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[39576] ガンダムビルドファイターズ White&Black【完結】
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/04/01 22:51
この作品はオリ主物です。


中には独自設定や独自解釈を含みます。

また、作品の都合上登場作品の偏りや扱いに差が出て来るかも知れないのでその辺りはご了承ください。

その上で感想や誤字脱字の指摘などをお願いします。



[39576] Battle01 「白いガンプラの少年」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/05 18:40
 ガンプラバトル……それはアニメ「機動戦士ガンダム」から始まったガンダムシリーズに登場する機動兵器「モビルスーツ」や「モビルアーマー」のプラモデル、通称「ガンプラ」を戦わせる遊びだ。
 今から約8年程前に発見されたプラフスキー粒子と呼ばれる特殊粒子がガンプラに使われているプラスチックに反応し、それを流体的に操作する事でガンプラを実際に動かす事が出来るようになり爆発的に広まった。
 今では毎年世界大会も開催される程だ。
 今回の世界大会は5回目となる。
 第五回大会も盛況に終わり開催国である日本もガンプラバトルを行うファイター達の世界大会の熱が未だに収まる事は無かった。



 東京のとあるゲームセンターの一画にはガンプラバトル用のバトルシステムがいくつも置かれている。
 このゲームセンターは都内でもガンプラバトルに力を注いでおり日々ファイター達が己の腕を磨いていた。

「良い腕だが少しもの足りたいな」

 バトルコーナーの片隅でユウキ・タツヤは他のファイターのバトルを見学していた。
 ファイターの腕は良いがタツヤが求めるファイターではない。
 高校進学と同時に日本に帰国して数か月。
 帰国後のドタバタでこのエリアの世界大会地区予選にエントリーする事は叶わなかったが、世界大会の中継を見てタツヤの中のファイターとしての血が騒いでいた。
 そんな折、世界大会終了を記念してプラフスキー粒子関連の技術を独占しているPPSE社がガンプラタッグバトル大会を開催すると言う告知がなされた。
 その大会は二人一組で行われる大会で大会のバトルには少し前までは世界大会で使われていたバトルシステムが使われると言う事でタツヤはすぐにエントリーをしようとした。
 しかし、そこで問題が発生した。
 大会に出場する為には相方が必要だったのだ。
 間が悪い事にタツヤは日本に帰国したばかりでタツヤの通う聖鳳学園に友人がいない訳ではないが、学園では模型部に入部するもその名の通り模型を制作する事が主な活動内容でガンプラバトルが全くと言って良い程流行ってはいなかった。
 制作する模型の中にはガンプラも含まれているがやはりアニメに出て来るロボットと言う印象で余り大々的にガンプラを作る事が出来ず当然、ガンプラバトルを行う事もない。
 それ故に友人関係で共に大会に出場してくれる当ては無い為、こうして連日都内のゲームセンターなどを回り相方となり得るファイターを探していた。
 ファイターは星の数程いてもタツヤが組みたいと思えるファイターと出会う事が出来ずに時間ばかりが過ぎて大会は来週に迫り、エントリーは明日で締め切られる。
 時間は無いが、だからと言って誰とでも良いと言う訳にもいかず、そこは決して妥協は出来なかった。

「あの人だかりは一体?」

 バトルを見終えると別のバトルシステムの周りに人だかりができていた。
 それに興味を持ったタツヤは人だかりの方に向かう。
 
「おいおい。あの外人何考えてんだ。いきなりイヌイの奴とバトルしようなんてよ」
「何でもこの店で一番強い奴を出せって言って来たらしいぜ」

 周囲のギャラリーの声を聴く限りイヌイと呼ばれたファイターはこの店で一番強いファイターらしい。
 相手が外人はタツヤと同い年くらいの少年だ。
 白い髪に灰色の目を持ち確かに日本人には見えない。
 そして、白い皮手袋にまだ夏の終わりだと言うのに白いマフラーをしている事が特徴的だった。

「アンタがここで一番かよ。この程度か……期待外れも良いところだ」
「言ってくれるな。くそガキが……」

 白い髪の少年はバトルも前なのにイヌイに対してそう告げる。
 その挑発的な態度にイヌイも怒りを隠す事はしない。
 周囲もその態度にイヌイの実力を知らないで良く言えるななどとせせら笑う。
 だが、タツヤには少年から目が離せないでいた。
 理由は分からない。
 ただ、ファイターとしての感がそう告げていた。
 少年はただ者ではないと。
 
「分かるんだよね。俺、バトルが強い奴と弱い奴が臭いで。まぁ良いか。サクッと終わらせるか。あんまり無駄な時間を使ってる場合でもないし」
「言ってろ! 叩き潰してやる!」

 二人はバトルシステムにガンプラのデータが入力されている小型端末「GPベース」をセットしてガンプラを置いた。
 するとやはり周囲は少年に対して苦笑しこのバトルがイヌイの勝利で終わると確信されている。

「パーフェクトストライクね」
「そんなしょぼいガンプラで良くも大口を叩けたものだな」

 相手のガンプラを見て二人はそう言う。
 イヌイのガンプラはパーフェクトストライク。
 機動戦士ガンダムSEEDのHDリマスターに登場するモビルスーツだ。
 元々、ガンダムSEEDの主人公機のストライクガンダムはストライカーパックと呼ばれる装備を換装するタイプのガンダムで外伝などでも多数のストライカーが登場している。
 アニメ本編においては中距離での高機動型のエールストライカー、近距離の格闘戦用のソードストライカー、遠距離ので砲戦用のランチャーストライカーの3つのストライカーパックが登場し、パーフェクトストライクはその3つのストライカーを全て使ったいわゆる全部載せの形態だ。
 一方の少年のガンプラはパーフェクトストライクとは対照的に全身が白く塗装され手持ちの火器などの武装は一切、見受けられない。
 
「AGE-1ベースの改造機……運動性能と機動力を重視した高機動型のガンプラか……」

 周囲が少年のガンプラを見て笑う中、タツヤは冷静に少年の白いガンプラの事を分析する。
 全身を白く塗装されているが胸部には「A」のマークが入っている事やバックパックにはレーシングカーを思わせるウイングが付いている事からベースとなっているのはガンダムAGE-1だと判断した。
 ガンダムAGE-1は機動戦士ガンダムAGEの主人公機だ。
 戦闘データから自身を強化するプランを提示するAGEシステムを搭載し、四肢を換装する事が出来る。
 装備を換装すると言う点ではイヌイのパーフェクトストライクと同じコンセプトだが、少年のガンプラとイヌイのガンプラでは印象がまるで違う。
 手持ちの装備を持たないAGE-1のガンプラだが、腕部や脚部に追加装甲が見られるが機体の至るところにスラスターが増設されている為、タツヤは機動力を重視し、装備を持た無いのは運動性能を重視しているからだと考えた。

「言ってろ」

 少年はイヌイや周りの反応に反応する事はない。
 まるで周囲の反応には興味が無いかのようだ。

「ちっ……パーフェクトストライク! 出るぞ!」
「ガンダム∀GE-1(ターンエイジ)。出る」

 バトルシステムが起動し少年のガンプラ、ガンダム∀GE-1とイヌイのパーフェクトストライクのバトルが開始された。
 バトルフィールドはオーソドックスな宇宙だ。
 障害となるデブリや小惑星の類もなく、フィールドのギミックもない事が特徴である為、フィールドを活かした戦いをする事は出来ない。

「どうでる? 射程の差は大きい」

 少年の∀GE-1は火器を持っていないがパーフェクトストライクにはランチャーストライカーの火力がある。
 幾ら機動力を重視しても障害物の無いこのフィールドではファイターの腕が問われている。
 パーフェクトストライクは320mm超高インパルス砲「アグニ」を構えた。

「こいつが耐えきれるか!」

 パーフェクトストライクはアグニを放つ。
 ∀GE-1は軽く動いただけで回避した。
 しかし、パーフェクトストライクの攻撃はそれに留まらない。
 アグニは連射が効かないが、可能な限りの速さでアグニを連発する。
 ∀GE-1はヒラリとパーフェクトストライクの攻撃をかわしている。

(あの動き……攻撃を読んでいる? 違う……ストライクの動きと同時に反応している!)

 一見、パーフェクトストライクの攻撃を∀GE-1が回避しているだけのように見えるがタツヤはある事に気が付いた。
 ∀GE-1の動きはパーフェクトストライクがアグニで狙いを定めた瞬間に回避行動に入っている。 
 恐らくは狙いを定める為に動いた瞬間に相手の動きを予測し最前の行動を判断してガンプラを動かしているのだろう。
 相手の動きに瞬時に反応すると言うのは世界レベルのファイターでなくとも可能だが、それに加えて相手の動きを見切り行動の選択を行いガンプラを操作するとなれば話しは別だ。
 その時間は1秒にも満たない。

(彼は一体……完璧な超兵だとでも……)
「ちょこまかと! 防戦一方の癖に!」
「やっぱこの程度かよ」

 攻撃の当たらないイヌイは苛立ちを隠さず一方の少年はまだ余裕と言った表情だ。
 
「そろそろ。終わらせる」

 少年がそう言うとタツヤは少年の周りの空気が変わったと感じた。
 そして、∀GE-1はパーフェクトストライクの方に向かい始める。
 パーフェクトストライクはアグニで迎撃するが、∀GE-1はビームをギリギリのところで回避しながら前進している。

(思い切りが良過ぎる! あれでは少し操縦をミスすれば終わりだ!)

 ∀GE-1の動きはビームが当たるか当たらないかギリギリのところで回避している。
 一歩間違えば直撃を受ける程だが、少年は気にした様子は見られない。
 寧ろ、絶対に当たらないと言う自信すら垣間見える。

「くそ! 何で当たらないんだよ!」
「そのガンプラを選んだのはお前のミスなんだよ」

 ∀GE-1はパーフェクトストライクを中心に大きく円を描くように回り込もうとしている。
 時折肩のスラスターを使って方向を急転換してパーフェクトストライクを揺さぶる。

「パーフェクトストライクは本編に登場した3つのストライカーを全て積んで一見強そうに見える。だが、実際のところは重量が増した事で機動力を低下させてエールの特性を殺るなど非常に扱いが難しい。扱いこなすにはそれ相応の実力が必要となって来る」

 少年の言う通りパーフェクトストライクのマルチプルアサルトストライカーの評価は本編中でも扱い難いとされている。
 今でも左右に大きく振られて砲身の長いアグニでは狙いが殆ど定まらずにバックパックについているソードストライカーの対艦刀「シュベルトゲベール」は砲撃戦においてはデットウェイトにしかならずに機体を安定させられない原因の一端ともなっている。

「自分で扱いこなせないガンプラを選んだ時点でお前は負けてんだよ」

 完全に狙いを付けることが出来なくなったパーフェクトストライクに腰に装備されているビームサーベルを両手に持った∀GE-1は接近してアグニを切り裂く。

「舐めるな!」
「お前がな!」

 パーフェクトストライクがシュベルトゲベールを抜こうと掴むがそれを抜く前にアグニを切り裂いたのとは違う手のビームサーベルを腕に突き刺した。
 そして、すぐさまビームサーベルを抜いてもう片方のビームサーベルを振るいパーフェクトストライクを胴体から切断した。
 プラフスキー粒子による爆発のエフェクトと共にバトルが終了したと言う事を示すアラートがなる。

「こんなものかよ」

 バトル開始当初は勝つと思われていたイヌイがバトルが終わると手も足も出せずに大敗した事で周囲のギャラリーがざわついている。
 そんな様子を気にも留めずに少年はガンプラを回収して去って行く。

「まさか……エントリーの締切を明日にして彼のようなファイターに出会えるなんてね……これは運命だ」

 タツヤはそう確信していた。
 大会のエントリーは明日が締切で偶然あれほどのファイターと出会う確率は極めて低い。
 もしも、これが出会うべくしての出会いで言うのであれば運命としか言いようは無い。
 そう確信したタツヤはすぐに少年の後を追った。
 下手をすれば見失うかも知れなかったが、タツヤはすぐに少年を見つけることが出来た。
 少年はすぐに帰る事はせずにゲームセンター内の自販機で紙パックの牛乳を買っていた最中だった。

「君!」
「何?」

 少年は物凄く面倒そうに返事をしながらパックにストローを指して咥える。

「君を凄腕のファイターと見込んだ。僕と組んで大会に出ないか?」

 それが後に世界最強の座を巡り戦う事となる二人のファイターの出会いだった。
 



[39576] Battle02 「ファーストバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/07 21:37

 PPSE社主催のタッグバトルが来週に迫りユウキ・タツヤは一人の少年と出会った。
 白いガンプラを操り圧倒的な操縦センスを持つ少年だ。
 その少年にタツヤはタッグを申し込んだ。
 突然の申し出に少年も目を細めている。

「お前、強いの?」

 少年はタツヤにそう返す。
 一瞬、呆気に取られるもタツヤは挑戦的な笑みを浮かべる。

「それは僕の実力をバトルで見たいと言う解釈でいいのかな?」

 少年の言葉をタツヤは自分と組みたければバトルで実力を示せと解釈した。
 実際のところ言葉通りに強いか弱いかを聞いていただけだが、少年も敢えて訂正はしない。
 なぜなら、その必要がないからだ。
 
「まぁ……そう言う事で良いよ。別に」

 話しがまとまり二人は再びガンプラバトルのファイトスペースに戻る。
 ファイトスペースが大して込んでいなかった事もあってタツヤと少年はすんなりとバトルシステムを確保する事が出来た。

「ちょい待ち」

 バトルを始めようとした矢先に少年は持っていたカバンをごそごそと探る。

「待たせた」

 少年はそう言ってGPベースをバトルシステムにセットしてガンプラをバトルシステムに置いた。

「武装を追加したのか」
「まぁね。流石にお前は装備なしじゃきつそうだからな」

 少年はタツヤの実力がさっき戦ったイヌイよりも高いと見抜いた上で装備を追加した。
 バックパックには大型のスラスターユニットが追加され、右手には大型のビームランチャーを持たせている。
 そして、タツヤもGPベースをセットしてガンプラを置いた。

「ザク……それも高機動型ね。色はアレだが高機動型と言う辺り趣味は合いそうじゃん」
「やはり、僕と君は運命で結ばれているようだね」
「戦う運命だけどな」

 タツヤのガンプラはザクⅡの高機動型をベースに改造した高機動型ザクⅡ改だ。
 ガンダムには本編に登場せずに設定のみで、後に模型誌などに登場するモビルスーツがいくつも存在している。
 それがモビルスーツバリエーション、通称MSVである。
 タツヤのガンプラ、高機動型ザクⅡもMSVに分類されるモビルスーツだ。
 シャア・アズナブルを思わせる赤い塗装に肩には5連装のロケットランチャー、リアアーマーにザクマシンガン、サイドアーマーにはザクマシンガンの弾倉とヒートホークが一つづつ、手持ちにはザクバズーカ、脚部には三連装ミサイルポッドと重装備のガンプラである。

「高機動型ザクⅡ改、ユウキ・タツヤ。出る!」
「ガンダム∀GE-1。出る」

 バトルシステムの準備が整い二人のバトルが開始された。
 バトルフィールドは市街地。
 ガンプラよりも大きなビルが立ち並ぶで視界が遮られる事が多く相手のガンプラの位置を把握しなければ圧倒的に不利となるフィールドだ。

「さて……彼のガンプラはどこに……」

 バトルが始まりタツヤは相手の出方をうかがう。
 前のバトルで少年のずば抜けた反射速度と操縦技術は見ている。
 すると、向かいのビルを∀GE-1がスラスターを使って超えるとビームランチャーを構えていた。

「さっきのバトルで溜まった鬱憤を晴らさせて貰う!」

 ∀GE-1はビームランチャーを放つ。
 高機動型ザクⅡ改はその重装甲からは想像できない機動力で回避する。
 そして、空中の∀GE-1に向かってザクバズーカを放つ。
 ∀GE-1は肩のスラスターを使って強引に空中で方向転換を行うと別のスラスターで後ろに下がりビルの後ろに降りる。

「ビルの陰に隠れた? 以外に慎重な攻めをする」

 タツヤは前のバトルで被弾を恐れない攻撃的なバトルとは違った戦い方に違和感を覚えていた。
 彼のバトルは一回しか見ていない為、どちらの戦い方が本来の戦い方なのかは判断できない。
 ∀GE-1がビルの左右もしくは上のどの方向から出て来ても良いように警戒するが、どれからも∀GE-1が出て来る事もなく∀GE-1はビルをぶち抜いてビームランチャーを撃って来た。

「さっきの攻撃はこれが狙いと言う訳か!」

 先ほどのビルを飛び越えての攻撃は上からタツヤのガンプラの位置を把握する為の布石であると言う事に気が付いた。
 位置さえ分かればビームランチャーでビル越しに攻撃が可能だからだ。
 その上、ビームの威力が先ほどの攻撃よりも威力が上がっている。

「あのビームランチャーは威力が可変式……だけど、隠れて狙って来ると言う事は足を止めなければ高出力モードでは使えないと言う事!」

 わざわざ隠れていると言う事は相手に狙われるリスクを回避する為だ。
 そこからビルをぶち抜いて攻撃出来るビームランチャーの高出力モードは空中や移動中では踏ん張りが利かずに使えないと言う事を意味している。
 ならば、対処は容易い。
 ∀GE-1がいると思われるビルの陰に肩のロケットランチャーを撃ち込む。
 高機動型ザクⅡは実弾系の装備しか持たない為、ビル越しの攻撃が出来ないがロケットランチャーならば放物線を描くように攻撃も可能で、直接狙う事が出来た。

「さあ……どう出る? 右か左か……」

 ロケットランチャーで上に逃げると言う事は出来ない。
 そうなれば左右のどちからか後方に引くしかない。
 しかし、彼の性格は非常に交戦的で敵を前に後退するとは考え難い。
 ロケットランチャーが着弾し爆発が起こる。
 そして、∀は飛び出して来た。

「正面!」

 だが、タツヤの予想していた左右ではなく自分の攻撃でぶち抜いたビルに突っ込んで高機動型ザクⅡの正面からだ。
 バックパックに増設したスタスターユニットのお陰で更に機動力が増した∀GE-1はビームランチャーを構えながら突撃して来る。
 タツヤは迎え撃つ為にザクバスーカを放つ。
 前のバトルで見た反応速度を持ってすれば、回避する事は容易い。
 寧ろ、回避させてその先を狙うつもりでいた。
 しかし、∀GE-1はザクバズーカの弾丸を左腕の装甲に直撃させた。
 ザクバズーカの直撃を受けた左腕の装甲は全くの無傷であった。

「防いだ! フェイズシフト装甲! 否、硬いだけか!」
「バトルはやっぱ白兵でないとな!」

 ビームランチャーの銃身の左右にはドッズガンが付いており、ドッズガンを連射して突っ込んで来る。
 
「無茶苦茶だ!」

 高機動型ザクⅡはザクバズーカで応戦するがすぐに残弾が尽きて∀GE-1に向けて投げつける。
 それに対して∀GE-1もビームランチャーを投げて空中で2機の投げた火器はぶつかり地面に落ちた。
 ∀GE-1は腰のビームサーベルを両手に持ち高機動型ザクⅡ改に切りかかる。
 一撃目はヒートホークで受け止めるが、二撃目の横一閃を後方に飛び退いて回避する。
 リアアーマーのザクマシンガンを左手に持ちながら脚部のミサイルを放って弾幕を張る。
 ミサイルが地面に着弾した時の爆発で砂塵が舞い上がりその隙に高機動型ザクⅡはビルの陰に入り込む。

「全く……強いのは分かっていたけどこれ程とはね」

 ∀GE-1は追って来る気配はない。
 戦局が優勢だろうと勝負を焦っていないと言う証拠だ。
 それはただ単に突撃思考が強いだけのファイターではないと言う事を示している。

「強引な攻めの中に繊細な操縦……ますますタッグを組みたくなって来たよ。彼を口説き落とす為に、まずは僕の実力を彼に認めさせるところから始めないとね」

 タツヤは追い詰めながらも状況を楽しんでいた。
 そして、彼をタッグを組んで大会に出たいもだ。
 その為にはこのバトルで勝つ必要がある。

「このまま隠れて隙を付くと言う策もある……否! それでは意味は無い!」

 追い詰められた状態だろうと彼が操縦ミスをする可能性はゼロに等しい。
 それ以上にこのバトルはタツヤが自分の実力を認めさせる為のバトルだ。
 ならば、逃げの一手はあり得ない。
 タツヤは一息つくと髪を掻き上げる。
 そして、残弾の無いロケットランチャーをミサイルポッドをパージしてザクマシンガンも残弾は残っているがマガジンを新しく装填して残りのマガジンを捨てた。

「君に僕と言う存在を刻み付けよう! ユウキ・タツヤと言う存在を!」

 気合と共にビルの陰から飛び出して、ザクマシンガンを連射して突撃する。
 タツヤが隠れている間に∀GE-1はビームランチャーを回収していた。

「速い……装備を捨てたからか」

 高機動型ザクⅡ改は少し前よりも速度が上がっていた。
 タツヤが残弾の尽きた装備を捨てて機体の重量が軽くなったからだ。
 ビームランチャーを放つが高機動型ザクⅡ改はヒートトマホークを投擲した。
 それと構えた状態のビームランチャーで弾いて、すぐに高機動型ザクⅡ改に狙いを定めようとする。
 しかし、高機動型ザクⅡ改は大きく飛び上がった。

「上か!」
「後ろを取らせて貰う!」

 ∀GE-1をアーチを描きながら飛び越えて背後に着地する。
 少年の人間離れした反射速度はそれに完全に反応しており、片足を軸にして前方にいた高機動型ザクⅡ改に狙いを付けようとしていたビームランチャーの方向を強引に変える。
 そして、それによって高機動型ザクⅡ改を殴り飛ばそうとする。

「君ならそうすると思っていた!」

 今までのバトルから少年の戦い方は自分で叫んだように近接戦闘を中心とする攻撃的なバトルスタイルだ。
 その為、この距離なら幾ら彼の反応速度が速かろうと、コマンド入力からビームランチャーは高出力である為、高出力モードでなくとも多少のタイムラグがあると言う事は今までの戦いで分かっている。
 ドッズガンを使っても至近距離とはいえ、数秒は耐えることが出来る。
 それだけの時間があればタツヤの高機動型ザクⅡ改の機動力なら∀GE-1の懐に飛び込む事は可能だ。
 当然、その事は相手も分かっている。
 そして、振り向いて腰のビームサーベルを抜いて対処のも時間がかかってしまう為、打撃攻撃を行うと読んでいた。
 高機動型ザクⅡ改はビームランチャーの銃身が頭部を掠るギリギリの所に後退してビームランチャーを回避する。
 しかし、少年も回避行動を取った瞬間に回避されると判断してビームランチャーを振りながらビームを放った。
 そのビームは高機動型ザクⅡ改の頭部を吹き飛ばすが止まる事は無くヒートホークを振り上げる。

「たかがメインカメラをやられただけだ! どうと言う事は無い!」
「ちぃ!」

 振り下ろされたヒートホークを∀GE-1はビームランチャーで受け止めた。
 だが、ビームランチャーにヒートホークが食い込み切断されるのは時間の問題だ。
 
「想像以上だよ。お前」

 少年がそう言うと目を細めた。
 その瞬間、∀GE-1はビームランチャーを手放した。
 それと同時に両腕の装甲の先端からビームサーベルが展開された。

「ビームサ……」

 それに気づいた時には∀GE-1は両腕のビームサーベルを振り上げて、ビームランチャーごと高機動型ザクⅡ改の両腕を切り裂いて蹴り飛ばした。
 一連の動作にかかった時間は恐ろしく短く、タツヤがビームサーベルを認識した直後には高機動型ザクⅡ改は蹴り飛ばされてビルに激突していた。

「俺の勝ちだ」
「そのようだね」

 ビルに激突した高機動型ザクⅡの胴体に∀GE-1は右腕のビームサーベルを突きつけていた。
 最後の攻撃が完全に防がれて両腕と頭部を破壊された高機動型ザクⅡ改には反撃の手段は残されていなかった。
 その為、タツヤは素直に負けを認めた。
 負けた事は悔しいが最後の一瞬に彼の本気を垣間見た。
 今はそれだけで十分だった。
 タツヤがバトルの敗北を宣言してバトルが終了となった。
 
「僕の負けだよ」
「当然の結果。俺、強いし。でもまぁ……俺を一瞬でも本気にしたんだ。組んでも良いぞ」

 その言葉にタツヤはキョトンとしてしまう。
 バトルで敗北した時点で彼を組む事を半ば諦めていた。
 がだ、彼の方は一瞬でも本気を出した事でタツヤを自分が組むに値するファイターだと言う事を認めていた。

「俺も大会には出る予定だったからな。俺の眼鏡に適うファイターが居なければ適当な奴でも見つけて出るつもりだったし。ああ……でも、優勝賞品のガンプラは俺が貰うから」
「それは別に構わないけど……」

 大会の優勝賞品のガンプラはPPSE社が用意した限定モデルで希少価値が極めて高い。
 大会規約では世界大会は出場者は参加不可となっている。
 それはあくまでも大会その物が世界大会を見たファイター達の為の物であるからだ。
 しかし、優勝賞品を目当てに参加するファイターも多く中には世界大会の出場を逃した実力者も少なくは無い。
 タツヤは元より優勝賞品のガンプラには余り興味は無かった。
 無論、貰えれば欲しいとも思っているが、それよりも高い実力を持ったファイターとバトルする事の方が重要だった。
 だから、少年が優勝賞品のガンプラを欲しいと言うのであれば譲る事に抵抗は無い。

「優勝する事が前提なのかい?」
「何言ってんだ? お前は途中で負けることが前提なのかよ」

 確かに彼の言う通り、始めから負けることを考えて大会に参加するファイターは少ないだろう。
 そして、勝ち続けると言う事は最後には優勝すると言う事になる。
 少年の中には優勝すると言う事は確定事項だと言う事だ。

「確かにね。君なら出来そうだ」
「俺と組むんだから、優勝するのはお前も同じだろ?」
「確かに」

 彼の中ではタツヤと組む事もまた決定事項らしい。

「分かった。優勝賞品のガンプラは君に譲るよ」
「契約成立だな」

 少年と組む事が確定し、タツヤは持っていた大会の登録用紙を少年に渡す。 
 すでにタツヤの方は必要事項が書かれている為、後は相方が書いて大会事務局に提出すれば大会へのエントリーは終了する。
 少年とタツヤはバトルシステムでは他の客の迷惑となる為、ゲームセンター内の休憩所のテーブルに移動する。

「これってフルネームじゃないと駄目なん? 俺、ファミリーネームは好きじゃないから書きたくないんだけど」
「構わないよ。名前はあくまでも大会の登録名に過ぎないから余りにもふざけた名前じゃなければ問題は無かった筈」
「了解っと……」

 少年は確認を取ってファイター名の欄に記入する。
 どうやら、少年は自分の苗字の事を嫌っているようだが、流石にその事をここで聞くのは余りのも彼の事情に深く踏み込み過ぎる。

「マシロ……君」

 タツヤはファイターの登録名の欄で初めて彼の名前を知る事になる。
 欄にはお世辞にも綺麗とは言えない字で「マシロ」とただ一言書いてあった。

「そっ。名乗ってなかったっけ?」
「そうだった。僕は……」
「ユウキ タツヤ。さっき叫んでた」

 今更ながら自己紹介をしようとするもタツヤはバトル中に自分の名前を叫んでいた。
 熱くなって叫んでいた為、冷静になってみると少し恥ずかしいが、少年、マシロは気にした様子もなく用紙に必要事項を書き終えた。
 必要事項と言ってもマシロが書いたのは名前と年齢、性別だけだ。
 性別は見れば男だと分かり、名前もすでに知っている為、書かれた欄で知らないのは年齢だけだ。

「僕と同い年のようだけど、高校生?」
「高校は面倒だから言ってない。まぁ……フリーのファイターってとこ?」

 マシロはそう言うがどこまで本当の事か分からない。
 年齢が同じであるなら、マシロは高校に通う年齢だ。
 余程金銭面などで問題が無い限りは高校に進学するのはタツヤの中では当たり前だが、それがマシロにとっての当たり前とは限らない。
 見る限りでは金銭面で問題があるようには見えない為、何かしらの事情があるのだろうと考えるもやはり深く踏み込むと言う事はしない。

「大会は来週だったよな。俺はそろそろ帰るわ」

 マシロはそう言ってタツヤに用紙を渡してさっさと帰って行く。
 タツヤも用紙に不備がないかを確認していた為、マシロを止めることが出来ずに見失ってしまった。





 ゲームセンターを後にしたマシロは商店街をぶらついていた。
 目的である自分の眼鏡に適うファイターを見つけることが出来た。
 当初は邪魔にならない程度の実力があれば良いと思っていたが、予想以上の実力を持ったファイターを見つけることが出来て少し上機嫌だ。

「けど……少し本気で動かしただけでこれか……」

 マシロは歩きながら∀GE-1を取り出す。
 ∀GE-1の右腕の関節にはヒビが入っていた。
 タツヤとのバトルでは高出力のビーム兵器であるビームランチャーを装備させた。
 それを振り回した上に最後は本気を出してガンプラの限界を超える動きをさせてしまったせいだ。
 マシロが本気でガンプラを動かすといつもガンプラの限界を超えることが殆どだ。
 それはマシロが時間と持てうる技術の全てを注ぎ込んで制作したガンダム∀GE-1ですらもだ。

「関節強度は次の課題になるか……こいつが解決しないとどうしようもないな」

 マシロにとって∀GE-1は到達点ではない。
 マシロの理想とするガンプラの最低条件はマシロの本気に耐えることが出来るガンプラだ。
 現在は市販のガンプラをベースに制作しているが、既存のガンプラを使用している以上は関節部の強度の問題が付いて回る。

「ずいぶんとお楽しみだったようですね。マシロ様」
「げ……シオン」
 
 声を掛けられたマシロは顔を引きつらせる。
 そこには日本の町にはそぐわない執事が立っていた。
 顔は笑っているが明らかに怒っているち言う事が分かる。

「やぁ……シオン。こんなところで奇遇だな」
「本当に奇遇ですね。マシロ様」

 シオンと呼ばれた執事はじりじりとマシロとの距離を詰めていく。
 マシロも少しづつ離れようとするも、シオンは一瞬にしてマシロとの距離を詰めてマシロを捕まえる。

「一応、俺はお前の主の筈だが?」
「私の雇用主は貴方の兄上です」

 シオンはマシロを連れて道路に止めていた車に押し込める。
 マシロを押し込めてシオンも車に乗るとそれを確認した運転手が車を走らせる。

「大会のエントリーは明日までですよ。会長の方から連絡がありました」
「ボスにはエントリーは終わったって伝えといて。後は優勝するだけだから、限定ガンプラを手に入れるのは時間の問題だって事もな」
「承知しました」

 マシロ自身が優勝賞品のガンプラが欲しいと言う訳ではなかった。
 レアなだけのガンプラにマシロは興味がないからだ。
 それでも大会に出て限定のガンプラを手に入れようとしているのはマシロのクライアントの意向だ。

「全く……ボスのつまんねーお使いと思ったけど、少しは楽しめることが出来るかもな」
「それは何よりです」

 マシロは窓から外を見ながらそう言う。
 元々、クライアントの意向だろうと余り大会に興味はなかったが、タツヤとの出会いはマシロに大会への興味を持たせるのには十分な出来事だった。

「勝手に出歩いた事はともかく、いい出会いがあったようですね」
「まぁね。けど、感情のままに行動する事は人間として正しい事なんだぞ」
「マシロ様の場合は感情でしか行動しない事に問題があるんですよ」

 シオンはため息をつく。
 マシロとの付き合いは数年にも及ぶが初めて会った時からまるで変わらないでいる。
 本人は子供の気持ちを忘れないでいるだけだと主張するも、シオンから見れば子供の頃から全くと言って良い程成長していない。
 成長したのは余計な知恵位なものだ。

「勝手に出歩かれては護衛としての私の立場がありません」
「ああ……お前って俺の世話係だけじゃなくて護衛って設定もあったよな。安心しろ。ガンダムじゃ設定だけあって作中で使われない事は良くある事だ」

 シオンは再びため息をつく。
 シオンはマシロにつけられた執事として主に身の周りの世話をする事が仕事だが、護衛としても仕事も持っている。
 見た目こそはマシロよりも弱そうな華奢な体格ではあるが、あらゆる格闘技に精通している。
 尤も、マシロが命を狙われたりする事は無い為、その実力を披露する事は今までには一度もない。

(流石はガンダムを生み出した日本と言う所か……そう言えばあのおっさんもこの国の人間だったよな)

 マシロはふと思い出す。
 マシロは今までのガンプラバトルで負けた事は1度しかない。
 その1度の敗北を与えた相手も日本人のファイターだった。
 マシロとしてはその敗北は人生における唯一の汚点だった。

「まぁ……でも、今回はサクッと優勝するさ」

 マシロはそう呟き車はマシロの止まるホテルへと戻って行く。
 



[39576] Battle03 「チームアメイジング」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/10 00:12

 マシロとの出会いの翌日、タツヤは聖鳳学園に登校していた。
 世間の学生はまだ夏休みではあるが、夏期講習の為だ。
 タツヤの本業は学生で、学生の本分は勉強だ。
 ガンプラバトルに熱を上げるのは良いが、勉強を疎かにしてしまえばガンプラバトル自体が出来なくなってしまう。
 夏期講習自体はまだ1年生であるタツヤが受ける必要は大して無い為、同級生も殆ど受けてはいない。
 その為、教室はいつもよりガランとしている。
 講習を受けるタツヤはいつもの授業とは違う上の空だった。
 昨日からずっと、マシロとのバトルが頭から離れずにいる。
 何度も、マシロとの戦いを頭の中でシミュレーションするも最後は決まって、最後に出したマシロの本気で負けている。
 
(一体、マシロ君は何者なんだろう?)

 家に帰りネットを使ったマシロの事は少し調べた。
 あれほどの実力を持っていれば世界大会に出場していなくても大会などで優勝経験や上位に入賞しているかも知れなかった。
 しかし、結果はマシロと言う名のファイターは世界のどに大会にも出ていないと言う事が分かった。
 マシロと言う名自体が偽名である可能性すらも考えられる程にマシロに関する情報は出て来ない。
 これ以上は専門の機関に依頼しなければマシロに関する情報は得られないが、流石にそこまでするよりも本人に直接聞いた方が良いと思い、そこまでの行動には出なかった。
 そこで新たな問題が出て来た。
 昨日、マシロが書いた登録用紙にはマシロの名前と性別、年齢しか書かれていない。
 大会の運営に提出する際の必要事項には連絡先や住所などもあるが、それはチームの代表者だけで良く、今回はタツヤの連絡先と住所で提出している。
 その為、タツヤはマシロがどこに住んでいるのかや連絡先を知らない。
 それを聞く前にさっさとマシロは帰ってしまったからだ。

(マシロ君はどうやってあれほどの実力を身に着けたのだろうか。マシロ君はどの作品が一番好きなんだろうか。AGE-1の改造機だからAGEだろうか? あの白い塗装には何の拘りや意味があるのだろうか……)

 昨日からマシロに対する疑問は尽きない。
 チームを組む事が決まり、チームメイトとして相手の事をもっと知る必要があると言う理屈をこねるも、結局は自分よりも強いマシロへの純粋な興味だ。

(全く……これでは恋する乙女だな……)

 そう、ふと思ってしまう。
 講習もまともに耳に入らずにマシロの事ばかりを考える今の自分はまるで意中の相手を考えているようにも思えて来た。
 無論、タツヤとてそんな趣味は無い。
 客観的に自分の事を見て思いつつも、タツヤは講習を受けながら教師には悪いが、早く講習が終わらないかと強く願った。









 一方のマシロはタツヤと出会ったゲームセンターに開店と同時に居ついていた。
 半ば、バトルシステムを1台占領する形でゲームセンターを訪れたファイターとバトルを行い連勝記録を伸ばしていく。
 流石に連勝記録が二桁になる頃にはマシロにバトルを挑むファイターも減って来ていた。
 その為、マシロはゲームセンター内のバトルシステムで1番大きく最大で6人のファイターがバトルを出来るサイズのバトルシステムでバトルを行っている。
 基本的にはチーム戦やバトルロイヤル方式で使用されるバトルシステムで、今回はチーム戦だ。
 チーム分けはマシロとそれ以外で1対5となっている。
 今回、マシロはガンダム∀GE-1にウイングガンダムのバスターライフルを持たせている。
 対する相手チームのガンプラはガンダムOOに登場するガデッサ(ヒリング機)とガンダムWに登場するリーオー(宇宙型ドーバーガン装備)、ガンダムUCに登場するギラ・ズール(ランゲ・ブルーノ砲・改装備)、ガンダムZZに登場するズザ、Vガンダムに登場するゾロアットの5機だ。
 バトルフィールドは宇宙でバトルが開始された。

「5対1だと……舐めやがって!」

 ガデッサがGNメガランチャーで先制攻撃を行う。
 だが、∀GE-1は回避するとバスターライフルでガデッサに狙いを付けて放つ。
 最大出力でGNメガランチャーを使っており、∀GE-1の反撃に対応する間もなくガデッサはビームに飲み込まれる。

「後、2発」
「よくも!」

 後方からギラ・ズールがランゲブルーノ砲・改を撃ち、その間に他の3機が∀GE-1に接近しようと試みる。
 ギラ・ズールの攻撃は∀GE-1に当たる事は無く、逆にバスターライフルでギラ・ズールは撃墜された。

「次でラスト」
「なら、これならどうだ!」

 ズザがミサイルを一斉掃射する。
 ミサイルは∀GE-1に襲いかかり、∀GE-1は距離を取ろうとする。

「逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!」
「逃げてんじゃねぇよ」

 一見、ズザのミサイルを逃れるような動きをする∀GE-1だが、気づけばミサイルとズザが一直線に並ぶようにミサイルを誘導していた。
 そして、バスターライフルでミサイルごと射線上のズザを吹き飛ばす。

「弾切れだ」

 バスターライフルの残弾が尽きた事で∀GE-1はバスターライフルを捨てる。
 バスターライフルを捨てた事で残るリーオーとゾロアットが∀GE-1に集中砲火を浴びせる。

「ライフルの残弾が尽きればこっちのもんだ!」
「手も足も出ないだろう!」

 リーオーのドーバーガンとゾロアットのビームライフルを∀GE-1は確実にかわしている。

「だから何?」

 ∀GE-1は腰のビームサーベルを抜くとリーオーとゾロアットに投擲してビームサーベルは2機に突き刺さる。
 それによってリーオーとゾロアットは撃墜されてバトルは終了した。

「5対かかりでもこんなものか」

 マシロは心底つまらなそうにしてガンプラを回収する。

「お疲れ様です。マシロ様」
「本当に疲れた。精神的にさ……」

 バトルが終了すると、執事のシオンがゲームセンター内の自販機で購入して来た紙パックの牛乳を片手に待っていた。
 今日はマシロも勝手に抜け出す事が出来ずに、シオンが同行している。
 バトルシステムの周囲は飲食が出来ない為、シオンが勝って来た牛乳を受け取り、飲食が可能なスペースへと移動した。

「今日はユウキレベルの奴が来てないんだよな」
「マシロ様を満足させられるファイターがそう簡単にいる訳がありません」

 マシロはベンチにドサリと座ると牛乳を飲む。

「これじゃ何の為に外に出たのか分かんねぇよ」
「仕事の為でしょう。マシロ様も引き籠ってないで他のご兄弟のように少しは外に出て活動したらどうですか?」
「やだね。面倒臭い。ガンプラは屋敷でも出来るし」

 マシロはそっぽを向いてそう言う。
 マシロは基本的に外に出ることがほとんどない。
 一か月に1度、外出すればいい方で数か月も自宅から一歩も出ない事も珍しくない。
 外に出る時は大抵はガンプラを買いに行く時だ。
 ガンプラを買う事自体は自宅のパソコンを使えば可能だったが、マシロは実際にパッケージを見て買いたい派であり、ガンプラを買う事だけは誰かに任せると言う事はしなかった。
 ガンプラを買う為に外に出ては世界中を飛び回り平均で数百、多い時には千を超える程のガンプラを買って帰る。
 その勝ったガンプラを組み立てては、自宅のバトルシステムでCPU操作による練習用のガンプラとして一人でバトルをしている。
 そんな生活は実に8年近くも続いていた。

「あのですね……」

 シオンはため息をつく。
 分かっていた事だが、マシロにとってはガンプラを中心に生きている。
 ガンプラが出来れば屋敷から一歩も出ない生活も本人は気にすることではなかった。
 
「マシロ君。今日も来てたんだね」
「ユウキじゃん。さっそくバトろうぜ」

 夏期講習を終えたタツヤは昼食を済ませてすぐにここに来た。
 もしかしたら、マシロが来ているのではないかと言う漠然とした予感に基づいての行動だが、その予感は的中していた。
 
「マシロ様」

 いきなりバトルを始めようとするマシロをシオンが諌める。
 そして、シオンはタツヤの方を向いた。

「お初にお目にかかります。私はマシロ様の世話を任されているシオンと申します」
「ユウキ・タツヤです。初めまして」

 シオンはタツヤの事はマシロに聞かされていたが、初対面である為、あいさつを兼ねて軽く自己紹介を行いタツヤもそれに応じる。
 
「じゃ。バトろうぜ。ユウキ。ガンプラは持って来てんだろ?」
「当然だよ」

 マシロの挑発的な笑みに対してタツヤも挑発的な笑みで返す。
 タツヤもマシロに会った場合は、練習も兼ねてバトルをするつもりだった為、ガンプラを持って来ていた。
 さっきまでつまらなそうにふて腐れていたマシロが、元気を取り戻した事にシオンは少なからず驚いていた。
 マシロが他のファイターに興味を示す事は今まで殆どなかった。
 大抵は1度戦い勝利すればそれで興味が失せていたが、タツヤに限っては1度勝利しても興味を失せることが無い。
 そんな、マシロの変化を嬉しく思いつつもバトルシステムへと向かった二人の後をシオンはついて行く。





 マシロとタツヤとのバトルは全てマシロが勝利した。
 十回以上ものバトルを行いバトルの度にバトル内容の討論を行い、他のファイターのバトルに関しても議論を行うと言うように非常に密度の濃い時間を過ごし、肉体的には疲労がたまっていたが、タツヤは非常に充実した時間を過ごした。
 それらに一段落を付けてタツヤはベンチに座り込む。
 すると、マシロが牛乳のパックをタツヤに放り投げる。

「俺のおごりだ」
「ありがとう」

 タツヤは疲れていたと言う事もあり、マシロの好意に甘えることにする。
 マシロも自分用に買って来た牛乳を飲み始める。

「流石、マシロ君だよ」
「まぁね。けど、ユウキも昨日より強くなってたけどな」
「君に負けていろいろと考えたからね。マシロ君はそれ程の実力を持っているのに世界大会や大きな大会で名前を聞かないけどガンプラバトルを始めて間もないのかい?」

 バトルはマシロの全勝に終わったが、タツヤはバトルを繰り返す度にマシロの動きに対応しつつあった。
 その成長速度はシオンも少なからず驚くのと同時納得もしていた。
 それほどの素質を持っていたからこそ、マシロも興味を持ったと言う訳だ。
 そして、タツヤは昨日からの疑問をマシロに聞いた。
 これ程まで実力がありながら、全くの無名であると言う事だ。
 ガンプラを始めて間もないのであれば、それも頷けた。

「いんや。ガンプラバトルはかれこれ8年くらいになるな」

 その年数はガンプラバトルが始まった年数と合致している。
 つまり、マシロはガンプラバトルが始まってから今までやり続けているベテランのファイターの一人と言う事だ。

「けど、大会に出ないのは興味がないからだな。世界大会で優勝して世界一の称号を与えられてもそれは人から与えられた称号に過ぎない。俺はそんな称号を与えられなくても自分が最強であると自覚しているから、別に誰かに証明して貰う必要はないんだよ。強い奴と戦いたければ大会に出なくても直接強い奴の所に行ってバトルをすればいい」

 マシロにとっては誰かに与えられた称号に興味は無い。
 そんな物がなくても自分が一番強いと思っているからだ。
 一見すると自惚れのようにも聞こえるが、不思議と納得してしまう部分もある。

「そうか……マシロ君のガンプラは全塗装してるけど、何かこだわりでもあるのかい?」

 疑問の一つが解決したところで、少し気になった事を聞いた。
 その瞬間にシオンは顔を引きつらせた。
 マシロのガンプラは白一色で塗装されている。
 ガンプラを制作に当たり、塗装は重要な要素の一つだ。
 ガンプラを塗装すると言う事はガンプラの表面をコーティングする事でバトル中のガンプラに様々な効果を与えることが出来ることは何年か前から分かっている技術だ。
 だが、それ以上に重要な要素としてビルダーの好みだ。
 ガンダムの作中でもエースパイロットは特別な装備を装備する事はなく、機体の色を変えた所謂専用機がいくつも存在し、パイロットによっては自分のモビルスーツの色に拘ると言う事も珍しい事ではない。
 ガンプラ作りにおいても自分の拘りの色で塗装すると言うのは良くある話だ。
 マシロも何かしらの拘りを持ってガンプラを白く塗装しているのであればそれを聞く事で相手の事をより理解する事が出来る。

「良くぞ聞いてくれた! 白とは何色にも染まる事が出来る。それは即ち、何にでもなれると言う事。つまりは可能性の色と言う訳だ! 分かるな?」
「えっと……まぁ」

 いきなり色の関する持論を周囲の視線を気にすることなく大声で語り出したマシロにタツヤは圧倒されていた。
 シオンが顔を引きつらせたのは、これを知っているからだ。
 マシロは白を可能性の色と表現した。
 それは白が何色にも染まらずにいて、何色に染まる事も出来ると言う事から何色にもなれる=なんにでもなれると考えての事だ。
 だからこそ、マシロは白と言う色い強い拘りを持っている。
 それは、マシロが白色に対して強い憧れのような感情を持っていると漠然に感じてタツヤも少しは分かる気がした。
 タツヤは大手の塗料メーカーの御曹司で、いずれは父の後を継がなくてはならない立場にある。
 タツヤ自身はその事を受け入れてはいるが、生まれつきのレールから外れた生き方を羨む気持ちも少なからずあるのだろう。
 マシロの場合は事情は知らないが、その気持ちが人一番強いのだろう。

「逆に黒は最悪だ。黒はいろんな色に染まり過ぎてこれ以上、染まり様がない絶望の色だ」

 さっきまでは得意げに語るマシロだったが、いつの間にか色に対する持論が白から黒へと変わっていた。
 憧れから一転して黒に対しては嫌いを通り越して憎しみすら感じさせていた。

「シオン君。彼は一体……」

 もはやタツヤの事をお構いなしに話しを進めている為、タツヤはシオンの方に尋ねようとする。
 だが、シオンはそれを止めた。

「今は知るべき必要はありません。後、10年もすれば嫌でも関わる事になりますから。貴方がユウキ家の人間である以上は」
「僕の事を……」
「失礼を承知で調べさせて貰いました。マシロ様が気に入った相手とはいえ、万が一の事があってはいけませんから」

 シオンはタツヤの事を調べていた。
 マシロが気に入った相手である以上はマシロに害はないと思うが、万が一の事があっては大変でそれを事前に防ぐのがシオンの仕事だ。
 タツヤと知り合ったのは昨日でマシロもタツヤの名前しか知らない。
 それなのにシオンはタツヤの名前だけで自分の家の事まで調べ上げたようだ。
 タツヤの家自体は大手である為、すぐに調べはつくがユウキと言う苗字は日本ではそれ程珍しくは無い上にタツヤ自身は学生と言う身分であるので家の仕事には関わる事はない。
 多少は家の付き合いのパーティーなどに出席させられる機会もあるが、そう簡単に名前だけで自分とユウキ家が繋がる訳もない。
 それでもたった一日足らずで自分とユウキ家の繋がりまで調べ上げたと言う事はシオンがそれほどの情報収集能力を持っているのが、それだけの力を持った存在がマシロのバックにいると言う事になる。

「安心してください。調べた結果、ユウキ様はマシロ様にとっては害はないと判断しました。寧ろ、マシロ様にはガンプラ以外に友達がいませんので友達になってくれると私としては非常に安心です」
「はぁ……」

 流石にマシロのガンプラ以外に友達がいないと言うのはオーバーな表現のように思えるが、マシロを見ているとあながちオーバーではないと思えて来る。

「何、話してんだよ?」
「それは……」
「マシロ様に友達がいないと言う事です」
「何だ。そんな事かよ」

 ストレートに言ったシオンにタツヤは驚くも、マシロもあっさりとしていた。
 
「それよりも、マシロ君。大会に出場する時のチーム名だけと昨日は相談する時間がなかったから僕の方で決めて提出したけど、良かったかな?」

 タツヤはマシロの友達の有無の話しを続けるのは気まずい為、話題を無理やりに変えた。
 大会は二人一組のチームで参加の為、登録用紙にはチーム名を記載する欄もあった。
 チーム名自体は必至事項ではないが、せっかくだからとタツヤはチーム名も登録しておいた。

「チーム『アメイジング』それが僕らのチーム名さ」
「アメイジングねぇ……」
「日本語で驚きなどと言う意味ですね」
「ええ。僕達はまだ無名のファイターだからね。僕達が優勝はおろか勝ち進む事も誰も予想はしていないだろうね。だからこそ、僕とマシロ君で大会に出場しているファイターや観客を驚かすと言う意味を込めてチーム名を決めたんだ」

 タツヤも同年代では高い実力を持っていると自負しているが、日本ではまだ無名のファイターだ。
 一方のマシロも実力があっても大会への出場記録が無い為、全くの無名のファイターである。
 そんな二人が他の参加者から見れば優勝候補ですらない、唯の参加者の過ぎない。
 だからこそ、タツヤとマシロの二人で大会を勝ち進めば誰もが驚くだろう。
 そう言った意味を込めてタツヤはチーム名をチームアメイジングと名付けた。

「良いチーム名ですね。私もマシロ様の奇行に日々、驚かされています」
「喧嘩売ってんのか? シオン」
「とにかく……そのチーム名に恥じないように一緒に頑張ろう。マシロ君」

 マシロはシオンを睨みつけるが、シオンは気にした様子は無い。
 そんな二人をタツヤが強引に纏める。
 そして、この日からチーム『アメイジング』は始動し、タッグバトル大会が開催される。
 



[39576] Battle04 「タッグバトル大会予選」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/11 10:39
マシロとタツヤが出会い1週間後、タッグバトル大会の開催日となった。
 会場には平日の午前中にも関わらず多くの観客や参加者が集まっていた。

「ずいぶんと多いんだな」
「参加チームは約100チーム。約200人が参加するみたいだね。規模で言えば世界大会以上だよ」
「でも、こいつら皆、世界大会に出られないレベルなんだろ?」

 大会の参加者は約200人でその数は世界大会の倍の人数と言える。
 しかし、マシロにとっては数が多かろうと世界大会に出られないファイターの集まりに過ぎない。

「つか、平日の午前中に来れるって事は、こいつら毎日が休みのニートか仕事をサボっている奴らって事じゃね?」
「マシロ様。世の中の学生は今は夏休みですし、土日祝日に働いて平日が休みと言う人もあります。まぁ、マシロ様はニートですけど」
「俺はニートじゃねぇよ。ファイターだ」
「とにかく、受付に行こう。参加登録は僕がしたけど、9時までに受付に行かないと棄権と見なされるからね」

 タツヤがそう言い、マシロとしても大会に出れなくなると面倒な事になる為、大人しく受付に向かった。
 受付も終わり、大会の開会式まで会場の周辺で待機する事となり、近くの喫茶店で最後の打ち合わせを行う事となった。

「マシロ君。確認しておくけど、大会の日程は把握しているよね?」
「とにかく、勝てば良いんだろ?」
「マシロ様はガンプラを組み立てる時でも説明書を読まずに組み立てる人ですから、きちんと説明してあげた方が賢明ですよ。ユウキ様」
「それはそれで凄い気がするけど……」

 要するに大会の事は事前に運営側から日程はバトル方式についての告知がされているが、マシロは大会がここで行わると言う以外は全く知らないと言う事だ。
 マシロにとってはただ、バトルに勝利して優勝する事にしか興味がないようだ。

「まず、今日の午前中に世界大会でも用いられるバトルロワイヤル方式でバトルが行われる。その中から生き残った16チームが決勝トーナメントに進める」
「チーム数は100程ですよね? 時間がかかるのではないですか?」
「ええ、ですから制限時間が1時間でそれを過ぎても17チーム以上残っている場合は各チームの撃墜数の上位16名が残るルールです。この撃墜数には残ったガンプラだけが計算されるのでチームの片方が撃墜されていた場合、残った方の撃墜数のみがチームの撃墜数となりますね」

 参加チームが100チーム程ある為、いきなりタッグ戦と言う訳ではなかった。
 世界大会でも全員参加のバトルロイヤル方式が採用されている事もあり、同じ方式で振いにかけられる。
 だが、世界大会とは違い時間的な余裕が無い為、1時間と言う時間制限で行われる。

「そして、今日の午後には準々決勝まで消化してベスト4まで決めて、明日の午前中に準決勝が、午後から決勝戦が行われると言うのが大会の日程になる」
「2日で終わりか……俺としては今日で全部決めても良かったんだけどな」
「準決勝や決勝ともなると相応の準備が必要だからね」

 今回の大会は二日かけて行われる。
 一日目の午前中にバトルロイヤルの予選と午後に勝ち進めば2戦行う事になる。
 二日目には午前と午後に1戦行い優勝者が決まると言う日程だ。
 
「んな面倒な事をしなくてもバトルロイヤルで最後まで生き残った一人が優勝で良いじゃん」
「最後の残るのが一人だとタッグバトルの意味は無いよね」
「ユウキ様。マシロ様の言動に一々、真剣に返す必要はありません。話半分で流した方が良いですよ」

 シオンの言葉にタツヤは苦笑いで返すしかない。
 そうこうしている間に予選の時間が迫り会場へと戻る。





 会場には巨大なバトルシステムが設置され、大会の参加者たちは指示された場所で待機している。
 参加者ではないシオンは観客席でバトルを観戦し、マシロとタツヤは指示された場所に向かう。
 到着し、全ての参加者が揃い皆がGPベースをバトルシステムに付けてそれぞれのガンプラをセットする。
 それが確認されるとバトルシステムにプラフスキー粒子が散布される。
 そして、タッグバトルの予選が開始された。
 バトルフィールドは宇宙だが、一般的な宇宙だけではなく場所によってはデブリベルトやコロニー、月面などが再現されている広いフィールドでのバトルとなっている。

「どうする? マシロ君」
「決まってんだろ。手当り次第に叩く。どうせだ、撃墜数で勝負しようぜ。撃墜数が少ない方が今日の昼メシを奢るってのはどうだ?」
「乗ったよ」
「決まりだ。昼メシよろしくな!」

 マシロはそう言ってタツヤの高機動型ザクⅡ改から離れていく。

「さて……僕もマシロ君に負けられないな」

 すでにマシロのガンダム∀GE-1は彼方へと行っている。
 お昼ご飯を奢ると言う賭け自体にはタツヤも大して興味は無い。
 別に負けたところで普通に奢れば良いだけの話だ。
 だが、マシロに負けると言うのは少し面白くは無い。
 勝ちに拘ると言う程ではないが、タツヤの中ではマシロには負けたくはないと言う感情が芽生えていた。
 高機動型ザクⅡ改は近くのガンプラを2機同時にザクバズーカで撃墜する。

「たった一機でのこのこと!」

 このバトルではタッグ同士は近い位置からのスタートとなる。
 片方でも撃墜されると予選を通る事は難しくなる為、必然的にチームは行動を共にした方が生存の確率は高まる。
 そんな中で別れて行動すれば他のファイターから見れば撃墜数を稼ぐ格好のカモとなる。
 一人で行動するタツヤの高機動型ザクⅡにジンクスⅢ(アロウズカラー)とジンクスⅢ(連邦カラー)が迫る。
 
「2対1だろうと!」

 高機動型ザクⅡ改はザクバズーカを放ち、2機を分断する。
 そして、ジンクスⅢ(連邦カラー)にザクバズーカを撃ち込む。
 一発目でバランスを崩して二発目でジンクスⅢ(連邦カラー)を撃墜する。

「良くも相棒を!」

 ジンクスⅢ(アロウズカラー)は接近してGNランスを突き出す。

「甘い! マシロ君の攻撃速度に比べれば!」

 マシロと何度も戦ったタツヤから見ればジンクスⅢ(アロウズカラー)の攻撃速度は恐れるに足りない。
 突き出されたGNランスに対して、高機動型ザクⅡ改はザクバズーカを捨てて前に出る。
 そして、バックパックに増設した新装備のヒートナタを抜いた。
 ヒートナタは腰のヒートホークに比べると威力は劣るが小型な為、小回りが利く。
 マシロの∀GE-1の高い機動力から繰り出されるビームサーベルの斬撃に対抗する為に装備したものだ。

「懐に!」
「ここは僕の距離だ!」

 小回りの利くヒートナタに対してジンクスⅢ(アロウズカラー)のGNランスが大型で小回りが利かない。
 懐に飛び込まれてしまうと、何も出来ない。
 高機動型ザクⅡ改はヒートナタでジンクスⅢ(アロウズカラー)を切りつけて、ザクマシンガンを至近距離から撃ち込んで撃墜した。

「ヒートナタは思いののか、扱い易いな。後はこれがマシロ君に通用するかどうかだ……」

 新装備の使い勝手をバトルの中で確かめながらもタツヤはバトルを続けた。




 タツヤと別行動のマシロも手当り次第に他のガンプラを撃墜している。
 今回はバックパックのブースターとガンダムAGE-2ダブルバレットのドッズライフルを装備している。
 すでに10機程撃墜している。

「禄なのがいないな」

 追加ブースターの機動力でフィールドを駆け回り手当り次第に撃墜するも、殆どが遭遇時の初撃に対応する事が出来ずに撃墜されている。
 すると、後方からビームが飛んで来て∀GE-1は腕の装甲で防ぐ。

「狙撃か……少しは骨のある奴もいるみたいだな」

 マシロはすぐに狙撃して来た方向にガンプラを向ける。
 そこはデブリベルトで狙撃者が隠れるにはうってつけの場所とも言えた。
 デブリベルトに入っても狙撃者からの狙撃が止む事はない。
 寧ろ、一方向からではなく最低でも2か所以上からの狙撃が行われている。
 それらをマシロは全て見切って回避している。

「伏兵を張ったか……けど、そんな子供騙しに引っかかるかよ」

 マシロはビームの飛んで来る方向に向かう。
 ビームをかわしながら突き進むとそこにはガンダムOOに登場するガンダムデュナメスとガンダムサバーニャが狙撃用のライフルを構えていた。

「成程な。そいつが狙撃銃を大量に持ち込んだって事か」

 ガンダムサバーニャの腰にはホルスタービットが付いていない。
 ホルスタービットはその名の通り、ホルスターの役目も持っており、内部には武器を収納する事が出来る。
 それを使ってフィールド内に大量の火器を持ち込み、視界の悪いデブリベルトに配置して狙撃者の位置を特定出来ないように罠を張ったと言う訳だった。
 その上で狙撃を行い、それで撃墜出来れば良し、気づかれようともデブリベルトにノコノコと入り込めば、周囲に張り巡らされた罠によって狙撃者が移動しているか、もしくは2つ以上のチームが手を組んだと誤認させてかく乱して仕留めることが出来たからだ。
 相手チームの最大の誤算は最初の一撃で、マシロが狙撃者の方向を完全に把握してしまった事にある。
 そして、マシロは相手が移動すればデブリの微妙な動きから位置を把握する事が可能で、相手の数は撃墜数が稼げると言う認識でしかなかった。
 
「お前の方が司令塔だよな」

 ∀GE-1はドッズライフルでガンダムデュナメスを撃墜する。

「兄貴!」

 そして、ガンダムサバーニャに体勢を整える時間を与えずにドッズライフルを撃ち込んで破壊した。

「発想は悪くないし、狙撃の腕も悪くないが……俺を仕留めたかったらもっとトラップを用意しとくんだな」

 2機の狙撃型ガンダムを撃墜したマシロはすぐに別の獲物を探しに向かう。
 それから間もなくして制限時間の1時間となり、予選のバトルロイヤル戦が終了した。






 バトルロイヤル戦が終わり、運営が各チームの撃墜数の集計に入り、結果が会場の大型モニターに表示された。
 その結果、撃墜数ではマシロとタツヤのチームアメイジングがダントツのトップを記録した。
 その数は40機と2位が10機程度だと言う事を考えると脅威的な撃数である事が分かる。

「俺が28でユウキが12と俺の圧勝だな」
「1時間でそんなにも撃墜したんだね」
「僕も結構頑張った方だとは思ったんだけどね。機動力の差が大きかったかな」

 予選を1位で通過したが、マシロとタツヤの個人成績はマシロが28機でタツヤが12機と個人成績でもチームアメイジングは1位と2位を独占した。
 タツヤの撃墜数だけでも2位のチームの撃墜数を上回っている。
 これは大抵のチームはある程度の撃墜数を稼いでからは自分達の身を守る事に専念し、二人のように積極的に撃墜数を稼ごうとしたチームはその際のバトルで受けた損傷で結局は最後まで生き残る事が出来なかった事が大きな要因だった。
 それでもマシロの撃墜数は異常とも言えた。
 バックパックのブースターで更に機動力を増してから一撃で相手を仕留めて回った為である。
 二人のバトルはマシロの勝利に終わり、タツヤはマシロにお昼ご飯を奢る事となった。
 尤も、コンビニでおにぎりを数個買っただけなのでガンプラを買うより安上がりだった。
 お昼ご飯を買い、植木に座り簡単に昼食を取っている。
 シオンは昼食を取っている二人の代わりに決勝戦トーナメントの組み合わせを見に行っている。

「まぁね。つか、人が増えてない?」
「多分、アレだよ」

 予選を行っている時よりも会場付近の人が多くなっている事にマシロが気づいてタツヤが会場の外にもついている大型モニターを指さす。

「お昼の休憩中にはPPSEが招待したゲストのありすがミニライブをやっているみたい」
「ありすねぇ……」
「マシロ君も名前くらいは聞いたことはあるだろ? 彼女は日本のみならず世界中でもヒットしたみたいだからね」

 モニターにはありすと呼ばれたアイドルがライブをしている様子が映されている。
 ありすは大会を主催したPPSEが予選と決勝トーナメントの繋ぎとして招待したアイドルだ。
 まだ12歳と言う年齢ながら、その愛らしい容姿と抜群の歌唱力によって大人気のアイドルがありすだ。
 歌だけでは無く、演技力も高くハリウッドからも出演のオファーが来ているとまで噂され、バラエティーでも天然で甘え上手なキャラとして活躍している妹系アイドルとして日本のみならず世界中で注目を受けている。

「まぁね。俺にはどこが良いんだか、さっぱりだけどな」
「僕も名前と顔が一致する程度だけどね」

 この人の多さも大会と言うよりもありすが目当てなのだろう。

「俺はあんなガキ臭い奴よりも、断然キララ派だね」
「キララ?」
「お前知らないのかよ。確か……この辺りで活動しているガンプラアイドルだぞ? まだあんまり売れてはないみたいだけど、ガンプラアイドルってところはポイントは高いね。どうせ、アイドルなんてのはみんなキャラを作ってるんだろうけど、なんつったってガンプラアイドルだしな。実物は見た事は無いけどな!」

 結局のところ、マシロはそのキララと言うアイドルの容姿や歌などには全く興味はなく、ガンプラアイドルと言う点しか見ていないと言う事だ。
 アイドルにさほど興味の無いタツヤも容姿や歌と言ったアイドルのファンになる要素よりもアイドルの肩書にしか注目せずに売れているアイドル以上に推しているマシロに苦笑いしか出ない。

「マシロ様。ユウキ様。対戦の組み合わせが決まりました」

 シオンが戻り、二人に対戦の組み合わせを見せた。

「俺達の一回戦の相手はチームかいと? うみひと? どっちだ?」
「多分、海人(うみんちゅ)と読むんだよ」
「紛らわしいな。で、強いの?」
「そうだろうね。聞いたことのないチームだね」

 マシロとタツヤの対戦相手はチーム海人となっており、タツヤもそのチーム名やファイターの名前には聞き覚えがない。

「決勝トーナメントに残っているくらいだから、弱くは無いと思う」
「それに勝ち進めば明日の準決勝ではブルーノ・コレッティのチームと当たるのは確実ですね」
「誰それ?」
「知らないのマシロ君! ブルーノ・コレッティと言えば元イタリアチャンプだよ。今年の世界大会のイタリア予選ではリカルド・フェリーニに敗北して出場を逃したけど、間違いなく世界レベルのファイターだよ。まさか、この大会に出ていたなんて……」

 マシロは興味が無い為、知らないがブルーノ・コレッティはファイターの中ではある程度の知名度は持っている。
 イタリア代表として何度も世界大会に出場経験を持つファイターだ。
 今年はリカルド・フェリーニにイタリア予選の決勝戦で敗北して世界大会への出場は絶たれて為、この大会への出場資格は失っていない。
 そんな世界レベルのファイターが決勝トーナメントまで残るのは当然の事だろう。

「世界レベルのファイターってもさ、そのフェラーリだかパニーニだかに負けたんだろ。じゃぁ大したことなくね?」

 相手は世界レベルのファイターだと言うのにも関わらず、臆する事なくそう言うマシロには呆れを通り越して感心すらしてしまう。
 マシロにとっては世界レベルのファイターだろうと、関係は無いようだ。

「そして、問題なのがクロガミ・レンヤ。彼のチームが決勝戦の相手となる可能性は高いですね」
「だから誰だよ。そいつ……クロガミ?」
「マシロ君もクロガミグループの事は知っているよね」
「まぁ……」

 マシロは珍しく歯切りが悪く答える。
 タツヤの言うクロガミグループは「スプーンからスペースシャトルまで」をキャッチフレーズに様々な分野に乗り出して来ている世界的な企業だ。
 タツヤの父の経営している塗料メーカーとも繋がりを持っているとタツヤも聞いている。
 そのクロガミグループの特徴の一つに参加の企業の多くにはクロガミ家の人間が関わり、誰もが天才的な実力を発揮している点だ。
 決勝戦で対戦すると思われるクロガミ・レンヤなる人物もクロガミ家の人間なのだろう。

「クロガミグループは表向きは超優良企業で、実際にそうなんだけど、裏では違法スレスレの事も行っていると言う黒い噂も付いて回っているからね」
「ふーん。んな事よりも一回戦の用意の方が優先だろ。一回戦のバトルフィールドは発表になってんだよな」
「そうですね。一回戦のバトルフィールドは海中となっていますね」

 マシロはクロガミ家の話題から強引に話しを逸らす。
 だが、当たるかも知れない相手の事よりも一回戦の相手の事の方が重要だ。
 そのバトルに負けてしまえば明日の準決勝も決勝にも出ることが出来ないからだ。

「海か……相手チームは海人なんだろ? 名前からしてこっち相手側の方が有利じゃん」
「こればかりは仕方がないよ。僕達も僕達で出来ることをしないとね」

 すでにバトルフィールドが決まった以上、文句を言っても仕方がない。
 マシロとタツヤは午後からの一回戦に備えてガンプラの調整と準備を始めた。



[39576] Battle05 「疑念」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/13 18:58

 タッグバトル大会の予選バトルロイヤル戦をマシロとタツヤは難なく1位で通過し、午後の決勝トーナメント1回戦に臨む事となった。
 事前にバトルフィールドが水中と言う事が告知されていた。
 水中のバトルフィールドにはいくつものタイプに分けられている。
 フィールドごとに細かい差異はあるが、大きく分けると二つだ。
 一つ目は純粋に水中のみのフィールドと水中と一部が陸地となっているフィールドだ。
 今回のバトルでは全者の水中のみのフィールドでバトルする事になっている。
 マシロのガンダム∀GE-1タツヤの高機動型ザクⅡ改はどちらも水中戦を想定している訳ではない。
 使用ガンプラ自体はバトル開始直前までに変更する事が出来るが、今からでは水中用のガンプラを用意する時間は無い。
 そうなれば、ガンプラを改造するしかない。
 改造すると言っても大幅な改造をしているだけの設備も時間もない。
 その為、二人は武装面での改造を余儀なくされた。
 マシロのガンダム∀GE-1はソードインパルスの対艦刀「エクスカリバー」を装備させた。
 ソードストライクの対艦刀「シュベルトゲベール」をガンダムSEEDの本編中に水中戦で使用した事から同じ対艦刀であるエクスカリバーも行けそうでシュベルトゲベールとは違い、2本あるからそっちの方が強そうだ、と言うマシロの考えから今回はエクスカリバーを装備させた。
 一方のタツヤの高機動型ザクⅡ改は装備を大幅に変更し、手持ちの火器としてサブロックガンを持たせ、リアアーマーのザクマシンガンの代わりにザクバズーカを装備させて、腰のザクマシンガンの弾倉をザクバズーカの予備弾倉にしている。

「出来ることはやった。後は相手のガンプラと僕達の戦い次第だ」
「相手が何だろうと俺は勝つさ」

 マシロは相手が何であれ興味はなく、ただ勝つ事しか考えていない。
 相変わらずの強気な発言もここまで来ると頼もしさすら感じる。
 二人はバトルシステムにGPベースをセットしてガンプラを置く。

「ユウキ・タツヤ。高機動型ザクⅡ改……出る!」
「ガンダム∀GE-1。出る」

 二人のガンプラがバトルフィールドへと射出されると途端にガンプラが重くなり、速度が低下する。

「機体が重いな……」
「来る! アレは……シャア専用ズゴックか?」
「似てるけど、ありゃズゴックEの方だ」
「良くこの距離から見えるね」

 モニターにはある程度のズーム機能があるが、相手のガンプラとの距離が離れていると大してズームされず、今回は水中と言う事もあり視界が悪い。
 遠目では赤いズゴック、ファーストガンダムでシャアの専用機のズゴックであると思われたが、マシロがそれを訂正する。
 どうやら、普通のズゴックではなく、OVA作品のポケットの中の戦争で登場したズゴックの性能向上機であるズゴックEであると言う。
 それをシャアのパーソナルマークである赤で塗装したシャア専用ズゴックEとも呼べるガンプラだ。

「もう一機は……アッシュか」
「どっちも水陸両用のガンプラか……」

 シャア専用ズゴックEと並ぶのはガンダムSEED DESTINYに登場する水陸両用モビルスーツ、アッシュだ。
 アッシュも一般機のグレーではなく黒く塗装されている。
 どちらも塗装以外で目立った改造はされていないが、水中戦に長けたガンプラである事は間違いない。

「赤とか黒とかイケてないと思うんだよな。赤いのは任せた。黒いのは俺がやる」
「相手は水中戦用のガンプラだ。単独で挑むのは危険だと思う」
「知らん。取りあえず黒いのは嫌いだから倒す」

 フィールドでは相手に分がある為、タツヤは連携してバトルしようとするが、マシロは聞く耳を持たずにアッシュの方へと向かって行く。
 相手チームの方も∀GE-1が突撃して来た事を確認したのか、二手に分かれた。

「二手に分かれた……向こうも一対一のバトルを望んでいると言う事か……つまりは、一対一なら勝てると踏んでいる訳だ」

 バトルフィールドで有利なら、それも頷ける。
 フィールドで有利ならそれを埋める為には、連携を取る等で戦い方を工夫する必要があるからだ。
 それをさせない為に、相手は二手に分かれてこちらを分断させようとしているのだろう。
 仮に分断する事が出来ずに片方に向かったとしても、水中で余り動けないガンプラが2機ならすぐに追い込まれると言う訳ではない為、もう片方が挟撃すれば一気に有利になる。

「仕方がない。片方は僕の方で抑えるか」

 シャア専用ズゴックEの方がタツヤの高機動型ザクⅡ改に向かい、黒いアッシュの方がマシロの∀GE-1の方に向かっている。
 2機が突出しているマシロの方に向かわないのは、片方を集中的に狙っている間にもう片方がコソコソと反撃の準備をされる事を警戒しての事だろう。
 一対一では水中戦用の自分達のガンプラの方が有利である為、個別撃破に来ている。

「だけど、こっちも黙って好き勝手にさせる気は無いけどね」

 どの道、タツヤも良いようにさせる気はない。
 フィールドで不利な状況を変えることは出来ないが、少しでも戦い易い場所で戦う事は出来る。
 フィールドは水中だが、場所によっては深さが違う場所もいくつか存在している。
 タツヤはシャア専用ズゴックEを浅瀬まで誘導する。
 余り深い場所で戦えば相手は縦横無尽に動く事が出来て、水中で高機動を活かせない高機動型ザクⅡ改では不利だが、浅瀬ならある程度の動きは制限する事が出来る。
 シャア専用ズゴックEは魚雷を発射する。
 それに対して高機動型ザクⅡ改はサブロックガンで応戦する。

「生意気なんだよ! ザクが水中戦なんてよ!」

 シャア専用ズゴックEはアイアンネイルを突き出して、高機動型ザクⅡ改は回避しようとするがサブロックガンが破壊されてしまう。

「やはり水中では機動力は向こうの方が上か!」

 高機動型ザクⅡ改は脚部のミサイルを撃って距離を取ろうとする。
 水中で格闘戦に持ち込まれたら勝ち目はない。
 シャア専用ズゴックEはミサイルを簡単に避けて高機動型ザクⅡ改に接近しようとする。
 サブロックガンが破壊された為、ザクバズーカを持ってシャア専用ズゴックEを迎え撃つ。






 一方のマシロもアッシュとバトルを始めていた。
 水中を高速で移動するアッシュに対して火器を持っていない∀GE-1は中々接近出来ずにいた。
 アッシュは∀GE-1の背後を取ると、ビームクローから水中戦に特化する為にヒート系の武器に改造された腕部のヒートクローで切りかかる。
 だが、その前に∀GE-1はエクスカリバーを振るい、アッシュは攻撃を中止して距離を取って回避する。

「ちっ……動きが遅い」
「こいつ!」

 マシロは苛立ちを隠せないでいた。
 アッシュが水中で早く動けようともマシロはそれを見切る事が出来た。
 今の攻撃もいつもならアッシュを切り裂いていた。
 だが、水中で動きが遅くなった∀GE-1ではタイミングがずれて来る。
 元々、マシロのバトルは相手が動いた瞬間にそれに反応するのと同時に相手の動きを判断して行動すると言う物で、相手よりも動きだしは遅れている。
 それを人間離れした反射神経でその遅れは1秒にも満たない為、動きだしの遅れは意味を成さず、寧ろ一瞬にして相手の動きを見切り対処すると言う武器に代えている。
 しかし、今はその戦い方が仇となっていた。
 幾ら、マシロの反応が早くガンプラを動かせようとも∀GE-1は水中で動きが鈍っている。
 その為、マシロの思い描いている動きよりも遅れてしまい、相手のファイターでも十分に対応できるレベルまで落ちている。
 一方の相手のファイターはイラつくマシロとは正反対に驚いている。
 攻撃こそは遅れていたが、機動力で振って背後を取っての一撃に完全に反応されていたからだ。
 水中で動きが遅くならなっていなかったら、確実に仕留められていたと思わせるには十分な程にだ。
 
「水中でここまで機動力が落ちる物なのか……」

 マシロは今までに水中でのバトルをする時は水陸両用のガンプラを使うか、それ相応の改造を施したガンプラを使っていた為、今回のように武器のみで水中戦をした事は一度もなかった。
 今までは一人でCPUを相手にバトルをする事が多かった為、水中戦を行う事が分かり、水中戦用の改造やガンプラを用意してから水中戦をしていた。
 
「さて……どうするかな。切り札はあるが……アレをここで使ってもどの程度の効果があるか分かった物じゃないし、未完成だしな。未完成の切り札を使うってのも面白そうではあるが……ここは切り札の切り時ではないな。仕方がない。隠し玉の方にするか」

 ∀GE-1にはタツヤとのバトルでも見せていない切り札があったが、それ自体はまだ未完成だった。
 未完成の切り札をいきなりバトルで使うと言うシチュエーションもマシロには面白そうに思えたが、普通の状況でもまともに使えないと言うのに水中で使ったところで意味がないどころか、確実に負けることが目に見えている。
 そして、もう一つ隠し玉も持っている。
 そっちの方はこの状況でも十分に使える。

「後はタイミングか……さっきの一撃で距離を取られちまってるな」

 相手もさっきの背後への攻撃の反応速度から、接近戦は危険だと判断して迂闊に接近せずに距離を保っている。
 普通に接近しようとしても、相手はさせてはくれないだろう。
 陸上や宇宙なら機動力はこっちに分があるが、水中ではそうもいかない。
 そして、∀GE-1の隠し玉を使うには相手との距離が離れ過ぎている。
 マシロはその時をただじっと待っていた。






 水中でまともに使えるサブロックガンを失った高機動型ザクⅡ改もシャア専用ズゴックEに追い詰められている。
 ザクバズーカで応戦するも、水中戦用の装備と言う訳ではない為、シャア専用ズゴックEには当たらない。
 シャア専用ズゴックEの魚雷をかわしてはいるが、次第に追い詰められていく。

「流石にまずいな……」
「沈め!」

 シャア専用ズゴックEの魚雷の爆発の衝撃で高機動型ザクⅡ改はザクバズーカを手放してしまい尻餅をついて倒れてしまう。

「まだ……まだ終わらない!」

 シャア専用ズゴックEがアイアンネイルで止めを刺そうと接近して来るところに、ロケットランチャーを撃ち込む。
 だが、ロケットランチャーはシャア専用ズゴックEに当たる事は無い。
 
「無駄な足掻きを!」
「それを決めるのは君じゃない!」

 高機動型ザクⅡ改の攻撃をかわしていたシャア専用ズゴックEはやがてフィールドの岩礁で行き止まりへと誘い込まれていた。
 そして、岩礁の脚部のミサイルを撃ち込むと岩礁は崩れてシャア専用ズゴックEに降り注ぐ。

「これが狙いか! だが、しかし!」

 降り注ぐ岩をシャア専用ズゴックEは何度かかわした。
 しかし、その前にはヒートナタを抜いた高機動型ザクⅡ改が待ち構えていた。

「いつの間に!」
「バトルとは2手3手先を読むものだ!」

 タツヤは岩礁を破壊して岩を落として倒せるならそれでも良しとしていたが、倒せなかった場合の事も考えてミサイルを撃ってすぐに行動を開始していた。
 速やかに落としたザクバズーカを回収し、弾倉を交換しつつ、シャア専用ズゴックEを待ち構えていた。
 高機動型ザクⅡ改はヒートナタを振るうもシャア専用ズゴックEはギリギリのところで回避して、胴体を少し切れただけだ。
 
「くそ……今のは不味かった……だが、次はそうはいかない!」
「それはどうかな」

 岩礁を破壊しての攻撃からの追撃をもかわされたが、タツヤは動揺した様子は見られない。
 そして、シャア専用ズゴックEに入れられた傷から気泡が出て来る。
 高機動型ザクⅡ改の攻撃もまた、それで仕留めることが出来れるのであればそれで良かった攻撃だ。
 タツヤの最後の狙いはその攻撃で少しでも傷を付けることが出来ればそれで良かった。
 高機動型ザクⅡ改の攻撃で出来た傷からガンプラの内部に水が入って行ったが為に、シャア専用ズゴックEの傷から気泡が出ていた。
 シャア専用ズゴックEの中に水が溜まりやがて、底へと沈んでいく。
 それを確認したタツヤは止めに入る。
 弾倉を交換しておいたザクバズーカでシャア専用ズゴックEに狙いを定める。
 逃げようとするも浸水によってシャア専用ズゴックEには回避するだけの動きも出来ない。
 ザクバズーカが放たれて、シャア専用ズゴックEは回避する事なく直撃を受けて撃墜された。

「ふぅ……何とかなった。マシロ君の方はまだ終わってないのかな」

 仮にマシロの方が勝負がついていたのであれば、シャア専用ズゴックEを倒した時点でバトル終了のアナウンスが入る。
 それが入らないと言う事はまだ勝負がついていないと言う事だ。
 マシロがすでに負けていると言う可能性もあるのだが、タツヤの中ではマシロが負けている様子など思い浮かべることが出来ない為、その可能性は排除していた。







 タツヤが勝利を決めたころ、マシロはただアッシュの攻撃を耐えていた。
 アッシュは不用意に接近する事なく、魚雷とフォノンメーザー砲で距離を保ちつつ∀GE-1の装甲を削っていた。

「なんて装甲してんだよ!」

 先ほどから攻撃しても∀GE-1の装甲にまともなダメージを与えてはいない。
 ガンプラバトルにおいてガンプラの性能はガンプラの出来によって左右される。
 ここまで攻撃を直撃させても尚、∀GE-1にまともなダメージを与えることが出来ないのは、∀GE-1とアッシュとの間の完成度の差と言う事だろう。
 その為、相手のファイターも苛立って来ている。
 対象的に水中で動きが鈍っていた事で苛立っていたマシロは直撃を受けているのに落ち着いている。
 アッシュが魚雷を発射して∀GE-1は微動だもせずに胴体に直撃を受けて体勢を崩して持っていた2本のエクスカリバーを落として沈んでいく。

「一気に決める!」

 水中で使える唯一の装備を手放した事と体勢こそは崩せたが、魚雷の直撃でも∀GE-1に損傷を与えてはいない。
 その為、相手ファイターは一気に勝負をつける為に接近した。
 武器を手放した事が近接戦闘を仕掛ける要因となったが、相手の行動こそマシロが狙っていた行動であった事に相手は気づいていない。
 アッシュがヒートクローを突き出して、多少遅れるも∀GE-1は逆にアッシュに接近した。
 ヒートクローの一撃は∀GE-1の肩と胴体の付け根の関節に当たり、∀GE-1の左腕が肩からもげるがマシロは気にする事は無い。

「ここは俺の距離だ!」

 ∀GE-1はアッシュに膝を突き出す。
 ∀GE-1には内蔵火器が無いように見えたが、実は一つだけ装備されていた。
 それが膝の追加装甲の中に左右に一発だけのグレネードランチャーだ。
 基本的に近接戦闘を得意としている為、この装備は離れた距離で使われる事も無く、隠し玉として初見殺しで使う事が前提の装備であり普段から多用する事もない。
 そして、使う時はゼロ距離で使う。
 ゼロ距離からグレネードランチャーを撃ち込まれたアッシュは一撃で上半身が吹き飛んだ。
 アッシュが撃墜された事でバトル終了の合図が入り、バトルの勝敗は決した。








 バトルが終了し、他の対戦が終了するまでの間は待ち時間となっている。
 その間に他のチームの偵察をするも良し、ガンプラの修理が改造を行うも良しと自由に使う事が出来る。
 一回戦を勝ち抜いたが、今日の内にもう一回バトルをしなければならない。

「マシロ君。修理に時間がかかるなら僕も手伝うよ」

 タツヤの高機動型ザクⅡ改の損傷は武装以外は軽微で修理には時間はかからない。
 しかし、問題はマシロのガンプラだ。
 バトルで左腕を肩から破壊された事でポリキャップの一部のを損傷し、ゼロ距離でグレネードランチャーを撃ち込んだ事で片足の装甲にもダメージを負っている。
 残された時間がどれほどの物かは分からないが、余り時間をかけて修理をする事は工具も限られている為、出来ない。
 
「問題は無いさ。こんなこともあろうかと予備パーツは常備しているからな!」

 マシロはそう言って∀GE-1の足と腕、ポリキャップをタツヤに見せた。
 そして、すぐに破損した部分と取り換えた。
 ものの数分で∀GE-1は元の状態へと戻った。

「いつも常備しているのかい?」
「まぁね。バトルをしている以上はいつガンプラが壊れてもおかしくは無いだろ? だから、常に準備しておくのはビルダーの役目だからな」

 マシロの言う通り、ガンプラバトルはガンプラを直接動かしている関係上、負けた時はもちろんの事勝ってもガンプラが損傷する事がある。
 そう言った場合の為に事前に武器や壊れやすい場所の予備を用意しておくことは珍しい事ではなく、タツヤも武器の予備などは今日も持って来ている。
 尤も、マシロのように手足をそのまま新しく用意しているビルダーは稀だ。
 修理用の部品を用意しておくのと手足をそのまま用意しておくのとでは手間がまるで違う。

「ちなみに、家に帰れば予備の∀GE-1が100体はある」

 流石にそれはタツヤも驚いた。
 予備のガンプラを用意する事も特別珍しいと言う訳ではない。
 世界大会でも地区予選などで必要以上に情報を出さない為や少しでも温存する為に主力のガンプラを使わないと言う事は良くある事だ。
 だが、全く同じガンプラをそれも、100体も用意しているビルダーもファイターもいないだろう。
 しかし、タツヤは知らない。
 マシロの言う100体はあくまでも今、残っている予備機であって、マシロが∀GE-1を敵の視点から観察する為にCPU操作で多くの∀GE-1が壊れて使える部分は予備パーツと化したを。
 それを含めると更に多くの∀GE-1を作っている事になる。

「どうしてそんなにも……マシロ君は自分のガンプラが壊れることを何とも思ってないのか?」

 マシロの言い方からタツヤはそう感じた。
 同じガンプラを100体も用意していると言う事は使い物にならない程壊れた時に別の∀GE-1を使えば良いと言う事だ。
 つまりはマシロは自分のガンプラが壊れることに対して何も思う事は無いとも取れる。
 それこそ、勝つ為には自分のガンプラがどうなっても構わないと言うくらいに。
 今までのマシロのバトルを見ていても多少の損傷は気にすることなく前に出ている。
 その思い切りの良さは自分のガンプラと自分の腕に自信があるからと言うだけではなく、壊れても構わないとからでもあるのではないかと勘繰ってしまう。

「何とも思わない訳ではないけど……けどさ、ガンプラバトルを行う以上はガンプラが壊れることは仕方がない事だろ? ガンプラは壊れても直せるし、新しく作り直す事も出来る。世の中には一度壊れたら二度と直せない物だって多いんだしさ」

 マシロはそう言うが、それは答えにはなっている訳ではない。
 だが、タツヤはそれ以上、踏み込んで聞く事が出来なかった。
 どこか遠くを見ているようなマシロを見て、何となくマシロが過去に何かを壊してしまって取り返しの付かない事をしてしまったような気がしたからだ。
 これ以上、踏み込む事はマシロの内面に深く踏み込む事になってしまう。
 少なくともマシロが自分のガンプラを蔑ろにしている訳ではないと言う事で十分だと思った。

「さて、ガンプラも直った事だ。シオンと合流しよう。そろそろ次の対戦相手が決まる」
「そう……だね」

 タツヤもこれ以上はこの話題を避けたかった。
 無理にマシロの内面に踏み込んで今の関係を壊す可能性を前に尻込みをしてしまう事は誰も責めることは出来はしない。
 そんな事を気にも留めないマシロは別の試合を観戦しているシオンの方に向かい、タツヤもそれについて行く。
 一回戦を何とか勝ったマシロとタツヤのチームアメイジングだが、タツヤがマシロに対する疑惑と二人の間に漂う暗雲にまだ二人は気づいてはいなかった。



[39576] Battle06 「亀裂」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/16 09:41
 タッグバトル大会決勝トーナメント1回戦を勝利したマシロとタツヤは別の試合を観戦したシオンと合流した。
 試合その物は見ることは出来なかったが、試合の様子をシオンから聞いていた。

「次の対戦チームはチームイェーガーに決まりました。バトル内容は正直な話し良く分かりません」
「何で?」
「イェーガーの使用ガンプラがガンダムシュピーゲルとサンドージュです。バトル内容はイェーガーの劣勢だった筈ですが、いつの間にか勝っていたので、私には何が起きたのか……映像で残しておけばマシロ様の判断も仰ぐことが出来たんですが……」

 シオンはマシロの執事として付き従っているだけあってガンダム関連の知識はかなり深い。
 その為、相手のガンプラの種類を把握する事は出来る。
 バトルに関してもある程度は分かっているが、チームイェーガーのバトルは劣勢だったのに気が付いたら勝っていたと言う印象しか持てなかった。
 シオンが気づかずともバトルの様子を録画しておけば、マシロに見せれば何か分かったはずだ。
 どれだけ上手く隠したところでガンプラバトルにおけるマシロの嗅覚は人間離れしており、どんな不可解なバトルも一度見ればその謎を解き明かす事が可能だと言っても過言ではないとシオンは思っている。

「映像が無いのは仕方がないさ。とにかく、油断できない相手って事は分かったよ。シオン君」
「どの道、勝つのは俺だからな」
「申し訳ありません」

 相手の戦い方は正確には分からないが、相手が油断できない相手だと言う事は分かった。
 それが分かっているだけでも違ってくる。
 イェーガーの一回戦の相手はそれを知らずに優勢だと思って敗北している。

「そんじゃ、サクッと勝って来る」

 一回戦と二回戦の間のインターバルが終わり、マシロとタツヤは二回戦の会場へ向かう。
 二回戦のバトルフィールドは宇宙要塞内だ。
 無重力かつ、施設内でのバトルとなる。
 双方のチームの4機のガンプラは要塞内にランダムで出撃し、他のガンプラがどこにいるかは分からない状態でのバトルだ。
 要塞内は通路や巨大な部屋を初めとした閉鎖空間でのバトルとなる。
 相方のガンプラや敵のガンプラの位置が分からない為、仲間と合流する事を優先するか、自分の有利な場所で相手を待ち構えて罠を張るか、チームの戦略が試されるフィールドと言える。
 マシロとタツヤがGPベースをセットしてガンプラを置いた。
 今回、マシロは閉鎖空間での戦闘と言う事で射程の短いビームガンとガンダムアストレアF2のGNハンマーを装備されている。
 一方のタツヤの高機動型ザクⅡ改も閉鎖空間用の装備として、マシロと戦う為に用意したハンドガンを腰に装備させている。
 ザクマシンガンよりも威力も連射速度も劣るが、両手に2基持たせる事で二方向への攻撃を可能とする事で、高機動戦を得意とするマシロのガンプラに機動力で振り回されても対処できるようにするための装備だ。
 更には銃身が短い為、取り回しが良い事もあって中距離戦から近距離戦に移行した時に武器を変えることなく対応できるようになった。
 ハンドガン以外に手持ちの武器をザクバズーカからマゼラトップ砲に代えている。
 これは今までの装備がマシロのガンプラと白兵戦をする事を重視した装備で、今度はマシロの射程外からの砲撃を行う為の装備だ。
 マシロ程のファイターなら遠距離からの砲撃など避けることは容易いが、近接戦闘にばかり重視してマシロの得意分野で常に戦うのも癪だったからだ。
 自分がマシロの腕でもそうそう回避出来ない程の精度で砲撃を行えるようになれば、マシロも得意な近接戦闘に持って行けずに煮え湯を飲ませる事が出来る。
 遠距離の砲撃戦から中距離の射撃戦、近接戦闘までも高い次元で行う事が出来るガンプラが、タツヤの思い描くマシロと戦う為のガンプラだ。
 双方のチームがガンプラをセットして、バトルシステムが起動しバトルが開始された。

「まずはマシロ君と合流する事が優先か。相手は搦め手を得意としている筈だ。そう言う手合いにはこのフィールドは有利だからな」

 タツヤはまず、マシロと合流する事を優先して要塞内を進んでいた。
 シオンからの情報では普通に見ただけでは、劣勢なのにいつの間にか勝負に勝っていたと言う。
 つまりは、正攻法で攻めるのではなく、何かしらの搦め手で攻めて来るチームと言う事だ。
 この宇宙要塞においては隠れる場所も罠を仕掛ける場所も多く、搦め手で来るチームにとっては有利なフィールドだった。
 対する、タツヤとマシロは搦め手よりも正面切ってのバトルを得意としている。
 マシロのガンプラの場所は分からないが、今は立ち止まる事は出来ない。
 通路を進んでいると今度は広い円柱状の場所に出た。
 前方に道はは無く、先に進むには上に向かうしかない。
 
「嫌な場所だ」

 上に進むにしてもガンプラを隠すには十分な幅のパイプが何本も横切っており、避けて上がる事は簡単だが、敵が隠れることも出来る。
 すると、パイプの影に何かがいた為、高機動型ザクⅡ改はマゼラトップ砲を向けた。
 しかし、タツヤは一瞬、攻撃を躊躇してしまった。
 自分が見たのは影でそれがマシロのガンプラかも知れないと考えた。
 マシロの性格上、隠れると言う事はあり得ない為、すぐにマシロではないと考えを改めるも、それは致命的な隙となった。
 パイプの陰に隠れていたのは、対戦相手チームのガンプラ、サンドージュだ。
 サンドージュはパイプの影から飛び出て来ると高機動型ザクⅡ改に頭部の先から液体を吐き出す。
 その液体は高機動型ザクⅡ改の右腕に付着した。

「これは……瞬間接着剤か!」

 液体の付着した右腕の関節部が動かなくなり、マゼラトップ砲も手放す事が出来なくなった。
 サンドージュが吐きだした液体は瞬間接着剤でそれにより、高機動型ザクⅡ改の右腕の関節や右手とマゼラトップ砲を接着させたのだ。
 関節部は固まり、マゼラトップ砲の斜角は殆ど固定されてしまった。
 サンドージュは背部に装備されている2門のビームキャノンを撃ちながら後退する。






 タツヤがサンドージュと交戦する中、マシロの∀GE-1は通路をひたすら直進していた。
 ようやく、広間に出るとそこにはチームイェーガーのガンダムシュピーゲルが待ち構えていた。
 ∀GE-1が広間に入ると入って来た通路を塞ぐように爆発が起きた。

「俺を閉じ込めたのか」

 他の入口も瓦礫によって塞がれている。
 明らかに人為的に破壊されており、破壊したのがシュピーゲルのファイターである事は明白だ。
 
「俺とサシでやろってか」
「いざ参る!」

 ヒートランスを構えたシュピーゲルは∀GE-1の正面から突っ込んで来る。
 機動力が高い訳ではなく、直線的な動きをマシロが見切れない訳が無い。
 だが、シュピーゲルはただ、直線的に突っ込んで来た訳ではなかった。
 シュピーゲルの肩の装甲から煙が出て来て、すぐに部屋の中に充満して行く。
 出入り口を塞いでいる為、煙は外に漏れることは無かった。

「やべ……見えねぇ」

 煙で覆われた為にマシロは∀GE-1とシュピーゲルを見ることが出来なくなった。
 そして、∀GE-1はシュピーゲルのヒートランスの一撃をまともに受けて吹き飛ばされた。
 マシロの人間離れした反応速度は自分と相手のガンプラが見えて初めて成立する。
 今回のように視界を完全に遮られては、幾ら反応速度が速かろうと意味がない。

「怯えろ! 竦め! ガンプラの性能を活かせぬまま負けるのだ!」

 完全に視界を遮られるが、シュピーゲルはヒートランスで連続攻撃を繰り出す。
 その大半は∀GE-1を捕えることが無かったが、少しづつ攻撃は当たっている。

「相手も見えない筈なんだがな」
「これぞ、秘儀サイレント・キル!」

 条件は同じだが、相手の武器は間合いの長いヒートランスだ。
 一方の∀GE-1の装備はどちらも間合いの短い武器だった。
 ビームガンを適当に撃ったところで運良く当たってはくれない。
 それどころか、ビームの発光で自分の位置を相手に知らせている。
 シュピーゲルの武器がヒートランスなのはビームの発光で自分の位置を知らせない為なのだろう。
 煙が漏れないように出入り口を封鎖し、発光しない実体剣を使うあたり、相手はその戦い方を相当練習して来たと言う事だ。
 
「面白い戦い方ではあるけど……結局は適当に武器を振ってるだけか。ジャパニーズNINJAってのは火を噴いたり雷を出したり、デカい龍とか召喚したりともっと派手なのを期待してたんだがな。所詮は隠れ里で修業もしていない紛い物はこんなものか」

 ∀GE-1の動きを止めて武器を捨てた。
 それにより何度もシュピーゲルの攻撃が直撃して行く。
 
「勝負を諦めたか、潔いな。その潔さに免じて苦しまぬように仕留めてくれるわ」

 シュピーゲルは渾身の突きを繰り出す。
 ∀GE-1はシュピーゲルのヒートランスが当たるギリギリのところで最低限の動きでヒートランスを回避すると、ヒートランスを受け止めた。

「何と!」
「捕まえた」

 そして、足元に転がしておいたGNハンマーの棘を思い切り踏んでGNハンマーを上に上げた。
 GNハンマーが回転しながら、膝の辺りまで上がるとスタスターを使って勢いをつけてGNハンマーを膝蹴りと共にシュピーゲルの胴体に叩き付けた。
 その一撃でシュピーゲルのヒートランスを握っていた腕がもげて壁に叩き付けられて動きが止まった。

「馬鹿な……我が秘術によりお主は自身のガンプラを見失っていた筈……」
「案外ガンプラが見えなくてもあんまり関係なかったんだよね」

 マシロは最後の一撃の時も煙で∀GE-1もシュピーゲルも見えていなかった。
 しかし、動きを止めてからの攻撃の受ける場所とダメージからシュピーゲルの動きを予想した。
 何度かダメージを受けた事でその予想の精度を高めていった。
 それと同時の相手の攻撃時の微妙な煙の動きを把握した事で、ガンプラではなく煙の微妙な動きで最後の一撃をかわしたのだ。
 その上で足元に転がしておいたGNハンマーを蹴りあげて、その時の棘を踏み込む強さからGNハンマーが膝の辺りに来るかを計算して最後の一撃を叩きこんだ。
 マシロは簡単にやってのけたが、実際のところ相手が煙でガンプラを見えなくした事で自分の方が優位にいると思った事で動きが単調になっていた為、煙の動きからシュピーゲルの動きを予測する事は更に簡単になっていたが、そんな事を一々指摘する気はマシロには無かった。






