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[25529] 【チラシの裏から移動】蒼神/人舞(GOD EATER×ワンピース)
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/11/26 22:33
【注意】
 この作品は作者の妄想でできています。
 【擬人化】【主人公強め】【クロス】【ヤンデレ】【グロテスク表現】【凌辱】【蹂躙】【狂気】【変態淑女】が嫌いな方はご注意ください。



 ・11/26第一回改訂



[25529] プロローグ
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/01/20 00:14
「な、何だこいつは…!」
「まさか、新種か!?」

 捕喰妨害対象を確認。現在捕喰中の物体、通称「コンクリート」の捕喰を一時中断。最捕喰妨害対象、通称「ゴッドイーター」の捕喰開始。

「く、くそ!散れ、固まってたら一網打尽だ!」
「りょ、了かグエッ!」

 ゴッドイーターAを左腕ブレードにて無力化に成功。捕喰行動に移行する前に、ゴッドイーターB、C、Dの掃討を推奨―――受諾。

「ダレット!クソ、速い!ここは俺が引きつける。お前たちはアナグラへ帰還し、この新種のことを伝えろ!」
「で、でも隊長!」
「でもも勝手もあるか!とっとと行け!心配すんな、俺もすぐ行く」
「…了解」
「タクマ、お前隊長を見捨てウッ!」
「いい判断だ、タクマ。クラースを頼んだぞ」
「…すでに救援要請はしてあります。どうか、それまで持ちこたえてください」

 ゴッドイーターB、C戦線離脱。個体情報漏洩の可能性97%。最優先消去推奨―――受諾。行動開始。

「おっと、行かせるかよ。折角のタイマンだ、仲良く戦ろうぜ?嫌でも付き合ってもらうけどな!」

 ゴッドイーターDの妨害。行動変更。ゴッドイーターDを排除したのち、B、Cの消去に移行。

―――行動開始。



「――――」

 消去完了。ゴッドイーターB、Cロスト、追跡不可。
 捕喰行動へ移行。ゴッドーターA、D―――捕喰開始。





「全身青く輝く外骨格に翼型のブースター、左右の腕のブレード…間違いない、あれがターゲットね」
「うわ、ゴツ!旧時代のロボットアニメに出てきそう」
「何言ってんですか任務中に。ドン引きです」
「はいはい喧嘩しない。…外見的にはアラガミ化した俺に似てるな」
「はい。ですが、違うところも多く見受けられますので、ハンニバル種と同様と考えるのは軽率ですね。ただ、攻撃方法や特性が未知の敵ですので、対ハンニバル種の戦法をベースに、臨機応変な戦闘を行います」
「ん。いい判断だ。後輩が成長した姿を見るのは嬉しいもんだ」
「ありがとうございます。―――ミッション開始!」

 聴覚に反応あり―――個体数4。個体すべてに本体と同種の反応あり。ゴッドイーターと確定。現在までの36回の戦闘と同様に、全個体無力化後に捕喰行動に移行。
―――行動開始





「グッ…強い。でも…」

 背部ブースター結合崩壊。『インキタトゥスの息』出力低下。
 左右ブレード結合崩壊。斬撃範囲大幅減少。
 頭部装甲結合崩壊。頭部防御力大幅減少。
 オラクル細胞結合崩壊寸前―――コア露出の危険性特大。

「これで―――」

 左右ブレード展開。挟撃―――攻撃対象上空へ回避。攻撃失敗。

「終わりだーーー!」

 回避行動不可。対象の攻撃を受けた場合のコア露出可能性―――100%

「―――え?」

 本体真下に正体不明の『穴』が出現。ブースター損傷、ダメージの蓄積により脱出行動不可。
―――落下開始。





「ゲハハハハ、野郎ども!今日はご苦労だった。見ろ、この金銀財宝の山を!これでしばらく遊んで暮らせるぜ!」
「イィィィィヤッホォォォォォ!!」
「さっすが賞金アベレージ300万ベリーの東の海で800万の懸賞金が掛かってる男、『強奪のアルフレッド』!」
「ゲハハハハ、しかも、今回はここにある財宝よりも価値があるものも手に入れた!見ろ、これが伝説の『悪魔の実』だ!」
「あ、悪魔の実!?おとぎ話じゃなかったのか?」
「あの文様…た、確かに図鑑に載ってた通りだ」
「食せばカナヅチになるのと引き換えに異能を手に入れられる伝説の実、俺は…今ここで喰うぜ!」
「お、おお!愛用のハンマーで岩をもブチ割る船長がさらにパワーアップすんのか」
「ますますアルフレッド海賊団は無敵になるんですねー、船長!」
「応ともよ!テメェらが5つ数えたらこの実を一口で喰ってやるから大声で数えろや!」
「了解でさ!5!」

 落下中―――視界回復。視認できる範囲に敵生体反応無し。

「4!」

―――聴覚回復。未知の音声を確認。

「3!」

―――大気成分に大幅な変化あり。データ照合中―――照合完了。約1000年前の『地球』の成分とほぼ一致。

「2!」

―――損傷状況確認。ブースター損傷率82%、左右ブレード損傷率62%、頭部装甲損傷率73%、総合損傷率78%。早急に捕喰行動を行い、オラクル細胞結合修復の必要性あり。

「1!」

―――100m下方に生体反応。個体総数34。戦闘力微弱。ゴッドイーターとは別種と判断。それら全てを捕食した場合の予測修復率3%。早急な修復を優先し、捕食行動を推奨―――受諾。

「ゼ―――」

ズダァン!

「な、なんだぁ!?」
「船長!空から女の子…じゃなくて、なんか落ちてきました!」
「あん?…なんだこりゃ、生き物…なのか?」
「ボロボロっすね。でも、なんかキラキラ光ってて、高く売れそうっすよ」

 落下終了。態勢の立て直しを実行。

「た、立った!クララ…じゃなくて落ちてきた化け物が立った!」
「うろたえるな!アルフレッド海賊団はうろたえない!全員武器を取れ。この傷から見て、奴は死に損ないだ!トドメを刺して、売っ払ちまうぞ!」

―――行動開始





「な、なんなんだテメェは…?」

3秒前の斬撃による損傷―――0。

「お、俺のクルーを全員…全員喰っちまいやがって!ば、化け物め。こ、こっちくんな!くるな、くるな、くるなァァァァ!」

―――捕喰開始。



 敵生体反応0。修復率約2.4%。引き続き周囲の物質の捕喰により、修復を継続。
―――足元に植生体反応あり。視認完了、データ照合―――完了。約1000年前の『地球』に存在した果実『リンゴ』に酷似。ただし、表面にある文様に該当するデータなし。
 修復を最優先とし、捕喰を推奨―――受諾。

―――捕食開始





「―――?」

 周りを見渡す。澄み切った空、白い雲、照りつける太陽。ここに落ちてきたときと何も変わらない景色。
私が今乗っているものは『船』。だが、私が【発生】した場所の船とは全く異なる。そう、これは中世と呼ばれた時代の、木造帆船だ。
甲板は血で真っ赤に染まっているが、死体はない。私が捕喰したからだ。

 ここまではいい、私の記憶に間違いはない。私が思考しているということ。これもまた問題はない。
 問題は、私が【それを自覚している】ということだ。
 本来、私、つまりアラガミ―――ゴッドイーターたちの間での名称。今後、私を表す名称として使用する―――はそのような意識を持たない。考えはするが、何故?という疑問は持たないのである。まあ、アラガミは個体差が激しいので例外はありそうだが。
 そして、さらなる問題がもう一つ。

「―――これは…『人間』か?」

 船室の一室に掛かっていた鏡を覗き込むと、そこに映っていたのは捕喰対象であるはずの『人間』だった。
 膝の裏まで伸びる長く、青白く輝く髪。掴まれればたやすく折れそうな細い肢体。軽く小突かれただけで貫かれそうな雪のように真っ白い肌。他部の細さとは対照的に盛り上がった胸…はっきり言って邪魔だ。

「人間の中で半数を占める個体。たしか、女だったか?」

 何故このようなことになったのか、思考する。
 やはり、あの実が怪しい。何かしら情報がないか探してみるか。

 船内を徹底的に探し回ると、一冊の本を見つけた。先ほど捕喰した人間から、言葉や文字は学習済みなので、読みは問題ない。

「タイトルは…『悪魔の実図鑑』」

 悪魔の実…確かにあれは果実の形をしていた。なにかしら関連性はあるかもしない。

「………あった。『動物系 ヒトヒトの実 モデル:ウーマン』」

 ウーマンとは、女性という意味だったか。悪魔の実とは泳げなくなる代わりに食したものに異能を与える果実。動物系はその中でも姿を変化させる特性を持つとある。間違いないだろう。
 さしあたって問題は―――

「元の姿に戻れんということだな」

 これでは身体の修復どころではないな。まずはきちんと形態変化できるようにならねば。

「とりあえず、捕喰した海賊からこのあたりに町があることは学習した。そこで情報を集めるか…服は、どうするか」

 どうやら、人間の女は服を着ないといけないらしい。面倒なことだ。だが、先ほど捕喰した中に女はいなかった。仕方ない、適当に男の服を着るか。

―――30分後、船長室で女物の服を発見した。ついでにかつらと化粧道具も。

…深くは考えないことにした。



[25529] 第1話 ウソップ海賊団入団
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/01/22 15:55
甲板に寝ころび、青い空とフヨフヨと空を漂うように飛ぶカモメを見つめる。
 あの鳥とて、前の世界では当の昔に絶滅した生き物だ。
 やはり、私がいる世界は、過去なのだろうか?

「…違うな。少なくとも、『悪魔の実』などという奇怪な植物が存在したことはない。現在も、そして過去にも」

 アラガミは『地球』より発生した抗体ともいえる生物だ。今まで自覚がなかったが、『地球』が生まれてから、あの荒廃した世界となるまでに生まれ、滅んでいった全ての生物の知識を私は持っている。
 おそらく、これは原初の記憶。私が『地球』の分身である証。

「極めて中世の『地球』に近い別の星、というのが一番近いか。どうしてそんなところにやってきたかは全くもって不明だが」

 ため息を一つ。いっそ、自意識などなく、元のままの抗体でいられればここまで悩まずに済んだものを。
 …しかし、この服とやらはえらくムズムズする。人間たちがワンピースと呼ぶ布を一枚着ただけだというのに、今すぐ裸になりたいくらいだ。これなら、同類の皮を剥いで纏った方が幾分かましだ。

「天候は快晴。風向き、風速も理想的。湿度等から判断してもしばらくはこの天気が続く。あと2、3日といったところか」

 現在、私は捕喰した船員から得た情報に従い、村がある島に向かっている。航海の仕方等は学習済みだ。

「情報を得るには捕喰が一番手っ取り早いんだが…」

 情報を得るだけなら、島に着いた直後に村を襲い、村人を全員捕食してしまえばいい。これが最も効率的だ。
 だが、ヒトヒトの実という悪魔の実を食べ、自我というものを得た私は、あるものに飢えていた。

「コミュニケーション、対話、か。まあ、失敗したら喰ってしまえばいいし、やるだけやってみるか」

 島が見えたのはそれからちょうど2日後のことだった。





「みんな大変だー!海賊が攻めてきたぞー!」

「―――?」

 島近くの沖合で船を乗り捨て、小舟で島に近づくと、素っ頓狂な叫びが聞こえた。
 私が乗ってきたのは確かに海賊船だが、島からは確認できないところに乗り捨ててきたはずだ。というか、こういう風に騒がれないように態々遠くで乗り捨ててきたんだが…無駄だったか?
 まあ、無駄なら無駄でいい。最悪の場合でも、きちんと情報は得られるしな。

手頃な海岸を見つけたので、小舟をつける。
左右はちょっとした崖になっており、木が密生している。林、か。前の世界ではついぞ見ることはなかったが。
また、真正面には勾配のきつい坂がある。坂の上に陣取れば有利に戦えそうな地形だ。

「さて、まずは人間の村がどこにあるかだが…」

 アラガミは視覚、もしくは聴覚で対象を捉える。視覚または聴覚がずば抜けて鋭い策敵型、偵察型のアラガミもいるが、残念ながら私はそうではない。

「まあ、今はただの人間に限りなく近いしな。仮に索敵型でも感度は著しく落ちるだろう」

 自分の足で探すしかないか。まあ、これも一興。



しばらく道なりに歩くとあっけなく村は見つかった。

「もう少しくらい、冒険がほしかったな…ん?」

 少し前にある木の上になんか鼻の長い生物が見える。

「プークックックック、今日も俺を捕まえられないでやんの。ほんと、大人はとろいなぁ」
「おい」 
「ウギャーーーーッ!」

ドスン!

 あ、勝手に驚いて頭から落ちてきた。

「お、俺は工藤…じゃなかった。キャプテン…う~ん…」

 そのまま気絶。

「…一応、面倒見てやるか?はあ、ファーストコンタクトが長鼻の生物(なまもの)の介抱なんて…最悪だ」

 村が近いので、そこでもいいのだが、最初に人間との会話に慣れておきたいので、人目につかないところで介抱するとしよう。
 長鼻を背負うと、先ほど見つけた森の中の小さな泉へと向かった。



「犯人はお前だ!」
「やかましいわ」

意識を取り戻していきなり意味不明なことを言い出した長鼻の額にビシ!とチョップを決める。
前だったら頭から真っ二つなんだが…ここまで弱体化したのか、私は。

「いてぇ!って、お前誰だ!?」
「私?私は………誰だろう?」
「オイ!」

 今度はビシ!と長鼻に手の甲でツッコミを入れられた。…なんでツッコミの知識が原初の知識にあるんだ?

「誰だろうって、名前とか、なんでここに来たとか、どうしておれをプ二プ二して柔らかい膝で膝枕してくれているのかとかあんだろ」
「もう大丈夫そうだな。どけ」

ゴン!

「いてぇ!いきなり膝抜くな、後頭部強打したぞ!まあ、冗談はこのくらいにしておいて、ほんとにあんた誰なんだ?」
「ふむ、私は…」

 さて、何からこの長鼻に言うべきか。真正直に「私は人喰いです」とは言えんしな。
 名前とここへ来た理由を適当に考えて答えるか。

「…カリギュラ。カリギュラという」
「カリギュラ?ずいぶんと変わった名前だな」
「そうか?私は特に疑問には思わなかったが…」

 第一種接触禁忌アラガミ『カリギュラ』
これが人間たちが私につけた個体名。残虐で狂気に溢れていたといわれる暴君の愛称から付けられているらしい。
特に思い入れはないが、ずっと呼ばれていた名前を変えるのも何かしっくりこないので、そのまま名乗った。

「ここから遠い村で海賊に捕えられてな。なんとか逃げ出し、この島に辿り着いたんだ」
「何!?じゃあこの近くに海賊が!?」
「いや、この近くにはいないはずだ。何せ脱走したのが嵐の夜だったからな。どうにか奪った小舟は転覆しなかったが、かなり流された。少なくとも、このあたりは奴らの縄張りではない。安心しろ」
「その割には元気だな?血色もいいし」

 ム、こいつ間抜けかと思ったら結構鋭い。…やはり喰ってしまうべきか?
 いや、まだコミュニケーションという未知の体験は始まったばかりだ。もう少し様子を見よう。

「幸い、漂流してからそれほど日にちは経たずにこの島にたどり着けた。それに、私は【夜鷹】として売られる予定だったからな。食事や健康には気を使われていた。変な病気をしたら価値が下がる」
「よ、夜鷹って、つまりその…」
「男と寝る商売をする女のことだ」
「ストレートすぎるわッ!」

 回りくどく言うよりは早く話が進んでいいと思うんだがな。

「まあ、私に関してはこんなところだ。で、お前は自己紹介してくれないのか?」
「お、わりぃわりぃ。海賊のことで頭がいっぱいだった。―――ゴホン!おれの名はウソップ!誇り高き海の戦士にしてこの村に君臨する大海賊団『ウソップ海賊団』の船長だ!人はおれを称え、“我が船長”『キャプテン・ウソップ』、さらにその誇り高さから『ホコリのウソップ』と呼ぶ!」
「………」
「な、なんだよ、そんなにじっと見つめて。い、言っておくが、う、嘘じゃねぇからな!」
「誇り、とはなんだ?」

 『誇り』―――原初の知識の中にも、今まで捕喰で得た知識の中にも、なかった言葉だ。

「…え?」
「誇りとはなんだ?初めて聞く言葉だ」
「誇りっていうのはだな…そう、『絶対に譲れないもの』だな」
「絶対に譲れないもの?そんなものがあるのか?どんな物であろうとも、強大な力によって奪われるものではないのか?」
「ハッ!わかってねぇなぁ~、カリギュラ。いいか、『絶対に譲れないもの』ってのは物じゃあねぇんだよ。言葉にすんのは難しいが、これだけは絶対にしない、これだけは絶対に守る、とか、そういう『心』に刻まれた誓いのことだよ」

『心』―――これも知らない言葉。

「『心』?心とはなんだ?」
「おいおい、勘弁してくれ。これじゃあ堂々巡りだ。おれだって何もかもを知っているわけじゃねぇし、まして、言葉になんかできねぇ」
「そうか………」

誇り、心、誇り、心、ホコリ、ココロ、ホコリ、ココロ………

―――『誇り』および『心』の精細なデータを取るため、対象の捕喰を推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――却下。推奨―――受だk

「そこでだ!『誇り』と『心』がどんなものかお前が理解するために、特例としてウソップ海賊団に入団を許可する」
「…え?」
「カリギュラ団員、返事はハイだ。次にそれを破ったら『足の裏コチョコチョ30分の刑』に処す」
「…ハイ、キャプテン」
「ウム!よろしい!」

 …かなりまずかった。アラガミとしての捕喰本能と知識欲が自我の抑圧を超えて解放されかかった。今の私は非常に不安定ということか。折角捕喰では学習できない知識を学ぶ機会を得たのだ。以後気をつけねば。





 その後、村に行き、事情を説明して村に置いてもらえることになった。虚偽の話ではあるが、海賊にさらわれて、逃げてきたという私を村の住人達は快く迎え入れてくれた。ウソップ海賊団に入った以上、全員捕喰という選択は取れなかったので、好都合だ。
 住む場所に関しては、『誇り』と『心』について学ぶため、キャプテン(以後、ウソップのことをこう呼ぶ)の家に宿泊したかったのだが…

「絶対にだめです!ウソップさんも男の人なんです!こんなに綺麗な人と一つ屋根の下にいたら必ず間違いが起こります!だってウソップさんのベッドの下には(以下検閲削除)」

 村の富豪の跡取り娘―――確かカヤとかいったか―――に猛反対され、最終的にカヤの屋敷に客人として滞在することになった。キャプテンの話ではかなり病弱とのことだったが…
 とりあえず、カヤの発言によって、社会的に抹殺されたキャプテンの精神が早く回復することを願う。

それから―――

「こいつらがウソップ海賊団のメンバーだ!おい、お前ら、新入りに挨拶してやれ!」
「あ、え、えと、ぼ、ぼくたまねぎです!」
「お、おれはピーマン!」
「お、おおれはにんじん!」
「はじめまして。ウソップ海賊団の新入り、カリギュラだ」
「なんだなんだお前ら。顔が真っ赤だぞ~?」
「だ、だってこんな綺麗な人初めて見ましたよ!?もう身体のパーツからして違うって感じ!」
「どーやってこんな綺麗な人入団させたんですか!?弱み握って脅したんですか!?」
「ウォーイッ!テメェはおれを何だと思ってやがる!誇り高き海の戦士はそんなことは絶対にせん!」
「じゃー、どーやったんですか?」
「フ、惚れさせたに決まってんじゃねぇか」
「とりあえず死ね」
「ギャー!キャプテンがジャーマンスープレックスの餌食に!」



「海賊が来たぞー!早く逃げろー!」
「早く逃げないと男は生きたまま生皮を剥いで皆殺し。女は○した後、○○○として飼われてさらに―――」
「「「やめてくださいカリギュラさん!」」」



「さっすがキャプテン!パチンコ百発百中!」
「ふふ~んどんなもんよ、カリギュラ」
「どんなタマナシでも取り得は1つくらいあるものだな」
「そろそろ本気で泣くぞコルァ!」



「カ、カリギュラさん。本当にウソップさんのことは何とも思ってないんですね?」
「…少なくとも、カヤの言う男女の関係、とやらの気持ちはかけらもないな。私がキャプテンといる理由は他にある」
「そ、そうですか。よかった」
「―――?」



「ムグムグ…」
「おおー、さすが我がウソップ海賊団期待の新星!定食屋の『超特盛りカジキ丼30分以内に完食で賞金5000ベリーをゲットしろ作戦』も完了間近だ!」
「…喰い終わった」
「「「さっすがカリギュラさん!口だけのキャプテンとは違う!」」」
「ウォーイ!テメェらおれだってたまには………すいません、いつも口だけでした」
「もう一杯くれ」
「「「「さ、再チャレンジだとーーー!」」」」
「あ、あの細い身体のどこに入ってんだ?」
「見ろ、店主泣きながら作ってるぞ。だからあれほど再チャレンジ禁止にしとけって言ったのに」



「『動物系悪魔の実 変身のメカニズム』…これか」
「失礼いたします、お茶をお持ちいたしました。今日も性が出ますね、カリギュラさま」
「メリー…さん。私は何の知識もなく、この海に投げ出された。少しでも多くのことを知っておきたい。いずれ、帰るために」
「そうですか…貴女が来てからカヤお嬢様はとても元気になられた。出来ればこの村に居を構えてくれると嬉しかったのですが。貴女の意志なら、しかたありませんね」
「私はカヤに何もしていないが?」
「お話のお相手になってくれいるじゃありませんか。ウソップ君は男性ですし、使用人にはカヤお嬢様と年齢の近いものはおりませんからね。話し相手が増えて、カヤお嬢様も嬉しいのですよ」
「…よくわからない」
「はは、そのうちわかるようになりますよ」



「あ、クラハドール」
「おお、カヤお嬢様。今日はお出かけですか?」
「うん!お医者様も体調が安定しているから外へ行ってもいいって」
「ふふ、これもお隣にいるカリギュラさまのおかげですね」
「ええ!さあ、行きましょう、カリギュラさん」
「………ああ」
「………お気をつけて」



「なあ、服脱いでいいか?」
「「「「オールOK!」」」」
「なにアホなこと言ってるんですか、ウソップさん!」
「「「ギャー!キャプテンがスコーピオンデスロックの餌食に!」
「なんかチクチクして嫌なんだよ。本当だったら、下着一枚でも嫌なくらいだ」
「何言ってるんですか、カリギュラさん。女の子なんですから、しっかりおしゃれしないと」
「興味ないしなァ…」
「駄目です!カリギュラさんは最高の素材を持ってるんですからもっと―――」
「カ、カヤ…し、死ぬ…これ以上は、ほ、本当に死…ぬ…」
「「「キャ、キャプテーン!」」」



―――あっという間に1ヶ月が過ぎた。

「総損傷修復率は10%というところか。まあ、これの修復を最優先でしたしな」

 現在、私の左腕は青白く輝く装甲に覆われ、手首から伸びた特徴的な突起物の中には鋭利な3本のブレードが収納されている。まさに異形。これこそ私の本来の左腕。
 収納されたブレードを瞬時に展開し、左腕を一閃すると、目の前の木が真っ二つに斬れる。

「左腕ブレード修復完了。これで最低限の攻撃は可能か」

 1ヶ月の間、私はキャプテンたちと遊んでいただけではない。カヤの屋敷の本を読み漁り、この世界の歴史や航海術、そして悪魔の実についての知識を増やしていた。

「しかし、捕喰以外での知識の獲得がここまで面倒とはな。『これ』で喰えば一発なのに」

 左腕に力を込めると、青白く輝く装甲とブレードが、巨大な顎門(あぎと)に変わる。
 元々人間形態のままでも、捕喰は出来たが、如何せん口が小さすぎるため、捕喰に時間がかかる。
 そこで、ゴッドイーターたちの捕喰方法を採用することにした。

 左手の顎門を先ほど切断した木に喰いつかせるとギャブリと音を立てて、文字通り根こそぎ抉り喰った。

「捕食行動に問題はない。後はこれを繰り返して修復を行えば良いな。だが、動物系悪魔の実の3形態への移行はほとんどうまくいかず、か」

 本から得た知識によれば、動物系は3つの形態に変化する特性を持つという。
 一つ、悪魔の実を食べる前の種族の姿―――原型。
 二つ、悪魔の実の種類と本来の種族の混じった姿―――混成型。
 三つ、悪魔の実の種類に応じた姿―――完全変身型。
 と仮称しよう。

 通常、混成型、完全変身型こそが動物系の真骨頂であり、身体能力が著しく強化され、肉食性においてはさらに攻撃性、凶暴性が増すという。
 だが、私は違う。私は原型こそが最も力を発揮できる姿だ。逆に、今の完全変身型では、ほとんど人間と変わらない…と思われる。まだまともな戦闘を行っていないので、どこまで強いのかは未知数だが、少なくとも、本来の出力には遠く及ばない。
 この3形態は本人の意思である種の波長を調整し、自在に切り替えられるらしいが…私は波長のチューニングがうまくいかないのか、今は左手を原型に戻すのが精いっぱいだ。

「しかし…『誇り』や『心』については全く理解が進まないな」

 左腕を人間に戻し、地面にごろりと寝ころんでこれまで行動を振り返る。
 キャプテンの言葉に従い、この1ヶ月行動を共にしてきたがそれらを理解することはできなかった。3日ほど前にキャプテンにそのことを聞いたら

「おいおい、たった1ヶ月で理解しようとしてたのか?馬鹿だなァ、そういうのはよ、一生をかけてやるもんだ。まあ、おれはもう理解してるけどな!な~はっはっは!」

腹が立ったのでアッパーからシャイニングウィザードのコンボを決めてやった。



 色々と考えていると眠ってしまったのか、すっかり夜になってしまった。朝からいたから、かなりの時間眠ってしまったようだ。人間の身体とは本当に不便だ。

「―――ん?」
「おれは嘘つきだからよ。ハナっから信じてもらえるわけなかったんだ。おれが甘かったんだ」

 この声はキャプテンか?
 声質からして、今までになく真剣だな…なにかあったのか?
 坂道の方へと林を歩いて行く間にもキャプテンの声は続く。

「だから、おれはこの海岸で海賊どもを迎え撃ち!この一件をウソにする!それがウソつきとして!おれの通すべき筋ってもんだ!」

―――(嘘は吐くなって、俺がクラースたちに教えたんだ。筋は通させてもらうぜ)
「………」

「…腕に銃弾ブチ込まれようともよ、ホウキ持って追いかけまわされようともよ、ここはおれが生まれ育った村だ!」

―――(ケッ、腕一本くらいどうってことねぇ…オラ、さっさと来いよ)
「………」

「おれはこの村が大好きだ!みんなを守りたい!例え、それがキャプテン・クロのクロネコ海賊団だとしてもだ!」

 ―――(あいつらを守れたんだ。ここで死んでも…本望よ)
「………」

「そんな足ガクガクさせながら行っても説得力がないぞ、キャプテン」
「ん!?」
「誰!?」
「あん?」
「カ、カリギュラ!?」

 坂道を下りながら声をかけると、キャプテンが振り向く。他に見ない顔が3人いるが…キャプテンが先ほどまで話をしていたんだ。敵ではないだろう。

「お、お前今日はえーとその…」
「ああ、生理だった」
「だからストレートすぎだろッ!」
「特に問題はない。もう痛みも引いたしな」
「いや、それとこれとはまた別な話で―――」
「な~、ウソップ。こいつだれだ?」

 見知らぬ三人組の中の麦わら帽子をかぶった男が興味津津という視線を向けてきた。

「え?ああ、こいつはウソップ海賊団副船長のカリギュラだ!偉大なる航路(グランドライン)で見つけてきた仲間で、おれに心底惚れ込んでいる女だ」
「くたばれ」

 ドシュ
 あ、思わずブレードで刺してしまった。

「う、腕が…!」
「こいつも悪魔の実の能力者か!」
「ウホォォォォッ!カッケーーーーーッ!」

 三者三様の反応。オレンジ色をしたショートカットの女は驚愕。マリモ頭の男は戦闘態勢に移行。麦わら男は目をキラキラ輝かせて私の左腕を見ている。

「待て、私はウソップ海賊団の一員だ。お前らと争う理由は無い。上の林で休んでいたら、村に海賊が攻めてくるというのが聞こえてな、迎え撃つために詳しい話を聞きに来たんだ」
「…まあ、戦力は多い方がいいわよね」
「ん?お前らも戦うのか?」
「応!勿論だ!」
「ま、乗りかかった船だしな」

 …戦力として数えられるのはマリモと麦わらだけだな。オレンジ女はそれほど強くない。キャプテン?論外だ。

「そういえば、キャプテン、さっきからずいぶん静かだな」

ピューーー

「…血が噴水のようだ」
「って、これ止血しないと真剣ヤバいわよ!?」
「やれやれ、出陣前からこれでは、先が思いやられる」
「「「「オメェのせいだろうが!!」」」」

 ナイスツッコミ。

「私はナミ。海賊専門の泥棒よ。あ、戦力としては期待しないでね」
「おれはゾロ。ロロノア・ゾロだ。剣術には自信がある。前は賞金稼ぎとか言われてたが、今はこの楽天家の船長の下で海賊をしている」
「おれはルフィ。モンキー・D・ルフィ。ゴムゴムの実を食ったゴム人間だ。んで、海賊王になる男だ」

 キャプテンの手当てをしてから、とりあえず自己紹介しようということになった。ゴムゴムの実、確か超人系(パラミシア)の悪魔の実…動物系だったら変形のコツを訊きたかったな。

「私はカリギュラ。ウソップ海賊団の一員だ。いつの間にか副船長をやっていることになっている。見ての通り能力者だが、喰った実についてはわからん。少なくとも、こんな奇怪な腕を持つ生物はこの世に存在しないはずだから、動物系の幻獣種だとは思うが…詳細は不明だ」

 まさかこの腕が本来の姿ですとは言えないので、適当にごまかしておく。

「そして!おれがウソップ海賊団船長、キャプテ~~~ン―――」
「そんなことはどうでもいいから、さっさと海賊対策を立てるぞ、キャプテン」
「…はい」
「どっちがキャプテンだよ…」



「よし!完璧な布陣だ」

 数時間後、坂には大量の油が撒かれていた。
 油の下方には私、ルフィ、ゾロの武闘派の三人。上方にはキャプテン、ナミの後方支援担当が陣取っている。

「村へ行くにはこの坂を通るしかねぇ。坂の下でお前らが敵をぶちのめして、取りこぼしたのをおれたちが倒す。さらに油で足止めすれば、向こうが数で勝っていても十分いけるはずだ」
「了解」
「応!」
「一人も逃しはしねぇ」
「ま、カリギュラはともかく、あんたら二人の化け物みたいな強さは知ってるからね。楽させてちょーだいな」
「そんなにあの二人強いのか?だったらカリギュラ、お前もこっちに…」
「キャプテン。私は接近戦しかできないんだ。後方にいてもなにもできんさ。なに、心配するな、戦闘には『多少』自信がある」
「え?お前めっちゃ強ぇだろ?」
「だな、纏う空気が明らかに戦い慣れてるやつのそれだ」

 ふむ、彼らから見ると、私はそれなりに強いのか。

「無駄話は終わりにしよう。直、夜が明ける。海賊の襲撃は夜明けと同時だったはずだろ」



―――夜明けから5分後

「…来ないんだが?」
「寝坊か?」
「しまらん海賊だな、それ」
「ねぇちょっと、北の方からオー!って叫び声が聞こえる気がするんだけど」
「北!?」
「キャプテン、もしかして…」
「あ、ああ、確かに北にも上陸地点がある」
「間違いなくそっちだな。キャプテン、先に行ってくれ。キャプテンの足なら1分で着くだろ?」
「お、応!お前らも早く来いよ!」

 キャプテンは一目散に北の海岸へと走り出す。

「北の海岸って…まず!そっちには私たちの船もあるのよ!お宝が危ない!」

 続いてナミ。

「よっしゃ!30秒で行ってやる!」

 続いてルフィ…あ、油で滑ってずっこけた。

「つるつる滑って登れねェ!!」
「クソッ!布陣が完全に裏目に出てやがる!」
「ルフィ、ゾロ。お前ら身体の丈夫さに自信があるか?」
「あ?いきなり何言って…」
「応!岩に潰されたって大丈夫だ!」
「よし、じゃあやるぞ」

 二人の襟首を掴むとアンダースローの要領で両手を思い切り背中へ引き絞り…投げた。

「「ギャァァァァァッ!」」

 …思ったより飛んだな。あれなら落下地点から30秒ほどで北の海岸へ着けるだろう。
 さて、私もどうにかして坂を越えて加勢に行きたいが…

―――「オオオーーー!」

「別働隊か。知略に長けるといわれる海賊なんだ、この程度のことはするだろうな」

 海の方角へ振り返ると、猫を模した髑髏マークの旗を掲げた海賊船が、沖の方からやってくるのが見えた。





 北の海岸へ向かったルフィたち一行とキャプテン・クロの戦闘は佳境へと入っていた。

「さて、カヤはジャンゴが追っていった。お前たちはおれを抜けて助けに行かなければならない…が、もう一つ教えてやろう」

 両手に指先に長い刃物のついたグローブを嵌め、壊れた眼鏡を掌底で直す特徴的な仕草をするオールバックの男。この男こそ、3年間カヤの屋敷に執事として潜伏し、カヤの莫大な遺産と平穏な暮らしを奪おうと画策していたキャプテン・クロである。

「もう一つの海岸にも別働隊を送り込んである」
「なに!?」
「本来ならここだけの予定だったんだがな。あの女が来て計画を修正したんだ」
「あ、あの女って…カリギュラのことか!」
「ああそうだ。一目で腕が立つことがわかった。海賊に捕えられたとか言ってたが、奴はそんな玉じゃない。大方、おれと同じようにカヤの財産が目当てで取りいってきたんだろう。先に行動を起こしてもらっちゃ、おれの計画が台無しになるんでな、時期を早め、確実に奴を始末するために挟撃することにした。最も、部下どもがあまりに軟弱すぎて、ただの奇襲になっちまったがな」
「ふ、ふざけんな!あいつは、そんな奴じゃねぇ!」
「そうか?今ここにいないのも、すでに行動を起こしているからかもしれんぞ?」
「違う!あいつは、あいつは絶対に向こうの海岸で別働隊を迎え撃っている!」
「ククク、おめでたい頭だな。さっきも言ったが、あの女はそんな玉じゃねぇよ。奴の青白い眼を見たときにすぐわかった。同類だってな」
「いや、そりゃちげーな」
「何?」

 ウソップのカリギュラへの信頼をあざ笑うクロの言葉を否定するのは麦わら帽子をかぶった若き海賊ルフィ。

「あいつはキャプテンから村を守れって命令を受けたんだ。それを破る奴じゃねぇよ。眼を見ればわかる。お前の目が節穴なだけだ」
「だな、あいつとはついさっき知り合ったばっかだが、キャプテンに似てお人よしってのが一発でわかった。ひと月も同じ屋敷で暮らしていて気付かないとは、オメェ実際は大したことねぇんじゃねぇか?」
「…まあ、そんなことはどうでもいい。カヤは死に、あの女も死に、お前たちも死ぬのだからな!」

 ここに、村の歴史に残らない死闘が幕を開けた。





「なんだぁ、あの女は?」
 
 目標確認―――敵生体数25。

「うお!すっげー上玉じゃねぇか!殺さずに捕えて売ればいい金になりそうだ」

 勝利条件―――敵生体の全滅
 敗北条件―――本体の機能停止および敵生体の村への到達

「んなことより、さっさと村を襲おうぜ。計画通りやらないと、キャプテン・クロに殺されるぞ!」

 左腕形態変化開始―――完了。

「―――戦闘開始」
「な、なんだこの女、左腕ガァ…?」

 一番前にいた男に一気に間合いを詰め、左腕を一閃。男は5つのパーツに分かれて絶命した。

「あ、あの女も悪魔の実の能力者か!」

 あの女『も』?この中に能力者がいるのか。

「ほら、呆けてる場合ではないぞ」
「ウギャー!」

さらに一人。

「ひ、怯むなァ!所詮相手は一人だ!数で押せば問題ねぇ!」

 数で押すか、確かに効果的だ。坂を一気に駆け上がれれば、だが。
 極力背後に敵を逃さぬよう、素早く坂を駆け回りながら、海賊たちを仕留めていく。

「は、速ェ!グエ」
「ゲハッ!な、さっきまで端にいたのに、なんで…」

 そんな中、一人が私の背後に抜けた。

「はあはあ、やったぜゲェ!?な、なんだ!?あ、油ガェ!」
「キャプテンの知略炸裂だな。これからはちょっとくらい作戦の話を聞いてやってもいいか」

 油で滑って転がった男を足で踏みつけながら、キャプテンへの評価を少し高める。

「ヒィ!な、なんだその左腕、で、でっかい口みたいに…ま、まさか!や、やめろ、く、喰わないで―――」

グチャリ………マズ。

「さて、私も時間が惜しい。さっさと片付けさせてもらおう」
「ば、化け物だ!」

捕食を見て海賊どもは恐慌状態に陥っている。後は適当に切り刻んで…イタダキマス、だな。



「イタダキマシタ…」

 左腕を軽く振ってブレードに着いた血を飛ばす。
 あっという間に海賊は視界内にいなくなった。が、最初に感じた敵生体数より1人足りない。
 聴覚探知開始―――完了
 あの岩の裏か。

「ま、待ってくれ!おれはもう戦う気はねぇ!このまま大人しく帰るから見逃してくれ!」

 背が高い…目算で3m32cmといったところか。体系は痩躯で、リーチとスピードがありそうだ。両手に嵌めた鋭い爪付きグローブが武器のようだな。

「こ、こっちくんな!もう戦わないって言ってんだろ!あ、あんたみたいな化け物相手にできるか!」
「………」
「あ、すんません!化け物とか言ってすんません!謝るから許してください!」

 涙を滂沱のように流しながら地面に額をこすりつける男の姿を見ると、なんだか無性にむなしくなり、殺す気も喰う気も失せた。

「失せろ。二度とこの島に来るな」
「お、おお!ありがとうございますぅ!」

 とたんに男は顔を上げ、足に抱きついてきた。

「ウザい、離れろ」
「ああ、今すぐになッ!」
「―――!」

瞬間、胸に焼け付くような痛みが走った。

「ほう、完全に不意を突いたつもりだったんだが…急所をずらしたか。やるねぇ、お譲ちゃん」

 力を振り絞り、バックステップで男から距離をとる。
 胸、人間の最大の急所の一つ、心臓のすぐ横に深い刺し傷ができ、とめどなく血が流れていた。あの瞬間、とっさに身をひねらなければ終わっていた。
 人間の身体とはなんと脆い…!

「改めて自己紹介させてもらう。おれの名はノラ。クロネコ海賊団の奇襲部隊隊長だ。お譲ちゃんと同じ『悪魔の実』の能力者だよ」
「…さっき殺した男が言っていたのはお前のことか」

 男がニヤリと嗤うと、その姿が徐々に変わっていく。
体躯はさらに大きくなり、全身が真っ黒い獣毛に覆われる。グローブが破れ、その下からは明らかに人間ではありえない鋭さを持つ獣の爪が現れる。

「その通り。『動物系 ネコネコの実 モデル:ミックス』」
「明らかにお前らの頭目より強そうだな」
「ああ、強いよ?この実は最近喰ったばかりだしな。奇襲船の中にいた奴らにも今さっき喋ったばっかだ。ジャンゴ船長やニャーバンブラザーズは知らない。勿論、キャプテン・クロもな」
「…他の奴らが全滅するまで出てこなかったのは情報が漏れるのを防ぐためか」
「そうそう。おれの能力がばれちゃあ、いろいろとまずいんでね。手間が省けたよ」
「下剋上か」
「ニャはッ!海賊なら当然だろ?それにクロの大将はこの計画が終わったらおれたちを消すつもりだろうしな。殺る前に殺れ、だ」
「キャプテン・クロは頭脳派と聞いたが、この爪の甘さを考えると大したことないな」
「ニャははは!確かにな。だからあの男は海賊ということから逃げ出したんだ。しかし、お嬢ちゃんはどんな実を食べたんだ?身体の形が変わってるから動物系だと思うんだが…そんな刃物が付いた腕を持つ動物なんてしらねぇし、あのでっかい口も気になる」
「…教えると思うか?」
「ニャははは!そりゃそうだ。お嬢ちゃんをここで始末するのは簡単だが…どうだい?おれの仲間にならねぇか?」
「仲間?」
「そうだ。おれはキャプテン・クロを殺したら海賊団を乗っ取り、ノラネコ海賊団を旗揚げする。目指すは偉大なる航路!だが、あの海賊の墓場を行くにははっきり言ってジャンゴ船長やニャーバンブラザーズ程度じゃあ話にならねぇ。お嬢ちゃんみたいな高い戦闘能力をもつ能力者が欲しいんだ」

 ―――仲間?仲間とはなんだ?…わからない。
 わからないが―――

「断る。お前のような雑種のノラネコに飼われるなど、まっぴらだ」
「強がるなよ、お嬢ちゃん。自慢の左腕も地面につけてねぇと倒れそうなくらいキツいんだろ?」
「…本気でそう思っているなら、お前も大したことは無いな」
「なに?」

 ―――『ニブルヘイムの柱』

「あ、足が!」

 ノラと名乗った男は両足が急に凍りついたことに驚愕する。
 両足が凍りつく?クソ、今の出力ではこの程度か。

「本来だったらお前は塵になっていたはずなんだがな」

 ノラの足元に『ニブルヘイムの柱』を発生させるため、地面につけていた左腕を離し、立ちあがる。

「―――!?胸の傷が」
「再生までに63秒。…話にならんな」

 胸には先ほどまであった刺し傷など、跡形もない。時間が掛かり過ぎて目も当てられないが、ほぼ人間形態のままでも自己修復機能が働くことが確認できたので良しとする。

「な、なんだお前は!動物系つったって、あれほどの傷をわずかな時間で完治させるものなんて…!」
「今から死に往く者がそんなことを気にしてどうする」

 左手のブレードを顎門へと変換。

「や、やめろ!やめてくれ!」
「お前も大して美味そうではないが、動物系能力者としての形態変化の情報をもらうとしよう」
「い、嫌だ!お、おれには野望が、野心があるんだ!こ、こんなところで終わるはずが―――!」
「いや、お前はここで終わりだ」

グチャリ………やっぱりマズい。

「―――!?」

 急激にオラクル細胞の結合が回復していくのを感じる。

―――修復率確認。総修復率30%、右腕ブレード修復率45%、ブースター修復率37%。頭部装甲修復率25%、全身装甲修復率21%、尾部修復率16%。
右腕ブレードおよびブースター展開可能。ただし、右腕ブレード修復不完全のため、切断力、耐久力、攻撃範囲減少。ブースターも同様に長時間の飛行不可。

「…右腕ブレード、ブースター展開」

 本来の姿の右腕とブースターをイメージすると、右腕は左腕と対照的な構造となり、背部には翼を模したブースターが現れた。

「…破損が目立つな。まだ修復は完璧ではないようだ。だが、行動の幅が広がったのは大きいな」

 特にブースターが不完全とはいえ、使えるようになったのは大きい。これで機動力は大幅に上昇する。空中戦もある程度こなせるだろう。
 形態変化に関してもこれである程度予想はついた。原型の破損が激しすぎて、安全装置的なものが働き、原型に戻れなかったと見るべきだろう。捕喰を繰り返し、修復を進めれば、問題なく元に戻れるはずだ。

「そして、悪魔の実の能力者…正確には悪魔の実か。ここまで馴染むとはな」

 オラクル細胞の結合を急速に修復したのは悪魔の実で間違いないだろう。なぜ、そうなったかは現在解析中だ。

「今後、能力者にあったら積極的に捕喰するべきだな。…能力者といえば、確かルフィも………」

本体の修復を最優先し、モンキー・D・ルフィの捕喰を推奨―――

「―――!?却下だ!」

 私は今何をしようとしていた?ルフィを捕食する?馬鹿馬鹿しい。
 …馬鹿馬鹿しい?何故?最も効率がいいはずなのに、何故?

「…これもヒトヒトの実の効果か?アラガミたる私の行動原理にまで影響が及ぶとはな」

 ―――眼の奥がチリチリする。

 ふと、顔をあげて海を見ると、ボロボロになった海賊船が逃げていくのが見えた。

「…ノラという男のこともある。危険は完全に排除せねばなるまい」

 眼の奥がチリチリと焼ける音を聞きながら、私はブースターからエネルギーを放出し、飛び立った。





 船はもう島が見えないほど沖に出ていたが、私の飛行速度のほうが圧倒的に速い。ものの数分で追いついた。

「な、なんだ!?ま、また麦わらの仲間か!?」
「そ、空を飛んできた?それにその腕…こ、こいつも能力者だ」
「お、おれたちはもう二度とあの島には近づかねぇ!や、約束する、だから見逃して―――」

ザシュ
ズルリ、と言葉を発した海賊どもの上半身がずれて、甲板に落ちた。

「ノラという男がな、同じようなことを言っていたよ。それを信用して、私は胸を刺されたんだ。言葉は無用。ただ死ね」

「あ、ああ…!!」
「ひぃ、も、もう嫌だ、嫌だー!」

 後ろを向いて逃げ出す海賊が数名。
 ―――ブースター攻撃形態へ移行。『インキタトゥスの息』発動。
 私を中心にブースターから放射された極低温のエネルギー波は、甲板にいた海賊たちを完全に氷漬けにする。ふむ、出力が上がったか。

「か、身体が…凍った…?」

 運よく、いや、悪く甲板の端にいた海賊は凍りきれずに、自分の身に何が起こったのか理解に苦しんでいた。

「言ったはずだ。ただ、死ねと」
「あ…」

 ただ呆ける男に、無感情にブレードを振り下ろした。



コツコツと歩く。他に物音はしない。この船にいる海賊は一人を除いて私の腹の中だ。
 私はさほど索敵は得意ではないが、それほど大きくない船だ。この先にある医務室に生体反応があることくらいはわかる。

 医務室の扉にブレードを一閃。それだけで扉はただの木くずになる。
 その中には男が一人ベッドに横たわっていた。

「…カリギュラか。おれを殺しに来たようだな」
「ああ」
「クックック、お前がここにいるということは、奇襲部隊も全滅か。あのお遊び海賊団にお前みたいな化け物が入ってくるなんてな。おれはとことん運がない。結局、お前の目的はなんだったんだ?お前ほどの女が、ただ村を守るためだけに戦うとは思えん」
「………船長命令だよ」
「…何?」
「キャプテンが、ウソップ海賊団の船長が団員である私に『村を守れ』と命令を下した。私はそれに従ったまで」

 それを聞いたクロはこめかみに血管を浮かび上がらせ、怒りの表情を浮かべた!

「ふ、ふざけるな!テメェはあのウソツキのクソ餓鬼の命令どおりに行動しただけだというのか!おれの3年越しの計画は、たったそれだけの理由で崩壊したというのか!おれは、あのゴミみてぇな海賊団に負けたというのか!」

 ―――瞬間、眼の奥が燃え上がった。

「ガァ…!」

 クロの首をつかみ上げ、部屋の壁に叩きつける。

「な、なんだお前の眼、まるで、血のように…!」
「…宣言しよう。お前は足元から一寸刻みにしてやる」
「お、お前は、人間じゃ…ねぇのか?」
「ご名答。商品は無期限の地獄巡りだ」





 島へと戻ると、人気のない場所に着地し、ブレードとブースターをしまう。

「カリギュラー!どこだー!」

 私を探すキャプテンの声が聞こえるが、今なら、クロネコ海賊団と戦闘して死亡、もしくは行方不明として、消えることもできる。

「カリギュラー!生きてたら返事してー!」

ブースターも使用できるようになったので、後は適当に島々を渡り、捕喰を繰り返せば良い。むしろ、その方が効率的であるので、こちらを選択すべきだ。

「カリギュラー!出てこい!テメェにはおれをいきなり投げ飛ばしやがった借りがあるんだからな!」
「カリギュラー!腹減ってんだろ!一緒にメシ食おう!」

………

「「「カリギュラさーん!絶対生きてますよねー!」」」
「カリギュラさーん!お願いだから返事してください!」

 …まあ、寄り道というのもいいだろう。





「いやー、無事でよかった。おれの目は無事じゃねぇけどな」
「本当にな。おれの目は無事じゃねぇけどな」
「まったくだ。おれの目は無事じゃねぇけどな」
「ウ、ウソップさんが悪いんですからね!あんなにカリギュラさんの裸凝視して…!」
「あんたらも男なんだから過ぎたことでグダグダ言わないの」
「すまんな。戦闘に夢中で服のことなど全く気にしていなかった」

 あの後声の聞こえた方向へ向かい、無事にキャプテンたちと合流したのだが…
 ブースターの展開、『インキタトゥスの息』等を使ったりすれば、まあ、服は消し飛ぶわけだ。
 見事な全裸で登場した私を目の前にして、男性陣は鼻から出血(ルフィはなんかその場のノリっぽかったが)。それでも私の身体を凝視し続ける男性陣に対して、カヤはウソップ、ナミはルフィ、ゾロ、にんじん、たまねぎ、ピーマンの目を潰した。特にカヤは容赦なく。今は海賊たちが落していったであろう黒いズボンと黒いコートを羽織っている。

「しかし、キャプテン、いいのか?今日のことを話せば、村の住人たちも見直してくれると思うがな」
「おれの名誉と村のみんなの恐怖、どっちを取るかなんて、考えるまでもねぇだろ?」
「…まあ、キャプテンの命令なら従うまでさ」
「他の奴はどうだ?強制はしねえが…」
「「「はい!カリギュラさんが黙ってるなら黙ってます!」」」
「ウォーイ!なんでおれよりカリギュラの方が信頼厚いんだよ!」
「「「だって、キャプテンと違って頼りになるし…」」」
「なんだとテメェら!よーし、おれとカリギュラ、どちらが頼りになるかここで―――」

シャキーン

「ならば、掛かってこい」
「よし行ったれ!ゾロ!」
「お前がいけよ!」



 たまねぎたちはカヤを屋敷に送るため、一足先に村に帰って行った。

「ありがとう。村を守りきれたのはお前たちのおかげだよ」
「何言ってやがんだ。お前が何もしなけりゃ、おれは動かなかったぜ」
「おれも」
「ま、お宝が手に入ったし、別にいいわよ」
「キャプテンの命令を遂行したまでだ」
「おれはこの機会に一つ、ハラに決めたことがある。カリギュラ、お前も後で村外れの原っぱに来てくれ」
「…了解した」



 村はずれの原っぱにキャプテン、私、にんじん、たまねぎ、ピーマンのウソップ海賊団がそろい、キャプテンの口から、ウソップ海賊団解散の旨が知らされた。
 私以外の団員は皆そろって涙していた。涙、アラガミであった私にはないものだ。今の身体で流すことはできるのだろうか?
 わずか1ヶ月とはいえ、ウソップ海賊団の一員として過ごした日々は決して悪くないと感じる自分がいる。涙はでてこなかったが、胸に小さな穴が開いたようには感じた。

―――数時間後

「ぎゃああああああ!」

 ドスゥン!

 キャプテンの家の前で待っていると、パンパンの荷物を背負ったキャプテン、いや、ウソップが坂の上から転げ落ち、林の木に激突した。
 …本当にあの人は何をしているんだ?

「大丈夫か?」
「ん?おお、カリギュラか。おれを見送りに来てくれたのか?わりィな」
「見送り?違うな」

 私はウソップが散乱した荷物を詰め終わったリュックを持ち上げる。

「私も貴方についていく」
「つ、ついて行くって…お前故郷に帰るんじゃなかったのか?」
「故郷…?ああ、あれは嘘だ」
「へ?」
「まあ、私にも色々事情があってな。全ては話せないが、この海を冒険するというのは、私にとっても都合が良い。それに、まだ『誇り』や『心』についても理解していない。理解していると豪語する貴方についていけば、何かわかるかもしれないしな」
「………へ、行っとくが、おれがキャプテンだからな!」
「ああ、またよろしく頼む。キャプテン」



「ぎゃあああああああ!止めてくれー!」

 いきなりだが、キャプテンが海岸へ続く坂から転がり落ちている。

ドゴ!
あ、ルフィとゾロの蹴りで止まった。

「わ、わりぃな」
「「おう」」

 目の前には二つの船。一つは船首が羊を模しているキャラヴェル。名前を『ゴーイング・メリー号』。確か、メリーがデザインし、屋敷の地下に保管されていたものだ。ルフィが乗り込んだところを見ると、これが彼らの船なのだろう。もともとこの村には船を手に入れる目的で来たと言っていたしな。
もう一つはボートと呼んでもいいくらい小型の帆船。これが我が海賊団の旗艦だ。

「…だから私が運んで行くといっただろう、キャプテン」
「いや、さすがに女にこれを運ばせるというの男として…」
「安心しろ。そのあたりはすでに見限っている」
「………」
「泣くなウソップ!きっといつかいいことあるさ」
「おれのトレーニング器具貸そうか?」

 …これが友情というものだろうか?

「…やっぱり海に出るんですね、ウソップさん」
「ああ、決心が揺れねぇ内に行くよ。止めるなよ?」
「止めません…そんな気がしてたから」
「そうか、それもちっとさみしいが。よし、行くか、カリギュラ」
「ああ」
「―――へ?」

 カヤが素っ頓狂な声をあげた。

「ん?カリギュラも一緒に行くんだよ。ついさっき家の前に来てな、新生ウソップ海賊団に入りたいって言うから入れてやった。記念すべき一人目の船員だ」
「うむ、それでは行ってくる。カヤ、達者でな」

「―――!ルフィさん!」
「ん?なんだ?」
「ウソップさんをルフィさんの仲間に入れてあげてください!」
「お、おいカヤいきなり何って(ギロリ)なんでもありません」

 弱いぞ、キャプテン。

「―――?もうおれたち仲間だろ?」
「へ?」
「おら、さっさと乗れ。出航できねぇだろうが」
「カリギュラー、あんた航海術かじってるみたいだからサポートよろしくね」
「キャプテン、新生・ウソップ海賊団は麦わらの一味に吸収されたようだな」
「…ああ、そうみてぇだ。おーい!キャプテンはおれだろうなー!」
「馬鹿言え!おれがキャプテンだ!」

「………」
「おや、これは珍しいものが見れました」
「―――?」

 騒ぐキャプテンたちを見ていると、横からメリーが声をかけてきた。

「とても素敵な笑顔でしたよ。やはり、貴女には笑顔が似合いますね」
「笑った?私が?」
「ええ、しっかりとこの目で見ましたよ。どうか、カヤお嬢様に代わって、ウソップ君をお願いします」
「…了解した」





「新しい船と仲間に!」
「「「「乾杯だーーー!」」」」

 …このテンションについていけんな。だが………

 船上で乾杯をしながら空を仰ぐ。かつて血まみれの船上で、一人で見た空とそれほど変わりは無いはずだが、何かが決定的に違っている気がする。それが何かはわからないが、別にいいだろう。

―――ああ、こんな旅路も悪くない。
























【コメント】

一切の戦闘なく消えていったノラ君に何か一言お願いします。



[25529] 第2話 仲間
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/02/19 11:56
「ほう、キャプテンの父親は海賊だったのか」
「ああ、お前が海賊にさらわれてきたって言ってたから、怖がらせないようにあえて言わないようにしてたんだ」
「それはすまなかった。私の嘘で余計な気を遣わせたな」
「いいってことよ。仲間内でこれくらいのウソらなら気にならないって」

 『仲間』―――これも知らないな。

「仲間、とはなんだ?」
「あん?お前は知識が深いくせにたまに誰でも知ってるようなこと聞くよな。仲間ってのは全幅の信頼をおける親友のことだ!」
「…じゃあ、私とキャプテンも仲間か?」
「あったりめぇよ!おれだけじゃねぇ、ルフィ、ゾロ、ナミ、全員が仲間だ!」
「…そうか」

 私とキャプテンはゴーイング・メリー号の甲板で、日向ぼっこをしながら話し込んでいた。
 麦わらの一味になったことにより、ウソップはキャプテンでなくなってしまったが、今更呼び名を変更するつもりはないので、キャプテンと呼ぶことにしている。

「おい、お前らちょっと来い!海賊旗が出来たぞ!」
「ん?ルフィが呼んでいるな。行こうか」
「海賊旗か、どんなんだろうな」

「はっはっは!ちゃんと考えてあったんだ、おれたちのマーク」
「さて、キャプテン。書き直しを頼む」
「応」
「対応早ぇな、オイ!」

「こんな感じか」
「うむ、長鼻髑髏に骨と交差したパチンコ。間違いなく私たちの海賊旗だ」
「「「面影全くねぇだろ!!」」」

 やっぱりだめか。

「うん、うまい」
「こんなとこだな」

 書かれたマークは麦わら帽子をかぶった髑髏。まさしく麦わらの一味を象徴する海賊旗だ。

「さすがだな、キャプテン。芸術センスについては認めねばならん。戦闘力はゴミ以下だが」
「………」
「カリギュラ!謝れ!ウソップに謝れ!」
「事実だろ?」
「「「あ、確かに」」」
「ウォーイッ!」

 その後、ルフィの発案で帆にも同じマークを描くことになった。
 当然、私も手伝っている。

 帆にマークを描きながら、自分の身体のことについて考える。
 まず、悪魔の実のことだが、ノラが変身した雑種のネコには変身できなかった。これは、オラクル細胞の急速な修復に関連している。
 私は現在、ヒトヒトの実を食べている。悪魔の実は2種類以上を口にした場合、能力が反発しあって、身体が弾けると言われている。
 だが、この身は元々はアラガミ、オラクル細胞の集合体だ。オラクル細胞はあらゆるものを取り込み、増殖していく細胞である。私の言う修復とは、オラクル細胞の増殖に他ならない。
私の身体は、オラクル細胞の増殖に必要なエネルギーを2つの実の反作用を利用して、得たらしい。詳しく説明すると、取り込んだネコネコの実に対して、ヒトヒトの実が反応した瞬間、ネコネコの実から放出されたエネルギーのみを吸収し、増殖したということだ。ヒトヒトの実まで吸収しなかった、正確に言うならば、ヒトヒトの実の能力が消えなかったのは、すでにオラクル細胞がヒトヒトの実の特性を取り込んでおり、死滅しても、ヒトヒトの実の特性を持ったオラクル細胞が生まれるからである。つまり、ヒトヒトの実は、反作用を起こすための起爆剤、というわけだ。
まとめると、私にとって、悪魔の実およびその能力者は最高の食材ということである。
当然、エネルギーとして吸収していしまうので、能力は得られないというわけだ。

 身体の修復率については全体で35%程度。キャプテン・クロを捕喰した際、ノラ、つまり悪魔の実の能力者ほどではないが高い修復効果を得られた。つまり、雑魚をただ捕食するより、戦闘力の高いものを捕喰した方が効率が良いということである。
 ゆえに、これから行う捕喰の優先順位は雑魚<実力者<悪魔の実or能力者となる。

「はー…疲れた」

 数時間後、帆には見事な髑髏が描かれていた。
 皆疲れたのか、大の字になって甲板に転がり、ゾロですらマストに寄りかかって座っている。

「ん?ルフィ、何をやってるんだ?」
「折角大砲があるからさ、使ってみようかと思って」
「じゃあ、打ってみればいい。弾込めは私がやろうか?」
「いいよ、自分でやるのが楽しいんだ」
「そうか。しゃあ、見学させてもらおう」

 ふむ、大砲か…これは応用できるかもな。

ドカン!

「見事に外れたな」
「う~ん、うまく当たらねぇもんだな」
「馬鹿め、おれに貸してみろ」

 大砲の音を聞いたキャプテンがやってきた。

「で、どれを狙うんだ?」
「あれだ。二つある岩の右の方」
「OK。さっきの飛距離から計算して、こんなもんか」

 ドゴン!
 今度は見事に命中。

「すげー!一発で当たった!」
「お見事。さすがはキャプテン。遠距離攻撃だけは得意だな」
「オメェはどうしていつも一言多いんだよ!」
「ウソップ、お前は『狙撃手』に決まりだな」
「まあ、ひとまずそこに甘んじてやるか。お前があんまり不甲斐ないことしたら、即船長交代だからな」
「ああ、いいよ」
「むしろ、キャプテンが不甲斐ないことばかりしそうだがな」
「だから、一言多いって言ってんだろうが!」

 あはは、というルフィの笑い声が響く中、ナミとゾロもこちらのことが気になったのか、近くにやってきた。
 …ふむ、丁度いいか。

「みんな、今度は私が左側の岩を破壊しよう」
「お、お前も大砲使うのか?」
「いや、私が使うのはこれだ」

 ―――右腕原型に変形。ブレードから『神機型』ライフルへオラクル細胞組み換え開始。
 ―――『オヴェリスク』形成完了。

「み、右腕が…!」
「銃になった…!」

 アラガミバレット『コキュートスピルム』装填。照準セット。

―――発射!

ズドン!
 右腕の青く輝く銃から放たれた特大の氷塊は目標の岩に命中し、完全に破壊。それだけにとどまらず、貫通した氷塊が海に着弾すると、着弾地点から放射状に海が凍りついた。水平線の向こうまで凍結してしまったので、どこまで凍りついたかはわからない。

「うむ、なかなかの威力だ…どうした?全員顔が面白いことになってるぞ」
「いやいやいや!あんた一体何者よ!悪魔の実の能力者ってみんなこんな化け物なの!?」
「スッゲーーーーーーーー!!カッコイイーーーーーーーーーーーーー!」
「さ、さっすがおれの部下。こ、このくらいできて、と、当然だよな!」
「…とんでもねぇな」

 ―――これで、心の準備は終わった。

「…私はお前たちを『仲間』だと思っている。だから、この力も含めて、お前たちにすべて話しておきたい」
「「「「―――?」」」」

 ここが運命の分かれ道。全て話し終わったとき、まだ私は麦わらの一味でいられるだろうか…?

「まず始めに言っておくことがある。私はキャプテンの島で自分が喰べた実がわからないと言ったが、あれは嘘だ」
「へぇ、じゃあ、なんの実を食ったんだ?」
「動物系 ヒトヒトの実 モデル:ウーマン」
「ウーマン?馬か?」
「違うわよ!ウーマンって言うのは人間の女性のこと。ってことは、もしかして…!」
「そうだ。この女の姿こそ、私が悪魔の実を喰べて得た姿だ」
「…つまり、普通の動物系能力者とは逆に、あの青く輝く腕が貴女本来の姿ってこと?」

 さすがはナミ。理解が早い。

「その通りだ。私は元々この世界にはいない生物だ。ある日突然この世界に落され、ヒトヒトの実を喰べて『人間』となった、いわば『人間化物』だ」
「この世界にいない生物?」
「…元の世界で私は、正確にいえば私たちは『アラガミ』と呼ばれていた」
「『アラガミ』…」
「元の世界は荒廃しきっていてな。もはや、全てをリセットしなければならない状況だった。私はそのリセットを担当する歯車の一つだったんだよ」
「リ、リセットって…」
「その世界に住む全てのモノを喰らい尽すことだ。建物も、植物も、そして、人間も」
「………」
「まあ、人間たちもヤワじゃなくてな。私たちアラガミから身を守る術をいくつか編み出した。その一つに『神機使い』、通称『ゴッドイーター』と呼ばれる者たちがいる。先ほどの銃は奴らが使う『神機』を参考にして作りだしたものだ。『神機』も『アラガミ』もオラクル細胞と呼ばれる細胞でできているから出来ることだが…これは今回関係ないので省くぞ」
「…ええ、そうして。私の頭じゃ理解しきれそうにないし」
「その神機使いたちにやられる直前に転移してきたものだから、ひどい損傷を受けていた。そして、落ちてきたのは海賊船の上…まあ、全員喰ったよ。この船の中にヒトヒトの実があって、それを喰した時点で私が生まれたわけだ」
「………」

 キャプテンがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

「私は捕喰したモノの記憶を得る力もあってな。そこでキャプテンの島への航路を知ったんだ。そしてキャプテンと出会った」
「………」

 ゾロはただ黙っている。その目からは何も読みとれない。

「キャプテン・クロとの戦いで、キャプテンたちと別れた後、やってきた別動隊がいたんだが…こいつらも全員捕喰した。そして、逃げ出すキャプテン・クロとその一味も、な。これが私の正体と今までの行動の全てだ」
「………」

ルフィはじっと私の眼を見つめている。

「…一つ訊きてぇ」
「なんだ?」
「なんでそれをおれたちに話した?」
「…私がお前たちを『仲間』だと思っているからだ。『仲間』とは自分が最も信頼するものたちだと聞いた。だから、全て話したんだ。嘘を吐いたままでは『仲間』でいられないからな」
「…そっか」

 スッと麦わら帽子を顔にかけ、

「ん!ありがとうな、話してくれて」

 はずすと同時に満面の笑みを向けてくれた。

「…意外だな。人喰いは忌避すべきものだと思ったんだが」
「おれたちだって、肉は食う。お前はそれが人間だったってだけだろ?」
「…まあ、そうだな」
「だったら何も問題ねぇじゃねぇか。お前は良い奴だし、片っぱしから人間食おうなんて考えねぇだろ?」
「…ああ、少なくとも、敵対していない人間を喰うつもりはない。敵は別だがな」
「おし!じゃあ、これでおれとお前は完璧に仲間だな!他の奴らはどうだ?」
「…ま、いんじゃない?カリギュラとは結構話が合うし、無差別に襲わないって言うんなら」
「おれは昨日今日の付き合いじゃねぇからな。お前がどんな奴か知ってるよ。全く、水臭ぇなぁ」
「おれだって、今までに少なくない数の人間を殺してる。お前が人喰いだって言われても、「そうか」程度にしか感じねぇよ」

 …胸が熱くなった。

「これからも、よろしく頼む」
「「「「応!」」」」

 こうして、私は本当の意味で『麦わらの一味』となった。





 みんなで船室に入るとルフィは私の本来の姿が気になるのか、色々と訊いてきた。

「なーなー、お前の本当の姿ってどんなのだ?見せてくれよ」
「悪いがそれはできない。さっきも言ったように、前の世界でかなり手ひどくやられたからな。現在は修復中で原型に戻ることが出来ないんだ。私が捕喰をしているのは、本体を修復するためでもある。ある程度修復が済んでいるところは戻せるがな」
「ほー、じゃあ、修復が終わったら、絶対見せてくれよ」
「ああ、いいとも」

 その後、しばらくは雑談になった。

「ところで、考えたんだけどな、グランドラインに入る前にもう一人必要なポジションがあるんだ」
「そうよね、折角立派なキッチンがあるんだし。有料なら私やるけど」
「長旅には不可欠な要員だな」
「できれば、人間の肉も調理できる…いや、すまん。忘れてくれ」
「みんなもそう思うだろ?やっぱり海賊船には―――音楽家だよな」
「「「なんでそうなるんだよ!」」」
「…盲点だった」
「「「いや、盲点でもなんでもねぇから!」」」
「珍しくいいこと行ったと思ったらそう来たか!」
「おいルフィ!カリギュラはそういうことすぐ信じちまうんだから、適当なこと言うな!」
「あんた航海を舐めてんでしょ!?」
「な、なんだよ!?海賊っつったら歌うだろ?当然みんなで」

 などといつもながらのやり取りをしていると、甲板からどなり声が聞こえた。

「出てこい海賊ども!ぶっ殺してやる!」
「何だ!?」

 私とルフィが甲板へ出ると、剣を持ち、顔に『海』と書かれたサングラスの男が暴れていた。

「お前、何者だ?」
「何も、クソも、あるかぁぁぁぁ!」
「―――!」

 剣が船に直撃する軌道を描いていたので、左腕を原型に戻し、剣を受け止める。

「グッ!テメェ、能力者か!?」
「まあな。で、お前は何者だ?」
「こちとら名のある海賊の首をいくつも落してきている賞金稼ぎ!名もなき海賊風情が、おれの相棒を殺す気かぁ!」

 これは駄目だな。頭に血が上っている。

「少し冷静になれ」

パキン!

「なッ!お、おれの剣が!」

 私が触れている部分から剣が凍りつき、刀身が粉々に砕け散った。ふむ、微調整もだいぶ楽になったな。

「か、紙一重だったか…」
「随分厚い紙一重だな」

 男は戦意を失ったのか、その場に膝をつく。しばらくすると、残りのメンバーも甲板に出てきた。

「ん?お前、ジョニーじゃねぇか」
「ゾ、ゾロのアニキ!?」
「どうした、ヨサクは一緒じゃねぇのか?」

 ゾロの知り合いか?

「そ、それが、ヨサクの奴…」



「病気?」

 ジョニーという男が言うには、甲板に運び込まれ、私たちの目の前で横たわっている男の体調が数日前からおかしくなったらしい。
症状は頻発する気絶、歯の脱落、古傷からの出血か…

「どうしたらいいかわからず、さっきまであった岩山にヨサクを寝かせておいたらこの船からいきなり砲撃が…」
「………」
「「すいませんでした」」
「済んだことだ、気にしねぇでくれ。それに、ごめんですんだら警察はいらねぇ」

 む、少々胸が痛いな。

「アニキ、こいつ死んじまうのかなぁ?」
「いや、死なないんじゃないか?なあ、ナミ」
「ええ、まだ大丈夫なはず。ルフィ、ウソップ、キッチンにあったライムを絞って持ってきて」
「「合点だ!」」
「―――?」
「壊血病。それがヨサクの病名だ」

 隣でルフィとウソップがヨサクにライムのしぼり汁を飲ませている。

「手遅れでなければ数日で治るわ。一昔前は不治の病って言われてたけど、原因はただの植物性の栄養の欠乏」
「昔の船は日持ちしない果物や野菜を乗せていなかったらしいからな」
「「すっげー!お前ら医者か!?」」
「常識だ」
「ほんとあんたらいつか死ぬわよ!?」
「栄養全開!復活だー!」
「おお!やったぜ相棒!」
「そんな早くなるかッ!」
「ゲフッ!」
「相棒ォーーー!」

 ふむ、砲撃してしまった借りを返すか。

「よし、今楽にしてやる」
「ちょッ!なんでいきなりその青い銃ヨサクに向けてるの!?」
「ギャー!やめてくれ!ヨサクはまだ助かる!」
「いいから黙って見てろ」

 ヒールバレット装填―――照準セット
 ―――発射。

「ヨ、ヨサクゥゥゥッ!」
「グ、グオォォォォ…あ、相棒…」
「ヨサク死ぬなァァァァ!」
「いや、むしろめっちゃ元気出た」
「「「「「エエェェェェェェェェッ!!」」」」」
「ふむ、成功だ」
「な、なにしたの?」
「私のオラクル細胞から作りだした、撃った対象を治癒する弾丸を撃ち込んだ。これはなかなか優れものでな。失った血液や体力も回復させることが出来る」

 元の世界で捕喰した神機の中に装填されていたので、バレットの組成は知っていたしな。

「オ、オラクル細胞って、一体なんなのよ」
「まあ、細かい理屈などどうでもいいだろう。結果としてヨサクは元気になったのだから」



「申し遅れました。おれの名はジョニー!」
「あっしはヨサク!ゾロのアニキとはかつての賞金稼ぎの同志」
「以後、お見知りおきを!」
「ところで、その髪の長い姐さん。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ。私はカリギュラ。この一味に身を置かせてもらっている」
「カリギュラ姐さんですか。特に貴女にはお世話になりました。本当にありがとうごぜぇます!」
「気にするな。私も実験がうまくって良かったと思っているしな」
「へ?」
「いや、あれ撃つの初めてだったんだよ。成功してよかった。失敗したらお前はザクロみたいになっていっただろうな」

 ―――?なぜゾロの後ろに隠れるんだ?

「…あんたって、結構黒いわよね」

 そうか?



「これは教訓ね。長い船旅にはこんな落とし穴もあるってこと」
「ヨサクもこの船に遭わなければ、間違いなく死んでいた」
「船上の限られた食材で栄養配分を考えられる『海のコック』」
「考えてみりゃ、必須の役職だよな」
「よし、決まりだ。海のコックを探さそう。何よりうまいもん食いたいしな。カリギュラもそう思うだろ?」
「ああ、私も人間がうまいというものがどういうものか、興味がある」
「あんたらの食欲を見たら、コックが逃げ出す可能性もあるけどね。まだ航海2日目なのに、1ヶ月分の食料が底を突きそうって、どんだけよ」

 …これでも結構我慢しているんだがな。

「はいはい!アニキと姐さん方に提案があります!」
「何だ。言ってみろ」
「海のコックを探すなら、『海上レストラン』がいいと思います」

 海上レストラン?
 レストランとは、確か人間たちが代金を払って捕喰をする施設だったな。

「ここから2、3日船を進めれば着くはずだ。ただ、あそこはグランドラインの近くなんで、ヤバい奴の出入りも多いです。アニキの探している『鷹の目の男』も現れたことがあるって話だ」
「―――!」

 ゾロがニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

「よかったら案内しますぜ」
「「たのむーーーーー!」」
「行き先が決まったわね。カリギュラ、船の進路を調整するから手伝って」
「了解した」

 海の上にあるレストランか。興味は尽きないな。





 ジョニーとヨサクの小舟を引きながら航海すること2日。
「おお、あれが海上レストランか?」
「そうです。あれが海上レストラン『バラティエ』です!どーっすか皆さん!」
「でっけー魚!」
「ファンキーだな、おい!」
「うわー!」

 やはり、前の世界の船とは大分違うな。人間たちが愚者の空母と呼んでいた船の残骸はこんな遊び心は一切なかった。
 私も含め、皆がバラティエに目を奪われていると、後方から別の船がやってきた。

「か、海軍の船!?」

 帆に描かれたカモメとMARINEのマーク。間違いなく海軍の船だ。
 確か、この世界のゴッドイーターたちのような役目を担っている組織だったと記憶している。

「う、撃ってこねぇだろうな?」
「可能性はあるな。海軍にとって、この船は敵船だしな」
「カ、カリギュラ!ま、守ってくれよ!?」
「ああ。大砲の弾くらいなら、この距離で撃たれても真っ二つにできる」
「「た、頼もしすぎるぜ!カリギュラ姐さん!」」

「…見かけない海賊旗だな。おれは海軍本部大尉『鉄拳のフルボディ』。船長はどいつだ、名乗ってみろ」

 海軍の船からペアナックルのようなものを両手に付けた厳つい男が出てきた。

「おれはルフィ。海賊旗は一昨日作ったばっかりだ!」
「おれはウソップだ」
「カリギュラという。私たちはこの先のレストランに用があるだけだ。勿論、客としてな。そちらも仕事でこんなところまで来るわけもないだろうし、ここはお互い見なかったことにしないか?」
「フン、そこの髪の長い女が船長か。なかなか肝が据わってるいい女じゃねぇか」
「ちょっとまて!船長はおれだ!」

 ルフィが抗議するが、フルボディは相手にする気がないようだ。

「ん?そういや、後ろにいる2人、見たことがあるな。確か…小物狙いの賞金稼ぎ、ヨサクとジョニーつったか、とうとう海賊に捕えられたか?」
「おうおうヨサク、喧嘩売ってきやがったよ、あの兄ちゃん」
「小物狙いとは聞き捨てならねェ。1ベリーの得にもならねぇが、あのお坊ちゃんに思い知らせてやらなきゃな」
「こちとらカリギュラ姐さんに新調してもらった剣もあるんだ!思い知れ、海軍のひよっこがァッ!」
「………はあ、面倒くせぇなぁ」

 3分後、そこにはボコボコになったヨサクとジョニーの姿が。

「か、紙一重だった」
「だから、お前らの紙一重は厚すぎるというに。だいたい、ジョニー、私が壊してしまった剣の代わりに造ってやった氷の剣は、前のやつより切れ味も使いやすさも数段上なはずだぞ?」
「お前ら、本当はすっげえ弱いんじゃねぇか?」
「何やってんだよ、お前らは」

「んもう、フルボディ。弱い者いじめはその程度にして、早く行きましょ?」
「ああ、そうだな」

 女連れか。カヤが呼んでいた恋愛小説というものにこんな男が出てきていたな。

「運が良かったな。そこの船長が言ったように、おれは今日定休でね。ただ食事を楽しみに来ただけなんだ。任務中にあったら、それがお前らの最後だと覚えておけ」

 それだけ言うと、フルボディの船はさっさとバラティエへ向かっていった。

「―――ん?ヨサク、何か紙を落としてるぞ?」
「あ、ああ。そりゃ賞金首のリストですよ」
「ほう、こいつらを殺せば下にある賞金が貰えるのか?」
「いや、カリギュラ姐さんは海賊だから無理です。あと、海軍は公開処刑を望んでますから、殺しちまうと3割も賞金が下がりやす」

 20年前、ゴールド・ロジャー処刑により、大海賊時代が幕開けてから、海軍の権威は下がる一方らしいからな。少しでも権威を回復したいということか。

「………」

 ふと、横を見ると、ナミが無言で一枚の賞金首リストを凝視していた。

「?どうしたナミ、そんなに賞金首のリストを凝視して―――」
「おいやべぇぞ!海軍の奴、こっちを大砲で狙ってやがる!って、撃ってきたァァァァ!」

 ―――!クソ、あんな男の言葉など信じるべきではなかった。
 私は即座に砲弾を切断しようと、左腕のブレードを展開した。

「待て!おれがやる」
「ルフィ…?」
「見てろ、カリギュラ!これがゴムゴムの実の能力だ!ゴムゴムの…」

 ルフィは砲弾の前に立つと、大きく息を吸い込んだ。すると、その身体がまるで風船のように膨らんでいく。なるほど、通常では考えられない柔軟性。これがルフィの能力か。

「―――風船!返すぞ砲弾!」

 …おい、そのコースは―――

「見事に着弾したな。―――バラティエに」
「どこに返してんだアホンダラァァァァァッ!!」



「で、どうするんだ?」
「う~ん、やっぱり謝りに行こう」
「海軍の方が先に手を出してきたんだ。一般の町等ならともかく、荒くれが集まるバラティエなら、海軍の責任とすることも十分できると思うが」
「いや、結局はおれが原因だしな。筋は通さねぇと」
「そうか。ならば、私が直接送って行こう。みんなは後から船で来てくれ」
「え?小舟でも出すの?」
「いや、これで行く」

 ―――ブースター展開
 次の瞬間には、背面に翼型のブースターが出現していた。

 …完全に蛇足かもしれないが、今回は服は破れていない。前回の経験から、さすがに毎回全裸になるのはまずいと思い、自身のオラクル細胞を使って、原型に戻っても破けない服を作り出した。今の服装は、ゴッドイーターたちが『スイーパーノワール』と呼ぶ黒いコートとズボンだ。ただ、もっと詳細に言うならば、これは外皮を服のように見せかけているだけなので、ボディペイントといった方が正しいかもしれない。

「「「「「エエェェェェェェェェェェェッ!!」」」」」
「カ、カッコよすぎる………!」
「…感涙の涙まで流してくれるとは、恐れ入る。さあ、行くぞ、しっかり掴まれ」
「応!」

 ブースターからエネルギー(攻撃用の極低温のものとはまた別)を放出して離陸し、砲弾が直撃したバラティエの三階の部屋へと向かう。

「ウオォ!速ェ!カリギュラ、お前、ホントにすごいな。やっぱお前は最高の仲間だよ」
「………そうか、ありがとう」

 きっと、私は今、笑顔を浮かべているだろう。
















【コメント】
カリギュラさんは常に全裸でいることが決まりました。



[25529] 第3話 ヴァイオレンスウェイトレス
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/01/28 16:19
「オーナー!本当に大丈夫なんですか!?血塗れですよ!?」
「大丈夫じゃねぇっつってんだろ!いいから店戻って働け!」

 ルフィと共に砲弾の着弾したバラティエ三階に近づくと、すっかり風通しの良くなった部屋の中から、怒鳴り声が聞こえてきた。

「大分お怒りのようだな」
「んー、謝ったら許してくれんかな?」
「対価を要求される可能性は十分にある」
「…まあ、とりあえず行こう」
「了解した」

「しかし、料理長!身体が…!」
「まだ言うかこのボケナスが!いいからさっさと…?」
「な、なんだこの音?まるで調理場の炎みてえな音だ」
「ここは三階だぜ?火の気なんて…」
「―――!お、おい!外を見ろ!」
「あ?外に何が―――!?」
「不躾ながら、空から失礼する。先ほどここに直撃した砲弾について、謝罪を申し入れたい」
「「「「「………び」」」」」
「―――?」
「「「「「美女がサルを抱えて飛んできたーーーーーー!?」」」」」
「え?サル?どこだ?」

 ルフィはいつもと変わらず暢気で、少し安心した。



「なるほど、大体の事情は分かった」

 目の前の老人が頷く。
 老人といってもその眼光は鋭く、覇気に充ち溢れている。特徴は長いコック帽と二つの三つ編みにした長い髭、そして何より、右足の義足。この男がこの水上レストラン『バラティエ』のオーナー兼料理長のゼフとのことだ。

「いやー、最初は足を吹っ飛ばしちまったかもしれないと思って焦った」
「だが、全身打撲だ。このボケナス」
「慰謝料と治療費か…あいにくと今手元に現金がない。近くの町で船にある財宝を金に換えてくるから、それまで待ってくれないだろうか」
「駄目だな。そういって逃げ出して行った奴が山ほどいた。まあ、全員地の果てまで追って金を払わせたがな。現金一括。それ以外認めねぇ」
「そうか…ならば、今の私たちには払える金がない」
「金がねぇんじゃ、働くしかねぇよな」
「そうだな。ちゃんと償うよ」
「ふむ…では、私は誰と寝ればいいんだ?」
「―――あ?」

 ゼフが訝しげな声をあげた。

「いや、こういうときの女の労働とは閨と相場が決まっているのではないか?」

 少なくと、キャプテンの家のベッドの下にあった本にはそういう描写があった。

「このボケアマ!うちは娼館でも海賊船でもねぇ。レストランなんだ。んなことさせる訳ねえだろうが!」
「だが、部屋の外の男たちはそうでもないみたいだが…」
「―――!フン!」

ドゴン!

