪いけど頼める?」

 シャーリーは苦笑いしながら芳佳とリネットの方を見た。

 
//////

「はい、シャーリーさん」
「あむっ、もぐもぐ……んっぐ!? ~~ッ、すっぱい!」

 芳佳が持ったおにぎりに、女の子としては少々問題の有りそうな大口でかぶりついて。
 具である種を抜いた梅干しの大部分が口内に侵入して、シャーリーの目尻に涙が浮かんだ。
 リネットが差し出した湯飲みを慌ててひったくり、ほどよく温くなったお茶で舌を洗い流す。

「わわ、そんなに一度に食べたら流石にすっぱいですよ」
「あはは、お腹減ってたからさ……それにしても扶桑は納豆といいこの酸っぱ塩辛いいプラムといい、変な食べ物が多いね」
「リベリオンのお料理は味が濃すぎるんですけど……」
「私は芳佳ちゃんの作ってくれる、扶桑のご飯美味しいって感じるけど、その、納豆以外は」

 ただまあ、味は薄いと思う。 シャーリーとリネットの言葉が重なり、芳佳は小さく唸った。
 そんな芳佳の手から、今度は慎重になったのかおにぎりを少しだけ囓り、咀嚼して嚥下するシャーリー。
 丁度良い梅干しの分量だったのか、今度は満足げに頷いてから言葉を放つ。

「ま、作ってもらってる以上贅沢は言えないけどね、もっとハッキリした味付けの方があたしは好きだよ」
「じゃあ、今度フィッシュアンドチップスを作るときは、お酢とお塩の量を増やしてみようかしら」
「それ以前にリーネちゃんは何でも油で揚げすぎだと思うな……」

 えー? そうかなぁ、と首を傾げるリネットに、芳佳はぶんぶんと首を縦に振る。
 ブリタニアに来てから一番に出来た一番の友達といえど。
 彼女の作るお菓子以外の食料については納得できない部分が多少なりともある芳佳だった。
 素材の味を引き出すことを是とする扶桑の料理で育った芳佳にとって。
 リネットの料理は無為に煮詰めて焼いて揚げるだけにしか見えなかったのだ。
 首を振って、視界が揺れる。 その拍子に作業台に立てかけてあった、黒い表紙の小さな本が芳佳の目に入る。
 革張りで、豪華な印象を与える代物。 汚れやすい格納庫には場違いな品物に、なんだろう、と思っていると。

「ああ……気になるかい? リーネ、読んであげてよ」

 芳佳の目の動きがいつの間にかその本に注がれているのに気付いたシャーリーが、何処か自慢げに言って。
 同じく本に気付いたリネットが頷きつつ、不思議そうにしつつも本を拾い上げる。 そのまま芳佳の方に近づいて、肩を寄せた。
 1ページ目。 数年前の年代と共に、ブリタニア語と九割九分同じ型のリベリオン語で。

 Bonneville Saltflat International Speedway

 そのままページをめくっていく。 写真と解説の文章が組み合わさった、一種の写真集。
 男や、女や、或いは獣耳を生やした女性――ウィッチの写真。 多くの画に共通しているのは、その背景や隣に車やバイクがある事。
 どの車も、見たことの無いほど車高が低かったり、槍のように長かったり、あるいは細かったりしていた。
 めくり続けて。 あるページでその手が止まる。 折り目や紙の擦れ具合から、何度もそのページが開かれているとリネットと芳佳は理解した。

 そのページに掲載されている、ひときわ大きな写真。
 飛行機械かと思わせるほどの流麗な流線型のカウルを持ったバイクと、その傍らに立つのは。

「シャーリーさん?」
「グラマラス・シャーリー、新記録……って、バイクの記録ですか?」

 写真に写っている少女は、紛れも無く今彼女達の隣に居るシャーリーで。
 湯飲みを傾けていたシャーリーはその視線を受けて、得意げに頷いた。

「ああ、あたし、ストライクウィッチになる前はバイク乗りだったんだよ。
 ボンネヴィル・フラットって知ってるかい? リベリオンの真ん中にある、見渡す限りが塩で出来た平原さ」
「そんな所があるんですか」
「そこは、あたしみたいなスピードマニア達の聖地なんだ」

 目を閉じて、その風景を思い出すようにシャーリーが語り始める。
 地平線の彼方まで広がる、陽光に白く輝く平坦な大地。 そこで、大勢の人間がただ速度という一点において競い合う。
 速度に恋した奴らが、彼女あるいは彼の寵愛を得る為に、死力を尽くして最速を目指す。 そんな場所だ。
 
「そこで記録を破った日、あたしは聞いたのさ。 魔道エンジンを操って空を舞う、世界最速の魔女の話をね」

 シャーリーは目を開いて、視線を傍らのP-51へと流す。 そのまま手を伸ばして、装甲板の滑らかな塗装の感触を楽しむように撫でた。
 
「その日に速攻軍に志願して入隊……色々あって今に至る、って訳さ」
「それで、任務の無い日にスピードの限界に挑戦してるんですね!」
「そーゆーこと。 あ、宮藤、次のおにぎり」
「はい、次はおこぶですよ」

 おこぶ……って、海草か、本当に扶桑は不思議な食材使うよな……と呟きながら、二つ目のおにぎりにかぶりつくシャーリー。
 その甘しょっぱい味付けに、味の濃さは兎も角美味しくはあるんだよな、と頷いた。
 おにぎりを持っている芳佳は、もぐもぐと満足げに咀嚼するシャーリーを見て安堵しつつ、今の話を反芻する。

「最速……かぁ。 すごいなぁ。 でも、それって何処まで行ったら満足するんです?」
「ん……そうだな、何時か音速……マッハを超えることかな。 音が伝わる速度、だいたい時速1200kmくらいかな」
「せ、せんにひゃっきろ!」

 芳佳が驚きの声を上げるが無理も無い。
 時速1200km。 芳佳の扱う零式艦上戦闘脚が出せる限界速度の、約二倍だ。
 今のところ世界で一番速いといわれているストライカーユニットでさえ、その速度には到底及ばないのだから。
 隣で驚く友人の心情を代弁するように、本当にそんな速度を出すなんて、可能なんですか、とリネットが問う。
 その言葉を受けてシャーリーは、困ったように苦笑した。

「さてねぇ……でも、きっとたどり着けるはずさ。 いや、たどり着いてみせる。 誰よりも早く、この私がね」

 その視線は、やはり装甲板が開かれたままのP-51に注がれたままで。
 芳佳とリネットの目も、自然とそちらのほうに向けられる。 数秒たって、沈黙を破るようにシャーリーが小さく息を吐いた。 

「二人ともありがとな。 ほら、そろそろ寝ないと明日が辛いぞ?」

 壁にかけられている時計は、もう11時を指そうとしている。
 本来の消灯時間も過ぎているうえに、基地の朝は早い。 朝起きることが免除されているのは、夜起きているサーニャだけだ。

「え、わ、本当だ! 寝坊したら坂本さんに怒られちゃう!」
「あたしも片付けしたら直ぐに上がるからさ、食器だけ持って行ってよ」

 おやすみなさい、とお辞儀してから、リネットと一緒に慌てて格納庫を出て行く芳佳を見送って。
 二人が居なくなったのを確認してから、シャーリーは再び視線をP-51へと移した。
 そのまま、無言。 時計の秒針が一回転するほどの間、自身の愛機を見つめて。

 今度は大きく、ため息を吐いた。
 





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とかくオタクの発言はその方面に知識のない人には外国語に聞こえるでござる、の巻。
芳佳とリネットの目上に対する口調が重なりすぎる件について。 区別つかねぇ!

久しぶりにサーニャの秘め声を5回くらい聞き直してから速攻改訂。
確かにサーニャはノーガード戦法だわー。 たまにこういう事しないとイメージが一人歩きして困る。

追記:サーニャの秘め声は犯罪



[6859] 23
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/07/29 14:55
23「好きこそ物の」

******

 朝。

「ん、ああ。 ヴィルヘルミナか、おはよう」
「おは……よう」

 食堂から自室に向かう為に廊下を歩いていたら、美緒さんとエンカウントした。

「はっはっは、朝の挨拶はもっと元気良く、だぞ!」
「……お、おはよう……ございます……!」

 朝っぱらから元気ですね美緒さん! 相変わらず、単音ずつしか喋れないし……ああっ、微妙な表情しないでくれ。
 コレが今のオレにできる精一杯なんです。
 しかし、一月経ってこれとはこの喋りの改善しなさはなんか病気とかを疑ったほうが良いんじゃなかろうか。
 あと、朝は微妙に低血圧でダウナーなんです。 ご飯食べてカロリーまわるまであんまり元気でないしな。
 
「ふう……まぁ、それもお前の個性といえばそうか」
「……ん」
「そこで肯定するのも何か違う気がするが」

 そうですか。 いや、できればコレも個性ってことで流してください美緒さん。
 とりあえず、挨拶のために止まっていた足を美緒さんが動かしだす。 それに追従して、オレも彼女の左側を歩き始めた。
 絨毯に吸収された靴音がかすかに響く中、美緒さんが気分のリセットのためだろう小さな息を吐いて。 口を開く。

「調子はどうだ?」
「もう……随分、良い」
「そうか、それは良かった……辛い者は本当に辛いらしいからな。
 それはそれとして、魔導針の方はどうだ?」

 生理のことかと思ったら、訓練のことかよ……う、ちと恥ずかしいぜ。
 それにしても、やっぱご存知ですか。 まぁ当たり前っちゃ当たり前なんだけれども。
 とりあえず、難しいです、いろんな意味で。

「……難しい」
「難儀な事だな。 私も使い魔もその手の呪式はからっきしでな……扱える魔女がそもそも少ないとはいえ、な」

 美緒さんが頭にアンテナ生やしてるところを思い浮かべる。
 ……なんとも似合わないな、うん。 刷り込まれたイメージってのは偉大だ。
 それに、美緒さんレーダーなんて要らないだろ。 魔眼パワーで火星の表面とか見えるんじゃねえの?

「まぁ、何事も一夕一朝には行かないものだ。 剣の道、学問の道、万事一日にして成らず、だな」
「……ん」
「私の剣術だって昨日今日身に着けたものではないし、まだまだ未熟だと自覚している。
 お前のそれも、自然と扱える様になるにはもう少しかかるだろうな」

 そう言って、肩を叩いてくる美緒さん。 ちょっと痛いが、うん、まぁそうだな。
 美緒さんの台詞で思い出したけど、そう言えば使い魔の補助も貰えるんだった。
 地道に頑張るしか無いか……使い魔にもちょっとサポート貰ったりすれば、なんとかなるだろうし。

「……頑張、る」
「うむ。 だが、そんなに気負うなよ? 幸いにしてサーニャという優秀な師が居るんだ。
 あれは消極的だが、優しく賢い子だからな……躓いたりしても、きちんと助けてくれるだろう」

 よく解りますよ、美緒さん。 サーニャには迷惑をかけることになるが……結果的に彼女を助けることにもなるだろうし。
 それに、自分の出来ることを増やすのはこの世界での下地のないオレには大事だからな。

「道を究めんと欲すれば何とやら、だ。 何より忘れているとはいえ、問題なく使えたという保障があるんだ。
 多少の障害など気にせず、一足飛びになどと自惚れずに努力を重ねていけばいい」

 保障、ねぇ。 確かに、この――ヴィルヘルミナさんの身体にはそれこそ人生変わるくらい助けられている。
 それは作為的にしろ偶然にしろとんでもない幸運だってことはわかっている。
 だけれど、世の中には幸運ばかりじゃないってことも十分わかってるさ。
 
 思い浮かべるのはシャーリーのことだ。 朝食の席で酷く眠そうにしていたところを見ると、昨日も夜遅くまで何かやっていた様だし。
 オレも十代の頃は夜更かしは良くしたが、一応こっち軍人だしなぁ。 体力とか心配になる。
 それに、何時もどおりに見えて、なにやら焦っているような雰囲気も見受けられるのだ。
 飄々とした笑顔のお陰で、気のせいかとおもえるレベルだが。
 逆に言えば、それを察してしまえるほどに、誤魔化せなくなってるかの様で。
 ……ちょうどいいので、部隊ナンバー2たる美緒さんに少し相談してみるか。

 歩きながら、相変わらず上手く回らない舌でその辺りの事を語ってみると。
 少し驚いたような顔で、オレの話を聞いて。 少し考え込む様子を見せてから、口を開いた。
 
「ふむ……なるほどな。 心配なのはわかるが、だがなヴィルヘルミナ。 気にしすぎだと思うぞ?
 シャーリーだって、自分の限界くらい理解しているだろうしな……それに、お前も人のことを言えたものじゃないだろう?」

 う、耳が痛い。 無茶の事を自省していると、余りおせっかいを焼いてやるな、放っておいてやれ、と美緒さんは続けた。

「周りが幾ら色々言ったとて、道を究めるというのは結局のところ自分との戦いだからな。
 軍という環境においてはちょっと間違った方向とはいえ、努力を惜しまず邁進しているんだ……結果はいずれついて来るだろうよ」
「……ん」 

 ……やっぱりちょっと気にしすぎかなぁ? いや、コレが別の奴だったらオレもほっとくんだけどさ。
 割と仲良くしてもらってる上に、原因の半分くらいはオレ……というか、Me262にある気がするし。
 やっぱり何だかんだ言って罪悪感があるのである。 オレがああいう状況にあったときは、それでも誰かに助けて欲しかったしな。
 スピード関連にしても、そうでないことにしても、だ。 オレも速いの好きだし。
 それにしても、恵まれた環境にいるなぁ、オレ。 しっかりしなきゃ。

 オレが黙って考えこんでいるのを見て何か思ったのか、美緒さんは小さく苦笑を漏らしてから、口を開いた

「まぁ……関連はミーナから聞いているからな、気にするなというのも無理な話、か。 それに、確かに少し根を詰めている感じではあるな。
 事故の前日や、昨日も遅くまで調整や修理をしていたようだし、あの調子だと今日の余暇の時間も格納庫に篭りっきりだろう。
 ちょうど良い気分転換をミーナと考えていたところだ」
「……気分、転換?」

 気分転換? って、何だ? 視線を美緒さんに流しながら記憶を探る。
 えーと、この時期に何かそれっぽい物って……ああ、全体水練という名の海水浴、だっけか?
 芳佳とリネットがストライカー履いたまま水に叩き落されて、浮き沈み激しい事になるような、ならないような、そんな話だったはずだ。
 因みに、Me262は比重が重いので浮かぶとか無理だろ。
 実際の航空機と違って内部に空洞ほとんどないし……なので多分訓練は無いと思われる。
 オレ、着水したらストライカー脱ぎ捨てるよ。 服着てる上にそんな重いもの履いて泳げるとか戦国武将じゃないんだからさ。

「ああ。 もっとも、これは部隊恒例の行事のような物だが……ん? リーネか?」

 T字路に差し掛かったところで。 右手側からリネットの話し声と、足音が二つ聞こえてきた。
 美緒さんの言うとおり、芳佳とリネットが話しながらこちらに向かって歩いてきていて。
 というか、美緒さん越しにみえた芳佳の表情が非常に、トロンとした、陶酔しているような物で。
 ――なんか狩人の目に見える。 あんなにだらしない顔なのに、目だけがヤバい光を宿していた。

 芳佳に声をかける気満々の美緒さんを制止すべく、彼女の前に出ようと一歩足を進めたのと。

「おお、宮藤」

 適わず、彼女が言葉を発するのはほぼ同時で。

「ふぇ!?」

 そんな言葉と共に此方を向いた芳佳の手が突き出されて、ぐにゃり、と。
 胸を握られる感触――ひぃ。

「……ッ」
「あ――やわらかい」
「……宮藤ー、なーにをやっとるかー」 
「え、あ、さささ坂本さんっ!? これは違うんです!」

 何が違うのか問いただしたいところだが、あ、ちょ、こら、揉むな芳佳……お願いです揉まないでください、うひぃぃぃ!
 背筋の辺りを、経験したことの無い類のざわざわした感覚が駆け巡る。
 生理とは別の意味でちょっと精神にきつい物があるんですが、う、うう、か、勝手に涙が……ッ

「あれ、ヴィルヘルミナちゃん……結構おっきい」
「……ぐ」
「宮藤、何時まで胸を揉んでいる気だ! あと、ヴィルヘルミナもその程度で何度も泣くな! 減るものでもないだろうに」

 減ります! オレの正気度とか、男の子の矜持とかがガリゴリと音を立てて減っていくんだってば!
 うぎゃー! おっぱいは見たり揉んだりするもんであって、揉まれる物じゃねぇーッ!?
 っていうか怒んないでください美緒さん、涙とか目から出た冷や汗とか凄い零れちゃうのでっ!

「よっ、芳佳ちゃん!」
「あわわ、ヴィ、ヴィルヘルミナちゃん、ごめんっ?!」
「……ぅく、ん」
 
 肩が勝手に震えて、漏れそうになる嗚咽を我慢しながらうなずきを返す。
 あと数秒揉まれてたら決壊してたかもしれん……というかもうハートブレイク寸前。
 ミーティングルームに向かっていた彼女達と別れるまで、何度となく謝罪をしていた芳佳さんだが。
 その視線が時々オレの胸元に行っていたのは明らかで。
 何ということだ……一番知られちゃいかん人に知られてしまった気がする。

 その後、午前のエーリカとの訓練飛行中にこの事を愚痴ったら、肩に手を回されて慰める振りをして横乳を触られた。
 なんだこのセクハラだらけの職場。 訴えたら勝てる気がする。
 あと、背中に胸当ててたって言うけどな、エーリカ。 ルッキーニに匹敵するその平らな胸じゃ何も面白くないんだぜ……?


******

 そして夜。 最低限の照明だけが許された廊下に、前日と同じようにお盆を持って歩く芳佳の姿があった。
 昼間、美緒とミーナからの伝言をハンガーに詰めていたシャーリーに伝えたところ、再び夜食の依頼をされたのだった。
 彼女は、お盆の上に並べられたいくつかのおにぎりとサンドイッチ、そして温い番茶を眺めて、その時言われたことを思い出して。

「……やっぱり、ぴーなつばたーサンドイッチはお夜食には油っこすぎると思うんだけどなぁ」

 そう呟いた。 依頼された夜食は、おにぎり二つと、サンドイッチ。
 おにぎりの具は何でもいいといわれたが、サンドイッチの方は指定があった。
 ピーナッツバターとゼリーを挟み込んだもの、である。
 リベリオンではサンドイッチの定番の一つであったが、芳佳はやはり夜食にはくど過ぎると思えた。
 量も多い。 おにぎり二つといえば、茶碗に軽く二杯分だ。 それに加えてサンドイッチも、である。
 昨晩は足りなかったのか、と聞いたら苦笑していたのが気にはなるが。

 半分開いている扉を背中で押して、格納庫の中に入る。
 昨日と同じ場所にストライカーの懸架台と作業台があり、昨日と同じように天井からの照明が降り注いでいて。
 昨日とは違い、床に沢山のノートや紙束が広げられているその中心に、シャーリーが座り込んでいた。
 
「シャーリーさん、お疲れ様です。 お夜食持って来ました」
「ん、おー、ありがとなー」

 ノートの一冊から目を離さず、咥えていた鉛筆から口をはなしてシャーリーが返事をする。
 その様子に、煮詰まってる所なんだろうな、と理解して。
 なるべく足音を立てずに、昨日と同じ場所にお盆を置こうと作業台の方に足を進めて。
 
「とぅっ!」
「うわっ!?」

 芳佳がお盆を作業台に置いた直後、上から掛け声と共に人影が降ってきた。
 思わず驚いて飛び退った芳佳の目に映ったのは、おにぎりの皿を盆の上から奪いとったルッキーニの姿。
 彼女は流れるような動作でおにぎりを一つ掴み取り、大口開けて頬張って。

「あ、そっちは梅干……」
「ん゛ー! しゅっぱーい! ――でも美味しい!」

 一瞬梅干の激しい味に驚いたものの、そのまま美味しそうにぺろりと平らげてしまった。
 指に残ったご飯粒を舐め取るルッキーニの姿を呆然と眺めて、芳佳がふと我に返る。

「それ、シャーリーさんのお夜食なんだけど……」
「ああ、良いんだ。 なんかルッキーニに話したら、『アタシも食べたい!』って言い出してね。 今日のあたしの分は、サンドイッチのほう」
「ロマーニャの女の子はみんな美味しいもの好きなんだよ!」
「へぇ……そうなんだ。 言ってくれれば夕食のときとかに作ったのに」
「普通に食べるのと、夜食とかで食べるのとじゃ、ちょっと違うだろ?」
「そうなんですか?」

 立ち上がってノートを避けながら芳佳達の方へと歩み寄ってくるシャーリーの台詞に、芳佳は首を傾げることしか出来なかった。
 そういえば、祖母や母、あるいはお祭りがある時などの男衆の集まりなどに夜食を作ったりしたこともあったが。
 自分が夜食を必要として、食べたことは無かったなぁ、と思い出す。

「ま、そういうもんなんだよ。 な、ルッキーニ。 折角芳佳が作ってくれたんだから、二個目は味わって食べろよ?」
「はーい」
「それにしても……ルッキーニちゃん、何処から出てきたの?」

おにぎりを味わいながら咀嚼するルッキーニは、その問いに頭上を指し示す。
 それに沿って、芳佳が上を見上げてみれば。 格納庫の梁の一つに、色鮮やかな毛布が掛けられていた。

「あ、あんな所に……」
「ルッキーニは毛布さえあれば何処でも寝れるからな、こいつの寝床は基地中にあるよ」
「んぐ……ん、シャーリーが格納庫に居るときは、大体あそこで寝てるかな」 
「へぇ、そうなんだ……私、あんな高いところで寝たら寝てる間に落っこっちゃいそう」

 今日はノートなどを参照していることが多かったらしく、さして汚れていない指先をお盆に用意されていた布巾で拭ってから。
 シャーリーはサンドイッチを一つ摘み、口に運ぶ。 
 どうですか、という芳佳の問いに、ちょっとピーナッツバターの量が少ないかな、と感想を返した。
 自分では適量だと思っていたのだが。 その結果に少し残念に思いつつ、視線を床に広げられたノートや紙束に向ける。

「これ、どうしたんですか?」
「ああ、まぁ……研究ノートみたいなものだよ。 魔力の配分とか加速性能とか、今までの試験飛行で出した記録とか」

 あとは、マーリンエンジンの設計書とかそういった類の。
 そのシャーリーの言葉を受けてからもう一度、紙群を眺める芳佳だったが、何が書いてあるのかさっぱり解らない。
 だが、色々と専門的なことをやっている事だけは良く解った。

「凄いですね……それにしても、軍隊ってもっとあれしちゃ駄目ー、これしちゃ駄目ー、って言うところだと思ってました。
 でも、ミーナさんとかシャーリーさん、ルッキーニちゃんを見てると、そうでもないのかな……って」
「ん? 研究部署に居たわけじゃないし、本当はさせてくれないよ? ここが特別なだけ」
「え?」
「あたしがこの部隊に居るのって、ネウロイと戦うためもそうだけれど……こいつを弄るためでもあるからね」

 そう言って、シャーリーは懸架台に固定されている己のストライカーユニットを一瞥する。
 それに促されて、芳佳も内部構造が剥き出しになったP-51を眺めた。

「訓練課程が終わって部隊に配属されて、自分のストライカーユニット貰ったら居てもたっても居られなくて、勝手に色々弄ったりしちゃったんだ。
 これって軍規違反でさ……散々怒られて、それでも我慢できずに続けてたら、『追放されるか統合戦闘団に出向するか』って、ね。
 あたしは空を飛ぶ為に、誰よりも早く飛ぶ為に航空歩兵になったんだから、こっちに来た、って訳。
 そしたら、司令のミーナ中佐が話のわかる人で、戦闘に支障の出ない程度だったら好き勝手して良い、って言ってくれたんだ」

 中佐には本当に感謝してるよ。 そう締めて、シャーリーはサンドイッチを頬張る。
 割と大事そうなことを、何でもなく言う彼女を芳佳は見つめて、感嘆したように言った。

「大変だったんですね……それだけ、シャーリーさんは速さにかけてるんですか」
「ん、まぁね。 私が今生きてる理由の半分くらいは、それかなぁ。 ……なぁ、宮藤」
「はい?」
「宮藤はどうして此処にいて……飛ぶんだ?」

 サンドイッチを平らげて、温くなったお茶を飲みながら。 シャーリーは芳佳を見つめる。
 何時もの飄々とした雰囲気ながらも、その視線は至極真面目なもので。
 あたしだけ話すってのも、不公平だろ。 その言葉に促されて。

「……それは」

 心の中にあるイメージを声にしていく。
 おにぎりを食べながらも此方に耳を傾けているルッキーニや、まっすぐに、試すように視線を逸らさないシャーリーだけでなく。
 自分自身にも言い聞かせるように。

「お父さんとの、約束です。 私の力……ウィッチとしての力を、多くの人を守る為に、って。
 約束だけじゃないです、私も、私にも誰かを助けることが出来るなら、そうしたい……って思うんです。
 赤城――ブリタニアに来るときに乗せて貰った船と、乗ってた人達を守る為に戦った坂本さんや……
 ヴィルヘルミナちゃんみたいになれたらいいな、って」

 その為の力を持ってて、その力で実際に多くの人を救った二人は、憧れで、目標なんです。
 すこし頬を赤らめながらそう語る芳佳はそのまま言葉を続けようとして、躊躇する。
 それを見たシャーリーは頷いて、促す。 たとえ芳佳が何を言っても、大丈夫だというように。

「でも、それだけじゃないです。
 赤城で、坂本さんが初めて空を飛ぶのを見せてくれたとき、それに初めてお父さんの作ったストライカーで空を飛んだとき、私思ったんです」

 目を閉じる。 芳佳のまぶたの裏には、その瞬間の光景が、感動がいまだ焼きついていて。

「高くて、速くて、嬉しくて、凄くて……なんて言ったら良いのか解らないけど、空を飛ぶのって、とっても楽しかったんです。
 戦争は今でも嫌いです。 でも、空を飛ぶのは、私、好きです」
「そっか……楽しい、か」

 そのシャーリーの小さな呟きに、はい、と元気良く答える芳佳。
 一瞬の沈黙が場を支配して。 ルッキーニがおにぎりの最後の一口を飲み込む音が、意外に大きく聞こえた。
 そのままルッキーニが喋りだす。

「アタシも空を飛ぶの、楽しいから好きだよ。 こう、ギューン、ドヒャー、って!」
「え、と……」
「ヨシカ、解るよね!?」

 え、ちょっとぎゅーん、どひゃー!は解らないかな……と思っていることは口に出さず、少し苦笑を見せて。
 とりあえずうん解る解る、と相槌を打つ。 だよねー、と笑いかけてくるルッキーニに押されつつ、まだ黙ったままのシャーリーに気づいて。
 何がしか考えているような彼女に、芳佳は問いかけた。

「あの、シャーリーさん」
「……ん? どうした宮藤」
「シャーリーさんも同じじゃないんですか?」

 その言葉に、軽く瞳を閉じてシャーリーは己の胸中を探る。
 焦りや嫉妬、失意や苦悩。 普段は表に決して出さない感情の薄布を取り去ってみれば、答えは簡単に見えた。 

「ん……そうだな」

 目を開いて、応える。 その表情は笑みだ。 何時もの太陽のように明るい笑み。

「うん、そうだ。 楽しい。 空を飛ぶのは、楽しい! あたしも空を飛ぶの、大好きだ! ありがとな、宮藤!」
 
 どうしてこんなに解りやすいことを失念していたんだろうか。 いざ再確認してしまえば、そんな疑問が湧いてくる。
 だが、そんな疑問は後回しだ。 今は、この感謝の気持ちを伝えたい。 その欲求に素直に従って、シャーリーは芳佳をその胸に抱きしめた。

「え、え? う、わわわ! く、苦しいっ」
「あー、ずるいっ! アタシも大好き!」

 部隊一のボリュームを誇るバストに唐突に抱きすくめられ、芳佳は驚きの声を上げて。
 その胸を独り占めしている芳佳に対抗して、ルッキーニはシャーリーの背中に抱きつく。
 娘三人の楽しげな騒ぎ声が格納庫から漏れ出て行った。


******

「よっ、待たせたな」

 かさり、という芝生を踏む音が背後から聞こえて。 振り向いてみれば、そこにはエイラが居た。
 頷いて挨拶。 エイラはコレだけで色々通じてくれるから楽です。

 午後のサーニャとの勉強において、基礎の復習を終え、いざ魔導針の生成となったのだが。
 何度やっても受信帯域の制御ができず魔導針を維持することが出来なかったオレ。
 サーニャとやはり途中から参加してきたエイラが協議を重ねた結果。
 飛び交う電波の少なくなる夜十時以降に、滑走路の先端で練習してみよう、ということになった。
 とりあえず、彼女の任務の方を疎かにする訳にもいかないので。
 一通り警戒区域の方を回ってくるまでの間、開放されている格納庫脇で待っていたのだが。

「……まだ……サーニャ……来て、無い」
「いや、そろそろだな」

 何で解るんだよ……と思ってたら、私は予知の魔女だからな、サーニャの事だしその位はわかるんだよ、と言うエイラ。
 ……いやエイラさん、耳にインカム入ってるの見えてますよ。
 ずるっこはいけません、ずるっこは。 一瞬愛の力だ!とか思っちゃったじゃねえか。
 そんなオレの視線に気づいたのか気づかないのか、エイラは明かりと声が漏れてくる格納庫の中をひょい、と覗き込んで。
 ふ、とその空気が柔らかく弛緩した。 そのまま振り向いて、軽く叩いてから手をオレの頭の上に落ち着けた。

「な、言ったとおりだったろ?」
「…………」

 頭をなでられるのは……相変わらず余り好ましくないが、なんとなくこの状況なら触られてても何時もほど悔しくは無い。
 耳に届いてくるのは、シャーリー、ルッキーニ、そして芳佳の明るい笑い声。
 ちらりと除き見てみれば、照明の下で三人、夜だというのにわいわい騒いでいる様子が見て取れて。
 サーニャを、エイラを待っている間、格納庫脇、中からは見えない位置に持たれかかって、微かに聞こえてくる会話を聞いていた。
 ずっと聞いていた会話の内容と、見えるシャーリーの表情が、オレに色々と教えてくれて。

「……ふぅ」

 ため息を吐きたくもなるさ。 あー、やっぱ考えすぎてたみたいだよ、オレ。
 一人で心配して、色々考えてたのが馬鹿みたいだ。 シャーリーはオレが考えてたよりも、オレよりも、よっぽど強かったってわけさ。
 それに下手に色々考えるよりも、芳佳みたいに素直に色々言えるのが……あいつのそういう明るいところが、うん、羨ましい。
 経験積んで、色々と身を縛る物を得た大人じゃそういうのは無理だ。
 色々得た結果、出来るようになったり判るようになったりする事も多いから、どっちが一概に良いかはわからんけど、な。

 飛ぶのが楽しい、ね。 うん、確かに楽しい。 オレもそう思うよ。
 経緯は結構最悪だったり、直後の模擬戦の印象のお陰で薄まってるけれど、初めて飛んだときの感動は覚えてるさ。

 それにしても、芳佳さんがオレに憧れてるとか……マジ無いわ。 くそ、照れるなこりゃ。
 今までみっともない所しか見せてないはずなのにな。 必至になって死にかけて。
 誰かにそう思って貰う為にやってる訳じゃないんだが、あんなに素直に言われるとまぁ、悪い気はしない。

「ま、これで憂いも無くなったわけだし。 ヴィルヘルミナはヴィルヘルミナの事を頑張んなきゃな?」

 憂いといえば、明日の海水浴なんだが。 ネウロイのこともあるが、あの様子ならルッキーニが魔改造を施す余裕は無いだろうし。
 シャーリーは吹っ切れたみたいだし、心配事は無い。
 別に音速超えしたシャーリーが、その身を挺してネウロイのケツを掘らないでも正攻法で倒せるだろうし。
 オレの方はオレの方で……まぁ、何とかなるだろう。

「……ん」

 オレがそう返すと、エイラは満足そうに頷いてオレの髪を軽く一回梳いて、手を離し。 視線を滑走路の向こう、真っ黒な空と海に流した。
 数秒。 やがて、シャーリーたちの会話の声に加えてストライカーユニットのエンジン音が聞こえてくる。
 一月近く此処にいれば、いい加減ある程度の判別は出来るようになってくるし、今空に上がっているウィッチは一人だけ。

 さて……とりあえず、今やらなきゃいけないことに集中するとしますか!



******

 格納庫の中の三人は、サーニャが一旦帰ってきたことには気づいたものの、格納庫の中に入っては来なかったので、さして気には留めなかった。
 夜間任務を詳しく知らない芳佳はそういうものだと思ったし、知っている先任の二人は、少し休憩のために降りてきただけだと思ったのである。
 そのまましばらく消灯時間も過ぎているというのに騒いだ後、壁にかけられている時計が随分と遅い時間をさしているのを見て。
 シャーリーはあちゃあ、と苦笑いした。

「どうかしたんですか、シャーリーさん?」
「ん、ああ、宮藤はもう寝た方がいいよ。 付き合わせて悪かったね」
「あ、本当だ、もうこんな時間……シャーリーさんやルッキーニちゃんも早く休んでくださいね」
「あたしは慣れてるし、ルッキーニは四六時中寝てるからちょっとの夜更かしくらい気にならないしな」
「うん、気にならないよー」

 じゃあ、おやすみなさい、お盆は台所に運んで置いてください、と告げて出て行こうとする芳佳の背中に。
 明日の水着楽しみにしているよ、だの、ちょっとは大きくなったか見てあげる! だのの声をかけて、シャーリーとルッキーニは笑いあった。

 芳佳の背中が廊下の闇に消え、扉が閉められた後。
 依然として装甲板が開かれたままになっているP-51を眺めて、シャーリーは笑みを浮かべ、考える。

 気負いすぎていたのかもしれない、と思った。
 悩んで、ため息をたくさんついて。 そんな難しい顔をしている人に、笑いかけてくれる人間は少ないだろう。
 それが、勝利の女神ならなおさらだ。 彼女にアタックをかける人間は、それこそ星の数ほど居る事をシャーリーは知っている。
 ならば、自分の魅力を損じるような事をしていては、他所に行ってしまうのは道理だろう。
 
 楽しめよ、とシャーリーは思う。
 楽しもう。 上手く行かないことも、試行錯誤するのも、全ての状況を。 そして恋をすることを――空を飛ぶことを、速度を目指すことを。
 花の命は――魔女が全力で空を飛べる期間は、短いのだ。
 楽しまなくては損。 そう思って、とりあえず広がっていた研究ノートの類を閉じて、一纏めにして脇によける。
 その作業を行っていたシャーリーの横顔を見て、ルッキーニが問いかけた。

「どしたのシャーリー、なんか楽しそうだけど」
「ん? ああ、ちょっと遊ぼうかと思ってね」
「何々、何するの!?」

 そんなのもたまには良いだろう、とシャーリーは思う。
 戦いのためでもなく、記録更新のためでもなく、好き勝手に自由に空を飛んでみるというのも。
 そのために必要なもの。 それは、頭の固いトゥルーデやペリーヌには滅茶苦茶と取られるかもしれない。 けれど、解っている。
 戦う為に必要な調整。 速さを出す為に必要な調整。 自由に飛ぶためには、それに相応しい、自由な――面白みのあるセッティング。
 遊び、という単語に反応して目を輝かせてくるルッキーニを見て、シャーリーはもったいぶった様に頷いて。

「ちょっと最近まじめにストライカー弄りすぎて、ちょっと遊びが足りないって思ってさ。
 ……とんでもないセッティングで飛んでみるのも面白そうじゃないか?」
「えー……大丈夫、なの?」

 流石のルッキーニも、この提案には不安そうな表情と声を返す。
 破天荒な行動の多いルッキーニでも、ストライカーが精密機械だという事は知っているのだ。
 ただ、精密機械がどういった物かまでは考えが及ばなかったが。
 シャーリーが各種の記録をノートに取ったり、真剣な表情で弄っているのを傍で見ていたから。
 あまり無茶をするのは良くないのではないか、という事くらいは解っていた。
 そんなルッキーニに、シャーリーは不敵な笑みを返す。 そのまま胸を張り、親指で自分の事を指した。

「大丈夫大丈夫、あたしを誰だと思ってるんだい? どんなじゃじゃ馬だって乗りこなすスピードクイーン、シャーロット・イェーガー様だぞ?」

 その姿勢のまま、芝居がかった様子で眉根を下げて。 でも、と続ける。

「でも……ほら、あたしだけだとちょっと真面目に過ぎるかもしれないから、お前にもちょっと意見を聞きたいんだけど……」
「うん、いーよ! でも、良いの? アタシ全然わかんないんだけど」
「本当にヤバいのはきちんと直すから大丈夫だって」 
「んー……わかった!」
「上手くいったら、お前のユニットもちょっと弄ってみるか?」
「え、いいの? やったぁ!」

 じゃあ早速、とシャーリーがルッキーニを招きよせる。
 二人で肩を寄せ合って、ストライカーユニットの内部構造を眺めながら。 ああだこうだと騒ぎ始める。

「ここを……ちょりゃー! こうとかどうかな!?」
「うおお、ちょ、おま、ルッキーニ……凄いこと考えるな? ――でも、まぁ何とかなりそうだからよし!」
「えへへー、でしょでしょ? シャーリーなら大丈夫だよ」
「任せとけ! んじゃここはこうして……バランス悪くなるけど、まぁ何時ものことだし、こっちをこう弄って、これで……いい、はず!」

 それから二時間ほど、格納庫からは二人の楽しげな声と光がこぼれ出ていて。
 偶然基地上空を通りかかったときにそれに気づいたサーニャは、小さく笑みをこぼして。 再び哨戒任務へと戻っていった。







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書いててふと思いついた事:
「乳辱魔女ヴィルヘルミナ~やめて! もう弄らないで!~」
なんか普通にエロゲーとかでありそうなタイトルになってしまった。 XXX板に行く予定は今の所ありません。
ネタが無い事もないけど、行かないったらないんだからねっ!

読み直しててふと思いついた事:
(肩組んで飛行中)
エ「あててんのよ」
ヴ「……? 何、を?」
エ「……うーん、私じゃ無理かー」

夜十時、というのは現代でもこの辺の時間帯が、多くの非国際空港の管制塔が業務終了する時間帯のため。
40年代でも深夜ラジオとかは有ったらしいけど、やはりこの辺くらいが電波的に静かになってくる時間帯だそうな。



[6859] 24
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/12/06 17:52
24「Beyound」

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「……と、言うわけで。 昨日通達したとおり、本日一○○○時より、全体水練を行います。
 訓練の一環ではありますが、何時もどおりだから皆、気楽にね?」

 頷いたり、返事をする皆。
 朝食後の、朝のブリーフィング。 というか朝礼の類だな、これは。
 何時もの大きな黒板のある部屋でミーナさんが本日の予定を連絡してくれています。
 毎朝あるわけじゃないけど、連絡・通達事項の無い日のほうが珍しいから結構こうやって朝集まったりはしてるけど。

 さてと。 ミーナさんが何時もどおり、って言う事はやっぱり恒例行事なんだろう。
 オレが来る前にも、暑い日はやってたのかもしれないなぁ。 昔はマリンスポーツよくやったなぁ……スキューバとか。
 30にリーチ掛けるくらいの年になると、昔ほど積極的に海に行きたいとは思わなくなってるんだが。
 それでも割と好きなので、機会があったらやりたいな。
 ……こっちの世界にスキューバとかまだ存在しないだろうけど。 ああ、でも割と万能っぽい魔法の力でどうにかならんもんか……?
 
 オレが余計な事を考えている間にも、ブリーフィングは恙無く進められていく。
 こういうの聞いてるのは結構だるい物です。 ちゃんと話してる内容は理解してるけれども。

「観測部からの報告では、あと60時間はネウロイの攻勢は無いことになっています。
 だけど、最近のサイクルの乱れを鑑みるに、情報の確度は著しく低下していると言わざるを得ない状況ね。
 よって、翌朝○六○○時より48時間の警戒態勢に入ります」
「聞いたとおりだ。 あまり羽目を外しすぎるなよ」

 ミーナさんが真面目な顔で宣言した後、美緒さんが皆に釘をさした。
 此処のところ、ネウロイには奇襲されまくりだからな。 そういう方針を採るのもおかしくないのかもしれない。
 先週、スケジュールどおりだったけれど、最近ではそれも珍しい事態なのだ。 今週も予測どおりに来てくれると考えるほうがおかしいだろう。
 まあ、つまりあれだな。 今日、水遊び一杯するから、明日からちょっと気合入れるよ! って奴だろう。
 ただ、その遊ぶ予定の今日という日に、ネウロイが来ちゃったりするのだが。
 ……日程とか知らないから本当に今日かどうかはしらないけどな。
 まさか、ウィッチが水着を着るとネウロイが来る、とかそんなアホみたいな因果関係は無いだろうし。

 ネウロイの来襲、それはおそらくオレにはどうしようもないファクターだ。
 劇中で起きたイベントも、オレが色々動いたりするお陰で潰れたり、あるいは変動するはずで。
 実際、昨晩の様子からするとルッキーニの魔改造によるシャーリーの音速突破はなくなりそうだし。
 彼女には申し訳ないが……シャーリーならほっといても普通に突破しそうだな、うん。
 多分戦後に普通に突破するし。 ベルX-1だっけか?

「ああ、それとヴィルヘルミナさんは、コレをよろしくね」
「……?」

 もうコレで終わりかな、と思っていると。 ミーナさんが、そこそこの厚みの紙束を渡してくる。
 眺めてみれば、それはブリタニア語とカールスラント語で何事かが羅列されたリストのようだった。
 えーと、ラインメタル・マシーネンゲヴェーア42が云々……?
 あ、MG42の事か。 略称じゃなくて正式名称で書かれてるから一瞬わからなかったわ。
 それにしても、何ぞこれ。 装備品リストかなんかかね?
 リストから眼を離してミーナさんを見つめる。 一息置いて、答えが返ってきた。

「ヴィルヘルミナさんには、一○○○時より、装備品の保管庫のチェックをお願いします」
「――えぇ!?」

 エイラさんよ。 何故貴女が驚きの声を上げるんだ?
 普通オレが驚くんじゃないだろうか……いや、オレにとっても普通に寝耳に水だけどさ。
 エイラの驚きの声を無視して、美緒さんが言葉を引き継ぐ。

「ヴィルヘルミナは前回の戦いにおいて、自分の負傷についての虚偽申告があっただろう……指揮官に対する虚報は厳罰ものなんだぞ?
 ま、結局のところ負傷はなかったわけだし、おめでたい事だったからな。 この程度で勘弁しよう、というところだ」

 わっはっは、と笑う美緒さん。 いや、笑って誤魔化さないで、おめでたいとか関連用語そろそろやめてください!
 ううくそ、微妙に恥ずかしいぜ……生理痛が完全に消えたのが昨日今日なのでまだ記憶に新しいのだ。
 連想される単語を使われると、年甲斐も無くビクビクしてしまう……顔には出ないけど。

「こういう日に自室禁固は少し可哀想だから……確認が終わったら、砂浜まで報告に来てね」

 ミーナさんが小さく囁いて、黒板の前へと歩み去っていく。
 結構量あるけど、実際のところそんなに時間かからない作業……なのか?
 リストに目を落とし、連なっている行の多さに始める前から少しうんざりして、顔を上げると。
 左隣に座っていたトゥルーデと、目が合った。 ちなみに右隣はエーリカである。
 トゥルーデが真面目な顔で小さく頷いて、すぐに視線をミーナに戻す。

 ……ああ、なるほど。 そういう事ね。 ありがとうなトゥルーデ……誤解されてる気がひしひしとするが。
 まぁ、水着姿にならなくて済むならそれはそれでいいか。 オレの羞恥耐性的にもその方がいい……よな? うん。
 昨日の晩、覚悟を決めてカールスラント支給のワンピース水着を着てみたわけだけど。
 流石に、水着は露出が高すぎたし。 死ぬかと思ったし。

 これが最後の通達事項だったらしく、そのまま解散となる。
 何事か話しかけてこようとしたエーリカが居たが、さあ、さっさと探すぞ! とか言いだしたバルクホルンに引っ張られて行った。
 辛うじて聞こえた声によると、水着貸して……とかなんとか。
 いや、ズボンとかサイハイとか借りた恩はあるけど、お前自分の水着持ってるだろ……部屋片付けて探せよ。
 第一、サイズ合わないだろうに。 あいつのほうが今のオレより身長高いんだし。

 その光景を眺めていたら、相変わらず半分以上寝こけているサーニャを背負ったエイラさんと、芳佳という珍しい組み合わせが通りかかる。
 目の前を通り過ぎ……ずに、顔だけこっちに向けて、残念そうな顔でエイラが呟いた。

「ヴィルヘルミナの水着姿、ちょっと期待してたんだけどなぁ……」
「……仕方、無い」
「ヴィルヘルミナちゃん、そういえば一緒にお風呂とかしたこと無いよね」

 水着姿から何を連想したのかは知らんが、芳佳さんが疑問の声を上げる。
 あー、まぁ、それはね? 誰かに裸を見られる羞恥心も無いとは言わんが、やっぱり心苦しさがね?
 時間ずれてもシャワーは浴びれるしね。 余計な誤解を招きたくないし。
 そのお陰で妙な隔意を持たれてもなんか嫌だしね。
 それに女の子の100%露出とか、エロビデオの中でしか見たこと無いのですよ芳佳さん。
 年長組と風呂場で鉢合わせるかもしれないとか、チェリーボーイの心を弄ぶのもいい加減にしていただきたい。
 
 とは、おくびにも出さず。

「時間が……合わない、だけ」

 そう返しておくオレは超紳士である。 本場ブリタニア人もこれには真っ青だな、などと脳内で大喝采しつつ。
 とりあえず起きてる二人と寝てる一人に先を促して、オレも退室の流れに乗ることにする。
 ……あ、そういえば。 念のため、ちょっと種をまいておくか。 手近なところでリネットでいいや。

「……リネット」
「はい?」

 素直に足を止めて、此方を伺ってくるリネットさん。 いい子だ。 水着姿楽しみにしてます!

「……海の、天気は……変わりやすい、から。 空……気を……つけて」
「? あ、はい。 ヴィルヘルミナさんも、残念でしたけど……お仕事、頑張ってください」

 これでよし。 
 さて、何事も起こらないのが一番なんだけれど、なぁ。


******

「なっ、ななななんでこんなの履くんですか!」

 砂浜から少し離れた岩場の上。 ストライカーユニットの模擬体を履いた芳佳が悲鳴を上げた。
 何時ものセーラー服を脱ぎ、インナー姿になった彼女の隣には、ピンク色のワンピース水着を着たリネットが不安そうに立っている。
 その二人の正面で、竹刀を地面に突き立てながら美緒は諦めたように答えた。

「何度も言わすな。 万が一海上に落ちたときの訓練だ!
 ……第一、その模擬体を運んでいるときに気づかなかったのか?」
「う、そ、それは……」
 
 美緒の一歩後ろに居たミーナが、たじろぐ芳佳の姿に苦笑を漏らしながら告げる。

「他の人もちゃんと訓練したのよ? 後はあなた達だけ」
「つべこべ言わず、さっさと飛びこめぇ!」

 芳佳と同じ、インナー姿の美緒が振るった竹刀が風を切る。
 ひぇぇ、と情けない声を上げながら二人は背後の小さな崖へと走って、その身を躍らせた。
 何だかんだ言って美緒の竹刀が振るわれたことはほとんど無いが、怖いものは怖いのである。

 盛大な水音を二つたてて。 芳佳とリネットは海中に没した。
 そのまま浮かび上がらない。 水面には気泡が幾つか浮かび上がり、消えていった。
 その光景を眺めながら、美緒が呟く。

「……浮いてこないな」
「ええ」
「それにしてもミーナ、水着、新調したんだな?」
「ええ、この前のお休みのときにね。 ちょっと大胆すぎるかな、と思ったんだけれど」

 ミーナが今着ているのは、カールスラント軍支給のワンピースではない。
 白のビキニ。 その上に、カーキ色のシャツを羽織っている。
 美緒は、何とはなしにミーナを見ていた視線を、手元の懐中時計に移してから。

「まぁ、ミーナならそういうのも似合うだろう」
「あら、ありがとう。 美緒は新しいのは買わないのかしら?」
「私は子供の頃からずっとコレだからな……今更別の物を着て潮風に当たるというのも、考えられなくてな」

 そのまま、懐中時計を見つめ続ける。 二人とも無言のまま、時計の針が時間を刻んで行く。
 期待した結果が返ってこないことに、美緒は、大きくため息をついた。

「やはり、飛ぶようにはいかんか」
「そろそろ限界かしら……」

 と、ミーナが心配の声を上げたとたん、海面に二つの影。
 二人ほぼ同時に浮かび上がって、飢えた魚のように口を開けて、上手く行かないながらも酸素を補給しようとする。
 その、どうしようもなく無様な姿を見て、美緒は先ほどよりも強く息を吐いた。

「こらー、二人とも……何時まで犬かきやっとるかー」
「い、いきなりなんて……無理……」

 精一杯の芳佳の抗議の声も、何処吹く風で。 美緒は少し離れた場所を指差す。
 そこには、優雅に平泳ぎで通り過ぎていくペリーヌの姿があった。
 
「少しはペリーヌを見習わんか。 あいつは一発で浮いてきたぞ」
「そんな事言われても……」

 そんな、恨めしげな芳佳の視線をペリーヌは悠然と受け止めて。

「ふふん、豆狸には犬かきがお似合いですわ」

 それだけ言い残して、泳ぎ去っていった。

「ま、また狸って……むむむむあばうばっ!」

 唸った瞬間に気が抜けたのか、重いストライカーユニットに引かれて再び海中に没していく。
 そんな芳佳につられたのか、あるいは力尽きたのか。
 同じように沈んでいくリネットを見て、この短時間に三回目となるため息を美緒は吐いた。


//////

 カールスラント軍支給の黒と灰色のワンピースに身を包んだエーリカとトゥルーデは。
 全体水練という建前に――少なくともトゥルーデは――従うべく、元気に泳ぎ回っていた。
 それもしばらくの事。 一通り泳ぎ終わって、海面に漂ってぼうっとするトゥルーデに、やや遠からくエーリカが問いかける。

「何見てんの? ……って、宮藤か」
「な、何を言ってるんだお前は! 違う!」

 慌てて視線を逸らすその姿に、ムキになっちゃって、おねーちゃん可愛いなぁ、と内心微笑ましく思いつつ。
 エーリカは、動揺して沈みかけた親友に近づいていく。 俗に言う、犬かきという泳法で。
 尤も、小さく水音を立てながら近づいてくるエーリカの様子のお陰で、呆れという名の平静を取り戻すことが出来たトゥルーデだったが。

「……フラウ、お前もいい加減泳ぎ方を覚えたらどうだ」
「えー、きちんと泳いでるじゃん?」
「お前のは犬かきだろう! 私が言っているのはクロールとか、平泳ぎとかそういった物のことだ」
「平泳ぎなら出来るよ」

 そう言って、泳ぎだす。 もっとも、それはどう見ても手の動かし方を少し変えただけの犬かきにしか見えなかったのだが。
 そんな友人の姿を見て、顔を手で覆うトゥルーデ。 本当にこいつは空以外ではてんで駄目だ、と絶望する。
 当の本人は全く気にした様子も無く、自称「ひらおよぎ」を続けて。
 トゥルーデを諦観のどん底に叩き落しながら、エーリカはふと思いついたように問いかけた。

「それにしても、ヴィルヘルミナ……トゥルーデが何かしたんでしょ?」
「……何のことだ?」
「またまた惚けちゃってぇ。 ……ま、いいけどね。 トゥルーデは意地悪するような奴じゃないし」

 最初からその可能性を考えては居ない態度。 長年一緒に視線をくぐった相棒の事である。
 何より、先週以来ヴィルヘルミナとトゥルーデの仲は非常に良好なものになっていたのだし。

「……もしかして、水に対する恐怖感でも、あった?」

 ヴィルヘルミナは、海の上で死に瀕した。
 海や風呂などの大量の水が、死の恐怖感を励起させてもおかしくは無いと思ったのだ。
 だが、トゥルーデはそれを首を振って否定する。

「違う、そういうのではない……まぁ、気にするな」

 ふーん、と。 唸って、考えて。 エーリカは黙りこむ。
 その様子を眺めて、目を瞑りながら。 トゥルーデは少し考えて、言葉を選んで話し始めた。

「そのうち本人が言い出してく」
「ねぇねぇ、ほら、背泳ぎ!」

 何事か言いかけたトゥルーデを遮り、エーリカが宣言する。
 話を中断させられた彼女が見たのは、顔だけ浮かせて、水中で仰向けになりながら手足をばたつかせているその姿。
 それはやはりどう足掻いても背泳ぎには見えなくて。

「お前は人の話を聞いているのかっ! 第一それは背泳ぎじゃなくてもっとおぞましい何かだ!」

 そう叫んで、犬かきのくせに妙に早く泳ぐエーリカを追い掛け回し始めた。


//////

「肌がひりひりする……」
「暑いな」

 砂浜に座り込んでいるエイラの隣、肩を寄せ合って同じように大人しく膝を抱えているサーニャが小さく呟く。
 独り言のつもりだったのだろうが、隣に居るエイラはきちんとそれを拾っていた。
 サーニャは、黒のビキニ。 エイラは、白のセパレーツの水着に身を包んでいる。
 北国育ちの二人には、今日の日差しはやや強く感じられるようだった。

 二人の視線の先には、水遊びを楽しむ少女達。
 皆と触れ合う事が少ないサーニャは、その輪の中に積極的に混ざることが出来ずに居て。
 それ以上に何よりも。

「……眠い」

 今はまだ、彼女は寝ているはずの時間だ。 声と、視線すら眠たげで。
 夜間哨戒の後のため、体力が充実しているわけでもない。

「帰って寝るか?」
「ううん」

 それでも、エイラのその問いには否定の声を返す。

「皆と一緒に、居たいから」
「……そっか」

 それっきり、エイラは問うことを辞めた。 サーニャがそう望むなら、出来る限りそうしてあげたいと、彼女は思う。
 だから、サーニャの頭が眠気に負けてエイラの肩に寄りかかってきたときも、エイラは慌てず騒がず、静かに肩を貸した。


******

 格納庫の奥、第二倉庫。 その重苦しい扉を開ければ、暗い室内から漂ってくるのは機械油と埃と金属の匂いだ。
 感想。 くせぇ。 換気窓も換気扇もあったもんじゃないし。 流石罰仕事だぜ。 3Kの内2要素を満たしかけてる。
 うう、今頃娘さんたちはキャッキャウフフしてるんだろうなぁ。 女の子の水着姿である。
 何歳になってもその響きに魅力を感じるのが男のサガである。 下着と見まごうばかりの露出度の癖に! けしからん!
 ルッキーニとかの年少組は割とどうでもいい。 将来に期待である。 今見たいのはシャーリーとかミーナさんとか美緒さんとかのである。
 照りつける太陽! 健康的な肌の色と、色鮮やかな水着! 揺れるおっぱい! 濡れ髪が張り付いたりしてるとなおよしだ!

「…………ふぅ」

 ……想像と目の前の現実のギャップを自覚したらちょっと鬱になってきた。
 終わったら砂浜のほうに報告に来るように、って言ってたからさっさと終わらせて肌色桃源郷に向かうとしますか。
 今日ネウロイが来る可能性が高いのは判ってるが、何時来るかまでは判らないからな。 見逃したら泣き寝入りする。

 部屋の電気をつけて、部屋の中に踏み込む。
 電球の頼りない光に照らされながらその存在を自己主張するのは、漂ってきた匂いに相応しい物ばかりだ。
 鉄と、鉄と、鉄。
 機械化航空歩兵備品保管庫、という名前どおり、そこには銃器を始めとした様々な物が陳列されている。
 手渡されたリストの数量と、此処にある物の数がしっかり合っているかをチェックすること。
 それがオレに課された罰仕事であり、まぁ、要するに棚卸しの真似事だった。
 一日だけで終わる罰仕事でよかったと思うべきか、トイレ掃除や風呂掃除の方が楽だったかもしれないと思うべきか

 普段から格納庫にあるもの――たとえば、ストライカーの懸架台や壁のラックに備え付けられている装備。
 出撃時に即座に持っていけるそれらと違い、此処にあるのはその予備だとか、使わない装備なんだろう。
 見たところ、使用者が多いせいもあるのか、MG42とか替えの物だろう銃身だけのを含めて結構立てかけてあるし。
 その脇には、MG34だとか、見たことの無い2m近い長さのある重機関銃があったりした。
 銃器オタクとか大歓喜なんだろうなぁ……MG42と34くらいしか判んないぜ。 拳銃とかだったら結構判るんだけどな。
 モーゼルとか、ワルサーとか、南部とかコルトパイソンとか……ああ、コルトパイソンはなさそうだな、この基地。
 まぁ、個人の装備は個人で管理したり、あるいは一般の人員と共通なんだろう。 此処には無さそうだ。
 弾薬も見たところ無いな……まぁ、当たり前か。
 そういうのは失火事故とかあったらとんでもないことになるだろうから、もっと離れたところだろう。

 銃器以外にも、なんか焼け焦げた複数気筒の小さなエンジンっぽい物――多分、魔道エンジン――が置いてあったり。
 細々とした物もまとめて箱に入れておいてあったりして。 というか、焦げたエンジン廃棄しろよ……この分だと相当どうでもいい物まで置いてありそうだなぁ。
 うむ。 すげぇ面倒くさそうだ……が、任された仕事は確りしなきゃなぁ。 あんまり早く終わっても疑われるだろうし水着着用コースかもしれないし。
 うー、とりあえず数えるか。 鉛筆を取り出し、脇に挟んでいたリストを眺めて、簡単そうなところから始めることにする。
 えーと、まずは身近なブツであるMG42の銃身がちゅうちゅうたこかいな……っと。 うん、数は有ってるな。
 それにしても、重機関銃を身近なものに感じるとか……ぶっちゃけ嫌だなぁ。
 次は、なんだこの発電機の親玉みたいなの? ……い……いぐにしょんなんちゃら? こういう大物は判りやすくて楽だな、チェック、と。
 えーと、次のこの出来損ないのストライカーみたいなのは……フロート? フライングユニット用? 見た感じ随分古いな。
 エンジンといい、使わない装備なら捨てちゃえばいいのに……物持ちがいいのやら何なのやら。

 薄暗い照明の下、黙々と数量を数えては鉛筆でチェックをつける作業を続ける。
 室内のお陰か、あるいは人が余り立ち入らない場所なのか、埃っぽくも涼しいのは良いんだが。
 やっぱり! 凄く面倒くさい!
 うう、しかしコレが終わった後にはたゆんたゆんパラダイスが待っているんだ。 頑張れオレ、負けるなオレ。
 この目に、皆の水着姿を焼き付けるそのときまで!
 