 右腕を接着剤で固められた高機動ザクⅡ改に対してサンドージュは壁を這うように移動しては接着剤を掃出し、ビームキャノンで攻撃する。
 これ以上接着剤で動きを制限されるとまともに戦えなくなる為、高機動型ザクⅡ改は確実に接着剤は回避しなければならい。
 隙を見てマゼラトップ砲で反撃するが、サンドージュは後部からビームストリングスを出して一気に後ろに下がっては不規則な動きで翻弄して来る。
 
「厄介な動きをする」

 通路を縦横無人にサンドージュを狙う攻撃はパイプに直撃し、高機動型ザクⅡ改の進路の邪魔となる。
 サンドージュのビームキャノンを回避するが、接着剤が左足に直撃して左足の関節が固められる。

「不味いな……このままでは動きが完全に封じられる……」

 接着剤自体の攻撃力は皆無だが、関節を固められると確実に動きに影響が出て来る。
 その為にサンドージュを何とかしなければならないが、サンドージュは縦横無人に壁を這って移動できる。
 それに対して高機動型ザクⅡ改は追いかけるも、接着剤は思いのほか重く機動力が低下している為、サンドージュに追いつく事も出来ない。
 マゼラトップ砲で遠距離攻撃を行うも、縦横無尽に動けるサンドージュに接着剤で関節が固定されている為、狙いが上手くつけられずに当たらない。
 やがて、マゼラトップ砲も残弾が尽きる。
 接着剤で腕に接着されている為、残弾の尽きたマゼラトップ砲は捨てるに捨てれず重りとなる。
 左手で腰のハンドガンを抜くが、ハンドガンでは距離あり過ぎる為、当たる事は無い。

「これなら!」

 ミサイルとロケットランチャーを撃ち込むが、ビームストリングスを使った動きで回避する。

「厄介な動きをする!」

 空のミサイルランチャーとロケットランチャーをパージして少しでも軽くする。
 それでも軽くなったとはいえ、サンドージュに追いつく程ではない。
 サンドージュがビームストリングズをパイプに引っ掛けてビームキャノンを放とうとするが、突如、外壁が外から破壊される。
 そこからシュピーゲルのヒートランスが突き出ている。
 マシロがシュピーゲルを倒した際にヒートランスを奪って外壁を破壊してここまで直進して来た。
 それが偶然にもタツヤが交戦している通路に辿り付いた。
 更に偶然が重なってサンドージュは直撃する事は無かったが、外壁を破壊したのが相方のシュピーゲルであると誤認して一瞬の隙が生まれた。

「何だ?」
「今だ!」

 その隙をタツヤは見逃さない。
 ハンドガンでビームストリングスを撃ち抜いてサンドージュはバランスを崩した。
 更にハンドガンを撃ち込んでサンドージュには致命的な損傷を与えることが出来なかったが、サンドージュはパイプに叩き付けられる。
 ハンドガンの残弾を使い果たし、右腰のハンドガンを抜いてサンドージュに止めを刺して勝負が決まる。





 2回戦を勝利したマシロとタツヤは次の対戦相手となるチームの方はシオンに任せている為、決勝で当たると思われるクロガミ・レンヤの率いるチームブラックゴッドの試合を見ることにした。

「これは……」
「あのガンプラの壊れ方は……武器から潰して四肢を削いだな」

 バトルは思った以上に早く決着がついたらしく、ついた頃には勝負がついていた。
 勝ったのは予想通りのブラックゴッドの方だ。
 バトルの終了したバトルフィールドには彼らのガンプラ、ガンダムAGE-2 ダークハウンドとクロスボーンガンダムX2が残されており、対戦相手のガンプラがバラバラになっていた。
 バトルが終わり、得意げに相手を見下しているマシロやタツヤと同年代と思われる少年がクロガミ・レンヤでもう片方の目元が髪で隠れている少年が相方の方なのは雰囲気から察する事が出来た。
 マシロはその破壊され方からまずは武器から潰したと判断した。
 壊れたガンプラは武器が全て壊れてる。
 ライフルやシールドならバトル中に壊れることは珍しくはないが、固定装備やビームサーベル、バルカンまで装備の全てが壊れていると偶然と言うよりも狙って破壊したよ考える方が自然だ。

「酷いな。何もここまで破壊する必要はないのに……」
「そうか? 戦略をしてはありだと思うけど。まぁ、俺はそんなまどろっこしい戦い方は滅多にしないけどな」

 ブラックゴッドの戦い方をタツヤはそう感じた。
 バトルである以上は多少は相手のガンプラを破壊する事は仕方がない事だとはタツヤも思っている。
 だが、武器を破壊して戦闘能力を奪った時点で勝負はついている。
 バトルが終了していなくても、勝負がついた時点でそれ以上相手のガンプラを破壊する必要もないし、何よりそれだけの実力差を持ちながら敢えて相手のガンプラをいたぶるように破壊しているようで好きにはなれない戦い方だった。
 それをマシロは滅多にしない、つまりは必要があればやると言っている。

「本気で言っているのかい? マシロ君」
「ガンプラバトルは勝って終わらないと意味がない。確実に勝つ為にまず相手の戦闘能力を削ぐと言うのは間違ってはいないだろ?」

 タツヤは何かの冗談で欲しかったが、冗談でも聞き間違えでも無かった。
 マシロは彼らのやり方を認めていた。

「勝つ為って……勝ちたいと言う気持ちは僕にだって分かる。でも、ガンプラバトルには勝ち負け以上に大事な物だって……」
「ないね。ガンプラバトルは勝つ事が全てだ。どんなに互いの全力を出し尽くした熱いバトルも最後に負けてしまえば意味はないからな」

 勝つ事が全て……それはタツヤがマシロの口から最も聞きたくなかった言葉だ。
 マシロが勝つ為に自身を高める続けていると言う事はこの1週間で知っている。
 タツヤ自身、自分を高める為に妥協をしないマシロの事を尊敬すらしていた。
 それも全てはガンプラバトルで全力を尽くしてぶつかり合う為だと信じていたからだ。
 嫌、信じたかったのかも知れない。
 ただ、ひたすらに強さを求める姿勢は良く似ていたからだ。
 彼の師に当たる二代目メイジンカワグチに……

「取りあえずクロガミの奴だけあって少しは楽しめそうだ。それも次の元イタリアチャンプに勝たないと戦えないからな。明日に備えて今日は帰るわ」

 マシロはそう言い、タツヤはマシロに何も言えなかった。
 タツヤに対しての言葉を当たり前のように吐き出しているのか、マシロは全く気にした様子はない。
 そんなマシロの後ろ姿をただ見送る事しか出来なかった。



[39576] Battle07 「マシロの歪み」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/18 20:33
 タツヤとの間に亀裂が出来てしまった事に気づく事のないマシロはシオンと合流してホテルへの帰路についていた。
 車を使わず、ホテルまでは歩いて帰っている。
 これは、帰路でシオンが集めた情報を聞く為で、車と言う閉鎖空間ではどんなに慎重になっても盗聴器を仕掛けられる危険性があるとマシロが判断したからだ。
 シオンは流石にこの規模の大会で相手チームの情報を得る為に盗聴はしないとも思ったが、引きこもりで普段から運動をしないマシロには良い運動になるだろうと敢えて歩いて変えることにした。

「予想通りの展開で次の対戦相手は……」
「それは明日、ユウキと一緒に聞けば良い。それよりも大至急調べて欲しい事がある」

 次の対戦相手の事よりもマシロは気がかりな事が出来ていた。
 それこそ、次の対戦相手の情報よりもだ。

「レンヤのチームのもう片方の奴だ」

 マシロは決勝戦で当たると思われるクロガミ・レンヤのチームブラックゴッドのレンヤの相方の事が少し気になっていた。
 特にこれと言って理由がある訳ではない。
 ただ、漠然と何かあると感じた。
 
「一回戦の試合では余り活躍してなかったと思いますが……」
「それでもだ。理由は俺の感」
「分かりました。早急に調べさせます。ですが、場合によっては明日になるかも知れません」
「構わない。バトルが始まる前までに頼む」

 流石にタツヤの素性を調べた時は親が有名なだけあって時間はかからなかったが、今度は少し時間がかかる。
 それでも翌日で分かる辺り、彼らの持つ情報網がそれだけの力があると言う事だ。

「やはり、マシロ君ではないか!」
「……ラルさん?」

 マシロが呼び止められて立ち止まるとそこにはランバ・ラルに良く似た人物、ラルさんが息を切らしていた。
 
「まさかとは思って追いかけて見たが、やはり君だったか……」

 大会の観戦に来ていたラルさんはマシロを見かけてもしやと思って追いかけて来たようだ。
 多少、時間がかかった事が息を切らしている理由だ。

「そっちは……シオン君か! 君の方はずいぶんと様変わりをしたようだね」
「……まぁ、色々とありまして」

 ラルさんは息を整えて、シオンは少し遠い目をする。
 マシロもシオンもラルさんと会うのは数年ぶりだ。
 そんなラルさんの目から見ればシオンはかなり様変わりをしている。

「マシロ君の方は相変わらずのようだね。その白いマフラーを見てピンと来たよ」
「これは昔、大切な奴に貰った大切な物だからな」

 マシロはそう言って懐かしそうにマフラーに触れる。
 前に会ったのは数年前だが、その時も季節外れのマフラーをしていた事が印象に強く、それを見てラルさんもすぐにマシロだと言う事に気が付いた。

 「ラルさんは相変わらずラルさんだけど、なんでいんの? 今日は平日じゃん」
「……ユウキ少年が出ると聞いてな。彼は実績こそは公では余り知られてはいないが、実力は同年代の中では飛び抜けていて、次世代のガンプラバトルを担う一人と言っても過言ではないからね。そんな彼が大会に出ると聞いては見るしかないだろう。だが、見に来てみれば相方が君だったことは驚いたよ。いつ日本に?」
「先週。俺も大会に用があってね」
「申し訳ありませんが、私が用があるのでこの辺りで失礼しても宜しいでしょうか?」

 話しが長くなると踏んだシオンはそう言う。
 用とはマシロに頼まれた事だ。
 少しでも早く動き出した方が集められる情報も多く正確となる。

「おっと、済まんな」
「いえ、用は私一人で大丈夫ですので、マシロ様はラルさんと積もる話しもあるでしょうし」
「任せる」

 情報収集をシオンに任せて、マシロはラルさんと近くの喫茶店に入る。
 注文を終えると二人は一息つく。

「中佐の事は残念だった。まさか、あの人が事故であっさりと亡くなってしまうとはね……」
「結局、父さんも人間だったって事でしょ」

 ラルさんの言う中佐とはマシロの父親の事だ。
 ラルさんとは父を通じての知り合いで、その父親とは古い友人であった。
 そのマシロの父も数年前に事故で死んでいた。
 当時はその事は大きなニュースとなり、ラルさんもニュースでマシロの父の訃報を知る事となった。

「で、そんな昔話しをする為に俺を呼び止めた訳じゃないんでしょ?」
「せっかくの再会なんだ。もう少し昔話しに花を咲かせても良かったんだがね。本題に入るが、マシロ君はチームネメシスの事は知っているかね?」
「メタンハイドレートの発掘王が少し前に作ったガンプラチームの事だろ? ネットでニュースになってた」

 ラルさんの言うチームネメシスはマシロの言う通りメタンハイドレートの発掘王ヨセフ・カンカーンシュルヤが設立したガンプラチームだ。
 ガンプラチーム自体は多いが、その大半は個人が友人たちと作った物が多く、企業などがスポンサーに付くケースはほとんどない。
 オーナーであるヨセフが自身の資金をフルに投入して設備やファイターを充実させている事で話題を呼んでいる。

「そのネメシスのエースと言えばガウェイン・オークリーではあるが、未だに表舞台に現れることのない幻のエースが存在していると言う噂を耳にしてな。その幻のエースは白いガンプラを使ったビームサーベルによる二刀流を駆使して圧倒的な実力を持つと言われている。マシロ君は何か知らないかね?」
「ラルさん……それって、質問? それとも確認?」

 ラルさんの言い方は広い情報網を持つマシロにネメシスの幻のエースの事を聞いているようにも見える。
 だが、マシロはその事を質問していると言うとよりも、何か確信を持って言っているように聞こえた。

「だとしたら、答えはYESだよ」
「やはり君だったのか」

 ラルさんは大して驚いた様子は見られなかった。
 寧ろ、納得している様子だ。

「てか、俺はネメシスのファイターとしてバトルした事はないんだけど、なんで知ってんのかなぁ……」
「人の口には戸は立てられないと言う事だな。それにしても以外だな。マシロ君はそう言うのには興味がないと思っていたが……何か心境の変化はあったのかな?」

 マシロはある事情から表だってネメシスのファイターとしてのバトルを行った事は無い。
 それでも、本気で情報を秘匿した訳ではない為、情報が完全に秘匿できずに噂レベルで流れてしまう事は仕方がない事だった。
 ラルさんの知るマシロはチームに属するタイプではなかった。
 だが、今はチームに属している。
 この数年で何かしらの心境の変化があったと考えるのも自然な事だ。

「別に……兄貴の命令だから」
「お兄さんと言うと……ユキト君の事か?」
「そっ、今はその兄貴が家を仕切ってんの。んで、うちのボスの孫がガンプラに興味を持ったからボスはネメシスを作って、兄貴はボスとの関係を良好にする為のご機嫌取りとして俺をネメシスに入れたって訳。無意味に敵を作る事は三流のする事だってのが死んだ父さんの口癖だからね」

 チームネメシスの設立に当たり、不可解な事があった。
 企業などがガンプラチームのスポンサーになる場合は何かしらのメリットがある場合が大抵だ。
 それがない場合は、企業の社長が単にガンプラ好きと言うケースもあるが、ヨセフに関してはそのどちらでもない。
 チームに金を使ったとしても、ヨセフにはメリットがなく、彼自身がガンプラやガンダムに興味を持っていると言う話しは聞かない。
 だが、彼の孫がガンプラに興味を持っていたのであればそれも頷ける。
 そして、父の死後家を取り仕切っているマシロの兄の命令でマシロはチームネメシスに所属させられていると言う訳だ。

「そんで、今はボスの孫の為に限定モデルのガンプラを手に入れる為にこんなところまで来てるって訳。つまんねーお使いだよ」

 マシロが大会に参加する理由は優勝賞品のガンプラだが、それ自体にマシロは興味はないのだが、ヨセフが孫の為に手に入れて来いと言う事でマシロはここまで来たと言う事だ。

「マシロ君はそれで良いのか?」
「俺としても特別、やる事に代わりはないから気にする事もないよ。家の中で家の金でガンプラをやるか、チームでボスの金でガンプラをやるかの違いしかないし、ボスからはボスの命令さえ守れば好きに動いて良いって言われているし、チームの金も好きに使って良いって言われてるから家にいる時と結局のところ環境はそんなに変わらないし」
「そうか……」

 マシロにとっては今までの家に引きこもる生活と今の生活に大した違いはない。
 ただ、面倒な事が少し増えるくらいの差でしかない。
 どの道、自分の好きなだけ、ガンプラを作りバトルする事が出来る。

「まぁ、家にいた時は基本CPU戦ばかりだったから、対戦相手が多く揃ってるってのはいいかな。ガウェインなんて練習相手には丁度良いし」

 家にいた時のバトルの相手はマシロが自分で制作したガンプラを相手にCPU戦が殆どでたまにガンプラを買いに外出して適当な相手をバトルしている。
 ガンプラを買いに行く国はその時々で違う為、対戦相手の実力にムラが大きい。
 だが、ネメシスのファイターは実力者を集められていると言う事もあり、ある程度の実力者が揃っている。
 その大半は相手にもならないが、チームのエースと目されているガウェインは世界レベルの実力者でマシロにとっては練習相手を務めることが出来る。
 CUP戦とは違い生きた相手とバトル出来ることは、家にいる時よりも練習としては意味がある。
 CPUはプログラム通りのバトルしか出来ない事に対して、生きた人間は独自で考えて行動して来るからだ。
 そんな、マシロの事をラルさんは少し複雑そうな表情で見ている。

「用件はそれだけ? これでも明日のバトルに備える必要があるから暇じゃないから。帰るわ。会計はよろしく」
「忙しいところを済まんな」
「別に」

 マシロはそう言って店を出て行く。

「中佐、貴方が危惧していた通りの事になっているようです。マシロ君は純粋でいて歪んでしまったようだ」

 ラルさんはマシロの後ろ姿を見て呟いた。
 マシロの父が生前にラルさんに話していた事がある。
 それは、マシロがこのままでは純粋が故に歪んでしまうと言う事だ。
 その当時は意味が分からなかったが、今の会話でそれを確信した。

「このままでは彼は破滅の道しかなくなるだろう。だが、ワシにはどうする事も出来んようです」

 そして、マシロの父はそれによってマシロが将来的に破滅するかも知れないと言う事も危惧していた。
 それを何とかしたいと思っていたようだが、間が悪く事故によってこの世を去っている。
 友人の忘れ形見であるマシロを破滅の道から救いたいと願ったところで父の友人と言う関係でしかないラルさんにはどうする事も出来はしない。

「だが、家から外に出た事で何かきっかけがあれば良いのだが……」

 ラルさん自身に出来ることは限られている。
 だが、希望は残されている。
 今までは家の中にいたマシロが理由はどうあれ外の世界に出て他人を関わりを持つようになっている。
 本人が望まずとも、それは否応なく、マシロに影響を及ぼすだろう。
 それによってマシロが破滅の道から外れて行くことを願うしかなかった。









 大会を勝ち抜きベスト4まで残る事が出来たが、帰宅したタツヤの表情は暗い。
 バトルの中で高機動型ザクⅡ改の完成系が見えて最後の改良をしているが、それ以上にマシロとの事が大きかった。
 ガンプラの補修を行いつつも、上の空だった。

「負けた訳でも無いのに、出て行く時とは全然違いますけど、どうかしたんですか?」
「いや……何でもないよ。ヤナ」

 タツヤは後ろでコーヒーを入れて来たメイドのヤナにそう言うが、タツヤとの付き合いの長い彼女には単に強がっているだけにしか見えなかった。

「私で良かったら話して見てはいかがですか? タツヤさんの事ですから、一人で考え過ぎて頭がハツカネズミにでもなってそうですし」
「そう……だね」

 確かに、一人で考えたところで同じことをグルグルと考えるだけでどうしようもない。
 タツヤはそこから抜けだす為にもヤナに今日の出来事を相談する事にした。

「成程成程……つまり、そのマシロ君が二代目メイジンと同じ考えなのではないかとタツヤさんは思っていると」
「要約すればね」

 タツヤから事情を聴いたヤナは一息つく。
 
「それで、マシロ君は何って言ってました?」
「だから……」
「そうではなくてですね。勝つ事が全て発言に対してですよ。まさか、それしか聞いてないとか聞いていないと言う事はないでしょうね?」

 タツヤは無言で返す。
 それは明らかな肯定を示している。

「はぁ……駄目じゃないですか! ちゃんと話しをしないと! 対話は重要なんですよ! もしも、それが不幸な食い違いによる誤解だったらどうするんですか? その誤解から不和を呼んで分かり合えなくなっちゃいますよ」
「ヤナ、怖いんだよ。僕は……本当に彼が二代目同様に勝利のみを追求しているのであれば……僕はマシロ君と戦えない」

 それがタツヤの本音だった。
 マシロに詳しく聞く事は出来たはずだ。
 それなのにそれをしなかったのは怖かったからだ。
 二代目メイジンのようにただ勝利のみを求めているのであれば、タツヤはもうマシロと組んで戦う事が出来ない。
 そうなれば、二人の関係が終わってしまう。
 
「タツヤさんは物事を深く読み過ぎかもしれませんよ。案外コーヒーを一杯飲んでいる間に解決できる程度のことかも知れないですよ」
「そんな単純な問題とも思えないよ。僕には」
「でも、このままでは明日で終わりなんですよ」

 ヤナの言葉にタツヤはハッとしてしまう。
 今までは余り考えていなかったが、ヤナの言う通りだった。
 どの道、明日のバトルで勝っても負けてもマシロとのコンビは終わりだ。
 マシロが大会後にどうするかは知らないが、日本に住んでいる訳ではなく、大会の為に日本に来ているのであれば大会終了後には帰国する可能性が高い。
 
「どの道、終わりなら当たって砕けてもいいんじゃないんですか? 出会いがあれば別れもあるんですから……上手く行かなくても今回はちょっと悲しい別れだったと言う事ですよ。でも、必ずしも上手く行かないって決まった訳でも無いんですし……仮にタツヤさんの考え過ぎだったら……このまま誤解したままだといつか後悔しますよ」

 マシロが勝利する事をバトルにおいて最重要視している事は否定の出来ない事実かも知れない。
 だが、それ以上はタツヤの推測にすぎない。
 その道、明日で終わりだと言うのであれば当たって砕けると言うも一つの手ではある。
 
「最悪、タツヤさんも男の子なんですから、河原で夕日をバックに殴り合えば分かり合えますよ」
「いつの時代の話しだよ……ヤナ。でも、確かにそうかも知れないな。僕もマシロ君もファイターなんだ。なら、バトルの中で分かり合えば良いだけの事か……後は実行するだけか」

 タツヤの中で何かが開けた気がした。
 結局のところ、人と人との問題で相手がいないところで考えたでも答えが出る訳もなかった。
 タツヤもマシロもファイターで、マシロもバトルでは嘘はつけない筈だった。
 想いを新たにタツヤはガンプラを最後の改良を行う。







 決勝戦の当日、マシロはシオンより先にホテルを出ていた。
 何だかんだと言っても、久しぶりにガウェイン以外の世界レベルのファイターとのバトルで、マシロは夕べは一睡もしていない。
 その為、朝早くから会場に向かっていた。
 その道中で信号が赤となってマシロは止まろうとするが、待つのが面倒になり近くの歩道橋の方に向かった。
 歩道橋を上り道路を渡る際に人をすれ違うも、歩道橋の上ですれ違った人の事を気にしないのは当然の事だった。
 そして、歩道橋の下りの階段に足を踏み出そうとしたが、マシロの足の先には階段は無く、明らかに階段を踏み外していた。
 流石に階段を踏み外すと言うドジをする訳もなく、それ以上に踏み出そうとした瞬間に背中に圧迫感を感じた。
 人並外れは反応速度を持つマシロはすぐに自分の状況を把握する事が出来た。
 何者かに背中を押されて歩道橋の階段から落ちかけている。
 それを把握すれば次の手を考えることが出来た。
 階段の手すりを持てば無傷とまではいかないが、最悪の事態は回避できる。
 マシロは体を反転させて、手すりに手を伸ばそうとする。
 だが、そこまで考えるとある問題が生じた事に気が付いた。
 マシロは人間離れした反応速度とそこから一瞬にして思考を回転させる事が出来る。
 そこだけを聞くとマシロは超人のようにも聞こえるだろう。
 しかし、マシロの身体能力は同年代の女子にすら劣る。
 自分の身体能力では手すりに手を伸ばして掴む事も難しく、仮に掴めたとしても落下を阻止する事も難しい。
 最悪の事態は掴んで、落下の衝撃に耐えきれずに落ちることだ。
 そうなれば手すりを掴んだ腕を怪我しかねない。
 腕を怪我すれば、今日のバトルで影響が確実に出て来る。
 それは何としても避けねばならない事態だった。
 それらを総合してのマシロの判断は手すりを掴まずに落下すると言う物だった。

(糞ったれ……こういう手で来やがったか!)

 マシロは腕を庇い視界が反転する中で毒づいていた。




[39576] Battle08 「チームの形」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/20 18:32
 マシロと向き合う事を決めたタツヤは覚悟を胸に大会の会場に到着した。
 会場にはすでにシオンが到着していたが、マシロの姿は無かった。

「マシロ君は?」
「先にホテルを出た筈なんですけどね……あの人の事ですから、どこかで道草でもしてるんでしょう」

 シオンは普段から、マシロの行動からそう判断していた。
 
「ですが、バトルの時間には遅れると言う事はないので大丈夫でしょう。今日の対戦相手の事です。ユウキ様もすでに知っていると思いますが対戦チームはチームアモーレ、去年のイタリアチャンプのブルーノ・コレッティのチームです。相方はアンナ・コレッティ。夫婦ですね」
「それでチーム名がアモーレ。愛と言う訳か」
「それはさておき、使用ガンプラはメリクリウスとヴァイエイトの改造機です」
「メリクリウスとヴァイエイトか……確かにタッグバトルとなれば誰かが使ってもおかしくはないね」

 対戦相手のメリクリウスとヴァイエイト登場作品であるガンダムWにおいて攻撃と防御を分担して2機での運用を前提に設計されたモビルスーツである。
 基本的にガンプラバトルは一体一が基本だが、今回の大会のようにタッグバトルなどのチームで組むようなルールではガンダムの作中と同じ運用方法でチームを組むと言う事は珍しい話しではない。

「奥方のアンナ・コレッティもまた、イタリア予選の上位に入賞する程の実力を持ちます。それ以上に彼らは単体でのバトルよりもタッグで組んだ時の方が強いと言うデータが出ています」

 相手は世界大会に出る程の実力者である為、ホテルに帰ってからマシロに頼まれていた事を指示した残りの時間で情報収集で情報を集めることも容易だった。
 その中で夫であるブルーノだけでなく、妻のアンナの実力もイタリア予選で上位に入れる程の実力で十分に世界レベルだ。
 そして、ブルーノとアンナの実力は単体でのバトルよりも二人で組んだタッグバトルの方が強いと言う事が判明した。
 ガンプラバトルはファイターの数だけバトルスタイルがあると言っても過言ではない。
 中には一人でバトルするよりも誰かと組んだバトルの方が実力を出せるファイターもいる。
 ブルーノとアンナもそのタイプのファイターと言う事になる。

「ガンプラの方も双方の特性を更に強化していますね」
「最強の矛と盾を超えた究極の矛と盾を持つファイターか……強敵だ」
「ですね。現状ではマシロ様とユウキ様は連携のれの字もないですから」
「耳が痛いよ」

 大会において一度すらもタツヤとマシロは連携を取った事は無い。
 マシロは一人で突撃する為、タツヤは取り残されて結局一人でバトルする事になる。
 それでもここまで勝ち上がる事が出来たのは一重にマシロとタツヤの実力が参加者の中でも飛び抜けているからだろう。
 しかし、次の相手はどちらも世界レベルのファイターだ。
 その上で連携を得意をする二人に連携をしないタツヤ達では勝算は低いと言わざる負えない。

「関係ないね。俺は勝つ。それだけだ」
「マシロ君……」

 遅れて到着したマシロを見てタツヤの表情が硬くなる。
 覚悟を決めたとはいえ、やはり気まずい。

「どこで油を売っていたんですか?」
「別に良いだろ。バトルには間に合ったんだ」

 マシロはさっさと会場の方に向かって行く。
 シオンはマシロの歩き方に違和感を覚えた。
 マシロが遅れた理由は歩道橋から落ちたと言う事は二人に言うつもりはなかった。
 落ちた事でマシロは体の至るところを怪我しているが、それを押し隠している為、歩き方が微妙にいつもとは違った。
 常に行動を共にしていたが、故にシオンは小さな違和感を感じたが、タツヤの方は自分の事で手一杯である為、気づかない。

「マシロ君、この戦いが終わったら……」
「それ以上は死亡フラグ。さっさとしないと失格になるぞ」
「分かったよ」

 マシロがタツヤの言葉を遮るが、確かにマシロの言う通りだ。
 早いところ受付を済ませてないと二人は棄権と見なされて失格だ。
 マシロの動きに違和感を感じるも確証が無い為、シオンは二人を見送り観客席へと向かう。
 会場にはすでに観客が多く集まりっている。
 バトルシステム越しの対面にはすでに対戦相手のブルーノとアンナがすでに待機していた。
 長身のブルーノと妖艶なアンナが人目をはばからずに体を寄せ合っている。

「ようやく来たか少年達!」
「待ちくたびれたじゃない」
「申し訳ない」

 タツヤとマシロはバトルシステムの前に立つとバトルを行う4人がGPベースをバトルシステムにセットする。

「メリクリウス・ムーロ!」
「ヴァイエイト・ランチャ!」
「ザクアメイジング!」
「ガンダム∀GE-1」

 それぞれが自分のガンプラをバトルシステムにセットする。
 歩道橋から落ちたマシロだが、ガンプラの方は傷一つついていない。
 マシロが普段からガンプラを入れて持ち歩いているケースはマシロの伝手で特注した物だ。
 その強度は大気圏を突入しても無事だと言う触れ込みで、核ミサイルの直撃にも耐えられる仕様と言われている。
 それが事実かどうかを確かめる術は無いが、少なくとも階段から落ちた時の衝撃程度ではガンプラが傷つく事はあり得ない。
 それにより発生した衝撃も内部に届く事は無く、マシロのガンプラは無事だった。

「情報通り、メリクリウスとヴァイエイトか……てか、しれっとチーム名を入れてんなよ。まるでユウキのチームみたいじゃん」

 タツヤのガンプラは昨日までの高機動型ザクⅡ改とは少し違っていた。
 装甲にリアクティブアーマーを増設し、手持ちの火器が戦車の砲身を流用して自作したロングライフルとなっている。
 これこそが、タツヤがマシロと戦う為に完成させた新たなガンプラ、ザクアメイジングだった。
 それよりも、マシロはチームの名であるアメイジングをガンプラの名前に付けた事を講義するが、タツヤは苦笑いで誤魔化す。
 あまり、文句を言っている時間もなくバトルが開始された。

「マシロ君。相手は世界レベルだ。慎重に……」
「関係ないね」

 ガンダムAGE-FXのスタングルライフルを装備した∀GE-1はタツヤのザクアメイジングを置いて飛び出す。

「来た」

 ∀GE-1はスタングルライフルのチャージモードをいきなり撃ち込む。
 だが、放たれたビームは霧散して消える。

「プラネイトデェフェンサーか……」
「その通り。俺のメリクリウス・ムーロはあらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の壁! ハニーへの攻撃はさせないぜ!」

 メリクリウス・ムーロの周囲にはベースとなったメリクリウスの象徴とも言える防御兵器のプラネイトディフェンサーが展開されている。
 これにより発生させられた電磁フィールドによりビームが防がれたと言う事だ。
 
「数は……30と言ったところか」

 通常、メリクリウスには10基のフィールドジェネレーターが搭載されている。
 だが、メリクリウス・ムーロにはその3倍の30基が装備されている。
 それによってより広範囲や高出力のビームに対応している。
 更には本体の両腕にはリーオーのシールドが装備され、両手には下部にビームサーベルのグリップを接着したビームライフルを装備している。
 単純に防御力を上げただけでなく、攻撃力も増強されている。

「愛してるわ! ダーリン!」
「マシロ君!」
「分かってる!」

 その後方から強力なビームが戦場を横切る。
 メリクリウス・ムーロの後方にはアンナのヴァイエイト・ランチャがメガバズーカランチャーを構えている。
 百式の装備を流用し、バックパックと両肩、両腰にビームジェネレーターを増設した事でメガバズーカランチャーのチャージ時間を短縮している。
 火力を増強しているが、巨大なビーム砲を抱えている為、機動力は皆無だ。
 しかし、それをメリクリウス・ムーロの鉄壁の防御力で補っている。
 ∀GE-1とザクアメイジングは回避するが、そこをメリクリウス・ムーロがビームライフルで狙う。

「これが究極の盾と矛……流石は世界最強クラスのタッグファイターだ!」
「知った事か!」
 
 ∀GE-1はスタングルライフルを撃ちながら、突撃する。
 ビームはプラネイトディフェンサーに防がれて、メリクリウス・ムーロはビームライフルで反撃する。

(おかしい……いつものマシロ君の繊細さがまるでない。あれでは勇猛ではない。ただの無謀だ)

 タツヤはマシロの動きからそう感じていた。
 一見、攻撃を受けることを気にしないで突撃して行く様子はいつものマシロの戦い方だ。
 だが、いつもはギリギリで攻撃をかわすか、影響のない程度の攻撃は気にしないで突っ込むが、相手は世界レベルのファイターのガンプラだ。
 一撃一撃が下手をすれば致命傷になり兼ねない。
 今のところは被弾しても、目立った損傷はないが、それでもバランスを少し崩して足を止めてしまっている。
 これはいつものマシロの戦い方ではないとタツヤには一目で分かる。
 実際、歩道橋から落ちた時に腕は守ったが、それ以外のところは守り切れずに負傷をしている為、マシロは本調子とは程遠い。
 それをタツヤやシオンには隠しているが、流石にバトルには少なからず影響が出ている。

「射撃がダメなら!」

 ∀GE-1はメリクリウス・ムーロの攻撃をかわして突っ込む。
 プラネイトディフェンサーの電磁フィールドを突撃して強引に内部に入り込む。

「全く……無茶な戦い方をする!」
「この距離ならプラネイトディフェンサーの影響はないだろ」

 ∀GE-1は左腕の装甲からビームサーベルを展開して、メリクリウス・ムーロに突き出す。
 メリクリウス・ムーロは腕のシールドを掲げた。
 ∀GE-1のビームサーベルはシールドに当たると霧散した。

「ちっ……シールドにIフィールドを仕込んでやがったか!」
「生憎とその程度の攻めじゃメリクリウス・ムーロの壁は崩せないんでね!」

 メリクリウス・ムーロのシールドには表面に特殊な塗装がされており、それによりプラフスキー粒子を変容させる事でビームを弾く事が出来る。
 この技術は世界大会において大型モビルアーマー等に使われる事が多く、ビームを弾く事からガンダム内の技術から名前を取って「Iフィールド」と呼称されている。
 メリクリウス・ムーロのシールドもまた、特殊塗装によりIフィールドが使える。
 故に∀GE-1のビームサーベルの粒子が変容して霧散した。

「なら!」

 今度は至近距離からスタングルライフルを放つが、シールドのIフィールドで防がれる。

「マシロ君!」
「分かってる!」

 後方からヴァイエイト・ランチャのメガバズーカランチャーが発射されて、∀GE-1は回避するが、メリクリウス・ムーロがビームライフルで追撃して、スタングルライフルに被弾してライフルを捨てた。
 メリクリウス・ムーロの攻撃をかわしているうちにプラネイトディフェンサーの外まで追い出された。

「離れてはプラネイトディフェンサーに接近戦ではIフィールド……ガッチガチに守りを固めやがって」
(このままじゃ駄目だ……僕達も連携しないと……)

 ブルーノとアンナを前にタツヤはそう考える。
 相手はどちらも世界レベルのファイターでタッグバトルを得意とする。
 バトル前から連携の必要性は感じていたが、実際にバトルしてそれを実感した。
 4人の中で単純な実力はマシロが一番だろう。
 だが、マシロの調子が悪い事を除いても、マシロも攻め切れていない。
 それは、アンナのヴァイエイト・ランチャが機動力を犠牲にした火力による砲撃支援のタイミングとブルーノのメリクリウス・ムーロの鉄壁の守りが成せる業だ。
 単体ではマシロに劣っても二人のコンビネーションによってマシロに互角以上の戦いをしている。
 それに比べてタツヤ達は個々の技術は優れていたとしても、個々で戦っている。

(だけど……僕は……)

 連携の重要性を感じながら、後一歩が踏み出せない。
 連携に重要な要素は互いの信頼感だ。
 マシロがタツヤの事をどう思っているかは、タツヤ自身は分からないが、タツヤはマシロの事を今一つ信じ切れていない。
 
(このままでは僕達は勝てない……なら)

 バラバラで戦うだけではタツヤとマシロに勝機はない。
 このままでは勝てないと自覚したタツヤは賭けに出る覚悟を決めた。
 
「マシロ君」
「どした?」
「君に聞きたい事がある」
「後にして欲しいんだが、こいつら予想以上にやる」

 タツヤはマシロに通信を入れる。
 二人の距離は大して離れている訳ではないが、会場の騒音で普通に話しをしても聞こえ辛いと言う事もあり、互いに通信を入れることが出来るようになっている。
 マシロは怪我や事前情報で聞いていた以上に強い為、余りタツヤと話している余裕はなかった。
 
「聞いてくれ!」

 タツヤもマシロが調子が悪いと言う事は予想以上に強いと言う事は十分に理解している。
 それでも声を上げてマシロに話しを聞いて貰おうとする。
 恐らくは出会ってから初めて声を上げた事でマシロも、驚きタツヤの言葉に耳を傾ける。

「君はガンプラバトルは勝って終わらないと意味がないと言っていたね。僕には分からない! 勝つのみを求めるバトルに何の意味があるのか! 答えてくれ!」

 タツヤは昨日抱いた疑念をマシロにぶつける。
 勝つ為にはマシロの事を信じる事が必要となる。
 昨日の事で信じる事が出来なくなったため、ヤナに入れたみたいにマシロと正面から向き合おうとした。
 これでマシロが二代目メイジンのような勝つ事のみを追求するファイターであるのなら、どの道、チームを組む事は出来ずにここで敗退する事になるだろう。 
 最後の希望を託してタツヤはマシロに叫んだ。
 意を決しての叫びだが、マシロの方はキョトンとしていた。

「確かに俺は勝って終わらないと意味がないって言ったし、勝つ事が全てだとも言った。けど、勝つ事のみを追求するなんて言ってないんだが……けど、何の意味があるかって聞かれたら、意味なんてないと俺は答えるね。勝利は何かを得る為の手段でしかない。手段が目的となった時点でそいつの器は知れてる」

 確かにマシロはガンプラバトルは勝って終わらないと意味がないとも、勝つ事が全てだとも言った。
 しかし、タツヤの言うような勝つ事のみを追求しているとは言ってはいない。
 その二つは似ているようで違う。
 マシロにとっては勝利とは何かを得る為の手段に過ぎず、勝利のみを追求する事に意味は無かった。

「じゃあ、マシロ君は何を求めて勝利を得ようとしている?」
「何って……楽しいじゃん」
「は?」

 予想外の答えに今度はタツヤの方が呆気に取られていた。

「いや、はって、何ザクがビームライフルを食らった顔してんの? 勝つと楽しいのは当たり前じゃん。勝てば楽しいし負ければ死ぬほど悔しい。だから俺は勝つ。だけど、弱い奴に勝ってもつまんねーからより強い勝つに勝つ事の方が俺は好きだね。そんで、俺の作ったガンプラは最強で俺がガンプラを一番上手く操れると言う事を証明する事が堪らなく楽しい」

 余りにも予想外過ぎてタツヤは一瞬思考が停止して言葉の意味を理解するのが遅れた。
 
「何だよ。俺、変な事を言ったか?」
「……いや、変じゃない……」

 タツヤは込み上げて来る笑いを何とか押し留める。
 マシロの答えを聞いて、今まで変に考えていた自分がおかしく思えて来たからだ。

(勝つと楽しくて負けると悔しい……当たり前の事じゃないか)

 ガンプラバトルを始めたファイターは最初は自分の作ったガンプラが動くだけ満足だが、バトルを始めるとそうではなくなる。
 バトルで自分のガンプラが勝てば嬉しくて楽しいが、負けると悔しい。
 悔しいから負けないように強くなろうとする。
 これはファイターなら誰しもが通る道だ。
 タツヤもガンプラバトルを始めた時はそうだった。
 自分の作ったガンプラが誰のガンプラよりも強いと思いたいのも誰もが思う事だ。
 マシロは楽しいから勝つ……それだけの事だった。

(二代目の思想に囚われていたのはマシロ君の方ではなく、僕の方だったみたいだ……何をやっていたんだろうな。僕はあの人からガンプラバトルは楽しい物だと言う事を教えて貰っていたと言うのに……) 

 タツヤは二代目メイジンの勝つ事のみを追求するバトルを認める事が出来ずに否定する余り、マシロの事を二代目と同じなのではないかと勘繰っていた。
 それは例えマシロの言い方に問題があったとしても、結局のところタツヤもまた二代目の思想に囚われていたと言う事だ。
 
「マシロ君、僕は理解したよ。君と言う存在を……己のガンプラが最強である事を証明する為に勝つ……その気持ち愛だ! ガンプラへの愛が君を勝利へと駆り立てそこまで強くしたと言う事か!」
「えっ……ああ……うん。まぁそんな感じだ。うん」

 疑念から一転、マシロはただひたすら自分のやり方でガンプラバトルを楽しんでいたに過ぎないと言う事が分かり、タツヤの中で何かが突き抜けた。

「で、壊れてるところ悪いんだが、どうする?」
「メリクリウスの方はIフィールドを持っているから実弾を中心とした僕のザクアメイジングの方は良いと思う。ヴァイエイトの方は完全に砲撃に特化しているから、機動力の高いマシロ君の∀GE-1の方が良いと僕は思う」
「同感だ」

 タツヤがマシロに叫んだ事でマシロの方でも少し頭が冷えて、冷静さを取り戻していた。
 
「少年の主張は終わったか?」
「律儀に待っててくれたのかよ」
「まぁな」

 二人の会話中、相手チームの攻撃は止んでいた。
 タツヤが叫んだ事は相手チームの方にも内容はともかく、届いていた。
 事情は分からないが、空気を読んで攻撃を控えていたと言う訳だ。

「そいつはどうも」
「なら、その借りはバトルで返さないとね!」

 ∀GE-1は腰のビームサーベルを両手に持ち、ザクアメイジングがロングライフルを構えた。
 待っている間にチャージされていたメガバズーカランチャーが放たれて2機は散開する。
 散開した2機にメリクリウス・ムーロがビームライフルで近づけさせないようにする。

(とは言ったものの、僕達に彼らの連携に対抗する連携は出来ない)

 マシロへの不信感が無くなったとは言っても、いきなりブルーノとアンナのような連携を取る事は不可能だ。

(あれだけの連携を取れる理由は互いへの信頼感。夫婦として人生を共に歩いて行くからこその戦いと言ったところか……ならば、僕とマシロ君だからこその戦い方でなければ二人に勝つ事は出来ない)

 タツヤは必死に打開策を考えた。
 彼らと同じように戦う事は出来ないし、やったところで勝ち目はない。
 勝つ為にはタツヤとマシロでしか出来ないやり方を模索するしかない。
 タツヤが考える中、マシロは単独で向かって行く。

「そう何度も接近させるかよ!」
「行くわよ!」

 メリクリウス・ムーロがビームライフルで牽制して、ヴァイエイト・ランチャがメガバズーカランチャーを放つ。
 辛うじてメガバズーカランチャーの直撃はかわしているが、このままではマシロの∀GE-1も限界が来る。

(落ち着け……焦ったら駄目だ。今はマシロ君が相手を引きつけている。その間に打開策を考えるんだ)

 マシロが何度も接近を試みている為、タツヤの方は考えるだけの余裕がある。
 
(僕とマシロ君でしか出来ない戦い方はきっとある筈なんだ)

 時間にそれ程、余裕がある訳ではないが、マシロが時間を稼いでいる為、その時間を最大限に使って考える。
 自分達にしか出来ない戦い方を。

(僕とマシロ君か……そう言えば、余り良く考えた事は無かったな。僕とマシロ君の関係は……友達? 相棒? 何か違うな)

 二人でしか出来ない戦い方を考えるにあたり、自分達の関係から考える事にした。
 まず浮かんで来たのが友達や相棒と言う関係だが、どこかしっくり来ない。
 友達や相棒にしては互いの事を知らなさすぎる。

(案外、分からない物だな……僕とマシロ君は友達や相棒ではない、ましてや彼らのような夫婦と言う訳でもない……そう、強敵(ライバル))

 強敵と書いてライバル。
 それが一番、しっくり来た。

(なら、やる事は一つだ)

 自分達の関係を見直して答えを見つける事が出来た事で見えて来た事があった。
 ザクアメイジングがロングライフルを放つ。

「ようやく、やる気になったか」
「まぁね。さっそくで悪いけど……僕が決めさせて貰うよ」

 ザクアメイジングはメリクリウス・ムーロの方に向かう。
 ワンテンポ遅れて∀GE-1もそれに続く。

「さっきまでサボってた癖にいきなりやる気になってんじゃん」
「当然。僕は彼らだけでなく、マシロ君にも負ける気はない!」
「上等!」

 ∀GE-1とザクアメイジングはまるで競い合うかのように向かって行く。。
 マシロとタツヤの間にはある物は信頼感ではなく、互いに強敵としてのライバル意識だ。
 マシロに負けた事でタツヤはマシロに勝ちたいと思った。
 マシロもタツヤに勝ったが、最後は本気となった事で将来的に自分に追いつくかも知れないと言う可能性を見た。
 それ故にタツヤは連携を取るのではなく、競い合うと言う道を選んだ。
 互いに互いを意識して競い合う事で互いの能力を引き出し合う。
 これがタツヤが見つけたチームアメイジングとしてのチームの形、二人の戦い方だ。
 マシロがそれを意識している訳ではないが、負ける事を嫌うマシロなら例え、相方であるタツヤに負ける事も嫌だと言う事は想像しやすかった。
 タツヤもマシロには負けたくはないと意識を今でははっきりと感じている。

「何だ……こいつら! 動きが急に!」
「気を付けて! さっきまでとは違うわ!」

 急に動きが変わった事でブルーノとアンナも困惑している。
 動きが変わった事や互いに競い合ってプラネイトディフェンサーを突破しようとしている為、メリクリウス・ムーロでは手が足りなくなる。
 砲撃支援を行おうにも、連射が出来ない為、時間をおいての支援しか出来ない。

「俺の勝ちだ!」
「まだ、終わってない!」

 ∀GE-1がプラネイトディフェンサーを突破し、それに気を取られている間にザクアメイジングも突破する。

「ちっ!」
「先にヴァイエイトから叩く!」

 ∀GE-1は後方のヴァイエイト・ランチャの方に向かう。
 ザクアメイジングがロケットランチャーを放ち、メリクリウス・ムーロはシールドで防ぎ、∀GE-1の方にビームライフルを放つが、すぐに追いかける。

「ハニーは俺が守るんだよ!」
「と、見せかけての!」

 ∀GE-1はヴァイエイト・ランチャを狙いかのように見せかけて、急制動をかけて追って来たメリクリウス・ムーロに狙いを変えてビームサーベルを振るう。
 不意を突かれて、メリクリウス・ムーロは左腕を切り落とされるが、右手のビームライフルの下部のビームサーベルで∀GE-1に切りかかり、ビームサーベルで受け止める。

「やってくれたな!」
「貰った!」

 ザクアメイジングがメリクリウス・ムーロに対してロングライフルを放つが、∀GE-1が蹴り飛ばして距離を取る。

「あぶねぇ!」
「マシロ君なら回避すると思っていたよ」

 下手をすれば∀GE-1にも当たりそうな攻撃だが、タツヤはマシロなら回避できると思っての攻撃だった。
 そして、その攻撃の射線上にはメリクリウス・ムーロと∀GE-1だけでなく、ヴァイエイト・ランチャもいた。

「避けられない!」
「ハニー!」

 火力を重視する余りに機動力を完全に失っているヴァイエイト・ランチャはザクアメイジングの攻撃を回避する術は無い。
 それを補う為のプラネイトディフェンサーだが、気づいた時には手遅れてロングライフルの弾丸はヴァイエイト・ランチャに直撃してヴェイエイト・ランチャは撃墜された。

「よくも!」

 ザクアメイジングはロングライフルを捨てて、ヒートナタを持ってメリクリウス・ムーロに振り下ろす。
 ビームサーベルでヒートナタを受け止めるが、横から∀GE-1がビームサーベルを持って突っ込んで来る。

「そいつは俺の獲物だ!」
「悪いけど、僕も譲る気はないよ!」

 ∀GE-1とザクアメイジングが互いに競い合うようにメリクリウス・ムーロに向かう。
 片腕を失ったメリクリウス・ムーロには2機からの攻撃を捌き切る事は出来ない。

「何だってんだ!」
「僕の……」
「俺の……」
「「勝ちだ!」」

 2機の攻撃はほぼ同時にメリクリウス・ムーロを捕えて切り裂いた。
 メリクリウス・ムーロが撃墜されてバトルが終了した。





 バトルが終わり二人は歩み寄る。

「俺の勝ちだね」
「どういう理屈なんだい。僕はヴァイエイトの方も撃墜している」
「いやいや、俺は元イタリアチャンピオンを倒したから俺の勝ちだろ」
「それ自体、ほぼ同時だったから、分からないじゃないか」

 バトルが終わった二人は口論を始めた。
 その内容は子供染みた物だ。
 どっちがブルーノのガンプラを倒したかで揉め、どっちが勝ちかで揉めている。
 どっちがメリクリウス・ムーロを撃墜したかと言う事は重要ではなく、二人のチームが決勝に進出したと言う事実の方が重要ではあるが、二人は気にも留めていない。
 どっちも譲る気はなく、子供染みた言い分を主張している。
 だが、口論をしている割には二人の間に険悪な雰囲気はなく、寧ろ楽しそうにしている。

「たく……俺達の事は眼中にないってか」
「良いじゃない。ああいう青春は私は好きよ」

 そんな二人を対戦相手のブルーノとアンナは微笑ましく見ていた。
 バトルが終了し、ガンプラを回収したマシロとタツヤは口論を続けながら廊下に出る。

「分かっていた事だけど、マシロ君も本当に負けず嫌いだよね」

 廊下に出ても尚、互いの主張は続くかのように思えたが、マシロは何も返さない。
 
「マシロ君?」

 その事が気になったタツヤはふと振り返る。
 そこにはマシロが倒れていた。

「マシロ君!」

 予想外の事態にタツヤは動揺しながらもマシロに駆け寄った。




[39576] Battle09 「ファイターとして」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/24 13:33

「マシロ君!」

 準決勝を終えたマシロとタツヤだが、廊下でマシロが倒れ、タツヤは慌てて駆け寄る。
 起こしたマシロは意識はあるようだが、顔色が明らかに悪い。

「……悪い。少し寝不足」
「そんな訳ないじゃないですか」

 マシロの言い分を、シオンが一蹴する。
 バトル中の動きがおかしい事は観客席から見ていたシオンも気づいていた。
 そして、バトルが終わって問い質そうとしていたが、この現場に遭遇した。

「マシロ様ならガンプラを弄っていれば一週間くらいは不眠不休で活動できるでしょう。それがたった一日程度で寝不足で倒れる事などあり得ません」
「本当なのか?」

 マシロは明らかに視線を泳がせている。
 シオンの言う通り、マシロは基本的に運動をさせるとすぐにバテる程体力がないが、ガンプラを弄っている時はガンプラのみに集中している為、一週間程度は不眠不休でいる事も過去に何度もあった。
 故に寝不足で倒れると言う事は考え難い。
 
「体調面は私が管理しているので問題はないはずです。恐らくは肉体面……怪我と言ったところですね」
「……ワタシニホンゴワカリマセン」
「馬鹿な事を言っていないで失礼します」

 マシロの誤魔化しを無視してシオンはマシロを抱きかかえる。
 今朝の動きの違和感や普段からシオンが体調管理をしている事から、マシロは怪我をしていると睨んでいた。
 そして、通路のベンチに座り込ませるとマシロの体を調べる。

「これは……」
「やはりそうですか……何があったんですか?」

 マシロの体のいたるところに痣があり、タツヤも顔を顰める。
 特に右足は腫れて赤黒く変色している。
 
「転んだ」
「いくらマシロ様が反応速度意外に取り柄の無い運動音痴でも何もないのに転ぶと言う事はあり得ません」
「……誰かに突き落とされたんだよ」

 言い訳が通用しない為、観念してマシロは全て話した。

「一体誰が……こんな事を」
「恐らくは決勝の相手……」
「何か分かったのか?」

 マシロの話しを聞いてシオンは心当たりがあるようだった。
 その反応から、マシロも何となく検討が付いていた。

「どういう事?」
「決勝のレンヤの相方の事が気になってな。シオンに調べさせた」
「試合中に報告がありました。大会登録ネームはサエキ。こちらで調べた結果、彼はガンプラマフィアである事が分かりました」

 ガンプラマフィアとは普通にガンプラバトルを楽しむだけでは耳にする事のない名だ。
 タツヤも噂程度で聞いているが、マシロも知っていた。
 ガンプラマフィアとはガンプラ関係でバトルの妨害や闇取引などの違法行為を行う者達の総称で厄介なのはガンプラマフィアの中にはファイターやビルダーの倫理感に反していても各国の法に触れていないケースが多いと言う事だ。
 法に触れない限りは警察機関は動く事は無い為、同時の自警団的な組織が作られていると言う噂もある。

「彼の専門分野は希少価値の高いガンプラ、今回の大会の商品や、何かしらの記念で作られた非売品のガンプラを初めとしたガンプラを独占しネット上で高価でマニアに売りつけると言う物です。これ自体に違法性はありませんが、余り公になっていないだけで、強奪や窃盗、脅迫紛いの事も行っているみたいです」

 ガンプラマフィアにもいろいろな専門がある。
 希少価値の高いガンプラは高値で売れる。
 高い金を出してまで手に入れないマニアがいるからだ。
 中にはチームネメシスの会長のようにファイターを雇い正攻法で手に入れようとする場合と、金で解決するケースがある。
 サエキはガンプラを高価で売って儲けているタイプのガンプラマフィアと言う事だ。
 それ自体はシオンの言う通り、違法性はない。
 大会に景品を手に入れて売る事も目的に出場しようと大会規約に違反する事でもない。
 実力で勝ち取ってしまえば、その後をどうしようと手に入れたファイターの勝手だからだ。
 だが、サエキの場合、正面から手に入れようとするのと同時に法に触れかねない方法も取る。
 今回のマシロの件がそれに当たる。

「マシロ様は昨日の予選で無駄に目立っていましたからね。それで目を付けられたんでしょう。準決勝の前に仕掛けたのは差し向けたのが準決勝の相手かも知れないと思わせる為でしょうね」

 出場者の中でマシロが狙われた理由として考えられるのが、大会の予選での結果だ。
 マシロは一人だけ撃墜数が圧倒的に多く、その実力を目障りだと思われても不思議ではない。
 その上で準決勝の前に怪我をさせれば、運営に告発したところで次の対戦相手が疑われるだろう。
 そうなれば、対戦相手のブルーノとアンナは大会運営から失格にされかねない。
 元イタリアチャンプを濡れ衣で失格にさせる事が出来れば、次は手負いのマシロを相手にすれば良いだけの事だ。

「幾らなんでもやり過ぎだ! これは大会運営に抗議すべきだ! いや、もう警察沙汰じゃないか!」

 賞品を手に入れる為に、他のチームを負傷させてまで勝とうとする事にタツヤも怒りを隠せない。
 階段から突き落とされれば下手をすればマシロは死にかねなかった。
 これはもはや、大会の運営に抗議するだけの問題ではなく、警察に通報しても良いレベルの事だ。

「少し落ち着けよ。もう、右足だって痛くない」

 そう言ってマシロは右足を振って見せるが、当然の事ながら怪我が良くなって痛みが引いたと思う訳がない。

「大会の運営や警察に通報して報いを受けさせても意味がない。それは負けと同じだろう」
「今はそんな事を言っている場合ではないよ。運営や警察は後回しでも良い。大会は棄権してすぐに病院に行くべきだ」

 階段から落ちたと言う事は頭を打っている可能性が高い。
 シオンの触診で頭に目立った外傷はなかったが、打っている可能性がある以上は病院で精密検査を受けるべきだ。
 そうなれば、大会は棄権せざる負えないが、マシロの命に係わる事だタツヤも決勝と天秤にかけるまでもなかった。

「ふざけんな。試合に棄権するくらいなら死んだ方がマシだ。それにユウキ……お前許せんのかよ?」

 そう言うマシロの顔はいつもと明らかに様子が違った。
 いつものいい加減な感じはまるでない。

「俺は勝つ為なら何だってする。バトルや制作の練習や勉強だって強くなる為ならどこまでもやるし、必要であれば対戦相手の事を研究して策を講じる。けどな、相手を負傷させて弱らせるなんて事はしない。弱った相手に勝っても意味がないから。けど、アイツはそれをやった。許せるのかよ。ファイターとして!」
「それは……」

 タツヤは言葉に詰まる。
 確かに、サエキのやった事はファイターとして許す事が出来ない行為だ。
 ファイターは皆、考えこそは違えど勝つ為に最大限の努力をしている。
 サエキの好意はそんなファイター達の努力を無為にしている。
 それはファイターとして許す事は出来ない。
 
「なら、俺達ファイターがすべき事は決まってんだろ? バトルでケリを付ける。それ以外にあり得ない」
「無茶です。こんな体で……」
「ごめん。シオン君。僕もマシロ君に同感だ」
「ユウキ様まで何を……」

 素直に言ってしまえば、マシロを止める事が出来ない。
 だからこそ、タツヤは答えに詰まった。
 しかし、覚悟を決めた。
 最後までマシロと共にファイターとして戦うと言う事を。
 その結果としてマシロの命を危機に晒すと言う事も理解している。
 だが、当事者のマシロはそんな事は些細な事でファイターとしての意地を通そうとしている。
 相手がファイターの努力を無為にするのであれば、マシロはファイターとして意地を通す事がマシロなりの報復となる。
 ここで、大会運営や警察の手を借りてしまえば、サエキのやり方に屈したも同然で、大会に優勝したところで意味はないのだろう。

「そう言う事だ。それにシオン。分家とはいえ身内の恥をこれ以上晒す訳にもいかんだろう。この辺りで兄貴に借りを作っとくのも悪くはないしな」
「身内? どういう事だい? マシロ君」
「言ってなかったっけ? 対戦相手のクロガミ・レンヤは俺んちの分家の人間だよ」
「マシロ様は、クロガミの名を嫌い名乗ってませんでしたよ」

 シオンは先ほどまでとは違い、毒気を抜かれて呆れた。
 マシロはタツヤと初めて会った時に、ファミリーネームは嫌いだと言って名乗っていない。
 マシロはその辺りの事は大して興味はなかったのか完全に忘れていた。

「そだっけ? まあいいや。マシロ・クロガミってのが俺のフルネーム。ちなみに現在のクロガミ家の当主は俺の兄貴。最悪だろ? 黒が神ってまるで黒が凄いみたいじゃん」

 マシロはあっさりとそう言うが、タツヤは衝撃の余り言葉が出なかった。
 クロガミグループの事は以前に話した事があるが、その現在の当主がマシロの兄、即ち、世界トップクラスの企業のトップの弟がマシロと言う事になる。
 タツヤ自身、自分が普通の家の子供でないと言う事は自覚しているが、マシロの家はタツヤの家以上だ。
 とてもではないが、そんな家の人間だと言う事は信じられない。
 だが、以前にシオンにマシロの事を聞いた時に後、10年もすれば分かると言う事を考えばあながち嘘とも言い切れない。
 10年も経てばタツヤは親の会社で働いているだろう。
 次期社長としてだ。
 そうなれば、父のパイプを引き継ぐ為に繋がりのある企業の人間と会う機会も増える。
 当然、その中にクロガミグループの人間もいる。
 そこから、マシロの事を知る機会もあると言う事なのだろう。

「で、身内の恥って件は分家とはいえガンプラマフィアに利用されてるって事。どうせ、適当に数合わせのつもりなんだろうけど、完全に利用されているぜ。アイツ」
 
 クロガミ・レンヤ自身は自分が大会に出る為の数合わせのつもりでサエキと組んだのだろうが、マシロの見立てではレンヤはサエキに利用されているのだろう。
 クロガミ家の人間であればそれだけで目立つ。
 そうなれば、自分への注意が削がれて、最悪の場合はクロガミ家の力を利用できると言う算段なのだろう。

「うちはさ、色々と黒い噂があるけど、実際にはガセなんだよな。何代も前から違法行為からは足を洗ったって父さんから聞いた事がある。今の警察はどこの国もやたらと優秀だからな。だから下手な犯罪はリスクが高いんだよ。一過性の稼ぎはあっても恒久的な稼ぎは得られないから違法行為はしないってのがうちの方針。まぁ、違法じゃなければ大抵の事はしてるみたいだけど、その辺りの事は流石に俺も知らん」
 
 クロガミグループの黒い噂はタツヤも聞いた事はある。
 だが、クロガミ一族で当主に近い位置にいるマシロからすれば噂は噂でしかない。
 
「なのにさ。アイツはガンプラマフィアに利用されてさ。双方が利用するならともかく、ただ利用されるのはね。面識はなくともクロガミ一族の名を背負っている以上は、常に勝利者であれがうちの兄貴の口癖」

 マシロはレンヤの事を知っている訳ではなかった。
 クロガミ一族と言っても分家の数は非常に多く、一々末端まで知る訳もなく、一方のマシロも基本的に引き籠っている為、一族の中でも本家の兄弟以外にマシロの存在を知る者は殆どいない。
 そして、レンヤはサエキの事を利用している訳ではなく、一方的に利用されているだけだろう。
 一族の事を余り好きではないマシロだが、一族の恥となる行為を見て気分の良いものではない。

「それにアイツにもいい経験になるだろうさ。本家と分家の差って奴をさ」

 その言葉にタツヤは一瞬、寒気を覚えた。
 マシロの言う本家と分家の差。
 クロガミ一族は基本的に優秀な人材の家系だ。
 それは一族の家訓として常に強者であれと言う物がある。
 常に強者の側で居続ける事が求められている為、優秀な人材を育て続けている。
 分家の人間はあらゆる分野に精通したオールラウンダーの秀才だが、一方の本家はその真逆に一つの分野を極める事の出来る天才である事を求められていた。
 世界で活躍する「天才」と呼ばれているクロガミ一族は本家の人間で、一つの分野に限り人並外れた能力を持っている。
 マシロもまた、クロガミ一族においてガンプラと言う分野における天才である。
 故に優秀だろうと秀才どまりのレンヤに天才であるマシロの力を見せつける事は今後の彼の人生において役に立つだろう。

「まぁ、そう言うのは建前で人の領分に許可なく入って来た事に対するお仕置きなんだけどね」

 尤も、それは建前でしかなかった。
 マシロは一族の中の天才として相応しいだけの実力を持っている。
 だが、一族の中では所詮はガンプラもガンプラバトルもお遊びなのだと言う目で見られている。
 だからこそ、気に入らなかった。

「これは内輪の問題だからユウキは気にすんな。俺達の目的はサエキの野郎をバトルでぶっ倒す。それだけだ」
「分かってるよ」
「全く……どうして、いつもこう……」

 もはや止める事が出来ない事を悟り、シオンはため息をつく。
 こうなってしまえば、マシロは意地でも譲る事は無い。
 理屈ではなく単に譲りたくないとだけな為、説得は不可能に近い。

「分かりました。お気をつけて」
「ああ、後は任した」
「承知しています」

 シオンは頭を下げて別行動に入る。
 そして、午後の決勝戦に挑む。





 決勝戦の時間となり、二人はバトル開始ギリギリに会場に入る。
 すでに対戦相手は到着していた。

「遅かったじゃないか。逃げ出したと思ったよ」
「逃げる理由はないんでね」

 マシロは怪我をしている事を隠し、余裕を見せつける。
 そして、マシロとタツヤはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。
 今回は∀GE-1はビームサーベル以外の装備を持っていない。
 歩道橋から落ちた際に∀GE-1は無事でも予備パーツの殆どが駄目になっていた。
 前の試合で使ったスタングルライフルは前日に今日の準決勝で使う予定の装備でガンプラと共に特殊ケースにしまっておいて無事だったが、決勝戦で使う装備はまだ決めていなかった。
 その為、今回は最低限の装備しかない。
 その上、時間がギリギリだったのは準決勝での∀GE-1の損傷の修理に時間を使ってからだ。
 予備パーツは無い為、タツヤが持って来ていた工具等を使って急ピッチで補修作業を行い、ギリギリまで直していた。
 二人が間に合った事でレンヤは気づいていないが、レンヤの少し後ろでサエキは舌打ちをしている。
 流石に歩道橋から突き落とせば、そんなにバトルを出来る状態ではないと踏んでいたのだろう。
 
「マシロ君。勝つよ」
「当然だ」

 卑怯な手を使われた事でタツヤもいつも以上に気合が入っていた。
 一方のマシロは自分の状態を相手に悟らせないようにするだけで、精一杯だった。
 そして、バトルが開始された。

「様子見をしている余裕は僕達にはない。一気に戦局を動かす!」

 ザクアメイジングはロングライフルを構える。
 長期戦は負傷しているマシロにはキツイ。
 マシロが全力で戦える時間は余り長くはない。
 先制攻撃を仕掛けようとするが、相手の後方からビームが飛んで来て散開する。

「クロスボーンのバスターランチャーか!」
「来るぞ!」

 後方からサエキのクロスボーンガンダムX2のバスターランチャーが放たれて、回避している隙に高速飛行形態、ストライダーフォームのダークハウンドがビームバルカンとドッズガンで弾幕を張って突っ込んで来る。

「さて、どっちから仕留めようかな!」
「まずはお前からだろ」

 ∀GE-1はビームサーベルを抜いてダークハウンドに切りかかる。
 ダークハウンドはモビルスーツ形態に変形すると、リアアーマーのビームサーベルで受け止めた。

「ビームサーベルしか持たないガンプラで! クロガミ一族も舐められたものだね!」
「教えてやるよ。所詮は子は親には勝てないと言う事をな!」

 ザクアメイジングがロングライフルを放ち、ダークハウンドは距離を取るが∀GE-1は追撃してビームサーベルを振るう。
 
「ちっ……サエキ!」
「分かってますよ」

 ∀GE-1のビームサーベルをかわすダークハウンドを援護する為に、クロスボーンガンダムX2がバスターランチャーで援護射撃を行う。
 それを回避した∀GE-1にダークハウンドがドッズガンを連射し、腕部の装甲で守る。

「マシロ君!」

 ザクアメイジングがロケットランチャーを放ち、ダークハウンドは肩のバインダーからアンカーショットを手に持ちワイヤーを射出して振り回してロケットランチャーを防ぐ。
 そして、ビームサーベルを腰に戻した∀GE-1が突っ込み振り回しているアンカーショットのワイヤーを掴んで一気に引き寄せる。
 ダークハウンドは∀GE-1の方に引き寄せられて、∀GE-1は腕部の装甲からビームサーべルを突き出す。
 
「しまっ!」

 振り回していたアンカーショットを掴まれた事で驚いた事で致命的な隙が生まれ、∀GE-1の攻撃を回避する事が出来なかった。
 ∀GE-1のビームサーベルがダークハウンドを貫くかと、思った瞬間に∀GE-1は攻撃を中断して、ダークハウンドを蹴り飛ばす。
 すると、ダークハウンドにビームが直撃してダークハウンドは撃墜される。

「やってくれたな」

 マシロがダークハウンドを蹴り飛ばして盾にしなければ、ビームは∀GE-1に直撃していた。
 それに気づいたからこそ、マシロはダークハウンドを盾に使った。
 そして、攻撃を行ったのはクロスボーンガンダムX2、つまりはサエキだ。

「味方ごとマシロ君を倒すつもりだったのか……」
「前のバトルでユウキも似たような事をしてたけどな」

 攻撃はダークハウンドごと∀GE-1を倒そうとしていた。
 前のバトルでタツヤも同じような攻撃を行っていたが、タツヤはこの程度ではマシロは大丈夫だと言う信頼の元での攻撃だが、今の攻撃はダークハウンドが破壊されても構わないと言う攻撃で同じ行動でも意味合いは違ってくる。

「ちっ……役に立たない坊ちゃんだ。まぁ良い。どの道、手負いと良いとこのボンボンだ。俺一人でも十分だ」

「それが本性って訳ね」

 ∀GE-1はクロスボーンガンダムX2へと向かい、ザクアメイジングもそれに続く。
 クロスボーンガンダムX2はバスターランチャーを放つ。

「ちっ……意外とやる!」

 クロスボーンガンダムX2の砲撃は正確で∀GE-1とザクアメイジングは中々距離を詰める事が出来ない。
 ザクアメイジングがロングライフルで対応するも、クロスボーンガンダムX2は中々、隙を見せない。

「はっ! 所詮は温い環境で育って来たボンボンはこの程度かよ!」
「ユウキ。今の俺は虫の居所が悪い。少し暴れさせて貰うから、後は任せた」
「マシロ君?」

 マシロはそう言って武装スロットを操作して「SP」と表示されているスロットに合わせる。

「行くぞ……限界を超えるぞ! ∀GE!」

 それを選択すると∀GE-1は青白く光る。

「この光は……」
「ガンプラの内部に圧縮した高濃度のプラフスキー粒子を全面に解放する事でガンプラの性能を向上させる」
「それってト……」
「違う! 名付けてプラフスキーバーストモード! 断じてトランザムではない!」

 ∀GE-1の切り札の「プラフスキーバーストモード」
 マシロの言うようにプラフスキー粒子を一気に使う事で発動する機能だ。
 一気に粒子を解放した事でガンプラが粒子によって青白く発光する。
 昨日の原理自体はマシロが自分で否定したガンダムOOに出て来るトランザムシステムと解放する粒子が違うだけだが、青白く光るところからベースとなったガンダムAGE-1の最終進化形態であるガンダムAGE-FXのバーストモードからプラフスキーバーストモードを名付けた。

「こけおどしを!」
「それはどうかな?」

 クロスボーンガンダムX2がバスターランチャーを放つが、一瞬にして∀GE-1はその場から消えた。

「速い!」

 そして、クロスボーンガンダムX2との距離を一気に縮めた。
 腕部の装甲からビームサーベルを出して振るう。
 その一閃はクロスボーンガンダムX2のスタスターを一本切り落とした。

「反応できねぇ!」
「少しそれたか」

 それと同時に∀GE-1の右腕のビームサーベルが消えて装甲が吹き飛ぶ。
 プラフスキーバーストモードはまだ未完成の機能だ。
 機能自体はバトルで使う事が出来るレベルで完成しているが、使うと動かすだけでガンプラへの負担がすぐに限界を超えてしまう。
 今の一撃で腕部装甲が限界を迎えてしまった事で装甲が吹き飛んだのだ。
 その為、プラフスキーバーストモードは使うだけで、負担で自身をも傷つける未完成の機能だ。
 その上で、扱いが非常に難しく、今の一撃も勝負を決めに行くつもりだったが、少しそれてスラスターの一つを破壊するだけになった。

「ふざけやがって!」

 バスターランチャーを放つも、∀GE-1の機動力に追いつけずに当たらない。
 攻撃こそ当たらないが、負荷のせいで∀GE-1の一部が外れて行く。
 反転して左腕のビームサーベルでバスターランチャーを切り落とすが、∀GE-1の左腕の装甲も吹き飛んだ。
 クロスボーンガンダムX2は腰のビーコックスマッシャーを取って∀GE-1を攻撃する。
 だが、∀GE-1は機体を左右に振って回避しながら、再びクロスボーンガンダムX2に向かって行く。

「何なんだよ! お前は!」
「俺は……最強のファイター……マシロ・クロガミだ! 覚えとけ!」

 ∀GE-1は腰のビームサーベルを両手に持ち、ビーコックスマッシャーごとクロスボーンガンダムX2の両腕を切り落とした。
 それと同時に∀GE-1の両腕も負荷に耐え切れずに粉砕し、プラフスキーバーストモードが解除された。

「慌てさせやがって……所詮は負け犬の足掻きなんだよ!」

 プラフスキーバーストモードが切れた事をこれ幸いとクロスボーンガンダムX2は頭部のバルカンを撃ち込む。

「死にぞこないは死にぞこないらしく死なないと駄目だろ!」

 プラフスキーバーストモードの負荷のせいで装甲も限界に近かった∀GE-1はバルカンでも十分に致命傷となり得る。
 バルカンを至近距離で直撃させられて、∀GE-1の装甲は次々と破壊されていく。

「こいつはタッグバトルなんだぜ? なぁ……タツヤ」
「そう言う事。後は任せて貰うよ。マシロ」

 サエキは頭に血が昇っていた為に完全に失念していた。
 これは一体一のバトルではなく、二対二のタッグバトルだ。
 だからこそ、マシロは使えば相手以上に自分を破滅させる未完成のプラフスキーバーストモードを使った。
 それにより、∀GE-1が破壊されようとも、相方のタツヤが居れば負ける事は無いからだ。
 一方のサエキは相方を切り捨てていた。
 ∀GE-1の後方からザクアメイジングがロングライフルを構えていた。

「くそがぁぁぁぁ!」

 ザクアメイジングの攻撃を回避しようとするも、最初の一撃でスタスターの1本が破壊されていた事で上手く動けずにロングライフルの直撃を受けてクロスボーンガンダムX2は破壊された。
 それにより、バトルは終了しマシロとタツヤの優勝が確定した。

「まさか……あいつが本家で引きこもっている奴なのか」

 レンヤも噂程度で聞いた事があった。
 本家の中で社会に貢献する事なく、家に引きこもり玩具で遊んでいるだけの当主の弟がいると言う事を。
 それがマシロで玩具と言うのがガンプラだと言う事に何となく思った。
 本家の人間は皆、それぞれの分野で特異な才能を発揮しているのであれば、マシロの強さも納得が行く。
 バトルが終了し、タツヤはマシロに向かって手を上げるとマシロもそれに合わせてハイタッチを行った。
 マシロはタツヤの行動に対して無意識の内に動いていた為、ハイタッチ後に自分の手を不思議そうに見つけていた。



 大会の決勝戦も終わり、会場が湧き上がる中、閉会式と同時に優勝賞品の授与が行われようとしているが、バトルで敗北したサエキは会場から出て来ていた。
 その手には携帯が握られており、どこかに連絡をしようとしていた。

「ちっ……まぁ良い。多少強引になるが……」
「どこに行くつもりですか?」

 連絡をしようとするサエキの前にシオンが立ちはだかる。
 マシロがバトル前に頼むと言っていたのはバトル後の事だ。
 バトルが終わって勝ったところでマシロの怒りは収まらない。
 その後に報いを受けさせてようやく、報復は完了する。

「誰だてめぇ?」
「見ての通りの執事です。私も少々、苛立っていますので手加減は出来そうにありませんよ」

 シオンがそう言った瞬間にサエキの視界からシオンは消えて、消えたと認識した瞬間には視界が反転していた。
 状況が理解する間もなく、サエキはシオンに組み敷かれていた。
 
「くそ! 離しやがれ!」

 サエキがそう言うとシオンは更にサエキを締め上げる。
 見た目は華奢なシオンだが、サエキの関節を完全に決めており、サエキは身動きを取る事が出来ない。

「本職が執事と言っても、主に怪我をさせたのは不覚でした。貴方にはその憂さを晴らさせて貰います」

 事前にある程度の情報を集めて、この辺りの治安は良いと判断してのマシロの怪我だ。
 事前情報で安全と確認したが、それでもマシロを一人で出歩かせていたのはシオンの怠慢と言わざる負えなかった。
 自分の失態から怒りをサエキにぶつけるかのように、シオンはサエキが意識を保てるギリギリのラインで締め上げる。
 意識を失う事も出来ずに、サエキは苦しむがやがて遠くからサイレンの音が近づいてくる。

「貴方は殺人未遂の現行犯で逮捕されます。ご安心をクロガミ一族には優秀な刑事や検事、弁護士が付いています。貴方にはそれ相応の報いを受ける事になります。良かったですね。この国が法治国家で……でなければ貴方マシロ様に殺されていましたよ」

 シオンの言葉は比喩にも聞こえるが、実際に起こり得た事だとシオンは思っている。
 日本は法治国家である為、マシロはバトル後にはこの国の法に委ねての報復を選んだ。
 尤も、クロガミ一族の息のかかった者達によって、サエキの過去に起こした犯罪ギリギリの事も全て明るみに出して裁判官から弁護士、検事に至るまでクロガミ一族の息がかかった出来レースの裁判で犯した罪の罰として最大限の刑が言い渡される事だろう。
 それだけの力をクロガミ一族は持っており。普段は好きではない一族の力をここまで行使するのはマシロのガンプラバトルに水を差したからだ。
 シオンも同情はしないが、ここまでやる必要はないと思いつつも、たかがガンプラバトルの為にここまでやってしまうのがマシロだ。
 だからこそ、場所によっては報復としてサエキを殺すと言う事もマシロは本気でやりかねない。
 それから数分後に到着した警察にシオンはサエキを引き渡した。 






 決勝戦が終わり閉会式の準備が進められている頃、タツヤはマシロを探していた。
 バトルが終わり、マシロを早く病院に連れていかなければならない。
 それなのに、マシロの姿が見えなかった。
 シオンもバトルの時から姿が見えなかった。
 何だかんだで連絡先を聞きそびれて来た為、今までは良かったがこういう時には非常に不便だと感じていた。
 会場内を探しているとマシロがベンチで座り込んでグッタリしていた。
 それを見つけたタツヤはマシロの元に駆け寄る。
 だが、マシロに近づいて最悪の事態では無かった為、取りあえずは安心する事が出来た。
 グッタリしている訳ではなく、マシロはベンチに座り寝ていただけだった。
 怪我をしているとは思えず、自分と同い年とは思えない寝顔で寝ている。

「全く……君って奴は……」

 余りにも穏やか過ぎて死んでいるようにも見えるが、息はしている事は見ただけでも分かる。
 流石に起こすのは悪い気がして、その場で救急車を呼んだ。

「流石にマシロをこのままにしておく事も出来そうにないな……閉会式に出なくても大丈夫だと思うけど……」

 起こす事も出来ず、かと言ってマシロをここに一人おいて行く訳にもいかない。
 タツヤはマシロの横に座り込んで救急車の到着を待っていた。

「本当に終わったんだな……」

 大会が終わった事を寂しく思うが、仕方がないことだ。
 大会が終わった後でマシロにザクアメイジングで再戦を挑む気だったが、この怪我では当分はバトルはお預けだろう。
 挑めばマシロの性格上、怪我を理由にする事なく受けるだろう。
 その様子を浮かべてタツヤは吹き出しそうになる。
 マシロと出会ってまだ一週間しか経っておらず、共にチームを組んでのバトルは二日だけだ。
 この二日のバトルはタツヤを初心に帰らせる事が出来た。
 それはタツヤにとってはファイターとして一歩前進する事が出来ただろう。
 それだけでもこの出会いは意味のある物だ。
 大会が終わり、寂しさを感じつつも、この二日間の事を思い出しながら、会場では優勝者不在のまま閉会式が進んでいた。
 こうして、大会はマシロとタツヤのチームアメイジングの優勝で幕を下ろした。



[39576] Battle10 「別れの約束」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/26 23:09

 タッグバトルから1週間が経ち、タツヤはようやくマシロが入院している病院を訪れる事が出来た。
 大会後、マシロは病院に搬送されるも命に係わる程ではないと言う診断が出た為、一安心だった。
 その後は、2日も大会に出場する為に、勉強を殆どしていなかったので、2日間の遅れを取り戻さなければならなかった。
 大会の優勝賞品のガンプラはシオンに渡してマシロの元に届いているだろう。
 その甲斐もあって、タツヤはマシロのお見舞いに来れるようになった。

「ずいぶんと元気そうで安心したよ」
「大げさなんだよ。たかが足首の骨折程度でさ。足なんて所詮は飾りだろ? 一本や二本くらいなくなってバトルは出来るさ」

 命に別状こそなかったが、マシロの足首の踝の辺りが骨折していた為、今は足が吊るされている状態になっている。
 
「宇宙ならともかく、重力下では足も重要だと思うよ。人の体にタンクはつけられないんだからね」
 
 マシロからして見れば足の一本や二本は無くても腕と違ってバトルには影響が殆ど無い為、別にどうと言う事は無いらしい。
 冗談でもそんな事を言えるマシロに呆れているが。マシロは割と本気だった。

「取りあえず、これお見舞いの花なんだけど、花瓶はないね」
「その辺に置いといて。てか、花を持って来るんなら、彼岸花とか鬼灯とかさ、後は蘭や菊とかでも可」
「生憎とシオン君からマシロにエサを与えないようにと厳しく言われているからね」

 タツヤは苦笑いをしながら、持って来たお見舞いの花を適当な場所に置いた。
 タツヤも当初は気を利かせてガンプラをマシロへのお見舞いにとでも考えたが、シオンが先回りをして、入院中のマシロにガンプラを与えないようにと言われた。
 ガンプラを与えてしまえば、それの制作に熱中する事は目に見えている。
 怪我で入院しているのに、まともに休まずにガンプラを作っていれば余り意味はない。
 タツヤとしても、一日でも早くマシロに退院して欲しいと言う事もあり、常識的な範囲でお見舞いを選んで来た。

「つか、お見舞いでサラッと恥ずかしげもなく持って来る辺り、タツヤさ学校とかでモテルだろ?」
「どうだろうね?」

 タツヤは余り自覚は無いが、マシロの言う通り学校で女子にモテている事は事実だ。
 元々の容姿はもちろんの事、その物腰柔らかい言動や家が金持ちと言う事も含まれている。

「あれか、リア充って奴か。ケッ! 俺だって年から年中ガンプラを弄っているからリア充だね!」
「今日はいつにも増してトゲトゲしいね。なんかあった?」
「あったね。シオンにガンプラを取り上げられた。俺は半日以上、ガンプラを手放した事がないってのに!」

 いつの誰に対してでも攻撃的な物言いの多いマシロだが、今日は無意味に攻撃的になっている。
 その理由がシオンがガンプラを取り上げた事にある。
 マシロは常日頃からガンプラを弄りガンプラバトルを行って来た。
 それはクロガミ一族の本家の人間としてガンプラバトルに特化した天才的な才能を持っている為、一族はマシロにガンプラバトルの実力のみを求めて来た。
 それ故に幼少期からガンプラを作り続け、ガンプラバトルを繰り返す毎日で学校に通う事もなく、必要な知識は家庭教師を付けてガンプラの合間に勉強していた。
 何年もガンプラをやり続けるマシロの生活はガンプラに対する愛を凌駕して狂気の域に達しているが、マシロ本人としてはガンプラだけやっていれば良い今の生活は非常に充実した生活だった。
 それが一週間とはいえ絶たれている。
 マシロもそろそろ我慢の限界を迎えつつある。

「それより、あれってスケッチブックだよね。マシロは絵でもやるの?」
「良くぞ聞いてくれた!」

 病室の机にはスケッチブックが置かれている。
 病室にあると言う事はマシロの物と言う事だ。
 マシロはスケッチブックを手に取ると開いてタツヤに見せる。

「これは……モビルスーツ? AGE-1に似ているけど、少し違うな……」

 スケッチブックにはモビルスーツが描かれている。
 記憶の中からそれに類似するモビルスーツを思い出すが、ガンダムAGE-1に多少は似ているが、胴体部以外はかなり異なっている。

「こいつは俺が現在考えている∀GE-1の改修プランだ」

 タツヤが分からなかったのも当然の事だった。
 マシロは既存のモビルスーツの絵を描いたのではなく、決勝戦で大破したガンダム∀GE-1の改修プランを描いていたからだ。
 病室でガンプラを触れない一週間だったが、少しでも気を紛らわせようと考えた結果の行動だった。

「∀GE-1がバトルでここまで破壊される事は珍しいからな。これはもう、新型フラグか強化改修フラグだろ? 新型にするにはまだデータが足りないからここは強化改修をする事にしたんだよ」
「へぇ……見たところ、色々と考えているみたいだね」

 タツヤはスケッチブックを見て呟く。
 スケッチブックにはマシロが考えたプランがいくつも描かれている。
 その数は一つや二つと言う訳ではない。

「まぁね。色々と考えたけど、AGE系のガンダムが持つウェアシステムの延長上と言う設定の元、近接戦闘型と砲戦型の二種類で行こうと思う」
「マシロは砲撃は苦手だったよね」

 マシロのバトルスタイルは機動力を活かした近接戦闘だ。
 人間離れした反応速度を活かした戦いを得意とする為、攻撃時のタイムラグの多い大火力の武器や大型の武器の扱いは苦手としている。

「苦手だからと言ってやらないで置く訳にもいかないしな」

 マシロも自分の得意分野と苦手な分野は理解している。
 理解しているからこそ、得意な分野で戦えるガンプラを制作したが、これからは苦手な分野も克服して行かなければならないとも考えている。
 その為の得意な近接戦闘型と苦手な砲戦型の二種類の強化プランを用意する事にした。

「でだ、今のプランだと……」

 マシロはタツヤに現在の改修プランを説明する。
 今までの鬱憤を晴らすかのように嬉々として説明するマシロにタツヤは時折、質問や意見などをして話しを聞く。
 そうこうしている間に日が傾いていた。

「そろそろ、面会の時間も終わるし予定以上に長居をしてしまったから、僕はそろそろ帰るよ」
「なぁ……タツヤ。お前、来年の世界大会に出るか?」

 面会時間の終わりが近づいた事でタツヤは帰ろうとするが、今までとは違う真剣な表情でマシロは問いかけた。
 その表情に気がついたタツヤは慎重に言葉を選ぶ。

「分からない。僕自身は出たい気持ちはある。だけど、父が何ていうか分からない」

 タツヤは偽る事なく答えた。
 来年はタツヤは高校2年に上がる。
 世界大会は毎年夏に行われている。
 高校2年の夏となれば大学受験を始める大切な時期だ。
 タツヤは親の後を継ぐ為に大学に進学しなければならない。
 地区予選は週末などに行われるが、世界大会ともなると会場である静岡に最低でも10日程度は滞在しなければならない。
 そうなると、その間は受験勉強をしている余裕はないだろう。
 更には決勝トーナメントで勝ち進めば約半月は滞在しなければならなくなる。
 流石にそれだけの期間をガンプラバトルに使うとなれば、タツヤの父親が黙ってはいないだろう。

「俺も次の世界大会は出場してサクッと優勝する。お前も出ろよ」

 そう言って真っ直ぐタツヤを見るマシロに何も言い返す事が出来ない。
 タツヤ自身、世界大会に出場したい気持ちがあるが、父に反対されると簡単にどうこう出来る問題ではない。

「才能は誰しもが持っている訳じゃない。だから才能を持って生まれて来たからにはその才能を活かす義務がある。そうでない者は万死に値する。死んだ父さんの口癖。タツヤは初めてのバトルの時、一瞬でも俺を本気にさせた。世界に俺を本気にさせるファイターは数える程しかいない。タツヤはガンプラバトルの才能がある」
「僕は……」

 マシロの言葉に答える事が出来ずにタツヤは言いよどむ。

「タツヤはガンプラの為に全てを捨てる事が出来るか? 兄妹とか故郷とか全て」

 質問が変わり考える。
 恐らくはマシロは自分がどんな答えを返すかを見たいのだろう。
 だからこそ、この答えはいい加減に答える訳にはいかなかった。

「僕には出来ないと思う。僕はガンプラが好きだ。でも、その為に家族や友人、生活を捨てると言う事は出来ないと思う。本当に捨ててしまったら、僕はきっと一生後悔すると思う。そうなれば、心の底からガンプラを楽しむ事が出来なくなるから。だから、僕は両方を取ると思うよ。それでもどちらかを選ぶのであれば捨てずに置いて来るさ。後からいつでも拾えるようにね。どちらかを捨てられないと言うのは甘いかも知れない。覚悟が足りないかも知れない。それでもそれが僕だから」

 それがマシロの望む答えかは分からない。
 だが、それが嘘偽りのないタツヤの答えだった。
 タツヤにはどちらかを選んでどちらかを捨てると言う事は出来ない。
 出来ないからこそ、両方を選ぶ。

「そっか……お前はその方がお前らしいよ」

 マシロは俯いてそう言う。
 俯いた事で、何か不味い答えだったかと一瞬、思いかけるもそうではないらしい。

「お前は大切なもんは捨てんなよ……捨てちまった俺の代わりに」
「マシロ?」
「何でもないよ」

 俯いていた事やマシロの声が少し小さかった事もあって、最後の方は聞き取れなかったが、マシロは顔を上げると先ほどまでの真剣な表情から普段のマシロに戻っていた。

「何が言いたかったかと言うとだな。お前の親父が出るなって言っても気にせずに出ろって事だ。もっと強くなって世界大会で俺が相手をしてやる。どうせなら、決勝戦が良いな。その方が面白い。けど、あんまりモタモタしてっと俺は世界王者になってるぜ」
「その時は、僕がマシロから王者の座を奪う事にするよ」
「ふぅん」

 マシロへの勝利宣言でマシロの目つきが鋭くなるが、口元は笑っている。
 タツヤもマシロに対して精一杯の強がりを見せる。
 
「それじゃまた来るよ」
 
 ある意味、マシロに対して宣戦布告を行ったタツヤは病室を出る。
 それと入れ違いにシオンが病室に入る。

「今日は遅かったな」
「空気を読みましたので」

 シオンがタツヤと入れ違いになったのは偶然ではなかった。
 タツヤが見舞いに来ていた為、シオンは気を利かせていた。
 だから、タイミング良く入れ違いとなっていた。

「それで、そろそろ見つかったのか?」
「ええ。見つかりました」

 シオンはここ数日の間にマシロの兄の一人の居場所を探していた。
 マシロの兄弟の一人にクロガミ一族本家の主治医がいる。
 その兄は世界的名医である為、その兄にマシロの怪我を治療させようとしていた。

「そっか。そんな今日の内に向かう」
「すでに手続きを済ませておきました」

 兄が見つかった時点でマシロがそう言う事はシオンも分かっていた為、タツヤが見舞いに来ている間にマシロの退院手続きを済ませていた。
 病院側はマシロの怪我の具合もある為、渋っていたが金を掴ませて黙らせている。

「その前にユウキ様に一言挨拶しては如何です?」
「何で?」

 マシロは心底意外そうにしている。
 タツヤとの付き合いは差ほど長くはないが、大会に出るにあたり最も深く関わった相手でもある。
 そんなタツヤに日本を発つ前に一言挨拶を入れると言うのは当然の事だ。

「別に一生の別れって事でもないんだ。別に挨拶の必要はないだろ」
「マシロ様がそれで構わないのでしたら」

 シオンもマシロがその必要はないと思っている以上は何も言う事は出来ない。
 その日の内に荷造りを終えて、次の日にはマシロは日本から姿を消していた。



















 マシロとタツヤの出会いと別れから半年後、マシロは再び日本の地を踏んでいた。
 季節は廻り冬となり、半年前は季節感の無かった白いマフラーも今の時季には合っている。
 この半年で足の怪我を完治させたマシロは世界大会の出場権を得る為に日本第一ブロックの地区予選が行われる静岡県を訪れる事となった。

「ここが聖地静岡か……さて、まずはホビーセンター見学だな」

 マシロは白い息を吐きながら、空港から事前に用意させた車に乗り込む。
 静岡の地にて、マシロの新たな戦いが始まる。



[39576] キャラ&ガンプラ設定
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/29 10:11
マシロ・クロガミ

主人公

クロガミ一族の本家でガンプラバトルにおいては天才的な実力を誇る。

高い反応速度を誇り、相手のガンプラが動いた瞬間に反応し、即座に相手の動きを読み、それに対抗する事が出来る。

その反応速度を活かした高速白兵戦を得意とし、逆に攻撃までの時間の遅い大振りや大火力の武器の扱いを苦手としている。
 
常に強気な発言をし、自分が最強だと疑っていない。
 
その上で家に引きこもりひたすらガンプラバトルに打ち込んでいた事もあり、対人関係においては誤解されやすく、本人も誤解を解く気もされている事に対しても気にする様子はない、。

また、白が好きなで自身のガンプラを白く染め上げて、逆に黒を嫌っている。

使用ガンプラはガンダム∀GE-1


シオン

マシロの執事兼、護衛。

華奢な体をしているが、護衛も兼ねている為、身体能力は非常に高く、格闘技に精通している。
 
常に丁寧な口調ではあるが、マシロに対しては辛辣な言葉を吐く事も少なくない。






ガンダム∀GE-1


マシロが制作したガンプラ。

ガンダムAGE-1 ノーマルをベースに機動力を重視した改造がされている。

至るところに小型のスラスターを増設した事で機動力の向上だけでなく、空中での方向転換などに使われる。

装備は腰と腕部の装甲に内蔵されているビームサーベルが4基と脚部の装甲内にゼロ距離用のグレネードランチャーが内蔵されているだけだが、バトルに応じて手持ちの火器やバックパックにブースターを増設するなどする事がある。

また、内部に高濃度に圧縮されたプラフスキー粒子を全面に解放する事で性能を格段に向上させるプラフスキーバーストモードが使えるが、ガンプラへの負担が多き過ぎる為、動かすだけで自壊して行く未完成のシステムである。





[39576] 幕間1
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/29 10:11
 マシロ・クロガミの人生にはいくつかの分岐点が存在した。 
 それらを経てマシロは今のマシロ・クロガミとなった。
 その最初の分岐点はマシロが10歳にも満たない幼少期に遡る。
 当時はまだ、プラフスキー粒子もなく、ガンプラも動かない時代でマシロはただのマシロであった。
 マシロは孤児院で生活していた。
 マシロには両親がいない。
 死んだのか捨てられたのか、本人も良く分かっていない。
 マシロと言う名も孤児院の院長が付けた名だった。
 家族と呼べる者は妹しかおらず、その妹ですら院長がそう言っているだけで、マシロ本人と血が繋がっているかすらも分からない。
 その日のマシロは町を歩いていた。
 ふと町を歩いているとおもちゃ屋の前で立ち止まる。
 おもちゃ屋のウインドウにはいくつかの商品が展示してある。
 マシロはその中の一つが気になった。

「ロボット?」
「それはガンプラだよ」

 マシロがポツリとつぶやくと後ろから男が訂正する。
 男は20代後半くらいで、この辺りでは見かけない東洋人だった。
 見かけない相手に対してマシロは警戒心を露わにしている。

「それは……キュベレイだね。君くらいの年の子供ならガンダムタイプの方が好きそうだけど。珍しいね」
「キュ……何?」
「キュベレイ。一年戦争時にジオン軍のララァ・スンが搭乗したモビルアーマー『エルメス』の後継機としてジオン残党軍『アクシズ』が設計、開発したニュータイプ専用モビルスーツだ。特徴的な両肩のバインダーを利用する事で高機動を実現するだけでなく、サイコミュを搭載し、エルメスが装備していた遠隔誘導端末『ビット』を小型化した『ファンネル』を始めて搭載している。作中ではマークⅡや量産型と何種類か作られているけど、やはり、一番有名なのはそこにも飾られているハマーン・カーンが登場したタイプだね」

 突然、語り出した男にマシロは軽く引いている。

「君のガンプラをやるのかい?」
「興味ないね。アニメなんて子供が見るもんだろ」
「そんな事は無いさ。ガンダムは子供から大人まで楽しめて日本では社会現象を巻き起こした程だからね」
「あっそ」

 マシロは全く興味を示す事は無かった。
 孤児院ではアニメなどの娯楽は殆どない事もあって、マシロはアニメに興味がない。

「少し待っていてくれないか」

 男はそう言って、店内に入ると数分後には中で買い物をして来たのかおもちゃ屋の袋を持っていた。

「君にこれを送ろう」
「俺はおっさんに恵んで貰う理由はないから」

 マシロはムッとしてそう言う。
 そこで男は自分の行動が早まった事に気が付く。
 マシロは子供とはいえプライドがあった。
 孤児院で生活している為、生活は決して豊かとはいえない。
 おもちゃもゲームも殆ど与えられる事は無かったが、マシロにとってはこの生活が当たり前である為、それを同情される事を嫌っていた。
 男の方はマシロの身の上など知る訳も無い為、この行為は決して同情ではない事もあってマシロからすれば理由もなく何かを与えられる事は嫌だったと解釈した。

「悪かったよ。それと僕はまだ20代だからおっさんは止めて欲しいな」
「知るかよ。20とかおっさんじゃん」

 男は謝罪しながらもおっさん呼ばわりされた事を苦笑いしていた。
 まだ、20代かも知れないが、マシロにとっては十分におっさんと呼べる歳だった。

「僕はこの町に来て日が浅いからね。この町には知り合いも友人もいないんだ。だから、一緒にガンプラを作って僕と友達になろう」
「は?」

 マシロは驚いて言葉を失っていた。
 マシロと男の間には歳が離れ過ぎている。
 それこそ、親子と言われても違和感がない程にだ。

「一緒にガンプラを作れば、歳も性別も国籍、文化も関係なく友達になれる。僕はそんなガンプラを世界に広める為にいろんな国を回ってるんだ」

 男はそう言って袋からガンプラを取り出す。
 袋の中から出て来たガンプラはマシロが気を留めたキュベレイであった。

「君はこのガンプラが気になった。一緒にガンプラを作れば何か見えて来るかも知れないしね。作り方はそんなに難しくないから、僕がきちんと教える。どうだろうか?」
「俺は……」

 マシロは葛藤していた。
 相手はどこの誰かも分からない。
 そんな相手の誘いを受けるなど、幼いマシロでも不味いと言う事は分かっている。
 それでも、断る事にも抵抗していた。
 少しの間考えて、マシロは差し出されたガンプラに手を伸ばす。

「今回だけだからな」
「構わないよ。ガンプラは誰かに強制されてやる物じゃないからね」

 一度でも手に取って、やる気になっただけでも男にとっては十分だった。
 後は実際に作って見てからだ。

「僕はイオリ・タケシ。君は?」
「マシロ。ただのマシロ」

 それが、マシロにとってガンプラとの出会いで、この出会いがマシロの人生に大きな影響を与える事をこの時のマシロは思ってもみなかった。



[39576] Battle11 「新たなステージ」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/01 00:17
 マシロが静岡に入り、3月も下旬を迎え春の足音が聞こえて来ている。
 静岡に入ったマシロは静岡内の最上級ホテルをクロガミグループの名義で買い取った。
 その最上階のフロアをマシロのプライベートルームとして改造を施す為だ。
 最上フロアの一室を自室として使っている。
 元々、高級ホテルであった為、家具は一流の物を使用されているが、以前の状況と今の有様を見れば本当に同じ部屋なのか信じる事が出来ないだろう。
 ガンプラを制作する為の作業台を初めとしていろいろと持ち込んでいる。
 更にはガンプラやガンダムのDVDや漫画、小説、資料集などが壁一面の棚に収納されている。
 それだけではなく、ガンプラ作りやガンプラバトルに役立つかも知れないと言う理由で買い集めたアニメのDVDや小説、漫画なども揃えられている。
 部屋の中央にはバトルシステムが設置されており、いつでも制作したガンプラのテストが行う事が出来るようになっていた。
 今もバトルシステムが起動して、改修したガンダム∀GE-1のテストが行われていた。
 改修されたガンダム∀GE-1は胸部に二基のビームバルカンの付いた装甲が増設されて全体的に強化されていた。
 現在の装備はマシロの得意としている近接戦闘を重視したガンダム∀GE-1 セブンスソードだ。
 右腕にダブルオーライザーのGNソードⅢをベースに制作したショートドッズライフルとCソードが一体化しているメインウェポンが装備されている。
 腰には右にはショートソード、左にはビームサーベルが、両肩には高出力ビームダガーとしても使えるビームブーメラン、左腕には先端にビームサーベルが取りつけられている小型シールドと近接戦闘用の装備が充実している。
 改修前と同様に白で塗装され、近接戦闘能力だけでなく、元々の機動力も強化されている。