 ゼフが背後の壁を蹴り破る。
 全身打撲かつ義足でこれか…昔はさぞかし名のある男だったに違いない。

「「「「「ギャー!」」」」」
「………テメェら、何してやがる?」
「「「「「い、いや、オーナーのことが心配で…」」」」」
「全員一列に並べ!気合を入れなおすついでにぶっ殺してやる!」
「「「「「た、助けてェェェェェェ!!」」」」」



 …死屍累々とはまさにこのことか。

「強ぇな、あのじいさん」
「ああ。両足がそろっていれば、鋼鉄でも蹴り砕けそうだ」
「ふう…話が脱線しちまったな。金がねぇんじゃ仕方ねぇ。うちで雑用1年。そしたら許してやるよ」
「い、一年!?一週間に負けてくれ!」
「なめんじゃねぇ。人の店ぶっ壊して、料理長に怪我までさせて雑用一週間じゃ落とし前がつかねぇよ。かっちり一年間、この店で働いてもらうぜ」
「嫌だ!」
「嫌だじゃねぇ!」

 やれやれ、このまま行っても平行線だな。

「わかった。ならばその雑用一年間、私が受けよう」
「!?カリギュラ!」
「ほう、嬢ちゃんがか?言っとくがここはお行儀のいい職場じゃねぇぞ?」
「荒事は慣れている。なんなら、ここで試してもらっても結構だ」
「は、冗談だ。おれだって昔はいっぱしの海賊だったんだ。嬢ちゃんの眼を見れば、大体実力はわかる。いいだろう、このボケナスの代わりに―――」
「おれもやるぞ!雑用!」
「ルフィ?…お前にはグランドラインを制覇し、海賊王になるという夢があるだろう。こんなところで足止めされていいのか?」
「確かにそうだけど、カリギュラが欠けるなんて絶対駄目だ。おれたちは全員そろって麦わらの一味なんだ。誰が欠けてもいけねぇよ」

 ルフィ………

「ふん、小僧が吠えるじゃねぇか。よし、二人で『半年間』雑用をやってもらうとしよう」
「了解した。早速仕事内容を説明してくれ」

 その後、ルフィと共に雑用の仕事の詳細を聞いた。
 ルフィはどうにかして、私たちの雑用期限を一週間にしたかったようだが、そのことを言うたびにゼフの蹴りをくらっていた。





 現在、私はバラティエ内の女子更衣室にいる。なぜか中は妙に小奇麗でロッカー等も新品同然だった。
 そのことをゼフに尋ねると

「こんな荒くれどもの集まるレストランに、ウェイトレスなんざ来ねぇよ」

 とのこと。ならば、なぜ女子更衣室など作ったんだ?

「ふむ、こんなところか」

 支給されたウェイトレスの服に『似せた』服を鏡で確認する。

 上半身は海兵が着るような白に青いラインが入ったセーラー服風のもので、比較的露出が少ないが、下半身は下着が見えそうなくらい短い白いミニスカート。腰の大きなリボンがチャームポイントだそうだ。まあ、私のこれは外皮を変化させただけのものなので、どんなにきわどい服装でも、結局は全裸と変わらない。長い髪はまとめてポニーテイルと呼ばれる髪型にしてある。
 …ちなみに、この服はゼフが直々にデザインしたとのことだ。

 更衣室を出ると、前掛けを着けたルフィとゼフと出会った。
 …ゼフ、お前全身打撲じゃなかったか?

「お、なんかいつもと感じが違うな」
「まあな。普段は髪をまとめていないし、こんな短いスカートは穿かないからな」
「…グッジョブだ、嬢ちゃん」

 いいから部屋帰って寝てろ。

「お、お客様ァーーーーーーー!!」

「ん?なんだこの声は?」
「パティの奴だな。大方サンジの奴がまたなんか問題起こしたんだろ」
「パティとサンジって誰だ?」
「この先の食堂に居るから自分の目で確認しろ。…いつもより騒ぎがでかいな。この分じゃ、おれも行かなきゃならなそうだ」
「フ、半年間、退屈しなさそうだな」
「にひひ!なんか面白くなってきたな」
「退屈してる暇なんかねぇよ。これが海上レストラン『バラティエ』の日常だ。行くぞ、雑用ども」
「応!」
「了解した。オーナーゼフ」



「頭に血が上るんだよォ!テメェみたいなつけ上がった勘違い野郎を見てるとよォ!」
「やめろサンジ!マジで殺しちまう!」
「テメェがどんだけ偉いんだ!?」
「ヒィ…!」

 ふむ、なかなかの修羅場だな。あのくわえ煙草の黒スーツの男がサンジか?
 …よく見れば、ボコボコにされてるのは海軍大尉のフルボディか。

「あ、オーナー!サンジを止めてください!」
「チッ…おい、サンジ!テメェまた店で暴れてやがんのか!」

 ゼフがサンジのところに向かったのを確認してから、フルボディのところへ向かう。

「ク、クソ、何だこのレストランは!?柄の悪さが尋常じゃねぇ…海賊船かここは!グ…マ、マジでこの傷はヤべぇ…は、早く止血しねぇと」
「その必要はない」
「へ?―――!お前、さっきの海ぞゴァ!」

 左手だけを原型に戻し、貫手でフルボディの心臓を貫いた―――
 ―――はずだった。

「ルフィ、何故邪魔をする」

 ルフィが直前で私の左手をはじいたので、狙いがそれ、貫手はフルボディの腹部に突き刺さった。

「怒んのはわかるけどよ、そこまでやることはねぇ。誰も怪我はしなかったし」
「私たちがここで雑用をする羽目にはなったがな」
「お前って結構根にもつのな」

 仲間が危機に曝されたんだ。当然のことだろう。

「いでぇ、いでぇよォ…!」
「ククク…まるで豚の悲鳴だな。海軍大尉殿?」
「…もう一度言うけど、お前ホント根にもつタイプだな」
「って、お、お客様がさらにヤバいことにーーーー!おいテメェら、一体何もんだ!?」

 向こうでの騒動が一段落したのか、坊主頭に鉢巻きを巻いたの男がこちらへやってきた。
 廊下で聞いたのと同じ声だな、こいつがパティだろう。

「「今日からここで働くことになった雑用」」

 私は左手を人間に戻し、フルボディの血をぺロリと舐めて答える。これはアラガミの時からの癖だ。

「そっちの女はどう見ても雑用じゃねぇよ!殺し屋って言われた方がまだ納得できるわッ!?」

 失敬な。

「オーナーに訊いてみろ。今日からウェイトレスをやるカリギュラだ」
「雑用のルフィだ」
「オ、オーナー!本当ですか!?」
「ああ、これから半年間この店で雑用をやる―――」
「ああッ!カリギュラちゃんっていうんだね!」

 ゼフの説明を遮るように、先ほどの黒スーツの男が話しかけてきた。

「僕の名前はサンジ!このレストランの副料理長で、君の上司さ!さあ、手取り足とり腰とり、丁寧に優しく仕事を教えてあげるよ!」
「それには及ばない。先ほどオーナーから一通りの仕事の説明は受けた。後は実行に移すだけだ」
「グ…!ジジイめ、余計なことを」
「あ、おれはあんまわかんなかったから教えてくれよ」
「野郎に教える義理はねぇ!」

 …典型的な女好き。今まで周りにいなかったタイプだな。

「フ、フルボディ大尉!」

 いきなりレストランの入り口から海兵が飛び込んできた。おそらく、フルボディの部下だろう。

「も、申し訳ございません!船の檻から、逃げられました!我々7人がかりで捕まえた、海賊クリークの手下を逃がしてしまいました!」
「ば、馬鹿な!奴にそんな体力は無いはずだ!3日前に捕まえたときにはすでに餓死寸前だったんだぞ!?それから水一滴だって与えてねぇはずだ!」

 おいおい、普通の人間にそんなことしたら確実に死ぬぞ。

「ク、クリーク…?東の海(イーストブルー)最強といわれるクリーク海賊団のことか!?」

 店内の客が騒ぎ始める。
 ふむ、それが本当なら、捕喰する価値がありそうだ。

「も、申し訳―――」

 ドン!

 銃声が一つ。倒れたのは海兵。後ろに立つは血濡れのバンダナを着けた男。

「キャー!」
「う、撃たれたぞ!」

 たちまち店内が騒がしくなる。

「『お客様』一名入りました」
「やれやれ、本当に退屈しないな」
「ふん、おれが嘘を吐いたとでも思っていたか?」
「あいつ海賊か?」
「はあ…この状況でも眉一つ動かさないカリギュラちゃん、美しい…」

 海兵を撃った男はドカドカと店内に上がり、中央の開いていた席にドカっと腰かけた。

「おし、雑用ども。おれが接客の手本を見せてやる」
「いや、私が行こう。ちょうどいい練習になる。お前は…パティであってるか?」
「あ?ああ、おれはパティであってるぞ。あれ、おれ名乗ったか?」
「オーナーから聞いた。とりあえず、行ってくる。お客様がお待ちだ」
「あ、おい!いくらオメェでも相手が―――」

 なおも引き留めようとするパティを振り切り、クリークの手下という男の席に近寄る。

「あ、あのウェイトレス、殺されるぞ…!」

 レストランの客の誰かがそう呟いたのが聞こえた。

「いらっしゃいませ、お客様」
「一度しか言わねぇから良く聞け。おれは客だ。食い物を持ってこい」
「お客様、失礼ですが、代金のお支払いは大丈夫でしょうか?」
「―――!」

 どうやら、私の慇懃無礼な態度にカチンと来たようだ。

「鉛玉でいいか?」

 銃口を私の口元に突き付けてきた。
 ふむ、金は無いか、ならば、ゼフに言われたとおりに対処しよう。

 ガブリ…ゴリゴリ…

「―――!?な…!」
「…不味いな。碌な銃ではない」
「あ、あの雑用、銃を食いやがった!」

 弾倉の金属も大分劣化している。いつ弾けてもおかしくないボロ具合だった

「『金が払えなければ客ではない』というのがここのマニュアルでな。態々海軍の船から脱獄してきてもらって悪いが、失せろ」

 男の頭を掴み、そのまま地面に叩きつけた。なお、今回は特に恨みは無いので、腕は人間のままだ。まあ、“床が陥没した”程度だ。死にはすまい。

「お、おお!」
「な、なんなんだあの海賊女は…!?」
「あのアマ、店の床を…!」
「おお、さすがカリギュラ、強ぇなー」
「あ…が…」

 うむ、ちゃんと息があるな。このくらいの強さでのしてやれば人間は死なないのか。よく覚えておこう。

「いいぞ!ねぇちゃん!」
「畳んじまえ!雑用!」

 やれやれ、危険が無くなった途端これか。調子がいいな。

 ギュルルルル…

「腹の虫が鳴いているな。空腹の辛さは私も理解しているが、それはそれだ。さっさと出て行ってもらおう」
「グ…嘗めんな!」

 男はなおも食ってかかってきた。
 …仕方ないか。

「少し痛いぞ」
「―――ゴゲァ!!」

 腹に蹴りを叩きこんでやった。
 男はそのままレストランの外へ吹き飛んで行った。…ちょっと力加減を間違えたかもしれない。

「も、もう嫌だ!こんなところに居られるか!」

 フルボディが逃げ出そうとしていた。
 む、そういえば、奴はまだ会計を済ましていないな。

「お客様」
「ひっ!な、なんだ!?」
「お帰りでしたら、お会計をお願いします。パティ、お客様のお食事の代金を教えてくれ」
「あー…65000ベリーだな」

 ―――?
 (レシートをチラリと見たが、30000ベリーじゃないのか?)
 (馬鹿、お客様はお前にビビってんだから、しっかりボッたくれ!)
 (了解した)
 アイコンタクト終了。

「へ?あのコースは30000ベリーじゃ…」
「お客様、お支払いいただけないのでしたら先ほどの方と同じ「お帰り」となってしまいますが、よろしいですか?」
「は、払う!払うから、もう勘弁してくれェ!」

 フルボディは代金を払うと、すぐさま自分の船で逃げ出して行った。
 まあ、ルフィの言葉もあったしな。この辺で勘弁してやろう。

「それでは「お客様」方、引き続き、ゆっくりとお食事をお楽しみください」
「かっこよかったぞ!ねぇちゃん!」
「バラティエに新しい名物が出来たな!」
「凛々しくて素敵…」
「よくやった、雑用!」
「美人で気骨もあるウェイトレスか…ようやっとこの男くさい職場にも憩いができたな」

 …ちょっと恥ずかしい。





 とりあえず、もう昼のオーダーは済んで、コックたちも休憩だということで、自由時間を与えられた。ルフィもその辺でフラフラしていることだろう。

「ん?副料理長、キッチンで何をしているんだ?休憩中だろ?」

 キッチンではサンジがピラフを作っていた。

「あ、カリギュラちゃん。いや、まあ、ちょっとね…」
「…あの男にやるのか?」
「…ああ。『腹を空かせた奴には食わせる』。それがおれのコックとしての正義だからな。どう?かっこいいでしょ?」
「フフ…まあ、その回答は保留としよう。実は、私も外に居る男にこっそりと何か喰い物をあげるつもりで来たんだ。…空腹の辛さは身をもって知ってるからな」

 まだアラガミであった時、私は常に『飢え』に苛まれ続けてきた。
 喰べても喰べても決して癒えることのない飢えと渇き…今にして思えば地獄だった。あの時、今のような自我があったら、とうの昔に狂っていただろう。
 今はヒトヒトの実の効果か、ある程度の食事を取れば、それが抑えられるようになった。正直、これが一番この身体になって良かったと思っていることだ。

「そうか、カリギュラちゃんも…意外と修羅場を潜ってるんだね」
「まあな。それより、料理が出来たら私も一緒に行っていいか?あの男に謝罪をしておきたい。仕事とはいえ、大分痛めつけてしまったしな」
「ああ!その義理堅いところも素敵だ!」
「いいから手元を見て料理をしろ」



「面目ねぇ…!もう死ぬかと思った…!こんなうまい飯を食ったのは初めてだ!」
「ほら、そんなにガッつくと喉に詰まらせるぞ。水だ、飲め」
「す、すまねぇ」
「さっきは悪かったな。私はここのオーナーに借りがあってな。ああする以外に対処しようがなかったんだ」
「い、いや、悪いのはおれのほうだ。いきなり銃なんか突き付けちまって…本当にすまなかった」
「気にするな。あの程度の銃など、直撃したところで、かすり傷が付くかどうかだ」
「………銃を食ったことといい、あんた本当に何もんだ?」
「馬鹿、レディにそんな無粋なこと訊くんじゃねぇよ。レディは秘密を着飾って美しくなるもんだ。それを男が毟り取るなんざ、許されねェ」

 やれやれ、良くもそんなに歯の浮くようなセリフが出てくるものだ。

「よかったなーお前!メシ食わせてもらえて!」

 二階の手すりにルフィがいた。

「ルフィ、どうしたそんなところで」
「カリギュラ、おれは決めたぞ」
「―――?何をだ」

 ルフィは私の質問には答えず、サンジに声をかけた。

「おいコック!お前仲間になってくれよ!おれの海賊船のコックに!」
「「あァ…?」」

 サンジと男が訝しげな声をあげた。

「ルフィ、それでは言われた方もわけがわからない。きちんと説明しろ」
「えー…おれパス。カリギュラ頼んだ」

 やれやれ…

「私から詳しい説明をしよう。少し長くなるが、聞いてくれ」
「はい!カリギュラちゃんのお話なら、何時間でも!」

 …本当にこいつでいいのか?



「へぇ、カリギュラちゃんと雑用Aにそんな関係が」
「おい、雑用Aってなんだ。おれにはルフィって名前があるんだ!」
「野郎の名前なんぞ一々覚えてられるか。まあ、とにかくお前らの仲間になるのは断る。おれにはここで働かなきゃいけねぇ理由があるんだ。こればっかりは、カリギュラちゃんの頼みでも聞けないね」
「私は無理強いをするつもりはない。本人が納得しなければ、意味が無いしな」
「ああ!その謙虚なところも最高だよ!」

 …いい奴なんだが、話していると疲れる。

「嫌だ!断る!」
「な、何がだ…?」
「お前が断るのを断る!さっきお前がバンダナにメシやってるの見て決めたんだ!お前、いいコックだから一緒に海賊やろう!」
「おいおい、おれの言い分を聞けよ」
「じゃあ、理由って何だ?」

 確かに気になるな。三度の飯より女が好きそうな男がこのレストランにこだわる理由が。

「…お前に言う必要はねぇ」
「お前今訊けっていっただろ!?」
「おれが言ったのはおれの意見を聞き入れろってことだ!三枚にオロすぞクソ麦わら野郎!」
「何だと!この麦わらをバカにするとぶっ飛ばすぞ!」

 ルフィとサンジはそのまま口喧嘩に突入してしまった。

「はあ、何をやっているんだ」
「…姉さん、あんたも海賊だったんだな」
「ん?ああ、1ヶ月ほど前からな」
「1ヶ月のルーキーであの強さか…底が知れねぇな。そういえば、まだ名乗って無かったな。おれはクリーク海賊団の「ギン」ってもんだ」
「私はカリギュラ。今あそこで副料理長のサンジに蹴りを貰ってるのがルフィ。私が属する海賊団の船長だ」
「あの麦わらさんが船長…おれはてっきりカリギュラさんかと思ってた」

 そういえば、フルボディもそんなこと言ってたな。

「ところで、あんたらの海賊団の目的はなんなんだい?」
「―――!おれはワンピースを目指してる!グランドラインへ入るんだ!海賊王になるのがおれの夢だ!」

 サンジとド突き合いをしてたルフィが答えた。

 ワンピース…“ひとつなぎの大秘宝”。
かつて、海賊王ゴールド・ロジャーが見つけたという伝説の宝。

「―――!」

 ―――?ギンが何か言いたそうだな。

「…コックを探しているくらいだから、まだあまり人数が揃っちゃいないんだろ?」
「ああ、こいつを入れて6人目だ」
「勝手に頭数に入れんな!」
「あんたらは悪い奴じゃなさそうだから忠告しとくが………グランドラインはやめときな」

 仮にもイーストブルーの覇者と言われる海賊団の団員から、グランドラインの恐怖が語られ始めた。



「じゃあな、もう行くよ」

 バラティエの買い出し船に乗っているのはギン。サンジの計らいで、買い出し船を使って、海賊団の元へ戻るつもりらしい。

「応!忠告ありがとうな!だけど、おれはグランドラインへ行くぞ!」
「…ああ。もう止めねぇよ。元々、他人のおれに、あんたの意志をどうこうする権利も無いんだ。好きにしな」

 そういうと、ギンはサンジの方に向き直った。

「サンジさん…本当にありがとう。あんたは命の恩人だよ。あのメシは最高に美味かった。また、食いに来てもいいか?」
「いつでも来いよ」
「次に来るときはしっかりと金を持ってこい。またお前を蹴りだすのは酷だ。お互いにな」

 全員で笑っていると、上から怒鳴り声が落ちてきた。

「コラ!雑用小僧とウェイトレス!そこにいたか!」
「げ!おっさん!」
「!………」

 ふと、ゼフはギンが食べて空になったピラフの皿をじっと見つめた。

「行けよ、ギン…」
「ああ、悪いな。怒られるんだろ?おれなんかにただメシ食わせたから」

 バリバリ…モグモグ…

「ふむ、この「落ちていた」食器はうまいな」
「…怒られる理由と証拠がねぇ。」

 皿を喰った私に、サンジが笑いながらウインクを飛ばしてきた。なかなか様になっていた。

「もう捕まんじゃねぇぞ!」
「じゃあなー!ギーン!」
「お前が無事に仲間の元へたどり着けることを願う」
「おいテメェら!休憩はとっくに終わってんだよ!さっさと働け!」

 ギンを送り出した後、ゼフに追い立てられながら、私たちはそれぞれの持ち場へと散って行った。

………イーストブルー最強の海賊団がわけもわからないうちに壊滅、か。

なんとも面白そうな海じゃないか、グランドラインというのは。













【コメント】
 タイトルを決めました。正しく読めた方にはカリギュラさんがハグしてくれます。



[25529] 第4話 クリーク襲来
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/08 23:36
海上レストラン『バラティエ』厨房。ディナータイムに入り、客のピークを迎えるこの時間はさながら戦場のようだ。

「3番のオードブル上がったぞ!」
「よし、次は4番テーブルのマリネを頼む。パスタ、私が帰ってくるまでに6番テーブルのデザートを仕上げてくれ」
「あいよ」
「カリギュラ、この海子牛のローストは何番だ!?」
「12番テーブルだ。今ごろあの席の客は食前酒を飲み終わっているはずだ。すぐに持って行け」
「カリギュラ、食い逃げだ!ぶっ殺してこい!」
「ああ、それならここに来る前に済ませた。犯人は身ぐるみ剥がして海に放り込んでおいたぞ」

「いやしかし、カリギュラも大したタマだな。初日だってのに完全に馴染んでやがる」
「ああ。最初はどこの殺し屋かと思ったが、いい仕事しやがる。もう一人の方はてんで駄目だがな」
「全くだ。そういや、あいつがぶっ飛ばしたのはクリークの一味だって言うじゃねぇか」
「クリーク一味か…さっきもそんなことを聞いたが、クリークってのは何なんだ?」
「おいおい、知るねぇのかよ。“首領(ドン)・クリーク”って言やぁ、この辺の海じゃあ最強最悪の海賊って名高いぜ?」
「そうそう、カナッペの言うとおりだ。なんせ奴ぁ、50隻の海賊船の船長を統括する“海賊艦隊”の首領なんだからよ」
「それがどうしたよ、カルネ?」
「奴の並はずれた兵力は5000を超えると聞いた。下手すりゃ、この店は踏みつぶされちまうってことだよ」
「そんなことはさせない」

 私は先ほどから聞こえていた会話に口を挟んだ。

「兵力が5000だと言うならば、5000人殺せばいい。それだけのことだ。それよりカルネ、8番テーブルの前菜はまだか?客が待ちくたびれてるぞ。それとパティ、勝手に料理酒を飲むな。次やったらオーナーが鳩尾に蹴りだと言っていたぞ」
「おお、勇ましいじゃねぇか。昨日逃げ出したバイトのウエイターとは大違いだ。カルネ、お前もカリギュラを見習え。バラティエ名物“戦うコックさん”の名が泣くぞ」
「あほか。悪魔の実の能力者と一緒にするな。お前らと違っておれは平和主義者なんだよ」

 私の身体能力や空を飛んだり、無機物を喰べたりできるのは悪魔の実の能力ということで説明してある。普通の町などなら忌避されるものだが、ここは荒くれの集うレストラン。「ほー、伝説は本当だったんだな」程度にしかならなかった。

「ほざけテメェ!3日前やってきた海賊どもを顔の形が変わるまでブチのめしたのはどこのどいつだ!」
「うるせぇ!あれはあいつらが、おれの自慢のサングラスを馬鹿にしやがったからだ!」
「どうでもいいから早く料理を仕上げてくれ。これ以上無駄口を叩いて調理がおろそかになるようだっら、物理的に黙らせるぞ」

 バリン、ガチャン、ドンガラガッシャーン!

「…ルフィ、何をやっている?」
「い、いや、皿を洗おうかと…」
「皿?ああ、お前の足元に散らばっているガラクタのことか?」
「あー、えーと、そのー………」
「ルフィ、お前は船長で私は船員だ。普段なら、逆らうことは許されん。だが、今はお互い雑用で対等な立場だ。わかるな?わかったら手を出せ。指3本で許してやる」

 ルフィは一目散に逃げ出した。

「逃さん…!」

―――「ギャァァァァァァァッ!」

「…ホントに馴染んでやがるな」
「「…ああ」」



「ずんまぜんでじだ!ホンドずんまぜんでじだ!」
「わかったからもう泣くな。私も少しやり過ぎたと思っている。ほら、一緒に注文を取りに行こう」
「うん」

 厨房から、レストランのフロアへ出ると、大勢の客の中に、見慣れた顔がいた。

「あら、雑用コンビじゃない。あ、カリギュラ可愛い!」
「二人で半年も働くんだってな。お、なんかカリギュラの恰好が新鮮だな」
「船の旗描き直してもいいか?」

 麦わらの一味が勢ぞろいだな。

「キャプテン、ゾロ、ナミ…すまないな、こんなことになってしまって」
「ホントにお前はお人よしで苦労人だよな。もう少し気楽にやってもいいんじゃねぇか?」
「面倒見の良さは仲間一ね。ルフィはこんな仲間を持てて幸せだわ」
「おいおい、あんまりルフィを甘やかすなよ?このままだとお前に頼りっきりなっちまう」
「あ!お前ら、おれたちを差し置いてなにうまそうなもん食ってやがんだ!よこせ!」
「「「オメェはカリギュラの爪の垢でも煎じて飲め!」」」

 しばらくは談笑が続いた。
途中、いじけたルフィがゾロの水に異物を混入しようとしたが

「ルフィ、今指につけているものを水に混ぜたら次は指5本だ」

 という私の必死の説得でやめてくれた。素直でよろしい。



「さて、そろそろ仕事に戻らねばな。追加注文はございますか?お客様」
「あ、それなら私デザートを頼みたい。この青海ブドウのシャーベットて言うの」
「かしこまりました」

「ああ!今日という日はなんて幸運な日なんだろう!2人もの美の女神あえるだなんて…!」

 この声は………

「副料理長、何をしているんですか?」
「カリギュラちゃん、そんな他人行儀な呼び方しなくて、サンジでいいよ。だって僕たちは共通の罪を背負ってるじゃないか!あと、僕は君たちのような美しいレディの前にはいつだって現れることが出来るのさ!」
「………」

 ………頭が痛い。

「おい、カリギュラが頭抱えてるぞ」
「ああ、珍しいもんが見れた」
「そしてオレンジ色の髪を持つもう一人のアフロディーテ!僕はあなたとなら例え海賊に堕ちたっていい!だがなんという悲劇!僕たちの間には大きな障害が!」
「障害ってのはおれのことだろう、サンジ」

 いつの間にか近くの柱にゼフが寄り掛かっていた。

「ゲッ!クソジジイ」
「いい機会だ、海賊になっちまえ。お前はもうこの店には要らねぇよ」
「…おい、クソジジイ。そりゃどういうことだ?」
「客とはすぐ面倒事を起こす。女と見りゃ、見境なく鼻の頭を膨らませる。おまけにまともな料理一つ作れやしねぇ。お前はこの店にとってお荷物なんだよ。他のコックどもも煙たいお前が海賊なってくれれば喜ぶだろうよ」
「黙ってきいてりゃ好き勝手言ってくれるなクソジジイ!他の何を差し置いてもおれの料理をけなすとは許さねぇぞ!」

 サンジはオーナーの胸倉を掴んだ。

「いいか!おれは何と言われようがここでコックを続ける。文句は言わせねェ!」
「オーナーの胸倉を掴むとは何事だボケナス!」

 ゼフはサンジの胸倉を掴んだ手を取り、見事な投げを決めた。キャプテンたちのテーブルに。

「…オーナー、熱くなるのは良いが、テーブルに叩きつけないでくれ。私が料理を退避させなければ危うく台無しになるところだったぞ」
「ふん、文句ならそこのボケナスに言っておけ」

 言うだけ言うと、ゼフは踵を返した。

「っキショウ…クソジジイ!テメェがおれを追い出そうとしてもな!おれはこの店でコックを続けるぞ!テメェが死ぬまでな!」
「おれは死なん。後100年は生きる」

 それだけ言うと、さっさと奥へ消えていく。

「やれやれ、お互いに口が減らないな。副料理長…いや、サンジ、立てるか?」
「ああ。ジジイの蹴りに比べたら、このくらいどうってことないよ、カリギュラちゃん」

 サンジは私が差し出した手をやんわりと断り、自力で立ち上がった。

「よっしゃ、これで許可が下りたな。一緒に海賊に―――」
「ならん!」



「先ほどはお見苦しいところをお見せして失礼。お詫びにフルーツのマチェドニアを召し上がれ。青海ブドウのシャーベットも私が心を込めて作らせていただきました」
「うわぁ、嬉しい」

 私が仕事に戻って数十分後、サンジはナミを口説くつもりなのか、自慢の料理をふるまっていた。

「食後酒にはグラン・マニエをどうぞ、お姫様」
「優しいのね」
「そんな………♡」
「ちょっと待て!おれたちにはなんの詫びもなしか!?」
「テメェらにゃ粗茶だしてんだろうが。それで十分だろうが、このタコ野郎!」
「やんのかコラ!よし、カリギュラやっちまえ!」
「断る。それよりキャプテン、残っているキノコを早く喰べてくれ。皿が片付けられん」
「ああ、おれはキノコ駄目なんだよ。子供のころ中ってな」
「だから?これは毒キノコではない」
「いや、でもよ…」
「キャプテン、5秒以内に喰え。出来なければ喉を搔っ捌いて無理やり詰め込む」
「喜んで食べさせていただきます!」
「よろしい」
「カリギュラちゃんは料理に対する礼儀ってもんを良く知ってるね。ますます好きになっちゃったよ」
「………」

 良いことを言っているのだがな…

「ところで、ねぇ、コックさん?」
「はい、何でしょう?お姫様」
「ここのお料理、私には少々お高いみたいなの?だから…」

 ナミがグッとサンジに顔を寄せる。

「はい!勿論無料にさせていただきます!」
「ありがとう、嬉しい!」
「サンジ、代金はお前の給料から天引きだからな」
「え!?ちょ、カリギュラちゃん!?」
「コックたちの給与管理も仕事のうちだそうだ。占めて12000ベリー、しっかりと給料から引いておく」
「…ま、まあ、レディの抱擁の代償としては安いもんだ」
「そうか。では、今取ってきた注文の料理を頼む。9番、1番テーブルだ」
「…小悪魔系のこの娘(こ)もいいけど、クール系のカリギュラちゃんも素敵だな」
「いいから早く行け」
「OKだ。カリギュラちゃん」
「ああ、お茶がうめぇ」
「ルフィ、お前もさっさと仕事に行くぞ。今入ってきた客におしぼりを用意しろ」
「エェ…面倒くさ―――」

 ジャキン!

「御意!」
「…もう本当にどっちが船長かわからなくなってきたな」
「「うん」」





 私たちがバラティエで雑用をしだしてから2日後、その海賊船はやってきた。

「お、おい!あれは“首領・クリーク”の海賊船じゃねぇか!?」

 外には巨大なガレオン船がこちらに向かってくるのが見える。

「敵への脅迫を示す砂時計を両脇に掲げた髑髏…間違いない!クリーク海賊団だ!」
「団体の『お客様』がご到着されました」
「言ってる場合か!カリギュラ、お前は奥へ行ってろ。きっとあの下っ端をボコボコにしたお前を狙ってるんだ!」
「安心しろ、前にも言った通り、そうなったら皆殺しだ」
「「「頼りになり過ぎて逆に怖ぇよ!」」」

「でっけー船!ギンの奴、サンジに恩返しに来たのかな?」
「…いや、そういう雰囲気じゃねぇな。だが、一番気になるのは…なんであんなにボロボロなんだ?」

 サンジが言ったように、クリークのガレオン船はいたるところに破損が見られ、浮いているのが奇跡に近いような状態だった。

「あのでかい船をここまでぶっ壊すとは、まず人間業じゃねぇ。何かの自然現象に捕まっちまったんだろう」

 しばらくすると、レストランのドアが開いた。

「すまん…メシと、水を貰えないか?金なら…いくらでもある」
「た、頼む!ドンを助けてくれ!今日はちゃんと金を持ってきた!」

 入ってきたのは2人。一人は2日前に別れたばかりのギン。もう一人はギンに抱えられている大柄でがっしりとした男。

「カルネ、あれが“首領・クリーク”か?」
「あ、ああ。手配書でしか見たことねぇが、確かにそうだ」
「そうか。―――『お客様』2名入りました」
「お、おい!あいつはイーストブルー最強最悪の海賊、クリークだぞ?」
「関係ないな。確りと金を持っているのだろう?だったら『お客様』だ。サンジ、オーダーだ。消化が良くて出来るだけ腹に溜まるものを」
「もう用意出来てるぜ、カリギュラちゃん」
「―――!サンジ、カリギュラ!テメェらいい加減に―――」
「どけ、パティ」
「グへッ!」

 サンジの回し蹴りがパティに突き刺さった。

「ほらよ、ギン。これをそいつに食わせな」
「サンジ、ピラフは少々重いだろう。ギン、このスープも一緒に飲ませろ」
「サンジさん!カリギュラさん!」
「すまん!」

 ギンから食事を受け取ると、クリークは一心不乱に貪り始めた。

「サンジ!カリギュラ!今すぐそいつからメシを取り上げろ!お前らはそいつがどんな奴か知ってんのか!?イーストブルーの覇者、“ダマし討ちのクリーク”とはこいつのことだ!始めに監獄から海兵に変装して脱走し、船の海兵を皆殺しにして海賊として旗を上げた!その後も白旗や海軍旗を掲げて敵船や商船、町を襲うことを繰り返してきた外道だ!勝ち続けるために手段を選ばない男なんだぞ!?」

 まさしく、絵に描いた海賊といったところか。

「この男、本来の強さもハンパじゃねぇ!そんな男がメシを食って大人しく帰るだと?ありえねぇよ!」
「だから、さっきも言っただろう。そうなったら皆ご―――!」

 瞬間、身体が宙に舞った。

「は、話が違うぞ、ドン!この店には絶対に手を出さねぇって約束でここへ案内したんだ!それに、あの男とウェイトレスはおれ達の命の恩人だぞ!?」
「ああ、ピラフもスープも美味かった。生き返ったよ」

 ゴキッ!

「ぎゃぁぁぁぁッ!」
「ギン!」

 クリークがギンの肩を握り潰した。
 なかなかの膂力だ。

「サンジ、立てるか?」
「余裕。それより、カリギュラちゃん怪我は無いかい?」
「あの程度、赤子に撫でられた様なものだ」
「レディに手を上げるとは、男の風上にも置けないクソ野郎だな」
「ほう、両方とも意外と丈夫だな。まあいい、このレストラン、気に入った。貰うとしよう」
「ま、巻き込まれるぞ!逃げろ!」
「キャーッ!」

 クリークの言葉に、店内の客が我先にと逃げ出す。

「…今逃げ出して行った客の代金はクリーク海賊団持ちでいいのだろう?」
「ああ。しっかりボッたくってやってくれ」
「…ふむ、その喋り方の方が私は好みだぞ。サンジ」
「お、そうかい。じゃあ、リクエストにお答えして、この喋り方で通させてもらうよ、カリギュラちゃん」
「な、何落ち着いてやがんだ!見ろ、これがクリークって男だ!」
「ドン…約束が、違う…」
「ギン!大丈夫か!?」
「安心しろ、ルフィ。派手な音はしたが、折れてはいない。骨が外れただけだろう」
「そっか、よかった」

「ウチの船はボロボロになっちまってな。丁度新しい船が欲しかったんだ。お前らには用が済んだらここを降りてもらう」
「降りてもらう?意外だな。イーストブルー最悪の海賊と言われているくらいだから、皆殺しくらいはすると思ったが…」
「フハハ!気丈な女だ。まあ、おれもそれなりに恩は感じてるってことだよ。さて、今船には息のある部下が約100人、空腹と重症でくたばっている。まずは、そいつらの食料と水を用意しろ。早急にな」
「この船を襲うとわかっている連中を後100人増やせってか!?断る!」
「…勘違いするな。おれは「命令」してるんだ…誰もおれに逆らうな!」

 クリークの気迫にコックたちが身震いする。

「取り返しのつかねぇことしてくれたな!サンジ!カリギュラ!」

 いつの間にか意識を取り戻していたパティが悪態をついてきたが、無視。

「―――!おい、サンジ!どこへ行く!?」
「厨房さ。後100人分メシを用意しなけりゃならねぇ」
「な、何ィッ!」
「サンジさん…」
「そう、それでいい」
「サンジ」
「………」

 だが、厨房へ向かうサンジを囲う様に、コックたちが銃を突き付けた。

「………」
「ストップだ、カリギュラちゃん。レディがこんなムサイ男どものゴタゴタに巻き込まれちゃいけない」
「…了解した」

 私はブレードを展開しようとしていた左手を元に戻した。

「テメェはクリークの回しものかよ、サンジ。厨房には入れねぇ。お前のイカレた行動にはもう付き合いきれねぇ!」
「いいぜ、おれを止めたきゃ、撃て」
「「「「「―――!」」」」」
「わかってるよ。相手は救いようの無ぇ悪党だってことぐらい…でも、おれには関係無ぇことだ。食わせた後、どうなるかなんて、考えるだけでも面倒臭ぇ。―――「食いてぇ奴には食わせてやる」、コックってのはそれでいいんじゃねぇか?」
「「「「「………!」」」」」

 サンジを囲んでいるコックたちがためらった瞬間

ドゴッ!

パティの裏拳がサンジの後頭部に炸裂した。

「パティ!」
「抑えとけ!…サンジ、お前はおれが追い払った客にたまに裏口でメシをやってるよな。それが正しいかどうかはおれにはわからん。だが、今回のことはテメェとカリギュラのミスだ!これ以上余計な真似をするな、この店はおれが守る!」
「パティ、誤解があるようだから一つ言っておく。私は奴らが金を払う気があるから客として対応しただけだ。代金を踏み倒そうというのなら、私も戦う」
「引っ込んでろ。どうせこれでケリがつく」

 パティはいつの間にか大きな包みを持っていた。

「幸い敵はまだ“首領・クリーク”一人。ここは日々海賊蠢く海上レストラン!どんな客でも接客の準備は万端よ!」

 パティが包みから取り出したのは黒光りするエビ型のバズーカ…?だった。

「食後に一つ、鉄のデザートを食っていけ!『食あたり砲弾(食あたりミートボール)』!!」
「小癪」

 ボゴォンッ!

 砲弾は見事クリークに直撃し、クリークはそのままレストランの外縁にはじき出された。

「まいったな。扉壊しちまった。オーナーにどやされちまう」
「店を守るための小さな犠牲だ。この程度で済んで御の字よ」
「クリークの船に残った連中はどうすんだよ」
「そうだな、船にバターを塗ってローストにでもするか?」
「そいつぁ美味いんだろうな、ヘボコック」
「―――!馬鹿な!」

 砲弾の直撃をくらっても立つか…

「クソ不味いデザート出しやがって、最低のレストランだ」
「カリギュラ!あいつ身体が金ぴかだぞ!?」
「…おそらく、ウーツ鋼の鎧だ。金色に輝くのはウーツ鋼の特徴だと鉱物関係の本に書いてあった」
「ウーツ鋼?」
「イーストブルーの東南、赤い大陸(レッドライン)付近のウーツ島の鉱山でのみ採掘される金属だ。硬度、耐久力、柔軟性、に富んでいるが、重い。同じ体積で鉄の約2倍の質量を持つ」
「―――?」
「…とにかく堅いということだ」
「おお!そういうことなら最初から言ってくれよ」
「………はあ」

 ルフィにため息をついていると、いつの間にかコックたちが全滅していた。

「虫ケラどもが…このおれに逆らうな!おれは最強なんだ!誰よりも強い鋼の腕!誰よりも硬いウーツ鋼の体!全てを破壊するダイヤの拳!全身に仕込んだあらゆる武器!」
「………」

―――右腕変形。タイプ『オヴェリスク』

「50隻の艦隊に5000人の兵力!今まで全ての戦いに勝ってきた!おれこそが首領(ドン)と呼ばれるにふさわしい男!」

―――アラガミバレット『二連轟氷球』装填。

「おれが食料を用意しろと言ったら、黙ってその通りにすればいいんだ!誰も俺に逆らうな!」
「…ふむ、食あたりミートボールだけでは喰い足りなかったと見える」
「ああ!?―――!な、なんだその腕はッ!」
「お望み通り、最高のデザートを振舞ってやろう。天にも昇る気持ちになれる」
「ヤ、ヤメロォ!!」

―――発射

ドドゴォン!

 『二連轟氷球』―――その名の通り、爆発する2つの氷塊を打ち出す、私の吐き出す氷弾を模したアラガミバレット。目標を自動追尾する機能も付いているので、まず外れないのだが…

「邪魔をするな、オーナー」

 いつの間にやらいたゼフに銃身に蹴りを入れられ、大きく射線がずれてしまった。これでは、いくら追尾機能があろうとも、当たるわけがない。

「やかましいボケアマ。おれの店をぶっ壊す気か?」
「オーナーが軌道を変えなければ、クリークに直撃して、被害は正面だけで済んだんだがな。…天井の総入れ替えが必要だ」

 射線がずれたおかげで、天井の1/3が消し飛んだ。

「チッ、口の減らねぇ奴だ」

 ゼフはそのまま先ほどの銃撃を見て呆けているクリークの前に、大包みを投げ出した。

「オーナー・ゼフ!」
「―――!」
「100食分はあるだろう。さっさと船へ運んでやれ…」
「ゼ、ゼフだと…!?」
「オーナー!なんてことを!船の海賊どもまで呼び起こしたら、この船は乗っ取られちまうんですよ!?」
「…その戦意があればの話だがな。なあ、グランドラインの落ち武者よ」
「貴様は、『赫足のゼフ』」

 クック海賊団船長『赫足のゼフ』。コックにして料理長を務めた無類の海賊。戦闘において一切手を使わなかったといわれる蹴り技の達人。その威力はすさまじく、岩盤を容易く砕き、鋼鉄にすら足形を残したという。だが、9年前の海難事故で死んだとされている。
 なるほど、あの右足はその時に失ったのか。

「お前はかつて、そこの女のような悪魔が蠢くグランドラインで丸1年航海をしながら、無傷で帰ってきた海賊。その1年を記録した「航海日誌」を俺によこせ!」
「へー、おっさんもグランドラインに入ったことあんのか」
「まぁな。確かに航海日誌はおれの手元にある。だが、あの日誌はかつて航海を共にした仲間達全員とわかつ我々の誇りの証。貴様にやるには少々重すぎる!」

 …誇り、か。

「ならば、奪うまでだ!確かにおれはグランドラインから落ちた!だが、腐っても最強の男“首領・クリーク”!たかだか弱者どもが恐れる闇の航路など、渡る力は十分にあった!野心も!兵力も!ただひとつ惜しむらくは情報!それのみがおれに足りなかった!」
「いや、違うだろ」
「…なんだと?女ァ…!」
「お前に圧倒的に足りないものは―――『実力』だろう?」
「…どうやら、死にてぇらしいな」
「ならば、さっさと掛かってこい。お前を片付けた後、船から逃げた客の食事代や店の修理代も含めて回収しなければならないのだからな」

 左右の腕を原型に戻し、クリークを挑発する。

「な、なんだあの腕!?」
「あれが悪魔の実の能力者…!」

 コックたちがざわつく。

「化け物め……だが、グランドラインで学んだように、情報がそろわないうちにお前とことを構えるつもりはない」
「私には関係無いな。ここで死ね」
「やめろボケアマ!」
「…オーナー、金を払わない奴は客じゃないんじゃないのか?」
「オーナー命令の方が優先順位が上だ。黙って従え」
「…了解した」

「そうだ、大人しくしていろ化け物。すぐに始末してやる。そして、おれはゼフの航海日誌を手に入れ、再び海賊艦隊を組み、“ひとつなぎの大秘宝”を掴みとって、この大海賊時代の頂点に立つのだ!」
「ちょっと待て!海賊王になるのは、おれだ」
「ルフィ…」
「ざ、雑用…!」
「おい引っこんでろ、殺されるぞ!」
「引けないね、ここだけは!」
「何か言ったか、小僧?聞き流してやっても良いんだが」
「聞き流す必要はねぇ。おれは事実を言ったまでだ」

「………」
「ルフィが気になるか?サンジ」
「―――!い、いや、気になんかなって無いよ、カリギュラちゃん」
「…そうか」

 さて、そろそろ奥のテーブルに座っている輩にも出張ってもらうとしようか。

「キャプテン、ゾロ。そろそろ出番だぞ」
「応!」
「いや、カリギュラ、実はおれ2日前のキノコに中って体調が…」
「私はオーナー命令で動けない。代わりに頼むぞ」
「なんだ、お前らもいたのか。いいよ、座ってて」
「ハッハッハッハッハ!そいつらはお前の仲間か?随分とささやかなメンバーだな!」
「何言ってんだ!後2人いる!」
「だから、おれを頭数に入れんな!」
「嘗めるな小僧!グランドラインは情報こそ無かったにせよ、兵力5000の艦隊がたった7日で壊滅に帰す魔海だぞ!」
「な、7日!?」
「クリークの海賊艦隊がたった7日で壊滅だと!?」
「聞いたかおい!50隻の艦隊が1週間で全滅したってよ!」
「面白そうじゃねぇか」
「兵力5000と言っても、碌なのがいなかったんだろう。0が5000人集まっても結局は0だ」
「…このままそう言い張るのなら、この場に残れ。おれが直々に殺してやる。特にそこの化け物」

 クリークが私を睨みつける。

「あそこまで啖呵を切ったんだ。貴様は必ず残れ」
「言われずとも、私は逃げも隠れもしない…私の右腕も、お前を喰いたくて仕方がないみたいだしな」

 右腕を捕喰形態である顎門に変える。
 ダラダラと滴り落ちる唾液が、早く喰わせろと言っているようだ。

「…ふん、ますます持って化け物だな。まあいい、貴様ら全員に一時の猶予をやろう。おれは今から船に居る部下どもにこの食料を食わせてくる。死にたくねぇ奴はその間に船を捨てて逃げればいい。おれの目的は航海日誌とこの船だけだ。もしそれでも死にてぇ奴がいるなら仕方ねぇ、面倒だが、おれが海に葬ってやる」

 それだけ言うと、クリークは船へと戻って行った。

「…オーナー、さすがにもうやめろとは言わないだろう?」
「このイカレクソアマめ、海賊どもが可愛く見える。…あいつらが戻ってきたら、好きにしろ」
「了解した」

 左腕のブレードをぺロリと舐める。
 もうすぐ、血の味がするようになるだろう。
















【コメント】
 カリギュラ は ちから を ためている !



[25529] 第5話 世界最強の剣士
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/02/02 19:43
「サンジさん!カリギュラさん!すまねぇ…こんなことになるなんて」

 ギンは俯いたまま絞り出すように謝罪を述べる。

「ギン、謝っても何の意味もない。既に賽は投げられた。後は行きつくところに行きつく。ただそれだけだ」
「下っ端、お前が謝ることなんぞ何もねぇ。ここのレストランの連中が思い思いに行動し、今の結果がある。それだけのことだ」

 その後、コックたちがサンジやゼフの行動に疑念をぶつける等のちょっとした諍いがあったが、私は興味が無いので、仲間のいるテーブルに腰を下ろした。

「ふむ、『腹を空かせた奴には食わせる』、『食いてぇ奴には食わせてやる』。例え、自分が守るべきものを危険に晒しても、自分の正義を貫くか…」
「口で言うのは簡単でも、なかなかできることじゃねぇよ。あのサンジって男は、男の中の男だな。…ところでカリギュラ、ちょっとおれと近くの島まで散歩に行かない?」
「散歩?何を言っているんだ、キャプテン。これから戦闘だぞ?相手の肉を引き裂き、断末魔の悲鳴を聞きつつ喰らえる、最高の時間だ。悪いが後にしてくれ」
「真顔で怖ぇこと言うな!」
「なんかカリギュラの奴、興奮してんな」
「ここはもう戦場だ。カリギュラは臨戦態勢なんだろう。かくいうおれもそうだがな」
「へへ、カリギュラもやっぱこういうところだと熱くなんだな。おれもあの金ぴかとは戦わなきゃならねぇ。海賊王になるのはおれだって、証明しなきゃな」
「ああ、もう!このバトルジャンキーどもが…!」

 このレストランを守るために残ったコックたちを含む全員が戦闘の準備を進める中、ルフィがギンに問いかけた。

「そういや、前に訊いた時はグランドラインのこと何もわからないって言ってたな。もちっと詳しく教えてくれよ」
「―――!わからねぇってのはそのまんまの意味だ。グランドラインに入って7日目、あの日のことは今だに夢なのか現実なのか判断が付かなねぇんだ。………クリーク海賊団は、50隻の艦隊は、たった一人の男に全滅させられたんだ」

「え!?」
「馬鹿な!?」

 あの巨大なガレオン船を含む50隻の艦隊が一人の人間によって壊滅…なるほど、その男は喰いでがありそうだな。

「ありゃあ、悪夢だったよ。訳も分からねぇまま、次々と仲間の船が沈んでいくんだ。特に、それを実行した男の“目”は何があっても忘れられねぇ…あの、人を睨み殺すかのような“鷹の目”を!」

「何だと!」

 ゾロが鷹の目という言葉に反応した。

「“鷹の目の男”か、船でジョニーがそんなことを言っていたな」
「ほう、知ってんのか?」
「いや、少し小耳に挟んだ程度だ」
「鷹の目の男…下っ端が襲撃犯の男の目を鷹のように感じたかどうかは証拠にならねぇが、そんなことをしでかすことが十分な証拠だ」
「た、たかのめ…?誰だそりゃ?」
「知らね」

「おれの探している男さ」
「ゾロ、お前がか?」
「ああ、お前も聞いてたように、このレストランにも現れたことがあるらしい」
「ほう…パスタ、鷹の目の男がここに来た記憶はあるか?」
「“真っ赤な目の男”なら昔来たぜ」
「ああ、あのワインの飲み過ぎで目が真っ赤になった馬鹿のことか。煙草吸おうとして火をつけたらドカンだもんな。おかげで床の掃除が大変だった」
「後はあれだな、2日前の食い逃げ野郎」
「カリギュラがボコボコにした奴か。頭から流れてくる血で目が真っ赤に染まってたな。ってか、全身血塗れだったじゃねぇか。でも、あいつまだ海から浮かんできてねぇだろ」

「…あの野郎、ガセネタかよ」
「気を落とすな、ゾロ。いつか必ず会う日が来る」
「おれはそれより、カリギュラが殺人行為を行っている可能性が非常に高いことが気になるんだが…」
「安心しろ、キャプテン。件の喰い逃げは確実に息の根を―――」
「言うな!それ以上言うな!てか知りたくねぇ!」
「遠慮するな、キャプテン。まず、奴の断末魔なんだが―――」
「やめろっつってんだろーがッ!」

「艦隊を相手にしようってくらいだ。何か深い恨みでも持ってたんじゃねーか?」

 サンジがギンに問いかける。

「そんな覚えはねぇ!本当に突然だったんだ!」
「昼寝の邪魔をしたとかな」

 ゼフが横から口をはさむ。

「ふざけんな!そんな理由でおれ達の艦隊が壊滅してたまるか!」
「ムキになるな、物の例えだ。だが、グランドラインってところはそういうところなんだよ」
「―――?カリギュラ、意味わかるか?」
「何が起こるか予測不能。そういうことだろう」
「おお!そりゃ面白そうだ!くーッ、早く行きてー!」
「テメェはもう少し身の危険を感じろ!」
「大丈夫だ、キャプテン。何が起ころうとも、私が仲間を必ず守って見せる」
「おお!相変わらず頼もしい!」

目をキラキラとさせて、キャプテンが私を見つめる。

「…ウソップ、お前自分が男として情けなくなるとき無ぇか?」
「うっさい黙れ!」
「まあ、それはさておき、おれの目標はグランドラインに絞られたわけだ。“あの男”はそこに居る」

 サンジが新しい煙草に火をつけながらこちらを見た。

「馬鹿じゃねぇの。お前ら早死にするタイプだな」
「それは当たってるが、馬鹿は余計だ。剣士として最強を目指すと決めたときから命なんてとうに捨ててる。このおれを馬鹿と呼んで良いのはおれだけだ」
「おれもおれも!」
「当然おれも男としてな!」
「「「いや、嘘だろ?」」」
「いくらなんでも全員はひどくない!?」

 わいわいと騒ぐ仲間を見つつ、サンジに向き直る。

「人間は生きても100年。私はまだまだ人間のことなどほとんど解らないが、“いつ”死ぬかではなく、“何をして”死ぬかが重要だと、仲間を見ていると感じる。無為に生きた100年より、何かを成し遂げた20年の生の方が、素晴らしい。私はそう考えるよ」

「…けっ、馬鹿馬鹿しい。あ、カリギュラちゃんのことは馬鹿にしてないよ?」

 サンジの顔を見て、ゼフは微笑を浮かべたのが見えた。



「「「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!」」」」」」」」」」

「雄たけびだ!海賊どもが押し寄せてくるぞ!」
「このレストランを守るんだ!」

 イッツ、ディナータイム。

 …と、思った瞬間

ズバン!

「…あー、なんていうんだったかな、この切り方…三枚下ろし?」
「言うとる場合か!あ、あの巨大ガレオン船がいきなり三つに分かれたんだぞ!?」
「キャプテン、分かれたんじゃない、斬られたんだ。よく見ればわかるが、あの切断面は鋭利な刃物によるものだ」
「どっちでもいいだろう!…ちょっと待て、外にはゴーイングメリー号とジョニー達がいたはずだぞ!」
「―――!そういうことは先に言え、キャプテン!」
「急ぐぞ!まだ間に合うかもしれねぇ!」
「「「応!」」」

 表へ出ると、ゴーイングメリー号の姿は無く、船が割れた衝撃で荒れ狂う海にヨサクとジョニーを見つけた。

「ヨサク!ジョニー!無事か!」

 私はブースターを展開し、溺れかけていた2人を掴み上げる。

「は、はい。なんとか」
「そうか。ところで、ナミと私たちの船はどうした?」
「両方とももうここにはいません。ナミの姉貴は…宝を全部持って逃げちまいました」

 ―――!

「「「な、なんだとーーーーッ!」」」

 ―――目の奥がチリチリする。



「不意を突かれて海に落とされ、ナミの姉貴はそのまま宝を持って船でとんずら。その直後、濁流に呑まれたんです」
「クソッ!あの女、最近大人しくしてると思ったら、油断も隙もねぇ!」
「この事態に輪をかけて面倒にしやがって!」
「………」

 ―――裏切り者め、報いは必ず受けてもらう。

「待て、まだ船が見えるぞ!」
「何!?」
「ゴーイングメリー号に間違いねぇ!」
「ヨサク、ジョニー!お前らの船は!?」
「ま、まだ残ってやすが…」
「カリギュラ、ゾロ、ウソップ!」
「…了解した。あの女を喰い殺してこいという―――グハ!」

 瞬間、頬をぶん殴られた。
 私を殴ったのはルフィ。その表情は厳しい。

「…お前、仲間を殺すなんて言うんじゃねぇ!」
「…何故だ?あの女は私たちを騙し、裏切ったのだ。しかるべき報いを受けるべきであろう?」
「カリギュラ、お前は自分が信じたナミが、本当に裏切ったと思ってんのか?」
「………」
「おれはあいつを信じてる。だから、あいつがこんなことしたのはきっと何か理由があるはずだ」
「…根拠は?」

「カン!」

 ………

「………ククククククク…アハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
「「「「カ、カリギュラ(姐さん)…?」」」」
「いや、すまない。自分の滑稽さに思わず笑ってしまった。そうだな、私が信を預け、また信を預けてくれたものを疑うなどやってはならんことだ。ルフィ、すまなかった。もう二度と仲間を疑うことはしないし、殺す等とは言わん。誓おう」

 ルフィが二カッと笑った。

「おし!じゃあ、お前らはナミを追ってくれ!おれはあいつが航海士じゃなきゃ嫌だ!」
「…わかったよ。世話の焼けるキャプテンだぜ。おい、行くぞ、ウソップ」
「お、応!」
「私はここに残ろう。クリークとの約束もあることだしな。ルフィ、お前はどうする?」
「おれもここに残る。まだこのレストランで何のケリもつけてねぇからな」
「2人とも気をつけろよ、こっちの事態も尋常じゃねぇんだ」

「あいつだぁッ!!」

 突如、海賊どもの叫び声が響き渡った。

「ドン・クリーク!あいつです!我々の艦隊を壊滅させた男です!」
「こ、ここまで追ってきたんだ!おれ達を殺しに来やがった!」

 声の方向には一艘の船。左右のヘリには蝋燭が灯され、帆と船体は漆黒。1人が乗るのがやっとという船で、男はやってきた。

「あ、あれが…“鷹の目の男”…!」

 黒い帽子を目深に被り、胸にはロザリオの首飾り。上半身には直接黒いコートを羽織っている。そして、何より目を引くのが―――

「背負っているのは…剣か?」

 男の身の丈ほどもある巨大な黒剣。まるで、罪人を張り付ける十字架のようだ。

「鷹の目の男というのは、もしや…」
「そうだ、カリギュラ。“鷹の目のミホーク”…奴は世界最強の剣士だ!」

 ゾロが私の呟きに答えた。

「ち、畜生!おれ達に何の恨みがあるんだ!」

 船を破壊されたクリーク海賊団の一人が、ミホークに絶叫した。
 ミホークが答えたのはただ一言。

「…暇つぶし」

「―――!ふざけんなァァァァッ!」

 ミホークの返答に激怒した団員が両手に持っていた銃を発砲した。
 それに対し、ミホークはゆっくりと背中の黒剣を抜き、飛んでいる銃弾に剣先を添えて、弾道をそらした。

「は、外れた?」
「外されたのさ。切っ先でそっと弾道を変えたんだ」
「だ、誰だテメェは!」

 いつの間にやら、ゾロがミホークの正面に立っていた。
 銃を撃った団員の言葉は完全に無視し、ゾロは言葉を続ける。

「あんな優しい剣は見たことがねぇ」
「“柔”無き剣に強さなど無い」
「その剣でこの船を割ったのかい?」
「いかにも」
「なるほど、最強だ」

 ゾロはジワリと汗を掻いた。

「おれはお前に会うために海へ出た!」
「…何を目指す?」

 ミホークの問い。

「最強」

 ただ一言、簡潔に。

 答えつつ、ゾロは左腕に前いていた黒い布を頭にかぶり、口と左右の手に刀を握る。
 …あれがゾロの三刀流か。両手はともかく、口で刀を加えるとはな。どういう風に戦うのか、非常に興味が湧く。
 
「哀れなり、弱きものよ」

鷹の目の男は憐れむような視線を向けて、言い放つ。

「いっぱしの剣士であれば、剣を交えずとも、力量の差がわかろう。それでもなお、おれに刃を突き立てる勇気は己の心力か…はたまた無知ゆえか…」
「おれの野望のため。そして、親友との約束のためだ」

 その場に居る全員が息をのむ。
手出しは無用。ここに、麦わらの一味の剣士ゾロと世界最強の剣士ミホークとの一騎打ちが始まった。



「…おい、なんのつもりだ。そりゃ」

 ミホークは背中の黒剣は抜かず、胸に下げたロザリオ―――否、短剣を指で摘み、構えた。

「おれは兎を狩るのに全力を出す馬鹿な獣とは違う。ここはレッドラインとグランドラインで4つに分割された海の中で最弱の海、イーストブルー。そこで多少、名を上げた剣士程度、これで十分すぎる。あいにくと、これ以下の刃物は持ち合わせていないのでな」

 …剣士に対して、これ以上の侮辱はあるまい。

「嘗めやがって…!死んで後悔すんじゃねぇぞ!」

 ゾロが前のめりなり、ミホークへと突進。さらに、両腕を交差させ、×…いや、口の一刀も加えて×一文字の軌道を描き、ミホークへ斬りかかる。

「鬼斬り!」

 左、右、そして口の刀の斬撃+突進の威力を一点に集めて斬り捨てる、まさに必殺の一撃。
 だが………

 キィン…

「ア、アニキの鬼斬りが止まった!?」
「出せば100%相手が吹っ飛ぶ大技なのに!」

 鬼をも斬り捨てる一撃は、短刀の切っ先で易々と受け止められた。
 力を一点に集中するということは、そこさえ止めてしまえば無力化できるということだ。しかし、少しでも中心からずれれば、即、真っ二つ。それをただ淡々とこなすミホークの技量がいかに異常であるか、この状況がよく表している。

「―――!クソ!」

 必殺の一撃を止められて、動揺したゾロは我武者羅な連撃を放ち始めた。当然、そんなものが世界最強の剣士に通じるはずもない。
 不味い、このままでは…

「ゾロ、退け!今のお前ではその男に勝てない!」
「ウオォォォォォォッ!!」

 いかん、熱くなりすぎてこちらの声も聞こえないか…!
 やむを得ん、ゾロには悪いが、乱入して―――

「やめろ!カリギュラ!」
「ルフィ…!お前もわかるだろう。ソロではあの男にかすり傷一つ負わせることはできない。このままでは、あの男の一撃を貰う。相手は世界最強の剣士。確実に急所を一撃されるぞ!」
「たとえそうなっても、ゾロの選んだことだ!おれ達が…ゾロ以外の奴が止める権利なんてねぇ…!」

 だが、そういうルフィも握りこんだ拳から出血していた。

「…わかった。勝負が決着するまで、見守ることにする。だが、終わった瞬間、ゾロは確保させてもらうぞ」
「ああ、それでいい」

 その間にもゾロの虚しい連撃は続く。

「…何を背負う、弱きものよ」

 ミホークが憐れみを持って問いかける。

「ア、アニキが弱ぇだと!」
「い、言わせておけば…!」

 ミホークの嘲りに激昂したヨサクとジョニーが乱入しようとしたが、ルフィが取り押さえる。

「手ぇ出すな!ヨサク、ジョニー!」
「ルフィ…」

 そして、ついに均衡が破られる。

「ぐは…!」

 ゾロが刀を弾かれ、残骸と化した甲板に転がった。

「虎…!」

 受け身を取って立ち上がると、すぐさま刀を構える。銜えた一刀の後ろに両腕の刀を回すような態勢…
―――!いかん!その構えは…!

「狩り!」

「やめろゾロ!心臓がガラ空きだ!」

 例え聞こえなくとも、叫ばずには居られなかった。

 ドシュ!

「ゴハッ…!」

 そして、無情にもゾロの心臓に短刀が突き立てられた。

「何でだ、何でそこまで意地をはるんだ…簡単だろう、野望を捨てるくらい!」

 その姿を見て、サンジが声を張り上げる。
 悪いが、今は奴に声をかけられるような精神状態ではない。

「…このまま心臓を貫かれたいのか?退け。今ならまだ命は助かる」
「断る…今ここで退いちまったら、今までの誓いやら、約束やら…色んなもんがへし折れて、二度とここへ戻ってこられねぇ気がするんだ…」
「そう、それが敗北だ」

 ゾロはにやりと笑う。

「じゃあ、死んだ方がましだ」
「………」

 ミホークは何かを感じたのか、心臓一歩手前に刺さっていた短刀を引き抜いた。

「小僧…名乗ってみよ」
「ロロノア・ゾロ」

 立っているのもやっとであろうゾロは、名乗ると同時に新たな構えを取る。
 背を伸ばして左の刀を逆手に持ち、両手を突き出して、右手の刀を左手の刀に柄が垂直になるように添える。

「覚えておく。久しく見ぬ“強き者”よ。剣士たる礼儀を持って、世界最強の黒刀で沈めてやる」

 ミホークはここで初めて背中の黒剣―――黒刀を抜いた。

―――右腕原型変換、タイプ『オヴェリスク』
バレット装填、タイプ『ヒールバレット』

「散れ!」
「三刀流奥義…三・千・世・界!」

 ミホークが黒刀を携えてゾロへと突進する。
 対するゾロは、両手の刀をすさまじい勢いで回転させ、その遠心力を乗せた突撃で迎え撃つ。

 バキィン…

 だが…結果は無情。
 ミホークには傷一つない。一方、ゾロは黒刀の一撃を体に浴び、更には三本の愛刀の内、2本までもがへし折れた。

「…これが、世界最強か」

 ゾロは残った一本の刀を白い鞘へ収めると、今まさに返す刀で斬撃を加えようとしているミホークに向き直り、両手を広げる。

「何のつもりだ?」
「背中傷は剣士の恥だ」
「…見事!」

 そして、決闘の終焉を知らせる一撃が振り下ろされた。



「ゾロォォォォォォォォッ!!」
「「アニキィィィィィィィッ!!」」

 ―――『ヒールバレット』発射!

 私はゾロが海に倒れ落ちる瞬間、装填しておいたヒールバレットを撃ち込んだ。
 だが、このヒールバレットは今だ試作品。あれほどの傷を癒すのは不可能。せいぜい、生存確率を少し上げる程度だろう。

「ヨサク、ジョニー!行け!うまくすればまだ助かる!」
「「ヘイッ!」」

 ヨサクとジョニーが海に落ちたゾロを助けるため、海に飛び込む。

「この野郎ォォォォォッ!」

 ルフィが腕を伸ばし、ミホークに殴りかかろうとしたが、私が腕を掴んで止める。

「カリギュラ!放せ!」
「………悪い、ルフィ。その役目は私に譲ってくれ」
「―――?」

 ―――目の奥がチリチリと焼ける。

 ミホークがこちらへと向き直る。

「若き剣士の仲間たちか…お前たちもよくぞ見届けた。安心しろ、あの男はまだ生かしてある」

―――目の奥がヂリヂリと焦げる。

「ガハ…!」
「アニキ!しっかり!」

 無事にゾロを救出したヨサクとジョニーがゾロを自分たちの船へと乗せる。

「我が名はジェラキュール・ミホーク!若き剣士よ、貴様が死ぬにはまだ早い。己を知り、世界を知り、強くなれ!ロロノア!」

 ―――目の奥がグツグツと煮える。

「おれは先、幾年月でも最強の座にてお前を待つ!猛ける己が心力挿して、この剣を超えて見せよ!このおれを超えて見せろ!」

 ―――目の奥がビリビリと痺れる。

「ウソップ!ゾロは無事か!」
「無事なわけねぇだろ!だが、生きてる!生きてるぞ!気絶してるが、カリギュラのあの弾のおかげで、すぐに気付きそうだ!」

 キャプテンがそういった瞬間、ゾロが寝たまま刀を天に掲げた。

「不安にさせたかよ…このおれが。世界一の剣豪“くらい”にならねぇと…お前が困るんだよな…ガフ!」
「アニキ!もう喋らないでくれ!」

 血を吐きながらゾロは言葉を続ける。

「二度と負けねぇから!あいつに勝って、世界一の大剣豪になるまで、絶対に、おれは負けねぇ!…文句あるか、海賊王」

 悔し涙でくしゃくしゃになった声と顔でゾロが誓う。

「しししし!ない!」

 それをルフィは笑顔で返す。

 やはり、ルフィこそ船長にふさわしい。
 仲間がルフィのために強くなるように誓い、ルフィもそれに答える。
ルフィには先ほどミホークに殴りかかろうとしたような殺気は微塵もない。むしろ、仲間を成長させてくれたことに対する感謝すら感じられる。ことが終われば、全てを受け入れる大きな器。これこそ、船長の資質だ。

―――私とは、違う。

「また会いたいものだな、お前たちとは」

 ―――目の奥でゴウゴウと炎が燃える。

「オウ、鷹の目よ」

 今まで高みの見物を決め込んでいたクリークがミホークに声をかける。

「テメェはおれの首を獲りに来たんじゃねぇのか?このイーストブルーの覇者、“首領・クリーク”の首をよ!」

 ―――両腕原型変換、タイプ『ブレード』

「そのつもりだったのだがな…もう充分楽しんだ。おれは帰って寝るとする」

 ―――背部原型変換、ブースト展開

「まぁ、そうカテぇこと言うな。テメェが十分でもおれはやられっぱなしなんだ…」

 ―――その他原型変換可能部位、全部位変換

「帰る前に死―――」

 ドゴ!

「邪魔だ、どけ」

 ミホークに向かって全身の銃を放とうとしたクリークを左手で殴り飛ばす。

「「「「「カ、カリギュラ(姐さん)…?」」」」」
「「「「「「そ、そんな!ド、ドンが一撃でッ!?」」」」」」
「なんだあの姿は…あれも悪魔の実の力なのか…?」
「ありゃとんでもねぇぞ。ボケアマ、お前は一体…」
「カ、カリギュラちゃん…なのか?」
「あの左眼…まるで血みたいに真っ赤だ」

 ルフィたちも私の姿を見て、私かどうかを判断しかねているようだった。
 それも当然、今、私は原型へ変換可能な部位を全て戻している。
 左右のブレード、ブースター以外にも、クロやその手下を喰らうことによって、原型へ戻ることが可能にった外装甲と頭部装甲、そして尾も変換している。
 外部装甲はその名の通り青白く輝く鎧のようなもので、それが首から下を隙間なく覆っている。頭部装甲は内側に折れた角を左右に持つ青く輝く仮面のようなものだが、顔面を覆い隠す場所は砕かれたように素顔をさらしている。尾も青白く輝く爬虫類を模したものが生えている。ただし、どの部位も修復が不完全なため、ひび割れが目立つ。
今の私は、動物系悪魔の実の形態でいえば、混成型に近い。
 これが、現在できる最大の変形。そして、最大の力が発揮できる姿。

「動物系悪魔の実の能力者か…しかも、その姿からすると、自然系よりも希少と言われる幻獣種のようだな。面白い、今しばらく付き合ってやる」

 ミホークは私へ向き直る。

「キャプテンたちはナミを追え。もう船が見えなくなる、早く行け」
「カリギュラ、お前…」
「お、おい!いくらお前でも相手が悪い、戻ってこい!」
「や、やめろ、カリギュラ、そいつは、おれの獲物だ…」

「…キャプテン、ルフィ、ゾロ。私は、どうしても目の前に居るこの男を許せない。私の仲間を傷つけた、この男が許せない!」

 左腕のブレードをミホークに突き付ける。

「今なら解る!この目の奥を焼く炎の意味が!この身体を焦がす熱量の正体が!これが、『怒り』という名の『心』だ!」

 甲板を踏み砕くほどの踏み込みとブースターの加速でミホークへと突っ込む。
 右ブレードで狙うは心臓!

「ジェラキュール・ミホーク!我が復讐の刃、その身に受けるがいい!」
「―――!ハァッ!」

 黒刀でいなされる。が、気にせずそのまま左ブレードで首を狙う。

「チィ!」

 ミホークはバックステップで避ける。
 だが、それは予測済みだ。

「クリークが喰い損ねたデザートだ。代わりに喰らっとけ」

 ズドドン!

 既にオヴェリスクへと変換しておいた右腕から二連轟氷弾を放つ。

「嘗めるな!」

 だが、それも一刀の元に切り捨てられる。更に、ミホークの斬撃から衝撃波が発生し、私を襲う。

「小賢しい!」

 それを左ブレードで切り払う。
 逸れた衝撃は後方の船の残骸を木っ端みじんにした。

「…強者に化けそうな兎の次は狼か。本当に今日は退屈しない日だ」

 ミホークがにやりと笑う。

「先ほどはここを最弱の海と言ったが、訂正しよう。お前が一人いるだけで、4海の中で、最強の海だ。おれは兎を狩るのに全力を出す愚者ではない。だが、狼を狩るならば、それ相応の力を出そう」
「私にはどうでもいいことだ。迅く、死ね」

 腰を落とし、前傾して右腕を甲板につける。左腕はそのまま水平に保ち、眼光で敵を射抜く。これが、私の構え。

「仇なすモノ全てを焼き凍らせる私の炎、特と味わえ!」

 左手にエネルギーを集中させ、“燃える冷気”を作り出し、甲板に叩きつける。

「―――!下か!」

 私の手から離れた氷炎はミホークの真下に瞬時に移動し、凍りつくし、砕き尽さんと噴出する。これが『ニブルヘイムの柱』本来の姿。
 さらに、氷炎は甲板を舐めつくし、一個の氷塊を形成する。それはさながら氷の決闘場。

「まだ終わらん!」

 更に右手に氷の魔槍を作り出して飛びあがり、氷炎の中に居るミホークめがけて叩きつける。―――『コキュートスの魔槍』!

「ぬるいわ!」

 しかし、ミホークは氷炎を黒刀で切り裂き、氷槍を受け止める。
 この男、本当にただの人間か…!?

 そのまま競り合いへともつれ込む。

「まさか冷気を操る能力を持っているとはな。この冷気、あの青キジにも引けを取らんな」
「ふん、海軍本部大将と比較されるとは光栄だな。では、次はこれでどうだ!?」

 右手に持った氷槍を力任せに押し切り、その反動を利用して、回転しながら尾を叩きつける。

「ヌグ…!」

 尾は強かにミホークの腹を打ち据え…いや、腕でガードされた。
しかし、遠心力をたっぷりと乗せた一撃は、人間一人を容易く吹き飛ばした。
 ミホークは残骸に突っ込んだが、何事もなかったかのように起き上がり、黒刀を構える。

「…お前本当に人間か?」
「貴様だけには言われたくない」

 死闘はまだ続く。



「あ、あの鷹の目を…世界最強の剣士をぶっ飛ばしやがった…!」
「こ、これがこの世の戦いか?もしかして、おれは夢を見てるんじゃねぇのか?」

「つ、強ぇ…!」
「…あいつも、おれの先に居るのか」
「―――!見とれてる場合じゃねぇ!おれたちはこのままナミを追う!ルフィ、お前はどうする!?」
「…おれは残る。ここではまだ何も決着がついてねぇし、カリギュラ1人置いていけねぇ」
「そうか、気をつけろよ!」
「ま、待て、おれも…残る!…あいつらの、戦いを、見届け、ねぇと…!」
「アニキ、もう無茶だ!こんな危険なところには置いておけねぇ!例え、後で殺されたって、連れてきますからね!」
「ヨサク、ジョニー。しっかりゾロを抑えてろ!…よし、行くぞ」



「お前の仲間の船が出たようだな。では、ここからは少し手荒くいくぞ」
「―――!消え…」

 まるで瞬間移動したかのようなミホークの踏み込み。私が姿を確認したときには目の前で黒刀を振り下ろす寸前だった。

「ク…!」

 右ブレードでなんとかガードしようとしたが

 ザギャン!

「な…!」

 ブレードごと切断された。
 咄嗟に後ろへ飛びのき、なんとか腕だけは守る。

「おれの斬撃はその程度のもので防げるほど生易しいものではない!」

 そこから始まる怒濤のごとき連撃。
 受けることはできないので、なんとか避け続ける。避けた斬撃の一つ一つが氷を切り裂き、海を割る。こんなもの、直撃すればいくら私とて、無事では済まない。
 ブースターを使う暇などない。そんな隙を見せれば、真っ二つだ。
 このままではジリ貧だな。この男の攻撃はいつまでも避けられるものではない。
 …この男の斬撃を受け止められる盾がいる。

「―――!しまっ…!」

 壊れた地面の溝に足を取られ、態勢が崩れた。
 当然、それを見逃すほど目の前の男は甘くない。
 こうなったら、一か八かだ。

「これで終わりだ。さらばだ、強き者よ」

 渾身の一撃が振り下ろされ、私は真っ二つに

 ガキン!

 ならない。

「やれやれ、練習なしで本番だったが、うまく変換出来て良かった」
「盾だと?…おれの斬撃を受け止めるとはな」

 ブレードの折れた右手を変換させて作り出したのは神機型バックラー『インキタトゥス』。
 元の世界で、私のブレードでも斬ることの敵わなかったゴッドイーター達の使用する盾だ。

「ハ!」

 ミホークの黒刀を押し返し、左ブレードを一閃する。
 ミホークはそれを後ろへ下がって避ける。

「逃さん…!」

 私はインキタトゥスをブレードへ戻すと、左右の腕を交差させ、前傾姿勢で突進する。

「あの構えは…ゾロの『鬼斬り』!」

 そう、これはゾロの技を“模した”攻撃だ。

「浅はかなり。一度破られた技をおれに使うか」

 ミホークが着地すると、黒刀を正眼に構える。

「己が浅慮を恥じて逝くがよい」
「カリギュラ、やめろ!カウンターで斬られるぞ!」

 ―――鬼斬り・鞭刀

「―――なッ!」

 私のブレードとミホークの黒刀が激突した瞬間―――

 ブレードが内側へと“曲がった”。

 今のブレードの性質は『ゴム』、鋭さは『刃』。
 ルフィの能力とゾロの剣技を融合させた一撃だ。

「ク…小細工を!」

 しかし、それでも世界最強の剣士には届かない。
わずかに衣服を切り裂かれたミホークは素早く身を屈めると、曲がったブレードを避けつつ、私の腹に蹴りを放つ。

「グ…!」

 重い!
氷上を転がりながら、地面に爪を突き立て、なんとか止まる。
クソ、まるで攻撃が通らない。今の私ではこの男を殺しきることは出来ないのか…?

 ―――否、たった一つ可能性がある。

「ミホーク、次の一撃で決めてやる。私の仲間を傷つけたこと、地獄で後悔するがいい」
「奇遇だな。おれもそうしようと思っていた。貴様との戦いはなかなかに楽しいが、このままではいつまでも決着が付きそうにないからな」

 ミホークは黒刀を両手で持ち、刃を寝かせ、切っ先をこちらに向けて、顔の真横に持ってくる。更に、後ろを向くほど上半身を捻る。
 一撃に賭ける必殺の構え。奇しくも、私の技も似たようなものだ。

「受けてみろ!これが、私の最高の技だ!」

 叫ぶと同時に両手にエネルギーを集中し、雷球を作り出し、ブースターを全開にして急上昇する。ブースターの超低温のエネルギーは凍てつく竜巻と化し、ミホークを襲う。



「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
「さ、寒い…体が、凍…る」
「ウオ!レ、レストランが凍っちまうぞ!」
「あのボケアマ、おれ達まで殺す気か!全員レストランの中へ避難しろ!このままここに居たら仲良く氷漬けだ!」
「雑用!お前も早くこっちに来い!そんな近くに居たら、巻き込まれるぞ!」
「いや、いい!」
「馬鹿野郎!お前、半分氷漬けじゃねぇか!」
「カリギュラが戦ってるんだ!おれは、最後まで見届ける!」
「―――!勝手にしやがれ!」



 ミホークへ向かって急降下。すれ違いざまに雷球を叩きつける。

 ズゥガァァン!

 雷球は着弾と同時に炸裂し、辺りに雷光を撒き散らす。
 そして、着地すると同時に、滑空した勢いを利用して身体を限界まで捻り、溜めた力を一気に解放して左ブレードで渾身の一撃を叩きこむ!

 ―――奥義『蒼刃舞』!!

ドシュ!

 これにて、死合終了。





「…良い技だ。久しく感じていなかった死の感覚を感じたぞ」
「………届かなかったか」
「いや、貴様の一撃、確かに届いた」

 良く見ると、ミホークの頬が斬れ、血が頬を伝っていた。

「一生ものの傷を負ったのは生まれて初めてだ。貴様の強さゆえに、あの剣士のように手加減は出来なかった。許せ」

 ポタポタと赤い血が氷上に落ちては凍る。
 ああ、私にも赤い血が流れているのだな。

「心臓、か。今度は、しっかりと貫いているようだな」

 ミホークの必殺の刺突は、正確に心臓を貫き、それどころか背中まで貫通していた。
 …これは、無理だな。あれだけ大口を叩いておいて、なんとも情けない。

「…先に、地獄で待っているぞ」
「…最後に一つだけ、貴様の名を教えてくれ」
「カリギュラ…カリギュラだ」
「そうか…カリギュラ、その名、わが魂に刻みつけよう。…いつの日か、地獄で会おう」

 ミホークが私の心臓を貫いた黒刀を引き抜く。
 血が溢れ出た。もう立つことすら出来ず、その場に崩れ落ちる。

「カ、カリギュラァァァァァァァァァッ!」

 ルフィの慟哭が聞こえる。が、もう返事をする力も碌に残っていない。

「…キャプテン、ルフィ、ゾロ、ナミ…私の冒険は、ここまでのようだ」

 世界が暗くなっていく。

「ウォォォォォォォォォォッ!この野郎ォォォォォォォォォッ!」

 ルフィがミホークに殴りかかる光景を最後に、目の前が真っ暗になった。












【コメント】
 首領・クリークなんていなかった。



[25529] 第6話 新しい仲間”サンジ”
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/08 23:37
 カリギュラが崩れ落ちるのを目にしたルフィは、腕を伸ばし、氷漬けの甲板を掴むと、ゴムの腕の伸縮を利用し、ミホークに頭から突撃した。

「ウォォォォォォォォォ!この野郎ォォォォォォォォ!」

 だが、ミホークは軸をずらすだけでその突撃を難なくかわす。

「おぶッ!」

 ルフィはそのまま氷上に激突した。

「…若き海賊団の船長よ。貴様の激情は理解できる。だが、今の貴様の力量では、おれに触れることすらできん。カリギュラの仇を取りたいというのであれば、あの剣士と同様に、強くなれ。おれはグランドラインで、お前たちを待っているぞ」

 ミホークは頭を氷にめり込ませたルフィに語りかけると、黒刀を氷上へと叩きつけた。

 バギャァァン!