******

 脇に抱えていた塗装の成されていないストライカーユニットを投げ出しながら。 芳佳は砂浜の上に倒れこんだ。
 全身が休息を求めている。 それは、彼女の横に座り込んで荒い息を吐いているリネットも同じ様だった。

「うう、疲れたぁ」

 まだ濡れている芳佳の髪から海水が滴り落ちて砂に染み込み、すぐに乾いていく。
 芳佳にとって、水練という名の拷問――ストライカーユニットを履いたまま着水した時のための訓練は正しく拷問だった。
 使用したのは重量のみを再現した、模擬機材である。
 本来なら飛行用の呪符がある程度の浮力を発生させるため、魔力や体力を消耗しつつも割と難なく浮いていられるのだが。
 模擬機材にそんな機構は当然ながら付属していないので、足に結構な重さのウェイトを巻きつけて海に飛び込むようなものだった。
 実際のところは、自ら飛び込んだというよりも美緒に無理やり海に叩き込まれたのだが。
 
「何でこんな事するんだろう……ミーナさんも、遊べるって言ってたのに」 
「海は広いからだよ」
「シャーリーさん?」

 誰に聞かせるでもなく呟いた愚痴は、予想外の返事を得た。
 声の元、シャーリーは身を起こそうとする芳佳のを手で制しながらその隣に腰を下ろす。
 濡れ髪が肌に張り付いているところを見ると、一泳ぎしてきたところなのだろう。

「海ってのは静かに見えて、波が大きいから流されるし、水は冷たいからさ。 魔力や体力を消耗せずに、浮いていられるならそれに越したことは無いよ。
 海に不時着して、見つけてもらうってのは結構大変な事なんだ。 坂本少佐は海軍の人だからそれが良く解ってるんだろうね」

 まぁ、漂流するほど長く海水に露出したら、エンジンとか、保護措置されてるからって再起不能だろうし。
 さっさと脱ぎ捨てちゃったほうがいいよ。 そう締めてから、シャーリーは上体を後ろに倒した。

 青い、何処までも抜けるような雲ひとつ無い空。
 離れたところからは、ルッキーニやエーリカが騒ぐ声や水音が聞こえてくる。
 普段は温いと感じる潮風も、疲れの溜まった芳佳やリネットにとっては非常に心地のいいものだった。

「平和だ……」

 芳佳の口から、そんな言葉が零れ出てしまうほどに全てが穏やかだった。
 もちろん、芳佳だって、此処が最前線だということを忘れては居ない。 過去数週間で、嫌というほど思い知ったのだから。
 それでも、いや、だからこそ彼女は今のような穏やかな時間が心地よいと、今まで以上に実感している。

「こんな日が何時までも続けばいいのに」
「まったくだ。 ネウロイの奴らも、このまま攻めて来なければいいのにな」
「私もそう思います」

 芳佳の言葉に、シャーリーが続き、息をようやく整え終わったリネットが二人に同意する。
 そして、しばしの沈黙。 三人の呼吸の音と、潮騒が場を支配して行く。
 数分。 静寂は、誰かの砂を踏む元気な足音によって終わりを告げた。

「シャーリー、ボール持って来た! あそぼっ!」

 ルッキーニの声に、三人がそろって上体を起こす。
 白いスポーツタイプのビキニを身にまとったルッキーニは、その言葉通り手ごろな大きさのボールを抱えていた。

「よーっし、それじゃあやるか! 宮藤とリネットもやるよな?」
「はい、もちろんです! 坂本さんも休憩が終わったら遊んで……じゃない、自主訓練して良いって言ってたし」
「わ、私はもうちょっと休憩してから……」

 ルッキーニ達の誘いに乗って立ち上がった芳佳は、座り込んだままのリネットを見つめて。
 リーネちゃんの方が、胸におっきな浮きが二つあるから楽なのに、と少しばかり思考する。
 その様子を見て、シャーリーがにやり、と笑った。

「ふふん、宮藤……その様子だと、あたしやリネットとボール遊びしたとき大変だな?」

 ばいんばいんだぞ、と胸を張るシャーリー。 隣に陣取っていたルッキーニも、ばいんばいんだよ! と続いて。
 それを聞いた芳佳の目線が、自然とシャーリーの胸部に誘導された。

「ばいんばいん……」
「よ、芳佳ちゃん!」
「え、ち、ちがうのリーネちゃん! シャーリーさんも!」

 耐え切れず噴出すシャーリーに、漸くからかわれていた事に気づいた芳佳が、真っ赤になってうなだれた。
 リネットはリネットで、話の流れを変えようと何かを言おうとして。 

「そっ、そういえば! 天気って、大丈夫なんでしょうかっ」

 そんなことを聞いていた。
 芳佳はその言葉を渡りに船と、シャーリーはまぁこの辺で勘弁してやるか、と思い首を捻る。
 ルッキーニはボールを持ったまま、シャーリーを見つめていた。
 
 ふむ、と一つ唸ってから、シャーリーは空を見渡す。
 雲ひとつ無い。 水平線の向こうに、夕立を呼ぶ積乱雲すら存在しなかった。

「いや、大丈夫だと思うぞ? 少なくとも午前中は何にも無いだろ」
「うん、私もそう思うけど」

 芳佳も、海の近くに住んでいたのだ。 海の天気がどのように移り変わって行くかは、少なからず判る。
 
「うーん、じゃあどうしてヴィルヘルミナさんはあんな事言ったんだろ……」
「あんな事?」
「海の天気は変わりやすいから、空に気をつけろって……」
「……山じゃなくて?」
「あっ……そういえばそうですよね?」

 あいつ、どっか抜けてるところあるからなぁ、と呟きながらも、シャーリーは空を見上げる。
 それにつられて、他の三人も真っ青な空間を眺めた。
 十秒ほど経って首が疲れ始めた頃、芳佳が疑問の声を上げる。

「ん……? あれ?」
「どうしたの芳佳ちゃん」
「あそこ……真っ直ぐな雲?」

 芳佳の指差した方向。 青い空に、小さな引っかき傷のような、白い軌跡。
 本当に小さく、それこそ長さで言えば指の爪ほどのそれは、確かに雲で。 そして、不自然だった。
 シャーリーが手を額にあて、光を遮る。 眼を細めて、その雲の前後へと視線を走らせた。
 そして、見つけるのはゴマ粒よりも小さな点。 かすかに見えるシルエットは、シャーリーが知るどの航空機とも違う。
 それの意味するところはたった一つ。 それを理解した瞬間、シャーリーは動いていた。
 驚いている芳佳とリネットを置き去りにして駆け出すと同時に、肺腑の全てを吐き出す勢いで、叫ぶ。
 それが、望んでいた平穏とは全く逆のものだと理解しながらだ。

「敵襲――!」

 
 
******

 んあー、終わった終わった。 日差しがまぶしくてたまらんぜー。
 新鮮な空気! 照りつける陽光! そしてしばらく歩けばドキドキ水着天国!
 労働の対価って素晴らしいね。 英語で言うとファンタスティックだ。 独語だとファンタズィーク。
 と、そんな意味も無い思考をしてしまう程度には疲れました。 書類仕事、案外疲れるよ……

 滑走路に出て身体を伸ばしていると、側壁を飛び越えてこっちに駆けて来る人影。
 赤いビキニを身に着けたその姿、は――

「ヴィルヘルミナかっ? 敵襲だ! 高高度、進路西南西!」

 ――――OH。

「あたしは追撃に出る! 中佐に伝えておいて!」

 横を駆け抜けていくシャーリーに、辛うじてうなずきを返す。 ああ、なんだ、その。 すごいな。 言葉が見つからない。
 強いて擬態語で表すなら、『ばるんばるん!』って感じである。 脳がルッキーニレベルまで退行した。
 生きてて……良かった……ッ! 同時に、全力疾走はしないようにしよう、と心に決めた瞬間でもあった。
 あんなに揺れると痛そうです。

「ヴィルヘルミナさん!」
「ヴィルヘルミナちゃん!」

 余韻に浸っていると、芳佳とリネットが側壁を乗り越えて来て。
 そちらのほうに意識を向けていると、背後から爆音が響いてくる。 格納庫で反響、増幅された魔道エンジンの音だ。
 慌てて脇によけるたオレの横を、猛スピードで飛び立っていくシャーリー。
 風にあおられる髪の毛を押さえながらその背中を見送る。
 ストライカーの音も変なこと無かったみたいだし……この分だと問題はなさそうだな。 

「リーネちゃん、私達もいこう!」
「うんっ」

 飛び立っていくシャーリーを見て、二人も格納庫の中へと走っていく。
 うーん……リネットのピンクのワンピース……良いなぁ。 芳佳は予想通り普通のスク水でした。
 十五年位前に飽きるほど見たからこっちは別にいいや。 しかし、リネット、水着着るとすごいね、うんうん。
 脳内HDDにその光景を焼き付けていると、二人ともストライカーで出撃していきました。
 何も持たず、水着姿のままで。 素晴らしい……

 ……って、いや、駄目じゃないかオレ! 割と緊急時なのに、何考えてんだ!
 第一あいつらも慌てやがって、武器無しとか何しに行くつもりなんだ!?
 漸くやってきた美緒さんとミーナさんの姿に一瞬思考が持ってかれそうになるが我慢して。
 シャーリーと芳佳、リネットが出撃していったことを伝える。
 それを受けた二人は、頷き合って。 ミーナさんが電話のほうに走り、美緒さんが格納庫脇の木箱の上に地図を広げた。
 受話器を耳に挟んだミーナさんが美緒さんに逐次情報を伝えていく。
 地図には定規で直接線が描かれ、ネウロイの予想進路を描き出した。
 それが指し示すところは、ブリタニア首都、ロンドン。

「ヴィルヘルミナ、通信機を持って来てくれ」
「……ん」

 美緒さんの指示に素直に従う。 格納庫の棚においてある、小型の通信機の方に走りよって、少し重かったので軽くして。
 電話の受話器を置いたミーナさんと一緒に、美緒さんの元へと走った。
 通信機の電源を繋げて。 ミーナさんが通信機に語りかける。

「シャーリーさん、聞こえる?」
『中佐?』
「目標は超高速型。 すでに、内陸側に入られてる」
『方角は?』
「……高度18000を、西北西、ロンドン方面に向けて侵攻中」
「直ちに単機先行せよ」

 何時ものように、言葉を引き継いだ美緒さんが、そこでにやりと笑って。

「シャーリー、お前の速度を見せてやれ!」
『了解、まっかせといて!』
「宮藤とリーネが追従している。 後詰として三人送る、無理はするなよ!」

 それで通信は一先ず終わって。 その頃には皆もう格納庫の周りに集まってきていた。
 かなり楽しみにしていた水着天国も、この雰囲気の中では全然楽しめない。
 指揮官である二人が頷きあい、その場に並み居る面々を眺めて、一瞬の思案顔を見せて。
 先に口を開いたのは、やはり司令であるミーナ中佐。

「バルクホルン大尉、バッツ中尉、ルッキーニ少尉、出撃。 合流後の指揮はトゥルーデに任せるわ」
「了解した」
「はーいっ」
「……ヤー」

 名前を呼ばれたのは、シャーリーのパートナーであるルッキーニと、トゥルーデとオレ。
 比較的巡航速度の速い三人組だ。 返事もそこそこに駆け出す。
 目指すは当然、オレのストライカーユニット。
 懸架台に辿り着いたところで、トゥルーデが声を張り上げて聞いてくる。

「ヴィルヘルミナ、着いてこれるな?」
「……ん」

 大丈夫、起動にも加速にも時間はかかるが、巡航速度で数百キロの差が有るんだ。
 出撃に数分程度の遅れが出たって、追いついてみせる。 その自信が有るからこそ、うなずきを返した。

「よし、ルッキーニ、先行するぞ」
「はーいっ!」

 相変わらず元気で、微妙に緊張感の無いルッキーニの声を聞きながら、オレはオレのことに集中。
 ルッキーニとトゥルーデがストライカーユニットをほぼ同時に装着して。
 二機の魔道エンジンの音が高らかに吼え猛り――破裂音。

「に゛ゃっ!?」
「なっ!?」
「ルッキーニさん、大丈夫!?」

 ルッキーニのストライカーが突如として小さく爆ぜ、小さな破片を撒き散らす。
 なんだ、初期ロットの不良品か?! いや、そんな事ねぇだろ……きちんと飛んでるところ見てるし。
 ルッキーニに怪我等は無いようで、小さく立ち上る煙に咽ながら、ストライカーから足を引き抜いていた。
 その姿を見てバルクホルンが一瞬逡巡したが、ミーナさんの視線を受けて滑走路へと飛び出していく。
 一人で行くとか戦力の逐次投入という割と最悪な状況になりかねんが……まぁ、接敵する前にオレも合流するし何とかなる。
 バルクホルンの技量なら早々落とされはしないだろうし。

 何で爆発したかは大いに気になるところだが、いやな予想を振り払うように起動に専念。
 気が逸れればそれだけ遅くなるし、シャーリーは大丈夫なはず、変な改造とかは行われていない。
 と、思っていたかったのだが。 耳に届いたルッキーニの声がそれを阻害する。
 
「うぇー……なんでぇ? シャーリーのと同じように弄ったのに!」

 ……は? 弄くった……シャーリーのと同じように?
 ちょ、おま、何? 深夜まで一緒に居て、あの展開で魔改造入るの? シャーリーも一緒に居たのに?
 しかもルッキーニ自身のストライカーまで弄ったとか、寝てないのかよ!?
 いや、そんなはずは無いよな。 眠そうなそぶりはちっとも見せなかったし……じゃあ、一体、何が?
 どういうことなんだこれは、ちょっと予想外すぎるぞこの事態!

「ルッキーニ少尉ぃ? ちょっと、詳しく聞かせてもらえないかしら……?」

 にっこりと、しかし目が笑っていないミーナさんがルッキーニに問いかけ、その手が肩に乗せられる。
 あれ、軽く置かれてるだけに見えるのに何でだろう、ルッキーニの肩が万力のように締め付けられている気がする。
その雰囲気に気圧されたのか、青い顔をしたルッキーニが誤魔化すように言った。

「ほ、ほら、あのー、そにょ、グレムリン? そう、グレムリンだよ! 夜、機械を故障させちゃう奴!
 格納庫にキャンディーとかチューインガムをを置いておかないから――」
「ルッ・キー・ニ・しょ・う・い?」
「ひゃっ!? ご、ごめんなさいっ!?」

 そしてミーナさんに威圧されたルッキーニが、あっさりと口を割った。
 弱いな……というかグレムリンって何だよグレムリンって。

「あ、あのね! 昨日の夜ね、シャーリーと一緒に、ストライカーを好き勝手に弄ってみたの」
「好き勝手って……どのくらいかしら?」
「んー、わかんない。 アタシがあれこれ言ったら大体そうしてくれたし、シャーリーも大丈夫って言ってたし……
 しゃ、シャーリーが大丈夫って言ってたから多分平気だよ、うん!」

 うおお、マジでやべぇ! ルッキーニの魔改造ですら奇跡的だったのに、シャーリーが割と考えなしに調整したとか。
 何が起こるか解らない。 最悪、交戦中に空中分解とかエンストとかしたら命が無い。
 バイクのエンジンも、フィーリングで弄くりまくると碌な結果にならないのはよく知ってる。
 こんなんだったら、いっそネウロイとか見つけてもらわない方が良かったかもしれん。
 種をまくとか何調子こいたこと考えてたんだ数時間前のオレ。
 ロンドンのほうにも高射砲部隊とか迎撃部隊とか当然居るんだろうし、ほっといても良かったと思うが後の祭りだ。

 とりあえずミーナさんはにっこり笑ったままルッキーニの頬っぺたを引っ張ってさんざんぐにぐにした後、美緒さんの方に駆け寄っていきました。
 怖い、ミーナさん普通に怖いよ! 

 足元、ストライカーユニットを見る。 いまだ起動途中で、低い吸気音が微かに聞こえてくるだけだ。
 先ほどから何とか起動を早めようと魔法力送り込んだり集中してみたりするのですが、何時もどおり時間がかる。
 それはつまり、何時もどおり遅いって事で! 遅い! 遅すぎる!
 早く早く! 早く起動してくださいお願いです!
 動け、う・ご・けぇぇぇぇッ!



******

 快。
 シャーリーの心の中は、その一つの感情によって彩られていた。

 高空の大気を切り裂いていく感覚。 保護魔法ごしに、冷たい空気が身体を撫でていく感覚。
 眼前に何処までも広がる青い空間と、眼下の白い雲の海。
 ストライカーの調子も予想よりもはるかに良い。 そして、それ以上に空を飛べることが嬉しかった。
 加速が止まらない――違う。 空が、速度の世界が自分を受け入れてくれている。
 その感覚が、確信がある。 今までに無く、この大空が身近な場所に感じられていた。

『シャーリー大尉、聞こえるかシャーリー大尉! 即座に帰還せよ!』

 インカムから流れてくるノイズ交じりの美緒の声。
 帰還を促すその内容。 何故だ、という自問に、あ、バレたか、と自答する。
 ミーナとの約束は、改造するとしても戦闘に支障の出ない程度に留めておく、というものだ。
 大方、似たような調整を施したルッキーニのチェンタウロが不都合でも起こしたんだろう、と彼女は当たりをつける。

 エンジンや機構の差か、単なる運か、そんな事は彼女にはどうでもいい。
 ルッキーニには悪いことをした、と思うがそれだけだ。 それよりも、今はネウロイと接触するまで、この感覚を楽しんでいたい。
 それに、シャーリーには今は自分しか居ないとの確信があった。
 先ほどインカム越しに聞こえてきたミーナの言葉によれば、相手は高速型である。
 部隊最速の自分以外の、誰が真っ先に喰らいつけるのだ、という思いもあった。

 だから、依然として帰還を促す美緒の声に、シャーリーはごめんなさい、と心の中で頭を下げた。
 
「少佐、ごめん、インカムの調子が悪いみたいだ!」
『な、シャーリー! おい、きいているのか! おい、シャー』

 容赦なくインカムを停止させる。 これで、シャーリーの耳に聞こえてくるのは風の音とエンジンの音だけ。
 何時も通りの、空を一人で飛ぶときのBGM。  彼女の速度が生み出す即興曲だ。
 奏者も、観客も彼女ひとり。 そこに寂しさは無い。
 昨晩、芳佳の言葉でシャーリーの心に戻った思いが、輝いて彼女の身体に熱を送っている。
 人の身で容易に辿り着けない場所を、自由に闊歩しているという感覚。
 そして、己の望むままに、速度と共にあるという事実。
 こうやって飛ぶことで、シャーリーはそれを再確認すると同時に、存分に味わっていた。

 そんな楽しいひと時も、やがては終わりを告げる。
 航空歩兵に必須ともいえる、目のよさ――純粋な視力ではなく、広大な空間で目標を見つけることの出来る目ざとさ――が、警戒を促す。
 眼前、12時の方向。
 徐々にに大きくなってくる黒点がある。 推進部と思われる部位から微かに赤い光を漏らす存在――ネウロイだ。
 たすき掛けにしてある、皮のストラップに手を伸ばす。 背中に感じる冷たい鉄の感触。 愛用の得物、ブラウニー・オートマチック・ライフル。
 有効射程にはまだ遠い。 余計な動作で加速を殺したくない。 シャーリーはそう判断した。
 
 数秒後、ネウロイのシルエットが赤く光った。 何時ものことだが、射程はネウロイに分がある。
 己を射殺さんとする熱線を避けるため、シャーリーは反射的に身体を横に滑らせようとして。
 しかし、それを辞めた。

「……いや、前だ!」

 更なる加速と共に浮かべるのは、快活な、あるいは獰猛な笑み。
 前に出ようとする意思は魔道エンジンを鼓舞し、唸りを上げる推進力が宣言を履行する為に身体を前に押し出していく。
 一秒にも満たない差。 ネウロイの身体から放射状に伸び、若干距離を進んだ後に物理法則を無視して捻じ曲がったビームは上下左右からシャーリーを押し包もうとして。
 正面、それこそ人間一人分程度の隙間を一直線に駆け抜けていくシャーリーの影を焼き払った。
 前進することで一気に近づくネウロイの姿。 それは、巨大な鍔の付いた両刃の直剣にも似た形で。
 あるいは、風斬羽から風を吐き出して速度を増していく黒い矢だ。

 追いかける。 降りかかる疎らな破壊の光を、ただ前に出るという行為だけで回避しながら、シャーリーはネウロイに肉薄する。
 高度はわずかに彼女のほうが高い。 その差50mほど。 
 そのまま上を取り、銃弾を浴びせかけてやろうと背中の機関銃に手を伸ばした瞬間、ネウロイに異変が起こった。
 各部、ビーム照射部位が急速に光を失っていく。 それと同時に、ネウロイのシルエットが徐々に変化を始めた。

 響き渡る連続した金属音。

 なるほど、確かに超高速型だ。 何事かと警戒して様子を見守っていたシャーリーはそう思う。
 細く、長く形状を変えていく機体。 そして、より強く光り輝き始める推進部。
 攻撃を捨てて、ネウロイが速度を持ってしてウィッチの意図を打倒しようとしている。
 合理的といえば合理的だろう。
 ネウロイにとっては、都市部までたどり着きビームの雨を降らせ、瘴気を撒き散らせば役目は果たせるのだ。
 ウィッチの目的は、ネウロイが都市部にたどり着く前にそれを撃破すること。
 しかし、まっすぐにロンドンを目指すこのネウロイの役目には、ウィッチの撃墜は入っていないのだから。

 だがそれも、通常のウィッチが相手だったらの話だ。
 今此処でネウロイが対峙しているのは、ただのウィッチではない。

「……へぇ、このあたしにスピード勝負を挑むとは、なかなか良い度胸だ」

 金属のきしむ音を響かせながら。 長く、細く、より矢のようなシルエットを先鋭化させていくネウロイを見て、シャーリーは笑みを浮かべる。
 確かに早い。 今ですら、水平速度で800km程度は出ているはずのシャーリーを徐々に引き離し始めている。
 だけど、と。 稀代のスピードクィーンは、その笑みを緩めずに宣言した。 

「悪いけど、今日は負ける気がしないんだ!」

 飛ぶことが楽しくて。 速い事が嬉しくて。
 まるで、今日始めて空を飛んだみたいな、そんな気持ちの日に負けるはずが無いと。 シャーリーは確信する。

 魔法は精神的なものだ。 思いが加速すれば、魔法力を物理的な力に変える魔道エンジンはそれに応えようとする。
 そして、出鱈目で常識破りで、しかし奇跡的なバランスの上に成り立ったチューンはそれを可能にした。
 風を、大気を、前を遮るありとあらゆるものが、シャーリーの速度に屈服して――否、彼女を受け入れていく。
 ネウロイに追いつき、その巨体が生み出す気流を叩きつけられてもそれは変わらない。
 黒い魔剣にとって虫にも等しいはずのシャーリー。 かすかに加速を緩めながらも、しかしその濁流には決して流されない。 
 切り裂いて駆け抜けて、前へ。
 唯一点、刃のようなネウロイのその切っ先、今だかすかに赤い光を漏らす場所。
 そこがネウロイのコアだと信じて、そこを撃ち穿つ為の最適のポジション目掛けて、唯只管に空を駆ける。

 空という終わりの無いバックストレートを、その質量に蟻と像ほどの差がを持つ一人と一機が疾走していく。
 双方とも、ただ直進するという意義のみを持って己の存在を世界に主張。
 相手よりも速く、相手よりも前に、自分よりも前に何人の存在も許さない、と叫んでいるように。
 拮抗は一瞬だ。 シャーリーのほうが速い。 
 加速は緩みながらも決して止まらず、じわじわと、しかし確実にネウロイを追い越していく。
 ネウロイも必死に推進部位を輝かせるが、高速に適した形態を取っても、限界というものが存在した。
 苦し紛れにその身をシャーリーに寄せるが、焼け石に水をかけるよりもその効果は微々たるもの。
 彼女の速度は緩まない。 前に出るという揺ぎ無い意思が、そうさせている。

 黒い巨躯が生み出す大気の奔流。 シャーリーがその濁流を切り裂いて、ついに突破する。
 射撃ポジションまであとほんの少し。
 そこにたどり着こうとした瞬間、彼女の背筋を、甘い痺れにも似た感覚が駆け上った。

 ――あ、この感覚。
 そう思考した直後、フラッシュバック。 目の前の青空が一瞬だけ、白く光り輝く塩湖へと変貌して、元に戻った。
 似ている、と思い、即座に否定する。
 似ているんじゃない。 これが、本物なんだ。
 理性や本能よりも先に、彼女の魂がそれを理解した。

 この速度に追いつくことの出来ない理性や本能が、不安と警鐘を鳴らす。
 良いのか? 本当に、行って良いのか?
 そんな思考が、未知の領域に至ることを恐怖する衝動が脳裏を埋め尽くして。

「当たり前だろ、あたしはグラマラス・シャーリーだぞっ!」

 自然とシャーリーの口を付いて出たその言葉が、彼女の全てを掌握した。
 彼女の故郷、リベリオン。 自由の国と呼ばれるそこは、実のところそれだけではない。
 ヨーロッパから大西洋を渡って到達した人々の作り出した、開拓者の国である。
 未踏領域? それがどうした! 自分の一瞬の弱みを蹴っ飛ばして、後に残った意思は唯一つ。 
 
 ――前へ!
 思いと肉体、今まで決して重なり合わなかった二つの速度のシルエットが、完全に重なり合う。
 思考するよりも早く、青く光り輝くシールドが壁を貫く破城槌として物理界に描き出された。
 シールドに続き、魔法がシャーリーの周囲を駆け巡り、大気中のエーテルを巻き込んで光の輪を形作った。
 
 己に許された力で、人類が今だ超えたことの無い領域を、一思いに貫く――

「――いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 叫んだ。
 咆哮が力を呼び、力が結果を手繰り寄せる。
 その声に応える様に、魔道エンジンが限界以上に回転し、猛々しい凱歌を歌った。
 シールドによって引き裂かれていく空気の壁が生み出す気流が、シャーリーの身体を揺さぶり、一瞬だけ水蒸気の傘を形作る。
 魔法によって与えられた加速度が生み出す強烈な負荷を、強化と保護の魔法で握りつぶした次の瞬間。
 それは余りに唐突に、そしてあっけなく訪れた。

 爆音、そして衝撃。

 

******

 ――速い。

 『それ』が、シャーリーに抱いた感情は――それが仮に感情と呼べるのならば――その一つだけだ。
 数週間前の様な特攻型とはまた違い、速度を持って目的を達成せんとすべく生まれた『それ』。
 高空での直線飛行ではウィッチを容易に凌駕する筈であった己の、さらに速度に特化した状態に肉薄し、前に出ようとするウィッチ。
 
 速度とは力だ。
 追いつかれねば追撃を受けることも無く、相手の準備が整う前に懐に入り込めば、あとは一方的な蹂躙が待っているだけ。
 そのはずだったのに、その目論見は容易に破綻していた。 ならば、と『それ』は判断する。
 速度ではなく、鉄火にて対抗すべきだと。

 『それ』の感覚器がシャーリーの姿をはっきりと捉える。 距離にしてたったの数十メートル。
 空という広大な空間においては、それはお互いの吐息がかかるほどといっても過言ではない距離だ。
 瞬間、『それ』はウィッチが己を見ておらず、また笑みの表情を浮かべているのを見て疑問を浮かべる。
 が、理解は出来ない。 元より『それ』と人類との思考は異質なものだ。
 疑問を棄却、ビーム照射部位の再展開を決断。 推進力に回していたエネルギーを再び引き戻し、砲座を再励起。
 速度が落ちるが、構わない。 もはや選択は成されている。
 目的と手段は明確で、ならば実行は容易い。 眼前の障害を打ち払う為に、『それ』の頭脳であり心臓であるコアからエネルギーが迸る。

 だが、ビームを放とうとした、その瞬間。
 唐突に、更なる加速を始めたウィッチ。 その速度に、或いは驚愕とも呼べるだろう思考を抱き、発射のタイミングがコンマ数秒遅れて。
 ――『それ』は、己の身体に走る避け様の無い暴威に、ビームを放つ機会を永遠に失ったことを理解した。

 爆音が、あるいは紙を引き裂いた時のような音が響き渡る。 それは大空が上げる歓喜の嬌声だ。
 音の壁が打ち貫かれ、それに伴って破壊力すら伴う強大な衝撃波が発生。 
 速度を下げていた為に、あるいは狙いを付ける為にウィッチの後ろ下方に推移していた事が『それ』にとっての最大の不幸。
 衝撃が直撃し、機首が一瞬で大きく下がる。
 位置エネルギーの移動によって吸収し切れなかった破壊力が、機体先端部の装甲殻や構造体に無数の亀裂を発生させ。
 伝播する衝撃はそのまま、厳重に保護されたコアにすら小くないダメージを与えるに至る。

 機首が一瞬で下がることによって瞬間的に増大した空気抵抗、そしてその巨体故の慣性。
 ダメージによって機能の低下したコアでは、傷ついた体を、あるいは空力を無視して飛翔する機構を支えることが出来ない。
 再生する間もなく機体が悲鳴を上げる。 金属がひしげ、毟りとられていく音が連続する。
 
 落ちていく。
 推力も、浮力も、そして速度も失った者に待っているのは、墜落の二文字のみだ。
 途切れ途切れになる『それ』の意識が最後に認識したのは、『それ』達が忌避する水に包まれ、沈んでいく。 その感覚だった。


******   

「――――」

 見えるもの。 それは、広大な青い空と、眼前のシールド。
 聞こえるもの。 それは、何時に無く張り切っているエンジンの音と、かすかな風の音。
 それが、今あたしの周りにあるすべてだった。

 シールドに依然として圧力がかかっているのを感じるものの、予想していたような振動は全く無い。
 怖くなるほど静かで、安定していた。
 あの瞬間感じた衝撃と爆音のお陰で、一瞬、死んじゃったんじゃないかと思ったくらいだ。
 だけど、水着しか纏っていない身体に感じる風の冷たさや、肩に掛けた機銃の重さは、紛れも無く本物で。
   
「これ、が」

 これが、音速の世界。
 空が、あたしを受け入れてくれている。
 今、あたしは世界で一番速い。 世界で一番、速度に愛されている。

 それを自覚した瞬間、胸の辺りがじわりと熱くなった。
 やった。
 やったやったやった!
 あたし、ついにやったんだ!

「少佐ぁ!」
『シャーリー! 無事か!?』
「あ、あたしやりました! 音速を超えました!」
『……はぁ? ネウロイはどうした!』

 感動を誰かと分かち合いたくて、切っていたインカムを再度繋げる。
 音速を超えるまでは、強いバフェットの所為かノイズ交じりだった少佐の声が、今は酷くクリアに聞こえて。
 その声が、あたしが今本当は何をしていたのかを思い出させてくれた。

 って、え、ネウロイ……あ、ああっ! しまった、交戦中だった! 途中から『あの感覚』に夢中で、すっかり忘れてたっ!
 あたしがこうやってのうのうと飛んでても生きてられるって事は、もうかなり引き離してしまったんだろうか。
 流石超音速、凄い! って感心してる場合じゃない!
 慌てて後ろを振り向いて、だけどそこに広がっているのは目の前と同じ、青い空と白い雲ばかり。
 目を凝らせば、高度を急激に下げていく黒い塊が一瞬見えて、雲に隠れて見えなくなっていった。
 ふむ……あの落ち方だと、降下って言うより墜落……だよな。

「撃墜……したんじゃないかな?」
『……シャーリー』

 あたしの曖昧な報告に答える少佐の声が怖い。 撃墜確認しなきゃいけない場面だって言うのは良くわかる。
 だけど、今は少しでも速度を殺すことが怖い。 この感覚を、音を超えた世界を少しでも長く楽しんでいたい。
 しかし、ウィッチーズ基地の上空を通り過ぎたって事は、僅かな海を越えたらすぐに沿岸都市部にたどり着くって事だ。
 もしネウロイが生きていたら、不味いことになるのは間違いない……けど、ううう……ああもうっ!

 少しだけどうするか逡巡していると、少佐の長く大きなため息がインカム越しに聞こえてきた。

『――はぁ、宮藤、リーネ。 どうだ?』
『はいっ。 海に落っこちて凄い水柱をあげてたけど……ネウロイだったよね?』
『芳佳ちゃんの言うとおり、ネウロイが落ちてきて、海に沈んでいきました。 かなりのダメージだったみたいですけど……』

 宮藤が慌てて返事をして、それにリネットがを補足を加える。
 しかし、かなりのダメージ、ねぇ。 あたしなんかやったっけ?

『了解した。 まぁ……良くやったな、シャーリー。
 丸ごと浸水すればネウロイといえども再起は不可能だろうし、着水の衝撃でコアが粉砕された可能性も有る。
 後は海軍の管轄だな。 芳佳とリネットは後続のバルクホルンとヴィルヘルミナが追いつくまで墜落地点で待機』

 少佐はてきぱきと指示を飛ばしていく。 あたしに指示が回ってこないのは、少佐なりの優しさって事なんだろう。
 
『バルクホルンとヴィルヘルミナは、最寄の哨戒艇がその地点にたどり着くまで周囲警戒。
 芳佳とリネットは交代次第帰還するように。 というか、お前達……武器も持たずに飛び出して何をするつもりだったんだ』
『あっ、あはは……』
『ふぅ……宮藤にリネット。 帰ってきたら訓練のやり直しだ。
 が、とりあえず今は全員無事な事を喜ぼう。 シャーリー、魔力が切れる前に帰って来いよ』

 呆れたような少佐の声と、宮藤達の乾いた笑い声を最後に、インカムから声が聞こえなくなる。
 再び、風を切る音と、エンジンの軋む様な音だけがあたしの世界を支配した。

 ……って、あれ、軋むような音? 
 恐る恐る視線をストライカーのほうに向けてみれば、装甲板の隙間から嫌な色の煙が小さく立ち上っていて。
 エンジンの立てる異音は収まりそうに無い。 寧ろ激しさを増していく。
 あ、れ? ちょっとこれ、マズいよな?


 こうして、減速を余儀なくされたのだが、このときあたしは忘れていた。
 音の壁というのは、超えるときだけでなく、戻るときにも存在しているということを。


******

 そうして、かなりの距離があったにもかかわらず聞こえた、銃声にも似た音速突破の音に誘われて。
 ネウロイ墜落現場まで飛んでったオレとトゥルーデが出合ったのは。

「……リベリアン、お前何をどうしたらそうなるんだ」
「あはは……うっさい」

 両脇を芳佳とリネットに支えられた、シャーリーさんの姿でした。
 苦笑しているリネットと……いや、芳佳は腕に感じるシャーリーのおっぱいに気を取られているようです。
 本当にこの子は駄目な子だな……オレも同じ状況だったらかなり意識を持ってかれるだろうけども。

 それにしても、トゥルーデの言じゃないが。
 本当に何がどうなったらそうなるの? 別に今回ぶつからなかったんでしょ?
 ストライカーユニットも見当たらないし……

「エンジンがオーバーヒートして……減速したら、振動と衝撃のお陰でユニットが破損しちゃって……
 何とかリネットたちの近くまで戻ってきたんだけど、力尽きて空中分解した」
 
 そう恥ずかしそうに語るシャーリーさん。 かわいこぶったって、その口から告げられた衝撃的な内容が覆るわけじゃない。
 しかし、空中分解て、あーた……運が良かったなオイ。 トゥルーデも唖然としていらっしゃいます。
 というか、体大丈夫なの?

「……シャーリー……体」
「ん? ああ、大丈夫大丈夫」

 笑いながら答えてくれる。 然様ですか、良かったよかった。
 芳佳が居たから怪我しても何とかなっただろうが、年頃の娘さんだからな。

 とりあえず、これで気にするような事は全部解決した。
 あの晴れ晴れとした笑みを見れば、シャーリーが音速を超えたんだろうって事は判る。
 いや、あの独特の音が聞こえた以上、超えたんじゃないかとは思ってたけれど。
 万事解決、すべては収まるべきところに収まった、って訳だ。
 
 この分なら、最後のお節介も必要ないかもしれないな。
 そんなことを思いながら、オレはシャーリーを支えて飛んでいく芳佳とリネットを見送った。


------
 つか、シャーリーとか一人称マジ無理。 自主練習なので辞めないけど。

 今回の頻出専門単語:バフェット。
 空気抵抗とか高速飛行中に機体から剥離する気流のお陰で機体が凄い振動したりすること
 ……あれ、これってフラッターだっけ? リベットとかネジとかが外れちゃうくらい振動したりするそうな。

 ネウロイの変形は、モデルとなったブラックバードの逸話から。 高速時は大気摩擦のお陰で全長が60cmも伸びるそうで。
 その状態を最適とした設計のために、地上では配管とかはスカスカでオイル漏れ、燃料漏れが酷かったというのは有名な話。
 件の燃料、火のついた煙草落としても燃えないとかトンデモネェ代物だというのも有名な話だけど。

 多分、衝撃波にこんな威力は無いけど。 画的に映えるからこれでいいのです。 画じゃなくて文ですけど。
 まぁ、ネウロイのコアって透明だし結晶体だし、音波には弱いんじゃまいか。

 あと割とどうでも良いけど、書いてる最中ずっと思ってたこと。
 「音の壁=処女膜」。 うむ、ちと変態すぎたか。 でも、一旦破ってしまえば後はスムーズって所とか似てると(以下略)
 つまりチャック・イェーガーは空にとって初めての人。 くそっ、アメ公イタ公はプレイボーイばっかだな!



[6859] 25
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/12/06 17:54
25「The Bounds」

******

「くっそお、ルッキーニ、あの時此処をどうしたんだっけ?!」
「うぇぇ、んなこと言われても覚えてないよぉ……」
「いいから思い出すんだ! 嗚呼もう、こんな事だったら一回きりのお遊びだって思わずちゃんと記録取って置くんだった!」

 格納庫に入って真っ先に目の当たりにしたのは、懸架台の傍。
 真新しいP-51を前に騒ぎ立てているシャーリーとルッキーニの姿だった。
 今日は余り大変な作業をするつもりは無いのか、二人とも普段着である。

 倉庫から、”ある物”をえっちらおっちらと担いできたオレ。
 朝食のオートミールが胃の中で揺れるのを無視しながら。
 軽くなったとはいえ質量の一切変わらないそれに身体を振り回されないようにしながら。 さて、どうしたモノかと思い考える。
 ……まぁ真っ先に思い出したのが、朝食にきっちりオートミールを作っていたリネットのことだったが。
 あのね、戦闘後にオレが食べる専用食なんかじゃないから! 病人食じゃなかったらオレ食べたくないから!

 いや、考えるのはそんなことではない。 思考の道筋をただす。
 さて、結局シャーリーのストライカー、P-51は奇跡的に回収できた魔道エンジン以外、全損扱いとなった。
 というか、本当に全損である。 流石に空中分解してしまっては、もうどうしようもないのだろう。
 幸い、普通に予備機が有ったので、今日は一日新しい機体の調整と慣らしに当てるつもりの様だった。
 予備機があっという間に出てくる辺り、アメリカ……というか、リベリオンは大国なんだなぁ、と思い知る。

「よし、ルッキーニ。 一度ひっくり返して、組み立ててみるんだ!」
「え゛、ちょっと、シャーリー凄い事言ってない?」
「もうこうするしか思いつかないんだ……お前の感性に賭けるしかないんだよ」

 ……絶対に、軽い調整と慣らしなんていう大人しい物じゃない気がするんですが。
 テンパってるなぁ、シャーリー。
 そんな彼女達の後ろに近づいて。 わざと音がするように、肩に担いでいたものを下ろした。
 存外に大きな音が経って、二人が振り向いて。 同時に口を開いた。

「ヴィルヘルミナ?」
「……ん」
「何それ?」

 軽く手を上げて返事すると、目聡いルッキーニがオレが脇に下ろしたものに興味を示した。
 先ほどから担いでいた”それ”。 ホームセンター等で見かける事もあった、個人用発電機の親玉みたいな機械。
 昨日、備品倉庫でほこりを被っていたのを見つけたのだ。
 まさか、と思って美緒さんに聞いてみると、それはオレがな前から連想したとおりの代物で。
 イグニション・サポーターとか、リストに書いてあったそれのことを説明する前に、シャーリーが口を開いた。

「魔道エンジンの補機じゃないか……そんな古いものどうしたんだ?」
「補機?」
「ああ、機械式のエンジンもそうなんだけど、古い型の魔道エンジンは始動させるのに酷く手間が要るんだよ。
 エンジンって言うのは、始動させるときが一番非効率で、力がいるからな。
 機械式のエンジンは手回しで良かったんだけど、魔道エンジンは魔法力で駆動させるから。
 こういう補機で、別の魔女の魔法力を増幅させて始動させるんだ。 ……って、ヴィルヘルミナ、まさか」

 ルッキーニの疑問の声に、得意分野とばかりに説明しながら。 それが何を意味するか、シャーリーは悟ったようだった。
 うむ。 そのとおりだシャーリーさんよ……コレを使えば、上手く行けば君でもMe262が使えるかもです。
 静かにうなずきを返す。 シャーリーの顔がぱぁ、っと明るくなった。
 
「やったぁ!」
「? シャーリー?」
「ルッキーニ、こいつがあれば、あたしはヴィルヘルミナのストライカーが使えるんだよ!」
「え、本当!? よかったねシャーリー!」
「……でも」

 二人して喜びを全身で表現するのを遮って、言わなければならないことを言う。
 この様子だと問題ないのかもしれないけれど。 一つだけ確認しなきゃいけない事がある。

「……余計な、お節介……?」
「どういうことだ?」
「……シャーリー、P-51で……頑張って、来た。 本当に……Me262……良いの」
 
 つまり。 自身の愛機で、今まで苦楽を共にしてきた機種ではなく、こんなぽっと出の奴で良いのか、という事だ。
 何だかんだ言って、多くの時間を共に過ごしてきたのだろう。
 例え予備機になっても、機体やエンジンの特性が大幅に変わるわけでもない。
 特に心臓部ともいえる魔道エンジンは、海水に浸っていたのをオーバーホールしたら戻ってくる予定なのだから。
 音速を超えることが出来る、という確証は当然ながら無い。 まぁ、行けるだろうとは思うけれど。

 それを聞いて、一瞬きょとんとした表情になったものの。 シャーリーしばらく考えてから、小さく息を吐いた。

「――本当は、わかってる。 昨日のあれは、奇跡の中の奇跡みたいな物だってことは」
「シャーリー……」
「…………」

 ふ、と。 今まで見たことの無い、寂しそうな表情のシャーリー。
 不安げに彼女の服の裾を握るルッキーニの頭を、軽く撫でてから、言葉を続ける。

「……確かに、こいつに――P-51に愛着もある。 でも、薄情かもしれないけど、あたしにとっては音速を超えることが目的なんだ。
 あたしが、まぐれなんかじゃなくって、きちんと音速を超えてやることが、踏み台にして来た、色んなものに対する手向けだと思う。
 だから、こいつに縛られてる訳にも行かないさ。 何より、こいつには空を飛ぶ楽しさをたっぷりと教えてもらったからね。
 もし、前みたいにこいつをぶっ壊さなきゃ音速が超えられない、っていうのならそれは多分、間違った方法なんじゃないかと思うんだ」

 そう語って、今度は真新しいストライカーの、傷一つ無い表面を本当に愛おしそうに撫でて。
 目を瞑って、冷たいはずの金属の暖かさを感じているようだった。
 気が済んだのか、しばらくしてから目を開けて。 そのときには、もう彼女は何時ものシャーリーだ。

「ま、もちろんこいつで音速を超えるのは諦めないけどね。 当面、こいつがMe262以外では最速な訳なんだからな」

 それに、と。 今度は照れたような、困ったような表情を見せて。

「ヴィルヘルミナにも随分と心労をかけちゃった見たいだしさ」
「…………んぐ」
「坂本少佐とかエイラとかから聞いたよ。 色々と」

 ……エイラァァァッ! というかエイラだけじゃなくて美緒さんもかい!
 女の子口軽すぎ! びっくるするほど軽すぎ! 結局のところ女の子は皆噂とかそういうの大好きなのかっ!
 こう言うのって普通本人に言わないよね? そうだよね!?

「そんなもの探し出してくる程度には、心配してくれたんだよな? ありがと」
「……原因、オレ……だったから」
「ああ、あんな物しょっちゅうだよ。 ま、今回は宮藤に随分と助けられたけどな」

 ああ……それは、本当にそう思う。 あの夜盗み聞きしていたのは、多分エイラから伝わっているかも知れないけど。
 芳佳の期待に応えられる様に、頑張らんといかなんなぁ……全くあの娘さんは。
 何だかんだ言って、影響力が大きいと見える。

「さてと、じゃあ、早速やってみるかい?」
「……ん。 まずは……コネクタ、の位置……探す」
「って、其処からか」

 張り切って居た所に、オレの台詞で肩を落とすシャーリー。
 だって仕方ないじゃないか! 昨日の今日ので、確認してる暇無かったんだよ!
 いや、有るには有るはずなんだ。 無かったらまたがっかりさせちゃうからな。
 説明書には、オレのMe262A-1a/U4には入出力用のポートが付いてる、って書いてあったし。 それは確認したんだよ。
 ただ、どの辺についてるかまでは判らない辺りがオレの読解力の限界だったわけだが……

「ねぇねぇ、アタシは?」

 シャーリーの様子で、真面目な話が終わったのを悟ったのか、じっと黙っていたルッキーニが問いかける。
 ルッキーニも結構空気読む子だよな。 言動よりよっぽど聡い子なんだろう、多分。
 ……買いかぶりすぎかもしれないけど。

「じゃあ、記録取り頼むよ。 あっ、そうだった、中佐呼んできて!」
「はーいっ」

 シャーリーの指示を受けて、元気に飛び出していく。
 それを二人で見送ってから、補助発動機、そしてオレのMe262へと視線を移して。
 さて、漸く約束を果たせるな。 ひと踏ん張りするとしましょうか。


******

 背中に、ヴィルヘルミナの体温を感じながら。 シャーリーは空を飛んでいた。

 旧式の補機とはいえ、少しの改造で現行のストライカーに合わせることに成功。 本来ならコネクターの規格が合わなかったのだが。
 そこは設備の充実した格納庫という環境と、機械弄りの得意なシャーリーの手腕によって一時間ほどで解決された。
 その結果、資質の足りないシャーリーでも、なんとかMe262を起動することに成功していたのだが。
 問題はそこで発生した。 魔法力の消費が想定よりも高いのだ。
 シャーリー本人は、無理やり動かしてるんだから仕方が無い、と笑ったが、余り無視できるような問題でもない。
 滑走、離陸、上昇、そして高度を取って再加速。 その後、基地まで帰還。
 その全行程を行うには消耗が激しすぎる。 途中でフレームアウトさせる可能性も有るとなると、過度の消耗は楽観できない。

 ただ、幸いな事にシャーリーは、カールスラントの四人よりもはるかに上手くエンジンの制御を行って見せた。
 じゃじゃ馬な、あるいは神経質な機械の扱いには私も使い魔も慣れてる。 驚くミーナに、そう、彼女は笑いかけた。

 その後、少しの協議の結果として、ヴィルヘルミナが予備機を使ってシャーリーを上空まで輸送。
 高度が適当なところに達した時点で、シャーリーを離すということになった。
 エンジンは常にフルスロットルなので、消耗を全く抑えることは不可能なのだが。
 姿勢制御をはじめとした、余計な事に意識や魔法力を裂かなくても良い分、多少なりとも楽だったのである。

 シャーリーと言う重量物を抱えながらも、ヴィルヘルミナの上昇速度は安定したものだった。
 彼女の魔法、重量操作のお陰である。
 快適な上昇の中、シャーリーはMe262を履いて始めて判ったことを聞いた。

「それにしても、ヴィルヘルミナ。 何時もこんな疲れるユニット履いてるのか?」
「……ん。 そう、かな?」
「本当に、魔法力の適正が高いんだな……それに、コレに慣れたら普通のユニットに戻した時に驚くぞ」
「…………ん」

 シャーリーの明るい茶色の髪の毛に顔を煽られながら、ヴィルヘルミナの眉が少しだけ動いた。
 尤も、当然シャーリーには見ることが出来なかったのだが。
 シャーリーも、自分を支えて飛んでいるウィッチが口数が異様に少ないのは判っているので、特に気には留めなかった。

 しばらく、無言が続く。 ただし、それは表面的なものだ。
 シャーリーは始終、これから得られるであろう体験に想いを馳せ、その顔はにやけていた。
 ヴィルヘルミナの方も、シャーリーを落とさないように腹に回している手がずれ、胸のほうに寄る度に眉をかすかに動かしている。
 
 やがて、二人が必要十分だろう、と想定していた高度に辿り着く。
 ヴィルヘルミナが懐からコンパスを取り出し、眺め、また仕舞いこんだ。
 
「シャーリー……高度、6000メートル」
「了解。 ルッキーニ、準備はいいか?」
『うん、いーよっ!』

 インカムから聞こえてくる元気な声に、笑みを深くしつつ。
 じゃあ、ちょっと行ってくる。 そう、シャーリーが呟いて、ヴィルヘルミナの腕を叩いたのが、合図。
 ヴィルヘルミナの腕が離される。 シャーリーは少しだけ降下して、そのまま水平飛行に移った。

 茶色の制服が遠ざかっていく。
 調子を確かめるように、上下左右に動いた後、高度を取戻して、大きく円弧を描いてターン。
 そして、再加速。 


******

 1944年、八月上旬。
 グレートブリテン島東部沿岸地域に、音の壁が破られる轟きが確かに、そして高らかに鳴り響いた。

 
******

 人類史上、初めて音速を突破した人物。
 それは、元リベリオン陸軍所属の機械化航空歩兵、シャーロット・イェーガー女史であるとされている。
 1947年10月12日、イェーガー女史はベール社の開発した実験用ストライカーユニット『X-1』を着用。
 高度一万メートルの上空において、ストライカーユニットの出力のみで音速を突破した。
 これは同年の12月に本紙が取りあげ、1948年の8月、軍の公式発表によって確認された事実である。
 公式記録として、マッハ1.06を。 彼女の魔法技術である『加速』を使用した際には、マッハ1.37にまで到達した。
 公式ではこれが世界初となっているが。 これが発表された際に幾つかの異論が持ち上がったのだ。

 これまでにも、イェーガー女史と同じく加速の魔法を扱う魔女達が、音速を突破したのしないの、という話は多く叫ばれている。
 多くは証言に矛盾があったりするなどの眉唾物か、全くといっていいほど証拠の残っていないものなのだが。
 その中でも信憑性の高い二つ。 一つは、1945年4月。
 佳境となったカールスラント解放戦線において、Me262戦闘脚を着用するハンナ・ミュッケ曹長が急降下中に遭遇した体験。
 当時最高速を誇っていたMe262の臨界速度域において、魔法を併用した急降下を敢行したところ、彼女は『奇妙な音と振動』を経験している。
 彼女は当初、これが何なのか全く知らなかったのだが。
 証言と照らし合わせると確かに彼女は音速を突破した可能性が高いとされた。

 もうひとつは、イェーガー女史が音速を超える約二週間前。
 同じ型のストライカーユニットを使用したテストパイロット、ジェーン・ウェルチが、軟下降中に音速を突破したというものである。
 こちらは記録も残っており、ほぼ確実なものとされている。

 ただし、水平飛行で音速を突破した、というのであれば、イェーガー女史の記録が始めてである。
(結局のところ、落下距離という助走距離さえ稼げれば、重力による際限ない速度の水増しは可能である。
 もちろん、飛行脚や、魔女の耐久力を度外視すれば、であるが)
 それでも主張を続ける前述の二名にイェーガー女史が伝えた言葉が、また騒動の火種となったのであるが。
 曰く。

「非公式のことまで持ち出すなら、あたしは1944年8月の時点で少なくとも二回は突破してたんだけど? 勿論、水平飛行でね」

 この発言は非常に挑戦的なものであったが、本社の取材陣が調べてみたところ、証言は予想以上に数多く得られた。
 一回目は戦闘中の出来事であり、観測者が居ないこともあってイェーガー女史もその正当性は主張しなかった。
 問題は二回目である。 前述のとおり、証言者や状況証拠が膨大な数に上ったのだった。
 当時、大尉はブリタニア東岸地域の防衛任務を任された統合戦闘航空団に所属していたのだが。
 基地の構成員のほとんどが、その日のことを覚えているという。

「ああ、あの日は忘れもしないよ。 あのお嬢ちゃんがスピードに首っ丈、ってのは有名だったからね。 何時ものことだと思ってたんだが。
 あの日は、嬢ちゃんのファン共が目をひん剥いて空を見上げて叫んだんだよ。 『速い! ありゃマスタングじゃねえぞ!』ってな。
 それを聞いて外に出てみりゃ、確かにエンジン音が違う。 ありゃジェットだったね。
 で、双眼鏡借りて見上げてみれば嬢ちゃんが基地の真上を通り過ぎたところでよ。
 その瞬間、嬢ちゃんが雲の傘を突き破って、それからまたしばらく後に、ドーン! ってね。 しばらく耳が痛くて何も聞こえなくなったよ」

 また、取材に応じてくれた、当時同基地に所属していたエーリカ・ハルトマン元空軍大尉はこう語った。

「ああ、あれは凄かったね。 何が凄かった、ってシャーリー、あ、イェーガーの事ね。
 あの日はお休みでずっと寝てたんだけど、いきなり凄い音と共に窓が吹っ飛ぶ音がしてさあ! もう、部屋の中がぐっちゃぐちゃ!
 ネウロイの攻撃かと驚いて外に飛び出してみたら、サーニャは寝ぼけておろおろしてるし。
 廊下の窓は予想通り割れてたし。 他にも、色々面白いことはあったんだけど、話すと皆に怒られちゃうから」

 なお、彼女の部屋の窓が割れた訳ではないのに部屋の中が混沌とした状況だったことについては、ノーコメントを貫き通されてしまった。

 兎も角、東岸部でもこの爆音は良く聞かれており、当日は警察に電話が殺到したという。
 また、最寄の街のガラス屋に、大量の窓ガラスの発注が同基地からあったという記録が残っていた。
 さらには、当時の新聞をかき集めてみると、確かにこの事をかいたと思われる記事をいくつも見つけることが出来た。

 飛翔体が音速を突破する際には衝撃波が発生することが確認されている。
 ベール社の研究員からの情報によれば、高度5000m程度でこの衝撃波が発生した場合。
 このエネルギーが破壊力を保ったまま地上まで到達する可能性は非常に高いという。
 また、このことを最初に言い出したのは当のイェーガー女史だというのだ。
 その為、研究チームは周囲数十キロに人家の無い、カリフォルニア州のマロック乾湖を試験場として選んだという。
 そのほかにも、音速突破時の衝撃波に備えてシールドの強度設定を上げようとした研究陣に対して、こうも言ったらしいのだ。

「実際のところそんなに強い衝撃は来ない。 シールドにそんなに容量は裂かなくて良い」

 これが全て真実ならば、正しく彼女は音速を突破し、さらにそれを冷静に分析できる状況にあったといえるだろう。
 水平飛行であった、というのは本人の証言でしかないが、二回突破した、というのもあながち嘘ではなさそうである。
 たとえ水平飛行でなかったとしても、確かに1944年八月以前に音速を突破した、という確度の高い証言が出てこないのも確かである。

 戦時中、ジェットストライカーを実用化していたのはカールスラント空軍のみであった。
 当時の第501戦闘航空団には前述のハルトマン女史を含めて四名のカールスラント・ウィッチが所属していたことがわかっているが。
 編成や装備に関しての情報は未だ公開されていない部分も多く、一刻も早い情報開示が待たれるところである。

 ――1948年10月某日版、ニューヤーク・デイリーの記事より抜粋――


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「きっみのなかに~あったしをずっと~」

 黙々と箒を握る手を動かすオレ。 それを受ける、大きなちりとりを持ったシャーリー。
 ふと、手を止めて。 眼前に広がる光景に軽くめまいを覚えた。
 夕日の射す廊下、今だ沢山残る、砕け散った無数のガラス片。
 高度5~6000メートルでシャーリーが音速を突破した結果、出来上がった惨事であった。

 ……っていうか、何? 衝撃波って減衰せずにこんなに伝播するのか。
 5キロ離れててこれだぞ5キロ。 びっくりだよ。
 ゲームの中でF-22とか使うと結構簡単に突破したりするからそう大したこと無いと思ってたけど、そんな事は微塵も無かった!
 市街の上空で加速減速ガンガン繰り返したけど、あれって下の人に凄い迷惑なんだな。
 基地に人的被害が無いらしいというのを聞いてどれだけ安堵したか。

「ふんふふん、ふふんふん~」

 音速突破の暴風に危うく失火墜落しかけたオレと、思う存分壁の向こう側を楽しんだシャーリーを待っていたのは。
 滑走路に、満面の笑みで仁王立ちしていたミーナさんだった。

 凄い良い笑顔でオレとシャーリーにアイアンクローしながら、数ヶ月の減俸とシャーリーのMe262の着用の当面の禁止。
 そして砕け散ったガラスの掃除を申し付けるミーナさんの顔がトラウマの如く脳裏に浮かんでは消えて。
 ああ、何処かの漫画で、笑顔って言うのは元々攻撃的な表情だって言ってたのは本当なんだなぁ、などと現実逃避する。
 まぁ、シャーリーが飛んでった方向の窓が八割方死んだミーナさんも現実逃避したかっただろうけど。
 許可を出した以上、責任の大部分は上司であるミーナさんに降りかかるわけで……大変だぁ。

「笑いながら、ふんふんふふん~」

 そんなオレの憂鬱を助長するのが、昨日にもまして満足そうなシャーリーの笑顔だろう。 さっきから歌とか歌っちゃってるし。
 怒られた直後はしょんぼりしてたけど。
 掃除してる間に今度はきちんと味わった感覚を反芻して楽しみだしたのか、テンション右肩上がりです。
 うん、出来ればもうちょっと反省の色を浮かべながら掃除しようぜ。 これ一応罰掃除なんだし。 
 心なし、肌の張り艶も普段よりいい気がする。 いや、判らんでもないけどね、同じスピード大好きっ子としては。
 今は随分よくなったけど、バイクぶん回してた頃は、思い出すのも怖いやら恥ずかしいやらなとんでもない事して楽しんでたし。
 現在のオレとしては自分のしでかしたことに未だにドキドキしている小市民っぷりなのだが。

「…………」
「……ん? ああ、悪いね。 あたしもまさかこんなになるとは思わなかったんだ」

 黙りこくって見つめていると、漸く苦笑いしながら反応してくれた。

「オレ……も、予想……無理、だった」
「まあ、あたしが世界で初めて音速を超えたんだ。 判らないことが起こるのも、多分、仕方ないよな」
 
 うむ……情状酌量の余地は十分あると思います。 でも、最後にミーナさんが気の毒そうに言っていた言葉が少し気になる。
 それは。

「……記録、公式に……ならない、かも……って」

 それは、つまり、国家間のしがらみとか、そういうのなんだろう。
 普通に、カールスラントの最新鋭機でリベリオンの人間が偉業を成し遂げてしまった、っていうのがいけないのかもしれない。
 いい線まで行くとは思ってたみたいだけれど、まさか本当に音速を突破できるとは思ってなかった節もあるし。 

 でも、シャーリーは全く気にした様子も無く。

「ああ、良いんだ。 確認したいことは、みんな判ったから。
 それに、ここまで騒ぎが大きくなっちゃったら公式とか非公式とかほとんど関係ないだろ?」

 にやり、と笑う。 まぁ……確かにね。
 少なくとも沢山の基地要員と、地上で観測してた美緒さんとペリーヌ、ルッキーニを始めとした仲間達が見てるわけだし。
 もしかしたら、最寄の街まで音が鳴り響いてるかもしれないし。
 ミーナさんが言っていた通り、たとえ今は公表されなくても月日が経てば、あるいは人々の噂の仲でこの事実は知られていくだろう。
 何より、自分は音速を超えれる! っていう自信がたっぷりと身についたんじゃないかと思うね。
 まぐれのセッティングなんかではなく、きちんとした設備さえあれば、何とかできるって。

 また少し、会話が途切れる。
 オレが喋るの苦手なのもあるし、掃除をさっさと終わらせないといけないのもある。
 ……なんとなく、学生だった頃のことを思い出すなぁ、なんて思っていると、シャーリーが唐突に口を開いた。

「ああ、そういやさ、ビリー」
「……ビ、リー?」

 その聞き慣れない名前。 目線をこちらに向けて、明らかにオレに語りかけているシャーリーさん。
 ということは、オレのことなのだが……ビリー、って、オレ男ってバレたですか?!
 心臓が跳ね上がる。 いや、所作は兎も角外ッ面はまるっきり女の子なんですけど、うぇぇ!?

「そ。 お前さんの名前、結構長いじゃないか。 リベリオン風の愛称だよ。 ビリー、ってね」
「……男、の……名前」
「ああ、リベリオンじゃ珍しくないよ。 ジョーとか、ビリーとか。 第一愛称ってそんなもんじゃないか?」

 そう、にこやかに説明する、リベリオン生まれの少女。 ああ、なるほどね……
 日本語で言う”あっちゃん”とか、”しょーちゃん”とかそういう感じなのか?
 ああいうのだったら男女両方に使えるしな。 日本的感性からすると、男の名前にしか聞こえないんだが、ビリー。

「カールスラント風にするとミナとかミーナなんだけど。 ほら、中佐がいるだろ?
 かといって、ブリタニア風やガリア風にウィルマ、って言うのもちょっとな……」

 何か問題があるのか、と聞くと。 ブリタニアの有名なウィッチの名前なんだそうな。
 どんな人なのか聞いたら、シャーリーには珍しく凄い勢いであさっての方向を見出したので、諦めることにした。
 今度、リネット辺りに聞いてみるとするか……と思ってたら、リネットにだけは聞くなよ、と釘を刺された。
 うーん、気になる。
 ただ、その様子から明らかに良い方に有名では無さそうなので、それと同じ愛称を頂かないで済むのはそれでいい。

「んー、駄目か?」

 箒を握り締めて考え込んでいると、シャーリーがそんな風に聞いてきた。
 ビリーか。 うん、まぁ、悪くないんじゃないかね? 男っぽい響きなのが良い。
 いっそのこと皆してビリーって呼んでくれれば、オレも自分が男だって忘れないで済むかもしれない。
 それに、愛称って言うのがなんだか、一歩親密になれた気がしてこそばゆいな。
 トゥルーデとの会話を少し思い出して。 こういう風に、誰かと仲良くなっていくのも久しぶりの気がする。

「……良い、よ」
「そっか。 はは、じゃあそろそろ夕食の時間だし、さっさと終わらせるか」

 何時もの、飄々とした態度で返事をするシャーリー。
 でも、夕日の色を反射するその瞳が何時もより何処か親しげな気がしたのは、半分くらいは自惚れなんだろうって判っているけれど。
 それでも、まぁ、なんだ。

「さっき……何、言おうと?」
「あぁ、お腹減ったなぁ、ってさ! ビリーもそうだろ?」
「……ん」

 本当に悪くない。 こういうのは。

 




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 Ep4、クローズ。 ようやく説教臭い話三部作が漸く終わりを告げる……
 私生活で何やかや有ったとはいえ、終わらせるのに随分時間かかったなぁ。
 ペース落ちてるのを自覚すると自分のふがいなさに結構クるものがあります。
 更新した後の一日で獲得したPVや感想が以前と比べて減ってたりするともう(略)
 しかし、ここで物語的には折り返し地点となります。 後半分! なんかこのペースだと、第二期始まっちゃいそうだなぁオイ。
 そして愛称(リベリオン風)。 ビリー、ジョー等は普通に男女両用だったりします。
 補助発動機のネタは、フミカネ氏の画集における初期スケッチと。
 Me262のエンジン、Jumo004Bには始動補助用にバイク用のエンジンが付いていたという所から。
 「ウィルマ」が気になる人は、フミカネ氏のHPに行って、その説明文をよく読んでくると良いと思うよ。 

 次回予告。
芳佳「うっへっへ……お嬢ちゃん、カマトトぶってんじゃねえよ……さあ、おじちゃんといい事しような?」
ヴィル「これが……魔女……こんなのが、魔女なら……オレは人間だ……人間で、たくさんだ!」
エイラ「待て! 私とサーニャも混ぜて、4P希望!」
サーニャ「自重しろシュールストレミング。 シベリアに送り込むぞ」
芳佳「おっぱいが並盛の奴等は黙ってろ! ならば、海賊らしく……頂いていく!」
 ついに白昼の元に晒される、ヴィルヘルミナの肢体! 覚醒したおっぱい魔人芳佳の魔手が、地球全土に襲い掛かる!
 そして、ついにあの人の家族がその姿を現す……! Episode5「Over the Rainbow」に、チャンネル・セェーット! 