「さてと……テストを始めるか」

 そんな近接戦闘重視の∀GE-1 セブンスソードの対戦相手は5機のガンプラだ。
 ガンダムWに登場する近接戦闘を重視しながらもバランスの取れたアルトロンガンダムにガンダムOOに登場するGNファングによるオールレンジ攻撃とGNバスターソード、つま先のGNビームサーベルによるトリッキーな近接戦闘を得意とするアルケーガンダム、同作品に登場しGNフィールドによる防御力と両手に5本のビーム刃からなるGNビームクローを持つガラッゾ、ガンダムAGE-1の初代主人公機にて、マシロの∀GE-1のベースでもあるガンダムAGE-1の換装形態で装甲を犠牲に機動力を重視した隠密力を活かした戦いを得意とするガンダムAGE-1 スパロー、Gガンダムに登場し、重装甲と圧倒的なパワーを持つボルトガンダムの5機だ。
 それも方向性は違えど、近接戦闘を得意としている。
 これは∀GE-1 セブンスソードの力を見る為に敢えてそうしている。
 そして、バトルが開始される。
 バトルが開始されると、アルトロンガンダム、アルケーガンダムがビームによる先制攻撃が始まる。
 それを機体を左右に振って回避する。

「反応は上々」

 攻撃を回避して、右腕のショートドッズライフルで反撃するが、ガラッゾがGNフィールドで守り、アルケーガンダムがGNファングを射出する。
 GNファングに対して∀GE-1 セブンスソードは後退させつつも、胸部のビームバルカンで応戦する。
 ある程度の数を減らしたところで背後にはAGE-1 スパローが忍びよっていた。
 AGE-1 スパローは膝のニードルガンを撃ちながらシグルブレイドを振るい、∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して受け止める。

「流石は俺が作ったガンプラ達、良い動きをしてくれるね!」

 ∀GE-1 セブンスソードはAGE-1 スパローを弾き飛ばして、ショートドッズライフルを向けるが、ボルトガンダムがグラビトン・ハンマー投げて来た為、攻撃を中止して回避する。

「グラビトンは不味いだろ」

 ガラッゾが腕部のビームバルカンを連射しながら突っ込んで来て、その攻撃を回避するとアルケーガンダムのGNバスターソードと斬撃とアルトロンガンダムのツインビームトライデントの突きが襲い掛かる。
 アルケーガンダムの攻撃をかわして、アルトロンガンダムの突きに対してビームバルカンで迎撃する。
 ビームバルカンの直撃を受けるが、威力は低い為、致命傷を与える事が出来ないが、動きを遅める事は出来た。
 それにより、Cソードを展開し、カウンターでアルトロンガンダムを両断した。
 すぐにCソードからショートドッズライフルに切り替えて放つ。
 ガラッゾがGNフィールドを展開するが、ビームを撃ちながらガラッゾに突っ込んで行く。

「GNフィールドに実体剣は鬼門なんだよね」

 ガラッゾに接近してすぐに、Cソードを展開するとGNフィールドごとガラッゾを切り裂く。
 残っていたGNファングの攻撃を回避しながら、GNファングをショートドッズライフルで撃墜して行く。
 その間にアルケーガンダムは∀GE-1 セブンスソードに接近してGNバスターソードを振り落す。
 ∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止めて、アルケーガンダムはつま先のGNビームサーベルで蹴り上げるが、それよりも前に距離を取って肩のビームブーメランを投げてアルケーガンダムを破壊する。

「後は……2機か」

 ボルトガンダムがグラビトン・ハンマーを投げるがCソードでハンマーを両断すると、ビームバルカンを連射しながら一気に接近してボルトガンダムを破壊する。
 ボルトガンダムが破壊された爆風に紛れてAGE-1 スパローがシグルブレイドを振るうが、それよりも速く∀GE-1 セブンスソードはAGE-1の背後を取りCソードを突き刺した。
 5機のガンプラが破壊されてバトルは終了した。

「調子は良いようね」
「幾ら弟の部屋でもノックくらいしたらどうなん?」
「したわ」

 そう言って、クロガミ・レイコはノックのジェスチャーをする。
 レイコはマシロの1つ年上の姉に当たる。
 白い髪のマシロとは正反対の黒い髪の典型的な日本人だ。
 眼鏡をかけて知的な印象を与えている。
 部屋に入る際にレイコはノックをしたが、バトル中のマシロは聞こえてはいなかった。
 マシロの事だからと、レイコも分かっていた為、反応が無くても部屋に入って来た。

「まぁいい。それで何か用?」
「ここの所、部屋に籠っていたからそろそろ納得の行く出来になっているかと思ったのよ」

 マシロはここ数日の間、改修プランを煮詰めていた。
 レイコの予想ではそろそろ、出来上がると予測して様子を見に来ていたらテストの最中であった。

「こいつは気に入ったよ。このセブンスソードはエクシアやダブルオーから発想を取って……」
「生憎とマシロのガンダム談義に付き合う程、暇じゃないのよ」

 マシロがセブンスソードの解説を初めようとしたところをレイコは止めた。
 レイコにとってはマシロのガンプラがどのように出来たと言う事には全く興味がなかった。
 重要なのはマシロの納得の行く出来のガンプラかどうかだ。
 マシロの表情からは十分に納得が行っている事が分かればそれでいい。

「シオンなら聞いてくれたのによ」
「あの子はアンタの相手をするのも仕事の内じゃない」

 マシロは聞く気を持たないレイコに不満気な様子だ。
 いつもなら、シオンがマシロの話しを聞いているが、シオンは現在、別の仕事でマシロの元を離れている。
 
「つまんねぇの。後は対人バトルで感触を確かめるから出て来る」
「構わないけど、余り情報を出したくはないから、素顔や本名は出さないように。後はいつもの1.5倍程、偉そうに上から目線でね。ついでにバトルでは痛ぶるくらい余裕を見せなさい」
「面倒臭いな」
「こっちはマシロのやり方に合わせているんだからそのくらいは聞きなさい」

 マシロは余り乗り気ではなかったが、渋々了承した。
 夏の時から常につけていた白いマフラーで口元を隠し、白いニット帽を深々と被り、大き目のサングラスを付ければ顔は殆ど見えない。
 そこに白いコートと白い皮手袋を付ければどっから見ても立派な不審者が出来上がる。

「これで良いだろ?」
「完璧よ。もしも、警察に捕まってもこっちで何とかするから」

 レイコの冗談を聞き流してマシロはバトルの相手を探しに向かう。
 マシロを見送ると、レイコはベットに倒れ込んでため息をついた。

「全く……あの子は苦手だってのに……兄さんの奴」

 レイコは誰もいない部屋で愚痴を零す。
 レイコの専門分野は情報だ。
 世界中のあらゆる情報を収集、統括してクロガミグループに役立てている。
 今はレイコが直接動かなければならない程の重要案件が無い為、本業の方は部下に任せている。
 そして、クロガミグループの現総帥にて、マシロやレイコの兄に当たるクロガミ・ユキトの命令にてマシロのサポートをさせられている。
 ユキトの命令は一族において絶対である為、マシロもレイコも拒否は出来ない。
 レイコはマシロを苦手としていた。
 情報を扱うレイコとしては損得や合理的な判断で動く為、マシロのように損得よりも自分がやりたい事をすると言う感情でしか動かないと対極に位置しているからだ。
 その上で、マシロの補佐と言う事はマシロに合わせないといけない。

「私が補佐に付かなくなって今年の世界大会程度、マシロ一人で優勝出来るじゃない」

 レイコの役割はマシロの補佐として、マシロが出場する今年のガンプラバトルの世界大会で優勝させる事だ。
 すでに今年世界大会に出場する可能性のあるファイターのデータは全て揃えて、各ファイターごとに傾向と対策はいくつも用意してある。
 過去のデータから世界大会までに爆発的に成長したと仮定したデータも用意するなど、データの準備に余念はない。
 後は、そこから状況に合わせてマシロが戦うだけだ。
 現在のマシロの実力から考えれば、今年の世界大会においてマシロが手こずる相手はいないと言うのがレイコの見立てだ。
 それなのに、大会までマシロに付き合わないといけないのはレイコにとっては無駄でしかなかった。
 現状でマシロの優勝が確定していると言っても、不足の事態がいつ起こるか分からないと言う理由で最後まで付き合わされている。

「父さんにしろ、兄さんにしろ。あのオタクを特別扱いしてさ……」

 レイコにとっての最大の不満はマシロの扱いにあった。
 マシロはガンプラバトルにおいては天才的な才能を持っていると言う事は世界大会の出場する可能性のある選手の情報を集めた時に認めざる負えない。
 だが、所詮は玩具を動かして遊ぶ遊びでしかない。
 それだけでの才能しか持たないマシロの事と先代当主でマシロやレイコの才能を見出した父や、現在の当主であるユキトは高く評価しいる。
 特に世界的な大グループの総帥でプライベートの時間が取れなかった先代の父は、兄弟の中でマシロの事を最も可愛がっていた事は兄弟の中では周知の事実だ。
 
「やってられないわよ」

 一人で一頻りに愚痴を零したレイコは自分の本来の仕事を片付ける為に、ホテルの自分用の部屋に帰って行く。










 ガンプラ専門店「ホワイトファング」
 一か月程前に静岡に出来た世界最大級のガンプラ専門店だ。
 クロガミグループ系列の店で五階から連なっている。
 一階と二階にはガンプラや工具の販売が行われている。
 ガンプラはもちろんの事、ジャンクパーツやビルダーが制作したパーツの売買が行われており、非売品で一般的に流通していないものを除けば大抵のガンプラが手に入るとまで言われている。
 三階はガンプラの制作スペースでエアブラシなど、購入するのは金銭的な面で敷居の高い工具を無料で貸出をしている上に、土日祝日にはガンプラの制作講習が行われる事もある。
 四階にはバトルシステムが100台近くが完備されており、複数のバトルシステムを一つに纏めての大型のバトルシステムまで設置されている。
 五階には店側に申請を出せばチームの個人スペース用の個室となっている。
 一つのフロアが大型のショッピングモール並みの広さである為、店自体、一般的な模型店と言うよりもショッピングセンターに近い

「皆、凄いなぁ」

 三階のバトルスペースの片隅で、タチバナ・アオイは他のファイターのバトルを見てそう呟いだ。
 少し小柄で丸渕の眼鏡をかけていかにも気が弱そうと言う印象の少年だ。
 来年から高校2年に上がるアオイだが、余りクラスでは馴染めていなかった。
 そこそこの進学校である為、ガンプラの聖地とまで言われている静岡でもガンプラやガンダムは流行ってはいない。
 その上、元々気が小さいアオイにはガンプラバトルを見知らぬ相手に挑む事は出来なかった。
 ホワイトファングが地元に出来た時は舞い上がり毎日のように通い詰めているが未だに一度もバトルをした事は無い。
 ガンプラバトルをしたいと思っても、相手を見つける為に声を掛ける事が出来ず、いつもこうして眺めているだけだ。

「お前……うちのクラスの奴だよな」

 突然、声を掛けられてアオイは思わず、びくりとした。
 恐る恐る振り向くとそこにはアオイも良く知っている相手がいた。

「……シシドウさん?」
「何で疑問形なんだよ?」
「済みません」

 シシドウと呼ばれた少女に軽く睨まれて、アオイは縮こまる。
 シシドウ・エリカ。
 それが彼女の名前だ。
 アオイとは同じクラスだが、接点はない。
 イギリス人とのハーフらしく腰までかかった金髪と蒼い目、とても高校一年生とは思えない発育の良さ、海外で独自のルートを持つ流通企業の社長令嬢と言う事もあって入学当初から目立っている。
 その上で、多少は突っ張っているところがあるが、気さくで面倒見に良い事からクラスでは非常に人気がある。
 
「いや、謝られてもな……」
「済みません」
「たく……えっと……」
「タチバナ・アオイです」

 アオイがクラスメイトだと言う事は見覚えがあったが、名前まではうるおぼえで中々出て来なかった為、アオイは名乗っておいた。

「そう、タチバナだった。で、タチバナもガンプラバトルをやんの?」
「えっと……やってみたいとは思ってますけど……」
「ふーん。じゃぁやってみるか?」
「ふぇ!」

 エリカの言葉にアオイは驚く。
 エリカがここにいる事自体、驚く事だが、自分がガンプラバトルに誘われる事は無いと思っていた為に驚きも倍増だ。

「でも……僕、バトルした事がないから……」
「あっ……でも、アタシのガンプラはさっき、壊れたんだった」

 誘ってみたは良いものの、エリカのガンプラはついさっきバトルで壊れてすぐには使えなかった。
 アオイの言葉を聞く事もなく、エリカは少し考え込む。
 そして、何かを思いつくとアオイの手を掴んで歩き出す。
 異性と接する機会のなかったアオイは顔を真っ赤にするが、エリカは気にする様子もなく、アオイを引っ張って行く。

「センパイ! リベンジに来ました!」

 バトルシステムの一つに到着するとエリカは叫ぶ。
 アオイはイマイチ状況が理解出来てはいない。

「シシドウさん? ガンプラの修理が終わったにしては速いけど」
「アタシじゃないですよ。コイツ、アタシのクラスメイトで、アタシの代わりにこいつがリベンジします」
「へ? ちょっ……」

 アオイも何となく自体が理解出来て来た。
 要するに目の前の相手とバトルすると言う事だ。
 そして、その相手の事はアオイも知っていた。

「僕なんかが、アンドウ先輩に勝てる訳が……」

 アオイやエリカの通う高校の先輩のアンドウ・コウスケ。
 この辺りでは有名なファイターだ。
 その実力は地区予選で何回か上位に入る程だ。
 そんな相手を行き成り相手をしても勝てるとは思えなかった。

「んなもん。やって見ないとわかんねぇだろ? お前もファイターなら自分のガンプラを信じろよ」
「僕のガンプラを信じる」
「そうだ。僕なんかが何て言うなよ。自分で作ったんだろ? なら勝てると信じろ」
「……分かりました。勝てるか分かりませんがやって見ます」

 アオイも震えながらも覚悟を決めた。

「話しは纏まったようだね」
「済みません」
「構わないよ」

 コウスケは余り気にした様子はない。
 その様子にアオイも安堵する。
 だが、すぐに気を引き締めた。
 声を掛ける勇気はなかったが、いつでもバトルが出来るようにガンプラは持ち歩いていた。
 バトルシステムにGPベースをセットする。

「ユニコーンガンダム」
「ビギニングガンダムB」

 コウスケのガンプラはガンダムUCの主人公機のユニコーンガンダム。
 それに対するアオイのガンプラはビギニングガンダムB。
 ガンダムにおける、唯一、ガンダムが現実同様にアニメとして放送されていると言う設定の元、ガンプラバトルのようにガンプラを戦わせる「模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG」その外伝に当たる「模型戦士ガンプラビルダーズD」の主人公機、ビギニングDガンダムをベースにしたガンプラだ。
 大きな改造はされていないが、一部を青で塗装している。
 装備も右手にハイパービームライフルと左腕にシールド、バックパックにビームサーベルと大きな変化はない。

「タチバナ・アオイ……行きます」

 バトルシステムが起動し、アオイの初めてのバトルが開始する。
 バトルフィールドは山脈地帯だ。

「まずは様子見だ」

 ユニコーンは先制攻撃でビームマグナムを放つ。

「うぁぁぁ!」

 ユニコーンのビームマグナムは作中ではモビルスーツに掠るだけで撃墜出来る程の威力を持つ。
 それを知るアオイはとっさに大きく回避する。
 だが、そのまま山に落ちてしまう。

「やっちまったな」
「っ……まだ、行けます!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを迫るユニコーンに向けて放つ。
 それとユニコーンはシールドで防いだ。

「良いセンスをしている!」

 ユニコーンガンダムはビームマグナムをバックパックにマウントすると、腕のビームサーベルを抜くと頭部のバルカンを連射して接近する。

「接近戦用の武器は!」

 アオイは武器スロットをビームサーベルに合わせようとするが、その際に直接スロットの方を見てしまう。
 それを横で見ていたエリカは頭を抱える。
 これは初心者にありがちな行動だった。
 ある程度、慣れて来るとファイターは武器スロットを見ずに武器を変える。
 スロットの方に視線を向けると必然的に相手のガンプラから目を逸らす事になる。
 それはバトルにおいて致命的な隙となる事がある。

「遅い!」

 ユニコーンはシールドを掲げてビギニングガンダムBに体当たりを行い、ビギニングガンダムBは尻餅をついて倒れる。
 そして、ユニコーンはビームサーベルをビギニングガンダムBに突きつける。

「射撃のセンスは悪くないと思うよ。後は努力を重ねればきっと伸びるよ」
「……はい」

 明らかに実力差があると言う事をアオイは痛感させられた。
 勝負はアオイはバトルを棄権した事でコウスケの勝利となった。

「まぁ、気にすんな」
「はい……」

 バトルが終わり、アオイは明らかに落ち込んでいた。
 エリカも半ば無理やりバトルをさせてた事に少し罪悪感を持っている。

「何だ、センパイも言ってただろ? 努力すれば伸びるって。アタシもさっきセンパイのユニコーンに負けてさ。これで10回くらい負けてんの。あの人はこの辺りじゃずば抜け強いからな」
「それは知ってますけど。シシドウさんはそんなに負けてるんですか?」

 エリカはアオイを元気づけると言う意味も兼ねて話す。
 すでにエリカも10回も負けている。
 さっきもコウスケに負けたところだった。

「だからさ、頑張ろうぜ。今度は負けないようにな」
「……そうですね」

 アオイも少しは元気を取り戻した。
 三階から二階へと二人は降りていく。
 流石にここまで完璧に負けた為、すぐにバトルをする気も起きない。
 階段で下の階に降りる途中で、アオイは立ち止まり振り向いた。

「どうかしたか?」
「いえ……何でもありません」

 アオイはすぐにエリカに追いつく。
 大した理由があって立ち止まった訳ではなかった。
 ただ、階段ですれ違った相手がもうすぐ春になるのに、白いコートに白いニット帽、白いマフラーに白い皮手袋と白一色で真冬の如くの完全装備だった事が少し気になっただけだ。
 初めてのガンプラバトルで負けたアオイはバトルには負けたが、初めてガンプラバトルを行えた事を嬉しく思い岐路に付いた。
 



[39576] Battle12 「白い悪魔」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/03 22:35
 アオイとのバトルが終わったコウスケはガンプラのチェックをしていた。
 バトル自体はすぐに終わった為、ガンプラは何ともない。

「アンタ、強いんだって」

 ガンプラをチェックしていたコウスケは顔を上げて声の方を向いた。
 そこには明らかな不審者であるマシロが立っていた。

「君は……?」
「俺の事はどうだって良い。それよりも強いんだろ?」
「それは僕とバトルしたいって事でいいのかな?」

 コウスケはマシロの事を少し怪しむが、マシロの言葉をそう捉えていた。
 マシロはGPベースとガンプラを取り出した。
 それが質問の答えだと確信したコウスケもガンプラをバトルシステムにおいてGPベースをセットする。
 そして、マシロとコウスケのバトルが開始された。

「さて……お手並み拝見と行こうか」

 バトルフィールドは小惑星帯。
 フィールドのところどころに小惑星があり、非常に障害物の多いステージだ。
 コウスケは小惑星の影に気を付けながら、進んでいるとマシロの先制攻撃のビームが横切る。
 当てるではなく、牽制と威嚇目的のビームに対してコウスケは動じる事は無かった。
 そして、ビームの飛んで来た方にビームマグナムを向けた。

「あそこか……速い!」

 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードは小惑星帯をかなりの速度でコウスケのユニコーンに接近していた。
 速度を維持しつつも、最小限の動きで小惑星を回避していた。
 ∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを放つ。
 ユニコーンはシールドで防ぎつつも、ビームマグナムで反撃する。
 だが、∀GE-1 セブンスソードは攻撃を回避する。

「よくもまぁ……このバトルフィールドでそこまでの速度を出せる物だね」
「この程度の障害物は気にする必要はないだろ」
「言ってくれるね」

 ユニコーンはビームマグナムを5発撃ったところで弾切れを起こす。
 ビームマグナムはその威力を引き換えに1度にエネルギーパックを1つ消費すると言う設定があり、装填されているエネルギーパックは5つで5発しか撃つ事が出来ない。
 残弾が尽きるとすぐに、リアアーマーについている予備のエネルギーパックをビームマグナムに装填するが、その隙に∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して、ユニコーンに切りかかった。
 それと、ユニコーンはビームサーベルを抜いて受け止めた。

「自信満々なだけはあるね」
「アンタは聞いてた程じゃないよな」

 ユニコーンはバルカンを放ち、∀GE-1 セブンスソードは距離を取り、小惑星を盾にして攻撃を防ぎ、小惑星の影から飛び出してCソードを振るう。
 それをかわして、ユニコーンはバルカンで牽制する。

「なら、僕も本気で行かせて貰うよ!」

 コウスケがそう言うと、ユニコーンの装甲がスライドして行く。
 装甲内のフレームが赤く発光し、バックパックのスラスターノズルが2基から4基へと増え、ビームサーベルが出て来る。
 最後に頭部のゴーグル状のメインカメラがツインアイへとなり、マスクが収納されて一本角が中央から割れてV字となった。

「変身しやがった。HGにそんな物を仕込んでたとはな」

 これには流石のマシロも関心した。
 ユニコーンはガンダムとついていながら、その外見にガンダムを連想させる物はない。
 だが、作中において特定の条件を満たす事でその姿を変える。
 それにより、通常形態がユニコーンモードと呼称されるのに対してガンダムとなった状態をデストロイモードと呼称されている。
 その速度が一瞬である為、作中ではデストロイモードへの移行を「変身」とまで言われている。
 ガンプラにおいてはユニコーンモードからデストロイモードへの変形はMGでは再現されているが、HGではユニコーンモードとデストロイモードの2種類のユニコーンガンダムとして発売されている為、変身する事は出来ない。
 しかし、コウスケは本来は再現されていないHGのユニコーンにデストロイモードへの変形機構を再現していた。

「けど、だから何だって話しなんだけどな」

 マシロは感心したが、動揺する事もなく、ショートドッズライフルを放つ。
 デストロイモードとなったユニコーンは先ほどよりも速く動いて回避する。

「さぁ……どう出る!」

 上がった機動力で小惑星帯を移動したユニコーンはビームトンファーで∀GE-1 セブンスソードの背後から切りつける。
 完全に捉えたとコウスケは思ったが、ビームトンファーは空を切り、∀GE-1 セブンスソードはユニコーンの背後を取っていた。

「なっ! 一体何を!」
「何って、普通に回り込んだだけだぞ」

 ユニコーンの攻撃の直前に瞬時にスラスターの出力を最大で使って動いた事で、その動きについて行けなかったコウスケには∀GE-1 セブンスソードが消えたように錯覚した。
 その間に∀GE-1 セブンスソードはユニコーンの背後に回り、Cソードを振り上げていた。

「させない!」
「無駄だよ」

 ユニコーンは振り向きながら、ビームトンファーで防ごうとする。
 だが、勢いよく振り落されたCソードはビームトンファーごと右腕を切り落とす。

「馬鹿な……」
「何が? その程度を切り捨てられないで何の為の剣だよ」

 Cソードは普通に振るっても十分な切れ味を持つが、本来の切れ味はその上を行っていた。
 勢いをつけて振るう事で更に切れ味を増して、ビームすら切り裂く事が出来る。
 ∀GE-1 セブンスソードはユニコーンを蹴り飛ばして、ビームバルカンを放つ。
 ユニコーンはシールドを掲げて、バルカンで応戦しようとするが、ショートソードを投げつけられて頭部に突き刺さる。
 
「くっ!」

 バックパックのビームサーベルを抜こうとするが、ビームサーベルを投擲されたビームサーベルによって潰された。
 そして、∀GE-1 セブンスソードは小惑星の陰に隠れながら、ユニコーンに迫る。

「どこから……」

 コウスケは小惑星の影から飛び出して来る∀GE-1 セブンスソードを警戒するが、∀GE-1 セブンスソードはシールドに内蔵されているビームサーベルで小惑星を両断して、突っ込んで来た。
 Cソードを突き出して、ユニコーンのシールドを貫いた。
 そのまま、ユニコーンの左腕が破壊される。
 そこからは一方的なバトルだった。
 ∀GE-1 セブンスソードのCソードでユニコーンはズタズタに切り裂かれてやがて、戦闘不能と見なされてバトルが終了した。

「こんな事が……」
「まぁ、こんなもんだよな」

 バトルが終わり、マシロはガンプラを回収した。
 切り札を出しても一方的なバトルで敗北したコウスケは茫然をするもすぐに持ち直す。

「凄いね。それ程までの実力に達するまでに余程の努力をしたんだろうね」
「努力ね……別にしてないけど」
「え?」

 バトルには負けたが、笑みを浮かべて握手の手を差し伸べようとしていたが、マシロの言葉でコウスケは止まる。

「俺さ、ガンプラバトルで努力とか頑張った事ってさ一度もないんだよね」

 コウスケの頭の中にマシロの言葉は殆ど届いてはいなかった。
 これだけの実力を持ちながら、マシロは努力をしていないと言う。
 それは、コウスケのこれまでの方針を全否定していると言っても過言ではない。
 尤も、マシロが操作技術や制作技術の向上に費やした時間はコウスケの比ではない。
 今のマシロはガンプラバトルに勝つ為に生きていると言っても良い程だからだ。
 だが、マシロにとってはそれは努力でもなんでもない。
 マシロはただ、好きな事を好きなだけやって極めようとしているだけに過ぎない。
 だからこそ、マシロの中でもガンプラバトルにおいて努力はしていないと言う認識を持っていた。
 しかし、コウスケからすれば、単なる才能だけでこれ程までの実力に到達したとしか聞こえない。

「つか、それ程って言うけどさ、俺、アンタ程度のファイターに全力を出す訳ないじゃん」

 マシロは更に追い打ちをかける。
 このバトルの目的はあくまでも改修した∀GE-1を対人バトルでの感触を確かめる為だ。
 その為、マシロは実力を殆ど発揮してはいなかった。
 その上で出かけにレイコに言われた通りに痛ぶっての勝利だ。
 マシロからすればその気になれば、すぐに決める事の出来たバトルを意図的に引き延ばした事になる。

「まっ、ガンプラバトルで努力している時点でお前は俺には勝てないし。知ってるか? 結果の出せない努力は無駄な努力って言うんだぜ? 俺はそんな努力はしたくはないけどね」

 マシロは最後に止めを刺す。
 結局のところ、マシロからすれば努力は結果を出す為の手段であってでそれが出せなかった以上は無駄でしかない。
 マシロもガンプラバトルにおいては天才的な才能を持っているが、その反面、それ以外の事は殆ど出来ない。
 故にマシロはガンプラバトル以外の事に関しては生きる上で最低限の事が出来れば後はやるだけ無駄な為、出来なくても構わないと思っていた。

「君は一体何もなんだ……」
「名乗る程じゃないさ。だが、強いて言うなら白い悪魔……ヴァイス・デビルとでの名乗って置く」

 本名を名乗る事を禁じられていたマシロはそう名乗る。
 今でこそ殆ど無名なマシロだが、いずれはガンプラバトルの表舞台に出て行く予定だ。
 そうなれば二つ名うあ通り名が必要となって来る。
 その名を聞けば誰もがマシロを思い浮かべる名だ。
 いずれは、必要になって来るのであれば、誰かに勝手につけられるよりは自分で名乗ってそれを定着させた方が良かった。
 完全に打ちのめされたコウスケの事を気にも留める事なく、マシロはホテルへと帰って行く。

 





 



 アオイの初めてのバトルから数日が経ち、アオイは毎日のようにエリカと共にホワイトファングでバトルの練習をさせられていた。
 提案はエリカからの物で、始めは渋っていたが、半ば強引に押し切られた。
 それでも、何度もバトルしているうちに操作も慣れて来ている。

「だいぶマシになったけど、接近されると弱いんだな」
「はい……接近されると動揺してしまって……」

 何回もバトルをしていれば、アオイの操作の癖も見えて来る。
 距離を取っての射撃においては、十分に使えるレベルの物になっている。
 だが、接近されると途端に動きが悪くなって負けると言うのがアオイの負けパターンだ。

「いつもは頭の中で想像しているだけでしたから、射撃の方は何とかなるんですけど、接近戦はイメージ通りにいかなくて……」

 今まで、アオイは声を掛ける勇気を持てずにバトルをした事は無かった。
 しかし、バトルをやりたいと言う気持ちを持っていた為、バトルはもっぱら想像の中で行っていた。
 その為、射撃に関しては落ち着いてイメージ通りに行えたが、接近戦はイメージ通りには行っていなかった。

「その辺は慣れていくにしても、射撃中心でバトルを組み立てた方が良いか」
「ですね。僕もそっちの方が向いている気がします」

 近接戦闘になれば、反応速度ととっさの判断力が必要となって来る。
 そのどちらもアオイは欠けている。
 ならば、射撃主体のバトルと言う方向性は間違っていない。

「さて休憩は終わりにしよう。次の対戦相手を見繕って来る」

 エリカはそう言って、アオイの返事を聞く事なく、人ごみに紛れていく。
 アオイは今更、断る訳にもいかず、自分が強くなっていると言う実感も出て来ている為、エリカの帰りを待っていた。
 数分後、エリカは戻って来た。
 
「待たせた」
「いえ……」
「たく……タチバナ?」

 エリカの連れて来た相手はアオイも知っていた。
 キサラギ・タクト。
 アオイとエリカのクラスメイトでもある。
 エリカ同様にクラスでは目立つ存在で成績は余り良くないが、運動に関してはいくつもの部活から勧誘されていると耳にした事がある。
 
「キサラギ君もガンプラバトルをやってたんだね」
「まぁな。で、なんで俺、シシドウに拉致られんだ?」
「キサラギ君……僕とバトルしてください」

 タクトは何も説明を受けなかったらしく状況が呑み込めていなかった。
 アオイは意を決してタクトにバトルを申し込む。

「良いぜ」

 決死の覚悟にも近い覚悟で申し込んだが、あっさりとバトルをする事に決まった。
 すぐに空いているバトルシステムを見つけるとバトルの準備に入る。

「タチバナ、キサラギの奴は結構やるから注意な。けど、アンドウセンパイ程じゃねぇ。コイツに勝てないとセンパイに勝つなんて夢のまた夢だぞ」
「うっせぇよ。あの人はこの辺りでも別格だし」

 明らかに踏み出しにする気満々のエリカに対して文句を言いつつも、タクトはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置いた。
 タクトが使用するガンプラはZガンダムに登場する可変モビルスーツのギャプランだ。
 モビルアーマーに変形する事が可能で空戦能力を持つ。

「ギャプラン、キサラギ・タクト。出るぜ!」
「ビギニングガンダムB、タチバナ・アオイ。行きます!」

 そして、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドはコロニー内だ。
 バトルが開始され、ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 ギャプランはすでにモビルアーマー形態に変形して回避すると、バインダーに内蔵されているビームライフルで反撃する。
 ビギニングガンダムBはシールドでビームを受け止めると、着地して身を隠す。

「相手は機動力の高いギャプラン。油断しているとすぐに距離を詰められる」

 ビルの陰に身を隠して上空を飛行しているギャプランに狙いを定めてハイパービームライフルを放つ。
 だが、直前のところで気づかれて回避されると、ギャプランは旋回してビームライフルを放つ。

「そこか!」

 ビギニングガンダムBはビルの陰から飛び出て回避して、ギャプランとの距離を取ろうとするが、姿を現した事でギャプランの追撃を受ける。

「悪いが、こっちの方が機動力は上なんでね!」

 ビギニングガンダムBとギャプランとの間に機動力の差は歴然ですぐに距離を詰められてしまう。
 モビルスーツ形態に変形したギャプランはビームサーベルを抜いて切りかかる。
 ビギニングガンダムBはシールドで防いでハイパービームライフルで反撃する。

「おっと!」
「当たらない!」

 ハイパービームライフルを連射するも、ギャプランはムーバブルシールドを使って回避、接近してビームサーベルを振り落す。
 ビギニングガンダムBはシールドで受け止めて、ビームバルカンでギャプランを牽制する。
 その隙に再びビルの物陰に隠れる。

「ハァ……ハァ……どうする……このままじゃ勝てない」

 何とかやられずに済んでいるが、いつまでも逃げ続ける事は出来ない。
 ギャプランはすでにモビルアーマー形態となり、上空を旋回しながらこちらの動きを窺っている。
 
「考えろ……考えるんだ。僕」

 アオイは必死に打開策を考える。
 ここで負けるようではコウスケに勝つ事は出来ない。
 逆にこの局面を乗り越える事が出来るのであれば、勝つ可能性は見えて来る。
 アオイは自身を落ち着かせる。
 そして、自分に出来る事を考えた。
 相手は近接戦闘を仕掛けて来る事は予想出来る。
 近接戦闘に持ち込まれたら、アオイに勝機は無い。
 そうなれば、接近される前に叩くしかない。

「チャンスは一度……」

 今は隠れている為、最初の一撃が最も反応が遅れる。
 そこを突くしかない。
 アオイはギャプランの動きに集中する。
 タイミングを外せば終わりだ。
 だが、時間をかけ過ぎても相手が痺れを切らすかも知れない。

「今だ!」
「そこか!」

 ビルの陰から飛び出してビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 タクトも反応したが、反応が少し遅れてしまう。
 ビームはギャプランを掠めるが、ムーバブルバインダーの片方を破壊する事に成功した。

「やべ!」

 バランスが崩れたところで、ギャプランはモビルスーツ形態に変形するが、その隙にすかさずハイパービームライフルを撃ち込む。
 ビームの直撃を受けたギャプランは撃墜されてバトルが終了する。

「勝った……」

 勝敗が決まったが、アオイは少し茫然としていた。
 最後の方は無我夢中だったが、自分の思い描いていたようにバトルをする事が出来ていた。

「マジかよ」
「今のは良かったぞ。やれば出来るじゃん」

 タクトとエリカの言葉も余り頭に入って来ないが、少ししてようやく勝ったと言う実感が湧い来る。

「いえ、偶然ですよ」
「謙遜すんなって」
「偶然だろうと勝ったんだから少しは胸を張れよな」

 勝ったものの最後は上手く想像通りのバトルが出来たに過ぎない。
 だが、実力が伴わなければ想像通りにバトルを行う事が出来ない事も事実だ。
 エリカとタクトにそう言われて、アオイは照れていた。
 そんな様子を一人の少年が遠目で見ていた。

「最後の射撃……悪くなかったな。青いビギニング使いか……俺のビギニングとどっちが強いんだろうな」

 そう言う少年の手には一部を赤く塗装したビギニングガンダムが握られていた。
 



[39576] Battle13 「ビギニングVSビギニング」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/07 00:13
 その日のマシロは珍しくガンプラを弄る時間が数時間だった。
 その分、マシロはホテルに持ち込んだレイコのPCの前で何やらやっていた。

「今日はこんなところか」
「人の部屋で何してんのよ」
「気にすんなよ」

 マシロがそう言って背筋を伸ばす。
 レイコのPCはレイコの部屋にあり、マシロは本人の許可を取る事なくレイコのPCを使っていた。
 使っていたPCは重要な情報が入っていない為、レイコとしてはマシロに勝手に使われる分にはさほど問題がある訳ではない。

「あんたねぇ……で、何やってたの?」
「何って自演だよ。自演」

 マシロはそう言ってPCのモニターをレイコに見せる。
 そこにはいくつもの掲示板サイトが表示されている。
 どれもガンプラバトルに関する掲示板だ。
 すべてに共通しているのが静岡にて白い悪魔、ヴァイス・デビルと呼ばれるファイターについての目撃談や被害報告が書かれていると言う事だ。

「ここ数日である程度の種は撒いたけど、あんまり広がってないからさ。俺が自分で適当にでっち上げて書いといたんだよ」

 マシロはここ数日、夜な夜な出かけてはファイターにバトルを挑んでいた。
 その時の状況を匂わせる事である程度の信憑性を出した上で適当な事も書いて自ら白い悪魔の事をネット上で宣伝していたと言う訳だ。

「今までは自分に関する情報を余り出さないようにしていた癖に今度は自演? 何を考えてんの」
「次の世界大会に俺も出るだろ? その為の布石。全くの無名のファイターよりも実在するのか分からない都市伝説的なファイターとして大々的にデビューした方がインパクトがあるからな」

 半年前にユウキ・タツヤと共に出場したタッグバトル大会で優勝したが、ある程度の知名度があったタツヤの方は優勝者として注目を受けたが、全くの無名だったマシロはフルネームで登録していなかった事もあり、タツヤのおまけ程度の認識しかされていない為、未だに無名のファイターと言っても良い。
 次の第6回の世界大会に出場するにあたり、白い悪魔の噂を流し、その本人として大々的にデビューする事がこの自演の目的だった。

「今の時代、ガンプラバトルは最高のエンターテイメントだからな。俺が勝つのは当然の事として、普通に勝つだけじゃ。どうせマシロが勝つんだろ。とか、はいはい、マシロの勝ち勝ちと俺のバトルを見る観客が先が読めて白けるだろ? これから先、ガンプラバトルを牽引して行く身としては自分一人が楽しいだけのバトルでは無く、観客も楽しめるバトルじゃないとクロガミの名が廃ると思うんだよ」

 マシロの言う通り、今やガンプラバトルは世界大会が毎年開かれるくらいに規模が膨れ上がっている。
 その市場は数十億をも超えているとレイコも聞いている。
 クロガミグループもまたガンプラバトルに必要不可欠なバトルシステムの製造の一部に関わり、世界大会のスポンサーの一つでもある。
 そのガンプラバトルを盛り上げるのはクロガミ家の本家、それもガンプラバトルの天才とされているマシロにとっては義務の一つだ。

「さしあたっては謎の最強ファイター、ヴァイス・デビルと言う虚像を作り上げて地区大会の一回戦で地区の優勝候補を秒殺、その後も圧勝で世界大会を制する位をやってのければマシロ・クロガミと言う史上最強のファイターとして歴史に名を刻むだろう。その後は、世界中の名だたるファイターを圧勝する圧倒的な王者として君臨する。そして、観客は期待するだろう。バトルの度に俺が見せる圧倒的なバトルを!」
「あっそ。まぁ、私はアンタが勝ち続けてくれれば何も言う事は無いわ」

 自分の将来設計を熱く語るマシロとは対照的にレイコはどうでも良いと冷めていた。
 レイコにとってはマシロが世界大会を優勝出来るかどうかの方が重要で勝ちさえすればマシロが何を思おうが関係なかった。

「そんな事よりもこれ」

 レイコはそう言って一枚のビラをマシロに見せる。
 マシロは受け取ったビラに目を通す。

「へぇ……ホワイトファングでバトル大会ね……商品はオリジナルウェポン。ありきたりだけど……このオリジナルウェポンって何さ?」

 見せられたビラはガンプラ専門店「ホワイトファング」でガンプラバトルの大会が行われると言う事を宣伝するビラだった。
 日時以外に優勝者にはホワイトファングオリジナルの武器が贈与されると書いてある。

「それをマシロが作るの」
「何で?」
「この大会の告知は店内のみでネット上での情報漏えいは私の方である程度は情報統制をかけるわ。そうすれば、大会にはこの辺りの地区のファイターが大半になるわ」
「成程ね。オリジナルウェポンはファイターを集めるエサって訳か」

 大会はレイコの指示で開かれる。
 ホワイトファング自体、マシロが静岡入りしてから作られたものだ。
 その目的はファイターをホワイトファングに集めて日本第一地区のファイターの情報を収集する事にあった。
 品揃えや設備やサービスの良さからこの辺りのファイターはこぞってホワイトファングに集まって来た。
 そこでガンプラバトルを行う事で、その情報はレイコの元に集まようになっている。
 その情報をマシロの地区予選に活かす事になる。
 だが、情報は時間が経つと鮮度が落ちていく。
 それを防ぐ為に定期的に情報を更新しなければならない。
 その為に大会を開く事で最新の情報を集めようと言う魂胆だった。
 オリジナルウェポンは参加者を集める為のエサと言う訳だ。

「けど、なんで俺が人にやる武器を作らんといけないんだよ。面倒臭いし、まだ、フルアサルトジャケットの関節強度の問題が残ってる」

 レイコの意図はマシロも理解した。
 しかし、マシロは余り乗り気ではない。
 ∀GE-1の改修プランの一つである近接戦闘型のセブンスソードの出来はマシロの満足の行く物だったが、もう一つの砲撃型の「フルアサルトジャケット」はまだ完成していない。
 武装を始め、概ね完成はしているのだが、装備の重量から来る関節強度の問題は以前よりも深刻となっていた。
 そんな問題が残されている以上、マシロは大会の賞品を制作する気にはなれなかった。

「別に性能は二の次で構わないの。寧ろ、見た目を重視して実戦では使えないレベルの方が望ましいわ」

 レイコがオリジナルウェポンに求めるのは性能ではない。
 下手に高性能の武器を作り、賞品として優勝者に渡してしまえば地区大会で当たる時に脅威となり得るからだ。
 あくまでも地区のファイターの情報を収集する事が目的である為、多少はともかく不必要に他のファイターに利益になる事は避けたかった。

「取りあえず、見栄えが良ければそれでいいから、適当に商品を用意しておいて。こっちもアンタのやり方に合わせてるんだからこの程度は譲歩しなさいよね」

 レイコは目的を果たす為なら、非合法な事も厭わない。
 無論、直接的にクロガミグループを使っての関与はしないが、必要であれば例え人の命を奪う事も辞さない。
 一方のマシロは逆で非合法やバトルのルールやモラルに反する行為を一切行わない。
 それは、正義感や倫理感から来る物ではなく、単に美学の問題であって、その辺りもまた、レイコとは反りが合わない。
 今回はマシロの補佐と言う事でマシロの意に反する事はレイコは行えない。
 隠れて行おうにもこの手の事でマシロの嗅覚は異常で、情報戦の天才と言われるレイコですら隠し通せるとは言い切れなかった。
 仮にマシロのやり方に反する事をやり、マシロの気づかれた場合のマシロの行動は非常に危険だ。
 レイコに対して怒り、へそを曲げて拗ねる程度の事なら、まだマシだ。
 最悪、レイコの行為に対してと、自分の美学を汚された抗議として、自分の命を絶つ事も十分に考えられる。
 マシロの生死はどうでも良いが、それにより現在のクロガミ一族の当主である兄、ユキトの自分に対する評価が落ちる事がレイコにとっては最も恐れている事だ。
 兄弟としての価値が無くなればユキトは平気で兄弟を切り捨てる。
 だからこそ、今回はマシロに会わせなければならなかった。

「仕方が無いな。三日で終わらせる」

 マシロも一応はその辺りの事を理解している為、渋々オリジナルウェポンの制作に取り掛かる。








 アオイはタクトとのバトル以降、エリカだけでなく、タクトともつるむ事が多くなっていた。
 タクトはタクトでアオイへのリベンジに燃えている。
 
「くっそ……また負けた!」
「偶然だよ」
「いやいや、キサラギの奴、運動神経は良いから強そうに見えるけど、結構普通だからな。ガンプラバトルは」
「うっせ!」

 あれから何度バトルをしてもギリギリのところでアオイが勝っていた。
 そして、バトルを重ねる度にアオイは目に見えて腕を上げている事が分かる。
 エリカの言う通りタクトは運動神経は良いが、ガンプラバトルの実力は並でしかなかった。

「今日こそは俺が勝つ筈だったのによ」
「アタシの指導が良いからな」
「いや、お前の指導は抽象過ぎてわかんねぇよ」

 エリカはバトルには参加せずにアオイのセコンドに付く事が多い。
 理由として、現在はガンプラを改良中である事とアオイの指導だ。
 だが、実際のところ、指導と言っても感覚的な物言いでアオイに伝わっているかは分かった物ではない。

「あ? アタシの指導のどこが分かんないってんだよ」
「全部だ!」
「二人ともやめようよ。周りにも迷惑だからさ……」

 アオイが控えめに二人を止めると二人は少し冷静になり、自分達が騒ぐ事で回りに迷惑が掛かっていると自覚して、矛を収めた。

「アオイが強くなったのは俺とのバトルのお陰だね」
「は? だから、アタシの指導だろ。なっアオイ」
「えっと……」

 エリカとタクトに迫られてアオイは視線を泳がす。
 どちらを選ぶ事も出来ず、両方を選んだところでどちらも納得しないだろう。
 
「ねぇ。あの人だかりは何だろう?」

 答えようがない為、アオイは露骨に話題を変える。
 だが、アオイの言うように人だかりは出来ている。

「誰かがバトルしてるみたいだけど、行って見るか?」
「そうだね。行こう」

 アオイは話しが戻らないように、率先して人だかりの方に向かう。
 エリカとタクトも決着がつか無かった為に不服そうだったが、人だかりの理由も気になり、アオイの後に続いた。
 何度か、人だかりをかき分けて最前列に到着すると、人だかりはバトルシステムを囲むように出来ていた。

「アイツ……この辺りじゃ見ない顔だな」

 バトルをしていたファイターの片方はアオイもタクトも見た事のないファイターだった。
 歳は自分達と同じくらいで赤いアンダーリムの眼鏡が特徴的で鋭い目つきが冷酷さすら感じられる。

「この町のファイターのレベルもこんな物か」
 
 少年はため息をつく。
 そして、周囲を見渡して次の対戦相手を探す。
 すると、アオイと目があった。

「お前は……次、バトルする気の相手をしろ」
「……僕ですか?」
「そうだ」

 突然の指名にアオイは戸惑うが、エリカとタクトがアオイの背中を押す。

「取りあえず、ぶっ飛ばして来い」
「気が合うな。俺もああいうタイプは気に入らない。アオイ。お前の力を見せてやれ」
「シシドウさん、キサラギ君……」

 勝てる自信はないが、不思議と二人に後押しされると力が湧いて来た。

「分かりました。前のバトルで少しダメージがありますから、直す時間を下さい」
「構わない」

 相手の許可を得たところでアオイは先程のタクトとのバトルでの損傷を応急的に直す。
 少年はその間、文句を言う事無く待っていた。
 そして、ガンプラを直したアオイはバトルシステムの前に立つ。

「あの……タチバナ・アオイです」
「カガミ・レッカ」

 アオイの名乗りに少年、カガミ・レッカは律儀だが完結に名乗る。
 二人はGPベースをバトルシステムにセットすると、自分のガンプラを置いた。

「赤いビギニング……」

 レッカのガンプラはアオイのガンプラと同じビギニングガンダムだった。
 アオイのビギニングガンダムBと違うのはベースがビギニングDガンダムではなく、ガンプラビルダーズDと同じくガンプラビルダーズの外伝であるガンプラビルダーズJの主人公機のビギニングJガンダムをベースにしている。
 ベース機から大幅な改造はされていない為、近接戦闘に特化している。

「ビギニングガンダムR、カガミ・レッカ。出る」
「ビギニングガンダムB、タチバナ・アオイ。行きます!」

 2機のビギニングガンダムが出撃をしてバトルを開始される。
 今回のバトルフィールドは宇宙。
 特に障害物の無いタイプのバトルフィールドとなっている。

「見つけた! 当たれ!」

 先制攻撃をしかけたのはアオイのビギニングガンダムBだ。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。

「射撃の腕は前よりも向上しているか……」

 レッカはそう言いながらも、ビギニングガンダムRを動かしてビームを回避する。
 ビギニングガンダムRはシールドもライフルも装備していない為、ビギニングガンダムBからの攻撃を回避するしかない。
 前にレッカは一度だけアオイのバトルを見ていた。
 タクトと初めてのバトルの時だ。
 あの時も勝負の決め手となった射撃の時のアオイの集中力は目を見張るものがあった。
 あの時程ではないが、アオイの射撃能力は格段に向上していた。
 それでも、レッカのビギニングガンダムRはビームを回避して確実に距離を詰めていた。

「速い!」

 アオイは距離を詰められないように、後退しつつハイパービームライフルを撃つが機動力はビギニングガンダムRの方が高く時間を稼ぐ程度の意味しかなかった。

「こちらからも行くぞ」

 ビギニングガンダムRは背部のバーニングソードRを両手に持つと一気に加速する。
 バーニングソードRを振るい、ビギニングガンダムBは回避してビームバルカンで牽制する。

「その程度攻撃など!」

 ビギニングガンダムRは両手のバーニングソードRを連結させた状態で回転させてビームを防いだ。
 そして、その状態のままビギニングガンダムBに切りかかる。
 ビギニングガンダムBはシールドで守ろうとするが、シールドは両断される。

「シールドか!」
「その程度か!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで応戦する。

「やるな」
 
 ビギニングガンダムRは牽制の為にビームバルカンを放つ。
 そのビームが構えていたハイパービームライフルに直撃して破壊される。

「そんな!」

 ビギニングガンダムRは一気に近接戦闘を仕掛る為に加速して接近する。
 ハイパービームライフルを失った事でビギニングガンダムBの装備はビームバルカンとビームサーベルだけしかない。
 ビームバルカンは決定打にならない為、ビギニングガンダムBはビームサーベルを抜いた。

「接近戦ならこっちが有利だな!」
「だからって!」

 ビギニングガンダムRは繋げていたバーニングソードRを分割させて両手に持つ。
 ビームサーベルで切りかかって来たビギニングガンダムBのビームサーベルを片方のバーニングソードRでいなすともう片方のバーニングソードRがビギニングガンダムBの胴体を切り裂いた。
 
「射撃の腕は良いが、近接戦闘はなってないな」

 ある程度の距離が保てた間はアオイも善戦していたが、近接戦闘になった途端にレッカの勝利となった。
 ギャラリー達も善戦している間はもしかして……と言っていたが、あっさりと勝負かつくと掌を返していく。
 
「今日のところは失礼する」
 
 レッカはガンプラを回収すると人ごみの中に紛れて行った。
 一方のアオイは立ち竦みうな垂れている。
 
「気にすんなよ。アオイ」
「そいだぜ。横で見てただけでもアイツは相当な実力者だよ。俺だって勝てたかどうか」

 エリカとタクトはアオイを慰めるが、アオイの耳には届いていない。
 ここまでの大敗は初めてのガンプラバトルでコウスケとバトルをして以来だった。
 ここのところはタクトとのバトルで連勝をしていた為、負けたのは久しぶりのような感覚すらあった。
 コウスケとのバトルの時は初めとと言う事もあって、最後は初心者ならではの凡ミスが原因だった。
 しかし、レッカとのバトルは違った。
 最初はある程度戦えていた。
 だが、ライフルを失い近接戦闘になった途端にあっさりと負けた。
 それは明らかにレッカとの実力差を見せつけられた事になる。

「シシドウさん、キサラギ君……悔しいよ」
「だな……」

 振り絞るような声でそう言うアオイの心中を二人も察していた。
 コウスケの時とは違い、完全に実力で敗北をして悔しくない訳が無い。

「センパイの前に借りを返さないといけない相手が出来たな」
「特訓なら俺も付き合うぜ」
「ありがとう。シシドウさん、キサラギ君」

 アオイは二人の心使いに心の底から感謝した。
 自分一人ではレッカやコウスケに負けた時に心が折れていたかも知れない。
 だが、二人が後押ししてくれたおかげで折れる事無く、リベンジに向かう事が出来た。

「特訓はさて置き、カガミの奴がいつホワイトファングに来るかが問題だな」

 方針が決まったが、問題はそこだ。
 この辺りではレッカは今まで見かけた事は無い。
 あれほどの実力があれば話題になってもおかしくはない。
 そうなれば、レッカは旅行か何かで静岡に訪れて偶然にホワイトファングに訪れたのか、最近引っ越して来たばかりなのかのどちらかだ。
 後者ならまだ挑戦のチャンスはあるが、前者なら次のチャンスが来るかは分からない。

「彼なら来週来るわよ~」

 微妙に間延びした言葉使いで三人は声を掛けられた。
 その相手は店のエプロンをしている事からホワイトファングの店員である事が分かったが、胸元の名札には店長と書かれていた。
 一見、のほほんとしているように見える彼女だが、れっきとしたホワイトファングの店長のナナミ・イチカだ。
 20代そこそこに見えるイチカだが実際にはつい一か月程までは現役の大学生だった。
 ホワイトファングを開店するにあたり、店員のバイトを募集した。
 その時にイチカもバイトに応募して、そのまま今は店長となった。
 それはクロガミグループ全体の特徴でもあった。
 クロガミグループの就職内定率は100%となっている。
 募集に応募すれば学歴や年齢、国籍、職歴に問わず採用している。
 だが、問題はその後だ。
 例え、一流大学を卒業し、過去に一流企業に勤めていようとも、才能がないと判断されると容赦なく切り捨てられる。
 逆に中卒で何年も引き籠っていようとも、才能を認められればどんどんと出世できる。
 それがクロガミグループの特徴だ。
 過去の経歴や余計な情報よりもグループにとって有益な才能を持った人材を重点的に集めている。
 イチカもその口だ。
 イチカ自身は普通の大学だが、クロガミグループにその才能を認められて、バイトから数日で店長となって大学を中退した。
 
「はい。これ~」

 イチカは三人にビラを渡す。
 そのビラはレイコの指示で開催される事となったホワイトファングでのバトル大会のビラだった。

「カガミ君はこの大会にエントリーしてたわよ~」
「へぇ……バトル大会ね。面白そうじゃん」
「優勝賞品はオリジナルウェポンか……アタシらも出て見るか」

 エリカもタクトも大会への参加に意欲的だった。
 アオイもまた、大会に出ればレッカと再戦出来るかも知れないと言う事で興味を持っていた。

「私としても~ある程度の人を集めないとオーナーにどやされるのよね~」
「俺は参加して見るけど、シシドウとアオイはどうする?」
「アタシも出る。来週にはアタシのガンプラも間に合いそうだし」
「僕も参加します」

 三人が参加の意志を表明すると、イチカは参加の登録用紙を用意していたのか、エプロンのポケットから出して三人に渡した。
 三人はその場で必要事項を明記してイチカに渡す。

「はい。これで登録は終わりで~す。来週は時間までには会場に来てね~」

 イチカは登録用紙を受け取ると、戻って行く。
 どうやら、参加者を集める為に参加しそうなファイターに声を掛けて回っていたらしい。

「来週か」
「それまでにアタシらのレベルアップと同時にアオイのレベルアップを行うか」
「二人とも、よろしくお願いします」

 アオイは大会の裏の真実を知る事無く、レッカへのリベンジの決意を胸に明日からの練習に臨むのだった。
 



[39576] Battle14 「監視の中のバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/11 00:07
 日本第一地区のファイターのデータを取る為に開催されたガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会は当日を迎えた。
 集まったファイターは100を超えている。
 ホワイトファングが開店する前に、マシロはホワイトファングを訪れて応接室で待機していた。
 応接室にはいくつものモニターが持ち込まれており、大会のバトルを常に監視する事が出来るようになっている。
 ホワイトファングを訪れたのはマシロだけで、レイコはホテルで自分の本来の仕事をしながら待機している。
 レイコは録画した映像だけで十分だが、マシロはモニター越しとはいえ生でバトルを見たいと言う希望もあっての事だ。

「武器を与えれば戦う。人類とは愚かだな」
「シロ君、悪役みたいな顔してますよ~」

 モニターにはすでに会場を訪れたファイター達が映されており、マシロは応接室のソファーに座り込んでその様子を見ている。
 ワイングラスに注がれた牛乳を飲む様はまさに物語の黒幕を思わせる。

「一度やって見たかったんだよ。こういうの。俺ってさ、ザ・主人公って感じだろ?」
「…………まぁ、そうですね~」

 マシロに対してイチカはずいぶんと間を開けて答える。
 実際は露程にも思っていないのだが、マシロに合わせて答えている。
 マシロはホワイトファングのオーナーとなっているが、オーナーは名目上で実際は店の経営方針はマシロが指示を出して、それに合わせてイチカホワイトファングを取り仕切っている。
 そんなマシロの機嫌を取るのもイチカの仕事の一つだ。
 一見、のほほんとしているように見えるイチカだが、長い物には迷わず巻かれて、上司の顔色を窺う事に長けている。
 ホワイトファングの店長にバイトから抜擢されたのも、その才能を見出されての事だ。

「それにしても大変だったんですよ~これほどの人数を集めるのは~」
「だろうな」

 大会自体、この地区のファイターのデータを集める事を目的に開催されている為、大会の告知にはネットを初めとした不特定多数の人間が見る事の出来るツールは使っていない。
 基本的にホワイトファングの客を中心にビラを配ると言うアナログな手段を用いていた。
 それを行う為にイチカは客に手当り次第にビラを配って参加者を集めてた。

「さて……面白そうな奴はいるかな」

 マシロはイチカの苦労アピールを軽く無視する。 
 すでにマシロの頭の中は大会のバトルを見る事に集中していた。






 大会の開始予定時間となり、大会は開始された。
 開会式から始まり、参加者の組み合わせのクジを行いバトルが開始される。
 参加者は100人を超えている為、一つつづバトルを行ったら時間がかかりすぎる為、複数のバトルシステムを使って同時進行で行われる。
 アオイ達もそれぞれ指定されたバトルシステムでバトルを始める。
 
「悪いな。一気に活かせて貰う!」

 エリカはバトル時には長い髪を括ってバトルしている。
 コウスケとのバトル以降、改良していたガンプラ「アサルトルージュ」で対戦相手のダナジンを責め立てる。
 エリカのアサルトルージュのベース機であるストライクルージュはガンダムSEED及び続編のSEED DESTINYに登場するモビルスーツでSEEDの前半の主人公機であるストライクガンダムのデットコピー機だ。
 大幅な改造は無く、右手にビームライフルと左腕にシールドの基本装備に加えてバックパックのストライカーパックにはパーフェクトストライクのマルチプルアサルトストライカーからアグニを外した物を装備している。
 エースストライカーの推力を活かしてアサルトルージュは一気にダナジンに接近する。
 ダナジンも両腕のビームバルカンと頭部のビームシューターで迎撃する。
 バトルフィールドは密林と足元が悪く、自然環境化における踏破性を重視しているダナジンの方がフィールド的には有利だが、アサルトルージュは足場を関係なしに推力に物を言わせて突撃して来る。

「おらぁ!」

 エリカの気合の入った掛け声の同時にアサルトルージュはバックパックの対艦刀「シュベルトゲベール」を抜いてダナジンを一刀両断にしてエリカは勝利した。
 別のバトルシステムではレッカもバトルをしている。
 対戦相手のガンプラはジムⅢだ。
 ジムⅢはビームライフルを放つが、レッカのビギニングガンダムRは回避しながらバックパックのバーニングソードRを両手に持って接近する。
 ジムⅢは肩の中型ミサイルを放つが、ビギニングガンダムRはビームバルカンで迎撃する。
 迎撃されたミサイルの爆風からビギニングガンダムRは飛び出して来て、ジムⅢはビームライフルを向ける。

「遅い」

 ジムⅢがビームライフルを撃つよりも早く、懐に飛び込んだビギニングガンダムRはバーニングソードRでジムⅢの右腕を切り落とす。
 そして、すぐにもう片方のバーニングソードRをジムⅢの胴体に突き刺して撃破した。
 






 大会が開始され、各バトルシステムで白熱したバトルが繰り広げられている中、アオイとタクトはバトルシステムを挟んで対峙していた。
 100人を超える参加者の中から偶然にもいきなり、二人がぶつかる事となった。

「行き成りアオイとか……まぁ、こうなったからには仕方が無いな。互いに全力を尽くそうや」
「うん。僕もカガミ君とバトルする為に負けません」

 アオイはレッカとの再戦の為に大会に出場している。
 この一週間の練習で再選に賭けるアオイの意気ごみはタクトも知っている。
 だが、対戦相手としてぶつかった以上は手加減をする訳にはいかなかった。
 アオイとタクトはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。
 アオイはいつものビギニングガンダムBだが、タクトのガンプラは以前のギャプランではなかった。
 ギャプランTR-5[フライルー]……ギャプランを改修したモビルスーツでアニメではなく雑誌企画や漫画、小説などで展開されているZガンダムの外伝作品である「ADVANCE OF Ζ ティターンズの旗のもとに」に登場している。

「タチバナ・アオイ。ビギニングガンダムB……行きます!」
「キサラギ・タクト! フライルー……行くぜ!」

 二人がバトルするバトルフィールドはコロニー内だ。
 コロニー内は基本的には地上戦と変わらないが、コロニー内と言う設定が反映されている為、コロニーへのダメージレベルでバトルフィールドが更新される。

「まずは挨拶行くぜ!」

 タクトのフライルーはロングブレードライフルで先制攻撃を行う。
 距離もあり、タクト自身の腕もそこまで高くない為、ビギニングガンダムBは簡単に回避してハイパービームライフルで反撃する。
 フライルーは変形してかわすとロングブレードライフルを撃ちながら接近する。

「前よりも速い!」
「当然!」

 ビギニングガンダムBの接近して再度変形したフライルーはロングブレードライフルを振り下ろす。
 それを、シールドで受け流してハイパービームライフルで反撃するが、フライルーは後方へ下がりながらロングブレードライフルを放つ。

「くっ!」

 ビギニングガンダムBはシールドを掲げるが、さっきの攻撃を受け止めた時にすでにシールドに切り込みが入っていた為、シールドが破壊される。

「シールドが!」

 それだけに留まらず、シールドが破壊された衝撃でビギニングガンダムBはビルに落ちた。

「カガミの奴と再戦させてやりたいが、これも勝負だ。悪く思うなよ」
「まだ、僕は負けてません!」

 ビルに落ちながらもハイパービームライフルを連射してフライルーに狙いを付けさせないようにする。
 フライルーはロングブレードライフルにビームが掠るとライフルを捨ててモビルアーマー形態に変形して旋回しながら、チャンスを伺う。

「行けると思ったんだけどな」
「僕にだって勝ちたい理由がありますから簡単に諦めませんよ」
「知ってるよ。なら、俺に勝って見せろ! アオイ!」

 フライルーは旋回して、ビギニングガンダムBにビームキャノンを放つ。
 ビギニングガンダムは飛び退いて、ビームバルカンで反撃する。
 その攻撃はフライルーのスラスターノズルの一つに直撃して煙を上げた。

「やべ!」
「そこです!」

 スラスターノズルへの被弾からバランスを崩したフライルーをビギニングガンダムBはハイパービームライフルを撃ち込んだ。
 まともに回避も防御も取れずに直撃を受けたフライルーは撃墜された。

「負けたぜ。今回は本気で行けると思ったんだけどよ」
「偶然ですよ。最後の奴が無ければ勝負は分かりませんでした」

 素直に負けを認めたタクトに対してアオイは謙遜気味にそう言う。
 実際のところ、アオイの言うようにビームバルカンが偶然にもフライルーのスラスターノズルに被弾しなければ勝負の行方は分からなかった。
 それでもアオイの勝利には変わらない。

「途中までは優勢だったのによ。なっさけねぇの……」
「そんな事は無いですよ。キサラギ君」

 優勢からの敗北で少ししょげるタクトに店員の一人が慰めの言葉をかける。
 黒い髪の三つ編みに厚いレンズの丸眼鏡をかけているその店員は一言で言えば非常に地味な印象を受ける。
 ホワイトファングは店の規模も大きい為、店員の数も多い。
 その為、アオイはその店員の事は知らないが、タクトの方は顔見知りの様だ。

「ミズキさん……参ったな。かっこ悪いところを見ちゃったな」

 ミズキと呼ばれた店員に対してのタクトの言動からアオイでもタクトが彼女に対して好意を持っていると言う事は理解出来た。
 彼女のエプロンの胸元のネームプレートにはミズキと書かれており、タクトに呼ばれた事からもそれが彼女の名であると分かる。

「そんな事ありませんよ」

 ミズキに慰められているタクトを横目に会場の普段は広告などが映されている大型モニターに他のバトルの結果が映されているのを見て、アオイはエリカとレッカが勝利したと言う事を知った。

「シシドウさんもカガミ君も勝ったみたい」
「だな、お前も俺に勝ったんだ。カガミの奴に当たるまで負けんじゃねぇぞ」

 タクトのエールを受けて、アオイは次のバトルの相手が決まるまでの間に気合を入れ直した。








 会場で同時進行しているバトルを複数のモニターでマシロは観戦していた。
 モニターには別々のバトルの様子が映されているが、マシロはそれらすべてを同時に観戦し、完全にバトル内容まで把握していた。

「まぁ……こんなもんだとは思ってたけどさ」

 マシロは少し飽きて来たのか、応接室のソファーに寝そべって観戦している。
 どのバトルもマシロにとっては得る物の何もない退屈なバトルでしかなかった。
 それでも万が一と言う事もあって、マシロにしては珍しく根気強く観戦していた。
 
「ん? 今の……」

 マシロは不意にモニターの一つに目を止めた。
 それはアオイとタクトのバトルだ。
 ちょうど、アオイのビギニングガンダムBのビームバルカンがタクトのフライルーのスラスターノズルを破壊した場面だ。
 傍から見れば偶然で、本人たちも偶然だと思っている偶然からのアオイの逆転勝利にマシロは何かを感じていた。
 ガンプラバトルにおいては人並外れた嗅覚を持つマシロが偶然にしか思えない出来事に些細な違和感を持った。
 その違和感の正体にはまだ辿り付いてはおらず、それ程、興味が湧いて来る程でもない。
 そうこうしている間にバトルが終了していた。
 
「まぁ……良いか」

 釈然としないながらも、余りにも些細過ぎて心の片隅にでもおいておけばいいと判断したマシロは別の画面と見ようとするが、再びアオイとタクトが映っているモニターに視線を戻す。

「あの店員……どっかで……」

 タクトを慰めている店員、ミズキを見てマシロはそう感じた。
 マシロがホワイトファングには何度もこっそりと訪れている。
 その時に見たかも知れないが、パッと見では地味過ぎて覚えがない。
 視線の端に止まっただけの相手かも知れないが、どうもそう言う感じではない。
 マシロはホワイトファングのオーナーではあるが、最初の従業員を雇う時も全く採用には関わっておらず、レイコに丸投げしている。
 採用自体はクロガミグループのやり方である為、応募した時点で採用は確定しているが、一応は面接を行っている。
 その際にもマシロはレイコに任せて、面接や企業スパイの可能性を探る為の素性や思想の調査も全てレイコ任せだ。
 そのせいもあって、マシロはオーナーながらも従業員の事には一切、関知していない。

「まぁ……良いか」

 ミズキに見覚えがあろうと、マシロにとっては全く重要ではない。
 ミズキの事を思い出せなくても、ガンプラバトルには何の影響もない。
 影響ななければ時間を使ってまで思い出す必要がない。
 すぐにミズキの事から他のバトルの方に意識を向けた。
 マシロはまだ決着のついていないバトルに集中し、アオイのバトルから感じた違和感やミズキへの見覚えを完全に頭の中から消していた。




[39576] Battle15 「クロガミ一族の影」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/16 00:10

 ガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会の日程は初日でベスト4までを決める事になっていた。
 バトルに勝利して勝ち残ったファイターは次のバトルまでにバトルで損傷したガンプラを修理する為の工具やパーツを店側から無料で提供を受ける事が可能となっていた。
 これはバトルとバトルの間の限られた時間でガンプラの修理や補強を行えるかと言うガンプラビルダーとしての実力を測る為の事だった。
 大会が問題なく進み、エリカとレッカは危なげなく勝ち進み、アオイは試合ごとに追い詰めながらもギリギリのところで勝利してベスト4に名乗りを上げていた。

「これがベスト4に残ったファイターの資料で~す」

 大会の一日目の日程を終えて、イチカがバトルの資料をマシロに渡す。
 大会の予定では3日後に残りのバトルが行われる。
 わざわざ、日を開けて行う事で今日のバトルの経験をどのようにして次に活かすかを見る為だ。
 その間、ホワイトファングのバトルシステムはベスト4に残った4人は優先的に使用できる。

「全部のバトルを見たからいらない」
「ですよね~」

 イチカは一応は今日のバトルの展開や結果をこと細かくまとめた資料を用意しておいたが、マシロは興味のない分野の事は全く覚えれないが、ガンプラバトルに関する記憶力は無駄に良い。
 今日だけで多くのバトルが行われたが、その全てを記憶しているのだろう。
 イチカも分かっていても、仕事である以上は資料をまとめなければいけなかった。
 尤も、マシロは必要が無くとも、レイコの方は必要である為、全くの無駄ではない。

「それで気になる子はいますか~? 私の一押しはやっぱりゲンドウ君かな~」
「ゲンドウ・ゴウキね……ゴッドガンダムの改造機を使ってた奴か。確かにあのパワーは目を見張る物があるけど、パワーファイターならタイのルワン・ダラーラの方が上だね」

 イチカが押すベスト4のアオイ、エリカ、レッカに並ぶ4人目のゴウキの事をマシロは評価する。
 ゴウキのこれまでのバトルはゴッドガンダムの改造機、ゴッドタイタスによる圧倒的なパワーで勝利して来た。
 だが、マシロからすればタイのファイター、ルワン・ダラーラの方が強いと断言できる。
 それも当然の事だ。
 ゴウキは実力はあるが、地区大会の上位どまりでルワンはタイ代表として何度も世界大会に出場している。
 比較対象としては地区大会レベルと世界レベルとでは実力差があって当然だ。

「他の三人はともかく、一番気になるのはタチバナ・アオイだ」
「タチバナ君……ああ、あの子ですか~」

 イチカはアオイの事を思い出す。
 だが、4人の中で唯一ギリギリのところで勝ち進んでいる為、マシロが気にする理由が分からない。
 
「アイツのバトルは全てギリギリで勝って来た。これだけを見ると大した実力ではないように見える。けど、今日のバトルを全て総合すると不可解なんだよ」

 マシロはそう言うが、イチカにはアオイのバトルの不可解さが見えて来ない。

「レイコが用意した参加者の過去の戦績にも目を通したんだけどな。そうしたら更に訳が分からない事になった」

 そう言われてイチカもアオイの過去のデータを見るが、見た限りでは勝敗は五分五分と言ったところで特出すべき事は無い。
 だが、マシロはそのデータから何かを感じ取ったようだ。

「たとえば、今日の一回戦で当たったキサラギ・タクトは過去に何度もバトルをしている。最初と今日のバトルではタチバナ・アオイの実力はかなり向上している。それに対してキサラギ・タクトの方の実力にはさほどの変化はない。しかし、結果は初めてのバトル同様にギリギリの勝利だ」
「でも~キサラギ君は新しいガンプラを使ってましたよ~」
「確かにな。けど、データを見る限りではギャプランとフライルーの間に完成度の差はない。多少の差異はあっても大きく変わる程じゃない。バトルフィールドも似たような場所だしな」

 過去のデータを比較し易いデータをしてマシロはタクトとのバトルを持ち出した。
 アオイとタクトと初めてバトルした時と今日の一回戦でバトルした時において、アオイの実力は大きく上がっている。
 タクトの実力は大して上がっていないのに結果としてギリギリで勝利している。
 イチカはタクトがガンプラを変えた事を指摘するも、過去のデータにあるギャプランと今日のフライルーの間に大きな差はない。
 ガンプラバトルにおいてのガンプラの強さはガンプラの完成度に比例する。
 作中で強化改修されて性能が向上していると言う設定があろうとも、完成度が下がっていればガンプラバトルでは弱くなると言う事も珍しくはない。
 無論、装備が増える事などを考慮しても、ガンプラの性能向上で実力差を埋める程ではないとマシロは考えている。
 そう考えると本来は楽に勝てる筈の相手に苦戦したと言う事になる。
 
「じゃぁ~タチバナ君は手を抜いていたって事ですか~」
「そんな感じが無かったから不可解なんだよな」

 アオイがバトルで意図的に手を抜いていたとなれば辻褄が合う。
 ガンプラバトルにおいて、自分の手の内を隠すと言う事は世界大会でも使われる手段でもある。
 マシロ自身、バトルで手を抜いた事は無いが、全力で戦った事も数える程しかない。
 だが、アオイのバトルを見た限りではそうは見えない。
 マシロですら見抜けない程の高度な技術でやったとも考えられるが、自分のガンプラバトルへの嗅覚を絶対的に信じているマシロはその可能性はないと考えている。
 同時にデータを解析したレイコの方でも似たような結果が出ていた。
 マシロとレイコが違う方面からのアプローチで似た結果が出たと言う事はマシロの勘違いと言う線はない。

「まぁ、それだけの事で全力を出しても大したことはなさそうなんだけどさ。思った以上に強い奴が出て来ないからな。どうせだから、もう少し試してみたいんだよね。レイコは世界大会を前に不確定要素は減らしておきたいみたいだし」

 アオイのバトルは不可解に思えたが、マシロからすれば脅威とはなり得ない。
 放っておいても問題なないが、不可解な事を不可解のままにしておく事はレイコは好まなかった。
 
「だからさ、次の対戦カードを操作して欲しいんだけど出来る?」
「もちろんですよ~」

 マシロはアオイの実力は脅威には値しないと考えているも、レイコの方は不可解なバトルをしたアオイを不確定要素と考えていた。
 その為、アオイの情報を更に集めたかった。
 マシロの問いにイチカはいつも通りに間延びした口調で答えた。










 ショップ大会から1日が明けてアオイはタクトと共にホワイトファングで練習を行っていた。
 何とかベスト4に残れたと言っても他の3人とは違ってアオイはギリギリのところで勝ち進んできた。
 2日後の準決勝で勝つ為にも更なる練習が必要だとアオイは大会を通じて痛感した。

「今日はシシドウさんは来てないんですね」
「何か、家の用事らしいぜ。まぁ、明後日にはシシドウと当たるかも知れないんだ。一緒に練習する訳にもいかないだろ」

 アオイはあたりを見渡すも、エリカの姿は無かった。
 家の用事らしいが、準決勝でエリカと当たる可能性がある以上は練習を見られないのはこちらの情報を出さずに済むと言う事にもなる。

「ベスト4に残ったファイターは皆、近接戦闘型だ。アオイは距離を取っての射撃戦なら結構強くなって来てるけど、懐に入り込まれたら途端に動きが鈍る。多少はマシになっても準決勝で戦うには近接戦闘ももっと出来るようにしないと不味い」

 アオイは射撃重視の戦い方を得意とするが、他の3人は近接戦闘を得意としている。
 その上、レッカは素早い連続攻撃を、エリカは推力に物を言わせた突貫、ゴウキはパワーバトルを方向性も違う。
 練習の成果で以前のように接近されると弱いと言う弱点はある程度は克服したが、ベスト4に残ったファイターを相手にするには実力不足は否めない。

「今日と明日でどこまでやれるか分からないが、やれる事だけはやってみようぜ」
「お願いします」
「気にすんなよ。取りあえずは距離を取っての射撃は禁止な」

 2日で出来る事は限られているが、勝ち進む為には必要な事だ。
 その練習の為に敢えて得意の射撃を封印して近接戦闘でタクトとバトルする。

「練習とはいえ俺も勝つ気で行くからな。今日は勝利の女神が付いてるから負ける気はしないね」

 そう言うタクトの後ろにはバイトが休みなのか私服のミズキが二人のバトルを観戦しようとしている。
 ミズキの前でかっこ悪いところは見せられないのか、タクトはいつもよりも気合が入っている。
 二人はGPベースをバトルシステムにセットして、練習を始める。











 大会の翌日、マシロはホテルにて珍しく正装をしていた。
 素人目にも仕立ての良い白いスーツを着用し、白いネクタイを付けてきっちりと髪も整えていた。
 普段は周りに言われて人前に出ても恥ずかしくない最低限の身だしなみしか整えていない為、こうしてきちんとした格好をすると普通に美少年に見えるから不思議だ。

「誰?」
「酷くない?」

 そんなマシロを見たレイコの第一声がそれだ。
 余りにも普段のマシロとは別人過ぎて一瞬、誰だか分からなかった。

「てか、なんで俺が兄貴とパーティーに参加せにゃならんの」
「仕方が無いでしょ。ユキト兄さん直々の指名なんだから」

 マシロが正装しているのには理由があった。
 昨日の夜にマシロやレイコの兄のユキトから連絡があり、翌日にユキトが招待されているパーティーにマシロを同行させると言って来た。
 マシロ側の都合を一方的に無視しているが、一族の長であるユキトの命令にマシロもレイコも拒否する事は出来ない。

「私としては非常に不安なんだけど」
「俺だって面倒だよ。今日は一日ここでバトルする気だったのによ」

 マシロはあからさまに不服そうにしている。
 今日はマシロはホテルでひたすらバトルをする予定だったが、その予定を大きく狂わされている。
 一方のレイコはマシロを同行させる理由に不安を抱いていた。

「一応、聞いておくけど自分の役目は分かってるんでしょうね?」
「女を落とすんだろ? 相手を落とすのはいつもやっている事だ。大丈夫だろ」

 マシロはそう言うが、レイコには何が大丈夫なのか理解できない。
 マシロは軽く言っているが、マシロが言う「落とす」とはガンプラバトルでの話しで、今日のパーティーでの「落とす」とは意味がまるで違う。
 ユキトは今日のパーティーでマシロにある人物を落とさせるつもりだった。

「あんたねぇ……確認するわよ。ターゲットはシシドウ・エリカ。シシドウ家の一人娘よ。偶然だけど、昨日の大会のベスト4に残っているけど、アンタの事だから覚えてないから後で写真を用意しとくわ」

 マシロが落とすべき相手は、エリカであった。
 レイコは昨日のバトルでエリカの顔を知っているが、マシロは大して興味が無かった為、顔は覚えてはいない。

「けど、なんで俺が……」
「彼女の実家は運送関係で独自のルートを持ってるからそれが欲しいんでしょうね。兄さんは……その為にアンタとこの子をくっつけさせばシシドウ家を乗っ取る事も出来るわ」
「回りくどいよな。俺としては兄貴が結婚しろって命じれば別に誰とだって結婚しても構わないし。俺の邪魔さえしなければ」

 エリカの実家のシシドウ家は運送業の会社を営んでいる。
 その会社は大企業と言う程ではないが、それなりの規模で独自のルートを持っている。
 ユキトはそのルートを手に入れる為に、マシロをエリカと結婚させる算段をしている。
 エリカは一人娘である為、結婚するとなればマシロが婿養子に入るだろうが、マシロにとってはクロガミの名を名乗る事には意味がない。
 その後はマシロにユキトが指示を出してシシドウ家を動かせば実質的にシシドウ家はクロガミ一族の物になったと言っても良い。
 マシロとしては、ユキトに言われれば例えどんな相手だろうと、ガンプラバトルの邪魔にならなければ興味はない。

「うちは世界に名だたるクロガミグループなのよ。それが取るに足らない中小企業と対等な取引をするなんてプライドが許さないのよ。強引な策は最後の手段に取っておくとして、一番理想的なのはアンタとシシドウ・エリカが恋愛関係になって結婚するって事」

 マシロ本人は自覚は無いが、クロガミ一族の本家と言う肩書だけでも価値はある。
 その肩書に群がって来る連中も少なくはない。
 当然、自分の娘をマシロの嫁にしたいと考えている者も居るだろう。
 エリカの父がその手の人間かは分からないが、言い寄って来た相手を嫁にすると言うのはクロガミ一族のプライドが許さない。
 特に今回はシシドウ家の持つ運送ルートが欲しい為、プライドが邪魔をして下手に出る事が出来ない。
 故にマシロとエリカが自然とくっ付けばクロガミ一族の面目も立つ。

「つまり、一族の名誉を守る為に俺に恋愛ごっこをしろって事か……くっだらねぇ」

 マシロからすれば、一族の名誉や面目を守ると言う行為に対して意味を見出す事は出来ない。
 そんな物に拘っていたところで、それは邪魔でしかないからだ。

「まっアンタには守るプライドとか名誉とかはないからそう言えるのよ」
「プライドとか名誉とかを守って強くなれるなら死んでも守るさ。けど、そんな物は強くなる為には糞の役にも立たないからいらねぇ」

 マシロにとって重要なのはガンプラバトルに勝つ事。
 そして、その為の強さを得ることだ。
 ファイターとしての矜持を捨てた勝利にはつまならく意味がないが、自分をファイターとして高める為ならば、それ以外の誇りもプライドも必要はない。
 その為にマシロは過去のビルダーが制作したガンプラや実力のあるファイターのバトルを徹底的に研究して、必要であれば自分のガンプラやバトルに取り入れている。

「アンタの言いたい事も分かるけどね。世の中綺麗事だけじゃ生きられないわ。けど、分かってるわよね」

 レイコもマシロの言いたい事は分かっている。
 レイコも自分の目的の為なら手段を選ばないタイプの人間だ。
 マシロとは方向性こそはあ違うが変なところで意見が合った。

「当たり前だ。面倒だけど、兄貴の命令じゃどうしようもないさ。拒否って一族から追い出されても敵わんしな」

 一族の面目を守る事はどうでも良いが、これがユキトの命令である以上はやらなければ、一族にいられなくなるかも知れない。
 それは非常に不味い。
 だからこそ、気が進まなかろうとやるしかない。

「少し前までの俺には難しいミッションかも知れなかったが、今の俺には余裕だ」
「根拠はある訳?」

 マシロは非常に自信があるようだが、レイコからすればまともに外の人間と接する事のないマシロが異性を口説き落とすなどガンプラバトルで世界大会を制するよりも難しく思える。

「俺はこう見えてキャラを作るのは得意だ。やっぱ、無個性の人間がバトルで勝ちまくってもつまらないからな。日夜キャラを演じる事を練習して来た。女にモテそうな感じならまぁ……それっぽいキャラを作れば多分、行ける」

 マシロは自身満々だが、レイコは不安しかない。

「それと彼女はショップ大会に出てるからガンプラバトルをやっているみたいだけど、その話題は避ける事」
「何で? 共通の趣味の話題で攻めるのはセオリーじゃん」
「普通ならね。けど、アンタの場合は特殊過ぎて普通じゃないのよ。確実に引かれるわ」

 一般的に異性を相手にする際に互いの共通した趣味の話をする事は正しい。
 しかし、マシロの場合は趣味と言っても度を超えている。
 その為、下手にガンプラ関係の話題で話すと興味を引かれるどころか、普通に引かれてしまう危険性が非常に高い。

「まぁなるようにしかならないけどね。兄貴だってそこまで期待してる訳でもないだろうしな」

 今回マシロを連れて行く最大の理由は単にマシロがエリカと一番歳が近いと言うだけの事だ。
 ユキトの方も強硬策を取る前に一応手を打ったくらいの認識でマシロが上手く行くとは思ってないだろう。
 だからこそ、失敗してもお咎めは無いと見て良い。
 結局のところ、ユキトはマシロに何も期待してはいないのだから。











 準備を終えたマシロがホテルを降りるとすでに、車が待機していた。
 その車にはマシロの兄でクロガミ一族の現当主であるクロガミ・ユキトが待っていた。
 まだ、20代も後半だが、世界有数のクロガミグループを取り仕切っている。

「速く乗れ」
「久しぶりに弟と会ったのにそれかよ」

 ノートパソコンで仕事をしているのか、ユキトはマシロの方を見ようともしないでそう言う。
 マシロがユキトと直接会うのは、父親の葬式以来かも知れなかった。
 数年振りに直接会う弟に対する態度に文句を言うが、ユキトは気にした様子はない。
 運転手が車のドアを開き、マシロは文句を言いつつも車に乗り込む。
 マシロが乗るとドアが閉められ、車は目的地に向かって進み始める。

「それでどうなんだ?」
「今日の事を言ってんなら多分、行ける」

 相変わらずマシロの方を見る事無く、質問するユキトにマシロも頬杖をついて窓の外を見ながらぶっきらぼうに答える。

「大会の方だ」
「そっちね。兄貴がレイコを付けたから、今年は余裕。本命の来年もまぁ……大丈夫だろ」

 マシロにとっては今年の第6回の世界大会は保険でしかない。
 世界大会で優勝すれば、世界チャンピオンとしての名声やその証である優勝トロフィーを初めとした名誉等だけでなく、翌年の世界大会において大会の主催者であるPPSE社から特別招待枠の一つが貰える。
 その為、今年の世界大会に優勝しておけば、来年開かれる第7回目の世界大会では地区予選から出場する必要がなくなる。
 その特別招待枠を得る為にマシロは今年の世界大会に出場するつもりだった。
 例え、今年の優勝を逃しても来年も地区予選から出場すれば良い為、今年は保険としての意味合いが強い。
 今年の内に特別招待枠を獲得していれば来年が地区大会に出る手間が省けるが、結局のところ世界大会を2回も優勝する必要があり、今年優勝してしまえば来年は世界中のファイターあら注目され、バトルの対策を練られるが、マシロからすれば世界大会を優勝するのも、普段のバトルで勝ち続ける事との間に違いはない。
 マシロが所属しているチームネメシスの会長からは第7回大会で優勝すると言うのがマシロとネメシスの間にかわされた契約内容だ。
 来年の7回大会はプラフスキー粒子が発見されてから10年目となる節目の年である為、特別に7回大会の優勝者には優勝トロフィー以外にも様々な副賞が与えられる。
 それを手に入れる為にチームネメシスはマシロと契約した。

「チームの事はどうでも良いが、お前が世界の表舞台で絶対的な勝者となる事は一族としても重要な事だ。負ける事は許さんぞ」
「兄貴、なんか企んでんの?」

 マシロは横目でユキトの方を見ながらカマをかける。
 所詮はガンプラバトルは遊びの範疇を出ていない。
 これがスポーツなどならクロガミ一族の人間が頂点に立つ事には意味があるが、ガンプラバトルで頂点に立ったところで一族にとってはさほど重要ではない筈だ。

「いずれはお前にも伝えるが、今は関係ない話だ」

 マシロのかけたカマを気にする事無くユキトはそう言う。
 そこから、クロガミグループが水面下で何かしらの計画が進行していると言う事が分かる。
 それも、マシロに話すと言う事はガンプラバトルが関係していると言う事になる。
 マシロに話すと言う事はそれしか考えられない。
 だが、何をやろうとしているかは考えたところで分かる訳もなく、調べたところでレイコに頼んでも全貌は見えないだろう。
 レイコとしても、表だってユキトに反抗する事はない。

「あっそ……」

 結局のところ、マシロには何も出来ない為、考えたところで意味はない。
 その時が来れば嫌でも分かる事もあって、マシロはその事を考える事を止めてそこで兄弟の数年振りの会話は終わった。











 準決勝を二日後に控えたエリカは父親に同行してパーティーに出席させられていた。
 パーティーは何かを記念する物だとは聞かされていたが、実際には何かを祝うと言うよりもパイプ作りがメインなのだろう。
 エリカも着慣れないドレスを着せられて、父の後ろをついて適当に愛想笑いをしているだけだ。

「これはシシドウ社長。ご無沙汰しています」

 愛想笑いにも飽き飽きしていたところに父に一人の青年が話しかける。
 エリカもその青年の事はニュースで見た事があった。

「クロガミ会長。活躍は私の耳にも届いていますよ。先代亡き後のグループをまとめ上げているとか」
「まだまだ至らない若輩者ですよ」

 クロガミグループの現総帥であるユキトは爽やかな笑みを浮かべてそう言う。
 エリカのクラスの女子もそのルックスからユキトのファンが多く、何度もエリカの立場から会った事は無いかと聞かれる事も珍しくはない。
 エリカ自身は余り興味はなかったが、クラスの女子が熱を上げるのも分かる気がした。
 そんなユキトの後ろにはマシロが付いていた。
 マシロの方を見た時に不意に視線が合い、エリカは思わず視線を逸らしてしまう。

「そちらの彼は?」
「紹介します。弟のマシロです」
「マシロ・クロガミです。よろしくお願いします」

 ユキトに紹介されて、普段のマシロを知る者からすれば目を疑うような礼儀正しい挨拶を行った。
 マシロも伊達にクロガミ一族の本家を名乗っている訳ではない。
 普段は面倒がっているだけで、公の場での礼儀作法は一通り叩き込まれている。
 
「いつもは自分のアトリエに籠って作品の制作にかかりきりで、社交の場に出る機会がない不作法な弟ですが、今日はマシロが社交の場に出る良い機会だと思って連れて来たんですよ」
「ほう……弟さんは芸術家でいらっしゃるんですか。クロガミ会長の弟さんの作品だ。さぞかし素晴らしい物を作るんでしょうな」
「まだまだ。人にお見せする代物ではありませんよ」

 物は良いようである。
 実際、マシロの作る作品はガンプラを指している為、ユキトは嘘はついていない。
 そして、人に見せるレベルではないと言っておけば、マシロの作品を無理に見ようとはしないだろう。
 尤も、表向きは人に似せられる物ではないと言って、納得してもクロガミ一族の本家に名を連ねているマシロが作る作品が人に見せられない程の稚拙な物だとは相手も思わない為、一族としての名誉を傷つける程の事ではない。

「それで、社長。例の件の事ですが……」
「おお。そうですな。エリカ、父さんは仕事の話をするから向こうに行ってなさい」

 ユキトとエリカの父の間ですでに何かしらの仕事があるらしく、その事を話すようだ。
 エリカは自分で連れておきながら、邪魔になれば一人で放置する父に軽くイラつきながらも、必死に顔に出さないようにする。

「申し訳ない。エリカ嬢。マシロ、お前がエリカ嬢をエスコートして差し上げなさい」
「分かったよ。兄さん」
「いえ……アタ、私は一人でも……」

 まるでエリカが一人になる事を見越していたようにユキトはマシロにエスコートを命じてマシロはそれに答える。
 エリカとしてはいいとこのボンボンと二人きりにされても困るが、ユキトの言葉を受けたマシロにエスコートされてパーティー会場の端まで連れていかれる。
 実力行使をすれば、流石に父に迷惑がかかる為、エリカは殴り倒したい気持ちを抑えた。

「済みません。うちの兄が」
「まぁ……うちの父も乗り気みたいですし」

 エリカは言葉使いを細心の注意を払って答える。
 シシドウ家としても、クロガミ一族との繋がりは会社にとっては大きな利益をもたらす。
 だからこそ、親子程歳の離れているユキトに対しても下手に出ている。

「それはそうと、エリカさん。ご趣味は?」
「はい? ガンプラバトルを少々……っ」

 何の脈拍もなく、話題を変えて来たマシロの質問にエリカは反射的に答えてハッとした。
 今では世界大会を開かれる程に広まったガンプラバトルだが、マシロ達のような上流階級の人間にはただのお遊びでしかなく、一社長令嬢の趣味としては少々野蛮だ。

「それは大層なご趣味をお持ちで」

 だが、マシロの反応はエリカの予測の正反対で好感触だった。

「僕も立体芸術に携わる身としてはこの国の模型技術、特にアニメ「機動戦士ガンダム」を初めとした所謂、ガンダムシリーズに登場する機動兵器モビルスーツを模型化したプラモデル、通称ガンプラは実に素晴らしい。最初のガンダムの放送やガンプラの発売は半世紀以上も昔と言うのに未だに国を超えて愛され続けている。そして、10年程前に発見されたプラフスキー粒子のお陰で今や、ガンプラは作って飾るだけの物ではなく、実際に動くレベルまで進化している。特にこの10年でのガンプラの進化は目覚ましい。まさに至高の芸術と言っては過言ではありません」
「はぁ……(何だ。コイツ、絶対に変だ)」

 突如、語り出したマシロにエリカは圧倒されている。

「それはそうとエリカさん。結婚しましょう」
「はい?」

 更に脈拍もなく、本題を切り出してエリカはすっとんきょな声を上げた。









 パーティーが終わり、ホテルに戻ったマシロは来ていたスーツを脱ぎ捨ててベットに倒れ込む。

「疲れた……」

 ベットに倒れながらも、ベットの下にしまっておいた組み立て前のガンプラを取り出しては枕元に置いてあるニッパーを手に組み立て始める。

「その様子だと失敗したみたいね」

 マシロが帰って来た為、レイコは様子を見に来たが、どうやらマシロは失敗して帰って来たらしい。

「何が悪かったんだろうな。友達からなんて……」
「は? 友達?」

 マシロはエリカを落とす事に失敗して来たようだが、レイコの予想とは違い友達にはなって来たようだった。

「やっぱり、直接結婚を申し込むんじゃなくてホテルにでも連れ込んで既成事実でも作って責任を取るって形の方が良かったか?」
「……取りあえず。連れ込む前に殺されるわね。あの子、以外と腕っぷしも強いし、マシロは取っ組み合いなら私でも勝てるし」

 どういう状況から友達になったのかは、レイコには理解が出来ないが、ぶつぶつと変な事を呟くマシロに一応は言っておく。
 事前情報からエリカはそれなりに腕っぷしが立つ事が分かっている。
 それに対してマシロはガンプラバトルにおいては圧倒的な強さを誇るも、取っ組み合いの喧嘩となれば、肉体労働は専門外のレイコにすら劣る。

「で、実際のところ首尾はどうなの?」
「取りあえずは友達からだそうだ。携帯の番号とメアドは手に入れた」
「アンタにしては上出来じゃない」

 元々、ユキトも全く期待していない状況を考えれば、エリカと友人関係となり連絡先を交換しているだけでも奇跡と言っても良い程の戦果と言える。

「後は時間をかけてジワジワと攻めれば良いわね」
「面倒だ。俺は今日で終わらせるつもりだったのに」

 連絡をしても不自然な状況ではなくなったため、ここからが本番なのだが、マシロとしては早々にケリを付けたかった。

「とにかく、大会の方も使えるわね」

 レイコはすぐに算段を付ける。
 まずは2日後のショップ大会は利用できる。
 マシロは名前だけとは言ってもホワイトファングのオーナーだ。
 ショップ大会の視察とでも名目を付ければ当日に訪れても不自然ではない。
 そこで、偶然を装って再会させる事が出来る。

「それでアンタ的にはどうなの? 彼女の事」
「どうだろ……まぁ、胸はやばかった」
「見るところはそこ? てか、アンタもそう言う所を見るのね」

 レイコは心底意外そうだった。
 マシロはガンプラバトルさえできればどこの誰と結婚させられようと興味がない。
 そんな、マシロが異性に対して普通の回答をする事は意外以外の何物でもない。

「失礼な。俺だって人間だぜ? 人間にはガンプラ欲、食欲、性欲と言う三大欲求があるって俺だって知ってる」
「一つは明らかに違うわよ」

 異性の反応は意外だったが、結局はいつもマシロである事には変わりはない。

「俺だってシローやガロードみたいな恋愛をしてみたいって気持ちはあるさ。尤も、実際にやりたいかって聞かれると御免こうむるけどね」
 
 マシロとて10代も半ばの思春期だ。
 恋愛の一つや二つをしてみたい気持ちは持っている。
 だが、結局のところはマシロは恋愛よりもガンプラバトルの方が優先ではあった。








 初日から3日が経ち、ホワイトファングではショップ大会の準決勝戦が開始される当日となった。
 すでに4人まで絞られているが、大会を最後まで観戦しようとしている観客が非常に多い。

「アオイ。誰が相手でもこの3日間の特訓の成果を出せば優勝出来るぞ」
「全力でやります」
「言ってくれるじゃん。アタシも優勝する気だから。負ける気はないね」

 アオイと同じく、ベスト4に残っているエリカも優勝出来る自信はあった。
 この3日間は互いの手の内を見せないようにエリカとアオイは別々で練習していた。

「お集まりのみなさ~ん」

 会場の特設ステージにイチカが上がり相変わらずの間延びした口調で司会を始める。
 会場を訪れていた観客たちは一斉にイチカの方に注目した。

「それでは~ショップ大会の準決勝戦の組み合わせの抽選をするまえに~ゲストを紹介しま~す」

 イチカがそう言うとステージにスーツを着込んだマシロが上がる。
 それを見た観客たちは誰かと戸惑うが、エリカだけは顔を引きつらせている。
 
「こちらの方はマシロ・クロガミさん。このホワイトファングのオーナーなんですよ~」
「ご紹介に預かりました。マシロ・クロガミです。今日のバトルを楽しみにしています」

 相変わらずの別人っぷりをマシロは発揮している。
 会場の女性たちはその本性を知らずに黄色い声援を上げている。

「ではでは~今日の主役のファイター達の入場で~す」
「お前達の出番だぜ」
「言ってきます」

 何も知らないアオイとマシロと顔を合わせるのは気まずいエリカはステージに上がり、会場に来ていたレッカと最後の一人であるゴウキもステージに上がる。

「では~抽選を初めま~す」

 イチカはそう言って穴の開いた箱をマシロに手渡す。

「この中には~白と黒の2種類のボールが入ってま~す。同じ色を引いた人が対戦相手です~」
「ではレディファーストで」

 マシロはエリカにボールを引かせる。
 エリカはマシロと顔を合わせる事無く、穴に手を入れて少ししてボールを取る。

「シシドウちゃんが引いたボールは白ですね~」
「次は……君」

 今度はレッカの前に箱を持って来るとレッカは穴に手を入れてすぐにボールを取り出す。

「おやおや~カガミ君も白ってことは~対戦カードはこれで決まりよね~」

 レッカが白のボールを引いたと言う事は対戦相手はエリカと言う事だ。
 と言う事は自動的に残りのボールは黒となり、アオイとゴウキがバトルすると言う事が引く前から確定している。
 
「よろしくお願いします」
「ああ」

 ボールを引く事無く対戦カードが決まったアオイはゴウキに一礼をする。
 ゴウキはベスト4の中で唯一高校生ではない。
 屈強な体格の大男でアオイとの体格差は凄まじい。

(さて……見せて貰うぞ。お前の力を……)

 この対戦カードは仕組まれた物だった。
 イチカは箱の中には2種類のボールが入っていると言ったが、実際のところ4つとも白いボールが入っている。
 つまり、最初に引いた二人は確実に白を引く。
 本来ならば、観客や選手の前で不正がないと言う事を見せるべきだが、誰もが普段のイチカの言動から、対戦カードを操作すると言った事をしないと言う先入観からそれを行わずとも文句は出なかった。
 マシロが気にしていたアオイの対戦相手として他の3人の中で最も実力があるゴウキが宛がわれた。
 マシロはゴウキとのバトルの中でアオイの実力とバトルの違和感を確かめる気だ。
 そんな、裏の思惑を準決勝を戦う4人のファイター達は知る事も無く、準決勝の第一試合であるエリカとレッカのバトルが開始される。
 



[39576] Battle16 「アオイの覚醒」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/19 00:24


 ホワイトファングのショップ大会準決勝の対戦カードはエリカVSレッカ、アオイVSゴウキと言う組み合わせとなった。
 組み合わせの抽選が終わったところで一度、ステージに上がった4人とイチカとマシロが降りた。
 準決勝と決勝は特設ステージに設置されたバトルシステムで行われる。
 ここで一度、区切ったのは対戦相手が決まってからの短い時間での行動を見る為だ。
 すでにどのファイターもある程度は対戦相手のバトルスタイルを把握している。
 そこから、対戦相手に合わせたカスタマイズを行うのか、このままで行くかなどをデータをレイコは集めたかった。

「お疲れさん。二人とも」
「……ああ」

 ステージから降りたエリカとアオイをタクトが労う。
 タクトの横には今日もシフトが入っていないのか、ミズキがいた。
 アオイは皆の前に出た事で少し緊張をしていたが、エリカはそれ以上に疲弊していた。

「シシドウさん?」
「いや……何でもない」

 流石にアオイもタクトもエリカの様子がおかしいと言う事に気づくが、エリカは強がる。

「エリカさん。まさか、このようなところで会うとは奇遇ですね」

 エリカの背後からマシロが声をかけてエリカはびくりとする。

「クロガミ……さん」
「マシロで結構ですよ」

 マシロはとびっきりの笑顔を作ってそう言う。
 つい先ほど、店のオーナーとして紹介されたマシロがエリカの知り合いである事にアオイとタクトも驚きを隠せない。

「ここのオーナーだったんですね」
「敬語も結構ですよ。僕はありのままのエリカさんが見たいです」
「えっと……シシドウとクロガミさんは知り合いなんすか?」

 タクトが意を決してアオイも気になっていた事を質問する。
 互いの事を知っている事は話しの流れから分かっているが、関係がイマイチ分からない。
 エリカは余りマシロと会いたくないような感じにも見える。
 
「この前のパーティーで一目惚れしましてね。プロポーズをしたんですけど、フラれてしまいました」
「なっ!」

 マシロの爆弾発言にタクトやアオイだけでなく、ミズキも驚いている。
 当のエリカは気まずそうにしているが、心なしか顔が赤い。
 その反応だけで、マシロの話しが本当である事は分かった。

「僕もあれから冷静になって考えたんですが、いきなりプロポーズはやり過ぎました。申し訳ありません」

 マシロはそう言って頭を下げる。

「元々、この店のオーナーと言うのは名前だけだったんですけどね。エリカさんが大会に出場していると言う事を偶然に知ってしまい、無理を言って来ちゃいました」

 マシロは少しおどけてそう言う。
 そう言われたエリカは更に顔を赤らめる。
 今までエリカはその気の強さから余り、女の子扱いをされた経験が少ない。
 故にここまでストレートに異性から好意を向けられる事に慣れてはいない。

「ん? そこのあ……君」

 エリカを口説いていた、マシロだがタクトの後ろにミズキを見つけて思わず声をかけてしまう。
 声をかけられたミズキは恐ろしく速いスピードでタクトの後ろに隠れるとタクトの背に顔をうずめる。

「以前、どこかでお会いしましたか?」
「いいいいいいえ、滅相もございません!」

 マシロの問いにミズキは普段からは考えられない大声で否定した。
 流石にここまで強く否定された事が意外だったのか、マシロも呆気に取られている。

「えっと……クロガミさん」
 
 見かねたタクトがエリカの方を指を指す。
 エリカは少しむくれていた。

「エリカさん?」
「……行って来る」

 明らかに機嫌が悪くなったエリカは特設ステージの準備が整ったため、ステージに戻って行く。

「どうしたんでしょうね?」

 マシロの言葉にタクトは呆れ、アオイはついて行けず、ミズキは相変わらずタクトの背中に隠れている。

(当然でしょ。おバカ。まぁ、あの反応は脈ありね)
(レイコか。どういう事だ?)

