<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[28159] 【チラ裏から移動】 飛竜になりました!(モンハン チート)/なろうの異伝分を投稿
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2012/11/27 02:54
 どうしてこうなった。

 水面を見る度に俺はそう思う。
 今、水面には凶悪な形相が映っている。
 水面を見る度に、俺はあの瞬間の事を思い出す。

 「お主、転生してみんか」

 死んだ直後に、気付いたらそんな事を言われていた。
 自分が死んだ事は覚えている。
 信号を待ってたら、スピード出しすぎの車が向こうから走ってきた。
 若い奴が片手運転をしていて、危ないな、と思っていたら、猛スピードのまま変わりかけの信号を曲がろうとして見事にスピンして交差点に突っ込んだ。
 結果として、俺は車にぶつかられて、そのまんま猛速度を維持したまま背後のビルとサンドイッチになった。即死出来てりゃ楽だったのに、しばらく意識が残ってたせいで酷く辛かった。
 まあ、間もなく意識がブラックアウトした訳だが、あれで生きてたらそれこそ奇跡が山盛りで必要だろう。

 「はあ、転生ですか」

 だから、死んだのは納得出来るが……こんな展開は予想してなかった。
 まあ、死んだ後どうなるか、なんて誰も知ってる奴はいないんだ。こんなのがあってもいいのかもしれない。
 
 「そうじゃ。実はお主が死んだのがちょうどわしの孫が生まれたのと重なったのじゃ」

 ………なんだって?
 話を聞けば、この爺さんは一応神様に分類される存在らしい。
 神様に子供とか孫とか生まれるのか?ってのはとりあえず置いておいてだ。爺さんが言うにはジャストで死んだ奴に転生の機会を、生まれた奴に祝福を与える事にしたらしい。要はご祝儀みたいなもんだ、とか言ってた。……生まれた奴羨ましい。
 まあ、仕方ない。
 とりあえず話を聞けば、俺は記憶を持って生まれる事が出来るらしい。
 
 「とはいえ、もちろん条件はある」

 まず生まれる世界は元の世界とは異なる世界である事。
 同じ魂をそのまま同じ世界に送り込むと、歪みが生じる云々とか言ってたが、まあ、要はどうにもならないって事だ。
 何か希望はないか。
 そう言いつつ、爺さんが自分が管理してるという世界のリストを見せてくれた。
 俺の世界に似たような漫画とかがあれば、その世界にも行けるとか言ってくれた。
 が、だ。
 殆どろくなもんがなかった。
 世紀末世界だとか、絶滅戦争勃発中だとか、異界からの侵入者と絶望的な戦争中だとかそんなんばっかり。
 
 「……平和な世界ってないんですか」

 「ないのう。わしゃ基本が争いごと司どっとった神じゃし」

 だから、戦争とか争いとか闘いが多い世界が管理に入ってるらしい。
 ……あの元の世界も多い部類なのか。
 そんな中、どっかないか、と探してたら、一つ知った名前があった。『モンスターハンターに似た世界』。
 
 「……これどんな世界なんです?」

 聞いてみれば、モンスターハンターによく似た世界らしい。
 ただ、少し違うのはハンター達の中でもあんなゲームみたいにモンスターを狩れる奴はごく一部らしい。
 ……そりゃそうか。
 幾ら身体能力が高くても、運が悪かったなんて事はあるだろうし。
 そもそも、モンスターもゲームみたいにぽこぽこ出てこないというのがでかいらしいが……。
 そりゃそうか。
 ゲームなら古龍だろうが、クエストが一度出てくれば何回でも、それこそ何十回でも狩れるが、本来希少な古龍種だ。現実にはそんなにほいほい出てこない。
 当然、討伐経験も限られるから、如何に強いハンターといえど、実際に飛竜以上の種を狩った者は限られる、という事らしい。
 反面、飛竜を一度倒せば、その広大な縄張りの領域に人が新たに空白となった領域に飛竜が訪れるまでに街を作れるという利点もあるらしいんだが……。
 
 「して、何か希望はあるかの?」
 
 何でもかんでもという訳にはいかないが、一つや二つなら構わない、という事でとりあえず言うだけは言ってみる事にした。

 「……とりあえず強い体が欲しいですね。見た目は普通で筋肉むっきむきとかじゃないけど、誰にも負けないぐらい強い、そんな感じの。出来れば格好いいと尚更」

 これはモンスターハンター世界に行くというなら当然の話だ。
 だってそうだろう?折角モンスターハンターの世界に行くんだ!ハンターやってみたいじゃないか。
 でも、そうなると飛竜とかにも対抗可能な体が必要な訳で……でも、むっきむきの筋肉達磨じゃなんかなあ……って気がするし。
 あと、運があればより嬉しい、って事で付け加えてみた。
 だってさあ、駆け出しの時に古龍に運悪く出くわしました、じゃたまらんだろう?爺さんは快くOKしてくれて、そうして俺は転生した……。 

 ……ああ、確かに強い体に転生してくれたさ!
 けどな……人じゃないなんて誰が想像したよ!?
 おぎゃーと生まれてみて、初めて見た顔がごつい竜の顔だった俺の驚愕を考えて欲しい。
 びっくりしながらそれでも襲う様子はなく、むしろ愛情を注いでくれているのが分かったから、少しずつ落ち着いた。
 そうして周囲を見てみると……蒼色の鱗の竜と、緑の鱗の竜が一匹ずつ。
 瞬間分かった。……空の王リオレウス(亜種/父親)と陸の女王リオレイア(母親)だと。
 そして、改めて俺の体を見てみると、赤い体……そう、俺はリオレウスに転生していたのだ。

 その後は簡単に述べよう。
 爺さんに頼んだ通り運は良く、というべきか、いや、単純にこの辺はまだ人が立ち入ってなかったのだろう。それもまた運って事はおいといて、弟妹も無事に生まれ、育ち……。
 やがて、俺含む四匹の子供達、内訳はリオレウス2匹とリオレイア+リオレイア希少種の子供達は巣立ちした。
 今、彼らがどうしているかって?それは各自がそれぞれに親の縄張りから離れたから分からないな……。まあ、どっかで会えれば、その時は分かると思うが。
 さて、俺はリオレウスに生まれた。だが、強さは確かに破格だった。
 見た目は普通のリオレウスだ。
 だが……中身は魔改造リオレウスだった。
 パワーも、耐性も強靭さも、そしてゲームでいう所の特殊能力も全てが規格外だった。
 咆哮一つにしてもティガレックスの咆哮を超え、風圧は龍風圧に匹敵。ブレスはラージャンのビームを真っ向からの撃ち合いで粉砕して、相手を吹き飛ばす、といえばその度合いが分かるだろうか。  
 何で分かるかって?そりゃあ、運良く体感出来たからだ……この場合、古龍にまで出くわしたのは運悪くというべきなんだろうか?
 ま、空飛んでれば、行動範囲は広いから可能性はない訳じゃないだろうが……。
 ちなみにゲームではライバルとされてたラギアクルスとバトルした時には、あっさり勝利して獲物として持ち帰ったと言っておこう。 
 ……見た目とかからG級並だと思ったんだがなあ、こいつ。

 そうして、俺はある穏やかな気候の場所に巣を作った。ゲーム風に言えば、森丘に当たるんだろうか。もっとも、巣はゲームみたいな簡単に人が入れる洞窟じゃなく、空高い絶壁に開いた裂け目奥に広がる洞窟だったが……。
 ……人恋しさがなかった訳じゃないが、こんな姿で赴いた所で戦闘になるだけだろう。
 それに竜としての本能、竜生にさすがに慣れていたのもあったんだろうな……。いや、慣れないといけなかったというべきか。
 時折、侵入してくる奴もいた。
 何しろ、獲物は豊富、水も豊富となれば無理もない。だが、その全てに勝利して、この地域に君臨し続け……偶には火山やら密林、砂漠といった他の地域に行ったりもしつつ、それなりの時、きっと何十年かが過ぎた頃。
 
 人間がやって来た。


【あとがき】
見た目は通常のリオレウス
中身だけ魔改造です
弟妹達?出るかは不明です



[28159]
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/04 11:27
 ハンターの仕事とはただ、モンスターを狩るだけではない。
 採取もそうだし、採掘もそうだ。
 或いは護衛任務などもあるし、探索だってある。
 今回はその内の探索に当たる。
 ゲームでも新しいフィールドが発見された、という時にギルドからの極秘依頼、という形で「危険があるだろうから」と腕利きのハンターに探索に赴いてもらう、というものがあるが、それは何も極秘なものだけではない。
 開拓村の為の先行調査。
 それが今回の依頼だった。
 
 開拓村の為の先行調査をハンターが行うのは、危険が予想されるからだ。
 何しろ、これまで人が本格的に住み着いた事のない場所だ。
 そこが荒地ならば、水が確保出来るか。住んだとして、生活していく目処は立ちそうか。
 豊かな土地ならば、そういう心配はないが、そういう場所にはモンスターの数も多い。
 可能ならば、その生息領域を確認すると共に、場合によってはドス級モンスターを狩る必要もある。
 最悪、飛竜クラスが生息しているのならば、討伐隊を繰り出さねばならない。
 ハンター達にとって出くわす事が多い大型モンスターは、各種のボス級モンスターだ。
 所謂ドスランポスやドスジャギィ、或いはドドブランゴなど。
 それらは群が一定の大きさを超えれば、自然と生まれてくる。

 反面、特に面倒なのが大型の飛竜種だ。
 彼らの行動範囲は広い。
 飛行能力を保持する為に、大型故に食料もたくさん必要とする為に、行動範囲すなわち縄張りも広くなるのだ。
 何が面倒かといって、最初の調査では目撃されなかったからといって、そこが飛竜種のテリトリーではないと一回では断言出来ないからだ。
 結果的に、幾度も調査を重ねる事で、目撃情報がないか探っていく事になる。
 もっとも、実際には他の調査も含めるとどの道複数回の探査が行われるのだが……。

 「……いい土地だな」

 五人の集団からなるハンターの一人がそう呟いた。
 確かに良い土地だった。
 穏やかに広がる草原にはアプトノスの大きな群が草を食んでいる。
 中央には大きめの川がゆったりと流れて、海へとそそぐ。
 視界には雄大な山脈があり、その麓から森も広がっている。
 確かにここならば、水の確保も問題なく、耕作も可能。森の恵みや狩りも大丈夫だろう。
 
 「だが、気になる事もある」

 別のハンターがそう言った。
 誰もが薄々理解していた。
 これだけの豊かな地であるのに、ランポスなどの鳥竜種の数が限られている。
 肉食の獣の存在は生態系には不可欠だ。
 草食の獣だけでは、やがて草食動物も食べるものがなくなって減少に移る。
 生態系が維持されているというからには、そこには草食動物を捕食する肉食動物がいるはずなのに、ランポスなどにドス級がいない。それが意味する所は……。

 「いる、という事か?飛竜種が」

 ごくり、と誰かの喉が鳴る音がした。
 いや、或いは全員だったのかもしれない。
 ここにいる誰もが飛竜種との戦闘も経験しているベテランハンター達だ。だが、それはこんな少数ではなく、もっと大規模な部隊の一員として、だ。
 何も好き好んで危険を冒す事はない。
 少しでも安全に狩りを行う為に、特に危険な飛竜ともなれば、ハンター達は部隊を組み、それでも生還出来ない者は必ずいた。

 「せめて、イャンクックとかならいいんだが……」

 「古龍だったりしてな」

 そんな軽口を叩いた時だった。
 空が翳った。

 「「「「「!!!」」」」」

 全員が見た。
 空を舞う赤い鱗の飛竜を。
 アプトノスをその両脚で掴み、空を飛翔し、彼らの頭上を超え、悠然と山脈へと向っていく。
 その姿こそ名高き空の王。

 「……リオレウス」

 誰かの呟きが彼らの間に静かに響いた。


【あとがき】
とりあえず、書いてみる



[28159]
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/04 11:27
【SIDE:人間ズ】
 「……空の王リオレウスか」

 苦い顔で唸った男達がいた。
 開拓村(予定)の中心人物達だ。
 
 「厄介だな」

 深い溜息が漏れた。
 飛竜種がいるといっても、即討伐には至らない。
 理由は単純で、まず一つは純粋に危険な事。
 一つは討伐資金がかかる事。
 これは人数が大勢になる事や、装備にかかる金が多額になる為だ。
 一つは飛竜が即人を襲うとは限らない事。
 十分な獲物がいるならば、飛竜はそちらを狙う。
 言い方は悪いが、人は大型の飛竜のご飯には小さすぎるのだ。
 無論、逆に言えば一般人が襲われたりしたら、まず助からないと思ってもいいのだが……一人やそこらならば、これまた言うのは何だが予想の範囲内だ。
 開拓とは厳しい。
 村となるまでに、全く犠牲が出ずに終わる事は滅多にない。
 貴重な鉱石が取れる事から設けられた雪山の小さな開拓村を襲った悲劇で有名なものでは、冬、飢えたモンスターが襲撃を繰り返し、次々と村人が犠牲となっていき、やむなく村を後に脱出した者達も街へと辿り着く過程で襲撃を受けたり、力尽きて倒れたりして、街へと辿り着いたのはたった一人の樵だった、という話がある。
 まあ、今回の地は冬とてそう寒くならない場所だから、そこまで酷い事にはならないとは思う。
 だが……。
 それでも、飛竜が空を舞う地で安心して暮らせ、というのは酷な話だ。
 
 「……領主に話はしてみるか」



【SIDE:転生者】
 俺は気持ちよく空を飛んでいた。
 やっぱり住み慣れた場所はいい。
 今日のご飯はイャンクック。
 迂闊に俺の縄張りに入り込んだ所を狩った。
 ……動物化してる、なんて言わないでくれ。
 長い事竜生活なんてやってると、人と話す事さえない状態が続いてると、どうしてもそうなってしまうんだ……。
 もう、俺が人だった頃の生活なんて殆ど覚えてない。
 何しろ、一人暮らしになってからは必死だった。
 それまでみたいに巣で待ってれば食い物がやって来る、なんて状況じゃない。
 自分で狩りをする、人間風に言えば自分で稼がないといけないんだ。
 
 家だってない。
 俺が独り立ちして、まず探したのは住みやすい場所だった。
 人間がほいほい来る所じゃ拙い。
 幸い、まだこの世界じゃ人の領域は狭い。そして、俺には空を飛ぶ翼がある。
 狩りをしながら、快適な場所を探してた。
 そんな折、俺はこの地でアプトノスを狩った。それがこの地に住む事になる原因となる時はあの時は夢にも思わなかった……。

~回想~
 「小僧、誰に断って、この土地で狩りなぞしている」

 俺の目の前で唸っているのは……こいつひょっとしてベルキュロス?
 うん、左右の翼から尻尾みたいなのが出てるし……全身が帯電してるみたいな感じだから多分間違ってないと思う……。
 つか、お前峡谷で生息してるんじゃないのかよ?
 そんな風に思ったが、確かにこんな場所に住んじゃいけない、って訳でもないだろう。
 考えてるせいで、苛立ったのだろう。放電が強まった。

 「小僧……死にたいのか?」

 果たして、こんな風に喋ってるのって、人が聞いたらどう聞こえるんだろう……。
 
 「いや、まあ……狩りをしたのは腹減ったからだよ。悪かった」

 頭を下げたんだが……次の瞬間そのまま飛び退った。
 当然だろう、下げた頭にいきなり翼から伸びる鉤爪を鞭みたいに振るってきたからだ。

 「何するんだ」
 
 「ふん……避けたか」

 獰猛に哂ってるよ、おい……。
 というか、殺る気満々じゃね、こいつ?
 ここで俺が取れる選択肢は……。
 1、ひたすら謝る
 無理、どう考えてもやっこさん殺意で一杯だ。
 さっきの俺の態度が怒らせちまったみたいだ。止まりそうにない……。
 2、逃げる。
 逃げ切れるか分からんのだよなあ……。
 ベルキュロスの飛行速度と俺の飛行速度どっちが早いかなんて試した事ないし。
 似たり寄ったりの速度だと最悪だ。
 後ろから好き放題ブレスはきまくりになってしまう。却下。
 3、説得する
 1に通じるな、却下。
 4、戦う
 ……それしかないかな。
 これまでもやむをえず戦う場面はあった。
 でも、ある程度ダメージを与えたら立ち去ってきたんだ。
 理由は、ある。
 同じリオレウス、リオレイアだったら同族って事もあるし、なんか気が引けた。
 特にリオレイアは雌だしなあ……。
 火山、雪山、荒地なんかは住みにくそうだった。
 まあ、その他色々あるんだが……。
 
 「本気か?俺は古龍種にも勝った事があるんだぞ?」

 「……脅しか、ふざけた事を言う奴だ」

 やっぱ駄目か。本当なんだけど……。
 しょうがない、殺るしかなさそうだ。
~回想終了~

 結果は……まあ、俺がこの地で特に怪我もなく暮らしている事から察してくれ。
 ……うん、圧勝だった。
 飛竜の中でも特に賢い、って言われる竜なだけはあったし、それだけじゃなく、年経た竜だったようだ。
 でも、電撃すらまともに効かないんだな、俺の体……。
 戦い方は巧妙だった。
 もし、俺が普通のリオレウスだったら、圧勝してたのは奴だっただろう。
 だけど、攻撃の全てがまともに効かない、じゃあさすがの奴もどうにもならなかった。
 結局、勝利した俺は奴から「この地の新たな王はお前だ」と勝手に告げられて……でも、奴から教えられた寝床とかの場所も理想のものだったし、住みやすかった。
 結局、そのまんま俺はこの場所で暮らして、寝床も色々工夫して今じゃ竜なりに大分暮らしやすくなった。
 こんな日々が何時までも続くと思ってたんだな、何時の間にか。
 そんな時、だったんだ。人に出会ったのは……。 


【あとがき】
感想板を見ると、なんですね……
色んな人がいると本当に思います
 



[28159]
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/05 21:49
【SIDE:転生者】
 朝、洞窟で目を覚ます。
 長い時間をかけて形成したねぐらだが、人間のそれのようなベッドは、ない。
 最初の頃は草や木を敷き詰めたベッドを作ってみたのだが……何しろ鱗が頑丈だ。防御能力が高い、という事はその分鱗が分厚かったりする訳で、柔らかいベッドなんてものを感じるのは不可能だった。
 ぶっちゃけると、硬い岩の地面に寝ても大差なかった。
 それなら、安全に過ごせる場所で、土よりも岩肌。そんな場所があれば十分だ。
 ぐぐっと体を伸ばし、翼を広げる。
 骨なんかは転がってない。
 最初の頃は持ち帰ってたんだが……腐るんだよ、どうしても。
 肉も内臓も食ってしまうんだが、これが骨ごとバリバリ食えるような小型種ならともかく、アプトノスとかだと骨を残してしまう。
 そうして、それに肉がこびりついて残ってたりすると……。
 洞窟の奥で、外より暖かいのもこの辺は災いしている。
 だから、最近は食事はもう少し下の方に専門の場所を作っている。
 
 のそのそと進み、外を見る。
 おお、いい天気だ……。
 それじゃ出かけるとしますかね。
 翼を広げ、飛び立った。
 こうして飛び立ってみると、あのベルキュロスは矢張りベルキュロスらしく峡谷みたいな地形を好んでいたのが分かる。山岳地帯は確かにその下に峡谷を思わせる光景が広がっていたからだ。
 あの草原はあくまで狩場だったのだろう。
 確かにこの辺は獲物が限られるし、森は空から襲撃かけるには余り向いていないからな……。
 少し飛べば海へも行ける。 
 もっとも、俺自身は海に行く事は余りない。
 海洋生物なんて襲撃かけるのは難しいし、間違ってこの体で海に落ちたら後が物凄く面倒だ。貝とかなんて小さすぎて食った気がしないし……。
 では何故行く事があるのか?それは草食動物が塩分の摂取に群で数日に一度は向うからだ。
 まあ、海なら間違いなく塩があるからな……。
 後はあれだ。縄張りの見回りだよ。
 ラギアクルス、ダイミョウザザミなんてのが来る事がある。
 精々、何年かに一度、ぐらいだけどね。
 
 さて、今日も狩りすっかあ……って?
 草原の入り口付近に見慣れぬものを見つけた。
 ……おいおい、あれはどう見ても……ハンターだよなあ?
 何やら武器やら何やら揃えてるし、開拓とかそういう村作り、って感じじゃない。
 何狩りに来てるんだろ……ってまさか俺か!?
 うーん、今は高空を飛んでるし、雲も薄雲じゃあるが、それなりに今日はあるし……まだ見つかってはなさそうだけど……どうすっかなあ。
 正直迷う。
 俺だっても元は人間だ。好き好んで人間を襲撃、なんて考えない。
 いや、人間を食うって事に嫌悪感もあるし、人ってものの厄介さも分かる。
 数増やしたり、罠仕掛けたり、本気で狩る気なら何度でもやってきそう……ここがモンスターハンターの世界だっていうなら、凄腕のハンターなんて居たらこっちが狩られかねないし……。
 祖龍なんてのはまだ出会った事がないが、ゲームではそういうのや、巌竜ラヴィエンテみたいな超巨大なのも狩るのがハンターだ。
 いかに俺が魔改造リオレウスだとしても、狩られないって保証はない。
 ……でも、なあ。
 ここに人が住もうってなら、俺を狩る動きは止まらないだろう。
 そうなると、縄張りに入り込んだモンスター同様の対応するしかないんだろうか……。



【SIDE:人間ズ】
 現実には人間達の側にはそこまで何度も来れるような余裕はなかった。
 これが少数で狩りに来るような、ゲームみたいな世界ならそれこそ何度でも来るだろう。
 でも、今来ているのはハンターの集団だ。
 これだけの人数の食料や各個人の装備以外の重武装なんかは全部国が用意したものだ。
 今回、これ程早く国が動いたのには訳があった。
 ぶっちゃけてしまえば、この地域は二つの国が領有を狙っていたのだ。
 これまでも山師が山岳地帯に入った事はあった。
 その結果として、この地域は水資源が豊か、森の恵みも期待出来るし、農耕も問題なし。海も領域に入り、湾があるから漁も将来的には可能。山岳地帯からは鉱石の採掘が有望。
 更にここに街道を通せば、複数の国との交易路も期待出来るという、国からは実に美味しい場所だった。
 そんな地域が何故これまで手付かずだったかと言えば、単純に長い時間をかけて、ここまで人間の領域が迫ってきた、というだけの事だ。
 
 「いよいよ、か」

 武器の手入れをしつつ、ハンターの一人が呟いた。
 彼が持つのは巨大な大剣。
 この大剣はダブルブロスソード。かつて彼の祖父が飛竜退治、ディアブロスと伝えられてる、を行った際に手に入れた素材で作られたものだという逸品だ。
 反面、彼自身の防具はゲネポスのそれを加工したものだ。こればかりは彼が飛竜と戦った事がないのだから仕方がない。
 無論、鉱石を主体に作れるような武具は上質の物が揃えられている。
 そういう面では武具よりも防具に不安がある、と言わざるをえないだろう。防具は動きやすさも重視される為に鉱石よりもモンスター素材が主体となるからだ。

 「ああ、腕がなるぜ」

 そう言いつつ別のハンターが応えた。
 もっとも、誰も彼もが緊張を多かれ少なかれしている。
 前衛と後衛のそれぞれのリーダーが打ち合わせをしているし、緊張が重なれば後衛が最悪、射線が重なった前衛を撃ちかねない。
 
 人と飛竜。
 彼らの間に、人の都合によって戦端が開かれようとしていた。





[28159]
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/04 21:06
【SIDE:転生者】
 結局俺は……ハンター達への攻撃を決めた。
 無論、悩んだ。
 だが、それ以外の選択肢を選ぶとして何が出来る、というのもあった。
 話し合い?
 無理。
 俺は何故か彼らの言葉が分かるが、あいつらは俺の言葉が理解出来ない。
 言葉は分かるが、文字が書けないのでメッセージを伝える事も出来ない。
 ベルキュロスの言葉が理解出来た事といい、ひょっとして一定以上の知能を持つ相手との意思疎通が可能なんじゃ、と淡い期待を持った事もあったが、あくまで意思疎通が可能なのは同じモンスター同士だった。
 おまけに言葉が俺の感覚で言えば日本語で意味が分かる、っていうのは実はこの世界の言語を覚えるのは絶望的だ、という事を意味していた。
 何しろ、この世界の文字を見ても、俺には日本語に見える。
 が、俺が日本語を地面に書いても、通りがかった連中は首を傾げていた。
 ……どうやら、単なる紋様か何かにしか見えないらしい。
 これじゃ、この世界の言語を覚えようとするのは不可能だ。もし、人の辞書を得たとしたって、和英辞典の役割を期待してるのに、俺には国語辞典にしか見えない、という状況で日本語を英語に訳せ、と言われてるようなもんだ。
 では、逃げるか?
 これも却下。
 そもそも俺の方がここに長い事住んでいた訳だし、何より逃げてどうなる、ってのもある。
 今後も人の領域は広がるだろう。
 その度に俺は逃げ出して、新しい住処を探すのか?
 きっとその時手に入る住処は前のそれよりランクが下るはずだ……。
 大体なんで、人の庭に我が物顔で入り込んで自分の物にしようとしている、みたいな立場の連中に遠慮しないといけないんだ。
 残ったのはただ一つ。
 完膚なきまでに叩き潰す。
 それこそ、当分新しく人が来ないように、だ。
 ……まあ、なんだ。ハンターじゃなく、共存しよう、ってなら考えてやらんでもないんだけどな。



【SIDE:人間ズ】
 予想外の事だった。
 夜明け近く。
 準備を整えて、いよいよ今日から狩りの開始だ、と思っていた日の事。
 突如、キャンプは飛竜の襲撃を受けた。
 奴は巧妙だった。
 後で生き残った者の意見と決死の探査から判明した事だが、キャンプを見下ろす小さな丘の向こう、羽ばたきの音が聞こえないよう少し離れた所に着地、静かに接近し、頭だけを丘向こうから出してブレスを叩きつけてきたのだ。
 この奇襲で、まず対空用に用意された大型武器がやられた。
 更に飛び上がった奴はそのまま上空から小刻みにブレスを叩きつけてきた。
 厄介だったのは奴は決して下へと降りようとしなかった事だった。
 まるで、下へ降りたら俺達ハンターの武器が待ってるのを悟っているかのように……いや、きっと知っていたのだろう。
 如何に強力な武器でも届かなければ意味はない。
 ガンナー達も懸命に頑張ったのだが……奴は一撃離脱を繰り返した。
 高速で飛翔しながら、俺達の上空を通り抜け、その時にブレスを叩きつけてゆく。
 しかも、わざと野営地の手前で急減速して、襲撃のリズムを変えた。
 
 ……気付けば、周囲は炎に包まれ、燃えてない天幕を探す方が難しくなっていた。
 呻き声を上げるハンターが辺りに幾人も転がっていたが、そんなのはまだマシで直撃を浴びたのか黒焦げになった死体も幾らでも転がっていた。
 
 「もう駄目だ!」

 そんな叫びを上げたのは誰だったか。
 一人二人と逃げ出す者が出た。
 怒鳴り声を上げて制止する奴も現れたが、飛竜はそういう制止する為に声を上げた奴を真っ先に狙った。
 単純に声を上げて目立ったからなのか、それとも理解して……いや、きっと理解してたんだろうな。
 奴は剣士とガンナーがいれば、ガンナーを先に狙った。
 もちろん、偶然奴の鱗に命中した弾もあったが、その殆どは……ひょっとしたら全弾だったのかもしれないが、当たる端から弾かれていた。
 そんな命中させた奴は執拗に狙われ……一人、また一人と殺られていった。
 反撃する奴が消えると今度は逃げ出した奴だ。
 背を向けて必死に逃げる連中を背後からゆっくりと追い立てるように奴はブレスを叩きつけていった。
 
 ……俺が何で助かったのかって?
 逃げ損ねたからだよ。
 キャンプの残骸に隠れて、震えていたんだ。
 奴が満足して飛び去るまで、な。
 炎が迫ってきて、怯えつつも残骸から逃げ出して……他にも同じように隠れてた奴らと共に懸命に逃げ出してきたんだ。
 ……怪我をしてた奴ら?
 ああ、いたな……そんなのも。
 そんな気持ちの余裕なんてなかった。ただ奴から逃げる事しか誰もが頭になかったよ。今にして思えば、助けを求める声もあったように思うんだが……そんなのはこうして生きて帰って思い出せるから言える事だよ。
 ……また募集があったら行くかって?
 よしてくれ!俺はもう奴と戦いたくなんかねえよ!あんな頭のいい飛竜なんて命が幾つあっても足りやしねえ!! 
 

【あとがき】
とりあえず5
次回は飛竜側から見た襲撃時の心境やその後の人間側など



[28159]
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/05 21:48
 襲撃は大成功だった。
 夜明け前にビームブレスを丘の影からぶちかまして、まず当たったら痛そうな大型武器を潰した。
 夜明けギリギリを狙ったのは、まだ起きてる奴がごく一部。
 けれど、ほんのり明るくなって、俺からも真っ暗闇よりキャンプの細部が見やすかったからだ。
 きっと、あそこはゲームで言う、クエスト出発前のベースキャンプだったんだろう。安全だと思ってたから誰もが油断してた。
 野生動物の飛竜の場合なら襲わなかっただろう。
 自分に攻撃仕掛けてこない限り、棘竜エスピナスなんかが代表例だが、ハンターなんか無視してる。
 だが、俺は違う。
 そこまで人間を甘く見てはいない。
 空の王らしくないと言いたくば言え。
 野生に生きる者にとって最重要なのは生き残る事に決まってる。 

 心を非情にして、俺は徹底的にハンターを叩きのめした。
 ……ゲームのハンターを知る身としては複雑な気持ちだったが……。
 とにかく、お陰で俺は大勝利を収めた。
 ハンター達のキャンプは壊滅し、僅かな生き残りはほうほうの態で逃げていった。
 実の所、キャンプに僅かな生き残りが隠れてる事とか、逃げる奴の中にも装備なんかを全部捨てて、岩陰にいる事も全部じゃないだろうが気付いてた。
 けど、見逃した。
 別に今更、人殺しに怖気づいた訳じゃない。
 そうじゃなく、この恐怖を伝えて欲しかったからだ。
 ……出来ればもう討伐になんて来る気が湧かないように。

 無事作戦が成功したといっても、俺自身は警戒を強めざるをえなかった。
 人の欲は凄い。
 この豊かな土地が欲しいとなったなら、何が何でも手に入れようとするだろう。
 あれからは塒も頻繁に変えている。
 ……やれやれ、と思って帰ってきたらハンターが待ち構えて罠を張ってた、なんて事になったらたまったもんじゃない。はあ、穏やかな日々が懐かしい……。俺は平穏に暮らしたいだけなのに。
 だが、俺はこの時知らなかった。
 知るはずもない。
 ハンター協会がある決断をしていた事を……。



【SIDE:人間ズ】
 ハンター協会は重苦しい空気に包まれていた。

 『飛竜リオレウスの討伐失敗』

 それが協会に暗い陰を落としていた。
 国が大々的に梃入れをして行われようとした討伐で見事に壊滅した。
 これは国におけるハンターの発言力を低下させるには十分すぎるものだった。

 「……国はどうしとる」

 「新たに討伐隊を組む気らしい、今度は軍隊でな」

 今更引けまい。
 既に隣国もまた、ハンターと軍隊双方を用いた討伐を検討していると聞く。正確にはハンター協会同士は繋がっているのでそちらから情報が入ってきたのだが。
 冷静な者は皆理解している。
 今回のリオレウスが極めて知能が高い危険な存在である事を。
 ハンター達が敗れたのはこれまでの飛竜と同じに考えてしまった事であり、彼らの責任だけではない事ぐらいは少なくとも軍上層部は理解している。
 だが、一般市民は違う。
 これまでは頼れる相手と見ていた相手が完膚なきまでに敗北した事で懐疑的な視線を向けられている。
 加えて面倒なのは、理解した上でハンター協会の発言力を削るべく蠢動している勢力だ。
 
 「皆に率直に聞こう。軍隊が派遣されたとしよう。勝てると思うか?」

 長のその言葉にある者は嘲笑を浮かべ、ある者は首を振り、ある者は少し考えてから首を横に振った。
 全員が勝てるとは思わなかった。
 理由は単純。軍隊は実戦経験が殆どない。
 日常の護衛や討伐はハンターが引き受けてきた結果だし、何より軍隊は同じ人間相手の訓練を積んでいる。巨大な飛竜との戦闘方法などありはすまい。
 
 「しかし、そうすると拙いな……」

 間違いなく軍隊の派遣は今回のハンターよりも大規模なものになるだろう。
 それが壊滅したとなれば、どうなるか……。
 軍事力の大幅な減少、それによる他国からの干渉や脅威の高まり。最悪、戦争が起こりかねない。
 ハンター達が安心して依頼を引き受けられるのも、現在の平和があってこそ、戦争が起きれば、ハンター達とて参戦を求められる事になるだろう。
 それに軍隊も討伐に失敗したとなれば、リオレウスに対する恐怖が爆発しかねない。
 
 「……G級を呼ぶしかあるまい」

 ならば。
 もう、こうなれば方法は一つしかない。
 ハンターの中でも一際凄腕。切り札たるG級ハンターを招集して、他が動く前に、ハンター自身の手でリオレウスを討伐するのだ。 


【あとがき】
独自設定
G級ハンター、ゲームでは一段強い奴らと戦う実力者ハンターですが、この物語では、ここからが実質的なゲームのハンター、大型モンスターと少数で渡り合えるような人外連中だとお考え下さい
こっからはチートを駆使して、モンハンのハンター達と戦う……前にもう一幕ありますが



[28159]
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/06 15:07
 この世界には古代文明の遺産が存在している。
 既に明確な形では残っていないが、天高く聳え立つ塔などはかつての文明の名残だと言うのは定説だ。
 また別の説では、この世界に存在する巨大なモンスターもそうした文明の落とし子だ、という学者もいるそうだ……。
 俺はG級ハンターに分類される一人だ。
 G級ハンターとは一般には凄腕のハンターとしか知られていない。いや、同じハンターにもそうとしか思われていないだろう。
 ……当然だな。G級ハンターはある種の規格外だ。最悪その実態が外に洩れれば、恐怖の対象になりかねない。
 G級ハンターとは単独ないし少数で大型モンスターをも狩る者達だ。
 多数で狩る相手と真っ向戦う……白兵型ならば、ドドブランゴと真っ向力比べが出来る程だ。いや、向こうが片手なのに対して、こっちは両手だから本当の意味での真っ向勝負ではないんだが……。
 G級ハンターも古代文明の遺産的存在かもしれない、とはハンター協会お抱えの学者の説だが、何でもかんでも古代文明のせいにするのは、正直どうかと思う。とはいえ、人間型の大型モンスター並の戦闘力の持ち主が街中を闊歩してるなんて一般に知られたら、まあ、一般人としての生活は厳しいだろう。
 中には力に溺れる馬鹿もいるのも事実なんだが……ギルドナイトって暗殺者だ、と言われるのはそういう馬鹿が何時しか消えてるからだろうな。

 「さて、自己紹介をしよう。ここにいるのは全員がG級と考えて良いんだな?」

 ハンター協会の奥にある個室。
 そこに三人の男と一人の女が集まっていた。
 全員が黙って頷く。
 発言した男は一回り年齢が上の男だ。名前はガラム。三十代前半といった所だろうか?この仕事はそう長くは続けられる仕事ではないから、そういう意味ではベテランの域に既に突入している。装備はレックスメイル。武器は轟刀【虎徹】。ティガレックスの討伐を行った事があるのだろう。最低でも五人以下の少数で一度は竜の討伐がなければG級ハンターとは認定されない。
 一般的には竜の存在は少ないと言われてるし、少ないのも事実だが、間違いなく存在している。奴らは。
 見た目的にも巌のような渋いおっさんを思わせる顔にがっちりした体躯と一番G級ハンターと言われて納得出来る外見の男だ。
 ちなみに自分はグラビドメイルにブラックゴアキャノン。名前はシュウ。年は25。
 ……見た目は一応優男、と呼ばれる部類らしい。どうにも緊張して女性と上手く話せないから無口でストイックな男とか思われてるし、もてるって実感がないから優男と言われても首をかしげてしまうが。
 あと一人の男はガンナーだ。
 こちらは武器は龍頭琴。防具はガノスメイルだ。……正直、女性が着てる方が見た目にはありがたいんだがな……うん。名前はラジーで……正直、何でガンナーなんかやってるんだって言いたくなるような筋肉ムキムキのマッチョマンだ。ちなみに体も一番この中ではデカイ。
 そして最後の女性だが……。
 実は彼女が最強の一角だ。
 武器は何と大剣ブリュンヒルデ。これはまあ歴代の積み重ねと言えなくもない。
 が、防具は各自にあったオーダーメイドだから誤魔化しようがなく、ある意味着ている防具こそが当人の実力を示すと言えるんだが、彼女が着ているのはリオソウル。すなわち空の王リオレウスの亜種を狩った事があるという証でもある。
 ちなみにこちらは一番小型で、可愛らしい少女だ……。多分まだ二十歳になってないだろう。名前はエナ。
 見た目があてにならないのもG級ハンターの特徴ではあるんだが。この面子はある意味それを如実に示していると言えるだろう。 

 「さて、今回の討伐対象はリオレウスだ」

 ガラムの言葉に誰もが頷いた。
 
 「ただ、聞いた限りでは通常のリオレウスとは異なる性質を持つようです」

 これを言ったのはエナだ。
 リオレウス亜種を倒した経験のある彼女の言葉は重い。
 確かに伝え聞くリオレウスのそれとは異なる部分が多い。
 まずはいきなり放ってきたというビーム状のブレス。
 俺自身が以前に対決したグラビモスが使っていたのと同じような、けれど威力は攻城戦用の兵器すらまとめて粉砕するような規格外。
 更にその行動からして、知性も相当に高いと思われる。
 それは単純な罠では気付かれる可能性がある、という事でもある。
 
 「それに空からの攻撃に徹底した、というのも厄介じゃな!」

 声がでかいのはガンナーのラジーだ。
 もっとも、それには全員が同感だ。
 俺達が戦った竜は装備から推測するに、ティガレックス、グラビモス、ガノトトス、リオレウス亜種。
 ……お気づきだろうか?最後を除けば飛行しないか飛行を苦手としている竜ばかりだ。
 つまりはこの面子。飛行型の大型モンスターとの戦闘経験が少ない。
 
 「……どうにかして、地上に落とす必要があるか」
 
 そうしないと、全員の力をフルに活用出来ない。
 だが……地上に降りてきてくれるだろうか?
 
