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[37503] インフィニット・ストラトス ~弱きものの足掻き~【転生オリ主】
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/05/05 20:35
前書き&警告




どうもです。

この掲示板でデジモンクロス小説を投稿している友です。

何を血迷ったか新しい小説を投稿します。

この小説は、



1.転生オリ主ものです(神様転生ではない)

2.作者初のデジモンが関係しない小説です。

3.作者初の最強じゃない主人公です。(成長系)

4.後ろ向き主人公です。

5.ハーレムではありません(ヒロインはすぐにわかります)

6.更新不定期です。



以上を注意してお読みください。




[37503] 第一話 IS学園入学初日
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/05/05 20:36
第一話




「はぁ~~~~~…………」

俺は思いっきりため息を吐く。

なぜ俺はこんな所にいるのかと、自分に問いかける。

俺の周りには、女女女。

前の方に1人だけ男子が見えるが、それ以外は全員女子だった。

なんでこうなった?

俺は、現実逃避のために、今までの人生を振り返った。






俺の名前は無剣(むつるぎ) 盾(じゅん)。

言っておくが俺は転生者だ。

とは言っても、創作小説でよくある神様転生でチート持ちというわけではない。

死んだと思った次の瞬間に気づいたら、この世界で赤子として生まれていた。

まあ、純粋(?)な転生だ。

因みに生前で覚えていることは、一般教養と趣味以外では29歳まで生きたことと、年齢=彼女いない暦であること。

若干の厨二病や色々と悪いところを自覚しつつ、それを直す努力をしようともしなかった正真正銘のダメ人間で、ついでに童貞ちゃんであったことだ。

因みに、そのダメ人間である性格は、今世の性格に、まんま受け継がれている。

故に、やる気の無い小中学校生活を送りつつも、前世の記憶により平均以上の成績を挙げている。

まあ、その気になれば、体育や音楽といった才能や、努力が必要な科目以外はトップを取れる自信はあった。

それをやれば、『天才』や『神童』などと持て囃されていただろう。

しかし、俺はそんなものではなく、ただ単に前世の記憶のお陰で予め知っていただけだ。

中学を超えれば、必ずボロが出てくるため、俺はそれをしなかった。

まあ、ただ単に期待されるのが嫌だった事も理由の一つなのだが。

俺の今回の人生設計は、前世と同じく普通に学校行って、普通レベルの高校に入学して、そこらにある中小企業に入社して、定年まで平社員として働いて、高確率で前世と同じく彼女無しの童貞を貫くことになって、そんで親より少しでも長生きして、ひとり寂しく孤独死する。

この辺りが妥当な所だろう。

そんな人生設計を赤子の頃に決めた俺は、普通より手のかからない子供として、親の元で育った。

俺の両親も、創作小説でよくある人外で無茶な修行を子供に課す、といった無茶苦茶な親ではなく、どこにでもいるフツーの優しい両親だ。

故に、俺の身体能力も並である。

俺は当初、この世界は前世よりも多少科学技術が発展していたため、ただの近未来の世界かと思っていた。

しかし、それが違うとわかったのが5歳の時。

インフィニット・ストラトスの登場である。

その時の俺は、「ここってISの世界かよ!」って思わず口に出してしまったが、よくよく考えれば、別にこの世界がISの世界でもあんまり関係ないことに気付いた。

俺の周りには織斑や篠ノ之と言った苗字は聞かないし、俺の記憶にある主要な原作キャラの苗字も聞かない。

これからISの影響で女尊男卑の世界になって行くのだろうが、前世と同じような生活を送っていれば、女と関わる事など殆ど無いため、男である俺がIS学園に関わる可能性は皆無なのだ。

そんなわけで、赤子の頃に決めた人生設計通りに俺は生活していて、特に可もなく不可もなく手のかからない生徒という普通を貫く評価を受けていた。

で、時が経つのは早く、15歳となり受験シーズンを迎えていた俺。

進学する高校は既に決めている。

それは「藍越学園」。

原作で一夏が入ろうとしていた高校だ。

ほんの僅かに原作と関わってしまうことに若干の不安を覚えたが、それを差し引いても藍越学園の位置、学費、卒業後の進路等、前世で不景気の中、安い給料で必死に働いていた俺にはとても魅力的だった。

まあ、原作キャラに会っても、特に問題は無いだろうが。

俺は、そんな楽観的な考えで受験日を迎えた。



俺は、原作の一夏と同じように迷わないために、早めに家を出て受験会場に向かう。

着いたところは多目的ホール。

入ってみて一夏が迷った理由が分かった。

道が途轍もなく解りづらい。

こりゃ迷うのも頷ける。

とはいえ、時間にもだいぶ余裕があるので特に慌てることなく受験会場を探し当て、席に荷物を置く。

流石に早く着すぎたようで、会場内には他の受験者は見当たらない。

時間を持て余した俺は、暇潰しにこの建物の中を散策することにした。

今思えば、これが運命の分岐点だったに違いない。

ここで大人しく時間まで待っていれば、こんなことには成らなかっただろう。



建物の中を散策する俺は、ブラブラと歩いていた。

時間が迫ってきているせいか、会場内に受験生の姿が増えてくる。

その時、廊下のとある所に、この世界の代名詞とも言える物が鎮座していた。

「IS…………」

俺は呟いて、そのISに近づいていく。

俺は、ロボット系とかも好きなので、多少の興味が沸く。

興味深くそのIS『打鉄』を眺めていると、

「ええい、次に見つけたドアを開けるぞ、俺は。それでだいたい正解なんだ!」

あー、確かあったな、こんなセリフ。

聞き覚え……といか、読み覚えのあるセリフを耳にして、俺は後ろを振り返る。

その時、イケメンと言える人種の男子受験生がISの横にあった扉を開けて部屋の中へ入っていった。

「もしかして、今のが織斑 一夏か?」

俺は呟いて扉の横に書かれていた表札を確認する。

『IS学園受験会場』

…………思いっきりIS学園の受験会場って書いてあるじゃねーか。

なるほど、だからこんなところにISが置かれていたわけね。

まあ、IS学園の受験会場の目印に、これ以上わかるものはないよなぁ。

って、一夏よ。

いくら慌ててたからって、こんなデカイもんを見逃すなよ。

しかし、俺はふと時計を見る。

藍越学園の試験開始までは、まだ余裕がある。

「……あいつ、時間間違えてんじゃねえの?」

俺はため息を吐き、再び会場横のISの前に立つ。

そこで、俺はそのISに何気なく触れた。

すると、突然ISが光りだし俺に装着された―――なんてことが起こる訳もなく、沈黙を保ったISが鎮座し続けている。

「…………よく考えれば、お前らも難儀な奴らだよな。 本当なら宇宙進出が目的で作られたのに、そのための必要な装備や副産物が軍事利用され、本来の目的も果たされることなく『兵器』としてのISばかりが発展して……そんなんじゃ、お前らに与えられた名が泣くよな…………『インフィニット・ストラトス』」

『インフィニット・ストラトス』―――無限の成層圏。

おそらくこの名も、この宇宙(そら)に飛び立つ願いを込めて付けられた名だろう。

ただ、どいつもこいつもISの『力』にしか目を向けていない。

まあ、それも人間の性なんだろうけど。

ISにも意思のようなものがあると知っているので、少しかわいそうに思う。

まあ、俺にはISを動かすことは出来ないし、こう思ってるのも今だけだろうからな。

と、その時、ISの受験会場内が騒がしくなってきた。

おっと、原作通り一夏がISを動かしたみたいだな。

それじゃあ、厄介事になる前に離れるとしますか。

そう思ったとき、何気なくもう一度ISを見る。

「ま、こういうのも変だけど、お前も頑張れよ。 って、俺は何を言ってるんだろうか?」

俺は、友人の肩を叩くようにISの表面を軽く叩いた。

いかん、厨二病が再発してきたか。

俺はそう思って手を離そうとして、

――キィィィィィィィィィ

共鳴するような音を立てて、ISが俺に装着された。

「………………なんでさ?」

思わず某運命の夜の主人公の口癖が、口から漏れた。





そうした経緯を経て、俺はこのIS学園一年一組の教室にいる。

周りから集中するのは視線の嵐。

俺は思わず項垂れる。

その時、

「全員そろってますねー? それじゃあSHRはじめますよー」

黒板の前でそう言うのは、このクラスの副担任である山田 真耶先生。

いつの間にか教壇に立っていた。

「それでは皆さん、一年間よろしくおねがいしますね」

そう挨拶する山田先生。

しかし、

「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」

原作通り教室の誰一人として、反応を示さない。

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。 えっと、出席番号順で」

その事にうろたえながらも、話を進める山田先生。

ちょっと可愛そうだ。

俺は、ボケーっとしながら自己紹介を聞いていると、一夏の番になった。

「織斑君。 織斑 一夏君!」

「は、はい!」

遅れて返事をする一夏。

思わず周りから笑い声が漏れる。

「あっ、あの、お、大声出しちゃってゴメンなさい。 でも、『あ』から始まって、今『お』なんだよね。 自己紹介してくれるかな? ダメかな?」

先生なのに謝りながら一夏の様子を伺う山田先生。

「え、あ。 そ、そんなに謝らなくても………」

思わずそう漏らす一夏。

一夏は立ち上がると、くるりと後ろを向く。

その瞬間、若干引いたのが分かった。

「えー………えっと、織斑 一夏です。 よろしくお願いします」

一夏は、視線のプレッシャーに耐えつつそう挨拶する。

ぶっちゃけ、それだけ言えるだけでも大したものだと思うけど。

周りの視線はそれだけで許してあげることはできないらしい。

更なる期待を込めて一夏に視線が集中する。

そこで一夏は、

「……以上です!」

話を終わらせた。

うん、当然だな。

すると、俺と一夏以外の生徒が皆ずっこけている。

その瞬間、

――スパァァァァンッ

けたたましい音が鳴り響く。

一夏は頭を抑えて蹲る。

そして、恐る恐る後ろを振り向き、

「げえっ! 関羽!?」

――パァァァァァァン

2度目の打撃音。

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

織斑 千冬先生の登場だ。

それにしても一夏よ、なぜ織斑先生を関羽に例えるんだ?

関羽って、確か美髯公とか呼ばれるヒゲの立派なオッサンじゃなかったっけ?

それとも何か?

一夏が言ってるのは武将が全員TSしたエロゲの方の関羽の事を言っているのか?

「あ、織斑先生。 もう会議は終わられたんですか?」

山田先生が織斑先生にそう聞いた。

「ああ、山田君。 クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

「い、いえっ。 副担任ですから、これぐらいはしないと……」

そうやり取りをする先生達。

すると、織斑先生が生徒たちの方へ向き直り、

「諸君、私が織斑 千冬だ。 君達新人を、一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。 私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。 出来ない者には出来るまで指導してやる。 私の仕事は、弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。 逆らってもいいが、私の言うことは聞け。 いいな?」

なんつーか、生で聴くと凄まじく理不尽な言葉だよな。

って、やべ。

このセリフが出たってことは……

俺は慌てて耳を塞ぐ。

その瞬間、

「キャーーーーーーッ! 千冬様! 本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

女子の多くから、黄色い歓声が沸く。

その様子を織斑先生はうっとうしそうな顔で見ると、

「………毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

これまた教師とは思えない発言が飛び出す。

にも拘らず、

「きゃあああああ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾をして!」

色々とヤバイ思考をした女子が多いな。

生で聞いてその異常さがよくわかる。

「で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は」

実の弟にも容赦ないですね先生。

いや、弟だからこそかな?

「いや、千冬姉。俺は……」

――パァン!

二度あることは三度ある。

三度叩かれる一夏。

「織斑先生と呼べ」

「……はい、織斑先生」

そして、そんなやり取りをすれば、

「え………? 織斑君って、あの千冬様の弟?」

「それじゃあ、世界で2人だけしかいないIS操縦者っていうのも、それが関係して………」

「ああっ、いいなぁ。 代わってほしいなぁ」

2人が姉弟であることは、すぐに分かるわけである。

それにしても、あのやりとりを見て、代わってほしいと思えるその思考に脱帽です。

「HRを中断させてしまったな。 自己紹介を続けろ!」

織斑先生の言葉で自己紹介が続いていく。

そして、俺の番になった。

俺が立ち上がると、一夏の時と同じように視線が集中する。

俺は一度ため息を吐くと、

「俺の名前は無剣 盾。 特技は特になし。 趣味はゲーム。 それと言っておきますが、俺は最底辺の男なので、俺に期待するぐらいならもう一人に期待したほうがいいですよ。 以上」

俺はそれだけ一方的に言って席に着く。

周りからは、唖然とした視線が向けられている。

これでいい。

身に余る期待は堅苦しくてたまらん。

俺は馬鹿にされるぐらいが丁度いい。

教室が何とも言えない雰囲気になりながらも、自己紹介が続いていき、SHRが終わる。

俺は机に突っ伏しつつ、時間が過ぎるのを待っていると、一夏が俺の方に近づいてきているのに気付いた。

まあ、同じ男子が俺しか居ないから、仲良くしときたい気持ちもわかるが、俺はあんまり関わりたくないな。

ぶっちゃけ俺は一夏関係のイベントに巻き込まれて生き残る自信が無い。

なので、俺はどうやって一夏と距離を取るかを考えていた時、

「ちょっといいか?」

一夏が別方向から声を掛けられた。

メインヒロインの箒さんだ。

一夏はちょっとビックリしている様子だったが、大人しく箒について行った。

GJ箒。

俺は心の中で箒に向かって親指を立てた。

そのまま一時間目の授業に入る。

早速ISに関する授業なのだが……

うん、サッパリわからん。

一応、入学前の参考書は読んだのだが、1割も理解できなかった。

ついでに、俺はあまり記憶力も良くない方なので、1回読んだだけでは何も頭に入っていない。

さらに言えば、IS学園はエリートが通う学校だ。

凡人以下一直線の俺が通うような高校ではない。

当然ながら、勉強のレベルも平均以上だ。

簡単に言えば、俺の頭ではついていけない。

そう思っていたとき、

「織斑君、何か分からないところがありますか?」

山田先生が一夏にそう尋ねる。

「分からないところがあったら効いてくださいね。 何せ私は先生ですから」

これは確か原作でもあったやり取りで、この後は確か……

「先生!」

一夏が覚悟を決めたのか声を上げる。

「はい! 織斑君!」

山田先生が、どんと来いといった雰囲気で応える。

しかし、

「ほとんど全部わかりません!」

この一言で、先生の顔が引きつった。

「え………ぜ、全部ですか…………?」

先生は唖然としている。

「え、えっと………織斑君以外で、今の段階で分からないっていう人はどれぐらいいますか?」

山田先生がそう聞いてきたので、俺は渡りに船と思い、即座に手を挙げた。

「俺も全くわかりません」

「ええっ!?」

山田先生は、再び顔を引きつらせる。

「……織斑、剣無。 入学前の参考書は読んだか?」

織斑先生がそう聞いていたので、

「一応読んだんですけど、俺の頭では1割も理解できませんでした」

俺は正直に答える。

ここで見栄張っても仕方ないし。

「……織斑はどうした?」

織斑先生は、顔を一瞬しかめるが、気を取り直して一夏に問いかける。

「古い電話帳と間違えて捨てました」

でた、迷言。

しかし、どうやったらアレを電話帳と間違えられるのだろうか?

厚み以外に共通点は見つからなかったぞ。

――スパァァァァァァン

再び打撃音が鳴り響く。

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。 後で再発行してやるから一週間以内におぼえろ。 いいな」

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと………」

織斑先生の無理難題に一夏が抗議するが、

「やれと言っている」

「………はい。 やります」

織斑先生の一睨みであえなく撃沈。

一夏は参考書を一週間で覚えることとなった。

「剣無、お前もだ」

うへぇ、とばっちりが俺の方にも来たよ。

「自信ないです」

とりあえず正直に答えると、

――パァァァァァァァン

出席簿で叩かれた。

痛い…………

「やれと言った」

織斑先生はそう言うが、そう言われても、

「先程も言いましたが、俺の頭ではアレを1週間で覚えるのは不可能です。 1週間どころか、1ヶ月でも無理ですが…………」

――スパァァァァァァァン

先ほどよりも強く叩かれる。

かなり痛い。

「口答えするな。 無理でもなんでも叩き込め」

「善処はします」

何度も叩かれたくはないので、こう答えておく。

因みに俺の善処は、殆どやらないに等しい。

とりあえず、この場はこれで収まった。




2時間目が終わり、休憩時間に入ると、再び一夏が俺に話しかけようと席を立ち、こちらに歩いてくる。

どうしたもんか、と思っていると、

「ちょっと宜しくて?」

一夏が再び横から話しかけられた。

一夏ヒロインズの一人、セシリア・オルコットだ。

そのまま原作の流れに入り、俺の所までたどり着けない一夏。

GJセシリア。

俺は再び心の中でサムズアップをした。





次の時間。

今度は、織斑先生が教壇に立つ。

「それではこの時間は、実践で使用する各種装備の特性について説明する」

織斑先生はそう言ったが、ふと何かを思い出したように、

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

そう言った。

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まあ、クラス長だな。 因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

最後に自薦他薦は問わないと付け加えつつ、候補者を募る。

すると、

「はいっ。 織斑君を推薦します!」

「私もそれが良いと思います」

原作通り一夏が推薦される。

「お、俺っ!?」

思わず一夏が叫ぶ。

「では、候補者は織斑 一夏………他にいないか?」

「ちょ、ちょっと、待った! 俺そんなのやらな………」

「自薦他薦は問わないと言った。 他薦されたものに拒否権など無い。 選ばれた以上は覚悟を決めろ」

「い、いやでも……」

一夏が抗議を続けようとしたところで、

「はい私は無つ「はーい! 俺は、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんがいいと思います!」」

誰かが俺の事を推薦しようとしていたので、俺はその言葉をかき消すように大きめの声でセシリアを推薦した。

誰だ!?

俺なんかを推薦しようとした奴は!?

「ふむ、追加でセシリア・オルコットと無剣 盾か……他には?」

織斑先生の言葉に俺は思わず声を上げた。

「織斑先生! なんで俺が入っているのでしょうか!?」

「お前も推薦されたからだ馬鹿者。 やりたくないからといってごまかそうとするな」

くっ、聞こえてたか。

それでも俺は諦めずに、

「先生! 辞退します!」

俺はそう言った。

「ダメだ。 先程も言ったが他薦されたものに拒否権など無い。 選ばれた以上は覚悟を決めろ」

「いや、でもですね、俺は入学試験で前に進むどころか、操縦ミスって真後ろの壁に激突して自爆したようなド素人以上のアホですよ!? クラスの恥さらしにしかなりませんって!」

そうなのだ。

俺は入学試験で、一夏の相手だった山田先生を超える醜態を晒した。

俺は前に進もうと前傾姿勢でPICを起動させたのだが、何故か足だけが浮き上がりその場で前方宙返り。

慌ててバランスを取ろうとしたら、ちょうど足が相手を向いていた時に急上昇がかかったらしく、後方の壁に一直線。

そのまま壁に激突して気絶した。

という、前代未聞の醜態を晒した。

その事を知らなかったのか、クラスの殆ど……っていうか、全員が唖然としている。

「それでも、貴様は推薦されたのだ。 ならば、覚悟を決めろ」

まあ、織斑先生ならそう言うと思ったけどさ。

俺は大きくため息を吐いた。

「ふん、もう一人の男性操縦者もどんなものかと思いましたが、やはり大したことはなさそうですわね」

そう言って立ち上がったのは、セシリアだった。

「しかし、このセシリア・オルコットを代表に推薦したことだけは褒めてあげてもよろしくてよ」

高飛車な態度で言ってくるセシリア。

「あなたも言ったように男がクラス代表だなんていい恥さらしですもの。 わたくしにはそのような屈辱、一年間も味わえませんもの」

おいおい、俺は自分を恥さらしとは言ったが、男が恥さらしとは一言も言ってないぞ。

「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります。 わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ」

生で聞くと結構精神を逆撫でするな。

まあ、この程度で切れる程、俺は気が短くない。

っていうか、俺から見たら、殆どは短気に見えるんだがな。

「いいですか!? クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

すげー自信。

まあ、それだけの努力をしてきているんだろうけど。

努力をしない俺には、彼女に言い返す資格はない。

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」なっ!?」

あ~あ、やっぱりこうなるのね、

その言葉に、セシリアは顔を真っ赤にして怒りを示す。

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

最初に日本を侮辱したのはお前だろうに。

そう思うが口には出さない。

そして、次にセシリアが言い出した言葉は、

「決闘ですわ!」

決闘であった。

「おう。 良いぜ。 四の五の言うより分かりやすい」

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。 真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「そう? 何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

互いににらみ合う一夏とセシリア。

「さて、話はまとまったな。 織斑、オルコット、無剣で勝負を行う。 日時と場所は一週間後の月曜の放課後、第三アリーナ。 3人はそれぞれ用意をしておくように」

蚊帳の外だったが、結局俺が入っていることに、俺は項垂れる。

はぁ~、少なくとも、自爆だけはしないように頑張りますか。





放課後、俺は自分の机でぐったりしている。

なんじゃこの訳の分からん文字の羅列は!?

見れば、一夏も同じようにぐったりしている。

まあ、当然だよな。

こんなもん、普通以下の俺の頭では理解不能。

ISの操縦は、体で覚えるしかないか。

俺がそう思っていると、

「ああ、織斑君、剣無君。 まだ教室にいたんですね。 よかったです」

「「はい?」」

呼ばれて2人がそちらを向くと、山田先生が書類を片手に立っていた。

「えっとですね。 2人の部屋が決まりました」

そう言って、それぞれに部屋の番号が書かれた紙とキーを渡す。

「俺達の部屋って、まだ決まってなかったんじゃなかったですか? 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」

一夏がそう聞く。

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです」

まあ、原作通りだな。

「そうですか、分かりました」

俺は頷いて鍵を受け取る。

すると一夏が、

「ともかく部屋は分かりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備出来ないので、今日はもう帰っていいですか?」

そう聞く。

すると、

「あ、いえ、荷物なら……」

「私が手配しておいてやった。 ありがたく思え」

山田先生の言葉を遮って、織斑先生がそう言った。

っていうか、いつの間に?

「ど、どうもありがとうございます」

「まあ、生活必需品だけだがな。 着替えと、携帯電話の充電器があれば十分だろう」

わお。

凄まじく最低限な荷物。

「無剣の方は……」

そう言ってきたので、

「あ、お構いなく。 こんなこともあろうかと、週末までの着替えと、金銭、その他もろもろは持ってきてますので」

「ほう、準備がいいな」

まあ、こうなることはわかってたので。

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。 夕食は6時から7時、寮の一年生食堂で取ってください。 因みに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。 学年ごとに使える時間が違いますけど………えっと、その、織斑君と無剣君は今の所使えません」

「まあ、当然ですね」

頷く俺と、

「えっ?何でですか?」

聞き返す一夏。

「アホかお前は。 まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

「あー」

織斑先生の言葉に、凄まじく納得する一夏。

「おっ、織斑君っ! 女子と一緒にお風呂に入りたいんですか!? ダメですよっ!」
「い、いや、入りたくないです」

慌てて言い直す一夏だが、

「ええっ!? 女の子に興味がないんですか!? それはそれで問題のような……」

うん、なんでこの人は極端から極端に走るのかね?

「えっと、それじゃあ私達は会議があるので、これで」

立ち去る先生達。

さてと、じゃあ寮へ向かいますか。

俺は、一夏をほっといて荷物を持ち、教室を出た。



寮への道を歩いていると、

「おーい!」

後ろから一夏が駆け寄ってくる。

まあ、呼びかけられて無視するほど、失礼なことはしたくないので立ち止まって振り返る。

「同じ寮だろ? 一緒に行こうぜ」

そう笑顔で話しかけてくる。

なんつーか、めっちゃ爽やかな笑顔だな。

女子達が速攻で落ちるのも頷ける。

「織斑だったな」

俺はそう呟く。

「一夏でいいよ。 お前は無剣 盾だったよな。 同じ男同士仲良くしようぜ」

すげーフレンドリーだな。

しかし、

「悪いけど、知り合って間もない奴を名前で呼ぶのは抵抗を感じるんだ。 しばらくは苗字で呼ばせてくれ。 その代わり、俺のことは好きに呼んで構わない」

俺は自分の性格から、相手を名前で呼ぶことは滅多にない。

前世でも他人を名前で呼んだのは、学校の友達だけ。

社会人になってからは、他人を名前で呼ぶことなど皆無だった。

「そっか。 ま、それは人それぞれだからな。 よろしくな盾」

それでも一夏は嫌な顔をせずに笑ってそう言ってくる。

爽やかすぎる。

これがハーレム因子を持つ者か。

「そうそう。 一週間後の勝負、絶対に勝とうな?」

何故かそう話を振ってくる。

「いや、俺には無理」

俺は即答する。

「なんでだよ!?」

いきなり出鼻を挫かれたのか、思わず一夏が聞き返してきた。

「俺の持論では、勝敗は才能、努力、時の運で決まると思っている。 才能については、入学試験で全くないことが実証済み。 努力に関してもオルコットさんは代表候補生。 あんな偉そうな態度をとっているけど、その裏では血の滲むような努力を続けてきたはずだ。 対して俺は明日から訓練を始めたとしても、たった1週間で出来ることなんてたかが知れてる。 努力の量でも天と地の差がある。 で、最後の時の運も、俺は運が悪い方だから、全く期待できない。 以上の結果から、俺がオルコットさんに勝てる要素は全く無い」

俺の説明に、

「最初から諦めてちゃ話にならねーだろ? もっと自信を持てよ」

一夏はそう言ってくる。

「そう言えるなら、織斑には勝てる可能性があるな」

「わかってるなら、お前もそうしろよ」

言われなくても分かってる。

はっきり言って、一夏の姿勢は羨ましい。

もちろん、俺も一夏の言うとおりだと思う。

でも、

「分かっていても俺にはできない。 だから俺は最低なんだ」

俺はそれだけ言って歩みを速めた。






指定された寮の部屋の前にたどり着くと、俺はドアをノックする。

「…………………………」

しかし、いくら待っても返事は帰ってこない。

「?」

俺は、不思議に思いながらドアを開ける。

「失礼しま~す…………」

風呂上がりや着替えの最中に遭遇しないように恐る恐る扉を開ける。

すると、そこには、六畳ぐらいの部屋に、ベッドが1つ。

そして、明らかに突貫工事で増築したと思われるトイレとシャワールーム。

これが意味することは1つ。

「一人部屋か……」

俺は張り詰めていた気を緩める。

女子と一緒かと思っていたので、緊張して損した。

まあ、一人部屋というのも有難いし、何よりトイレが備え付けられてるのが嬉しい。

IS学園は、殆どが女性のため、男子トイレというものが少ない。

そのため、夜中にトイレに行きたくなったら、その場所まで突っ走っていかなければならなくなる。

夜中の学校なんて怖くてたまらんわ!

なので、部屋にトイレがあるということは、非常に助かる。

俺は、荷物を適当に置き、ベッドに寝転がる。

その少しあとに、廊下が騒がしくなったのだが、一夏が箒の風呂上がりに出くわした事を思い出したので、別段気にはしなかった。




[37503] 第二話 IS特訓
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/05/05 20:39

第二話


翌日。

食堂で朝食をとっていると、

「おはよう盾。 一緒にいいか?」

一夏が、不機嫌顔の箒を伴って現れた。

「おはようさん。 別にいいぞ」

特に断る理由もないので、承諾する。

箒が不機嫌顔なのは、昨日の事が原因だろう。

そのまま朝食を摂っていると、

「お、織斑君、ご一緒していいかな?」

「へ?」

声をかけられたのでそちらを見ると、朝食のトレーを持った女子が3名立っていた。

「ああ、別にいいけど」

一夏はそう言う。

俺に確認を取らなかったので、既に俺の評価はかなり低いと感じる。

3人女子は、安堵のため息を吐いたり、ガッツポーズをしたりしていた。

その様子を見ていた周りの女子達が、先を越されたとか、早く声をかけておけばよかったとかなどのざわめきが聞こえる。

「うわ、織斑君ってすごい食べるんだ」

「お、男の子だねっ」

女子達はそう言うが、食べている量は一夏よりも俺の方が多い。

そのまま一夏は女子達と会話に花を咲かせている。

チラリと箒を見れば、不機嫌顔が、更に不機嫌になっていることが見て分かる。

そうやって、一夏達を観察しながらも、朝食を口へ運ぶ箸の動きは止まっていない。

なので、

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド10週させるぞ!」

織斑先生の怒号が飛ぶ頃には、

「ごちそうさまでした」

俺は合掌して一礼する。

「って、盾! 食うの早いな!?」

一夏は驚いて叫ぶ。

「お前がしゃべっている間に食っただけだ。 お前も遅れないようにしろよ」

俺はそう言って席を立った。




昨日と同じく、四苦八苦しながら授業を受けていると、

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

いきなり織斑先生が切り出す。

「へ?」

素っ頓狂な声を漏らす一夏。

「予備機が1機しか無い。 その予備機の打鉄が無剣に支給されることに決まった。 だから少し待て。 学園で専用機を用意するそうだ」

「はい?」

俺の名前が出てきたことで、思わず声を漏らした。

「?」

一夏が首を傾げる。

しかし、織斑先生の言葉に教室中がざわつきだす。

「せ、専用機!? 1年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

「ああ~。 いいなぁ……私も早く専用機欲しいなぁ」

周りがそんなことを言っていると、

「無剣、今言ったとおりだが、お前に専用の打鉄が貸し出されることになった。 後で渡すから取りに来い」

織斑先生のその言葉に、

「身に余る光栄です……」

俺はそう言って置く。

まあ、入学試験の結果で、俺には専用機を持たせるほどでは無いと判断したんだろうな。

で、『ブリュンヒルデ』の弟であり、一応、入学試験でも勝利を収めた一夏に期待していると、そんなところだろう。

ま、どうでもいいことだが。

「専用機って……なんか凄いのか?」

一夏が本当に呆れるぐらいの質問をした。

「織斑、教科書6ページ。 音読しろ」

簡単に言えば、ISのコアは全部で467機しかなく、開発者である篠ノ之 束博士しか作れない上に、既に製作を中止している為、ISのコアはその467機が全てだ。

その為、各国は現存のコアを割り振って使用している。

つまりは数に限りがるので、専用機を持つという事は、これ以上ない特別待遇という事だ。

っていうか、そのぐらい一般常識だぞ一夏。





放課後になり、俺は織斑先生を尋ねる。

俺に支給される打鉄を受け取るためだ。

「これがお前に支給される打鉄だ。 専用機ではないが、これでもかなりの特別待遇だからな。 アリーナの使用許可も優先的に取れる。 毎日訓練に励め」

「………了解です」

織斑先生から打鉄の待機状態であろう腕輪が渡される。

特別待遇とかすんごいプレッシャーがかかるんですけど………

ふと俺は、渡された腕輪が気になった。

「どうかしたか?」

織斑先生が聞いてくる。

「あ、いえ。 もしかしてこの打鉄って、俺が入試の時に動かしたやつですか?」

俺がそう聞くと、

「その通りだが、よくわかったな」

「いえ、なんとなくですけど………」

まあ、気にしてもしょうがない。

とりあえず、入学試験の時のような無様な姿を晒すことだけは避けたいな。

勝てるなんて微塵も思ってないが、せめて戦いの土俵に立てるようには頑張りますか。

俺は早速アリーナの使用許可を取り、アリーナへと向かった。





打鉄を纏ってアリーナに出ると、どこで噂を聞きつけたのか、大量の女子が観客席にいた。

まあ、同じクラスでは大分評価が低いようだが、他のクラスではそうはいかないようだ。

俺は大量の視線に軽くため息を吐き、俺はまずまともに動けるようになるために飛行訓練を始めようとPICを起動させる。

大量の視線の好奇心が最大限に高まった瞬間、俺は飛び上がった。

そして、

――ドゴォォォン

ものの見事に墜落した。

う~ん、やっぱりか。

入試の時のような悲惨な目には合わなかったものの、飛び上がって5mぐらい浮いたところでバランスを崩し、頭から地面に落ちた。

大量の視線が唖然と落胆の色に変わったのが見て取れる。

この一回の行動で、多くの視線が消えた。

期待を裏切られたからだろう。

その後も繰り返し飛ぼうとしては、壁や地面に激突を繰り返している。

言っておくが、決してワザとではなく、真面目にやってこの結果だからな。

そして日が沈む頃、飛行訓練だけでシールドエネルギーが尽き、ISが強制解除された時にはほとんどの視線が消えていた。





翌日。

四苦八苦しながら本日の授業を乗り越え、今日も訓練の為にアリーナへ来ている。

今日は昨日のように飛行訓練をしているが、進展は全く無い。

50回程飛んでは墜落を繰り返し、俺は地面に大の字で寝転がっていた。

「参ったな………このままじゃ試合で無様に負けるどころか、土俵に立つことすら危ねえじゃんか……」

俺はそう口にする。

俺は別に負けることはどうでも良い。

勝てるなんてこれっぽっちも思ってないからな。

負けることが恥とは思わない。

ただ、曲がりなりにも勝負することになっていて、その土俵にすら立てないというのは恥を感じる。

俺がどうするかを考えていたとき、

(君は足だけで飛ぼうとしてるからダメなのよ。 身体全体を持ち上げるイメージでやってみて)

頭に直接声が響いた。

俺はビックリして起き上がり、周りを見渡す。

周りには誰もいない。

しかし、ふと気がつく。

「今のって、もしかしてプライベートチャネルって奴か?」

俺はそう仮定して周りを再び見渡すが、流石に誰が声を掛けてくれたかはわからない。

まだ俺に興味を持ってる奴がいるのかと内心驚きながら、俺はアドバイスを思い出す。

「え~っと、身体全体を持ち上げるイメージだったな」

俺は、今までジャンプの延長線で考えていたものを、体全体に力が加わるイメージで行ってみた。

すると、

「おっ?」

体が安定して浮き上がり始める。

少しフラフラとしてはいるが、先程までのようにいきなり体のバランスが崩れるようなことはない。

「おおっ! まともに浮いてる!」

そのまま空中に上がっていく。

「うひょーーーっ! 本当に空飛んでるよ!!」

前世からの誰もが夢見ること。

自力で空を飛ぶということが叶った瞬間だった。

飛行機で空を飛ぶのとは全く違う。

自分の意思で空を飛んでいる。

俺は本来高所恐怖症だが、自分の意思で空を飛んでいるからだろうか、恐怖をあまり感じない。

なんというか、丁度いいスリル感が気分を高揚させる。

「よーし………いっけーーーーっ!!」

俺は気分の高ぶるままにスピードを上げた。

イメージは、昔、飛行機のオモチャを手で飛ばしているかのような感覚。

俺と言うオモチャの飛行機を巨大な手が自在に動かしているイメージ。

俺のイメージする手の動き通りにISが飛ぶ。

「すっげーーーっ! なんて気持ちがいいんだ!!」

思わずそう叫ぶ俺。

急降下、急上昇、急旋回にバレルロールなど。

俺は調子に乗って飛びまくった。

しかし、俺は忘れていた。

俺という存在は、調子に乗ると大抵ロクな目にあわないということを。

次の瞬間、

――バチィ!

「うごっ!?」

体を衝撃が襲った。

俺は一瞬何だと思ったが、その理由はすぐに分かった。

簡単に言えば、アリーナのシールドに激突したのだ。

アリーナのシールドの広さには、当然制限がある。

アリーナの中には飛行専用の特別なアリーナもあるが、あいにく今使っているアリーナは普通のアリーナ。

空中は、そこまで広くなかったのだ。

俺はそのまま地面に落下し、シールドエネルギーが尽きたのだった。





時が流れ、クラス代表決定戦を翌日に控えた日曜日。

俺は相変わらず飛行訓練を続けていた。

射撃訓練や剣の訓練もとりあえずはしているが、当然ながらどれも特筆するような腕前は持っていない。

ならば、やってて気分がいい飛行訓練を続けようと思ったのだ。

始めの頃のように、墜落や壁にぶつかる事も少なくなったので、アリーナの使用時間ギリギリまで訓練できる。

俺が暫く飛行訓練を続けていると、

(やっほー。 飛行も大分上手くなったねぇ~)

またプライベートチャネルで通信が来た。

この声は、この1週間で度々アドバイスをくれた。

そのお陰で、俺は戦いの土俵に立てるぐらいまで飛行が上達した。

因みに、一方的に向こうが喋ってくるだけなので、俺はこの声の正体が誰かも知らない。

(今日は次のステップに行ってみようか。 イメージは人それぞれだけど………そうだね、自分が弾丸になったつもりで、巨大な銃で打ち出されるイメージをやってみて)

俺はその声に従う。

自分が弾丸になり、リボルバーに弾込めされる。

巨大な撃鉄が起こされ、狙いを付ける。

狙いは、安全のために空に向ける。

引き金に指が掛けられ、引き金を引いた。

撃鉄が叩き落とされ、火薬が破裂し、俺と言う弾丸が発射され、ジャイロ回転しながら飛んで………

そこまでイメージした瞬間、

「どぅわぁああああああああああああっ!!!???」

視界が超回転しつつ、超スピードで体が押し出される感覚を感じた。

これはおそらく瞬時加速イグニッション・ブースト

しかし、ジャイロ回転までイメージしてしまったので、瞬時加速イグニッション・ブーストをしながらきりもみ回転しているのだろうと予測しながら、俺の意識は暗転した。





目を覚ましたとき、目に映ったのは白い天井だった。

「…………知らない天井だ、って言うべきか?」

俺は、この世界では俺にしかわからないネタを呟きながら体を起こす。

俺はベッドに寝かされており、すぐ横にあった窓から外を見てみれば、すっかり日が落ち、暗くなっている。

すると、

「あっ、起きたようね」

その声に視線を戻せば、白衣を着た女性。

そこから導き出される答えは、

「えっと、ここって保健室ですか?」

俺はそう尋ねる。

「ええ、そうよ。 貴方は気を失って運ばれてきたの」

そう言われて俺はジャイロ回転付きの瞬時加速イグニッション・ブーストをかましたのを思い出した。

「あはは………まあ、自業自得ですね」

俺は思わず乾いた笑いを漏らす。

多分、例の声も俺がジャイロ回転までイメージしたのは予想外だったのだろう。

「どこか痛むところはない?」

保険の先生がそう聞いてきたので、俺は各部を動かし、

「大丈夫みたいです。 痛むところはありません」

「そう……それなら大丈夫そうね。 じゃあ、もう自分の部屋に戻ってもいいわよ」

そう許可が下りたので、

「はい、ありがとうございました。 失礼します」

俺はお礼を言って保健室を後にした。






[37503] 第三話 クラス代表決定戦
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/05/05 20:40
第三話




そして翌日の放課後。

クラス代表決定戦当日である。

現在第3アリーナのピットにいるのだが、

「………なあ、箒」

一夏が隣にいる箒に話しかける。

「なんだ、一夏」

応える箒。

「気のせいかもしれないんだが」

「そうか。 気のせいだろう」

「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」

「…………」

一夏の言葉に目をそらす箒。

「目・を・そ・ら・す・な!」

一語一句強く言う一夏。

原作通りの会話である。

やはりこの世界でも、一夏は箒にISの操縦は教われなかったらしい。

そして一夏の白式だが、これも当然だがまだ来ていない。

本来は一夏が先にセシリアと戦う予定なのだが、試合開始予定時間を過ぎてもまだ白式が届かないのだ。

まあ、俺はどちらにせよ一夏を先に戦わせるつもりはないのだが。

その時、

「お、織斑君織斑君織斑君!」

そう言いながら駆け足でやってきたのは山田先生。

「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸」

慌てる山田先生に、一夏はそう言う。

「は、はい。 す~~~は~~~~、す~~~は~~~~~」

「はいそこで止めて」

「うっ」

一夏がノリでそう言ったら、山田先生は本気で止めた。

っていうか、一夏はよくそんなことが言えるな。

みるみる酸欠で顔が赤くなる山田先生。

「……………」

冗談が通じなかったことに黙り込む一夏。

「……ぷはぁっ! ま、まだですかぁ?」

限界に来て息を吐き、涙目になりながらそう言う山田先生。

その瞬間、

「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」

――パァン!

そんな言葉と共に、織斑先生の出席簿が一夏の脳天に炸裂した。

「千冬姉……」

――パァン!

再び炸裂する出席簿。

アホだな。

内心そう思う俺。

「織斑先生と呼べ。 学習しろ。 さもなくば死ね」

やはりというか、教師とは思えない辛辣な言葉を放つ織斑先生。

「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑君の専用IS!」

山田先生がそう言う。

「織斑、すぐに準備をしろ。 アリーナを使用できる時間は限られているからな。 ぶっつけ本番でものにしろ」

続けて織斑先生が。

「この程度の障害、男子たる者軽く乗り越えて見せろ。 一夏」

そして箒が。

それぞれが一夏を急かす。

「え? え? なん………」

「「「早く!」」」

3人の声が重なる。

その時、

――ゴゴンッ

そのような音と共に、ピットの搬入口が開く。

防壁扉は重い駆動音を響かせながら、ゆっくりとその向こうにある物をさらしていく。

そこに『白』がいた。

真っ白なISがそこに鎮座していた。

まあ、白といっても、よく見れば若干灰色っぽいが。

「これが……」

「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」

山田先生が一夏にそう言う。

「体を動かせ。 すぐに装着しろ。 時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。 出来なければ負けるだけだ。 わかったな」

織斑先生がそう言った所で、俺は口を開いた。

「織斑先生。 そのことなんですけど、先に俺がオルコットさんと戦います」

「何?」

織斑先生が怪訝な声を漏らす。

若干雰囲気に引きそうになりながら俺は言葉を続ける。

「話を聞くに、織斑はこの1週間ISを1度も動かしていません。 それではいくら才能があっても、フォーマットとフィッティングが済んでいないISで、代表候補性と戦うのは荷が重いでしょう。 逆に俺は、この1週間訓練を続けていました。 このISと違って準備も万端です。 なので、ここは俺が先にオルコットさんと戦い、フォーマットとフィッティングの時間を稼ぐほうが、織斑にとってもハンデが少なくなってフェアに戦えると思うんです。 まあ、俺が一次移行ファースト・シフトするまで持てばの話ですが………」

「ふむ………」

織斑先生は、顎に手を当てて考える仕草をする。

「いいだろう。 無剣の意見を採用する。 無剣、すぐに準備をしろ! 織斑はさっさとISを装着しろ! 時間を無駄にするな!」

織斑先生の言葉で、一夏は白式を装着し、俺は発進口の前で腕輪に語りかける。

「頼むぞ打鉄」

5秒ぐらいかけて俺は打鉄を装着する。

織斑先生は遅いと言いたげだが、最初は10秒以上かかっていたので、これでも大分マシになった方だ。

俺は発進する前にふと一夏をみた。

「お~い、織斑」

俺は声をかける。

「何だ? 盾」

「さっきは一次移行ファースト・シフトまで時間を稼ぐとは言ったけど、正直そこまでの自信はない。 まあ、半分ぐらいは時間を稼いでやるからあとは自分で何とかしてくれ。 ま、お前の前座になるぐらいには、頑張ってくるさ」

俺はそう言って発進した。

ピットの壁に擦ったのはしょうがないぞ。




俺がピットから出てくると、セシリアが専用IS『ブルー・ティアーズ』を纏い、空中で待ち構えていた。

「やっと来ましたのね………って、あら?」

セシリアは疑問の声を漏らす。

「最初は織斑さんが相手と聞きましたが……?」

「織斑の専用機がついさっき届いたばかりで一次移行ファースト・シフトも済んでないから、その時間を稼ぐために、俺が先に試合することになったんだ」

俺の説明に納得したのか、

「あら、そうでしたの。 それもそうですわね。 一次移行ファースト・シフトも済んでいないISでこのわたくしに挑もうなど自殺行為もいい所ですわ」

いちいち癇に障るような言い方でそう言ってくる。

まあ、その程度でキレる程俺は短気ではない。

「最後のチャンスをあげますわ」

セシリアが人差し指を俺に突きだしながら言う。

「チャンス?」

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげない事もなくってよ」

なんか一夏に言うための台詞を俺に言われた。

だが俺は疑問を口にする。

「いや、謝るって何を?………俺はオルコットさんやイギリスを馬鹿にした記憶はないんだけど………?」

そう、セシリアの言葉に反応したのは全部一夏だ。

俺に謝る理由はない。

セシリアはそこで気づいたのかハッとし、続いて顔を赤くする。

どうやら恥ずかしいらしい。

「このっ………わたくしを馬鹿にしましたわね!」

ライフルを俺に突き出しながらそう言ってくるセシリア。

「それは横暴というものでは?」

俺は聞こえないようにそう呟く。

その時、

『それでは、試合開始!』

織斑先生の合図が出る。

「では、お別れの時間ですわ!」

容赦なくレーザーを放ってくるセシリア。

でも、それは予想できていたので、開始の合図とともに動いていたお陰で回避できた。

「あら? 初撃を回避するなんて思ったよりはやりますのね?」

余裕の表情でそう言ってくる。

「俺みたいな素人には開始直後の先制攻撃は効果的だからな。 予め予測していれば、初撃ぐらいは避けれる」

そう言い返すが、結構ギリギリだった。

「そうですか………ならば、少し本気を出しますわよ!」

再びレーザーを放ってくるセシリア。

俺はそれを咄嗟に避けるが、

――ドンッ!

「ぐあっ!?」

避けた先に衝撃を受ける。

セシリアを見ると、余裕の笑みを浮かべている。

どうやら1発目を避けたところで回避先に2発目を撃ち込まれたらしい。

流石代表候補性。

俺なんかじゃ足元にも及ばないな。

だけど、一夏の前座の役目は果たしてやる!

俺は、とりあえずデタラメに動き回る。

これなら狙いも多少はつけ辛いはず。

そう思っていたが、

――ドンッ!

「ぐぅっ!?」

ものの見事に直撃を受け、俺はよろける。

「熟練者のランダム回避ならばいざ知らず、素人の動きなど手に取るようにわかりますわ。 飛行にもキレがありませんわよ!」

セシリアの言葉に納得する俺。

そりゃそうだよな。

ISに乗って1週間弱の素人に攻撃を当てられなきゃ、代表候補性の名が泣くわな。

このままじゃ、レーザーライフルだけでケリがついてしまう。

せめてビット攻撃ぐらい出させないと前座の意味がない。

俺がそう思っていると、

「本番はここからですわよ! さあ、踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

そう叫ぶとともに、ビット兵器を射出するセシリア。

うん、俺ごときにそこまでする必要あるのか?

獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすのか、ただ単に俺を嬲り殺しにしたいだけか………

今のセシリアなら多分後者だな。

そう思いながらも4つのビットから一斉射撃がくる。

「くおっ!」

何とか避けようとするも、1つの銃口で普通に食らっていたのに、4つの銃口から放たれる攻撃を避けれるわけがない。

4本のレーザーの内、3本に直撃する。

「ぐあっ!? ………ッこのっ!」

俺はアサルトライフルを呼び出し、ビットに狙いを定めようとするが、ビットのスピードにロックが追いつかない。

例えロックできても、引き金を引く前にロックが外される。

狙いを定めている最中に真後ろから2本のレーザーが直撃。

装甲が吹き飛ぶ。

「ぐあっ!? ………くそっ!!」

俺は、ビットを操っている最中のセシリアは無防備だということを思い出し、少し離れたところでビッドを操っているセシリアに狙いを定める。

セシリアにターゲットロックがかかる。

現在のセシリアは、ビッドのコントロールで無防備だ。

このまま引き金を引けば、少なくともダメージは与えられるだろう。

だが、

「……………………」

俺は引き金を引けなかった。

いくら引こうとしても、指先が震えるだけ。

その瞬間、アサルトライフルが閃光に貫かれた。

「うわっ!?」

アサルトライフルから手を放した一瞬後に爆発する。

「狙いを付けるのにそんなに時間がかかっていては、実戦では使えませんわよ!」

その言葉と共に、4つのビットからレーザーが放たれる。

俺は咄嗟に飛び退き、ギリギリ避けることができたが、

――ドンッ!

「がっ!?」

避けた先にセシリアからのレーザーライフルによる攻撃が直撃した。

今の攻撃で、シールドエネルギーはもう半分以下だ。

俺がセシリアを撃てなかった理由は分かっている。

俺は怖いのだ。

人に向かって銃を、いや。

人を傷つける兵器を使うのが。

ISにはシールドや、絶対防御がある。

しかし、確か原作で鈴が言っていた。

絶対防御も完璧ではないと。

何かの不具合でシールドや絶対防御が発動しなかったら?

そんなことばかり考えている。

本来なら実力が下の俺がそんなこと言うのは身の程知らずもいいとこなのかもしれない。

それでも、俺は怖いんだ。

「こんにゃろ!」

俺はブレードを呼び出す。

このブレードは日本刀と同じく片刃の剣で、刃を逆にすれば殺傷能力は低くなる。

俺は刃を返し、セシリアに向かって突っ込んだ。

「射撃重視のわたくしに近接武器で挑もうなど、自殺行為ですわよ!」

「ほっとけ!」

俺はそう叫んで光の雨の中に飛び込んだ。







試合開始から15分後。

「はぁ………はぁ………」

俺は肩で息をする。

俺の打鉄は既にボロボロ。

シールドエネルギーも残り50を切った。

後1発まともに喰らえば終わるだろう。

「試合開始から15分………訓練機でこのブルー・ティアーズを前に、初見では頑張った方でしょうか?」

「そうかい。 そりゃ光栄だね」

俺は皮肉を込めてそう言う。

俺はセシリアに一撃も与えていない。

でも、それなりに手数は出させたはずだ。

だけど、俺が知る中でまだセシリアに出させていない武装がある。

できるなら、それを出させておきたい。

俺は賭けに出ることにした。

もしライフルで止めを刺しに来たら賭けは負け。

ビットで来たなら、賭けに勝てる可能性はある。

俺はイメージする。

俺自身が弾丸になるイメージ。

その弾丸をリボルバーに込め、撃鉄を起こす。

次に狙いを定める。

狙いはセシリア本人。

そして、イメージの引き金に指をかけた。

後は、セシリアの出方を待つだけ。

ドクンドクンと心臓の音が、やけにうるさく聞こえる。

俺は待つ。

その瞬間を。

そして、

「これで終わりですわ!」

その時は来た!

「行きなさい! ブルー・ティアーズ!!」

セシリアの背中からビットが射出される。

賭けには勝った!

その瞬間俺はイメージの引き金を引く。

撃鉄が叩き落とされ、火薬が破裂し、俺と言う“回転しない弾丸”が撃ち出された。

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

俺は今までとは比較にならないスピードで突撃した。

あっという間にビットを掻い潜る。

「なっ!? 瞬時加速イグニッション・ブースト!?  素人が何故そんな高等技術を!?」

セシリアは驚愕している。

その隙にセシリアの懐に飛び込むようにブレードを振りかぶる。

当然刃は返してあるが。

そして、もう少しでブレードの攻撃範囲に届くというところで、セシリアがニヤリと笑った。

「………かかりましたわ」

セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。

その突起が外れて、動いた。

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」

その2つのビットは先程までの4機とは違い、ミサイルだ。

瞬時加速イグニッション・ブースト中の俺に、避けるすべはない。

だが、狙い通り。

俺は、賭けに勝った事に、思わず笑みを浮かべた。

――ドガァァァァン!

爆発に飲まれる俺。

そして、

『勝者、セシリア・オルコット』

俺は負けた。

爆煙が晴れていく。

そこには、少し安堵の息を吐いたセシリアの姿。

「ふぅ………最後は少しヒヤリとしましたが、所詮男などこの程度ですわ」

そう言うセシリア。

だが、俺の目的は達成された。

「まあ、俺はダメな男代表だからな、タダの前座だよ。 次はイイ男代表の織斑が相手だ。 精々惚れないように気をつけるんだな」

俺がそう言うとセシリアは顔を真っ赤にして怒り出した。

「わ、わたくしがあの様な知的さの欠片も感じさせない男に惚れるですって!? 絶対にありえませんわ!!」

俺はそれを聞いて、もう一言付け加えた。

「オルコットさん。 この世に絶対なんかないんだぜ」

俺はそう言い残してピットに戻った。



ピットに戻ると、まだ一夏の白式はフォーマットとフィッティングが終わっていなかった。

まあ、流石に15分ちょいじゃ終わらなかったか。

「盾。 最後、惜しかったな」

一夏がそう声をかけてくる。

「そんなことはないさ。 最後も偶々、オルコットさんが油断してくれていたからだよ。 結局は撃ち落とされたし」

俺はそう言いつつ、ISを解除する。

「ま、それはともかくお膳立てはしておいたぜ。 後はお前次第だ。 頑張れよ一夏。 お前なら勝てる」

俺がそう言うと、

「ああ! お前の仇は俺が取る!」

力強くそう言う一夏。

やっぱカッコイイね主人公。

少ししてセシリアの補給が終わったことが伝えられると、一夏はカタパルトに移動する。

そして発進する直前、

「箒」

一夏が箒に声をかける。

「な、何だ?」

いきなり声をかけられた箒は、少し驚きながら聞き返す。

「行ってくる!」

「ッ………ああ! 勝ってこい!」

カッコイイね一夏。

箒の好感度が鰻昇りだよ。

俺は一夏がカタパルトでアリーナ内に飛び出していくところを見送ると、廊下へ続くピットの出口へ足を向ける。

すると、

「待て。 一夏の応援をしないのか……!?」

箒に呼び止められる。

それに対し俺は、

「応援はするさ。 だけど見る気はない。 才能の違いを見せ付けられるだけだからな」

俺はそう言うと廊下へ出た。

そこで俺は一度ため息を吐く。

「はぁ~~~。 わかっちゃいたけど、一撃も与えられなかったなぁ~~」

まあ、ビビって銃を撃てなかった俺に大半の原因があるが。

俺は少し廊下を歩くと、休憩するためのベンチがあった。

俺はそこに座る。

ふと見ると、そのベンチの正面には、モニターが備え付けられていて、アリーナの状況が映し出されていた。

その中で、一夏は自在に空を飛んでいる。

今の状態で、この一週間必死に飛行訓練を行ってきた俺と同等かそれ以上の飛行。

しかも、まだ一次移行ファースト・シフトも済んでいない。

「はあぁ~~~~~~…………」

それを見て、俺は思わず大きなため息を吐いた。

すると、

「ため息を吐くと、幸せが逃げちゃうよ」

「うおわっ!?」

いきなり横から聞こえてきた声に、俺は驚いて立ち上がりつつそちらを向いた。

するとそこには、セミロングの水色の髪が外側にはね、ルビー色の瞳をした美少女がベンチに座っていた。

い、いつの間に?

全然気付かなかったぞ?

「だ、誰?」

俺はそう口にしたときに気付いた。

リボンの色は2年生。

そして、水色の髪にルビー色の瞳。

更にはその手には扇子が握られている。

それらが示すのは、

「こうやって顔を会わせて話すのは初めてだね。 無剣 盾君。 私は更識 楯無。 生徒会長よ」

やっぱり楯無会長ですかぁぁぁぁぁぁ!

なんでここに!?

っていうか、この声どっかで聞いたような………

「なんでここに、って顔してるね? 答えは簡単。 自分の教え子が気になったから」

「はい? 教え子?」

俺は思わず疑問を口にする。

すると、

(うふふ。 まだ気付かない?)

プライベートチャネルで、例の声が響いた。

「ああっ! この声、俺の訓練にアドバイスをくれた!」

俺は思わず楯無会長を指差してしまう。

「その通り!」

広げた扇子には、正解の文字。

俺はとりあえず姿勢を正し、

「えっと……更識先輩、アドバイスについては本当にありがとうございました。 お陰で、オルコットさんとの戦いの土俵にちゃんと立てました」

そう言って頭を下げる。

「でも、何で俺に?」

俺は気になったことを尋ねる。

「う~ん………まあ、名前が気になったから、かな?」

少し考え、楯無会長はそう答える。

名前?

ああ、よく考えれば、俺の名前って楯無会長とは、真逆の名前だよな。

盾無き者と、剣無き盾。

その名前で興味を持って、後は気まぐれってところか。

「そうですか。 それなら言っておきますけど、俺なんかに時間を費やすより、織斑を鍛えてやったほうが有意義ですよ」

俺がそう言うと、

「何でそう思うの?」

楯無会長は、それなりに真剣な顔で聞き返してくる。

俺はモニターを見つめ、

「見てください。 織斑はISの合計稼働時間は今現在でも1時間………いえ、30分にも満たない。 それなのに、あいつはもう飛行をモノにしようとしてる。 俺がこの1週間、ずっと訓練してきてたどり着いた領域に、この5分足らずでたどり着いた。 いや、既に俺を超えている」

モニターの中の一夏は俺が躱せなかったビットの攻撃を次々に躱していく。

そして、その瞬間光に包まれた。

ようやく一次移行ファースト・シフトが完了したようだ。

そして、零落白夜を発動。

今まで以上に動きが良くなり、ビットの動きを完璧に見切り、次々とビットを切り落として行く。

4つ目のビットを落としたとき、一夏はそのままセシリアに突撃した。

そして、セシリアの懐に飛び込んだとき、セシリアはミサイルビットを発射した。

だが、

『それは、さっき見た!!』

あの至近距離からミサイルを2発とも切断。

爆発とともにセシリアに急接近する。

そして一閃。

『勝者、織斑 一夏』

結果は、一夏の勝利で幕を閉じた。

流石だな主人公。

もしかしたらと思ってセシリアの手数を出させることに集中してたら、本当に勝ちやがった。

「見ての通りです。 織斑と俺の才能の差は、正にウサギとカメです。 ですから、俺なんかに無駄な時間を使うよりかは、織斑の才能を伸ばしたほうが効率的です」

「でも、いくらカメでも、歩みを止めなければ、いつかはウサギに追いつけるんじゃない?」

楯無会長はそう言ってくる。

「無理ですよ。 真面目な頑張り屋のウサギに、怠け者のカメが勝てるわけないじゃないですか」

俺は自傷気味に呟く。

「俺は努力をするということが出来ない人間です。 何度やっても3日坊主。 いえ、3日もてばいい方ですね」

「でも、今回君は1週間頑張ってたよ?」

「それは恥をかきたくなかったからです。 俺にも多少のプライドというものがあります。 自分の中では恥をかかない最低限のレベルまでは頑張れるんですよ」

「じゃあ負けることは恥じゃないの?」

「恥ではありませんね。 俺にとって負けることは当たり前。 負けることは、俺の人生の一部と言っていい」

それは前世も含めて染み付いた、負け犬根性。

「負けたって別にいい。 土俵に立てるだけの力があればいい。 だから俺は努力ができない。 それでいいと心が諦めているから」

「…………………」

楯無会長は黙り込む。

流石に諦めただろう。

すると、

「君は本当にそれでいいの?」

そう問いかけてきた。

「さっきも言いました。 心がそれでいいと諦めているんです」

俺はそう答える。

「悔しくないの?」

「悔しがるほど努力をしていませんから」

そう答えても、楯無会長は繰り返し聞いてくる。

「本当に?」

「……本当です」

「ホントのホントに?」

「……………はい」

何度も、俺の心の奥底に眠る本音を引きずり出そうとするように。

「本当に、悔しくないの?」

「……………………」

ついに俺は、口からの答えが言えなくなってしまう。

「………私は、君の本当の気持ちが知りたいの」

「…………………………」

その言葉が、俺の心の蓋に穴を開ける。

「悔しく………ないの?」

「……………………………………………………………悔しいですよ」

遂に、俺の心の奥底に押し込んでいた僅かな本音が漏れた。

そうなればもう止めることはできない。

「俺だって男です! 勝ちたい! 負けたくない! 負けるのは悔しくてたまらない! ………………だけど、それ以上に悔しいのは、それだけ悔しさを感じているのに、努力することが出来ない自分が一番悔しい!!」

俺は壁を殴りつける。

「だけど俺にはどうする事もできない! どんなに努力しようとしても三日坊主! どんなに悔しい思いをしても、体は楽な方を選んでしまう! 悔しがって! 努力しようとして! 結局は楽を選ぶ! そしてそんな自分が更に悔しい! 結局はその繰り返しなんだ!! それなら、最初から諦めて何もしない方がいい! それなら悔しさも感じない! 初めから負け犬でいれば、それ以上堕ちる事はないんだ!!」

俺は思いの丈をぶちまけた。

「はぁ……はぁ………そういうことです。 俺にはもう構わないでください」

俺は楯無会長に背を向ける。

「…………ねえ」

まだ楯無会長は声をかけてくる。

「まだ何か?」

半分睨みつけるような目で楯無会長を見てしまう。

「最後にもう一つだけ本音を聞かせて?」

「……………何ですか?」

楯無会長はひと呼吸置き、

「………強くなりたい?」

そう聞いてきた。

だから俺は、

「…………なりたいですよ」

本音で答えた。

「うん。 君の気持ちはよくわかった」

すると、楯無会長は俺の手を取った。

「え?」

そして、

「じゃあ、レッツゴー!」

そのまま俺は楯無会長に引きずられていった。






[37503] 第四話 まさかの共同生活の始まり
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/05/05 20:42

第四話


連れてこられた先は、主に2年生が訓練に使っているアリーナ。

アリーナは特に使われる学年が決まっているわけではないが、結果的に学年別に分かれている。

俺がそのアリーナのピットに連れてこられると、

「おや~? どうしたのたっちゃん。 男の子連れてくるなんて」

「薫子ちゃん。 ちょっと後輩を鍛えてあげようと思ってね」

「はい? 鍛える?」

楯無会長の言葉に俺は思わず訪ねてしまう。

「うん。 君が言ったんだよ。 強くなりたいってさ。 だから、私が強くしてあげようってこと」

楯無会長は笑顔でそう言ってくる。

その笑顔に一瞬ドキリとするが、すぐに気を取り直し、

「いや、ですから先程も言いましたが、俺に時間を使うぐらいなら、織斑を見てやってください。 あいつの方が真面目で才能もあります」

俺がそう言うと、

「優秀な子を育てても面白みが無いじゃない。 才能を努力で打ち破るって、なんかワクワクしてこない?」

「それはまあ、そうですけど…………俺は自分から努力なんて出来ませんよ」

「それは問題ないわ。 私が努力させるから」

「へっ?」

「私が君を強くする。 これは決定事項よ。 拒否権は無いわ」

「んな横暴な!」

「はいは~い、文句は受け付けないわ。 じゃあ、地獄の特訓デラックスフルコース行ってみよ~!」

「いや、俺の打鉄はもうエネルギー切れなんですけど!?」

「心配しなくてもそこの黛 薫子ちゃんは、優秀な整備課で補給や修理ならお手の物よ」

「楽しそうだね、たっちゃん。 私に任せておきなさい!」

黛先輩もノリノリだ~~!

「君もよくわかってるよね。 人生あきらめが肝心」

こっち方面に諦めたくはなかったぁ~~~~~~!

そのまま連行されていく俺。

そして、






うぎゃぁあああああああああああああああああああああっ!!!???







何があったかはこの悲鳴で推して知るべし。










「はっ!?」

次に気付いたとき、見覚えのある白い天井が映った。

「…………保健室?」

俺は体を起こそうとするが、

「うごっ!?」

体中がガクガクだった。

俺は、楯無先輩の地獄の特訓デラックスフルコースを受けていた事を思い出す。

その瞬間俺は青ざめる。

結局は途中で体力が尽きて気絶したらしい。

鬼だ、楯無先輩。

何故楯無先輩という呼び方になっているのかといえば、楯無先輩から名前で呼んでといわれたからだ。

「ああ、起きた?」

見れば、昨日と同じ保険の先生。

「あ、先生。 またご迷惑をおかけしたようで………」

「いいえ、それが仕事だもの。 気にすることは無いわ。 君の状態だけど、疲労が溜まっているだけね。 今日はゆっくり休めば、明日には疲れが取れるわ」

「そうですか…………」

「あ、だけど筋肉痛は覚悟しといてね。 一応湿布は貼ってあるけど、それだけで治るものじゃないから」

「は、はい………」

俺は多少ゲンナリしながら立ち上がる。

「うぎぎ………」

立ち上がるのにも一苦労だ。

「で、では先生。 お世話になりました」

「ええ。 お大事に」

俺は、ガクガクの体を引きずるように保健室を出た。




必死こいて自分の部屋の前にたどり着く。

いつもなら何でもない廊下も、今回ばかりは茨の道に見えた。

俺は自室のドアに手をかけ、ふとそこで一つの予感がした。

俺は恐る恐る扉を開けると、

「お帰りなさい。 ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

裸エプロン姿の楯無先輩がそこにいた。

俺は思わず項垂れる。

「何やってんですか? 楯無先輩………」

俺は、予感が的中してしまったことに気落ちする。

「むぅ………現実を否定するわけでもなく、慌てふためくわけでもない、その反応予想外だなぁ」

因みに俺は項垂れたまま視線は楯無先輩から外している。

「とりあえず服着てください。 まともにそっち向けませんので」

俺は視線を外したままそう言う。

「私、魅力無いかなぁ?」

楯無先輩は俺の顔を覗き込むように聞いてくる。

俺は更に視線を外し、

「いえ、楯無先輩はとても魅力的な女性だと思いますよ。 ただ、本当に俺の事を好きでいてくれてそういうことをしてくれるというのなら嬉しいんですが、仕事やからかい目的でそういう事をされるのは、嘘を吐かれているのと同じと感じてしまうので、俺は良い気分にはならないんですよ」

だから俺は、前世でも“そういう”店に行ったことは一度もない。

まあ、仕事の付き合いでキャバクラとかに連れて行かれたことはあるが、はっきり言っていい気はしなかった。

「へ~、純情なんだね」

「純情とは違うと思いますよ。 ただ単に自分の我儘に近いんじゃないんですかね?」

「そう………」

楯無先輩が頷くと、布擦れの音が聞こえてくる。

「はい、もう良いわよ」

そう言われて視線を向けると、制服姿の楯無先輩がいた。

俺はホッと息を吐いて部屋を見渡す。

するとそこには明らかに変わったものが。

部屋の4分の1程を占めていたベッドが、今や半分近くを占めるダブルベッドになっていたり、見慣れない棚が増えていたり。

それらが示す意味は、

「…………もしかして楯無先輩、この部屋に住むつもりですか?」

「おっ、よくわかったねぇ」

楯無先輩がセンスを広げ、『正解』の文字が現れる。

これはさっきと一緒だな。

「まあ、あれを見れば………」

俺はダブルベッドに視線を向けてため息を吐く。

「因みにその理由は………」

「もちろん、君を逃がさないためだよ」

「…………ですよね」

楯無先輩は満面の笑みでそう言ってくる。

どうやら俺は完全に目を付けられたらしい。

はぁ~、こういう役は一夏の役目だろうに。

俺は逃げられないという現実にため息を吐く。

「とりあえず、ご飯食べてないでしょ? 重いものは疲労で胃が受け付けないと思うから消化の良いお粥だけどね」

楯無先輩の示す先には、小さなテーブルの上にあるお粥の入った皿。

まあ、確かに今の状態では、まともな食事は胃が受け付けないだろう。

「ちゃんと食べないと、明日から持たないよ」

俺はそう言われ、テーブルに座る。

俺は手を合わせ、

「いただきます」

俺はスプーンで一口食べる。

その味は、

「………うまい」

いい感じに塩加減が効いていて、かなり美味しい。

ご飯粒も一粒一粒しっかり火が通っていて、口の中に入れるとまるで飲み物のように溶けて胃の中に滑り込んでいく。

疲れ果てた胃も、このお粥なら受け付けてくれた。

俺はしっかりと味わいながら全部平らげた。

「ごちそうさま。 とても美味しかったです」

俺は手を合わせてそう言う。

「ふふっ。 口にあったなら良かったわ」

楯無先輩は笑みを浮かべてバッと扇子を広げる。

そこには『御粗末』という文字が。

………扇子を取り替えた様子は無かったから、多分あの扇子がISの待機状態なんだろうなと俺は思う。

それならば、書かれている文字が知らず知らずの内に変わるのも納得だ。

「シャワーはもう使ったから、後は君が使っていいよ」

そう言ってくる楯無先輩。

「じゃあ、使わせてもらいます」

俺はシャワーを浴びる。

正直湯船に浸かりたいところだが、無いものねだりをしても仕方がない。

とりあえずシャワーを済ますと、寝巻きに着替えてシャワー室を出る。

疲れが溜まっている俺は、とっとと寝ようとしたのだが、ダブルベッドを前に一瞬考え込んだ。

「どうしたの?」

ニコニコしながら、ベッドに寝転がった楯無先輩が問いかけてくる。

「何でダブルベッドなんですか? ベッド2つ並べれば良かったのでは?」

俺がそう聞くと、

「スペース削減のためよ」

楯無先輩がそう言う。

「………………俺は床で寝ます」

俺は即座に踵を返した。

「ちょ、ちょっと、そんなにハッキリ拒絶しなくても………」

焦り出す楯無先輩。

「あっ。 なーに? もしかしてお姉さんを襲う気? エッチね」

楯無先輩は、そう言って慌てて否定させようとしているのだろうが、

「とりあえず、理性がまともであれば襲う気は無いんですけど、俺も男です。 性欲が理性を超えてしまえば襲いかかりますね。 さっきの裸エプロンでも、実際は結構精神力削れてるんですよ。 まあ、襲いかかっとしても、返り討ちに遭うのが目に見えてますが…………」

俺は可能性を示唆する。

「か、返り討ちにされるんなら別に一緒に寝ても問題ないんじゃ………?」

おそらく先程から楯無先輩の予想とはかけ離れた答えを俺は発言しているのだろう。

楯無先輩の表情に焦りが見え始める。

「俺は自分から襲いかかるなんてことをしたくないんです。 そんなことしたら、一生記憶に残って罪悪感を感じ続けますよ」

俺は床にタオルを敷いて、掛け布団を用意する。

「楯無先輩は、そのからかいで相手を元気づけようとしたり、気分転換させようとしているんでしょう? 確かに織斑のような前向きで鈍感で初心な人間には、楯無先輩のやり方は有効です。 しかし世の中にはそのやり方が逆効果になる人間もいるんですよ。 俺みたいな後ろ向きな人間は特にね」

俺はそう言うと、部屋の電気を消し、床の布団に潜る。

「別にそのやり方が悪いとは言いません。 でも、俺にはそういうことはしないでください。 自分が虚しくなるだけなので」

俺はそう言って目を瞑る。

少しすると、

「……………その……盾君?」

楯無先輩が声を掛けてきた。

「………何ですか?」

「……………その………ごめん……! 私そんなつもりじゃ…………」

楯無先輩が謝ってきたので、

「わかってますよ。 別に怒ったりはしてません。 ただ、先程も言いましたが、俺にそういうからかいはしないでください」

「うん………本当に……ごめん………」

楯無先輩は落ち込んだ声で謝ってくる。

「…………あのっ……やっぱり床じゃ疲れが取れないから、ベッドに………」

楯無先輩は申し訳なさそうな声でそう言ってくる。

これはからかいではなく本気なのだろう。

「いや………ですので、一緒のベッドでは精神がガリガリと削られますので…………」

「分かってる! だから、私が代わりに床で寝るから……!」

楯無先輩がとんでもない事を言い出した。

「それはダメです。 男がベッドで女性が床なんて、男として恥です」

俺はその案を却下する。

「わ、私の家は対暗部用暗部なの。 この私も訓練を受けていて、多少寝苦しくても平気だから………」

うぉい、そんなことバラしていいのかよ。

「対暗部だかなんだか知りませんが、俺からしてみれば楯無先輩は高校2年生の女の子ですので、楯無先輩が床で寝るのは却下です」

「むぅ………高校1年生の男の子がナマイキだぞ」

楯無先輩は、多少調子が戻ってきた口調でそう言ってくる。

「残念ですが俺の精神年齢は45歳です。 なので楯無先輩を子供扱いしても問題ありません」

俺は冗談めいた言葉でそう返す。

冗談ではなく本当だがな。

「45歳って、随分細かいんだね」

「さて………」

俺ははぐらかす。

「「…………………」」

暫く無言になる俺達。

「ねえ………」

「はい………」

投げかけられた言葉に返事を返す。

「私は君を強くするって約束した。 でも、床で寝てたら疲れが取れない。 それは訓練の効率低下につながるの。 だからお願い、君はベッドで…………」

真剣で、尚且つ少し悲しそうな声。

その声に、俺はついに我慢できなくなった。

「あーーー! もーーーーー!!」

俺は軽く叫んで床の布団から飛び上がるように起きる。

「楯無先輩! ギリギリの妥協案です! その位置を動かないでください!」

「えっ?」

楯無先輩は、ベッドの右側に陣取っている。

俺は、ベッドの左側の外ギリギリに潜り込む。

そして、楯無先輩に背中を向けた。

「無理に近づかないでください。 なるべく触れないでください。 これでも精神がかなり削れているので!」

俺はそう言って無理矢理目を閉じる。

「……………うんっ!」

心なし嬉しそうな楯無先輩の声が聞こえた。

眠れるかはわからないが、俺は目を閉じ続けた。






【Side 楯無】





世界で初めてISを動かした2人の男性。

1人は織斑 一夏。

彼はあの織斑先生の弟であの篠ノ之 束が興味を持つただ数少ない人物の1人。

もう1人は無剣 盾。

彼は特に特別な経歴もないただの男子学生だった。

ただ、彼の名前がまるで私の名前と対になっている事で、多少の興味が沸いた。

この私、更識 楯無と無剣 盾。

楯無き者と剣無き盾。

まるで示し合わせたかのような名前に、運命を感じた………なんてね。



入学式の翌日、その彼がアリーナで訓練しているという噂を聞きつけ、私はアリーナに向かっていた。

だけど、アリーナの観客席の出入口から、多くの女生徒が落胆の言葉を吐きながら来た道を戻っていく。

私は、出入口からアリーナの中を覗いたとき、

――ドガァン

ISが地面に墜落した。

すると、そのISはすぐに立ち上がり、もう一度飛ぼうとして、今度は壁に激突する。

見れば、その操縦者は、資料で見た2人目の男性IS操縦者の無剣 盾だった。

今までも、何度も墜落していたと思わせる土と泥だらけの打鉄。

多分、さっきの生徒たちはこの姿を見て落胆したのだろう。

でも、私は何故かその姿から目を離せなかった。

何度倒れても起き上がり、飛ぼうとするその姿。

確かにパッと見はカッコ悪いだろう。

でも、私はそうは思わなかった。

彼の何度も立ち上がる姿を、私は見続けた。



翌日。

彼は昨日と同じように、アリーナで飛行訓練をしていた。

でも、成果はあまり出てないみたい。

昨日と同じく、何度も立ち上がる姿を見て、私は気づけば彼にプライベートチャネルをつないでいた。

(君は足だけで飛ぼうとしてるからダメなのよ。 身体全体を持ち上げるイメージでやってみて)

私が見ていて気付いたアドバイスを送ってみる。

彼は、驚いたように辺りを見渡したが、少しして飛行訓練を再開した。

すると、今度はさっきよりも上手く浮かんだ。

フラフラしているけど、さっきみたいにバランスを崩すことはない。

やがて、彼は嬉しそうな顔をして、アリーナ内を飛び回った。

私から見れば、完全な素人飛びだけど、自由に空を飛んでいるからか、彼の顔は笑が浮かんでいる。

けどそこで気づいた。

あのまま行くとシールドにぶつかる。

私は警告を贈ろうとしたけど、結局間に合わず、彼はシールドに激突して墜落した。



それからも私は度々彼にアドバイスを送った。

優秀な生徒のように一を教えれば十を覚えるような才能はないけど、教えたことを繰り返し練習して、少しずつ上手くなっていってる。

ダメ元で瞬時加速イグニッション・ブーストを教えたときは、ジャイロ回転付きだけど、1発で成功させるとは思わなかった。

彼ってイメージ力はあるのかな?