 マシロは周りには聞こえない程、小さい声で話す。
 マシロのネクタイには小型のマイクが内蔵されている為、マシロの周囲の会話はモニター室にいるレイコに筒抜けとなっていた。
 周囲の様子はモニター室からレイコが監視している。
 更にマシロの耳には周囲からは簡単に見破れないようにイヤホンが付けられている。
 モニター室で状況を把握したレイコがマシロに指示を出せるようにしていた。
 先ほどの会話も半分以上はレイコが言葉を考えてマシロに伝えて言葉を話していたに過ぎない。
 だが、マシロはミズキを見つけた時に勝手に話しかけてしまった。
 その時の反応でエリカが少なからずマシロの事を意識していると言う事は確認出来た為、怪我の功名だ。
 それも、マシロが初対面でプロポーズをした事が影響しているだろう。

(アンタは気にしないで良いわ。だけど、彼女の事は気にする必要はないわ。その内分かるから)

 どうやら、レイコはミズキの正体に関して何かしら知っている口ぶりだった。
 マシロとしても、見覚えがあると言う程度の興味しか無い為、レイコに従った。

(それで、どっちが勝つと思う?)
(赤い方)
(どっちも赤いわよ)

 マシロならこの段階でもある程度は勝敗を予想出来ると思い質問したが、マシロはこのバトルに興味が殆どないのか、ひどく投げ槍だった。
 エリカのアサルトルージュもレッカのビギニングガンダムRも赤がメインのガンプラだ。
 赤い方が勝つでだどちらが勝つのか分からない。
 だが、余りしつこく聞いてもマシロの機嫌を損ねるだけだ。
 レイコは、マシロに予想を聞く事を諦めてバトルに集中する。





 準決勝第一試合のバトルフィールドは砂漠地帯だ。
 地上は柔らかい砂が敷き詰められている為、陸戦では砂に足を取られる。
 だが、エリカのアサルトルージュはエールストライカーの推力で強引に突き進む事が出来る為、足場を無視でき、レッカのビギニングガンダムRは飛行能力を持つ。

「悪いな。アオイ。リベンジはさせてやれそうにない!」

 アサルトルージュは出会いがしらにビームライフルを連射する。
 ビギニングガンダムRはビームを回避して、バーニングソードRを両手に持つ。

「そんないい加減な射撃が当たると思うなよ」

 アサルトルージュの射撃を易々と回避したビギニングガンダムRはアサルトルージュに切りかかる。
 
「舐めんな!」

 アサルトルージュは対艦刀「シュベルトゲベール」を抜いて振るう。
 ビギニングガンダムRは空中に回避すると、ビームバルカンを放ち、アサルトルージュはシールドで防ぎながら飛び上がる。
 何度もシュベルトゲベールを振るうが、ビギニングガンダムRはヒラリと回避する。

「シシドウの奴……」
「いつもの勢いがないです」

 エリカとレッカのバトルを見ているタクトとアオイがそう言う。
 今のエリカのバトルにはいつもの勢いがまるでなく、闇雲に攻撃しているだけだ。
 こうなったのも、マシロの事を変に意識しているせいだ。
 そんな攻撃がレッカのビギニングガンダムRを捕える事は出来ない。
 
「俺は少し過大評価をしていたな」

 ビギニングガンダムRはアサルトルージュの攻撃を回避して、地上に降りていく。

「逃げんな!」

 アサルトルージュはバルカンを撃ちながら、ビギニングガンダムRを追いかける。

(終わったな)

 その動きを見た瞬間にマシロは確信した。
 ビギニングガンダムは振り向いてアサルトルージュの方を向くと後ろに下がりながら、かかとを砂にこすり付ける。
 それによって、砂が巻き上げられてアサルトルージュは砂に突っ込む。

「くそ!」

 砂に突っ込んだ事で完全にアサルトルージュの勢いが殺された。
 その隙をレッカが見逃すわけもなかった。
 ビギニングガンダムRのバーニングソードRがアサルトルージュを切り裂いてバトルがレッカの勝利で幕を落とした。






 バトルに敗北したエリカはトボトボとステージを降りて来る。

「悪い。みっともないバトルを見せた」

 明らかにエリカは憔悴している。
 そんなエリカを始めて見てアオイもタクトもかける言葉が見つからない。

「みっともない事は無いですよ。戦うエリカさんの姿はとても美しい」

 マシロが空気を読まずに、エリカを褒め称える。
 これも、レイコからの指示だ。
 そう言われたエリカは少し驚きつつも、呆れていた。

「たく……けど、サンキューな。アオイ……負けんなよ」
「はい」

 マシロの励ましで少し、元気が出たエリカはアオイに激を飛ばす。
 いつもに比べると弱弱しいが、それでもアオイにとっては心強い。
 第一試合が終わり、今度はアオイの第二次第の番だ。
 アオイは緊張した面持ちながらも、しっかりと歩き出す。

「お前が対戦相手か……アンドウの奴が出て来ないから退屈そうだったが、あのカガミとかいう奴は骨がありそうだ」
「カガミ君とバトルするのは僕です」

 今回のショップ大会にコウスケは参加していなかった。
 コウスケが参加していない以上、大したファイターは出ていないとゴウキは考えていたが、予想外の実力者であるレッカが出場していた。
 ゴウキとしては、アオイよりもレッカと戦いたかった。
 だが、アオイもまた、レッカと戦う理由がある。

「ゴッドタイタス!」
「ビギニングガンダムB!」

 アオイとゴウキはGPベースをセットして、ガンプラをバトルシステムに置いた。
 ゴウキのゴットタイタスはGガンダムの後期主人公機のゴッドガンダムの改造機だ。
 改造と言っても四肢をガンダムAGE-1 タイタスの物に変更しているだけだ。
 それによって俊敏性は失われたが、圧倒的なパワーと防御力を獲得している。
 第二試合のバトルフィールドは荒野だ。
 特殊なギミックは無く、フィールドにはいくつもの岩が設置されている為、隠れるところは豊富だが、逆に障害物も多い。
 射撃を主体をするアオイにとっては腕の見せ所だ。

「相手は近接パワー型……接近されたらまずい」

 この3日間でタクトと近接戦闘の練習はして来たが、接近されない事に越した事はない。
 ビギニングガンダムBは上空からハイパービームライフルで先制攻撃を行うが、ゴッドタイタスは岩の陰に隠れてビームは岩で防がれた。

「貫通もしないのか……」

 岩はアオイが思っている以上に頑丈でハイパービームライフルの一撃でも多少の損傷で破壊するには至らない。
 これで破壊出来れば、障害物を破壊しながら攻撃が出来た。
 ゴッドタイタスは岩の影を利用して、ジワジワとビギニングガンダムBとの距離を詰めていく。

「こっちからも活かせて貰うぞ!」

 突如、岩陰からゴッドタイタスが飛び出して来る。
 肩からビームを出して、突っ込んで来る。

「っ!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つが、ゴッドタイタスは気にする事は無く突っ込んで来る。
 肩から出したビームによって、ビギニングガンダムBのビームが弾かれて、ビギニングガンダムBはシールドで受け止める。
 ある程度は勢いが削がれていた為、シールドが破壊されて吹き飛ばされるだけで済んだ。

「なんて、パワーなんだ」
「これだけで済むと思っているのか!」

 地上に降下するビギニングガンダムBを追撃する為に、ゴッドタイタスは方向を変えて今度は拳を突き出しながら落ちて来る。
 飛び上がった先ほどの攻撃とは違い、今度は降下しながらの攻撃だ。
 自身の重量によって加速したゴッドタイタスがビギニングガンダムBを落とす。

「アオイ!」

 ゴッドタイタスは地上に激突し、岩を粉砕する。
 ビギニングガンダムBのハイパービームライフルでも殆ど損傷しなかった、岩の強度を考えると、一撃で岩を粉砕したゴッドタイタスの一撃が如何に凄まじかったか分かるだろう。
 砂煙が起こり、誰もがゴウキの勝利を予測しているだろう。

(いや……まだだ)

 砂煙からビギニングガンダムBが飛び出して来る。
 完全に回避しきれなかったのか、ビギニングガンダムBは左腕と右足を失い、至るところが壊れている。
 何とか、距離を保とうとするが、ビギニングガンダムBはバランスを崩して地上に落ちて岩にぶつかって止まる。

「運の良い奴だ」
(これが運に思えるならお前はその程度だよ)

 一見、運が良かったように見えるが、マシロには見えていた。
 ゴッドタイタスの一撃で周囲に吹き飛んだ岩をビギニングガンダムはライフルなど、失えば一気に勝算の落ちる部分への直撃を避けていた。
 アオイ自身、運が良かったと思っている為、殆ど無意識で行っていた。

「だが、次で終わりだ!」
 
 ゴッドタイタスは腕からリング状のビームを形成すると、ビギニングガンダムBに突撃する。

「ゴッドラリアット!」
「まだ!」

 ビギニングガンダムBはビームバルカンで応戦するが、ゴッドタイタスは片腕で防ぐ。

「僕は……また負けるの……カガミ君に再戦をする事も出来ないまま……そんなのは、嫌だ!」

 ゴッドタイタスの渾身の一撃はビギニングガンダムBを捕えるかのように思えた。
 しかし、ビギニングガンダムBは直前のところで回避し、ゴッドタイタスのゴッドラリアットは岩を粉砕しただけだった。

「かわしやがった!」
(目覚めた……やっぱ、アイツはこちら側の人間だよ)
 
 観客はビギニングガンダムBが攻撃を回避した事に驚いているが、マシロは笑みを浮かべていた。
 攻撃を回避したビギニングガンダムBは片足を失いながらも何とかバランスを保っていた。

「死にぞこないが!」

 ゴッドタイタスのラッシュをビギニングガンダムBはとても片足を失っているとは思えない動きで回避する。

「アオイの奴……どうなってやがる」
「種割れ」
「マシロさん?」

 マシロはポツリを呟いたが、エリカは何かを呟いたと言う事は辛うじて聞き取れた。

「いえ……彼は恐らくゾーンと呼ばれる現象に入ったのでしょう」
「ゾーン?」
「心理学用語で極限まで集中する事で発揮される精神状態の事です」

 レイコがすぐにフォローを入れる。
 とっさにフォローを入れた為、確実にそう言えるかは分からないが、そう仮定した。
 主にスポーツ選手に起こり得る現象だが、ガンプラバトルもまたスポーツに分類する事も出来なくはない。
 敗北が迫り、アオイが勝利を心の底から望み極限まで勝つ為に集中した事による物だろう。
 
「一体何なんだ! お前は!」

 幾ら連続攻撃を行っても、ビギニングガンダムBには当たらない事で、ゴウキも焦りが生じていた。
 焦れば焦る程、攻撃は大雑把となり、隙が生まれる。
 ゴッドタイタスの右ストレートに対して、ビギニングガンダムBは攻撃を最低限の動きで回避すると、ゴッドタイタスの懐に入り込む。
 そして、ハイパービームライフルをゴッドタイタスの腹部に押し付けた。

「アオイ! 特訓の成果! 見せてやれ!」

 タクトが叫び、零距離でハイパービームライフルが放たれる。
 この3日間でアオイは近接戦闘の練習を行い、その中で身に着けた技術がこれだ。
 相手の攻撃を掻い潜って零距離での攻撃。
 練習では思い切りが悪く、中々成功しなかったが、ゾーンに入り極限まで集中している今のアオイなら、攻撃を掻い潜っての攻撃は造作もなかった。
 流石に零距離でハイパービームライフルを受けたゴッドタイタスは胴体を撃ち抜かれて破壊された。

「マジかよ……アオイの奴! 勝ちやがった!」
「いつの間にあんなことを練習してたんだよ」

 優勝候補のゴウキが敗北した事で会場はシーンと静まり返っていた。
 
「僕……勝ったんですか?」

 ゾーンに入り、軽く意識が飛んでいたアオイは自分が勝ったと言う実感がなかった。
 しばらくすると、観客が歓声を上げた。

「勝ったんだよ! アオイ!」
「大したものだよ!」

 茫然としているアオイにタクトとエリカが駆け寄る。

「これで……カガミ君と……」

 実感が湧いたが、アオイはガクりと倒れそうになり、エリカとタクトが支えた。
 ゾーンに入った事でアオイの体力も限界に近かった。

「それでは~決勝戦は1時間後で~す!」

 エリカとタクトに肩を貸されてアオイはステージから降りて来る。
 決勝戦は1時間後である為、それまでアオイを休ませる必要があった。
 エリカとタクトはアオイを近くのベンチに座らせた。

(マシロ。今のバトルどう思う?)
(別に。少しはマシな奴が出て来たってところ)

 バトルの様子は当然、レイコも見ていた。
 アオイがゾーンに入った事でレイコには少なからず動揺が見えていた。
 アオイのバトルが少しおかしいと言う事はレイコもデータ解析から思っていた事だ。
 だから、アオイの相手を操作もさせた。
 その結果が予想外の事態となった。
 一方のマシロの方は大して動揺をする事は無かった。
 マシロからすれば、ゾーンに入った事は大して重要ではない。
 どの道、自分とバトルすればゾーンに入れようが関係はない。
 マシロはただ、自分が勝つと信じて疑ってはいなかった。



[39576] Battle17 「再戦」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/24 00:10
 ショップ大会準決勝戦が終了し、決勝戦の組み合わせが決定した。
 アオイもレッカもこの地区では全くの無名である為、観客たちもざわついている。
 特に地区でも上位のゴウキの敗北は誰もが予測していなかった事態だ。
 ゴウキに勝利したアオイはバトル中にゾーンに入った事により、疲弊しエリカとタクトに近くのベンチに運ばれた。

「それにしても凄かったな」
「いつの間にあんなことが出来るようになったんだよ」

 アオイをベンチに座らせて、二人は矢継ぎ早に質問した。
 座って一息ついたアオイは次第にバトルの時の事を思い出して来た。

「僕にも良く……ただ、カガミ君ともう一度バトルする為に負けられないと思って、後は無我夢中で……」
「火事場の馬鹿力って奴?」
「そうだろう……でも、頭の中がクリアになって相手のガンプラの動きがゆっくりになって……」

 次第に思い出すも、意識が朦朧となっていた事のあって、アオイは明確にバトルの事を思い出す事が出来ない。

「まるでバーサーカーのようですね」

 そこに、自販機でスポーツドリンクを買って来たマシロが割って入る。

「どうぞ」
「済みません」

 アオイはマシロからスポーツドリンクを受け取って飲み始める。

「普段は大人しいのに戦いの時になると鬼神の如く戦う。北欧神話とかに出て来る奴か?」
「ええ。まさに僕はそう感じました。尤も、からくりを解き明かすと神話と言った偶像ではなく、科学的に証明されている事実ではあるんですけどね」

 マシロはアオイにもバトル中に二人に説明した事を掻い摘んで説明した。
 
「ゾーン……僕がそんな事を……」
「ええ。僕の兄の中にプロのスポーツ選手が何人かいます。その兄達もゾーンに入る事が可能で、その時の様子があの時の君に良く似ている」

 アオイは半信半疑だったが、マシロが事例を付けて太鼓判を押すと現実味が出て来る。
 実際にマシロの兄、クロガミ一族の本家の中にはプロのスポーツ選手として活躍している人が何人か存在している。
 アオイ達も少なからず知っている程の選手だ。
 その弟であるマシロが見た事があると言えば、根拠としては十分だ。
 尤も、マシロ自身は他の兄弟とは必要以上に関わりを持っていない為、本当にゾーンに入れるかなど、知る訳もない。

「つまり、君は特別な才能を持っていると言う事ですね」
「やっぱ、アオイは凄い才能を持ってるって事だな。俺の目に狂いはなかった!」
「馬鹿言え、アオイの才能に目を付けたのはアタシの方が先だね」

 クロガミ一族の本家であるマシロに才能を保障されて、エリカとタクトは喜んでいるようだったが、一方のアオイは浮かない表情だった。

「そんな事はありませんよ。僕は皆と何も変わらない……ただの高校生ですよ」
(何だ。この反応)

 マシロはアオイの反応に違和感を感じていた。
 自分に何かしらの才能があればそれが、人殺しや犯罪と言った非社会的な才能では無く、自分が好きな分野での才能であれば喜ぶのが自然だ。
 だが、アオイは自分の才能を否定した。
 これが、単に謙虚から来る物かも知れないが、マシロはそうは思えなかった。
 そこに理屈はない。
 ただ、直感的にそう感じた。

「そんな事よりも、ガンプラの修理の方を急いでも良いですか?」
「ああ、アタシ等も手伝うぞ」
「お願いします」

 アオイがこれ以上、この話題を避けたいのは話題を変える。
 だが、決勝戦までは一時間しか残されていない。
 座ってある程度の体力が回復したら、ガンプラの修理をしなければ決勝戦では不利となる。
 アオイはまだ万全とは言えない為、エリカとタクトはアオイのビギニングガンダムBの修理を行う為に、工作スペースに向かう。
 マシロはそんな3人を見送った。
 3人とも、マシロがファイターである事は知らない為、ついて来ない事は気にする事は無かった。
 ここでついて行っても役に立たないと思われても、拒絶はされない為、ついて行ってビギニングガンダムBの情報を得る事は出来る。
 しかし、2人のように純粋な善意から修理の手伝いを行うならともかく、情報を得るの下心を持って修理を手伝うと言う事はマシロのファイターとしての矜持に反する行いだ。
 あくまでも情報はバトルの中で得なければならないからだ。
 

 





 準決勝から一時間が経過し、決勝の始まる時間となった。
 準決勝を軽く勝利したレッカの方はガンプラを修理する必要もなく、最低限の調整で余裕を持って決勝戦に臨んでいる。
 一方のアオイの方は、準決勝でも何とか勝利した事もあって、ガンプラの修理に時間を要した。
 その上で、アオイのコンディションも万全とは言えない。

「君がここまでやれるようになるなんてな。正直、想像していなかった」
「僕もです。でも、シシドウさんやキサラギ君のお陰でここまで来る事が出来ました。だから……僕は君に勝ちます」
「勝つのは俺だ」

 二人はGPベースをセットしてバトルシステムにガンプラを置く。

「ビギニングガンダムR……カガミ・レッカ。出る」
「ビギニングガンダムB……タチバナ・アオイ。行きます!」

 バトルシステムが起動し、バトルが開始される。
 決勝戦のバトルフィールドは月面だ。
 地上とりも動きが軽く、宇宙空間よりは動きが重くなる事が特徴で重力を振り切れば宇宙でのバトルも可能だ。
 どちらのガンプラも前回のバトルと同じ装備でのバトルとなる。

「まずは!」

 射撃武器を持っているビギニングガンダムBがハイパービームライフルで先制攻撃を行う。

「腕を上げたか。だが、避けられない攻撃ではない!」

 ビギニングガンダムRはバーニングソードRを両手に持って、ビームを回避しながら突っ込んで来る。
 前回よりも、アオイの射撃精度は向上し、以前のように容易に接近する事は出来ないが、それでもビギニングガンダムRは接近しようとする。
 ビギニングガンダムRはビームバルカンで牽制の攻撃を加えて、接近しようとして来る。
 ビギニングガンダムBはシールドを掲げつつも、ハイパービームライフルを連射しながら、距離を取る為に後退する。

「良し……それで良い」
「ああ。接近戦ではアオイが不利だからな」

 決勝戦を観戦していたエリカとタクトも手に汗を握りながらも、バトルを観戦している。
 いつの間にか、二人と合流していたマシロは冷静にバトルを観察している。

(射撃精度が最高時程じゃないな……)

 アオイは確かに実力をつけて、特に射撃の精度は非常に高い。
 それでも、今までのバトルの中で最も良かった精度には届いていない。
 
(アレはまぐれか……それとも別の要因があるのか?)
 
 そう思いつつも、バトルが大きく動いて来た。
 アオイの射撃に慣れて来たレッカは最低限の動きでビギニングガンダムBの射撃を回避できるようになって来た。
 それにより、次第にビギニングガンダムBとの距離を詰めていく。

「逃げ切れない……なら!」

 このままでは追いつかれる事が時間の問題だと判断したアオイは距離を取る為に後退するのではなく、前に出た。
 流石に、射撃主体のバトルをして来たアオイが急に前に出た事はレッカにとっても予想外の行動で反応が少し遅れてしまう。
 その隙にビギニングガンダムBはシールドでビギニングガンダムRに体当たりを行う。

「よっしゃ! 練習通りだ!」

 タクトは練習通りに上手く行って声を上げて喜んだ。
 3日間での練習で行って来た事はゼロ距離攻撃だけではない。
 後退しているように見せかけてからの急接近のその一つだ。
 2機のビギニングガンダムは月面に倒れ込む。

「やられたな。まさか、前に出るなんてな」
「僕も成長しているんです」
「そのようだな。だが、接近戦ではこっちが有利だ」

 ビギニングガンダムRはバーニングソードRを構えて、一気に距離を詰める。
 すでにビギニングガンダムRがすぐに詰められる程の距離だった為、ビギニングガンダムRはバーニングソードRを振るう。
 ビギニングガンダムBはシールドで受け流して、ハイパービームライフルで反撃する。
 
「やっぱつえーな。カガミの奴」
「だが、アオイも負けてない」

 ビギニングガンダムRが近接戦闘を仕掛けて、ビギニングガンダムBが防いでハイパービームライフルで反撃する。
 これの繰り返しが数分も続いた。
 
「どっちも決定打に欠けると言ったところですね」
「また、ゾーンに入る事が出来れば……なぁ、クロガミさん。簡単にゾーンに入る方法はないんすか?」
「簡単に入れては苦労はありません」

 マシロはタクトの問いを一刀両断する。
 マシロの言う通り、簡単に入れてしまえば苦労は無く、才能も必要はない。
 マシロの正論にタクトは黙り込んでバトルを見る。

(ゾーンに入る為にはキサラギ・タクトは役不足って事もないけどな……一度、入ってしまえばある程度は入り易くなるんだがな)

 準決勝で対戦カードを操作したのは他の3人の中で最も強いファイターをアオイにぶつけたかったからだ。
 その結果、アオイはゾーンに入ると言う覚醒を果たした。
 それよりも劣るとは言っても、ここまで互角に戦えば、その兆しを見せても良い。

(あれは偶然だったのか? それも……)

 マシロが考えている間に更にバトルが動いた。
 ビギニングガンダムBの放ったビームがビギニングガンダムRの左肩を撃ち抜いて、ビギニングガンダムRの左腕が肩から吹き飛ぶ。
 
「良し!」

 だが、ビギニングガンダムRもやられながらもビームバルカンを至近距離から撃ち込み、何度も攻撃を防いでいたビギニングガンダムBのシールドを破壊する。
 更に、右手のバーニングソードRを振るい、ビギニングガンダムBのハイパービームライフルを破壊する。
 そして、2機は距離を取って対峙する。

「不味いな……」
「相手の片腕を破壊したけど、ライフルが……」

 状況を見れば、ビギニングガンダムRが片腕を失って不利にも見えるが、ビギニングガンダムBはシールドとライフルを失っている。
 特にハイパービームライフルはビギニングガンダムBにとってのバトルの要だ。
 それを失ってしまうと一気に戦力が低下すると言っても良い。
 ビギニングガンダムBはバックパックのビームサーベルを抜いて構える。

「次の一撃で勝負が決まる」

 マシロがポツリと零した言葉はエリカもタクトも聞こえてはいなかった。
 どちらも、アオイとレッカの次の行動に集中しているからだ。

「ここまでやられたのは予想外だったが、勝つのは俺だ!」
「カガミ君に勝つ為に、練習に付き合ってくれた二人の為にも僕は負けません!」

 ビギニングガンダムRも片腕でバーニングソードRを構える。
 2機のビギニングガンダムは互いの剣を構えて睨みあう。
 そして、2機は同時に飛び出した。
 ビギニングガンダムRがバーニングソードRを振り落す。
 それを、ビギニングガンダムBがビームサーベルを持っていない左腕で受け止める。
 ビギニングガンダムBの左腕はすぐには切り裂かれずに、バーニングソードRを受け止めて、ビギニングガンダムBはビームサーベルを突き出す。

「やったか!」
「まだだ!」

 その突きを無理やりに胴体をくねらせて、ビギニングガンダムRはかわして、ビームサーベルはビギニングガンダムRの脇腹を掠った。
 その後、バーニングソードRはビギニングガンダムBの左腕を切断するが、攻撃をかわす為に動いていた為、胴体までは切り裂けなかった。
 2機はそのまま、剣を振るった。
 ビギニングガンダムRの一閃はビギニングガンダムBの頭部を切り落とし、ビギニングガンダムBの一閃は少し遅れてビギニングガンダムRの右腕を切り裂いた。

「ちぃ!」
「行け! アオイ!」

 ビギニングガンダムRはビームバルカンで攻撃し、ビギニングガンダムBはビームバルカンの直撃を受けて、ボロボロになりながらもエリカとタクトの声援に応えるかのように、最後の力を振り絞ってビームサーベルを振るった。
 その一撃はビギニングガンダムRの胴体に突き刺さり、同時にビギニングガンダムBの右腕も破壊された。
 ビームサーベルが突き刺さった事で、ビギニングガンダムRは後ろに倒れ込んだ。

「アオイの奴……」
「ああ……」

 最後の攻防は時間にして僅か数秒の出来事だった。
 ビギニングガンダムRが倒れた事で勝敗は決した。
 勝負がついても、会場はシンと静まり返っていたが、やがて大きな歓声が沸きあがった。

「結局、最後の方は軽くゾーンに入った程度か」

 湧き上がる歓声の中、マシロだけは歓声を上げる事は無かった。
 最後の数秒の攻防で、アオイはゾーンに軽く入っていたが、完全に入る事は無かった。
 ガンプラショップ「ホワイトファング」のショップ大会はこうして、アオイの優勝で幕を下ろした。





 優勝者が決まった事で賞品の授与と閉会式が特設ステージで行われている。
 ステージには優勝者のアオイと司会のイチカが上がっている。

「それでは~優勝者のタチバナ君、一言どうぞ~」

 イチカにマイクを向けられて、アオイは少し戸惑い、照れて視界を泳がしている。
 すると、視界の端にエリカとタクトが見えて少しは落ち着きを取り戻す。

「えっと……優勝出来たのは僕一人の力ではなくて……一緒に練習を付き合ってくれた友達のお陰です……ありがとうございました」

 アオイは少しゆっくりだが、エリカとタクトへの感謝の言葉を述べた。
 アオイがここまで戦う事が出来たのは二人の支えがあったからだ。
 そう思ったからこそ、この場で二人への感謝の気持ちを口にした。

「ありがとうございま~す。では、優勝者への賞品の授与に入りま~す」

 イチカがそう言うと、マシロが小さい箱を手にステージに上がる。

「優勝おめでとう。ありがとうございます」

 マシロは少し笑みを浮かべながら、アオイに賞品を渡す。
 アオイも賞品を受け取り、エリカとタクトの方に見せる。
 そして、閉会式は滞りなく進み、大会は終了した。
 大会が終了し、大会の為に設営された特設ステージが解体される頃には、観客も帰っている。
 マシロは応接室のソファーに座り込む。

「はぁ……やっと終わった」
「お疲れさまです~」

 マシロはエリカたちといる間は、好青年でいた為、ストレスがかなり溜まっている様子だった。
 イチカは頼まれる前に牛乳の入ったグラスをテーブルに置いた。
 マシロはその牛乳を一気に飲み干した。

「どうでした~」
「予想以上の収穫だった。特にタチバナ・アオイ。アイツは俺と同じこちら側の人間だよ」

 始めは大して乗り気ではなかったが、終わってみれば、思っていた以上の収穫を得る事が出来た。
 アオイは思っていた以上に才能を開花させた。
 それを確かめる事が出来ただけでも収穫としては十分だ。

「以外でしたよね~あの子が優勝したのは~」
「まぁな。まだ、俺達の域に達してはいないが、アレはそこまで来るだけの才能を感じたよ。問題は本人の気持ちの方か……」

 アオイの中から才能をマシロは感じた。
 しかし、少し話して見てアオイは自分の才能に否定的な感じだった。
 その理由は分からないが、このままでは才能はこれ以上開花しないかも知れない。

「ご執心ですね~」
「興味以上の対象にはなったかな」

 そう言うマシロの目はまるで獲物を見つけた獣の様だ。
 今回の世界大会の地区予選には大した実力者もいない為、退屈だと思っていたが、少しは楽しめそうな相手を見つけた。
 これからどう転ぶかは分からないが、退屈はしないで済みそうではあった。
 地区予選が始まるまでにはまだ、期間が開くため、マシロはそれまでの退屈凌ぎとして、アオイに狙いを定めた。



[39576] Battle18 「エリカの条件」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/30 23:20
 ホワイトファングのショップ大会がアオイの優勝で幕を閉じ、アオイ達の春休みは何事も無く、終わりを迎えて2年生に進級しての新学年が始まった。
 幸いな事にアオイは今年も、エリカやタクトと同じクラスとなった。
 その上、以外な事実として、レッカも同じ学校であると言う事がクラス替えの掲示で判明した。
 今まで、面識はおろか、見覚えもなかったのは春休みの内に静岡に親の仕事の都合で引っ越して来たからで、今年からアオイ達と同じ高校に転校してきたかららしい。
 新学年が始り、アオイの生活は以前の物とは異なって来た。
 以前は友達と呼べる相手がいなかった為、高校は勉強をする場所でしかなかった。
 しかし、春休みの出来事でエリカやタクトと出会い、三人で行動する事も珍しくはない。
 そして、放課後になればホワイトファングでバトルをする日々が続いていた。

「今日はこの前の大会の賞品を装備させてみました」

 アオイはエリカとの練習にショップ大会の優勝賞品である装備「スノーホワイト」が装備されている。
 そのーホワイトはマシロが制作した装備で大型のビームライフルだ。
 従来のビームライフルよりも高出力で、二門の銃口が特徴的だ。

「へぇ……」

 アオイと対峙するエリカもスノーホワイトに興味深々だった。

「じゃあ撃って来いよ」
「はい。行きます」

 いつもなら、バトル開始と同時に敵に切り込んでいくエリカだが、スノーホワイトの威力を確かめる為に、対艦刀を構えているだけだ。
 そして、ビギニングガンダムBはスノーホワイトを構える。
 エリカのアサルトルージュに狙いを付けて、スノーホワイトを放つが、ビームはアサルトルージュから大きくそれた。

「なんつー威力だ」

 攻撃こそは外れたが、その威力は絶大だった。
 だが、その反動でビギニングガンダムBは後方に倒れ込んでいた。
 攻撃が大きく外れたのは発射時の衝撃に耐えきれなかったからだ。
 スノーホワイトの威力を確かめた事でバトルを中断して、アオイ達はバトルシステムを離れた。

「にしても凄かったよな」
「直撃コースじゃなくても、対峙する側からすればあれだけのビームはプレッシャーになるな」

 バトルシステムを離れて、ベンチに座ってアオイとエリカ、タクトはさっきのバトルを振り返る。
 外れこそしたが、スノーホワイトのビームはライフルが大型と言う事を考えても、凄まじかった。
 レイコはマシロに制作する際に見た目重視で性能は二の次で、寧ろ性能は低い方が好ましいと言っていたが、マシロは気にしてはいなかった。
 元々、スノーホワイトはマシロのガンダム∀GE-1の砲戦用の装備であるフルアサルトジャケット用の装備として制作していた物を使っている。
 ベースがウイングガンダムゼロのツインバスターライフルを使っている為、高出力なのは当然の事だった。
 わざわざ、性能を落とすと言う事はしなかったのはマシロ自身がビルダーでもあると言う事だ。
 ファイター程の飛び抜けた実力がある訳ではないが、マシロのビルダーとしての実力は世界に通用するだけの技術は持っている。
 そして、勝敗に拘るのと同じように、意図的に弱い装備を制作すると言う気は無かった。
 仮に優勝者がスノーホワイトを手に入れたとしても、マシロは勝つ自信があると言う自信の表れでもあった。

「でも、外しちゃいましたけどね」
「だよな」

 威力こそは凄まじかったが、目標から大きく逸れていた。
 今回は、威力を見る為でエリカも大きな動きは取っていないが、実戦となると相手も避けようとしたり、攻撃をして妨害もして来るだろう。
 そんな状況で正確に射撃する事は今の状態では困難だ。

「地区予選までには何とか出来れば良いんですけど……」
「難しいな」
「この辺りの地区予選は今月の終わりからだからな」

 世界大会の地区予選の開催は地区によって異なる。
 大会の参加枠は100程度しかない為、その椅子を巡って参加枠の少ない国によっては万単位の中から一人が選ばれる程だ。
 静岡の日本第一ブロックの開催は4月の終盤から5月の中旬にかけて行われる。
 日本の地区予選では一番早く開催される。
 それまでにスノーホワイトを使いこなせればいいが、実際問題としては残りの時間を考えると難しいと言わざる負えない。

「あの……ガンプラの方を改造しては如何でしょうか?」
「ミズキさん!」

 3人が話していると遠慮がちにミズキが声をかけて来る。

「見てたんですけど、ライフルの威力にガンプラの踏ん張りが負けてたんですよ。タチバナさんのガンプラは塗装が主で大幅な改造をしていないので、多少の改造でガンプラの性能が上がると言う事も珍しくないですから」

 珍しく、ミズキは饒舌に話しをする。
 ホワイトファングでバイトをしているだけあって、ミズキはガンプラに関する知識はあるのだろう。
 実際、アオイのビギニングガンダムBは部分的に塗装をしているだけで、大幅な改造はされていない。
 さっきのバトルでも、スノーホワイトの威力による反動を支えきれなかった。
 そこを改善すれば、安定した射撃が行える。

「改造ですか……やってみたい気もするんですが、失敗した時が怖いですからね」
「だよなぁ……」

 アオイの言葉にエリカもタクトも力強く頷く。
 これは、ビルダーならば誰もが通る道だ。
 ガンプラを改造する事自体は程度にもよるが、やり方さえ分かっていれば難しい事ではない。
 だが、その際に失敗すると言うリスクが付いて回る。
 改造の時に失敗してしまえば、最悪、直せなくなる危険性がある。
 ある程度の技術があれば、そうなった時の対処法も身に付くが、そこまで辿りつく事が出来なければ意味がない。
 そんな危険性がある事もあって、世界大会ですらも、大幅な改造をしないで基本的な部分をきっちりとやって、自分好みの塗装をしただけのガンプラで出場するファイターもいる程だ。
 エリカとタクトも手先が器用な方ではない為、ガンプラを大きく改造すると言う事はしていない。
 アオイの方は不器用と言う程ではない上に、一人でいる事が多かった事もあって、制作知識やある程度の技術はあるが、ビギニングガンダムBを改造すると言う所までは踏ん切りがつかない。

「そうですか。済みません。出過ぎた真似を……」
「いえ、こちらこそ……せっかくの好意なのに、済みません」

 余り自己主張をしない者同士が頭を下げると、空気が重くなる。

「やぁ、エリカさん。奇遇ですね」

 そんな空気を爽やか好青年モードのマシロがぶち壊す。
 表向きは店の様子を視察に来て、偶然にもエリカと出会ったと言う事になっているが、実際のところはエリカ達が店に来た事をイチカから報告を受けて来ている。
 マシロの登場で、相変わらずの速度でミズキはタクトの後ろに隠れるが、一方のマシロはミズキの事を全く気にした様子はない。

「そう……ですね」
「余り言葉使いを気にする必要はありませんよ。僕はありのままのエリスさんを見たい。それに活動的な女性の方が好ましい」
「だってよ」
「うっせ」

 茶化すタクトにエリカが軽くひじ打ちを入れる。

「ところで、エリカさん。今度の日曜、デートしましょう」

 相変わらずの脈拍もない、誘いにすでにパーティーで同じようにプロポーズをされているエリカは特に驚く事は無かったが、その辺りの事を詳しく聞いていないアオイとタクトは目を点にして言葉もなかった。















 そして、デートの当日、マシロは待ち合わせの場所に1時間程早く到着していた。
 マシロは時間ギリギリで構わないと言ったが、レイコの指示で1時間も早く待ち合わせ場所に向かわされた。
 1時間もあれば、CPU操作の相手と何度もバトルが行える為、マシロは難色を示したが、デートに際して待ち合わせよりも早く到着して待つのは当然の事だと言われて渋々、それに従った。
 相変わらずの白いスーツを着用の元、マシロは仕方が無く実際のバトルではなく、頭の中でイメージをしながらエリカを待っていた。
 待ち合わせの時間まで後、30分と言う頃にエリカも待ち合わせの場所に現れた。

「アタシの方が早く来たと思ったんだけどな……」
「いえ。僕も今来たところですよ」

 マシロは事前にエリカが来た時に言えと言われていたので、実際には30分も待っていたがそう返した。
 
「それにしてもお似合いですよ」

 そして、もう一つ事前に言われていた事を言う。
 会ってすぐに、取りあえず服装を褒めろと言われていた。
 
「つか、良い歳した男が女子高生を連れているのは不味くね?」

 エリカの今日の服装は高校の制服だった。
 マシロはデートと言っていた為、余り気合の入った服装で来れば、まるでデートを楽しみにしていたようで癪と言う事もあって、無難な制服を着て来た。
 それと同時に、日頃の意趣返しも含めて制服を選んでもいた。
 成人男性が明らかに未成年、それも制服の女子高生を日曜の昼間から連れて歩けば否応にも目立つ。
 そうなれば、社会的な地位を持つマシロは都合が悪いと踏んでの事だ。
 それで警察沙汰になっても、クロガミ一族の当主の弟と言う立場や、大事になる前に庇えばそれ程の事にはならないだろう。
 待ち合わせの時間に30分も早く到着したのも、デートに誘っておきながら、女性を待たせると言う失態をさせると言う軽い嫌がらせのような物だった。

「ご心配なく。僕とエリカさんは同い年です」

 マシロは動じる事なく、答える。
 今回もレイコのバックアップがあるが、この程度ならレイコの指示が無しでも問題は無かった。

「マジで!」
「マジです」

 マシロの年齢を知らなかった、エリカは驚きマシロは笑顔で肯定する。
 エリカが制服を着ていようともマシロとエリスが同い年であるなら、何も問題は無かった。

「では、少し早いですけど、行きましょう」

 出先を挫かれたエリカに、レイコからの指示でさり気なくエスコートをしながら目的の場所に向かう。

「けど、良くチケットが取れたな」
「ありすの所属事務所はクロガミグループ系列ですからね」

 マシロがデートの場所に選んだのは妹系アイドルのありすのライブだった。
 余りアイドルと言った方面に知識がないエリカも知っていた。
 ありすの所属事務所はマシロの言うようにクロガミグループ系列である為、マシロの立場を使えばライブのチケットを二人分、用意する事はさほど難しくは無い。
 尤も、このライブ自体、レイコがありすの事務所に圧力をかけて、急遽開催される事となった物だと言う事はエリカは知らない。
 
「しっかし、人が増えて来たな」
「ですね。車を用意しておいた方が良かったですね」

 会場に近づくにつれて、人の数が増えて来ていた。
 ライブは急だったのにも関わらず、チケットは即日完売である辺りはありすの人気が伺える。
 マシロは人が増えて来た事で、エリカの手を握った。

「これではぐれませんね」
「……ああ」

 その気になれば、マシロ達はこの人だかりを避けて会場に向かう事も出来ただろう。
 そうしなかったのはレイコの策だ。
 はぐれないようにと言う名目ならば、自然にマシロがエリカの手を握る口実が出来る。
 普段から異性に手を握られる経験のないエリカに対して、この手段は非常に有効的な策と言えた。
 マシロに手を握られて、エリカは照れもあって大人しくなっている。
 そうこうしている間に、マシロはエリカを連れて会場に到着するが、マシロは正面からではなく、会場の裏の方に回る。
 会場の裏手にも当然の事ながら、警備員がいるが、警備員はマシロを見ると敬礼して裏口から二人を通した。

「どうなってんの?」
「警備の方もうちの系列ですからね」

 さもあたり前のように言われ、もはやエリカも深く突っ込む事を止めた。
 
「ここが楽屋です」
「は?」

 会場の中を進むとマシロがある部屋の前に止まる。
 エリカの理解が追いつく前に、マシロは扉を開けた。

「お兄ちゃん!」

 開けると、中から少女が飛び出す。

「もぅ。来るときは連絡してよね!」
「ごめん、ごめん」

 飛び出して来た少女は、マシロに抱き着いてそう言う。
 その少女の事はエリカも見た事があった。
 その少女こそが、今日のライブの主役であるありすだ。
 テレビで何度も見た事のあるふりふりの付いた衣装を身にまとった人気アイドルが目の前でマシロに抱き着いている。
 次々と起こり、エリカは完全に混乱していた。

「立ち話もなんですから、中に入りましょう」
「うん! そうしてよ!」

  ありすに手を引かれてエリカは楽屋の中に入って、進められるままに座る。

「エリカさん?」
「いや……てか、お兄ちゃん?」

 エリカは座って一息ついたところで、ようやく現実を受け入れつつあった。

「紹介します。妹のありすです。ちなみにありすと言うのは芸名でして、本名はクロガミ……」
「駄目だよ。お兄ちゃん。ありすはありすだよ!」
「ああ、そうだったね」

 マシロはエリカにありすの事を紹介する。
 一般的に公表されていない事だったが、ありすもまたクロガミ一族の本家でマシロの妹に当たる。
 
「もう……なんでもありだな」
「ええ、うちは大抵の事はありですよ」

 エリカの投槍の言葉をあっさりと肯定するが、今更疑う余地もない。

「それで、お兄ちゃん。この人が?」
「そうだよ。いずれありすのお姉さんになるエリカさん」
「いや……まだそんな事は……」
「やったぁ! 私、エリカさんみたいなお姉ちゃんが欲しかったんだ!」

 エリカの言葉を遮るように、ありすがエリカに飛びつく。
 そして、エリカの事を上目使いで見つめる。

「他のお姉ちゃん達は冷たいの。いっつもありすと遊んでくれないんだもん」
「姉さん達も忙しんだよ」

 エリカにそう言うありすをマシロが窘める。
 耳につけられたイヤホンからは、ありすの言う冷たい姉の一人であるレイコがぶつぶつと言っているが、状況的に無視しても問題は無いだろう。

「ありす。エリカさんが困っているだろう」
「えー!」
「アタシは別に……アタシは一人っ子だから妹とか少し憧れているし」
「ほんと! エリカお姉ちゃん大好き!」

 エリカは一人っ子である為、兄弟に対して憧れのような物を持っているらしい。
 今は何人かの兄や姉のいるマシロからすれば、一部の兄弟はかなり煩わしい存在でもある為、その辺りは理解出来ない。

「そろそろ、時間だろ?」
「ぶー」

 話している間に時間は経過し、後、20分程でライブの開始となる。
 余り、ここで長話をしていたら、時間に間に合わなくなる。 
 頬を膨らませて、あからさまに不満と見せているありすをエリカから引っぺがそうとするが、ありすは中々離れようとはしない。
 
「マシロの言う通りだ。ここにはありすのファンが大勢来てるんだ。時間は守らないとな」
「お姉ちゃんがそう言うなら……」

 エリカに諭されて、渋々ありすはエリカから離れる。

「僕達は客席から見てるから」
「うん! 今日は楽しんで行ってね!」

 ありすに見送られて、マシロとエリカは客席の方に向かった。







 ありすのライブは大盛況で終わった。
 ライブが終わるとすでに日が落ちて辺りは暗くなっている。

「余りアタシはこういうのは良くわかんないけど、凄かったな」
「そうですね」

 エリカはアイドルのライブは初めてだったが、ありすのファンの熱気を肌で感じていた。
 その熱気に当てられたのは、少し興奮気味だったが、マシロの方はいつも通りの笑顔を張り付けていた。
 マシロからすれば、多くのファンを世界中に持つありすの歌も街中の騒音も大して変わらない。

「僕と結婚すれば、もれなくありすも義理の妹としてついてきますよ?」
「いやいや。流石にそれで受けるとか無いだろ」
「僕としてはそろそろ、良い返事を聞かせて貰いたいものですけどね」

 そう言うマシロはいつになく真剣だった。
 それを感じたエリカも真剣な表情になる。

「つってもな……」
「では、エリカさんの好みの男性をお聞きしたいですね?」
「そだな……取りあえず、強い方が良いな」

 エリカの答えに対してマシロは肩をすくめる。
 どう見ても、マシロは腕っぷしが良いようには見えない。

「それは不味いですね……」

 マシロは少し考え込む。
 根本的にエリカとの好みに自分は該当しない。
 マシロ的にはここで諦めて引くと言う事も出来る。
 元々ユキトはマシロにそこまでの期待は持っていない。
 駄目なら駄目で次の手を用意しているだろう。
 それこそ、ここで引いても次の日には全てが終わっていると言う事も考えられる。
 だが、それはそれで癪だった。
 ここでユキトに言われた事を見事にやり遂げる事が出来れば、ユキトの中でもマシロの評価も変わって来るだろう。
 ガンプラ以外の事を積極的にやる気はないが、ユキトに見直される事は少し魅力的な事でもあった。
 マシロは普段はガンプラ以外の事で殆ど使わない頭をフルに回転させて、打開策を考える。

「なら、僕の本気を見せましょう」
「本気?」
「ええ。確か、エリカさんは近々ガンプラバトルで少し大きな大会に出場されるのでしたよね?」
「まぁ……」

 マシロはそう切り返す。
 確かにエリカは今月末の世界大会の地区予選に出場予定だ。
 地区予選と言ってもPPSE社が主催している公式の世界大会だ、少し大きいと言うレベルではない。
 一般的なファイターからすれば世界大会に出場できるのは選ばれた一部のファイターのみで誰しもが憧れる夢の舞台である。
 しかし、本気で自分が最強だと確信しているマシロからすればその気になればいつでも出場が出来、いつでも優勝出来る大会と言う認識でしかない。
 
「では、その大会で僕が優勝したら僕と結婚してください。この国の法では僕は結婚できませんから、正式には婚約と言う形になりますけど」

 マシロはそう言い切る。
 エリカは呆気に取られてすぐには言葉が出なかった。
 世界大会に優勝すると言う事は名実共に世界最強のファイターとなると言う事だ。
 マシロの実力やファイターである事すら知らないエリカからすれば、後半月ほどで初心者から世界最強になると言っているようなものだ。
 幾らクロガミグループの力を総動員しても全うな方法では不可能だ。
 しかし、そう言うマシロの目は本気でやろうとしている目だ。

「……ああもう! アタシの負けだよ。良いぜ。約束してやる! マシロが世界大会で優勝すれば結婚でもなんでもしてやるよ!」

 エリカは半ば自棄になって叫ぶ。
 元々、女の子扱いされて悪い気はしていなかった。
 だからと言って、いきなり結婚云々と言われても困るが、流石にガンプラバトルで世界一に本当になってしまったとすれば、もう折れるしかない。

「けど、その代わりに優勝出来なければアタシの事はきっぱり諦める事。それが条件だ」
「構いません。そうでなければフェアではないですからね」

 マシロはあっさりとそう言うが圧倒的にマシロが不利である事はエリカも分かっている。
 地区予選はトーナメント戦である為、一度でも敗北すれば終わりだ。
 仮に地区予選を勝ち抜いて世界大会に出場しても、一度の敗北が命取りとなる。
 つまり、マシロは世界大会で優勝するまで、実質的に一度も負ける事が出来ないと言う事だ。
 
「……約束だからな」
「ええ。約束です。僕は絶対に優勝しますから覚悟していて下さいね」

 エリカは圧倒的に有利な条件である為、少し後ろめたかったが、このままズルズルと今の関係を続けるよりかはマシだった。
 マシロは自分が圧倒的に不利だとは気付いていないかのように、条件を受け入れた。
 
「では、今日はこれで。エリカさんを自宅までお送り出来ないのは残念ですが、僕も少しやる事が出来ましたからね」
「家は近いし、別に送らなくても良いって。多分、アタシの方が腕っぷしは強いし」
「確かに。ではお休みなさい」

 マシロはそう言って、タクシーを拾う。
 マシロの乗ったタクシーを見送りながらも、やはり、悪い事をしたと思いつつも帰宅した。







 ホテルに付いたマシロは自分の部屋に到着すると、ネクタイや背広を脱ぎ捨ててベットに倒れ込む。
 普段は使わない言動で、マシロは疲れ切っていた。
 マシロが戻った事を確認したレイコはマシロの許可を得る事なく、堂々とマシロの部屋に入って来る。

「お疲れ様」
「死ぬ」

 レイコはこうなる事を見越して、牛乳の入っているグラスをテーブルに置くとマシロはその牛乳を一気に飲み干した。

「生き返った」
「サチコからメールが来てたわ」

 牛乳を飲んで元気を取り戻したマシロだが、レイコの言葉で途端に機嫌が悪くなる。

「なんて?」
「キモっだってさ」

 サチコと言うのはマシロやレイコの妹で兄弟の末っ子の名だ。
 そして、そのサチコこそがマシロがさっきまでエリカとのデートで利用したありすの本名だ。
 尤も、ありすは本名のサチコがダサいと言って普段からありすで通し、本名のサチコで呼ばれると機嫌が悪くなる為、兄弟の中でも本人に対してはありすと呼んでいる。
 兄弟の中で、本人をサチコと呼ぶのはユキトとマシロ位である。

「お前もなって返しといて」
「嫌よ。自分で返しなさい。あの子と言い、アンタと言い私を中継しないで頂戴」
「嫌だね」

 マシロは即答で返す。
 エリカのいた時は仲の良い兄妹に見えたが、実際のところマシロとありすの仲が悪いのは兄弟の中では公然の事実だ。
 今日はユキトの指示でマシロが動いていると言う事やエリカが一族とは関係のない部外者だと言う事で、ありすも内心は嫌々だが、マシロを慕う妹を演じていた。

「てか、アンタは何でそこまでサチコの事を嫌うの?」
「あの言動が生理的に受け付けない。何? あのお兄ちゃん大好きオーラは」

 マシロはそう言って身震いをする。
 ありすは基本的に兄に対しては、エリカに見せた態度を取る。
 マシロにはそれを受け付ける事が出来ないらしい。

「ああいうのは。妹は二次元だからこそ許されるんだよ。リアル妹がああだと正直気持ち悪いね。妹ってのはもっとこう……普段は兄の事なんてゴミ屑を見るかのように冷たい視線を送っている物なんだよ。それでいて、いざって時に見せるデレにこそ真の妹としての価値がある! 具体的にはツンが8でデレが2と言う比率が好ましい」
「それ、アンタの性癖の問題よね。弟の性癖なんてデータは知りたくなかったわ」

 妹に対しての余りにも偏っている価値観に対して、本気で引いているレイコに対して、マシロは不満気な視線を向けている。

「俺のではない。ファイターのだ。ファイターってのはな。自分が強くなる為ならどんな苦行だって耐える事が出来る。それが強さに繋がるのであれば、苦行はやがて強くなる事に対する快楽に変わる。敢えて言おう、ファイターはドMであると!」
「知らないわよ」

 もやは、レイコは呆れて物も言えないが、マシロの一緒くたにされたファイター達には同情を禁じ得ない。

「そんな事よりも上手く事を運んだじゃない」
「シシドウ・エリカの事?」
「ええ。婚約の条件が世界大会の優勝なら決まったも同然よ」

 マシロがエリカとかわした条件は、マイクを通じてレイコの元にも届いていた。
 一見すると圧倒的にマシロの不利である、世界大会の優勝と言う条件も、レイコからすれば現状における最も成功率の高い条件だった。

「まぁね。これでこっちのフィールドに持ち込んだ」
「アンタの事だから、そこまで考えた訳ではないけど上出来ね」

 自分の得意分野に持ち込むと言う事は何をするにも基本的な事だが、マシロはそこまで考えていた訳ではないだろう。
 単にエリカの好みが強い人と言う事で、自分の強さを見せるにはガンプラバトルで世界大会はどの道、来年の為に優勝しておくつもりだったので丁度良かっただけだ。

「後は勝つだけね」
「それが一番簡単な事だよ」

 マシロにとっては世界大会で優勝するよりも、エリカを口説き落とす事の方が大変らしい。

「こっからは変に取り繕う必要もないよな」
「そうね。彼女の性格を考えると、一度交わした以上、こっちから条件を破らない限りは約束を破ると言う事はないわ」

 エリカの性格を考えると、マシロが実はずば抜けた実力を持ったファイターと言う事や今までのは全部が演技であったと言う事が明らかになったところで約束を反故にする事はない。
 ならば、もはやマシロが慣れない演技をする必要もなくなる。
 後は、いつも通りにガンプラバトルで勝ち続けるだけだ。
 
「レイコ。この地区のファイター全員の最新情報と戦術を用意しといて。戦術は最低でも1人当たり100は用意ね。地区予選までの間に全て頭に叩き込む」
「任せて」

 約束を取り付けた以上は、今までのように定期的にエリカと会う必要もない。
 そうなれば、地区大会までの時間の全てを勝つ為の準備に使う事が出来る。
 エリカの件でかなり、時間を割かねばいけなかった事もあり、その時間を取り戻すかのようにマシロは地区予選までの残り時間をひたすら勝利の為に費やすのだった。



[39576] Battle19 「地区予選開幕」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/05 00:13
 4月の後半に入り、静岡の日本第一地区の地区予選が開始された。
 日本の地区予選では第一地区が最も早く予選が開始される。
 その大きな理由は会場にあった。
 第一地区の予選会場は世界大会の開かれる人工島で行われる。
 人工島には世界大会で使用される5つのスタジアムがある。
 中央には決勝トーナメントや大規模なバトルを行うメインスタジアムにその四方には4つのサブスタジアムがある。
 第一地区の予選は4つのサブスタジアムに分かれて行われる。

「俺とアオイはDブロックで、シシドウはAか」
「カガミ君はBブロックみたい」

 会場に到着したアオイとエリカ、タクトは自分達のブロックを確認していた。
 それによれば、アオイとタクトはDブロック、エリカはAブロックでレッカはBブロックと言う事だ。

「アタシがアオイかタクトと当たるのは決勝戦になるって事か」
「その前に、ゲンドウさんもAブロックだぜ?」
「アンドウ先輩はCブロックですね」

 他の有力なファイターで地区でも上位に当たるゲンドウ・ゴウキはエリカと同じAブロックでアンドウ・コウスケはCブロックとなっていた。

「マシロの奴もAか……」
「なぁ、本気かよ? 流石に無理だと思うぜ?」

 Aブロックにはエリカとゴウキの他にマシロの名も表示されていた。
 あれからマシロにエリカからたまにメールを送っても返信もなければ、電話をかけても出る事も折り返しの連絡が来る事もない状態が続いていた。
 だが、地区予選にエントリーしている辺り、マシロも本気だと言う事になる。

「約束は約束だ」
「でも、もしかしたらって事も……」
「あり得ないって、地区予選だけでも、Aブロックにはエリカ以外にゲンドウさんがいるんだぜ?」
「そうなんですけど……」

 マシロの実力を知らない3人からすれば、初心者に毛の生えた程度の実力ではAブロックを勝ち抜く事さえも難しいだろう。

「じゃ、アタシは会場の方に行くわ。組み合わせはスタジアムの方で発表みたいだし。こっちの状況も後でメールで送る」
「頼む。こっちも後でメールしとく」
「頑張って下さい」
「お前らもな」

 各ブロックの組み合わせは各スタジアムで発表される。
 アオイとタクトは同じブロックである為、エリカは自分のブロックのバトルが行われるスタジアムに向かい、アオイとタクトも自分達のスタジアムへと向かった。





 自分達のブロックのスタジアムに向かい、そこで組み合わせが発表された。
 そして、アオイとタクトは指定されたバトルシステムに付いた。

「まさか、またいきなり当たるとはな」
「ですね……」

 アオイとタクトの初戦の相手はショップ大会と同じでアオイとタクトと言う組み合わせだった。
 それによって二人はいきなり対峙する事になっている。

「まぁ、これも運命だ。さっさと片方が予選落ちして相手を応援出来ると思えば良いってことだ」
「僕も負けるつもりはありませんよ」
「俺もだよ」

 二人はGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置いた。
 タクトのガンプラはフライルーをコアに様々な強化ユニットを装備したギャプランTR-5[ファイバー]だ。
 一方のアオイのガンプラはビギニングガンダムBだった。
 流石に半月でショップ大会の賞品であるスノーホワイトを扱える程のガンプラを制作するには時間が足りなさ過ぎた。
 時間の足りない状況で、突貫作業で制作したガンプラを使って出場するには、リスクが高すぎた。
 そんな事をするよりも、ビギニングガンダムBでもショップ大会は優勝している為、改造する事無く腕を磨いた方が確実であるとタクトたちと話し合った結果だ。

「ビギニングガンダムB。タチバナ・アオイ。行きます!」
「ファイバー。キサラギ・タクト。出るぞ!」

 今回のバトルフィールドは山岳地帯だ。
 足場は傾斜となっている為、陸戦においては位置取りが重要となって来る。

「速い!」

 ファイバーは高い加速性能を誇り、一気に距離を詰めて来る。

「まずは挨拶代りの一発をくらえ!」

 ファイバーは地上のビギニングガンダムBに拡散ビーム砲を撃つ込む。
 ビギニングガンダムBはシールドを掲げて守りに徹した。

「っ……だけど、シールドも強化しているから!」

 今までのバトルでビギニングガンダムBのシールドの破壊率はかなり高い。
 その為、地区予選に向けてシールドの強度を向上させていた。
 多少は重量が増したが、防御力が向上している。

「守り切ったか」
「次はこっちの番です!」

 シールドはボロボロになりながらも何とか、ファイバーの攻撃を凌ぐと今度はビギニングガンダムBが攻勢に出る。
 ファイバーに狙いを定めてハイパービームライフルを放つ。

「そう簡単に当たるかよ!」

 ファイバーはその高い加速性能を活かして、ビギニングガンダムBの攻撃をかわしていた。
 しかし、強化したのはシールドだけではなかった。
 アオイのバトルはハイパービームライフルを中心とした射撃戦を得意としている。
 ハイパービームライフルは通常のビームライフルよりも高い威力を維持しつつも、そこそこの連射速度を持っている。
 だが、高い威力と持っていたとしても、切り札としての決め手に欠けていた。
 ショップ大会ではゼロ距離攻撃などで、補っていた。
 それを改良によって射撃能力を犠牲にして、威力を重視したバーストショットを追加した。
 バーストショットは連射が効かない上に、撃つまでに多少のタイムラグがある。
 それと通常射撃で牽制を行い、狙いを定めていた。

「そこ!」

 ビギニングガンダムBがハイパービームライフルのバーストショットを放つ。
 その一撃はファイバーのスラスターユニットに直撃した。
 
「くっそ!」

 スラスターユニットをパージすると、多数の強化ユニットを装備した事で大型となった機体を支える事が出来ずに、降下して行く。
 飛べなくなった事でファイバーは強化ユニットを全てパージしてフライルーへとなった。

「これで身軽になった!」

 フライルーはロングブレードライフルを放つ。
 ビギニングガンダムBはシールドで防ぐが最初の攻撃を防いだ時点でシールドの強度は限界に近かった事もあって、あっさりと破壊された。
 だが、シールドを破壊されつつも、ビギニングガンダムBは飛び上がりフライルーにビームサーベルで切りかかる。

「接近戦かよ!」

 今までは積極的に接近戦はして来なかった事もあって、タクトの反応は一瞬遅れるがそれでも何とか回避した。

「まだ!」

 ビームサーベルの一閃が回避されるも、ビギニングガンダムBは振り返ってハイパービームライフルを撃って、フライルーのダブルシールドブースターを撃ち抜いた。
 フライルーはそのまま、地上に着地してロングブレードライフルで、ビギニングガンダムBに突撃する。
 そして、ロングブレードライフルを振り回す。

「接近戦なら俺に分があるって忘れたか!」

 殆ど出鱈目にロングブレードライフルを振り回す、フライルーにビギニングガンダムBは近づけずにいる。
 万が一にでも、ロングブレードライフルが直撃すれば一撃で致命傷となりかねない。

「僕だって少しは成長してるんです!」

 今までなら、決定力不足だったが、今は違う。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルのバーストショットを放った。
 ビームはロングブレードライフルに直撃して破壊した。

「やべ!」

 その衝撃でフライルーは体勢を崩していた。

「貰いました!」

 ビギニングガンダムBは一気に接近すると、ビームサーベルをフライルーに突き刺した。
 ビームサーベルが突き刺さったフライルーは爆発してバトルは終了した。

「ああっ……くっそ。また負けた」
「良いバトルでした」

 バトルが終了してバトルシステムを離れて、アオイとタクトは互いに健闘を認め合っていた。
 タクトはバトルに負けて悔しそうにしているが、素直にアオイの勝利を認めている。

「俺に勝ったんだ。最後まで勝ち残れよ。で、次は俺が勝つ」
「はい……でも、次も僕が勝ちます」

 そう言って二人は笑い合う。
 タクトの世界大会への挑戦は一回戦で終わったが、これでガンプラバトルが終わった訳ではない。

「そう言えば、シシドウからメールが入ってた。シシドウのバトルはまだだけど、クロガミさんの試合はそろそろ始まるな」

 バトル中にエリカからのメールがタクトの携帯に届いていた。
 内容は自分のバトルの相手と時間とマシロの相手と時間だった。

「ちなみに、マシロさんの相手はゲンドウさんだってよ」
「えっと……」

 メールにはマシロの相手はゴウキと書かれていた。
 いきなり、地区上位であるゴウキと当たった事にアオイも返す言葉もなく、愛想笑いをしている。

「こりゃ、ご愁傷様か……今から、急げばバトルには間に合いそうだな。行って見るか」
「そうですね」

 時間的にマシロのバトルは急げば間に合いそうだ。
 すでにゴウキと当たった時点で、マシロに勝ち目はないと思っている為、せめて最初で最後のバトルくらいは見届けてやろうとタクトは提案した。
 アオイもそれに同意して、タクトと共にAブロックのスタジアムへと向かった。


 各スタジアムの一回戦は複数のバトルを同時に進行している。
 観客席に到着したアオイとタクトはマシロの対戦しているバトルシステムを探した。

「キサラギ君、あそこ」

 アオイがマシロよりも先にエリカを見つけた。
 今、バトルしているファイターの中でエリカが見ているバトルがマシロのバトルである可能性が高い。

「シシドウ! クロガミさんのバトルはどうなった?」
「アオイにキサラギか……」

 エリカと合流するが、エリカの様子は少しおかしい。
 
「マシロのバトルはもう……終わった」

 エリカはそう言って、一つのバトルシステムを指さした。
 そこには確かにマシロの一回戦の相手であるゴウキがいたが、ゴウキは茫然と立ち尽くしていた。
 
「ゲンドウさん……勝ったんじゃないんですか?」
「……いや、負けたよ。マシロの奴に」

 遠目だが、ゴウキの表情は勝者の物には到底見えなかった。
 
「マジかよ」
「本当だ。あのゲンドウさんが手も足も出せない程に圧倒的だった」

 エリカ自身も未だに自分で見た物が信じられなかった。
 エリカもバトルが開始されてた当初は、マシロに勝ち目はないと思っていた。
 だが、バトルが始まればゴウキは手も足も出せずに完全に敗北した。

「アイツ……本当にクロガミさんなのかよ?」

 タクトは思わず呟いた。
 マシロがゴウキに勝った事が信じられないと言う事もあったが、それ以上にゴウキの対戦相手が自分達の知るマシロからはかけ離れていた。
 いつもの白いコートではなく、髪も最低限整えられている程度で、すでに春だと言うのに白いマフラーをしている。
 何より、自分達の知る穏やかな青年を絵に描いたような雰囲気ではなく、鋭く研ぎ澄まされた雰囲気を纏っている。
 そして、プラフスキー粒子の散布が終わって機能を停止しているバトルシステムには、バラバラになったゴウキのゴッドタイタスと無傷の白いガンプラが立っていた。
 それが何より、このバトルの勝敗を物語っていた。
 



[39576] Battle20 「天才と凡人」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/08 15:12
 世界大会地区予選、日本第一地区が開幕した。
 各々のファイター達は世界大会を目指して互いに実力を競い合う。
 日本第一地区も一回戦から白熱したバトルが繰り広げられていた。
 そんな中、この地区の優勝候補の一人のゲンドウ・ゴウキがまさかの一回戦で敗退した。
 ゴウキを破ったファイターは全くの無名と言っても良いファイターであるマシロ・クロガミだった。
 バトルに勝利したマシロはそそくさとガンプラを回収し、対戦相手のゴウキの事など、バトルが終わった時点で相手にする気もないのか、互いに健闘を認め合う事もなければ一瞥すらせずに会場から出て行く。
 そのバトルを見ていたエリカもすぐに立ち上がって、観客席から走りだす。

「シシドウさん!」
「俺らも行くぞ!」

 タクトとアオイもエリカを追って行く。
 
「マシロ!」

 エリカは会場の通路でマシロに追いついて大声でマシロを呼び止める。
 その声に気付いたマシロは立ち止まって振り向く。

「……何?」

 エリカ達が知るマシロとは別人のように気怠そうに答える。
 エリカが追いつき、その後ろからタクトとアオイも追いついて来た。

「お前、ガンプラバトル滅茶苦茶強かったんだな」
「そう? あの程度のファイターで俺の実力は測れないと思うけど?」

 エリカは息を整えつつも、マシロにそう言うが、マシロの方の反応は冷ややかだ。
 息を整えて落ち着くとマシロの態度の違いが気になって来るが、今はそんな事を気にしている余裕はエリカにはなかった。

「ガンプラバトルをやっているって事を教えてくれれば、ダチにだってなれたかも知れないってのに」
「レイコに止められてたから。それに話していても友達にはなれないと思うぞ。友達ってのは同レベルでしか成り立たないからな。だから、俺、ガンプラバトルの弱くて、将来性にも乏しく、面白みのないバトルをする奴とは友達になりたくはないから」

 エリカはマシロの言葉をすぐには理解出来なかった。
 エリカはマシロがガンプラバトルをしていると言う事を知っていれば、婚約云々を抜きに共にバトルをして友達になれると思った。
 だが、マシロの答えははっきりとした拒絶だった。

「確かにゲンドウさんに勝った貴方は強いのかも知れませんが、少し言い過ぎではないでしょうか?」

 事態に頭が追いつかないエリカに代わりにアオイがそう言う。

「事実だろ? けど、タチバナ・アオイ。お前は違う。こちら側の人間だ」
「何を……言って」

 マシロの言葉に今度はアオイが動揺を見せている。
 そんなアオイの様子を気にする事なく、マシロは続ける。

「タチバナ・アオイ。彼らはお前の友人として相応しくない。即刻、手を切るべきだ」
「てめぇ!」

 マシロがそう言うと、タクトは思わず、マシロに詰め寄ってマフラーごとマシロの胸倉を掴む。

「さっきから聞いてれば勝手な事ばかり言いやがって!」
「マフラーから手を離せよ」

 タクトの言葉を完全に無視してマシロがそう言う。
 そう言うマシロの目は今まで以上に冷たかった。
 自分の言葉をまるで聞く気がないマシロの態度にタクトも頭に血が昇り、拳を振り上げた。

「止めろ」

 そのまま、マシロを殴る勢いだったタクトをレッカが止めた。

「全く、ゲンドウさんのバトルを見ておこうと思って来てみれば、何の騒ぎだ」

 レッカはBブロックですでに一回戦を勝ち抜いていた。
 その後、Aブロックの強豪であるゲンドウのバトルを少しでも見ておこうとAブロックのバトルが行われているスタジアムに来た。
 そこで、ちょうどこの場面に出くわして取りあえずタクトを止めたと言う訳だ。

「お前には関係ない」
「あるね。状況は分からんが、ここでお前がそいつを殴って大事になれば、お前だけじゃない。タチバナやシシドウにも迷惑がかかるんだぞ」

 レッカも状況を全て把握している訳ではないが、ここでタクトがマシロを殴ってしまえば、それは大事だ。
 例え、挑発的な言動をしていたマシロが原因とは言っても、タクトの方が先に手を出してしまえば、マシロが被害者としてタクトの方が悪いと言う事になり兼ねない。
 すでに敗退しているタクトはともかく、一回戦を勝利しているアオイやまだ、バトルを行っていないエリカもタクトと友人と言う事で共犯だと疑われかねない。
 そうなってしまえば、アオイとエリカは出場停止となる可能性も出て来る。
 レッカにそう言われれば、タクトも拳を下すしかない。

「くそ」

 タクトは怒りが収まらないが、渋々、マシロを解放するとマシロはタクトの事など眼中にも無いかのように乱れたマフラーを軽く手で払って整える。

「とにかく、タチバナ・アオイ。友達関係はきちんと選んだ方が良い。でないと互いに不幸になるだけだ」
「だから!」

 マシロの言葉にアオイはびくりとし、話しを戻された事で、タクトも再び頭に血が昇りかけるが、今度はレッカがタクトの前に立ってタクトを止める。
 言いたい事は言ったのか、マシロはそれ以上は何も言わずに歩き出す。
 マシロが見えなくなるまで、場の空気が重く、誰も口を開かなかった。







 一回戦を勝ち抜いたマシロは会場に用意させておいた、車で真っ直ぐホテルへと戻った。
 ホテルに戻ると、すでに終わったバトルの映像をレイコが解析していた。
 地区予選のバトルは決勝や準決勝くらいまでにならないと、放送されない為、一回戦のバトルの映像は残されていない。
 恐らくはレイコの息のかかった人間が全てのバトルシステムに配置されて、バトルの様子を録画していたのだろう。

「ご苦労さん」
「あんな感じで良かったのかよ」
「上出来よ」

 すでにマシロのバトルの映像も届いているのか、レイコはマシロのバトルの事を把握しているようだ。
 レイコはゴウキの過去の戦闘データを解析した結果など以外にもマシロへのオーダーとして圧倒的な実力を見せつけろと指示を出していた。
 本当ならば、マシロももっと早くに決着をつける事が出来たが、多少バトルを引き延ばした上で圧倒的な実力差を見せつけて勝利して来た。

「それよりも、揉め事は勘弁よ」
「耳が早いな」

 バトルの情報は事前の用意ですぐにレイコの元に来るようにはしてあったが、偶発的に起きたトラブルもすでにレイコの耳に届いていたようだ。

「で、なんで揉めたの?」

 レイコとしてもバトルでマシロが負けると言う事は微塵も思っていないが、マシロが敗退するとすれば、トラブルによる失格だ。
 大会の運営が失格と判断すれば、マシロの実力は関係ない。
 クロガミグループも世界大会に出資をしているスポンサーである為、そこから圧力をかければトラブルを揉み消す事も出来るが、マシロはそれを望まないだろう。
 クロガミグループが一声かければ、マシロとスポンサーの特別招待枠で地区予選に出る事無く、世界大会に出場する事も出来るのに、わざわざマシロの嫌う弱い相手とのバトルをしてまで地区予選から出場しているところからもそれが伺える。
 情報収集などに一族の力を使っても気にしないが、大会を勝ち進む為には一族ではなく、自分の力で勝ち進む事はレイコからすれば合理的ではなく、他のファイターにも少なからず情報を与えてしまう為、無駄としか言いようがない。
 トラブルはある程度の事は想定し、対策も用意してあるが、全ての可能性を考えてしまうと可能性は無限に近い為、全ての可能性を考慮する事は不可能だ。
 その為、実際に起きた事を把握して、対策を取るしかなかった。
 マシロはレイコに起きた事を全て話した。

「と言う事があったんだよ」
「それはアンタが悪いわよ。そう言う事は彼が一人の時に言うべき事よ」

 事の次第を聞いたレイコがそう言う。
 マシロはアオイの友人の前で友達を選んだ方が良いと言えば、その友達が怒る事は当然だ。
 それをアオイに伝えるなら、アオイが一人でいる時にした方が良い。

「にしても、以外ね。アンタの頭の中はガンプラの事しかないと思ってたわ」
「酷いな。否定はしないけど」

 トラブルは現状ではさほど問題視する程の事ではない。
 それ以上にマシロが友達関係でそのような考えを持っていた方がレイコは意外だった。
 マシロは基本的に他者の事はどうでも良いタイプの人間だからだ。
 それに関してはマシロも否定はしない。

「天才と凡人ってコーディネイターとナチュラルの関係と同じだからな。ガンダムSEEDでは突き詰めればそれが戦争の原因ともなっているし」

 マシロの言葉にレイコは黙って耳を貸す。
 これから先、マシロをマシロの思うように勝たせる為には、マシロを知る必要があるからだ。
 マシロがガンプラ関連以外で自分の考えを話す事は殆どないから、マシロを知るにはもっと情報が必要となる。

「ナチュラルはコーディネイターに嫉妬し、コーディネイターはナチュラルを見下す。これは天才と凡人にも当てはまる事だ。凡人は天才に嫉妬し、天才は凡人を見下す。その結果として、流石に戦争は起きないが互いにとっては良い影響は与える事が出来ない。凡人が天才との差を知った時、絶望して歩みを止めるか、嫉妬する。歩みを止めてしまえば、それ以上の進歩は望めない。嫉妬をしてしまえば目が曇り道を見誤る。Xラウンダーと言う才能に嫉妬したアセム・アスノがそうだったようになアセムの場合はウルフ隊長がいたから、最悪の事態にはならなかったが、何処にだってウルフ隊長がいる訳ではないからな。」

 凡人が天才との差を知った時に起こり得る可能性として、その差に絶望して諦めてしまう事がある。
 諦めてしまえば、その人はそこで立ち止まり、それ以上は何も望めない。
 もう一つは嫉妬だ。
 才能に嫉妬する事で、自分を見失って道を誤ってしまう事がある。
 それをマシロはアセム・アスノに例えた。
 アセム・アスノは父、フリット・アスノやライバルのゼハート・ガレットがXラウンダーとしての才能を持っている為、その才能に嫉妬し、Xラウンダーの力に固執した。
 その結果、自身の脳に損傷を与えて最悪、死に至るミューセルに手を出してしまった。
 アセムの場合は自身の間違いを正し、道を示してくれたウルフ・エニアクルがいた為、取り返しの付かない事態となる前にXラウンダーの力に固執する事はなくなったが、現実には常に間違いを正し、道を示してくれる相手がいるとは限らない。

「天才も天才で凡人がいるとそいつと自分を見比べて自分の方が上だと安心してしまう。そうなれば、それ以上の進歩は無くなり、慢心に繋がる。Xラウンダー部隊のマジシャンズ8が自分達の力を過信した事で腕を磨く事を疎かにしてしまったようにな」
 天才も凡人といると自分と相手を見比べてしまう。
 そこに大した差が無ければ危機感を覚えるが、圧倒的な差があると、人はその相手が自分より下だと言う事で安心してしまう。
 
安心してしまえば、無理に上を目指す必要が無くなり、それ以上の進歩は望めない。
 それだけではなく、自分は相手よりも上の存在だと慢心する事だってあり得る。
 そして、慢心をしたたままだと、隠したの相手に負けると言う事も考えられる。
 ヴェイガンのXラウンダー部隊『マジシャンズ8』の大半も自分達がXラウンダーだと言う慢心から腕を磨く事を疎かにした結果、一般兵を相手には圧倒的な優位に立つ事が出来たが、非Xラウンダーのエースパイロットを前に敗北し、命を散らせた。
 
「結局のところ、天才は天才と凡人は凡人と友達になった方が互いに刺激や意識を仕合いより高見へと進化する事が出来る訳だ」
「それがアンタの考えって訳ね」
「尤も、小難しい理屈を並べたけど、ガンプラバトルが弱い奴とつるんでもつまらないだけなんだけど」

 最後はそこに辿りつく。
 マシロの友達関係に関する持論は全く思っていない訳ではない。
 だが、弱い相手とのバトルに勝利してもつまらないから友達になる気は無いと言うだけの事だ。
 そこまで聞くとレイコはアオイに少し同情をしてしまう。
 結局のところ、マシロは自分本位の持論を押し付けたに過ぎないからだ。

「まぁ良いわ。それじゃ次の対戦相手の情報と対策を考えて置くから、アンタは少しでも休んでなさい」
「了解」

 マシロはそう言って、バトルシステムの方に向かう。
 レイコは休めと言ったが、マシロにとってはバトルをしている時が一番楽なのだろう。
 どの道、夜には明日に影響が出る前には休ませる為、無理に止める事はしなかった。

 



 地区予選の一回戦が終わり、二回戦は3日後となっている。
 一回戦から一夜が明けて、アオイ達は学校が終わるとホワイトファングに集まっていた。
 アオイは昨日のマシロの言葉を受けて、少し沈んでいる。

「アイツの言葉を気にする必要はない。それよりも、ゲンドウさんを破る実力は本物だ。シシドウはバトルを見ていたんだろう?」

 今日はいつものエリカとタクトの他にレッカも一緒だった。
 レッカとしては、ゴウキを倒したマシロの実力を知っておきたい。
 
「なんというか、まずは速かった」

 エリカがマシロのバトルを見た第一印象がそれだ。
 ゴウキのゴッドタイタスをマシロの白いガンプラは高い機動力で翻弄していた。

「高機動型……つまりはガンプラの相性が悪かったと言う事か」

 ゴウキのゴッドタイタスはベースとして、ゴッドガンダムを使っているが四肢はガンダムAGE-1タイタスの元を使っている。
 ガンプラの特性としてはゴッドガンダムよりも、タイタスの方が近い。
 そして、タイタスは作中においてヴェイガンの重MSバクトに対抗する為に設計されている。
 その為、バクトを相手にすればバクト以上のパワーと装甲で優位に立てる反面、高機動型のゼダスを前に機動力で翻弄されて手も足も出せなかったと言う場面がある。
 ゴウキのゴッドタイタスも高いパワーと防御力を持つが、機動力に関しては瞬発力はあるが、機動性は余り高くはない。
 マシロのガンプラが機動力重視ならば、特性の相性で一方的な展開になる事はあり得る。

「いや……確かに最初はそうだったけど、最後はゴッドタイタスのパンチを正面から受け止めてた」

 相性による結果であれば、実力で負けた訳ではないが、勝負が決まる前にはゴッドタイタスの攻撃を正面から受け止めていた。
 マシロのガンプラは機動力や格闘性能を重視しているが、決してパワーが低い訳ではない。
 世界レベルのパワー重視のガンプラならいざ知らず、地区予選レベルならパワー重視のガンプラを相手でも十分にパワー勝負が出来る。
 そして、わざわざそんな事をしたのも、圧倒的な差を見せつける為の事である事はエリカ達は知らない。
 
「厄介だな」
「けど、アオイならあんな奴には負けない! なっアオイ」
「えっと……」

 レッカはエリカの言葉から冷静にマシロの実力を推測して、厄介だと結論を出すが、マシロと揉めたタクトはマシロに対して敵意を隠す事はしない。
 一方のアオイの方も上の空だ。

「何だよ。アイツの言っている事を気にしてんのか?」
「そう言う訳じゃ……」

 否定をしようとするが、言葉に詰まる。
 アオイ自身、何となく心の奥底で思っている事を見透かされたような気がしたからだ。
 尤も、エリカやタクトが自分に相応しいと思っていないのではなく、寧ろ逆にエリカやタクトに自分が相応しくないとだが。

「シシドウさんもキサラギ君も僕といて迷惑じゃないですか?」
「んな訳あるかよ」
「生憎とアタシはダチになりたくないと思っている奴とつるむ程、大人じゃないんでね」

 アオイの言葉にタクトもエリカも迷う事なく答える。
 タクトもエリカも感情に素直な性格をしている。
 だから、アオイと距離を取りたいと思えばさっさとそうしている。
 そうしないのは友達でいたいと思っているからだ。

「そんな事はどうでも良い。俺とタチバナとの決着はまだついていないんだ。腑抜けられては困る」

 レッカもレッカなりにアオイを励ましているようだ。
 レッカとアオイの戦績は一勝一敗と五分五分だ。
 地区予選ではその決着をつける場としては申し分ない。

「マシロ・クロガミの事が気になったところで、決勝でお前と戦うのは俺だ」

 組み合わせ上、アオイとレッカが当たるのは地区予選の決勝戦だ。
 つまり、二人の決着をつけるとすれば、マシロとアオイが当たると言う事は無い。

「アイツは俺が倒す」
「その前に次の次でアタシが当たるけどな」

 エリカとマシロは同じブロックだ。
 二人が二回戦を勝ち進めば三回戦でエリカはマシロをバトルする事となる。
 
「タチバナ。決勝まで上がって来い。そこで俺とお前の決着をつける」
「カガミ君……分かりました」
「決勝に上がるのはアタシだっての」
「どっちにしろ。俺に勝ったんだから世界大会を目指すしかないだろ」

 マシロの言葉はアオイの心に引っかかりはしたが、今は共に戦うライバルの励ましでアオイも勝ち進む事に集中する。







 一回戦から3日が経ち、二回戦の開催日となった。
 会場は前回と同じだが、参加するファイターは一回戦の半分に減っている。
 だが、それに反しては観客の数は一回戦よりも増えている。
 
「マシロの相手のガンプラはガンダムエアマスターか」
「高機動型可変機……同じ高機動型でも可変機であるエアマスターの方に分がある。さて、どう戦う」

 マシロの試合をアオイ達4人も観戦している。
 地区の上位であるゴウキを倒した事でマシロの注目度は一回戦の比ではない。
 観客の多くはマシロのバトルを注目しているだろう。
 そして、多くの観客が注目する中、マシロのバトルが始まる。
 マシロの対戦相手のガンプラはガンダムエアマスターだ。
 ファイター形態へと変形する事で高い機動力を発揮する事が可能だ。
 エアマスターはショルダーミサイルを放って、ファイター形態に変形すると近接戦闘をさせない為に距離を取ろうとする。
 マシロのガンプラ、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは胸部のビームバルカンでショルダーミサイルを迎撃すると、一気に加速する。

「マジかよ……」
「予想以上だな」
「凄い」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはファイター形態のエアマスターに容易に取りつくとCソードを展開し、Cソードの一閃でエアマスターを両断して勝利した。
 一回戦でゴウキを圧倒していた事もあって、マシロが秒殺したところで驚く観客は殆どいなかった。

「言うだけの事はあったな」
「アタシ等も負けてられないな」

 大きな口を叩いだだけの事はあって、マシロはそれだけの実力があると言う事を認識したところでアオイ達も自分達のバトルへと臨んだ。
 アオイの対戦相手のガンプラはフォビドゥンガンダムだ。
 バックパックの大型の2基のシールドと大鎌、ビームを湾曲する事が可能だと言う事が特徴な機体だ。
 フォビドゥンガンダムが大鎌『ニーズヘグ』を振るいビギニングガンダムBのシールドを両断するが、ビギニングガンダムBはハイパービームライフルのバーストショットで反撃する。
 フォビドゥンガンダムがシールドで防ぐが、シールドが破壊されて体勢を崩したところをハイパービームライフルの通常射撃でフォビドゥンガンダムを撃ち抜いた。

「やったな! アオイ!」
「はい……何とか勝ちました」

 別のスタジアムではレッカもバトルをしていた。
 レッカの対戦相手のハイザック・カスタムだ。
 ハイザック・カスタムは狙撃型ビームランチャーで長距離射撃を行うも、ビギニングガンダムRは回避して距離を詰める。
 接近された事でビームサーベルを抜こうとするが、その前にバーニングソードRで切り裂かれてハイザック・カスタムは撃破された。
 マシロがバトルしたAブロックのスタジアムでエリカもバトルしていた。 
 対戦相手のガンプラはアデル・キャノンだ。
 アデル・キャノンは肩のドッズキャノンを放つが、エリカのアサルトルージュはシールドで守り、強引に接近すると対艦刀を振るい、アデル・キャノンを一刀両断した。

「これで次の対戦相手はマシロか」

 各スタジアムで白熱のバトルが続き地区予選の二回戦は終了した。

 



[39576] Battle21 「マシロとの賭け」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/12 12:47
 世界大会地区予選日本第一ブロックも2回戦を終え、3回戦を翌日に控えている。
 今回は1回戦でゲンドウ・ゴウキが敗退しての波乱の幕開けだが、バトルが2回も終わると落ち着き始めている。
 3回戦を翌日に控えて、マシロは次のバトルの最終調整に入っていた。
 
「次の相手はあのシシドウ・エリカちゃん。まさか、彼女と当たる事になるなんてね」
「ガンダムなら死亡フラグだけどな」

 マシロはバトルシステムを使ってCPU戦を行いながらも、レイコの声に耳を傾けている。
 
「彼女のバトルスタイルは突貫力を活かして接近、大剣での一撃、アンタの戦い方と少し似ているわね」
「まぁね。だからこそ、戦い易い相手でもある」

 エリカのバトルスタイルはここまでのバトルや過去のバトルからも明らかだ。
 エールストライカーの推力に物を言わせての突撃からの対艦刀の一撃と言うのがエリカのバトルスタイルだ。
 多少強引でも近接戦闘を仕掛けて一撃で仕留めると言うのはマシロのバトルに似ている。
 だからこそ、マシロは戦い易い。
 相手が自分の同じバトルスタイルなら、こっちから仕掛けずとも接近して来てくれると言う事もあるが、自分と同じ戦闘スタイルと言う事は相手の方も、やられると嫌だと思う事も同じと言う事になる。
 マシロは強い相手に勝つ事が好きだが、わざわざ相手に得意な戦い方をさせる事は無い。
 どんな状況だろうと得意分野に持ち込む事もファイターに必要な技術だからだ。
 その為、相手の得意分野を封じる事に躊躇いはない。
 1回戦ではマシロの実力を見せつける為に、あえて最後は相手の得意とする分野でも上回っていると言う事を見せつけたが、それを毎回やる必要もない。

「あの手のファイターは勢いを殺せば良い」
「それが無難ね」

 相手が突貫力を活かして突撃して来るのであれば、その勢いを止めてしまえば殆ど無力化したも同然だ。
 実際にエリカの過去のバトルでバトルフィールドや対戦相手のガンプラとの相性が悪く、持ち前の機動力を使う事の出来なかった時に負ける確率が圧倒的に高い。
 
「後はアンタの視点から気になる事はない?」

 データの上ではマシロの勝率は100%と出ている。
 だが、あくまでもデータの上での話だ。
 実際のバトルにおいて、バトルフィールドは公開されていない事など不確定要素は少なからずある。
 その要素を潰す為に、ファイターであるマシロの意見も重要だ。

「そうだな……あの胸は凶器だよ。バトル中に揺れても見ろ。男ならガン見してバトルに集中出来ない」
「……成程。それは盲点だったわ」
「……冗談なんだけどな」

 マシロは軽い冗談のつもりだったが、レイコには通じていない。
 寧ろ、男だからこその目線で、実際にあり得る可能性として受け取られている。

「尤も、バトル中の俺はそんな物に惑わされる事は無いけどね。例え、水着のお姉さんだろうと躊躇い無く倒せる」
「分かっているわ」

 あくまでも可能性の一つとして捉えたレイコだが、実際に起こった時の事は心配してはいない。
 マシロが年相応に異性に興味があると言う事は1か月程前に初めて知ったが、それでも色恋よりもガンプラバトル、三食のメシよりもガンプラバトル、睡眠よりもガンプラバトルだと言う事には変わりはない。
 普段ならともかく、バトル中に余計な事に気を取られると言う事はあり得ないと言う事は今更確認する必要もなかった。

「明日のバトルは問題ないと思うけど、少し気になる事があるわ」
「気になる事?」
「Cブロックのアンドウ・コウスケ。彼のバトルは過去のデータをまるっきり違うのよ」
「アンドウ……コウスケ……ああ、あの変身ユニコーンの」

 明日のエリカとのバトルは問題はない。
 だが、この先勝ち進むにあたり、1回戦と2回戦のデータの中でコウスケのデータは今までの物とは全然違って来ていると言う事はレイコにとっては予想外の出来事だ。

「彼、アンタとのバトル以降、殆どバトルをしていないからデータが古い物しか無かったのよね」
「関係ないだろ。確かにアイツのガンプラは少し面白かったけど、バトルの方は弱かったし。Cブロックって事は俺と当たるのは決勝だから、その前にDブロックを勝ち抜いて来たファイターとバトルする筈だ。Dブロックにはタチバナ・アオイがいる。バトルスタイルが変わろうと元々の素質が無ければ大した事は無いだろうしね」

 レイコは今までのデータがあてにならない事に不安を覚えるが、マシロは大して興味は無かった。
 以前にマシロはコウスケとバトルをしている。
 その時にコウスケの実力や才能は把握している。
 その為、バトルスタイルが変わっていようと大した問題ではない。
 各ブロックの代表で行われる準決勝の組み合わせはAブロックとBブロック、CブロックとDブロックの代表と言う事は決まっている。
 その為、CブロックのコウスケとAブロックのマシロでは決勝戦まで当たる事は無い。
 更に言えば、Dブロックにはアオイがいる。
 マシロの見立てではコウスケよりもアオイの方が確実に強くなる。
 つまり、現状ではマシロの決勝戦の相手はアオイだと思っている為、自分と当たらないファイターの情報など今の段階では必要はないと言う事だ。

「それはそうなんだけどね」

 レイコ自身、決勝の相手はマシロが興味を持つ程の才能を持っているアオイの可能性が高いと考えているが、情報を扱うレイコにとっては勝ち残っている全てのファイターの情報は完璧に抑えておきたい。
 マシロもそれが分かっているからこそ、自分と当たる事は無いファイターの情報は必要としていない。
 レイコの方もマシロは目の前の相手にだけ集中していれば良いと言う事は理解している為、文句を言いつつもコウスケのバトルデータの更新と共にエリカとのバトルプランの作成に入る。







 3回戦になれば、各ブロックのバトルも折り返し地点となり、これから先に進む為には更なる実力が必要となって来る。
 各ブロックで3回戦が開始され、4回戦へと進むファイターが次々と決まって行く。
 アオイもまた、3回戦を始めていた。
 アオイの対戦相手のガンプラはビームバズーカを装備したリック・ドムだ。
 リック・ドムがビームバズーカを放ち、ビギニングガンダムBはシールドで斜めに受け流す。
 そして、ハイパービームライフルで反撃した。
 ビームはリック・ドムの脇腹に当たるが、致命傷にはならなかった。
 被弾しつつも、リック・ドムはビギニングガンダムBにビームバズーカを撃ちながら接近するが、ビームバズーカは被弾してパージするとヒートサーベルに持ち帰る。
 ビギニングガンダムBに接近した、リック・ドムはヒートサーベルを振るい、ビギニングガンダムBはシールドで受け止めるが、シールドはビームバズーカを受け流した時に表面がビームで焼かれており、ヒートソードに切り裂かれた。

「まだ!」

 シールドが破壊され前にビギニングガンダムBはシールドを捨てると左手にビームサーベルを抜いて、ハイパービームライフルを構えた。
 リック・ドムに至近距離からビームを撃ち込んで、リック・ドムの右腕が撃ち抜かれ、ビームサーベルを突き刺してリック・ドムは破壊された。

「ふぅ……何とか勝てた」
「やったな! アオイ!」

 3回戦を勝ち抜いて一息ついたアオイにタクトとエリカが駆け寄る。
 
「はい。今回も厳しかったです」
「良く言うぜ。後2回でブロックの勝ち抜けだな」

 アオイは後2回勝てばブロックを勝ち抜ける。
 だが、その後に地区予選の準決勝と決勝戦の2回を勝たないと世界大会に行く事は出来ない。

「カガミの方も3回戦は問題なさそうみたいだったから、次はアタシの番だな」

 Bブロックのレッカも別のスタジアムでバトルをしている。
 対戦相手はそこそこ名が知られているファイターらしいが、実力的にレッカには及ばない為、レッカの勝利は固い。

「あの人ですね……シシドウさん。大丈夫ですか?」

 レッカの方は特に問題はないが、問題はエリカの方だ。
 エリカの相手はゴウキに勝ち、2回戦も余裕で勝利しているマシロだ。
 2回戦の後に揉めこそしたが、2回のバトルでその実力の高さは認めざる負えない。

「分かんねぇ。けど、バトルはやってみるまで何が起こるか分かんないからな。やれるだけの事はやるさ。後は気合だ。気合で負けてちゃ勝てるバトルも勝てないからな」

 マシロを相手に勝算は無いが、それでも始めから負ける気で戦うファイターはいない。

「まぁ、今日の為に武装強化もして来たしな」

 ただ、精神論で挑むだけではなく、マシロと戦う為にエリカはガンプラを少し強化して来た。
 やれるだけの事はやった為、後はバトルをするだけだ。

「じゃ、行って来る」
「あんな奴に負けんじゃねぇぞ」
「頑張って下さい」
「おう」

 アオイとタクトの応援を受けて、エリカはAブロックのスタジアムへと向かい、アオイとタクトも応戦の為にスタジアムに向かった。




 マシロとエリカはバトルシステムを挟み対峙していた。
 エリカの方は揉めた事もあって、マシロの方を少し睨んでいるが、マシロの方はエリカの方は気にも留めずにガンプラの関節部などを動かして状態を確認している。

「……マシロ。このバトルにアタシが勝ったらこの前の事、アオイに詫びろ」
「無理」

 エリカの言葉にマシロはエリカに見向きもせずに即答する。

「このバトルの勝敗はすでについているような物だからな。俺が勝つ事が決まっている以上はそんな賭けに意味はないよね」

 マシロの中では事前用意の時点で、エリカに負ける要素はない。
 自分の勝利で終わる事が確定しているバトルで自分が負けた時の事を賭けする事は無意味でしかなかった。
 バトルの前から勝った気でいるマシロに舐められている気がして、エリカはイラっとするも、マシロは気にした様子もない。