 カオス。 最初の芳佳の台詞書いた時点でありえないテンションの高さになったまま書いたらこうなった。
 自分で書いておいて何ですが、コレはねぇーよ。
 びっくりするほど感性が古すぎてアチョー入る。




[6859] Interlude: Buying Time
Name: kd◆18be6bde ID:ef753329
Date: 2009/12/06 17:55
Episode 4.5 「Buying Time」

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 何時もどおりの能天気な笑顔が言葉を発した。

「デートしない?」

 眠いのを我慢して朝食を腹に叩き込んだ後、ぼんやりと自室へ向けて歩いて居たら。
 背後から走りよってきたエーリカにそんなことを聞かれた。
 エーリカ、そしてデートと聞いて真っ先に思い浮かべるのは何時ぞや連れて行かれた哨戒任務だ。

 っていうかまた哨戒任務かよ……疲れてる上にあんま寝てなくて眠いんだよ。
 ガラス掃除やった後も、日課にしてるサーニャとの交信訓練したからな。
 最近漸くコツの様なものを掴めて来たような来ないような、まぁそんな按配なのでやってて面白いのではあるが。
 慣れてないのに集中なんかするもんだから体力気力魔法力をごっそり消費して疲れるのである。
 朝は朝で起床ラッパが七時だし、起きないとご飯食いっぱぐれるわ朝礼に遅れるわでゆっくり寝てられないし。
 何だかんだ言って、健常な肉体と精神な状況で迎えるネウロイ襲撃後、つまり休日は初めてだったのだが。
 普通の一日より疲れた気がする。

「……哨戒?」
「ううん、違うよ。 本当にお出かけ」

 任務なら養ってもらってる以上付き合うのも吝かでないんだが、という妥協から出た問いは、不思議そうな表情で否定された。
 何言ってんの、デートって言ったらデェトだよ? と、以前同じ文句で敵地への飛行任務に連れて行った少女は首をかしげながらのたまう。
 ……任務じゃないなら付き合う必要も無いよなぁ。
 っていうか見た目女同士だし。 フラグ立ってないし。 主にオレの方に。 
 復讐フラグというか、胸揉みフラグは立ってるけど。 初志貫徹、何時の日かこいつをひぃひぃ言わせてやるつもりではある、のだが。
 それはそれとして、可愛い女の子からのお誘い。 本当なら涙がちょちょ切れるほどありがたいが、とりあえず今は色気より眠気である。

「……今日は、自由時間は……全部、寝る」
「私もそうしたいんだけどさ、ミーナが言うんだ……ヴィルヘルミナと一緒に居ろって」

 そんな感じで断ろうとすると、エーリカは少し困った顔でミーナの名前を出した。
 なぬ、ミーナさんとな? ミーナさんがオレとエーリカでデートに出かけろと?
 男に対してちょっとトラウマあるだけのノーマルさんかと思ったらまさかの百合推進派だったのかあの人――! 

「誤解を招くような内容を吹き込むな、フラウ」

 と、内心勝手に慄いていると。 エーリカの背後に近づく姿。
 相も変わらずカーキ色の制服を見事に着こなしているトゥルーデだ。

「あ、トゥルーデ」
「なんと言うことは無い、昨日お前とシャーリーが割ったガラス。 業者が来て取り替えるのでな。
 その間、敷地内から出ていろとのことだ。 ……まぁ一種の臨時休暇だな」
「……ああ」

 口を尖らせて何かを言おうとするエーリカを視線で制して、トゥルーデが説明してくれる。
 ――ああ、なるほど、ガラス業者の人ね。 つまり男の人たちがそれなりの数来るということなのだろう。
 ウィッチの居住区のガラスも吹っ飛んだからな……今こうして立ち話している廊下のなんと風通しのいいことか。
 なんとも潮風が気持ちいいが、それはそれ。 娘さんたちの雰囲気で忘れがちだが、ここって軍事施設だからな。
 幸いにして個室の窓に被害は無かったようなのだが、速いところ補修してしまいたいのは判る。 雨が吹き込んでも困るしね。
 そんな風に納得していると、ガラス粉砕の元凶の片割れであるところのオレを見て、苦笑。
 腕を組んで、語りだした。

「夕方まで外に出ていることを『強く推奨する』、だそうだ」

 強く推奨する、を強調して言うバルクホルン。
 まぁ、こういう組織の中でそういう言い方ってことは、ほとんど命令と同義なんだろうけど。

「というわけで、降って沸いた余暇だ。 折角だからクリスの見舞いに行こうと思ってな」
「先週も行ったのにね。 あんまり基地からは離れないようにって言われてるのに……まったくトゥルーデは妹のこと大好きなんだから」
「う、うるさい! 今まで疎かにしていたのだし、これくらいで丁度いいんだ。 ミーナにも許可は貰っている。」

 本来なら毎日でも見舞ってやるべきなんだろうがな。
 そう顔を赤らめて主張するトゥルーデに、過保護、とジト目で小さく呟くエーリカ。
 幸いにして、トゥルーデはその言葉に反応はしなかった。 聞こえなかったのか黙殺されたのかはわからないが。
 眉根を寄せているところ見ると、後者なのだろう。 その表情は、年相応の女の子に見える。
 まぁとにかく、一緒にお見舞い行こうぜ、って事なのね?

「……オレも、一緒に……病院、まで?」
「ああ、お前が良ければ、だがな。 何かやりたい事があれば話は別だ」

 どうするよ? と視線で問いかけてくる二人。 
 ふむ。 エーリカに言ったとおり今日の自由時間は寝て過ごすつもりだったんだが、出てろって言われるとは思わなかった。
 ただ、面識も無い人のお見舞いに行くのも何となく心苦しいものがあるよなぁ。
そういえば、他の娘さんがたはどうするつもりなんだろうか。
 
「他の……皆は、どうする……って?」
「ん? ああ、ミーナと少佐は基地待機だと聞いたな。 流石に基地の戦力を空っぽにするわけにも行かないし」

 指揮官組は基地待機、か。
 つい先日来襲したばかりだし、ネウロイの攻勢が無いと確信しての臨時休暇なのだろうが、トゥルーデの言うとおり基地を完全に空けるわけにも行かない。
 しかし、美緒さんが基地居残りだとすると、ツンツン眼鏡ちゃんの動向も自動的に判ってしまうな。
 そんなオレの予想が、エーリカの言葉によって肯定される。

「ペリーヌは聞かなくても判るでしょ? 坂本少佐にべったりだもんね」

 あの十分の一でも見せてくれれば可愛げもあるんだけどねぇ、とエーリカが苦笑しながら呟く。
 いやいや、あれが60年後の未来、極東で持て囃されるで言うツンデレって奴ですよ……少し違う気もするけど。
 あのままでも十分可愛げはあるぜ? 尽くす系だし。 

「宮藤とリーネは……」
「バルクホルン大尉っ」

 後方から、聞きなれた元気な声。
 噂をすれば影である。 振り向いてみれば、廊下の向こうから走りよってくるリネットと芳佳の姿。
 その姿を見て、トゥルーデが溜息と一緒に、小言を吐く。

「宮藤、リネット。 廊下は走るな」
「あ、すいません」
「いや、いい。 気をつけろよ、と言いたいだけだ。 ……で、どうだった?」

 はい、と一呼吸おいてから。 そこでオレに気づいたようで、二人は小さくおはよう、という挨拶。
 返事と頷きを返してやると、にっこり笑ってからトゥルーデの質問に答え始めた。

「シャーリーさんが、私達と一緒に来たいそうです」
「ルッキーニの奴は?」
「ルッキーニちゃんは近くの村の子のところに遊びに行くって」
「ふむ、そうか。 シャーリーは自前の足があるだろうし、この人数ならワーゲンで大丈夫だな。 フラウ、頼んだぞ」
「ま、トゥルーデに運転させるとロンドンまで一週間かかりそうだからね。 任せといてよ」

 エーリカの視線と軽口に、珍しく言葉を詰まらせて苦々しい表情をするトゥルーデ。
 意外だな……運転苦手なんだ。 ストライカーユニットの扱いはあんなに化け物じみてるのに、車の運転が苦手なんだトゥルーデ。
 なんだそれ。 萌えポイント狙ってんのか?

「芳佳と……リネット、も……お見舞い?」
「えっと、私達は近くの町まで買い物に行くんです」

 ええっと、此処から近くの町というと……あの辺とかなのか?
 各種勉強の際に何度か見せてもらっている、ブリタニアの地図を思い出して、この近くにある大きな有名どころの街の名前を幾つか挙げてみる、が。
 返ってきた言葉は否定だ。

「芳佳ちゃんが、家具とか服とか見たいって言うから……もっと近いところじゃないと、運べないんです」
「ふ、服は良いってば、リーネちゃん。 ブリタニアの服ってなんかハイカラで……私なんかに似合う服無いってば」
「そんなこと無いよ芳佳ちゃん! 芳佳ちゃんにもきっと似合う洋服あるから!」

 「えー」とか「だよー」とかいちゃつき始めた二人を横目に、少し考える。
 成程、家具ね。 それなら確かに、出来るだけ近場が良いか。
 運ぶのは手間だし、基地は軍事施設だからな……配達とかも頼み辛いだろうし。
 しかし、服か……ふむ。 興味は、あるな。
 いちゃいちゃしてるリネットに、とりあえず確認。

「服……見る?」
「え? あ、はい。 流石にロンドンやドーバーほど良いお店は無いですけど」
「……オレ、も……行く」

 服屋。 うん、大いに興味あるね。 主に、普段着的に。
 デザインとかはどうでもいい。 出来ればパンツじゃないズボンとかスラックスとかジーパンとか、凄く欲しいです……!

「ん? ヴィルヘルミナはリネットたちと一緒に行くのか」
「……ん。 ……ごめん」
「ああ、まぁ構わないさ。 次の機会、ということにしよう」

 すまんねトゥルーデ。 そう言うことにしていただきたい。 心の中で深く謝っておく。
 妹さんの事はそれなりに心配だが、どうにかなるはずではあるし、オレの精神衛生状況を改善するチャンスがあれば何とかしたいのです。

「さて、では――他に何かあったかな?」

 その言葉に、一瞬だけ考え込んで――そういえば。 あの百合っこ二人組み共はどうなったんだろうか。
 彼女達は夜勤組である。 オレ以上に眠いはずなのだが。

「エイラ……と、サーニャ、は」
「ああ、あの二人は自室待機、というか今日は寝る日だ」

 さも当然のように応えるトゥルーデ。 その言葉は、オレに電撃のように突き刺さった。
 なん……だと……? オ、オレも寝たいです!

「じゃあ……オレ、も」
「エイラもサーニャも昨晩は夜間哨戒だったし、今夜もそうだ。 夜間組は寝るのも仕事の内だからな」

 お前は……まぁ同情してやらんことも無いが、とりあえず駄目だ。
 そう、トゥルーデはにべも無くオレの希望を却下した。 お姉ちゃんの石頭!

「うらやましいよねー、任務内容に睡眠があるんだよ、睡眠が!」
「エーリカ、一応我々も睡眠は仕事のうちなんだがな……」

 夜寝るのと、昼間寝るのは別腹だよ別腹! と、エーリカが訳のわからん自論を展開するのに、トゥルーデは溜息を、芳佳やリネットは苦笑を浮かべることしか出来なかった。
 ……別腹? 腹?

「こほん。 まぁ、そういう訳だから……各自準備して正門前に集合。 十分後だ」

 何となくぐだぐだになってきた空気を振り払うように、トゥルーデがそう言って。
 三々五々、自分の部屋へと向かっていく。 しかし、買い物かぁ……なんかいいもの有るかなぁ。
 ぱんつじゃないズボンとか、パンツじゃないズボンとか、或いは下穿きじゃないズボンとか。
 個人的にはその辺を切に、切に希望いたします。
 


******

 町のほぼ中央部にある噴水。 その縁に腰掛けながら、疲労しきった精神に休息を与えてやる。

 シャーリーのサイドカーと併走して、走ること三十分弱の距離にある、小さな町。
 エーリカが調子に乗ってシャーリーとチェイスすると言う無謀かつ同乗者にとっては甚だ迷惑極まりないイベントもあったが、とりあえずは無事に辿り着いた。
 足になってくれたエーリカ達のワーゲンを見送ってから、アスファルトのメインストリートに面した店を回ること数件。
 とりあえず、家具などの大物は後にして服から見よう、という尤もらしい意見に従ったのだが――正直女の子の買い物というのを舐めていた。
 ……なんで服一着買うのにあんなに時間かかるんだよ。 俺が欲しいのなんてタイツと丈の長めの上着だけだってのに。
 こう、買い物に関しての女の子のバイタリティってのは洋の東西どころか世界を跨いでも変わらんものらしい。

 手元には、紙袋が二つ。
 一つには、手持ち無沙汰だった為、冷やかしに入った書店で見つけた本が一冊。
 題名はThe Hobbit, or There and back again. 著者は、Tolkien――あのトールキンである。
 ファンタジー小説に興味は無かったものの。 かつて聞いたことのある代物と出会うのは、懐かしいという感情を抱かせるのに十分だった。
 まぁ、スーパー爺ことガンダルフが出てくるお話、くらいの認識である。
 英語故に読むのが大変そうだが、結局は勉強用と暇潰し用。 児童書だから、きっと文体も綺麗な事だろう。

 そして、もう一つには丈の長いワイシャツが二着。 あと手元にあるのは、伝票というか……注文票のようなもの。
 服飾店といっても、現代というか未来というか――にあるような量販店などまだ普及しているわけも無く。
 ズボン――もとい、替えの黒タイツとか、スパッツとか、サイハイソックスとか。 そういった身体にフィットするような物は、採寸とかが必要だったのである。
 というわけで、タイツだのスパッツだのを注文して。 仕立てにしばらく時間がかかるということだったので。
 その間の時間をつぶす為に娘さんがたはまた別の店へと繰り出していったのだが、正直お腹一杯だったオレはこうしてちょっと休憩している、というわけである。
 というかこの眠い状態にあのテンションの高さの女の子は毒でした。

 ただ、収穫が有るにはあった――スパッツが存在したことだ。
 タイツを上に履いてるとはいえ、流石にローライズのズボ……もといぱんつを履き続けるのは精神衛生上非常によろしくない。
 スパッツはスパッツで色々考えさせられるのだが、パンツ丸出しよりゃ幾分かマシな感じである。
 尤も、スパッツの上にタイツ履くことになると思うとすこし格好悪そうでは有る、のだが。
 
 あと、紳士用のズボン有ったからじっと眺めてたら「お客様はもっと若々しいのがよろしいと思いますよ」とか店員に言われたし。
 え、いやババァとかジジィ扱いされてもいいからオレズボン――長ズボンとか履きたいんですけどっ。
 それに、ベルト見てたら普通にスカートあった。 サッシュとかの飾りベルト的扱いとかツッコミどころ満載だったりした。

「……ふ、ぅ」

 大変だった十数分前を回想するのをやめて、溜息を一つ。
 耳に聞こえてくるのは、背後から響く噴水の音と、微かな雑踏の音。
 魔法か何かの力を介さないで聞こえてくる言葉は、明らかに英語で。
 目に見えるのは、疎らな人影と、日本ではほとんど見ることの無い町並み。
 アスファルトの道路と、時代を感じさせる石畳の比率は半々程度。
 建物は煉瓦や、あるいは漆喰で塗り固められた物ばかりで。 電球の代わりに金網で出来た円筒が入っている街灯は、おそらくはガス灯なのだろう。

 視界の隅には、石焼芋の屋台の様なもの。 書かれている文字は、Fish and Chips。
 イギリス名物の糞不味いと評判のジャンクフード、だったろうか。
 ブルネットの髪の、青いワンピースを着た女の子が屋台のおじさんから紙袋を幾つか受け取っているところだった。
 一つ、二つ、三つ、四つ……あんなに食うのか。 見てるだけで胸焼けがしてくる。
 視線を逸らそうとしたところで、女の子が振り向いて。 こちらを見て、驚いたような顔をした。
 そのまま駆け寄ってくる。

「バッツさん!」

 オレの名前を呼ばわる女の子。 えぇ、誰よあんた……?


******

 お一つどうですか、と差し出された魚のフライをやんわりと辞退しつつ、隣に座る女の子の顔を見返す。
 残念そうな表情だったが、すいません。 凄く油っこそうなんですもの……寝不足の腹でそんなものが食えるか!

「まさか、こんなところで会えるとは思いませんでしたよ、バッツさん」
「……ん」

 その後どうですか、何処か後遺症はありませんでしたか、と聞いてくる彼女に、特に大事は無いとだけ伝える。
 本当は色々会ったのだが。 大怪我しまくりだったのだが。 不必要に心配させることも無いだろう。
 それを聞いた彼女――アイリーン嬢は。 よかったです、と呟いて魚のフライを口に含んだ。

 アイリーン。 病院に居たときに着ていた白衣を脱ぎ、アップにしていた髪を下ろして居たため誰だったか判らなかったのだが。
 オレに、治癒の魔法を掛けてくれた女医さんだった。 聞いてみれば、今はちょうど早めの昼休みらしい。

「それで、今日はなんでこの街に……はっ、まさか軍の機密任務とかですかっ」
「……それは、無い」
「えー」

 残念そうに全く見えない表情で不満を口にして。 さくさくとフィッシュアンドチップスを消費していくアイリーン。
 結構ノリの良い、ルッキーニとは別の意味で喜怒哀楽の表現の激しい子だ。 というかウィッチーズ基地に居ないタイプの子である。
 入院していた間、色々と世話を焼いてくれた人、という意識もあって。 会話するのに抵抗を感じさせない。

「今日……休暇……」
「そうなんですか。 あれ、じゃあロンドンまで出たほうが良いんじゃないですか?」

 ロンドンのほうが遊べる場所も多いですよ、という彼女に、首を振って応える。

「……基地……から、あまり……離れるのは」
「あっ、そうですよね」
「それに……」
「それに?」
「余り……人の沢山居る……ところは」

 そう、発言した途端。 眉尻が下がり、じわりと彼女の青い目に涙が浮かぶ。
 ちょ、え、何でだよ!? なんか地雷ワードだったの!?
 混乱の余り動きの固まったオレに向かい、アイリーンは謝罪の言葉を述べた。

「ご、ごめんなさい、私の力が足りなかったから……ごめんなさい……っ」

 いや、そんな急に謝られても、何がなにやら判らないんだが。
 というか寧ろ治療してくれた貴女にはオレが感謝するべきであって何故謝られなければいけないんだろうか。
 泣き出しそうな彼女をなんとかな宥めて。 聞いた理由は、それなりに予想外で――しかし納得のいくものだった。

「火傷の跡が残ってしまったから」

 ……ああ、なるほどね。 別に余り気にはしていないのだが。
 やはり、傷が残るというのは女の子にとっては重大事なのだろう。
 というか、今思い出してみれば初対面のときに問題ない感謝する、と伝えて涙ぐんだのもこの所為なのか……?
 命があっただけでも儲けものだし、第一、人が沢山居る所が苦手なのは雑踏が大嫌いなだけである。
 日本の通勤ラッシュの電車とかなにあれ。 乗る奴馬鹿じゃねえのと思うくらいキツいんだよ……
 
 兎に角。 純粋に人混みが嫌いなだけだと納得のいくまで、回らない舌で説明してあげて漸く彼女も納得してくれたようだった。
 
「本当は、この町も……もっと、賑やかなんですよ」

 目尻に滲んだ涙をハンカチで拭って、二、三回瞬きしてから。
 まだ少し赤い目で、アイリーンは周囲を見回しながら唐突にそう語り始めた。
 平日の昼間という理由で疎らだと思われた人の数と、声。 時代を感じさせるガス灯。 アスファルトと石畳の混在する道路。
 オレが異国情緒を感じていたそれらは、実際のところはそんな和やかなものではなく。
 ガス灯は、本当なら去年までには全部電灯に置き換わっていたはずで。
 劣化の激しい石畳はアスファルトを敷くどころか、修復すらままならない状況で。
 ここからは見えないが、町の外れの方には、以前水際防衛に失敗した大型ネウロイの墜落痕が未だに残っているそうだ。

「子供達はほとんど、ウェールズの方に疎開させたんです。 ……本当は、今くらいの時間だとこの広場は小さな子達の遊び場なんですよ」

 そして最後に、そう、懐かしいものを思い出すような――そんな声で彼女は言った。
 ……子供て。 アイリーンも、随分大人びて見えるとはいえ、魔法を使えるならそれなりに若い、んじゃないのか。

「アイリーン……は」
「私も魔女ですけど、魔法力が低くて……それに、運動神経も悪くって試験に落ちちゃったし」

 治癒の魔女は貴重で、だからこそ多くが国の要請や自らの希望で戦場へと向かう。
 彼女達のお陰で、多くの人達が死地で命を拾っている――だけど、だからといってそれ以外の場所での怪我人が減るわけでもないから、と。

「この町が大好きだし、皆戦ってるんだもの。 何か出来ることがあるなら……逃げてられませんよ」
「……」
「それに、ウィッチーズ隊が編成されてから、随分と安心して生活できるようになりました」
「……ん」
「以前は、空襲警報が何時鳴るかひやひやしながら暮らしていたんですけど……ここ暫くは、そんなこともなくて」

 でも、昨日、凄い音が遠くから聞こえてきたんですけど……なんだったんですかね? という彼女の問いには、曖昧な相槌を返しておくことしか出来なかった。
 ……ホントごめんなさい。 正体はオレとシャーリーです。
 爆音の正体を話そうかどうか、内心悩んでいると。 アイリーンは、突然何かを思いついたように手を鳴らした。

「あ、そういえば……バッツさんって、あのウィッチーズ隊所属、ですよね?」

 大陸からの撤退が行われた直後なら兎も角、最近になってまでこの辺にいる異国のウィッチといえば、その筈ですよね。
 先ほどまでの思い雰囲気から打って変わって。 妙に目を輝かせながら詰め寄ってくるアイリーン。
 な、何ですかとオレが思うのもつかの間。 緊張した面持ちで、彼女は白いハンカチを取り出しオレに差し出しながら言った。

「さ、サインください!」



******

 別れ際、サインのお礼にとアイリーンさんに押し付けられたフィッシュアンドチップス。
 貰った以上は消費しなければ気が済まないので、冷め始めていたそれをもそもそと食べていると。
 路地の向こうから、手に二つの小さな紙袋を持った見慣れた赤毛の彼女が歩み寄ってきた。

「よう、ビリー、いいもの食べてんじゃん。 あたしにもちょっとくれよ」
「……シャーリー」

 遠慮もなく、隣にどかっと座ってくるシャーリーに、紙袋を差し出す。
 正直な話、一人でこの油量は食い切れんと思っていたところなのでなんともありがたい。
 シャーリーはフライドポテトを幾つか摘んで、一口で頬張って。

「うーん、ケチャップが欲しいね」

 と、感想を一つ。 いや、塩味十分ついてるじゃないか。 
 文句言いながらも結構なスピードで食べてるし……やっぱりアメリカ人の味覚はなんというか豪快なんだな、と戦慄していると。
 不意にシャーリーが持っていた紙袋を一つ差し出してきた。
 なんすか?

「……何?」
「ん? お礼だよお礼」
「……芋、フライ?」

 たかがジャガイモフライで何か返礼いただいても却って困るのですが、と思っていると。
 いや、昨日のアレだよ、と苦笑と共に紙袋を押し付けてきた。
 ああ、そうか……なんか、自分の中では決着が付いてたから予想外だよ。
 受け取った紙袋。 手に返ってくる感触は、中に何かしら硬い物が入っていることを教えてくれて。

「ほら、開けてみろよ」

 シャーリーのその言葉に従い、せっかくなので紙袋を開いてみる。 中に入っていたのは。

「ゴー、グル?」
「そ。 ビリー、この手の持ってないみたいじゃないか」

 取り出して、まじまじと見つめてみる。 皮製の、いかにも頑丈そうなライダーゴーグルだった。
 確かに、こういったものは持っていない。 いや、或いは持っていたのかもしれないが、今は持っていないのだ。
 私物のほとんどは焼けたか海中に没したらしいしなぁ。
 今所有する私物らしい物といえばトゥルーデに貰ったこのコンパスくらいしか無いので、彼女の言うことは本当なのだが。

「Me262、あの速度じゃ風がキツいだろ? 昨日、実際に使ってみたらやっぱりそう思ってさ」

 ほら、合わせてやるから着けてみろよ、とシャーリーは言葉を締めた。
 ふむ。 確かに、トップスピードだとかなり向かい風強いけど……そんなもんなんだと納得してた。
 成程、あれは標準からしても強いらしい。 普通のストライカーの速度を知らないが、両方を知っているシャーリーが言うならそうなんだろう。
 とりあえず、そのままゴーグルの眼鏡の部分を顔に当てる。
 微かに香る皮の匂いを感じていると、後頭部に回したストラップを、シャーリーが調節してくれた。

「ほら、キツ過ぎないか?」
「……ん」
「うーん……やっぱちょっと大きかったな。 ま、皮だからいくらか伸縮性あるけど……ズレるようだったら無理につけなくていいからな」

 戦闘中にズレて視界が塞がれたらヤバイなんてもんじゃないからな、という彼女に、首肯で同意する。
 目を保護するもので前が完全に塞がれるのは冗談ではない。 まぁ、多少キツめに締めれば大丈夫だと思う。
 何より、オレからすればアンティークぽい雰囲気を醸し出すゴーグル、なかなかに格好良いのである。
 シャーリーにありがとう、と謝意を伝えると。 彼女は小さく微笑んで満足そうに頷いた。

「そういえば……芳佳、達は」
「ん? さっき小物屋の中で会計してるの見かけたから……そろそろ来るんじゃないか? と、ほら。 来たぞ」

 彼女の指し示す方向。 やや濃い色のガラスの向こうには、仲良く手を繋いでこちらに向かっている芳佳とリネットの姿が見える。
 二人とも、手には先ほどの服飾店で手に入れたものとは別の紙袋を抱えていた。
 ……あいつら、本題の家具屋のこと忘れてないだろうな?

「さーて、そろそろいい時間だし……リネットが良いカフェ知ってるらしいから、そこ行こう」

 いつの間にか空になっていたフィッシュアンドチップスの紙袋をつぶして、シャーリーが立ち上がる。
 ふと、遠くから鐘の音が聞こえる。 音はきっかり、十二回だけ鳴った。


******

 帰り道。 傍らには、衣服と本の入った袋。 周囲には、リネットたち。
 芳佳の購入した小洒落たチェストを支え、ワーゲンに揺られながら微かに赤く染まり始めた青い空を見上げて思うこと。
 それはアイリーンさんに、別れ際に言われたことだ。 フィッシュアンドチップスと共に、貰った言葉。

 ――ウィッチーズの皆には、本当に感謝しています。

 オレは――その感謝の言葉と表情を、素直に受け止めることが出来ないでいた。
 ”皆”。 その中には、図らずもオレが含まれているのは確かな事で。

「? ヴィルヘルミナちゃん、どうかしたの?」
「……眠い」
「あはは、私も疲れちゃった」

 腹の奥底で渦巻く、イラつきのような、あるいは焦燥のような感情に、戸惑う。
 だから。 芳佳の問いに、誤魔化しの様な答えを返すことしか出来なかった。




------
戦争は日常を壊していくというお話。
結局、資料集めの意味ほとんど無かったわはー
しね! しんでしまえ俺!
あと、「無理して全編一人称で書いたらゲシュタルト崩壊しそうになったでござる」の巻
家具はお姉ちゃんが怪力出して運んでくれました

アイリーンさんじゅうきゅうさい! おりきゃら!
公式でも航空歩兵はなんかアイドル的な存在らしいよ、設定上は。

アニメ一話の背景に登場する一般人から察するに、あの世界の女性は既婚者か高齢者なら下半身隠しても良いらしい。
すぱっつだいすき! そして、スパッツを履くときに下にパンツ穿かないでいいとか勘違いする童貞主人公。
kdも中学生位まではスパッツは直ばきだと勘違いしていた。


以下超蛇足。
------

 夜。 夕食後の自由時間。
 それは、眠るまでの余暇――あるいは最後の一仕事を前に、食後の休息を楽しむ時間だ。
 自室に戻る者、格納庫に向かう者も居れば、歓談の場所であるミーティングルームに向かう者もいる。
 そのミーティングルームに、紙束の落ちる音が大きく響いた。
 それはチェスを楽しんでいたトゥルーデとペリーヌ、隣で観戦していたミーナの注意を引くには十分すぎる音で。
 三人は、自然な流れとしてその音の元へと視線を向けた。
 そこには、呆然と立ちつくす少女が一人。 肩を震わせている彼女の名は。

「――ヴィルヘルミナ? どうしたんだ?」
「ガ……」
「が?」

 トゥルーデの、疑問を大いに孕んだ問いに、しかしヴィルヘルミナは短音で答える。
 その答えに、トゥルーデを含む三人は首を傾げた。
 確かに、ヴィルヘルミナは変わった喋り方をする。
 しかし、一応意味の通る発言しかしてこなかったはずだ、と三人は思う。

 困惑する三人を余所に、ヴィルヘルミナは依然として視線を動かさない。
 その先には、一冊の本。 昼間、町に行ったときに買い求めた物だという。
 やがて、長いようで短い沈黙を破り、ヴィルヘルミナがようやく意味のある言葉を紡いだ。

「……ガンダルフ、おばあちゃん……だと……?」

 意味はある。 意味はあるのだが、三人にはヴィルヘルミナが何を言っているのか理解できない。
 その、老婆がなにかしたのだろうか。 シャーロック・ホームズの様な推理物であるならばまだ三人の理解と推測の範疇である。
 が、しかし。 曰く、その本は子供向けの童話のような代物であるという。
 童話の中に驚愕と動揺と戦慄を招くような要素が存在しえるのだろうか。 普通は無い。
 謎は深まるばかりであった。

 結局。 それ以上ヴィルヘルミナは発言することもなく、床に落ちた本を拾い上げて部屋を去って行った。
 その背中に妙な哀愁を感じた事が、三人の困惑を余計深い物にしたのは語るまでもない。
 

------
某灰色の魔法使いはヨーロッパ一般に置ける”魔法使い”のイメージの集合。
よって、ウィッチーズ世界ではこうなるはず……!
多分白色に成るときに若返って魔力復活とかそう言うネタだと妄想する。
あと三人称分補給。



[6859] 26 Over the Rainbow
Name: kd◆18be6bde ID:a747aab5
Date: 2009/12/06 17:55
Episode 5 Over the Rainbow
26:「彼女と夜」

******

 何時だったか、問われたことがある。

 ――夜の空を飛ぶのが怖くないの?

 それは夕日の差す魔女の訓練校の廊下。
 ネウロイと交戦状態に入ったオストマルク、サーニャにとって第二の故郷ともいえるウィーンから逃げ出すようにオラーシャに帰国して。
 陸軍に志願兵として受け入れられ、その適正を買われてナイトウィッチとしての訓練を始めてからしばらくした日のことだった。
 不思議なものを――あるいはもっと直接的に、自分には理解できないものを見る目で、自分よりも年上の魔女に投げかけられたその問いに、サーニャは少しだけ狼狽したものだ。
 怖い、と感じたことも確かにあっただろう。 寂しいと感じたことも。 だけど、問いを放った先輩の魔女には、否定のただ一言だけを返した。
 まだ幼いサーニャにとって怖いのは、両親と離れて空を飛ぶこと。 寂しいのは、両親と離れて空を飛ぶこと。
 暗闇を飛ぶことに関して、初飛行の際の、初心者にありがちな緊張以外に、恐れを感じたことはほとんど無かったと言ってよかった。
 別にそれは、愛する父母を護りたいという彼女の未熟な正義感による誤魔化しなどではなく、ただ、本当にそうだっただけの話である。
 夜の空が怖い。 情報としては理解できるが、感覚として理解できない彼女が返した短い答えに、先輩の魔女はなんとか自分の理解できる概念を引き出そうとしていた。

 ――それは、魔導針があるから?

 サーニャの魔法。 レーダー魔導針の生成と、その効果の増強。
 夜を専門に飛ぶ魔女、ナイトウィッチに必須とされるその魔法は実際のところ、実に戦術的な意味合いで必要とされている。
 夜は暗い。 夜の帳は容易に視界を黒く覆いつくす。 黒はネウロイの色と同色であり、宵闇の中では、特に目が良いとされる航空歩兵の目ですら、視認は困難を極める。
 ネウロイがビームや曵光弾を放てば話は別だが、それらは攻撃のために放たれるものであり、つまり何がしかの損害を被る可能性を意味する。 到底容認できるものではない。
 その点、レーダー魔導針による探査は精緻さにはやや欠けるものの、彼我の位置関係を計るのには非常に適していた。
 しかし、それは暗黒の空間を飛ぶのに、なんら寄与しない。 効果範囲内のどの辺りにどのくらいの大きさのものがどの程度の速さで動いているか。 判るのはその程度である。
 無線に使われている周波数帯の電波を拾う、という副次的な効果により自分の現在地を割り出したり、魔法力が尽きそうな時に着陸できそうな場所をすぐに見つける事くらいは出来たが。

 だから、その問いにもサーニャは否定の答えを返す。 それを受け取った魔女は、不快ともとれる表情をかすかに浮かべる。
 サーニャが言葉少なな所為もあるのだろう。 人見知りが過ぎて、先達に対して愛想が悪いと取られているのかもしれない。
 先輩の魔女は、疑問と否定の視線をもはや隠そうとせずに、最後に何故、と聞いた。
 夜の空。 上も下もわからず、黒で塗りつぶされているがゆえに地上も見えず、高度も、友軍も、敵も、何もかもが見えない空が、何故怖くないのか。
 無遠慮な視線と発言をぶつけられたサーニャは、それでも律儀に、素直にサーニャは答えを返す。
 その短い答えを聞いて、溜息一つ。 呆れたように、揶揄するように年上の少女は言った。

 ――貴女、まるで幽霊みたいね。



******

 そこまで思い出したところで、ごう、と肌に触れる風の質が変わった。
 ブリタニアの雲は厚く、抜けるのには短いとはいえそれなりに時間がかかる。 身体に感じる雲独特の抵抗が薄くなったことで、サーニャは回想をやめて目を開くことにした。
 彼方まで広がる、青白い雲海。 頭上の月光に照らされた自身の銀髪が、目の前で露を光らせている。
 しっとりと湿った衣服が高空の気圧と夜の風で乾いていく肌寒さを感じながら、彼女はフリーガーハマーを持たない左手で髪の毛の水滴を払った。
 と、側頭部、本来の自分に無い部位にむずがゆい感触。 使い魔との合一により生じている黒猫の耳に、水滴が滑り込む。
 背筋をぞくりとさせるその刺激。 脊髄反射に応じて耳が小刻みに振るえ、はじき飛ばされた滴はサーニャの視界の外で月光を照り返し、元々己のいた場所へと帰っていった。

 少しだけ冷えた身体を伸ばすように、緩やかにロール。 それなりの期間連れ添ってきた黒いストライカーユニット、Mig60は小柄なサーニャが望む速度で機動を行う。
 その過程で、天球を埋め尽くす満天の星空と真円に近い月を一瞥したサーニャの頬が、微かに綻んだ。
 深呼吸。 乾いていて、それでいて雨の臭いのする大気を己の内に招き入れながら、雲の中を通っている時の感触を思い出す。
 重く、身体にまとわりつくような感触。 あの雲の湿り具合では、そう遠くないうちに雨粒となって地上に降り注いでいただろう。
 早めに雲の上に上がってきたのは正解で、そう判断した自分の正しさに一人満足。
 まだ夏とはいえ、夜はそれなりに長く、ブリタニアの空は涼しい。 状況によっては何度か基地に戻ることもあるとはいえ、そう何度も濡れて寒さに震えるのは好ましくない。
 それは、地上で――基地の滑走路で空を見上げているだろう彼女も例外ではないだろうと思う。

「――もうすぐ、雨が降ります」

 数え切れないほど行ってきた行為。 経験と習熟がもはや意識せずとも望みの魔法を駆動させる。
 こめかみの辺りから伸びる、幾何学的な模様を描き幽かな光を放つ緑の枝葉――レーダー魔導針がその輝きをやや強め、サーニャの言葉を地上、海へと伸びたに基地の滑走路の先端に居るはずの少女へと向けて電波ではなく魔力の波として放った。
 不可視の波がエーテルを震わせながら雲間へと消えていく。 それを感覚として理解しながら、やがて戻ってくるはずの、弱弱しい、ノイズ混じりの魔力波を逃さないように少しだけ神経を尖らせた。
 待つことほんの数秒。 魔道エンジンの駆動音にかき消されそうなほど弱々しいそれは、しかし確かにサーニャのアンテナに届く。

『――■■、サ■■■、■理■■■。 エ■■、■っ■■』

 多分に含まれる空電にも似たノイズのお陰で、何を言っているのか理解するのは困難だ。 しかしその魔力の質から、誰が言っているのかは容易に理解できる。
 ましてや、今この瞬間地上のウィッチーズ基地でそれを行えるのはただ一人のはずだ。 ならば考えるまでも無く相手の名前が脳裏に浮かぶ。
 ヴィルヘルミナ・バッツ。 カールスラント人で、部隊の新入りで、同階級で、年上で、でも小さくて、顔に火傷があって、サーニャよりも口下手で、無表情で。
 形容する言葉は色々と思いついたが、今のところサーニャにとって最も正しく思えるのは、あまり覚えの良いとは言えない生徒であるということか。
 十日ほど前から始まった、魔導針の習熟訓練。
 魔導針の生成には割とすんなり成功したものの、レーダーとして機能させるために必要な、電磁波や魔力波の精密発信、受信時のフィルタリングの習得に難航していた。

 発信する電磁/魔力波を、中々安定させることが出来ていないのだ。 放つ波の周波数を一定値に留める事ができず、波長が発信途中ですら容易に揺れてしまう。
 そのうえ、会話のように意味を込めようとすると途端に波の力が弱まってしまっていた。 その結果が先ほどの不鮮明な通信である。
 通信は単なるパルスではなく持続的に波を発するために、そちらの方に意識を取られて魔導針の制御が疎かになっているのではないか、とサーニャは推測していた。
 尤も、断続的に発信するパルスですら数回に一回の割合で”揺れ”や余分な周波数帯の電波まで発信してしまう始末。
 雑多な電波を撒き散らされるのはそれを扱うものにとっては非常に迷惑な事であり、その点では持続的に発信を行う際に波が弱くなるのは幸いといってよかったが。

 他者に迷惑をかけかねない発信の問題に比べて、受信帯域のフィルタリングはそれほど優先度が高い、という訳でもない。
 通信電波を魔力針で拾わなければならないということは無い。 基地や他者との通信は魔力で駆動する高性能なイヤホン型通信機のお陰で行える。
 フィルタリングに失敗しても精々が広い周波数帯の電波を拾いすぎて五月蝿く思う程度だ。
 それに、ブリタニアという戦線では単機~数機の規模でやってくる大型のネウロイの迎撃が主任務であり、大勢対大勢という物理的にも電波的にも”五月蠅い”大規模な戦場が発生することは極めて希である。
 
 サーニャにっとってはほとんど難なく習得できた技術であるが故に、感覚的な指導しか行うことが出来ず。 習熟には経験を重ねるしかないという結論が出ていて。
 とりあえずは、単純な、だだ漏れの魔法力の波ではなく。 少しでも意味の篭った返事が届いたことに満足して、改めて周囲に注意を向ける。
 もう何百時間も繰り返してきた夜間飛行。 感覚が告げるのは、異常は無く、何時もどおりの静かな夜だという事実。

 フリーガーハマー――小柄なサーニャが持つには滑稽なほど大きな九連装ロケットランチャーの質量に振り回されないよう、己の重心に近づけるようにその鉄の塊を抱いて、再びゆっくりとロール。
 ストライカーユニットの整流翼が夜風を切り裂き、唐突に、一瞬だけ小さく笛のような音を奏でたのに少しだけ驚いて。 夜の静けさを不必要に破らないようにロールの速度を緩める。
 一人ぼっちで、涼しくて、足元で唸りを上げる魔道エンジン以外の音は聞こえない。 たまにエイラが居るときとは違う、何時もの夜間哨戒。
 身体の正面が月に向いたところで、回転を停止する。 目の前には、銀砂を散りばめたかのような星空と、銀色に光り輝く月。 その輝きに少しでも近づければと思い、サーニャはそのまま高度を上げた。
 高空での運用に適したMig60の魔道エンジンが、己の好む大気密度に喜びの声を上げはじめた所で、上昇を停止。
 背面飛行を続けながら、雲の上ゆえに遮るもののない満天の星空を視界一杯に収めてサーニャは思う。
 かつて、訓練校の先輩魔女に告げた言葉。 夜の空が、好きだという言葉。 あの先輩は、夜の空なんて真っ暗で怖いと言ったけれど。 それを好きだなんて、幽霊みたいだと言ったけれど。
 ああ、夜の空は、こんなにも静かで、明るくて、こんなにも美しい。

 月光に照らされ、青白く広がる雲海を背に、サーニャは飛び続ける。
 彼方まで広がる雲海はまるで雪原のようで、それは故郷の冬を彼女に思い出させて。 
 ふと目を閉じて、己の魔法で魔導針の感度を限界まで上げる。 急激に鼓膜が敏感になっていくような感覚。
 魔導針の広大な探査範囲が捉える他のナイトウィッチの反応や、あるいは大陸上空を蠢くネウロイの塊を通り越して、もっと遠くの音が聞こえないかと、意識を澄ましていく。
 そして沈黙。 しばらく、何かを待つように耳を済ませていたサーニャの口から、小さな呼気が漏れて。
 
「――――――――」

 その口から柔らかな歌声が零れだした。 透き通るようなソプラノが奏でる穏やかなメロディ。 それは彼女が一番大切に思う歌――父親が自分の為に作ってくれた歌だ。
 祈りをこめながら、サーニャは謳う。 魔力の波でもなく、電波でもなく、ただ、自身の声帯を通して出た音が、この広い空を通って愛しい人たちに届くように。
 ウラル山脈の向こうに居るはずの彼女の両親が、この静かな夜に安らぎを得ていますように、と。
 

******

「不機嫌さが顔に出てるわよ、坂本少佐」

 かすかな機内灯が飾り気の無い灰色の壁を照らす、輸送機の客室。 向かい側に座る美緒の眉間の皺が先ほどよりも深まっているのに気づいてミーナは言った。
 輸送機のエンジン音にかき消されて聞こえないかとも思ったが、中空を眺めていた彼女の視線が自分に向いたことを知って。 美緒は案外耳が良いのね、とぼんやり思う。
 目の前の、何時もの白い詰襟の士官服を纏った少女の表情は、時が経つにつれて不機嫌さを隠すことが出来なくなってきていた。 どんな時も豪胆に笑っている美緒にしては、珍しい表情。 
 理由は考えずとも容易に思い当たる。 ミーナも正直なところ、盛大に溜息をつくか、あるいは愚痴の一つでも零したいところだったが。
 美緒の隣で窓の外を眺めながら、ちらちらと困ったような表情で不機嫌な教官を見ている芳佳の姿を見ると、そうもいかないのであった。
 親友にして戦闘隊長である美緒相手なら別としても、司令として部下に見せて良い顔と悪い顔がある。

「態々呼び出されて何かと思えば……予算の削減だなんて聞かされたんだ。 顔にも出るさ」
「彼らも焦っているのよ。 何時も私達ばかりに戦果を上げられてはね」

 美緒の苦々しげな表情と声をやんわりと受け止めて、目線を手元の本へと戻す。
 別に、美緒の話を軽く聞いているわけではない。 だが、真面目に面と向かって話して良いような話題でもなければ、場所でもなかった。
 美緒もその辺はわかっている筈である。 実際、判ってはいるのだが。

「連中が見ているのは、自分の足元だけだ」

 彼女は、そう吐き捨てるように言わずにはいられなかった。 自分の本心に真直ぐなのは美緒の美徳であり、不器用なところである。
 その不器用な部分を好ましく思い、不安にも思うミーナは、だからこそ関心の無さそうな口調で年上の彼女を宥めた。

「戦争屋なんてあんなものよ。 もしネウロイが現れていなかったら、今頃あの人達、人間同士で戦いあっているのかもね」
「……さながら世界大戦、といったところか」

 人類同士が戦いあう。 美緒としては馬鹿げた話だ、と一笑に付したいところだったが。 あの高級将校達の様子を見ると、あながちありえない話では無さそうだ。
 その事に気づいた彼女は軽く苦笑を浮かべる。 何時か、地球上からネウロイが居なくなったその後――時の為政者が、そこまで愚かではなかろうと望むばかりだった。
 美緒には、自身は軍人であるという意識がある。 様々な特例を許されている魔女とはいえ、仮に戦えといわれれば取れる選択肢は少なく、本意にそえない結果になる可能性は高い。
 だが、隣で夜空を眺めている少女――恩人である宮藤博士の忘れ形見に、人類同士の戦争などという不毛な経験をさせたくは無かった。

 と、そこまで考えて。 美緒は、先ほどから窓の外を眺めながらも様子を伺うように時折目線を彼女に移していた芳佳に漸く気づく。 仄暗い中、何時ものセーラー服の白さが浮いていた。
 その姿を見て、不愉快さにいささか近視眼的になっていたことを悟り。 内心で親友の心遣いに感謝しつつ、ふむ、と一つ息を吐く。
 直前まで考えていた暗い思考を棄却。 多少なりとも心配をさせた分もこめて、美緒は語りかける。

「すまんな、宮藤」
「ふぇっ?」
「何だその気の抜けた返事は。 ……いや、折角だからブリタニアの町を案内してやろうかと思ったんだが、予想外に長引いてしまったからな」
「い、いえっ、平気です! それよりも、私は……」

 そこで、芳佳は言葉を切って。 逡巡を告げるその視線を受けた美緒はうなずきを返した。
 余りほめられた事ではないが、今この場では今更な感じが否めない。 不安を招いた張本人として、責任は取るつもりだった。

「……その、軍にもいろんな人が居るんだなぁ、って」
「まぁ、な。 だが、勘違いするなよ宮藤」
「?」
「彼らと私達では、見えているものや背負っているもの、それに対してとり得る選択肢が違う。 それだけのことだ。
 皆思っていることは一緒――ネウロイを倒して、平和を取り戻す。 だから、安心しろ宮藤」

 そう言葉を締め、小さく笑顔を浮かべた美緒を見て、安心したように元気に返事を返す芳佳を眺めながら。
 本当に、そうあって欲しい――そうで無ければ多くの兵士達が救われない。 扶桑海事変から戦い続けてきた美緒は、その悪戯に不安を招くであろう思考を飲み込んだ。
 そんな美緒の内心も知らず、再び視線を窓の外、暗く広がる雲海と星空へと向けた芳佳は何かに気づいたように首をかしげた。
 耳を澄ますかのように、目を閉じて。 確信を持ったのか、すぐに目を開けて、美緒とミーナのほうに振り向く。

「あの……なにか聞こえませんか?」
「ん? ああ、これは……」
「これは、サーニャさんの歌ね」

 芳佳の問いに答えようとして、確認のために意識を集中しようとした美緒を遮って、ミーナが言った。
 会話をやめて見れば、容易に聞こえる。 機内スピーカーから流れる、穏やかで、優しげな歌声。
 歌詞も無く、伴奏も無いその独唱を奏でる声は、機器を通して変質していても確かにサーニャのものだった。
 おそらく、操縦士が気を利かせて回線をつないだのだろう。 中々”分かる”操縦士だな、と美緒は乗り込むときにちらりと見えた中年の男を思い出して。

「ああ、基地に大分近づいたな……」
「私達を迎えに来てくれたのよ」

 その言葉と共に、ミーナが芳佳の背後に視線を向ける。 それにつられて彼女が再び窓の外を見てみれば、その姿が見えた。
 ストライカーユニットを穿いた、航空歩兵のシルエット。
 足元には、夜間灯の小さな光。 頭部には緑に輝く魔導針。 その仄かな光が照らすのはサーニャの銀色の髪。
 月を背にしていて表情までは見えなかったが、その姿格好は芳佳が何度か見たことのあるものだった。
 強すぎる日光の下では見ることの出来ない飛行呪符が拡販したエーテルの残滓。 それが放つ青白いきらめきの尾を引くその姿は、ひどく幻想的で。
 輸送機と並んで飛ぶサーニャに、届くわけ無いと判っていても、芳佳は迎えに来てくれてありがとう、と言葉と共に手を振った。
 が、機内の芳佳と、機外のサーニャの視線が重なった次の瞬間。 サーニャはふわりとロールして、雲海に飛び込んでいく。 
 あれれ、と芳佳は機内の二人に振り向いて。

「……なんか、サーニャちゃんて照れ屋さんですよね」
「ふふ、とっても良い子よ。 歌もとっても上手でしょ?」

 そのミーナの答えに、芳佳は頷きで同意した。


******

 芳佳に手を振られて、少し恥ずかしくなってしまって。 咄嗟に雲の中に隠れたサーニャは、自分の頬が少し火照っているのを自覚する。
 歌うのを辞めようかな、とは思わない。 恥ずかしいからといって歌うのは嫌いではないし、何より芳佳が見せていた表情は快だ。
 自分の歌で楽しんでくれる人が居るのは、彼女にとってとても喜ばしいことである。

 ふわふわした外見とは裏腹に、雲海の中は雨が降っているかと思わせるほどに濡れている。
 濡れ始めた肌と服の感触で、本来の用向きを思い出す。 出迎え、つまりはミーナたちの乗っている輸送機の護衛だ。
 雲の中に入ったことで利かなくなった視界の代わりに、サーニャは魔道針の出力を高めることにして。
 直後、その眉がひそめられた。 口ずさんでいた歌が途切れる。 
 
『……どうしたサーニャ』

 イヤホンから、鼓膜に直接響くような美緒の疑問の声。 これほど距離が近ければ、イヤホン単体でも十分に声は届く。
 その声に応える様に、まずは雲の上に出る。 相変わらず雲の上は月光で明るく、何事も無いように静かに見えた、が。
 魔導針は、サーニャの魔法は異常を告げる。 その警告に従って、サーニャは呟く様に美緒に告げた。

「誰か……こっちを見てます」
『報告は明瞭に、あと大きな声でな』
「すみません。 シリウスの方角に、所属不明の飛行体、接近しています」

 報告と同時に、誰何の電波は飛ばしている。 反応の大きさから言って魔女でないことは明白故に、魔力波は送っていない。
 返事は返ってこず、相手が電波を――人類側が使っている電波を放っているような様子も感じられない。
 次いで、上昇、下降、左右移動。 輸送機から離れず、しかし位置を変えての観測。
 それから判るのは、それがミーナたちが乗っている輸送機よりも大きく、そしてその大きさにしてはありえないほど、速いということ。
 その情報は、次のミーナの推測を肯定するのに十分な要素だ。

『ネウロイかしら』
「はい、間違いないと思います。 ……通常の航空機の速度でも、サイズでもありません」
『ふ、む……私には見えないな』
「雲の中です。 目標を肉眼で確認するのは無理です」
『そういうことか』

 魔眼で確認しようとした美緒に、そう伝える。 超長距離を見通し、ネウロイの核を発見できる美緒の魔眼とはいえ、流石に雲の中までは見通せなかった。
 見えないものでも見ることができるのは、ミーナと、サーニャの領分で。 射程距離が限定されているミーナの魔法では、捕らえきれない距離である。
 見ることが出来ないが、確かにそこに居る相手。 
 ネウロイの感覚機器がどういった物なのかは判明していない。 追尾してきている以上、雲の中に居るとはいえこちらの事が見えているのは間違いなかった。

『……どうしようもないな』
『……くやしいけど、ストライカーが無いから仕方がないわ……ッ、まさかそれを狙って?』
『それこそまさか、だ。 ネウロイはそんな回りくどいことはしないさ』

 イヤホンが、美緒とミーナの声を拾う。 サーニャに向けた言葉ではない。
 大方、芳佳がパニックに陥りかけてるのであろうと予測をつける。 輸送機の装甲は、ネウロイのビームに対して紙一枚程度の防御力も持たないのだ。
 幾度か実戦をくぐったとはいえ、まだまだ新米の芳佳。
 サーニャとて、敵と相対することが怖くないわけではない――それでも、ストライカーという戦える装備を持っているのと持っていないのでは大違いだと理解できる。
 
「目標は、依然として高速で接近しています。 接触まで……約、三分」

 機内の芳佳の不安を助長するであろう事は想像に難くないが、それでもサーニャは必要な事を告げた。
 このままでは、ネウロイである可能性が極めて高い飛行物体が戦闘距離に入ってしまう。 その上、ネウロイの持つ熱線兵器の射程は長く、威力は絶大だ。
 不用意に近づけるのは最悪の選択で、だからミーナの言葉は当然の命令だった。

『サーニャさん――、今、基地のほうに援護を求める通信を送ってもらったわ。
 皆が来るまで、時間を稼げればいい。 直接戦闘は出来る限り避けて、無理はしないでね』
「了解しました」

 サーニャは目を閉じる。 暗い視界の中、呼吸を一つ。 ヨーロッパの空から、何度も繰り返してきた戦闘という行為。
 恐怖はある。 だけど、機内で不安を感じているであろう、ほとんど話したことも無い、それでも何時も笑顔だった芳佳の姿を思い浮かべて。

 目を開いた。 親指をスナップ。 軽い金属音と共に、フリーガーハマー、空飛ぶ鉄槌の名を持つ兵器のセーフティが解除される。
 彼女の心に応じるようにMig60の魔道エンジンに魔力が叩き込まれ、回転数が一気に跳ね上がった。
 魔道エンジンの唸り声と肌を撫でていく風が、巡航速度から戦闘速度へと移行を始めたことをサーニャに伝える。

「敵を、引き離します」

 口にした言葉を、実現させるその為に。
 高度を取る。 月と星に近づく。
 急速旋回が生んだ雲と、エーテルの残滓を煌かせてサーニャはいまだ目に見えず、しかし依然として接近しつつある黒い脅威へと飛翔した。


******

 黒いストライカーユニット。 白いシャツを覆うような黒いワンピースに、黒猫の耳と尻尾。
 黒一色のサーニャを彩るのは、飛行呪符の青と、魔道針の緑色。
 回転数を上げた魔道エンジンの排気口から、排気炎がちろちろと明るいオレンジ色を漆黒の空に散らしている。

 エンジンの駆動音と、風を切る音以外はきこえない。 恐ろしいほど静かで、だからこそ身を切るような緊張感。
 先ほどまで明るいと感じていた月光が、不意に暗くなったようにすら思える感覚にサーニャは不快感を覚える。
 頼りになるのは己の最も得意とする魔法――レーダー魔導針。
 向きを変え、フリーガーハマーの銃杷を強く握る。 手のひらに馴染んだ――あるいは、手のひらが馴染んでしまったその感触を起点に、意識を集中。

 魔導針による探査。
 魔力の波を放ち、返ってくるまでの時間差により対象物との距離を測るだけの、レーダーとしての術式。
 光と等速で伝播するその情報の処理は、最早意識して行っていたのでは追いつかない。
 自身の生まれ持った感覚によってしか理解し得ないそれは、彼女にとって耳を澄ませる行為と酷似していた。

 魔力で編み出した感覚器に聞こえてくるのは、くぐもった、しかし幾度も聞いたことがある”音”。 先ほどは判らなかった事実が、より接近した今ならば明確に判る。
 それはネウロイが放つ”音”だ。 人間が作り出したいかなる物とも違う、不気味にも聞こえる”音”。
 くぐもって聞こえる理由は、距離か、雲による減衰か、あるいは何か別の理由か――いずれにせよ、考えている余裕は無い。
 判るのは大まかな方向のみ。 状況は依然として変わっていない。
 サーニャは自分から不用意に動くのは危険と判断。 ミーナの言っていた言葉を思い出す。 無理はしないで。
 その前に言っていた、戦闘は出来る限り避けろ、というのは無理だと判断する。

 直進するネウロイの気配の行く手を遮るように、輸送機との間にサーニャは静止。
 目を閉じる。 視界は不要。 美緒の魔眼ならば別だろうが、元より夜戦において夜間視の魔法を持たないサーニャにとって視覚など会敵するまでほとんど役に立たない。
 近づいてくる”音”。 距離が狭まるにつれて、不鮮明さは薄れていく。 不鮮明でも無視できる程度になっていく。
 ただ、その瞬間を待って――

「――ッ!」

 本能が警鐘を鳴らすのと、意識の裡で”音”が実像を結ぶのは同時。
 大質量のフリーガーハマーを振り回していたのでは機を逃す。
 だから、サーニャは発射体制へと自身の身体を振り回す。
 強引な動き。 しかし、彼女のしなやかな体はその軋みを容易に受け止めた。

 目を開き、躊躇い無く引き金を引く。
 爆音と噴射炎が等しく夜空を染め上げる。
 発射によって乱れた気流が、襟首の辺りまで伸びたサーニャの銀髪を揺らした。
 雲の中、見えない相手が立てる”音”、その響きを頼りに放たれた20mmロケット弾は大気をかき乱しながら直進。
 穏やかにすら見える雲海へと突き進む。
 
 ひとたび捉えれば、サーニャはそれを逃しはしない。
 此方の攻撃を察知して回避機動をとりはじめた”音”、その進行方向にあわせて引き金を連続して引く。
 ロケット弾の初速は遅く、相手が見えない状況では初弾での命中は期待できない。
 たった九発の装弾数。 しかし当たれば必殺といっていいほどの威力。
 牽制と本命織り交ぜて連射。

 雲海へと突き刺さるロケット弾は魔力によって設定された時限信管に従い、己の破壊力を撒き散らす。
 たっぷりと魔法力の込められた炸薬はその量に応じた爆発などではなく、夜闇を明るく照らす巨大な火球を生み出した。
 雲の平原に穴を開けるほどの威力。
 しかし、それでも。 依然としてサーニャにはネウロイの”音”が聞こえている。
 だから、疑問が浮かぶ。 その感情はそのまま言葉となった。

「反撃、してこない……」

 サーニャは思考する。
 弾速の遅いロケット弾は、ネウロイのビームに迎撃されがちである。 
 居場所の暴露を恐れている――それはない。
 攻撃を受けるということは位置を補足されているということで、それは自身の進行方向に予測されて放たれるロケット弾から解ることだろう。
 ただ、サーニャの攻撃を避けている。 逃げるわけでもなく、雲から出てくるわけでもなく、攻撃してくるわけでもない。
 ネウロイの意図がわからない。
 だからといって、サーニャが今できることは、ミーナたちを守るために引き金を引くことだけだ。

 光爆が断続的に雲海を吹き散らす。
 位置はわかっても、回避に徹されては当てることが出来ない――そのもどかしさに、焦燥がつのる。
 一人きりでは、強行突破を掛けられたらネウロイをとめることは難しい。
 せめて、ダメージを与えなければならない。 諦めて、逃げざるを得ない程に。
 祈りを込めて引き金を引いても、残弾少ないロケット弾を悪戯に消耗していくだけだ。
 あるいは、ネウロイの狙いはそれか。 弾切れが起きてから、悠々と此方を仕留めにかかるつもりか。
 その予測が、余計にサーニャを焦らせる。
 最初から感じていた、じっと見つめられるような感覚が、その焦りを加速させる。
 来ないで欲しい、当たって欲しい、皆早く逃げて、皆早く来て――
 
『――サーニャ、もういい。 戻ってくれ』

 唐突にイヤホンが放つ美緒の声。
 その声に、サーニャは我に返る。 気づけば歯を食いしばって、息を止めていた。
 口を開けば、酸素を求めて息が荒くなる。
 荒い息のまま、焦燥の篭った言葉を放った。

「でも、まだ……!」
『ありがとう、十分に距離は稼げたし、皆も来てくれたみたい。 一人でよく頑張ってくれたわね』

 ミーナの言葉。 皆が来てくれた。 その事実に、安堵が全身を包む。
 ネウロイは依然として、距離を見計らうかのように回避機動をとっていて。
 最後に一発、牽制として最後のロケット弾を放ってからサーニャは反転。
 そのまま、基地の方向へと向かってフルスロットル。

 背後に向けた意識。 遠ざかっていくネウロイの”音”。
 追撃は無い。 しかし、依然としてそのネウロイに見られているような感覚。
 その不快感に、サーニャの尻尾が神経質に揺れる。
 戦闘が終わってなお張り詰めている意識。
 それは、一人だけ援軍から先行していたエイラの声を聞くまで、サーニャの心を乱し続けていた。




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ちょっと何時もより三割り増しで三人称頑張ってみた
レーダー魔導針に関してはかなり独自解釈。 でもあの時代のレーダーってこんなもんだろ。
ん? あれ、主人公出てないな……主人公いらねえんじゃね?