 凄まじい音を立てて氷塊が割れる。それだけに止まらず、辺りの海も荒れ狂う。
 それにまぎれ、ミホークは姿を消した。
 そして、動かなくなったカリギュラの身体も海の中に…

「ヤべぇ!カリギュラちゃんが落ちた!」
「やめろボケナス!」

 慌てて海へ飛び込もうとするサンジをゼフが蹴りを入れて止める。

「何しやがるクソジジイ!」
「テメェこの荒れ狂う海に飛び込んで無事にあのボケアマの死体を回収できると思ってんのか?テメェもくたばっちまうのがオチだ!」
「―――!」

 ゼフの言葉にサンジは何も言い返せなかった。

「…ん?おれは確か………!そうだ!おい、あの化け物はどこだ!」

 その時、手下に別の残骸に運ばれていたクリークが目を覚ました。

「ド、ドン!気が付いたんですね!」
「いいから状況を説明しやがれ!」

 手下は自分が見たことをクリークに説明した。

「ハッハッハ!あの化け物は鷹の目の男に殺されたってわけか!これは傑作だな!」

 大声をあげてカリギュラを嘲笑うクリーク。

「おい、お前…」

 それに怒りを込めて答える声があった。

「嘲笑ったな…仲間のために戦ったカリギュラを嘲笑ったな!」
「ハッ!己の実力も考えずに世界最強の剣士に挑むなんざ、馬鹿でもしねぇよ」

 なおも嘲笑をやめないクリークに、更に怒りの視線を向ける者達がいた。

「…あのクソ野郎がここに来なければ、カリギュラちゃんが死ぬことは無かった。おれはあいつにメシを食わせたことは後悔してねぇが、あの疫病神がカリギュラちゃんを嘲笑ってるのは許せねぇ」
「応よ!カリギュラの弔い合戦だ!あの鷹の目の化け物を連れてきた落とし前、しっかりとつけて貰おうじゃねぇか!」
「…ボケアマの奴ぁ、怒りに駆られながらも、このレストランを破壊しないようにしていた。…最初は海賊どもにくれてやろうかとも思ったが、やめだ。野郎ども!死んでもあのクズ共をぶちのめせ!」
「「「応!」」」

 士気を高めるコック達を前に、クリークは不敵に笑む。

「ハッ!まあいい、最初の計画通り、レストランを奪うぞ。行け!野郎ども!」
「「「「「ウオオォォォォォォォ!」」」」」

 今ここに、ルフィ&バラティエコック対クリーク海賊団の戦いが始まった。





(…冷たい)
(…ここは、どこだ)
(…塩辛い…魚が泳いでいる…ここは、海中か)
(…身体は、どうなっている。私は心臓を貫かれて、死んだはずではなかったか)

 反射的に胸に触れてみるが、其処に穴など無かった。
 そこにあったのは、ひび割れた外装甲…?

(この外装甲は先ほどの混成型のときのモノとは違う…)

 混成型の―――ミホークとの戦いで纏っていた外装甲はもっと身体に密着し、身体のラインが浮き出るような形だった。だが、今の外骨格はまさに鎧のようで、まるで私の原型のような…!

(まさか!)

私はすぐさまブレードの側面を鏡代わりにして、自身の姿を確認する。
 竜を思わせる厳つい顔と大きな双曲角、重鎧を更に厳つくしたような蒼銀の外装甲。巨大な翼型ブースト。鋼鉄をも容易く引きちぎれそうな双腕と鋭いブレード。長く大きなハ虫類型の尾。そして、7メートル近い身長。

―――それは、久方ぶりに見た、『カリギュラ』本来の姿だった。

勿論、ダメージの所為でひび割れが激しかったが。

(何故だ。………そうか、海中に居るせいか)

 悪魔の実の能力者は海に嫌われる。
 なぜかは詳しくわかっていないらしいが、能力者が海等の“溜まった水”に全身が付かると、その能力が使えなくなるうえ、全身の力が抜けるという。

(つまり、私のヒトヒトの実の効果が今は無効化されているということか)

 私はヒトヒトの実の効果で人間の姿を取っている。ゆえに、いかにオラクル細胞がその能力を吸収していようとも、水に入ればその能力が喪失という特性が残っているので、原型に戻るということか。
原型時ならば、酸素を取り入れて呼吸する必要もないので、海中でも問題なく、むしろ陸より高い戦闘能力を発揮できるだろう。

(…確かに原型に戻っているにしては出力が低い。だが、それでも混成型の時よりは高いな)

 もう一つのペナルティである、脱力感は確かに感じるものの、それでも中途半端にヒト型である時より出力が上がっている。

(まあ、原型に戻ったことの考察はこれくらいにしよう。次に、何故心臓を貫かれて生きているかということだな。………可能性としては一つか)

 私は元の世界で人間たちが『ハンニバル』と呼ぶアラガミの亜種だ。ハンニバルの特徴の一つに“コアの再生”がある。文字通り、コアを破壊されても、代わりのコアを瞬時に生成出来る能力だ。当然、私もその能力を持っている。

(まさか、ヒト型になってもその能力を失っていないとはな。これは少々予想外だった。…今考えると、今際の際の台詞が恥ずかしいな)

 いや、あのときは本当に死ぬと思っていた。本気で。

(コア…ヒトの場合は心臓か。それを再生できるとなると、低位のアラガミとそれほど大差がないかもしれないな)

 まとめると、「死んだと思ったけど生き還った」と言ったところか。

 次に、詳しい破損状況を調べる。

(…ふむ、ミホークにやられたのは人間細胞だけのようだな。オラクル細胞自体の損傷は無し。まあ、ゴッドイーター達の使う神機でコアを捕食されたわけでも無いからな。当然と言えば当然か)

 現在、私の身体は、オラクル細胞と人間の細胞が混在して構成されている。ヒトヒトの実を喰べた際、オラクル細胞の欠損を補うように、“この世界の人間”を構成する人間細胞が現れた。
最初は人間細胞の比率が圧倒的に高かったが、現在は捕喰を進めたので、オラクル細胞と人間細胞の比率はオラクル細胞に偏りつつある。能力喪失中は、逆に人間細胞の部分をオラクル細胞が無理やり穴埋めしていると言ったところか。
また、オラクル細胞もヒトヒトの実の能力…正確にはヒト型形態の構成を取り込んでいるため、全ての細胞がオラクル細胞になったとしても、人間体になれなくなるということは無いだろう。
ただ、その場合は、もう人間とは言えないが。

オラクル細胞は非常に“強靭な”細胞である。斬られようが、潰されようが、焼かれようが、オラクル細胞自体は死滅しない。正確にいえば、それらの現象を起こす物体を、オラクル細胞が“喰べて”しまうのだ。余談だが、私が捕喰をするということは、オラクル細胞が捕喰をしているということと同義である。
元の世界で、私たちに対抗できるとされているゴッドイーター達ですら、完全にオラクル細胞を死滅させることは不可能だった。私たちアラガミはこのオラクル細胞でのみ構成されており、それを制御するコアがあるというのが基本的な作りだ。ゴッドイーター達はこのコアを自らの神機で捕喰することにより、オラクル細胞の制御を崩壊させて、アラガミを倒しているに過ぎない。
つまり、ミホークとの戦闘でのダメージは、全て人間細胞が受けたものであり、オラクル細胞は一切傷ついていないということだ。ミホークに斬られたブレード等のオラクル細胞も、まだ私の制御化にあるので、どこにあろうとも戻ってくる。ただ、人間細胞を含む心臓…コアを急速に再生したことによるエネルギー消費が少々問題だが。

(腹が減ったな…)

 適当に目の前を泳ぐ魚を捕食する。

(駄目だな。この程度では例え100万匹捕喰しようともエネルギーの足しにもならん…適当に近くに居る人間を…いや、駄目だ。ルフィと約束したじゃないか、『敵対している人間』以外は襲わないと)

 仲間との約束を破るわけにはいかないので、もっと大きな獲物を探すべく、海底を探索することにした。
本当ならば、直帰が望ましい。が、帰る前に、少しくらい腹ごしらえしてもいいだろう。



「ガハ…サンジさん達に見栄張ったはいいものの、どうやら、ここまでだな」

 仲間―――クリーク海賊団の生き残りが積まれた船の中で、ギンは1人血を吐きながら呟く。

 あの後、バラティエでは激しい戦闘があった。そして、クリーク海賊団は負けた。
 その戦闘の際、サンジを殺せなかったギンにクリークが毒ガス弾を放った。その毒を受けたギンは、今まさに死の淵に居た。

「ドン…おれはここまでですが、あんたなら、必ず海賊王になれる。地獄の底でその瞬間をいつまでも待っていますよ」

 今だ目を覚まさないクリークに語りかけると、ギンはそのまま倒れこんだ。段々と目の前が暗くなっていく。
 ギンは、目の前が完全に闇に閉ざされる瞬間、海面に血のように赤い光を見たような気がした。
 深血色の光に、底無しの絶望と不吉を感じたが、死にゆく彼にはどうすることもできなかった。



(やはり、魚では駄目だな。腹の足しにもならん。通常時なら美味いと思えるのだが…)

 これ以上は時間の無駄だと感じ、海上に上がってルフィたちのいるバラティエを探そうと思ったそのとき。

(あれは、船の船底か?)

 小さな船、否、ボートの船底が見えた。

(…乗っている奴らを確認するか。敵ならそのまま喰えるしな)

 私の身体は水に浮かばないので、ブースターからエネルギーを噴出し、空を飛ぶ要領で水面を目指す。出来る限り音と衝撃を抑えながら上昇し、ボートから少し離れた海面から顔を少しだけ出すと、ボートの乗員を確認した。

(…どうやったらあんな洗ったばかりの洗濯物みたいに積み重なってボートに乗るんだ)

 ボートの上には人間が幾重にも積み重なって乗っていた。そして、その中に見覚えのある顔が2人。

 1人はバンダナを巻いた男…ギンだ。だが、倒れこんだままでピクリとも動かない。

(ギンは…死んでいるな。傷は多いが致命傷は無い。顔色が極端に悪いことから推察すると、毒か何かか)

 何があったかはわからないが、生体反応が感じられない。あれはギンのなれの果てだ。ならば、気にする必要はない。

 もう1人は気絶しているようだ。奴はバラティエを襲った…あー、何といったか……ど、ど、ド…ドンタコス?
 …何か違う気がするが、まあ、良い。奴がいるということは、全員あの一味なのだろう。すなわち、『敵』というわけだ。ならば、やることは一つ………



―――イ

―――タ

―――ダ

―――キ

―――マ

―――ス





「なかなか美味かったな。あの鎧は」

 私は空を飛びながら一人ごちる。行き先は当然バラティエだ。悪魔の実のおかげで水に浮かず、大して流されていなかったらしい。空を飛ぶとすぐにバラティエが見えた。
 ちなみに、姿は人間型に戻っている。やはり、現段階では海の中でのみ原型に戻れるようだ。

(ただ、セーフティとして通常時は原型に戻れないということも忘れてはいけないな。海の中で戻れるのはそのセーフティを無理やり外しているようなものだ。どんな反動があるか解ったものではない。今のところ、支障は出ていないようだが、注意しなければな)

 そんなことを考えている内に、バラティエに着いた。多少破損があるが、修理すれば問題ない程度だ。
 私は甲板に着地し、ブースターを仕舞う。さて、ルフィ達はどこかな?

「…ずいぶん静かだな」

いつもなら怒号が飛び交うバラティエからは考えられない静けさだ。そう思いながら皆を探していると、裏手から声が聞こえてきた。

「確かあちらは私とミホークが戦った場所だな」

 そちらに歩いて行くと―――

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」
「カリギュラ…おれ、絶対に海賊王になるから。お前の分まで、精一杯生きるから!」
「カリギュラちゃん…君みたいな本物のレディと一時でも過ごせたことに感謝を」
「カリギュラー!テメェが死ぬなんて…ウォォォォォ!」
「泣くなパティ!カリギュラが安心して逝けねぇだろうが…くぅ!」

 私の葬式が行われていた。
 捧げられている花束が無駄に本格的な水葬を演出しているのが何とも言えない。

 ………本気で出て行き辛い。
 まあ、心臓を思い切り貫かれて、あまつさえ海に落ちて生きていられるとは思わないよな、普通。
 …ああ、罪悪感で胸が痛むが、出ていかないことには何も始まらないか。

「…私の死を悼むのはもう少し先にしてくれ」
「「「「「(゜Д゜)」」」」」
「………」
「「「「「(゜Д゜)」」」」」
「………」

「「「「「ギャーーーーーーーッ!カリギュラが化けて出たァーーーーーーーッ!!」」」」」
「…まだ生きている。とりあえず落ち着け」

 その後、全員を落ちつけるのに小一時間掛かった。



「ところでルフィ、その頭の大きな絆創膏はどうしたんだ?」
「これか?クリークの奴と戦ったときの怪我だ。怪我人が多すぎて包帯が足りなかったんだ」
「このクソ野郎、クリークの剣林弾雨の攻撃に真正面から突っ込んでいきやがったから、傷だらけなんだよ」

 全員を落ちつかせた後、私はルフィ、サンジと一緒にテラスに出て再会を喜び合っていた。

「ほう、クリークと戦ったのか。どうだ、奴は強かったか?」
「あー、確かに強かったけど…カリギュラやミホークよりはずっと弱かったと思う」
「だな、カリギュラちゃんと鷹の目の戦闘が凄過ぎてショボク見えたくらいだ」

 まあ、大して修復度も上がっていないしな。所詮、その程度の男だったということか。

「あ!そうだカリギュラ!クリークをぶっ飛ばしたから、おれたちもう雑用しなくていいんだぞ!おっさんと約束したんだ」
「ほう…オーナーから許可を貰えたのか。よかったな、これで航海を続けられる」
「応!」

 ニッカリと笑うルフィ。

「そうだ、サンジ、お前―――」
「おれはいかねぇぞ」

 ルフィが誘う前にサンジが拒絶する。

「ここでコックを続けるよ。クソジジイにおれの腕を認めさせるまで…」
「そうか、わかった、あきらめる」

 と言いつつルフィの腕はサンジの襟をガッシリと掴んでいる。

「腕があきらめてねぇだろうが!」

 …うーむ、ここは一つ、ナミから教わった方法で説得してみるか。

「サンジ、どうしても来てはくれないのか?」
「ああ。いくらカリギュラちゃんの頼みでもダメだよ」
「…来てくれたら、私を好きにしていいぞ」

 サンジの瞳を覗き込むように顔を寄せ、船の縁に置かれている手に自分の手をそっと重ねる。さらに、声色は少々熱っぽく、背中に押し付けた無駄に大きな胸の肉をしっかりと押し付ける。
 ナミ曰く、「カリギュラにこれをやられてオチないのはホモか不能者だけよ」とのことだ。

「喜んで仲間になりますッ!!!!!…って、だ、だだだだだだ、ダメだ!い、いいいいいいいいいいいくらカリギュラちゃんにあーんなことやこーんなことを出来るからって、出来るからって…ぞれでもだめなんだよぉ…!」

 血涙を流すほどの苦痛なのか!?
 しかし、これでなびかないということは、サンジは…

「そうかサンジ、お前は男の方がいいタイプか」
「ギャァァァァァッ!何おぞましいこと口走ってるのカリギュラちゃん!?」
「違うのか?」
「違うよ!おれはレディを愛するためだけに生まれてきた男の中の男だよ!」
「そうか…男色で無いというなら、不能者―――」
「ねぇ!カリギュラちゃんの中でどんな不可思議な化学反応が起きてるの!?」

 マジ泣きが入ったサンジを慰めるのにしばらく掛かった。

「なるほど、あのオレンジ色の髪の娘…ナミさんからそう言われたのか。確かに、その通りだとおれも思うよ」

 私がナミから言われたことを話すと、サンジは感慨深く頷いた。

「でも、やっぱりおれはここでコックを続ける。男の意地ってやつさ。それに、今回みたいなことがまたあるかもしれねぇしな。あいつら、弱ぇからおれがいないとダメなんだよ」
「そうか。…ルフィすまない、色仕掛け失敗だ」
「別にいいよ」

 船の縁に座りながら、ルフィはシシシと笑った。

「でも、いつかおれもグランドラインに行こうと思ってるぜ」
「じゃあ、今で良いじゃねぇか」
「さんざん言ったが、まだ時期じゃねぇんだよ。…ところでさ、ルフィとカリギュラちゃん、オールブルーって知ってるか?」
「いや?」

 全世界のあらゆる海の幸がとれるという伝説の海、『オールブルー』。
 その伝説を見つけようと、幾人ものコックや海賊達が旅立ったが、未だに発見されていない。ゆえに、現在では、半ばおとぎ話とされていると聞く。

「私も知らないな」

 サンジの輝く目を見て、知っていると答えるのは無粋だろう。

「なんだ、2人とも知らねぇのかよ。奇跡の海の話さ、その海には―――」

 オールブルーのことを話すサンジはまるで夢を語る少年のようで、見ていてとても眩しかった。



「そういや、腹が減ったな」
「私もだ。朝食を食べたきりだからな」

 サンジのオールブルーの話が終わると、腹の虫が鳴きだした。
 …さっきのは別腹だ。

「そういや、もう昼を随分と回ってる。食堂で賄いが出るはずだ。行こうぜ」

 サンジに従って、私たちは2階の店員食堂へと向かった。

 食堂へ入ると、もうすでに他のコック達が昼食を取っていた。

「―――?私達の席がないようだが?」
「本当だ…おい、おれ達の席は?」
「おれのメシは?」
「オメェらのイスはねえよ」
「へへへ…床で食え」

 ………

 ジャキン!

「ま、待て待て待て!待ってくれカリギュラ!」

 ブレードを展開した私にコックの一人であるパスタが飛びついてきた。

(後で理由を話す!だから、今は大人しくサンジ達と床でメシを食べてくれ!)
(…了解した)

 何やら理由があるらしいので、ブレードを引っ込め、サンジ達と一緒に床で昼食を取ることにした。

「どうしたカリギュラちゃん。パスタの奴に何か言われたのか?」
「いや、特に何も。それより、昼食にしよう。この際、床でもいい。早く喰べ物を口に入れたい」
「おれも賛成!」
「しゃーねーな。じゃ、メシ取りに行こうぜ」
「ああ」
「応!」

 ルフィ達と共に賄いをいざ喰べようとした時、パティの声が聞こえた。

「おい、今朝のスープの仕込みは誰がやったんだ?」
「応!おれだ。どうだ、今日の仕込みは特別うまく―――」
「こんなクソ不味いもん飲めるか!豚の餌の方が幾分かましだぜ!」

 皿ごとスープを床に叩きつけるパティ。

「な…!」

 驚愕と怒りでサンジの顔が歪む。

 ………ズズ。

「おい、人間の食い物は口に合わなかったかクソタヌキ…!」
「ハ!ここまで不味いと芸術の域だぜ!」

 パティは親指を下にして挑発する。

 …このスープが不味い?

「悪いが今日のスープは自信作だ。テメェの舌が―――」
「オエ!クソ不味!」
「こんなもん食えねぇよ!」
「生ごみの方がましだな」

 パティ以外のコックも次々とサンジのスープを罵り、床に捨てる。

「―――!テメェら!いったい何の真似だ!」

 サンジが激昂する。
 無理もない。自分の料理を、しかも特別良い出来の料理を罵倒されたのだから。

「テメェなんざ、所詮は“エセ副料理長”!ただの古株よ。もう暴力で解決されるのはウンザリだ」
「不味いもんは不味いと言わせてもらう」
「何だと…!?」

 サンジが歯ぎしりをした時

 ―――バリン!

 一際はっきりと皿の割れる音が響いた。

「オーナー…」
「ジジイ!」
「?」
「おい、なんだこのヘドロみてぇにクソ不味いスープは。こんなもん客に出されたら店が潰れちまうぜ!」

 ゼフの罵倒に対し、サンジはゼフの胸倉を掴み上げる。

「ふざけんなクソジジイ!おれのスープとテメェの作ったもんのどこが違うってんだ!」
「おれの作ったもんだと…?自惚れんなァッ!」

 ゼフがサンジを“殴り”飛ばした。
 ゼフが足以外を使うところを初めて見たな。

「テメェがおれに料理を語るなんざ100年早ぇ!おれは世界の海で料理してきた男だぜ!」
「オ、オーナーが…」
「蹴らずに、殴った…?」

 昔からここに居るコック達も初めてみる光景のようだな。

「………!クソッ!」

 サンジはそのままドアを乱暴に開けて、外へ出て行ってしまった。

「…で、どうしてこんな三文芝居をしたか、理由は説明してもらえるんだろうな?」
「わ、わかったから睨むなよ!お前の睨み顔はマジで怖ぇんだよ」
「では、早く説明してくれ。こんな美味いスープをボタボタと床に捨てられるところを見て、少々気が立っているんだ」
「あ、やっぱりカリギュラもそう思うか?このスープめっちゃ美味ぇよな!」
「そんなことは知ってるよ。ここに居る全員、サンジの腕は認めてる」

 それを引き継ぐようにゼフが口を開く。

「こうでもしねぇと聞かねぇのさ、あの馬鹿は。なぁ、小僧、小娘………あのチビナスを、一緒に連れてってやってくれねぇか。グランドラインはよ、あいつの夢なんだ」

 オールブルーか…

「全く、オーナーも面倒なことさせてくれるぜ」
「あいつマジギレするんだもんな」
「ヒヤヒヤしたぜ、実際よー」

 なるほど、先ほどの芝居はサンジが私達の仲間になるように後押しをするためか。
 良い仲間を持ってるな、サンジ。私も、ルフィ達の良き仲間となれるだろうか?

 ゼフの提案に対し、我らが船長は―――

「いやだ」

 …まあ、予想はしていた。

「何ぃーーーーーーーッ!」
「どういうことだ小僧。貴様、船のコックが欲しいんじゃねぇのか?あの野郎じゃ不服か」
「不服はない。が、本人の意思がない。そういうことだろ、ルフィ?」
「ああ。あいつはここでコックを続けたいって言ってるんだ。おっさん達に言われてもおれは連れてけねぇよ」
「あいつの口から直接聞くまで納得出来ねぇってことか」
「うん。スープおかわり」
「私もだ。鍋ごと持ってこい」
「あ、カリギュラ!おれにも食わせろよな!」
「相変わらずなんちゅー食欲だよ、あの2人」

少々話が脱線したが、ゼフが頷いて答える。

「まあ、当然の筋だな。だが、あのヒネくれたクソガキが素直に言えるかどうか…」
「言えるわけないっすよ。あいつはかたくなにあほだから」
「そうだな。私の色仕掛けにも靡かなかったしな」
「「「「「そりゃあ嘘だ」」」」」
「…サンジが普段、どう思われてるかが一発で理解できた」



 ドゴーン!

しばらくサンジのスープを味わっていると、突然、壁が吹き飛んだ。

「…お客様1名…と一匹入りました」
「言うとる場合か!サンジ、大丈夫か?」
「何だこいつは。人魚か?」
「魚人島からはるばるここの飯を食いに!?」
「違う。これはパンサメに喰われた人間だ。…しかも私達の知り合いだ」

 壁をつき破って入ってきたのはサンジとパンサメに下半身を呑まれたヨサクだった。
 おそらく、外にいたサンジを巻き込んできたのだろう。

「ヨサク!」
「ル、ルフィのアニキとカリギュラ姐さん…」
「何でお前1人何だ?あいつらとナミは?」
「待てルフィ、ヨサクの身体は大分冷えている。まずは温かいスープと毛布が先だ」

 私は厨房と寝室からスープと毛布を持ってきて、ヨサクに渡した。

「ありがてぇ…」
「さてヨサク。喰べながらでいいから、何があったのか話してくれ」
「へい。あっしたちはナミのアネキに追いついたわけじゃねぇんですが、船の針路で大体の目的地がつかめたんです」
「お前が1人でここまで戻ってきたということは…その場所に何か問題があるんだな?」
「さすがはカリギュラ姐さん、その通りです。詳しいことは後で話しやすから、あっしと一緒に来てください。お二人の力が必要なんです!」
「よしわかった!何かわからないけど行こう!」
「私に断る理由は無い。すぐに出発するぞ」

 是非も無し、とヨサクに答えると

「おれも行くよ。連れて行け」
「…サンジ」
「付き合おうじゃねぇか、“海賊王への道”。馬鹿げた夢はお互い様だ。おれはおれの目的のために、お前達について行く。お前達の船の“コック”、おれが引き受けた。文句はねぇな?」
「ないさ!やったーーー!」

 ルフィは喜び勇んで、ヨサクと小躍りし始めた。

「…よろしく頼むぞ。サンジ」
「任せてくれ、カリギュラちゃん。最高に美味いメシを作ってあげるから」
「期待させてもらおう」

 ニカッと笑って、サムズアップをするサンジ。

「さて…おい、お前ら!」

 サンジはコック達の方を向いた。

「下手糞な芝居でカリギュラちゃんにまで迷惑かけんじゃねぇよ」
「な!テメェ、知ってたのか!?」
「お前ら馬鹿か?あれだけでかい声で騒げば外まで筒抜けだよ」

 一通りコック達を罵ると、次にゼフに顔を向ける。

「つまり、そうまでしておれを追い出したいってことか、クソジジイ」
「―――!テメェはどうしてそんな口の利き方しかできねぇんだ!」

 サンジの暴言にパティが口を挟むが、ゼフが止める。

「…ふん、そういうことだチビナス。元々おれはガキが嫌いなんだ。下らねぇもん“生かしちまった”と後悔しない日は無かったぜ?」
「ハッ!上等だよクソジジイ。せいぜい余生を楽しめよ」

 …やれやれ、捻くれた性格は師匠譲りだな。



 現在、私達はサンジが出てくるのを、その本人の船で待っている。
 周りには私達を見送るコック達がいる。

「おい、お前ら。さすがにそれは持っていきすぎじゃねぇか?」
「―――?たかだか肉100kg程度だろ?」
「だよなぁ?」
「アホかテメェら!一体何十日航海する気だ!」
「2、3日程度だ」
「いらねぇだろそんなに!」
「…いや、下手すれば餓死の危険性も…」
「ああ、確かに。あと倍くらい肉貰ってくか?」
「どんだけ食うんだテメェらは!」

 そんなやり取りをしているとサンジがバラティエから出てきた。

「………」

 スタスタと無言でコック達の間を抜けてこちらに来るサンジ。
 半ばまで来たその時

「積年の恨みだ!」
「覚悟しろサンジ!」

 ゴシャ!バキ!

パティとカルネがサンジに不意打ちをしてきたが2秒で沈められた。
…弱い。

そのまま何もなかったかのように私達の元へサンジはやってきた。

「行こう」
「―――?あいさつはいいのか?」
「いいんだ」

「おいサンジ」

 挨拶もなしに出港しようとしたサンジに、ゼフが3階から声をかける。

「風邪引くなよ」

 初めて聞いた、サンジを思いやる言葉だった。

「………!」

 それを聞いたサンジの目には大粒の涙。
 感極まるとはまさにこのことだろう。

「…オーナーゼフ!長い間、クソお世話になりました!このご恩は一生…!忘れません!」

 普段のふてぶてしい態度が嘘のようなゼフへの感謝の言葉。そして、土下座という最高位の畏敬の姿勢。
これこそが、サンジのゼフへの本心…

「くそったれがぁ!寂しいぞ畜生!」
「寂しいぞぉ!」
「悲しいぞ畜生!」
「ざびじいぞォ!ごの野郎!」

 涙と鼻汁をまき散らしながらサンジとの別れを惜しむコック達。無論、ゼフも例外ではない。そして、サンジ自身も。

「サンジ、最高の別れの挨拶をしてやれ」
「…ああ!」

 私の言葉に頷くと、サンジは大声を張り上げた。

「また逢おうぜ!クソ野郎ども!」

 それに応えるように、いっそう大きくなるコック達の雄たけび。

「行くぞ!出航!」

 ルフィの声で船は大海原へと漕ぎ出した。
 段々と小さくなるバラティエを見つめるサンジを見ながらこう思う。

 私にも、あのように別れを惜しんでくれる仲間が出来るのだろうか、と。


















【コメント】
 カリギュラさんのスリーサイズ
B:(血塗れで読めない)
W:(ドス黒く変色していて読めない)
H:(赤い何かがガチガチに固まっていて読めない)



[25529] 第7話 アーロンパーク到着
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/08 23:37
「ほう。サンジとゼフにはそんな馴れ初めがあったのか」
「馴れ初めって言うか、腐れ縁だけどね」
「フフ、それでも縁は縁だ。大切にすべきだな」
「…ああ、カリギュラちゃんの微笑み…なんて美しいんだ。その美しさの前には、君が人喰いの化物だってことなんて、おれには何の障害にもならない!」
「…はあ」

 ナミを追う船の上で、新たな仲間となったサンジに私のことを全て話した。サンジも自分のことを話した上で、私のことを受け入れてくれたようだ。サンジともうまくやっていけそうだな。…ただ、女好きなところは少々問題だが。
 
この件はもういいとして、次に問題なのが―――

「…ヨサク、お前いつまで泣いてるつもりだ?」
「だっで、感動じたんでやんず!天晴れな別れでやんした。コックの兄貴!」

 サンジとコック達の別れに感動したヨサクは、バラティエが完全に見えなくなっても顔をグシャグシャにして泣いていた。

「…お前、ちゃんと進路あってんだろうな?」
「お前だけが頼りなんだ。しっかりしてくれ、ヨサク」

 私とサンジの心配をよそに、ルフィは船首に座り込んで伸びをしている。

「あー早くナミを連れ戻してグランドラインに行きてぇな!」
「しかし、ナミさんを入れてもまだ6人だろ?本当にグランドラインに行く気か?海を嘗めて掛かると痛い目に遭うぜ?」

 サンジの懸念も最もだが…

「仲間集めならグランドラインでも出来るさ!なんたって『楽園』だもんなー」
 
 我らが船長はそんなことを気にはしない。

「楽園?『海賊の墓場』だろ?」
「レストランを出る前にオーナーのおっさんに教えてもらったんだ。グランドラインを楽園と呼ぶ奴らもいるんだと」

 しししし!と笑うルフィ。

「あのゼフがか。ならば、信頼できそうだな」
「クソジジイがそんなことをねぇ…まあ、おれはカリギュラちゃんとナミさんがいれば例え3人でも―――」
「甘すぎるっす姐さん達!」

 突然、ヨサクが会話を遮った。

「大体、姐さん達はグランドラインを知らなすぎる!今回だって、ゾロの兄貴達にその辺の知識があれば、ナミの姉貴の向かった先が、どんなに恐ろしい奴の元か理解できて、あっし達と一緒に引き返してきたはずなんですから!」
「メシにすっか」
「そうしよう!」

 が、そんなことを聞く船長とコックではない。

「そこになおれ!」
「ルフィにサンジ、折角ヨサクが頑張って説明してくれんだ。座って聞いておけ」
「はーい!カリギュラちゃーん!」
「えー、メシー!」
「うるせぇ!カリギュラちゃんの言うことが最優先だ!」
「…さあ、続きを頼む」
「へ、へい!」

 ルフィ達を着席させると、ヨサクに話の続きを促す。

「これから行く場所について話す前に、言っておくことがありやす。そもそもグランドラインが海賊の墓場と呼ばれるのは君臨する3大勢力の所為だと思いやす」
「それは、『海軍本部』、『四皇』、『王下七武海』のことか?」

 名前だけはカヤの屋敷の書物に載っていたのだが、極秘情報だとかで、詳しい情報は載っていなかった。

「おお、カリギュラ姐さんはさすがですね。その通りです。今回関係があるのは『王下七武海』です」
「シチブカイ?」

 ルフィが首をかしげる。

「簡単に言えば、世界政府公認の7人の海賊達です」
「なんだそりゃ。何で海賊が政府に認められるんだよ」

 サンジの疑問も最もだ。海賊と政府。完璧に敵対関係にありそうなものだが…

「七武海は未開の地や他の海賊を略奪のカモとし、収穫の何割かを政府に納めることで、海賊行為を許された海賊たちなんでやす」
「なんだそれは。海賊と言うより、政府の狗だな」
「カリギュラ姐さんの言うとおりです。しかし、奴らは強い!何を隠そう、ゾロの兄貴を打ち負かした鷹の目のミホークも七武海の一角を担う男なんです!」
「ウォー!すっげーーーー!カリギュラが傷をつけるのが精一杯だったような奴があと6人もいんのか!シチブカイすげーーー!」
「そうです、カリギュラ姐さんでも傷をつけるのが精一杯…ってエエェェェェェェェェッ!!」

 ヨサクの目玉が飛び出した。…これが人体の神秘と言うやつか?

「あ、あの鷹の目の男に傷をつけたんですか!?」
「ああ。ただ、私は心臓を串刺しにされたけどな。割に合わんよ」
「いや、あの男に傷をつけるだなんて、もはや人間業じゃ…って!心臓を串刺し!?何で生きてるんですか!?」
「再生した」
「「「………」」」

 …何だ、その視線は。

「…もう、いいです。カリギュラ姐さんの無茶苦茶具合には驚くのも疲れました」
「…私はそこまで言われるような存在か?」
「うん」
「カリギュラちゃん、ごめん、否定できない」

 …ちょっと傷ついた。

「と、とにかく!話を戻しやすが、問題はその七武海の一人、『魚人海賊団』の頭“海侠のジンベエ”!」

 魚人、か…

「確か、人間と魚が融合したような特性を持つ少数種族だったか」
「魚人かー、おれまだ遭ったことねぇな」
「魚人と言やぁ、グランドラインの魚人島は名スポットなんだろ?世にも美しい人魚達がいると聞くぜ」

 魚人に対する思い思いの感想を述べる。
 そんな私達に、ヨサクは真剣な顔で話を続ける。

「ジンベエは七武海加盟と引き換えに、とんでもねぇ奴をイーストブルーに解き放っちまいやがった」

「こういいのかな?」
「だっはっはっは!何描いてんだよ、新種のモンスターか!?」
「これが魚人…ある意味恐怖だ」

 勿論、誰も聞いていない。

「あんたらには集中力ってもんがねぇのか!それと、カリギュラ姐さん!そんな魚に手足が生えた生物じゃないですよ、魚人は!」
「ち、違うのか…!?」
「カリギュラ姐さんは物知りなのに、ところどころ天然ですよね…」

 …そうか?

「まあ、ややこしい戦いの歴史はすっ飛ばして、これから行く場所の説明をします。今、あっしらが向かっているのは、『アーロンパーク』!かつて七武海ジンベエと肩を並べた魚人の海賊『アーロン』が支配する土地です!個人の実力なら、首領・クリークを凌ぎます!」
「なるほど、ヨサクの言いたいことはよくわかった」
「わかっていただけやしたか!」
「アーロンとかいう奴のネーミングセンスが最悪だということだな」
「違ぇッ!」

 え、違うのか?

「だがな、自分の支配する土地に名前入れるのはちょっと…」
「だから、そこじゃねぇっつってんでしょ!?個人の実力がクリークを凌ぐってことです!」

私はそのクリークとかいう奴を裏拳一発で沈めたんだが…

「ハハハ、カリギュラちゃんは強気だね。それよりお前途中で引き返してきたんだろ?何でナミさんがアーロンパークへ行ったってわかったんだ?」

 サンジの疑問も最もだ。同じ方向の別の場所へ向かった可能性も否定できない。

「あっしとジョニーに心当たりがありやしてね。あっしたちが賞金首のリストをばらまいた時、ナミの姉貴はアーロンの手配書をじっと見つめていやした。それから少々様子がおかしくなりやして…後日、あっしらが、アーロン一味がまた暴れだしたことを話した直後、ナミの姉貴は船を奪ったんです。そして、この方角から予測するに…」
「まず間違いなく、アーロンパークが目的地だと考えたわけだな」
「へい、その通りです。きっと、何か因縁が…」
「なあサンジ、これでどうだ?」

 当然、ルフィにこんな長い話が聞けるはずもなく、黙々と描いていた魚人(偽)の絵をサンジに見せていた。

「なんだそりゃ。さっきの魚を立たせただけじゃねぇか。しかし、ナミさんその魚人に何の用だろうなぁ。もしかして、彼女は人魚だったりして…」
「え…?」

 人魚ナミ(ルフィ画)爆誕。

「ぶっ殺すぞテメェ!」
「あんたらあっしの話を理解したんですか?」
「ん?強い魚人がいるってことだろ?」
「わかってやせんね!大体、強さをわかってねぇ!」
「そんなもん、着けばわかるだろ」
「そうそう。そんとき考えりゃいい」
「あっしの話全部無駄!?」

 何か漫才を見ている気分になってきた。
 …腹減ったな。

「まあ、ここで気をもんでいても仕方がなかろう。それよりサンジ、腹が減った。飯にしよう」
「丁度おれもそう思ったとこだよ。さて、何が食いたい?」
「骨付いた肉のヤツ!」
「あっしはモヤシ炒め!」
「人肉の香草焼き」
「おし、骨付き肉とモヤシ炒めと人肉の香そ―――え?」
「ちょ、カリギュラ姐さん!?」

 サンジとヨサクがまじまじと私を見つめる。
 …ああ、そうか。

「すまん。材料を渡し忘れたな。食材庫に布に包んであるから持ってくる。今取ってくるから少し待て」

 ちなみに、産地はクリーク海賊団だ。

「いや、違うよ。おれが言いたいのはそういうことじゃないの」
「そうっすよ!」
「安心しろ。私の料理専用の調理器具や食器はすでに用意してある。さすがに、お前達のと共有するのは不味いからな」

 うむ、完璧だ。

「だから違ぇって言ってんでしょうが!サンジの兄貴も言ってやってください!」
「…カリギュラちゃん、すまない。さすがのおれも人間を材料に使った料理は知らないんだ。コックとして、中途半端な料理を出すわけにはいかない。ごめんね」
「否定する場所が違ぇ!まずは食人を否定しやしょうよ!?」

 そういえば、ヨサクには私のことを話していなかったな。

「ヨサク、ちょっと話がある」
「はい?」

 手短にヨサクに私のことを話した。



「し、信じがたい話でやすね…」
「まあ、普通はそうだろうな。だが、事実だ。信じる信じないはお前の自由だ。サンジ、とりあえず、私は血の滴るレアステーキでいい」
「OK。あと、カリギュラちゃんが持ってきた食料、腐る前に何とかしてね」
「わかった。勿体ないから、前菜代わりに喰ってくる」
「…この人達は、なんでこんな異常な会話を自然に続けられるんだ…」
「まあ、カリギュラは仲間だし、良い奴だからな」

 ニシシとルフィが笑った。
しかし、良く考えると、さすがにサンジに同族を調理させるのもな…
いっそ、自分で料理するべきか……となれば、今度サンジに料理のイロハを教えてもらうとしよう。

 



「うん、美味い」
「美味ぇ美味ぇ!」
「美味いでやす!」
「ハハ、そりゃどうも。カリギュラちゃん、おかわりはいかが?」
「追加で100枚頼む」
「ハハ、カリギュラちゃんは健啖家だね。その豊満なプロポーションが更に素晴らしくなるように、おれも頑張るぜ!」
「…もうお前の反応に慣れてきた自分が嫌だ」

 あれからしばらくして、私達はサンジの料理に舌鼓を打っていた。

 ズズズズズ…

「ん?何の音ですかね、こりゃ?」
「海中から何かが上がってくるな」

 バシャーン!

「…牛か?」
「牛だな」
「でけぇな」
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 突如として、海中から牛…?が現れた。
 魚と牛の間の子といった姿だ。

「か、海獣だァァァ!」
「正確には海王類の一種だ。妙だな…イーストブルーに海王類はいなかったはずだ」
「でっけー牛だー!」
「牛は泳がねぇだろ。これはカバだ」
「きっとグランドラインの生物っすよ!」

 海から現れた海牛は船に顔を近づけると、匂いを嗅ぎだした。

「狙いはこの船のメシ―――」
「死ね、魚類」
「ゴムゴムのピストル!」

 私は左腕を原型に戻すと、海牛の顎にアッパーを撃ち込み、同時にルフィが伸びるパンチを打ち込んだ。

「反応早ッ!」
「私達の食料に手を出すこと、それ即ち死と心得よ」
「カッコイイこと言ってるようで、全くカッコ良くないですからね!?」
「ブモォォォォォォォォーーーーー!!」

 む、私のアッパーとルフィのパンチを喰らっても倒れないのか。やはり、この姿ではウェイトが足りないか。ならば、次はブースターで加速をつけて―――

「待ってくれ!カリギュラちゃん!」

 それをサンジが止める。

「きっとこいつは怪我でもして、エサがとれなくて腹を空かしてるんだ。なあ、そうだろ?」
「………?」

 料理を持ったサンジが海牛を見つめるが…

「さあ、食え」
「………(ガバ)」

 …サンジごと喰う気満々だな。

「なにさらすんじゃコラァ!」

 当然、その前にサンジの蹴りが炸裂し、海牛は蹴り飛ばされた。

「鬼かあんたはッ!」
「あの野郎、おれごと食おうとしやがった!」
「当然の報いだな。私なら生きたまま皮を剥いで、刺身にしているところだ」
「だから、カリギュラ姐さんはどうしてそう言動が一々過激なんでやすか!?」
「ヴォォォォォォォォォォォッォォォォォォォォ!」

 サンジの蹴りで怒りが頂点に達した海牛は、私達の船を沈めようと、海面から飛び上がり、こちら目掛けてダイブしてきた。

「来たァ!船を沈める気でやすよ!」
「よし、おれが!」
「待て、おれがトドメを…」
「いや、私がやる」

 他の2人の返事を待たずに、私は混成型に変形すると、ブースターを全開にして、海牛へ突っ込む。
 激突する直前に、左右のブレードを展開し、首を狙う。

―――斬首一閃

 ドシュ!

「グモォォォォ…ォォォ…ォォォ…ォ………!」

 鋭いブレードに加え、ブースターの推進力でさらに切れ味を増した刃によって、海牛の首が刎ね跳んだ。

「ヒュー、あんなにデカイ奴の首を刈り取るとはな。やっぱり、カリギュラちゃんには『強さ』っていう美しさもある」
「カリギュラかっけーーーーーー!」
「エエェェェェェェェェッ!!」

 この首を刎ねる感触…フフフ、悪くない。

「…うぷ。しばらく肉は食えないっす」
「―――?何でだ?」
「まあ、おれは食材の解体とかで慣れてるけど、素人にはキツイ光景だな」

 さて、後は…

「ただいま」
「応!ところでカリギュラ、それ食うか」
「勿論だ」

 そのために態々船に海牛の頭と胴体を括りつけたんだからな。

「いや、駄目ですよ、そんな重いもん!船が動かないでしょうが!」
「む…確かに。…仕方ない、ここで急いで喰うから待っていてくれ。お前達の食事が終わるのとそう違わない時間で喰べ終わらせる」

 右手を捕喰形態へと移行する。

「うわ!でっかい口!」
「ん?ああ、そういえばこれを見せるは初めてだったな。主に私はこれで獲物を捕喰している。勿論、顔にある口からでも喰えるぞ」

 自慢の歯をカチカチと鳴らし、腕の口もウゾウゾと蠢かす。

「…カリギュラ姐さんって、アーロン以上のとんでもねぇお人なんじゃ…」

 ヨサクが私のことを茫然と見ている。
 まあ、ヒトでは無いな。

「さー、メシの続きだ!」
「イタダキマス…(ガツガツムシャムシャ)」
「ああ…今のカリギュラちゃんの姿、ボディラインがはっきりと見えて…最高!」
「無茶苦茶だ、この人たち…」



「「「ごちそうさまでした」」」
「…あの海牛が骨も残らねぇとは…」

 食事が終わって、しばらくすると、前方に島が見え始めた。

「あの島か?」
「あ、はい、そうです」

 この程度の距離なら、今の状態でも十分飛べるな。

「よし、ここからは私が船を引っ張ろう。その方が早く着く」
「へ?引っ張るって…?」
「こうするんだ」

 私はロープを体に巻きつけ、更に反対側の先端を船に括りつける。

「しっかり摑まっていろ。飛ばすぞ」
「だ、だから、何を言ってるんでやすか?」

 ブースター出力最大―――発進!

「ギャァァァァァァァァァァァッ!」

 ブースター全開の最大速度で、船は風となった。

「死ぬ死ぬ!この速度で何かにぶつかったら絶対に死ぬゥゥゥッ!」
「うおー!速ぇーーー!」
「これならあと数分で着いちまうな。ああ、カリギュラちゃんの形のいいお尻が眩しくて、気が遠くなりそうだ…」
「なんであんたらはそんな余裕そうなんだァァァッ!?」

 しばらくすると、島の岸辺が見えてきたので、ブースターを逆噴射し、急停止する。

「よし、着いた―――」

 船が頭上を越えていくのが見えた。

「………」

 私の重さ<船の重さ+船と繋がったロープ=吹っ飛ぶ船に引っ張られる私

 …慣性のことをすっかり忘れていた。

「みんな、めんご」
「可愛らしく言っても誤魔化されねぇ!むしろイラっときやしたよ!?」
「うほー!空を飛んでるみてぇだ!」
「ぶっ飛んでんだよ馬鹿!あ、カリギュラちゃんを責めてるわけじゃないよ?」

 こんなときまでフォローを入れるサンジに、ある種の尊敬の念を抱いた。

「林に突っ込むぞ!」

ダァン!

 サンジの言葉通り、船は林に突っ込んだが、上手く着地することが出来た。
 着地した瞬間を狙い、私も甲板に足を着け、ロープを切断する。

「なんとか着地出来たな」
「でも、止まりやせんよ!?」

 船は林の中の坂をグングンと加速しながら、下っていく。
 しばらくして林を抜け、視界が開けた瞬間―――

「ルフィ!?」
「ゾロ!?」

 ドォォォォン!

 ゾロを轢いた。





「テメェら一体何やってんだ!?」
「ゾロ、お前人間なら今ので死んでおけ」

 激突した船がグシャグシャなのに、流血だけで済むのは人間としておかしい。

「開口一番で何言ってんだコラァ!」
「まあ、冗談はこのくらいにしておいて、私達もナミを連れ戻しに追ってきたんだ。そうだろ、ルフィ」
「応!で、ナミはまだ見つかんねぇのか?ジョニーとウソップは?」
「………」
「お前、大丈夫か?」

 ヨサクは頭から船の残骸に埋まっていて、ピクリとも動かない。
 多分、人間としてはお前が一番正しいと思う。

「―――!そうだ、こんなことしてる場合じゃねぇ!」
「―――?キャプテンに何かあったのか?」
「あの野郎、今、アーロンに捕まってんだ!早く助けねぇと殺さ―――」
「殺されました!」

 ゾロの言葉を遮るように、別の方向から叫び声が聞こえた。

「何…!」
「…ジョニー」
「手遅れです…ウソップの兄貴は殺されました!………ナミの姉貴に!」
「「「「!?」」」」
「………」

 ………

「お前もういっぺん言ってみろ!」

 ルフィがジョニーに掴みかかった。

「やめろルフィ!ジョニーには関係ねぇだろ!」

 ゾロが宥め様とするが、ルフィは聞かない。

「でたらめ言いやがって!ナミがウソップを殺すわけねぇだろ!おれ達は仲間だぞ!」
「信じたくなきゃ、そうすりゃいいさ、でも、おれはこの目で…!」
「誰が仲間だって?ルフィ」

 この声は…

「ナミ…」
「何しに来たの」

………

「何言ってんだ。お前はおれ達の仲間だろう。迎えに来た!」
「大迷惑。仲間?笑わせないで。下らない助け合いの集まりでしょ?」

 ………

「―――!」
「ナミさ~ん♡おれだよ、覚えてる?一緒に航海しようぜ!」
「テメェは引っ込んでろ!話がややこしくなるんだよ!」
「あんだとコラ!?恋はいつでもハリケーン何だよ!」

 ゾロとサンジが小競り合いを始めた。

「言ったでしょう!?この女は魔女なんですよ!隠し財宝のある村を一人占めするために、アーロンにとりいって、平気で人も殺しちまう!こいつは根っから性の腐った外道だったんすよ!姐さん達はずっと騙されてたんだ!この女がウソップの兄貴を刺し殺すのおれはこの目で見た」
「…だったら何?仕返しに私を殺してみる?」

 ………

「―――!何!?」
「一つ教えておくけど、今、アーロンは“ロロノア・ゾロとその一味”を殺したがってる。ゾロが馬鹿なマネをしたからね。いくらあんた達の化物じみた強さでも、本物の“化物”には敵わない」

 ………

「そんなことはどうでもいい。ウソップはどこだ?」
「海の底」
「テメェ!いい加減にしろ!」

 ナミの返答に、ゾロは激怒し、斬りかかる。

「いい加減にするのはテメェだクソ野郎!」

 が、サンジに阻止される。

「剣士って言うのはレディにも手をあげんのか?ロロノア・ゾロ」
「なんだと?何も事情を知らねぇテメェが出しゃばるな!」
「ハッ…屈辱の敗戦の後とあっちゃ、イラつきもするか。しかも、目の前でレディがその相手と互角に戦う姿を見せられちゃあな」
「あァ…!?おい、口にァ気をつけろ。その首飛ばすぞ」
「やってみろ、大怪我人」
「兄貴達、今張り合ってる場合ですか!?この大変な時に!」

 見かねたヨサクが止めに入った。

「そういうこと。喧嘩なら島の外でやってくれる?余所者がこれ以上この土地の問題に首突っ込まないで!私があんた達に近づいたのはお金のため。一文無しのあんた達何かに何の魅力もないわ!船なら返すから、航海士見つけて、“ひとつなぎの大秘宝”でもなんでも探しに行けば?」

 ………

「さっさと出て行け!目障りなのよ!」

 ………

「さようなら」
「…ナミ」

 ナミの罵倒を聞き終わったルフィは、バタリと仰向けに倒れた。

「ル、ルフィの兄貴!?」
「ねる」
「寝るぅ!?この事態に!?こんな道の真ん中で!?」
「島を出る気はねぇし、この島で何が起きてんのかも興味ねぇ。ちょっと眠いからねる」
「ハァ!?」
「―――!」

 ルフィの対応に、頭に血が上ったのか、ナミが大声で叫ぶ。

「…勝手にしろ!死んじまえ!」

 ………

「…なあ、ナミ」

 私の声には耳を傾けず、去っていこうとするナミに、更に言葉を続ける。

「何故そんな嘘を吐く」
「―――!」

 ナミの足が止まった。

「え、嘘って…?」

 ジョニーが呆けたように問う。

「ナミからはキャプテンの血の匂いがしない。ナミはキャプテンにかすり傷一つつけてはいない」
「ち、血の匂いなんて、わかるわけないでしょう!?」

 振り返ったナミが私を睨む。

「忘れたのか?私はヒトではない。誰の血か、匂いで判別するくらいの事は出来る」
「―――!」

 ナミに動揺が見られる。

「それに、先ほどの罵詈雑言…決して本心からではないだろう?うまく表現できないが、心の底から暴言を吐いていたクロやクリークとは全く様子が違っていた。体温および心拍数も異常なほど高かったぞ」
「―――!黙れ!いいからさっさと出て行け!」

 それだけ言うと、ナミは逃げるように去って行った。

「カ、カリギュラ姐さん、さっきのはどうことですか!おれはしっかりとこの目でウソップの兄貴が刺されるのを…!」
「手袋を嵌めていた左手からナミ自身の血の匂いがした。おそらく、キャプテンを刺すふりをして、自分の手を刺したんだろうな。ジョニー、お前はキャプテンに刃が刺さっているとこを直接見たのか?」
「い、いえ。あの女が影になっていて…」
「…まあ、私の予測も確証は無いがな。少なくとも、ナミがキャプテンを殺したと見せかけ、アーロンのマークから外したという可能性も十分にあるということだ」

 ジョニーは困惑した表情を浮かべた。

「………でも、やっぱりおれは、あの女を信じられねぇ」
「…ジョニーがそう感じたんなら、あっしはジョニーを信じやす」
「そうか。好きにしろ。私はここでルフィが起きるまで待つ」

 私は道端にある木陰に腰を下ろした。

「短ぇ付き合いだったが、おれ達の案内役はここまでだ。みすみすアーロンに殺されたくねぇしな」
「応」
「グゴー…zzz」
「じゃあな」
「ここまでの案内、助かった」

 ヨサクとジョニーに別れを告げる。

「じゃ、またいつか会う日まで!」
「兄貴や姐さん達もどうか達者で!」
「お前らもな」

 ジョニー達にはナミがキャプテンを助けた確証がないと言ったが、十中八九、助けたのだろう。自分の左手に決して小さくない傷を負って。
 更には、演技までして、私達がこの島から出て行かせようとした。私達が死なないように。

 …一時でもナミを裏切り者扱いした自分が許せないな。
この罪は、ナミの苦痛の原因を喰い殺すことで償うとしよう。

















【コメント】
モーム「私が死んでも(カリブー海賊団の船を引く)代わりはいるもの」



[25529] 第8話 誇り
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/08 23:40
「グゴー…zzz」

 ジョニー達と別れてしばらく経った。
 未だにルフィは道のど真ん中で寝ている。

「おい」

 サンジがゾロに声をかけた。

「カリギュラちゃんの言葉を疑うわけじゃないが、ナミさんは本当にあの長っ鼻を殺してねぇのか?」
「どうかね、おれが一度“小物”って発破掛けちまったから、勢いで殺っちまったかもな」

 やれやれ、ゾロの喧嘩っ早いところはどうにかならんのかね。

「ナミさんが小物だと!?」

 サンジの顔面がひきつる。
 それと同時に、道の向こうから懐かしい声が聞こえてきた。

「おお!あそこに居んのはゾロに…カリギュラ達もいるのか!おーい!お前達まだアーロンパークに―――」
「あ、キャプテン、そのタイミングだとゾロの鞘打ちとサンジの蹴りに―――」

「確かにカリギュラちゃんよりは小さいけど、ナミさんの胸のどこが小物だぁ!」
「なんでテメェの頭はそういうことしか考えられねぇんだ!?」

 ゴシャァッ!

 …遅かったか。

「ほら、私の言った通り、キャプテンは生きていただろう?」
「ああ。…だが、これで死んだんじゃねぇか?」
「まあ、キャプテンだし、大丈夫だろう。一応、ヒールバレットで治療する。退いてくれ」

 ゾロとサンジを離し、キャプテンを道に寝かせてヒールバレットを撃ち込んだ。



「いやー、カリギュラのヒールバレットっての、ホントに効果抜群だな!助かったぜ、サンキュー」
「あの程度の傷なら、即完治させられる。だが、致命傷は無理だ。あまり過度な信頼はしないでくれ」
「いやー、ウソップが無事でよかった」
「応、無事で何よりだ」
「良かったな、無事で」
「マリモとステキ眉毛はいつか殺すからな!」

 これで、ナミを除く麦わらの一味が揃ったわけだ。

「再会を喜ぶのはこれくらいにして、キャプテン、早速だが質問させてくれ。ナミは裏切り者なのか?」

 全員が今一番気なっていることは、これだろう。

「馬鹿言うな!おれが今、こうして生きてられるのはナミのおかげなんだ。おれはあいつが魚人海賊団に身を置いているのにはわけがあると思う」

 やはり、私の信じた仲間は…ナミは裏切ってなどいなかった。
 本当に、あの時の自分が愚かしく、腹立たしいな。

「無駄だよ。あんた達が何をしようと、アーロンの統制は動かない」

 突然、後ろから、女の声が聞こえた。

「ノジコ」

 後ろに居たのはショートカットの右半分を後ろに流し、バンダナを着けた女だった。タンクトップにズボンという、活動的な格好だ。容姿は整っており、美人と言える。

「誰だ?」
「ナミの姉ちゃんだ」
「ナ、ナミさんのお姉さま♡さすが、お綺麗だ♡」
「…サンジ、お前、もう少しその反応どうにかならないのか?」
「無駄ってのはどういうことだ?」

 ゾロの問いに対し、ノジコは腰に手を当てて返答する。

「お願いだからこれ以上この村に係わらないで。いきさつは全て話すから、大人しく島を出な」

 おそらく、ナミの過去に関わることだろう。なぜ、ナミがアーロン一味に身を置いているか、これではっきりする。

「おれはいい。あいつの過去になんか興味ねぇ。その辺散歩してくる」
「そうか。気をつけろよ」
「応」
「ちょ、いいのか、カリギュラ?」
「良いも何も、ルフィ自身が興味はないと言ったんだ。強制する必要もない。私達が聞けばいいだけのことだ」
「…本当にいいのかい?」

 ノジコが尋ねる。

「気にすんな。ああいう奴さ。話だったら、さっきこの青髪の女が言ったように、おれ達が聞く。ま、聞いたところで何が変わるわけでもねぇと思うがね………グゴー…zzz」

 言うだけ言っといて寝るな。

「言ったそばから寝るんじゃねぇよ!」
「やれやれ…話は私達3人で聞く。さあ、話してくれ」
「応!ナミのこと、理解してぇしな」
「当然、おれも♡」
「成程…ナミが手こずるわけだ」

 ノジコはどこか嬉しそうにため息をつくと、自分やナミの過去について、語り始めた。





 ノジコが話した話を頭の中でまとめる。
 ノジコとナミは戦災孤児で、血のつながりは無い。
ベルメールという女性が、戦場で2人を拾い、自身の出身地でもある、この近くにあるココヤシ村で2人を養子として育てた。貧しい生活ではあったが、3人は本当の親子のように、幸せだったという。
8年前、現在まで村を支配するアーロン一味が現れた。アーロン達は瞬く間にこの島を支配し、人間達から生存権とでもいうべき権利を金で買うように強要した。無論、払えないものは皆殺し。
村はずれにあったみかん畑に囲まれたナミ達の家も発見され、金を支払う必要が生じた。しかし、貧しい家に家族3人分の金は無かった。ゆえに、ベルメールは、ナミとノジコの命を有り金全てを使って買い、自らは命そのものを差し出した。ナミ達の目の前で。
だが、ナミの不幸は終わらない。彼女の持つ航海士として才能に目を着けたアーロンにナミは攫われてしまう。当時、ベルメール達を気にかけていたゲンゾウという男が阻止しようとしたが、返り討ちにあったらしい。
当時から賢かったナミは、アーロンとある取引をする。

―――『1億ベリーでナミ本人とココヤシ村を解放する』。

 彼女は守るべき村の人々から罵倒されながらも、8年間、命をかけて海賊達から財宝を盗み、金を貯めているという。
 そして、その取引は、後700万ベリーで達成されるとのことだ。

「…海賊の私がこんなことを聞くのはおかしいかもしれないが、海軍はどうしたんだ?」

 普通、海賊が島を丸ごと支配などしたら、海軍が攻めて来そうなものだが…

「だめだよ。このあたりの海に精通した魚人達によって、海軍の船は島に着く前に沈められてしまうのさ。海軍本部も、こんな片田舎の村になんて、海兵を派遣してはくれなかった」

 島に着く前に船を沈められるか。確かに、それでは攻めようがないが…
 海軍がこの島を解放できないのは、本当にそれだけが理由なのだろうか。何かが引っ掛かる。

「8年前のあの日から、あの娘は人に涙を見せることをやめた。決して人に助けを求めなくなった。あたし達の母親のように、アーロンに殺される犠牲者をもう見たくないから」
「10歳か…人間でいえば、まだ精神的に未熟で不安定な時期だな」
「そうさ。そのナミが絶望の中、一人で戦い、生き抜く決断を下すことが、どれほど辛く、苦しい選択だったかわかる?」
「…村を救える唯一の取引のために、あいつは自分の親を殺した張本人の一味に身を置いているわけか」
「愛しきナミさんを苦しめる奴ぁ、このおれがぶっ殺して―――」

 ガン!

 いきり立つサンジにノジコが拳骨を落とした。

「お、おねーさま、な、なにを…!」
「“それ”をやめろと私は言いに来たんだよ!あんた達がナミの仲間だとここで騒ぐことで、ナミは海賊達に疑われ、この8年間が無駄になる。だから…これ以上、あの子を苦しめないでほしいの」

 ノジコは憂いを帯びた瞳で、私達から視線を外した。

「…まあ、ナミが助けを求めず、自分の力でどうにかするというならば、私はどうこうするつもりはない」
「おい、カリギュラ…!」
「キャプテン、ここで勝手に暴れれば、ナミの顔に泥を塗ることになる。後700万ベリーであいつの戦いは終わるんだ。それを見守ってやるのも、仲間だと思うがね」
「だ、だがよ!あいつらが必ず約束を守るとは…!」
「…そうなったら、こちらも相応の手段を取ればいい」

 私は立ち上がり、ココヤシ村の方へ歩き出す。

「お、おい。どこ行くんだ!?」
「散歩だよ。ルフィも気になるしな」



 ココヤシ村は随分と閑散としていた。村というか、人に活気がない。
 しばらく村を歩いていると、村はずれまで来てしまった。そこには小さなみかん畑が広がっていた。
 村はずれのみかん畑…ここが、ナミの家か?

 「まだ見つからんのか!?米粒を探しているわけじゃねぇんだぜ!?“1億ベリー”だ!見つからねぇはずはねぇ!」

 …何やら騒がしいな。

「おい貴様、何故金額を知っている!?」
「ん?まあ、なんだ、そのくらいありそうな気がしたんだ。チチチチ…」

 ―――目の奥がチリチリと焼ける。

「まさか…!まさかアーロンがあんた達をここへ!?」
「さぁねぇ…私達はただ政府の人間として、泥棒に対する当然の処置を取っているだけだ」

 ―――目の奥がヂリヂリと焦げる。

「…!何という腐った奴らだ!」
「海軍が海賊の手下になり下がるなんて…!」
「………!アーロン!」
「出て行ってもらえ。捜索の邪魔だ」

 ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!

 …まあ、こんなことだろうとは思っていたがな。



みかん畑からナミの金を強奪して帰る海軍の後を付けると、海岸に着けられた船にたどり着いた。
これがあのネズミ面の男の船だろう。
 入口には見張りが一人か…不用心なことだ。
 正面から蹴散らしても良いのだが、万が一他の部隊を呼ばれても困る。
 …ここは暗殺者の真似事でもしてみるか。

「ふあぁ…暇だな」
「ならば地獄へ行って来い」
「―――!」

 私は見張りの背後から忍び寄り、刃に変化させた左手の人差し指で海兵の喉を掻き切った。
 喉を斬られた男は呻き一つ立てることも出来ず、崩れ落ちる。
 人間形態は非力ではあるが、原型よりもオラクル細胞の構成が組みやすい。隠密行動や暗殺では、こちらの形態の方が重宝しそうだ。
 海兵の死体を手早く喰らうと、そっと船の中に足を踏み入れた。



「チチチチチ!笑いが止まらんな!9300万ベリーだ!この内3割は我々の懐に入る。素晴らしい…!」

 船内をくまなく捜索すると、みかん畑で聞いた甲高い声が聞こえてくる部屋を見つけた。
 やれやれ、やっと当たりか。ここを見つけるまでに、結局全ての部屋を捜索してしまった。つまり、この船の海兵はこの部屋に居るもの以外皆殺し。…いつもと変わらんな。

「しかしネズミ大佐…どれも血や泥で滲んでボロボロですな」
「チチチチ…金は金だ。あんないたいけな小娘が自由を信じてコツコツコツコツ8年間も馬鹿見てぇによくも集めたもんだぜ!…チチチチチチチチチチ!」

コンコンコン

「ん、なんだ?おい、確認して来い」
「わ、わかりました」

 大佐と呼ばれた男―――ネズミ面のことだろう―――に命令された男がドアを開けた瞬間

「ようこそ。人生の終焉へ」
「へ…?」

 素早く喉を掻き切る。男は首から血を噴き出し、そのまま自らの血の海に沈んだ。
私はそのまま部屋の中へと入る。

「な、なんだお前は…!あ、赤い眼の化物…!お、おい!誰か居ないのか!?」
「悪いが、この船に残っているのはお前だけだ。大佐」

 私はゆっくりと歩を進める。ここに来るまでに幾人もの血を吸った刃をぺロリと舐める。
 フフ…良い味だ。

「ま、まて!わ、私を殺すつもりか!?か、海軍を敵に回すことになるぞ!?」
「フフフ…」

 更に1歩前進。

「ヒ、ヒィ!」

 完全に腰の抜けたゴミは壁際までずり下がる。
 前進。

「お、お前はあの小娘の仲間か!?」
「そうとも。だから、ここに来たんだ」

 男はもう下がれない。
 私はもう男のすぐそばに居る。
手早く済ませることにしよう。

「ま、待て!こ、この金をやる!だから―――」

 何やら喚いているが、そんなものには講ず、拳を握り、男の顔を殴る。

「オゴ!」

 殴る。

「アガ!」

殴る。

「ウゲ!」

 殴る。

「ガペ!」

 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

「………」

 …ふむ、顔の原型は無くなったが、一応生きてはいるな。案外、丈夫なものなのだな。
さて、次は取られたナミの金の回収だな。
この際だ。この船から700万ベリーを獲って、1億ベリーにしておこう。
海軍の船と言っても、金に汚いこの男の船だ。700万ベリーくらいどこかに貯めこんでいるだろう。





 海軍の船から出て、“荷物”を運びながらノジコの話の中にあったアーロンパークを探していると、麦わら帽子をかぶったナミが走ってくるのが見えた。

「ナミ、どうした?」
「カ、カリギュラ!?あんた、どうしてここに!?」
「ああ、少々野暮用がな。ところで、アーロンパークへ行くのか?だったら、私も連れて行け」
「ダ、ダメよ!アーロンは化物なんだから!先に突っ込んでったルフィ達はともかく、まだあんたはアーロンに存在を知られていない、だから早く…!」

 さすがはルフィ達、行動が早い。

「ルフィ達は勝手にアーロンを倒しに行ったのか?」
「………それは」

 ナミは答えずらそうに視線を逸らす。
 どうやら、独断専行ではないらしい。
 それ以外で我らが海賊団が動く理由となれば、一つだけだ。

「ナミ、ルフィ達に言ったことを私にも言ってくれ。これはお前の問題だ。お前の言葉がなくては、何も始まらない」

 私の言葉に、ナミは驚き目を見開いたが、すぐに微笑を浮かべた。

「カリギュラ………『助けて』。この村を救うために」
「了解した」

 ナミと一緒にアーロンパークへと駆けだす。

「これで私のしたことは無駄にならずに済んだな」
「―――?そういえば、気になってたんだけど、担いでる木箱は何なの?」

 ナミは走りながら、私が担ぐ2つの木箱について質問してきた。

「これか?まあ、大したものではない」





 アーロンパークの門の前には大勢の人だかりが出来ていた。
 その中を私とナミは描き分けて進み、門をくぐる。
 中では魚人達が気絶し、散乱していた。
 まだ意識があるのは3人。
 内2人はゾロとサンジ。両方ともボロボロで、満身創痍だ。
 最後の一人は鋸のような長い鼻をした魚と人が融合したような男。この男がアーロンだろう。

「アーロン!」

 ナミがアーロンに叫ぶ。

「ナミ…」
「ナミさん…♡」

 サンジ、お前少し黙れ。

「今、丁度“どこぞ”の海賊どもをブチ殺そうとしていたところだ。何をしにここへ?」
「あんたを、殺しに…!」
「殺しに?シャハハハハハハハ!おれ達といた8年間…お前が何度おれを殺そうとした?暗殺、毒殺、奇襲…結果、おれを殺せたか!?貴様等人間ごときにゃおれを殺せねぇことくらい身にしみてわかってるはずだ!」

 アーロンはナミの決意を嘲笑う。

「いいか…おれはお前を殺さねぇし、お前はおれから逃げられん…!お前は永久にウチの“測量士”でいてもらう」

「盛り上がっているところ悪いんだが」

 アーロンの脅迫からナミを守るように前に出る。

「カ、カリギュラ…」
「カリギュラちゃん、こいつはヤバい相手だ。いくら君でも…」

 瀕死のゾロとサンジが私を心配する声を上げる。

「あ?テメェもこいつらの仲間か?」
「そうだ。話を続けるが、8年前、お前はナミと『1億ベリーでナミと村を解放する』と言う取引をしたそうだな」
「ああ、したとも。後700万ベリーだったか…だが、不幸なことに、今日海軍に金を全て取られちまったようだがな。シャハハハハハハハハ!」
「そうか。確かに取引をしたということだな。そら、受け取れ」

 私は担いできた木箱の一つをアーロンの目の前に投げる。
 もう一つは適当にその辺に放り投げた。

「ゲフ!」

 何か聞こえたが、気にしない。

「何だこりゃ?」

 アーロンは訝しげに木箱を見つめる。

「1億ベリー」
「なんだと!?」
「えッ!?」
「嘘だと思うなら、確認してみろ」
「………」

 アーロンはこちらを睨みつけると、木箱を破壊した。

「馬鹿な…!」
「あ、あれは、私の…」
「海軍に取られてたんじゃなかったのか!?」
「なんであの嬢ちゃんが持ってるんだ!?」

 木箱の中にはナミが集めた9300万ベリーと海軍の船から見つけた700万ベリー、合わせて1億ベリーがあった。

「どうだ、アーロン。しっかりと1億ベリーあるぞ?」
「…テメェ、海軍の船を襲ったのか。そんなことをして、どうなるかわかってんだろうな?」
「勿論だ。だが、我らが船長ならこう言うだろう。―――「だからどうした」」

 私がニヤリと笑うと、アーロンの顔が苦々しげに歪む。

「で、約束通りナミと村を解放してくれるんだろう?」
「…嘗めやがって、貴様から血祭りにあげてやる!」
「…契約不履行だな。…ナミ」
「…え?な、何?」
「今のうちに恨み事でもあればしっかりとぶつけておけ。死人に言っても気は晴れんだろうしな」
「…一生を掛けても言い尽せないほどあるからいいわ」
「そうか。では、ゾロとサンジを安全な場所まで避難させてくれ」

「よし!そういうことなら任せろ!」

 …全く、この人は。

「ウソップ!」
「…いつからいた。キャプテン」
「ついさっき来たところだ。あ、おれも魚人海賊団の幹部を『1対1で!』1人倒したぜ!」
「そうか。成長したな、キャプテン。では、ゾロ達のことを頼む」
「応!いやー、カリギュラに褒められちゃった」
「…アホ、呆れられてんだよ」

 その傷で突っ込みを忘れないゾロに尊敬の念を抱いた。

「ほら、とっとと怪我人を回収するぞ、ナミ!」
「う、うん」

 キャプテンとナミはゾロとサンジの回収に向かった。

「…カリギュラ、気をつけて」

 私は言葉ではなく、親指を立ててそれに答えた。
 そして、改めてアーロンに向き直る。

「さて、待たせたな、アーロン。かつて七武海の一角と肩を並べたという実力、見せてもらおう」

 形態変化―――混成型

「…!?その姿、テメェも悪魔の実の能力者か!」
「ああ。その口ぶりからすると、ルフィとも戦ったのか?そういえば姿が見えないが…」
「シャハハハハ!奴なら海底だ。安心しろ、貴様もすぐに送ってやる」
「―――!」
(………)

 一瞬焦るが、私の視界の隅に居たサンジがアイコンタクトで、とりあえず手は打ってあると告げていたので、動揺を悟られないように、アーロンを挑発する。

「出来るのか?お前に」

 互いに睨みあう。
 一触即発の雰囲気が頂点まで高まろうとした、その時

「ブーーーーーーーーーーッ!ブハァッ!!」

 海門の方で噴水が起こった。

「何だ!?」
「来たか!後は足枷を外すだけだ!」
「まさか、ルフィの兄貴!」

 詳しい状況はわからんが、海に沈められていたルフィが息を吹き返したというところか。

「サンジ、ここは私が受け持つ。早くルフィを助けてやってくれ」
「…レディに一番危険な役目を任せるのは男としてあるまじき行為だが、今のおれにそれを言う資格は無いな。頼む、カリギュラちゃん」

 サンジが海へと飛び込んだ。

「ま、まて、おれも戦う」
「キャプテン、その半死人を動けないように縛っておけ。そして、すぐに医者に見せろ。その出血量は拙い」
「応!まかせろ」
「ほら、行くわよ」
「ウオ!や、やめろ!」

 キャプテンとナミはゾロをロープでグルグル巻きにすると群衆の方へと担いで去って行った。

「あんなところに噴水はねぇぞ!?まさか、あのゴム野郎…!」

 ジャキン!

 ルフィの元へ向かおうとしたアーロンの首筋に、ブレードの刃を当てる。

「これから死に逝くものが、あれを気にする必要はない」
「このイカレ女…!」

「ニュ…テメェらの好きにはさせねぇ…」

 突然、倒れていた6本腕のタコの魚人が起き上がった。
 拙い、サンジの後を追う気か!

「おっと、お前の相手はおれだろ?」
「クッ…!」

 タコの魚人を追おうとした私の前に、アーロンが立ちふさがった。

「邪魔だ、どけ!」

 この超近距離ではブレードを使えないので、アーロンの顔めがけ、右ストレートを打ち込む。

「シャハハハ!いかに能力者といえども、人間の女がサメの魚人のおれと殴り合いなんか出来るわけねぇだろう!」

 アーロンは嗤いながら、私の拳を狙うようにパンチを繰り出した。

 ダガァン!

 船と船が衝突したような音が辺り一面に響き渡った。
 アーロンのパンチによって、足元が陥没するが、それだけだ。
 私の拳は、しっかりとアーロンの拳を受け止めていた。

「な!おれのパワーと互角だと!」

 チ…こんな力しか出ないとは。
この姿だとやはり出力不足だ。

 お互い、弾かれるようにして距離を取る。

「クソ…タコの魚人を逃がしたか」

 アーロンとの小競り合いの最中に、タコの魚人は海中へと姿を消していた。
 海中にいるサンジがどうにかしてくれることを祈ろう。

「シャハハハハハハ!心配するな、すぐに全員同じ所へ送ってやる。あの世へな」
「奇遇だな。私もそう考えていたところだ。ただし、逝くのはお前達魚類共だがな」

 私は構えを取り、ブースターで加速を付けた踏み込みで、アーロンとの間合いを一気に詰める。

 ドゴ!

「オゴォ!」

 渾身の右ストレートがアーロンの腹に深々と突き刺さった。
 続けて、左フックで内臓を穿つ。

「グフ…!ちょ、調子に乗るなぁ!」

 アーロンはわき腹を殴られながらも、首筋に喰らいついてきた。

「―――!カリギュラ、アーロンに咬まれちゃダメ!」

 ナミが危険を知らせる。
 ふむ、ただの人間なら、サメに咬みつかれればただでは済まないが…

 ガキン!

「その程度の攻撃では、この装甲に傷一つ付けることはできん」

 今は半アラガミ。サメ如きでは文字通り歯が立たない。

「ば、馬鹿な…!?」

 驚愕の表情を浮かべたアーロンの顎を右アッパーで打ち上げ、更に左ストレートを顔面に叩きこむ。
 牙はガラスのように容易く砕け、アーロンは地面を転がりながら建物の壁に激突した。
 
私は思わずため息を吐く。

「とんだ期待はずれだな。七武海と肩を並べたというのは、所詮噂だったらしい」

 少なくとも、ミホークがこんな雑魚と同格のはずがない。

「お、おれ達は、夢でも見てるのか?」
「あのアーロンが…イーストブルー最強最悪の海賊が赤子扱いだ」

 群衆の驚愕の声。
 こいつが最強最悪か…ミホークが言っていたことがわかった気がする。

「グォォ…!嘗めるな下等種族がァァァッ!」

 アーロンが起き上がると、その目つきが変わった。
 図鑑で見た海王類が激怒した時の目と良く似ている。
 怒りが頂点に達したといったところか。

「フン!」

 アーロンは建物の壁に手を突っ込み、中から何かを引きずりだした。

「…何だあれは」
「馬鹿でけぇノコギリだ!」
「キリバチ!」

 アーロンが手にしていたのはアーロンの身の丈ほどもある巨大な鋸のような太刀だった。

「ブッタ斬れろ!下等種族!」

 あの太刀の重さとアーロンの力が加わった一撃は、さすがに外装甲だけで受けるのは無理なので、後ろに後退して脳天からの振り下ろしを避ける。

「甘ぇんだよ!」
「―――!」

 だが、アーロンはキリバチを叩きつけた反動を利用して、一回転し、続けざまに斬撃を放つ。

「………」
「シャハハハ!キリバチからは逃れられんぞ!」

 それも後方へ下がって避けるが、アーロンは更に一回転し、襲ってくる。
 これでは、避けに徹していても、いずれは一撃を貰うだろう。

「この程度の攻撃に、これ以上逃げる必要はない」

キリバチの斬撃は一定の間隔でやってくるので、タイミングを合わせるのは容易い。
 キリバチが振り下ろされるタイミングに合わせて、左手に造りだしたインキタトゥスでガードし、更にインパクトの瞬間に盾を押し込むことで武器破壊を狙う。

 バギャン!

 狙い通り、キリバチは半ばからへし折れた。

「ば、馬鹿な!おれのキリバチが…!」

 更に追撃。右ブレードでアーロンの胴体に横薙ぎの斬撃を加える。

 ザシュ!

「グォオォォォォォッ!」
「―――!振り抜けない…!」

 アーロンに筋肉を締められ、右ブレードが引き抜けなくなった。
 この形態の非力さと右ブレードの損傷が仇となったか。

「このまま海にブチ込んでやる!」
「チィ…!」

 アーロンはブレードに腹を抉られたまま、私を抱きかかえると、海へと飛び込んだ。



「「「カリギュラ!」」」
「「カリギュラ姐さん!」」
「「「「「嬢ちゃん!」」」」」

 悪魔の実の能力者は海に嫌われる。
 そのことを知るナミ達は能力を使えなくなったカリギュラが、アーロンに殺されることを予測した。

「ウ、ウソップ!この縄をほどけ、カリギュラを助けに行く!」
「馬鹿言うな!これ以上無理をしたら、本当に死んじまうぞ!」

 ゾロがカリギュラを助けに行こうとするが、治療を行っていた老医師に止められる。

「戻ったァァァァァッ!」

 その時、今まで海中に沈んでいたルフィが重しとなっていた岩を壊され、空から落ちてきた。

「ルフィ!」
「応!戻ってきたぞ!…ん?アーロンはどこだ?」
「ルフィの兄貴!アーロンはカリギュラ姐さんを海中に引きずり込みやがったんです!」
「なに!?てことは、海の中か!よし、カリギュラ!今いくグエ!」

 海に飛び込もうとするルフィの襟首をナミが引っ張る。

「バカ!あんたも悪魔の実の能力者なんだから、海の中で戦えるわけないでしょ!?」
「そ、そうだった!ど、どうしよう!」
「まだサンジが海の中に居るんだろう?あいつにどうにかしてもらうしかねぇな」
「ちくしょー!陸ならおれも加勢できるのに!」

 陸に居る麦わらの一味は、ただカリギュラが無事でいることを信じるしかなかった。



(―――!あれはアーロンと…カリギュラちゃん!)

 海中でルフィを拘束していた岩盤を蹴り砕いたサンジは、海に飛び込んできたアーロンとカリギュラを目撃した。

(拙い、カリギュラちゃんは悪魔の実の能力者だ!海の中じゃ力が出せない!)

 すぐさま加勢しようと泳ぎだしたサンジだが、信じられないものを目の当たりにした。

(な、なんだありゃ…!)

 カリギュラの身体がどんどんと膨張し、人型を失っていく。
 数秒後、目の前に落ちてきたのは、7mはあろうかという、青く輝く竜を模した化物だった。



「―――!一体、テメェは何もんだ…!」

 アーロンは原型に戻った私に驚き、拘束していた手を解いて、ブレードを無理やり引き抜き、距離を取った。

「…お前は起死回生の一手だと考えたようだが、最悪の選択をしたな」

 私の身体は悪魔の実の制約により、浮力を受けないので、海底に着地する。
 
(………!)

 すぐ後ろにはサンジの姿があった。おそらく、ルフィを助けた直後なのだろう。
 同じく海底に居たノジコを守るように、私を睨みつけてくる。
 …さすがはサンジ。私の原型を見ても、逃げ出さない胆力、恐れ入る。

「サンジ、信じられないかもしれないが、私はカリギュラだ」
(―――!)

 サンジの顔が驚愕に染まる。

「アーロンは私がどうにかする。お前たちは戦いに巻き込まれないように、早く陸へ上がれ」

(………ん!)

サンジは一瞬、逡巡したが、私に向かって「任せた」と親指を突き上げると、ノジコを連れて浮上して行った。

「…待たせたな。さあ、決着をつけよう。アーロン」
「テメェは…人間じゃねぇな。なぜ、あんな下等生物共に肩入れする」

 そういえば、今まで意識したことは無かったな。
 …簡潔に言うならば―――

「『楽しい』からだ」
「何…?」
「あいつらと…仲間と一緒に過ごす日々はとても『楽しい』。少し昔の私からは考えられないくらい、満たされた毎日を送っている。だから、私はあいつらを守る。お前のような、仲間を苦しめる敵からな。これこそが、私の『誇り』だ」

 決意と共に、指をアーロンに突き付ける。

「シャ、シャハハハハハハハハハ!あんな下等生物共を守るのが誇りだと?所詮は化物の考え…理解不能だな」
「お前如きにわかるようなものではない」
「わかりたくもねぇなァッ!」

 それだけ言うと、アーロンは身体を真っ直ぐに伸ばし、鋸のような鼻をこちらに向ける。まるで、発射前のミサイルのようだ。

「シャーク・ON・ダーツ!」

 次の瞬間、凄まじい勢いで、アーロンが突っ込んできた。

「一撃で葬る…!」

 私は冷気を左手に集め、氷槍を作り―――出そうとして、巨大な氷塊が出来た。
 …そうか、ここは海の中。冷気を発すれば、周りの海水が凍りついてしまうか。
 だが、今更別の攻撃方法は出来ない。仕方がないので、その氷塊で、突っ込んできたアーロンにカウンターを狙う。

「氷ごと貫いてやる!」

 アーロンは巨大な氷塊にも怯まず、そのまま突っ込んでくるが、

 ゴシャ!