「けど……まぁ、それだけじゃつまんないから。バトル中に俺に一度でもまともに攻撃を当てる事が出来たら詫びても構わない」
「言ってくれるな」
「だってそのくらいじゃないと賭けにはならないし。もし、一度でも攻撃を当てる事が出来たら、この国の最上級の謝罪方法であるハラキリして謝ってやるよ。ちなみに俺が勝っても別に何も要求しないから。勝つ事が分かっている賭けはつまんないし」

 その言葉にエリカは少なからず動揺していた。
 マシロは自分とのバトルで一度も攻撃を受ける事無く、勝つと言って来ている。
 以前にもエリカは世界大会で優勝すれば結婚すると言う条件を出しているが、今度は更に厳しい条件だ。
 バトル中に一度も攻撃を受けないと言うのは、双方のファイターの実力に圧倒的な差が無ければ成り立たない。
 しかし、悔しいがマシロの実力を考えれば、絶対に出来ないとは言い切れないのも現実だ。
 一度攻撃を受ければマシロは切腹をする、言い方を変えれば、一度でも攻撃を受ければ死ぬと言う事だ。
 普通に考えれば、その程度の事で自分の命を捨てるなどあり得ない為、こちらを混乱させるハッタリだが、ハッタリだと切り捨てる事が出来ない不気味な雰囲気がある。

「……上等だ」

 不気味な雰囲気は拭えないが、エリカは切腹云々はあくまでも覚悟の話しだと自分を納得させる。
 そして、二人はGPベースをセットして、ガンプラをバトルシステムに置いた。
 マシロのガンプラは2回戦と同じガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、エリカのガンプラは少し強化されていた。
 両肩にソードストライカーとランチャーストライカーの装備を付けて、攻撃力を増している。

「アサルトルージュ! シシドウ・エリカ。出る!」
「ガンダム∀GE-1 セブンスソード。マシロ・クロガミ。出る」

 そして、バトルが開始された。
 バトルフィールドはデブリベルト。
 周囲には戦艦やモビルスーツの残骸が漂うフィールドで障害物が多いフィールドだ。

「デブリかよ……こんな時に苦手なフィールドかよ」

 エリカは開始早々、愚痴っていた。
 エリカのバトルスタイルでは、障害物の多いデブリベルトでは戦い難い。
 勝ってアオイの謝らせないといけないバトルで苦手なフィールドに当たったのは運が悪いとしか言いようは無い。

「つっても、アイツだって……」

 苦手なフィールドだが、悲観するだけではない。
 マシロも高速戦を得意としている以上は、障害物の多いデブリベルトでは機動力を活かし辛いはずだ。
 そして、マシロの先制攻撃のビームがフィールドを横切る。

「いきなり撃って来たのかよ!」

 ビームはアサルトルージュの位置からは遠く離れている。
 ビームは外れたが、次々とビームが飛んで来る。

「当てずっぽうかよ!」

 ビームは正確さに欠けているが、ここまで撃って来られたら下手に動けば逆にビームに当たる危険性が高い。
 アサルトルージュはデブリの陰に隠れて、様子を伺う。
 ビームの威力は高くは無い為、デブリを撃ち抜ける程ではない。

「どこから来る……まだ、距離はあるはずだ」
「ところがギッチョン……なんてな!」

 ビームの威力が大した事は無いと言う事と、デブリで相手も速度を出せないと言う事から、エリカはまだ距離が離れていると思っていたが、実際は違った。
 ショートドッズライフルの威力を意図的に落として、マシロは威力の小ささから、撃っている距離が離れていると思わせて、デブリの中を最短距離で尚且つ、最大速度で突っ切って来た。
 デブリの影から、ガンダム∀GE-1 セブンスソードが飛び出してCソードを振るう。

「いつの間に!」

 アサルトルージュはとっさに回避すると、Cソードはデブリを一刀両断する。
 すぐに頭部のバルカンと右肩の対艦バルカンで反撃する。
 デブリを切り裂いたガンダム∀GE-1 セブンスソードはすぐに距離を取ってデブリを盾に攻撃を防ぐ。

「ちっ……逃げるな!」
「嫌だね。俺もまだ死にたくないんでね」

 アサルトルージュはガンランチャーを放つが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデブリに上手く誘導して防ぐ。
 逃げるガンダム∀GE-1 セブンスソードにアサルトルージュはビームライフルを連射して追いかける。

「ちょこまかと……」

 デブリを避ける為に速度を出せないアサルトルージュに対して、デブリを気にしていないガンダム∀GE-1 セブンスソードの間では速度に絶対的な差がある為、距離は開いて行くばかりだ。
 その上で、デブリの影でガンダム∀GE-1 セブンスソードを一瞬見失うと、デブリの影からガンダム∀GE-1 セブンスソードが出て来てCソードを振るう。

「くそ!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの不意打ちを回避して、対艦バルカンを放つが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは大き目のデブリの陰に隠れて防ぐ。
 そして、影から出てショートドッズライフルを撃っては逃げる。
 そのビームをシールドで受け止めるが、いつの間にかビームの威力が最大まで上げられていた事もあって、シールドが破壊された。
 アサルトルージュはビームライフルを時折撃ちながら追いかけるが、機動力の差だけではなく、アサルトルージュを中心に球を描くようにガンダム∀GE-1 セブンスソードは移動する為、アサルトルージュは方向転換を余儀なくされる。
 直進するだけなら、高い機動力を発揮するアサルトルージュだが、小回りを苦手をしている為、ここまで方向転換させられては持ち前の機動力を活かす事は更に出来なくなる。
 尤も、マシロの方もその弱点を見越した上での動きだった。

「このままじゃ埒が明かない……だったら!」

 普通に追い駆けっこをしたところで、追いつく事は出来ないと判断したエリカは次の手を打つ。
 左肩のビームブーメラン「マイダスメッサー」を手に取るとそれを投げた。
 次にガンダム∀GE-1 セブンスソードをビームブーメランの軌道上に誘い込むようにビームライフルを放った。
 エリカの思惑通りにガンダム∀GE-1 セブンスソードはビームブーメランの軌道上に誘い込まれた。

「あんまり相手を舐めすぎるからこうなる!」
「少しは頭を使って来たようだけどさ。うちのレイコの想定通りなんだよね」

 デブリの影から飛び出して来たビームブーメランがガンダム∀GE-1 セブンスソードを捉えるかと思われた。
 しかし、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは高速で回転しているビームブーメランの柄の部分を正確に掴んで、ビームブーメランを止めた。

「んな事があり得んのかよ!」

 これはエリカも予想外の事態だった。
 ビームブーメランは高速で回転している。
 そんなビームブーメランを回避したり、弾くのではなく掴んで止めるなど普通はやらない。
 一歩間違えれば、掴み損なって腕が破壊されるだろうからだ。
 そうなれば、エリカとマシロとの間で交わされた賭けは文句なしでマシロの負けだ。
 流石に賭けに負けたからと言って、切腹はしないが負けた以上はアオイに謝らないといけない。

「あり得るから起きたんだよ。じゃ、そろそろ観客も退屈して来たところだ。そろそろこっちからも仕掛けさせて貰う!」

 マシロがそう言うと明らかに空気が変わった。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは持っていたビームブーメランをアサルトルージュに目掛けて投げた。

「利子も付けて返してやるよ」

 更にはガンダム∀GE-1 セブンスソードの左肩のビームブーメランも投げた。

「そう簡単に当たってやるかよ!」

 二つのビームブーメランをアサルトルージュは回避するが、その間にガンダム∀GE-1 セブンスソードは一つのビームブーメランの軌道上に移動すると、再びビームブーメランをキャッチすると、アサルトルージュに投げる。
 この時、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデブリで右肩がエリカの位置から見えないようにしていた為、エリカは気づかなかった。
 すでに、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの右肩のビームブーメランが付いていなかった事に。
 投げ返されたビームブーメランを回避するが、すでに投げられていた3つ目のビームブーメランがアサルトルージュの片足を切断した。

「いつの間に!」
「余り早くやられてくれるなよ」

 移動したガンダム∀GE-1 セブンスソードがビームブーメランを掴んで今度は上に投げて、すぐに次のビームブーメランを下に投げる。

「ふざけた戦い方をして!」

 アサルトルージュはビームライフルをガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けるが、下方向に投げたビームブーメランが戻って来て、ビームライフルを破壊し、上に投げたビームブーメランがエールストライカーについている対艦刀を破壊する。

「くそ!」
「これで、得意の突貫攻撃は使えない」
「舐めんなって言ってんだろ!」

 アサルトルージュは対艦刀を失いながらも、ビームサーベルを抜いて対艦バルカンを連射しながら、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに突撃して行く。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデブリの影に隠れて対艦バルカンの攻撃を防ぐ。
 アサルトルージュはこの間にガンダム∀GE-1 セブンスソードとの距離を詰めようとするが、上下に投げた物とは別の3つ目のビームブーメランが、アサルトルージュの真横からアサルトルージュの動きに事前に合わせていたかのような正確さでエールストライカーのスラスターを切り裂く。
 エールストライカーが損傷した事で素早くアサルトルージュはエールストライカーをパージする。

「ちくしょう……」

 3つのビームブーメランは示し合わせたようにガンダム∀GE-1 セブンスソードの方向に飛んで行くと、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはそれを左腕の一振りで3つとも、指の間に挟んでキャッチする。

「そんじゃ、もう一度踊って貰おうか」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは左手に持っている3つのビームブーメランを多少の時間差をつけて投げた。
 アサルトルージュは四方から飛んで来るビームブーメランを回避するが、デブリのせいで大きく動く事が出来ずにビームブーメランを完全にかわし切る事が出来ない。
 やがて、ビームブーメランが右肩のコンボウェポンポッドを掠めて切り込みが入ったためにパージし、別のビームブーメランが右腕を切り落とした。

「これで丸裸だな」
「自分だけは高見の見物かよ!」

 右腕とコンボウェポンを失った事でアサルトルージュの武器は頭部のバルカンのみだ。
 それでも尚、エリカは諦める事無くビームブーメランの攻撃を回避に専念する。

「諦めてるかよ!」

 ビームブーメランの攻撃を回避していると次第にエリカもビームブーメランの軌道に目が慣れて来て、見切れるようになって来ていた。
 そして、アサルトルージュに向かって飛んで来たビームブーメランをアサルトルージュは今までマシロがやって来たように柄の部分を掴んで止めた。 

「そう簡単にやられるか!」
「想定の範囲内だよ」

 ビームブーメランを掴んで止める事に成功したが、ビームブーメラン自体囮だった。
 エリカがビームブーメランに気を取られている間にガンダム∀GE-1 セブンスソードはアサルトルージュの背後を取っていた。

「生憎とうちのレイコは性格は腐っているけど、データ使いにありがちなバトル中の性能に対応できないなんて3流じゃないんだよね。残念な事に」

 エリカがバトル中に成長すると言う可能性は事前にレイコが予測していた可能性の一つだ。
 だからこそ、マシロはビームブーメランでエリカの気を自分から逸らした。
 成長した事で翻弄されていたビームブーメランを止めたと言う隙をつく為にだ。
 バトル中に成長したファイターで最も厄介なのは成長してすぐだ。
 成長した事で勢いが付き、バトルの流れさえも変えての逆転劇は世界大会でも度々見られる。
 しかし、始めから相手がバトル中に成長すると言う事を想定して戦っていれば、成長しても流れを変えられる心配は少ない。
 そして、エリカの成長はレイコの予想の範囲を超える事までは無い為、マシロにとっては脅威となる事は無かった。
 背後を取ったガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して突き出した。

「ちくしょう!」

 マシロの余裕を打ち崩せたと思った途端に、背後を取られた為にエリカの反応は明らかに遅れ、アサルトルージュは動く事が出来ずに背中からCソードが胸を貫いた。
 それが致命傷となってエリカの敗北が決まった。

「……アタシの負けか」
「賭けは俺の勝ちって事で良いよな」
「……ああ」

 エリカは素直に自分の敗北を認めていた。
 バトルだけでなく、アオイに謝らせる為の条件の方もだ。
 バトルフィールドが苦手とするデブリベルトだったのは運が悪かったとしか言いようは無いが、それを差し引いても完璧にエリカの戦い方は封じ込まれていた。
 完全に実力で負けたと言う事は認めざる負えない事実だ。

「なぁ……聞いても良いか?」
「何?」
「お前、一度でも攻撃を受けたらどうするつもりだったんだよ?」

 賭けに負けた以上、その質問に意味はない。
 だが、エリカはどうしても気になっていた。

「ガンプラバトルの勝敗で決めた事は絶対……つまり、そう言う事だ」

 マシロはそう言って、ガンプラを回収すると帰って行く。
 エリカにはその答えで十分だった。
 マシロは嘘でもハッタリでもなく、本当に賭けに負けたら切腹をしてアオイに詫びる気だった。
 ただの遊びであるガンプラバトルの勝敗で命を捨てるなど、馬鹿らしいが少なくともマシロはそれ程、本気だったと言う事だ。
 エリカもバトルで壊れたガンプラを回収してバトルシステムから離れる。
 通路に出ると、観客席からエリカのバトルを観戦していたアオイとタクトもエリカのバトルが終わり、エリカと合流する。

「悪い。勝てなかった」

 エリカがそう言うと、アオイもタクトもバツが悪そうにして何も言えなかった。
 「惜しかった」や「次は勝てる」等と言う励ましの言葉をかけようにも、激戦の末の敗北ならまだしも、二人の目から見てもエリカはマシロに手も足も出せずに完敗している。
 
「アオイ。気を付けろよ。マシロは普通のファイターとは何かが違う」
「シシドウさん……」

 それがマシロと実際にバトルしたエリカの感想だった。
 エリカに完勝したマシロだが、恐らくは全力を出し切ってはいない。
 そんな余裕がバトルの終わったマシロから感じられていた。
 そして、このままアオイが勝ち進んだ場合、決勝で当たる事になる。
 
「分かりました」

 実際にバトルしたが故にマシロの力の一端を垣間見たエリカの言葉をアオイも心に留めた。
 エリカは地区予選3回戦で敗退し、マシロは4回戦へと駒を進めた。
 



[39576] Battle22 「力の価値」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/17 00:10
 地区予選も4回戦ともなれば、勝ち残っているファイターの大半は地区の中での名が知られたファイターが多い。
 だが、そんな中でもマシロ、アオイ、レッカの3人はこの地区では無名のファイターとして勝ち進んでいる。
 すでにアオイとレッカは4回戦も勝ち抜いている。
 マシロの4回戦の相手はガンダム試作3号機「デンドロビウム」だ。
 デンドロビウムはガンダム試作3号機「ステイメン」をコアユニットに巨大アームドべースの「オーキス」を搭載した拠点防衛用モビルスーツだ。
 その巨体には多数の火器と戦艦並の推力を持つ。
 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードはデンドロビウムにショートドッズライフルを放つ。
 だが、ビームはデンドロビウムに直撃する前に弾かれた。

「まぁ、デカブツにIフィールドは当然か」

 ビームを弾かれるもマシロは動揺した様子は見られない。
 対戦相手のデンドロビウムにIフィールドが搭載されている事は事前情報で知っている事だ。
 デンドロビウムのように大型機に特殊な塗装を施してIフィールドによる防御能力を持たせる事はここ数年の世界大会での流行りでもあった。
 ガンプラバトル自体はまだ10年にも満たない競技ではあるが、その間に行われた世界大会では様々な工夫を凝らしたガンプラが使われていた。
 初期の第一回や第二回では大幅な改造ではなく、細かいディテールに拘ったガンプラが多かったが、第三回や第四回ではそれに加えてファンネルと言った遠隔誘導兵器によるオールレンジ攻撃を行う事が多くなった。
 しかし、ファンネルは一体一では全方位からの攻撃と言うアドバンテージがある反面、操作が難しい為、実力のないファイターが扱えばファンネルの操作に集中するあまり、本体の操作を疎かにしたり、逆にファンネルが余り意味を成さないなどが見られた。
 それに代わって高い火力を持つ大型機が使われ始めた。
 だが、大型機の最大の欠点は大型が故に機動力が低いと言う事だ。
 直線的な機動力は高いが、小回りが利かない為、幾ら火力があっても的が大きいと言う事もあって大型機と言うだけでは勝つのは難しかった。
 その欠点を補うために特殊な塗装によるIフィールドを作中でその手の防御系の機能がない機体に対しても使われるようになり、前回の第五回大会では真偽は定かではないが、Iフィールドを搭載した大型機が参加者の半数近くもいたとすら言われて、それを裏付けるかのように通常バトルにおいては大型機による大火力の撃ち合いと言うのも良く見られた光景だ。
 そんな事もあり、今年の大型機を使うファイターは決して少なくはない。
 尤も、その大型機にIフィールドを使えるようにする為にはそれなりの技術も必要である事もあって大型機で勝ち進めるファイターはほんの一握りでしかない。

「とはいえ、やっぱセブンスソードの火力でIフィールドをぶち抜くのは無理っぽいな」

 取りあえず撃っては見た物のレイコの予想通りセブンスソードのショートドッズライフルではフィールドを抜いてデンドロビウムにダメージを与える事は難しそうだった。
 この事自体はあくまでも確認である為、予想が正しいと言う裏付けとなり、無意味と言う訳ではない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは肩のビームブーメランを取るとデンドロビウムに投げつけた。
 小回りの利かないデンドロビウムではビームブーメランを回避する事が出来ずにスラスターを破壊された。
 スラスターを破壊された事で機動性を大きく奪われたデンドロビウムだが、何度かメガビーム砲をガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けた。

「流石にそいつの直撃は受けたくはないな」

 デンドロビウムがメガビーム砲を撃つ前に、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは腰のショートソードを抜いて投擲した。
 投擲されたショートソードはメガビーム砲の砲身の中に入ると、メガビーム砲は爆発を起こした。
 爆発と同時にデンドロビウムはメガビーム砲をパージしていた為、本体への損傷は最低限に抑えられていた。
 メガビーム砲を失うもデンドロビームは、武器コンテナから三角柱状のコンテナを射出した。
 そのコンテナの一面には38発づつ、計108発のマイクロミサイルが搭載されており、その108発のマイクロミサイルが一斉にガンダム∀GE-1 セブンスソードに襲い掛かる。
 全方位から襲い掛かるマイクロミサイルをガンダム∀GE-1 セブンスソードは機体を乱回転させつつも、胸部のビームバルカンとショートドッズライフルで迎撃する。
 その際のマシロの操縦は明らかに常人離れした速度で操縦桿を動かしていた。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの動きに対戦相手のファイターも呆気に取られていた。
 そして、最後には108発のマイクロミサイルは全て迎撃されて辺りは爆風で視界が悪くなっている。

「ミサイルで俺に当てたかったら後、148発は撃ち込んで来るんだな」

 爆風からガンダム∀GE-1 セブンスソードは飛び出すとCソードを展開し、コアユニットであるステイメインごとデンドロビウムに突き刺した。
 ガンプラバトルにおいて、別の機体をコアユニットとしている機体やコアファイターのような脱出機能を持った機体、機体の一部を分離して独立稼動出来る機体などは本体が破壊されても、その部分さえ残されていれば敗北判定とはならず、バトルを続行する事が出来る。
 マシロはそれを見越してステイメインごとデンドロビウムにCソードを突き刺した。
 従来なら、オーキスをパージすればステイメインの状態でバトルが続行出来るが、オーキスごとCソードで貫かれていては意味がなかった。

「相変わらずむかつく程強いな」
「最後のミサイルを迎撃した時の動きとかありえないって」
「ですね」

 マシロのバトルを観戦していたアオイ達もマシロのバトルは素直に認めざる負えない。
 
「この調子じゃ次も勝って準決勝じゃカガミの奴と当たるな」

 レッカの次の対戦相手もそれなりの実力者である事は変わりないが、レッカの実力を考えると勝てるだろう。
 マシロの方も負ける要素が無ければ準決勝でマシロとレッカが当たる事になる。

「どっちが決勝に上がって来るにしても厳しい戦いになるな」
「その前に5回戦だな。準決勝は恐らくはアンドウセンパイ……アオイにとっては初めての対戦相手だ」

 決勝戦はマシロかレッカだが、その前に5回戦と準決勝に勝たねばならない。
 特に準決勝はアオイが初めてバトルしたコウスケだ。
 コウスケのバトルはマシロのバトルの方に気を取られていた事もあって、一度も観戦してはいない。
 今回も順当に勝ち上がって来ている。

「余り自信は無いです……」
「だよな。俺らもマシロの事ばかりだったけど、先輩の実力だって世界を狙えるんだ。油断出来る訳が無いか……」
「こうなれば特訓しかないな。アタシもキサラギも負けちまってるからみっちり付き合える」

 アオイが自信が無いのはいつもの事だ。
 幸いにも5回戦まで少し日にちはある。
 その間に特訓を重ねれば少しは自信にも繋がる。
 
「打倒、センパイ! 目指せ世界大会! だな」
「いやいや、ここは世界制覇! くらいの勢いでいかねーと」
「キサラギにしては良い事言うじゃん!」

 すでにアオイを置いてきぼりにして、話しが大きく膨らみ、アオイは苦笑いをしながらそんな二人を見ていた。





 マシロの4回戦の翌日、アオイはエリカとタクトと町で待ち合わせをしていた。
 三人の目的地はホワイトファングではない。
 ホワイトファングは品揃いも良く、設備も整っている為、良く溜まり場にしているが今日は別の場所で練習を行う事になっている。
 練習の場所を変える事で、少しでも違ったタイプのファイターとバトルを行う事でアオイに欠けている実戦経験を増やす事が目的だ。
 実戦経験が増えれば、それだけバトルの時に冷静に判断する事が出来るからだ。

「この辺りなんだが……」
「本当にこの辺りにあるのか?」
「間違いないってネットで調べて来たから」
「あれじゃないんですか?」

 タクトがこの辺りでガンプラバトルを行える場所を事前にネットを使って調べて来ていた。
 プリントアウトした地図を頼りにその場所を探していた。

「茨の園……ここだな」
「地下……本当に大丈夫なんだよな。アタシ等はともかく、アオイを面倒事に巻き込む事は出来ねーぞ」
「大丈夫だって……多分」

 目的地の茨の園はビルの地下にあるようだった。
 少し怪しげな雰囲気を漂わせている為、エリカは心配しているが、タクトもきちんとネットで調べている。
 その情報を信じて、タクトを先頭に3人は階段を下りていく。
 階段を下りていくと茨の園と書かれた看板とドアに辿りつく。
 中に入るとかなり開けた空間となっており、そこは熱気に包まれていた。

「中は案外普通だな」
「なんか、僕達……場違いな気がするんですが……」

 茨の園に来ている客はパッと見で30代以上が多いように見える。
 ホワイトファングは10代や20代の客が多い為、客層が違うだけでも雰囲気はまるで違う。
 ホワイトファングは和気藹々とした雰囲気ではあるが、茨の園の空気はどこか殺伐としている。
 天上からモニターがいくつも吊るされており、バトルの様子が映されている。
 そのバトルに対して、客たちは応戦にしては汚い言葉で、すでに応援と言うよりも野次に近い怒号を上げている。
 
「何事も経験だって」
「取りあえず、観戦からしとくか」
「ですね……流石にこんな中でバトルは……」

 アオイは場の雰囲気に圧倒されている為、すぐにバトルが出来る状態ではない。
 場の雰囲気にも慣れると言う意味も兼ねて3人はまずは、バトルの観戦から始める事にした。

「結構強いファイターが多いな」

 何回かバトルを観戦したが、茨の園でバトルしているファイターのレベルは思った以上に高い。
 客の人数的にはホワイトファングの足元にも及ばないが、茨の園の方が平均的にはレベルが高い。

「ん?」
「どした?」
「いや……ミズキさんがいたような気がしたんだが……」
「流石にこんなところに出入りはしないだろ」

 観戦しているとタクトの視界にミズキが入ったような気がした。
 だが、エリカの言うように茨の園とミズキとは結びつかない。
 どちらかと言えばミズキは茨の園のような騒がしい場所よりも図書館やカフェと言った静かで落ち着いた場所の方が似合っているとタクトも思う。

「こんなところで会うなんて奇遇だな」
「……マシロさん」

 ミズキがいた気がする事は気のせいだと思い直した矢先に今度はマシロと遭遇した。
 マシロに対して、タクトは明らかに敵意を向ける。

「アンタみたいなお坊ちゃんが何でこんなところにいんだよ?」
「答える必要はないけどね。俺はオーバーワーク気味だから息抜き」
「……答えんのかよ」

 棘のある言い方だが、マシロは全く気にしてはいない。
 マシロが茨の園に来た理由の一つがここ数日のオーバーワークだ。
 一日100回近くのCPU戦を行っている事もあり、今日は息抜きを兼ねて茨の園に来たらしい。
 闇雲にバトルをやり続けていたところでマシロの体が持たないのも当然で、たまに一日のバトルの回数は通常の半分程にして息抜きで出歩いて適当な相手を探してバトルしている。
 
「で、そっちは?」
「……秘密の特訓だ」
「俺に話した時点で秘密じゃなくね?」
「その辺にしとけって」

 このままではまた、喧嘩になりそうだった為、エリカが仲裁に入る。
 流石にタクトも喧嘩騒ぎを起こす気は無い為、素直に従った。

「お前達は運が良い。今日は面白いバトルが見られるかも知れない」

 マシロはそう言ってモニターの一つを指さす。
 マシロが今日、ここに来たのは偶然と言う訳ではなかった。
 あるファイターのバトルを見る為に、ここまで足を運んで来た。

「あれって……」
「アンドウ先輩?」
「ホワイトファングで見ないと思ったらここでバトルしてたのか」

 モニターに映されているファイターはアオイが準決勝でバトルすると予想しているアンドウ・コウスケだ。
 マシロはコウスケのバトルを見る為にここまで来た。
 
「何でも以前とはバトルスタイルを変えてたらしい。前は弱かったけど、面白いガンプラを使ってたからな」
「面白いガンプラ?」
「そっ、変身するユニコーン」

 そう言われて、アオイ達は互いに目配せをするが、誰もその事は知らないらしい。
 コウスケのユニコーンガンダムはユニコーンモードからデストロイモードになれると言う事は余り知られてはいない。
 去年までは違うガンプラを使っていて、デストロイモードは切り札である為、それを使わないといけない程のファイターか、そのファイターとのバトルを運良く見る事が出来なければ知らないのも無理はない。

「アレは……黒いユニコーン」
「バンシィ……」

 バトルシステムに置かれたコウスケのガンプラは以前のユニコーンガンダムではなかった。
 ユニコーンガンダム2号機、通称「バンシィ」だ。
 ユニコーンガンダムの2号機として作られた機体だが、白一色のユニコーンとは違い黒い。
 装備は原作に当たる小説版ではなくOVA版の装備であるアームド・アーマーが装備されている。

「趣味悪りぃ……それにいきなりデストロイか……」

 マシロからすれば白いユニコーンから黒いユニコーンに乗り換えたような物で少し気に入らない。
 そして、以前とは違いバンシィはデストロイモードだ。

「始まるぞ」

 マシロは嫌な予感を感じていると、バトルは開始される。
 バトルフィールドはオーソドックスは地上フィールドで対戦相手のガンプラはジム・キャノンⅡだ。
 ジム・キャノンⅡは先制攻撃でビームキャノンを放つ。
 バンシィは大きく飛んで回避すると、右腕のアームド・アーマーBSをジム・キャノンⅡに向けて放った。
 ジム・キャノンⅡは90mmジム・ライフルで反撃を行いつつも回避する。
 アームド・アーマーBSはビームを掃射しつつ、ジム・キャノンⅡを狙い、やがてジム・キャノンⅡの右足に直撃し、右足が破壊される。

「あちゃ……足をやられた。運がねぇな」
「お前の目は節穴か。今の攻撃は足を潰しにかかってる」

 マシロに指摘されてタクトはムッとする。
 だが、今の攻撃はマシロの目にはジム・キャノンⅡの足を始めから狙っていたように見えた。
 右足を破壊された事で、ジム・キャノンⅡは尻餅をついて倒れ込んだ。
 バンシィは着地すると、一気にジム・キャノンⅡとの距離を詰めた。
 ジム・キャノンⅡはジム・ライフルで応戦するが、距離を詰められるとアームド・アーマーBSでライフルが弾かれると、バンシィは左腕のアームド・アーマーVNを展開する。
 獣の爪を思わせるクローとなったアームド・アーマーVNを振り落すが、ジム・キャノンⅡはギリギリでシールドで防ぐがシールドは破壊される。
 ジム・キャノンⅡはビームキャノンを放つが、バンシィは後方に下がり、頭部のバルカンをジム・キャノンⅡに放つ。
 
「弄り殺す気か」

 バンシィの戦いを見てマシロはポツリと零した。
 ビームキャノンの攻撃を回避したバンシィは、アームドアーマーVNを通常形態の打撃武器としてジム・キャノンⅡのビームキャノンの片方を殴り飛ばして破壊する。
 再度、ビームキャノンで応戦しようとするジム・キャノンの胴体をバンシィは踏みつけるとアームド・アーマーBSでビームキャノンを破壊する。
 踏みつけられて身動きの取れないジム・キャノンにバンシィは止めのアームド・アーマーBSを撃ち込んでバトルは終了した。
 バトルが終わった後マシロ以外は茫然として、一言も喋らなかった。
 アオイ達の知るコウスケのバトルとは正反対で相手をいたぶっていた。
 それが未だに信じられない。

「つまらないな」

 そんな中、マシロはバトルの感想を口にした。
 確かに以前とは違う戦い方だった。
 前にバトルした時に比べるとバトルの腕は上がっていたが、非常につまらないバトルだった。
 以前のコウスケは弱かったが、面白いガンプラを使っていた。
 ユニコーンをデストロイモードに変身させる機能はマシロからすれば無駄の一言だ。
 それを組み込む為に装甲を削って内部に隙間を作って変身時に装甲の一部をスライドさせて収納できるようにしていたのだろう。
 それらを行う為には手間を技術が必要となる。
 だが、それに見合った性能を得られると言うだけではない。
 装甲を削った事で防御力は低下する上に、デストロイモードに変身させる位なら、初めからデストロイモードのユニコーンを買って作り込んだ方がよっぽど強いガンプラを作る事が出来る事は誰の目にも明らかだ。
 作中ではデストロイモードのリスクとして瞬間移動にも見間違う程の機動力から来る殺人的な加速とサイコミュによるパイロットの心身への負荷で5分程度しか使えないが、ガンプラバトルにおいては関係ない。
 ユニコーンを完全に変身させる事が出来る機構を再現できる程の腕があれば、リスクと手間が性能に見合わないと言う事が分からない訳が無い。
 それでも尚、変身させる事出来るユニコーンを制作したのは、本編の設定をリスペクトしたが故なのだろう。
 ガンプラバトルで勝利する事を目的にガンプラを制作しているマシロからすれば、勝つ為に必要な事として自分のやりたいように改造を施している為、コウスケの行った改造は無駄で馬鹿げているとしか言いようがない。
 無意味だと分かっていてもそれを行った事だけはマシロも面白いと認めていた。
 本当に興味を持たない相手にはバトル後に話しかけられても無視して答える事は無い事が多いマシロだが、多少なりとも認めていたが故にバトルの後に話しに応じた。

「アレが力に飲まれると言う事か……確かに醜いな。父さんの言った通りだ。ああはなりたくは無い」
 
 今のバトルを見る限り、コウスケはただ力を振るいたいだけに見えた。
 その気になれば、もっと早く勝負を決める事が出来た。
 それなのにいたぶっていた。
 大局を見据えて指示を出したレイコにやるように言われたマシロとは違い、ただ自分の力を見せつけるかのようでマシロの目には非常に醜く見えた。
 そして、それは今な亡き父から何度も言われた事でもあった。
 マシロ達は人より優れた才能と言う力を持っている。
 故に決して力に飲まれてはいけないと。

「やぁ、まさか君が見ていたとは思わなかったよ」
「……アンドウ先輩」

 バトルが終わり時間が経っていたのか先ほどまでバトルをしていたコウスケがそこにいた。
 マシロを含めた皆が以前のコウスケと面識があるが、コウスケは別人と化していた。
 以前は礼儀正しい好青年と言う印象だが、今のコウスケはどこか陰湿な印象を受ける。
 同じ高校でも学年が違えば、接点が殆ど無い為、コウスケと会う機会は無かったが、この変貌ぶりには驚くしかない。
 尤も、先ほどのバトルを見ている為、驚きは半減してはいる。

「ここは力が支配する場所だよ。君たちのような子供が来る場所じゃないな」

 コウスケはアオイ達を嘲笑うかのようにそう言った。
 ホワイトファングは地区のファイターの情報を集める為に、誰でも気軽に遊びに来れる場所と言う雰囲気を作っている。
 一方の茨の園はとにかく、強いファイターが幅を利かせている。
 つまり、遠回しにアオイ達を弱者として馬鹿にしていると言う事だ。
 その意味を完全に理解している訳ではないが、コウスケが自分達を馬鹿にしていると言う事はアオイ達にも何となく伝わっている。
 そんなコウスケの態度にタクトが食ってかかりそうになるが、マシロが何も言わずにコウスケの横を通り過ぎようとしていた為、食ってかかる事は無かった。

「待ちなよ。ヴァイス・デビル」
「それ覚えてたんだ」

 呼び止められたマシロは仕方が無く立ち止まって振り返る。
 白い悪魔、ヴァイス・デビル。
 かつて、マシロがコウスケに名乗った名だ。
 そして、ネット上に情報をばら撒いていた。
 しかし、マシロはレイコとは違い情報の扱いに長けている訳ではない。
 その為、ヴァイス・デビルの名は殆ど広まる事はなく、いつしかマシロも自演して情報を広める事に飽きていた。
 今ではその名を覚えている者は殆どいない為、本当に都市伝説を化している。

「俺は君に感謝しているんだ。あの日、君に負けた事で気づいたんだよ。圧倒的な力……力こそが全てなんだと!」

 そう言うコウスケはどこか狂信的な印象すら受けた。
 アオイの初めてのバトルの後、コウスケはマシロに大敗した。
 そして、今までの努力を否定されたコウスケはある答えに至った。
 力こそが全てなのだと。
 どんなに努力を重ねようとも圧倒的な力を前には無意味であると、マシロとのバトルを通じてコウスケは悟った。
 ここでのバトルでコウスケはその圧倒的な力を手に入れていた。

「くだらない」

 そんな、コウスケをマシロは一蹴する。
 
「力はただ力でしかない。それ自体に価値はない。そこに使う理由を与えて初めて価値があるんだよ。つまり、力を行使する為の力に価値はない。よってお前のバトルにも価値はないって事だ」

 マシロにとって、力は力でしかなかった。
 その力をバトルで勝つ為に使い、勝てば楽しいと言う理由を持たせる事で力に価値が出て来る。
 今のコウスケは力を使う為に力を欲している。
 そんな力に価値は無かった。

「言ってくれるね。なら、君と俺の力……どっちが正しいかここで決めようじゃないか」
「やだね。アンタじゃ俺には勝てないよ。力の意味すら解せないアンタじゃ俺とバトルしても勝負は見えてる」
「逃げるのかい? 意外と臆病なんだな」
「この国にはこんな諺があるらしいな。弱い犬程良く吠えるって。確かに」
 
 コウスケとバトルする気のないマシロは挑発に挑発で返す。
 
「けど、どうしても俺とバトルしたければ決勝まで上がって来いよ。まぁ、準決勝まで勝ち上がっても準決勝で負けるだろうけどな」
「準決勝……ああ、君か」

 今の今まで蚊帳の外だったアオイにコウスケの視線が向けられた。
 このままで行けば、準決勝でアオイとコウスケが当たる。
 マシロはコウスケはアオイに勝てないと断言した。
 だが、アオイに勝った事のあるコウスケは、マシロの言っている事を戯言としか捉えていないようだ。

「彼の実力を知って言っているのかい?」
「どう言う!」
「少なくともアンタよりはマシだってことは知ってるつもりだけど?」

 明らかにアオイを見下した態度にタクトの我慢の限界で、今度こそはエリカも止める気は無かったが、マシロの言葉が遮る。
 
「ふん。まぁ良い。どっちが正しいか時期に分かるからね」
「そうだな。その時に無様に泣くのはアンタの方だけどな」

 どっちも自分の意見を曲げる事は無かった。
 そして、当事者である筈のアオイは口を挟む事も無く、マシロとコウスケのどちらが正しいかと言う事はアオイとコウスケの準決勝で決められる事となった。





 アオイの意志とは関係なく、マシロとコウスケの争いに巻き込まれたが、その前に5回戦を勝ち抜かなければ意味はない。
 5回戦の時点で地区予選のベスト8となり、すでにマシロとレッカは勝ち抜いて準決勝でのバトルが決まっている。
 そして、コウスケも別のスタジアムでバトル中だが、相手を見る限りでは勝ちは見えている。
 アオイの5回戦の対戦相手のガンプラはラファエルガンダムだ。
 ラファエルガンダムはGNビームライフルで、牽制の射撃を放つ。
 ビギニングガンダムBはシールドを掲げながら、ハイパービームライフルで応戦している。
 ビギニングガンダムBの攻撃を回避して、ラファエルガンダムはバックパックのGNビッグキャノンを最大出力で放つ。

「くっ!」

 何とか回避するが、ビームはシールドに掠りシールドの表面が焼かれる。
 体勢を崩しながらもハイパービームライフルで反撃すると、ビームはラファエルガンダムのバックパックに直撃した。
 バックパックが爆発する前に、ラファエルガンダムはバックパックを本体からパージし、GNビッグキャノンもパージした。
 GNビッグキャノンは元々、パージして独立して使う事も出来る為、そのままビギニングガンダムBにビームを放つ。
 ラファエルガンダムも含めて三方向からの攻撃をシールドを使って防いでいたが、GNビッグキャノンの砲撃でシールドの表面にダメージを受けていた事もあってシールドが破壊される。

「僕は……」

 シールドを失いつつも、ハイパービームライフルでGNビッグキャノンを一つ撃ち落すと左手にビームサーベルを持って一気にラファエルガンダムの方に向かう。
 ラファエルガンダムは残っていたGNビッグキャノンを腕に付けたGNビッグクローでビギニングガンダムBを迎え撃つ。
 ビギニングガンダムBのビームサーベルをラファエルガンダムのGNビッグクローはぶつかり合う。
 GNビッグクローをビームサーベルが貫きかけるが、ラファエルガンダムは強引にGNビッグクローを振り抜いて、ビギニングガンダムBの左腕をもぎ取る。
 ビギニングガンダムBの左腕をもぎ取ったが、ラファエルガンダムのGNビッグクローもビームサーベルによる損傷で使い物にならなくなった為、パージされた。

「シシドウさんとキサラギ君の期待に応える為にも……」

 ビギニングガンダムBは振り向き、ハイパービームライフルを構えた。
 ラファエルガンダムもGNビームライフルを構えていた。

「負けたくない!」

 2機は同時にビームを放った。
 2機の撃ったビームはぶつかり合う。
 そして、ビギニングガンダムBのハイパービームライフルの方が威力が多少、勝っていた為、ラファエルガンダムの放ったビームは射線を変えてビギニングガンダムBの足を貫き、ビギニングガンダムBの放ったビームはラファエルガンダムの胴体を貫いていた。
 胴体を撃ち抜かれたラファエルガンダムは爆散し、アオイの勝利となる。
 アオイが勝利した事でDブロックの代表も決まり、ベスト4が全て出そろった事になる。
 そして、準決勝第一試合はマシロVSレッカ、第二試合はアオイVSコウスケと言う4人中3人が無名のルーキーと言う異例の形で日本第一地区の地区予選は終盤に入って行く。
 



[39576] Battle23 「努力の果て」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/18 13:57
 準決勝を当日に迎え、マシロは会場へ向かっていた。
 以前、タツヤと共に出場した大会の道中で怪我を負わされた経験から、地区予選のバトルは毎回、クロガミグループの専用車で送り迎えをさせている。
 会場までの間に頭の中で今日のバトルのシミュレーションしていると、携帯が鳴る。

「誰?」

 シミュレーションを邪魔されてマシロは少し機嫌が悪くなった。

「私だ」
「……ボスかよ」

 マシロは電話の相手を確認すると更に機嫌が悪くなる。
 マシロがボスと呼ぶ相手は一人しかいない。
 マシロが名目上所属しているガンプラチーム「ネメシス」のオーナー、ヨセフ・カンカーンシュルヤだ。
 そして、互いに用が無ければ連絡など取り合う事が無い為、何かしらの用があると言う事だ。
 大会中と言う事もあって、面倒な事この上なかった。

「どういう事か説明して貰おうか」
「何の事だよ」
「決まっている。何故、お前がガンプラバトルの世界大会にエントリーしているのかと言う事だ」
「その事か。耳が早いな」

 ヨセフがマシロに連絡を入れた理由は、マシロが世界大会に出場していることだ。
 契約では今年ではなく、来年の世界大会で優勝する事となっている。
 来年はプラフスキー粒子の発見から10年目である為に優勝時の副賞が例年とは違うからだ。
 その為に、マシロの情報を秘匿し、来年の世界大会の切り札として来た。
 しかし、マシロは一年早く表舞台に出て来た。
 ヨセフの予定は大きく狂ったも同然だ。

「今年優勝すれば、来年は地区予選をパス出来るからな。そっちの方が楽じゃん」
「だが、今年優勝すれば来年は世界中のファイターに研究される」
「だから何? それでも勝てば問題ないだろ」

 毎年、去年の世界チャンピオンはバトルを研究される。
 それは当然の事で、研究されれば圧倒的に不利となり、それ故に今までに世界大会を連覇したファイターは今までに一人としていない。
 だが、マシロからすればそんな事は関係ない。
 ただ、今年も来年も優勝すればいいだけの事だ。

「そんなに俺の事が信用出来ないってんなら、ボスが金出してる……何だっけ? フラナガン機関? フラガ機関? とやらにファイターを送って来るように言えば良いじゃん。どうせ、ガンプラバトル関係の機関なんだろ?」

 正確にはフナラ機関だ。
 マシロも興味が無い為、深く調べてはいないがヨセフはフラナ機関に出資をしている。
 タイミング的にガンプラバトルに関係していると思われる。
 恐らくは万が一にマシロが勝てなかった時の保険と言う事だろう。

「そうさせて貰う」

 ヨセフはそう言って一方的に電話を切った。

「たく……まぁ、少しは面白そうな奴が来れば良いんだけどな」

 マシロはヨセフの事を忘れて再びシミュレーションに入る。






 地区予選の準決勝ともなると観客の数はかなり増えている。
 尤も、純粋にバトルを見に来た観客だけではなく、カメラを回しバトルの様子を録画しようとしている観客も少なからずいた。
 彼らの目的は応援と言う訳ではない。
 別の地区や国で出場予定の選手たちなのだろう。
 自分の実力に自信があるファイターなら自分の参加予定の地区を勝ち抜けばいずれは世界大会で当たると言う事で偵察に来ているのだろう。
 中には外人もちらほら見えるが、国によってはすでに予選が終わって代表が決まっている国もある。
 そんな国のファイター達も世界大会の開催地である静岡に早めに滞在し、日本に慣れる事とこの地区の代表のバトルを見に来ている。
 
「勝算はあるのか? カガミ」

 準決勝一回戦の開始時間が迫り、会場入りしたレッカにタクトがそう言う。
 すでにアオイは自分のバトルの準備に入っており、タクトとエリカはアオイの応援に回る為、先にレッカを激励しに来ていた。

「彼のバトルを見る限り彼は強い。恐らくはこの地区でも彼以上のファイターはいないだろう」

 レッカは今までもマシロのバトルからそう判断した。
 後半になるにつれて確実にマシロの対戦相手のファイターの実力は上がっているが、それでもマシロは苦戦する事無く勝って来ている。
 そこから、マシロの実力は第一地区の中でもずば抜けて高いと判断した。

「だが、それと同時に非常に幼稚なバトルをしている。自分の実力を見せつけるかのように戦っている。そこに付け入る隙がある」

 確かにマシロの実力はずば抜けていた。
 しかし、同時にマシロのバトルは常に自分の実力を見せつけるかのようなバトルだった。
 その気になれば、もっと早く勝負をつける事が出来たバトルも多く、特にエリカとのバトルがそうだ。
 わざわざ、投げたビームブーメランを掴むと言う無用なリスクを何度も繰り返す辺りはマシロが自分の実力に絶対的な自信を持ち、それを見せつけたいと言う思惑が感じられた。

「力だけで勝てる程、ガンプラバトルは甘くはないさ。正面からぶつかれば勝算は薄いが、彼の攻撃をとにかく防いでチャンスを待つ。彼だって人間なんだ、いずれは致命的なミスを犯すだろう。そこを突けば勝ち目は見えて来る」

 レッカのマシロ攻略の策として、長期戦に持ち込むと言う事だ。
 幾らマシロの実力がずば抜けていても、人である以上はミスは必ず出て来る。
 そのミスを犯すまで耐えに耐えて、チャンスを待つ。
 正面からのバトルでは勝ち目がないと判断すればこその策と言えた。
 
「けど、気を付けろよ。アイツは普通じゃない」
「肝に銘じておく。タチバナに伝えて置いてくれ。先に決勝で待っていると」

 実際にマシロとのバトル経験のあるエリカの忠告を受けて、レッカはそう返す。
 尤も、準決勝の開始時間はアオイの方が少し遅いが、レッカは長期戦に持ち込む為、終わるのはアオイよりも遅い。

「おう。頑張って来いよ」

 タクトとエリカに見送られて、レッカはマシロとのバトルに向かう。
 それを見送った二人もすぐにアオイのバトルが行われるスタジアムへと向かった。
 会場にはすでにマシロが待機しており、レッカが来たところでバトルシステムが起動する。
 二人はGPベースをセットすると、バトルシステムにガンプラを置いた。
 マシロはいつものガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、レッカのビギニングガンダムRはいつもとは違いビームライフルとシールドを装備している。
 長期戦に持ち込むに為に、距離を取って戦えるビームライフルと防御に使うシールドを装備して来た。
 二人の準備が整い、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドは以前にレッカがアオイとバトルした月面フィールドだ。
 バトルが開始され、レッカは周囲を警戒する。
 すると、正面からガンダム∀GE-1 セブンスソードがショートドッズライフルを撃って来る。
 それをシールドで受け止め、ビームライフルで反撃する。

「やはり、馬鹿正直に正面から来るか」

 ビギニングガンダムRの攻撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは左腕の小型シールドで防ぎながら突っ込んで来る。
 ビギニングガンダムRはビームライフルを連射して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの勢いを削ごうとする。
 しかし、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは小型シールドを掲げながらも、速度を通さない。
 本体への直撃は小型シールドで防いでいるが、ビームが掠る事を気にも留めていない。

「突貫する気か!」

 向こうが損傷を気にすること無く、突っ込んで来ると言う事にレッカが気が付くのは少し遅れていた。
 今までのバトルは一度も被弾する事が無かった為だ。
 そして、気が付いた時には遅く、小型シールドを掲げたガンダム∀GE-1 セブンスソードがビギニングガンダムRに突っ込んだ。
 ギリギリのところでシールドで受け止めてが、勢いの付いているガンダム∀GE-1 セブンスソードを止める事が出来ずに弾き飛ばされた。

「やってくれた……」
「遅いんだよ」

 吹っ飛ばされて何とか立ち上がったビギニングガンダムRだったが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは一気の距離を詰めていた。
 とっさにビームライフルで応戦するが、ビームを撃った時には懐に入られていた。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して振り上げて、ビギニングガンダムRの右腕を切断した。
 ビギニングガンダムRはガンダム∀GE-1 セブンスソードに距離を取らせる為に至近距離から頭部のビームバルカンを撃ち込むが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは被弾を気にすること無くCソードを振り下ろした。
 その一撃はビギニングガンダムRを一刀両断した。

「そんな……」

 長期戦に持ち込んで隙をつく作戦だったが、長期戦どことが普通のバトルよりも短い時間で終わった事でレッカは茫然とするしかなかった。
 レッカはマシロのバトルを力を見せつけていると分析していたが、それは正しくもあり間違いでもあった。
 地区予選が始まった時にレイコから言われた通りのバトルをマシロは心がけていた。
 それ故に、レッカはマシロに付け入る隙があると思わされていた。
 レッカがマシロのバトルを分析したようにレイコもまた、レッカのバトルを分析した。
 その結果、今までのバトルからマシロは力を見せつけるように戦うと印象づけたところで、本来の戦い方で戦わせた。
 そうする事で、レッカが戦い方が変わった事に対処する前に勝負をつける事が出来た。
 今回の作戦は奇襲である為、次からは余り効果的とは言えないが、速攻で決めた事で単に力を見せつけるだけのバトルの中に速攻で決めに来ると言う事も印象づける事が出来た。
 次からマシロとバトルする場合は速攻も警戒せざる負えない為、他のファイターにも圧力をかける事にも繋がっている。
 そして、レッカが知らない最大の誤算はマシロは一日の大半をガンプラバトルに費やす事も珍しくは無い為、数時間くらいのバトルでは普通に戦う分には絶対にミスを犯さないと言う事だ。
 つまりは、一見ミスを犯すまで耐えると言う作戦はマシロに対して効果的とも思えたが、その実守りに徹しているだけでは始めから勝ち目などなかった。
 







 マシロとレッカのバトルが終わった頃、アオイとコウスケのバトルの方も始まろうとしている。
 観客席ではタクトとエリカが緊張した面持ちでバトルが始まるのを待っていた。
 茨の園で久しぶりに会ったコウスケはまるで別人になっていた。
 アオイにとってはコウスケは初めてバトルした相手だ。
 あの時はバトルに慣れていなかった為に、操縦をミスしてあっさりと負けた。
 今は、経験を積んだ事で実力を伸ばした為、あの時のようなミスはしないだろう。
 アオイにとっては特別な相手でその相手は変わり果てている。
 バトル前にアオイに会っているが、今日のアオイはいつもよりどことなく気合が入っているようにも見えた。

「まだ始まってないみたいだな」
「お前……」

 バトルが始まろうと言う時にマシロが観客席に来ていた。
 タクトたちは少し前にマシロとバトルするレッカを送り出した。
 長期戦に持ち込むと言っていた事を除いてもまだ、バトル中の筈だったが、ここにマシロがいると言う事はすでにバトルが終わったと言う事だろう。
 そして、マシロの様子を見る限りでは負けて来たとは見えない。
 つまり、マシロに確認せずともレッカは負けた。
 それも、この短時間でだ。

「俺としては強い方が上がってくればどっちが勝っても構わないんだけど、宣言した以上はタチバナ・アオイに勝って貰わんと超恥ずかしい事になるな」

 マシロはそう言って、何気ない顔で二人の隣の席に座り込む。
 
「アオイは勝つさ」

 タクトは自分に言い聞かせるようにそう言う。
 それに対して、マシロは何も言わない。
 そして、二人の準備が整いバトルが開始された。
 バトルフィールドは山岳地帯。
 アオイが初めてバトルしたバトルフィールドだ。
 
「センパイのガンプラが!」

 バトルが始まり、モニターに双方のガンプラが映し出されている。
 アオイの方はいつもと変わらないが、コウスケのガンプラは前に見たバンシィとは違った。
 フルアームド・バンシィ・ノルン。
 OVAに登場するバンシィを改修した総合性能向上仕様であるバンシィ・ノルンをベースにしている。
 汎用性に難がある為に撤去された両腕のアームド・アーマーを撤去せずにそのまま装備している。
 バックパックには増加ジェネレーターでもあるアームド・アーマーXCとシールドに増加ブースターとビーム砲を搭載したアームド・アーマーDEを装備している。
 右手にはバンシィ・ノルンの通常装備であるリボルビング・ランチャーが付いたビームマグナムを持っている。

「アームド・アーマーの全部盛りね。少しはマシなガンプラを仕上げて来たみたいだな」

 マシロはFAバンシィ・ノルンをそう評価した。
 バトルが開始されFAバンシィ・ノルンはビームマグナムで先制攻撃を行う。
 以前は威力にビビッて大きく回避して体勢を崩していたが、今回は冷静に着地してハイパービームライフルで反撃する。
 そのビームはビームマグナムを掠った。
 FAバンシィ・ノルンはすぐにビームマグナムをパージして着地する。
 ビームマグナムを失った事で、腰につけて来たビームマグナムとリボルビング・ランチャーの予備の弾倉をパージする。

「少しはマシになったみたいだけどな!」

 FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーBSを展開して攻撃する。

「先輩のように強くなりたくて僕は頑張って来ました!」
「無駄な事を!」

 ビギニングガンダムBはFAバンシィ・ノルンの攻撃を回避しながら反撃する。

「無駄なんかじゃ!」

 ビギニングガンダムBの攻撃はFAバンシィ・ノルンに掠った。
 損傷こそないが、初めてのバトルの時の印象しかないコウスケにとってはアオイに攻撃を掠らされたことは屈辱でしかなかった。
 
「雑魚の癖して!」

 アームド・アーマーDEを使ってFAバンシィ・ノルンはビギニングガンダムBに突っ込んでアームド・アーマーVNを振るう。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで迎撃するが、接近を防ぎ切れ無かったが、FAバンシィ・ノルンの攻撃を掻い潜りFAバンシィ・ノルンの背後に飛び上がった。
 そして、ハイパービームライフルを放つが、バックパックのアームド・アーマーDEで防がれる。

「無駄なんだよ!」
「違います!」

 FAバンシィ・ノルンの背後に着地した、ビギニングガンダムBはシールドを掲げて前に出る。
 FAバンシィ・ノルンは振り返るが、ビギニングガンダムBの体当たりを受ける。

「僕はあの時、先輩に言われました。もっと努力すれば伸びるって……だから、それを信じて、僕は友達と共に頑張って来たんです!」
「黙れ!」

 ビギニングガンダムBの体当たりをFAバンシィ・ノルンは辛うじて受け止めた。

「嫌です! 今の先輩は間違ってます!」
「喋るなぁぁぁぁ!」

 アオイの真っ直ぐな言葉は、コウスケをイラつかせる。
 アオイの真っ直ぐな言葉は自分が如何に汚れてしまっているかを思い知らされる。
 FAバンシィ・ノルンはビギニングガンダムBのシールドを蹴り飛ばすと、至近距離からバルカンを撃ち込む。
 強度の増しているシールドなら受け止める事は容易いが、ビギニングガンダムBはその場から動けない。

「バトルは勝たないと駄目なんだよ! 敗者は惨めなんだよ! 努力なんて意味がなかったんだよ!」
「そんなの違う! 絶対に違います! 努力に意味なんてない訳がない!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで反撃する。

「努力があるから結果に繋がるんです! 僕がそうだったように!」

 ビギニングガンダムBのビームがFAバンシィ・ノルンの左腕のアームド・アーマーVNを破壊する。

「貴方は急ぎ過ぎたんですよ!」
「何も知らない癖に! 俺だって……こんな筈じゃなかった……こんな筈じゃ!」

 FAバンシィ・ノルンは左腕にビームトンファーを展開して、ビギニングガンダムBに付き出す。
 シールドで受け止めるも、次第にシールドにビームトンファーが突き刺さって行く。

「諦めたら、そこで終わりなんですよ!」
「俺だって諦めたくはなかったさ! けどな……どうしようもないんだよ! 諦めるしかないだろ!」

 コウスケは負けた事が無かった訳じゃない。
 だが、マシロに敗北した事で思い知った。
 努力だけでは超える事の出来ない壁を。
 だから、諦めた。
 自分には超える事が出来ないと。
 だから、コウスケは努力する事を止めて、自分よりも弱く勝てる相手を徹底的に弄り叩きのめす事で自分が強いと思おうとした。

「だからって!」

 ビギニングガンダムBはシールドを捨てて、ビームサーベルを抜きざまに振るう。
 FAバンシィ・ノルンも右腕のアームド・アーマーBSを向けるが、ビームサーベルが振り落される方が早かった。
 ビームサーベルがアームド・アーマーBSを切り裂き、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーBSをパージした。
 2機は距離を取ってFAバンシィ・ノルンは左腕にバックパックのアームド・アーマーDEを付けて、右腕のビームトンファーを展開する。

「だからって……出来ないからって諦めてしまえば、もっと何も出来ないじゃないですか! 僕だって……何の取り柄の無い僕だって、友達に支えられて……諦めないでやって来れたからここまでこれたんです! 僕に出来て先輩に出来ない訳ないじゃないですか!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放ち、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーDEで防ぎながら接近してビームトンファーを振るう。
 ビギニングガンダムBは一歩下がってビームトンファーをかわして、ビームサーベルを振り落す。
 それを、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーDEで受け止める。

「だから……こんな相手を叩きのめす為のバトルなんて絶対に間違ってます!」

 ビギニングガンダムは後ろに引いてハイパービームライフルを向ける。
 ハイパービームライフルのバーストショットをアームド・アーマーDEに撃ち込んで破壊する。
 だが、FAバンシィ・ノルンも負けじとビームトンファーを振り上げてハイパービームライフルを切り裂く。

「僕の知ってる先輩はこんなバトルはしません!」

 ビギニングガンダムBのビームサーベルとFAバンシィ・ノルンのビームトンファーがぶつかり合う。
 
「だから……僕が勝ちます!」
「だったら……僕に勝って証明して見せるんだ!」

 ビギニングガンダムBはもう一本のビームサーベルを抜いて、二本のビームサーベルでFAバンシィ・ノルンのビームトンファーを押し戻す。
 押し返されたFAバンシィ・ノルンも左腕のビームトンファーも展開して振るう。
 二本のビームトンファーの斬撃をビギニングガンダムBは紙一重で回避して見せた。

「これをかわした!」

 そして、ビギニングガンダムBはビームサーベルを振るう。
 二本のビームサーベルが同時にFAバンシィ・ノルンを捕えた。
 両肩からバッサリとビームサーベルで切り裂かれたFAバンシィ・ノルンは地に倒れ伏した。

「こんなもんか」

 バトルに決着が付き会場が歓声で湧き上がる中、マシロだけは冷ややかだ。
 この勝敗自体は始めから分かっていた事だ。
 最後の攻撃をかわした時にアオイはゾーンに入っていたと思われるが、そのくらいしか見どころは無かった。

「まぁ……お楽しみは最後に取っておくと言う事か」

 未だにアオイのバトルの違和感の正体が分からないが、初めから何もかもが分かっているバトルはつまらない。
 熱狂が覚める前にマシロは席を立って帰って行く。

「先輩! 何か勝手な事ばかり言って済みませんでした」

 バトルが終わって、アオイは冷静になって見るとバトル中にコウスケに対していろいろと言っていた事を思い出して謝った。
 
「……いや、君の言う通りだったよ。努力はやる事が重要なんじゃない。諦めない事が重要なんだ」

 一方のコウスケはバトルに負けたが、どこか憑き物が取れたかのように晴れやかだった。
 マシロに負けた事で諦めたが、アオイに負けて希望を見いだせた。
 初めてアオイとバトルした時とは比べものにならない程、アオイは強くなった。
 それは、アオイが諦めずにここまで頑張って来たからなのだろう。
 
「僕の負けだよ」

 コウスケはそう言って、アオイに手を差し出す。
 アオイもその手を握り返す。

「次の決勝戦は恐らく彼だろう。でも……アオイ君ならきっと……」

 まだ、二人にはマシロとレッカのバトルの結果は届けられてはいない。
 だが、コウスケはアオイの決勝戦の相手はマシロであると漠然と思っていた。
 圧倒的な力を持つマシロにコウスケは心が折られた。
 しかし、どんなに強大な力を前にしてもアオイは折れないと確信していた。
 元からアオイには才能があった。
 それに加えてここまで積み重ねて来た物もある。
 そんなアオイならマシロを相手に勝てるかも知れないとコウスケは思っていた。

「僕にどこまで出来るか分かりませんが……」
「アオイ君、君は強い。もう少し、自分に自信を持った方が良い。出ないと君に負けた僕の立つ瀬がないからね」
「……そうですね」

 コウスケは軽く茶化すが、アオイはここに来るまでにいくつも勝利を重ねて来た。
 そんなアオイが自分を卑下する事はアオイが倒して来たファイターへの侮辱となる。

「僕はあの人に勝ちたい……いえ、勝ちます」
「その意気だ」

 日本第一地区地区予選準決勝が終わり、世界大会への切符をかけた決勝戦はマシロ・クロガミとタチバナ・アオイの二人でバトルする事となった。



[39576] Battle24 「偽りの真実」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/20 14:50


 準決勝と決勝戦の間には一週間の間が空いている。
 その間にアオイは決勝戦に向けての練習をホワイトファングで行っていた。

「もう一度お願いします!」

 アオイは練習相手のコウスケにそう言う。
 今はコウスケがアオイの連中相手を務めていた。
 決勝の相手であるマシロと戦うに当たり、エリカやタクトではすでに役不足である事を本人たちが自覚している。
 すでに、エリカとの勝率が7割、タクトとは8割となっている。

「少し休んだ方が良い。余り根を詰め過ぎると体調を崩しかねないからね」
「分かりました」

 アオイもコウスケの意見に素直に従う。
 今までは闇雲にバトルを繰り返していたが、コウスケが加わった事で練習の密度が濃くなっている。
 
「お疲れさん」

 そう言って、バトルを見ていたタクトがアオイにスポーツドリンクを渡した。
 
「それじゃ休みながら今のバトルを振り返ってみるよ」
「はい!」

 時間を少しでも有効に活用する為に、休憩時間にもバトルの振り返りと行う事で、現在のアオイの問題点を対戦相手の視点や観戦していた第三者の視点から洗い出していく。

「それにしても大した物だよ。これだけの短期間でここまで成長するなんてね」

 コウスケは何度かバトルしてアオイの成長を実感した。
 コウスケに対する勝率は4割と言ったところだ。
 
「けど、相手はあのマシロだからな」
「実際に戦ったから分かるけど、アイツは口だけじゃねぇ……」

 アオイは確実に成長しているが、マシロと比べるとどうしても劣って見えてしまう。

「流石にこの短期間でアオイ君がマシロ君に実力で上回るのは不可能だよ。だけど、来週の決勝戦だけでも勝てるようにする事が先決だね」

 マシロの実力はコウスケも嫌と言う程分かっている。
 その為、一週間と言う期間内に実力でマシロを超えると言う事は確実に不可能だと思っている。
 だが、実力を超える必要はない。
 要は次の決勝戦の一戦だけでも勝てるようにすれば良い。

「けど、どうするんですか?」
「そうだね……まずはガンプラの強化、大幅な改造は難しいけど、武装を追加して必要に応じてパージすれば操縦の感覚が変わっても最悪、すぐに捨てれば良いからね」
「最終決戦仕様とかですか?」
「そんなところ」

 マシロに勝つ為の準備の一つがガンプラの強化だ。
 ここまでのバトルを見ただけでも、マシロは操縦技術だけではなく、ガンプラの性能も非常に高い。
 それに対抗する為には、今のアオイのビギニングガンダムBでは厳しい。
 それを補うために装備を増やすと言う事だ。
 それだけでも戦い方に幅が出て来る。
 
「次にマシロ君の戦い方を重点的に対策を立てると事だね。そうすれば、純粋な実力の向上には繋がらないかも知れないけど、決勝戦はある程度は戦えるようになる」

 もう一つはマシロの戦い方に絞っての練習だ。
 総合的な実力を上げるよりも、マシロと戦う事だけを重点的に練習すれば一週間でもある程度は戦えるようになるかも知れない。

「マシロの戦い方か……」
「近接戦闘だな」
「そうだね。彼は色々な戦い方が出来るけど、その根幹は近接戦闘になるね」

 マシロの使っているガンプラは右腕を初めとしていくつもの接近戦用の装備を持っている。
 準決勝までのバトルの大半は接近戦で仕留めている為、間違いはないだろう。

「今のアオイ君なら射撃戦は十分に戦えるから、近接戦闘をメインに練習をして行こう。良いね?」
「よろしくお願いします」
「なら、アタシの出番だな!」

 話しが纏まったところでエリカが名乗りを上げる。
 この中でエリカが最も近接戦闘を得意としている。
 近接戦闘の練習を行うなら、一番適任者とも言える。

「勢いだけ練習にはならないんじゃないのか?」
「カガミ君」

 エリカが名乗りを上げたところにレッカも話しに加わって来る。
 準決勝が終わった頃には、レッカも帰っていて話しが出来なかった。
 確認するまでもなく、マシロに敗北していた事は分かっていたが、長期戦に持ち込む事も出来ずに完敗したと知ってからは話す事も出来なかった。
 その上で連絡先を交換していた訳でも無い為、今の今まで話しをする機会もなかった。

「お前……」
「勘違いをするなよ。俺としてはライバルと認めたタチバナがアイツに無様に負けるのが癪なだけだ」
「素直じゃねーの」
「黙ってろ。地区予選で決着をつける事が出来なかったんだ。ここで決着をつけたいだけだ」

 レッカも素直にアオイの練習に付き合うとは言わないが、レッカも近接戦闘を得意としている。
 エリカとは違うタイプである為、両方とやる事にも意味がある。

「二人だけじゃなくて、僕とキサラギ君も含めてローテーションしながらやった方が良いね。相手を固定するとその相手でイメージが固まってしまうから」
「皆さん。よろしくお願いします」

 アオイはそう言って頭を下げる。
 アオイに協力して、アオイがマシロに勝ったところで、アオイは世界大会に出る事が出来るが、彼らには何一つとして得は無い。
 それでもアオイに協力するのは、打算からではない純粋な好意からだろう。
 それに報いる為にも、残りの時間で少しでも腕を磨くしかなかった。

「にしても、センパイが加わって練習も本格的になったよな」
「だな。この調子なら本当に決勝も勝てるかもな」
「皆さんのお陰ですよ」

 日が傾きかけた頃には練習もやり過ぎれば逆効果と言う事で練習は終わっていた。
 後はアオイがガンプラの強化のイメージを膨らませる事が次のステップだ。
 結局のところアオイのガンプラである為、強化の基礎はアオイがやりたいように考えて、そこから他の意見も取り入れて完成させる予定だ。

「ん……」

 3人は歩いているとタクトが立ち止まる。

「どうしたんですか?」
「いや……ミズキさんが路地裏に入って行った気が……」
「こんな時間に? 確かに今日はいなかったけど、流石に見間違いだろ」
「だよな……」

 タクトはミズキが路地裏に入って行った気がしたが、辺りも暗くなっているこの時間帯にミズキが路地裏に入って行くとは考え難い。

「けどな……悪い。ちょっと確認して来る!」

 見間違えかも知れないが、タクトはどうしても気になった為、路地裏に走って行く。








 同時刻、マシロはレイコの指示でホテルから人気のない路地裏に行かされていた。
 マシロはバトルをしていないと抗議するも、必要な事だと言われて渋々、指定された場所に来た。

「たく……」
「お久しぶりです。マシロ様」
「シオンか……」

 後ろからマシロは久しぶりにシオンの声を聴き、振り返るがそこにはマシロの知るシオンの姿はない。
 代わりにミズキがそこに立っていた。

「えっと……アンタ確か」
「シオンです」
「……マジで?」

 そう言うミズキの声は以前に会った時よりも少し低い。
 
「まぁ、こんな恰好ですからね。気がつかないのも無理はありません。レイコ様の指示でホワイトファングのバイトとしてファイターの情報を収集していました」

 シオンは今まで、レイコの指示で動いていると言う事はマシロも知っていた。
 それが、ホワイトファングでバイトとして働きながらファイターの情報を集めると言う物である事までは聞かされてはいなかった。
 レイコの方で集められる情報の大半はファイターとしての技術的な要素が強く、ファイターの人格や趣向などと言った方面を集める事は難しい。
 そこを補う為にシオンを使って、情報を集めさせていた。
 マシロがミズキを見覚えがあるのも当然の事だった。

「ふーん。お前も大変だな。偽名に女装とかさせられてさ」
「は?」

 マシロがそう言うと、ミズキ……シオンの表情が変わった。

「マシロ様……ミズキは偽名ではなく本名です。それに執事の恰好は去年くらいにマシロ様がインスピレーションが湧くかも知れないと言いだしてさせられただけで、私は生まれた時か

ら女です」
「……そうだっけ」

 マシロは完全に忘れていたが、シオンの本名はシオン・ミズキ。
 仕事である為、苗字の方のシオンで名乗っているだけに過ぎず、ミズキが偽名であると言う事ではない。
 そして、執事である事から誤解されがちだが、シオンの性別は女だ。
 そんなシオンが執事の恰好をしているのは、マシロの思いつきによる物だ。
 去年マシロが突然、ガンプラ制作のインスピレーションが湧くかも知れないと言う理由で男装をさせられて、男装をするなら執事でしょと言う理由だ。
 だが、いつしかマシロの方も完全に忘れていた。

「そうです。一体何年、仕えて来たと思ってるんですか」
「だって、シオンはシオンだろ? 別に性別とか名前とかどうだって良いし」
「……まぁ、マシロ様はそう言う人ですよね」

 シオンは呆れるしかない。
 シオンは高校を卒業と同時にマシロの世話役となった。
 数年もマシロの世話をしているのに、マシロの方はシオンの名前すらも覚えてはおらず、一年男装していただけで女であった事も忘れている。
 所詮、マシロにとってシオンは自分の世話をするだけの付き人に過ぎず、名前や性別はどうでも良かった。

「それより、こうして正体を明かして戻って来たって事は任務を終えたって事か?」
「ええ、何故、このような場所で合流するのかは分かりませんが、必要な情報は得て来たと思います」

 今まで、マシロにすら任務を明かさずに行動していたシオンがマシロと合流したと言う事はすでに情報収集の必要がなくなったと言う事だ。
 普通にホテルに戻ってくればいいところを、わざわざルートを指定されてまで、マシロとこんなところで合流する必要性には疑問があるが、任務が終わった事に代わりは無い。
 マシロとシオンが路地裏に入って行くことを目撃して追って来たタクトが遠くで見ていた事に気づく事無く、ホテルへと帰って行く。






 決勝戦を翌日に控え、アオイ達はホワイトファングで最終調整を行っていた。
 ある程度の技術を持つコウスケの手伝いもあって、武装強化は終わっている。
 後は、強化したビギニングガンダムBをどこまでアオイが使いこなせるようになるかだ。

「さて、明日は本番だから今日はこのくらいにして置こう」
「分かりました」

 明日が決勝戦と言う事もあって、コウスケは少し早めに練習を切り上げた。 
 この一週間で出来る事はやったが、それでもまだ何かやれることがあるんじゃないかと思ってしまう。
 どれだけの準備をしても、足りないと思わせる程の相手が決勝戦の相手だからだ。

「タチバナ・アオイ君よね。少し良いかしら?」
「そうですけど……」
「良かった。私はクロガミ・レイコ。次の貴方の対戦相手になるマシロの姉よ」

 練習を切り上げたところに、レイコが話しかけて来る。
 マシロの姉と言う事でタクトとエリカは少し警戒する。

「何の用ですか?」

 タクトが警戒しつつも、レイコに問う。
 それに対して、レイコは笑みを浮かべて対応する。

「今日は貴方たちにお願いがあって来たの」
「まさか、明日のバトルを負けてくれとでも良いに来たんですか?」
「違うわ。寧ろ逆よ。明日のバトル、貴方たちに勝って欲しくて来たの」

 予想外の用事に皆が驚く。
 対戦相手の身内が、負けて欲しいと頼みに来る事は褒められた事では無いが、理解できる。
 だが、逆に勝って欲しいと言いに来る理由は見当もつかない。

「……どういう事ですか?」
「その前にあの子の事を少し話すわ。あの子もクロガミ一族の被害者なのよ」

 レイコは少し憂いを帯びた表情で話し始める。

「あの子は私達とは血がつながっていないのよ。あの子は小さな町で生まれた孤児だったの。それを私の父がガンプラバトルの才能を見出して買い取った。そして、あの子は学校に通わ

せても貰えずにただ、ガンプラバトルの訓練を義務づけられた」

 レイコの口から語られるマシロの過去はアオイ達が思った以上に重く暗い内容だった。

「そして、勝ち続ける事を強要されて来た。その為なら手段を選ぶこともしないわ。例えば、ファイターの情報を集める為にスパイを送り込む事とかね」
「スパイって……そんな、漫画やアニメの世界じゃあるまいし」
「だけど、事実よ。この店にもミズキって子がいたでしょ。彼女はファイターの情報を得る為に送り込まれて来たわ」

 アオイ達もミズキの事は知っている。
 だが、アオイ達の知るミズキは人付き合いも苦手そうでとてもスパイには見えない。
 しかし、タクトは少し前にミズキが路地裏に入ったところを偶然にも目撃し、追ったところマシロと会っている場面を見ていた。
 その時の会話までは聞こえなかったが、遠目で見てもミズキの言動は自分達の知るミズキとは違った。
 他人のそら似だったかも知れないと自分に言い聞かせていたが、あの時、ミズキはマシロに情報を渡していたんだとすれば説明が付く。

「彼女を恨まないであげて。彼女も仕方が無く強要されてやった事なの。彼女の実家は町工場を経営していたの。だけど、その町工場はクロガミグループに買収されて、彼女も逆らえな

いわ」
「何だよ……それ!」

 タクトは怒りの余り声を上げた。

「今のマシロは勝利こそを至上とし、勝利の為なら手段を選ばないわ。私はそんなあの子を救って欲しいわ。私にとってあの子は大切な弟なの……」

 そう言ってレイコは涙を流す。

「きっと、負ければあの子も目を覚ますわ」
「……僕にマシロさんを救える自信はないですけど、僕は色んな人に支えて貰っています。だから、明日のバトル、負ける訳には行きません……それで良いでしょうか?」

 アオイ自身、マシロに勝てるかは分からない。
 だが、ここまで来る為にタクトやエリカを始めいろいろな人に支えて貰って来た。
 それに報いる為にも勝ちないと思っている。

「ありがとう……これ、あの子のバトルをまとめた物よ。良かったら使って頂戴」

 レイコは鞄の中からDVDを取り出す。
 それは、マシロのバトルの様子がまとめられているらしい。

「良いんですか?」
「ええ」
「分かりました。ありがとうございます」

 アオイはレイコからDVDを受け取った。
 それ自体の重量は軽いが、それにはレイコのマシロへの想いが籠っている様で重く感じた。

「それじゃ明日のバトル期待しているわ」

 レイコはそう言って帰って行く。

「明日、負けられなくなったな。マシロの為にも」

 レイコを見送りながら、タクトがそう言う。
 タクトはマシロと揉めた事で嫌っていたが、まさか、マシロの過去がここまで重い物を背負わされていたと知り今までのわだかまりも無くなっていた。

「……そうですね」

 レイコからも思いを託されて、アオイは決勝戦に臨む。








 アオイにマシロのバトルをまとめたDVDを渡してレイコはホテルに帰って来た。
 ホテルを出る前にもマシロはバトルをしていたが、未だにバトルをしていた。
 
「出かけてたん?」

 バトルをしていて、マシロはレイコが出かけていた事にも気づいていないようだ。
 今まではマシロを一人にする事は非常に危険だったが、今はシオンも戻って来ている為、マシロの身の回りの世話はシオンに任せれば良い。

「珍しい。引きもこりのレイコが出かけるなんて。何してたの?」
「ちょっとね」
「ふーん。余計な事をしてないだろうな?」
「してないわよ。ちょっと、最後の詰めにね」

 レイコは鞄をベットの上に放り投げてPCに向かう。

「明日の相手のタチバナ・アオイ君に貴方の事を教えてあげたのよ」
「すげぇ、余計な事な香りがプンプンするんだが……」

 バトルが終わったのか、マシロもベッドに座って一息つくと、シオンが二人分の飲み物を運んでくる。

「で……何を吹き込んで来たんだよ?」
「アンタ達が如何に不幸なのかを涙ながらの教えてあげたのよ」

 レイコはアオイ達に教えた事をマシロやシオンにも話した。
 話し終えると、マシロもシオンも呆れていた。

「よくもまぁ……そんなデタラメを……」
「デタラメじゃないわよ。事実をありのままに話しただけよ。ただ、客観的な事実のみでアンタ達の感情的な部分は向こうの想像に任せたけどね」

 レイコがアオイ達に話した事は事実であり、デタラメだ。
 出来事としては真実ではあった。
 マシロが孤児で、才能を見出されて引き取られたと言う事は事実だ。
 しかし、買われたと言う訳ではなく、マシロは自分の意志でクロガミ一族に引き取られた。
 ただ、その際に孤児院に対してクロガミ一族から寄付があったと言うだけの事だ。
 次にマシロは確かにガンプラバトルを強要されて学校にすら通っていないと言うのも、通わされていないのではなく、本人が通う気がない。
 本人が通いたいと言えば、学校に通う事も出来たが、マシロ本人がガンプラバトルをやりたいが故に行きたくないと断っている。
 勝ち続ける事を強要されていると言う事は紛れもない事実だが、マシロ自身、ガンプラバトルで勝つ事は好きなので嘘ではない。
 勝つ為に手段を択ばないと言えば聞こえが悪いが、実際のところ勝つ為なら何時間でもバトルや制作の練習を行い、必要であれば他者が確立した物でも積極的に取り入れて、バトルの

際にも相手の情報から対策を立てて策を講じて戦うなどと言った誰でもやっている事をやっているに過ぎない。
 スパイに関しては事実と嘘を合わせている。
 スパイを送り込んだのはマシロではなく、レイコだ。
 だが、タイミングを見計らってシオンとマシロが会っているところをタクトに見せた事でマシロが送り込んだと思わせた。
 シオンの事にしてもそうだ。
 シオンの実家は確かに小さな町工場を経営している。
 レイコの言う通り、今は工場はクロガミ一族が所有している。
 買収されたと言う事に関しても、事実だがそこに違法性の無ければ強引な手段を使った訳ではない。
 普通に工場を買い取りたいと申し出て、シオンの父親がそれに了承して契約は成立している。
 今ではシオンの父は雇われの身だが、工場で働いていた従業員もそのままクロガミ一族が雇い工場で働いている。
 待遇面では以前よりも良くなっているともっぱらの話だ。
 逆らえないと言うのも、別に工場の従業員を人質のように使われている訳ではなく、上司の命令だからに過ぎない。
 唯一の嘘がマシロの事が大切な弟と言う事くらいで後は事実を少し言い方を悪くして伝えただけだ。
 そうする事で、悪い解釈をさせた。

「何故、そのような事を?」
「あの歳くらいの子供は自分達の行動に酔い易いのよ。あの子たちは明日、アンタを救う為にバトルするわ。本人は現状に満足していると言うのにね。クロガミ一族と言う巨大な組織か

らアンタとシオンを助け出すと言う大義名分の元にね。これがフィクションなら最後は何とかなるんでしょうね。だけど、これは現実。そんな都合よくはいかないわ」

 レイコの狙いはマシロとシオンをクロガミ一族から助け出すとアオイ達に思わせる事にある。
 実際はマシロは今の生活に満足しているし、シオンも福利厚生等もしっかりとしている為、仕事と割り切れば不満はない。
 二人を助けると言う大義名分があれば、心の中では何とかなるかも知れないと言う思いも生まれて来る。
 なぜならば、物語において巨大な組織に囚われている人物を助けると言うのは王道的展開として珍しくはないからだ。
 そう思わせる事で隙も生まれて来る。

「けどさ、その気させたら、実力以上の力を発揮するかも知れないぜ?」
「構わないわ。それならアンタがその気になるでしょ」

 心に隙が生まれる可能性もあるが、逆に負けられないが故に実力以上の力を発揮するかも知れない。
 しかし、レイコにとってはそれはそれで構わなかった。
 マシロは気分によって発揮する実力が変わって来る。
 弱い相手とバトルする時と強い相手とバトルする時では気分のノリが明らかに違う。
 その時、相手が強い方が気分がノリ実力を発揮できる。
 つまり、相手が強くなった方がマシロの実力も出せて勝率は上がる。

「性格悪っ! いつか後ろから刺されるぜ」
「安心しなさい。そう言う可能性は事前に排除しているわ。当然、合法的にね」
「合法的にね……」

 レイコは合法的と言うが、実際は違法ではない手段でまともな手段ではないだろう。
 だが、そこをマシロは深く追求する気は無い。
 追及したところでレイコは素直に話す訳もなく、話したところで胸糞が悪くなる方法である事は確実だ。
 それ以上にマシロは自分とは関係ない他人がどうなろうと興味が無かった。

「まぁ、そんな事はどうでも良いわ。明日のバトルの作戦をまとめて置いたわ」
「んなの役に立たないって」

 レイコはすでにアオイの過去のバトルからいつも対策を考えていたが、マシロはそれを見る事もなかった。

「アイツのバトルのデータなんて殆ど役に立たない。アイツのバトルはチグハグ過ぎる。実力にムラがあるなんてレベルじゃない」

 アオイのバトルはデータ上は実力にムラがあるように見えるが、マシロから見ればそうではない。

「どういう事よ」
「シオンが持ち帰った情報を統合して分かったんだよ。違和感の正体がさ」

 シオンはアオイに関する情報を持ち帰っていた。
 その中にはバトルに関する物だけではなく、家族構成から学校内での素行などのアオイ自身の情報も含まれていた。
 その情報を繋ぎ合わせた結果、違和感の正体が見えて来た。

「アイツは単にボッチが嫌だっただけだ」
「情報は正確にしなさい」
「才能を素直に発揮すれば皆の中には入れなくなるって事だよ。俺達がそうだったようにな」

 マシロの言葉にレイコは何となく理解出来た。
 マシロ達は才能を素直に発揮し過ぎたが故に「皆」の中に入れくなった。
 幼き日のマシロは実家の近所でガンプラバトルを毎日のように行っていた。
 クロガミ一族で才能を開花させたマシロは近所の子供たちはおろか、大人たちにすら負けなかった。
 初めはマシロの強さを回りが褒め称えた。
 それからも勝ちに勝ち続けた結果、マシロは誰からもバトルして貰えなくなった。
 余りにも強くなり過ぎたマシロに対して誰もがマシロとバトルしてもどうせ勝てないと諦めてしまったからだ。
 店を変えてもマシロの噂が広まっていたのか、バトルの相手をしてくれるファイターは殆どおらず、何度かバトルするとやがてバトルの相手はいなくなる。
 マシロは自分の才能を素直に示し過ぎたせいで誰も相手にしてもらえなくなったのだ。
 レイコも少なからず似た経験を持っている。
 それは天才が故の孤独なのだろう。

「意図的ではないにしろ、アイツは本能的に理解してんだろうな。だから、手を抜いて負けたりもする」

 アオイの勝敗が安定しないのは、無意識の内に勝ち過ぎて相手にされない事を恐れているが故だとマシロは考えている。
 特にアオイは引っ込み事案で中学時代も親しい友人はいなかった。
 タクトやエリカは高校に進学しても変わる事がないところに出来た親しい友人だ。
 それを失いたくがないが故に無意識化で手を抜いて負けていたとしても不思議ではない。

「出ないと、普通のバトルは勝率が全体的に5割から6割程度なのに大会では負けなしってのも説明がつかないからな。運がいいのか悪いのか2度の大会で初めに友達と当たっているからな



 勝率が安定しないのにもかからわず、ホワイトファングのショップ大会と世界大会の地区予選では未だに負けなしだと言うも説明が実力を無意識化で落としていたのであれば説明が付

く。
 アオイはどちらの大会でも始めにタクトと当たっている。

「友達に勝った以上は途中で負ければ、友達に託された想いが無駄になってしまうから、そうなれば友達に失望される。それが怖いから何とか勝つってところだろうな」

 初めに友人であるタクトと当たり、勝利すれば当然タクトはアオイに期待を託すだろう。
 自分の分まで頑張れと。
 そんな期待を託されてしまえば、アオイは負けるに負けられない。
 負けてしまえば、自分に期待を託してくれたタクトの期待を裏切ってしまうからだ。

「強すぎても相手にされないが、弱すぎてもいずれは相手にされなくなる。だから、適度に勝ったり負けたりを繰り返す」

 アオイの勝率が安定しない最大の理由がそこだ。
 強すぎても相手にされないように、逆に弱すぎても相手にされなくなる。
 その事はマシロは痛い程理解していた。
 今でこそは圧倒的な実力を持ち、一度しか敗北をした事がないマシロだが、それはマシロ・クロガミとしてだ。
 ただのマシロだった時は寧ろ、マシロは一度もバトルで勝ったことは無かった。
 当時のマシロは誰も自分すらも、マシロの才能に気づく事は無く、それを活かしてはいなかった。
 寧ろ、その才能がマシロの足かせになっていた程だ。
 弱いマシロだったが、初めは弱い者虐めとして何度も相手をしてくれるファイターはいたが、余りのも弱い為、飽きて最後にはどうせマシロとバトルしても簡単に勝てるからつまらな

いと言われてバトルをしてもらえなくなった。
 結局のところ、強すぎても弱すぎても誰からも相手にされなくなる。

「けど……だからって無意識だろうと自分の才能を否定して、手を抜く……ムカつく」

 マシロはアオイの気持ちは良く分かる。
 かつては弱すぎて相手にされず、強くなっても強すぎて相手にされなかった。
 だが、それとこれとは話しは別だ。
 かつて、マシロはタツヤに才能がある物は才能を使うべきだと言った。
 それはタツヤにガンプラバトルの才能があり、タツヤ自身もガンプラバトルをやりたいと思っていたからこその言葉だ。
 才能があってもやりたくないなら、やらなくても良いとも思っている。
 しかし、アオイはバトルの才能が有り、バトルをやりつつも、友達を失いたくはないと心の奥底で思い無意識の内に才能を否定している。
 それだけは許せそうには無かった。

「才能は誰にだってある物じゃないんだ。才能があってやりたい事と一致している。それなのに才能を否定するとか……傲慢だ」

 マシロはガンプラバトルにおいて、天才的な才能を持っている。
 だが、その反面、それ以外はガンプラに関係しなければ人並以下でしかない。
 今の才能が開花するまでは、勉強も運動も出来ないダメダメだった。
 何の取り柄もなかった時期のある、マシロからすれば才能があってやりたい事と一致しているのに、才能を発揮しないのは傲慢以外の何物でもない。
 
「そう言う奴には死んでも負けられないな」
「そう言う奴でなくても負けて貰っては困るわ。それと、明日のバトルは砲戦用の装備で行きなさい。その為にわざわざ、アンタのバトルデータをくれてあげたのよ」

 レイコがアオイにマシロのバトルをまとめたの物を渡したのはそれを研究させるためだ。
 そうする事で砲撃戦用のフルアサルトジャケットを使わせれば、相手の裏をかく事が出来る。

「フルアサルトジャケットか……」
「問題があるの?」
「今のところは完成度は9割ってとこ、実戦には十分使える。後は装備の一部の完成と腕の関節部の強化、普通に戦う分には戦えるけど、ハイパーメガドッズライフルでぶん殴るには強度

が足りない。ハルキにその辺りは頼んでるから世界大会の途中に解決できる筈」

 ライフルと名がついている武器で何故、相手を殴る事を考えているかと言う疑問をレイコは一度脇に置いておく。
 話しを聞く限りではバトルに使えるのであれば問題はない。 
 完成系の方も世界大会の途中で完成する見込みがあるなら良い。

「構わないわ。寧ろ好都合よ。決勝戦は中継が入るから、マシロ・クロガミは接近戦意外でも戦えると言う事をアピールできればいいから」

 未完成だろうと、砲撃戦用の装備を見せれば今まではマシロは白兵戦を中心に戦って来たと言う前提が崩れる。
 そうする事で、マシロの対策を立て難くする事が今回、フルアサルトジャケットを使う最大の目的だ。
 
「それは構わないんだけどさ……フルアサルトジャケットを作っている間に変なテンションになって少しやり過ぎたんだよね。その時にさ……ヴェイガンを殲滅するって声が頭の中に入

って来て、結果的に砲撃戦と言うよりも殲滅戦用の装備になっちゃった」

 フルアサルトジャケットを作る際にマシロは一日徹夜している。
 その際にモチベーションを維持する為に取り換えずBGM替わりにガンダムのDVDを流していた。
 ガンダム∀GE-1のベースがガンダムAGE-1と言う事もあってAGE-1が搭乗するガンダムAGEを1話からBGMとして流していた。
 一日徹夜していた事もあって、その時のマシロのテンションは少しおかしかった。
 そして、そのテンションのまま調子に乗り過ぎて当初の予定を大きく外した改造となって。

「……もう、それで良いわ」

 呆れながらも、決勝戦は明日だ。
 今更、足掻いたところで無意味でしかない。
 多少は予定が狂ってもこのまま行くしかない。
 結果的にバトルに勝利してマシロに近接戦闘以外もあると言う事を見せつける事が出来ればそれで良い。
 マシロとアオイが相反する思いの中、決戦の日がやって来る。



[39576] Battle25 「勝者と敗者の境」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/23 13:36
 ガンプラバトル世界大会日本第一地区決勝戦の当日となった。
 会場には地区予選でも最大の観客が日本第一地区の代表がどちらになるのかを見に来ていた。
 マシロとアオイはバトルシステムを挟んで対峙していた。
 マシロはいつも通りの表情だが、アオイの表情は固い。
 昨日、レイコからマシロの事を聞かされた時は、ああは言ったが、家に帰り冷静になって見るとレイコに託された物は自分の想像以上に重い。
 いうなれば、今日のバトルでの勝敗はマシロの人生を左右すると言っても過言ではないからだ。
 自分が負けてしまえば、マシロを救う事が出来ないと思うと緊張して硬くなるのも無理はない。
 決勝戦の開始時間となり、マシロとアオイはGPベースをバトルシステムにセットして、ガンプラを置いた。
 すると、会場がざわめき出す。

「そんな……ガンプラを変えて来た」
「お互い様だろ」

 マシロのガンプラは今までは正反対の重装備のタイプになっていた。
 胴体部はセブンスソードとは変わらないが、脚部は大型となっており、腰の増加スラスターから左右に二本のアームが伸びており、そこに片方に4基づつの武装コンテナが付いている。
 バックパックにはAGE-1 フルグランサのグラストロランチャーが付いているが、武装コンテナのアームを干渉して前方に砲身を向ける事が出来ない為、グラストロランチャーの方針は通常の逆向きにつけられている。
 両腕にはビームバルカン兼ビームサーベルが内蔵されて、セブンスソードの物よりも大型のシールドが装備されている。
 両腕のシールドにはビームサーベルが一基つづ装備されており、右手にはドッズランサーを持っている。
 完成度は9割だが、圧倒的な火力と多彩な武器を使い、相手や状況に合わせて効果的に敵を仕留めて殲滅するガンダム∀GE-1の殲滅戦用装備のフルアサルトジャケットだ。
 対するアオイのビギニングガンダムBも武装を大幅に強化されている。
 両腕にはコウスケが制作したユニコーンガンダムのシールドに裏側にビームガトリングガンが2基つづ装備されている。
 バックパックにはレッカのビギニングガンダムRのバーニングソードRが2本、サイドアーマーにビームサーベル、右手にはハイパービームライフルがそれぞれ装備されている。
 そして、左手にはショップ大会の賞品であるスノーホワイトが装備されていた。
 マシロの戦いは相手の事を徹底的に研究している節がある事から、事前情報が全くないスノーホワイトを持たせる事で少しでも相手の策を狂わせようとしての装備だ。
 尤も、この一週間で近接戦闘の練習をしていた上に、昨日レイコから貰ったDVDから近接戦闘を想定していたアオイにとっては明らかな砲戦用の装備で来た事で出先を挫かれてた。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット。出る」
「タチバナ・アオイ。ビギニングガンダムB。行きます!」

 そして、決勝戦の火蓋が切って落とされた。
 バトルフィールドはインダストリアル7。
 ガンダムUCの最初と最後の戦場だ。
 バトル開始はコロニーの近くの宙域からで、バトルフィールドはコロニー内まで含まれている。

「落ち着くんだ……」

 出先こそは挫かれたが、バトルは始まったばかりだ。
 アオイは周囲を警戒しながら移動を始める。
 相手が砲戦用の装備である以上は、遠距離からの攻撃ですぐに仕留められる危険性がある。
 
「来る!」

 ビギニングガンダムBがシールドを掲げるとビームが直撃する。
 高出力のビームだったが、ビギニングガンダムBのシールドにはコウスケが特殊塗装によるIフィールドがある為、ビームを弾いて防いだ。

「Iフィールド。変身ユニコーンの奴が作ったってところか。やるね」

 ビームの掃射が終わるとそこにはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが肩にグラストロランチャーの砲身を構えていた。
 砲身を逆向きに付けたことで、射角は殆ど取る事が出来ないが、バックパックと砲身のジョイントを一時的に外す事で手持ちの火器としてグラストロランチャーを前方に向けて放つ事が出来る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは再度、グラストロランチャーを放つ。
 ビギニングガンダムBは回避して、スノーホワイトを放つ。
 反動で後方に吹き飛ばされるも、勢いに逆らわない事で精密さは欠けるが移動と攻撃を同時に行う事が出来る。
 正確さには欠ける攻撃だが、一撃の威力は非常に高い為、当たれば流石のガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットでも無事では済まないだろう。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは脚部のスラスターを使って回避する。

「あの装備であんなスピードが出せるなんて……」

 回避するガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのスピードにアオイは驚いていた。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは見るからに重装備のガンプラだ。
 それなのに、高い機動力も持っている。
 尤も、高出力のスラスターは脚部に集中している為、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのスピードはセブンスソードの時とは違い、直線的で小回りが利かない。
 バトルフィールドがデブリベルトのような障害物の多いフィールドならこうはいかない。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで攻撃するが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの速度に追いつけずに攻撃は当たらない。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは体をくねらせるように反転すると、ドッズランサーを構えてドッズランサーに内蔵しているドッズガンを連射しながらビギニングガンダムBに突撃して来る。

「当たれ!」
「嫌だね」

 ビギニングガンダムBがハイパービームライフルを連射するが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは最低限の動きで回避する。
 高い推力で強引に加速したガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは勢いをつけてドッズランサーの一撃を繰り出す。
 右腕のシールドで防ごうとするが、勢いの付いたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの突撃をシールドでは防ぐ事は出来ずに粉砕された。
 
「なんて破壊力なんだ!」

 辛うじて右腕のシールドだけで済んだが、あの一撃はまともに喰らえば一撃で終わりになる程の威力だった。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは再び距離を取って突撃をしようとしている。
 ビギニングガンダムBはコロニー「インダストリアル7」の方へと向かう。
 コロニーに近づけばコロニーで、相手の動きを制限する事が出来る。

「成程ね。まぁ、関係ないけど」

 コロニーの方に向かうビギニングガンダムBをガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが追いかける。
 機動力の差は歴然で、2機の距離は次第に縮まって行く。
 そして、ビギニングガンダムBに追いついたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーを突き出して突撃する。
 
「今だ!」

 だが、ビギニングガンダムBは突然、方向転換を行った。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの重量は突撃時の威力増加に一役かっているが、急な方向転換時には足を引っ張る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは止まり切れずにコロニーの外壁に激突した。
 コロニーの外壁に突撃したガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは外壁をぶち破ってコロニーの中に入った。

「コロニーの中にこっちを誘い込むか……悪くはない策だよ」

 コロニーの中でガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはバランスを取って着地する。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを追ってコロニーの中に入って来たビギニングガンダムBも着地して2機はコロニー内で対峙する。

「その装備なら重力下ではまともに動けない筈です」

 ビギニングガンダムBは飛び上がって左腕のシールドについているビームガトリングガンを連射する。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは並行に後退した。
 後退するガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットをビームガトリングガンで狙うが、蛇行しながらバックするガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを捉える事が出来ない。

「悪いな。コイツは重力下の方が戦い易いんだよ」

 アオイはコロニー内に引きずり込む事で自身の重量で動きを封じようとしていた。
 しかし、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは宇宙戦よりも陸戦を得意としていた。
 脚部に高出力のスラスターが集中していたのも、重力下でホバー装甲を行う為だ。
 地上をホバーで移動する事で平面なら高い機動力と小回りが利く。

「さて……得意なフィールドに持ち込んだところで行くか」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはグラストロランチャーを構えて放つ。
 その一撃はビギニングガンダムBの横を通り過ぎる。

「外した……?」
「後ろ」

 グラストロランチャーはビギニングガンダムBを直接狙った物ではなかった。
 ビギニングガンダムBの後方のビルを破壊し、ビルがビギニングガンダムBに襲い掛かる。

「っ!」

 ビギニングガンダムBは倒壊するビルを回避するが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがすでに先回りをしていた。
 脚部のスラスターを全開にして、ビギニングガンダムBに突っ込むとドッズランサーを突き出して来る。
 ビギニングガンダムBはシールドで受け止めるが、そのまま、地上までもつれ込む。

「この程度か? お前の実力は」

 至近距離からシールドにドッズガンを撃ち込むがシールドのIフィールドを打ち破る事は出来ない。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはビギニングガンダムBを蹴り飛ばすとドッズガンを連射する。

「……強い。でも、僕は負ける訳には行かないんです! 貴方に勝つ為に協力してくれた友達の為にも……貴方の為にも!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのシールドであっさりと防がれる。

「友達ね……さぞかし気分が良いんだろうな。見下せる友達がいるってのは」
「何を……」
「気づいてないのか? お前、自分がボッチになりたくはないから、手加減してるって事にさ」
「っ……」

 マシロの言葉にアオイは返す事が出来なかった。
 アオイ自身、手加減していると言う感覚は無い。
 だが、一人になりたくないと言う事は否定できない。
 そこから、マシロの言っている事は事実なのだと、図星を突かれたような感覚を受ける。

「手加減して、接待バトルをしないと維持の出来ない関係が友達ね……笑わせる」

 アオイは茫然とし、その間にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがドッズランサーでビギニングガンダムBに一撃を入れる。
 直撃を受けるも、損傷はしていなかった。
 
「僕は……それでも僕は! 友達の為になら戦える!」

 ビギニングガンダムBはスノーホワイトを放つ。
 反動でビルに激突するが、その攻撃をガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは距離を取りながらかわす。