そのあと直ぐに彼が気絶しているのに気付いて、慌てて保健室に運んでいったけど………

そして、クラス代表決定戦当日。

私も興味があったから観戦していた。

だけど、彼の戦い方は勝とうとする戦い方じゃなかった。

まるで、相手の手を多く出させるように。

そして、もう一つ気になったのが、彼がアサルトライフルを対戦相手に向けたとき。

彼の訓練を見ていて、射撃の腕前も当然見てるから、彼でも当てられるタイミングだと確信した。

だけど、彼は撃たなかった。

その後のブレードを呼び出した時も刃を返していた。

私は彼の行動が分からなかった。

最後には、覚えたての瞬時加速イグニッション・ブーストで相手の懐に飛び込んだけど、ミサイルに撃ち落とされた。

けど、その時に私は見た。

彼が口元に笑みを浮かべ、自分からミサイルにあたりに行ったように思えた。

そのミサイル攻撃が止めとなり、試合は彼が一撃も与えられずに負けとなった。

私はどうしても気になり、観客席を出てピットへ向かう通路を進む。

すると、その彼が休憩用のベンチに座り、備え付けのモニター画面を見つめていた。

まるで、泣きそうな表情で。

私は思わず気配を消して彼の隣に座った。

彼はモニターをじっと見ていて、私には気づいていない。

私も、彼と一緒にモニターをみる。

そこには織斑先生の弟君が、先程の相手といい勝負を繰り広げていた。

一応この一週間一夏君の事も調べているから、ずっと剣道ばかりやっていたことは知ってる。

ISを全然構っていなかったはずなのに、この短時間で、隣の彼と同等以上の飛行能力を身につけている。

「はあぁ~~~~~~…………」

彼は大きなため息を吐いた。

「ため息を吐くと、幸せが逃げちゃうよ」

私はそう言う。

「うおわっ!?」

彼は初めて私に気づいたのか、驚いて立ち上がりつつこちらを向いた。

「だ、誰?」

彼は驚愕の表情で私を見る。

「こうやって顔を会わせて話すのは初めてだね。 無剣 盾君。 私は更識 楯無。 生徒会長よ」

私は自己紹介した。

彼の表情は驚きで固まっていた。

「なんでここに、って顔してるね? 答えは簡単。 自分の教え子が気になったから」

「はい? 教え子?」

彼はそれだけではわからなかったのか、そう聞き返してくる。

(うふふ。 まだ気付かない?)

私はプライベートチャネルで話しかける。

「ああっ! この声、俺の訓練にアドバイスをくれた!」

それで気づいたのか、彼は私を指差して叫んだ。

「その通り!」

私はそう言って扇子を開く。

「えっと……更識先輩、アドバイスについては本当にありがとうございました。 お陰で、オルコットさんとの戦いの土俵にちゃんと立てました」

彼はそう言って頭を下げてきた。

「でも、何で俺に?」

そう言われ、私は少し考える。

「う~ん………まあ、名前が気になったから、かな?」

これ以外に理由が無いしね。

「そうですか。 それなら言っておきますけど、俺なんかに時間を費やすより、織斑を鍛えてやったほうが有意義ですよ」

彼はそんな事を言ってきた。

「何でそう思うの?」

私がそう聞くと、

「見てください。 織斑はISの合計稼働時間は今現在でも1時間………いえ、30分にも満たない。 それなのに、あいつはもう飛行をモノにしようとしてる。 俺がこの1週間、ずっと訓練してきてたどり着いた領域に、この5分足らずでたどり着いた。 いや、既に俺を超えている」

モニターの中では、一夏君とセシリアちゃんが互角の勝負を繰り広げている。

しかし、やがて一夏君のISが一次移行ファースト・シフトをした時、勝負が動いた。

一夏君がビットを全て破壊し、セシリアちゃん本人に斬りかかる。

セシリアちゃんは、先程の彼と同じようにミサイルを放つが、先程の試合を見ていた一夏君には通用せず、そのまま落とされた。

「見ての通りです。 織斑と俺の才能の差は、正にウサギとカメです。 ですから、俺なんかに無駄な時間を使うよりかは、織斑の才能を伸ばしたほうが効率的です」

彼は自虐的にそう言う。

「でも、いくらカメでも、歩みを止めなければ、いつかはウサギに追いつけるんじゃない?」

私は、少しでも元気を出してもらおうとそう言ったけど、

「無理ですよ。 真面目な頑張り屋のウサギに、怠け者のカメが勝てるわけないじゃないですか」

彼の言葉は更に自虐に走った。

「俺は努力をするということが出来ない人間です。 何度やっても3日坊主。 いえ、3日もてばいい方ですね」

「でも、今回君は1週間頑張ってたよ?」

「それは恥をかきたくなかったからです。 俺にも多少のプライドというものがあります。 自分の中では恥をかかない最低限のレベルまでは頑張れるんですよ」

「じゃあ負けることは恥じゃないの?」

「恥ではありませんね。 俺にとって負けることは当たり前。 負けることは、俺の人生の一部と言っていい」

彼は負けることを肯定してしまっている。

でも、それじゃあダメ。

「負けたって別にいい。 土俵に立てるだけの力があればいい。 だから俺は努力ができない。 それでいいと心が諦めているから」

「…………………」

私は一瞬黙り込んでしまうけど、さっき見た彼の悲しそうな顔を思い出す。

「君は本当にそれでいいの?」

私はそう問いかける。

「さっきも言いました。 心がそれでいいと諦めているんです」

「悔しくないの?」

「悔しがるほど努力をしていませんから」

「本当に?」

「……本当です」

「ホントのホントに?」

「……………はい」

何度聞いても彼は応えてくれない。

「本当に、悔しくないの?」

「……………………」

「………私は、君の本当の気持ちが知りたいの」

「…………………………」

次が最後。

これ以上は、踏み込むべきじゃない。

「悔しく………ないの?」

「……………………………………………………………悔しいですよ」

長い沈黙の後、彼の本音が漏れた。

すると、

「俺だって男です! 勝ちたい! 負けたくない! 負けるのは悔しくてたまらない! ………………だけど、それ以上に悔しいのは、それだけ悔しさを感じているのに、努力することが出来ない自分が一番悔しい!!」

彼はは壁を殴りつけ、本音を吐き続ける。

「だけど俺にはどうする事もできない! どんなに努力しようとしても三日坊主! どんなに悔しい思いをしても、体は楽な方を選んでしまう! 悔しがって! 努力しようとして! 結局は楽を選ぶ! そしてそんな自分が更に悔しい! 結局はその繰り返しなんだ!! それなら、最初から諦めて何もしない方がいい! それなら悔しさも感じない! 初めから負け犬でいれば、それ以上堕ちる事はないんだ!!」

これが彼の本音。

悔しくて……それでも頑張れなくて………頑張れない自分が更に悔しい。

私はその思いに泣きそうになる。

「はぁ……はぁ………そういうことです。 俺にはもう構わないでください」

彼は私に背を向ける。

「…………ねえ」

でも、最後に確認しておきたい。

「まだ何か?」

睨みつけるような目で私を見てくる彼。

無理矢理心の内を暴かれたようなものだから、そんな目を向けられるのはは当然だ。

「最後にもう一つだけ本音を聞かせて?」

「……………何ですか?」

私は、しっかりと彼を見て、

「………強くなりたい?」

そう訪ねた。

その問に彼は、

「…………なりたいですよ」

紛れもない本心で答えてくれた、

私は自然と嬉しくなる。

「うん。 君の気持ちはよくわかった」

私は彼の手を取り、

「え?」

そして、

「じゃあ、レッツゴー!」

彼を強くすることを心に誓った。




彼に地獄の特訓デラックスフルコースを受けさせてみる。

彼は悲鳴をあげてたけど、投げ出すことはしなかった。

やがて、体力の限界に来たのか、彼は気を失う。

流石に一般人の彼が最後まで特訓を続けることは無理だったか。

だけど、そこで私は気付いた。

彼は、努力ができないんじゃない。

努力のキッカケが見つけられないだけなんだと。

努力をしない人が、倒れるまで特訓を受けれるはずがない。

私はそう考えつつ、倒れた彼を保健室へと運んだ。




彼の部屋に引越しを終えた私は、何とか彼に気兼ねなく接してもらう計画を練る。

私はちょっと恥ずかしいけど、お色気作戦で行くことにした。

だけど、これは彼には逆効果だった。

彼は、からかわれたりすることは、嘘をつかれると同義に受け止めてしまう人だったのだ。

こういう人は稀にいるけど、まさか彼がそういう人だとは思わなかった。

私は、彼に惨めな思いをさせてしまった。

彼は怒らなかったけど、私は彼を傷つけた。

私は、そのお詫びに何とかベッドで寝てもらおうとしたけど、彼は頑として譲らない。

私は何度もお願いした。

やがて、彼は折れたのか、同じベットに潜り込んだ。

ただ、彼は端によって背中をこっちに向けてたけど。

だけど、彼との距離が少し縮められた気がして、私は嬉しいと感じた。






[37503] 第五話 天才なんて嫌いだぁぁぁ!
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/06/23 22:14
第五話




翌朝。

「ほーら! 朝だよ! 起きろ~!」

声で目が覚める。

目を開ければ、俺の体を揺すっている楯無先輩の姿。

俺は体を起こそうとして、

「うごっ!?」

体中に痛みが走った。

「あ、やっぱり筋肉痛だね。 訓練に慣れるまでは我慢してね」

そう笑って言う楯無さん。

っていうか、この痛みが慣れるまで毎日続くんですか!?

俺は、目を擦りながら時計を確認すると、

「うえっ!? まだ5時じゃないですか!?」

まだ5時になったばかりだ。

「筋肉痛で辛いかもしれないけど、朝練に行くよ!」

楯無先輩はそう言う。

「………りょ~かい」

拒否権が無いと分かっているので、俺は大人しく起き出す。

「まあ、心配しなくても、授業に支障が出ない程度に抑えるからね」

そう言って、俺は楯無先輩と一緒に、アリーナへと向かった。





そして、その日の授業。

「では、1年1組代表は、織斑 一夏君に決定です。 あ、1繋がりでいい感じですね」

山田先生が笑顔でそう言った。

クラスの女子達も、大いに盛り上がった。

一夏は、勝てばクラス代表になることを忘れていたのか項垂れている。

「やっぱり世界で2人だけしかいない男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとね!」

そんな言葉が飛び交う。

「俺って初心者なんだけど………」

一夏がそう呟くと、

「そ、それでしたらっ!」

セシリアが勢いよく立ち上がる。

よく見れば顔もうっすらと赤くなっている。

「わたくしが一夏さんのコーチをして差し上げます。 わたくしは油断があったとは言え、一夏さんに負けましたし、それを負けた言い訳にするつもりもありません。 ですが、ISの知識や操縦技術では、一夏さんよりも上だと自負できます」

「そうか。 そりゃ助か………」

とその瞬間、バンッと机を叩いて箒が立ち上がった。

「生憎だが一夏の教官は足りている。 “私が”、直接頼まれたからな」

ああ、この流れはやるのね。

「あら、あなたはCランクの篠ノ之さん。 Aランクのわたくしになにか御用ですか?」

セシリアが余裕を見せてそう聞く。

「ラ、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ! 一夏がどうしてもと懇願するからだ!」

「えっ? 箒ってCランクなのか?」

「だ、だからランクは関係ないと言っている!」

原作通りのやり取りだな~。

そう思っていると、

「座れ、馬鹿共」

織斑先生が出席簿で、箒とセシリアを鎮圧する。

「その得意げな顔は何だ」

ついでに一夏も。

「お前達のランクなどゴミだ。 私からしたらどれも平等にひよっこだ。 まだ殻も破れていない段階で優劣をつけようとするな」

世界最強の言葉は重みがあるねぇ。

更に一夏がもう一度叩かれ、

「とにかくクラス代表は織斑 一夏。 依存はないな」

「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」

と、俺と一夏以外の声が唱和した。







それから一週間ほど時間が流れ、

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう」

原作でもあった、飛行訓練の日だ。

「織斑、オルコット………あと無剣もだ。 試しに飛んで見せろ!」

うへぇ、俺もかよ。

一夏達との才能の差が浮き彫りになるなぁ。

俺がそう思っていると、

「早くしろ。 熟練したIS操縦者なら展開に1秒とかからないぞ」

織斑先生に急かされたので、俺はISを展開する。

その時間約4秒。

クラス代表決定戦の時に比べれば1秒早くなっている。

まあ、地獄の特訓デラックスフルコースの手始めに、ISの展開と収納を100回やらされてるからなぁ。

しかも、最高記録より遅れたら、1秒につきアリーナ1周(IS装着状態のPICオフで)のペナルティが課せられる。

まあ、校庭1周(約5キロ)と言わないのは、楯無先輩の優しさだろうか。

その内慣れてきたら、校庭走れと言われそうだがな。

そのペナルティだけで体力の大半を持っていかれる。

で、射撃訓練や格闘訓練、飛行訓練にもペナルティがあるため、体力があっという間に無くなるのだ。

真面目にやらないと、更に厳しいペナルティを課せられそうだし、特訓の最中は真剣そのものだ。

まあ、先ずは体力を付けさせようということなのだろう。

この1週間で、特訓を受けれる時間は少し伸びている。

まあ、前世から体力だけは付きやすかったと思ってたから、今世の体にもそれが受け継がれているのはありがたい。

ま、相変わらず気絶はしてるがな。

「オルコットは流石代表候補生といった所か。 織斑は、展開時間はともかくその前の集中に時間がかかり過ぎだ。 無剣は展開時間そのものが長すぎる。 もっと精進しろ」

「は、はい」

「了解です」

まあ、遅いと言われるのは当たり前だな。

「よし、飛べ!」

いきなりそう言う織斑先生。

セシリアはすぐさま飛び立ち、少し遅れて俺と一夏も飛び上がる。

セシリアが先行し、遅れて一夏。

それよりも少し遅れて俺となっている。

「何をやっている。 打鉄の無剣はともかく、スペック上の出力では、ブルー・ティアーズより白式の方が上だぞ!」

織斑先生から一夏へお叱りが飛ぶ。

一夏はそれに困った顔をした。

すると、

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。 自分がやり易い方法を模索する方が建設的でしてよ」

セシリアが一夏にアドバイスをする。

「そう言われてもなぁ。 大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。 何で浮いてるんだ? これ」

一夏がそう愚痴る。

「説明しても構いませんが、長いですわよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

「わかった。 説明はしてくれなくていい」

一夏は諦めたのかため息を吐く。

すると、首を回してこちらを向き、

「なあ盾。 盾はどういうイメージで飛んでるんだ?」

そう聞いてきた。

「俺は、子供の時によくやっていた、玩具の飛行機を手で飛ばすように遊んでいたイメージだ。 『俺』という飛行機を、PICという手が掴んで自在に動かしてる感じかな」

俺は、自分のイメージを説明する。

「わかりやすいイメージだな。 えっと………こんな感じか?」

一夏が俺のイメージを試したらしい。

すると、一夏のスピードが桁違いに上がった。

「うおおっ!? すっげー! 今まで苦労してたのが嘘みたいだ!」

一夏はそう叫びながら自在に空を飛ぶ。

そのスピードは既にセシリアと同等かそれ以上。

「流石ですわ一夏さん。 少しのアドバイスで、これほどまでに飛行をモノにしてしまうなんて」

セシリアは褒めちぎってるし。

「これだから天才は嫌になるねぇ………」

俺は一人ごちる。

1回イメージ聞いただけであそこまで上手くなるか普通。

その時、

『一夏! いつまでそんなところにいる! 早く降りて来い!』

箒が山田先生のインカムを奪って叫んでいた。

よく出来るなあんな事。

あ、織斑先生に出席簿アタック食らってら。

『3人とも! 急降下と完全停止をやって見せろ! 目標は地上から10cmだ!』

織斑先生から指示が飛ぶ。

地上10cmって、初心者にはメッチャ難易度高いんですけど。

しかし、

「了解です。 では一夏さん、お先に」

セシリアはそう言って迷いなく急降下し、地面スレスレで完全停止する。

停止した高さもほぼ10cmのようだ。

すると、

「なあ、盾。 完全停止のイメージってどうやるんだ?」

一夏がそう聞いてくる。

なんでコイツは俺に聞くかね。

「ふう。 俺は見えない床や壁があって、それに着地するイメージだ」

俺は一度ため息をついてからそう言う。

「見えない床か………なるほど!」

納得したように頷く一夏。

「じゃあ、俺は先に行く」

俺はそう言って急降下を始める。

ぐんぐんと近づいてくる地面。

やっぱこええよ!

今まで何度かやっているが、この恐怖には未だ慣れない。

俺はあっさりと恐怖に屈服し、ブレーキをかけた。

その高さは、

「地上から1m強…………酷すぎだ馬鹿者」

織斑先生からお叱りの言葉を貰う。

「………すみません」

はぁ~、恐怖を克服しないことにはどうにもならんな。

すると、

「よっと」

後ろで声がした。

振り向くと一夏が地上20cmぐらいのところで完全停止をやってのけていた。

あれ?

確か一夏ってクレーター作ってなかったけか?

「地上から約20cmか………まだ甘いが、初心者にしては上出来か……」

織斑先生はそう言う。

「この私が教えているのだ。 このぐらいは当然だな」

箒が偉そうに腕を組んでそう言っている。

しかし

「いや、箒の説明って擬音だらけで解りづらかったし………盾のイメージ通りにやったら上手くいったぜ」

そう俺に笑いかけてくる一夏。

その瞬間、鬼の様な視線で俺を睨んでくる箒。

いや、俺は俺のやってるイメージを教えただけなんだが………

つーか、聞いただけで完全にモノにする一夏の才能は大概だな………

これだから天才は嫌になる。

「織斑、次だ。 武装を展開しろ」

織斑先生が次の指示を出す。

「は、はあ……」

「返事は『はい』だ」

「は、はいっ」

「よし。 では始めろ」

織斑先生に言われて、一夏は横を向き、右手を突きだして、左手で右手首を握る。

そして、集中して少しすると、掌から光が放出され、それが形を成して剣となった。

「遅い。 0.5秒で出せるようになれ」

織斑先生から出た言葉はやはり辛辣だった。

っていうか、俺から見ても遅く感じる。

「オルコット、武装を展開しろ」

「はい」

次に織斑先生から言われたセシリアは、左手を真横に突出す。

そして、一瞬光ったかと思うと、その手にはスターライトmkⅢが握られていた。

「流石だな、代表候補生。 ………ただし、そのポーズはやめろ。 横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。 正面に展開できるようにしろ」

「で、ですがこれはわたくしのイメージを纏めるために必要な………」

「直せ。 いいな」

「……はい」

セシリアの反論も、一睨みで黙らせる織斑先生。

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

「えっ。 あっ、は、はいっ」

何か考えていたようで慌てるセシリア。

展開していたスターライトmkⅢを収納し、近接用武器を再展開しようとした。

だが、今度は先程と違い中々形にならない。

「くっ………」

「まだか?」

「す、すぐです。 ………ああ、もう! 『インターセプター』!」

武器名をヤケクソ気味に叫んで武器を展開させるセシリア。

「……何秒かかっている。 お前は実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」

織斑先生の言葉に、セシリアはそう発言する。

だが、

「ほう。 織斑との対戦で初心者に簡単に懐を許していたように見えたが?」

「あ、あれは、その………」

ごにょごにょと言いながら一夏を見るセシリア。

おそらくプライベートチャネルで、文句を言っているのだろう。

「やれやれ………無剣、お前も武装を展開しろ」

そう言われ、

「了解」

俺は右手を左腰にある鞘から刀を抜くような仕草をすると同時にブレードが右手に展開。

更に抜いた流れで左手を前に突き出すと、その手にはアサルトライフルが握られていた。

各装の展開時間は、それぞれ0.5秒。

「ほう、近接、射撃武器ともに中々の展開速度だ」

織斑先生が、若干驚いた声を漏らす。

「まあ、これだけは及第点貰ってますから」

この展開の速さは、厨二病で鍛え上げられた妄想力の賜物である。

厨二病患者舐めんな。

とはいえ、最初は1秒以上かかってたがな。

武器の展開収納も、毎日100回やらされてるから、ここまで早くなった。

「すげーな盾。 どんなイメージでやってるんだ?」

「私も念の為に聞いておきたいですわ」

一夏とセシリアからそう問われる。

やっと2人に勝てるモノを見つけたせいで、俺は調子に乗っていた。

「俺が思うに、織斑は剣の特徴を1つづつイメージして、オルコットさんは、銃を構えた自分の姿をイメージしてるんじゃないかな?」

「あ、ああ。 その通りだ」

「仰る通りですわ」

一夏とセシリアは頷く。

「だから、織斑は展開に時間が掛かるし、オルコットさんは決まったポーズじゃないと早く展開できないし、自分が射撃型というイメージが強いから近接武器の展開が上手くいかない」

俺は思った事を口にする。

「うぐっ………」

「た、確かに………」

一夏とセシリアが声を漏らす。

「俺はそんな面倒なイメージをせずに、ブレードならブレード、銃なら銃そのものがそこにある事をイメージして、ただそれを掴んでいるだけだ」

厨二病の俺にとって、剣や銃がそこにある事をイメージするなど、呼吸と同じように簡単なことだ。

俺はいい気になって、展開していた武器を収納し、もう一度展開させる。

「なるほど………」

「確かにそちらの方がイメージし易いかもしれませんわ」

2人はそれぞれ出していた武器を収納すると、

「えーと、剣がそこにあるイメージだな」

一夏はそう言って右手を前に伸ばし、握った。

その瞬間、その手には雪片が握られている。

その時間、0.4秒。

「こんな感じでしょうか?」

セシリアは、左右それぞれの手に、レーザーライフルと近接武器を展開した。

その時間は、近接武器で0.5秒。

レーザーライフルに至っては0.3秒で展開完了した。

その瞬間、俺の自信は粉々に打ち砕かれた。

「うおっ!? こんなに早く展開できるのかよ!」

「こんなにも展開しやすいなんて!」

2人は喜びながら驚いている。

だが、俺は内心orzっていた。

この天才共がぁぁぁぁ!

俺の努力の成果を一瞬で無に返すなぁぁぁっ!!

俺は内心叫ぶが、

「あ~も~、ほんっと天才は嫌になる」

表にはこれを口に出しただけに止めた。






その日の放課後。

俺はいつもの様に楯無先輩の元を訪れていた。

すると、

「あの、盾君? 今日は君のクラス、パーティーやってるみたいだから、今日ぐらいは休んでもいいんだよ?」

そんなことを言ってきた。

しかし俺は、

「いいんです。 天才たちが休んでる時に凡人以下が休んでたら、絶対に追いつけませんので!」

思わず気合を込めてそう言ってしまう。

その理由は、今日の授業が原因だろう。

まあ、3日経てば元通りだと思うが。

「なーんか気合入ってるね。 何かあったの?」

そう聞いてきたので、今日の授業でのことを話す。

「なるほどなるほど。 飛行や急停止だけでは飽き足らず、君の得意な武器の展開も、1回コツを聞いただけで追い抜かれたと………」

楯無先輩は、うんうん頷きながら呟く。

「楯無先輩! 今日も指導よろしくお願いします!」

そしてその日、特訓を受ける時間の最高記録を30分ほど更新した。

その理由は、

「畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!! 天才なんか大ッ嫌いだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

である。






翌日。

朝練の疲労を回復するため机に突っ伏していると、

「織斑君、おはよー。 ねえ、転校生の噂聞いた?」

そんな声が聞こえてきた。

「転校生? 今の時期に?」

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「ふーん」

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどの事でもあるまい」

「どんな奴なんだろうな?」

「む………気になるのか?」

「ん? ああ、少しは」

「ふん………」

「そうだね。 頑張ってね織斑君!」

「フリーパスの為にもね!」

俺は突っ伏しながらその話を聞いている。

もうそんな時期か………

俺はこの後の展開を予想しながら突っ伏し続ける。

「今の所、専用機持ちのクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」

そう楽しそうに話す女子達。

その時、

「その情報、古いよ」

教室の入り口からふと声が聞こえた。

「鈴……? お前、鈴か?」

「そうよ。 中国代表候補生、凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」

「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」

そろそろかな?

俺がそう思っていると、

「おい」

織斑先生の声が聞こえたので、俺は体を起こす。

「何よ!?」

鈴音はそう言いながら振り返るが、

――パァン

その鈴音に出席簿が炸裂した。

「もうSHRの時間だ。 教室に戻れ」

「ち、千冬さん………」

「織斑先生と呼べ。 さっさと戻れ、そして入口を塞ぐな。 邪魔だ」

「す、すみません………」

謝りながらドアの前を退く鈴音。

「また後で来るからね! 逃げないでよ! 一夏!」

そう言い残して鈴音は自分の教室へと戻って行った。

そして授業が始まるが、案の定箒とセシリアが織斑先生の出席簿アタックを何発か頂いていた。





そして時は流れてクラス対抗戦前日。

この間も原作通りのやり取りがあったらしいが、俺は殆ど関わってはいない。

つーか、特訓が厳しすぎて原作を見る暇も、ブレイクする暇……というか体力がねーよ。

それで今日も地獄の特訓デラックスフルコースを受けていた。

「はぁ……はぁ………」

俺はブレードを杖がわりにして何とか体を支えている。

辺りはすっかり暗くなっており、アリーナの使用限界時間ギリギリだ。

すると、楯無先輩がニッコリと笑い。

「おめでとう!」

いきなりそんな事を言ってきた。

「えっ?」

声を漏らす俺。

「地獄の特訓デラックスフルコース、初の完遂おめでとー!」

そう言って開いた扇子には“祝”の文字が。

「………は、はは……」

俺は小さく笑みを零す。

「まさか2ヶ月も経たないうちに完遂できるようになるとは思わなかったなぁ………やっぱり男の子だけあって、体力が付き易いのかな?」

そう推測する楯無先輩。

「まあ、体力だけは昔から付き易いような気がしてましたから」

そういう俺。

「そうなんだ。 君は陸上で言う長距離走タイプなんだね」

楯無先輩はそう言うと、

「じゃあ、初の特訓完遂のお祝いで、何かご褒美あげなきゃね。 何がいい?」

いきなりそんな事を言ってきた。

「えっ? いきなりそんな事言われても………あっ」

俺は言われて少し迷ったが、ある事を思いついた。

「それなら、ご褒美というか、お願いなんですけど………」

「うんうん、何かな?」

「これから特訓を完遂して、もし時間が余ったら、模擬戦をして欲しいんです。 手加減無しで」

俺はそうお願いする。

「えっ?」

驚いた声を漏らす楯無先輩。

「えっと………模擬戦はいずれ取り入れる予定だったから構わないんだけど………手加減無しで?」

「はい。 自分は勝つと、絶対に調子に乗ってしまうので、徹底的に叩き潰し続けて欲しいんです。 自分が弱者だと思い知らせる為に………」

「弱者………ね」

楯無先輩は呟く。

万が一にも本気の楯無先輩に勝てた時には、調子に乗っても問題ないぐらいの実力がついたということだ。

まあ、そんな時は来ないとは思うが。

「わかったわ。 じゃあ、構えて」

楯無先輩が頷くと、俺に構えるように促す。

「えっ?」

俺はどういう事かと声を漏らすと、

「君の望み通り、本気でやってあげる」

楯無先輩は、笑みを浮かべつつも、その目は真剣だ。

「えっと……アリーナの使用時間、もう5分もありませんよ?」

俺がそう言うと、

「問題ないわ。 1戦ぐらいならすぐに終わるから」

その言葉は冗談でも何でもなかった。

俺はブレードを構える。

すると、楯無先輩がISを展開する。

楯無先輩の専用IS『ミステリアス・レイディ』。

水のヴェールが楯無先輩を幻想的に見せる。

「へぇ~……」

その姿に思わず声を漏らした。

「どうしたの? もしかしておねーさんに見とれちゃった?」

楯無先輩はそんな事を聞いてきた。

初日のことがあってから、俺をからかう事は殆どなくなったが、偶にこういう事は言ってくる。

「そうですね。 幻想的で綺麗と思った事は否定しませんよ」

楯無先輩の言葉に対し、俺は正直に返した。

「へっ?」

楯無先輩は呆気にとられた顔をし、徐々に顔が赤くなってきた。

どうやら照れたようだ。

でもなんでだ?

楯無先輩って、こういう言葉には慣れてると思ったんだけど?

「お、おねーさんをからかうんじゃありません! おだてたって何も出ないよ!」

そう言ってくるが、

「いや、お世辞じゃなくて、正直な感想なんですけど………」

俺がそう言い返すと、

「~~~~~~~ッ!? もうっ、始めるよ!」

楯無先輩は顔を真っ赤にしつつ、誤魔化すように叫んで構えを取った。

俺もブレードを構えなおす。

当面の目標は、一撃与えることだな。

そう思って、俺は自分から楯無先輩に斬りかかる。

もちろん、刃を反してだが。

俺は楯無先輩目掛けてブレードを振り下ろす。

だが、

――ガキィ

気付けば自分の手からブレードが弾き飛ばされていた。

その事に驚く暇もなく、

「がっ!?」

突然の衝撃。

更に何が起きたか分からぬまま次々と攻撃を受ける。

「ぐぅうううううううっ!?」

そして、そのまま1分と経たずにシールドエネルギーが削られ、最後に吹き飛ばされてシールドエネルギーが0になった。

結局、一撃与えるどころか何もさせてもらえず敗北となった。

一応、最後にランスの一突きを貰ったことだけはわかったが、それ以外は全然わからなかった。

「ふふん。 学園最強は伊達じゃないのよ」

そう笑顔で言う楯無先輩。

その姿に少々見とれつつ、俺は気を失った。








あとがき


生きる意味の方が何か進まなかったので、息抜きにこっちを更新です。

今回は、凡人の苦労を無自覚に嘲笑う天才たちの図、です。

内容が薄いと思いますが、福音戦終了までは駆け足でいきますので。

本格的にネタを考えてるのが福音戦後からなので………

それまでは、次の更新が何時になるかわかりませんが、これにて失礼。





[37503] 第六話 首突っ込むつもりは無かったのに………
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/08/13 00:29

第六話 



クラス対抗戦当日。

アリーナの中央で、鈴と一夏が向かい合っている。

何やら言い合っているようだが、それは原作通りなんだろう。

まあ、細かいところは大分曖昧になってはいるが。

で、俺が今どこにいるかというと、セシリアとの戦いの後にいた、アリーナの通路の休憩所だ。

俺はそこで、モニターで試合の様子を観戦している。

だって、ゴーレムが襲って来るってわかってるのに、危険のある観客席に居ようとは思わない。

そして、いよいよ試合が始まろうとしたとき、

「やっほ~」

横からよく聞き覚えのある声が聞こえた。

俺がそちらを向くと、

「楯無おねーさん登場」

『登場』と書かれた扇子を広げ、ニッコリと笑う楯無先輩の姿があった。

「………何でここにいるんですか?」

俺は思わず疑問を口にする。

「ん。 特に理由はないよ。 強いて言えば、偶々君を見かけたからかな」

「さいですか」

楯無先輩の答えにそう頷き、俺はモニターに視線を向ける。

そこでは、一夏と鈴が試合を始めていた。

「ところで、何で盾君はこんな所で試合を見てるの? 観客席に行けばいいのに………」

楯無先輩にそう言われ、俺は一瞬どう言おうか迷った。

流石にゴーレムが来るからなどとは言えない。

俺は少し考えたが、ちょうどいい言い訳を思いついた。

「楯無先輩は、俺が男一人で女だらけの観客席の中で一緒に観戦できるとお思いですか?」

「うん。 無理だね」

俺の言葉に楯無先輩は笑って即答してくれました。

「そういえば、楯無先輩はこんなところにいていいんですか? 楯無先輩もクラス代表ですよね?」

俺は、ふと思いついたことを尋ねる。

「ううん。 私はクラス代表じゃないよ」

楯無先輩の答えに、俺は少し驚く。

「えっ? どうしてですか?」

思わず聞き返すと、

「流石に生徒会長との兼任は大変だからね。 それに、国家代表が学生たちのレベルに入ったら、結果が見え見えでつまらないでしょ?」

「ああ……なるほど………」

俺は相槌を打つ。

そういえば、楯無先輩ってロシアの国家代表だっけ。

「それに、最近は君のコーチでも時間を取ってるし」

「申し訳ありません」

楯無先輩の言葉に頭を下げた。

「あはは。 謝らなくていいよ。 私が好きでやってることだし」

楯無先輩は、笑ってそう言った。

モニターを見ると、一夏が鈴の衝撃砲から逃げ回っている。

「衝撃砲………」

俺はポツリと呟いてしまう。

アニメで見ていた時と違って、本当に砲弾も何も見えない。

いきなり地面が爆発しているように見える。

よく見ると、鈴の周りが若干揺らめいて見えるが、戦闘中にそんなものを見分けるのは不可能だろう。

「おっ! よく知ってるねぇ~」

楯無先輩が、俺のつぶやきに反応したのか、そんな事を言ってくる。

「まあ、名前ぐらいは………」

とりえずそう言っておく。

すると、モニターの向こうでは一夏が一旦距離を置いた。

『鈴』

『なによ?』

『本気で行くからな』

え~っと、確かこんなセリフの後だったよな。

ゴーレムが来るのって。

鈴に向かって一夏が瞬時加速で突っ込んだその瞬間、

――ドゴォォォォォン

アリーナ全体に衝撃が響いた。

「うおっと!?」

想像以上の衝撃に俺は思わず声を漏らした。

ゴーレムが来たか。

俺がそう思っていると、

「っ!? 盾君はここにいて! 勝手に動き回っちゃダメだよ!」

楯無先輩がいつもと違う真剣な顔をしてそう言い残し、走っていく。

流石対暗部用暗部更識家の当主。

行動が早いな。

俺は大人しくベンチに座る。

俺如きがゴーレムに敵う訳ないし、変に行動すれば、それだけで迷惑がかかるだろう。

どうせ一夏達がゴーレムを倒すんだから、何もしない方が安全だろう。

俺はそう考え、ベンチに座ったまま腕を組み、何も映らなくなったモニターをボーッと見ていた。

それから少しして、通路を走る足音が聞こえてきた。

「ん?」

俺が気になって視線を向けると、焦った表情をした箒が目の前を通り過ぎていく。

「……………あれ? ゴーレムの襲撃の時に、箒って何かやらかしたっけ?」

俺は、記憶から箒の行動を引っ張り出そうとする。

「……………あ、思い出した」

俺は、この後箒が一夏に向かって発破をかけようと放送で叫んだことを思い出す。

「それって、箒が狙われて、ギリギリ一夏が間に合ってゴーレムを倒したんだよな………とりあえず何もしなくても大丈夫だとは思うけど、一応止めといたほうがいいかな?」

原作を読んだ時も、「何やってるんだコイツ? 空気読め」と思ったぐらいだ。

箒の気持ちも分からんでもないが、やってることは戦いの邪魔でしかない。

「………行くか」

俺は箒の後を追って走り出した。




俺が通路を走っていると、

『一夏ぁぁぁぁっ!!』

スピーカーから大音量の箒の声が聞こえてきた。

やべっ、間に合わなかった。

『男なら………男なら、そのぐらいの的に勝てなくてなんとする!!』

すると、窓から見えていたゴーレムは“こっち”を向いた。

って、何で!?

俺は一瞬疑問に思うが、すぐに分かった。

「ここ、中継室の真下じゃねえか!?」

俺は叫ぶが、更に拙い事に気付く。

ゴーレムがビームの発射口をこちらに、正確には、中継室の箒に向ける。

しかし、一夏達の位置が遠すぎる。

いくら白式の瞬時加速でも、間に合うとは思えなかった。

「グッ! どうする!?」

俺は歯を食いしばる。

おそらくここにいても打鉄を展開すれば、死ぬことは無いだろう。

でも、箒や中継室にいる人たちは確実に死ぬ。

ゴーレムのビーム砲の砲口が光り始める。

「俺は………俺は…………」

弱い俺に何ができる!?

ここで打鉄を纏って小さく震えていれば命は助かる!

そうだ、俺には何もできない!

今まで通りじゃないか!

いつも通り、逃げればいい………

自分の中で、諦めの心が渦巻く。

でもその時、一つの言葉が浮かび上がった。

『私が君を強くする』

その言葉が思い浮かんだとき、

「ッ!?」

気付けば俺は打鉄を纏って壁を突き破り、破壊の閃光の前にその身を晒していた。

そのまま視界が閃光に包まれ、意識が遠くなるのを感じた。






【Side 一夏】



『男なら………男なら、そのぐらいの的に勝てなくてなんとする!!』

箒が中継室で叫んでいた。

あのバカ!

おとなしくしてろよ!

その時、あの謎のISが箒に右腕を向けた。

「箒! 逃げ………」

逃げろと言いかけて俺はやめた。

今から言って間に合う訳が無い。

俺は姿勢を突撃姿勢へと変え、瞬時に加速する。

「鈴! やれ!」

「わ、わかったわよ!」

俺は鈴に衝撃砲を撃つように指示する。

鈴が衝撃砲の発射体制に入った時、俺はその射線軸上に躍り出る。

「ちょ、ちょっとバカ! 何してんのよ!?」

「いいから撃て!」

「ああもう………! どうなっても知らないわよ!」

衝撃砲を背中に受け、そのエネルギーを利用して俺は瞬時加速を発動させる。

その間にも謎のISは、箒に向かってビームを放とうとしていた。

くそっ!

間に合えっ!

相手が剣の間合いに入った瞬間、俺は零落白夜の刃を振り上げる。

「うぉおおおおおおおっ!!」

だが剣を振り下ろすその瞬間、謎のISの腕からビームが放たれた。

しまったっ!

「くそぉおおおおおおおっ!!」

俺は剣を振り下ろし、奴の右腕を切り落とす。

「箒!?」

俺はビームが着弾した中継室に慌てて目をやる。

そこは、爆煙で様子がわからない。

「箒………箒ィィィィッ!!」

俺は思わず箒の名を叫ぶ。

やがて、煙が晴れていくと、

「えっ?」

窓ガラスが全て割れているが、原型を残した中継室が見えた。

その窓の向こうで、ヨロヨロと起き上がる箒の姿。

「箒!」

俺は、ギリギリ間に合ったことに安堵する。

が、その時、

「一夏!」

鈴の声が聞こえたかと思うと、俺は謎のISの左腕で殴り飛ばされていた。

「ぐはっ!?」

「一夏っ!」

鈴の叫び声が聞こえる。

見れば、相手が左のビーム砲を俺に向けていた。

だけどな、

「……狙いは?」

俺は口元に笑みを浮かべながらそう呟く。

『完璧ですわ!』

通信から頼もしい答えが返ってくる。

次の瞬間、謎のISが4本のレーザーによって撃ち抜かれた。

セシリアのブルー・ティアーズによる一斉射撃だ。

遮断シールドは、さっきの一撃で破壊した。

それによって、外部からの援護を可能にしたのだ。

謎のISは、セシリアの攻撃によって機能停止したのか、地上に落下する。

『ギリギリのタイミングでしたわ』

「セシリアならやれると思っていたさ」

『そ、そうですの………と、当然ですわね! 何せわたくしはセシリア・オルコット。 イギリスの代表候補生なのですから!』

返ってきたセシリアの言葉は、何故か酷く狼狽していた。

「ふう。 何にしてもこれで終わ…………」

終わりと呟こうとした瞬間、

――敵ISの再起動を確認! 警告! ロックされています!

白式から警告文が表示される。

「ッ!?」

片方だけ残った左腕を、地上から俺に向けていた。

次の瞬間、迫り来るビーム。

俺は瞬間的にその光の中に飛び込み、意識を失う寸前、刃が装甲を切り裂く手応えを感じた。





【Side Out】








「………………うっ」

ぼんやりする意識の中、俺は目を覚ました。

「あっ、起きた?」

聞こえてきた声に、俺はまだ焦点の合わない視線を向ける。

焦点が合わないために、顔はよく見えなかったが、その髪の色だけはハッキリと分かった。

その水色の髪を持つ人物は、俺が直接会った中では一人しかいない。

「楯無………先輩……?」

俺は念の為に聞く。

「うん。 おはよう」

その言葉に、ようやく目の焦点が合ってくる。

楯無先輩は、いつもどおりの笑顔を浮かべていた。

「………ここは?」

「私達の部屋だよ」

俺は視線を動かすと、間違いなく自分の部屋だ。

「まあ、今はもう夜だけどね」

「えっ?」

楯無先輩の言葉に体を起こすと、窓から見える外の景色は真っ暗だった。

「でね。 ちょっと聞きたいことがあるんだ」

楯無先輩は、至極真面目な表情で問いかけてきた。

「………何でしょうか?」

俺が聞き返すと、

「私は、君を中継室の真下で見つけた。 しかも、かなり損傷したISを纏った状態で………先生にはあのISの攻撃に巻き込まれたって報告した。 君の打鉄も、薫子ちゃんに頼んで修理してもらってる。 でも、君は元々ピット近くの休憩室に居たはず………どう考えても、巻き込まれるはずがない………君、箒ちゃんを庇ったでしょ?」

そう言ってくる楯無先輩の目は真剣だ。

「………はい、その通りです。 楯無先輩が居なくなってから少しして、篠ノ之さんが目の前を走って通り過ぎて行ったんです。 今までの篠ノ之さんの性格から、多分織斑に発破をかけるだろう事は予測できました。 なので、俺はそれを止めるために追いかけたんですけど、結局間に合わずに攻撃を受けそうだったために、咄嗟にISを装着してビーム攻撃を受けたんです」

俺はそう説明する。

「そう……なんだ………」

楯無先輩はそう言って目を伏せる。

その様子が寂しそうに見えたのは俺の気の所為だろうか?

「ねえ……盾君」

「はい?」

「盾君は………箒ちゃんの事、好きなの?」

「ブフッ!!??」

楯無先輩の思いがけない言葉に、俺は思わず吹き出した。

「な、何でそんな話になるんですか!?」

俺は叫びながら聞き返す。

「だって、単なるクラスメイトってだけで、あの攻撃の盾になるなんて、簡単にできることじゃないよ」

楯無先輩の言葉に、俺は呆れる。

ぶっちゃけ俺があの攻撃の盾になったのは、楯無先輩を嘘つきにしたくなかったという思いが大きい。

あの時箒を見捨てたら、俺を強くすると言ってくれた楯無先輩を裏切ってしまう気がして、気がついたらISを纏って飛び出していた。

が、そんな事を本人に言うのは恥ずいために、俺らしい尤もな理由を述べることにした。

「アハハ………そんな男らしい理由で守れたらカッコよかったんでしょうけど、残念ながらそんなんじゃないです。 ただ、俺の目の前で人が死ぬのが怖かったからですよ。 人が死ぬ怖さに耐え切れなくなって、気が付いたらISを纏って飛び出していたって感じです」

「そ、そうなんだ……」

楯無先輩は、どこかホッとした表情を見せたような気がした。

「きょ、今日の訓練は休みにするから、ゆっくり休んで」

「はい、分かりました」

今はまだ体が痛いので、訓練が休みなのは有り難い。

お言葉に甘え、ゆっくりと眠ることにした。








あとがき


生きる意味が書けねぇ~~~~~!!

ってことで、弱きものの足掻きを更新です。

マジでやばい。

また生きる意味がスランプに突っ込んだかも。

あと5話ぐらいで生きる意味が終わる予定なのに。

どういう風に書こうかも決まっているのに……

何故か筆が進まない。

なんでだぁ~~~~!!

とまあ、その話は置いといて、哀れ盾君。

その名のごとく体を張って盾役をこなしたのに、一夏達には全く気付かれずにスルーされました。

まあ今回も短いですね。

若干楯無さんが盾君を意識し始めたかも?

盾君はそんなことありえないと思い込んでるので全く気付かず。

さて、次はどうなるのか?

それまで失礼。





[37503] 第七話 2人の転校生…………ま、俺には関係ないが
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/08/15 11:34

第七話 





クラス対抗戦から暫く。

俺は朝練の疲れから机に突っ伏している。

クラス対抗戦前日から、訓練には楯無先輩との模擬戦を取り入れている。

しかし、未だに一撃すら入れることが出来ない。

いや、むしろ攻撃しようとする事すら出来ない。

攻撃しようとした瞬間にカウンターを貰い、そのまま後は成す術なく攻撃を受け続け、シールドエネルギーをゼロまで持っていかれる。

なので、最近ではとりあえず攻撃する事はやめて、防御と回避に全力を注いでいる。

とは言っても、攻撃に2回対処するだけで精一杯だが。

最初は防御しようとしても、防御すら躱されてボコられた。

その時に比べれば、ちょっとは成長してると言える。

と、俺が物思いにふけっていると、いつの間にか一夏が教室にいて、女子と何やら話している。

そういえば、学年別トーナメントで如何とか、付き合えるとか何とか?

そんな噂話を女子がしていたのを偶々聞いた気がする。

原作の記憶も薄れているため、細かいところまで思い出せん。

主要な所は覚えてるんだがな。

近々男装したシャルロットと、ラウラが転校してくるとか、学年別トーナメントでラウラのISがVTシステムで暴走するとか。

まあ、元々俺は頭良くないんでしょうがないんだが。

と、山田先生と織斑先生が教室に入ってきたので体を起こす。

最初に織斑先生が今日からISの実践訓練をするという事を伝えると、すぐに山田先生と交代する。

なんていうか、織斑先生より山田先生の方が担任っぽいと思ってるのは俺だけだろうか?

「えぇっとですね。 今日は転校生を紹介します! しかも2人!」

「「「「「「えぇええええええええええええっ!!??」」」」」」

山田先生の言葉に、クラス中が声を上げる。

俺は特に反応しなかったが。

っていうか、あの2人が転校してくるのって今日だったのかよ。

すると、教室のドアが開いた。

「失礼します」

「……………」

入ってきた人物を見て、クラスのざわめきがピタリと止まる。

まあ、転校生の1人(の見た目)が男なのだから当然か。

俺はいつでも耳を塞げるように身構えておく。

「シャルル・デュノアです。 フランスからきました。 この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

シャルロットもといシャルルがそう挨拶する。

「お、男…………?」

誰かが呟いた。

実際は女だがな。

「はい。 こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を……」

そろそろかと思い、俺は耳を塞ぐ。

その瞬間、

「「「「「きゃぁあああああああああああっ!!!!!」」」」」

凄まじい黄色い声がクラス中に響く。

耳塞いでもまだうるさい。

「男子! 2人目の男子!!」

「違うよ!? 無剣君いるから3人目だよ!?」

「ああ、いたわねそんな奴!」

「でもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれてよかった~~~~!」

オイ最初と3番目。

俺はそこまで影薄いか?

まあ、どうでもいいが。

「あー、騒ぐな。 静かにしろ」

織斑先生が鬱陶しそうにぼやく。

「み、皆さんお静かに。 まだ自己紹介が終わってませんから~!」

山田先生が必死に叫ぶ。

で、その当の本人のラウラだが、

「…………………」

その本人は、先程から一言も喋っていない。

騒ぐクラスメイトを、腕を組んで下らなそうに見ているだけだ。

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

織斑先生の一言で、いきなり佇まいを直した。

「ここではそう呼ぶな。 もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。 私の事は織斑先生と呼べ」

「了解しました」

そう言うと、ラウラはクラスメイト達に向き直り、

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

それだけ言って黙り込むラウラ。

「あ、あの………以上ですか?」

「以上だ」

一夏以上に短い自己紹介だな。

冷や汗を流す山田先生。

その時、ラウラと一夏の目が合った。

すると、

「ッ! 貴様が……」

ラウラがつかつかと一夏の前まで歩いていき、

――バシンッ

一夏の頬に平手を見舞った。

うわ、痛そう。

「う?」

一夏は何が起きたのかわかってなさそうな表情だ。

「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

ラウラはそう言い放つ。

「いきなり何しやがる!」

我に返った一夏はそう叫ぶが、

「フン……」

ラウラは一夏を無視し、つかつかと歩いて行き、空いている席に座ると、腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。

「あー………ゴホンゴホン! ではHRを終わる。 各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。 今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。 解散!」

織斑先生がそう言ってHRを終了させたため、一夏の怒りの矛先はどこにも向けられない。

何故ならば、すぐにこの部屋で女子が着替えを始めるからだ。

「おい、織斑、無剣。 デュノアの面倒を見てやれ。 同じ男子だろう」

織斑先生にそう言われ、一夏がシャルルに近付いて行く。

「君が織斑君? 初めまして。 僕は………」

「ああ、いいから。 とにかく移動が先だ。 女子が着替え始めるから」

シャルルが近くにいた一夏に自己紹介をしようとすると、一夏がそう言って中断させ、シャルルの手を取ると、

「盾、行くぜ」

「へ~い」

俺達はそそくさと教室を出る。

一夏は、シャルルに説明を始めた。

「とりあえず男子は空いているアリーナの更衣室で着替え。 これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」

「う、うん………」

困惑していたシャルルが頷く。

すると、

「ああっ! 転校生発見!」

「しかも織斑君も一緒!」

同学年の他クラスだけでなく、2、3年のクラスからも噂を聞きつけた生徒達がやってきたのだ。

「いたっ! こっちよ!」

「者ども出会え出会えい!」

まるで武家屋敷のような掛け声をする生徒達。

「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

「しかも瞳はエメラルド!」

「きゃああっ! 見て見て! 織斑君とデュノア君! 手繋いでる!」

「日本に生まれてよかった! ありがとうお母さん! 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

叫びながら俺達を追ってくる生徒達。

「な、何? 何で皆騒いでるの?」

状況が飲み込めないシャルルが一夏に尋ねる。

「そりゃ、男子が俺達だけだからだろ」

「………?」

言われたことが理解できないのか、首を傾げるシャルル。

「いや、普通に珍しいだろ。 ISを使える男子なんて、今のところ俺達しかいないんだろ?」

「あっ! ……ああ、うん。 そうだね」

「それに、ここの女子達って、男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」

「ウー……何?」

「20世紀の珍獣。 昔日本で流行ったんだと」

「ふうん」

そう言いながらも追いかけてくる女子達から必死で逃げる俺達。

そこで、俺はふと思った。

なんで俺まで逃げてるんだ?

女子達の目的は一夏とシャルルなんだし。

俺がそう思ったとき、更衣室への最短距離の通路に女子達が先回りしていた。

「げっ!?」

一夏が声を漏らし、手前にあった通路を曲がる。

俺は、その道を曲がった瞬間、柱の影へ身を隠した。

女子達は、俺に全く気付かずに一夏とシャルルを追いかけていく。

10秒ほどして女子が全員通り過ぎていったことを確認すると、俺は最短距離で更衣室へと向かった。





俺が更衣室でISスーツに着替え終わったとき、更衣室のドアが開いた。

「はぁ………はぁ…………」

そこには息を切らした一夏とシャルル。

「お疲れさん」

俺はそう声を書ける。

「お、お前……いつの間に消えたんだよ………」

一夏は息を切らせながらそう言ってくる。

「さてね。 まあ、もうすぐ時間だから、遅れないように急げよ」

俺はそう言って更衣室を出た。





その後は、概ね原作通り(多分)。

一夏が山田先生にラッキースケベかましたり、セシリアと鈴が山田先生に撃ち落とされたり、一夏が箒をお姫様抱っこしたり。

あ、俺もこの時は専用機持ち扱いとして、指導側に回った。

最初の自由に班分けするときは、俺のところには一人も来ないと思っていたのだが、何とのほほんさんが1人だけだが来てくれた。

なんでも、

「お嬢様から、むっきーは努力家だってきいてるよ~」

だそうだ。

ちなみにのほほんさんよ。

俺が努力しているのではなく、楯無先輩に努力させられているの間違いだからな。

ちなみに俺が受け持った班は、何事もなく一番早く終わった。





それから時間が経ち、早くも学年別トーナメント前日。

やはり一夏達はラウラと一悶着あったらしいが、相変わらず俺は関わってない。

で、いつもの特訓であるが、

「どわぁああああっ!!」

俺は楯無先輩に吹っ飛ばされ地面に倒れる。

シールドエネルギーは既にゼロ。

模擬戦時間1分ちょい。

相変わらず一撃入れることなく負けである。

ただ、防御と回避に集中しているため、模擬戦の時間そのものは長くなっている。

最初の30秒でやられた時に比べれば、だいぶマシになったと言えよう。

相変わらず攻めに出ようとするとカウンターを受けて、そこから無限コンボに繋げられ、約25秒でやられるが。

「防御と回避は、そこそこ上達してきたね」

地面に倒れている俺に、楯無先輩が声をかける。

「まあ、攻める隙もなくやられ続けてれば嫌でも上達しますよ」

俺はそう答える。

その答えに楯無先輩はクスクスと笑い、

「そういえば、明日のタッグトーナメントだけど、ペアになる人はいるの?」

そう聞いてきた。

「いる訳ないですよ。 俺の評価は最初の特訓でドン底ですからね。 男性操縦者が3人もいると、物珍しさも薄れますから。 俺は他の2人と違ってイケメンでも無いですし。 俺は抽選待ちです」

「そうなんだ。 う~ん、残念だなぁ。 もしおねーさんが君と同じ学年だったら組んであげても良かったんだけど………」

「あはは………それだったら、最強と最弱で釣り合い取れていいかもしれませんね」

もし、楯無先輩と組んだとしても足を引っ張るだけだろう。

「ふふっ、とりあえず明日に備えて今日はここまで。 しっかり休んで、体調を万全にね」

「りょ~かい!」

そう返事をして、今日の訓練は終わった。







[37503] 第八話 俺が活躍すると? ブーイングの嵐です。
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/08/15 11:35



第八話



タッグトーナメント当日。

俺は、更衣室でISスーツに着替えていた。

ここには、一夏とシャルルもいる。

「しかし、すごいなこりゃ」

一夏がモニターに映る大勢の観客を見て、声を漏らす。

「3年にはスカウト。 2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

シャルルがそう説明する。

「ふーん、ご苦労なことだ」

一夏は、特に興味もないと言った雰囲気でそう言った。

「そういえば、盾は誰と組むんだ?」

一夏がそう聞いてきた。

「俺は抽選待ちだ。 特に親しい相手もいないしな」

「そうなのか…………」

それだけ聞くと、黙り込む一夏。

「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」

シャルルが一夏を見てそう言った。

「ん? あ、ああ。 まあな」

「感情的にならない方がいいよ。 ボーデヴィッヒさんは多分、1年の中でも最強だと思うから」

「ああ、分かってる」

シャルルの言葉に一夏は頷く。

その時、モニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。

「あ、対戦相手が決まったね」

その言葉に、モニターに向き直る俺達。

「えっ!?」

「なっ!?」

「マジか?」

シャルルと一夏が驚愕の声を上げ、俺も思わず声を漏らした。

モニターに映し出されたトーナメント表には、

『第一試合 織斑 一夏、シャルル・デュノア×ラウラ・ボーデヴィッヒ、無剣 盾』

そう表示されていた。

「「…………………」」

呆然と俺を見る一夏とシャルル。

「やれやれ、まさかボーデヴィッヒさんと組むことになるとは………」

俺はボリボリと頭を掻きながらそう漏らす。

それから一夏達に向き直り、

「ま、そういうわけでお前達とは敵同士だな。 お前とボーデヴィッヒさんの間で何か一悶着あったらしいが、こういうことになった以上、手は抜かないぜ」

そう言っておく。

一夏は、一瞬呆気にとられたようだが、すぐにニヤリと笑みを浮かべ、

「ああ、俺もだ!」

いや、俺としては全力で手加減して欲しいんですがね。

この才能の塊ども。

それから俺は2人と別れ、指定されたピットへと向かった。





俺がピットに着くと、既にボーデヴィッヒさんが待機していた。

「ふん、貴様がペアか」

「ああ、知ってるかもしれないが、無剣 盾だ。 別に覚えなくてもいいけど」

俺はラウラの不遜な態度を気にせずにそう言った。

「貴様に一つ言っておく」

「ん?」

「織斑 一夏は私の獲物だ。 貴様は手を出すな!」

「りょ~かい。 てか、いっそ2人とも相手してくれ。 俺はヘナチョコだから、邪魔にならない程度の援護に専念する」

「勝手にしろ」

「そうさせてもらう。 少なくとも、君の実力は本物だからアテにさせてもらうよ」

「フン。 身の程は弁えているようだな」

そう言ってラウラはピットのゲートへと向かった。




やがてアリーナに出るように指示が出たため、俺達はアリーナの中央で一夏達と向かい合う。

「一回戦目で当たるとは………待つ手間が省けたというものだ」

ラウラが一夏に向かってそう言う。

「そりゃあ何よりだ。 こっちも同じ気持ちだぜ」

一夏もそう言い返した。

試合開始のカウントダウンが開始され、0になる瞬間、

「「叩きのめす!!」」

一夏とラウラが同時に叫び、一夏が一直線に突撃した。

が、ラウラの発生させたAICで動きを止められる。

「くっ!」

「開幕直後の先制攻撃か。 わかりやすいな」

「……そりゃどうも。 以心伝心で何よりだ」

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」

ラウラがそう言うと、肩に装備されたレール砲が、一夏に向けられる。

だが、レール砲が放たれる寸前、一夏の頭上からシャルルが飛び出し、アサルトライフルを撃つ事で狙いをずらし、一夏へ放った砲弾は空を切った。

ちなみに俺は、試合開始とともに後ろに下がり、大きく回ってラウラと一夏達が横から見える位置にいる。

シャルルが高速切替で武装を呼び出し、両手にアサルトライフルを装備する。

「逃がさないっ!」

それをラウラに向かって放とうとしていたが、それを黙って見ている訳はない。

俺は予め呼び出しておいたアサルトライフルを構え、シャルルの前方を横切るように威嚇射撃。

危機感を感じたシャルルは追撃を止め、後ろに飛び退く。

本人には相変わらず撃てないが、当たらないとわかっている程度の威嚇射撃はできるようになった。

すると、一夏とシャルルが何やら話し合い、一夏がラウラへ。

シャルルが俺へと向かってきた。

一夏が時間を稼いでいる間に、シャルルが俺を倒す作戦のようだ。

確かに、俺とシャルルがまともにやり合えば、大した時間もかけずに俺が負けるだろう。

まともにやり合えば………な。

「僕が相手だよ!」

シャルルが両手にアサルトライフルを構えて俺にそう言ってくる。

だが、

「そいつは勘弁!」

俺はそう言って、瞬時加速で逃げ出した。

「へっ?」

俺の行動が予想外だったのか、呆けた声を漏らすシャルル。

すると、ハッと我に返り、

「こら~! 逃げるな~!」

俺を追いかけてきた。

追いかけて来ると同時にアサルトライフルを連射してくるが、シャルルはセシリアのように精密射撃型じゃない+俺の逃げ足が上がった事で、何発かは当たるものの、大ダメージは受けずに済んでいる。

「逃げずに戦え~!」

「やなこった!」

シャルルの文句に言い返しながら俺は逃げ続ける。

「臆病者~~~!」

「臆病ですから~!」

シャルルの挑発も俺にとっては挑発にならない。

一夏とラウラの戦いを横目で見ると、案の定一方的に一夏が追い込まれている。

そろそろかな?

「デュノアさん。 俺ばっかりに構ってていいのかな?」

俺はそう呟く。

「ッ!?」

俺の言葉に一夏が追い込まれていることに気付いたのか、シャルルは向きを変え、一夏の援護に向かう。

「一夏ぁっ!!」

シャルルはライフルを連射し、AICで一夏の動きを止めていたラウラを牽制する。

それによってラウラはAICを解除し、一夏は難を逃れる。

だが、それが俺の狙い。

俺は瞬時加速を発動。

シャルルに向かって急接近する。

「ほいさぁっ!」

シャルルの肩アーマー部目掛け、蹴りを放った。

「うわっ!?」

この不意打ちは避けられず、シャルルは地上に倒れる。

だが、当然ダメージは低い為、シャルルはすぐに起き上がった。

「くっ! 油断した!」

その時、

「こらぁーーーーッ!! 無剣ぃーーーーー!! デュノア君に何てことするのよ!!!」

「そうよそうよ!! デュノア君はあんたなんかと違ってか弱くて繊細なのよ!!!」

「「「「「「「「「「ブーー!!!  ブーー!!!」」」」」」」」」」

一斉にアリーナ中に広がるブーイングの嵐。

気にするつもりはないが、ちょっと凹む。

「あ、あはは…………すごいブーイングだね………」

シャルルは苦笑しつつ冷や汗を流しているのがよくわかる

「成績優秀金髪イケメンと、成績中の下の黒髪フツメンの差だろ」

そんな事はわかっているが、俺は一言言っておきたい。

「それはともかく、軍人並みの訓練をこなしてきた代表候補生と、高校に入るまでインフィニット・ストラトスの“イ”の字も関わらなかった一般男子生徒。 どっちがか弱くて繊細か、小一時間問い詰めたいんだが?」

俺がそう問うと、

「あ、あはははは……………ノーコメント」

冷や汗をたっぷり流して苦笑しているシャルルだった。






【Side 千冬】



「ふわー、凄いですねぇ織斑君。 たった3ヶ月で代表候補生のボーデヴィッヒさんに、押され気味とはいえ渡り合ってますよ。 先ほどのデュノア君との連携も見事でしたし………やっぱり凄いです。 才能ありますよね」

教師だけが入ることを許されている観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら、山田先生が感心したように呟く。

しかし、

「ふん。 あれはデュノアが合わせているから成り立つんだ。 あいつ自体は大して連携の役に立ってはいない」

「そうだとしても、他人がそこまで合わせてくれる織斑君自身が凄いじゃないですか。 魅力のない人間には、誰も力を貸してくれないですよ」

「まあ………そうかもしれないな」

山田先生は、一夏の事を買いかぶりすぎではないだろうか?

「ああ、才能と言えば、無剣君も凄いですよね。 織斑君には及ばなくても、オルコットさんとの試合の時に比べれば、かなり上達してますよ。 まあ、あの逃げっぷりには、呆れを通り越して清々しいぐらいですが………」

無剣か………

山田先生は気付いているのだろうか………

一夏と無剣の実力の差が縮まっているという“異常性”に………

入学試験と試合の1つでも見れば、そいつに才能があるかどうかの判断はつく。

一夏には才能がある。

身内贔屓をしているかもしれないが、それを差し引いたとしても、山田先生が言うように高い才能を持っていると言える。

だが、無剣にはそういった才能は感じなかった。

寧ろ、才能という点では私が見てきた中でも最下級に位置すると言っても過言ではない。

織斑の才能の10分の1以下だ。

それでも、オルコットの試合の時と比べると、一夏と無剣の実力の差は縮まっている。

一夏が成長限界まで成長しきっていたというのなら実力の差が縮まるのも納得できる。

だが、一夏もまだ成長段階。

差が開くことはあれど、縮まるとは考えにくい。

そういえば、今は更識の奴が無剣を見ているのだったな。

オルコットの試合があった日の夜、あいつが無剣の指導を自分に一任してくれと頼みこんできた時は驚いたな。

だが、いくら学園最強の称号を持つ生徒会長とはいえ、才能の無いあいつをここまで育てるのは不可能だと思うが………

私が思うよりも奴には才能があったという事なのだろうか?

それなら全てに納得がいくが………

「織斑先生? どうかしましたか?」

いつの間にか考え込んでいたのを、山田先生の声で我に返る。

「いや、なんでもない。 無剣の行動だが、確かに一見情けなくも見えるが、織斑やデュノアにとっては、今現在では一番厄介な行動だろう」

「えっ? どういうことですか?」

「織斑とデュノアの作戦は、実力で劣る無剣を早い段階で倒して、ラウラと2対1の状況を作り出したかったのだろう。 しかし、無剣が逃げることによって、それも難しくなってしまった。 デュノアが無剣にばかり集中していれば、ラウラが織斑を追い詰めるだろうし、逆にデュノアが一夏を援護しようとすれば、先程の様に無剣が邪魔をする。 あの2人にとってはやっかいな存在さ」

「なるほど!」

まあいい。

理由はどうあれ、生徒が成長しているのは喜ばしい事だ。





【Side Out】




相変わらずシャルルから逃げまくり、シャルルが一夏の援護に入ったらシャルルに牽制する。

俺はこのパターンが出来上がっていた。

一夏もラウラに喰らいついてるとは言っても、今現在では圧倒的にラウラの方が実力は上だ。

ぶっちゃけ、1人を引き付けておけば、あとはラウラが勝手に勝ってくれる。

そのはずだった。

「かかった! 一夏!」

俺がシャルルが放ってきたグレネードを避けたときに、シャルルがそう叫んだ。

「おう!」

その声が聞こえたとき、目の前は一夏が剣を振り上げていた。

「げっ!?」

よく見れば、俺が逃げたところはラウラと一夏が戦っていた場所のすぐ近く。

俺は咄嗟にブレードを呼び出し、一夏の剣を受け止める。

「あぶねっ! ギリギリ!」

そのまま俺と一夏は鍔迫り合いの状態に入る。

その時、シャルルがラウラに銃を乱射した。

「今度は僕が相手だよ!」

「くっ! 邪魔をするな!」

シャルルがそのままラウラを引き付けていく。

「はぁあああああっ!!」

――ギィン ギィン

一夏が何度も剣を振るってくる。

その剣を俺は防ぎ続ける。

うん、何て言うか楯無先輩に比べれば遅いし、剣筋も正直だし。

楯無先輩の時は防ごうとしても、フェイント入れられたり、防御を躱されたりするから滅茶苦茶防御し辛いんだよな。

それに比べれば、一夏の剣筋は実に防御しやすい。

一夏の剣筋は正直だから、一夏の剣と交差するようにブレードを構えればそれだけで防げるからな。

まあ、周りから見れば、俺が一方的に押し込まれているように見えるだけだろうが。

それにしても…………零落白夜受け止めるのって滅茶苦茶怖~~~~!!

だって、バリア無効化攻撃だろ!?

シールド貫通してくるんだろ!?

言うなれば生身の状態で、真剣で斬りかかられてるようなものじゃねえか!

それを躊躇なく振り回せる一夏の気が知れん。

ま、必死過ぎてその事に気付いてないだけだろうが。

すると、俺を攻め続けていた一夏の零落白夜が解除される。

シールドエネルギーが尽きたのか。

と、その瞬間一夏が急速後退。

俺は何だと思ったが、足元に落ちていたアサルトライフルを見て直感した。

一夏はアサルトライフルを拾い、俺そっちのけでラウラを狙った。

その時のシャルルはAICに捕まって大ピンチだったらしく、一夏の援護射撃で難を逃れる。

俺は慌てて一夏を蹴っ飛ばし、援護を中断させるが、

――ズドン!

重そうな音がしてラウラが吹っ飛んだ。

シャルルのパイルバンカーだ。

ラウラはアリーナの壁に激突する。

俺はその瞬間、瞬時加速を発動。

一気に飛び出す。

シャルルもラウラに向かって追撃を繰り出そうとしている。

シャルルが左腕を振りかぶった瞬間、

「はぁああああああああっ!!」

「くうっ!?」

俺は体当たりでシャルルを吹き飛ばす。

その瞬間再び巻き起こるブーイング。

ブーイングに少々凹みながらも、何とか追撃は防げたことに安堵する。

これならVTシステムは………

起動しないと思った瞬間、後方から紫電が溢れた。

「ああああああああああああっ!!!」

ラウラの叫び声と共に、ISが変化していく。

何でだよ!?