 氷塊に傷一つ付けること敵わず、正面から激突した。

「オゴォァァァッ!」
「これは私が作りだした魔氷の塊だ。お前ごときの突進では、傷一つ入らんよ」

 原型時の力の強さも相まって、アーロンはそのまま海上へと打ち上げられていった。
 殴ったときの手ごたえがしっくりこなかったので、おそらく、まだ生きているだろう。

「…一撃じゃなかったな」

 私はブースターを点火し、海上へ出たアーロンを追った。



ズゥガァァァン!

海上へ出る直前、何かが激突する音が聞こえた。
アーロンが建物に突っ込んだ音だろう。
海上へ出た瞬間、原型から混成型に戻ってしまった。やはり、まだ陸で原型を保つことは出来ないようだ。

「な、なんだぁ!?」
「あ、カリギュラ!」
「カリギュラちゃ~ん!無事だったんだね!」

 ルフィ達が私の姿を見つけて、声を上げる。

「おっしゃ!陸の上なら加勢できるぞ!」

 ルフィが腕を伸ばし、私にしがみついてきた。

「む、ルフィ、これは私が始めた戦いだ。出来れば邪魔しないでほしいんだが」
「カリギュラより先に、おれがあの魚と戦ってたんだ。カリギュラの方が後だぞ!」
「…まあいい、とりあえずアーロンが突っ込んだ部屋まで行くぞ」
「応!」

 ルフィを連れたまま、アーロンが突っ込んだ最上階の左側の部屋へ向かった。

「紙がいっぱいだ」
「…ここは、測量室か?」

 中には大量の海図が積まれ、それを描くと思わしき作業台と、海図の元になる測量データの本棚が置いてあるだけの、淋しい部屋だった。

「ああ…そうだ」

 奥の壁にはアーロンが蹲っていた。
 私の原型の一撃を喰らっても、まだ息があるとはな。なかなかの生命力だ。

「8年間かけてナミが描いた海図だ。世界中探してもこれ程正確な海図を描ける奴ぁ、そういるもんじゃねぇ。天才だよ、あの女は」

 ゆっくりとアーロンが起き上がる。だが、足が覚束ない。瀕死、と言ったところか。

「ナミの海図で世界中の海を知りつくした時、おれ達に敵は無くなり、世界はおれの帝国となる…はずだった。貴様のような化物が現れなければな!」

 アーロンがギロリと私を睨みつける。

「ククク…おれもナミをさんざん利用してきたがな、貴様も似たようなもんだ、カリギュラ。貴様にとって、そこの麦わらを含む一味は、愛玩動物みてぇなもんなんだ。貴様は、ただ弱者を守って自己満足をしているに過ぎゴフォ!」

 アーロンの言葉を遮るように、ルフィが顔面に拳を打ち込んだ。

「うるせぇ!カリギュラがそんなこと考えてるわけあるか!」

 ………

「全くだ。そのようなこと、かけらも考えたことは無い。さて、覚悟は良いか?」

 アーロンはルフィのパンチで出来た流血を拭うと、こちらに向き直る。

「まさか、こんな辺境の海で野望が潰えるとは、思いもしなかった。だが、おれもイーストブルー最高賞金額の海賊、ただでは死なん!」

 命の火を一気に燃やしつくすかの気迫を放ち、アーロンが四肢を地につけ、大口をあける。
へし折った歯が全て生え換わっているのは、サメとしての特性ゆえか。
 アーロンの攻撃に備え、身構える。

しかし―――

「カリギュラ!貴様の仲間を道連れにしてくれる!」

 しまった、狙いは私ではない!

「ルフィ!」
「わかってる!」

 アーロンの殺気に反応し、ルフィはすでに天井を蹴り破るほど高く右足を天に向かって伸ばしていた。重力と伸縮力を加えた右足の一撃で、アーロンを迎え撃つ気らしい。
 だが、アーロンの攻撃の方が早い。

「シャーク・ON・トゥース!」

 アーロンは先ほど海中で見せた突撃と同じ要領で飛び立ち、更に回転を加える。
 遠心力を加えた牙で、ルフィを抉る気か。そうはさせん!

「今度こそ、この一撃で終わらせる」

 私もルフィと同じく右足を天に向かって180°開脚し、冷気を集中させて、右足を一振りの刃と化す

「遅いわァッ!」

 しかし、アーロンの突撃のスピードが予想よりも早く、ルフィの腹に牙が深々と突き刺さる。

「ルフィ!」
「………!!ゴムゴムの…!」

 だが、ルフィは怯まない。ならば、私もこの一撃でアーロンを斃すまで。

―――『ヘルの処刑刀』!
「オノォォォォォォォォ!」

 私達は同時に、右足をアーロンへと振り下ろした。

 ゴシャァッ!

「ッ…………!!!!!!!!」

 ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!

 私達の一撃で、アーロンは完全に絶命し、その衝撃で一回まで床をブチ抜いて落ちて行った。

「…終わったな」
「応」

 ルフィはその場に座り込む。
私の前にアーロンと一戦交え、海に落ち、さらにアーロンの決死の一撃を受けたのだ。さすがに堪えたのだろう。

「…先ほどの衝撃で、海図が滅茶苦茶だな」
「これでいいんだ。無理やり描かされた海図なんて、ナミに取っても、無くなった方がいいに決まってる。これからは、おれ達の仲間として、自分で好きに描けるんだからな!」
「…ああ、そうだな」

 ゴゴゴ…

「ん?なんか落ちてきたぞ?…石?」
「どうやら、先ほどの衝撃で、この建物が崩れるようだ」
「そっか…て、エエェッ!おれゴムだけど、生き埋めは嫌だぞ!?」
「案ずるな。私が何とかしよう」

―――『インキタトゥスの息』防性変化。
―――『インキタトゥスの防壁』を発動。

 ブースターから冷気が放たれ、私とルフィを包みこむように球体状の氷塊が形成された。

「おお!これ、カリギュラがやったのか!?」
「ああ。硬度の高い氷で球体状の防御膜を作った。この程度の瓦礫など、ものともしない」
「じゃあ、安心だな」
「安心だ」

 ボコ

「なあ、カリギュラ。床に穴があいて、下に落ちてんだけど、これ衝撃とかも防げるのか?」
「…無理だ」

 ドッシャーン!

 最下層に落ちた衝撃で、私とルフィは球体内を跳ねまわることとなった。

「アアアアアァ!カリギュラ!オメェの刃が!斬れる斬れる!元に戻ってくれ!」
「…いや、ここで人間型になると外装甲が無くなって、痛いんだ。我慢してくれ」
「おれは真っ二つだろうが!」

 …まだまだ改良の余地ありだな。




















【コメント】
 ゴムゴムの風車に使用した海獣はモームの妹です。



[25529] 第9話 人喰らいのカリギュラ
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/08 23:43
「…どうやら、治まったようだな」

 あれからしばらくして、建物の崩壊は治まった。
私達の入っている球体状の氷『インキタトゥスの防壁』は瓦礫の中に埋もれてしまったが、氷壁には罅一つ入っていない。

「怖かった!カリギュラのブレードが首に掠った時はホントに怖かった!」
「…悪かった。謝るから、手を貸してくれ」

 命があることに涙を流しているルフィをこちらに向けさせる。

「今からこの球体の上方の氷の硬度を下げる。一緒に瓦礫もろとも打ち砕いてくれ」
「応、任せろ!」
「よし、ではやるぞ」

 球体の天井部分の硬度下げる。瓦礫の重みで氷にひびが入った瞬間―――

「ハァッ!」
「ウォリャァッ!」

 ルフィと同時に瓦礫もろともブチ抜いた。

 開けた穴から空が見える。
 ただ、少々穴が深いので、飛んで出ることにする。

「ルフィ、飛ぶぞ。掴まれ」
「空飛べるって、ホントに便利だなー」

 私はルフィを抱きかかえると、空に向かって飛翔した。



「ルフィ!カリギュラ!」
「「ヴァ…ヴァ~二ギャ~!グァ~ヌェズァ~ン!(訳:兄貴!姐さん!)」」

 瓦礫の山から飛び出た私達を見つけたナミやヨサク達が歓喜の声を上げた。
 そして、ナミを見たルフィが大声で叫ぶ。

「ナミ!お前はおれの…おれ達の仲間だ!」

「………!うん!」

 ルフィの言葉に、ナミは涙を流しながら、笑って答えた。

「フフ…台詞は格好いいが、この姿では締まらないな」

 空飛ぶ女に抱きかかえられるルフィの図。

「う………だ、だったら早く下せよ!」
「お望みのままに、船長」



「アーロンパークが落ちたァッ!」

 地面に降り立った瞬間、目に入ったのはアーロンの支配から解放された人々の歓喜の声と姿だった。
 …あ。

「忘れるところだった」
「―――?」

 首をかしげるルフィをその場に残し、アーロンと戦闘前に放り投げたもう一つの木箱を担ぎ直すと、ナミの前まで持っていく。

「カリギュラ、これ何?」
「ネズミの入れ物」

 木箱を殴りつけて破壊する。

「ヂギャッ!」
「こ、こいつ、確か海軍の…!」

 木箱の中に入っていたのはナミから金を奪った海軍の大佐である。
 海軍の船でボコボコにした後、木箱にブチ込んでここまで持ってきた。

「お前のために生かしておいた。殺すなり、埋めるなり、好きにしろ」
「どっちにしろ殺すのかよ!」

 キャプテンの突っ込みを聞きつけたのか、残りの仲間や群衆達も集まってきた。

「おばえら、おれにでをだじでみろ、ただじゃずまないがらな」

 む、もう喋ることが出来るとは。確かに喉は潰したはずなんだが…

「これ、返すわね」
「―――!」

 ナミは麦わら帽子をルフィの頭に被せると、愛用の棍を持って海軍の男のそばに近づいた。

「ノジコを撃った分と…ベルメールさんのみかん畑をグチャグチャにしてくれた分…きっちりと受け取りなさい」

 言うが早いか、ナミは棍で思い切り男の顔を殴打した。

「ごハァッ!」

 男はそのまま海と繋がっているプールへと落ちる。

「ありがと、ナミ。スッキリしたよ」
「もう千発ぐらい入れてやれ!」
「よし、リクエストにお答えしよう」
「…お前さんがやったら一発で顔が潰れたザクロみたいになりそうだからやめてくれ」

 そうか?あの男見た目よりもずっと丈夫だぞ?

「ふぱはぁ!」

 ほら、しぶとい。
 男はプールサイドに手を掛けて、顔を出した。
 すかさずナミが男のネズミのような髭を引っ張り上げる。

「あんた達はこれから魚人達の後片付け!」
「あ、ナミすまん。その男の部隊は全員喰らってしまったので、いない。代わりに、私がここに転がっている魚人達を処理しよう」
「「…は?」」

 頭に風車を刺した男とノジコが「こいつ、何言ってるんだ?」という表情で私を見た。
 …何か腹が立ったので、右手を捕喰形態に移行し、近くに転がっていたエイに似た魚人を一呑みにした。

「「………!!」」

 風車男とノジコは絶句。

「…カリギュラ、あんまり刺激の強い光景をノジコ達に見せないで。ここから人がいなくなったら処理してちょうだい」
「了解した」

 ナミに捕喰を見せるのは初めてだったはずなんだが…なかなかに肝が据わっている。

「う~ん…(バタ)…」

 キャプテンも見習え。

「…話の続き。基地に居る残りの奴らに手伝わせてゴザの復興に協力!アーロンパークに残った金品に一切手を出さない!あと、私のお金…は、カリギュラが取り返してくれたか」

 それだけ言うと、ナミは男の髭を手放した。
 解放された男はプールサイドから十分離れると、私に向かって怒鳴り声を上げた。

「憶えてろ、このクソ海賊ども!青髪の人喰い女!名前をカリギュラと言ったな!お前が船長なんだな!?」
「違ぇ!おれが船長のルフィだ!カリギュラは副船長だ!」

 おい、いつ決まったんだ?

「よし、憶えたぞ!忘れんな!テメェら凄いことになるぞ!おれを怒らせたんだ!絶対に復讐してやる!」
「…やはり、ここで魚の餌にしておくべきだな」

 左腕のブレードをぺロリと舐める。

「ヒ、ヒィィィィッ!」

 男は悲鳴を上げながら一目散に逃げて行った。

「おいおい、凄いことになるってよ」
「なんでおれが海賊王になること知ってんだ?」
「そうじゃねぇだろ、馬鹿だなお前」
「おい、どうする!?マジで凄いことになったらどうする!?」
「安心しろキャプテン。私が何とかしてやる」
「おお、頼もしい!」
「海兵か…実のところ、あの男の部隊はあまり美味くなかった。今度来る海兵は美味いと良いのだがな」
「そして恐ろしい!」

「さあ、みんな!私達だけが喜びに浸っている場合じゃないぞ!この大事件を島の全員にに知らせてやろう!アーロンパークはもう滅んだんだ!」

 後ろで群衆が島中にこの朗報を知らせるために、駆けだすのが見えた。
 …では、私も食事に移るとしよう。





「…ふむ、やはりここまで重症だと、完全に治癒させることは無理だな」

 アーロンパークでの戦闘で、大怪我を負っていたゾロに、ヒールバレットを撃ち込んだが、完全には直しきれなかった。
 いかに改良したとはいえ、偏食因子を持たない人間に多量に撃ち込むのはリスクが高すぎる。

「そうか。けど、大分楽になったな」
「本来なら全治2年の大怪我だぞ!?それが傷跡しか残らん程までに一瞬で治癒するとは……その弾丸は一体何なんだ!?」
「カリギュラ特製の『癒し弾』だ。すげぇんだ」

 …何だそのエキサイトに翻訳したようなネーミングは。

「まあ、これはまだまだ安全性に問題がある治療方法だな。早めに船医を仲間にすることを勧める」
「船医かー、それもいいなー…でも音楽家が先だよな」
「…何でだよ」
「だって海賊は歌うんだぞ?」
「…船医を後回しにしてでも音楽家とは……よほど海賊にとって、音楽と言うものは重要なのだろうな」
「…お前、頭良いけど時々馬鹿だよな」

………



 ここは海軍基地第16支部。
 アーロンパークから命からがら逃げかえったネズミ大佐は、海軍本部と連絡を取っていた。

「もしもし!」
「はい、海軍本部」
「本部に要請する!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ」

 ネズミ大佐と会話している海軍本部の通信員は、ネズミ大佐の怒鳴り声に辟易しながら答える。
 この世界で長距離通話の手段として使われているのが、ネズミ大佐が使用している『電伝虫』と呼ばれる生き物だ。彼らは電話のように、人間が周波数を指定してやれば、世界中の同個体の内、一つに電波を届ける性質を持つため、離れた場所にいる人物との会話が出来る。
 また、電伝虫には様々な亜種が存在するが、ここでは割愛する。

「いいか!青髪長髪の“カリギュラ”、麦わら帽子を被った“ルフィ”という2名の海賊!並びに以下4名の“その一味”を我が政府の『敵』とみなす!」
「カリギュラ…ルフィ…と」

 海軍本部の通信員はネズミ大佐の言った名前を控える。

「かのアーロンパークの“アーロン一味”打ち崩す脅威、危険性を考慮の上、その一味の船長ルフィと副船長カリギュラの首に賞金を懸けられたし!」
「了解」
「写真を送信する!」

 電伝虫には見たものを画像として送る機能もある。
 電伝虫の前に置かれているのは振り返った瞬間の青髪長髪の美女の写真だ。ただ、深い血色に光る左眼が何とも言えない不気味さを漂わせている。
 これは、ネズミ大佐の船内部で監視カメラの役割を果たしていた電伝虫が取った写真である。
 この時、カリギュラは電伝虫がどういう生物なのかを知らなかったので、「何か変な虫がいる」程度の認識で素通りしてしまったのである。

「今送った写真は副船長カリギュラのものだ!この女は私の船に侵入し、船員を皆殺しにした上、死体を全て食ってしまった!明らかに危険な悪魔の実の能力者だ!」
「…!それは確かなのか!?」
「確実だ!私もこの目でこの女の右腕が巨大な口に変化し、人を食っているところを目撃した」
「了解した。その通りに上に報告する」

 そして、次にルフィの写真が送られた。

「………よし、写真は全て受け取った。早急な事実確認の後、上に承認を求める」
「いいな!そいつらは凶悪な海賊だ!生死問わず、全世界指名手配の“賞金首”にしてくれ!」

 こうして、世界にまた新たな賞金首が2人誕生した。



 アーロンからの解放を祝う宴は3日目に突入した今も終わることは無かった。
 私も魚人達は“処理”し終わってしまったので、村の立食パーティーに参加している。勿論、食事…じゃなかった、“処理”は村人が見ていないところで行った。ナミに口を酸っぱくして言われたしな。
 …あの時のタコの魚人はいつの間にか消えていたので、喰えなかったのが残念でならないが。

 …うむ、この生ハムメロンというのは美味いな。

「あ、カリギュラ!」
「ルフィか?どうした」

 骨付き肉を手と口に一杯に詰め込んだルフィがやってきた。

「生ハムメロンってどこにあるかわかるか!?」
「ああ、それならここに…」

 生ハムメロンの皿は空っぽだった。

「…?ついさっきまでは山のようにあったのだが」
「いや、嬢ちゃんが物凄ぇ早さで食っちまっただろうが」

 …え?

「くっそー!おれも食いてぇ!生ハムメロン!カリギュラ、お前も一緒に探せ!」
「わかったわかった。とりあえず、村はずれに向かって探すとしよう。向こうはまだ私も行っていない」
「応!」

 私はルフィと一緒に、未だ収まること知らない宴の熱気の中、村はずれへと向かっていった。



 「生ハムメロン!」

 結局、あれから生ハムメロンは見つからず、村はずれの崖まで来てしまった。
 …あそこに居るのはノジコと一緒に居た男か。
あの風車、間違いないだろう。

「あり…この辺は食い物ねぇな…まいった」
「………」
「………」

 男が何か語りたそうにこちらを見ている。

「戻るぞ、カリギュラ」
「了解した」

 とりあえず無視する。

「待て、小僧!小娘!」
「…?墓か。誰か死んだのか」
「ああ、死んだよ。昔な」

 おそらく、ナミとノジコの育ての親、ベルメールの墓だろう。

「いや、それはどうもこのたびはゴチュージョーさまでした…ん?」
「御愁傷様、だ。ルフィ」
「それだ!」
「おい、小僧、小娘。…ナミはお前達の船に乗る。海賊になる…危険な旅だ。………もし、お前らがあの子の笑顔を奪うようなことがあったら、私がお前らを殺しに行くぞ!」
「………」
「…まあ、おれは別に奪わねぇけど―――」
「わかったな!!!」

 ルフィの曖昧な返答を遮るように、強い口調で聞き返す風車の男

「了解した。もし、ナミから笑顔を奪うようなことがあれば、私は自らこの命を差し出そう。まあ、そんなことは万に一つも無いがな」
「ほう、何故だ?」
「私が、そして、私達が必ず守るからだ」
「応!その通りだ!」

 私達の迷いなき断言に、風車の男は目を見開いた後、微笑を浮かべた。





 出航の日、ナミは自分が稼いだ一億ベリーを置いて行くのと引き換えに、村人全員の財布をスるという、何ともらしい別れを告げ、ゴーイング・メリー号にて出航した。

 甲板で女二人、並んで雑談をしている。

「やれやれ、お前は何も変わってないな、ナミ」
「あら、アーロンの束縛から自由になった程度で、私が変わるとでも思ってたの?」
「…それもそうか」

 空は快晴。カモメが鳴きながら飛んでいる。
 …ケジメをつけなければな。

「…ナミ、私はバラティエでお前が船を盗んで逃げだしたとき、その裏切りに憤怒し、我を忘れて本気でお前を殺そうと思った。だが、お前はアーロンが暴れだしたことを聞き、あの村のために、仕方なく私達と別れたのだな。…このような浅慮で愚かな私を許してくれ。本当にすまなかった」

 姿勢を正し、ナミに向かって真っすぐに頭を下げる。

「や、やめてよカリギュラ!どんな事情があるにしたって、あの時裏切ったのは事実だし、カリギュラ達が来てくれなかったら、私は今でもアーロンの言い成りだった。むしろ、謝らなきゃいけないのは私の方よ。だから、気にしないで」
「そうか。ありがとう、ナミ」
「こちらこそ。でさ、次に向かうのはグランドラインの入り口に最も近い町、『ローグタウン』なんだけど、一緒にショッピングしない?」
「ショッピングか…あまり興味は無いな」
「カリギュラも女の子なんだから、きっと楽しいって!」
「だがな―――」
「だから―――」

 日が暮れるまでナミと雑談をした。
 何と言うか、今まで以上にナミとの距離が縮まった気がする。
 ナミと『親友』になった日。それが今日だ。





「また値上がりしたの?ちょっと高いんじゃない?あんたんとこ」
「クー」

 ナミがニュースクーから新聞を受け取りながら購読料が上がったことに不満を漏らしている。ナミらしいな。
 ―――本によると、まずは地面に10㎝程度の深さの穴をあけて。

「何を新聞の一部や二部で」

 そんなナミの声を聞いて、何らタバスコを弄っているキャプテンが呆れた声を出す。
 ―――で、“苗木”を差し込んで。

「毎日買ってると馬鹿になんないのよ」
「お前もう金集めは済んだんだろ?」
「馬鹿ね。あの一件が終わったからこそ、今度は私のために稼ぐのよ。貧乏海賊なんて嫌だからね」
「おい、騒ぐな!おれは今『必殺タバスコ星』を開発中なのだ!これを目に受けた敵はひとたまりもなく―――」
「触るなァッ!」
「うわッ!」

 サンジに蹴られたルフィがキャプテンにぶつかり、手に持っていたタバスコが目にドバっと掛かった。
 うん、あれは死ねる。
 ―――水をやる。早く実がならないかな。

「ぎぃやァァァァァァァ!」
「なんだよ、一個くらい良いじゃねぇか!」
「ダメだ!ここはナミさんのみかん畑!このおれが指一本触れさせん!」

 そういえば、隣に植わっているみかんの木はナミが家から持ってきた物だったな。
 ―――肥料もやった方が良いかな?

「まあ、今は気分が良いからいいや。でも、カリギュラが隅っこで何かやってんぞ?」
「ん?カリギュラちゃん、何やってるの?」

 船のみかん畑(と言うには少々小さいが)の隅で作業をしていた私にルフィ達が気付いた。

「私も何か育ててみようと思ってな。ちょっと苗木を植えていたんだ」
「へー、カリギュラもそういうことに興味があるんだ」

 新聞を読もうとしていたナミがこちらに歩いてきた。

「なになに?何を植えたの?」
「これだ」

 みかん畑の隅にポツンと植わるギザギザの鋸状の物体。

「「「「「アーロンの鼻なんか植えるなッ!」」」」」

 ナミに引っこ抜かれて海に捨てられてしまった。

「な、何をするんだ!あの鼻を育てれば、いずれたくさんのアーロンが収穫出来たはずなのに!」
「「「「「出来てたまるかァァァッ!」」」」」

 その後、ナミに動物は植物とは違い、土に植えても成長しないことを教えられた。
 私の『アーロン食べ放題計画』はここに潰えた。ああ、あいつ私好みの味だったのに…

「はあ…カリギュラ、あんたって、時々とんでもなく基本的なことを知らないから、何をするか予想がつかないわね」
「元々はただ喰らうだけの存在だったんだ。人間の常識なぞ、私にとっては未知の領域だよ。まあ、恥は掻きたくないし、一般教養の本も読むようにしよう」
「それが良いわね。あ、じゃあ、まずはこの新聞読んでみれば?世界の情勢だけじゃなくて、人間がどういうことに興味があるとかわかると思うし」

 ナミが新聞を手渡してきた。

「そうだな。そうしよう」

 私が新聞を開いて内容を読もうとした時、1枚の紙が新聞から滑り落ちた。

「「「ん?」」」

 近くに居たルフィとナミ、そして未だ悶絶するキャプテンが落ちた紙を見つめる。
 私も落した紙に目をやると、其処にはなかなか面白いことが描いてあった。

「ふむ」
「あ…」
「あ…」
「あ!」
「グー…zzz」
「お」

「「「ああァァァァァァーーーーーッ!!」」」

 さて、これから更なる刺激に満ちた楽しい毎日を送れそうだ。



 世界政府直下“海軍本部”。
 今、ここではある2人の賞金首について、将校達の会議が行われていた。

「―――では、少なくとも、もう支部の手に負える一味ではないということか?」
「そういうことです」

 質問に答えたのは、額が眩しいサングラスを掛けた男、海軍本部少佐『ブランニュー』。

「“道化のバギー”1500万ベリー、海賊艦隊提督“首領・クリーク”1700万ベリー、魚人海賊団“ノコギリのアーロン”2000万ベリー。懸賞金アベレージ300万ベリーのイーストブルーで、いずれも1000万の大台を越える大物海賊団ですが、粉砕されています」

 ブランニューはルフィの手配書をボードに叩きつける。

「まずは一味の船長についてです。“麦わらのルフィ”、初頭の手配から3000万ベリーは世界的に見ても異例の破格ですが、決して高くないと判断しています。こういう悪の芽は早めに摘んで、ゆくゆくの拡大を防がねば」
「そうだな。で、次が本題だということだが?」
「はい」

 ブランニューは頷くと、カリギュラの手配書を同じくボードに叩きつける。

「一味の副船長、“人喰らいのカリギュラ”。ある意味、この女の存在が一味の危険性を押し上げていると言っても過言ではありません。まず、先ほどあげた3名の海賊達ですが、バギー以外の者は消息不明、さらに、構成員も忽然と姿を消しています。これについて、実際に対峙した第16支部のネズミ大佐の証言や、その他海賊達の戦闘の目撃者からの情報から、信じがたい事実が判明しました。…この女は、第16支部の船の乗船員、そしてアーロンおよび海賊団の構成員を文字通り喰らい尽したということです」

 会議場にざわめきが起こる。
 無理もない。いかに百戦錬磨の海軍将校といえども、人喰いの化物がいると聞いて、平静さを保っていられる方がおかしい。
 中にはそのおかしい者たちもちらほら居たが。

「クリーク海賊団については明確な情報はありませんが、おそらく同じ末路をたどったと思われます。このことから、非常に危険な悪魔の実の能力者であることが予測されます」
「どんな実を食べたのか、はっきりとしないのか?」
「はい。情報では変身能力を有しているとのことですので、動物系だと思われますが、特定は出来ていません。可能性が一番高いのが動物系幻獣種とのことです」
「ルーキーにして、自然系よりも希少と言われる動物系幻獣種の能力者か…」
「問題はそれだけではありません」

 ブランニューは一層深刻そうに顔を顰める。

「実は、グランドラインに入ってきたクリーク海賊団を追っていた七武海“鷹の目のミホーク”氏が、この女と戦闘を行っています。そして、ミホーク氏に小さいとはいえ、一生ものの傷を負わせたとのことです」

 ざわめきが更に大きくなる。

「あの鷹の目にか?…戦闘力は4海クラスではないな。グランドラインでも相当な強者に入るぞ」
「確かに、それも脅威ですが、問題はここからです。ミホーク氏によれば、彼の愛刀である“黒刀・夜”で確かに心臓を貫いたとのことです。しかし、この女は実際にまだ生きて人喰いを続けている。このことから、『白ひげ海賊団』1番隊隊長“不死鳥マルコ”に匹敵する再生能力、もしくは不死性を持っていると思われます」
「心臓を貫いても死なない…まさに『化物』だな」

 その将校の言葉は会議場の全員の意見を代弁していた。

「以上のことから、麦わらの一味副船長カリギュラは、人を喰らい、七武海に傷を負わせる高い戦闘力を持ち、更には高い不死性を兼ね備えた凶悪な怪物であると結論付けます!」

 ブランニューは再度、カリギュラの手配書に拳を叩きつける。

「初頭の手配額『1億ベリー』!歴史上でも類を見ない額ですが、この女の危険性を鑑みれば、決して高くは無いと判断いたしました。この化物がこれ以上力をつける前に、確実に抹殺しなければなりません!」

 ブランニューの意見に、会議場に集まった将校達から、反論が出ることは無かった。



「なっはっはっは!おれ達はお尋ね者になったぞ。3000万ベリーだってよ!」

 ルフィは自分の手配書を持って嬉しそうに笑っている。

「あ、見ろ!世界中におれの姿が!モテモテかも!」

 キャプテンがルフィの手配書の自分の後頭部を指差して自慢げにしている。

「後頭部だけじゃねぇかよ…ケッ」
「そうだな、モテモテだな………ハッ」
「鼻で笑うな!ははーん、カリギュラ、お前手配書に写ってるおれに嫉妬してるんだな?安心しろって、もっと有名になれば船長じゃなくても手配書に載るって!」
「あんたらまた見事にことの深刻さがわかってないのね。これは命を狙われるってことなのよ?この額ならきっと“本部”も動くし、強い賞金稼ぎにも狙われるし…」

 ナミが仲間達の気楽さに頭を抱えていると、更に新聞から1枚紙が私の足元にこぼれ落ちた。

「これは………」
「どうしたのカリギュラ?」
「…とりあえず見てくれ」

 私は拾った紙を仲間達に見せた。

 ―――『麦わらの一味 副船長 “人喰らいのカリギュラ” 懸賞金:1億ベリー』

「「「「い、1億ベリィィィッ!!」」」」

 寝ているゾロを除く全員が驚愕する。

「なんで船長のおれより懸賞金額が高いんだよ!」
「突っ込むところはそこじゃないでしょーが!?1億ベリーの賞金首なんて、グランドラインの海賊でもそうはいないわよ…」

 …それよりも気になることがあるんだが。

「…私はもう副船長で決定なのか?」
「ぜってーカリギュラの賞金額越えてやるからな!副船長より賞金額が低いなんて、格好がつかねぇ!」
「お、おれだっていつかは賞金首になってやるからな!悔しくなんかないからな!目から出てるのは海水だからな!!あ、お前、副船長な」
「ああ、カリギュラちゃんの見返り姿…真っ赤な左眼が幻想的だ。あ、カリギュラちゃん副船長ね」
「グー…zzz…カリギュラ…副船長…zzz」
「だめだこいつら、事態の深刻さをまるで理解してない。カリギュラ、副船長のあんただけが頼りよ」
「………」

 麦わらの一味副船長カリギュラ、ここに爆誕。
 …まあ、良いけどな。

「…これはイーストブルーでのんびりしてる場合じゃないわね」

ナミが顔に手を当て、深刻そうな声色で呟く。
確かに、モタモタしていたら海軍やら賞金稼ぎやらがケーキに群がる蟻の如く押し寄せてくるだろう。

「よし!おれももっと強くなって、カリギュラの懸賞金額を越えてやる!張り切ってグランドライン行くぞ!ヤローども!」
「「うおー!」」

 船長と副船長に賞金が掛かり、それなりに海賊団らしくなってきた我らが麦わらの一味。
 グランドラインの入り口に最も近い島にある“始まりと終わりの町”『ローグタウン』はその後すぐに見えたのだった。




















【コメント】
 ちょっと政腐を滅ぼしてくるので更新が遅れます。



[25529] 第10話 蒼刃・氷女
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/08 23:44
 ここはグランドラインのとある島。
 
「う、うわ!鷹の目!貴様、何しに来やがった!」
「騒ぐな。お前達に用は無い。幹部どもはどこだ?」

 その島に、世界最強の剣士、鷹の目のミホークはいた。
 つい先日、政府から配布された手配書を、ある男に見せるために。

「こんな島でキャンプとは…暢気な男だ」

 周りを囲む男達―――彼らはとある海賊団の一員である―――を威圧しつつ、ため息をつく。
 しばらくして、彼を包囲していた海賊達の一人が、奥のジャングルへと駆けだした。

「頭ァーーー!!」

 自分達の船長に世界最強の剣士がやってきたことを知らせるために。

「………」

 ミホークは無言でその男の後を追っていった。
 それを止めようとするほど、包囲していた海賊達は馬鹿ではなかった。

「…ん?おう、“鷹の目”。こりゃあ珍客だ」

 ジャングルの奥に居たのは数人の男に囲まれた赤髪の男だった。
 この男こそ、グランドライン後半の海、通称『新世界』の頂点に君臨する4大海賊の一人、“赤髪のシャンクス”である。
 彼こそ、ルフィが海賊王を目指す切っ掛けを与えた人物だ。

「おれは今、気分が悪ぃんだが…勝負でもしに来たか?」
「ふん…片腕の貴様と今更決着をつけようとも思わん」

 シャンクスの左腕は、肩から先がない。昔、ルフィを庇ったときに失ってしまっているからである。
 それでもなお、この男は世界最強クラスの海賊なのだ。

「面白い海賊を見つけたのだが…ふと、お前が昔していた話を思い出した。ある小さな村のガキの話だ」

 ミホークは一枚の手配書をシャンクスに渡す。其処には、麦わら帽子をかぶった笑顔の男が写っていた。

「………」
「何!?まさか…!」

 手配書を見た幹部達が立ち上がる。彼らもまた、幼少時のルフィと関わりを持っているのだ。

「来たか、ルフィ」

 ニヤリとシャンクスが笑った。

「おい、みんな!飲むぞ!宴だぁ!」
「あんた今飲み過ぎで苦しんでただろうが!」
「んなもんもう治った!こんな楽しい日に飲まないでどうする!鷹の目、お前も飲んでけ!」

 陽気そうに笑いながら、シャンクスはミホークに酒を勧める。
 ミホークはそれを鬱陶しそうに払いのけ、更に話を続ける。

「…おれが持ってきた話はそれだけではない」

 更にもう一枚、手配書をシャンクスに渡す。幹部達もそれを後ろから覗き込んだ。

「おお!めっちゃ美人!」
「良い女だな」
「なかなか良い面構えだ」

 幹部達はそれぞれの感想を述べる。そして、シャンクスは―――

「…血の臭いがする。それも、とびきり濃い、な」

 女の本性を正確に見抜いた。

「その女の名はカリギュラ。お前が話していたガキの海賊団の副船長だ。そして、この傷を付けた実力者でもある」

 ミホークは右頬に残る傷跡を撫でる。

「ほお…お前に傷を負わせるとはな。どんな奴なんだ?」
「一言でいえば、人喰いの化物だ。おれは実際に見ていないが、イーストブルーの名のある海賊を2人程喰らったらしい」
「へー、食人族かな?」
「肉食系の動物が悪魔の実を食ったのかもな」
「まあ、別段驚くようなことじゃねぇな」

 この海賊団において、人喰いなどその程度のものらしい。

「さすがはルフィ。そんな奴を仲間にするとは…これは将来が楽しみだな」

 シャンクスは楽しそうに笑う。

「ああ。実際、大したものだと思う。この女、冷めているようで、意外に激情家でな。対応を誤れば、文字通り即座に喰らいついてくるような奴だ。どうやって手懐けたのかは知らんが、化物(ひと)を引き付ける才能はお前をも凌ぐかもしれんな」

 其処まで言って、ミホークは目を閉じる。

「…これは海軍にも言っていないことなのだが、おれと戦ったとき、カリギュラは万全の状態ではなかった。否、それどころか、身体はボロボロで、半分の実力も出せていなかっただろう」
「おいおい、冗談だろ?」

 腰に銃を下げた幹部の男には、世界最強の剣士に、半分以下の実力で傷を残すルーキーが居るなどという話は、冗談にしか聞こえなかった。

「事実だ。実際、あの女が万全の状態であったならば、勝負はどちらに転ぶかわからなかった」
「お前に其処まで言わせるとはな。おれも興味が出てきたなぁ~」

 シャンクスは顎を摩りながら、微笑を浮かべる。

「よかったじゃねぇか、鷹の目。片腕になっちまったおれはお前と決着をつけられないが、そのカリギュラっていう奴がお前のライバルになれそうなんだろ?」
「…可能性はある、と言うだけだ」

 そう言いながらも、ミホークの口元は笑みを作っていた。

「うお!あの鷹の目が笑った!?」
「初めて見たぞ…おい」
「…明日は空島が降ってくるな」

 何気にひどい。

「よし!じゃあ、お前にライバルが出来た祝いに乾杯しよう」
「…貴様が酒を飲みたいだけだろう…まあ、たまには付き合ってやる」

「「「ギャー!今日が世界最期の日かァァァッ!?」」」

 その後、幹部3人がミホークにボコボコにされたのは言うまでもない。



 グランドラインの海軍本部元帥の部屋。
 その一室で凄まじい怒声が鳴り響いていた。

「ルフィの奴め!わしが少し目を離した隙に海賊になどなりおって!」

 部屋には二人の男。
 怒鳴っている男は白い短髪の老人。しかし、その熊と見まごう程の巨体と鍛えられた肉体は、彼が相当な実力者であることを窺わせる。

「…兄のエースに次いで弟もか…お前のところの家族は一体どれだけ世界に害をまき散らすんだ?」

 呆れたようにため息を吐いたのはカモメが乗った帽子をかぶり、髭を三つ編みにした大男。

 先の老人は海軍の英雄、海軍中将『モンキー・D・ガープ』。名前から解るとおり、ルフィの祖父に当たる。
 もう一人の男は海軍元帥『仏のセンゴク』。海軍の頂点に立つ男だ。

「やかましいわ!わしはちゃんと最強の海兵に育つように育てたんじゃ!」
「…山賊に孫を預けといてよくそんなことが言えるな。まあ、お前の孫らしいと言えばらしいか。“麦わらのルフィ”、懸賞金3000万ベリー…初頭の手配額としては世界的にも異例だな」

 センゴクは手元の手配書を見ながら呟く。

「あ、やっぱり?さすがわしの孫じゃろ?」
「褒めて無い!」

 ガハハハハと笑うガープに頭を抱えながら、センゴクはもう一枚の手配書に目を移す。

「そして、問題はお前の孫の一味にこの女がいることだ。“人喰らいのカリギュラ”初頭手配額1億ベリー。この金額は歴史上でも片手の指で数えられる程度だ」
「センゴク…」

 真面目な顔でガープがセンゴクに顔を向ける。

「もう年なんじゃからあんまりお盛んなのもどうかと思うぞ?」
「貴様は一体何の話をしとるんだぁぁぁッ!?」

 センゴクは座っていたイスから立ち上がり、机を力いっぱい両の掌を叩きつけた。

「冗談じゃ冗談。人喰いくらいそれ程珍しいもんじゃないじゃろう。ま、あの鷹の目に傷を付けた点はちょっと気にはなるがな」

 ガープ言うとおり、食人の風習をもつ部族等はそれほど珍しくは無い。グランドラインはおろか、4海でも結構な数がいる。

「…おれが気になるのは食人そのものではない。その捕喰方法だ。報告書によれば、この女の腕が巨大な顎門に変わり、人を丸のみにしたとある」
「…何?」

 それを聞いたガープの目つきが変わる。

「この女はあの生物達と関係があるかもしれん」
「…あいつらと?」

 ガープが目を細める。

「だが、あの生物がこんな4海までどうやってきたというんじゃ?そもそもあの生物たちの中にこのような人間型の奴はいなかったはずじゃ」
「…4海まで来た経路については全くわからんが、姿かたちに関しては、悪魔の実を食べた可能性がある。動物系悪魔の実の中には“ヒトヒトの実”というものもあるしな」
「もしこの女があの生物達の仲間なら、ルフィが危ないかもしれんな」
「言っておくが、助けに行こうなどとは考えるなよ?」

 センゴクがガープを睨みつける。

「この男はすでに賞金首。世界政府の敵だ。海軍に所属するお前が助けに行くなどと言うことは、到底見過ごせん」
「…ふん。そんな気は更々ないわ」
「まあ、そういうことにしておいてやる。それに、自分で言っておいて何だが、まだ完全にこの女があの生物達の一種だと決まったわけではない。むしろ、そうでない可能性の方が高い」

 センゴクが天井を仰ぐ

「どちらにしろ、奴らは賞金首となったんだ。イーストブルーでのんびりとはしていられまい。おれの予測通りだとすれば、もうまもなくローグタウンに入る頃だろう。あそこの支部には本部のスモーカー大佐がいる。うまくすれば、そこで捕えて牢獄送りにしてくれるさ」
「ああ、あの問題児か」
「貴様がそれを言うか?」

 センゴクがジト目でガープを睨むが、彼は気にも留めない。

「ところで、もう茶うけはないんか?」
「奥の戸棚にあるから勝手に取ってこい」
「チ、客に対するマナーがなってないのう…」

 文句を言いながら棚を漁るガープ。こんなのでも海軍の英雄である。

「…お、黄金栗の羊羹みっけ!」
「あ!貴様、それはおれが楽しみにして、隠しておいたやつだぞ!?」
「知るか!食ったもん勝ちじゃわ!」
「待て!返せーーー!!」

 今ここに、海軍本部元帥の部屋で壮絶な鬼ごっこがはじまった。

 …こんなのでも、一応、海軍の英雄とトップである。





「おい、なんか島が見えるぞ?」

 私の手配書についてひと悶着あった後、いつの間にか起きていたゾロが船の前方を指差す。

「見えたか………」

 どうやら、ナミはあの島が何か解っているようだ。
 先日の会話から考えれば、答えは一つ。

「察するに、あれが『ローグタウン』か?」
「その通り。グランドラインに一番近い町よ。そして、海賊王ゴールド・ロジャーが生まれ、そして処刑された町でもあるわ」
「海賊王が死んだ町…」

 ルフィが島を見つめながら一人呟く。

「行く?」

 ナミの問いに、ルフィが何と答えたか、語るまでもあるまい。



 ローグタウンはこれまで見てきた町の中で、最大のものだった。町のゲートから続く街並みは活気に溢れ、人間の数も段違いに多い。
 …何と言うか―――

「無性に腹が減ってきたな」
「怖ぇ発言すんな!」

 相変わらず、キャプテンの突っ込みは鋭いな。

「よし、おれは海賊王が死んだ死刑台を見てくる!」
「ここは良い食材が手に入りそうだ。あと女♡」
「おれは装備集めに行くか」

 どうやら、ここからは各自自由行動になるようだ。

「おれも買いてぇもんがある」
「貸すわよ?利子3倍で」

 ふむ、ゾロの買いものとは十中八九、刀だろう。
 ゾロはミホークに愛刀を折られてから、未だに新しい刀を見つけていない。
アーロンパークではヨサクとジョニーの剣を使って戦ったと聞いた。
 …実験がてら、試してみるか。

 ―――集積情報検索。検索ワード『刀』。
 ―――検索中…該当件数34件。
 ―――該当要件から『刀』の構成、形状を抽出。
 ―――オラクル細胞加工開始………完了。

 掌が盛り上がり、1.5m程の長細い物体を形作る。それは瞬く間に蒼い鞘に収まった刀の形を形成した。

「ゾロ」
「ん?なんだ、カリギュラ」
「これをやる」

 私は、自身のオラクル細胞から作りだした刀(正確にはモドキだが)をゾロに渡す。

「これは…」
「私の細胞から作りだした刀…のようなものだ。ただ単に私の魔氷を加工したジョニーの剣よりも造りはしっかりしている。数打ちの刀よりは役に立つだろう」
「そうか、あのジョニーの剣はカリギュラが造ったんだったよな。あれでさえとんでもねぇ切れ味だったぞ?」
「そうなのか?」
「ああ、タコの魚人の剣を豆腐でも斬る見てぇに切断した。斬鉄ってのは本来剣士の秘奥の一つなんだがな…」
「剣技に関しては解らんが、確実に言えるのは、その刀は“色々な面”でジョニーの剣を上回るものだ。使いこなせるかはお前の腕次第だ」
「おれの腕次第か…」

 ゾロは刀を握り締めた。

「本来ならもう一本作ってやりたいんだが…今の私ではオラクル細胞の加工はそれが限界だ。すまんな」
「十分すぎる。残りの一本はナミから借りた10万ベリーでなんとかするさ」

 ゾロは背を向けてローグタウンの街中へ消えていった。

アーロンパークで魚人達を喰って修復率が50%を越え、本体からオラクル細胞を離しても制御できるようになった。あの刀はその試運転も兼ねて造り出したものだ。
オラクル細胞そのものを加工したものなので、ゾロに渡した刀は私自身とも言える。しかし、それでは私に何かあったときにオラクル細胞が暴走する可能性があるため、あの刀には私のコアを模写したコアを埋め込んである。つまり、あれは刀の形をしたアラガミなのである。
…色々と危ういところはあるが、ゾロなら平気だろう。…多分。

「―――?どうしたの?」
「…いや、なんでもない」

 一応、刀のオラクル細胞は私も制御できるようにしておいたし、“万が一”が起きても問題は無いだろう。

「さて、お前はどうするんだ?ナミ」
「私はショッピングよ。カリギュラもどう?」
「…いや、私は食べ歩きに行く。何か腹に入れていないと道端の人間を喰ってしまいそうだからな」
「うん!是非そうして!」

 私の両肩をガッシリと掴み、ナミは真剣な目で私を凝視した。

 …冗談だったんだけどな。



 武器屋へ向かう道すがら、ゾロは悪漢に襲われそうな少女を見掛けた。
すかさず助けようとしたゾロだったが、少女は手にした刀を素早く抜き放つと、あっという間に悪漢を退治してしまった。しかし、勢い余ってコケて眼鏡を落としてしまう。
 眼鏡はゾロの足元に落ちていたので、彼はそれを彼女に手渡した際、顔を見て息をのんだ。
整った顔立ちのショートの黒髪に同じく黒い瞳の刀使いの剣士。
 今は亡き幼馴染の少女に生き写しだったのである。

 ゾロはそのまま少女と別れると、「世の中には同じ顔を持つ人間がいるってのは本当なんだな」と考えつつ、武器屋へとたどり着く。
 武器屋の店主がゾロの白拵えの刀を名刀『和同一文字』と見抜き、だまし取ろうとしたところ、先ほどの少女が急に割り込んできて、ゾロにそれが名刀であることを説明した。
 自分の企みが失敗したことを悟った店主は、乱入してきた少女を怒鳴りつけると、投げやりに5万ベリー均一の刀が刺さった樽を指差した。
 少女も共に樽の刀を見繕っていると、一本の刀を手にして驚きの声を上げた。
 少女が手にしていたのは『三代鬼徹』。通常なら100万ベリーは下らない業物であるにも拘らず、なぜかこの樽の中にあった。
 ゾロは説明されるまでもなく、その意味を悟った。抜き放った刀身から感じる言い知れぬ不吉な気配。これは持ち主を死へと誘う妖刀であると。
 店主と少女はそれを持つのはやめろと言うが、この男、そんなことを恐れはしない。むしろ、鬼徹を気に入り、これをくれと言いだした。
 しかし、店主はお前が死んだら目覚めが悪いと売るのを渋る。ゆえに、ゾロは鞘から抜いた鬼徹を真上に放り投げ、その落下軌道上に自分の左腕を差し出した。下手をすれば、間違いなく左腕が無くなる。
店主と少女はゾロの狂気の所業に目を見開いて驚くことしかできなかった。
だが、鬼徹はゾロの左腕に傷一つ付けることは出来ずに、床に突き刺さった。
こうして、ゾロは鬼徹の呪いと自分の運、どちらが強いか見せつけたのだった。

「うっし。これで刀三本揃ったな」

 床に突き刺さった鬼徹を引き抜き、鞘に入れて腰に差す。

「オヤジ、勘定だ」
「―――!ちょっと待ってろ!」

 先ほどのゾロの運試しを目の当たりにして腰を抜かしていた店主は勢いよく立ちあがると、店の奥から一本の刀を持ってきた。

「造りは黒漆太刀拵え。刃は乱刃小丁字。良業物”雪走り”!切れ味はこのおれが保証する。これが、おれの店で最高の刀だ」
「ハハ…悪いけど金がねぇから買えねぇよ。それに、刀はもう間に合ってる」
「いや、言っちゃ悪いが、お前さん刀の腕は確かみたいだが、鑑定眼はいまいちだろう?もう一本の刀は大したことないんじゃねぇか?」

 店主はゾロの腰にある蒼い鞘を見つめる。

「おいおい。これはおれの仲間がくれた刀だ。あんま悪くいわねぇでくれ」
「へえ、お仲間が…ちょっと見せてもらっていいですか?」

 先ほどまで店主と同じように腰を抜かしていた少女も蒼い刀に興味を示したのか、立ちあがり、近寄ってきた。

「ああ、いいぜ」

 ゾロは腰につけた蒼い刀を少女に渡す。

「蒼拵えの鞘は初めて見ます。私も刀については結構勉強してますけど、こんなに綺麗な蒼い鞘は見たことがありません」

 少女は鞘から刀をゆっくりと抜いた。

「…うわぁ」
「…ほう」
「…こりゃたまげた」

 3人の目に飛び込んできたのは真っ青な刀身。まるで蒼い水を凍らせて、そのまま刀にしたように見える。
 たしぎは慎重に波紋や刃の強度等を調べていく。

「私の見立てでは良業物…いいえ、大業物に匹敵する逸品だと思います。いっぽんマツさんはどうですか?」
「おれも同意見だ。悔しいが、この刀の前じゃ、おれン家の家宝も霞んじまう。さっきのことは謝る。気を悪くさせてすまんな」
「いや、いい。おれもここまでのものとは思って無かったからな」

 ゾロは少女から刀を受け取る。

(―――それは心外だな)

「―――?なんか言ったか?」
「いや?」
「いいえ?」
「空耳か…?」

 何か声のようなものが聞こえた気がしたが、気のせいだったか、とゾロが刀を腰に挿し直して店を出ようとすると、少女が声を掛けた。

「あ、ちょっと待ってください。その刀の銘はなんて言うんですか?これだけの業物、そうそう見られませんから、憶えておきたいんです」

 少女は愛用のメモを片手にゾロに迫る。

「い、いや、これを造った奴も特に何にも言ってなかったしな。無銘なんじゃねぇか?」
「そ、そんな!こんな名刀が無銘!?いけません!しっかりと銘を決めましょう!!」

 少女の気迫にゾロは少し引く。

「そ、そうか…」

 ゾロはしばし思考する。
 この刀はカリギュラが造ったものだが、さすがの彼女も造刀技術まではもっていないだろう。
確か、先ほどこの刀は彼女自身のオラクル細胞という物から出来ていると言っていた。
つまり、この刀は彼女の分身のようなものだ。
ゾロはそこから銘を付けることにした。

「『蒼刃・氷女』。これがこの刀の銘だ」
「蒼“刃”ですか?蒼刀の方があってる気がしますけど…」
「いや、あいつが造った刀なら、“蒼刃”しかありえねぇ」

 ゾロはキッパリと断言した。

「じゃ、おれはもう行く。そろそろ仲間と待ち合わせの時間なんでね」

 ゾロは今度こそ、武器屋を後にした。

(『蒼刃・氷女』、か…なかなかに良い銘だ。気に入ったよ、主殿)

 ゾロは不思議とそんな声を聞いた気がした。



(なかなか気骨ある男だ。奴になら使われてやっても良い。安心したか?創造主)
(ああ。まあ、お前がゾロを気に入らなかったら、処分するつもりだったしな)
(…さすがは我が創造主。恐ろしいことをサラっと言うな)
(回りくどくなるよりはずっと良い。さて、お前がゾロを主と認めたのならば、私の方からの制御は取り外す。これでお前は本当の意味で一つのアラガミとなった。後は好きにしろ)
(私が言うのもなんだが、もう少し警戒するとかはしないのか?)
(それこそ無駄なことだ。別個体になったとはいえ、お前は私の分身。一度認めた者を裏切ることなどない。そのくらいは解るさ)
(…そうか。では、主殿のことは私に全て一任させて貰おう。では、また後ほど)

 ゾロに渡した私の分身―――今は『蒼刃・氷女』だったか―――との念話を切る。
 私達は元々一つの存在であったため、別個体となった今でも、念話と言う形で離れていても情報のやり取りが出来る。解りやすく言えば、個々の体内に電伝虫を内蔵しているという感じか。

 さて、心配ごとも片付いたし、本格的な食事を開始しよう。

「店主、もう一度大食いチャレンジ系統の料理を全て持ってきてくれ」
「すいません!もう勘弁してください!」

 これからというところで店の主人に土下座されてしまった。
 やれやれ、これで16件目だぞ…まだ腹一分目にも満たないというのに。
 最初に貰った10万ベリーなどとうに使い果たしてしまったしな。仕方がない、またチャレンジのある店を探すか。
 


「スモーカーさん!遅くなりました!」
「たしぎ!てめぇトロトロと何やってやがった!」

 店を出ると、若い女の声とそれを怒鳴り飛ばす男の声が聞こえた。
 声の方を見ると、刀を持った女と葉巻を二本咥えた白髪の男が目に入った。
 男の背中には巨大な十手と“正義”の文字。正義の文字は海軍将校の証である。
 そして、女の方は氷女を通して見た記憶がある。まさか海兵だったとはな。

「ちょ、ちょっと腰が抜けてて」
「抜けてんのは気合だけじゃたりねぇのか!?」
「ご、ごめんなさい…」

 どうやら、たしぎという女はスモーカーと言う男の部下らしい。

「ついて来い。もう広場でことは起きている!」
「はい!」

 広場…確か、あそこには死刑台があって、ルフィが見学に行ったはずだ。
 …やれやれ、ルフィの奴め、今度は一体何をしでかしたのやら。
 とにかく、私も急いで広場に向かうとしよう。



「あ、大佐、曹長!」

 海軍のローグタウン支部の指揮を任されているスモーカー大佐は、海賊達が問題を起こしている広場を俯瞰できる建物内に入った。

「状況は?」
「民間人が取り押さえられています。まず、今広場に居る賞金首は3人。“金棒のアルビダ”、“道化のバギー”、“麦わらのルフィ”」

 先に建物内で海賊達を監視していた海兵から報告を受ける

「ルフィ?知らねぇ名だ」
「先日手配されたばかりですが、3000万ベリーの大物です」
「3000万!そりゃ久々に骨がありそうだな」
「いえ、それが…その男、今殺されそうです」

 海兵が死刑台に固定されたルフィを指差す。

「…成程、海賊同士のいざこざか」
「す、すぐに突撃しますか?」
「バーカ、あわてんな」

 浮足立つ部下にスモーカーは待ったをかける。

「し、しかし、ぐずぐずしていては…!」
「おれがこの町から海賊どもを逃がしたことがあったか?」

 スモーカーの眼光に部下達はゴクリと息をのむ。

「い、いいえ」
「なら黙ってろ。海賊が海賊を始末してくれようってんだ。世話ねぇこった。いいか、あの“麦わら”の首が飛んだら、アルビダとバギー一味を包囲し、畳みかけろ」
「「「はッ!」」」

 部下達は敬礼を返すと、それぞれの持ち場に散っていく。
 しばしの間、ルフィとその首を刎ねようとする道化姿の男―――バギーとの間にいざこざがあった後、スモーカー達にも聞こえるほどの大音声でルフィが叫んだ。

―――「おれは海賊王になる男だ!」

 死刑台の周りに集まった群衆にざわめきが走る。

「その死刑、待て!」

 そんな中、死刑台に凄まじい勢いで向かう人影が2つ。

「―――!」
「どうした!?」
「ロロノア・ゾロです!」

 海兵の一人がゾロを確認した。

「ロロノア・ゾロがこの町に!?」

 たしぎは双眼鏡でその人物を確認する。

「賞金稼ぎか!こんな時に!」
「いえ、それが…あの“麦わら”の一味だという情報で…」
「何!?」
「―――!あの人…!」

 スモーカーが驚くと同時に、たしぎもロロノア・ゾロが先ほど武器屋で遭った男であることを理解した。

 ゾロともう一人の男―――サンジがルフィが捕えられている死刑台を破壊しようとするが、アルビダとバギーの部下に邪魔され、なかなか近付けない。
 そして、無情にもバギーの持った処刑刀がルフィの首に振り下ろされた瞬間―――

 ―――バギーの身体が真っ二つに斬り裂かれた。

 さらに追い打ちとばかりに、刀を持った上半身に落雷が落ちる。

「お、カリギュラ。お前、良く間に合ったな」
「かなりギリギリだった。しかし、殺される間際に笑うとは、お前も相当イカレてるな」
「そうか?」
「そうだ」

 落雷の光が収まり、最初にスモーカーの目に飛び込んできたのはルフィの隣に立つ背中に機械的な翼を生やした青髪長髪の女だった。そして、死刑台からかなり離れているというのに、はっきりと解る左眼の色。

「ち、血色の左眼…!ス、スモーカー大佐!カ、カリギュラです!懸賞金1億ベリー!人喰らいのカリギュラです!!」
「2等部隊は直ちに突撃!3等部隊以下は民間人を避難させろ!急げ!“人喰らい”に喰われる前に!」

 嵐の始まりを告げる豪雨が降りしきる中、3海賊団と海軍による大乱闘がここに幕を開けた。

















【コメント】
 基本的に原作と変わりの無いところはバンバン飛ばしていきます。そこを詳しく知りたい方は是非原作を読んでください。

 …何気に真面目なコメントは初めてですね。



[25529] 第11話 アラガミの宴
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/20 21:59
 なんとか間に合った。

 あの海兵たちの後をつけていくと、広場でルフィが今まさに処刑される瞬間に出くわした。
 私は即座にブーストを展開して処刑台に突っ込み、処刑刀を振り上げた男をブレードで真っ二つにした。
後数秒でも遅れていれば、ルフィの首は刎ね飛ばされていただろう。

私はルフィの枷を外し、共に地上へと飛び降りる。

「なははは。生きてる!もうけ」
「やれやれ…私が全速力で飛んでこなければ、お陀仏だったぞ?」

あと少しで首が飛んでいたというのに、この男は…

「ルフィ!カリギュラ!」
「さっすがカリギュラちゃん!頼りになるぜ!」

 野次馬や他の海賊達が呆然とする中、ルフィを助けようとこちらへ向かっていたゾロとサンジに合流する。

「ゾロ、私の造った刀はどうだ?」
「良い刀だ。軽すぎず重すぎずで手に良く馴染む。切れ味もスゲェ」
「いや、私が言っているのは―――」
(まあ、待て創造主。私にも準備と言うものがある。『同調』の準備は今終わったところだ。これから始める)

 ゾロの腰にある蒼刃・氷女が念話で私の発言を遮る。

「…まあ、いいか。お前に任せると言ったしな」
「―――?なんのことだ?」

 私の呟きに、ゾロは首をかしげた。

「すまん、なんでもない。それより、この町を早く出よう。もうひと騒動ありそうだ」

「広場を包囲!海賊どもを追いこめ!3等部隊は市民の避難を最優先!人喰いに近付けるな!」

 言っている傍から、広場の入り口方面から、海兵たちがなだれ込んできた。

「きたッ!逃げろーーー!」

 ルフィが我先にと走り出す。

「キャプテンとナミは?」
「安心しろ。先に船に向かってる」

 ならば、一安心か。

「しかし、海軍め、私は敵でない人間は喰わんと言うのに…」
「海軍に其処までわかんねぇよ。ただ、これで追手の数が減るのはありがてぇ」
「港まで一気に駆け抜けよう!おれについてきてくれカリギュラちゃん。あ、野郎どもは海軍の足止めな」
「「ふざけんな!」」

 私達は人混みをかき分け、ゴーイング・メリー号の停泊している岸へと駆け出した。



「コナクソーーーッ!あのハデゴム悪運野郎め!」

 プスプスと煙を上げながら、カリギュラに真っ二つにされた道化姿の男の上半身が起き上がる。さらに、下半身も何事もなかったかのように上半身の元へ歩いてきて、合体した。
切断面は見事にくっつき、傷跡一つ無くなる。
 これがバラバラの実の能力。この男は切っても切れないバラバラ人間なのだ。

「バギー船長!生きてたんですね!」
「生きらいでか!」

 道化姿の男―――バギーに参謀である剣士カバジが、海軍と切り結びながら声を掛ける。

「クソ!あの空を飛んできた女は一体誰だ?このおれを真っ二つにしくさりやがって!」
「“人喰らいのカリギュラ”だよ。麦わらの一味の副船長にして、懸賞金1億ベリーの超大物ルーキーさ」

 巨大な金棒を振り回す美女がバギーに答える。

「はあぁッ!?1億だと!?そんな額、グランドラインにだってそうはいねぇぞ!?」
「今はそんなことを議論してる場合じゃないよ!こいつら“本部”の海兵だ!大物が出てきたら分が悪い!」
「チ…まあいい。あの女も麦わらの野郎もこの島からは出られねェ!まさか自分達の船が灰になっているとは夢にも思ってねぇだろ!海軍なんぞ無視して、あいつらの一味を叩きつぶす!行くぞ、野郎ども!」
「「「「「オオォォーーーーーッ!!」」」」」

 バギーの号令に団員達は雄たけびで答える。

「モーター!」
「はい、船長!」

 部下の一人がバギーに向かって前輪とエンジン付きの後輪を投げる。
 バギーは前輪を両手でつかみ、両足のひざ下に後輪を入れる。最後に首を切り離して腹の上に置いた。

「これぞバラバラカー!!行くぞ!西の港!」

 はっきり言ってダサい。

「ゲレンデセット!」
「はい、アルビダ姉さん!」

 一方、アルビダは部下に滑り台のようなゲレンデを用意させた。

「摩擦ゼロ!スベスベシュプール!」

 アルビダがゲレンデを滑ると、そのままの勢いで地面を滑りだす。
 普通ならば、足と地面の間に摩擦が発生し、すぐに止まるはずであるが、スベスベの実を食べたアルビダの肌は、摩擦が0になる程のスベスベ肌となっているため、スピードを保ったまま、滑り続けることが出来る。

 アルビダ、バギー共に海軍の包囲網を突き破ろうとした、その時―――

「ホワイト・アウト!」

 真っ白な煙に絡めとられてしまった。
 バギー達だけではない。その部下も全て白煙に束縛されている。

「スモーカー大佐!」
「てめぇらの相手してる場合じゃねェんだよ。雑魚どもが」

 この白煙の発生源こそ海軍本部大佐“白猟のスモーカー”の両腕そのもの。これこそ、彼のモクモクの実の能力である。
 悪魔の実は大別して3種類ある。
 原型を保ったまま、常識では考えられない能力を得る『超人系(パラミシア)』。これはルフィやバギーが該当する。
 3つの形態と、純粋な身体能力の強化を齎す『動物系(ゾオン)』。これはカリギュラの喰べたヒトヒトの実が該当する。
 そして、自然現象そのものに変化する能力を与える『自然系(ロギア)』。
自然系の悪魔の実は3種類の中でも最強と言われる。なぜならば、他の2種類と違い、実態をなくすことが出来るからである。流動する身体を持つ自然系能力者には、斬撃や銃撃等の物理的な攻撃は一切効かない。
スモーカーはこの自然系の能力者である。

「『ビローアバイク』を出せ。“麦わら”と“人喰らい”を追う」
「ハッ!」

 スモーカーに言われて部下はすぐにビローアバイクを用意する。
 巨大な三輪がついたこのバイクは、スモーカーのモクモクの能力を動力源とする、水陸両用の専用バイクである。

「この白猟のスモーカーの名に賭けて、お前らを絶対に逃しはしない!」

 スモーカーの心中を察したように、ビローアバイクは雄たけびのような唸りをあげて、豪雨の中を急発進した。



「風がひどくなってきた」
「そうだな。これ以上強くなれば、船が出せなくなりそうだ」

 風も雨も時間が経つに連れて、ますますひどくなって行く。
 一刻も早く出航しなければならないのだが…

「待てー!海賊どもー!」

 海軍がしつこい。

「どうする?止まって戦うか?」
「やめとけ。キリがねぇ。それにナミさんが早く船に戻れっつってたんだ」
「私としては少々捕喰を行いたかったのだが…仕方ないか」
「お前は本当にさらりと怖いことを言うよな」
「折角の馳走を逃したんだ。少しくらい喰いたくもなるさ」

 ルフィを処刑しようとしていた道化師と金棒を持った女からは悪魔の実の匂いがした。
 本来なら喰っておきたかったが、なにぶん、この嵐の所為で時間に余裕がない。
 まあいい、匂いは憶えた。今度会ったら喰らうとしよう。

「ロロノア・ゾロ!」

 前方に黒いコートを着た女剣士が立ちふさがった。

「たしぎ曹長!」

 後方の海兵たちの反応から察するに、あの女は海軍の下士官か。

「あなたがロロノアで、海賊だったとは!私をからかってたんですね!許せない!」

「お前あの娘になにしたんだよ!」
「お前こそ、海兵だったのか」
「―――?」

 サンジがゾロにくってかかるが、ゾロは相手にもしない。ルフィはそもそも状況を理解できていない。
 自由行動中に、ゾロと女海兵の間に何かあったと見るべきだろうな。

「名刀“和同一文字”、回収します」

「…ゾロ、あいつは誰だ?」
「武器屋であった変な女だ。まさか海兵だったとはな。世の中の悪党から名刀を回収するのがあいつの目的なんだとよ。それより、こいつはおれが何とかする。お前達は先に行け」
「応!」
「了解した」

 ゾロは腰の和同一文字と蒼刃・氷女を抜くと、女海兵に斬りかかる。
 女海兵はそれを自身の刀で受け止めると、そのまま鍔迫り合いに入った。

「あの野郎!レディに手を出すとは―――!」
「五月蠅い黙れ」

 ガン!

「………」
「さて、先を急ぐぞ」
「カリギュラ容赦無ぇ~………」

 気絶させたサンジを担ぐと、ルフィと共に船へと駆け抜ける。



 ゾロとたしぎ、二人の斬り合いはしばらく続いていたが、ゾロがたしぎの刀をたたき落としたことによって、終焉を迎えた。

「この刀達は…渡せねぇんだよ。どうあってもな…!」

 たしぎの首のすぐ横に和同一文字を突き立てながら、ゾロは語る。

「た…たしぎ曹長が負けた…!?」

 海兵たちに動揺が走るなか、ゾロはたしぎに止めを刺すことなく、刀を鞘に納めると、その場を立ち去ろうとする。

「じゃあな。先を急ぐんだ」
「―――!何故斬らない!」

 たしぎは見逃されたという事実に激昂する。

「私が、女だからですか!?」
「―――!」

 たしぎがゾロに向けてはなった言葉は、昔、幼馴染に言われた言葉とそっくりだった。

「女が男より腕力が無いからって、真剣勝負に手を抜かれるなんて、屈辱です。“いっそ男に生まれたかった”なんて気持ち、あなたにはわからないでしょうけど…!私は遊びで刀をもっているわけじゃない!」
「………!」

 姿かたち、その言動、それらがあまりにも死んだ幼馴染と似過ぎているたしぎに、ゾロはついに我慢できなくなった。

「てめぇの存在が気にくわねぇ!」
「んな!?」
「いいか、お前のその顔、昔死んだおれの親友にそっくりなんだ!しまいにゃあいつと同じようなことばっかり言いやがって!真似すんじゃねぇよ、このパクリ女が!」

 ゾロは氷女を鞘から抜くと、“鍔迫り合いになるように”、斬りかかる。案の定、たしぎは拾った刀でそれを受け止める。

「何をそんな子供みたいな…!失礼な!私は私で私のままに生きてるんです!あなたの友達がどんな人かは知りませんけど、心外は私の方です!そっちがパクリなんじゃないですか!?」
「何だとコラァ!」

「曹長…」

 もはや緊張感も何もない。傍で見守っている海兵たちが呆れた声を出した瞬間―――

「―――!!?」

 ゾロに激痛が走った。
 海兵たちは誰一人として発砲などしていないし、たしぎも同様である。

「―――え?」

 だが、たしぎは見た。
 蒼刃・氷女の柄から、まるでゾロの右腕を侵食するかのように広がる、蒼い触手を。

「―――!」

 それを見て、即座にゾロから距離を取ったのは、剣士としての天凛のなせる業か。
 数瞬前までたしぎがいた場所を、氷女を凄まじい速度でなぎ払った。明らかに胴を真っ二つにする斬撃である。

「い、いきなり何を…!」
「「真剣勝負に手を抜くなと言ったのは貴様だろう」」

 聞こえてきた声はおかしなものだった。
 先ほどまでがなり合っていた男―――ゾロの声に混じって、聞いたこともない女の声が混じっている。
 たしぎは目の前の人物が、ゾロでない、別の存在であることを感じた。

「あなたは…誰ですか?」
「「これから死に逝く者に語ったところで無意味だ」」

 ゾロらしき者はそれだけ言うと、即座に斬りかかってきた。

「―――!速い!」

 それは明らかに人の限界を超えた速度だった。
 たしぎがそれを捌けたのは、運と先ほどまでの剣の技量が無くなっていたからだ。
 凄まじい速さを持った、素人の斬撃。たしぎはそう感じた。

「「ふむ、やはり『同調』したてでは剣の技量まではうまく再現できないか…」」

 蒼い触手が絡みつく右腕をしげしげと見つめながら、ゾロらしき者は不満をこぼす。

「「まあ、それでもこの場に居る敵生命体を全滅させるには十分か」」

 ゾロらしき者は再び刀を構える。
 ゾロが先ほどまで行っていた二刀流ではなく、身体を浸食している氷女の切っ先を地面につけ、腰を落とす。地摺り青眼の構えだ。

「たしぎ曹長!」

 その時、ゾロの変化に危機感を憶えた部下の海兵達がたしぎを守ろうと、間に入ってきた。

「ダメ!下がりなさい!」

 たしぎは軽率な部下に退避するように命令するが、もう遅い。

「「疾ィ…!」」

 ゾロらしき者の刀が振り抜かれ、部下達の上半身が宙を舞う。

「あ………!」

 信じられないことに、目の前の存在は、複数の人間の身体を、一太刀の元、苦も無く切断した。
 本来、人間の身体は脂肪や筋肉、骨などが邪魔をし、そう簡単に斬れるものではない。名刀を持った達人でも一人を斬れるかどうかと言うところだ。
 相変わらず、敵の剣筋は拙い。部下達は腕力と刀の斬れ味だけで、真っ二つにされたのだ。

「ひ、怯むなーーー!」

 仲間が斬り裂かれても逃げ出さずに戦い続けようとする意志は、さすがは海軍本部の精鋭と言ったところか。

「「死に急ぐか。それもいいだろう」」

 例え、それが無謀と呼ばれるものであったとしても。

―――「「捕喰・餓鬼」」

 氷女の刃が向かってきた海兵の一人を切り裂く。
 すると、海兵はたちまち“骨だけ”を残して崩れ落ちる。
 地面を転がる頭蓋骨が、何かの冗談のようにも見える。

「ヒィ…!」
「ば、化物だ…」

 さすがの海兵たちもこれには戦慄を禁じ得ない。
 得体のしれない者への恐怖がその場を支配しようとしたその時

「総員撤退!殿は私が引き受けます!一刻も早く支部まで撤退し、態勢を立て直しなさい!」
「た、たしぎ曹長…!しかし…!」
「行きなさい!これは上官命令です!」
「は、はい!」

 たしぎが号令を飛ばし、海兵達を恐慌から立ち直らせた。

「「誰一人として逃さん。ここで死んで行け」」
「させない!」
「「ヌッ…!」」

 たしぎは相手が何か行動をする前に、氷女に自分の刀を叩きつけ、動きを封じる。
 先ほどから敵はこの氷女しか攻撃に用いていない。氷女を自由にさせなければ、少なくとも部下達を逃がす時間くらいは稼げるとふみ、たしぎはそれに賭けた!

「「…味な真似をしてくれる」」
「やはり、あなたはこの氷女を使ってしか、攻撃が出来ないんですね。ならば、部下達が撤退するまで、何が何でも使わせません!」

 たしぎは、刀をはじき返そうとする相手の力を上手くいなし、氷女を封じ続ける。

「「…いくらなんでも同調率が悪すぎる。何故だ主殿、何故、私を受け入れない?」」
「―――?」
「「貴方は、誰にも負けない強さが欲しいのではないのか?私とならば、それを手に入れられるというのに…」」
「………」

 少しでも気を抜けば刀を弾かれ、真っ二つにされるという極限の状況の中、たしぎはゾロではない者の声を聞き、その正体を直感した。

「まさか…貴女は氷女?」
「「………!」」

 ゾロらしきものがわずかにたじろぐ。
 その動揺を見て、たしぎは自分の直感が正しいことを確信した。

「「ハァッ!」」

 だが、その瞬間に凄まじい力で刀が押し返されてしまった。
 追撃を警戒して守りに入ったたしぎだが、相手はただこちらをじっと見つめている。

「意思をもった刀…そんなものが、実在するなんて」
「「…ふん、私の正体を見破った程度で良い気になるな。他の奴らは逃してしまったが、お前だけは確実に殺す」」
「持ち主を操り、人を斬る妖刀…危険すぎる。妖刀“蒼刃・氷女”!回収します!」
「「嘗めるな…!」」

 再び始まる剣劇。
 だが、一合、二合と斬り結ぶたび、たしぎは押されて行く。
 悔しいが、自力が違う。だが、部下達が応援を連れてくるまで、この命、何としても持たせねば!

「もうすぐここに応援が来ます。私の上司を連れて!そうなれば、いくら貴女とはいえ、捕えることが出来る」
「「ならば、その前に貴様の首を刎ねるまで」」
「―――!しまった!」

 苛烈なる一撃に、ついにたしぎの刀は弾かれ、地面に突き刺さった。
 氷女はそのまま返す刀でたしぎの首を狙う!

 これは避けられない。
 たしぎは自分の死を覚悟した。

 (…すいません、スモーカーさん。私はここまでです。今まで、本当にありがとうございました)

 まるで、スローモーションのようにゆっくりと自分の首に近づいてくる氷女の刃を見つめながら、たしぎは今際の際に、迷惑ばかりかけていた上司に謝罪を述べた。



「何だ、誰かいる!」

 豪雨の中を港へと向かっている私達の前に、一人の男が立ちふさがった。

「来たな。麦わらのルフィ、人喰らいのカリギュラ」
「お前、誰だ!?」
「おれの名はスモーカー。“海軍本部”の大佐だ。お前たちを海へは行かせねェ!」

 スモーカーの両腕が煙へと変化し、ルフィに迫る。

「うわっ!何だ何だ!?」
「チィ…!」

 煙に巻かれる前にルフィを突き飛ばし、担いでいたサンジをルフィに投げる。
 だが、代わりに私がスモーカーの煙腕に捕らわれてしまった。

「カリギュラ!」
「来るな!お前はサンジを担いでそのまま船を目指せ!こいつは私が何とかする!」
「………!わかった、必ず戻ってこい!お前はおれ達とグランドラインに入るんだからな!」

 一瞬躊躇いを見せたルフィだが、気絶したサンジを庇いながら戦えるほど目の前の男は甘くは無いと悟ったのだろう。すぐに港に向かって走り出した。

「逃がすと思ってんのか?ホワイト・スネーク!」

 だが、スモーカーの煙腕がルフィを捉えようと、蛇の如く迫る。

「させん!」

 私は右腕をオヴェリスクに変化させ、ルフィを追う煙腕に『インキタトゥスの吐息』を放つ。
 『インキタトゥスの吐息』は極低温のエネルギーを竜巻状にして放つアラガミバレットであり、破壊よりも凍結に重きを置いた行動阻害弾だ。

「なに!?」

 インキタトゥスの吐息によって、スモーカーの煙腕は一瞬で凍結し、細かい氷の粒となって霧散した。
 成程、冷気による攻撃は、多少効果があるようだ。
 私は左手を原型に戻し、エネルギーを集中させ、氷炎を作り出す。
氷炎を纏った左手を胴体を拘束している煙腕に当てると、同じく煙は氷の粒子となり、戒めが解かれた。

「チ、まさか冷気を操る能力まで持っているとはな。ミホークの野郎、肝腎なことを報告して無ぇじゃねぇか。これだから海賊は信用ならねぇんだ」

 スモーカーは両腕の煙腕を破壊されたのにも関わらず、気にも留めていない。

「だが、その程度の攻撃じゃ、おれは倒せん」

 次の瞬間、氷の粒子が急速に気化し、煙に戻ると、スモーカーの両腕に収束していく。
 煙が晴れると、何事もなかったかのように、両腕を組むスモーカーの姿があった。

「…自然系悪魔の実の能力者か」
「正解だ。いかに動物系幻獣種の能力者とはいえ、お前はおれに傷一つ付けることもできねぇ。観念しな」

 …?ああ、そうか。海軍は私が人間の能力者だと勘違いしているのか。

「なに、倒せなくとも、私の仲間達が逃げ出す時間が稼げれば良い。実際、私の冷気でお前の煙はある程度封じることは出来たしな。今度は全身を氷漬けにしてやろう」
「出来るもんならやってみな」

 スモーカーが背中の巨大な十手を引き抜き、右手に握る。どうやら、ここからが本当の勝負のようだ。

「お望み通り、氷の棺で眠らせてやる」

 意識を集中させ、混合型へと変じる。
 未だ原型に変化出来ないとはいえ、変化のスピードは目に見えて上がってきている。
 今では、距離がある程度開いていれば、変化の隙を突かれることはない。
 
「青白く輝く装甲とブレードにおかしな形の銃に変形する腕、まるで兵器のような翼を模したブースター…お前の食べた実のモデルはさぞかし戦い好きなんだろうな」
「まあ、否定はしない。お喋りがお望みなら、いくらでも付き合ってやる。」
「ああ。後は支部の牢屋でたっぷりと尋問してやるよ!」

 スモーカーが十手を引っ提げ、真正面から突っ込んできた。
 私もスモーカーへと突進する。

「ホワイト・ブロー!」

 スモーカーの腕が煙へと変化し、長いリーチを伴った拳打となる。

「さて、実態を伴わないものを喰ったら、どうなるのかな」

 右腕を捕喰形態に変化させ、スモーカーの煙腕を喰いちぎる。

「な…!この化けモンが!」

 スモーカーの腕が元に戻る。
 やはり、捕食しても致命的なダメージとはならないか。
 だが、少々面白いことが出来るかもしれない。

 ―――右腕変化。タイプ『オヴェリスク』
 ―――“ロギアバレット”『スモークボム』装填。

「面白いものを見せてやろう」

 ―――発射。

「―――!」

 先ほど喰らったスモーカーの煙をバレットとして再構築し、スモーカー目掛けて撃ち出した。
 撃ち出したバレットは『スモークボム』。文字通り、爆発を起こす煙の爆弾だ。
 スモーカーに命中したスモークボムは、白煙をまき散らしながら、大規模な爆発を起こした。

「バカな!今のは間違いなくおれの…!」
「隙あり」
「しまっ…!」

 自分の能力を模写されたことに驚愕するスモーカーに、煙にまぎれて一気に接近し、氷炎を纏った手でスモーカーに触れる。

 ―――コキュートスの棺

 一瞬で、スモーカーは全身氷漬けとなった。
 これならば、煙に変じることも出来まい。

「中々に楽しかったぞ。では、私の糧となるがいい」

 右腕を捕喰形態へと変化させ、スモーカーを捕喰しようとした瞬間―――

「甘ぇんだよ!化物!」
「―――!」

 スモーカーが氷ごと一瞬で気化し、煙と化したまま、持っていた十手を私の捕喰機関に突っ込んだ。
 まさか、全身を氷漬けにしても、その能力を失わないとはな。
 さすがは、悪魔の実の最強種といったところか。

「…これは」

 何度か味わった感覚を感じる。
馬鹿な、ここは陸だぞ?