「友達を理由にバトルなんかするなよ。バトルは自分の為のするもんだ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはビギニングガンダムBに接近する。
 ビギニングガンダムBはスノーホワイトを向けるが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは気にすることはない。
 ビギニングガンダムBがスノーホワイトを放つ瞬間にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは射線からそれて回避する。

「タイムラグは分かってんだよ」

 アオイ達は知らないが、スノーホワイトはマシロが制作している。
 その為、スノーホワイトの威力も射撃間のタイムラグも把握している。
 タイムラグを把握していれば、向けられたくらいでは動揺する事無く、対処も出来る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーを突き出すが、ビギニングガンダムBは転がるように横に飛んで回避する。

「僕は……」
「自分の為にすら戦えない奴が誰かの為に戦える訳が無いだろ」
「僕は……貴方とは違う! 貴方のように僕は一人で戦っている訳じゃない!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを連射するが、いつもの精密さはまるでない。
 そんな攻撃ではガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは回避するまでも無かった。

「それでも、友達と言っておきながら相手を心の奥底で見下している奴よりはマシだね」
「貴方だって!」
「俺は俺の力を知っている。そして、相手の力を知って仕舞えば上から目線にもなるさ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはグラストロランチャーを放ち、ビギニングガンダムBはシールドで受け止めるが、尻餅をついて倒れてしまう。

「相手を見下していると言う点では、俺もお前も同じ穴の狢なんだよ」
「絶対に違う!」

 ビギニングガンダムBはスノーホワイトを投げ捨てると、バーニングソードRを抜いてガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに切りかかる。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは軽くかわすと、ビギニングガンダムBに足を引っ掛けて、ビギニングガンダムBはうつ伏せに倒れる。

「どこが違う? 何が違う。俺もお前も同類だよ。同じ才能を持った者同士だ」
「僕は……そんなんじゃ……」

 もはや完全にアオイは錯乱していた。
 マシロの言っている事を否定しようにも、心の奥底ではマシロの言っている事は本当の事だと受け入れてしまっている。
 それを否定しようとしても否定しきれない。
 否定しきれなければ、マシロの言っている事が正しいと証明しているような物だった。

「僕はただ……独りでいるのが嫌だったんだ」

 錯乱している中でアオイはポツリと零した。
 アオイはいつも独りだった。
 中学時代や高校入学してから、話すクラスメイトがいなかった訳ではない。
 だが、学校が終われば誰もアオイの事を気に掛ける事は無かった。
 自分から歩み寄る勇気がなかったアオイは親しい友人を作る事が出来なかった。
 しかし、始めは偶然だったが、アオイにも親しい友人が出来た。
 エリカとタクトだ。
 二人との出会いでアオイの毎日は変わった。
 自分とは正反対の性格をしている二人だが、三人でいる事が多く、三人でいる間はアオイは独りではなかった。
 それをマシロの言葉で自覚して、マシロの言っている事が事実だったと認めざる負い。

「アオイ!」

 心の奥底を見透かされて、事実を突きつけられ、それを認めてしまえばそこには絶望しかない。
 だが、そんなアオイの耳に声が届いた。
 普通なら会場の声援でかき消されてアオイの耳に届く事のない声だ。

「アオイ! 負けんじゃねぇ!」
「お前ならやれる! アタシ等が付いてんぞ!」
「キサラギ……君、シシドウ……さん」

 アオイにとって初めての親しい友人であるエリカとタクト。
 二人が観客席の最前列から身を乗り出すように、心の底からアオイの勝利を信じてアオイを応援している。
 アオイの耳には観客の声援は聞こえず、二人の声だけが届いた、アオイの目には観客席の二人の姿しか見えなかった。
 それはアオイの願望が見せた幻かも知れない。
 だが、そんな幻でもアオイに立ち上がる力を与えた。
 そんなアオイに応えるようにビギニングガンダムBは立ち上がる。

「確かに貴方の言う通りかも知れません……それもまた、僕なのかも知れません。でも……それだけが僕の全てじゃない!」
 
 確かにマシロの言う事は正しい。
 しかし、期待を裏切りたくはないと思う反面、期待に応えたいと思うのもアオイだ。
 結局のところ、マシロの言うアオイはアオイの一面でしかない。
 立ち上がったビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはシールドで防ぐと、ビギニングガンダムBは一気に接近するとバーニングソードRを振るう。
 それをガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーで受け止めた。

「ようやくその気になったか」
「はぁぁぁぁ!」

 ビギニングガンダムBは何度もバーニングソードRを振るい、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーで確実にいなしていく。
 何度か切りつけると至近距離からハイパービームライフルを放つ。
 その攻撃をガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは体を沈ませてギリギリのところで回避すると、ドッズランサーを突き上げる。
 だが、ビギニングガンダムBは飛び上がって回避する。

「やるな。コイツもかわすか」

 上空に回避したビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは後退しながらシールドでビームを防ぐ。

「流れが変わったか……まぁ良い」

 後退しながらガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは先ほどビギニングガンダムBが捨てたスノーホワイトを回収する。

「使わないなら借りるぞ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはスノーホワイトをビギニングガンダムBに向ける。
 スノーホワイトは二つの砲門から交互にビームを放つ。
 これが本来のスノーホワイトの使い方だ。
 多少威力が落ちるが、それでも十分な威力のビームを片方でも受ける為、交互に撃つ事で連射速度を補う事が出来る。
 ビギニングガンダムは回避しながら、ビームガトリングガンで反撃する。
 そして、スノーホワイトは二つの砲門からの高出力のビームを放つ。
 先ほどまでの攻撃はビギニングガンダムBを誘い込む物で、ビギニングガンダムBは回避する事が出来ずにシールドで防ぐ。

「へぇ……こいつを耐えきるか。良い盾だ」

 スノーホワイトの掃射が終わると、ビギニングガンダムBは地上に落ちる。
 大火力を正面から受けたが、Iフィールド付きのシールドで防御していた。

「アンドウ先輩のシールドのお陰だ……」

 コウスケが制作したシールドのIフィールドで普通のシールドなら確実にシールドごとやられていたビームでも耐え切る事が出来た。
 だが、代償としてシールドが使い物にならなくなってしまった。

「ありがとうございます。先輩」

 ビギニングガンダムBは左腕のシールドをパージする。
 
「感傷に浸っている場合か?」

 ビギニングガンダムBに接近していたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがドッズランサーを突き出し、ビギニングガンダムBはバーニングソードRで受け流す。
 そして、バーニングソードRを振り落すと、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはシールドで受け止める。

「少しはやるようになったじゃないか」
 
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはシールドでビギニングガンダムBを押し戻すと、ドッズランサーの横でビギニングガンダムBを殴り飛ばした。
 殴り飛ばされながらも、体勢を整えたビギニングガンダムBはビームバルカンを連射しながらバーニングソードRを突き出す。
 それに応戦するようにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットもドッズランサーを突き出して、2機の武器の先端がぶつかり合う。

「独りで戦っている貴方には分かりません!」

 ぶつかり合った2機の武器だが、ビギニングガンダムBのバーニングソードRが先に砕け散った。
 すぐに柄を捨てるともう一本のバーニングソードRを抜いた。

「相手を下している友達関係よりはマシだね」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーで何度も突きを繰り出し、ビギニングガンダムBはバーニングソードRで弾いた。

「それでも! 僕は僕を信じて託してくれた人達の為に戦う! それは嘘ではない本当の事です!」

 やがてバーニングソードRが粉砕されるが、すぐにビームサーベルを持って接近する。
 それに合わせるようにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがドッズランサーの突きがビギニングガンダムBの胴体に突き刺さる。
 
「終わりか?」
「まだです!」

 ビギニングガンダムBは胴体をドッズランサーで貫かれながらも左腕でドッズランサーを捕まえる。
 そして右手のビームサーベルを逆手に持ってガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに振り落す。
 至近距離でドッズランサーを捕まれている為、振りほどく事も出来ない。
 観客の誰もが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはこの一撃を回避出来ないと思った瞬間、ドッズランサーの槍の部分が高速で回転を始めた。
 それによって、ビギニングガンダムBはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットにビームサーベルを突き刺す事が出来ずに一回転をして両足が地面に叩き付けられて破壊されながら、地に伏した。

「思い切りは悪くないけどな。悪いけど、俺には通じない」
「まだ……終わってない!」

 ビギニングガンダムBが胴体に穴を開けられて地に伏した時点で観客の誰もがアオイの敗北を確信しただろう。
 エリカとタクトですらアオイの敗北を予感させられていた。
 ただ、一人アオイを除いたマシロだけが、終わってないと確信していた。
 ビギニングガンダムBは腕を使って強引に立ち上がってビームサーベルを突き出した。
 狙いはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胴体だ。
 ガンプラバトルにおいて、胴体は最も致命傷になり易い場所だ。
 そこを狙って、アオイは最後の渾身の一撃を放った。
 その一撃は確かにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胴体を捕えた。
 絶体絶命の状況からの一撃で誰もがアオイの逆転勝利を予期した。

「狙いも悪くない……けど、胴体の追加装甲は電磁装甲製……ビームは通さないんだよ」

 アオイの渾身の一撃は確かにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胴体を捕えていた。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胸部の追加装甲は塗装の際にプラフスキー粒子を変容させるように特殊な塗装を施されていた。
 それによってIフィールドと同じようにビームを弾く事が出来た。
 アオイの渾身の一撃は無情にも、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを貫く事が出来なかった。

「そんな……」

 そして、アオイの最後の一撃に気づいていたマシロはすでに次の手を打っていた。
 アオイが勝負を諦めていないのであれば、狙いは胴体の一点である事を予測していれば、胴体の電磁装甲で防げることも分かっている。
 だから最後の一撃をマシロは避ける事も防ぐ事もしなかった。
 その必要がないからだ。
 その代りに反撃の動作に入っていた。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーをすでにビギニングガンダムBに向けていた。
 そして、ドッズランサーに内蔵されているドッズガンをビギニングガンダムBに撃ち込んだ。
 次々と撃ち込まれたビームが威力は低いが確実にビギニングガンダムBを破壊して行く。
 ドッズガンの連射を撃ち込まれたビギニングガンダムBはビルに倒れ込む。
 
「ガンプラバトルに偶然も奇跡もない。全ては日ごろの積み重ねた力と勝ちないと願う心によって生み出される想いがそろっての結果だ。想いだけでも力だけでも勝てず、想いでも力でも劣るお前が俺に勝てないのは必然。そして、俺は最後の最後まで気を抜く事はない」

 ビルに倒れてまともに動く事の出来ないビギニングガンダムBにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはスノーホワイトを向けた。
 流石にボロボロのビギニングガンダムBでスノーホワイトの一撃を防ぐのは不可能だ。
 ビギニングガンダムBはビームバルカンを撃つが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを止める事が出来なかった。
 ゆっくりと油断する事無く、接近するガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはもはや、回避すらも出来ない距離まで来ると無慈悲にスノーホワイトを放った。
 その強力なビームにビギニングガンダムBは成す術もなく飲み込まれた。
 スノーホワイトの一撃でバトルの勝敗は決した。
 バトルが終了すると、会場は盛大な歓声が鳴り響く。
 その歓声は両者を称える物だったが、アオイの健闘を称える声の方が多かった。
 結果だけを見ればアオイはマシロに手も足も出せずに完敗している。
 だが、ここまでのバトルでマシロを相手にあそこまで戦えたファイターは一人もいない。
 そこまでマシロと戦ったアオイのバトルが観客の心を震わせた。
 バトルに敗北した物の多くの観客からの声援を受けたアオイは少しの間放心していた。
 我に返るとすでにマシロの姿は無く、バトルシステムにもマシロのガンプラは無く、そこにあるのは無残に破壊されたビギニングガンダムBの残骸だけだ。
 唯一無事だったのは。途中からマシロが使っていたスノーホワイトくらいだ。
 アオイはそれを回収すると、バトルシステムから離れる。

「アオイ!」
「シシドウさん、キサラギ君……ごめんなさい。僕……」
「気にすんなよ。お前は良くやった」

 バトルが終わり、エリカとタクトがアオイの元に駆けつける。
 アオイはすぐに謝るが、二人は負けたアオイの事を責める事は無い。
 
「本当だって。お前、いつの間にあそこまで強くなったんだよ」
「それは……」

 アオイは興奮する二人を前に言い淀む。
 今までの練習以上の実力を今日は発揮していた。
 それは、マシロが言っていた事を証明しているような物でもあった。

「ごめんなさい。僕は二人の事を友達だって思っていたけど……心の底では信じる事が出来なかった……僕は……友達失格です」

 バトルに負けた事よりも、アオイにとってはその事の方が重要だ。
 マシロとのバトルでアオイは自分すらも気づいていない自分の本心を知った。
 独りになりたくないと言う思いから、二人の事を信じる事が出来ていなかった。
 だから、無意識の内に手加減をしていた。
 事情は呑み込めなかったが、涙を流して謝るアオイに二人もある程度の事情は察した。

「そう言うもんだろ。友達ってのはさ。なぁ、シシドウ?」
「まぁ……アタシは家の方でいろいろと人の面倒な部分も見てるからかも知れないけどさ。そう簡単に心の底から信じる事なんて普通は出来るもんじゃないって」
「そうそう。けど、それでも赦し合って、本当のダチになれるんだろ?」

 エリカもタクトも友達の事を全て信じているとは言い難い。
 時には疑う事だって何度もある。
 それでも、それを赦す事が出来るのが本当の友達だ。

「けど……アオイがそうやって胸の内を話してくれるってのは嬉しい。そうやってアタシ等はもっと友達になって行けるしな」
「シシドウさん……」
「取りあえず、そのシシドウさんは止めにしね? 俺の事もタクトで良いしさ。それにたまに敬語とかも混ざってるし」
「だな、なんか苗字だと距離を感じるな。アタシ等はもう普通にアオイって呼んでるし」

 アオイは今までエリカにもタクトにも名前ではなく苗字で呼んでいた。
 二人からすれば、名前ではなく、苗字で呼ばれる事に距離感を感じる。

「えっと……エリカさん、タクト君……で良いかな?」
「最終的には呼び捨てにして欲しいが、今はそれでいいか」
「そうだな。来年に向けて特訓に入るんだ。その内呼び捨てにもなるかも知れないしな」
「来年?」
「マシロの奴に来年の世界大会でリベンジする話しに決まってんだろ」

 タクトとエリカの中ではアオイは来年の世界大会の地区予選にてマシロにリベンジする事になっていた。
 そこまで考えていないのは当のアオイだけだ。

「やんないのかよ?」
「いえ……やります!」

 アオイは力強く答える。
 来年は今年とは違う。
 本当の意味で二人と友達になれた。
 これ程力強い物はない。
 
「取り込み中悪いけど、少し良い?」
「えっと……」
「ミズキよ」

 アオイが新たな一歩を踏み出そうとしていると、ミズキが話しかける。
 いつもの執事服は必要が無い為、今日は仕事用のスーツだが、三人はホワイトファングでバイトをしていた時のミズキしか知らない為、普段のミズキの姿に驚いている。

「余り時間がないから単刀直入に言うわ。昨日、吹き込まれた事は事実だけと結構適当だから。マシロに関しては今の生活を満喫しているし、私も仕事として割り切れば文句はないわ」

 ミズキはレイコがアオイ達に吹き込んだ事を訂正しに来たようだ。 
 内容は事実だが、マシロもミズキも助ける必要はない。
 マシロは今の生活を気にっているし、ミズキも仕事と割り切れば文句はない。
 
「本題はそんなところだけど、一つ忠告。これ以上、マシロ……クロガミ一族に関わらない方が良いわ。あそこは普通じゃないから」

 シオンは何年もマシロの世話係をしている。
 そこでクロガミ一族の内情に少し触れてもいる。
 先代のマシロ達の父親に関しては実家の工場を買収した事で実家を救ってもらっている為、恩は感じている。
 だが、今の代のクロガミ一族は以前とは少し違って来ている。
 少なくとも、一般人であるアオイ達が関わって良い相手ではない。
 
「それだけは覚えておいて」

 ミズキは用件だけを伝えて、去って行く。
 そんなミズキを見送り、言葉の意味を考えながらもアオイは来年の世界大会に向けて新たな一歩を踏み出した。
 
 
 









 アオイ達に忠告したシオンは、マシロが乗る車に戻っていた。

「遅い。何やってたの?」

 車に乗り込むシオンにマシロはそう言う。
 だが、形式的に聞いているようで、余り興味はなさそうだ。

「少し野暮用です。マシロ様」

 説明したところでマシロは興味を示す事も無い為、差しさわりの無い回答をする。
 案の定、マシロはシオンが何をして来たなどに興味はないようだ。

「それで今日のバトルはどうでした?」
「まぁまぁかな。つまらなくはないけど、おもしろくもない。その程度のバトル。だけど、終わってみればただ弱い者虐めをしただけで虚しいだけだ」

 マシロは頬杖をついてそう言う。
 傍から見れば。アオイはかなりの善戦をしていた。
 それ故に、アオイに対する歓声も凄かった。
 だが、当のマシロから見れば大したことのないバトルだったようだ。

「その割には彼は善戦していたようですけど」
「こっちの装備は武器を状況に合わせて使い分ける装備なんだよ。それでドッズランサーとグラストロランチャーしか使ってない。つまりはそう言う事。それにあの形態は格闘戦をする為の物でもないからな」

 本来、フルアサルトジャケットは装備を使い分ける事で真価を発揮する。
 だが、マシロはあのバトルでドッズランサーとグラストロランチャーしか自身の装備は使っていない。
 つまり、アオイとのバトルはその二つの装備を使うだけで足りたと言う事だ。
 その上で、あの形態では格闘戦は不向きだ。
 精々、勢いをつけてのドッズランサーでの突貫くらいが本来の格闘戦だ。
 
「まぁ……最後までゾーンに入る事は無かったからな」

 アオイはバトルで最後までゾーンに入る事は無かった。
 ゾーンこそはアオイにとって、最大の才能だ。
 それを使う事無くアオイはあそこまでマシロに喰らいついた。

「アイツなら後、1年くらい死にもの狂いで練習すれば今の俺とならそれなりのバトルは出来るようになるかもな。尤も、その頃には俺は比べものにならないくらいに強くなってるから、今更手遅れなんだけどな」

 それがマシロのアオイに対する評価だ。
 素質はあるが、アオイの場合、本気になるのが遅すぎた。
 1年練習を繰り返せば、今のマシロと戦う事は出来るだろう。
 だが、その1年でマシロは更に進化する。
 
「世界大会か……少しはマシなファイターと戦えれば良いんだけどな」

 マシロはまだ見ぬ世界の強敵達に思いを馳せる。
 こうして、タチバナ・アオイは地区大会決勝戦で敗退するも掛け替えのない物を手にれ、一方のマシロは世界大会への切符は手に入れたが、勝利から得られる喜びを得る事が出来ず、ただ虚しさだけが残り、マシロとアオイのそれぞれの地区予選が幕を下した。



[39576] Battle26 「満たされぬ心」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/26 07:05
 日本第一地区の予選から約3か月後、地区予選の時とは比べものにならない程、人工島は賑わっている。
 ガンプラバトル世界大会が開幕したからだ。
 この時は、地区予選ではバトルスタジアムしか使っていなかったが、世界大会が開幕すると選手村や各飲食店、模型店などが開店し賑わっている。
 
「たく……何でアタシ等までタクトの補習を待たないといけないんだよ!」
「悪かったって!」

 アオイ達はメインスタジアムを目指して走っていた。
 タクトが1学期の成績が悪かったと言う事で補習を受けさせられる事となり、アオイとエリカはホワイトファングで時間を潰してタクトの補習が終わるのを待っていた。
 タクトと合流して、バトルの行われるメインスタジアムへと急いでいた。

「今日のバトル……どっちが勝つと思う?」

 タクトは走りながら、二人に尋ねた。

「マシロの相手はあのカルロス・カイザーだからな。今年のカイザーのノイエ・ジールは相当なガンプラだからな!」

 マシロの対戦相手はカルロス・カイザー。
 キング・オブ・カイザーの異名を持つファイターで世界大会において何度も決勝トーナメントに出た事のある世界でもトップクラスのファイターだ。

「つっても、ここまで来るのにカイザーも相当手の内を明かしているぜ? 悔しいけど、マシロの奴なら何かしらの対策を取ってても不思議じゃねぇよ!」

 今日は世界大会の最後の一戦、つまりは決勝戦が行われる。
 ここまで来るのにカイザーはいくつもの手の内を見せて来た。
 マシロが相手の情報を徹底的に分析し、対策や裏をついて来ると言うのは地区予選でアオイ達は嫌と言う程思い知らされている。
 マシロは予選ピリオドも決勝トーナメントもそうやって危なげなく全勝で勝ち進んでいる。
 決勝戦と言う事もあって出し惜しみもしないと考えられる。

「とにかく、始まって見ないと分からないよ」
「だな……センパイが先に席を取っておいてくれてるって話しだから急ぐぞ。もうバトルが始まっちまう!」

 決勝戦の開始の時間までもう余り時間は無い。
 3人は急いでスタジアムの中に入る。
 スタジアムの観客席に入り、スタジアムの大型モニターを見ると開始ギリギリで間に合ったようだ。

「ふぅ……何とか間に合ったな」
「もう始まるみたいだから先輩を探すよりも立って見た方が良いかも」

 すでにバトル開始直前である為、下手にコウスケを探すよりもこの辺りで見た方がバトルを全て見る事が出来る。
 3人は通路の端によって、通行人の邪魔にならないようにして、大型モニターを見る。
 そして、決勝戦が開始された。
 カイザーのガンプラは機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYに登場するノイエ・ジールだ。
 カイザーはジオン軍の整備士の「脚なんて飾りです」に感銘を受けて足の無いガンプラを使う。
 ノイエ・ジールも同様に足がない。
 作中でも搭載されていたIフィールドが搭載されており高い防御力でここまで勝ち上がってきた。
 バトルが開始され、観客たちは最強が決まる最後の一戦がどのような激戦となるのか、始まったばかりだが、心を踊らされていた。
 しかし、それは一瞬の出来事だった。
 カイザーのノイエ・ジールがバトルフィールドに出た瞬間、高出力のビームがノイエ・ジールを撃ち抜いた。
 その一撃がノイエ・ジールのIフィールドをぶち抜いてノイエ・ジールを破壊した。
 時間にしてバトル開始1秒後の出来事だ。
 その自体に観客は唖然とし、本来バトルが終了時に起こり得た筈の歓声は上がる事は無い。
 モニターにはマシロのガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが右手にハイパーメガドッズライフルを構えている映像が映されている。
 マシロはバトルが始まった瞬間に長距離砲撃でカイザーのノイエ・ジールを狙撃して仕留めた。
 ほぼ、バトルフィールドを対極の位置から始まっている為、精密な射撃能力とその距離からでも世界レベルのファイターが制作したIフィールド付きのガンプラを撃ち抜ける威力は驚異的だが、そんな事は観客たちにはどうでも良い事だ。
 世界大会の決勝戦が僅か1秒で終わった。
 唖然とする観客が我に返ると歓声ではなくブーイングが巻き起こる。
 それも当然の事だ。
 観客たちはバトルを見に来ている。
 それなのに1秒で終わればブーイングするのも当然だ。
 そんなブーイングにマシロは我関せずとガンプラを回収して早々に立ち去った。
 その後、大会の主催者側で協議が行われたが、マシロの行動は正当な物でバトルのやり直しはしないと言う事が公表された。
 それに対して観客は怒りの声を上げたが、主催者側としてもマシロの行動がガンプラバトルのルールや大会規約に違反していない為、無効には出来なかった。
 本来ガンプラバトルにおいて、マシロの取った行動はタブーとされている。
 ルール上は互いのガンプラがバトルフィールドに入った時点でバトルは開始されている。
 その時点で速攻で相手を狙撃して仕留めると言う行為自体は反則ではない。
 しかし、実際の戦闘ならその手を使う事は立派な作戦で効果的とも言えるが、これはバトルであって戦闘ではない。
 互いのガンプラの力をぶつけ合ってこそのバトルと言うのが今のガンプラバトルの風潮でもあった。
 マシロの優勝が決まり、予定を前倒しにして優勝者へのトロフィーの授与とインタビューが行われた。
 
「それではマシロ選手、優勝された今のお気持ちをお願いします」

 インタビューアーが檀上でマシロにマイクを向ける。
 マシロは鳴りやまないブーイングを気にすることなくマイクを受け取る。

「率直な今の気持ちを伝えるとすればこの程度かと心底落胆している」

 マシロがそう言うとブーイングをしていた観客たちも黙り出す。

「どれほどのファイターとバトル出来るかと思っていれば大半のファイターのガンプラは過去に世界大会で好成績を残したガンプラの劣化コピーでしかない」

 それはマシロが真っ先に感じた事だ。
 多くのファイターの使ったガンプラは過去の世界大会で上位に入ったファイターのガンプラを真似た物が多かった。
 優秀なファイターのガンプラを真似る事は悪い事ではない。
 寧ろ、他のファイターの技術を取り入れる事は成長にも繋がって来る。
 だが、そのまま取り入れただけでは劣化コピーでしかない。
 そこから自分なりのアレンジや改良を行って本当の意味で自分の物にしたと言える。
 大半のファイターはそれが出来ていなかった。
 無論、決勝トーナメントに残る程のファイターは違ったが、逆をいれば100人程の中から16人程度しかそれが出来ていないと言う事だ。
 初心者が100人ならともかく、各国の地区予選を勝ち抜いて来たファイターであるなら少なすぎる。

「戦い方も同様だ。殆どが過去のバトルを真似るか基本通りのバトルで面白味もない。それ以前に出場ファイターは低レベルのファイターばかりだ。そんなレベルで世界大会に出られると言うのであれば、世界大会の質もたかが知れている。そんな世界大会に出る事を夢見て、世界レベルのファイターに憧れているお前等に敢えて言おう! 世界レベルのファイター達は雑魚であると!」

 マシロはそう言ってマイクをインタビューアーに返す。
 マシロのインタビューが終わった瞬間にマシロに対する野次が会場中から湧き上がる。
 それも当然だ。
 マシロはファイターなら誰もが憧れる世界大会を侮辱したのだ、世界中のファイターを敵に回したと言っても良い。
 だが、マシロはそんな野次をやはり気にすること無く、檀上から降りていく。
 







 その光景を見ながら、ユウキ・タツヤは憤っていた。
 発言をしたマシロに対してではない。
 そんな発言をさせた自分に対してだ。
 タツヤはマシロとの約束を果たす為に地区予選にエントリーをした。
 タツヤの出場した地区よりもマシロの出場した地区の方が代表が決まるのが早く、マシロが日本第一地区の代表となって世界大会に出る事が決まった事を知り更に奮起して地区予選を勝ち上がり世界大会に出場した。
 そして、マシロとの約束を果たす為に予選ピリオドを戦った。
 予選ピリオドでは単純なバトル以外にも様々なルールでバトルが行われる。
 マシロはそんなルールの中でも難なくポイントを増やしていったのに対して、タツヤは2、3回のバトルでポイントを落とした。
 予選ピリオドでは1度でもポイントを落とすと一気に決勝トーナメントが遠のく過酷なバトルだ。
 タツヤはギリギリのところで決勝トーナメントへの進出を逃してし、マシロとの約束を果たす事は出来なかった。
 世界大会の中でタツヤはマシロと一度も話しをしていない。
 本当は何故、突然姿を消したのか、聞きたい事も話したい事も山ほどあった。
 だが、決勝戦で堂々を対峙するまでは、合わないと心に決めていた。
 マシロの方もバトルの時以外は選手村の部屋から全く出ていないようで二人が合う事は一度もなかった。
 決勝トーナメントに進む事が出来なかった後も静岡市内でホテルを取ってタツヤはマシロのバトルを毎回会場で見た。
 その中である事に気が付いた。
 決勝トーナメントで戦うマシロが勝ち進むにつれてつまらなそうにバトルしていると言う事にだ。
 タツヤとマシロの付き合いは非常に短い。
 マシロの事は分からない事だらけだが、一つだけ分かっている事がある。
 マシロは強い相手に勝つ事が好きだと言う事だ。
 世界大会はマシロにとっては強い相手が多く出ている大会だったが、決勝トーナメントで戦って気づいたのだろう。
 世界の強豪たちもマシロからすれば大したことがない相手だったと言う事に。
 だからこそ、決勝戦の戦いに繋がっている。
 完全にやる気を失った事で、さっさと世界大会で優勝したと言う事実だけを得る事に専念した結果が1秒で勝負をつけた決勝戦と言う訳だ。
 その事に気が付いてしまったが故にタツヤは自分に対して憤っていた。
 自分はマシロのライバルを自認していた。
 だからこそ、世界大会でマシロと戦う所まで勝ち進む事の出来ず、心の底からガンプラバトルが好きだったマシロに世界大会と言うファイターが誰もが憧れる夢の舞台でそんなつまらない思いをさせた自分自身に対して怒りを覚えてしまった。

「マシロ……今、君に謝罪をしたところで君にとっては何の意味はないんだろうね。だからこそ、僕は君に誓うよ。僕は僕のやり方で君のいる高見を目指す事を」

 約束を果たせなかった事を幾ら詫びたところで意味はない。
 今やる事は一つだけだ。
 来年の世界大会においてマシロと対峙する事だ。
 ただ、対峙するだけではない。
 マシロと対等に戦えるだけの実力をつけてだ。
 確かにマシロはタツヤが知る1年前よりも格段に強くなっている。
 だが、マシロとて人間である以上は決して届かない訳ではない。
 マシロは来年の世界大会の出場権をすでに得ている。
 それこそが今年、不甲斐ない結果をマシロに見せてしまったタツヤの贖罪だ。
 タツヤはマシロに誓いを立てて、来年の世界大会に向けて歩き出した。








 マシロがインタビューを終えて廊下を歩いていると、正面にエリカが待っていた。
 他にアオイとタクトがいないところを見ると一人のようだった。

「俺に何か用?」
「用って言うか……さっきにインタビューの事は今は置いて置く。取りあえずアタシの約束の件だ」
「約束……何だっけ?」

 マシロは少し考えるが、エリカの言う約束について思い当たる節が無かった。

「……だから、世界大会に優勝したら結婚って奴だ」
「ああ……そんな事もあったっけ。興味がないから忘れてた」

 以前、マシロとエリカの間で交わされた約束があった。
 それは、マシロが世界大会で優勝すれば結婚しても良いと言う物だったが、マシロは今の今まで完全に忘れていた。
 マシロにとっては興味のない事だからだ。

「興味って……お前」
「うちの兄貴がアンタの親の会社を取り入れたいらしくてな。それで俺がアンタを結婚すれば楽に取り入れるからってさ」
「んだよ……それ」

 エリカも生まれが生まれだけに家の為に結婚、政略結婚もある程度は理解している。
 だが、マシロに言い寄られて悪い気がしなかった事も事実だった。
 しかし、エリカに言い寄った事自体が政略結婚の為であるのは納得しがたい。

「お互い大変だよな。家に振り回されて」
「お前はそれで良いのか?」

 マシロの言い方はまるで他人事だった。
 
「別に。まぁ、アンタは中々好みだから別に構わないけど。だけど、安心しなよ。あれから兄貴から連絡はないから、多分兄貴の方で何かしらの手を打ったから結婚とか考えなくても良いと思うぜ」

 ユキトからの連絡はあれから一度もない。
 定期的に連絡を入れる手筈ではなかった物の、何か月も状況の報告をしていないのにも関わらず向こうからの連絡も無いと言う事はその必要がないと言う事だ。
 元々、マシロに期待をしていなかった事を考えると当の昔にマシロが失敗したとして、別の手を打っていても不思議ではない。

「ざけんな!」

 自分達の事を話しているのに、他人事のように話すマシロにエリカの方も堪忍袋の緒が切れたのか、拳を振り上げるが途中で止めた。
 ここでマシロを殴ったところで何の解決にもならず、エリカの気持ちが収まる訳でも無い。

「殴んないの?」
「お前を殴るならガンプラバトルでだ」
「良いね。俺も少し虫の居所が悪い。今なら誰でも良いからぶちのめしたい気分だ」

 直接殴っても意味がないが、ガンプラバトルでならマシロに対して大きな意味を持っている。
 
「どこでやる? この辺りならバトルをする場所には困らないけど」
「……来年だ。来年の世界大会で……大勢の目の前でお前をぶっ飛ばす!」

 今のエリカではマシロに勝つ事が出来ないと言う事はエリカ自身は良く分かっている。
 目の前にいるファイターは最後こそは反則スレスレの手段で勝った物の名実共に世界最強のファイターだ。
 そんな相手に準備もなしにまともに戦えると思う程、エリカは思い上がってはいない。
 
「つまんないの」
「何とでも言え」

 マシロは興が削がれたのか、あからさまにやる気をなくしている。
 そして、エリカの横を通り抜ける。

「来年こそはお前をぶちのめすからな! 短い天下を味わってろ!」

 振り返る事もない、マシロにエリカは叫ぶ。
 それに対してマシロは一切の反応がない。
 それがエリカの精々の強がりであると分かっているからだ。
 後は実力を持ってそれが強がりでないと言う事を証明しなければ、マシロは相手にすらしないだろう。
 マシロが見えなくなるまで、待ってエリカは待たせているアオイ達の方に戻って行った。








 決勝戦の行われたメインスタジアムから出るとすでに、マシロを迎えに来た車が待機していた。
 シオンがドアを開くとマシロが乗り込んでドアが閉まる。
 シオンが乗り込むと車が進み始める。

「少し言い過ぎではないですか?」
「何が?」
「さっきのインタビューですよ。マシロ様が言う程、低いレベルではなかったと思いますよ」

 マシロは世界大会に出場したファイターのレベルが低いと汚したが、実際はそこまで低いと言う訳ではなかった。
 少なくとも決勝トーナメントに進んだファイターや予選ピリオドで上位に入ったファイターのレベルは十分に高かった。
 全バトルでマシロは快勝したが、それはレイコの情報集と作戦があったからだ。
 始めこそはデータの少ないマシロだったが、予選ピリオドを勝ち進む中で少しづつ情報を出さざる負えなかった。
 そんな情報から確実に対策を練って来ていた。
 レイコのサポートが無ければ、負ける事は無かった事にせよ、勝つまでにもっと手こずっていた事は確実だ。
 少なくとも、決勝トーナメントに進んだファイターの実力はそれ程だった。

「低いね。少なくとも世界大会の初期の方に比べると小手先の技術ばかりに目が行ってる」

 マシロからすれば、世界大会に出て来るファイターの質は年々低下している。
 世界大会が開催されるようになった当初は、ガンプラの傾向は徹底的に細かいディテールを作り込む事で、今のような派手さはないが、基本的な部分を極めていたファイターが多かった。
 それに比べると今はガンプラバトルの歴史がある程度出来て来た事で、新しい技術にばかり目が行っている。

「それはマシロ様も同じなのでは?」
「まぁね。先人の真似をしたってつまんないし」

 尤も、その事をマシロは否定するつもりもない。
 今、同じような事をしても結局は過去の真似でしかない。
 
「けど、そろそろさ、既存のガンプラバトルを打ち破る新しい時代が来ても良いと思うんだよ。だから、今の時代のファイターのレベルを底上げする必要がある」
「だからあのような事を?」
「王者は嫌われ者でなければならないんだよ。コイツだけは王者でいさせることが出来ないと思わせる程にね」

 インタビューにおいて、マシロの話した事は本音ではあるが、本当の狙いはそこにあった。
 あれだけ言われれば他のファイター達はマシロを倒す為に強くなろうとする。
 マシロを倒す為には普通のやり方ではまず勝てないだろう。
 その為に、今までとは違う新しいガンプラバトルをする必要が出て来る。
 それを編み出せるファイターをマシロは待っていた。

「そうやって出て来た奴らを倒せば見つかるかも知れない」
「何がですか?」
「それが分かれば苦労は無いんだけどな。だけど……足りないんだよ。世界の強豪を倒しても王者になっても……何かが足りない」

 マシロにとってガンプラバトルの楽しみは強者に勝つ事だ。
 そう言う意味では世界大会は充実していた。
 決勝トーナメントにおいても苦戦は無かったが、強敵とのバトルは楽しかった。
 だが、そんな強敵を倒した時には達成感もなければ楽しくもない。
 あるのは虚しさだけだった。
 それを埋める為には何かが足りない気がした。
 それを求めてマシロは更なる高見を目指し強者に打ち勝つも、いつも何かが足りない気がした。
 そんな悪循環が何年も続いていた。

「私には良く分かりません」
「シオンは秀才どまりだからな」

 マシロに付いているシオンだが、天才と言う訳ではなかった。
 何事もそつなくこなし、大抵の事はある程度まで技術を身に着ける事が出来るが、その道の天才には遠く及ばないのがシオンだ。
 だからこそ、シオンにはマシロの抱えている物を理解する事は出来ないだろう。

「何でだろうな……俺はガンプラバトルが好きで勝てば楽しい……そうだった筈なんだ。でも……何で名実ともに世界最強の座に付いたってのに、こんなにつまんないんだよ」

 シオンはマシロに何も言えない。
 今のマシロは今までの自称ではない。
 名実ともに最強のファイターとなった。
 だが、それでも何かが足りず、マシロの心は満たされる事は無い。
 どんな分野でも器用にこなしても頂点を取る事の出来ないシオンにとっては理解出来ない域での悩みだ。

「こんなんならさ……外に出なかった方が良かったかもな」
 
 マシロはそう呟いた。
 家で一人でバトルする時はCPU戦でバトルしている。
 CPUを相手にするのは味気ないが、少なくとも対人戦のような虚しさを感じる事は無い。
 今となっては外に出た事自体が間違っていた気すらしている。

「マシロ様」
「分かってる。ボスとの契約は来年の世界大会で優勝する事。契約は果たす。だけど、その後の事は俺の好きにさせて貰う」

 マシロとチームネメシスとの相手の契約はプラフスキー粒子発見から10年目となる来年の世界大会の優勝者に送られる副賞を持ち帰る事だ。
 その為に、マシロは今年の世界大会で優勝して、来年の世界大会の出場権を手に入れいる。
 少なくとも、チームとの契約を果たす事はマシロの義務だ。
 それは果たさねばならない事だ。
 それさえ果たせばマシロは晴れて自由の身となる事が出来る。

「フィンランドに帰る。今年の優勝トロフィーを持ち帰ればルーカスの機嫌も良くなって取りあえずはボスのご機嫌取りも出来るから俺の面目も立つ」
「分かりました。すぐに手配します」

 シオンはすぐに各方面に連絡を取って、日本からフィンランドに戻る手筈を整える。
 その日のうちに準備が整いマシロはチームネメシスの本拠地のあるフィンランドへと帰って行く。
 名実共に世界最強の座に付いたマシロだったが、その心は未だに満たされる事は無かった。




[39576] キャラ&ガンプラ設定
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/29 00:10
マシロ・クロガミ


主人公。

チームネメシスに所属するファイター。

日本第一地区から世界大会に出場する為に静岡にやって来た。

地区予選を圧倒的な実力を持って優勝し代表となり、世界大会をも危なげなく勝ち進み第6回大会のチャンピオンとなった。

圧倒的な実力を持ち、強い相手とのバトルを望むが、いつしか世界レベルのファイターと戦った後には何がが足りないと感じるようになる。

使用ガンプラはガンダム∀GE-1 セブンスソード、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット





タチバナ・アオイ(橘 葵)

2章のもう一人の主人公

内気な性格で今までガンプラバトルをする事が出来なかった。

長年、ガンプラバトルを行う相手がいなかった事もあり、一人想像の中でバトルを行っていた為、射撃を得意とし、逆に格闘戦を苦手としていた。

だが、エリカと出会い、タクト等様々なバトルを潜り抜け、実力を付けて行った。

そして、ガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会準決勝戦でゾーンに入る事ができ、優勝した。

その後の世界大会地区予選では一回戦でタクトに勝利し、準決勝戦ではマシロに敗北した事で力に囚われるようになったコウスケとバトルし、勝利した事でコウスケを解放する事が出来た。

しかし、決勝戦でマシロとバトルをする中で、自身の心の奥底に抱えていた孤独を拒絶するが故に、相手の実力に合わせて戦っていた事などをマシロに指摘されて、動揺して窮地に立たされた。

エリカとタクトの声で持ち直すもマシロに敗北したが、そのバトルの後にはエリカとタクトとの距離を詰める事が出来た。

使用ガンプラはビギニングガンダムB



シシドウ・エリカ(獅子堂 エリカ)

アオイのクラスメイト

ハーフで鮮やかな金髪を豊満な肉体を持つ。

偶然にホワイトファングで会ったアオイにガンプラバトルを本格的に始めさせるきっかけとなる。

実家は運送系の会社を経営している社長令嬢だが、言動からはそうは見えない。

マシロに言い寄られて、悪い気はしなかったが、素直になれずに世界大会で優勝したら、結婚すると言う約束をし、マシロは世界大会を優勝するが、当の本人は完全に忘れていて、自分に対してそこまで興味がない事を知る。

そして、マシロを世界大会で倒す決意をした。

使用ガンプラはアサルトルージュ。



キサラギ・タクト(如月 拓斗)

アオイのクラスメイト

性格は熱血漢だが単細胞。

クラスのムードメーカーで運動神経は高いがガンプラバトルの実力は人並。


使用ガンプラはギャプラン→ギャプランTR-5[フライルー]→ギャプランTR-5[ファイバー]。




カガミ・レッカ(加賀美 烈火)

アオイのライバルとなるファイター

ホワイトファングでアオイとバトルを行い勝利するもショップ大会決勝戦で敗北する。
 
それによりアオイの事をライバルとして意識する。

そして、世界大会の地区予選で決着をつけると思っていたが、準決勝でマシロとバトルをし、作戦の裏をかかれて敗北した。

その後はアオイの対マシロ戦の為の練習相手を務めたり、自身のガンプラの武器をアオイに貸している。

使用ガンプラはビギニングガンダムR




クロガミ・レイコ(黒神 麗子)


マシロの一つ上の姉

情報戦における天才

クロガミ家当主であるユキトの命令でマシロの補佐をさせられている。

論理よりも感情で行動するマシロの事を苦手に思っている。

目的の為ならいかなる手段を使う事も辞さないが、マシロの意向に沿わない事は出来ず、マシロの行動に日々頭を悩ませている。


シオン・ミズキ(四音 瑞樹)

マシロの世話役。

以前は執事の姿をマシロにさせられていたが、れっきとした女である。

マシロとは一見、仲がいいように見えるが、マシロからは自分の世話役と言う認識以上はされておらず、長年行動を共にしていたのにも関わらずマシロからは下の名前を忘れられていた。

レイコの指示で下の名前であるミズキと名乗り、ホワイトファングでバイトをしながら情報をファイターの集めていた。











アンドウ・コウスケ(安堂 康介)

アオイの先輩

日本第一地区の実力者でホワイトファングでは上位の実力を持っている。

アオイの初めての対戦相手。

性格は爽やかな努力家だが、マシロに大敗し自らの努力を否定されたと思い性格が豹変した。

バトルの腕だけではなく、ビルダーとしてもユニコーンモードのユニコーンガンダムをデストロイモードに変身させる機構を組み込む事が出来る程の腕を持つ。

アオイとのバトルで努力を続けることが大切だと気付かされた。

その後は、アオイ達に協力して訓練をさせている。

使用ガンプラはユニコーンガンダム→バンシィ→フルアームドバンシィ・ノルン



ナナミ・イチカ(七波 一香)


ホビーショップ「ホワイトファング」の店長。

女子大生であったが、ホワイトファングのバイト時にその実力を認められて店長に昇格している。

一見、のほほんとした性格をしているが、長い物にはまかれる事にかけては天才的な才能を持っている。







ガンダム∀GE-1 セブンスソード


マシロが制作したガンプラ。

ガンダム∀GE-1を改修している。

胸部に装甲とビームバルカンを2門追加している。

ガンダムエクシアを参考に主に白兵戦を重視した改修がされている。


作中設定

作中設定においてはガンダムAGE-1 セブンスソードとなっている。

フリット・アスノがアセムの戦闘データを元にアセム専用のAGE-1として設計されている。

アセムが初陣から二刀流で戦う事が多かった事から武器は対となるように装備されている。

テストパイロットとして二刀流を得意とするウルフを予定していた事もあって、白く塗装された。

しかし、アセムが連邦軍に入隊する頃にはガンダムAGE-2がロールアウトした為、製造される事がなくなった幻の形態。



装備

・ショートドッズライフル&Cソード

ダブルオーライザーのGNソードⅢをベースに制作された武器。

作中設定ではドッズガンの銃身を流用し、砲門を3門にする事でドッズライフルから低下した攻撃力を補っている。

刀身はシグルブレイドの技術を使用している。

・ビームサーベル

腰に1本とシールドの裏側に1本装備している。

・小型シールド

左腕に装備されている。

裏側にはビームサーベルが付いている。

・ショートソード

腰に1基装備されている短剣。

主にビームサーベルとの二刀流で使われる。

・ビームブーメラン

肩に一基づつ装備されている。

ビームダガーとしても使える。

作中設定ではアセムの初陣でビームサーベルを投げつけた事からより当たり易くする為にフリットが新規で設計した装備。

内部にビームサーベルの部品が使われており、出せるビーム刃の出力はAGE-1のビームダガーと同程度。

使い捨てが前提に設計されている為、間違っても、マシロが披露した曲芸をする事は想定されていない。


・ビームバルカン

胸部に2門装備されている。




ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット


マシロが制作したガンプラ

元々は砲戦用の形態だったが、紆余曲折から砲戦を重視した殲滅戦用の装備となった。

地区予選の決勝戦で投入されたが、完成度は9割で関節強度と装備が一部未完成と言うだけで十分に戦えた。

脚部はホバーユニットも兼ねて高出力のスラスターが集中している。
 
陸戦を得意としており、陸上ではホバーで高速移動を可能とする。

宇宙でも直線的な機動力が高く、それを活かしたドッズランサーの一撃はバトルフィールドのコロニーの外壁を易々とぶち破る程。

リアアーマーからアームで左右に4基つづ計8基の武装コンテナを装備しており、そこに収容されている武器を状況や相手に合わせて使い分ける事で効率よく敵を殲滅する事を目的とされている。


作中設定


作中設定においてはガンダムAGE-1 フルアサルトジャケットとなっている。

キオがヴェイガンに捕まった際にフリットが万が一にもアセムが失敗した際のサブプランとしてディーヴァを火星圏に送り込む算段を付けていた。

その際に、大破した自身のガンダムAGE-1 フラットをディーヴァとマッドーナ工房のパーツで改修する予定を付けていた。
 
改修にあたり、両腕はクランシェカスタムの物を使用し、脚部はアセム達に渡していなかったAGE-3のGホッパーのホバーユニットを移植している。

その他にもダークハウンドのドッズランサーやクランシェカスタムのシールド、マッドーナ工房の初代工房長、ムクレド・マッドーナが生前に趣味で制作した武器等を多数装備させている。

運用方法として、ディーヴァのMS隊が囮となり、推力を活かしてヴェイガンの本拠地のセカンドムーンに突貫し、キオを救出後にその火力を活かしてセカンドムーンを内部から破壊すると言う無茶な運用方法をフリットは想定していた。

だが、アセムがキオの救出に成功した事で単機での運用が前提であった為、一部の装備を使ってAGE-1 グランサの方で運用される事になる。

終戦後はフリットもやり過ぎたと反省し、この装備は抹消された。







ビギニングガンダムB


アオイが制作したガンプラ

ビギニングDガンダムをベースに制作されているが、部分的に塗装をした程度で大幅な改造はされていない。

地区予選の決勝戦ではコウスケやレッカが制作した武器等を装備した最終決戦用の装備でバトルしている。

Bはブルーから取られている。



装備

・ハイパービームライフル

メインの装備。

高い威力とある程度の連射速度を持っている。

この武器が破壊されると勝率が大きく落ちる程。

当初は通常射撃だけだったが、後に改良されて連射速度を犠牲にしたバーストショットが撃てるようになっている。


・シールド

左腕に装備されている。

非常に破壊率が高く、後に強化されるが、やはり破壊される。

・ビームサーベル

バックパックに2本装備されている。

・ビームバルカン



ビギニングガンダムR

レッカが制作したガンプラ

ビギニングJガンダムの改造機で部分的に赤で塗装されている以外には大幅な改造をされていない。

基本的にバーニングソードRによる近接戦闘をメインにしているが、マシロとバトルする際は長期戦をする為にビームライフルとシールドを装備していた。





アサルトルージュ

エリカが制作したガンプラ

ストライクルージュをベースにアグニを外したマルチプルアサルトストライカーを装備している。

マシロとバトルする際には肩にも装備を増設している。





フルアームド・バンシィ・ノルン


コウスケが制作したガンプラ

バンシィ・ノルン(デストロイモード)をベースにアームド・アーマーVNとアームド・アーマーBSを装備している。








[39576] 幕間2
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/29 00:07

 マシロにとっての第二の人生の分岐点はマシロがイオリ・タケシと出会って数か月程経った頃だ。
 その頃にはガンプラは飾るだけの物ではなかった。
 プラフスキー粒子が発見されたことでガンプラは動く事が出来るようになったのだ。
 プラフスキー粒子はプラフスキー・パーティクル・システム・エンジニア社、通称PPSE社によってバトルシステムと呼ばれるプラフスキー粒子散布装置を用いる事でバトルシステム内でガンプラを実際に動かして戦うガンプラバトルが始まった。
 ガンプラを制作するモデラーにとって、自分の制作したガンプラを実際に動かすと言う事は夢のような事でガンプラバトルは瞬く間に世界中に広まる事となった。
 そして、ガンプラバトルを行うモデラーの事をファイターと呼ばれるようにもなって行った。
 イオリ・タケシにガンプラ作りを教わったマシロも、近所の模型店でガンプラバトルを日々行っていた。

「行け! ジェノアス!」
「今日こそ、俺のキュベレイ・マシロスペシャルで!」

 マシロは今日も模型店でバトルをしていた。
 マシロの後ろには、マシロの妹も観戦していた。
 だが、マシロが半ば無理やり連れて来ている為、妹の方は余り興味がなさそうだ。
 マシロの使っているガンプラはイオリ・タケシと共に制作したキュベレイを改造したキュベレイ・マシロスペシャルだ。
 大幅な改造はしていないが、ファンネルコンテナを外し、右手には模型店のジャンクパーツコーナーで自分の小遣いで足りる武器として偶然見つけたジンクスⅢ用のGNランスを持たせてある。
 そして、ところどころが破損していた。
 ガンプラバトルは実際にガンプラを動かすと言う特性上、バトルで破壊されると全てではないが、ガンプラにダメージが反映される。
 孤児で金銭的に贅沢の出来ないマシロはバトルで壊れたキュベレイを完全に直す事も出来ずに過去の損傷がそのまま残されていた。
 そのバトルを一人の男が見ていた。
 男の名はクロガミ・キヨタカだ。
 彼は世界に名だたる大企業クロガミグループの総帥にてクロガミ一族の当主でもあった。
 世界的大企業であるクロガミグループ総帥と言う立場で多忙な日々を送るキヨタカだが、そんな多忙な日々の中でも楽しみがあった。
 それがガンプラだった。
 幼少期に偶然、ガンダムの再放送がやっていた事を期に彼はガンダムにのめり込んだ。
 特にモビルスールやモビルアーマーと言った兵器系の方を好み、ガンプラを時間を作っては制作していた。
 プラフスキー粒子関連の技術を独占しているPPSE社を現会長のマシタが設立する際に彼の妻が多額の出資を行うと言った時にとんでもない額の資金を理由も聞かずに出した事が今のPPSE社が数か月でクロガミグループ程ではないが、世界的大企業になって要因の一つとされている。
 彼自身もガンプラバトルを嗜むが、クロガミグループをまとめ上げている手腕を持つキヨタカだが、ガンプラバトルの腕は余り高くないようで、今はバトルを自分でやるよりもバトルの観戦が殆どだ。
 今日も近くまで仕事で来ていたが、時間が出来た為、お忍びでバトルシステムの置いてある模型店にバトルを見に来ていた。

「ほう……あの少年」

 キヨタカはジェノアスのファイターではなく、マシロの方に注目した。
 バトルはジェノアスの方が優勢なのは誰の目にも明らかだ。
 周りの観戦者たちは優勢であるジェノアスのファイターの方ばかりを注目しているが、バトルの実力は微妙でもキヨタカはクロガミグループをまとめ上げているだけあって、マシロの秘めたる物に気づいていた。

(あの少年は目が良いのか。それも常人のレベルを遥かに上回っている。反応速度は当然の事、視野もバトルシステム全体に及んでいると言ったところか、残念なのは情報の処理が出来ていないところか)

 マシロが劣勢の最大の理由はマシロの操縦技術ではないと言う事をキヨタカは見抜いていた。
 キヨタカの見立てではマシロは常人離れした目の良さを持っている。
 単純な目の良さだけではなく反応速度や、バトル全体を見渡す視野の広さも持っている。
 だが、マシロはバトル中にバトルフィールド全体を見渡し、どんな些細な情報すらも拾ってしまう為、本人も気づかないうちにバトルフィールド全体の情報を見ている。
 それを全て頭の中で処理しようとしている為、反応が少し遅れ気味になってしまう。
 
(情報の処理が追いついていないのに、反応の遅れがあの程度で済んでいると言う事は、情報の処理を出来るようにすれば、ニュータイプ並みの反応が可能になる筈だ)

 バトルフィールド内の情報量は膨大だ。
 それを全て処理したうえでの反応の遅れが、あの程度なら瞬時にいらない情報を捨てて、必要な情報だけを選び取る事が出来るようになれば、マシロの反応速度は圧倒的な速度となるだろう。
 後はその反応速度を活かす事の出来る技術と経験を会得すれば、理論上はマシロはどんな相手にも勝てる事になる。

(惜しいな。それだけの才能を持ちながら、彼はそれを目覚めさせることも出来ず、本人すらも自覚していない。それだけの才能を持っていれば活かしようによってはメイジンを目指す事も夢ではないと言うのに……)

 マシロは才能の断片を見せているが、誰もマシロの才能に気づいてはいないだろう。
 普段からそれだけの事をしているのであれば、マシロの脳はそのバトルシステム内以上の情報にも対応できるように順応しているはずだ。
 それをしていないと言う事は、マシロが普段からそれ程の目の良さを使っていないと言う事だ。
 恐らくは何かしらの条件下でしか、使っていないのだろう。
 バトル中に使っていると言う事は、少なくともガンプラバトルの最中は使っていると言う事になる。
 そう考えている間にジェノアスのヒートステックがキュベレイ・マシロスペシャルの胴体を捕えてバトルが終了する。

「くっそ!」
「よわ」

 バトルに負けたマシロに妹が追い打ちをかける。

「今日は調子が悪かったんだよ! それに相手のガンプラが弱っちそうだったから手加減したんだよ。俺が本気を出せばな……」
「相手のロボットの動き、あんな見え見えな動きしてた何で負けるの?」

 言い訳するマシロに止めが刺された。
 今日は調子が悪いと言っていたが、マシロはガンプラバトルで勝った試しがない。
 ガンプラの出来では相手のジェノアスよりもマシロのキュベレイ・マシロスペシャルの方が良い。
 多少、ボロボロでも制作時にタケシによって厳しく基本に忠実に制作されている為、元々の完成度は素組レベルでは非常に高い。
 それなのに負けたのは完全にマシロが弱いからに他ならない。

「それじゃ私、帰るから」

 妹はそれ以上、マシロの良い訳を聞く事なく、帰って行く。
 マシロはそんな妹を追いかけて孤児院までひたすら言い訳をしていた。




 その翌日、マシロは孤児院の院長に呼び出されていた。
 マシロが孤児院の応接室に入ると、そこには院長の他にキヨタカがソファーに座っていた。

「このおっさん、誰?」
「マシロ! そんな言葉使いを!」
「院長。私は気にしていないさ。このくらいの歳の子はこれくらいわんぱくじゃないと」

 初対面であるキヨタカに対しての言葉使いを院長は叱ろうとするが、キヨタカの方は気にしていない。
 マシロ位の歳の子供なら、目上の人に対する態度が多少悪くても子供らしい。
 キヨタカの長男であるユキトがマシロ位の歳の頃には、将来クロガミグループを継ぐ者としての教育を受けさせていた為、子供らしいとは無縁な子供だった。
 そんなキヨタカからすれば、子供らしいマシロは微笑ましいものだ。

「そうですか……」
「で、なんで俺だけが呼び出されたの? 俺、別に悪い事してないけど」

 呼び出された理由はマシロも聞いていない。
 考えられる理由としては孤児院の子供と言う理由で良く、難癖のような事を言って来る事がある。
 マシロの目から見てもキヨタカはそこいらにいる大人とは少し違って見えるが、思いつく理由はそのくらいしかない。

「この方はマシロの事を引き取りたいと言って来たんだよ」
「俺を? 何で?」

 キヨタカは昨日、マシロのバトルを見て、部下に命じてマシロの事を調べさせた。
 そして、マシロがここの孤児院で育てられている孤児だと知った。
 そこで、キヨタカはマシロを引き取ろうと思った。
 マシロは才能を持っている。
 それを埋もれさせることは勿体ないと思ったからだ。

「昨日のガンプラバトルを見ていたよ。君には才能がある。私の元に来れば君の才能を伸ばす事が出来る」
「俺に才能……」

 マシロにとってはキヨタカが自分を引き取りたいと言って来た事よりも衝撃的な事だった。
 マシロは運動が得意な訳でも無ければ、勉強が得意と言う訳でもない。
 ガンプラバトルも一度も勝ったことがない。
 何をやってもダメダメなマシロは初めて自分に才能があると言って貰えた。
 マシロをその気にさせる為のデタラメかも知れないが、信じさせるだけの力がキヨタカの言葉にはあった。

「本当に……俺に才能があるのかよ」
「私が保障しよう。君はいずれメイジンを超える事も出来る」

 メイジンカワグチ、それは大昔の伝説的なモデラーからPPSEが名を借りてガンプラバトルの象徴的とも言える人物として、最強のファイターとしてファイターの憧れの的だ。

「俺がメイジンを……俺、行く!」

 最強のファイターであるメイジンを超える。
 その言葉を聞いてマシロは二つ返事で返した。

「そうか。しかし、私の家は少々、普通とは違ってね。悪いけど、引き取るのは君だけだ」

 マシロを調べた中でマシロに妹がいると言う事はキヨタカも知っていた。
 その妹との間に血縁関係があるのかと言う事は、時間が無かった為、調べてはいない。
 だが、キヨタカが引き取るのはあくまでもマシロ一人だ。
 クロガミ一族は特殊な家である為、自らが見出したマシロは問題はないだろうが、妹を引き取ったところで危険かも知れない。
 だからこそ、引き取るのはマシロだけだ。
 当のマシロはそんな事は気にしてはいなかった。
 キヨタカは今日のところは用件だけを伝えに来た為、マシロを引き取る件は後日詳しく話す事となり、帰って行った。







 キヨタカがマシロを引き取る事になった1週間程が経って、マシロが引き取られる日となった。
 孤児院の子供たちは血の繋がりに関係なく、兄弟のような物だった。
 だからこそ、マシロが引き取られる事となって、寂しく思う反面、相手の家がかなりの資産家だと言う事で喜びもした。
 昨日は、皆でマシロの送別会を行った。
 その際にマシロが妹に自分だと思って欲しいとキュベレイ・マシロスペシャルを押し付けて、いらないと拒否られた事で妹と喧嘩となり、最後の夜まで騒がしかった。

「それじゃ元気でな」
「俺はいつだって元気だし」

 孤児院を離れる日だと言うのにマシロはいつも通りだ。
 マシロを見送る子供の中にはすすり泣いている子供もいる。

「元気でな」

 子供たちを代表して子供たちのリーダー格のヨハネスがそう言う。

「お兄ちゃん……これあげる」

 院長の後ろに隠れるようにしていた、妹がマシロに白いマフラーを投げつけた。

「お兄ちゃんはへなちょこだから、それでもつけてれば」

 少し照れているのか、マシロとの別れを悲しんでいるのか妹は院長の足にしがみついて顔を見せようとはしない。

「そう言ってられるのも今の内だね。俺はいずれ最強のファイターになってここに舞い戻って来る!」

 マシロはそう宣言する。
 マシロが孤児院を出て行くと言うのに、いつもと変わらないのはいつでも戻って来る事が出来るからだ。
 例え、どんなに離れていても、同じ地球にいる以上はその気になればいつでも帰って来る事が出来る。
 だからこそ、マシロは今まで育って来た孤児院を離れる事になっても寂しくはない。
 マシロはこれからの未来に向けて希望を持って、孤児院を去って行く。
 だが、マシロがこの孤児院に笑顔で戻って来る事は二度となかった。



[39576] Battle27 「新たな思惑」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/02 09:40
 世界大会を制したマシロはフィンランドに戻っていた。
 フィンランドにはチームネメシスの拠点が湖のど真ん中の小島に建てられている。
 この小島はチームネメシスのオーナーのヨセフ・カンカーンシュルヤの所有物となっていた。
 拠点にはネメシスに所属するファイターの宿舎や訓練場などの設備が整えられている。
 マシロの部屋は宿舎の中でも世界レベルのファイター用の特別室が与えられている。
 今日もマシロはバトルルームで適当な相手を見つけてバトルして来た。
 マシロが拠点に戻ってから今日まで一月、毎日のように相手を見つけてはバトルをしていた。
 そのせいでマシロに負けたファイターは自信を喪失し、チームを去っていた。
 一時期はヨセフが世界中からファイターを集めて1000人近くいたファイターも数日の内に100人を切っていた。
 だが、ヨセフからすればマシロに負けた程度でチームを去るファイターなど必要としていない為、マシロの行動を咎める事は無い。

「マシロ様。会長がお呼びですよ」
「めんどくさい」
「至急来るようにと」

 シオンはマシロにそう言うが、マシロは乗り気ではない。
 世界大会が終わってからもマシロはいつもこうだった。
 手当り次第にバトルを挑んではつまらなそうにしていた。

「ちっ……」

 マシロは渋々、ヨセフの元に向かった。
 ヨセフのオーナールームにマシロはノックもなしに入る。

「ノックくらいしたらどうなんだ?」
「んな事よりも何の用? 俺も暇じゃないんだけど……てか、誰?」

 オーナールームにはヨセフ以外に二人の人物がいるが、マシロは見覚えがない。
 尤も、マシロはチームの中でも顔と名前を憶えている相手など皆無に近い。

「始めました。君がマシロ君だね。私はフラナ機関から来たナイン・バルト。こっちがアイラだ」
「……アイラ?」

 眼鏡をかけたナイン・バルトは、にこやかにそう言うがマシロが興味を示したのはアイラと呼ばれた少女の方だ。

「何か?」
「別に」

 マシロがじっと見ている事に気が付いたアイラがそう言うとマシロは視線を逸らす。

「つか、あんた等がフラム機関ね」
「フラナ機関だ」
「フラム・ナラ機関の略称だろ? まぁ、アニメキャラの名前を付けた機関とか恥ずかしいから隠したい気持ちは分からんでもないけど、その辺りの恥じらいは捨てないと駄目だと思うぞ。俺は」
「茶番はそこまでにしておけ」

 ヨセフに言われてもマシロもこれ以上言う事は無い。
 
「ヘイヘイ。で、どっちが俺の保険?」
「どうやらこのアイラがそうらしい」

 ヨセフがそう言うが、明らかに不服だと言う事が分かる。
 マシロが今年の世界大会で実力を見せ過ぎたせいでヨセフも来年の世界大会での保険をかける為に、フラナ機関に優秀なファイターを寄越すように指示を出した。
 そして、送り込まれて来たのがアイラと言う事だ。

「ふーん。で、俺が呼ばれた理由は?」
「はっきり言って私はアイラの実力を信用しておらん。お前から見てどうだ?」

 マシロがヨセフに呼ばれた理由はそこにあった。
 ヨセフにはアイラが優秀なファイターにてとても見えない。
 見た感じではアイラはマシロよりも少し年下に見える。
 そんなアイラの実力を信用出来ないのも無理はない。
 そこで、ファイターとしてずば抜けた嗅覚を持つマシロを呼んで見極めさせようとしていた。

「彼女は我がフラナ機関が作りあげた最強のファイターです。必ずやオーナーの意向に沿う事が出来るでしょう」
「言うね。現最強ファイターの俺を前にして」
「なら、証明して見せます」

 バルトがヨセフにアイラの事を売り込むが、世界大会を制したばかりのマシロを前にしては「最強」と言ったところで意味はない。
 そして、アイラがそう言う。

「私が勝てば最強である事を証明できると思います」
「しかしだな……いきなり彼を相手にするのは……それに、お前のガンプラは」

 挑戦的なアイラにバルトはアイラを諌めようとする。
 流石にいきなりマシロを相手にするのは分が悪い。
 少なくとも世界大会を優勝出来るだけの実力をマシロは持っている。
 その上で、アイラの専用機は今は完成していない。

「ガンプラは俺が作った奴を特別に貸してやる。ボス、ガヴェインの奴はいたよな。すぐにお呼び出してくれ」
「貴方が相手をするのでは? それとも逃げるんですか?」
「ゲームだって始めからラスボスと戦える訳じゃないだろ。俺とバトルしたかったら、せめてガヴェインを倒せる程度の実力は無いとな。それとも自信がないとか? まぁ、俺とバトルして負けるんなら仕方が無いと言うのも分かるけどさ」
「分かりました」

 アイラは少しムッとして答える。
 マシロより先にガヴェインとバトルする事になるが、勝って実力を証明すればいい。

「良かろう」
 
 アイラとガヴェインのバトルがオーナーであるヨセフに了承されてしまえば、バルトにはどうしようもない。
 すぐに、ガヴェインがバトルルームに呼び出されてマシロ達もバトルルームに移動する。
 
 



 バトルルームに呼ばれたガヴェインはマシロを見た途端に顔をしかめる。
 呼び出された事自体はさほど問題ではないが、マシロの差し金と言う事は面白くはない。
 だが、オーナーのヨハンの命令である以上はガウェインはアイラとバトルせざる負えない。
 そして、バトルが開始された。
 ガウェインのガンプラは独自の改造を施したデビルガンダム。
 アイラのガンプラはマシロが制作した白いジェガンだった。
 二人のバトルが開始されるとすぐに状況はアイラに傾いて行く。

(あの動き……)

 アイラの動かすジェガンはガウェインのデビルガンダムの攻撃をいとも簡単に回避する。
 そして、ガウェインの反撃を許す事無く、デビルガンダムが破壊された。

「まさか……ガウェインをここまで容易く」

 アイラの勝利にヨセフは驚き、バルトは満足そうにしている。
 今となってはネメシスにおいてマシロが不動のエースだが、この前まではネメシスエースと言えばガヴェインだった。
 マシロの陰に隠れているが、ガウェインの実力も世界レベルと言っても良い。
 そんなガウェインをアイラは苦も無く勝利した事をヨセフは信じがたかった。
 以前にもマシロがチームに来た時に一番強いファイターと戦わせろと言いガウェインと戦わせたが、その時もマシロの圧勝だった。
 マシロの場合はクロガミ一族と言う特殊な一族から引き入れている為、驚きこそしたが同時に納得も出来た。

「勝ちましたけど?」
「言うだけの事はあるね。だが、奴はネメシス四天王の中でも最弱! 勝ったところで良い気にならないで貰おう」

 ガウェインに勝ったアイラはマシロにそう言う。
 マシロはバトルシステムの前に立つとガンプラを置いた。

「こいつはハンデだ。まさか、いきなり全力の俺とバトル出来るなんて思ってないよな」

 バトルシステムないにマシロのガンプラが出て来る。
 アイラも事前にマシロの事は少し聞いている。
 だが、その時聞いたマシロの使うガンプラではないと言う事はすぐに分かった。
 マシロの出して来たガンプラはコレルル、ガンダムXに登場する機体だ。
 異様に長い手足が特徴のコレルルは明らかにマシロのガンダム∀GE-1とは違う。

「武器もこいつだけで十分だ」

 マシロはそう言ってコレルルの持つビームナイフを軽く上に投げて見せる。
 そう言われたアイラは少しムッとするが、マシロは気にしない。

「止せ、アイラ!」
「問題ありません。このまま行きます」

 ガンダム∀GE-1ではないにしろ、いきなりマシロとバトルする事は分が悪いと判断したバルトはアイラを止めようとするが、アイラは聞く耳を持たない。
 バルトとしてはガウェインを倒した時点でアイラの能力が高いと言う事を見せる事が出来たが、ここでマシロとバトルして万が一にも負ける事があってはヨセフの心証に関わって来る為、避けたい。
 そんなバルトに意に反して、バトルが再会された。
 ジェガンはビームライフルを放ち、コレルルは飛び退いて回避する。

「ちょこまかと」

 コレルルは高い運動性能を発揮してジェガンのビームライフルを回避していた。

(この動き……間違いない。コイツ……俺の動きが見えてるな)

 攻撃を回避しながら、マシロはそう判断した。
 ガウェイン戦の時もアイラのジェガンの動きはまるでデビルガンダムの次の動きを読んでいるかのようだった。
 そして、実際にバトルして見て確信した。
 アイラはこっちの動きを見えていると言う事をだ。
 単純に動きを読んでいるにしては正確過ぎる。
 バトルの中でジェガンの動きだけでなく、アイラ自身にも注目してみるとアイラは視線が僅かながらこちらの動く先に向かっている。
 からくりまでは分からないが、アイラは確実にマシロのコレルルの動きが見えている。

(こっちの動きの先を見るファイターか……悪いな。お前がXラウンダーならこっちはスーパーパイロット。相性が悪い)

 アイラがこちらの動きを先読みしていると言う事が分かった時点でマシロは反撃を開始した。
 先ほどまでは、ギリギリのところで防いでいた攻撃が次第に余裕を持って回避できるようになって来ていた。

(何で……動きが)

 余裕を持っていたアイラも次第に焦り始めていた。
 マシロのコレルルの動きが見えていた物と違って来ているからだ。
 アイラはマシロのガンプラの動きの先を見た上で攻撃している。
 だが、マシロはそんなアイラのガンプラの動きを見た上で動かしている。
 その為、アイラが攻撃した時にはすでに、コレルルはアイラの見た動きとは違う動きをしている。
 アイラの能力が先読みなら、マシロの能力は後出しだ。
 アイラが何千手先を読んだところで、動いた時点でマシロがその動きに反応して動きを変えて来る為、先読み能力は意味を成さない。
 それどころか、先を分かっている事で、それと違う事で一瞬の隙が生まれる。
 そして、コレルルはジェガンのビームライフルを回避して、接近するとビームナイフを振るう。
 ジェガンはシールドで防ぐが、シールドはビームナイフで簡単に切断されてしまう。

「っ!」

 至近距離でビームライフルを向けるが、それよりも先にビームナイフがジェガンの右腕に突き刺さり破壊される。
 ジェガンはバルカンでコレルルを牽制しようとするが、コレルルはジェガンの背後に回り込む。
 
「速い!」

 そして、コレルルが背後からジェガンの首元にビームナイフを突き刺すとジェガンは力無くうな垂れてバトルが終了した。

「馬鹿な……アイラがこうも簡単に」

 先ほどとはうって変わってバルトが信じられないという表情をしていた。
 アイラは専用のガンプラを使っていなかったとはいえ、ここまで一方的なバトルになるとは予想もしていなかった。

「会長! これはですね。アイラは専用のガンプラを使っていなかったからでして……」
「構わん。ガウェインに勝った時点でアイラの実力は分かっておる」

 バルトはすぐに釈明するが、ヨセフは負けた事に関しては気にはしていなかった。
 ヨセフの中ではマシロが勝って当たり前で、ガウェインに勝った時点でアイラの実力は十分だった。
 ヨセフはそう言ってバトルルームから出て行く。
 バルトはアイラが負けた物の、フラナ機関への評価が落ちる事が無かった為、複雑そうにしている。
 マシロはバトルを終えて、バトルルームを出て行くとバトルを見ていたガウェインがマシロを追いかける。

「お前、俺と当て馬に使いやがったな」
「何の事?」

 マシロに追いついたガウェインはマシロの横を歩きながら問い詰めた。
 マシロはとぼけているが、マシロはガウェインをアイラに対しての当て馬として利用していた。
 アイラのバトルの情報を集める為に、それらしい理由を言ってガウェインとバトルさせた。
 その時にジェガンを渡したのも、癖の無いガンプラで戦わせる為だ。
 癖が強いとファイターの方がガンプラの特性に合わせる必要が出て来るが、汎用型のジェガンならそれもない。
 そして、ガウェインとのバトルの中からアイラの戦い方の癖や傾向を見極めていた。

「それに何がハンデだ。ふざけやがって」
「ハンデだろ? ∀GEで行くよりはさ」
「よく言うぜ。あの餓鬼には素組に毛が生えた程度のガンプラを渡して、自分は作り込んだガンプラを使っておいて」
「ばれてた?」

 マシロはバトルの前にハンデを付けると言ったが、それはアイラが使っているジェガンよりマシロが使ったコレルルの方が性能が低いと言う意味ではなかった。
 マシロが世界大会を制した時に使ったガンダム∀GE-1よりも性能の低いコレルルを使った事はマシロの言うハンデだ。
 二人の使ったガンプラには性能に大きな開きがあった。
 アイラのジェガンは素組した後に塗装し、墨入れをしてつや消しを行った程度だが、コレルルの方は細部まで作り込んでいた。
 ガンプラに関する知識のない他の三人はコレルルの装備の貧弱さから勝手にコレルルがジェガン以下だと思い込んでいた。
 だが、実際にはコレルルの作中の致命的な欠点であった装甲の薄さもジェガンのビームライフル程度なら数発は直撃しても耐えるだけの強度はあり、申し訳程度の威力しかないビームナイフの切れ味もジェガンのシールドを容易に切り裂ける程に強化されている。
 バトルを見ていた者の中で唯一ガウェインだけはその事実に気づいていたが、アイラに負けた腹いせに黙っていた。
 マシロからすれば気づかない方が知識不足で悪い。

「で、ルーキーに負けた感想はどうよ?」
「……次は勝つ」
「だろうね。若いんだよ。動きに感情が乗り過ぎてる。私は強いんです。私は先が見えて凄いんですってね」

 ガウェインは次にアイラとバトルすれは勝てると思っている。
 それは強がりでは無く、マシロも肯定している。
 アイラの実力は決して低くない。
 ガウェインが負けたのはアイラに対して油断があった事は確かだが、アイラが予想以上に強いと考えを改めた時には手遅れだった。
 並のファイターなら持ち直す事は出来ただろう。
 そうできなかった事はアイラの実力が高いと言う事でもある。
 だが、次にバトルした時は油断は無い為、先ほどのような展開にはならないだろう。
 アイラの先読み能力も事前に分かっていれば幾らでも打つ手はある。
 実力は世界レベルだが、世界でたそこそこしか通用しないと言うのがアイラと戦って見ての感想だ。
 実力はあるが、致命的のが自分の能力に絶対的な自信を持っている事だ。
 自分の実力に絶対的な自信を持っていると言う点ではマシロも同じだが、アイラの場合は能力を過信しすぎている。
 だから、ガウェインとバトルした時も自分の能力を隠そうともしなかった。
 並のファイターから見れば、圧倒的な実力でしかないが、世界レベルのファイターの目はごまかせない。
 実際、マシロだけでなく、ガウェインも一度のバトルでアイラの能力に気づきかけた。
 これでは世界大会に出たところで始めこそは勝てても、決勝トーナメントに進む事は精一杯だ。
 その頃にはアイラの能力は知れ渡り、世界の強豪たちは確実に対策を練って来る。

「対人バトルの経験が極端に少ないんだろうな。一体、どんな練習をして来たんだか」
「お前が言うか」

 マシロの見立てではアイラは対人バトルを殆どして来ていなかったと推測できた。
 だからこそ、相手が自分の能力を見極め、対策を取って来ると言う事を余り重要視していない。
 CPU戦なら、自己学習プログラムでも組み込んでいない限りはパターン化された動きしかしてこない為、柔軟な思考は出来ない。
 それがマシロが度々、対人バトルをする理由の一つでもあった。

「色々と足りないところはあるが、その辺りを克服すれば化けるね。少なくともガウェインには勝ってるし」
「煩い」
「まぁ、精々三番手に落ちてボスに首切られないようにするんだな」

 マシロはガウェインにそう言って自分の部屋の方に戻って行く。
 後ろからガウェインが抗議の声を上げているが、マシロは気にすることは無かった。











 マシロが部屋に戻ると、シオンが荷造りをしていた。
 マシロは準備ができ次第、世界中を飛び回る予定で、その準備だ。

「マシロ様。報告書の準備が出来ています。会長から今日のバトルの報告書、特にアイラ・ユルキアイネンに関する物を提出するようにと連絡がありました。すでにPCの用意は整っています」
「相変わらず仕事は速いな」
「まぁ……これが最後の仕事になりますから」

 マシロはシオンが準備したPCの前に座ると報告書の作成に取り掛かる。
 すでに、報告書のテンプレートはシオンが作成している為、マシロは必要事項を打ち込むだけで良かった。

「ああ……そう言えばそうだったな」

 マシロはPCに向かいながらそう呟く。
 シオンは一月ほど前、マシロが世界大会に優勝した後に、シオンはマシロに移動願を提出していた。
 マシロはそれを二つ返事で了承した。
 シオンとしては、マシロが引き止めたり、自分が離れる事にショックを受けているようなら少しは考えもしたが、マシロは全く動じる事も気のすることもなかった。
 結局のところ、何年行動を共にしてもマシロにとってシオンはどこまで行っても自分の世話係でしかなかった。

「一応、聞いとくけど移動願の理由は?」
「今更ですか……強いて言うのでしたら、これ以上、クロガミ一族と深くかかわって行くと人として大切な物を失いそう……と言う事ですかね」
「ふーん。まぁ、シオンは無駄に器用だから新しい現場でも上手く行くと思うけどさ」

 相変わらず、気にした様子はマシロには見られない。
 マシロがそうだからこそ、シオンは移動を決意した。
 初めて会った時はまだ、マシロも今よりもずっと子供で、性格的な問題もその内普通になると思っていたが、数年経った今でもあの時と大して変わらない。
 変わった事と言えば歳を重ねた事で無駄な知識を増やしたくらいだ。
 それは、マシロ個人の問題と言うよりもクロガミ一族全体の問題に思えた。
 それを何とかするだけの力はシオンにはない。
 マシロだけとも考えた時期もあったが、本人がそれを望んでいない以上は何を言っても無駄でしかなかった。
 そうして、出した決断がクロガミ一族と距離を置くと言う事だ。
 移動先はクロガミグループ内である為、完全にクロガミ一族と繋がりを断ち切る訳ではないが、本家の人間と関わらないのならば問題はない。
 マシロはシオンに移動に関して対して興味がないのか、作業を進めシオンの方も今更気にすることでも無い為、マシロの荷造りを進めた。







 アイラとのバトルの翌日、マシロはヨセフの呼び出しを受けていた。
 面倒に思いつつも仕方が無くオーナールームに来た。

「昨日のバトルの事なら報告書を出したけど? まだ、何かあんの? 俺、暇じゃないんだけど」
「報告書は読ませて貰った」

 マシロはソファーに座り込む。
 
「お前の報告書を見るかぎりではアイラでは世界大会を優勝する事は難しいと?」
「現段階ではね。次の世界大会まで1年くらいある」

 報告書には今のアイラでは世界大会を優勝する事は無理だとマシロははっきりと書いてある。
 ヨセフもガンプラバトルに関してはマシロの意見を全面的に信用している。
 そんなマシロが無理だと言うのであればそうなのだろう。

「そこで本題だ。マシロ、アイラを育てて見る気はないか?」
「俺に父親役をやれと」
「対人バトルの経験の少いとはいえ、ガウェインを倒すだけの実力は持っている事は確かだ。経験を積むと言う点ではお前に付いて学ばせる事が一番の方法だからな」

 ヨセフはマシロの冗談をスルーして話しを進める。
 マシロがアイラが世界大会で優勝出来ないと判断した最大の理由が対人バトルの経験不足。
 だが、単純な実力だけならガウェインに勝てるだけの物は持っている。
 つまり、経験不足を補えばアイラは十分に世界大会の優勝を狙える事になる。

「けど、俺はファイターを育てた経験とかないぜ?」
「構わん。結局のところ、アイラはお前の保険でしかない。お前が来年の世界大会で優勝すれば事足りる」
「それはそうだけどな」

 アイラが優勝を狙えるようになればそれに越したことはなかったが、ヨセフの中ではマシロが優勝すれば目的を果たす事は出来る。

「保険をかける必要が出て来たのはお前の責任でもある」

 本来は来年の第7回大会でマシロを投入して一気に優勝する予定だった。
 それをマシロが7回大会の出場権を得る為に6回大会に出場し、優勝した。
 更にはインタビューで全世界のファイターを挑発もしている。
 だから、ヨセフは保険としてアイラをフラナ機関から呼び寄せた。

「それに、ファイターを育てて見る事もお前にとってはいい経験になると思うのだが」
「一理あるな」

 マシロは今まで自分の実力を上げる為に事はして来た。
 その中でファイターを育てると言う事は一度もない。
 直接的な練習でなくとも、ファイターを育てると言う事は今までとは違う視点でガンプラバトルに関わる事でもある。
 そうなってくれば、もしかしたら新しい発見もあるかも知れない。

「分かった。引き受けよう。但し、やり方は俺の好きにさせて貰う。結果がどうあれ文句は無しだ」
「任せる」

 面倒だと思いつつも、アイラをファイターとして育てる事で何かしら自分が得る物があるかも知れないと考えたマシロは了承する事にした。
 ヨセフとしてはやり方にあれこれ指示を出す気はない。
 元々、ファイターを育てる事はおろかガンプラバトルに関してもヨセフの知識は多くはない。
 ヨセフとしてはやり方はどうでも良く、最終的に結果を出せばそれで構わない。
 話しを終えたマシロは早々にオーナールームを出て行く。
 マシロが出て行き、戻って来ない事を確認するとヨセフは電話を出した。

「私だ。予定通りに事は運んだ」
「でしょうね」

 ヨセフの電話の相手はマシロの姉であるレイコだった。
 レイコは一度、マシロを優勝させたことで今は本業の方に戻りつつも部下に来年の為の情報収集を命じている。
 そんな中でレイコの方からヨセフに要望を出していた。

「本当に大丈夫なんだろうな。フラナ機関にはかなりの額の出資をしたんだ。アイラが潰されるようなことがあっては出資が無駄になる」
「さぁ……それはマシロ次第ですね。ただ、あの子は勝ち続けますよ。それしか能がない子ですから。マシロが優勝さえすれば、どこの馬の骨かも分からない子供が一人潰された事や、フラナ機関に出資した額なんてどうだって良いはずです」

 アイラをマシロに育てさせると言うのはレイコからの要望だった。
 マシロなら自分の為にもなると言えば受ける確率が高くなると言う事を教えたのもだ。
 ヨセフとしては高い額の出資をして、呼び寄せたアイラが世界大会を前にマシロに潰される事を危惧していた。
 優勝は狙えずとも世界を相手に戦えるだけの実力は持っている。
 本命のマシロのサポート役としては十分だ。
 潰されるリスクを負ってまで、育てる意味はヨセフの側からすればない。
 だが、レイコは確実にマシロが7回大会でも勝つ為にやらせた。
 レイコもマシロがここのところ、勝っても何かが足りないと思っている事にも気づいている。
 大抵の物はクロガミグループの力を使って用意は出来る。
 性質が悪い事に本人すらも何が足りないのか気づいていない。
 マシロ本人ですらも気づいていない為、直接用意する事が出来ないでいる。
 そこで、レイコは今までマシロがやって来なかった事をさせて見てはと思い至った。
 その一環として、ファイターの育成だった。
 マシロはファイターの育成を行った事も、誰から直接指導を受けた事もない。
 ファイターの指導方法は完全に我流でいつも通りの自分の練習をさせれば潰れる可能性もある。
 しかし、レイコからすればアイラが潰れたところで関係は無かった。
 潰れてしまえばマシロの足りない何かではなかったと言う事に過ぎないだけの事だ。

「当然だ。マシロには勝って貰わねばならん」

 ヨセフはそう言って、レイコとの電話を終えた。 
 こうして、本人たちの知らないところで新たな思惑が動き始めた。



[39576] Battle28 「マシロの家族」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/09 08:56
 マシロがアイラをファイターとして育てると言う事を正式にフラナ機関の方に通達された翌日、マシロはネメシスの本拠地にあるヘリポートにいた。
 本拠地は孤島である為、出入りには船がヘリで行われる。
 そのヘリポートにはマシロがクロガミグループに建造させた飛行船が停泊している。
 飛行船はマシロのガンプラと同じように白一色で塗装され、旅の拠点となる事もあってマシロは初代ガンダムの母艦から取って「ホワイトベース」と名付けている。

「どういう事だ?」

 ヘリポートにはマシロ以外にキャリーケースを持ったアイラとバルトがいたが、バルトがマシロを問い詰めていた。

「だからさ、アンタはここでお留守番だって言ってんの」

 バルトがマシロを問い詰めているのは、連れて行くのはアイラのみだとマシロが言っているからだ。

「アンタさ、レイコ見たく神経質そうだから。それにアイラの立場は俺の弟子って事になってるし、師匠の俺を差し置いて弟子にマネージャーが付くとかおかしくね?」

 バルトのネメシスでの立場はアイラのマネージャー兼主治医だ。
 その為、アイラについて行くと言う事は自然な流れだが、マシロからすれば神経質そうなバルトと一緒にいる事は嫌だった。
 これが、身内であるレイコなら気にしないが他人ならいっしょにいる気にはなれない。

「このホワイトベースにはうちで抱えている医師が何人も乗ってるから医者も必要ないしな。アイラの方もこの眼鏡君がいなくても問題ないよな?」
「全く問題ありません」

 マシロの問いにアイラは間を開ける事無く即答した。
 アイラが何かしらの理由で、バルトがいなければ練習に影響が出ると言うのであれば、マシロも何か手を考えたが、別に問題は無かった。

「そう言う訳だからさ。大人しく留守番してな。安心しろって、アイラは俺が責任を持って一人前のファイターとして教育……もとい再調整するからさ」

 アイラの育成に関してはヨセフの方からマシロに一任したから、マシロのやり方を最優先に尊重するように言われている。
 そのマシロが残れと言う以上は、バルトは残るしかなかった。





 マシロはアイラを連れてホワイトベースの中を進んでいた。
 廊下を進み、マシロは扉の前に立つと扉の横のパネルに手をかざした。
 すると、扉のロックが解除されて扉が開いた。

「ここはバイオメトリクスの認証がないと開かないようになってる。すでに俺とお前のバイオメトリクスが登録してある」

 マシロが部屋の中に入り、アイラも続いた。
 中は開けた部屋となっており、アイラは中を一通り見渡した。
 まず、目に入ったのは壁にかかっている映画館のスクリーンを思わせる巨大なテレビだ。
 他にも普通サイズのテレビに中央にはバトルシステムが置かれている。
 そして、作業台にガラスで仕切られた塗装用の部屋、山のように積まれたガンプラ、業務用の冷蔵庫やソファーやテーブルなどが無造作に置かれている。
 その手の家具に詳しくないアイラでも、一つ一つが非常に高価な物だとは分かるが、明らかに必要な物を部屋に押し込んだようで内装に拘りが一切見られない。

「さて……まずはガンプラだ」
「私はガンプラを持っていませんが」

 荷物を置いてすぐにマシロがそう言いだす。
 しかし、アイラは自分のガンプラを持っていなかった。
 この前のバトルも自分専用のガンプラが無い為にマシロから借りていた。
 昨日の今日でガンプラを用意していなければ、持っている訳がない。

「マジで? たく……常識を疑うな」

 マシロは心底呆れていた。
 マシロからすれば、ファイターがガンプラを常に持ち歩く事は常識で持っていないと言う事はあり得ないからだ。
 アイラは軽くイラっとするがマシロが気にした様子は無く、収納スペースを漁っている。

「そうだな……これなんかよさそうだ」

 マシロはそう言って、収納スペースからガンプラを持って来る。

「サザビー改。俺が何年も前に作ったガンプラで出来はイマイチだが、練習用には丁度良い。コイツをお前に貸してやる」

 そう言ってアイラに渡したガンプラはシャア・アズナブルの最後の搭乗機であるサザビーを改造したサザビー改だ。
 シャアのパーソナルカラーである赤からマシロの白に塗装され、全体的に軽量化されている。
 その為、スラスターは足と脚部、腰に外付けされている。
 装備は腹部の拡散メガ粒子砲に手持ちの火器として、ロングビームライフル。
 左腕にはベースとなったサザビーのシールドだが、裏側にゲルググから流用したビームナギナタが付けられている。
 バックパックにはファンネルコンテナがそのままつけられており、全体的に高い機動力と運動性能を重視されている。

「分かりました」

 アイラはサザビー改を受け取るとマシロはバトルシステムを起動させる。

「まずは……リフティングだ」
「は?」

 アイラは思わず聞き返してしまった。
 リフティングが分からない訳ではない。
 話しの流れ的にガンプラバトルの練習をさせられると思っていたからだ。

「やるのは当然、ガンプラでボールはこいつを使う」

 マシロはアイラにスーパーボールを渡した。
 どうやら、このスーパーボールを使ってサザビー改にリフティングをさせろと言う事らしい。

「取りあえず100回を目標にやって見ろ」
「……分かりました」

 釈然としないが、アイラには従う以外の選択肢はない。
 リフティングを100回やらせれば終わると言うのであれば、さっさと終わらせればいいだけの事だ。
 アイラはマシロに言われた通りにリフティングをサザビー改にやらせた。
 スーパーボールを軽く蹴ったつもりだが、スーパーボールは勢いよく飛び上がり落ちた。

「1回かよ。下手くそ」
「もう一度やります」

 アイラは2回3回と繰り返すも数回続けばいい方ですぐに落ちてしまう。
 その度にマシロは野次を飛ばした。
 それから数時間が経過していた。
 いつの間にかホワイトベースは飛んでいたが、このホワイトベースの最大の売りは飛行時の衝撃が限りなくゼロだと言う事だ。
 飛ぶ時も着陸する時も気を付けていないと気付かない程に静かで飛んでいると言う感覚を受ける事もない。
 その為、アイラはホワイトファングが飛んでいると言う事も忘れる程だ。
 その間にようやく10回に到達するか否かと言う所までになっていた。
 始めの方はマシロも野次を飛ばしながら見ていたが、いつの間にか飽きたのかガンプラを作っていた。
 それでも、失敗した時は必ず野次を飛ばして来る。

「下手くそ。これで何回目だよ」

 9回成功し、10回目と言う所でスーパーボールに追いつけずに落としてすぐにマシロの野次が飛んで来た。
 中々成功しない事でアイラもかなり鬱憤が溜まり、マシロの野次でそれが一気に爆発した。

「出来るか!」

 部屋の外まで響きそうな大声でアイラは叫び、流石にマシロの視線もアイラの方に向いた。

「……この練習の意味が分かりません」
「切れんなよ。これだから最近の若い奴は……てか、この程度でキャラが崩壊しているようじゃキャラを作るのに向いてないと思うぞ」

 平静を装うアイラにマシロがそう言う。
 今まで物静かに感情を表に出さないアイラが切れて大声で叫んだところでマシロは気にしない。
 アイラとバトルして、アイラの操作するガンプラに感情が乗っている事から、アイラ自身は自分で思っている程、感情を抑える事を得意としていないと言う事には薄々気が付いていた。

「取りあえず、無感情キャラは一先ず置いとけ。で、この練習の意味だっけか? 俺がやれと言った。やる理由はそれで十分」

 何か理論的な説明が来るかと思われたが、マシロの言い分は理不尽極まりなかった。

「だったら、マシロがやって見せてよ。まさか、自分が出来ない事を人にやらせる訳が無いわよね?」

 流石に我慢の限界に来ていたのか、今までとは違いアイラの方も感情を隠す気がない。

「そっちが素? 本当は自分で試行錯誤する事も必要な事なんだけど……良いだろう。もう一度、師弟の腕の差と言う物を見せてやろう」

 マシロはアイラとサザビー改の操作を変わってリフティングを始めた。
 サザビー改が太ももで蹴ったスーパーボールは1ミリ程上がって落ちると、サザビー改はひたすら太ももで1ミリ程上げてリフティングを続けた。
 その光景は余りにもシュールでアイラも引いていた。
 しかし、アイラは気づいてはいなかった。
 一見、シュールな光景だが、ゴム製で少し蹴り上げただけでも大きく飛んでいくスーパーボールを何回も同じ高さに飛び上がるように力加減を調整している微妙な操作や、右手にロングビームライフル、左腕にシールドと左右のバランスが取れていない状況で両足ならともかく、片足だけでバランスを保っている等、マシロがやっている事は神業かかった微妙な操作だと言う事にだ。

「99……100っと!」

 そうして、100回目をサザビー改は大きく蹴り上げた。
 スーパーボールはまるで狙ったかのようにバトルシステムから飛び出してマシロの目の前に落ちて来た。
 そのスーパーボールがマシルの胸の辺りに差し掛かる頃にマシロはスーパーボールをキャッチしようとした。
 だが、スーパーボールはマシロの手に収まる事無く、床に落ちて飛び跳ねた。
 何とも言えない空気となるが、マシロは黙ってスーパーボールを回収して戻る。

「まぁこんなもんだ。俺はこれを3歳で極めたからな」

 そして、先ほどの事を無かった事にした。
 最後の事はともかく、マシロが一度でやった事は事実だ。
 その為、文句も言えない。
 尤も、マシロが3歳だったのは10年以上も前の事でその当時にはプラフスキー粒子は発見されていない為、3歳で極めると言う事は不可能だ。

「さて、続きをやれ」
「分かったわよ! やればいいんでしょ! やってやるわよ!」

 マシロからスーパーボールを受け取ったアイラは半ば自棄になって叫ぶ。
 マシロは出来て自分は出来ていない。
 このままではマシロにコケにされたままで気分が悪い。
 やり方はマシロの奴を見て把握をしている為、さっきまでよりかは簡単になった。
 アイラは再度挑戦した。
 だが、アイラが思っている以上にマシロがやった事は高度でやはり上手くはいかない。

(先読みをしていないのか? あの動きは)

 マシロは組み立て途中のガンプラを作業しながらアイラのやっているのを見てそう感じた。
 アイラの先読み能力を持ってすれば、スーパーボールの動きを先読みすればある程度は簡単に続けることは出来る。
 後はそこから細かい操作を会得させるつもりだったが、アイラはまるでスーパーボールの動きが見えていないかのように失敗している。

「なぁ、お前、先読み能力持ってんだろ? 使っても良いんだぜ?」
「うるさい!」

 横から声をかけられた事でアイラの気が散ってスーパーボールは地面に落ちた。

「横から声をかけられたくらいで気を散らすなよ。バトル中は相手と話す事も珍しくはないし、どんなに優秀な実力者でも一瞬の気の緩みで負けると言う事は良くある事だ」

 マシロが失敗するたびに野次を飛ばしていたのも、9割くらいは単にからかっているだけだが、1割は精神面の練習でもある。
 どんなに優秀だろうと、精神的な面で隙を作って負けると言う事は良くある事だ。 
 
「で、なんで使わないのさ」
「マシロには関係ない事よ」
(こりゃ使わないんじゃなくて使えないって事か……つまり、アイラの先読み能力には制限があるって事か)

 マシロの質問にアイラは取り合う事はしなかった。
 だが、そのやり取りからマシロはそう判断する。
 会話の中でアイラの性格をある程度は掴みつつあった。
 使う所を最低限の物にして、自分の情報をマシロに明かさないとも考えられるが、アイラの性格上ここまで何度も失敗し、マシロに野次を飛ばされても頑なに使わないと言う事は考え難い。
 寧ろ、早いところ成功させてマシロを見返そうとして来るだろう。
 つまりは、今は能力が使えないと言う事になる。
 それから更に数時間が経過するも、回数は増えるが目標に達する事は無かった。
 次第にアイラの体力も限界を迎え、回数を重ねるごとに操作も雑になって来ている。
 その間にマシロは制作したガンプラを白く塗装まで済ませた物がいくつも完成している。

「もう限界か?」
「……まだ行けるわよ」

 強がるアイラだが、目に見えて体力の方も限界だと言う事が分かる。
 だが、自分から休憩させて欲しいとは言えないのだろう。

「最近の若い奴は体力が無くていけないな。そんな状態でやっても大して身にはならないから少し休め。もう少しでアメリカに付く頃だし、俺も腹減ったからメシにするぞ」

 ホワイトベースの行先はアメリカだ。
 余りにも静かに飛んでいる為、アイラも自分が飛行船で移動していると言う事は完全に忘れていた。
 これ以上、変に意地を張ったところで結果は出ないと言う事もあり、アイラも仕方が無くそれに従った。
 
「アメリカと言えばステーキと言う事で用意させてみた」

 それから数分後、二人の目の前に肉厚なステーキが並べられていた。
 ホワイトファングには医師以外に一流のシェフも乗せられているらしい。
 アイラも一目見ただけで高い肉が使われていると言う事が分かる程だ。

「しっかり食うのもファイターの務めだ。しっかりと食って食った物は力に変えろ。遠慮はいらない。好きなだけ食っていいぞ」
「……本当にいいの? 後で請求とかしないわよね?」
「気にすんな。どうせ、チームの金だからな」

 ネメシスの最大の武器は豊富な資金にある。
 その中でもチームのエースであるマシロはチームの資金の大半を好きに使っていいとオーナーであるヨセフに言われている。
 クロガミ一族の方からもかなりの資金を使えるが、使って良いと言われている以上は好きに使っている。
 
「凄い無駄使いな気がするわ」
「俺の栄養になるんだ。無駄じゃないさ。一流の食材と言うのは希少価値だけでなく、栄養は豊富だったりするからな。それを損ねないように一流の職人に調理させる。すべては必要な事だ」

 マシロは食に対してこだわりがある訳ではない。
 あくまでも体調管理と空腹で集中力を欠かないようにする為に食事を取っているだけだ。
 裏がない事を確認し、アイラも食べ始める。