俺は疑問に思うが、これから起こる問題にどう対処するかで冷や汗を流した。





【Side ラウラ】




デュノアのパイルバンカーの直撃を受け、私は吹き飛ばされる。

壁に叩き付けられ、体に衝撃が響く。

見ればデュノアが追撃の為に私に飛びかかってくる。

こんな所で負けるのか………私は………

デュノアが左腕を振りかぶる。

再び左腕のパイルバンカーが私に叩き込まれるかと思ったとき、

「はぁああああああああっ!!」

「くうっ!?」

私の試合の上でのペアになった無剣が、体当たりでデュノアを吹き飛ばした。

またこいつか。

私は苛立ちを感じる。

織斑 一夏を調べる上で、念のために同じ男性操縦者である無剣の事も調べた。

調査の結果は、織斑 一夏にも劣る雑魚だ。

入学試験における前代未聞の醜態。

イギリス代表候補生との無様な試合。

気にする価値もない塵芥の存在。

それが私が無剣に下した評価だった。

その取るに足らない存在に私は今助けられた。

いや、今だけではない。

織斑 一夏を追い詰めたと思ったとき、デュノアからの鬱陶しいと思える援護射撃。

その時も、無剣が邪魔する事によって、私が有利になる様に事を進めることが出来た。

……………このような雑魚に助けれなければいけないほど、私は弱かったのか?

………………否!

私は1人でも負けない!

負けるわけにはいかない!

その為に、『力』が欲しい!!

――ドクン

私の奥底で、何かが蠢く。

『願うか………? 汝、自らの変革を望むか………? より強い力を欲するか………?』

寄越せ………

力を………

比類なき最強を………

唯一無二の絶対を………

私に寄越せぇぇぇぇぇっ!!!



Damage Level …………D.

Mind Condition …………Uplift.

Certification …………Clear.

≪Valkyrie Trace System≫…………boot.





【Side Out】






ラウラがVTシステムに飲み込まれ、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだったものは、真っ黒なISを纏った女性の形へと姿を変える。

その間に、アリーナには警戒態勢が敷かれ、シェルターが閉まる。

すると、

「雪片…………!」

一夏が呟き、剣を中断に構える。

すると、その動きに反応したかのようにVTシステムのISは一夏に襲い掛かった。

一撃目で一夏の剣を弾き、二撃目で一夏自身に攻撃する。

一夏はその剣を腕に受け、吹き飛ばされる。

その一撃でISが強制解除され、一夏の腕には刀傷が出来ていた。

それでも、一夏はあろうことか生身でVTシステムに向かっていこうとする。

シャルルに止められたが。

こうしてみると、一夏って馬鹿だよな。

おまけにシスコン。

ついでに無謀。

よく生きていられるもんだ。

流石主人公。

俺は蚊帳の外でどんどん話が進んでいく。

で、シャルルが一夏にエネルギーを渡し、一夏の右腕と雪片だけが部分展開する。

まあ、ほっといても大丈夫だろうが、ちょっとぐらいの手伝いはしたってバチは当たらんだろ?

「織斑」

俺は一夏に声をかける。

「盾?」

「やる気があるのは結構だが、傍から見ると自殺志願者にしか見えんぞ」

「心配すんなよ! 俺は絶対に勝つ!」

「その根拠のない自身は何処から来るんだか………」

俺はため息を吐く。

「俺が囮と盾になる。 お前が決めろ」

俺はそれだけ言って、VTシステムに向き直る。

「盾!?」

俺がブレードを構えると、思った通りVTシステムは俺に向かって突っ込んでくる。

俺は、一撃目を止めるだけに全力を注いだ。

VTシステムは雪片もどきを俺に振り下ろしてくる。

腕に伝わる凄まじき衝撃、気を抜けば今にもブレードが弾き飛ばされそうだ。

「ぐぅううううっ!!」

――ピキッ

嫌な音を俺の耳が拾う。

見れば俺のブレードに、亀裂が入っている。

嘘だろ!?

その亀裂は瞬く間に広がり、遂には折れる。

「くそがっ!!」

俺は咄嗟に腕の装甲で雪片もどきを受け止めた。

ブレードで受け止めていたことで、装甲が切り裂かれることは無かったが、腕が完全にしびれる位の衝撃を受けた。

「いってぇぇぇぇっ!!」

俺は思わず叫ぶ。

その瞬間、俺の後ろから一夏が飛び出し、

「うぉおおおおおおおっ!!」

VTシステムを袈裟懸けに切り裂いた。

その瞬間VTシステムの形は崩れだし、胸部の切り口からは、ラウラが力なく倒れてくる。

それを、一夏は優しく受け止めた。

「ま、殴るのは勘弁してやるよ」

一夏はそう呟いた。






その後、俺は保健室で腕の治療をしてもらった。

治療とは言っても、骨に異常は無く、内出血を起こした程度なので、シップを貼って終わりだ。

楯無先輩も事後処理で忙しく、今日の訓練は休みと言っていたし、今日から男子も大浴場が使えると聞いたが………

「馬に蹴られたくはないからな………」

確か一夏とシャルルが一緒に入るんだったよな。

俺は別に、そこまで風呂にこだわっているわけではない為、今日は大浴場には入らず、1人で訓練することにした。




翌日。

「シャルロット・デュノアです。 皆さん改めてよろしく願します」

女子の制服に身を包んだシャルル改めシャルロットが、挨拶をしていた。

「デュノア君は、デュノアさんってことでした」

山田先生が引きつった笑みでそう言う。

その瞬間、驚愕に包まれる教室。

俺は煩いと思いつつその様子を眺めていると、話が大浴場を使ったということに変わり、

――ドゴォン

教室の壁を突き破り、ISを纏った鈴が現れる。

「一夏ぁぁぁぁぁぁっ!!」

鈴はそう叫びながら躊躇なく衝撃砲を放った。

おいおい、一夏マジで死ぬぞ。

まあ、その寸前でラウラがAICで守っていたので一夏は生きてるんだが。

それにしても鈴よ。

生身の人間に対して躊躇なく衝撃砲をぶっ放すとは………

確実な殺人未遂だな。

が、修羅場はまだ続く。

ラウラが一夏にキスをし、

「お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」

そう宣言したため、教室は混沌と化すのであった。






あとがき


どうもです。

またこっちを更新してしまった………

いや、生きる意味の方も書いてるんですが、なかなか進まないために、気分転換にこっちを書いてたらあら不思議。

いつの間にか2話もできていました。

あ~、盆休みの間にはせめて一回は生きる意味を更新したいなぁ~………

インフィニット・テイマーズの方も書けとおっしゃる方がいると思いますが、申し訳ないです。

もう少し待ってください。

はい今回はシャルロットとラウラの転校と、タッグトーナメントを投稿しました。

あいも変わらず不遇な扱いを受ける我らが主人公の盾君です。

シャルを蹴っ飛ばして大ブーイング。

福音戦までのネタの中では一番やりたかったことですね。

ちなみに盾君の強さですが、



クラス代表決定戦時   盾<一般1年生<<<一夏<<箒≦セシリア



クラス対抗戦時     一般1年生=盾<<<<一夏<箒≦セシリア=鈴<<<<<<<<<<楯無


タッグトーナメント時    一般1年生<<盾<<<一夏≦箒≦セシリア=鈴=シャルロット<<ラウラ<<<<<<<<楯無


こんな感じですかね。

盾君気づいてませんが、既に一般生徒よりは強いです。

でも、地獄の特訓を続けていて、未だに一般生徒よりちょい上なのは、盾君に才能が無いからです。

まあ、今回はこの辺で失礼。








[37503] 第九話  海の楽しみは海水浴だけではない!
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/08/25 11:52
第九話




「海っ! 見えたぁ!」

トンネルを抜けたバスの中で、女子が声を上げる。

今日は臨海学校初日。

バスの窓から見える海は、太陽の光を反射してキラキラ輝いて見える。

そんな景色は、十代の少年少女のテンションを上げる。

「おー。 やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」

俺の隣にいる一夏もその例に漏れず、興奮しているらしい。

が、しかし、精神年齢45歳の中年である俺は、今更海を見たぐらいで騒ぐ気にはなれない。

窓に頬杖をついて、ボーッと眺めているだけだ。

海自体は好きだが、女子だらけの中で海水浴というのは、どうにも落ち着かない。

というわけで、俺の自由時間の使い方は既に考えてある。

「そろそろ目的地に着く。 全員ちゃんと席に座れ」

織斑先生の一言で、全員がさっと席に着く。

見事なもんだ。

程なくして、バスが目的地に着く。

「ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ。 全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ!」

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」」」」」

女将さんに挨拶すると、それぞれの部屋に移動する。

ちなみに俺は一覧に一人部屋だと言うことが記されていた。

織斑先生曰く、

「無剣は素行関係で問題を起こしたことは殆ど無いため、問題ないだろう」

というわけらしい。

まあ、一夏と違って女子には相手にされないしね。

一夏は案の定織斑先生と一緒だ。

シスコンの一夏にとっては嬉しいことだろう。

ともかく、俺は自分の部屋へ行き、自由時間のための準備を進めることにした。









俺は海面に浮かぶ浮きをジッと見つめている。

――ポチャン

その浮きが僅かに揺れた。

俺は意識を集中させる。

そして、

――ドプン

その浮きがものすごい勢いで水中に引き込まれた。

「フィィィィィィッシュ!!」

俺は手に持っていた釣竿を引き上げる。

上手く針が魚の口に引っかかったらしく、魚が暴れ、釣竿のリールからは、すごい勢いでラインが引き出されていく。

「おおっ!? これは大物か!?」

俺は、力加減に気をつけながら、魚と格闘していく。

約30分の格闘の末、ようやく魚が弱ってきたのか徐々にラインを巻き上げることが可能になってきた。

そして、ようやく魚が海面に顔をだした。

俺は、そこで息を吐く。

しかし、その油断がいけなかった。

魚は最後の力を振り絞り、暴れだしたのだ。

俺はその対処に間に合わず、

――プツン

ラインが切れてしまった。

最後の力で暴れた魚は、疲れたのかゆっくりと泳ぎ出し、水中へと消えていく………って、

「逃がすか大物!!」

俺は躊躇なく水中へと飛び込む。

そして10秒後、海面に浮上した俺は仕留めた獲物を高らかに掲げ、叫ぶ。

「マグロ、獲ったどぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

打鉄のブレードで串刺しにされたマグロを。

何をやっているかわからない諸君らのために説明しよう。

俺が今いる場所は臨海学校の砂浜から遥か沖。

やっていることは釣り。

但し、打鉄を纏って。

要は打鉄を使って沖に出て、海釣りを楽しんでいるということだ。

ああ、ISの使用許可だがちゃんととってある。

名目はISの訓練。

臨海学校の“自由”時間。

大概のやつは遊んでいるが、別にISの訓練をするのも自由のなのだ。

ちなみにIS使用許可をとった後織斑先生から、

「どうせなら大物を釣ってこい。 ああ、あと酒のツマミになるようなものがあればなおいいな」

と言われている。

まあ、釣竿担いで臨海学校に来ていれば、すぐにわかりますよね。

釣った獲物は今のマグロ以外に鯛が十数匹。

ブリが1匹にシマアジ5匹、あとイカが数匹だ。

……………俺ってそこまで釣りが得意だったわけじゃなかったんだがなぁ。

餌も海上釣堀で使うようなもんばっかだったし。

まあ、上々の釣果だし気にしないでおこう。

さて、最後に釣ったマグロには止め刺しちゃったし、長くは持たないから、そろそろやめよう。

時間もいい頃合だし。

おっと、マグロだけは血抜きを済ませておこう。

俺は前世の海上釣堀で見た血抜きを見よう見まねでやってみる。

尾に切れ目を入れて、エラの裏側に刃物を入れる。

まあ、ISのブレードだが。

魚の血が大量に出てきたので、海の水で洗い流す。

どうやらうまくいったようだ。

さて戻ろう。

そう思ったところで、

『高速飛行物体接近! 警戒!』

ISのセンサーに反応がある。

「飛行物体? まさか福音!?」

いや、福音の暴走は明日のはずだ。

俺がそう考えていると、空から何かが飛んでくる。

そして、

――ドッパァァァァァァァァァァァン

俺の目の前の海面に何かが飛来し、大きな水しぶきを上げた。

水しぶきによって俺の視界が塞がれる。

だが、水しぶきが降り注ぎ、水が落ちきることで視界が戻ってくる。

俺の目に写ったものは、

「…………に、人参………」

漫画のようにデフォルメされた人参のような形をした、人一人楽に入れる機械的な何か。

おい、これってまさか…………

『おや? おやおやおや!?』

その人参の中から声がする。

そしてその人参がパカッと割れ、

「もしかして、キミが2人目の男性IS操縦者?」

不思議の国のアリスのようなファッションセンスの美女が現れた。

更には某白い魔王様と同じ声。

「名前は…………覚えてないや。 ま、いっか」

この他人に全く興味なさそうな人物。

「確かに自分は2人目の男性IS操縦者ですけど………どちら様?」

ほぼ予想はついたが、確信を得るためにそう聞く。

まあ、答えてくれるかは分からんが。

ちなみにどうやってるかは知らんが海面に立っている。

「え~? めんどくさいなぁ。 まあいや、特別に教えてあげる。 私は“天才”の束さんだよ! ハロー! 終わり!」

やっぱり束さんですかぁ!!

俺は内心驚く。

「………その“天災”の篠ノ之 束博士が、自分のような河原に転がる小石の1つに等しい人間に何か御用でしょうか?」

俺は興味を持たれないように思いっきり自分を卑下してそう聞いた。

「あはははは! 自分で自分を河原の小石なんて言う人初めてだよ! まあ、この束さんにとって他の人間なんて河原の小石に等しいんだけどね! あ、ちーちゃんといっくんと箒ちゃんは別ね!」

早口でまくし立てる束さん。

「でも、白い小石の河原の中に黒い小石があれば、多少は気になるよね!」

そういうことか!

俺は恐らく束さんも予想外のイレギュラー。

興味は無くとも嫌でも目に付くか………

「ねえ。 キミにとってISって何かな?」

唐突にそんな事を聞いてきた。

「俺にとってのIS………ですか?」

「うんうん。 キミにとってISは、『力』? 『兵器』?」

束さんはそう言ってくるが、俺は少し考え、

「…………『翼』………ですかね?」

俺はそう答えた。

俺がISに乗れて一番嬉しかったこと。

それは、力を手に入れた事でも、最強の兵器を扱えたことでもない。

空を飛べたこと。

飛行機で空を飛ぶのとは全く違う。

自分の意思で空を飛ぶ。

あの時の感動は、今でも忘れられない。

「え?」

ニコニコ笑顔ばかり浮かべていた束さんの表情が、一瞬だけだが驚いた表情になった。

しかし、すぐにまたニコニコ笑顔になると、

「変わってるねぇ~。 世間じゃISは最強の兵器とか言われてるんだけど」

「確かにISは武器を持たせれば現在最強の兵器といっても過言ではないでしょう。 しかし、俺から言わせてみれば、人の作ったもので武器にならない物がどれだけあるんですかって言いたいんですが」

「ほうほう………聞かせてくれる?」

「例えば車です。 車を兵器転用したものが戦車じゃないんですか? それに飛行機や船も同じことです。 それらを兵器転用したものが戦闘機や軍艦ですから。 ISと同じ宇宙開発のためのロケットだって、核をや爆薬を乗せれば大量破壊兵器に早変わりです。 俺的に言えば、ISは汎用性がズバ抜けて高いだけで、ISそのものは兵器だとは思いませんね。 まあ、ISは武器がなくとも人を殺せますが、人を殺せるだけで兵器というのなら、車や飛行機は言うまでもなく、ただの椅子や机だって人を殺せますよ」

「…………………」

俺の言葉を聞くと、束さんは真顔で黙り込んでしまった。

「あ、あの~?」

俺が不安になって声をかけると、

「キミがISを使える理由………何となく分かった気がするよ」

そう言って束さんは、笑みを浮かべた。

しかし、先ほどまでの笑顔とはまるで違う。

先程までの笑顔は、どこか人を馬鹿にしたような作った笑顔だった。

でも、今浮かべている笑みは、とても綺麗な、喜びからくる笑みだと俺は思った。

「はあ………?」

俺はワケが分からず首を傾げる。

「ねえ、君の名前を教えて」

「えっ? じゅ、盾。 無剣 盾です」

「うん。 じゃあじっくんだね。 ねえじっくん、ちょっと君のIS見せてもらうね」

何かあだ名をつけられ、返事をする前にどこからともなく取り出したコードを俺の打鉄に繋げ、空中に投影されたディスプレイとパネルで、色々と操作していく。

まあ、この人に何を言っても無駄だろうから、好きにさせておこう。

ただ、俺にISを使えなくさせるというのは勘弁して欲しいが。

こんなところで漂流したくはない。

「ふむふむ………やっぱり…………あれ?…………こんなもの削除だ………」

何か物騒な言葉も聞こえるんだが。

それから少しすると、束さんはコードを抜き、

「はい終わり。 ついでにその子についてた枷をとっといたから」

はい?

枷って何?

「それじゃあじっくん。 まったね~!」

俺が疑問に思う間もなく、ゴーインマイウェイな束さんは人参ロケットに乗り込もうとする。

「あっ、束さん!」

「何かな?」

俺が声をかけたら、ちゃんと反応してくれた。

「よかったら、一匹どうです?」

俺は今日の釣果の中から、一匹の鯛を取り出した。

「おおっ! 鯛だ! ありがとじっくん! よーし、くーちゃんに料理してもらおっと」

いつの間にか鯛は俺の手から束さんの手に移っている。

って、くーちゃん?

俺は一瞬三角形なハートの3作目に出てくる子狐を思い浮かべたが、直ぐに振り払う。

確か束ねさんが言うくーちゃんっていうのは、え~と………く、くろ……クロエなんちゃらという人物だったはず。 

う~ん、よく覚えてない。

でも、たしかそのキャラって真っ黒な卵焼きを作ってたような気がする。

うん、折角の鯛を真っ黒焦げにされるのは心苦しい。

「束さん。 鯛を食べるなら、刺身がオススメですよ」

俺がそう言うと、

「わかった! くーちゃんに頼んでみる!」

束さんが笑顔でそう言って、何かボタンを押すと、2つに分かれていた人参ロケットが再び束ねさんを覆うように一つになる。

そして、

『じゃあねじっくん。 また明日!』

そう言い残してすごい勢いで飛び立つ。

「…………………」

戻るか。

俺は今日の釣果を持って旅館へと帰った。

尚、その日の夕食の刺身は、予定されていた量の10割増しだったと言う。

更にP.S

イカは無事に織斑先生の酒のツマミになったそうだ。






[37503] 第十話  名は体を表すを地で行ってます。
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/08/25 11:54



第十話





今日は丸一日ISの装備試験運用なのだが、高確率で中止になるだろう。

なぜなら、福音の暴走があるからだ。

そう思っていると、箒が織斑先生に呼ばれた。

すると、

「ち~~~~~~~ちゃ~~~~~~~ん!!」

つい昨日聞いた声が聞こえてくる。

見れば、崖と言って差し支えない斜面を、砂煙を巻き上げつつ爆走している束ねさんの姿。

規格外にも程があるでしょうに。

そして、崖の途中から人間とは思えない凄まじいジャンプ。

最初はISに関係する何かを装備してると思ったけど、多分、素の身体能力なんだろうな~と俺は呆れ気味にその様子を見ていた。

その束さんは、一直線に織斑先生の元へ………

「ブベッ!?」

人間砲弾よろしく飛んできた束さんを、織斑先生が片手で受け止め、かつ一歩も下がらない。

片手で人間砲弾受け止める織斑先生も大概だな。

束さんは、そのまま織斑先生にアイアンクローを受けて、抜け出したのはいいが次は箒にいらんことを言ったせいで、木刀で殴り飛ばされていた。

それと、俺に気付いた束さんは、ニッコリと笑みを向けてきたので、軽く会釈しておく。

まあ、直ぐに箒に専用機のことを聞かれたので、そっちに意識を全部持ってったが。

そこからは、多分原作通りだったと思う。

箒が束さんから紅椿を貰って、傍目から見ても浮かれまくっていて、そのすぐ後に緊急事態で専用機持ち以外は自室待機。

ちなみに俺は専用の打鉄を持ってはいるが、専用機というわけではないので自室待機組である。

しばらくしたら、箒が重傷の一夏を担いで戻ってきた。

一夏は直ちに治療を受け、俺達は再び指示があるまで自室待機。

が、しばらくしたら、専用機持ち達が勝手に飛び出してった。

え? 俺?

俺が福音戦についてったって何もできるわけないじゃん。

足手纏いもいいとこだ。

そこで、ふとトイレに行きたくなり、戸を開けた。

そこで、

「「あ」」

いつの間に起きたのやら、一夏とバッタリ。

「…………止めても無駄だと思うが、一応言っておく。 待機命令は解除されていないぞ」

俺はそう言うが、

「そうはいかない! 皆が戦ってるんだ! 俺だけ逃げるわけにはいかない!」

一夏はそう言うと駆け出し、外に出る。

そして、白式を呼び出した。

その白式は原作通り二次移行しており、今までと形が変わっている。

一夏は、そのことを気にもせずに飛び立った。

「…………報告だけはしとくべきか」

俺は先生達の部屋に向かって歩き出す。

俺は部屋の前に来ると、

「先生、無剣ですけど」

そう声をかける。

「何だ!? 作戦中だぞ!」

やや怒鳴り気味の、織斑先生の声がした。

「織斑について報告が」

「何っ? 入れ!」

そう言われたので、

「失礼します」

俺は戸を開けて部屋に入る。

「それで報告とはなんだ?」

織斑先生がそう聞いてくる。

「先程、織斑が目を覚ましました。 それで、止めたんですけど織斑は聞かずに飛び出していきました」

「何だと!?」

織斑先生が驚愕の声を上げる。

流石に弟のことは心配か。

「…………………」

織斑先生は俯き、何やら考え込む。

そして、顔を上げると、

「無剣、頼みがある」

真剣な顔で俺を見てきた。

おいおい、まさかとは思うが、

「何でしょうか?」

とりあえず聞き返す。

「これより福音との戦闘中域に向かい、織斑及び他の専用機持ち達に撤退を促してくれ」

マジですか?

俺に死地に飛び込めと。

「なんで俺に? 他の教員ではダメなんですか?」

念の為にそう聞くが、

「…………教員ではダメな理由があるんだ」

あ~、多分上から圧力が掛かってるんだな。

「それは命令ですか?」

俺は、もう一つそう聞く。

「いや、先程も言ったが、これは“頼み”だ。 一夏の姉としてのな」

「……………はぁ~。 その言い方は卑怯ですよ織斑先生。 断れないじゃないですか」

俺はため息を吐き、そう答える。

「まあ、行くのはいいんですが、あいつらが素直に言葉に従うとは思えないんですけど?」

「撤退が聞き入れられなかった場合は、その場の判断で行動しろ。 例えお前だけ撤退したとて、誰も咎めはせん」

いや、織斑先生。

その言葉で逃げ道塞いでること気づいてますか?

さっきまで逃げる気満々だったんですけど、そう言われたらメチャメチャ逃げづらいんですけど!?

「まあいいや、その任務、了解しました」

俺は軽めに敬礼して外へ向かった。




俺が打鉄を纏い福音との戦闘中域に向かう。

すると、閃光が光るのが見えた。

「あそこか」

俺はその場所へ加速する。

だいぶ近付いたところで俺は通信を開いた。

「え~、こちら無剣、織斑先生からの指示を伝える。 専用機持ち各員はただちに戦闘を中止し、撤退せよ」

『盾!? すまねえがそれは無理だ!』

『悪いがここまできて引き下がるわけにはいかん!』

『ここで逃げるわけには行きませんわ!』

『臆病者は引っ込んでなさい!』

『僕も引くわけにはいかないよ!』

『いくら教官の命令でも、それは聞けん!』

わお。

満場一致の撤退拒否。

ここで俺だけ逃げてもいいんだが、流石に逃げづらい。

俺は遠目で戦いを観察する。

「ん?」

俺はふとあることに気づいた。

俺はもう一度確認する。

「………やっぱり」

それで確信した。

さて、別に首突っ込まなくても大丈夫なんだろうが、それは流石にカッコ悪いかな。

俺は、一夏の元へと向かった。

その時、一夏は丁度箒の絢爛舞踏でエネルギーを回復したところだった。

「織斑」

俺は、皆と一緒に福音へ向かおうとする一夏を呼び止めた。

「盾?」

「織斑、作戦がある」

「作戦?」

「ああ、福音は全方位射出の直後、僅かに隙ができる」

「本当か!?」

「ああ、お前らの戦いを遠くから見ていて気付いた」

「なら!」

「だが、あの全方位射出を回避しながら近づいても間に合わない」

「ッ!? じゃあどうすれば!?」

「簡単だ。 次に福音が全方位射出を放った瞬間、俺の後に続いて突っ込め」

「なっ!? お前を盾にしろっていうのか!?」

一夏は驚愕の声を漏らす。

「ああ。 別にカッコつけてるわけじゃない。 俺ができるのはそのぐらいだというだけだ。 打鉄のスペックも、俺の腕も、福音には遥かに及ばないからな。 このまま戦い続けても、俺はすぐに落される」

「バカ野郎! そんな事出来るわけないだろ!」

一夏は怒りながら叫ぶが、俺はそれを受け流し、

「それならそれでいい。 お前がどう思おうと、俺は次の全方位射出で福音に突っ込む。 何、足手纏いが早々に脱落するだけだ。 戦力的にはなんら問題はない」

そう言った。

「なっ!?」

一夏が声を漏らした直後、福音の攻撃が飛んできたので慌てて回避する。

「どうするかは、お前が決めろ!」

俺は福音へ向かう。

ブレードを呼び出し、盾にするように構えた。

箒たちが次々に攻撃するが、福音は高い機動性で次々に攻撃を避ける。

福音は、全員を一斉に攻撃しようと翼を広げ、

「今だ!」

俺は瞬時加速で突っ込んだ。

打鉄からの情報で、一夏が俺の後ろについて来てくれてることはわかってる。

後は、突撃するのみ!

幾つもの閃光が襲いかかる。

「ぐおっ!」

体の各部に走る痛み。

「にゃろ!」

俺はそれを我慢して飛び続ける。

より一層の弾幕が俺に襲いかかり、俺の視界は真っ白に染まった。

意識が途切れそうになる瞬間、

「後は頼んだぜ。 “一夏”」

そう呟き、俺の意識は暗転した。








【Side 一夏】





盾が爆炎に包まれ、力無く堕ちて行く。

俺は、やはり我慢できずに盾に手を伸ばしそうになった。

だけど、

「後は頼んだぜ。 “一夏”」

そんな呟きが聞こえた。

あいつ、俺の名前を…………

俺は、盾に伸ばしそうになっていた手を強く握り締める。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

俺は、盾を振り切って福音に突撃した。

盾の言うとおり、福音は隙だらけだ。

「今度は逃がさねぇぇぇぇぇっ!!」

左腕の雪羅で福音の顔面を掴む。

「はぁあああああああああああっ!!」

右手の雪片を福音の体に突き立てつつ、福音を押し続ける。

やがて、小島の一つに福音を叩きつけ、雪片を押し込もうとした。

しかし、福音も俺の首に手を伸ばし、首を締め付ける。

「ぐぅぅ………!」

俺は、苦しみながらも、最後の止めとばかりに雪片を押し込んだ。

「はぁっ!!」

そのひと押しで福音はエネルギーが0になり、福音は力を失った。

俺はゆっくりと立ち上がる。

「終わったな………」

俺の近くに来ていた箒が呟く。

「ああ………やったな」

俺もそう答えた。

箒と同じように俺に近づいてきていた皆を見上げて、俺は笑みを浮かべた。







尚、帰る最中に盾の事を思い出し、慌てて引き返したのは、俺たちだけの秘密だ。







【Side Out】








風が頬に当たる感触で俺は気付く。

目の前にはどこまでも続く緑の草原と、透き通るような青い空。

「ここは…………?」

俺は周りを見渡すが、何もない。

同じように草原と空だけがどこまでも続いていた。

すると、

「ねえ、お兄ちゃん」

声が聞こえ、俺は振り返る。

するとそこには、先程まで誰もいなかったはずの場所に、一人の少女がいた。

麦わら帽子を被り、長い黒髪が風に揺れていて、白いワンピースを来ている。

「君は………?」

俺はそう尋ねるが、

「お兄ちゃんは、力が欲しい?」

少女は答えず、逆にそう問いかけてきた。

「……………………」

俺はその言葉を聞いて考え込む。

「ねえ、力が欲しい?」

少女はもう一度聞いてきた。

俺は顔を上げ、その少女を見る。

そして………………俺は首を横に振った。

「…………いらない」

俺はそう答えた。

「どうして?」

少女は聞いてくる。

「俺は………まだ力を持てるほど強くない…………今でさえ子供に拳銃持たせてるようなものだ………そんな子供に、重火器持たせるわけにはいかないだろ? …………それに俺には、力を得てまでして護るものが無いから…………」

俺は、『力』とは『強さ』によって振るわれるものだと俺は思っている。

弱い俺が『力』を得ても、その力に振り回されるだけだ。

「そうなんだ…………じゃあ、今はまだやめておくね」

俺の答えに頷き、少女はそう言う。

「でもね、お兄ちゃん………」

少女はそう言うとひと呼吸置き、

「護るものが無くても、護りたいものならあるんじゃないかな?」

「えっ?」

俺はどういう事か聞き返そうとしたが、そこで視界が真っ白に染まった。







「はっ!」

俺が気がついたとき、目の前には旅館の天井が見えた。

「俺は………」

俺は体を起こし、辺りを確認する。

ここは旅館の一室で、窓から見える外は真っ暗だった。

ふと、福音に突撃した事を思い出す。

「我ながら、よくあんな無茶をしたよなぁ………防御したとは言え、下手すりゃ死んでてもおかしくなかったし………」

運が良かったのか、大した怪我は無いらしい。

そこで、先程の夢を思い出す。

「護るものは無くても、護りたいものはある………か………」

俺は、腕輪になっている打鉄を見つめる。

「どういうことだよ………打鉄」

俺は、ぼそりと呟いた。






【Side 千冬】




私は、今束と共にいる。

ただ、束は岬の端に腰掛け、私は少し離れたところにある木に背中を預け、互いに背中を向き合わせている。

相変わらず食えないやつだが。

私は聞きたいことを確認していく。

一夏のIS学園入学の事。

今回の福音の暴走。

そして、

「何故無剣はあの打鉄を動かせる? いや、何故あの打鉄は無剣に“しか”動かせない?」

そう、あの打鉄が無剣に与えられた本当の理由。

それは、あの打鉄が無剣以外には反応しなくなったからだ。

「それは私にもわからなかったんだけどね、この前じっくんに会ってその理由がわかったよ」

「何?」

こいつは理由がわかったのか?

「それは、あの子がじっくんを選んだからだよ。 じっくんはあの子を『翼』として使ってくれてる。 それがあの子にとって嬉しかったんだよ。 だから、じっくんに使ってもらった後じゃ、他の人間じゃへそ曲げちゃって反応してくれなかったんだよ」

「入学試験では、『翼』どころか無様な醜態を晒していたようだが?」

「まあ、操縦技術はともかく、気持ちは十分に伝わったんじゃないかな? いっくんの保険として用意しておいたあの子だけど、多分、最初に起動させる時に、嬉しいことでも言われたんじゃないのかな」

束は嬉しそうな声でそう言う。

こいつが嬉しそうな声を出すのはいつ以来か………

「ねえちーちゃん。 今の世界は楽しい?」

「そこそこにな」

「そうなんだ」

岬からの風が一層強く吹き上げる。

「――――――」

その風の中、束は呟く。

そして、忽然と束は消えた。

「………………」

私はある事を呟き、その場を後にした。




【Side Out】





あとがき


先日の生きる意味を書くまでに、途中までこっちを書いていたので、完成させて投稿です。

量は一話分しかありませんが、2話に分けて投稿です。

盾君は皆と一緒に海水浴というイメージではないので、打鉄を纏って海釣りです。

釣れた魚の種類には突っ込まないでください。

福音戦は大幅に端折りました。

主人公出てこないのに書く意味ないですし。

あいも変わらず盾役をこなす盾君でした。

その後に忘れ去られる不遇ぶり。

そんでもって、力が欲しいかと言われていらないと言えちゃう我らが盾君。

頑張れ盾君、君の幸せは次回から始まる。

というわけで、今回はこの辺で失礼。

ようやく次回からやりたいネタが使える。






[37503] 第十一話 まさかのデート!?  そして…………
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/09/15 22:47

第十一話 





臨海学校も終わり、夏休みまで後2週間とちょっと。

原作では、この間に特にイベントは無かったはずなので、安心している。

しかし、この期間に俺の人生を一変させる出来事があろうとは、今の俺には全く予想だにしていなかった。





週末の放課後。

俺はいつものように楯無先輩の地獄の特訓デラックスフルコースを受けていた。

地獄の特訓が終わっても、まだアリーナの使用時間は30分以上残っている。

まあ、最初に比べれば相当体力ついてるし、ペナルティも少なくなってるからな。

ここからは、いつものように本気の楯無先輩と模擬戦になるのだが、ふと楯無先輩がある提案をしてきた。

「最近は回避と防御は上手くなってるけど、少しは攻撃しなきゃダメだよ。 そこで、君のやる気を出すために、私に一撃入れたらご褒美をあげようと思うんだけど、何がいい? あ、前みたいに訓練を増やしてくれ、とかは無しね。 純粋に君のやる気を引き出すためだから、君が喜ぶご褒美じゃないと、意味無いからね」

「はあ、ご褒美ですか…………?」

いきなりそう言われても答えに困る。

精神年齢45歳の俺にとって、今更物なんかじゃやる気が出ないし…………

ああ、そういえばどっかの恋愛ゲームでこんなシュチュエーションがあったなぁ。

陸上の部活に入ってるお調子者の主人公が憧れの先輩に、いい記録を出したらご褒美をあげると言われて、デートしてもらう約束を取り付けるとか………

まあ、どうせ一撃入れることなんてできないからこれでいっか。

それに、もしかしたら慌てふためく楯無先輩が見れるかも知れないし。

「じゃあ、ここは学生らしく、先輩、デートしてください………とでも言いますか?」

「へっ?」

楯無先輩が素っ頓狂な声を漏らす。

「デ、デート………? わ、私と………!?」

おお、驚いてる驚いてる。

自分を指差しながら顔を赤くして可愛いな。

「う~~~~~……………」

唸り出して悩みまくっている。

いかん、おフザケが過ぎたか!?

俺は慌てて言葉を撤回しようと口を開いた。

「た、楯無先輩! 今のはほんのじょ「い、いいよ……!」って、はい!?」

冗談と言おうとしたところで楯無先輩の口から言葉が発せられる。

「いいよ……! 君が一撃入れたら、デ、デートしてあげる!」

顔を真っ赤にしながらそう言う楯無先輩。

いや、そこまで無理しなくても。

「あの……「シャラップ! 生徒会長に二言はないわ!」」

それから俺の顔をみて、

「君も男の子なら、二言は無いわよね?」

そう言ってきた。

「………まあ、どっちにしろ無理でしょうから問題ないんですけど………」

実際問題、どんなにやる気を出そうが、今の俺じゃ楯無先輩に一撃入れることは不可能だからな。

「なら、始めましょうか!」

楯無先輩が構える。

俺もブレードを構えた。

「…………………」

俺は集中する。

そして次の瞬間、

「くっ!」

一瞬で踏み込んできた楯無先輩のランスを防ぐ。

更に、

「はっ!」

いつの間にか左手に展開された蛇腹剣『ラスティー・ネイル』のソードモードが振るわれる。

「のわっ!?」

俺は仰け反ってギリギリ躱す。

「まだよ!」

続けてランスが横凪に振るわれ、俺は咄嗟にブレードで防ぐ。

「あぶねっ!」

俺は一旦下がるが、

「そこっ!」

ラスティー・ネイルが蛇腹剣となり、俺に襲いかかる。

「ぬがっ!?」

俺は、何とかブレードの腹で蛇腹剣を弾いた。

一撃一撃が速すぎる。

「ほーら、どんどん行くよー!」

楯無先輩が瞬時加速で接近してくる。

そして、次々に繰り出される攻撃。

それを必死に防御する俺。

何時も通りの一方的な展開。

そして、

「スキあり!」

遂に耐え切れずにブレードが大きく弾かれたところに、楯無先輩の攻撃がクリーンヒットする。

「がっ!?」

一瞬怯んでしまえば、そこまで。

次々に連撃を食らう。

このまま攻撃を受け続け、最後のランスの一突きを貰ってシールドエネルギー0にされるのがいつものパターンだ。

そこで、ふと俺は思い出した。

そういえば、いっつも最後はランスの突きだったよな。

…………イチかバチか、やってみるか。

俺は決心し、その時のために痛みを我慢してその時を待つ。

どんどんシールドエネルギーが削られていき、残りが僅かになったとき、

「これで終わり!」

楯無先輩が、ランスの一突きを放ってきた。

今だ!

イメージするのは、前世の漫画の不殺の人斬り。

厨二病式飛天〇剣流。

「〇巻閃!!」

楯無先輩のランスを回転しながら躱し、そのまま攻撃するイメージ。

そして、渾身の想いを込めて、剣を振るった。

――ドゴッ

「あうっ!?」

ブレードに伝わる衝撃と、小さな悲鳴。

「え?」

俺は思わず声を漏らす。

見れば、楯無先輩が少し離れたところで膝を付いている。

楯無先輩の顔は、驚きの表情が浮かんでいた。

俺は、一体何が起きたのか理解できなかった。

ぶっちゃけ俺がやったのは唯の回転斬りに等しい。

そんなもので、楯無先輩に当たるとは思っていなかったんだが…………

楯無先輩が立ち上がると、歩いて俺に近づいてくる。

「驚いた。 盾君、いつの間に瞬時回転イグニッション・スピンなんて覚えたの?」

「はい? 瞬時回転イグニッション・スピン?」

「うん。 瞬時加速イグニッション・ブーストの応用技で、簡単に言えば超高速回転。 しかも君がやったのは、移動を併用して行う更に上級の技なのよ」

楯無先輩の言葉に俺は言葉が出なかった。

まさか、厨二爆発させたネタ技でそんな高等技をかました自分に呆れる。

「…………ま、まあ、偶然ですよ偶然。 ただ、何とかしようと必死だっただけで………」

「そう…………」

楯無先輩は頷くと、突然頬を赤くして俺を見た。

「そ、それで…………い、何時にするの…………?」

「はい? 何をですか?」

楯無先輩の言葉の意味がわからなかった俺は聞き返す。

「だ、だからその……………デ、デートよ………!」

「へぁっ!?」

楯無先輩の言葉に驚き、俺は間抜けな声を出してしまう。

「いやいやいや! ちょっと待ってください! なんでそんな話になってるんですか!?」

俺は思わずそう言う。

「………もしかして、気づいてないの?」

「はい?」

そう言うと、楯無先輩はくるりと後ろを向く。

「君、私に一撃入れたんだよ」

そう言った楯無先輩の背中の装甲には、大きなヒビが入っていた。

「私の水のヴェールの上から………しかも、峰打ちでこの威力。 もし刃の方を向けてたら、確実に絶対防御は発動してたよ」

そう言う楯無先輩。

「い、いや、それは偶然ですよ! 偶々反撃できたのだって、楯無先輩のいつものパターンを読んだだけですし!」

「偶然でもなんでも、私に一撃入れた事は事実なのよ。 もっと自信を持ちなさい」

「は、はあ………」

「そういうわけで………や、約束だからね。 その……デートの予定を決めないと………」

顔を真っ赤にしながらそう言いつつ、語尾が小さくなっていく楯無先輩。

「あの………嫌ならそんなに無理することも無いですよ。 あの約束を持ちかけたのだって冗談半分みたいなものですし………前も同じようなこといったと思いますが、しょうがなくデートされても、こっちも嬉しくありませんから」

俺はそう言って遠慮しようとする。

まあ、確かに楯無先輩のような美人とデートできれば嬉しいが、楯無先輩自身が乗り気じゃなければその嬉しさも半減だ。

「べ、別に絶対に嫌って訳じゃ…………それとも、盾君は私とデートするのは嫌?」

上目遣いでそう言ってくる楯無先輩。

可愛いです。

「…………そりゃ楯無先輩のような美人とデートはしてみたいですが………」

思わず本音を漏らす俺。

「じゃあ決まり。 日にちは次の日曜日……って言っても明後日だね。 待ち合わせは、朝の10時に駅前で」

どんどん決めていく楯無先輩。

「いや、2人とも同じ部屋なんですし、一緒に行けばいいのでは?」

俺がそう聞くと、

「いいの! デートは待ち合わせから大事なんだから!」

そう力強く言う楯無先輩。

そういうもんなのか?

俺は前世も含め、今までデートしたことないから分からん。

「じゃあ、今日の訓練はここまで。 ああ、明日の訓練は休みだから、しっかり休んでおいてね」

そう言って立ち去る楯無先輩。

恥ずかしがってはいるけど、そこまで動揺してる風には見えなかったからな。

大方頑張ってる後輩の為のサービスって所か。

俺もISを収納し、部屋へと向かった。







そして、デート当日。

楯無先輩からは先に待ち合わせ場所に行くように言われており、駅前で待っている。

俺の服装は、いつもなら動きやすさ重視のセンスの無い服装なのだが、今日は多少カッコつけてみた。

流石に人生45年で初めての…………そして恐らく最後になるであろうデートで恥を晒すわけにはいかない。

そう思って、頑張ってみた。

ま、そうは言っても元々センスの無い俺が頑張ってみたところで、タカが知れてると思うが。

そんな事を思っていると、

「お待たせ~」

楯無先輩の声がした。

俺がそちらに振り向くと、

「ッ!?」

思わず息を呑んだ。

いつもの見慣れてる制服姿とは違い、綺麗に着飾った楯無先輩の姿。

「待った?」

俺に駆け寄ってきてそう言う楯無先輩。

「いえ、それほど………」

一応そう返しておく。

何というか、楯無先輩が綺麗すぎて直視できない。

すると、そんな俺の反応に気付いたのか、

「うふふ、似合う?」

笑みを浮かべてそう聞いてきた。

「え、ええ………よく似合ってて、綺麗です」

俺は本音で答える。

「うふっ、ありがと」

もう一度笑う楯無先輩。

その頬が少し赤いと感じるのは俺の気のせいだろうか?

「じゃあ、行こっか」

「分かりました。 楯無先輩」

俺がそう言うと、

「むぅ~。 盾君!」

何故かむくれる楯無先輩。

「はい?」

「折角のデートなんだから敬語禁止!」

「え?」

「それと先輩もダメ!」

「ええっ?」

「敬語は禁止。 先輩も禁止」

そう言ってくる楯無先輩。

ま、精神年齢45歳の俺にとって、16歳の楯無先輩に対して敬語をやめるのも呼び捨てで呼ぶのも特に問題はないが。

「………分かった、楯無。 これでいいか?」

俺は敬語をやめてそう聞くが、

「むー…………」

何やらまだ不満顔。

すると、

「ね、ねえ………」

何かを決心したのか、口を開く。

「何だ?」

「その……前も話したと思うけど、私の家は対暗部用暗部なの。 それで、私の“楯無”っていう名前は、代々当主が受け継ぐ名前で、本当の私の名前じゃないの」

まあ、知ってるが。

「ふーん。 折角のデートに楯無の名は無粋だから、違う名前で呼んで欲しいとか?」

「う………そうよ」

言葉に詰まったがそう言う楯無。

「まあ、流石に本名を教えるのは拙いんじゃないのか? そういう類の名前って、軽々しく教えちゃダメなんだろ?」

「………よくわかったね?」

「テンプレだからな」

「ウチの仕来りをテンプレの一言で済まさないで欲しいなぁ」

苦笑する楯無。

「………で? 結局何て呼べばいいんだ?」

できれば“刀奈”と呼んでみたい気もするが、

「……………君の好きに呼んで」

「えっ?」

「今日一日は、私は君の彼女だから、君の好きな名前で呼べばいいよ」

そう言ってくる楯無。

『彼女』と言う言葉でドキリとした。

そう言われて俺は考える。

流石に“刀奈”は拙いだろうな……っと、そうだ。

「じゃあ“カタナ”で………」

「えっ!?」

俺がそう言った瞬間、明らかに楯無が動揺するのがわかった。

まあ、教えてもいない本名を言い当てられたらそりゃ動揺もするわな

「そ、その名前にした理由を聞いてもいいかな?」

そう言われるのが分かっていたので、予め考えておいた言い訳を口にする。

「単純な話だ。 俺の名はじゅん、つまりたて。 盾と対になる物は剣。 だけどケンやツルギじゃ女の子っぽくないだろ? けどかたななら女の子の名前でもおかしくないからな。 まあ、正確には刀は盾と対になるわけじゃないかもしれないけど、そこは気にしないでくれ」

「そ、そうなんだ」

楯無は、動揺を何とか抑えつつそう返事をする。

「まあ、嫌なら他の名前を考えるけど?」

「あ、ううん。 それでいいよ!」

俺の言葉に楯無は首を横に振った。

どうやらこれでいいらしい。

「じゃあ改めて。 今日はよろしくな、カタナ」

「うん! よろしくね盾!」

楯無改めカタナは笑みを浮かべながら俺を呼び捨てにした。

何か良いな、こういうの。

「じゃあ、早速映画館へレッツゴー!」

そう言ってカタナは俺の手を取って歩き出す。

滅多に他人に………ましてや女の子に手を触れるということをしてこなかった俺にとって、それだけでもドキリとする。

ふと、俺が緊張していることに気付いたのか、

「ふふっ………えいっ!」

笑顔で俺の腕に抱きついてきた。

「おわっ!? カ、カタナ!?」

思わず動揺する俺。

腕に感じる2つの柔らかい膨らみが、俺の顔を更に熱くさせる。

「いいでしょ? 今は君の彼女なんだし。 それともこういうのは嫌?」

腕に抱きついたままそう聞いてくるカタナ。

「…………嫌じゃないです」

思わず敬語になる俺。

「じゃあいいわよね」

そのまま腕を組んで歩き出した。

まさか、一生経験する事が無いと思っていた女性と腕を組んでデートを実現することになるとは………

俺は、顔が赤くなっているだろう事を自覚しつつ、今この時を堪能した。





映画館に着くと、

「盾は、どんな映画が好き?」

カタナがそう聞いてきた。

「俺か? 俺はSFとかファンタジーとか………アクション映画も結構好きだな」

俺がそう答えると、

「うん。 じゃあ、私も好きなアクション映画にしよう!」

「了解。 チケット代は俺が払うよ」

俺は受付の人に、2人分の代金を払う。

「ふふ、ありがと」

俺の行動に好感を受けたのか、カタナは笑顔でお礼を言った。




映画を見終わったが、ぶっちゃけ映画の内容は頭に入っていない。

何故なら、カタナがずっと俺の手を握っていたため、ドキドキしっぱなしだった。

そっちの方ばかりに意識が向いていたため、スクリーンを見てはいたが、何も頭には入らなかった。

その後はレストランで昼食を摂り、アクセサリーショップへと向かう。

俺にはアクセサリーの良さはイマイチ分からんので、カタナの好きな様にさせている。

ふと、カタナは一つのペンダントを手に取った。

それは、銀の片翼がついたペンダントであり、見ればもう一つの対になる物も売られており、ペアで買ってもらうことを前提にした物のようだ。

まあ、単品でも変えるようだが。

それをじーっと見つめていたが、やがて諦めたようにそのペンダントを元の場所へ戻した。

俺はちょっと気になってそのペンダントの値段を見てみる。

結構高い。

仕事を持っている社会人やバイトをしている者なら簡単に手が出るだろうが、バイトをする暇がない学生にとっては手を出しにくい値段だった。

そういえばカタナは更識家の当主だけど、金は持ってないのか?

そう思ったが、『楯無』としてのカタナなら、金はあるんだろうが、『カタナ』個人としては大して持っていないんだろうと予想した。

俺はもう一度値段を確認し、自分の財布の中身と相談する。

とりあえず払える金はある。

何故俺が金を持っているのかといえば、IS学園に入ってからの約3ヶ月、殆ど金を使っていないのだ。

というか、訓練がキツすぎて使う暇が無かった。

おまけに家の親はやや甘めなので、学生の小遣いにしては多めの金額を送ってくる。

そのため自分の財布には諭吉さんが3枚ほど入っていた。

ともかく、払える金はある。

が、今日一日の為にそこまでする必要があるのかと一瞬思った。

しかし、

「………………はぁ」

小さく、残念そうにため息をついたカタナを見て、そんな考えは地平の彼方へ吹き飛んだ。

「それが欲しいのか?」

俺はカタナに確認する。

「えっ? ち、違うよ……!」

カタナは慌てて否定するが、その反応で肯定しているようなものだ。

俺はそのペンダントを持ち、レジへと向かった。

ちゃっちゃと精算を済ませ、カタナの元へと戻る。

「ほら、これが欲しかったんだろ?」

俺はペンダントをカタナに差し出す。

「そ、そんな! 悪いよ!」

カタナはそう言って遠慮しようとするが、

「いいからいいから。 いつもコーチをしてもらってるんだ。 このぐらいのお礼はさせてくれ」

俺はやや強引にペンダントを渡す。

「あ………うん………ありがとう」

カタナは遠慮気味にそのペンダントを受け取った。

すると、カタナはその場でペンダントを身に付ける。

「えへっ、どうかな?」

カタナは恥ずかしいのか、少し頬を赤くしてそう聞いてきた。

「ああ。 似合ってると思うぞ」

俺は思ったことをそのまま口にする。

気の利いた言葉なんて俺には分からん。

「ふふっ、ありがと」

それでもカタナは笑顔で礼を言った。




残りの時間は遊園地へ行き、色々なアトラクションを回った。

そんな時間はあっという間に過ぎ去り、日が沈みかけた頃、俺達は夕日の光に照らされながら帰路に付いていた。

「う~~~ん……! 今日は楽しかったぁ!」

カタナが伸びをしながらそう言う。

「俺も楽しかったよ。 今日はありがとうな、カタナ」

俺はそういった時、ふと思った。

カタナを『カタナ』と呼べるのももう終わる。

それに気付いたとき、何故か無性に寂しくなった。

そもそも、カタナとのデートを楽しく感じたことですら、今思えば不思議なことだ。

カタナが俺とデートしてくれた理由は、頑張っている後輩に対してのサービスといった所だろう。

そんな事は初めから承知していたことだし、そんな理由でデートされても俺は楽しくないだろうと思っていた。

しかし、実際は違った。

実際はとても楽しいと感じた。

カタナと一緒にいるのが。

カタナと話をするのが。

そして、カタナの笑顔を見るのが。

全てにおいて楽しく、嬉しいと感じていた。

俺は、ふと横目で隣を歩くカタナを見る。

夕日に照らされ、口元に笑みを浮かべたカタナの横顔。

――ドクン

それを見た瞬間、唐突に心臓が高鳴った。

そしてその瞬間、俺は全てを理解した。

俺は、“彼女が好き”なのだと。

前世も含めて、俺の初めての恋だった。

だが、それと同時に、叶わぬ恋だということも理解してしまった。

彼女は、いずれ一夏に想いを寄せるようになる。

気付いた時から………いや、初めから終わっていた初恋。

今ほど前世の記憶があることを恨めしく思ったことは無かった。

「……………………」

俺は少し考え、あることを決心した。

既に終わっている恋なら、自分の想いをズルズル引きずっているのは女々しいことだ。

そして、恐らく最初で最後の恋。

このまま彼女が一夏を好きになって、その想いを打ち明けぬまま彼女と一夏が一緒にいるところを見るのはきっと辛いことだろう。

それならば、ここでキッチリとケジメをつけてしまったほうが後腐れなくていいかもしれない。

そう思った俺は、一度立ち止まった。

幸運にも、周りに俺たち以外の人影はない。

立ち止まった俺を不思議に思ったのか、彼女が振り返る。

「どうしたの?」

彼女が不思議そうに聞いてくる。

そんな彼女に対し、俺は一度深呼吸する。

「…………今から言う言葉は、俺の本当の気持ちです」

「えっ?」

唐突に切り出した俺の言葉に、彼女は怪訝な声を漏らす。

俺は、彼女を真っ直ぐに見つめ、俺の恋の始まりであり、

「“刀奈”、あなたが好きです」

終わりを告げる言葉を口にした。




「え…………?」

俺の言葉を一瞬理解できなかったのか、彼女は呆けた声を漏らす。

しかし、

「………答えはいいです。 分かりきってることですから」

俺は強引に笑みを浮かべてそう言った。

だが、そうは言っても目が熱くなってくるのを感じる。

我慢できそうになかった俺は、

「すみません! 先戻ります!!」

一方的にそう言って駆け出した。

「あっ…………」

彼女は何か言おうとしていたようだが、今は何も聞きたくなかった。

俺は全力で道を走る。

俺の目からは、熱いものが溢れていた。









一直線にIS学園に戻ってきた俺は、自分の部屋へと駆け込んだ。

部屋のドアを閉めてひと呼吸置いたあと、俺はドアを背にしてその場で座り込んだ。

「はあ~~~~~………言っちまった」

思わずそう漏らす。

だが、不思議と後悔は無い。

「これで良かったんだよな?」

それは誰に言うでもなくそう問う。

俺は少し間じっとしており、ふといずれこの部屋に彼女が戻ってくることに気付く。

「顔洗わなきゃな………」

先ほどまで泣いていた俺は、多分ひどい顔をしているだろう。

俺は洗面所で顔を洗う。

明日………いや、たった今から、あの人とは何時も通りの関係に戻る。

ただそれだけの話。

俺はそう自分に言い聞かせる。

俺は顔を拭き、洗面所から出る。

その時、ほぼ同時にドアが開き、彼女の姿が見えた。

もうこれからはいつも通り。

もう一度自分に言い聞かせ、俺は彼女の方を向いた。

「お帰りなさい、“楯無先輩”」

何時も通りの言葉で。






あとがき

はい、ごめんなさい。

またもやインフィニット・テイマーズをほったらかしてこっちを更新してしまいました。

いや、テイマーズの方も書こうとはしてるんですが、何故か筆が進まないんですよね。

さて、今回は2人のデートと盾君の玉砕告白(?)をお送りしました。

おまけにネタ技入ってますが気にしないように。

あと、瞬時回転は自分が勝手に作った技です。

加速ができるなら回転ぐらいできるだろうということで作りました。

楯無のデート時の服装は、皆様がそれぞれ想像してください。

自分にはセンスがないので思いつきませんでした。

さて、次回は楯無視点になると思います。

内容は、まあ、秘密です。

では、今回はこの辺で失礼。



[37503] 第十二話 楯無の心
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/11/09 23:38
第十二話





【Side 楯無】



事の発端は、私が言い出した一言だった。

「最近は回避と防御は上手くなってるけど、少しは攻撃しなきゃダメだよ。 そこで、君のやる気を出すために、私に一撃入れたらご褒美をあげようと思うんだけど、何がいい? あ、前みたいに訓練を増やしてくれ、とかは無しね。 純粋に君のやる気を引き出すためだから、君が喜ぶご褒美じゃないと、意味無いからね」

「はあ、ご褒美ですか…………?」

彼は突然の提案に、答えに困ったのか曖昧な声を漏らす。

彼はしばらく考えると、答えが決まったのか私の方を向き、

「じゃあ、ここは学生らしく、先輩、デートしてください………とでも言いますか?」

「へっ?」

あまりにも予想外な答えに、私は素っ頓狂な声を漏らした。

「デ、デート………? わ、私と………!?」

私は混乱しながらも再確認する。

彼の様子からして、聞き間違いということはなさそうだ。

「う~~~~~……………」

私は思わず唸るほど悩んでしまう。

デ、デートだなんて、そんな………

私は悩みに悩みまくっていたが、

「た、楯無先輩! 今のはほんのじょ「い、いいよ……!」って、はい!?」

彼が提案を撤回しようとしていることに気づいた私は、反射的にOKしてしまった。

自分がどんな事を言ったのか直ぐに気付いたが、もう後戻りは出来ない。

「いいよ……! 君が一撃入れたら、デ、デートしてあげる!」

顔が熱くなるのを感じながら、私はそう言い切る。

頑張ってる後輩の為にサービスしてあげるのもいいかもしれないわね、うん。

私は自分にそう言い聞かせる。

「あの……「シャラップ! 生徒会長に二言はないわ!」」

雰囲気から遠慮しようとした事を予想した私は、彼の出鼻から挫く。

「君も男の子なら、二言は無いわよね?」

私が更に確認すると、

「………まあ、どっちにしろ無理でしょうから問題ないんですけど………」

彼は諦めたようにそう呟いた。

…………あれ?

いつの間にか立場が逆になってる?

「なら、始めましょうか!」

私は釈然としないながらもランスを構えた。




模擬戦が始まったけど、いつもと変わらなかった。

防御や回避は大分上手くなったけど、攻撃を全然してこない。

だから私はいつものように強打で防御のブレードを弾き、体制を崩させ、その隙に連撃を叩き込む。

いつものパターンでこのまま終わるかと思った。

盾君のシールドエネルギーが0になる寸前、

「これで終わり!」

いつもの様に止めの一突きを放った。

だけど、

「〇巻閃!!」

次の瞬間、盾君の姿が消えた。

「え………?」

思わず声を漏らす私。

ハイパーセンサーで盾君の姿を捉えた時、盾君は高速回転しながら私の後ろに回り込んでいた。

そして、

――ドゴッ

背中に強烈な衝撃が走る。

「あうっ!?」

咄嗟に水のヴェールで防御したはずなのに、軽く打ち破ってきた。

間違いなく今の技は瞬時回転イグニッション・スピン

しかも移動を同時に行う高等技術。

普通は回避に使うための技術を、ブレードでの攻撃に使うなんて………

その威力は、通常のブレードを振るだけの時とは比べ物にならない。

今のは峰打ちだったから吹き飛ばされただけで済んだけど、刃の方を向けてたら、ほぼ確実に絶対防御が発動していた。

彼の方を見ると、何が起きたのか分かっていないようでポカンとしていた。

「驚いた。 盾君、いつの間に瞬時回転イグニッション・スピンなんて覚えたの?」

「はい? 瞬時回転イグニッション・スピン?」

「うん。 瞬時加速イグニッション・ブーストの応用技で、簡単に言えば超高速回転。 しかも君がやったのは、移動を併用して行う更に上級の技なのよ」

私の説明に、何やら呆れた様子の彼。

「…………ま、まあ、偶然ですよ偶然。 ただ、何とかしようと必死だっただけで………」

「そう…………」

そこまで聞いて、私は試合前の約束を思い出し、思わず顔が熱くなった。

そして、私から切り出す。

「そ、それで…………い、何時にするの…………?」

「はい? 何をですか?」

試合前の約束がすっかり頭から抜け落ちていたのか、そう聞いてくる彼。

「だ、だからその……………デ、デートよ………!」

「へぁっ!?」

私が思い切ってそう言うと、彼は変な声を上げる。

「いやいやいや! ちょっと待ってください! なんでそんな話になってるんですか!?」

「………もしかして、気づいてないの?」

「はい?」

彼の様子から、本当に気づいてないようなので、私は後ろを向く。

「君、私に一撃入れたんだよ」

そう言って、背中の装甲の傷を見せた。

「私の水のヴェールの上から………しかも、峰打ちでこの威力。 もし刃の方を向けてたら、確実に絶対防御は発動してたよ」

そう説明する私。

「い、いや、それは偶然ですよ! 偶々反撃できたのだって、楯無先輩のいつものパターンを読んだだけですし!」

「偶然でもなんでも、私に一撃入れた事は事実なのよ。 もっと自信を持ちなさい」

「は、はあ………」

「そういうわけで………や、約束だからね。 その……デートの予定を決めないと………」

思わず『デート』という単語に顔が熱くなってしまう。

「あの………嫌ならそんなに無理することも無いですよ。 あの約束を持ちかけたのだって冗談半分みたいなものですし………前も同じようなこといったと思いますが、しょうがなくデートされても、こっちも嬉しくありませんから」

彼はそう言ってくるが、

「べ、別に絶対に嫌って訳じゃ…………それとも、盾君は私とデートするのは嫌?」

何故か否定してしまう私。

その事に疑問を覚えようとしたとき、

「…………そりゃ楯無先輩のような美人とデートはしてみたいですが………」

彼に『美人』と言われ、私はドキリとする。

「じゃあ決まり。 日にちは次の日曜日……って言っても明後日だね。 待ち合わせは、朝の10時に駅前で」

恥ずかしさを隠すように私は一方的に予定を決めてしまう。

「いや、2人とも同じ部屋なんですし、一緒に行けばいいのでは?」

「いいの! デートは待ち合わせから大事なんだから!」

正直自分でも無茶苦茶なこと言ってると思う。

「じゃあ、今日の訓練はここまで。 ああ、明日の訓練は休みだから、しっかり休んでおいてね」

私はそう言って話を終わらせ、先にピットへと戻る。

それからISを解除し、通路へ出る。

その瞬間、私は思わず駆け出した。

どうしようどうしよう!?

デートの約束しちゃったよ!?

デートなんて初めてだし!

わーん! どうしよう!?

私の頭の中で色々な考えがごちゃごちゃになる。

虚ちゃ~ん! 助けてぇ~~~~!

私は混乱しながら生徒会室へ向かった。






デート当日。

私は盾君を先に行かせ、部屋の中でとある服を取り出す。

昨日一日かけて今日のデート用に選んだ服。

私はそれを着て鏡の前に立つ。

えっと………変じゃないよね?

私は何度も鏡を見直しておかしな所が無いか、念入りにチェックする。

「…………よし!」

しばらくして、ようやく納得ができた私は、鞄を持って待ち合わせ場所へと向かった。




待ち合わせ場所の駅前には、当然だが既に彼がいた。

「………ッ」

直ぐに声を掛けようと思ったけど、思わず声が詰まった。

普段の彼の私服は、見た目よりも動きやすさ重視で、お世辞にもセンスが良いとは言えなかった。

だけど今の彼は、彼なりに必死に考えたであろうコーディネートで着飾っており、いつもの彼とはまた違った印象を受けた。

結構カッコいいかも。

って、何考えてるんだろ、私?

私は気を取り直して彼に声をかけた。

「お待たせ~」

私が声を掛けると彼はこちらに振り向き、

「ッ!?」

思わず息を呑んだ事が分かった。

「待った?」

私は気にせずに言葉を掛ける。

「いえ、それほど………」

彼は顔を赤くして、視線を逸らしている。

可愛いな。

「うふふ、似合う?」

私は笑みを浮かべて問いかける。

「え、ええ………よく似合ってて、綺麗です」

その言葉は何の飾り気もなかったけど、彼の本心だということが伺えた。

「うふっ、ありがと」

少し顔が熱くなるのを感じながらお礼を言う。

「じゃあ、行こっか」

「分かりました。 楯無先輩」

それを聞いた瞬間、私は何か違うと感じた。

「むぅ~。 盾君!」

「はい?」

「折角のデートなんだから敬語禁止!」

「え?」

「それと先輩もダメ!」

「ええっ?」

「敬語は禁止。 先輩も禁止」

そう、彼はこんな時まで敬語で先輩呼びだった。

私だって初めてのデートなんだし、もう少し雰囲気出したいわよ。

すると、

「………分かった、楯無。 これでいいか?」

彼はあっさり敬語をやめた。

だけど、

「むー…………」

私は、まだ何か違うと感じていた。

少し考え、その理由に思い当たる。

「ね、ねえ………」

私は少し勇気を出して、彼に話しかけた。

「何だ?」

「その……前も話したと思うけど、私の家は対暗部用暗部なの。 それで、私の“楯無”っていう名前は、代々当主が受け継ぐ名前で、本当の私の名前じゃないの」

私は、“楯無”の名について説明する。

「ふーん。 折角のデートに楯無の名は無粋だから、違う名前で呼んで欲しいとか?」

すると、彼は私の真意を読み取ってくれたのか、そう返してくる。

「う………そうよ」

私は少し恥ずかしかったけど頷く。

「まあ、流石に本名を教えるのは拙いんじゃないのか? そういう類の名前って、軽々しく教えちゃダメなんだろ?」

「………よくわかったね?」

私は彼の推理にドキリとした。

もしかして、彼は更識の仕来りについて何か知ってる?

だったら、彼はどこかのスパイって事も………

などと、考えていると、

「テンプレだからな」

その言葉を聞いた瞬間、私はガクッと脱力した。

ま、まあ確かにどこかで聞いたことあるような設定だけど……

「ウチの仕来りをテンプレの一言で済まさないで欲しいなぁ」

私は思わず苦笑してしまう。

「………で? 結局何て呼べばいいんだ?」

それを聞いた瞬間、私は思わず“刀奈”と言ってしまいそうになった。

でも、その言葉を押し止め、

「……………君の好きに呼んで」

私はそう言った。

そうだよね。

私の本名は軽々しく教えちゃダメなんだから………

彼を騙しているような気がして、少し悲しくなる。

「えっ?」

「今日一日は、私は君の彼女だから、君の好きな名前で呼べばいいよ」

だから、せめて今日だけは彼の“彼女”でいようと思った。

彼は少し考え、口を開く。

「じゃあ“カタナ”で………」

「えっ!?」

彼が信じられない名を口にし、私は思わず声を漏らしてしまう。

「そ、その名前にした理由を聞いてもいいかな?」

いくらなんでも偶然にしては出来すぎてる。
その理由を聞く。

「単純な話だ。 俺の名はじゅん、つまりたて。 盾と対になる物は剣。 だけどケンやツルギじゃ女の子っぽくないだろ? けどかたななら女の子の名前でもおかしくないからな。 まあ、正確には刀は盾と対になるわけじゃないかもしれないけど、そこは気にしないでくれ」

「そ、そうなんだ」

確かにその言葉の連想なら、“カタナ”と呼んでもおかしくないかな………?

「まあ、嫌なら他の名前を考えるけど?」

「あ、ううん。 それでいいよ!」

彼の言葉に、反射的に頷いてしまった。

でも、心のどこかで“カタナ”と呼んでもらって嬉しいと思う自分がいる。

「じゃあ改めて。 今日はよろしくな、カタナ」

「うん! よろしくね盾!」

今日は彼の“彼女”。

だから私も彼を呼び捨てにする。

「じゃあ、早速映画館へレッツゴー!」

そう言って私は彼の手を取って歩き出す。

ふと見れば、彼は顔を真っ赤にしていた。

それを見て、ますます彼が可愛いと感じた私は、

「ふふっ………えいっ!」

思い切って彼の腕に抱きついてみた。

「おわっ!? カ、カタナ!?」

彼は驚いて叫ぶ。

耳まで真っ赤にして可愛いの。

「いいでしょ? 今は君の彼女なんだし。 それともこういうのは嫌?」

私は上目遣いで問いかける。

「…………嫌じゃないです」

彼は正直に答えた。

「じゃあいいわよね」

そのまま腕を組んで歩き出す。

実を言えば、心臓がドキドキしっぱなしだった。

心臓の音が彼にバレていないか少し不安になりつつ映画館へ向かった。




正直映画の内容は覚えていない。

調子に乗って映画の間中彼の手をずっと握っていた。

おかげで彼の体温を意識して、映画の内容は全く頭には入っていなかった。

続けていったアクセサリーショップ。

その中で気に入ったペンダントがあったんだけど、手持ちが不安だったので諦めようとした。

でも、彼が直ぐに買って私にプレゼントしてくれた。

な、何か貢がせてるみたいで悪い気がするなぁ。

「えへっ、どうかな?」

私は彼の買ってくれたペンダントをその場で身に付け、彼に見せてみる。

「ああ。 似合ってると思うぞ」

彼の言葉は相変わらず飾り気のないもの。

だけど、だからこそ本心からの言葉だと思えた。

「ふふっ、ありがと」

だから、私は笑顔でお礼を言った。





残りの時間は遊園地へ行った。

彼は絶叫マシンは苦手なようで、ジェットコースターでも悲鳴をあげていた。

でも、ISの機動はもっと激しいんだけどなぁ。

それを彼に聞くと、

「自分の意思で飛ぶのと、振り回されるのは全然違う」

だそうだ。

お化け屋敷とかも回ったけど、そこでは彼は冷静だった。

何でも、

「作り物と分かってるからさほど怖くはなかった」

らしい。

私は内心怖かったから、結構心強かった。

やがて、楽しい時間はあっという間に過ぎる。

夕日の中で帰路につく私達。

「う~~~ん……! 今日は楽しかったぁ!」

私は伸びをしながらそう言う。

「俺も楽しかったよ。 今日はありがとうな、カタナ」

彼もそう言って笑みを向けてきた。

ちょっとドキッとなる。

ふと、彼がカタナと呼んでくれる時間がもうすぐ終わると思うと少し寂しく感じた。

ってあれ?

私、今寂しいって思った?