 「……方法としては洞窟に誘き寄せるか、奴の巣で待ち構える、しかないか?」

 だが、どうやって?
 全員が唸った。
 洞窟に誘き寄せるにしても、果たして素直に入ってくれるだろうか?知能が相当高い、という事は自分にとって不利な環境も理解しているはずだ。余程やむをえないような状況でもない限り、無理だろう。
 では巣で待ち構える?
 巣はどこだ?
 飛竜の行動範囲は広い。
 その広大な範囲をこの四人で探すのか?
 これが普通の竜ならば、キャンプを張って待ち構える。
 彼らは野生動物であり、水場だったり獲物が豊富な場所だったりに必ず訪れる。
 そこに場合によっては一月以上に渡ってキャンプを張って待ち構え、戦うのが基本だ。
 だが、今回の場合、水場も大きな川がある以上却下だ。
 そのどこに来るかなぞ予想がつくはずがない。
 獲物にしたって、広い草原だ。そんな草原で頭の賢い空を飛ぶ大型飛竜なんぞと相対する程、彼らは命を捨ててはいない。
 ああでもない、こうでもないと意見を交わす彼らの下にある急報が入ってきたのは作戦会議が始まった翌日の事だった。

 『隣国の軍隊がリオレウス討伐に出撃!派遣軍が壊滅し、リオレウスによって王宮が襲撃を受けた!』


【あとがき】
まあ、片方ばかりが痛い目を見てもらっては反対側が止まらない訳で……
次回はチートリオのぶち切れの回です

  



[28159] 8(ややグロ)
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/07 13:38
【SIDE:人間ズ】
 隣国が動いた、その情報はリオレウスの縄張りを挟む反対側にある国でも衝撃を巻き起こした。
 抜け駆けされた。
 そんな気持ちがあったが、その討伐に派遣されたハンター部隊が逆に壊滅したと聞いて、大多数の者は「いい気味だ」とせせら笑ったが、その意味を理解出来る者達は頭を悩ませる事になった。
 「うちは大丈夫なんだろうな?」
 彼らの心境を表せば、この一言に尽きる。
 喜ぶのはいいが、それ程までに危険な飛竜が居座っているのでは、果たしてうちが討伐可能なのか?
 もし、討伐出来ないのならば、喜んでばかりはいられない。
 これに対して、軍はこう返した。
 「大丈夫だ、我々ならば討伐出来る」
 自分達の力を過信する者も、飛竜の戦力を危惧する者もそう言わざるをえなかった。
 そもそも過信している者は自分達が負けるとは欠片も思っていなかったから、それも当然だ。そして、危惧する者達でもまさか「出来ません、無理です」とは言えない。言える訳がない。そんな事を言えば、自分達の首が飛ぶ。
 結果として、軍は自分達の実力を示す為に、飛竜討伐に出撃したのである。

 この討伐隊は軍が主力とはいえ、使える者は何でも使うというか、ハンターも混じってはいた。
 ただし、あくまで参考程度のものであり、G級ハンターは一人も混じっていなかった。そもそも、G級ハンターなどギルドでも限られており、隣国に召集された四人がこの近隣全てのG級ハンターだったのだから、いるはずがなかったのだが。
 しかし……。

 「しょ、将軍!?何をされてるのですか!!」

 多数のアプトノスが無差別に狩りたてられ、森には油が撒かれ、火が放たれていた。

 「うん?決まっておるではないか。飛竜を誘き寄せておるのだよ」

 何を当り前の事を、と言わんばかりの態度に将軍の傍にある参謀に相当する者達は絶句した。
 元々この将軍は武威を誇る人物だった。
 だが、それ以上に現王の弟にあたる人物でもあった。だからこそ、単純な腕力バカでも取り巻きが発生して、この地位までのし上がったと言える。
 将軍曰く、飛竜が縄張りを荒らされたなら、怒って出てくるだろう、と悠然と告げた。
 所詮畜生だ、と……。

 「し、しかし……」

 尚も言い募ろうとした部下に、これ以上は聞く耳を持たんと、ばかりに将軍は背を向ける。
 その姿に彼は口を噤むが、内心では将軍を罵っていた。

 『幾らリオレウスを討伐したからといって、この地が荒れ果てていては意味がないんだぞ!?それに……』

 果たして、怒り狂ったリオレウスが出現した場合、本当にこの戦力で止められるのか、そんな不安が胸中に湧き上がっていた。
 ……そして、不幸な事に彼の予想は最悪の形で的中する。



【SIDE:転生者】
 なんだこれは。
 見慣れた光景が変わっていた。
 逃げ惑うアプトノスの群。
 燃える森。
 森に住む動物達が炎の中を逃げ惑う。
 森から飛び出してくれば、それもまた殺される。
 それをリオレウスはその鋭い視力で全て見た。
 元より、リオレウスの視力は高い。だからこそ、空を舞いながら獲物を正確に把握出来るし、逆に閃光玉で視覚を奪われたりする。
 その光景をまざまざと見ながら、リオレウスの内心に怒りが煮えたぎってきた。
 人の欲望は果てしない。
 だが……その為に、これをやるのか。
 リオレウスの中に言い知れぬ怒りが湧いてきた。
 彼の人としての理性が抑えこんで来た野生の獣が、竜の持つ原初の怒り。それが噴出していた。当人ですら勘違いしていた事だが、リオレウスという種が持つ怒りは消滅した訳ではなかった。ただ、人という理性がそれを表に出さなかっただけの事だ。なまじ長きに渡って封じられてきたからこそ、普段穏やかな人間が怒った時は恐ろしい。
 いいだろう、お前らがやりあうというなら。
  
 徹底的にやってやろうじゃないか。



【SIDE:人間ズ】
 「飛竜だ!!」

 その叫び声が上がったのは軍が行動を開始して、一時間と経たない頃だった。 
 一斉に空を見上げれば、確かに空を舞う姿がぽつんと空に浮かんでいた。
 この時点で、既にハンター達は全員がいなくなっていた。
 彼らは野生の獣の恐ろしさというものを知っている。ハンター協会からどれ程危険な竜なのかも伝わっており、G級ハンターが召集された事も知っていた。
 ……逆に言えば、彼らは軍隊が正々堂々と挑むのは想定外だった。
 
 『軍も当然、危険度は知っているだろう』

 そう思っていたのに、いざ始まっていれば怒らせて、草原の真っ只中で勝負を挑むという。
 確かに、陣に引っ張り込む事は可能かもしれないが……。
 命の危険を、なまじ実戦に参加し続けていたからだろう。敏感に感じ取った彼らは誰ともなく姿を消した。
 もちろん、それが出来たのは今回彼らがここへ来たのはあくまで国の中でも一部の者からのお願いであって、正規の依頼ではなかったからだ。それもアドバイスをくれれば、という程度のものだった。
 そんな煮えきらぬお願いになったのは、軍が面子の為に正規の依頼を断ったからだ。
 だからこそ、『善意の協力者』をお願いするしかなく、ギルド協会もお金を払えば依頼として成立してしまう為に、優遇などを裏で約束して、一部の者を派遣するに留まっていたのだった。だからこそ、アドバイスなりを無視するならば、一言断れば彼らが帰るのを止める手段がなく、将軍が『帰りたいなら帰るが良い』と言った事がそれを後押ししてしまった。

 「ようし、来たか!!全軍射撃用意!!……む?」

 将軍が気合の篭った声を上げたが、何時の間にか空からリオレウスの姿が消えていた。周囲に確認すれば、雲に入った後、どこに行ったかよく分からなくなったらしい。
 きょろきょろと見回す軍の耳に風切り音が響いてきた。
 なんだ?
 そう思った時。
 前衛の弓兵の頭上を超低空飛行でリオレウスが飛び越えた。

 「!!??」
 
 引き起こされる風、龍風圧は兵士達を問答無用で吹き飛ばす。
 一直線に飛来するリオレウスを真っ向睨み据えて、将軍は剣を抜いた。

 「来たか!この……!」

 名乗りを上げようとして。
 将軍はそれを果たす事はなかった。
 高速で襲い掛かったリオレウスは派手に煌びやかに着飾った将軍の姿を見誤りはしなかった。上空から見て、彼が周囲からかしずかれるえらいさんである事も確認した。
 そうして、その結果は、将軍が最後まで口にする前にその巨大な爪が将軍を押し潰すという形で結実した。 
 「が……っ!?ふ……!!」

 その巨体故の重量はもがいても抜け出す事など出来るはずもなく。
 懸命に振るった剣は力の入らぬ姿勢と怪我故に鋼鉄の壁を殴ったかのように弾き飛ばされた。
 慌てて、将軍をそれでも救えとばかりに周囲の人間が動こうとしたその機先を制するように。

 リオレウスが吼えた。
  
 最早暴力。
 そうとしか言いようのない轟音が辺りを満たした。
 リオレウスの前方近辺にいた者達は咆哮によって生み出された衝撃波によって吹き飛ばされた。
 そればかりではない。
 バインドボイスすら超える、ティガレックスのそれすら上回る余りの轟音に鼓膜を破られ、耳から血を流し、悲鳴を上げて転がる者が続出した。
 ゲームでは高級耳栓などといったものが存在する訳だが、現実にはハンターであっても耳栓など装着する者はいない。音とは周囲を感知する為の重要な要素であり、竜の咆哮にも耐えるような耳栓などしようものならば、まともに音が聞こえなくなってしまうからだ。
 そんなものをしようものならば、密林を歩いていて急に虫の音が聞こえなくなった、複数で戦っていて味方がモンスターに気付いて注意を促したとしても気付けないではないか。
 ハンターと理由は異なるが、兵士達にもまた耳栓をつけたりする理由はなかった。そんなものをつけてしまえば、指示が聞こえなくなる。それは軍隊としての活動を封じるという事以外の何物でもない。
 それ故にまともに音を聞く事になってしまったのだ。
 それを見届ける間もなく、リオレウスは弱弱しくもがく将軍の頭を咥え……次の瞬間、胴体から引き千切った。吹き上がる血、轟音をもたらした咆哮。その二つから人が立ち直る前にリオレウスは空へと飛び立つ。
 上空へ舞い上がったリオレウスは大きく息を吸う。その行動を見て、まだ何とか動けた一部の者は必死になって転がるが、大多数は動けぬままだった。
 ガノトトスと呼ばれる水竜がいる。
 この世界の人間の大多数は知らぬ事だが、水に生息するかの竜の行動に、水面から顔を出したガノトトスがウォータージェット状の水を頭を振り上げる事で一直線に自身手前から奥へと放ってくる事がある。まるで刃を逆から振り上げるように……。
 それが高熱のビームとなって再現され、人を蹂躙した。
 
  
【あとがき】
長くなってきたので、一旦切りました
続きでは、都市襲撃です 



[28159]
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/08 15:34
 軍隊のど真ん中を切り裂いた高熱ビームによって部隊は瓦解した。
 直撃を喰らった者は一瞬で炭化どころか焼滅し。
 むしろその通過コースの周囲で炎に包まれ転げまわる者が続出した。
 中には弓を構えて上空のリオレウスに向けて撃つ強者もいたが、元より下から上へ向けて撃つというのは重力の影響もあり、難しい。
 全てが届く事さえなく、力なく途中で勢いを失って地面に落ちてきた。
 いや、彼らもまたパニックに陥っていたのだろう。ただ、ひたすら届きもしない矢を放つ事で恐怖を誤魔化しているのだった。
 だが、それも繰り返される攻撃に次第に散発的、どころか次々と死体となり、逃げ出す者が増えた。
 リオレウスが逃げ出す者ではなく、抵抗する者を執拗に攻撃している事に誰かが気付くと、それはますます加速し、何時しか全員が逃げ出した。



【SIDE:転生者】
 そうだ、逃げるがいい。
 悠然と高空を舞いながら、彼は必死に逃げる者達を見下ろしていた。
 前回は見逃した。
 だが、今回は違う。
 徒歩で逃げる彼らの方向を確認してゆく内に、街道を発見した。
 ただ、それと同時に前回のハンター達とは依頼は異なるのでは?という疑念も持っていた。前回逃げた連中の逃走方向も一応確認は行っていた。その先に岩山を利用した大きめの都市があったので、あそこから来たのかと納得した訳だが、今回はそれとはまるで逆だ。
 それでも彼の支配領域の手前まで伸びる街道を発見した彼は悠然と帰還した。

 焦る事はない。
 どのみち徒歩で逃げる者達が動ける距離など自分には僅かな時間でいいのだから。



【SIDE:人間ズ】
 兵士達は懸命に逃げていたが、やがて肉体の限界に達し、その場にへたりこむ者が続出した。 
 しばらくは恐怖に満ちた顔を周囲に向けていたが、どうやら飛竜が縄張りから逃げ出す者を追ってこないと判断すると、不安を抱えつつも次第にまとまって国へと向いだした。
 のろのろと足を引きずる敗軍は、何しろ食事も何もかも放り捨てて逃げ出した集団だ。
 一部の参謀らが何とかまとめてはいるものの、脱走者が相次いだ。
 早々に食料を確保せねばならない。
 場合によっては村からの食料を強奪という事件まで起こしながら、必死に彼らは歩を進めた。
 先発で送られた兵士、その大部分は逃げてしまったが、中には生真面目な者もおり、彼らが伝えた情勢により何とかギリギリで食料が届きだした。
 
 「やれやれ、あと少しだな」

 兵士の一人がそう呟いた。
 草原に既に都市が見えていた。
 まだ距離はあるから、行軍の速度を考えると明日辺りに街に入れるだろうと安堵の声を上げる兵士らとは別に上の立場の者達は悲壮な覚悟を決めていた。
 敗れたのに加え、如何に忠告を聞かなかったとしても、将軍は将軍。
 王の弟は王の弟。
 将軍が死んだ以上、彼らが責任を追及されるのは必至だった。
 とはいえ、逃げた所でどうしようもない。既にいい年をした彼らが今更護衛なんぞで一からやっていける程甘い世界ではなかったからだ。 
 だが。
 暗い未来に溜息をつく彼らの、その上空を。
 竜が飛来した。
 それが全てを変える事になった。

 誰かが恐怖の叫び声を上げた。
 その眼前で、王宮に高熱のブレス、ビームが叩き付けられた。


 
【SIDE:王宮】
 街には全く被害はなかった。
 だが、叩きつけられるブレスは王宮に次々とダメージを与えていた。
 泡を食って王宮から飛び出す者もいた。
 だが、立派な服を着た老人が飛び出そうものなら、即座に連射して叩き込まれた炎で黒焦げになってしまう光景を見てからは誰も飛び出せずにいた。

 「だ、誰か何とかせい!!」

 王が怒鳴っていた。
 だが、どうしろというのか。

 「軍はどうした!将軍は!?ハンター達は何故奴を攻撃せん!!」

 軍は既に敗れた。
 将軍は死んだ。
 ハンターとはいえ、空を悠々と舞う相手に対しては手の出しようがない。
 G級ハンターが動員された事を知る者もいたが、現状の王に告げても、何故隣国に、と喚くだけと見て、誰も口にしようとしない。
 もっとも、この王も普段はここまで取り乱す人物ではない。
 この人物も通常は威厳を見せる人物だったのだが……窮地こそ人の本性が現れる、というべきか……飛竜の襲撃があってから、狼狽する事甚だしかった。そんな彼がこうしてまだ生きているのは、ほんの僅かな幸運。同じく飛び出そうとして転倒、その脇を同じく恐怖で錯乱した大臣の一人が駆け抜けていって怒鳴りつけようとしたその眼前で黒焦げになるという……ある種の幸運ゆえだった。
 もし、あのまま走り出していたら、今頃黒焦げになっていたのは王だっただろう。
 
 結局、王は生き永らえた。
 ……悪運だけはあったらしく、実際、彼は建物内部ではなく、門の陰にいて出るに出れなかったが故に王宮が崩壊するのと引き換えに助かった。ただし、息子の王子らは全員死亡したが……。
 ……ただし、彼はその後、小鳥の羽ばたきの音にも怯えるようになり、まともな生活が送れなくなってしまった。
 そのような精神を病んだ状態で国政が取れる訳もなく、結局この後間もなく王は病気として強制的に退位という名の幽閉を受け、この先王との王位争いで失脚して街に住んでいた先王の従弟が継ぐ事になる。
 全てを奪われ、それ故に王宮に誰一人身内がいなかった、彼は即位する時。
 
 「人生何が幸いするか分かったものじゃない」

 と呟いたが……失脚したからこそ家族全員無事だった当人としてはきっと嘘偽りのない気持ちだったのだろう。
 ただ、この後、王はリオレウスに対して不干渉を決定する。
 さすがに、大被害を出して、国の建て直しが精一杯という状況下で彼の地に手を出す余裕がなくなった、とも言うのだが……。


【あとがき】
次回より、G級ハンターとの戦いが始まる、予定



[28159] 10
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/09 14:14
 「……そうか、壊滅したか」

 G級ハンター達にも隣国の情報は伝わっていた。
 彼らがこうして留まっていたのは、実は情報収集の為だ。その過程では幾つもの想定外の話も得る事が出来た。

 「まず、リオレウスの危険度についての追加情報だ」

 強力無比な咆哮。
 話を分析する限り、その威力はティガレックスに匹敵するものと最低でも判断しなければならない。
 
 「つまり、咆哮だけでも前方にいて、ガードし損ねたら吹き飛ばされるって訳じゃな」

 渋い表情でラジーが呟いた。
 彼はガンナーではあるが、ハンター達の後衛というのは軍隊とはまるで異なる。
 元々G級ハンターはごく少数で動く為に、僅かな連携の乱れから前衛が突破される事も多いし、そもそも竜が突進してくれば、抜かれるのが普通だ。ガードの基本は受け流しが基本であって、受け止めではない。
 すなわち、ラジーもまたガンナーではあれど、至近で咆哮を浴びる危険があるという事であり、もし、そうして動けない所で攻撃を喰らえば、ガンナーの防具は剣士のそれより薄い為に一撃で重傷を負いかねない。そう考えると、彼の鍛え上げられた筋肉の鎧はそれへの僅かでもの対抗策なのかもしれない。
 
 「……それと、討伐に対して慎重な意見も広がっている」

 これは隣国の惨状がもたらした部分が大きい。
 もし、今回G級ハンターを送り込んで、同じ事が起きたら。権力者だけにその辺は敏感だ。
 
 「それに加えて、ようやっと向けられた周辺の村からの情報が混乱を生んでいる」

 どうも、あのリオレウスは集団で入り込まねばそこまで危険ではないのではないか、そんな意見が出ているからだ。
 ただ、森の恵みを、川の恵みを分けてもらう、というのは周辺の自然と共に生きる人々からは当然の理屈だが、縄張りの外から見ると、縄張りは非常に豊かな土地だ。人に荒らされていないのだから当然だが。
 この為に、子供らが森に入り込んだり、猟師が狩りに決死の覚悟で初期は入ったりしていたらしいのだが。

 「襲われた人がいない」

 それどころか、かつてこんな事があった。
 知らず知らずの内に獲物を求めて入り込んだ猟師が、足を滑らせて谷を転げ落ち、身動きが取れず呻いていた。その眼前に飛竜が降り立ち、「俺もここまでか」と思い、目を閉じたが、次に意識を取り戻したら村に向うキャラバンに乗っていた。
 何と、飛竜が彼らの前に軽く口で咥えて、運んできた彼を置いて、そのまま飛び去ったのだという。
 それ以来、彼は縄張りに入る際は、獲物を得た際は必ず出る前に決まった所に獲物の半分を置いていくそうだが、代わりに一度も襲われた事はないそうだ。
 かと思うと、子供達が釣りをしていて、ついつい縄張りに入り込み、そこで凄く釣れる場所があったので夢中になって釣っていると、気付くとランポスの群に包囲されていた。
 追い詰められて真っ青になっていた所へ、飛竜がやって来た。
 ランポス達はというと、リオレウスの姿を見るなり、蜘蛛の子を散らすように逃げ去ったが、リオレウスはそのまま水を飲むと、どっしりとその場に居座った。
 殆どの子供は怯えて釣りをしなかったが、ガキ大将の子供は意地になって釣りをしたが、何も襲われる事はなく、夕方に帰る段になって、彼らの後をリオレウスが悠々とついて来たそうだ。
 びくびくしながら家路についたが、村が見えると、リオレウスは一声軽く吼えて空に舞い立ち、帰っていった、という。
 こんな話が探せば探す程ごろごろ転がっており、現在では何と近隣の村の住人は普通に縄張りに入って、川や森の恵みを分けてもらうのだという。
 大勢で入ろうとすると、彼らの上空に飛来して、嗜めるように吼えるという事から、今では数人の集団で時折入るようにしているだとか、かつて飢饉の折にやむをえず村の人間が大勢押し寄せた時、舞い降りた飛竜に村長が事情を説明して、このままでは生きていけないので何とかお願いします、と村人全員で頭を下げた所、飛竜リオレウスはじっと聞いていたが、やがて軽く一声吼えると軽く頷いて飛び去った。
 そうして、飢饉の間は以後は黙って見過ごした、という……。
 また、今回情報が正常に伝わったように、単なる移動のキャラバンならば特に襲われる事もないのは彼らの間では有名な話で、普通に通過しているのだとか。そういえば、情報伝達がいやにきちんと来ると思ったものだった。
 大幅に迂回するならとんでもない時間がかかるだろうが、通らせてもらうだけなら構わない、というのならば確かに隣の国の状況も普通に手に入るだろう。
 昨今では【竜王様】と一部では崇められており、今回ギルド連中や軍隊がボコボコにされた件も「天罰だ」と囁いてたという。

 「……無茶苦茶頭良くないか?というか、完全に人の言う事理解してるだろ?」

 俺は呻き声を上げざるをえなかった。
 冗談じゃない、人に負けないぐらい頭がいい飛竜なんて相手したくないぞ。
 
 「そもそも、それだと周囲の人は協力してくれないのが明白」

 エナもぼやく。
 猟師だって、山師だって、こんな環境ではハンターに会った所で正確な情報なぞ提供してはくれないのは間違いない。
 彼らのような地元に詳しい人材の協力がないと、初めて赴いた地で使えそうな素材や洞窟の在り処などは全く分からない、どころかこちらに不利になるような場所を教えられかねない。
 ガラムが苦い顔で今回の討伐の問題点を上げだした。

 「つまり、今回のリオレウスは本体は通常のリオレウスより強力。攻撃力が通常種のそれより桁違いで、おそらくは防御も比例するだろう……。国は混乱状態で真っ当な支援は期待出来ず、周辺の村々に至っては最悪敵に回る可能性すらある……最低でもまともな情報が手に入る可能性は皆無」

 口にされる言葉が増える度に、全員の顔が暗くなっていく。いや、無茶苦茶だろう。
 
 「……違約金払って、帰れんかのう」

 どこか遠い目をしつつ呟いたラジーの言葉に反論する者はいなかった。
 全員そういう事なんだろう……。つか、俺もすぐにでも帰りたい。 


【あとがき】
周辺の人達は共存してます
王様とかもっと豊かになりたい人はいますが、同時に今の素朴な生活で満足してる人達もいるし、生活の為に入り込むぐらいだと放置してます
ただし、投網とかで大量に小魚も関係なしに獲って持ち帰ろうとするとか、子供も無差別に殺す猟師とかは容赦してくれません
無論、最近というかここ十年以上誰もしなくなってますが、周囲の人達は



[28159] 11
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/10 21:58
 ハンター達も一応ギルドに提案はした。
 少なくとも、国の方針が定まるまでは様子を見たらどうか、と。G級ハンター達としては、このまま国が不干渉を決め込む事を内心祈っていたのだが、彼らの立場上、「無理です、出来ません」とは言えない。故にそういう対応になったのだが、ここで彼らが見誤っていたのは、ハンターズギルドとて人の集まりだという事であり、上層部もまた権力にしがみつく人間がいる、という事だった。
 要は、潰れたハンターの面子回復の為、そして自分達の立場の為にG級ハンターらは出発する事になってしまったのだった。

 「……結局、こうなったか」

 アプトノスの引く竜車に乗って、シュウが溜息をついた。
 現在の彼らの服装はごく普通のキャラバンが使用するような服装だ。
 見るからにハンターな武器と防具をまとっていては、周辺の村人を刺激すると判断しての事だ。
 
 「今回は最初からケチがついてる……正直、引き返した方がいいとは思うんだが、な」

 同乗するガラムが溜息をついた。
 今回は各種の装備品、所謂大タル爆弾から痺れ罠など。回復薬Gや秘薬、毒消しといったものを搭載した竜車と、食料などを積んだ竜車の二台で赴いた。
 その上で、事前にキャラバンなどから可能な限り聞いた情報から使えそうな場所に見当をつけて、そこに装備品や食料を移しておいてから戻ってくる事にしたのだった。
 今回、大きな問題となったのはどうやって各種装備や食料などを運び込むか、という事だった。
 村人らの手を借りるのは危険すぎる。
 竜の目がある所で下手に運び込んだら、真っ先に焼き払われかねない。
 なら、通過は安全という事だから、普通に通る振りをして運び込もう、という訳だ。
 
 「お気をつけて」

 今回、その為だけについてきた御者役のギルドの人間が真剣な表情で告げる。
 食料に関しては、今後定期的にギルドの人間がキャラバンを装って運び込む予定だ。

 「しかし、夜にしか動けんのがなあ……」

 「やむをえない」

 とにかく、見つからないように動くとなれば竜が基本的には動かない夜を狙うしかない。
 幸い、基本的には奴は昼動いている。こちらが身を潜めて、その間に奴の戦力分析と住処の特定を……。
 などとその晩は思っていた。まさか、その翌朝に悪夢を見る事になるとは思わなかった。
 
 「なあ」
 
 「「「………」」」

 「これってどう判断したらいいと思う?」

 俺達の視界にはティガレックスがいた。
 俺達は夜の内に山岳地帯へと移動した。
 これまでの話を総合すると、住処が山岳地帯にあるのは間違いなかったからだし、隠れるならそちらの方が楽だったからだ。
 だが……。
 拠点と定めた洞窟。
 その下にあるちょっとした平野部。そこにティガレックスが降り立ち、そこへ更にリオレウスがやって来るというのは想定外だった。
 
 「……おそらく、縄張りにティガレックスが入り込んだ、という事だろう。だが、好都合だ。これでリオレウスの戦闘力を間近に見れる」

 などとガラムが真面目腐っていられたのは僅かな時間だった。
 まず双方が吼えた。
 互いに空気を吸い込んで全力で至近距離から、だ。ティガレックスの咆哮は通常の飛竜とは異なり、その衝撃波すら伴う咆哮を浴びれば、人間など吹き飛ばされる……。

 「……おい、ティガの方がバランス崩しておるんじゃが……」

 ふらふらとよろけたティガレックスは幾度か頭を振ると、リオレウスを睨みつける。
 だが、悠然とリオレウスは佇んでいる。
 怒ったように、ティガレックスは突進を行う。幾度も繰り返される我武者羅な突進はティガレックスを相手どる際には動き回るという面倒な……。

 「……ティガレックスって裏返しでも飛べるんだね」

 エナが無表情で感情を感じさせない口調で言った。
 リオレウスが突進してきたティガレックスに回転尻尾アタックを一撃。
 まともに頭部に喰らったティガレックスはそれで腹を空に向けて、裏返しで空を舞った。
 見事なまでのカウンター。そして、パワーだった。
 そうして、ふらふらと挙動が定まらぬまま必死に起き上がるティガレックスが敵わぬと悟って逃げる前に。
 リオレウスは大きく息を吸い込みビームを放った。後に【ブラスターブレス】と呼ばれるその一撃はただの一撃でティガレックスの胸部に大穴を空けて、絶命させてしまった。
 崩れ落ちたティガレックスをリオレウスは両脚でしっかりと掴むと、上機嫌な様子で空へと軽々と舞い上がった。……何故上機嫌なのが分かったかって?……鼻唄歌ってやがったんだよ!リオレウスが!!
 なんなんだ、あいつは!!ガラムが余りにもあっさりとティガレックスが片付けられた事に落ち込んでいるが(あいつが倒したのはティガレックスだ、幾度も死ぬかと思った死闘だったらしい)、そんなものは全員が似たり寄ったりだ。
 
 ……なんで、俺達、こんな仕事引き受けてるんだろうなあ……。


【あとがき】
リオレウスさんのまともな戦闘シーンの描写ってのが人を蹂躙するぐらいだったので一度書いてみました
この地は豊かな上に広いので、リオレウス以外の竜種が迷いこんで来る事があるのですが、人が殆ど立ち入ってない為に、竜同士の戦闘をろくに見た者はいません



[28159] 12
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/11 20:46
 「帰還すべきだ」

 「帰還するべきじゃ」

 「帰還推奨」

 ガラムは頭を悩ませていた。
 シュウ、ラジー、エナ。今回の討伐に参加している自分以外のG級ハンター全員が一致して、撤退を主張していたからだ。
 その気持ちはガラムにもよく分かる。
 物凄くよく分かる。
 あんなリオレウス、どう相手しろというのだ……。
 というか、あれをリオレウスと呼ぶ事自体おこがましい。
 幸いなのは、食事場所と思われる場所を突き止められた事だ。
 元々は住処を、と思ったのだが、どうやら食事場所と寝る場所は異なるらしく、奴が舞い降りた場所は開けた石舞台でも言うべき場所。バリバリという音に耐えて、飛び去った後確認に言ってみれば、あるわあるわ。
 希少な竜の素材とでも言うべきものがあちこちに転がっていた。
 正直、この食い残しの素材だけで、四人で分けても一財産出来るのではないだろうか?
 丸々残っている轟竜の頭殻を見ながら、ガラムは真剣に思ったし、他の面々も呆れていた。それこそ頭殻や鱗、堅殻、尻尾のような竜の素材だけで今回のティガレックス以外のものまで混じっていたからだ。
 普通は食事場所のような重要な場所を突き止めた、となれば喜ぶべき話なのだが……こんな開けた場所である事が問題だ。
 普通の動物なら、食事に夢中になっている間に忍び寄って、という事も出来るだろうが、あの頭の良い飛竜がこれだけ視界の良い場所でこそこそ忍び寄る人間を見逃すとも思えない。というより、明らかに周囲を焼き払った形跡があり、草などが僅かしか生えていない。こっそり姿を隠して忍び寄るような相手対策を考えての事だとしたら……。
 
 「……だが、帰ってどうなる」

 その言葉に全員が沈黙する。
 全員がきちんとその意味を理解出来る頭があるのは幸いだ。
 別に殺される、とかじゃない。自分にはどうにもならない、そう判断した場合、帰還して増援を求めるなり、より腕利きのハンターの派遣を求めるのはむしろハンターにとっては義務だ。それが出来ないような奴ならば、見得を優先して、無謀な突撃しか出来ないなら後に残るのは死体だけ。もしかしたら、ひょっとしたら極々稀にG級になれる強さがあって、何とかなってしまう事がある、かもしれない。
 そうして、幸運が重なってG級ハンターに登り詰める者がいる、かもしれない。
 だが、そんなものは物凄い幸運の果ての話だ。
 で、ここにいる彼らは、といえば初期も含めて撤退した経験がある。そして、今回の討伐においても撤退は認められているからこそ、こんな意見が出る。
 だが、撤退した場合どうなるだろうか?
 
 「今のハンターズギルド上層部は焦っている」

 だからこそ、下手に撤退が出来ない。
 もし、ここで撤退したらどうなるだろうか?ハンター上層部は諦めるだろうか?
 ……下手をしたら焦りからもっとバカな事を仕出かしかねない。

 「いっそ、ここのハンターズギルドを制圧して、本部に状況説明した方がいいんじゃないか?」

 シュウが苛立ったような声で言うが、ラジーもエナも反応しなかった。
 内心では賛成なのか、拙い兆候だとガラムは思う。
 実を言えば、今回ガラムが他と比べて、比較的多少、という訳ではあるが熱心なのには裏の事情があった。
 彼らはリーダーに任じられたのがガラムだから、と思っているだろう、実際それは間違っていない。
 だが、同時に彼は今回の討伐が終わればギルド上層部の席の末端に入れる約束を得ていた。
 G級ハンターだ。まだ他の者に比べて若い事もある、経験さえ積めばガラムはギルドのトップに登り詰める事も出来るだろう。自分もハンターとしてはもう年だ。そんな思いが、今回の熱意にも繋がっていた。

 「さすがにそれは拙いだろう……G級ハンターが不満を持ったら反乱まがいの事を起こす、という前例という事にされかねない」

 分かってるからこそ、だろう。
 シュウもつまらなそうに鼻を鳴らしただけだった。
 歴然とした知性はあの鼻唄が物語っていた。
 したがって、彼らの中からは「話し合いをしてもいいんじゃないか?」という意見もあった。
 こちらの言葉を理解しているのならば、そういう方法もあるんじゃないか、という訳だ。
 だが……。

 「話をして、何をやるというんだ?」

 所詮、彼らは権力を持っていない、個人的な武力を持っているだけのハンターである。
 彼らが何かしらの約束をした所で、権力者がそれを認めるかどうかは別問題だ。
 もっとも、実際に話し合いをしたとしても、リオレウス側から条件の提示が出来ない以上現実には難しい話ではあったのだが……。
 
 「けど、どうするってんだ。それなら」

 シュウが不満げにガラムに言う。
 彼からすれば、挑んでも死ぬだけだと判断していたからだ。
 確かに彼の武器はガードを行う事が出来る。
 だが、ティガレックスに一撃で穴を開けるようなブレスを放ってくる相手だ。僅かでも受け流し損ねたら、その時彼に待っているのは間違いなく死、だろう。
 いや、直撃でも喰らおうものなら、死体が残るかさえ怪しい。
 そして、彼より防御において劣るラジーやエナの場合、どうなるかなど考えるまでもない。
 
 「方法はある」
 
 住処はまだ確定出来ていない。
 山岳地帯は霧の発生も多く、視界も山々が連なっているせいで利きづらい。
 一旦飛ばれると、追うのが難しいのだ。
 けれど、一つだけ。残骸があったが故に、食事場所は分かった。
 それなら……。
 ガラムはそう考え、彼の作戦案を提示した。……気付かぬ内に、自分自身が焦っている事を意識せず。


【あとがき】
何人かの方が疑問に思われているようなのでこちらにて

・チートリオはリオレイアとかをどう見るのか
感性は人間のままです
すなわち、リオレイアとかも人間が見た場合と同じようにしかあっち方向では感じられませんw
ただし、相手の見分けはつきます
なので、妹とかが飛来した場合には、ちゃんとお互い兄妹だと見分けられます

・アイルーとかは?
アイルーとの会話は出来ないものとしています
アイルーに出来るのは、あくまで怒ってるとか機嫌よさそうといった感覚的なもの、としています
一応モンスターに分類されるので悩む所じゃあるんですが……
あくまで「人と会話は出来ない」という点は維持したいと考えています

 



[28159] 13
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/12 23:10
 「…………」

 全員が息を潜めていた。
 まだそんな必要はないと分かっていても、緊張する。
 結局、ガラムの意見が通ったのは、全員このまま帰ったらギルドがどう暴走するか分からない、という事が頭にあったからだろう。
 現在、シュウの傍にはラジーが同じく息を潜めている。
 きっと別の場所に潜んでいるガラムとエナも同じように緊張しているはずだ……。

 「来たぞい」

 ラジーがぼそりと呟いた。
 力強い翼の音が聞こえてくる。……いよいよか。
 


【SIDE:転生者】
 今日のご飯は何時ものアプトノスだ。
 最近は、いけないと思いつつ、この場所が食事場所としてはお気に入りだ。
 何故かと言われれば、この石舞台みたいなのが実は岩塩の塊だからだ。
 何で、こんな所にこんな風にぽつんと転がっているのかと思いきや、近くの岩肌に鉱脈が露出していた。どうやらそっから剥がれ落ちたらしい。
 が、その岩肌というのは切り立った崖だ。
 そっから塩を削るのは面倒臭い。
 だが、ここなら引っかけば楽に塩が手に入る。
 引き裂いて大まかに捌いた肉に削った塩を振り、軽くブレスで炙る。火力を強めにしないのがコツだ。
 これで良い匂いの焼肉になる。
 時には森でハーブを取ってきたりして、香草蒸しみたいなのに挑戦してみた事もある。裂いた腹にひたすら詰めるのが面倒臭かったけど……なかなかいけた。
 初期はそれこそ生で食うしかなかったからな……これでラージャンみたいに指のある手があれば、もっと調理だけじゃなく、調味料にも挑戦出来るものを。
 そう思いつつ、今日も舞い降り、適当な場所にアプトノスを置こうとする。
 ここも骨で結構散らかってきた。今日は掃除して帰るかな、そんな風に思って一歩踏み出した時、足元で何かカチリと作動する音がした。



【SIDE:人間ズ/シュウ&ラジー】
 「……作動したっ!!」

 言うなり、ラジーが身を起こし、弓を引き絞る。
 今回の仕掛けは簡単だ。
 骨が散らかっているのを利用して、その下に痺れ罠を仕掛けた。無論、一個だけじゃない。
 どれか一個だけでも作動してくれれば……。
 そんな風に思ったのだが、見事に踏んづけてくれたようだ。
 だが……。
  
 「やっぱ効かねえかよ!畜生!!」

 ガラムは仮にもリオレウスだから効くんじゃないか、なんて甘い希望を持ってたみたいだが、こちとらあれがリオレウスだなんて思っちゃいない。それはラジーも同じだ。だからこそ、即座に反応出来た。
 そう、奴は痺れ罠を踏んづけたにも関わらず、きちんと作動してるにも関わらず、警戒して周囲を見回している。その様子には痺れ罠にかかった獲物特有の動くに動けずもがくような様子はまるでない。けれど、それならそれで、こっちは予定通りに動くだけだ。
 ラジーが引き絞った矢を放つ。
 俺達の位置は上手い事に奴の背後。……周囲の地形から降りてくるとしたら、こっちが背後になる可能性が高いと踏んでいたが、当たったようだ。
 その矢はさすがにG級の腕だけあって、見事に奴の尻尾の付け根。リオレウスの尻尾の斬り落とし安いとされる部位に正確に命中し……あっさりと弾かれた。
 
 「……こうも予想通りだと哀しくなるのう」

 自慢の一品がいともあっさりと弾かれた事に、ラジーはどこか寂しげだった。
 だが、ここからだ。
 案の定、一撃当てた事によって、奴はこちらに気がついた。
 ぐるりと頭部を巡らし、こちらに向き直る。
 次はこちらの番だ。俺の役割はラジーの盾役……ラジーはその為にやや後方に下がり、再び矢を放つ。
 今度の狙いは顔……。
 こちらもあっさり弾かれたが、それでいい。動物の習性として顔に物が飛んでくれば……目を閉じる。
 それはあのリオレウスの皮を被った怪物も同じ事だった。
 さあ、後は最後の一矢だが……これで駄目なら、後は……。

 
  
【SIDE:人間ズ/ガラム&エナ】
 懸命に身を伏せていた。
 お前は一体何をしているのだと、何故こんな事に命を賭けているのだと頭の中で喚きたてる声が聞こえる。
 何時からだっただろう。この声が脳裏に響くようになったのは。
 危険に挑む時に感じる血湧き肉踊る高揚感を上回るようになったのは。
 ……分かっている。自分が年を取ったのだという事ぐらい。
 何時からだっただろう。こうして恐怖を抑えつけなければならなくなったのは。
 ……それも分かっている。
 自分が弱くなったのは、娘が生まれてからだという事に。
 ギルドの受付嬢をしていた妻に一目惚れしたのは、自分が始めて田舎から出てきて、都市の、今所属しているギルドに入った時だった。
 それから口説いて、一人前になって……妻となってくれた時は嬉しかった。
 そして、娘が出来て……怖くなった。
 自分が二人を残していく事になるんじゃないかと恐れるようになった。
 ハンターの仕事なんてものは常に命がけだ。G級ハンターなんて呼ばれてはいるが、そんな自分だってある討伐で死んでしまうかもしれない。そうなったら二人は……そう考えると途端に怖くなった。
 自分の事を覚えていてくれるだろうか?もしかしたら、すぐに忘れてしまうのではないか、いや、娘は自分の事をはっきりと覚えていてくれるだろうか?
 死にたくない。
 そう思うようになってからは、密かに引退の為の活動を始めた。だが、俺はハンター一筋にやってきた。今更猟師なんて出来はしない。農民をやろうにも種のまき方すら知らない。
 必然的に、俺はギルド上層部に入る道を探った。別に下っ端からでも構わなかったが、G級ハンターという立場がここで足枷になった。G級ハンターをいきなりギルドの下っ端としてこき使うようになっては、ギルドの体面に関わる、という訳だ。
 そうして、やっと掴んだのが今回のチャンスだった。
 これが最後だ。これが成功すれば、俺はギルド上層部に入れる。そうすれば、妻を安心させてやれる。朝出かけて、夕方帰って、妻や娘と食事をして、いつか娘の花嫁衣裳を見る。そんな『普通の』生活が出来るようになる。
 
 痺れ罠は駄目だった。
 だが、矢によって注意をひきつける事には成功した。
 頭部にはねる矢を確認する一瞬前に、エナ共々隠れていた場所から飛び出した。
 隠れていた場所は岩舞台の陰。覗き込めば見つかる可能性も高い、そんな場所。
 だが、賭けには勝った。
 一息に体を跳ね上げ、襲い掛かる。
 太刀と大剣。
 その一撃が襲い掛かったのは……奴の翼、その薄膜。
 前情報から、この飛竜がすぐ空へと舞うのは知っていた。ハンターだと悟れば、きっとまたしても空へと舞い上がるだろう。……そうなれば、勝ち目はない。
 なら飛べなくするまで。
 だが、翼そのものを破壊するには時間がかかるだろう。だが、薄膜ならばどうだ?
 そこならば、鱗も殻もない。ひょっとしたら……そんな賭けは、だが、成功した。
 一撃、二撃、三撃!
 連続して放った攻撃が、奴の翼の薄膜をズタズタに切り裂く。反対を見れば、エナもまたその薄膜を破壊する事に成功していた。
 これで、まずは第一段階。
 そう思った次の瞬間。
 奴の薄膜が瞬時に再生した。それこそ、瞬き一つする間だった。目を閉じて、また開く。
 それだけで作戦の第一段階が成功したという証は失われてしまった。
 そうして、奴が、リオレウスがこちらに頭を向け……。 


【あとがき】
人にはそれぞれ理由がある、そんな回
そして、作戦はまずチートリオを飛べなくする事でした
結果はこのようになりましたが



[28159] 14
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/13 19:41
 ……びっくりした。
 何か踏んだので、ギクッとしたが……どうやら無事だったみたいだ。
 いやー驚いた。
 痺れ罠だったのかな?多分、そうだろう。ネットとかが広がる訳じゃないし。
 効かなくて良かった……こればっかしは実際に喰らってみないと分からないからなあ。
 けど、もっと我ながら驚いたのはその後だった。
 ……まさか、翼の膜を狙ってくるとは予想外だった。
 確かにあそこには他と違って殻も鱗もないからな……頑丈な武器で攻撃されたらどうにもならないだろうから、目の付け所は良かったよな……まさか超速再生があるとは思わなかっただろうが。
 いや、俺も知らなかったんだよ。
 何しろ、これまでまともな怪我って奴を負った事がなくってさ……いや、ひょっとしたら怪我してたのかもしれない。ただ、気付かなかっただけで。なんて、今回の再生速度を見て思ってしまった。
 ……なんかそうして考えてみると、確かに痛かった事って昔の独り立ちしてしばらくの間はあったような気がするなあ。

 さて、しかし、こっちとしても喧嘩売られた以上は買わないといけない。
 ……装備とかからして、こいつら絶対凄腕ハンターだよな。
 先だっての軍隊との戦いを思い返してみると、軍隊の場合はモンスターの素材を用いた武器って奴を見た覚えがなかった。やっぱり数を揃える必要と装備を揃える必要があるからだろうな。
 だとすると……手加減なんてしてられるか! 
 確かに、戦闘力は弱いかもしれない、俺に比べれば。でも、俺より間違いなく不利な戦いでの経験が豊富なはずだ……そんな相手に油断なんてしたら、ちょっとした事で逆転されかねない。
 さあ……全力全壊だ!!
 ……あ、でも少しは手加減するかな?