「この十手の先端には海楼石ってもんが仕込んである。詳しいことは解ってねぇが、海と同じエネルギーを発する鉱石で、悪魔の実の能力者を無力化する。これで終わりだ。“人喰らい”」
「なるほど。道理で…」

 海楼石とやらから発せられるエネルギーで、脱力感と、それを上回る力の充実を感じる。

「力が漲るわけだ」
「―――!」

 捕喰機関に突っ込まれた十手の先端をそのまま喰いちぎる。
 体内に取り込まれた海楼石の効果によって、私の身体は原型へと戻り始める。

「お前は…お前は一体何なんだ!?」
「…アラガミ。そう呼ばれていた存在だ」

 完全に原型に戻った私に、スモーカーが先ほどよりも一層深い驚愕を浮かべる。
 ふむ…海楼石の効果によって、陸上でもしばらくの間は原型を維持できそうだ。

「さあ、スモーカー。第二回戦と行こうじゃないか」
「…相手が何であろうと、おれは退かねぇ!白猟のスモーカーの名に賭けて、ここで貴様を仕留める!」

 私の原型を目の当たりにしても折れぬ闘争心。見事と言う他無い。

「フフ、お前を喰らえば、完全修復に達するかもしれないな。肉片一つ残さず、喰い尽してやろう」
「嘗めるな!化物!」

 スモーカーが全身を煙と化し、私を包みこむ。

「ホワイト・アウト!」

 蔓延していた煙が私を拘束…否、押しつぶそうと迫る。
 が、甘い。

 ―――インキタトゥスの息。

 ブースターから極低温の冷気を放出する。
 完全変形型や混成型とは、強さ、範囲共に桁違いだ。

「バ、バカな…!」

 私を包みこんでいた煙は全て氷の粒子と化した。
 そして、粒子が溶けて煙が集束したところを狙い、氷炎を纏った手で、煙を掴みとる。

「フフフ…どうやら、煙を凍らされると、一旦は集束させる必要があるようだな」
「グ…は、離しやがれ!」

 煙から人型に戻ったスモーカーが私の手の中でもがく。
 だが、それは無意味だ。
先ほどまでと違い、今の私は原型。その冷気の強さは正しく桁が違う。
全てを静止させる絶対零度。煙の粒子如きが動くことなどあり得ない。

「さあ、今度こそ、私の糧になって貰うぞ?白猟のスモーカー」
「ここまでか…!」

 スモーカーは悔しそうに目を瞑り、無念の言葉を口にする。
 潔い。苦しまぬよう、一息に喰ってやろう。

―――では



































【コメント】
 主人が望むときに斬れるのが『名刀』。
 主人が望まなくても斬れるのが『妖刀』。
 主人が望まなくても強制的に斬るのが『氷女』。

「そんな装備(氷女)で大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。大問題だ」



[25529] 第12話 いざ、偉大なる航路へ
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/03/24 09:54
 激しい豪雨と稲妻の降りしきる中、たしぎは自分の首に迫りくる蒼刃・氷女の刃を諦観の眼差しで見つめていた。
 海兵なったときから、いつの日か、このような時が来ることは覚悟していたが、あまりにもあっけなさすぎる。

 (私は、なんて弱いのだろう…)

 自分の弱さに憤りを感じつつ、自分の首が飛ぶ様を幻視した瞬間―――

「ウォォォォォォッ!!」
「…え?」

 氷女の軌道が大きくずれ、首の代わりに彼女の背後にあった建物を真っ二つにした。

「はぁ…はぁ………クソ!このじゃじゃ馬が!」

 目の前で肩で息をしているのは先ほどまで自分を殺そうとしていたロロノア・ゾロ。
 だが、先ほどまでの不気味な感じは綺麗さっぱり消えており、右腕の蒼い触手もいつの間にか無くなっていた。
 ゾロはそのまま氷女を乱暴に鞘へと押し込む。

「カリギュラの奴め、こんな妖刀も裸足で逃げ出す化物刀を何の説明も無しに渡すか、普通!?」

 ブツブツと独り言を言っているゾロを、たしぎは茫然と見つめている。

「って、そうだ!出航まで時間がねぇ!とりあえずは脱出優先だな。カリギュラには後でたっぷりと文句を言ってやる!」
「ま、待ちなさい!」
「ん?ああ、さっきは悪かったな。おれが不甲斐無ぇばっかりに、氷女に使われちまった。それは謝るが、もうお前の相手をしてやる時間が無ぇ。あばよ」

 未だ震えの止まらない身体で、ゾロを制止するも、相手は気に留めることも無く、嵐の中を走り去って行った。
 たしぎは追わない。否、追えない。
 今のゾロは自分を殺すことはないと頭では理解していても、本能が先ほどまでの狂剣士の姿に怯え切ってしまっている。

 足が、動かない。―――なんと情けない!

「…う、うわァァァァァァァッ!!」

 たしぎは泣いた。
 自分の弱さに。

 態勢を立て直した部下達が戻ってくるまで、たしぎの慟哭が止まることは無かった。



さて、どうやってスモーカーを喰らおうか?
丸のみにしようか…
一気に噛み砕いて、咀嚼しようか…
それとも、頭から少しずつ齧ろうか…

フフフ…悪魔の実の能力者、しかも最強種の自然系。
きっと最高の味に違い無い。だからこそ、喰らい方に迷うんだが…

「この!この!スモーカー大佐を離せ!バケモノ!」

「………?」
「―――!お、お前は、あの時の…!」

 足元がくすぐったかったので、視線を下に向けると、棒きれを持った年端もいかない少女が、私の足をポカポカと可愛らしく叩いていた。

「何だ、お前は?」

スモーカーを握っていない左手で、少女をつまみ上げる。

「ひ…!」

 少女は私の異形に小さく悲鳴を漏らす。

「お、お前なんか怖くないもん!ス、スモーカー大佐がすぐにやっつけてくれるもん!だから、スモーカー大佐を離せ!」

 …色々と矛盾している主張だな。

「…お前から喰らってやろうか?」

 口を開けて、少女をその上へと持ってくる。

「や、やめろカリギュラ!そいつはただの町のガキだ!お前に傷一つ付けることすらできやしない!だから、食うならおれを食え!………頼む、そいつを見逃してやってくれ!」
「お、おばえなんが、ズ、ズモーガーだいざがやっづげでぐれるもん…!」

 スモーカーは少女を庇い、少女は恐怖で涙や鼻汁で顔をグシャグシャにし、失禁しながらも、私を睨みつける。

 ………

「…興が醒めた」
「―――!」
「―――え?」

 スモーカーと少女を完全に氷漬けにすると、地面へと下ろす。
 この氷は特殊なもので、物理的な衝撃での破壊はほぼ不可能だが、自然解凍によって、すぐに溶ける。当然、中の生命体は、生きたままだ。

「はあ…私は何をやっているのだろうな」
「終焉の獣が、随分と人間らしい真似をするな」
「―――!」

 すぐ隣で声が聞こえ、目を移すと、いつの間にかフードを被った人影があった。声から判断すると、男のようだ。
 いくら私の索敵範囲が狭いとはいえ、ここまで簡単に人間の接近を許すとは…

「貴様、何者だ?」
「そう警戒するな。私はお前たちの味方…のようなものだ」

 怪しすぎる。

「まあ、言っても信じてはもらえんか。おれもお前たちの一味に縁があってな。いざとなれば手助けしてやろうと思っていたんだが…お前のような存在が居れば不要だったな。第一種接触禁忌アラガミ『カリギュラ』」
「………」

 アラガミとカリギュラの呼称については、スモーカーとの会話を盗聴していればわかることだが、第一種接触禁忌アラガミという呼称はこの世界で、誰にも言っていないはずだ。

「フフ…少しは興味を持ってもらえたかな?お前の事ならある程度は知っている。800年前に世界政府が設立されるよりも更に古代。この星に栄えていた文明を喰らいつくした断罪者。それがお前達、アラガミだ」

 ………

「アラガミは意思を持たず、ただ喰らうのみ存在だと言われているが…お前のような貴重な個体を見ることが出来て、非常に有意義だった」
「言いたいことはそれだけか?」

 男に向き直ると、両腕のブレードを展開する。

「ふむ、人間らしさを備えてはいても、凶暴性はあまり変わりがないようだな。世界はお前“達”断罪者を再び人類へと差し向けようとしている。その前に、世界に対して、我々の答えを示さねばならん。人に近しき断罪者よ。答えを示す時、また会おう」
「いや、これで最後だ」

 ブレードで男の首を狙う。
 だが―――

「突風だと!?」

 1tを軽く超える私の巨体を軽々と吹き飛ばす風が、突然吹き荒れ、バランスを崩す。
態勢を立て直した時には、男は消えており、完全に見失ってしまった。

「…逃がしたか」

 辺りを探るが、氷漬けのスモーカーと少女以外には、もう人の気配はしない。
 展開していたブレードを収納すると同時に、身体に脱力感を感じた。

「時間切れか」

 巨大な異形の体躯は、徐々に小さくなり、女性的な丸みを帯びる。
 どうやら、喰べた海楼石の効果が切れたらしい。
 海楼石の成分等の情報は記録したので、暇つぶしに研究でもしてみるか。

「あ、カリギュラ!やっと見つけたぞ!テメェには言いてぇことが山ほどあるが、今は脱出が先決だ!…って、なんで全裸なんだよ!?」

 後ろから慣れ親しんだ声が聞こえてきたので振り返ると、こちらへ走ってくるゾロが見えた。
 何故か、顔が赤いようだが………あ、原型から戻ったばかりで、外皮を構成し直すのを忘れていた。

「すまん。少し待て」

 意識を集中し、外皮をいつものスイーパーノワールの上下へと変化させた。

「これでよかろう」
「…お前、まさかその服………」
「これか?これは私の外皮を変化させたものだ。お前たちの感覚でいえば、ボディペイントと言うのが近いな」
「………!」
「―――?どうした、鼻など押さえて」
「う、うるせぇ!とっとと船に戻るぞ!それと、そのことは他の奴らには絶対話すなよ。特にエロコック!」
(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)

 訳のわからん奴だ。
 そして氷女、何故そんなに怒りの念を飛ばしてくるんだ?



 豪雨の中、ゾロと共にゴーイング・メリー号へとひた走る。
 そんな中、私の隣で走るゾロが、雷の轟音に負けない大声で私に話しかけてきた。

「おい、カリギュラ!お前が造ったこの刀、一体何なんだ!?いきなり右腕に激痛が走ったかと思えば、おれの身体を乗っ取って、勝手に海兵を惨殺し始めたぞ!?」

 ゾロは腰に差した氷女を指差す。

「言っただろう?使いこなせるかはお前次第だと。その刀は私と同じ存在。つまり、アラガミだ。氷女はお前と共に成長する生きた刀。今回、お前は氷女の意識に支配されたというところだろう」
「おれと共に成長する刀…って、ア、アラガミ!?しかもこいつ、自我があるのか!?」
(あるとも。主殿)
「こ、この声!確か、武器屋でも…!」
(そうだ。私の声は“私の細胞”を持っている主殿と隣の創造主にしか聞こえない)
「うむ、その通りだ」
「ちょっと待て、今、物凄く気になる発言があったんだが!?」
(主殿が私を握った瞬間から、私達は一つになり始めていた。私に触れた部分から、主殿の身体に私の細胞、すなわちオラクル細胞を送り込んでおいた。先ほどの“同調”で、正式に私と主殿は一蓮托生の間柄となったわけだ)
「“同調”ってのは、さっきの触手が腕に巻き付いた奴か?」
「別名“侵喰”。お前と氷女が心身ともに一体となることで、人外の力を発揮できる。初回の侵喰により、ゾロ、お前はオラクル細胞を持つ人間となった」

 今のゾロは私が元いた世界のゴッドイーター達に近い。
 違いとしては、オラクル細胞が不安定であり、神機の代わりにアラガミそのものを武器とするところ等か。

「おイィィィィッ!人を勝手に魔改造してんじゃねぇッ!」
「そう怒るな、同胞」
(これから一生、共に歩むことになるのだ。小さいことは気にするな、同胞)
「黙れッ!」

 50点。キャプテンと比べて突っ込みにキレがない。

「ったく………そうだ、一番肝心なことを忘れてた。氷女、お前この先もさっきみたいにおれを乗っ取るのか?」
(…基本的にはしない。だが、先ほどのように、まだ戦闘を行える状態の敵を前にして、緊張感のかけらもなく、じゃれあうようなことがあれば、話は別だ)
「ゾロ、お前…」

 敵と慣れ合うなど言語道断。
 私はジト目でゾロを見つめた。

「ち、違ぇよ!あいつがおれの死んだ親友に生き写しだったもんだから、どうしても斬る気になれなかっただけだ!」
(…………)

 …?氷女から、何かこう、ドロっとしたものを感じる。

「例え、親友に生き写しでも、所詮は他人。躊躇う必要など、どこにもないだろう」
「おれはお前みたいに割り切れねぇんだよ」

 私には理解できんな。

「それは置いておくとしてだ。問題は、おれが氷女に乗っ取られちまったってことだ」

 ゾロはバツが悪そうに顔を顰める。

「氷女の意識乗っ取り…“侵喰”だったか。出来ないようにできねぇか?」
(―――!)
「…可能ではある。だが、氷女とお前の同調率が著しく下がる。氷女の斬れ味や強度も普通の刀と変わらなくなるぞ?」
(おい、創造主!主殿のことは私に一任する約束ではなかったのか!?)
「ゾロに関してはな。これはお前自身に関することだ。私としてはこのままでもいいんだが…」

 ゾロに視線を移す。
 この男の事だ。十中八九、ストイックな理由だろう。

「氷女、お前は刀で、おれは剣士だ。剣士が武器に使われることがあっちゃいけねぇ。お前の“侵喰”に耐えられる強さを手に入れるまで、少し待っていてくれ。頼む」

 走りながらも、ゾロは氷女に頭を下げる。

(………はあ、解った。だが、今回のように敵と慣れ合うことなどしないと誓え。それが最低条件だ)
「応。今後一切、さっきみたいな締まりの無ぇ戦いはしない」
(いいだろう。その言葉、信じるぞ)

 ゾロの言葉に、氷女も納得したようだ。

(創造主、船に戻ったらリミッターの設置を頼む)
「了解した」

 これだけ解り合えていれば、リミッターなど必要ない気もするがな。

(………いや、きっと、リミッターを掛けなければ、私は強制的に主殿を“侵喰”してしまうよ。きっと、な)

 氷女が私だけに念話を送ってきた。
 ふむ、何故だかわからないが、確信があるようだな。まあ、これは氷女とゾロの問題。部外者の余計な詮索は不要だな。

「おーい!ゾロー!カリギュラー!」

 豪雨と雷に混じって、私達を呼ぶ声が聞こえてきた。

「見えた!メリー号だ!」
「急ぐぞ、ゾロ」

 私達は、船に向かって、ラストスパートを掛けた。





「…ぶはッ!」
「ス、スモーカー大佐!よかった、気が付いたんですね」

 先ほどの戦闘で氷漬けにされたスモーカーと少女は、後からやってきた海兵たちに回収され、海軍支部へと運びこまれていた。
 鈍器で殴ろうが、剣で斬りつけようがびくともしない氷塊に、途方に暮れていると、次第に氷塊が融け出し、スモーカーと少女はびしょ濡れになりながら、床に倒れたのだ。

「―――!おい、おれと一緒に凍らされていたガキは無事か!?」
「は、はい!スモーカー大佐より一足先に意識を取り戻しましたので、今は病院に運び込んでいます」
「そうか…」

 少女の無事を知り、ひとまず安堵のため息を漏らす。

「………!」

 次に襲い来るは不甲斐ない自分への怒り。
 相手は3000万と1億とは言え、所詮は超人系と動物系。
 自然系の自分に勝てるわけがないと、油断した結果がこれだ。
 正直、少女が来なければ、自分は今頃、カリギュラの腹の中だっただろう。

「報告!―――あ、スモーカー大佐!ご無事だったんですね!」

 自分に腹を立てていると、部屋のドアが開き、数名の部下が部屋に入ってきた。

「報告!」
「は、はい!失礼いたしました!申し訳ありません!突然の突風で捕えたバギー一味を逃してしまいま―――」

 しかし、スモーカーは部下の報告を最後まで聞かず、立ちあがって部屋の外に歩き出す。

「“人喰らい”と“麦わら”を追うぞ。船を出せ」
「え!?追うって…!」
「グランドラインへ入る」
「ええ!?」

 部下達が驚きの声を上げる。

「行きましょう…私も、行きます…!」

 スモーカーが運び込まれてからずっと壁際で座っていた女海兵が立ちあがる。

「たしぎ曹長まで!」
「私はロロノア・ゾロを許さない!そして、奴が持つ妖刀“蒼刃・氷女”を破壊する!両方とも、私が、この手で必ず仕留めてやる!」

 たしぎの瞳に、先ほどまでの怯えは無い。
 あるのは自分を嘗めてトドメを刺さなかったゾロへの怒りと、氷女への復讐心のみ。

「ですが大佐!この町は大佐の管轄で…!上官が何と言うか…」

 海軍と言う組織に所属している以上、自分勝手な行動は許されない。
 その部下の進言は真に正しいことだったが…

「『おれに指図するな』と、そう言っとけ!」

 この不良海兵に、そんな常識は通じない。



「うっひゃー!船がひっくり返りそうだ!」

 嵐によって大荒れの海をゴーイング・メリー号が行く。
 これは、ナミの正確な航海術があってこそだ。

「あの光を見て」
「あれは…島の灯台か」

 島の灯台から、一直線に灯りが伸びている。

「あれが“導きの灯”。あの光の先にグランドラインの入り口がある」

 土砂降りの雨の中、甲板に集った仲間達に向けて、ナミが灯台の灯について説明した。

「どうする?」

 ナミが悪戯っぽく笑う。

「し、しかし、お前、こんな嵐の中を…なあ?カリギュラ」
「ルフィ、グランドラインに船を浮かべる進水式に使う酒樽はこの辺りで良いか?」
「入る気マンマンだったーーーーー!」

 全員が酒樽を囲んで円を作る。

「おれはオールブルー見つけるために」
「おれは海賊王!」
「おれぁ大剣豪に」
(ならば、私は主殿を大剣豪にするために)
「私は世界地図を描くため!」
「お…お…おれは勇敢なる海の戦士になるためだ!」

 5人と1本が、酒樽の蓋に足(と鞘)を乗せる。

「ほら、カリギュラも」
「ああ…」

 私がグランドラインに入る目的か。

 ………フ、考えるまでもなかったな。

「私は、仲間達が夢を叶えることを助け、それを邪魔しようとするモノ、その全てを喰い砕く完全なアラガミとなるために!」

「「「(「「「いくぞ!グランドライン!!!!!」」」)」」」

 酒樽の蓋が割れた音が、この嵐の中でも、はっきりと響き渡った。










【コメント】
 どうも、Rayです。
 今回で『イーストブルー編』完結です。
 
 最初、書き始めたころはここまで書けるとは思っていませんでした。
 これもひとえに、ご感想をくれた皆さまのおかげです。
 これからも、暇を見つけて、頑張って面白い話を書いていこうと思っていますので、どうか、お付き合いのほどをよろしくお願いいたします。












P.S.
 カリギュラさんのエロさについては、あのゾロが鼻血を出したということから、察してください。



[25529] 第13話 リヴァース・マウンテン
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/04/07 12:51
 未だ嵐が続く中、私はゴーイング・メリー号の船室で、氷女に触手型の器官を接続して、リミッターを掛けていた。

「………よし、終わったぞ」

 触手を引っ込めると、氷女を壁に背を預けていたゾロに投げる。

「応、ありがとな」
「リミッターについて説明しておく。氷女に施したのはお前への侵喰を阻害するものだ。これにより、氷女とお前の同調率に影響が生じ、刀身の切れ味や強度が低下する。氷女は折れても“捕喰”を行うことによって、再生するが、無茶はするな。氷女にだって、意思はあるんだからな」
「“捕喰”?」
「文字通り、私が行っている喰らうという行為の事だ。氷女の場合は、その刀身を獲物に触れさせれば、勝手に捕食してくれる」
「なるほど、ローグタウンで海兵が骨になったのはそういうわけか」
(うむ。私は人間の肉が好みだ)
「…言っとくが、無暗やたらに斬るつもりは無ぇからな」
(特に問題は無い。通常時であれば、主殿の肉を少しずつ喰らっていれば事足りる。ああ、一応言っておくが、それで主殿に害は無いぞ?)
「つくづく化物刀だな」
(主殿も同類さ)

 うむ、仲が良さそうで、結構だ。

「リミッターの解除は、ゾロ、お前が出来るようにしておいた。お前自身が氷女の侵喰に耐えられると思ったら、いつでも外せる。やり方は簡単だ。ただ、『解放』と思えばいい」
「氷女を解放したとき、氷女を食うか、それとも氷女に喰われるか…全部おれ次第って訳か。上等…!」

 ゾロは氷女を握り締めると、ニヤリと笑った。

「全員キッチンに集合して!」

 部屋の外から、今まで航路を見ていたナミの声が聞こえた。

「行こう」
「ああ」

 私とゾロはキッチンへと向かった。



「グランドラインの入り口は、山よ」
「山!?」

 キャプテンが首をかしげる。

「そう。海図を見てまさかとは思ったんだけど…これ見て」

 ナミがテーブルの上に海図を広げる。

「“導きの灯”が差してたのは間違いなく、ここの“赤い土の大陸(レッドライン)”にあるリヴァース・マウンテン」
「何だ、山にぶつかれってのか?」
「違うわよ。ここに運河があるでしょ?」

 ナミが指示した場所には、確かに運河が描かれていた。

「運河!?馬鹿言え。運河があろうが無かろうが、船が山を登れるわきゃねぇだろ!?」
「いや待て、キャプテン。確かリヴァース・マウンテンの運河は…」

 金ぴか鎧とアーロンから手に入れた記憶を探る。
 ………クソ、中々出てこないな。
捕喰で得た知識は、辞書の様なものなので、すぐに出てこないのが難点だな。

「―――?」
「…すまん。思い出すのに時間が掛かっている」
「まあ、ともかく、ナミさんの言うことに間違いはねぇよ」
「エロコックの寝言は置いとくとして、そりゃバギーから奪った海図だろ?当てになんのかよ?」
「バギー?」

 初めて聞く名前だな。

「んあ?…そういや、カリギュラはあんとき居なかったか。お前と会う前に、おれとゾロとナミの3人でぶっ飛ばした奴だ。ほら、さっきの町でおれを死刑にしようとして、カリギュラが真っ二つにした奴」
「ああ、あの道化姿の男か。まあ、死人の事などどうでもいいな」
「いや、あいつはバラバラの実っていう悪魔の実の能力者で、切っても切れないバラバラ人間なんだ。多分、まだ生きてると思うぞ?」
「ほう…」

 次に会ったら確実に喰い殺すとしよう。

「でも山登んのかー!船で!おもろー!不思議山だな!」

 ワクワクしているルフィに対し、ゾロが冷静に意見を述べる。

「大体、何で態々“入口”へ向かう必要があるんだ?南へ下れば、どこからでも入れるんじゃねぇか?」
「それは違うぞお前!」
「そう、ちゃんと訳があんのよ」

 ルフィとナミはそれに反論する。

「入口から入った方が気持ちいいだろうが!」
「違う!」

 まあ、ルフィはそんなことだろうとは思った。

「おい!あれっ!?嵐が突然止んだぞ!?」
「馬鹿な。さっきまで大嵐だったんだぞ?」

 半信半疑でキャプテンの後ろから、扉の窓をのぞくと、其処には雲ひとつない青空と、静かな海が広がっていた。

「―――!ナミ!船が“凪の帯(カームベルト)”に入った!」
「ウソッ!?」

 ナミは慌てて外へと飛び出す。
 私達もそれに続いた。
 外には雲ひとつない晴天が広がっている。

「お、向こうはまだ嵐だ。こっちは風も無ぇのにな」
(おお、何と不可思議な)

 珍しいものを見たと言った感じのゾロと氷女。

「…あまり暢気な事を言ってる場合ではないぞ」
「カリギュラの言うとおり!速く帆を畳んで船を漕いで、嵐の軌道に戻すの!」
「ハイ!ナミさん!」
「なに慌ててんだよ。漕ぐって、これ帆船だぞ?」
「なんで態々嵐の中に?」

 サンジは素直に言うことを聞いたが、ルフィとキャプテンは反論する。
 まあ、普通はそうだがな。

「いいから言うこと聞け!」
「折角晴れてんだ。もう少しゆっくりしてこうぜ」
「…ゾロ、この海の名前はカームベルト。グランドラインを挟みこむ海域だ。先ほどお前は南へ下ってグランドラインへ入れば良いと言ったな?この海域こそが、入口からしかグランドラインに入れない理由だ」
「―――?」
「一つ目の理由。この海域には、名前の通り風が無い。よって、帆船は役立たずだ。そして、最大の理由が―――」

 その時、船に大きな揺れが走った。

「な、なんだ!?地震か!?」
「バカ!ここは海だぞ!?」

 次の瞬間、船が上空へと押し上げられた。
 眼下には船と比べるのも馬鹿らしくなるくらい大きな海王類。
 簡潔に言うと、ゴーイング・メリー号は、現在、大型の海王類の鼻の上に乗っている。

「大型の海王類の住処なんだ。ここは」
「「「「………!」」」」
「ああ…私死んだかも…」
(おお、喰いでがありそうだぞ、主殿!早速斬ろう!)
「アホ!あんなん相手出来るか!」

 氷女にゾロがツッコミを入れた。
 …あいつ、私の話を聞いていなかったのか?

(大丈夫!ちゃんと残さず喰べるから!)
「問題はそこじゃ無ぇッ!」
「お、おい…ゾロの奴、一人で何かブツブツ言ってるぞ…」
「ゾロでもやっぱりこの状況じゃおかしくなるわよね…」
「あのマリモ頭、ついにおかしくなったか?」
「ゾロ、変なもんでも拾い食いしたか?」

 言いたい放題だな、お前ら。
 私はゾロに近づき、そっと耳打ちする。

(ゾロ、氷女の声は私とお前以外は聞こえない。あまり人前で氷女と会話すると、今みたいに生温かい目で見られることになる。気をつけろ)
(―――!そうだった。つい声が出ちまった…)

 うむ、やはりゾロもツッコミの業を背負っているな。

(安心しろ。ここは私がフォローする)
(すまねぇ)

 私はみんなに向き直り、ゾロをフォローする。
 こういうときは、手短に、解りやすく言うのが良いと本に書いてあったな。

「安心しろみんな。ゾロのさっきの行為は、私(の造ったアラガミ刀)と一つになったことが原因だ」

「「「「「―――!!!」」」」」

 え、何その反応。

「くたばれクソマリモォォォォォォッ!」

 そして、次の瞬間には、サンジがゾロに襲いかかっていた。
 …あれ?

「説明ハショリ過ぎだバカ野郎ォォォッ!」

 サンジの蹴りをゾロが刀で捌きつつ、私に罵声を浴びせる。

「…まあ、それについては後で詳しく聞くとして、カリギュラ、まずはサンジ君を黙らせて」
「了解した」

 ガン!

「………」
「何かこの流れ最近もあったよな」
「このまま様式美として定着したりしてな」

「黙らせたぞ。しかしナミ、先ほどまではかなり取り乱していたのに、今は随分と冷静だな」
「その混乱を上回る衝撃を受けたからね。冷静にもなるわよ。みんな、私達が乗ってる海王類が海に帰ったら、全力でオールを漕いで、嵐に戻るわよ!」
「「「応!」」」
「了解した」

 全員がオールを手に持ち、海王類が海に帰る瞬間を待つが…

「イキシッ!」

 海王類がくしゃみをした。
 その衝撃により、船は宙へと投げ出され、自由落下を開始した。

「「「「「何ィィィィィィッ!?」」」」」

 さらに、キャプテンが船から投げ出され、それに巨大なカエル型の海王類が食らい付こうと迫る。

「キャプテン!」
「ウソップ!」

 ルフィが手を伸ばしてキャプテンを掴むが、引き戻しより、カエルが食らいつく方が速い。
私が飛んで助けに行きたいが、気絶しているサンジもこのまま放っておけば同じことになるので、回収しなければならない。

「ゾロ!氷女をカエルに向かって投げろ!」
「おい、そんなことしたら―――!」
(大丈夫だ。既に主殿と私は一心同体。海の中だろうが、空の彼方だろうが、必ず主殿の元へ戻って来る!)
「…わかった!よし、行け!氷女!」
(承知した!)

 ゾロはカエルに向かって氷女を全力で投擲した。

「ゲゴッ!?」

 氷女は見事にカエルの眉間に突き刺さり、更に肉を喰らう。
 カエルは見る見るやせ細っていき、1秒も経たない内に骨だけになった。

「「「何ィィィィィィッ!?」」」

 本日2回目の「何ィィィィィィッ!?」頂きました。



 キャプテンを無事救出した直後、船は海面に着水した。
 身体を打つ豪雨に稲光の音。どうやら、元の海域に戻ってきたようだ。
 更に、海面から何かが飛び出て、ゾロの真正面の甲板に突き刺さる。

「うおッ!」
(ただいま。主殿)
「氷女、よくやってくれた。」
(…ああ)
「頼りになる相棒だぜ。全く」
(だろう!さあ、もっと褒めろ!主殿!)

 …なんだ、この差は。
 と言うより、私は氷女をこんな性格設定で造った憶えが無いんだが…
 うーむ…やはり新たなアラガミの個体を造ると言う行為にはまだまだ謎が多いな。

「…よかった。ただの大嵐に戻った。これでわかった?グランドラインに入口から入る理由」
「ああ…」

 その理由を身を持って知ったゾロが短く答える。

「う…痛てて…ん?嵐の中に戻ったのか…?あ!クソマリモ!テメェカリギュラちゃんとナニしてやがったんだコルァッ!」

 意識を取り戻したサンジがゾロにまたしても襲いかかろうとしたので、サンジの頭を鷲掴みにして止める。

「アダダダダッ!カ、カリギュラちゃん!つ、潰れる!頭がトマトみたいに潰れる!」
「良い機会だ。みんな、先ほどのゾロの奇行の理由について、説明しておく」
「無視しないで!カリギュラちゃん!ほ、本当に中身が出ちゃう!」

 サンジの悲鳴はとりあえず無視し、皆に私が造ったアラガミ刀、氷女について説明をした。
 なお、氷女の説明が終わるまで、サンジの頭から手を離さなかった事を、ここに記しておく。

「ズりぃぞ、ゾロ!おれもカリギュラにカッコイイ武器造ってもらいたい!ビームが出るのとか!」
「バカ野郎!カリギュラの造った武器は持ち主を支配するとかとんでもねぇことするんだぞ!?ただでさえお前は暗示系統のもんに弱いんだ。我慢しろ!」
「そうだぞルフィ。氷女を使いこなすには強靭な精神力が必要なんだよ。ま、おれならゾロみたいに乗っ取られることなんて無かったと思うがな」

 次の瞬間、氷女が鞘から勝手に抜けると、凄まじい速度で、キャプテン目掛けて飛んできた。
 そのままだと頭に直撃して脳漿をブチまけてしまうので、ブレードで叩き落とす。

「………!」

 目の前の甲板に突き刺さった氷女を見て、キャプテンは声にならない悲鳴を上げた

(嘗めた口を利くな。腰ぬけ)
「と、氷女はご立腹だ」
「すいませんでした!ホント調子乗ってすいませんでした!」

 刀に向かって土下座するキャプテン。
 …シュールだな。

「ちょ、勝手に動いたわよ、あの刀!?」
「スゲーーーッ!やっぱ欲しーーーッ!」
「そりゃ動くだろ。氷女には意思があるんだ。ただ、ここまで動けるとは思って無かったけどな」
「危なすぎるでしょ!?カリギュラ、ちゃんと言い聞かせてよ!」
「ふむ、確かに仲間を傷つけるのは問題だな。氷女、今後は一味の仲間達に手を出すな」
(断る)
「駄目だった」
「「何とかしろ!」」

 ナミとキャプテンが必死の形相で詰め寄ってきた。
 だが、氷女は頑固だ。私からこれ以上何か言っても無駄だろう。

 ………ふむ。

「氷女、お前、ゾロの仲間を殺す気か?」
(………)

 お、反応が変わったな。もう一押し。

「ゾロ、お前からも言ってくれ」
「ん、おれが?…氷女、こいつらはおれの仲間なんだ。多少、お前の癇に障る事を言っても、我慢してやってくれ」
(………………主殿がそこまで言うなら)

 やはり、氷女は私よりも、ゾロを上位者として見ているようだな。
 まあ、氷女はゾロの武器でもあるし、好ましい事ではある。

「みんな、氷女が多少の失言なら許すと言ってくれたぞ」
「よ、よかった…うっかり口を滑らせたら首が飛ぶなんて生活は送らなくてよさそうね」
「怖い…氷女怖い…」
「う~ん…それはそれでスリルがあって楽しかったかもな」
「「楽しいわけねぇだろ!」」

 キャプテンとナミのダブルツッコミによって、ルフィは甲板に沈んだ。
 ツッコミの瞬間、二人が手に何かを纏っているように見えたが…気のせいか。

「………」

 何気なく視線を移すと、一人で何やら考え事をしているサンジを見つけた。
 そういえば、さっきから会話に加わっていないな。

「どうしたサンジ、さっきから静かじゃないか」

 サンジに近づくが、まるで気付かない。
 さらに近付くと、何やらブツブツ言っているのが聞こえてきた。

「氷女って名前からするとレディ…いや、でも刀だしな。しかし、おれのセンサーは最高レベルの美少女を検知している。ここは今後のためにも、紳士的な対応を…」
「はあ…」

 相変わらずなサンジに、思わずため息をついた。



「…わかった!」

 不意に、ナミが声を上げた。

「?何がだ?」
「やっぱり山を登るんだわ」
「お前まだそんなこと言ってんのか?」

 ゾロが呆れた表情を浮かべる。

「ちゃんと根拠もあるわ。海流よ。四つの海の大きな海流が全てあの山に向かっているとしたら、四つの海流は山を駆け登って頂上でぶつかり、グランドラインへ流れ出る。この船はもう海流に乗っちゃってるから、後は舵次第」
「おい、ちょっと待て。山を駆け登る程の海流と言ったな。運河の周りはレッドラインの壁だ。もし、舵を誤ったら…」
「ええ、木っ端みじん。しかも、リヴァース・マウンテンは冬島だから、海流は表層から深層へと潜る。ぶつかったら、そのまま海底に引きずり込まれるわ」
「…面白い」
「応!不思議山面白いな!」
「カリギュラはともかく、ルフィは全く解ってないでしょ」
「ナミさんすげーぜ!」

 ナミを称賛するサンジに、ゾロが話しかける。

「聞いたことねぇよ。船で山越えなんて」
「おれは少しあるぞ」
「不思議山のことか?」
「いや、グランドラインってのぁ…入る前に半分死ぬと聞いた。簡単には入れねェってこったな」
「不思議山が見えたぞ!」

 ゾロとサンジの会話を遮るように、ルフィが叫んだ。

「待て、その後ろの影は何だ!?バカデケェ!」
「…“赤い土の大陸”」

 目の前に聳え立つは雲を越える程の大絶壁。
 これが、世界を四つに分ける壁か。

「吸い込まれるぞ!舵しっかり取れ!」
「了解した」

 私は操舵室へ向かうと、舵をしっかりと握る。

「すごい…」
「嘘みてぇだ…」
(おお!凄い凄い!)

 扉を開け放った操舵室からも良く見える。
 海が山を登っている光景が。
 金ぴか鎧の記憶にも確かにこの光景がある。
 やれやれ、今になって思い出すとは…使えないな、金ぴか。

「運河の入り口だぁ!カリギュラ、船がちょっとズレてる!右だ右!」
「了解した」

 私は力を込めて面舵をき―――

 バキ!

「「(「「「―――!!!」」」)」」

 …力入れ過ぎた。

(くたばれアホ創造主!)

 氷女のツッコミが心に痛い。

「ぶつかるーーーーッ!!」

 舵をきれなかったため、船はリヴァース・マウンテンの海路の端にある柱に直撃するコースになってしまった。

「ゴムゴムの…風船!」

 ルフィが麦わら帽子をゾロへ投げ渡すと、一目散に船の外へ飛び出し、柱と船の間で風船のように膨らむ。
 だが、それでも船を海路に戻すにはまだ少し足りない。

「今度は折れてくれるなよ?」

 私は残った舵を掴むと、細心の注意を払って、面舵をきる。
 すると、船の進路が徐々にズレ、ゴーイング・メリー号は傷一つつくこと無く、リヴァース・マウンテンの海路に乗ることが出来た。

「掴まれ!ルフィ!」
「ぬ!」

 最後に、海上に取り残されたルフィが手を伸ばし、それをゾロがしっかりと握って、船へと引き戻した。

(………)

 何故か氷女が不機嫌になった。

 まあ、それはともかくとして―――

「「「「「「入ったーーーーッ!」」」」」」

 メリー号は凄まじい速度で、山を駆け登る。
 そして、ナミの予測通り、頂上で他の海流とぶつかり、グランドラインへと流れ出る。

「あとは下るだけだ!」

 ルフィが自分の特等席である船首へとよじ登る。

「海路の終わりが見えたぞ。あれが…」
「グランドラインだーーーーッ!」

 ついに、私達は世界で最も偉大な航路へと入ったのだった。















【コメント】
 次回、『捕鯨編』へと入ります。



[25529] 第14話 愚者の所業
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/04/09 20:58
ドゴォン!

「………」

ドゴォン!

「エラー発生!研究■■■施された強制封■■損傷発生!」

ドゴォン!

「強■■印、更に損傷!維■不可能!“サ■■■”解凍―――」

「GuOOOOOOOOOOOOOOO!!」





ゴーイング・メリー号は、リヴァース・マウンテンの運河を勢い良く下る。
 時折、頬に当たる水しぶきが心地よい。

―――ブオォォォォ!!

「―――!」

 私の耳が奇妙な音を捕えた。
 だが、水しぶきで視界が悪く、その根源を目視することが出来ない。

「おい何だ?何か聞こえたか?」
「知るかーーーッ!行けーーーッ!」
「風の音じゃない?変わった地形が多いのよ。きっと」

 ゾロ達はあまり気にとめていないようだが…

「おい…なんだ、ありゃ」
「ナミさん!前方に山が見える!」
「山?そんなはず無いわよ。この先の“双子岬”を越えたら海だらけよ?」

―――ブオォォォォ!!

 なおも響き続ける奇妙な音。
やはりこれは…

「生物の鳴き声だ」
「え?」

 私の呟きにナミが反応したと同時に、ルフィが叫んだ。

「山じゃねぇ!クジラだ!」

 水しぶきが晴れた先にいたのは小島と見紛うほどの巨大なクジラだった。
 クジラは海面から垂直に傷に塗れた顔を出し、リヴァース・マウンテンに向かって吠えている。
 問題は、このクジラが私達の進路をふさいでいるということ。
 このままでは船はクジラに激突し、大破してしまう。

「何にしろ、この大きさでは壁と変わらん。ぶつかれば、ただではすまんぞ」
「どうするの!?」
「やるべきことは一つ」
(うむ、一つだ)

 私と氷女は一呼吸置く。

「(捕鯨だァァァッ!)」
「「「「ええぇぇぇぇッ!」」」」
「やめろアホども!お前らが食い終わる前に船が激突するわ!」
(…む、確かに、いかに私と言えども、あの大きさでは一瞬で骨にすることは出来ないな)
「よしんば、喰えたとしても、骨が残る。それにぶつかっても駄目か…今の私では氷女ほどの捕喰速度は出せんしな。すまん、ゾロ。考え無し過ぎた」

 ゾロのツッコミで我に帰る。
 いかんな、あまりにも巨大で美味そうな獲物を前にして、少々理性が飛んだ。

「…お前ら、ホント食うことしか考えて無ぇよな」
「そう褒めるな」
「「「「褒めて無ぇッ!」」」」
「健啖家なカリギュラちゃんも素敵だ!」
(…私は主殿のこともちゃんと考えてるぞ)

 氷女がちょっといじけた。

 全員から突っ込みを受けた後、気を取り直して、どこか抜けられる場所は無いかと視線を動かすと、クジラの左側に通れそうな隙間があった。

「ふむ、左側から抜けられそうだな。とり舵を取って来る」
「おれも手伝うぞ!」
「男として、カリギュラちゃんだけに任せられるか!」
「い、一応おれも手伝うぞ!」

 ゾロ達と共に操舵室へ向かう。

「そうだ!良いこと思いついた!」
「何すんのルフィ!?」

 ルフィは私達とは来ず、船室に走りこんでいった。

「とり舵!とり舵ぃぃぃッ!」

 折れた舵をゾロ達と共に操作しようとするが、舵はびくともしない。
 …少し強く行くか。

「ふん!」

 私は舵を握っている手を原型に戻し、更に強い力を込めた。

 グシャ!

「………あ」
「「「………………!!」」」

 残った舵の柄を握り潰してしまった。

「…テヘ♡」
「「お前、もう二度と舵を握るな!」」
「カリギュラちゃん、キュートだぜ!」

 サンジ以外に怒られてしまった。

「お、おい!どうすんだ!?今度こそ舵の柄が全部無くなっちまったぞ!?」

 キャプテンの言うとおり、もはや舵は握るべき柄も無くなってしまった。
 当然、メリー号はクジラに直撃のコースを走っている。

「仕方がない。ここは私のアラガミバレットでクジラに風穴を開けよう。其処を通過する。多少船が損傷するかもしれんが、正面衝突するよりはマシなはずだ」
(主殿!ゴハンゴハン!)

 次の手段として、私と氷女でクジラを排除することを提案する。

「…それしかねぇか。よし、早速甲板へ出るぞ」

 ゾロと共に甲板へ出ようとしたその時―――

ドォン!

 メリー号の船首下部にある大砲が発射された。

「「「「大砲………!」」」」
「…ルフィか」

 あの男の行動は本当に予測が付かないな。
 砲撃の反動により、メリー号はある程度減速したが、結局はクジラにぶつかり、羊を模した船首がその衝撃でへし折れた。

「「「「「「………」」」」」」

 その場を沈黙が支配する。
 しかし、しばらくの時間が経っても、クジラは一向に動く気配を見せない。

「に…逃げろォッ!今の内だ!」
「何だ一体、どうなったんだ!?砲撃に気付いてねぇのか!?」
「知るか!とにかく今の内だ!」
「了解した」

 砲撃に全く気が付いていないクジラから、オールを使って船を漕ぎ、隙間から脱出を試みる。

―――ブオォォォォ!

「ぐお!耳が痛ぇ!」

 船を漕ぎ出すと同時に、クジラが再び吠え始めた。

「漕げ!とにかく漕げ!こいつから離れるんだ!」
(主殿!ゴハンゴハンゴハン!ゴーハーンー!)
「バカ野郎!さっきの砲撃で、クジラの奴がいつ暴れ始めるかわから無ぇんだ!諦めろ!」
(うう………)

 氷女は残念そうだ。
 …私もちょっと残念だ。クジラの刺身、喰いたかったな…

「―――ルフィ?」

 私と、ルフィを除く男衆で船を漕いでいると、ルフィが甲板へやってきた。
 ルフィは無言のまま、折れた船首の前まで歩く。
ちらりと見えた表情には、はっきりと怒りが浮かんでいる。
 ………

「お前、一体、おれの特等席に…」

 まあ、この男ならやるとは思った。

「何してくれてんだァッ!!」

 ルフィは怒り咆哮と共に、ゴムゴムの銃でクジラの目を殴打した。

「「「アホーーーーーーーーーーーッ!」」」
「………(クラ…)」
(…色んな意味で馬鹿な男だな)
「そこが面白い」
(…フン)

 氷女がルフィの行動に呆れたのと同時に、クジラの目がギョロリとメリー号を捕えた。

「こっち見たーーーッ!」

 クジラがこちらを認識したことに、皆は悲鳴を上げる。

「かかって来い!コノヤロォッ!」
「「テメェもう黙れ!」」

 クジラと戦う気満々だったルフィを、ゾロとキャプテンがダブルツッコミキックで甲板に沈める。
 ツッコミの業を背負った2人の同時攻撃に、さすがのルフィもダウンした。

「お、おい!クジラが口開けたぞ!」
「も、もしかして…!」

 ルフィをシバいている内に、クジラが大口を開け、勢い良く海水を呑みこみ始めた。

「うわァァァァァッ!」

 その衝撃により、ルフィが船外に投げ出される。
 拙い、ルフィは私と違って、海に落ちたら力の大半を殺がれる。

「ルフィ!」
「カリギュラ!」

 私は素早くブースターを展開し、ルフィを回収する。
 だが、その代わりに船がクジラに呑みこまれてしまった。
 ルフィを抱きかかえながら、茫然とクジラを見つめる。

「………」
「どうしよう、みんな食われちゃった。―――!」
「―――!ルフィ!」

 ルフィは私の腕を無理やり解くと、クジラの背に乗り移り、力いっぱい殴りつける。

「おい、お前、吐け!みんなを返せ!吐け!」

 ルフィは狂ったように、クジラを殴りつける。
 この様子では、根拠のない説得では耳を貸さないだろう。
 半狂乱にクジラを殴りつけるルフィを見つめながら、私は氷女に念話を繋ぐ。

(氷女、無事か)
(ああ。ただ、奇妙なことになっているがな)
(奇妙なこと?)
(言葉では表現し辛い。だが、主殿は無事だ)
(他の皆は)
(…まあ、生きている)

 やれやれ、氷女の奴、ゾロ以外はどうでも良さそうな感じだな。

(そうか。では、クジラの腹を搔っ捌くなり、喰らいつくすなりして、脱出を試みろ)
(承知した)
(では通信を終わる)

 氷女との念話が終わると同時に、クジラの身体が、徐々に海に沈んでいく。

「クソォ!海に潜る気だ!おい、やめろ!待ってくれよ!おれの仲間を返せ!これから一緒に冒険するんだ!大切なんだ!」

 拙いな。海底にでも潜られたら、氷女が内側からクジラを喰い殺して脱出しても、全員命は無い。

 …ん?

「おい、ルフィ…其処にあるのはハッチか?」
「―――え?」

 ルフィのすぐ傍に、人一人が入れそうな大きさのハッチの様なものがあった。
 何故、生物にこのようなものが。

「疑問は残るが、もう時間が無い。ルフィ、そのハッチを開けて中に入れ。もしかしたら、皆と合流できるかもしれん。皆の無事は、先ほど氷女と通信して、確認した」
「ホントか!うし、行くぞ!あ、カリギュラはどうすんだ?」
「私は外で待機する。私は離れていても、氷女と通信が出来るからな。外側から何らかのアプローチが必要な際に備える」
「応!じゃあ、ちょっと行ってくる!またな」

 ルフィは素早くハッチを開け、中に滑り込む。
 再びハッチの蓋が閉まると同時に、クジラは完全に海へと沈んでいった。

 完全に静寂の戻った海面を眺めつつ、待機場所を探す。
 さて、どの辺りが―――

 Guoooo…

「………?」

 私の聴覚が懐かしい声を捕えた。
 今は勝手に行動を起こすべきではないが…どうも気になるな。
 氷女からの連絡を気にしつつ、調査を行うとしよう。

 私は声が聞こえた方向へ飛ぶ。
 其処はクジラが潜った場所からそれほど離れていない、レッドラインの壁だった。
 見たところ、何も無いようだが…

 ゴォォォンッ!

「何だ…!?」

 レッドラインに何かが激突したような音と振動が伝わる。
 発生源は海中のようだが、空を飛んでいる私にまで聞こえるということは、余程の衝撃なのだろう。
 

「―――!レッドラインの壁が…」

 目の前にあるレッドラインの壁の表面が、先ほどの衝撃によって、崩れ落ちる。
 そして、崩れ落ちた岩肌の後に、ぽっかりと洞穴が現れた。
 大きさは私の原型も容易く入れそうな程大きい。

 Guoooo…!

 懐かしき声は、その洞穴の奥から響いてくる。

「…何にせよ、この声が“奴”のものならば、排除しなければならんな」

 この声の主が、私の予想通りのものだとしたら、早急に対処しなければならない。
 もし、オラクル細胞を持たないルフィ達が鉢合わせしてしまえば、かなり拙い事になる。

「行くか」

 私はブースターを噴射すると、洞穴の中へ突入した。



「地面や壁の凹凸が不自然に少ない。やはり、自然に出来たものではないな」

 洞窟内部はかなり整備されていた。
 使われなくなって、ある程度の年月が経っているのか、ところどころ荒が目立つが、壁に設置された照明器具らしきものが、自然物で無いことを物語っている。明らかに人工的に作られた洞窟だ。

 そのまま黙々と進むと、開けた場所に出た。
それ以上奥に続く道は無いので、どうやら、ここが最深部らしい。
 そこにあったものを見て、私は少々あっけにとられた。

「ここは…研究所か」

 部屋には無数の機械類が設置されていた。
 それも、元の世界で見たような、コンピュータや培養槽などの非常に高度なものだ。
 それらの機械を一つ一つ調べながら、部屋を探索する。

「…駄目だな。完全に死んでいる。記録でもあれば良かったのだが」

 元の世界で喰らった人間から得た知識でコンピュータを操作するも、メモリが完全に消し飛んでいたり、そもそも起動すらしないものが大半だった。
 だが、調査を進めていくと、一つだけ、まだ生きているコンピュータを見つけた。

 ―――password:↩

「…パスワードか」

 当然のことながら、コンピュータにはセキュリティが掛けられていた。
 無論、私がパスワードなど知るよしもない。
 そこで、左腕を触手型の器官に変形させると、コンピュータ本体に捕喰技術を応用して、強引に触手を接続する。
 セキュリティとは電子の錠前。その鍵が無いのならば、錠前ごと叩き壊すのみ。
 ガリガリとハードディスクから悲鳴のような音が響き渡るが、強引にロックを外す。

 ―――UNLOCK:↩

「完了だな」

 私は触手を引っ込め、データの検索を開始する。
 少々データが破損しているが、読めないことは無い。

【Rep■rt 1】
 “未知の文章(ジョンドゥ・レポート)”と共に見つかった“サンプル”の研究のため、このような僻地に研究所を構える■■■なった。だが、ジョンドゥ・レポートに記されていたことが本当であるならば、致し方ないかもしれない。“サンプル”の取り扱い方を誤れば、世界が滅ぶかも■■■■■だから。
 この研究が成功し、“サンプル”から造り出した兵器が完成すれば、我らに敵はいなくなる。理想の世界のため、今は耐えることが必要だ。

【R■port 2】
 “サンプル”の培養は順調だ。
 最初は数十個の細胞の集合体であった■■■、もうすでに肉眼で確認できる程の大きさとなっている。
 ジョンドゥ・レポ■■■共に発見された、培養槽を始めとするこれらの機器は、我々の持つ科学技術を大きく凌駕するもので、その原理を100%解明できてはない。結果が出ているので、気にするなと上は言っているが…研■■■■■は、賛同しかねる。
 話を戻そう。“サンプル”はあらゆる物質を取り込む性質を有しているこ■■分かった。通常の食料から石などの無機質まで、ありとあらゆるものを取り込み、増殖していく。海王類ですら一滴で絶命する猛毒すら取り込んだのには、驚■■■■た。

【Repo■t 3】
 “サンプル”が特定の形態を獲得した。
 魚類と鰐の混合体に近いが、頭部■■■る砲塔が異彩を放っている。
 また、“サンプル”の凶暴■■一段と増しているジョンドゥ・レポートから得た防護壁が無ければ、この研究所は破壊し尽く■■■■■■■■う。
 一刻も早く、制御方■■見つけなければ。

【Repor■ 4】
 ついに研究が実を結んだ。この凶暴な生物兵器を完全に制御し、支配下に置くことに成功したのだ。
 これで、我らは世界の■■■手に入れることが出来る。あの鬱陶しいシャン■■■始めとする愚者どもも、完全に一掃■■■■■■来るだろう。
 他の研究所で完成した個体も次の作■■■■■れるようだ。だが、私の研究所の“サンプル”―――“アラガ■”こそ、我々に勝利を齎すものなのだ!

 日記に日付の記載が無いので、いつのことかは解らないが、洞窟の様相から、かなり昔のものだろう。
そこから先は自分たちの造り出したアラガミが何人殺しただの、大規模な作戦で戦果をあげただの、どうでもいい事で埋め尽くされていた。
 そして、レポートの最後の文章を開く。

【R■■■rt 2■5】
 緊急事■だ!アラ■■が防御■を食い破り、外■と溢れだした。
 奴らはこ■研究所にあ■あらゆる■のを食■散らしている。
 他の研■■■■連絡が取れないこ■■■■どこも同じような状■■■■もしれない。
 逃げよ■■も、本部の連中が強制封印■■■■■■、逃げ場■無い。
 手際の良さ■■■えて、最初からこ■■■■とは予測済みだ■■■見るべ■■ろう。
 この文章を見■■■。どうか、私■■無念を―――

「自業自得だ。愚か者」

 破損したレポートを読み終わった私の口から思わず罵倒がこぼれる。
 この研究所はアラガミを生物兵器として運用することを目的としていたようだ。
 だが、アラガミを御するなど、遙かに科学技術の進んでいた元の世界―――否、古代ですら、不可能であったこと。今の時代の人間に出来るはずもない。
 案の定、防壁の因子に適応したアラガミによって、全員喰い殺されたようだな。
 機械類が残っているのは、このレポートにあった強制封印というものに関係があると思うが…現段階では詳細は不明だな。

 ………さて、虐殺犯のお出ましだ。

 GuOOOOOO!

 即座に、私は真横に飛び退く。
 その直後、巨大な水球が私のいた場所を、コンピュータごと押しつぶした。

 水弾が放たれた方向を向くと、其処にいたのは巨大な牙と頭部に砲塔を持つ魚類と鰐を掛け合わせたような、異形だった。
 この瞬間、私は自分の予測が正しかった事を理解した。

「やはり、グボロ・グボロか。まさか、この世界で遭うことになろうとはな」

 グボロ・グボロは水上に適応したアラガミ。
 注意すべきは頭部の砲塔。ここから放たれる水弾は、下手な大砲などより、破壊力がある。正直なところ、私も人間体のままで、直撃を貰いたくは無い。
 個体の強さはそれほどでもないが、有効な攻撃方法を持たない人間にとっては絶望的な相手だ。ルフィ達に相手はさせられんな。

 今まで気配を感じなかったが、どうやら、部屋の隅にある穴から出てきたらしい。
 先ほどの衝撃で、入り口だけでなく、床にも外につながる穴が空いたのかもしれない。

「Guuuu…」

 グボロ・グボロはこちらをじっと睨み、低く唸る。
 ダラダラと大きな口から涎が溢れだすのは、醜悪の一言に尽きる。

「どうやら、強制封印とやらから目覚めたばかりで、腹が減っているらしいな。だが―――私を喰らおうなどと、片腹痛いわ!」

 私は素早く混成型へと変じると、グボロ・グボロ目掛けて突っ込む。

「GuOOOOOO!」

 グボロ・グボロもそれに反応し、その巨体を活かした突進を繰り出す。
 いくらなんでも、ウェイトに差があり過ぎる。まともに受ければ、押しつぶされるのは明白。
 ゆえに、直線軸から半歩ずれ、左ブレードですれ違いざまに斬りつける。

「Gyaaaa!」

 ブレードはグボロ・グボロの右ヒレを切り裂くが、浅い。
 弱いとはいえ、さすがはアラガミ。
 いつものように、一刀両断とは行かないな。

「それ、こいつも持ってけ」

 グボロ・グボロの背後から、二連轟氷弾を連射する。
 弾丸は正確にグボロ・グボロを捕え、背ビレを破壊した。

 アラガミはオラクル細胞の集合体であり、その結合は非常に強固だが、箇所によっては、ダメージの蓄積により、結合崩壊が起きる。結合崩壊を起こした部分は比較的、攻撃が通りやすくなり、個体によっては、攻撃行動の制限をすることも可能だ。

「G,GUAAAAA!」

 グボロ・グボロは激痛に呻きながらも、私に向き直り、頭部の砲塔の照準を合わせ、水弾を打ち出す。
 鋼鉄の防壁をも容易く貫通する水弾は、私を正確に捕えるが

「甘い!」

 極低温のエネルギーを纏わせた右手で、水弾に掌底を叩きつけると、水弾は一瞬で凍りつき、粉々に砕け散った。
 さらに、水弾を打った反動で動けないグボロ・グボロに一気に接近し、猛襲を仕掛ける。

「GAAAAAAAA!」

 右ブレードが牙をへし折り、唸る拳打が砲塔を砕き、鋭い蹴りが胴体を穿つ。
 瞬く間にして、グボロ・グボロは満身創痍となった。

「いかに弱体化したとはいえ、この程度の相手に後れを取りはしないか」

 長い間何も捕喰していないためか、この個体は記憶にあるものよりもずっと弱い。
 これなら、それ程苦も無く倒せるだろう。

 だが、その慢心を突かれた。

「GURUAAAAAAA!!」

 グボロ・グボロが猛攻の僅かな隙に、その巨体を無茶苦茶に暴れさせる。

「ぐがァ…!」

 完全に油断していた私の腹を、グボロ・グボロのヒレが打ち据える。
 身体が木葉のように舞いあがり、部屋の壁に激突する。

「…今のは効いた」

 口から垂れる血を拭いながら起き上がると、グボロ・グボロが床の穴に飛び込み、逃げて行くのが見えた。

 外で捕喰を行って、傷を癒すつもりか…そうはさせん。

 私はグボロ・グボロを追って、穴に飛び込んだ。中は予想通り、海中に繋がっており、私の身体が原型に戻る。
 前方にグボロ・グボロが見えるが、かなり離されてしまっている。
 ブースターを噴出し、後を追うが、中々距離が縮まらない。
さすがに、海中では奴の方に分があるか。

 しばらくすると、場所が開けた。どうやら、レッドラインの中を抜けたらしい。

ドゴォォォン!

 鳴り響く轟音。
 視線を移すと、其処にはレッドラインの壁に、頭を叩きつけている巨大なクジラが居た。頭にある無数の傷跡から、間違いなく、メリー号を呑みこんだクジラだ。
 強制封印とやらが解けたのも、奴の仕業かもしれんな。

「―――!」

 水の流れに違和感を感じ取って、グボロ・グボロに視線を戻すと、砲塔から、クジラに向けて、巨大な水弾を発射したのが見えた。
 どうやら、クジラを捕喰対象に決めたらしい。

「―――!ブオォォォォッ!」

 水弾が直撃し、クジラは苦悶の声を上げるが、その小島のような巨体ゆえ、絶命には至らない。
 クジラはこちらを振り返り、瞳に怒りを宿して、こちらを睨みつける。
 …おい、私もか。

 クジラがその巨大な口を開く。嫌な予感しかしない。
 案の定、クジラが物凄い勢いで、海水を吸い込み始めた。
 ブースターを全開にして、脱出を試みるが、どんどんクジラの方に引き寄せられてしまっている。
 それは、グボロ・グボロも同じで、必死に逃げようとしているが見て取れる。

(…アラガミが普通の生物に喰われるとは、何とも皮肉なことだな)

 そんなことを考えつつ、私はクジラに呑みこまれて行った。



 しばらく水流により、身動きが取れない状況に陥っていた。
だが、胃袋に達したのだろか、水流による束縛が弱くなったので、水面に顔を出す。
私の眼に飛び込んできたのは空と小島。
…何故、クジラの腹の中にこのようなものが?
さらに辺りを見回すと、メリー号を見つけた。
どうやら、仲間達は全員無事のようだ。3人ほど知らない顔が居るが。

「「「「「「「………!」」」」」」」
「―――?」

 皆が私を見て、驚愕の表情を浮かべている。

「「「「「「「バケモノだァァァーーーーッ!!」」」」」」」
「何!?化物だと!?」

 私は周囲を見回すが、グボロ・グボロ姿は見当たらない。

「いないじゃないか」
「「「「「「「オメェのことだよッ!!」」」」」」」

 …そういえば、ルフィ達にこの姿を見せるのは初めてだったな。

「落ちつけ、お前ら」

 サンジが煙草に火をつけながら、他の皆を制す。

「その様子だと、何か厄介事があったんじゃないかい?カリギュラちゃん」
「「「「エエェェェェッ!あれ、カリギュラーーーーッ!?」」」」

 あ、サンジにはアーロンパークで原型を見せていたな。

「うむ、私だ」
「ハッ!も、もしかして、お前、その姿は…!」

 ルフィがワナワナと震えながら問いかける。

「これが私の本当の姿。少し前に見せると約束した姿だ」
「―――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「感動で声も出無ぇのか…」

 ボロボロと涙をこぼすルフィにゾロが突っ込む。
 …って、こんなことをしている場合ではない。

「皆、水面を警戒しろ!来るぞ!」
「来るって、何が―――」
「GuOOOOOOOO!」

 ナミが疑問を口にするより早く、グボロ・グボロがメリー号の甲板に飛び出した。

「ギャァァァァ!何じゃこりゃぁぁぁぁッ!」
「まともな生物にゃ見えねぇな。料理しても不味そうだ」
「もう嫌ァァァァッ!」
「ミ、ミス・ウェンズデー!わ、我々は捕鯨をしに来たんだ!断じてクリーチャーの討伐に来たのでは無いぞ!」
「その通りよ、Mr.9!」
「…この生物は………」
「おい氷女、こいつはなんだ?」
(私達と同じアラガミだ。名称はグボロ・グボロ。水上に適応したアラガミで、頭の砲塔から水弾を放つ。それ以外に大した特徴は無い。…しかし、見事なまでにボロボロだな。創造主が叩きのめした後だろう。砲塔もオシャカだ。これでは、水弾すら撃てまい)
「おうコラ、さりげなくおれをアラガミにするな!」
(事実だ)
「おれは認めん!」

 氷女とじゃれあいつつも、ゾロはグボロ・グボロから意識を離さない。この辺りはさすがだな。

「なんかしんねぇけど、やるって言うなら、相手になるぞ!ゴムゴムの―――」
「ルフィ!止せ!」
「―――スタンプ!」

 グボロ・グボロの威嚇に反応したルフィが、伸びた足でグボロ・グボロを踏みつける。
 私は即座にブースターで水中から飛び上がると、ルフィを強引にグボロ・グボロから引きはがすと、甲板に叩き下ろす。
 …人型に戻る際に、外皮はちゃんと構成し直したから、そんなに慌てるな、ゾロ。

「な、何すんだよ、カリギュラ!」
「足を見てみろ」
「足?…ゲ!サンダルの底が無ぇ!」

 ルフィのサンダルは、グボロ・グボロに触れた部分が綺麗に無くなっていた。

「奴はアラガミ。その身体はオラクル細胞の集合体だ。あらゆる攻撃を喰らって無効化する。ゆえに、迂闊な攻撃は命取りだ」
「………?」
「…アラガミにはお前の攻撃が効かないということだ」
「ええェェッ!じゃあ、どうすんだよ!」
「―――!カリギュラ!危ねぇ!」

 ルフィと会話している私を絶好のチャンスだとばかりに、ゾロと睨みあっていたグボロ・グボロが標的を変え、襲い掛かってきた。

「こうするんだ」

 振り向き様に、原型に戻した左腕で、グボロ・グボロに裏拳を叩きこむ。
 大分痛めつけたので、人型でも、容易く殴り飛ばせた。

「GAGO!?」

 グボロ・グボロはそのまま甲板を転がり、ぐったりとダウンした。

「アラガミに有効打を与えたければ、同じオラクル細胞で攻撃するしかない。今のところ、それが出来るのは、私と―――」
(私達だな)

 氷女の声が聞こえたので、そちらを向くと、ゾロが氷女を鞘に納めたまま、倒れているグボロ・グボロに駆け寄るのが見えた。

「一刀流居合い…修羅雪氷女!」

 ゾロは走りこんだ勢いを殺さぬまま、氷女を抜刀し、神速の居合いでグボロ・グボロを真っ二つにした。
 瀕死状態とはいえ、アラガミをああも容易く切り裂くとは…ゾロと氷女の適合率は、私の想像以上に高いようだ。

 真っ二つにされたグボロ・グボロはコアを露出させ、機能を停止させる。

「お、終わったの…?」
「9割方な。後はコアを喰らうだけだ」

 私は腕を捕喰形態へと移行する。

「「ヒィ…!」」
「………」

 見知らぬ3人がそれを見て、小さく声を上げる。
 ただ、花の様な老人は、何やら考え込んでいた。

(待て)

 コアを捕喰しようとしたら、氷女に声を掛けられた。

「…何だ」
(これは私と主殿が仕留めたんだ。捕喰は私が行う)
「仕留められるまで弱らせたのは私だ。私にも捕喰の権利はある」
(………)
「………」

「お、おい、お前ら…」
「な、なんか険悪な感じがしないか?」
「氷女と喧嘩でもしてるのかしら…」
「おれらには氷女の声聞こえねぇからさっぱりだな」
「ああ…険悪なカリギュラちゃんも危険な香りがして素敵だ!」
「ミス・ウェンズデー、何なんだろうな、あいつらは」
「電波を受信しちゃった危ない人たちなのかしら、Mr.9」
「………」

「ならば、解決方法は一つしかないな」
(ああ)

 私と氷女は一呼吸置いて、

「(喰ったもん勝ちじゃーーーーーッ!!)」

「「「「「「「「発想が子供レベルだーーーーッ!」」」」」」」」

 私は捕喰器官だけでなく、上の口も使って、グボロ・グボロに喰らい付く。

(主殿!早く早く!喰べられちゃう!)
「わかったわかった!だからそんなに喚くな!」

 数瞬遅れて、氷女がグボロ・グボロ突き立てられた。

 その後、コアは仲良く二等分して喰べた。
…これが、人間で言う、「おふくろの味」と言うやつなのだろうか。

 まさかの同族との出会いであったが、あの研究所のレポートから推察するに、別の個体と遭遇する可能性が極めて高い。
 何かしら、皆にも対抗手段を用意してやりたいな。














【コメント】
 前回の予告に誤字がありました。

 捕鯨編×
  ↓
 捕グボロ・グボロ編○

 皆さまに迷惑をおかけしたことを、ここにお詫びいたします。

 あと、ハンニバル種の攻撃の中で、一番厄介なのは、予備動作無しの裏拳だと思います。



[25529] 第15話 ゾロの夢、ウソップの出会い
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/04/23 16:14
氷女と2人でグボロ・グボロを美味しく頂いた後、私達は全員、クジラの胃袋に浮かぶ小島に上陸した。

「このクジラは“アイランドクジラ”。ウェストブルーにのみ生息する、世界一デカイ種のクジラだ。名前は“ラブーン”」

 花の様な老人―――クロッカスは、イスに座りながら、私達を呑みこんだクジラについて、説明する。

「そして、こいつらは近くの町のゴロツキだ」

 縛りあげられ2組の男女を顎で指す。
 男の方は頭に冠を乗せているのが目を引く。…あまり美味くなさそうだ。
 女の方は水色の髪をポニーテイルにした、人間からすれば中々の美女だ。…こちらはそこそこ美味そうだ。
 2人とも、縛り上げる際に抵抗したので、ルフィと私で気絶させた。
 私が殴った男の方は、頭蓋からちょっとヤバい音がしたので、後遺症が残るかもしれない。

「ラブーンの肉を狙っている。そりゃ、こいつを捕えれば、町の2、3年分の食料にはなるからな」

 人間の町の2、3年か…

「人間と言うのはやはり小食だな。私なら、3日と持たん」
「お前の様な、常識外れの生き物にとってはそうだろうな」
「…貴様、私達アラガミの事について、何か知っているのか?」

 私の問いに、クロッカスは目を逸らす。

「それについては後にしよう。今はラブーンのことを話そう」

 クロッカスから聞いた話をまとめる。
 このクジラ―――ラブーンがレッドラインにぶつかり続けるのは、ある海賊団との約束のためであるという。
 ある日、クロッカスが出会った、リヴァース・マウンテンを下ってきた気の良い海賊達、そいつらについてきたのが、まだ子供だったラブーン。
 ウェストブルーでは一緒に航海をしていたらしいが、グランドラインでの航海は危険きわまると置いてきたはずであったが、どうしても離れず、グランドラインの入り口まで、ついてきてしまった。
 アイランドクジラは本来、群れを作る生物であるため、海賊達を仲間だと思い、離れなかったのではないか、というのがクロッカスの推察だ。
 その海賊団の船は故障していたため、数ヶ月間、岬に停泊することとなった。その間に、クロッカスは彼らと随分親しくなったらしい。
そして、船の修復が終わり、海賊達が出発する日、クロッカスは船長からラブーンを2、3年預かって欲しいと頼まれた。
―――『必ず世界を一周し、ここへ戻る』と約束して。
ラブーンもそれを理解し、この場所でクロッカスと共に彼らを待っているとのことだ。

「だから、吠え続けるの…身体をぶつけて、壁の向こうに…」

 話を聞いたナミが、クロッカス問いかける。

「そうだ…もう、50年も昔になる」
「「「「「―――!」」」」」
「………」

 クロッカスは、遠い目をしながら、ポロリとこぼす。

「ラブーンは未だ、仲間の生還を信じている」

―――ブオオォォォォッ!

 ラブーンの声が、やけに悲しく聞こえた。



 ラブーンの話を終えると、私達は再びメリー号に乗り込み、クロッカスの指示で、水路に入った。
 クロッカスは島―――否、島型の船に乗って、ついてきている。

「…ここは本当に生物の中か?この水路は貴様が作ったものか」

 私はラブーンの中に走る水路の壁を見つめながら、クロッカスに問いかける。

「そうだ。私は医者でもあるからな。ラブーンが死なんように、身体に穴をあける事が出来る」
「医者?」
「昔は岬で診療所もやっていた。数年だが、船医の経験もある」

 クロッカスの言葉に、ルフィが反応した。

「船医!?本当かよ!じゃ、うちの船医になってくれ」
「馬鹿言え。私にはもうお前らのように無茶をやる気力は無い」

 クロッカスは水路の終わりにある開閉用のバルブを開けながら、誘いを断る。

「医者か…それで、クジラの中に」
「そういうことだ。これだけでかくなってしまうと、外からの治療は不可能なのだ」

 ナミはクロッカスがクジラの中にいる理由を悟ったようだ。
 私の発生した時代でいえば、ナノマシンによる治療に近いな。

「開けるぞ」

 クロッカスがバルブを開け終えると、目の前にあった鉄の扉が開いた。

「フー!出たァ!本物の空!」

 ルフィが折れた船首の前で、伸びをする。
 上空には、胃袋内の偽りの空ではなく、どこまでも澄み渡る青空が広がっていた。

「こいつらどうしよう?」

 キャプテンが未だ気絶している二人組の処遇を聞く。

「そいつらは敵なのだろう?ならば、答えは一つだ」

 私は2人に近づくと、右腕を捕喰形態へと移行する。

「そこまでだ。そいつらを食らうと言うなら、アラガミについての話はせん」

 クロッカスが私の捕喰に待ったを掛けた。

「何故だ。貴様にとっても、こいつらは敵だろう」
「確かにな。だが、命まで取ろうとは思わん。人間は化物とは違うのだ」
「………」

 業腹だが、アラガミの情報は欲しい。
 まあ、こいつらは能力者ではなさそうだし、情報を取るとしよう。

「…了解した。その代わり、情報はしっかりと貰うぞ」

 私は右腕を人間型に戻すと、二人組の縄を掴んで、そのまま海に放り投げた。

「これで満足か」
「上々だ」

 おどけて見せる私に、クロッカスは小さく笑った。

「うばっぷ!な、何だ!?」
「胃酸の海!?」

 海に落ちた衝撃で、2人が目を覚ましたようだ。

「違う!本物の海だ。ミス・ウェンズデー」
「どうやら、あの海賊達にノされていたようね。Mr.9」
「で、お前ら何だったんだ?」
「うっさいわよ!あんたらには関係ないわ!」

 ルフィが2人の素性を尋ねるが、ミス・ウェンズデーとやらががなり返す。

「いや待て、ミス・ウェンズデー。関係ならあるぜ?こいつらが海賊である限りな!」
「それもそうね、Mr.9。“我が社”には大ありね。覚悟なさい!」

 馬鹿2人が勝手に盛り上がっている。

「…どうやら、拾った命が要らないらしいな?」
「「ヒィッ!」」

 私が右腕を捕喰形態へと変形させると、2人は抱き合ってガタガタ震え始めた。

「ミ、Mr.9!ここは一時撤退よ!」
「そ、そうだな!それではまた会おうじゃないか、海賊ども!」
「ただし、ミス・クリーチャーは除く!そしてクロッカス!このクジラはいつか我々が頂くわよ!」

 捨て台詞を残して、2人組は沖へと泳いで去って行った。

「ミス・ウェンズデーか…なんて謎めいた女なんだ♡」

 女好きのサンジは、ミス・ウェンズデーが気になるらしい。
謎めくと言うか、アホめいてはいたな

「いいの?放っておいて。また来るわよ?」
「あいつらを捕えたところで、また別のゴロツキが来るだけだ」

 ナミの疑問は最もであったが、下をいくら潰したところで、効果は無いらしい。



 その後、クロッカスの住む灯台近くの岸に上陸すると、クロッカスがラブーンを預けた海賊達の消息について、話し始めた。
 その海賊達は、もうすでにグランドラインから逃げ去ったらしいが、あろうことか、あのカームベルトを横切ろうとしたため、その消息すら知れないらしい。
 クロッカスはラブーンにそのことを包み隠さず伝えたが、ラブーンは一向に聞く耳を持たず、今もリヴァース・マウンテンに向かって吠え続け、レッドラインに激突し続けているという。
 なぜならば、ラブーンは待つ意味を失う怖いからだと言う。もはや自分の故郷にすら帰れないラブーンの仲間はその海賊達のみ。彼らを失えば、ラブーンはただ孤独に生きていくこととなる。

 …孤独か。
元々私は他者を排除し続けるモノ。孤独とは私の在り方そのものでもあったが、通常の生物、ましてや、群れを作る生物にとって、これ程耐えがたいものもあるまい。

 そんな時、ルフィがメリー号のマストをへし折り、ラブーンの身体を駆けあがっていく。
ルフィは頭頂に辿り着くと、折れたマストを、ラブーンがレッドラインに頭をぶつけた際に出来た傷に、突き刺した。
当然、ラブーンは怒り、ルフィと喧嘩を始めた。
ラブーンはその巨体でルフィを押しつぶし、ルフィは鍛え耐え上げた身体とゴムゴムの実の能力で、ラブーンと殴り合う。
一通り殴り合った後で、ルフィが大声で叫んだ。

 「引き分けだ!」と。
 
 自分たちの喧嘩の決着はまだ付いていない。だから、もう一度戦わなくてはならない。自分はグランドラインを一周して戻ってくる。そうしたら決着をつけようと、ラブーンと“約束”した。
 ラブーンはもはや果たされないであろう約束に換わって、新しい約束を手に入れた。
 その時、ラブーンが流した涙と一際大きな咆哮は、きっと喜びから来るものだったであろう。



「んん!よいよ!これがおれとお前の“戦いの約束”だ!」
「………」

 約束の証として、ラブーンの額にはいつぞや見た落書き髑髏が。
 それを見た私はゆっくりと立ち上がる。

「…さて、書き直そうか」
「や、やめろー!何をするカリギュラー!」

 結局、ルフィの必死の抵抗と、ラブーンもこれが気に入ったらしいということで、マークはそのままになった。





「…殿…きろ。…主殿」
「………ん?」

 何者かに声を掛けられ、ゾロは瞼を開ける。

「やっと起きたか。主殿」

 目の前にいたのは小柄な少女だった。
 白いワンピースを着た肢体はすらりと細く、幼さを感じさせるが、同時に言いようのない妖艶さも感じる。
 髪は美しい青色で、床についてなお、さらに長く伸びている。
 顔立ちは恐ろしいほど整っており、どこか人工的な感じさえする。
髪と同じ美しい青い瞳がゾロを優しく見詰めている。目つきはキツめだが、今は柔らかくほほ笑んでいるため、彼女の可愛らしさをさらに引き立てていた。
 普通の男が見れば、思わず息をのむ、そんな美しい少女だ

「誰だ、お前?」

 だが、この朴念仁には関係無いらしい。

「ひどいな、主殿。もはや一心同体も同然だと言うのに、私が誰だか解らないのか?」

 ゾロの反応に、少女はムスっとした表情を浮かべる。

「………!」

 ゾロは少女の声が、自分の良く知るものと同じことに気が付いた。

「その声…まさか、氷女か…?」
「せーかいでーす!」

 少女―――氷女は満面の笑みを浮かべ、両手を広げて嬉しさを表現した。

「なんでお前女の姿に…って、ここはどこだ?おれは確か、修理中のメリー号で寝てたはずなんだが」

 ゾロは辺りを見回すが、広がっているの真っ黒な闇ばかり。
 間違いなく、心地よい日差しが差していたメリー号の甲板ではない。

「ここは主殿の夢の中。主殿と深いつながりがある私だけが入れる世界。そう、二人だけの世界だ」

 氷女が笑う。先ほどとは全く違う笑みで。
 だが、ゾロはそれを特に気に止めない。

「へー、お前、カリギュラみたいに人型にもなれんのか?」
「………」

 カリギュラの名前を出され、顔を歪めて不機嫌になる氷女。
 しかし、この朴念仁は気付かない。

「良く見りゃ、やっぱりカリギュラに似てるな。青い髪と目に、つり目、ホントに何から何までそっくり―――」

 ゾロの視線がある一部で止まる。

「………」

カリギュラ→タユンタユン

氷女→スットーン

「フン!」
「オゴァッ!?」

 氷女の目じりがつり上がった瞬間、ゾロのわき腹に強烈なボディブローが叩きこまれた。

「い、いきなり…何を…!」
「黙れッ!」

 息も絶え絶えなゾロに向かって、氷女は怒気を発する。
 先ほどまでの柔らかな表情はどこへやら。今は阿修羅のごとく、鋭い眼光を放っている。だが、これはこれで、先ほどの可憐なものとは違った野性的な魅力がある。

「いいか、主殿。次に私の胸について変なことを考えたら…喰うぞ」
「い、いや、おれは何も―――」
「次は鳩尾だ」
「わかりました」

 氷女の米神に青筋が浮かんだのを見て、ゾロは素直に返答した。
 彼の判断は至極正しい。

「で、何か用か。態々夢の中に出てきたんだ。重要な要件でもあんのか?」

 わき腹を摩りながら、ゾロが氷女に問いかける。

「あ、いや、そのな…」

 しかし、氷女は目を逸らして黙ってしまう。
 頬は赤く染まっており、明らかに照れ隠しなのだが―――

「―――?どうした」

 ―――この朴念仁に乙女心など解るはずがない。

「…主殿と話がしたいだけで夢に出てきてはいけないのか?」
「あ?おれと話がしたいだけ?」

 コクリと小さく氷女が頷く。

「…いいぜ。おれなんかで良かったら、話し相手になってやるよ。どうせここはおれの夢ん中だ。目が覚めるまで、付き合ってやるよ」

 その言葉を聞いて、氷女の表情がぱっと明るくなる。

「本当か!?本当に本当か!?嘘じゃないよな!?嘘だったらここで強制的に捕喰するぞ!?」

 氷女がゾロに四つん這いで詰め寄る。

「あ、ああ…」

 ゾロは氷女の剣幕に少々気圧された。

「じゃあじゃあ、主殿の故郷の話が聞きたい!」

その隙をついて、氷女は胡坐をかいていたゾロの足の上に座り込む。
甘い花の香りが、ゾロの鼻を擽った。

「おれの故郷か…いいぜ。おれの故郷はイーストブルーのシモツキ村ってとこでな―――」

 ゾロの話を聞く氷女は、年相応の少女のようであった。
この姿を見て、彼女が凶暴なアラガミであることを見抜けるものは、恐らくいないであろう。



「あの野郎!船をバキバキにしやがって。おれは船大工じゃ無ぇんだぞ!?」

 ウソップはルフィにへし折られたメリー号のマストを、鉄板で補強しながら直している。ただし、お世辞にも上手とは言えない。

「おいゾロ!てめぇも手伝え!」
「ぐー」

 しかし、船の縁に寄りかかって寝ているゾロが起きる気配は無い。

「だー!どいつもこいつも…!待ってろよメリー、おれが何としても直してやるからな」

 メリー号はウソップの大切な友達から貰ったものだ。彼には他の仲間たち以上に思い入れがあるのだろう。

「ふー、マストの修理はこんなところか。次は船首だな」

 マストの修理を終えると、次にラブーンにぶつかって折れてしまった船首を直す作業に移ろうと、後ろを振り向く。

 ムシャムシャ…

「………」

 其処には奇怪な生物がいた。
 卵型の身体に、大きな一つ目。
 その下には人間の女性を模したような部分があり、その上半身と下半身を分かつように、裂けた口が付いている。
 
 そして、その生物は、ウソップが修理しようとしていた、メリー号の船首を美味そうにバリバリと貪っている。

「て、てめぇ!何してやがる!」

 ウソップの頭に、一瞬だけ、カリギュラの言っていたアラガミと言う生物の事が思い浮かんだが、大事なメリー号の船首を喰われているのを見て、そのことは頭から消し飛んだ。
 その生物を船首から引きはがすために、愛用のパチンコを取り出し、構えた。

「―――!―――!―――!」

 しかし、その卵型の生物は、ウソップに襲いかかるどころか、声に驚いてあたふたとしている。そして、最終的には逃げ出そうとしたのか、空中に浮かびあがろうとした。

「あ…」

 しかし、1m程度浮き上がったところで、ボトリと甲板に落ちてしまった。
 卵型の生物は、苦しそうにもがいている。

「な、何だ…?」

 ウソップは慎重に卵型の生物に近づく。
 いつ襲ってくるかとビクビクしながらの接近であったが、結局なにもされないまま、近くまで行くことが出来た。

 その生物を良く観察すると、そこかしこが抉れ、深い切り傷があった。

「………ほっとけねぇよな。おい、しっかりしろ」

 一味の中でも特に情の深いウソップは、この傷ついた生物を放っておくことが出来ず、手当てをしようと、いつも持ち歩いている包帯を巻きつけようとした。

「―――!包帯が…!やっぱり、こいつもアラガミか」

 包帯は生物に触れると、溶けるように消えてしまった。
 先ほどの鰐型のアラガミと同じ特徴である。

「これじゃ傷の手当ても出来ねぇな。何か他に方法は…」

 例え、目の前の生物がアラガミだとしても、このまま放っておいて、死なれるのは目覚めが悪い。
 本格的な治療方法はカリギュラに訊くとして、何か応急処置的なものが出来ないか、ウソップは頭をひねって考える。

(…そういや、最初はメリー号の船首を食ってたんだよな、こいつ。確か、カリギュラもものを食うことによって、身体を修復してるとか言ってたな)

 メリー号の船首に目を向けると、角辺りが齧られて無くなっていたものの、まだ十分に使える。

 大切なメリー号の一部と凶暴な死にかけのアラガミの命、そのどちらをとるか。
 ウソップの決断は早かった。

「考えるまでもねぇな」

 ウソップは船首をなんとか持ち上げると、卵型のアラガミの元へ運んで行った。

「ほれ、これを喰え。喰えば元気になるんだろ?」
「―――!?」

 アラガミが一瞬驚いたように見えたが、気のせいかもしれない。
 アラガミは差し出された船首を、勢い良く貪り始める。

「ケプ…」
「あっという間に無くなっちまった…」

 ものの十数秒で船首は完全にアラガミの腹の中へ収まった。
 体積を思いっきり無視している気もするが、気にしない。

 船首を喰べたアラガミは、先ほどよりも元気を取り戻し、フヨフヨと空に浮かんでいる。
 良く見れば、傷も大分癒えている。

「元気になったみてぇじゃねぇか。おっと、これ以上船は食うなよ?勿論おれもだ。あ、そこで寝てるマリモはちょっとだったら齧っていいギャー!」

 不穏当な発言をしたウソップの目の前に、氷女が突き刺さった。

「すいません!冗談です!」

 ウソップが氷女に向かって土下座しようとしたその時

「クキャーーーッ!」

 先ほどのアラガミがウソップを庇うように、氷女を威嚇し始めた。

「お、お前…」

 しかし、拙いことにそれが氷女を本気にさせたのか、氷女から殺気が漏れ出す。

「ピキャーーーーッ!」
「弱ッ!」

 それに怖気づいたアラガミがウソップに飛びつく。
 一瞬、食われるかと思ったウソップだったが、アラガミに触れても食われたりはしていない。どうやら、このアラガミは任意に捕喰を行えるようだ。

「ま、待て待て!落ちつけ氷女!」

 卵型のアラガミと抱き合いながら、氷女をなんとか宥めようとするが、氷女からの殺気は一向に収まらない。
 そして、氷女が甲板からひとりでに抜け、ウソップに先端を向ける。

「い、いやーーーーーッ!」
「ピ、ピギャーーーーッ!」

 氷女が2人を串刺しにするため、飛来しようとしたその時

「そこまでだ」

 いつの間にか起きていたゾロが、氷女の柄を掴んで、鞘に押し込んだ。
 氷女はしばらく鞘の中で暴れていたが、ゾロが柄を軽く叩くと、しぶしぶといった様子で、大人しくなった。

「た、助かった…」
「ク、クキャー…」

 ウソップと卵型のアラガミは揃って胸を撫で下ろした。

「ったく、気の短けぇ奴だ」

 ゾロは腰の氷女を見ながらため息をつく。

「短いとかそういう問題じゃねぇよ!ちょろっと冗談を言ったくらいで殺されかけたんだぞ!?」
「クキャー!ククキャー!」

 ウソップの叱責と共に、卵型のアラガミも同感だと言うように甲高い声で鳴く。

「氷女が言うには、そこの卵みてぇな奴に、おれを食わそうとしたから攻撃したって事らしいが?」
「だーかーらー!それが冗談だっつってんだよ!」
「クキャ…?」
「ちょっと待て、なんだその「冗談だったの?」的な反応は!」

 卵型のアラガミは結構本気だったらしい。

「あーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 その時、上にある灯台の方からナミの叫び声が聞こえてきた。

「なんだ?」
「なんかあったのかもな。おれも少し疲れたし、休憩がてら様子を見に行くか」
「おれも行く。すっかり目が冴えちまったしな」

 ウソップとゾロはメリー号から降りると、灯台に続く縄梯子に向かう。

「クキャー!」

 さらに、それに続く卵型のアラガミ。どうやら、ついてくるつもりらしい。

「おい、そいつも連れてくのか?アラガミだろ?」

 ゾロは、ついてくるアラガミが仲間に危害を加えないか心配しているようだ。

「今んとこは大人しいから大丈夫だろ。それに、元々こいつをカリギュラに見せるつもりだったんだ。カリギュラなら、もう少し詳しいことも知ってそうだしな」
「ま、暴れ出したらおれかカリギュラで斬っちまえばいいしな」
「ピキャ!?」

 ゾロの不穏な言葉に、卵型のアラガミはウソップの背後に隠れてしまった。

「ハハハ、こんな奴が襲いかかってくるわけねぇって」

 ウソップは自分の後ろに隠れてブルブル震えている卵型のアラガミを撫でる。
 そして、何か思いついたように、にやりと笑った。

「よーし!お前は今日からウソップ海賊団の一員だ。キャプテンは勿論おれだ。と言うわけで、おれの命令は絶対に守ること」
「クキャ?」

 卵型のアラガミは一瞬疑問を呈するような声で鳴いたが、

「クキャ!」

 すぐに肯定を示すであろう声で鳴いた。

「フ、また新たにウソップ海賊団の仲間が増えたぜ」
「まだ3人目だろ。しかも、お前以外全員アラガミじゃねぇか」
「馬鹿め、だからこそすごいんじゃねぇか。凶暴な怪物たちを統べる誇り高き海の戦士…うん、良い…」

 ウソップは腕を組み、静かに空を見上げる。
 恐らく、カリギュラ達を指揮しながら戦う自分の姿に、思いを馳せているのだろう。

「海の戦士って言うより、魔物使いだな」
「うっせぇ!テメェも似たようなもんじゃねぇか!」
「クキャクキャ!」

 ゾロのツッコミに、ウソップが反論し、卵型のアラガミもそれに続く。

「んだとこの野郎!」
「やるかエセ剣士の魔物使い!」
「クキャキャー!」
「………!」

 ウソップの挑発に切れかけたゾロが氷女に手を掛けると

「すいませんでしたー!」
「クキャキャキャーー!」

 2人揃って0.2秒で土下座を決めた。

「…とりあえず、お前らの息がぴったりだってのは良くわかった」

 あまりにも綺麗すぎるウソップ達の土下座を眺めながら、ゾロは脱力と共に、深いため息を吐いた。


















【コメント】
 氷女の人間形態は、今まで読んできた作品の中で、最も純愛的なヒロイン『沙耶』がモデルです。



[25529] 第16話 新しい仲間“サリー”
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/04/23 16:59
 ルフィの必死の抵抗により、ラブーンの落書きを消すことをあきらめた私は、ラブーンを優しく見詰めているクロッカスに近づいて、声を掛ける。

「さて、約束通り、アラガミについて、貴様が何を知っているか、話して貰おうか」
「…よかろう」

 ラブーンの落書きを見つめていたクロッカスが私に振り返る。
 その表情は、非常に険しいものだった。

「私もお前に見てもらいたいものがある。小屋まで一緒に来てくれ」

 クロッカスは灯台のすぐ傍にある小屋へと歩き出した。
 私以外の皆は、メリー号の修理や航海の計画の立案などで忙しそうなので、私1人でクロッカスの後について行く。

「私が船医をしていたことは話したな。アラガミに出会ったのはその期間だ。私のいた海賊団は、ある時、激しい戦闘の末、奇怪な島に漂着した。不思議な島だった。陸地のほとんどが金属で構成され、内部には無数の機械が存在し、そのどれもが考えられないくらい高度な技術で作られていた。私も多少機械の知識があったが…起動すら出来無かった」

 歩きながら、クロッカスが話を始める。
 私はそれを黙って聞きながらついて行く。

「船は修理が必要だったので、その島にしばらく滞在するより他無かった。だが、それは私に…いや、その海賊団にとって、過酷なものとなった」

 クロッカスの表情が、更に険しさを増す。

「島に滞在してすぐに、奇怪な生物達に襲われた。鬼を模した仮面のようなものを付けた獣、卵に巨大な一つ目と人間の女の身体を張り付けたような不気味な浮遊物…そんな奴らに一斉にな。正直、あの時ほど死を身近に感じたことは無い」

 クロッカスが目を瞑る。
 当時の恐怖を思い出したのか、手がブルブルと震えている。

「本来なら、死んでいるはずだがな」

 特徴を聞くに、最下級のアラガミのようだが、抵抗する術を持たぬ者にとっては関係ない。なすすべもなく喰われるのが普通だ。

「まあ、海賊団の船長や幹部がそれ以上の化物だっただけの事だ。瞬く間に全ての敵を斬り伏せてしまったよ」

 …は?