私がその理由を考えようとしたとき、突然彼が立ち止まった。

私は突然立ち止まった彼に振り返る。

「どうしたの?」

私がそう尋ねると、彼は今まで見た中で一番の真剣な表情をして、

「…………今から言う言葉は、俺の本当の気持ちです」

「えっ?」

彼の言葉に、思わず心臓が高鳴る。

そして、

「“刀奈”、あなたが好きです」

“カタナ”という仮初の恋人ではなく、ハッキリと私自身を見て、彼はそう言った。




「え…………?」

突然の彼の告白に、私は考えが纏まらなかった。

自分が何を考えているのかすらわからない。

と、とにかく何か言わないと。

私が口を開こうとしたとき、

「………答えはいいです。 分かりきってることですから」

とても寂しそうな笑みを浮かべてそう言った。

「すみません! 先戻ります!!」

彼はそう言うと、いきなり駆け出す。

「あっ…………ま、待って!」

私は彼を呼び止めようとした。

だけど、足が動かなかった。

彼はそのまま走って行き、やがて見えなくなってしまう。

その光景に、寂しさを感じる私。

しばらくして、ようやく足が動き出した私は、帰路へついた。





私は、部屋の前で立ち止まる。

彼とは少し……ううん、とても顔を合わせ辛かった。

でも、入らないわけにはいかない。

私は意を決してドアを開けた。

すると、

「お帰りなさい、“楯無先輩”」

何時も通りの言葉で、彼は出迎えてくれた。

でも、

――ズキッ

何故かとても胸が痛んだ。

そして、胸にポッカリと穴が空いた様な空虚感が生まれた。

「?………どうかしましたか? 楯無先輩」

彼は不思議そうに聞いてくる。

でも、

――ズキンッ

再び胸に痛みが走り、空虚感がますます大きくなる。

「楯無先輩?」

彼が私の名を呼ぶたび胸に痛みが走る。

「………う、ううん………何でもないわ……」

私は何とか気丈に振舞う。

「そうですか。 体調が悪かったら言ってくださいね」

「う、うん……ありがとう」

何時も通りの彼の言葉。

だけど、それがいつもより遠くに感じてしまう。

その後も、何時も通りだった。

いつも通りの筈なのに、彼がいつもより遠くにいるような気がしてならなかった。

就寝時、彼はいつもの様に私に背を向けてベッドの端に寄っている。

これも何時も通り。

何時も通りの距離の筈なのに、彼の背中がとても遠い。

私は、思わず彼の背中に手を伸ばしそうになる。

だけど、全然届く気がしなかった。

寂しさを心に残したまま、夜は過ぎていった。





数日後。

「はぁ…………」

私は教室で思わずため息をついてしまう。

原因は彼との関係。

何時も通りのはずなのに、いつも通りじゃない。

心の空虚感もそのまま。

「どうしたのたっちゃん? ため息なんてらしくないよ?」

薫子ちゃんが話しかけてきた。

「薫子ちゃん………」

「たっちゃん、最近元気ないみたいだけど、ホントにどうしたの?」

薫子ちゃんは心配そうに聞いてくる。

「私でよければ、相談に乗るよ?」

「薫子ちゃん………実は……」

私は、薫子ちゃんの言葉に甘えることにした。

私は、あのデートの出来事を話す。

「むっ、無剣君に告白されたぁ!?」

吃驚仰天と言わんばかりに仰け反りながら驚く薫子ちゃん。

「ま、まあ、たっちゃん美人だし、男の子ならほっとかないよね…………で? たっちゃんは何て答えたの?」

「それが………分かりきってるから、答えはいらないって………」

「あちゃ~、無剣君。 後ろ向きにも程があるよ~。 断られるって決め付けて告白するなんてさ」

薫子ちゃんは呆れと驚きが半分ずつといった感じ。

「それからなんだけど………避けられてるわけじゃないし、何時も通りなんだけど………今まで以上に一線を引かれちゃってる気がして………」

私は俯きながらそう呟く。

「なるほどなるほど………」

薫子ちゃんはうんうんと頷く。

すると、

「で? 何でそんなに元気無いの?」

薫子ちゃんは態度をコロッと変えてそう言ってきた。

「え?」

私は薫子ちゃんの言葉の意味が分からず声を漏らす。

「だから、何でそんなに元気なくしちゃったわけ? 別に避けられてるわけじゃないんでしょ? 何時も通りなんだし。 何がそんなに不満なの?」

「えっ? ふ、不満って………」

私が何か言おうとしたとき、

「そ・れ・に!」

薫子ちゃんがそう言いながら私の首元に手を突っ込んだ。

「きゃっ!? 薫子ちゃん!?」

私は驚くが、薫子ちゃんが私の首元からある物を引っ張り出した。

それは、デートの時に彼が買ってくれたペンダント。

「珍しいよね? たっちゃんが普段からアクセサリーをつけてるなんて」

薫子ちゃんがペンダントから手を放し、私はそれを手で受け止める。

「無剣君はさ、たっちゃんに振られると決め付けて告白したみたいだけど、たっちゃん自身はどうなのさ?」

「えっ? 私自身………?」

「そう、無剣君の勝手な思い込みじゃない。 たっちゃん自身の気持ちだよ」

「わ、私は………」

「その答えが出た時に、たっちゃんの悩みは解決すると思うよ」

薫子ちゃんはそう言うと立ち去っていく。

私は、薫子ちゃんに言われたことを考える。

盾君の思い込みじゃない、私自身の気持ち………

その答えを出すには………

私は、あることを決めた。







あとがき


十二話の完成。

完全楯無サイドでした。

はてさてこの先どうなることやら。

まあ、激甘ラブコメになるのは間違いないのですがね。

今の所テイマーズや生きる意味よりもこっちのほうが書きやすかったりする。

あと、アニメのIS2で楯無が出てきてテンション上がったのも理由の一つですかね。

裸エプロンは威力絶大です、はい。

では、今回はこの辺で失礼。




[37503] 第十三話 楯無の答え
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/11/10 06:36

第十三話



最近、楯無先輩の様子がおかしい。

俺が声をかければ何か微妙な表情をするし、ISの特訓の模擬戦でも、ここ数日は一撃どころか数発もの攻撃を楯無先輩には加えることができている。

だが、これは明らかに俺の操縦技術が上がったわけではなく、楯無先輩の集中力の欠落が原因だろう。

もしかして、この前の事を気にしてる?

いやいや、そんな事はありえん。

俺が自惚れてどうする。

ま、楯無先輩みたいな完璧超人の悩みなんて俺にはどうする事も出来ないだろうから、どうという訳ではないんだが。

でも、今日は違った。

悩んでいたような雰囲気は無くなり、何時も通りの楯無先輩だ。

どうやら悩みは解消したらしい。

今日も特訓メニューを熟し、模擬戦になる。

すると、

「じゃあ、これから模擬戦だね。 今日も一撃当てたら君の勝ち。 もし当てたら、またデートしてあげる」

「はい?」

楯無先輩の言葉に、俺は思わず声を漏らした。

「いや、何でそんな話になるんですか?」

「だって、そうした方が君もやる気出るでしょ?」

「いや、そう何度もデートされても有り難みが無くなると言うか………」

「じゃあこう言うわ。 私がデートしたいからそうするの。 というわけで、私が勝ったらデートしてもらうわよ」

「えっ? それってどう言う………?」

「これ以上は問答無用!」

楯無先輩はそう言うといきなり襲いかかってきた。

「おわっ!?」

俺は咄嗟に防ぐ。

「そこっ!」

楯無先輩は突きを放ってくる。

「何のっ!」

俺はこの一週間で大分自由に発動できるようになった瞬時回転で突きを回避しつつブレードで攻撃を仕掛ける。

しかし、

「何度も同じ手は食わないわ!」

楯無先輩は真上に瞬時加速する事でそれを避ける。

だが、

「〇翔閃!!」

ブレードを真上に振り上げると同時に瞬時加速で楯無先輩に突撃する。

ISの操作はイメージが大切なため、俺の厨二の妄想技は、意外にも相性が良かった。

「っ!」

楯無先輩はランスを水平に構えて受け止める。

「まだだっ!」

俺は空中で前方宙返りする。

ただし、瞬時回転を使って。

「嵐!」

ネタ技を爆発させつつ楯無先輩にブレードを振るう。

「甘い!」

しかし、楯無先輩は、その攻撃を軽く受け流した。

「げっ!」

それによって、完全に隙だらけになる俺。

「そりゃあっ!」

蒼流旋の渾身の一撃を受けて吹き飛ばされる。

「ぐあっ!?」

そのまま地面に激突。

今の一撃でシールドエネルギーが3分の1ぐらい減った。

俺は直ぐに起き上がるが、周りは深い霧に包まれた。

………これってまさか、

次の瞬間、俺は大爆発に飲み込まれた。

「どわぁあああっ!?」

やっぱり清き熱情かぁ~~~!

その爆発で、シールドエネルギーが2桁に突入。

更に爆煙で視界が塞がれる。

しかし、煙の切れ目から、チラリと楯無先輩の姿が見えた。

俺はイチかバチか瞬時加速で突っ込んだ。

ブレードを振りかぶりつつ、煙から脱出し、眼前に楯無先輩の姿を捉える。

「はぁああああああっ!!」

俺は渾身の力で振り下ろした。

ブレードは吸い込まれるように楯無先輩の肩口に決まり、

「えっ?」

刀身が胴体部分までめり込んだ。

もちろんブレードは返しているために峰打ちだ。

だが、ブレードは楯無先輩の体を通り抜けるように振るわれた。

それらが示すことは………

楯無先輩がニッコリと笑みを浮かべる。

次の瞬間、再び爆発に飲み込まれた。

「ぐはっ!?」

当然それで俺のシールドエネルギーは0になった。

どうやら今のは、水で作った偽物だったらしい。

そんで、清き熱情と同じ水蒸気爆発で吹っ飛ばされた。

地面に倒れている俺に、楯無先輩が歩み寄ってくる。

「えへへ、私の勝ちだね」

笑みを浮かべる楯無先輩。

それを見て、俺は思わずドキッとする。

前の告白できっぱりと諦めたつもりだったけど、まだまだ未練はあるようだ。

「じゃあ、約束通りデートしてね。 日にちは今度の日曜日。 時間と場所は前と一緒で」

楯無先輩はそれだけ言うと颯爽と立ち去る。

一人になった俺は、一撃も与えられなかったことを悔しいと思うと同時に、再びデートできることを嬉しいとも感じていた。






デート当日。

俺は、前と同じ服装で待ち合わせ場所に来ていた。

まあ、服装のレパートリー少ないし、しょうがない。

俺が楯無先輩を待って、ちょうど待ち合わせ時間になった時、

「だーれだ?」

突然目の前が真っ暗になった。

顔に伝わる感触から、後ろから目隠しされたことに、少しして気付く。

「えっと、楯無先輩ですよね?」

俺はそう答える。

しかし、

「ブー!」

不正解という擬音が聞こえた。

「いや、その声は楯無先輩で間違いないですよね?」

俺は再度問いかける。

「ブー!」

しかし、返って来たのは先ほどと同じ不正解の意。

いや、楯無先輩であることは間違いないんだろうけど………

「ヒント。 今日のデート相手は、君の彼女だよ」

そんな言葉が聞こえてきた。

その言葉が示すことは………

「……………“カタナ”………か?」

俺は自身無さげにそう答えた。

そして、一瞬の間を置き、

「ピンポーン!」

そんな機嫌良さげな声と共に、目の前が明るくなる。

そして後ろを振り向くと、満面の笑みの楯無先輩………いや、

「お待たせ! 盾!」

カタナがそこにいた。





【Side 楯無】




「……………“カタナ”………か?」

そう呼ばれた瞬間、1週間前からずっと感じていた胸の空虚感が、嘘のように満たされた。

自然と顔が緩み、笑顔になる事を止められない。

「ピンポーン!」

嬉しさを隠せないまま、私はそう言って手を離す。

彼がこちらを振り向いた瞬間、

「お待たせ! 盾!」

自然とそう呼んでしまった。

「あ、ああ………それほど待ってないよ」

彼は少し呆気にとられたような表情をしてそう答える。

「じゃあ、早速行こっ!」

私は、彼の腕に手を絡めて少し強引に歩き出す。

「あ、ああ……」

あ、顔を赤くしてる。

可愛いな。

そのまま私達は歩いていく。

私が今日、彼をデートに誘ったのは、確かめたいことがあったから。

私の気持ち………

私の気持ちが、もし本当に“そう言う事”なのだとしたら………

それを確かめるために、私は今を楽しんだ。





【Side Out】






最初に来たのは前と同じく映画館。

正直今回も映画の内容は頭に入っていない。

前と同じくカタナがずっと手を握っていたからだ。

ただ、うろ覚えだが、今日の映画って前と同じもののような………?

気の所為か?

その後も前と同じレストランで昼食をとり、前と同じアクセサリーショップへ。

そのアクセサリーショップに着くと、カタナは一目散にあるペンダントを手に取り、それを購入した。

そんなに欲しいものがあったのか?

そう思っていると、カタナはこちらに戻ってきた。

そして、

「はい、プレゼント!」

俺にそのペンダントを差し出してきた。

そのペンダントは、前に俺がカタナに買ってあげた片翼のペンダントと対になるペンダント。

「えっ? 俺にか?」

思わず聞き返してしまう。

「うん。 この前のお返し」

「あ、そういうことね」

プレゼントの理由を聞き、納得する俺。

僅かながら期待した自分は、やはり自惚れているのだろう。

「ね、付けてみてよ」

カタナにそう言われ、そのペンダントを身に付ける。

「ははっ……こういうものは今まで殆ど身につけてないからな………似合わないだろ?」

「ううん、そんなことないよ」

カタナはそう言ってくれる。

間違いなくお世辞だろうが、やはり好きな人にそう言ってもらえるのは嬉しい。

すると、カタナは首元から前に買ったペンダントを引っ張り出し、普通に見えるようにかけ直した。

「えへへ、お揃いだね」

「あ、ああ………」

カタナの行動に、そんな事有り得ないと自覚しつつ、もしかしてと期待する自分が何処かにいる。

自惚れだな………





そんなことを考えながらも、デートは進んでいく。

最後は遊園地で遊んだ。

楽しい時間は、前と同じであっというまに過ぎ去る。

俺達は、夕日の中を帰路に付いていた。

俺は、さっきから思ってたが、今日のデートコースって…………

「ねえ、盾………気付いてる?」

突然カタナがそう問いかけてきた。

そう聞いてきたってことは、やっぱり………

「今日のデートコースが、前のデートコースと全く同じだったって事か? ご丁寧に、その時の時間もほぼ一緒だったし」

俺はそう答える。

「うん………その通りだよ…………それでね、前にこの時間、この場所で、言ってくれた言葉があるよね。 その時の言葉、もう一度聞かせて」

俺は周りを見渡す。

そこで気付いた。

この場所は、俺が彼女に告白した場所。

俺は彼女を見ると、

「君は答えは要らないって言ってたけど、やっぱり、こういう事はちゃんと答えを返さなきゃって思って」

「…………もしかして、最近カタナが悩んでた事って、そのことで?」

「………うん」

カタナは頷く。

俺は頭を掻き、

「いくら答えを返すためだからって、無理してデートなんかしなくても………」

俺はカタナがどうして半ば強引にデートを持ちかけたのか理解した。

おそらく、彼女なりの謝罪のつもりなのだろう。

俺を振る事に罪悪感を感じたため、俺への思い出作りとか、その辺りの理由だと辺りをつけた。

「ねえ、聞かせて。 あの時の言葉………」

彼女は真剣な目で俺を見てくる。

俺は、彼女のその目を見つめ返し、一度気を取り直す。

そして、もう一度彼女を見つめ直す。

そして、

「刀奈…………あなたが好きです」

あの時と変わらない、嘘偽り無き本心を口にした。








【Side 楯無】





「刀奈…………あなたが好きです」

私はその言葉を受け止める。

前は突然のことで呆気にとられ、すぐその後に混乱したために、まともな答えを返すことは出来なかった。

だけど、今はちゃんと受け止められる。

私は目を瞑って自分の心と向き合う。

そして、その言葉を受け止めて、私の心に湧き上がってきた感情は…………

『嬉しい』

その一言に尽きた。

そう。

やっぱり私は、彼のことが………

私は目を開けて、彼を見つめる。

そして、

「………私も………君が好き………!」

自分の心と向き合って出した答えを、彼に返した。

「…………………え?」

彼は、信じられないといった表情で固まっている。

彼の性格を考えれば、信じられないのも無理ないかな。

だったら、何度でも言ってあげる。

「私は…………更識 刀奈は………あなたが好きです!」

私の、本当の名前を以て。






【Side Out】





今、彼女は何と言った?

俺を好き?

この容姿端麗、スタイル抜群、学園最強で成績優秀な完璧超人である彼女が俺のような平凡未満な男を好きだと?

いやいや、ありえんだろ!?

「い、いや……か、からかってるだろ……? 俺………そ、そういう冗談は………好きじゃない……ぜ……?」

余りの衝撃に、しどろもどろになりながらそう返す。

「違うよ。 これは、私の本心だよ」

真剣な目で俺を見ながら、彼女は言う。

彼女は俺に歩み寄る。

「君の性格を考えれば、私の言葉を簡単に信じられないのは分かってた。 だからね、どんな手を使っても、証明してあげる」

彼女の顔が俺の顔のすぐ近くに来る。

「私が、本当に君のことを好きだって言う事を……」

その呟きと共に彼女の顔が俺の視界一杯に広がり、

「ッ…………」

唇に感じる柔らかな感触。

そして、視界には目を瞑った彼女の顔。

俺は、彼女にキスされていた。

数秒だった気がするし、しばらくの間そうしていた様な気もする。

彼女の唇が、俺から離れる。

「あ………」

余りの唐突さに、俺は言葉をうまく吐き出せない。

彼女は頬を染めつつ、ニッコリと笑い、

「私のファーストキスよ。 どう? 信じる気になった?」

「え? あ、う……?」

誠に失礼なことに、俺の心は、まだ疑念が晴れていない。

「う~ん………まだ疑ってるみたいだね」

俺の心を見透かすように、彼女は言った。

すると、俺の手を取り、

「いいよ。 こうなったら、とことん証明してあげる」

突然引っ張って歩き出した。

彼女に引っ張られて俺は歩き出す。





その後、文字通り彼女の体を張った説得により、俺は彼女を信じることに決めた。

こうして、俺は前世も含めた45年間彼女なしの歴史に幕を下ろし、更識 刀奈という恋人をもったリア充生活が始まった。







あとがき 


第十三話の完成。

って、生きる意味ほったらかして、なぜ自分はこっちを書いているのだろうか?

生きる意味も70%ぐらいは書けているのに、なぜかこっちを書き出したら完成まで行ってしまった。

○○○まで書いてるし。

何故だ?

まあ、ともかく晴れて盾君リア充の仲間入り。

ただし、楯無一筋ですけどね。

流れが強引か?

ともかく今回はこれにて失礼。












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[37503] 第十四話 信頼の二次移行
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/11/30 21:02

第十四話 




俺は、ふと目を覚ました。

目の前には、刀奈の寝顔。

俺は、昨日の出来事を思い出す。

夢では無かった。

「……………ニヤッ」

思わず顔がニヤけてしまった。

自分でもアホらしいと分かってはいるが、ニヤけるのを止められない。

だって、刀奈のような美少女が俺の恋人になってくれたんだぞ!!

思わず叫びそうになるが、気合で押し止めた。

すると、

「う~~ん…………」

刀奈が身じろぎし、瞼をゆっくりと開ける。

「ふわ………おはよ、盾」

目を擦りながら、刀奈はそう挨拶してくる。

「ああ、おはよう刀奈」

俺も笑みを浮かべて挨拶を返した。

すると、不意に俺の唇に刀奈の唇が触れた。

俺は突然の事に驚いていると、

「えへへ、おはようのキスだよ」

少し頬を赤く染めて、刀奈は言った。

滅茶苦茶可愛いです。

そして、こんな美少女が俺の彼女だと思うと、どこからともなく優越感が湧き上がってくる。

そうか、これが彼女持ちの気持ちか。

世界が、違って見える。

そんな馬鹿なことを考えつつ、朝の時間は過ぎていった。






因みに今日は一学期の終業式の一日前。

学校も後一日で夏休みに入る。

とは言っても、地獄の特訓は続くんだが………

授業が無い分、さらにハードになりそうだ。

特訓の内容を想像しながらゲンナリしながらも、それだけ刀奈と一緒にいられると思うと、イーブンを飛び越えて得した気分になってくる。

これも惚れた弱みの一つかな?

それともう一つ、俺は決心したことがある。

それは、刀奈を護れるぐらい強くなること。

俺はまだまだ弱い。

そんな俺だが、刀奈を護りたいと思っている。

けど、命に代えてもとは言わない。

それは、刀奈を悲しませることになるから。

刀を護り、そして俺も生き残る。

そうじゃないと、意味がない。




そんな事を思いつつ、時は放課後。

いつものごとく特訓を終えた後の模擬戦だ。

しかも、今までとはちょっと違う。

「それっ!」

「うおおおおっ!?」

水流がドリルのごとく螺旋を描く蒼流旋を紙一重で避ける。

「ほらほら、油断しない!」

次々と攻撃を繰り出してくる刀奈。

そう、今までの模擬戦では、刀奈は水を殆ど使っていなかった。

精々、希に防御に使っていたぐらいだ。

それが今回、正確には前回の模擬戦の時から、攻撃にも水を使用するようになった。

その攻撃は、今までの比では無かった。

今まで彼女は手を抜いていたわけではなかたっただろう。

しかし、ISの能力をフルに使っていたわけではなかった。

何故か今回からはそれらを解禁したらしく、容赦が無い。

最近は瞬時回転を覚えたことでようやく打ち合えるようになって来たかと思えば、始めの頃の一方的な展開に逆戻りだ。

まあ、俺もブレードだけしか使ってないから、刀奈も俺に合わせてランスとラスティー・ネイルしか使ってなかったからなぁ。

遠距離攻撃も織り交ぜられたら、手も足も出ない。

俺も銃器を使用すれば、もう少しは戦えるとは思うんだが…………

やはり銃を人に向けて撃つ気にはなれない。

ブレードなら、峰打ちで何とか振るえるんだが。

刃の方を向けて振るうことは無理だ。

まあ、簡単に言えば、俺はヘタレだ。

こんなヘタレな俺が、刀奈を護りたいと思っている。

考えと行動が矛盾していることは分かっているが………

そんな事を考えていると、いつの間にか、俺の周りが深い霧に覆われていた。

「んげっ!?」

俺は思わず声を漏らす。

その瞬間、

――ドゴォォォォン

大爆発と共に俺の視界は白く染まった。







【Side 楯無】




盾が恋人になって初めての模擬戦…………

だったんだけど、自分でもちょ~~~~~っとやりすぎちゃったかな~と思わないでもない。

盾に少しでも強くなって欲しくて、今まであまり使ってなかったミステリアス・レイディの能力を解禁して模擬戦をしたんだけど…………

ちょっと一方的過ぎたかな~?

前から気になってたけど、盾は絶対に銃器を使わない。

それに、ブレードも峰打ちだし、攻撃する瞬間に僅かながら躊躇が伺える。

そのことについては、話は聞いている。

曰く、「人に武器を向けるのが怖い」だそうだ。

普通の人なら、「絶対防御があるから平気」と笑いながら馬鹿にするだろう。

私も最初はそう思った。

けど、よくよく考えてみれば、いくら防げるとは言っても、人に向かって躊躇なく引き金を引くのは、普通の人間の感性としてどうなんだろう?

それに思い至ったとき、彼の感性は、至極真っ当なものだと理解した。

だから、彼は攻撃する時に躊躇が生まれる。

私が彼の攻撃を捌ききれるのも、その隙が大きい。

最近では、瞬時回転を組み合わせた彼独特の戦闘スタイルを構築しつつある。

それが完成したとき、いえ、本来なら今でも、彼の攻撃を一撃も貰わずに凌ぎきるのは至難だ。

けど、攻撃の寸前に生まれる躊躇によって、本来なら避けられない攻撃も避けられる。

だけどもし、相手を傷つけないで無力化できる武器があったのなら…………

そうありえない事を考えつつ、未だ爆煙に包まれた盾の方を見る。

その瞬間、突然爆煙が吹き飛ばされた。

「ッ!?」

私は突然の事態に一瞬驚くが、直ぐに気を取り直す。

爆煙の中から現れたのは………光の珠。

それが示す現象は、

「…………二次セカンド………移行シフト………?」

訓練機では封印されているために起こり得るはずのない二次移行セカンド・シフトだった。





【Side Out】







「お兄ちゃん………ねえ………起きて………」

声が聞こえる………

幼い女の子の声………

どこかで聞いたことのある声………

俺は目を開ける。

視界に映ったのは、青く広がる透き通った青空。

俺は身を起こす。

そこは、いつか見たことのあるどこまでも広がる緑の草原。

「お兄ちゃん、また会ったね」

そして、前にも会った黒髪で麦わら帽子を被った少女。

「ああ………」

少女の言葉に、俺は頷く。

少女は口元に笑みを浮かべ、

「ねえ、お兄ちゃん。 護りたいものは見つかった?」

少女の言葉に俺は迷いなく頷いた。

「ああ…………俺は楯無を………刀奈を護りたい……」

その言葉を口にする。

すると、少女はニッコリと笑みを浮かべ、

「じゃあ、もういっかい聞くね?」

すると、少女は一呼吸置き、

「お兄ちゃん、力が欲しい?」

あの時と同じ問いかけを、俺に投げかけた。

そして、俺の答えは決まっている。

「ああ……欲しいな……」

俺は力を求める。

けど、唯の力じゃない。

「刀奈を護り………俺も生き残り…………そして、誰も殺さない………そんな力が……俺は欲しい……!」

俺の言葉に、少女は一瞬沈黙する。

でも、直ぐにその沈黙は破られた。

「……クスッ。 欲張りだね、お兄ちゃん」

少女は笑みを零し、

「いいよ………そんな力を、お兄ちゃんにあげる」

少女が両手を前に出すと、ソフトボールぐらいの光の玉が現れた。

「受け取って、お兄ちゃん」

その光の玉を、少女は俺に差し出してくる。

「………………」

俺は、その光の玉と少女を交互に見やり、ゆっくりと手を前に伸ばした。

そして、

「………え?」

俺は彼少女の手を取った。

「………お兄ちゃん?」

少女は不思議そうな顔をする。

俺は首を横に振った。

「……それは、“お前の力”だ」

「えっ?」

俺の言葉に、声を漏らす少女。

「俺が昔から好きな言葉の中で……こんな言葉がある。 “力は貸したり、与えたりするものじゃない。 力は、合わせるものだ”と………」

前世のアニメの言葉だが、俺はこの言葉が好きだった。

「ッ………!」

「その力はお前の力………だから俺には受け取れない……………だから頼みがある」

俺は真っ直ぐに少女を見て、

「俺と一緒に、刀奈を護って欲しい」

俺の願いを口にした。

「俺達の力で、誰も殺さず、俺も生き残り、そして刀奈を護る。 それから、一番大事なことは………俺の『翼』になってくれ!」

「ッ……お兄ちゃん!」

少女が俺に抱きついてくる。

俺は、そんな少女をあやす様に抱きしめた。

「お兄ちゃん…………」

最後に少女から呼びかけられる。

「うん?」

俺が少女にもう一度視線を向けると、

「大好き!」

満面の笑みを浮かべた少女の顔があった。

視界が白く染まり、意識が浮上していく。

そして、俺の意識が再び現実に戻ってきたとき、驚いた顔をした刀奈の姿が目の前にあった。

俺は、自分の状況を確認する。

俺の纏っている打鉄の形は既に二次移行セカンド・シフトが終了している。

その機体の情報が、直接頭に流れ込んでくる。

全体的に装甲が薄くなり、華奢になったイメージを受ける。

しかし、そのイメージを補って余りある存在感を示すのが、左腕に装着された広く分厚い盾。

何というか、某スーパーロボットオリジナル機体のジガ○スクードの腕に似てると俺は思った。

オマケに巨大なアンカーユニットに換装も可能。

こっちはガンド○か?

右腕にはまるでロ〇クバスターの様な砲口。

いや、エネルギーゲージが付いてないから、エ〇クスバスターか?

ご丁寧に砲口とマニピュレーターの切り替えが可能。

ついでに、エネルギー弾が撃てるバスターモードと、エネルギーを剣状にして留める事ができるソードモードの切り替えが可能。

その上、バスターモードではチャージまで可能と言うおまけ付き。

チャージ時間は、普通に撃つノーマルショット以外に、10秒、20秒、30秒といった具合に10秒ごとに威力が増す仕様らしい。

30秒チャージが限界のようだが………チャージ時間が微妙に長いな。

装備は以上だが………打鉄よ………武器をエネルギー式にしたら、こんなもん危なくて使えんのだが………

俺がそう思ったとき、次に起こった現象で俺の疑問は吹き飛んだ。

二次移行した打鉄が金色の光を放つ。

そして、俺の目に表示される文字。

単一仕様能力ワンオフ・アビリティ……………不殺ノ刃ころさずのやいば………!」

その情報が頭に流れてきたとき、俺は思わず笑みを浮かべた。

「なる程…………これこそ俺が求めていた能力だ………!」

俺は目の前にいる刀奈を見据える。

「行くぜ、刀奈………!」

新しい“俺達”の力を以て。







【Side 楯無】




光の珠が消失した後、二次移行を済ませた打鉄を纏った盾が、そこに佇んでいた。

そして、さらに驚くことに、盾のISが金色の光に包まれる。

この光は、単一仕様能力が発動した証。

単一仕様能力ワンオフ・アビリティ……………不殺ノ刃ころさずのやいば………!」

盾がそう呟き、笑みを浮かべる。

「なる程…………これこそ俺が求めていた能力だ………!」

そして、彼は私を見据えた。

「行くぜ、刀奈………!」

そう呟いた瞬間、

「ッ………!?」

彼は20m程空いていた間合いを、一瞬にして詰めてきた。

二次移行前のスピードに慣れていた私は、一瞬反応が遅れる。

気付いた時には、彼は右腕からエネルギーの剣を発生させ、振りかぶっていた。

けど、今までの盾の攻撃前の躊躇と、攻撃スピードなら、十分に防御できると思っていた。

だけど、

――ヒュン

いつの間にか、盾の右腕は振り抜かれていた。

「えっ?」

私は思わず声を漏らす。

衝撃は殆ど無かった。

だけど、シールドエネルギーは70キッカリ減っていた。

「ッ!?」

私は咄嗟に反撃に出る。

突き出したランス。

彼を捉えたと思ったそれは、虚しく空を切った。

見れば、一瞬にして20m程離れた位置にいる。

「ッ………これなら!」

私はランスに内蔵されたガトリングを彼に向ける。

彼に向かって飛来する無数の弾丸。

けど、それらは彼の左腕に装備された巨大なシールドで容易く弾かれた。

あのシールド、見た目通りかなりの防御力ね。

すると、彼は右腕を私に向ける。

そして、その砲口から、ソフトボールぐらいの大きさのエネルギー弾を連射してきた。

正直、私は彼の行動に驚いた。

彼が初めて遠距離攻撃用の武器を私に、いえ、人に向かって使ったこと。

そこには、躊躇も何も無かった。

その事に驚きながらも、私は水のヴェールを張り、そのエネルギー弾を防ぐ。

彼の放ったエネルギー弾は、水のヴェールに当たると弾けて消える。

どうやら、私の水のヴェールは突破できないようね。

けど、それに構わず彼はエネルギー弾を連射する。

ヴェールを突破されることはないと判断した私はその場で彼の攻撃を防ぎ続ける。

でも、そこでふと疑問に思った。

なぜ彼は攻撃を続けているのだろう?

彼は余り強くないかもしれないけど、決してバカじゃない。

無駄に攻撃を続けているとは思えなかった。

彼の攻撃は、私の足元に水たまりを作っていることだけ…………

「……………ッ!?」

水たまり!?

おかしい、私の水はアクアナノマシンによって制御されている。

もちろん攻撃を受ければ壊れるナノマシンも出てくるだろうけど、普通の銃弾なら壊れる数は微々たるものだ。

けど、いくら銃弾やミサイルを受け止めたとしても、足元に水たまりが出来るほどナノマシンが壊れるとは思えない。

それが示すことは、

「彼の攻撃は、私のアクアナノマシンを停止させてる?」

私はそう推測するけど、一体どうやって?

そういえば、さっきの攻撃も衝撃は殆ど無かったけど、シールドエネルギーだけは減らされていた。

そこまで考えていたとき、水のヴェールが相当薄くなっていることに気付く。

これ以上受けに回るのはマズイ。

「クッ………!」

私はその場を離脱し、大きく回り込んで瞬時加速で突っ込む。

私は、彼が瞬時回転で反撃を狙うと踏んでいた。

そして、その予想は的中する。

私は、その行動を見計らって、更なる反撃を狙おうとして………

反応できずに再び一閃を受けた。

私は驚愕する。

いくら瞬時回転を使っていたとしても、ブレードのスピードが速すぎる。

シールドエネルギーは、再び70減っていた。

私は、一旦離れて彼の出方を伺う。

何故か分からないけど、彼の攻撃に戸惑いや躊躇が無くなった。

更に、打鉄も二次移行によって第三世代にも引けをとらない性能を発揮している。

私が分析を続けていると、彼は左腕をこちらに向けた。

すると、シールドが量子変換され、巨大な、人一人完全に挟み込めるようなアンカーが出現した。

「ッ!?」

私がそれに気付くより早く、

「アンカーユニット! いけえっ!!」

巨大なアンカーが射出された。

分析に集中しすぎていた私は、それを避けることが出来ずに、アンカーに捉えられる。

「きゃあっ!?」

彼が左腕を振り上げると、ワイヤーでつながっていたアンカーも私ごと振り上げられる。

そのままワイヤーが引き戻され、私も彼に引き寄せられる。

そして、身動きがとれないまま彼の手元まで引き寄せられ、右腕の砲口が突きつけられた。

彼の砲口に光が集中し…………

「やーめた!」

彼は突然右腕の砲口を下ろした。






【Side Out】






「やーめた!」

俺はそう言ってバスターを下ろす。

それから、刀奈を開放した。

刀奈は佇まいを直すと、

「どうして続けなかったの? もしかしたら、君が勝ってたかもしれないんだよ?」

そう聞いてきた。

「ん~……俺が有利に事を進めれたのは、単純に不意打ちみたいなものだし、刀奈も本当の本気じゃなかったしな…………それに………」

「それに?」

「俺達の力はお前を護る為の力だ。 お前を倒す力は持ち合わせちゃいない」

俺は少し恥ずかしかったがそう言った。

刀奈の顔が目に見えて赤くなる。

「そ、そうなんだ…………うん。 嬉しい!」

そう嬉しそうに笑う刀奈。

いや、そう真っ直ぐ返されても反応に困るんだが………

「とりあえず、今日の訓練はここまで。 私は先に戻ってるから、盾はゆっくり来てね」

刀奈はそう言って行ってしまう。

俺はISを待機状態に戻すと、

「これからも宜しくな、打鉄」

腕輪になっている打鉄に呟いた。

『うん、宜しくね。 お兄ちゃん』

そんな声が聞こえた気がした。

俺は思わず笑みを浮かべる。

そのまま、俺はアリーナを後にした。















因みに、俺が部屋に戻り、部屋のドアを開けたとき、

「お帰りなさい。 ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?」

何時だったかと同じように裸エプロンで出迎えた刀奈の姿に、俺の理性は宇宙の彼方へ吹っ飛んだ。








あとがき


早くも十四話の完成。

やっとこ盾の打鉄が二次移行しました。

この小説では、訓練機は二次移行が封印されているという設定でして、臨海学校の時に束さんが外した枷というのがこの封印のことです。

ビミョーにチート臭くなったかもしれませんが、まあ、盾君弱っちいので若干チート機で丁度いいぐらいかもです。

で、二次移行した盾君の打鉄の設定ですが、



名前:打鉄・不殺(うちがね・ふさつ)

シールドエネルギー:500

その他エネルギー:1000

装備:遠近両用特殊武装『バスターソード』
     消費エネルギー、『ソードモード』時    1秒間に1消費
     通常弾、『ノーマルショット』           1発辺り1消費
     10秒チャージ『チャージショット』      20消費
     20秒チャージ『ハイパーブラスター』    100消費
     30秒チャージ『フルチャージショット』  400消費
    :左腕巨大実体シールド『示岩(じがん)』
    :巨大アンカーユニット『岩土露(がんどろ)』

単一仕様能力:『不殺ノ刃』


盾の打鉄が二次移行した機体。
二次移行前に比べて装甲が薄くなっているため防御力が低くなっているが、左腕の実体シールドがそれを補う。
機体の各所に小型の推進装置が取り付けられているため、瞬発力に優れ、50m程度なら白式にも劣らない。
しかし、基本的な機動力は、普通の打鉄の少し上程度。
そして、一番の特徴が、動作の一つ一つに瞬時加速が掛けられること。
例えば、剣を振るという動作に瞬時加速をかけ、凄まじい剣速を出すことが可能。
ただし、その分エネルギーも食う。
今回の話では、瞬時回転の最中に剣を振るという動作に瞬時加速を掛けたため楯無にも反応できないほどの攻撃速度を得た。
単一仕様能力の『不殺ノ刃』は、バスターソードのエネルギー攻撃が、相手のエネルギーを四散させるようになる。
この能力の発動中は、シールドエネルギーを減らす量が固定されており、どんなに相手の防御力が高くても一定のダメージが与えられる代わりに、どんなに装甲の薄い相手でも一定のダメージしか与えられない。
与えるダメージ量は、ソードモード時、一撃辺り70ポイント。
バスターモード時、ノーマルショット:一発辺り5ポイント。 10秒チャージ:50ポイント。 20秒チャージ:200ポイント。 30秒チャージ500ポイント。
となる。
実ダメージは、どれでもスタンガン程度の威力にしかならない。
逆に言えば、この能力が発動している限り、直接人を殺すことはない。




こんな感じ。

ぶっちゃけスパロボのジガンスクードとガンドロと、ロックマンに自分の壊れたアイデアを詰め込んだ機体。

シールドとアンカーユニットの名前は、上のスパロボ機体2機より。

無理矢理当て字で作りました。

まあ、今回はこの辺で失礼。




PS.前話の一番下にある意味不明な文字の羅列は、暗号だと気づきましたか?
    気付いてない人は、頑張ってといてください。
    ヒントは、『キーボード』。





[37503] 第十五話 今日は自宅でゆっくり…………のはずが!
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/12/23 01:47
第十五話 




ふと気がつくと、俺は青い空が広がる緑の草原の上にぽつんと立っていた。

「あれ? ここって…………」

ここは、打鉄のコアの意識体とも呼べる少女と会っていた所だ。

俺は何でここにいるのかと首を傾げる。

すると、

「お兄ちゃん!」

突然後ろから飛びつかれる。

「おわっ!?」

いきなりの事にビックリして声を上げる。

俺は首だけ回して背中に飛びついてきた存在に目を向けると、

「こんにちは、お兄ちゃん!」

例の少女が満面の笑みで俺の背中にしがみついていた。

「あ、ああ。 こんにちは」

俺はビックリしつつもそう返す。

俺は一度しゃがんで少女を地面に下ろすと、少女に向き直る。

「それで? 何で俺はここにいるんだ?」

俺はそう尋ねる。

すると、

「んと…………お兄ちゃんに会いたくなったから!」

これまた満面の笑みでそう言ってくれました。

俺は思わず微笑ましくなる。

可愛いやつだな。

「そうか………」

俺は少女の頭を撫でる。

少女は目を細めて気持ちよさそうに俺の手を受け入れている。

そこで、俺はふと思った。

「そういえば………お前って名前はなんて言うんだ? 流石に打鉄じゃないだろ?」

俺は気になることを尋ねる。

「名前? 無いよ」

少女は何でもないように首を傾げつつそう言う。

「えっ? 無いの!?」

俺は驚いて聞き返す。

てっきり名前ぐらいあると思ってたのに……

「そうだ! 私の名前、お兄ちゃんが考えてよ!」

少女は思いついたようにそう言う。

「えっ? 俺がか?」

「うん! お兄ちゃんに付けて欲しい!」

少女は、期待に満ちた目で俺を見つめる。

「名前ねぇ………」

ネーミングセンスの無い俺だが、相棒からの頼みでは断るわけにはいかない。

俺はない頭を必死に回転させて考える。

「ん~と…………」

俺は目をつぶりながら考える。

中々いい案が思い浮かばず、目をつぶったまま上を向く。

そこで、ふと目を上げた。

俺の視界に広がるのは、透き通った青空。

「………………空(そら)」

自然と、その言葉が出てきた。

俺は少女に向き直る。

「空っていうのはどうだ? 俺の翼であるお前に、ピッタリの名前だと思うんだが…………」

俺はそう聞いてみる。

「空………空か……うん! いい名前だと思う!」

少女は、嬉しそうにそう言った。

「そうか。 気に入ってくれたのなら良かった。 じゃあ、これからお前は、俺の相棒、『空』だ」

「うん! 私は空! おにいちゃんの“あいぼう”だよ!」

そう言って、空は満面の笑みを俺に向けた。










「……………ん?」

気がつくと、見慣れた………それでいて久しぶりに見る天井が見えた。

俺は体を起こす。

見渡せば、久しぶりに見る自宅の自分の部屋。

「…………そういえば、夏休みだっけ」

俺は呟く。

時計を見れば、まだ朝の5時だ。

どうやらいつもの特訓の癖で、目が覚めてしまったらしい。

「ま、明日からまた特訓が始まるんだけど………」

今日は刀奈からの指示で、一日休みとのことだ。

今日一日英気を養って、また明日から特訓を始める、ということらしい。

因みにその時の刀奈の言葉は、

『明日から夏休みだけど、特訓開始は明後日からね。 明日は一日休み! しっかり休んで英気を養ってね。 それから、遊びに行っちゃダメだよ。 遊び疲れても、特訓は減らさないから! 明日一日は家で休んでること! いい?』

ということらしい。

妙に“家で休んでいること”が強調されてたような気もするが、まあ、遊びに行く予定もないので、大人しく家でのんびりと過ごしますか。

そうと決まれば先ずは二度寝。

おやすみ。











次に目が覚めたときは、10時近くになっていた。

思ったよりも眠ってた。

俺は、ゆっくりと着替えて居間へ向かう。

「おそうございます」

俺はそう言って居間に入る。

お“早う”ではないので、“遅う”ございますだ。

「はいおはよう。 いくら夏休みでも、ちょっと遅いわよ」

そういったのは俺の母さんの無剣 衣(ころも)。

因みに容姿は中の上。

「おはよう。 母さんの言うとおり、ちょっと遅いぞ」

次に言ったのは、父さんの無剣 竹光(たけみつ)。

母さんと同じく容姿は中の上。

「ごめん。 二度寝したら思ったよりも寝てた」

俺はそう言う。

因みに俺の容姿は前から言ってると思うが、中の中だ。

「朝ごはんはどうする?」

母さんがそう聞いてきたので、俺は時計を見る。

「ん~時間も中途半端だし、朝はいいよ。 今日は一日家に居るつもりだし」

俺がそう言うと、

「もう! あんたは少しは、街に出かけるとかしてみたら? いい加減彼女でも作りなさいよ」

そう言って居間に入ってきたのは、俺の2コ上の姉さんの無剣 帷子(かたびら)。

容姿は、何故この両親からこの姉が生まれたのか?と思える程の上の中。

弟の俺から見ても美人と思える。

まあ、今の俺にとっては、刀奈の方が美人と思うが。

「あはは! 無理無理、姉さん! この兄貴に彼女なんか出来るわけないじゃん」

「甲、それは言いすぎ」

2人揃ってそう言ったのは、俺の1コ下の二卵性双生児の姉弟の無剣 甲(きのえ)と無剣 鎧(がい)。

両者とも容姿は上の下。

因みに鎧は彼女持ち。

「お、お邪魔してます」

続けて遠慮がちに挨拶してきたのは、今言った鎧の彼女。

確か名前は弓美って言ってたと思う。

結構可愛い、容姿は上の下。

鎧が俺のフォローをしてたのは、弓美ちゃんが居たからだな。

いつもは甲と一緒に俺に言う方だ。

そういえば、弓美ちゃんを紹介された時に、

『もし兄さんが弓美より美人な彼女を作ったら、裸踊りで町内一周してあげるよ』

って言ってたな。

……………ホントにしてもらうか?

少なくとも、刀奈が弓美ちゃんより美人なのは確定だ。

「まあともかく、盾も早く弓美ちゃんみたいな可愛い彼女を作って紹介しろ」

父さんがそう言ってくる。

皆に言いたいが、彼女は既にいるぞ。

まあ、実際に見ないと信じないだろうから、ここでは言わんが。

「まあ、その内」

俺はいつものように受け流しておく。

すると、

――ピンポーン

玄関の呼び出しベルが鳴る。

「はーい!」

母さんが、返事をしながら小走りで玄関へ向かった。

俺は、話の途中で出されていたお茶を飲む。

母さんが玄関へ向かって少しして、

「じゅじゅじゅ、盾!」

取り乱した表情で母さんが居間に駆け込んできた。

「ん?」

俺がお茶を飲みながら母さんに顔を向けると、

「あああ、あんたに、と、とても綺麗な女の子が訪ねてきてるのよ!!」

母さんは驚きを隠しきれない表情でそう叫ぶ。

それにしても、俺を訪ねてくるとても綺麗な女の子?

俺は少し考えて、

「…………あ」

その人物に思い当たった。

俺は立ち上がって玄関へ向かう。

俺が玄関に着くと、

「あっ、盾!」

そこには思った通り、

「えへっ、来ちゃった!」

私服に身を包んだ刀奈がいた。

「か………楯無!」

危うく刀奈と言いそうになり、慌てて言い直す。

楯無の姿を見て、ようやく俺は、昨日の楯無の言葉の真意に気付いた。

「楯無、昨日遊びに行かずに家に居ろって言ったのは、これが目的か?」

「えへへ。 ビックリした?」

「まーな」

「ウフフ」

俺達がそんなやり取りをしていると、

――ドタタタッ

後ろの方で何かが倒れる音がした。

見れば、家族全員+弓美ちゃんが重なるように床に倒れている。

どうやら覗いていたらしい。

皆は、俺が見ている事に気づくと、

「じゅ、盾! 彼女は一体誰なの!?」

母さんが開口一番にそう言ってくる。

「あ~、彼女は………」

俺が口を開こうとしたとき、

「あっ、盾のご家族の方ですか? 初めまして。 私は更識 楯無。 盾とは、最近から親しいお付き合いを始めさせていただきました。 今日は、ご挨拶にとお伺いした次第です」

楯無が敬語でそう挨拶する。

呆気にとられる家族全員。

「ま、そういう事だ」

俺がそう言うと、

「盾! あんた一体いくら貢いだの!?」

「兄さん! 一体どんな手を使って脅迫したんだ!?」

「騙されてる! 騙されてるよ!! お兄ちゃん!!!」

「バカヤロウ(×3)」

前言撤回。

実際に見ても信じなかった。

まあ、そう言いたくなる気持ちも分からんでもない。

因みに、上から姉さん、鎧、甲の順だ。

ついでに甲よ。

お兄ちゃんって何だお兄ちゃんって!?

その呼び方は、お前が小学校卒業と同時にやめたはずだろ?

「まあ、信じられんかもしれんが、楯無と付き合い始めたのは本当だ」

俺の言葉を聞くと、家族全員がこの世の終わりとも思えるような表情を浮かべる。

「夢よ……夢に決まってるわ………盾に……あの盾に、こんな可愛い彼女ができるなんて………」

「ま、負けた………僕が兄さんに勝てる所なんて、容姿と可愛い彼女がいる事しかなかったのに………」

「ううっ………お兄ちゃんが………お兄ちゃんが泥棒猫に取られちゃう…………」

そんな事を呟いている姉弟達。

上の2人はまあいいとして、甲。

オメーはそんなキャラじゃねえだろ!?

それともあれか?

ツンデレな妹というキャラなのかお前は!?

すると、突然甲が立ち上がり、

「たっ、楯無……さんっ!!」

ズビシッ、っと効果音が付きそうな勢いで楯無を指差し、

「あなたがお兄ちゃんに相応しい人か………勝負です!!」

全く予想外の事を言った。

「はぁっ!?」

俺は思わず変な声を上げた。







【Side 鎧】




学校が夏休みに入ったため、兄さんも久しぶりに家に戻ってきた。

「もう! あんたは少しは、街に出かけるとかしてみたら? いい加減彼女でも作りなさいよ」

ふと甲、弓美と一緒に居間の前を通りかかったところ、姉さんの声が聞こえた。

見れば、今頃起きてきて居間にいる兄さんが、姉さんに何やら言われている。

でも姉さん、多分兄さんにはそれは無理だと思う。

兄さんは、いつものように聞き流しているようだったけど、

「あはは! 無理無理、姉さん! この兄貴に彼女なんか出来るわけないじゃん」

いきなり甲が話に割り込んだ。

「甲、それは言いすぎ」

僕はそう言うけど、正直甲の言った言葉には同感だ。

だけど甲、兄さんに彼女が出来ないんじゃなくて、甲が出来て欲しくないと願ってるだけじゃないの?

双子の姉にあたる甲は、言っちゃ悪いけど、物凄いブラコンだ。

兄さんは、普通の評価を受け続けてるけど、実際にはもっと頭がいいと思う。

僕や甲の勉強の面倒もよく見てくれたし、喧嘩になろうとした時もいつも兄さんが身を引いて僕達に譲ってくれた。

とても優しい兄さんだ。

そんな兄さんに甲はベッタリだ。

小学校を卒業してからは、呼び方を無理矢理『兄貴』に変えてるみたいだけど、兄さんが居ないところでは『お兄ちゃん』とよく口を滑らす。

兄さんがIS学園に行くことになって家に居なくなったときは、もう大変だった。

『お兄ちゃん分が足りない』とか『お兄ちゃんに会いにいくー』とか、宥めるのに苦労した。

彼女が出来るとは考えていないみたいだったけど。

まあ、昔から兄さんを見ていれば、全然女の子に話しかけないし、話しかけられることもなかったからいくら女だらけのIS学園に入っても一緒だろうと思っていた。

「お、お邪魔してます」

弓美が遠慮がちに挨拶する。

弓美は、僕が中学2年の終わりから付き合いだした僕の彼女だ。

正直、僕が兄さんに優っているところは、精々容姿ぐらいだと思っていた。

勉強でも敵わない、体力も互角以下、他も大体同じぐらい。

兄さんに勝てると自信を持って言えるのは、持って生まれた容姿ぐらいだった。

そんな僕に彼女が出来たことは、兄さんに自慢できる唯一のことだ。

弓美は可愛い。

だから、僕は調子に乗ってこんな事を言ってしまったことがある。

『もし兄さんが弓美より美人な彼女を作ったら、裸踊りで町内一周してあげるよ』

正直、兄さんが弓美より可愛い彼女を作れると思ってなかったから、ついつい口が滑った。

だけど、

――ピンポーン

話をしている時に、お客さんの来訪を告げるベルが鳴る。

「はーい!」

母さんが、返事をしながら小走りで玄関へ向かう。

そして、

「じゅじゅじゅ、盾!」

取り乱した表情で母さんが戻ってくる。

「ん?」

兄さんがお茶を飲みながら母さんに顔を向けると、

「あああ、あんたに、と、とても綺麗な女の子が訪ねてきてるのよ!!」

母さんは驚きを隠しきれない表情でそう叫ぶ。

正直僕も信じられなかった。

あの兄さんに女の子が訪ねてくるないんて、初めての事だ。

「…………あ」

兄さんは、その事に思い当たることがあるのか声を漏らす。

兄さんが玄関に向かい、僕らは居間の入口から顔だけ出して兄さんの様子を伺う。

「あっ、盾!」

そこには、笑顔を浮かべながら兄さんを出迎えるとても綺麗な女の人がいた。

水色の髪が外側に跳ね、ルビー色の綺麗な瞳をした、恐らく兄さんよりも年上の女の人。

「綺麗な人………・・・」

弓美も惚けたようにそう漏らす。

「えへっ、来ちゃった!」

まるで、彼氏の家に突然やってきた彼女の様な言葉。

「な、何なのあの女…………お兄ちゃんを呼び捨てで呼ぶなんて馴れ馴れしい…………!」

下を見ると、甲が握りこぶしを握って震えている。

「か………楯無!」

に、兄さんもあの人を呼び捨てで呼んだ!?

兄さんが女の人を呼び捨てで呼ぶなんて、甲意外じゃ誰もいなかったのに!?

「楯無、昨日遊びに行かずに家に居ろって言ったのは、これが目的か?」

「えへへ。 ビックリした?」

「まーな」

「ウフフ」

他愛のない会話。

なのに何故だろう?

口の中が甘くなってきたような…………

すると、突然誰かがバランスを崩したのか、

――ドタタタッ

全員が折り重なるように倒れてしまった。

見れば、兄さんが呆れたようにこっちを見ている。

「じゅ、盾! 彼女は一体誰なの!?」

母さんが、僕達の最大の疑問を代表して言った。

「あ~、彼女は………」

兄さんが口を開こうとしたとき、

「あっ、盾のご家族の方ですか? 初めまして。 私は更識 楯無。 盾とは、最近から親しいお付き合いを始めさせていただきました。 今日は、ご挨拶にとお伺いした次第です」

女の人が挨拶をした。

更識 楯無と名乗った女の人は、ハッキリと言った。

自分は、兄さんの彼女であると。

「ま、そういう事だ」

僕たちが固まっている間に、兄さんが言った。

僕達は信じられず、

「盾! あんた一体いくら貢いだの!?」

「兄さん! 一体どんな手を使って脅迫したんだ!?」

「騙されてる! 騙されてるよ!! お兄ちゃん!!!」

「バカヤロウ(×3)」

思わず兄さんに詰め寄ったが、一言で一刀両断にされた。

「夢よ……夢に決まってるわ………盾に……あの盾に、こんな可愛い彼女ができるなんて………」

「ま、負けた………僕が兄さんに勝てる所なんて、容姿と可愛い彼女がいる事しかなかったのに………」

「ううっ………お兄ちゃんが………お兄ちゃんが泥棒猫に取られちゃう…………」

僕達は項垂れる。

あと甲、地が漏れてる。

すると、項垂れていた甲が突然立ち上がり、

「たっ、楯無……さんっ!!」

勢い良く楯無さんを指差し、

「あなたがお兄ちゃんに相応しい人か………勝負です!!」

そんな事を言った。

「はぁっ!?」

兄さんは素っ頓狂な声を上げる。

「勝負?」

楯無さんは、口元に笑みを浮かべ、聞き返す。

「ええそうです! あなたがお兄ちゃんに相応しいか私が試してあげます! 私が勝ったらお兄ちゃんとは金輪際関わらないでください!」

甲はそう言い切る。

そんな無茶苦茶な………

「いいわよ」

と思いきや、楯無さんはアッサリとOKした。

「その勝負、受けて立つわ!」

楯無さんは自信満々にそう言うと、手に持っていたセンスをバッと開く。

そこには『勝負』と達筆で書かれた文字があった。

「とりあえず、私が勝ったら私の事を義姉と認めてもらおうかしら?」

「ええいいですよ。 絶対に負けませんから!」

甲は真剣な表情で、楯無さんは余裕のある表情でそう言い合う。

僕は、さっきから黙っている兄さんに顔を向け、

「兄さん、止めなくていいの? せっかく出来た彼女なんでしょ?」

「ま、まあ、甲のあの反応には驚いたけど、とりあえずは甲の気の済むようにするさ。 第一、楯無が負ける姿が想像できん」

兄さんは迷いなくそう言う。

なんやかんやで話が進んでいく。




すると、とある部屋の前に来た。

「最初の勝負は掃除です。 この部屋を半分ずつ掃除して、1時間でどれだけ綺麗にできるかです! 審査員は、お母さんにお願いしました!」

「うん、文句ないわ」

楯無さんも頷く、

「それじゃあ、よーい………始め!」

母さんの合図で2人が一斉に動き出す。

でも、しばらく見ていてわかった。

明らかに甲が負けている。

甲が所々もたついているのに対し、楯無さんはとてもスムーズに動き、無駄がない。

次から次へと物を片付け、手際よく掃除していく。

やがて、1時間が立ち、

「そこまで!」

母さんが終了の合図を告げる。

「はぁ………はぁ………」

甲は全力を出し切ったのか、肩で息をしている。

「♪~~~」

一方、楯無さんは、鼻歌まで歌って余裕の表情だ。

早速母さんが審査に入る。

ぱっと見、両方とも綺麗に掃除されているように見えるけど………

「ふむふむ………」

まず母さんは、甲の方の掃除をチェックする。

「う~ん………」

窓際の誇りを鬼姑のようにチェックする母さん。

その指には、ホコリが付いているのが見て取れた。

「まだまだね。 細かいところが荒すぎるわ」

「うぐっ……!」

甲が声を漏らす。

続いて、楯無さんの掃除のチェックを始めると、

「こ、これは…………!」

母さんが驚愕した声を漏らす。

甲は何か重大なミスを犯してくれたのかと期待に満ちた表情で顔を上げる。

しかし、

「か………完璧だわ………埃一つ無いどころか、窓もピカピカ。 本棚も順番通り。 申し分ないわ………!」

何やら感動したような表情で感慨深い声を漏らす母さん。

そこまでなの!?

「よって、この勝負は、楯無ちゃんの勝ちよ!」

「いぇーい!」

母さんが楯無さんの勝利を宣言すると、楯無さんは機嫌よさげな声で扇子を広げる。

その扇子には、『勝利』の文字が。

あれ?

さっきと文字が違うけどいつの間に?

「ううう…………まだです! まだ認めません! 次はちょうどお昼なので、料理勝負です!!」

甲が悔しそうな声でそう言う。

まだやるの?

「いいわよ。 いくらでも相手になるわ」

楯無さんは余裕の態度を崩さない。

「吠え面かかせてやるんだからぁ!!」

負け惜しみのように叫ぶ甲。

うん。

どう考えても甲が吠え面かく場面しか思い浮かばない。

兄さんが余裕な理由が、なんとなく理解できた。




料理勝負は2人平等に炒飯を作ることになった。

審査員は、ここにいる全員。

2人が料理している様子を見ているんだけど…………これも先ほどと同じで2人の差が歴然だ。

包丁さばきも甲が所々危なっかしく使っているのに対し、楯無さんは、まるでプロのように速くて正確。

炒める時も、甲はフライパンを使って木ベラで混ぜているが、楯無さんは、中華鍋を使って豪快に炒めている。

そして、完成した炒飯。

それぞれが口へ運ぶ。

甲のチャーハンは所々ご飯が固まっており、味も場所によってバラつきがあったが、楯無さんチャーハンはご飯一粒一粒がパラパラでしっかりと火が通っており、味も均一。

もはやプロの域と思えた。

結果も満場一致で楯無さんの勝利。

これで諦めるかと思いきや、甲は次から次へと勝負を挑む。

しかし、その全てにおいて完敗していた。

もう諦めたほうがいいんじゃと思った時、

「つ、次が最後の勝負です!」

甲が最後の勝負を持ち出した。

「次で最後? いいわよ。 勝負の内容は?」

楯無さんがそう聞く。

すると、甲は庭に出て、

「勝負の内容は、これです!!」

甲が拳を突き出しながらそう叫ぶ。

あ、そういえば甲って………空手2段だったっけ。

「お兄ちゃんは弱っちいので、お兄ちゃんを守れるぐらい強くないと認めません!」

そう叫ぶ甲。

「甲………弱っちいのは認めるが、本人の彼女の前で堂々と言うなよな………」

あ、兄さんにネカティブスイッチが入った。

ちょっといじけてる。

でも、これは止めたほうが………

「おーい、楯無~!」

兄さんが楯無さんに声をかける。

流石にこれは止めるよね?

「はーい♪」

楯無さんは声をかけられて嬉しいのか、機嫌良さげに返事をした。

「そんなんでも俺の妹だから、怪我させないようにしてくれ~」

「はーい!」

兄さんの言葉に何でもないように返事をする楯無さん。

「って、兄さん! 止めなくていいの!?」

僕は思わず問いかける。

「大丈夫だよ……楯無は強い」

それだけ言うと視線を2人に向ける。

2人は庭で向かい合っている。

すると、

「ああ、始める前にルールを決めておきましょうか。 あなたは私を1回でも地面に倒せたらあなたの勝ち。 私はあなたに負けを認めさせたら私の勝ち。 でどうかしら?」

楯無さんは信じられないことを言い出した。

流石にそれは無理があるんじゃ………

「なっ!? 舐めないでください!」

「フフフ、悔しかったら私を倒してみなさい」

「言われなくても!」

甲は言うが早いか踏み込んで正拳突きを繰り出す。

普通の人なら、反応できずに悶絶する威力。

だけど、

「はい!」

「えっ!?」

気付けば、甲が地面に倒れていた。

首元には、楯無さんの手刀が添えられている。

「まだやる?」

「ッ!?」

楯無さんの言葉に甲は飛び起き、すぐさま距離を取る。

「はぁあああああっ!!」

再び楯無さんに殴りかかるが、

「それっ!」

楯無さんは、簡単に拳を受け流し、鋭い足払いを仕掛けて甲の脚を払う。

「きゃっ!?」

更には、甲が怪我をしないように手を添えて落下の衝撃を和らげる始末。

素人目に見ただけで理解した。

楯無さんと甲の間には、天と地ほどの力量差があることを。

「……………兄さん………楯無さんって……何者?」

僕は思わず問いかけた。

「IS学園の生徒会長で、自他ともに認める学園最強………で、現在は俺の恋人………だな」

「そう…………」

確かに最強だ。

でも、どう考えても兄さんが釣り合うような人じゃないんだけどな~。

目の前では、甲が何度も楯無さんに向かっていき、その度に優しく倒されている。

実力の差は歴然だ。

甲がいつまで耐えられるのかと考えつつ、その様子を見続けた。





【Side Out】





最後の勝負が始まって約2時間。

そろそろかな?

俺がそう思ったとき、

「ううっ………! うぇえええええええええええん!!」

ついに甲が泣き出した。

「ふえぇぇぇん…………お兄ちゃん盗られたぁぁぁぁぁっ!!」

その反応は予想外だったのか楯無は焦った表情をしている。

さて、昔みたいに上手くいくかはわからんがやってみるか。

俺は甲に向かって歩いていく。

「ほら、よしよし。 もう泣くな」

俺は甲の頭を撫でつつそうあやす。

小学校の頃は、甲が泣くたびにこうやって慰めていたよな。

「ふぇぇぇ……でも、お兄ちゃんが…………」

こうやって泣く姿は、昔とちっとも変わってない。

「お前が何を考えてるのかはわからんが、楯無と恋人同士になったからといって、お前の兄じゃなくなるわけじゃないぞ」

「えぐっ……! ホント?」

「ああ、本当だ。 お前はいつまで経っても、俺の大事な妹だよ」

「お兄ちゃん!」

甲は俺にしがみついてくる。

俺は優しく頭を撫でると、

「だからさ、楯無の事、認めてやってくれないか?」

そう言った。

甲は顔を上げると楯無の方を向き、

「……………わかった…………お義姉ちゃん」

涙目&上目遣いでそう言った。

「え、ええ! 宜しくね甲ちゃん」

甲の態度の豹変に驚いたのかちょっとつまりながら返事をした。





その後、なんやかんやで楯無が帰る時間になり、俺が駅まで送っていくことに。

駅までの道を歩いていると、

「ねえ盾」

楯無が口を開く。

「何だ?」

「妹さんと仲いいんだね」

「ん? まあ、悪いと言うほど悪くはないと思うが……」

「私も…………簪ちゃんとあんな風に………」

「ん? 何か言ったか?」

俺は、“簪”という言葉が聞こえていたので、大体の予想は付いたが今のところはこう返しておく。

「ううん。 何でもない。 それよりも!」

駅まで100mといった地点で楯無、いや、刀奈は立ち止まる。

「いくら実の妹だからって、自分の彼氏が他の女を抱きしめるなんていい気分じゃなかったんだからね!」

「なっ!? あれはしょうがないだろ?」

「だーめ! 抱きしめる以上の事をしてくれなきゃ許してあげない!」

刀奈はそう言うと目を瞑って顔を少し上げた。

こ、これってあれだよな?

キスしろってことでいいんだよな?

俺は少し周りに目をやって近くに人がいないことを確認すると、そっと刀奈の唇に自分の唇を落とした。

「んっ」

刀奈が息を漏らす。

少しして唇を離すと、

「これでいいか?」

「うん! 上出来!」

刀奈はそう言って、頬を少し染めつつ駅に向かって駆けていく。

俺はその後ろ姿を見送る。

すると、途中で刀奈が振り返り、

「盾! また明日!」

手を降ってきた。

「ああ、また明日な」

俺も軽く手を振り返す。

さて、明日に備えて早く寝るとしますか。

そう思いつつ、俺は帰路へついた。






あとがき



第十五話の完成。

やっぱり他の小説よりも、こっちのほうが勧めやすい。

てなわけでこっちを更新してしまいました。

まずは、打鉄のコアの名前は『空』としました。

まあ、安直ですね。

で、楯無さんが盾君の自宅に襲来。

妹さん涙目でした。

このネタのために即興で考えた家族たちです。

さて、次はどうしようかな?

更識家に盾君がお邪魔するか、夏休みイベントを先に進めるか。

その時に決めましょう。

では、今回はこれにて。





[37503] 第十六話 プールでデート。 あれ? プールで原作イベントってあったっけ?
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/02/20 22:15

第十六話




夏休みに入って2週間。

IS学園は一般の学校のプールと同じように、夏休み中もアリーナを使用することが出来るので、俺はほぼ毎日IS学園に通い、楯無の地獄の特訓を受けている。

授業がない分、アリーナの使用可能時間の初めから終わりまで、昼飯以外はほぼぶっ通しだ。

「はぁああああああああっ!」

「せぇえええええええいっ!」

空中で俺と楯無が切り結ぶ。

楯無のランスの攻撃を俺が左腕のシールドで防ぎ、俺の右腕のエネルギーソードを楯無が左手のラスティーネイルで受け止める。

お互いが弾かれ、離れた瞬間、俺は瞬時加速で一気に肉薄右腕を振りかぶる。

瞬時回転と、二次移行したお陰で使えるようになった部分瞬時加速で瞬間的に斬りかかる。

初見では何が起こったのか分からず呆然としていた楯無だが、

「はあっ!!」

俺の攻撃を受けるのも構わずに蒼流旋で攻撃してきた。

その結果は、

「ぐはっ!」

俺だけが吹き飛ばされる。

だが、それも当然なのだ。

打鉄・不殺の単一仕様能力『不殺ノ刃』は実ダメージはスタンガン程度。

故にIS装着者には殆ど衝撃が無いと言っていい。

つまり攻撃を受けても怯む事はないのだ。

俺の攻撃が当たっている為、楯無のシールドエネルギーも70減っているが、こちらは装甲の薄さも相まって、150以上減っている。

倍以上もの差が出た。

「だからって、そうそう簡単に負けられるかよ!」

俺は再び楯無に向かっていった。



その後、結局俺は負けた。

でも、楯無のシールドエネルギーも3分の1ぐらいは減らした。

二次移行した打鉄の性能のお陰で、かなり食らいつけるようになっている。

そして今、今日の訓練が終わり、俺は地面に大の字で倒れていた。

やはりキツイ。

『お兄ちゃん、大丈夫?』

プライベートチャネルと同じような声が頭の中に響く。

(まあ、何とか………心配してくれてありがとう“空”)

『お姉ちゃんもやりすぎな気がするんだけど………』

(そう言うなって。 俺には才能が無いんだ。 このぐらいやらないと皆には追いつけないんだよ)

俺は空にそう返す。

『お兄ちゃんが良いなら良いんだけど………』

俺が今会話しているのは俺の打鉄のコアの意識である『空』。

この前空に名前を付けてから、こうやって普通に意思疎通が出来るようになった。

因みにこの事は楯無も知っている。

打ち明けた時にはたいそう驚いていたが。

すると、楯無が倒れている俺に歩み寄ってくる。

丁度俺の頭上から覗き込むような形になり、

「今日もお疲れ様。 それで明日なんだけど、休みにしようと思いま~す♪」

笑顔でそう言ってきた。

「休みなのは助かるな。 流石にキツイ」

俺はそれを聞いてホッとする。

「えっと………それでね」

楯無が何か紙切れのような物を取り出す。

「こんなのがあるんだけど…………」

俺は差し出された紙切れのようなものを寝転んだまま受け取ると、顔の前に持ってくる。

それは、

「ウォーターワールドのチケット………?」

それは、最近出来たと話題のウォータワールドのチケットだった。

その時、ふと頭になにか聞き覚えがあるような気がしたが、結局思い出せなかったため、気にしないようにした。

「…………デートのお誘いか?」

多分そうだろうとは思うが、一応確認する。

「う、うん………もちろん、盾の都合が合えば………だけど………」

楯無は顔を赤くしてそう呟く。

「まさか! 断る訳無いだろ? なにか用事があってもそっちを全部キャンセルするっつーの!」

これは本音。

俺にとって楯無……いや、刀奈が一番だ。

断る訳がない。

「そ、そうなんだ………じゃあ、明日10時に現地集合ね」

「了解。 楽しみにしてるよ」

思わぬご褒美に、俺の気分は急上昇していった。






翌日。

ウォーターワールドの前で待ち合わせているのだが、人の数が凄い。

流石話題に上がっているだけの事はある。

俺は当日券を買う人の邪魔にならない所で刀奈を待っていると、

「ん?」

人ごみの中に、見覚えのある金髪とツインテールを見た気がした。

俺がもしかしてと思い、その2人をよく見ようとしたとき、突然目の前が真っ暗になった。

「だ~れだ?」

これは間違いなく、

「刀奈」

俺は迷いなく答える。

「えへへっ。 当たり~!」

視界が開け、笑顔の刀奈の顔が映る。

その笑顔の魅力で、俺は先ほどの2人の事など既に忘れていた。

「じゃ、行こ!」

刀奈は俺の腕に自分の腕を絡ませ、施設の中へと引っ張っていく。

俺はそれに逆らわずに、されるがままに引っ張られていった。





着替えの為に刀奈と別れ、更衣室で海パンに着替えると、俺はプールの傍で刀奈を待つ。

しばらく待っていると、突然周りがざわつきだした。

いや、正確には周りの男達がだ。

俺がそちらに目をやると、青いビキニを身に纏い、そのモデルにも劣らない見事なスタイルを惜しげも無く晒しながらこちらに歩いてくる刀奈の姿があった。

擦れ違う男達全員が思わず振り返るほどに綺麗で、中には、彼女持ちの男も刀奈に見惚れ、彼女から制裁を受ける光景もあった。

刀奈は、一直線に俺の前に来ると、

「お待たせ!」

周りの目を気にする事なく俺に声を掛けてきた。

「あ、ああ………」

ぶっちゃけ、周りの男達と同じように、俺も刀奈に見惚れていた。

「どう? 似合うかな?」

刀奈は、俺にその抜群のスタイルを見せつけるようにポーズを取る。

豊満なバスト。

引き締まったウエスト。

形のいいヒップ。

思わず顔に血が周り、鼻から溢れそうになった。

「た、確かに似合ってるが…………大胆過ぎないか?」

俺は何とかそう言う。

「そお?」

刀奈は自分の体を確認するように見下ろす。

「それに………他の男もジロジロ見てるし…………」

俺は周りに目をやりながらそう言う。

周りの男たちは、明らかに見惚れた目で刀奈を見ていた。

「ウフフ…………嫉妬?」

刀奈は含み笑いをしながら、俺に問いかけてくる。

「嫉妬というか何というか…………ただ、面白くはないな」

俺は正直に答える。

俺の答えに満足したのか刀奈は笑顔になり、

「大丈夫♪ 私は君のだから」

そう言って、俺の腕に抱きついてくる刀奈。

胸の膨らみが腕に当たって気持ちイイです、ハイ。

ついでに言えば、周りの男達から嫉妬の視線を超えて、殺気立つ視線が痛いです。

でも、刀奈はやらんぞ。

「それじゃ、今日も楽しもー!」

そう言ってプールへ向かう俺達。




先ずは、普通のプールでひと泳ぎ。

俺も泳ぎは苦手ではなく、浮き輪が無くても普通に泳げる。

刀奈も見事なもので、まさに教科書のお手本のような泳ぎ方だ。

で、次に向かったのは流れるプール。

プールサイドに木々が植えてあり、まるで森の中を流れる川のような感覚を味わえるアドベンチャーゾーン。

俺は流れに身を任せ、ゆったりと流れる。

「ふう………落ち着く………」

俺は仰向けで水面に浮かびながら、目を閉じる。

正面に受ける強い日の光の暑さと、水に沈んでいる部分の冷たさが心地いい。

しばらくその心地よさに浸っていると、突然足を引っ張られた。

「うおっ……ガボッ!?」

突然の事に、ロクに息も吸い込めず水中に引きずり込まれる。

一体何だと水中で目を開けると、ボヤけた視界に広がる水色の髪。

これは刀奈か。

それが分かるとホッとする反面、息をロクに吸い込んでいなかったので、直ぐに苦しくなる。

俺は空気を漏らさないように口を押さえ、刀奈に息が続かないとジェスチャーで伝え、水面に上がろうとした。

しかし、

「!?」

あろう事か、刀奈は口を押さえていた方の手を掴み、自分の方へ引っ張った。

「ガボォ!?」

驚いた俺は、思わず息を吐き出してしまう。

あ、やべえ。

酸欠で意識が遠くなりかけた時、

「………………?」

突然口に柔らかな感触。

そして、それと共に空気が吹き込まれる。

意識をハッキリと取り戻すと、目の前には刀奈の顔。

そして、唇に感じるこの感触は、紛れもない刀奈の唇。

これは、(俺的)男の夢の一つ、水中での空気の口移し!