【SIDE:人間ズ】
 ガラムが感じたのは全身を打つ衝撃だった。
 咆哮。
 ティガレックスすら上回る咆哮がガラムを吹き飛ばした。エナはかろうじてガードが間に合った、がバランスを崩して倒れこんでいた。
 だが、ガラムの武器は太刀だ。
 太刀は切れ味も攻撃力も高いが、反面ガードが全く出来ない攻撃一辺倒の武器だ。
 こんな至近距離で咆哮を喰らえば、まともに吹っ飛ばされるしかない。
 ゴロゴロと転がって、それでも必死で立ち上がる。ここでただ呻いているだけ、というのはハンターの戦闘の最中には許されない。そんな事をしていれば、待っているのは死だけだ。
 耳は大丈夫だ。
 あの咆哮の凄まじさはハンター達に聞こえない、というリスクを考えても耳栓をする事を選ばせた。
 高級耳栓と一般的には呼ばれる最高級の完全に音をシャットダウンする耳栓を用いていた。こうしてまともに咆哮を喰らってみれば、それが正しかったと言わざるをえない。もし、耳栓をしていなければ、今頃鼓膜が破裂していただろう。……そうなれば、どのみち音など聞こえなくなっていた。結果が同じなら、ダメージを受けなかった分、鼓膜破裂による痛みがない分、マシだ。
 
 起き上がって、前を見れば、一人激戦を繰り広げているのがエナだった。
 いや、激戦というよりは命がけで遅滞戦闘を繰り広げているといった方がいい。
 
 (これでも効かんか……)

 G級ハンターの一撃は凄まじい。
 人外、その真実の姿を知る者達はそう言う。
 弓でさえ、その強弓はそんじょそこらのバリスタのそれを超える。
 もっとも、現状ではそれも無理だ。
 ガラムも駆け出した。破壊力で言えば、エナの一撃が今回のチーム中では最大だ。シュウも間もなくこちらに到着する。二人が何とか注意を引きつけてくれれば……奴を仕留める算段もある。
 まだ奴は飛び立っていない。
 飛び立つ前に奴をしとめなければならない。……如何に甲殻が硬くとも関節は防ぎようがない。何とか関節なりを一時的にでも破壊して……狙いは目だ。幾ら無敵にも思えるリオレウスといえども、脳を破壊されればさすがに倒れるであろうし、目は鍛えようがない。
 それには自分の太刀の方が向いている。
 駆け寄ったガラムは叩きつけるのではなく、甲殻の隙間を狙い、攻撃を繰り出す。

 「俺は死なん……娘の花嫁衣裳を見るまでは……!」
 
 小さくガラムは呟いた。



【SIDE:転生者】
 ……えーとどうしよう?
 耳が小声でもきっちり捉えてしまった呟きに、俺は困惑した。
 なんかやりづらいな。
 とはいえ……やっぱり強いわ、この人達。
 弓の使い手は正確にこちらの甲殻の隙間がある所を狙ってくる。
 大剣の人は多少は手加減したとはいえ、それをダメージ受けながらも防ぎきった。
 太刀の人はあの咆哮まともに喰らったはずなのに、耐えて、突きを放ってくる。狙ってるのも関節だ。
 そうして、そこへガンランスの人が加わった。
 うむう……甘いのは分かってるんだよな。でも、娘さんかあ。軍隊とかあんだけ蹴散らしておきながら何を言うんだって事も理解してる。あの人達も子供いた人一杯いただろうしね。
 でも、こうして目の前でそんな事言われたらなあ……。
 そんな風に考えてたのが悪かったんだろう。
 急に目の前にいた太刀使いと大剣使いが少し距離を取った。あれ?
 次の瞬間、横手から衝撃が来た。



【SIDE:人間ズ】
 隙があった。
 何故か分からない。だけど、動きが妙に鈍かった。
 しかも、ガラムとエナの二人に意識が集中してるっぽい……その隙に腰を落とし、ガンランスのスイッチを入れる。
 シューっと音がして青白いガスが噴出す。
 だが、ぼーっとしてる、という印象のリオレウスはまだ気付いていない。
 頼む、気付かないでくれ……こっちは打つ手が殆ど残ってないんだ……。
 矢張り、無謀だった。
 そんな思いはある。ガラムがどこか焦っていたのも知っている。だが、それでも、だ。結局、あいつの作戦に賛成して、こうして戦いを挑んだ以上は俺達自身の責任だ。
 だから……今は全員で生きて帰る為に全力を尽くす!
 竜撃砲!!
 轟音と共に衝撃が来る。
 ガンランスの代名詞とも言える砲撃はまともにリオレウスの脚部に直撃し、その姿勢を僅かに崩させた。とはいえ……それだけだ。別に足をやられた、とかそんなもんじゃない。
 どっちかというと、ちょっと考え事してたら足払われてこけそうになりました、そんな程度だ。
 だが、それで油断したのが悪かった。
 たたらを踏んだリオレウスは慌てて態勢を整えようとして、向きが完全にこちらに向いた。そうして、向きを変えた脚がまともにシュウを襲った。
 
 「がはっ!?」

 通常ならば、ガンランスはランスと並ぶ防御能力に優れた武器だ。
 ガードして受け流す事も出来ただろう。
 だが、今は竜撃砲を放った後だった。世の中には作用反作用の法則というものがある。リオレウスにバランスを崩させるだけの衝撃を受けて、ハンター側もバランスを崩していた為にガードが致命的なまでに遅れた。
 まともに直撃を受けて、シュウはボールのように吹き飛ばされた。
 頑丈なグラビモスの素材を用いて作られた装甲が割れ、シュウの肉体にリオレウスの爪が傷をつける。
 とはいえ、さすがにグラビドメイルと言うべきか、致命傷レベルのそれは防ぎ、だが、その事がシュウに更なる苦しみを与える事になった。
 リオレウスには毒がある。
 それがシュウを襲った。手足が痺れて動きが鈍り、呼吸が出来ない。
 呼吸が出来ないから、助けを求める事も出来ない。出来たとしても、果たして助けに来るような余裕があったかは別だが、そのせいでポーチからリオレウス用に調合された毒消しを取り出そうとしても震えて上手くポーチが開けられない。
 やがて、力が入らなくなる瞬間がやって来た。
 だらり、と力が抜け……地面に投げ出される。

 「……ついてないぜ」
 
 それはこんな仕事を回された事だったのか、それとも……。
 いずれにせよ、G級ハンターの一人だったシュウはその言葉を最期に永遠にその心臓を停止させた。


【あとがき】
という訳で戦死者一人目です
    



[28159] 15
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/18 01:10
 目の前でシュウが倒れた。
 最初はただ倒れただけかと思った。
 だが、G級ハンターならばすぐに立ち上がっておかしくないというのに、彼は動かなかった。
 駆け寄ったラジーが既にシュウが息を引き取っているのを確認したのはその直後だ。
 グラビドメイル、頑丈極まりないグラビモスの堅殻を用いて作られたその鎧をも砕き、リオレウスの毒が入り込み、そして彼の命を奪った。
 間違いなく、一撃を受ければ、他の者も同じ運命を辿るはずだ。

 「……おかしい」

 エナがぼそりと呟いた。
 荒い呼吸を整え、態勢を整えようとする中、その声は静かに響いた。
 
 「どうした?」
 
 「……何故飛ばない?」

 飛ばない?それは有難い話では……そう考えて、自分の間違いに気がついた。
 奴はこれまで飛来しつつの攻撃を加え続けてきた。
 だが、今回はこうして間を取った、取ってしまったのに追撃をかける気配も飛ぶ気配もない。

 「……その必要を感じていないのかもしれない」

 確かにそうだ。
 情けない話だが、現状相手に脅威と思わせる事すら出来ていない。
 と、突如としてリオレウスが突進してきた。
 急ぎ、エナは大剣を盾とし、自分の背後に隠れるよう言ってきた。確かにこの状況では下手に回避を取ればシュウの二の舞に……そう思ったが、直後、自分達の前に突入してきたリオレウスは手前の地面にブレスを叩きつけると共に、ふわりと宙を舞って後方に退いた。
 
 「「!!!」」
 
 だが、それで高熱に晒された地面が爆発した。正確にはこの辺りの大地がたっぷりと吸い込んでいる水分が一瞬にして蒸発して、爆発と同じような現象を引き起こした。
 それでも懸命にエナと二人耐えたが、それまでだった。
 一歩踏み込み、超信地旋回をかけて叩き付けられた尻尾がガラムとエナの二人を吹き飛ばしたからだ。
 それでもなまじ態勢が崩れて踏ん張れなかったのは幸いだっただろう。お陰で、二人とも吹き飛ばされ、地面に叩きつけられはしたものの、衝撃による骨折程度で鎧が砕かれず、毒に犯される事は避けられたのだから……。
 
 「がっ……は……」

 ガラムは血を吐いた。
 エナはガラムよりは軽傷のようだが、矢張り転がって呻いている。耳栓も弾かれた際に外れてしまった。ここで咆哮が来れば、大変な事になる。
 そう考えつつ、リオレウスを見たガラムは戦慄した。大きく吸い込まれる呼気。
 耳がやられるだろうが、それでも咆哮ならまだ良い。だが……拙い、おそらく来るのはあのブレス。ティガレックスをも一撃で葬るあの一撃が来れば、死体すら残らない。
 そう考え、必死にもがくが、体は何とか起き上がれただけ。これまで、なのか……。
 すまん。
 そう考えた時、だった。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 吼え声と共に自分の体に何かが激突してきた。
 直後に、一瞬遅れて吐き出されたブレスがほんの僅か前までいた場所を薙ぎ払った。

   

【SIDE:転生者】
 うわあああ、やっちゃったよ。
 事故なんだけどさ、ミスった!
 ハンターの一人がお亡くなりになってしまった。
 純粋な事故なんだけど……うん、殺しに来た以上仕方ないよね……。
 そう思って、トドメを刺す事にした。
 せめて苦しまないようにしてやろうとしたんだが……そこで大声を上げながら、こっちの股間を抜けてった奴がいたんだよね。
 え?って思って、こっちもタイミングがずれてしまった。
 まさか、そんな所通って行く奴がいるとは思わないじゃないか!
 な、お陰で慌ててブレス使ったんだけど、ギリギリの所で逃げられてしまった。 
 で、そうしたらね……。



【SIDE:人間ズ】
 「逃げい!!」

 そう叫び、立ちはだかった男がいた。
 ガンナーたるラジーだ。
 その手に拾い上げた轟刀【虎徹】を携え、彼らの前に立っていた。
 どうやら、ガラムとエナに体当りするようにして抱え込み、射線上から逃げしてくれたようだったが、その彼がガラムとエナの前に立ちはだかっていた。

 「勝ち目はあるまい。もう、我々でもどうにもならぬよ」

 ラジーはどこか澄んだ声でそう告げた。
 確かにそうだろう、シュウは死に、自分とエナは骨をまとめて叩き折られ、戦闘不能に近い。大人しく療養すればまだ助かるだろうが、戦闘はまず無理だろう。
 
 「だからこそ逃げるんじゃ。……申し訳ないが、こいつは借りるぞい。わしの武器は走るのに邪魔じゃったからリオレウスの向こうに転がっとるでなあ」

 かか、と大笑する。
 まさか……ラジーの奴死ぬ気か!?
 そんな思いを読み取ったのか笑って言った。
 
 「なに、どのみちこの足では逃げられぬでなあ」

 見せ付けるように持ち上げた右足を見て、息を呑んだ。
 ……足首から先がなかった。
 どうやら、先程の一撃で消し飛ばされたらしい。
 確かにこれでは走れない。
 逃げ切れぬから、囮になるつもりなのか……。

 「そんな顔はせんでええ。……ガラム、お前さん娘さんの為に帰らにゃならんだろう?エナは、まだ今回の中では一番若い。先に年寄りから死ぬのが筋ってもんじゃ」

 「……知っていたのか」

 思わず呻き声が洩れた。
 
 「……でも、それなら私の武器を使って。その方が……」

 「そりゃあ、無理じゃ。ほれ」

 示された先を見て、息を呑んだ。
 ……エナの武器、あの大剣ブリュンヒルデが破壊されていた。あのブレスの一撃で……確かに素材が竜とはいえ鱗や尻尾などである以上は幾ら強化されているとはいえ、ティガレックスのあの惨状を考えれば可能性がないとは言えなかっただろうが……。
 だが、同時にこれで諦めもついた。
 最早、我々ハンターの手元にある武器自体が、今ラジーが手にしている轟刀【虎徹】だけなのだ。
 
 「ほれ、さっさと行けい。行って、こやつと戦う無謀さはきっちり伝えてくれよ。まあ、見逃してもらう代金代わりじゃと思ってもらうんじゃな」

 その方が余程大変じゃからなあ。そっちはお前さん達に任せるわい。
 そんなラジーの笑顔が澄んだように見えたのは、きっと覚悟を決めたから……命を捨てたから……。
 自分があの時、撤退に同意していれば……そう思うと悔しさが募る。そんな自分の体をエナが抱え上げた。

 「上手く動かないなら、私が運ぶ。……大剣もなくなったから、大丈夫」

 情けない。
 盾となるだけの動きさえ出来ないとは……。
 涙を情けなく流しながら、ガラムはそのまま運ばれていった。

 ………

 「ふむ、待ってもらえたのかな?こちらから荒らしておいて申し訳ない」
 
 ガラムらが去ってから、ラジーはリオレウスに向き直った。
 不思議とこの間、リオレウスは攻撃を仕掛けるでもなく、ただ黙って、こちらの話が終わるまで待ち続けてくれた。
 いや、待ってくれたのだろう。

 「すまんなあ。手出しをしたのはこちらじゃというのに、半分を見逃してもらう形になってもうて……。わしとシュウの命で何とか勘弁してくれると有難いわい。ああ、無論彼らには何がなんでも、もうここには襲撃かけないよう努力してもらうでな?」
 
 その言葉に、リオレウスは分かってる、と言いたげに軽く吼え、頷いてみせた。
 
 「さて、ではもうしばらくだけお付き合い頂こうかの」

 そう言って、ラジーは刀を構えた。
 そして、この時を最後に以後彼の姿が目撃される事は終になかったのである。  


【あとがき】
という訳で、これにてハンター達との戦いは終了です
あともう少しだけ続きます

尚、死んだ奴に与えられたのがこれなら、生まれた奴にはどんなのがと思われるかもしれません
ただ、基本戦いの神様ですから、当然与えられたのも戦闘とかそういう方向です
まあ、世界によりますが、世紀末世界ならラ○ウみたいになってるかな?



[28159] 16
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/18 01:09
 G級ハンター壊滅。
 その報はハンター協会を大混乱に陥れた。
 幾度か会議が行われたが結論は出ない。だが、それと同時に……。 

 「……」

 どこか急激に年を食ったような声でハンター協会の長が呻いた。
 好き勝手を言う幹部らに疲れた、といった風情だ。
 手を抜いたのではないか、油断したのではないか、そもそも彼らの力量が下手だっただけではないか、と言いたい放題だ。
 議長もいい加減にしろ、と言いたい。ハンターギルドの切り札であるG級ハンター達を何だと思っているのだ、こいつらは。
 議長はG級ハンター達が手を抜いたとは思わない。
 今回送り込んだ四人のハンターの内、二名が死亡し、残る二人も重傷を負った。
 この事実をハンター協会は隠そうとして、物の見事に失敗した。
 理由は単純。
 堂々とガラムとエナが他のハンターらからの問いかけに答えたからだ。自分達が完敗した、という事実を。
 一旦漏れ出してしまえば、人の口に戸は立てられない。あっという間に拡散していった。
 
 無論、慌てて呼び出した上層部は二人に「何故話したのか」と問い詰めたが、「別に口止めされなかったからな」と平然と答えられてしまった。
 重傷を負っていた為に、帰還後そのまま治療に直行した結果として口止めが遅れたのは確かだったが……。

 「それに、どのみちどうやってあの化物を倒す気だ」

 「………」

 公聴会の場で、周囲を殺気染みた雰囲気に包まれながら、ガラムもエナも平然としていた。二人とも覚悟を決めているから、容赦がない。
 所詮、今この場にいる面々はハンターから足を洗って長い上に、G級ハンターだった経歴の者が一人を除いていない。彼らはハンターとしては並だったが、上手く政治の世界を泳ぎきって権力を手にした者達だった。
 そんな人間に睨まれても、凶暴な竜種と対決してきた彼らからすれば、そよ風に等しい。
 ましてや、今は死んだ二人の為にも、これ以上の戦力投入を防がねばならなかった。

 「一つ良いかな?」

 「何でしょう、副議長」

 その唯一のかつてのG級ハンター。
 ナンバー2を務める副議長は淡々とした口調で問いかけた。

 「奴と戦ってみてどうだった?」

 「戦闘力はティガレックスを赤子扱い、ブレスの一撃で大剣ブリュンヒルデすら破壊する程。痺れ罠も全く通用する様子はなし。龍琴弓で関節狙ってすら弾き、竜撃砲の直撃にも僅かによろけるのが関の山。よしんば弱い所に攻撃を当てても瞬き程の一瞬で再生してしまう。知能は歌というものを理解して、自分で鼻唄を歌う程バカみたいに高い。正に化物中の化物。周辺の住人が崇めるのもむべなるか、ですな」

 成る程、と副議長は笑った。
 殆どの連中が尻で椅子を磨いてきた連中だから、それがどの程度の脅威なのかよく理解出来ていなかった。
 結局の所、ハンター協会の上層部に文官が多かったのが今回の原因だったと思う。
 実感がないから、無謀な事も命じる。
 こうして、不満顔もする。だから。

 「成る程、確かに無謀だな。ならば討伐は以後禁止するしかあるまい」

 「「「「「「副議長!!!!」」」」」

 一斉に非難の意を込めた怒声が上がった。
 冗談ではない。ここで終わったら自分達の面子が立たないではないか!!
 そんな意を込めた視線で副議長を睨んだ彼らだったが……ゆっくりと副議長が視線を合わせてゆくと、誰もが自然と目を逸らした。
 そうして、会議室にいる幹部七名全員の視線が逸れた確認してから、溜息をつきながら言った。

 「納得がいかない。討伐は成し遂げられねばならん、か?」

 一斉に賛成の声が上がった。
 誰もが副議長と視線を合わせる事なく、互いに「やはりそう思うか!」だの「当然だ、我らの誇りにかけて」などと言い合っている。
 それに対して、副議長もG級であるガラムもエナも無表情になっていた。
 長である議長は、というと、どこか哀しげな表情をしていた。

 「ならば仕方あるまい」
 .
 副議長の言葉は、そこまでは幹部達も望むものだった。 
 だが、そこからが異なっていた。

 「ガラム、エナ。申し訳ないが、彼らを連れて行ってもらえないか?リオレウスの所へな……」

 誇りというならば、彼ら自身に行動で示してもらおう。
 そう断言する副議長に驚愕を浮かべた幹部達だったが、その言葉を合図として即座に会議室に駆け込んできたギルドナイツ達に、或いはガラムとエナに瞬く間に取り押さえられた。
 
 「ふ、副議長!これは一体!!」

 「は、離せ!離さんか!!」

 「や、やめろ、何をするか!!」

 口々に叫ぶ彼らに副議長は冷ややかな視線を向けて告げた。

 「分かっておらんな。ハンターズギルド本部はG級ハンターの喪失にこれ以上は耐えられんという事だ」

 この地域のリオレウスがむやみやたらと人を襲わない、共存出来るというなら。
 依頼がないなら、放置しておけばいい。
 G級ハンターに至る人材は希少であり、世界のあちらこちらでその手は求められている。
 そんなG級ハンターが二名も死んだ。この状況は中立都市に居を構えるハンターズギルド総本部にとって看過する事は出来なかった。
 ましてや、この少し前、王宮が討伐依頼を引っ込めていた。早い話が、この幹部達の主張は既に依頼も何もない、ただの自分達の面子だけを考えて、しかもその癖をして金はギルドに出させようという……ギルドにとっても害しかない主張だったのだ。
 元よりハンターの事を考えない発言が目立っている連中だった事もあり、今回の騒動になった訳だ。
 まだ、G級ハンターの率直な意見を聞いて、引くなら見逃す予定だったのだが……。
 
 「それでは手はずどおりに頼む」
 
 「了解しました」

 そして、人間達の動きもまた最終段階に至る。


【あとがき】
なかなか上手くいかない……
不満はあるけど、一旦あげ 
次回はリオさんです

尚、リオさんが軽いのはどうにもじゃれつかれてるような、本気にならなくてもいい相手が長年続いてきたせいです
この人間だけじゃなく



[28159] 17
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/18 13:53
【SIDE:転生者】
 先だってのハンター達も特に問題なく終わった。
 大勢が駄目だったから、少数で来たんだろうし、それなりに選抜はされたんだろう。実際、結構驚かされたが、特に問題もなく無事終わった。
 ただ、本当の意味で驚かされたのはそれからしばらく経っての事だった。

 空から見て反応に困った。
 ある日狩りに出てみれば、地面にでかでかと文字が……。
 
 《話し合いがしたいので、是非来てらえませんか? ハンターズギルド》

 ……こんな文字が平原に多分染めた丸木を使って書かれてたら、反応に困る。
 傍に天幕が幾つかあるのを見ると、あそこにハンター達はいるんだろう、多分。
 さて、困った。
 俺はそれなりに用心深いのだ。……これが罠で、天幕の中にはびっしりとハンターが詰めてたり、でっかいバリスタが照準を合わせてたりしたら……うーん。
 
 と、悩みはしたが結局降りる事にした。
 ここで警戒してもしょうがない。
 虎穴にいらずんば虎子を得ず!ってのもあるし、今後ずーっとハンターを警戒し続けるのも大変だ。
 話し合いで解決するのならそれに越した事はない。
 ……話が出来るのか、って問題はある訳だが。

 さて、来てみれば罠とかではなかった。
 その点は良かった良かった。
 こっちが喋れないけど、理解はしてるって事を理解してるみたいで、幾つかの条件と提案をしてきた。
 一つ目はこっちの食事場所の片付けをさせてもらえないだろうか、って事。
 要は素材もらえません?って事らしい。
 ちょっと迷ったんだけど、交換条件を出した。ふ、その為にご飯時に飛来したんだぜ。
 要は香辛料とかの調味料を提供しろ、って事。
 塩だけじゃやっぱ物足りないのよ。
 言葉が通じないから、時間かかったけど、最終的には「ひょっとして、素材と調味料の交換って事では?」とギルドの下っ端の子供が言い出した事が突破口になった。
 バカな事を言うなと叱られていたから、どうももっとややこしい話だと勘違いしてたらしい。
 こっちが頷いてるのを見て、唖然としてたっけ。
 ま、こっちにしてみれば食べ残しなんだけど、向こうからすれば命がけでしか手に入らない貴重な素材だからな……でも、価値観が違うんだよ、根本的に。
 
 それから二つ目は相互不干渉。
 といっても、向こうが勝手に行動するのを妨げないで、って話じゃない。
 要は、「私らはここで狩りはしません。だから、あなたも私達の街を襲撃しないでください。あ、もちろん私らもランポスとかに襲撃された場合は反撃しますし、街の連中がバカやって襲撃かけた時の反撃は仕方ないです。ただ、なるだけ被害を抑えてもらえると助かります」、って話。
 まあ、それなら問題ないだろう。
  
 こうした交渉は時間がかかった。
 別に難しい話をした訳じゃない。
 ただ、言葉が通じない上に、こっちの身振り手振りとか顔の様子とかが人間は分からないからねえ。
 同じ人間同士なら、何となく雰囲気とかで分かるんだろうけど……。
 最後に、人間達は檻に押し込められた老人連中をどうしますか、って示してきた。
 ……何でも最後の最後まで、俺を狩る事を主張してた連中らしい。
 で、とうとうギルドの総本部含めた最上層部、下のハンター連中全員から総スカン食らった挙句に、こうして連行されてきたらしい。
 ふんふん、俺が手出しするなら煮るなり焼くなり好きにしてくれと。
 手出ししないなら、このまんま総本部へ連行されて処断される、ってか。
 まあ、こんなもの貰っても仕方ないので、丁重に……と思ってもらえたかはともかく、お断りした。
 だってねえ……こっちが顔を近づけただけで、顔真っ青を通り越して真っ白になってるわ、失禁するわ、卒倒するわ……土下座して命乞いしたり、他の奴に責任なすりつけようとして連中同士で罵りあいの喧嘩になって周囲から止められたり……いや、これ。関わりたくないわ。
 


【SIDE:ガラム】
 ほっとした。
 基本的にはお互いに手を出さずに、仲良くやりましょう、って事ではあったんだが、本当にリオレウスに知能があるのか、怯えてた連中も多かった。
 もっとも、最初は怯えて、途中からは唖然としたり顎が外れそうな顔になって、最後は最低でも人並みの知能があると皆が普通に考えて動いてたな。
 ちなみに、私は新たにギルドの幹部の一人に入る事になった。
 理由は単純。文官が増えすぎた結果が今回の面子優先の行動に繋がったからだ。
 もっとも、ハンターばっかりだと脳筋ばかりになって、事務活動に支障が出る可能性があるから、当面は文官とハンターのバランスにハンターズギルドは四苦八苦する事になるだろう。
 私自身も当面は文官仕事に苦労する事になりそうだが、今後は今回のような事がないように自分の全力を尽くしていかないといけない。……自分自身の行動の反省も踏まえて。
 エナ自身も幹部昇格を誘われたのだが、彼女はまだ現役を続けるそうだ。
 で、問題となるのが彼女の武器だ。
 ブリュンヒルデは破壊されてしまった。さて、どうするか、と思ってたんだが……想定外の方向から事態は解決の方向に向う事になった。
 何と、それを聞いていたのだろう、今回の交渉は一日では終わらなかったのだが、翌日見た事もない鱗やら殻やらを持ち込んでくれたのだ。
 一つ一つが恐ろしく巨大なそれらは、倒したのかと思ったのだがどうも当人曰く……いや、こっちが確認したのに頷いてくれただけなのだが、どうもこの種の竜が倒れた場所があるのだとか。要は死んでも鱗や殻は残ったって事かな……どうも俺らが辿りつくのは相当に難しい絶海の孤島のようだが。
 風雨に晒されてはいるが、そんじょそこらの竜の素材より強力じゃないか、って取ってきてくれたらしい。
 ……信じられるか?最後はエナの奴とか子供達、リオレウスの背中に乗って飛んでたんだぞ。
 怖くなかったんだろうか?そう思って後で聞いた所によると、それ以上に興味の方が強かったらしい。

 ……そして、街に持ち帰られた鱗を初めとする素材はリオレウスが狩った素材は希少な武器として売りに出され(ハンター限定で、装飾品としては却下だ!)、あの巨大な殻や鱗はエナの武器の素材として活用された……問題は、こんな化物がまだ世の中にはいるって事か。
 こいつの正体は総本部でもその正体は掴めなかった。まだまだ世界は広い、って事なのだろう……。
 ちなみに、ブリュンヒルデに勝るとも劣らない良い武器が出来たという事だけは言っておく。


【あとがき】
耳栓に関しては、前の話に少し書き足しました

持ってきた素材はフロンティア最大級のアレです
もう一体の超ド級なんかと共に超大型の災厄らとか出すか、それともここで締めるか……
と考えた末、一旦次の話で締めます

その上で、災厄同士の大激突は外伝か第二部という形で記していきたいと思います尚、こんな奴との決戦を見てみたい、というのがありましたら名前を上げてください
こちらで対応可能な相手ならば、出してみたいと思います
……そんじょそこらのじゃあ、瞬殺なんですが 



[28159] 18【本編完結】
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/19 02:24
 『庭園』。
 そう呼称される土地がある。
 竜王と呼ばれる強大な飛龍が統治する領域だ。かつてはリオレウスという事で飛竜、とされていたが、何時しかその余りの力故に、そして通常のリオレウスと余りに異なるが故に何時しか古龍に分類されるに至った。故の飛龍。

 その最初はハンターや軍隊が撃退された事から始まったという。
 手出しが出来ぬが故に、相互不干渉の約定が結ばれたのだという。
 その後、人の技術は進んだ。
 戦術も進み、飛竜種の討伐も以前よりスムーズになった。
 古龍種も、人の領域が広がるにつれて接触するようになったが、それすら討伐が行われるようになっていった……だが、その中でも、人の領域の只中にありながらこの領域だけは人が手出し出来ないそのままであり続けた。
 相互不干渉は人が代替わりする時に。
 或いは、結ばれた後でもそ知らぬ振りをして破られた。
 その全てが打ち砕かれた。
 
 このような事があった。
 古龍のブレスすら防ぐ盾による陣形をもって、前衛で防ぎ、砲撃を加えようとした事があった。
 前衛は真っ向からのブラスターブレスによって盾ごと消滅、そのまま後衛まで一直線に最後尾までぶち抜かれ、総大将までが綺麗に消滅して壊滅状態に陥った。
 無論、その後で街が反撃を喰らい、王宮が壊滅。王も王家も消滅し、国自体が崩壊した事があった。

 そうして何時しか世界に人が広がるにつれて、その領域は保護区として認められる事になっていった。
 人の手が加えられぬが故に、古来よりの自然がそのままの姿であり続けるその領域は、人が手を入れない保護されるべき領域、聖域として各国共同での声明で開発を放棄するに至ったのである。
 そうして、更に時は流れ……。



 「……おい、逃げ切れたかな?」

 こそこそと森の中で囁く者がいた。
 彼らは密猟者だった。
 この自然保護区は遥かな古代から人の開発の手が全く入っていない為に、希少な自然が今尚豊かに広がっている。
 その領域に君臨するのは【竜王】。
 彼ら密猟者達は、この地に入るまではその存在を甘く見ていた。
 伝説は所詮伝説。
 大昔のトカゲの討伐に失敗が連続した事から話が大きくなり、その後は運良く手出しされる事なく、気付いたら保護区になっていたのだろうと……。
 それ故に、彼らは希少な素材を狩る為に、この保護区に侵入したのだ。
 何故か、この保護区では監視の軍隊などが中にいない為に……。
 もっとも、その原因を彼らは自分達の命を代価に悟る事になった。
 土地を荒らしていた彼らが持つ発展した竜種の鱗すら貫く火器。それらを全く無視して弾き飛ばし、襲い掛かってきた飛龍によって、彼らは自信も、足も失い、仲間の半数以上を失い、必死で逃走した。
 
 「……わかんねえ。とにかく、隠れておいて、明るくなったら早く逃げよう」

 もう、彼らはこの場所に留まる気はなかった。
 正に王。
 今尚、人が手出し出来ぬ存在というのを思い知ったからだ。
 武器も彼らは放り出して逃げ出していた。
 武器は威力が高くなると、どうしても嵩張るようになっていった。
 それこそ、小鳥を撃つならもっと小型の武器もあっただろうが、この領域には飛龍を頂点に、今では数が減った小型の竜種が当り前のように存在している。
 彼らは小型ではあっても竜種。
 小型の武器で傷つけられる程甘い相手ではない。だからこそ大型火器の出番であり、だからこそ嵩張る為に【竜王】の前では、そんなもの放り出して逃げるしかなかったのだ。

 「……?なんか音がしなかったか?」

 とにかく、散々な一日だった。
 そう思った彼らだったが、まだ一日は終わっていなかった。
 
 「……!?ら、ランポス!」

 「ドスランポスもいるぞ!!」

 そう、ランポスの群が静かに忍び寄っていたのだ。
 昼間なら問題なかった。
 彼らぐらいなら撃退出来るだけの武装を彼らはしていたからだ。
 だが、今は違う。
 装備を失った今では、彼らはランポスですら退ける力はなかった。
 
 「ひ、ひいい!来るなあ!!」
 
 「た、助けてくれええええええ!!!ぎゃああああああ!!!」

 今や狩る者と狩られる者。ハンターと獲物との関係が逆転した彼らの悲鳴は森の中に響き、けれど木々に吸い込まれ、誰にも聞かれる事はなかった。
 ……そして、密猟者故に。
 彼らの存在は本当に誰も知らないままに消えていったのである。



 『庭園』。
 そこは人の世界が広がった今尚、自然がそのままで残り続ける地。
 ただ一体の【竜王】によって、人が立ち入れぬ領域である。

【とある大学】
 「……以上で今日の授業は終わりだ。この自然保護区は現在では極めて希少な金属素材や植物が多数眠っている。少量ならば【竜王】との盟約によって持ち出しが可能だが、大規模な採屈、採取は禁止されている。学者の中にはここに長期間用の拠点を設けて、観察を行いたいという意見もあるようだが、【竜王】が領域の中に人工物を設ける事を嫌う事、かといってテント程度では小型の竜種などの襲撃を受けた際に危険だし、大規模な兵器を持ち込む事は【竜王】の攻撃を受ける事になるからそれも適わないでいる、というのが現実だ」 

【とある軍人養成校】
 「うむ、今では速度だけなら人は【竜王】を上回る速さの兵器もある。けれども、ミサイルも機関砲弾も弾き飛ばす相手だからな……。そうだ、現行の航空機に載せられる最大口径の機関砲弾でも全然効かんらしいのだ。正に竜の王だな。おまけにブラスターブレスは射程は長いは火力は戦車でも一撃で蒸発するわで、どうにもならないのが……」


【あとがき】
これにて本編は終了です
以後は外伝となります
遥かな未来、人の技術は、欲望は発展しましたが、それでもチートは全開です
正確には、年を重ねるごとに体もでっかくなった上に、当然それに伴って装甲とかもアップされてったので、人の技術が発展しても、それを上回り続けたというか……
現在のこの地域をイメージするならば、【ジュラシックパーク】が比較的近いと思われます
あっちと違って、全然手出し出来ませんが……

これからは外伝として、色んな龍種との出会いや対決を書いていきたいと思います
とりあえずは……希望が多かった、アマツマガミかなー?



[28159] 外伝1
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/19 23:16
 私は動物学者のヘンリー・カーライルという。
 今日は世界で最も有名な龍について話をしたいと思う。
 そう、彼の【竜王】だ。

 【竜王】を称して、『世界で最も広大な土地を治める王』と呼ぶ事もある。
 これは紛れもない事実だ。
 実効支配しているのがどちらであるか不明な地域もあるので、正確な領域は不明だが、最低でも世界でもその『庭園』の領域を国とするのならば、世界でも五指に入る広大な国、という事になる。
 その最初期の領域はもっと狭かった。それは確かだ。
 では、何故現在、ここまでの広大な領域を支配するかに至ったか、だが……その理由は、【竜王】自身の成長と、人間の馬鹿さ加減の象徴。この二点に尽きる。
 【竜王】の成長に関しては簡単だ。
 最初期の【竜王】のサイズは当時対峙した記録から通常のリオレウスサイズ、全長17m程度であったのではないかと推測されている。これに対して、現在の【竜王】は全長50m以上……正に化物だが、体が大きくなれば食事の量が増える為に、行動範囲も広がるのは理解出来るだろう。
 ……もっとも、昨今の【竜王】の食事量が体格から推測されるそれより異常に少量という研究もあり、外燃機関を備えているのではという説もあるぐらいなのだがね。
 まあ、証明も何もなされていない話はさておき。
 それ以上に大きかったのが、人間の愚かさが招いた事態だ。
 【竜王】が自分から人の街を襲ったという話は……あるにはあるが、非常に怪しい、つまり自分達から仕掛けたのに、襲われたと主張しているとされているレベルのものしかない。
 これに対して、人の側から盟約を破って【竜王】を攻撃した、という話には枚挙に暇がない。
 結果として、【竜王】から反撃を喰らって、壊滅した国は多数あった。
 それだけ、馬鹿をやった国が多い、という事でもある。
 そうして、壊滅した国に大抵の場合起きたのは……街のゴーストタウン化である。当然だろう、飛龍の襲撃を受けて、しかも国の象徴というか一番防御が固いはずの王宮がボロボロ。軍隊もハンターも手も足も出ないという光景を目の当たりにしたのだ。そんなものを見せ付けられて、安心してその国で暮らす事など出来るはずがない。
 まず、金のある者が逃げ出し、更に……という訳だ。
 最後は金のない者達が僅かに残るスラムと化していったという。
 そうして、もうけられた街は当然、【竜王】の飛来圏外であり……これだけで【竜王】の領域は広がったも同然になる。そしてそれが繰り返されていく内に、今の領域になった、という訳だ。
 ちなみに、【竜王】の領域の正確な広さが判明したのはごく最近の事だ。 
 静止衛星軌道に送られた気象衛星による画像から割り出されたものでね……ちなみに【竜王】の領域の上を飛ぶ周回軌道上のスパイ衛星みたいなのは全く存在しないのは有名な話だ。……何故かって?【竜王】が全部撃墜してしまったからだよ、周回衛星軌道上の衛星を……本当に生物なのかね?
 しかも、壊した方法が生体レーザーと判明した時、当時の動物学者達は揃って壁に資料を全力で投げつけたそうだよ。
 ……ああ、生体レーザー自体はちゃんと実験室レベルでは発生可能だそうだがね……。

 ※尚、2011年、我々の現実の世界でも、ハーバード大学にて遺伝子組み換えを施した生きたヒト細胞を用いたレーザービーム放射に成功しており、未来には患者の体内でレーザーを発生させてガン組織に直接照射といった事もありえるかも、という話です

 話を戻そう。
 【竜王】の『庭園』に入るには外に設けられた唯一の港町ドンドルマを用いる。
 他にもない訳ではないが、そのいずれもが漁村のレベルで、大型船が入れるのはここだけだ。
 最初期と異なり、上が馬鹿をやっても、下の民衆は何も知らずに生活している者も多く、そうした人間の村が領域に入ったからといって、【竜王】は出て行けとは言わなかった。これまで通りの生活をする限りは、人が己の領域で暮らす事を認めた訳だよ。
 現在も、尚昔ながらの生活を維持する彼らはカリュート族と呼ばれているが、遥かな古代からずっと自然と共存を続けている民族だと言われている。
 彼らの村へ行く時、車は使えない。
 使えるのは、今ではこの領域でしか見る事が出来ないアプトノスを用いた竜車だ。
 なに?それでも強引に、或いは裏から持ち込んだりする事はないのかって?
 愚問だな。そんな事をしたら、それこそ【竜王】に怒られるだけだ。
 かつての戦争で、この『庭園』に眠る資源をものにしようと艦隊が派遣された事があったが、今も尚、ドンドルマの沖合いには戦艦を含めた大艦隊が躯を晒している。……怒った【竜王】に本国を攻撃されて軍隊が半壊状態に陥って降伏した事から、『同盟軍は連合軍に負けたのではなく、【竜王】に負けた』と言われる所以だな。  
 この他にも自然回帰論者や、自然保護団体の内でも特に自然と一緒にあるべきだと主張する者が暮らしている事もあるが、外部で環境テロを行った者は何故か【竜王】にばれて、入れてもらえないな。いや、犯罪者特に密猟者が入り込む事はあるんだが……犯罪者でも、『庭園』で自然と共に生きる道を選ぶなら見逃してもらえるらしいんだが、中で犯罪やらかしたらあの広い領域のどこでやっても絶対逃げれないというんだ……。
 【竜王】はカリュート族には神として崇められているが、本気で神様かと言いたくなるよ。
 ちなみに、生体レーザーが確認された事で、竜種が遥か古代の文明の兵器であったという説が証明されたと主張する学者もいる。
 現在は、『庭園』には範囲が広くなったからだろうな。他の竜種も多数生息している。ここでしか見られない大型の竜種も多い。私達動物学者にとっては正に宝の山だよ。危険なのは確かだがね。 

 ……さて、これがその【竜王】だ。
 この写真は領域の外、旅客機に近づいた際に撮影されたものだ。
 見ての通り全長およそ50m強。
 半透明のルビーのような装甲に全身を包まれている。
 この全身の至る所から屈折させた生体レーザー砲を撃つ事が出来る上、口から放つブラスターブレスの威力と来たら……かつての大戦では大型戦艦の艦橋の一番上から艦底まで一直線に、或いは一番分厚い砲塔すらぶち抜いて見せたそうだよ。
 おまけにこの巨体で音速突破して、機動性はレシプロ戦闘機よりも小さい旋回性能を見せたそうだが……。
 おまけに、超感覚、とでも言えばいいのかな?衛星軌道まで攻撃する力まで持っている。
 とにかく、人にどうこう出来る相手ではないな。それだけは確かだろう。
 写真ではただ綺麗なだけだが……実際に見ると、もう体に震えが走る。
 あれを畏怖、と呼ぶんだろうね……。
 実際に見た事があるのかって?ああ、あるよ。
 カリュート族には『竜王祭』と呼ぶお祭りがあるんだけどね?その中でも、中心となる部族が行う『大竜王祭』、各地のカリュート族の代表となるハンターと呼ばれる村を守る戦士が集まって行われる祭りに、【竜王】は姿を見せる。
 この祭りには、見学者は誰でも受け付けるが、写真などは嫌われるから写真は取れない。
 空から舞い降りて来た時……あの姿を一目見た瞬間、体が凍ったね。
 あれは現地に向うのは大変だし、他の大型竜種に襲われたら命の危機もあるのも確かだが……それでも、私は生きている内にもう一度見てみたい。それだけの価値がある姿だったよ。
 ……おっと、もうこんな時間だね。
 それでは今回の講演はこれで終わりとさせてもらうよ。


【あとがき】
かなり化物的な成長を遂げた……ちょっと暴走気味な未来の姿
もう、本気でゴジラとかの怪獣映画を探した方がいいお姿になっています
逆に言えば、こんなだからこそ、今でも誰も手出しできないんですけれど

外伝での戦闘はさすがにこんな姿では出てきません
……これに比べればまだまだ弱い頃の姿で出ます 



[28159] 外伝2
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/21 01:46
 遥かな未来の話。
 何者にも犯される事なき【竜王】として君臨する今の時代。彼はある霊峰の頂付近にある洞窟にいた。
 ふと今の塒外を見ると、激しい嵐が吹き荒れていた。
 その光景を見て、ふと思い出す事があった。……あれは確か、そう……まだ自分が住処を決めず、巣立ちして彷徨っている頃の出来事だった。



 ゆっくりと空を舞う。
 空の旅は快適だ。
 ……かつて、人だった頃に見たあるアニメで、空を飛ぶ事が好きな魔法少女の話があったが。うん、分かるよね……。
 自分の力でこうして空を自由に舞う、というのは何物にも変えがたい何かがある。
 そんな風に空を飛んでると……おや、積乱雲?
 ……いいや、行ってしまえ。
 物は試しだ。……危なかったら、もう突っ込まないようにしよう。

 そしてそれが……。
 後に地上に甚大な被害を出した天災の始まりだった。

 「……矢張り薄暗いな」

 至る所で稲光が光る。
 余波程度なら大丈夫だが、直撃を喰らったらどうなるかは試したくない。
 効かなかったとしても、痺れるのは御免だし、好き好んで打たれたいものでもない。
 とはいえ、人であった頃には体験出来ない事だ。
 ………?
 なんだ?
 今、何か動くものがいたような……いやいや、サイズでかかったような。ジャンボジェットなんてこの時代にある訳ないし、竜種だって案外、空を好んで飛ぶ奴は少ない。
 当然かもしれない。
 何しろ、空ってのは食い物が少ない。
 獲物を探すには向いてるんだが、それよりは地面を動き回る方を優先した方がいいに決まってる。子育てだって、その方がやりやすいからね……。
 リオレウスとかベルキュロスとかを除けば、後は古龍種ぐらいじゃ……。
 ……古龍種?そういえば……いやいや、まさか?
 そう思った時、稲光が光った。そして、それが奴の姿を露にしてくれた……。

 「おいおい……」

 東洋の龍を思わせる姿。
 通常の竜種とはまた異なった美しさを持つその巨体は。

 「嵐龍……アマツマガツチ」

 『来たか、久方ぶりの来訪者よ』

 脳裏に声が響く。
 後に、ベルキュロスと戦った時には、これが俺の会話能力なんだと気付いたが、この時はてっきりアマツマガツチの特殊能力か、それとも向こうが合わせてくれたんだと思ってた。
 だって、古龍だもの。
 ……その後長く生きる事で、複数の古龍とも出会う事になるが、これがその初めての出会いだった。

 「あー始めまして。ああ、飛びながらでも?」

 『構わん。その場に浮き続けるのは、難しかろう』

 そりゃそうだ。
 そりゃ俺だってホバリングというか、その場所で浮き続ける事は可能だけど、矢張り普通に滑空してる方が楽だもんね。

 「けど、久しぶりの来訪者ですか」

 『ここまで来る者は余りおらぬ故。お前達リオレウスもこの高度までは必要を感じぬからだろう、余り昇ってこぬし、嵐の中に入る事も珍しい』

 あー、成る程。
 確かに、普通にリオレウスが飛ぶのは最初の巣立ちによる縄張り探し&確保とその維持、番探し、後は獲物探しだ。その内、高く飛ぶ必要があるのは最初の縄張り探しぐらいのものだ。
 他の場合はいずれも地上が見えないと意味がない。番探しの時だって、リオレイアは地上を好むからどうしたって低く飛ぶ事になる。
 それに、こんな嵐の中に入ったって良い事は何もない。
 俺だって突入したのは、人間としての好奇心による所が大、だ。
 
 『まあ、良い。とりあえず、我が領域に入ってきたのだ。通行料を払っていってもらおう』

 はあ?
 何だそりゃ、通行料って……一体何を要求してくる気だ、こいつ。
 ……縄張りかあ。同じリオレウスやリオレイアなら話し合いというか、最初にいるのに気付いて『出てけ』って言われる段階で出たら喧嘩必要なかったし……同種族ならその必要がない限り、さっさと出て行けば問題なかったからな。
 かといって、他の竜種の領域って殆どの連中は空飛んだら、諦めたしなあ……。
 こいつ何要求してくるんだろう?って思ったら……!

 「おわ!?って、何しやがる!!」

 『……なあに……簡単な事よ。……空にあるというのは食い物が限られていてな?自然と共にあれば然程量は必要とせぬが……偶には肉を喰らうというのも良いものだ』

 ……ってこいつ俺食う気かよ!?
 