まぁストパン世界の歴史的には人類同士でも結構戦ってるんですがね。 ブリタニアと扶桑とかインド洋辺りでぶつかって頂上決戦したことあるみたいだし。
ウィッチは「もーやだ!」って本気で思ったり精神衰弱すると魔法力無くなるみたいだから多くのウィッチは人間vs人間の現代戦には使えないでしょう、多分。
というか消極的に行動するだけで魔法力下がるくらいだし。 そういう意味ではちょっと安心。
年端もいかない女の子達が戦えてるのは、相手が人間じゃない、そしてネウロイは人間と相容れないという理由に尽きると思う。



[6859] 27
Name: kd◆18be6bde ID:bf8eee8a
Date: 2012/04/29 13:27
27:『雨と雲』

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 ざあ。
 テレビの砂嵐にも似た、しかしはるかに柔らかい音。 そんなBGMが、常夜灯が微かに照らす廊下を包んでいる。

 夏だというのに、ほの寒い空気。 立ち止まって、窓の外の暗闇を眺める。
 星明りどころか、月明かりすら無い空。 暫く前から降り始めた雨は、勢いを弱めることなく依然として基地に降り注いでいた。
 そんな空間を、一人カートを押しながら歩くというのは酷く現実味の薄い行為の様な気がして。
 今この瞬間、世界には自分ひとりしか存在していないのではないか、なんていう感覚が沸きあがってきていた。

 ……まぁ、そもそも自分の置かれている現状が異常に非現実的だ、というのは何度も繰り返してきた自問自答だったのだが。

 使い込まれた鋼色の簡素なダイニングカートの上には、湯気を立てる白いポットと幾つかのマグカップ。 ポットの中身は蜂蜜を溶いたホットミルクだ。
 ミーナさん達を護衛していたサーニャがネウロイに遭遇した、ということで起きていた娘さんたちは皆出撃して。
 まぁ即応できないオレが地上に残ったというわけだ。 皆ユニット穿いてから10秒20秒で出撃できる中、一分二分かかるオレの遅さよ。 マジ遅いです。
 遅いからといって、そして何も起こらないことを知っているからといって。 何もしなくて良いわけじゃない。
 サーニャとの交信で雨が降る、というのはわかっていたし、そもそも皆が緊急出撃していった時点でぱらついていたのだ。
 ならば、何かしら娘さんたちを迎える準備は必要だろう。 濡れて帰ってくるだろうし。
 冷えた身体には暖かい飲み物が一番。 個人的には葛湯とかいいと思うんだけどカールスラント的じゃないからな。

 そんな訳で、気を取り直して。
 カートの車輪が立てる微かな軋音で雨音を乱しながら、レクリエーションルームへと突き進むオレであった。
 風流さとはかけ離れてるね。

 習慣は、暗い廊下でも自分が何処へ向かっているかを教えてくれる。
 やがて、予定通りに辿り着くレクリエーションルームの扉。 輪郭をなぞるように、暖色の光が縁取っている。
 カートの前に回り、背中で押すようにして扉を開いた。 手伝いがほしい、と少し思うが。 まぁ一人だけ苦労してないし?
 よっこらせっと。 ……そういやよっこらしょとか言い始めたらおっさんの始まりだとか聞いたような気が――

「――ふふん、幽霊みたいな似たもの同士、仲良くなれるのではなくて?」

 小さく扉が軋む音と、廊下のそれよりも暖かい空気が頬を撫でて。 そんな揶揄が耳に飛び込んできた。
 発言者はペリーヌ。 対象者はまぁ、サーニャだろう。
 ピアノに備え付けの椅子に座りうつむいているサーニャと、それを呆れたような目で眺めているペリーヌ。
 ついでに、そのサーニャの背後から睨み付けているエイラを見れば一目瞭然である。
 一目瞭然ついでに、何人かの娘さんがたが下着姿なのが目に入る、が――予想していたので別にドキドキすることも無い……うん。 ない。 ないっ!
 とりあえずペリーヌかエーリカ見ておけばいい。 つるーんぺたーんは守備範囲外なので。
 
「あら、ヴィルヘルミナさん、それは?」
「ホット……ミルク」
「ああ、ありがとう、ヴィルヘルミナさん」

 二脚あるソファにそれぞれ座っているカールスラント組プラス美緒さん、芳佳とペリーヌとリネット。
 少し離れた椅子で寝こけているルッキーニと、それをあやしているジャージ姿のシャーリー。 そして、パジャマ姿のエイラとサーニャ。
 ウィッチーズ隊勢ぞろいなレクリエーションルーム。 ミーナさんのお礼を受けながら、カートを部屋の中央へと勧める。
 そのやり取りによって皆の注意がこちらに向いてくるのを感じた。
 とっさに立ち上がって給仕の手伝いをしようとするリネットを――あの乳でワイシャツ一丁+ニーソとか人が殺せそうな格好だった――手で制してから、マグカップにホットミルクを注いでいく。
 立ち上る湯気と、ふわりと漂う独特な甘い匂い。

「あら、この匂い……ジンジャー? 気が利きますわね」
「……そう」
「ヴィルヘルミナ、ペリーヌの分は別にいらないぞ」
「む、そんな事ありません。 何を言うんですかエイラさん!」
 
 いや、まぁ気持ちは判らんでもないが、そんなあからさまにペリーヌに敵意を向けるなよエイラ。 そんな、ベーッ、とかせんでも。
 まぁ、少しキツい気はするがね。 ペリーヌだってそれなりにサーニャの事考えてんだろ……考えてんだよな? 多分。
 内心、溜息をつきながら。 とりあえず五月蝿そうな人の口をふさぐ為に、湯気を立てるマグカップを皆に配っていった。
 手渡すときに触れた何人かの指が冷たかったのを感じて。 この選択は正解だったかな、なんて取り留めの無い思考が浮かんだ。
 しばし、娘さんたちがミルクを飲む音が部屋に満ちる。 満ちる、というほど音を立てて飲む人は居ないが。

「しかし……なんだったのだろうな」
「恥ずかしがり屋の……ネウロイ……とか」

 ないですよね、やっぱり。 と、尻すぼみな回答をしたのはリネットで。 もともとの質問は美緒さんのものだ。
 マグカップを両手で抱え俯いてしまったリネットを励ますように、何かを囁いている芳佳をぼっと眺めて。 自分のマグカップを傾ける。
 あー五臓六腑に染みるわぁ。 でも、ちと生姜が強すぎたな……身体暖まるからと入れすぎたか。
 大体の展開は知っているし、とくに介入するつもりも無いので、若干離れた場所で壁に持たれかかりながらそのままホットミルクを楽しんでいると。
 エーリカとトゥルーデの下着姿二人組が美緒さんの疑問に続く。

「というかさー、本当にネウロイだったのかー?」
「確かに、姿も見せず、此方に気づいていてなおろくに攻撃も反撃もせずに撤退するネウロイなど……聞いた事が無いぞ」
「なんだよ、サーニャの事疑うのかよー!」
「そういう訳じゃないけどさぁ」
「俄かには信じがたいさ。 ネウロイと出会えば戦いになる、というのが常だからな」
「カールスラントでもそうだったし、スオムスでだってそうだったでしょ?」
「そりゃ、そうだけどさ……」

 二人の言――ともすればサーニャの能力への疑問とも聞こえるそれに、エイラが反応し反論するが。
 皆――特に、多くのネウロイと戦ってきたヨーロッパ組にとっては、どうにも今までの経験とかみ合わない相手の行動に違和感を覚えているようだった。
 オレからすれば、相手は未知の存在だから何をやってもおかしくは無いだろう、という感覚が大きいんだけれども。
 あそこまで非人間的な存在である。 人間の哲学が通用しなくたって、何の不思議も無いのだ。
 勿論、大まかな展開を覚えているから、というのもある。 というかそっちの方が影響力は大きいだろう。
 大筋は兎も角、小さい部分が――十中八九オレの所為で――変わってきているから、あまり信頼しすぎるのも良くはないのだろうけど。
 
「あれは」

 か細い声。 彼女にとって、あまり気持ちよいともいえない空気の中。 今まで黙っていたサーニャが、口を開いた。
 ペリーヌが、あるいは彼女と似たような違和感を抱いてあるであろう娘さんたちが、疑問を多分に含んだ眼差しで、サーニャを見つめる。

「……あれは、確かにネウロイでした」
「だから、それが勘違いだったのではないか、と聞いているんですわ」
「――いや、サーニャがそうだというのなら、そうなんだろう」
「坂本少佐?」
「夜の空の警戒をサーニャにずっと任せてきたんだ。 そのサーニャが言っているんだ。 なら、あれはネウロイだろう」
「ぅん……坂本少佐がそう仰るなら……」

 神妙な顔でサーニャの意見を肯定する美緒さんに、詰問にも似たペリーヌの気勢が殺がれる。
 ペリーヌ弱っ! 意思弱っ! っていうか美緒さんの意見に左右されすぎだろうこの信者め。
 両手でマグカップ握って引き下がってんじゃねえよ。 可愛さアピールしやがって可愛いぞ畜生。
 まぁ、微妙に納得のいかない表情をしているので、違和感が解消されたわけではないのだろうけど。
 
「それにしても、目的は何なのだろうな……」

 という、トゥルーデの台詞に集約される。 いや、なんだっけ、確か歌を歌うネウロイだっけか?
 訳わからんよね……歌なんて覚えたければラジオとか傍受すれば幾らでも聞けるだろうに。
 再び、若干の沈黙に包まれる空間。 それを打ち破るように、ミーナさんが口を開いた。

「なんにせよ、ネウロイが何とは明確に解っていない以上、この先どんなネウロイが現れても不思議ではない」
「そうだな。 それに、一度仕損じたネウロイが連続して現れる可能性は経験から言っても極めて高い」
「そう。 だからね」

 トゥルーデの指摘に対し、一つ頷いてから。 突然、あるいは予想通り二人はオレのほうを向いた。
 えー。 これはやっぱりアレですか。 アレなのか。 魔導針使えるってあたりで大体予想付いてたけどやっぱりそうなんですか

「当面の間、夜間戦闘を想定したシフトを組もうと思います。 サーニャさんと――ヴィルヘルミナさん」
「はい」
「……ん、……はい」

 続く言葉は、ある程度覚悟していたので驚きは無い。 が、それでも若干の緊張と不安は勝手に湧き上がってくる。
 若干不思議そうな表情を見せた連中――主にペリーヌとシャーリーには、トゥルーデが小声で魔導針がどうの、と伝えていた。
 あと、そこのエイラ。 なんでそんなにオレを気に入ってるのか解らんがいちいち嬉しそうな顔をするな。
 お前が夜間哨戒班に立候補するつもりなのは良く解ってるから。

「これから暫く、貴女達を夜間専従班として任命します」
「――ああ、ミーナ。 宮藤もだ」
「ふぇっ!? わ、私もですか」

 そして、唐突に美緒さんに指名された芳佳が情けない声を上げて。 驚いたように声の主を見つめた。
 そんな芳佳の抗議の視線を無視しながら、ある意味予定調和の言葉を放つ。
 あと、そこのエイラ。 露骨に難しい顔をするな。 オレの立ち位置からだと普通に観察できるんだぞ。

「お前は今回の戦闘の経験者だからな」
「えぇっ!? でも、私ただ見てただけで――」
「それに、お前夜間戦闘訓練はまだだったろう。 いい機会だとおもうぞ」

 実戦に勝る訓練は無いからな、はっはっは、と笑うわれらが戦闘隊長殿。
 いや、その考え方は正しいように見えて大分危ういと思うんですけれど美緒さん……
 そんなオレの考えを他所に、ミーナさんはふむ、と一息考えて。 結論は一瞬で出たようだった。

「……そうね、それじゃあこの三人で」
「あ、あの、でもむがぐっ」
「はいはいはいはい! 私もやる!」

 抗議を続けようとした芳佳の頭を押さえつけるように、背後からエイラが乗り出して挙手と立候補。
 つぶされた芳佳は若干可哀想だったが、まぁ、諦めてくれ。 隣のリネットが慰めてくれてるから。

「四人……昼間の層が薄くならないかしら」
「三人でも編隊は一応組めるからな」
「四人! 四人ならシュバルムも組めるし、ペアで二交替だってできる! それに、本格的な夜間哨戒をやったことがあるのがサーニャだけじゃ負担が大きいだろ?」

 珍しく、鼻息を荒くして主張をするスオムス娘に、指揮官組はふと、顔を見合わせ。

「……ふむ、それもそうだな。 では昼間が八人――丁度二個小隊か。 編成はどうにでもなるんじゃないか、ミーナ」
「そうね……じゃあ、エイラさんも含めて四人で」

 ソファーに手をつきなおしたエイラの真剣な顔が若干の笑みに変わる中、解散が宣言される。
 トゥルーデとシャーリーが保護者よろしく、寝こけているそれぞれの担当を担いで退室して行ったり、各々の行動を取る中。
 オレは皆のカップを回収しながら――どうやら飲み残しは無い様で、安心した――とりあえず居残る様子の芳佳達の方へと歩み寄る、と。

「すみません……私がネウロイを取り逃がしたから」

 そんな謝罪と、それに合わせて申し訳なさそうな表情のサーニャに迎えられた。
 いや、別にあやるような事は無いと思うぜ? というか一人でネウロイと相対するとか結構厳しいと思うんですけどね、オレとしては。
 事前にそうじゃないかなぁ、と予想できてたから夜番に選ばれたのも驚くことではないし。 

「う、ううん、違うの、そういう意味で言ったんじゃないから」
「ん……、問題、無い」

 と、芳佳さんものたまっておいでですし。 とりあえず頷きながら同意しておく。
 それでも、若干晴れないサーニャの表情と空気。
 それを誤魔化すかのように、エイラが不満げな表情と溜息と共に、文句を吐いた。

「それにしても、なんだよツンツンメガネ。 幽霊みたいだなんて酷いよな」
「うん、私もちょっとそう思う」

 ペリーヌさんって時々意地悪だよね、と眉根を寄せて同意する芳佳さん。
 ああ、最初の台詞ですか。 確かに静かで影薄いかもしれないけど、ああいう言い方は無いとはオレも思うがねぇ。
 あの子はなんていうかその辺で人間関係苦労してそうである。 日本人だからそう思うのかも知らんけれども。

「ううん、気にしてない……私、昔からよく言われるから」

 もっとも、揶揄された当の本人はそんな事を仰っているのだが。
 よく言われるからって気にしないってのもどうかと思うぞオレは。

「それに、クロステルマン中尉はきっと、私にもっと積極的にならないと駄目、って言ってくれてるんだと思うの」
「えー? そうかな……」

 二人――特にエイラは同意しかねるのか、難しい顔をするが。 サーニャ本人はそう信じているようだった。
 えー……流石に良い子過ぎませんかこの子。 なにこの聖人君子。
 天然記念物指定して保護してあげなきゃいかん気がする。

 結局その後も、当たり障りの無い会話が続いて、その晩はお開きになったのだが。
 はてさて、夜間哨戒か。 どうなることやら。


******

 山盛り一杯の――リネットの実家から送られてきたという――ブルーベリー、といった健康的な朝食の後。
 夜間専従班に指名された四人が、戦闘隊長である坂本美緒から受けた最初の任務は、至極簡単なもの、すなわち――

「夜に備えて寝ろ!」

 ――であった。

 もっとも、就寝時間が若干遅れたとはいえ。 一名を除き、緩いながらも軍隊という環境下で健康的な昼型生活を続けてきた彼女達である。
 その一名も、昨晩は何時もより大分早い時間にベッドへと入ることが出来たのだ。
 すぐに眠れる訳が無かった。 結果として、夜間専従班詰め所として指定されたサーニャの部屋に篭ることとなる。

 閉め切られたカーテン。 隙間からは光が入ってこないように、呪符めいたシーリングが施されていた。
 面積は他の部屋と似たようなものの、チェストや机、数は少ないものの少女らしい小物などがシルエットとなって浮かび上がる薄暗い室内。 
 押しかけてしまい、その上部屋を閉め切ってしまった事を芳佳が気にしたものの。 当のサーニャは何時もと同じだから、と気にも留めては居なかった。

 カーテンとシーリングの隙間から微かに光が差し込む窓の脇。
 柔らかなカーブを描いたフレーム以外に飾り気の無い、パイプベッドの上に寝転がったエイラは、床に敷かれた毛足の長いカーペットの上、クッションを抱えて座り込んでいるヴィルヘルミナを胡乱気に見つめていた。

「――なあ、ヴィルヘルミナ」
「……ん」
「もっと脱げよ。 見てると暑いんだけど」
「……断、る」

 そう、何時ものぶつ切りの言葉と共に睨む様な視線を返し、すぐにまた虚空へと視線を戻した当人は。
 流石に何時ものブレザーは脱いでいたものの、依然として黒いタイツや長袖のカッターシャツを着ており、露出肌面積は最小限である。
 時節は八月も中ごろである。 海沿いであるために極端に暑いということも無いウィッチーズ基地周辺であったが。
 それでも、天気のいい真昼間に閉め切った部屋は、四人の体温の所為もあって、単純に言えば蒸し暑くなってきていた。
 ヴィルヘルミナを除く三人は、それぞれエイラがパーカーじみた寝巻き、芳佳が作務衣、サーニャが下着に黒いキャミソール一枚と言った格好である。

「……任務、中」
「妙なトコばっかカールスラント人だな、お前」

 不満げな小さな鼻息と共に、エイラがそんな悪態をついて。 暇そうに視線を泳がせた。
 そらしたその視線の先。 ベッド脇に座り込んでいる芳佳と、その傍らに居るサーニャは、ふたりで床に広げられた本を覗き込んでいる。
 脇に置かれたもう一冊の本。 扶桑語で記されたその題名は、それが数学の教本であることを主張していた。

「それにしても、お前も真面目だよな」
「私、此処に来る前は学校に行ってたから……先生に宿題出されちゃって」

 困ったように眉根を寄せつつも笑う芳佳を見て。 大変だな、と感想を漏らしてから、彼女が今取り組んでいる問題を眺めた。
 勉強してると眠くなってくるから、という芳佳が始めたそれ。
 ノートには幾つかの数字と、直線で構成された三角形。 傍らには定規やコンパス、分度器。 今やっているのは一片と二点から、三角形の最後の一点を求める問題。

「ま、数学や図形は航空歩兵の必須科目だかんな。 一人で飛んでて迷子になんないためにもちゃんとやっとけよ」
「うん。 えーっと、で、交点を求めるにはどうすればいいんだっけ」
「さっきもやったとおり、コンパスを使って二点から同じ半径の円を描いて……」

 隣に座り込むサーニャは教師役で。 つまりサーニャを芳佳に取られた形になっているのも、エイラが暇そうにしている原因の一つになっていたのだが。
 彼女達がやってること自体は至極まともかつ真面目な事であるし。
 邪魔したところで何か有意義な事を代わりに提案できる訳でもない。 よってエイラは一人ベッドでごろごろしている訳なのだった。
 それでも手持ち無沙汰な事には変わらず、シーツに顔を埋めながら声にならない唸り声を上げて――ふと思いついたように顔をあげる。

「なぁ、ヴィルヘルミナ、暇だったらタロットでもやろう」
「……タロット……?」
「ああ。 占いだよ。 私の魔法は未来予知だから――ま、ホンのちょっとの先だけどな」

 ベッドへと近づく、カーペットが擦れる静かな音を聞きながら。 ベッド脇においてあった彼女の小物入れから、角がすりきれつつある、長方形の紙箱を取り出す。
 大きさは掌よりも若干大きい程度。 魔法陣にも似た複雑な模様で飾られたその中から取り出したのは、箱とほぼ同サイズのカードの束だ。
 その束を手馴れた手つきで大小二つのデッキに分け、多いほうを箱に戻した。
 ベッドの上に置かれたカード。 片面には、紙箱と似た点対称の模様が描かれ、逆面には人物画が描かれているのが見える。 
 大アルカナと呼ばれる、一般にタロットカードとして広く認知されている物だ。 箱に戻したほうは小アルカナである。

「本格的にやってもいいんだけど、組み合わせたカードの解釈とか面倒くさいからな」

 そんな呟きを対面、ベッドの上に腰掛けたヴィルヘルミナに零しながら。 流れるようにデッキをシャッフルする。
 鉛筆の音に加え、紙と紙が擦れる微かな音が部屋に暫く満ちて。

「よっ……と。 じゃ、一枚引けよ。 引いたカードによって、どんな未来か来るか解るかも知んないぞ」

 そう、目を薄い笑みの形に歪めながら、切り終わったデッキをベッドの上に置いた。
 ん、と何時ものとおりの肯定の呼気を零したヴィルヘルミナは、そっと指先をデッキに伸ばす。
 体重移動がベッドのスプリングを微かに軋ませる。 ただの遊びと解っているためか、その流れに躊躇は無い。
 そうして、山の一番上から引かれたカード。 眼前へと持って行き、確かめた絵柄は――

「――白、紙」

 静かに呟いて、ヴィルヘルミナはシーツの上にそっとカードを置く。 そこには、言葉の通り、何も描かれていなかった。
 覗き込んだエイラの目に映るのは、まっさらで、真っ白な無地。

「え? あれ、ごめんごめん。 それ予備のカードだ」

 一瞬首を傾げたものの。 原因に思い当たった彼女は、そのカードを取り上げて、さらに一瞬思案。
 そのまま、カードを持った手を対面に座る少女へと差し出した。 

「やるよ。 要らないし……それに、未来が解んないとかちょっとカッコいいかも知んないぞ?」

 何でも出来るって事かも知んないしな、と続ける彼女の言葉を受け止めて。
 じっとその差し出された手とカードを見つめていたヴィルヘルミナは、頷きとともに白紙のカードを受け取った。 
 その所作を確認してから、エイラはデッキを再度きり始める。
 一番最初に引いたカードの絵柄の解釈で先を見るのである。 ならば、引きなおすにはもう一回シャッフルしなければならなかった。

 そうして、やり直しの結果引かれたカードは、雷に打たれ砕け折れる石造りのタワー――”塔”、それも逆位置。
 通常、アルカナは逆位置であれば、正位置のほぼ反対の意味を持つが、この絵柄だけは違う。
 それは、簡潔に言えばなにをどう解釈しようと、もうどうしようもないほど悪い運勢であることの示唆だ。
 絵柄を確認した二人の動作が硬直し、お互いに顔を見合わせる。

「……最、悪?」
「ええと……まぁ、あれだよ。 占いってのは、良い結果が出たら強気に行って良くて、悪い結果が出たら気をつけるもんなんだ。
 ヴィルヘルミナは変な悪運の持ち主だから気をつけてればそんな悪いこと起きないってば」

 毎回無茶してるけど、取り返しのつかないことには一度もなってないし?
 そんな精一杯のフォローを受け止めて、ヴィルヘルミナは目を閉じて小さな溜息一つ。
 と。 その溜息をかき消すかのように、隣から声がかかった。

「あれ、占い?」
「何だよ宮藤、もうギブアップか?」
「えへへ……ま、まぁ、今日の分はサーニャちゃんのお陰で終わったから」

 苦笑するその表情からは、それが本当かどうかは読み取れなかったが。
 まぁ、どうせ後で苦労するのは芳佳である、と結論付けて。

「サーニャにきちんと感謝しとけよ?」
「うん、ありがとうサーニャちゃん」
「いいえ、宮藤さんの飲み込みが早かったから……」
「ううん、そんな事無いよ。 とっても解りやすかった!」

 明るく笑いかける芳佳に見つめられ、サーニャは微かに頬を染めて俯いてしまい。
 そんなサーニャを見られるのがあまり面白くないエイラは、とりあえず注意を逸らせようと、ベッドを軽く叩いた。

「なぁ宮藤、お前もやるか?」
「いいの?」
「減るもんじゃないし、どうせ暇つぶしだからな」
 
 そう言いながら、再びデッキをシャッフル。 ヴィルヘルミナと入れ替わるようにベッドを軋ませた芳佳の前に、デッキを置いて。
 その彼女が引いたタロットの絵柄、正位置のそれは、馬に跨った女性二人とそれを照らす大きな太陽――つまり、”太陽”のアルカナだ。
 覗き込んだエイラは、それを見て一瞬思案。

「んー……宮藤、今なんか凄く会いたい人とか、手に入れたいものとかある?」
「えっ……うん、会いたい人なら、居るけど」

 その問いに、思わず芳佳の頭の中に浮かんだのは父の顔と、此処に来るきっかけとなった手紙の内容で。

「じゃ、よかったな。 もうすぐその人に会えるって」
「そうなの?!」

 続く言葉に喜んで、若干身を乗り出してしまったものの。 やはり無理だと理性が告げる。
 それはやはり、彼女の父親が、すでに他界しているためだ。
 いくら魔法という奇跡の力があるからといって、覆すことの出来ない事実というものが存在する。

「……でも、やっぱり無理だよ」
「なんでだよ?」
「だって、私の会いたい人って……」 

 疑問に答える、尻すぼみに消えて、続かない言葉。 そして、それを反映する、いつもより下がった眉尻。
 芳佳の出自を思い出したエイラが、大きな溜息をついて上体をベッドに投げ出す。

「そんな事言われてもなぁ……違う解釈にも取れるけどさ」

 そのまま、目を閉じてしまう。 その耳に、クッションを抱えなおしたヴィルヘルミナの欠伸の音が届いて。
 噛み殺したものの、やはり隠しきれるものでもなく。 それを眺めていたサーニャも、つられた様に小さく欠伸を漏らした。

 誰が最初に眠りに落ちたのか、誰が最後だったのかは誰にもわからない。
 ただ、カーテンの隙間から差し込む光が朝日ではなくなってきた頃。
 何時もの一人分、極稀の二人分ではなく、四人分の寝息が、サーニャの部屋に静かに響いていた。


******

 オレの眼前。 真っ暗な空間に、ぽつぽつと白い光がともり始める。
 誘導灯。 それが描き出すのは滑走路の輪郭だ。
 昼間は晴れていたらしいものの、夕方から増え始めた雲は消え去ることは無く、結局夜には昨日から続いての曇天。
 最後に点いたハンガー脇の照明によって見える滑走路の周囲に広がる海は見渡す限り真っ黒で。
 夜の海が凄く怖く見えるのは体験済みだったから驚きはしなかったが、やはり忌避感の様な物を覚えてしまう。

「……っ」

 四人分のストライカーユニット、それぞれ個性のあるエンジン音に混じって。 左から、息を呑む音。
 月明かり、星明りも何も無い暗闇を見て、明かりに満ちた格納庫から出てきた芳佳は立ち止まってしまったようだ。
 まぁ、初体験なら怖くても仕方ないかもしれない。 見れば、肩が小刻みに震えている。

「ふ、震えが止まんないよ……」
「なんで?」

 疑問の声と共に、右に立つエイラが芳佳の方を眺める。 何時もの夜間飛行組にとってはありふれた光景なのだろうが。
 芳佳の目線の先。 近くに大都市があるわけでなし、光源の殆どない空は、文字通り暗黒といって差し支えないだろう。

「夜の空がこんなに暗いなんて知らなかった」

 ……ああ、まあそうだろうねぇ。 夜の峠も最初は超怖かったからね。
 急カーブとかマジ怖かったからね。 昼間にリハーサル走行しててもお先真っ暗感が半端無かったからね。
 それと比べれば、夜の空を飛ぶというのはあまり恐怖を感じないというのが本音である。
 崖やガードレールはないし、対向車は来ないし、スピード違反しても捕まらないし。 峠より百倍は気分的に楽そうです!
 慣れれば楽しかったしね。 だが、それを知らない年頃の少女にはちょっと厳しいかもしれない。

「ああ、そっか、夜間飛行初めてだっけ」
「無理なら、やめる?」

 エイラと、その向こうから問いかけるサーニャの声は、何時も以上に心配気だ。
 流石にこれだけ怖がってるとオレも心配になってくる。
 だから、というわけではないが。 芳佳の前に手を差し出してやる。 
 
「……手」
「え?」

 オレ自身、どうしてそうしようと思ったのかは解らない。
 どうせ、サーニャとエイラ、二人に手をつながれて飛ぶのはわかっているのだから、何も、自分から動かなくてもいいはずなのに。
 ただ、なんとなくそうしても良い様な気になってしまっただけのことだから。
 
「手……繋ぐ」
「あ……うんっ!」

 差し出した手が、オレのそれよりも幾分温かい芳佳のそれに握られる。
 震えを誤魔化すように強く握ってくるその手を感じながら、まぁこれもいいかな、等と思っていると。
 回転数を上げたエンジン音と、エイラに催促されてしまった。

「む……ほら、ヴィルヘルミナも芳佳もそろそろ行くぞ」
「え、あ、もうちょっと?!」
「なんだよ……ヴィルヘルミナは良いか?」
「ん……魔導針、出す……から」

 慌て喚きながらも手を離さない芳佳を放置して、目を閉じる。
 意識を集中して、今まで何度も繰り返してきた通りに脳裏に描き出すのは、魔導針の幾何学模様。
 ここ二週間ほどしっかり練習したため、発動自体は慣れたものだ。
 心中に現れる、湖面のような、視覚聴覚にも似た感覚。 それが焦点を結ぶと同時に目を開けば、視野の隅には緑色の光が微かに浮かんでいた。
 相変わらず送信は上手く出来ないけれど、受信帯域の調整は随分と楽に出来るようになったから、過度の雑音に悩まされることもない。

 ふと、仮想の湖面、中央右側がすこしだけ揺らぐのを認識する。 それは、サーニャからの信号だ。
 チャンネルは何時も使っているそれと変わらないし、それを使うことを確認するのも何時ものことである。

「……あ、ヴィルヘルミナちゃんもそれ使えるんだ」
「ん」

 仮想の湖面に意識を取られたため、芳佳の言葉は軽く受け流す程度になってしまったが。 気にしてない様なので……まぁいいか。
 とりあえずサーニャに頷きを返して、了解の意を伝える。 
 そのやり取りを確認してか、エイラが再度エンジンの回転数を上げた。 離陸用の魔方陣が、滑走路に描き出される。

「よし、じゃー、行くぞ」
「あ、その、こ、心の準備が!」
「宮藤待ってたら夜が明けちゃうぞ……ほら、ヴィルヘルミナも宮藤なんて放っておけよ」
「ん」
「あ、えぇ、ああっ?!」

 エイラの言うとおり、心の準備が決まるのを待ってたら朝が来そうなのでとりあえず加速を開始する。
 芳佳を引っ張る形になっているが、どうせ加速自体は彼女の零式の方が上なのだ。
 繋いだ手を離さないで、芳佳を引きずるように滑走路を走れば、すぐにそれは併走へと変わり、やがて両足が大地から離れる何時もの感覚が訪れた。
 少しだけ先行するサーニャとエイラの翼端灯を見失わないように、黒い雲目掛けて、空を駆ける。
 夏も半ばとはいえ、肌を撫でる潮風はシャワーを浴びた後だと言うことを差し引いても涼しく感じられた。


//////

 手の平に芳佳の体温を感じながら、雲の中を昇っていく。
 肌に粘りつくような、濃密な湿度。 急速に湿っていく、肌と髪の毛。 まぁ、雲の中に居るのだから当たり前なのだが。
 視界はゼロだ。 どこが上で、どこが下なのか。 本当に昇っているのか、本当は落ちているのか。
 空を飛ぶという独特の浮遊感が加わり、自分の感覚が信じられなくなってくる。
 それでも、オレの頭には魔導針がある。
 曖昧とは言え、若干距離をとって周囲を飛ぶサーニャ達との彼我の位置関係が確認できる事実は、自分が正しい軌道を飛んでいるということを確信させてくれた。
 芳佳にはそれがない。 だから、少しでも安心させてやろうと、手を強く握り返してやると、必死に握り返してきた。 案外可愛いかもしれん。

 それにしても、芳佳さん、もうちょっと早く飛べませんか……怖いのは解るけど、貴女に速度あわせるの超しんどいのですが。
 さっきからフレームアウトしそうでドキドキなんですが。

『もうすこし我慢して……もう、雲の上に出るから』

 イヤホンから響く、サーニャの静かな声。 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、急に視界が開ける。
 雲を抜けたのだ、と理解するよりも早く。 眼前に広がる光景はオレの意識を圧倒した。

 ――視野いっぱい、見渡す限りの白い雲の海原。
 中天に輝くほぼ満月に近い月が、太陽のそれとは違う柔らかい光で世界を映し出す。
 響くのは、自身の呼吸と、魔道エンジンの唸りだけ。
 彼方まで広がる穏やかな雲海と、天球を埋め尽くす数の星星が、そこにはあった。

「わ……わぁ」

 オレの手を握る芳佳の力が抜けて、するりと解かれて。
 仄かに青く輝くきらめき――エーテルの残滓が上昇していく彼女の軌跡を空に描いた。

「すごいなぁ! 私一人じゃ絶対こんな所まで来れなかったよ!」

 あんなに怖がっていた様子など何処吹く風とばかりに、そのままくるくると宙返りやローリング等を始める。
 そのたびに、ストライカーユニットの整流翼、翼端につけられた緑と赤の夜間灯とエーテルの光がその残像を残した。
 
「まったく、あんなに怖がってたのにな。 現金な奴だ」
「……ん」

 いつの間にか、サーニャと共に寄せてきていたエイラが、獣耳の方にについた水滴を弾きながらそんな呟きを漏らす。
 同意はする――でも、この光景を見れば、あんな風になる理由も解らないではない。
 煌々と輝く月光にも関わらず、地上で見るよりもはるかに鮮明に見える星空と、今度は八の字飛行を始めた芳佳を見ながらそう思う。
 オレも、もっと若かったら一緒になってはしゃいでいたかもしれない。

「ヴィルヘルミナちゃん、サーニャちゃん、エイラさん、ありがとう!」

 一通り飛び回って多少頭が醒めたのか、芳佳がこちらに速度を合わせて併走する体勢に入って。
 両手を広げて、満面の笑みを浮かべた芳佳の嬉しそうな声と共に、夜間哨戒の一日目は過ぎていった。



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一人称書くのが超辛いんですけどだれか助けてくだちぃ
あと、寝室でのサーニャの服がスリップなのかキャミソールなのか解らなかったから調べた。
さりげなく一番エロい服装だよこの子!



[6859] 【WARNING】
Name: kd◆18be6bde ID:bf8eee8a
Date: 2010/11/20 09:27
【WARNING!】

注意:これ以降の文章は、読める代物ではありません
いわゆるプロットであり、読ませることを意識していません

Episode5,6,7のプロットはほぼ清書済みであり、漫画で言うなら
「編集者と打ち合わせした後のネーム」「下書き」
であり、文章によって修飾・肉付け、その後微調整を行い5~6倍の文章量にすればできあがり、という状態です
なので想像力豊かな人、文章その物よりも構成・展開を楽しみたい人なら頑張ればなんとか面白味を見出せるかも知れません

Episode8、Final、Epilogueのプロットは清書されていません
ブレインストーミングの域を脱しておらず、書きたい展開・書くべき展開の覚え書き程度です
実際の文章として構成するには15~20倍程度に膨脹させる必要があるため、完成系とは大分違うと思います。
大まかな展開・話の流れ程度なら見出せるかも知れませんが、これから面白味を見出すには相当の努力が必要かと思われます


あと、プロットとか余り巷では見ないので、他の人がどんな風にプロット書いてるか知らないので。
プロットですらない何かと言われるかも知れませんがまぁその辺は御容赦。



[6859] Plot:Episode 5 "Over the Rainbow"
Name: kd◆18be6bde ID:bf8eee8a
Date: 2010/11/20 09:24
Plot for Episode 5 "Over the Rainbow"

・テーマは友情と許容
・原作六話。
・原作が神回だったので、それに至らずともせめて貶めることは無いように
・もうちょっと原作の時代背景を反映させてみたい。 要するに時事ネタ。
・Over the Rainbow、1939年に公開されたミュージカル「オズの魔法使い」の歌を掛ける。
・起承転結、転の中の「起」。 次回以降への伏線展開「ウルスラ登場」「スオムスからのひみつ物資」
・蘊蓄部分は煩くならないように気をつける。
・ネウロイのバラージジャミング。 アニメでは歌を理解しようとするようなロマンチックな描写だったが、本作ではネウロイは完璧に敵役である。
・ネウロイの歌で地上の通信機器に障害が出たため、そのような意図での情報収集と解釈。
・ウィッチネウロイの伏線を張るが、明確な描写は避ける


#1
シーン1:サーニャの飛行、夜の邂逅
 ・基本はアニメの前半のノベライズ。
 ・視点をサーニャに集中させる。 サーニャの夜間飛行に対するスタンスの表現。
  ・サーニャは、夜を怖がらない。
  ・「幽霊みたい」というのはペリーヌの言だが、それ以前からも揶揄されていたという解釈。
   ・それは、夜が好きだという感覚。 真っ暗な中を飛ぶのは誰しも怖い。 サーニャはその感覚が希薄。
  ・同時に、郷愁の念を強く持ちつつもそれに引きずられずにいるという強さの表現。
   ・歌を歌いながら、家族を思いつつ、寂しさではなく無事を願う感じで。
 ・明るい夜を強調することで、決戦時の盲目感を強調できるようにする。
 ・ミーナと美緒、特に後者の上層部に対する考え方。 現実の歴史を予想として挙げることで、先見性というかロジカルさを演出。
 ・戦闘においてはサーニャの焦りを表現。
 ・一人では対応できない、もしくは恐怖・焦りを覚えざるを得ない心情を描くことで、決戦時の「チームワーク(複数いることの安心感)」を対比強調できる?
 ・迎えに出てくるのはアニメどおり。 主人公は出てこない。 即応能力的にも無理。
 ・主人公の一人称は不必要かもしれない(展開上登場しない?)
 ・地上とのやり取りをするときに、主人公の魔導針能力の現状を記述する。
  ・難しいことは出来ない。 主人公は知識を持っていてもいいが特別に有能であってはいけない。
  ・電波に関しての蘊蓄。 汚い電波、と言う物に関しての描写
   ・必要・機会が有れば随時、これ以降も追加していく

#2
シーン2:レクリエーションルーム、夜間哨戒隊への赴任
 ・展開事態はアニメと同様。
 ・スタートは雨音が響く真っ暗な廊下。 主人公の一人称で、廊下(一人)とレクリエーションルーム(仲間達)の温度差の表現
 ・主人公は皆の分のホットミルクを持って来ている。 もはやおさんどん。
 ・扉を開けたところで出くわすのは、ペリーヌがサーニャのことを揶揄している現場。
  ・エイラは反発するものの、主人公自身はニュートラルな考え方。 少し言いすぎだろうと思う程度。
  ・基本的にはニュートラルを維持する。
 ・夜間哨戒隊の指示。 芳佳と主人公が選ばれる。
  ・美緒は芳佳を挙げ、ミーナは主人公を推す。
   ・芳佳は訓練のため、主人公は適正があるため。 結局はケッテよりもシュバルムの方がいいだろうということで四人体制に。
   ・主人公が先に指名される=エイラ喜ぶ?
   ・芳佳追加=エイラちょっとがっくり。 主人公「両手に花とか考えてたのかよ」
    ・むしろ主人公は常に周囲に花ばかりな訳なのだが(セルフ突っ込み?)
 ・解散した後、エイラとサーニャと芳佳と主人公で少し会話
  ・「幽霊みたい」というのは酷い、というエイラと芳佳
  ・サーニャはペリーヌの言を良い方向に解釈。 もっと積極的にならないと駄目よ、的に解釈。
   ・主人公は「ほんまええ子や・・・何この聖人君子」みたいな反応。
  ・解散、主人公は今後のことを考えつつ、寝る

シーン3:夜間哨戒隊、寝る。 その1
 ・朝食後、寝ろ、という命令。
 ・眠れるわけが無い。 よってガールズトークというかピロートーク。
 ・主人公以外はみんな薄着。どきどきする童貞。
 ・アニメのような会話をやってもいいが、もうすこし踏み込んだ、あるいは薀蓄的な内容にしても良いか?
  ・必須話題:伏線
   ・芳佳、数学の課題をする。
    ・一応中学生なので、図形の問題を解いたりとか。
     ・エイラ「数学は航空歩兵の必須科目だぞっ」みたいな。
     ・三角形の座標の求め方。 二点と一辺から交点を求める問題。 
     ・サーニャが教える。 芳佳にサーニャを取られてちょっと不満なエイラ。
    ・不満なので主人公のタロット占い。
     ・1枚引き、未来を見る、みたいな言い方で。
     ・未来のタロットは白紙。 予備のタロットが紛れ込んでいた、という理由。 要らないので主人公にくれる。
      ・白紙=未来が読めない、という表現。
     ・二枚目は塔のカード。 こりゃー良くないなー、みたいな笑い話
     ・勉強が難しくなってきた芳佳、タロットに逃げる。
     ・芳佳のタロットに関してはアニメどおりの展開。
     ・主人公:見守る。両親生きてたら現状をどう思うんだろうなぁ、と思案すると同時にヴィルヘルミナの両親のことを考える。
 ・誕生日の話。
  ・サーニャの誕生日の話から、芳佳と誕生日が一緒だね、と言う話に。
  ・そこから、サーニャの歌の話。 決戦前にサーニャの歌は聞こえないので、ここでなるべく濃いめに描写を入れる。
 ・だんだんやる事も無くなって、だるくなって眠ってしまう。
 ・暑さの表現:特別暑いということはないが、締め切っているので多少蒸す、程度の表現を入れておく。
  ・エイラ「見てるだけで暑いから脱げよー」 主人公「だが断る」


シーン4:夜間哨戒隊、飛ぶ その1
 ・主人公、多少寝坊する。 寝起きは苦手。
 ・芳佳さん夜間飛行初体験。ビビる。すごくビビる。
 ・主人公夜間飛行初体験。 崖から落ちたりガードレールにぶつかる心配が無いからちょっと気楽。
  ・夜の峠に比べたら十倍ましだ! みたいな感想。
 ・怖がる芳佳の手を握って、空を飛ぶ。
  ・怖がる芳佳
 ・雲の上に出て、その明るさと広さ、静かさ、穏やかさの表現
 ・主人公、感動する
  ・きらめくエーテルの残滓
 ・芳佳、慣れてくる
  ・夜、機銃を打つときは必ず片目を閉じて撃てよ、というエイラ。 マズルフラッシュで目が見えなくなるから。
 ・主人公、魔道針の練習。
 ・編隊飛行がやはり苦手だ、という主人公。 どれだけ頑張ってスロットル絞っても、巡航速度330程度の芳佳の零戦に合わせるのはしんどい描写
 ・軽く慣れて、皆ではしゃぐ描写を入れて終わり


#3
シーン5:夜間哨戒隊、寝る その2
 ・シーンの雰囲気自体は基本的にはその1と同じ
・各国のお話。
  ・名前ネタ。 エイラが、「そういえば、ヨシカってどういう意味なの?」という所から始める
   ・サーニャの名前の意味は「Alexandrovna(”守る男”の女性形≒守護の乙女)・Vladmirovna(ロシア圏なので恐らく父の名前、Vladimir(平和の主/世界の王)の娘≒平和の娘)・Litvak(リトアニア人、程度の意。WW2時代だとほぼ意味はないか。ストパン世界だとリトアニアの存在自体が不明)」
   ・エイラの名前は「エイラ(フィンランドの首都の名前。たぶんスオムスの首都でもある、意味は雪)・イルマタル(フィンランド伝承での空の女神)」
    ・私にぴったりだろ!と胸を張るエイラ
    ・ユーティライネンは不明。 なんだろなー、と皆で首を傾げる
   ・芳佳は自分の名前を説明しようとして首を捻る
    ・芳佳「ええっと、佳は『上等』って意味で、芳は『良い匂い』だから……凄く良い匂い?」
     ・「ううん?」エイラくんくん臭い嗅ぐ。「……まぁ芳佳の臭いだな」
      ・主人公「なんじゃそら」
    ・名字に関してはお手上げ。
     ・主人公は「宮の字が付いてる辺り高貴な血筋っぽいよなぁ……藤の字も付いてるから余計にそう思わせる」
   ・主人公に振られる。わからない、とだけ答える。
  ・芳佳、いろんな国でいろんな言葉があるんだねぇ、と感心。
   ・しばらく、各国ネタで楽しんだ、とだけ描写。
   ・そういえば、と芳佳。虹の話をする。 夜間哨戒隊に任命された朝に見た、との話。 各国ネタの延長。
    ・虹についての話。虹は基本的に幸運の知らせだったりする話
    ・サーニャが、最近虹を見ていないという話をする。 夜間哨戒組だから仕方ないね、という会話
     ・サーニャの故郷では、虹はあまり良い物ではない、との話
    ・主人公は、ドイツの事を聞かれる。
     ・解らない、と答えるしかない。焦る。
     ・焦った結果、思い出したのはテレビでやっていたミュージカル。
      ・Somewhere Over the Rainbow……の節。
      ・言ってからマズった、と思う。 時代が解らないので。
      ・とりあえず、虹の向こう側にはなんか良い物がある、という話に落ち着ける。
 ・エイラ「脱げよ」主人公「だが断る」



シーン6:夕食時
 ・起きてみんなで夕食を食べに食堂に来たところ。
 ・みんなが、適当にその日あったことを喋っている
  ・夜間哨戒組と昼間組の隔絶感
  ・生活時間帯の差異による、寂しさ・孤独感的なものの描写?
 ・芳佳はリーネと話したり
  ・ヴィルヘルミナ「ちゃん」の事実発覚。 年上だと判明し焦る芳佳
  ・背の小ささに関する話。 芳佳もモンゴロイドだから部隊内では身長低目組に入る
  ・バルクホルンもこの話に乗って来たり。
  ・芳佳はリーネやバルクホルン、美緒が居るけどサーニャには……みたいな
 ・エーリカがやってくる
  ・エーリカとサーニャは何故か仲良し。 ちょろちょろ話したりする。
  ・エーリカの話題:主人公ちゃんとやれてるかどうか心配
  ・しかし適当な事を話して場をかき回すだけ
  ・上手く起きれない、という主人公の発言に対し、部屋に来れば好きな目覚まし時計持ってって良いよ、という発言
   ・「すきなの持っていっていい」といえるくらい沢山持っているのに寝坊しているのかと驚愕する主人公
 ・終わり際に主人公のモノローグ
  ・エーリカの部屋の惨状にうんざり。
  ・そういえばぱんつ騒動の原因だったと思い、夜間哨戒任務が終わったら速攻片付けに来よう、と決心。
 ・書いてて展開的に冗長でなければマリーゴールドティーの話とか肝油の話とか此処に入れてもいい?


シーン7:格納庫
 ・ストライカーを弄っているシャーリーと、それに付き添ってるルッキーニに会う
  ・「お、今から出撃か、がんばってなー」というシャーリー
  ・各人、分かれて自分の準備をしている中で、芳佳が寝る前の会話を思い出す「そういえばリベリオンではどうなんですかね?」
   ・受け答え。名前は「シャーリー=女」「イェーガー=狩人」
    ・芳佳「じゃあ、扶桑風に言うと狩屋乙女さん……かな」普通にいそうだ
   ・虹の話
    ・シャーリー、虹と言えば、オズの魔法使いのミュージカルかなあ、との発言。 歌が良くってなぁ
    ・虹の向こう側には……の話。
    ・芳佳、主人公がそう話していたのを思い出す。 海外公演はされてないはず。 どっかで聞いたことあるのかね?と二人で首を傾げる。
  ・ルッキーニとエイラ・主人公組の会話
   ・肝油とかペリーヌのマリーゴールドティーのお話
   ・まずいよね! の話。
  ・ルッキーニの涼しそうな格好と主人公を見比べてエイラ「脱ごうよ」 主人公「だが断る」
   ・しかし、室内で寝起きとか汗で張り付く髪を鬱陶しいと思う主人公
    ・空に上がれば汗はすぐ乾くしそんなに気にはならないのだが……
    ・ルッキーニが、リボンを分けてくれるという。 梁の上に上っていって黒いリボンを持ってくるルッキーニ
    ・主人公「お前は一体何処に何を隠して居るんだ」という感想。
    ・これ以降、主人公の髪型描写を、このエピソード内、サウナ以外でポニーテールの物に変更
     ・最終話での演出のため、ポニーテールの結びは緩めの描写をしておく。

シーン8:夜間哨戒隊、飛ぶ その2
 ・地上でオペレートするミーナ・美緒組の視点
  ・話題:以下から三つ程度?
   ・今回のネウロイの思惑・正体。
    ・狙いはサーニャ?それにしては毎晩飛んでいる彼女を襲う様子が見えない
   ・芳佳と主人公の話題
    ・芳佳の仕上がり。 兵士としてのメンタル部分でやや不安を感じる美緒。
     ・ただし、少女としては今のままの気持ちを持っていてほしい、と二人とも思う。
     ・なんというか、指揮官としての感情VS一人の友人としての感情の葛藤みたいなアンビバレンツ。 ただし主題ではないのであっさり目に描写する。
    ・主人公。つかみどころが無い。
     ・雰囲気の変化は理解できる。 無言は雄弁、との共通認識
     ・ただし、何を考えているか時々判らない瞬間がある。 何かを知っているような?
   ・情勢
    ・戦線の話
     ・シベリアのほうで動きが有るようなないような
     ・アフリカ戦線の話。 ティーガーとシャーマンが凄いよ! の話。
      ・美緒、海軍国の扶桑は陸戦ストライカーが弱くてな、の話。・チハは弱くないよ! 可愛いよ! だが無能。
    ・Me262、というかジェットストライカーに関する話
     ・ブリタニアやリベリオンでも実用化を急いでいる。
     ・ブリタニアでのジェットストライカー”ミーティア”の開発が遅れている話。
      ・マロニー大将の横槍の噂(新型ストライカー開発の予算を、ウォーロック開発に持っていっている、という情報、ただし二人には知りえない情報である。この時点では匂わせる程度の描写で)
 ・通信機から聞こえてくる四人の暢気な会話に呆れる美緒と微笑むミーナ
  ・聞こえてくるサーニャの歌。 芳佳にせがまれて歌っている描写。
 ・レーダーに走る微弱なノイズ。(実際はネウロイのノイズ)
  ・機器の点検補修が必要だな、と認識する二人。
  ・

#4 Over the Rainbow
シーン9:夜間哨戒隊、寝る その3
 ・特に暑い一日。閉め切っているので仕方が無いのだが。
  ・エイラ「見てるだけで暑いから脱いだら?」主人公「だが断る」
   ・エイラ「だが断る」
  ・いい加減暑くて思考力が低下している皆。
  ・エイラの指示により主人公を押さえつける芳佳。
  ・脱がしにかかるエイラ。 おろおろするサーニャ。 やめろーっ! ショッカー! ぶっとばすぞー!
  ・上着をめくられた時点で固まる空気。 羽交い絞めにしていて良くわからない芳佳以外の二人は主人公の身体を目撃する。
   ・火傷跡により、普通の肌色、焦げたような黒色、ケロイド状、そして赤紫色のまだらの皮膚。
   ・主人公が一緒に風呂とかに入らなかった理由。 着替えさせたバルクホルンと、医者から報告を受けていたミーナのみが知っていた情報
    ・Ep2で芳佳が骨折治療しているが、内出血で腫れ上がった腕や身体を服の上から治療したので素肌は見ていない
    ・Ep3での治癒魔法は、血濡れの服の上から
  ・主人公、嘆息。 娘さんたちに見せるにはネガティブ方面に刺激の強すぎる身体、と思っている。
   ・別に恥ずかしいとか嫌、という訳ではない。怖がらせてはいけない、とかそういう方面。
   ・露出度の低い衣服を選んでいた理由のひとつ。 もうひとつは純粋に露出度の高い女装とか男としてありえないというもの。
   ・治療が遅れたのと、治癒魔法(=アイリーンの魔法)が弱かったのが原因。
  ・主人公が危惧していたほどにはショックを受けない三人。 (特に北国組はこう見えても冬戦争辺りから戦っているので)
   ・エイラ:”ついてない”カタヤイネンをしょっちゅう見ていたので平気。 重傷とストライカー破壊の人である。
   ・芳佳:医者の娘なのでまぁそれなりに血や傷跡は見慣れている。 赤城で大出血の人見ても動じなかったし。
   ・サーニャ:特に無い…が、この程度で怖がるキャラクターでもない? センシティブではあるはずなのでその辺の描写。
  ・しいて言うなら三人とも痛ましいものを見る表情。
  ・芳佳、治癒魔法をかけようとするのを主人公は止める。
   ・ひりついたり、引きつったりするように痛むことはあるが、得に気にならない程度。
  ・重くなる空気。 気まずく思う主人公、そして芳佳達
  ・打破するように、エイラが言う。 サウナ行こう!


シーン10:人気の無いアイドルは脱ぐしかないの法則
 ・サウナのシーン。
 ・三人娘の入っている中に、最後に入っていく主人公。
 ・自分の身体を隠すのにも必死だが、むしろ彼女達を凝視しないことに注力する。
  ・起伏が薄いため欲情する訳ではないが、そんなじろじろ見る物でもない。
   ・そういやエイラは女子高生一年生じゃないか、と気付いて心中うめく。女子高生の語感に惑わされる童貞。
 ・ノベライズで適当な会話。
 ・本題の前に軽く会話を挟む。
  ・このサウナにはエイラが妖精を連れてきたから本物のサウナなんだ、という話
  ・ペリーヌがそんなの嘘っぱちだと行っている話
   ・主人公の感想。「使い魔とか魔法とか言ってるのに妖精を嘘っぱちって言うってどういうことなの…」
 ・サウナに行こう=肌を晒そう、と思ったエイラの真意。
  ・エイラ(そしてその他二人の考え):主人公は、肌を見せるのを怖がっている/気持ち悪いと思われる、と思っている
   ・エイラの対処:裸の付き合い。 大丈夫、怖がったり気持ち悪がったりしないよ、というのを態度で見せる。
   ・主人公の、危惧する問いに対し、全然平気だ、と答える三人
    ・ニパ(カタヤイネン)なんか一度骨が見えて……とか言い出してむしろその発言が主人公を引かせる
    ・軽くカタヤイネンの話。
  ・痛くないの、という芳佳の話。 全然平気、と返す主人公
  ・サーニャの言葉にも、大丈夫という言葉を返す
 ・相変わらず自分考えすぎだなぁと思う、あるいは三人娘達の優しさをまぶしく思う主人公。
 ・軽くシーンカットして、屋外の水浴びのシーンへ。
  ・文章の流れ次第では飛ばしてOK。 誕生日確認は終わっているので。


シーン11:夜間飛行・決戦の日
 ・飛んでいる所から始める。
 ・分厚い雲海の描写。 雲の下は真っ暗だったけど、雲の上は明るいね、と言う話。
  ・雲の下は雨。
 ・適当に飛んでいると、彼方に赤い点滅を見つける。すわネウロイか、と思う芳佳をサーニャが制する
  ・通信。向こうは、ブリタニアを目指してスオムスから飛んできたカールスラントの飛行船
   ・グラーフツェッペリン級だ、とのサーニャの発言に、凄いんだろ、というエイラ。 名前は知ってるので凄いぜ、と言い返せる主人公
   ・向こうは、此方が501だと知り、そちらへの補給を積んでいる、と言う
   ・飛行船で補給物資、単艦で、というのは妙だな、と思うエイラ
    ・主人公、講義を思い出す。飛行船はまだ大型旅客機の無いこの世界では交通の要になっている。
    ・だが、エイラの言うとおり、大量の物資を運ぶには適さない。 普通は船だろう、と言う話
     ・本当に急ぐなら輸送機である
   ・最近この辺でネウロイがうろついてるので注意してくれ、と喚起。
    ・ウィッチが乗っているから大丈夫だ、との返信。 これにも少し疑問を抱くエイラ。 単艦にわざわざウィッチを護衛に乗せるか?
    ・ヴィルヘルミナが居たのは補給「船団」であるとの話。 貴重なウィッチをたかだか単艦の護衛に?
  ・通信中、主人公の魔道針に妙な反応。 サーニャに聞こうとした瞬間、彼方の雲間からネウロイビームが放たれる。
   ・哨戒隊を貫いて飛行船を狙った射線。
   ・間一髪で芳佳のシールドが間に合う。 守られて始めて実感する分厚いシールドに感激する主人公。
   ・飛行船と通信。攻撃を受けたので注意の喚起を使用としたところで、大規模ジャミングが発生する。
    ・飛行船を守りに行かないと、と芳佳が発言しているのをエイラが遮る。
    ・今度はエイラが予知している。 芳佳の言葉を遮った1秒後に砲撃が来る。 
    ・三度目の砲撃。 違う方角から、四人をめがけての砲撃。
    ・狙いは四人。 向こうにもウィッチが居るって言ってたから、と芳佳を落ち着かせるサーニャ

 ・地上、ジャミングのお陰でレーダーが役に立たない
  ・ネウロイの歌の本当の狙いはジャミング。 サーニャを監察していたのは、人類側が利用する周波数帯の解析
  ・誘導も、救援を出すことも出来ず、歯がみする二人
  ・ここ数日静かだったのはコレの準備か! と、歯がみする美緒
  ・どうしようもない。 真っ暗な空=不安の象徴を管制室から見上げる二人

 ・多方向から砲撃を受けて身動きも出来ず、パニックに陥る芳佳
  ・サーニャは、相手の位置を特定出来ない。方向程度なら解るが、距離や大きさ、そう言った物が全然解らなくなっている
   ・主人公も似たような物
  ・とりあえず逃げよう、という芳佳に、無理だなと返すエイラ。
   ・雲海の中に入った途端に食われるのがオチだと言われ、雲の中の暗さを思い出す芳佳。
   ・それに、逃げたら飛行船の人たちが危ないかも知れない
  ・アニメとの展開の違いに焦燥する主人公
 ・何処から打たれるか解らないため、薄暗い中、緊張を高める四人。
  ・長くは持たない。精神力が続かない。
  ・闇雲に雲の中に機関銃を撃ち込む訳にも行かない。相手の位置を特定出来さえすれば手の打ちようもある
  ・方法を考える四人。
 ・芳佳「そうだ! 三角形だ!」伏線の回収。
  ・数学で勉強していた内容。 二点と一辺と交点で、三角形を作り出す。
  ・サーニャと主人公は、方向が解る。 それなりに距離を取って二人がネウロイの方向を割り出し、その二人が指し示した方向の交差部分にネウロイは居る
  ・ジャミングの中で索敵に集中するため、主人公・芳佳組とサーニャ・エイラ組に別れる四人娘。芳佳とエイラがシールド役。
 ・距離を取り、索敵する。
  ・暫く索敵と防御。主人公は、どちらの方向を向いてもネウロイを探し出せない。
  ・サーニャは、主人公の方面にネウロイを感じるという。
   ・どういう事だ、と思う主人公。 自分の方にネウロイが居るのに、前後左右どちらを向いてもネウロイが居ない
   ・算数では二次元上だが、ここが三次元だと言うことに気付き、真下という選択肢を思い出した瞬間、叫びと共に真下の雲海を突き破って出てくる黒い鋭角
   ・狙いは主人公組二人。 主人公は咄嗟に芳佳を突き飛ばし、ネウロイの体当たりを喰らう。
    ・芳佳が(少なくとも描写上は)引き立て役に成り下がらないように、最後の吹っ飛ばされている瞬間で主人公に気付かせるのもありか
   ・芳佳が体勢を立て直している間、フリーガーハマーが飛んでくるが、命中はせずに再び雲海の中に消えていくネウロイ
   ・主人公は居なくなっている
    ・描写イメージは鮫。雲を海に見立てる。
 ・主人公を捜さなきゃ!と雲に飛び込もうとする芳佳、エイラが必死に止める
  ・通信は繋がらない。
  ・最悪の状況を考えるエイラだが、一番の年長である。 ヘタレかけるが踏み留まる。 
 ・サーニャ一人では状況を打破出来ず、ジリ貧状態になっていく
  ・冒頭の、夜が怖いか、という話をリフレイン。
  ・主人公を飲み込んだ白い雲海も、ただの薄明かりの月光がサーニャの不安を駆り立てていく。
  ・焦る描写。怖くなかった物に、恐怖を覚えていく。全員、余裕が無くなっていく描写。
  ・すがるように、魔道針の感度を上げるサーニャ。 耳に入るノイズが大きくなっていく。
 ・エイラ、意を決したように、自分が囮になっている間に逃げろと言う。
  ・止める二人。 私は予知が出来るから楽勝だと返すが、分の悪い賭であることは心中で確信している。
   ・予知して避けることが出来るのは避けることが出来る攻撃のみ。 雲の中で体当たりを貰えば、ネウロイの巨体=面・空間的な攻撃を避けれない可能性は高い。
  ・サーニャは、そんなことをさせないために必死になって魔道針を使い続ける。 大きくなるノイズ
  ・そして届く、主人公からの乱暴な信号。意味も音もないただの大きな音。

 ・主人公の視点。時間が少しだけ巻戻る。描写に気をつける。
  ・高速で雲中を駆け回るネウロイにウォーハンマーのピック部を打ち込んでしがみつく主人公。 シールドは間に合ったが、衝撃でMG42を手放してしまった。
   ・咄嗟の反撃でハンマーを打ち付けたつもりだったが、ピック部が引っかかってそのまま引っ張られてしまった
    ・シールドをかざした腕が動かないのに気付く。 今度は脱臼。
    ・とりあえずシールドを斜めに配置し、空力でネウロイにしがみ付きやすくする。
  ・通信用のマイクは吹っ飛ばされたときに無くした、あるいは機能不全
  ・何かに見られているような感覚。(ウィッチネウロイの監視だが、この時点ではなんか見られてるような気がする、程度に留める)
  ・ウォーハンマーに魔力を込めれば魔力の効果がネウロイの装甲強度を上回り、結果としてピックの食い込みに絶えられなくなり振り落とされそうになる
   ・しかし、魔力を抜けば総金属製のウォーハンマーは「溶ける」ようにネウロイに吸収されそうになる
   ・調整に四苦八苦する。 気を抜いて魔力を抜きすぎて制服のボタン(金属製)が食われるが気にする余裕は無い
  ・落ち着いたとしても現状が打破できるわけではない。 武器はない。 何回も放たれるビームを見て焦る。ロジカルに考えろ。 現状を認識しろ、知識を総動員しろ、と言い聞かせる。
   ・勝利条件と敗北条件の認識
    ・勝利条件:とりあえず三人+一人が「逃げる」か「ネウロイを撃破する」か。>ネウロイの位置を知らせればいい。
    ・敗北条件:自分を含む誰かが損害を被る。優先度は三人>自分。 男の子の見栄です。
  ・かつてで学んだ知識:ジャミングは、相手の利用する電波に対し、同一の波長を当ててそれを相殺したり攪乱する行為である、的なのをもうちょっと曖昧に
  ・それを無視するには? >利用する電波帯を変更する=不可能。 変更しても無理。
  ・それ以外の無視する方法 >中和・攪乱が無意味になるほどに、強力な電波を発信すること
  ・自分の位置を知らせる=ネウロイの位置を知らせる。
   ・問題:詳細を知らせる事は出来ない。 主人公が出来るのは単純な発信だけである
    ・ただ強いだけの信号ならば発信出来る。 やると方々から文句を言われるのでやってはいけないと言われたこと
     ・汚い電波
   ・リスク:三人が攻撃を選択した場合、巻き込まれる可能性が高い。
   ・解答:フリーガーハマーで爆撃される恐怖は感じるが、これ以上の打開策を見出せない。 男は度胸。
    ・あーこえーなー! 畜生怖いなぁ! でも仕方ねえよなぁ! みたいな。
    ・”選択肢が見出せなければ、無能の罰としてリスクを受け止めるのは義務”(主人公の思考に合わせた描写に変更)
  ・主人公の見出した、魔道針の感覚は「水鏡」。広がる波紋を信号として考える。
   ・現状は、全体にさざ波が立って、波紋が見えなくなっている状態。
   ・ならば、さざ波を無視するほどに大きな波を立てれば良い。
  ・叫ぶように、水鏡に拳を叩きつけるイメージで締め