やがて苦しさが無くなり、刀奈が離れると、2人一緒に水面に上がる。

「………ぷはっ! はあ……はあ……」

俺は水面に上がると、息を吐く。

流石にビックリした。

すると、

「盾、ごめん………少し悪ふざけが過ぎたわ」

俺の様子を見て心配したのか、申し訳なさそうに刀奈が謝ってくる。

俺は刀奈に向き直り、

「別に気にしてねーよ。 いい思いも出来たしな」

そう言って笑ってみせる。

「それなら良かったわ」

それに釣られたのか、刀奈も笑って見せてくれた。

その時、ポーンと合図のようなベルが鳴る。

「ん?」

何だと思い見渡すと、看板にはアドベンチャータイムと英語で表示されていた。

そして、俺達よりも上流側にあった水門が突然開く。

そしてそこから、

「げっ!」

大量の水が開放された。

その水は激流となり、俺達を飲み込もうとする。

「刀奈!」

俺は咄嗟に刀奈を引き寄せ、流れから庇うように抱きしめる。

そして次の瞬間、背中に襲いかかる凄まじい衝撃。

当然ながらその衝撃に耐えれるハズもなく、激流に飲まれ、流される。

しかし、腕の中の刀奈だけは離さないよう、しっかりと抱きしめた。



やがて俺達は、人口浜に打ち上げられた。

まあ、設計上そうなっているのだろう。

とはいえ、結構な距離を激流に飲まれてきたので、結構辛い。

「盾、大丈夫?」

刀奈が俺の体を揺さぶる。

「一応…………」

俺は倒れたままそう答える。

少し休み、ようやく楽になってきた為、体を起こす。

すると、

「盾、次はアレに行こうよ」

刀奈が指さしたのは、ウォータースライダー。

しかも結構デカイ。

ウォータースライダーは好きな部類に入るから問題ないんだが。

ちょっと長い道のりを歩き、ウォータースライダーの入口に到着する。

いくつかある入口の内、どれにするかを選んでいた時、

「ねえねえ盾。 こっちにペア滑りコースっていうのがあるよ」

刀奈がとある入口を指しながら言う。

確かにペア滑りコースと書いてある。

「じゃあ折角だし、一緒に滑るか?」

俺がそう提案すると、

「もちろん!」

刀奈は元気よく頷いた。





「それでは、ペア滑りのご説明をいたします」

俺達は、係員さんから説明を受ける。

最初に俺が定位置に座り、それから刀奈が俺の足の間に座る。

「で、男の子は後ろから女の子をギュッとするんです。 ギュッと!」

係員さんは、両手を胸の前でクロスさせ、抱きしめる仕草をする。

それを聞くと、

「じゃあ盾、いいわよ」

刀奈は、戸惑いもせずに背中を俺の胸に預けてくる。

俺も少しは緊張するも、それでもしっかりと刀奈の前に腕を回し、抱きしめる。

「それじゃあ、いってらっしゃ~い!」

係員さんに背中を押され、滑り出す俺達。

滑り出すと、中々スピードが出る。

「うひょーーーーっ!」

丁度いいスリル感に、俺は声を上げる。

「イエーイ!」

刀奈も楽しそうに声を上げる。

そして、

――ドボーーーン

出口のプールに思いっきり突っ込んだ。

結構楽しめたと思った俺は、プールから出ようと移動を開始したとき、

「ま、待って!」

突然後ろから刀奈に抱きつかれる。

「うおっと………どうした?………って!?」

抱きつかれた際に、背中に2つの膨らみが押し付けられるのだが、その際に違和感を感じた。

あるはずの布地の感触が無いのだ。

「おい………まさか………」

俺は首だけ回して刀奈を見る。

「水着…………流されちゃった…………」

代表的なプールでデートのアクシデント、『水着流されちゃった』に遭遇した。

「ちょちょちょ、ちょっと待て!」

俺は慌てて周りを見渡す。

運良く近くに人は居ないようだが、いつまでもここにいるわけにはいかない。

次の人が何時出てくるかも分からないのだ。

「か、刀奈! スライダーを滑ってる最中にはあったんだよな!?」

俺は半ば叫びながら刀奈に尋ねる。

「う、うん…………このプールに飛び込む前まではあった筈だよ」

それなら近くにあるハズ。

俺は背中の感触を意識しないようにプールの中を注視する。

スライダーから流れてくる水で、水面がユラユラと揺れて見にくいが、今までで一番と言わんばかりに目を凝らす。

そして、

「見つけた!」

スライダーの出口の右下あたりに沈んでいる水着を発見した。

「刀奈、せーので一緒に潜るぞ」

「う、うん」

俺は刀奈が頷いたのを確認し、

「せーのっ!」

プールの中に潜り、沈んでいた水着を拾った。

この後、何とか次の人が滑ってくる前にプールから出ることが出来た俺達は、ホッと息をついた。






精神的に疲れた俺達は、施設内の喫茶店にいた。

昼にはまだ早い時間であり、ちょっとした休憩だ。

「あはは………まさかのアクシデントだったね」

苦笑混じりの笑みでそう呟く刀奈。

「まあな……」

俺が相槌を打つと刀奈が顔を寄せ、

「………私の胸の感触はどうだった?」

小声で爆弾発言をしてきた。

「ッ~~~~~!?」

俺は思わず取り乱すが、少し考えると、

「……………っていうか、それ以上のこと既にしてるだろ。 俺達」

小声でそう返す。

刀奈の顔が、ボッと言わんばかりに赤くなる。

「「……………………」」

互いに顔を赤くしつつ、何とも言えない雰囲気になった時、

「つまり、一夏さんは自分の代わりに『ここに行かないか』と言ったのですね」

「そーねー」

聞き覚えのある声が、後ろの方から聞こえた。

気になった俺は首を回して後ろを見ると、

「はぁ………おかしいと思いましたわ。 ええ、最初から何か怪しいと思っていました」

「ウソつけ。 私服、めちゃ気合い入ってるくせに」

「なっ!?  こ、これは、その………礼儀として、そう! 礼儀としてですわ!」

「あー、はいはい」

そこには案の定、鈴とセシリアの姿があった。

こいつらが何でここに?

と、一瞬思ったが、そう言えば原作の夏休みでこんなイベントがあったような………

夏休みのイベントは印象が薄くてあんまり覚えてないんだよなぁ。

まあ、話を聞くに、一夏と約束してたんだろうが、なんやかんやで鈴とセシリアの2人だけになってしまったと。

そんな所だろう。

「あれ? あの2人って鈴ちゃんとセシリアちゃん?」

刀奈がそう呟く。

流石生徒会長、有名な生徒は頭に入ってるか。

刀奈なら、生徒全員覚えてそうだがな。

「だな。 大方一夏に約束ドタキャンでもされたんだろ?」

俺はそう言っておく。

「あの2人の様子からすると、大体正解みたいだね」

刀奈もそう頷く。

後ろの2人がもう帰る雰囲気になってきた時、とある園内放送が響き渡る。

『では! 本日のメインイベント! 水上ペア障害物レースは午後1時より開始いたします! 参加希望の方は12時までにフロントへとお届けください!』

そこまでは鈴もセシリアも興味無さげだったのだが、

『優勝賞品はなんと沖縄5泊6日の旅をペアでご招待!』

それを聞いた瞬間、明らかに2人の雰囲気が変わったのが見て取れた。

「セシリア!」

「鈴さん!」

2人は腕を交わすと、

「「目指せ優勝!!」」

一語一句違わぬ唱和で気合を入れ、一目散にフロントへと駆けていった。

何やってんだか。

俺が半ば呆れていると、

「ねえ盾、私達も出てみない?」

刀奈がそんな事を言ってきた。

「はぁ?」

俺は思わずそんな声を漏らす。

「何でだよ? 出ても俺が足を引っ張るだけだと思うが………」

ISの操縦は大分上手くなったとは思うが、生身では筋トレぐらいしかやってないので、動けるかと言われれば首を傾げるしかない。

「大丈夫! 盾は生身でも強くなってるから!」

「そうか?」

刀奈にそう言われ、自分の体を見下ろす。

毎日の訓練で、太っては無いと思うが、細マッチョという訳でもない。

入学した頃に比べれば筋肉はついてると思うが、4ヶ月かそこら鍛えたところで、劇的に変わるわけでもない。

「やっぱ気が進まないんだが………」

俺はそう言って断ろうとしたが、

「いいからいいから!」

刀奈は俺の腕を掴んで強引に引っ張っていく。

こうなった刀奈を、俺が止められるわけは無かった。



フロントに着いて、まず初めに思ったことは、

「なあ刀奈、これって男は出られないんじゃないか?」

その言葉を口にする。

先程から、申し込もうとした男達は、『お前空気読めよ』と言わんばかりの受付の笑みで退けられている。

「大丈夫! 私に任せなさい!」

刀奈は自信たっぷりにそう言うと、受付に向かっていく。

「すいませーん。 男女のペアで出たいんですけど!」

刀奈がそう進言する。

「えっ? 男女ですか?」

「はい!」

「え~っと…………」

受付は、ちょっと困った顔をするが、

「もしかして、男は出ちゃダメなルールですか?」

刀奈が間髪入れずそう尋ねる。

「いえ、ルールには記載されていませんが…………」

受付は、刀奈の後ろに控えている俺に視線を移し、今までの男達と同じように、『お前空気読めよ』と言わんばかりの笑みを向けようと…………

「じゃあ問題ありませんね!」

突然、俺と受付の視線の間に刀奈が割り込み、満面の笑みを向けている。

「えっ? ですから、あのっ…………」

「問題あ・り・ま・せ・ん・ね!?」

対暗部用暗部『更識家』の当主としての威圧感を満面の笑みに込めて放っている。

おいこら、裏の顔をこんな時に使うな!

「はっ、はいぃっ!!」

受付は声を上ずらせながら頷く。

…………刀奈の奴………押し切りやがった。

俺は半ば呆れつつため息を吐いた。



「さあ! 第1回ウォーターワールド水上ペア障害物レース、開催です!」

司会役のお姉さんが大きくジャンプし、大胆なビキニから豊満な胸が溢れそうになる。

が、俺は顔を逸らす。

刀奈に嫉妬されたくねーし。

しかし、観客の男達からは大きな歓声が上がる。

「さあ皆さん! 参加者の女性陣に今一度大きな拍手を!」

巻き起こる拍手の嵐。

「まあ、若干1名そうでないのも居ますが気にしないで行きましょう。 っていうか、空気読めよ、このKYヤローーーーッ!!」

「「「「「「「「「「KYヤローーーーーーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」

司会のお姉さんの掛け声に合わせて(主に男性陣から)ブーイングが飛ぶ。

「はぁ…………ま、ブーイングには慣れてるけどさ」

俺は溜息を吐きつつそう漏らす。

「あら? 誰かと思えば無剣さんではありませんか?」

「何? 男の出場者ってアンタだったの? 何でアンタがここにいるのよ?」

セリシアと鈴が、今になって初めて俺に気付いたらしく、声を掛けてくる。

「それは俺が聞きたい…………」

俺はそう呟く。

「はあ? フン、ま、いいわ。 悪いけど優勝は“私”達が頂くわ。 残念だけど、諦めることね」

「ええ、誠に残念ですが、“私”達も全力で優勝を狙ってますので」

どちらも“私”を強調している。

水面下では既に2人のバトルは始まっているようだ。

因みに、2人とも優勝賞品に目が眩んでいるのか、刀奈については何も言ってこない。

というより、気付いても居ないようだ。

司会のお姉さんがルール説明を始める。

簡単に言えば、何でもいいのでプール中央のワイヤーで空中に吊り下げられている浮島に辿り着き、フラッグを取ったペアが優勝との事だ。

ただ、コースはショートカットが出来ないように工夫されており、プールを泳いでゴールにたどり着くことは出来ない。

いや、プールを泳げても、スタート地点以外では、島に上がることが出来ないのだ。

更に、障害物はペアでなければ抜けられないという面倒なものだ。

ついでに、このレースは妨害OKで、怪我をさせなければ基本何やっても良いらしい。

っていうか、それって俺がかなり不利なのでは?

女尊男卑のこの時代、イベントとは言え、妨害どころか接触しただけでセクハラ等と訴えられかねない。

多分俺が男だからという理由だけで俺を集中して妨害してくる女も少なからず居るだろうし………

例え向こうから妨害してきても、それを防いだりやり返したら、ほぼ確実に俺が悪者だ。

そうなると、一度も接触せずに回避だけに専念しろと?

無理ゲーにも程があるわ!!

そう心の中で叫んでも、今更どうにもならない。

やがてルール説明が終わり、

「ルールは以上です。 何かご質問のある選手は居ますでしょうか!?」

司会のお姉さんはそう確認する。

普通なら、こんな簡単なルールなので誰も質問がないと思いきや、

「はーい! 一ついいですか?」

刀奈が手を上げた。

「はい、何でしょう?」

司会のお姉さんが返事をすると、

「フラッグを取れれば、どんな手を使ってもいいんですよね? 例えばコレを使ったり………」

そう言って見せるのは、手に持ったミステリアス・レイディの待機状態である扇子。

おいこら。

「はい。 基本的に怪我をさせなければ何をしてもOKです。 もちろんショートカットもOKですよ。 できるのならね」

あ、司会のお姉さん墓穴掘った。

刀奈の奴、言質取るのが目的だったな。

見れば、既に刀奈の足元からチョロチョロと水が流れ出ており、プールに流れ込んでいる。

「…………………」

最早呆れるほか無かった。

「さあ! いよいよレース開始です! 位置について、よーい………!」

パァンッ! と競技用のピストルが鳴り響き、一斉に駆け出した。

俺も一緒に駆け出すが、

「男のクセに、生意気なのよ!」

「男が女に敵うわけないでしょ!」

予想通り何人かの女は俺に集中して妨害行動を仕掛けてきた。

俺は、無駄だと思いつつも回避行動を取ろうとして、

「おろ?」

自分の予想以上に体がよく動いた。

最初の平手打ちをいきなりかまそうとしてきた女の腕を身を屈めて躱し、続いて足を引っ掛けようとした女の足を飛び越え、最早ルール無用と言わんばかりにハイキックを放つ女性の足を後ろに反ることで避け、最後の体当たりをしてきた女を身を捻る事で避け切った。

そして、最後に体当たりを仕掛けた女性が前の三人を巻き込み、勢い余って4人揃ってプールに落ちる。

「あらま、ビックリ」

俺は自分で自分の行動に驚く。

まさか、カスリもせずに全部よけられるとは思ってなかった。

「言ったでしょ? 盾は生身でも強くなってるって」

刀奈が微笑んでそう言う。

「あ、ああ………そうみたいだな」

未だに信じられず、呆けた声を漏らす俺。

それなりに目立つ行動をしてしまった俺だが、それ以上に目立つ2人(鈴とセシリア)がいたので、殆ど注目はされなかった模様。

この後の妨害は鈴とセシリアに集中していたので、俺達は問題なく障害物をクリアする。

と、そこで邪魔者の水着を奪い取るという方法で妨害を振りきった鈴とセシリアが全力で挽回してきたため、俺達は第3の島で抜かれてしまう。

「ハハン! お先に!」

「お先に失礼しますわ!」

そう言い残し、2人は身体能力を活かして、障害物そっちのけで島を次々とクリアする。

俺達が第3の島をクリアした時には、鈴とセシリアは既に最後の島、第5の島に到達していた。

「どうするんだ? 多分もう追いつけないぞ」

俺が刀奈にいうと、刀奈は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

「フフッ! 奥の手を使うときが来たようね」

刀奈は扇子を開く。

そこには『切札』の文字が。

っていうか、奥の手も何も、刀奈が初めっから全力を出せば、1人でクリア出来たんじゃないかと思わないでもない。

「それじゃ、行くわよ!」

刀奈は島から飛び降り、俺も続けて飛び降りた。

『おおっと、いきなり島から飛び降りたペアがいるぞ! 勝ち目がないと悟ってやけになったか!?』

司会のお姉さんがそういうが、

「忍法、水蜘蛛の術!」

刀奈がそう言って、“水面”に着地した。

「「「「「「「「『へっ?』」」」」」」」」」

観客たちの声が一斉に素っ頓狂な声を漏らす。

続いて俺も水面に着地。

ネタを明かせば、刀奈がスタート前にプールに流し込んでいたのは、ミステリアス・レイディのアクア・ナノマシン。

それを操って足場にしているだけだ。

観客の驚きを気にせずに最後の島に向かって水面を走っていく俺達。

そして、

「忍法、波乗りの術!!」

刀奈がノリノリで叫ぶ。

俺達の足元の水が隆起し、俺達を宙吊りの島へと押し上げる。

丁度その時、鈴がセシリアの顔面を足場に、格闘系マッチョ・ウーマンの2人を躱し、フラッグへ手を伸ばしていた。

「よしっ!」

鈴は、確実に勝利を確信していただろう。

ところが、

「残念無念また来週!」

目の前で波に乗ってきた刀奈に掠め取られた。

「へっ?」

目の前にあったフラッグが突如消えたことで、茫然自失となる鈴。

鈴にとっては、一夏と旅行し、結ばれるという夢が、ガラガラと崩れ去っているに違いない。

鈴は両膝と両手を床に付け、項垂れる体勢になる。

ま、例え旅行できたとしても、鈴の素直になれない性格と、一夏の超絶鈍感で、鈴の妄想通りにはならなかったとは思うが。

因みに、鈴に顔を踏まれたセシリアといえば、2人のマッチョ・ウーマンのタックルを受けて、一緒に数メートル下の水面へと落ち、高い水柱を築いていた。

その水柱が収まった頃、

「ふ、ふ、ふ…………」

凄まじく重い笑い声が響く。

次の瞬間、先ほどの倍ぐらいの水柱が立ち、

「今日という今日は許しませんわ! わ、わたくしの顔を! 足で! ――鈴さん!! それに、勝利するならばともかく、横取りされるなど―――!」

ブルー・ティアーズを展開したセシリアが水柱の中から現れた。

すると、項垂れていた鈴がユラリと立ち上がる。

「うっさいわね…………今アタシははらわた煮えくり返ってるのよ……………やろうってんのなら相手になるわ!! 甲龍!!」

鈴も感情を爆発させ、甲龍を纏う。

「な、なっ、なぁっ!? ふ、2人はまさか――IS学園の生徒なのでしょうか!? この大会でまさか2機のISを見られるとは思いませんでした! え、でも、あれ? ルール的にどうなるんでしょう………?」

別に競技中にIS使ったわけじゃないので良いのでは?

え?刀奈?

刀奈は事前に確認取ったから無問題だろ。

「ぜらぁぁぁぁっ!!」

「はあぁぁぁぁっ!!」

2つの刃がぶつかり合う。

「ティアーズ!」

すぐさまビットを射出するセシリア。

だが、

「甘いっての!」

鈴は、足のスラスターを巧みに使って、距離を離しては寄せ、近付いては下がるを繰り返す、所謂対狙撃制動でセシリアの狙いを絞らせない。

「くっ! 対狙撃制動とは……………相変わらずやりますわね!」

「衝撃砲はあんたのと違って早いのよ! ほらほらぁっ!」

逆さまの体勢から衝撃砲の3連射。

1発はセシリアに当たるがもう2発は外れ、プールに直撃…………するかに思われたが、プールの水が盛り上がり、衝撃砲を防ぐ。

刀奈が、また水を操って防いだようだ。

っていうか、よく弾が見えない衝撃砲をタイミング良く防げるもんだ。

刀奈の凄さをここでも実感した。

鈴が青龍刀で斬りかかり、セシリアはあえてライフルでその刃を受ける。

「動きが止まれば、こちらのテリトリーですわ!」

セシリアは、残り2つのビットを射出した。

「この距離なら衝撃砲の方が早い!」

鈴も負けじと衝撃砲を最大出力でチャージし、

「そこまでよ!!」

今まさに爆発しようかという所で、刀奈の声が響き、プールの水が再び盛り上がり、2人のISに絡みつく。

「な、何ですの!?」

「ちょ、何なのよこれ!?」

2人は突然の事に驚いているが、

「2人とも、ちょっとやりすぎだと思うのよね……………と、いうわけで」

刀奈はそう言いながら右手を顔の前に持ってくると、

「反省してね♪」

その言葉と共に、パチンと指を弾く。

その瞬間、

――ちゅどーーーーーーん!

2人同時に爆発に飲まれ、

「「きゅう………」」

――ぼっちゃーーーーん!

目を回した2人は仲良くプールへと落下した。






帰り道。

「♪~~~~~~~~~♪」

鼻歌を歌いながら上機嫌の刀奈が俺の隣で歩いている。

その手には、優勝賞品である沖縄旅行のペアチケット。

「フンフーン♪ 楽しみね、沖縄旅行♪」

機嫌良さげにそう言ってくる刀奈。

「確か、夏休みの最後の週だっけ?」

「うん、そう! ちゃんと予定開けとかなきゃダメだぞ!」

刀奈はウインクしつつそう言ってくるが、

「元々訓練の予定だったから、何も予定なんざ入ってないっての」

予定を入れれるわけがない。

「それもそうだね」

刀奈そう言うと、ふと何を思ったのか、

「初めての2人っきりの旅行だけど………これって婚前旅行って事になるんだよね?」

「ブフッ!」

そんなことを言い出し、俺は思わず吹き出す。

「ま、まあ、婚前旅行は、恋人同士で行く旅行の事だから、間違ってはいないな………」

なんか、婚前旅行と聞くと、なんというか、こう………むず痒い感じがするな。

「フフッ、楽しみだね、盾」

「ああ」

でも、ま、楽しみなことには違いない。

俺達は手を繋ぎつつ、夕日に照らされる道を歩いて行った。







あとがき

どうもです。

第十六話の完成。

テイマーズの方を見てない人は、あけましておめでとうございます。

かなり間が空きましたが次話の投稿です。

さて、今回は夏休みイベントの方を勧めておきました。

盾君の更識家訪問は2、3話後ぐらいで。

原作では鈴とセシリアが大暴れしたこのイベント。

刀奈こと楯無さんがいいトコかっさらって行きました。

代表候補生もISを完全に展開せずに即殺する楯無さん、チートです。

盾君も少し頑張りました。

相変わらずのブーイングの矛先になっとりますが………

2人のイチャラブな雰囲気は出せたでしょうか?

では、次も頑張ります。





[37503] 第十七話 夏祭り………相変わらず一夏は唐変木だ
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/03/30 18:01

第十七話 



俺は今、極限に緊張している。

今日の訓練が終わった後………俺は、人生で初の…………いや、二度の人生で初めての出来事に挑戦しようとしている。

心臓がバクバクと高鳴り、不安と緊張が胃をキリキリとさせる。

俺が挑戦しようとしている事…………

それは!

「…………刀奈………もしよかったら…………その………明日一緒に、これに行かないか?」

俺はそう言いながら、一枚のチラシを刀奈に見せる。

そう、俺が初めて挑戦しようとしていたのは、自分からのデートの誘い。

馬鹿らしいかもしれないが、刀奈に出会うまでデートすらしたことなかった俺にとっては、デートに誘うことだけで未知の冒険なんだよ!

因みに、チラシに書かれていたのは、篠ノ之神社の祭りの案内。

俺は、刀奈の反応に戦々恐々としていたが、

「えへっ♪ 初めてだねっ、盾からデートに誘ってくれるの」

満面の笑みの刀奈がそう言った。

その反応を見て、俺はホッと息を吐く。

「それで?」

俺がそう聞くと、

「勿論オッケーだよ!」

嬉しそうにそう頷く。

「じゃあ、明日の夜7時に神社の入口の前で待ち合わせな」

「うんっ♪」

俺の初のデートの誘いは、何とか成功した。








翌日、俺は篠ノ之神社の前で刀奈を待つ。

おっと、ここじゃ人が多いから、楯無って呼ばないとな。

俺がしばらく待っていると、

「お待たせ~!」

楯無の声が聞こえてきた。

俺がそっちに振り向くと、水色の着物に白い水玉模様が描かれている浴衣を着た楯無が駆け寄ってくるところだった。

楯無が俺の傍にくると、

「ごめん、準備に手間取って」

そう謝ってくる。

「別にいいよ。 それにしても………」

俺は浴衣姿の楯無をまじまじと見つめる。

「うん、浴衣も良く似合ってるな」

俺は率直な感想を述べた。

「あはっ、ありがと」

俺の言葉に楯無は満足したのか、笑みを浮かべる。

「それじゃ、行こうか」

俺は自分から楯無の手を取り、神社の敷地内へ入っていった。



神社の敷地内は、夏祭りというだけあって、物凄い人混みであった。

当然、道の両端には、出店がズラリと並んでいる。

「凄い人だな」

「でも、こうすれば逸れないわよ」

楯無がそう言いつつ俺の腕に自分の腕を絡ませる。

俺は少し恥ずかしかったが、

「ああ、そうだな」

そう頷いた。

いくつか出店を回りながら、神楽舞が行われるという場所へ向かう。

まあ、神楽舞を舞うのが箒だということは知ってるんだが………

その途中、

「あっ! ごめん盾。 ちょっと買いたいものがあったからちょっと待ってて!」

楯無が突然そんな事を言い出した。

「ん? 何か買い忘れたのか? 付き合うぞ?」

「大丈夫! すぐ戻ってくるから! ここで待ってて!」

楯無はそう言うと、人ごみの中へ消えていく。

俺は、通行人の邪魔にならないように端に寄ろうとしたとき、

「あれ? 盾じゃないか?」

聞き覚えのある声に振り向く。

そこには、

「一夏」

私服姿の一夏と、浴衣姿の箒と赤毛の少女がいた。

俺は一瞬赤毛の少女が誰かと思ったが、直ぐに五反田 蘭だと予想する。

「お前も来てたんだな」

一夏は気軽に声を掛けてくる。

「まあな。 それにしても………」

俺は一夏の両端にいる箒と蘭に目を向ける。

「両手に華だな、一夏」

俺がそう言うと、

「ななな!? 何を言う!?」

「えええっ!? そ、そんな………!」

箒と蘭が顔を真っ赤にして慌てる。

うん、普通ならこの反応で二人が一夏に好意を寄せていることなど直ぐに分かると思うが………

「はぁ? 何言ってるんだお前?」

やはり一夏は分かっていなかった。

「「むぅ………!」」

さっきとは打って変わって不機嫌になる箒と蘭。

そんな2人の様子に一夏は全く気付かずに、

「そうそう、盾は初めて合うよな。 俺の友達の妹の、五反田 蘭だ。 蘭、知ってるかもしれないけど、俺と同じISを動かせる男の無剣 盾だ」

いや、ブリュンヒルデの弟のお前ならともかく、一般人は俺の事なんか知らんと思うが。

「は、初めまして。 五反田 蘭です」

蘭は、いきなり紹介されたことに驚きながら自分でも名乗り、頭を下げる。

「ああ、無剣 盾だ。 よろしく」

俺もそう返す。

箒も蘭も、表面上は愛想笑いをしているが、邪魔者は早くどっかに行けと言わんばかりのオーラがありありと見て取れる。

そこに、

「そうだ。 よかったら盾も一緒に回らないか?」

一夏唐変木が全く空気を読まない発言をしてきた。

箒と蘭は明らかに動揺している。

これ以上お邪魔虫が増えるのは、2人にとっては避けたいところだろう。

俺は、2人に心配するなと視線で伝え、

「悪いな。 実は連れがいるんだ。 気持ちだけ受け取っとくよ」

俺はそう言って断った。

箒と蘭はホッと息を吐く。

しかし、空気を読まない一夏唐変木は、それだけでは諦めなかった。

「じゃあ、その連れの人も一緒にどうだ?」

こいつは、どこまで鈍感なんだ!?

いっその事、そう叫びたかった。

「い、一夏! 断る者を無理に誘うのは良くないぞ!」

「そ、そうですよ! そのお連れさんにもご迷惑ですし!」

箒と蘭は、必死になって一夏を止めようとする。

「何でだよ? 皆で回ったほうが楽しいだろ?」

乙女心をどこまでも理解しない男、唐変木・オブ・唐変木ズ織斑 一夏。

俺はため息を吐き、最終手段を発動する。

「悪いけど、俺はデート中なんだ。 お前は馬に蹴られたいのか?」

人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄に落ちろ、ってね。

ぶっちゃけ一夏じゃなくて、俺が蹴られそうで怖いんだがな。

流石の一夏も俺の言葉には過敏に反応した。

「な、何っ!? そうなのか!?」

「ああ。 だから邪魔しないでくれ」

「そ、そうなのか!? 悪かった!」

一夏は手を合わせて謝ってくる。

「そう思うなら早く行ってくれ。 そろそろ戻ってくる頃だ」

「そ、そうか! 無理に誘おうとして悪かったな! それじゃ!」

一夏は慌てて箒と蘭の手を取ると、多少強引に引っ張っていった。

俺は箒と蘭がすれ違う時、

「頑張れよ、お二人さん」

そう小さく呟いた。

「感謝する」

「すみません」

2人のお礼の言葉が聞こえ、一夏と共に人混みへ消えていった。

ま、箒は俺のデート中という言葉を、誘いを断るための方便と思っていることだろう。

一夏は完璧に信じてたようだが………

まあ、本当のことだしな。

俺がそう思っていると、

「はい、あ~ん」

そんな言葉と共に、俺の鼻の前にいい匂いのするものが突き出された。

視線を移動させると、

「楯無」

そこには、爪楊枝にたこ焼きを突き刺して、俺に差し出す楯無の姿。

反対の手には、たこ焼きが入ったパックを持っている。

「ほら、あ~ん」

楯無は、再び促してくる。

俺はやれやれと思いつつ、

「あ~むっ!」

差し出されたたこ焼きを、一口に頬張った。

人の目があるところでは、ちと恥ずかしい。

もぐもぐとたこ焼きを味わい、飲み込む。

「どう?」

楯無が聞いてくる。

「ん、うまい」

「ふふっ、じゃあ、次は私に食べさせて♪」

俺は楯無から爪楊枝を受け取ると、たこ焼きを一つ突き刺し、楯無に差し出す。

「ほい」

「あ~むっ!」

たこ焼きが無くなるまでお互いに食べさせあった俺達は、そろそろ神楽舞の所へ行こうかと考えていた時、

「蘭~~~~~~~~~っ!!!! どこに行った!!!??? 蘭~~~~~~~~~~~~~っ!!!???」

叫びながら爆走する赤毛の男。

「お兄ちゃんが探しに来てやったぞ~~~~~~~~っ!!!」

俺が、あれが五反田 弾かと思っていると、弾が俺達の前に現れ、

「すみません!! ウチの妹見ませんでしたか!? このぐらいの背丈でぇ! こんな髪型でぇ! 浴衣をきててぇ! ………………」

ジェスチャーを交えながら、泣きながら説明する弾が、段々と哀れに思えてくる。

俺は最初、一夏達の邪魔をしないように黙っておこうかと思ったのだが、今の弾を見ていると、流石に可哀想に思えてきた。

「あの………多分その子だったら、さっき一夏と一緒にあっちの方に…………」

俺がそう言った瞬間、

「ラ~~~~~~~~~ン~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!!!!!!!」

聞くが早いか一直線に指さした方へ爆走していった。

「今の人、知り合い?」

楯無が訪ねてくる。

「いや、さっき楯無がいない間に一夏達と会ったんだよ。 多分、そんときにいた五反田さんの兄貴だろ」

多分というか、そうなんだが。

「とにかく行こうぜ。 いい席取れなくなっちまう」

俺は弾をほっといて先を急いだ。





神楽舞の時間になり、壇上で巫女が舞い踊る。

巫女って言っても箒なんだがな。

だが、舞い踊る箒は何時もの激情的な雰囲気は全くなく、巫女というに相応しい神秘的な雰囲気を纏っている。

「綺麗ね、箒ちゃん」

「ん、まあ、綺麗というのは否定できないな」

楯無の言葉に俺はそう答える。

「あら? 彼女の前で他の女に目移りするの?」

楯無は意地の悪い笑みを浮かべる。

俺は予想通りの言葉にため息を吐く。

「別に。 ただ、いつもああいう雰囲気なら、簡単に一夏も墜とせるんじゃないかとは思うがな」

「あはは。 それには同感」

舞が終わったとき、客席からは大きな拍手が沸き起こった。




祭りも終わりに近付き、俺と楯無………いや、刀奈は、人気のない穴場を見つけそこで、花火を眺めていた。

すると、刀奈が俺の腕に手を回し、頭を俺の肩に預けてくる。

「い、いきなりどうした?」

「ん、別に…………何となくこうしたかっただけ」

「………そうか」

俺は、刀奈のしたいようにさせておく。

刀奈は、俺の肩に頭をあずけたまま、目を瞑って穏やかな笑みを浮かべている、

暗がりの中、花火の光で色んな色で浮かび上がる刀奈の顔を俺は純粋に神秘的で綺麗だと思った。

先程神楽舞を舞っていた箒よりも………

そう思ったら、自然と口が開いた。

「刀奈」

「なぁに?」

俺の呼びかけに、刀奈は目を瞑ったまま答える。

「………好きだ」

「私も好きよ………」

俺の不意に出た言葉にも、刀奈は迷いなく答えてくれた。

俺は刀奈が手を回していた腕をそっと解くと、刀奈の肩に手を回し、抱き寄せた。

刀奈はされるがままに俺に抱き寄せられ、俺の胸に体を預ける。

俺も顔を刀奈の頭に寄せ、寄り添う。

静かな………それでいて幸せな時間が、ゆっくりと過ぎていった。








あとがき


第十七話の完成。

さて、夏祭りをお送りいたしました。

本当は、シャルとラウラの方にも絡ませようかと思ったのですが、それだとどうしても楯無と盾の関係がバレてしまうわけで、未練ながらも断念。

2学期になるまで2人の関係は秘密にしときたいのです。

さて、次回はいよいよ盾君が更識家に。

盾君の運命やいかに!?

では、次も頑張ります。






[37503] 第十八話 彼女の家に行くのは初めてだ………不安です
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/04/13 20:07


第十八話




――ミーーーンミンミンミンミーーーーーン……

蝉が鳴く、ある晴れた夏の日。

ジリジリと照り返す太陽の光で、汗が俺の頬を流れる。

「……………………………」

しかし、その汗の理由は、決して暑さだけではなかった。

「……………………………」

俺は今、とある家の前にいる。

俺の前にある家とは、所謂武家屋敷と言われる立派な家だ。

ご丁寧に和風の塀で囲まれており、立派な木造の門が何者も拒むような威圧感を醸し出している………かのように、今の俺には思えた。

「ここ…………だよな?」

俺はメモされた住所と現在位置を何度も確認する。

いや、確認せずとも間違っていないことは、その門の横に掛けられている表札を見れば一目瞭然だ。

その表札に書かれていた文字は、

『更識』

木の板に達筆な筆書きで書かれたその文字が、やけに重々しい。

恐らく、アニメでこのシーンが放映されたとしたら、ドン! ドドン! ドーン!、という効果音と共に紹介されていることだろう。

とりあえず、現実逃避はこのぐらいにしておこう。

まあ、つまりここは刀奈の実家だ。

普通なら、恋人の家に初めて行く時は、緊張こそすれ、不安になる奴など少数派だろう。

しかし、俺にとっては別の意味で不安が過ぎる。

更識家は、日本政府お抱えの対暗部用暗部。

つまり、裏の世界に深く関わっているということだ。

で、そんな家に住む人が、現当主の恋人とはいえ、ISに乗れる以外は一般人以下一直線の俺を歓迎してくれるのだろうか?

別の意味で歓迎されそうな気もするが………

何故このような状況になったのかといえば、一日前に遡る………




前のウォーターランドのイベントで手に入れた沖縄旅行まで数日と迫ったある日のこと。

何時もの訓練が終わったとき、

――パンッ!

「ごめん盾! いきなりだけど、明日ウチに来てくれない?」

いきなり俺の目の前で手を合わせつつそう言ってくる刀奈。

「……………とりあえず、そうなった経緯を説明してくれ」

俺は一瞬呆気にとられるも、気を取り直して話を聞くことにした。

「うん………え~っとね、もうすぐ沖縄旅行だよね?」

「ああ、そうだな」

刀奈の確認するような問いかけに頷く。

「でね、私も旅行の準備をしてて、家族には友達と旅行に行くって言ってあったの」

その言葉を聞いて、嫌な予感がした。

刀奈は『家族“には”』と言った。

つまり、一緒に旅行に行く相手が男………さらに言えば、恋人だとは言っていないと予想がつく。

「…………それで?」

俺は先を促す。

「で…………ひょんなことから、旅行の相手が男の子ってバレちゃって…………」

予想通りな言葉に、俺は額に手を当てる。

「俺を連れてこいという話になったと………?」

「うん…………」

俺の言葉に刀奈は頷く。

「……………………明日は生きて帰れるかな?」

俺はポツリと呟く。

「だっ、大丈夫だよ! ……………………多分」

刀奈の最後の言葉に果てしなく不安になる俺だった。






俺は覚悟を決めて、門に向かって一歩を踏み出す。

すると、ギギィと軋む音を立てながら、門が開いていく。

おいおい、地獄の入口かよ。

ふと見ると、門の向こう側には、割烹着を着てメガネを掛けた女性。

歳は、刀奈と同じか少し上ぐらいだろう。

その女性は、重々しく頭を下げる。

「ようこそいらっしゃいました。 無剣さんですね? 私は、楯無お嬢様の侍女を務めさてていただいている、布仏 虚と申します。 以後、お見知りおきを」

誰かと思えばのほほんさんの姉である、虚さんだった。

会うのは初めてだな。

「あ、ご丁寧にどうも。 無剣 盾です」

俺も頭を下げる。

すると、

「こちらへどうぞ。 前当主がお待ちになっています」

後に付いてくるように俺を促す。

しかも、待っているのは前当主ときた。

マジで生きて帰れるかな?



虚さんについて行くと、家の外れにある離れのような小屋に案内される。

いや、小屋というよりも道場のような外観だ。

扉を開けると、板張りの床に、壁には竹刀や木刀、その他もろもろの武器が掛けてある。

マジで道場だった。

そして、床の間の前にはこちらに背を向けて正座する、道着を着た男性がいた。

虚さんが俺を伴ってその男性に近付いていくと、

「先代様、無剣さんを連れてまいりました」

頭を下げながらそう言う虚さん。

「ご苦労だった。 君は一旦下がりたまえ」

「畏まりました」

その男性に言われ、虚さんが退出した。

俺はとりあえず、その場で正座する。

すると、その男性はこちらに向き直り、

「突然呼び出してすまなかったな。 私は更識 刃(やいば)。 現『楯無』の父であり、先代の『楯無』だ」

どちらかといえば、柔らかい表情で自己紹介をした。

それで、幾分か緊張がほぐれる。

「あ、はい。 初めまして。 無剣 盾といいます」

俺がそう返すと、突然目つきを鋭くして、

「うむ、話は楯無からそれなりに聞いている。 それで率直に聞こう。 楯無とはどういう関係だね?」

そう聞かれ、一瞬誤魔化すかとも思ったが、やはりこれだけは自信を持って言いたかったため、決意して口を開く。

「…………俺と楯無………いえ、刀奈は恋人同士です」

まっすぐ見返してそう言った。

「ほう…………!」

目付きが更に鋭くなり、背筋に冷や汗が流れる。

だけど、これだけは譲れない。

「その言葉に、偽りは無いか?」

「はい」

刃さんの言葉に、俺は迷いなく頷く。

「それが例え、偽りの恋人だとしてもか?」

その言葉に、俺はピクリとする。

「その言葉は、刀奈は目的があって俺に近づいたって意味ですか?」

俺は、なるべく動揺を隠しながらそう返す。

「その通りだ。 君は、今自分がどれだけ特殊な立場にいるか、理解しているか?」

「そうですね。 現在た世界でった2人しかいないの男性IS操縦者の1人であり、各国から色んな意味で喉から手が出るほど欲しいような存在で、尚且つ女尊男卑思考の人達の目障りな存在でもあり、一夏と違って何も後ろ盾がなくて手の出しやすい存在…………まあ、かなりヤバげに狙われやすい立場っていうのは、頭では分かってるつもりです」

「ほう………その年の割には、少しは自分の立場が理解できているようだな」

刃さんが感心したように頷く。

いや、これでも精神年齢45歳ですから。

一夏みたいな能天気な考えは出来ません。

「刃さんが言いたいのは、刀奈が俺に近付いたのは、護衛の為だって言いたいんですよね?」

俺は確認するように問う。

「その通りだ」

刃さんは迷いなく頷いた。

「織斑 一夏君は、初代ブリュンヒルデの弟であり、あの篠ノ之 束が興味を持つ人物。 彼に手を出せば、どうなるかは分かりきったこと」

「対して俺は、何も後ろ盾のない一般庶民。 実験モルモットだろうと暗殺だろうと好き放題、って訳ですね? その護衛のために。 日本政府が更識家を………ひいては刀奈を護衛につかせた」

「相違ない」

俺の言葉を肯定する刃さん。

それを俺は、冷静な目で見返す。

「余り動揺してはいないな…………君にとって、刀奈はその程度の存在なのか?」

「まあ、最初はそうじゃないかって思ってましたからね。 俺を好きになる女性なんかいないと本気で思い込んでましたから」

前世からの性格も相まって、IS学園に入るまでは、前世以上に家族以外の女性と関わることは少なかった。

だけど…………

「でも、今は違います。 あなたに何を言われようと、俺は刀奈を信じます。 こんな俺を「好き」だと言ってくれた刀奈を……………」

あんな事をしてまで、俺を好きだと言ってくれた刀奈。

俺は彼女を信じる。

「だが、それすらも偽りだとしたら?」

「その時は仕方ありません。 潔く身を引きますよ。 好きでもない男に付きまとわれても、刀奈も迷惑でしょうから」

俺の言葉に、刃さんは目付きを鋭くする。

「先程も言ったが、君の刀奈への想いはその程度なのか?」

「何を基準にその程度なのかはわかりませんが、俺は、俺の知る限りの最大の感情を持って刀奈に惚れています。 もしあなたの言うことが本当で、刀奈の俺に対する想いが偽りなのだとしたら、俺はこの先、2度と女性を信じることは無いでしょう」

「刀奈を振り向かせよう………とは思わんのだな」

「元々自分は、自分に自信を持てないタイプの人間ですから。 それにIS学園には、俺なんかより遥かにいい男がいますしね」

俺は自傷気味に笑ってそう言う。

「織斑 一夏かね?」

「ええ。 クラスメイト………いえ、IS学園のほぼ全員が、俺か一夏かどちらがいいかと聞かれたら、一夏と答えるでしょう。 本当に刀奈の想いが偽りなのだとしたら………ですけどね」

「君は………」

再び刃さんが口を開きかけた所で、

「あなた…………いい加減にしなさい!!」

俺の横を水色の疾風が駆け抜けた。







【Side 楯無】




今日は、盾がウチに来てる。

それで、今お父さんと話をしてるみたいなんだけど………

う~~~~、心配だなぁ。

お父さんは私や簪ちゃんの事、厳しいながらも、かなり大事にしてるし………

ホントに殺されないよね、盾。

で、結局心配になった私は、2人が話をしてる道場の前で聞き耳を立てている。

すると、

「それが例え、偽りの恋人だとしてもか?」

え………?

お父さん………?

何を言ってるの………?

お父さんの言葉に、思わず頭が真っ白になってしまう。

「その言葉は、刀奈は目的があって俺に近づいたって意味ですか?」

「その通りだ。 君は、今自分がどれだけ特殊な立場にいるか、理解しているか?」

「そうですね。 現在た世界でった2人しかいないの男性IS操縦者の1人であり、各国から色んな意味で喉から手が出るほど欲しいような存在で、尚且つ女尊男卑思考の人達の目障りな存在でもあり、一夏と違って何も後ろ盾がなくて手の出しやすい存在…………まあ、かなりヤバげに狙われやすい立場っていうのは、頭では分かってるつもりです」

「ほう………その年の割には、少しは自分の立場が理解できているようだな」

私の動揺を他所に、2人の話は続いていく。

「刃さんが言いたいのは、刀奈が俺に近付いたのは、護衛の為だって言いたいんですよね?」

違う………

違うよ、盾!
私は………!

「その通りだ」

やめて…………

やめてよお父さん!

そんな事言ったら、盾は………自分に自信を持てない盾は………!

「織斑 一夏君は、初代ブリュンヒルデの弟であり、あの篠ノ之 束が興味を持つ人物。 彼に手を出せば、どうなるかは分かりきったこと」

「対して俺は、何も後ろ盾のない一般庶民。 実験モルモットだろうと暗殺だろうと好き放題、って訳ですね? その護衛のために。 日本政府が更識家を………ひいては刀奈を護衛につかせた」

「相違ない」

やめてってば!

「余り動揺してはいないな…………君にとって、刀奈はその程度の存在なのか?」

お父さんの言葉に、私はビクリと体を震わせる。

「まあ、最初はそうじゃないかって思ってましたからね。 俺を好きになる女性なんかいないと本気で思い込んでましたから」

あ…………

その言葉で、私達の今までの思い出がガラガラと崩れていく気がした。

だけど、

「でも、今は違います。 あなたに何を言われようと、俺は刀奈を信じます。 こんな俺を「好き」だと言ってくれた刀奈を……………」

盾のその言葉に、私はハッとなる。

あれだけ言われても、盾は私を信じてくれている。

私の心が嬉しさで溢れる。

ああ、やっぱり私は、彼の事が本気で好きなんだ。

自分の気持ちを再確認した私。

「だが、それすらも偽りだとしたら?」

お父さん!

いい加減に………!

「その時は仕方ありません。 潔く身を引きますよ。 好きでもない男に付きまとわれても、刀奈も迷惑でしょうから」

「先程も言ったが、君の刀奈への想いはその程度なのか?」

「何を基準にその程度なのかはわかりませんが、俺は、俺の知る限りの最大の感情を持って刀奈に惚れています。 もしあなたの言うことが本当で、刀奈の俺に対する想いが偽りなのだとしたら、俺はこの先、2度と女性を信じることは無いでしょう」

「刀奈を振り向かせよう………とは思わんのだな」

「元々自分は、自分に自信を持てないタイプの人間ですから。 それにIS学園には、俺なんかより遥かにいい男がいますしね」

もう我慢出来ない。

いくらお父さんでも、彼の弱さに付け込もうとするのは、これ以上は許さない!

私は中に踏み込もうと………

「どきなさい、刀奈」

背後から静かで、尚且つ凄まじいプレッシャーを感じた私は、反射的にその場を退いてしまう。

その瞬間、道場の扉が開け放たれ、私のよく知る人物が駆け抜けていった。




【Side Out】




「あなた…………いい加減にしなさい!!」

その言葉と共に、いきなり刃さんが吹っ飛んだ。

突然のことに、俺は呆気にとられる。

そこには、なぎなたを振り抜いた姿勢で静止している刀奈と同じ水色の髪をもった女性がいた。

ただ、刀奈とは違い、その髪は腰ほどまであるロングヘアーだ。

「あなた! さっきから聞いていれば、無剣君の不安を煽るようなことばかり! 昨日の夜に決めたはずでしょう!? よほど酷い人物でない限り、刀奈の意思を尊重すると!!」

その女性が刃さんに怒鳴る。

「い、いや………しかしだな………」

刃さんが何か言おうとするが、

「黙らっしゃい! 少なくとも、彼が刀奈を本気で想っている事は、最初のやり取りで分かったはずです! それをあなたはある事無い事吹き込んで不安を煽るばかり………」

「いや………私は刀奈の事を考えて…………」

「刀奈を泣かせることがですか!?」

「そ、それは……………」

言葉に詰まった刃さんに向かって、その女性はなぎなたを振り上げる。

「ま、待て! 落ち着け鞘華!!」

動揺しつつ弁明しようとする刃さんに、

「待ちません!」

女性は容赦なくなぎなたを振り下ろした。

「天誅!!」

振り下ろされたなぎなたが、刃さんの脳天に直撃し、そのまま刃さんの頭が床板に一直線。

まるで漫画の一シーンの様に、床板を突き破り頭が埋もれる。

…………………生きてるのか?

俺が呆気に取られていると、その女性はハッとして、こちらに向き直り、

「オホホホ……………恥ずかしい所を見せてしまいましたね。 私は更識 鞘華(さやか)。 刀奈の母です」

鞘華と名乗った女性は、袖口から取り出した扇子で口元を隠しながら、苦笑を漏らす。

その仕草が、刀奈とダブって見えた。

「は、はあ…………」

俺は何とかそう返すと、鞘華さんは刃さんの襟首を掴んで床から引っこ抜く。

「この人には、後で私からジックリと話をしておくので、心配しないでください。 私は、あなたと刀奈の仲は応援するつもりなので、遠慮しないでね」

鞘華さんはそう微笑みながら言うと、刃さんを容赦なく引き摺って行く。

顔と行動が合っていないことが更に怖い。

鞘華さん達が道場から出て行き、俺がどうするかと思っていたとき、道場の入口の横から、よく知る人物が顔を覗かせた。

「刀奈…………」

俺が立ち上がりながら呟くと、刀奈は少し気不味そうに歩み寄ってくる。

「えっと……………ごめんね」

いきなり刀奈が謝ってくる。

「何がだ?」

「その………お父さんの事…………」

「ああ………その事」

「あ、あの……お父さんがあんなこと言った後で説得力無いかもしれないけど、わ、私は本当に、じゅ、盾の事好きだから!」

刀奈は顔を赤くし、瞳を潤ませてそう言ってくる。

そんな刀奈に、俺は笑みを浮かべ、

「お前がそう言ってくれるなら、俺はお前を信じるさ」

俺は自然と刀奈を抱き寄せる。

多分顔は真っ赤だろう。

「うん…………盾、ありがとう」

刀奈も頷いて俺の胸に顔を埋める。

しばらくそうしていると、

「あら~、お邪魔だったかしら~?」

第三者の声がした。

俺と刀奈は同時にそちらへ向くと、道場の入口から顔を覗かせる鞘華さんの姿があった。

「「あ…………」」

俺と刀奈は慌てて離れる。

「あらあら、もう終わり?」

「お、お母さん!」

刀奈は真っ赤になって鞘華さんに抗議する。

「フフフ、刀奈。 あなたは本当にいい人を見つけたようね?」

そう微笑みかける鞘華さん。

「え、あ…………うん………」

途端にしおらしくなる刀奈。

どうやら刀奈も鞘華さんには頭が上がらないらしい。

「無剣君。 これからも刀奈の事、宜しくね?」

「あ、は、はい!」

俺にも微笑み掛けてくる鞘華さん。

これは、認められたってことでいいのか?

「あ、そうそう。 お昼の用意が出来てるから早く来てね。 勿論盾君も」

「は、はい。 ご馳走になります」

なんか呼び方がいきなり盾君に変わったな。

そのままお昼をご馳走になることになった。





現在、更識家の食卓では微妙な空気が流れている。

俺の隣でニコニコしながら食事をする刀奈。

俺達を微笑ましそうに見る鞘華さん。

俺を射殺さんばかりに厳しい視線を向ける刃さん。

その視線にビクつきながら食事する俺。

何ともカオスな空気だった。

因みに、布仏の家の人達は別室で食事らしい。

簪は………多分、自分の専用機を組み立てるために、IS学園に篭もりっきりなんだろう。

まあ、正式に紹介されていないため、突っ込むわけにはいかんのだが。

そんな時、

「あなた………まだ、盾君の事は認められませんか?」

鞘華さんが刃さんに話しかける。

「むぅ…………」

刃さんは何やら唸っている。

すると、

「正直、刀奈が決めた相手なら、認めてもいいとは思っている」

おろ?

意外な言葉が出てきた。

刀奈は、表情をパァっと明るくしてるし。

「だが、更識家に入るということは、裏の世界に足を踏み入れるということでもある」

何か既に婿入りの話になっとる。

まあ、更識家の当主がウチの嫁に来るわけにはいかんからな。

「そのことなら覚悟しています。 いえ、どちらにせよ、ISを動かした時点で、裏の世界と関わるのはほぼ間違いないでしょう」

俺はそう言う。

「そうね。 盾君の身を守るという意味でも、ウチに来て貰った方が安心よ」

「ふむ………」

「それに、盾君はISが使えるのよ。 そんじょそこらの男達よりかは、更識の家に相応しいと思うわ」

「まあ、正確にはISを使えるというより、この『空』だけしか使えないんですけどね。 まあ、『空』は俺以外には使われたくないようですけど」

俺は右手の腕輪を見ながら言う。

「それなら、卒業後はそのISをあなたの専用機とすれば問題ないわ。 更識の伝手を駆使すれば、そのぐらいは可能よ。 あなたしか使えないなら尚更ね」

鞘華さんはそう言う。

それから刃さん方へ向き直り、

「どうかしら? これでも認められない?」

そう尋ねる。

刃さんは目を瞑り、しばらく考えると、

「いいだろう。 2人の仲を認めよう!」

そう宣言した。

「やったぁっ!!」

刀奈は大はしゃぎで俺に抱きついてきた。

「両親公認だよ、公認! これで堂々とお付き合いできるね!」

「ああ………そうだな」

俺も恥ずかしながらも笑みを浮かべる。

「………ただし!」

刃さんが声を上げる。

「刀奈を泣かせるのは許さんからな!」

鋭い視線で俺を睨みつける。

俺は、まっすぐ見返して、

「肝に銘じます」

そう言い返した。

「………分かっているのならいい」

刃さんはそう言って、食事の続きをするのだった。






やがて、俺は家に帰ることになり、門の前にいた。

俺は門から一歩出ると、

「…………たはーーーーっ!! 緊張した~~~~っ!!」

息を大きく吐き出して脱力する。

「クスクス、ずっと気を張り詰めてたもんね」

刀奈も笑う。

「でも、刃さんや鞘華さんに認めてもらえたっていうのは、大きな収穫かな」

「そうだね。 お母さんは大丈夫と思ってたけど、お父さんが認めるとは思わなかったなぁ」

刀奈はそう言う。

「あの人、親バカっぽかったもんな」

「フフフッ!」

俺の言葉に刀奈は笑う。

「んじゃ、俺はそろそろ帰るわ」

「うん。 また明日ね」

「ああ、またな」

俺は刀奈と別れて歩き出す。

さて、夏休みも残り1週間。

楽しみますかね。







あとがき

第十八話の完成。

盾君の更識家訪問の回でした。

楯無の両親の名は、刃と鞘華としました。

この2つは刀奈の名前から連想しました。

さて、なんやかんやで認められた盾君。

次は沖縄旅行編になるのかな?

次も頑張ります。






[37503] 第十九話 沖縄旅行 1~2日目
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/05/26 00:03


第十九話 





俺は窓を見る。

その窓から見えるのは景色は真っ白。

やがて、真っ白な景色が薄れていき、次の瞬間に視界が開ける。

俺の目に飛び込んできたのは、青い空!

青い海!

そして、その海のあちこちに点々とする島々!

とまあ、こんなふうに表現してみたけど、簡単に言えば、俺は今飛行機に乗っている。

正確には、俺“達”は、だけどな。

当然俺の隣には刀奈がいる。

「あは! やっと着くね♪」

機嫌良さげな声で、俺の前にのしかかる様な体勢で窓の外を眺める刀奈。

俺達は、ウォーターワールドのイベントで優勝した景品の沖縄旅行へ来ている。

俺にとって夏休み最後の週での、夏休み最大のイベントだ。

刀奈は婚前旅行と言い張っている。

まあ、その通りだし悪い気はしない。

むしろ嬉しかったりする。

とまあ、飛行機で2時間ほどして、俺達は沖縄の空港に到着した。

ちゃんとホテルの場所も事前に調べておいたお陰で迷うことはなかった。

ホテルの部屋は当然ながら2人部屋。

ベランダからは、沖縄の海が一望出来る。

「う~ん! いい景色!」

刀奈はベランダの窓を開け放ち、大きく伸びをしながらそう述べる。

流石沖縄と言うべきか、太陽の日差しが強く、青い海がキラキラと輝いている。

「じゃあ、早速泳ぎに行こっ!」

刀奈は待ちきれないと言わんばかりに俺を促した。





俺は水着に着替えて、目の前のビーチを眺めた。

ありきたりだがこう言おう。

青い海!

白い砂浜!

そして、その砂浜を埋め尽くす人! 人! 人!

流石にシーズンだけあって人の数が凄まじい。

『ねえ、お兄ちゃん。 お姉ちゃん遅くない?』

空が俺に話しかけてくる。

「確かに少し遅いかな…………?」

俺は、待ち合わせ場所で刀奈を待っているが、少し遅いなと感じる。

「空、ミステリアス・レイディの反応はどこにある?」

『んと、ちょと待ってね………………………あれ? お兄ちゃんから見て2時の方向。 距離は大体30mぐらいだけど…………さっきから動いてないよ』

空が不思議そうに言う。

俺が空に言われた方に向くと、

「ん?」

数人の男に囲まれた刀奈を見つけた。

あ~、所謂ナンパってやつね。

確かに刀奈ほどの美人ならナンパされてもしょうがないか。

俺にとっては面白くないがな!

俺は刀奈の方へ歩き出した。






【Side 楯無】




私は水着に着替えて盾との待ち合わせの場所へ向かってたんだけど………

「ねえねえ彼女~」

いきなり声を掛けられた。

「え? 私?」

そちらを見ると、3人の男達。

顔は俗にうイケメンって奴かな?

私は興味無いけど。

「君、今一人?」

「よかったら、俺達と遊ばない?」

男達はそう言ってくる。

これは紛れもなくナンパって奴ね。

「悪いけど、彼氏が待ってるの。 他を当たってくれる?」

私はそう言って断ろうとする。

けど、

「彼氏なんかほっといてさぁ~、俺達と遊ぼうよ」

「そうそう、俺達と遊んだほうがずっと面白いって」

男達は懲りずにそう言ってくる。

だけど、盾の事を何も知らずに馬鹿にするような物言いにムカっときた。

「私、あなた達なんかに興味無いの! どっか行ってくれる!?」

ついつい声を荒らげてそう言ってしまった。

私の言葉に頭に来たのか、男達の表情が険しくなる。

まずったなぁ。

穏便に済ませるつもりだったのに。

「この女! 優しくしてりゃつけあがりやがって!」

今の世は女尊男卑の世の中なので、普通の男が女に手を出せば唯では済まない。

けど、目の前にいるようなイケメンと言われる一部の男達なら話は別だ。

容姿が優れている男は、女達から優遇される傾向にある。

ある意味、女尊男卑の世の中になる以前よりも、容姿の優れた男の位は高いと言える。

男の手が私の腕を掴もうと伸びてくる。

私は、余り騒ぎは起こしたくなかったんだけどなあと思いながら、それに対処しようとした時、横から伸びてきた手に、男の手首が掴まれた。

「俺の彼女に、何か用ですか?」





【Side Out】




「俺の彼女に、何か用ですか?」

刀奈を掴もうとした男の腕を、咄嗟に掴んでそう言った。

なんか、他の男が刀奈に触ると考えただけでムカついて、体が勝手に動いた行動だった。

「なんだお前?」

男の1人が俺に睨みをきかせながらそう言ってくる。

以前の俺ならこれだけでもビビってたと思うが、刀奈の前でカッコ悪いところは見せられない。

「今言っただろ? 俺の彼女だってな!」

そう言い張る俺。

そう言った瞬間、

「「「ぎゃはははははははっ!!」」」

男達は一斉に笑い出す。

「おいおい、冗談も程々にしろよ!」

「そうそう。 何でお前みたいなパッとしない奴が、こんなカワイコちゃんの彼氏なんだよ!」

まあ、そう言いたい気持ちはわからんでもない。

「嘘じゃないわよ」

俺の後ろで刀奈が言う。

「彼は、私の彼氏よ」

真顔でそう言う刀奈。

「彼女~、こんなパッとしないやつより、俺達といた方が、絶対に楽しいって!」

男の1人が刀奈にそう言う。

「私が誰と付き合おうと、私の勝手でしょ?」

刀奈はそう言って、プイと横を向く。

「そういうわけだ。 大人しく諦めろ」

俺はそう言うと、掴んでいた男の腕を放す。

俺は刀奈の方に振り向こうとしたが、

「馬鹿にするな!!」

いきなりキレて殴りかかってきた。

何でキレるの?

意味わからん。

男は全力で殴りかかってきているが、その攻撃はISを纏ってなくても簡単に見切れる。

ぶっちゃけ、刀奈の模擬戦の攻撃の方が、体感的には遥かに速い。

殴りかかってきた右腕を体を右に逸らすことで避け、更に左腕で相手の右手首を掴むと相手のパンチの勢いを殺さずに後ろに引く。

つんのめった相手の右脇に、自分の右腕を差し込み、肘の内側に相手の脇が乗るようにすると、体を一気に捻り、相手を背中に担ぐ。

相手の足は地を離れ、勢いよく宙を舞う。

そのまま相手は一回転し、砂浜に叩きつけられた。

「がはっ!?」

相手は叩きつけられた衝撃で息を吐き出す。

「ゲホッ!? ゲホッ!?」

呼吸困難に陥ったのか、何度も咳いている。

すると、パチパチと拍手が鳴り、

「見事な一本背負いだったね」

刀奈が拍手をして扇子を開く。

そこには『見事!』の文字が。

「お前の特訓を受けてるんだ。 このぐらい出来ないと情けないだろ?」

俺はそういうが、

「そうだね。 でも、一本背負いなんて何処で覚えたの? 私は教えたこと無いんだけど…………我流にしては綺麗すぎるし…………」

刀奈の言葉に俺はギクリとする。

実はこの一本背負い、前世で柔道をかじったことがあるために出来た事だ。

つか、自分でもあれだけ綺麗に決まったことが不思議でしょうがない。

「ま、まあ、その話は後でな」

俺は話を中断し、男達に向き直る。

俺が男達の方を向くと、男達はビクリと体を震わせ後ずさる。

「で? お前らはどうする?」

俺がそう問うと、

「い、いや………なあ」

「あ、ああ………わ、悪かった。 謝るから許してくれ」

冷や汗を流しながら謝ってきた。

ま、いいけど。

「じゃあ、早くどっかに行ってくれ。 折角の旅行が台無しになる」

俺がそう言うと、男達はスタコラさっさと逃げるように立ち去った。

「やれやれ、のっけからとんだハプニングだな」

俺がそうつぶやくと、

「私はそうでもないかな?」

「ん?」

刀奈の言葉に俺は怪訝な声を漏らす。

「盾のカッコいいところが見れたし♪」

刀奈は笑みを浮かべてそう言った。

「あ~……まあ………うん………」

答えに困る俺だった。

ふと刀奈を見直すと、その水着は前のプールと同じく大胆なビキニ。

「そう言うお前も、そんな大胆な格好してるから変な男に声を掛けられるんだぞ。 元は最上級に良いんだから、少しは自重したらどうだ?」

「大丈夫よ。 前も言ったでしょ? 私は君のだって」

その言葉に、俺は顔を熱くしてしまう。

「フフフ………照れた?」

笑みを浮かべつつ俺の顔を覗きこんでくる刀奈。

このまま攻められっぱなしってのもシャクだ。

「………………ッ! だったら、俺のらしく俺の傍から離れるんじゃないぞ!」

俺は半ばヤケクソ気味に言うと、刀奈の肩を抱き寄せる。

「きゃっ!?」

互いに水着の為に、いつもよりも素肌の触れ合いが多く、俺は顔がどんどん赤くなっていることを自覚する。

刀奈の顔はよく見えないが、俯いていて、

「……………うん」

小さくそう頷いたのがわかった。

刀奈の素肌から感じる熱さは、刀奈の体温か夏の日差しの所為か。

それは本人にしか分からなかった。





あのあと、何とか再起動を果たした俺達は、気を取り直して沖縄の海を楽しむ。

やはり沖縄の海は綺麗で、潜って見渡すだけでもいろいろな景色が目に飛び込んでくる。

そんな中、水中を自由に泳ぎ回る刀奈を見て、まるで人魚のようだと思った俺は間違いではないだろう。

そのまま夕暮れ近くまで遊んだ俺たちは、ホテルへ戻り夕食を取る。

夕食はバイキング形式だったので、そこまでマナーに気を付けなくてもいいのは助かった。

一応元社会人として、最低限のマナーは学んでいるが、面倒だからな。




食事が終わって部屋へ戻り、風呂から出ると、刀奈はとんでもないものをカバンから取り出した。

それは、

「何でワインなんか持ってるんだよ!?」

俺は思わず突っ込んだ。

「え? 勿論飲むため?」

何で疑問形なんだよ!

「俺ら未成年だろうが!」

俺はそういうが、

「そんな硬いこと言わないの。 バレなきゃいいのよ」

刀奈は何時ものノリでそう言ってくる。

因みに、俺は前世では酒類は嫌いだった。

今世では、飲んだことがないからわからんが。

「お前なぁ~………」

俺は思わず呆れてしまう。

そう言っている間に、刀奈はグラスを取り出しワインを注ぐ。

「それに………ちょっとぐらい雰囲気出してもいいでしょ?」

少し頬を染めながらそう言ってくる刀奈。

俺はそれを聞くと一度ため息を吐き、

「……………今回だけだぞ?」

俺はそう言ってグラスを受け取る。

「ありがと………」

互いにグラスを差し出し、

「何に乾杯?」

俺がそう聞くと、

「私達が………出会えたことに…………」

刀奈はそう言ってグラスを当てる。

「「乾杯」」

カツンと音が響き、互いにグラスを口へ運ぶ。

そして、ワインを一口飲んだ瞬間、俺の意識はそこで途切れた。




















俺が次に気付いたとき、

「ん?」

窓の外は既に明るく、朝だということがわかる。

俺はいつの間にやらベッドに入っており、横になっている。

俺が体を起こそうとしたところで、右腕に何かが絡みついており、動かせない。

俺は、ボーっとする頭を動かし、右手方面を見ると、

「はい?」

思わず声を漏らした。

そこには、一糸纏わぬ姿の刀奈が俺の腕に抱きつきながら眠っていた。

………………………………………

何が起こった!?






その後、目が覚めた刀奈に、何故かジト目で見られつつも、今日の予定を決めることにする。

そこで刀奈が提案してきたのが、

「盾、これに出てみない?」

そう言って刀奈がチラシを見せる。

そこには、

「え~っと…………『熱血! 夏の沖縄スポーツビーチバレー大会!!』…………本日開催、飛び入り参加自由…………優勝賞金10万円………って、スゲェなおい」

更に読み進めていき、ルールに目を通すと、

「基本的なルールは通常のビーチバレーと同じく2VS2のラリー制。 ただし、各スポーツで使われる道具の使用は自由…………って、なんだこりゃ?」

ルールの意味がイマイチよくわからないが、刀奈はやる気なので参加することにした。





そして、ビーチに設置された会場にて、

『さあ! 熱血! 夏の沖縄スポーツビーチバレー大会!!の始まりだぁ~~~~!!!』

司会のお姉さんがマイクを持って叫ぶ。

「「「「「「「「「「ワァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」」」」」」

一気に盛り上がる会場。

因みに、司会のお姉さんは、いつぞやのプールの司会のお姉さんと同じく大胆な水着を着ている。

『今回の大会には、飛び入り参加も含めて16組の選手達が戦うぞ!! 存分に盛り上がっていこ~~~~~!!!』

「「「「「「「「「「ワァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」」」」」」

『さあ! 時間も押しているので早速1回戦を開始しましょう! 第1回戦は…………』

いきなり1回戦から呼ばれたので、俺と刀奈はコートに入る。

続いて、相手チームがコートに入るが、その格好に俺は固まった。

何故なら、ビーチバレーなのに、相手の格好は、面、胴、小手を付け、更には竹刀を手に持った完全に剣道をやる格好だったからだ。

どういう事?

『さて、ここでルールの再確認です。 簡単に言えば、ボールを相手のコートに落とせば得点になります。 タッチは通常のバレーと同じく3回まで。 準決勝までは、5ポイント先取のラリー制となります。 ただし、デュースは無し。 そして、ここからがこの大会特別ルール! 他のスポーツで使われている道具なら、どんな物でも使ってOK! ただし、相手に直接怪我をさせる様な行為は厳禁とします』

なんじゃそのルール?

『では、早速第1回戦………始め!』

よくわからん内に始まってしまった。

とりあえず俺達の先行で、サーブは俺から。

俺は無難に相手のコートに確実に入れるサーブを打つ。

ボールは普通に飛んで行き、相手の1人の真正面へ。

俺は、相手が普通にレシーブすると思っていたのだが、

「突きぃっ!!」

何と相手はボールに突きを放った。

何でだよ!?

そして何故かボールは上手い具合に真上に上がる。

もう一人が何故かすり足でボールの落下地点に入り、

「めぇぇぇぇん!!」

その場で面打ちを放った。

ジャンプはしなくても竹刀の長さでネットの高さを超えるため、普通にスパイク並みの威力のボールが飛んできた。

「なんのっ!」

だが、刀奈が瞬時に反応し、ボールを拾う。

「ナイス!」

俺はそう言ってボールの下に回り込み、トスを上げる。

そこに刀奈が走り込み、

「てやっ!」

見事なジャンプとスパイクを見せた。

そのボールは、相手の左側に決まりそうな勢いだった。

だが、

「胴ォォォッ!!」

胴打ちを放った相手の竹刀がボールにぶつかる。

そこで、俺はふと思った。

バレーボールのスパイクは、実際はかなりの重さになる。

対して、竹刀とは相手に怪我をさせないように作られたもので、強度もさほど高くない。

その2つがぶつかり合ったとしたら、

――バキッ

そんな音を立てて竹刀が真っ二つに折れてしまった。

ま、そらとーぜんだわ。

そこで、俺はようやくまともなバレーになるかと思いきや、相手は項垂れたまま動かない。

俺がどうしたのかと思ったとき、

「……………我らの負けだ………武士の魂が折れてしまった……………」

何か相手が降参の意を示した。

っていうか、竹刀でバレーボールしようとするな!

せめて木刀にしとけ!

俺は心の中で突っ込んでおく。

何だかんだで相手の棄権で1回戦を勝ち進んだ俺達。

2回戦目はバットを持ち、野球帽とユニフォームを着た、見るからに野球選手の格好をした2人。

だから、そんな格好でできるのか!?

まあ、さっきの剣道の2人よりかはマシだと思うが…………

俺は気を取り直してサーブを打つ。

すると、

「フッ…………コースが甘い! 絶好球だ!!」

相手がそう叫び、バットを野球打ちでフルスイング。

ボールはバットの芯にジャストミート。

おい、そんな事したら………

ボールは物の見事に弾き返され、俺達の頭上を超えて観客席の中へ消える。

「フッ…………ホームランだ」

相手はカッコよく決めているのだろうが、

「いや、アウトだろ?」

俺は思わず突っ込む。

審判も、当然ながらアウトの判定をしていた。

そのまま試合の続きを行うも、俺の打ったサーブを全て観客席にホームランにするため、5点先取となって俺達の勝利だった。

3回戦準決勝の相手はサッカー選手だったのだが、今までの中ではまともな試合だったのだが、相手は決して手を使わず、足と頭だけでバレーをしていた。

結局、相手はスパイクを打てないために俺達の勝ちとなった。

早くも決勝の4回戦となる。

『さあ! 白熱してまいりましたこの大会もいよいよ決勝戦です! ここで選手の紹介をしておきましょう。 まずは観客からの飛び入り参加! 破竹の勢いで勝ち上がってきた男女のカップル! 何でこんなパッとしない男にこんな美女が!? まさに美女と草食獣! 凸平でこひらチーム!!』

美女と野獣にも凸凹にもならないつまらん男とあの司会者は言いたいのか?

というか、破竹の勢いというが、ある意味向こうの自爆だからな。

『一方の対戦相手は今大会の最有力候補! 2人の女軍人! ミリタリーチーム!!』

おいこら!

今までの相手とは全然違うじゃねえかよ!

俺は、ネット越しに相手チームを見る。

体はしっかりと鍛えられており、所謂マッチョウーマンってやつだ。

あれ?

何か既視感?

相手チームが俺を見た。

「はっ! 貧相な男!」

「男のクセに調子乗ってるんじゃないわよ! 大体勝ち進めたのだって、運が良かっただけでしょう!」

うわー。

諸に女尊男卑思考の女だった。

とりあえず、試合開始の合図が鳴ったので俺は構える。

因みに決勝は、10点先取だそうだ。

相手のサーブ。

「はっ!」

相手がサーブを打つ。

狙いは俺。

しかも、結構速い!