 その日、地上に生きる人々にとって災害が起きた。
 上空に発生した積乱雲が次第に広がっただけではない。
 激しい嵐が周囲を巻き込みだしたのだ。
 突発的に起きた嵐に、人々はただ家に閉じこもるしかなかったが……それでも多くの家が破壊され、多数の死者が出た。
 ……それが竜と龍の戦いだと知る者はいなかったが、激しい咆哮を聞いた者は大勢いた。
 ……もっとも皆はそれが風の音だと信じて疑う事はなかったのだが。



 この野郎!やっぱさすがに古龍だけの事はある……!
 地力が凄い。
 ゲームでは古龍としては弱いなんて言われてたが……あれと今では決定的に違う点がある。
 ……それはここが空の上だという事。
 ゲームでは地上に降りてきたし、地上にいるハンターを攻撃しようとしてた。逆に言えば、本来空を、嵐を住処とするアマツマガツチにはアウェー、苦手な領域だった訳だ。
 今は違う。
 ここ、積乱雲こそが奴のホームグラウンド。
 こちらが慣れていない場所に、あっちこっちで光る稲妻に、吹き荒れる暴風に悩まされているというのに、あちらはむしろそれらを当り前のように利用してくる。
 稲光をこちらの目くらましに使う。
 暴風が吹き荒れたら、それに巧妙に乗って自身の機動性を上げるのに使用してくる。
 おまけに破壊力も強い!
 こっちの肉体が恐ろしく頑丈なのは実感出来たが……ここは空だ。
 はたかれたら、さすがにバランスは大きく崩れる。

 「畜生!さすがに古龍だな!!」

 『貴様もな!!リオレウスとは思えぬ……!我が一撃をこれだけ喰らって尚、平然としているとは!!』

 一瞬、さっさと逃げてやろうかと思ったが、逃げ切れるか分からない。
 あっちはこちら以上に空がホームグラウンドだ。
 こっちも攻撃を当ててはいるんだが……最初こそ向こうも揺らいだが……どう見ても見切られてるよな。何しろ、同じ空を飛ぶ相手に対してのこっちの接近戦闘の手段は二つ。
 一つは尻尾を利用しての縦回転サマーソルト。もう一つは脚の爪での掴みかかり。後者は速度は落ちるわ、隙も大きいわで実質前者だけだ。一つだけとなれば、それを警戒しておけば何とかなる。
 一方、向こうの尻尾アタックは蛇のような柔軟な体が功を奏している。
 
 「……こうなりゃ勝負だ」

 距離を取る為に飛翔する。
 瞬間、突然に逃げ出したように見えたんだろう、向こうの動きが一瞬遅れた。
 追おうと動きだした所で向き直り、息を吸い込む。
 
 『?逃げ…いや、そういう事か!面白い!!』

 向こうも気付いたのだろう、息を吸い込みだした。
 そう、もう分かっただろう。
 ブレス勝負だ!!
 互いの吐き出したブレスが激突する。
 リオレウスからは熱線、ブラスターブレスが。
 アマツマガツチからは膨大な水流がそれぞれ吐き出され、激突する。
 声は出せぬが、アマツマガツチからは驚愕の様子が見える。当然だろう、通常のリオレウスのブレスは火球に過ぎない。連続して放った所で楽に押し流せると読んだのだろうが……。
 生憎、ここにいるのは規格外のリオレウスだ。
 蒸発する事で発生する膨大な水蒸気が上がり、一瞬の均衡の後……水流を貫通した熱線がアマツマガツチを貫いた。

 『ぐ……ぬう!』

 「ちっ……!直撃はしなかったか!」

 水蒸気で視界が遮られたせいだろう。
 前足に相当する箇所の片方を吹き飛ばしたものの、仕留めるには至らなかった。
 とはいえ、向こうもさすがに予想外の事態にこれ以上の戦闘を諦めたようだった。

 『……ただのリオレウスではないな。此度は引かせてもらおう』
 
 そう言って、睨みつつ、アマツマガツチは引いてゆく。
 追撃はしない。
 幾ら怪我をさせたといっても、これで向こうはもう油断などしないだろう。それに、あちらのホームグラウンドである事は未だ変わらないのだ。

 「……ああ、疲れた」
  
 安堵の溜息をつき、どっかでメシを食うか休む場所でも、と地上を見て、ぎょっとする事になった。
 
 「……こりゃひでえ。……俺知らね」

 大型台風が暴れ狂ったかのような惨事が地上に展開していた。
 確かに、短いようで長いような戦いを繰り広げていたし、向こうの竜巻に抵抗したり、直上からの水ブレスも一発ならず回避したが……。
 別に彼のせいではないのだが……何となく気が引けて、さっさと逃げたのだった。



 ……もう昔の話だ。
 懐かしい事だ。結局、奴と再び戦う事はなかった。……大昔ならともかく、今の気象衛星まで持った人類の目からは逃れられまい。不自然な嵐などすぐ分かる。……おそらく、もう奴も生きてはいないだろう。
 ふと、そんな思いに駆られた。……知り合いが生まれても、自分が長く生き続けるせいだろう。古代より生き残っているものなど果たしているのか……知り合いといっても所詮出会えば殺し合いの間柄ではあるが、孤独さを思い出す事もあるのだ。……おそらく、心も強くなっているのだろう。でなければ、たった一人の生に当に心が壊れている。

 ……まあ、この嵐の中だ。わざわざ狩りに出かける必要もあるまい。
 そう考えると、偶には昔を思い出しつつ、のんびりするかと改めて寝そべった。
 

【あとがき】
ご希望のあった、アマツマガツチ戦です
次回はアルバトリオンとアカムトルム、でいいかな?
ゲームでは余り強い感じがしなかったとも言われますが、矢張り地上にわざわざ降りてきて、しかもハンターを狙ったから頭を下げたりしてたのも大きかったとは思うんですよね
もし、空を飛んでる状態で戦闘になったら、凄く厄介だと思います
……ハンター達だったら、ムービー同様飛行船が落とされて終わりかな



[28159] 外伝3
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/22 12:35
 面倒な。
 そう思いつつ、飛ぶ。
 領域が広がると、どうしてもその中で暮らす奴も増える。
 昨今では食い物の量が減ってるのが自分でも分かる。……こう何と言うか、自然が語りかけてくる、と言えばいいのかな?自然の中にいれば自然と満たされ、食う量がかつてのそれより大きく減って、嗜好品のレベルに落ちつつある。
 それだけではない。自然が語りかけてくれるお陰で、悪い奴というか……自然環境を破壊するというか、荒らす奴とか悪い気配を放つ奴が分かるようになっている。
 悪い話じゃない。
 先だっては入り込んだイビルジョーを仕留めた。
 イビルジョーも共存出来るなら良かったんだが……奴はとにかく腹が減ったら手当たり次第に食う。
 生態系の事とか、何もお構いなしだ。
 会話を試みてみたが……。

 『オレサマ、オマエマルカジリ』

 ……腹が減っていたんだろう。まるで理性が感じれなかった、というか感じる様子もなく齧りに来た。
 もちろん、逆に粉砕した。
 ただ、もし、自分が未だにこの図体に相応しいメシの量を必要としていたら、きっとイビルジョーすら上回る量が必要になっていたかもしれない……。だから、可哀想じゃあった。
 今度の奴は話が通じるといいよなあ。
 だから、そんな風に思うのは当然だろう。
 自然がざわめく地に向って飛ぶ、しかし。
 
 (なんで、火山の火口近辺に好き好んで暮らすんだか)
 
 メシも少ない。
 周囲は暑いを通り越して、熱い。確かに一部のそういう場所に特化した生物がいるのは確かなのだが。
 さて、つらつらと考えつつも大気を切り裂き、飛来した【竜王】の眼前には。

 「……また面倒な状況に」

 二体が大喧嘩の真っ最中だった。
 これがそこらの竜種ならば二体だろうが、たいした問題ではない。
 だが目の前にいるのは……。
 古龍種の一体、煌黒龍アルバトリオン。
 古龍に近いとも言われる古き竜。覇竜アカムトルム。
 双方が縄張り争いをしていた。

 『われ、ここはわしの縄張りじゃあ!!』

 『なんじゃと、わっしがここにゃあ先に住んどったんじゃあ!』
 
 人間が聞けば、双方が顔を突き合わせて吼えあっている、という光景なのだろうが。
 会話が理解出来るせいで、話が理解出来てしまう……。

 「おい、お前ら何してる!!」

 こっちが舞い降りると、向こうは慌てて頭を下げてきた。
 
 『あ、こりゃあ【竜王】の親分』

 『あっ、【竜王】の旦那、お久しぶりです』

 この『庭園』に住む竜達はいずれも【竜王】の存在を知っている。
 頭の悪い竜種ならば、そもそも怯えて逃げるし、ここにいる連中のように年経て十分な力を得た連中ならばこうして話をする事も出来る。
 かつてと異なり、敵対しようという気をなくさせるだけの力を得たからこその事だとも言える。
 とはいえ、この口調はどうにかならんものかとも思うが……。

 「それで?一体なんでまた喧嘩なんかしてるんだ?」

 『『ええ、それがこいつが勝手に俺っちの住処に入り込んできまして』』

 口々に言って、直後に睨み合う。
 それを宥めつつ、話を聞いてみると……どうもこれまでは相互不干渉状態だったらしい。
 無視して互いに暮らしていたんだな。
 それがここ最近、獲物が減ってきた為に激突しだして、遂に、という事らしい。
 正直呆れたが、この場所が獲物が限られているのは事実だ。これを機に引越ししたらどうかというと、そこは譲れないらしい。……意地らしいね、両者の。
 とか、考えてる内に……。

 『この爺が!!』
 
 あっ、アルバトリオンの奴がぶちきれやがった。
 バックジャンプブレス、って奴だな。後方に飛び退りながら、火炎弾を叩き付けた。
 ……とはいえ、俺もアカムトルムもこの程度じゃびくともしない。
 アカムトルムも普段は溶岩の中に潜り込むような奴だ、炎には強い、とはいえそれはアルバトリオンも分かっているし、それにあいつの強みは……。
 案の定、そのまま空へと上がって氷塊を放ってきた。
 ……けど、アカムの奴、氷にも強いんだよなあ。
 
 「おい、お前ら……『やりおったのう、若僧が!!』!」

 と思ったら、アカムトルムの奴がソニックブラストぶっ放しやがった。
 ……おお、必死で避けてる。そうだよなあ、このソニックブラストって龍属性なんだよな。
 空飛んでる時は、アルバトリオンは龍属性は弱点の一つだし……。
 とはいえ、地上戦を挑むのが無謀なのは理解しているだろう。
 アカムトルムはデカイ。いや、アルバトリオンも十分他の連中と比べればでかいし、サイズ的にはこいつらほぼ同等だ。
 だが、位置が低いというのは防御がガッチリしているのならば、弱みにはならない。
 むしろ、アカムトルムは下からの突き上げが得意だから低い方がいい。
 何が言いたいかというと、下手にアルバトリオンが地上に降りて挑むと、腹に直撃を喰らう反面、自分は棘で一杯のアカムトルムの背中に攻撃する事になる。あの頑丈な背甲にだ……。
 そもそも、首の長さ含めてほぼ同等の大きさなんだから、純粋な肉体面ではアカムトルムの方が上……。
 とか、言ってる内にアルバトリオンは空を飛ぶ故の機動性を活かして、アカムトルムの背後へ背後へ回り込む。無論、アカムトルムはそうはさせじと超信地旋回を繰り返す。
 ……が、超信地旋回なんてものは言ってみれば、その場でぐるぐると回る事だから、そんな事を繰り返していれば当然……。

 『お、おお~?』

 まあ、目が回るよな。
 その隙をついて、低軌道から雷を纏った一撃を与えた。
 さすがに、雷はアカムも多少効いたみたいだが……。

 (浅いな)

 まあ、そりゃあ、あの尖った背中を殴りつけるのは難しいよな。
 かといって、対空で打ち上げるにもアカムの場合、首の長さの関係上、ブレスの上空への範囲が狭い。
 ……さて、こんな事を何故考えているかというと……。

 (どうやって止めよう)

 いや、力ずくで何とかする方法はあるんだが……。
 下手にやると、こいつらに大怪我をさせてしまうのだ。
 うーん、どういえば分かりやすいだろう?バイク二台が激しいレースやってる所へ大型トラックでそれを止めようとしてる、って言えばいいだろか?
 っていうかだな……。

 『死ねや、おらあああああっ!!』

 『はっ、馬鹿が、その程度じゃ効かねえよ!くらええええ!!』

 『ノロマ!こっちだぜ!!』

 ……さっきから流れ弾がこっちに来てるんだがね?
 さっき、ソニックブラストがこっちの腹に当たったよ。いや、まあ、いいんだけど、こんぐらいなら。
 とはいえ……。

 「いい加減にしろやああああああああああああ!!!!!」

 『『!%!?☆???※』』

 アルバトリオンの奴が低空に降りてきた所を見計らって、全力で咆哮を放った。
 それでアルバトリオンは墜落、アカムトルムも混乱してふらふらになってる。よし。

 「お前ら!!さっきから見てればガキみたいにぎゃーぎゃーと……!」

 『『で、でもこいつが……』』

 「ああん!?」

 『『……すいませんでした』』

 たっぷり叱った後、両方ともここから出て行くか、それとも共存していくかを選ばせてやった。
 ん?移住?
 何で、こいつらに今更新しい場所探してやらんといかんのだ。
 しかし……。

 『よう、兄弟!今日は外でちと美味そうな奴狩って来たんだぜ』
 
 『お、いいねえ!こっちゃ、見ろ!』

 『おお、塩じゃねえか!それにこりゃまた随分とたくさんの龍殺しの実だね』
 
 ……なんだか、妙にあの後仲良くなったみたいなんだよな。
 ま、いいか。
 
 『『……親分に怒られるのはもう御免だしな』』 
 
 ん?


【あとがき】
アルバトリオンのモンスター情報が3105?
アカムトルムが2994程度ですか
ほぼ同サイズですが……形状とか見る限り、やはり筋肉質なのはアカムトルムが一枚上手?

今回は前回がまともな戦闘のお話だったので、少し軽めのお話で
次回は何にするかな……
昔のほのぼの話にしましょうか

【とりあえず本編完結を迎えたので、チラ裏からその他板へ移動しました】



[28159] 外伝4
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/23 12:24
 「……なんだ、この素材は」

 誰かが呆然とした口調で呟いた。 
 それ程、それは異常な素材だった。

 「この素材は一体何か、伺ってもよろしいでしょうか」

 国家戦略研究所。
 要は某大国の国直属の研究所だ。
 そこの所長を務める人物が、今回これを持ち込んだ軍人と思われる人物に尋ねた。
 私服ではあるが、そのピンと伸びた姿勢や雰囲気などからそう判断していた。
 
 「……残念ながら、それを口にする事は私には許されていない。君達に言う事が出来るのは、それを再現出来るのか、それを破壊する手段はあるのか、と確認する事だけだ」

 残念そうな顔をしながらも、研究者達がそれ以上を口にしなかったのは、ニーズトゥノウ。すなわち、一定以上の権限がなければ知る事が出来ない事がある、という事を知っていたからだろう。民間研究所ではなく、国の研究機関に素材が持ち込まれた理由でもある。
 
 「そうですね……現状調べてみた限りですが」
 
 研究機関の長が言葉を選びながら言った。

 「正直に申し上げます。この素材を複製するのも破壊するのも現状の技術では不可能です」

 「…………」

 この世の中には様々な鉱石がある。
 今ではごくごく僅かしか取れないような鉱石だって存在する。
 マカライト鉱石やドラグライト鉱石、カラブレイト鉱石などは昨今では『庭園』を除けば、採掘出来る場所は限られつつあるが、近年に至りその新たな活用方法が発見された事により、ますますその価値は高まっている。この為、『庭園』の部族と各国企業は幾度も交渉を重ねているのだが、未だ良い返事は得られていない。
 かといって、脅しや詐欺など強引な手法を使えば、後に待っているのは【竜王】による報復だと分かっているから、そんな手も使えない。
 結局、僅かに手作業で産出される鉱石を買い取るしかない、という状況だ。
 ……だが、この素材は違う。
 そうした鉱石とも明らかに異なる何かだ。
 ダイヤカッターなどを当てれば、カッターの方が刃がボロボロ。
 高熱を浴びせようが、色さえ変わらない。
 凍結させようとしても全然凍結しない。
 ならばと温度差で高熱と冷却を繰り返しても徒労に終わり、殴りつけたら殴った方が壊れるだけ。
 曲げようとしたら、曲がる前に機械がオーバーヒートでぶっ壊れた。

 「組成を分析する限りは何らかの生物的な素材とは思われますが……余りに異質に過ぎます」

 見た事のないような分子結合構造、更には新発見の成分すら混じっているという。
 一から解析し、それを再現するとなると……果たしてどれだけの時間がかかる事か、時間をかけても再現など不可能かもしれない、というのが科学者らの結論だった。
 無論、彼らは彼らで、この新素材に燃えていたのだが……軍人としては上に報告する内容を考えると欝だった。
 


 「……矢張り無理か」

 厳しい表情をして、この国の大統領や大臣級を集めた会議で呻き声が洩れる。
 【竜王】の装甲。
 それは、世界でも有数のこの国にとっても、いや、この世界でも最強クラスの国力を持つからこそ何とかしたい代物だった。
 とはいえ、【竜王】の装甲は滅多に出回らない、というか皆無に等しい。
 それは【竜王】である転生者の用心深さもある。
 彼は人という存在を甘く見ない。自分自身がそうだったからだ。もし、装甲などを容易に渡せば、それを分析して何時か自分をも上回る素材を生み出すかもしれない。そう考えたからだ。
 『庭園』でもまず手に入らないそれを、今回この国は莫大な金と引き換えに入手した。
 ……世界中を探せば、全く欠片も落ちていないという事はありえないし、そうしたものを売る者はいる。もっとも、今回の場合は多大な犠牲を払って、の事だったが……。
 何しろ、今回の入手先は三箇所。
 いずれも『庭園』内部の村、それぞれでご神体と崇められていた欠片だった。
 一つは彼ら自身が派遣した人員を用いて盗んだ。
 一つは村人を買収して、盗ませた。
 一つは竜種の不意打ちによって廃村となった村から偶然に欠片の更に欠片、とでも言うべき部分を手に入れた。
 その内、盗み出した二つはいずれも『庭園』から出る前に【竜王】に捕捉され、運び屋が生きて帰って来る事はなかった。
 村に襲撃をかける、という事も考案されたのだが、過去にそれをやって本国に襲撃をかけられた、というケースがあった、という事で却下された。
 そうやってごくごく僅かな欠片のみが彼らの手元に残った。
 調査から実行まで用いられた金や動かした人員は相当なものであり、更に言うならば、危険も多大なものがあった。
 それだけの危険を冒して手に入れた結果がこれでは想像はしていてもがっくりと来る。しかも、【竜王】の装甲は常に進化を続けているとの説もある。
 彼らが手に入れたものは、現在のそれに劣っている可能性が高いのである。
 だが、研究は続けさせる以上の事は彼らには出来なかった。それに彼らにはまだまだすべき事が一杯あったのも事実であった。 



 「……【竜王】か」

 部下が全員退室した後、大統領は執務室から外を見ていた。
 【竜王】の存在は人類の歴史に大きな影響を与え続けてきた。
 人を遥かに超える超越存在が現実に存在する。
 その事は人類にとって、常に脅威であり続けたのである。
 そして、別の歴史と異なる流れを幾つも生み出し続けた。
 別の歴史など彼は知る由もないから、当然だが、例えばこの世界では魔女狩りという事はなかった。
 むしろ、魔女狩りは別の意味で用いられたのである。すなわち、魔法でも何でも使えるのなら欲する、といった具合だ。
 神を崇めるにしても、何しろ具体的な絶対的な力というものが眼前に存在している。
 宗教による他宗教の迫害や、奴隷制度も発達しなかった。人同士、共存を図っていかねば、恐怖に対抗出来なかったのである。いや、自分達ではどうしようもない力を前にすれば恐怖から排除しようとするか、或いは崇拝するかのどちらかが多くなるのは当り前なのかもしれないが……その排除が出来ない。
 実際、この大統領もこの大陸の土着民族であり、別の歴史ではありえない出身だった。
 無論、彼にはそんな意識はない。
 ただ、現在の現実だけを元に、自国の発展を願っていた。

 「……何時かは、何時かは人は貴方を超えてみせる」

 自身の出身部族にとっても崇める精霊の頂点とされているのは知っていた。
 その偉大さも知っていた。
 けれども、彼はそれを超える事を望んだ。だからこそ、今、ここにいる。
 眼前に広がる光景を見ながら、彼は誓うのだった。

 ……もっとも、人が発展すればする程、【竜王】もまたその数倍の勢いで進化すると知っていたら……果たして彼はどう思っただろうか?


【あとがき】
という訳で、この世界では竜王装備、なんてものは存在しません
あれば物凄く綺麗なんでしょうけど……

この世界だと、何しろ目の前に人外の超越存在がいたせいで、宗教界にもとんでもない影響を与えてます。自然崇拝も世界~大宗教の一つに数えられるような大きな勢力を誇っています
また、奴隷制度とか征服とかそういうのも多大な影響を受けてます
ぶっちゃけ、生活の苦しさから自分を売るなどといった事例以外の力での奴隷制度は成立しませんでした
(この世界でも『庭園』に来て、力で奪おうとした者はいましたが、全部生きて帰れませんでした。中には【竜王】自身は気付きませんでしたが、史実のバスコ・ダ・ガマに相当する人なんかもいました)
また、主義にしても竜王主義などといった自然の抑止力といった概念に基づいた人類の謙虚さを訴える主義が発達したり……
  
人類史にも無視できないどころか、影響を与えまくってる【竜王】でした



[28159] 外伝5
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/25 00:48
 賑やかな祭りだった。
 カラフルな衣装を纏った者が大勢笑顔で歩き回る中には、明らかに戦士と思われる甲殻を用いた鎧に身を包んだ者達もいる。そうした人間に対しては、周囲の人間は敬意を払い、戦士達も敢えて堂々と歩く。
 
 『大竜王祭』

 『庭園』にて行われる最大規模の祭りだ。
 ここではハンターと呼ばれる戦士達が【竜王】から一年の祝福を受けるのがクライマックスだ。
 そんなどこかうかれる空気の中、それとは異なる空気を持つ者達もいた。

 「……賑やかですね」

 「ああ」

 某国から派遣された表向き学者とされている面々。
 その中に、彼らはいた。
 この大竜王祭だが、基本的に来る者拒まず、去る者追わず。ただし、犯罪犯すような奴は徹底仕置き、という祭りだ。
 従って、外部の人間であってもこの『庭園』の基本理念に従う限り、参加を認められるし、実際、学者達もカリュート族に普通に歓待され、中には早くも下戸の癖についつい周囲の空気に流されて酒を呑んだ挙句、撃沈してしまった者もいる。
 この後の降臨を見逃しては一大事と、周囲が青い顔でぐったりしている当人、必死に薬を飲ませたりしているし、酒を勧めたカリュート族の人間も、申し訳なかったと酔い覚ましの薬を持ってきたりしてくれている。
 彼らも怪しまれない程度に楽しんでみせていたが、この二人のみならず一部の者達の目的は異なっていた。

 【竜王の健在の確認】

 彼らの任務はこれに尽きる。
 『庭園』の維持はつまる所、【竜王】の存在にその全てがかかっている。
 カリュート族は戦力として見るのならば戦力にはなりえず、竜種とて【竜王】以外ならば何とかなる。
 だが、【竜王】だけはどうにもならない。
 逆に言えば、【竜王】が死んだならばその瞬間から『庭園』は各国の狩場となる。だからこそ、既に何百歳とも言われる【竜王】がまだ健在なのかを知る為に、各国は大竜王祭に人員を派遣する。

 「……というのが表向きの理由だ」

 年配のベテランの言葉に、今年が初参加の若手は訝しげな表情になった。

 「知っての通り、我が国では【竜王】を崇める宗教勢力も大きい」

 黙って頷いた。
 実際、世界を探せば複数の宗教で、【竜王】をある宗教は悪魔と称しているがそれは極少数派に属する。むしろ神の使い、大精霊、自然の化身、地球の意志など殆どは肯定的なものだ。
 原因は簡単で、敵視していた宗教の内、ある最大派閥がかつて討伐軍を、その宗教を国教としてた周辺国家と共に上げた事があった。
 結果は、討伐軍壊滅、国家崩壊、最高司教含めた宗教指導者ら全員行方不明(聖堂丸ごと消し飛んだので消し炭すら残らなかった)という結末を迎え、当然の如くこれ以上【竜王】の怒りを買わぬようにと、周囲の国家から新たな国が建つと彼らは慌ててかつての旧国教を弾圧するに至った。
 そんな目にあうぐらいなら、まだしも素直に取り込んで崇めておいた方がいい。何しろ、【竜王】自身は崇められているからといって、特に何かを要求する訳でもないのだから。
 
 この若手も熱心という程ではないが、日曜には教会に行ったりぐらいはする。
 だから、【竜王】に対して嫌悪感は持ってはいない。
 だが、本当にそこまで崇めるような相手なのか、という疑念もあった。
 何しろ、神だの精霊だのと違って、相手は物質的な肉体を持ってそこにいる。
 なまじ、他の神だの天使だのが空想というか精神的な存在ゆえに、加えて他の竜種というものを知っているが故に、本当にそこまでの存在なのか、という気持ちがどこかにあるのは事実だった。
 実際の所、【竜王】が敵視されていないのはこの辺の事情も大きかったりする。
 まあ、敵視はしてないが、その死後はと考えているのは大国の政治家や大企業の社長会長クラスでは仕方ない話なのかもしれないが……。

 「だからまあ、巡礼とかする奴も結構いるんだ。ほら、あそこにいる連中なんて正にそうだ」

 そちらの方向を見れば、質素な服装の人間達がほがらかにカリュート族に混じって笑いあっていた。
 ただ、よく見ればその顔立ちなどは或いはふっくらと、或いはどこか危険な空気を漂わせている者がいる。
 けれども同時に彼らは警戒などがない、穏やかな空気を漂わせていた。
 
 「あの爺さんはテスラエレクトリックの会長、あっちの危険そうな空気漂わせてるのは高名なマフィアの大ボス……ゴッドファーザーって奴だ。お、先々代の政治から引退した大統領閣下もいるな」
 
 他にも大物がいるなあ、と感心しているが若手からすれば仰天して目の玉が飛び出そうな話だ。
 何でそんな相手が一緒に、と聞けば、この地では普段している警戒が必要ないからだという。
 騙される事もない、殺し屋が襲ってくる事もない、純粋に祈り、祭りを楽しめる。だからこそ、彼らも安心していられる、だからこそ年一度巡礼としてこの地にやって来るのだと語る。
 
 「……本当に大丈夫なんですか?」
 
 「害意なんぞ持ってたら、いや、仕事だと完全に割り切れる殺人マシーンの漫画みたいな奴でも『庭園』にゃ入れねえよ」

 入っても、この時期じゃあ1kmと入り込まない内にあの世行きだ。
 そう語られて、半信半疑で若手はベテランを見る。

 「……『庭園』って滅茶苦茶広いですよ?どうやって回るんです?」

 「さあな。瞬間転移してるって話もある。少なくとも地球の裏側までなら一瞬で行けるらしいぞ」

 若手は沈黙して、「はあ?」と呆気に取られたような声を上げた。
 それは本当に生物なんだろうか?
 
 「さあなあ。まあ、一度見れば分かるさ」
 
 そこで若手は気がついた。
 ベテランの顔にあるどこか憧れのような何かに。
 だが、それが疑問として言葉になる前に、周囲がシンと静まり返った。
 慌てて周囲を見れば、全員が中央の祭壇に視線を向けている。
 その前にはハンター達が整然と並び、巡礼者達やカリュート族がその後ろに並ぶ。
 そして、最前列にはカリュート族の最長老達が静かに佇む。
 気付けば、先程まで給仕などを行っていた人間らも静かに視線をそちらに向け、礼を取っていた。
 無論、先輩も、だ。
 そうして、僅かに風が舞い上がると……そこには龍がいた。
 何の気配も、舞い降りる時に予想していた羽が巻き起こす風もなく、そこに【竜王】がいた。

 「………」

 声が出なかった。
 威圧感、とは違う。
 恐怖、とも違う。
 そう、これは……畏敬。
 【竜王】が軽く吼える。低く、周囲に響けとばかりに吼える。
 それに応じるかのように周囲から竜の声が響く。
 遥かに山を越えて、平原に集い、火山の灼熱の中から、湖で、雪山で風を伝って声が響く。
 目の前で聞けば、最新鋭兵器で武装して初めて圧倒できる相手に、恐怖に震えるであろうその声と共に、けれど何も恐れを感じる事なく、ただ自然に頭が下った。
 それは自然の化身。
 今なら、分かる。
 それは自然そのもの。どこにでもいて、どこにもいない。
 幼い頃には感じていたそれを改めて感じて……。
 締めるかのような力強い声にはっと意識を戻した。
 
 ……そこからは宴だった。
 誰もが無邪気に歌い、力試しをし、ただ騒いだ。
 【竜王】も先程の気配を感じさせる事なく、純粋に酒を肉をかっ喰らいながら、それを楽しそうに眺めていた。
 そんな光景をぼうっと見ている若手にベテランが笑みと共に語りかけた。

 「な?分かっただろう?【竜王】が健在かどうかなんて、何故知る事が出来るかなんて、何故どこにでも現れる事が出来るかなんて考えるだけ意味のない事なのさ」

 確かにそうだ。
 若手の顔にも苦笑が浮かんだ。
 ……来年もまたここに来れるかな。自然とそんな事を考える自分がいた。 
 

【あとがき】
このリオレウスはチートです
これがすべてを現しています

という訳で、「大竜王祭」の模様でした
次回はエナらとの過去編にするか、ほかの漫画とかに寝ぼけて次元の壁を突き破ってお邪魔する異伝にするか……



[28159] 外伝6
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/25 18:01
 『こちらホークアイ。スパロー1応答せよ』

 『こちらスパロー1、何か注文が入ったかい?』

 空中早期警戒機ホークアイからの通信に、 F18戦闘機を駆るダニエル少佐は軽い口調で尋ねた。
 現在彼らはある地域紛争に派遣された空母クレイジー・ホースの所属だった。
 とはいえ、現在の場所は陸上であり、陸軍所属の地上攻撃機A10の護衛役として上空を回っているというのが現状だった。

 『そうだな、先程から妙なエコーがある』

 妙なエコー?
 首を傾げたダニエル少佐に、ホークアイからの通信が続く。

 『反応の大きさ自体はちょっと大きめの鳥程度だ』

 おいおい、なら呼び出すなよ。
 そう思ったのは一瞬だった。

 『ただ、速度が時速800km程ある』

 何だそりゃ。
 確かにそれは妙な反応だ。
 まさか鳥が時速800kmで飛べるはずもない。となると……。

 『敵機か?』

 『分からん、とりあえず仮称としてボギー1とこいつを呼称する』

 ボギー、か。
 敵機って意味じゃねえか。成る程、あいつらもこれが味方だとは思ってねえんじゃねえか。
 そう思って笑う。
 
 『しかし、何だと思う』

 『分からん、話に聞くステルスとかかもしれん……』

 おいおい。うちでもまだ実用化されてないようなもんを奴らが持ってる訳ないだろう。
 そう思ったが、自分とて答えは持っていない。とりあえずは向ってみるか。
 そう判断し、自らの部隊を率いて、ダニエル少佐は飛んでいった。



 雲の中を進むそいつを見つけたのは偶然でも何でもなかった。

 『……こちらスパロー1、ボギー1を発見した。雲の中にいるが……でかい!』
 
 おいおい、B52を上回るんじゃねえか?こいつ。
 レーダーを確認するが、駄目だ……酷く小さく捕らえづらい。
 これではレーダーを用いて敵を感知するミサイルは駄目だ。それなら……。

 『スパロー1よりホークアイへ、攻撃許可求む!』

 『了解した、スパロー1。現在地上では重要な作戦の真っ最中だ。上も邪魔されたくないという事で許可が出た。オールウェポンズフリーだ!』

 『了解!!いくぞ、スパローズ!ついてこい!!』 
 
 全機が赤外線ホーミングを選択する。
 フォックス1!その叫びと共に複数の機から発射されたミサイル郡は雲の中の熱を捕らえ、まっしぐらに向ってゆく。
 派手な爆炎が広がる。
 ついでとばかりにダイブした彼らは20ミリバルカンを撃ち放ちながらその巨体の傍を駆け抜け……。

 『な!?健在!!奴はまだ健在だぞ!!畜生、ミサイルでびくともしてねえ!!』

 すり抜ける一瞬、確かに悠然と舞う巨体の陰を見た。
 嘘だろう!?というのが正直な所だ。空を飛ぶというのは非常に微妙なバランスの上に成り立っているだけではない。地上を行く戦車などと比べれば、頑丈さに大きな差ががあるのだ。
 
 『あのー……』

 『なんだ、スパロー4!』

 部下の一人が物凄く言いづらそうな口調で言いかけたが、ダニエル少佐は怒鳴りつけるような口調で言った。この忙しい時に、というのもあるし、報告ならきちんとコールサインを呼べ!と軍人らしからぬ言い方に怒ったという意味合いもある。

 『先程、自分、あの影が何か見えたんですが……』

 『なに?よし、お手柄だ!!それで奴はなんだ!』

 だが、その言葉に即座に機嫌を直して怒鳴った。
 それなら……そう思った彼は、だが、直後に絶望に叩き落される事になった。

 『……【竜王】です』

 『『……なに?』』

 ホークアイ共々、二人して思わず聞き返してしまった。

 『だからあの影……【竜王】だったんです……』

 その言葉を証明するかのように、雲の中から巨体が姿を現す。
 その姿を見れば間違いなく……。

 『りゅ、【竜王】……』

 じゃあ、間違って自分達は【竜王】に攻撃してしまったのか……。
 絶望に染まったダニエル少佐だったが、【竜王】は特に彼らに反応せず、そのまま飛び去っていったのである。後に敬虔な世界最大の自然崇拝宗教の信徒だったダニエル少佐は、この紛争後、軍を除隊して世界巡礼の旅へと出発した……。



 なお、【竜王】自身はといえば、ここに顔を出したのは、「これがあの有名な紛争のこの世界バージョンか」と物見高く見物に行っただけの話で、あの攻撃も流れ弾だったと思ったりしていた……。

 「やっぱ戦場は危ないねー。ミサイルが流れ弾で飛んでくるとは思わなかった。悪い事したかな」 
 

【あとがき】
エナさん登場の過去編前に完成したのであげます
なお、異伝を小説家になろう、の方にあげました
……どっちも同じのもなんですし



[28159] 外伝7
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/28 01:16
 G級ハンター。
 そう呼ばれる人外がいる。
 エナはその一人だ。
 見た目は小娘であろうが、その腕力は大剣という大型武器を扱うだけあって、G級ハンターの中でも群を抜く。
 かつての彼女の愛剣は先祖伝来のブリュンヒルデであったが、これは先だっての討伐の際に永遠に失われてしまった。それは仕方のない事だ、と彼女も諦めている。
 如何に強力な武器であっても、G級ハンターの相手は竜種だ。
 強化してあろうが何だろうが同じ竜の素材を用いている以上、そして補修にも素材がそうそう手に入らない為に限界がある以上、何時かは寿命を迎えるだろう、そう思っていた。ただ、それがあの時だっただけの事。
 それに、新しい武器を手に入れる事が出来たのだ。
 【大蛇の大鉈】
 そう呼称されるそれに文句はない。
 まあ、防具は自分で討伐した、という愛着があるのでリオソウルのままだが……。

 今回、彼女が来たのは【掃除】の為だ。
 といっても、別に竜を【掃除】、すなわち討伐する訳ではない。
 昨今、余りの異質ぶりに【竜王】と密かに呼ばれつつある、強大なリオレウス。彼の食事場所には多数の竜の鱗や殻が転がっており、その中には滅多に手に入らないような凶悪な竜種のものまで混じっている。
 例えば中身を食われたグラビモス。
 例えば綺麗に蟹の如く食われたティガレックス。
 例えば仕留めて食ったはいいが、余り気に入らなかったらしく丸々残ってるゲリョス。
 他にもダイミョウ、ショウグンなどの素材が当り前のように転がっている。
 正に宝の山だ。
 実際、回収部隊は涎を垂らしそうな顔で嬉々として回収していた。
 
 エナは護衛としているにはいるのだが……まあ、まず襲われる事などあるまい。
 何しろ、少し離れた所に下手に荒らされないように、とかまあ色々理由はあるのだろうが、【竜王】が寝そべっているからだ。
 事実、ランポス達でさえ、ここでは一度も見ていない。
 分かっているのだろう、ここに下手に踏み入ったらどうなるか……。
 そう思いつつ、エナは【竜王】の下へと歩み寄って、その体を撫でる。
 【竜王】はというと、ちら、と視線をエナへと向けたが特に何をするでもなく、あくびしている。
 敵として見られていないのか、と思うと思わず苦笑してしまう。
 確かに、前に交渉に来た折、この【竜王】が見た目によらず随分と優しいのは理解した。
 だが、仮にも護衛という事で完全武装している自分が触れる程に近づきながら、それを機にしていないのは野生動物ではありえない。
 きちんと相手と約束を交わすという意味を理解しているとしても、自分を脅威と判断していない、それがなければ、こうして触らせてなどくれないだろう。
 とはいえ、もし攻撃したとしても効果があるとは思えない。
 する事もない。
 以前に乗せてもらって空を飛んだ事はあった。
 あれは初体験だった。



 そもそも何故、自分がこうして空を飛んでいるのか分からなかった。
 元々は自分は交渉の護衛役として来たはずだったのだ。
 とはいえ、元より口下手気味な自分としては特にする事もなかった。
 なので、子供達の監視をしていたのだ。
 この世界は子供でも仕事を探す。
 脅威がすぐ傍にある為に、兵士だった親を失うという事もあるし、貧しい人間が売るという事もあるが、そうした子供でも大事な労働力だ。普段はあれこれと……まあ、雑用だが何かしら働いている。
 とはいえ、今回のような状況ではそこまでやらないといけないような事もない。
 その分、自由に動ける時間が増えていた、のは良かったのだろうが、何しろここは人の手が一切入っていない土地だ。ちょっと離れて水場に行ったら死体になった、なんて事になったら大変だ。
 だが、くつろいでいる【竜王】に近づいていくのは想定外だった。
 これがガラムとかなら叱るなり、怒鳴るなりして近づけないようにするのだろうが、私はどうにも怒るというのが苦手だ。
 せめて、【竜王】が吼えるなりして脅してくれれば良かったのだろうが、平然としている。
 その内、触っては逃げるを繰り返しだした。
 なんて事をしている内に……。

 「なあなあ、乗せて飛んでくれないかー?」

 などと言い出す悪ガキまで現れた……。
 さすがにこれは見過ごせない。
 そう思って、私は近づいていった。
 のだけれど。
 何故か、今私は空を舞っている。
 理由は分かっている。子供達の要望を【竜王】が断らなかったからだ。
 どういう気紛れかは知らないけれど、【竜王】は子供達に軽く応じてくれた。いや、言葉は喋った訳じゃないけれど、じっと子供達を見ていた後、頷いてくれたのだ。
 
 『……乗せてもらっていいの?』

 と、私が半信半疑で確認したら頷いていたし。
 こうなってしまうと、こちらとしても素直に応じるしかない。
 とはいえ、子供だけ乗せる訳にもいかず、私もこうして乗っている。
 
 「わあ……」

 思わず自分の声が洩れた。
 悠然と飛行する【竜王】。リオレウスはアプトノスぐらいなら足で掴んで飛ぶ事が出来る。私達程度なら問題にもしないと思ってはいたけれど……むしろ、問題は私達の方にあった。
 私達は飛べないし、元々リオレウスの背中なんて人を乗せる事なんて考慮されてる訳がない。
 落ちないよう固定するにしても、私が手の届くようにするとなると……一度には子供は二人ぐらいが限界だった。まあ、そんなに多い訳じゃないから問題はないのだけど、そうなると地上に戻る子供達の為の護衛が必要になる。
 ハンターは他にもいるから、彼らにお願いする事にした。
 本当は【竜王】に乗るのもお願いしようとしたら、真っ青な顔で頭を横に振っていた。
 気持ちは分かる。
 G級ですらないハンターが、G級でさえ勝てないリオレウスに乗って空を飛ぶなんて嫌だろう。
 ガラムは今回の交渉の責任者だから乗せられるはずがない。
 なので、私になった訳だが……こんなに空を飛ぶという事が爽快だとは思わなかった。
 この世界でも空を飛ぶ方法がない訳ではない。
 ごく一部では空を舞う飛行船というものが試作されているという話もあるが……間違っても一般的なものではない。
 当然、エナも空を飛ぶのは初めてだった。
 これが空。
 どこまでも広がる、そんな感覚だった。
 雲というものがあんな触れないものだと初めて知った。
 後で、ガラムに呆れたような目で見られたが、その日は一日気分が良かったのを覚えている。



 今回はさすがに空を飛ぶ訳にはいかない。
 しかし、そろそろ交代の時間なのだから、休憩には入っても良さそうだ。
 エナが【竜王】の傍にいる為におっかなびっくり近づいてきたハンターに、交代の合図をしてから座る。
 何となしに【竜王】に寄りかかるように、尻尾に腰掛けるようにして座った。ただ単に地面が湿っていたからなのだが、そうすると【竜王】は尻尾を引き寄せて、寄りかかりやすくしてくれた。

 「……ありがとう」

 何となくお礼を言うと、気にするな、と言わんばかりに喉を鳴らされた。
 ……その後、【竜王】に寄りかかったまま眠るエナの姿に、他の者達から「さすがG級ハンターだ」と畏れを込めて語られるようになるのだが……彼女がそれを知る事はなかったのだった。 
 

【あとがき】
エナ編
さて、次は小説家になろうにあげる異伝2だ



[28159] 外伝8
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/06/29 00:29
 「これより会議を始めます」

 首脳国会議、そう呼ばれる世界的にも重要な会議だ。
 見晴らしの良いここは、ドンドルマの郊外にある綺麗なホテルだった。
 この『庭園』で唯一開かれた都市周辺にはこうした瀟洒な建物が幾つかある。
 中にはかなり大規模な会議場まであるが、それらは全てこうした首脳会談や会議に用いられる為のものだ。
 理由は単純。
 この周辺で、暗殺だのテロだのといった物騒な手段はおろか、盗聴まで行われる心配がないからだ。
 もっとも、『庭園』内部には空港までは設置出来ない。だが、この地は利用したい。そんな結果として作成されたのがわざわざ各国共同で【竜王】に許可を得て建設された、ドンドルマ沖合いに浮かぶメガフロートを用いた空港だ。ドンドルマ沖合いには嘗て沈んだ大艦隊などで航行不能な領域があるが、そうした領域を利用して作られている。

 ちなみにかつて盗聴を図った国があったのだが、そのメンバー全員が盗聴の為にヘッドホンをつけるなり、吼え声を耳にして卒倒する羽目に陥った。
 それどころか、彼らが潜んでいた建物の屋根に突如舞い降りた【竜王】に街の住人がパニックを起こすと共に、誰かが問題を起こしたのだと血相を変えた。
 もちろん、逃げ出そうとした連中もいたのだが、悉くが捕まった挙句、彼らを掴んでその国へと飛来した。
 しかも、その国のトップはそんな事を命じておらず、下が勝手に動いての事だったのだが……その命じた当人のいる場所へ正確に飛来。
 出てきた責任者がそらとぼけようとした所、地上から跡形も無く消滅するに至った。
 ちなみにその建物の玄関は以後移築された。理由はそれまでの玄関の前に特大のとんでもない深さの大穴が開いてしまったからだったりする。
 これ一度で凝りる連中な訳もなく、複数の国が企み、その全部が失敗に終わった。
 
 こうなると、首脳らも何しろ自分の国の最高クラスの人材と技術を注ぎ込んで失敗した訳だから、安心して使えるようになる。
 今では誰もが最高クラスの会議だけでなく秘密会談でも用いられていた。
 あくまで会談や会議に使うだけなら文句を言われる心配もないからだ。
 なお、ここで騒いで排除されるのは、過激な自然保護論者も同じだったりする。
 中には「我々は貴方の為に働いているのです!」などと喚いた狂信者連中もいたのだが……結局知る事が出来たのは【竜王】は『庭園』で騒がれる事を絶対的に好んでいない、という事を悟っただけだった。

 「さて、では今回も【竜王】に立会いをお願いする」

 会議の立会い、というよりも滅茶苦茶な事を言い出す者が出ない為の抑えをお願いしている、と言ってもいいかもしれない。
 誰だって【竜王】相手に嘘をつく気にはなれない。
 自国の利益を主張するのは当然だが、決めた事は守らねばならない。
 実際、国際条約もまた、【竜王】の存在が大きな役割を果たしている。
 ある研究者はこう語っている。

 「【竜王】の存在があるからこそ、世界の各国は条約を守るし、国際法を自国に都合よく解釈して動く事もないのだ」

 歴史一つにしても、何しろ【竜王】は数百年の歴史を知る生き字引だ。
 言葉は喋れずとも、本当にあった事なのか嘘の話なのかで頷いてもらう事は出来る。
 実はこの分野でも、どこにでも馬鹿はいるもので、【竜王】に取材をした上で自分達に都合の良いように編集して放送したTV局があった。
 怒った【竜王】に襲撃されて、上層部が土下座してTVに謝罪を幾度も流した上、きちんと本来のものを放送し、それに関わったプロデューサーらは軒並み業界から追放された。……尚、後にこっそり業界に復帰しようとした結果、それを企んだオーナー(その裏には色々と諸事情があったらしいが)が屋敷ごと消し飛ばされるに至った事もある。
 【竜王】は怒らせると極めて恐ろしいのだ。
 逆に言えば、【竜王】立会いとされた会議での決定に従わないという事はありえず、それは会議の信頼性を高める事になる。
 だからこそ、こうした重要な会議はこの地で積極的に行われる。
 そう、正に神に対して誓いを立てるかのように……。

 「此度の会議では【竜王】の名に誓って、以下の決定が為されました」

 そんな声明と共に各国首脳が報道陣に発表を行っていた……。



 「ふむ……良き哉良き哉」

 満足げに神は頷いた。
 その視界には巨大な竜の姿がある。

 神の力は衰えた。
 何故か。
 地上の民の信仰心が衰えたから?そんな訳がない。
 要は後継作りに失敗しているのだ。

 神とて後継を作れば良い。
 だが、自らの力で生み出した後継は向上心がない。

 「……生まれつき力を与えた者は奢りやすい」

 生まれつき力を与えてみた者はその世界で満足してしまっている。外部の世界へと突き抜ける力を求めようとしない。……当然か、彼らは自分と会った記憶などない。世界の外に更に上の世界があるなど、本気で信じず、その世界の範囲で強くなり、それで満足してしまう。
 
 神として生まれた者はもっと駄目だ。
 生まれた時点で上に立つ者など既にごく僅かしかおらず、下の者が圧倒的に多いせいだろう。
 その時点で満足してしまう。
 下手をすれば、傲慢に陥ってしまう。

 だが、あの竜は違う。
 人として生まれ、転生する際に自分と会った事で神の存在も世界の更に上も知り、その上で成長を続けている。そして、神の後継としての資質が与えられた彼の竜に成長の上限はない。 
 当人は意識していないだろうが、その力は順調に新たな神への階を昇っている。
 そして、神を崇める者もまた……。
 そう、それで良い。やがて奴が神の領域に至った時、自分は更なる上への階梯を昇り、彼の竜が新たな神として自らの後を継ぐ。だから……。