 ・視点を戻す。
  ・場所が解る。 その動きをトレースすると、ネウロイの方向と共に動いていると確信=主人公はネウロイと同座標にいる?
   ・それを他の二人に伝える。 主人公の生存に喜ぶ二人。
   ・その間も飛んでくるビーム。 その発射地点と主人公の信号発信地点を比べて、やはり主人公はネウロイと一緒にいると確信。
   ・ネウロイにしがみついている? 自分を省みない馬鹿をすると思う三人。 だが、主人公ならやりかねん、との認識が出来上がっている。
  ・ネウロイの居場所がわかるが、攻撃に躊躇い。 逃げる=主人公を放置、の選択肢はない
   ・さらに、ネウロイの動きが激しくなる。 ネウロイが主人公の意図に気付いた。
  ・攻撃範囲の広いフリーガーハマーでは巻き込んでしまう。 直撃させたら跡形も残らない
   ・機銃では連続して当てないと致命打にはならない。
   ・鼻先に当てるしかない。 外殻にクラックでも入れば、ネウロイは雲の中(=水)に居続けるのを厭がるはずだ
  ・ただでさえ狙って当てるのは難しい。 正確な位置が解らなければ出来ない、方法はあるのか?
  ・ある。エイラの予知能力。しかし、ネウロイの位置は予知出来ない。
   ・エイラはサーニャの背中を抱く。 フリーガーハマーのトリガーを一緒に握る。芳佳にはシールド役を指示。
   ・エイミングはサーニャに任せる。 トリガーは自分に任せろ、というエイラ。 危惧するサーニャ。 笑って、任せろというエイラ。
   ・エイラの予知能力は、自分の直ぐ側の、少し先の未来しか読み取れない。
   ・エイラは、腕の中のサーニャの反応の未来を予知する。 ハマーが命中し、巻き込まれた主人公の信号が消え、それにショックを受けるサーニャの感触を幻視し続ける。
    ・外れても駄目。 命中して、なおかつ主人公の信号が消えない、そんな未来。
    ・サーニャが泣く姿=エイラにとっては絶対に見たくない物。 それを予知して、その未来を「絶対につかみ取らない」瞬間を待ち続ける

 ・サーニャ視点
  ・騒がしい雑踏の中に一人取り残された感覚の中、突然届く主人公の意味をなさない信号=叫び
   ・雑踏=ネウロイの歌。 探るような気配を見せつつも、プレッシャーのような敵意を感じる
  ・サーニャにとっての魔道針は、「音」。 音の大きさと音色で対象を理解する物。
   ・同種の魔法を使う主人公との感覚の違いの描写に気をつける。公式情報=「ウィッチの魔法は感覚的な物」=感覚に個人差
  ・一歩間違えば、その、主人公を傷付けてしまうと言う恐怖。 夜の恐怖が再び襲いかかってくる
  ・孤独感の描写。 サーニャは悪意ある雑踏の中で一人取り残され、叫び声を上げる主人公を捜し出そうとしている。
  ・そんな中、意識に届く、背中のエイラの励ましの声。
  ・「大丈夫、サーニャは、私たちは一人じゃない――私たちはチームだ、そうだろ?」
  ・トリガーを握ったエイラの手が、震えているのを見る。 目の前に位置して、ビームを防御してくれている芳佳を見る。
  ・自分の腰を抱いているエイラの手に、自分の手を添えて、強く握る。
  ・エイラがその手を握りかえして、その直後にトリガー。 飛んでいくフリーガーハマー。

 ・ネウロイ視点
  ・例によってネウロイの思考は非人間的で有るべきである。描写時に注意する。
  ・魔女の理解と排除、そしてその為の周波数の理解が今回の目的。 
  ・ネウロイはそれなりの高出力でバラージジャミングを行っている。
  ・長時間の高出力バラージジャミングはWW2時点の人類の技術では回路に負担をかけるため非効率・非実用的。 
   ・ネウロイは「負担がかかり劣化した器官を常に再生し続ける」という荒技でコレを克服。
  ・背中に張り付いている魔女を鬱陶しく思うが、攻撃してこないところを見ると攻撃手段を持たないと判断、攻撃を継続。
  ・瞬間、背中から大規模な信号。 ジャミングは無理。
   ・しかし、ジャミングに大量のエネルギーを費やしているため、利用出来る攻撃方法は機首の主砲のみ
   ・魔女は同胞を大切に扱う。 此方の姿が確認出来ない中、魔女ごと攻撃を受けることはないと判断。 ジャミングと攻撃を継続。
   ・ジャミングを解除することは選択肢外である。 ウィッチネウロイへの伏線。
  ・飛来した二発のフリーガーハマー。 回避機動の先、鼻先に直撃する軌道に「置かれた」二発目の爆発に突っ込むネウロイ。
   ・機首の砲門にダメージ。 外殻にダメージを受け、雲から飛び出すことを余儀なくされる。
   ・目的達成のために、特攻を決意。
    ・このネウロイの目的には魔女の理解も含まれるが、彼自身が理解する訳ではない。 理解するのは別のネウロイである。 ウィッチネウロイへの伏線。
  ・雲から飛び出し、魔女に向けて推力を全開にする。
  ・主人公の離脱を見た三人の機関銃とフリーガーハマーの斉射を受けて、全身を削られ飛散する描写で締め。

 ・吹き飛ぶネウロイの影響で、雲が割れていく。
  ・主人公、多少焦げながらも合流。ボタンが喰われたため、前がフルオープンで
  ・クリアになった電波の中、聞こえてくるのはピアノの音。 サーニャの歌。
  ・はっとして、大陸の方を見るサーニャ。 その目に映るのは、白く光る天使の輪が、地平線、サーニャの両親が居るはずの方向にかかっている様子を見る
  ・綺麗だと言う芳佳。 エイラが、それは月虹だと気付く。
   ・虹の一種だと聞き、一瞬眉を潜めるが、「Somewhere over the rainbow」の一節を思い出す
    ・虹の向こう側、何処か遠く高い場所に、何時か子守歌で聞いた国がある。
    ・その向こうに馳せる夢は、全てそこでは現実で。 そこに悲しみはなく、きっと何時かそこへと飛んでいけるだろう
  ・サーニャは聞こえてくるピアノの音を伴奏に歌いながら、両親の無事と幸せを信じて、三人に笑いかける。


#5
シーン12:到着した客人、疑惑
 ・薄暗い、司令室で誰か(=ウルスラ)と話しているミーナ。
 ・被害が出なくて良かった、と安心するミーナ
  ・同意するウルスラ。 最近はノイエの技術部での仕事がメインだったため、戦闘になれば飛行船が危なかったかも、という反応
   ・飛行船護衛のために出撃したが、結局大丈夫だったため、基地の方に着陸したウルスラ。
  ・それだけではなく、四人の方に被害が出なくて良かった、と思っているミーナ。
  ・ヴィルヘルミナとエイラが居るならば、心配する要素は皆無であった、と反応するウルスラ。
   ・ウルスラとヴィルヘルミナは知り合いではないが、Me262のテストパイロットである以上、データは参照するので。
  ・ウルスラは別にMe262開発部ではない? スオムスにお使いに行った帰り、みたいな物であるとの発言
 ・近日中に、Me262の追加装備が搬入されるであろう事の通達。 機密兵装なので、Me262と同様、他国のメカニックに触らせないように
 ・ヴィルヘルミナとその件について話し合いたいので、搬入時に時間を作ってもらいたい、との申し出
 ・言葉に詰まるミーナ。 考え、ヴィルヘルミナの記憶損傷について語る。
 ・ウルスラ、驚いたように「記憶……喪失?」 ここで初めて、ウルスラの正体を明かしてシーン締め。


シーン113:通信、私の声、聞こえますか
 ・翌日の夜、腕を吊りながら、滑走路先端に立っている主人公。その脇にはエイラ。
 ・意を決して慎重に通信する。
 ・意識で話すような物のため、本当なら滑らかに喋れるはずだが、結局はつっかえつっかえの喋り方になってしまう。
 ・そのたどたどしさに、サーニャに苦笑される。
 ・一通り慣れた後、サーニャが突然、堅苦しく交信。
 ・アマチュア無線風の挨拶。 スターライトストリームとか、各種公式描写でもそれらしい表現が多いので。
  ・「CQCQCQ、こちら501stJFWAVL、501stJFWAVL、ファイブ・ゼロ・ワン・ジュリエット・フォクストロット・ウィスキー・アルファー・ヴィクター・エル、サーニャ・V・リトヴャク中尉です。 聞こえていますか? スタンディング・バイ」
  ・面食らう主人公。 ほら、教えたよ、というサーニャの言葉で思い出して返信。
  ・「……こちら、501stJFWWHB、501stJFWWHB、ファイブ・ゼロ・ワン・ジュリエット・フォクストロット・ウィスキー・ウィスキー・・ボギー、ヴィルヘルミナ・H・バッツ中尉です。 受信、します……スタンディン・バイ」
  ・「フォーナイン。 ……ヴィルヘルミナさん、出来たね」
  ・「こちらは……ファイブ、ナイン。 ありがとう」
 ・少し会話をして、軽く笑い有ったりする描写。最後に、エイラが私も混ぜろとぶーたれて描写終了。 通信終了の言葉は「エイティエイト」。
 ・次の日の朝、主人公が起きると、ドアの下から差し込まれるようにしてカードが2枚落ちている
 ・サーニャのQSLカードと、白紙のQSLカード=主人公の分。 交換しなきゃな、と思った所で、エピソード終了。





[6859] Plot:Episode 6 "Noisy Day"
Name: kd◆18be6bde ID:bf8eee8a
Date: 2010/11/20 09:25
Plot for Episode 6 "Noisy Day"(仮)

・テーマは明るい話とその下で動く暗い話
・アニメ七話をカバー。スラップスティック的な、というかギャグ的な要素は苦手なのでその練習になるように。
・すれ違いと双子ネタ
・タイムテーブルが別途必要かも。
・転、の中の「承」。 ウルスラ登場そして直ぐ退場。 どうせゲストキャラ。 そしてミーナの主人公に対する疑惑を強くする。
・主人公ノーパン回。風呂回。
・戦闘が無いため、エピソードタイトルに特に気を払わなくても良い気がする
・主人公の最終装備登場の日。
・仮タイトルの意味は「騒がしい一日」、Noisyを使うことで、ざらついた、とかざわざわした、という意味の追加。
 ・ダブルミーニング。 「スラップスティックな日常の影で、忍び寄る不安」みたいな。
・戦闘が無いからと見せかけて、今までの構成を崩す。変化のさり気ないアピール。


#1
シーン1:搬入の日
 ・全体的に設定開陳の要素が強いので、説明文を連続させてしつこくならないように、各部に無駄な会話を挟む。
 ・昼過ぎ、バルクホルンと一緒に機材の搬入を監督している主人公。
  ・Me262の装備品の搬入。 名目上、その関係の責任者はヴィルヘルミナなので。
 ・暑いので汗をかきながら。 相変わらず肌の露出はしないが、前エピソードから引き続きゆるいポニーテールで。
 ・追加のMk108やその弾丸が搬入されているのをぼうっと眺めるだけの作業。
 ・たまに書類のチェックとかもしたり。 男の人が搬入しているので、周囲にいるのはバルクホルンと主人公だけ。
  ・名目上はわりと機密っぽいからである。 戦闘に出れば機密もクソもないので言い訳だなー、と思う主人公。
 ・銃器などの「小物」が終わって、大物の搬入にうつる。
 ・追加のストライカーユニットは回ってこないとのこと。
  ・バルクホルン曰く、足の速さが違いすぎる新鋭機だから本国で専用の部隊が編成されているのではないか、という予想。
 ・まず運ばれてきた箱の中身は板。
  ・なんだこれ、という主人公の疑問に答えるのは受領表とバルクホルンの台詞。
  ・R4M、12連装ロケット砲の懸架台。
  ・弾薬の箱を軽く覗き込む。 フリーガーハマーの二倍以上の経(55mm)を見てうんざりする主人公
  ・誰が使うんだ→お前だ→マジか、の流れ。どうやって使うんだこんな物
 ・そして、トラックから降ろされて重そうに運ばれてくる、5m以上有る大物。
 ・台に固定され、カーテンを外されて現れる飛行艇体。
  ・なんだこれその2。
  ・形状は、実際のMe262A-1a/U4から主翼を外し、デフォルメしたような形状。
  ・正式名称、「Me262A-1a/U4専用増加飛行艇体 試製強化武装プラットフォーム”プルクツェアシュテーラー”」中二病っぽく。
  ・強弁すれば、バイクのようにも見える。 全長の半分近くを占める、槍のように突き出した砲身が目立つ。
  ・Me262によく似た推進器=エンジンがくっついているのが特徴
  ・バルクホルンが、コレもお前のだという。 マジ訳解らん、と思う主人公
   ・バルクホルンの説明。 全長5520mm、乾燥重量1t弱。 固定兵装50mmMk214A一門。 本体両脇にR4M12連装ロケット砲を一基づつ系二基搭載可能
   ・推進機構として、噴流式魔道エンジン二基搭載。魔力は魔女から。 加速用補助推進機構として固体燃料ロケットも四基搭載
   ・都合噴流式魔道エンジン4基分を一人でまかなうことになる。 想定限界航行時間は28分。
   ・アホか、と思う主人公。 50mmとか飛行時間20分とか馬鹿じゃねーのと思う。
   ・スオムスでの研究の成果。 「重くて飛ばせないならエンジン付けて飛ぶようにすればいいじゃない」「ネウロイ早く倒せるなら戦闘時間短くてもいいじゃない」
  ・うんざりする主人公。 自分はMk108でもうお腹一杯です。
  ・うんざりするバルクホルン。 そもそも宮藤博士がストライカーユニットを今の形にしたのは飛行艇体の欠点を克服するためである。退化してどうするつもりだ。
 ・使うか? 使わない……のやりとり。
  ・50m級の航空型ネウロイなら直撃弾一発、それ以上でも2-3発で航行不能に出来るらしいぞ、との事。
   ・現実の想定でもB29が一撃だし。
  ・コア破壊ではなく、航行不能。 再生力の高いネウロイを、一撃で行動不能に陥らせるアホのような威力。
  ・火力嗜好のバルクホルンでも流石に少し躊躇う。 が、やっぱり馬鹿だろう……という判断。
 ・うんざりした空気を打破するための質問。 そういえばエーリカはどうしたの?
 ・休日(=サーニャとQSLカード交換した日)を掃除に費やしまくった記憶。 あと、エーリカが珍しく早く起きて浮かれまくってた記憶。
 ・バルクホルンの、「ああ、まぁ本人から聞けば……」でシーンエンド


シーン2:心配と姉妹再会
 ・執務室で、ウルスラから納入等の資料と共に書類(ネウロイの憑依・洗脳に関する資料)を受け取るミーナ
  ・正式な資料ではなく、ウルスラが1939年にスオムスで経験したことの記録。 ジュゼッピーナと迫水ハルカの記録。
  ・ウィッチ型ネウロイに関しての機密事項。 本来ならウルスラの権限ではないが、「いらん子中隊」での経験が、ウルスラの四角四面な部分を丸くした、と解釈
 ・ミーナに記憶喪失のヴィルヘルミナを依然として部隊に置いている理由を問うウルスラ。 応えるミーナ。
  ・部隊長として言うなら、戦力は常に不足している。 予算が削られている今、頭数だけでも欲しい。 それなりに戦える以上、手放せない。
  ・個人として言うなら、彼女の意志を尊重したかった。
  ・エーリカとバルクホルンの友人としてなら、せっかく会えた昔の仲間が記憶を失っているのに手助けくらいさせてあげたいという考え。
   ・友人が苦境に陥っているのに、傍観することを押しつけるのは薄情すぎる
 ・本国に帰って、情報部の知り合いに掛け合えばもう少し詳しいことが解るかも知れない、というウルスラを止めるミーナ
  ・ウルスラに無理はさせたくない、という考え
  ・同時に、「杞憂だった」場合に余計な事態を招くであろうから
  ・その場合、結局は発生する問題の先送りではないか、というウルスラの指摘に、苦笑しつつ、まぁそれくらいのリスクは最初から覚悟していた、と
   ・何だかんだ言って世論がウィッチに寛容である事と、軍隊の成果主義、身内に甘いところに頼っている描写。
  ・「杞憂でなかった」時のことを考えねばならない。
 ・ウルスラの記憶の中のジュゼッピーナと、ミーナに聞くヴィルヘルミナの現状は余りにも違いすぎる。
  ・ジュゼッピーナは感情を揺らがせなかった。 無茶もしなかった。
  ・ただし、それは五年前の話である。
  ・五年間の間、ネウロイが何も学ばないというのはおかしい話だ=新兵器の投入もしてくるのに、ジュゼッピーナの様なアプローチがそれっきりだと考えるのはおかしい。
  ・彼らの諜報・理解・擬態が以前より進化しているというのは十分あり得ると二人は判断。
  ・お互いを理解しようとする事が出来るなら、戦争を終わらせられるのに……と思う、が。
   ・戦争が終わることで困る人たちは少ない。 だが、ネウロイが敵でいてくれなければ困る人たちは山ほど居る。
   ・各国は国土をネウロイに占領されており、また地球上にすでに譲渡可能な土地がない以上、ネウロイとの「休戦と共存」は政治的に絶望的である為。
    ・多分リベリオンがオラーシャからアラスカを二束三文で買い取って資源ウハウハとかあったりしてる。
   ・さらに、ネウロイの発する瘴気の為、生物的に共存も絶望的である。
 ・とりあえず、ウルスラはミーナに、このことを知っている身近なもう一人を紹介する。エリザベス・フレデリカ・ビューリング。
  ・現在22歳。このブリタニアで教官として後進の魔女の育成に当たっている。
   ・いらん子中隊で丸くなったと予想される人その2。そのままだと除隊後に墜落事故で死ぬ運命なので死亡フラグ回避のためにブリタニアに縛り付けとく。
  ・あのころの自分は、今ほど周囲に感心が有った訳ではなかったから、彼女ならもっと覚えているだろう、というウルスラの判断。
 ・このことは、誰にも言わないで欲しいというミーナ。不要な心配をエーリカやバルクホルンにさせたくない、と言う意図。
  ・ウルスラも、エーリカの為に、という点で同意。 ただし、ウルスラがヴィルヘルミナの情報からネウロイを感じたら独自に判断し行動する、と伝える。同意するミーナ。
 ・そのほかに、と言うところでノック、即入室。 エーリカさんログイン。
  ・ウルスラ、会いたかったよー! おねえちゃんだよー! と抱きつくエーリカに驚いて、目を白黒させる物の、その行動に苦言を呈すウルスラ
   ・聞かないエーリカ。 この辺のやりとりは秘め歌の通りで良いと思われる。 手紙の検閲の話だとか。
 ・その様子を見て、普段バルクホルンを妹がらみでからかってるのにね、と苦笑するミーナ。
  ・エーリカを呼んだのはミーナ。勲章、つまり250機撃墜記録、剣柏葉付騎士鉄十字章の受勲があるとの連絡である
 ・軽くアイコンタクトしてミーナはウルスラをエーリカに明け渡す。
  ・ネウロイ撃破直後なので、自由時間
 ・色々話をしながら、退出する二人。 それを見送ってから、ウルスラの持って来た資料に目を通す。
  ・杞憂で終わって欲しいと思いながらも、ビューリングと話す時間を作るために、受話器に手を伸ばす。
  ・部隊の皆に、主人公のことをどうそれとなく聞き出すか考え、そうしなければならない事実に重いため息を吐いたところでシーンエンド。


シーン3:お風呂に行こう!
 ・搬入監督が終わり、廊下を歩いている主人公とバルクホルン。
 ・風は通る物の、潮風の所為で湿っぽい。
 ・時計を確認すれば、入浴可の時間帯。
 ・風呂行くか、と誘うバルクホルン。
  ・芳佳から事情は聞いている。 女の子の情報網にビビる主人公。 何時そんな暇があった!?
  ・元々火傷痕には、生理の時に服を着替えさせた時に気付いていた。
  ・水練に混ざらなくて良いようにしたのも、バルクホルンの差し金。
 ・黙る主人公に、慌てるバルクホルン。
  ・黙る理由=理性と欲望の葛藤。
  ・慌てる理由=無理強いしたい訳ではない。
 ・主人公、バルクホルンの心配そうな顔を見て入ることに決める。
  ・とんでもない駄目人間だと思いつつも深く考えるなと言い聞かせる自分。 
 ・と言う訳でお風呂セットを取りに部屋に行くことに。 バルクホルンが書類の提出をするので、先に行っておいてくれ、と頼む。
 ・風呂と言うところで心配するが、エーリカの部屋は綺麗にしたから、しばらくズボン失踪事件は起こらないだろう、と確信する主人公。
 ・部屋に入ったところでシーンエンド。


シーン4:姉の異常な部屋
 ・主人公が部屋に入った直後、角を曲がってエーリカとウルスラがやってくる。
 ・とりあえず部屋で色々話そうと言うことに。
 ・部屋に入ったウルスラが驚く。硬直。 部屋が綺麗。
 ・見直した? と自慢するエーリカに、あり得ないと即答するウルスラ。
  ・続くウルスラの嫌疑に、エーリカ消沈。 ウルスラは誰かの協力を疑う。
  ・白状するエーリカ。 主人公の協力のお陰。 ウルスラはヴィルヘルミナの状況を思い出し、少し動揺するが、気付いたエーリカを誤魔化す。
 ・部屋一杯の目覚まし時計。 物が殆ど散らかっていない床、整頓された机の上。 
  ・ただし、綺麗ではない。 床の上には今朝脱ぎ捨てた服が有るし、机の上には本が少し積んである
 ・お互いが何をしていたかの話。
  ・手紙書いたのに、の話。 基本的には秘め歌と一緒。
  ・届いてないとか! 検閲されるとか! 酷い! ミーナも愚痴ってたけど、なんか上層部に嫌な人が居るねぇ、という話。
  ・本国(ノイエ・カールスラント)で、エーリカの撃墜数がニュースになって、人気が凄いことになっているという話。
   ・250機撃墜、おめでとう姉様。 勲章持って来たよ!
    ・そんなの要らないのになぁ……あ、でも毎回ウルスラが持って来てくれるならそれでも良いかな、的な反応をするエーリカ
   ・皇帝陛下も大変お喜びです。
    ・でも、ルーデルの方がもっと凄いよ、という話。
    ・あと、マルセイユとか。
  ・ウルスラの話。 技術部でロケット兵器とかMe262とかの開発に携わっている。
   ・相変わらず妙な実験が好き。 魔力を燃やしてぶっ飛ぶロケット推進式戦闘脚コメートとか企画出したら、やたら怒られた話とか。
 ・Me262の話から、ヴィルヘルミナのことを話そうとするエーリカ。 軽く受けてから、話を逸らそうと、部屋の目覚まし時計群に話を移すウルスラ
 ・時計を見て、時刻が入浴可能時間であることに気付くエーリカ。 そうだ! お風呂行こう!
  ・飛行船の旅では入浴は不可である。
  ・今後の予定を考えるウルスラ。 搬入と姉との挨拶が終わったらさっさと帰るつもりだった。
  ・どうせなら略式とはいえ勲章授与見ていくのも悪くない。姉だし。
  ・ノイエ・カールスラントへの出発は明後日である。
 ・お泊まりセットがない→エーリカの貸すから良いよ
 ・風呂の位置を確認してから、搬入班に連絡をしに行くことに。


シーン5:湯煙旅情変
 ・脱衣所。 主人公、此処にいたってどきどきする。
  ・パンツを脱ぐときに、そういえばエーリカから借りっぱなしのズボンだったと気付く。
  ・洗って返そう、と思い今日一杯は履くことにする。
  ・他に履く物もないし。 そう、ご都合主義的に今日は主人公的には洗濯の日であった。
   ・事前に描写しておく必要がある?
 ・脱衣籠には、何人かの衣服が既に入っている。
 ・心構えさえあれば別に特に問題ないよね、と言い聞かせる。
  ・コメディリリーフ的に、普段より、馬鹿っぽい描写で。
 ・風呂の中にいるのは、美緒、芳佳、リーネ、ペリーヌ。
  ・なんか一騒ぎした後のような様子。 疲れた様子のペリーヌと、うーんどうしよ、的な表ジュの芳佳とリーネ。 美緒は平常心。
  ・入ってきた主人公を見て、それぞれの反応を返す四人。
   ・四人の精神性を言外の反応で表現する。がんばる。 既に見たことがある芳佳は普段通りの反応
   ・リーネとペリーヌは似た反応を返すが、実際は「ガリア戦を経験している」ペリーヌは驚きよりも痛ましそうな反応を、リーネは単に驚きと哀れみが半々の反応をする
   ・美緒は、きょとんとした後、優しく微笑むとか。 「ああ、なんか乗り越えたんだな」と勝手に解釈した反応。
 ・主人公はとりあえずペリーヌと芳佳を意識する。 美緒とリーネはなるべく視界に入れないように。
  ・美緒の微笑みに何か感じる物はある物の、気にする余裕はない。
 ・湯船につかってのんびりして、話をしていると入ってくるバルクホルン。
  ・慣れてしまえば普通。 主人公の胸のサイズに炎を燃やすペリーヌ。
  ・バルクホルンも、あまり視界に入れないように振る舞う主人公。
 ・久しぶりの風呂なので、ゆっくりしようと思う主人公。
 ・ここで一旦シーンカット。


シーン6:オホーツク海にきゆ
 ・脱衣所に到着し、分かれるウルスラとエーリカ
 ・ウルスラは搬入班に、自分は基地に一日留まるとの連絡を入れに行く
 ・エーリカ、普通に脱いで適当に脱衣籠につっこむ。 籠の位置は主人公のの隣。 そして入室。
 ・ニコニコしながら入っていく。 何事かとバルクホルンが聞くが、秘密、と言い張る。
  ・双子のウルスラの事を知っているのは部隊でも少ない。 驚かせてやろう、という魂胆。
  ・主人公の身体に関しては、そんなに気にした様子は見せない。
   ・実際の所はそれなりに思うところはあるが、それを表に出さない、と言う描写。
 ・そのころ、一旦脱衣所に戻ってくるウルスラ。 手間を少なくするため、整備員達と話す(=増加艇体の話とか)から少し遅くなるかも知れない、と伝えに来た
  ・脱衣所にはもう居ないエーリカ。
  ・中に伝えようかとも思ったが、きゃいきゃいしているのを聞いてまぁ良いか、と思う。
 ・ふと、脱衣籠に目が行くウルスラ。
  ・目に入る姉のズボン。 ただし二つ。
  ・一つは主人公が履いていた物。 もう一つはエーリカの物。
  ・何かの間違いかな、と思い、手に取るがやはりエーリカのズボンである
  ・何かの拍子に、姉の換えのズボンが混入したのかも、と思い、とりあえず姉の部屋に返しておこう思うウルスラ。 ズボンをポッケにIN。
  ・そのまま、格納庫に。
 ・入れ替わりに、ルッキーニとシャーリーとすれ違う。軽く挨拶す。
  ・なんか今のエーリカ変じゃなかった? と首を傾げる二人。


シーン7:はんにんはヤス
 ・飛び込んでくるルッキーニ。 風呂に飛び込むルッキーニ。 風呂では静かにしろ、と怒る美緒。 あんまりはしゃぐなよ、と注意しながらのんびり入ってくるシャーリー。
  ・それぞれの反応を返す。
 ・シャーリーのスタイルに再度どきどきしかける主人公だが、よく考えたら似たような露出度のビキニ姿を見ていた。
  ・局部さえ見なければ大丈夫だ!
  ・そして主人公の身体に反応を返す二人。
  ・シャーリーは全然気にしない。 ルッキーニは心配そうに痛くないの? と聞いてくる。 平気だと返す主人公。
 ・へーきへーき、と言うエーリカ。 を見てぎょっとするシャーリーとルッキーニ
  ・すわお化けか。
  ・それを聞いて、ウルスラが来ているのか? という事に言及しようとするバルクホルンの口を塞いでから、エーリカは風呂を上がる
   ・風呂を上がる理由:一旦戻ってきたって事は迷った? もしくは何か伝えることでも出来たのかな、と言う判断
  ・呆れるバルクホルン。 首を傾げるその他大勢。
 ・暫くして、みんなで風呂を上がることに。
  ・主人公、ズボンがないことに気付く。 どうしてこうなった。
  ・ルッキーニを一瞬見て、選択肢から除外。 となると、一人しかいない。 というか原作の犯人である。
  ・はんにんはフラウ


シーン8:エーリカ包囲網
 ・エーリカを探す主人公とバルクホルン
 ・手伝ってくれるのはシャーリーとルッキーニ
  ・理由:何か面白そうだから
 ・手分けして探すことに。
   ・すーすーするヴィルヘルミナ。
 ・コンパス:役にたたねぇ!
  ・ズボン何処? → 皆の下半身を指す針
 ・主人公はサーニャとエイラに聞く。
  ・サーニャとエイラの証言に齟齬。
   ・サーニャは食堂の方に歩いていったと証言。
   ・エイラは外を歩いていたのを見たという。
  ・時間からして移動は無理。 首を傾げる三人。
  ・例のお化けかも……と言うエイラ。 一瞬ひるむが、昼間からは出ないよ、と思い直すサーニャ。
 ・暫く走り回って、食堂に集合。当然だがエーリカは居ない。
 ・シャーリーとルッキーニも、齟齬のある証言(整備員とかの証言)に振り回されて、混乱していた
  ・分かれて探していたときに、二人とも別々にミーナとも少し話をしたよ、という話
  ・合流した後一回見つけたけど、大声を上げて追いかけたら逃げられた、とのこと。
  ・そりゃ普通逃げるだろう、とバルクホルンと主人公。 
  ・ただ、何かしら怒られるような事に心当たりがあるから、逃げたんだろう、と溜息を吐くバルクホルン。 
 ・それらの証言からバルクホルンは、確信する。 今、基地にはウルスラが来ている。
  ・ただ、ウルスラはそんな悪戯とかする性格では無かったと思うから、おそらくはエーリカの思惑の外で動いているはず
  ・というかズボン無くなるとかエーリカは何を考えて居るんだ、と頭を抱える。
 ・広い基地内、何処にいるかの特定は難しい。 とりあえず、手分けして探すしかない、という結論に落ち着く。
  ・呼び出しをかけても素直に出てくる可能性は低い。

シーン9:一計
 ・バルクホルン、ウルスラと遭遇する。
  ・眼鏡をかけているところからウルスラと判断。 エーリカの居場所を聞く。
  ・戸惑うウルスラに、事情を説明。
  ・原因は自分では、と話すウルスラ。 そんなことで振り回された自分に呆れるバルクホルン。
   ・隊に被害が出たとかそう言うことでもないのに、なんで休日にこんなに溜息を吐かなければならないのかと悲しくなる
  ・とりあえず、どうやればエーリカを呼び出せるかを相談するバルクホルン。
 ・勲章の授与式があるから、どうせそのうち出てくる、というウルスラ
  ・そろそろ、と思っていたが、勲章自体の話を聞くのは初めてなバルクホルン
  ・めでたい話だが、エーリカのことだから平気ですっぽかすかもしれん、との言に不安になってくるウルスラ。
 ・ふ、と考え込むウルスラ。 そして、策があると伝える。

シーン10:警報
 ・鳴り響く、ネウロイ襲来の警報。
 ・格納庫に駆け出すウィッチ達。
  ・座学の途中だった芳佳組、美緒のネウロイの襲撃が不定期な事に関する愚痴を聞く。
 ・やや遅れてくるエーリカ。 さらに一人だけ遅れてくる主人公。 スースーして走りにくいし、どうせネウロイの襲撃が無いことは解っているから。
 ・それを咎めるミーナ。 素直に謝る主人公。
 ・とりあえず、集合訓練みたいな物だ、という説明。
 ・そして、ウルスラの紹介。
  ・ウルスラ、主人公に謝罪。 騒動の原因は自分であると伝える。
  ・面食らう主人公。 双子の性格違いすぎる事に驚愕を受ける。
  ・とりあえず洗濯物が乾くまで、我慢してね、と困ったように笑うミーナ
 ・その後、エーリカの勲章授与の話。
  ・おめでたいね、という雰囲気の中、締め。


シーン11:疑心暗鬼
 ・ミーナは夜、自室で考える。主人公だけ、慌てたり焦ったりする様子もなく、格納庫にやってきた。
  ・警報を鳴らして主人公の行動を観察してみよう、というウルスラの判断。
  ・今まで、そんなことはなかった。 警報が鳴ったら、真っ先に走り出したり、準備をしていた。
  ・ミーナの疑惑:ネウロイが来ないことが解っていた?
   ・シャーリーから聞き出した話:音速を超えた日、なんか空について変なことを言っていた
   ・ルッキーニから聞き出した話:「今日だっけ?」みたいな呟きを、バルクホルンが負傷した戦いの時に言っていた
   ・主人公は予知の魔法を持たない。 それは確実?
 ・一旦気にし始めると、気にならなかった行動が、全て疑わしく見えてくる
  ・そういえば、大陸の方に、なにか魔力で発信していたような様子があった
  ・講習中に、突然首を振ったりとか、変な行動
 ・自分の甘い判断が、とんでもない危険をはらんでいた事に苦悩するミーナ。
 ・確定した訳ではないが、考えれば考えるほどクロに近いグレーに思えてくる。
  ・思考が一方向しか向いていないことに気付き、それを戒めるミーナ。
   ・事実として主人公は隊の皆を助けている、しかしそれは本当に助けているのだろうか?
 ・自分と、そして隊の安心のため、取りうる行動を全て取ろうと決心するミーナ。
  ・ブリタニア国内で使えるコネを使って、ウィッチ型ネウロイの情報を収集しようと、受話器に手を伸ばしたところでエピソード終わり。



[6859] Plot:Episode7 "Past Rising Again"
Name: kd◆18be6bde ID:bf8eee8a
Date: 2010/11/20 09:26
Plot For Episode7 "Past Rising Again"

・ペリーヌ回。
・ペリーヌフラグ、立つと見せかけてぼっきり折れる。 ハーレムルート閉鎖のお知らせ
・ミーナさんの話はアニメ以上に弄ると変になりそう。ついでに作品全体でのペリーヌの影が薄いのでフィーチャリングする。
・ペリーヌのツンウザっぽいところを描写してきているので、そのイメージを払拭するためにちゃんと格好いいキャラとして描く
・理由:アニメ八話の戦場はパ・ド・カレー。 ミーナの撤退戦の話であったが、ペリーヌの実家はパ・ド・カレー伯である。秘め話より。
・ペリーヌも故郷に思うところがあるはず。
・起承転結で、転である。 小さかった齟齬が悪い方向に大きく傾く。その辺の描写を努力
・主人公が自分の矛盾を抉られすごくヘタレる。 次エピソードでひたすらヘタレるのに説得力を持たせる為に、ショックを大きく描写するよう努力。
・主人公のあり方と、ウィッチのあり方の齟齬を、以前より濃く描写し始める
・前回の明るさと対比できるように、暗い部分がんばる
・前回に引き続き、構成を変える。今までは1-3が日常、4で戦闘、5でエピローグだったが、それを崩すことで変化をさり気なくアピール
・Past Rising Again。 よみがえる過去。立ちふさがる過去。
・ペリーヌの過去話とか、主人公のコンフリクトとかその辺。


#1
シーン1:花壇での話
 ・朝食後、ミーティングまでの少し空いた時間に散歩している主人公。 中庭のはずれの花壇のような場所で、ペリーヌを見かける
 ・草花に水遣りをしているペリーヌ。
  ・見られているのに気づいて、何時もどおり噛み付いてくる
 ・普通に受け流す主人公。 不快になるペリーヌ
  ・何となく空気を持ち直すために、草花について質問する主人公
 ・薬草、ハーブの類だと語るペリーヌ。 色々な草花の名前と、マリーゴールドの名前を挙げる。
  ・マリーゴールドティーのまずさを思い出す主人公。
  ・微妙な表情になるペリーヌ。
   ・不味いマリーゴールドティーは、淹れ方を教わらなかったため
  ・ただし、ペリーヌは主人公のことを余り好きではないので、本心は見せない。
 ・ハーブティーの淹れ方なら、教えれるかも、と言う主人公
  ・リーネが確かお茶の淹れ方の本を持っていたはず。 あるいは図書館だったかもしれない
  ・余計な気遣いは無用、と拒否するペリーヌ
  ・うーむ、プライド高いなどうすんべ、と思う主人公
   ・が、そのボーっとした思案の沈黙を、じっと見つめられていると思うペリーヌ。
   ・少し思案。 ペリーヌ、諦めたように受諾。
    ・いろいろぶつぶつと自分を納得させる理由を言う。 基本的にはやはり、お婆様から頂いたマリーゴールドのお茶を不味いといわれたのが相当キている
     ・でも美緒にいいところを見せたい……みたいなことも言う。欺瞞欺瞞
     ・主人公は鈍感なので気づかないはず。 後の何処かで描写したほうが良いか?
  ・美緒を引き合いに出して釣る主人公。釣られるペリーヌ。
 ・会話が途切れたところで美緒がミーティングの時間だと窓から伝える
  ・この件は後で話しましょう、でシーンエンド


シーン2:ミーティング後、扶桑人形
 ・特につつがなく終わる朝礼。解散前に呼び止められる主人公と芳佳。
 ・司令室に連れて行かれる。 中で待っていたのは、赤城艦長。
  ・芳佳と主人公に礼を言う艦長
  ・芳佳がウィッチとして成長していると美緒から聞き、喜び励ましてくれる艦長、照れる芳佳
  ・ああ、そういえば扶桑人形かぁ、と思い出す主人公。
 ・そして扶桑人形を渡され、疑問を浮かべる主人公
  ・赤城を救ったのは主人公になっている。 気まずく思う主人公。
  ・どう見てもフィギュアです、ありがとうございました。
  ・ただし漆塗り、螺鈿、金箔、象眼等の和人形用の高級技術使いまくりである。島国根性パネェ! 扶桑人パネェ! マジパネェ!
 ・芳佳に後で譲ろうと思う
 ・赤城に招待したい、というのは原作どおり拒絶するミーナ
  ・ちょっと主人公を見る目が厳しい。
  ・疑問に思う主人公。生理かな?


シーン3:色々と思うところあり
 ・芳佳とリーネと一緒に格納庫に向かっていたら、少年兵に呼び止められる
 ・予想通り恋文を頂く主人公。 引きまくる主人公。
 ・騒ぐリーネと芳佳を尻目に、手紙を突っ返す主人公。
  ・酷いとは自覚するが、少しでも期待を持たせるのもよくないと男として思っている
  ・相手が悪かったな、と年上ぶって内心慰める主人公。 当然表には出ない。
  ・がっくりして走り去っていく少年兵
 ・文句を言う二人。
  ・主人公の返答:必要以外に、基地外の人間と接触を持ってはいけない
  ・そういえばミーナさんがそんな事言っていた様な…
 ・色々考える主人公
  ・ミーナのこと、男子禁制な事
  ・久しぶりに面と向かって話をした「男」である
  ・自分の感性や、女になってもう二ヶ月か……と言ったレベルの話
   ・終わりが近いかな、と思う
   ・薄れてきているアニメの記憶と以前の現実の感覚
   ・主人公の真剣性を薄める為に、そういえば次の生理そろそろか、萎えるなと濁しておく
 ・リーネにハーブティーの本を借りよう、と話を変える主人公
・なんで、と聞くリーネに、秘密と答える主人公
  ・訓練が終わったら、と約束してシーンエンド


#2
シーン4:ミーナさんがんばる
 ・司令室で椅子に深く腰掛けて、思案する。
  ・くるくるとペンを回したり
  ・物陰から見ていた、主人公達のやり取り。
  ・心配していたこと……外部との不必要な接触の原因は発生しなかったことに思いを馳せる
  ・色眼鏡を通してみれば、主人公の行動にいくらでもネウロイ側とのつながりを示唆する理由付けは出来る
  ・だが、普通の反応としてもとることは出来る
  ・一人で考えることは難しく、大変である
 ・机の上には朝届いた書類。 検閲印とかが押されていない、まっさらな茶封筒(=非正規のルートで手に入れている書類であるアピール)
  ・内容は、概要程度であるがウィッチ型ネウロイに関してのこと。ミーナのコネではこれくらいが限界
  ・ウィッチに憑依したり、洗脳したり。
   ・戦闘力や技術のコピーが主な目的。
   ・スオムスだけでなく、各地で確認されている。
 ・窓の外、訓練飛行をしている主人公とカールスラント組
  ・問題ないように見える。
  ・一人だけ遅れているのはエーリカ。
   ・結局Me262は肌に合わないと判断したらしい、との描写
    ・史実でMe262に乗ってなかったから。 しかしその所為でソ連強制労働コースだったからどうしようかねぇ
    ・尖った性能よりも小回りが利いたほうが好みなエーリカ
     ・武器も、秘め話曰く、大砲持っていくよりもMG42に弾薬たくさんのほうが好み
    ・速度だけなら、短時間だがシュツルムで比肩出来るという理由もある
 ・情報が圧倒的に足りないのに、調べれば調べるほど不安になってくる
  ・不安といえば、美緒の魔法力も、である。健康診断などで、魔力の低下が見られる、という報告が来ている
  ・美緒はもう20歳である。 何時、シールドの強度が必要値を下回るか判らない
 ・よくわからない情報も入ってくる。 海軍にマロリー大将が頭下げたとか下げないとかそんな話
 ・悩みは多い。誰か信頼できる人間に手助けを請いたい。
  ・バルクホルンとエーリカ:無理。 理由:二人とも腹芸、というかその手のが出来ないであろうという判断
  ・美緒に助力を頼むかどうか、悩みつつシーンエンド


シーン5:ハーブティー淹れるよ
 ・夕食後、二人で台所に立つ主人公とペリーヌ
  ・欺瞞が大変だった。 ペリーヌ、頑張る姿をあまり見られたくないらしい
   ・芳佳とリーネが後片付け終わるの待ったりとか。 プライド高いなぁと思う主人公
 ・本を片手に、抽出だのなんだの手間暇をかける描写。 マリーゴールドはフレッシュでもお茶に出来るので大丈夫。
  ・主人公の想定を超えて案外器用に色々こなすペリーヌ。
  ・ペリーヌは割と料理が得意。ファンブック曰く。
 ・数回の試行の後、それなりに飲める代物が出来上がる
  ・爽やかな臭い、ほんのり苦みの、透き通った金色のお茶。 前回は煮出しすぎて苦くなった
  ・ポットマリーゴールドティーはフレッシュでも大丈夫
  ・多少水っ腹、随分と真っ当な風味になった、と思う主人公。
  ・納得しない顔のペリーヌ。祖母が淹れてくれた思い出の味と違うため。
 ・淹れ方を知らなかったのになんでマリーゴールドティーなんて出そうと思ったのか、疑問に思う主人公。言わないけど。
 ・とりあえず真っ当な淹れ方が出来たため、講習は終わり。
  ・なんか納得して無い様だけどいいの? と問う主人公に良いんだと返すペリーヌ
  ・黙る主人公。 語るペリーヌ。
   ・悲しそうに、とかは絶対に無し。 誇りのあるキャラクターを描写。 格好良く。ノブレスオブリージュ、みたいな
   ・ペリーヌの家系は、もともとは薬草系の魔女の家系。
   ・ペリーヌは、そんな家系に生まれた、珍しく戦闘に適正のある魔女
    ・ついでに言うなら、ペリーヌの”雷撃”のような攻撃的な魔法は魔女の中でも稀有な物
   ・一族の期待を一身に背負って航空歩兵になったものの、ペリーヌが実戦に出る前に、ガリアは陥落
    ・ペリーヌは苦労と努力の人。 才能で飛んでるっぽい芳佳にライバル心を抱くのはこの辺かしらん。
   ・大西洋側、ガリアの拠点港であるパ・ド・カレーはペリーヌの故郷。 たびたび空爆を受けて、一家はペリーヌを残して全滅
   ・撤退戦の中、確保できたのは祖母にお守り代わりに貰ったハーブの種が何種かと、家伝のレイピアだけである
 ・黙る主人公に、見栄を切るペリーヌ。
  ・同情や憐憫は不要。 ペリーヌは貴種である。 貴種には貴種の覚悟がある。 かっこよく笑う。
  ・ペリーヌの問いかけ「貴女だって、貴女の覚悟があるんでしょう?」
   ・今回のことで多少態度を軟化。
    ・もともと、嫌っている理由は美緒への態度とか変なからかい方したのが理由である。
    ・少なくとも、芳佳よりは認められている主人公。
   ・ペリーヌの言葉に、自分の覚悟を再確認する主人公。
    ・固い決意を描写することにより、主人公の現段階での理念を再提示。
     ・本エピソードでの崩壊を印象付けるため、それを頑なに信じているように描写
    ・”別にその他大勢がどうなったって良い、とりあえず身の回りにいる人たちをどうにかしよう”
     ・自分の身に余ることはやらない。自分の分というものをわきまえる
  ・芳佳への愚痴とか美緒への崇敬の話に発展。何時ものペリーヌか、と思い気が抜ける主人公
 ・時計を見て、遅いのを確認する。ペリーヌ、もうすこしだけ試してから寝る、と伝えて、分かれてシーンエンド
 ・マリーゴールドの効能の一つに、覚醒作用がある。 なんか寝れなくて呻く主人公


シーン6:時間の経過
 ・何事も無く時間が経過していく描写。
  ・嵐の前の静けさ的な、穏やかな描写をしておく。
   ・ただし、嵐の前の静けさという表現は無し
  ・訓練したり、お風呂は言ったり、夜、サーニャと交信したり。
  ・ペリーヌが隠れてお茶の練習してるのを眺めたり。努力の子です
 ・本当に、特に何事も無くすべてがつつがなく進んでいく。
  ・尺埋め的に、間延びさせても良いか?
・間延びさせる場合のネタ:ちょっとだけ伏線回収
   ・ルッキーニに飛行を教わる主人公。
    ・擬音語だらけの説明に頭を抱える。 ギューンといってキュッと曲がってうにゃー!どかーん! みたいなの。
   ・トゥルーデ、主人公、エーリカの三人でMe262で戦闘練習
    ・相手は阻塞気球とか、あるいは新人組+美緒さんの四人とか
    ・小回りが利かず、編隊戦闘が出来なくてMe262側は負けないものの、わりといい勝負になってしまう。これどうするよ、みたいな雰囲気。
    ・芳佳、エーリカに当てる。ちょっと図に乗る芳佳、直後の再戦で普通のストライカーに乗り換えたエーリカにボゴボゴにされる。呆れるペリーヌ。

#3
シーン7:ティータイムに襲撃
 ・ティータイム。
  ・時期的にそろそろネウロイだなぁ、と皆うっすらと思いつつモラトリアムを楽しむ感じ
  ・ネウロイ予報は、もうほとんど信じていない描写。
 ・主人公は、今日はカールスラント組と一緒。ミーナも一緒。
  ・他の組み合わせは、エイラーニャ+シャッキーニと、坂本+若手三人
  ・今日は風が強めなので、皆で集まるようにしたら、こういう割り振りになった。
 ・今日のお茶の準備は、リーネと芳佳ではなくペリーヌ
  ・以前出されたマリーゴールドティーを思い出して苦い顔になるルッキーニとかエイラとか。
 ・あの時は少々調子が悪かっただけですわですわ! とばかりに、自信を持ってお茶を出すペリーヌ
  ・皆恐る恐る飲む。 主人公だけごくごく。  
  ・普通に美味しい。 吃驚する芳佳とかエイラとか。
 ・主人公に見つめられて、ふふん、と自慢げに振舞うペリーヌ
  ・リーネに褒められて、当然ですわ! ふふん!するペリーヌ
  ・芳佳に素直に褒められて流石に照れるペリーヌ
  ・そして美緒にほめられてデレるペリーヌ
 ・それを見て、いつもあんな感じだったら可愛いのにねぇ、とエーリカ。 口やかましいのは嫌い
  ・誰とは言わないが、ペリーヌが文句を言うのも尤もだと思うぞ、とバルクホルン
  ・少し口論。 可否の判断を振られる主人公。 エーリカの敗北
  ・ミーナはペリーヌを見て微笑む。 ペリーヌの事情を知ってるので。
   ・主人公の事を監察するような視線も?
  ・なんだかミーナの口数が少ないので心配するバルクホルン。 大丈夫、と取り繕うミーナ。
 ・エーリカ、主人公の茶器に気づく。 ちょっと特別な金のティースプーン。
  ・リーネに貰った。 Interudeでの買い物のときにリーネが買っていたもの。柄になんか彫り物とかあってもいいかも。思いついたら。
 ・適時、エイラーニャシャッキーニの描写も混ぜておく。 煩そうだったりしたら無理に入れない。
 ・さて、もう一杯飲むか、と言ったところで警報。


シーン8:歪曲と戦闘
 ・先行して飛んでいる主人公
  ・完全に先行役が確定している。 単機は危険だが、足並みを合わせて飛ぶことのできる魔女がいるわけでもなく。
   ・主人公の習熟不足のお陰で、機種転換訓練が上手く行っていないバルクホルン。
   ・主人公は十分だと思っているが、速度・距離感覚と魔力消耗の差異の解消が残っているため、使い慣れたほうで戦うべきという判断をするバルクホルン
 ・編成は美緒・芳佳・ミーナ、リーネ・ペリーヌ、バルクホルン・エーリカ。 アニメ通り。
 ・主人公の装備はMG42二丁。 団体戦の為のはずのため、Mk108は持ってこなかった。
  ・なんかこっちのほうが良い様な気がしてきた、等の適当な理由で誤魔化してきた
 ・レーダー魔道針を展開して飛行。 感があった時点で上昇しながら報告。 目視を試みる
  ・双眼鏡で確認。 視認出来るのは、巨大な立方体型のネウロイと、その影に隠れるように飛んでいる、二体目のネウロイ
   ・限りなく接近して飛ぶことで、レーダーに一個体として映るように飛んでいる
   ・二体目のネウロイのモチーフはミステル爆撃システム。 一見、上部が極端に小さな歪な複葉機だが、上部が戦闘機型、下部が攻撃機型
 ・予想外の展開に驚愕する主人公。 一体何が起こっているのか、と思いながら敵が二体だ、との報告を行う

 ・報告を受けたミーナ、美緒と相談する。 基地に残っているウィッチは二人。 シャッキーニ。
  ・エイラとサーニャは夜番の後なので無理。
  ・敵は大型二体、と聞いた時点でミーナは基地に連絡、二次防衛ラインの展開を要請する。主人公には待機命令
   ・後退してシャッキーニと合流し迎え撃つべきだというミーナ。 このままの戦力で撃退できると主張する美緒。安全策vs強攻策、みたいな対立。
   ・基地からの連絡。 ブリタニア空軍に連絡したが、ウィッチ隊の展開に時間がかかるかもしれないとの事。舌打ちするミーナと美緒。
   ・マロリーの顔が浮かぶが、そんなこと考えている暇ではない。
 ・不安になる芳佳とリーネを侮蔑するペリーヌ。 それを嗜めながらも二人を叱咤するバルクホルン、茶化して空気を柔らかくするハルトマン
  ・各人の集団の中での役割みたいな。嫌われ役・引き締め役・ほぐし役。
 ・口論している間に、主人公からエンゲージの報。 見つかった。 なし崩し的に、美緒の案が通る。
 ・主人公に、此方に逃げてくるように指定。 高度は雲より低く、を指定。
 ・皆、高度を取っていく。 取りながら、美緒は魔眼で観測。
  ・少しの後、見える主人公。 その背後で、分裂する立方体ネウロイ。 そして、遠距離なのに攻撃してくる=砲撃型のミステルネウロイ
  ・ネウロイが本気を出したか、と思い気を引き締める新人二人以外を描写
  ・ミーナ、シャッキーニに撃ち漏らし迎撃の命令を下す。 数に任せて突破されるのを恐れたため

 ・ひいひい言いながら逃げる主人公。 余裕で速度が勝っているので追いつかれてはいないが、ミステルネウロイにバカスカ撃たれまくる
  ・後ろにシールドが張れないのと、完全に「輪」から外れた状況にパニックに陥っている。 何が起こるか知っている、という余裕が崩されている。
 ・そのまままっすぐ飛んでいろ、という美緒の通信。 見上げれば、雲間から突っ込んでくるウィッチーズ。
  ・突出して追いすがってきた分裂ネウロイを交差と同時に一掃してから、ロッテ・ケッテ単位でブレイクするウィッチーズ。
  ・ミーナの心配を他所に、乱戦に乗ってくるネウロイ
 ・大きく弧を描くように旋回する主人公。

 ・各ペア・トリオの戦闘の描写。 乱戦は此処だけなのでなるべく詳しく描写。
 ・ミーナ・美緒・芳佳組
  ・美緒と芳佳がミーナ=部隊長の直掩という形。
   ・基本は芳佳が射撃して移動方向を制限し、美緒が撃ち落していくというもの。 ミーナは魔法を使って戦況判断、優先度付け。 足はとめない。
   ・ミーナは、戦場から抜け出そうとしている分裂ネウロイが居たら、優先的に他のウィッチに連絡している
   ・ミーナ、ヴィルヘルミナがMk108を持ってこなかったことに疑念を抱く
  ・芳佳、ミステルネウロイからの砲撃をシールドで防ぐ。 反撃しようにも、分裂ネウロイがそうさせてくれない。
   ・分裂ネウロイをどうにかしなければ、ジリ貧であるとの判断。 ミーナと美緒が交代、美緒が分裂ネウロイのコアを探そうとする

 ・ペリーヌ・リーネ組
  ・レイピアリスペクト
  ・ペリーヌ、単体でブレンをバリバリ撃ちながら戦闘。 回り込んできた分裂ネウロイの編隊にブレンを打ち込みながら突撃
   ・弾切れ。 舌打ちしながら突っ込んできた一体にレイピアを突き刺して雷撃の魔法。 爆散するその粉塵の中から飛び出てきた一体に、シールドを張ろうとしたところで、そのネウロイが吹っ飛ばされる
   ・リーネの援護射撃。 余計な事を、と言いかけてから素直に礼を言う。そこで、ミステル型ネウロイの砲撃。 二人がかりでシールドを張って防御。
   ・リーネに狙撃を要請するが、分裂ネウロイが邪魔で狙いがつけられない。 あと、なんか倒しても倒しても減ってないような気がしている。
   ・埒の明かなさに舌打ち、足の止まっている二人に全周から向かってくるネウロイ。 髪が逆立つから嫌、といいながらもリーネに巻き添えを食らわないように気をつけろ、といってから、雷撃で一掃。
   ・ちらりと見る大陸側、ペリーヌ、くっ、と思って戦闘再開

 ・カールスラントペア
  ・なんか変態機動っぽさを描く。 力のバルクホルン、技のエーリカみたいな?
   ・MG42二丁でバリバリ撃ちまくるバルクホルン。 割と強引に。
    ・撃ちすぎて赤熱したMG42のバレルをすれ違いざまに分裂ネウロイに叩きつけたりする。
     ・その反動で無理やり方向転換とか。
   ・エーリカ、数機を引き付けて、胸を支点に逆上がりのような動作=クルビットでオーバーパスさせて撃ち落す。
    ・速度低下したところに寄って来た別の数機を、シュツルムによる加速に巻き込んで撃破。
  ・二人とも、空中で合流。 停止はせず、常に動き回る感じで。 合流の際にエーリカに空中倒立させる?
   ・並んで飛行。 スコア争いの話。 久しぶりに稼げるね、というエーリカに、そんな余裕があればな、と返すバルクホルン
   ・二人とも同時に背面飛行に入り、背後に迫っていた一体を撃墜
    ・今のはどっちのスコアだ、と言い合ったところで左右にブレイク。ミステルネウロイの砲撃。
  ・層が厚くて近寄れないミステルネウロイ。そういえば主人公は何処に行った?