「馬鹿な。先ほど貴様も見たように、アラガミに通常の武器など、意味を為さん」
「ああ。実際、普通の戦闘員の攻撃は、全く意味をなさなかった。私は彼らから聞いただけなのだが、“覇気”と呼ばれるものを纏わせた攻撃で、アラガミに有効打を負わせたらしい」
「覇気?」
「この世界の誰もが持っている力らしいが、詳しくは解らん。当時の私はあまり興味を持たなかったからな。深くは訊かなかった」

 アラガミを構成するオラクル細胞は、強固な結合力と捕喰能力を併せ持つ。
 同じオラクル細胞以外でこれを破壊するとなると、純粋な破壊力を非常に高いレベルで与えなければならない。
 古代の兵器ですら為しえなかったことを、個人が出来るとは考えられないが…

「お前は物事を理解してから行動に移す性分のようだが、この世界には頭でいくら考えても理解の出来ない現実があると憶えておけ」

 考え込んでいた私に、クロッカスが自身の経験をもって、アドバイスをくれた。

「…憶えておこう」
「特に、このグランドラインでは疑うべきは自分の常識。お前の性分も大切だが、時には直感で行動した方が良いこともある。…さて、中に入ってくれ」

 話している内に小屋についた。クロッカスはドアを開けると、中に消える。
 私もそれに従い、ドアを潜った。

 中は小ざっぱりとしていて、あまり生活臭を感じない。常日頃から、ラブーンの体内の小島で過ごしていたのだろう。それだけ、ラブーンがレッドラインに頭をぶつける頻度は多かったことがうかがえる。

 無駄な物の無い部屋の中で、異彩を放つ物があった。
 平たい形をした両刃の刀身と、チェーンソーの動力部分が融合したような奇妙な形の剣。何十回と傷を負わされたこれを、忘れようはずもない。

「これは………“神機”」

 小屋の壁に掛けられているのは、間違いなくゴッドイーター達が使う武器、神機だ。

「見せたいものがどれか指し示す必要も無かったか。これは先ほど話した島で見つけたものだ。船長達以外で、唯一アラガミに傷を付けた船員が持っていた」
「…その船員、無事ではなかろう」
「ああ。アラガミに傷を付けた直後、この剣から黒い触手が伸びて、剣を持っていた右腕に巻き付き、侵食を始めた。船長が咄嗟に斬り落としていなければ、命は無かっただろう」

 神機はオラクル細胞が組み込まれた、対アラガミ兵器。ゴッドイーター達でさえ、自分用に調整された神機以外を使えば、オラクル細胞に侵喰され、喰われる。

「こんなもの、本当はすぐに捨ててしまいたかったが、当時は伝染病の類か何かと思っていてな。治療法を見つけるためのサンプルとして、持ち帰ってきた」
「その船員に起こったことは伝染病の類ではない。安心しろ」
「そうか。…最後になるが、その島で船の修理を終えるまでの間、船長達は島の内部を何度か探索したようだ。船で怪我人を見ている私に、良く土産話をしてくれたよ。アラガミという呼称と形状を知ったのはその話からだ。先ほど出会った怪物も話で聞いた通りの姿をしていた」

 グボロ・グボロクラスのアラガミも屠り去るか。
 クロッカスの話が本当ならば、この世界の強者と言うのは、ゴッドイーターか、それ以上の力を持つようだ。
あの鷹の目も、人間細胞が混じっていたとはいえ、私に大きな損傷を与えることが出来たしな。

 クロッカスの話が終わると、私は神機に歩み寄る。

「クロッカス。この神機を頂きたい」
「かまわん。元々伝染病の研究用として保存しておいたものだ。もう私には必要無い」

 クロッカスはあっさりと許可を出した。
 まあ、こんなものをいつまでも手元に置いておきたいとは思わんだろう。

 私は神機の柄を握る。すぐに黒い触手が私の腕に絡みつくが、自身の触手で、侵喰し返し、そのまま腕を捕喰形態に変化させて神機を喰らった。

「…一つ訊いても良いか?」
「なんだ?」
「何故、アラガミの私に敵愾心を抱いていない」

 クロッカスにとって、アラガミは仲間を襲った敵である。
 同族である私にも、負の感情を向けてくるのが普通ではないかと思うのだが…

「同じアラガミでも、お前と奴らは違う。こうしてしっかりと話をし、意思を交わし合うことが出来る時点で、私はお前と奴らを同じだとは思っていない。それに、これは船長の為し得なかった夢でもあるのだ」
「夢?」
「船長はアラガミと友達になりたいと言っていた。あのでっかい獣が強い、サソリみたいな奴は堅かった、デカイ腕を持つ奴はまるで人間の武闘家みたいだった、と目を輝かせていた。何度も仲間にならないかと誘ったらしいが、駄目だったようだな。島を出るとき、寂しそうにしていたよ」

 まるでうちの船長のようだな。

「…とりあえず、その船長が大物であることは理解できた」
「ハハハ、確かに大物だな。だが、その大物が出来なかった事をやり遂げた男がここにいる。いずれ、船長を越える超大物になるかもしれんな」
「フフフ、そうだな」

 クロッカスがあまりに上機嫌に笑うので、私も思わず、つられて笑ってしまった

「あーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 不意に、外からナミの叫び声が聞こえた。
 何かあったようだ。

「お前に話したいことは全て話した。行こう」

 私はクロッカスと共に、ナミの元へと向かった。



「何だようっせぇな」
「何事っすかナミさん!お食事の用意なら出来ました!」
「ふー、船の修理ちょっと休憩。お、メシか」
「クキャ!」
「中々美味そうな匂いじゃねぇか」

 ナミの声を聞きつけ、皆も集まってきた。
 おお、今日の食事は私の大好物の魚料理か。………って、ちょっと待て。

「キャプテン、後ろにいる生物は何だ?」

 私は努めて冷静に、キャプテンの隣で浮遊する卵型の生物を指差す。

「応!ウソップ海賊団の新人だ!ほれ、お前も先輩のカリギュラに挨拶しろ」
「クキャ!」

 卵型の生物―――アラガミがキャプテンに従い、身体を45°に傾けて、私に会釈する。

「…キャプテン、どういうことか説明してくれ」
「ああ。最初からそのつもりだった」

 キャプテンはアラガミと出会った経緯を説明した。途中、メリー号の船首を喰わせたことを知ったルフィがキャプテンに掴みかかったが、卵型のアラガミに襲われ、喰われかけた。どうやら、本当にこのアラガミはキャプテンになついているらしい。

「このアラガミの名は“ザイゴート”。最下級のアラガミで、非常に優れた視覚を持っており、敵を見つけるとすぐさま他のアラガミを呼び寄せる性質を持つ。攻撃方法は主に溶解液や毒だ」

私が卵型のアラガミ、ザイゴートについて説明する
 
「こ、こいつもアラガミ?だ、大丈夫なんでしょうね?」

 ナミがザイゴートから距離を取る。

「本来は大丈夫なはずがない。アラガミはただ捕喰することを目的とする生命体。人間と共にあること自体、イレギュラーだ。ましてや、命令をきかせるなど、不可能と言って良い」
「でも、こいつは言うこと聞いてくれてるぜ。な!」
「クキャー!」

 キャプテンがザイゴートの頭を撫で、ザイゴートは嬉しそうに大きな目を細める。
 信じがたいが、ザイゴートにキャプテンが触れても、捕食されていない以上、その事実を認めるより他ない。
 …まさか、こんなにも早くクロッカスの言葉を実感することになろうとはな。まあ、我がキャプテンと言うことで納得しておくか。

「キャプテン。そいつを連れていくというのなら、目を離すな。キャプテンの命令には従っても、他の皆の命令に従うとは限らん。キャプテンのいないところで仲間が捕食されました等ということになったら、シャレにならん」
「応!任せろ!」
「ちょ、ちょっと!そいつ連れてく気!?」

 ナミはまだ不安なようだ。
無理もない。先ほどグボロ・グボロの凶暴性を目の当たりにしたばかりだしな。
他の皆は―――

「氷女やカリギュラと同族か…あんまり似てねぇな。ま、よろしく頼むわ」
「ちくしょう、お前おれの特等席食いやがって!代わりにお前の頭の上を特等席にするからな!」
「うーむ…この子をレディとして扱うべきかどうかが最大の問題点だ」

 ―――まあ、こういう奴らだったな。

「あんたらには危機感ってもんが無いのかァァァッ!」
「ナミ、あきらめろ。既に仲間に入ること前提で話が進んでしまっている。まあ、万が一の時は私が居る。お前に危害は加えさせんさ」
「うう…カリギュラの頼もしさに涙が出るわ」

 ナミが私の胸に顔を埋めてシクシクと泣く。

「カ、カリギュラちゃんの豊満な胸に顔を埋めるナミさん…!いかん、なんか目覚めそオ゛ッ!?」

 それを見ていたサンジから悪寒を感じたので、地獄突きを喰らわせた。

「さて、新たに仲間に加わった“サリー”の歓迎会も含めて、メシにしようぜ」

 上機嫌のキャプテンがイスに座る。ザイゴートもキャプテンのすぐ傍に高度を合わせて静止した。

「サリー?」
「ああ、こいつの名前だ。メリー号の船首を喰ったザイゴートってことで名づけた」
「…そうすると“ザリー”にならないか?」
「濁点を抜いて、語呂を良くしたんだ。女の身体も付いてるし、名前も女っぽい方が良いかと思ってな」

 名付けられたザイゴート本人は―――

「クキャキャキャーーー♡」

 ―――とても気に入ったらしい。
 
「よろしくなサリー!」
「やれやれ、また変なのが増えたな」
「さあ、サリーちゃん、腹いっぱい食ってくれ」
「…うーん、こうして見ると結構可愛いかも」

 皆はサンジがテーブルに置いた魚料理を囲んで席に着いた。
今更ながら、この一味の柔軟さには改めて感心させられるな。

「ところでナミ、お前さっきの叫び声はなんだったんだ?」

 私もイスの一つに腰かけ、サリーの登場で有耶無耶になっていたナミの叫びについて、本人に尋ねた。

「あ、忘れてた!」

 ナミは海図の傍に置いてあったコンパスを私に見えるように差し出した。
 コンパスを見ると、針がグルグルと回転しっぱなしで、本来の役割をなしていない。

「コンパスが壊れちゃったの!これじゃあ、方角が分からない」

 確かに一大事だ。この広い海で、方角が解らないまま航海するなど、自殺行為に等しい。

「お前達は、何も知らずにここへ来たようだな。呆れたものだ。命を捨てに来たのか?」

 事の成り行きを見守っていたクロッカスが、呆れた声を上げた。

「どういうことだ?」
「この海では一切の常識が通用しない。そのコンパスが壊れているわけではないのだ」
「…じゃあ、まさか磁場が!?」
「そう、グランドラインにある島々が鉱物を多く含むため、航路全域に磁気異常をきたしている。さらに、この海の海流や風には恒常性がない。お前も航海士なら、この恐ろしさが解るはずだ。何も知らずに海に出れば、確実に死ぬ」

 クロッカスがナミに重々しく告げる。
 方角が解らないだけでなく、どこに流されるかもわからない。この海の航海法を知らなければ、出航して1時間で遭難、そのまま天国という名の楽園へ直行と言うことか。

「し、知らなかった」
「おい、そりゃ拙いだろ!」
「うっさい!黙れッ!」

 グランドラインの航海に、最も重要な事を知らなかったナミをキャプテンが攻めるが、ナミに逆切れされていた。

「グランドラインを航海するには、“記録指針(ログポース)”が必要だ」
「ログポース?聞いたこと無いわ」
「磁気を記録できる特殊なコンパスの事だ」
「磁気を記録…ということは、ログポースは方角ではなく、磁気の流れを指すということか?」

 私の言葉に、クロッカスが頷く。

「そうだ。それゆえ、普通のコンパスとは異質な形をしている」
「こんなのか?」

 ルフィがクロッカスにガラス球の中にコンパスの針だけが浮かんでいる、奇妙な道具を見せる。

「そう、それだ」

………

「ログポースが無ければグランドラインの航海は不可能だ。まあ、グランドラインの外での入手はかなり困難だがな」
「話は解った。で、何故ルフィがそれを持っているんだ?」
「んグ?」

 私の疑問に、エレファント・ホンマグロを口いっぱいに頬張ったルフィが顔を上げる。
 …おい、エレファント・ホンマグロ残しておけよ?

「これはお前、さっきの変な二人組が落して行ったんだよ」

 あのアホめいた二人組か。

「ルフィ、ちょっと貸してくれ」
「ん」
「ナミ」
「うん、ありがと」

 私はルフィからログポースを受け取ると、ナミに渡す。
 我が海賊団の航海士に、ログポースの見方を心得て貰わねばな。

「…これがログポース。何の字盤もない」
「グランドラインに点在する島々は、ある法則に従って磁気を帯びていることが分かっている。先ほどアラガミ娘が行っていたように、島と島が引きあう磁気をログポースに記録させ、次の島への進路とするのだ」

 腕にはめたログポースを物珍しげに眺めるナミに、クロッカスが説明を行う。
 …アラガミ娘とは私の事か?一応、私に性別は無いのだがな。

「まともに己の位置すらつかめないこの海では、ログポースの示す磁気の記録のみが頼りとなる。始めはこの山から出る7本の磁気より1本を選べるが、その磁気は例えどの島からスタートしようとも、やがて引き合い、1本の航路に結び付くのだ。そして、最後にたどり着く島の名は………『ラフテル』。グランドラインの最終地点であり、その姿を確認したのは海賊王の一団のみ。伝説の島なのだ」

 クロッカスの説明が終わると、キャプテンが興奮したように声を上げた。

「じゃ…そこにあんのか!?ひとつなぎの大秘宝は!」
「さァな。その説が有力だが、誰もたどり着けずにいる」

 キャプテンの言を切って捨てるクロッカスに、ルフィがにやりと笑う。

「そんなもん、行ってみりゃわかるさ!」

 何ともルフィらしい言葉だ。
 さて…

「ルフィ、最後に言い残すことは無いか?」
「え?」

 豆鉄砲をくらったような表情を浮かべるルフィに、私は無言でテーブルの上を指す。

「うおッ!いつの間にか料理が全部無くなっとる!骨まで無ェし!」
「クキャ!?」
「テメェ、全部1人で食ったのか!?」

 キャプテンとサンジ、サリーが目を丸くしている。
 サリーは恐らく初めての御馳走で楽しみにしていたのにな。

 ジャキン

「―――!」

 ブレードを展開した私を見て、ルフィが後ずさる。

「安心しろ、命までは取らん。右腕1本で許してやる」

 その言葉を聞いた瞬間、ルフィが逃げ出そうとし―――

「グキャァァァァァァッ!!」
「痛でェェェーーーーーーーッ!」

 ―――サリーに頭から齧り付かれた。
 どうやら、私が思っていた以上に怒っていたらしい。

「サリー、喰うなら頭蓋骨までにしておけ。脳味噌まで行くとさすがに死ぬ」
「いや止めろよ!」

 うむ、やはりキャプテンのツッコミは最高だ。ゾロには是非ともこの域に達してもらいたいものである。

「よし、サリーちゃん、そのまま抑えといてくれ!」

 サリーに頭を齧られているルフィに向かって、サンジが駆け寄る。

「おのれクソゴム!おれはナミさんにもっと!カリギュラちゃんにもっと!サリーちゃんにもっと!―――」

 サンジは腰をひねり、加速と強靭な足腰から生まれる力を全て右足に凝縮させる。

「―――食ってほしかったんたぞコラァ!」
「うおッ!」

 サンジの強烈な後ろ蹴りが胴体を穿ち、ルフィはサリーを頭に付けたまま、水平に吹き飛ぶ。

パリン

「あ」

 あろうことか、吹き飛んだルフィがナミのログポースを掠め、大破させてしまった。
 ガラス球も指針も完全に壊れ、素人目にも修復は不可能だと解る。

「………」

 それを茫然と見ていたナミがゆらりと立ち上がる。
 そのままツカツカとサンジとルフィに近づき―――

「お前ら2人とも頭冷やして来ォーい!」

 サンジ顔負けの蹴りで2人…と1匹を海に叩きこんだ。
 おいおい、サンジともかくルフィは拙いんじゃないか?…まあ、こんなところでくたばるほど、可愛げがある奴らでも無いか。

「おい!そいつはすっげぇ大事なもんだったんじゃねぇのか!?」
「どうしようクロッカスさん!大事なログポースが!」

 キャプテンとナミは慌てふためき、クロッカスに縋りつく。

「慌てるな。私のをやろう。ラブーンの件の礼もある」

 クロッカス、中々に出来る男だ。

 ―――ドゴォン!

 ん?何か音がしたような…気のせいか?



 その後、ルフィ達が戻ってきたわけだが、何故か先ほど逃げた男女2人組も一緒にやってきた。
 2人が言うには、拠点へと帰るためのログポースを無くしてしまったので、一緒にそこまで言ってほしいとのこと。
 私は素性を訊いても「我が社の社訓は謎なんです。だから言えません」と抜かす怪しげな連中を船に乗せるなど以ての外だと進言した。しかし、ルフィの「いいぞ、乗っても」の一言で奴らの拠点、“ウイスキーピーク”に進路をとることとなった。

「ナミ、ログは溜まったのか?」

 ナミはクロッカスから貰ったログポースと海図を見比べる。

「うーん…まだね」
「ここのログはすぐに溜まる。長くてもあと1時間程度だろう」

 ふむ、丁度いい。

「ルフィ、サンジ、ナミ、キャプテン、お前達に渡したいものがある」

 私はつい先ほどまで体内で生成していたモノを渡すべく、皆を集める。

「肉か?」
「なに?」
「カリギュラちゃんからおれへのプレゼント!?」
「何だ、カリギュラ」

「皆に対アラガミ用の武器を渡したい」

 ルフィにはグローブとサンダル、サンジには靴、ナミには棍を模した武器を体内から取り出し、各々に渡す。

「おいおい、まさか氷女みたいに…!」

 今まで傍観していたゾロが慌ててこちらにやってきた。

「いや、これは氷女のような自我を持つほど高度なものではない。先ほどクロッカスから貰った古代の対アラガミ兵器“神機”を元にして作りだしたものだ。装備者へのオラクル細胞の侵喰を極限まで低くし、なおかつ私が持つ偏食因子を出来る限り埋め込んである。原理には色々と小難しい理屈があるのだが…お前達に言っても理解できまい」
「「「うん!」」」

 いや、胸を張られても困るんだが。

「簡単にいえば、この武器を使えばアラガミが殴れる。そう思ってもらえれば良い」

 私の説明が終わると、各々が武器を触ったり、装備したりし出した。

「へー、あの化けモンへの対抗手段をもう用意しちまうとは…さすがだ、カリギュラちゃん。色とか形もいつもの靴と同じで、なんだか何年も使ってるように馴染むぜ」
「うわ、見た目金属っぽいからもっと重いかと思ったけど、木製の棍より軽いかも」
「んー、おれはゴム人間だから、手袋とかはめても………スゲー!この手袋伸びるぞ!あとサンダルも!」
「お前達の長所を殺さぬように作ったつもりだ。ただ、私もそういう武器を作るのは初めてのことで色々と荒がある。また、その武器達は本当に簡易的なものだ。殴る蹴るは出来ても、アラガミを殺しきることは難しいと憶えておけ」

 はーい!というルフィ達の返事を聞き終えると、私は最後にキャプテンの元へと向かう。

「さて、キャプテンはこれだ」

 私は体内から細長い銃身を持つ、鋼色の銃を取り出す。

「お、おお…なんか凄そうな銃だな」
「………」

 キャプテンが恐る恐る私の持つ銃に触れる。
 それをサリーがじっと見つめている。心なしか、不機嫌そうにも見える。

「これはスナイパーライフルと呼ばれる古代の狙撃銃だ。狙撃において、今この世界に存在するあらゆる銃を凌駕する。狙撃手たるキャプテンにはうってつけだろう」

 キャプテンは銃を受け取ると、しげしげと銃を確かめる。

「弾は?」
「私のアラガミバレットを装填出来るようになっている。私が傍に居れば、補充は効く。さすがに、無限とはいかんがな」

 キャプテンに渡した銃は、私のオヴェリスクの劣化コピーのようなものなので、アラガミバレットも装填出来る。4人の中では、一番攻撃性能が高く、強力な武器だ。

「どうだサリー、かっこいいだろ!」
「………」

 キャプテンがスコープを覗きながら、サリーに銃口を向ける。
 それに対し、サリーは大きな目を藪睨みにし、明らかに不愉快と言った感じだ。

「クキャ!」
「あ!」

 しばらくキャプテンがサリーに銃を自慢していると、突然サリーが銃に喰い付いた。
 私が止める暇もなく、サリーは物凄い速さで銃を貪り、あっという間に喰い尽してしまった。

「おいサリー、どういうつもりだ」
「…クキャ」

 私が睨みつけると、サリーはぷいっとそっぽを向いた。

 ………

「…いいだろう。その喧嘩、買ってやる」
「ピキャ!?」

 私がブレードを展開すると、サリーは急いでキャプテンの後ろに隠れた。

「ま、待て待て!落ちつけよカリギュラ、サリーもたまたま虫の居所が悪かっただけだって。ごめんなサリー、お前の気持ちも知らずに見せびらかしちまって」
「クキャ~♡」

 キャプテンが私を宥めながら、サリーをよしよしと撫でる。
 サリーは嬉しそうに目を細めるが、キャプテンが見えない位置で私に勝ち誇った笑みを見せつけてきた。
 …本気で殺したい。

「だけど、おれだけ武器無しか…ま、新兵器を開発してなんとかするしかねぇな」
「クキャクキャ!」

 武器を喰われて落ち込むキャプテンに向かって、サリーが「自分に任せろ」とでも言うように鳴く。

「ん?「自分に任せろ」とでも言いたいのか?まあ、気持ちだけ受け取って―――」

 キャプテンが言葉を言い終わる前に、サリーに変化が起きる。
 サリーの身体が縮まり、卵の部分が圧縮され、ずっしりとした銃座へと代わり、女性体の部分は、先端のスカートの部分を銃口とする銃身へと変貌する。
 数秒も立たない内に、サリーは銃へと変形してしまった。サリーが変形した銃は、ふわりとキャプテンの手の中に収まる。

「な…な、なんじゃこりゃーーーー!ルフィ!ルフィ!サリーが銃に変形したァーーーッ!」
「マジか!」

 キャプテンはサリーが変形した銃を持って、グローブがどこまで伸びるか実験していたルフィの元へと駆けて行った。

「………馬鹿な」

 ザイゴートに変形機能など無い。まさか、私の銃を喰って、その情報を元に自身を再構成したというのか?
 …いや、私が作りだしたのはスナイパー系統の銃だ。サリーが変形したのはゴッドイーター達が扱う神機の中で、ブラスト系統に分類される銃に近い。過去にその系統の神機を捕喰したのか、それとも…

「お、おい!あれは何だッ!?」

 今まで存在をすっかり忘れていた2人組の男が海の方向を指差す。
 ルフィ達も含め、全員がそちらを向くと―――

「「「「「「「「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」」」」」」」」

「グボロ・グボロだな。しかも、大量の」

 沖の方から20匹近いグボロ・グボロがこちらへ猛スピードで向かってくるのが見えた。
 軍事運用が目的の研究施設に、グボロ・グボロが1匹しかいないというのは始めからおかしいと思っていたが…
あの研究エリアの他に、保管庫のようなものが別の場所にあったと考えるべきだな。

「冷静に言っとる場合か!どうすんだよ!」
「そ、そうよ!あんなにたくさん!」

 キャプテンとナミは腰が引けているようだ。まあ、これが普通の反応だな。

「うし!食われたサンダルの仕返ししてやる!」
「…よーし、あいつらをオロしたらカリギュラちゃんのためのアラガミ料理の実験台にしてやる」
(今日は腹いっぱい喰べられそうだな)
「食い過ぎて腹壊すんじゃねぇぞ」

 こっちが異常なだけで。

「どちらにしろ、倒さねばならん。ログが溜まるまでまだ時間があるしな。キャプテン、ナミ、腹を括れ。クロッカス、お前は小屋の中に避難していろ」
「分かった。お前が後れを取るとは到底思えんが、気をつけろよ」

 クロッカスは小屋へと足早に非難する。

「…やるしかないか」

 ナミが前を向き、棍を構える。なんだかんだ言っても、芯の強さは他の皆に引けを取らない。

「えーい、こうなったらとことんやってやる!サリーが変形したこの“ウソップ砲”で!」
「「「「「「「「うわダサッ!」」」」」」」」

 私も含めて全員から突っ込まれるキャプテン。

「失礼だぞテメェら!」
「………クキャ」

 キャプテンの持つ銃から小さな鳴き声が聞こえた。

「サリーも嫌みたいだぞ」
「すいませんでした」
 
 などとアホなやり取りをやっている内に、グボロ・グボロが次々に海から飛び上がってきた。

「ここは崖の上だぞ?なんて跳躍力だ」

 サンジが驚愕の声をあげる。
 ラブーンを狙わずに真っ直ぐこちらに向かってきたところを見ると、こいつらの偏食傾向は人間に傾いているらしいな。

「アラガミとはそういう生物だ。先ほども言ったように、皆に渡した武器はアラガミに対する殺傷性は低い。無理せず、弱らせたら私かゾロに―――」
「ゴムゴムの銃!」

 戦いの手順を伝えている最中に、ルフィが飛び出し、グボロ・グボロの一匹に一撃を見舞った。

「GU!?」

 グボロ・グボロは大きく吹き飛び、地面を転がる。すぐに立ち上がったが、牙が損傷し、明確にダメージを与えたのがわかる。

「おお!スッゲー!あいつぶっ飛ばせた!」
「んじゃ、おれも」

 次いでサンジが手近にいたグボロ・グボロの懐に飛び込み、胴体を蹴りあげる。

「GUGO!?」

 サンジの5倍はあろうかという巨体が宙に浮く。さらにサンジは飛び上がり、オーバーヘッドキックの要領で、空中に居るグボロ・グボロの顔面を蹴り飛ばした。
 蹴り飛ばされたグボロ・グボロの胴体には、はっきりとサンジの靴の跡が残っている。

「…クロッカスの言葉が、本当に身に沁みるな」

 人間に懐くアラガミ、そのアラガミが変形した銃、アラガミに触れられる程度の簡易武器でアラガミに有効打を与える人間。…理解が追いつかん。

「まあ、だからこそ面白い…!」

 私は向かってきたグボロ・グボロを切り払いつつ、直感で、心で感じるしかない出来ごとに胸を躍らせ、混成体へと変ずる。

 右ヒレを切り裂き、動きが鈍ったグボロ・グボロにブレードを突き刺し、そのまま捕喰形態に移行して、強引に内部のコアを喰い砕く。さらに、オヴェリスクからコキュートスピルムを放ち、射線上にいたグボロ・グボロをまとめて撃ち抜く。ラブーン体内でのグボロ・グボロ捕喰によって、また一段と修復が進んだようだ。やはり、同族は馴染むな。
 多数との戦いにおいて、最も重要なのは数を減らすこと。ゆえに、迅速に敵を処理していく。

「食らえ!新兵器ウソップキャノーン!…って、弾が出ねぇ!」
「GUAAA!」
「ギャアァァァァァッ!」

 少し離れたところで、キャプテンがサリーの銃を抱えながら、逃げ惑っていた。

 あ、キャプテンに弾を渡すのを忘れていた。

「キャプテン、これを」

 私は自らのエネルギーを結晶化させたビー玉大の物質を数十個キャプテンに投げ渡す。
 本来、神機の銃はオラクル細胞から作りだされるエネルギーを銃弾とするが、当然キャプテンにオラクル細胞は無いので、代用品が必要となる。
 それが、私が渡したアラガミバレットの銃弾。これを使えば、キャプテンでも強力な攻撃が出来る。

「これが弾か!」

 キャプテンは素早く銃弾を装填すると、追いかけてきていたグボロ・グボロ目掛けて引き金を引いた。
構造については一切説明していないのに、あれだけスムーズに装填出来るとは…キャプテンもまた、非凡な人間だな。
 轟音と共に二連轟氷弾が発射され、グボロ・グボロに炸裂する。砂と氷粒の煙が晴れると、顔面がボロボロになったグボロ・グボロが現れた。
 まだ戦闘は続行可能だろうが、あと2、3発撃ち込めば倒せるはずだ。

「こ、後頭部打った…!」

 だが、キャプテンは発射の衝撃で吹き飛ばされた際に、地面にあった石に頭をぶつけたのか、蹲って呻いている。…何故こうもこの人は落ちが付くんだ?

「ちょっとゾロ、ちゃんと守んなさいよね」
「テメェの身くらいテメェで守れよ!」
「か弱い乙女になんてこと言うのよ!野蛮人!」

 一方のナミは上手くゾロの後ろに隠れている。だが、隙を見つけては棍でグボロ・グボロを殴りつけ、ゾロが斬り刻む隙を作っている。口では罵り合っているが、しっかりと連携が取れていた。

(…早く死なないかな、この女)

 …?氷女が何か言ったような気がしたが、直後にグボロ・グボロが襲いかかってきたので、良く聞こえなかった。

「GUOOOOOO!」
「「ギャァァァァッ!」」

 グボロ・グボロを尻尾で締め殺していると、あの2人組が別のグボロ・グボロに襲われているのが視界に入った。

「く…ミス・ウェンズデー!下がっていろ!おれが何とか時間を稼ぐから、その隙に安全なところへ逃げろ!」
「Mr.9…!いいえ、私も戦うわ!私達はパートナーでしょ!?」

 ………

「くらえ!根性―――!」
「孔雀―――!」

 2人組が果敢にもグボロ・グボロと戦おうとしているが、普通の武器など無意味。このままではすぐに腹の中だ。

「………はあ」

 私はため息をつくと、片手に氷炎を作り出し、地面に叩きつける。
 氷炎は地面を伝って、2人組を襲おうとしていたグボロ・グボロの足元から噴き出し、一瞬で砕き散らす。

「な、何だ、化物が急にいなくなったぞ…?」
「ま、まさか、ミス・クリーチャーが?」

 この行動もまた、頭では理解できないものなのだろうな。
 私はグボロ・グボロの最後の1匹を喰らいながら、天を仰いだ。



「そろそろ良かろう。ログが溜まったはずだ。海図通りの場所を指したか?」
「うん大丈夫!ウイスキーピークを指してる」

 グボロ・グボロを一掃して少し休んだ後、改めて出航の準備に取り掛かった。
 ナミがログが溜まったことを確認したので、2人組を含めた全員が乗船し、いよいよ出航となる。

「いいのか小僧。こんな奴らのためにウイスキーピークを選んで。航路を選べるのは始めのこの場所だけなんだぞ?」

 クロッカスが再度ルフィに後悔が無いが確認する。

「気に入らねぇ時はもう一周するからいいよ」
「………そうか」

 何ともルフィらしい答えだ。

「アラガミ娘。お前も達者でな」
「ああ。お前もな」
「フ…」

 クロッカスが私を見つめながら、小さく笑む。

「どうかしたか?」
「いや、この場に船長が居たら絶対に「ずるい!おれも仲良くなりたい!」と言うと思ってな。思わず笑ってしまった」
「なんだそれは」

 訳がわからん。

「じゃあな、花のおっさん!」
「ログポースありがとう!」

 ルフィとナミがそれぞれクロッカスに礼を言う。

「行って来い」

 クロッカスの言葉と共に、船が岬を離れていく。
 そして、ある程度沖へ出ると、ルフィがラブーンに向けて叫んだ。

「行ってくるぞクジラァッ!」
「ブォォォォォォォォォォッ!」

 ラブーンの勇ましい咆哮に後押しされ、私達はグランドライン最初の航海に出発した。














【コメント】
 ちなみに、メリー号の船首は折れたままです。
 でもウソップなら…!ウソップなら次回までに何とかしてくれる!



[25529] 第17話 前夜祭
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/06/16 02:53
 双子岬を出航してからしばらく。
 私は甲板に出てグランドラインの風に当たっていた。
 頬に当たる雪の冷たさが何とも心地よい。先ほどまでいた双子岬は春のような陽気であったのに、出航して数刻で雪の降る冬の気候へと変わったのだ。
 これもまた、グランドラインの特性なのだろうか。

「おっしゃ出来た!空から降ってきた男、雪だるさんだ!」

 船にはすでにかなりの量の雪が積もり、ルフィとキャプテンは雪遊びに興じている。
 ルフィは手足に見立てた木の棒を刺した雪だるまを作成したようだ。

「はっはっはっは…全く低次元な雪遊びだな、テメェのは!」
「クキャー!」

 ルフィの雪だるまを見て、キャプテンとサリーが小馬鹿にしたように笑う。

「何!?」
「見よ、おれ様の魂の雪の芸術!“スノーサリー”だ!」

 キャプテンが雪で作り上げたのは等身大のサリーの雪像だ。
 女生体の細かい部分までしっかりと作りこまれ、色が真っ白なところ以外はサリーと見分けがつかない。

「クキャクキャクキャ!」

 自分の雪像を作ってもらったサリーは非常に上機嫌だ。

「うおお、スゲェ!よし、雪だるパンチ!」

 ルフィが雪だるさんの腕の付け根を叩くと、木の腕が勢いよく飛び出し、サリーの雪像に直撃した。
 憐れ、サリーの雪像はただの雪の塊になってしまった。

「何しとんじゃお「グッギャァァァァァァァァァッ!!!」」
「痛デーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 キャプテンが文句を言う前に、激怒したサリーがルフィの頭に齧り付く。
 こうなることくらい予想しろ、船長。

「ナミさん、恋の雪かきいか程に?」
「止むまで続けて、サンジ君」
「イェッサー♡」

 サリーを頭に付けたルフィのいる甲板より一段高いところで防寒具を着込んだサンジが雪かきをし、ナミや岬で乗せた2人組は船室の中で凍えている。
 この程度の冷気で凍えるとは…やはり、人間は脆い生物だ。
 それに引き換え、ゾロはいつもの腹巻スタイルで甲板に寝ている。雪が降り積もっているが、全く気になっていないようだ。
 順調にアラガミ化しているようで結構。

 何気なしに空を見上げると、雪が降りしきる中、空気を切り裂くような破裂音が聞こえた。

「雷か…あまり好きではないな」

 春の陽気、冬の寒気、そして稲妻。
 天候や気候にまるで法則性が無い。
 これがクロッカスの言っていたグランドラインの特性か…常識外れも良いところだ。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 突如、ナミの叫び声が響き渡った。

「な、なんだ!?どうした!?」
「何事っすか、ナミさん!」

 それを聞きつけた仲間達が集まってきた。

「180度船を旋回!急いで!」

 ―――?

「何故戻る必要がある?」
「違うのよカリギュラ!船がいつの間にか反転して進路から逆走してるの!」
「馬鹿な、波は静かなままだったぞ…!」
「でも、実際にログポースは真反対を示してるわ。私もカリギュラと同じように考えてたけど、これが現実よ」

 さすがはグランドライン。まだ最初の島にも辿り着いていないのに、これか。

「波に遊ばれてるな」
「あなた本当に航海士?」

 毛布にくるまった2人組がナミを嘲る。

「ここはこういう海よ。風も空も波も雲も何一つ信用してはならない。不変のものは唯一ログポースの指す方角のみ!おわかりかしら?」
「よくわかった。頭を出せ、喰い千切ってやる」
「わー!ウソウソ!調子こいてすいませんでした!」

 女の態度が気に入らなかったので、頭から喰らいついてやろうとすると、0.3秒で土下座を決められた。

「はあ………」

 …興が醒めた。

「貴様等も航海を手伝え。さもなくば、次こそ私の腹の中だぞ」
「「イエス、マム!」」
「…なんつーか、カリギュラには女王って言葉が似合うな。色んな意味で」

 ぽつりとキャプテンが呟いた。
 女王は他のアラガミの別称なのだがな。

「よし、じゃあまずはブレスヤード、右舷から風を受けて!左へ180度船を回す!ウソップ、三角帆を!サンジくん、舵とって!カリギュラ、あんたは飛べるから、周囲の警戒を!」
「応!」
「喜んで!」
「了解した」

 ナミの指揮の元、各自の役割を遂行すべく、私達は行動を開始した。



―――クークー

 ああ、カモメの声が耳に心地よい。
 あれから本当に大変だった。
 西からの風が吹いたと思った瞬間には東の風に変わるなど序の口。一寸先も見えない深い霧に、突如として進路上に現れる氷山など、まだ子供が考えた物語の方が現実味のあることが次々と起こった。
 それらの現象に対処するために私達は船中をかけずり回る破目になった。
あと、栄養補給のためにサンジが作ってくれた握りメシが美味かった。
 アラガミたる私はそうでもないが、人間には少々堪えるようで、ほぼ全員が大の字になって転がっている。
 だが、その甲斐あって、船は落ちついた気候の中を、ログポースの示す方向通りに航海している。
 ちなみに、ルフィは未だ修復されていない船首の代わりに、サリーの頭に乗ろうとしたようだが、振り落とされた上に怒ったサリーに追いまわされている。

「ん~~~…くはッ。あー、良く寝た。…ん?このありさまはどうしたんだ、カリギュラ」

 あれだけの騒ぎにもかかわらず、全く起きなかったゾロが伸びをしながら、海を眺めている私に話しかけてきた。

「…まあ、色々あってな」
「おいおい、いくら気候が良いからって、全員甲板に寝転がるたぁ、気を抜き過ぎだぜ?
ちゃんと進路はとれてんだろうな」

 お前…

「…そういや、名前なんつったっけ、お前ら」

 おもむろに立ち上がったゾロが、岬で乗せた2人組に詰め寄る。
 2人組はビクリと身体を震わせ、後ずさりした。

「ミ、Mr.9と申します…」
「ミス・ウェンズデーと申します…」

 目を逸らしながら答える2人に、ゾロは顎に手を当ててニヤリと笑いながらさらに詰め寄る。

「そう…どうもその名前を初めて聞いた時から引っ掛かってたんだ、おれは。どこかで聞いたことがあるような…無いような…」
「「―――!」」

 ゾロの言葉に、明らかな動揺を見せる2人組。

「まァ、いずれにしろ゛ッ!!?」
「…あんた、今までよくものんびりと寝てたわね。いくら起こしてもグーグーと…!」

 だが、良いところでゾロの尋問は、怒れるナミの頭部への強烈な拳骨で遮られてしまった。

(貴様―――!)
「やめろ、氷女」

 私は素早くゾロの隣に移動すると、ナミを斬りつけようと鞘から抜け出そうとした氷女の柄を押さえつける。

(やれやれ、仲間は殺さんと約束しただろう)
(私の主が殴られて、約束もクソもあるか!離せ、このクソアマをぶった斬ってやる!)

 なんだか口調がとんでもないことになっているんだが。

「ん?どうかしたのか、氷女」

 どうやら、ゾロには聞こえないように喋っているらしい。
 …ゾロが氷女の影響でアラガミ化しているように、氷女にも何らかの影響が出ているのかもしれんな。
 ま、今更どうこう出来るものでも無し。なる様になるだろう。

「ちょ、また氷女が勝手に動こうとしたの!?」
「ああ。しかもかつてないほどにご立腹だ。お前がゾロを殴ったのが余程気に入らないようだ」
「…言っとくけど、私は謝らないからね。悪いのはグースカ寝てたこいつなんだから」

 ナミはジト目でゾロを指差す。
 自分が斬られる可能性があるとしても、意見を曲げないのはさすがだな。

「チ…悪かったよ。ほれ、氷女も大人しくしろ」
(グ………主殿がそこまで言うなら)

 ゾロに説得されて、しぶしぶながらも大人しくなる氷女。
 本当、ゾロの言うことには素直に従うな。

「今やっとこの海の怖さをこの海の怖さを認識できた。グランドラインと呼ばれる理由が理解できた!この私の航海術が一切通用しないんだから間違いないわ!」

 いや、そんなに胸を張って言われても。

「大丈夫かよ、オイ」

 キャプテンは呆れかえっていた。

「大丈夫よ、それでもきっとなんとかなる!その証拠に…ホラ!」

 ナミが見つめる先に、何やら大きな影が確認できる。

「1本目の航海が終わった」

 船が更にその影に近づくと、はっきりと島の全景が確認できた。
 島の内陸に、いくつもの巨大なサボテンのようなものがあるのが特徴的な島だ。
 あれがウィスキーピークか。

「島だぁ!でっけーサボテンがあるぞ!」

 いつの間にやら、サリーを振り切ったルフィが、ウィスキーピークを見て、歓喜の声を上げる。

「よかった、無事に着いた…!では、我々はこの辺でお暇させて頂くよ!送ってくれてありがとう、ハニー達」
「縁があったらいずれまた!」
「「バイバイベイビー!」」

 ウィスキーピークを確認するや否や、2人組は船の柵に飛び乗り、そのまま海に飛び込んでしまった。

「一体なんだったんだ、あいつらは?」

 キャプテンが呟くのを聞きながら、私はルフィに近づいて耳打ちする。

「どうする?今のうちに息の根を止めておくか?」
「ほっとけ!上陸だァーーーッ!」

 しかし、船長は島に上陸することで頭が一杯のようだ。
 …まあ、あの程度の奴ら、放っておいても問題は無いか。

「ば、化物とかいんじゃねぇか!?」
「ん?呼んだか、キャプテン」
「いや、オメェじゃねぇよ。それ以外の奴だ」
「クキャ?」
「氷女の事か?」
「だから違ぇつってんだろ!てか、よくよく考えてみれば化物多すぎだな、この一味…」

 はは、何を今更。

「ま、ここはグランドラインだ。カリギュラちゃん達以外にも、化物が居る可能性は十分ある」
「そしたら逃げだしゃいいだろ」
「あ、私としては是非ともその化物とやらを捕喰したいんだが」
「じゃあ、それで」
「いや、そこは逃げとけよ!」

 化物を捕喰しようとする私達に対して、キャプテンは逃げることを提案している。
 まあ、究極の安全策としてはそれが正しいのだが…喰いたいな、化物。

「いいえ、カリギュラの案で行きましょう」

 意外なことに、ナミが私の意見に同調した。

「珍しいな、お前が私の意見に同意するとは…あ、もしや」
「そう、このログポースにこの島の磁気を記録しなきゃ進みようがないのよ!それぞれの島でログの溜まる早さは違うから、数時間で済む島もあれば、数日滞在しなければならない島もある。むしろ、カリギュラ達が島にすむ化物達を排除してくれるなら、好都合よ」
「成程、例えそこが化物島でも、化物を全部倒しちまえば、安全だしな…カリギュラ隊員!最重要任務だぞ!」

 生態系がズタボロになるがな。
 …まあ、気にしない気にしない。

「まあ、とりあえず早く行こう!」

 ルフィは待ちきれないようだ。
 ちょうど真正面に大きな川があり、そこから内陸部に行けそうだ。

「川があるのに入らねぇなんて、おかしいだろ?」
「まー、あんたはそうだろうけど…」
「ルフィの言うとおりだ。行こうぜ、考えるだけ無駄だ」
「ナミさんのことはおれが守るぜ!」
「お、おいみんな聞いてくれ…!きゅ、急に持病の『島に入ってはいけない病』が」

 ほぼ全員が島に入ることに同意したが、キャプテンは煮え切らない。
 やれやれ、相変わらずなお人だ。

「覚悟を決めろ、キャプテン。万が一、化物がいても私が「クキャーーーッ!」」

 私の台詞を遮るようにして、サリーが鳴きながらキャプテンの胸の中に飛び込む。

「サリー…自分が居るから大丈夫だって言いたいのか?」
「クキャ!」
「はは、そうだな。今のおれにはお前がいるもんな。よーし!おれとお前のコンビネーションで、化物どもをブチ抜いてやるぜ!」
「クキャーーーー!」

 キャプテンに頭を撫でられつつ、またもやサリーが勝ち誇った笑みを私だけに見えるように浮かべた。
 …ザイゴートは菓子感覚でいけるんだよな。久々に喰うのも悪くない。

「…じゃ、入るけど、戦う準備と一応逃げ回る準備もしておいて」

 ナミの忠告を胸に刻みつつ、メリー号は川を進む。
 川に入った途端、船は濃霧に包まれ、川の両端すら視認できなくなってしまった。
 どうやら、この島は、霧が発生しやすい傾向にあるようだ。
 しばらくすると、微かに人間の匂いが漂ってきた。

(主殿、人間の声が聞こえる)
「本当か。おれには何も聞こえねぇが…」

「クキャ!」
「ん?サリー、お前何か見つけたのか?」

 氷女、サリー共に人間の存在を探知したようだ。
 ザイゴートであるサリーは視覚に優れ、氷女は聴覚に優れているらしい。
 …そういえば、私も最近妙に嗅覚が鋭くなった気がする。

「前方から人間の匂いがする。一人や二人ではない。どうやら、集落か何かがあるようだ」
「あーよかった。とりあえず、いきなり化物に襲われる心配はねぇわけだな」

 キャプテンが緊張を解いて、甲板に座り込む。

「安心するには少々早いぞキャプテン。私達は海賊だ。この島の人間達に攻撃を受けることも十分に考えられる」
(…その心配は無いようだ)
「何?」

 私の意見を否定する氷女の言葉の根拠を尋ねる前に、集落方面から歓声が上がった。

「海賊だぁッ!」
「ようこそ!我が町へ!」
「グランドラインへようこそ!」

「なんだ?化物どころか、歓迎されてるぞおれ達」
「どうなってんだ?」

 予期せぬ歓待に、戸惑うサンジとウソップ。

「海の勇者達に万歳!」

 川の両端に陣取る町人達の歓声を聞きながら、メリー号は川を進む。
 その一角に、若い女達の集団が居た。

「おお!か、可愛い子もいっぱいいるぜ!」

 案の定、サンジの目はそれに釘付けとなる。

「感激だぁ!」

「…やっぱ海賊ってのは皆のヒーローなんじゃねぇか?」
「うおおーーーーい!」

 おもちゃの剣を持った少年の歓声に、キャプテンは投げキッスで答え、ルフィも町人達に向かって手を振る。
 3人は早々とこの歓待を享受するつもりらしい。
 
「どう思う?」

 私はさりげなくアラガミ仲間達に問いかける。

(罠)
「クキャ」
「だろうな」

 サリーは鳴き声だけだったが、なんとなく意味は伝わった。
 まあ、罠ならば喰い破ればいい。アラガミらしく、な。



 その後、川岸に船を着けると、ウィスキーピークの町長、古代でいう中世の音楽家のような髪形をしたイガラッポイという男から、私達の話を肴に、宴を催したいと申し出があった。
 勿論、宴が三度の飯より…否、五度の飯と同様に大好きな我らが船長はこの申し出を快く承諾。
 半月と満月の境の月を湛える夜空の元、今まさに宴も酣(たけなわ)。
 キャプテンは自慢のウソ話を堂々と話し、サリーはそれを聞きながら家具を片っぱしから喰い散らかしている。サリーの偏食傾向は無機物に偏っているようだ。
ゾロとナミは酒飲みの勝負で連戦中。相手にされない氷女がちょっとすねている。
 ルフィはひたすらメシを喰い、サンジは女を口説く。
 
「やれやれ、何とも個性あふれる連中だ。あ、後50人前追加だ」
「ご、ごじゅ…!うーん………」
「10人目のコックが倒れたーーーッ!ば、化物か、あのネェちゃん!?」

 はい化物です。

「あ、あの細い身体のどこに入ってんだ!?」
「そりゃ当然あの豊満すぎるおっぱウゴッ!」

 急に割り込んできたサンジがウザかったのでとりあえず米神に肘をくれてやった。

 それからしばらくして、騒ぎ疲れたのか、仲間達は皆、そのまま眠りに落ちて行った。サリーも例外ではなく、キャプテンに身体を密着させるようにして、大きな目を閉じている。
アラガミに睡眠など不要なはずだが…まあ、サリーはキャプテンに懐いているからな。猫が飼い主に擦りつくのと同じことかもしれん。良く見ると幸せそうに女生体をこすりつけているしな。

「…暇だ」

 それに対し、私はほぼ完全に修復を終え、アラガミとしての機能を取り戻しているため、全く睡眠欲を感じない。
 一緒に騒いでいた町人達も、いつの間にか姿を消していた。まあ、何のために消えたのかは大体予想が付くが。
 何にせよ、1人でいると気が滅入ってくる。ただのアラガミだった頃はこんなことを考えることすらなかったが…意外と堪えるものだな。
 何か気晴らし出来るものは無いかと、辺りを見回すと、サンジの煙草がテーブルの上に置きっぱなしになっているのが目に入った。
 確か、人間にとって、煙草は合法的な麻薬だったと記憶している。自らの身体をボロボロにしながらも、快楽を求める。何とも人間らしい創造物だ。

「…物は試しか」

 私は煙草を1本手に取ると、口に咥え、隣にあったマッチで先端に火を点ける。
 程無くして、口の中に紫煙が広がり、それを肺(に似せた器官)に吸い込む。そして、ため息をつくように外へと吐き出す。

「…不味い。それに臭い」

 だが、不思議と癖になりそうだ。
 1本目を吸い終わり、2本目の煙草に火を点けたところで、建物のドアがゆっくりと開き、そこから火薬と生肉の匂いが漂ってきた。

 ―――さあ、メインディッシュの時間だ。





「騒ぎ疲れて眠ったか…」

 月が照らす中、1人の男が夜空を見つめる。

「良い夢を…冒険者よ…今宵も、月光に踊るサボテン岩が美しい…」
「詩人だねぇ………『Mr.8』」

 そんな男に声を掛ける人影が2つ。
王冠を被った男と水色の髪のポニーテイルの女。紛れもなく、島に着いた直後にメリー号から脱出したMr.9とミス・ウェンズデーである。

「君たちか」
「やつらは?」
「堕ちたよ………地獄へな」

 ウィスキーピーク町長イガラッポイの裏の顔、それがMr.8。

「失礼、少々席を外させていただきます。ごゆっくりどうぞ」

 宴の会場の建物から出てきた大柄なシスターが、先ほどの3人の元に歩み寄って来る。

「…ウップ、良く食う、良く飲む奴らだわ…こっちは泡立ち麦茶で競ってたってのに…!」

 麦茶でパンパンに膨れ上がった腹を摩りつつ、愚痴をこぼす。

「しかし、わざわざ“歓迎”をする必要があったのかねぇ。あんな弱そうなガキ5人と女1人、あとペットが1匹」
「ミス・マンデー」

 シスターが法衣を脱ぐと、そこには筋骨隆々の大男にも負けないほどの逞しい肉体があった。
この大柄の女性こそ、Mr.8のパートナー、ミス・マンデーである。

「港で畳んじまえば良かったんだ。ただでさえ、この町は食料で困ってるんだからね」

 ミス・マンデーはMr.9ペアを見てため息を一つ。

「…どうせクジラの肉も期待してなかったし」
「そう言う言い方って無いじゃないのよ!」
「そうだぞ!我々だって頑張ったんだ!」

 それに対し、Mr.9ペアは抗議の声を上げる。

「まーまー、落ちつけ、とりあえず」

 それをMr.8が抑える。

「奴らについてはちゃんと調べておいた」

 そして、満面の笑みを浮かべるルフィの手配書を仲間達に見せた。

「「「さ、3000万ベリー!?」」」

 その手配額に驚愕する3人。

「海賊どもの力量を見かけだけで判断しようとは、愚かだな。ミス・マ゛ン゛…べ………マ~~マ~~♪ミス・マンデー」

 どうやらこの男、名前通り、イガラッポイらしい。

「あいつらが…」
「め、面目ない…」
「…だがまァ…もう方は付いている。社長(ボス)にも良い報告が出来そうだ」

 Mr.8はいつの間にか集まっていた町人達に指示を出す。

「早速船にある金品を押収し、奴らを縛りあげろ!殺してしまうと3割も値が下がってしまう。政府は公開処刑をやりたがっているからな」
「あの…」

 Mr.8の指示に従って、町人達が動き出す…前に、1人の手が挙がった。

「なんだ」
「海賊達の中で、カリギュラってのがまだ眠って無いんですが、そちらの方は?」
「奇襲を掛けて一番最初に捕縛しろ。人質を取っても構わん」
「わかりました」

 町人達は各々の配置に付く。
 Mr.9とミス・マンデーが自分配置へ移動を開始したとき、Mr.8がミス・ウェンズデーの耳元で囁いた。

「…ビビ様、お耳に入れたいことがございます。このまま人目の付かぬ所に」
「…!解ったわ、イガラム」

 どうやらこの2人にはさらに別の顔があるらしい。
 
 他の仲間に気付かれぬよう、建物の陰に隠れながら、Mr.8は先ほどとは違う手配書をミス・ウェンズデーに見せる。

「こ、これは…!」
「はい、あの海賊達の副船長『人喰らいのカリギュラ』のものです。訳あって、他のもたちには見せませんでした」

 ミス・ウェンズデーは不気味な赤光を放つ左目を持つ女の手配書を持ちながら震える。

「い、1億ベリーって…あいつの懸賞金額よりも高い…!」
「はい。ゆえに、我々が束になっても敵わないことは容易に想像が付きます。政府が掛けた懸賞金に対する危険度は、正確ですから」
「ここまで来て…こんな化物と出会ってしまうだなんて…どうしよう、イガラム。こうなったら、このままアラバスタへ逃げる?」
「いけません。任務を放棄すれば、アラバスタに付く前にこの組織からの刺客が押し寄せてきます。もし、オフィサーエージェントが来た場合には…情けないですが、貴女をお守りすることは出来ない」

 Mr.8は自分の不甲斐なさに、唇をかみしめる。

「進むも地獄、退くも地獄ってわけね…ク!」
「いえ、光明はあります」
「―――え?」

 Mr.8の意外な言葉にミス・ウェンズデーは間の抜けた声を出してしまった。

「恩を売るのですよ、人喰らいに。貴女の報告では、双子岬で謎の危険生物と出会った際、人喰らいが助太刀をしたとか。その話が本当ならば、ある程度の義理人情を持ってはいるのでしょう…あくまで可能性ですが」
「で、でも、恩っていったって…」
「あるではないですか。今、この状況ですよ」

Mr.8の言葉に、ミス・ウェンズデーはハッと気付いた。

「なるほど、私達で彼らを助けるのね」
「はい。戦っているところに助太刀、万が一捕縛出来たならば、我々2人で助け出します。そして、我々の素性を話し、アラバスタまでの護衛を依頼するのです。相手は海賊ですから、それなりの金額を要求されるでしょうが、祖国のためと思えば安いものです。特に副船長のカリギュラは奴を超える賞金首。その強さは頼りになるでしょう」
「そうね。これが、今の私達にとれる最善の手段。私達は、何としてもこの情報をアラバスタへと持ち帰らなければならない」

 ミス・ウェンズデーの瞳には、強い意思の光が浮かんでいる。

「その通りです…さて、これ以上ここにいては拙い。私達も持ち場に…」

 ―――ギャァァァァァァァ!

「な、何!?」
「海賊達が居る建物の方です!」

 Mr.8とミス・ウェンズデーは悲鳴の聞こえた方角へと走る。
 そして、そこで見たものは―――

「…数は多いな。だが、質はコレと大差なさそうだ」

 人の腕を貪る青い女と

「フーッ、フーッ…グルルルルル…!」

 巨大な一眼に殺意を滾らせる異形と

「だー!落ちつけ氷女!ちゃんと食わしてやるから、ちょっと我慢しろ!」

 蒼刀に怒鳴る剣士の姿だった。

「イ、イガラム…!」

 いくら強い意思とて、それを超える恐怖に直面すれば、陰るもの。
 ミス・ウェンズデーは震える声で、しかし他の仲間に聞こえないようMr.8に話しかける。

「…ビビ様、やはり、こ奴等を倒すしか道は無いようです。『人喰らい』…よもや、そのままの意味とは。とてもではないが、貴女の護衛が出来るとは思いません」

 人を喰らう化物に、自らが守るべきものを預けるなど、出来ようはずもない。
 打ち倒さなければ、あの化物達を。
 例え、この身が朽ち果てようとも!

「ご安心を。貴女は必ず、守り抜いて見せます」

 悲壮な決意を固めるMr.8。
 その姿は、裏組織に身を置く者というより、高貴な者を守る守護騎士に見えた。

















【コメント】

 まずは謝罪を。すいません。
かなり間が空いてしまいました。
遅れた理由は次の通りです。

1.仕事が忙しくなった。
2.転勤になった。
3.ちょっとユイドラを救っていた。
4.ちょっと神室町を救っていた。
5.ボルグ・カムラン堕天(雷)を狩っても、雷騎神酒がなかなか出なかった。

 次回からも更新ペースが落ちると思います。すいません。



[25529] 第18話 カルネヴァーレ(1) グロ注意
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/06/21 00:07
グロ注意!
 色々とバイオレンスな回です。
 苦手な方はすぐに引き返してください。
 
 大丈夫だと言う方はこのまま↓へどうぞ。



































ギィっとわざとらしく音を立てて入口の扉が少し開く。
 扉の外には複数の人間の匂いがするが、誰一人として踏み入ってはこない。

(…背後の窓の傍に人間の匂いが3つか)

 なるほど、正面は囮で本命は―――

「もらったァッ!」

―――背後からの奇襲か。
窓の割れる音と共に男の声が聞こえた。
私はソファに凭れかかったまま、首を限界まで逸らし、逆さまに男を見る。
そして、男目掛けて火が付いたままの煙草を吹き出した。

「熱ィ!?」

 煙草は見事男の右目を焼いた。
 宙に浮いたまま、咄嗟に目を庇った男を、背もたれを軸にして一回転するように蹴り飛ばす。
 ゴキリと男の首から鈍い音がして、そのまま向かいの建物に突っ込んで動かなくなった。
 私はそのままソファの後ろに着地するとコキコキと首を鳴らす。

「な、何だ!?」
「何か吹っ飛んでったぞ!?」

 残りの奇襲組が蹴り飛ばした男に注意を逸らす。

「敵から注意を逸らすとは、余裕だな」
「え?」
「は?」

 私は一気に注意を逸らした男達に接近し、両者にブレードを突き刺す。
 男達が間抜けな声を上げるのを聞きながら、ブレードを引き抜くと、真っ赤な鮮血が吹き出し、私に降り注ぐ。
 髪や衣服に掛かった血液は、まるで乾いた土に水が染み込むかの如く、吸収される。
 私を構成するオラクル細胞が、貪欲に捕喰活動を行っている結果だ。

「…不味い。やはり弱者は口に合わんな」

 そう呟いた瞬間、入口の扉が勢いよく開かれ、ドタドタと数十人の男女が家の中に入ってきた。
 どうやら、奇襲が失敗したのを悟って、物量戦に切り替えたらしい。
 人間相手であればある程度有効だろうが、私には悪手だ。

「やっちまえ!」

 男の掛け声と共に、一斉射撃が開始された。
 私はコートを盾にし、銃弾を受け止める。

「バカが!そんな布切れで銃弾が…?」

 一斉射撃が終わっても、私のコートには穴一つない。
 このコートも私の一部。つまり、オラクル細胞である。鉛玉程度で傷など付かないどころか、捕喰してしまう。
 …物凄く不味いが。
 実のところ、身体で受けても問題は無いのだが、僅かながら痛みがある。
 アラガミとて、痛覚はある。古代において、あの女にブレードを砕かれた時は本当に痛かった。

「…豆鉄砲以下だな」
「―――!ぶっ殺せーーー!」

 陳腐な挑発だが、効果は抜群のようだ。
 逆上した襲撃者達は、半数が鈍器や刃物による接近戦、残りが銃での遠距離攻撃を仕掛けてきた。

「やれやれ、いくらなんでもその選択は無いだろう」

 私は一番に接近戦を挑んできた男の斬撃をかわし、両腕を斬り落とした。

「ギ―――!?」

 男が悲鳴を上げる前に口ごと頭を鷲掴みにして、盾にする。

「―――!!!!!!!!!!!」

 憐れ、男は仲間の斬撃、打撃、銃撃を一身に受け、ボロ雑巾になってしまった。
 さらに、肉盾から武器を引きはがそうとしている者どもを、肉盾ごとブレードを薙いで真っ二つにする。

「う、うわァァァァッ!!」

 仲間が次々と斬り殺されるのを見て、半狂乱に陥ったのか、銃を持った襲撃者達は、銃を乱射し始めた。
 私はコートを盾にしながら一気に襲撃者達に接近し、一人の男の首筋に喰らい付いた。

「ギ…ゴボボボボ…!」

 私の歯が気道を押しつぶし、破れた動脈から流れ出た血液が男を陸に居ながら溺れさせる。さらに顎に力を込めて、歯を完全に閉じると、ボトリと男の首が床に落ちた。

「フフフ…」

 自然と笑みが零れる。ああ、やはり狩りはこうでないとな。

「ば、化物…」

 襲撃者の1人がそう呟いた。

「…Yes.I am creature.化物に挑んだ愚か者の末路は語るべくも無し」
「に、逃げ―――!?」

 一目散に逃げ出そうとした女の心臓を氷槍が貫く。
 女は氷槍が貫いた部分から凍結して行き、全身が凍りつくと、砕け散った。

「貴様等が望んで私に牙を剥いたのだ。今更逃げることは許さん。皆、悉く死ね」

 襲撃者達は皆、女だったものの氷片を茫然と見つめている。
 
 「へへ…」

 そんな中、ふと1人の男が米神に銃口を当てたかと思うと―――

 ―――バン

「………ヒヒヒ…」

 他の者たちもそれに続く。

 ―――バン
 ―――バン
 ―――バン
 ―――バン
 ―――バン

 …詰まらん結果だ。

「そこまでだ!この化けモン!」

 銃で自らの脳天を撃ち抜いた襲撃者達にため息を付いていると、後ろから怒鳴り声が聞こえた。

「…ほう、中々気骨のある奴もいたようだな」

 振り向くと、キャプテンの長鼻を握り締め、ナイフを持った男が鬼気迫る表情でこちらを睨みつけていた。
 私が襲撃者達の自害を眺めている隙に、キャプテンを人質にとったらしい。

「おれは…きゃぷて~んウソップ…zzz」

 というより、起きろよ、キャプテン。

「うるせぇ!この長鼻の命が惜しかったら、大人しくしろ!」
「…わかった。私は大人しくしよう。私は、な」

 キャプテンが危害を加えられて、奴が大人しくしているはずがない。

「何言ってやがる!」
「取った人質が拙かったな。せめて、そこの麦わらかステキ眉毛にしとけばよかったものを…」

 そこまで言って、男の背後に血走った巨大な一眼が見えた。

「…まあ、もう遅いか」
「だから、何言―――」

 男はそれ以上言葉を発しない。否、発せない。
 なぜならば、たった今、首から上が無くなったからだ。

「グルルルルルル…グルァァァァッ!!!」

 男の頭を喰いちぎった物体―――サリーはまだ怒りが収まらないのか、残った首から下に何度も体当たりを繰り返す。
 男の身体がただのミンチに変わったころ、ようやくサリーは体当たりをやめた。

「ベッ!」

 サリーが口から何かを吐き出す。
 近寄って確かめてみると…やはり肉塊。
 ふむ、肉は喰わずに骨だけ喰らったようだ。無機質を好むサリーらしい。
 …味は悪いが、勿体ないので処理しておく。

「フーッ!フーッ!」

 男を殺しても、サリーは未だ興奮状態にある。
 放っておけば、外へ出てこの町の住人を皆殺しにするだろう。

「やれやれ、おれの出番は無かったか」
「ゾロ…お前、起きてたのか?」

 テーブルに突っ伏していたゾロがムクリと顔を上げた。
 酒臭いが、その顔に赤みは無く、意識ははっきりしているようだ。

「剣士たる者、いかなる時も酒に呑まれるようなバカはやらねぇもんさ」
(さすがは主殿。どこぞのホラ吹きとは格が違うな)

 氷女がゾロを褒め称え、キャプテンを蔑む。

「おい氷女、いくらなんでも言い過ぎ「グギャーーーッ!」」
「うお!」

 突如、サリーがゾロ…否、氷女に牙を剥いた。
 ゾロは素早く氷女を抜刀すると、サリーの牙を受け止める。
 …まさか、氷女の言葉がわかったのか?

「サリー、いきなり何しやがる!」
「グルルルルル!」
(貴様…!)

 このままでは仲間割れで両者とも手痛い被害を被るな。

「そこまでにしておけ、馬鹿ども」

 私は両腕を原型に戻すと、氷女とサリーを強引に引きはがし、左手で氷女を、右手でサリーの女性体頭部を鷲掴みにする。
 そして、両者が潰れない程度に加減して力を込める。

「グギギギギギギギ!?」
(グ…や、やめろ…創造主…!)

「1.サリーはどうやら氷女の言葉を理解できる。
2.サリーは現在興奮状態。
3.氷女のキャプテンへの悪言でサリーが怒った。
というのが現在の状況だ。殺し合いで決着を付けるのも悪くは無いが、今は敵陣の真っただ中だ。
仲間達に危険が及ぶ。殺り合うならここを切り抜けてからにしろ」

「グ…ギギギ…!」
(この…化けモンが!)
「………」

 私は無言で両手に力を込める。

「…返事は?」
「クキャ!」
(わ、分かりましたッ!)
「よろしい」

 私は両者から手を放す。
 サリーはフラフラと蛇行し、氷女は少々歪んでしまったようだが、問題無いだろう。

「おい、氷女を歪めんなよ!刀は少しの歪みが致命的なんだぞ!?」
「問題無い。そこの死体に氷女を突き立ててみろ」

 私の言葉に従って、ゾロは近くに転がっていた死体に氷女を突き刺す。

(う、不味い…だが、このままでは主殿に迷惑がかかってしまう。我慢我慢…)

 氷女はブツブツ文句を言いながらも、死体から肉を喰らう。
 すると、氷女の歪んでいた刀身が徐々に治り、死体が白骨化する頃には、完全な形を取り戻していた。

「…スゲェな。本当に元通りになりやがった」

 ゾロが驚嘆の眼差しで氷女を見つめる。

「通常、刀と言うものはどんな名刀であれ、斬り続ければ劣化する。しかし、アラガミたる氷女は斬れば斬るほど切れ味を増す。また、人を切ったときの血や油も瞬時に吸収するため、それらを要因とする切れ味低下も抑えられるぞ」
「正しく理想の刀だな。あとは、おれの腕がお前にふさわしくなるよう、修行あるのみだ」
(そ、そんな…主殿はもう充分に私にふさわしいお方だ)

 なんか甘ったるい空気が。

「ぺッ」

 サリーはそんな氷女を半目で見つめながら唾らしきものを吐いた後、氷女の残した骨をボリボリと喰らい始めた。
 私も近くに落ちていた右腕を掴み上げ、指に齧り付く。

「さて、これから打って出ようと思うが…キャプテン達も起こすか?」

 ルフィ達は未だにグースカ寝ている。
 もうこれは神経が太いとかいうレベルではない。

「いらないんじゃねぇか?おれ達4人で十分だろ」
「…それもそうか。人間であるキャプテン達は昼間の航海で疲れているだろうしな」
「おい、おれも人間なんだが?」
「は?」
「くきゃ?」
(主殿、その冗談はちょっと無理がある)
「………」

 私達の総突っ込みで、ゾロがちょっとへこんだ。

「でだ、外の敵の処理はどうする?正直、ここの奴らは弱過ぎて不味い。あまり積極的に喰う気が起きんのだ。殲滅しろと言うのならやるが…」
「なら、おれにやらせてくれ。きちんと氷女と鬼徹の調子を確かめたい」

 ゾロが腰に差している氷女と鬼徹という刀の柄に手を添えながら発言する。

「クキャクキャ!グルルルルルル!」

 サリーも殺る気のようだ。

「決まりだな。サリーとゾロがオフェンス。私がディフェンスだ」

 私はテーブルに置いてあった煙草の箱を取ると、二階への階段へ向かう。

「―――!」

 と、ここで屋上から侵入してきた敵と鉢合わせ。

「くら―――!」

 声をあげられる前に右手で男の口を塞ぎ、がっちりと頭を握ると、そのまま引きずっていく。
 男は私の手を引きはがそうとしているが、悲しくなるくらい力が弱い。もはや、憐れみすら憶える。

「どうすんだ、それ」
「戦いの開始には、ゴングが必要だろう?」

 ゾロにニヤリと笑いかける。

「………怖ぇよ」
「クキャ…」
(ガタガタブルブル…)

 何故か引かれた。

「…とりあえず、屋上に上がって耳目を集めるぞ」

 私達は未だ幸せな夢の中にいるキャプテンたちを後目に、屋上へと向かった。



 屋上へ登ると、私は早速男の右腕を斬り落とし、口を押さえていた手を放して悲鳴を上げさせた。
 男の悲鳴が十分に響いたところで、左腕を捕喰器官に変化させ、喰らい尽くす。
 後は屋根の縁に腰かけ、待つだけだ。
 斬り落とした男の腕を齧っていると、悲鳴を聞きつけた連中が集まってきた。
 ざっと100人といったところか。見た顔もちらほら。
 その中で、ミス・ウェンズデーとイガラッポイが何やらヒソヒソと話していたが、私には聞き取れなかった。氷女ならば、聞き取れたかもしれない。

「悪りぃんだが、あいつら寝かしといてやってくれるか。昼間の航海でみんな疲れてんだ」

 ゾロは氷女を左手に掲げつつ、下にいる連中に話しかける。
 何やら言いたいことがあるようなので、私はすぐに襲いかかろうとしていたサリーを制止させた。
 先ほどの説得が効いたのか、今度は素直に従った。まあ、眼は大分反抗的だったが。

「ミ、Mr.8!ミス・マンデー!へ、部屋の中は…さ、惨劇で…ウゲェ…!」

 先ほどまで私達のいた部屋を確認してきた男が報告と同時に胃の中のものを戻した。
 人間には少々キツイ光景だったか?

「貴様等………!」

 イガラッポイ…否、Mr.8は苦々しげに私達を睨みつける。

「つまり、こういうことだろ?ここは“賞金稼ぎ”の巣。意気揚々とグランドラインへやってきた海賊達を出鼻からカモろうってわけだ…!
 賞金稼ぎざっと100人ってとこか、相手になるぜ『バロックワークス』」

「―――!き、貴様!何故我が社の名前を…!?」

 ゾロがバロックワークスという言葉を発した途端、Mr.8達に動揺が走った。

「何だ、バロックワークスとは」
「昔おれが賞金稼ぎだったころにその会社からスカウトさせたことがある。当然ケったけどな。社員達は社内で互いの素性を一切知らせず、コードネームで呼び合う。もちろん社長の居場所、正体も社員にすら謎。ただ忠実に任務を遂行する犯罪集団、それがバロックワークスだ」

 成程、人間の集合体か。
確かに、人間は群れで力を発揮する生き物だからな。
ゴッドイーター達も、確かフェンリルとかいう集合体に属していたはずだ。

「………!こりゃ驚いた…!我々の秘密を知っているのなら、消すしかあるまい…」

 ………?

「また一つ、サボテン岩に獲物の墓標が増える」

 あー、あの岩にある棘、全部墓なのか。

「ゾロ、話は終わりか?」
「ああ」
「了解した。サリー、もう良いぞ」
「グルアアァァァ…!」

 私が煙草を懐から取り出すと同時に、ゾロとサリーは地上へと飛び降りた。

「殺せ!」

 Mr.8の号令と共に、銃の一斉射撃が開始された。屋上に残っているのは私だけなので、狙われるのは自分だけだ。
 ん?マッチを持ってくるのを忘れたな。
 私は向かってくる銃弾の中の一つに、煙草の先端を掠らせ、火を付ける。
 一服する間にも顔や身体に銃弾が当たるが、少々くすぐったい程度だった。
 これなら、態々コートで受ける必要も無かったか。

「じゅ、銃が効かねぇ!?どうなってやがる!」
「お、おい!残りの奴らはどうした!?」

 ようやくゾロとサリーがいないことに気が付いたのか、賞金稼ぎ達は辺りを見回す。
 さて、私は高みの見物と洒落込むとしようか。





 私と主殿は現在、敵陣の真っただ中にいる。
 屋上から飛び降りたのち、素早く敵の中に紛れたのだ。
 ここで私を一振りすれば、一瞬で決着が着くと言うのに、主殿はそれをしない。
 主殿曰く、「面白くない」そうだ。
 ああ、その自信家なところも好ましい…

「い、いない!どこへ消えた…って!」

 阿呆どもがようやく気付いたようだ。

「おし、やるぞ氷女」
(承知した!)

 主殿は私を瞬時に抜刀すると、周りから狙っていた者どもを円を描くように斬りつける。
 私は刃が触れた瞬間に捕喰を開始し、斬り裂き終わる前に肉を全て殺ぎ落とす。
 後に残るは物言わぬ白骨のみ。

「餓鬼道・円…とか言ってみるか?」
(良い名だ。主殿)

「ほ、骨!?」
「な、なんだあの刀は!?」

 仲間の白骨化に驚く阿呆どもの喧騒に紛れて、主殿は首領格の男…Mr.8の背後に回る。

「また消えたぞ!速い!」
「さっさと殺せ!たかが剣士一匹…!?」

 テメェ等雑魚どもが敵うお人じゃねぇんだよ!喰い殺すぞクソ野郎!