 「昇ってくるがええ、神の座まで、のう?」
 

【あとがき】
今回、神様の思惑とか書いてみました

あ、竜王の行動とか今回でてなかった
 



[28159] 外伝9
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/07/03 03:55
 これは大分昔のお話。

 周囲の二国がようやく諦めた頃。
 リオレウスはゆったりと世界を旅していた。
 無論、時折自分の土地には戻っているが、まだこの頃の人間達はそこまで無理をする必要がなかった。
 世界にはまだまだ人の手が入っていない場所が多数あり、危険も至る所に転がっていた。
 そんな中、ハンターズギルドにしてみれば、大量の竜種の素材が手に入ったのだ。そして、今後も何年かに一度は安全に手に入る事が期待出来る、となれば敢えてG級ハンターを失う危険まで冒してリオレウス?を討伐する意味などない。
 むしろ、危険を考えれば、損しかない。
 となればハンターズギルドとしては受ける意味がない。
 国の上層部としても自分達が狙われないから、依頼も出せる。逆に言えば、怒らせれば真っ先に自分達が狙われるのが確定している状況で、依頼を出す気になる訳がない。
 商人達も通過するだけなら襲撃を受けない。
 それなら誰も依頼を出す訳がない。いや、中には血迷ってその領域での大量採取を目論む者もいない訳ではないのだが、動く者がいない。
 ハンターは依頼がそもそも出せない。
 無頼達は危険には敏感なので、場所を聞くなり金だけ受け取ってさっさと逃げる。
 国の兵士達も下手にそういう奴が動けば、自分達の命に関わりかねないので、そういう人間には容赦しないという訳だ。
 
 だからこそ、リオレウスにしてみれば、偶には世界を旅行してみるか、という余裕も持てる。
 古龍とも出会えた。
 ある山では風翔龍クシャルダオラに。
 ある雪山では崩竜ウカムトルバスに。 
 老山龍ラオシャンロンが歩くのも目撃した。
 ラオシャンロンの場合は特に、手を出そうかと思った。
 他の古龍やそれに相当する竜が比較的人と接する事のない地域に居を構え、滅多な事では出会わないのに対して、ラオシャンロンはいわば災害だ。
 ただ歩き続けるだけだが、それだけでその巨体は甚大な被害を出す。
 ……それが災いして、未来においては目立つ事もあり、真っ先に絶滅した古龍となった訳だが、まだこの時代にはそんな事、リオレウスにも想像がつくはずもない。
 必死に砦を作り、命を賭けてせめて街へのルートからずらそうと戦いを挑んでいく様に少し手を貸してやろうかと思ったのだ。……だが、これも自然のあり方。
 ラオシャンロンは悪意を持って進んでいる訳ではない。自分の縄張りを侵した訳でもない。
 それならば自分が手を出す事ではない、そう考えたのだ。
 ……その後、進路をそらす事に失敗し、街が崩壊していく様を見る事になった時には少し堪えたのも事実だた。この頃は、まだ彼の意識は人のそれに近かったのだろう。

 「しかし、まさかこんな所でなあ」

 ある山での出来事だった。
 この山には遺跡があり、半ば以上埋もれるようにして見事な洞窟のような状況になっていた。
 そこで彼は一体の同類と出会った。
 銀のリオレウス。すなわちリオレウス希少種である。
 
 「何用だ!」

 警戒心がとんでもなかった。
 ちょっと雨風を凌ぐ一夜の宿に、と思っただけだったのだが、目の前の希少種は今にも襲い掛かってきそうな気配だ。この気配には覚えがあった。
 ……すなわち、番を得ての子育ての時期だ。
 他の種は雌に危険が及ぶかもしれないから排除しようとするだけでなく、これから栄養を必要とするのが分かっているから余裕があれば狩ろうとする。
 同種の雄の場合は、雌を奪われる危険がある。
 結果、巣に近づく全てを排除しようとする訳だ。
 
 「すまん、一晩の宿が欲しかったんだが……お邪魔みたいだから「お兄ちゃん?」は?」

 ふともう一体の声がかかった。
 そちらには黄金に輝く鱗を持つリオレイア希少種の姿があった。
 

 
 「いや、申し訳ない。家内のお兄さんとは」
 
 リオレウス希少種も驚いたようだったが、その後は案外フレンドリーに迎えてくれた。
 その辺は幸いだった。
 この希少種は相当に頭がいい。
 元々希少種は知能が高いものが多いのだが、これが通常種のリオレウスならお構いなしに襲い掛かってくるだろう。
 こうして歓迎を兼ねて話が出来るなどという状況になどなりえるはずもない。

 「しかし、あの子がこうしてお母さんしてるとはなあ」

 焚き火などという事はしない。
 彼らはそんなものは必要としない。
 暗くとも、それを見通す目がある。
 ……もっとも、だからこそ竜種は文明を発展させる事が出来ないのだろうと考えている。
 だからこそ、何時か人の文明が発展した時、竜種はどうなるのだろう?そう思う。
 戦闘機を、戦車を、果ては更なる兵器の存在を知るからこそ、人が何時かその領域に立った時、竜種は果たしてどうなるのだろうか?
 家畜を襲うからと狼は絶滅の危機に瀕した。
 虎にせよライオンにせよ、かつての記憶にある猛獣はそれ故に住処を追われ、数を減らしていった。
 では人すら普通に襲う竜種はどうなのか?
 ……きっと人は狩るだろう。自分達の生活圏を拡大する為に現在でも普通に狩りを行っているが、牧畜などを進めるならばより一層輪をかけて……。
 いや、やめよう。
 どうせ、自分が死んだ後の話だ……まさか、この時は自分が延々生き続けるとは思わなかったので、人の急速な発展と竜種の衰退を目撃し、竜種の保護を行う立場になるとは思わなかったのである。
 ふと視線を向ける。
 そこには妹であるリオレイア希少種と、その腹によりかかるようにして眠る子供達がいた。
 最初は警戒していた子供達だったが、両親が警戒していないからだろう。その内穏やかに眠ってしまった。
 妹であるリオレイア希少種も、夫であるリオレウス希少種も……共に優しげな視線で見詰めている。
 だが、こうして妹と再会出来た事がどれだけの偶然か。
 如何に強大な竜種といえど、それは大人になってから。大人になれど、竜種同士の戦いで倒れる竜とているが、それよりも子供の代、新たな縄張りを探す過程で多くの竜は倒れる。
 事実、あの縄張りに戻ってみれば、別のリオレウスが入り込んでいた、という事とてあった。
 その時、一匹は途中で敵わじと逃げたが、別の時は興奮した若いリオレウスが暴走した結果、殺す事になった。
 おそらく彼の弟妹とて下手をすれば、未だに生き残っているのは目前の妹一匹だけかもしれない。
 この子供達も大人になれるのは果たして一匹いるかどうか……分かっているのだろう、彼らとて。だが、それでも子孫を残すべく、彼らはこうして卵を産み、育てる。
 
 ……自分はどうなのだろう?
 自分は同じ竜種に欲情した事がない。
 滅多に人の女性と出会う機会がないから分からないが、人の子を愛する事はあるのだろうか?
 いや、例え愛したとしても精神的なものに留まるだろう。人の子に竜の卵を産めるはずもない。
 そう考えると目の前の妹夫妻が眩しかった。
 自分は人から竜となった。それ故に、本来あるべき子を為し、自分の血を後の世に残すという事が出来ない。妹は区別出来た、夫であるリオレウス希少種が賢かったからこうして争わずに済んだ。
 ……だが、その子、その孫は分からない。
 翌朝、彼らに別れを告げ、再び飛び立った。おそらく……彼らと出会う事はもうあるまい。
 そんな思いを抱きつつ、静かに空を舞い、やがてその姿は見えなくなっていった。

 ……【竜王】が巨大な『庭園』を手に入れた頃、その一角にリオレウスとリオレイアの一族が住み着くようになった。
 今も、その空域にはリオレウスとリオレイアが比較的多く見られる空域として知られている。
 その竜達が、【竜王】とどのような関係なのか……それを知るのは今では【竜王】のみである。
 

【あとがき】
チートさがまだ小さかった頃のお話も書いてみようと思います



[28159] 外伝10
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/08/20 02:31
 「【竜王】の動きは?」

 『ありません、静かなものです』

 「……そうか。何か動きがあれば、直ちに連絡を入れてくれたまえ」

 『了解です』

 ふう、と溜息をつき、受話器を下ろす。
 見た目は古式ゆかしい電話機だが、中身は傍受阻止の為の機能を大量に詰め込んだ最新式だ。
 
 「……【竜王】か……」

 苦笑する。
 今となっては、何とも可愛らしい名前だ。

 「今後は【竜神】と呼称するよう提案してみるかな?」

 案外、反対意見は出ないような気がするのだ。
 現在、月に生身で平然と滞在している彼の存在ならば。
 この星に生きる全ての命をあっさりと救ってみせた相手ならば。
 
 
 それが捕らえられたのはほんの一月足らず前の話だった。
 10km単位の巨大な小惑星。それがこの星へと向っていた。
 アマチュア天文家によって最初に観測されたそれは瞬く間に『地球にぶつかるのではないか』という噂がネットに広がり、そして沈静化した。
 世界のトップクラスの組織が、大学がこぞって観測結果を発表したからだ。
 それらは多少違いがあり、中にはアマチュア天文家の意見に賛同するような意見もあったが、総じて共通の判定を下していた。すなわち。

 【傍を掠めるだろう、だが落ちてくる危険性はない】

 だから、人々は安心して話題のみに乗せていた。
 次々と各国の宇宙関係機関が、この予想外に地球近傍を通過する小惑星へと探査機を送り込み、サンプルリターンを目指すのだと猛烈な勢いで開発が進んでいた、という話だった。
 もちろん、裏は違う。
 この小惑星が直撃コースに乗っている事が判明していたからだ。
 核兵器によるコース修正も考慮されたし、映画ばりに直接人員を送り込んでの作業も提案された。
 その結果は……。
 全てが駄目、と出た。
 核兵器は元々空気の伝播による衝撃が大きな武器となる。逆に言えば、伝えるべき媒体となる空気のない宇宙空間では必要な箇所に直撃させる必要が出てくる。
 無論、純粋な爆発の威力という面で見ればサイズ比で見て、ずば抜けているのだが……それでも巨大な小惑星の軌道をずらす、となれば、それも現在位置から見て、かなり正確にとなると闇雲に撃つ訳にはいかないのだ。最低でも、そこへ人員を送り込み、どこへ叩き込めばいいかを確認し、ビーコンなりを設置して、といった手順が必須なのだが……とにかく時間が足りない。
 それでも何とかしようと誰もが足掻く中、一人がこう言った。

 「【竜王】にも話してみたらどうかな?多少なりとも助けになってくれるかもしれん」

 さすがに【竜王】でもあのサイズの小惑星相手じゃどうにもならんのでは?
 そう思う人間は多かったが、とにかく本気で猫の手でもいいから借りれるなら借りたいぐらいだ。そして間違いなく、【竜王】は猫の手よりは遥かにマシだと判断され、外交団が急遽派遣された。
 そうして、それを聞いた【竜王】はあっさりと了承し、飛び立ったのだ。
 宇宙に。
 最初に報告を聞いた者は全員が耳を疑った。
 ある学者は鼻で笑い、事実だと知った時頭を掻き毟って、こう叫んだ。

 「本当に生物に分類していいのか!?」

 宇宙空間で平然と活動可能な生物。
 確かに、そういう類の昆虫がいるのは確かだ。具体的にはクマムシとか。
 だが、自由自在に動ける訳ではない。そもそも翼を動かしても動けるようなものではないはずなのだが、【竜王】は平然と飛翔した。
 懸命に宇宙に上げた観測機器で追っていた彼らは小惑星に【竜王】が辿り着いた時、そしてその後の光景とその分析が終わった後、乾いた笑いを上げ、各国元首共々口を揃えてこう言った。

 「まあ、【竜王】の事ですし」

 早い話が思考放棄した訳だ。  
 その理由も当然といえば当然かもしれない。 
 如何に【竜王】が地球で空を飛ぶ存在としては巨大な部類といえど、精々が50m超。
 目前の秒速km単位で飛来する小惑星のサイズは100kmを優に超える。
 なのに具体的に何をしたかといえば、【竜王】は尻尾ではたいただけ。それで小惑星はいきなり90度方向を変えて、宇宙の彼方へそのまますっ飛んでいった。
 あまりと言えばあまりに簡単に滅亡の危機は去ったのだった。
 後に、彼らは最低でも【竜王】は慣性は制御出来るのだろうと結論した。何しろ、今もどんどん遠方へと遠ざかって行く小惑星には破損がまるでない。
 石をバットで打つ事をイメージしてもらえば分かるだろうが、力ずくで何とかしたのならば石、この場合は小惑星が破損していてもおかしくはない。だが、小惑星への破損は全く見られなかった。
 ならばベクトルを変えたとしか考えようがない、というのが学者達の結論だった。
 生身で宇宙空間を自由に飛行し、小惑星程の重量物の慣性を尻尾ではたくだけでやってのける相手。そんな相手を生物と呼んでいいのか?という者もいた。
 正に神の御業だ、と崇める立場を強めた者もいた。
 【竜王】自身はその後しばらく月を散策してから、また戻って来た、という訳だ。
 無論、『庭園』に帰るまでずっと貴重なその姿はカメラに収め続けられていた、というのが冒頭の場面だ。 

 結局、この小惑星の話は世間一般には公表されるべき話ではない、と判断された事から【竜王】が何をしたのかも極秘とされ、その結果として【竜神】への改名も棚上げにはなった。
 ただ、ますます神聖視される事になったのは、ある意味仕方のない事ではあっただろう……。


【あとがき】
まず、チリオさんを擬人化する予定はありません
彼は徹頭徹尾竜ではある予定なので……竜?これが?と思うかもしれないけど
子供時代を描くのもいいですね、それもネタとして書きたいです

なお、この小惑星がこれだけでかいのに発見されなかった理由は非常に暗かった為です
どういう訳か光を殆ど反射しなかった為に発見が遅れたんですね
……宇宙には、石炭より黒い、光を90%以上吸収してしまう惑星なんてのもあるそうですしね



[28159] 外伝11(最終回)
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:e2dfdefe
Date: 2011/08/19 14:34
 幾多の世界を超えた。
 幾多の次元を超えた。
 どれだけの時が流れただろうか?気付いた時、【竜王】の前には一人の老人がいた。
 遥かな時の向こう、かつてこの老人に出会った、そんな記憶が【竜王】にはあった。

 「久方ぶりじゃのう」

 老人はにこやかに微笑んだ。

 『……貴方には何時であったか出会った記憶がある』

 【竜王】の言葉に老人はどこか嬉しそうに頷いた。

 「その通りじゃ。お主とはかつて、ここで出会った」

 その言葉と共に【竜王】の脳裏に原初の記憶が蘇った。
 そうだ、かつて前世において果てた後、自分は……。

 『そうか、自分をこの姿にして送り出した神か』

 転生した最初は神に文句を言いたくもなった。
 自分はモンスターハンター側になりたかったのであって、モンスターになりたかったのではないと。
 だが、その後、彼は人の心を持ちながら、モンスターの立場を経験した。
 そして、その過程で人の欲も、野生にただ生きて、けれども狩られる動物達もまた見てきた。
 次元を超えるようになってからは幾多の世界の欲望を、希望を、美しさを見てきた。
 
 「その通りじゃ。そして、よう来てくれた……」

 感慨深げに思い返す【竜王】に神は告げた。
 自身の後継を求めて送り出し続けてきた、と……。
 神自身にとってもそれは長い長い時を経ての事だった。
 何十人どころではない。
 何万でも足りない。
 無限とも思える数の人々を或いは人の姿で、或いは獣で、或いは精霊として数多の世界に送り出し、或いは力を与え、或いはそのままで、或いは最初から下位の神に準じる程の力を与えて送り出してきた。
 ある者は途中で果てた。
 ある者は欲に溺れた。
 ある者は力に溺れた。
 そして、またある者は力に翻弄され、原初に帰した。
 
 「【竜王】よ、お主がはじめてじゃ。この神の座へと辿り着いた者は……」

 幾多の次元を超えてきた彼には新たな神の座へと就く力が備わった、いや、神とならねばならぬという。

 「最早、お主の生まれ故郷の世界に直接干渉する事はお主には出来ぬ」

 『……だろうな』

 それは【竜王】にも分かっていた。
 嘗てはまだ自身が介入する事も出来た。
 だが、何時しか世界の脆さを【竜王】は感じるようになっていった。
 彼が全力を揮うには世界は余りに小さく、そして儚いものになっていたのだ。

 「今のお主には世界を創造し、また消し去る事も容易い。それが神の座の端へと辿り着いたという事じゃ。無論拒絶する事も出来るが……その時、お主が他の世界を消さずにいられる程の許容量を持つ世界は最早あるまい」

 それは、一つの世界の可能性を摘む事なく、最早彼が存在し続ける事は出来なくなったという事。
 彼がただあるだけで、世界が耐えられなくなり滅ぼしてしまう事を意味する。

 『端、か』

 どこか苦笑したような【竜王】の声に神は頷いた。

 「そう、端じゃ。どのような世界も上には上がいる。お主が新たに神の座に就く事で、わしもまた上の階梯を目指す事になろう」

 『初めて会った時は、破壊の神様だの祝いだの言われたものだったがな』

 今では怒りが湧く訳ではないが、思い返して問いかけた。

 「嘘は言うてはおらんよ。破壊の後には創造が、創造を行えば何時かは破壊が来る。創造と終焉は紙一重、始まりなきものもなければ、終わりなきものもおらん。わしら神とて、それは同じ事じゃ」

 例え、無限に等しい時間を生き続けようとも、果てには終焉がある。
 いや、進化の果ては滅びがあるというべきか。
 神もまた、何時かは余りに広がりすぎた自我故に世界との境界線があいまいとなり、やがては全ての世界の始まりたる混沌と一体化し、自我は溶け去る。
 
 『神、か……』

 思えば遠くまで来たものだ。
 ふと背後を振り返る。
 そこには可能性があった。
 数多の世界があり、そこに生きる生命があった。
 そして、最早自分が共にある事の出来なくなった世界でもあった。
 
 『分かった、新たな神の座、引き受けよう』
 
 「感謝する」
 
 その言葉と共に老人の姿は溶け崩れた。
 おそらく、更なる上の次元へと登っていったのだろう。

 何時かは自分もああして登る道を選ぶのだろう。
 進化し続けてきたからこそ、世界を知るからこそ、ただ見続ける事に何時かは耐え切れず、心をすり減らし、更に上へ上へと目指す事でこうして世界を見守り続ける事から……幾多の滅びを迎える世界を、ただ見守り続ける事になるのだろう。
 きっと、その時自分に出来る事はささやかなものだ。
 かつてのように直接手助けしたくとも、まるでシャボン玉に手を出したような結末がきっとその時は待っているだろう。
 だが、とりあえずは……。

 『しばらくは見守るとするか』

 自身の神の御使いはどのような姿にするか、と考えつつ【竜王】は世界を優しく見詰めていた。


【あとがき】
これにて本当に完結です
「小説家になろう」に投稿している異伝はまだ投稿予定ですが、本編系列のお話はこれにて終わりとなります
最初の神様は物凄くたくさんの奴を送り出しましたけど、物凄い時間が経って、やっと一人(一体?)辿り着きました
力がなまじ強くなって、敵う奴がいなくなった時、それは抑える事が出来る奴が周囲にいなくなったという事でもあります
その時、力に溺れて、つい堕落してしまった奴も一杯います
現実の人にだって、最初は理想を持っていても、権力や財力を手にした時、同じ理想を抱き続ける事は本当に大変だと思います



[28159] 異伝:とある魔術の禁書目録
Name: じゅっ◆fc44fe34 ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:50
 それは激しい戦闘の最中に突如として現れた。

 「何だ、あれは?」

 要塞『ベツレヘムの星』の中で顔をしかめたのはフィアンマ。ローマ正教の暗部の一人、『右方』のフィアンマだった。
 戦況は現状自分の圧倒的優位。
 『ベツレヘムの星』が起動し、サーシャ・クロイツェフをコアに顕現させた大天使ガブリエルことミーシャ・クロイツェフは順調に暴れている状況だ。
 学園都市製のAIM拡散力場の集合体でもある風斬氷華、科学の天使も。
 学園都市の誇る超能力者の頂点、レベル5の第一位たる一方通行も。
 先程加えた『一掃』にて順調に優位に立った。後はこれを繰り返していけば、そう思った矢先にそれは出現した。
 『一掃』を放った直後の空に、まるで入れ替わりのように出現したのだ。

 「竜?まさか、聖ジョージの竜とでも言う気か?」

 そう呟いてフィアンマは奇妙な表情になったのだが、それは確認していた他の者も同じ事だ。
 第二王女キャーリサも。
 フランスの『傾国の女』も。
 騎士団長も。
 或いは『後方』のアックアが。
 それぞれの方法で、その姿を確認し、それぞれに困惑していた。
 突如として出現した巨大な竜は科学の天使と一方通行、双方の頭上にそのまま舞い降りると、第二弾の『一掃』をその体で受け止めてみせた。
 いや、少々異なるだろう。
 ただ単に翼を広げて出現した結果として、彼らに傘を投げかけるような形になっただけだ。だが、強大なはずの攻撃をそれは受け止め、今も尚悠然と空を舞っている。その姿からは傷ついた様子など微塵もない。
 西洋の魔術師達が一斉に何とも言いがたい顔になったのはただ単に、ドラゴンという存在が基本的に恐ろしく強大な力を持ち、同時に神の敵として存在しているからだ。
 実際、サタンの姿を巨大な竜の姿とするものもある。
 前述の聖ジョージの竜などは十字教にとっての代表的な例だが、根本として竜とは邪悪の象徴のようなものだ。すなわち、神の前には打ち倒される存在であるはずだった。
 そして、この場にいるのはローマ正教、ロシア正教、イギリス清教といった違いこそあれ、根本的に十字教の関係者か、それを信仰する国の住人だ。そこへ竜が現れたとなれば、好感情が生まれにくいのは当然だっただろう。即効攻撃を仕掛けなかったのは、その余裕がなかった事、他ならぬ大天使の攻撃に晒されていた以上、それと敵対してくれるなら何でも良かった、といった事があったのは事実だが……。
 これは違う。
 同時に、そんな気持ちもあった。
 今、空に出現した巨龍は羽ばたきもせずただ、そこにあり。
 そして、水の大天使は最早科学の天使も最強の超能力者も見てはいなかった。
 それどころか、誰も知る事はなかったが、遥かな極東の地、学園都市でエイワスもまた理解出来ぬ存在に興奮していたのだ。
 
 力が振るわれた。
 一撃で山をも砕く天使の翼が竜へと襲い掛かる。
 一瞬それを視界に納めた誰もが身構え、余りに自然な消滅に目を見張った。
 力が振るわれる。
 大天使の、世界を滅ぼす程の力が次々と振るわれ、襲い掛かり、だがその全てが消えうせた。
 
 「馬鹿な……」

 フィアンマは目を見張った。
 天使の力とはどこにでもあり、どこにもない。
 力とは意志を持って、方向性と共に振るわれて初めて知覚出来る力となる。
 だが、あの竜は天使の振るう力を、それを再びただあるだけの力と変えている!
 それでは傷つけられるはずもない。
 車をイメージしてもらうといい。暴走する車は凶器だが、ただそこに停車しているだけの車ならば、自分から突っ込まない限り無害だ(迷惑かどうかは別として)。今、眼前であの竜が行っている事は、正にそれ。暴走して突っ込もうとする車が、いきなり竜の直前で停車したままの無害な車に変じたようなものだ。
 そうして、しばし沈黙していた竜は口を開いた。
 何か攻撃するのか、と思った者達は、直後に起きた現象が信じられなかった。
 大天使が解ける。
 大天使が解け、竜に吸われて行く。
 大天使は一瞬抗うように見えた。
 けれど次の瞬間には大天使はその全てをこの世界から消していた。
 
 そうして、竜はその高度を上げる。
 『ベツレヘムの星』と同じ高みへと舞い上がった竜の姿に次はあの要塞かと誰もが思った。
 だが、竜は要塞に手を出す事はなかった。
 まるで見守ろうとするかのように。
 そこでの決着を見守ろうとするかのように。

 「……あんたが何者か分からないけど、感謝する」

 中で呟いた少年がいた。
 強大な超能力を振るえる訳でもない、魔術を振るえる訳でもない。その身に宿る異能はただ、他の異能を打ち消す右手のみ。けれども、ただ一人の少女を救う為にここまで、第三次世界大戦のど真ん中にいる『右方』のフィアンマの前まで来た少年が。
 そうして竜はその戦いの終盤、時が来た『ベツレヘムの星』へと天界からの力が集い、地上へと放たれんとした時、動いた。
 それだけで、力はその本来の役割を失い、消えた。
 そして、遂に上条当麻が『右方』のフィアンマに勝利し、核となる力を失った『ベツレヘムの星』が降下を始めた時、今一度動いた。
 
 「うわ!?」

 『右方』のフィアンマを射出し、一人残って崩壊してゆく『ベツレヘムの星』を少しでも被害を抑える方向へと運ぶ為に動こうとした上条当麻。
 そんな彼の下へ竜が再び姿を現した。
 妹達の一人ミサカ一〇七七七号操るハリアーと共に現れ、彼を救おうとした御坂美琴。
 彼女の救出は困難だった。その理由は『ベツレヘムの星』が激しく動いていて、ハリアーの着陸が困難であった事。これではさすがに自衛隊のレスキューチームでも無理だっただろう。そして、上条当麻自身が今、この『ベツレヘムの星』から離れる事を望まなかった、からでもあるのだが。
 だが、竜相手では関係なかった。
 数m、場合によっては十mを越す上下運動があるからどうだ?竜も多少は難しいだろうが、それでも飛行機とは圧倒的にランディングの条件が緩和される。
 そして、異能を打ち消す『幻想殺し』ならば、美琴の力による引き寄せは断ち切れても、竜によって振るわれた直接的な力、より正確には服を咥えられて背中に運ばれる、という状況からは逃げられなかった。
 ついでとばかりに空を滑って、インデックスの遠隔制御霊装が飛んでくる。それを思わず右手で当麻がキャッチするとその手の中で、それはボロボロと崩れ落ちていった。それに安心した隙をつかれ、飛び降りる間もなく、竜は離陸していた。
 
 「お、おい、このままあれが地上に落ちたら!」

 巨大な竜の背中に乗せられた上条当麻は叫んだ。
 周囲の大気がこの高度にしては明らかに異質な程穏やかで気温もまた落ち着いているのだが、先程まで『ベツレヘムの星』の環境にいた当麻はそれには気付かず、より重要な事に意識を配っていた。
 なお、ハリアーの御坂美琴もまた、彼の姿を竜の背中に確認して、安堵すると共に併走していたりする。
 既に彼はこの竜が異能で生み出された訳ではない事を悟っていた。当然だろう、一応現在は邪魔になったらいけないと触っていなかったが、その背に降ろされた時、竜に触れた。だが、竜は全く揺らぎもしなかったし、当麻もまた、これが単なる異能の存在とは違う事を理解していた。
 そんな当麻の叫び声を前に、首を捻った竜はニヤリと微笑んだように当麻には思えた。
 そう、それはまるで『任せろ』とでも言っているかのような……呆気に取られた彼を乗せた竜は再度口を開いた。

 「あれは……」

 誰かがそう呟いた。
 力が集う。
 竜の開いた口の前に、大天使すら上回る力が集結する。
 学園都市は純粋にその集まる力に戦慄し、魔術師側はその力の余りの自然さに呆然とした。
 あれだけ強大な力でありながら、あれは空を引き裂く力ではない。
 あれは……。
 
 「まさか、あれは地球という自然の化身たる存在なりけるのかしら」

 イギリス清教の最高責任者たるローラ・スチュアートは渋い表情で呟いたが、魔術師達にとってはそうとしか判断出来ない現象だった。   
 そして、放たれた一撃。
 ただ、その一撃で、音も無く『ベツレヘムの星』はその短い存在した歴史を終えた。

 「……ありがとな」

 地上へ降ろされた上条当麻はその横に舞い降りたハリアーから降りて来た二人、御坂美琴とミサカ一〇七七七号と共にその姿を見上げていた。
 その当人ならぬ当竜はというと、頷いてみせると共に、視線を横に向けた。
 そこには一方通行と、彼が救った『打ち止め』更に番外個体がいた。
 狙ったかのように竜は、いや事実そうなのだろうが、竜は彼の傍へと舞い降りたのだった。その一方通行の目にかつてのような狂気も何もない。
 ギリギリの所で護りたいものを見つけ、それを救い、悪党である事の意味を失った彼はただ守るべき者の為にそこにあった。
 そこへと視線を向けていた竜は静かに周囲に響き渡るような吼え声を上げた。
 
 「な、に……?」

 癒されてゆく。
 本来あるべき姿へと戻されてゆく。
 一方通行は自身の破裂した血管のみならず、自身の脳すら本来あるべき姿へと戻っていく感覚を実感した。
 兵士達や魔術師達は自身の怪我が癒されていく事を感じ、エリザリーナ独立同盟国ではトップたるエリザリーナからして、自身の不調が瞬く間に拭い去られていく事を感じていた。
 或いは第四位麦野沈利の作り変えられた体と『体晶』に侵された体とを共に癒し、体から異質な内臓が吐き出され、あるべき臓器すら修復されてゆく。
 そう、本来あるべき自然な姿へと、失われた腕や足をも再生されてゆく。
 竜の姿が見える者は何時しか跪き、祈りを捧げていた。
 彼らの目には正に神の降臨にしか思えなかっただろうし、学園都市の住人でさえ、学園都市の技術を持ってすら癒せなかった体を即座に癒してしまうその姿に思わず『神の奇跡』という言葉を連想してしまった程だ。
 やがて満足したかのように、竜は空へと舞い上がり、いずこへと消えていった。
 ……その姿を追おうとする試みはその全てが失敗した。 
 


 「なんなのだ、あれは……」

 アレイスター・クロウリーは考えていた。
 今回、彼は『右方』のフィアンマを仕留めに動いた。だが、切り飛ばしたはずの彼の腕も再生し、同時に複数の場所へと存在したはずの彼には嗜めるような、そんな事はしてはいけないと言われたかのように一つに戻された。
 
 「……計画の大幅な修正、いや変更が必要かもしれない」 
 
 学園都市の只中にある窓のないビルの中、その中央にある巨大な『容器』の中に逆さまに浮かびながら、クロウリーは新たな思考に入った。 

 ……なお、【竜王】が直接手を出さなかった理由は単純である。

 「やっぱり、主人公の戦いには手出したらいけないよね!」



[28159] 異伝:Fate/Zero
Name: じゅっ◆fc44fe34 ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:50
「……今度はどこ?」

 昨今、次元の壁が妙に薄く感じるようになっている【竜王】だった。
 最初の頃は壁を間違えてぶち破ってしまったような感触があったのだが、それも次第に薄紙程度の感覚で抜いてしまっているような気がしてならない。
 まあ、戻るのは難しくない。ちょっと日帰り旅行の感覚で行けばいいだけの話だ。

 ……などと気軽に考えていられたのは僅かな時間だった。

 「なんだ、この雑種は」

 ふんぞり返る黄金の鎧を纏った男。
 傲慢極まりないこの男の片手には円筒形を連ねた剣もどき。
 ……成る程、今回次元の壁が薄く感じたはずだ。次元が切り裂かれたのでは、そのように感じるのもむしろ当然の話だろう。
 乖離剣エア。
 それが振るわれたとなると、可能性としては二つ、第四次かそれとも第五次か。
 そしてその答えは目の前にいる二人組みが答えを出している。
 純粋に感嘆している大男と、呆気に取られている少年。
  
 「おお、これは凄いのう!これ程の竜、生前にも目にかかった事なぞなかったぞ!」

 「なっ、ななななななな何で!?何でこんな幻想種がこんな所に!?」

 征服王イスカンダルと、そのマスター、ウェイバー・ベルベット。後のロード・エルメロイⅡ世。
 彼らがいるという事は、そして二人が英雄王と対峙しているという事はすなわち第四次聖杯戦争、それもイスカンダルの宝具たる【王の軍勢】が破られた直後、といった辺りか……。
 
 「目障りだ、失せろ」

 ギルガメッシュの背後の空間が揺らぎ、そこから幾本もの剣が出現する。
 世界に竜殺しの伝説は多い。
 逆に言えば、ギルガメッシュの蔵にもそうした竜殺しの属性を持つ宝具が多数収まっている。
 そうした属性を持つ武具が襲い掛かったのだが……。

 「なに!?」

 全身から放たれた光が闇が悉くそれらを撃ち落す。
 第五次アーチャーの全力攻撃の速度ならば矢の速度は最大でマッハ11に達するが、ギルガメッシュの撃ち出す速度はそこまでには至らない。それが災いした……いや、或いは音速の11倍だろうが撃ち落したかもしれないが。
 
 「くっ、ならばこれはどうだ……【天の鎖/エンキドゥ】!」

 こちらは見事に絡みつき、動きを止める。
 もっとも……。

 「ちい、動きは封じる事が出来ても、攻撃が撃ち落されるか……!しかし、【天の鎖】がこれ程までに効果を発するとなると、こ奴、神性が極めて高いという事か……」

 そんな事をぼやいているアーチャーとは別に混乱状態に陥っている者もいる。
 ライダーのマスターたるウェイバーだ。
 ライダー自身は興味津々に観戦中で、「ほう、こりゃ凄い!」などとのたまっているが、ウェイバーにしてみれば神秘が駄々漏れに等しい。
 何しろ、相手は全長50mを越す巨体だ。
 不幸な事に、現状、アーチャーのマスターも教会の監督役も当初のそれとは異なっていた。
 遠坂時臣や言峰璃正ならばここまでド派手なものになれば、最悪令呪を使ってでも何とかしようと動いただろう。
 彼ら二人は聖杯戦争や魔術師の基本原則に忠実だったからだ。
 だが、今は二人とも殺され、現在のマスター&監督役は共に言峰綺礼が兼ねている。監督役としてはまだまともに動く男だったが、アーチャーを止めるような男ではない。
 いや、一応念話で説得はしていたのだが、ギルガメッシュに令呪を用いてまで止める腹がなかったというべきか。
 お陰で、魔術の隠蔽という部分で真面目なウェイバーが泡を食っていた。
 ……最大の問題は、彼にはだからといってどうする事も出来なかったという事だったが。
 言峰自身も既に教会の戦力を動かして全力で隠蔽工作を図っていたが、それだけで足りず、「突如出現した巨大な幻想種」の情報を教会ならず魔術協会にも送る事で全力での隠蔽工作を図ってはいた。
 この状況にセイバーも苦い顔をしていたが、切嗣は完全に無視していた。
 
 「放っておいていいのですか!?」

 『構わない。あの竜は見た所無差別に暴れている様子はない。下手に手を出して暴れられるよりマシだ』

 「しかし……!」

 『くどい。今はそれよりもアーチャーがあちらにかかりきりになっている間に言峰綺礼を叩く』

 切嗣にしてみれば、自分で仕留めるのがほぼ不可能な相手である以上、セイバーによって仕留めるしか方法はない。そして、アーチャーがあちらにかかりきりになっている現状は願ってもない状況であった。
 
 「く、これでは埒があかん……!」

 アーチャーは苦々しい呻き声を上げた。如何に動きを止めようとも、相手も射撃攻撃が可能で、こちらを次第に圧倒しつつある状況では拙い。
 このままでは押し切られると判断したギルガメッシュはありったけの盾の原典を展開し、防御に回すと同時に再び乖離剣エアを回転させる。
 この場にいるもう一人の雄ともいうべきライダーはといえば、完全に見学態勢に入っている。この状況で間に割ってはいって勝利を横からかっさらおうとする程無粋な漢ではない。ウェイバーにしてみればここで襲撃をかける事も考えたが、以前ならばともかく、今では彼の事を理解し、配下となる事を選んだ男だからこそ、そんな姑息な事はこのイスカンダルには相応しいとは思えず、黙っていた。
 
 「【天地乖離す開闢の星/エヌマ・エリッシュ】!……なにい!?」 
 
 「ぬう!?」

 「嘘だろう!?」

 ギルガメッシュにしてみれば、自身の最強攻撃が。
 ライダーとウェイバーにしてみれば【王の軍勢】すら打ち砕く攻撃が眼前で無効化されてゆく光景に目を疑う。……そう、無効化されてゆくのだ。空間そのものを破壊する攻撃が。
 
 「ば、馬鹿な……」

 さすがに呆然としたのがギルガメッシュにとって致命的な隙となった。
 実を言えば、【竜王】自身は周囲が周囲である為に大規模破壊攻撃を避けていたのだが、その全身から正確に放たれる攻撃はそれだけで十分すぎる程だった。
 宝具を放つ間に、展開していた防御陣が揺らいでいたのも災いした。

 「ぐっ!?しまっ……!」

 一撃が抜けた。
 それで姿勢が崩れたギルガメッシュに更に一撃、更に……と立て続けに直撃が入る。
 黄金の鎧はそれでもよく耐えた。
 だが、流れを止めるには至らなかった。

 「ばっ、馬鹿、な……!!我がこのような……!!」

 この時、言峰綺礼もまた討ち取られていた。
 さしもの彼もセイバーと切嗣の二人がかりの攻撃には対処出来なかった、というべきか。
 そして……。
 聖杯が起動する。
 本来ならば、セイバーとライダー二人が残る状態では起動するはずがない。
 だが、ギルガメッシュはその容量が巨大であった。通常のサーヴァントならば二体分に相当する程に。
 ……だからこそ、五体を小聖杯に飲み込んだ所で起動したのだ……黒き聖杯が。
 
 「……なんだよ、あれ」

 「……せい」

 ウェイバーは呆然と呟き、切嗣はその危険性を理解したが故にセイバーに令呪をもって破壊を命じようとした……だが、その前に動いたものがいた。
 口を開いた【竜王】が第一陣の流れ下った泥を飲み込んでしまったのである。
 
 「……何だか不味そうじゃのう」

 「……うん」

 間近で見ていたライダー組にとっては何とも言いづらそうな顔をした竜に気の毒そうな視線を向けたが、セイバーは呆然と黒き聖杯を眺めていた。
 これは違う。
 第四次では本来、それを認識する前に令呪で破壊を命じられていたが、即座に泥が竜によって吸収されたのを見た為に、切嗣も一瞬反応が遅れた。だからこそ、それを見る事が出来た。

 「切嗣……これは、これは何なのですか!これが聖杯だというのですか!?」

 『……セイバー、僕の願いは破れた。この聖杯はあってはならない』
 
 ぐ、とセイバーは呻いた。
 分かっている、分かっているが……彼女はそれでも迷った。アイリスフィールとの約定を破って良いのか、自身の願いは……そんな彼女に切嗣は深い溜息と共に令呪で改めて命じようとして。
 巨大な力に竜に急ぎ視線を向けた。
 莫大な力が竜の口に集中しつつあった。そしてその向けられる先は……。

 「な……!ま、待って!待って下さい!」

 思わず、といった様子でセイバーが叫ぶ。
 この状況にあっても、それでも彼女は縋ってしまった。それでも、己の願いを叶えたい、叶えてくれるのではないか、そう縋ってしまったのだ。
 だが、そんな声が届く事もなく、【竜王】の一撃は天を切り裂いた。
 そうして、聖杯を、空間の裂け目を破壊し、消し飛ばしていった。
 
 「あ、ああ……」

 思わず、といった風情で手を伸ばすセイバーだったが、彼女の伸ばした手は何も掴めなかった。分かっていた、分かっていたが、それでも……それでも彼女は僅かな可能性に縋りたかった。アイリスフィールとの約定を果たせぬ以上、せめて彼女の願いを叶えたかったが、そのどちらも破れた。
 そんなセイバーに反して、さばさばしたものだったのはライダーことイスカンダルだった。

 「ふう、こりゃ仕方ないわい。あんなもんに頼ってもろくな事にはならん」

 頭を掻くライダーに、ウェイバーも黙って頷いた。
 確かにあれは、違う。それが彼にも分かった。
 ……あんなものを自分達は殺し合いをして願ったのか、と思えたのは、まだ彼が若かったからだろう。魔術師としてはまだ正常な感覚を残していたからだろう。
 おそらく、時臣ならばこれでも【根源】を望んだかもしれず、その場合璃正と対立していたかもしれない。
 雨生龍之助であれば破壊を歓迎したかもしれず、言峰綺礼ならば淡々と現状を受け入れ歓喜を感じただろうし、エルメロイならば怒鳴り散らしただろうか?間桐雁夜ならば…何と思っただろう?