 ・主人公。 雲を隠れ蓑に、直上からミステルネウロイに突撃
  ・かなり近くまで接近できるが、MG42では致命傷を与えられない。
  ・ハンマーを投げつけるが、片方の翼を砕き折るものの貫通してしまう。すぐに再生される。焦る。
   ・主人公が今まで戦えていたのは結局は事前に相手のことを知っていた部分が大きい、みたいなのを間接描写。
  ・張り付いてMG42打ち込みまくるものの、効果が薄い。
  ・自分が何とかしなくては、という焦りから来る義務感。Mk108を持ってこなかった後悔。
 
 ・主人公がミステルネウロイに張り付いたことで、ネウロイ全体の動きが変わる。それを察知するミーナ
  ・ミステルネウロイが戦場を離脱する動きに変わる。
  ・分裂ネウロイはウィッチたちの動きを制限する動きに
  ・ミステルネウロイを止めようとするが、分裂ネウロイの所為で追いすがることが出来ない
 ・ミーナ、すでに張り付いている主人公と、周囲に分裂ネウロイの数が少ないリーネとペリーヌを追撃に向かわせる。 残りは、リーネペリーヌ組の離脱の援護
  ・ミーナ、ペリーヌに主人公の動きに気をつけるように言う。ペリーヌ、困惑しつつも了解。

 ・分裂ネウロイ側。ペリーヌとリーネを欠いても、ウィッチ側に押されていく。 ただし、大陸側に後退しつつも、隙があれば浸透しようという動き。
  ・こちら側は基本はアニメのノベライズ。 芳佳さん、初めての撃墜とか美緒のシールドが破片に破られるのをミーナが目撃するとか。
   ・掃討にそれなりに時間がかかる描写をしておく。
  ・大分苦しいが、ミーナ、ドレスを回収する。 追いかけても、今からでは遅すぎる、と判断したため。

 ・ミステルネウロイ側。主人公、依然として撃ちまくるが、相手のサイズゆえに有効打を与えられない。
  ・美緒の魔眼=ネウロイのコア発見能力がどれだけ優れているかを実感する。同時に、ネウロイの強大さ。
  ・速度差がかなりあるので、追い越し→旋回→再アプローチ、の繰り返しで連続的に攻撃が与えられない。
  ・ミステルネウロイ、分離。こいつも分離型。 上の小さい奴が、護衛機ッツラして反撃を試みてくる。
   ・避けながら追撃。するものの、非常に困難になってくる。
  ・ペリーヌ、リネット登場。 現在地は、ブリタニアの沿岸部が見えるほど。 シャーリー、ルッキーニ共にこちらに向かっているとの通信。
   ・内陸への足を止めないネウロイ。 護衛ネウロイの所為で積極的アプローチが出来ない三人。上手く連携するネウロイ側と、いまいち上手く行かないウィッチ側
   ・依然として、爆撃ネウロイの方の足を止められない。寧ろ護衛ネウロイが抜けた分軽くなったのか速度を上げる。ペリーヌがやたら焦りを見せる。主人公とは別種の焦り。
  ・じりじりと距離を開けられる。ペリーヌ、痺れを切らして突撃。 援護するリーネ、慌ててアプローチする主人公
   ・ペリーヌ、無理に護衛ネウロイを振り切って、爆撃ネウロイを射程に捕らえる。 魔法で一撃しようとした瞬間、脇から飛び込んできた主人公に抱きかかえ押し出される
   ・ペリーヌが数瞬前まで居た場所=主人公の右のストライカーを焼く、護衛機のビーム。 カスっただけだが、ストライカーが煙を吐く。新しい技術を投入したデリケートな新鋭機。
  ・あれなら行けたのに、何をする、と激怒するペリーヌ。危ないだろう、という主人公。しかし、ペリーヌはそんなの関係ない、という
   ・ペリーヌの認識:ブリタニアの内地に被害が出てはいけない。 自分のような悲しみを他人(≒リーネとか)に抱かせたくない。 自分のような境遇の子供を増やしたくない。
    ・子供達を疎開させても、親達は依然として町にいる。 戦争に親が行かずとも、街に被害が出れば悲劇は起こる。
    ・戦争が終わって子供たちが帰ってきたとき、思い出の風景がなくなっていたら、とかそういうの。
   ・主人公に、覚悟は嘘だったのかと問う。応えられない主人公。ここから本格的に主人公かっこ悪いモード発動。
    ・知ったこっちゃ無い、死んだら元も子もない、見たことも無い人のために死ぬとかアホか、と自分に言い聞かせるが、大分ヘタレる。
    ・身近な人だけ守れればいいじゃないか、人は万能じゃないんだよ、みたいな。
  ・戦闘機動が不可能になったため、戦場を離れろと言われる主人公。 足手まといですわですわ!
   ・それを狙う護衛ネウロイ。足手まといになることに怒りと苦渋を感じる主人公。離れていく爆撃ネウロイ。悪化する状況。
   ・リーネ、狙撃しようとするが、巧みに護衛ネウロイに邪魔される。
  ・騎兵隊登場。シャッキーニ。主人公、後退する。 リーネ&ペリーヌ、シャッキーニ、護衛ネウロイを片付けにかかる
   ・シャッキーニ、ブリタニア側の迎撃が出た、と伝える。 とりあえず目の前のを片付けよう
   ・不安になりながらも、ペリーヌ、気を取り直して護衛ネウロイを叩き落しにかかる
   ・後退しながらその光景を見て、鬱屈する主人公。自分に言い訳する主人公。
   ・四人が撃墜したのを目撃して、シーンエンド。


#4
シーン9:デブリーフィングとショッキング
 ・デブリーフィング
  ・粛々と行われるデブリーフィング。
  ・爆撃ネウロイの方は、ブリタニアのウィッチ達が迎撃に成功した、という話。
   ・被害は軽微である。それを聞いてホッとするリーネ、と主人公。
  ・芳佳初撃墜の話。リーネと芳佳のやりとり。イラつくペリーヌ。
   ・一部の人たちの中に流れる、なんとなく白々しい雰囲気。
  ・今回のようなことが起こっても大丈夫なように、各員一掃奮起するように、という言葉の後、解散
   ・赤城復活おめでとう会があるので参加したい人は参加してもいいよ、のお達し。
  
 ・退室していくペリーヌ以外の若手組(サーニャ以下)。 彼らが居なくなったところで、ペリーヌが聞く。被害の詳細は?
  ・息を呑む主人公。被害は軽微ではなかったのか? それで良いじゃないか?逃げの感覚にさいなまれる。
  ・被害を受けた街の名前。 それは、主人公達が買い物に行った街の名前。
   ・被害はたしかに軽微。ただし、病院に流れ弾(流れビーム???)が直撃。 遅れていた患者と、その避難活動に従事していた人員が死亡した。
   ・息を呑むブリーフィング残留組。病院、と聞いていやな予感を受ける主人公。
  ・ブリタニアの空軍は何をしていたのさ、と文句を垂れるエーリカ。 戦闘開始と警告から到達まで、部隊展開に十分な時間的余裕はあったはず
   ・ロンドンに向かうと予想し、その中間点で迎え撃とうとしていたが、実際の航路はロンドン行きではなかった
    ・実際には、展開開始が遅れていたのも原因
   ・文句を言っても仕方ない、とたしなめつつも、苦い顔を隠さないバルクホルン。
   ・それは、あちらの方で対策を立てるだろう、というミーナと美緒の返答。
  ・自分の力不足です、と謝罪するペリーヌ。 美緒もミーナも当然責めない。
  ・戦争をしているのだ。被害は少なく出来ても、無くすことは本来出来ないはず。今までが上手く行き過ぎていて、無意識に油断していたのだろうと言う話。各員気を引き締めろ。
  ・対応策は追って伝える。各員、今は思うところもあるだろうが、身体を休め、次のネウロイの襲撃に備えるように、と伝えて解散する。
   ・気晴らしに赤城復活おめでとう会に参加するのも良いよね、みたいな話。
  ・解散のとき、主人公のほうを見るペリーヌ。微妙な表情。それを見て、余計罪悪感を感じる主人公。
   ・エーリカとバルクホルン、(阻止できなかった)主人公を励ましつつ一緒に退室。主人公は無言。

シーン10:赤城復活おめでとう会
 ・赤城復活おめでとう会。
  ・歌うミーナとか。
  ・この辺は、アニメのノベライズで適当に尺を伸ばしておく。

シーン11:現実となる不安
 ・その舞台影で、電話をかける主人公。 電話の先は、被害を受けた街の病院。
  ・繋がる。 出たのは男の声。 背後では、忙しそうな声が響いている。
  ・手短に頼む、という相手。 大丈夫、大丈夫、と自分を誤魔化しながらアイリーンの無事を問う。
  ・友達か何かか、と聞いてくる相手。主人公の応え。YES。相手、しばらく黙ってから、搾り出すように、アイリーンの死亡を告げる。
  ・向こうで男が何か言っているのを無視して、受話器を置く主人公。そのまま部屋へと歩いていく。

#5
シーン12:夜、悩む指揮官二人
 ・夜の司令室。 美緒とミーナの会話。美緒×ミーナ。
  ・ノベライズ。 ミーナ、美緒の心配をする。
   ・美緒がこのまま戦闘に出続けるならば、強硬手段も辞さない。美緒、撃つなら撃て、と言う。 自分は、自分が成すべきことをしているだけだ、と
   ・全盛期のウィッチなら猟銃で撃たれても痛いで済むが、今の私なら、至近距離の拳銃弾で致命傷を負うかもな、と言う美緒
  ・引き金にかけた指に力をこめるミーナ。震える手とそれを黙って見つめる美緒。
   ・涙を流して、出来ない、でも美緒を失いたくも無い、と言うミーナ。それに大丈夫、私は死なんさと応える美緒。
   ・無茶はしない、と約束する美緒。しかし、ミーナは部隊長として美緒に無茶を命令しなければならない状況を恐れている。
   ・ミーナが泣き止むまで、抱きしめている美緒。
  ・ミーナが落ち着いたところで、話題を変える美緒。 今回のことについての話。
   ・基本は、マロニー大将のこと。部隊展開が遅れるとか嫌がらせか?馬鹿なの? 死ぬの? 何考えてんだ、みたいな。
   ・今回、被害が出たところで風当たりが強くなるだろう、と言う話。 なんとか予算を回復したい、あるいは部隊増強につなげたい、という美緒。
   ・一瞬考え込むミーナ。 何事かと問う美緒に、少し相談したいことがある、と応える。
    ・ヴィルヘルミナのこと。 グレーゾーンにいると言う事実。 総合的に見れば白だが、色んな証言が彼女が黒である可能性を否定しない。

シーン13:夜、悩む子供一人目
 ・夜、ペリーヌの部屋。ペリーヌ一人称?
  ・腕で目を隠しながらベッドに寝転がっているペリーヌ。
   ・泣いているわけではない
  ・深く考えても仕方が無い。すでに起きてしまった事であるから。
  ・助けてもらった、その事実に感謝しなければいけない、と言うことは判っている。
  ・しかし、その所為でネウロイが撃墜できなかった事で被害が発生してしまったことがどうしようもなく圧し掛かってくる
  ・言いようの無いもやもやした気分。主人公の事を恨めしく思う。
  ・怒りの矛先が判らない。結局はネウロイが悪いのだが、今、それを擦り付ける相手がいないこと、擦り付けたい自分がいることに憤慨を感じる。
  ・机の上を見る。そこにあるのは小さな匂い袋とメッセージカード。主人公にあてたもの。
  ・素直に渡せそうも無い事実に余計嫌になりながら、疲れに任せて眠りに付く。

シーン14:夜、悩む子供二人目
 ・部屋で、布団を被って震えている主人公。
  ・自分は悪くない、自分の所為ではない、と言い聞かせている。
  ・しかし、自分のどこかがお前の所為だ、と言っている。
 ・外に出るのが嫌だった。親友がいなくなって、両親のお陰で立ち直って、その両親がいなくなってしまって。主人公はネアカだが引きこもり。
 ・一年肉声で話していなかった=引きこもり。 友達も居ません
 ・だから思っていた。今のような状況に放り出されて、傍にいる、少ない知り合いだけ大事に出来ればいい。
 ・自分の所為で、知らない人が幾ら死のうとも関係ない。だから、知り合いを増やさない。積極的に外に行かない?
 ・でも知っているのとは全く違う展開が起きて。知り合いが、しかも恩人の一人が死んで。自分には何も出来なかった、どうしようもなかった。
 ・ペリーヌとか芳佳とかリーネとかに嫌な顔をさせてしまった。そんな顔をさせないと決めていたのに。(Ep2)
 ・怖い。自分はどうすればいい? どうすればこれ以上知り合いが死なない? どうすれば皆が悲しまない?
  ・自分が居なくなればいい。だが、死にたくないし、消えると言ってもどうやって? 怖い。それに、変化はもう起こってしまった。
 ・結論=修正が必要。本来の流れを知っているのは自分だけ。自分で修正しなければ。これ以降は、できるだけ、本来の展開どおりに事が起こるようにしなければならない。
・混乱するように振れるコンパスとか?
 ・自分の理論が滅茶苦茶な事に気づかないまま、気づけないまま、あるいは無視しながら決心するところでエピソード終わり。





[6859] Plot: Episode 8, Final Episode, and Epilogue
Name: kd◆18be6bde ID:bf8eee8a
Date: 2010/11/20 09:26
Plot For Episode8 "Keep your dignity"

・起承転結、転から結への移行みたいな。終わりに向けての準備。
・ウォーロック系伏線の回収。War-Lock。 戦場にかける鍵。
・ヘタレまくる主人公。情けなさと言うか駄目さ加減を描写。駄目な奴であって、嫌な奴にならないように注意。
・シンデレラ曲線で言う谷。
・公式というかフミカネパパンに否定されたが、マロニーをちょっとかっこよく書く。
・下っ端が主役の物語では上層部は無能に描かれがちだが、実際はそんな事は無いはず。一定の才能が無い奴が上に立てる道理は無い。非常時ならなおさらである。
・”Keep your dignity”汝の尊厳と共にあれ”。マロニー達ウォーロック派、美緒、芳佳、三人の尊厳のあり方。 
・大人として、男として、軍人として少女達を戦わせ続けるわけにはいかないと言うただの人の矜持。
・扶桑海事変から続いてきた、敵を倒すことで力のない人々を守り、力を与えてくれた人に報いると言う魔女の信念。
・明確な形は無く、しかし自分に皆を守るという尊い行為が許されるならば、それを成したいと思う少女の願望。
・薄っぺらな決意が歪み、道を見失ってしまった主人公に対する励ましみたいなのをセコンダリミーニングに?。


シーン1:飛ぶ人たちと地上の人
 ・芳佳の訓練を地上で眺める主人公。生理中です。
 ・一緒に飛んでいるのはリーネとペリーヌ。
  ・前回の集団戦を鑑みて、一対二の練習。 芳佳が追われる側。
  ・周囲の確認をしながらの飛行、というか戦闘中に近視眼的にならずに周りを見る癖というかそういうのをつける訓練
 ・追い回される芳佳。「注意は前に2、後ろに9」という美緒。「合計したら10割以上ですよ!」「阿呆、実戦で実力の10割しか出せないと撃ち落されるぞぉ!」
  ・空戦記録のオマージュ的な? あっちは誤植だったっぽいけど
 ・追い回されながらも、どんどん上手くなっていく芳佳
 ・ペリーヌ、大分嫉妬しながら意地になって追いかける。 僚機役のリーネ、頑張って付いていく
 ・間もなく撃墜判定されるが、そこそこ満足する美緒
 ・鬱々する主人公

・生理だからと色々構ってくれるエーリカ、バルクホルン、エイラとか。
・芳佳に扶桑人形をあげる主人公。 説明する理由はかなり屁理屈。
・主人公ミーナさんもしくは美緒と座学したり。監視の名目。
・二日後、芳佳・リーネ組vsシャッキーニ組
・左捻りこみモドキでシャッキーニを下す芳佳。 怒るペリーヌ。 基本はアニメの通りで
・ペリーヌと芳佳の勝負。 主人公は審判役に呼ばれる。
 ・ペリーヌが模擬銃を使用しようとするのを主人公が止めたり。実銃を使えとか。
・勝負中、ネウロイ来襲のお知らせ
 ・芳佳、一人で向かう。 追いかけるペリーヌ。 武器を持っていない主人公が一旦基地に戻って報告とかすることに
 ・主人公はなんとか芳佳を独りで行かせたかったが、無理
 ・絶対に手を出すな、とペリーヌに告げる主人公。
・主人公、基地に帰って武器掴んだら速攻出撃。他人を待たない。 美緒さんも速攻出撃
・ウィッチ型ネウロイに翻弄される芳佳と困惑するペリーヌ。 敵だと思っていても今までの印象と違いすぎる
 ・ウィッチ型ネウロイの外見はポニテ。 飛行の描写はEP5の主人公の物に酷似させる
 ・アニメでも六話の芳佳たちと同じ飛び方をしているため。 EP5の伏線回収
・やや遠くから眺めている主人公。なんとかなりそうだー、と安堵、しかけて、この後起こることを思い出す。美緒さんが撃たれる。
・悩む主人公。 悩んでいる間に美緒登場。 射線上に居る主人公を突き飛ばして、芳佳とペリーヌに攻撃命令。
 ・状況を見て、主人公を黒と断定する美緒
・ペリーヌは従うが、芳佳は困惑したまま。戦闘態勢に入るウィッチ型ネウロイ。悩んだままの主人公。
・ペリーヌは芳佳を庇いながら戦い、主人公は悩んで動かず、美緒は攻撃を続ける。
 ・芳佳は何かおかしいと主張するが、美緒は聞かない。 美緒にとってネウロイは徹頭徹尾敵である。美緒のスタンスの描写
・結局、主人公は美緒を庇う。
 ・こんな狂ったような状況で、もう何がなんだか、何をどうしたら良いのかわからないが、この先たとえ最悪の結果が待っているとしても今、目の前で誰かが苦しい思いするのはもう嫌だ、みたいな。
 ・もうどうにでもなーれ☆ミ AA略。
・脇腹抉られて大量出血、意識不明の重体な主人公退場のお知らせ
・主人公を黒だと確信した美緒も困惑。 ペリーヌは芳佳をなじり、芳佳は必死で治癒魔法を掛け続ける
 ・皆を守りたい、という強いけど漠然とした思いを抱きながら、それが出来ず、守られたり寧ろ傷つけてしまう非力さに悔し涙したり
・謹慎処分を頂くペリーヌと芳佳。 お風呂で違和感を話したり
 ・ネウロイが何かを伝えたがっていた、という話
 ・本作ではネウロイは九割敵なので友好的な描写にならないように。 ネウロイの目論見は捕虜(ウォーロックのコア)の奪還である
 ・皆感じるところはあるものの、特にカールスラント組や北欧組が芳佳を諭す。
 ・ペリーヌは主人公を引き合いに出して責めたり責めなかったり
・ウィッチネウロイ再出現の報。皆で出撃。芳佳は寝不足。明け方に抜け出そうとして、悩んで思いとどまったため
・攻撃しようとする皆を、芳佳が止める。ウィッチネウロイ、集まった魔女たちの前でコアを晒し、ネウロイの巣の中へ誘う
 ・明らかに罠。 どう見ても罠。 だが、これまでかつてネウロイの巣の中に進入できた(そして帰ってきた)存在は居ない
 ・これは謎に包まれているネウロイの中枢を偵察、そして攻撃できるチャンスなのでは? と主張する美緒、危険だと主張するミーナ
 ・突入組:芳佳、リーネ(芳佳が行くので)、美緒、ペリーヌ(美緒が行くので)、バルクホルン(芳佳が行くので)、エーリカ(お姉ちゃんが無理しそうなので)
 ・待機組:残り。
・ウィッチネウロイ、巣の中で様々な映像を見せる。 主に戦いの歴史、ネウロイ視点で。 また、コア(ウォーロック)を弄っている人間の科学者の映像。困惑するウィッチたち
・外部待機組、サーニャのレーダーに高速接近する飛行物体が引っかかる。ウォーロックさん襲来。
・ウォーロック、巣にビームで攻撃を仕掛ける。 迎撃に大型ネウロイが四機ほど出るが鎧袖一触。 その後出てきたウィッチネウロイも一撃。
・ウィッチ達、困惑を深めながら蠢動を始めた巣から逃げるように基地に帰還する
・基地、滑走路の上でウィッチ達を待ち受けるマロニー大将とウォーロック。 驚いているところで、ジェットエンジン音が聞こえてもう一機(先に巣に攻撃したほう)が帰還してくる
 ・色替えても良いかも
・ウォーロックのお披露目。 もはや魔女など時代遅れだよ! 判るかねチミィ! みたいな高圧的な態度
・同時に、501の即時解散命令
 ・異議を唱えるミーナとか美緒。 多分の自由裁量を認められているものの、指揮権は租借地であるブリタニア空軍下
 ・だが、国際協定に基づいて設立されている統合戦闘航空団を容易に解体できるはずがない。即時解散などありえない
・状況が変わったと伝えるマロニー。
 ・ウォーロックが実戦レベルの物として完成した為。 議会はこれを外交カードとして利用したりしなかったり
 ・二機目は、マロニーが海軍に頭を下げて獲得したコアを使用している。 シャーリーが海に撃ち落したもの。
・同時に、ミーナの不正行為について言及する
 ・色々とかぎまわっていたようだな、の話。 スオムスでのネウロイによるウィッチ洗脳・模造事件は機密です
 ・ビューリングだのに会いに行っていたのも把握されている
 ・ミーナは優秀であるが、若い。 基地運営を任される程度には飛びぬけているが、やはり年の功というか経験には勝てない描写
・主人公はスパイ疑惑で拘束。
 ・今まで主人公が友誼を結んできた娘達が彼女の白をミーナに訴えたりする。 まぁミーナさんの見てないところで泣いたり散々感情を露にしている訳だし
 ・そんなのはなぁ! しったこっちゃねえんだよぉ! というスタンスのマロニー大将。 とりあえず501解体の道具に使いたいだけ。
 ・あと、Me262関係は接収させてもらうとの話。政治問題になると主張するバルクホルンやミーナに、色々言葉を弄する大将
 ・まぁウォーロックの性能向上に使えそうだよねー?
・カールスラントのMPに連れて行かれるミーナ。 消沈する皆。
・司令室で、副官と幾人かの側近だけになった時点で、溜息を吐くマロニー大将
 ・自分の孫と同じくらいの娘達に嫌われるのは気持ちのいいものではないな、という話
 ・世論は魔女を救国の女神達か何かだと思っている節がある(アイドル扱い)が、子や孫を持つ者から見れば少しばかり毛色の違うただの女の子である
 ・マロニー派は、要はウィッチだからといって年端も行かない少女達を死地に送り込むのをよしとしない人たち
 ・その為のウォーロック。 男の魔女の意ではなく、War-Lock、すなわち戦場に鍵をかけ、少女達の参戦を防ぐ存在。
 ・流石に先のウォーロックの出撃を、政治的な理由ではなくウィッチ達を守るため、にするのはやりすぎか?


Plot For Final Episode "Falsches Silber"

・結。アニメ最終話、および本作Prologue-Ep1のオマージュ
・主人公のパラダイムシフトを書く練習。ぐだぐだしたところから一転させるところでカタルシスを演出する。
・主人公TUEEEE回。
・作品を通して、主人公唯一の単独撃墜を書く。
・”Falsches Silber” 偽物の銀。 主人公は何処まで行っても偽物であり、異物である
・ただし、最終シーンの名前は単に「Silber」で
・主人公が魔女へと変じえるお話
・魔女は何かを守るときに最も力を発揮する、様なことが様々な場所で示唆されている。
・全体的なテーマは最終回。 総集編。 伏線の回収。 そして、ウィッチ達の友情とか魔女のあり方とか



・三々五々、基地を去っていくウィッチ達。
・ミーナは一旦本国に送還されることに。 エーリカとバルクホルンが色々詭弁付きでその任務を言い渡される
 ・カールスラントMPの人たちはカールスラント組の味方です
 ・主人公の釈放は無理。 あっちはマロニーががっちり握っている
・帰り方は基本的にアニメどおり
・帰る場所の無いペリーヌの話。どうやってか美緒と芳佳に付いていかせたいが無理ならリーネとセットにしておく
・芳佳、最後の時間に、まだ目を覚まさない主人公に治癒の魔法を掛けていく。 感情描写大目。
・主人公は自室で軟禁状態。
・出撃するウォーロック一号機。 二号機は、主機の調整が間に合わなかった為基地の格納庫で待機
・目を覚ます主人公。 現在の状況の説明を受ける。 かなり無気力。 自分は何をやっていたんだ、何をしてきたんだ、とか。 鬱最高潮。
 ・マロニー側も、別に本当にスパイだとか洗脳されてるとかは思っていない
・ウォーロック無双、そしてハッキングされるウォーロック一号機。
・侵食はコアコントロールのネットワークを通じてウォーロック二号機にまで気づかないうちにゆっくりと及ぶ。
・基地を攻撃するウォーロック一号機。それを見て、基地へと集合する去ったはずのウィッチ達。発進準備する美緒とか芳佳とか
・芳佳の大きな魔力反応=赤城を仕留めに行くウォーロック一号機
・赤城を守ろうとする芳佳と美緒、しかしシールド出力の足りていない美緒とでは、赤城を守りきれない芳佳。
 ・私が頑張らなくちゃ、という意気込みとか。 一人で頑張る、みたいな。
・その他ウィッチの発進までの経緯はだいたいアニメと一緒で
 ・格納庫の扉だけ、鉄骨でふさがれているのではなく、隔壁みたいなもので。 まぁお姉ちゃんの怪力で動かすわけだが。
・主人公を心配するエーリカとか?主人公を見に行かないのが不自然な感じもする
・ウォーロック一号機の攻撃は、ウィッチの居住区を直撃。崩れた壁から覗く空を見上げている主人公。
 ・自分は何だったのだろう、と自問したり。 答えのない、ループする疑問。
・青空を横切って伸びていくウィッチ達の飛行機雲。 パラダイムシフト。
 ・それを見て、漸く自分以外のことを思い出すく。 エーリカ、バルクホルン、シャーリー、リーネ、サーニャ、エイラ、そして芳佳 
 ・自分は本当に、必死に生きていただろうか? 考えることを逃げ道にしていなかっただろうか?
 ・考えたって答えは出ない。 なら、動くしかないのでは? 彼女達がそうしていたように
・机の上を見る。 数少ない私物。コンパス、ティースプーン、目覚まし時計、QSLカード、タロットカード。 見慣れない匂い袋。匂いはマリーゴールド。
 ・全部まとめて四次元肩下げ袋に突っ込み、ゴーグルを首に引っ掛け、髪の毛をルッキーニから貰ったリボンで縛り上げる
  ・力強く閉めることで決意の間接描写みたいな
・崩れた壁から飛び降りる。 三階である。 雨どいのパイプをベキベキ剥がしてスピードを殺し、魔力で体力補正しながら着地。格納庫に走り出す
 ・空中で魔力を発動させ、使い魔と合一する際に、漸く意思の疎通に成功する
  ・見えるのは白毛の犬。 伝わってくる意思は、歓喜、満足、そして激励
  ・お前もありがとな、随分と迷惑をかけて、みたいな。
・格納庫ではウィッチが飛び立った後の後始末をしている整備員達。 何だかんだ言ってこの辺はウィッチの味方。
・突然、不調を訴えて倒れる整備員。 ネウロイ化したウォーロック二号機の瘴気。
・うめく整備員達に近づくウォーロック二号機。 あと一歩、というところで主人公が後ろからストライカーの懸架台を投げつける
 ・懸架台は金属製なので余りダメージは無く、吸収されるが、それでも衝撃を与えて注意を引くことに成功。 結界を展開して瘴気を吹き飛ばす
・ウォーロック二号機と生身での格闘戦。 スコップでボッコボコにしてやんよ! →ぼこぼこにされました
・ウォーロック、通常のMe262を吸収して、主機の代用として利用。 ビームで盛大に隔壁を吹っ飛ばして赤城のほうに飛んでいく
・この辺で、芳佳組が助けられたり、ウォーロック一号機が赤城乗っ取りする
 ・芳佳、一人で戦っていたような気分の中で、皆が来たことで自分は一人ではないんだ、ということを再認識。
・主人公、整備員の助けを借りて、Me262とプルクツェアシュテーラーを装備。 ウォーロック二号機を追って飛び出す
 ・背中にMg42とMk108背負って。フルアーマーヴィルヘルミナ。
 ・本当は効率悪いけど画的に良いと思うので補助加速用の個体ロケット吹かして飛んでいく
・ウォーロック二号機と主人公のチェイス。
 ・二号機のコアはシャーリーとの速度勝負に敗北したネウロイである
 ・速度勝負を仕掛けるウォーロック二号機。 一度は並ぶが、主人公を引き離していく
  ・アホか!付き合ってられるか! Mk214ぶっぱ。 ケツから貫通して爆発四散するウォーロック二号機。かませ犬である
・赤城ネウロイに苦戦するウィッチ達。 弾幕がかなり分厚い。
 ・シャッキーニ砲とかするけど、突破口に近づけない
・サーニャに届く、警告の通信。 直後、音速を超えて飛んでくる24発のR4Mによる攻撃。
 ・全部撃ち落されるが、直後、上空から斜めに突き刺さる大砲の射撃。 艦尾に直撃して飛行甲板がなんか凄いことになる
 ・美緒、魔眼で確認。 飛行艇体。描かれているのはカールスラントのバルケンクロイツ。主人公参戦。
・主人公の大火力で状況がウィッチ側に傾く。 しかし、決定打が足りない
 ・Mk214、8割打ち切ったところでジャムる。
 ・一瞬悩んで主人公、シャーリーを呼び寄せる。 ちょっと音速超えてみない? いーねー、いっとく? みたいな。
・皆が攻撃している中、直上から、主人公、シャーリーの加速と己の質量増大を組み合わせ、特攻。 直前でMe262を切り離し、プルクツェアシュテーラーをぶつける。社員スパークみたいな
 ・見かけの重量が十数トンになったプルクツェアシュテーラーを亜音速で喰らい、竜骨まで折れる赤城ネウロイ。沈黙
 ・皆呆れるが、まぁ主人公だし……の雰囲気。 機密装備の損失報告書を描かねばならんことに頭を抱えるバルクホルン
・この隙に、芳佳、ペリーヌ、リーネが中に突入する
 ・三人、武器を失いながらも中枢へと辿り着くが、そこでとんでもないものを見て、慌てて逃げ帰る
・白く砕けていく赤城ネウロイ。芳佳達がやってくれた! と喜ぶ皆。 しかしそうはいかんざき。
 ・砕け散る光の中から飛び出してくる三人と、もう一つの影。 黒いプルクツェアシュテーラー。 ネウロイにのっとられている
 ・翼を生やしたその姿は、主人公曰く実機のMe262に酷似している、ということにする
・逃げ出すネウロイ。 ここまでやってくれた相手を、さらに人類側の最先端装備付きで逃がすわけには行かない。追いかける
・主人公先行。 追いついて、格闘戦に持ち込む。
・一瞬の隙で危うくなったところを、遠距離からのリーネの狙撃で救われる。 同時に、シュツルムで加速したエーリカとシャーリーが僚機に付く
・サーニャとミーナの合体魔法で戦域情報を主人公に送信。 エイラとリーネが協力して、狙撃でネウロイの選択肢を狭め、バルクホルンとルッキーニとペリーヌと美緒が弾幕張ったり
・芳佳は後衛組を守るシールドです
・だが、結局はスピード勝負。 中々勝負が付かない。
・魔力切れで脱落するシャーリーとエーリカ。 ブレイクする主人公とネウロイ。
 ・ヘッドオン。 Prologueでの主人公vsバルクホルンの再演
 ・皆の信頼を感じる。 そして、内から湧き出る感情みたいなのとか。 本来のヴィルヘルミナ。
 ・至近、交差の瞬間、ネウロイのビームが主人公の左腕を切り飛ばす
 ・しかし、主人公、バルクホルンと同じようにネウロイの上で宙返り。上面をMg42で撃ち貫く
・ネウロイ、爆散。 主人公は回転の勢いを殺せず、回転しながらネウロイの破片をモロに浴びる。
・ホワイトアウト。終了。




Epilogue
・Reines Silber :純粋な銀。
・主人公は、結局異物のままだったのだろうか、あるいは”魔女”になることが出来たのだろうか、というニュアンスをこめる。
・後日談的な。 アフリカのほうの話
・さり気なくサンテグジュベリ助けたりしてる
・最速の郵便屋さん


シーン1:この世界で生きてます
・主人公、片腕で、大きな袋を提げてMe262で空を飛んでいる
・左目には眼帯
 ・最終戦の結果、破片を喰らった左目は失明、左腕は再起不能。 戦闘への参加は無理、という評価を下された
 ・だが、何か出来ないか、という主張により、前線へと郵便配達をすることに。
 ・本当は妥当なストライカーをあてがわれたのだが、使えない。Me262に慣れすぎ。
 ・現在、世界最速の郵便屋さんである
 ・貴重なウィッチを郵便配達に使う?:ウィッチはアイドル。激励目的みたいな。実力の足りないウィッチが取り合えず配備される場所。
・ウィッチーズは解散したが、ヨーロッパの方で再結成したらしい、みたいな話(二期?)
 ・各人の消息見たいのを軽く描く
・こっちに来てからのことを考える。
 ・P-38で飛んでた、ちょっとポエミーなウィッチを助けたりした話
  ・名前はアントワネット。フルネーム:アントワネット・デ・サン・テグジュペリ。ただし主人公はファーストネームしか知らない
 ・マルセイユ超美人かつ超傍若無人な話。
 ・牛乳の話
・前線に近づく。戦闘が発生している。 無線に入ってくる航空支援要請と、何処も手一杯だから耐えろ、の通信
・降下加速

シーン2:魔女。ここは三人称で。
・フライングゴブレット、逆さまにした杯のような小型飛行ネウロイ達に蹂躙されつつある地上部隊
 ・多分、攻撃ヘリみたいなもんだろう
 ・最後のFLAKがやられたところで絶望が部隊に走る
・あわや、というところで主人公がシールド体当たりで一機破壊。
 ・見上げている隊長、声を掛けられる。 郵便配達です。 ハンコかMG42一丁ください。
 ・機関銃手が掲げたMG42を、郵便袋を投げ渡してから受け取って、そのまま接近しつつあった別のフライングゴブレットを破壊する主人公
・部隊を守るように戦闘を始める主人公。
 ・上がる歓声。 手当てをする兵と、負傷兵が一緒に空を見上げて「ああ――航空歩兵(ストライクウィッチ)だ!」で、締め


シーン3;補足、あるいは蛇足
・第二次ネウロイ戦役が終わった後の主人公の軌跡
 ・復興活動に従事
 ・その後、何を思ったのか扶桑に帰化
 ・世界を旅して、いろいろなものを見てまわる
 ・生涯独身だった
 ・2009年1月、トラックに跳ねられて死亡。



[6859] Extra1-1:「Bitter, Bitter, Bitter」
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/03 08:47
Extra:「Bitter, Bitter, Bitter」

/0

 日が落ちて、真っ暗になったこと以外は何もかもが同じ風景だった。
 明かりをつける。 白色電球の光が闇を押しのけ、リノリウムの床を照らした。
 机の上にビールの空き瓶二つ。 片方の中には吸い殻がいくつか。 もう片方の口には新品のが一本のっていた。

「……三つ目、か」

 掠れた声が、煙草の臭いの染みついた部屋に小さく響いた。


/1

「グリュン、どうした、そんなところに突っ立って」

 ソファに腰掛けた女がそう言った。
 座り方と制服の着崩し方が見事に調和している――すなわち、実にだらしない格好で。
 陽光にきらめく金糸の髪と、雪のような肌、空色の瞳が作り出す容姿は見事なものだったが。
 この様子を見れば百年の恋も醒めるに違いなかった。 

 グリュンと呼ばれた少女は、部屋に立ち込める紫煙に眉をひそめながら、周囲を見回す。
 ソファの前の椅子には、ビールの瓶が二つ。 両方とも封は開けられていた。

「真昼間から煙草と、お酒ですか。 あと、私はグリュンなんて名前じゃありません」 

 お手本通りに着こなされた制服。 規定通りの髪型な茶髪。
 少尉の襟章。 どこからどう見ても新品少尉。

「酒じゃない、ビーアさ。 故郷じゃ水みたいなもんさ」 ちゃぷり。 瓶を軽く振って、水音をさせてから口をつけた。「老いも若いも、みんな飲んでる」

 このままドアを閉めて部屋に帰りたくなる欲求にグリュンは耐えた。
 戦闘待機中はこの部屋かハンガーで待機していなければならない。
 屋外に面しているハンガーは痛みすら覚える寒さだ。 逆に、待機室は常に暖房がかかっている。

「だからって、仕事中に飲酒は」「酒じゃないって言っただろ?」「……ビールはいけません。 待機任務中ですよ」
「待機任務中、ね。 実にかっこいい言葉だ」

 硬質な響きがする、嫌いじゃない。 そう呟きながら二つ目の瓶を空にする。

「そう、我が航空隊は現在待機任務中である。 言い換えれば、暇だ」
「だからって、お酒……ビールは」
「小瓶を二本あけた位じゃ酔うわけないだろう」
「……それでも」

 なおも食い下がってくるグリュン。 これだから、とごちてから、金髪の女は最後の手段をとった。

「隊長命令だ。 まぁ、見逃せよグリュン」

 着崩された制服の襟章は、大尉のものだった。
 航空隊の隊長を務めるのに、必要十分な階級。

「ぐっ……職権濫用ですよ。 それに、私はグリュンなんて名前じゃありません」
「グリュンホルン。 故郷の言葉で新米さ。
 私の下に新しく来た奴は、その次が来るまでみんなそう呼ばれる」

 そう言う決まりだ。 飄と応える大尉は、唸るグリュンを横目に懐から金属の小箱を取り出した。
 左手で先端をつまみ、引っ張れば小箱の上半分が開く。 ジッポーライター。
 表面には何かの花のエングレイヴ。 似合わないな、とグリュンは思った。
 次に、胸ポケットからくしゃくしゃになった紙箱を引っ張り出して、そこから煙草を一本抜き取る。

「煙草、癌製造器って噂がありますよ」

 最後の抵抗は、「知ってる」という言葉とそれに連続したライターの動きで簡単に打ち払われた。
 うなだれて、ついに心が折れる。
 もっとこっちに寄って座れよという声を無視して、大尉から一番離れた席に座るのが本当に最後の抵抗だった。

 時計の針が円周運動を続ける音だけが部屋に響く。

「煙草も、ビールも……美味しいですか?」

 耐えきれなくなったグリュンの特に意味のない問いに、大尉は目を閉じて一瞬考えてから。

「不味い。 ……不味いね」

 紫煙をはき出す。
 人生の味さ。 シニカルな笑みを浮かべて、大尉はそう言った。


/2

 大尉がもう何本か煙草を潰し、グリュンが船をこぎ始め、時計の針が2周ほどした頃。
 空襲警報が鳴り響いた。
 大尉のシニカルな笑みが深くなり、グリュンの肩が小さく震えた。

 「出るぞ」大尉が言った。
 「はい」グリュンが応えた。


/3

 零下三十度の空も、保護魔法のおかげで、肌寒い程度にしか感じない。
 十二機、一個中隊の戦闘機を従えた二人は、冷気を切り裂いて飛翔する。

 ウィッチは単騎で航空機十二機分の戦闘力を有する。
 ウィッチ二人に航空機一個中隊の混成航空隊。
 戦線の端も端、谷間にかかる鉄橋をネウロイの空襲から守る部隊がそれだった。

「なぁ、ルーキー。 おまえ、これが初陣だったか」

 大尉が聞いた。

「そうです」

 返す声は寒さ以外の理由で震えていた。

「何、こんなのはセックスと一緒さ。 必死になって動いていれば、いつの間にか終わってる。
 違いはいくつかあるが……まぁ、大きな違いは三つさ。 ひとつは、セックスのときは目を瞑ってればいいけど、戦うときは目をしっかり開けてないとな」
「もう一つは?」
「性交渉の時はぶち込まれる側だが、今回はこっちがぶち込む方」

 たらふくな、そう言いながら黒光りする長大な重機関銃を揺らして見せつける。
 MG34。 ウィッチが持つ攻撃力の象徴。

「その、大尉は経験が?」
「馬鹿。 私も聞いた話だよ。 私はまだシールドが張れる」

 ウィッチが対ネウロイの切り札である理由の一つ、シールド。
 ウィッチのシールドはその処女性に依存する。
 誰もが知っている事であり、ウィッチの階級が多くの男性兵士の手の届かないところから始まる理由だった。

「……最後の一つは?」 
「それは秘密であって、秘密じゃない」 左手をふらふらさせながら応える。
「なんですかそれ」

 教えてくださいよ、とグリュンは唇をとがらせた。

「みんな、初陣の後に勝手に解るのさ。 その差がね」
「……励ましてくれてます?」
「さて、どうだかな」

 そう応えた大尉の顔は何時も通りのシニカルな笑みを浮かべていた。 


/4

「お前の後ろは私が守ってやるよ。 だからお前は前に集中して、好きなようにやれ」

 接敵直前に大尉が言った言葉通り、グリュンはがむしゃらに飛び、必死になって撃った。
 相手は20機余りのネウロイ。 ひとたび乱戦になってしまえば、インカムからの声を聞く余裕すら無い。
 無我夢中で戦った。 いつの間にかネウロイは撤退しており、航空隊は帰投コースを取っていた。

「やりましたよ、大尉! 私、二機も落としました!」

 初戦果に興奮したグリュンが振り向いた先には、誰もいなかった。


/5

 グリュンは滑走路で大尉の帰りを待っていた。
 太陽が稜線の向こうに半ば隠れ真っ赤に焼けただれる頃になっても、誰も飛んで帰っては来なかった。
 
「あんたが来る前、相方をしてた子の所に飛んでっちまったんだろう。 まるで夫婦みたいに仲が良かったからな」

 中年の整備士が沈んだ夕日の方を眺めながら言う。
 ストライカーユニットを履いたままのグリュンとは違い、完全防寒装備だった。

「相方?」
「ああ、百合の花の好きな子でな。 若いのに煙草もよく吸ってたが」
「そうですか」

 グリュンと整備士は、空が完全に暗く染まるまでその場にいた。
 二人の間に言葉はなかったが、やがてどちらともなく滑走路に背を向ける。
 ハンガーのシャッターを閉める音が夜に響いた。


/0

 日が落ちて、真っ暗になったこと以外は何もかもが同じ風景だった。
 明かりをつける。 白色電球の光が闇を押しのけ、リノリウムの床を照らした。
 机の上にビールの空き瓶二つ。 片方の中には吸い殻がいくつか。 もう片方の口には新品のが一本のっていた。

「……三つ目、か」

 掠れた声が、煙草の臭いの染みついた部屋に小さく響いた。
 ビールを飲んでみようかと思ったが、空なのを思い出して。
 どこに別のビールがしまってあるのか思い出せないから、まだ火の付けられていない煙草を手にとる。

 机の上には、ジッポーライター。 表面には、百合の花のエングレイヴ。
 拾い上げたそれは、金属の冷たさしか帯びていなくて。
 カヴァーを開いて、火を付ける。 微かに香る、アルコールが焼ける臭い。
 一瞬のためらいの後、煙草をくわえて、火を付けた。

 軽く吸い込んで、今まで直に吸った事のない空気が肺に流れ込む。 呼吸器官が拒絶反応を起こした。
 盛大に咽せた後、綺麗な空気を求めて窓を押し開く。
 零下40度のクリアな大気が、室温と混ざり合ってほどよい肌寒さを演出した。

 咽せた事で流れた涙をぬぐって、まだ飛んで居るであろう彼女に愚痴を漏らす。
 
「これ、不味いなんてモンじゃないですよ、大尉」

 苦さしか感じない。
 グリュンはそう思った。














あとがき:

本編書かずに何やってんだよ! という貴方、ごもっともです。ごめんなさい。
最初期プロットをちょっと書き直してみました。
夏深てふ氏がストパンで一個書き始めたようなので、対抗心50%、応援心120%で書いてみた。
いわばラブコールです。
エイラーニャにみんな大好きH・Sさんだと!? いいぞ! もっとやれ! 

本当はこういうしっとり系の話の方が好きだし書きたいんだけれど、いくつかの理由で今回は断念。

・Me262の活躍が書きづらい
・書いてて書き手の心までしっとりしてくる
・読みたい作品と、書きたい作品と、書ける作品は別。
・リハビリには適さない内容。

描写力とか燃料が足りて無いのは自覚しております。

因みに本編には一切関係有りません。
北方戦線のはじっこの方での、普通にあり得るワンシーンのイメージで書きました。
設定厨のkdにしては設定も一切ございません。


注:
 シールドは処女しか張れない、という設定は半オフィシャルです。
 アニメ監督がブログだか雑誌だかで言ってた。
 だからミーナさんは中古じゃないよ!



[6859] Extra1-2:「Chain, Smoking」
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/03 08:47
Extra2 「Chain, Smoking」

/

 煙草を吸いはじめたのは何時だっただろうか。
 時計が規則正しく時を刻む音を酷く遠く感じながら考える。
 昨日か、先週か、あるいは去年か。 きっかけははっきりと覚えているが、それが何時だったのかが思い出せない。

 吸う。
 人体に害しか与えない、苦味だけを持った煙が口内へと流れ込んでくる。
 さて、今日は何時だったか。 あるいは、あれからどれだけ経ったのかと考えたところで。

 ――どうでもいい。
 
 何時も通りのその思考と共に、紫煙を吐き出した。
 虚空に溶けていくそれを眺めながら、思う。

 はやく、彼女に会いたいと。


/


「どうしたんですか、大尉? そんなところに立ったままで」

 ソファに腰掛けた少女がそう言った。
 四人が、あるいは腰掛けている少女と同じ程度の体躯なら五人は座れる長大なそれの、どまんなか。
 エキゾチックな黒髪と緑色の瞳を輝かせ悠然とくつろぐ姿は、青灰色の軍服というその衣装にもかかわらず、異国の姫を思わせて。
 その右手には、ゆらゆらと煙を吐き続ける火の付いた煙草が一本。

「何時も言うがな」 大尉と呼ばれた少女は、豪奢な金髪をかきあげながら言った。 「女の煙草はみっともないぞ」
 その言葉にソファの少女は不思議そうに、「あら。 何時もじゃないですよ。 それはまだ聞いたことが無いやつです」 そう返した。

 大尉がため息を吐く。 紫煙で微かに曇った空気が微かに揺れた。
 そのまま無言で部屋を横切り、窓を勢いよく開く。
 涼やかな空気が部屋の中を洗い流して、ソファの少女に向きなおす。 そこでようやく大尉は口を開いた。

「言いたいことは何時も一緒だ。 辞めたほうがいい」
「何時も、心配してくれてるんですよね」

 嬉しいです。 そう微笑む少女を見て言葉に詰まりかけるが、大尉は何時もどおり額に手をあてて悩む振りをして、彼女の顔を視界から隠した。
 少女と出会ってから確実に増えたであろうため息、その生涯回数を一回増やしながら「……当たり前だろう」と呟く。 
 その姿を見て、少女の笑みがより優しいものへと変わっていった。 大尉には見えていなかったが。

「何時も言いますけど……良いんですよ。 慣れるまでが大変ですけど、慣れてしまえば無いと安心できない」
「中毒だろう、それは」

 呆れたように呟く。 実際呆れてしまっていたので、大尉は視線をさえぎるのも忘れて少女のほうを見ていた。
 おかげで「……その、大尉にとっての私みたいなもの、かと」なんて台詞と、はにかんだような表情をまともに受けてしまって。
 咄嗟に目をそらす。 窓の外、青い空を興味なさ気に見つめるその表情はいたって平静だったが、雪のような白い肌が、耳まで桃色に染まっていた。

 その様子を見て、ふふ、と少女が吐息をこぼす。

「かわいい」
「黙れ。 上官侮辱罪で自室禁固だぞ」
「”自室”ってことは、大尉の部屋にですか?」
「ばっ!」

 ばか者。 そう言うはずだったが、勢いよく振り返ったその先を見て、言葉が詰まる。
 ほほを微かに染めて、何かに期待するように大尉のほうをちらちらと見る少女を見て、怒りとかそういった感情が容易に塗り替えられていく。
 年上の威厳が、なんて本当はどうでもいいことを考えながら、大尉の声にならないうなり声が待機室に煙草のにおいと共に染み込んでいった。



/

「そういえば、大尉」

 ソファに座ったまま、手の中で銀色の小さな箱を弄びながら少女が問いかける。
 小さく腕を動かすたびに右隣に座っている大尉と衣服が擦れあったが、二人とも気にかけてはいなかった。

「煙草……お嫌い、ですか?」

 問われた大尉は読みかけの本を脇に置いて、傍らのサイドテーブルに置かれているコップを手に取る。
 コップの内側には気泡が張り付いている。 スパークリング・ウォーター。
 ひとくち。 唇を湿らせてから、改めて考えた。

「余り、好きじゃないかな。 それでも」

 身体を捩って、右手を少女の方に伸ばす。
 硝子細工に触れるように、そっとその髪を一房手にとって。 ふわり、と宙に流した。

「お前の臭いだと思えば……まぁ、悪くはない」
「その……あ、ありがとうございます」

 大尉は何気なく答えたつもりだったが。 顔を背けた少女の姿に、自分の言ったことを反芻して。
 誤魔化す様に、コップの中身を一気に飲み干した。 炭酸が喉を焼く。
 沈黙が場を支配する。 居たたまれなくなった大尉は、炭酸水のおかわりを取ることを口実に席を立とうとして、その動きを止めた。
 もたれかかってくる少女の軽い体重が、引き留めている様に感じられて。 浮かそうとした腰を深くソファに沈める。 

「大尉」

 かちり、という音が響いた。
 少女の手元、銀色の塊――ジッポーライター。
 百合の花のエングレイヴが刻まれたそれは、少女が祖父から貰ったという代物で。
 だから、彼女の「これ、差し上げます」という言葉と共に差し出されたそれを、咄嗟に受け取ることが出来なかった。

「でも、これは」そういいかける大尉の言葉を遮って、少女は言う。「わたしよりも、大尉に必要だと思うんです」

 幸運のお守り。 そういって、祖父はそれを彼女に渡したのだ。 きっと、持ち主を守ってくれると。
 由来も、本当にそうなのかもわからない。 けれど、彼女は死んだ祖父を信じていたし、今まで生き残って来れたのもそのお陰だと信じている。

「……大尉も、もうすぐ”あがり”ですから」

 ウィッチが、シールドを張れなくなる年齢。 それに、大尉は今この瞬間も近づきつつある。
 何時、シールドの出力が規定値を割るかもわからない。
 大尉自身はまだ暫くは余裕があると確信していたが、それでも、それは彼女の認識であり。

「側で飛ぶ、僚機の身にもなってください」

 そう続ける、少女の認識ではなかった。

「心配性だな……私はまだまだ大丈夫だよ。 それにな」

 大尉は少女の方に向き直り、泣きそうな目をしているその姿を見て、彼女を優しく抱きしめる。

「私よりも、お前が生き残った方が、この先多くの人を救えるし……それに、私もその方が嬉しい」
「そんなこと、言わないでください」

 わたしは厭です。 眉尻を下げてそう続ける言葉は、微かに震えていて。
 大尉はただ、少女の肩を撫でてやることしかできなくて。 
 やがて、少女のふるえが止まる。 抱きしめているので大尉にその顔は見えなかったのだが。
 それでも、その手をほどこうとはしなかった。

 しばらくたって、それに、と少女は唐突に付け加える。 照れ隠しなのか、むしろそっちが本命なのだと言いたげに。

「酷いと、思うんです……私の臭い、そんなに酷くありません」
「悪くないと、思うが」身体を離してそう言う少女に告げて。

 良いって思って欲しいのに、と小さく呟いた彼女の声は、聞こえなかったことにした。
 目の前に差し出されるライター。 少女は懇願する様な、恥ずかしい様な表情を浮かべて。

「煙草……やめます。 でも、ライター持ってると、吸ってしまうので……持っててください」

 そう言った。

「……預かるだけだぞ?」
「はい」

 大尉は、その金属の塊を受け取る。
 ほんのり暖かい。
 少女の温度。 握りしめれば、掌の中で体温が溶け合った。

「……そうだな、私もお前に、何か預けるか」

 ふと、大尉はそう呟いて。 己の耳に指を伸ばした。
 金色の、小さな金属の輝き。 金糸の髪に紛れて目立たないそれは、盾をかたどったピアス。
 それは、彼女の家の家紋をあしらった物で。
 少女の襟章の脇に、それを添え付けた。

「ちゃんといつか、返してくれよ」
「はい、戦争が終わった頃に、きっと」

 少女はその装飾を白い指先でなでて、小さく笑った。
 
「何がおかしい?」
「その、私たち、学生さんみたいだなって」

 馬鹿。 私たちだって、本当はまだ平和に暮らせるんだぞ。
 目の前の黒髪の少女が、急に小さく見えて、消えてしまいそうになったから。
 その身体を抱き寄せる。
 大尉の背中にも、応える様に細い手が回された。



/


「戦争が終わったら、何かしたいことはありますか?」
「そうだな」

 警報音が鳴り響く中、二人は格納庫への道を走る。
 少女の問いに、ふむ、と一つ唸って考えてから。

「失われた国土の回復と……復興。 それに従事できればいいかな」
「真面目ですね、大尉は」

 少女は不満そうにそう言う。 だが、そういう大尉の気持ちも解っていた。
 大尉はこの国の――スオムスの国民だが、元々は両親の仕事の関係でカールスラントに住んでいて。
 ただ、故郷と呼べる国を二つもっているだけだと、少女に言って聞かせていた。

「……悪かったな」
「いえ、わたし、大尉のそう言うところ、格好いいって思いますから」

 格好いいか、あまり女性に言う台詞じゃないな。
 大尉のそんな台詞に、可愛いところもありますよ、と少女が答える。

「あえて聞くが、どんなところだ」
「そうやって、少しむきになる所、とか」
「……あまり、その、嬉しくないかな」

 ええと、他にも可愛いところはあります。 そう言い出す少女を、大尉は自分の精神衛生の為に止める。
 その代わりに、国を取り戻したらどうするかな、と呟いた。

「そうだ」少女が早足で歩きながら手を叩く「じゃあ、花を育てましょう」
「花?」
「はい」にっこりわらって。「女の子らしい、とも思いますけど」

 ネウロイの瘴気に侵された土地では植生は壊滅的となる。
 そんな場所で花を育てよう、というのはまるで夢物語で。

「……いい、な。 花か」

 だから、その夢を実現させようと思った。
 一人だったら無理だろう。 でも、二人ならきっとやれると、そう信じた。

「戦争が終わったら、きっと、そう言うのが必要になります」
「そうだな……そのためにも」

 まずは、今日を生き延びないとな。
 そう続ける大尉に、少女は力強く頷いて。

「大尉の後ろは、僚機のわたしが、必ず守りますから」
「お前の敵は、全部私が撃ち落としてやるよ」

 二人で、笑いあった。


------
ゆり  う ま

この辺がkdの百合力(ゆりぢから)の限界です。



[6859] Extra1-3;「Lily」
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/06/03 08:55
Extra 3:「Lily」

/

「どうしたの、グリュン。 そんなところに立ったままで」

 ソファにゆったりと腰掛けた少女は不思議そう言った。 首を傾げる動きに合わせ、中途半端な長さの茶髪が揺れる。
 微かに開かれた襟につけられた階級章は大尉。 白い指先は、それよりも白い巻きタバコをつまんでいた。
 髪型も、服装も、模範的な着こなしとは程遠かったが。 誰かが注意するには整いすぎている。
 まぁ、この程度なら良いか。 誰もがそう思い、誰もがそうしている。 そんな格好。

「大尉」

 グリュンと呼ばれた少女は、何時もどおりの柔らかなソプラノで言った。

「煙草、お吸いになられるんですか」
「何よ、薮から棒に……悪いかしら?」

 不思議そうに首をかしげ、グリュンを見る大尉。 模範どおりの服装と規定どおりの赤毛、襟に輝く真新しい階級賞を見て、嘆息。
 ああ、私にもそう言う時期があったっけか。 昔を思い出して苦笑する大尉に、グリュンは一言キモい、と小さく呟いた。
 大尉の睨みを受けて、グリュンは無言で視線を泳がせる。 何時ものことであり、予定調和であり、少女達の少しの娯楽だった。

「タバコなんて」

 指先でくるくると器用に白い棒を弄びながら。 待機室の扉を閉めて、三脚ある別のソファへ足を運ぶグリュンを見て大尉は言う。

「酒とカードと並んで、軍隊に入ると真っ先に覚えるものだそうよ」
「国民の希望と憧憬の星たる航空歩兵とはとても思えない台詞ですわね」

 くたびれた、随分とスプリングの弱ったソファに身を沈めて。 この待機室の全てのものには、煙草の匂いが染み付いているとグリュンは思った。
 つまり、この待機室を使っていたほかの航空歩兵達。 彼女達も皆、煙草を吸っていたのだろう。
 その事に思い当たり、自分もそうなるのだろうかと。 漠然と想像する。

「まぁ、私も滅多に吸うものではないんだけれどね」

 思索に耽り始めたグリュンを見て言った大尉のその台詞は。
 咥えた煙草と、懐から取り出したジッポーライターの扱いで正しいのだと知れた。
 何時も持ち歩いている――それこそ、戦場にも持っていっているというのに。
 日ごろから吸い慣れている者の流れるような、あるいは無意識がそうさせる滑らかさを持たない動き。
 グリュンが見た、大尉の実戦での随分とこなれた動きとは全く違うものだった。
 
「確かに、この基地に赴任してふた月。 一度も吸ってませんでしたわね」
「まぁ、たまにしか吸わないしね」

 ふた月前。 この基地から、最前線へと引き抜かれていった航空歩兵の代わりに補充として送られてきたのが、グリュンだった。
 近くの渓谷にかかる鉄橋を守るのが彼女達の任務である。
 この鉄橋を落とされれば、近隣の生活と物資の流通は確実に圧迫される。
 小型のネウロイですら何の防御策も施されていない金属を吹き飛ばすのに十分な威力のビームを装備している今。
 攻撃頻度がかつてほどではないとしても、ウィッチを配置せざるを得ない。
 それが彼女達がここに居る理由である。

「随分とここも静かになったよ。 昔は結構頻繁に橋を落としに来たものだけれど」
「去年の九月にガリアの解放が達成されてから、ネウロイの戦線は随分と後退しましたから」
「そうそう。 501統合戦闘航空団様々だよ。 戦いが無いのに、越したことは無いさ」
「僻地の防衛に充てられている私達のなんと情けないことでしょう……
 ああ、この様な閑職で満足していらっしゃる上官の素晴らしいお考えに私、感激の余り涙が溢れそうです」
「何時も思うけど喧嘩売ってるの?」

 まさか。 平和を尊ぶその類まれなる平穏思想に目から鱗が落ちる思いです。
 至極まじめな表情でそういうグリュンに、飛び切りのため息を吐いてから。
 その代わりに、大尉は紫煙を含んだ空気を肺に流し込んだ。
 それを見て、珍獣でも見るような視線で、グリュンは問いかける。

「煙草って……美味しいんですの?」
「そうねぇ」

 吐き出される煙は空中で一瞬だけ、歪な輪っかになって。

「ま、人生の味ね」

 その答えと共に、かき消えた。


/

 何時から時を刻んでいるか解らないほどの年代物の掛け時計が、秒針を動かす音。
 定期的にまくられる、紙の音。
 少女二人分の、小さな呼吸音。
 窓を叩く、雨の音。
 そんな静かな、やわらかい音に混じって、時折聞こえる軽い金属音。
 それがこの部屋に満ちる音だった。

「そういえば」

 ずっと視線を注いでいた手元の本から顔を上げて、グリュンが呟く。

「私としたことが。 大尉が煙草をお吸いになるなど、解りきっていたことではないですか」
「引きずるね、話題」

 呆れた顔の大尉。 その手元を見つめながら、神妙な顔をして頷く。
 目線の先には、銀色に輝くジッポーライター。

「ライターを持ち歩いているのですから、喫煙者であるということは当然予想の範疇だったはずなのに」
「今までなんだと思ってたのさ」
「てっきり放火趣味なのかと」
「その炎のような赤毛を実際に燃やしてやろうか」

 怖い、と身を縮めるグリュンを見て。 しかしその瞳が楽しみを含んでいるのを見て。
 ああ、この子が来てからため息の回数が絶対一桁ふえたなぁ、と大尉はため息。
 注意が逸れたのを理解すると、グリュンは即座に演技をやめる。 それが余計に大尉に疲労感を与えた。

「それにしても、滅多に吸わないなら、お止めになってしまえば宜しいのに」

 身体に悪いし、癌になるというし、何より子供に良くないそうですよ、と言う部下。
 ああ、まぁね。 知ってるけどさ、と返す上官。 だけど、と続けて。

「忘れないようにね、たまに吸わないと。 駄目な感じがして」

 何を覚えていたいのか。 グリュンは聞けなかった。
 待機室に煙草の臭いは染みついていても。彼女の身体からはほとんどその臭いは感じられないのだ。
 現に、今日まで待機室で一度も煙草を吸わなかったし、ただ、ライターをいじっているだけだったから。
 そんな彼女が、何かを覚えていたいと言っているのだ。
 本当に、何かを覚えていたいがためだけに吸っているのだろうし。
 その事にあまり、触れてはいけないような気がしたから。
 大切なものですか、と。 それだけを聞いた。

「ええ、預かり物なの」

 百合のエングレイヴが刻まれたジッポーを手の中で遊ばせながら。 大尉は窓の外を眺めてそう言った。
 窓の外。 つられて見れば、空は暗雲。 先刻から降り始めた雨は、まだ止みそうにも無い。
 風が吹いて、窓に叩きつけられる雨の音が少し強くなる。

「それほど大切なものなら、出撃の時は置いていったらいかがですか?」
「大事なものほど、身につけて居たいって、そうは思わないかしら」
「傷つけてしまったり、なくしてしまったりする方が、私は怖いですわ」

 それに、と続ける。

「私達航空歩兵は、魔法の補助により重火器を運用できます……それでも。
 無制限に何でも持っていけるわけではないのです。 私たちは軽く、羽根のように空を舞わなければならないのですわ」

 それが、物質的なものでも、精神的なものでも。 そう、何時に無くまじめな顔で、グリュンは語った。

「随分と語るわね、グリュン」

 面白いものを見たように、大尉はシニカルな笑みを浮かべる。
 その笑みに、珍しく小さな不快感を表して、グリュンは己の信じる言葉を紡いだ。

「”軽くあれ。 空は軽いものを愛する”」
「へぇ、随分と詩的ね。 誰の言葉?」
「ええと、私の好きな作家さんの言葉ですわ。 空を飛ぶものは、軽くなくては高く速く飛べないって」
「なるほどね。 詩的なくせに随分と科学的だわ」

 シニカルな笑いを浮かべたままの大尉に、微かな苛立ちを覚えてグリュンは腕を組む。

 質量も、思いも、己を構成する要素何もかもを軽く軽く。
 空という、人間がたどり着いてはならない世界を飛ぶためには、それを突き詰める事が必要だ。
 推進力も燃料も耐久力も、何もかもが有限で。
 高く速く飛ぶためには要らない物は切り捨てていくしかない。

 物語の中で、主人公の、同じく空を飛ぶ少女は。 それでも思いという重量物を背負って飛ぶことを選んだが。
 グリュンは思う。 あれは物語で、自分たちの居る場所はリアルだ。
 詩的(リリカル)な出来事など、意思疎通の出来ないネウロイとの間に起きるわけもない。
 死という弾丸を避け、戦場で相対した敵を圧倒するための速さと高さを持つために。
 軽くあれ。 ネウロイに両親を殺されてからずっと、そう思い、願い、そうあろうとしてきた。
 復讐心も思い出も、全て捨て去って。 全てを地上に残して空を飛ぶ。
 
 だから、理解できない。
 目の前の、自分の上官がなにを言っているのか。

「私はね、思うの。 空を飛ぶには、重くなくてはいけない、って」
「……どうしてですか?」
「私達が、人間だからよ」

 大尉が指をスナップ。 ジッポーの蓋が軽い金属音を立てて開いた。

「空には何も無い」

 刻まれた華の模様を眺めながら、穏やかに、けれど搾り出すように言った。

「誰かが待っていることも無ければ、未来や希望があるわけでもない。
 天国が雲の上に有るなんてのが御伽噺だって言うのはとうの昔に証明されてる。
 そんな何も無くて――寂しいところを飛ぶには、とんでもない量の燃料が要るのよ」

 見渡す限り青と白で塗りたくられた、寒色に満ちる殺伐とした空。
 黒い脅威を迎え撃つ時、陸や海と違って落ちるときは一人きり。
 身体と心の熱を維持したまま、そんな場所を飛び続ける。
 ただそれだけのために、必要なもののなんと多いことか。

「火を絶やせば、私たちは凍えてしまう――あるいは、軽くなりすぎた私たちはそのまま遠くに飛んでいってしまう。
 そして、何も持たない空は寂しがり屋で。 空を飛ぶものをどうにかして留め置こうとするのよ。
 だから、少しでも重くして。 この硬く冷たい大地に堕ちてこれるように。 わたしは持って行くの」

 ライターに火がともる。 数十グラムのオイルライターが生み出す炎は小さい。
 小さいけれど暖かそうなその炎を見つめながら、グリュンは開きっぱなしだった本を閉じた。

「……詩人ですわね」
「貴女より年上なだけよ」
「たった四年ですわ」
「グリュン、あんたの人生の3割り増しよ」

 む、と言葉に詰まったグリュンからライターの炎に視線を戻して、大尉は再び言葉を紡ぎだす。

「私達はね、生き物なの。 全ての生き物は、鳥でさえ地べたの上で生まれて地べたで死ぬ。
 そんな当たり前のことを忘れないために、私は煙草を吸うのよ」
「煙草、全然関係ありませんわ」
「空には酒保も売店も無いからね」
「ああ、なるほど」

 ため息を吐いて目を瞑って。
 理解も納得も、依然として出来ないけれど。
 そんな考え方も有っていいのではないか、と思って。

「でも、重くなければ飛べないって……随分非科学的ですわ」

 感傷的で、感情的。 そうグリュンは評する。
 それに対する返答は。

「何言ってんのよ。 私達は魔女で、航空力学に正面切って喧嘩売るストライクウィッチよ?
 魔法に非科学的だなんて、今更すぎないかしら」

 今度はシニカルさのかけらも見せずに。 大尉は微笑んだ。


/

 いつの間にか、二人の耳には雨音は聞こえなくなっていた。

「……大尉、お願いがあるんですけど」
「何?」

 晴天の合間を縫って哨戒飛行を行う為、ハンガーへと向かう最中。
 グリュンが唐突に問いかける。

「あの……ライター」
「ライターがどうかした?」
「……この哨戒の間だけでも、お貸し願えないでしょうか」
「いいよ。 あ、この哨戒の間といわず、ここに赴任してる間ならずっと持ってて良いわよ」

 ほい、と簡単に手渡してくるその姿に、え、アレだけ真面目に語っておいてその扱いの軽さ、とグリュンは呆れる。
 その視線を受けて大尉はふむ、と吐息を一つ。 

「いいのよ。 そんな事で怒る人じゃなかったし……嫌味はたくさん言われそうだけどね。
 まぁ、これを持って飛ぶのって、この部隊の伝統みたいなものだから。 あ、当然大事にしてよ?」
「大切に扱うのは当たり前ですが、伝統って……そういえば私の名前も無視してグリュンホルンって……まぁ、よろしいですけど」

 唸るグリュン。 その肩を気にするな、と叩いて。

「戦争が終わって、百合の花が綺麗に咲く頃になったら、一緒に返しにいきましょうか」
「……いいんですの?」

 当たり前じゃない。
 そう言って、大尉はハンガーの扉を開く。
 広い空間の中、懸架台に保持されたストライカーユニットの周りで整備士が数名、喧しく最終調整を行っていた。
 中年の整備士に手を振って挨拶してから、シャッターの向こう、広がる滑走路と空を眺める。

 戦争の終わりは近い。
 今、そしてこれから空を飛ぶウィッチたちが一人でも多く無事に地べたに落ちて帰れるようにと。
 大尉は願った。







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こういうお話があってもいいんじゃないかと思わせるのが第二次世界大戦。
これ、本当ならおっさん兵と任官したばっかりのひよっこ青年の間で行われる会話なんだぜ……?