「遠慮するなとは言ったけどさ……」

 それからしばらくして、マシロは呆れていた。
 確かにマシロは遠慮はいらないとは言ったが、アイラはマシロの何倍も平らげた。
 マシロ自身、歳を考えるとそこまで食べる方ではないが、アイラの食べた量は相当な量だ。

「マシロが遠慮しないで良いって言ったからよ」
「そうなんだけどよ。太るぞ? まぁ……無感情キャラを捨てて食いしん坊キャラで行くなら太ってもありかも知れないけどさ」
「うるさい。さっきの練習は少し休んでからでも構わない?」
「ご自由に」

 マシロとしてもここまで食べてすぐに、運動をさせる気は無い。
 少なくともアイラはこのまま引き下がると言う事は無いようだ。
 アイラは食休みも兼ねて普通サイズの方のテレビをつけた。

「この子、最近よく見るわね」
「ああ……こいつか」

 テレビをつけるとマシロは少し機嫌が悪くなる。
 テレビにはバラエティーに出演するありすが映されているからだ。
 余り芸能方面に詳しくないアイラですらも、ありすの事は知っているらしい。

「マシロはこういうの好きじゃないの?」
「こういうのと言うよりもコイツが気に入らない」

 アイラも明らかにマシロの機嫌が悪いと言う事は察した。
 
「以外」
「コイツはうちの末っ子だからな。世間では甘えん坊の妹キャラとして大ブレークしているらしいけど、身内から見れば糞生意気が糞ガキでしかないんだよ」

 マシロがありすの事を毛嫌いしている事よりも、ありすがマシロの妹である事の方が驚きだ。

「まぁ……それでもコイツの出生には同情するけどな」
「どういう事?」
「コイツは母さんのエゴの被害者なんだよ。この事で同情される事をすっごく嫌ってるから俺は心の底から同情してやるね」

 ありすには一族の中でも一部の人間しか知らない出生の秘密があった。
 本人はその事で同情される事を嫌っている為、マシロは嫌がらせで同情している。

「マシロのお母さんってどんな人?」

 アイラはマシロの母に付いて訪ねてみた。
 クロガミグループは世界的に有名である為、アイラも当然知っている。
 マシロの母親と言う事は先代の代表の妻と言う事だ。
 先代の代表であるクロガミ・キヨタカは有名で事故死した時も代々的なニュースとなっているが、その妻に関しては余り多くの情報は出ていない。

「そうだな……生きたEXA-DB、現代のイオリア・シュヘンベルグと言った人」
「私にも分かるように説明してよ」

 マシロは母親の事を簡潔に説明するも、ガンダムの事を知らないアイラからすれば全く意味が分からない。

「母さんは科学者でな。それも歴史上の天才と呼ばれた科学者が凡人に成程の化け物じみた程のな。けど、母さんの場合、自分の研究成果を世間に出す気はないどころか、自分で研究した物は自分だけの物だって言って公表しないどころか、研究成果を独占するんだよ。だから母さんの事は本当に一部の科学者しか知らない。で、母さんの頭の中にある技術を使えば世界を豊かにする事も出来れば世界を滅ぼす事も出来るとすら言われている。尤も当の本人は研究する事しか興味がないから世界がどうなろうと関係はないって人だよ」

 マシロの母親を知る者は余り多くはない。
 研究を一人でやる事を好み、研究が完成したところで資料の一切を破棄し、研究成果は自分の頭の中に残すに留めている。
 別の人間が同じ研究をする事を妨害する気は無いが、公表して情報を共有すると言う事もしない。
 ただ、自分がやりたいように研究をすると言うのがマシロの母親だ。

「今だってどっかで好き勝手やってるだろうね」

 マシロも父親が死んでから一度も母親と顔を合わせてはいない。
 元々、自分のやりたいように生きているところがあり、行方不明になっている事も珍しくは無かった。
 
「まぁ……うちの家族じゃ俺と父さんと兄貴くらいしかまともな奴はいないからな。母さんは別格だな」
「ふーん」

 マシロはそう言うが、アイラから見ればマシロも普通とは思えない。
 尤も、その事自体はマシロが自分で言っているだけで、他の兄弟からすればマシロは血縁関係こそないが、最も母親に近いタイプの人間だと口をそろえて言うだろう。

「さて……体を動かさずとも出来る事はある」

 マシロは収納スペースを漁る。

「せっかく、超大型テレビを置いたんだ。勉強しようか」

 マシロが取り出したのはブルーレイディスクだ。

「まずはファーストを1話から見て、その次08小隊にポケットの中の戦争、イグルーで一年戦争を終えて、スターダストメモリー、Z、ZZ、逆シャア、ユニコーン、F91、Vと宇宙世紀を時系列に見る。次はアナザーをまずはG、W、Xと見てSEED、SEED DESTINY、スターゲイザー、OOのファーストシーズンから劇場版、AGEと来て最後に∀で締める。それが終わったら外伝作品を網羅する」
「……それ、全部見たらどの位になるのよ……」
「さぁ? 計算しようか?」

 全てのガンダム作品を見るとなると数時間では済まないだろう。
 そして、ここはまだ空の上で逃げ場はない。

「……練習に戻るわ」
「好きにしたら。どの道俺は見るけど」

 アイラが練習を再開する中、マシロはブルーレイディスクをプレイヤーにセットし、壁にかかっている超大型テレビで見始める。
 大きいのはテレビだけでなく、音量もだった。
 アイラは何度も大声でうるさいと抗議するも、大音量にかき消されてマシロに届く事は無かった。
 
 







 ホワイトベースはその静かな飛行を持ち味にする反面、飛行速度は大して早くない。
 アメリカの空港に着陸した頃には真夜中だった。
 空港に付いたところで、マシロも明日に備える為に休む事になった。
 そこでアイラが抗議の声を上げた。
 流石に同じ部屋で寝る事に抵抗があると主張するも、マシロは完全に無視して布団に包まって寝てしまった。
 それを見て、変に考えていた事が馬鹿らしくなり、アイラも寝るが次の日、アイラが起きるとすでにマシロの姿は無かった。
 テーブルにはサザビー改と一枚の紙が置かれており、紙には「出かけて来る。昨日の練習してろ」と書かれている。

「何なのよ」

 アイラは紙を握り潰して呟く。
 マシロはアイラにガンプラバトルを指導する立場だが、行動を共にする気は余りないらしい。
 部屋の外に出ようにも試してみるとロックがかけられているらしく外に出る事は出来なかった。
 つまりは、今日はここで一日中、練習をしろと言う事だろう。
 部屋の中には生活に必要な物は一通り揃っている為、ここにいても何日かは生活は出来そうだ。
 テレビなどで時間を潰す事は出来るが、サボったらなぜかマシロに気づかれそうだ。
 それ以上にマシロが戻って来た時に上達していなければ何を言われるか分かった物ではない。
 
「やってやろうじゃない」

 戻って来た時に堂々をリフティングを100回こなす事が出来れば少しはマシロの鼻を明かす事も出来るかも知れない。
 アイラはその一心で昨日と同様にリフティングの練習を始める。
 



 アイラが練習を始めた頃、マシロは事前に用意させた車でアメリカ国内の大学に来ていた。
 車を降りたマシロは大学内の研究棟を歩いている。

「確か……ここだ」

 研究棟の一室の前でマシロは止まってかかっているネームプレートを確認した。
 そこにはレティ・クロガミと書かれている。
 この研究室の主はマシロの姉の一人だ。

「さて……」

 研究室の前でマシロは深呼吸をして覚悟を決めた。
 以前に来た頃はこの部屋はゴミ溜めだった。
 レティは研究に没頭すると身の回りの整頓が適当になって研究資料とゴミの区別こそはしても、片付けようとはしない。
 覚悟を決めたマシロはドアを開けた。
 だが、そこにはマシロが思い描いたゴミ溜めは存在しなかった。
 資料はきっちりと棚に整理整頓されており、床には塵一つ無く床が見えている。
 マシロはそっとドアを閉めてネームプレートを確認する。

「何があった……」

 再度確認するもそこには紛れもなく姉の名で間違いはない。

「アンタこそそこで何をやっている」

 状況が掴めないマシロが茫然としていると後ろから声をかけられた。
 マシロの後ろには白人女性が立っていて、明らかに不機嫌だと言うオーラを纏っている。

「レティ……この部屋がおかしい」
「おかしいのは君の行動だろうに」

 そう言ってレティは研究室に入って行きマシロも中に入る。

「前来た時とは別世界だぞ」
「言いたい事は分かる。最近、ここに出入りする奴は何かと几帳面でな。うるさいからだったら自分で片付けろと言ったところ、本当に片付けてたんだよ」
「成程……まぁ、そんな事はどうでも良い。頼んだ物は出来てる?」

 レティの部屋が綺麗に片付いていたところで、マシロはどうでも良い為、本題に入る。
 レティは物理学者で主に資材の強度や耐震性等の方面に精通している。
 そこでマシロはレティにいくつかの頼みをしていた。

「ほら。そこにおいてある。さっさと持って行け」

 レティは顎で研究室の片隅に置かれているアタッシュケースを指してマシロが中を確認する。
 そこには金属が入っていた。

「要望のあった通りに合成した金属だ」
「助かる」

 マシロが要望したのはレティに金属を合成して欲しいと言う事だ。
 要望として頑丈で軽いと言う物だ。
 頑丈さはともかく、実際に手に取って見るとかなり軽い。

「それをどうするつもりだ?」
「ああ……カナタのところに持って行くつもり」
「カナタ兄さん? あの人、まだ生きていたのか?」
「さぁ? でも死んだって話しは聞いてないから多分、生きてると思う」

 カナタとはマシロやレティの兄だ。
 現在はどこかの山に籠っていると言う話しを最後に行方を暗ませている。
 生きているかも分からないが、死んだと言う話しを聞かない以上は生きているとマシロは考えている。

「そうか。それはそうと、ハルキ兄さんにも頼みごとをしているようじゃないか」
「耳が早いね」
「アホか。お前の頼みでシャトルを何度か打ち上げているだろう。シャトルを一回打ち上げるのに幾らかかると思っている」
「知らね」

 ハルキと言うのも二人の兄で現役の宇宙飛行士だ。
 そんなハルキがマシロの頼みで宇宙に何度も上がっていると言う事はレティの耳にも届いていた。

「ハルキの奴にはガンプラに使うプラスチックを宇宙で作って貰ってんだよ」
「わざわざ作る必要があるのか?」

 レティの疑問も尤もだ。
 プラスチックなど地球でも幾らでも作る事が出来る。
 わざわざ、シャトルを打ち上げてまで宇宙で作る必要などない。

「あるんだよ。そいつはただのプラスチックじゃないんだよ。無重力下でなら、練り込む金属片が重力で偏らないからな。そうして出来たプラスチックがガンプラバトルにおいて従来のプラスチックよりも強度の高い、いわばガンダリウムプラスチックだ」 

 ガンプラバトルにおいて金属パーツは強度の向上に使われると言うのは一般的に知られている。
 金属パーツは砲身やシールドと言った直接稼動しない部分に使わないとプラフスキー粒子に反応しない為、使えない。
 だが、マシロはナノレベルの金属片をプラスチックの内部に練り込む事でプラスチック自体の強度を上げると言う方法に出た。
 その為に何千、何万回と言う試作を経て、金属片が練り込まれてもプラスチックとして粒子が反応するギリギリの配合を割り出している。
 それを無重力空間で金属片が偏る事なく作り出した。

「試作品の出来は上々で、ようやく完成品のサンプルが出来たからこの後、取りに行くんだよ」

 すでにガンダリウムプラスチックの試作品は完成しており、フルアサルトジャケットの関節部に使用している。
 その結果、関節部の強度は格段に上がり、ハイパーメガドッズライフルを持たせても無茶をしなければ関節への負荷に耐える事が出来るようになっている。

「お前もハルキ兄さんとよく付き合えるな」
「レティはハルキの事苦手だったっけ」

 クロガミ一族の本家は皆が仲がいいと言う訳ではない。
 寧ろ、顔と名前を知っている程度で顔を殆ど合わせないと言うのも珍しくはない。
 その中でも相性が存在していた。
 マシロの兄弟たちはいくつかの分類に分けられる。
 大きな括りとしては2種類の分類方法がある。
 一つ目は本人の持つ才能で分類する方法だ。
 その分類は3つに分けられる。
 頭脳型、肉体型、バランス型の3つだ。
 頭脳型はその名の通り、頭脳面で秀でた才能を持っている者達の事を指す。
 レティやマシロの母がそれに該当する。
 肉体型もその名の通り、身体的な面で秀でている。
 ハルキは宇宙飛行士である為、宇宙飛行士に必要な知識も持っているが性格的な面からこちらの肉体型の該当する。
 バランス型は頭脳型と肉体型の中間で肉体も頭脳の必要とする才能に秀でている。
 現在のクロガミ家の当主であるユキトにありす、マシロがこれに該当する。
 そして、肉体型と頭脳型とでは相性が悪いらしく余り仲が良いとは言えない。
 レティもハルキの事を嫌っているとまではいかないが、苦手意識を持っている。
 もう一つの分類方法が内向型と外向型だ。
 それは、自身の能力を積極的に外に向けるか中に向けるかだ。
 一般的にクロガミ一族として有名なのは外向型でマシロのような内向型は世間に認められる気が無い為、能力的にはずば抜けた物を持っていても有名にはならない。

「まぁ……俺もハルキのノリにはついて行けないからな。けど、ハルキの能力が必要だから、頼んださ。兄を落とす必殺の上目使いを使ってまでな」
「それ、弟じゃなくて妹がやる物だと思うがな。いや……あのハルキ兄さんになら通用するか」

 レティは呆れると同時に納得もした。
 ハルキには弟はマシロしかいない。
 その為、ハルキはマシロの事を妹である自分達よりも可愛がっていた。
 だから、マシロに頼まれれば頼みを聞いてしまうのだろう。
 
「そんじゃ、ハルキのところにもいかないといけないから俺は行くわ」
「マシロが何をしようと私には関係のない事だが、余り私の手を煩わせると言う事は無いようにな」
「どうだろうな。必要なら力を借りるし、必要じゃないなら何もしないさ」

 今回はレティの力が必要だから力を借りた。
 必要が無ければ、マシロもレティに連絡を入れる事もなければ、会いに来る事もない。
 レティとしては、自分の研究を優先したのだが、マシロが頼みごとを言って来た場合、無視する事も出来ない。
 頼みごとをして来たと言う事は確実にレティの力が必要だと言う事で、マシロはレティの都合など一切気にする事は無い。
 マシロはレティが合成した金属を受け取ると研究室を出て行く。
 これで暫くはマシロが来る事は無い為、落ち着いて研究に没頭できるとレティは一息ついた。
 マシロは外で待たせている車に戻ると、そのままホワイトベースには戻らずに次なる兄弟の元に向かった。



[39576] Battle29 「ストリートバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/15 07:48
アメリカの大学で姉の一人のレティからレティが合成した合金を受け取ったマシロはそのまま、車で半日以上の時間をかけて移動した。
 目的の場所は兄の一人が務めている宇宙センターだ。
 目的地に到着したマシロは受付で兄を呼び出すとロビーで待っていた。

「良く来たな!」
「……相変わらず声デカいよ」

 ロビー中に響き渡る程の大声で来たのがマシロの兄の一人のクロガミ・ハルキだ。
 日本人離れした屈強な体格のハルキは宇宙飛行士として有名だ。
 ハルキが来た事でマシロは立ち上がるとハルキはマシロに抱擁する。
 マシロは苦しそうにもがくが、ハルキを押しのける事は出来ない。
 マシロの意識が軽く飛びかけたところで、ハルキはマシロを解放する。

「聞いたぞ! 世界一になったらしいじゃないか! 俺は信じていたぞ! マシロはやれば出来る奴だって事はな!」
「もう少し、声を落とせって。それに世界大会って言っても一般レベルでの話しだし。規格外の化け物はこんな大会には出ない」

 どこで聞きつけたのか、ハルキはマシロが世界大会で優勝したと言う事を知っているらしい。
 だが、世界大会で優勝した事は大した意味はない。
 名実的に世界一になったところで、元から自分が最強だと思っているし、世界大会に出場したファイターは確かに実力者が揃っている。
 しかし、中にはかつてのマシロのように圧倒的な実力を持ちながら、世界大会に出場していないファイターも少なからずいる。

「流石の俺でもそいつらに対する勝率は7割と言ったところだよ。今のガンプラではね」
「大した自信じゃないか! 男はそのくらい自信がないとな!」

 ハルキは規格外の化け物に対する7割と言う勝率はマシロの自信の表れと取るが、マシロは常に自分が最強で絶対に勝てると言う確信を持ってバトルしている為、7割と言う勝率はマシロの中ではかなり低い。

「そんな事はどうでも良いから、頼んだ奴は持って来たんだろうな」
「久しぶりに弟と会ったんだ、ゆっくりしたいではないか!」
「知るか。俺は暇じゃないんだよ」

 ハルキとしては、久しぶりに会った弟とゆっくり話したいと思っているが、マシロはハルキの相手をするのは面倒で早く帰りたかった。

「忙しない奴だな! これが頼まれていた物だ!」
 
 ハルキは持って来ていたケースをマシロに渡す。
 その中にはマシロがハルキに頼んで宇宙で製造して来た特殊プラスチックが入っている。

「これだけか?」
「仕方が無いだろう! これが完成品の試作だ! これを実際にガンプラバトルとやらで使ってマシロの満足の行く結果が出ればすぐにでも量産に入る!」

 マシロは量に不満気だったが、あくまでも完成したプラスチックの試作に過ぎない。
 以前、マシロに渡した試作品を改良して完成の域に達してはいるが、頼んだマシロが納得いくかは分からない。
 これで納得が行かないのであれば、再度作り直さなければならない為、最低限の量しか製造していない。
 実際に使ってみて、納得が行くのであればハルキが再び宇宙に上がってマシロに頼まれていた量を作る事になっている。

「分かったよ。なるべく早く、結果は伝える。これで良いと仮定して量が揃うのはどの位になる?」
「シャトルを打ち上げるのにも相応の日数はかかる! そこから様々な要因を考えて頼まれていた量を生産するとなると……最短で数か月と言ったところだろう!」
「数か月か……厳しいな」

 マシロは頭の中で計算を始める。
 少なくとも第7回の世界大会までには特殊プラスチックを使ったガンプラを完成させたい。
 だが、肝心のプラスチックが用意出来るまで最短で数か月かかる。
 その時間はあくまでも最短で最悪の場合は更に時間がかかる可能性もある。
 時間を短縮する事は不可能だろう。
 ハルキは一見、頭が悪いように見えるが、クロガミ一族の本家の人間だ。
 宇宙飛行士として必要な知識やスキルはマシロの比ではない。
 そんなハルキが提示した数か月と言う日数は多少前後しても、大幅に短縮する事は無理と考えた方が良い。
 世界大会が開催されるまで、後10か月程度ある為、特殊プラスチックを用意するのは可能だろう。
 しかし、プラスチックが完成したところで、それをガンプラにするまでにも時間がかかる。
 それらを計算すると、マシロの新型のガンプラは世界大会が開催されるまでに完成する事は時間的に不可能となる。

「予選ピリオドなら、レイコの策があれば今のままでも勝ち抜く事は出来る……問題は決勝トーナメントか」

 ハルキそっちのけでマシロは頭をフルに回転させて考える。
 世界大会の予選ピリオドは毎回ルールが変わる為、単純な操縦技術の他にルールに対する順応性が勝ち抜く為に必要となる。
 そこはレイコの策があれば乗り切る事は出来る。
 問題は予選ピリオドを勝ち抜いた先の決勝トーナメントだ。
 決勝トーナメントは一体一のバトルとなっている。
 今年はレイコの策や、予選ピリオドまで完全なノーマークと言う事もあって、圧倒的に有利な状況から一気に優勝まで行ったが第7回はそうはいかない。
 総勢100名のファイターは皆、マシロを王座から引きずり落とす為に世界大会に出場しているようなものだ。
 去年のバトルのデータからマシロに勝つ為に1年間、腕を磨きガンプラを強化して来た。
 参加者の大半は、マシロにとっては取るに足りない相手だが、一部の優勝を狙えるファイターを相手にする為には今のガンプラでは心もとないと言わざる負えない。

「弱音を吐くな! それがクロガミ家の男の台詞か!」
「うるさい。ハルキに言われなくても分かってる」
「それでこそマシロは俺の弟だ!」

 ハルキは笑いながらマシロの背中をばしばしと叩いて激励する。
 
「俺を殺す気か!」
「この程度で死ぬなら鍛え方が足りない証拠だ! どうだ? 俺と一緒に訓練に参加いて見ないか! マシロはもう少し体を鍛えた方が良いぞ!」
「だから、死ぬって」

 ハルキの誘いにマシロはゲンナリする。
 宇宙飛行士としての知識は豊富だが、ハルキは基本的に脳筋だった。
 レティ達と相いれないと言うのも十分に理解出来る。

「とにかく……頼むからな」
「分かっている! こっちもプロだ! 頼まれた仕事はきっちりとこなして見せよう!」

 多少は時間的な不安要素はあるが、ハルキもプロである以上はこちらの都合に合わせて来るだろう。
 その点に関してはマシロも信用している。

「俺も次はカナタのところに行かないといけないから、この辺で返るぞ」
「次はカナタ兄さんのところか! あの人も元気でやっているか心配だから頼むぞ!」
「どうだろ? 元気ではない事は確かだと思うけどな」

 マシロはそう言って席を立つ。
 次に尋ねる兄のカナタは体が丈夫ではない。
 死んだと言う話しを聞かない以上は生きているとは思うが、カナタが元気でいる様子は想像できない。
 マシロはハルキから特殊プラスチックを受け取ると、ホワイトベースがある空港へと、また数時間をかけて戻って行く。
 










 マシロにおいて行かれたアイラはマシロの言いつけ通りに練習をしたが、結局、その日の内にマシロが帰ってくることは無かった。
 事前に連絡用として携帯を渡されていたが、電話をかけてもメールを出してもマシロからは何も返答は無かった。
 マシロが出た翌日にはマシロから自由にしてろと言う簡潔なメールが届き、部屋のロックも解除されていた。
 自由にしても良いと言われたのでアイラは町をぶらついていた。
 出かけの際にマシロから渡すようにと言われていたと船長から財布を受け取っている。
 中を確認すると約1月程生活が出来る程の現金が入っていた。
 これを持たされたと言う事はこの金を好きに使っていいと言う事なのだろう。

「高級な奴も良いけど、やっぱりこっちの方が私の口には合ってるのよね」

 アイラはその辺のファーストフード店で大量にハンバーガーを買い込んで抱えていた。
 ホワイトベースで食べたステーキも良かったが、アイラには親しみのあるチープな味のハンバーガーの方が口には合っているようだ。
 せっかく、かなりの現金を持たされてたので、この基に今までなら変えなかった程の量のハンバーガーを買い込んで食べながら歩いていた。
 食べる事に夢中で回りの事は人や物にぶつからない程度の注意しかしていなかった事もあり、アイラは気づけば裏路地に入っていた。
 裏路地に入ると表とは違い、荒んでいる。
 
「どこの国にもこんな場所はあるのね」

 普通の少女であれば、こんな場所に入り込むと怖がってさっさと出て行くが、アイラはフナラ機関にスカウトされる前はストリートチルドレンだった事もあり、こんな場所でも臆する事は無かった。
 余り気にせず食べ歩いていると裏路地の一画に人だまりを見つけた。
 何気なく覗いてみると人だかりの中央にはバトルシステムが置かれ、ガンプラバトルが行われているようだ。
 
「何でこんなところにまで……」

 普通に考えればこんな場所にバトルシステムを設置するメリットは無い為、恐らくはどこかから持ち出された物なのだろう。
 
「どっちも弱すぎ」

 バトルを見たアイラはそう感じた。
 どちらのファイターもアイラから見れば大したことはない。
 尤も、アイラは対人バトルの経験は殆ど無い為、基準となっているのは世界レベルの実力を持つマシロやガウェインで、ストリートバトルのファイターとは実力が段違いなのは当然だ。
 そして、バトルが終了する。
 勝ったのは明らかにガラの悪い大男だ。
 勝った男は相手のガンプラを手にすると地面に叩き付けて踏みつけた。

「くだらない。あんなことで自分の力を見せつけようなんて」

 男の行為は自分の力を周囲に見せつけようとしていると言う事はすぐに分かった。
 アイラが暮らしていたところでも似たような事は日常茶飯事だった。
 一帯を仕切っているボス気取りの奴が自分の力を周りに見せつけて、周りを従わせる。
 尤も、アイラの暮らしていた町の場合はガンプラバトルではなく純粋な暴力でだったと言う違いはある。
 直接的に被害を与える暴力に比べたら、玩具のバトルで優劣をつけている辺り温いとも感じた。

「流石裏キングだな。圧倒的だった」
「えっ! あの程度で!」

 アイラは誰かがそう言った事に反応して声を上げてしまう。
 さっきのバトルを見る限りではそこまで強いとは思えない。
 思わず声を上げた事で、周囲の視線はアイラの方に向く。
 そして、裏キングと呼ばれた男もアイラの方を睨みつけている。

「言ってくれるな小娘が」
「はぁ……」
「待てよ!」

 面倒事になる前にアイラは立ち去りたかったが、そうはいかないようだ。
 余り大事や荒事にはしたくはないが、逃げれば追い駆けて来る事は目に見えている。
 逃げ切る事は恐らくは難しくはないだろう。
 元々、そうやって生き延びて来た。

「……何?」
「ガンプラバトルも禄に知らない癖に勝手な事言ってくれる」
「知ってるし、私はアンタよりも強いわよ。何なら証明しても良いけど?」

 普通に逃げたら面倒な事になる。
 そこで、アイラは一つの策を打った。
 アメリカに来る道中でマシロに一つ言われた事があった。
 大抵の事はガンプラバトルで蹴りを付ける事が出来ると言う事だ。
 余り信じがたい事だが、ガンプラバトルで相手の戦意を削ぐ事が出来れば面倒事にならずにこの場から去る事も出来るかも知れない。
 さっきのバトルを見る限りでは裏キングとやらは自分より強いとは思えない。

「良いだろう! 徹底的になぶり殺しにしてやるよ!」
「出来る物ならね」

 声を上げて威嚇して来る裏キングの事を気にすること無く、アイラはバトルシステムの前に立つ。
 マシロからファイターたるもの、ガンプラは常に持つとうるさく言われていた事もあり、仕方が無くサザビー改を持っていたがこんなところで役に立つとは思わなかった。
 もしも、ガンプラを持っていなければ恰好が付かず、引っ込みも付かなかった。
 アイラはサザビー改をバトルシステムに置いた。
 裏キングも自分のガンプラを置く。

「……さっきとは違う」
「言ったろ? なぶり殺しにするってな!」

 裏キングのガンプラはさっきまでのとは違った。
 前に使っていた奴も今回使う奴もアイラは名前は知らないが、前の奴とは違って今度のは頭部からガンダムだと言う事は分かる。
 裏キングの使用するガンプラはブリッツガンダムだ。

「ブリッツ! 出るぞ!」

 2機のガンプラがバトルフィールドに射出されてバトルが始まる。
 今回のバトルフィールドは廃墟だ。

「見せてやる! 俺のブリッツの真の力をな!」

 裏キングがそう叫ぶとブリッツは風景と同化して行く。

「ガンプラが消えた……」

 ブリッツには作中ではステルスシステム「ミラージュコロイド」が搭載されている。
 それを使う事でブリッツは肉眼からもレーダーからも消える事が出来る。
 ガンプラバトルにおいてこの手のシステムは演出として使用する事が出来る。
 ミラージュコロイドも消えているような演出をしているだけで、実際には少し見えにくいと言う程度でしかない。
 だが、完成度によっては、演出ではなく実際に作中に限りなく近い効果を得る事が出来る。
 裏キングのブリッツもまた、姿を完全に消す事が出来た。

(姿を消す事の出来るガンプラもあるのね。まぁ……姿を消しても粒子で位置はバレバレなんだけど)

 姿を消した事にアイラは驚くがそれだけだ。
 アイラは自分でも何故なのか分からないが、プラフスキー粒子を肉眼で見る事が出来た。
 先読み能力もその能力で粒子の動きが見えているからこその芸当だ。
 リフティングの時にスーパーボールの動きが見えていなかったのはスーパーボールはゴム製である為、粒子が反応していなかった事が原因だった。
 そして、ミラージュコロイドでブリッツが姿を消したところでプラフスキー粒子を見る事が出来るアイラには大した効果は無かった。
 確かにブリッツ自体はミラージュコロイドで見えないが、ブリッツの居る場所は粒子でシルエットだけが浮かんでいるからだ。
 ブリッツが動きながら右腕を上げるとサザビー改は後方に飛び退いた。
 サザビー改がいたところにはブリッツが撃ったランサーダートが突き刺さった。

「良くかわしたな」
(あの槍……接近戦用の武器じゃなかったんだ)

 裏キングはアイラが初撃を回避した事を感心しているが、アイラはブリッツのランサーダートは接近戦で使用する装備だと思っていたらしく、裏キングの言葉など聞いてはいなかった。
 ミラージュコロイドで姿を消しているブリッツはレーザーライフルを連射するもサザビー改を捕える事は出来ない。

(取りあえず……)

 サザビー改はロングビームライフルをブリッツの移動先を狙って放った。
 ビームはブリッツの右腕を撃ち抜いた。

「そのガンプラ、右腕がなくなれば何も出来ないでしょう」

 サザビー改はロングビームライフルを捨てるとシールドに装備されているビームナギナタを抜いてブリッツに接近する。
 
「糞ったれ! 何でこっちの位置が!」

 裏キングはミラージュコロイドで見えていない筈のブリッツに一直線に向かって来る為、狼狽えている。
 ブリッツは左腕のグレイプニールを射出する。

「まだ、武器を持っていたの」

 だが、ミラージュコロイドで見えない筈のグレイプニールをサザビー改はビームナギナタで切り落として、ブリッツを間合いに捉えた。

「裏キングってこの程度? 表のキングの方が強いじゃない」

 サザビー改のビームナギナタは何もない空間を切ったように見えたが、ビームナギナタで切り裂かれた空間からブリッツが浮き出て来て、胴体にはビームナギナタで切り裂かれた傷がついている。
 そして、ブリッツは爆散した。

「大したことないじゃない」

 ミラージュコロイドで姿を消しているのにも関わらず、あっさりと勝利した事で周囲がどよめている。
 バトル相手の裏キングも茫然とするしかない。
 
「今の内に……」

 明らかに向こうの戦意が落ちている為、アイラはさっさと逃げる。
 バトルで戦意を削いだのが功を奏したのか、誰も追って来る事は無かった。
 アイラはこれ以上、面倒事になる前に空港に向かいホワイトベースに帰った。

「全くもう……」

 ホワイトベースに戻ったアイラはベットに倒れ込む。
 裏キングが大したことなかったとはいえ、自由にしていいよ言われておきながらガンプラバトルをした事で少し疲れている。

「さっきのバトル、中々の物だったじゃない」
「アレは相手が弱かった……って!」

 アイラは余りにも自然に話題を振られた為、普通に返しそうになるが、それがおかしいと言う事に気が付いて起き上がる。
 ホワイトベースには生体認証によるセキュリティーシステムが完備されている。
 その為、登録されていない人間が内部に入る事は容易ではない。
 ホワイトベースの船員はこの部屋に黙って入る事はない。

「……アンタ誰なのよ?」

 起き上がり声の先を見るとそこには白衣とセーラー服と言う奇妙な組み合わせの少女が不敵な笑みを浮かべて座っていた。
 
 



[39576] Battle30 「母」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/24 09:44
 ストリートバトルを終えて帰って来たアイラの前に一人の少女が現れていた。
 見た感じだとアイラと同年代に見える少女だが、どこか違った空気を纏っている。

「一体どこから……」
「どこってドアからに決まってんじゃん。このユキネ様に書かれば、バイオメトリクス認証を書き換えるなんて余裕なのよね」

 ユキネと名乗った少女はそう言う。
 ホワイトベースのセキュリティは生体認証を採用している。
 ユキネは生体認証のコードを書き換える事で、内部に入って来たらしい。
 言うのは簡単だが、ホワイトベースの生体認証のコードのセキュリティはレイコが制作した物で並のハッカーでも簡単に破れる物ではない。
 それを簡単に書き換えたユキネはただ者ではないのだろう。

「帰ったぞ」
「お帰り! シロりん!」

 ユキネの正体も目的も分からないまま、状況が掴めないところにレティとハルキと会って来たマシロが帰ってくる。
 アイラよりも先にユキネがそう言い、アイラはキョトンとした。
 ユキネの物言いからユキネとマシロは知り合いなのだろう。

「……何でいんだよ」

 ユキネを見た途端にマシロは顔をしかめる。
 その反応からもマシロはユキネの事を知っていると言う事が分かる。

「何でって私のシロりんに会いに来たんじゃない」
「いつから俺がアンタの物のなったんだよ」
「マシロの知り合いなの? てか、シロりん?」

 マシロが帰って来た事で落ち着きを取り戻したアイラが質問する。

「シロりん言うな。この人は……母さんだよ」
「え?」

 アイラはマシロとユキネを何度も見る。
 ユキネはどう見ても自分と同年代でマシロよりも年下に見える。
 そんなユキネがマシロの母親だとは素直には信じられない。

「父さんの名誉の為に言っておくが、母さんはこう見えても40後半のれっきとしたババァだ」
「失礼しちゃうわね」
「本当の事だろう。ほんと、女って怖いよな。若作りでここまで歳を誤魔化せるとかさ」

 もはや、どこから突っ込まばいいのか分からなかった。
 マシロの父親が自分の息子よりも若い少女を妻に迎えたと言うのであれば、分かり易かったが、ユキネは自分の倍以上の歳らしい。
 そして、若作りと言うレベルではない。

「独自に研究したアンチエイジングの結果よ。女はいつまででも若々しくありたいじゃない」
「やり過ぎだっての。その容姿で父さんと一緒に表に出て見ろ。一発でアウトだぞ」

 アンチエイジングでそこまでの効果はあるとは思えないが、マシロはそこは気にしていない様子だった。
 あくまでも未成年にしか見えない容姿の事が問題らしい。
 ここまで気にされないと、自分の認識の方がズレているかも知れないとまで思わされてしまう。

「んな事より、今までどこに行ってたんだよ。父さんが死んだ時に探したんだのにさ。アリアンに言って来るってだけじゃ分かんないんだよ」

 ユキネは数年前にアリアンに言って来ると言う置手紙を残して行方を暗ませた。
 ユキネが研究の為に行方を暗ませると言う事は珍しくも無い為、その当時は誰も気にすることは無かった。
 しかし、父キヨタカが死んだ時には妻であるユキネの行方を捜した。
 クロガミ一族の情報網をフルに活用してユキネの行方を捜索させた。 
 だが、ユキネのいると思われるアリアンを見つける事が出来なかった。
 国や町、村を始めとして辺境の集落や個人に至るまで捜索の幅を広げたが、ユキネはおろかアリアンの手がかりすら見つける事が出来なかった。
 まるで、ユキネもアリアンも地球上のどこにも存在していないかのようにだ。
 
「シロりんはおバカさんだからなぁ……そんなシロりんの頭でも分かるように一言で言うと……異世界?」

 ユキネがそう言うと、アイラは無言でマシロを部屋の隅まで引っ張って行く。

「こう言う事を言うのは抵抗あるんだけど、マシロのお母さん……大丈夫なの?」
「いや……流石に今回はダメかも知れん。まだ、木星圏でGNドライヴを作ってたとかの方が説得力がある」

 二人は済みでユキネには聞こえないように話す。
 流石にいきなり異世界と言われても信じる事は出来る訳が無い。

「それもどうなのよ」
「母さんは海外旅行のノリで月に行ったりするからな。それにSF……特に父さんも好きだったガンダムの技術に対抗して過去に本当にやった事がある」

 アイラには信じ難いが、マシロからすれば異世界に行っていた事は信じる事が出来なくても、木星圏に行っていたと言われれば信じる事が出来るらしい。
 少なくとも、ユキネは過去にいつの間にか月にいた事もある。
 
「良くないなぁ……自分の理解出来ない事を全て否定するなてさ。昔はママ、ママって素直で可愛かったのに……これが噂に聞く反抗期! ユッキーは素直過ぎてなかったなぁ……」
「科学者の癖に捏造するなよ。兄貴は反抗期なんてガキみたいな事、ある訳ないだろ。てか、俺も反抗期じゃないし」
「シロりんの癖に細かすぎ」

 ユキネはそう言ってむくれる。
 実際、マシロはユキネに甘えた過去など全くない。
 尤も、兄弟の中でマシロが最もユキネに可愛がられていたが、当時のマシロはガンプラに夢中でやたらと構って来るユキネの事を鬱陶しく思っていた。

「で……何の用? 俺、アイラの指導で忙しいんだけど?」
「は?」

 マシロがそう言うが、アイラは指導らしい指導は受けた覚えはない。
 完全にユキネを帰らせる理由に使われている事は明らかだ。

「ふーん。あのシロりんがねぇ……まぁ良いけど、ああ、そう言えばシロりんが喜びそうなお土産を向こうから持って来たんだった」

 ユキネは白衣のポケットに入っていた物をマシロに放り投げる。
 マシロは掴み損ねるも、床に落ちる前に何とか受け止める事が出来た。

「何これ?」

 ユキネが放り投げたのは小さな宝石のような石だ。

「それはアリアン王家の秘宝で……プ……」
「そう言う設定は良いから、ほら母さんも何かの研究で忙しんだろ」

 ユキネは渡した石の説明をしようとするも、マシロは聞く気が無い為、ユキネを追い返そうとする。
 マシロはユキネを部屋から追い出すと入って来れないようにロックをかける。
 ユキネに対して意味のない事だとは分かっているが、ユキネの方も用は済んだのか戻って来る気配はない。

「さて……母さんにああ言った手前、何もしないと言う訳にはいかないか」
「え……あ、うん。けど、良かった訳?」
「アイラさは……いい年こいてあんな恰好の母親を人前に出したい訳?」
「……何かごめん」

 アイラ自信、母親と言われてもピンと来ないがマシロの言いたい事は何となくわかった。
 見た目こそはアイラと同年代だが、中身は倍近くの歳だ。
 そんな母親がセーラー服を来て人前にいると言う事は息子としては拷問なのだろう。

「気にするな……俺のいない間に指示した練習はやり続けただろうから少し別の事にするか」
「……うん。お願いするわ」

 実際のところ、マシロに練習を指示された昨日は練習をサボった訳ではない。
 だが、元々始めこそはマシロを見返す為にやる気を出していたアイラだが、失敗が続きやる気を無くして、日が傾く頃には休憩時間の方が長かった程だ。

「アイラさはガンダムに関する知識は無いに等しいだろ?」
「だって見た事も興味もないし」
「その辺りの知識を増やすと言う事も重要だ。知識に頼りっぱなしと言うのも先入観となりかねないが、全く知識がないと言うのは論外だからな」
「まぁ……そうかも」

 アイラにはガンダムやガンプラに関する知識は無いと言っても過言ではない。
 元々、ガンダムやガンプラが好きだった訳ではない。
 たまたま、プラフスキー粒子を見る事が出来たのでフラナ機関にスカウトされたに過ぎない。
 その為、知識の無さは他のファイターと比べると不利に働いてしまう。
 今日のバトルでも、姿を消す敵に対して、粒子が見える為、意味を成さなかったが、自分の知らない能力を持ったガンプラとバトルした時に一気に劣勢になる事はあり得る。
 ガンプラバトルでそこまでして勝ちないとまでは思わないが、負けてしまえばフラナ機関から切り捨てられるかも知れない。
 そうなれば、アイラはまたストリートチルドレンに逆戻りだ。
 それを避ける為には面倒だろうと知識を増やすと言う事は訳の分からない練習よりかは納得も出来る。

「キャラに関する事は後回しで構わないから、映像化されている機体の判別と能力の判断程度は瞬時に出来るようにはならないとな」
「参考に聞くけど、それそのくらいあるの?」
「聞く?」
「……止めておくわ」

 リフティングに比べれば必要性は理解出来たが、リフティングとは別の方向で厄介な事になったとアイラは後悔しかけるも、そんな事はお構いなしにマシロは持ち込んできた資料集や設定集を漁っていた。









 マシロにより、追い出されたユキネは大人しくホワイトベースから降りていた。
 元々、マシロの様子見と土産を渡すだけの目的で会いに来ている。

「レイレイの差し金で面白い事になってるから見に来たけど、余り状況は動いてない感じだったわね。まぁ、あの子は運命的な確立は無意識に排除して考えるから、今の状況が核弾頭を抱えているって事に気づいてそうもないけど」

 ユキネも今のマシロの現状がレイコによる物だと言う事は調べが付いている。
 だが、レイコは自分で思っている以上に今の状況が危険だと言う事には気づいていない。
 レイコは情報戦においては天才的な才能を持っている。
 その点に関してはユキネも認めている。
 それでもユキネからすれば、まだレイコは甘い。
 あらゆる事態を想定していても、実際にはありえない程の確率は無意識にうちに捨てて考えている節がある。
 しかし、今回に限ってはその奇跡とも呼べる確率の事態となっていた。

「シロりんも気づいていない筈がないんだけどね……これはもう、無意識化でラノベ主人公並みの鈍感さを発揮して気づかないようにしてるんだろうね。自分の本当の望みすら気づいていないみたいだし」

 そして、今の現状はマシロなら気づかなければおかしいが、ユキネが会った感じからはマシロはまだ気づいていないようだ。
 マシロは本家の兄弟の中で最もユキネに近い。
 自分の欲望に素直で、その為なら普通の人間はおろか、クロガミ一族の本家の人間すらも躊躇する場面で躊躇う事無く前に進む事が出来る。
 少なくとも、自分以外で長い歴史を持つクロガミ一族でそこまで人間的に壊れていた者は多くはない。
 そんな自分に一番近いマシロだからこそ、ユキネは実の息子であるユキト以上に愛情を注いでいるつもりだ。
 
「まぁ……気づきたくないと言うのは分かるし、それが正解なんだけどね。知ってしまえば、その先にある物は希望ではなく絶望だと言う事をシロりんは知ってる」

 マシロが今、物足りなさを感じ何かを求めている。
 それをユキネは知っている。
 そして、マシロもすでに気づいている筈だった。
 それでも尚、気づいていないのはマシロ自信は知る事を拒んでいるのだろう。
 例え、物足りなさを感じていても、気づいた先には絶望しかないからだ。

「だけど……私とクロりんの息子なら単純な終わり方もしない筈。私は向こうでまだやりたい事が山ほどあるからしばらくはこっちに戻らないけど……シロりん。期待しているから。シロりんが絶望にぶち当たった後にどんな答えを出すのか、その果てにどんな結末を迎えるのか……」

 知れば絶望する事は分かり切っている。
 マシロが望む物はそう言う物だからだ。
 だが、ユキネはその先にマシロが何を見出すのかに興味を持っている。
 クロガミ一族の中で最も異質で最も自分と先代当主のクロガミ・キヨタカに愛されたマシロだからこそ、どんな答えを出すかユキネにも今のところは殆ど予想は出来ない。
 だからこそ、ユキネはマシロの動向を見守る事にした。
 
「私とは違って純粋に愛したクロりんの為にも絶望して終わりだと言うありきたりでつまらない終わり方だけはしないで頂戴よね」

 ユキネは自分が親としては全うな愛情を注いでいたとは思わないが、キヨタカはマシロにファイターとしての英才教育や必要な物を与えた反面で、自分と同じようにガンダムやガンプラに魅入られていたマシロを子供たちの誰よりも愛情を注いでいた。
 そして、ユキネもまたそんなキヨタカの事を誰よりも愛していた。
 だからこそ、血は繋がらずともユキネにとってマシロはキヨタカの忘れ形見でもある。

「尤も、私はクロりん程良い親にはなれないから、後は自分で何とかして貰うしかないけどね」

 マシロに対して愛情がない訳ではない。
 それでも、ユキネにとっては自分の興味のある事の研究を止める事は出来ない。
 ユキネは飛び立つホワイトベースを見送り路地裏に入る。
 そして、路地裏が少し光ると、そこにはユキネの姿は無かった。







 アメリカを発ったホワイトベースは次の目的地へと道中にある。
 そして、アイラはテーブルにひれ伏していた。
 その周りには、マシロが用意した「教科書」が山のように積まれている。
 当初は映像化されているガンダムの数は10数種類程度で、かなり多いが、何とかなると軽く見ていたが、そうでもなかった。
 なにせ、平均して10機は最低でも覚えないといけないケースが大半だ。
 始めのファーストガンダムの辺りでは、余裕を見せていたアイラだったが、数時間後のZ、ZZに来る事には覚えきれなくなっていた。

「だらしがないな」
「うるさい……」

 マシロからすればこの程度の数を覚えると言うのは難しい事ではない。
 今のところは映像化されている機体のみである為、普通に作品を見れば覚える事が出来る。
 そこに設定集で足りない部分を補うだけで良いのだが、興味のない人間からすれば、苦痛でしかない。
 
「仕方が無いな……俺も鬼ではないからな。特別にザクとジムの系列の機体を覚えるだけで一先ずは勘弁してやる」
「本当に!」

 マシロの提案にアイラは食いついて来た。
 だが、アイラは知らなかった。
 マシロが出したのは決して妥協案ではないと言う事に。
 ザクもジムもファーストガンダムに登場した量産機の中でも有名なモビルスーツだ。
 アイラも名前くらいは聞いた事がある。
 その2機の種類と言っても精々、10機程度の事に過ぎないと考えていた。
 しかし、それは大きな誤りだと言う事に気づいていない。
 ザクもジムもバリーションの数を上げればキリがないからだ。
 ガンダムにおいて漫画などでの外伝作品やゲーム化において最も舞台とされやすいのがファーストガンダムの一年戦争となっている。
 そして、その中でザクとジムを改良した専用機やカスタム機が生み出される事は決して珍しい事ではない。
 更には一年戦争の後もその2機の流れを汲む機体は次々に生まれている。
 その上、ザクに至っては宇宙世紀と限定していない為、ガンダムSEED DESTINYに登場したザク・ウォーリアとザク・ファントムも含まれている。
 元々がザクやジムの流れを汲んでいる為、外見からは微妙な違いしかない機体もある事もあって、マシロの代案は分かる人からすれば見分ける事は容易いが、アイラのように興味もなければ知識の少ない者には見分ける事はおろか、同じ機体に見えると言う事もあり得る。

「ああ、本当だって。ただし、機体を見ただけで即答できる程に完璧に覚える事が条件だけどな」
「それで良いわ。何とかガンダムとかガンダム何とかよりかは覚えるよりかは簡単そうだしね」
「それじゃ資料を整理するから待ってろ」

 マシロは用意した設定集の整理を始める。
 すると、室内に備え付けの船内用の通信機が鳴る。

「何?」
「申し訳ありません。当初の予定よりも食料の消費が激しく、どこかで補充をする必要が出て来ました……」
「ああ……成程ね」

 マシロはアイラの方を見る。
 元々は食糧もある程度は積んでいる。
 だが、予想外の事態として、アイラの一度の食事量はマシロ達の予想を大きく上回っていた。
 その為、予定よりもだいぶ早く食料の補充が必要になったらしい。
 通信の相手は船長だが、予定外の事で申し訳なさそうな声をしているが、マシロの方も状況は察している。

「別に構わないから、近くで降りられる場所を探して補給しておいて」

 マシロとしても特別急いでいると言う訳ではない。

「了解しました。すでに降りる場所と食材の手配は済ませてあります」
「流石、仕事が早いね」

 向こうもクロガミグループで雇っている一流の人間だ。
 予想外の事態でこそあったが、その後の対応としてすでにホワイトベースを下す場所と、降りてからの補充の手配は済ませてあった。
 後はマシロへの報告と補充を受ける承諾だけでこの問題は解決する。
 
「恐れ入ります。それで、降りる場所は……」
「なっ……」

 船長が降りる場所の名を報告した途端、マシロは目に見えて動揺した。
 幸いにも船長の方は音声のみで、アイラもマシロの方を見ていなかった為、誰にも気づかれる事は無かった。
 船長は当然知らずに一番近くでホワイトベースを着陸させる事の可能な場所として、その場所に決めた。
 しかし、どんな偶然なのか、その場所こそがマシロがかつて育った故郷の町だったからだ。
 



[39576] Battle31 「帰る場所」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/02 10:31
 マシロは約10年ぶりに生まれた町に帰って来た。
 町に向かう時にアイラを誘うと言う事は無かったが、アイラは町に行く気は無いのか、珍しく真面目に勉強をしていた。
 それがいつまで続くか分かった物ではないが、マシロはアイラを誘う事無く、生まれ故郷の町を歩いていた。

「結構変わったな。この町も」

 マシロは歩きながらそう感じた。
 マシロが町を出てから10年近くも経てば町も変わるだろう。
 それとも、以前のマシロと今のマシロとでは見えている物が違うからそう感じるのかも知れないが、それを判断する事は出来ない。
 
「治安が悪くなってんのか?」

 そう思う根拠として、明らかに以前よりも巡回している警察官の姿が多い。
 それは以前に比べて、治安が悪くなっている証だ。

「あの店……」

 マシロは不意に立ち止まる。
 その視線の先には、かつて、マシロがイオリ・タケシとガンプラと出会った模型店があった。
 しかし、その模型店は今は営業していないと言う事が一目でわかった。
 模型店のショーウィンドウのガラスが割られているからだ。
 そして、模型店の中に人気は感じられない。
 マシロにとって全ての始まりとも言える場所が無残に変わり果てた姿に虚しさを感じる。
 この模型店の店主は子供好きで、ガンプラのジャンクパーツを格安で売ってくれたりしていた。

「マシロ?」

 干渉に浸っていると、後ろから声をかけられた。
 振り向くとそこには一人の男が立っていた。

「……ヨハン?」

 マシロはすぐには思い出せなかったが、記憶の片隅から何とか引っ張りだした。
 記憶の中ではまだ、幼いが確かにマシロと同じ孤児院にいたヨハネスの面影がある。

「やっぱり、マシロだったのか! 帰って来てたのか!」
「まぁ……な」

 多少、ガラが悪くなったと印象を受けるも、ヨハネスは相手がマシロだと言う事を確認すると、あの時と変わらない笑顔を見せた。
 一方のマシロは少しバツが悪そうにしている。

「折角、再会したんだ。こんなところで立ち話もなんだ。俺達のアジトに来いよ」
「アジト?」

 アジトと言う言い方に違和感を覚えるも、半ば強引にマシロはヨハネスに引っ張られて車に乗せられた。
 そして、ヨハネスに連れて来られたのは、町から少し離れたショッピングセンターだ。
 マシロの記憶の中では、このショッピングセンターは町から少し離れて交通の便は不便だが当時は憧れていた場所でもあった。
 そんなショッピングセンターもこの10年近くで営業が立ち行かなくなったのか、廃墟と化していた。
 確かにここなら、アジトと言うのもしっくり来た。

「ようこそ! 俺達のアジトに! 歓迎するぜ!」

 ヨハネスはそう言って、マシロを中に招き入れた。
 中には二人以外にも人がいるが、どう見ても全うな生活をしているようには見えない。
 ストリートチルドレンがつぶれたショッピングセンターを根城にしているかのようにも思えた。
 その中にはマシロの見覚えのある顔もちらほらあった。

「まぁ、座れよ。ろくにもてなしもできねぇけどな」

 ヨハネスに連れて来られた部屋でマシロは座り込む。
 潰れたショッピングセンターと言えども、元々物があったのか部屋は潰れたショッピングセンターの中だと言う事を除けば少し汚いだけの普通の部屋だ。

「ここに住んでんのか?」
「まぁな。見てくれは悪いけど、住んでみれば結構快適なんだぜ」

 マシロは何故、ヨハネスがこんなところに住んでいるかは聞かなかった。
 大体の理由は分かっているからだ。

「で……何で俺をこんなところに連れて来たんだよ。ヨハン」
「おいおい……10年振りくらいの再会だってのに、冷たいな。兄弟」

 ヨハネスは少しおどけてそう言う。
 確かにかつて兄弟のように同じ孤児院で育ったマシロで偶然にも再会したら、話しをするのに特別な理由も必要はないだろう。
 尤も、マシロは自分でも驚きく程、ヨハネスとの再会をどうでも良く感じていた。

「まぁ……今日、マシロと再会したのも運命だな。マシロ、俺達に協力しろ」
「協力?」

 さっきまでのおどけた表情からうって変わり、ヨハネスの表情は真剣になる。
 
「俺達の家が今どうなってるのか知ってるか?」
「いや……」

 マシロは今は孤児院がないと言う事は知っていた。
 10年程前、マシロを引き取る際にクロガミ・キヨタカから多額の寄付を受けた孤児院の院長はその金を使って孤児院の改修や、子供達に勉強の場や玩具などを与えた。
 しかし、金回りの良かったところを性質の悪い連中に目を付けられ、院長の人の好さを利用されて、寄付された金は巻き上げられて、多額の借金まで背負わされたと聞いている。
 それを聞きつけたキヨタカは借金の肩代わりを申し出るも、院長は自分の責任だからと肩代わりを拒否し、自ら働いて借金を返そうとした、
 だが、その無理が祟り院長は過労で亡くなり、孤児院は借金の形に差し押さえられて取り壊されたと聞いていた。
 その際に孤児院の子供たちはバラバラになった。
 孤児院がなくなったと聞いた、マシロは世界一になって帰ってくると言う目標がなくなった事で、今のマシロのように表舞台で活躍して認められる事はどうでも良くなり、誰かに認めて貰わなくても自分の実力を磨き続けるとようになったのかも知れない。

「孤児院を潰した奴はその辺りに大型のショッピングモールを建設する為に、院長を嵌めやがったんだよ!」

 元々、孤児院のあった場所はショッピングモールを作るのに立地条件が良かったらしい。
 その為、金回りが良かった事はきっかけに過ぎなかった。
 今では、そこには大型のショッピングセンターが建てられて、町の中心と言っても過言ではない。
 その影響で交通の便の悪いこっちのショッピングセンターは潰れてしまったのだろう。

「ヨハンは一体何をする気で俺に何をさせたい」
「何、お前に難しい事はさせないさ。お前でも見張りくらいは出来るだろ」

 そう言うヨハネスからは明らかにマシロを自分よりも下に見ていると言う印象を受ける。
 それも当然の事だろう。
 ヨハネスの知るマシロは運動も勉強も出来ないあの時のマシロのままだ。
 子供だった当時はともかく、今では完全にマシロの事は見下す対象なのだろう。
 それだけでも、自分の知るヨハネスから変わってしまったと言う事が分かる。
 以前のヨハネスは何の取り柄の無いマシロが、周りから苛められた時には率先して、マシロを守っていた。
 そんなヨハネスだからこそ、孤児院ではリーダー格でもあった。

「俺のダチに爆発物関係に詳しい奴がいるんだよ。コイツに頼んで、ショッピングモールをぶっ壊す」
「正気か?」

 マシロはガンプラバトルでも滅多に見せない程、内心では驚いていた。
 ヨハネスは悪がきの悪さでは済まされない事をしようとしている。
 ショッピングモールの爆破など、悪戯では済まないれっきとした犯罪行為でテロと言っても差し支えは無い。

「当然だ。あそこは俺達の家のあった場所だ! そんなところにあんなもんがあるなんて許せる訳が無いだろ!」

 ヨハネスは次第に声を荒げていく。
 彼らからしてみれば、自分達の家を土足で荒らされたような物だろう。

「なぁ……ヨハン。お前達はさ、こんな生活をしているみたいだけど……そうなる前に大人とかに助けを求めたりしたのか?」

 マシロは不意に思いついた事を話す。
 ヨハネスたちがここで生活しているのは、当然の事ながら正式に認められている訳ではない。
 孤児院がなくなって住むところがないから、こんなところに住んでいると言う事は予想がつく。
 孤児院が取り壊されたのは、何年も前の話しで当時はヨハネスもまだ幼い子供だろう。
 そんな子供が行き場を無くせば、大人たちは何かしらの手を差し伸べてくれたかも知れない。

「……お前、ふざけてんのか? 俺達の家を奪ったのは大人たちなんだぞ? そんな大人たちは信用できるか! そんな大人たちの力に頼るなんて俺達のプライドが許さねぇ!」
(プライドか……何だろう。なんかむかつく)

 ヨハネスの言葉を聞いて、マシロはそう感じた。
 今のヨハネスたちは大人を信用していない。
 住んでいた孤児院を奪われ、父のように慕っていた院長を失ったからそれは仕方が無いかも知れないが、マシロにとってそんな事はどうでも良かった。
 まだ、幼かったヨハネス達が大人の力を借りずに生き抜く方法は限られて来る。
 少なくとも、全うな方法では不可能だ。
 つまりは違法行為にだって手を染めている。
 そして、大人の力を借りたくない理由がプライドだった。
 そんな、ヨハネスに対して、マシロは自分でも驚く程に嫌悪していた。
 マシロにとってはプライドなど、自分の目的を達成する為に邪魔となれば躊躇いも迷いもなく捨てる物でしかない。
 しかし、マシロの兄であるユキトは一族の誇りやプライドに拘る事がある。
 同じプライドに拘ると言っても、ユキトの場合はプライドを守ると言う行為は、一族の長としての矜持であって、先代の父に恥じない為に拘っている為、プライドに拘る事はマシロにとっては意味のないように見えるが、その姿はかっこよく見えた。
 だが、ヨハネスの場合はつまらない見栄や自尊心を守る為にやっているようで、その為に犯罪にまで手を染めている為、非常にかっこ悪く見える。

「そんな事はどうでも良いさ。それよりも計画の方だ。流石にお前はいきなり決断は出来ないから、猶予はやるよ。結構は今日の夜だ。その時間帯ならレストラン街で食事する客たちも巻き込む事が出来る」
「急だな」
「まぁな。だからそんな日にお前と再会するのは運命かも知れないな」

 ヨハネス達の予定していた日に偶然にも10年振りに故郷に帰って来たマシロと再会する確率はとんでもなく低いだろう。
 そこに運命じみた物を感じてしまうのも無理はない。

「取りあえず、車で送るけど、くれぐれも計画の事は漏らすなよ」
「分かってる」

 ヨハネスは、仮に計画を漏らした場合はマシロと言えども殺すと言わんばかりの威圧を込めた警告をするが、マシロには余り意味がない。
 マシロには常にSPが警護している。
 仮にマシロにヨハネスが危害を加えるようならば、そのSPがヨハネス達を瞬時に制圧するだろう。
 ヨハネス達もある程度は荒事の経験があるようだが、マシロに付いているSPはクロガミ一族が雇っている一流の者達だ。
 個々のスキルや統率力に関してはヨハネス達の比ではない。
 その為、幾ら威圧されたところで、マシロは気にする必要はない。
 マシロに警告し、ヨハネスはマシロを町まで送り届けた。




 

 町に出る事なく、ホワイトベースに残ったアイラは頭を抱えていた。
 マシロがいない中、マシロに言われた通りにザクとジムの種類を覚えようとするが、中々上手く行かない。

「何なのよ……F型とか、S型とか専用機とかどんだけあるのよ。敵は全部、ザクで良いじゃない。ジムも改とかⅡとかカスタムとか……味方の奴は全部ジムで良いじゃない」

 思っていた以上の種類にもはや見分けを付ける事は出来ないでいた。
 ザクもジムもベース機から大幅に見た目が分かる事は無い為、微妙な違いで判別しなければならない事が多い。
 簡単に思えたが、マシロに嵌められたと思い始めた頃にマシロが帰ってくるが、マシロは何も言わずにベッドに倒れ込む。

「何かあったの?」

 降りる前から少し様子がおかしかったように思えたが、今は明らかに様子がおかしい。

「何で?」
「何か、マシロらしくないわよ」
「俺らしいか……なぁ、アイラから見て俺ってどんな奴に見える?」

 突然の問いにアイラは少し考え込む。
 すでに一か月近く行動を共にしている。
 その大半がホワイトファングの中で、二人でいる時間は多い。
 だが、殆どがガンプラバトルに費やしている為、そんな事を考える事は一度もなかった。

「そうね……自分の好きなように生きているって感じだと思う」
「成程ね。まぁ、間違いではないか」

 それがアイラのマシロに対する率直な感想だ。
 とにかく、マシロは自分のやりたい事をやりたいようにしている。
 それでアイラは色々と振り回されている。

「話しを変える。アイラは何かを壊したいと思う程、憎んだ事ってある?」
「は? 何言って……」
「答えてくれ」

 マシロはアイラの知る限り初めて、真面目な表情をしている為、流石に適当に答える事は出来ずに考える。

「マシロが何を聞きたいのか分からないけど、あるかないかで言えばあると思う……だけど、私はソレに生かされているような物だから、多分……どんなに憎んでもそれを壊す事は出来ないと思うわ。これで満足?」
「ああ……うん」

 マシロはそれ以上は深く追求する事は無い。
 話しのニュアンスから大体の事は想像は出来るが、それはアイラの事情でマシロには今は関係のないことだ。

「で、それが何なの?」
「やっぱ駄目だわ。考えたって埒がない」

 マシロはそう言って起き上がる。

「ちょっと出て来る」
「は? マシロ!」

 マシロはそう言うとアイラに何も説明する事なく出て行く。
 
「何なの!」

 訳も分からずに取り残されたアイラはただ叫ぶことしかなかった。





 マシロはホワイトベースから車を出せると、町に戻って来た。
 目的の場所は今夜、ヨハネス達が爆破を予定しているショッピングモールだ。

「ただいま……って言っても意味はないか。けど、まぁ……これで約束は果たしたって事で」

 マシロはショッピングモールの前でそう言う。
 だが、そこにはマシロの返ってくる筈の場所は無い。
 当然、マシロを出迎える者も居ない。

「本当に無くなったんだな」

 ここに来てようやく、それを実感した。
 孤児院が無くなったと聞いて、ここに来る理由も無い為、クロガミ家に引き取られて初めてここに帰って来た。

「俺って結構、薄情な奴だったんだな。何も感じない」

 孤児院も無くなり、ショッピングモールとなってかつての名残を全く見せないが、マシロはそれに対して何も思う事は無かった。
 そう思いつつも、マシロはショッピングモールの中に入って行く。
 すでに日が傾き始めているが、中にはまだ大勢の客が買い物を楽しんでいる。
 この様子だと夜になっても人足が減ると言う事は無いだろう。
 中を歩いていると、マシロはおもちゃ屋を見つけて立ち止まる。
 
「結構、大きい奴が入ってんだな。まぁ、うちホワイトファング程じゃないけど」

 そう言いながら、店の中を覗いてみる。
 おもちゃ屋であるが、ガンプラのブースは結構確保されている。
 特に目的もなく、マシロは店内をぶらついていた。

「あー! マシロだ!」
「ん?」

 後ろから、そう呼ばれてマシロは立ち止まって振り返る。
 そこには幼い子供がマシロを指さしている。
 取りあえず、周囲を見渡したが、騒音で周りは子供の声は聞こえていないのか、マシロは注目されていない。

「こら! 駄目じゃない」

 その後から、子供の母親が子供にそう言う。

「ごめんなさい。この子、なんか大きい大会をやっているのを見てから貴方のファンなんです」
「ふーん」

 マシロが出て、テレビで放送されているとすれば、世界大会くらいだろう。
 その世界大会で、マシロは世界のファイターに喧嘩を売ったが、この子供くらいの歳ではそこまで理解はしていないのだろう。
 純粋に強いファイターであるマシロに尊敬の目を子供が向けている。

「今日ね。ママにガンプラを買って貰うの! それでね! パパと一緒に作るんだ!」

 子供は持っていたガンプラをマシロに見せる。
 それはマシロのガンダム∀GE-1のベースとなっているガンダムAGE-1 ノーマルだった。
 世界大会で活躍したファイターが使用するガンプラは世界大会終了後に売れると言う事は毎年の事だ。
 子供も、マシロのバトルを見てAGE-1を買って貰いに来たと言う所だろう。

「ねぇ、僕が大きくなったらバトルしてくれる?」
「どうだろうな。お前が世界大会に出られるようになったら相手をしてやっても良いぞ」
「本当! 僕頑張る!」

 マシロは遠回しに世界レベルのファイターでなければ、相手をしないと言ったのだが、子供はそれに気づく事な無く、世界大会に出られるまで頑張ればバトルしてくれると取ったようだった。
 
「……まぁ頑張れ」
「うん!」

 子供はマシロに手を振りながら、母親に手を引かれてガンプラをレジに持っていく。
 マシロは少し疲れながらも、子供を見送っているとある事に気が付いた。

「……何だよ。変わらない物もあったじゃん」

 子供がガンプラを持っていたレジを担当していた店員に見覚えがあった。
 10年近くも経った事で老け込んではいるが、マシロがイオリ・タケシと出会った模型店の店長だった。
 自分の店は経営が立ち行かなくなったが、今もここで子供たちにおもちゃを売っていた。
 その様子はあの時と何も変わっていなかった。
 例え、町や友が変わって、何もかもが変わってしまったように見えてが、それでも尚変わってない物がここにある。

「やっぱ……駄目だよな」

 ヨハネスに協力を頼まれた事は正直どうでも良いと思っていた。
 孤児院が無くなったことも、院長が死んだ事もどこか他人ごとだった。
 だから、ここに来て確かめたかった。
 自分がヨハネスに同調出来るかどうかをだ。
 結果としては、何もかもが変わってしまったと言う事を認識したに過ぎない。
 すでにここに自分の帰る場所は無いと言う事をだ。
 その為、ここを破壊する事はマシロにとってはどうでも良い。
 だが、何もかも変わってしまった故郷の町で唯一変わらない物がここにはあった。
 例え、ここには以前のように自分やヨハネス達が笑って過ごした家は無いが、別の笑顔を作っている。
 例え、ここが善意を利用した悪意や犠牲の上に成り立っているとしても、あの子供の笑顔は純粋で、あの時の自分達の笑顔を何も変わらない。

「……シリアスとかヒーロー見たい事は俺のキャラじゃないんだけどな……けど、仕方が無いか」

 すでに答えは出ている。
 マシロは携帯電話を出してどこかにかけると車に戻り、ヨハネスの待つショッピングセンターへと向かった。



 ショッピングセンターに到着して中に入ると、ヨハネス達は計画実行の準備に追われていた。
 マシロが中に入ってすぐにヨハネスがマシロに気が付いて寄って来る。

「マシロ。来てくれたんだな」
「まぁな……それより、ヨハン。久しぶりにガンプラバトルしようぜ」

 いきなりマシロにそう言われて、ヨハネスは驚いている。

「何だよいきなり。忙しいの分かってんだろ」
「せっかく、再会したんだ。爆破した後だとやってる暇はないだろ?」
「確かに。今日はめでたい日だからな。久しぶりにやるか」

 マシロがガンプラを貰ってから、孤児院の男子の中でガンプラが流行った時期があった。
 ガンプラ自体、高い物から安い物まである為、安い物なら子供たちに買い与えるくらいの余裕は当時の孤児院にはあった。
 ガンプラバトルが始まってからもそうだった。
 ヨハネスは孤児院の子供たちの中でも一番強かった事はマシロは今でも覚えている。
 尤も、今のマシロがガンプラバトルの世界チャンピオンだと言う事は知らないようなので、今は殆どやっていないのかもが知れない。
 ヨハネスは今日が計画の実行である事で気分が良いのか、唐突な申し出にあっさりと受け入れた。
 それかは数十分後にショッピングセンターの広場にバトルシステムを設置された。
 バトルシステム自体はここのゲームセンターに残されていた物を持って来た。
 プラフスキー粒子が残っているのは、この辺りのゲームセンターのバトルシステムから粒子を盗んで来て度々暇つぶしで遊んでいたのだろう。
 電源もどこかから盗んで来たのか、発電機を置いているのかは分からないが、ショッピングセンター自体に電気は通っているようだ。
 バトルシステムが設置されて、余興として、ヨハネスの仲間たちが観戦している。

「じゃ始めるか」

 マシロはGPベースをバトルシステムにセットしてガンプラを置いた。
 今回はセブンスソードで行くようだ。
 対するヨハネスのガンプラはデスティニーガンダムだった。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 セブンスソード……出る」

 大勢の観客が観戦する中、バトルが開始された。
 今回のバトルフィールドは宇宙で障害物の類は存在しないオーソドックスなバトルフィールドとなっている。

「せっかくの余興だ。あっさりと負けるなよ」

 ヨハネスはそう言って先制攻撃を仕掛ける。
 デスティニーはビームライフルを連射して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは回避する。

「少しは出来るようになったんじゃないのか?」
「そりゃどうも(ヨハンとのバトルは久しぶりだけど……何だろうな)」

 デスティニーのビームライフルを回避しながらマシロは思い出していた。
 かつて何回もヨハネスとバトルをした。
 その時は全く歯が立たずに一度も勝ったことはない。

(ヨハンってこんなに弱かったっけ?)

 だが、今、バトルして見て感じた事がそれだった。
 以前は一度も勝てなかったヨハネスとのバトルにおいて、マシロはヨハネスの事を弱いとしか感じられない。
 それも当然のことではあった。
 元々、マシロが一度も勝てなかったのは自信の才能に気づかずにそれを伸ばす事をしていなかったからだ。
 今のマシロは自分の才能を知り、それを活かす術を知っている。
 そして、この10年近く、ひたすらに上を目指し続けて来た。
 そんなマシロと暇つぶし程度でしかバトルをして来なかったヨハネスとの間の実力差が覆り、圧倒的に開いた事は必然だ。

「逃げ回ってるだけじゃ勝てないぜ!」

 デスティニーはバックパックの長距離ビーム砲を放ち、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドで防ぐ。

「なぁ……ヨハン。一つ賭けをしないか?」
「賭けだと?」
「このバトルで俺が勝ったら、爆破計画は中止にしろ」

 マシロがそう言うとヨハネスの目つきが変わる。
 今まではかつての兄弟分とガンプラバトルで遊んでいただけだったが、マシロの申し出はそれでは済まない。

「……お前、自分の言っている事が分かってんのか?」
「分かってる」
「ふざけやがって! ここまで来て俺達の悲願を止めと! それにお前が俺に勝ったことが一度としてあったのかよ!」

 デスティニーは対艦刀「アロンダイト」を抜いて光の翼を展開する。
 残像を残しながらガンダム∀GE-1 セブンスソードに突っ込んで来るが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデスティニーの攻撃をヒラリと回避する。

「それにあそこは俺達の家があるべき場所なんだよ! それが分からないのかよ!」
「分かるさ。俺も行って来た。けど……あそこにはもう、俺達が帰る場所は無いんだよ」
「だから、俺達はあそこを破壊しないといけないんだよ! そうして奪い返すんだ!」
「んだよ。それ……壊されたから壊して、奪われたから奪って……それで最後は全て元通りになるのかよ!」

 ヨハネスはただやり返したいだけだった。
 自分が壊されたから壊し返して、奪われたから奪い返す。
 だが、すでに失われた物は戻って来る事も元通りになる事はあり得ない。

「知った事か! そんな事で晴れる程、浅い恨みじゃない! 俺達から全てを奪った奴らに復讐する事が俺達のすべきことだろう!」

 デスティニーはアロンダイトを振り下す。

「この……馬鹿野郎!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して、振り上げる。
 Cソードは正確にアロンダイトの折り畳む繋ぎ目を捕え、アロンダイトは繋ぎ目から切り裂かれる。

「なっ……」
「いつまでもそうやって、俺の事を見下せると思うなよ!」

 アロンダイトを失いながらも、デスティニーは下がり長距離ビーム砲を放つ。
 だが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードには掠りもしない。

「……お前が……お前が裏切るから!」

 長距離ビーム砲ではガンダム∀GE-1 セブンスソードを捕える事が出来ない為、デスティニーはビームライフルに切り替える。

「お前が、俺達を裏切って、俺達を捨てて出て行ってから全てがおかしくなった! お前のせいで孤児院も院長も!」
「否定はしない。だからって、お前達のやろうとしている事はテロに過ぎない」

 今までは同じ孤児院の出身である為、ヨハネスもマシロを仲間に加えてやろうと思っていた。
 だが、心の奥底では全てが狂い始めたのはマシロが引き取られて孤児院を去ってからだと思ってもいた。
 それがここで、爆発してマシロにぶつける。
 一方のマシロもその事は否定のしようがない。
 元々、ショッピングモールの建設の計画があった時点で遅かれ同じ結末になっていたかも知れない。
 しかし、マシロがクロガミ一族に引き取られた際にキヨタカからの援助金が目を付けられるきっかけになった事も事実だ。

「違う! これは院長の無念を晴らす為の戦いだ!」
「院長の為? 大抵、テロリストってのは大義を振りかざす。けどな。院長は俺達に言っていたよな。俺達はどんな境遇だろうと人間で人間は法やルールを守らないといけないって」

 マシロ達は孤児と言う事もあって、冷たい目で見られる事も少なくはない。
 孤児院も多少の余裕はあってもお世辞にも裕福とは言えなかった。
 そこで魔が差して万引きやひったくりなどの犯罪行為を行ってしまう子供も出て来る事があった。
 そんな時、普段は人の良い院長は厳しく叱りつけた。
 例え、孤児だろうと人として超えてはいけない一線がある。
 どんなに苦しくても、家族と共に乗り越えなければならないと。
 それを平気で超える事が出来るようになってしまえばそれはもはや人ではないと何度も言われてきた。

「それは人が人である為に必要な事で、院長が俺達に臨んだ事は全うな人間として生きる事……それを捨ててまでやる大義に何の意味があるんだよ!」

 マシロもお自覚はないが世辞にも普通の生き方をして来た訳ではない。
 それでも、マシロは法を破る事はしなかった。
 それが自分が院長にマシロが出来る唯一の事だからだ。
 
「俺達を捨てて温かい家庭でのうのうと生きて来たお前に何が分かる!」

 デスティニーは両肩のフラッシュエッジ2を投擲する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは一つ目をシールドで弾くと、二つ目を蹴りあげて弾き飛ばした。
 その間にデスティニーは距離を詰めて、掌に内蔵されているパルマフィオキーナを突き出す。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはその一撃を最低限の動きで回避すると、デスティニーの背後を取る。

「言ったろ。今までの見たいにはいかないって」

 背後を取ったガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドからビームサーベルを展開すると、ビームサーベルを振り落す。
 デスティニーはパルマフィオキーナで受け止めるが、受け止めきれずに腕が破壊される。

「今の俺はあの時の何も出来ないただのマシロじゃない!」

 デスティニーはガンダム∀GE-1 セブンスソードを蹴り飛ばそうとするが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードも蹴りあげて、2機の蹴りがぶつかり合うがすぐに、デスティニーの足が関節部からもげた。

「今の俺は……」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドから展開しているビームサーベルを振り上げて、デスティニーの片翼を切り裂く。

「世界最強ファイターの……」

 次にCソードを振るい、デスティニーを胴体かた真っ二つにする。

「マシロ・クロガミだ!」

 それでも尚、頭部のバルカンを撃って来るデスティニーに、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは距離を取りながらショートドッズライフルを撃ち込んで止めを刺した。
 
「俺が……マシロなんかに」

 バトルが終わり、ヨハネスは愕然としていた。
 以前のマシロとは比べものにならない程の力でヨハネスは手も足も出せなかった。

「俺の勝ちだな」
「……だからどうした? 所詮はお遊びの余興……こんなお遊びの勝敗なんて知った事か!」

 バトルに負けたヨハネスはそう言う。
 マシロはバトルの勝敗で賭けをしようと言ったが、ヨハネスはそれを承諾した訳ではないので、このバトルの勝敗はヨハネスにとっては重要ではない。
 一方のマシロは驚いた様子は無かった。
 
「まぁ……俺もテロリストとの約束なんて守って貰えると思ってなかったしな」

 マシロも始めから賭けが成立するとは思ってはいなかった。
 それでもバトルを挑んだ理由は二つあった。
 一つは過去に一度も勝てなかったヨハネスに勝っておくと言う事ともう一つは時間稼ぎであった。

「それと、俺は単にガンプラバトルで強くなっただけじゃない。権力を動かす事の出来る力を得る事が出来た」

 マシロがそう言うと、広場の全ての出入り口から警察とマシロのSPが雪崩れ込む。
 
「何だ!」

 ヨハネス達は突然の事態に対処する事なく、ものの数秒で全員が無力化、拘束された。

「俺はあくまでも時間稼ぎだったんだよ。俺とバトルしている間は爆破はしないだろ? だから、その間にここを包囲して、ショッピングモールに仕掛けられた爆弾も解除して実行犯も抑えた」

 マシロが時間稼ぎを行っている間にはヨハネスは爆破をしないと予測して、マシロが囮となって時間を稼いでいた。
 その間にマシロが一族の名を使って、警察を動かした。
 ショッピングモールの方にはマシロのSPの中から爆発物の専門家を向かわせて処理をさせ、同時に爆発物を設置した実行犯を抑える。
 最後はここに集まったヨハネス達を抑えれば全てが終わる。

「……マシロ! お前、俺達を売ったのか!」
「勘違いしないで欲しいけど、俺は売ったんじゃない。義務を果たしただけだよ。善良な一般市民としてのね」

 ヨハネスは取り押さえられて身動きが取れないが、マシロに掴みかかる勢いで叫ぶ。
 どんなに、体をよじらせても拘束から抜け出す事は出来ない。

「お前は罪を犯して来た。なら、その罪は償わないといけないよな? ごめんなさいで済めが良かったけど、それで済まないなら仕方が無いだろ」

 今までにもヨハネスはやんちゃをして、院長に怒られた事は何度もある。
 その時に誰かに迷惑をかけた時は、院長と一緒に謝りに行かされた。
 だが、今度は謝って済むレベルではない。
 これから更に追求されると更に余罪が出て来るだろう。

「くそ! ふざけやがって! マシロ!」
「さよならだ。ヨハネス。もう会う事もないだろう」

 マシロへの恨み言を叫びながら、連行されていくヨハネスをマシロは見送る。

「いやぁ……助かりましたよ」

 ヨハネス達が連行されて行くと、警官の一人がマシロに声をかけて来る。

「これで爆破事件に発展していたら、今日は帰れないところでしたよ。今日は、息子とプラモデルを一緒に作る約束をしていましてね」
「それは何よりだ」

 マシロは素っ気なく返す。
 そして、次第に人気のなくなる広場を眺めていた。

「……これで本当に返る場所がなくなったな」

 この町にはマシロの帰る家が無ければ、待っている友人もいない。
 ヨハネスが逮捕された事で、マシロは本当に返る場所を無くした。
 後悔はしていない。
 少なくとも、マシロは人として正しい選択をする事が出来た。
 帰る場所がなくなっても、この町には変わらない物があったと言う事も分かっている。
 それでも、今になってどうしようもなく寂しさを感じてしまった。
 後は、地元警察に任せてマシロはホワイトベースに帰って行く。

「おかえり」

 マシロが戻るアイラがそう言う。
 アイラはテレビを見ており、こっちを見ていないが流石にドアが開けば誰かが入って来れば音で分かるだろう。
 そして、ここに断りもなく入って来る事はマシロしかいないと言う事は分かっている。
 「おかえり」と言う何気ない言葉にマシロは思わず立ち止まってしまった。
 今までに一度も言われた事がない訳ではなく、至極当たり前の言葉で特別な言葉と言う訳ではない。
 アイラもテレビの方を見ている為、特別意識して出した言葉と言う訳でもない。
 だが、その一言はマシロにとって特別に感じた。
 
「何かあったの? てか、ニヤついて少し気持ち悪いんだけど」

 アイラもマシロの様子がおかしいと言う事にすぐに気が付いた。
 出てく時もおかしかったが、帰って来た今もおかしい。
 
「うるさいな」

 マシロはムッとしながら、椅子に座り込んでガンプラを取り出す。

「アイラ」
「何よ?」
「……ただいま」

 マシロはガンプラを弄りながらそう言う。
 その様子は少し照れているようにも見えて、アイラはますます訳が分からなくなる。

「本当に何があったのよ」
「別に……ただ、ここが今の俺がいる場所で俺にはまだ帰れる場所がある。こんなに……ってだからなんでもないって言ってんの」

 マシロは新しいガンプラの箱を引っ張り出して来る。
 そして、組み立てを始めるとこれ以上は話す気がないと言うオーラを全身から出している。

「何なのよ……もう」

 マシロがこの町で何をして来たのか、何があったのか知らないアイラは事態を把握する事は出来なかった。

「ただ、こんな寄り道も偶には悪くない」

 ガンプラを組み立てながら、マシロはアイラにも聞こえない程の声で呟いた。
 ほどなくして、ホワイトベースは食糧の補充を終えて、次なる目的地へと飛び立った。



[39576] Battle32 「未来無き未来」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/10 16:47
 故郷の町を発ち、ホワイトファングは次の目的地を目指して飛行していた。
 その間の退屈凌ぎと称して、マシロはアイラにガンプラバトルの相手をさせていた。
 アイラも渋々ではあったが、マシロに負けた借りを返す機会としてバトルに応じていた。
 だが、アイラのガンプラとマシロのガンプラでは性能に大きな差がある為、すでに何度も負けている。
 今回、マシロは完成したフルアサルトジャケットを使用している。
 完成系は膝にもホルスターを追加し、計10基の武器を内蔵したホルスターを装備している事になる。
 更には右手にはガンダムAGE-3 ノーマルのシグマシスライフルを改造して制作したハイパーメガドッズライフルを装備し、左手にドッズランサーを装備している。
 胸部のビームバルカンは取り外し、腰にはビームサーベルのラック兼、ビームガンを増設している。

「今度こそ……」

 再びバトルが開始される。
 バトルフィールドは地上基地だ。
 特にガンダムの作中に登場する基地とは設定されていない市街地の一つに分類されるバトルフィールドだ。
 バトルが開始されて、アイラのサザビー改がロングビームライフルで先制攻撃を仕掛けるが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはホバー装甲で左右に移動しながら回避する。

「ちょこまかと!」
「こっちからも行くぞ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを構える。
 アイラはすぐにサザビー改を建物の陰に隠す。
 だが、マシロはそんな事をお構いなしにハイパーメガドッズライフルを放つ。
 放たれたビームは地面を抉りながら、建物に直撃すると難なく建物をぶち抜いた。
 サザビー改は建物が破壊される前に避けていた為、ダメージは無いが、射線上の物は跡形もなく吹き飛んだ。

「冗談でしょ……」

 アイラがハイパーメガドッズライフルの威力に驚いていると、次の攻撃が放たれた。
 サザビー改はギリギリのところで回避するが、右腕がビームに掠ってもぎ取られた。
 
「掠めただけで……」

 ガンダムAGEにおいてガンダムAGE-1 ノーマルのドッズライフルから派生してドッズ系のビーム兵器はビームを回転させる事でビームの貫通力を上げていると言う設定がある。
 ガンプラバトルでもドッズ系の装備はエフェクトとしてビームが回転しているように描写されている。
 だが、マシロのガンダム∀GE-1の装備しているドッズ系の装備は実際にプラフスキー粒子を回転させて貫通力を増している。
 それ故に、元々から高い火力に設定されているシグマシスライフルを改造して作られているハイパーメガドッズライフルの威力はガンプラが携帯出来る装備では破格の威力を持ち、掠っただけでも回転により削り取って破壊する事が出来る。
 それにより、特殊な塗装により粒子を弾くIフィールドも、塗料を削り取って無効化する事が可能となった。
 世界大会の決勝戦で、カルロス・カイザーのノイエ・ジールを一撃で破壊出来たのもそのお陰だ。

「驚いている暇があるのか?」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルとドッズランサーを捨てるとホルスターの中からロングドッズライフルを出して、空のホルスターをパージする。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの武装の一つのロングドッズライフルは長距離狙撃用の装備だ。
 先端部のバレルとパージする事でハンドドッズガンとしても使える。
 ロングドッズライフルで空中のサザビー改を狙撃するが、サザビー改は回避しながら着地して、ビームナギナタを左手で持って突っ込む。

「そんなに欲張ってるから!」

 距離を詰めてビームナギナタが振り落されるが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは膝のホルスターで受け止めた。

「残念」

 そして、膝のホルスターから2基目のロングドッズライフルを射出してサザビー改にぶつけた。
 
「お次はこいつでどうだ?」

 ロングドッズライフルを捨てると、今度は別のホルスターからニードルライフルを抜いて、空のホルスターをパージする。
 そして、ニードルライフルを放つ。
 ビームでも弾丸でも無く、針が撃ちだされる。
 これは設定上はガンダムAGE-1 スパローのニードルガンを手持ちの武器としている為、同口径の針を撃ちだす武器だ。
 サザビー改はシールドで防ぐが、撃ちだされた針はシールドに刺さると爆発した。
 針の内部には火薬が仕込まれていると言う設定で、対象に刺さる事で対象を内部から爆破する。
 シールドをを破壊された隙にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはニードルライフルを捨てて、レイザーアックスを抜いた。
 レイザーアックスはガンダムAGE-1 レイザーのレイザーブレイドの発展系と言う設定で柄の長い斧だ。
 レイザーウェアのレイザーブレードは複数の刃を重ねた多層構造の刀身を採用されていると言う設定から、薄いプラ版を何層にも重ねて制作されている。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはレイザーアックスを振るう。

「この!」

 だが、レイザーアックスは威力は大きいが、大型で振りも大きい為、サザビー改は空中に飛び上がって回避する。
 空中に逃れたサザビー改はバックパックのファンネルを展開する。

「これならどうよ!」
「ファンネルか……」
 
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはレイザーアックスを捨てると大型のドッズマシンガンと小型のビームマシンガンを抜いて空のホルスターを捨てる。
 ホバーで左右に動きながら前進し、包囲しようとしているファンネルに2種類のマシンガンで弾幕を張って、ファンネルを撃墜する。

「で、本体が疎かになってるぞ」

 両手のマシンガンを捨てて、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは折りたたみ式のビームランスを出すと、サザビー改に目掛けて投擲する。
 アイラはファンネルの操作に気を取られていた事もあって反応が遅れて、左腕がビームランスに貫かれた。

「くっ!」

 サザビー改は残された装備である、腹部の拡散ビーム砲を撃とうとするが、その時には空中にいるサザビー改の下をガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは走り抜けていた。
 サザビー改の拡散ビーム砲は腹部に内蔵されている為、射線はサザビー改の向いている方向にしか撃てない。
 下を通り、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは完全に拡散ビーム砲の死角に入り込んでいた。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはGバウンサー用のドッズライフルを出して攻撃する。

「まだ!」

 サザビー改は何とかビームを回避して、着地する。

「マシロのガンプラは!」

 着地してすぐにマシロのガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの位置を掴もうとするが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズライフルⅡBを出して投げていた。
 ライフルの下部の実体剣がサザビー改に突き刺さりバトルがマシロの勝利で終了した。

「さて、また俺の勝ちな訳だが今回の敗因は?」
「……マシロが変な武器とか使ったから」
「まぁ、それもあるがな。得体の知れない武器をギリギリのところでかわすからそうなる」

 マシロはバトルが終わるたびに、アイラに自身の敗因を訪ねていた。
 敗因を理解する事で、次から同じミスをしないように心掛ける事が出来るようになるからだ。
 今回のバトルの敗因の一つが初めて見る武器に対する対応の甘さがあった。
 ロングビームライフルごと片腕を失ったのは、ハイパーメガドッズライフルの威力の見積もりが甘かったからだ。
 多少、大きく回避しても相手の動きに注意していれば、片腕と武器を失う事は無かった。
 尤も、マシロはそれならそれで別の手を用意していた事は今は言わない。
 次に同じような場面になった時に使う為に取っておく。

「二つ目は武器の特性を把握していないって事だ。サザビーの拡散ビーム砲は内蔵式だ。内蔵式のメリットは持つ必要がないから他の武器を持ったままで使えると言う事。デメリットは内蔵している為、手持ちの武器のように射角を取り辛いと言う事」

 アイラはライフルを失いサザビー改は遠距離攻撃の手段は拡散ビーム砲かファンネルのみとなった。
 拡散ビーム砲は腹部に内蔵されている為、前方にしか撃てない。
 その為、死角に回り込まれないように気を付ける必要があった。
 だが、それを怠った事で、拡散ビーム砲の死角に回り込まれて使えなかった。

「後は、ファンネルの扱いだ。お前はファンネルの操作に集中していたせいで本体の操作が疎かになった。世界レベルの上位はその隙を確実について来るから通用しないぞ」

 アイラのファンネルはマシロが弾幕を張って対処したが、操作自体は問題は無かった。
 今のレベルなら世界大会でも十分に通用する。
 問題はファンネルの操作に気を取られ過ぎて、本体であるサザビー改の操作を疎かにした事だ。
 これはファンネルを使う上で、大抵のファイターが一度は陥るミスだ。
 格下ならば、全く対処できずに一方的に倒す事も出来るだろう。
 だが、世界の上位のファイターとバトルする上で、致命的なミスとも言える。
 
「ファンネルは基本的に補助的な武器だと認識しとけ。実力差のある相手ならともかく、世界の上位クラスのファイターにはファンネルで囲んで相手の意識を散らす程度の効果で、全滅しても構わないくらいの武器だと思っておけば全滅してもバトルに支障はない」
 
 アイラの今までの考えではファンネルを撃墜させないようにしていたが、それで本体が疎かになっては意味がない。
 だから、発想を変えさせた。
 別に撃墜されても構わない武器と思っておけば実際に撃墜されても精神的なダメージも受けない。
 例え、有効的なダメージを与える事が出来ずとも、適当に操作して周囲をうろうろさせておくだけでも、相手がファンネルを少なからず意識させて、注意を拡散させる事が出来る。
 仮に完全に無視を決め込んだとしたら、ファンネルの攻撃を当てる気で攻撃させれば、ダメージを与える事や意識を逸らす事も出来る。
 撃墜されたとしても、敵の攻撃をファンネルに向ける事が出来れば少なからず隙が生まれる。
 世界レベルのバトルにおいて、実力で上回り、圧倒的な優位な状況からでもほんのわずかな隙で逆転される事も珍しくはない。

「最後にずっと思っていた事でこれが最も重要な事なんだが、アイラ……お前、なんで無言でファンネルを使ってんの?」
「は?」
 
 さっきまでは、マシロの講義を黙って聞いていたアイラだが、流石に理解は出来ないようだ。
 確かにアイラはファンネルを使う時に何も言う事は無かったが、別に問題は無いように思える。

「お前、馬鹿か。バトルを初める時も何も言わないしさ。マナーがなってないんだよ」
「それ……マシロだけには言われたくはないわ」

 マシロは相手が誰であろうと自分の態度を崩す事は無い。
 それこそ、自分達のチームのオーナーにすらタメ口だ。
 そんなマシロにマナーを指摘されると言う事は腹が立つ。

「出撃時には自分の名前とガンプラ名を告げて、出ると言う旨を伝えなければならない」

 言われてみれば、マシロは毎回のように言っていた気がする。
 これは厳密にはルールにはないが、大抵のファイターが行っている行為だ。
 それは、どのガンダム作品の中でも登場キャラが出撃時に行っている事が多い為、ガンプラバトルでも行う事が暗黙の了解となっていた。

「ファンネルも然りだ。無言で使って良いのは、ドラグーンとかガンバレルとかでファンネルやファングはきちんと言わないと駄目だ」

 これも同様にガンダムの作中にはファンネルなどの武器を使う際にキャラクターがそう言う事を言うからで言わなければならないと言うルールは無い。

「今回のバトルでの課題点はこんなところだ。後10回はバトルで体に叩き込んでおきたいところだが、そろそろ目的地に着く時間だ」

 アイラも今日中に目的地に着くと言う事は聞かされていたが、どうやら到着の時間が近づいていたようだ。
 散々駄目だしを受けている為、バトルを続けずに済んでアイラは安堵する。

「今日は特別に同行させてやる。有難く思え」

 だが、マシロのその一言に悪い予感を感じずにはいられなかった。







 その予感は的中した。
 ホワイトベースから降りたアイラは山を登っていた。
 マシロを背負って。
 この山がどこの国の山で名称は知らないが、マシロの目的地がこの山にあり、ホワイトベースでは近くに着陸出来ないと言う事から最も近い場所に着陸して、そこからは徒歩で登る事となった。
 ある程度の登山の装備を持って山を登り初めて1時間もしないうちにマシロがバテた。
 その結果、アイラはマシロを背負って山を登る破目となった。

「何でこんなことになったのよ……」
「ガンプラバトルなら何日もやり続ける事が出来るんだけどな。やっぱ無理だったわ」

 どうやら、始めから登り切る事が出来ないと言う事を分かった上でアイラを連れて来たらしい。
 アイラはマシロを落として帰りたい衝動に駆られるが流石に、こんなところでマシロを置いて帰れば、マシロは野垂れ死にそうだった。
 日頃の意趣返しをしたいが、流石に命に係わる事をするところまでは不満は堪ってはいない。

「後、どのくらいでつくのよ?」
「さぁ……もう少しだと思うんだけどな」

 マシロの曖昧な言い方に本当に目的地に辿りつけるか、心配になって来る。
 すでに数時間はマシロを背負って山を登っている。
 体力には人並以上の自信を持つアイラだが、人ひとり背負って数時間も山を登っていれば体力の限界も近づいて来る。

「アイラ、多分……あそこだ」

 背中越しにマシロが指を指して、アイラはそっちの方に向かう。
 その先には一件の小屋が立っていた。
 小屋と言うには大きいが、何故、こんなところにあるのかなど疑問はあるが、あそこがマシロの目的地ならそこまで運んでしまえば、楽になる事が出来る為、アイラはマシロを小屋まで背負って歩く。

「……着いたわよ」
「ご苦労さん」

 小屋の前まで来るとマシロはアイラの背から降りる。
 背負われている間に体力が回復している為、マシロの足取りは軽い。
 ようやく、マシロを背負う事から解放されたアイラは息を整えながら、マシロの後について行く。

「たのもー!」

 マシロはそう言って小屋の扉を開いて中に入って行く。
 疲れが溜まっている事もあって、アイラはマシロの行動にもはや何も言う事は無い。
 中に入ると少年が一人いるが、明らかに歓迎している雰囲気ではない。

「カナタは奴は……」
「帰れ!」

 マシロが言い切る前に少年が叫ぶ。
 どうやら、マシロは事前に来ると言う事を伝えずに来たようで、歓迎どころから敵視すらされているようだ。
 
「お師匠様は具合が悪いんだ! それなのに仕事ばかり持ち込んできやがって!」
「んなもん知るか。さっさとカナタを出せよ。俺はカナタに用があって来たんだよ」

 少年の言葉を全く聞かずにマシロはそう言う。
 アイラも大体の状況が掴めてきた。
 マシロは少年の師に仕事を頼みに来たが、その師は体調が悪いらしい。
 マシロはそんな事は気にした様子は無く、一方的に用件を突きつけている。

「それでも通さないと言うのなら、ガンプラバトルで勝負だ。俺が勝ったら通して貰う」
「は?」
「何でそうなる訳?」

 マシロは持って来ていたガンプラを少年に突きつける。
 マシロはバトルする気満々だが、アイラと少年は完全に流れに付いて来ていない。

「何でそうなるんだよ!」
「何でってこの流れはバトルで決着をつけると言うのが当然な流れだろ」
「知るかよ! 大体、こんなところでどうやって戦う気なんだよ!」

 マシロはガンプラバトルで決着をつける気ではあったが、この小屋にバトルシステムは無く、少年もガンプラやガンプラバトルの事は少し知っているが、ガンプラを持っていない為、バトルは出来ない。

「何……だと」
「騒がしいな。トウヤ」
「お師匠様!」

 トウヤと呼ばれた少年の声が大きかった事もあり、奥から一人の男が出て来る。
 和装の男はアイラの目から見ても健康には見えない程、血の気がない。

「まだ生きてるってのは本当だったみたいだな。カナタ」
「これは珍しい客が来たものだね」

 双方は顔見知りで、男の名はカナタと言うらしい。

「マシロは僕のところを訪ねて来るのは初めてかな? まぁ、こんなところで話しもなんだから居間においでよ」
「お師匠様!」
「そうさせて貰う」

 トウヤは抗議の声を上げるが、マシロは気にする事無く、カナタと共に奥に入って行く。
 マシロと一緒に来た事で、アイラもトウヤに睨みつけられて居心地が悪く、さっさとマシロの後を追いかけて行った。
 奥には囲炉裏を中心に座布団が敷かれている古い日本家屋の居間となっていた。
 カナタが座布団に座ると、マシロはその対面の座布団に座り込み、トウヤがマシロをにらみながら座って余った座布団にアイラが座る。

「一応、紹介するけど、彼は僕の弟子のトウヤ。こっちは……」
「そう言うのは良いから」

 カナタがマシロにトウヤを紹介する流れをマシロは遮る。
 マシロにとってはカナタとトウヤの関係には興味がないからだ。
 師であるカナタに対する無礼な態度に、トウヤはマシロに対する敵意を隠す事はしない。

「相変わらずだね。マシロも……けど、そっちの彼女の事くらいは紹介して欲しいな」
「こいつはアイラ、俺の弟子みたいなもん」
「へぇ……マシロが弟子をね」

 余りにも適当な紹介の仕方にアイラはムッとするも、カナタの方は興味深そうにアイラを見る。
 どことなく、値踏みをされているようでアイラは少しむず痒い。

「んな事はどうでも良いから。わざわざカナタのところに来たのは仕事の依頼だ」

 マシロはホワイトベースから持って来たケースをカナタの前に出す。
 その中にはマシロがアメリカでレティから貰って来た特殊金属が入っていた。

「これは……見た事もない金属だが?」
「レティに作らせた」

 アイラやトウヤには普通の金属と大して変わらないように見えるが、カナタは一目見ただけで、この金属が普通の物ではないと見抜いていた。

「これを使って刀を打って欲しい。当然、ガンプラサイズの物をだ」

 カナタは刀鍛冶として天才的な才能を持っている。
 カナタの打った刀に日本円で最低でも億の値がつく事は珍しくはない。
 マシロはそんなカナタにガンプラが持つ武器を作らせようと訪ねて来た。
 金属で刃を作れば当然、プラフスキー粒子には反応しないが、ガンプラが持って振えば武器として使う事も出来る。
 そして、大会規約には武器に関するルールで本物の刀をガンプラに装備させてはいけないとは書かれていない為、ガンプラサイズの刀をガンプラに持たせる事は違反ではない。
 尤も、大会運営側も本物の刀をガンプラサイズに収縮させた物を持たせると言う事は想定していない為、当然の事でもあった。