 一晩が明ける頃には聖杯が消えた事により、サーヴァントの維持も限界に達していた。
 そして、残った二組の別れはある意味対照的だった。
 ライダーとウェイバーは一晩語り明かし、そして最後は笑みをもって別れた。
 セイバーは……打ちひしがれたまま消えていった。切嗣は彼女に何も投げかけようとしなかったし、彼女もまた何も彼に言葉を投げかけようとしなかった。救いは破壊したのが竜であった事、あの聖杯が破壊されねばならないものである事を彼女も知る事が出来た事であっただろうか。
 
 この後、教会も協会も隠蔽に四苦八苦する事になるのだが、事態はこれだけでは終わらなかった。
 柳洞寺のある山に大きな穴が開いたのである。
 強烈な一撃によるものだったが、その痕跡もまた隠蔽されてゆく事になる。
 だが、同時に失意の余り、姿を晦ませた人物も居た。
 ……間桐臓顕である。
 そう、彼の攻撃は地下の大聖杯を完全粉砕していたのである。
 彼の妄執ともいうべき願いが叶えられる可能性が崩壊したが為に、そしてその攻撃を止める手段などなかった為に、それ故に彼は失意の余り桜に宿すはずであった自身の中核含めいずこかへと消えた。自らの願いが叶わぬと知って命を絶ったのか、それとも未だ妄執晴れず、世界の何処かで蠢いているのか、それも分からないが、間桐はこれによって魔術師としての力をほぼ失った。
 桜も殆ど魔術を知らぬままに全てが終わってしまった為に……慎二も妄執に晒される事がなかったが故に、案外仲良くやっているようである。
 そして、魔術師としての力を失ったが故に、魔術師としての枠から解放された彼女は凜とも接する機会が自然と増えた。かなりの間、心の傷は癒えなかったようだが、実は一番に彼女に何くれとなく世話を焼いたのは、そして彼女の回復に大きな役割を果たしたのは妄執に囚われる事のなかった間桐慎二であった事は歴史の皮肉であったといえよう。
 ……まあ、遠坂凜自身は大聖杯が破壊されたという事を知らないが故に、何時か聖杯戦争がまだあると思って準備を続けていたのだが……。最早起きる事がない、と知る者はいなかったのである。何しろ隠蔽に入った者達も完全に破壊された大聖杯からは、それが聖杯戦争の根幹システムである事を見抜けなかったのだ。
 また知る者はごく一部であったが、北欧でも一つの古き家系が壊滅した。
 娘を助けに入り込んだ一人の侵入者があったが、それより僅かに早く襲った巨竜によってアインツベルンと呼ばれる古き家系が混乱に陥り、その間に侵入者は一人の少女と共に混乱に紛れ脱出。だが、アインツベルン自体が壊滅した為に、それが知られる事はなかった……。
 尚、遠坂凜が知る事はなかった。
 才能に溢れ、資金的にも言峰のような金銭無感覚ではなく、藤村組が何くれとなく世話を焼いた結果としてまだ史実よりマシな財布を持った彼女は協会本部で金髪のお嬢様共々第二魔法に至る事になるのだが……。
 それを成し遂げた大きな原因が、ある時ひょっこり次元の壁を破って自分が与えてしまった影響の様子を見に来た巨竜にあった事を知る者は当事者と、宝石翁以外に知る者はいない……。
 



[28159] 異伝:ストライクウィッチーズ
Name: じゅっ◆fc44fe34 ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:51
戦艦大和がネウロイ化し、空を飛ぶ。
 ロマーニャ公国はベネチア上空に出現した超巨大なネウロイの巣へと攻撃をかけた。
 この戦闘に動員された兵力は巨大なものがあった。
 参加各国だけで、大和を提供した扶桑皇国に、ブリタニア連邦からはキング・ジョージ五世級戦艦がプリンス・オブ・ウェールズ以下四隻、帝政カールスラントからはビスマルク級戦艦が、ロマーニャ公国からは復帰したヴィットリオ・ヴェネト級戦艦が参加し、リべリオンは今回戦艦の派遣はなかったものの護衛艦艇としてフレッチャー級駆逐艦多数を派遣している。
 全ては戦艦大和を至近に送り込む為。
 搭載された魔導ダイナモの安全稼動時間は僅かに十分。
 その間に空を飛び、ゼロ距離射撃を行うには当然、近距離まで近づかねばならない。
 その為に、精鋭の五〇一戦闘航空団も投入された。
 本来ならば、もっと投入したかったのだが、予備戦力がなかった。元より巣に直接攻撃を仕掛ける以上、ネウロイの数は膨大な数が予想されており、初心者ウィッチを投入した所で生還が帰しえなかったからだ。かといって、ベテランを引き抜ける程各戦線は余裕がない。
 
 五〇一戦闘航空団の副司令官である扶桑の坂本美緒少佐からは自分達にやらせて欲しい、という意見もあったが、却下された。
 無論、ウィッチに功績を占有されるのでは、という者達もいる。
 だが、ウィッチを前線に出す事を嫌う人間にも色々なタイプがいる。
 ある者はまだ十台の少女達を、ただ魔力がある、というだけで前線に出す事を嫌った。
 ある者は彼らの背後に隠れている事しか出来ない自分達を嫌った。ネウロイを倒すのは確かにウィッチが最も有効なのかもしれないが、友を家族を殺したネウロイを自分達の手を倒したいと願った。
 また、ある者は長くはウィッチでいられない、すなわち経験豊富になる頃には前線から離れなければならない、不安定な戦力に頼る事を嫌い、遊兵化してしまっている通常戦力をどうすればよりネウロイに対して有効とする事が出来るかを探った。
 そして、将軍達は少しでも勝利の可能性を上げる方法を探った。
 どうするのか、何か倒すべき手段・確証でもあるのか、を求めたのに返ってきた答えが「ウィッチに不可能はありません!」という根性論では作戦を立てる側としては採用する訳にはいかないのだ。
 
 まあ、作戦自体は順調に推移した。被害を考慮しなければ。
 五〇一戦闘航空団はベテランとエースが多数揃った部隊であり、比較的経験の少ない部類に入るペリーヌ少尉、ビショップ曹長、宮藤軍曹らも他部隊ならば立派な戦力に数えられる実力を有している。
 激戦ではあったが、戦闘航空団は欠員を出す事なく、最終作戦は発動した。
 ネウロイ化した大和が空を飛び、一撃を加え……だが、そこで停止した。
 魔導ダイナモが低下したのか、それとも無線操縦装置が故障したのか……とにかくあと一撃、あと一撃が放てなかった。
 撤退を決意した指揮官らを尻目に飛び出そうとしたのが坂本美緒であった。
 彼女は自分がもう飛べなくなる事を悟っていた。
 既に力を吸い上げる妖刀と呼ぶべき烈風丸からすら力を引き出せなくなり、大型ネウロイどころか小型のそれすら倒せなくなった自身の最後の戦場と思い定めた為であったが……。

 「なんだ、あれは」

 飛び立とうとした瞬間、彼女らは新たな存在に直面する事となった。
 坂本美緒だけでなく、天城に移乗していた杉田大佐や、ミーナ中佐も同じような言葉を呟いていた。
 
 「美緒、あれはネウロイ?」

 離陸直前だったが故に駆け寄ってきたミーナの言葉に急ぎ、眼帯を外して魔眼で見てみるが……。

 「……いや、コアがない。あれはネウロイじゃない」

 「だとしたら、あれは一体……」

 出鼻をくじかれたが故に、一旦飛行甲板に着陸した美緒と並んで二人だけでなく五○一戦闘航空団、いやオペレーション・マルスに参加し、それを見る事の出来る位置にいた全員がその姿を見詰めていた。
 そう、突如空に出現した巨竜の姿を……。
 
 「ネウロイが!」

 宮藤芳佳が叫ぶが、直後、エーリカ・ハルトマンが「おー」と感嘆したような声を上げた。
 それはそうだろう、無数のレーザーと思われる光と何か分からない黒い光(という言い方も変だが)によってあれだけ多数いたネウロイが瞬時に空から消えたからだ。
 もう、一機残らず、あっという間に片付けられた。
 その姿に複雑な思いを抱えている者もいた。
 ミーナもそうだったし、バルクホルンやサーニャやエイラもそうだ。
 彼らに共通しているのはいずれもネウロイによって母国を失い、家族と音信不通になったり、といった共通点を持つ。彼らからすれば、これだけの存在がいたのなら、何故もっと早く、という思いがあるからだ。
 いや、これが味方とは限らない、などと考えてはいたが……。
 
 「いや、ネウロイとてお互い相打つ事も原因は不明だがある事は分かっている……あいつだってその可能性がまだない訳じゃ……」

 そう呟いていたバルクホルンの言葉に、誰も反論は出来なかった。
 現在のベネチア上空に位置する巨大なネウロイの巣。それが出現した際、それまであった巣は破壊された。黒ズボン隊を率いてトラヤヌス作戦を行った竹井醇子の目前で、人型ネウロイがネウロイのビームで攻撃され消滅する、という光景を人類は目撃している。
 だが……。

 「でもコアがないんだよね~?」

 ハルトマンの言葉にバルクホルンも沈黙した。
 困惑しているのは他の一同も同じだ。
 強大な咆哮が響いた。

 「きゃっ!」「うわっ!」

 それを合図としたかのように激戦が繰り広げられる。
 幾つものネウロイが出現する。
 中には大型のネウロイすら混じっているし、これまで五○一戦闘航空団が相手をし、苦戦したのと同型とも思えるネウロイすらいる。
 だが、それでも関係ない。
 その全身から放たれる光は、闇は確かに一撃ではネウロイのコアを外す事もあるかもしれない。だが、一体辺り数発が襲い掛かれば全体が消えてゆく。
 その一方で、ネウロイからの攻撃は全く効いていない。
 如何に数に差があろうと、これでは結果は見えている。
 ネウロイも最早、連合艦隊への攻撃は全く行っていない。全力で竜に対して攻撃を仕掛けている。
 その竜は……。
 竜自身はその口元に力が集結してゆく。
 あれは何だろう、とウィッチの誰かが思った。
 単なる砲撃ではない、でも魔力でもない。恐ろしい程の力でありながら、けれど恐怖を感じない。
 その力が放たれ……超巨大なネウロイのコア、巣のコアを飲み込んでいった。
 次の瞬間、独自にコアを持つもの以外の小型ネウロイが全て粉々に砕け散った。すなわち巣が破壊されたのだろう。残るネウロイも瞬く間に破壊された。
 
 「凄い……」

 そう呟いたのは誰だっただろうか?

 「でも、あいつが次にこっち来たら勝てんのか?」

 そう空気を読まずに呟いたのはエイラ・イルマタル・ユーティライネン。少々空気を読まない所があるというか……お陰でサーニャから「エイラ!」と叱られているが、その言葉に戦闘航空団一同だけでなく、近くに来ていた航空機の搭乗員や整備員、乗組員らも固まった。
 先程の一撃で、巣となる超巨大コアだけでなく、ネウロイ化した大和まで消滅した。
 さて、現在の疲弊した戦力で、ネウロイをたった一匹で圧倒した竜に勝てるだろうか?答えは否だ。
 
 (素直に帰ってくれれば良い。だが、果たして帰還してくれるのか?……万が一に備えておきたいが、下手に戦闘準備を整えて、こちらを敵と看做されたら……)
   
 扶桑皇国海軍では杉田大佐が樽宮をはじめとする参謀らと話した上、警戒は怠るな、だが武器は向けるなと命令を下した。
 これはロマーニャ公国のレオナルド・ロレダンを初めとする他国艦隊でも同じであった。
 戦えば負ける。それを理解していたからだ。
 
 突然、くるり、と竜が回転した。
 直後に吼える。
 だが、それは先程の戦闘開始を告げるような声ではなく、優しい声だった。
 船で燃え盛る炎が静かに鎮火し、消えてゆく。
 海が盛り上がり、空を飛んで海に投げ出された者達が次々とまだ生き残っている船に運ばれてくる。
 海で艦上で怪我で呻いている者の怪我が急速に癒されてゆく。
 しばらくは呆然としていた者も多かったが、次第に歓声が広がってゆく。
 
 「……どうやら、味方と思って良さそうだな」

 「まあ、敵ではなさそうですな」

 そんな会話が天城の艦橋でも為された。
 と、そんな中、ふっと竜が姿を消し、次の瞬間には天城の真正面にいた。そんな気を抜いた一瞬と重なった為に思わず彼らも驚きの声を洩らす。だが、その迫力を前にしてふと気付いた。
 今、目の前にある存在は恐怖をもたらす存在ではない。むしろ、扶桑の人間にとっては懐かしい、そう、歴史の長い神社仏閣を訪れた時、自然と頭を下げたくなるようなそんな雰囲気を纏っていた。
 その視線は坂本美緒へと向けられていた。彼女も何かに魅入られたかのようにその視線を向けていたが、やがて竜は軽く吼えると、そのまま空高く舞い上がり、やがて雲と同程度まで上がった次の瞬間には忽然と消えうせていた。
 
 「ふう……なんだったのかしら」

 ミーナ中佐が思わず呟いて、傍らの坂本少佐に視線をやると、彼女は呆然と自身の両の掌を見詰めていた。

 「……美緒?」
 
 「……感じるんだ」

 思わず、といった様子で声をかけたミーナに美緒は呆然としたまま呟くように言った。

 「全盛期よりは落ちてる。けど……間違いなく私の中から魔力が感じられるんだ」

 疾風丸によって残り僅かなそれも全て吸い上げられたはずだった。
 だが、それが再び感じられる。
 試しに履いたままだったストライカーユニットを軽く動かしてみるが、少し前までの飛ぶのもやっとな感覚は全くない。再び甲板に降りて来た彼女は泣き笑いのような顔でミーナに言った。

 「飛べる。……私はまだ、また飛べるんだ……」

 そんな彼女をミーナは黙って笑顔で軽く抱き寄せた。
 そこへ五○一戦闘航空団の一同も笑顔で押し寄せてくる。
 いや、彼女らだけではない、艦隊全体でようやく勝利したという実感が湧いたのだろう。歓声が聞こえてくる。
 
 「これにて、オペレーション・マルスの完了を宣言する」

 そう放送をかけてから、杉田大佐は空を見上げた。
 今回の作戦は成功したとはいえ、色々と不備も発覚した。今後はその辺りの修正に大忙しになるだろう。だが、とりあえずは……勝利した事を喜ぼうではないか。

 この日、人類はまた奪われた空の一部を奪回する事に成功した。



[28159] 異伝:リリカルなのは1
Name: じゅっ◆fc44fe34 ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:52
 「始まる」

 クロノの呟きが合図だったかのように、巨大な触手が海から飛び出す。

 「夜天の書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム」

 はやてが空を舞いながら呟く。

 「闇の書の、闇……は?」

 だが、その声は最後の最後で呆けたような声に変わった。
 それも仕方がないだろう。
 海に盛り上がった黒い半球。
 それが解けるように割れて、それが姿を現した時、そこには異形の化物がいた。
 そこまではいい。
 そこまでは予想の範囲内だった、のだが……。
 直後にその上空の空間が割れて、何かが降りてきた。

 「なんだ、あれ、は……」

 クロノの言葉は次第に小さくなっていった。
 そこに現れたのは……。

 「……竜?」

 「ユーノ君、あれ……一体なに?」

 フェイトが呆然と呟き、なのはも呆気に取られた様子で一番詳しそうな知り合いに声をかけるが、当人も見た事がない。
 竜という存在がいるのは知っているが、あれはそのどれとも異なる気がする。

 「あっ!」

 アルフが思わず、といった様子で声を上げた。
 一際目立つからだろう、闇の書はそれを敵と看做したらしい、触手を一斉に振り上げて攻撃態勢に入った。
 誰もが動こうとして、味方とすら決まっていない事に思わず躊躇する。その一瞬をついて、闇の書の攻撃が竜へと直撃した。
 黒い光が幾本も立ち昇り、竜の体を穿ってゆく。
 思わず全員が顔をしかめ……直後に目が点になった。
 当然だろう、その全身が穴だらけになった、と思った次の瞬間には元通りに治っていたのだから。

 「なんだ……あれは」

 シグナムでさえ呆然と呟いた直後に、竜が怒りの咆哮を上げた。
 思わず全員が耳を抑える。
 それ程、強大な咆哮だった。

 『クロノ君!』

 「エイミィ?」

 『気をつけて!あの竜の咆哮だけで、結界が揺らいでる!!』

 その報告に驚愕した。
 現在使用されている結界は闇の書を封じる為に、とりわけ頑丈なもののはずだが……。
 だが、エイミィによる単なる力によるものではないという。そう、まるで結界を構成する魔力が咆哮を聞くなり引き寄せられた、そんな動きなのだという。
 直後、再度闇の書の攻撃が放たれた。
 しかし……。

 「は、はじいたあ!?」

 「いや、あれは……吸収したんだ!」

 ヴィータの声に、ザフィーラが正確な答えを導き出す。
 先程は効いた攻撃が今度は完全に無効化されるどころか吸収された、それはつまり……。

 「進化したの……?あの一瞬で?」
 
 シャマルが目を見張って言った。
 直後、お返しとばかりに竜が大きく息を吸う。
 膨大な破壊力を秘めたブレスが闇の書へと叩きつけられ……。

 「全部貫いた!!」

 全員で一枚ずつ破っていくはずの闇の書のバリア。
 四枚四種類のそれがただの一撃で全てぶち抜かれ、闇の書へと直撃する。
 その光景にこの場の最大火力の一人、高町なのはは驚きの声を上げる。
 自分や、ヴィータでさえあんな真似は出来ない。
 
 そこからは下手に彼らが介入出来なかった。
 超音速で飛行しながら、何故か全くソニックウェーブも何も発生させず飛び回る竜は全身から砲撃の代わりというように、闇の書が放った黒い光とレーザーとを混ぜて撃ち放ち、時折放つブレスは容赦なく闇の書を破壊した。
 闇の書も負けてはいない。
 抉られ、粉砕され、それをまた即座に再生し、また別の攻撃を放ち、と獅子奮迅の暴れようだ。
 面倒と感じたのか……突如、竜が上昇を始めた。
 一瞬、逃げるのか?と思ったが、それが間違いである事はすぐに分かった。闇の書の上空およそ1000mで静止したからだ。
 何をするのかと思ったが、次第に今度は息を吸う事なく、竜の口元へと光が集い、光球を形成してゆく。

 「!!まさか集束砲撃か!?離れろ!!」

 真っ先にクロノがそれに気付いた。
 慌てて、全員がそのまま距離を取る。
 闇の書も飛び去る彼らを完全に無視して、竜を迎撃せんと力を束ねる。
 そして――一瞬の間の後、双方が力を放った。
 激しく激突する力は瞬間、拮抗し……直後、下から吹き上がった流れを吹き飛ばし、そのまま闇の書へと直撃した。
 その身を構成する全てを消し飛ばされ、そして――。

 「!エイミィ!闇の書の反応は!!」

 アースラ艦長リンディ・ハラオウンは竜の正体は分からないが、これは好機だと判断した。
 この際、相手が何でもいい。闇の書がその身を吹き飛ばされたというのなら、この機を逃さず転移させ、アルカンシェルで消し飛ばす……そんな目論見はエイミィの呆然とした言葉で消えた。
 
 「……ありません」

 「えッ?」

 「闇の書の反応……完全に消えました。コアごと完全消滅したものと思われます」

 唖然として、勝利の咆哮を上げる竜を彼らは地上で、軌道上のアースラから眺めていた。
 闇の書すら倒すあの竜が敵対したらどうするかと真剣に考えた一同だったが、竜は直後に身を翻し、次元の狭間へと姿を消した。
 慌てて反応を追うも、追尾不可能と判断された。
 ……この後、時空管理局は竜をオーバーS級生体ロストロギア【竜王】と呼称し、その存在を追い求める事になるが、その後その存在を発見するまでにはしばらくの時が必要となる。



 ……あーびっくりした。
 寝ぼけて、次元の壁ぶち破ってしまった。
 いきなり攻撃されるわ、こっちの防御抜かれるわで焦ったからちょっと手加減し損ねたけど……大丈夫だよね?
 ……でも、あれ、どっかで見たような気が。
 何しろ、遥かな大昔の話な為に、人であった頃見たアニメの事を思い出せなかった【竜王】であった。

 尚、喉に引っかかったような思いから懸命に考えた彼が思い出したのはその翌日の事。
 気付いたからこそ、「しまったー!!なのはやフェイト、はやてらとお話ぐらいしてくれば良かった!」などと思ったのは、彼を神と崇める者達には秘密の話である。
 



[28159] 異伝:リリカルなのは2
Name: じゅっ◆fc44fe34 ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:53
 一体俺の時間軸はどうなってるんだ。
 ふとそう思った。
 理由は単純だ。目の前にどこか生気の抜けた様子で立ちすくむ一人の少女の為だ。
 彼女自身とは会話は為しえなかったが、彼女の抱くまだ幼い竜とは意志を通じる事が出来た。それによると幼竜の名はフリード、少女の名はキャロ・ル・ルシエ。
 もうお分かりだと思うが、リリカルなのは第三期で登場した彼女である。

 あの後はちょこちょことこの世界にゲートを設置して入り込んでいる。
 ゲートなんて言ってるが、要は目印をつける事で、こちらの世界を見失わないようにしている、というのが正しい。
 さすがにあの時点で、あの状態の彼女を放置するのは忍びなく、とはいえ俺には接点のある管理局の人間なんておらん。
 で、まあ、信頼出来そうな奴を探してあちらこちらの次元世界を回ってみたのだが……。

 「……本気で酷い世界だよなあ」

 表立っては確かに平和を享受している世界なのかもしれない。
 だが、裏では酷いものだった。
 ちなみにエリオも実は既に回収済みだ。
 言っておくが狙って回収した訳ではない。ある次元世界に入り込んだらジャストタイミングで連れ去られる所に介入してしまったのだ。このタイミングの良さに苦笑してしまった。……最近では本気で因果に干渉してるんじゃないかと思う。

 「やあ、元気かね?」
 
 にこやかにやって来た男に頷きを返す。
 当初は真っ当な人間のやっている孤児院を探してキャロを預けた。……いや、だって俺のこの図体じゃ子育てなんて出来ないし……もちろん、あれからも接点を持つ事で竜の暴走は完璧に抑えてあげてます。今では、キャロの竜制御は完璧、といっていい。
 ……管理局もなあ、保護するならきちんと制御方法教えてやれよ。教えもせずに役立たず扱いとか何考えてるんだ、と言いたい。
 ちなみにこの世界は一応管理世界ではあるが、殆ど人がいない穏やかな世界、だった。
 だった、というのは俺が仮の住処としてるのが広まってしまったせいだ。主に裏で。
 管理局はオーバーS級ロストロギア【竜王】と呼称してるのも知った。
 お陰で回収なんぞと抜かしてやって来た奴らがいたんだが……うむ、【説得】してお帰り頂いた。
 だって高圧的なんだもん。
 或いは問答無用か。
 次元航行中では魔導師は役立たずだ。だからこっちと巡航艦との戦闘になる。
 で、もって……この連中ってはっきり言って弱いんだよな。とにかく射程が短すぎる。
 完璧に魔導師偏重の弊害だな。余りに射程が長すぎたら、魔導師が役立たずになるって恐れてるんだろう。まあ、アルカンシェル搭載の空母と見ればまだいいのかもしれないが……。
 さて、そんなこんなで不可侵領域と化しつつあるこっちでの俺の住処。そうなると、そこに逃げ込んでくるような連中、入り込んでくる連中もいる。……迫害されてるような奴らとか、犯罪者だ。
 もちろん、犯罪者連中でこの世界でも支配をしようとした連中は悉く殲滅してきたけどな!
 昨今ではキャロが俺の巫女みたいになってる……フリードに意志を伝え、フリードからキャロへ、って流れだ。
 最近ではヴォルテールまで移住してきたお陰で、余計意志を伝えやすくなったのは有難い。
 え?キャロのいた世界の守護竜的なヴォルテールが移住してきて大丈夫なのかって?さあ?
 当人曰く、自分の愛し子を迫害するような連中なんぞ知らん、だそうだが。
 さて、話を戻そう。
 移住してきた連中の中で、一際大物がいた。それが目の前の男ジェイル・スカリエッティだ。
 こいつだけは物怖じしなかった、とにかく。
 なんだが、最近は随分と吹っ切れた様子だった。
 とはいえ、言葉が通じないのは未だ同じなので、黙って頷いておく。
 
 「そうか、とりあえず念話を改良してるんだがねえ。なかなか上手くいかんものだ!」
 
 どことなく嬉しそうなのは、こいつの場合難易度が高い程やる気になるからだろう。
 いや、本当に簡単な事と不可能と思える程難易度が高い事とじゃ、やる気が全然違うんだ。今は、俺が念話を使えるようになれば、と色々と改良を繰り返している。
 
 「まあ、そう遠くない内に完成するだろう!期待していてくれたまえ!」

 笑いながら帰っていくジェイル・スカリエッティ。
 ……ここに来てから、フリーダムになったよなあ、とつくづく思う。
 実はスカリエッティ、ここに来てからは研究内容が大幅に変わった。
 戦闘機人はいるんだが、俺には通じない。
 最初の頃は色々とちょっかいをかけてきたんだが……最近では手を出してくるのは純粋にバトルマニアとして勝負を挑んでくるトーレ、意地で一度ぐらいは勝ってやるというか誤魔化してやると幻術を試すクアットロぐらいか……。ちなみにシルバーカーテンが俺に通用した事は未だ一度もない。
 で、意外だったのは俺との話の後、さっさと遺体保存していた連中を復活させる事に専念、解放した事だ。
 お陰でルーテシアとメガーヌは今ではここで暮らしている。……いや、初期は色々わだかまりがあったようだが、最近では大分関係修復が進んだようだ。
 
 ……スカリエッティに関しては、この世界にやって来た時、俺に問答を仕掛けてきた、というか答えを知りたかった、というべきか。
 人を超えた何かなら、自分に対する答えを返してくれるんじゃないか、そう思ったらしい。
 キャロという通訳を介して返した答えは単純だ。

 『無限の欲望、とは何か』

 『人間』

 うん、人間程、色んな欲が尽きないものはないと思う。 
 そもそも生きる事自体が三大欲求として認められている、すなわち食欲、睡眠欲に性欲だ。
 それ以外にも金が欲しい、あれが欲しい、これが欲しい……マニアだのオタクだの呼ばれている人間の特殊なものも含めればもうきりがないし、それに終わりはない。
 だから、アルハザードの『無限の欲望』ってのは他ならぬ『人間』を生み出す技術だったんじゃないか、そう思ってたんだよねえ。スパロボRのデュミナス(あれ、PSに移植されたデュミナスより一番最初の方が良かった……)も、創造主は人を作り出そうとしたんじゃないかと思う。
 まあ、その辺を言ってやったら、きょとんとした後、大笑いして問いかけてきた。

 『じゃあ、今からでも変われるかな?』

 『その気があればな。お前の場合、才能には苦労してないみたいだし』

 いや、本当に。
 結局、こいつの場合、人造という事となまじっか才能があった事が災いしたんだろう。おまけに傍にいたのがあの脳みそ三兄弟(兄弟じゃないけど)だし。
 何と言うか、あれから本気で反転したんじゃないか、ってぐらいに人の役に立つ技術開発に燃え出した。
 いやさ、『非人道的なものなしで開発成功する方が難しいだろうが……』なんて言ったせいで、却って燃えたらしい。
 ……困難が目の前にあれば、余計に燃えるタイプだったみたいだ。
 今では別名で特許もアレコレ取ってる上、かつての悪名を知らない人達からは変わってるけど腕のいいお医者さんとして、この世界では知られている。犯罪者連中にしても、本当の悪党というよりはやむをえず裏の世界に入って、それに疲れた、って奴らが多いからこの世界でのんびりと畑やったりしてる人が多いからなあ……スカリエッティの事も黙ってるみたいだ。
 え?本当の悪党連中?一時的には隠せても、すぐにボロ出して悪事を始めようとするから潰してるに決まってるじゃないかね。 
 けど、ようやっと意志を通じさせる事が出来て、念話が出来るよう改良されたらもっと住みやすくなるなあ、こっちの世界……。

 ちなみに、この世界が管理局から第01管理不可世界『竜王の庭園』なんぞと呼ばれている事を全く知らない【竜王】であった。



[28159] 異伝:リリカルなのは3
Name: じゅっ◆fc44fe34 ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:53
 ふう、とリンディ・ハラオウンは深い溜息をついた。
 彼女は実質引退していた。
 理由は単純、引き取ったフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの存在だ。
 彼女に親として愛情を注いであげたい。その思いから彼女は提督に在籍はしていたものの、半ば引退を決め込んでいたのだ。
 これが認められたのには、出世を狙う連中から彼女が危険視されていた事も大きかった。
 何しろ、ジュエルシードに伴う次元震解決、闇の書の完全消滅に関わるなど立て続けに大きな案件を片付ける事に成功した彼女だ。このままいけば、管理局の三提督を継ぐ立場へと昇進していくのでは、と思われていた所へ彼女から「養子に迎えた娘と一緒に暮らしてあげたいので今の地位から退かせて下さい」と言ってきたのだから、渡りに船だっただろう。
 そのフェイトが自立した後も、特に目立つ席につくつもりはなかった。
 既に子供二人は確固たる地位を築きつつある。
 クロノは提督の一人として、エイミィと結婚して家庭も設けた。
 フェイトはまだ子供はいないが、かつての夢だった執務官として忙しい日々を送っている。
 だから、自分としてはこのまま縁の下の力持ちをして、そのまま引退して孫の面倒を見る生活もいいかなあ、などと思っていたのだが……。

 「全く、何でこんな事に……」

 「しょうがないじゃない、なり手がいなかったのよ」

 目の前では友人であるレティ・ロウランが苦笑している。
 現在問題となっているのは第01管理不可世界『竜王の庭園』だ。
 この世界、管理世界の只中にあり、以前は一応管理世界に加わっていたが……諸事情により人口が極めて少ない、寂れた世界だったのである。
 それが一変したのは、闇の書事件で出現したオーバーS級生体ロストロギア【竜王】の存在だった。
 当初は同一存在かは不明だったが、その後の確認で同一存在であると認定された。
 そこで回収艦隊が向ったのだが……全てが惨敗した。
 
 「……アルカンシェルを時間差で連発しても全然効果なし、ってどういう相手よ」

 当初は鹵獲というか捕獲という名の回収を目指したらしい。
 だが、言葉を理解はしているようだが、回収を拒絶された事から当初は鹵獲に移行したのだが……完敗状態で、やっとこさ航行可能な状態でふらふらになりながら離脱、完璧に見逃してもらった、という形で終わった。
 そこで次はもう殲滅するしかないと覚悟して向ったのだが、砲撃加えても全然効果なし。遂にアルカンシェルを放ったのだが……直撃にも平然としていたというからもう何をか言わんや、だ。
 ここに至り、管理局は何とか会話を成立させるべく、交渉役を求めたのだが、なり手がいない。最終的に白羽の矢が立ったのがリンディ提督だった、という訳だ。正確には伝説の三提督に拝み倒されたというべきか。
 
 「はあ、まあ【竜王】が積極的にこちらに攻撃をかけてこないだけマシと思うしかないわね……」

 「相手にされてないだけかもしれないけれどね」

 そのレティの言葉に、二人して苦笑する。
 あの世界もただ【竜王】だけがいるのならば放置か、封鎖しておけば良かった。
 居場所を失った流浪の民らが新天地として流れ込んだ時も、これで各管理世界での問題の一つが解決するとむしろ歓迎された程だ。 
 問題だったのは、管理世界の犯罪者らが逃げ込んだ事だ。
 
 「あれさえなければ放置しておいても良かったのに……」

 管理局の艦船があれからあの世界に近づけないかといえば、そんな事はない。
 幾度となくあの世界へと向かい、降り立った者もいるが、その殆どが犯罪者を連行しようとした瞬間に【竜王】にたしなめられ、それに反発して撃滅された。
 
 「フェイトも困惑していたわね」

 愛娘であるフェイト・テスタロッサ・ハラオウンはあの『竜王の庭園』に降り立ち、帰還した数少ない魔導師だ。
 彼女によると、困惑したという。
 あの世界では犯罪者だった人物が真っ当に生きている、というのだ。
 ある農場で大規模農業を行っているのがフッケバイン一家だと知った時は驚愕したという。彼女ら曰く、【竜王】のお陰で自分達の感染や衝動が完璧に抑えられているのだという。
 自分達とて好き好んで犯罪をしていた訳じゃなく、自分達の持つ要素の影響がなくて、穏やかに暮らせるというのなら、それでいいじゃない、という話だった。むしろ、彼らのような感染者がいたら、この世界に来るよう一応声をかけてくれないか、という旨を伝えられた程だ。
 とにかく、フェイトは今回は調査に専念する事にして、犯罪者だった人物らにひたすら接触を図った。原因は下手に手を出して、未帰還となった同僚達の存在ゆえだ。
 部下らに対しても、それが出来ないなら艦に戻るよう通達し、手を出さない事を徹底させた。
 そのお陰で、かなり詳細な情報が集まったのだ。

 「外の世界で犯罪を犯していようが、あの世界で犯罪を犯さないなら放置する。けれど、新たに犯罪を犯すなら容赦しない、か……」

 管理局に対しても敵対する腹はない。
 そこで自分達のルールを適用するなら容赦しない、という事のようだが……管理局からすれば、管理世界で犯罪を犯した以上は何らかの処罰を与えないといけない。
 もっとも、現状ではあの世界自体を牢獄と看做し、通常の移民はともかく犯罪者に関してはあの世界から出ない事を条件に、犯罪者には手出ししない事が現状まとまりつつある。
 とにかく、あの世界では力を制御出来なかった者達が、それ故に疎まれ、それ故に犯罪に手を染めてきたような者達が次第に集まりつつある。
 気持ちは分からないでもない。
 あの世界では、多少の暴走なぞ押さえつけられるだけの力の持ち主がいるし、そもそも暴走する前にやんわりと制御されてしまう。
 竜の巫女、そう呼ばれる少女も『初めてこの世界に来た頃は暴走してもおかしくなかったんですよ』と笑っていたという。けれども、常に彼女の傍にいる竜フリード程度ではそもそも暴走すら出来なかったという。穏やかにフリードを通じて、制御をじっくりと学び、そうして彼女の今があるという。
 ……正直、スカウトしたい人材だ。他にもそういう人材はごろごろしている。
 最近では、「犯罪者に対してそのような特例を認めるのならば、こちらとしても何かしらの利益を求めるべきだ」「うまく制御できずに折角の力を扱えずにいる人材をあの世界に送って制御を学ばせてはどうか」といった意見もあるそうだ。
 実際、可能ならばその方向でまとめて欲しい、と内々に話もされている。

 「まあ、頑張ってまとめてきなさいな」

 「気楽に言わないでよ……」

 多分大丈夫ではあろうが、物凄く気疲れするであろう仕事なのは間違いないのだから……。
 



[28159] 異伝:リリカルなのは4
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:54
今回の派遣に息子と娘の二人もついて来たいと願ったが、置いてきた。
 最悪、全滅する可能性もある。そんな所に二人を連れて行くつもりはない。
 無論、口に出したりはしなかったし、表向きは「二人とも仕事を放って行く訳にはいかないでしょ?」と藁って出てきたが、二人とも頭のいい子達だ。あの様子だと理解した上で、それでも笑みを浮かべて私を送り出してくれたのだろう。

 「リンディ提督、間もなく『竜王の庭園』です」

 管制官の声も緊張を隠せないでいる。
 さあ、ここからが本番だ……。



【SIDE:転生者】
 最近、管理局への対処に困っている。
 彼らにも色々いるし、何より彼らが来る理由も分かるからだ。
 ……そりゃあ、犯罪者がゴロゴロしてりゃ、逮捕しに来るよなあ。
 最初に来た艦隊の司令官は実の所、かなりマシな部類だった。
 色々な方法でこっちに『そちらに犯罪者が逃げ込んでいるから引き渡して欲しい』と連絡してきたんだが……うん、こっちは向こうの言葉は理解出来るんだが、伝える方法がないんだ……。
 せめて、地上に降りてくれればいいんだが、かといって代表一隻だけ降りて下さい、ってどう伝えればいいのやら……。
 しょうがないので、ついておいで、ってつもりで背を向けたら拒絶されたと判断した連中がいたらしく、攻撃開始となった訳だ。
 そんな状況だから、こっちとしても一旦撃破して退散に追い込んだ訳だが……。
 次に来た連中は大分強硬だった。まあ、前回がアレじゃなあ……ま、元々が誤解にあるからな……艦隊戦と呼んでいいかはともかくとして、こっちも幾隻かは叩き落したが、基本は追い返すのに腐心した。
 
 何とか意志疎通が出来ないもんかと思って、一隻だけの調査に来た場合は見逃していたんだが、来る連中来る連中どうしてこうこらえ性がないかね……結局十隻来て、調査と話し合いだけで帰ったの二隻だけだった。
 ……片方がフェイトだったんだが、彼女が手を出さない事を選択したのは、矢張り『闇の書事件』でこっちの力を見ていたからなんだろうか?
 もう一隻はフェイトの後だったから、手を出さないなら帰れると教えられてたのかもしれない。
 
 そんな所へ新たに一隻の船が来た。
 いやあ……タイミングよかったね。とはいえ、こっからは重々しく話さないと拙いだろう。……軽い口調の方が楽とはいえ、交渉時にへらへらした態度を取る事があんまりよろしくない結果を招く事ぐらいは誰だって理解出来る。
 さて、そんじゃ行くか……。



【SIDE:リンディ】
 「こちらは時空管理局のリンディ・ハラオウンです」

 とにかく今回はありとあらゆる通信手段を搭載してきた。
 アルカンシェルを積んでいても役に立たないのなら、と割り切って、それを取り外してまで通信手段を搭載してきたのだ。中には翻訳機も混じっている。
 とにかく意志疎通が出来ないと話にならない。だからこそ、言語解析の為に大型のコンピュータまで搭載してあるのだ。

 『聞こえている何用か』

 だから、素直に念話が響いてきた時は驚いた。
 この次元航行状態で念話を、この距離で飛ばしてきた事にもだ。
 
 『そう驚く事もあるまい。先だって、この地に移ってきた者の一人が私用の念話を完成させてな』
 
 なんと……。
 同時に、何故もっと早くそれが完成しなかったのかと思ってしまう。
 ……それがあれば、あの悲劇はなかったのかもしれない。
 そう、悲劇だ。
 【竜王】自身はそこまで叩き潰す意志はなかったのかもしれないし、全体的に見れば見逃してもらえた、といってもいいかもしれないが、だからといって無傷で済むはずもない。
 いや、よそう。今更言ってもせんのない事だ。

 「そうでしたか……その方の名前を伺っても?」

 ジェイル・スカリエッティという名前を聞いて、体が傾きそうになった。……高名な次元犯罪者の一人ではないか!……彼もこの地に移住していたのか。
 とはいえ、娘が集めてきた話では、この地で犯罪を犯せば、【竜王】に粉砕されるというから、ここでは犯罪を犯していないのだろう……多分。
 ……しかし、この地には実は相当な戦力が結集している。その大多数はこの地へと移民した、或いは逃げ込んだ者達が乗ってきた船だが……これがこの地を放置出来ない理由の一つになっている。
 飛翔戦艇フッケバインが代表例だが、この他にも管理局の艦船に対抗可能な大型戦闘艦船だけで二十隻以上が存在し、更に通常の輸送艦、移民船、貨物船などを合わせると既に下手な管理世界を大幅に上回る防衛力と交易能力を備えている。……おまけに最近では新技術すら開発されている。
 だからこそ、この地を無視出来なくなったというか……。
 
 『それで如何なる用事かな?』

 そうだった!とにかく、これは好機だ。
 話し合いで解決しなければ……。

 幸いというか、【竜王】自身は極めて穏やかな性格だった。
 力をもてあまし、制御出来ずにいる子などの訓練も引き受けてくれる事になった。その為に、この地には管理局の訓練施設の一つが設けられる事も決まった。……もっとも、下手に探ったり、逮捕して連行しようとするなら容赦しないと念を押されたが。
 これに関しては管理局でも徹底しなければならない。
 【竜王】からはこう告げられた。

 『暴走する者がいる、中には正義感から突っ走ってしまう者がいる。確かにそうだろう。組織が大きくなれば当然そのような人材が混じるのは当然の理屈だ。だが、それはあくまでそちらの事情に過ぎない。そちらが制御出来ぬのならば、それが招く事態に対しては彼らを選抜した汝らも責を負う。それは忘れぬ事だ』

 つまり、暴走した人間が出たら、管理局本局にも責任を取ってもらう、という事だ。
 これとは別に、犯罪者、だった人達との対話も積極的にこなした。
 この地……正確にはこの次元世界宙域にいる限りは私達は手を出さないけど、ここから出る場合はこれまでの犯罪の都合中、追わざるをえない、という事を伝えたのだ。
 大抵の者は苦笑していたけれど、一部の承諾は求められた。
 つまり、自分達以外の移住者の交易は認めて欲しい、という事だ。その中に、自分達が欲しい物が混じっている物や、作った物が混じっているかもしれないよ?という話だったが……まあ、それぐらいはこちらも譲歩する。ただし、違法な物であれば取り締まざるをえないけれど……。
 
 後に、管理局本局や地上局が使用している装備にもこの地で開発された品が混じっている事を知った時には諦めの境地に至るしかなかった。……誰が開発したのかは怖くて聞けなかったけど。



[28159] 異伝:リリカルなのは5
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:55
「う~ん」

 フェイトが悩んでいるのを見て、高町なのはも首を傾げる。
 もう一人の友人である八神はやては理解しているのか、苦笑を浮かべている。
 この辺は双方の立場の違いだろう。
 なのはは航空戦技教導官。
 はやては現在は特別捜査官。
 かつては同じ小学生であり、中学生だった三人だが、管理局が職場である以上はプライベート時は今でもこうして普通に笑いあい、話をする仲の良い友人同士でも、職務上知りえる内容にはどうしても差が出る。
 最も、なのはの場合、その職務上顔が物凄く広いので、その気になれば幾らでも情報を入手可能だろうが、そこ等へんは真面目ななのはの事。情報漏洩をお願いする訳にもいかないと、疑問に思いつつも、ここ数日放置していたらしいのだが……はやてに相談してきた所を見ると、やはり気になって仕方ないらしい。
 
 「フェイトちゃん、なのはちゃんにもきちんと話してあげた方がええと思うよ」

 苦笑して、悩む友人に言う。
 
 「……いいのかな」

 一応機密に属する内容だ。
 幾ら友人でも、仕事となれば語っても良い事と悪い事がある。
 しかし。

 「大丈夫や。『庭園』の事やろ?それやったら、航空教導隊所属なら大丈夫だろう、って事で許可うちがもろうてきたよ」

 その言葉にほっとした顔になった。
 はやてちゃん何時の間に……と、なのはが呟いていたが、なのはから相談を受けた時点で特別捜査官には全員に密かに出回っていた内容の事だろうと察して、申請を出していたのだった。
 幸い、航空戦技教導隊は本局のエリートだ。しかも、なのはは有名人。割とあっさりと許可が出た。 
 これが地上局に所属しているシグナムだったら、幾ら自身の守護騎士であっても許可が出たかは怪しい。

 「そっか……なら大丈夫だね」

 少なくとも、悩んでいる時に誰か親しい人。
 職場の同僚とはまた異なるプライベートで相談出来る相手がいるというのは矢張りありがたい。

 「『庭園』?ひょっとしてそれって新たに設けられたっていう管理不可世界の事?」

 とはいえ、なのはも丸っきり知らなかった訳ではなかったようだ。
 どうしても内部の事、情報統制も甘くなるというか、人の口に戸は立てられないというか……情報とはどこかから洩れるものだ。
 
 「そう、正式名称は第01管理不可世界『竜王の庭園』。……オーバーS級生体ロストロギア【竜王】の支配する世界、そして多数の犯罪者が逃亡している世界でもあるんだよ」

 「犯罪者って!」

 なのはが思わず驚いた声を上げる。
 そんな、なのはを宥めるようにはやても口を開く。

 「仕方ないんや。聞いた話やと、【竜王】はあの場所で新たに罪を犯さない限りは手出し許さん、ちゅう事らしいんや」

 「うん、管理局も何とかしたかったらしいんだけど、結局、あの世界を牢獄扱いにする事になったんだ」

 「なにそれ!」

 フェイトもはやても、なのはに管理局艦隊が二度に渡って完敗したという情報は隠していた。
 この友人は結構激情家なのだ。
 まあ、幸いというべきか、なのはも管理局が正式に決めたとなれば、諦めざるをえない。渋々ながら納得したが、フェイトもはやても無理はない、と思っていた。何しろ、フェイトが悩んでいる理由も、果たしてこのままでいいのか、という悩みだったからだ。
 最終的に正式な調印が行われる事になった時、彼女らもそれに加わる事となる。
 フェイトはこの地の調査から最初に戻って来た執務官として。
 はやては特別捜査官として、逮捕はせずとも現状、この地にいる犯罪者のリスト作成の為に。
 そして、なのはは募集された儀仗役の一人、管理局が傘下の精鋭部隊から万が一の時の護衛として加わる者を求めた際に手を挙げた事で加わっていた。



 「……なんでこうなるの?」

 そんな、なのはは困惑していた。
 その腕の間には一人の少女がきょとんとした様子で見上げていた。
 式そのものはすぐに終結した。
 【竜王】自身は大してこうした式典に興味はない。管理局が騙そうとしない限りは、手出しする気はなかった。
 そして、管理局としても下手に我を通そうとしても誰も幸せになれない事ぐらいは理解していた。
 何しろ、既に判明しているだけで闇の書をあっさり消滅させている。最低でもそれ以上のロストロギアを持ち出さねばお話にすらならない事ぐらいは誰でもわかるし、そんなもの持ち出せば下手したら【竜王】との激突で次元世界崩壊の危機だ。

 (それぐらいならお互い見なかった事にする。その方が全員幸せになれる)

 そう、出てこなければ問題はない。
 時折、交易船が出ているようだが、そちらの船は犯罪を犯していない移民の動かす船だ。護衛にちょっと見慣れた船がついてくる事があるけれど、きっと大丈夫だ。
 実際、リストを作るのも「この人達は実質もう犯罪リストに載せておく意味のない人達」という意味での作成の為だったりする。

 さて、そんな中、それでもどうしても護衛の管理局員としては厳しい視線が向かざるをえない。
 なのはもそんな一人だったが、ふと視線を感じて周囲を見て、それから下からその視線が来ているのに気がついた。
 一人のオッドアイの少女がじっと自分を見上げて立っていたからだ。
 
 「どうしたの?迷子?」

 なのはとしても、子供を怖がらせる趣味はない。
 腰を下ろして視線を合わせて、優しく声をかける。
 
 「名前は?お父さんの名前とか分かるかな?あ、私はなのは、高町なのは、って言うんだよ?」

 「……ヴィヴィオ。ヴィヴィオだよ、なのはママ」

 さすがにママと呼ばれた事に内心ショックを受けるが、顔には出さない。
 まだ私二十歳にもなってないのに……とか、ユーノ君との仲全然進展しないし……とか色々と思う事はあるのだが、その辺は心の奥底にしまっておく。

 「おや、その子が懐くとは珍しいね」

 そこへ一人の青年、といっていいぐらいの年齢の男性がやって来た。
 その男の顔を見ると、ぎゅっとヴィヴィオはなのはの服をより強く握り締める。
 そして、その男の顔をなのははよく知っていた。

 「……ジェイル・スカリエッティ」

 頷いたスカリエッティはしばし、二人の様子を見ていたが、すぐに手をポンと打って言った。

 「ちょうどいい。その子の親になってくれないかね?」

 「はい?」

 その後スカリエッティと睨み合っているなのはに気付いて駆け寄ってきたフェイトがしばらくヴィヴィオを引き受ける形で、なのはがしばらく話を聞いてみれば、元々はヴィヴィオは某所からの依頼で生み出した聖王のクローンなのだという。
 某所とはどこか、と思ったが、スカリエッティはいともあっさりと答えた。すなわち「最高評議会」であると……しかも、その目的が古代ベルカの戦艦である聖王のゆりかご起動の為と聞いては何も言えなかった。
 更にスカリエッティは「そもそも私自身が彼らに生み出されたからね」と笑いながら語っていた。

 「覚えておきたまえ。君が知る以上に管理局の闇は深いのだよ。……なまじ、当人達は平和の為と信じているから始末に終えんのだがね」

 その言葉に、なのはとしては項垂れるしかない。
 さて、とそんななのはに構わず、スカリエッティは軽い口調で告げた。
 そんな理由で生み出されたあの子だが、とりあえずこの地に来て、彼らからは自分も解放された。そして、自分のこれまでの成果は成功したものは全部破棄したように見せかけたと告げた。

 「まあ、これが道具ならそのままゴミにすれば良いのだが、生きているとなると【竜王】が煩くてね?それであの子も目覚めさせたはいいのだが、何しろここは閉じた地となる。ああ、我々は別に良いのだよ(抜け道なぞ幾らでもあるしね)。だが、その子はそうはいかないだろう?」

 今回、【竜王】がやむをえない状況で引き取った子供達の内、管理局のスカウトに応じる事を決めた者や、外に興味のある子供で保護責任者としての引き受け手がいる者などが幾人か外に出る事になっていた。まあ、【竜王】によって、良い面しか出していない事を指摘されたり、こき使おうといった裏面が即座にばれて仕置きされていた者もいたのは事実だが、原作のフェイトのような真っ当な者とて多数いたのだ。
 むしろ、間違った情報を提供する者より、管理局の正義に凝り固まりすぎているが故に、子供達を歪めてしまうと却下された者の方がが多かったぐらいだ。

 「だからまあ、今回の子供達に紛れれば、まだ普通に出られると思うのだよ。子供達はまず一定年齢までは普通の学校に通う事を基本とされているらしいしね」

 ただ、生まれが生まれだったからか、周囲が知った顔ばかりだ。
 既に目覚めた時には起動キーとしての使用は予定されていなかった為に、普通に接していたのだが……如何せん、スカリエッティやウーノ、クァットロやトーレといった面々の普通だ。
 幸いと呼ぶべきか、最近帰って来たドゥーエ、最近目覚めたチンク辺りはまだ子供にも人当たりが良かったのだが……どちらにせよ、すっかり人見知りになってしまったらしい。

 「なので、なついてくれる相手自体が殆どいなくてね?君が初めてなのだよ」
  
 「まあ、そういう事であれば……」

 なのはとしても、普通の日常を送らせてやって欲しい、という事であれば否やはない。
 フェイトも原作のエリオではなかったが、一人の子供を引き受けていた。
 結果的には、なのははある意味毒気を抜かれた気分でミッドチルダへと帰還する事になるのである。



【別世界の『庭園』】
 「……今日も目撃情報はなし、と」

 『庭園』に潜り込んでいる監視員の一人は欠伸をしながら外へ出た。
 【竜王】の生存は基本は大竜王祭で行われるが、一応普段もこうして配備はされている。
 実際には、ただ【竜王】を目撃したかどうかを送るだけでお金なりがもらえるので引き受けている、というだけの普段は別の仕事をしている男な訳だが。
 【竜王】は毎日目撃するような相手ではない。何しろ衛星が使えないので確認する方法が人の目による視認しかなく、竜種が多数生息する為に人が暮らすなど不可能な地域もある。そんな所で目撃情報がぷっつり途絶えたなど日常茶飯事なのは各国も理解している。だから専門のエキスパートを派遣したりしない訳だが。
 が、外に出た男はふっと気がついた。

 「おお、【竜王】様が……」

 悠然と舞うその姿を出た所で彼は目撃したのだった。

 「何か今日はいい事がありそうだ」

 笑顔になった彼は、戻ると先程送った情報に追加して、姿を目撃した事を送るのだった。



 ………あれ?俺今回、台詞なし?