 …おっといけない。少々興奮した。
 私の1mm横にあるクソ親父の顔が主殿の悪言を言ったので、頭に血が上ってしまった。主殿が僅かでも奴の肌に私を触れさせてくれれば、一瞬で喰らい尽くしてやるのだがな。
 そういえば、この親父、ミス・ウェンズデーとかいう女を守るとかどうとか抜かしてたが…まあ、私には関係ないな。

「聞くが…墓標はいくつ増やせばいいんだ?」
 
 巻髪親父と背中合わせに私を頬の横に突き付けている主殿は小馬鹿にするように笑う。
 墓など必要ない。どうせ、骨も残らんのだから。

「いたぞ!そこかァ!」
「バ、バカよせ!おれごと撃つ気か!やめろ!」

 主殿を見つけた阿呆どもが一斉に銃を向ける。それに巻き込まれることになるMr.8は制止の声を上げるが、やめる気配は無い。
 ヒヒヒ、阿呆には似合いの末路だな。
 当然、主殿は引き金に指が掛かる瞬間に、その場を離脱した。

「―――!」

 だが、Mr.8は手に持っていたサックスを咥えると、引き金が引かれるより速くそれを吹き鳴らした。

「イガラッパ!!」

 サックスからは効くに耐えない歪音と共に、弾丸が飛び出し、発砲しようとしていた者たち全員を吹き飛ばす。
 炸裂音からして、散弾銃に近いものだろう。

「ヒュー…ありゃショットガンかよ。あぶねぇもん持ってんな」

 近くの建物の壁に身を隠しながら、主殿は呟く。

(―――?何故だ、主殿)
「ショットガンってのは小さな弾をばら撒く銃だからな。遠距離なら大したことねぇが、近距離は必殺の間合いだ。剣士であるおれとの相性は悪い」
(いや、主殿。もはや貴方は人間という枠を逸脱している。ただの鉄の塊をばら撒く銃など、例えゼロ距離で喰らっても致命傷にはならん。まあ、多少は痛いだろうがな)
「…おれは人間だ。だからショットガンは絶対に食らわん!当たったら死ぬからな!人間だし!」
(何をそんなに意地になっているのだ?)

 人間などと言う脆弱な生物から強靭なアラガミになっているというのに、一体何が不満なのだろうか…
 ハッ!も、もしや主殿は私と一つになることに照れているのでは!?
 だ、大丈夫だ主殿!優しくするから!絶対痛くしないから!

「さて、そろそろ新入りを実戦で試すとするか…行くぞ、氷女」
(…ハ!しょ、承知した、主殿!)

 いかんいかん、少々浮かれ過ぎた。雑魚しかいないとはいえ、ここは戦場。いつ何が起こるか分からない。気を引き締めねば。
 …そういえば、あのクソ卵はどこに行ったんだ?さっきから全く姿を見ていないんだが。
 …まあいいか、奴がどうなろうと、私の知ったことでは無い。





 何と粗野な考え方なのでしょう。常識を疑います。
 まあ、あのマリモ頭の野蛮人の下僕ですし、仕様が無いと言えばそれまでですけど。
 現在、私は元居た建物の中に戻っています。このままあの野蛮人2人が暴れれば、人質を取られるのは必至。ゆえに、キャプテン…いえ、この呼び方はあの青髪と被るのでやめましょう。…そう、マスターを最も安全なところへ避難させに来たのです。
 私はマスターの傍へと近づきます。ああ、なんと安らかな寝顔なのでしょう。癒されます。
 私はマスターを起こさぬよう、慎重に女性体の下部を使って持ち上げ―――

 ―――丸飲みにしました。

 捕喰した訳ではありません。
 これは私の能力の一つで、中に取り込んだものを、保存できるのです。
 保存したものは私が消滅するまでほんの僅かな変化・劣化もしません。
オラクル細胞に有効な攻撃手段を持たない人間だけの戦場で私が傷つくことなどありえませんから、最も安全な場所と言っても過言ではないでしょう。
 さあ、これで心おきなくマスターに狼藉を働いた愚者どもを殲滅できます。
 マスター以外の奴らなど、知ったことではありません。特にゴム猿はどさくさに紛れて殺されてくれると嬉しいです。

「ク、クソ!奴ら化けモンだ!こうなったら人質を取って…!」

 あら、言ってる傍から人質を取ろうとする愚者がやってきましたね。しかも後からゾロゾロと…ディフェンス担当の青髪は何をしているんですかね。やっぱり、殿方を物理的に見下す女は役に立ちませんね。あの女、190cm越えてますし。

「こっちもかよ!」

 人質を取るならどうぞご勝手に。特にそのゴム猿何かはお勧めですよ。

「待て、あの女と剣士はともかく、こいつならやれるんじゃねぇか?」
「…確かにそんなに強くなさそうだしね」
「よし、こいつを倒してから人質を取って奴ら倒すぞ」

 …どうやら、死にたいらしいですね。
良いでしょう望み通りにして差し上げます。

「グアァッ!」

 私が集中して“能力”を発動させると、男達の周りの空間に、無数の眼が現れます。

「な、なんだこりゃ!?」

 クスクス…もう終わりです。

その眼から鈍い光が放たれると、あるものは銃を構え、またあるものは手にした刀を構えました。―――味方に向かって。

「お、おい!な、何の真似だ!?」
「お、お前こそその銃を下せ!」
「か、身体が言うことを効かない…!」
「や、やめて!い、嫌…!」

 ―――さあ、殺し合いなさい。

 私が念じると、男達は同志討ちを行い、血液や脳漿をブチ撒けました。
 クスクス…クズにしては良い悲鳴でしたよ?

 これが私の「ジロジロの実」の能力。
 ありとあらゆる場所に目を作り出し、監視は勿論、その眼から発する光による催眠や読心等が出来る悪魔の実。
 先ほどの氷女のマスターへの罵詈雑言等を“見た”のはこの能力のおかげです。
 あの島で“クソ女”が実験と称して私に喰べさせた物ですが、思いの他、役に立ってくれています。まあ、感謝の念などかけらもありませんが。

 さて、他に隠れている敵などはいないか調べてから、外に行きましょうか。
 私は視覚を無機物のみを透過するように切り替え、ざっと部屋を見渡します。
 …おや?机に突っ伏しているオレンジ色の髪の女―――確か、ナミとか言いましたか―――の体温が急激に上がっています。発汗も確認できますね…少々心を覗いてみるとしましょう。

(ウ、ウソップが食べられちゃった!?それに、何あの不気味な能力…!急に敵が同志討ち始めちゃうし、何よりあのサリーの顔は…)

 あー、見られちゃいましたか。能力はともかくとして、“顔”を見られたのは拙いですね。しかしながら、こんな姿になっても、治りませんか、“顔”。
 …仕方ありません。
 私はスーッとナミに近づきます。

(こ、こっち来た!?だ、大丈夫!サリーが心を読めるとか無い限り、私が起きてることは気付かれないはず)

 持ってるんですよね、それが。
 さらに、近づきます。

(平気平気!私達は仲間だもん!喰われたりしないわよ!)

 クスクス…仲間?
 クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!




































 そう思っているのは、貴女だけですよ?

 大口を開けてナミの頭を喰い砕―――

「グゲギャ!?」

 ―――こうとした瞬間、横から強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされました。
 …身体が全く言うことを利きません。たったの一撃でこれですか。こんなことが出来るのは1人しかいませんね。

「………」

 ナミの前に無言で仁王立ちしている青髪の女。その左眼は赤く発光し、明確な殺意を持って私を射抜いています。
 …これは嵌められましたね。あの女はずっと私を監視していたのでしょう。そして、態とあの男達を見逃し、私に戦わせた。おそらく、最初は私の能力を見るためだったのでしょうが………私も運がない。

「…岬での約束通り、お前を処分する」

 ああ、妬ましい。その強さと―――美しさが。
 まあ、今となっては何もかも無意味ですが、せめて、マスターだけは傷一つ無いようにしなければ。

 青髪―――カリギュラのブレードが迫る中、私は初めて温かさを感じたマスターとの出会いを思い出しながら、ゆっくりと眼を閉じました。

























【コメント】
 カリギュラさん以外のアラガミ娘の視点を書いてみました。
 これからは別行動も多くなりますので、その練習といった意味合いもあります。
 ただ、このSSの視点はオリジナルキャラ+三人称のみでやっていこうと決めていますので、原作キャラの視点はありません。



[25529] 第19話 カルネヴァーレ(2) グロ注意
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/07/21 15:28
グロ注意!
 色々とバイオレンスな回です。
 苦手な方はすぐに引き返してください。
 
 大丈夫だと言う方はこのまま↓へどうぞ。































私のコアを寸分違い無く貫こうとしている一撃が届くまでの時間が、妙に長く感じられます。
マスターと別れるのは本当に残念ですが、これでやっと終われるという喜びもあります。
 思い返せば、本当に碌でもない生涯でした。

物心着いた時、既に両親は無く、その世界で“ゴミ溜め”と呼ばれる場所に立っていました。ゴミ溜めはあらゆる不要物が集う場所。ゆえに、私は捨てられたのでしょう。
私はゴミ捨て場で腐ったレーションを食べ、アラガミの襲撃に怯えながら、なんとか生き抜いていました。
そこには他にも浮浪児がいた気がしますが、病で死んだり、アラガミに喰われたりして、すぐにいなくなるので、顔も名前も憶えていません。

そんな生活を何年か送っている内に、私もそれなりに成長しました。
私も一応女なので、こんな不潔なところは慣れはしても、好きではありませんでしたし、好奇心というものもありましたので、外に出てみようと思い、行動に移しました。
ゴミ溜めのは別に隔離されているわけではないので、外に出るのはそれほど苦労しませんでした。
外に出ると、それなりに大きな町がありましたが、あまり治安が良いとは言えませんでした。

そんな街中を、年頃の娘が一人歩く。まあ、どうなるかは最初からわかっていました。ゴミ溜めにも、その程度の情報は入ってきます。
私の容姿は男の獣欲を殊更刺激するらしく、まるで羽虫のように群がってきました。
ゴミ溜めで生きるためには奪うことが最も確実で簡単なことだと学んでいたので、私が花売りの真似事を思いつくまでに、時間はかかりませんでした。

しかしながら、豚どもの粗末な物を受け入れるなど、論外だったので、豚どもを適当に誘惑しては、毒を塗ったナイフで刺し殺し、金を奪っていました。他にも色々とやりましたが、豚を屠殺するのが最も効率的でした。
この口調も、男を誘惑するために矯正したものですが、長い期間使っていたので、いつの間にか、定着してしまいました。

 そんなことを続けている内に、いつの間にか捕まり、牢獄へと繋がれました。
どうせこの先もまともな人生は送れない、ここで死ぬなら、それも良いと思っていました。しかし、運命は相当に私がお気に入りだったようで…
ある日、私は牢獄から移送され、研究施設へと移されました。
その日からは身体に訳のわからない薬品を大量に投与されたり、頭に電極をブッ刺されて中をグチャグチャにされたりと、ステキな日々を過ごしました。
そして、最後に―――
 
「サリー!」

 ―――!マスター!?

 マスターの声が聞こえたかと思うと、閉じていたはずの視界が開き、意識が一気に覚醒しました。
そして、空気を切り裂く音と共に、鋭い一撃が身体を穿ちました。

「グ…!?」

 ただし、それは私ではなく、カリギュラに対して、です。
 カリギュラは腹に受けた衝撃に耐えきれず、数mほど後退し、片膝をつきました。
 腹には抉られたような跡があり、そこから出血しています。
 傷口がドス黒く変色しているので、これは強力な毒素を撃ち込む私のアラガミバレット「ポイズンショット」でしょう。
 ですが、一体誰が…?

「キャプテン…なのか?」

 カリギュラが何を言っているのか、一瞬理解できませんでした。
 しかし、その疑問もすぐに氷解します。

 ああ、こんなことがあるだなんて…

「―――って、カリギュラか!?わ、悪りぃ!目覚ましたら何かいきなり襲いかかられてたんで、つい反撃を…」

 聞こえたのは私が体内に取り込んだマスターの声。
 巨大な一眼が描かれた仮面を着け、私の銃「ビューグル砲」を構えています。
 私がカリギュラに斬り裂かれる直前に、私と“合神”し、迎撃してくれたのです。

「ちょっとウソップ、その仮面何なの?」
「仮面?あ、顔に何か着いてる」
「いや、気付きなさいよ!」
「でもこれ、しっかり周りが見えるぜ。しかも、生身で見るよりもくっきりと色んなものが見える。それに、カリギュラを撃った時も何か時間がゆっくりになったような…」

 私は通常のザイゴート種のアラガミとは似て非なるものです。
 マスターを体内に取り込み、保護したのも“合神”と言う能力の一端です。
 …これはチャンスですね。ここでカリギュラを上手く丸め込めれば、喰われる事もないでしょう。
 初めての試みで少々不安ですが…

【皆さん、私の意思が伝わりますか?】

自分の眼から思念波を発し、カリギュラ達に送り込みます。
ちなみに、本来は相手の精神を蝕み、精神の支配や破壊等を引き起こすのに使います。

「―――!サリーか」
「な、何これ?」
「頭に直接響いてくるみてぇだ」

 どうやら、成功の様です。

【これは私の喰べた悪魔の実「ジロジロの実」の能力で、私の意思を思念波に乗せて、直接伝えているのです。
早速ですが、弁明を。見ての通り、私はキャプテンやナミを捕喰しようとしていたわけではありません。
私は体内に生物を取りこんで、保護する能力を持っています。その能力を使って、お二人を保護しようとしていただけです】
「………」

 カリギュラはまだ警戒を解いていません。
まあ、そんな簡単にいくとは思っていませんでしたが。
 しかしながら、左目の攻撃色が消えていることから、在る程度の効果はあったようです。
 …クスクス、チョロイもんです

「…質問がある。
 1.何故今まで悪魔の実の能力を隠し、意思を伝えていなかったのか。
 2.私の知るザイゴート種に体内に生物を保護する能力は無い。また、キャプテンに着いている仮面型の形態は何なのか
 3.何故お前には人間らしい意思があるのか」

 少し思案した後、カリギュラが質問をしてきました。
 まあ、この内容なら、特に隠すことは無いでしょう。あれば適当に誤魔化しますが。

【まず1についてですが、出会って間もない者たちに、自分の手の内は早々明かせません。私もそれなりの経験をしていますからね。
 次に2ですが、少々長くなります。貴女の言うとおり、私は通常のザイゴート種とは違います。質問に質問を返すようで失礼ですが、アルダノーヴァというアラガミをご存知ですか?】

 私が尋ねると、カリギュラは少し眼を瞑った後、ゆっくりと眼を開いて、頷いた。

「何なの?そのアルダノーヴァって」

 ナミの疑問に、カリギュラが答えます。

「人間が人工的に作り出したアラガミだ。私達の敵性存在であるゴッドイーター達の武器である神機を作る技術を応用して作成されたと記憶している」
「お前の居た時代の科学技術って、スゲェんだな」

 …そうですね、技術だけは。

「…その進み過ぎた科学技術が私達アラガミを発生させたんだがな」
【脱線はそのくらいにしましょう。私はそのアルダノーヴァを参考として造られた“合神”型のアラガミです】
「合神?」

 カリギュラが首をひねります。まあ、数多くのゴッドイーター達を捕喰してきたであろう彼女でも、知らないのは無理ありません。日の目を見る前に潰れた計画の産物なのですから。

【簡単にいえば、人間と合体し、完全制御可能なアラガミ化を起こせるアラガミです。まあ、結局プロトタイプの私が完成した後すぐに計画は破棄されましたが】

 ここでナミが手を挙げました。

「質問。アラガミ化って何?」

 それに対し、カリギュラが答えます。

「オラクル細胞は、ある特定の因子によって、制御することが可能だ。この因子とオラクル細胞が埋め込まれた人間こそがゴッドイーター。しかし、その状態で何らかの要因により、制御が外れるとオラクル細胞が暴走して宿主を喰らう。そして、変異を繰り返し、新たなアラガミとなる。これがアラガミ化だ」
「アラガミを倒す奴らがアラガミそのものになる事があるのか…なんか、皮肉だな」

 全く、その通りです。化物を倒すために、自らも化物に成らねばならなくなったら、もう終わりですよ。

「…何故計画が破棄になったんだ?」
【理由は簡単です。計画で実験体となった被験者が全員暴走して、大惨事になったからです】

 まあ、正確には暴走させた、ですが。
 誰が好き好んで私をこんな姿にした連中に利用されてなどやりますか。

【当然、使用されたのは私ですが、故意に暴走させたわけではありませんよ?】

 ですが、マスターは優しいお方なので、ここは優しい嘘に包んでおきます。

「別にそこはどうでもいい」
「いや、良くねェだろ!」

 マスターがカリギュラに突っ込みを入れます。
 …嫉ましい。

「まあとにかく、制御されたアラガミ化など不可能だったというわけだな。つい先ほどまでは」

【ですが、今日その不可能を達成したのが我がマスター、ウソップです。しかも、オラクル細胞を制御する因子すら無くとも、私と合神を果たしています!】

 愛の力です!…と言いたいところですが、これは私がオラクル細胞を制御しているからです。さすがに、因子を持たないキャプテンがいきなりオラクル細胞の完全制御をするのはリスクが高すぎます。
 ですが、自らの意思で私と合神を果たし、私がオラクル細胞の制御を開始する僅かな時間ではありますが、オラクル細胞に侵喰されなかったマスターは、明らかに適性があることがわかります。
 ビューグル砲だけなら、私が単独でオラクル細胞を制御すればいいのですが、合神は相性の他に、装着者にもある程度のオラクル細胞制御が不可欠です。因子を持たないマスターがどのように制御しているのか、解明できれば、マスターの人格を残したまま…
クスクス…少しづつです。少しづつマスターを造り変えていきます。焦らず行きましょう。

「ちょっと待て!ってことは、おれ今アラガミなのか!?」

 驚愕するマスターにカリギュラが近づき、顔のすぐ近くでクンクンと鼻を動かします。
 …さっさと離れてください。貴女の顔のどアップなんて、見たくありません。

「…いや、キャプテンはまだ人間だ。オラクル細胞特有の匂いはほとんどない。だが…これからもサリーとの合神を続ければいずれそうなる可能性も考えられる」

 余計なことを…!

【ですが、私との合神によって得られる力はかなりのものです。これからグランドラインの航海を続けるのに、きっと助けになれます】
「サリー…!ありがとよ。まあ、万が一アラガミになっちまっても、どうにかなるだろ」

 ああ、マスター、私を受け入れてくれるのですね…!

「あんた脳天き過ぎ。岬で見たアラガミみたいに、理性なんか残らなくなるかもしれないのよ?」
「大丈夫だって。その辺はサリーが何とかしてくれるだろ」

 はい。その辺りは細心の注意を払います。
 あ、でもちょっと生殖器とかは弄るかもしれません。…いけない、涎が。

「…キャプテンがそれでいいなら構わない。さて、最後の質問だが、答えてくれるな、サリー」

 ヒトヒトの実を喰べて理性を得たカリギュラにとって、私の存在は気になるのでしょう。
 他にも氷女がいますが、あれはカリギュラ自身がそのように設計したと聞きましたし。

【簡単な事ですよ。私は元々人間だったと言うだけです】

「………」
「え!?」
「な!?」

 ナミとマスターは驚愕し、カリギュラは鋭い目つきで私を射抜いています。
 人間であるナミやマスターと違い、アラガミである彼女にとって、私が元人間であったことなど、どうでもいいのでしょう。
 
【私は今の時代よりもはるか昔に産まれました。碌でもない生い立ちなので、詳しい説明は省きますが、研究所でオラクル細胞を埋め込まれ、合神型のアラガミに作りかえられました。
本当に碌でもない半生でしたが、あの岬でマスター達と出会って、初めて優しさと言うものに触れられました。感謝しています】

本当はマスターだけなんですが、その他の奴らにも事も感謝していると言えば、カリギュラも落しやすいでしょう。

「サリー…」
「うう…サリー…!」

 マスター、私のために涙を流してくれて、ありがとうございます。
 ………これがマスターの体液の味…グへへ。

「サリー…」

 仮面の裏に触れるマスターの体液を吸収していると、カリギュラがゆっくりと歩み寄ってきました。
 誤魔化しきれませんでしたか…!
 非常に、非常に不本意ですが、マスターを一時的に支配下に置き、ここから逃走しようかと身構えた瞬間

 ―――ギュム

 異様にでかくて、無駄に柔らかいものが押しあてられました。
 どうやら、頭に手をまわされて、抱きつかれたようです。

「すまない。そんな過去を抱えながら、お前は仲間を守ってくれようとしていたのに…!」

 カリギュラは更に力を込めて抱き込みます。
2つの膨らみは、驚異的な張りと柔らかさで、私を包みこみます。
放しなさい!私に同性愛の気はありません!

「…ここは…天国だ…」

 マスターの体液に血液が混じりました。
 
―――ブチ!

【放しなさい!このレズ女!】

 私は強制的にマスターの身体を支配すると、カリギュラの腹にポイズンショットをブチ込みました。

「フフフ、そう照れるな」

 ゲ!もう耐性が付いてるんですか!?
 ゼロ距離でアラガミバレットを撃ち込まれたにも関わらず、カリギュラは平然としています。なんですか、この化物!?

「まあ、先ほど言ったように、疑って悪かったな。殴ったことに関しては、貸し1と言うことで勘弁してくれ」

 しばらくして、カリギュラはようやく腕を解いて、私達を解放しました。
 ああ、眼に残る感触が気持ち悪い…

【全く、良い迷惑です。ねえ、マスター?】
「おれは…天国を見た…」

 …………………………………………………………クスクス。

【…クスクス、マスター…】
「は、はひ!?」

 自分でも驚くくらいドス黒い思念が出ました。
 
【初めての合神ですし、色々とデータを採ることを兼ねて、ちょっと外で戦闘をしましょうか】
「いや、おれは別に【しましょうか】はい喜んで!」

 快く受諾してくれたマスターと共に、建物の外へと向かいます。

「い、いってらっしゃい」
「雑魚相手とはいえ、戦いは良いものだ。楽しんで来い」

 クスクス………





す。



「さーて、次はこいつの調子を確かめるか」

 物陰に隠れつつ、バロックワークスの社員達を横目に主殿は私と対照的に鬼徹を握る。
 …ふん、主殿の刀は私だけで十分だと言うに。

ジャリ…

 ―――!

(主殿、上だ!)
「―――!」

 人間には聞こえないような靴擦れの音とて、聞き逃しはしない。
 私の声に反応した主殿は、ほとんどタイムラグ無く鬼徹を自らの頭上に一閃した。

「…バ、バカな…!」

 完全に奇襲に成功したと思っていた男は、二つに分かれて地面に落ちる。
 だが、今の音で居場所を気付かれた。

(来るぞ、主殿!)
「元より承知の上だ!」

 主殿が建物から離れると同時に、建物に向かって集中砲火が行われた。

「銃を持ってる奴らが多いな。出来ればもう少し各個撃破で潰しときてぇが…」

 そこから少し離れた建物に身を隠しながら、主殿はぼやいた。

(突っ込め主殿。鉛玉程度、私達の脅威ではない)
「…何度でも言う。おれは人間だ」
(やれやれ…)

 未だ自分を人間だと言い張る主殿に呆れていると、砲撃音と共に敵陣の方から悲鳴が上がる。

 少し前にも何発か聞いた音だ。と言うことは…

 私は耳を澄まし、目的の声を探る。

「サ、サリー!?威嚇射撃で掠らせようと思った奴の上半身が無くなったんだが?…いや、【ナイスキル!】じゃねぇよ!どんな威力んだ、お前のアラガミバレット!
 …お、おう、人を殺すのは初めてだ…え?【マスターの初めて貰っちゃいました!】?反応するとこそこ!?」

 ヘタレと…多分クソ卵か。

(…主殿、ウソップとサリーが加勢に来たようだ)
「何、ウソップがか?あいつはこういうとき、起きても寝たふりとかすると思ったが…」
(それには私も同感だ。ただ、奴の声にくぐもりがある。仮面か何か付けているのかもな)

 目が命の狙撃手が仮面など付けて何をやっているのやら…

「まあ、何でもいいさ。銃を持ってる奴らはウソップを狙うだろうから、こっちは同じ近接武器の相手をすりゃぁ良い」
(そうだな。奴らの事などどうでもいい。それよりも…その、あの、さっさと終わらせて、一緒に―――)
「居たぞ!こっちだ!」

 ウソップの砲撃を受けているのとは別の部隊に見つかった。

 …私が勇気を振り絞って主殿に甘えようとしたのに………微塵に刻んでくれる!

 主殿の予想通り、銃を持ったものは少なく、ほとんどが刃物等で武装している。
 主殿は迷いなく、敵部隊に突っ込む。

(…主殿、私を振れ)
「あ?まだ間合いじゃねぇぞ」

 確かに、敵との距離は約10m。
 刀が届く間合いではない。だが、今の「私」なら届く。

(振れ!)
「…わかった」

 主殿が私を横に一閃すると同時に、私は自分自身を―――刃を無数の「髪」へと変化せる。髪へと変化させた刃は長さを著しく増し、敵を射程内に捕える。

 ―――夜刀髪

 風に舞う程に軽く、細い髪は全てが鋭利な刃。一太刀振るわれれば、髪は大気と共に舞い、蛇の如く肉に喰らい付く。

「―――!」

 敵は、悲鳴一つ上げることすらなく肉塊となり、その肉すら、瞬の内に私が喰らい尽す。
 後に残るは骨骸のみ。

「まるで鋼糸術だな。いや、それよりも更に凶悪か」

 えっへん!もっと褒めろ、主殿!

「じゃあ、次はおれの番だな。氷女、刀に戻れ」
(承知した)

 私は髪を束ねて刀の姿に戻る。
 主殿は両手に私と鬼徹を持った状態で、ウソップに気を取られている敵の背後に素早く近付く。

「おいおい、寂しいじゃねぇか。おれも混ぜてくれよ」
「―――!しまッ…!」

 敵陣の中を駆け抜けるように敵を斬る、斬る、斬る、ひたすら斬る。
 ある者は私に斬り喰われ、ある者は鬼徹に得物ごと真っ二つにされる。
 さらに、私達に気を取られれば、すかさずウソップの砲撃が飛んでくる。
 敵は正に四面楚歌。つい先ほどまで隣に立っていた仲間が脳漿をブチ撒け、細切れになる光景を見て、狂乱する者が続出し、最早連携も何もない。

ああ…恐怖しながら死に逝く人間の肉の何と美味なることか…!ヒヒヒ…

(主殿!肉が!肉が逃げる!追いかけて喰おう!)
「…?おい氷女、お前―――」
「いたぞ、こっちだ!」

 来た!肉が来た!

「チ、ちと数が多いな」
(ヒヒヒ!肉肉肉!)
「ゾロ君!こっちだ!」

 建物の上から大きな一眼の描かれた奇妙な仮面を付けたウソップが縄梯子を下ろして手招きをしている。

 クソが!邪魔すんじゃねぇ!

 だが、主殿はそれに従い、敵から背を向けて梯子をのぼり、ウソップと合流する。
 当然、縄梯子は切り離した。

「助かった」
「礼には及ばない。当然のことをしたまでだ」
「おいウソップ、なんだその喋り方」
「私はウソップではない!ウソップ君の親友、狙撃の島からやってきた『そげキング』だ!

 …頭湧いてんじゃねぇか?

「他の仲間を守らなければならないウソップ君に変わって、助太刀に来た」
「…まあ、お前がそういうなら、それでいいけどな」

 その時、ウソップの背後に突如剣を持った男が出現した。
 隣の建物から飛び移ってきたか!?しかも主殿の背後からも着地音が聞こえた。
 挟み打ちか。

「―――!ウソップ、危ねぇ!」「―――!ゾロ君、危ない!」

 ウソップは抱えていた銃―――と言うより最早大砲だ―――を素早く構えると、躊躇なく引き金を引き、主殿はウソップの背後の敵に私を突き刺す。

【全く、何とも野蛮なガキですね】
(―――!?)

 私が敵を喰い尽した瞬間に、頭に直接響くような声が聞こえた。
 辺りを探ると、ウソップの仮面の一眼が動き、私を見ていた。

(まさかテメェ、腐れ卵か?)
【く、腐…!?後でブチ殺します…!】
(上等だ。やってみやがれ)

サリーはさらに何か言おうとしたが、主殿が私を引き、ウソップと背中合わせになったため、思念が途絶えた。
どうやら、奴はあの瞳で見たものとしか意思疎通出来ないらしい。

「ゾロ君、ここは2人で協力しよう。私は君の背中を守るから、君は私の背中を守ってくれ」
「あ?お前大丈夫なのか。雑魚っつってもお前には結構きついぞ」

 確かに、私達にとっては雑魚だが、この貧弱な狙撃手には手に余るだろう。
 あ、でもどさくさまぎれに死んでくれるかもな。ヒヒヒ…

「心配ご無用」

 ウソップが至極落ちついた声で答えると同時に、さらなる敵の増援がウソップの正面にある扉から現れた。

「数で押せ!あいつらもおれたちと同じ人間なんだ!殺れねぇこたぁねぇ!」

 雄たけびを上げながら押し寄せてくる敵を前に、ウソップは銃を撫でる。

「サ…じゃ無かった、ヒトクイーン、モデルチェンジだ」

 すると、ウソップが手に持っていた大砲がグチャグチャに崩れたかと思うと、二つに分かれ、右手と左手で形を成す。

「ありゃあ…銃か?」

 主殿が疑問形で言うのも無理は無い。
 中世レベルのものが主流のこの世界において、まさか自動拳銃を見ることになるとは思わなかった。
 しかもかなりの大型。形状からすると、デザートイーグルという大型自動拳銃に近いか…?
 うーむ…この辺りは創造主の記憶の模写だから、いまいちピンとこない。

 ウソップはグリップに一眼の刻印が刻まれた無骨な大型拳銃をスムーズな動作で飛びかかってきた男の眉間に照準を合わせると、流れるように引き金を引いた。

「か―――!?」

 男の頭が無くなった。
比喩ではなく、発射された弾丸の威力で、頭部の上半分が完全に消し飛んだ。

 さらに、左側から斬りかかろうとしていた女に向かって、もう一つの拳銃で弾丸を放つ。
 弾丸は正確に心臓を喰い破り、捥げた左腕が宙を舞う。
 そして、その光景に足がすくんだ残りの敵に両手の銃で一斉掃射。オートマチックだからこそ出来る芸当だ。
この世界の銃がどのくらいの性能かは知らないが、これ程の連射速度は並みの銃では出ないだろう。
 排出された薬莢が地面に落ちる頃には、屋上で立っているのは主殿とウソップのみ。

 …これは少々ウソップの評価を見直すべきか?

「おいおい、冗談だろ…」
(ああ、確かに中々の威力だ。だが、接近戦では我々の―――)
「…そういう事じゃねぇ。おいウソップ、お前人殺しといて随分と冷静だな。おれは初めて人を斬り殺したときは半日くらいメシも喉を通らなかったが」
「だから、私はそげキング!てか半日って普通じゃないか!?…分からない。人殺しは初めてだが、何の感情も湧かないんだ…ん?…あ、そうなのか」

 カートリッジを入れ替えながら主殿に突っ込みを入れていたウソップは急に宙に向かって話しだす。

「ウソップ、やっぱりお前人殺しのショックで…」
(いや、あれはサリーと会話しているのだろう。おそらく、奴の顔に張り付いている仮面はサリーが姿を変えたものだ)
「…お前らホントに何でもありだな」

 しばらくして、ウソップがこちらに話しかけてきた。

「どうやら、私の相棒であり、仮面でもあるサ…ヒトクイーンが戦闘時における忌避感等を抑制してくれているらしい。安心したまえ、副作用は無いそうだ」

 …ウソ臭ぇ。

【本当ですよ?】

 態々眼をこっち向けて弁解してくるのがなおさらウソ臭ぇよ
…まあ、私にはどうでもいいことだ。

「ウォオオオオオリャァアアアアッ!」

 私達が話しているのを隙だと思ったのか、いつの間にか隣の屋根にいた筋骨隆々の大女が主殿に向かって、酒樽をブン投げてきた。
 勿論、隙など無かった主殿は酒樽を鬼徹で真っ二つに両断した。
 さらに、ウソップが素早く身を翻すと、大女に向けて、二丁拳銃を乱射する。

「ク…!」

 石の屋根すら軽く抉り取る銃撃に曝された大女は建物の裏側へと飛び降り、身を隠した。

「おいおい狙撃手。この距離で外すなよ」
「この銃の扱いにまだ慣れて無いんだ。そもそも、私は遠距離からじっくり狙って仕留めるのが得意なのだ」
「じゃあ、そういう銃に変えろよ」
「いや、まだあの大砲とこの拳銃にしかなれないらしい」

 うわ、使えねぇ。

【その刀身、ブチ抜いてあげましょうか?】 
(面白ぇ、戦闘が終わったら、あの部屋の中での事も含めて、決着を付けてやるよ)

 私とサリーがメンチを切っていると、主殿が動き出した。

「さて、そろそろ打って出るか」
「え!ここで専守防衛じゃないの!?」
「あ?お前とおれだったら攻めに回った方がいいだろ。他のもさっきのとそんなに変わりはねぇし」
「いやいや、さっきのだって結構いっぱいいっぱいだったんだからな!?殺人への忌避感とか無かったけど、恐怖感はあったんだからな!?心の中で「いやァァァ!来ないでェェェ!」とか叫んでたんだからな!?」

 それ、精神制御に失敗してないか?

【…うーん、さらにアドレナリン分泌を増やすべきでしょうか…でもこれ以上やると後遺症が…まあ、どうせ私好みに造り変えますし…】

 恐ろしい妄想を垂れ流すな。

「…とりあえず、おれは行く。今のお前の力なら、十分1人でやれる。後は自分で好きなようにしろ」
「い、嫌ァァァ!置いてかないでェェェ!」

 ウゼェ…

 マジ泣きの入ったウソップを後目に、主殿は屋上から飛び降りた。

「ウォォォ!」

 直地と同時に、太った男が背後から巨大な石斧で主殿を狙う。

(主殿)
「わかってる」

 しかし、主殿も気づいていたのか、冷静に鬼徹を振るって、石斧を真っ二つに切り裂き、返す刀で首を落とす。

 また鬼徹か…主殿に頼りにされやがって…後でへし折る。

(―――!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル)

 何故か鬼徹が震えたような気がした。

「石斧が斬れた…中々良い斬れ味だ。斬った感じ、ちと問題児だが、氷女に比べりゃ大したことねぇな」
(どういう意味だ)
「三代鬼徹は氷女の舎弟って事だよ」

 おう、焼きそばパン買ってこいや。

("\( ̄^ ̄)゙ハイ!!)

「やー!」

 馬鹿げた事を言っていると、主殿の背後から短剣を握った子供が襲いかかってきたが、主殿は振り向きざまに短剣を弾き、軽くいなす。

「ひぃ!」
「あぁ?」

 主殿が睨みつけると、子供は情けない声を上げる。

「ああ、どうか神の御加護を!神の御加護を!」
「うわ~ん!」

 それを聞きつけたのか、すぐさまシスターが子供に駆け寄り、抱きしめる

「………」

 主殿は無言で見つめる。
 
 女が懐を弄っている音が聞こえる。なんともまあ、古典的な…

(主殿、あの女、懐から何か出す気だぞ)
「分かってる」

 主殿が小声で答えた瞬間

「神の御加護目潰し!」

 女が懐から取り出した十字架の紐を引き、煙幕を張る。
 勿論、主殿は素早く煙幕から逃れ、刀と銃で私達に襲いかかろうとしていた馬鹿共の背後に回り込む。

「そういう姑息な真似はもっと心の綺麗な奴に使うんだな」

 そして、首筋に素早く私の峰打ちを喰らわせる。

「峰打ちだ、勘弁―――」
(やはり質が悪いな。不味い。ん?どうした主殿)
「…いや、何でもねぇ」

 物言わぬ2つの白骨を後目に、主殿ははしごを使い、建物の上へと移動する。

「バカめ!上に逃げ場はねぇ!」
「う、ここにも白骨が…あの剣士の刀に気をつけろ!」

 それに続いて、大量の賞金稼ぎ達が梯子を登って来る。

(一番上まで来たが、どうするのだ?)
「こうするんだ!」

 主殿は登ってきた梯子を掴み、梯子を上っている最中の敵ごとひっくり返す。

「う、うわぁぁぁッ!梯子が落ちてくるぞッ!?」

 敵の悲鳴を後目に、倒れている梯子を足場にして、隣の建物へと跳ぶ。

「こっちに飛び移る気か!そうはさせねぇ!撃て!」

 隣の建物にいた男達が銃を乱射するが、主殿にはかすりもしない。

 銃の性能もあるが、腕が最悪だな。あのヘタレの方が幾分かましだ。

「二刀流…『鷹波』!」

 主殿は勢いを殺さず着地し、男達の間を滑り抜けるようにして、鬼徹と私を振るう。
 止まった時には、斬り裂かれた死体と白骨が半々で横たわっていた。

「たあああああーーーッ!」

 さらに、間髪いれず上空からの奇襲。
 …この声、女か。

 ………

(主殿、私を上へ突き出せ)
「ん?ほれ」

 主殿が私の切っ先を女達に向けると、私は先ほどの夜刀髪の要領で、刃を伸長し、幾重にも分れ、主殿の頭上に刃の花を咲かせる。
 簡単にいえば、剣山。そして、女達は主殿に向かって、落ちてきている。となれば、結果は一つ。

「「「ギャァァァァァァッ!!」」」

「…修羅傘って、とこか」
(…やっぱり不味い)

 女どもの肉の一遍までも喰らい尽くすと、私は元に戻る。

 ギシィ…

(―――!伏せろ!)
「―――!」

 私の忠告を聞いて、前に倒れこんだ主殿の頭上を、巨大な梯子が猛スピードで通り過ぎた。

 チ、捕喰に夢中で索敵を疎かにしたのが拙かったか。

「あぶねぇ!かすった!」

 主殿は敵から距離を置くために、横に転がったが、両手を踏みつけられ、顔面を押さえつけられる。
 それを行ったのは先ほど逃げたミス・マンデー。奴は右手にメリケンサックを装着し、筋肉を隆起させ、限界まで力を溜めていた。

「カ・イ・リ・キ…メリケン!」

 ミス・マンデーはその力を解放し、全力で主殿の頭を殴りつけた。
 建物の天井はその衝撃で、巨大なひび割れを生じ、今にも底が抜けそうだ。

―――だが、結局はその程度でしかない。

「で、もう反撃してもいいか?」
「な―――!」

 主殿は平然とミス・マンデーの顔を右手で鷲掴みにすると、力を込めながら立ち上がる。
 ミス・マンデーはその腕を引きはがそうとするが、主殿の腕はびくともしない。

 阿呆が、ただの人間が半アラガミである主殿に勝てるはずがねぇだろうが!

「ギャァァァァァァッ!」

 主殿が更に力を強めていくと、ついにミス・マンデーが悲鳴を上げた。

「ミ、ミス・マンデー!?」
「何ッ!?」

 その悲鳴を聞き、下に集まってこちらを見ていたMr.8と賞金稼ぎ達が驚愕の声を上げる。

「どうした力自慢。力比べが望みじゃねぇのか?」
「ああ…あ…」

 しばらくすると、ミス・マンデーは口から泡を吐いて気絶した。
 主殿が手を放すと、そのまま地面に崩れ落ちる。

 あと少し力を込めていれば、握りつぶせたものを…主殿は少々優しすぎる。
 ま、まあ、そこがいいんだけどな。

「う、うわぁぁ!ミス・マンデーが力で負けたァ!」
「ウ、ウソだ!あり得ねぇ!」

騒ぎたてる馬鹿共に向かい、主殿は傷一つない顔で不敵に笑う。

「続けようか“バロックワークス”。今宵のこいつはまだまだ血に飢えてるぜ?」

 そう言って、私を月夜に掲げる。

 あ、主殿、細かいところで悪いが正確には肉だ。

「…!分かったぞ…解けた!あの手配書は海軍のミスだな!?」
「…そうか、こいつが3000万ベリーの賞金首なら話は分かる…!こいつが本当の船長か!」
「なるほど、だったら、そのつもりで戦わなきゃね…そうよね、あんな二ヤケた奴が3000万なんて、おかしいと思った」

 その辺りは全面的に同意する。

 さて、いよいよ首領格の登場だ。
 肉の味、期待していいよな?…ヒヒヒ。



































【コメント】

 この小説では、そげキング(サリーと合神バージョン)はビビりだけどルフィ達並みに強いということがコンセプトになっています。
 あと鬼徹は氷女ちゃんの舎弟。



[25529] 第20話 カルネヴァーレ(3) グロ注意
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/07/26 22:13
 グロ注意!
 色々とバイオレンスな回です。
 苦手な方はすぐに引き返してください。
 
 大丈夫だと言う方はこのまま↓へどうぞ。































『・X(ディエス)・ドレーク少将、海軍を離反。海賊に身を堕とす。
 ・ユースタス・“キャプテン”・キッドの襲撃により、静寂の町シジマール壊滅。
 ・“魔術師”バジル・ホーキンス、学問の島ジーニアス沖合にて、海軍の艦隊を撃破。
 ・地学の島ジオロにて集団失踪事件発生、海軍は“死の外科医”トラファルガー・ローが主犯と断定』

 ふむ、私達の他に、海賊団も色々居るのだな。

 ナミが喰い散らした死体が気持ち悪いとのことで、私が床に沁みこんだ血液も含めて全て喰らった後、暇なので落ちていた新聞を読むと、他の海賊団の悪事が色々と書いてあった。
 私達も、いずれ載るのだろうか。

「ねえ、カリギュラ」
「ん、なんだ」
 
 今まで黙ってソファに座っていたナミが話しかけてきた。

「サリー何だけどさ、本当に私達を助けようとしてたのかな」
「………」
「私さ、カリギュラが助けに入ってくれる前に、サリーの顔を見たの。敵同士を殺し合わせるのを見てたサリーの顔は…はっきり言って、『邪悪』って表現しか出来ないくらい、歪んでた。仲間を疑うなんて良くないことだけど、どうしても引っ掛かってるの」
「…ナミ、私達アラガミは元々全てを喰らい尽くすために生まれた存在だ。その本質は捕喰と破壊。いかにサリーが元人間であったとしても、アラガミの本能には逆らえない。きっと、人間としての感情が残っているから本質が表情に出ていたのだろう」
「…そう、かな?」

 ナミはまだ納得できないようだ。

「もし、本当に今のサリーが邪悪な存在ならば、その原因は今までは碌な奴と出会わなかった、それだけだ。この一味に身を置いていれば、嫌でも人間臭くなる。なんせ、私がそうだからな」
「…うん、そうよね」

 ニヤリと笑ってみせると、ナミもニヤリと笑い返してきた。
 ここで煙草が短くなったので、灰皿に捨てて、新しい煙草を銜え、マッチで火を付ける。

「…これで終わりか」
「その煙草、サンジ君の?カリギュラも煙草吸うんだ」
「いや、暇なので一本吸ってみたら癖になってな。これが世に言うニコチン中毒という奴かな」
「ぷッ…世界を滅ぼす怪物がニコチン中毒って…」
「笑うなよ」

 苦虫を噛潰したような表情でナミを睨むが、ナミは平然と笑っている。

 クソ、肝が据わり過ぎだ。

 これ以上ナミに何をしても裏目に出そうだったので、新聞に目を戻した時、勢い良く扉が開いた。

「全く、カルーにも困ったものだわ。でも、ここでMr.ブシドーの仲間を人質にとれば…」

 入ってきたのは水色の髪をポニーテイルにした女。
 確か、ミス・ウェンズデーとか言ったか。

「…人質にとれば、何だって?」

 私は新聞をテーブルに置くと、ソファから立ち上がり、ミス・ウェンズデーにゆっくりと近づく。

「え?あ、いえ、あの…お邪魔しました!」
「逃がすと思っているのか?」

 私を見て青い顔で一目散に逃げ出そうとしたミス・ウェンズデーの後頭部を鷲掴みにする。

「痛たたたたたたたッ!」

 そのまま手首をひねり、ミス・ウェンズデーの顔をこちらに向ける。
 私とミス・ウェンズデーとでは、かなりの身長差があるため、ミス・ウェンズデーの顔を私の顔の高さに合わせると、宙に足が浮いてしまう。

「いや、ちょっと本気で痛いから!く、首が抜けちゃう!」

 知ったことか。

「カリギュラ、地面に足くらい付けてあげたら?このままじゃ何もしゃべれそうにないし」
「…了解した」

 ナミの助言に従い、ミス・ウェンズデーの両足を地面につける。勿論、頭は掴んだままだ。

「し、死ぬかと思った」
「いや、死ぬぞ。具体的にはこのまま頭を握りつぶす」
「い、嫌ァァァァァッ!」

 やかましい女だ。
 さっさと頭を握りつぶしてしまおう。

「ちょっとカリギュラ、その娘殺す気?やめなさいよ」
「―――!」

 ナミが私の処刑をやめるように言い、それを聞いたミス・ウェンズデーの瞳が希望で輝く。

「やるんなら外でやってよね」
「―――!!?」

 1秒後には絶望に変わったが。

「冗談よ。さすがにここで見ぬふりしちゃあ、後味悪いしね。私はあんたと違って、出来るだけ人死には出さない主義だし。それに、もうスプラッタな光景は見たくないわ」

 そうか、ナミが酔いつぶれていなかったということは、さっきのあれも見ている事になるわけか。
 …でも、齧る程度ならいいかな。

「変なこと考えないの。でも、ここに居られても問題だから、適当にボコして外に捨てて来なさい」
「了解した」
「1人だと不安だから、出来るだけ早く帰ってきてね」

 ナミに見送られながらミス・ウェンズデーを引きずって外へと向かう。

「痛い痛い!せめて腕を掴んで!首が抜けちゃう!」
「五月蠅い奴だな。分かった、ほれ」

 私はミス・ウェンズデーの頭の代わりに、首筋を掴んで持ち上げる。

「私は猫かーーーーッ!嘗めんじゃないわよ!」
「…皮を剥いで三味線にされたいのか?」
「いえ!私猫ですから!不満なんてこれっぽっちもないわ!」

 …何か疲れる。とっとと捨てて来よう。



「クエー…」

 私の後ろを一定距離を保って建物に隠れながら着いてくるカルガモを鬱陶しく思いながら、ミス・ウェンズデーを捨てる場所を探していると、ゾロを見つけた。
 ゾロの左腕には鉄線が巻かれており、その先には王冠を被った男、Mr.9。
 さらに、建物の屋根の上にはロール頭のMr.8。
 ふむ、ここは助けが必要か?

「おい、ゾロ。助太刀はいるか」

 私の声に3人が同時にこちらを見た。

「いや、要らねえ」
「「ミ、ミス・ウェンズデー!?」」

 ゾロは私の助けは要らないと言い、残りの2人は私の持っているミス・ウェンズデーを見て驚愕したようだ。

「お前、それどうしたんだ?」
「部屋に入ってきたところを捕まえた。これから捨てに行くところだ」
「何その会話!?私は野良猫かッ!」
「…三味線」
「ごめんなさい!」
「クエー!」

 何と言うか、この女はキャプテン同様、突っ込みの業を背負っているのかもしれない。
 あとカルガモ、抗議するならもっと近くへ来い。

「ま、待て!この通り降参する!だから、ミス・ウェンズデーに手を出さないで頂きたい!」

 ミス・ウェンズデーと漫才をやっていると、急にMr.8が手に持っていたサックス―――火薬の匂いがするので、何らかの銃器だろう―――と巻き髪の中に仕込んでいた大砲を地面に捨てた。

「…パートナーが人質に取られちゃ、やることは1つだ」

 さらに、Mr.9も鉄線…否、形状を見るに、改造された鉄バットを放し、ドカッと地面に胡坐をかく。

 いや、ナミの言い付けで元々殺す気は無かったんだが…

「…あー、一応戦闘終了ということで良いのか?」
「…みてぇだな」
(余計な真似しやがって…)

 ゾロは絡まった鉄線を解いて、納刀する。
 近頃、氷女の悪態がひどくなってきている。…そろそろヤキでも入れるか。

「さすがはウソップ君の部下だ。少々汚い手だが、この戦闘を早く終わらせたことは高く評価できる」

 Mr.8とMr.9が投降すると同時に、サリー(仮面)を付けたキャプテンが建物の陰から現れた。

「戦いに綺麗も汚いもない。勝つことこそ全てだ」
「そうか。ところで、私が誰か知りたくは無いかね?」

 …これはツッコミ待ちなのだろうか?

「えーと…あ、貴方は何者ですか?」
「そこまで知りたいなら教えてあげよう!私は狙撃の島から来た狙撃の王様“そげキング”!ウソップ君の親友だ。そして、狙撃の島がどこにあるか知りたくは無いかね!?」
「え?あ、ああ、知りたい」
「それは…君の心の中さ」

 残念ながら、未熟な私はどんな反応をすれば良いか分からない。

「無理に合わせてやる必要はねぇんだぞ、カリギュラ」
「ミス・クリーチャー、貴女も大変なのね」

 いや、でもキャプテンだしな。ほら、構ってあげないと死んでしまうかもしれないし。

 そんなやり取りをしていると、突如聞き慣れない声が聞こえた。

「無残なもんだな。たった2人の剣士と銃士にボロボロにされて、最後は人質を取られて降参だと?」
「―――!Mr.5!ミス・バレンタイン!」

 いつの間にか私達の近くに居た縮れ毛、サングラスの男とレモンの輪切りのような柄の服とイヤリングを付け、傘を差した女を見てMr.8が叫ぶ。
 む、血と硝煙の匂いで感知できなかったか。いかに嗅覚が鋭くなったとはいえ、やはり索敵は苦手だ。

「お前らふざけてんのか?ん?」
「キャハハハハハ!所詮これが私達との格の差じゃない?」

 クンクン…ん?

「一体、何故こんなところに…」
「キャハハハハハ!当然任務で来たのよ」

 間違いない、悪魔の実の香り。こいつ等は能力者か。
 …ジュルリ。

「何だ、こいつ等の加勢にでも来たのか?」

 私の問いに、Mr.5は顔を顰める。

「つまんねぇ冗談だな。そんな下らねぇことでおれ達は動かねぇよ」
「じゃあ、一体何の任務で…」

 地面に座っているMr.9が問う。
 Mr.5は私達をちらりと見た後、口を開く。

「…まあ、いいか。憶えがねぇか?社長が態々おれ達を派遣するような罪…社長の言葉はこうだ『おれの秘密を知られた』まあ、おれ達もどんな秘密かは知らねぇが」

 キャプテン、ゾロ共に臨戦態勢を整えている。
 これだけ目の前でベラベラ喋られたら、「お前たちも纏めて消す」と言っているようなものだしな。

「我が社の社訓は“謎”…社内の誰の素性であろうとも、決して詮索してはならない。ましてや、社長の正体など言語道断」
「…それで、よくよく調べていけば、『ある王国の要人』がこのバロックワークスに潜り込んでいるとわかった」
「な…!ちょっと待て!おれは王冠を被っているが、別に王様なんかじゃ無いぞ!?」
「あんたじゃないわよ」
「………!」
「クエー!」
「―――!」

 Mr.5ペアの言葉を聞き、Mr.8とミス・ウェンズデーの顔色が変わる。

「…襟首つかみ上げられながら真剣な顔されても締まらんな」
「うっさい!」

 Mr.5は私達に構わず、話を続ける。

「罪人の名は、アラバスタ王国で今行方不明になっている―――」
「死ね!イガラッパッパ!」

 Mr.5の言葉を遮るように、Mr.8がミス・ウェンズデーの前に立ちはだかり、いつの間にか巻き毛に仕込み直した大砲でMr.5に集中砲火を浴びせる。

「イガラム!」

 イガラム…Mr.8の名前か。

「カリギュラ殿!恥を忍んでお願いいたします!どうかそのお方をお守りください!」

 イガラムは真剣な目で私を見つめる。

 ………

「無駄よ、キャハハハハハ!」

 いつの間にやら私の上空に移動していたミス・バレンタインデーがミス・ウェンズデーを狙って蹴りを入れる。

 …ああ、クソ。

 私はミス・ウェンズデーを掴んだまま、バックステップで蹴りを避ける。
 丁度下がった場所の近くにMr.9がいたので、ビビを投げ渡す。

「貴様のパートナーなのだろう。確り守っていろ」
「おわッ!?あ、ああ、任せろ!」
「キャハハ、そいつらに肩入れするんだ。バカじゃない?」

 そうだな、襲いかかってきた敵を助けるなど、馬鹿の極みだ。
 だが、不思議と間違った気はしない。

「生憎と、馬鹿は嫌いではないのでな」

 私は右腕を原型に戻すと、ミス・バレンタインデーに殴りかかる。
 ミス・バレンタインはそれを跳び上がって避け、右手が地面を穿った衝撃で粉塵が舞いあがる。
 真上に跳んだミス・バレンタインデーは、私の予想よりもはるかに高い位置まで舞いあがっていた。

これも能力か?

「グオォッ!」

 悲鳴を聞き、Mr.8に目を向けると、爆発と共に崩れ落ちるのが見えた。
 Mr.5は銃火器類を持っているような気配も匂いもなかったので、Mr.8が受けた攻撃は悪魔の実の能力による可能性が高い。

「フフフ…先ほどまでの雑魚よりは喰いでがありそうだな」
「「ひ…!」」

 私の舌舐めずりを見て、Mr.9コンビが小さく悲鳴を上げた。
 大げさだな。

しばらくすると、ミス・バレンタインデーはそのまま砲撃の爆炎から平然と出てきたMr.5の横に着地した。
Mr.5は1枚の写真を取り出した。
その写真に写っている女は、ミス・ウェンズデーに瓜二つだった。…否、同一人物だろう。

「罪人の名はアラバスタ王国親衛隊長イガラム。そして、アラバスタ王国“王女”ネフェルタリ・ビビ…!」
「イガラムの銃撃を受けても無傷だなんて………化物…!」

 え、呼んだ?

「お…王女であらせられましたか、ミス・ウェンズデー!」
「バカなことやめてよ、Mr.9!」

 ミス・ウェンズデー…否、ネフェルタリ・ビビが王女だと知って、平伏するMr.9とそれにツッコムビビ。中々のツッコミセンスだ。

(創造主、なんかあいつら美味そうだ。私に全部よこせ)
【カリギュラ、ここは戦力強化ということで、私にあの2人頂けませんか?】

 む、氷女とサリーも悪魔の実の能力者の美味さを察したようだ。出遅れないようにしなくては。

「お前達2人と我が社の機密を知った海賊3人、バロックワークス社長の名の元に抹殺する」
「嘗めんじゃないわよ!」

 ビビが小指に刃物の着いたスリングを装着し、Mr.5ペアに突っ込もうとするのを、Mr.9が遮る。

「え?」
「事情はさっぱりのみこめねェが…長くペアを組んだよしみだ。時間を稼いでやる…!さっさと行きな、ミス・ウェンズデー」

 自分の身を呈してビビを逃がそうとするMr.9。
 こういう馬鹿は嫌いではない。

「その必要は無い。貴様も後ろに下がっていろ」
「「ミ、ミス・クリーチャー!」」

 私はMr.9の前に立つ。

「それと、Mr.8…イガラムとやらを回収していけ。あそこに倒れられていると邪魔だ」
「わ、分かったわ」
「お、応!」

 私がMr.5ペアを牽制しているため、ビビ達はすんなりとイガラムの回収を終えた。

「ゾロ、キャプテ…そげキング、こいつ等の護衛を頼む」
「加勢は…必要ねぇか、お前には」
「任せたまえ、守るのは得意だ!守るのは!」

 人間(+半アラガミ)はすんなりということを聞いてくれたが、五月蠅いのが2匹。

(おうコラ!テメェ一人占めすんな!)
【貴女この中で一番強いでしょう!?少しは遠慮して下さいよ!】

 んん?聞こえんなァ…

「お前の行動は理解出来ねぇな。ま、したくもねぇが」
「キャハハハハハ!ホントホント。襲ってきた敵を助けるなんて、ただのバカよ」
「ギャーギャー喚いていないでさっさと掛かって来い」

 早く片をつけねば、あの2匹が自分の主をどうにかして参戦してくるかもしれん。
 そうなれば、喰う量が減ってしまう。

「では、お望み通り…」

 いきなり鼻を穿るMr.5。
 そして、指に着いたそれを弾に見立て、腕を構える。

「鼻空想(ノーズファンシー)…」

 おい、まさか…

「砲(キャノン)!」
「最悪の攻撃だな…」

 さすがの私もあれを捕食したいとは思わん。

 ―――インキタトゥスの防壁

 右足で地面を踏みつけて極低温のエネルギーを送り込み、私の前面を覆う氷壁を作り出す。
 そして、Mr.5のソレが壁にぶつかった瞬間、大爆発を起こした。

「おいおい、なんて危ねぇ鼻くそだ…」

 どうでもいいが、うっかり鼻の中で爆発させたら大変なことになりそうだな。

「でもカリギュラの氷壁はびくともしねぇな。さすがだ」
「キャプテン、口調口調」
「あ、ヤベ!ウオッホン…さすがはカリギュラ君、見事という他無い」
「…良くやるよ」

 ゾロとキャプテンは見なれた光景なので、特に驚いていないが、他の3人は言葉も出ないほど驚いている。
 程無くして、爆発の煙が消えた。

「氷壁!?バカな、おれのノーズファンシーキャノンがあんな氷に防がれただと!?」
「まあ、あの程度直撃しても効かないが…生理的に嫌だったので防がせてもらった。まさか、あれが全力ではないだろうな」
「―――!!嘗めんじゃねぇぇェェッ!」

 青筋を立てたMr.5が私に向かって突っ込んでくる。
 そうこなくてはな。

「ウオォォォォォリャァァァァァッ!」

 Mr.5が右腕を氷壁に叩きつけると、先ほどとは比べ物にならないほどの爆発が起こり、氷壁が砕け散った。
 ほう、中々のものだ。

「おれはボムボムの実によって身体のあらゆる部位を起爆できる爆弾人間!この能力で遂行できなかった任務は無い!」
「では、これが最初で最後の失敗任務だな」
「減らず口を叩くんじゃねェェェッ!」

 Mr.5は更に追撃として、私の顔に左腕を叩きこんできたが、顔に当たる前に喰らい付く。
 サメの歯のごとく鋭利な私の牙が、Mr.5の左腕に深々と突き刺さる。

「グァァァッ!このまま爆ぜろ、化物!」

 Mr.5は苦悶の声を上げるが、そのまま左腕…否、全身を起爆させる。
規模が大きそうだったので、起爆される瞬間、保険としてキャプテンたちの周りに氷壁を展開する。
その心配は正しかったようで、爆破の範囲は、キャプテンたちがいる地点まで及んでいた。

「ミ、ミス・クリーチャー!?」
「ミス・クリーチャーが氷壁を出してくれなかったらヤバかったな…!本人は無事なのか!?」
「カリギュラ殿!」

 バロックワークス3人組はゼロ距離で爆破を喰らった私を心配してくれいてるようだ。

「ゾロ君、帰ったら何か食べないか?私は腹が減った」
「そうだな、エロコック叩き起こして飲み直すか」

確かにこの程度の爆発など、アラガミの身体に意味は無いがな。
でも少しは心配してくれてもいいと思う。

「で、花火は終わりか?」
「な…!む、無傷だと…最大火力の全身起爆だったんだぞ!?」

 どうやら終わりらしい。
 では、イタダキマス。

「グオォァァァッ!」

 ブチリと束ねた紐を力任せに引きちぎるような音と共に左腕を喰いちぎり、咀嚼して嚥下する。
 ああ、なんと美味なることか…

「この…化物ォォォ!」

 上空から声がしたので、上を向くと、ミス・バレンタインデーが上空からこちらを睨みつけていた。
飛行能力かと思ったが、良く見ると木の葉のように爆風に舞っているのが分かる。
 Mr.5が爆弾人間とすれば、この女は自身の重さを調節できる能力者と言ったところか。

「この“1万kgギロチン”で、脳味噌をぶちまけろ!」

 爆風に舞っていたミス・バレンタインデーが私に向かって急降下を開始する。
 どうやら、私の予想は正しかったらしい。

 だが、たかだか10t程度ではなぁ…

 私は踵落としで頭を狙ってきたミス・バレンタインデーの足を片手で掴み取る。
 足元の地面はへこみ、罅が入るが、それだけだ。

「え?」

 まさか受け止められるとは思っていなかったのだろう、間の抜けた声を上げるミス・バレンタインデー。

「さっきの爆弾人間より地味で詰まらん。罰として、この足は没収だ」
「や、やめ―――」

 掴んでいたミス・バレンタインデーの足を太ももから喰いちぎる。
 ん~、美味美味。

「ギャァァァァァッ!」

 フフフ…良い声で鳴く。

「…ん?」

 私は突如身体の中から力が沸き上がって来るのを感じた。
 それと同時に、私の意思とは無関係に原型への変身が始まる。
 身体は巨大化し、青く輝く外殻が形成され、顔は異形の竜と化す。正しく、人間が化物と呼ぶにふさわしい異様だ。

「あ、ああ………」
「ヒィッ!」

 Mr.5ペアが悲鳴を上げ、ガタガタと震えだす。

「こ、これがミス・クリーチャーの正体!?」
「動物系…我が国にも能力者が居るが、あの2人とは明らかに違う。まさか、幻獣種!?」
「そんな…こんなことって…!」

 ビビ達はそれぞれ驚愕の声を上げる。

「カリギュラー、いきなり変身してどうしたんだ。何か変なもんでも食ったか?」
「あ、もしかして鼻くそ野郎食っちまったから食中り起こしたんじゃ!?」
(アラガミが食中りとかダッセェ!ヒャハハハハ!)
【喰い意地が張ってるからこうなるんですよ。クスクス】

 そして平常運航の我が一味。
 アラガミ2匹は後でちょっと話がある。

「違う。あいつらの悪魔の実のエネルギーを取り込んだ結果、溢れたエネルギーがこのように発露されたのだけだ。たぶん」

 私は修復を既に終えているので、悪魔の実を喰べた際のエネルギーがオラクル細胞の活性化に回されたのだろう。
 この状態は、ゴッドイーター達のバースト状態と呼ばれるものに近いように感じる。
 まあ、今はそのようなことはどうでもいい。

「さて、多少予想外の事が起こったが、残りも頂くとするか」

 一歩進むごとにズシンと音を立てながらMr.5ペアに近づく。

「く、来るな、来るなァァァッ!」
「嫌…嫌ァァァッ!」

 Mr.5ペアは逃げようとするが、欠損している部分から血が流れ過ぎたためか、立つこともままならない。
 弱肉強食。この世の摂理だ。さあ、私の糧となるがいい。

「来ないで!来ない―――え?」

 手を伸ばそうとした瞬間、ミス・バレンタインデーの胸に氷女が突き刺さった。
 チ、もう少し悲鳴を聞いていたいと思って、モタモタしていたのが仇になったか。

「あ、あいついつの間に」

 ゾロも氷女の行動は感知していなかったらしい。
 そうこうしている内に氷女はミス・バレンタインデーの肉を喰らい尽くし、更には本来好まないはずの骨すら喰らう。

(美味ぇ美味ぇ美味ぇ!ヒャーッハッハッハッハッハ!)

「氷女、お前…!」
【食事中に余所見はいけませんよ?】
「―――!」

 サリーの声が響いたので、慌ててMr.5の方を向くと、口からMr.5の足を生やしたサリーがニヤニヤ嗤っていた。

「お、お前ら…!」
(弱肉強食だろぉ!?油断したら喰(や)られんだよ!)
【早い者勝ちですよ。うーん、デリシャス】

 う…確かに。
ああ、悪魔の実の能力者が…高級食材が…

(美味かったーーー!)
【ごちそうさまでした】
「いつもは何か残す癖に、今回は塵すら残さず喰いやがって…うう、私のゴハン…」
「その姿でイジケんなよ。物凄く情けないぞ」

 状況が終了し、ゾロ達がこちらへやってきた。
 折角強化状態になったのにもったいない気もしたが、巨大な竜が地面にののじを画いているのは確かに不気味なので、人型に戻る。

「いや、本当に助かりました。ありがとうございます」
「流れに身を任せただけだ。まあ、考えようによっては、食事も出してもらったと言えないことも無いしな」

 冷や汗を垂らすバロックワークス3人組。

「お、おれたちも一歩間違えばミス・クリーチャーの腹の中だったってことか。オフィサーエージェントのMr.5ペアが一蹴されるようじゃおれたちなんか…って、おい、大変だ!」

 さりげなくMr.5ペアがいた場所を振り向いたMr.9が大声を上げた。
 そちらを見ると、地面に突き刺さった氷女と蹲ったサリーがブルブルと震えていた。

「まさか氷女とサリーまで食中りか!?」
「ああそうだ。全く、喰い意地が張ってるからこうなる」
(真顔で大ウソ扱くな!仕返しか!?さっきの仕返しか!?)
【こ、この性悪デカ女!マスターに誤解を招くようなこと言わないでください!背丈と乳ばっか育ててないで、その辺の気配りも育ててください!】
「訂正、サリーは便秘だ」
【このクソ女ァァァァァァァァッ!!】

 うん、大分すっきりした。

「お、おい、本当に大丈夫なのか?」

 キャプテンが倒れているサリーに近付き、抱き起こす。

【ああ、マスター。安心して下さい。これは、私が強くなるためのものです。そのまま、抱きかかえててください】
「わ、分かった」
【ハァハァ…マスターの匂い…】

 自重しろ変態。

 キャプテンがサリーを抱きかかえると、すぐに変化が起こった。
 サリーの背中に一本の罅が入り、其処から緑色の羽根のようなものが出てくる。
まるで、蛹からの羽化を見ているようだ。

それに続いて頭に巨大な一眼を持った女性体の上半身、そして最後に豪奢なドレスを着たような下半身が現れ、宙に浮きあがった。抜け殻はキャプテンの腕の中でボロボロと崩れて黒い粒子になると、羽化した緑色のアラガミに吸収される。
 少しして、緑色のアラガミは頭の一眼でキャプテンを見つめると、柔らかくほほ笑んだ。

「改めてご挨拶いたします。サリーです。マスター、今後ともよろしくお願いいたします」
「うお!サ、サリーが美女に変身した!」
「そ、そんな美女だなんて…マスターにそう言っていただけるなんて、感激です」
「そ、そうか…あ、そうだサリー」
「なんですか?」
「便秘は本当に大丈夫か?」

 サリーの笑顔がビシリと固まる。
 あ、信じていたのか、あの冗談。

 ギリギリと音を立てながら、サリーがこちらを振り向く。
 
「こ、このバカリギュラ!貴女の所為で感動のシーンが台無しじゃないですかー!」

 サリーは私に振り向くと、閉じていた女性体の両眼を見開き、私を睨みつける。

「ブチ殺してあげます!」

 サリーの一眼が眩い光を放つと、私を囲うように幾つもの巨大な眼が現れ、一斉にレーザーを照射してきた。
 咄嗟に両腕にインキタトゥスを形成し、防御する。
 これはサリーの種類のアラガミの技ではない。悪魔の実の能力を応用した独自の技か。

「お、おお落ちつけサリー!」
「きゃ、マスター」

 キャプテンがサリーに跳びついて私への攻撃をやめるように言う。
 サリーはちょっと驚いたが、キャプテンが必死に抱きついてきて集中が乱れたのか、周囲にあった眼はいつの間にか消滅していた。



「で、結局何が起こったんだ?」

 サリーを落ちつかせたキャプテンはサリーの身に何が起こったのか質問してきた。
 ちなみに、サリーはキャプテンを後ろから抱き締めて幸せそうな顔をしている。
 …だから、その勝ち誇った顔を止めろ。ムカつく。

「結論から言えば、サリーは進化した。今までのサリーはザイゴート種という最下級のアラガミだったが、今は“サリエル”と呼ばれる大型アラガミになったわけだ。おそらく、先ほど捕喰した能力者の影響だろう。どうやら、私達アラガミにとって、悪魔の実は最高の食材らしい」
「ふーん、てことは、サリーは強くなったのか?」
「はい!ザイゴートだった時とは比べられないくらい強くなりました。こうして思念だけでなく、言葉でも話せるようになりましたし、合神状態で使える銃、能力共に大幅に強化されました」

 これからもマスターのお役に立って見せますというサリーを生温かく見詰めながら、私はもう1匹のアラガミである氷女の元へと向かう。
 これから生死を共にする2人だ。戦力強化の意味も兼ねて、一層仲を深めてもらうのは悪いことではない。
ただ、サリーが一瞬両眼を開いてキャプテンの下半身を見つつ、舌舐めずりしたのが少し気になったが。



 氷女が突き立っている場所には、既にゾロがいた。
 氷女の柄を掴んで地面から引き抜こうとしているが、抜けないようだ。

「お前の膂力でも抜けんのか?」
「カリギュラか。ああ、地面にぴったりくっ付いちまったみてぇに動かねぇ」
「よし、では私がやろう」

 私は腕を原型に戻し、指をゴキリと鳴らす。
 だが、私が氷女の柄に触れる前に、氷女は地面にズブズブと沈んでしまった。
 チ、逃げたか。

「おいおい、氷女が地面の中に埋まっちまったぞ」
「サリーは先ほどの捕喰で進化した。おそらく氷女もそうなんだろうが…私が造り出したとはいえ、氷女は新種のアラガミだ。どんな進化をするかは全くわからん」

 しばらくすると、地面が僅かに盛り上がり、何かが出てきた。

「「…花?」」

 地面から出てきた物は急速に成長し、一輪の青い花を咲かせた。
 刀から花に変わるとは…これでは退化ではないか。
 ゾロも同じように思っているようで、何とも言えない表情で私を見ている。
 と、その時

「…退化した、とか考えてるんじゃないだろうな」

 花の下から少女?の顔が生えてきた。
 青い髪と猫目の瞳、吊り上がった目じりなど、どことなく私に似ている。
 少女?は地面から腕を出すと、力を込めて全身を引きずりだす。
 土に埋まっていたというのに、身につけている白いワンピースは汚れ一つ無かった。これも私と同じように、外皮を変化させているのだろう。
 身長は140cmくらいで、かなり小さい。しかし、少女?の髪は未だ地面の中にあるほど長い。

「主殿、私は強くなったぞ!」

 ゾロに向けて真っ平らな胸を張る少女?。

「お前、氷女か?」
「ひどいな、主殿。夢の中では何度も顔を合わせていただろう。まあ、現実ではこれが初めてだが」

 腰に手を当ててふんぞり返っている長髪の少女?はどうやら氷女らしい。
宿主であるゾロは、夢を通じてこの姿を見ていたということから、氷女は自分でこの姿になる様に進化したということだろうか?…興味深い。
 特に、先ほどから頭の上でゆらゆら揺れている花が気になる。

「えい」

 とりあえず毟ってみた。

「い、いきなり何してんだテメェ!」
「いや、これが気になってな。何だこれは。お前の本体か?」
「違ぇよ!これは………何だろう?」

 おいおい。

「まあ、抜いても特に問題が無いところを見ると、重要な器官ではないのだろう。さて、次に一つ質問がある」
「あ?何だよ」
「お前は女性体か、それとも男性体か?」

 氷女の身体の起伏が乏しすぎて、女性体なのか、男性体なのか区別がつかないので、直接訊いてみる。

「おい、バカ!」

 ゾロが何やら慌てている。
 一方、氷女の額には無数の青筋が浮き出た。
 もしかして、拙いこと訊いたか?

「お、おおお女に決まってんだろこのアホ創造主ゥゥゥッ!」
「―――!」

 氷女が怒号と共に右腕を振るう。
 私はそれを左腕のブレードで受け止める。
 氷女の右腕を受け止めたブレードからは、金属が擦れる様な甲高い音が響く。

「刃…!」
「当たり前だ。私は主殿の刀なのだからな!」

 氷女の右腕は先ほどまでの少女のものではなく、硬く鋭い刃と化していた。
 成程、ヒトの姿はしていても、本質は刀というわけか。
 また、姿形はかなり違うが、氷女はアルダノーヴァ種に近いアラガミのように思える。

「氷女、その辺にしとけ。カリギュラだって悪気は無かったんだから」
「む…承知した」

 ゾロの指示に従い、氷女は右腕を退き、元に戻すと、ゾロの背中に飛び乗った。

「お、おい、一体何を…」
「ん?鞘に帰るんだ」

 そういうが早いか、氷女の身体がゾロに溶け込んで行く。

「な…!」

 ゾロがその現象に目を見開くと同時に、刀身の入っていなかった氷女の鞘からドロドロとした液体が溢れだし、やがて馴染みのある蒼刃・氷女の姿を取った。

「あー、やっぱりここが一番落ち着く」

 ゾロの背中に覆いかぶさるようにして、再度ゾロの身体から“出現”した氷女は、長い髪をゾロに絡ませて、目を閉じてまったりとしている。

「…何と言うか、さらに人間離れした感じになったな」
「うるせぇ!」

 最後に、氷女に掛けたリミッターに異常が無いか調べたが、特に異常は発見できなかったので、後はヒト型になって、喋れるようになった氷女と仲良くやってくれと言い残してその場を離れる。
 ゾロが待てだのこいつどうにかしろだの言っていたが、知ったことではない。自分の相棒の面倒は自分で見ろ。



「お二人は大丈夫でしたか?」

 2匹の様子を見終わると、イガラムが声を掛けてきた。

「ああ、大丈夫だ。少々姿かたちが変わっただけだ」
「そ、そうですか。…カリギュラ殿、貴女の強さを見込んで、お願いしたいことがございます」
「ん?なん「ゾロォォォォォ!カリギュラァァァァァ!ウソップゥゥゥゥゥ!」」

 私がイガラムに内容を尋ねようとした時、少し離れた所から怒鳴り声が聞こえた。
 そちらに振り向くと、其処には夕食でパンパンに膨れ上がったルフィがいた。

「あ?ルフィか。おい、もう終わっちまったぞ」
「ルフィ君…あ、今は仮面付けて無いから普通で良いのか。ルフィ、お前が寝ている間に全部終わっちまったぜ!勿論、このおれが全部片付けた。いや、あの全身爆弾人が出てきた時はさすがのおれも―――」
「………」

 おかしい、助太刀に来たにしては殺気が強すぎる。

「おれはお前らを許さねぇ!勝負だ!」
「「「はァ!?」」」

 一体何事だ。

「テメェはまた何訳わかんねぇ事を言い出すんだ!」
「うるせぇ!お前らみてぇな恩知らずはおれがぶっ飛ばしてやる!」
「恩知らず?」
「そうだ!さっき生き残ってたやつに聞いたんだ!絶対に許さん!」

 チ、生き残りがいたのか。後でトドメを差しておかねばな。

「おれ達を歓迎して美味いもんをいっぱい食わせてくれた親切な町の皆を!お前達は斬って、撃って、食って殺したんだ!」

「「「………」」」

 全員が頭を抱える。

「な、なんてニブイ奴なの…」
「頭に脳味噌じゃなくて胃袋が詰まってるな、ありゃ」
「お、お待ちください!」

 イガラムがルフィを説得しようと声を掛ける。
 ふむ、加害者と思われている私達が説得するよりも、効果はありそうだ。

「悪いのは私達なのです。とある事情から、あなた方を捕えようとして、寝込みを襲ったのです。彼らはただ自分たちの身を守ったに過ぎません」

 その通りだ。過剰防衛?知らんな。
 だが、ルフィの殺気はますます強くなる。

「お、お前ら…巻き毛のおっさんをボコボコにして、挙句の果てにウソを言わせるなんて…どこまで腐ってんだ!」
「「「「「腐ってんのはお前の頭だァァァッ!」」」」」

 どうやら、ルフィは傷だらけのイガラムを見て、私達に脅されていると思ったらしく、更にヒートアップして襲いかってきた。
 ルフィの放った拳打や蹴りは、周囲の岩を粉砕する程の威力が込められており、明らかに殺すつもりだ。

「ル、ルフィ!落ちつけ!」
「歯ぁくいしばれ!ウソップ!」
「駄目だ!聞く耳もたねぇ!」
 
 再度説得を試みたキャプテンだが、ルフィは全く相手にしない。
 それどころか、キャプテンの顔面を殴ろうとしている。

「マスター、危ない!」

 私もキャプテンを庇おうとしたが、それよりも早くサリーがキャプテンを庇う。

「―――!」

 サリーを確認したルフィは急に拳打を止め、腕を元に戻すと、私が渡した対アラガミ用の手甲と脚甲を装着した。
 さすがはルフィ。頭に血が上っても、野生の勘は鈍っていないのか。

「お前、アラガミだな。見たことねぇ奴だけど、なんとなくわかる。邪魔すんなら、お前もぶっ飛ばす!」
「…上等です。やってみなさい」

 どうやら、サリーはルフィの言葉にカチンと来たようで、頭の一眼が不気味に発光し始める。
 …仕方がない。

「キャプテン、ゾロ、ここは私がルフィの相手をする」
「あ、相手をするって…」
「ルフィは今極度の興奮状態にある。説得するにせよ何にせよ、頭を冷やしてやらねばならんだろう。あとサリーがルフィを殺さないように見ておく。サリエル種の頭の眼が発光するのは、怒っている証拠だからな」
「おれも行く。止めるんなら、人数は多い方がいい」

サリーがルフィと睨みあっている間にこちらに退避してきたゾロが刀を握るが、私はそれを押しとどめる。

「駄目だ。今のルフィは本当にこっちを殺しに来る。私達アラガミはバラバラにされてもコアさえ無事ならどんな傷を負っても何の問題も無いが、ゾロやキャプテンでは足や腕を無くしては拙いだろう。ここは任せてくれ」
「…わかった」

 ゾロはしぶしぶ刀から手を離す。

「では、私が行くぞ!」

 ゾロの身体から氷女が出てくる。
 ゾロ、お前の事はもう人間とは呼べないな。

「この姿での戦闘に慣れておきたいし、主殿が認めたルフィという男の力を体感したい」

 ほう、大分精神面が成長しているな。
どことなくゾロを感じさせるところがあるから、宿主の影響も多々あるようだ。

「まあ、いいか。氷女、着いてこい」
「主殿、行ってくるぞ!」
「応、行って来い」
「サリーをよろしく頼むぞ」

 キャプテンたちに見送られながら、私と氷女は未だ睨みあっているサリーの傍に並ぶ。

「カリギュラも来たのか…でも関係ねぇ、全員ぶっ飛ばす!」
「私とサリーと氷女の3人相手とお前1人じゃ、それは難しいぞ」
「サリー?氷女?どこにもいねぇじゃねぇか!」
「いや、こいつ等がサリーと氷女だ」

 私はサリエルになったサリーとヒト型をとった氷女を指差す。

「ウソつけ!サリーは卵だぞ!そんな蛾みてぇな奴じゃねぇ」
「蛾…!?」
「それに氷女は刀だ!そんな髪の長いちっこい男じゃねぇ!」
「おと…!?」

 何かが切れる音が聞こえた気がする。

「ブチ殺す…!」
「切り刻む…!」

 サリーの一眼は眩しいほどの光を放ち、氷女の左眼には赤い光が宿る(氷女の怒り時の変化は、母体である私と同じようだ)。
 本気で殺る気だ。

「応、掛かって来い!」
「………」

 …頭が痛い。


 
 
























【コメント】

おめでとう! サリー は サリエル に 進化した!
おめでとう! 氷女 は アルダノーヴァ?(女神) に 進化した!
おめでとう! ゾロ は 人間 を 卒業した!