「ぐおっ!」

何とかレシーブで受け止める。

「盾!」

上がったボールを刀奈がトスする。

俺は走り込んでスパイクを打った。

「でやっ!」

俺の打ったボールは、相手のコート隅に決まる。

普通なら喜ぶべきところなのだが、

「何で動かない?」

俺はそう言う。

そう、相手はサーブを打ってから一歩も動いていなかった。

すると、

「あら? 結果は分かりきってるのだから、ハンデをあげようと思っただけよ?」

「そうそう。 大サービスで5点までは何もしないであげるわ。 本当なら、9点まであげてもいいのだけど、パートナーが心配性だからね」

思いっきり舐められてました。

「どうする?」

俺は刀奈に尋ねる。

「向こうは何か策があるようね。 そうでなきゃ、いくら女尊男卑思考でも、あそこまでの余裕は持たないわ」

刀奈はそう言う。

「とりあえず、取らせてくれるって言ってるんだから、ここは貰っときましょ」

「ん」

俺は頷いてサーブを打つ。

俺の軽く打ったヒョロヒョロのボールでも、相手は拾わずにサービスエースになる。

本当に5点までは、相手は何もせずにいた。

そして、5点目を取った時、相手2人の口元が釣り上がる。

「さあ、サービス期間は終わりよ。 男なんて女には絶対に敵わないことを教えてあげるわ!」

そう叫ぶ相手。

俺は、今度は強めにサーブを打った。

その瞬間、相手選手が光に包まれ…………

「はっ!」

軽々とボールを空高く打ち上げた。

更に、もう一人が空高く飛び上がり、思い切り打ち下ろす。

俺に向かって。

「うぉおおおおおおおっ!?」

俺は咄嗟に横っ飛びして…………………そのボールを避けた。

――ズドォォォォォォォォン!!

ボールが地面に着弾した瞬間、周りの砂を大きく巻き上げる。

ボールの着弾地点は、直径2mほどのクレーターのような形になっていた。

俺は思わず相手選手を見る。

IS『ラファール・リヴァイブ』を纏った相手達を。

「待てコラ!  そんなのありかよ!? 司会者!! あれはルール違反じゃないのかよ!?」

俺は思わず叫ぶ。

『ルールでは、他のスポーツで使われている道具なら、どんな物でも使ってOK! ただし、相手に直接怪我をさせる様な行為は厳禁とします。となっているので、現在はISもスポーツの一環です。 ルール的には問題ありません』

司会者は飄々と言ってのける。

なんちゅう屁理屈。

「それにお前ら! 特定の場所以外でのISの展開はアラスカ条約で禁止のはずだろ! 軍人が規律破っていいのかよ!?」

今度は相手選手にそういうが、

『それも問題ありません。 今大会中に限り特例でISの展開も許可されております』

そう言いながら許可証を見せる司会者。

どういうコネだ!?

ふと、先程から何も言わない刀奈が気になり後ろを向くと、先程着弾したボールをまじまじと観察していた。

「どうした?」

俺が尋ねると、

「うん。 ISのスパイクを受けても割れないボールに都合が良すぎるISの使用許可証…………多分、運営と相手チームはグルね」

刀奈からそう聞いて、俺は妙に納得した。

「なるほど、賞金を渡したくないわけね…………で? どうする?」

俺が聞くと、刀奈は笑みを浮かべ、

「当然、勝ちに行くわよ!」

強気な刀奈に俺は苦笑する。

「ははは………りょーかい」

そして、俺は空に呼びかけた。

(空、ボールの着弾の瞬間に着弾部分に一瞬だけシールドバリアを展開してくれ。 あと、ハイパーセンサーも)

(わかったよ、お兄ちゃん!)

それからコートを慣らし、試合が再開する。

相手がサーブの為に上へボールを放り投げ、

「さあ、泣き喚きなさい!」

生身では絶対に打てないような豪速サーブが放たれた。

それは一直線に俺に向かってくる。

俺はそれを……………

「ぶっ!?」

顔面で受けた。

まあ、シールドバリアのお陰で痛くはないんだが。

そのまま俺は後ろに倒れ、ボールは真上に上がる。

そうなるように調整したんだがな。

「アハハハハハハハハッ!? 最っ高! 顔面レシーブよ!」

「男のクセに調子に乗るからそういうことになるのよ!」

相手は大笑いしている。

が、

「あら? 何をバカ笑いしてるのかしら?」

刀奈が静かに言った。

「何?」

相手は怪訝な声を漏らす。

「まだ、ボールは生きてるわよ」

刀奈は空高く上がったボールを指さしながら言う。

「はっ! だからなんだってんだ!?」

「そうそう! 一回ぐらい上がったからって、アタシ達に勝てるわけないじゃない!」

相手は未だに調子に乗っているが、

「あら? それはどうかしら?」

刀奈は不適な笑みを漏らし、

「ミステリアス・レイディ!!」

ISの名を叫びながら空高く舞い上がった。

「「『なっ!?』」」

相手選手と司会のお姉さんが驚愕の声を漏らす。

そんな間にも、ミステリアス・レイディを纏った刀奈はボールに追いつき、

「必殺! 分裂魔球!!」

スパイクを打つと同時に、水でボールのダミーを作った。

合計5つのボールが、猛スピードで急降下してくる。

「なっ!? どれが本物!?」

相手は本物を見極めようとするが、普段でも騙される水のコピーが、こんな短時間で見極められるわけがない。

結局は立ち往生して5個全てコート内に落ちた。

「ISを使えるのが、自分達だけと思ったのは、失敗だったわね」

刀奈がゆっくりと空から降りてくる。

「せっ、専用機!?」

ミステリアス・レイディを纏う刀奈を見て、相手が驚愕する。

「そ、そういえばあの顔どこかで………」

「も、もしかして、あの人って、ISのロシア国家代表の更識 楯無じゃない!?」

観客がざわめき出す。

流石刀奈。

知名度も高いらしい。

「じゃあ、あの男の子って、もしかして男でISを使えるっていう織斑 一夏!?」

違うぞ。

俺は心の中で突っ込む。

「それは違うわよ。 雑誌で見たけど、織斑 一夏はすっごいイケメンで、あんなパッとしない男の子じゃなかったわよ」

フツメンで悪かったな。

まあいい。

「こ、国家代表が相手!?」

相手が焦りだす。

「お、落ち着きなさい! いくら国家代表でも、1人じゃバレーはできないわ! さっきの男は顔面レシーブで気絶した…………」

そこまで言いかけたところで、俺は体を起こした。

いい加減砂浜に倒れてるのも熱かったしな。

「う、嘘………」

「何で立ち上がれるのよ………」

そりゃ、シールド張ってましたから。

「さ、試合を再開しましょ」

刀奈がニヤリと笑いながら、死刑宣告と言わんばかりの言葉を投げかけた。





その後は当然ながら俺達の勝利。

見事賞金ゲットとなった。

とは言っても、俺は体を張った(様に見せた)レシーブをして、刀奈が全て決めただけだがな。

まあ、思わぬ軍資金も手に入れたことだし、それなりに土産を奮発出来るようになったわけだ。

ホテルに戻ると、丁度夕食の時間であり、レストランで食事をとる事に。

今日のディナーはフランス料理。

つまりはテーブルマナーを守らなければならない。

面倒だと思いつつも、前世で学んだテーブルマナーを思い出しながら食事を取る。

因みに椅子に座るときは、ちゃんとレディファーストで椅子を引いてやった。

刀奈はいい所のお嬢様なので、テーブルマナーは完璧だった。

すると、食事の最中に刀奈が話しかけてくる。

「盾ってさ、何げに大人っぽいよね?」

「は?」

刀奈の言葉に、俺は首を傾げる。

「今だって、テーブルマナーはキチンと守れてるし、テーブルに着く時も、ちゃんとレディファーストを理解してたし。 普通の高校1年生は、そんな事気にしないと思うんだけどな?」

まあ、これでも元社会人ですから。

「ま、自称精神年齢45歳だからな」

俺はそう言っておく。

「前にもそんな事言ってたけど、精神年齢45歳ってどういう意味?」

何か突っ込まれた。

「ん? 別に言ってもいいんだけど、絶対に頭おかしいとしか思われないからなぁ………」

前世の記憶があると言っても、精神異常を疑われるだけだろう。

「思わないよ!」

そんな考えを否定するように、刀奈が強く言った。

「どんな馬鹿なことでも、私は盾を信じる!」

刀奈の目は真剣だ。

「だから教えて、盾の事……………私は盾の事を、もっと良く知りたいの」

そう言ってくる刀奈に俺は1回息を吐く。

「刀奈はさ…………輪廻転生って知ってるか?」

俺は初めにそう聞く。

「それって、生き物は死んだら、また別の生き物になって生まれ変わるって奴だよね?」

「そ。 で、俺はその考えの生き証人ってわけだ」

「え? 生き証人?」

俺の言葉の意味が分からなかったのか、刀奈が首を傾げる。

「簡単に言えば、俺は前世の記憶を持ってる。 前世で29歳中ぐらいで死んで、今の俺に生まれ変わって15年ちょい。 合わせて45歳だ」

「………………………」

刀奈は呆然としている。

「流石に信じられないだろ?」

こればっかりは信じてもらおうとも思わない。

俺がそう言うと、

「…………………信じるよ」

刀奈はそう言った。

俺は驚いて刀奈を見る。

「今の盾、軽い感じがするけど、嘘を言ってるようには見えないもん」

そう言って刀奈は笑う。

「そうか…………」

俺も釣られて笑った。

「で、ちょっと気になることがあるんだけど………」

「何だ?」

刀奈はちょっと言いにくそうにしていたが、

「盾は前世で………その…………結婚とか………してたの?」

不安そうにしながらもそう聞いてきた。

俺は思わず微笑ましくなり、

「残念。 彼女いない歴=年齢だったよ。 前世も………今世も…………というより、お前が本当の初恋相手さ」

そう言ってやった。

「そ、そうなんだ…………嬉しい」

刀奈ははにかんだ笑みを見せる。

それを見て、俺も嬉しくなる。

俺は初めてこの世界で自分の秘密を他人にバラした。

とは言っても、原作云々は墓の中まで持っていくつもりだ。

未来の情報なんて、知らないほうがいい。

とは言っても、残り数ヶ月しか無いがな。

こうして、刀奈との絆をまた一つ深めた夜は過ぎていった。








あとがき


第十九話の完成。

沖縄旅行1、2日目をお送りいたしました。

オリジナルの割にはそこそこ書けたんじゃないかと思います。

1日目の夜には何があったのか?

知りたい人は十三話の暗号の先へ。

さて、次はどんな話を書こうかな。

では、次も頑張ります。





[37503] 第二十話 沖縄旅行4日目~6日目
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/07/26 22:24

第二十話


沖縄旅行4日目。

3日目に関しては内容がアレなので、しかるべきところで語ることにしよう。

今日の昼間は体験ダイビングツアーに参加し、刀奈と水中デートを楽しんだ。

インストラクターのお兄さん付きだったが………

刀奈はともかく、俺はダイビングの資格を持っていないので仕方ない。

それでも、海の中の素晴らしい光景は、俺の心に深く感動を覚えた。





5日目は、土産の買い物を兼ねた街でのデートだ。

街を回って気に入った物を買っていく。

予想外だったことは、マジでアニメのように買ったものの箱のタワーを持つことになったことだな。

あ、因みにゲーセンとかも行ってみた。

原作通り刀奈はシューティングが凄すぎて圧巻だった。

しかし、レースゲームでは俺が勝った。

車の運転に慣れてないのかね?






そしてその夜。

俺達は偶然行われていたイベントの花火を見上げていた。

前に見た篠ノ之神社の風情ある打ち上げ花火とは違い、派手さを重視した近代的な花火だ。

これはこれで凄いと思う。

刀奈は俺の腕に自分の腕を絡ませ、俺に寄り添うように花火を見上げている。

「明日で旅行も終わりかぁ…………やっぱり楽しい時間っていうのはあっという間に過ぎじゃうものなんだね…………」

言葉の中に寂しさを織り交ぜつつ刀奈は呟く。

「そうだな………あっという間の5日間だったな」

俺も同意するように呟く。

「でも、旅行は終わりでも、私達はずっと一緒だよね…………?」

「ああ」

刀奈の言葉に、俺は迷いなく頷く。

俺は手を動かし、刀奈の手を握る。

刀奈も手を開き、指を絡めて来る。

「刀奈」

「うん………」

「愛してる」

「フフッ、嬉しい。 私もだよ、盾」

自然と互いの顔が近付き、キスを交わした。












翌日。

今日は昼一の飛行機で帰るため、ホテルのチェックアウトだけだ。

そんなこんなで空港で飛行機を待つ。

そこで、

「そう言えば、2学期は明後日からだけど、明日はどうするんだ? やっぱ特訓か?」

俺が思い出したようにそう言う。

「ううん、明日は休み。 私も溜まってた生徒会の仕事を片付けないと………」

刀奈の言葉に、

「生徒会の仕事か…………なあ刀奈、俺も生徒会入ろうか?」

俺はそう聞いた。

「えっ? こっちとしては嬉しい申し出だけど………いいの?」

「お前の時間潰してるのは俺だし、俺もどこの部活にも所属してないのは問題だろ? それならお前の居る生徒会に入ったほうが得だ」

「じゃあ…………お願いしていい?」

「ああ。 あ、でも役職は一番下っ端の庶務にしといてくれよ。 あんまりデスクワークは得意じゃないからな」

「りょ~かい! それじゃあ明日から宜しくね、盾!」

「おう」

こうして、俺達の沖縄旅行は幕を閉じた。

そして、IS学園の2学期が始まる。








―――と思いきや。

「全員! 大人しくしてもらおうか!!」

そう叫ぶ男。

なーんでこんな事になってるんだろう?

現在絶賛ハイジャック中です。

人数は10人、全員マシンガン持ち。

動機は知らん。

やれやれ、なんでこうもトラブルに巻き込まれるんだか。

俺にこうも余裕があるのは、右腕にISがあるからだ。

最悪飛行機が墜ちても俺と刀奈は死なんだろうから、そこだけは安心できる。

まあ、他の乗客を見捨てるのは気分が悪いから下手な真似はしないが。

「はぁ~~……………」

俺は溜息を吐く。

そして、

(刀奈、どうするんだ?)

俺はプライベートチャネルで刀奈に話しかける。

(とりあえず、犯人が落ち着くまでは様子見。 それから隙を見て機を解放するわ)

(了解)

俺は返事を返し、大人しくしていようと背もたれに身を任せた。

その時、

「おいガキ! そこのパッとしないガキ!」

いきなり怒鳴りつけられ、視線をそちらにやると、

「そうだ! お前だ!」

男に銃で手招きされ、俺は仕方なく立ち上がる。

(空、シールドバリアをやばくなったら展開してくれ)

(わかったよ、お兄ちゃん)

俺が男の前に行くと、

「ガキ、その扉の前に立て」

男が指示した場所は、機体中程にある扉の前。

俺は両手を上げながらその前に立った。

………なんかこの後の展開が読めた気がする。

「ご乗客の皆様、我々行動が決してが脅しでないことをご覧頂きましょう」

ジャキっと俺の後ろで銃を構える音が聞こえた。

マジで?

「開けろ!」

男の合図と共に扉が解放され、

――ズドドドドドドドドドドドド!!!

俺の背中にマシンガンが乱射された。

まあ、全部シールドバリアのお陰で怪我は無いんだが。

ともかくこのまま突っ立ってるのは拙いので、前に倒れこむように扉から飛び降りた。

その瞬間、

――ゴンッ!!

「んがっ!?」

頭に痛みが走る。

飛び降りた瞬間風圧で吹き飛ばされ、更に飛行機の翼に直撃したのだ。

流石にシールドバリアでは飛行機の直撃は完全には衝撃が殺しきれず、自身にも多少ダメージが通った。

「いって~~」

俺はパラシュート無しのスカイダイビングをしながら頭をさする。

飛行機からある程度離れたことを確認し、

「頼む! 空!」

相棒の名を呼び、ISを展開した。





【Side 楯無】




盾がマシンガンで撃たれて外に放り出された。

「あっ!」

私が思わず上げた声は、マシンガンの銃声にかき消される。

突然の事にいきなり声を上げてしまったが、ISを持ってる盾ならまず無事のはず。

私は気を取り直して犯人を睨む。

「「「「「「キャアァァァァァァァァッ!!!???」」」」」」

「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」」」」」」

今の瞬間を目撃した乗客たちが悲鳴を上げる。

まあ、傍目から見れば目の前でマシンガンで撃ち殺された挙句、パラシュート無しのスカイダイビング。

普通なら死亡確率100%ね。

盾は死んでないけど…………

「見たとおりだ。 もしも変な気を起こそうものなら今のガキの二の舞になると思え!」

脅しを含めて大声で男はそう言う。

その脅しで乗客たちは静まり返った。

その光景に満足したのかニヤリと笑みを浮かべる男。

すると、

「ああん? 嬢ちゃん、何見てんだ?」

別の男に声をかけられる。

やばっ!

露骨に見すぎた!

「おい、この席ってさっきのガキが座ってた席じゃないか?」

「ほ~………嬢ちゃん、先のガキとは姉弟か何かかい?」

男が私の周りに集まってくる。

「……………………恋人よ」

私は男達を刺激しないようにそう呟いた。

「くはははははははは! そいつぁ残念だったな! 嬢ちゃんの恋人は天国に旅立っちまったぜ!」

私の言葉を聞いて、バカ笑いする男。

いい加減黙らせて良いかな?

私はそう思いつつも、準備完了までもう少しなので我慢する。

「………彼は死んでないわ」

「ハハッ! 信じたくない気持ちはわからんでもないが、現実を見たほうがイイぜぇ」

ちゃんと見てるわよ。

少なくともあなた達よりかはね。

私は呆れた目で男達を見る。

「気に入らない目つきだな…………本当にあのガキが生きてると思ってるのか?」

「ええ、生きてるわ」

私はさも当然のように頷く。

「なら、俺が嬢ちゃんに手を出せば、あのガキが飛んでくるとでも?」

「そうよ」

「おもしれぇ。 なら望み通り滅茶苦茶にしてやらァ!」

男は私の胸ぐらを掴んで席から無理矢理立たせると、私を殴ろうと腕を振りかぶる。

その瞬間、

――ドゥン

マシンガンとは違った銃声が鳴り響き、私を殴ろうとした男が倒れる。

そして、

「人の彼女に何しようとしてんだコラ?」

突き落とされた出入り口から右腕のバスターをこちらに向けた盾がそう言った。

犯人たちは、反射的に振り向いてマシンガンを撃とうとしたが、

――ドドドン

バスターが連射され、更に3人の男達が倒れる。

すると、

「ア、IS!?」

「何で男がISを!?」

それを目撃した乗客が騒めく。

それにしても、一般人は盾の事全然知らないねぇ。

まあ、一夏君がブリュンヒルデである織斑先生の弟だからって注目されまくってるのが原因なんだろうけど。

でも、逆に言えば騒ぎにならないから楽でいいかも。

「何事だっ!?」

残りの犯人グループが異変に気付いてやってくる。

そこで盾に気付き、

「なっ!? ア、IS!?」

「う、撃て!!」

犯人達がISの突然の登場に反射的にマシンガンを構える。

何もしなくても、人間用のマシンガンじゃISに傷一つ付けられないだろうけど、流れ弾が他の乗客や飛行機の重要機器に当たったら危ないからね。

私は右手を前に出す。

既に先程準備は完了した。

その瞬間放たれる無数の弾丸。

私はそれを、

「なんちゃってAIC」

散布したアクアナノマシンで全てを受け止めた。

機内全てに散布を完了してるから、密着状態で撃たれない限り全て受け止められる。

「なっ!?」

「た、弾が止まった!?」

驚愕の声を漏らす犯人達。

その瞬間、

――ドドドドドドッ

犯人全てにバスターが放たれ、全員を気絶させた。

あ、1発外れて乗客に当たってる。

まだまだ狙いが甘いね。

今後の特訓のポイントを考えながら、気絶している犯人を縛っておく。

その後は無事に空港に着陸。

更識家の伝手を使って犯人グループを引き渡した後、私と盾はさっさとトンズラした。

警察に捕まったら2学期に遅れちゃうかもしれないしね。

隠蔽工作もばっちり。

さあ、2学期が始まるよ!







あとがき


第二十話の完成。

沖縄旅行を急ぎ足で終わらせました。

思ったよりもネタが思いつかなかった。

盾君生徒会へ入部。

次回は漸く盾君の特訓の成果が?

次も頑張ります。




PS. 暗号がわからないという意見が出てきたので、更にヒントを載せときます。

ヒントは『キーボード』、『かな』です。

そしてここからが大ヒント。

上のヒントを使って暗号を解くと、

『ツヅキガキニナルヒトハリ○○○○○○○ィ○ ア○○○○○○○ヘ』

となります。

頑張って解いてください。








[37503] 第二十一話 努力の成果
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/08/16 17:32

第二十一話





「……………起きて…………ねえ………起きて……」

声が聞こえる………

女の人の声…………

俺の意識が徐々に覚醒し、ゆっくりと目を開けていく。

ボヤける視界に映るのは水色の髪。

「う………刀奈………?」

俺は目の前にいるであろう恋人に声を掛ける。

「………フフッ」

目の前の女性が薄く笑みを浮かべると、腰まで届くほどの長い髪が俺の体にかかる。

長い………髪?

刀奈だとしたらおかしい事に気付いた俺の意識が急激に覚醒する。

そして、目の前にいたのは、

「あはん♡」

腰まで届くほどの長い水色の髪をした、あられもない格好をした20前後と思われる女性だった。

「どわぁああああああああああっ!!」

俺は驚いて思わず叫び声を上げる。

「初めまして、無剣 盾君♪」

その女性は、ズイッと顔を近付けてそう挨拶する。

「だだだ、誰!?」

俺はテンパりながらも問いかける。

「私は…………」

その女性が答えようとしたところで、

「コラーーーーーーーーーッ!! お兄ちゃんに何してるーーーーーッ!!」

そんな声と共に真横から飛んできた空が、ドロップキックでその女性を吹き飛ばす。

「そ、空………」

「お兄ちゃん! 大丈夫だった!?」

空が焦りを隠そうともせずに問いかけてくる。

「あ、ああ。 空のお陰で助かったよ」

俺はそう言いつつ起き上がる。

見れば、ここはいつも空と会っている緑の草原だった。

「ところで、あいつは誰だ?」

俺は空に尋ねる。

「あ~、アレは…………」

「も~、酷いなぁ、空ちゃん」

そう言いながらその女性が起き上がってきた。

「うるさい。 お兄ちゃんの相手はお姉ちゃんだけなの!」

今更だが、空は刀奈の事をお姉ちゃんと呼んでいる。

まあ、実際に話したことはないが、

「全くだ。 こんな所刀奈に見られたたら、どうなるか………」

俺は空に前面同意しつつ頷く。

すると、

「あら? もう手遅れみたいよ?」

その女性はそう言うと、とある方向を指差す。

俺と空がつられてそっちに視線をやると、

「………………………」

目に涙を一杯に溜めた刀奈の姿。

そして、

「盾の浮気者ぉぉぉぉぉぉっ!!」

そう叫びながら走り去る刀奈。

「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

俺は叫びながら追いかけた。






その後、何とか誤解を解くことに成功し、再び空たちの所に戻ってくる。

「へ~、この子が話に聞いてた空ちゃんか」

「うん、宜しくね、お姉ちゃん!」

空が刀奈に挨拶をする。

「で、あっちの女は誰?」

棘のある口調でそう聞いてくる刀奈。

俺は最初分からなかったが、よくよく考えて、この草原に来れる存在など限られていることに気付いた。

まずは俺と空。

そして刀奈は一緒に寝てるだろうからその関係。

そうなれば、あの女の正体などただ一つ。

「お前、ミステリアス・レイディのコア人格だろ?」

俺は確信を持ってそう尋ねる。

「せいかーい!」

満面の笑みで答える謎の女もといミステリアス・レイディのコア人格。

「ふーん…………で? なんで私のミステリアス・レイディが盾を誘惑したわけ?」

表情は落ち着いているが、その言葉には相当な怒気が含まれていることがよくわかる。

「だってぇ、空ちゃんが毎日毎日私に自慢してくるんだもん。 どういう子か気になっちゃって」

ミステリアス・レイディの言葉に、俺は思わず空を見る。

「おい空…………」

「あはは…………」

乾いた笑いで誤魔化す空。

「それで? 私までここに連れてきた理由は?」

刀奈がそう聞くと、

「私に名前を付けてもらおうと思って」

「名前?」

「そう。 私も空ちゃんみたいな名前が欲しいなぁ~、なんて」

彼女は笑みを浮かべながらそう言ってくる。

「じゃあ、水色で」

刀奈が即答する。

まだ怒ってるみたいだから適当だな。

「パートナーにそれは無いんじゃない? 名前は一生ものよ?」

そう反論するミステリアス・レイディ。

「パートナーの恋人を誘惑するようなダメコアにはそれで十分よ」

腕を組みながらそっぽを向く刀奈。

「あ~ん、盾君。 ご主人様がご機嫌ナナメだから、盾君が名前考えて?」

俺に振るなよ。

ミステリアス・レイディって『霧纏の淑女』って意味だったから…………

「霧子(キリコ)」

相変わらず何のひねりもない名前が出てきた。

「ん~………何の捻りもない名前だけど………水色よりかはマシかな? それでいいや」
いいんかい!

思わず内心突っ込んだ。

「じゃあ、用も済んだし、バイバーイ」

ミステリアス・レイディ改め霧子がそう言うと、急速に意識が薄れていった。




次に目覚めた時、

「…………………(ジト~)」

目の前で刀奈がジト目で睨んでいたので、とりあえず謝り倒しておいた。






2学期が始まり9月3日の今日、2学期初の実戦訓練が一、二組合同授業で行われていた。

戦っているのはそれぞれのクラス代表の一夏と鈴。

因みに今日はこの2人が戦うのを見るだけなので俺の打鉄・不殺はまだお披露目されていない。

アリーナの観客席から2人の戦いを見る俺。

「でやぁああああああっ!!」

「はぁああああああああっ!!」

空中で切り結ぶ一夏と鈴。

距離が開けば鈴は衝撃砲で攻撃するものの、一夏は白式の機動力で回避する。

一夏も負けじと左腕の雪麗の荷電粒子砲で反撃。

「くっ!?」

咄嗟に回避する鈴。

「まだまだぁ!!」

そのまま荷電粒子砲をかいくぐり、一夏に斬りかかる。

「でやあっ!」

だが、それを読んでいたのか一夏は右の雪片で鈴の青龍刀を受け止めた。

鈴の動きが止まったところで一夏は左腕を鈴に向け、至近距離で荷電粒子砲を発射。

「きゃぁあああああああああっ!?」

直撃を受け、吹き飛ばされる鈴。

素直に今の一夏の攻撃は上手いと思った。

「行けるっ!」

ニヤリと笑みを浮かべ追撃に向かう一夏。

「ようし! このまま押し切る!」

アリーナの地面に叩きつけられた鈴に向かって荷電粒子砲を乱射する一夏。

おいおい、そこは瞬時加速で接近戦に持ち込んだほうがいいじゃないのか?

そう思いながら、一夏の当たらない射撃を眺める。

やがて、肝心なところで一夏の白式がエネルギー切れとなり、鈴の衝撃法の直撃を受けて敗北した。





【Side 一夏】



俺は、さっきの鈴との試合の記録を見直す。

「はあ~………あと少しで勝てたのに………」

思わずそう零してしまう。

ここは男子用の更衣室。

因みに盾はさっさと着替えて行ってしまった。

何かアドバイス貰おうと思ってたのに。

盾のアドバイスは結構的確でわかりやすいんだよな。

後で相談しよう。

俺がそう思っていると、突然目の前が真っ暗になった。

「だ~れだ?」

聞き覚えのない女子の声が聞こえてくる。

誰かに後ろから目隠しされたようだ。

「えっ? 誰だ?」

全くわからない。

「はい時間切れ」

その誰かはそう言って俺の目隠しを解く。

俺は後ろに振り向こうとして、

「うっ?」

頬に何かが突き刺さった。

「ウフフ! 引っかかったな♪」

もう一度見直すと、そこには楽しそうな笑みを浮かべた見知らぬ女生徒がいた。

リボンの色からして2年生。

水色の髪とルビー色の瞳、整った顔立ち。

「…………あの~……あなたは………?」

俺がそう尋ねるが、

「それじゃあね~」

その女生徒は何も答えずに立ち去ろうとする。

すると、立ち去り際に、

「君も急がないと、織斑先生に怒られるよ~?」

そう言って今度こそ立ち去った。

はあ?

何だったんだ? 今の人?

そこで、ふと最後に言った言葉が気になった。

千冬姉に怒られる?

俺は改めて時間を確認する。

「…………うおわぁぁぁぁぁぁっ!?」

とっくに次の授業の時間だった。





【Side Out】







授業に遅れてきた一夏が織斑先生に必死に弁明している。

「ほう? 遅刻の言い訳は以上か?」

織斑先生の凄まじく重いお言葉。

「いえ、だから、あのですね。 見知らぬ女生徒が………」

その見知らぬ女生徒っていうのは、刀奈の事なんだろうな。

俺はそう言えばそんなイベントもあったなと内心納得する。

だが、そんな事を知らない織斑先生は、

「そうか! お前は初対面の女子との会話を優先して授業に遅れたのか!?」

有無を言わさぬ言葉にたじろぐ一夏。

「ち、違います!」

一夏はそう言うが、織斑先生はシャルロットの方に振り向くと、

「デュノア! 高速切替ラピッドスイッチの実演をしろ!」

そう言った。

「ええっ!?」

一夏が驚くが、シャルロットは無言でゆっくりと立ち上がり、前に出て行く。

そして、ニッコリと一夏に笑いかけ、

「それでは、実演を開始します」

そう言うと同時にISを展開。

アサルトライフルを一夏に突きつける。

「あ、あの………シャルロット………さん?」

「何かな? 織斑君」

顔は笑っているが、目が全く笑っていない。

「ひ、ひぃ………」

「始めるよ! リヴァイヴ!!」

銃声と悲鳴が教室に響き渡った。

それにしてもシャルロットよ。

そういう事するから一夏はお前の好意に気付かないと思うんだがなぁ………

まあ、それはヒロイン全員に言えることか。

一夏の悲鳴を聞きつつ、そんな事を考えるのだった。






そのあと全校集会があったのだが、原作通りだったと思う。

各部対抗織斑一夏争奪戦が発表され、ほぼ全員がやる気満々だった。

で、ウチのクラスの出し物だが、これも原作通り『ご奉仕喫茶』となった。

放課後になり、いつものように刀奈の特訓に行こうとした時、刀奈から連絡が入り、

「今日は第三アリーナでやるから先に行って待ってて」

と言われた。

第三アリーナといえば、よく1年生が使っているアリーナだったよな?

俺は少し不思議に思いつつも、第三アリーナへ向かった。






【Side 楯無】




私は、一夏君が職員室から出てくるのを待つ。

そして、彼が出てきたところで声をかけた。

「やあ!」

私に呼びかけられ、彼は私の方に振り向く。

「生徒会長………さん?」

「水臭いなぁ、楯無でいいよ」

私はフレンドリーに言葉を掛ける。

「何の用ですか?」

彼は疑い深そうにしながらそう聞いてきた。

「当面、私が君のISコーチをしてあげる」

私は直球に要件を伝える。

「えっ? 何でですか突然。 コーチは一杯いるんで、間に合ってます」

困惑しつつもそう返してくる彼。

「でも君は、未だに弱いままだよね?」

私がそう言うと、

「ッ………それなりは弱くないつもりですが!」

彼はムキになってそう強がった。

自分の弱さも認められないなんて、盾とは大違いね。

「ん~ん。 弱いよ。 無茶苦茶弱い」

「ッ!」

私の言葉にカチンときた彼が私の方に振り向こうとした瞬間、扇子を目の前に突きつけてあげた。

「だから、ちょっとでもマシになるように、私が鍛えてあげようというお話」

これは完全に彼を挑発する言葉。

「そこまで言いますか!?」

思った通り怒って私に怒鳴りかかってくる。

「ええ言うわよ。 自分の弱さも認められない自惚れ屋さん」

「何ですって!」

「私には1人コーチをしてあげてる子がいるんだけど、その子は少なくとも今の君よりかは実力があるわ。 だけど、その子は自分が強いなんて一言も言わない。 むしろ、弱いと思い続けてる。 その子と比べれば君は紛れも無く自惚れ屋さんよ」

私は盾の事を踏まえてそう言った。

「じゃあ、勝負です。 俺が負けたら俺が負けたら、何でも従います!!」

私の計画通り、上手く乗ってくれた。

チョロいわね。

「ん。 いーよ。 ただし、相手は私じゃないわ」

「えっ?」

「今言った私がコーチしてる子が君の相手。 私が相手してもいいんだけど、それじゃあ君が勝つ確率が0だからね。 少しでも可能性をあげるよ」

「そんなの結構です!」

彼はムキになってそう言う。

やっぱり子供だねぇ。

「そういうセリフは、まずはその子に勝ってから言ってもらおうかな?」

そう言って私は第三アリーナへ彼を招待した。





【Side Out】





俺がISスーツに着替えて指示されたアリーナのピットへ向かうと、

「遅い!」

「一夏の奴何してるのよ!?」

いつもの5人が不機嫌そうに一夏を待っていた。

今頃一夏は刀奈に絡まれてるんだろ?

そう思いながらピットの隅にあるベンチに腰掛け刀奈を待つ。

すると、

「む? 珍しい奴がいるな」

ラウラが俺に気付き、そう言った。

「あら? 無剣さん」

「本当に珍しいね」

「なんでアンタがこんな所にいるのよ?」

それぞれが俺がここにいる事を不思議に思う言葉を口にする。

「別に、俺のコーチから今日はこっちのアリーナで特訓をすると聞いただけだ」

俺はそう答える。

「はん! 才能の無いアンタが少々特訓したって、タカが知れてると思うけどね!」

鈴よ、悪気は無いのかもしれんが、その言い方は相手に不快感を与えるぞ。

俺は鈴の言葉をスルーする。

すると、

「一夏!」

箒が大きな声で言う。

見れば、ISスーツに着替えた一夏が刀奈と一緒にピットに入ってきた。

「い、一夏!? 誰だその女は!?」

一夏はそう詰め寄られるも、それを無視し、

「それで楯無さん。 俺の相手は誰ですか?」

一夏が不機嫌そうにそう尋ねる。

「あら? さっきからそこにいるわよ」

そう言って刀奈は、閉じた扇子で俺を指す。

「盾?」

一夏は、呆気に取られた表情で俺を見る。

一体何のことやら。

すると、刀奈は俺に歩み寄ってきて、

「盾、今日のメニューは、一夏君との模擬戦よ」

「は?」

刀奈から言われた言葉に、俺は思わず声を漏らした。

その時、

「ほう。 面白そうな話をしているな?」

そう言って現れたのは、織斑先生と山田先生。

今日のこのアリーナの管理係はこの2人のようだ。

「わぁ~。 織斑君と無剣君が戦うんですか? 男子同士見所がありそうですね?」

山田先生が興味津々にそう言う。

俺は改めて一夏を見る。

「一夏と試合か………」

才能の塊の一夏に俺が敵うとは思えんのだが…………

俺の心配を察したのか、

「大丈夫大丈夫。 今の盾なら8割の確率で楽勝だから」

刀奈があっけらかんと行ってくる。

おい、そんな事言ったら。

「ちょっと! 今のは聞き捨てならないわね! 一夏がコイツに負けるですって!?」

早速鈴が食いつく。

「一夏さんを侮辱するにも程がありますわ!」

次にセシリアが。

「一夏はそんなに弱くないよ!」

シャルロットも。

「一夏が負けるものか!」

箒が。

「嫁は強いぞ!」

そしてラウラが。

全員が刀奈に食ってかかる。

一夏も頭にきていたのか、俺をキッと睨むと、

「悪いが盾、手加減は無しだ!」

そう言う一夏。

俺は思わず溜息を吐く。

「一夏! 実力の違いを見せてやりなさい!」

「一夏さんなら間違いなく勝てますわ!」

「頑張れ! 一夏!」

「負けたら承知せんぞ!」

「勝ってこい! 一夏!」

一夏ラヴァーズに激励されながらカタパルトに移動する一夏。

そして、白式を展開し、

「みんな! 行ってくるぜ!」

そう言って発進した。

一夏が発進したのを確認して俺もカタパルトへ向かう。

途中、刀奈が寄ってきたので、

「おい楯無。 あそこまで挑発する必要があったのか?」

思わずそう尋ねる。

「まあ、全力を出してくれないと、後で言い訳されたら面倒だし」

刀奈の言葉に溜息を吐く。

「例えお前の話が本当だとしても、一夏は主人公体質だからなぁ………2割の勝率を掴みそうで怖いよ………」

俺は思わずそう漏らした。

それを聞くと、刀奈は微笑む。

カタパルトの前で立ち止まった俺に向き直り、

「じゃあ私が、残り2割の勝率を埋めるおまじないをしてあげる………」

刀奈はそう呟き、両手で俺の顔を挟むと顔を近付け、

「んっ…………」

目の前に広がる刀奈の顔と唇の柔らかい感触。

「「「「「「ああっ!?」」」」」」

周りからの叫び声。

数秒して刀奈は離れる。

「ばっ………おまっ………人前でっ………」

人前で堂々とキスされたことに、顔を熱くさせる俺。

きっと今の顔は真っ赤だろう。

「フフッ。 勝利の女神のキスよ」

刀奈も頬を赤くしつつそう言う。

赤くなるぐらい恥ずかしいならやるな!

「あ~も~! ここまでされたら絶対に勝つしかねえじゃねえか!」

「その意気よ、盾!」

俺はカタパルトの前に立ち、右手の腕輪に呼びかける。

「行くぞ! 空!!」

(おっけー! お兄ちゃん!!)

空の返事と共にISが展開される。

身に纏うのは、二次移行した打鉄・不殺。

「「「「「「「なっ!?」」」」」」」

今までと違う打鉄に皆が驚いている。

「打鉄・不殺。 行くぜ!!」

そう言ってカタパルトから発進した。





【Side 楯無】




発信する彼を見送る。

彼は勘違いしてたけど、楽勝の確率が8割なだけで、勝つ可能性は99%なんだけどね。

すると、

「おい更識」

思った通り織斑先生が声をかけてくる。

「なんでしょうか?」

私がそう聞き返すと、

「無剣のISは何だ?」

思った通りの質問が来た。

「あれは打鉄・不殺。 盾の打鉄が二次移行した姿です」

「訓練機が二次移行だと?」

「私が盾に聞いた話では、臨海学校時に盾は、篠ノ之博士に出会ったらしいです。 その中で博士に打鉄のデータを見せ、その際に枷を外したと言っていたらしいので、その時に封印を外されたものと思います」

「そうか………束の奴か……」

今の説明で納得する織斑先生。

「後は……その……何だ……? お前と無剣は…………」

言いたことがわかった私は、

「フフッ。 思っている通り、私と盾は恋人同士です」

私は扇子を広げて口元を隠しながらそう言う。

その扇子には、『相思相愛』と書かれている。

「「「「「「ええっ!!??」」」」」」

箒ちゃん、セシリアちゃん、鈴ちゃん、シャルロットちゃん、ラウラちゃん、山田先生が声を上げて驚く。

もっと驚かせて上げよう。

「もう少し言えば、お互いの両親公認なので、婚約者と言っても過言ではないですね」

「「「「「「えええええええええっ!!??」」」」」」

更に驚く皆。

うん、いい反応。

特に箒ちゃんたちは、一夏君との関係が進展してないから、恋人同士という響きには敏感だろうし。

「も、物好きな先輩も居たものね。 一体あいつの何処がいいのかしら?」

負けず嫌いな鈴ちゃんが、苦し紛れな一言を放つ。

だから私は逆に聞いた。

「逆に聞くけど、あなた達は一夏君の一部分だけを見て好きになったの? だったらやめといた方がいいわ。 それは彼を好きになったんじゃなくて、自分の理想に恋をしてるだけだから」

「「「「「なっ!?」」」」」

全員が殺気立つ。

「どういうことですか!?」

セシリアちゃんが叫ぶ。

「私は、“無剣 盾”っていう男性そのものを好きになったの。 彼の優しい所や格好いいところも。 情ない所やダメな所も。 全部ひっくるめて、私は彼が好き」

私はハッキリと言い放つ。

「「「「「っ!?」」」」」

「理想と現実が違えば、そこから瓦解していくわ。 彼の全てを受け止め、また私も全てをさらけ出せる。 それが本当の信頼関係よ」

私の言葉に、言い返す人はいない。

「まあ、今はそんなことより2人の試合だね!」

私はそう言って話の流れを打ち切り、モニターへと目を向けた。





【Side Out】





【Side 三人称】






アリーナの中央あたりで待つ一夏の前に盾は降り立つ。

案の定、一夏は二次移行した打鉄・不殺に驚いていた。

アリーナの観客席には、どこからか噂を聞きつけた数多くの女子生徒達がいて、両者に声援を送っていた。

「キャーーー! 織斑君頑張ってーーー!!」

「織斑君、ファイト!!」

「頑張って、一夏君!!」

訂正。

声援を送られてるのは一夏だけのようだ。

しかし、盾は全く気にした様子はない。

何故なら、盾にとって一番大切な女性である楯無が自分を応援してくれている。

そのたった一人の応援が、盾にとって万を超える声援に等しいのだ。

アリーナ中央で向かい合う盾と一夏。

「一夏、悪いがこの勝負は勝たせてもらう!」

盾にとっては珍しく、自信を持った声でそう言い放つ。

「へっ、そんな簡単に行くと思うなよ!」

一夏も不適に笑ってそう言う。

そして、試合開始のシグナルが点灯する。

一夏は雪片を青眼に構えるのに対し、盾は両腕を下ろした自然体な体勢をとっている。

――3

――2

――1

秒読みが刻まれる毎に緊張感が高まり、

――0

「うぉおおおおおおおっ!!」

ゼロと同時に一夏が雪片を振りかぶりながら突進した。

その瞬間、

単一仕様能力ワンオフアビリティ 不殺ノ刃ころさずのやいば、発動!!」

盾の打鉄・不殺が金の光に包まれる。

「ッ!?」

一夏は単一仕様能力ワンオフアビリティの発動に驚愕の表情を浮かべるが、直ぐに引き締め直し、億さずに剣を振り下ろしてくる。

剣を振り下ろそうとする一夏に対し、盾は自然体のまま動こうとはしない。

一夏は、一撃目が当たることを確信していた。

しかし

(飛天○剣流…………)

盾は、いつものイメージを思い浮かべていた。

「〇巻閃!!」

その瞬間、一夏の目には盾が忽然と消えたように映った。

「なっ!?」

空を切る剣。

「ど、何処に!?」

一夏は直ぐに盾の姿を探す。

すると、直ぐに見つかった。

盾は、一夏の後方約20mぐらいの所に、試合が始まる時と同じように自然体で立っていた。

「い、いつの間に!?」

一夏は驚愕する。

そして、シールドエネルギーを確認すると、70キッカリ減っていた。

「シールドエネルギーが減ってる!?」

衝撃も無かったため、どうしてシールドエネルギーが減っているのか不思議に思う一夏。

「どうした? 一夏」

挑発するように問いかける盾。

「くっ、うぉおおおおおおおおっ!!」

再び盾に向かって突進する一夏。

今度も盾は動かない。

そして、目の前で剣を振り下ろす瞬間、

「ッ!?」

今度は一夏には見えた。

一夏の剣が当たる瞬間、高速で回転しながら剣を躱し、そのまま後ろに回り込んで右腕から発生したエネルギーブレードで一夏の背中を斬りつけ、その直後、後ろ向きの瞬時加速イグニッション・ブーストで間合いの外に退避した。

「そういう事か!」

盾の動きを見切った一夏はニヤリと笑みを浮かべ、再び突撃する。

盾は先ほどと同じように一夏の剣を瞬時回転イグニッション・スピンによって、紙一重で躱す。

その瞬間、

「ここだ!」

一夏は左腕の雪麗をソードモードにし、後ろに回り込んだ盾に向かって突き出した。

「っと!」

それに気付いた盾は、攻撃を中断し、後ろ向きの瞬時加速イグニッション・ブーストで飛び退いた。

「ちっ! けど、今の戦法はもう通用しないぜ!」

舌打ちしつつも、一夏は自信を持って答える。

「ま、流石に3回連続同じパターンに引っかかる奴はバカだからな。 じゃあ、かかってこいよ」

盾は一夏の言葉にも全く動揺せずにそう返す盾。

「言われなくても!」

その言葉と同時に飛び出す一夏。

一夏は、盾の攻撃パターンは回避して反撃が主だと判断した。

その為、二刀流で反撃の隙を無くせば、何れは勝てると判断したのだ。

盾に回避させるため、手加減した一撃で斬りかかる一夏。

だが、

――ガキィ!

「なっ!?」

盾は今度は回避せずに、左腕の巨大な実体シールドで雪片を受け止めた。

予想外の事に、一夏の動きが一瞬止まる。

「はっ!」

盾はそのまま左腕を外に向かって振り回し、一夏の剣を弾く。

「なっ!?」

右腕が横に広げられ、無防備な姿を晒す一夏。

その瞬間、

「龍翔!!」

盾が瞬時加速イグニッション・ブーストで急上昇すると同時に切り上げる。

「龍槌!!」

空中で跳ね返るように瞬時加速イグニッション・ブーストで急降下に転じ、上空から斬りかかる。

「ぐあっ!? くそっ!」

焦った一夏は咄嗟に反撃に出るが、

「〇巻閃!!」

先ほどと同じように瞬時回転イグニッション・スピンで一夏の後ろに回り込み、斬撃を食らわせた。




その頃、ピットでは、驚愕に包まれていた。

箒達は、一夏の圧倒的な勝利で終わると考えていた。

しかし、蓋を開けてみれば、一方的に一夏が攻められ続けている。

彼女達にとっては信じられない事だった。

「い、一夏! 何をやっている!?」

「何やってるのよ一夏! しっかりしなさい!!」

箒と鈴は一夏に激を飛ばすが、

「そ、それは無理だよ………圧倒的に無剣君の方が上回ってる…………」

「ク………相手の戦力を見誤ったということか………」

冷静なシャルロットとラウラは現実を受け止る。

「き、きっとあいつの単一仕様能力ワンオフアビリティに何か秘密があるのよ! そうじゃなきゃ、一夏が無剣なんかに一方的にやられるわけがないじゃない! 何とかあいつの単一仕様能力ワンオフアビリティの正体を突き止めないと………」

鈴が苦し紛れにそう言う。

すると、

「盾の単一仕様能力ワンオフアビリティの効果? 別に教えてあげてもいいよ。 知られたからって不利になる訳でもないし」

楯無が信じられないことを言った。

「彼の単一仕様能力ワンオフアビリティ不殺ノ刃ころさずのやいば。 実ダメージをスタンガン程度に落として、エネルギー自体に直接ダメージを与える能力よ。 相手の防御力を無視してシールドエネルギーにダメージが与えられるから、防御力が高い相手には有利になるけど、白式ぐらいの防御力なら、逆に不利になる能力ね」

楯無が能力について説明する。

「じゃ、じゃあ、なんでわざわざ不利になるような能力を発動してるのよ。 それだったら使わないほうがいいじゃない!」

納得できない鈴が食ってかかる。

「答えは簡単よ。 彼は優しいのよ……………臆病と言っていいほどにね」

楯無はモニターに映る盾を見つめる。

「あなた達は、ISで使っている武器が、人を殺せる兵器だってことを、ちゃんと理解してる?」

楯無は真剣な表情で問いかける。

「そ、そんなの当然じゃない!」

鈴は、楯無の雰囲気に物怖じしそうになるものの、そう答える。

「そう………なら、なんであなた達は、試合で武器を人に向かって平気で使えるの?」

「はぁ? そんなの絶対防御があるからに決まってるでしょ? いくら武器を使ったって、絶対防御があれば死にはしないわよ!」

「ふーん。 じゃあ、何かの拍子に絶対防御が発動しなかったら? そういう事を考えたことはある?」

楯無の言葉に、全員の息が詰まる。

「…………彼は考えてるのよ。 そういうところをね」

楯無は、再びモニターの盾を見つめる。

「それなら、今無剣さんが一夏さんを追い詰めているのは…………」

セシリアの言葉に、

「純粋に、彼が今まで培ってきた努力の結果よ」

楯無がそう答えた。

「無剣さんに、これほどの才能があったなんて………」

セシリアが驚きで声を漏らした。

すると、

「“才能”………? アハハハ………」

楯無がまるで馬鹿にするような笑みを零す。

「なっ、何がおかしいんですの!?」

楯無の笑いにカチンときたセシリアが聞き返す。

「彼の努力を、“才能”の一言で片付けないで欲しいなぁ………」

意味深げに呟き、セシリアを見る楯無。

「彼に才能なんて無いよ。 今のIS学園で………ううん、歴代のIS学園の生徒の中でも、ダントツに才能が無いと言い切れるよ」

「そ、それならば何故!?」

新たな疑問に声をあげるセシリア。

「だから言ったでしょ? 努力の結果だって。 彼は最初、自分と一夏君の才能の差をこう例えたわ。 一夏君が真面目で頑張り屋のうさぎ。 自分が怠け者のカメだってね。 一夏君の才能はうさぎだから、ドンドン前に進んでいく。しかも、あなた達が後ろから突っついてるから、更に前に進んでいく。 けど、盾は怠け者のカメ。 自分から前に進もうとは思わないし、あなた達が一夏君にやってる程度の突っつきじゃ、カメは自分の甲羅に閉じこもるだけで、全然前には進まない。 そんな怠け物のカメを真面目で頑張り屋なうさぎに勝たせるにはどうすればいいと思う?」

その場にいる全員に問いかける楯無。

困惑する箒達。

すると、

「答えは、蹴っ飛ばす。 カメの事なんて気にせずに思いっきりね。 それで偶々彼はその蹴りに耐えられるだけの甲羅を持ってた。 それだけの事よ」

楯無はそれだけ言うと、モニターに視線を戻した。




「そこだ!」

盾がバスターを連射し、一夏にダメージを与えていく。

「くそっ! お返しだ!!」

一夏も左腕の荷電粒子砲で反撃した。

「ッ!?」

爆発に包まれる盾。

「よし! このまま押し切る!!」

その場で荷電粒子砲を連射し、爆発が更に大きくなる。

ある程度の所で一夏は中断し、

「やったか!?」

何げにフラグを立てる一言を呟いた。

爆煙が晴れていくと、

「着弾も確認せずに適当に乱射。 典型的な素人撃ちだな、一夏」

シールドを構えた状態で盾が立っていた。

シールドエネルギーも、ほとんど減っていない。

「なっ!?」

驚愕する一夏。

すると、盾は左腕を真っ直ぐ一夏に向け、

「終わらせるぞ、一夏」

左腕の巨大シールドが量子変換され、代わりに巨大なアンカーユニットが装着された。

「行け! ガンドロ!」

一夏に向かって射出されるアンカーユニット。

「げっ!?」

成す術なくアンカーに捕られられた一夏。

「はぁあああああああっ!!」

盾は左腕を思い切り振り上げ、ワイヤーによって繋がっていたアンカーユニットを一夏ごと振り上げる。

「うわぁあああああああああっ!!」

振り回され、悲鳴をあげる一夏。

そこで盾はワイヤーを引き戻し、一夏を引き寄せる。

無防備に引き寄せられる一夏に向かって盾はあらかじめチャージしておいたバスターを突き出し、

「フルチャージで…………決めるっ!!」

フルチャージショットを放った。

「うわぁああああああああっ!!??」

光の濁流に飲み込まれる一夏。

そしてブザーが鳴り響き、

『勝者、無剣 盾』

盾の勝利が決定した。







あとがき


第二十一話の完成。

やっと書きたいところが書けた!

努力が才能を超えた瞬間です。

あと、鈴が今回悪者になってしまったみたいなので、鈴ファンの皆様にはすみません。

まあ、一夏もこのままでは終わりません。

才能だけはありますから。

というわけで次もお楽しみに。




[37503] 第二十二話 特訓風景と一夏ラヴァーズ急襲………まあ、予想通りだが
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/11/02 13:22

第二十二話




俺は、白式が強制解除された一夏に近寄る。

「大丈夫か? 一夏」

俺はそう言いながら倒れた一夏に手を差し伸べる。

「あ………ああ…………痛みは全然無いから大丈夫だ」

一夏は若干呆気に取られた表情で俺の手を取る。

俺はその手を引っ張って一夏を立たせる。

「それにしても盾…………お前無茶苦茶強いじゃねえか!?」

いきなりそう叫ぶ一夏。

「いきなり叫ぶな、ビックリするだろ?」

俺は一夏の言葉を受け流しつつそう返す。

「それに俺は強くなんかない」

「何言ってんだ!? 俺をほぼ完封で倒したクセに!」

「それは今はお前よりも弱くなかったってだけの話だ。 少なくとも、俺は楯無に勝てるまでは、自分が強いと言うつもりはない。 ま、楯無に勝てる日が来る可能性は低いがな」

「………………楯無さんって、どんだけすごいんだ?」

「少なくとも、織斑先生を除けば学園最強だぞ。 生徒会長は最強の証でもあるし」

「……………………」

俺の言ったことに、言葉を失う一夏。

「まあ、楯無の訓練はキツイが、教えるのは旨いしコーチしてもらうことは損にはならないぞ。 まあ、俺に負けたから、どちらにせよコーチを受ける事になるんだがな」

「うぐっ………」

俺の言葉に思わず声を漏らす一夏。

「まあ、とりあえず戻ろうぜ、みんな待ってるだろうし」

「あ、ああ………」

そう言って、俺達はピットへ戻っていった。



俺達がピットへ戻ると、

「おかえり~」

笑顔の刀奈と、

「「「「「むぐぐ……………」」」」」

なにやら悔しそうな一夏ラヴァーズの5人。

「やれやれ…………」

呆れ顔の織斑先生に、

「すごいです! 無剣君! 先生驚いちゃいました!」

素直に俺を賞賛してくれる山田先生だった。

すると、刀奈は一夏の前に立ち、

「これで文句ないわよね。 一夏君♪」

イタズラが成功したような笑みを浮かべて刀奈が言った。

すると、

「はい………文句はありません………いえ、むしろこちらからお願いします! 楯無さん!」

一夏はいきなり頭を下げながらそう言った。

「うんうん。 一夏君が素直になってくれて、おねーさん嬉しいな」

楯無はそう言ってひと呼吸置くと、

「とりあえず今日は思うところがあるだろうからしっかり反省すること、明日から特訓を始めるから、覚悟しててね」

「分かりました」

一夏が頷く。

「盾はこれからいつものメニューね」

「ああ」

多分そう言われるだろうと予想していた俺は、特に驚きもせずに頷いた。

「あの、楯無さん………」

すると、一夏が声をかけてくる。

「何かな? 一夏君」

「盾の特訓を見学していってもいいですか?」

そんな事を言う一夏。

「別に構わないわよ。 特に特別な事をやっているわけでもないし」

刀奈はそう言って許可する。

すると、

「ならば、私達も見せてもらおうか。 お前がどのようにして無剣にあそこまでの実力をつけさせたのか、興味がある」

「そうですね。 私も気になります」

織斑先生と山田先生までもがそう言ってきた。

俺は、刀奈が直ぐにOKを出すかと思っていたが、少し考える仕草をした。

そして、

「構いませんが、条件があります」

「条件?」

「はい。 私達の特訓に口を出さないでください。 これはほぼ毎日行っていることなので、心配いりません」

「ふむ………まあいいだろう」

織斑先生は少し思案するが、直ぐに頷いた。

「あなた達はどうする?」

刀奈はこの際とばかりに一夏ラヴァーズに尋ねる。

「もちろん見せてもらいます」

「わたくしも気になりますわ」

「見てやろうじゃないの」

「僕も興味あります」

「どれほどのものか、見せてもらおう」

結局全員が見ていくことになった。

ギャラリーが多いとちょっと緊張するな。

俺はそう思いつつアリーナに出る。

一夏達も観客席から見学している。

刀奈も今回は観客席から指示するようだ。

「それじゃあいつもの通り………」

一夏達は、どのような特訓が始まるのかと緊張した面持ちでこちらを見ている。

「ISの展開収納100回からね♪」

「おう」

そう言った瞬間、一夏達がズッコケているのが見えた。

「そこからですか!?」

セシリアが思わず刀奈にそう叫んでいた。

「俺はバカだから、毎日繰り返しやらないと、やり方忘れちまうんだよ」

俺はそう言って展開収納を繰り返す。

最初はこれだけで30分ぐらいかかっていたのだが、今では5分以内で完了出来る。

しかし、

「盾、いつもより無駄が多いよ。 ペナルティはアリーナ5周ね。 もしかして緊張してる?」

「まあ、多少は」

少なからず見られていることを意識してしまうため、いつもよりもペナルティを多くもらってしまった。

俺はISのPICをOFFにしてアリーナの壁際を走る。

このぐらいはいつものことなので、この程度で息が上がったりはしない。

「はい、次はシールドとアンカーの量子変換100回!」

「おう」

俺はそう言って、左腕のジガンとガンドロを交互に量子変換する。

二次移行前は、武器の展開収納だったのだが、二次移行後は搭載武器が無くなったため、このようになっている。

「次は飛行訓練だよ!」

俺は何時も通り、刀奈の指示に従いメニューをこなしていった。




【Side 楯無】




私はいつものメニューを盾に指示していく。

すると、

「なんていうか……妙に基礎的だな」

最初に一夏君がそう言う。

「基礎的って言うより、完全に基礎だよ」

次にシャルロットちゃん。

「応用は行わないんですの?」

セシリアちゃんがそう訪ねてくる。

それに対し私は、

「言ったでしょ? 盾に才能なんか無いって。 盾は応用を教えても、覚えることはできないのよ。 自分で編み出さない限りね」

「そんなの嘘よ! だって、さっきの模擬戦でも、瞬時加速や瞬時回転なんて高等技術を使ってたじゃない!」

「自分で編み出さない限りは、ね。 瞬時加速は偶々教えたイメージが彼に合っていただけだし、瞬時回転は彼自身が編み出したものよ。 気付かなかった? さっきの模擬戦でも、瞬時加速と瞬時回転以外は、これといって特別な応用技は何一つ使ってないのよ? あと、後ろ向きの瞬時加速は打鉄・不殺の特性よ」

「た、確かに言われてみれば……」

「単純な動きばかりだったな」

箒ちゃんとラウラちゃんが納得したように頷く。

「才能のない彼が勝つには、基礎能力で圧倒するしかないのよ。 知ってる? 今の彼の基礎能力は、代表候補生にも匹敵するのよ」

その言葉に驚愕する一夏君達。

「所で更識さん?」

山田先生が話しかけてきた。

「何でしょう?」

「先程から無剣君全く休んでいなんですけど、休憩時間は無いのですか?」

「はい、ありません」

「えええっ!!??」

私の言葉に山田先生は驚愕する。

「そんな! さっきから本格的に体力を使っているのに、休憩も無いなんて何考えてるんですか!?」

一夏君が叫んでくる。

「怠け者の亀を勝たせるには、蹴っ飛ばすしかないの。 才能のある君にはわからないかもしれないけど、彼にはいくら時間があっても足らないわ。 君達みたいな才能に恵まれた人は1を聞いて10を学ぶ。 凡人は10を聞いて10を学ぶ。 だけど、彼みたいな才能の無い人は、10を聞いてようやく1を学べるの。 だから、限られたアリーナの使用時間の中では、休憩してる暇なんてないの」

「でも! だからって…………こんなの盾らしくないぜ」

その言葉は、許せなかった。

「盾らしくない? あなたは彼の何を知っているの?」

私は思い出す。

クラス代表決定戦の日。

彼の心の奥底に秘めた本心を。

「彼の演じていた外面だけしか知らないあなたが、彼の全てを知ったような気にならないで!!」

私の迫力に押されたのか、一夏君は押し黙ってしまう。

「あなた達には分からないでしょうね。 エリート集団の中に放り込まれた落ちこぼれの気持ちなんて」

私は言葉を続ける。

すると、

「待ってください! わたくしたちのような代表候補生はともかく、一般生徒はエリートではありませんわ!」

セシリアちゃんが私の言葉に反論する。

でも、

「その認識は間違ってるわセシリアちゃん。 普通、IS学園に入れる人の中には、エリートじゃない人なんていないわ」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

私の言葉に、皆が声を漏らす。

「何の為の入学試験なの? IS適性や才能、実力がある人を見極めるためでしょう? 毎年入学枠を何倍も超える人達が試験を受けに来て、その中の限られた人だけが本来入学できる。 だからIS学園の生徒はみんな凡才以上の才能を持った人か、もしくは昔から英才教育を受けてきた実力のある人よ。 そんな集団の中に『男だから』という理由だけで放り込まれた盾の気持ちが、あなた達に分かる?」

「そ、それは俺だって…………」

一夏君が、反論しようとするが、

「君には偶々才能があった。 それだけよ」

「お、俺に才能なんて…………」

その言葉には私も呆れかえる。

「一夏君、なんでISの起動時間が30分にも満たない人が、数百時間を超える代表候補生に勝つ事ができるの? それが才能と言わずに何て言うの? 盾は、1週間練習を続けた上で、一方的にやられたんだけど?」

「そ、それは…………」

「まあ、才能がある割には詰めが甘いみたいだけど…………君が今まで勝ち続けられたのだって、盾のお陰と言えなくはないし」

今までの一夏君の戦いのデータを見せてもらったけど、一夏君が勝っている戦いは、盾が何かしら関係している。

「な、なんでそこであいつの名前が出てくるのよ?」

鈴ちゃんが不満げにそう漏らす。

まあ、気付かないのも無理ないかな?

「言葉の通りよ。 盾が居なかったら、一夏君は何一つ勝利を得ることは出来なかった」

「そんな事ありませんわ! 現に一夏さんはクラス代表決定戦において、わたくしに勝っています!」

私の言葉に一番に反論したのはセシリアちゃん。

だけど、

「それは盾が先に戦ったからよ。 私も後で気付いたことだけど、あの時の盾の戦い方は勝とうとする戦い方じゃなかった。 少しでも戦う時間を引き伸ばし、セシリアちゃんの手の内を少しでも多く暴こうとした。 次に戦う一夏君の為にね。 初見殺しのミサイルビットに反応できたのも、盾のおかげよ。 つまり盾は、一夏君のために、自ら捨石になることを選択したの」

「な…………」

「待ちなさい! 私の時は無剣はいなかったわよ!」

次に鈴ちゃんがそう主張する。

「ん、確かにあの時、敵を倒したのは一夏君と鈴ちゃんの力よ」

私がそう言うと、鈴ちゃんはフフンと自慢げな顔をする。

「けど、あの時盾が居なかったら、箒ちゃん死んでたよ」

「「「なっ!?」」」

一夏君、箒ちゃん、鈴ちゃんの3人が驚愕の声をもらす。

「ど、どういうことですか!?」

一夏君が焦った表情で問いかけてくる。

「逆に聞くけど、何であの時箒ちゃんに向かって撃たれたアリーナのシールドを貫通するほどの攻撃が中継室の窓を割るだけで済んだと思ってるの?」

「そ、それは一夏の攻撃が、シールドを完全に貫通するより早く相手の腕を断ち切ったからで………」

「はずれ。 本当は盾が身体を張って箒ちゃんを庇ったからよ。 あなた達は、箒ちゃんに気を取られすぎて、爆煙の中から落下した盾に気付かなかったみたいだけどね」

「そ、そんな…………」

私はそのままシャルロットちゃんとラウラちゃんに視線を向ける。

「シャルロットちゃんとラウラちゃんの時は言うに及ばず。 試合中では終始ラウラちゃんと盾のチームに押されてたし、あのまま試合が中断しなければ、十中八九ラウラちゃんと盾のチームが勝ってたわよ。 その後の出来事も、盾が身体を張ってなければ、どうなってたかわからないわよ。 夏の臨海学校の時も同じね」

「「「「「「……………」」」」」」

気付いていなかった真実に、みんなは言葉が出ないみたい。

「話がズレちゃったけど、彼の本心は強くなりたいと願っていた。 だけど、彼は自分の為に努力ができない人間だった。 だから私が無理矢理にでも努力させることにしたの。 実際、彼は私の特訓に文句は言っても、決して逃げ出すことはしなかったわ。 まあ、今は私の為に強くなろうと自分から努力してくれてるけど」

「おい更識」

と、そこで今まで話を静観していた織斑先生が口を開いた。

「まさかとは思うが、お前が無剣と恋人同士というのは、あいつを努力させるための方便…………」

織斑先生が言わんとしていたことに気付いた私は、反射的に扇子を開いて織斑先生の首元に突き付けていた。

でも、完全に突き付ける前に、織斑先生の片手の人差し指と親指で挟んで止められていた。

「「「「「「「ッ!?」」」」」」」

突然の出来事に、一夏君達が息を呑むのが分かった。

「織斑先生…………それは私に対する侮辱ですか?」

私は織斑先生の目を殺気混じりに見つめながらそう言った。

織斑先生は、やれやれと一度ため息を吐くと、

「失言だったことは謝るが、教師を威嚇するな、馬鹿者」

織斑先生は、あっさりと私の殺気を受け流す。

ちょっと悔しい。

「まあいい。 どうやらお前の無剣に対する気持ちは本当のようだな」

「もちろんです」

織斑先生の言葉に、即答する私。

「やれやれ…………その素直な所をどこぞの5人に見習わせたいぐらいだ」

織斑先生がそう言うと、『どこぞの5人』がビクリと震える。

「?」

やっぱり一夏君は分かってないようだけど。

「それから、不純異性交遊はするなよ」

「それも問題ありません。 私達の関係は不純ではないので」

織斑先生の言いたいことはわかったけど、そう言っておく。

って言っても、もう手遅れなんだけどね。

「やれやれ………」

織斑先生は、大きく溜息を吐いた。




【Side Out】





アリーナの使用限界時間が終わりに近づいていたとき、俺はアリーナの地面にぶっ倒れていた。

刀奈との模擬戦で、今日も惨敗したのだ。

相変わらず、向こうのシールドエネルギーを3分の1減らすだけが精々だ。

「はい、今日の特訓終了!」

刀奈がそう言うと、俺はISを解除し立ち上がる。

2人一緒にピットに戻ると、一夏達が驚愕の表情で詰め寄ってきた。

「お前、こんな特訓を毎日続けてるのか!?」

「シャレにならない密度と練習量じゃない! よく体が持つわね!」

「国家代表相手にあれだけ戦えるなんて信じられませんわ!」

一夏、鈴、セシリアの順番だ。

因みに刀奈相手にあれだけ戦えるのは、毎日戦っているおかげで、ある程度刀奈の次の行動が予測できるからだ。

ゲームで何回もコンテニューして、ボスのパターンを記憶してその内勝てるようになるのと同じようなものだ。

多分一夏ラヴァーズと戦えば、ボロ負けするぞ。

2、30回戦えば、ある程度戦えるようになるとは思うが。

因みに一夏は動きが単純過ぎたので読みも楽だった。

「まあ、安心しなさい。 一夏君にはあそこまでやらないから…………と言うより、やったら確実に身体を壊すから。 あれは盾だから出来る練習量だからね」

まあ、それがある意味俺の才能だな。

「は、はい………」

俺の特訓内容を見て、明日からの生活に不安が出てきたのか、一夏の表情は優れない。

「安心しろ、一夏」

「じゅ、盾………?」

そんな一夏に俺は、

「死にはしない」

追い打ちをかけた。

「果てしなく不安になるんですけど!?」

そんな一夏の反応をスルーしつつ、俺達は自分たちの部屋へと歩き出した。





部屋へと戻る道すがら、俺は刀奈から俺達が恋人同士だということをバラした事を聞いた。

この後の展開が読めた俺は溜息を吐く。

部屋に戻ってしばらくすると、

――コンコン

この部屋に珍しく………というより、初めての来客を告げるノックが鳴った。

俺は、やっぱきたかと思いつつドアを開ける。

「は~い」

ドアの向こうにいたのは、やはりというか一夏ラヴァーズの5人。

「夜分遅くに申し訳ありません。 ちょっとご相談したいことがありまして………」

セシリアが代表してそう言う。

「まあ、なんとなく予想はつくが…………とりあえず入れよ。 狭い部屋だが」

俺は5人を部屋の中に招き入れる。

「いらっしゃ~い」

刀奈も楽しそうに笑い、扇子を広げた。

そこには『計算通り』の文字が。

どっかの新世界の神か?

俺と刀奈はベッドに座り、5人は床に正座している。

因みに刀奈は俺の腕に抱きついている。

「で? 相談とは?」

俺はわかっていながらもそう聞く。

「そ、その前に一つ確認しておきたいのだが…………その、2人がここ、恋人同士というのは、本当なのか?」
箒が若干顔を赤らめつつそう訪ねてきた。

「ああ」

「本当よ」

俺と刀奈は即答する。

「で、今の質問で確信したから言うが、相談というのは一夏のことか?」

「「「「「うっ………」」」」」

その反応で図星だということが分かる。

俺はやれやれと思いつつ口を開く。

「そんなもん、ストレートに告白しろよ」

俺は思ったことを口にする。

「そ、そんな簡単に言わないでよ! それならあんたは一体どうしたのよ!?」

恥ずかしさからか、顔を赤くして叫ぶ鈴。

「あら? 盾はストレートに告白してきたわよ。 『あなたが好きです』ってね」

「「「「「ッ!?」」」」」

5人は驚いた顔で俺を見る。

俺がストレートに告白して悪いか!?