[28159] 異伝:マヴラヴ1
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:55
1998年、朝鮮半島。
 そこで一大作戦が展開していた。
 光州作戦。
 国連軍と大東亜連合軍による朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦である。……そう、もう各国は朝鮮半島の陥落を確定したものと看做していた。
 だが、そこにはまだ大勢の民間人が残っていた。
 それを退避させる時間を稼ぐ、それが光州作戦の概要である。
 
 その作戦は当初は順調に進んでいたが、混乱が発生していた。
 現地住民の中には脱出を拒む者もいた。
 これはある意味仕方ない面もある。元々朝鮮の人間は故郷への良い言い方なら想い、悪い言い方なら執着が強い。ましてや、この後待っているのは難民キャンプでの生活だ。
 BETAとの戦闘、その最初期ならば難民キャンプといえど、米国を初めとする各国のそれは高い質を誇っていた。当時はまだ、人々は「しばらくは大変でも何年かすれば終わる」そう考えていたからだ。
 だが、時が経つにつれ、BETAの脅威は増し、難民は増えた。
 次第に各国にも余裕がなくなり、難民を養う為に税金が増え、治安も悪化した。次第に難民を厄介者として見る向きが強まり、難民キャンプの内容も悪化していった。
 邪魔者、厄介者という視線を向けられ、食べる物にも困る生活を送らねばならないぐらいならいっそ、というのは特に年配者に多かった。
 もっとも、それらを見捨てる、というのは大東亜連合軍にはなかったのである。
 ただでさえ、今回の一件で朝鮮は国土を喪失する。
 国土という分かりやすい概念を失った民の離散を食い止める為にも、「私達は貴方達を見捨てません」という姿勢を示す事は最重要の課題であり、だからこそ、彼らは予想以上に時間のかかる脱出の支援を日本帝国派遣軍司令官彩峰中将に頼んだ。
 彩峰中将自身も悩んだ。
 指揮権を持つ国連軍(米軍)からは日本帝国軍を別の戦線へと派遣する命令が来ていたからだ。
 だが、同時に民間人を守る、という軍人として、人としてあるべき道というだけでなく、大東亜連合軍との関係維持という重要な問題もこの一件は含んでいた。
 ただでさえ、米国の影響力は強大化していた。大陸にあったソ連や中国といった国家が国土を喪失した上に欧州各国も衰退していたのだから、安全圏にある世界の工場として絶大な発言力を握っていた。まあ、米国は米国で、こんだけ莫大な支援をしているんだから、とんでもない額の金を使ってるんだからこっちの意見もとしてくれ、というのは当然だっただろうが……。
 とにかく、日本帝国としては大東亜連合と連携する事で、発言力の確保が重要視されていた。また、それだけでなく、今後最前線となる国としては共に肩を並べて戦う事になる近隣諸国との関係悪化を避けたいという切実な思いもあった。
 最終的に、彩峰中将は大東亜連合からの要請を受けた。
 国連軍総司令部は怒ったが、それでもまだ腹を立てるぐらいで済んでいたのだ。この時までは。

 「BETAの侵攻が……」

 最初の報告は新たなBETAの出現だった。
 しかも、それがこれまで圧力の少なかった総司令部に向っているというものだった。
 急遽部隊が派遣されたものの、本来はこちらを担当するはずであった日本帝国軍がいない為に撤退も時間たが足りない。
 史実では更に地中侵攻も重なった結果、国連軍司令部が陥落。指揮系統の大混乱を誘発し国連軍は多くの損害を被る事になる、はずだった。
 その瞬間までは。
 
 「!?前線より緊急報告!」

 「何だ!」

 大混乱の只中にある中、参謀の一人が苛立ったように通信兵を怒鳴りつけた。
 だが、その報告は朗報であった。
 BETAの侵攻が停止した、というのである。
 ……正体不明の【竜】の出現によって。

 「……新種のBETAか?」
 
 竜、などと言われて一瞬何を寝惚けた事をと思った参謀だったが、すぐに新種のBETAかと考えた。BETAが出現するまでは異星起源の存在など笑い話だと思われていた。それを考えれば、竜みたいな何かがいてもおかしくはない。
 だが、前線からの報告は更に混迷を深めるものだった。
 
 『仮称【ドラゴン】とBETAが戦闘中』

 それが前線からの報告であった。
 BETAの特性として、絶対に同士討ちをしない、というものがある。特にレーザー級はその認識が強く、彼らが攻撃を行う際は視界が開くのがレーザー級の射界に入った事の合図となる程だ。
 ところが、その【ドラゴン】は空を舞い、レーザー級の攻撃に晒されながら、それを物ともせず君臨し続けている、どころかそちらもそちらでレーザー+αを撃ち放ち、BETAと激戦を繰り広げている、という。いや、激戦というのは御幣がある。何しろ、一方的に駆逐されているからだ。それが激戦に見えているのは、BETAが万単位に対して、ドラゴンが一匹だからに過ぎない。
 それでも、熱した鉄板にバターを押し付けるが如き有様は圧倒的というのも愚かしい光景だった。

 「……この際、相手が悪魔でも何でも良い」

 参謀から連絡を受けた総司令は即座に決断した。
 相手が何物だろうが、とにかくBETAと戦闘中で、BETAの侵攻は停止している。
 先程、地中侵攻も確認された。すなわち、地中から吹き上がる形でドラゴンの真下から襲い掛かったのだが、そこへ待ち構えていたかのように黒い流れが叩きつけられ、瞬時に大損害を被ったという。
 それなら正体が何だろうが、それは後回しで結構。
 事が終わってから、それは考えればいい。

 「ただちに前線の戦術機甲部隊を後退させろ!総司令部の撤収を急げ!」

 最終的にこの正体不明の【ドラゴン】にBETAは他の戦線まで引き寄せられた。
 このBETAの行動の結果として、総司令部も無事撤退に成功し、光州作戦は大成功に終わった。

 が、これだけで終わらないのが世の常だ。
 如何に成功に終わったとはいえ、日本帝国の派遣軍が総司令部の命令を無視した、という事実に変わりはなく、軍が命令違反を許容しては組織として成立しない。
 独断専行は軍としてはむしろ近代的な軍隊では当然とはいえ、正式な命令が出ているのにそれを無視した、という場合は独断の域を超え、立派な犯罪なのだ。
 だが、幸いだったのは被害が軽微であった事だろう。
 あくまで命令違反に対する処罰が求められたものであり、日本帝国においても彩峰中将自身が部下にも「これで処罰がなければ、軍が軍として成り立たぬ」と訴えがなければ、自ら出頭する事を決めていた事もあり、軍事法廷の開廷自体はすんなりと進んだ。
 米国からは裏でAL5の為の生贄として過剰な要求を行おうという動きもあったのだが、米国にも真っ当な頭は大勢いる。損害が殆ど出ていない事もあり、過剰な要求は諸外国から信頼を失うだけで、しかも効果は薄いと看做し、AL5陣形からもストップがかかった。
 大東亜連合からの感謝と共に届けられた嘆願書もあり、最終的に彩峰中将に課せられたのは……。

 【一階級の降格:中将→少将】

 また、俸給の一年の返上、というものであった。
 無論、それでも不満を述べる者がいたのは事実であったが、彩峰愁閣の存命は大きかった。
 部下らも閣下が受け入れているなら、と渋々ながら受け入れ、史実では悲劇と称され、後に多大な影響を与える事になった事件はごく穏やかな、誰もが受け入れられる形で終わったのである。
 米国の国連軍総司令も腹は立ったものの、彩峰少将からの正式な謝罪、降格などの処罰、更に被害が殆どなかった事などから文句は言ったものの、それを受け入れた。
  
 さて、そうなると残ったのは一つ。
コードネーム【ドラゴン】が何物か、だ。
 戦術機のログに残されたデータから映し出されたその姿に誰もが絶句した。
 全長50mを越す巨竜。
 要塞級に匹敵する巨体と、その攻撃を物ともしない防御力、要塞級を伝って群がった戦車級や果ては重レーザー級の攻撃すら完全に無視し、その全身からレーザーと思われるものだけでなく、正体不明の攻撃すら放つのに加え、その飛行能力が全く不明だった。
 翼はあるが、全く動かさずとも空に浮き、ゼロ速度からいきなり急発進。ある時はソニックウェーブを発生させてなぎ払い、ある時は全くそれを発生させず低空を通り過ぎる。
 最低でも慣性制御・重力制御に加え、何らかの大気制御まで行っているのは確実であった。
 この後、AL計画の一環、AL6として【ドラゴン】との接触、可能ならばその分析、せめて協力態勢の構築が新たに承認される事となる。



[28159] 異伝:マヴラヴ2
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:56
世界の壁を突き破ったのはこれで何度目か忘れた。
 ただ、今度の世界は別の世界で覚えがあった。
 異質な存在が世界を侵食している世界……。
 もう、マヴラヴの記憶なんて殆ど残ってない彼だったが、反面、そうした世界が悲鳴を上げている事はよりはっきりと感じる事が出来た。
 だからこそ、力を振るった。
 とりあえずは、この寄生虫はきっちり掃除して帰らないと、後味が悪そうだ。


【SIDE:AL4】
 新たに出現したBETAと敵対する存在。
 光州作戦終了後の人類の混乱は相当なものだった。
 何しろ、BETAが全く相手にもならない。
 観測で確認されただけでも、最低でも重力制御・慣性制御・ベクトル制御。レーザーに見える何かを全身から何百何千と連射し、弾切れどころかインターバルすら存在しない。
 果ては、鉄源ハイブに飛来した【ドラゴン】は更なる一撃でもって、そう、ただの一撃で鉄源ハイブを沈黙に追い込んだ。
 BETAが一斉に撤退した事から、鉄源ハイブの反応炉は破壊されたものと見られている。

 ただ、これだけなら、強いだけの存在だった。
 だが、そこから問題が起きた。【ドラゴン】は鉄源ハイブの傍にしばらく滞在していたのだが、BETAのハイブの傍だ。そこは何も残っていなかった。
 ……それが三日後にはハイブ周辺は再び豊かな自然が復活していた。
 さすがに動物はまだこれからだろうが、草木が生い茂っていたのだ。
 これには大混乱が起きた。
 明らかに【ドラゴン】に植生を復活させる何かがあると判断せざるをえないからだ。
 これで大騒ぎしたのは国内がBETAによって平坦にならされてしまったソ連や中国など国土をBETAに奪われた国々だった。
 中には神の化身ではなどと言い出す者まで出てくる始末だ。

 香月夕呼は相手をそんな目で見る事はなかったが、少々不機嫌ではあった。
 可愛がっている霞が急遽出張する事になったからだ。
 AL3の生き残りである彼女は、夕呼にとって頼りになる助手でもあった。だが、今回国連でソ連が活発な活動を行い、それにBETAによって国を失ったり荒らされた国々が同調して、AL3の生き残りを用いた接触を試みたからだ。
 複座型の戦術機に乗せて、至近まで近寄らせる。
 正直、夕呼としては霞を、あんな相手の傍に近寄らせたくなんてしたくなかったのだが、国連からの正式な命令ではさすがに彼女も分が悪かった。平穏な接触という予定でもあった事だし。
 ……もっとも、彼女はそんなお題目を信じていた訳ではなかったが、無事、霞が帰ってきて内心、ほっとしている所だった。

 「……敵対するつもりはないそうです」

 ご苦労様、と他の人間には見せないねぎらう笑顔と共に昨今では手に入れにくくなったセイロンティーを出してやって話をする中、霞から告げられたのは、心を読んだ結果ではなく、伝えられた言葉。

 「……話しかけてきた、って事?読み取ったりはしなかったの?」

 「あの人の心は……例えるなら海です」

 今回外に出た事で、初めて見た海。
 その海の如く広大で、人が潜ろうともその僅かな表面を撫でるのみ。その深海の全てを知ろうとすれば飲み込まれる。
 精神の巨大さに差がありすぎて、霞をして彼女に読み取れるのは波打ち際で寄せる波を見るだけ。
 下手に入り込もうとすれば、逆に飲み込まれて帰って来れなくなるだけ。
 事実、今回何人が動員されたか分からないが、次々と強引な接触を試みた気配が消えて行き、最後に残ったのは自分ともう一人だけ。
 夕呼はその合流した時に見たという霞の報告から、それがスカーレットツインと呼ばれる相手だと検討をつけた。
 ソ連からすれば、本当は霞も押えたい所だっただろうが、生憎護衛には日本帝国がついていた。これはAL4を誘致した日本帝国が、国連の顔を立てる為にわざわざ夕呼から借り出す時に、交換条件として責任持っての護衛を約束したからだ。
 また、一人とはいえ自分達の手駒が帰還したのも大きかったのだろう。
 夕呼はその他にも話を聞きながら、そのスカーレットツインが生還したのは実戦を多々経験している、すなわち現実に使える力の程を理解しているからだろう、と推測していた。
 言い方を変えれば、自分の身の程を知っているとも言う。 
 逆に、精神の消えたAL3の残滓達は薬なりを使って、心の奥底を探ろうとして帰って来れなかったのだろう。
 
 (まあ、敵対する腹がないなら、あたしとしては当面は構わないか……)

 もっとも、そんな思惑は霞の「またおいで、と誘われました」との言葉に真剣に悩み、頭を抱える事になるのだが。


【SIDE:その他】
 国連においては、ソ連の作戦によって相手が理性ある存在であると認識できた事や、自然の再生能力を兼ね備えている事から、BETAに対して共同戦線を張る事は可能ではないか、という意見が出た。
 現状先の見えないAL4はともかく、G弾に関しては反発していた国々に加えて、オーストラリアやアフリカなどのこれまでAL5に賛成していた国々も損はない、と賛成に回った。
 その結果として決まったのが、AL6をAL5に優先させるというものだった。
 それはAL5の推進者達にとって看過出来ない決定だった。
 何故なら、G弾は力だ。
 その力をアメリカが抑える事によって、他国に優位に立てる。
 だが、【ドラゴン】はアメリカのものではない。アメリカがその力を押える事が出来れば話は別だが、それも不可能と現時点では判断せざるをえない。
 となれば、AL5の優先順位が低下するのは、アメリカのBETA戦終結後の優位性を崩す事に他ならない……そう考えたG弾推進派ならぬ信奉者達は暴挙に出た。

 「正体不明の相手だ。今の段階で殲滅しておくべきだ」

 その言葉の下に、彼らは再突入型駆逐艦にG弾を密かに運び込み、実に五発のG弾を立て続けに【ドラゴン】に向けて投下した。
 結果から言おう。確かに、AL計画の一つは大きくその立場を落としたどころか崩壊寸前に陥った。
 ただし、6ではなく5が。
 何しろ、落としたG弾はその全てが黒い半球が展開した直後に全て【ドラゴン】の口に飲み込まれた。
 直後、いきなり瞬間転移でアメリカに出現した【ドラゴン】は徹底的にG弾の施設を職員は無傷のまま、施設とG弾のみを粉微塵にしただけではなく、G弾を推進していた政府要人に議員に財界人、開発者から官僚に至るまで全員がアメリカ中はおろかカナダや果ては南アメリカやオーストラリアからまで或いは空を舞って、或いは強制転移させられて、全員が【ドラゴン】の前へと引きずり出された。
 その上で、震え上がる彼らの顔を一通り見回した【ドラゴン】は今回の投下に関わった人間だけを綺麗にこの世から退場させると再び飛び去ったのである。
 かくして、大部分の人間は命を永らえた。
 ただし、そんな思いをした人間が果たしてAL5を支援し続けられるかと言うと……そんな訳がなかった。
 即効でAL6へと鞍替えしただけならまだしも、AL5の暴走に逆に敵意を抱いて積極的に敵対する側に回った者、【ドラゴン】に神を見て出家した者、などとにかくそれまでのAL5陣営はこの一件で崩壊したと言っていい。
 ……何しろ、大統領らも見放して、今回ので【ドラゴン】が人類に敵対したらどうすると絶叫する各国へのスケープゴートとして全責任を押し付けようとした訳だから沈む泥舟から人が逃げるのは当然な上に、研究成果も全てが原子レベルで残っているかも怪しい状態と来ている。
 最終的に、AL5は緊急時の地球脱出船のみが何とか残るだけとなるのである。



[28159] 異伝:マヴラヴ3
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:56
 人類は大混乱に陥っていた。
 AL5陣営の暴走によって、この世界では横浜ハイブではなく鉄源ハイブ跡地にいる【竜王】に対してG弾が投下された。
 それだけでも大問題だというのに、それがあっさり無効化されただけではなく、G弾はその全てが壊滅。
 暴走した面々はこの世から消滅したが、逆に言えば、本来、責任を取るべき連中が軒並み消えたという事と同義でもある。
 そこで当然生贄となるべき人間が求められた訳だが……。
 元々、大統領は穏健派だった。
 AL4が確実ではない以上、失敗した時の予備を考慮するのは当然だ。
 だが、このような暴走は望んではいなかった。
 もっとも、更に酷い結果を生む事になるとはさすがに予想していなかったのだが……。

 とにかく、米国国内では頭を抱える人間が続出した。
 多額の金をつぎ込んだG弾は『役立たず』の烙印を押された。
 無効化したのはBETAではなく、【竜王】なのだが、生憎初投下でいきなり無効化された、では良い評価など得られるはずもない。おまけに穏健派は自分達まで巻き込まれては敵わぬと強硬派の責任を追求してくるし、強硬派は先だっての恐怖から瓦解が加速度的に進んでいく。
 
 「……では彼も?」

 米国国務長官が呻き声を洩らし、頭痛をこらえるように額を抑えた。
 大統領も無言のまま、こめかみを揉み解している。
 先だっての暴走で、米国は一気に窮地に陥った。
 幸い、米国の力故に国家の存続どうこうのレベルには至っていないが、それでも誰かが責任を取らねばならない、のだが……今回の件を企んだCIA長官は綺麗さっぱりこの世から原子レベルで退場した。
 他の者も今回の一件に直接手を貸した連中は軒並み消滅。
 おまけに、それなりの影響力を持つ人間に責任を押し付けようと思ったら、ある議員は恐怖の余り白髪になってぶつぶつと壁に向って呟いていた。この為、息子が父の引退を宣言した。
 ある財界人は全ての職を後継者に譲ると、その足で教会の扉を叩いた。今では一介の修道士としてひたすら神に祈りを捧げる日々だという。
  
 「とにかくだ!だからといって関係ない者を犠牲にする訳にもいかん」
 
 ただでさえ、今回の暴走の結果喰らった反撃のせいで、米国は少なからぬダメージを受けているのだ。
 米国としてはこれ以上の国内分裂の種は避けたい。幸い、【竜王】の反撃のお陰でAL5派が一気に沈静化した事でもあるし。
 この場で同盟各国への働きかけ、裏でのAL5強硬派のリアルな現状を渡す事などが決められた。
 史実と異なり、この世界では日本帝国との関係も悪化していない。
 彩峰中将は降格こそ受けたものの存命だし、米国も大きな損害は出ていないの。ましてや命令無視というなら先だって国連の決定に反して米国内部の……軍が暴走したという情報が流れている。そんな中で他国の大して被害もなかった事に文句を言える者はいまい。
 また、BETAによる日本本土侵攻がなかった為に、日米安保は現在も健在だ。
 これにオーストラリア辺りも引き込めれば、現在の世界第一位から第三位までの経済・技術力を持つ国々が裏での合意に至る訳で、そうなれば米国の支援を求めているソ連、国土を未だ失ったままの中華は口では文句を言っても裏では合意を探るだろう。
(この世界では佐渡島以降のハイヴ、特にH23オリョミンスクからH26エヴェンスクまでのシベリア方面のハイヴが成立していない為にまだソ連は大陸から叩き出されていません)

 「むしろ、問題は今後だ」

 現在、既に複数のハイブが攻略されており、H12リヨンハイヴ、H09アンバールハイヴ、H17マンダレーハイヴなど人類との戦闘の接点となる部分が真っ先に落とされている。
 そして、遂に先日にはH01オリジナルハイヴへと【竜王】は向った。現在、軌道衛星上からこの状況を知る者は固唾を呑んで見詰めている状態だ。
 
 「……オリジナルハイヴでの結果次第だが、それ次第では今後はハイヴは減っていく一方、という可能性もある。そうなれば当然だが……」

 今後、ソ連や統一中華などは国力の回復を目指して蠢動するだろう。
 鉱物資源は相当削られているだろうが、反面地表部分を削られた事で採掘しやすくなった所もあるはずだ。
 加えて、【竜王】が自然を回復してくれるとなれば、どうなるか……。

 「これからは複数の要因が関わってくる。月からの侵攻を食い止めるのは今後も続行せねばならんが、同時に日本帝国、統一中華、ソ連に対する工作も行わねばならん」

 日本に関しては反米に陥らないよう、親米派を支援していく必要があるだろう。
 国粋派と呼ばれる人間達の為に、米国が敵視されて下手な混乱を招かれては面倒だ。
 統一中華はこちらは早くも分裂の兆しを見せている。
 元々、大陸から叩き出された国民党と、大陸を支配していた共産党という不倶戴天の敵同士がBETAという共通の恐怖がいた為に呉越同舟で同盟を組んでいたのだ。共通の敵が崩れだすと共に、関係もまた崩壊を始めたのは当然だろう。
 こちらは共産中国には既にソ連との関係が深まっているようだから、台湾に支援を行ってゆく。
 最善は中華の国土の分裂と、双方のにらみ合いによる消耗だ。
 ソ連も同じく、これから国内の民族紛争を煽ってやれば十分だろう。
 幸いというべきか。
 G元素が陥落したハイヴからは綺麗に消えうせている。
 環境再生に用いられたのではないか、とか色々言われてはいるが、G元素が消えたとなればハイヴ攻略によって統一中華らがG元素を大量に押えるといった事は心配しなくても良い。
 だが、それは同時に新たなG弾の作成が不可能という事でもあった。

 「とはいえ、さすがに【ドラゴン】も月や火星まではどうにもなるまい……我が国が主導権を握る為にもここを乗り切る事が必要だ」

 その為にはAL5という残骸を利用し尽す。
 それしかないだろう。
 


【SIDE:竜王】
 ここはオリジナルハイヴ最下層。
 眼前には触手つきのち○こ。
 ……なんぞ、これ。
 どうにも、こいつが現在のBETAって種の中でも、この星の侵略責任者って立場、かと思っていたが、どうも違うようだな……。
 正確には採掘・加工責任者?
 人にとって、BETAとは異星起源の侵略者だ。
 だが、BETAには人類をこの星発祥の生命体という概念自体がない。
 うん、俺の足の下でじたばた暴れてるが、動けるもんなら動いてみやがれ。
 体格ではこいつの方が上かもしれないが、正直、こいつは確かに戦闘を目的としたユニットじゃない。
 さて、珪素生物がどうもこいつらの親玉らしいのだが……炭素生命体を認識出来てない、というのが一番なんだろうなあ……。
 珪素生命に関してだが、一般によく言われているのが「原子量がかなり大きくなるから反応速度が格段に遅くなるのではないか」「だから、人間が見ても生命活動をしている事に気がつかないのではないか」そんな推測がなされてきた。けれど、それは珪素生命にとってもまた然りな訳で……・

 (タイムスパンが違いすぎるせいで、珪素生命にとっては逆に、炭素生命の活動が早すぎて認識出来てないのかもしれないな……)

 うーむ、しかし、そうなるとこいつらの説得は難しいな。
 一応説得はしたんだ。
 何故か意志通じたけどさ。そうしたら、「人類が自然発生した生命体である根拠を求む」というので、星の歴史そのものを叩き込んでやったんだが……。
 今度は「生命誕生の源となったアミノ酸類の地球外からの飛来が、人為的なものではない証明をせよ」ときたもんだ……確かに人類というか地球の生物の源となった成分は隕石によって地球外から飛来したとは言われる訳だが……。
 ああ、今もこの大広間にはBETAが流入してきているし、あ号標的は触手を振るって来てる。
 まあ、全部【反射】してるけどな。……便利だねえ【反射】。あの世界で学習して正解だったわ。
 もうちょっとやってみるか。
 
 「その前にこちらは一つ質問に答えた。こちらからの質問にも答えろ」

 『……何か』

 「お前達BETAの創造主たる珪素生物が自然発生した生命である証明をせよ」

 『我はそれを知っている。それでは不足か』

 「不足。それならば俺が炭素生物が自然発生した生物であると知っている時点で、お前の問いへの解答は成立する」

 『…………………………』

 その後、こいつは沈黙した。
 何かの証明、というのは難しい。
 そう、『炭素生物が自然発生した生命である事の証明』と『珪素生物が自然発生した生命である事の証明』とは鏡の表と裏。どちらかを証明すれば、その反対もまた然り。
 どちらかを理解出来ないという事はその反対もまた理解出来ない。
 こいつにとっては矛盾に苛まれているんだろう。
 炭素生物は自然発生したものではない、という概念と、では珪素生物が自然発生した生物であるとの証明はどのように行えば良いのか……おお、月や火星へと問い合わせしている。
 けど、そっちも沈黙しているな……。
 ……おや?
 
 「……自閉しちまったか」

 コンピュータが終わりのない無限ループに入り込んだようなもの、かな?
 証明不可能な状況に陥った結果、こいつは自ら閉じた輪に入り込んでしまった。
 ……うーむ、なまじ真面目というか真剣に考えないといけない状況に陥ったお陰で、こうなるとは……しかし、何で他の奴らは出来なかったんだ?

 【竜王】は知る由もないが、原作でそれが出来なかったのは、そもそも、あ号標的が武を自然発生の生命として認めていなかったからだ。
 純夏を珪素による擬似生命と認めたが故に交渉に応じはしたものの、基本相手は災害の一種と看做していた。
 だが、【竜王】は違う。
 あ号標的からすれば、眼前の【竜王】は解析不能な存在だった。
 炭素生命ではない。だが、珪素生命でもない。
 だからこそ、あ号標的は【竜王】を第三種の何かと判断し、当初は排除を試みたが、それに失敗。交渉にも応じたのだが、その結果投げかけれたのは自らの根本に由来するものだった。
 
 「……まあ、トップが自壊するならいいけどさ」

 とりあえず、珪素生命って奴と話しないと駄目だろうなあ。
 【竜王】はまともな思考能力がない故に今も流れ込んでくる他のBETAを完全無視すると、反応炉に向け、手加減を加えた一撃を与える。
 それで反応炉は消し飛んだ。
 一斉に方向を変え、撤退してゆくBETAの後を追うように、【竜王】もまたオリジナルハイヴから出てゆくのだった。 
 



[28159] 異伝:マヴラヴ4
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:56
 「ふう……」

 その日、地球の各国では政治家が、軍人が、財界人が……とにかく情報を手に入れる事の出来た全員が遠い目をして見詰めていた。

 「……平和だな」

 人それを現実逃避という。

 何故、そんな事になったのか。
 それは、オリジナルハイヴ陥落後の事だ。
 【竜王】は次々とハイヴを襲撃、そこのBETA諸共壊滅させていった。
 そこまでは彼らの常識の範囲内だった。
 問題はそこからだ。
 てっきり撃滅後は自然回復かと思いきや、そのまま【竜王】は飛び立った。
 どこへ?と問われたなら……宇宙へ。そのまま月面のオリジナルへと降り立った事を最初に告げられた時、米国大統領は苦い顔でこう言った。

 「君、エイプリルフールはとうに過ぎたぞ」

 そして、真実と判明した時点で、相手が生物だとか何だとか言う思考を放棄した。
 他の国も似たり寄ったりだった。
 そんな中、少々毛色の違う会話が行われている所があった。
 横浜である。
 国連軍横浜基地、本来AL4の拠点であったこの基地はその役割を大幅に変えていた。
 AL4に求められるものがBETAの撃滅から、【竜王】とのコンタクト、その維持に変わったのだ。
 この過程でソ連からスカーレットツイン他生き残っていたAL3の残滓となる者達が引き抜かれた。
 もちろん、ソ連は抵抗しようとしたが、それを画策したソ連の政治家らは即効でそれを撤回した。
 理由は単純、霞と交信した【竜王】がソ連があれこれと理由をつけて断っているという話を聞くなり、アラスカに飛来。スカーレットツインの二人の駐留する基地へと飛来した後、あれこれ理由をつけていた連中、その中には政治家も高級軍人もいたし、その手先となっていた政治将校まで全員が吹雪吹き荒れるアラスカの基地の真っ只中に引きずり出されたのである。
 【竜王】のまん前に。
 その上で、イーニァが【竜王】の方を向いていた後、こう伝えたのである。
 
 「AL4に連れて行っていいか、って言ってますけど……」

 全員が即効で頷いた、訳ではない。

 「馬鹿な!貴様らは我がソ連の道具なのだぞ!!」

 一人の軍人が叫んだ。
 だが、その彼にクリスカが思わず激昂する前に……急に両腕を抱え込み、震え出した。
 慌てて、【竜王】を見上げて何か言う前に、彼は白く凍りつき、そのまま倒れて砕け散った。
 周囲がシンと静まり返った。

 「えと……今、何か言ったか?って……」

 「「「「「いいえ、何も言っておりません!」」」」」

 彼らは全員命あっての物種だという事はよく理解していた。
 そして、目の前の相手がBETAのレーザーを弾き返し、アメリカの秘密兵器であるG弾さえ無効化してしまった相手だと改めて理解した。そして、そんな相手に攻撃を命じたとして、自分が死ぬだけな事もはっきりと理解していた。
 まあ、【竜王】がちょっとイラついたのは、道具扱いしたから、なのだが……。
 結局その後、AL3の生き残りも全て引き渡す事を約束させられて、彼らは解放されたのだが……。
 当り前だが、既に逆らった場合どうなるかを存分に目の前で理解させられた彼らは、即効で厄介払いとばかりに全員を横浜に送りつけた。

 さて、香月夕呼は必要なら幾らでも無情に、犠牲を容認する。
 だが、必要がないならば甘くもなれる女性である。
 そして、今回は非情になる必要が全くなかった。
 というより、ある意味やさぐれていた。

 「まあ、来てもらってなんだけど実は特にしてもらわないといけない事ってないのよ」

 はあ、と香月夕呼はAL3の中でも特に高い能力を持つとされた霞、そしてイーニァ(+心配してついてきたクリスカ)を前に言った。
 その言葉にクリスカは拍子抜けしたような顔になる。

 「ああ、いいのか?って思うんでしょ?いいのよ、貴方、あの【竜王】だっけ?あいつとお話出来るんでしょ?」

 こっくりとイーニァが頷く。
 それを確認して、香月夕呼は溜息をついた。

 「だから、何もいらないの。これで【竜王】が何かしら人類に要求をつきつけてくる、ってのならこっちも仕事があるんだけど……」

 ふるふると頭を横に振る霞に分かっている、と苦笑気味の笑顔を向けた。
 そう、既に分かっていた。
 あの【竜王】が人の欲なぞとはかけ離れた、いや、そもそも霊的な階梯を昇った存在であると夕呼は仮定していた。従って、現在の彼女は霞の協力を得て、新たな研究、そう高次霊的存在についての研究に熱意を上げていたのである。
 霞は助手役を十分に務めてくれている。
 一方、イーニァらは戦術機乗りとしては優秀だが、研究員としては素人もいい所だ。
 従って、夕呼としては彼女らに求める事は一つだけ、それは【竜王】との通訳だけだった。

 「で、貴方がそれをやってくれる限り、こっちは貴方達には自由にしてもらっていいわ。……ああ、そうそう、ついでにお願いしたいんだけど……」

 前者に関してはイーニァとしても異論はない。
 夕呼の追加に関しても、霞は、時折夕呼が強制的に休みを取らせないと、ついつい夢中になってお休みをギリギリまで取らない部分がある。それに、これまでその立場上、そして基地という場所柄、同年代の友人と呼べる関係のある者がいなかった。
 だから、霞の友達となってやって欲しい、根を詰めすぎないよう少し注意を向けてやってもらえないか、というものであり、そういう事なら、と二人もまた頷いた。
 ある意味クリスカがいたのは、この組み合わせでは幸運だったと言えよう。
 何しろ、霞とイーニァ、この二人じっと見つめあったまま、動かなくなってしまう事がしばしばだったからだ。お互い無口な面がある上、リーディング能力で伝えたい事が伝えられる為にこうなってしまう訳だ。

 そんな事が起きている頃、月ではハイヴが壊滅していた。
 そのまま火星へ向けて飛び立った、しかも所謂ワープ航法まで用いていると知らされた時、人類がこれまで考えてきた神の概念に近い存在と解釈していた夕呼はともかく、他の連中は一斉に今後必ず相手しなければならない理解不能な超越存在相手にする事を考え、引退を真剣に考えたそうである。 



[28159] 異伝:真剣で私に恋しなさい!
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:57
「くっくっくっく……」

 どうしてこうなった?
 【竜王】は何とも困惑しながら、不気味な笑い声を上げる眼前の人間に視線をやった。 
 笑っていれば魅力的な女性なのだろうが……今の姿を見れば百年の恋も冷めそうな恐ろしい姿だ。

 そもそも【竜王】はこの地へと降り立つつもりはなかった。
 降り立ったのはあくまで事故だ。
 創造神ルドラサウムと名乗るでかい鯨のような相手を次元突破する際に間違えて轢いてしまったのがそもそもの始まりだった。
 慌てて滅びかけた対象を――確かに相手も力は巨大だったが、現在の【竜王】相手では空母に挑むゾウリムシレベルだった――をとりあえず再生し、世界を管理する対象として構成し直した。
 大丈夫かな、と余所見しつつ飛び去ったのだが、その結果、余所見運転事故の元という言葉通り、間違えて別世界へ転移する際に座標をミスして、人々が暮らす世界の真っ只中に出現してしまった。
 ……尚、再生された相手は【竜王】が『創造神なんだからこんな感じだろう』という概念が思い切り入り込んだ為に、実に慈愛と共に自らの創造した世界を見守る存在として再生しており、それまでの自らの作った世界で遊ぶという存在とは百八十度変わった存在として、創造した配下達にも大混乱を巻き起こすのだが、【竜王】は知る由もない。
 
 さて、座標をミスったとはいえ、咄嗟に制御を行った事で周囲への被害を出す事なく無事学校の校庭へと着地を果たした。
 突如として現れた巨大な竜に学校は一瞬静まり返った後、大騒動になった。

 『いかんなー、とりあえず申し訳ないが記憶を弄って忘れてもらうべきか……?』

 そう考えている時だった。

 「おい、そこのドラゴン!私と戦え!!」

 そんな声が響いたのは。
 そちらに視線を向ければ黒髪の長髪の女性が一人。目を爛々と輝かせ、そこに立っていた。
 その人としては大きな力を持つ相手の戦意に【竜王】が困惑する内に、彼女は突っ込んで来た……。



【SIDE:直江大和】
 「あー、始めちゃったよ」

 姉さんと呼ぶ(血の繋がりはない)川神百代の姿を彼は距離を置いて見ていた。
 周囲には風間ファミリーと呼ぶ仲の良いグループの面々がおり、向こうではF組とは何かと対立する事の多いS組の面々が観戦している。相変らずというべきか九鬼英雄が高らかに双方の激戦ぶりを評価している。
 
 「で、どうします?学園長」

 大和は何時の間にか傍へとやって来た川神鉄心へと声をかけた。
 
 「ふむ」

 と長い顎鬚を撫でながらも、鉄心は止めにかかる様子はない。
 その様子が大和には少々意外だった。
 何しろ、姉は、川神百代は今でこそ眼前の爺様の言う事を聞いて抑えてはいるものの、かつてはかなりの乱暴者でもあった。
 それ故に私心での戦いを禁じられているはずだ。
 
 「止めないんですね?」

 だから、思わず、といった感じで口からそんな感想が洩れた。

 「うむ、相手の方が遥かに格上のようじゃしの……この際、思い切り発散させても良かろうて」

 その言葉に、大和の傍にいて聞こえていた風間ファミリー。
 川神百代の実力を熟知している風間翔一、川神一子や椎名京、クリスや黛由紀子、更にこのような時だからだろう、S組の方からクリスの傍に来ていたマルギッテまでが一斉に鉄心に視線を向けた。
 
 「気付かぬか?普段の百代が本気を出して戦うならば周囲にも影響が出る」

 言われて全員が気持ち良さそうに戦う百代へと視線を向けた。

 「壊れて、ない?」

 あれだけ百代が荒れ狂いながら、グラウンドは平穏を保ち、巨竜はその反撃の素振りを見せようとしない。
 そう、まるで……。

 「駄々をこねる赤ん坊をあやしておるようなものじゃ。……あれは人ではどうにもならぬ力の化身よ」

 鉄心は伊達に川神院を統べていない、というべきか。
 普段のエロジジイっぷりとは異なる武人としての姿を見せていた。
 事実、彼の目から見ても、竜の底が見えなかった。
 広大な海へと柄杓片手で汲み尽くさんと挑む、そんな感覚があった。

 「……世の中、上には上がっていうより……あんなのいたんだな」

 顔に縦線を走らせながら、大和がぼそり、と彼らの常識の外に、これまであんな生物がいるとは思っていなかった彼らは黙って頷いたのだった。
 どうやら、どうやって変身してるのか分からないような変態ロボットなどが傍で暮らしていたりする彼らにとっても、眼前の光景はなかなか非常識な光景だったようだ。



 結果から言えば、川神百代は負けた。
 正確には相手にさえされなかった。
 疲れ果て、それでも膝を屈しない彼女に穏やかな視線を向けたままだった【竜王】はやがて翼を広げ、再び空へと舞い上がり、やがてその姿は空中に波紋を描き、消えた。
 その姿を見送り、獰猛な笑みを浮かべつつ、川神百代が宣言するかのように言った。

 「見ていろ、何時か貴様に一撃を入れてやる……!」  

 いや、さすがに無理があるでしょ。
 誰もが内心でそう突っ込んだが、さすがにそれを口にする度胸はなかったのだった。



[28159] 異伝:ゼロの使い魔1
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:58
【SIDE:才人】
 「……あれ?」

 平賀才人は首を捻った。
 立ち止まった彼を後続の人間が邪魔そうによけていくのに気付いて、才人も頭を下げて再び歩き出す。
 何だったのだろうか?
 先程、銀の鏡に吸い込まれたように感じたのだが……気のせいか?
 
 (……俺疲れてるのかなあ?)

 そんな事を思いつつ、頭を一つ振った才人は修理なったノートパソコンを片手に家路へと急いだ。



【SIDE:竜王】
 目の前でうかれているピンク色の髪の少女がいる。
 周囲には驚愕の顔でこっちを見ているコッパゲと少女の同級生と思われる学生がいる。
 なんだろう、ここは?

 最近では次元世界を複数渡っている。
 お陰で時間がなくなってきたので、分身を置いて監視役をしてもらっている。
 ……この分身ってのどこで覚えたんだっけ?
 ああ、そうだ。
 確か、銀色の巨人がいた世界で、セミみたいな奴助けた時にお礼に教わったような……。あの時は苦労したんだよなあ。セミみたいなのは自分の星が砕けたから移民先が欲しい。やっと受け入れてくれる先が見つかったと思ったら、人数聞いて拒否されて……。で、暴走しちゃったと。
 まあ、無理もないんだがな。数が数だし……。
 結局、そこへ割り込んだ宇宙の警察官みたいな銀の巨人との戦闘になって、そこへ俺が更に割り込んで……いきなり両者から光線と光弾浴びせられたもんだからびっくりしたよな。まあ、眩しかったけど実害なかったからいいんだが。
 最終的に、銀の巨人とも話し合って、セミ型宇宙人の宇宙船ごと次元世界の一つに引きずり込んで、まだ誰も住んでない新しい星を提供する事で片がついたんだったっけなあ?
 で、その際にお礼がしたいって熱心に言われたんで、結局分身とか幾つか術を教わったんだ。 

 まあ、それはいい。
 それで次元を渡っていると、ふと次元の壁を突き破ろうとする力の気配を感じたんだ。
 それで、好奇心で赴いた所……引きずりこまれている最中の子供がいたから、ちょっと送り返してやったんだよな。
 その際に、一体誰がやらかしたのかと思って、その先へ向ったんだが……。
 
 (この様子だと理解してないか?)
 