勝った! 第三部完! じゃないや、三部作完!
大好きてふさん。 愛してる、抱いて!

というか自分のショボい読解力と表現力と描写力を総動員しても、こんなものしか書けない屈辱。
こういう作品になんか問題があるようなら遠慮なくぶった切ってやってください。
多分ひと月後くらいに見て、しょうも無さに悶えると思う。
しかし、同時に思うこと。 湧き上がるパッションに任せて書きなぐるのも悪いことじゃないと思うよ!

一応、テーマは「受け継がれていく物」。 裏テーマは「戦争は人を老いさせる」
読解のために読者に考える事を強要する話は大衆小説としてはよろしくない、と誰か偉い作家の先生が言ってた気がするんですが。
っていうか、別に考えることを強要してるというか快く読んで貰うことを最初から微妙に諦めてるとか、そんな感じ。
解り辛かったり読みづらかったらすいません。 公開オナニーレベルって事は理解してます。
でも、書きたいし、書いたから誰かに読んで欲しいんだよ、という作者心。

最後に。
欝話が好きだけど鬱エンドは認めない。 Ex1と2が鬱い展開だったから、終幕位は、せめて先がある光景を。



[6859] Appendix 01: Settings
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/07/27 06:35
Appendix :Setting:「設定、あるいは覚書」

前置き:
 まぁ、ネタバレを含むため、本編未読の方は先に読んでくるといいと思うよっ
































>ヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツ (Wilhelmina Herget Batz)

 年齢17歳(1944年8月現在)、3月21日生まれ。
 出身はバイエルン州バンベルク。

 帝政カールスラント空軍中尉。 原隊はカールスラント空軍第131実験部隊。
 肩下まで伸ばした、毛先にウェーブのかかったブルネットの髪。
 鳶色の瞳に、白い肌。 身長146cm、体重は40kg程度。
 年齢に見合わぬその身長から、「Die Kleine(ディー・クライネ:おちびちゃん)」と呼ばれる。
 尤もその名で呼ぶのはかつての上官くらいのものであり、近しいものはファーストネームで呼ぶ事が多い。
 愛称はウィルマ(英、仏)、ミナ、エルマ/ヘルマ、ヴィル(独)、ビリー(米)等。
 同期のウィッチに同様の愛称を持つ(そして著名な)者が多かったために、愛称で呼ぶものは少なかった。
 使い魔は白毛のジャーマン・シェパード。 あるいはホワイト・スイス・シェパードと呼ばれる。

 無口でほとんど単節で区切るような喋り方をし、表情に乏しいが、穏やかな気性で人に物を教えるのがそこそこ上手い。
 ただし、訓練生時代ではその口調で度々叱責を食らっており、しかし結果として直ることはなかった。
 航空歩兵としての訓練終了後、そのまま訓練校で教官として配置される。
 これはきわめて異例であったが、彼女の飛び方に癖が無く模範的な物であった事が理由とされる。
 また、他人の面倒を見るのが比較的得意だったことも挙げられるだろう。
 ただ、教官職に就いていた間、何度も司令部に実戦部隊への配置換えを陳情していたがその全てが却下されている事は記しておく。

 オストマルクが陥落し、東部戦線が過酷になってきた時点で教官職を解任。 III/JG52(第五十二戦闘団第三中隊)に戦闘隊長として配属となる。
 この隊は後のスーパーエースであるエーリカ・ハルトマンやグンドュラ・ラルも所属していた中隊であった。
 また、同戦闘団、別中隊の戦闘隊長であったバルクホルンともこの時期に知り合う。
 その後、本国防衛戦、ガリア撤退戦と、彼女らと共に転戦を重ねる。 撃墜スコアのほとんどは此処で稼いだもの。

 ダンケルク撤退戦の際に部隊のウィッチたちとはぐれるが、帝国本隊との合流に成功。
 この際、中隊を離散させた責任を問われ戦闘隊長を解任、中尉へと降格している。
 その後、南リベリオンのノイエ・カールスラント(カールスラント亡命政府)において、アドルフィーネ・ガランド少将が設立した131実験部隊に配属となる。
 この実験部隊、通称”ハルブ”はMe262の運用実験のための部隊であり、後のJV44、通称ガランド・サーカスの前身となった。
 その後、対ネウロイ戦術および兵装の実戦試験のために、前線であるスオムスに間借りしているカールスラントの工廠に出向。
 そこから、第501統合戦闘航空団の三人へのMe262運用教導の為にさらに出向となる。
 なお、三人がMe262の運用に習熟した後はそのまま第501統合戦闘航空団に配属となる予定だった。
 その際の任務はヨーロッパ奪還の援護と、各国機種との連携下でのMe262のロッテあるいはケッテ、そしてシュヴァルム単位での有効な戦法の模索。
(ロッテの基本形である攻・守パターンはその劣悪な運動性能のためにほぼ不可能。 草案としてはケッテを組み攻・攻・攻のフルオフェンスがあった)

 スオムスからブリタニアに向かう途中、北方から迂回してブリタニアの横腹を突こうとした大型ネウロイと接触。
 乗り合わせた補給船団は壊滅的な打撃を受け、ヴィルヘルミナも重傷を負う。


 その後は本編のとおり。

 ちなみに元からオレ娘。 作者はオレ娘・ボク娘が大好きです。
 確かに現実にいたら九割方ちょっと痛い子だけどさぁ……
 TSして一人称を「私」だの「アタシ」に変えるだの……何それ駄目だよ、みんなわかってない、全ッ然わかってないよ!
 【狂信者の目でぶつぶつと呟く】


・固有の魔法技術は重量軽減/質量増加。
 大きな荷物を軽くして運んだり、弾丸や手持ち武器の質量を増やして打撃力を上昇させたりできる。
 怪力の魔法を持つバルクホルンとはまた別の形で力持ち。
 機体重量の軽減による上昇の効率化、あるいは武器の質量を増やしての姿勢制御、急減速、重心移動への応用などが可能。
 また、本職や専門には劣るが、レーダー魔導針の形成も可能であり夜戦もこなせるオールラウンダー。
 魔導針は扶桑の八木・宇田式呪術陣を組み込んだリヒテンシュタイン式魔導針。
 電探範囲は3~5kmほどであるが、魔力波のやりとり自体はそれなりに出来る。
 Me262に乗り換えてからは同じく八木呪術陣タイプの新型、ネプツーン式魔導針に切り替えていた。
 (尤も、作中ではネプツーン式魔導針の知識を持つ者が部隊内に無いためにリヒテンシュタイン式を使用することとなる)
 シールド展開は非常に苦手でその強度は平均的なウィッチの7割程度だったが、命に関わるため訓練の末に克服していた。


・入院までの総撃墜数は177体。
 七月初頭に501での教導を開始、終了時に今までの功績を称え柏葉付き騎士鉄十字章が授与され、大尉に復帰する予定だった。
 が、本編のような事になってしまい、無期延期となっている。 よって、現時点での最高勲章は騎士鉄十字章。


・使用機材はMe262A-1a/U4
 基本的な性能は通常型であるMe262A-1aと変わらない。
 ただし、通常型とは違い一部装甲板が開閉式になっており、魔力の外部入出力装置、アタッチメント接続用部品等が付いている。
 これは後述する航空歩兵用の試験装備である50mmBK-5もしくは50mmMk214Aを運用出来るようにするための物。

 巡航速度860km/h、限界速度950km/h。 限界高度は約11000m。
 魔力シールド耐久力、標準的なウィッチが正常に展開した場合、12.7mm機銃弾を同時に五発まで。

 魔道ジェットエンジンを採用した世界初のエーテル噴流式ストライカーユニット。
 起動には高い魔力資質が必要で、主機の出力調整に使い魔が必須。
 集中が途切れると容易にフレームアウト(失火)してしまうので、着用者や使い魔への負担が大きい機体でもある。
 装着・起動までの時間、魔力消費、特に加速性能と旋回性能において既存機よりも低水準であるという大きな欠点を抱える。
 その劣悪な旋回性能と加速性能は噴流式エンジンの低推力に加え、従来機種と形状上の大きな差違は無いにもかかわらずかなり増加した機材重量にも起因している。
 加速性能の悪さは折り紙付きで、特に離陸時には上空に専属の護衛機の展開が行われるほどだった。
 しかし、その速度、魔力増幅率においては既存機の追随を許さないというかもはや別次元であり、アドルフィーネ少将曰く「天使の加護を得たかのような」速度性能を誇る。
 標準的なストライカーユニットの限界速度が550km~650km/h、新鋭の高速型でも700km/h程度が限界であることを鑑みると、その異常さが浮き立つだろう。
 巡航速度の差で見ると平均的なストライカーでは400~500km/hであり、、Me262とは3~400km/h前後の差となる。
 ネウロイの速度もウィッチと同程度であり、これほどまでの速度差があれば危険の大きいドッグファイトはほぼ発生しない。
 特に足の遅い大型ネウロイに対しては急速接近と離脱が極めて有効であり、連携次第では一方的な展開に持って行くことも可能であるとされた。

 非常に高い魔力増幅率を誇り、Mk108等の重量かつ非常に強力な武装を携行できる点が特徴としてあげられる。
 高い魔力増幅率はシールドの強度にも現れており、熟練したものなら相当威力の攻撃に耐えることが出来るとされる。
 ただ、その結果として主機の始動には高い資質が必要となってしまった。
 Me262は欠点を多く持ち、決して優秀な兵装ではない。 しかし、その突き抜けた速度性能は多くのデメリットを持ってなお燦然と輝いている。
 しかし、この”選ばれた者だけが使用できる”という点が論争の種になる事も少なくないようだ。
※なお、アドルフィーネ少将がJV44を設立した際にはこの点がポジティブ方面で大きく取り上げられた。
 構成員の全員が最低でも騎士鉄十字賞を受賞していたため、いわゆる「トップエース集団による最強・最精鋭部隊」として、戦意高揚に大いに貢献したという。
 機械化歩兵のアイドル性、またカールスラント奪還戦であった事も重なり、JV44が空に居る戦場ではカールスラント地上軍の奮戦振りは予測を大きく超えるものが多く、参謀本部では嬉しい悲鳴が上がったとかあがらなかったとか。
(尤も、これには都市部攻略戦に集中投入された重陸戦走行脚であるティーガーおよびその派生機の力が大きいとの説もある)

 航続距離は標準的なウィッチで約1000kmとFw190やBf109よりも足が長い……と思うようだが。
 実際は足が速いだけで魔力消費は大きいので、航続時間は大きく劣る。


・使用武器はMG42、13mmMG131/F、30mmMk108、50mmMk214A、50mmBK-5、ウォーハンマー。
 フリーガーハマーの強化版である24連装55mmロケット砲R4Mの装備も考えられていたようだが。
 再装填が不可・重い・かさばる・威力は高いが大きな弾体のためネウロイに迎撃されがち、等の理由によりこの兵装の装備は見送られたようである。
 また、突撃戦闘を想定しているので、遠距離火力は必要ないとの判断でもあった。
 プランとしては、その大きなペイロードを生かしてフリーガーハマーの二丁持ちなどが考案されている。

・MG42に関しては説明は要らないだろう。
 MG42は帝政カールスラントが生み出した当代最高峰の性能と生産性を持つ傑作重機関銃である。
 世界の火器事情を刷新した、MG34の後継兵器。
 驚異的な射率(1200発/分)が生み出す文字通りつながって一つに聞こえかねない射撃音は”皇帝の電気鋸”と呼ばれるほどであった。
 カールスラントの高い工業力に裏づけされた精度の高いプレス加工、信頼性の高い機構。
 さらに銃身を容易に取り替えられるため、銃身の劣化や過熱による命中精度の低下に対しても高い耐性があった。

・Mk108は、ウィッチの手持ち武装としてはかなりの大口径である。
 重量60kg、全長1057mm+200mm。 弾頭重量は平均330g、装弾数は24発。
 はじめから対大型ネウロイ用の武装として用意されており、非常に高い火力を持つ。 本来は航空機用に開発された物をウィッチ用に転用した物。
 追加の200mmはストック等のウィッチが手持ちにして使用するための追加パーツの長さである。 選択可能な弾種は徹甲弾、焼夷曳光弾、薄殻榴弾。
 20mm薄殻榴弾は非常に高い破壊力を持っていたが、生産に高い工作力が必須であり、しかも魔力弾化が非常に困難となっている。
 前二つの弾種は兎も角、薄殻榴弾はMG151/20の二の徹を踏まないよう魔力弾化が容易なように再設計されているが、あまり効果は奏していない。
 想定では装弾は全て薄殻榴弾の予定であったが、実際は徹甲弾と混ぜたり、いざというときに弾倉を交換するようにして消費を軽減するよう指示が出ている。
(作中では曵榴・曵榴榴榴というちょっと変則的な割合となっている)
 本来は航空機用に開発された物であり、毎分650発という、口径から考えると頭おかしいんじゃないかと思うほどの射率を誇る。
 魔力を帯びさせることの出来ない戦闘機の12.7~20mm機銃/機関砲では、一定サイズ以上のネウロイに対して有効な打撃を加えることが非常に難しい。
 その現状を打破する為に開発が決定されたという経緯を持つ。

 ウィッチがこの口径をこの射率で連射すると、魔法で軽減してもリコイルを押さえきれず集弾率の異常低下が起こる。
 というかウィッチが振り回され、飛行にも支障が出る。
 また、弾薬自体のサイズ、それに重量もあるので装弾数も稼げない。 それこそあっという間に撃ちきってしまうのである(2.2秒で終了)
 よって、射率を毎分100発まで低下させ、単射/低速(100rpm)/高速(650rpm)のセレクターが追加されている。
 Me262は魔力増幅率が高く、増強魔法への魔力マップの割り振り次第で、これを二丁同時に扱う事が出来る。
 計画当初では専用のガンポッドで片手に二丁、合計四丁を装備させる予定であったという噂がまことしやかに囁かれている。
 ハインリーケ・ベーア大尉専用の装備としてMk108を三丁結束させ、魔力で駆動する補助腕に装備。
 両手で六丁の装備を行うという前代未聞の計画案の提出が確認されており、二丁というのもながち間違いでは無さそうである。
 全長のうち砲身が占めるのは約半分程度、と口径に比べ短砲身。 初速も550m/s程度で、弾体の重さもある。
 それゆえ命中率の低さが懸念されていたが、Me262自体が超高速での一撃離脱型なので大型ネウロイに対しては特に問題なかったようである。
 小型ネウロイに対してはそもそもオーバーキル確定の装備であった。
 そのため、サイドアームとしてシュネルフォイアーやMP40等の小型火器、もしくはMG34ないし42等を携行する事が推奨された。
 重機関銃であるMG42をサイドアーム扱い出来るのも、Me262の魔力増幅率とそれに伴う強化魔法の高出力化のお陰である。
 主弾頭である薄殻榴弾の弾道特性自体は非常に素直なものだったのだが。
 砲身長が全長の半分程度であり、集弾率が低く、なおかつ弾体が重いため弾道が下がりがちで精密射撃にはかなりの熟練かセンスを要する。
 その破壊力と外見から、整備士からは「削岩機」、下品な一部のウィッチたちからはその下がる弾道から「ションベン弾」と揶揄されていた。

>ちょっと描写が足りなくて、本来のMk108にカウルとかプラスチックカバー付けたような物、と思われてる節もありますが。
 本来のMk108の尾部に取って付けた感満載の木とゴムの複合素材のストック付けて。
 弾倉は給弾位置に伝統と信頼のドラム型弾倉を貼り付けた感じでどうか。 バナナ型も好きだけど、射率の高い銃器には向いてないらしいので。
 トリガーもきちんとした銃把ではなく、自転車のハンドル見たいのがL字に突き出てる感じのイメージです。
 あと、取り回しやすいように取っ手が溶接してあるとか。
 無骨な銃器大好き。 P90やAUGみたいなスマートなのよりもウージーとかイングラムにロマンを感じる方です。
 Mk108は確か電気式プライマーだったはずなので、作中のは魔力式プライマーにして魔力で撃発を行っている、とかする。
 (よってハンドルのレバーなりスイッチなりを魔力を込めて握り込む事で撃発する)
 なお、三丁結束させて片手に持たせるとかどうすんのさ、って言う人は武装神姫とかぐぐってみるとイメージ沸くかも。
 あんな感じのマスタースレイブ方式の補助腕とか使うんじゃないかな、フミカネ的に考えると。


・Mk108も十分大きいが、Mk214Aに比べたらよっぽどまともな武器である。
50mmPak38対戦車砲を原型とした化け物兵器。
 このMk214A機関砲、重量490kg、全長4160mm、弾頭重量1.1kgと、航空歩兵用にしてもアホみたいなサイズである。
 というか最早航空歩兵ですら使えるサイズではない。 明らかに車載用とかである。 50mmとか初期の戦車砲より大口径だし。
 大型ネウロイ、特に重装甲の陸戦型や大型航空ネウロイの対空ビームの射程外から圧倒的火力を持って撃滅する、というコンセプトで作られている。
 高速で接近し、相手の射程外から一方的に殴りつけ離脱、という遠距離一撃離脱武装ではあったが、当然のごとくサイズが肥大化。
 普通のウィッチなら持ち上げることすら不可能なこのトンデモ兵器は、事実上、高効率な重量軽減魔法を持つヴィルヘルミナ中尉専用の装備となってしまった。
 それでも機動性、運動性の低下は免れなかったため、開発各位の頭を悩ませている。

 汎用性も低い上に故障も多いという欠陥兵器。
 しかし、スオムスでの試験運用中、航空型大型ネウロイをものの十数秒でうっかり撃破してしまうという実績を作ってしまっている。
 よって、廃棄処分にもされずに、スオムスのカールスラント工廠で地味に改修が続けられているのだった。
 カールスラントの技術力は世界最高峰であり、何時の日か絶対に使い物にしてみせる、と開発主任は意気込みを語る。 そのとき歴史が動いたり動かなかったり。
 各種制御用に小型の魔導モーターを内蔵。 使用する際はMe262A-1a/U4に増設されている出力ソケットと接続しなければならない。
 射率は毎分160発、装弾数28。 単位時間当たりの弾体投射量がMk108やMG42と比べて圧倒的に低い。
 ただ、大型ネウロイともなれば全長が100mを優に超す事は普通だったため、2mの砲身から生み出される高初速と直進性から問題ないとされる。
 その聳え立つクソほど有る自重により、気持ち程度にリコイルが制御しやすくなっているのが怪我の功名? である。


・BK-5も50mm機関砲であり、基本コンセプトはMk214Aと同じで、Mk214Aよりも先に完成していた。
 Mk214Aよりも重量が有る上に射率も低く、故障率はMk214Aに匹敵するかそれ以上、というぶっちゃけて言うと失敗作である。
 ここで航空歩兵用の大口径火砲の開発を中止すればよかったのだが、道理を科学力と執念でぶん殴ってどうにかするのがカールスラント。
 僅か数週間差でMk214Aがロールアウトしてくる辺りにカールスラントの高い工業力と凝り性が伺える。


・ウォーハンマーあるいは戦鎚。 全長60cm、重量2.1kg。 魔力浸透率を上昇・効率化させる加工済み。
 魔力を込め質量を最大まで増幅した後に敵上方から投擲して使用する。
 2~3m程度の小型ネウロイ相手であれば、手に持っての打撃も比較的有効。
 尤も、接近のリスクを犯すよりは当然銃火器での攻撃のほうが理想的であり、近接対応用の装備としての使い方に限定される。
 ヴィルヘルミナは欧州のウィッチ全般に見られるとおり射撃戦嗜好のウィッチであったが、必要に応じてこういった近接武器での打撃も行っていた。
 使い捨ての、イタチの最後ッ屁的な攻撃方法だが、打撃力は高い。
 大型ネウロイに対し貫通させずにその体内に留めさせることにより、残留魔力による再生阻害の効果があるとの報告も。
 Me262に乗り換えてからは、その上昇した投擲初速のお陰で威力が飛躍的に上昇している。 E=0.5mv^2である。
 別にヴィルヘルミナの魔法は質量を増幅させても体積は増えないので、見た目的には地味極まりない。

 なお、スコップとか言い出さなかった作者の堪え性をほめていただきたい。
 一番最初は魔力で青く光り輝くスコップを振り回して戦うウィッチだったが、余りにもシュールすぎるので没に。
 スコップ最強伝説! スコップが戦場に出た瞬間にネウロイの全滅は必至。 特に塹壕戦。
 っていうか世界大戦通して最強の近接兵装はショットガンとか銃剣とか刀とかじゃなくてスコップだと思うんだ。
 ドイツといえば大型両手剣だろうが、作者が鈍器好きなので出ません。 スコップなら鈍器の条件も満たすけど。
 坂本さんが刀持ってるのは和キャラだからではなく、モデルが大空のサムライだからだろうし。


・使い魔は前述の通り白毛のジャーマン・シェパード。 ホワイト・スイス・シェパードという別の品種として登録されている、かも。
 白毛のジャーマンシェパードは珍しい。 ヘアゲット/バッツ両家の守護精霊である。
 非常に忠義が篤い使い魔で、ヴィルヘルミナが事故後に唐突に意思疎通が不可能になりかなり混乱したものの。
 たとえ記憶が混乱していようともネウロイと戦う意志を絶やさぬ姿を見て、忠を捧げるに足ると思い、力を貸している。
 素人である主人公の分も補って、Me262の制御を行えるほどの優良使い魔である。
 劇中で主人公が時々飛んでる最中に気絶しかけたり、気を少し抜いても直ぐには落ちないのはこの子のお陰。
 最初の模擬戦でフレームアウトして以来、常に出力管理に注意を払っている苦労人、いや苦労犬である

 本編にきちんと登場しない以上全く持ってどうでも良い設定だが、ヴィルヘルミナの事を「お嬢」と呼ぶ。
 好物は薫製ビール。 犬だってアルコール呑むのである。
CV:銀河万丈



・モデルはドイツ空軍のエクスペルテン(エース)、ヴィルヘルム・バッツとヴィルヘルム・ヘアゲット。
 何故二人か?
 バッツはバルクホルンやハルトマンと関係があって、しかも割とバルクホルンと仲が良さそうである(一緒に写っている写真が何枚か残っている)。
 外側だけとはいえ、なるべくなら原作登場キャラクターと少しでも関連のありそうなキャラクターを使いたい。
 あるいは、原作にも「居るんじゃ無かろうか?」と思わせる程度のキャラクターが良い。
 完成してる物語に異物突っ込むんだから、自分に言い訳できる要素は出来るだけ追加しておきたいチキンハート。
 しかし、バッツはMe262に乗っていないのである。 JV44に誘われなかったとも言う。
 このSSは作者のMe262に対する熱いパトスをまき散らす場です。 よってヘアゲットと名前がファーストネームが一緒なのを良いことに統合しました。
 全国のバッツファン、ヘアゲットファン、申し訳ありません。

 なお、バッツは東部戦線のエクスペルテン。 愛称はヴィリー(Willy)
 教官になったりした経緯はこの人から。 基本的な経歴はこの人をベースとしております。
 シャーリーに呼ばせた愛称も、Willyをアメリカ風にしたもの。
 JG52所属、ハルトマンが所属する第三中隊の隊長になったこともある。
 ハルトマンより遅く戦線に出て、ハルトマンと同じか、より速いペースで撃墜数を稼いでいる。 もっとも、それだけ独逸が劣勢であったという事実でもあるのだが……
(敵機の数が純粋に多い、ローテーションとか組んで休息を取るほど余裕がない、等の理由で劣勢国はエース(と戦死者)が生まれやすいらしいです)
 戦場にでた時機が時機なら、ハルトマン、バルクホルンと並ぶエクスペルテンになっていたかも知れない。
 軍の広報関係の写真が2~3枚だが、バルクホルンとBf109を前にして話してたりする物が残っている。
 まぁ同じ戦闘団の中隊長だったし、それなりに面識や親交もあったらしい。 持ってないからわからないけど、バルクホルンの自伝になんか書いてなかったっけか。
 興味があるなら少し調べてみると簡単に見つかる、と思う。(ただし英語や独語サイト)
 総撃墜数は237機。 なお、きちんと生きて終戦を迎えている。

 ヘアゲットは夜戦のエース。
 ガランド・サーカスが結成された際、専用試作機Me262A-1a/U4をひっさげて参加した。
 数が支配する第二次世界大戦時に専用試作機! 男の子の浪漫である。
 しかし故障続きの上に超重量失敗兵装Mk214A(実際はBK-5だったらしいが)のお陰で超トップヘビーで、実際はまったくと言っていいほど役に立たない機体でした。
 戦闘機に搭載する物に重要なのは何よりも軽さと小ささです。 ただし、同時にこれはMe262のペイロードの大きさを物語る良い例でもある気が。
 身長170cmあるのに、ガチムチ独逸軍人達の中ではちびすけ(デア・クライネ)と呼ばれていた可愛そうな人。
 ヴィルヘルミナのあだ名や機体、夜戦能力とかはこの人から頂きました。 元々はそのファーストネームとMe262に乗っていたという情報からの起用。
 尤も、彼のMe262A-1a/U4は別に夜戦型の機体ではなかったのですが。
 総撃墜数は73機。 内57機が夜間撃墜数。 こちらも生きて終戦を迎えていたはず。


・なお、作中で、ヴィルヘルミナが離陸時に「迂闊にフルスロットルにするとチャンバーが溶け落ちる!」 とかよく言っているが。
 そんなのは実機のMe262だけです。 しかもチャンバーじゃなくてタービンブレードだし。
 ストライカーユニットではそんなことはなく、適正高度まではリミッターが働いて出力が随時調整されます。
 ただ、100の魔力を注ぎ込んでも50位でリミッターがかかってしまうので、魔力の大いなる無駄である上に、逆に魔力をがんがん飲み干していく……という設定。
 多分、普通のユニットが魔力で呪符(プロペラ)を生成しているところを見ると、タービンブレード一枚一枚を魔力で生成してるんじゃないかなぁ。
 それだけ多数の呪符を生成するのと、さらにそれを高速回転させた上に。
 流入するエーテルに何らかの方法で指向性を与えて吐き出すのに、高い資質が必要なんだと解釈。
 また、実際のMe262が生産された時機と違い、資源の欠乏による耐熱金属の不足・低質化も無いと思いますので。
 多少は気が楽なんじゃないでしょうか。 あれは技術が未成熟だったのに加えて、敗戦モードで高品質で高価な耐熱金属が満足に使用できなかった所為のはず。


※と、いう風に強引に二人のキャラクター像を合体させてしまったため、結果的に昼夜対応というこの時代の戦闘機としてはチート一歩手前の能力者になってしまった。
 一応、魔導針は固有魔法ではなく、ある程度は普及しているタイプの魔法っぽいので勘弁。 八木呪術陣を用いたリヒテンシュタイン式魔道針、とか言ってるし。
 もしもレーダー針の形成が固有魔法だったら「呪術陣を用いた」とか○○式、という呼称は付かないんじゃないかと。
 リヒテンシュタイン式だけだったら、そのタイプに分類されるだけの固有魔法、とも取れるんですが。
 サーニャの魔法は「広域探査」、みんな大好きハイデマリーさんの魔法は(おそらくは芳佳と同じく)制御できなかった、という記述から「夜間視」だと思われる。
 現実のデータをそのまま魔女に適応するのもどうかと思う所もありますが、実際だとこの手のレーダーの有効範囲は状況にも拠るが4~5kmほど。
 もっさん曰く地平線の向こう側まで感知できるというサーニャの能力は、固有魔法で魔導針の効力を大幅にブーストしてるからなんではなかろうか。
 空中で地平線、というと高度次第で数百kmとかになったはず。 特にサーニャは、ストライカーも高空で本領を発揮する夜戦向きの機体のはずだし。
 現代の機載レーダーでも、(空中管制機でもないと)地平線の向こうとか凄い距離は見れないんじゃなったかな。

 全くどうでも良いけど、複座型計画機Me262/HG3のベルリンレーダーって、馴染み深いパラボラ型なんだけど。
 ウィッチ用にするとどうなるんだろう? 二人で百合百合な感じに額を合わせると頭上に魔力のパラボラぽいレーダーが出るとかそんなのか?


>オリ主
 石を投げれば当たるほどよく居るオリジナル(?)主人公。 そんなに良くいるのにオリジナルとはこれいかに。
 年齢は28歳後半。 無職だがマンションのオーナーであり、不労所得者。
 元不良で、バイカー。 盗んだバイクで走り出した15の夜である。
 苛烈な性格をしていたが20歳の頃、とある事故で親友の死に面し、真面目に生きることを決意。
 21歳で大検合格後、大学に入学、25歳で卒業。 その後、小金持ちな親が蓄財目的で購入したマンションの管理人をして過ごす。
 基本的に遊び人であり、両親が死ぬまでは暇を作ってはレジャー系などにいそしんでいた。 27歳の頃、両親と死別。
 遺産相続でマンションのオーナーになった彼は管理人を雇い、ニート生活を始めた。
 一年ほど肉声を出さずに居たら、話し方を忘れるアホの子。 ただしコレは多少なりとも肉体との齟齬の所為もある。
 童貞。 もうすぐ素で魔法使いになれる。

 元々はゲームやアニメになど興味はなかったが、大学に入った頃偶然テレビでやっていたアニメにはまり、道を踏み外す。
 コンバットフライトシュミレーターやエースコンバットなど、空戦の類のゲームを好んでやる。
 また、そこから派生してにわかミリオタ、と呼ばれる程度には知識もあるようだ。
 ただし、その知識量は一般人からはオタクと呼ばれ、オタクからは素人と呼ばれる中途半端なレベル。

 ネアカな性格で、常にテンションが高め。 基本的にはツッコミ系性格。 好きな単語はロジカル。 
 女性の好みは体型にメリハリが付いてる子、明るい子、と自分では思っているが、実際はそんなに頓着しない。
 座右の銘は「慌てる馬鹿は貰いが少ない」。 ただし、しばしば忘れて慌てて貰いが少なくなる。
 寝るときはパジャマに着替える主義。 寝相は良い方。

 しかし、不良時代のあだ名はT峠の狂犬。  こいつは”不幸(バッドラック)”と”踊(ダンス)”ッちまったんだヨ……!(ビキビキ)
 面倒見は割と良く、評判もそれなりだったのだが、スピード狂かつ超喧嘩っ早かった。
 喧嘩はそんなに強い訳ではなかったが、とりあえず殴りかかるあたりが狂犬である。
 また、何をトチ狂ってたのかは解らないが、走行方法も危ない事が多かった。 狂犬だから。
 この時代は彼にとってはとんでもない黒歴史であり、出来る限り触れたくない領域である。
 自分の感情を制御しようとしたり、結構頻繁に落ち着けと自分に言い聞かせたりする傾向もこの辺の経験から。
 また、変に勝負度胸があったりするのも、この頃に何度か修羅場を潜ったことがあるためである。
 ピリオドの向こう側を目指して埠頭でチキンレースして海に飛び込んだのも良い黒歴史。

男は女を守る物とか言っているあたり結構古いタイプの男尊女卑派と思われがち。
 とはいっても、別に女性は後ろに居ろとか、銃後を守る物とか、そういうのではなく。
 ただ単に男の方が女より肉体的に優れているのは明らかなので、役割分担は重要だよねと思っている。
 ゲームでもエディットできるなら肉弾戦キャラは男で、間接系は女で作る。
 アグリアスを速攻で白魔道士にした猛者。 しかしパラメータを確り吟味した結果、近接系に戻している。
 ウィッチーズに対する憤りは、どちらかというと子供を鉄火場に連れてくる(連れてこざるを得ない)事の方。
 死んだ親友が年下の女の子だったのもこの行動原理に大きく影を落としている。

 特に名前はない。
 馬鹿野郎、ストライクウィッチーズに名前有りの若い男キャラなんていらねえんだよ……!
 というアニメ製作スタッフの漢気に敬意を払います。 土方? ハハハ、登場時間3分にも満たないじゃないですかぁ。
 (宮藤パパとか赤城艦長は除く。 あと、ミーナさんの彼氏(故人))

 ところでオリ主ってどう読むんだろう。
 おりしゅ? おりぬし?


・女の子になっちゃったことにあんまり気を揉んでないようだが、実際は思考放棄してるだけである。
 お陰で生理起こしたときはあまりの精神負荷にぶっ倒れた上に、直後は情緒不安定に。
 しかし生理が終わるとけろりと忘れる。 大抵のことはのど元過ぎれば熱さを忘れる、典型的なお馬鹿さん。
 空戦のイロハをゲームから学んでいたのと、身体を動かすのが得意なため、初飛行でなんとか初三次元戦闘をこなしてしまう。
 案外才能があるのかも知れない。 もっとも、射撃は下手くそ。 ヴィルヘルミナ・ボディの魔力量と資質におんぶにだっこ。
 ただ、その資質のお陰でシールドの展開が非常に苦手なのであるが。 
 ついでに言うと、「飛行機の飛び方」を意識しすぎている所為で、「ウィッチの飛び方」になかなかついていけない。

 ちなみに、憑依後、身長が変わったお陰で距離感が掴めずものすごい四苦八苦したが。
 病院で一週間入院している間になんとか適応したため、とりあえず日常生活には支障が出ない程度にはなっている。
 射撃が下手くそな要因の一つではあるが、やはり根本的に射撃に向いていないのであった。
 この辺の描写はべつに詳しくやってもしょうがないのでスルーしております。 でも憑依系的には重要なんだろうか……?
 まったくもってどうでもいいことだが、厚着なのをいいことに、蒸し暑い日はノーブラ。
 ブラジャー? 蒸れるんだよ! 知るかボケ! と自分を鼓舞しながらその日を過ごす。 厚着するのにはきちんと理由があったりするのだが。

時々キャラクターに敬称がついてたり付いてなかったりしますが、これは本人の癖です。
 ミーナには何かと世話になっているという感覚が強いので概ねつけています。
 美緒は一番の年上で、同じ(まぁヴィルヘルミナの体だから厳密には違うけど)モンゴロイドで、割と好みなので、さん付け。
 ウィッチーズの中でお付き合いするなら美緒かシャーリーだと思っている。
 あと、女の子だと思ってる相手は基本呼び捨てですが、大人の女性として認識してる相手にはさん付けしたり。
 ただ、シャーリーのみ、主人公本人は大人の話が出来る相手だとは思っていても、こう友達っぽいというか気安い雰囲気なので呼び捨て。
 本人も気付いていないが、一番気を許してるのはエーリカ。 何やられてもびっくりして心の中で叫んで、でもその程度で済む。
 ただし、未だにエーリカの胸を揉んでやろうという野望は費えず。

モデルとなったキャラクターは特になし。 でもまぁ、この程度のキャラだったら、それこそ石を投げれば当たるくらい居るんじゃね?
 一応性格の骨子としては
 ・やたらと大人ぶる。 ・自分の美学は貫き通す(男の意地とかその辺) 
 ・女子供を大切にする。 ・悩むこともあるが思い切りはよくする。
 ・考え方が若干ドライ。 ・でも自分の周囲に関しては凄くウェット、というか感情的に
 この辺を意識して書いています。 しかし要素だけ見ると結構勇者チックだな。 ドライな部分を無くしたら王道主人公で行けそうだ。
 かなりの無茶とかしてますが、一応自分も生き残るつもりで、妥協しながら行動させてます。

 なお、フィクションでファンタジー的にTSした童貞男性が必ず一度はやるであろう自慰行為もしくは性器鑑賞だが。
 ヘタレ童貞なので怖いのと恥ずかしいのでやってない。
 毎日良く運動して、疲れ果てて眠る健康的な生活を繰り返しているので別に性欲はもてあましていない。
 でもおっぱいとかお尻とか心構え無しに見るとドキドキする。 男のサガである。


>妄想
 第一次大戦のウィッチ、”レッドバロネス”エルフリーテ・フォン・リヒトホーフェンとかどうだろう。
 真っ赤に染められた飛行艇体”フォッカー”に跨って、当時ボスキャラと見做されていた大鷹型ネウロイとタイマンで45分にわたる死闘を繰り広げる。
 その末にこれを討ち取って一躍有名になったとか。(ネウロイが機械型を主にとるようになるのは1937年の扶桑海事変から)
 ネウロイを撃墜するたび部屋に銀杯を飾るとか。
 実は彼女より才能に優れた妹が居るが、エルフリーテの戦果は我慢強く、堅実な戦闘を心がけた結果のものであるとか。

 ……なんか萌えキャラ要素がないです。 没。 エルフリーテはアルフレートの女性風読み。


>妄想2
 スオムスが誇る最強の非ストライカーの陸戦ウィッチ、”白い死神”シモーヌ・ヘイヘ。
 ストライカーユニットへの適正が無く(空戦型のみならず陸戦型にも!)、対瘴気用の結界要員の従軍魔女だったのだが。
 その神がかった狙撃力は、仮にストライカーに適正が有れば同時代のあらゆるウィッチを凌駕していただろうとも言われる。
 (”アフリカの星””見越し射撃の神”ハンナ・ユスティーナ・マルセイユすら凌駕することは想像に難くない)
 使用した銃はモシン・ナガンM28。 この旧式の、ボルトアクションの銃で一分間に16体の歩兵型ネウロイを撃破するという、驚異的な記録も残る。
 スオムスでの陸戦に参加してから負傷して後送されるまでの約100日間。
 たったこれだけの期間で、500体以上の歩兵型ネウロイを撃破している。
 コッラーの戦いにおいてはシモーヌを含むたった32名の歩兵が4000体以上のネウロイを相手に拠点防衛に成功している。
 この際に上げた戦果は莫大な物だったが、あまりもの激戦であったため、撃破数の計上が正確に為されていない。
 一節では、この戦いでの撃破数を計上すれば、総撃破数800体を超えるという。
 白い死神の二つ名通り、雪に良く紛れる美しい白髪と、雪のような白い肌を持つ。
 固有魔法は「直進」。 対象に問答無用の直進性を与える魔法で、弾丸に驚異的な貫通力を付与する。

 この悪魔的な戦果をたたき出した彼女に、何かコツのようなものはあるのか、と聞いたところ、「練習だ」の一言が返ってきたそうである。
 これを聞いた一部の人間が勘違い。
 人類の脅威であるネウロイですら、伝説のケワタガモを狙う狩人であるシモーヌにとってはただの練習の的でしかないのか、と戦慄したという。

 ルーデル閣下やハルトマンと並ぶ、人類の決戦存在第三号。 マルセイユも含めるなら第四号。
 何だこの戦果。 相変わらず絢爛舞踏も同然の殺害数だな、シモ・ヘイヘ。
 個人携行火器でこれとかマジ人間止めてるとしか思えない能力。
 しかも白い死神とか素で呼ばれてますし。 ウクライナの黒い悪魔、ハルトマンも大概だけれど。
 シモ・ヘイヘが飛行機乗っても全然弱いと思うが、ウィッチは人間用の火器使うので行けるかなー、と思った。
 だが、歩兵であって航空歩兵じゃないので没。
 あと狙撃兵は渋いおっさんの方が圧倒的に萌え要素が強い事を思い出したのでウィッチ化はやはり没。
 固有魔法は「隠蔽」でもいいかも知れない。 気配を消す系の、狙撃に有効な感じで一つ。


>使い魔についての考察
 アニメ版でも小説版でもほとんど触れられていない使い魔。 漫画版だとなんか、こう、トラブルメイカー的な……それでもろくな扱いじゃない。
 もっふもふ要員なのになんでこんなに扱いが酷いんだ! 酷すぎる!
 アニメだと作画量が増えるので切るのは必然だったかも知れないですが……
 さて、Ep2においてヴィルヘルミナが使い魔との交信をコンパス越しに行っていますが、この辺の考察と解釈を。
 公式情報では、使い魔はウィッチが魔法を使うときに魔力の制御などを手伝っているようです。
 魔力の制御の補助、ひいてはストライカーユニットの制御を使い魔が行っていると見て良いでしょう。
 フミカネ氏のページ曰く、マルセイユは飛行中に使い魔を失った際、ユニットが火を吹いて飛行不能になった、との事ですし。
 要するに、魔女とストライカーユニットの間を取り持つ存在、それが使い魔かと思われます。
 使い魔のお陰で、ウィッチはユニットを感覚的に操作することが出来る、という事かと。
(ユニットの操作感を感覚ではなく数値で表現できるウィッチは重宝される、という感じの記述があるため。
 逆に言えばストライカーユニットの操作は多くのウィッチにとって感覚的な物なのでしょう。
 この辺の思い付きが無ければヴィルヘルミナは地上勤務で最初の数エピソード過ごす羽目に……)
 
 主人公は使い魔との意思疎通が行えませんが、ヴィルヘルミナの使い魔は主人公の意図が明確に伝わらなくても、それにあわせることが出来ます。
 使い魔の高度な制御力を必要とされるMe262を制御しながら主人公にあわせてくれる彼。 相当優秀です。
 なお、コンパスは単にガジェットとして有用そうなので。 あと、動物は人間よりも磁力というものに遙かに敏感だそうで。
 その辺で意思疎通を図ろうという使い魔(とkd)の思いつき。

 魔力で強化されている主人公の視覚でも捉えられないほど遠くにいたミーナさん達をどうやって使い魔が捕捉したのか。
 そのまえに蘊蓄を少々。 フライトシムをやったことがある人ならご存じかと思いますが、飛行機のコックピットは計器がクソほど有ります。
 高度計、気圧計、対地速度、対気速度、燃料、水平計、方位磁針、その他諸々。 そのどれもが空を飛ぶために必要な物です。
 ウィッチはその身一つで空を飛ぶため、kdはしばしば「方位磁針すら無しに、よくこいつ等空で迷子にならないよなー」と思っていました。
 そこでkdは思った! きっと使い魔がやってくれてるんだ! だんだん万能になる使い魔。
 そのうちご飯を炊くのも洗い物を乾燥機にかけても縮まなくするのも、茶柱を立てるのも使い魔の仕事になりそうな気がしないでもない。
 
 なお、上記の考察は完全に無根拠という訳ではありません。
 ストライクウィッチーズの誌面展開、初期の辺りでは増加艇体に使い魔が乗り込むことになっていて。
(増加艇体:脇にかかえたり、跨ったりする飛行機の胴体型をした追加装備、あるいは”旧式の”ストライカーユニット、魔女の箒。 今では影も形も無いですね)
 ウィッチを補助するために存在する様々な機能を使い魔が制御する、という物になっています。
 高位の使い魔なら、なんと(水鏡を利用した)レーダー機能すら使用できるという物でした。
(恐らくこの辺はサーニャの広域探査能力や、レーダー魔導針の設定に吸収されていったものと思われます)
 そう言う訳で、使い魔が、敵の位置は兎も角味方の大まかな方向くらいなら探知できても良いんじゃないかなぁ、と。
 あと、ヴィルヘルミナの使い魔が犬であり、方向感覚と嗅覚に優れることも鑑みての描写でした。

各メディアで使い魔のことが全く触れられていないのは、使い魔というのが僚機等を超えた第一の相棒であり、側にあって当然の存在。
 正しく空気の様な関係で。 そこに尺を割いてまでドラマを描く必要が無いほど、既に完成された関係なのではないか、と想像します。
 ……まぁ、前述の通り低予算故だったり作画量だったり尺の問題だったり、キャラ数を増やすことを嫌ったりの所為な気が120%するのですが。


>ネウロイチート:書き始めるに当たって、敵戦力としてどんな塩梅か認識するために書きだしてみた物
戦略編:
・人間はウィッチを除いて瘴気で自動的に全殺しにしてしまうので、民間人に対する占領地政策とか必要ない。
・よってゲリラとかレジスタンスとかほとんど気にしなくてよし。
・兵器の製造、というか増殖に必要な資源の質は割と不問。 金属さえあればOK。
・つまり、都市部を占領したらそのままそこが策源地となる。
・事例が余り無い以上戦略的に運用するのは無理なのかもしれないが、勢力圏外でも突如として巣が出現したりする。
・1944年の時点で膠着していたヨーロッパ戦線から遠く離れた、シベリアの方に突如としてネウロイの巣が出現した。
 コレのお陰で、扶桑本国も臨戦態勢に入っているらしい。
・人類側に対抗して、きちんと新兵器(新種?)を投入したりしてくる。
・ウィッチもどき、と呼称されるような存在等や洗脳・憑依を見る限り、諜報の概念はきちんと有るようだ。
・特定条件がそろうと、広範囲を地形ごと消滅させるらしい。 小説版では世界地図に色々穴が開いてます。
・戦闘で破壊した人類側兵器も普通に吸収して資源化できる。
 当然人類側の回収・再利用より効率は高いだろう。 なんたって吸収同化だし。
戦術編:
・個体間の差が小さい? ただし、指揮官的なネウロイ(往々にして大型)は存在する。
・尤も、人類のピラミッド型指揮構造の真似をしてるだけで実際には別の指揮大系の可能性も有る。
・人類側の戦術を模倣する傾向がある? 特にそんな描写はないがおかしくもないイメージ。
・人的資源を気にしないでいいので、総生産量と戦力がイコール。
・基本的な戦法は物量と質による攻勢……らしいが、陽動や迂回戦術などもちゃんと使う。
・ウィッチの居ない部隊相手なら乱戦に持ち込んだ時点で勝ち。 瘴気で普通の人間は乙。
・市街戦とかにとっても強そうだ。 歩兵が肉迫攻撃しようとしても、瘴気で乙確定。
兵器能力編:
・「瘴気」なる、オーラだか毒ガスだか良くわからないものを標準装備。 生態系にとって致命的らしい。
・現状、人類側はこれに対抗するのに、ウィッチが展開できる結界以外の対処法を持たない。
・コアがつぶされない限り再生する。 魔女の魔法力をこめた攻撃によって、この能力はキャンセルしたり遅滞させたりできる。
・つまり、飛行機なら羽が折れたら墜落するし、戦車なら履帯が千切れたら機動力の低下や移動不可が起きたりするが。
 普通に再生してフルポテンシャルで戦闘続行できるネウロイ。
・というかネウロイの戦車は多脚型だからそもそも足一本くらいなら折れても平気。
・飛行型はどうやって推進力と揚力を得てるのか謎。 一応推進部らしきものを持つものもいる。
・が、揚力を使ってるような形状のでも、翼面積の3割ほど失っても普通に飛び続けられる。
・反重力でも使ってるんだろうか。
・装甲厚は同サイズの人類側兵器と似たようなものらしい。 通常の戦車クラスなら88mm高射砲の水平射で抜いて、撃破できる。
・全高5~10mくらいありそうなのでも、側面からなら88mm高射砲でコアまで抜ける。 多分対戦車用の徹鋼弾。
・しかし、100mとか超えるネウロイは、相応の装甲厚になる。
 人類側の通常兵器が、一定サイズのネウロイまでしか相手に出来ないのは多分この辺が理由。
・コアさえ生きていれば、コア単体でも周辺から金属を吸収しての再生が可能。
・初期の兵器は実弾兵器が主らしいが、1939年の再出現時点でもアホかと思う威力のビーム兵器を持つ個体も居る。
・大型ともなると滅多撃ちできる程度には実弾、ビーム共に搭載弾数があるらしい。 弾数無限のコスモガンの可能性も有るが。
・レーザーと思われがちだが、光熱を伴い、当たると対象の融解・発火ではなく爆発や消滅が起こったり、広範囲を抉り取ったりする。
・見てから避けれる辺り、ライトSFにありがちな「なんかビームっぽいもの」なんだろうけど。 一応公式では「光熱を伴う光学兵器」。
・完成した怪力光線とかいうオチだったら笑う。
苦手編:
・水が苦手。 渡河に妙に時間がかかったり、水源地を迂回したり、雨季には侵攻速度が鈍るらしい。
 アニメを見る限り「一週間に一度、ほぼ大型限定」とか、海を渡るとなると相当気合の入ったコアと機体が必要らしい。
 小説版だと一気に大型が五機とかやってきたりしてるんですが。
・寒さが苦手。 冬のスオムスでは地上の進行速度が鈍ったらしい。
 と、なると、東部戦線では冬将軍様の出番がちゃんとありそうです。 そして春は地獄の湿地帯です。
 ウラルでせき止めてるらしい東部戦線は割と安泰かもしれない。 よかったねサーニャ!
・山岳地帯が苦手。 陸上戦力が多脚兵器な所為か、相当侵攻速度が鈍るらしい。
 人類側はこれを利用して、山岳部を要塞化してネウロイの侵攻をせき止めているんだとか。
・ウィッチが苦手。 というか、魔法力が苦手。 再生を阻害し、瘴気を退ける結界を張る。
 応用により、コアの封印や、銃器に魔法力をこめて打ち出すことで威力の劇的な増大が可能。
 シールドによって、艦船も吹っ飛ばす威力のビームを逸らすこともできるという、まさにネウロイの天敵。
 MG42なんていう歩兵火器で100mを超える大型ネウロイを相手に出来るのはウィッチだけ。

 漫画・小説・アニメ・各種記述から見えてくるネウロイのチートっぷりをざっと挙げてみた。
 妄想や勘違いが大分混じってる気もするが、大体こんなところのはず。
 そりゃあ人類連合が押されるはずだわー。 ウィッチがどれだけ頼りにされるかも良く解る。
 大火力兵器を投入し辛い空に、100mを超える大型ネウロイが飛んでるわけだから本当手に負えない。
 地上ネウロイは多分、艦砲射撃とか大型爆弾でなんとかやれそう。
 戦艦の砲撃や爆弾が持つエネルギーに耐えられるほどの大きさだったらウィッチでも無理じゃまいか。
 ただ、確実に撃破しないと再生されるため、通常兵器だと厳しいことに変わりは無いが。
 ああ、いや、あるいは戦艦型ストライカーユニット、というかこう、魔女が動かす戦艦とかそんなのか……?
 船霊とか基本的に女性らしいし、大和だか武蔵にはなんか女の子の霊が出るとかそういう話無かったっけ? メカ少女的にはいける! いけるよ!

 あるいは列車砲とか! 800mmグスタフとドーラ萌え! 萌え! 区画ごと吹っ飛ばすアホ見たいな威力萌え!
 設営に一月かかったり、専用のレール必要だったり、お世話係に1200人の要員が必要なのもなんかお嬢様っぽくて萌え!
 枢軸側のトンデモ兵器なんで、二期で脅威の超大型地上型ネウロイとして登場してくれないかなぁ。
 登場したらルーデル閣下が嬉々として壊しに行きそうだけど。
 よし、ガーデルマン出撃だ! とか言って。 ストパン世界だとルーデルは兄妹で二人も居るし。 なんだそのソ連軍終了のお知らせ。



>どうだ! これこそが設定厨の本性だ!

 まぁ、こういう解釈と設定でSS書いてますよ、と言ってるだけです。
 妄想の、あるいはフロム脳の結果、あるいは成果。
 設定語りはウザいのはわかってますが、前7割は作中に出た情報のまとめみたいな形でもあるので、黒に近いグレーゾーンだと思うのですが。


自分メモ:
 コンパス、ゴーグル、ティーカップ、QSLカード、ブランクタロット、リボン、目覚まし時計、ミーナ、美緒、扶桑人形?、ペリーヌ



[6859] Appendix 02:Nakagaki
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/07/29 14:53
APPENDIX:「なかがきとか各話解説とか」

・なかがき
 どうも分散した、意味のあいまいなあとがきみたいなものしか書けていないので、ちょっとこういうのを書いてみたくなりました。
 というか、あれ別にあとがきじゃなくて書いてる最中に思ったことのメモみたいなもんだし。
 作者だって人間だもの、いろいろ言いたいことたってあるさ。
 というか寧ろあふれ出る自己顕示欲を抑えきれない。 俺スッゲェェェェェェェ! 俺を見て!! という痛い奴ってことで一つ手打ちに。

 最初の話を投稿してから約五ヶ月。 思えば遠くへ来たものです。
 正直叩かれるの覚悟で書き始めたSSですが、おおむね好評なようで安心しております。
 嘘です。 安心どころか画面の前で小躍りしてます。 ヒャハー!
 公に出す以上、「読み手を楽しませる」事を重視してしかるべきなのですが。
 文体、表現方法、一人称/三人称の使い分け、視点の移動など、「書き手の実験」という要素が強くなっていて申し訳ありません。
 そんな、基本すら出来ていない稚拙な作品を、此処まで読んでくださりありがとうございます。
 それに、Extraやこのなかがき、設定を除いた文章量、約30万文字。
 平均的なラノベ三冊分くらいです。 ハッキリ言ってここまで書けるとは思いませんでした。
 絶対飽きると思ってました。 書き続けられるのも、読んでくださる人、感想をくださる人のお陰です。
 あと、この場を借りてお礼を言わせて貰いますが、メールで絵などを送ってくださった方、ありがとうございます。
 その際、公表しても構わないかどうかを併記して頂けると幸いです。
 フリーメールでやってる所為か、返信でお聞きした際に返事がなかったりしたので。

 というか、PVがコレを書いている時点で17.5万+消してしまった1.6万、感想数が143+消してしまった24件とか。
 他にウィッチーズメインで活動してる人が理想郷にいないからって伸びすぎだろう常識で考えて。 要素を見るとトンでもなくゲテモノSSだし。
 「トラック」「TS」「オリキャラ」「オリ主」「憑依」「原作知識あり」「再構成」「百合(?)」「しかし概ね原作通りの展開」
 オーケー、地雷臭しかしないな。 自虐的にすぎるけど、笑えない自虐が持ちネタなので勘弁。

 前書きに書いたまんまの理由で、SSを書くことに決めたのですが。
 本当なら火葬戦記とか、スカイ・クロラっぽいものを書いても良かった、というか書くべきだったのでしょうが。
 フミカネ氏の作り出す世界観が、お絵かき掲示板で活動していた頃から大好きで、気づいたらそっちで書く方針で資料集めしてた。
 ただ、ウィッチーズで火葬戦記に出来なかった理由として、ネウロイの歪み無いチートっぷりと当時の自分の筆力の無さに諦めた部分も。
 未だ、筆力に関しては全然自信ないのですが。 羞恥プレイ的に、最初期の、火葬戦記風だった奴のプロットを最下部に載せて置きます。

 萌え要素・笑い要素満載ではなく、設定とか空戦とか妄言とか変なのに溢れてますが。
 kdがウィッチーズに感じるもがそういうのなので勘弁してください。
 どうも、表層的に、ぱんつやおっぱいや下半身丸出しのインパクトが強すぎるためか、見るのを避ける方が多いように思えますが。
 友情、成長モノとしては2008年のアニメの中でも結構秀逸な部類だと思います。
 二期も始まりそうだし、みんな見ようぜ。 で、もっとSS書こうぜ。 ウィッチーズ板が出来るくらい。

 以下、各エピソード解説と作者の感想。 まだ読んでない人は読まない方が良いです。
 読んでないのになかがき読もうとする人とか居るとは思えませんが、あとがきから小説読む人も居るので一応。
 盛大なネタバレと同時によくわからん戯言とネタと愚痴を含みます。 そのうえなんか長い。
 自分で解説を書くのは一瞬どうかと思ったけれど、まぁアリなんではないかなぁと。 
 あ、解説読んだ後で本編を読み直すとちょっと違った感覚で読めるかも知れません。
 では、覚悟の決まった人は下のほうへどうぞ。


















Prologue:
 数年ぶりに筆を取った、というか打鍵した結果のプロローグ。
 短い! 描写が微妙な上にショボい! 全体的に薄っぺらい! と、はっきりいって書き直したい部分。
 でもなんか改稿に関して、「連載中はあんま改稿しないほうがいいんじゃね?」的な意見がFAQ板で見受けられたのでしない。
 まぁ、あのショボさではしょっぱなで出鼻をくじかれて読むのをやめる人も多かろうという感じです。
 読み続けてくださっている方、本当にありがとうございます。 kdの筆力が回復していく様をお楽しみください。

 微妙な改行が非常に多いですが、これはkdの性癖のようなもので、ブラウザ上で横書きの日本語が右端で折り返されてると。
 漠然とした不安のようなものを感じるのです。 縦書きだったり、英文だったりしたら平気なんですがね。
 改行で無駄に行数を稼いでるつもりは無いのですが、序盤ではそう思われても仕方ない気がします。
 軽く偏執的ですが、まぁ本当に個人的な性癖なので勘弁して下しあ。

 一番最初のミーナたちの会話の辺りで、火葬戦記風にしようと思ってた頃の名残が見えますね。
 その後の、トラックどーんですが、本来なら時流への反骨心からちょっと凝ったものにしようと思ってたんですが。
 その時点での実力足らずのお陰で難航、結局テンプレートどおりのトラック転生と相成りました。
 まぁ、マンネリズム的安心感とかそんなのでもいいんじゃね? と心の中で折り合いがついたとか。
 どうでもいいけど、トラック、人撥ねすぎじゃねぇ? 日本の運輸業の明日はどっちだ。

 主人公の喋り方は、よくある勘違い系の要素を入れようと思って変な方向に失敗した物。
 でも無口系キャラ好きだからいいや、とそのまま見切り発車。 今でも名残でたまーに、地味ーに勘違いされてます。
 後主人公に関しては、状況適応力が高すぎなのがなんとも。 裏では色々努力したり苦労したりしてると思って補完してください。
 改稿時に追加予定です。 まぁ、主人公が現実逃避してるだけなのも有るんですが。

 キャラクターの造詣に関して、非常に苦心しています。
 多少の崩れは致し方ない、という甘いささやきに屈しないよう、気をつけて書いているのですが。
 感想板のほうで指摘があれば、自分なりに原作やメディアを見直して再吟味しますので、バシバシどうぞ。
 私なりの解釈、というのもありますのでご期待に添えるかどうかは判りませんけれども。
 一応、「このキャラならこういう動き、言動をしてもそんなに違和感は無いよなぁ」というレベルを維持できていると思っているのですが。

 スオムスに間借りしてる工廠……? Me262はカールスラント(ドイツ)なのに? と思った方へ。
 スオミ(フィンランド)は第二次世界大戦においてドイツと同盟国で枢軸側。 技術供与や装備供与を受けていました。
 その辺の関係からです。 輸送ルートは陸路で西にバルトラントを通り抜け、そこからカールスラントの艦隊でブリタニアまで。
 駆逐艦エーリッヒ・ギーゼは史実の1940年、北欧はナルヴィク海戦で損害を受けた多くのドイツ駆逐艦の一隻。
 ウィッチーズ世界だとほとんど海戦は起こらないだろうから、44年まで生き残ってましたが。
 所詮無機物、やはり運命には逆らえなかったということで。
 適当な独逸側の船で沈んでるのを探して一番に見つけたのと、北欧で活動していたということで沈んで貰いました。   

 戦闘シーン。
 戦闘シーンはゲームの戦闘曲を大音量でガンガン流しながら書いてます。
 尤も、戦闘のイメージBGMという意味ではなく、気分高揚のためですが。
 読むとき、頭の中で何かしら戦闘系の音楽流れ始めたら書き手として勝ちを感じる。
 戦闘シーン書くのは凄い楽しくて、だけどあんまりその点に関しての感想が無くて、独りよがりなんじゃないかと不安になります。
 そして、馬鹿な……初めてでストライカーユニットを飛ばすだと! なんてヤツだ!
 と、kdも思いますが、まぁスピード狂、運動神経良好、フライトシミュレータが趣味、ということで勘弁。
 三次元戦闘も、フライトシミュレータで結構色々やってたお陰で混乱が多少抑えられたというのもあります。
 知識って大事よ? 百聞は一見にしかず、というけど知識を蔑ろにして大成した人間って居ないと思うんだけれど。

 そういうった知識も無しに飛んで、しかも銃器を扱った芳佳さんマジ化け物的天才。
 しかも、経年による魔力減衰が低い家系という……なんというチート、原作主人公自重しろ。
 まぁ、バルクホルン相手に10分耐えるのはやりすぎだったかな、と今更ながら少し思います……が。
 どうも史実のルフトバッフェの基本戦術はロッテによる連続一撃離脱だったらしいので。
 バルクホルンもそんなにドッグファイトは得意じゃなかった、のかもしれん。 それでも確実にエース級だろうけど。

 Me262は本当、格闘戦は駄目な子だったらしい。 コンバット系シムでもそんな感じですね。
 エースがきちんと機体の特性を理解して一撃離脱に徹した場合、凄い強かったらしいけど。
 新兵が怖がって旋回戦に持ち込まれてしまった場合、心底落としやすかったらしい。
 なお、バルクホルンがヴィルヘルミナを落とした方法は、「ストライカーと戦闘機は違う」という事を書きたかった。
 そういえばあの辺の心理描写のショボさは特筆に価するので、是非とも書き直したいところ。

 あと、描写のお陰でエーリカルートだと誤解を招きまくった模様。
 エーリカ好きだけどアニメじゃ余りキャラが掘り下げられて無くて残念。
 一応アニメ七話がエーリカとルッキーニ担当っぽいけど、どっちかっていうとお色気&バカ担当の回だよなぁ……
 基本的にkdはカップリングとかそういうのはあまり重視しないので。
 ハーレムとか特定の誰かとの百合はあんまり考えてないかなぁ……色恋よりも友情とかそういうのを描写していきたいと思います。
 ただしエイラーニャともっさんペリーヌはガチ。 シャッキーニは母子。