「俺と楯無の話を聞いても、一夏に関しての参考にはならんと思うぞ」

「そ、それでも! 何かヒントになるかもしれませんわ!」

セシリアが声を上げる。

「まあ、話すのは構わないんだが…………どこから話すんだ?」

「出来れば、2人の出会いから付き合うまでを詳細に!」

シャルロットが詰め寄る。

必死だな。

「いいけど………俺達の出会いというか、関係が始まったのは、オルコットさんとのクラス代表決定戦が決まった時「ちょっと待ってください」ん?」

話し出そうとしたら、いきなりセシリアに止められた。

「わたくしのことは、セシリアで構いませんわ」

「そうか? ならそうさせてもらうけど」

セシリアが名前で呼んでいいと言ってきた。

すると、

「私も箒で構わん」

「『凰さん』何て同年代に呼ばれると、背中がムズムズするのよ。 私も鈴でいいわ」

「僕も名前でいいよ」

「私も特別に名前で呼ぶことを許可しよう」

他の4人も名前で呼ぶことを許可してきた。

「ん。 じゃあこれからは名前で呼ばせてもらうぞ」

俺は気を取り直し、話を始める。

「楯無と関係が始まったのはセシリアとのクラス代表決定戦をやることが決まった次の日………入学早々の話だな。 俺が放課後にISの飛行訓練をしてたんだけど、全然うまくいかなくて墜落ばかりしてたんだよ。 で、そんな時にプライベートチャネルでアドバイスをくれたのが楯無だったんだよ。 まあ、その時は相手が楯無だってことは知らなかったんだが」

「私が盾に、興味を持った理由は、やっぱり名前かな?」

「名前………ですか?」

セシリアが不思議そうに呟く。

「なるほど、“楯無”と“無剣 盾”。 確かに対照的な名前ですね」

流石日本人の箒。

聞いて直ぐに意味が分かったらしい。

「まあ、元々“楯無”って名前は当主が受け継ぐ名前で、本来は鎧の名前だけどね。 でも、私の本名も盾とは対になってるから、やっぱり気になったんだよ」

「そ、そうなんだ………」

シャルロットが示し合わせたような名前に声を漏らす。

「で、話を続けるが、楯無と直接会ったのは、クラス代表決定戦の当日。 セシリアにボロ負けした後に休憩室で休んでたら、楯無が声をかけてきたんだよ」

「そこでちょっと強引に盾の本心を聞いてね、強くしてあげようと思ったのよ」

「で、そこからほぼ毎日特訓してたんだよ。 今思えば、その時から俺は楯無に惹かれ始めてたのかもな………」

俺達がそう言うと、5人は食い入るように俺達の話を聞いている。

「で、そこから数ヶ月は特訓ばかりで特に進展はなかったんだけど、臨海学校が終わった後だったね。 盾にやる気を出させるために、模擬戦で私に一撃与えたらご褒美をあげるって話になって…………」

「その時の俺は楯無に一撃入れるなんて不可能と思ってたから、適当にデートしてくださいって言ったんだよ」

“デート”という言葉に過敏に反応する5人。

「な、なるほど、特訓での賭け事か………」

「上手くすれば、一夏とも………」

なにやら呟いているが、話を続ける。

「で、その結果、今は十八番の瞬時回転が偶々うまくいって、偶然にも一撃与えられたんだ」

「それでその次の日曜日にデートしたんだよね」

「内容は省くが、そのデートの終わりに俺は初めて自覚したんだ。 俺は楯無が好きだって」

「そ、それでどうしたんですの!?」

セシリアを筆頭に期待に満ちた目で先を促す。

「ん、まあ、知っての通り、俺は自分に自信を持てない人間だから、どうせ俺を好きになってくれるわけないと初めから諦めてたよ………だけど、このまま何もせずズルズルと想いを引きずるのも女々しいと思ったからさ、振られる事前提でその場で告白したよ。 『あなたが好きです』ってね」

その言葉に、楯無ははにかんだ笑みを浮かべつつ頬を染めていた。

5人は目をキラキラさせている。

「それで想いが通じて、2人は晴れて恋人同士になったんですね?」

シャルロットが期待と確信を持ってそう聞いてきた。

ところがどっこい。

「それがね、盾は告白のすぐ後に、『答えはいいです。 分かりきってることですから』って言って、返事も聞かずに直ぐに逃げちゃったんだよね。 酷いよね~」

刀奈のその言葉で、5人のキラキラした目は一変、俺を非難するジト目に変わる。

「し、仕方ないだろ! 俺はダメ人間だから、こんな自分を好きになってくれる奴なんていないと思い込んでたんだから!」

俺は慌ててそう言う。

「まあ、私もいきなりの告白で混乱してたし、まともな返事が返せる状態じゃなかったんだけどね」

その言葉で幾分が非難の目は幾分か和らぐが、それでもまだ睨まれている。

「で、部屋に戻ったら、盾は何時もどおりだったんだけど、それまで以上に私と距離を置くようになってて、私は胸が痛くなった」

俯きながら悲しそうな雰囲気を出しつつ刀奈はそう呟く。

俺への非難の目が再び強くなった。

「自分でも、何でそんなに落ち込んでたのかわからなかったんだけど、数日後に薫子ちゃんに相談してもらってね、自分の気持ちと向き合うことにしたんだよ」

「それで、半ば強引にまたデートに誘われて、まるで一回目のデートの繰り返しみたいな事をしたんだ」

「それで、その最後にまた告白してもらって、それから私も答えを返したんだ。 『私も君が好き』って」

それを聞いた5人は、頬を染めながらまるで尊敬する人物を見つめるように刀奈を見ていた。

「それで晴れて恋人同士になったわけだ」

「「「「「…………………」」」」」

5人は黙りこくっていた。

「で? 話を聞いても、一夏の参考にはならんだろ?」

「た、確かにそうかもしれないけど…………そうだわ! アンタは同じ男として、どうすれば一夏を振り向かせることができるか考えなさい!」

鈴が叫ぶ。

そうきたか。

「ん~、まあ、俺の勝手な考えだからあまり当てにはするなよ。 まず全員に言えることだが………」

「「「「「全員に言えることだが?」」」」」

「嫉妬したからといって、軽々しく暴力を振るうのをやめろ」

俺がそう言うと、全員が衝撃を受けたようにガガ~ンとなる。

「そ、それは一夏がふしだらな事を………」

「そ、そうですわ! 一夏さんが悪いんですわ!」

「全部アイツが悪いのよ!」

「え、え~っと………」

「私の嫁ともあろうものが、他の女に目移りするからだ!」

シャルロットは自覚があるのか反省しているようだが、他は反論してくる。

「まあ、お前達の気持ちもわからんでもない。 一夏のラッキースケベも無自覚に口説く所も、超鈍感な所も男の俺から見てもムカつく」

俺の言葉に全員が頷く。

「でも、だからと言って一夏自身が納得するわけじゃない」

その言葉で再びショックを受ける5人。

「一夏から見れば、事故や当然の事をしただけで理不尽に暴力を振るわれていると思うわけだ。 ラッキースケベをかました場合はまだ自分に非があると思っているから、ある程度は割り切れると思うが、一夏にとって、当たり前の事をしただけで不機嫌になったり暴力を振るわれると、『自分は嫌われているのか?』と思うわけだ」

その言葉で、今までで一番のショックな表情をしている5人。

「例で言えばまず箒」

「な、何だ……?」

「お前のダメな所は一夏の弁明も聞かずに一方的に一夏が悪いと決めつけ暴力を振るうところ」

「うぐっ!?」

「次にセシリア」

「な、なんですの?」

「嫉妬でにレーザー撃つな」

「くぅっ!?」

「鈴」

「な、何よ?」

「お前はISを展開してない相手に衝撃砲撃つな」

「ぐふっ!?」

「シャルロット」

「な、何かな?」

「先生に言われたからといって、鬱憤晴しに撃つな」

「はうっ!?」

「ラウラ」

「何だ?」

「自分の考えを押し通すだけじゃなく、一夏の事も考えろ」

「なるほど………」

俺はそれだけ言うとひと呼吸おいて、

「まあ全員に言いたいことは、一夏のことは、哺乳類霊長目ヒト科ヒト属と考えるな」

「「「「「え?」」」」」

「最早一夏は、哺乳類霊長目オリムライチ科オリムライチカ属のオリムライチカと考えておけ。 それで、あいつのラッキースケベ、無自覚な口説き、超鈍感はあいつの性格ではなく生態と考えろ。 それでそれを受け入れろ。 受け入れられなければ諦めろ。 俺が言いたいのはそれだけだ」

「哺乳類………」

「霊長目………」

「オリムライチ科………」

「オリムライチカ属の………」

「オリムライチカ………」

俺の言葉にそれぞれが呟く。

「そう! そうなのよ!!」

鈴がいきなり立ち上がって叫ぶ。

「あいつの超鈍感は、もう病気とかそういうレベルじゃないわ。 盾の言う通り、これはもう、あいつの生態なのよ!!」

なんかいつの間にか名前で呼び捨てにされとる。

「そうだったのか!!」

「そうだったのですわ!」

「うん! その通りだよ!」

「ようやく分かったぞ!!」

なんか皆が燃えとる。

まあ、焚きつけたのは俺だが。

「感謝するぞ! 盾!」

「感謝致しますわ!」

「感謝するわ!」

「ありがとう! 盾!」

「礼を言うぞ!」

それぞれがお礼を言うと、まるで嵐のように部屋から出ていく。

「………………まさかあそこまで効果があるとは……」

「あはは。 みんなやる気だね」

「とりあえず、明日からの一夏にご愁傷様」

こうして、嵐のような1日は終りを迎えた。





あとがき


皆様お久しぶりです。

インフィニット・テイマーズを更新しようと頑張ってましたが、スランプに突っ込んだらしく先が全く書けません。

なので、諦めて先にこっちを更新です。

今回盾君の特訓風景と一夏ラヴァーズの焚付でした。

盾君にとって、もはや一夏はヒト科ヒト属ではなくオリムライチ科オリムライチカ属のオリムライチカです。

新人類ですな。

さて、次回は一夏君の特訓が始まります。

もしかしたら、文化祭まで行くかも?

とりあえずお楽しみに。

では、次も頑張ります。






















PS.暗号ってまだ解けてない人います?
どうしても知りたい人が居るなら次回あたり答えを教えますが………






[37503] 第二十三話 一夏の特訓風景と学園祭
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2014/12/09 01:06

俺と一夏の模擬戦から一週間。

俺はいつもの如く放課後に地獄の特訓デラックスフルコースを受けているのだが、その少し離れた所で、

『一夏君! 重心の座標がズレてるわ! すぐ整えて!』

「は、はい!」

『スピードが落ちてるわよ! もっと集中しなさい!』

「わ、分かりました!」

刀奈に怒られながら一夏がやっていることは、バルーンの周りをグルグルと回りながらバルーンに狙いを定める『シューター・フロー』。

因みにPICはマニュアル制御なので超ムズい。

俺?

俺があんなもん出来るわけねえだろ?

並列思考を複数必要なことなど俺に出来るわけがない。

2つの並列思考すらまともに出来ない俺に、ああいう特訓は無意味と最初の頃に刀奈にダメ出しを貰っている。

故に、俺は基礎能力を上げるための特訓を毎日繰り返しているわけだ。

つまり、『技』を覚えられないから、『力』だけで相手をねじ伏せろと、そういう事だ。

とは言え、

『オッケー。 速度上がってきてるね。 それじゃ、そこで瞬時加速してみようか』

「え?」

『瞬時加速。 シューター・フローの円軌道から、直線軌道にシフト。 相手の弾幕を一気に突破して、ゼロ距離で荷電粒子砲』

「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんな…………」

『急ぐ!』

「わ、分かりました!」

一夏は刀奈に急かされるままに瞬時加速を発動しようとし………

操縦ミスって、アリーナの壁に激突した。

「いってぇ………」

刀奈は一夏に駆け寄り、

「こらこら、瞬時加速のチャージをしながらシューター・フローも途切れさせないの」

「む、難しいです」

「駄目よ! ちゃんと覚えて! ほら! 起きて、もう一回!」

「はい!」

必要とは言え、刀奈は一夏に掛かりきりだ。

鈍感で恋愛に疎い一夏にそのような気は無い事は、頭では分かっていても、どうしてもムカムカする感情が抑えられない。

どうしても、刀奈と一夏の方に気が向いてしまう。

因みに、今俺は射撃訓練を行っている。

ただ、あの2人に気が向いたままそんな訓練をしていたとなれば、

――ビーーーー

射撃訓練終了のブザーが鳴る。

「ん? げぇっ!?」

俺はハッとして射撃の結果に目を向ければ、得点がとんでもない事になっていた。

この日、俺は過去最高のペナルティを受ける羽目になった。




訓練終了後、俺は更衣室でベンチに座り、俯いていた。

一夏の訓練が始まって一週間。

一夏はグングンと腕を上げており、刀奈もそんな一夏にご満悦だ。

恐らく、今の一夏と戦えば、互角かもしくは俺が負ける。

一週間前はノーダメージで勝てたのだが、たった一週間の特訓で再び追い抜かれたと感じた。

「これが………才能の差か…………」

今までの一夏は、一夏ラヴァーズにコーチをして貰っていたのだが、はっきり言えば、彼女達の意見が食い違いすぎて、一夏に合った特訓をしてこなかった。

そんな合っていない特訓でも、あれほど腕を上げた一夏。

しかし、刀奈というコーチを得た一夏は、まるでスポンジが水を吸収するように技術を身につけていく。

才能の差だから仕方ないと思う反面、悔しさもある。

いや、俺が気にしてることはそんな事じゃない。

特訓中の刀奈は一夏ばかりを気にしており、どこか寂しさを感じるのだ。

「はぁ~~~~………………親に構ってもらえず、泣き喚く子供か俺は………? 精神年齢45歳だろ?」

自分に言い聞かせるようにそう呟く。

俺は手早く着替え、部屋に戻ることにした。



部屋に戻っても、まだ刀奈はいなかった。

俺はシャワーを浴び、寝衣に着替えてベッドに寝っ転がる。

「はぁ~~~~…………」

未だ気分は優れない。

どうしたらいいかと考えている内に、ウトウトとしてきた。

すると、

「…………盾」

いつの間にか、刀奈が俺のベッドに腰掛け、俺を覗き込むような体勢で見下ろしていた。

ただ、その眼はどこか悲しそうな眼をしている。

「…………刀奈」

俺が刀奈の名を呟くと、

「…………ねえ盾…………私……何か盾を怒らせるようなことしたかなぁ………?」

泣きそうな声でそう呟く。

「………な、何で………?」

「だって…………最近の盾…………どこか素っ気ないんだもん………」

俺は自分を殴りたくなった。

俺は今日まで気にしてないつもりだった。

でも、無意識に態度に出ていたようだ。

「ねえ……私が悪いんだったら教えて………? ちゃんと直すから………」

刀奈はその綺麗なルビー色の瞳を涙で滲ませながら、懇願するようにそう呟く。

俺は、そんな彼女の頬に手を添え、

「違う………お前は悪くない…………悪いのは俺だ」

「えっ?」

「俺が勝手に…………拗ねていただけだ………お前にそんな気は無い事は分かっているのに……………勝手に疑って…………勝手に拗ねて……………いい歳してるのに、どうしようもないガキだよ………俺は………」

「盾…………」

俺がそう言うと、刀奈は微笑み、

「安心して…………私は絶対に盾から離れないから…………」

そう呟きながら、俺の唇に、自分の唇を重ね合わせた。











時は流れ、いよいよやってきた学園祭当日。

俺達のクラスの1年1組は、原作通り『ご奉仕喫茶』。

接客係は、燕尾服を着た一夏とメイド服姿の箒、セシリア、シャルロット、ラウラだ。

因みに俺は、裏方で頑張っている。

女子と比べれば体力がある俺は、色々と体を使う仕事をやらされている。

一夏には、「何でお前は執事やんねーんだよ!? 物珍しさなら俺もお前も一緒だろ!?」と、相も変わらず自分の魅力を何もわかってないお言葉をもらったが、俺がその時のノリでクラスの皆に、「俺か一夏、もしくは両方。 どの燕尾服姿が見たい?」って聞いたら、全員一致で「「「「「「「「「「織斑(一夏)君だけでいい!」」」」」」」」」」と答えられ、一夏は「なんでだぁーーー!!」と叫んでいた。

つまり、クラスの皆からすれば、俺はゼロどころか、マイナスイメージにしかならないってことだな。

俺には刀奈がいるから、世界中の誰に嫌われようと構わんが。

で、結果からすれば、一夏はそこら中から引っ張りだこでてんてこ舞い。

他のメンバーは普通に楽しんでいるという状況だ。

現在一夏は隣のクラスの鈴を相手している。

そう言えば、最近一夏ラヴァーズの暴力性がナリを潜めている。

相談された時に言った事を、真面目に行動に移しているようだ。

一夏は、5人の急激な変化に戸惑っていたが、今では安心して普通に暮らしている。

まあ、5人にとって、所々無理に我慢してる節もあるが。

そんなこんなで雑用に徹していると、

「やっほー! 来たよ、盾」

いつの間にやら刀奈が俺の隣にいた。

「楯無…………って、何でお前までメイド服?」

しかも、何故か刀奈までメイド服だった。

「あはっ! どう? 似合う?」

刀奈はその場でくるりと一回転する。

ふわりとスカートが舞い上がり、男心を擽る。

「あ、ああ。 良く似合ってる」

俺がそう言うと、

「フフッ。 ありがとうございます、ご主人様♪」

そう微笑みながら返した刀奈の姿は、俺の精神に衝撃を与えてくださった。

「あ……う………そ、それで、何の用だ?」

俺は吃りながらもそう聞くと、

「うん、デートしよ!」

ニコニコ笑顔を浮かべながら、刀奈はそう言った。

「………つまり、文化祭の出し物を一緒に見て回りたいってことか?」

そう確認を取ると、

「そうとも言う!」

バッと開いた扇子には、『逢引』と書かれていた。

俺がやれやれと思いながら時間を確認すると、間もなく俺の休憩時間になる所だった。

「お前、事前に調べてたろ?」

「あ、バレた?」

「当たり前だ」

「それで?」

刀奈は分かっていながらもそう聞いてくる。

俺は笑みを浮かべ、

「喜んで」

刀奈の手を取った。






【Side 虚】




生徒会の出し物の準備が終わった私は、生徒会の役目である見回りに来ていた。

一般には開放されないとは言え、多くの部外者が出入りする文化祭は、招待券をもたない人もドサクサで入ろうとする人がいるからだ。

「それにしても…………」

私は、最近の楯無お嬢様の事を思い浮かべる。

無剣さんと出会う前のお嬢様は、更識家の当主としての自覚が強すぎて、見ていて余裕というものが無かったように思える。

いつか、その重圧に押しつぶされてしまわないか心配していましたが、無剣さんと出会ってから、徐々に余裕が出てきたように思え、更に無剣さんのコーチの時間を取るため、夜遅くまで生徒会の仕事をしているにも関わらず、仕事の効率が落ちるどころか、むしろ以前よりも上がっていました。

そして夏休みの最中、無剣さんと恋人同士になっていたという話を聞いた時には、本当に驚きました。

だけど、彼と一緒にいる時の楯無お嬢様は、本当に幸せそうに思える。

「…………恋人………か………」

私にもいつか、そういう人が現れるんだろうか?

私みたいな堅物な女を好いてくれる男性はいるのでしょうか?

最近の2人を見ているからか、私らしくもない事を考えてしまう。

いけないと思いながら首を振り、ちゃんと見回りの仕事を熟そうと、再び顔を上げたとき、一人の男性が目に入った。

「ッ……………!?」

思わず息が詰まる。

その男の人は、赤髪の長髪で額にバンダナを巻き、背も高く、若干お調子者っぽい雰囲気を持ってるけど、悪人が持ってるような嫌な空気は感じられない。

彼を見てると、どんどんと顔が熱くなる。

気付けば私は、

「そこのあなた」

「はい!?」

彼に声を掛けていた。

わ、私一体何をしてるの?

そ、そうだわ。

これを期に彼とお知り合いに…………

わ、話題………何か話題を!

声をかけてからここまで考えるのに約1秒。

私の口から出たのは、

「あなた、誰かの招待? 一応、チケットを確認させてもらっていいかしら?」

情けないことに、なんとも事務的な事だった。

「は、はいっ!」

彼はあたふたと焦りながら、手に握っていたクシャクシャになったチケットを差し出してきた。

そんな彼の事を思わず可愛いと思った私だったけど、思いとは裏腹に表面は淡々と事務仕事をこなす事務員のような対応しか出来ない。

「配布者は………あら、織斑くんね」

「え、えっと、知ってるんですか?」

この人、織斑君のお友達?

なら、織斑君の事を話題に引き出せば………

「ここの学園生で彼のことを知らない人はいないでしょう。 はい、返すわね」

そ、そういえば私、織斑君の事書類上でしか知らない!

わ、話題が続かない!

「あ、あのっ!」

彼からいきなり声をかけられ、私はドキッとしてしまう。

「? 何かしら?」

ちょっと私!

もっと愛想良く出来ないの!?

「い、いい天気ですね!?」

彼が必死に話題を振ってくれてる!?

な、なんとか話を続けさせないと!

「そうね」

それでも私の口から出たのは、なんとも素っ気ない言葉。

私のバカーーーーっ!!

せっかく彼から話題を振ってくれたのにーーーっ!!

目の前で何故か落ち込む彼を見ながら、これ以上話を続けるのは不可能と判断した私は、その場を去ろうと………

「おお! こんな所に可愛い子がいるじゃねえか!」

突然聞こえた乱暴な男性の声。

振り返れば、明らかに不法侵入しましたと言わんばかりの態度で歩いてくる5人の男の集団。

「よう姉ちゃん! 良かったら俺達に学園を案内してくれねーかなぁ!?」

その男達の物言いに私は不機嫌になる。

「何ですかあなた達は!? この学園に入れるのはここの生徒か学園祭の招待券を持った人だけです! 貴方達がチケットを持っているか拝見させてもらいます!」

私がそう言うと、

「おいおい、折角の学園祭なんだろ? そんなかてーこと言うなよ?」

その言葉で彼らが不法侵入したと確信した私は、

「持ってなければ即刻立ち去りなさい! 今なら不問にして差し上げます! ただし、これ以上騒ぎを起こすというなら、それ相応の対応を取らせていただきます!」

私は最後通告のつもりでそう注意した。

だけど、

「はっ! その程度の脅しで逃げるぐらいなら、初めからこんな所来てねえよ! 姉ちゃんはおとなしく俺らに付き合ってくれりゃあいいんだ! まあ、その後はお楽しみタイムだけどな!」

ギャハハと下品な笑い声を上げながら、私の腕を掴もうと手を伸ばしてくる。

「触らないで!!」

私は反射的に伸ばしてきた手を叩き落とした。

「ッ!? 痛えじゃねえか姉ちゃん! あんま調子に乗ってると、痛い目みるぜ?」

懲りずにそう言ってくる男達に、

「いい加減にしなさい! これ以上は本当に許しませんよ!!」

私は本当の最後通告を行った。

「チッ! このアマ! 調子に乗りやがって!!」

突然目の前の男が私を殴ろうと腕を振りかぶった。

「ッ!?」

突然の事に私は反応出来ない。

その時、

「危ない! お姉さん!」

突如私の前に、先程の赤髪の彼が割り込み、私の代わりに殴られた。

「ぐっ!」

彼は殴られ、一歩下がるものの、なんとか踏みとどまる。

「だ、大丈夫ですか!?」

私は思わず彼に駆け寄る。

「へへっ。 こんなもん、屁でも無いっスよ」

彼はそう言って、一歩前に出る。

「ほお~勇気のある兄ちゃんだな。 女の代わりに殴られるなんてよ」

目の前の集団は、面白そうな笑みを浮かべていた。

「テメエらこそ! 今のはどういうつもりだ!?」

彼が突然叫ぶ。

「はっ! ISに乗れるからって調子に乗ってる女にちょっとお灸を据えてやろうとしたまでだよ」

男の1人がニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言う。

「チッ! まあ、今の女尊男卑の世の中、お前らの気持ちも分からんでもないけどよ…………」

彼はそう言って拳を握り締める。

「だからって! 男が女を殴っていい理由にはなんねーんだよ!!」

「ぐぼぉ!?」

彼は叫びながら私を殴ろうとした男の顔面を、思い切り殴り飛ばした。

変な声を上げながら、後ろに吹っ飛び、地面に転がる男。

「野郎! やりやがったな!」

残った4人が切れて、赤髪の彼に一斉に襲いかかる。

私も、楯無お嬢様の侍女として、多少武術は齧ってはいるけど、楯無お嬢様のように1人で多人数を相手取ることは出来ない。

彼も応戦するけど、流石に1対4は分が悪い。

徐々に殴られる数も多くなってくる。

それでも、彼は倒れない。

その眼に諦めの色は微塵も無い。

その姿は、素直に格好いいと思った。

その時、どさくさに紛れて彼の後ろから、先程彼が殴り飛ばした男が金属製のバットを持って近付いていた。

「危ない! 後ろ!」

私は咄嗟に叫ぶ。

けど、その時には既にバットが振り上げられている。

それと同時に彼も後ろの男に気付いたけど、対処が間に合わない!

私は思わず悲鳴を上げようとして、

「せいやっ!!」

突然バットを振り上げた男が横に吹き飛んだ。

見れば、黒髪の小柄な女の子が正拳突きを放った体勢でそこに居た。

私も含め、突然の可愛らしい乱入者にポカンとなるその場の一同。

「状況はよくわかりませんが、多勢に無勢。 助太刀します!」

「あ、ああ。 助かる………」

彼は呆気に取られながらも、彼はそう返事を返す。

「何だこのガキ? ガキが調子に………」

「ガキじゃありません!!」

その女の子は、そう叫ぶと同時に上段廻し蹴りを相手の即頭部に叩き込み、自分より一回りか2回りも大きい相手を吹き飛ばす。

「中学3年生は、立派なレディーです!!」

彼女はそう言って再び構えを取る。

彼女はどうやら空手を使うようだ。

少なくとも初段、もしくは二段以上の実力の持ち主。

すると、彼女は、

「肘打ち! 裏拳! 正拳!!」

見事な3連続攻撃を決め、瞬く間にもう1人も沈黙させる。

「女の子だけに戦わせられっかよぉ!!」

彼もそう言って、残った2人の内1人を集中的に攻撃し、倒すことに成功する。

でも、その間に、

「かかと落とし!!」

女の子は残った最後の1人の脳天にかかと落としを決めて瞬殺していた。

とりあえず、私は教員に連絡して、この集団の処理を任せることにした。

その後、

「あの、大丈夫でしたか?」

私は赤髪の彼に話しかける。

彼は先程の喧嘩の中で、何度か殴られていた。

すると、彼は笑って、

「大丈夫ですよ。 あなたみたいな女性を守れたんです。 この怪我は勲章みたいなもんですよ!」

彼の言葉は単なる強がりという事は分かったけど、私は自然と笑顔になる。

「そういえば、お礼を言っていませんでしたね。 私は、布仏 虚。 お名前を伺って宜しいでしょうか?」

「あ………だ、弾です。 五反田 弾」

「そうですか………五反田さん、助けてくれて、ありがとうございます」

私は精一杯の笑顔を浮かべてお礼を言った。

すると、突然彼の顔が真っ赤になる。

「? どうかしましたか?」

「あっ!? い、いえ、何でもありません! それよりも、俺の事は弾で構いません。 苗字だと言いにくいでしょう?」

驚くことに、彼の事を名前で呼ぶ許可をくれた。

「あ…………な、なら、私の事も虚で構いません! 私の苗字も言いにくいですし………」

私も咄嗟にそう言った。

「えっ!? い、いいんですか!?」

「は、はい………」

「え、えっと………それじゃあ………虚さん」

彼に名前を呼ばれた瞬間、まるで心臓が飛び出すと思えるほど高鳴った。

「は、はい! 弾さん!」

私が彼の名を呼ぶと、彼は再び顔を赤くする。

「「……………………」」

私達の間に沈黙が流れた時、

「ウォッホン!」

突然の咳払いに私達は同時にビクリと震えた。

慌てて振り返ると、先程の女の子が私たちをジト目で見ていた。

「青春の甘酸っぱい出会いはいいとして、時と場所を考えてくださいね?」

その言葉に、私と彼は、耳まで真っ赤にした。

すると、

「あれ? 甲? 何やってんだお前?」

聞き覚えのある声がして振り向けば、そこには無剣さんと、

「あれ? 虚ちゃんまで? どうしたの一体?」

何故かメイド服姿の楯無お嬢様がそこに居た。

「お兄ちゃん! お義姉ちゃん!」

はい?

お兄ちゃんに………お義姉ちゃん?

「えっと………彼女はもしかして………」

私は2人に尋ねる。

すると、

「ああ、虚さんは初めて合うんだよな。 紹介するよ。 俺の妹の無剣 甲だ。 甲、こっちは布仏 虚さん。 生徒会の役員で、楯無の………まあ、幼馴染だな」

「初めまして! 無剣 甲です! お兄ちゃんがいつもお世話になってます」

「い、いえ、ご丁寧にどうも」

向こうが頭を下げたので、思わず釣られて頭を下げてしまった。

「それで…………」

無剣さんが弾さんに視線を向ける。

「え~っと、君は五反田………でいいんだよな?」

えっ? 

何で無剣さんが彼のことを?

「んあっ? 何で俺の名前知ってんだ?」

彼も不思議に思い聞き返す。

「名前を知ってるっていうか、苗字だけな。 君、篠ノ之神社の祭りの時に妹さんを探してただろ?」

「あっ、そういえば!」

楯無お嬢様も心当たりがあったのか声を上げる。

「あーーー!! あの時蘭の居場所を教えてくれた兄ちゃんか!! あの時は助かったぜ! お陰で蘭を見つけることが出来た!」

「そりゃよかった」

「で、一体今はどういう状況?」

楯無お嬢様が訪ねてきたので、私は簡単に説明をした。

「なるほど………」

無剣さんが呟くと、何やら私と弾さんを交互に見つめ、どこか面白そうな笑みを浮かべた。

「楯無」

彼はお嬢様に何やら耳打ちする。

すると、お嬢様まで楽しそうな笑みを浮かべ、

「虚ちゃん」

「は、はい!?」

突然名をよばれ、私はビックリする。

「まずは、彼を保健室に連れて行って、怪我の手当てをしてあげなさい。 その後、助けてもらったお礼に、この学園祭を一緒に回って上げるといいわ」

「はえっ!?」

お嬢様の突然の提案に私は思わず変な声を上げてしまう。

「い、いえ………でも、私なんかが一緒に回っても楽しめないんじゃ………」

私は思わずそう言ってしまう。

「何言ってるの? 虚ちゃん可愛いんだから、一緒に回れて楽しくない男の子なんていないと思うわよ。 ね? 五反田君?」

そこで何故弾さんに振るのですか!?

「えっ? 俺っ!? ………え………あ………まあ、虚さん見たいな可愛い人と一緒に回れたら男冥利に尽きますけど………」

彼の言葉に私は顔が熱くなる。

「はい決まり~。 虚ちゃん。 そういうわけだから、五反田君の事よろしくね。 生徒会の出し物に間に合ってくれればいいから、しばらくは自由にしてて。 あ、一夏君を見かけたら適当に言っておくから安心して。 それじゃ、盾、行きましょ」

「そうだな。 おっと、そういえば甲はどうする? 一緒に回るか?」

「ん。 2人の邪魔はしたくないし、私は私で自由に回るよ」

妹さんはそう言って、2人とは別行動を取った。

この場に残されたのは私と弾さんの2人だけ。

「ど、どうしましょうか?」

弾さんが話しかけてくる。

「そ、そうですね………まずは、言われたとおり傷の手当てをしましょう」

私はなんとかそう返す。

「そ、そうですか………ご迷惑をおかけします………」

「い、いえ………気にしないでください………」

私は、自然を装いながら彼に肩を貸し、保健室へと向かった。





【Side Out】






あとがき


第二十三話の完成。

あれ?

主人公よりも弾と虚が目立ってるような?

因みに自分は弾と虚のカップリングは結構好きです。

というか、何か弾は応援したくなってくるんです。

原作が弾視点だったので、虚視点でやってみました。

ということで、変なところで原作改変して、弾と虚がお近づきに。

でもって、甲が再登場。

もちろん招待券は盾から送られたものです。

次回は、甲とまだ出てない彼女が会う予定?

お楽しみに?

では、次も頑張ります。



PS.暗号が未だわからない人が居るようなので答え合わせをしておきます。

まず、暗号は以下の通りです。

zz@gt@ぎう。vsfllt。2¥yうぇ33q@。srw5d@^

これを直接入力で打つとこのようになります。

zz@gt@giu.vsfllt.2ywe3q@.srw5d@^

更にこれを「かな」入力で打つと次のようになります。

つづきがきになるひとはりりかるふろんていああだるとすてえじへ

となり、つまり、

続きが気になる人はリリカルフロンティアアダルトステージへ

となるため、答えは、XXX板にある自分の小説、リリカルフロンティア アダルトステージへ、GO!

というわけです。

納得しました?

¥がややこしかったかもしれない。





[37503] 第二十四話 妹達の邂逅とシンデレラ
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/02/22 18:04


第二十四話 






【Side 甲】



今日はIS学園の学園祭!

私もお兄ちゃんから招待券を貰ってIS学園に来ています!

着いた途端にケンカを目撃したので、とりあえず4人のヤンキーを1人で相手していた赤髪のお兄さんに助太刀して、ヤンキー達にお灸を据えときました。

その後に、赤髪のお兄さんとメガネをかけたお姉さんが何かいい雰囲気になっていたので居心地が悪かったんだけど、お兄ちゃんとお義姉ちゃんが偶然にも現れて、メガネのお姉さんがお義姉ちゃんの幼馴染ということが分かりました。

それからお兄ちゃんに一緒に学園祭を回らないかと誘われたけど、2人のお邪魔はしたくないので遠慮しときました。

甲は空気が読める子なのです!

それからお兄ちゃん達と別れて1人で学園祭を見て回っていたのですが…………

「ここどこ~~~~?」

只今絶賛迷子中です。

やっぱり好奇心に駆られて案内板を無視して探検してしまったことが失敗でした。

IS学園広すぎるよ…………

「はぁ~…………誰かいないのかなぁ?」

私はそう呟きますが、常識的に考えて誰もいない可能性が高いです。

今日は学園祭。

生徒は皆出し物の方に回ってるだろうし、先生方もそっちの方優先で見回ってると思う。

困ったなぁ~。

私が当てもなく彷徨っていると、

「……………あれ?」

何処からか音がする。

私がキョロキョロと辺りを見回すと、整備室と表示された部屋から人の気配がした。

「誰かいるのかな?」

私は地獄に仏だと思い、その部屋に入る。

部屋の中は薄暗かったけど、部屋の奥の方に明かりが見え、誰かが居ることが分かった。

私は道を聞こうと思い、部屋の奥へと歩いていく。

すると、水色のISの前で、誰かが忙しなくキーボードを叩いていた。

でも、その後ろ姿は何処かで見たことがあるような気がした。

水色の髪のセミロング。

「…………お義姉ちゃん?」

私は思わず口に出していた。

その人はハッとして私の方に振り向いた。

そこで分かったけど、その人はお義姉ちゃんじゃなかった。

当たり前か。

今、お義姉ちゃんはお兄ちゃんと一緒にいるんだから、こんな所にいるわけないよね。

でも、その人はメガネをかけてるけど、綺麗なルビー色の瞳だし、顔の作りもお義姉ちゃんによく似てる。

お義姉ちゃんの妹さんかな?

私がそんな風に考えていると、

「……………誰?」

そのお義姉ちゃん似の人が問いかけてきた。

私はそこでハッとして、

「あっ! と、突然邪魔してすみません! わ、私、無剣 甲って言って、お兄ちゃんから招待券を貰って学園祭に来たんですけど、迷子になっちゃって!」

慌てて喋った所為か、口が上手く回らなかった。

私は恥ずかしくなって一旦口を噤む。

「……………えっと………それでですね。 もし差し支えなければ、学園祭のエリアまでの道を教えて頂けないでしょうか?」

私はそう言いながら頭を下げる。

その人は、一旦キーボードを叩くとモニターを閉じて、

「いいよ………案内してあげる」

立ち上がりながらそう言った。

「えっ? あの、道を教えていただければ、そこまで手を煩わさせるわけには…………」

私は思わずそう言うけど、

「大丈夫………私も気分転換しようと思ってた所だから」

そう言って、少し微笑んで見せてくれた。

この人、ちょっと暗い雰囲気だけど、いい人っぽい。

その人が歩き始めたので、私もついて行く。

「えと、さっきも言いましたけど、私、無剣 甲っていいます!」

「………無剣?」

私の苗字を聞いて、思い当たるフシがあるのか反復するその人。

「知ってるか分かりませんけど、この学園に通ってる、無剣 盾の妹です!」

「…………一応知ってる。 世界で2人だけしか居ない男性IS操縦者の1人。 クラスが違うから個人的な交友は無いけど………」

「そうですか。 でも、ウチのお兄ちゃんって、影薄いですからもう1人の男性操縦者の影に隠れちゃってるんじゃないですか?」

「確かにウチのクラスに流れてくる噂は、もう1人の噂が殆ど…………」

「ですよねー?」

あれ?

もう1人の男性操縦者の話題が出たら雰囲気が暗くなった?

もしかして私、地雷踏んじゃった!?

私は慌てて他の話題を探そうとする。

「え、え~っと、そうだ! ちょっと気になってたんですけど、え~っと………」

その人の名前を言おうとして、まだ聞いてないことに気付いた。

「………簪。 更識 簪……」

私の言いたいことに気付いたのか、その人はそう名乗ってくれる。

でも、『更識』って事はやぱっり………

「あのっ、間違ってたらすみません。 簪さんって、もしかしておね…………楯無さんの妹さんですか?」

「ッ!……………そうだけど………」

ああああ!

お義姉ちゃんの話題を出したら更に雰囲気が暗くなっちゃった!?

地雷を避けようとして、逆に地雷原に踏み込んじゃった!?

「………何で姉さんの事を知ってるの?」

ああ!ごめんなさい!ごめんなさい!

そんな暗い眼で私を見ないで!

「えと………その………お兄ちゃん関係で楯無さんに勝負を挑んで…………完膚無きまでに完敗したことがありまして…………」

私は簪さんの雰囲気から、お義姉ちゃんとの仲はあまり良くないだろうと予想し、お兄ちゃんとお義姉ちゃんが恋人同士だということも知らされてないだろう思い、その事は伏せて説明した。

「………そう………姉さんは凄いから…………」

簪さんは暗い表情でそう呟く。

これって、凄すぎる姉に、コンプレックスを持ってる妹って奴なのかな?

「あはは………そうですね。 私のお兄ちゃんとは真逆です」

私は乾いた笑いを零しつつ、何とか話題を変えようと思っていた。

「私のお兄ちゃんは、弱っちくて、情けなくて、喧嘩もした事が無かったんです…………」

「…………そう」

「でも………いくら弱くて、情けなくても…………それでも私にとっては、優しくて……大好きなお兄ちゃんなんです!」

「……そう……なんだ……」

「簪さんも………そうなんじゃないんですか?」

「えっ?」

私はそこで変なことを口走ったことに気付いた。

折角お義姉ちゃんの話から遠ざけようと思ってたのに、自分でむし返してしまった。

でも、言わずにはいられなかったと言ってもいいかもしれない。

ええい! どうにでもなれ!

私は自分から地雷原に踏み込んだ。

「簪さんは楯無さんの事、嫌いですか?」

「………………わからない」

否定はしなかったけど、肯定もしていない。

それが答えのような気がした。

「そうですか」

私はそう言って笑ってみせた。

やがて、出し物で賑やかな廊下が見えてくる。

「あっ! ここまでくれば大丈夫です!」

「…………そう」

「簪さん! ありがとうございました!」

私はお礼を言って頭を下げる。

「それじゃあ、私はこれで」

簪さんはそう言いながら踵を返そうとする。

「あのっ、ちょっといいですか?」

私は簪さんを呼び止める。

「………何?」

簪さんは足を止める。

「もしISの授業の中でタッグマッチみたいな事があったら、お兄ちゃんと組んであげてください。 お兄ちゃん弱っちい上に友達もいないだろうから、簪さんみたいな頼りになる人が組んでくれると安心できますから」

私がそう言うと、

「わ、私はそんな頼りになる程じゃ…………」

簪さんは謙遜なのかそんな事を言う。

でも、

「私の感は、簪さんは頼りになる人だと言ってますよ」

「………………考えとく」

簪さんはそう言って背を向ける。

私はその背中に向かって、

「またね。 未来のお姉ちゃん」

そう言葉を投げた。

「えっ?」

簪さんは、驚いた顔で振り返ったみたいだけど、私はそのまま人混みに紛れた。






【Side Out】







しばらく刀奈と一緒に学園祭の出し物を回ったあと、刀奈は生徒会の出し物のキモである一夏と一夏ラヴァーズを呼びに行った。

暇を持て余した俺は、空と雑談でもしていようと思ったとき、

「ちょっといいですか?」

突然声をかけられた。

「ん?」

俺が顔を向けると、そこにはスーツを着た、オレンジ色のロングヘアーの女性がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。

「失礼しました。 私、こういう者です」

その女性は名刺を差し出してくる。

俺はそれを受け取ると、そこに書かれていた名前を読み上げる。

「IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙 礼子…………ん?」

巻紙?

何か引っかかる名前なんだが…………

まあ、とりあえず、

「織斑 一夏なら人違いですよ」

偶にいるのだ。

俺を一夏と間違えて装備提供をしようとする奴が。

「いえ、間違いではありません。 無剣 盾さんですよね?」

その女性はハッキリと俺の名を言った。

「………そうですけど?」

「はい。 是非とも無剣さんに我が社の装備を使って頂けないかなと思いまして」

(だ、そうだが?)

俺は一応空に話しかける。

まあ、答えは聞かなくても分かってるが、

(嫌!)

一文字のシンプルな答えだった。

空は、現状の装備を変えられるのを極端に嫌う。

まあ、俺も打鉄・不殺にこれ以上装備を増やすつもりは無い。

俺に取って空も打鉄・不殺も、武器でも兵器でもない。

俺の『翼』であり、刀奈を『護る為の力』だ。

第一、装備を増やしたところで、俺に使いこなせるとは思えん。

「すみませんがお断りします。 こいつも嫌がってますし、俺に装備を提供しても使いこなせないのでお宅のイメージダウンにしかならないと思いますよ」

俺はキッパリと断る。

女性はこうもキッパリ断られるとは思ってもみなかったのか、一瞬呆然としていた。

しかし、直ぐ気を取り直し、

「まあ、そう言わずに!」

少し強引に押してくる。

こういうタイプに弱みを見せたらいけない。

何か、前世の仕事の職場で生命保険のお姉さん(オバさんと言ってはいけない)達の勧誘を思い出す。

「申し訳ありませんが、そろそろ出し物の時間です。 俺はこれで失礼します」

一方的にそう言ってその場を立ち去った。

人混みに紛れて撒いた事を確認すると、俺は息を吐く。

それにしても巻紙か…………

聞いた時も思ったけど、何か引っかかるんだよなぁ?

なんだっけ?

俺はモヤモヤとした感覚を残しつつ、その場を後にした。






やがて刀奈が一夏達を連れてきて、俺は一夏と一緒に王子様の衣装に着替えている。

俺は王子姿の自分を鏡で見る。

うん、似合わん。

対して一夏は、持ち前のルックスから、王子姿が板についている。

さすがハーレム主人公。

つーか、俺まで王子役を演じる必要があるのかなぁ?

「2人ともちゃんと着たー?」

刀奈がノックもせずにドアを開け、入ってくる。

俺にとってはいつもの事なので別に気にはならなかったが、

「…………………………」

一夏は刀奈を見て固まっていた。

「開けるわよ」

「開けてから言わないでくださいよ!」

一夏よ。

そうやって素直に反応するから刀奈にいいように弄られるんだぞ。

「別に心配しなくても、盾以外の男には興味ないわよ」

「そういいう問題じゃありません! それからさらっと惚気けないでください!」

「ま、それは置いとて、はい、王冠」

刀奈は、俺達に王冠を差し出してくる。

「はぁ…………」

一夏は疲れたのかため息を吐く。

「なによ、嬉しそうじゃないわね。 シンデレラ役の方が良かった?」

「嫌ですよ!」

いいように振り回されてるな、一夏。

「さて、そろそろ始まるわよ」

第四アリーナに設けられた、豪勢な舞台のセット。

観客席も満員だ。

「あのー、脚本とか台本とか一度も見てないんですけど」

出番を前に気になった一夏が尋ねる。

そんな物はもちろん無い。

「大丈夫。 基本的にこちらからアナウンスするから、その通りにお話を進めてくれればいいわ。 あ、もちろん台詞はアドリブでお願いね」

刀奈はそう言って去っていくが、これは一夏を囮にして亡国機業のオータムをおびき寄せる作戦なんだよな?

餌役の一夏にはご愁傷様だが。

俺には関係ないだろうし気楽に行くか。

『さあ幕開けよ!』

刀奈のアナウンスとともにセットの幕が上がる。

『むかしむかし、あるところにシンデレラという少女がいました』

出だしは普通だ。

『否! それはもう名前ではない。 幾多の舞踏会を経て、群がるライバルを蹴落とし、王子達の冠に隠された隣国の軍事機密を手に入れるため、王子の心を奪う事に執念を燃やし、その執念の灰すらを被ってひたすら突き進む少女達…………彼女らを呼ぶに相応しい称号……それが『灰被り姫シンデレラ』!』

「はい?」

刀奈のアナウンスに呆けた声を漏らす一夏。

まあ、まともじゃない事はわかっていた事だが。

『今宵もまた、シンデレラ達の王子の心を奪うための戦いが始まる!』

すると、

「一夏!」

ドレス姿の鈴が突然あらわれて、

「一夏! お願い! その冠を私に頂戴!」

鈴は胸の前で両手を組み、祈るような体勢から上目使いで一夏に懇願している。

因みに、王冠を手に入れた者には、その王冠の持ち主と同室になれるというご褒美がついているのだ。

一夏ラヴァーズは特に必死になろう。

「冠? 別にいいけど…………」

一夏はその王冠の意味が分かっていないので言われたままに王冠に手をかけようとする。

その時、

「お待ちください!」

反対側からセシリアが、同じくドレス姿で現れた。

「一夏さん! その冠は、是非わたくしに!」

セシリアは、自分の胸に手を当て、凛とした姿で一夏に言った。

鈴とセシリアの間で板挟みになる一夏。

「え? え?」

それぞれを交互に見る一夏。

「ま、待って!」

更にシャルロットが登場。

もちろんドレス姿だ。

「一夏。 王冠は僕に頂戴!」

「はぁ!?」

一夏が声をあげる。

だが、

「待て!」

今度はドレスを着たラウラが2階から飛び降りてくる。

「お前は私の嫁だ! ならば、夫である私に王冠を渡すのが筋というもの!」

ビシッと一夏に指を差し、そう言い放つラウラ。

「なぁっ!?」

次々と現れる一夏ラヴァーズに一夏は混乱する。

トドメとばかりに、

「い、一夏っ!」

ドレスを纏った箒が、顔を赤くしながら現れる。

「そ、そのっ! お、幼馴染のよしみで、その王冠を譲ってはくれないか?」

「ほ、箒まで…………」

一夏は呆れたように呟く。

因みに俺は蚊帳の外。

舞踏会場のセットの壁に腕を組んで寄りかかりつつ、舞台の真ん中で囲まれている一夏を眺めていた。

「何で皆こんなもの欲しがるんだよ…………」

一夏はそう呟きながら、何気なく頭の冠を取ろうとして、

『王子様にとって国とはすべて。 その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます』

一夏が王冠を外す瞬間を狙ったように、刀奈のアナウンスが流れる。

「はい?」

一夏は流れるままに王冠を外してしまう。

その瞬間、

「ぎゃああああああああああっ!?」

バリバリという音と共に、一夏の身体に電流が流れる。

お~お、見事に感電してらぁ。

電流が収まると、プスプスと服の所々から、焼け焦げて煙が上がっている。

一夏はピクピクと痙攣していた。

つか、あれだけ強烈な電流くらってよく生きてるな。

人間って、0.1A流れりゃ死ぬはずだが?

服が焼け焦げるって、相当な電流のはずだぞ?

前世で構ってた溶接機じゃ、150Aの20V前後で3.2mmぐらいの鉄板なら軽く溶けてたからな。

う~ん…………刀奈は電流って言ってたけど、電圧が高いだけなのか?

俺は、そんなどうでもいい事を考えながらその様子を眺めていた。

「な………な………な………なんじゃこりゃぁーーー!!」

一夏が叫ぶ。

生きてるだけじゃなく、よくあれだけ吠える元気があるもんだ。

『ああ! なんということでしょう! 王子様の国を想う心はそれほどまでに重いのか! しかし、私達には見守ることしかできません! なんということでしょう!』

「2回言わなくていいですよ!」

刀奈のアナウンスに一夏が突っ込む。

それにしても刀奈の奴、ノリノリだなぁ。

「す、すまん皆! そういうことだから!」

一夏はそう言うと、王冠を被り直し、脱兎のごとく逃げ出す。

「あっ! 一夏!」

5人が呼び止めようとしたとき、どこからともなく地響きが近づいてくる。

『さあ! 只今からフリーエントリー組の参加です! みなさん王子の王冠目指して頑張ってください!』

観客の希望者がシンデレラとして舞台に乗り込んできた。

「織斑君! 大人しくしなさい!」

「私と幸せになりましょう、王子様!」

「そいつを………よこせぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

シンデレラの大群が一夏に迫る。

「うわぁああああああああああっ!!」

叫び声を上げながら逃げる一夏。

「くっ! 一夏!」

「皆さん! ここは一度手を組みませんこと?」

セシリアが言った。

「このままでは、誰かに一夏さんの王冠を取られてしまうかもしれません。 ここは協力して、一夏さんを守りぬくのです!」

セシリアの提案に、一夏ラヴァーズは顔を見合わせる。

「この中の5人の内、誰が手に入れてもそれは一旦保留。 その後、改めて対等な条件で王冠の所有権を決めるということで」

セシリアの提案に、皆は一瞬思案する。

確かにこのまま乱戦になれば、誰が王冠を手に入れるかわからない。

ならば、ここは協力したほうが得策かもしれない。

それに、一夏を守れば、それだけ好感度アップにつながるかも知れない。

等等を、一瞬で考え、同時に答えを出した。

5人はアイコンタクトを交わすと、

「「「「「うん!」」」」」

力強く頷きあった。

因みに誰一人として、俺を追ってくるシンデレラはいなかった。






しばらくボーッとしていると、バルコニーのセットの扉が開き、

「ぜぇ…………ぜぇ…………」

一夏が肩で息をしながらフラフラと現れた。

先程から一夏ラヴァーズの声が時々聞こえてきた事を考えると、一夏は5人に助けられたようだ。

「お疲れ」

俺はとりあえずそう声をかけた。

「ぜぇ………ぜぇ………な、何でお前は誰にも追いかけられないんだよ?」

一夏が心底恨めしそうな表情で俺に問いかけてくる。

「そりゃ当然だろ? 俺かお前かどっちを選ぶと問われりゃ、99.999999%の女子はお前を選ぶに決まってるだろうが」

俺は、何を当たり前なことをと言わんばかりにそう言った。

「だから………ぜぇ………はぁ………何でだよ?」

本気で言ってんのかコイツ?

と思うが、本気で言ってるからタチ悪いんだなこれが。

「お前はいい加減自分の魅力に気付け! 俺とお前を比べて俺を選ぶ奴なんて、どっかの物好きしかいねーよ!」

『くしゅん!』

そのどっかの物好きがくしゃみをしたようだ。

「おいおい。 その言い方だと、俺がモテモテみたいな言い方じゃないか。 第一それだったらお前の方がモテるだろ? 彼女居るんだし」

思わず一夏を白い目で見てしまった俺は悪くない。

一度ため息を吐き、

「彼女が居る=モテる奴とは限らんだろうが。 逆にモテる奴=彼女が居るとも限らんぞ」

「そうかもしれないけど、俺がモテる奴っていうのは間違いだ。 告白なんて一回もされたことないし…………買い物に付き合えっていうのなら、何回もあったけど………」

「……………因みに聞くが、その買い物に付き合えって言うのは、何回ぐらいあって、どういう風に誘われたんだ? 多分、誘われ方は似たようなものだから、代表的なものでいい」

「よくわかったな。 誘われ方は直接か手紙かの違いはあったけど、屋上とか体育館裏とか、人気のない所に呼び出されて、「付き合ってください」って言われたんだ」

「…………………………」

コイツ…………マジでわかってねぇのか?

「でもおかしいんだぜ? 俺が「いいぜ。 付き合うよ……………買い物ぐらい」って言うとさ、言い出した最初は嬉しそうにしてるんだけど、俺が言い終わった後、いきなり泣き出して走り去っちゃうんだ。 殆どがそんな感じだったなぁ………」

「………………………それが、中学3年間で何回あった?」

「中学3年間でか? う~ん…………ざっと100回以上はあったんじゃないかな?」

「……………………………………」

俺はもはや言葉が出なかった。

コイツ、無自覚で100人以上フッてやがった。

「そうか…………よくわかった……………」

俺は息を大きく吸い込み、

「おーい!! 一夏がこっちにいるぞーーーーー!!!」

大声でそう叫んだ。

「なっ!? 盾! てめっ!?」

「一夏よ。 俺は今ほど他人に1回死んでやり直せと思った事は無い」

俺は冷ややかな目で一夏を見る。

1回死んだぐらいで治るかは分からんがな。

やがて、地響きが近付いてきて、

「「「「「「「「「織斑く~~~ん!!」」」」」」」」」」

バルコニーの扉が破壊されてシンデレラが流れ込んでくる。

「うわぁああああああああああっ!!」

一夏は再び逃げ出した。

シンデレラの大群がそれを追いかける。

しばらくして嵐が通り過ぎた後、

「やれやれ…………」

再び腕を組んでセットにもたれかかったとき、

「ん?………おわっ!?」

突然足を掴まれ、セットの下に引きずり込まれた。







あとがき


第二十四話の完成。

オータムとのバトルまで書こうと思ったけど、思った以上に長くなったので一旦切りました。

さて、今回は妹ズの出会いとシンデレラでした。

どうでしょうか?

簪の初出演。

盾には出会ってませんが。

何げに関係を作っておかないと後々苦労するような気がしたので………

それからシンデレラの内容大分変えました。

力尽くではなくハニートラップの掛け合いとなりました。

どうでしょうか?

最後に盾君が何者かに引きずり込まれましたが、その正体とは(笑)

では、次も頑張ります。




[37503] 第二十五話 白式を寄越せ? 人違いです!
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/03/29 19:26
第二十五話 




一夏の追いかけられている様をボーっと眺めていた俺は、突然床の蓋が開き、そこから伸びた手に足を掴まれ、セットの下に引きずり込まれた。

そのまま手を引かれ、どこかへと連れて行かれる。

「おおおおおおおおっ!?」

いきなりの事に俺は逆らうこともできず、されるがままだった。

やがて更衣室まで連れてこられる。

そこようやく足が止まり、相手の顔を確認出来た。

「あれ………? 確か巻紙さん………?」

俺の手を引いていたのは、先程名刺を渡された巻紙さんだった。

「ん?」

巻紙?

巻紙、巻紙…………

再び脳裏を何かが過ぎった俺は、もう一度思考する。

…………巻紙…………ん?

………って、巻紙って確か!?

「はい、この機会に白式を頂きたいと思いまして」

「はい?」

相手の正体に思い立った俺の思考が、一瞬停止する。

何言ってるんだコイツ?

「いいからとっとと寄越しやがれよ、ガキ!」

そう言いながら蹴りを放ってくる。

だが俺は、

「っと!」

相手は右足による廻し蹴りだったため、俺は左腕を部分展開して、シールドでその蹴りを受け止めた。

危なかった………

相手の正体に気付くのがもう少し遅かったら、間違いなく蹴られてた。

巻紙 礼子って、オータムじゃねえか!

なんでこんな大事なことを忘れてるんだ俺は!

つーか、何で俺を狙ってくるんだよ!?

あれか!

さっき白式とか言ってたから間違えたのか!?

俺は内心愚痴りながら、相手を見据え、

「何で俺を狙う?」

そう問いかけた。

「あぁ!? 聞いてなかったのか!? お前の持ってる白式を頂きに来たって言ってんだろうが!」

おけ、把握。

「人違いです!」

俺はハッキリと言った。

コイツ、マジで間違えてやがった。

「は?」

オータムは素っ頓狂な声を漏らす。

そこでようやく俺の顔がハッキリ見えたのか、

「なっ!? 何でテメーがここにいやがる!?」

「アンタが連れてきたんでしょうに…………」

少々驚きながら相手が叫び、俺はため息を吐く。

それよりも俺は、先程から気になっている事を聞いた。

「ところで、足痛くない?」

先程俺は、こいつの蹴りをシールドで受け止めた。

その蹴りにはかなりの力が込められていたので、それなりの強さだったことがわかる。

つまり、こいつは金属の塊を、生身で蹴っ飛ばしたようなものだ。

「い、痛くねえ!!」

オータムはそう言うが、目尻に涙が溜まっていた。

やっぱり痛いのね。

サイボーグのスコールだったら話は別だったかもしれないけど。

「で、おたく何者?」

俺は、最初に聞くべき事を口にした。

いや、これだけは聞いておかないと怪しまれるだろうし。

「あ、あぁ? 私か? 企業の人間に成り済ました謎の美女だよ! おら、嬉しいか?」

流石にいきなり名乗りはしないか。

「答える気がないんなら、仮に幽霊組織のオーサムさんとでも呼んでおこう」

俺は、これで名乗ってくれたら儲け物程度でそう言ってみた。

「だぁれがオサムだぁー!! それに幽霊じゃねえ! 亡国だよ! 亡・国・機・業! 秘密結社『亡国機業ファントム・タスク』のオータム様だ! 間違えんなこのガキ!!」

キッチリ名乗ってくれました。

「自己紹介どうも………」

俺がそう言ったらオータムはハッとなる。

怒りか羞恥か、顔が真っ赤だ。

多分両方だろう。

さて、話を引き伸ばすのも、ここらで限界だな。

俺はそう思いながら、ISを完全に展開する。

「チッ! 間違えたのはシャクだが、どちらにせよテメーのISも頂くつもりだったんだ! 順番が変わっただけの話だ!」

そう言いながら、相手もクモのようなIS『アラクネ』を展開した。

「大人を舐めんじゃねえぞ、ガキが!!」

そう言ってくるオータムを相手に、精神年齢では俺のほうが年上なんだがな~、と思いながら俺は構える。

俺は、早く刀奈がこの騒ぎに気付いてくれることを祈りつつ、初の1対1の実戦に気を引き締めた。






【Side 楯無】




私は、モニターの向こうで必死に逃げ惑う一夏君を注意深く観察している。

学園祭は、普通の学校なら誰もが楽しみにしている行事だが、IS学園ではそう簡単なことではない。

何せ、部外者が大量に学園内に入ってくるのだ。

それに紛れてよからぬことを企む輩も少なくない。

特に、最近活動を活発化させている『亡国機業ファントム・タスク』が、この期を逃さないわけがない。

(刀奈ちょっといい?)

そして、その最大の目標となり得るのが、世界で2人しかいない男性操縦者であり、篠ノ之 束博士が制作した専用機を持つ一夏君。

(ねえ? 刀奈~?)

だから私は一夏君を重点的に監視している。

(ねえってば~!)

(ってさっきから何よ霧子!? 私今忙しいんだけど! おしゃべりに付き合ってる暇は無いわ!)

私はさっきから私を呼び続けていたミステリアスレイディのコア人格、霧子に投げやりに答える。

唯の暇つぶしなら、後にして欲しい。

(も~! そんな風に言わなくてもいいじゃない。 せっかく忠告しようと声をかけたのに)

(忠告?)

私は霧子の言葉に内心首を傾げる。

(刀奈、さっきから一夏君ばっかりに目がいってるけど、盾君、さっきから敵と交戦中って空ちゃんからSOS来てるんだけど?)

「え………?」

私は霧子の言葉に思わず声に出してしまう。

私は慌ててモニターを操作し、盾の姿を探す。

そして、更衣室の監視カメラに切り替えた所で手が止まった。

モニターの向こうでは、盾がクモのようなISを相手に戦っている。

あのISは確かアメリカから奪われた第二世代IS『アラクネ』。

なら、やっぱり相手は亡国機業ファントム・タスク

私は慌てて駆け出す。

(霧子! なんでもっと早く言わないの!?)

(だからさっきから呼びかけたじゃない)

霧子は呆れたようにそう言う。

霧子の言葉をしばらく無視してたのは私だから、グウの音も出ない。

私は気持ちを切り替えて走る。

「お願い盾! 無事でいて!」

私はそう願いながら足を速めた。





【Side Out】







さて、どうするか?

俺はオータムからの攻撃を、更衣室という狭い空間の中、盾と回避行動で躱しながら、そう考える。

今はなんとか凌げているけど、状況から見るにジリ貧だ。

俺は先程からチャージし続けているバスターをチラリと見る。

不殺ノ刃発動時のフルチャージショットのシールドエネルギーを減らす量は500ポイントと一定だ。

それはどんなに装甲が厚くとも関係ない。

俺は続いてオータムを見る。

「ひゃはははは! おら! どうした!? 逃げ惑うことしかできないのか!?」

挑発か本音か、俺を罵倒する言葉を吐き続けている。

さて、今なら初撃ぐらいは当たるだろうが、フルチャージ一発当てただけで撤退してくれるかが問題だ。

オータムの性格を考えると五分五分…………いや、三分七分ぐらいか?

でも、アラクネのシールドエネルギーの総量も分からないし、分が悪いかな?

とは言え、なんとか凌げているとは言え、少しずつシールドエネルギーは削れていってる。

もし、クリーンヒット1発でも喰らえば、状況は相当に悪くなるだろう。

「…………やるしかないか!」

俺は覚悟を決める。

オータムのアサルトライフルをシールドで防御しつつ、俺はバスターをオータムへ向ける。

オータムは避けようと身構えるが、それは無意味。

何故なら、

「喰らえ!」

俺はフルチャージショットを放つ。

「なっ!?」

フルチャージショットの射幅は、更衣室の天井から床までを埋め尽くすほど。

左右には多少の隙間があるが、油断していたオータムはそのまま飲み込まれた。

とは言え、俺は油断せずに身構える。

オータム自身にダメージは無いから、すぐに襲いかかってくる可能性もある。

光が収まると、防御姿勢を取ったオータムが俺を睨んでいた。

「驚かせやがって! このガキがぁ!!」

そう叫んでアサルトライフルを乱射してくるオータム。

やっぱり逆上して襲いかかってきた。

まあ、シールドエネルギーは間違いなく500減ってるのは間違いないな。

それにしても、刀奈はまだか?

そう思いながらアサルトライフルから逃げるように旋回していると、

――ガクン

「ッ!?」

いきなり何かに引っかかったように身動きが取れなくなった。

見れば、まるでクモの巣のようなエネルギーワイヤーが張り巡らされていた。

「げぇ!」

俺は思わず声を漏らす。

「ははは! 引っかかりやがったな! 『アラクネ』の意味を知ってるか!? 蜘蛛だよ! つまりお前はクモの巣に絡め取られた哀れな虫ケラってことだ!」

笑いながらオータムは俺に近づいてくる。

その手には四本足の装置――確かリムーバーとかいうやつが握られていた。

「んじゃあ、お楽しみタイムといこうぜ」

リムーバーが俺の体に取り付けられる。

すると、電流のようなものが流された。

「うわぁああああああああああっ!!??」

むちゃくちゃ痛い!

意識飛びそう………

そんな中高らかに笑うオータムの声がやけに癇に障る。

「さて、終わりだな」

電流が収まるが、やはり俺の体からISは強制解除されていた。

オータムがリムーバーを外し、エネルギーワイヤーも解かれたことを確認して、俺は一旦飛び退く。

「くっ!」

俺は、オータムを見据える。

「はっ! 思ったよりも冷静だな。 感情に任せて殴りかかってくるかと思ってたぜ。 生身でな」

オータムの手にはISのコアがある。

「さっきの装置はなぁ! 『剥離剤リムーバー』っつうんだよ! ISを強制解除させることができる秘密兵器だぜ? 生きているうちに見れて良かったなぁ!」

自慢げに言ってくるオータムの言葉に、

「ふーん」

俺は興味無さげに返した。

「で? だから何だよ?」

俺は余裕を見せてそう言う。

「あん? 頭悪いのかテメエ? ISがないテメーはもう終わりだっつってんだよ!」

オータムは俺にアサルトライフルを向ける。

「ISが無い? そこにあるじゃねえか」

俺はオータムの手にあるISのコア『空』を見る。

「はっ! 残念だが、“これ”はもうアタシらのもんだ。 諦めな」

「…………じゃあ試してみるか?」

「何?」

俺の言葉に怪訝な声を漏らすオータム。

俺は右手を前に差し出し、

「戻ってこい。 “空”」

まるで遠くに走っていってしまった妹を呼び戻すような声でそう言った。

その瞬間、オータムの手からコアが消え去り、俺はISを装着する。

「なぁっ!? テメエどうやって!?」

驚愕の表情でオータムが叫ぶ。

「空は、お前らなんかに使われたくないってさ」

「な、何意味のわからないこと…………」

俺はオータムが狼狽えている間に、瞬時加速で肉薄した。

「なっ!?」

俺は巨大なシールドをつけた左腕を振りかぶる。

「俺に女を殴る趣味は無いけど、テメーは女とは思えん! だから一発殴らせてもらう!」

部分瞬時加速を用いた左ストレート!

「ギガントナックル!!」

「ッ舐めるな!」

オータムは8本の装甲脚をクロスさせて俺の拳を受け止める。

だが、重量のあるシールドが瞬時加速のスピードで繰り出されてくるのだ。

その威力は半端ではない。

左腕の実体シールドに比べて、遥かにか細い装甲脚を簡単にへし折る。

「なっ!?」

オータムは声を漏らすが、俺は躊躇無くバイザーに覆われた頭部目掛けてシールドを叩きつけた。

「ぐえっ!」

女性らしからぬ声を上げて吹き飛ぶオータム。

そのまま壁に叩きつけられたとき、

――ドゴォン

いきなり更衣室の入口が吹き飛び、

「盾! 無事!?」

ミステリアス・レイディを纏った刀奈が焦りを隠そうともせずに飛び込んできた。

「おう、楯無」

俺は手を上げて無事を知らせる。

刀奈は、浮遊して俺に近づいて来ると、

「よかった………無事で………」

目に涙を浮かべながらそう言った。

「助けに来るのが遅れてごめん。 私、敵が狙ってくるのは一夏君ばかりだと思い込んでたから…………まさか、裏をかいて盾を狙ってくるなんて思わなくて…………」

落ち込んだ表情で刀奈は言う。

「いや、その予測は間違ってないぞ。 あいつが俺を狙ったのだって、単純に俺と一夏を間違えたらしいし」

「え?」

刀奈は呆気に取られた表情をする。

その時、倒れたロッカーを押しのけてオータムが立ち上がる。

「このガキ………やってくれたなぁっ!!」

罅の入ったバイザーで見えないが、怒りの形相をしているのが良く分かる。

「盾……あいつは?」

刀奈はすぐに気を引き締めてランスを構える。

「え~っと、確か幽霊組織のオーサムさん」

「『亡国機業ファントム・タスク』のオータム様だっつってんだろうが!! 絶対ワザとだろテメェ!!」

「だそうだ」

「うん、よくわかった」

刀奈が来てくれたため、余裕が戻って軽口が出てくる。

「じゃあ、盾を狙ってくれたお礼も含めて、洗いざらい吐いてもらわないとね」

刀奈はオータムいランスを突きつけ、睨みつける。

「くっ………・」

オータムは悔しそうな声を漏らしたあと、

「くそっ………ここまでか………!」

空気な抜ける音と共にオータムがISから切り離される。

「ッ!」

その意図に気付いた俺は、シールドを構えて刀奈の前に出た。

次の瞬間、アラクネが爆発する。

「くうっ!」

かなりの衝撃が響き、俺は足を踏ん張って爆発に耐える。

やがて爆発が収まり、俺はシールドを下ろして爆発の中心を確認する。

既にオータムの姿は無く、炎が燃え盛っているだけだった。

「逃げたか………」

俺は刀奈に向き直り、

「大丈夫だったか?」

「う、うん。 私は大丈夫だけど………って、あんな無茶しなくても、私のミステリアス・レイディならあのぐらいの爆発なら防げたのに」

「そうかもしれないけど、自分の彼女ぐらい俺の手で護らせてくれ」

「え………? あ…………うん………」

刀奈は照れたのか、顔を赤くして俯く。

「で? これからどうすればいいんだ?」

「えっと、織斑先生が専用機持ち達を警戒に当たらせてるから、すぐに見つかると思うけど………」

そう言う刀奈だったが、しばらく後に来た報告は、新手の出現により、オータムを取り逃がしたという報告だった。




状況が一段落した所で、俺はISを解除する。

「やれやれ、とんだ学園祭だったな」

そこで気付いたが、今の俺の格好は、王子様の格好のままだった。

頭には王冠も乗っている。

「盾、お疲れ様」

そう言って刀奈が歩み寄ってくる。

そこで、俺はふと思い出した。

「刀奈」

「何? 盾」

刀奈がすぐ近くに来た所で、

「ほい」

俺は頭の王冠を刀奈に被せてやった。

「あ、これって………」

「王冠を手に入れた人物には、その王子役の男子と同室の権利を与える…………だったよな?」

「えへへ………」

刀奈ははにかんだ笑みを見せる。

素直に可愛いと思った。

「まあ、今まで通りだが、これからもよろしくな刀奈」

「うん!」

最後にちょっとだけいい思い出になった学園祭だった。







あとがき


第二十五話の完成。

何だかんだで盾君がオータムとバトりました。

間違えたっていうのは強引すぎかな?

オータムは盾君に対してガキガキ連呼しておりますが、精神年齢ではオータムの方がガキです。

因みにリムーバー、はっきり言って意味無し。

空ちゃん一声で戻ってきました。

でもって、オータムぶん殴った盾君。

殺しはしませんがああいう輩には容赦なしです。

楯無の活躍の場が無かったけど、盾君との模擬戦で大暴れしておりますので、まあ、いいかと。

ところでキャノンボール・ファストってやったほうがいいですかね?

盾君の打鉄・不殺じゃ短距離ならともかく長距離になると絶対に勝てないんですが。

主に出力の関係で。

ご意見お待ちしてます。

では、次も頑張ります。





[37503] 第二十六話 偶には自分から原作ブレイクしてみよう
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/05/17 11:13

第二十六話



学園祭の結果は原作と同じく生徒会が1位。

まあ、一夏を餌にすれば当然だわな。

その結果、一夏が生徒会所属となり、副会長に就任した。

副会長とは言え、やることはもっぱら他部活への派遣だ。

一夏は相変わらず「何で盾はやらないんだ」とブツクサ文句を言っていたが、今更何言っても無駄ということはわかっているので黙っていた。












さて、時が流れるのは早く、つい先日キャノンボール・ファストが終わったところだ。

え?

何があったかって?

いや、原作通りエムが襲撃してきて、何だかんだで追い返しましたが?

因みに俺は出場していないので、特に何も関わってはいない。

で、キャノンボール・ファストの次のイベントといえば、専用機持ちによる全学年合同タッグマッチだ。

何故かそれには俺も出場することになっており、それならばと刀奈にパートナーを頼んだのだが、

「えっ? 刀奈はタッグマッチに出ないのか?」

俺は素っ頓狂な声を上げる。

「うん。 専用機持ちの人数は、盾を含めると奇数になるから、どうしても1人欠場しなきゃいけないの。 それで、今回のタッグマッチの目的は、各専用機持ち達のレベルアップを兼ねてるから…………」

「学園最強の刀奈が今回は欠場すると」

「うん。 ごめんね」

刀奈が本当に申し訳なさそうに謝る。

「いや、学園側が決めたことなら仕方ないし…………」

俺はそう言いながら、誰と組むかを考える。

一夏は早々に却下。

一夏と組んだら、一夏ラヴァーズから目の敵にされるし。

「それで、盾は組む相手のアテはあるの?」

そう言われ、俺は更に考える。

その時刀奈を見ていて、ある一人の人物が思い浮かんだ。

「…………アテって程でもないけど、組んでみたい子が一人いるな」

「居るの?」

刀奈が心底驚いたような顔でそう聞いてきた。

「まあ、一方的に俺が知ってるってだけで面識は無いけどな。 とりあえず明日に組んでもらえるか頼みに行ってみる」

そこで話を打ち切り、俺達は寝ることにした。




翌日。

休み時間になり、俺はとある教室の前にいた。

その教室とは1年4組。

そう、俺はタッグマッチのパートナーに簪を選ぼうとしている。

面識が無いから話をしてくれるかも分からんがな。

俺は一度息を吐き、4組の扉に手をかけ、覚悟を決めて扉を開けた。

その瞬間、教室に残っている生徒の視線が集中する。

俺はなんとかその視線に耐えた。

「あれ? 彼って…………」

「一組の………」

「ほら、織斑君以外のもう一人の男性操縦者で…………」

「名前は…………なんだっけ?」

俺の名前が出てこずに首を傾げる一同。

別にどうでもいいがな。

「ちょっと失礼。 更識 簪さんって居る?」

俺は近くの生徒に話しかける。

「え? 更識さんならあそこに………」

その生徒は一番後ろの窓側の席を指差す。

そこには、空中投影ディスプレイを凝視しながらキーボードを叩き続けている1人の水色の髪をした女の子。

紛う事なき簪だった。

「ん、ありがとう」

俺は礼を言って簪に歩み寄る。

「えーっと………」

人付き合いの苦手な俺だが、勇気を出して話しかけた。

「作業中に悪いけど、ちょっといいかな? 更識 簪さん」

俺がそう言うと、キーボードを打ち続けていた手が止まる。

よかった、反応してくれたっぽい。

「まずは初めまして。 無剣 盾だ」

「…………知ってる」

僅かな間の後、答えが返ってきた。

何とか話は聞いてくれそうだ。

それよりも俺を知ってるってことにビックリだがな。

「用件は?」

簪は手短に聞いてくる。

「今度のタッグマッチの話だけど、俺と組んでくれないかな?」

簪がピクっと反応する。

「…………どうして私を選んだの? 1組には同じ男子の織斑 一夏もいるし、他にも専用機持ちが4人。 2組にも1人いる。 対して、私とあなたは接点が何も無い」

あら?