「ふざけんな! そんな玩具に持たせる為にお師匠様の手を煩わせる気かよ!」

 カナタの手前、敵意を向けるだけで黙っていたトウヤがついに我慢が限界に達してマシロに掴みかかる。
 それも当然だ。
 カナタは元々、体が弱い為、刀を一本打つだけでも普通の人間よりも重労働だ。
 それを玩具に持たせる刀を作れと言うのだ、トウヤが怒るのも無理はない。
 ここに来る理由を知らされていなかったアイラも、こんなところまで来てガンプラの武器を作らせると言うマシロの常識を疑っている。

「俺はカナタに仕事の依頼として来てんだ。お前がカナタと同じかそれ以上の刀を打てると言うなら、お前でも別に構わないが、俺はカナタ以上の鍛冶師を知らない」

 マシロにそう言われて、トウヤは完全にマシロに飲まれていた。
 アイラも今までのマシロはいい加減で適当だと思っていたが、ここまでのマシロは知らなかった。

「トウヤ。離すんだ」
「……ちっ」

 トウヤもカナタに言われてしまえば離すしかない。

「分かった。その仕事は受けよう」
「お師匠様!」
「マシロは僕の鍛冶師としての腕を信頼して仕事を依頼しに来たんだ。これは誰でも出来る訳じゃない」

 単に刀を作るだけなら、金さえあればすぐに用意出来るだろう。
 だが、マシロは自分の知る限り最高の腕を持つカナタに仕事を依頼しに来た。
 それはマシロがファイターとして妥協をしていないからだ。
 ならば、カナタも職人として受けざる負えない。

「それで、どんな刀をお望みだい?」
「そうだな。取りあえず、ビームとか炎を出すとかは最低でも欲しいな」
「出せるか! お前、刀を何だと思ってんだよ!」

 マシロのオーダーにトウヤが突っ込む。
 マシロはカナタの方を見るとカナタは黙って首を横に振る。
 流石のカナタでもマシロが言うビームや炎を出す刀など作る事は不可能だ。
 
「何だよ……じゃあ、空間を切り裂いたり、斬撃を飛ばしたりとかも出来ないのかよ」
「出来ないね。フィクションならともかく、現実にそんな刀は作れないよ。母さんなら出来そうだけどね」

 マシロの言う刀は全てフィクションの中の産物だ。
 フィクションはフィクションであって、カナタを持ってしても作る事は不可能だ。

「……じゃぁ、硬くて切れ味が最高の物で頼む」

 マシロの刀に対する像が完全に破壊された事で必要最低限の要望だけになった。

「分かった。マシロの期待には添えるようにする。今から下山するのは危険だから泊まって行くと言い」
「始めからそのつもり」

 すでに日が傾いて来ている。 
 流石に今から山を下りる事は危険だ。
 マシロは始めからここで泊まって行く気だった。
 余りの図々しさに、トウヤがマシロを追い出そうと思うかけるが、仕事の話が終わったところで、カナタからマシロが弟だと聞かされて追い出す事が出来なかった。








 日が完全に沈み日付が変わる頃になっても、マシロは居間でガンプラを弄っていた。
 小屋は見た目こそは古い日本家屋で囲炉裏などもあるが、体の弱いカナタが生活する上で最新の技術が使われている為、快適に過ごす事が出来た。
 すでにアイラもトウヤも寝静まっている。
 当初は自分とアイラは同じ部屋で構わないとマシロが言い、今更抗議したところで意味がないとアイラは諦めていたが、流石に年頃の娘と同じ部屋で寝ると言う事は問題だとカナタはアイラだけ別の部屋を使わせた。
 マシロは寝れればそれで良いと一人居間で寝る事になっている。

「マシロは相変わらずのようだね」
「お互い様だろ」

 カナタはマシロがまだ、寝ていない為、様子を見に来たようだ。

「確かに」

 カナタはマシロの前に座る。
 マシロは相変わらず、ガンプラに夢中でカナタは刀を作る為に命を張っている。
 体が弱いカナタにとって、体調の悪い時に刀を打てば命を縮め、最悪命を落としかねない。
 それでも、仕事として受けた以上は持てる技術の全てを注ぎ込んでマシロのオーダー通りの刀を作るだろう。

「でも、例え僕が死んでも僕の作った刀は後世に残る。それを打った僕の名と共にね。けど、マシロ……君はどうだい? 自分の全てを注ぎ込んでも未来には何か残る物はあるのかい?」
「無いだろうな。ガンプラもガンプラバトルも後何年、流行るか分かった物じゃない」

 カナタの打った刀は、刀本来の武器として使われる事は無いだろう。
 武器としては使われないが刀は美術品としての価値がある。
 特に刀のカタナの価値は非常に高い。
 例え、カナタが命を落とそうとも、カナタの名は後にも残るだろう。
 しかし、マシロの場合は違う。
 ガンプラは玩具に過ぎず半世紀以上もの間、続いて来た事自体は奇跡的な事だ。
 どんなに流行った玩具も遊びもいずれは新しい物によって風化し、忘れ去られて行くことは人の歴史上には幾度もあった事だ。
 ガンプラも例外ではない。
 今でこそはガンプラバトルは世界大会が開催される程だが、10年や20年後に続いているかは分からない。
 だが、永遠に続く遊びなど決して存在しない。
 いずれはガンプラバトルも終わりを迎える時が来るだろう。
 ガンプラバトルが終わってしまえば、例え世界チャンピオンだろうと意味はない。
 
「仮にガンプラバトルが廃れてしまって、誰もやらなくなった時はガンプラバトルと心中するさ。どの道、ガンプラバトルが終われば一族にいる事も出来ないし、一族の外に出て生きる事は俺には出来ないからな。それに……もう、帰る場所もないしな」

 マシロがクロガミ一族でいられる理由がガンプラバトルがあるからだ。
 仮にガンプラバトルが誰もやらなくなって、完全に廃れてしまった場合、マシロは一族において何の価値も無くなる。
 そうなれば、ユキトはマシロを一族に置いておく理由は無くなる。
 そして、一族に置く理由がなくなれば、容赦なくマシロは切り捨てられるだろう。
 マシロはガンプラバトルでは世界最強となったが、それ以外の事は何も出来ずに、何もして来なかった。
 その為、一族の庇護がなくなれば、生きていくことは出来ない。
 つまりは、ガンプラバトルの終焉はマシロの人生の終焉でもある。
 尤も、マシロにとってガンプラバトルの無い人生には何の価値も見いだせない為、ガンプラバトルと共に人生が終焉を迎える事には何の抵抗もなかった。

「悲しいな」
「そうでもないさ。好きな事をやって好きに生きられるからな。今の世の中、そうやって生きる事も難しいからな」

 他者から見れば、一時の流行りで生きているマシロの人生は悲しく見えるだろう。
 それでも当事者であるマシロは自分の人生に悲観はしていない。
 世の中には自分がやりたくても才能や金銭的な理由から諦めざる負えない人だって大勢いる。
 それに比べたら好きな事を好きなだけやれる今のマシロの人生は幸せなのだろう。
 未来が無くとも今が良ければそれで幸せなのは、未来に名を残す為に今、苦しい思いをしているカナタとは対極の事だ。
 
「そうか……余り無茶はするなよ」
「カナタ程の事はしないさ」

 結局のところ、カナタにはどうする事も出来ない。
 カナタはカナタでマシロの人生が終わる前に、自分の人生が終わるかも知れない。
 心配をしたところで、マシロにとっては意味のないことだ。
 カナタは自分の部屋に戻り、マシロはカナタとの話しの事など気にすること無くガンプラを弄り夜を明かした。
 小屋で一晩を明かし、翌日にはマシロは用を済ませている為、さっさと下山する事になった。

「それじゃ、世界大会の決勝トーナメントが始まるまでに完成させればいいから。で、そいつを静岡まで届けて欲しい」
「分かった。納得が行くまでやらせて貰うよ」

 どの道、金属粒子を内蔵した特殊プラスチックが届くのは決勝トーナメントには間に合わない。
 その為、早く完成させる必要はない。
 最高の一振りが出来るまで、何度でも作り直すだけの金属は用意してある。
 カナタも職人として、期限までに完成させる事は当然だが、マシロが満足の行く最高の刀を作る事は職人としての意地だ。
 用が済んだ事で、マシロはアイラを連れて山を下りていく。
 それを見送ると、カナタはすぐに刀の構想に入る。
 山を下りたマシロは再び、途中で力尽きてアイラに背負われてホワイトベースに戻ると次の目的地へと向かうのだった。



[39576] Battle33 「感謝の言葉」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/16 21:17
 カナタに刀の制作を依頼したマシロはフランスのパリに来ていた。
 相変わらずアイラとは別行動でマシロはそこの研究施設を訪ねて来た。
 そこにはマシロの兄の一人であるリュック・クロガミが所長をしている。
 研究では機械工学の研究が日々されている。
 
「何かすげぇな……その内モビルスーツとか作れそうだな」

 マシロは研究所内を歩きながらそう言う。
 研究所には過去にここで制作されたと思われる機会がいくつも展示してあった。
 その中には人型のロボットもいくつも展示されている。
 普通の人間サイズの物から巨大な手など、その種類はさまざまだ。

「フン、10Mをも超える人型の兵器などナンセンスだ」
「うっわ。夢がねーの」

 神経質そうな男こそがマシロの兄の一人であるリュック・クロガミだ。
 リュックはマシロの感想を鼻で笑った。
 リュックからすればガンダムの作中に出て来るモビルスーツは非科学的な存在でしかないらしい。

「フン……で、何の用だ。俺は遊び歩いているお前と違って暇じゃないんだ」

 リュックの研究室に入ると、リュックは研究資料に目を通し始める。
 
「率直に言うけど、俺のガンプラの内部フレームを設計してくれ」
「帰れ」

 リュックは即答する。
 マシロは機械工学、特に義手を初めとした人体の代わりとなる機械に精通しているリュックに自身のガンプラの内部フレームの設計を頼みに来ていた。
 ガンプラの性能を図る上で可動域は重要な要素の一つだ。
 可動域が狭いとガンプラの動きも狭まる。
 逆に広いとガンプラの動きにも幅が広がる。
 特にマシロの場合は格闘戦を好む為、可動域は重要となって来る。
 そこで、リュックの技術を当てにした。
 リュックは機械工学の中でも義手のような人体の代わりとなる機械の設計の分野で成功している。
 その能力を持ってすれば、限りなく人間の動きに近い動きが出来るガンプラの内部フレームを設計する事も可能だ。

「設計図だけで良いぞ。後から装甲と装備も取りつけないといけないし、そっちの方はもう考えてあるから、装甲と装備をフルに装備した状態で限りなく人間に近い動きが出来るように設計してくれ。ああ、強度の問題はある程度はクリアしてあるからそこまで重要視する必要はないかな」
「だから帰れと言っている。何故、俺がお前の玩具を設計しないといかんのだ。そんな事よりも義手の一つでも設計した方が有意義だ」

 マシロはリュックの話しを完全に無視して続けた。
 だが、リュックにとってはガンプラの内部フレームを設計するよりも義手などの方が社会的に認められる為、その気は無いらしい。
 例え、マシロがガンプラバトルの世界王者だろうと、所詮、ガンプラは玩具に過ぎない。
 そんな物を作ったところでリュックにとっては一文の得にもならない。

「そんな権利があると思ってんの? こっちは兄貴の許しを得てんだよね」

 マシロはさっそくリュックが断れない切り札を切る。
 今回の事で他の兄弟の力を借りる事はユキトに許可を取ってある。
 どういう訳か、ユキトは全面的にマシロを支援している。
 リュックもそれが真実かどうかは今の状況では判断は出来ないが、マシロがハッタリをかましたところですぐにバレる為、そんな嘘を言うメリットはない。

「そう言う訳だから、最優先で設計しろ。後、手を抜いたら兄貴にチクるから」
「……ちっ」

 幾ら、それらしい物を設計したところで、マシロもまたクロガミ一族の一員だ。
 適当な仕事で誤魔化したところで気づかれる事は目に見えている。
 そして、その事をユキトに報告されると言う事は非常に不味い。
 一族の本家として例え、玩具の設計だろうと適当な仕事をすればそれなりのペナルティを課せられるかも知れない。
 マシロのバックにユキトがいる以上、リュックには拒否権は無いも同然だった。

「必要な物を置いてさっさと帰れ」
「んじゃ頼んだ」

 マシロは始めから自分の話しを押し通すつもりだった為、設計に必要な資料はまとめて用意してあった。
 それをリュックに渡して、マシロはさっさと研究施設から帰って行く。
 





「これで一通りは揃ったか」

 研究所を後にしたマシロは歩きながらそう言う。 
 マシロの目的はこれで大方片付いた。
 後はそれらが完成して届くのを待つだけだ。

「これから何をすっかな」

 新型のガンプラを作る為の用意は出来ている。
 後は待つだけである為、マシロは次の事を考えている。
 
「そろそろ、本腰を入れるとするか……」

 色々とやりたい事もあるが、今のところ興味があるとすればアイラに対するバトル指導だ。
 始めは余り乗り気ではなかったが、アイラに教える事でマシロにとっても良い復習になっている。
 今までは休憩中の片手間程度で、マシロにとっては基礎中の基礎の事しか教えていないが、そろそろ本腰を入れて指導するのも悪くないとも思っている。

「今までは少し易し過ぎたからな。少し難度を上げるか」

 マシロにとってはアイラに今までやって来た事は当たり前の事を身に着けさせる程度の事で、練習としては生温かった。
 これを機にもっと本格的に教えようと考えていた。
 アイラの練習メニューを考えていると、マシロはふと足を止めた。
 大型の模型店の店先にポスターが貼られていた。

「カップルバトルね……ふーん。飛び入りもOKか」

 ポスターにはイベントの知らせとしてガンプラバトルの小さな大会が行われると言う旨の事が書かれていた。

「カップル限定とかリア充専用かよ。けど……面白そうではある」

 マシロは軽く大会の要項を見てそう感じていた。
 大会参加の大前提として、2人組でカップルでないと参加資格自体がない。
 マシロのガンプラバトルの大会の参加経験はユウキ・タツヤと参加したタッグバトル大会と世界大会の2回くらいしかない。
 優勝する事は当然の事として、一風変わった大会に出て見るのも経験としてアリだ。

「とはいえ、カップル専用……仕方が無いか」

 マシロは携帯を取り出して電話をかける。

「何よ? 今日は別行動の筈でしょ?」

 電話に出たのはアイラだった。
 前提条件であるカップルを満たす為にはマシロは相手となる異性はいない。
 この際、アイラで妥協する為に電話をかけた。

「アイラ、俺の彼女になれ」
「は?」

 電話の向こうでアイラは困惑した声を出す。
 それも当然だ。
 一か月以上も、同じ部屋で寝泊まりをしても一度も間違いはおろか、異性として見られている事すらも怪しい相手からの突然の告白を受ければ誰だって困惑する。

「だから、カップル専用の大会に出たいから俺と付き合え」
「…………」

 マシロが正直に話すと電話の向こうでアイラは黙り込む。

「アイラ?」
「ふざけんな!」

 そして、マシロが思わず携帯を耳から話してしまう程の大声でアイラは怒鳴り、電話を切った。

「何なんだ。訳が分からん」
 
 マシロは切れた電話を見ながらそう呟いた。
 マシロからすれば正直に話している為、アイラが切れる理由は検討も付かない。
 尤も、アイラが切れるのも当然の事だ。
 アイラも今更マシロの事を異性としては殆ど見ていないだろう。
 それでも年頃の少女がいきなり告白をされて何も思わない訳が無い。
 そこに、自分の事が好きだからではなく、ガンプラバトルの大会に出る為に付き合って欲しいと言われれば誰だって怒る。

「どうした物か……手頃な奴でもいれば良いんだけどな」

 マシロは店内を軽く見る。
 どの道、参加すればマシロ一人で優勝する事は容易い。
 ならば、相手は誰も良い。
 だが、共に参加するとなればある程度の実力が無ければ自分の相方として参加する事は嫌でもあった。

「ん? あいつ……」

 店内で相方を探しているとマシロは一人の女に目を止めた。
 マシロは基本的にバトルした相手の事はバトルの内容は覚えていても相手の事は覚えていない事が多い。
 だが、相手によっては覚えている。
 将来的に伸びるファイターや面白い戦い方をするファイターなどだ。
 そして、その女の事も覚えていた。
 シシドウ・エリカ。
 以前にマシロがユキトの命令で何とかして口説こうとしていた相手だ。
 そのエリカが店内に掲示されているポスターと睨みあっている。

「よう」
「……げ」

 マシロは普通にエリカに声をかけるが、エリカの方は顔を顰めた。
 最後に会った時はマシロが世界大会で優勝した時だ。
 あの時にマシロはエリカに宣戦布告をされている。
 マシロの方は大して気にしてはいないが、エリカからすれば余り会いたくはない相手だろう。

「何でお前が……」
「お前こそ」
「アタシは母さんの実家がこっちなんだよ。で、お前をぶっ倒す為に武者修行で少しこっちに来てんの。てか、なんでアタシばっか説明しないといけないんだよ」

 エリカはこっちにいる理由を話すも、マシロの方は話す気は無いらしい。

「俺の事はどうでも良いけどさ。それに出んの?」
「いや……賞品は欲しいけど相手がいないんだよ」

 マシロは優勝が前提である為、賞品になど興味は無かったが、優勝者には賞品が贈られるらしい。
 大型の大剣とライフルとソードの複合武器が賞品として乗せられている。
 エリカはその賞品に興味があるが、マシロ同様に共に参加する相手がいない為、出るに出られないと言う状況だった。

「ふーん。ならさ、俺と出ない? 俺も面白そうだから出たいんだけど相手がいなかったんだよね」
「は? 何でアタシがお前となんか」

 マシロとエリカは共に相手がいない。
 マシロとしては賞品に興味は無く、参加自体が目的だ。
 エリカにとっては両方の賞品を手に入れる事が出来る。
 だが、エリカとしてはマシロとカップルとして参加する事に抵抗があった。

「俺達の利害は一致してるんだしさ。俺としてもレベルの低い相手と組むのは正直嫌だ。その点、エリカなら最低限の基準は満たしてるしな」

 エリカは正直なところ以外だった。
 マシロは自分の実力に絶対的な自信を持っている為、自分以外のファイターの事など眼中にないと思っていた。
 実際のところ、自分の実力に絶対の自信を持っているし、眼中にない相手の事は徹底的に相手にしないが、マシロから見てエリカはマシな方だった。
 今の実力的にはマシロの足元にも及ばないが、潜在的なセンスではマシロの記憶に留めて置くだけは持っている。

「……分かった。一緒に出てやる」
「決まりだな」

 抵抗はあるが、マシロは実力的に問題はない。
 寧ろ、自分は何もしないで優勝する事も可能とすら思えてしまう。
 流石に、マシロを完全に当てにする事はしないが、それでも相手がある程度の実力があった方が良い。
 
「で、大会に参加するガンプラはどうすんだよ。アタシ等のガンプラじゃ参加出来ないって事分かってんだろうな」
「マジで?」

 マシロは参加要項を流し読みしていたが、参加条件の一つには使用ガンプラは原則として作中の再現以外での改造を認めていない。
 マシロのガンダム∀GE-1はセブンスソードもフルアサルトジャケットも胴体部や頭部は殆ど改造していないが、それ以外は原型を留めていない。
 更には2人のガンプラは作中ではパイロット同士が恋人やそれに近い関係でなければならないともある。
 これらはあくまでもイベントとしての大会である為の制限だ。

「マジか……俺の∀GEをAGE-1仕様に戻すとしても問題はエリカのガンプラか……AGE-1のパイロットとなるとフリットか、アセム。となると相手はエミリーとロマリー……どっちもモビルスーツに乗ってない……まてよ。エリカ、お前、ディーヴァで」
「出ないって。大体、なんでそっちが基準なんだよ。マシロがこっちに合わせれば良いだけの事だろ」

 エリカはため息をつきながらそう言う。
 マシロはあくまでも自分の方を主体に考えて、エリカに戦艦での参加をさせようとしている。
 そこまで、するくらいならエリカに合わせた方が良いのは明白だが、マシロは相手に合わせると言う事を今までやって来た事がない。

「アタシのルージュを貸してやる。お前を倒す為に新しく作ったガンプラはセイバーだからな。セイバーとルージュなら参加できるだろ」

 エリカはそう言って持っていたガンプラをマシロに見せる。
 マシロを倒すと宣言したエリカは自分の腕を磨く以外に新しいガンプラの制作にも取り掛かっていた。
 それがガンダムSEED DESTINYに登場する可変モビルスーツのセイバーガンダムだ。
 セイバーガンダムのパイロットであるアスラン・ザラとストライクルージュのパイロットのカガリ・ユラ・アスハは作中で恋人同士である為、参加条件は十分に満たしている。

「ふーん。セイバーね」
「まだ、本格的に改造はしてないけどな」

 マシロはエリカの持っているセイバーの方を注目した。
 以前にバトルしたストライクルージュと比べると細かいところで出来が良くなっている事がわかる。 
 それだけでもエリカが以前より成長していると言う証明だ。

「分かった。ルージュの方を借りる」

 自分で制作したガンプラが使えないと言うのは正直なところ不本意ではあるが、使うガンプラが何であれ、マシロは負ける気は無い。
 エリカからストライクルージュを借りるとマシロとエリカは大会の参加申し込みを済ませる。








 大会はマシロとエリカが申込みをした次の日ですぐに大会の当日となった。
 開催がすぐだったのは参加申し込みが思った以上に少なく全部で8組しかいない事が原因で8組目のマシロ達が申し込んだ時点で他の参加者に連絡を入れて開催される事になった。

「参加が8組か……」
「3回勝てば優勝。ガンプラバトルをカップルでやってるリア充はそうそういないって事か」

 バトルの組み合わせの抽選も終わり、マシロとエリカはステージに置かれているバトルシステムの前に向かう。

「観客の皆さん! まさかの現役世界王者が参戦! 生で王者のバトルが見られます!」

 集まった観客に対して、大会を仕切っている模型店の女性定員が実況する。
 マシロは別に自分の素性を隠す事もしなかった為、すぐに世界大会優勝者である事が明らかになっている。
 参加申し込みをしたのは昨日の今日だが、マシロのバトルを見る為に客の数は主催者側が想定していた数よりも多くなっている。
 尤も、マシロは世界大会で世界のファイターに喧嘩を売っている為、必ずしも友好的な目で見られている訳ではない。

「使用ガンプラはストライクルージュとセイバーガンダム! しかしこれは……」

 バトルシステムにマシロとエリカはガンプラを置いた。
 エリカのセイバーは目に見えて改造はされていないが、マシロのストライクルージュは違った。
 その名が示す通り、ストライクルージュは赤色だが、マシロが置いたストライクルージュは赤でなく、トリコロールカラーでストライクルージュではなくストライクだった。
 しかし、シールドだけはストライクルージュとなっている。
 更にはバックパックがオオトリを装備している。

「これはストライクカラーのルージュ! つまり、アスキラと言う事か!」

 マシロはエリカのストライクルージュを赤い色よりもこっちの方が好みだと言う事で塗装している。
 シールドだけ塗装しな無かったのは、ガンダムSEED DESTINYの作中で一度だけ、ストライクルージュのOSの設定を弄りストライクカラーとなった事があるからだ。
 それで、ストライクルージュと言い張って参加している。
 尤も、それにより女性店員は何やらスイッチが入ったようだ。

「なぁ、マシロ……あの人、何でテンションが上がってんの?」
「さぁな。どっか腐ってんだろ」

 マシロはテンションの上がる女性店員をスルーして、GPベースをバトルシステムにセットする。
 興奮している女性店員がバトル開始の合図をするとバトルが開始される。
 バトルフィールドは山岳地帯で対戦相手のガンプラはアプサラスⅡとガンダムEz8の2体だ。
 ガンダムEz8だけは飛行能力を持たない為、ベースジャバーに乗っている。

「俺がアプサラスをやる。エリカはEz8だ」
「分かった」

 マシロはエリカにそれだけ言うとアプサラスⅡの方に向かう。

「さて……リア充は殲滅だ!」

 ストライクルージュはアプサラスⅡに対してビームライフルを連射する。
 だが、ビームはアプサラスⅡのまで弾かれる。

「Iフィールドか……当然か」

 マシロにとっては大型のモビルアーマーにはIフィールドを持たせる事は必須だが、それが出来るだけでも相手の実力はある程度は持っていると言う事になる。
 ストライクルージュはオオトリのビームランチャーを放つが、アプサラスⅡのIフィールドに阻まれる。

「ちっ……流石は鉄の子宮。硬いな」

 ストライクルージュにビームランチャー以上の火器は無い。
 アプサラスⅡは反撃のビームを放って来る。

「反応が遅い」

 ビームを回避するも、マシロは反応の遅さを感じていた。
 今までは自分が使う為の制作している為、ガンダム∀GE-1の反応速度を遅く感じる事は無かったが、このストライクルージュはエリカが作った物だ。
 どうしても、反応の遅さを感じてしまう。

「けど、その程度の事で」

 ストライクルージュはシールドとビームライフルを捨てると対艦刀を取る。
 そして、オオトリをパージするとオオトリが一直線にアプサラスⅡの方に向かって行く。
 オオトリは本体からパージされて支援機としても運用が可能である。
 オオトリはレールガンとミサイルをアプサラスⅡに撃ち込む。
 ビームはIフィールドで防げるが、実弾系の装備には効果がない。
 レールガンとミサイルの直撃を受けて、最後はオオトリがアプサラスⅡに突っ込み、アプサラスⅡは大破し地に伏した。
 一方のエリカの方もガンダムEz8と交戦を始めていた。
 ガンダムEz8はベースジャバーに乗っている為、機動力では単独で飛行が出来、変形も出来るセイバーに分があった。
 しかし、思いの他、エリカの方は手こずっていた。

「空中戦はこっちが有利なんだがな!」

 ガンダムEz8のビームをセイバーはモビルアーマー形態で回避するとモビルスーツ形態に変形して、アムフォルタスで反撃する。
 ガンダムEz8はシールドで防ぐと頭部のバルカンでセイバーを牽制する。
 セイバーはシールドで守りながらビームライフルで応戦する。

「流石は優勝候補って訳か……」

 初戦の相手は今大会ではマシロ達が参加するまでは優勝候補とされていた。
 エリカもセイバーの操縦はまだ完全な物ではない為、簡単に勝てる相手ではない。
 
「けど……アタシの目指す先に行くにはここで足踏みは出来ないんだよ!」

 エリカは意を決して、シールドを掲げながら突撃する。
 セイバーは肩のビームサーベルを抜いて、ガンダムEz8もビームサーベルで応戦する。
 互いのビームサーベルをシールドで受け止める。
 すると、上空に影が出来た。
 エリカとガンダムEz8のファイターがその影の正体を確かめる前に影が落ちて来た。
 その影はマシロのストライクルージュでスラスターを最大出力で使って上に上がってからの降下だった。
 降下して来るストライクルージュは対艦刀でガンダムEz8を後ろから切りつける。
 計算していたのは対艦刀の鼻先はギリギリ、セイバーに当たるか否かのところでガンダムEz8を一刀両断にして、落ちていく。
 ガンダムEz8を撃破したところでバトルが終了した。

「おいしいところを持ってったな」
「気にすんな」
「てか、アタシのルージュをなんて使い方してんだよ!」

 完全に良いところをマシロに持ってかれた形となったが、それ以上にマシロのガンプラの扱いにエリカは抗議した。
 ストライクルージュに装備されているオオトリもエリカが制作した物でマシロはそれを躊躇う事無く、アプサラスⅡにぶつけて使った。
 当然、オオトリは破壊されている。

「ぶつけただけじゃん。ちゃんと直すさ」

 そう言う問題ではなく、借りたガンプラの使い方としてどうなのかと問い詰めたいが、マシロを相手に一般的な常識は期待できないとエリカは直す気があるだけマシだと諦めた。
 1回戦を勝ち抜いたマシロとエリカは次の対戦相手が決まるとすぐに準決勝を始める。
 準決勝のバトルフィールドは宇宙で対戦相手のガンプラはガンダムF91とビギナ・ギナの2体だ。

「俺はビギナをやる」
「好きにしろ」

 連携を取る気なしのマシロに対して、エリカは気にすることはない。
 言ったところで大して意味はないからだ。

「さて……あんまり動けないからな」

 ストライクルージュはビギナ・ギナにビームライフルを向ける。
 今、使っているストライクルージュはガンダム∀GE-1のようにマシロの動きについて来る事は出来ない。
 その為、高速戦闘は出来ない。
 ビギナ・ギナはビームライフルとビームランチャーを連射するが、ストライクルージュは最低限の動きのみで回避しながら狙いをつける。
 そして、ビームライフルを放ち、その一撃はビギナ・ギナの胴体に直撃し、一撃で撃墜した。

「こっちは終わったから。エリカの方に行くか」

 あっさりと勝負を決めたマシロはエリカの方にガンプラを向けた。
 ガンダムF91とバトルするエリカも優勢にバトルを進めていた。
 一回戦は完全にセイバーになれていないと言う事もあったが、前回に比べて扱い方も分かって来ている。
 ガンダムF91のビームをモビルアーマー形態に変形して回避して、一気に加速、モビルスーツ形態に戻りビームサーベルを振るう。
 その一撃にガンダムF91のファイターは対応しきれなかったが、まだ微妙に狙いが反れ、ガンダムF91の右腕を切り落とした。
 右腕を切り落とされながらもガンダムF91はヴェスバーをセイバーに向けるとセイバーも反転してアムフォルタスを向ける。
 2体にガンプラがビームを撃ち合おうとする瞬間にガンダムF91の背後からオオトリがガンダムF91に激突した。

「はい。終わり」

 オオトリに突撃された事でガンダムF91は撃墜されてバトルが終了した。

「次で最後か」
「最後かじゃねーよ。また、オオトリをそんな事に使いやがって……」
「直せば問題ないだろ」

 1回戦に続き準決勝でもオオトリをぶつける為に使われて文句を言いたいが、言ったところで無駄なのだろう。
 そして、すぐに決勝戦が開始される。
 決勝戦のバトルフィールドは海上、バトル相手はアーチャーアリオスだ。
 バトルが開始されて、ストライクルージュとセイバーはビームライフルを放つ。
 だが、アーチャーアリオスは回避する。

「やっぱ早いな」
「今回はマシロの出る幕はないだろ」

 セイバーはモビルアーマー形態に変形してアーチャーアリオスを追いかける。
 だが、マシロのストライクルージュではアーチャーアリオスやセイバーの機動力にはついて行くことが出来ない。
 セイバーがアムフォルタスを放ち、アーチャーアリオスはGNアーチャーとアリオスガンダムに分離して回避する。
 元々、アーチャーアリオスはその2機がドッキングした状態である。
 2機の分離して、セイバーの攻撃をやり過ごすとセイバーの背後を取って、集中砲火を浴びせる。

「へぇ……意外とやるね」

 アリオスとGNアーチャーの動きを眺めていたマシロはそう言う。
 単純な実力で言えば1回戦の相手の方が上だが、決勝戦のファイターは2機の連携が取れている。
 少なくともマシロにはその動きを1人でやるならともかく、2人でやるのは難しい。

「流石にエリカ一人に押し付けるのも悪いな」

 エリカは上手い連携に苦戦している為、マシロも動き出す。
 
「ちょこまかと……」

 セイバーはモビルスーツ形態に変形するとビームライフルを放つ。
 だが、アーチャーアリオスは分離とドッキングを繰り返して、セイバーを翻弄する。
 アーチャーアリオスは分離して、GNアーチャーがGNミサイルの弾幕を張る。
 セイバーはシールドを掲げながらビームライフルと頭部のバルカンでGNミサイルを迎撃する。
 しかし、GNミサイルを迎撃している間にアリオスがGNビームサーベルを抜いて回り込んでいた。
 セイバーは何とかシールドでアリオスの攻撃を受け止める事が出来たが、今度はGNアーチャーがGNビームサーベルを抜いてセイバーに迫って来ていた。
 完全にアリオスの相手で手一杯である為、GNアーチャーの攻撃にまでは対処しきれなかった。
 GNアーチャーがビームサーベルでセイバーを攻撃しようとしたが、その前にオオトリがGNアーチャーに激突した。

「またかよ!」

 1回戦、準決勝に続き決勝戦においてもオオトリをぶつけて、流石にエリカもバトル中にマシロに文句を言うが、マシロのストライクルージュは降下していた。
 元々ストライクルージュには重力下での飛行能力は無い。
 オオトリをぶつける為に使ってしまえばストライクルージュは海に落ちる。

「後はお前が決めろ」

 マシロがそう言ってストライクルージュは海に落ちた。
 この程度では戦闘不能にはならないが、暫くはストライクルージュはバトルに参加は出来ないだろう。

「勝手な事言って!」

 セイバーはシールドでアリオスを押し戻す。
 アリオスを押し戻すとビームサーベルを抜いて、反撃する。
 アリオスは肩からビームシールドを出して、防ごうとする。

「舐めんな!」

 セイバーのビームサーベルがアリオスのビームシールドにぶつかる寸前に、セイバーはビームサーベルを止めた。
 そして、そのまま機体を回転させて、アリオスのビームシールドを発生させている肩のユニットを切り裂いた。

「こいつで!」

 止めに左腕のシールドを捨て、2本目のビームサーベルを抜いて、アリオスに留めの一撃を入れた。
 その一撃はアリオスを両断した事でバトルは終了した。




 大会の決勝戦が終わり、表彰式が始まる頃には観客の大半は帰っていた。
 現役の世界王者であるマシロが参加する以上は優勝者はマシロとエリカであると言う事は誰もが分かり切っていた為、決勝戦が終われば残っている理由もない。
 こうして、カップルバトルは終わりを迎えた。

「本当に良いのかよ? アタシが2個とも貰ってさ」
「俺要らないもん」

 大会が終わって賞品である大剣とガンソードを貰ったが、本来は二人で分ける為に賞品が二つ用意されていたが、マシロは元から賞品に興味は無かった。
 エリカとしても流石に二つとも貰うのは気が引けた。

「武器は持ってて楽しいコレクションじゃない。使ってこそだろ」

 ガンプラの楽しみの一つとして作ったガンプラを飾って楽しむと言うのがあるが、マシロとしてはガンプラは戦わせてこそのガンプラだ。
 その為、使い道のない武器を貰っても仕方がない。

「まぁ……マシロがそう言うならアタシが使わせて貰うけど……」

 大会自体、殆どマシロが勝ったような物で、活躍出来なかったエリカは賞品だけ貰うと言うには抵抗があるが、マシロがいらないと言っている以上、貰うしかない。
 
「アタシに負けて後悔すんなよ」
「俺が負けるとかありえないね」
「言ってろ。アタシだけじゃない。アオイだって格段に腕を上げて成長してんだ。余り余裕をかましていると足元を掬われるぞ」

 マシロは相変わらずの絶対的な自信だが、静岡ではアオイは今でも成長を続けている。
 特にアオイは自分やタクトと本当の意味で友達となった事で急激に成長している。
 そのまま成長を続ければ自分もアオイもマシロに届き勝つ事が出来ると信じている。

「やれるもんならやって見ろ。お前達が幾ら成長しようとも関係ない。俺はそれ以上の速さで進化しているから」

 アオイやエリカが成長しようとマシロには関係なかった。
 幾ら成長したところで、マシロは進化して行く。
 そうすれば差は縮まるところか開いて行くだけだ。

「とにかくだ。これだけは言っておく……今日は助かった。ありがとう」

 エリカのお礼にマシロは少し驚いていた。
 理由までは分からないが、エリカがマシロに敵対意識を持っていると言う事は気づいていた。
 今日の事も互いに利害の一致でしかない為、礼を言われる理由などない。
 だが、エリカにとっては形はどうあれ、マシロに助けられた事に代わりは無い。
 例え、それがマシロにとっては利害の一致でしかないと分かっていてもだ。
 流石にマシロに面と向かって、お礼を言うのは気恥ずかしいのか、視線を逸らしていた。

「ああ……うん」
「何だよ?」
「……何でもない。ただ、悪くない」

 マシロはそう言うが、今度はエリカの方がついて行けない。
 エリカとしては、マシロに対する感謝の気持ちを口にしたに過ぎない。
 多少、気恥ずかしい事もあり、マシロとは決して友好的な関係でもない。
 とはいえ、別にエリカとマシロはガンダムの作中における戦争をしている組織同士のような敵同士と言う訳でもない。
 倒すと言っても、マシロがファイターとしてずば抜けている為、同じファイターとして実力者であるマシロを倒したいと思っているだけで、マシロが思っている程、敵視をされている訳でも憎まれている訳でもない。
 だから、エリカにとってはマシロに感謝する事があれば、感謝の言葉を口にするのは当然の事だった。

「そんじゃ、俺は用は済んだから帰る」
「次に会うのは世界大会の会場だからな」
「そう言い切るには観客としてじゃない事を願うね」

 最後は憎まれ口を叩いて、エリカと別れるが不思議と気分が良く足取りは軽かった。
 
「ありがとうか……さて、アイラの奴を鍛えるとするか」

 マシロはネメシスの拠点に戻った後のアイラの練習メニューを考えながらホワイトベースに帰って行く。
 そして、気分が良いが故にマシロの考えた練習メニューがアイラにとっては地獄の始まりである事は、この時、マシロと別行動でパリを満喫していたアイラは知る由も無かった。
 



[39576] Battle34 「弱点」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/18 21:30
 マシロが新たなガンプラを制作する為に、自身の兄弟たちを巡る旅は終わりを迎えた。
 その帰還は約3か月程になる。
 3か月ぶりにマシロとアイラはチームネメシスの拠点の島に帰って来た。

「ようやく戻ったか」

 島に戻るとマシロとアイラはオーナーであるヨセフに呼び出されていた。
 オーナー室にはヨセフの他にバルトも二人を待っていた。
 島に付いてホワイトベースを降りた時点でアイラは初めて会った時のように無表情となっている。

「ただいま」
「それで首尾はどうなんだ? 納得の行くガンプラは作れそうなのか?」

 ヨセフは旅の事よりもそっちの方が聞きたかった。
 マシロが次の世界大会用の為に制作するガンプラはネメシスが優勝する為には重要となって来る。

「決勝に間に合わせる事が限界みたい」

 マシロも隠す必要も無い為、現状を素直に話した。
 余り良くない状況にヨセフは顔を顰めるが、その反面、ヨセフの横にいるバルトは少し嬉しそうだ。
 マシロの新型が間に合わなければ、その分、フラナ機関が送り出して来たアイラの活躍の場が増える。
 そうなれば、ヨセフからの評価も変わって来る。

「それで、アイラの指導はどうなんだ? まかさ、3か月も連れまわして何の成果もなかったとは言わないだろう?」

 結果が思わしくない事を言い事に散々、フラナ機関の予定を狂わしたマシロに対し、バルトは嫌味も込めてそう言う。
 だが、マシロは気にした様子はない。

「その事なんだが、ガウェイン以外でチームのファイターを全て貸して欲しい」
「どういう事だ?」
「アイラに本格的な練習をさせる為に必要なんだよ」

 マシロは自分の用事も済んだ為、本格的にアイラを鍛えようとしていた。
 その練習の為にガウェインを除いたネメシスのファイターを全て使いたかった。

「説明次第だ」
「練習は簡単。今日からアイラにはひたすらバトルをして貰う。相手はガウェインを除いたネメシスのファイター全員とだ。期間は3か月。その間、ファイター達にはアイラに何度も挑んで貰う。アイラにはバトルを拒否する権利はない。但し、一日100勝をノルマとし、クリアすれば拒否する事も許可する。そんで、一日の最後に俺がガンプラの修理とメンテをするけど、それ以外は全てアイラ自身がやる事。必要な道具やパーツはチームから支給させるけど、手伝いの人員はチームやフラナ機関から使う事は一切禁じる。バトルが終わる度にレポートを俺に提出、一回の提出忘れで一か月期間を延長する」

 マシロは次々とアイラの練習メニューを告げる。
 ヨセフは顔色を変える事は無いが、その無茶苦茶な内容にバルトは顔を青ざめている。
 顔にこそ出さないが、アイラも同様だ。

「最後にこれが重要。その間に一度でも負けたらチームを去れ」
「何を馬鹿な事を!」

 最後の条件にバルトがついに口を挟んだ。
 幾ら練習とはいえ、たった一度の敗北でアイラをチームから追放するなど無茶も良いところだ。
 一か月を30日として計算すると、一か月で3000回、3か月で9000回のバトルを行い、尚且つ全て勝利しなければならない。
 その上で毎回、レポートを提出しなければならず、一回の忘れに対して一か月の期間延長すると言う。
 更には一日の最後にマシロがやってくれるとは言っても最低100回のバトルでの損傷はアイラ一人で直さなければならない。
 被弾しなければ修理の必要はないが、ガンプラを実際に動かしていると都合上、バトルの回数が増えれば関節部などは消耗して来る。
 そこに回数を重ねる事で疲れが溜まればアイラでも厳しいだろう。
 
「幾らチームのエースだろうとそこまでの権限は……」
「許可しよう」

 抗議するバルトを遮りヨセフが許可を出した。
 
「しかし! オーナー……流石に彼の条件は……」
「負けなければいいだけの事だろ? それに世界大会ってのは一度の敗北で終わるって事も珍しくはないんだよ」

 世界大会は予選ピリオドと決勝トーナメントの2つに分けられる。
 決勝トーナメントはその名の通りトーナメント戦で一度の敗北で終わりとなる。
 予選ピリオドは8つのピリオドからなるポイント制だ。
 各ピリオドは観客を飽きさせないように、毎年のように様々なルールや形式で行われる。
 その中で各ピリオドで定められた条件を満たす事でファイターにポイントが振り分けられる。
 そのポイントの獲得数が多い上位16名が決勝トーナメントに駒を進める事が出来る。
 一見、一度や二度程度ポイントを落としたくらいでは挽回が出来るように見えるが実際は上位16名の大半は全勝で勝ち抜けている。
 その為、予選ピリオドにおいて、1つ落とすだけでも決勝トーナメントに進める可能性は格段に落ち、2つ落とせばまず勝ち進めないシビアな戦いが毎年のように繰り広げられている。
 ルールも単純なバトル形式から変わり種と多種多彩で本来は決勝トーナメントで上位に勝ち進めるだけの実力を持っていても、変わり種の種目でポイントを逃してしまい、予選ピリオドで敗退するファイターも毎年出て来る。
 単純なバトルの実力はあって当たり前でどんなルールだろうと、対応する事が世界大会で必要とされる強さと言っても良い。
 つまり、世界の頂点を狙うのであればどんな条件や状況だろうと勝たなければ生き残る事は出来ない。

「問題ありません。勝てば良いだけの事でしょう」
「しかしだな……」
「俺とガウェインがいないだけ有難いだろう」

 マシロがガウェインを除くと言ったのは、ガウェインも含めてしまえば1か月も待たずにアイラはどこかでガウェインに負けると考えているからだ。
 その点、ネメシスには自分とガウェインを除けば準世界レベルが関の山で世界レベルのファイターはいない。
 
「文句を言っても中間管理職のアンタじゃどうにもならないんだ。どの道、勝ち続ければ良いだけの簡単な練習なんだからさ」
 
 尚も納得の行かないバルトにそう言う。
 マシロにとってはバトルで負けないと言う事は当たり前の事でしかない。
 どの道、ヨセフが認めた以上は、バルトが抗議したところで決定が覆る事は無い。
 
「ちなみに練習は今日からだから」

 こうして、アイラの地獄の3か月が始まった。










 練習開始から1週間が経過した。
 始めこそは一日100回のノルマとそのバトルレポートに苦戦するも、元々の実力差が圧倒的である為、一週間もすればアイラも序盤と終盤の戦い方が分かり余裕も出て来た。
 次のバトルの相手はイージスガンダムだ。
 イージスはビームライフルを連射して、ある程度の距離を詰めると両腕からビームサーベルを展開して接近戦を仕掛ける。
 
「その程度の動きで……」

 イージスのビームサーベルをサザビー改はギリギリのところで回避する。
 ビームサーベルを回避されたイージスは右足を蹴りあげる。
 
「無駄よ」

 粒子の動きからそれを見えていた為、サザビー改はシールドで受けようとした。
 しかし、シールドで受ける前に、イージスの足からビームサーベルが展開した。

「っ! そんなところに」

 粒子の動きからはイージスの動きは蹴りの動作でしかなかった為、足からビームサーベルが出せると言うのは完全に予想外の事だった。
 イージスの足のビームサーベルはサザビー改の頭部を切り落とすが、すぐに至近距離からサザビー改にロングビームライフルを撃ち込まれてイージスは撃墜された。
 ガンプラの修理の経験のないアイラは、その日のバトルはサザビー改は頭部がない状態で戦う事となり、これを好機と何人のファイターが挑むが結局、アイラを負かす事は誰も出来なかった。




 訓練から一か月、この頃になると一回のバトルに使う時間が短くなって来ていた。
 時間をかければかける程、体力も使う為、速攻でバトルを決めて速い段階でノルマを達成すれば体を休める時間も増える。
 そんなアイラの次のバトル相手はセラヴィーガンダムだった。

 サザビー改はロングビームライフルを連射しながら、セラヴィーに突っ込む。
 セラヴィーは両手のGNバズーカⅡを両肩のGNキャノンに接続したGNツインバスターキャノンを放つ。
 サザビー改はシールドで受け止めながら突っ込んだ。
 そして、ビームナギナタで切りかかる。
 セラヴィーはGNフィールドで防ごうとするが強引にビームナギナタで押し切る。
 ビームナギナタがセラヴィーを切り裂くが、セラヴィーの膝のGNキャノンから隠し腕と共にビームサーベルが突きだされた。

「また、そんなところに……」

 サザビー改はギリギリのところで回避するが、ビームサーベルはサイドアーマーを破壊する。
 そして、セラヴィーのバックパックが稼動する。
 バックパックが変形して、もう一機のガンプラであるセラフィムガンダムへと変形する。

「そんなところにも……」

 セラフィムは腕をGNキャノンに変形させると、セラヴィーを切り裂いている途中のサザビー改にGNキャノンを放つ。
 とっさにセラヴィーを盾にして、サザビー改はファンネルを飛ばす。
 セラフィムの攻撃でセラヴィーが破壊される間に、ファンネルがセラフィムを囲い全方位からの集中砲火によりセラフィムを撃墜した。
 その様子をマシロはモニターしていた。
 アイラの行ったバトルは全て録画されており、マシロはリアルタイムとアイラが書いたレポートを見ながら見直していた。

「一か月で全然進歩してないな」

 それがマシロの素直な意見だった。
 この一か月でアイラはいかに修理なしで回数を重ねるやり方を身に着けつつあるが、マシロから見れば全く進歩していない。

「今日もやってんな。今、何勝目だ?」
「さぁ? 大体60勝くらいだな」

 モニター室に、アイラの練習から外されて他のファイターは打倒アイラで手一杯である為、練習相手のいないガウェインが入って来る。
 すでにガウェインもアイラが何をやらされているのかは聞いている。

「これ見てみ」
「……何だこりゃ」

 マシロは持っていた紙の束をガウェインに見せる。
 それを見たガウェインは内容を殆ど理解出来てはいない様子だ。

「アイラの奴に書かせたレポート。ふざけてんだろ?」
「これがか?」

 流石にすぐには信じられなかった。
 マシロはアイラに書かせたレポートだが、内容が酷かった。
 レポートと言う体は成してはいるが、相手のガンプラは名称ではなく外見や印象などで書かれている事が多い。
 ファイター達には外見が変わる程の改造を禁止している為、単純にアイラは相手のガンプラの名前を知らないだけだ。
 その上で内容は簡単な結末くらいしか書かれていない。

「俺は俺の視点からしかアイラのバトルを見る事は出来ないからな。だから、アイラの視点のバトルを知る為に書かせたんだが、意味がない」

 マシロがアイラに書かせたレポートの意味は大きく分けて二つある。
 一つはアイラが自分のバトルを客観的に見直す為だ。
 もう一つはアイラの視点からのバトルをマシロが知る為だ。
 どうやっても、マシロは自分の視点からしかバトルを見る事は出来ない為、アイラが自分のバトルを客観視して書いたレポートを見る事で多少は、アイラの視点のバトルを見る事が出来る。
 同じバトルでもファイターによって見えている物は違ってくるからだ。
 だが、アイラの書いたレポートは取りあえず、書けと言われたから書いた程度の物だ。

「だったら言ってやれば良いだろ?」
「言ってどうなるってレベルの話しでもなさそうなんだよな」

 マシロはアイラと共に行動する中で多少なりとも、アイラの事は見て来たつもりだ。
 
「アイツさ、俺達と違ってガンプラバトルをやっているんじゃなくてやらされているって感じがするんだよな」

 マシロも今でこそ、ガンプラバトルで勝ち続ける事を義務つけられているが、今のクロガミ一族になった事もガンプラバトルを始めた事も誰に強制された事じゃない。
 自分でやりたいから進んだ道だ。
 それは程度の問題がどうあれ、ガウェインや大抵のファイターに当てはまる事だろう。
 自分でやりたいと思ったから強くなろうとする。
 だが、アイラの場合は事情が少し違っているように感じた。
 詳しい事情はマシロは興味がないが、アイラはガンプラバトルをやりたくてやっている訳ではないようだ。
 それは、行動を共にしていた中でも、マシロが自由にしていいと言った時、アイラがガンプラに触れていた時間は殆どない。
 自主練をさせても、集中力が長く続かないなど、明らかにアイラはガンプラバトルに対する熱意が絶対的に足りてない。

「そんな奴に何を言っても意味し、成長もない。それでも、実力はあるから3か月間で負ける事は無いだろうけど」

 本人の熱意に実力が比例する訳ではない。
 幾ら、熱心に練習を繰り替えいても、ファイターとしての芽が出ないファイターも居れば、アイラのように本気で練習をせずともファイターとして実力を付けるファイターもいる。
 
「取りあえず、残りの2か月は様子見も兼ねてこのままやらせるけど、アイラ自身が変革しなければ多少は強引な手を使わないと駄目だな」
「ふん。アイツの事はどうでも良い。後、2、3か月で世界大会の地区予選が始まり出すんだ。それに備えて練習相手を探していたんだが、お前のせいで見当たらないんだが、どうしてくれる」
「仕方が無いな。俺が相手をしてやるよ」

 ネメシスのファイターはマシロの指示でアイラの練習に駆り出されている。
 チーム外のファイターとのバトルは自信の情報を流出しかねない為、この時期には極力避けたい。
 マシロとしても少々、退屈していた為、ガウェインの相手をする事にした。





 練習開始から2か月。
 この頃になると、ネメシスのファイター達も、単純に回数を重ねても正面から攻めたところでアイラに勝ち目がないと言う事を悟り始める。
 それと同時にアイラは一度の敗北も許されていないが、他のファイターは何度負けようとも挑戦が許されている。
 その中で、気づき始めている。
 アイラはバトルの腕はずば抜けているが、その反面、ガンダムやガンプラに関する知識は皆無なのだと。
 アイラは通常バトルでは無敵とも言えたが、何度か危うい場面がある。
 その場面は外観からは予測し辛いギミックによる物だ。
 ファイター達はガンダムに関する知識は相当な物である為、そんなギミックは当然始めから知っている物だと言う前提だったが、知識がないのであれば十分に使える物だと気付き、その情報は瞬く間に拡散した。
 そんな、ガンプラを用意しアイラのバトルが続く。
 次の対戦相手のバウだ。
 バウはビームライフルを連射するが、サザビー改は簡単に回避して、ビームナギナタで接近戦を仕掛ける。
 ビームナギナタでバウを胴体から切断しようとするが、バウはバウ・アタッカーとバウ・ナッターに分離して攻撃をやり過ごす。

「分離した……」

 そして、バウ・ナッターをサザビー改に特攻させる。
 サザビー改はバウ・ナッターを拡散ビーム砲で撃墜すると、バウ・アタッカーはサザビー改の背後を取り、攻撃するも決めてにはならずにサザビー改のロングビームライフルで敢え無く撃墜された。



 3か月目にもなると、アイラの不意を付く作戦もネタ切れ寸前となって来た。
 その頃になると、ひたすら挑んで偶然の勝利を当てにするも、そう都合よくはいかない。
 結局のところ、アイラは3か月の間、一度も負ける事は無かった。

「どーよ!」
「格下相手に連勝したところでなぁ」

 アイラは3か月間、全勝しマシロに対して若干の疲れを見せるも得意げにしている。
 マシロからすれば、アイラの実力ならこの程度は出来て当たり前だと思っている為、驚きも何もない。

「言われた通りに全部勝ったじゃない」
「相手が弱かったからな。うちのチームは俺とガウェイン以外は良くて準世界レベル。ガウェインに一度でも勝つ事が出来たお前なら勝って当たり前なんだよ」

 言われた通りに勝ち続けたのにこの言われようでは、アイラも面白くはない。
 得意げな表情から一変、ムスっとするが、マシロは続ける。

「だから見せてやるよ。最強ファイターのバトルって奴をな」
「見せて貰おうじゃない!」
「そんじゃ、出かけるぞ」

 アイラはここでマシロの実力を見せるものだと思っていたが、どうやら違うようだった。

「目的地は世界レベルのファイターを多く輩出しているらしい。ガンプラバトルのメッカ。ガンプラ塾だ!」
 



[39576] Battle35 「勝利の重み」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/25 07:36
 ガンプラ塾……PPSE社が出資の元、二代目メイジンカワグチが開校しているガンプラのビルダー及びガンプラバトルのファイターを育成する専門機関。
 入塾する為にも世界に通用するレベルの技術が要求され、そこからメイジンの方針で徹底的な弱肉強食を基礎理念とした競争が繰り広げられていた。
 マシロはアイラを連れてガンプラ塾に来ていた。
 マシロも以前からガンプラ塾の存在は知っていた。
 だが、マシロは基本的に集団行動をする気は無く、必要が無ければ他者から教えを請うと言う事をしなかった。
 そんな事をしなくても、クロガミグループの力があれば、ガンプラ塾と同レベルの環境で実力を磨く事が出来たからだ。

「前にここに来ようとした時はタイミングが悪かったから結局来なかったんだよな」

 ガンプラ塾で学ぶ気は無かったが、数年前にマシロはガンプラ塾に来ようとしていた。
 理由はここのファイターとバトルする為だった。
 ガンプラ塾で腕を磨いているファイターの実力はチームネメシスのファイターよりも全体的に上だ。
 だが、結局来る事は無かった。
 当時、マシロがバトルしたかったファイターの筆頭であった、ジュリアン・マッケンジーが塾を止めた事が原因だった。
 ジュリアンは三代目のメイジンカワグチの筆頭で、同年代では頭一つ抜けた実力を持っていると、マシロは耳にした。
 そんなジュリアンとバトルする為に、ガンプラ塾に来ようとしたが、その前にジュリアンは塾を止めて、ガンプラバトル自体を止めてしまった事もあって、マシロはガンプラ塾に来る気が失せた。

「頼もー!」

 マシロはガンプラ塾の門を力強く開いた。
 始めは何事かと、塾生たちはマシロの方を見ると次第にざわつき出す。
 マシロが町で歩いていたところで、騒ぎはまず起きないだろう。
 世界王者とは言ってもマシロは玩具のバトルの世界王者に過ぎない。
 一般的な知名度は低い。
 だが、ここにいる者達は皆、ガンプラバトルで世界一を目指している。
 その為、ここにいる者達の中で現世界王者であるマシロの顔を知らない者はいる筈もない。
 そして、マシロはインタビューの時に全世界のファイターに対して喧嘩を売っている。
 当然の事、マシロの事を良く思わないファイターも大勢いる。

「本日はどのような……」
「メイジンを出せ」

 以前にアポすら取らずに来ている為、塾の受付嬢がマシロの用件を聞こうとするが、マシロは最後まで聞く事無く、用件を伝える。

「メイジンは少々、出ていまして……」
「戻って来るまで待たせて貰う。丁度、暇つぶしの相手には困る事は無いみたいだしな」

 当然、やって来ていきなりメイジンを出せと言うマシロの物言いに塾生たちは明らかに歓迎ではなく、敵意を見せている。
 
「相手をしてやるよ」

 マシロはガンプラを出して、塾生たちを挑発する。
 そして、すぐにマシロはバトルシステムの元まで案内された。
 マシロが来た事はすぐに、塾全体に知れ渡り、マシロとバトルする為に塾生たちの行列が出来上がった。

「アイラ、良く見ておけよ。世界最強のファイターのバトルと、勝つ為に必死こいている奴らのバトルをな」

 マシロのセコンドにアイラが付いていた。
 外からバトルを見るよりも、マシロのセコンドに付いて見た方がバトルの状況が良く分かるからだ。
 余り目立つ事は避けるように言われていたが、塾生たちはマシロの方に注意を向けている為、アイラの事は誰も気にしてはいない。
 マシロがGPベースをセットし、ガンプラをバトルシステムに置いた。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 セブンスソード。出る」

 マシロのバトル相手のガンプラはガンダムアストレイゴールドフレーム天だ。
 ゴールドフレーム天はミラージュコロイドを展開して姿を消した。

「マシロ! う……」

 アイラは以前、アメリカで同じようにミラージュコロイドを使って姿を消すガンプラとバトルしている。
 アイラはプラフスキー粒子を肉眼で見えている為、意味を成さなかったが、マシロには粒子が見えていない。
 その為、アイラはゴールドフレーム天が背後に回り込んでいると言う事を警告しようとするが、アイラの警告よりも先にガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開し、背後を切りつける。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの一閃は正確にゴールドフレーム天を切り裂いていた。

「うそ……」
「姿を消してたって、微妙にバトルフィールドが歪んでいるからな。それを見逃さなければ対処は出来る」

 マシロはアイラに説明をする。
 マシロにはアイラのように粒子を見る事は出来ない。
 だが、人並外れた目の良さで、マシロはミラージュコロイドで消えているゴールドフレーム天の位置をバトルフィールドの微妙な歪みから把握していた。
 マシロは簡単に言うが、肉眼でそんな事は並の人間では不可能な芸当だ。
 ゴールドフレーム天が撃墜されると、ファイターが変わりバトルフィールドも変更され、次のバトルがすぐに開始される。
 今度のバトル相手のガンプラはザクⅢだ。
 ザクⅢはビームライフルをガンダム∀GE-1 セブンスソードに連射するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは簡単に回避して、Cソードを振るう。
 ザクⅢはビームライフルに付いているヒート剣でCソードを受け止める。
 
「流石ガンプラ塾の生徒ってところか、内の連中なら今の一撃で半分は終わってたよ」
「チャンピオンだからって!」

 ザクⅢはフロントスカートに内蔵されている隠し腕のビームサーベルを使おうとするが、その前にガンダム∀GE-1 セブンスソードは膝蹴りでフロントアーマーを蹴り飛ばす。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルでザクⅢを撃ち抜いて撃破した。
 2人目を倒すとすぐに、次の相手がガンプラを置いた。
 今度の相手はガンダムAGE-3 ノーマルだ。
 ガンダムAGE-3はシグマシスライフルを撃って、ガンダム∀GE-1 セブンスソードを牽制する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで反撃する。
 そして、接近すると、シールドのビームサーベルで切り裂く。
 だが、ガンダムAGE-3はコアファイターとGセプターに分離した。
 Gセプター分離した状態で変形せず、シグマシスライフルをガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けるが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはGセプターを踏みつける。

「Gセプターを踏み台に!」

 Gセプターを踏み台に、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは加速して、コアファイターに追いつくとシールドのビームサーベルでコアファイターを両断し、踏み台にされた事で体勢を崩していたGセプターにショートドッズライフルを撃ち込んで破壊する。
 3人目に勝利し、4人目のファイターとバトルするも、マシロは簡単に勝利し、それが何度も続いた。
 マシロに挑むファイターはことごとく勝利していく。
 それが数時間も続くが、塾生たちの勢いは止まる事は無い。
 その中には一度や二度も挑戦するファイターもいたが、マシロに勝つ事はおろか、数分以上も持ち堪えたファイターはいない。

「情けない。それでも名誉あるガンプラ塾の塾生か」

 マシロとのバトルで相手にならない事に痺れを切らした塾の講師が生徒を押しのけてバトルシステムを挟んでマシロの前に立つ。

「今度はアンタが相手?」
「俺は塾生程、甘くないぞ」

 講師はバトルシステムにガンプラを置いた。
 相手のガンプラはクシャトリヤだが、微妙に改造されている。
 左腕がクシャトリヤ・リペアードと同じハイパービームジャベリンとなっており、右手にはビームガトリングガンを2基装備している。
 今までのファイターとは違い細部の出来も違うと言う事が見て取れる。
 それだけでも、ガンプラ塾の講師が塾生よりも頭一つ抜けていると言う事が分かる。

「関係ないな」

 だが、マシロからすれば少しの違いでしかなかった。
 そして、バトルが開始される。
 バトルフィールドはオーソドックスな宇宙だ。

「行って来い。ファンネル」

 バトルが始まってすぐにクシャトリヤはファンネルを展開する。
 ファンネルはガンダム∀GE-1 セブンスソードを囲むように展開して、全方位からビームを放つ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは最低限の動きとシールドでファンネルの攻撃を防ぎつつ、胸部のビームバルカンでファンネルの数を減らしていく。

「やるな。流石はチャンピオンだ」
「アンタもね。少しはウチのルーキーにファンネルの使い方を見習って欲しいよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードを囲み全方位からビームを放っていたファンネルだが、数基のファンネルがガンダム∀GE-1 セブンスソードに向かって飛び出して来る。
 相手のクシャトリヤのファンネルは全てがビームを撃つタイプではなかった。
 見た目こそは同じファンネルの中に何基かはミサイルのように使う改造ファンネルを仕込んでいた。
 その改造ファンネルが普通のファンネルのビームに合間を縫ってガンダム∀GE-1 セブンスソードに襲い掛かる。
 迫るファンネルに対してマシロは冷静に対処する。
 一気に加速して、通常ファンネルのビームの檻から飛び出ると追って来た改造ファンネルをショートドッズライフルで迎撃する。
 何基かはそれで撃墜し、残った改造ファンネルをシールドのビームサーベルで切り裂いて破壊した。
 だが、その隙にクシャトリヤは回り込みガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近し、左腕のハイパービームジャベリンを突き出して来る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止めるが、クシャトリヤは勢いに任せてガンダム∀GE-1 セブンスソードを押し込む。

「これがファンネルの正しい使い方の一つだ。覚えておけ」
「何、悠長な事言ってるのよ」

 クシャトリヤに押されている状況だが、マシロは余裕な態度を崩さない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはスラスターを最大出力で使い、勢いを殺した上でCソードでハイパービームジャベリンを押し返す。
 次にシールドのビームサーベルを振るうが、クシャトリヤは4枚のバインダーの1枚を盾のように使って受け止めた。
 バインダーに当たったビームサーベルは、バインダーを切り裂く事は無く弾かれた。

「Iフィールドか」

 相手のクシャトリヤの4枚のバインダーの全てに特殊塗装によるIフィールドの機能が組み込まれている為、ビームサーベルで切り裂く事は難しい。
 クシャトリヤはバインダー内のサブアームのビームサーベルを突き出すが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはサブアームを蹴ってサブアームを折る。
 
「逃がすか!」

 クシャトリヤはビームガトリングガンをガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けて放つ。
 距離が近い為、この攻撃は回避出来ないかと思われたが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはスラスターを使って反転するかのように、クシャトリヤの背後に回り込んで回避した。
 そして、Cソードを振るう。
 Cソードはクシャトリヤのバインダーを1枚切り裂くが、残っていたファンネルの攻撃で追撃が出来ずに距離を取って、ファンネルをショートドッズライフルで撃墜する。
 
「講師と言うだけあって少しはやるみたいだけど、この程度か……まぁ、いい暇つぶしにはなったよ」
「ぬかせ!」

 クシャトリヤはバインダーのメガ粒子砲を放つが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは軽々と回避して距離を詰める。
 ある程度、距離を詰めたところで、拡散メガ粒子砲を撃つも、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドを使いながら最低限の回避行動で回避する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの間合いに入ったところでガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを振るう。
 クシャトリヤはバインダーで守ろうとするが、Cソードは易々とバインダーを切り裂く。
 完全に懐に飛び込まれたクシャトリヤは胸部のマシンキャノンでガンダム∀GE-1 セブンスソードを追い払おうとするも、威力の小さいマシンキャノンを完全に無視したガンダム∀GE-1 セブンスソードは腰のショートソードを抜くとクシャトリヤの頭部に突き刺す。
 最後にシールドのビームサーベルを最大出力で展開して横に振り抜いた。
 ビームサーベルがクシャトリヤの胴体を真っ二つに両断した。

「くっ……」
「さて……こっちはアップが終わってるけど、アンタはどうする?」

 バトルが終わりマシロがそう言う。
 その先には赤いマフラーの人物、二代目メイジンカワグチがいた。
 周囲のファイター達もメイジンの存在に気が付くと彼の前に道が出来る。

「成程、何か騒ぎが起きていると思えば、また貴様か」
「酷い言われようだな。ファイター同士、目が合えばバトルするのは常識だろ?」

 この騒ぎを起こした原因は紛れもなく、マシロにあるがマシロは気にした素振りは無い。
 
「まぁ良い。それで私に用とは?」
「今日はウチの新人教育に来たんだよ。で、アンタにはその生け贄になって貰う」
 
 マシロがそう言うと、マシロについて来たアイラの方をメイジンは一瞥する。
 アイラは反射的に目を逸らす。
 アイラでもメイジンの実力が一流であると言う事は肌で感じ取れる。
 アイラを一瞥したメイジンはバトルシステムの前に立つ。
 メイジンを生け贄にすると言う発言で、塾生たちは野次を飛ばすが、メイジンは相手にしていない。
 マシロの態度が挑発的だと言う事は世界大会で分かっている事だ。一々相手にしたところで相手のペースに乗せられるだけだ。
 メイジンはGPベースをバトルシステムにセットするとガンプラを置いた。

「二代目だけに第二世代のアストレアの改造機か」

 メイジンがバトルシステムに置いたのがガンダムアストレアの改造機ガンダムアストレアF3だ。
 ガンダムアストレアはガンダムOOのファーストシーズンの主人公機であるガンダムエクシアのベースとなった第二世代のガンダムだ。
 そのアストレアを改造したアストレアF2を更に独自の改造を施したのがメイジンの使うアストレアF3だ。
 メインにはアストレアF2を使い、バックパックにはダブルオーガンダムの物をベースに両肩にGNドライヴが来るようになっている。
 その両肩にはオーライザーの翼が装備される事で機動力と攻撃力を強化している。
 右腕にはGNソードⅡブラスターを装備されている。
 左腕には4基のGNフィンファングと先端にGNハンマーの付いたシールドにカートリッジが4つに増設されているNGNバズーカ、両腰のサイドアーマーにはGNソードの刃を流用して制作されている大型のGNブレイドとリアアーマーにビームサーベルが2基、右足にはハンドミサイルコンテナ、左足にはGNビームピストルのホルスターと全身にあらゆる距離での戦闘が可能な装備がされている。

「思い上がった小僧に引導を渡してくれる」
「アンタの時代は終わりにしてやるよ。今日、ここでな」

 互いに準備が出来たところで、現役の世界王者と二代目メイジンカワグチの世界最強クラスの二人によるバトルが開始された。
 バトルフィールドは今回も宇宙となっている。
 バトル開始早々、メイジンのアストレアF3がGNソードⅡブラスターで長距離狙撃を行う。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは回避しながら距離を詰めていると、GNソードⅡブラスターの射撃の合間にNGNバズーカからビームが放たれる。
 NGNバズーカは作中設定ではカートリッジを変える事で実弾だけではなく、ビームを撃つ事も可能とある。
 アストレアF3のNGNバズーカはビーム用のカートリッジが2基と実弾用のカートリッジが2基の計4基のカートリッジを搭載する事で、バトル中にビームと実弾を切り替える事が可能だ。

「近づけさせない気か」
「凄い……完全にマシロを抑え込んでる」

 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードは近接戦闘を重視している。
 近接戦闘を避けると言うのは近接戦闘型に対する対処法のセオリーだ。
 アイラもガンダム∀GE-1 セブンスソードに対して何度も距離を取っての射撃で足止めを狙うが、マシロの操作技術でギリギリのところで防ぐか回避されて失敗して来た。
 だが、メイジンはマシロの回避先を予測しての時間差攻撃で完全にマシロの足を止めさせて回避に専念させている。

「やるね」
「そのままガンプラの性能を活かせぬまま落ちるが良い!」
「嫌だね」

 足止めをさせられていたガンダム∀GE-1 セブンスソードは多少強引に距離を詰め始める。
 アストレアF3は後退して距離を保つ。
 だが、重装備であるアストレアF3よりも機動力重視のガンダム∀GE-1 セブンスソードの方が機動力は高い。
 ビームを回避してはいるが、次第に距離が縮まって行く。
 アストレアF3は両肩のバインダーからGNマイクロミサイルを放ちながら、GNビームマシンガンを使う。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはGNマイクロミサイルをショートドッズライフルで迎撃しながら、アストレアF3の攻撃をかわす。

「高出力ビームの次は弾幕で足止め。メイジンを名乗る癖してやってる事がセコイよね」
「勝つ為にあらゆる手段を使うのは当然の事だ」
「同感だね」

 アストレアF3の攻撃をシールドを掲げながら、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは強引に突破しようとする。
 時折、GNソードⅡブラスターとNGNバズーカからの高出力ビームが飛んで来るが、そのビームは流石にシールドでは防ぐ事は難しい為、回避する。
 そうやって、距離を詰めてようやくガンダム∀GE-1 セブンスソードの射程に入る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで反撃を行うが、アストレアF3はGNフィールドで防ぐ。

「GNフィールドか……まぁ、予測の範囲内ではある」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを連射するが、全てアストレアF3のGNフィールドに阻まれる。
 アストレアF3はNGNバズーカを放つ。
 放たれた弾丸が弾けてガンダム∀GE-1 セブンスソードを襲う。

「散弾まで用意してんのかよ」

 NGNバズーカの2種類の実弾用のカートリッジは1つは通常弾頭でもう一つが散弾用の弾頭となっており、それも切り替えて使う事が出来る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは散弾をシールドを掲げて守るが、広範囲に広がった弾丸を小型のシールドだけで全て守り切る事は出来ない為、被弾する。
 幸い散弾である為、威力は高くない事もあって損傷はしていない。

「やってくれるな」
「このアストレアF3はお前のガンプラとは違い、あらゆる状況やあらゆる敵に対して常に効果的かつ、合理的に優位に立つ事が出来るガンプラだ」
「成程……ずいぶんとつまらなくなったよ。アンタ」

 マシロは一息つくと目つきが変わる。
 今までは様子見であった。
 マシロは二代目メイジンカワグチとバトルする為にここまで来た。
 当然、さっきまで相手にしていたファイターとは違い、ここに来るまでにメイジンの過去のバトルを見て徹底的に研究して来ている。
 その情報は過去の物である為、今のメイジンの実力を把握する為に抑えて戦って来た。
 そして、バトルの中でマシロは今のメイジンの実力を把握した事で攻勢に転じる。

「ここに来るまでにアンタのバトルを研究して来た」

 一気に加速したガンダム∀GE-1 セブンスソードはアストレアF3を中心として球を描くように動く。
 アストレアF3はGNソードⅡブラスターとNGNバズーカで攻撃するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの速度に狙いを定める事が出来ない。

「昔のアンタのバトルには鬼気迫る物があった」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを放つが、アストレアF3のGNフィールドを突破する事が出来ない。

「けど、今のアンタにはそれがない。ただ、勝つが作業になって、執念を感じない」

 昔のメイジンのバトルは人によっては受け入れがたい物があるだろう。
 ひたすらに勝利を追い求め、その為なら悪魔に魂を売ろうとも構わないと言った勝利に対する執念があった。
 だが、今のメイジンにはそれがない。
 かつてのメイジンは勝つ為に必死が故に、そこまでの執念があったが、今のメイジンは実力を付け、経験を積んだ事で勝てることが当たり前となって慣れてしまった。
 故に最低限のリスクや効率良く相手を倒す事に長けているが、マシロは怖くない。

「知ったような口を!」
「生憎と俺はアンタが何の為に戦っているとか興味がないんでね。ただ、言える事はアンタは俺よりも弱いって事だけだ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは腰のショートソードを取ると、アストレアF3に投げる。
 ショートソードはGNフィールドに阻まれるが、弾き飛ばされる前にショートドッズライフルを撃ち込んだ。
 ショートソードは破壊されるが、その爆風をアストレアF3はモロに受ける。

「ちっ」

 アストレアF3は小回りの利かないNGNバズーカを捨てると左足のGNビームピストルを持つ。
 そして、シールドの先端に付いているGNハンマーを射出する。
 GNハンマーはシールドをワイヤーで繋がっている為、ハンマーに付いている小型のスラスターを使ってある程度は自由に操作できる。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは迫るGNハンマーをシールドを使って勢いを殺して、逆にアストレアF3に蹴り返す。
 その勢いはワイヤーとスラスターでは制御しきれ無い為、ワイヤーを切断して回避する。
 その間にもガンダム∀GE-1 セブンスソードは距離を詰めようとしている為、アストレアF3はGNビームピストルで牽制する。
 しかし、威力の小さいGNビームピストルの攻撃などマシロは全く気にも留めていない為、牽制の意味を成さない。

「アンタのバトルは確かに効率的だよ。だからこそ、動きが読み易い。本当に怖い相手ってのは形振り構わずに勝ちに来る相手の事だよ」

 メイジンのバトルは相手に合わせてより確実性の高い戦い方をする事だ。
 その戦い方自体は間違ってはいない。
 寧ろ、勝つ為には効率的だ。
 だが、効率的が故にマシロには動きが読み易い。
 自分の動きに相手が合わせてくれているような物だからだ。
 これが中途半端な実力者なら、逆に自分の読み以下の行動を取られる為、それはそれで面倒だが、メイジンは世界トップレベルと言っても過言ではない。
 その為、メイジンの動きはマシロの思った通りに動いてくれる。
 逆に効率等を完全に無視して勢いで来る為、読みが全く出来ない。
 そうなれば、マシロの反応速度を活かした出たとこ勝負となってしまう。
 反応速度に絶対的な自信を持つが、相手の動きを事前に読めるか否かでは戦い易さは大きく変わって来る。

「今のアンタには負ける気がしないね」

 アストレアF3の牽制を無視して、距離を詰めたガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを振るい、アストレアF3はGNソードⅡブラスターで受け止めるが、十分に勢いが付いていた為、CソードはGNソードⅡブラスターを切り裂いて破壊する。
 すぐにアストレアF3はGNソードⅡブラスターをパージし、GNビームバルカンで牽制しながら後退するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは追撃する。
 GNフィールドで追撃から身を守ろうとするが、CソードはGNフィールドを切り裂き、アストレアF3の片方のバインダーを切り落とす。
 アストレアF3は右足のハンドミサイルコンテナに内蔵されているミサイルを全弾放つがガンダム∀GE-1 セブンスソードは胸部のビームバルカンであっさりと迎撃される。

「この私が!」

 アストレアF3は両手に大型GNブレイドを持つと接近戦に切り替える。
 大型GNブレイドを振るい、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止める。

「金持ちのボンボンが道楽でやっているガンプラバトルと私のガンプラバトルでは背負う物が違うのだ!」
「知った事かよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがアストレアF3を弾き飛ばすが、アストレアF3はすぐに体制を整えて突撃して来る。
 2機のガンプラは互いの実体剣を振るい何度もぶつかり合う。

「トランザム!」

 アストレアF3が赤く発光する。
 ベース機にも搭載されているトランザムシステムを使用したからだ。
 本来はエフェクトだが、作り込み次第では機体性能を3倍相当まで引き上げる事の出来るシステムとして使う事も出来る。
 それによって、アストレアF3が優位に立つ。
 武装の大半を破壊されて捨てた事で重量が大幅に減った事もあり、トランザム中の機動性能はガンダム∀GE-1 セブンスソードを完全に上回っていた。
 
「当然、トランザムも使えるよな」

 トランザムを使ったアストレアF3は機動力を活かして、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに攻撃を仕掛ける。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは逆に殆ど動く事無く、アストレアF3からの攻撃に対して致命傷だけは避けている。
 だが、アストレアF3の狙いは関節部だ。
 関節部なら大きな損傷を与えずとも、多少の亀裂でも十分に効果的だ。
 特にガンダム∀GE-1 セブンスソードのような格闘戦重視のガンプラにとっては関節部の損傷は死活問題でもある。

「派手なシステムを使ってやってることは地味過ぎなんだよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで反撃するがトランザム中のアストレアF3には当たらない。

「どうするのよ?」
「トランザムに使う粒子が切れるのを待つのがベターなところなんだけどな」

 自身の得意とする高速戦闘で相手に優位に立たれているが、マシロは相変わらず余裕な態度を崩してはいない。
 逆にメイジンの方は少し焦り始めている。
 トランザムは使用中は圧倒的な性能を発揮する反面、使用可能時間を過ぎてしまうと一気に性能が低下すると言う欠点も持っている。
 何度も関節を狙った攻撃を行うも、効果的な損傷を与える事が出来ていない。
 メイジンは知らないが、マシロは独自に金属粒子を練り込んだプラスチックを作らせていた。
 その試作品をマシロはフルアサルトジャケットだけではなく、セブンスソードの関節にも使っていた。
 試作品である為、完成品に比べると強度は落ちるが、それでも多少の損傷を狙った攻撃では簡単に損傷させる事は出来ない。

「けど……そんな必要もないけどな」

 背後からアストレアF3が大型GNブレイドを振り下ろすが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはギリギリのところで回避して、逆にCソードを振り上げてアストレアF3の肩のバインダーを切り裂く。
 そして、Cソードをパージすると両肩のビームブーメランを持つ。
 
「最後に一つ忠告をしとく……もう、アンタの時代は終わったんだよ」

 ビームブーメランをビームダガーとして使い、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはアストレアF3に振り落す。
 アストレアF3は回避する間も無く、二本のビームダガーの斬撃をまともに喰らう事となった。
 その攻撃が致命傷となって、アストレアF3は爆散した。

「馬鹿な……この私が……」

 バトルが終わり、メイジンは膝をついた。
 それに伴い周囲もざわめき始めた。
 そして、マシロは自覚していないがいつも、バトル後に少なからずあった虚無感がない事に気が付いては居なかった。

「アイラ、良く見とけこれが勝ち続けることを望まれているファイターが負けるって事だ」

 アイラにはメイジンの事情は知らないが、可愛そうに思えて来た。
 周囲のファイターは皆、ガンプラ塾の塾生だ。
 そんな塾生たちは目の前で敗北したメイジンの事を何とも言えない表情で遠巻きに見ているだけだ。
 誰一人としてメイジンの事を励ます事も慰める事もしない。
 メイジンは常に絶対的な勝利を信条として、それを塾でも徹底的に教え続け、自身もそれを体現し続けて来た。
 だがらこそ、その信条に心酔するファイターも多かった。
 しかし、そんなメイジンが目の前で敗北した。
 それは絶対的な強者であったメイジンが敗者となった瞬間でもあり、負ける事など微塵も思っていなかった塾生たちからすればすぐには信じがたい光景だ。
 
「こうなりたくなければ、誰にも負けない事だ」
「……そう、ね」

 メイジンとアイラの間に関わりはないが、他人事でも無かった。
 今でこそはマシロに負けてもチームとしては、文句はない。
 だが、いずれは世界大会でマシロに勝って優勝しなければならない。
 それはチームの為ではなく、アイラをチームに送り込んだフラナ機関の思惑の為だ。
 アイラが結果を残さなければ、チームはフラナ機関を必要としなくなる。
 それ自体はどうでも良い事だが、それによってアイラは自分の生活すらも失いかねない。
 その為には、このマシロに勝つ事は必須条件でもあった。
 
「さて、これで今日の講義は終了だ。帰るぞ。次は世界大会の予選だからな。もう、エントリーは済ませてあるし」

 マシロはすでにメイジンの事など眼中にないかのように次の事を話し始める。
 マシロにとっては、すでにメイジンは興味ないのだろう。
 メイジンが負けた事で、塾生や講師もマシロに挑む気概は残されてはいない。
 その時点で、マシロの中でガンプラ塾に対する興味も失せていた。
 マシロはさっさと帰ろうとして、アイラもそれに続く。
 メイジンが負けたと言う、塾の人間には信じられない事態が起きている為、誰もマシロ達の事を気にしている余裕はなかった。
 ガンプラ塾を事実上、壊滅的な打撃を与えたマシロの頭の中ではアイラの最後の訓練の事を考えていた。




[39576] Battle36 「仕組まれた敗北」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/26 08:40
 ガンプラ塾でのバトルから一か月、マシロはアイラと共にエントリーしたオーストラリアに来ていた。
 マシロはアイラの世界大会の地区予選の場としてオーストラリアを選んだ。
 元々、大会規約では自分の国籍以外の国からのエントリーを認められていない訳ではない為、ネメシスの地元のフィンランドから出る必要はない。
 だが、何故オーストラリアだと言うアイラやバルトの疑問にマシロは答える事は無く、地区予選一回戦の前日となった。
 マシロはアイラに会場の近辺で、最高級のホテルのスイートルームを貸し切りにして、泊まらせている。
 流石にこの待遇をアイラは怪しんだが、マシロは公式戦の前に心身共に万全の状態にすると言うのもファイターの仕事だと言いくるめた。
 そして、マシロはホテルのバーにいた。
 素顔を隠す為か、大き目のサングラスをしているが、愛用の白いマフラーはいつも通りに着用している為、知っている人から見ればすぐに分かる。

「……で、俺をこんなところに呼び出した用件は何だよ? 俺は明日バトルなんだかな」

 マシロはバーで待ち合わせをしていた。
 正確に言えば、相手の都合を完全に無視して呼びつけていた。
 その相手はマシロと同じチームでもあるガウェインだ。
 ガウェインは敢えて、チームのホームではなく自分の故郷でもあるオーストラリアから出場していた。
 これは、アイラがフィンランドから出ると思っていた為、わざと出場地区をずらした為だ。
 ガウェインは去年まではネメシスのエースとして各国のファイターに知られていたが、今となってはネメシスのエースはマシロと言う事で定着している。
 そして、アイラの加入で今はネメシスのナンバー3にまで落ちている。
 その上で世界大会に出場する事が出来ないとなると、チームでの地位が完全に崩壊する。
 それを避ける為に確実に世界大会に出る為に、アイラとは別の地区から出場しようとしていた。
 尤も、それもアイラが自分と同じオーストラリア予選に出る事となって完全にご破算だ。
 更に言えば、ガウェインの一回戦の相手はアイラであった。

「まぁ、座れよ」

 マシロは椅子を指さして、ガウェインを座るように急かす。
 ガウェインもマシロが用件をすぐに話す気がないと理解し、渋々座る。

「さて、今日、君を呼んだのは他でもない」
「前置きは良いから用件だけを言えって」

 マシロは両手を肘をついた状態で組みながら、勿体ぶっている。
 
「急かすなよ。今日は良いものを持って来た」

 マシロはそう言うと、足元に置いてあった包みをバーのカウンターに置く。
 包みを開くと中には壷が入っていた。
 流石にこのタイミングで、マシロが自分に壷を渡す理由に見当が無い為、ガウェインは状況が呑み込めずにいる。

「冗談だって、ノリが悪いな」

 マシロはガウェインが乗って来ない為、少し機嫌を損ねるが、壷の中からUSBメモリーを出す。

「これをやるよ」
「何が入っている?」
「聞いて驚け、アイラのマル秘映像だ」

 ガウェインはますます理解出来なくなる。
 取りあえず分かった事は、USBメモリーの中にアイラの映像が入っていると言う事だ。
 だが、それをガウェインに渡す理由が分からない。

「騙されたと思って見て見ろよ。今夜は眠れない事を保障するぜ」

 マシロは言うだけ言うとガウェインからの質問を一切させる事無く、バーから出て行く。
 ガウェインが我に返る事には、マシロを完全に見失い、バーにはマシロから渡されたUSBメモリーと壷、マシロが待っている間に飲んだミルクの伝票だけが残されていた。












 そして、オーストラリア予選当日、会場の駐車場にはフラナ機関が用意したトレーラーが止まっている。
 このトレーラーの内部には様々な設備が整えられている。

「何でコスプレ?」

 マシロは第一声でそう言う。
 今回は公式戦と言う事で、アイラはフラナ機関が用意した専用のスーツとヘルメットを着用している。
 
「君には関係ない事だ」

 マシロの質問に対して、バルトが答える。
 いつもは、オーナーからチーム内の事でかなりの権限を与えられていると言う事もあって、マシロに振り回されているバルトだが、アイラが着用しているスーツとヘルメットの事に関してはマシロに何も話す気は無いと言う事が言葉からも分かる。
 一方のアイラも、マシロに何も話さないと言う事に後ろめたい事があるのか、ヘルメットを付けていても分かる程、視線を逸らしている。

「まぁ良いけど、サザビーの調整は済ませてある」

 マシロはアイラにサザビー改を渡す。
 アイラ専用のガンプラはすでに完成してあるらしいが、情報の漏洩を最小限に留める為、世界大会まで使わないらしい。

「相手はガウェインだが、大丈夫か?」
「問題ありません」

 アイラはバルトがいると言う事もあって感情を殺してそう言う。
 すでにアイラは一度、ガウェインに勝っている。
 あの時はマシロが用意した素組よりも少し作り込んだジェガンを使ったが、今回はジェガンよりも性能の高いガンプラを使う為、アイラは余裕だ。
 そんなアイラを見て、マシロはバルトの方に歩く。

「ちょっと、俺に付き合って貰う。アイラは一回戦は一人でバトルしといてくれ」
「何を勝手に……」
「大丈夫です。問題ありません」

 流石にガウェイン相手にアイラ一人でバトルさせる事に、バルトは反対だったが、アイラは一人で大丈夫と言い、マシロは有無を言わせない雰囲気を漂わせている。

「そいつは頼もしい。んじゃ、こいつは借りてくから」

 トレーラーにアイラ一人を残してマシロはバルトをトレーラーの外に連れ出す。
 そして、マシロがバルトを連れて来たのは、予選会場の観客席だ。
 観客席に到着すると、マシロは席に座り、バルトに座るように席を指さす。

「どういう事か説明して貰おう」
「説明も何も、アイラは一人で大丈夫だって言ってんだ。俺達はここでアイラのバトルを観戦しに来たんだよ」

 マシロは当たり前の事だと言わんばかりにそう言う。
 確かに観客席でする事はバトルを観戦する事だが、わざわざ、観客席に来てまでする事でもない。
 マシロはすでに世界大会への出場が確定している為、アイラのセコンドにはつけないが、アイラにはバルトが補佐としてつく手筈となっている。
 マシロはともかく、バルトがここに来る必要性は無かった。

「始まるぞ」

 マシロから詳しい説明がされる事なく、アイラとガウェインが会場に入って来るとバトルシステムの前に立つ。
 そして、アイラとガウェインのバトルが始まった。
 バトルフィールドは市街地となっている。
 バトルが始まり、互いのガンプラがバトルフィールドに入る。
 ガウェインのガンプラはデビルガンダムだった。
 バトルが開始し、アイラのサザビー改がバトルフィールドに入ると、サザビー改は直線的に前進する事無く、傾いて落ちていく。
 そのまま、地面に着地するがサザビー改は膝をついてしまう。

「どういう事だ? アイラは調子でも崩しているのか?」

 開始早々の操縦ミスからバルトはそう予測するが、バルトの横でマシロは面白そうにバトルを見ていた。

「違う。サザビーの重心が傾いてんの。片足に鉛を仕込んであるから」

 マシロがそう言うと、バルトはすぐには理解出来なかった。
 アイラの操縦ミスはアイラの問題ではなく、ガンプラの方にあると言う事だ。
 マシロは事前にサザビー改の片足に鉛を仕込んでいた。
 それにより、サザビー改の重心は大きくずれて、アイラはガンプラを制御し損ねた。

「事前に気づいていればアイラでも外せるようにしておいたんだけどな。アイツ、気が付かなかったみたいだな」
 
 鉛を仕込んでいる為、サザビー改はいつもより重くなっている。
 そこに違和感を覚えれば、鉛が仕込まれている事に気が付く事が出来た。
 増えた重量はある程度、サザビー改の事を理解していれば気づけるレベルで、気づきさえすれば簡単に外せるようにしてあった。
 だが、アイラは今の今までそれに気づく事は無かったらしい。
 バトルが開始されてからおかしいと言う事に気づいてところで後の祭りだ。
 そんなアイラの事情にはお構いなしにガウェインはアイラのあぶり出しにかかる。
 デビルガンダムは至るところに装備してある拡散ビーム砲で障害物を破壊にかかる。

「相手はこっちの事情なんて気にしてはくれないぞ。どうする?」

 サザビー改は飛び出して、ロングビームライフルを放つ。
 デビルガンダムは巨体と言う事もあって、回避する事は出来ない。
 だが、ビームはデビルガンダムに直撃するが、弾かれた。

「見た目が同じだからって性能が同じだとは限らない」

 以前は無かったが、ガウェインはデビルガンダムにIフィールドを搭載させていた。
 そのIフィールドがサザビー改のビームを弾いたのだ。
 デビルガンダムの攻撃を何とか回避しながら、ロングビームライフルを連射する。

「あーあ……やっちまったな」

 マシロがそう言うと、ロングビームライフルの銃身が爆発を起こす。

「今度は何が起きた!」
「あのライフルは欠陥品でさ、長距離射撃用に威力は高いんだけど、銃身の強度がそれに見合ってなくてさ。連続で撃ち過ぎるとああなる」

 サザビー改のロングビームライフルの威力は長距離の敵を狙えるように高出力となっている。
 だが、銃身の強度が足りず、連続で使い続ければ銃身が威力に耐える事が出来なかった。
 今までアイラはバトル中に連射した事が無かった為、その事は知らなかったようだ。
 今までは実力差がある相手では連射する必要が無く、マシロとバトルする時は連射する前に破壊されるか、その前に負けるかのどちらかだった。

「鉛に気づかなかったと言い、ライフルの欠陥を知らないと言い……思った以上に自分の使っているガンプラの事を理解してないようだな」

 マシロがアイラにサザビー改を持たせていたのは、暇な時にでも自分で弄る事で自分の使うガンプラの事を理解させる為だ。
 だが、アイラは持っているだけで、サザビー改の事はバトルで知った以上の事は理解していないようだ。
 ライフルが壊れた隙をついて、デビルガンダムは高出力ビームを放つ。
 それをサザビー改はシールドで受け止めるが、シールドは破壊され、サザビー改は地面に叩き付けられる。

「アレを正面で受ければそりゃそうなるわな」
「どういう事だ? 何故、アイラはこうまで押されているんだ?」

 マシロはアイラの戦い方に呆れているが、隣でバルトがマシロを睨みつけてそう言う。
 マシロにアイラを預けて半年近くになるが、半年前には圧倒出来たガウェインに今は押されている。
 バルトとしては納得が行く物ではない。

「色々と要因はある。俺も色々とアイラに教えたし、ガンプラ塾で色んなガンプラの対処法を見せた。けど、アイツはそれで理解して覚えた気になったに過ぎない。知識として増えても技量として会得した訳じゃない。聞いたり横から見ていただけでバトルが強くなれたら練習も必要ないし、苦労はないよ」

 この半年間、マシロは色々とアイラに教え込んだ。
 実際のバトルの中で指摘したり、ガンプラ塾では実演もした。
 それでアイラはそれを理解はした。
 だが、理解しただけでそれを実際にバトルで実行できるかは別だ。
 アイラは頭では理解したが、マシロに指示された以上の練習をしなかった事もあり、知識として理解しただけで、技術としては殆ど吸収していないと言う訳だ。
 マシロも何度もバトルの相手をさせたが、一度として同じ展開には持って行かせなかった為、バトル後に教えた事をマシロとのバトルの中で実践する機会は無かった。
 その為、頭ではどうするべきか分かっていても、実際のバトルの中では行う事が殆ど出来ていない。

「もう一つは勝利に対する執念。ガウェインは余り後がないからな。その上で、相手がアイラだから、勝つ為に必死になってんだよ。多分、昨日渡した奴も何度も見返して来てるな」

 アイラにとっては勝つ事が当たり前だった。
 唯一、負けたマシロはチームからのお咎めは無い。
 その為、普通にバトルすれば勝てる為、勝つ事に必死になる事は無かった。
 対するガウェインはチームでの地位を守る為に、必死に勝ちに来ている。
 マシロは昨日、ガウェインに渡したUSBメモリーの中にはアイラのバトルに関する情報が入っていた。
 ガウェインはそれを何度も見てアイラのバトルを徹底的に研究して来ている。
 アイラが幾ら粒子の流れから相手の動きを先読み出来たところで、自身の動きを完全に見切られていては完全に優位に立つ事も出来ない。
 その上で、ガンプラに細工がされている為、圧倒的に不利な状況に追い込まれている。

「何故、そのような事を? これではアイラが潰れるかも知れないんだぞ」

 今までのバトルならともかく、これは公式戦だ。
 それで負けると言う事がどういう事か、マシロが分からない訳が無い。

「必要な事だからな。アイツに最も足りてないのは勝利に対する執念だ。ガンプラバトルをやってる奴の大半はガンダムが好きでガンプラが好きな奴だ。だから、自分のガンプラが最強で自分が一番、ガンプラを上手く操れると言う事を証明する為にバトルしてる。世界大会に出て来る奴はそんな連中の中でも世界の頂点を狙えるだけのセンスを持ってる。ガンダムもガンプラも好きじゃないって時点で、アイラは大きなハンデを背負ってる事になる」

 半年間、アイラを見て来たマシロはアイラの最大の欠点はガンプラバトルに対する熱意、そして、勝利に対する執念と見ている。
 それは今までの練習態度からも明らかだ。
 なまじ実力がある分、勝利に対して執着する事は無くても勝つ事が出来ていた。
 だが、世界大会で本気で優勝を目指すのであれば、今のままでは勝ち進む事は出来ない。

「だから、多少荒療治でも知る必要があるんだよ。負ける事がどういう事なのかをな。ガンプラ塾で勝ち続ける事が出来なかったファイターの末路は見せた。そろそろ、それが頭の中でチラつく事だ」

 サザビー改はファンネルを出すが、デビルガンダムの拡散ビーム砲であっさりと全滅してしまう。
 そうすると、明らかにサザビー改の動きが鈍り始めて来た。
 ライフルとシールドを失い、ファンネルが全滅した時点でサザビー改の武器は胸部の拡散ビーム砲のみだ。
 すでに敗色が濃厚となった事はアイラも気づいている。
 そして、アイラは否応なく、ガンプラ塾での二代目メイジンカワグチの敗北した時の事を思い出してしまう。
 勝ち続ける事を義務づけられたメイジンはマシロに敗北し、惨めな醜態を塾生に晒した。
 このバトルで負ければ、今度は自分も同じことになる。
 相手は自分より弱いとして、マシロやバルトに大見得を切ったガウェインだ。
 公式戦である事もあり、負ける事が出来ないバトルで勝ち目が殆ど無くなった。
 
「マ……」
「終わったな」

 アイラはちらりと後ろを見た時点でマシロは確信した。
 このバトルでアイラの勝ち目は無くなったことに。
 恐らくは、アイラは自分を頼ろうとしたのだろう。
 この半年でマシロはアイラに様々な事を教えて来た。
 アイラは面倒がりながらも、マシロに一定の信頼を置いていた。
 故にこの状況を打破する為の策を聞こうとでもしたのだろう。
 だが、すぐに気が付いた。
 マシロはバトルの前にバルトと共にどこかに行っている。
 今は、マシロもバルトもいないと言う事に。
 自分が一人だと気付いた事で、アイラの敗北の予感も確信に変わりつつあった。
 勝算が薄くなったことで、アイラは勝利の重圧がプレッシャーとなり、アイラに重く圧し掛かる。
 何とか状況を打開しようと、頭をフルに回転させるも、思うようにはいかない。
 それが更にプレッシャーになると言う悪循環にアイラは陥っている。
 そんな状況を打開する為には冷静になる必要があるが、こんな状況は初めてである為、容易ではない。
 幾ら考えても答えは出せない事に加えて、サザビー改に細工をされている事が更にアイラを追い込む。
 サザビー改に細工を出来るのは、マシロしかいない。
 マシロが意図的にサザビー改に細工をしていた事で、アイラは本当にマシロに教えられたことが正しいかと言う疑心暗鬼に陥り更に冷静さを失わせている。

「この敗北でアイラはどん底に落ちるだろう。だが、そこで絶望するのも這い上がるのもアイラ次第だ」

 元からマシロはアイラをこのバトルで負けさせるつもりだ。
 それにより、アイラが負けた事で潰れるかも知れない。
 それでも、今のアイラに必要なのは勝利ではなく、敗北であると考えていた。
 マシロもマシロ・クロガミとして過去に一度だけバトルで負けた事があった。 
 そこで敗北を知ったからこそ、慢心する事無く強くなる事が出来た。
 後はその敗北からアイラが立ち直れるかどうかだ。
 
「くっ……アイラにはどれだけの金をかけていると……」
「知ったこっちゃないな。それはそっちの事情でアイラを育てるのはこっちの事情。やり方はボスから俺に一任されてんだ」

 バルトは今更ながら、マシロにアイラを預けた事を後悔している。
 アイラにはフラナ機関が大金をつぎ込んでいる。
 バルトもフラナ機関もそれだけの価値がアイラ