 自分が何をやらかそうとしたか、認識出来ていない可能性が高い。
 周囲を見てみても、どうやらこの世界の動物ばかりのようだし……おや。
 下で何やら騒いでいるピンクの髪の子供、今回の事態の元凶と思われる子供を、とりあえずそっちは無視して近づいた。
 青い鱗の竜の姿があったからだ。

 『言葉は通じるか?』

 『きゅ、きゅい?つ、通じるのね!』
 
 隣で無表情な眼鏡をかけ、大きめの杖を持った小柄な少女がじっとこちらを見上げている。
 あと、この竜の名前はイルククゥというらしい。
 
 『きゅい、おじさまは何て言うのね?』

 ……おじさんか。
 いやまあ、確かにもう何百年経ってるか分かったもんじゃないからなあ。
 お兄さんっていう年じゃないのは確かだよな。

 『うーむ、分からんな。最近は【竜王】と呼ばれてはいたが、個別の名前なんてなかったと思うのだが』

 さすがに、人だった頃の名前なんてもう記憶にない。
 というより、昔の原作知識なんてもんも忘れてるのが多い。
 うーむ、あの銀の巨人とか、この光景とかもどっかで記憶を刺激するんだがなあ……。 
 その内、思い出すだろう。
 などと考えていたら、尻尾の方で火花が散ったような気がした。何だろう?
 話を目の前の幼竜に聞いてみれば、これは使い魔召喚の儀式と言って、期末テストとかそういう類らしいな……そうすると、あの少年がこの子の本来の使い魔になっていたのか……悪い事を……いや、違うな。強引に引き寄せている感じだったからな。当人の合意なんぞありはすまい。
 うーむ、とりあえず確か以前に組んでもらった念話の術式があったはず……ここでも通じるだろうか?


【SIDE:ルイズ】
 やったわ!私はやったのよ!!
 それが最初に召喚のゲートから出てきた相手を見た時の感想だった。
 赤みがかかった宝石のような鱗を持つ巨竜。それが私が呼び出した相手だった。
 二年生になる為の使い魔の召喚。
 爆発だらけだったけれど、タバサの呼び出した風竜もこの竜に比べたら、子供と大人よ!
 周囲の同級生達も愕然として声も出せないでいる。
 これなら、もう私を馬鹿にする者なんていない……。

 ……と思っていたのに。
 私が何を言っても無視して、頭も下げてくれず、そのままタバサの竜と何やら話してる感じ……。
 かっとなった私は爆発魔法を唱えた。
 それは見事に炸裂、したのだけど……。竜は全然平気そうだった。

 そして、次第に落ち着いてきたのだろう。
 周囲の同級生達がはやしたてだした。

 「やっぱりゼロはゼロだぜ!」

 「呼び出した使い魔に無視されてやんの!」

 嘲笑う声、やっと、やっとゼロでなくなったと思えたのに……。
 悔しさで顔が下を向く……いえ、向きかけた時、声が響いた。

 『黙れ』



【SIDE:コルベール】
 正直、私は血の気が引いた。
 あれだけの巨竜だ。
 どれだけの力を持っているかなど考えたくもない。ましてや、感じる力は桁外れ。というか、巨大すぎてどんだけでかいのか図れない。
 そんな相手にいきなり攻撃を仕掛けるとは……幸いというか、相手が何も感じてないみたいなので、とりあえずミス・ルイズの杖を抑えた。抑えようとした。
 周囲の学生達はミス・ルイズを馬鹿にしているようだが……とりあえず今は。
 優先順位はこちら、そう思った時だった。

 『黙れ』

 声が響いた。
 ただ、それだけでプライドの高い、言い換えると非常に扱いにくい子供達であるはずの学生達がピタリと口をつぐんだ。
 ……当然だろう。
 自分でも口を開けない。
 そこに篭められた絶大な重みが我々の口を開かせない……!

 『侮蔑するのは楽だ。だが、侮蔑する者こそ自身の醜さを示していると知れ』

 明らかな嘲笑の意を篭めた声。
 それを向けられて、けれど学生達は誰も口を開けない、どころか血の気が引くばかり。
 圧倒的な気を叩きつけられて、遂に気絶する者、洩らしてしまう者、腰を抜かす者……ごく僅かな、そうミス・タバサなどが僅かにそれでも立って、巨竜を睨んでいるが、彼女らも足は震え、立っているのがやっとだ。
 いや、それより、この声が巨竜のものだとすると……。

 「韻竜……」

 これだけの巨大な韻竜などいたのか。
 そう思える。
 そうして、竜はこちらに顔を向け、脳裏に響く声で告げた。

 『さて、もう少し詳しい話とやらをしようか』



[28159] 異伝:ゼロの使い魔2
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:58
【SIDE:竜王】
 うーん、言い方って難しいもんだよな。
 いじめって見てて気持ちのいいものじゃないから、叱ろうとしたんだが、これが難しい!
 
 「おい、そんないじめっ子みたいな事やめろよ」

 なんて軽い口調で言うのも何だし……。
 ちょっと格好つけた感じで言ってはみたけど……うわ、黒歴史じゃね?
 何て言うか、見た目がこうもごっついと面倒なんだよなあ。
 普段は、会話が通じないから吼えてればそれなりに誤魔化せるんだが。
 魔法があると念話が使えるのは便利なんだが……話し方が面倒だよな、本当に。
 さて、少し詳しい話を聞いてみますかね……。



【SIDE:ルイズ】
 不満だった。
 巨竜は顔をコルベール先生の方に近づけて、何やら会話をしている。
 最初は全員の頭に響いた念話は、今は範囲を絞り、コルベール先生にしか聞こえていない。とはいえ、そのコルベール先生の話している内容からすれば、使い魔召喚の儀式と、その重要性について語って説得しているようではある。
 ちらり、と竜がこちらに視線を向けたが、すぐにコルベール先生に視線を戻した。
 それでも私がじっとしているのは、さっきの畏怖があればこそだ。あれはただ、声を発しただけなのに、お母様より威圧感があった。お陰で、さっきまではやしてた連中は未だ硬直したままだ。
 ……ツェルプストーが平然としているのは腹が立つけれど。
 
 無論、実際にはキュルケもヴァリエールの前で腰を抜かせない!と完全に意地で立っていただけで、顔色も相当に蒼いものになっていたのだが、彼女の浅黒い肌の色のお陰で目立たなかっただけなのだが、それを見抜くにはルイズもまだまだ子供だった。
 いや、それ以上に今は自身の使い魔(候補)の事が気になっていたというか……。

 「ミス・ヴァリエール!ちょっと来て下さい」

 考えている内に会話が終わっていたらしい。
 コルベール先生に呼ばれて行ってみると、どこか困惑した表情で使い魔との契約のキスをしてみてください、というではないか!
 やった!これまでコッパゲとか思ってたのは取り消します!
 そう思い、ルイズは呪文を唱え、キスをする。
 これで、ルーンが刻まれ使い魔の儀式は完成……刻まれて……。

 『成る程、これが使い魔のルーンとやらか』

 「って何で、取り外して見てるのよ!?」

 ルイズは思わず叫んでいた。
 目の前の巨竜ときたら、刻まれるはずのルーンを取り外して、空中に浮かせてしげしげと見ているのだ。
 正直、ここまで規格外の存在とは思っていなかったコルベールも頭を抱えていた。
 使い魔の儀式に失敗する、というのは彼も想定内だった。
 こんな相手だ、レジストされる可能性もあったし、こう言っては何だが、あれだけミスを繰り返したミス・ヴァリエールの事だ。一発で成功するかどうかは分からない。
 ……まさか、一発で成功した挙句、そのルーンの制御を完全に奪ってしまうとはコルベールの想像外だった。
 


【SIDE:竜王】
 ふーむ、俺を使い魔に、ねえ?
 何て言えばいいんだろう?まあ、最悪分身置いて帰ればいいか、と思ったし、落第も可哀想だ。
 とにかく、ちゃんと契約の儀式が成功した、って事を見せればいいんだろう?って事を確認して、キスを受け入れた。
 ……いや、好き好んで痛い思いしたい訳じゃなし。
 刻まれようとして、力がうろうろしてるのも分かったんで、このままじゃ失敗するな、ってのも分かった。
 まあ、そうだろうな。
 こう言ってはなんだが、力が弱すぎる。
 いや、この女の子の中にある力の総量そのものは十分大きいんだが、ぶっちゃけ「海にコップ一杯の赤い染料を投入して、海を真っ赤に染めよう」としてるようなもんだ。多分。
 なんで、仕方ないからルーンの力って奴を固めてこいつらに見える形で示して見えるようにしてやった。
 
 『とりあえず、魔法の行使には成功した。これで、進級は成立したのだろう?』

 重々しい感じの口調を考えつつ、念話を発する。
 何だか悩んでいたようだが、改めて念押しすると、一応学園長に確認する必要はあるが、多分大丈夫だと思う、と言うので、それなら文句を言う奴がいたら出してくれ。こちらから説得してやろう、と言ったら顔が引きつっていたような気がする。
 ま、これで付き合いは終わりだが、少しぐらいはこの世界を回ってみるか。
 何やら、自然に歪みがあるように感じられるしな……。
 
 そう思っている内、終わったので全員学校に帰る事になったようだ。
 そう告げられると、他の生徒達は何も言わずにささっと空を飛んで逃げるようにこの場を飛び去っていった。
 ……おい、先生の癖に、生徒一人置き去りか?
 そう、悔しそうな表情の女の子、俺が戻した男の子を召喚するはずだったピンク色の髪の女の子だ。
 放っておくのも何なので、声をかけた。

 『戻らんのか?』

 そう告げると、かんしゃくを爆発させたように自分は飛べないのだと悔しそうに言う。
 成る程、何やら色々と自分に思う所があるらしい。
 ……歩いて帰るのも大変だろうし、しょうがないから背に乗せて飛んでやったんだが、しばらくすると年相応の笑顔を浮かべていた。
 うーむ、どうするべ。

 余談だが、ちょっと速度出して追いついて、生徒達の頭上を覆うようにゆっくり飛んでたら、悲鳴は上がるわ、パニック起こしたように懸命に飛行速度を上げようとする者は出るわでえらい賑やかだった。何故だ。
  



[28159] 異伝:ゼロの使い魔3
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:59
 「ごめんなさい!」

 ギーシュは土下座した。
 何故、そんな事になったのだろうか?
 それには少し時間を遡る必要がある。
 
 その日、誰と付き合っているといった事で盛り上がっていた彼らだったが、ふとメイドの一人が香水の小瓶をギーシュが落としたのに気付いて拾った事から始まった。
 その結果巡り巡って、ギーシュの二股がばれ、小瓶を拾ったメイドを責めたのだが……。

 『くだらん。悪いのはお前だろうが』

 「なに!?誰だ!」

 いきなり聞こえた呆れた様子の声に、ギーシュは思わず怒鳴った。

 『誰でもいいだろう。そのメイドが悪いのではない。悪いのは二股をかけたお前であり、それがばれてふられたからとて、八つ当たりとは……これが貴族とは貴族というのは余程の恥知らずのようだな』

 この言葉には周囲にもカチンと来た者もいたようで、顔をしかめている者がいる。
  
 「誰だ!どこにいる!!」

 『食堂の外だ』

 怒鳴ったギーシュがいきりたって外に飛び出すが、周囲には誰もいない。

 「逃げたか!隠れていないで出て来い!!僕は貴様に決闘を申し込む!!」

 『決闘か、よかろう。それと別に逃げてはおらん。上を見ろ』

 なにい!とばかりに上を見たギーシュは……そこで硬直した。
 そこにいたのは巨竜。
 全長50mを超える巨大な竜がギーシュに視線を落としていた。ギーシュに続いて貴族を馬鹿にされたと飛び出してきた面々も固まっている。

 『それで、どうするのだ。どこで決闘するのかね?』

 硬直していたギーシュはギギギ、と音でもしそうな様子で周囲を見た。
 気付けば、自分の友達、だったはずの人間は綺麗に姿を消していた。
 既に彼らも知っていた。眼前にいる存在がどんな存在か……。
 実はこれ以前にも一騒動があった。教師の一人、風の魔法こそ最強と嘯くギトーによるものだ。
 彼の授業中の風こそ最強宣言の際に、『アホらしい』と声が聞こえたせいで、ギトーは竜へと喧嘩を売った。結果は……悲惨だった。
 スクウェアメイジであるギトーはライトニングクラウド含め自身のありったけの魔法を叩き付けたが、平然と寝たまま無視していた。そして、攻撃が通じず息を切らせているギトーに他の火水地による攻撃でボコボコにしたのだった。
 とはいえ、別に怪我などは一切していない。
 いきなり水の玉にすっぽり包まれて地上でたっぷりと潜水を味わい、周囲を取り囲む炎で乾燥+そのままサウナ状態で汗を流し、最後は紐なしバンジーを存分に楽しんだ、それだけの事だ。
 ただし、それ以後ギトーが竜を見るなり全力で逃走するようになったのは確からしいが……。

 とにかく、スクウェアメイジでさえ赤子扱いされた相手にドットでしかないギーシュが決闘なぞしたらどうなるだろうか?
 ……考えるまでもない。
 おまけに、その時【竜王】は宣言したのだ。

 『力試しと言っていたからな、これで終わりとしよう。決闘だったら消す所だが』

 さて、自分は先程何と言った?確かに「決闘」と言った。……杖を落としたら、という決闘方法をこの相手が聞いてくれるんだろうか?相手は竜なのに?
 だらだらと汗を流すギーシュに【竜王】は告げた。

 『先程のメイドとお前が傷つけた女性二人の合計三名に土下座して謝るというのならば、こちらとしては聞かなかった事にしてもいいが』

 最後まで聞くまでもなく、ギーシュは即効で黒髪のメイドの下に駆け寄って土下座した。
 その翌日、片側の頬に真っ赤なもみじをつけたギーシュと、その傍に寄り添い世話をするケティの姿があったそうだ。
 ……なお、ちらちらと視線を向けるモンモランシーの姿もあったのだが……ギーシュから見えない位置で、彼女に向けてケティが勝者の笑みを向けて、モンモランシーがびきりとひきつる光景もあったそうである。
  


 さて、そんな学生の事とは別に困っていたのがミス・ロングビルこと土くれのフーケであった。
 彼女は学園の宝物庫を狙っていたのだが……。

 「……あれ、どうしよう」

 最近、お気に入りの寝場所と決めたのか、宝物庫の壁の下付近に【竜王】がどっしりと居座っていたのだ。
 コルベールを煽てて、あの壁が物理的な衝撃で何とか出来る事は分かった。
 だが、あの竜の前でゴーレムを作って、壁をぶち抜いて、そっから中に入ってお目当ての品を盗み出す、という事は……試す気にもなれない。
 彼女は普通のメイジとは異なり、様々なメイジを見てきた。
 相手の力の程をある程度見切れなければ、死が待っている。
 その盗賊としての勘が轟音を鳴らしているのだ。

 『あれヤバイ。敵どころか遊び相手になった瞬間絶対死ぬ』

 ふう、とフーケは溜息をついた。
 うん、命あっての物種だわね。……学園長に給料上がらないか頼んでみるかねえ……。
 まだ、故郷で孤児院をやってるとかある程度ぼかして本当の事話した方があいつを相手にするより勝ち目があるんじゃないか、そう思ったフーケであった。



 「……あれ?俺、出番すらねえ?」

 その頃、トリスタニアの武器屋で、剣なんてものがお呼びでない為に放置プレイな喋る剣があったりした。
   



[28159] 異伝:ゼロの使い魔4
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 02:59
ふう、とワルドは深い溜息をついた。
 いや、本当に……まだ裏切り表明してなくてよかったなあ、と心底思うのだ。

 はじまりはアンリエッタ王女の手紙だった。
 実の所、あんなものが問題になるとは思っていなかった。
 何故か?
 ゲルマニアのアルブレヒト三世は別にアンリエッタに惚れているから婚姻に賛成した訳ではない。彼は何かとなりあがりと蔑まれるゲルマニアに始祖の血を引き入れる事で名実共に列強としての名を得る為にアンリエッタを欲したのだ。
 そんな所に、滅び行くアルビオンの皇太子との恋文が出てきたとしよう。
 そんなもの両国が口を揃えて、両国の関係を悪化させようとするレコンキスタの策謀だと断言してしまえばそれで良い。アルブレヒト三世はアンリエッタという小娘が誰を本当は愛していようが、平然とそれを無視して抱ける男だ。
 だから、正直腹の中で嘲笑いつつ、虚無の可能性が高いと確たる筋から聞いていたルイズを取り込むつもりだったのだが……予定は朝からいきなり崩壊した。

 グリフォンに乗って颯爽と、と思ったのだが、グリフォンの挙動が明らかにおかしく、着陸もおかしなものになってしまった。訓練されたグリフォンが何をと思ったのだが、ルイズの傍にいる巨大な竜の姿を見て、顔には何とか出さなかったものの、驚愕した。
 一応、ルイズが呼び出したらしいのだが、使い魔のルーンを吸収して、力だけ吸い取った……要はルーンの内、術者に従うとかそういう部分は取り除いていい所だけ使っているらしい。それを使い魔と呼んでいいものかは甚だ疑問だが、ルイズがお願いすると鷹揚に了承してくれた、ようだ。
 なお、さすがにこんな相手にキュルケは情熱を感じる訳がなく、ギーシュは現在ケティと甘い一時を過ごしているというか、【竜王】に頼んで乗せていってもらうと知った時点で逃走した。現在は【竜王】と共に過ごしているのはタバサぐらいのものだ。……何でも、お願い事をしてあっさり叶えてくれた事から自分も彼に礼を返すのだと誓っているという。
 ずるい、と思ったが、【竜王】から「何を礼として差し出すつもりか?」と面白そうに聞かれての答えが、「私自身」と迷いなく応えた、それだけの覚悟の上だから応じたのだと言われては黙らざるをえない。というか、ルイズも既に自身の魔法についてアドバイスを貰っている以上、何も言えなかったのだが。
 何でも、自身の力を解放したいのなら、火土水風の四つのルビーのいずれかを指にはめ、始祖の秘法と呼ばれる始祖の祈祷書、始祖のオルゴール、始祖の香炉、始祖の彫像のいずれかに触れる必要があるのだという。そうすれば、この世界の虚無とかいう魔法が使えるようになるだろうよ、とあっさり言われたのだが、ルイズとてこの竜が相手でなければ信じられなかっただろう。
 幸いというか、アンリエッタから水のルビーを預けられた。
 これで、アルビオンにあるという始祖のオルゴールを触れさせてもらえれば……そう思ったから、ルイズがアンリエッタのお願いを聞いた時は二つ返事で引き受けたのだ。……むしろ、【竜王】に乗せてもらうようお願いする方が怖かったが。

 さて、ワルドだが、当人はあれこれ策を練っていた。
 偏在を事前にラ・ロシェールに送り込み、手はずも整えてはみたのだが、そんなものは出発して一秒後には崩壊していた。
 何しろ、羽ばたきもせず浮き上がった直後、彼らはレコンキスタとアルビオン王家の篭るニューカッスル城、その間に出現していたからだ。
 それこそ瞬間転移の如く、いや実際にしたのかもしれないが、瞬時に移動してしまっていた。
 当然、しばらくの沈黙の後、レコンキスタ側の戦艦からは泡を食ったように砲撃をかけてきたのだが……まるで効果がなかった。背にいる自分達でさえ。
 おまけにそれで終わらなかった。
 次の瞬間、レコンキスタの総帥であるクロムウェルが空を飛んで、【竜王】の前に引きずり出されたからだ。
 ……ニューカッスル城からもレコンキスタからもよーく見える空の上で。

 『成る程、お前が泥棒か』

 その言葉に、最初は誰もがこう思った。
 アルビオン王国を盗もうとしているという比喩かと。
 だが、そんなものではある意味済まなかった。

 『ラグドリアン湖とやらの水の精霊に聞いたぞ。死者を蘇生させ、人を洗脳する魔法の道具を盗み出したそうだな』

 死者の蘇生。
 それはクロムウェルが虚無と称していた力。 
 王家を攻める表向きの理由となっていた、そしてレコンキスタの求心力の一つが、何万人のど真ん中で思い切り公表され、失われた。

 『返してもらうぞ』

 クロムウェルの指から抵抗する間もなく、指輪がするりと抜けると、くい、と振った首に従い、指輪は一直線に水の精霊目指して飛んでいった。
 クロムウェル自身はそのまま下へ降ろされた、のだが……。
 さて、ここからが大騒動だった。
 指輪が失われた瞬間、蘇っていた貴族や兵士はまた死体へと戻り、更に洗脳されていた貴族達が一斉に正気に戻ったからだ。
 当り前だ。
 王家に忠誠を誓った者達だって大勢いた。
 そんな人間達さえ裏切ったからこそ、王家はここまで短期間にここまで追い詰められていたのだが……その裏切った理由が明らかにされた上に、それが解けてしまったのだ。
 そして、尚悪い事に、クロムウェルが降ろされた先なんて【竜王】は気にしていなかったが、そうした洗脳された貴族達が操られるままに陣を張る前衛のど真ん中だった。
 そう、魔法の使えないクロムウェルが正気に戻って、怒りと憎悪に満ち満ちた視線で彼を睨む貴族達のど真ん中に放り出されたのだ。……後はどうなったかなど考えるまでもあるまい。あっという間にクロムウェルは討ち取られ、更にこれを機に最後のチャンスとばかりにニューカッスル城から出撃してきた王党派、洗脳されていたとはいえ刃を向けた事を謝罪すると共にその分のお詫びはこの戦場でお支払いすると一丸となって突っ込んでいった本来は王党派だった者達。
 そして、旗頭を失い、領主達でさえ死体に戻ったりした為に大混乱に陥るレコンキスタ軍。
 ……せめて、戦艦がレコンキスタに付いたままだったら何とかなったのだろうが、ここで迷いつつ王家に刃を向けていた軍人達が一斉に立ち上がった。
 特に戦艦ロイヤル・ソヴリンが王家に味方すると逸早く宣言したのが大きく、ルイズとワルドが呆気に取られて上から見ている間に、あれよあれよという間にレコンキスタは壊滅して、僅かな貴族がかろうじて脱出する、という悲惨な結果に陥ったのである。
 それで冒頭に戻るが、ワルドはしみじみと自分の運の良さを実感するのだった。

 さて、その後はまた大騒ぎだった。
 そんな中で、ウェールズに会えたのは幸運としか言いようがないだろう。
 いや、クロムウェルの嘘を暴いてくれた【竜王】に王党派がこぞって感謝を露にしたのと、背に乗っていたのがトリステインはアンリエッタ王女から手紙を託されたヴァリエール公爵家の三女であるルイズだった事。
 同乗者がトリステイン王国の近衛であるグリフォン隊の隊長を務めるワルド子爵だった事。
 これらが合わさっての事だ。
 もっとも、手紙を託される前と現在とではまた大きく状況が異なる。
 何しろ、ワルドも事こうなればと全ての事情をぶちまけた為に、アルビオンがレコンキスタを打ち破った事を考えると同盟もそこまで必須のものでもなくなった。

 「ですので、もう一度改めて話し合いを行う必要があるでしょう」

 その言葉に、ある意味一番ほっとしたのはウェールズだっただろう。
 愛する女性が中年のおっさんとの政略結婚をしなくて済む可能性が出てきたというのだから、それも当然か。
 ルイズはこっそりと一部ぼかして事情を話し、始祖のオルゴールに触れさせてもらう機会をもらえたし、一晩泊めてもらった後は、別の意味で忙しくなりそうだった。


 その晩、ワルドは一人、城壁でふう、と溜息をついていた。
 自分の予定は全て粉微塵に砕け散った。
 視線の先には【竜王】の顔。

 「……全く、君は何でもあっさり解決してしまったな……どうせなら、私の悩みも解決してくれないものかな」

 『出来る事なら手を貸してやっても良いぞ』
 
 聞こえていないと思っていただけに、驚いた。
 とはいえ、折角の事だと思い、事情を話したのだが……しばし考えた様子を見せた【竜王】が告げた言葉は……。



[28159] 異伝:ゼロの使い魔5
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 03:00
「……と、とりあえず話を聞いてもらいたいんだが」

 『よかろう』

 かくかくしかじか。

 「……という訳でね。母が何故自殺したのか、聖地に何があるのか、と思ってね……」

 『ふむ……陰謀絡みなんぞは分からんからな……。
 うーむ、水の精霊の世界を水に沈めるというのはアンドバリの指輪を返却したからなくなっただろうし、聖地とかにある異世界への穴はあのままだと歪みを生じてただろうが、もう閉じてきたから大丈夫だろう。風の精霊力の暴走によるハルケギニアの国がアルビオンとやらと同様空に浮かぶとかその辺かなあ?』

 「ふむふむ……ってちょっと待ったあ!?」

 何の気なしに聞いていたが、とんでもない台詞がポンポン飛び出してくる。

 「何なんだ、それは!?大事ばかりじゃないか!!」

 『そうか?簡単に片付く事ばかりじゃないか』

 その瞬間、ワルドは咄嗟に悟った。
 最も、【竜王】に悪意も隔意も何もない。
 ここら辺は感覚の違いだ。
 例えば今回の事にしてもそうだ。【竜王】にしてみれば、そのすべては「ちょっと手を出せば、すぐ解決する」物事に過ぎないが、人からすれば「国を挙げて対処する必要がある」とか「国が総力を挙げても何とか出来るか分からない」といった事態になる。
 つまり……。

 (……こいつにとっては大した事じゃなくても、我々にとってはえらい事になるって可能性は多々ある。こいつはきちんと話を聞かないと……)

 その後、「これが一番手っ取り早いな」と感覚だけ時間を遡って飛ばされ、母の死の真相を知る事の出来たワルドは……分かりはしたが、酷く疲れを感じており、【竜王】の所へとやって来たルイズに心配される事になる。 
 
 

【その頃ロマリア】
 「教皇様……」

 「何かありましたか?」

 聖エイジス十三世はその内に野望を秘めている。
 と言っても彼の野望は人を苦しめる為のものではない。一人よがりな部分は間違いなくあるし、その為の混乱や犠牲も決して笑っていられるようなものではない。
 だが、それでも成し遂げねばならない事がある。
 そう思うからこそ、彼は策を巡らし、自らの願いを叶えるべく蠢動しているのだ。

 「はい、聖地を探っていた者からの緊急の連絡です」

 「……聞きましょう」

 真剣な表情になってヴィットーリオは自らの使い魔でもあるヴィンダールブことジュリオに向き直った。
 ヴィットーリオは若くして教皇の座に就き、改革を推し進めたが故に対立する派閥も多い。そうした中で、使い魔でもあるジュリオは数少ない心から信用出来る者の一人だ。
 ロマリオは既に腐り、神の国など名ばかりのものとなっている。
 それでも始祖の名の下に為すべき事を為さねばならない、その為には例えエルフと戦ってでも……。

 「聖地からエルフ共の姿がなくなった、との連絡です。どうやら全員引っ越したそうで……」

 「はい?」

 予想外の内容に思わず硬直したヴィットーリオだった。



【その頃ガリア】
 「ああ、我々は今度引っ越す事にした」

 「いきなり何だ、ビダーシャル」

 ガリア王ジョゼフ。 
 その彼の前に突然現れたエルフのビダーシャルの発言に、ジョゼフはさすがに「訳が分からんぞ」という顔で問い返した。
 確かに、いきなりやって来てそれでは何がどうなっているのかさっぱり分からない。

 「そうだな、そこ等辺は説明しておこう。……そもそも我々は好き好んで砂漠で暮らしていた訳ではない」

 「だろうな」

 昼はクソ暑く、夜は凍るように寒い。おまけに水も不便。
 彼らエルフは精霊魔法で何とかしていると言っても、逆に言えば精霊魔法がなければまともに暮らす事も困難な場所に、聖地奪還を上げるハルケギニアの軍勢と戦ってでも陣取っている。
 そこには当然訳があった。

 「これまで我々が砂漠にいたのは、お前達が聖地と呼ぶ場所にあった門、シャイターンの門を封じる為だったが、それを完全に閉じてくれた方がいてな」

 「ほう?」

 興味を持ったジョゼフはその門がどのような門かを聞いてみたが、「どちらでもいいだろう、どのみちもうない」との言葉に、彼が話すつもりもない、という事を悟り、話の続きを促した。

 「砂漠なんぞ、仕事でなければ暮らしたいもんじゃない。それでやっと解放されたんで若い者を中心にもっと暮らしやすい所に引っ越そうという意見が出てな」

 老人連中は今更引っ越しなど……という愛着もあったようだが、若い者にしてみれば「何でお役目も終わったのにこんな所で」と思うのは当然だろう。
 それに、老人達も全員が全員そんな意見な訳ではない。
 年を食ったし、もっと楽な所でゆっくり生活したい、と願う老人もいる。
 かくして、エルフ達は引っ越す事にしたのだという。

 「という訳だ。後の聖地とやらは好きにしてくれ。何もないがな」

 宗教上の聖地というものはそんなものでも構わない。祈る対象なのだから、問題はないだろう。
 そう思いつつ、一つ予定が狂ったな、と計画の修正をあれこれ練りながら、ジョゼフは問いかけた。

 「その閉じてくれた相手とやらが何者なのか聞いても良いかな?」

 「構わんさ。相手からも聞かれたら答えてくれて構わんと言われている。この間、アルビオンとやらに出現した【竜王】だ」



[28159] 異伝:ゼロの使い魔6
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 03:00
その後は大層大きな変動があった。
 半信半疑ながら聖地へと向ったロマリア軍偵察部隊は無血で聖地周辺を奪還(?)した。
 それはこれまでの聖地奪還の軍を上げてきたのが何だったんだ、と言いたくなるような呆気なさだったという。
 首を傾げつつも、ヴィットーリオは自身の目的となるものを探したのだが……何もなかった。
 これには大いに焦った。

 (もしや、エルフが持ち去った物の中に!)

 とも思ったが、エルフに喧嘩を売る理由がつけられない。
 これまでは聖地奪還!という大義名分があった。だが、それでは何を持ってどこぞに去ったエルフを探し出して喧嘩を売らねばならないのか?
 そもそも、エルフ達がどこに立ち去ったのかすら分からない。
 
 『彼らがまた来襲した時に備え、彼らの居場所を掴んでおかねばならない』

 そう説得し、ヴィットーリオはエルフがどこに消えたのかを探っていたが、その姿は全く発見する事は出来なかった。
 ……当然だろう。
 まさか、【竜王】の力まで借りて、彼らが海を渡り、我々の世界でいう所のアフリカから北米へと移動したなどと想像出来るはずもない。
 結果として、ロマリアの探索部隊は亜人だらけの聖地南部を多大な犠牲を払いながら進んでいく事になるのである。それが全くの徒労とも知る事なく……。
 せめて、南部に今後入植予定があるのならば、まだ多少は意味があっただろう。
 だが、そもそも現在のハルケギニアはまだまだ土地が余っており、ゲルマニアから東方に向えば、もっと楽に開拓出来る土地が幾らでもある。
 わざわざ海獣の生息する危険な海を越え、巨大な砂漠を越え、更に南部へと移住する人間がいるはずもない。
 後にこの探索で多大な犠牲を聖堂騎士団に出した事から、聖エイジス十三世の責任問題へと発展し、ヴィットーリオはその権力を大きく失う事になるのである。

 また、聖地も維持が大変だった。
 何しろ、それまでエルフの精霊魔法によって維持されていた土地だ。
 だが、エルフ達がいなくなり、当然精霊達も自然と本来あるべき姿へと戻っていった。……さて、砂漠で本来あるべき姿とはどのようなものだろうか?
 そう、砂漠そのものだ。
 人が生きるには過酷すぎる土地であり、聖地に当初は奪還を祝うムードから記念となる大聖堂を!という掛け声がハルケギニア全土にかかったものの、それを成し遂げ、維持するにかかる経費を計算した時、ロマリアの、というよりブリミル教の財務担当者は卒倒したという。
 ……おまけに、なまじこれまで何千年に渡って奪還を叫び続け、多大な犠牲を払ってきた上、ブリミル教の名を冠している以上、「お金がかかるから、維持とか諦めて放置します」という事は許されなかった。それだけはさしもの権力争いと金稼ぎにうつつを抜かす枢機卿や大司教らも理解出来た。
 ハルケギニア各地からの熱心な信徒からの寄付、これまで教会が溜め込んできた莫大な資産。それらを駆使して何とか大聖堂の建設にはそれからうん十年をかけて建設したものの、それだけでは終わらない。
 その土地に滞在する高位の神官を誰を配置するかでまた一騒動。おまけに危険な亜人や魔物もいる為に、そこを護る為の軍隊の駐留とその維持経費に、周辺が砂漠だけに不足する食料と水……。
 そして、彼らをして厄介者と言わしめたのが熱心な巡礼者だった。
 何しろ、巡礼者が来るという事は、「大丈夫、駐留してますよ」と口先だけで述べておいて、大聖堂を建設しないとか、常駐する人間を置かないといった真似が出来ない上、彼らが来れば当然、極めて貴重な食料だの水だのを粗末なものではあっても提供せざるをえない。
 貴重だからと高値で売りつけていたら、それこそ教会の面子に関わる。
 たかが面子、されど面子。
 結果として、その莫大な負荷故に、ブリミル教は大きく各国への、その影響力を落としてゆく事になる。
 聖地奪還に成功した事が、皮肉にもブリミル教凋落の原因となったのである。 

 ……そして、ヴィットーリオは次第に精神的に追い詰められていった。
 多大な出費、多大な犠牲、ブリミル教内部から噴き上がってくる不満と反抗、見つからぬエルフ、次第に迫っている(と当人は思っている)ハルケギニア全土の大隆起。
 特に最後はなまじ聖地を押さえただけに誰にも言えなかった。
 これまでは「聖地を奪還すれば!」という分かりやすい掛け声があった。
 今は、「エルフを探し出し、交渉せねばならないのです!」となる。
 それでは民衆は受け入れてくれるはずがない。
 だからこそ、ヴィットーリオはその全てを自身の内に抱え込み、ごく僅かな側近と憔悴しながら語るしかなかった……。
 この時、【竜王】が既にその事は解決済みな事を彼に語らなかったのは別に意地悪ではない。
 【竜王】は知らなかった。
 もし、ヴィットーリオが【竜王】に協力を頼めば、砂漠の緑化はともかく大隆起に関しては教えていただろう。そうなれば、犠牲者を減らす事も、そちらにかける金を他へと回す事も出来たし、精神的にも随分と楽になっていだろう。
 ……だが、結果から言えば、ヴィットーリオは聞けなかった。
 彼の立場というものもある。
 如何に使い魔(表向きだけは)とはいえ、教皇という地位にある彼がわざわざ足を運ぶ事は出来ない。そもそも【竜王】に何とか出来る事とも思っていなかった。
 彼の腹心たるヴィンダールブ、ジュリオが自らの力で【竜王】を手に入れようと密かに赴いた事もあったのだが、結果から言えば完璧に無視されて、肩を落として帰ってきたのも大きかった。
 そうして、ヴィットーリオは最後は発狂、自殺する事になる。
 表向きは「急病」により、本来ならば歴史に名を残したであろう教皇聖エイジス十三世はこうして、逆に歴史に汚点としての名を残し、世を去ったのであった。



 そうした、面子や何やらで会いに行けなかった者がいる一方で、大国の王でありながら自らの足を運んだ者もいた。
 
 「おお、お主が【竜王】か!お初にお目にかかる、私はガリア王国国王ジョゼフという」

 アルビオンでの一大騒動が終わり、トリステインへと、学院へと戻ったルイズ達。
 彼らの前に、ジョゼフが姿を現したのは、ようやく周囲が落ち着きを見せ始めた、そんな折だった



[28159] 異伝:ゼロの使い魔7
Name: じゅっ◆8bd2907f ID:7a06cda0
Date: 2012/11/27 03:01
 さすがに硬直しているのはルイズだ。
 確かに如何に始祖直系の三王国、その一角を占めるトリステイン最大の名門公爵家の人間といえど、ルイズは別に当主でも次期当主でもなく、三女であり学生。
 それでも周囲の者よりはまだマシだろう。
 そこ等辺はアンリエッタというトリステインの王女が幼い頃の共にいたのもあったかもしれない。
 一方、他の面々はといえば、さすがにキュルケも引きつった顔で一歩下っているし、ギーシュなどは言うに及ばずといった様子だ。
 ちなみにガリア国王を迎えるのにそれなりの形をとらねばならない事から、学園の生徒全員がこの場には揃っている。
 タバサはさすがに相手が相手なので物怖じしている様子はないが。
 本音を言えば、ルイズとてこの場からさっさと逃げたい。それは他の生徒達も同じだろう。
 だが、そうはいかない。
 ルイズは目の前のガリア王ジョゼフが魔法学院までわざわざやって来た理由が目前の【竜王】にあるのだと理解している以上、そして彼女が学院でだけ通用する名目上とはいえ表向きは【竜王】を使い魔としている以上、この場にいなければならない。
 おまけに、ジョゼフが魔法学院にやって来た表向きの理由が伝統あるトリステインの魔法学院の視察及び生徒との交流となっている為、他の者も逃げるに逃げれない。
 
 『ほう、ガリアの王とやらか。しかし、変わった心を持っているな』

 「ほほう、どう変わっているのかね?」

 『必然であった事を悔いて、その結果、心を凍らせているな』

 その瞬間、ルイズ達周囲の人間は空気が変わったように感じられた。
 何が変わった、という訳ではない。
 だが、確かに【竜王】とジョゼフの間に漂う空気は変わった。
 
 「何を必然とする?」

 『君が弟を殺した事だ。どのみち、弟御が王につけば君を暗殺せざるをえなかっただろう。どちらかがどちらかを殺さねばならなかったのだ。悔いる必要もあるまい』

 ぎしり、と空気が凍ったような音がした、ような気がした。
 タバサは目を見開いている。
 ジョゼフが父を殺した、というのは想定内だっただろうが、父が王となっていれば父が目の前のジョゼフを殺していなければならなかったとはどういう事なのか、そんな所か。

 「ほう、どうしてそう思うのだ?」

 『君が王につけば、表向きは次期王の座を争える程に人望を集める弟御を放置は出来ぬ。国の不安定要因である以上は、君達が王家の住人である以上は君は弟を殺さねばならぬ』

 そう、それは事実。
 シャルルが生きている限り、例え臣下となろうとも彼を支持する貴族達の存在が、そして彼らの立てる旗となる存在である以上、不安定要因として残り続ける。

 『逆に弟御がついていようが、その時は長兄である事を理由に君を支持した貴族が不満を持つだろう。やはり不安定要因となる。その結果は同じ事だ』

 そして、それもまた事実。
 二人の王子を支持する貴族で国が割れていた以上、どちらが王となろうが、例えジョゼフがシャルルに王位を譲ろうが、何時かは行わねばならない。
 どちらかが王位継承権を放棄しても、その子が火種となる。
 結局、彼らが王家である以上は、殺し合いは必然であった。
 貴族とはいえ、ここにいる子供達はまだそこまで陰湿な争いに関わっている者は、少なくとも表向きはいない。
 だからこそ、『どちらかが死なないといけない』という言葉に顔を強張らせていた。 

 『まあ、殺すに至った理由に関しては考えの余裕が足らなかったというべきか』

 「ほう?それは?」

 『簡単な事だ。お前の弟が次の王に指名されていたとしたら、お前はどうした?悔しがって喚き散らしたか?』

 その言葉にしばらく考えるような素振りを見せたジョゼフは、間もなく俯いた。
 周囲の人間がどうしたのか、とうろたえる中、いや、一人シェフィールドだけが我が主に何をしたのかと【竜王】に怒りの視線を向ける中、それを打ち破ったのはジョゼフの笑い声だった。

 「は、ははははははははッ、そうか!そういう事か!確かに間抜けにも程があるな、私は!」

 今こそジョゼフにも理解出来た。
 もし、シャルルが次の王に指名されていたとしたらどうだっただろう?
 自分は【竜王】の言うように喚き散らしてただろうか?
 そんな訳がない。
 きっと自分は内心で腸が煮えくり返りながら、けれど表では弟を祝福し、祝いの言葉を述べただろう。
 意地でも弟に悔しがる姿など見せたくなかったに違いない。
 ……そして、それは弟も同じだっただろう。
 それがジョゼフにはよく理解出来た。何の事はない。自分が指名された時のシャルルのあの態度は単なる鏡写しの自分の姿ではないか。それに怒りを覚えるなど何と馬鹿馬鹿しい!

 『どのみち王に、いや国の運営に魔法なぞ大して必要ないのだ。お前が卑下する必要もあるまい』

 この言葉には、だが周囲から鋭い視線が突き刺さった。
 が、ぐるりと視線を【竜王】が巡らせば、その視線に抗して睨み続ける事が出来る者など皆無だった。

 『王の務めに、いや政治に魔法を使う場面などどこにあるのだ?』
 
 そう問われて、しばし考えていたジョゼフはだが、あっさりと言った。

 「ないな。そんなものは」

 ぎょっとしたのは周囲の貴族であるルイズを初めとした面々だ。
 否定したのはガリア国王ジョゼフ。
 このハルケギニアにおいて、最大の国家のトップに立つ男だ。その男が統治に魔法を不要と断言した。【竜王】を睨んでいた貴族の子供もいたが、全員が今はジョゼフに注視している。
 
 「そうだな。確かにその通りだ。王が魔法を使わねばならぬ状況など、いや、上に立てば立つほど国を動かすに魔法は不要か」

 軍ではどうだろう?
 王が、将軍が魔法を使わねばならぬ状況などごく僅かな例外を除けば負け戦だろう。
 そうならないよう采配を揮うのが彼らの仕事だ。
 政治はどうだろう? 
 土木工事にせよ、治水工事にせよ、或いはその他の魔法が必要な状況があれば、それを命じれば良い。上に立つ者が実際に魔法を使ってみせるなど所詮パフォーマンスの類でしかない。
 
 結局、ジョゼフはその後、【竜王】から少し語られた後一時姿を消したが、現れた後、実にはればれとした顔で帰っていった。
 無論、消えた時、護衛の人間やら何やらは大騒動になったのだが結局、問い詰めた人間も全員がちょっかいを出した攻撃すら【竜王】に完全無視され、疲労した所へジョゼフが帰ってきたのだった。
 帰り道、ミョズニトニルンはジョゼフに尋ねた。

 「どちらへ行かれていたのですか?」

 「なに、ちょっとブリミルに会って来ただけの事だ」


 
 そして、その夜。
 【竜王】は空を見上げていた。
 
 (干渉しすぎたな)

 これ以上はこの世界に干渉するのはよろしくない。
 そう判断した【竜王】は翌日ルイズに告げた。

 「帰る!?」

 『うむ』

 まさかそんな事を言われるとは思わず、仰天した声をルイズは上げた。
 どうやって帰る気かと問い詰めたが、いともあっさりちょっと次元の壁を越えるだけだと言われて眩暈がした。
 どうも、目の前の相手には世界の壁なぞ薄紙も同然らしい。
 じゃあ、自分の使い魔はどうするのかと思いきや、一体の竜を呼び出した。

 『あ、大将。おひさしぶりやなあ』

 そう語った竜は事情を聞くと、それを受け入れた。
 当人曰く、暇だし、狩りの獲物も多そうだし。という事だった。自然が多いのも気に入ったらしい。
 ルーンのみを受け渡して【竜王】の帰還を見送った後、両者は挨拶を交わした。
 
 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

 『長い名前やなあ。ルイズでええか。わいは祖竜ミラ・ルーツと呼ばれとった』

 そう純白の竜は空気のより美味いこの世界で傍からは獰猛に、当人としては愛嬌たっぷりに笑った。
 そして、彼らはまた新たな物語を紡いでゆく。



【SIDE:竜王】
 うーん、簡単に片付くからって手出しすぎちゃダメだよなあ。
 いかんいかん。反省しよう。
 あれぐらいの事なら、あの世界の人達でも簡単に出来るよね。うん。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.036932945251465