てっきり原作の一夏と同じく、イヤの一言で済まされるかと思ったのに、案外食いついてきた?

「その質問の答えの内、一夏に関しては、一夏と組むと他の専用機持ち5人に目をつけられるから。 他の5人に関しても特に親しい訳でもなし。 で、君との接点だけど、俺は楯無と関わりがある」

そう言った瞬間、簪の目が睨みつけるように細くなる。

「姉さんに私と組めって頼まれたの?」

声のトーンを落としてそう問いかけて来る。

「楯無は関係ない。 あいつも俺が君にタッグマッチのパートナーを頼んでいることも知らないはずだ。 俺は自分で考えて君と組んでみたいと思っただけだ」

俺は負けじとそう答える。

「………私を選んだのは、私が“更識 楯無”の妹だから?」

更識 楯無の名を強調しながらそう聞いてきた。

それに対し俺は、

「ちょっと違うな。 俺が君を選んだのは、君が“楯無”の妹だからじゃない…………」

そう言いながら少し顔を近付け、

「…………君が、“刀奈”の妹だから、だな」

簪だけに聞こえるように小声でそう言った。

その瞬間、驚愕の表情でバッと俺に顔を向ける簪。

「…………何で…………その名前………」

「これでもあいつとの仲は、お互いの両親公認なんだぜ。 もちろん、刃さんや鞘華さんにもな」

簪は先程までの無表情が嘘のように目をぱちくりとさせていた。

「ああ、それから君を選んだ理由にもう一つ付け加えると………」

俺はそこまで言って間を空け、

「将来的に妹になるかもしれない子と仲良くしておきたいってところかな?」

そう言った瞬間、ゴンッ、という音が響き、簪が机に頭を打ち付けていた。

「ちょっとちょっと! 今、更識さんが机に頭を打ち付けるなんて奇跡的なリアクションを!!」

「嘘っ!? ホントに!?」

「その瞬間をスマホで激写したけど見る?」

「「「見せて見せて!」」」

簪の取ったリアクションに周りの生徒も大はしゃぎだ。

それにしても凄いな3人目の女の子。

黛先輩の後輩かな?

それはともかく、

「で、話を戻すけど、タッグマッチの件、俺と組んでもらえないかな?」

俺は改めてそう聞く。

「かっ、考えとく………!」

動揺収まらない雰囲気で簪が言った。

「わかった。 いい返事を期待してるよ」

俺はとりあえずその話を打ち切り、4組の教室を後にした。

俺は教室を出ると、大きく息を吐いた。

「あ~緊張した。 けど思ったよりも好感触だったかな。 考えとくとは言われたし」

思った以上に収穫があったことに満足し、俺は1組の教室に足を向けた。





【Side 簪】



ビックリした…………

いきなり男性操縦者の1人、無剣 盾が4組に来たかと思うと、私にタッグマッチのパートナーを頼んできた。

私は一瞬断ろうかとも思ったが、学園祭の時に迷子になっていた彼の妹の言葉を思い出した。

『もしISの授業の中でタッグマッチみたいな事があったら、お兄ちゃんと組んであげてください。 お兄ちゃん弱っちい上に友達もいないだろうから、簪さんみたいな頼りになる人が組んでくれると安心できますから』

その言葉が脳裏を過ぎり、一方的に追い返すのはあの子に失礼かと思った私は、とりあえず話を聞くことにした。

その話の中で姉さんの名が出てきた時には、姉さんに私と組むように頼まれたのだと思い、やっぱり断ろうと思っていた。

だけど、

「…………君が、“刀奈”の妹だから、だな」

その名前を聞いたとき、私は思わず彼の顔を見てしまった。

彼は小さく笑みを浮かべたまま私を見ていた。

何で、彼が姉さんの本当の名前を…………

その名前は家族しか知らない、ううん、家族にしか教えてはいけないはずなのに。

「…………何で…………その名前………」

私は自然にその言葉が口から漏れてしまった。

それほどまでに動揺しているらしい。

「これでもあいつとの仲は、お互いの両親公認なんだぜ。 もちろん、刃さんや鞘華さんにもな」

続けて言われたその言葉に、私は更に驚いた。

そ、それじゃあ彼は姉さんの、その、こ、恋人って事に………

お父さんとお母さんの名前が出て来るってことは、信憑性はかなり高い。

「ああ、それから君を選んだ理由にもう一つ付け加えると………」

私が驚いている間にも、彼は言葉を続け、

「将来的に妹になるかもしれない子と仲良くしておきたいってところかな?」

そう言われた瞬間、余りのショックに一瞬気が遠くなり、机に頭をぶつけたショックで我に返った。

周りのクラスメート達がなにか騒いでいるみたいだけど、そんなことは何も耳に入ってこない。

私が言葉を失ったままでいると、

「で、話を戻すけど、タッグマッチの件、俺と組んでもらえないかな?」

彼は改めてそう言ってきた。

「かっ、考えとく………!」

私はそう言うだけで精一杯だった。

余りのショックに頭がうまく回らない。

「わかった。 いい返事を期待してるよ」

彼はそう言うと教室を出て行った。

……………余りの出来事に呆然としている私。

午後の授業の内容は、全く頭に入らなかった。





【Side Out】





数日後。

あれからちょくちょくと簪の所に顔を出しているが、まだハッキリと返事は貰っていない。

キッパリと断られてないから、まだ脈アリだとは思うが…………

俺がふとアリーナに足を向けると、水色の専用機が空を飛んでいた。

「あれは…………簪か」

簪の専用機、打鉄弐式は、本体はほぼ組みあがっているようだ。

機体の調子を一つ一つ確認するように飛行を繰り返している。

その時、メインスラスター部から煙が吹いているのが見えた。

嫌な予感がした俺は、

「頼む! 空!」

即座にISをまとって飛び出す。

その瞬間、打鉄弐式のメインスラスターが爆発し、墜落を始めた。

「くっ! 間に合うか!?」

瞬時加速を繰り返して追いかけるが、ギリギリ間に合うかどうかだ。

主人公体質の一夏ならこのまま突っ込んでもギリギリ間に合って、体張って助けて惚れられるパターンなんだろうが、生憎俺には主人公体質は無い為、無難な手を選択する。

即座にシールドをアンカーユニットに換装し、左腕を落下する簪に向ける。

「空! 誤差修正は頼む!」

『おっけー! 任せてお兄ちゃん!』

相棒から頼もしい返事が返ってくる。

俺は狙いを定め、

「ガンドロ射出!」

アンカーを発射した。

空の補助もあり、アンカーは地面に激突寸前の簪をキャッチする。

それからゆっくり引き上げると、簪が呆けた顔で俺を見ていた。

「よっ! 大丈夫だったか?」

「む………無剣………君………」

俺は地上に降り、簪を下ろす。

すると、

「あ……その……た、助けてくれて………ありがとう」

簪はか細い声でそう言う。

「どういたしまして。 ちょっとばかり荒っぽい助け方になったけどな。 どっかの主人公体質の奴なら、体張って助けるんだろうけど、俺の場合は間に合うかどうか微妙な所だったから、無難な方を選ばせてもらった」

確か原作では一夏が体張って助けていたはずだ。

そこで俺は改めて簪を見る。

簪のISは、武装やソフト面はともかく、ハード面ではほぼ完成に近いと感じた。

「それにしても凄いな」

「えっ………?」

「そのIS、1人でそこまで組み上げたんだろ?」

「う……うん………で、でも、まだ完璧じゃない………」

「いや、そこまで1人で出来るなんて十分スゲーから」

俺からしてみれば、1人で組み上げるなんて10年かかっても無理だろう。

「そ、そんなこと…………ない…………姉さんは、1人で完成させたから………」

簪は俯きながらそう呟く。

「いや、確かに手を着けたのは刀奈1人だけど、刀奈はいろんな人からアドバイス貰ってたって言ってたぞ」

「えっ?」

簪が驚いたように顔を上げる。

知らなかったのか?

「…………なあ? 言いたくなかったら答えなくて構わないんだが、君が刀奈にそこまで対抗心を持つ理由って何だ?」

「……………どうしてそんなこと聞くの?」

簪は表情からは内心は読み取れない。

俺は正直に話す。

「まあ、なんだ? 自分の恋人とその妹の仲が良くないのは見ていて気分良くないし、出来れば何とかしたいと思ってる」

簪はそれを聞くと、もう一度顔を伏せ、

「『あなたは何もしなくていいの。 私が全部してあげるから』」

顔を伏せたまま呟いた言葉に、俺は首を傾げる。

「『だから、あなたは――――無能なままでいなさいな』」

その瞬間、俺は全てを察した。

今の言葉は、過去に簪が刀奈に言われた言葉だろう。

確かに薄らと原作でも読んだ記憶がある。

俺は思わず片手で顔を覆った。

余りの刀奈の不器用さに。

「…………………簪」

「え?」

俺は思わず簪の手を取り、

「ちょっと付いてこい!」

「ええっ!?」

そのまま簪を引っ張り、ある所へ向かいだした。

この時間なら、刀奈はあそこに居る。





やがて俺の視界に見えてきたのは、生徒会室。

「あのっ………無剣君っ?」

簪の言葉を無視し、俺はノックもせずに生徒会室の扉を開けた。

「刀奈ぁ!」

俺は扉の正面にある会長の机に座っている刀奈に怒鳴るように叫んだ。

「あれ? 盾…………って、か、簪ちゃん!?」

簪の姿に刀奈が狼狽えるが、俺はズカズカと簪を引っ張りながら刀奈の前まで歩いていき、

「刀奈!」

「は、はい」

「簪に謝れ!」

「ええっ!?」

「お前、簪に無能なままでいろとか言ったみたいじゃねえか!」

「そ、それは………!」

刀奈は見るからにバツの悪そうな表情をする。

「お前の言いたかった事は良く分かった! お前が重度のシスコンで、携帯の待ち受け画面にも(盗撮した)簪写真を使っていることや、夜中に寝言で『えへへ~、簪ちゃ~ん!』なんて言いながら涎垂らしてることも知ってる!」

「じゅじゅじゅじゅ、盾!? 何言ってるの!?」

慌てふためく刀奈。

「でも、とりあえずは、まず謝れ!」

「あの、盾。 それは………!」

「謝れ!!」

「だからその………」

「謝れ!!!」

「そ、それは……………」

「あ! や! ま! れ!!!」

「……………………………ごめんなさい」

「俺じゃなくて簪に言え!!」

すると、刀奈は簪に向き直り、

「う………その………簪ちゃん……? あの時…………あんな事言って、ごめんなさい」

そう言って、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

「………う………うん………」

簪も余りの展開についていけないらしい。

「さて、刀奈が謝ったところで、何であんなこと言ったか、ちゃんと説明してやれ」

俺がそう言うと、

「だ、だって……………簪ちゃんは私にとって大切な妹だし…………『更識』の闇の部分に関わって欲しくなくて………………その……………簪ちゃんには普通の女の子として生きて欲しかったから……………だから………………」

刀奈の言葉に、目を見開いて驚愕する簪。

「ね、姉さ………」

「それは俺もわかった。 だけど、言い方が悪い! お前、簪の事になると、途端に不器用になるのな」

「あう…………」

縮こまる刀奈。

俺は簪に顔を向け、

「これが刀奈の本音だそうだが?」

簪は、まだ信じられないといった表情をしている。

「そんな…………私…………姉さんにとって、私なんか取るに足らない存在何じゃないかって思って…………」

「そんなことない!!」

簪の言葉に、刀奈は立ち上がりながら強い口調で反論した。

「簪ちゃんは…………とっても可愛くて………努力家で………大切な…………私の自慢の妹よ!!」

刀奈が叫ぶ。

「うあっ…………ね、姉さ…………お姉ちゃん!」

簪が感極まって涙を流した。

「あはっ…………そう呼ばれるの、何年ぶりかな……?」

刀奈は笑いつつも、その目には涙を浮かべている。

刀奈は机を避けて簪に歩み寄ると、

「今までごめんね。 簪ちゃん」

そう言って抱きしめた。

「お姉ちゃん!」

簪も刀奈を抱き返した。

俺はそれを見てもう大丈夫かと判断した俺は、そっと部屋を出た。



部屋を出ると、

「無剣さん」

目の前には虚さんと本音がいた。

すると、虚さんが突然頭を下げた。

「この度の事、本当にありがとうございます」

「えっ? いや、何言ってるんですか!?」

頭を下げた虚さんに俺は狼狽える。

「お嬢様達を仲直りさせて頂いた事です」

「かんちゃんも嬉しそうだったよ~。 ありがとね、むっきー」

本音も長い袖をパタパタと振りながら笑顔でそう言う。

「あ……いや、簪から話を聞いたら、ついカッとなって…………あとは流れ的に………」

「いえ。 おそらく私達が無理矢理2人を引き合わせたとしても、今回のようにはいかなかったでしょう。 あれほどまでにお嬢様に対し強く言うことは…………いえ、例え強く言ったとしても、私達とお嬢様方は主従の関係。 お嬢様の本当の心には届かなかったと思います。 ですので、今回は無剣さんだったからこそ出来たことです」

「は、はあ………」

なんだか小っ恥ずかしくなってくる。

少しすると、後ろから扉の開く音が聞こえ、

「あ、盾………」

刀奈と簪が、顔を赤くして出てきた。

「仲直り、出来たみたいだな」

俺がそう言うと、

「うん………ありがとね、盾。 盾のおかげよ」

「役に立てたならよかった。 簪も良かったな」

「あ………うん…………」

簪は恥ずかしいのか、顔を赤くしながら俯く。

「どうかしたのか?」

俺が聞くと、

「な、名前………」

簪が呟く。

俺はそこでハッとした。

いつの間にか俺は簪を呼び捨てで呼んでいた。

「あっ! わ、悪い! 勝手に呼び捨てで呼んでたな。 すまん」

俺は頭を下げる。

「あっ! べっ、別にいい………! 簪で………いい………」

簪は尻すぼみになりながらも、呼び捨てで呼ぶことを許可してくれた。

「そっか。 じゃあ、これからも簪って呼ばせてもらうな?」

俺が改めて聞くと、簪はこくりと頷いた。

「じゃあ簪。 もう一回言うけど、タッグマッチのパートナーの件、受けてくれないか?」

俺がそう聞くと、

「えっ? 盾の組む相手って簪ちゃんだったの!?」

刀奈が驚いたように言う。

「そうだけど………とっくに知ってると思ってたけどな」

「最近の会長は、無剣さんが自分以外の女子に夢中な事で仕事に集中できず、溜め込んでいましたので」

虚さんがしれっとそう言う。

「う、虚ちゃん! 私だって、簪ちゃんが相手だって知ってたら………」

「つまり嫉妬して仕事が疎かになってた訳だ。 嬉しいな」

「むぅ…………盾のイジワル」

刀奈がいじける。

「ああ、悪かった悪かった………機嫌直してくれ」

刀奈の機嫌を直したあと、簪に向き直る。

「それで、どうだ?」

「…………うん。 いいよ」

簪が頷いた。

「おし! 決まりだ! それで、簪の専用機のことなんだが………」

「大丈夫! 私達が手伝うから!」

刀奈がしゅばっと手を上げる。

俺は驚いて簪を見る。

「うん。 さっきお願いしたの。 もう、意地になる必要は無いから」

微笑んでそう言う簪。

「そっか。 俺もそれほど力にはなれないが、出来ることは手伝うよ」

「うん、ありがとう」

簪がそう言うと、

「よ~し! 皆で頑張ろ~~~~!! お~~~~!!」

何故か最後に本音が締めたのだった。






あとがき


第二十六話の完成。

キャノンボール・ファストはぶっ飛ばしました。

書く事ありませんし、特にアイディアも無かったので。

さて、今回は盾君が自分から原作ブレイクしました。

何だかんだで更識姉妹の仲直り。

あっさりと行き過ぎたかな?

とは言え、甲が簪と会ってなかったら、盾君初対面で追い返されてます。

妹に感謝。

今回はこのぐらいで。

では、次も頑張ります。







[37503] 第二十七話 男には やらねばならぬ 時がある    今がその時だ!!
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/08/12 07:36

第二十七話



刀奈と簪の仲直りから暫く経ち、

「かんせ~い!! パチパチパチ~~~!!」

本音が大げさな表現で拍手をする。

実際には手が袖で隠れているので大した音は鳴っていないが。

刀奈や虚さんの協力もあり、本日、無事に簪の打鉄弐式が完成を迎えた。

タッグマッチに間に合って一安心だ。

「皆…………ありがとう………」

簪が感極まったのか、目を潤ませながら礼を言った。

「いいのよ。 可愛い簪ちゃんの為だもの。 いくらでも手伝うわ」

刀奈が笑みを浮かべながらそう言うと、

「それじゃあ盾。 最後の仕上げ、よろしくね♪」

「ああ」

刀奈の言葉に俺は頷く。

「えっ?」

しかし、簪は意味がわからないのか声を漏らした。

俺は左手で打鉄弐式の装甲に触れ、

「簪」

右手を簪に差し出す。

「え、えっと…………?」

突然手を差し出されたからか、簪は戸惑っている。

「手を握れ」

俺がそう言うと、簪はおずおずと手を差し出し、俺の手を握った。

と、その時、

「あ、やっぱり私も!」

刀奈が飛びつくように簪の手の上から俺の手を握る。

その瞬間、打鉄・不殺の待機状態である腕輪が一瞬輝き、

「えっ…………?」

簪は声を漏らした。

何故なら、いつの間にか周りの景色はあたり一面の草原になっていたからだ。

「………一体……何が………?」

簪は不思議そうに辺りを見渡す。

すると、

「盾く~~~~~~~ん!!!」

何処からともなく水色のナニカが飛び込んできて、

「させないわ!!」

刀奈によって蹴り落とされていた。

「はうっ!?」

その水色の何かは草原の上を転がる。

しかし、ムクリと何でもないように起き上がると、

「いったいわね~~~刀奈。 別にちょっと抱きつくぐらいいいじゃない?」

そんな事を言った。

「あなたも毎度毎度しつこいわよ! 霧子! 盾は私のよ!」

そう堂々と言う刀奈。

ちと恥ずいが、嬉しく思ってしまう俺は既に手遅れである。

「ケチ~~。 ちょっとぐらい貸してくれたっていいじゃない!」

「ダメよ!」

刀奈と霧子が言い合いをしている中、状況について行けない簪が呆然としている。

「大丈夫か?」

「え、えっと………あの人誰?」

何とかそう言う簪。

「あいつは霧子。 ミステリアス・レイディのコア人格だ」

「ええっ!?」

その事実に、簪は声を上げて驚く。

「因みにここは、俺と空……俺の打鉄のコア人格の精神世界のようなものだ」

「た、確かにコアには意思のようなものがあるって聞いてるけど、人格があんなにハッキリ現れるなんて………」

「ついでに言えば、俺と刀奈は、常時、意思疎通が可能だ」

「ええっ!?」

「で、簪にもコア人格と対話できるようになってもらおうと思ってる」

「そ、そんな事できるの!?」

「ああ………そろそろだと思うんだけど………」

そう言った所で、

「お兄ちゃん! お待たせ~!」

空が手を振って現れた。

「おう、空」

それに応える俺。

「盾君……この子は………」

「こいつが空。 俺の打鉄・不殺のコア人格だ」

「この子が………」

簪に空を紹介する。

「それで空、連れてきてくれたか?」

「あ、うん………連れてきたには連れてきたんだけど………」

何やら空の言葉は歯切れが悪い。

ふと見ると、空の後ろに隠れるように、水色のショートカットの女の子がいることに気付いた。

その子の背丈は空と同じぐらいであり、空の後ろからこちらを覗き込むように見ていた。

すると、その子と俺の視線が交わり、

「ッ………!?」

一瞬にして空の背中に隠れてしまった。

「「………………」」

俺と簪がじーっと見ていると、再び空の背中から顔を出そうとして、俺達が見ていることに気付き、また顔を引っ込めた。

何だ!?

この可愛い小動物は!?

「あ~、空? その子が………」

「うん。 打鉄弐式のコア人格だよ」

「何というか………恥ずかしがり屋なのか引っ込み思案なのか…………」

「あはは………ものすごい人見知りでもあるよ」

「ご主人サマに似たのかね?」

そう言いながら、チラリと簪を見る。

「あう…………」

簪は顔を赤くして俯く。

すると、

「ほら、何恥ずかしがってるの?」

霧子が空の後ろから打鉄弐式のコア人格を引っ張り出し、俺達の前に押し出す。

「うぅっ……………」

打鉄弐式のコア人格は俯いて顔を赤くしている。

やっぱり恥ずかしがり屋か?

「ほら、簪ちゃん。 何か話しかけてあげなさい」

こちらも刀奈がそう言いながら簪を押し出す。

「え? お、お姉ちゃん!?」

突然押し出された簪は困惑している。

打鉄弐式のコア人格の少女がふと顔を上げ、簪と目が合った。

「「……………………」」

無言で見つめ合う2人。

「「……………………」」

どれだけそうしていただろうか?

「あ~も~! 話が進まない!!」

耐えられなくなった霧子が叫んだ。

その声に驚いた2人がビクつく。

「まあまあ、抑えろ霧子」

俺は霧子を宥める。

それから打鉄弐式のコア人格に向き直り、

「あ~………君? 君は簪の事どう思ってる?」

俺は出来るだけ優しい声で尋ねる。

すると、

「あ……う………えと…………わ、私の事を……た、大切に扱ってくれる…………や、優しいお姉ちゃん…………」

辿たどしい言葉だが、ハッキリとそう言ってくれた。

俺は自然と笑みを浮かべる。

俺は今度は簪に向き直り、

「簪…………簪はこの子とどういう関係を築いていきたい?」

そう問いかけた。

「関……係………?」

簪は呟き、打鉄弐式のコア人格に歩み寄る。

そして、彼女の目を見つめ、

「わ、私と………友達になってください…………!」

頭を下げながらそう言った。

その言葉は予想外だったのか、打鉄弐式のコア人格はキョトンとしている。

「…………ダメ………かな?」

上目遣いで様子を伺いながら、自信なさげに呟く簪。

すると、打鉄弐式のコア人格は、ブンブンと勢い良く首を横に振った。

「え、えと…………よろしく、お姉ちゃん」

彼女は、ぎこちないながらも簪に向かって笑みを浮かべた。

「うん、よろしく」

微笑み返す簪。

「それじゃあ、簪。 その子に名前をつけてあげるんだ」

「名前?」

「ああ。 この子達には名前が無いんだ。 機体の名前じゃない、この子だけの名前をつけてやってくれ」

「この子の…………名前………」

簪は、打鉄弐式のコア人格をジッと見つめ、

「……………結(ゆい)」

ポツリと呟いた。

「この子の名前は、結」

もう一度ハッキリと言う。

「結………私の名前………」

打鉄弐式のコア人格改め、結が自分の名を呟く。

「結………なるほど、簪ちゃんの名前にちなんだ名ね」

「うん。私の友達だから、私に少しでも関係した名前にしようと思って」

刀奈の推測に肯定の意を示す簪。

すると、簪は結に向き直り、

「改めてよろしくね、結」

「うん、よろしく、簪お姉ちゃん!」

差し出された手を結はしっかりと握った。





【Side 簪】




気付けば、そこは元の整備室だった。

「………はっ! 今のは………?」

突然の景色の変化に困惑してしまう。

すると、

「簪、ISに触れて、プライベートチャネルで話すような感覚で結に呼びかけてみろ」

盾君がそう私に言ってきた。

「う、うん………」

私は頷いて、盾君の言う通りISに触れ、

(………結?)

そう呼びかけた。

(うん、聞こえるよ。 簪お姉ちゃん!)

「ッ! 聞こえた!」

私は思わず声を上げてしまった。

「これでISの待機状態を持ち歩いていれば、いつでも意思疎通が可能だ。 才能の無い俺が割と成長出来たのも、空と自由に意思疎通が出来ていることが大きい」

盾君は自分を卑下してるけど、こうやってコア人格と自由に意思疎通が出来るなんて聞いたことがない。

それをこうも簡単に成してしまった盾君は、純粋にすごいと思った。

「さて、タッグマッチまでの残りの時間は、連携と戦術の確認だな。 俺も負けるつもりは無いし」

遠慮がちにも勝つ意気込みを見せる彼に、私は思わず苦笑し、

「うん!」

彼の言葉に頷いた。






【Side Out】







そして、数日が経ち、タッグマッチ当日。

俺は悩んでいた。

このタッグマッチには新型ゴーレムが複数襲撃してくる。

別にそれは覚悟していたからいい。

問題なのは、つい先日思い出したことで、今日の襲撃で、刀奈が重傷を負うことだ。

こんな大事なことをギリギリになるまで忘れていた自分に腹が立つ。

当然ながら、刀奈が重傷を負うような事態は避けたい。

確か、ゴーレムの装甲が固くて、ミストルテインの槍で特攻したのが原因だったはず。

となれば、ミストルテインの槍以外でゴーレムの装甲を貫ければ、あるいは………

その可能性を持つ武器は、打鉄・不殺には装備されていた。

それは、バスターのフルチャージショット。

単一仕様能力を発動させずに打ち込むことが出来れば、おそらく一撃でゴーレムを破壊できるだろう。

そんな考えを巡らせつつ、俺は簪と一緒にピットで待機していた。

因みに一回戦の相手は一夏と箒のペアだ。

一夏のペアは、当然の事ながら一夏ラヴァーズの間で争奪戦が勃発したが、刀奈の提案した公平なくじ引きにより、箒に決定した。

因みにそのクジを作ったのは俺であり、箒に決定したとき、箒以外の4人から睨まれた。

俺の所為じゃないだろうに。

試合開始の時間が近付いてきたとき、

――ズガァァァァァァン!!

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

突如爆発音と共にアリーナを揺れが襲い、俺達はよろめく。

俺は壁に手を付き、何とか転倒を防いだ。

「くっ! 大丈夫か!? 簪!」

俺は簪の方を振り返りながら言った。

「う、うん……! だ、大丈夫!」

簪は、床に座り込んだ状態だが、怪我は無いようだ。

俺がホッとしたのも束の間、通常の電灯が落ち、非常用の赤色の電灯が点灯する。

「………来たか……」

俺は小さく呟く。

「簪! 緊急事態だ! ISを展開しろ!」

俺は簪に呼びかけつつ、ISを装着する。

「わ、わかった……!」

簪も状況に困惑しながらもISを展開する。

次の瞬間、

ドゴォンと天井を突き破り、赤黒い装甲をした無人IS『ゴーレムⅢ』が俺達の前に現れた。

目の前のゴーレムを見て、頬にタラリと冷や汗が流れるのが分かった。

これから始まるのは、本当の実戦。

命が懸かったた正真正銘の『命』懸け。

俺のまともな実戦回数は、オータムと戦った一度だけ。

その他は、唯の盾役しかこなしておらず、俺が手を出さなくても周りがやってくれた。

けどコイツは………、コイツを倒さないと刀奈に危険が及ぶ。

俺は恐怖を押し込め、ゴーレムを見据える。

「行けるか? 簪」

俺はゴーレムから目を離さずに簪に語りかける。

「ッ…………うん!」

簪は一瞬躊躇したようだが、ハッキリと頷く。

本来なら、この閉鎖空間では打鉄弐式のポテンシャルがフルに発揮できないため、広い場所へ移動するのがベターなんだろうが、俺は別の事を考えていた。

「簪、こんな狭いところじゃやり辛いだろうが、何とか頑張ってくれ。 隙を見て、俺がフルチャージショットを叩き込む!」

そう、閉鎖空間ということは、回避し辛いという事。

たった2発しか打てないフルチャージショットを当てられる可能性も、閉鎖空間の方が高いのだ。

既に先程からチャージは始まっている。

あと20秒。

「や、やってみる!」

簪は詰まりながらも返事を返すと、荷電粒子砲を構え、撃つ。

ゴーレムは、人並み外れた機動でその攻撃を避けていくが、閉鎖空間内では思うように動きが取れず、荷電粒子砲に当たりそうになるために所々可変シールドユニットで防いでいる。

あと15秒。

ゴーレムは射撃の切れ目を狙い、簪を狙って突っ込む。

「ッ!?」

簪は思った以上のスピードに驚愕したのか、動きが鈍い。

ゴーレムは右腕のブレードを振り上げ、

「させるか!!」

俺は瞬時加速で簪の前に割り込み、左腕のシールドで受け止める。

「ぎっ!? く、くっそ重い………!」

思った以上の剣の重みに膝を着きそうになるが、

「簪!」

俺は簪の名を叫ぶ。

「ッ! うん!」

俺の呼びかけの意味を理解してくれたのか、ブレードを受け止め、動きが止まっているゴーレムの頭部目掛けて簪は荷電粒子砲を発射する。

見事直撃し、ゴーレムは頭部を爆煙に包まれて後退する。

「やった!」

簪は嬉しそうな声を上げるが、爆煙が晴れると、殆どダメージの無いゴーレムの頭部があった。

「そ、そんな! あの至近距離からの荷電粒子砲でほとんどダメージが無い!」

簪が驚愕する。

あと10秒。

しかし、それは俺には予想済み。

慌てることなくゴーレムを見据える。

一旦様子を伺うことにしたのか、こちらをジッと見つめてくるゴーレム。

あと5秒。

そのまま何もしてくるなよ。

俺はそう祈っていたが、そうはうまくいかず、ゴーレムは左腕をこちらに向けた。

「ッ!」

その意味を瞬時に思い出した俺は再びシールドを構え、簪の前に立つ。

「耐えきれるか!?」

俺は思わず声に出してしまう。

次の瞬間放たれるゴーレムの超高密度圧縮熱線。

それがシールドに当たり、ジワジワと熱を帯びていく。

「ぐ………あああああああっ!!」

「盾君!?」

左腕が焼けるように熱い。

いや、実際に焼かれているのだろう。

実体シールドも徐々に溶け出している。

やがて、熱線が収束していき、そして途切れた。

「ぐわちちちちちち!!! マジで焼けるかと思った!!」

俺は思わず左腕の装甲を消し、腕を振る。

だが、咄嗟に気を取り直し、ゴーレムを見据えると、右腕のバスターを構える。

既にチャージは完了した。

「お返しだ! くたばりやがれデク人形!!」

俺は容赦なくフルチャージショットを放った。





【Side 一夏】




突然襲撃してきた無人機に俺と箒は驚いたが、迎撃を開始する。

狭いピット内では思うように動けないため、零落白夜でアリーナのシールドを切り裂き、アリーナ内で戦うことにした。

戦っていて気付いたことだが、この無人ISは、絶対防御を無効化する、対IS用ISだということだ。

「くそっ! 何という動きだ!」

箒がそう言葉を吐く。

以前の無人機の発展型とも言うべきそのISは、以前のモノより格段に動きも反応速度も上だった。

しかも、装甲も並大抵ではなく、ちょっとやそっとの攻撃じゃ、全くダメージを与えられない。

しかも、離れれば熱線、近づけば絶対防御が無効化され、右腕のブレードが非常に驚異だ。

箒との2人がかりでも防戦一方。

何とかしなければと思うがいい案が無い。

その時、

――ドゴォォォォォン

俺達が居たピットとは反対側のピットから爆発が起こった。

「何だ!?」

「アリーナのシールドを突き破った!? 敵の増援か!?」

俺と箒は敵の増援なら非常に拙いと思い、冷や汗が流れる。

その爆煙が途切れ、その中から戦っているISと同じ姿をしたISの頭部が見えた。

「くっ! やはり増援か!」

箒は険しい表情をしながら構え直す。

俺も同じように構え直した。

そして爆煙が消え始め、増援のISの姿が顕に…………

「「え…………?」」

俺と箒は同時に声を漏らした。

何故なら、その新たに現れたISは、左腕とその背後にある可変シールドユニットが丸ごと無くなっていたからだ。

すると、

「だぁあああああっ! 畜生!! あんだけ大口叩いて左腕一本かよ! やっぱ俺って情けねーーー!!」

よく知る声が聞こえた。

「そ、そんなことないよ! 左腕を破壊しただけでも、随分楽になるし!」

こちらは聞き覚えの無い声だ。

見れば、ピットの中から盾と水色の髪の女の子が飛び出してきた。

水色の髪の女の子を見たとき、一瞬楯無さんかと思ったけど、纏っているISが違うし、メガネをかけていて、髪型も違ったので別人だと分かった。

あの2人、この無人ISを相手に左腕を破壊したのか。

そう思っていると、

「盾! 簪ちゃん!」

客席の方から声がした。

この声は楯無さん。

客席から、楯無さんが心配そうな表情で盾達を見ている。

「待ってて、直ぐに行くから!!」

楯無さんはそう言いながらISを展開しようとする。

「よし、楯無さんが加われば、随分楽に………」

俺と箒はそう思っていた。

だが、

「来るな!!!」

いつもの盾らしからぬ強い口調の大声が響いた。

その声に驚き、動きを止める楯無さん。

「ここは俺達でやる!!」

盾はそう宣言した。

「何言ってるの!? 盾! 無茶よ!!」

楯無さんがそう叫ぶ。

「楯無さんの言う通りだ! この敵は手強い! 我々だけでは手に負えないかもしれんのだ!」

我慢できなかったのか、箒がそう叫ぶ。

すると、

「お前を………コイツと戦わせるわけにはいかない。 お前をコイツと戦わせたら、必ず後悔する。 そんな気がするんだ」

盾は静かに、それでいて明確な意思を持ってそう言った。

「盾………」

楯無さんは心配そうに呟く。

「それにな、何時までも危なくなったら彼女に助けられるような情けない彼氏で居たくないからな」

盾はそう言って笑う。

「だからよ、少しは自分の彼氏と妹を信じてくれよ」

盾はそう言うと前を向いた。

楯無さんは、悩んでいたようだったが、

「わかった……信じる! でも、危なくなったら何が何でも助けに行くからね!」

楯無さんがそう言うと、盾は前を向いたまま右手を横に伸ばし、サムズアップで答えた。




【Side Out】




刀奈を何とか説得した俺は、ゴーレムを見据え、

「一夏! 箒! お前たちは何とか1機抑えててくれ! 簪! コンビネーション、やるぞ!!」

「コ、コンビネーションって、昨日話してたあれ?」

「ああ!」

「で、でも、練習もしてないのに………」

「大丈夫だ! 俺達には、頼もしい相棒が付いてるだろ?」

『その通り! 安心して、私達が補助するから!』

『が、頑張る!』

空と結がそう言った。

「わかった、やってみる!」

簪も腹を括ったようで、荷電粒子砲を構える。

「行くぞ!」

俺の合図と共に、簪が荷電粒子砲を発射。

しかし、その狙いはゴーレムではなくその周りの地面。

巻き起こる爆煙で、ゴーレムの視界を封じる。

ハイパーセンサーにどれだけ効果があるか分からないが一瞬気は逸れるはず。

その一瞬の隙に俺は左腕をアンカーユニットに換装。

アンカーを射出した。

爆煙を切り裂き、アンカーは見事ゴーレムを捉える。

「よし! 行くぜ!!」

俺はアンカーに繋がれているワイヤーを利用し、ゴーレムの周りを円を描くように飛びながら、バスターを連射する。

アンカーで捕らえられているゴーレムは、残ったシールドユニットで防いでいるが、その足は完全に止まっている。

「ターゲットを中央に固定」

その間に、簪が準備を完了させていた。

48発のミサイルの同時発射、『山嵐』。

「そのまま速やかに火力を集中………」

簪が呟くとともに、ミサイルが発射され、ミサイルの嵐がゴーレムを襲う。

ミサイルの着弾寸前にアンカーを引き戻し、俺は簪の横に並ぶ。

そして、俺はバスターをソードモードに、簪は薙刀の『夢現』を呼び出す。

48発のミサイルが直撃したゴーレムは、ボロボロになっているが、まだ動いている。

だが、俺達の攻撃はまだ終わってはいない。

俺と簪は同時に瞬時加速を発動。

ゴーレムに向かって突撃する。

「「最後は中央を突破!!」」

俺と簪は叫びながらゴーレムをX字に切り裂いた。

その一瞬後、ゴーレムは爆発。

俺は思わず、

「マジで有効な戦術だったな」

そう呟いた。

俺は横に立つ簪に向かって左腕に拳を作って掲げる。

「え………あ………」

簪は一瞬その意味がわからなかったようだが、直ぐに意味に気付くと恥ずかしそうに右腕に拳を作って同じように掲げ、拳同士をぶつけ合った。

俺が簪に笑みを向けていると、

「ず~~~~~る~~~~~~~い~~~~~~~~~~!!!」

突然大声が響き渡った。

俺達が驚いてそちらを見ると、刀奈が叫んでいた。

「簪ちゃんずるい!」

ズビシッと効果音が鳴りそうな勢いで簪を指差す。

「ええっ!?」

突然の物言いに困惑する簪。

「どーして簪ちゃんの方が私より先に盾とラブラブアタックしてるの!? そーいうのは恋人の私と最初にやるものでしょう!?」

刀奈の言葉に俺は脱力した。

「ラ……ラブラブアタック………………」

簪は顔を赤くして俯いてるし。

「いや、単なる連携攻撃だろ? それに、お前とはもっぱら模擬戦でしょっちゅう戦ってるけど、一緒に戦う事は無かったし………」

「うるさ~~~~い!! 盾の浮気者~~~~~~!!!」

「何でそうなる!?」

「浮気者浮気者浮気者~~~~~!!!」

「だぁ~~~~!! わかったわかった! 今度お前と出来る連携を考えておくから!!」

俺が咄嗟にそう言うと、刀奈はコロッと態度を変え、

「絶対だからね♪」

満面の笑みでそう言った。

…………刀奈の奴、演技してやがった。

まあ、刀奈との連携攻撃を考えるのは吝かではないが。

ぶっちゃけ今の簪との連携も、前世のスパロボのネタなんだよなぁ…………

刀奈との連携もスパロボから引っ張ってくるか?

そんな事を思っていると、

ドンッと爆発音がして、一夏が投げ捨てられた。

白式もダメージが酷く、所々に罅が入っている。

「ッ! ま、まだ終わってない!」

簪が狼狽えながら気を取り直す。

俺も残りのゴーレムに向き直り、

「一夏、生きてるか?」

一夏にそう呼びかける。

「………勝手に殺すな」

そう言いながら、一夏はヨロヨロと起き上がった。

「一夏、零落白夜はあと何回使える?」

俺がそう聞くと、

「もうシールドエネルギーが無い。 1回使えるかどうかだ」

そんな答えが返ってきた。

「なら仕方ないな。 俺達で何とか奴の動きを止める。 お前は隙を見て零落白夜を叩き込め!」

「わかった!」

とは言え、俺の打鉄もフルチャージショットを使った上に結構バスター撃ったから既に通常のエネルギーも半分以下。

シールドエネルギーには割と余裕があるけど、実体シールドは半壊してるし、油断は出来ない。

「簪! 援護頼む!」

「うん!」

俺はバスターソードをソードモードにし、簪の援護と同時に突っ込んだ。

だが、簪の援護射撃はシールドユニットで防がれ、俺の斬撃は右腕のブレードで受け止められる。

「チィッ!」

そのまま、ゴーレムは左腕を俺に向けて、

「やべっ!?」

俺は咄嗟に瞬時加速を真横に発動。

その瞬間ゴーレムの左腕から熱線が放射された。

マジで紙一重というタイミングで何とか躱したが、シールドバリアにはカスっていたらしく、シールドエネルギーがかなり減っていた。

「ひぃ~~………くわばらくわばら………」

情けない声を上げながらも、躱せた事に安堵する。

直撃したら、下手すりゃ死ぬな。

と、安心してる場合じゃねえ。

やっぱこのゴーレム強え。

とりあえず、ブレードか熱線のどっちかを使えなくすればまだ何とかなるんだが………

って、こっち来た!

「もうちょっと考えさせてくれよ!」

俺はお得意の瞬時回転で背中に回り込んで斬りつけた。

うまい具合に決まり、シールドユニットが爆発を起こす。

「お、ラッキー!」

シールドが使えなくなったのなら、射撃武器でも有効打になる。

「簪!」

「わかってる!」

簪が荷電粒子砲を発射すると、ゴーレムはシールドを使えないために回避行動を取る。

更に簪が予め別方向に撃っておいたミサイルが方向を変え、ゴーレムの死角から襲いかかる。

それに直撃し、ゴーレムは吹き飛ばされるが、シールドが無くともゴーレムの防御は並ではないため、ダメージは低い。

だから俺は、

「おりゃぁああああああああああっ!!」

瞬時加速で突っ込み、ゴーレムの右腕に組み付いた。

ブレードのある右腕を封じれば、一夏が切り込み易くなる。

俺は必死に体全体で右腕にしがみつく。

俺は一夏を呼ぼうと声を上げようとして…………

目の前に突き出された熱線の発射口を見て、声を失った。

そこに光が集中し始め、発射体制に入っている。

やべえ………俺死ぬ。

背中に冷たいものが走り、やがてくる現実に目を背けようとした時、

「左腕! 貰ったぞ!!」

真紅のエネルギービームが俺の右腕を掠め、ゴーレムの左腕を消し飛ばした。

更に俺はビビる。

「うぉおおおおおおっ!!?? 掠った!? 今掠ったぞ!!」

今の攻撃の原因であろう箒に声を上げる。

「ええい! 射撃は苦手なのだ! 仕方なかろう! 貴様も男ならガタガタ抜かすな!!」

箒から逆ギレされたよ。

「だ~~~! もうどうでもいい!! 一夏! 今の内にぶった斬れ!!」

「待ってたぜ!!」

一夏の白式が残ったエネルギーを使って飛翔する。

「うぉおおおおおおおおっ!!」

一夏が叫びながら大きく振りかぶる。

おいおい、このクソ素早い奴にそんな大ぶりで突っ込んだって…………

いくら俺が右腕にしがみついているからといって、完全に動きが止められるわけじゃない。

ゴーレムは俺を右腕にしがみつかせたまま回避行動を取った。

「なっ!?」

驚愕する一夏。

っていうか、そのぐらい予想しておけ!

一夏も咄嗟に攻撃のラインを変えようとしているが、修正が追いつかず、ゴーレムの表面装甲のみを切り裂いた。

しかし、ゴーレムは止まらず、一夏を蹴り飛ばす。

「うわぁ!?」

サッカーボールよろしく飛んでいく一夏。

「くそっ!」

俺は何とか右腕にしがみついたまま何か手がないかと考えていたが、ふと一夏が切り裂いた装甲が目に入った。

その切れ目からは、ゴーレムのコアが顔を覗かせていた。

しかも、一夏の一撃が掠っていたのか、コアの表面には傷もある。

これならと思い、俺はソードモードでコアを突き刺そうとした。

だが、エネルギーソードが発生しない。

「何っ!?」

『大変! バスターソードに異常発生! さっきの箒お姉ちゃんの影響みたい!!』

こんな時にと一瞬思ったが、

「それがどうした!?」

俺は右腕をバスターからマニュピレーターに変え、力強く拳を握り、

「男の最後の武器は拳だって、相場がきまってんだよぉっ!!」

部分瞬時加速を用いてゴーレムのコアに思い切り叩き込んだ。

普通にコアを殴っても壊れはしないが、切り傷が付いていた事と、瞬時加速を用いた弾丸のような拳で、コアは物の見事に粉々になった。

コアを破壊され、動きを止めるゴーレム。

腕を引き抜き、後ろに下がると、ゴーレムは力なく倒れた。

しばらくそのゴーレムを観察し、動かないことを確認したあと、俺はそのまま大の字にぶっ倒れた。

「「「「盾(君)!?」」」」

皆が心配した声を上げたようだが、

「あ~~~疲れた!!」

ただ単に緊張が途切れて安心しただけだ。

そのままISを解除し生身で地面に横たわっていると、

「盾」

視界の上から刀奈がひょっこりと顔を覗かせた。

「………悪かったな、心配かけて」

無茶したことは自覚しているため、開口一番に謝る。

「心配したのよ………ホントに……………」

「すまん…………」

本当に心配そうな表情をする刀奈に俺は謝る事しか出来ない。

刀奈は一度溜め息を吐き、

「でも……それでも今は…………」

そう言いながら俺の横に座り込むと、俺の頭を持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。

「お疲れ様………」

そう笑みを浮かべる刀奈の顔を見て、本当に守れて良かったと心から思う。

そのまま眠気が襲ってきて、俺はそれに逆らわずに意識を手放した。

尚、その光景は当然ながらその場にいた一夏、箒、簪にも見られており、特に箒が羨ましそうに見ていたことは言うまでもない。







あとがき


第二十七話の完成。

やーーーーっと出来た!

しばらく放ったらかしで申し訳ない。

週末に予定が入りまくって小説書く暇なかったです。

盆休みも予定が無い日が3日しかないので大して書けません。

ま、それはともかく専用機タッグマッチ編でした。

盾君が男を…………見せれたかなぁ?

あと、スパロボネタから、第二次スパロボZの主人公クロウのACPファイズをやってしまいました。

クロウは1人でやってましたが、盾は簪と2人掛りで。

まあ、ACPファイズは、本来は5機連携みたいなので問題ないでしょう。

その内楯無とも連携やらせるつもりですが、何にしようかな?

今のところ、α版のツインバードストライクか、OG外伝版のランページ・ゴーストにしようと思ってますが、いい物あったら教えてください。

それから皆様にご相談。

簪なんですけど、本来は妹キャラで固定させるつもりだったのですが、なんか書いてるうちにヒロイン化してもいいかな、何て思いが湧き上がってきまして………

1、この小説は楯無(刀奈)一筋で行くべきだ! 簪は妹だ!!

2、この際姉妹ルートで行っちゃいましょう。 GoGo!!

の、どっちかを決めてもらいたいと思います。

よければご意見くださいませ。

では、次も頑張ります。




PS.IS10巻買いました。

で、ちょっと気になったことが、3年専用機持ちのダリル・ケイシーって7巻の216Pで褐色肌っぽい描写がされてるんですけど、10巻のカラーページだと思いっきり白人として描かれてるんですよね。

これって単純な設定ミスですかね?

あと、イズル先生って百合好きなんでしょうか?

物語の都合上仕方ないのかもしれませんが、ハッキリと恋人描写がされてるカップルが女×女の方が多い………



[37503] 第二十八話 ワールド・パージ。 俺は別任務だけど
Name: 友◆ed8417f2 ID:5337aa3d
Date: 2015/12/06 21:11


第二十八話




ゴーレムⅢの襲撃から数日。

俺の打鉄・不殺はバスターソードの電子回路系統に異常があったのと、半壊したシールドの装甲の交換だけで、割と簡単に修理が完了した。

他の専用機持ちは、戦闘に参加していない刀奈と、俺と一緒に戦っていた簪以外は深刻なダメージを受けており、しばらくISが使えない。

一夏の白式に至っては、開発元の倉持技研でオールメンテナンスをするらしい。

そういえば、ワールド・パージ編がそろそろなんだよな。

刀奈がその時に撃たれてたから、そっちも何とかしないと…………

ISが無傷だから大丈夫かもしれないが。

それからこの数日で特に変わったことと言えば…………

「あ、お義兄ちゃん!」

簪がそう言いながら駆け寄ってくる。

「簪………」

何故か、簪にお義兄ちゃん呼ばわりされるようになってしまったのだ。

簪曰く、

「お姉ちゃんのお婿さんになるんだから、お義兄ちゃんでいいよね?」

とのことだ。

特に否定はしないし、悪い気もしないのだが、周りの唖然とする視線がちょっと痛い。

「どうしたの? お義兄ちゃん?」

「いや、何でもない………」

そのまま簪と話していると、突然廊下の照明が一斉に消えた。

「「ッ!?」」

続けて防御シャッターが閉じ、校舎の中は真っ暗になった。

「空、ハイパーセンサー頼む」

「結、お願い」

俺と簪は、ISのハイパーセンサーを起動させ、視界を確保する。

「二秒以上経ったけど………非常灯も点かないのはおかしい」

「また何かの事件か?」

俺はそう言いつつも、内心では原因の予想はついていた。

ワールド・パージ編が始まったのだ。

すると、通信が入った。

相手は織斑先生だ。

『無剣を含めた専用機持ち達は、全員地下のオペレーションルームへ集合。 今からマップを転送する。 防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

何故か俺まで呼ばれたため、指示に従いオペレーションルームへと向かった。





とりあえず、何とか地下のオペレーションルームに着いた。

ここに来るまでに隔壁を2,3枚ぶっ壊す羽目になったが。

俺達がたどり着いた時には、既に刀奈、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが揃っていた。

「では、状況を説明する!」

織斑先生が、説明を始める。

現在、ハッキングによって、IS学園の全てのシステムがダウンしているらしい。

そういえばこのハッキングって、束さんとこにいるクロエなんちゃらって子の仕業だったんだよな。

で、この後一年の専用機持ち達が電脳ダイブをすると。

「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、更識 楯無さんは、アクセスルームへ移動。 そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。 更識 簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

「え?」

山田先生の挙げた名前に、俺は思わず声を漏らした。

何でこの場で刀奈の名前が呼ばれるんだ?

刀奈は、この混乱に乗じて襲撃してくる勢力の防衛に当てられるはずだ。

他の専用機持ち達が電脳ダイブについて意見を述べているが、そんなことは聞いていなかった。

結局は、織斑先生の鶴の一声でその場は収まり、激を受けて、みんながアクセスルームに移動する。

そんな中、

「盾…………」

刀奈が少し心配そうな表情を浮かべて、俺に歩み寄ってきた。

「楯無………」

刀奈は俺の右手を取り、そっと握る。

「これ…………お守りだから…………」

そう言うと、刀奈は俺の右手にミステリアスレイディのアクアクリスタルを握らせた。

「これは………?」

俺の問いに刀奈は答えず、

「………気をつけてね」

そう呟き、少し無理のある笑みを浮かべると、すぐに踵を返して部屋を出て行った。

「…………どういう事だ?」

訳が分からず俺は首を傾げる。

すると、

「さて、無剣」

突然織斑先生に名指しされた。

「は、はい」

吃りながらも何とか返事をする。

「お前には別の任務を与える」

「任務………ですか?」

嫌な予感がした。

「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやってくるだろう」

「………………」

俺の背中に冷たい汗が流れる。

「この混乱に乗じて、介入を試みる国は必ずあると私は睨んでいる」

「つまり………俺がその勢力に対する迎撃を行うと………?」

俺はほぼ確実となった予感を口にする。

「そうだ。 今のあいつらは戦えない。 悪いが、頼らせてもらうぞ」

「……………一つ、よろしいですか?」

「何だ?」

「何故俺なのですか? 彼氏として情けない話ですが、このような状況の場合、楯無の方が適任と思うのですが?」

俺は気になったことを質問する。

「その更識姉からの推薦だ」

「えっ?」

刀奈からの推薦?

「お前はこれから更識と生きていく上で、このような状況に何度も遭遇するだろう。 故に、お前にも実戦経験を積ませたほうが良いとの更識姉の判断だ。 心配せずとも、今回の襲撃者は歩兵部隊が主力だろう。 ISは精々1機。 多くても2機だと予想している。 ISは我々が受け持つ。 お前には歩兵部隊を叩いて欲しい。 ISを纏っていれば危険は限りなく低いだろうし、お前のISの単一仕様能力は、歩兵部隊の鎮圧に向いている。 故にお前を選んだ」

「そういうことですか…………」

刀奈が俺を信じて推薦したというのなら、全力で応えるだけだ。

俺は気を引き締め、

「分かりました。 学園防衛の任、引き受けます!」

「すまんな………」

俺は指示された場所に向かって移動を開始した。







指定の位置に到着した俺は、ISを纏い、前を向いている。

長く続く廊下は照明が落ち、真っ暗だが、ハイパーセンサーのお陰で視界は良好だ。

『お兄ちゃん! 侵入者見つけたよ!』

空から報告が来ると同時にモニターが開き、枯葉のような特殊スーツを着た6人が映し出されていた。

因みにこの映像を映し出しているカメラは楯無が無断設置したカメラであり、先程アクアクリスタルを受け取った時に、霧子を経由して、空にカメラの受信周波数が送られてきていたのだ。

そして、

「来たか」

目の前には、何もないように見える。

ハイパーセンサーを使っても同じだが、確かにそこにいる。

何故なら、

「アクアナノマシンを散布して、レーダー替わりか………便利だな」

受信周波数と一緒にナノマシンの制御データまで送られてきていたりする。

流石に『清き情熱』や武器にできるほどの制御はできないが、レーダー替わりにする程度は可能だ。

そして、侵入者の動きを見るに、ISを纏っている俺は相手にせずに、先に進もうとしているようだ。

が、そうは問屋が卸さん!

「20秒チャージ完了。 ハイパーブラスター!!」

俺はバスターを前方に突き出し、容赦なく巨大なエネルギー弾をぶっ放した。

一固まりになっていたグループに纏めて直撃した。

『お兄ちゃん、やりすぎじゃない?』

ぶっちゃけオーバーキルと言わんばかりの惨状に空がボヤいた。

確かに生身相手なら、ノーマルショットとチャージショットの違いは全く無い。

むしろ無駄にエネルギーを消費するだけだ。

それでもチャージショットをぶちかました理由は、原作で刀奈の腹に風穴開けてくれた連中だからだ。

そんな奴らに容赦など必要ない。

「さて、まだまだ来るぞ」

他の班も合流してきたらしく、俺はバスターを構え直した。






【Side 刀奈】




侵入者の迎撃を盾に任せた私は、他のみんなと一緒に電脳ダイブを行っていた。

ダイブしたら、何故か服装が不思議の国のアリスのようなドレス。

それで二足歩行の兎を追いかけたら6つのドア。

「何これ?」

「入れってこと?」

『多分………』

簪ちゃんは自信なさげに呟く。

でも、確かにこれは多分としか言い様がない。

もちろん罠の可能性がある。

むしろ罠の可能性の方が高い。

だけど、先に進むには罠に飛び込むしかない。

『この先は………多分、通信が途絶えるから………各自の判断でシステム中枢へ………』

「「「「「「了解!」」」」」」

ノイズ混じりのウインドウでそう言う簪ちゃんに返事を返し、私達はそれぞれの扉を潜った。




一瞬視界が光で溢れ、すぐに収まったかと思うと、

「え………?」

私は人々が行きかう駅前の通りにいた。

「ここは…………?」

私は辺りを見渡す。

この場所はとてもよく見覚えのある場所だった。

「ここって…………盾とのデートの待ち合わせによく使ってる場所…………」

私は何故と思う。

いつの間にか私の服装も私服姿に変わっており、まるで今からデートするかのような格好だ。

「………………罠に決まってるわね」

考えるまでもなくそう判断する。

「そうと分かれば早く脱出しないと…………」

私は辺りを見回して、どこかにこの空間を脱出するための切っ掛けがないかを探す。

すると、

「ちょっとそこのオネーチャン。 今ヒマー?」

まるで漫画に出てくるような風貌のチンピラが5人話しかけてきた。

…………これも罠の一環かしら?

「良ければ俺達に付き合ってくれねーかなー? 答えは聞いてないけど」

「なら聞くんじゃねーよ!」

ギャハハと下品な笑い声を上げるチンピラにイラッと来る。

早く脱出しなきゃいけないのに。

「悪いけど私忙しいの。 他を当たってくれる?」

私は素っ気なく返事をして、この場を立ち去ろうと思った。

けど、

「ちょっと待てやネーチャン。 答えは聞いてないって言ったやろ?」

腕を掴まれて止められる。

現実じゃないんだし、遠慮しなくてもいいよね?

そう思って腕を振りほどこうと、

「おい! 人の彼女に何してるんだ!?」

突然私を掴んでいた男の手首が横から伸びてきた手に掴まれ、捻りあげられる。

「あででででで!!??」

情けない悲鳴を上げるチンピラ。

そこには、

「じゅ、盾!?」

学園の防衛任務に就いているはずの盾の姿があった。

「待たせたな刀奈。 遅れてすまなかった」

盾はそう言うと、捻りあげた男を投げ飛ばす。

「ぎゃあっ!?」

悲鳴を上げている間に、盾は私とチンピラたちとの間に体を滑り込ませると、

「ここで退くなら何もしない。 けど、向かってくるなら容赦はしない!」

いつもの盾とはまるで違う、自信に満ちた堂々とした声と態度。

「この野郎! お前ら! やっちまえ!」

「「「「うぉおおおおおおっ!!」」」」

チンピラたちが一斉に殴りかかってくる。

「仕方ないな………」

盾は落ち着いてそういうと、

「ふっ!」

1人目のパンチを右手で受け止めると、後ろに引っ張りながら相手の腹部に膝蹴りを叩き込む。

「ぐふっ!」

相手は腹を抱えて悶絶する。

続けて後ろから殴りかかってきた攻撃を、盾は振り向かずにしゃがむ事で避け、

「はっ!」

しゃがんだ状態から後ろ向きに蹴り上げを行い、チンピラの顎を捉えて吹き飛ばす。

「ごはっ!?」

更に間髪入れず、

「せいっ!」

水面蹴りで、3人目の足を払い転倒させ、すぐに起き上がると、

「そりゃっ!」

「がふっ!!」

体重を乗せたエルボーを鳩尾に叩き込んだ。

「このヤロ!」

どこからともなく出したチンピラの釘バットが振るわれる。

しかし、

「甘い!」

「うぎゃっ!?」

盾の繰り出した蹴りがチンピラの手を捉え、バットは明後日の方向へ飛んで行った。

「おらっ!」

そのまま動揺しているチンピラの頬に右ストレートを喰らわせた。

「ぐはっ!?」

あっという間に盾は4人を鎮圧してしまった。

「どうする? まだやるか?」

最後に残ったチンピラに向かって余裕の表情でそう言うと、

「ち、畜生! 覚えてろ!」

テンプレな捨て台詞を残して、チンピラ達は逃げていった。

それを見届けると、盾は私に向き直る。

「大丈夫だったか? 刀奈」

「う、うん…………でも、盾は何でここに? 学園の防衛任務はどうしたの?」

私は気になった事を聞く。

「防衛任務? 何ってるんだ刀奈。 今日はデートの約束だったろ?」

「えっ? デート?」

その瞬間、思考にノイズが奔る。

そ、そうだったかしら?

徐々に思考が鈍くなる感覚がする。

「ああ。 最近は予定が合わなくてご無沙汰だったろ? 早く行こうぜ」

盾が私の手を取って歩き出す。

なんだろう?

頭がボーっとする。

何か大事かことを忘れているような…………

「どうしたんだ? 刀奈?」

「ううん………なんでもない」

まあいいや。

思い出せないなら大した事じゃない。

今は久しぶりのデートを楽しもう。




――――――ワールド・パージ、完了――――――



そんな声が、頭の中で聞こえた気がした。





【Side Out】







「さて、粗方終わったかな?」

俺はそう呟くと、倒れている特殊部隊の隊員達を縛り始める。

念のために装備は剥ぎ取ってだ。

しばらくして、全員を縛り終えると、最初に気絶していた班のメンバーが目を覚まし始めた。

「目が覚めたのなら、無駄な抵抗は止めておけ。 ISの力は十分に分かっているはずだ」

俺はバスターを隊長らしき人物に突き付けながらそう言う。

「うぐぐ…………貴様………更識の手の者か?」

そんな事を言い出した。

「ん~~~? 見習い未満だけど、そんなようなもんか?」

そう返すと、

「フン。 IS欲しさに祖国を捨てた尻軽の当主に仕えるとは、聞いて呆れる」

その言葉に思わずカチンと来た。

反射的にその隊長の頭を踏みつける。

「うごっ!?」

「人の彼女を尻軽たぁ、言ってくれるじゃないの?」

自分でも信じられないぐらい低い声が出た。

隊長の頭を床にグリグリと押し付ける。

「うぐぐ………じ、事実ではないか! 自由国籍権で日本国籍を捨て、ロシアに尻尾を振ったではないか!」

その言葉に怒りを通り越して呆れた。

「お前、バカだろ?」

「なっ!? 黄色い猿如きが我々を愚弄するか!?」

「バカにバカと言って何が悪い。 楯無がやった事の表面しか見てないお前が、あいつをどうこう言う資格は無い」

「な、なんだと!?」

「俺は裏の世界の事は全く知らない。 けどな、そんな俺でもある程度の予想はつく」

俺は隊長を踏み続けながら言葉を続ける。

「まず一つ目に、お前はIS欲しさに祖国を捨てたと言ったな?」

「ぐ、ぐぅ………それがどうした!?」

「ISが欲しいだけなら、日本で代表候補性なれば良いだけだろ? 楯無は、ロシア代表になるほどの実力の持ち主だ。 無理して国籍を変えなくても、専用機が貰えるレベルの代表候補性には確実になれたはずだ」

「……………………」

「そして第二に、日本以外の国籍になれば、何か国際関係の問題を起こしたとしても、ロシア国籍の楯無なら、日本に飛び火する可能性は少なくなる」

「な………………」

「そして第三に、ロシア国籍と言えど、専用機を持つのは楯無だ。 実質、ロシアという大国からISを一機減らし、日本に一機増やす事に等しい」

「………………」

「裏の世界に疎い俺が考えただけでもこれだけメリットが出てくるんだ。 実際はもっと考えがあるんだろうさ」

「…………………」

すでに隊長はぐうの音も出ないようだ。

「で、最後に言いたいことは………………」

俺は最大までチャージしていたバスターを隊長一人に向け、

「日本の為に日本人であることを捨てた楯無の覚悟を、尻軽の一言で済ましてんじゃねえよ!!」

容赦なくフルチャージショットをぶちかました。

隊長一人を狙ったつもりだが、他のメンバーも巻き添えを喰らったらしく、全員気絶していた。

「さてと、こっちは何とかなったぜ。 お前もしっかりな、刀奈」

誰に言うでもなく、そう呟いた。





【Side 刀奈】





なんでだろう?

「刀奈!」

いつも通りのデートのはずなのに………

「刀奈、次はあそこに行こうぜ!」

どこかつまんない………

「どうしたんだ? 刀奈?」

今の盾は、私を守れるほど強くて、自信に満ちてて、それでも優しさを無くしていない理想の盾なのに…………

「…………理想?」

その言葉に、何か引っかかりを覚えた。

その引っかかりを探ろうとした瞬間、

「ぐっ!?」

頭が割れそうと思えるほどの痛みが奔った。

「刀奈、何も考えなくていい。 俺だけを見るんだ」

盾が優しい言葉をかけてくれる。

でも、今の私にはそれ以上にこの引っ掛かりを探る事の方が重要に思えた。

「ぐうう…………」

必死に痛みを堪え、引っかかりの大元を探る。

「刀奈。 俺を見てればいい。 刀奈。 刀奈」

私の名前を呼ぶ盾。

目の前にいるのは、理想の盾。

私が好きになった…………盾?

「ち、違う!!」

私は口に出して叫んだ。

私の理想通りの盾なんて、私が好きになった盾じゃない!

「刀奈。 刀奈。 刀奈。刀奈」

盾は…………盾の姿をした“何か”は私の名前を何度も呼ぶ。

「あなたがその名前で…………私を呼ばないで!!!」

私は頭の痛みを吹き飛ばすように叫び、右の回し蹴りを盾の姿をした“何か”の側頭部に叩き込んだ。

その“何か”は吹き飛ばされると空中でレンガが崩れるようにバラバラになり、消え去る。

「その名前で呼んでいいのは、家族以外じゃ一人だけよ!!」

私がそう宣言した瞬間、周りの景色が崩れ去り、まるで宇宙空間のような場所になる。

するとそこには、

「あら、やっと起きたの? 思ったより遅かったわね」

「霧子………」

私のミステリアスレイディのコア人格である霧子がいた。

自分の服装も、IS学園の制服になっている。

私は気を取り直し、

「酷いわね。 危うく寝坊するところだったじゃない。 起こしてくれても良かったんじゃないの?」

「ふふっ! 信頼の裏返しと思って欲しいわね。 私のマスターが、この程度の幻想、自力で目覚められないわけが無いじゃない」

霧子は楽しそうに笑いながらそう言う。

「言ってくれるじゃない」

私も不敵に笑って見せる。

「じゃあ、先を急いでるんでしょ? ここからは、私もついて行くわ」

「そう。 じゃあ、行くわよ!」

私達は、システム中枢へと向かった。




【Side Out】




【Side クロエ】




私は束様の言いつけ通り、システム中枢へ向かっていた。

専用機持ち達は、私の能力で足止めしている。

束様の目的を果たすまでの時間は、十分にあるはず。

しばらく進むと、無数の水晶のようなエリアとして視覚化されたシステム中枢を見つける。

「ここが………システム中枢…………」

その中を進むと、一際大きい水晶の中で眠る、目的の存在を発見した。

私は手前の水晶に降り立つ。

その存在は、長い白髪を持った女性として視覚化されている。

「これが………束様の言っていた、織斑 千冬専用機…………暮桜のコア…………」

私は確認すると、目的を果たすために近づこうと、

「へぇ~。 これが織斑先生の暮桜のコアなんだ」

「ッ!?」

後ろから突然聞こえた声に振り返る。

そこにいたのは…………

「更識…………楯無…………」

IS学園の生徒会長であり、日本の対暗部用暗部更識家の17代目当主である更識 楯無。

「私をご存じとは光栄ね」

顔は笑っているが、その目は私の隙を常に伺っている。

「……………ワールド・パージをこれほど早く抜けてくるとは…………どうやったのですか?」

私がそう問いかけると、

「私のマスターを舐めてもらっては困るわね」

彼女ではない誰かの声が響いた。

すると、彼女の後ろに、長い水色の髪を持った女性が現れる。

「霧子」

更識 楯無に霧子と呼ばれたソレは、

「ISの………コア人格………!」

私は呟く。

「ご名答」

ソレは即答した。

「まさか、コア人格と普通に対話できる方がいるとは…………それならばワールド・パージを短時間で抜けてこられたのも納得できます」

コア人格に干渉してもらえば、単純なシステムトラップであるワールド・パージを抜けるのは容易い。

「あら? 勘違いしないでほしいわ。 私は何もしてないわ。 あの変なトラップから目覚めたのは純粋に刀奈の力よ」

そのコア人格は驚くべきことを口にする。

「私は別に理想に恋してたわけじゃないからね。 もしも彼が初めから理想通りの彼だったら、決して好きにはならなかったって事が分かったから。 その事を再認識させてくれたあなたには、感謝しているわ」

「…………………」

さらっと惚気ないで欲しいですね。

「まあ、ともかく。 何でこんなところに暮桜のコアがあるかは後で織斑先生に聞くことにして、あなたの目的を聞かせてもらおうかしら?」

「ッ!」

彼女の纏う空気が変わったのを感じた私は、強硬策に出た。

すぐさま暮桜のコアに近付き、束様から渡されたプログラムをインストールする。

「何をしているのっ!?」

更識 楯無が私に届く寸前、インストールが終わり、私は離脱する。

「くっ!」

「主からの使いは果たしましたので、此度はこれにて失礼いたします」

「待ちなさい!」

私は、電脳ダイブを終了させ、その場から消え去った。






【Side Out】







最終的にどうなったのかと言えば、、襲撃者達を拘束した後、すっ飛んできた一夏と合流。

地下のオペレーションルームへ向かい、襲撃者達を受け渡した後、アクセスルームで専用機持ち達を救い出すというミッションを受け持った。

俺達がアクセスルームへ向かうと、驚くことに刀奈はもう目覚めていたため、他の専用機持ち達を一夏が救い出すことになった。

流石主人公なだけあって、一夏は大した時間もかけずに次々と罠にかかった専用機持ち達を開放していく。

やがて最後の箒が開放されたが、今度は一夏が目覚めない。

キスが云々の話になったが、簪がキス争奪戦に参加しなかった所為か、鈴死亡イベントは起こらなかった。

一夏が目覚めるまで待機していたとき、唐突に刀奈が切り出した。

「そういえば、皆はどんな夢を見たの?」

その瞬間、専用機持ち達の顔が真っ赤に染まる。

「ななな!? 何を言い出すのよ!?」

「そそそ! そうですわ! 人のプライバシーに踏み込むのは失礼ですわよ!?」

鈴とセシリアが大慌てして取り乱す。

「そう? 因みに私は理想の盾が出てきたわよ。 強くて、自信を持ってて、それでいて優しい、まさに理想の盾だったわ」

「うぐ………!」

刀奈の言葉に、俺は胸が抉られる気持ちになった。

「ふ、ふーん…………残念だったわね。 現実の彼氏はそんなんで」

「ぐふっ!」

鈴が追い打ちをかける。

「残念? まさか! もし現実の盾が初めから理想通りだったら、私は絶対に好きにならなかったって断言できるよ。 ムカついたから、偽物は蹴っ飛ばしちゃったわ」

「「「「「「え?」」」」」」

刀奈の言葉に全員が声を漏らす。

「前も似たような事言ったと思うけど、私は理想に恋してるわけじゃない。 私は今の無剣 盾っていう男性が好きなの。 確かに理想通りになってほしいって思いはあるわ。 でも、ただ理想通りじゃ好きにはならない。 私は、届かないと分かっている理想に向かって、もがき、足掻いて、倒れたとしても、這い蹲ってでも前に進もうとする盾の姿が好きなの。 ま、それは私が好きな盾の一部分だけどね」

刀奈の言葉に、俺は一気に顔が熱くなるのを感じた。

「じゃ。じゃあ、もし無剣君が理想に追い着いちゃったら如何するんですか!?」

シャルロットが叫ぶように問いかける。

「私は言ったわよね? 初めから理想通りだったら好きにはならないって。 もがき足掻いて、その姿を見続けて理想にたどり着いた暁には…………」

「「「「「暁には?」」」」」

「好感度が限界突破しちゃうわね」

頬を染めながら笑顔でそう言った。

すると、刀奈が俺に歩み寄ってきて、

「もちろん、今のままでも私は盾の事これ以上ないぐらいに愛してるわよ♪」

俺の右腕に抱き着くように腕を絡めた。

「お前言ってて恥ずかしくないのかよ?」

俺は先ほどから顔の熱が引かない。

「ふふん。 彼氏がいると、自慢したくなるのが女の性よ」

顔を赤らめながら俺の肩に頭を乗せる刀奈。

「お姉ちゃんとお義兄ちゃん。 見てる方が恥ずかしくなるほどラブラブだよ…………」

傍観者に徹していた簪の言葉がポツリと漏れた。







あとがき


これまたお久しぶりです。

第二十八話の完成。

今回はワールド・パージ編です。

色々オリジナルを突っ込んどきました。

こんな感じでどうでしょう?

この小説の刀奈は理想に恋してるわけではないので割と余裕でワールド・パージ脱出です。

盾君も襲撃者相手に頑張りました。

むしろやり過ぎ?

生身の一人相手にフルチャージぶちかますとか…………

ダメージは変わらないんですけどね。

一巻分が1話で終わるってどうなんだろう?


あとアンケートですが、一途ルートで行きます。

姉妹ルートを選ぶ人が思ったより少なかったなぁ。

ともかく次も頑張ります。




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