・Raising Heart
 レイジングハート。 レイハさん! レイハさんじゃないか!
 いや、別にとらハは関係有りません。 ちょっと名前を借りただけです。
 アニメ第一期1、2話をカバーするエピソードです。 意味は「高みを目指す心」。
 主人公が自分の不安定さと弱さを自覚し、この世界での自分を何とか確立しようと、覚悟を決める回であり。
 芳佳さんが、死ぬ気で艦隊を守ろうとした(という風に見えている)ヴィルヘルミナを見てその高みを目指そうという回。
 後者はかなり描写不足だったかなと思います。

 主人公の過去の一端が垣間見える回。 真っ当な、状況適応力の高い一般人と見せかけて元ヤン!
 こういうキャラ付けはどうかと思いましたが、まぁこんなのも良いかと思い。
 平時でも時々表れる荒っぽい発想が、この手の過去から励起されてる、とか思って頂けるかと。

 芳佳さんを原作と違い飛ばさなかったのは、ダブルヒーロー(女性だからヒロインか?)を狙っての物。
 芳佳さんに無力感を噛みしめて頂き、さらに坂本さんのみでなく、ヴィルヘルミナにも憧れを抱いて貰おうという感じ。
 芳佳がヴィルヘルミナに学ぶこと、ヴィルヘルミナが芳佳を見て学ぶこと、とか書けたらいいなぁ……とかこの時点では考えてたんですが。
 
 シャーリーやルッキーニの好感度が上がったり、主人公のエイラに対する好感度が上がったり。
 エイラのナデポニコポ攻撃。 童貞主人公には効果は抜群だ! みたいな。
 エイラはペリーヌや芳佳をからかったりする印象が強いんですが。
 kdとしてはアニメ6話や、その他要所で見せる他人への気遣いから、シャーリーと並んで母性の強いキャラなんじゃないかなと思っています。
 あるいは、何というか……悪ガキのイメージ? 他には色々ちょっかい出すけど、サーニャに対して物凄く奥手なところとか、そんな印象がある。
 ああ、まぁ、kdのエイラ好きが高じて、ヴィルヘルミナへの自己投影と願望が出てるのを否定は出来ませんが。
 無茶な描写ではない……と思っています。 エイラ、百合っこだし、悪ガキ的なところもあるので。

 本当はリネットさんにもちょっかい出したかったんだけど、いまいち意味不明なシーンになってしまって反省。
 一応次の話の伏線にはなっていますが……ここも書き直したい部分。

 戦闘において、主人公TUEEEEEEEEEEE!!! してしまった感もありますが。
 自分の身体を鑑みないめちゃくちゃな戦い方であり、kdとしてはかなり下策な戦い方として描写しているつもり……なんだけどなぁ。
 読み直すと独りよがりな描写も散見されたりして、結構凹みます。
 重量軽減・質量増幅の能力は、実際は候補としては三番目くらいの能力だったのですが、使い道も案外意表を突けたようで良かったです。
 第一候補は短距離テレポート、第二候補は力のベクトル偏向でした。
 前者は便利すぎ、後者も便利すぎの上、用途がかなり戦闘向けなので却下しました。
 前者は某ブレンパワードみたいな戦い方になる予定でした。 連続短距離テレポート超かっこいいわぁぁぁ。
 質量増幅は兎も角、重量軽減は日常生活でも非常に役立つので採用。
 質量増幅も、攻撃ではなく主に機動制御に用いる様に気をつけています。 重心移動とそれに伴う空気抵抗の変動による機動制御、みたいな。 

 あと、このエピソードで一番リサーチに時間かけたのが、なぜか食堂でホットミルク作るシーン。
 この時代に一般的なガスコンロと冷蔵庫の有無がどうだったのか、一時間半くらいかけて調べました。
 結果、どちらも高価かつ初期的ながら存在することが判明。
 古城を改造して基地に仕立て上げたっぽいウィッチーズ基地に電気はともかくガスが通ってるかどうか微妙なところでしたが。
 基地化の際に近代化も行われていたはずだ、と思いガスコンロの登場が決定しました。
 無かったらヴィルヘルミナは一々かまどに火を入れて煮炊きせにゃならんことに……ホットミルク出すのに20分くらいかかりそうだ。

 なお、オーストリア料理のエピソードは、元ネタのバッツの生誕地がバイエルン州であることから。
 バイエルン州はオーストリアとの国境近くに位置するため、食文化が比較的似通っているです。
 元々ドイツ、というかプロイセンとオーストリアは色々有るしね。 史実でも色々あって無血併呑したりしてるし。
 なんとなくこの辺、描写が主人公マンセー→俺の知識スゲェ! が透けて見えるのであまり好きではないところ。
 あと、サーニャが普通に料理できるの忘れてたわー。 サーニャ好きとしてあり得ん事態。


・Reason Seeker
 レゾンシーカー。 意味はそのまま「理由を求める者」。 アニメ第3話をカバーするエピソード。
 そして、この後続く説教臭い三部作の記念すべき第一作。
 主人公がどのようにこの先原作に関わるかの方針と意思を決める回であり。
 リネットさんが自分が此処にいる理由を明確にすることで自信をつけるエピソードです。
 この辺はあまりいじらず、原作に無いヴィルヘルミナというファクターをどう関わらせるか、というのが書き手としての主題となっております。
 あとは、「下げて下げて上げる」というストーリーというか、そう言った展開の物を書く実験というか。
 まぁ、主人公がぐだぐだーッと悩むのが書いていて非常に鬱陶しかったのですが。
 そんな事悩まずにさくっと生きろよ……とも思いますが、まぁよく考えたら自分の事じゃなくて他人の人生に必然的に関わる事なので容赦してあげてください。

 原作に準じた展開を行うと、ノベライズっぽくなってきてしまうのは仕方ないのですが。
 アニメを見た人には、アニメとは少し違う感覚で読めるように何とかしようという努力の痕跡が見えます。
 まぁなんだかんだいって、結局の所流れが一緒な以上、小手先の技術では無理なわけですが……
 そして相変わらず多人数シーンが苦手。 こればっかりは練習するしかない感じです。

 美緒さんの態度は、慎重な楽観論者という何とも表現しにくいものを頑張って書こうとした物。
 秘め声CDのシャーリーが一番ストレートに言ってるんですが、リネットはこの時点で半ば諦められてたんですよ。
 もっさんなら、芳佳をカンフル剤としてリネットを奮起させようとか普通に考えそうだな、と思ったのが事の発端。
 
 一応、この辺から”Side ○○”を辞めようと言う気風が発生し出しました。
 あんまり意識してなかったけど、今見ると結構邪魔っ気なのが解ります。 後で消しておこう。
 また、自分を客観的に見る余裕が出てきて表現技法に色々疑問を持ち始めたり。
 その辺、感想で頂けると嬉しいんだけどなぁ……。 Extraを書いたのもこの頃。
 イメージの違うExtraと本編の切り替えが上手くいかず、思ったより鬱々としたイメージになってる感じ。

 ミーナさんが芳佳さん単体での随伴を許可した事。
 余計な口論して時間食うよりは、基地上空哨戒とかいう名目で後ろ置いておいた方が良いと思ったため。
 その後、リネット合流で本来通りの展開に。 本編でもネウロイに引き離されるまでは、芳佳とリネットに何かさせる気全くなさそうだったし。

 kdの中では”戦う理由”と”戦いたい理由”はまったくの別物です。
 何言ってるのか自分でもよくわからないけど。
 戦う理由、すなわち戦わなければならない理由。
 それは必然であったり、偶然であったり、強要であったり、流されただけだったり色々あると思いますが。
 戦いたい理由。
 運命とか命令とか、そういった物や誰かに背を押されるわけでもなく、鉄火場に自らの意思で踏み込んでいく意思とその理由付け。
 主人公の戦いたい理由は、自分の周囲で、女子供が傷つけられたり死ぬかもしれないのに、それを黙って見ているのが我慢できないから。
 戦いを望みはしないが、必要ならば自ら望んで、危険に飛び込む事を疎いはしない。
 そんな主人公が、書けていたらいいなと思います。

 芳佳の台詞の改変。 アニメの「撃てます、守るためなら!」は結構キー台詞だと思うんですが、個人的には今一歩足りない感じ。
 「撃てる」んじゃなくて、「撃ちます」だよなぁ……Can/Cannotを聞いてるんじゃなくて、Do/Notだろ、此処は。
 ああでも、ローティーンにそこまで覚悟決めさせるのはかなり厳しいというか重いよな……と思い、あのような形に。

 使い魔出さないとか言ってたのに出しちゃった! 後先考えない行動である。
 んー、でもコンパスのガジェットとしての価値は結構あると思うんだけどなぁ。
 この手の首にかける小道具が大好きなkdです。

 主人公は大人っぽい人、大人ぶってる人として書きたいのですが。
 どうも、Kdの人生経験が浅いらしく、そういった成熟した人間性というのを表現できずにいます。
 この辺はもっと歳食って色んな物事と関わり合わないと無理な気もします。

本文中で、各人のポジションに関しての記述がありますが。
 前衛:芳佳、トゥルーデ、エーリカ、ペリーヌ
 指揮:ミーナ、美緒(前衛寄り)
 後衛:サーニャ、リーネ
 オールラウンダー:ルッキーニ、シャーリー、エイラ
 kdの中ではこんなイメージ。 思いつきで書き出してみたけど、結構バランス取れてるもんだ。

 余談ですが、ヴィルヘルミナはやたらMG42を捨てて怒られないのか、という質問に対する答え。
 怒られてます。 ちゃんと装備喪失の報告書を書かないとだめ……なのですが、書けないのでミーナさんやバルクホルンが書いてます。
 あと、MG42は当時世界最高峰の量産性を持った重機関銃。 小さなドイツが何丁生産したか調べるとビビるくらいのマスプロっぷりです。
 ウィッチーズの世界観だと、世界中でライセンス生産されてるって可能性も捨てきれんのですけれど。
 同時にカールスラントは資源の豊富な南リベリオン(南米)大陸のノイエ・カールスラントに疎開している様なので。
 マスプロっぷりに拍車がかかってても問題ないんじゃないかなぁ。 とりあえず使い捨ての効く高性能銃器、とkdはとってます。

 騎士鉄十字章ぱんつ、というか勲章=下着、のネタはフミカネ氏の同人誌だかどっかに載ってたはず。 あるいは限定版DVDのブックレット。
 不幸なことに「アフリカの魔女」も「砂漠の虎」も所持しておりません。 誰かください。
 アニメだとエーリカが実物の勲章貰ってたので、セットで存在すると言う解釈に。
 まぁ、壇上に上って拍手と共にぱんつ貰うとかあまりにもシュールすぎる光景なので、たぶん副賞とかそんな感じなんじゃね?
 式典用正装とかそんなの。
 そういえばガーター勲章は本当にガーターベルトだそうです。
 あとルッキーニのパンツは階級章も兼ねていて、トップパイロットになると金の縞パンになるそうです。
 フミカネ自重しろ。


・Scarcaress
 スカーキャレス。 アニメ第4話をカバー。 意味としては「愛撫される傷跡」
 痛みを訴える傷跡を優しく慰撫しあう、初期イメージはそんな感じ。
 それが何故か最終的にはお姉ちゃんと主人公がイチャイチャする話に……なんでやねん!
 ここも基本的にはアニメをなぞりつつ、バルクホルンとエーリカとミーナ、そしてそこに加わったヴィルヘルミナという要素による効果を書くのが主題。
 あと、主人公が必死になって「年下の」「女の子」を守ろうとする理由の一端を見せるのが目的。
 バルクホルンの傷と、ついでに主人公の傷、主人公側の一方的な同属嫌悪とバルクホルンを大事だと思う気持ちとの確執を描くのが課題。
 ……だったんだけど、今更ながらこの課題ってほとんど達成できてないよなぁ。
 というか、主人公の過去の一端の見せ方が、付け焼き刃的というか、あまりにも唐突すぎて無駄に過ぎる。

 なんかプロットがどうしても最後まで沸いてこなかったので、本編の再構成は最小限で、ちょっとTSらしい事もやってみた。
 具体的には生理とか。
 イライラしたり偏頭痛起きたり、お腹が痛くなったり、そしてちょっとぱんつ濡れてたのも全部生理の予兆。
 家族や女性の友人にリサーチしました。 kdの周囲には重い人が多くて可哀想だと常々思います。

 TS物の重要要素と言えば
 「異性の視線を不快に感じる/元異性で有った事を揶揄される」
 「痴漢される/襲われる」
 「初潮/精通」(と、それに伴う精神不安。 特に前者)
 とか、この辺りだと思うんだがどうだろうか。 なんか葛藤とか動揺とかの原因たるお約束要素的な。
 前二つはどうやっても異性の存在が必須で、男っ気の極めて薄いストパンだとどうしようもない。
 魔女はその気になれば、非武装でも一般人の攻撃なんか受け付けないほど強いらしいからレイプはないだろうし。
 ミーナさんのお陰でウィッチーズの居住区域からは男っ気は完全排除されてるし。
 ああ、いや、エイラ辺りが襲うとかアリかもしれないけど、エイラはkdの中ではサーニャ一筋の純情ッ子なので。
 ので、生理だけでもカバーしておこうというお茶濁し。
 なんでだろうなー、ArcadiaのTS物でこれらをカバーしてる作品ってほとんど見た事無いんだけれど。
 生々しいことではあるけど、別に15禁にすらならないだろうし……生理の知識自体は小学校でやる事だしさ。

 ストパン世界ではまともに戦うには魔女=女性であることが必須であり。
 TSしなきゃいけない理由=原作に戦闘方面で介入し辛いから、という理由でTS物にしたわけですが。
 戦闘シーン書きたいし、練習もしたかったので。 あと、男性心理の方が当然書きやすいからでもあるけど。
 男主人公でも魔法が使えるとかだと辻褄あわせが難しいのです……設定厨的にはこの辺の摺り合わせが出来ないと自我崩壊しかねないので。
 それに、男がすね毛まるだしで日常生活するとか……無いだろ、常識的に考えて。
 でもまぁ、「お話」というのは普通だったら文字通り「お話にならない」訳で、適切な理由付けが出来てれば別に男主人公でも良いと思う。
 あと、面白ければ基本的には何でもおっけーと感じる個人的な面もある。

 哨戒任務はアニメ最大の謎のひとつ
「3話で『この前エーリカが200機撃墜達成』したのに、7話で『250機撃墜の勲章』を貰ってる」
事に対するkdなりの答え。 しかもこの間、エーリカが出撃したのって3話のダミーネウロイ相手にした時だけなんだぜ……?
 一応、第二次大戦時のドイツ空軍は、暇なときにはフライヤクトという任務をやってたそうな。
 作戦区域に突出して、帰ってくる味方の爆撃機の護衛したり、あるいは敵編隊との遭遇戦やったりしたそうです。
 参謀部は明確な目的がないと嫌ったが、パイロット達が最も好んだ任務だったそうで。

主人公のスタンス。
 結局、主人公が周りの事を大事にしようとしているのは、自分の心の古傷を必死になって庇っているから。
 もちろん結果的には周囲を守ろうとしている訳です。 でも、どちらかと言えば後ろ向きな感情から生まれる行動、的な。
 前回のレゾンシーカーでの勘違いは、心地良い環境を得て、無意識にそれを守ろうと思いこんでいたため。
 異世界憑依なんていうトンデモな経験をして、なまじっか原作知識が有るために色々臆病になっていた所為です。
 あとは、既に諦めてる主人公と、若くて諦めていない芳佳の対比。
 大人になるって事は現実という壁を見て、妥協して諦めて迂回する事かな、とか思います。
 歳の割にはkdはまだまだガキ臭いと良く言われるのですが。 だからこういう見方をしてしまうのかも知れません。
 説教する主人公がウザいとはよく言われますが、まぁ説教するほど人生経験積んでないのでそれは諦めた。
 kdの力量では原作主人公に多少のスパイスを加えて、少し改変した台詞を吐かせるくらいしかできないのです。
 この辺、芳佳がもっと表に出てて……例えば、芳佳とバルクホルンの対立シーンがもう1,2あれば最後の芳佳の台詞が生きてきたんじゃないかな、と思う。

 戦闘シーン:
 戦闘機がベースなのに、相当自由の利く機動と、手持ち武器という特性上相当の広範囲を射界に収められるウィッチ。
 戦闘機の空戦とほぼ同じであろう戦法を取りつつも、明らかに高い運動性を持つ航空歩兵の集団戦闘を描いてみた……つもり。
 きちんとイニシアチブ握ればこのくらいフルボッコに出来ると思うんですよね、ウィッチーズの経歴とかを考えると。
 それこそ、OPの戦闘や、第一話アバンの戦闘とか、そんな感じ。
 ヴィルヘルミナが先行してその打撃力と高機動性を生かして相手の注意を引き、本隊は理想的なポジションから殴りこむ。
 本来はその余りの高速性と低い運動性の為、編隊戦闘が不可能とされているMe262を、なんとか部隊として運用するために考え付いた苦肉の策です。
 まぁウィッチだしね。 本当の戦闘機なら単機で突っ込んでったところでさくっと集中十字砲火受けて落ちるのがオチだし。
 シールドがあるのと、相手のネウロイが大型のために火線数は多くとも結局は一方向からしか攻撃がこないという特殊な状況下じゃないと通用しないのでは。
 そんなのよりも大事だったのは、どうやってお姉ちゃんを怪我させるかということ。 読み直すとかなり無理やり感が有って、苦笑せざるを得ない。
 あと感じるところといえば、ハンマー攻撃か。 主人公の発言で某ゴルディオン思い浮かべた人が多いっぽいですが。
 どっちかっていうとイメージとしては神話のミョルニールとかそんな感じ。 戻ってもこないしそんな強くないけれど。

 トゥルーデがずっと主人公のことを「バッツ」って呼んでた伏線を回収。
 基本的に、気が緩んでるとか余裕無いときは「ヴィルヘルミナ」と呼ばせ、それ以外では「バッツ」と呼ばせていました。
 お姉ちゃんデレフラグというか。 トゥルーデも基本的には年相応の甘さがあるので、このような意地を張ったとかそんな解釈。
 主人公がバッツと呼ばれることを微妙に嫌ったのは作中の通り「罰! 罰!」と呼ばれてる気になるからですが。
 本当なら「バッツバッツ、ってお前はギルガメッシュか! エクスカリパー振り回すビッグブリッヂなのか!?」と言う理由でした。
 FF5知らない人にはもう全然解らないので回避。 金ぴか王の方が今じゃ有名だし。 それにしてもkdの年が知れるな!
 一部の人にしか解らないゲーム・アニメネタは余り使いたくないので (すでにEp.1で使っちゃいましたが)
 
 うちのエーリカは優しい子ォォォ! エーリカァァァァァ、大好きだぁぁぁぁ!!(SE:ぶわわわっ) 
 みんなの中のエーリカもこういう優しい子だよな、な!?
 なんていうかクールで本心あんまり見せたがらないんだけど凄い優しいというか、もう、なんだコレ!
 というか既に多分エーリカじゃなくなってきている件について。
 あと、自分で書いておきながらもうエーリカルートでいいよコレとか思った俺がキモ過ぎて痛すぎる件について。
 エーリカの言葉回しとか挙動とか、結構気をつけて書いたつもりなんだけど……あんまり反応無くて寂しかったです。
 まぁ此処だけでなくて、エーリカ書くときはシャーリーとはまた違った種の飄々とした、なおかつ優しい所を書くのに気をつけてますが。
 お姉ちゃんのデレっぷりとハンマーによってかき消されてしまったか。
 

・Beyond the Bounds
 アヌビス! アヌビスじゃないか! ADAは俺の嫁。 これだけは譲れん。 文句のある奴は表に出ろ!
 いや、今回も名前を借りてきただけですが。 意味としてはやはりそのまま「境界の向こう側へと」。
 アニメ第5話をカバー。 シャーリーさんが音速の壁という超えがたい境界の向こう側へと飛翔する、アニメの流れをなぞりつつ。
 次の神回への伏線というか、主人公が乱入するための理由をでっち上げるというか練り上げるというか。
 あとは最後の描写で、シャーリーさんと主人公の関係が一つの段階を超えた、という概念的なモノを描くのが課題。

 私生活が忙しかったので、相当時間がかかってしまったエピソード。
 安定した更新速度を維持できないのは、かなり切なく思います。

 さて、サーニャ。一見今回の話に置いて関係なさそうですが、背景的にはシャーリーに通じる物があります。
 すなわち、(現在は停止しているとはいえ)、音楽の道を志し、打ち込んだという事実。
 Me262の事で負い目を感じる主人公が、色んな人に相談しつつ自分の経験もふまえて、何となく答えのような物を見出し。
 そして、そんな誰かの意図した助けを借りずとも、芳佳は間接的な助けになりつつも、それでも女王たるシャーリーは一人で立ち直り、前を向いている。
 そんなシャーリーの格好良さや、主人公の成長というか学習を描きたかった。

 シャーリーはウィッチーズの中でも群を抜いていい女だと思います。 リアルに居るなら一生の友達になって欲しい感じ。
 kdには甲斐性が無いので、嫁に貰うのは諦めます。 誰か幸せにしてやってくれ!

 シャーリーさんがMe262を運用できない、というのは最初から決まっていたことです。
 使えると加速魔法の上乗せで簡単に音速突破できちゃって、カタルシス無いからね。
 Me262は起動に高い魔力資質が必須、という公式設定? もあるので。
 シャーリーさんには人並みの魔力資質しか無いと言うことになってもらいました。
 一応、無理なくMe262を運用できるのはカールスラント組に加え、芳佳、ルッキーニ、ペリーヌくらいかなぁと。
 もっさんはあと1年早ければ使えたでしょう。 作品開始時点ですでに魔力減衰始まってるらしいし。

 シャーリーが501に来た経緯は、本当に大体あんなモノらしいです。
 国境を攻められつつあるロマーニャ、ウィッチ隊を育成・編成中のリベリオン。
 この二国は、統合戦闘航空団に最優戦力を送ることを良しとせず、問題児を派遣してるらしいんですな。
 シャーリーは本文通り、無断改造の常習犯だったのを、追放するには才能が惜しいので、上官の心づくし。
 ルッキーニは無茶な突撃でユニット壊しまくる上に、ママ恋しさの脱走の常習犯だそうな。
 同じくネウロイと国境を接するスオムスは、要らん子中隊の恩を返す為にトップエースのエイラ送り込んでるけれど。
 ああ、そういえばリーネも問題児と言えば問題児か。
 土地を貸してるのと、自国防衛に他国戦力だけという状況が好ましくないという理由で送り込まれてる感じ。
 もっと腕の良いの送ればいいのに、という意見はマロリーさんがウィッチ隊嫌いだから黙殺されたそうな。

 kdは別に、エースとは魔力適正が高いとか魔力の潜在能力が高いとか、固有魔法技術の優劣によって決まる物ではないと考えてます。
 それらも当然大きな武器となりますが、要は戦いに関するセンスだよね……その変が全般的にきちんと描写できていればいいのですが。 凹む。
 一応、主人公の機動描写に比べて、エース連中の描写は気合入れてトンデモな動きさせてるつもりなんだけれども。
 読み直すと描写が足りてないと思うことが多々あったり。
 戦闘シーン書いてアドレナリン出てると脳内で勝手に再生されるんよ……コレだから困る。

 ネウロイの変形は、モデルとなったブラックバードの逸話から。 高速時は大気摩擦のお陰で全長が60cmも伸びるそうで。
 その状態を最適とした設計のために、地上では配管とかはスカスカでオイル漏れ、燃料漏れが酷かったというのは有名な話。
 件の燃料、火のついた煙草落としても燃えないとかトンデモネェ代物だというのも有名な話だけど。
 実際にネウロイを変形させるのは駄目かな、と思ったけれど、スピード勝負というシチュエーションがどうしても魅力的だったので。
 アニメでやったネウロイのケツを掘る、っていうのはある意味ビジュアル的なインパクトが強いので、文章で出してもそんな派手にならないと思うんですよ。

 多分、衝撃波にこんな威力は無いけど。 画的に映えるからこれでいいのです。 画じゃなくて文ですけど。
 まぁ、ネウロイのコアって透明だし結晶体だし、音波には弱いんじゃまいか。
 ただし、高度5000m程度で発生した衝撃波が、直下の建造物のガラスにダメージを与えるというのは事実。
 あと割とどうでも良いけど、書いてる最中ずっと思ってたこと。
 「音の壁=処女膜」。 うむ、ちと変態すぎたか。 でも、一旦破ってしまえば後はスムーズって所とか似てると(以下略)
 つまりチャック・イェーガー氏は空にとって初めての人。 くそっ、アメ公イタ公はプレイボーイばっかだな!

 ちなみに、ストライカーの外部発動機のネタはフミカネ氏の初期スケッチと、ユモ004B-1エンジンの特徴から。
 ユモ004B-1はそのエンジンの始動補助用に、バイク用のエンジンが取り付けられていたらしい。
 ストライカーは小型であることを要求されてあの形なので、余計な機構は取り付けられてないだろうし。
 もう一方の外部発動機の方は、増加艇体にチューブつないで、外部装置でエンジン始動させてたっぽい。
 鳥居型の魔法式カタパルト? みたいのとかもあって、最初期はもっとファンタジーしてたっぽいです、ウィッチーズ。
 零式戦闘脚は魔力適正が低くても起動が容易で初心者にも扱いやすい~とか言ってる以上。
 初心者じゃ起動出来ない魔道エンジンとかあるんじゃないだろうか、というのが今回の発想の基礎。

 25話、ちょっと実験的に時系列を乱してみた感じ。 ゴシップ誌風に書いてみた感じです。
 ちなみに、話してることはほとんど事実。 イェーガー氏が最初の音速の人、というのにいちゃもん付ける人は多かったらしい。

 感想欄で百合百合言われてる気もしますが、百合と意識しながら書いてるのはエイラが出るときくらい。
 ちょっと認識がズレて、サーニャの描写に関して指摘頂いたところもあり、もうちょっと頑張ります、と反省することしきり。

 

・Extra1ー1~3
 >Bitter, Bitter, Bitter
 >Smoking Chain
 >Lily

 大好きな夏深てふ氏がストパンで一つ書き始めて、触発されて書きだした短編連作。
 テーマは「受け継がれていくもの」。 裏テーマは「戦いは人を老いさせる」。

 描写力が足りないくせに描写量を削るという暴挙に出ているこの三部作。
 妄想力を全開にして読んで、ようやく理解できる部分もあるかと思われます。
 全体的な実験としては、キャラクターに固有名詞を与えないこと。
 もしくは、名前以外での個性の確立。 何だかんだ言ってグリュンとかそれっぽい固有名詞になってるけれど。

>Ex1の題名は「三つの苦しみ『闘争』『喪失』『理解』」というイメージ。 こんなのわかんねーよ。
 戦う事の苦しみ。 失ってしまう事の苦しみ。 そして、世界が、人生がそれらに満たされている事を無理矢理に理解させられる苦しみ。
 幼年期の終わり、的な。 有る意味処女喪失。 何も変わって居ないはずなのに、全てが変わって見えてしまう。
 大尉が言っている、セックスと戦いの三つ目の違い。 それが何だったかは、きっと思い浮かべた想像全てが正解だとおもいます。
 それを考えるためにも生き残れよ、という大尉の迂遠な応援。

 なお、書き手としての実験は「主格の曖昧な文章を使用することによる読者の撹乱」
 最初の段落の登場キャラクターを曖昧にすることで、それが大尉かグリュンかの判別を曖昧にする。
 筆力が足りて無くてもこういう実験位してもいいよね……?


>Ex2のイメージが「魂を縛り付ける紫煙の鎖」。 またわかんねー。
 大尉の魂は、煙草と百合が好きだった彼女に縛られていたのだ。 心を分け与えた者を失えば、鎖で繋がれている以上、引きずられ、落ちてしまう。
 故郷を失って、それでも大切と思える相手を得た者。 生まれて初めて、自分以上に大切にしたい相手を見つけた者。
 はたして、彼女達は空の果てで再び巡り会い、何を思うのだろうか。
 百合ん百合んな回。 書いてる最中すっごいくすぐったかった。
 しかし、Ex1のような事態が起こると解ってて読むと、すんごい切ない話に!

 今回の実験はEx1に引き続き、「主格の曖昧な文章を使用することによる読者の撹乱」ですが。
 すこし踏み込んで、主格を最後まで明らかにしないことによる意味不明さを狙っています。
 最初の段落、これが”少女”を失った後、”グリュン”の初陣直前の”大尉”の胡乱な思考だと思うのが普通でしょうが。
 これが”少女”の思考だと考えると、”少女”が大尉にかなり依存しており、なぜ”少女”が死んだかとか、ライターを”大尉”にささげたのか、などが見えてくるはず。


>Ex3「風に舞う白百合の花弁、されどその根は大地に」 あり得ないイメージ。 単語から此処まで想像できないだろうが。
 空を飛ぶ者は軽くなくてはいけない? いいや、空を飛ぶためには重くなくてはならないのだ。
 空は何も生まない。 空には何もないのだから。 帰る場所は、花の咲く大地にこそ有るのだから。
 飛ぶとは地上にある者から見て相対的であって初めて実現することであり、空を行き続ける者は飛んでいるのではない。
 彼らは空に捕らわれているだけなのだ。
 夏深てふ氏の作品、「魔法使い達の群像」、Chapter1に対する一つの答え。
 これは普通に前向きな方。 もう一つ、すっごい後ろ向きな答えがあるんですが、それはまた別の機会に。

 普通に読めば解ると思いますが、このお話の”大尉”は1-1におけるグリュン。
 月日がたって階級と共に成長して、過去のことを自分の中で清算し、人間として一つ大きくなった感じ。
 大事なのは囚われないこと、けれど忘れないこと。
 大切な思い出の、そして預かり品であるジッポーをグリュンに気軽に渡すその姿にそういったものを感じていただければ、作品としては成功かと。
 ありがちな台詞ですが、kdが大好きで、実践できない言葉の一つです。
 
 実験は特になし。
 しいて言えば、三部作の締めということで、作品のテーマをキャラクターに台詞や行動で語らせること。
 あと、てふさんの作品の一つに対する自分なりの答え。日本語読解力が低くて、正しい答えを出せたかは今でも不安です。


>あちらのあとがきに書いているとおり、こういうしっとりしたお話のが大好きです。
 その上、kdは基本的に欝話スキーな子なので、本編のほうも気づくと欝展開入れそうになって困る困る。
 プロットを組んで見直すたびに、「ここらでエーリカ殺しとくと美味しい展開に持ってけそうだよなぁ」とか。
 「ああ、この辺でヴィルヘルミナに無茶させて肘から先、吹っ飛ばそうかなぁ。腕一本あればきっと十分戦えるし」と思ってしまうこと多々。
 ああ、いや、欠損キャラとか好きなのです。 過剰なグロは勘弁だけどな!
 障害を負ってなお、それを乗り越えたりする王道なお話がで好きなだけです。 別に歪んだ保護欲とかそういうのじゃ……ええ、ないはずです。
 本編はリハビリと作風の拡大を目指した、ある意味苦行なのでオリキャラのヴィルヘルミナさんは極めて普通、もしくは王道なキャラ造詣となっております。
 ……そのはずだったんだけど、うん、欲望に耐えられず外見だけ火傷負っております。 本人は少しだけ気にしてますが。

 話を元に戻します。
 特に年代設定はありません。 場所も北方戦線のどこかです。
 名前も無いです。 背景とかモデルになったキャラクターも一切ありません。
 ただ、MG34使ってるので、割と戦争初期~中期のお話ではないでしょうか。
 kdは設定大好き厨なので、こういう風に未設定の事柄があるのは結構珍しいです。
 それでも何かを感じ取りたい人は、フロム脳とかそう言ったのをフル回転させるんだ。 フロム脳が何かは、ぐぐれ。

 アニメ版のストライクウィッチーズだけ追っていると、こういうのはあまりやるような話ではないのは理解しています。
 鉄火と死と煙草と酒が似合うのは無精髭の歴戦のおっさんであり。
 年端もいかない女の子にはあんまり似合わないんじゃないかなぁとも思います。
 ウィッチーズは、アニメ版やいらん子中隊のように、ジュヴナイルっぽいというか明るく、緩くて、華のあるお話のほうが似合っていると思います。
 
 だが、その流れに反逆する! 戦争物である以上、煤けた人間ドラマやその類があってしかるべきだ!
 筆力が足りないなんてかんけーねー、kdは……書きたい様に書いて恥を晒す!

 ああ、でも、あれだ。 隻眼白子ロリ辺りがスリップ一枚でソファに寝転がってタバコ吸って酒飲んで不健康そうな面しながら
「良い魔女は死んだ魔女だけよ」
 とか病んだ目で自嘲気味に言うのとか。 うん、すげぇそそる。 ギャップ萌えとかそんな感じじゃないかな。 え、違う?


余談:
Reines Silber最初期プロットというかあらすじ――火葬戦記風Reines Silber。
ある日、謎の大規模爆発に襲われ、壊滅するウィッチーズ基地。 それは海峡を挟んだ大陸側から放たれたネウロイの攻撃だった。
その超超長射程を持つ、ムカデのように細長く多くの足を持った、全身を一個の砲台と成しているネウロイ。
ウィッチーズ基地への砲撃は、おそらくは牽制を兼ねた試射。 数日に一発の割合で放たれる、瘴気を撒き散らす砲撃。
短くなっていく射撃間隔。 日に日に、その一撃はロンドンへと近づいていく。
ウィッチーズはネウロイを撃破せんと出撃するが、濃密な対空陣地と膨大な数の護衛戦闘兵器に成すすべも無く撤退を余儀なくされた。

これに対し、人類連合軍は反抗作戦用にブリタニア島内に運び込まれていたカールスラントの対陣地攻略兵器の使用を決定する。
すなわち、800mm列車砲グスタフ。 最強の、そして最劣の砲兵器。
魔法力により、射程と威力を強化されたグスタフ。 その魔力供給者の一人として選ばれる芳佳。
国運をかけ、あるいはヨーロッパにおける人類の命運を掛けて、設営期間一月のところを二週間で組み立てられるグスタフ。
ウィッチーズの皆は、グスタフを破壊しようと来襲する航空型ネウロイを撃退するために出撃する。
しかし芳佳は、グスタフへの魔力供給訓練のために、出撃を禁止されていた。
自分にも出来ることが無いのか、と地上で悩む芳佳が出合ったのは、カールスラントのウィッチ。
銀色の髪と、銀色の瞳を持つ、Me262を駆るウィッチ――ヴィルヘルミナ・ヘアゲット。
「私にも出来ること」が無いのかと、ヴィルヘルミナに問いかける芳佳。
「お前でも出来ることではなく、お前にしか出来ないことをやれ」そう返すヴィルヘルミナ。
その言葉を聴き、グスタフへの魔力供給の訓練にいっそう身を入れる芳佳。

そして、作戦決行日。 しかし、予想以上に敵の動きが速い。 それを察知したアドルフィーネ少将は猛々しく笑った。
「諸君、あの黒い害虫どもに思い出させてやろうではないか。 黒き森に住まう、王者の鷲(ライヒス・アドラー)が今だ健在だということを。
 思い知らせてやろうではないか。 一度は破られた我々の翼が、かつて無く強く、速く、そしてより鋭さを増して戻ってきたということを!」
世界最速の戦闘機、Me262によって構成されたJV44、そしてヴィルヘルミナ。
格闘戦も対地戦も苦手としながら、その速度だけで相手に肉薄し、時間を稼ぐためだけにドーバー海峡50kmを銀色のウィッチがまっすぐに切り裂いていく。
目指すは、敵ネウロイ陣地。 ケファラスをはじめとした新鋭の戦闘機型ネウロイがひしめく空。
誰に言われなくとも、それが絶望的なことは芳佳にもわかった。 それでも、芳佳は彼女にしか出来ないことを成す為に、グスタフに魔力をこめる。
人類史上類を見ない、超距離砲撃戦。 数多のウィッチの、男達の、そして芳佳の思いの宿った巨砲が今、ドーバー海峡にその咆哮を響かせる――

……ぜってぇぇぇぇこっちのほうが物語的に面白かった! でも筆力的に無理。 誰かカッコいい仮想戦記書ける人書いてください。
コンセプトはトンデモ兵器大決戦:ムカデ砲vs列車砲。 そしてMe262の見事な散り様。 あと、マロリー将軍をはじめとしたオサーン共の活躍。
物語のテーマは「皆、一生懸命に今を生きている」あたりでどうだろうか。
キャッチフレーズは「今、私にしか出来ないこと」とか言って本編との対比を狙ってみたり。
見所は、一射目を外したグスタフの射角調整のために、陸戦ウィッチたちが(当然ストライカー装備)何十人も集まってチェーンを引っ張ったり。
赤城を筆頭にティルビッツ、グラーフツェペリン、プリンス・オブ・ウェールズ等の居並ぶ艦隊とか。 
すんげぇ男前なアドルフ、アドルフィーネのガランド親娘とか、JV44に誘われて、しかし501の皆の為にそれを蹴るエーリカ(とバルクホルン)とか。
ドーバー海峡越しの砲撃戦とか、Me262の空戦とか、敵ジェットネウロイ(モデルはフォルクスイェーガ)との高速格闘戦とかになる予定だった。
ライバルはジェットネウロイよりもウォーロクさんの方がいいかもしれん。 長距離射撃の一射目は絶対外す、とかお約束だよね。 ヤシマ作戦的に。
囮のために、ウルスラが持ってきた超弩級ロケット兵器であるところのV2が飛ばされるとかもアリかもしれん。
なお、ここでもヴィルヘルミナなのはMe262A-a1/U4は対爆撃機用ではなく、タンクキラーだったという説を採用したため。



[6859] Appendix 03:Ex Settings
Name: kd◆18be6bde ID:bf8eee8a
Date: 2010/11/20 09:52
Appendix :Setting Extra:「設定、覚書、蛇足、補講、あるいは遠吠え」

前置き:
 まぁ、ネタバレと設定語りを含むため、読みたい人だけ読むといいと思うよっ
































>Me262A-1a/U4専用増加飛行艇体 試製強化武装プラットフォーム”プルクツェアシュテーラー”
 ルビ:ぼくのかんがえたさいきょうのぞうかていたい
 全長5520mm、乾燥重量980kg。 航空戦力に求められる「攻撃力と機動力の両立」という課題を、を時代に逆行することで達成した、カールスラントが生んだ狂気の兵装。
 固定武装として50mmMk214Aを一門搭載。 両舷に55mmR4Mを12発投射できるランチャーを一基づつ、合計24発搭載可能。
 推進機構として噴流式魔道エンジンJumo004Bを二基搭載。 推進補助として固体燃料式ロケットを四基搭載可能。

 魔女用兵装としては大失敗に終わったMk214Aだが、攻撃性能を下げずにこれ以上の軽量化・小型化を行うのは現行の技術を持ってしては不可能であった。
 通常ならこの時点で計画自体を失敗として破棄すべきであるが、祖国奪還へと向けての作戦立案が繰り返されるたびに、無視できない問題が持ちあがるのである。
 打撃力の不足。 小型ネウロイ相手であれば、いくらでも、とまではいかずとも単体性能では魔女に軍配が上がる。
 しかし、ネウロイの巣を攻略するに当たっておそらく確実に訪れるであろう状況――すなわち複数の大型ネウロイとの同時・連続戦闘である。
 火力・装甲共に、単体の魔女を大きく上回るこれらに制空権を握られている限り、地上部隊の勝利は無い。
 しかし、元来大型ネウロイ用として開発された大火力のMk108であっても、これら大型ネウロイを圧倒するには程足りなかったのであった。
 火力を、大型ネウロイを一撃で打倒し得る火力を! その切なる要求への答えが、R4M55mmであり、本機である。

 プルクツェアシュテーラー、カールスラント語で「編隊駆逐機」と名づけられたこの装備は、戦闘脚化していくストライカーユニットの進化に対し、明らかに逆行している装備である。
 簡潔に言えば、増加艇体なのである。 魔女の箒の延長であった、跨って乗るタイプのストライカーユニットと、コンセプトは一緒なのだ。
 宮藤理論に代表される装着型ストライカーユニット、つまり現在の戦闘脚は戦闘中に増加艇体から振り落とされたり、あるいは武装を増加艇体に依存していた状況を改善するためのものである。
 いくら常人より頑強な魔女とはいえ、高空から落下すれば死は免れないし、武装の自由度は多様化する大型ネウロイへの対抗力に直結する。
 これらの諸問題の解決は、魔女の生存性の飛躍的な向上へと繋がっている訳である。
 そういった理由から主流を勝ち取った戦闘脚、その流れに真っ向から反抗したこの装備はカールスラントらしく実に尖っていた。

 Me2621-a/U4と接続することで動力を獲得、計四発の噴流式魔道エンジンが生み出す推進力は本体の圧倒的重量にも関わらず速度性能の低下を招いていない
 さらに、主兵装のMk214Aは試算では100mクラスの航空型ネウロイを直撃弾一発で「破壊」することが可能であるとされる。
 撃墜でもなく無力化でもなく破壊な辺りおかしい威力である。
 ”空飛ぶの要塞”と後世に名高い(というか名前からしてそうなのだが)リベリオンの爆撃機、B-29スーパーフォートレスでも直撃一発で落ちる威力が魔力で強化されるわけなのだから。
 重装甲の陸戦大型ネウロイですら、上面からの攻撃ということを差し引いても容易に撃破可能であろう、との評価も頷ける。
 それに加え、R4Mの一斉射による空間制圧/対地爆撃も可能と、まさに要求どおりの仕様であった――が、代償と問題は極めて大きかった

 四基の魔道エンジンは、ただでさえ魔力消費の激しいMe262の倍の魔力を必要とする。 その為、飛行可能時間は三十分を切るとさえ言われていた
 一応、魔女は戦闘脚を装着して搭乗するため、増加艇体を放棄しても飛行の続行は可能であるのだが。
 また、四基の魔道エンジンの同調は困難を極め、魔女・使い魔側の制御を離れ暴走し延々と魔力を吸い上げる危険性すらはらんでいた。
 さらに、Mk214Aの機構的な脆弱性は解決されておらず、外部に増設されるR4Mランチャーは被弾からの誘爆の危険性を抱える。
 推進補助のロケットは一旦火をつけたら燃料が尽きるまで燃え続け、強力な主兵装は正面のみ、という劣悪な射界でのみ使用可能という有様である。
 
 しかしながら、やはりどうしようもなく必要なものは必要であり、作ってしまったのだからしょうがない。
 想定ではMk214Aの代わりにMk108を多数装備した近接戦闘型、R4Mの搭載数を増やした爆撃型、レーダー型等のバリエーションが計画されていたが。
 そのどれもが実戦レベルに到達する前に第二次ネウロイ戦役は終戦を迎えている。

 とりあえずMe262の諸バリエーションを一つにまとめてみたり。
 増加艇体とか初期のフミカネメカ少女/ウィッチを知らない人のために:
  外見は、Me262的な意匠のエアバイクみたいなものだと思っていただければ間違いない。
  Mk214Aの砲身がガツンと槍みたいに突き出てるとかそんな感じ



>対ネウロイ無人戦闘航空機「War-Lock」
 ネウロイが人類の脅威たる理由はいくらかあるが、その一つに圧倒的な防御力、というものがある。
 基本的に人類が歴史的に運用してきた攻撃方法は、「凄く硬く、出来るだけ重いものを、凄く早くぶつける」というものである。
 「凄く硬く、重いもの」は基本的には鉛などに代表される金属であるが、ネウロイの特性として金属の吸収と再生、というものがあった。
 運動エネルギーを中和できるわけではないので、やはり破壊は可能なのだが。
 ダメージを与えても破壊に満たない場合、投射物は破損飛散したとしても相手に吸収、再生される可能性が高い。
 魔女の魔力がこのプロセスを阻害、あるいはバイパス出来ることは古くから知られていたため。
 大型のネウロイ/異形は魔女本人が、あるいは魔女の助力を得なければ打倒することは不可能であった。
 一方、近世のネウロイ戦役においてネウロイ側も当初は実弾兵器を使用していたが、中・後期においては光線兵器を多用するようになっていった。
 これは人類側のいかなる兵器よりも強力な武器であり、これに対する有効的な防御方法が魔女のシールドのみ、ということもあり戦場での魔女の価値は高まっていく。
 
 人類の技術発展は、発見と模造と精製の繰り返しである。
 人類はこのネウロイの新たな武器をどうにか模倣出来ないか、と四苦八苦したが、そもそもネウロイの事が良くわかってないのである。
 しかしながら、過程は割愛するが研究の結果、ネウロイのコアからのエネルギーの抽出および、その一定の制御系の掌握、既存命令のオーバーライド方法を確立するに至る。
 
 結果、生まれたのが本機である。
 飛翔方法の解析が出来なかったため、推進力は既存のパルスジェットエンジンに頼ることになってしまったが、無尽蔵ともいえるエネルギーをもつ。
 何よりも、光線兵器の使用、および魔女のシールドと同等以上の防御力を有する光学障壁の展開能力を有した、人類初めての「ネウロイに勝てる兵器」である。
 展開能力を重視した飛行形態と、戦闘能力を重視した人型形態を使い分けるための可変機構を有したため、構造的には脆弱な面も持つ。

 問題点は、未だコアには機能的に不透明な部分も多く、制御が完璧とは言い辛い所にあるといえる。
 制御が外れれば、ウォーロックがそのままネウロイ化する事態も考えられる。
 また、当然だがコアの複製は現状では不可能なので、量産体制を作り上げることが事実上不可能なことである。

 確認できるだけで二機製作されており、そのいずれも鹵獲されたコアを使用している。
 一号機は各種実験に使われ、また長時間の調整と改良を受けたプロトタイプであり、安定性も比較的高い。
 二号機は一号機で培われた技術を持って作られたプロダクトモデルであるものの、コアの調整および新型のジェットエンジンの調整に手間取る機体となっている

 人類が魔女の力を借りずともネウロイに打ち勝つ為に作られた兵器である
 機体コードネームも、詐欺師・男魔女の意であるところのWarlockではなく、戦場に鍵をかけるもの――War-Lockとなっている。
 古来よりネウロイを打倒できるのが魔女だけとは言っても、年端もいかない少女を戦場に送り込む事に疑問を抱く感覚を持つものが一応いたのである。



>銀について
 本作の題名、Reines Silberはドイツ語で純銀、という意味である。
 Falsches Silberは不純な銀、偽の銀。 銀といえば月と魔術の象徴である。 
 さて、ここで話は飛ぶ。 一般的に、あるいは占星術的に言えば月の象徴は女性で、太陽の象徴は男性である、が。
 アニミズムや原始宗教、あるいは初期の占星術に見ると、太陽が女性格でその対である月が男性格である事例は意外に多いらしい。
 まぁ、太陽が照らないと作物が実らないので、実りの象徴としてである。多分。
 また、古代では女性上位社会が結構多かったため、太陽を権威の象徴として見る場合でも女性とする場合がある(天照大神とか)
 後世において王権が男子のものへとシフトしていくにつれ、あるいは満ち欠けするのを見てか、太陽と月の性別は変化していった。

「これらの情報からノイズを取り除くと、銀=月の象徴=男性格から女性格へと変化した、つまりTSの象徴でもあるんだよ!」> Ω

ΩΩ Ω<「「「な、なんだってー!!!」」」

 どっとはらい。


>銀についてその2
 上で適当な事書いているが本当は(いや、上に書いた事も理由の一つだけど)、Silber、つまりズィルバーはMe262の開発コードである。
 つまり、Reines Silber「本当のMe262」 vs、Falsches Silber「偽物のMe262」、という最終戦の構図な訳である。
 ついでに言うなら、銀を魔女全般の象徴として見るなら、「本当の魔女」「偽物の魔女」、といった感じの構図が出来上がる。
 主人公は、偶然力を貰っただけの「偽者の魔女」であるが、作品の過程において色々悩んだり成長して、「本当の魔女」になる……という題名決定時の漠然とした予定であった。
 書けなかった自分の実力が全部悪いんだぁ!


>魔女?
 魔女は、何かを守ろうとしたときにフルパワーが出る、みたいなのが各所で示唆されているのでそれを意識してます
 一応、自己中心的な考えで自分の周囲だけ守ってりゃーいいやー見たいな小ざかしい考え方の主人公。
 色々悩んで挫折してトラウマ抉られてその結果、関係無いね!全力でみんな守ってやる!理屈とか限界とか知るか! みたいなのになっていくお話。だった。
 言わばちょっと屈折して大人ぶってる人が周りに感化されて正義の味方に舞い戻る話。だった。


>主人公のトラウマ
 端的に言えば主人公が戦端開いた集団喧嘩してるときに親友の女の子が刺されて死んだ。
 親友とのなれそめは、病気で長く寝込んでる母親がいるのに、深夜にブオンブオンと五月蠅く走ってる主人公達にクソ腹が立ったため。
 ちっこい癖に真っ向から主人公と喧嘩して相打ちするほど度胸が据わってるというか周囲を顧みないというか向こう見ずというか。
 主人公が微妙に弱いのも助かった。 殴り合いから始まる友情ストーリー。
 それ以降、主人公と意気投合して周辺で暴走行為するDQNを片っ端から殴りに行ったり峠攻めまくってみたり。
 その過程でこの親友、主人公の別の幼なじみ(男)とラブコメしたりなんだりあったり。
 恐らく、主人公が出会った少ない人間の中で、最もお互いのことを理解出来た人間。
 このトラウマから復帰するのを助けてくれたのが当然だが両親。
 そんな両親の突然死は主人公を鬱っぽい状態に引き戻すのに十分すぎる事件であった。

 が、こんな設定無駄……ッ 作中で描写しなきゃ全部無駄……ッ 無駄なんだよ……ッ
 異性間でも友情は成立する派です。



>愚痴とか
 ラッセルのキャラゲーはもう二度と買わない。
 プロジェクトディレクターは製作陣の実力をもっと把握すべき。
 言い訳に過ぎないが、正直この二作で大分熱が醒めてしまった。
 PS2版のシナリオライターのキャラクター把握が酷い気がしないでもない。美緒さんとか。
 ただし、DS版のシナリオ担当だけは一部評価する。
 嬉しそうに「私が歌うわ!」 とか言って総スカン喰らう竹井さんかわいいよ竹井さん。
 
 白銀の翼はかなり楽しかった。 DLC商法さえなければ。
 シャーリーとペリーヌが便利すぎるのと、エーリカ・サーニャ・エイラトリオにすると微妙に使うの難しくて生きるのが辛い
 シナリオはあって無きがごとしなのでどうでもいい

>二期について
 DVDボックス届いたら本気出すかもしれない



[6859] Appendix??? *Reines Silber: The MOVIE*
Name: kd◆18be6bde ID:ff0326f5
Date: 2009/10/07 17:08
――Strike Witches Fun Fiction――


……ストライクウィッチ? ああ、知ってるよ。
……話せば長い。 そう、オレがまだ空を見上げることしか出来なかった新兵だった頃の話さ。

……知ってるか? 空を飛ぶ奴は三つに分けられる。
……強さを求め、全てを捨てて軽くあろうとする奴
……プライドに生き、全てを抱え込んで重くあろうとする奴
……戦況を読み、全てをコントロールしようとする奴

……ウィッチは――あの戦乙女達だってそうさ。
……だけどな、結局のところ、彼女達はみんな一緒なんだ。
……彼女達は、そう――――


――Reines Silber:The MOVIE――


「――――ッ、ぁっ! 今の、衝撃……一体、何が」
「宮藤! 無事か!」
「っ、坂本さん! これは、一体!?」
「宮藤、早く結界を張るんだ! 死にたいのか!」
「結界って、そんな――」
「そうだ! これはネウロイの攻撃だ!」

――壊滅するウィッチーズ基地――

「――そんなことがありえるのか」
「美緒、私だって……信じられないのよ」
 仮設テントの中、オイルランプに照らされたヨーロッパの地図。
 ウィッチーズ基地――ウィッチーズ基地跡地を示す青いピン。 海峡を隔てた大陸側には、赤いピン。
「現実を、受け入れなければならないわ。 敵は――」
 ネウロイは。 大陸から直接、砲撃を仕掛けてきている。

――かつて無い強敵――

「――近づいてきているように見えるな」
「そのようですね」
 閣議室に、ざわめきが走る。
「静まりたまえ、諸君――女王陛下の御前だぞ」
「栄光ある英国軍人たるもの、これしきの事でうろたえてはならんよ」
「さて、マロリー大将……君はどう見るかね?」
 将服に身を包んだ、初老の男が立ち上がり、口ひげをなでつけながら口を開いた。
「十中八九、彼奴等の狙いはここ――」
 閣議室、テーブルの上に広がるブリテン島の詳細地図。 彼の指先が指し示すのは
「――首都、ロンドンでしょうな」

――ロンドンを守るため、彼女達は飛び立つ。 しかし――

「何も――何も、聞こえない――ううん、ちがう、いや、こんな、こんなのって……!」
「サーニャ、どうしたんだよ、サーニャ!」
「嫌、何、これ……やだ……怖い、怖いよ……ッ」
「サーニャ!?」
「エイラ、何かがおかしい、サーニャを下がらせろ!」
 美緒は魔眼を見開き、彼方を見つめ――その瞳が、驚愕に見開かれる。
「馬鹿な、空が見えない、だと……!」

――ひしめくネウロイの黒――

「坂本少佐、これ以上の戦闘続行は不可能よ! 撤退しなさい!」
「せめて、一太刀でも……!」
 地表に伸びる、黒い巨大な長虫に向かって、一筋の青い光が落ちていく。
「美緒、お願い、止めてぇぇぇぇッ!」
「坂本さぁぁぁぁんっ!」

――雨が降る――
――仮設滑走路に崩れ落ちる、十人の少女達に、容赦なく――


「――随分と、苦慮しているようだな」
 大きな音と共に、閣議室の扉が開かれる。 協議は中断され、視線が扉を開いたものへと集まる。
「――そちらこそ、南リベリオンなどという僻地では随分と礼儀なる物資が不足しているようですな。
 今度の物資支援、マナーの講師を三ダースほど送るよう議会に申請しておきましょう」
 皇帝親衛隊を両脇に引き連れた、金髪碧眼の少女はマロリーのその言葉に、けらけらと可愛らしく笑い――
「調子に乗るなよ英国野郎(ライミー)。 確かに統合戦闘航空団の指揮権はそちらにある――だがな。
 条文の何処にも、たかだか英国一国のために我らが同胞を磨り潰して良い等とは書いていないぞ」
 魔力の光が漏れ出る。 使い魔との合一の証である獣相が少女に現れ、魔女の力と共に拳をテーブルに叩きつけた。
「事はもはや貴国が滅んで終わり、等という段階を超えているのだ、ジョンブル。
 何を隠しているかは知らんが、人はもっと効率的に死なねばならんのだよ」
 少女が、鷹の目で並み居る将星を――マロリーを睨み付ける。 被った制帽に輝くのは、鷹の翼を供えた髑髏。
「この、アドルフィーネ・ガランドの言うことが理解していただけるかな、ジェントルメン」

――そして、鷹は舞い降りる――

「ヨシカ・ミヤフジ。 君の飛行許可は出せない」
「な……何でですか!」
「君には――やってもらうことがある」

「ヴィルヘルミナ!? 生きてたんだ!」
「ああ、エーリカ……相変わらずだね。 トゥルーデも……元気、とまでは行かないでも、生きててよかったよ」
「このような状況でなければ、再会を喜びたいところなんだがな」
 トゥルーデの言葉を手で遮って、その一つしかない銀の瞳で二人を見つめる少女。
「単刀直入に言おう――エーリカ、トゥルーデ。 ウィッチーズを抜けて欲しい」

「サーニャ、大丈夫か?」
「……」
 布団を被って、ベッドから出てこないサーニャに、エイラは語りかける。
「……私、行ってくるよ。 サーニャのこと、絶対守ってやるからな」

「辞令? リベリオン本国から?」
 受け取った手紙の封を切り、中を確認するシャーリー。
 その表情がこわばり、手紙をくしゃくしゃにつぶしてしまう。
「ど、どしたのシャーリー!?」
「馬鹿にしてるよ! 原隊に復帰しろだって!? この状況で、皆をほっておいてかい!?」
 だけど、と心の中の冷静な部分が最後の一文を想起させる。
 ――意図的な遅滞その他が見られた場合、軍籍を剥奪する

「敵討ち、ですわ……ッ」
「ペリーヌさん!」
「リネットさん……貴女には……貴女などには判りませんわ!」
「判るよ! 私にだって!」
「貴女に、少佐の何がわかるとおっしゃるんですか!」
「違う、違うの。 私にだって、わかるよ……ペリーヌさんの気持ち。
 私だって、坂本少佐に、沢山教えてもらって、沢山助けてもらって、だから――」


――建造される、人類の切り札――


 六線のレールの上に鎮座する、巨大な鉄の巨砲
「われわれは、何時だって嘆いてきた――無理だと、無茶だと、無謀だと、諦め、妥協し、目を背けてきた」
 金属の軋む音が連続して響く。 各所に取り付けられた鉄鎖を引くのは、Mk2走行脚を装着した多くのウィッチたち。
「だが、そんな中でも、歯を食いしばり、血反吐を吐き、決して諦めない、往生際の悪い俗物が居る」
「――これが、祖国を、友人を、隣人を、親兄弟を貪られた人類の意地だ、ネウロイ共」
 申し訳程度の装甲板に、バルケンクロイツと共に刻まれた名前。

――Gustav――

――しかし――

「観測班から報告! 敵砲兵器、活動を開始!」
「な……早すぎる!」
「敵集団、移動を開始しました。 目的地……!」
「どうした、報告しろ!」
「目的地――此処ですッ!!」


――全ては終端へと動き出す――


「征くぞ諸君――大陸に、祖国に真っ先に凱旋するのは我々だ!」
「Jawohl、Hellkommandant!」
『此方連合艦隊、旗艦『大和』。 これより当艦隊は魔女の補助による三式弾にて露払いを勤めさせていただく』
「こちらJV44団長、アドルフィーネ少将だ。 貴艦の援護に感謝する――返礼として秘蔵のベルリナーヴァイツェンと、古今無比の戦果を贈呈することを約束しよう」
『艦隊全ての艦に、かな?』
「無論だ――勇士達を酒と戦にて歓待するのは戦乙女とカールスラントでは決まっているのでな」

「くっ!?」
「よぉ、ペリーヌ、肩に力入りすぎてるんじゃないか?」
「ペリーヌ、貸し一だからね、にひひ」
「シャーリー大尉に、ルッキーニ……あ、貴女達、リベリオンに帰ったのではなくって!?」
「いやぁ、帰ろうと思ったんだけど、色々あってさぁ」
「きししっ、『シャーリーが』『意図的に』したことじゃないから、しょうがないよねっ!」
「あ、貴女達って人は……!」
「無駄話は後だ、ほら、来るぞ……!」

「サーニャ、来ちゃ駄目だ!」
「私、嫌! 私、エイラを失いたくない!」
「っ――判った、そこまで言うなら、離れるんじゃないぞ」
「――――うんっ!」
「サーニャにも、私にも、一発だって当てさせないんだからな!」

「準備はいいかしら、三人とも」
「――よかったのか、ミーナ」
「いいのよ。 それに、私が前に出る利点だってあるもの」
「そうか。 では――せいぜい、親友の尻拭いでもするとするか」
「酷い言い草――と、来たわね。 行くわよ、トゥルーデ、フラウ、ウルスラさん」
「「「ヤー!」」」
「トゥルーデ、スコア勝負だよ!」
「ふふん、良いぞ」
「あ、私とウルスラは二人で一人分だから」
「姉様、教範には共同戦果はトドメを刺した者の物となる、とあるんですが」
「双子だからばれやしないって!」

――そして、再び空に集う少女達――

「ウォーロックが、一撃で!?」
「あれは、あの切れ味は――まさか!」
「そんな、そんなことって――――」

――鉄の巨砲の心臓で、少女は何を思うのか――

(皆、戦ってる……)
(自分のために……誰かのために……)
(私も――――私は――――)

「ヴィルヘルミナさん、私にも、出来ることって……無いんでしょうか」
「君にも……出来ること?」
「皆、一生懸命、誰かを守る為に戦って……空を飛んで。 でも、私は」
 芳佳の頭を、撫でる白い手。 銀の瞳が、芳佳の瞳を覗き込む。
「その気持ちは判る。 でもね、ヨシカ」

「君にも出来ることではなく、君にしか出来ないことを――全ての力なき人の為に」

――そして、咆哮がドーバー海峡に響き渡る――


空前絶後の制作費4×10^25第一ジンバブエドル!(2009年10月時点)
脅威の製作期間たったの3時間!
冒頭からパクりネタ使ってんじゃねーよ!
全米が吐いた!
オレは吹いた!
っていうかこれ嘘予告だからね! 本気にしないでね!
というかこんなもの書いてるくらいならさっさと本編を書け!
うるせぇ、40年代のイギリス東部の中級都市の資料がぜんぜんあつまらなくて描写が出来ねーんじゃボケが!

ほんのちょろっとの反響を呼んだ、あのゲテモノ作品「Reines Silber」がまさかの真っ当なSS化!!
「Reines Silber:The Movie」
今冬、公開予定! むしろ糸冬!

Coming Not so Soon!





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ついカッとなってやった。 今では反省している。 主に本編を有言不実行な所とか。 本当に猛省している。
たかが目標20kb程度の日常話の資料集めにこんなに難航するとは思わなんだわ……
なんか資料集めが目処がつかなすぎて別の作品書きたくなってくるシンドローム。
いや、別に適当に書けば良い、歴史メインじゃないから誰も気にしねーよと仰るかもしれませんが、自分が納得出来ない。

別に無視して次話書けば良いんだろうけど、文章量や内容的には兎も角、全体の構成的には外したくない話です。困った。


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