[25529] 第21話 後夜祭
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/08/11 19:45
 月の光が地獄と化した町を照らす中、3人の異形と風船のように膨れた1人の男が向かい合っている。
 異形の内2人は殺気を漲らせ、男もそれを真正面から受け止めている。
 残る1人の異形はどうしたものか、と頭を抱えてる。

 しばしの静寂ののち、最も小柄で、最も凶暴な眼光を放つ異形―――氷女がルフィに向かって突進し、右手を振るう。

「ブッタ斬れろォッ!」

 氷女が振るった右手は一瞬の内に鋭利な刃と化し、ルフィの首を落とすべく、蛇のように喰らい付く。

「うおっと!」

 だが、ルフィもさる者、素早く鋭い氷女の斬撃を、手甲で受け止める。
 ギチギチと金属がこすれ合うような、不快な音が町の静寂を乱した。

「やるな。だが、私の刃は1本じゃ無ぇんだぜ?」
「―――!」

 氷女はさらに刃と化した左腕で、ルフィの首を狙う。
 ルフィはもう一方の手甲でこれを受け止めるが、氷女がニヤリと嗤った。

「ヒャッハー!真っ二つだァッ!」

 氷女が上半身を逸らし、バネに弾かれたように上半身を前へ倒す。
 それに引っ張られるようにして、氷女の長い長い髪が、ルフィへと降り注ぐ。

「―――?」

 頭突きでもされるのかと思っていたルフィは氷女の頭が空振りしたのを不思議に思いながら降り注ぐ髪を見つめる。
 だが、氷女の髪の一本に偶然触れた木の葉が両断されるのを見て、氷女の攻撃の真意を即座に悟る。

「いッ…!?これ全部刃物か!?」

 ルフィの身体はゴムなので、打撃には滅法強いが、斬撃に対しては普通の人間とさほど変わらない。
 この斬撃の雨を浴びれば、間違いなく細切れになって、即死する。

「そう簡単にやられるかって!」

 だが、天性の勘と才能を持つ麦わらの一味の船長は、氷女の真下に身体を滑り込ませ、斬撃を回避すると同時に、氷女の腹を蹴り飛ばす。巴投げの変形のような攻撃だ。

「グッ!」

 重心が前へ傾いていたこともあり、氷女の身体は軽々と宙を舞い、少し離れた建物の天井に突っ込んだ。
 しかし、ルフィの敵は氷女だけではない。

「クスクス、隙ありです」
「―――!なんだこの眼!?」

 地面に倒れているルフィの真上に無数の『眼』が浮かび上がる。

「死になさい、ゴム猿」

 ドレスを纏った妖艶な異形―――サリーが手をかざすと、眼から眩い光が直線状に放たれた。

 「だァァァ!焦げる焦げる!」

 眼からの光線が穿った大地はブスブスと煙を上げている。明らかに凄まじい熱量で焼かれた印だ。
 その死の雨を、ルフィは地面を転がりながら、必死に避ける。

「クスクス…クハハハハハハハハッ!無様、無様、無様ァッ!このまま炭化して風に還りなさい!」

 サリーは己の狂気を隠すことなく発露させ、美しい顔を醜く歪ませている。
 その顔は正しく、彼女の辿ってきた歴史そのものを表していた。

「やめんか、馬鹿者!」
「へギャ!」

 だが、サリーの隣に立っていた最後の異形―――カリギュラがサリーの頭を殴りつける。
 それで集中が乱れたのか、『眼』は一斉に消滅し、光線の雨もピタリとやんだ。

「…お前ルフィを殺す気か?」
「勿論です!」

 今度は頭部の一眼にグーが炸裂した。

「ギャァァァッ!頭部が結合崩壊しました!」
「よかったな。その捻じれ曲がった根性が治るかもしれんぞ」

 カリギュラからの二度にわたる拳を受け、頭部に亀裂が生じたサリーは、両手で顔を覆う。
 通常時ならば、アラガミ同士がじゃれているだけで終わるが、今は仮にも戦闘中。そのような大きな隙を、この男が見逃すはずがない。

「ゴムゴムのバズーカ!」

 サリーの光線を避けていたルフィは、すぐさま態勢を立て直し、サリーに向かって、伸ばした両腕の掌底をひび割れた頭部の一眼に叩きつける。

「ガッ!?」

 ルフィの攻撃を受けたサリーは盛大に吹き飛び、後ろにあった建物の壁を貫通して、その動きを止めた。
 カリギュラは頬を掻いて、少し悪いことをしたかなといった表情を浮かべていたが、すぐにルフィに向き直った。

「さすがだな。アラガミ2匹とここまで戦えるとは。だが、私はそう簡単には行かんぞ」
「ああ、お前強ぇしな。でも、負けねぇ!」

 ルフィの返答を聞いたカリギュラは、僅かに口元を歪めて笑うと、身体を前方に倒して、ルフィに突っ込んだ。

「はや―――!」

 ルフィの驚愕が言葉になる前に、カリギュラの拳がルフィの顔面に突き刺さる。
 ルフィの首が10mほど伸び、その威力を逃がすが、常人ならば確実に頭が吹き飛ぶ剛拳だ。
 更にカリギュラはルフィを宙に蹴り上げ、自身のコートを素早く脱ぎ、ルフィを包みこむ。
すると、コートはまるで生き物のごとくルフィを呑みこみ、黒い球体となった。このコートもカリギュラの一部。ゆえに、彼女の意思のまま、自在に動くのだ。

 そして始まる拳打の嵐。ルフィが詰まった球体を殴る、殴る、殴る、殴る、殴る!
 重力の束縛を受けるはずの球体が1分以上宙に留まっていることから、その拳打の凄まじさ推して知るべし。
 そして、最後に渾身の蹴りを入れると、球体の中からルフィが吐き出され、途中にあった家の壁をブチ抜きながら、何十mも吹き飛ばされた。

「本来ならば、私の拳打でミンチにしたところをコートで直に捕喰する。これで一回は死んだぞ、ルフィ」

 カリギュラは宙に舞っていたコートをキャッチし、その豊満な肢体に再びそれを羽織りながら、ルフィが飛んで行った方向に向かって告げる。

「あー、良い運動してやっと食いもん消化できた。こっからが本番だ。カリギュラ」

 建物の中から、はち切れんほどにパンパンだった腹が元に戻ったルフィが現れる。
 あれだけの猛攻を浴びながらも、ルフィには目立ったダメージは見受けられない。
 ゴムゴムの実の対打撃防御力はかなりのものであるようだ。

「手加減したとはいえ、あれを受けてほぼ無傷か。お前に打撃は無効と考えた方が良さそうだな」

 さて、どうしたものかとカリギュラは思案する。
 ただ相手を殺すだけならば、ブレードもしくは冷気を使えば済む話であるが、今回はルフィの頭を冷やすことである。
 “見敵必殺”しかやってきたことのないカリギュラにとって、これ程の難問は無い。

「行くぞォォォッ!」

 そうこう考えている内に、ルフィがカリギュラに突っ込んできた。

「む…」

 ルフィの怒涛のごとき拳蹴をカリギュラは的確に捌く。
 カリギュラはルフィの攻撃を捌きながら、どうやってルフィの行動を止めようかと、ルフィの動きを観察している内に、別の事に興味を引かれた。

(ふむ、拳打を打つ時に腰をひねっているな。…成程、腕の筋力だけでなく、全身の筋力を使っているわけか。これが人間の技法…興味深い)

 今まで本能のまま、絶対強者として、その身体能力に任せて殺戮を行ってきた彼女にとって、弱者が強者と渡り合うために生み出した『技』というものは新鮮に映ったようだ。

(…外部的な衝撃では駄目、では内部的な衝撃は…?)

 ルフィの技法を見て、カリギュラは今まで喰らったモノの中に、内臓など内部の破壊を目的とした戦闘技術を身に着けていた者がいたことを思い出した。

「くそ!全然攻撃が通らねぇ!」
「まあ、まだお前と一対一では負けんよ」

 攻撃が全ていなされている事に焦ったルフィの大ぶりになった拳打を受け止めて掴むと、カリギュラはルフィの胴に鋭い回し蹴りを叩きこんだ。

「ゲフ!…でも、効かねぇ!」

 またも盛大に吹っ飛んだルフィだが、素早く立ちあがる。
 やはり、ゴム人間に打撃は効かないようだ。

「そのようだな。だが、次の攻撃はこれまでとは少々違うぞ」
「どんな攻撃が来たって、おれは負けねぇ!」

 再びルフィがカリギュラに跳びかかろうとしたその時、

「私もいることを忘れんな!」

 地中から刃が―――否、氷女が刃と化した右腕をルフィの真下から突き上げてきた。

「―――!邪魔だァッ!」

 ルフィは間一髪で身体を逸らし、喉を狙ってきた突きをかわし、その反動を利用して、氷女の顔面を殴りつけ、地面に叩き落とす。
 だが、氷女はそのまま地面に沈む様にかき消える。

「な、何だ!?」
「…どうやら、氷女の新しい能力のようだな。先ほどの奇襲から察するに、地面を自由に移動できる能力といったところか」

 消えた氷女に驚愕するルフィに、カリギュラが自分が予測した氷女の能力を伝える。
 
「くそ!地面の中に居ちゃあ、手が出せねぇ。氷女、出てこい!」

 地面に潜った氷女に対して、攻撃が出来ないルフィは苛立ちながら、地面を何度も踏みつける。
 その時、ルフィの背後の地面が盛り上がった。

「―――!そこかァッ!」

 背後からの殺気を感じ取ったルフィが、地面から出てきたモノに対して、裏拳を叩きこむ。

「OBAaaa!」
「な、何だこれ!?」

 其処に居たのは氷女では無い。一言で言うなれば、土人形。土で人型をまねた拙い作りの人形がルフィに覆いかぶさろうとしていたのだ。
 ルフィの拳は土人形を砕いたが、人形を構成していた土がルフィに降り注ぐ。

「―――『人間道・重』!」
「グ!?お、重めぇ!ただの土なのに…!つ、潰れる…!」

 どこからともなく氷女の声が響いた瞬間、土まみれになっていたルフィが、まるでその土に押しつぶされるように地面に倒れた。

「これで終いだァッ!」

 身動きが取れないルフィ目掛けて、氷女が地面から再度姿を現し、刃と化した右手で心臓を貫かんと踊りかかる。

「クハハハハハ!死ね、死ね、死ね!私を傷つけるモノは皆殺しです!クハハハハハ!」

 さらにいつの間にか起き上がっていたサリーが、ひび割れた顔に悪鬼さながらの表情を張り付け、先ほどとは比べモノにならないほど巨大な『眼』を自らの前方に造り出してルフィ“達”を狙う。

「いッ…!あの毒蛾野郎、私まで焼く気か!」
「ビ、ビームだ!絶対ビームだ!」

 ルフィの心臓を正確に狙いつつも、サリーの凶行に目を剥く氷女と重い土につぶされながらも男のロマンに目を輝かせるルフィ。
 この男、色々な意味で大物である。

「―――『デストロイア・レイ』、ディスチャージ!」

 巨大な眼から凄まじいエネルギーが放たれた。
 膨大な熱量の塊は、ルフィと氷女を焼き尽さんと飢えた獣のように襲いかかる。
 ルフィは勿論、アラガミである氷女でさえ、この攻撃を受ければただでは済まない。

「…はッ、上等!どっちがこのゴム野郎の息の根を止めるか、勝負だ!」
「ウッホォォォ!スッゲェェェ!」

 だが氷女は逃げずに、そのままルフィへの攻撃を継続する。
 自身の安全よりも、得物を横取りされることの方が、許せないようだ。

 2匹のアラガミの頭にはもはやルフィを止めると言うことなど頭になく、ただどちらが先に得物を仕留めるか、それだけしか無いようだ。
 例外は残る3匹目である。

「………この馬鹿共…!」

 サリーの極光と氷女の刃がルフィを貫く寸前、カリギュラがルフィの真上に出現した。

「カ、カリギュラ!?」
(速い!全く目視できなかった…!)
「グ…!忌々しい女ですね」

 カリギュラは原型に戻した左手で氷女の刃腕を掴み、光線の射線軸上に氷壁を出現させる。
 氷女が渾身の力を込めて突き出した刃はその場でピタリと動きを止め、サリーの光線も氷壁に当たると、乱反射を起こし、やがて霧散した。

「…いい加減にせんかァァァァァァァァァァァァッ!!」

 空間が揺れるのではないかというほどの大喝。普段のカリギュラからは到底想像できない大声だ。

「「「―――!!!!」」」

 その大喝に怯んだ氷女の頭に強烈な頭突きを喰らわせ、身体がくの字に折れ曲がったところで顔面に原型に戻した膝で一撃。
 グチャっと何かが潰れる嫌な音と共に、氷女が100m以上吹き飛び、ピクリとも動かなくなった。

 それと同時に、右手をオヴェリスクに変換し、サリーに向けて二連轟氷球を乱射する。
 氷女と同じく大喝で動けなったサリーは集中砲火を浴び、足やスカートまで結合崩壊を起こし、ボロボロになって沈黙した。

「よもや本当にルフィを殺そうとするとは…いや、アラガミならばそちらの方が正しい。おかしいのは私ということか」

 2匹のアラガミを文字通り瞬殺したカリギュラは、足元のルフィに構うこと無く、何やら考え込んでいる。

「…ん?お、軽くなった!」

 カリギュラの下でもがいていたルフィは、いつの間にか土が軽くなっていたことに気づき、素早くカリギュラから距離を取った。

「よっしゃ!掛かって来い!」
「…フ、そうだな。今はお前との戦いを楽しむとしよう」

 ルフィが構えると、カリギュラも思考をやめ、ルフィに向き直る。

「さて、思わぬ邪魔が入ったが、先ほどの続きだ。行くぞ」

 初回と同じくカリギュラの爆発的な踏み込み。それは、常人には見ることすら許されぬ風神の如し。

「へっ!もう目も慣れたぞ!」

 だが、この男は風神を捕え、さらには打ち破らんと、全身全霊を込めた拳打で迎え撃つ!

「でぇりゃァァァァッ!!」
「破ァァァァァァァッ!!」

 互いの攻撃がぶつかり合い、その衝撃で周りの地面が吹き飛んだ。

 粉塵が収まると、互いに腕を伸ばしたまま、静止している2人の人影が現れる。
 ルフィの拳は正確にカリギュラの顔面を捕え、鼻をへし折っている。

「………」
「…まさか、一撃を貰うとは思わなかったぞ。さすがはルフィだ。だが、今回は私の勝ちのようだな」

 カリギュラがそういうと同時に、ルフィが崩れ落ちる。
 ルフィの拳がカリギュラを捕えていたのと同じように、カリギュラの“掌打”もルフィの腹を打ち据えていた。

「どうだ、身体を撃ち抜く衝撃の味は。これはゴムでもかなり効くだろう?」

 折れた鼻をゴキリと戻し、掌打を繰り出した右手を摩りながら、カリギュラは倒れているルフィに問いかける。

「しかしまあ、上手く加減出来てよかった。ちゃんと五体満足だしな。なんだ、私も確り手加減が出来るじゃないか」

 カリギュラはうんうんと頷きつつ、ルフィを見る。

「ゲボァ!」

 ルフィが口から真っ黒な血を吐いた。
 明らかに内臓がズタズタである。

「…オヴェリスク変換。ヒールバレット装填。発射」

 カリギュラが手加減をモノにするには、まだまだ時間が掛かりそうである。





「なっはっはっはっは!なーんだ、そんなことならもっと早く言えよ。おれはてっきりあのもてなしの料理に好物が無いから怒って皆殺しにしたかと思ったよ」

 ヒールバレットを数十発撃ち込んでようやく目を覚ましたルフィに事の顛末を話すと、ルフィは快活に笑った。

「お前が聞く耳持たなかったんだろう。それに、私の好物は人間と魚。あのもてなしの料理に魚料理はしっかりあった。それについて不満は無い」

 人間の方も確りと喰えたしな。特に味噌が美味いんだ、人間は。

「………」
「………」

 ゾロ達の元へ向かっている中、後ろから着いてくる氷女とサリーから恨めしい視線を感じる。
 2人はその辺りに散らばっていた死体を喰い漁り、なんとか外見上の修復は完了している。だが、内面的な修復にはしばらく掛かるだろう。

「しかしなんだ、お前らが本当にサリーと氷女だったなんてな。全くわかんなかった。アラガミにも成長期ってあんのか?」

 ルフィはあっけらかんとして、こちらを射殺さんばかりに睨んでいる2人に笑いかける。

「…絶対いつか斬る」
「…月の無い夜には気を付けなさい」
「応!いつでもいいぞ!お前らと戦うのはおもしれェし!」

 明らかにいつか殺すという意味合いの言葉だが、ルフィは全く理解していないようだ。
 それを見た氷女とサリーは、大きなため息を吐いた。

「もう良いです。こんな馬鹿、相手にするだけ時間の無駄です」
「そればかりは同感だ」

 なっはっはっは、と笑いながら歩くルフィが、ふと氷女に振り返り、質問を投げかけた。

「そういや、さっきの戦いでお前の土が身体に掛かったとき、やけに土が重かったんだけど、あれなんだ?」
「ハッ、誰がテメェなんぞに教えるか」

 しかし、氷女は答える気が無いようだ。
 まあ、自らの手の内を明かすというのは、死の危険に繋がるからな。
だが、私も興味がないと言えばウソになる。
 …ふむ、ここは一つ絡め手で。

「ほう、お前はその能力を知られるとルフィに負けると、そういうことか」
「な、なんだと!誰がこんなゴム野郎に負けるか!いいか、さっきの技はな、あのレモン女の魂を憑依させた土人形を使った技だ!」
「「…魂?」」

 魂とは、人間の精神的な根源といわれている。だが、科学的にそれが確認されたことは無い。
 だが、氷女が嘘を言っているとも思えない。

「ああ、貴女の髪に絡み取られているその女ですか」

 サリーが汚いものでも見るような目で、氷女の髪の一部を凝視する。
 だが、私にはただ青い絹糸のような氷女の髪しか見えない。

「―――?何にもねぇじゃねぇか」

 それはルフィも同様のようだ。

「ああ、貴方達には見えませんよ。これは物理的視野ではなく、精神的、霊的な視野で見ないと」
「…私には無縁だが、アラガミの中には空間を捻じ曲げる等の超常的な力を持つ者もいる。その類か」
「…貴女の冷気も大概ですよ?話を戻しますが、それよりもさらに霊的な方向に傾いた能力ですね。喰らった人間の全精神、氷女の言葉を借りれば魂ですか。それを自らの支配下に置き、自在に操る事が氷女の能力でしょう」
「その通りだ!」

 サリーの説明に、氷女が胸を張ってふんぞり返る。

「まあ、ただの人間でもさっきみたいに土人形に出来るんだが、能力者の魂を使えば、そいつが持っていた能力も使えるんだ!」

 おいおい、地味にとんでもないことを言っているぞこいつ。

「ただ、能力者の魂の制御は難しくて、まだ1体しか操れないけど…いつか克服してやるんだ」
「そうか」

 結局欠点も含めて全部喋ったな、氷女。…ちょっと頭が残念かもしれない。

「―――???」
「…ルフィ、簡単に言うと氷女は幽霊を操れるということだ」
「―――!おお、スッゲェェェッ!」

 会話に付いていけず、先ほどから首をひねっていたルフィに氷女の能力を噛み砕いて説明してやると、目を輝かせた。

「な、な!一匹くれよ!虫かごで飼うから」
「お前は魂を何だと思ってんだ!」
「ちゃんと世話するから!」
「そういう問題じゃねぇよ!」
「あ、でも幽霊が見えなきゃ世話出来ねぇ…サリー、後で眼貸してくれ」
「貴方は私の眼を眼鏡か何かと勘違いしてませんか!?」

…ま、アラガミらしく凶暴なこいつ等もなんだかんだで上手くやっていけるだろう。



「これで逃げ場も無いってわけね!」

 ゾロ達が居る場所まで戻ると、何やらナミが荒れていた。

「お、案外早かったな」
「主殿~♪」

 ゾロを見つけると、氷女はすぐに飛びつき、身体を融合させてゾロの背中からまったりとした表情で現れる。

「サリー、怪我は無いか?」
「外見上は取り繕っていますが、内部的に少々やられてしまいました。主にあのデカ女の所為で。でも、マスターが抱きしめてくれればすぐに治ります」
「こ、こうか?」
「あぁん♪マスター…」

 この色ボケは本当に一辺死ねばいいと思う。

「カ、カリギュラ~、大変なことになっちゃった」

 ナミが涙目で近寄ってきて、事情を説明してくれた。

 私達とルフィが戦っている間に、ビビを『アラバスタ』という王国まで護衛してほしいという依頼をイガラムからされたが、ビビは私達を巻きこめないと断ろうとした。
 イガラムとビビの故郷であるアラバスタ王国はグランドラインでも有数の文明国家として知られ、平和な国だったらしい。
 だが、ある時から革命の兆しが表れ、国が荒れているという。
 自分達が預かり知らぬところで民衆の不満を煽る事件が頻発したことから、ビビ達は独自に調査を行ったところ、バロックワークスという秘密犯罪会社に行きついた。
 そして、自らのお目付け役であったイガラムと共に、危険を顧みず、潜入捜査を行っていたらしい。

 さすがのナミも巨大な裏組織に命を狙われるのはごめんなのか、お金は欲しいけど仕様が無いと断ろうとしたが、ビビがうっかりバロックワークス社長の正体を喋ってしまい、それをバロックワークスの伝令兼お仕置き係のMr.13(ラッコ)とミス・フライデー(ハゲワシ)に見られ、更には似顔絵まで作成されてしまったという。
 ここに居るメンバーは勿論、どうやら奴らはMr.5と戦っていた時から監視していたようで、ルフィ、氷女、サリー、私とその原型の似顔絵まで作成したとのことだ。
 私がこの場に居れば相手が空を飛べるなど関係無く排除できたのだが…過ぎたことを嘆いても仕様が無いか。

「バロックワークス社長、王下七武海“クロコダイル”か…面白い、七武海には借りもあるしな」

 私はミホークに貫かれた心臓に手を置きながら、未だ見ぬ強敵に思いを馳せる。
 きっと美味いに違いない。フフフ…

「とりあえず、おれ達6人、バロックワークスの抹殺リストに追加されちまったってわけだ」
「ヒャッハー!なら逆にそいつら全員喰い尽くしてやるぞ!」
「サ、サリー、おれ怖いおれ怖い…」
「大丈夫ですよ、マスター、私が必ずお守りいたします。ですからもっと強く抱きしめてください!ハァハァ…」
「なんかぞくぞくするなー!」

 ルフィとゾロはやる気満々、私と氷女は喰う気満々、キャプテンはビビり、サリーは煩悩全開という何ともまとまりのない反応だ。

「…………………」
「わ、私の貯金50万ベリーくらいなら…」

 現実に絶望したナミは体育座りでどんよりとしている。
 それを何とか慰めようとしているビビが何とも言えない。

「ご安心なされいっ!」

 先ほどまで居なかったイガラムの声が聞こえたので、そちらを振り向くと―――

「………何とも反応に困るな」

 “へのへのえぢ”と書かれた人形6体を持った、ビビの恰好をしたイガラムがいた。

「ダイ゛…ゴホン!マ~ママ~~♪大丈夫!私に策がある」

 限りなく不安だ。

「変態だ!変態が居るぞ、主殿!」
「氷女、見るんじゃねぇ。目が腐る!」
「サリー、なんで急に目を隠すんだ?おっぱいで」
「マスターを有害情報から守るためです。あ、苦しくなったら乳首に吸い付いてください。すぐベッドに直行しますから」
「うはーっ!おっさん、ウケるぞそれ、絶対!」

 言いたい放題だな、お前ら。
 そしてサリー、お前は欲望に忠実すぎだ。

「もう、バカばっかり…」

 はは、何をいまさら。

「イガラム…!その格好は…!」
「いいですか、良く聞いてください。バロックワークスのネットワークにかかれば、今すぐにでも追手はやってきます。“Mr.5ペア”死亡となれば、それはなおのこと。
 参考までに言っておきますが、今でこそ七武海である彼に賞金は懸かっていませんが、バロックワークス社長、海賊クロコダイルにかつて懸けられていた賞金額は8000万ベリー」
「なんだ、カリギュラの方が高いじゃねぇか」

 まあ、額だけ見れば、私の方が高いな。

「確かに。ですが、このような組織を束ねる存在です。海賊時代にも彼が裏で手をまわし、その証拠を掴めなかった事件も数多くあるでしょう。ゆえに、いかに世界政府が懸けた懸賞額といえども、今回はあまりあてにできません」

成程、裏でコソコソやるのが得意な奴か。

「ところで、王女をアラバスタへ届けていただける件は…」
「ん?なんだそれ?」
「こいつを家まで送ってくれってよ」

 事情が飲み込めていないルフィに、ゾロがビビを指差しながら、至極簡単な説明をする。

「あ、そういう話だったのか。いいぞ」
「8000万ってアーロンの4倍じゃないのよ!断んなさいよ!」

 気楽に了承の返事をするルフィに、ナミが抗議の声を上げる。

「ナミ」
「あ、カリギュラ。ほら、あんたからも何か言ってやって!」
「つまりクロコダイルはアーロンの4倍美味いということだな!」
「違うわァッ!」

 ナミに頭を引っ叩かれた。

「アーロン?何だそれ?」

 初めて聞く名前に、氷女がゾロの頭に顔を乗せながら、首をかしげる。

「お前が生まれる前に、私が捕喰した魚人という生物だ。最高に美味かった」
「へー、貴女が其処まで言うほどですか。…何か私も喰べたくなりました」
「駄目だ!そのクロコダイルって奴は私と主殿の2人で全部喰べるんだ!」
「おれは食わ無ぇよ!」
「………」

 ナミが崩れ落ちた。

「では王女、アラバスタへの“永久指針(エターナルポース)”を私に」

 ビビは僅かな沈黙の後、ログポースに良く似た指針をイガラムに手渡す。

「エ…!?エターナルポースって何?」
「ん?ご存じないのか」

 さめざめと泣いていたナミが、初めて聞く指針の名前に、顔をあげてイガラムに問いかけた。

「言ってみればログポースの永久保存版。ログポースが常に次の島へと船を導くのに対して、一度記憶させた島の磁気を決して忘れず、例えどこに行こうとも永久にその島のみを指し続けるのがこのエターナルポース。
 そしてこれは、アラバスタの地の磁気を記憶したものです」

 ほう、便利な物があるものだな。

「いいですかビビ王女、私はこれからあなたに『なりすまし』、更に彼ら6人分のダミー人形を連れ、一直線にアラバスタへと舵を取ります。バロックワークスの追手が私に気を取られている隙に、あなたはこの方々の船に乗り、通常航路でアラバスタへ」

 …それはひょっとしてギャグで言っているのか?

「…主殿」
「氷女、言ってやるな」
「…マスター」
「気持ちを汲んでやれ、サリー」

 だよなぁ…

「私も通ったことはありませんが、確かこの島からログを2、3辿れば行きつくはずです。無事に………祖国で会いましょう」

 …無理なんじゃないかな。

「ハッハッハ!そんな変装じゃ無理だぜ、Mr.8」
「いくらなんでも、人間1人で誤魔化すのは無理があるよ」

 ―――!誰もが突っ込みたくても空気呼んで突っ込まなかった事を平然と言うこの声は。

「ミ、Mr.9!ミス・マンデー!そ、その格好は…!」

 声が聞こえた方向に立っていたのは、鉄バットを3本腰に差し、短髪緑色のかつらを被って、氷女とそっくりな人形を背負ったMr.9とサリーそっくりのドレスに身を包んだミス・マンデーだった。

「「「ふ、ふざけんなー!」」」

 案の定、変装された奴らがキレた。

「それおれか!?おれのつもりか!?」
「そっくりだろ?この腰に3本指したものと、マリモヘッドと背中に背負った幼女」
「幼女言うな!ってかなんで私の人形そんなに精巧何だよ!そっくり過ぎて気持ち悪いんだけど!」
「ハッハッハ!趣味の島『コミーケ』ではちょいと名の知れた勇者兼クリエイターのおれの自信作だ。ちなみに、この件で無事生き残れたら、『氷女ちゃんシリーズVol.1』として売り出そうと思っている」
「「斬り刻んでやる!」」
「ま、待ってMr,ブシドー、氷女ちゃん!お願いだから落ちついて!」

 ビビは自慢顔のMr.9に今にも斬りかかろうとするゾロと氷女を必死に止める。

「ゆ、夢に出そうだ…」
「マ、マスター!お気を確かに!…ちょっと、貴女なにおぞましい恰好してるんですか!今すぐ着替えて来なさい!」
「ハハハ、照れるんじゃないよ。Mr.9に聞いた通り、中々可愛くあんたそっくりに出来たと思うんだけど」

 ムキッとポージング。
 私はそれを見て、サムズアップしながら

「ミス・マンデー、良い感じだ」
「ブチ殺しますよこのデカ女ども!」



「では…王女をよろしくお願いします」
「ミス・ウェンズデー、おれが言うのも何だが、絶対に国を救えよ」
「じゃあね。次あったら、アラバスタの美味しい甘味処で一緒にお茶しましょう」

 あれから暴れる氷女、ゾロ、サリーのアラガミ3匹をどうにか宥めて、おとりとして船に乗る3人を見送る。

「では王女、過酷な旅になるかと思いますが、道中お気を付けて」
「ええ、あなた達も」

 3人を乗せた船が小さくなるのを眺めつつ、7人でたわいもないことを喋っていいた、その瞬間

―――船が爆ぜた。

 大地を揺るがすような轟音と共に、海が炎に包まれる。

 …意思は受け取った。あとは私に任せて、安らかに眠れ。

「―――!バカな、もう追手が…!」
「中々派手な戦の狼煙だな。ヒヒヒ」
「海を嘗めつくす炎…美しいモノですね。クスクス」

 氷女とサリーはあの3人の死について、なんら感じるところは無いようだ。
 アラガミらしくて実に結構。

「先を越されたな」

 私が声を上げると、燃え上がる海を見ていたルフィが素早く踵を返す。

「立派だった!」
「ナミ、ログは!」
「だ、大丈夫。もう溜まってる」
「行くぞビビ。ここでお前が見つかっては意味がない」

 私がビビの肩に手をおいて、顔を見ると、ビビは真っ直ぐと燃える海を見つめながら、唇を血が出るほど噛みしめていた。
 だが、嘆きの言葉も涙も無い。中々の精神力だ。

「安心しろ。お前は必ずアラバスタ王国まで送り届けてやる。ついでに、コソコソと裏で動きまわるゴキブリ鰐も、骨一つ残さず喰らってやる。分かったらさっさと行くぞ」
「ミス・クリーチャー…ええ、行きましょう」

 目に強い意思を宿したビビと共に、先に行った仲間を追って、ゴーイング・メリー号へと走り出した。



 ルフィが叩き起こしたサンジと超カルガモのカルー(非常食)を乗せて、メリー号は出航した。
 途中、気がついたサンジがもう一泊して行こうだの、人間型になった氷女とサリーを見ていつもの発作を起こすだのしたので、物理的に黙らせた。

「霧が出てきた…もうすぐ朝ね」

 川上から支流に乗れば早く航路に乗れるということで、ビビの指示に従い、船は島を出る。

 ―――ん?クンクン

「どうしたのカリギュラ?そんなに鼻を動かして」
「いや、何やら私達以外の匂いがした気がしたのだが…」

 相変わらず索敵は苦手だ。

「あ?それならさっき船がと通った岩場に隠れてた奴じゃねぇか?生物の心音が聞こえたし」
「それなら私も視認しました。ですが、相手も中々のものですね。こちらが気付いたことをすぐに察知して、尻尾を巻いて逃げて行きましたよ」
「追撃は?」
「無理ですね。もう私でも見えない範囲まで逃げました」

 チ、勘のいい奴め。

「まあ、逃げた奴は良いとして、追手ってどのくらい来んのかな?」

 ルフィがビビに問いかける

「分からない。バロックワークスの社員は総勢2000人いて、ウィスキーピークのような町がこの付近にいくつかあると聞いているけど…」
「1000人くらい来たりして」
「ありえるわ。社長の正体を知ってしまうことはそれほどの事だもん」

 …ふむ、危険度はなるべく下けるべきだな。

「ビビ、質問がある」
「なに?」
「周りの町から追手が来るとして、そいつらはどういった経路で来るか、分かるか?」

 私の質問に、ビビは少々考えてから、口を開いた。

「恐らく、エターナルポースを使ってウィスキーピークまで来た後、ログポースで通常航路を辿って来ると思う。イガラム達の囮はばれちゃったし…」
「次の島のエターナルポースを使われる可能性は?」
「それは無いと思うわ。エターナルポースが作られるのは、町とかがある島がほとんどだから。ウィスキーピークの次の島に、町があるとは聞いてないし」
「成程。ならば、やってみる価値はあるな」

 ビビへの質問を終えた後、私は甲板の前方に向かう。

「ん?どした、カリギュラ」
「ルフィ、悪いが少し離れていてくれ」

 折れた船首に乗っていたルフィは首をかしげながらも私の忠告に従い、ナミ達に合流した。

 さて、やるか。

 私は意識を集中し、全身のオラクル細胞を活性化させる。
 見る見る内に身体は巨大化し、青い装甲に包まれた竜へと変貌する。

「おお!やっぱ何度見てもカリギュラの本当の姿はカッケェェェッ!」
「ミス・クリーチャーは一体何を?」
「…なーんか嫌な予感が」

 仲間達の言葉を背に、私は上空へと飛び立ち、ウィスキーピークを俯瞰出来る高さまで上がる。

「さて、“全力”でやってみるか」

 私は右腕にエネルギーを極限まで集中させると、ウィスキーピーク上空目掛けて放つ。
 そのエネルギーは私の意思に従い、空気中の水分も取り込んで、数秒で島の直径と同等までの氷塊へと変わる。

「え…!?」
「ひょ、氷山!?氷山が空から降って来るーーー!」
「―――!あの女がカリギュラだとしても、これは…!」

 氷塊は重力の束縛によって、速度を増しながらウィスキーピークに墜落した。氷塊はウィスキーピークの全てを押しつぶし、島を沈める。
 その衝撃で海が荒れるが、これから起こる事によって、メリー号が転覆しない距離まで離れた事は確認済みなので、心配はしない。

「ダァ!無茶すんなよカリギュラ!」
「これが…創造主の力…!」
「つ、津波!津波が来るーーー!」
「クソ!カリギュラちゃんがヒト型だったらズボンとはいえ、ローアングルからの画が見えたのに!」

 サンジ、後で私刑。

 更に、私は右手に残った氷炎を握りつぶす。
 この炎はあの巨大な氷塊のエネルギーを制御しているリミッター。
 それを破壊すると言うことは、すなわちエネルギーの暴走を意味する。
 暴走したエネルギーはやがて、氷塊という殻を喰い破り、全てを凍らせ、砕き尽す暴虐の嵐となる。

「爆ぜろ―――『Cocytus:Caina』」

 私が言の葉を発した瞬間、ウィスキーピークを押しつぶした氷塊は、大爆発を起こし、凄まじい冷気の奔流が吹き荒れた。
 その轟音で大気が激しく揺れ、メリー号に襲いかかっろうとしていた津波も周囲の海ごと氷漬けになる。
 冷気の奔流が収まったとき、其処に島は跡形もなく消し飛んでいた。

「…出力が随分と上がってるな。まあ、考察は後にして、船に戻るか。いかにポースを持っていたとしても、島が無ければ意味があるまい。これでしばし追手の足止めも出来るだろう」

 1分後、船に戻った私はサンジを除く全員に殴られた。

























【コメント】
 カリギュラさんの所為でグランドラインの航路が1本減りました。



[25529] 第22話 新しき因縁
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/08/25 14:37
 『注意』
今回の話は麦わらの一味はお休みです。
 オリジナルキャラ、オリジナル設定、原作キャラ崩壊の嵐です。

 それでも良いという方のみ、↓へどうぞ。








































【荒ぶる神の力】

「…どうやら、追ってはこないようね」

 ウィスキーピークから数十km以上離れた岩場で巨大な亀の背中に乗った女が冷や汗を垂らしながら呟いた。
 美しい黒髪と高い鼻が特徴の妖艶な美女だ。現在、彼女の心臓は早鐘のように鼓動し、露出の多い服にもかかわらず、全身に汗をびっしょりと掻いている。

 彼女はバロックワークスの副社長『ミス・オールサンデー』。
 バロックワークスという強大な裏組織にたった一人で立ち向かうつもりのアラバスタ王国王女ネフェルタリ・ビビをからかう、もとい様子見のためにやってきたのだが、ビビと協力を結んだ海賊団に存在を悟られてしまった。しかも、一味の船から1km以上離れた岩場に隠れていたにも関わらず。
自分は特技として暗殺を掲げていたが、少し考え直そうかとも思ったほどだ。

「Mr.13達の報告とあの似顔絵…やはり、彼女達は“アラガミ”なのかしら」

 もし、自分が考えている存在と同じものならば、自分の能力では太刀打ちできない。これが一目散に逃げてきた理由の1つである。
 自分の気配を捕えた3人の女、カリギュラ、氷女、サリーについて、自分の持つ“アラガミ”の知識を交えて考察する。

カリギュラ―――報告では、彼女は人間の姿と竜の姿をとるという。名前と似顔絵の姿は過去に見た“歴史の本文(ポーネグリフ)”に記されていたものと全く同じ。けれど、人間の姿をとれるなどという記載は一切なかった。
 氷女―――刀と幼い少女の姿をとるもの。彼女のような存在について書かれたものは見たことが無いが、斬りつけたものを骨にするという能力、これが捕喰の一種だとしたら、彼女もアラガミなのだろう。新種か自分が知らない種かは分からない。
 サリー―――頭部の一眼と深緑の肌とドレスを纏う美しい女性体。これもポーネグリフに記されていたサリエルと呼ばれるアラガミの特徴と一致する。
 Mr.13達からの報告によると、なにも無い空間に巨大な眼を生み出し、仲間を同志討ちさせたり、レーザーを照射する攻撃を行ったらしい。
 『魔眼の魔女』とも書かれていたサリエルの本領とも言えるだろう。
 
 そして、何よりも驚いたのが…全員人間に近い自我があること。

 彼女の知るアラガミとは、ただ只管に捕喰と破壊を振りまく兵器のような存在であり、断じて徒党を組んで海賊などをやる存在ではない。
 意思疎通が可能ならば、もう後がないと思っていた自分の目的も果たせるかもしれない。

「もし、この星と共に今の文明が生まれる遙か昔から存在していた彼女達から話が訊ければあるいは…!」

 ミス・オールサンデーを思考の海から引きずり上げたのは大地を砕くような轟音だった。
 慌てて音の方向―――ウィスキーピークの方角を向くと、島と同等の大きさを持つ、巨大な氷塊が島を押しつぶしている光景が目に飛び込んできた。

「…ハハ」

 思わず半開きの口から笑いが漏れる。
 人間、あまりにも凄まじいものを見ると、笑ってしまうものだ。だが、彼女の見た光景はさらなる変化を見せる。
 島を完全に押しつぶした氷塊が一瞬震えたかと思うと、大爆発を起こしたのだ。

「な…!」

 数十kmの距離があるにも関わらず、その爆発の衝撃で乗っていた亀ごと吹き飛ばされる。
 しかも、その爆風は熱ではなく、真逆の冷気で彼女の身体を蝕む。

「く…!―――『百花繚乱・防風林(シエンフルール・ウィンドブレイク)!』」

 だが、彼女が腕を交差させると、体中から無数の腕が生え、彼女を守る様に包みこむ。
 これが彼女の食べた“ハナハナの実”の能力。
 彼女は体の一部を視界内のどこにでも咲かせることが出来るのだ。

「ウ…お願い、早く収まって…!」

 しかし、咲かせるのは紛れもなく彼女の一部。ゆえに、咲かせたものが傷つけば彼女も傷つく。
 これ以上寒波が続けば、防ぎきれない。
 だが、運は彼女に味方し、限界ギリギリのところで寒波は収まった。

「ハァ、ハァ…なんてこと」

 ハナハナの実の能力を解除すると、其処に広がっていたのはどこまでも続く氷の世界。
 最初の氷塊の激突で発生した波すら、水面から伸びあがった状態で完全に凍りついている。
 それは自分が乗っていた亀のバンチも例外ではなく、海ごと氷漬けになっていた。
 そして、視線の先には本来あるべきはずのものが無い。

「島を…消し飛ばしたというの…!?」

 そう、視界には凍った海が広がるだけ。ほんの数分前まであった島はどこにもない。
 こんなことが出来るのは、今のこの場ではたった1つしかない。

「これが…世界を滅ぼした怪物の力。あぁ…!」

 幼き日に見た、とある光景が頭をよぎり、ミス・オールサンデーはまるで悪夢におびえる幼子のように胸を掻き抱いた。
 それと同時に、彼女は悟った。

 ―――自分の命はそう遠くないうちに潰えると。



【剣と盾】

「う~す、交代しに来ました」
「ジス、上官に向かってその言葉づかいはやめろ。スモーカー大佐の下じゃあまり問題にされないが、他の部隊じゃ下手すりゃ上官侮辱罪になるぞ。まあいい、後はよろしく頼む」
「りょ~かい」

 半月と満月の間という何とも中途半端な月が船の甲板を照らす中、俺は上官である軍曹と見張りを交代した。
 海軍の海兵として働き出して1年ちょい。階級は一等兵。つまり、雑兵ってことだ。
こんな態度だから勘違いされがちだが、海軍本部中将である親父の背中を見ながら育った俺としては、中々有意義な仕事をしていると感じている。
 けど、やっぱ敬語は苦手だ。
 親父にもさんざん直せと言われたが、結局どうにもならなかった。
敬語についてあまり気にしないスモーカー大佐の部隊に配属なったのは運が良かったのかもしれない。

「しっかし、スモーカーの大将も度胸あるね。独断でグランドライン突入たぁ、俺には真似できねぇな」

 ローグタウンを嵐が襲った日、いきなりスモーカー大佐から島から逃走した海賊団の追撃命令が下った。
 しかも入口からのグランドライン行き。
 俺はなんでカームベルト渡れる船持ってるのに50%の確率で魚の餌になる危険犯さなきゃならないんだよ!と抗議したが、ホワイトブローを鳩尾に叩きこまれ、気が付いたら船の船室に転がされていた。畜生。

 しかし、あのモクモクの実の能力者であるスモーカー大佐を圧倒するって、その海賊団―――麦わらの一味にはどんな化けモンがいるんだ?
 そいつとは絶対に一対一じゃ戦り合いたくねぇな。

 色々あったが、我らが海軍船は無事にグランドラインに入ることが出来た。
 …もう2度と経験したくない。

 現在、スモーカー大佐が追っている海賊団が7つあるグランドラインのどのルートを選んだのか、灯台守の爺さんに話を訊いているわけだが…

「だから爺さんよぉ、おれぁ青い長髪の女と麦わら帽子を被った男の海賊団がどのルートを選んだか訊いてんだよ」
「知らんな。そんな海賊など、見ていない」
「真顔で嘘吐いてんじゃねぇ。おれ達がここに着いた時、奴らの海賊船が見えた。船首は折れていたが、あの船は間違いなくおれの追っている海賊の船だ。そいつをテメェがじっと見てたのは知ってんだよ!」
「フン、知っていたとしても、貴様に話す筋合いは無い」
「船の檻にブチ込まれてぇのかジジイ…!」
「貴様にそれが出来るのか?小僧」

 どこのヤクザの会合だよ。

 ヒートアップしたスモーカー大佐と灯台守であるクロッカス爺さんの会話が船まで聞こえてくるので、ガリガリと精神力が削られている気がする。
 しかもこれが丸一日続いていると来たもんだ。

「…神経衰弱になる前に見回り終わらせるか」

 まだまだ続きそうな荒くれどものメンチの切り合いを後目に、俺は船の甲板と内部を見回った後、装備を整えて外の見回りを開始する。

 灯りのランタン等の他に持つのは、直径2mのタワーシールド。鋼鉄製の盾の表面にはびっしりと棘が拵えてあり、中々に凶悪な代物だ。
 180cmを超え、体格も良い俺をすっぽりと隠せてしまうそれを背中に背負って船の周囲を見回る。
 
 思えば、こんな大盾を武器としだして、かなりの年月が経った。

 切っ掛けは子供のころ、海兵になりたいと言って親父に剣を教わったが、俺の太刀筋を見るなり言った一言だ。

「来世に期待しろ」

 ムカついたので思いっきり股間を蹴りあげてやった。
 家に帰ったらおふくろにボコボコにされた。顔の原型が無くなるまで殴られた。
 「父さんのが使えなくなったら、お前を殺す」という台詞は今でも2日に一回は夢に見る。

 そのあとそのことが近所の同年代の子供に伝わったのか、マリンフォードの子供社会で勢力を持つガキ大将の一人が何かにつけてバカにしてきたので、色々反論している内に決闘をすることになった。
 まあ、決闘といっても手作りの武器を使ってドツき合う子供らしいものだ。
 マリンフォードは海兵の家族が暮らす街であり、大体の海兵は剣を使っていたのでそのガキ大将も木を削って作った木剣を武器に、決闘場に現れた。
 対する俺は、親父が趣味で集めていた骨董品の中にあった大盾の表面に有刺鉄線をとりつけたマジもんの凶器をもって決闘場に現れた。

 …自分のことながら、俺は色んな意味でバカだと思う。

 決闘の結果は俺の凶器にビビって逃げ出したガキ大将の背中に俺の渾身のチャージが炸裂。そしてそのまま足が滑ってガキ大将を地面と盾でサンドイッチ。
 見物していたガキどもどん引き。以後、現在に至るまで友達いない歴を更新中。
 そのことで親父に烈火の如く怒られたが、反撃。親父の股間をその大盾で押しつぶした。
 家に帰ったらおふくろに殺された。生まれて初めて臨死体験をした。
「祈れ。楽に死ねるように」という台詞は今でも数時間に一回はフラッシュバックする。

 だが、この攻撃パターンにピンと来るものがあったので、そのまま大盾(タワーシールド)の表面に棘を付けた物を武器とすることを決めた。
 親父には呆れられたが、これで海軍の戦闘試験も通ったし、スモーカー大佐の元で何人もの海賊をミンチにしてきたので、それなりに使える武器であると思っている。

「………ん?」

 灯台の周囲まで見回りを行っていると、船を着けているのとは反対の崖下の方に灯りが見えた。
 あんなところで何かするという報告は受けていないし、この岬の近くに民家があるとは聞いていない。
 良く目を凝らして見ると、暗さに目が慣れたことも手伝って、傍に一隻の小舟が見えた。

「海賊の船から逃げ出してきた民間人か?まあ、何にせよ、確かめに行かにゃならんか」

 俺は持っていたロープを垂らし、地面に打ち込んだ杭に先端を巻きつけると、腰に灯りをひっかけ、しっかり固定されていることを確かめてから崖下に降りる。
 摩擦熱で掌を焦がさぬように崖下まで降りると、すぐにぼんやりと光るランタンを見つけた。
 その傍には人影が一つ、海に両足を付けて、岩場の淵に座っている。

「おーい、其処の人。こんなとこで何やってんだ?」
「ん~?」

 俺の声を聞いた人影がこちらを振り返った。

 肩口で切り揃えられ、ふわふわと柔らかそうなウェーブのかかった黒髪、若干釣り目の黒い瞳が特徴の女の子だった。顔立ちは整っており、かなり可愛い。というか、ストライクど真ん中。
 他に目を引く物と言えば、右手の無骨な腕輪と言ったところか。

「お~、海兵だ~」

 容姿に反し、その口調はのんびりと間延びしたものだった。
 俺が海兵であることは、制服を見れば一発で分かるので、特に不審な点では無い。

「応、海兵だ。早速だが、お前さんは誰だ?」

 そう問いかけながら女の子の隣に座る。
 ここをMMP(海軍モテ男粛清)団に目撃されれば厳罰だが、それでも男としてこのチャンスを逃すことは出来ない!

「ん~と…ex-GE1って呼ばれてる」
「いーえっくすじーいーわん?なんだそりゃ、名前か?」
「博士は型番だって言ってた」
「型番?」

 なんだそりゃ。

「まあ、名前みたいなもんか。じゃあ、いーえっくすじ…!」

 舌咬んだ。

「大丈夫~?」
「うぐ…ら、らいじょうぶら。あー、言いにくいから、いーえっくす…いえくす…エクスでいいか?」
「エクス?」

 俺がエクスと呼んで良いかと訊いた少女は目を丸くして、俺を見つめる。

「あー、ダメだったら別に…」
「ううん~、とっても気に入ったよ~。これからはそう呼んで~」

 満面の笑みで答える彼女に見惚れてしまったとしても、仕方ないと思う。

「あ~、そーだ。貴方のお名前訊いてない~。なんていうの~?」
「ジスだ。ジス一等兵。今この岬に停泊している海軍船の司令官である海軍本部スモーカー大佐の部下だ」
「そっか~、よろしくね~、ジス君」
「応、よろしくな、エクス」

 さて、挨拶も終わったところで本題に入りましょうかね。

「でだ、エクス。お前なんでこんなところに居る。グランドラインの入り口まで優雅にクルージングと言うわけでもねぇだろ」
「んとね~、私船でどこかに連れてかれてたんだけど、あんまり暇なんで見張りを適当に蹴散らして船にあった小舟で脱出してきた~」

 何と言うワイルドレディ。

「てーと、お前さんは海賊船にでも捕まってたのか?」
「ううん~。私が乗ってたのは海軍の船~。博士の専用船とか聞いた気がする~」
「海軍の船?…なあ、お前さんの言う博士ってのはもしかしてベガパンクとか言う名前か?」
「うん、そうだよ~。良くわかったね~」

 Dr.ベガパンク。
 その男が海軍の優秀な研究チームのリーダーであることは俺ですら知っている。
 カームベルトを渡れる船や悪魔の実を物に食べさせる等、とんでもない技術を次々と開発している稀代の天才科学者だ。

「なんでそんな奴の船に乗ってたんだ?」
「多分、私が博士に造られたからだと思うよ~」
「………は?」
「私、こう見えても生まれてまだ3カ月くらいなんだ~。研究所の培養槽で目が覚めてから今までずっとデータ収集とか学習とかで外に出たことが無かったんだ~。だから、船に乗せられたときに、チャンスだって思ったの~」
「…エクスの話を信じるなら、Dr.ベガパンクはついに神様の領域まで手を出したってことか」

 とても信じがたい話だが、エクスが嘘を吐いているようには見えない。
 何より、Dr.ベガパンクならそのくらいのことやってしまいそうだ。

「え~と…確か、私は大昔に怪物を最も多く殺した英雄のDNAから作られたクローンだって言ってたかなぁ~…?」

 でーえぬえー?くろーん?駄目だ、頭が痛くなってきた。

「あ~、もういいよ。俺には理解できそうもない。とりあえず、お前さんの身柄はこちらで預からせてもらうぞ。一応俺も海兵なんでな、このままお前さんを自由にさせとくわけにもいかない」
「うん、いいよ~。私もそろそろ帰ろうと思ってたところだし~」

 何と言うダイナミックプチ家出。

「じゃあ、まずはこの崖の裏にある海軍船に―――」
「あ!」

 俺が立ちあがってエクスを連れて行こうとすると、彼女は海の方を見て声を上げた。
 俺もつられてそちらを見ると、一隻の海軍船の灯りと、こちらへ向かってくる小型船が見えた。
 良く見ると、巨大な魔盛りを担いだおかっぱ頭の男が乗っている。

「お~い!戦ちゃ~ん!」
「ex-GE1!オメェ一体何考えてやがる!試作型PXを2体もオシャカにしやがって!」

 小型艇に向かって手を振っていたエクスに気付いた魔盛り男が真っ直ぐにこちらに向かってきて、小型艇を岸につけながらエクスに怒鳴りつける。

「いや~、あの人たち邪魔だったから、つい」
「つい、であいつらを真っ二つにするんじゃねぇよ!あいつら作るのに軍艦一隻分の資金が掛かるんだぞ!?」
「あー、ちーとばっかしいいですか?」

 エクスの会話も含め、ずっと極秘事項の断片を聞かされているような気がするので、会話を切りあげて貰う。
 余計なことを知って、口封じされたくない。冗談ではなく、これが起こるのが海軍と言う組織だ。

「ん?何だテメェは」
「海軍本部スモーカー大佐の部下、ジス一等兵です。先ほどこの少女を見つけて保護しました」
「そうか。わいは世界一ガードの固い男にして、世界一口の堅い男、戦桃丸だ。海軍本部科学部隊隊長でDr.ベガパンクのボディガードも兼ねている。この女は海軍の極秘プロジェクトに関係している。だから、ex-GE1が対アラガミ兵器、通称ゴッドイーターのクローンであるということは、命が惜しければ絶対に喋るな」

 おい、機密事項ダダ漏れじゃねぇか!

「お前が余計なこと喋んなきゃ俺そこまで知らなかったんだけど!」

 バカじゃない!?このおかっぱ野郎バカじゃない!?折角何も知らない一海兵でいようと思ってた俺の思惑台無しじゃん!
 畜生、もうこいつが上官であろうと、絶対敬語なんざ使わん!

「あはは~、戦ちゃんやっぱり口軽い~」
「そうだそうだ!お前今日から世界一口の軽い男、戦桃丸(笑)に改名しやがれ!」
「黙れガキ共!とにかく、帰るぞ、ex-GE1」

―――「エクスだよ、戦ちゃん」

 戦桃丸が小型船に乗るよう、エクスを促すが、彼女は戦桃丸に詰め寄ると、いつもの間延びした口調ではなく、はっきりとした口調で俺の付けた名前を名乗った。

「は?何言ってんだ、お前はex-GE1―――!」

 戦桃丸の喉元にいつの間にか、巨大な剣が突き付けられていた。

「エクスだよ、戦ちゃん」

 それは刀身と機械を合体させたかのような奇妙な作りをしており、柄にはエクスの腕輪から伸びた触手のようなものが接続されている。
 エクスはその武器を戦桃丸の首に突き付けながら、再度同じ台詞を繰り返す。

「…あー、戦桃丸。頷いといた方がいいぞ。こいつ、目がマジだから」

 今のエクスの目は親父のシャツにキスマークを見つけた時のおふくろにそっくりだった。
 俺がその目を見た次の日は必ず床に大量に零れた液体を拭いた後があったのを思い出す。

「…チ、エクス、行くぞ」
「わかった~。またね、ジス君」

 戦桃丸が観念してエクスの名前を呼ぶと、エクスは剣を引き、文字通り武器を“消す”と、いつもの口調で小型船に乗り込んだ。
 そして、苦虫を噛み潰したような表情で戦桃丸が運転する小型戦上から、茫然としている俺に向かって手を振って去って行った。

「…あー、なんかすごく疲れた。さっさと戻って交代しよう」

 大きなため息を吐くと、船へと戻るべく、来た道を戻る。

「クソ、くたばり損ないのジジイの癖に良いパンチ持ってるじゃねぇか…!」
「まだまだ小僧如きには負けんわ!」

 帰る途中、何か見たことある葉巻男と花頭の爺さんが殴り合っていた。
 あんたらもういい加減にしろよ。



「ふわぁ~あ…」
「ジス、おれを目の前にして大あくびとは言い度胸だな」

 翌朝、船の甲板で朝礼が行われた。
 スモーカー大佐を前に、全員がきっちりと整列している。
 そして、俺は何故かいつもスモーカー大佐のド真ん前だ。
 前にスモーカー大佐にどうしてか尋ねたことがあるのだが、「それが分からないってのが理由だ」と言われた。

「どっかのバカ達の言い争いと殴り合いの音で碌に眠れなかったんですよ」

 ホワイトブローが肝臓に突き刺さった。

「グフ…!誰も大佐とは言ってないのに殴るなんて、バカの自覚はあ―――」

 スモーカー大佐の渾身のフックがテンプルに突き刺さり、一瞬意識が遠のいた。

「オオォォォ…!」
「さて、このアホは放っておいて、今日は重要な伝達事項がある」

 米神と脇腹を押えながら悶絶する俺を無視するようにスモーカー大佐は朝礼を進める。畜生。

「本日、〇九〇〇時にDr.ベガパンクが開発した兵器が届く。置き場所は109号室だ」

 成程、109室かー………って、

「そこ俺達の船室じゃないっすか。何で態々」
「さあな。ロイド、ジュチ、シャルルはそれぞれ105号室、107号室、208号室に移動だ」
「俺はどうするんですか?」
「お前はそのままだ」

 何このいじめ。

「そんな顔でこっちを見るな。俺だって最初はお前も別室にしようとしたんだが、昨日の夜急に連絡が入ってな。兵器とジス一等兵を同じ部屋にするようにとのことだ」
「スモーカー大佐、命令違反が得意技でしょ。どうにかして下さいよ」

 顔面にストレートを叩きこまれた。

「グオオ…は、鼻が…!」
「お前はいつも一言多いんだよ!」
「あはは~、ジス君ってやっぱりおもしろいね~」

 …何やら聞き覚えのある声が。

「エ、エクスか?」
「うん、昨日ぶり~」

 鼻を押さえながら顔を上げると、いつの間にか昨日海岸で見た黒髪の少女が立っていた。
 そして、その首筋にはスモーカー大佐愛用の巨大十手が突き付けられている。
 さらに、俺を除く、たしぎさんや他の隊員も剣や銃を抜いて、エクスに向けて構えている。

「テメェ、何もんだ?」

 俺は昨日面識があるが、大佐とその他の隊員は勿論ない。
見知らぬ少女がいきなり船に乗り込んできたわけだから、警戒をするのは当然だ。

「私はエクス~。今日からこの船に乗ることになった博士…Dr.ベガパンクの兵器だよ~」

 だが、エクスはこの殺気の中、いつも通りの間延びした口調で平然と答える。

「兵器?お前がか?」
「うん。はい、博士からのお手紙~」

 訝しげな視線を向けるスモーカー大佐に、エクスは懐から一通の手紙を取り出し、大佐に渡す。
 大佐は手紙に目を通すと、エクスに突き付けていた十手を下ろし、隊員たちにも武器を下ろすように伝える。

「やれやれ、いつからおれの船は託児所になったんだ。おいジス、お前がこいつと同室なんだから、しっかりと面倒見てやれ」

 ザワッ…

 こ、この流れは拙い…!

「大佐、男女が同室は風紀的に拙いと思います!」
「ええ~…私折角ジス君と同じお部屋が良いって博士にお願いしたのに~…」

 うるうると涙目になって俺を見つめるエクス。
 いや嬉しいよ、嬉しんだけどちょっとお口にチャックしようか!

「こいつは女じゃ無くて兵器だろ。だから問題ねぇ」

 明らかに顔が笑ってるんですけど!
 なにその「やれやれ、おれが一肌脱いでやるか」って表情。あと俺だけに見えるよう小さくサムズアップすんな!

「失礼だな~。私にだってちゃんと人間の女としての生殖能力はあるよ~」

 お願い、ちょっと黙ってて!

「じゃ、これで朝礼は終わりだ。各員、持ち場につき次第、灯台守…いや、クロッカスから入手した麦わらの一味の情報に従って出航する」

 その言葉と共に去っていくスモーカー大佐とたしぎ曹長。
 というか、あの殴り合いの後何があった。クロッカス爺さんもダチを見るような目で大佐を遠目で見てるし。

「ジス君、一足先に私達のお部屋見てくるね~。待ってるから早く来てね~」

 船内図を片手に、俺をおいて去っていくエクス。
 残るは俺とスモーカー大佐部隊の海兵たち。

「…ジス一等兵」

 そしてポンと肩に置かれる手。
 恐る恐る振り返ると、其処には―――

「MMP団の名の元に、反逆者である貴様を処刑する」

 いつの間に着替えたのか、隊のほぼ全員が真っ黒なローブに身を包み、目と口の部分に穴をあけた、頭頂部がやけに長い頭巾を被っている。
 手には鋸や大鎌、鎖、挙句の果てにはガトリングガンが各員に握られている。

 MMP団―――それは海軍の創立当初から存在したと言われる秘密組織。
 その組織への未婚男性の所属率は90%を超えると言われている。
この組織の追撃を逃れた者だけが、既婚者になれるのは海軍に所属する者の中では常識だ。
 だが、海軍大将がトップに居るこの組織からの追撃を逃れるのは、至難の業である。
 本当、何やってんだろうね、海軍。

「逃げないとは潔いな。元MMP団ジス突撃兵」

 逃げる?無理無理。肩に手をおかれた時点で幾重にも包囲されてるから。
 能力者でも何でもない俺に、突破出来るはずもない。

 ああ、空が青いなぁ…



「ジス君、ミイラみたいだね~」

【うん、そうだね】

「喉は3日もすれば喋れるようになるって~。良かったね~」

【うん、そうだね。殺意を持った集団の恐ろしさを身を持って知ったよ】

 あいつら一番最初に俺の喉を潰して叫べなくしてからリンチだもんな。MMP団のマニュアルに記載されてある通りの方法だけど、自分がやられるとマジでシャレにならん。
 偶然、スモーカー大佐が通りかからなかったら、俺多分死んでた。

 現在は治療を受け、自分の部屋(エクスとの相部屋)で横になっている。と言うか、身体動きません。
 現在はかろうじて動く腕を使って、エクスと筆談している。

【ところで、出航とか言ってたわりには船が動いてないんだが、何かあったのか?】
「何かね、麦わらの一味が通った航路の磁気が捕えられないんだって~。だから今原因究明中~」

 磁気が?
 島がそこに存在するだけで発生する磁気にそんなことってあるのか?

【もしかして、島が無くなってたりしてな】
「あ~、そうかも」
【本気にすんな。冗談だ】
「…冗談じゃないかもね~」

 それから数時間後、麦わらの一味が向かった航路の1つ目の島、ウィスキーピークが消滅しているとの報告があった。

 …お家に帰りたい。





【カヤさんと悪魔の実】

 ウソップとカリギュラがルフィ達と共にシロップ村を出てから早数ヶ月。
 医者を志す少女、カヤは勉強の合間に村を散歩していた。
 カヤは温かい日差しの中、一陣の風が清涼感を運んでくるのを、髪を掻き上げながら感じ取る。
 その風に交じって、カヤの思い人がいつも言っていた言葉が聞こえてきた。

「「「海賊が来たぞ~!」」」
「いい加減にしねぇか!このガキども!」

 今までウソップが行っていた村の日課は、しっかりとその部下達に引き継がれているようだ。

「ウフフ、ピーマン君達も元気ね」

 カヤはそれを微笑ましく思いながら、自分の愛しい人を思い浮かべる。
 幼いころ両親を亡くし、そのショックで体を弱くしてしまった自分を必死に慰めてくれた長鼻の少年―――ウソップ。

「…本当なら、私もついて行きたかった」

 だが、身体もある程度回復したとは言え、体力は未だ常人以下だ。
 とてもではないが、海賊など勤まる訳が無い。
 ウソップと離れるのは絶対に嫌だったが、彼の足を引っ張るのはもっと嫌だった。
 ゆえに、なんとか我慢して彼を送り出した。
ただ、あの後数百回程無意識の内に船で海に出ようとしていたが。

「…変な女に引っ掛かって無いと良いけど」

 そして、これがカヤにとって最も気がかりなことである。
 カヤはウソップを愛している。それはもう愛している。彼以外の男には、出来れば触れたくないし、触れてほしくないほどに。
 それは医者の卵としてどうなのかとは言わぬが花だろう。

 はっきりって、ウソップは美形とは程遠い。だが、それは外面に限っての事だ。
 彼の優しさに救われたカヤにとって、ウソップは間違いなくこの世で一番格好いい男なのだ。

「もしも、私と似たような境遇の女がウソップさんの優しさに触れたら…」

 堕ちる。確実に。
 カヤはそう確信していた。

「カリギュラさんが上手く立ち回ってくれればいいのだけれど…あの人、私がウソップさんを愛しているとは夢にも思って無いんだろうなぁ…」

 カヤは1ヶ月間同じ屋敷で寝食を共にした親友の事を思い浮かべた。
 カリギュラがウソップに好意を抱いていないか確かめるために、ちょっとした会話に交じってそういう話をしてみたが、話が全く見当違いの方向に進むのだ。

「カリギュラさんは鈍いと言うよりも、むしろ―――」

 ―――恋愛感情というものが無い?

「…まあ、それはそれで好都合ね」

 ウソップを恋愛対象として見ることなく、絶大な信頼を置いてくれる存在は、カヤにとって非常に大きなプラスとなる。
 命の危険と隣り合わせの海賊家業において、ウソップを命掛けで守ってくれるからだ。しかも、そういう関係で良く発生する恋愛感情がカリギュラには無いのだから、とても都合がよい。
 というよりも、そうでなかったらウソップとカリギュラが一緒に居るのをカヤは絶対に許しはしなかっただろう。

「お、カヤお嬢!今日も元気そうだな」

 思考に没頭していると、急に声を掛けられた。
 カヤは意識を現実に戻し、声の方を向く。

「あ、八百屋のおじさん。はい、身体の方はどんどん回復してますから。ちょっと体力が無いですけど、もう殆ど健康な人と変わりませんよ」
「そりゃよかった。そうだ、おれからちょっとしたお祝いの品を送ろう」

 そういうと八百屋の店主は店の奥に引っ込み、1分ほどしてから戻ってきた。
 その手には奇妙な果実が握られている。

「えーと…ブドウ、ですか?」
「ああ、たぶんな。どうだい、珍しいだろう。こんな縞模様の付いたブドウは。仕入れの時に混じってたらしくてな。長年八百屋をやってるおれでも、こんなブドウは見たことが無い」

 店主の手にあるブドウは、普通のブドウとさほど変わりは無い。
 だが、表面に走る縞模様が、何とも不気味な雰囲気を醸し出していた。
 正直、祝いの品では貰いたくない。

「え、ええ」
「おお、気に入ってくれたか。じゃ、どうぞ」
「いえ、別に気に入ったわけでは…」

 カヤはやんわりと断ろうとしたが、八百屋の店主はいいからいいからとカヤに縞模様のブドウを押しつけ、自分は帳簿の整理があるからと言って店の中に引っ込んでしまった。

「これ、どうしよう…」

 私、八百屋さんに嫌われてるのかな?と思いつつ、もう散歩という気分でも無かったので、カヤは屋敷に戻ることにした。



 カヤは自室に戻ると縞模様のブドウをテーブルの上に置いて、どうしたものかと考えていた。
 はっきり言って、こんな不気味な果実など、口にしたくは無い。
 だが、仮にも祝いの品。捨てるのはどうかとも思う。

「もう、こんな不気味なものどうしろって言うのよ。まるで、悪魔みたいな…」

 カヤは自分の発した『悪魔』という言葉から、ある話を思い出した。
 カリギュラ達がキャプテン・クロを打ち倒してから少し経って、カヤはルフィの身体がゴムのように伸びることを知り、ちょっとした興味本位で訊いてみたことがある。
 その時、ルフィはこういったはずだ。「悪魔の実を食べたからだ」と。

 その時はさほど重要な話だとは思っていなかったので、それ以上の事は訊いていない。

「悪魔の実がどういった形をしているのか、訊いておけばよかったわね」

 カヤは後悔先に立たずとはこのことね、と思った。

「もし、この果実が悪魔の実だとしたら、私もルフィさんのように強くなれるのかしら」

 いや、重要なのはそこではない。

「―――ウソップさんの隣に居ることが出来るのかしら」

 もしこの実が本当に悪魔の実ならば、弱い自分と決別し、今からでもウソップを追いかけ、一緒に居ることが出来るかもしれない。
 カヤは微笑を浮かべ、縞模様のブドウを手に取る。
 
「なら、迷うことなんてないじゃない」

 例え、コンマ1%でも愛しい男と並んで歩んでいける可能性が生まれるならば、悪魔だろうと何だろうと利用してやる。
 カヤは勢い良く皮が付いたままの縞模様のブドウの房に齧り付いた。何とも豪快である。
 清楚で大人しそうな容姿と行動的で情熱的な気性。
 外見と内面が全く正反対というのが、このカヤという少女の最大の特徴であると言えよう。

「う…ま、不味すぎる…!」

 何度も吐きそうになるくらい酷い味だったが、カヤはド根性で全て食べ切った。

「…特に変わったところは無いわね」

 やっぱりただの不味い果実だったのかな、と思いつつ、ふと部屋に掛けてある鏡を見た瞬間、カヤは目を剥いて驚いた。

「ウ、ウソップさん…!?」

 今鏡に映っているのは見なれた自分の部屋ではなく、船の船室。
 大きなテーブルとその上に乗る大量の料理。どうやら、其処は食堂であるようだ。
 そこでは数人の男女が談笑しつつ、食事を取っていた。
 彼女が恋焦がれる男も笑いながら魚のソテーを口に運んでいる。

「これが悪魔の力、『ミラミラの実』の能力…!」

 自分でも驚くほどするりと口からそんな言葉が出てきた。
 まるで生まれた時からその能力を持っていたかのように、この悪魔の力がどのような物であるか、理解できる。

 カヤが手に入れたミラミラの実の力は、鏡を自在に操る超人系の能力。
 ウソップの姿が鏡に映っているのは、鏡を媒体にした遠視であると、彼女は自然と理解していた。

「ウソップさん…」

 数ヶ月見ない内に少し逞しくなった長鼻の少年は、ますますカヤ好みの素敵な男になっていた。
 自然とカヤの頬も高揚し、息が荒くなる。
 既に日課となっているソレを行おうと、下半身に手を伸ばしたその時、鏡がカヤにとっての最悪の光景を映し出した。

 緑色の豪奢なドレスに身を包んだ美しい女性。
 緑色の肌や頭部の巨大な一眼が異彩を放っているが、それすら妖艶さを醸し出す要素にしかならないくらい、美しい女がウソップに食事を食べさせ始めたのだ。
 女は幸せそうに焼き魚を箸でウソップに食べさせている。
 ウソップもまんざらではなさそうで、だらしなく鼻の下を伸ばし、次から次へと食らい付いている。

「………」

 そして、焼き魚が全て無くなると、鏡の中の女は箸をおいて、ウソップの口に付いている食べカスを緑色の唾液まみれの舌で舐め取った。

「―――!」

 そして、その女はそちらからは見えるはずの無いカヤの方を向いて―――

―――コ ノ オ ト コ ハ ワ タ シ ノ モ ノ ダ

「アアアアアアアアアアァァァッ!!」

 カヤは絶叫と共に素手で鏡を叩き割った。
 鏡はいとも容易く砕け散り、その破片でカヤの手をズタズタに切り裂いた。

「ハァ…ハァ…」

 ポタポタと流れ出る血が床の絨毯の上に赤い染みを作る。無残に切り裂かれた手には激痛が走っているはずだが、憤怒と嫉妬に支配されている彼女にとって、その程度の事などどうでもいい。

「お、お嬢様!どうなさいました!」

 先ほどの絶叫を聞きつけた執事のメリーが慌てて部屋に飛び込んできた。

「お手が…!お嬢様、すぐに手当てを「メリー」」

 カヤから平坦な声が聞こえた。まるで、隆起した地面を無理やり均したかのような、平坦な声が。
 
「1ヶ月でグランドラインを航海できる船と人員を集めなさい」
「お、お嬢様、一体何を言って…」

 メリーはカヤの突然の発言に頭が真っ白になり、思わず訊き返す。
 カヤはゆっくりとメリーに振り向き、メリーの顔を覗き込むようにして、再び口を開いた。

「もう一度だけ言うわ。1ヶ月でグランドラインを航海できる船と人員を集めなさい」
「は、はい…」

 この時のことをメリーは後にこう語った。
 カヤお嬢様の目はまるで闇の深淵を覗き込んだかのように、恐ろしかったと。
























【コメント】
 いつぞやの感想返答で恋愛要素は無いと言ったな。








 あれは嘘だ。



[25529] 幕間1 アラガミがいる麦わらの一味の日常
Name: Ray◆6fb36f09 ID:4cd0596b
Date: 2011/11/26 16:59
 今回は完全なオリジナル話です。
 ほのぼの&ハートフルボッコがコンセプトです。
 『グロテスク表現』、『原作キャラ蹂躙』、『変態淑女』注意です。

 上記の要素を受け付けない方はお戻りください。

 上記の事を理解し、それでも読んで頂ける方は↓へどうぞ。





























「ん…太陽が眩しい…」

 ビビは薄暗かった船室から甲板へ出たため、光に慣れていない目を思わず手で覆う。
 ウィスキーピークを出発後、気持ばかり焦って船室でウロウロしていたところ、ナミに

「ジタバタしても船の速度は変わらないんだから、ちょっと気晴らしに風にでも当たってきなさい。そんなに張りつめてちゃ、すぐ参っちゃうわよ」

 と言われ、船室から追い出されたのだ。

「ふう…確かにナミさんの言うとおりよね。焦ってるだけじゃ、なんの意味も無い」

 階段を下りて、甲板の中ほどまで行くと、ルフィとウソップ、緑色のドレスを着た女が海を見つめている。
 緑色のドレスを着た女はつい先日、ウィスキーピークで自分たちの部下を皆殺しにしたサリーと呼ばれる異形だ。
 この場に居ない2名を含め、彼女たちがアラガミと呼ばれる存在であることを聞かされた。
 あらゆるものを食らい、破壊し尽くす化物。それが彼女たちアラガミだと言う。
 少々信じがたい話であったが、ビビはウィスキーピークの一件を鑑みて、本当の事だろうと思っている。

 良く見ると、船の縁から何かが垂れ下がっている。
目を凝らして見ると、それは青く美しい髪の一房だと分かった。
ビビはその髪の繋がっている先を確かめるため、甲板を這う髪を目で辿っていくと、マストを背にして鼾を掻いているゾロに行きついた。
正確にはゾロと融合し、その頭に小さな顎を乗せて可愛らしい寝息を立てているアラガミの少女、氷女だが。
このあどけない少女も刀の姿を持つアラガミ。今の姿からは想像もつかないほどの凶暴性を持つ、非常に危険な存在である。

 一方、サリーは頭部の巨大な一眼で海中を凝視している。
 その巨眼はギョロギョロとせわしなく動き、何かを追っているような動作をしている。
 この妖艶な魔女は、氷女にとってのゾロのように、一味の狙撃手、ウソップに恋慕の情を抱いている。
 氷女のように四六時中ベタベタしているわけではないが、やはり彼とはほとんど離れない。

 ビビは彼らが何をやっているか、非常に気になったので、声を掛けた。

「ルフィさん、何してるの?」
「ん?お、ビビか。釣りだ」

 ビビの声に振り向いた麦わら帽の船長は快活な笑顔と共に質問に答えた。

「釣り?これが?」

 釣りとは竿と糸と針と餌で行うものではなかったか。と幼いころ父と共に言った川釣りを思い浮かべながらビビは首をかしげる。

「ふっふっふっふ…ビビ、お前の疑問ももっともだ。だが、この『釣り』は普通のとは違うんだ。このキャプテン・ウソップの頭脳とウソップ海賊団の力を結集した、言わば『アラガミ釣り』というやつだ」
「は、はあ…」

 長鼻の狙撃手の説明に、更に混迷の度を深めるビビをよそに、今まで沈黙を貫いていたサリーが口を開いた。

「掛かりました」

 その瞬間、氷女の髪が凄まじい勢いで海中に引きずり込まれて行った。

「な、何だ!?」
「アギャーーーッ!?」

 当然、大本の氷女と、融合しているゾロも引っ張られ、甲板を転がる。
 しかも直前まで寝ていたので、何が起こっているのか分かっていないようだ。

「ゾロ!踏ん張れ!」
「―――!クッ!」

 ルフィが発した言葉に、ゾロは反射的に反応し、甲板の凹凸に指をひっかけて耐える。

「よっしゃッ!一本釣りだ!」

 さらにルフィはいつの間にかここにはいないもう一匹のアラガミ、カリギュラから貰った篭手を装着し、氷女の髪をむんずと掴むと、全力で引っ張る。

「アダダダダ!も、毛根が結合崩壊するーーーー!」
「クハハハハハ!氷女、貴女最っ高に面白い顔してますよ」

 氷女の悲痛な叫びとサリーの嘲笑が響く中、ついに氷女の髪が海中から引き揚げられ、天高く舞った。
驚くべきことに、氷女の髪の先端についていたのはこの船の10倍はあろうかと言う巨大なサメだった。

「ギガントシャーク!?」

 ギガントシャークとは海王類の一種で、時には海軍の軍艦をも襲い、軍艦ごと食い尽くすこともある極めて凶暴なサメだ。
 だが、その身は珍味として非常に高値で取引されてもおり、毎年一獲千金の夢を見て海に散っていく者も多い。

「ルフィさん!速く氷女ちゃんの髪を切り離して!」

 ビビはルフィに警告するが

「サンジー!今日の昼飯はサメの丸焼きだー!」
「人の話を聞いてェェェーーーッ!」

 ルフィは既に食欲に捕らわれており、全く耳を貸さない。
 そうこうしている内に、ギガントシャークが空中でピタリと止まった。これから重力に従い、落下してくるのであろう。
 そして、その真下にあるのは…勿論、ゴーイング・メリー号である。

「い、嫌ァァァァァッ!!」

 ビビが号泣した直後、空中に舞っていたギガントシャークの腹が二つに分かれた。

「―――え?」

 ギガントシャークの身体とその腹の中からボトボトと零れる大量の血液と内臓はメリー号を避けるように海に落ち、飛沫を上げる。

 ギガントシャークの腹が二つに分かれる時―――否、二つに“斬り裂かれる”時、ビビは確かに見た。青白く輝く、3本の刃を。

「あの女に喰い付くなんて、馬鹿な魚もいたもんですね。その餌は猛毒どころではないと言うのに」

 ビビはサリーが呟やきを聞いて、何が起こったかを大体理解した。

「…でもこれ絶対釣りじゃない」

 船の揺れが収まったころには、真っ赤に染まった海と、ギガントシャークのヒラキが船の周囲に浮かんでいた。





「で、何か言うことは?」

 海中で巨大な鮫の腹の中に潜り込み、空中で解体した後、ゴーイング・メリー号に戻ってきた私はルフィ達と共に氷女に正座させられていた。ゾロは離れた場所で複雑な表情を浮かべながら、氷女を見ている。
 氷女は両腕を組み、私達を紅く光る左眼で射殺さんばかりに睨みつけている。さらに、氷女の髪はザワザワと蠢き、今にも襲いかかってきそうな気配がある。

 言うべきことか…

 事の発端はルフィとキャプテンが行っていた釣りだ。
 私が風に当たるために甲板に出ると、ルフィとキャプテンが手作りの竿を持って、サリーが見守る(キャプテン限定)中、魚を釣り上げていた。
 近くに置いてあった生簀を覗いてみると、既に20匹ほど釣果があった。

 しかし、ルフィとキャプテンはもっと大物を釣り上げたいらしく、不満げに愚痴を漏らしていた。
 すると、それを聞いたサリーがマストを背にして寝ているゾロと氷女を見て、いかにも悪そうな笑顔を浮かべてから、キャプテンに提案を持ちかけた。

 サリーが言ったことを要約すると、氷女の強靭な髪を釣り糸とし、私を生餌にして大物を釣り上げる。獲物の発見と喰い付いたタイミングはサリーの優れた視覚を利用して知らせると言うことだった。

 ルフィとキャプテンは諸手を挙げて賛同し、すぐに準備を始めた。
 私と氷女の意思はガン無視である。だが、いつもの事なので特に気にしなかった。
 その後、どうせ大物を釣るなら海王類がいいと言うキャプテン達からのリクエストにより、先ほどの巨大な鮫を釣り上げ、腹の中から搔っ捌いたというわけだ。

 …成程、氷女が求めている答え、それはこれに違いない。
 私は素早くキャプテンとルフィに目配せした。
 2人とも私の視線に気づき、「分かってる」とアイコンタクトで返してきた。
 今、私達の心は1つとなり、異口同音を発する。

「「「次はもっと大物を狙う!」」」

 ブチンと氷女の顳顬(こめかみ)から断裂音が響いた。

「全員、死に曝せぇェェェェェェェェッ!!」

 え、違った?

「クハハハハハハハハ!最っ高!」

 サリーはいつの間にかキャプテンを抱きかかえ、空中に移動しており、憤怒の形相の氷女と、その斬撃を必死に避けるルフィと私を見ながら、腹を抱えて笑っていた。

 勿論、二連轟氷球で撃ち落とした。
 キャプテンにも当たった気がしたが、まあ、大丈夫だろう。キャプテンだし。





幕間1 『アラガミがいる麦わらの一味の日常』





1-1 アラガミのいる食卓

「ナミすわ~ん!ビビちゃ~ん!カリギュラちゃ~ん!氷女ちゃ~ん!サリーちゃ~ん!今日の特別ランチ、『ギガントシャークのフルコース』出来たよ~!」

 先ほどのちょっとした騒動の後、ギガントシャークはサンジの手によって美味そうな料理へと生まれ変わった。
可能な限り捨てる部位を出さないと言う信条を持つサンジと私達アラガミの食欲により、軍艦並のギガントシャークは全て昼飯と成った。
さすがに食堂に全ての料理は入らないので、一通り喰べ終えたらサンジが追加で料理をする方式だ。
また他にも、キャプテンたちが釣り上げた魚も食卓に並んでいる。

「そうか。味が楽しみ―――」

 ボトリと視線がテーブルの下へ。
 しまった、まだ結合が甘かったか。

「あ、カリギュラの首が落ちた!」
「まだしっかり繋がって無かったんだ!それ、合体!」

 キャプテンは素早くテーブルの下の私の頭を拾うと、椅子に座った身体に嵌めてくれた。

「すまないキャプテン。同じアラガミに斬られたからな。自己修復にもそれなりの時間が掛かっているようだ」

 私は首と体の接合部に意識を集中させ、オラクル細胞の結合を強化する。
 …うむ、今度こそ完璧に繋がった。

「…ああ、こんな光景に段々慣れてくる自分が怖い」
「ビビしっかり!これに違和感を感じなくなったら、人間として大切な何かが壊れちゃうわよ!」

 ナミ、ビビ、お前ら酷いな。

「ケッ!そのまま死ねばよかったのに」

 ゾロの腰に髪を絡みつかせ、身体を密着させて隣に座る氷女が不機嫌極まりない顔で吐き捨てる。

「悪いが、私は首を飛ばされた程度では死なん。そもそも、私の原種であるハンニバルの特性はコアの再生。特に死に辛いのだよ。今のお前では、例え私の四肢をズタズタに切り裂き、内臓を全て掻きまわしても殺しきることは不可能だ」

 私が言葉を言い終わると同時に、キャプテンの隣に座るサリーから非難の言葉が飛んでくる。

「コラ!そこのデカ女!食事前に何グロテスクな発言してるんですか!マスターが吐きそうになっちゃってるでしょうが!ああ、マスター、お気を確かに。ここは気付けとして私の熱い口づけを…」

 お前は本当にブレない奴だな、サリー。

「へー、お前の唾液って気付けになるのか。てことは、スッゲー息臭いんだな」

 キャプテンに迫っていたサリーがピタリと止まり、般若もかくやと言う表情でルフィに振り返る。両目を見開き、顔面に青筋がびっしりと浮かび上がっているのが中々に怖い。

「やはり私は貴方をブチ殺さなければならないようですねェェェッ!」
「ま、待てサリー!落ちつけ!」

 ルフィに襲いかかろうとしているサリーをキャプテンが必死に止める。

「お願いしますマスター!この乙女の純情を土足で踏み荒らすゴム猿に天誅をブチ込ませてください!」
「………」

 氷女に目配せをすると、氷女もこちらを見ていた。
 成程、感じたことは一緒か。

「「乙女の純情(笑)」」
「よろしい!ならば戦争です!」

 良い感じにヒートアップしてきたところで、ナミが私の渡した対アラガミ用の棍を持って立ち上がった。
 …少々調子に乗り過ぎたようだ。

「いい加減にせんかッ!このバカガミどもーーーッ!」

 その後、私達3匹は仲良く頭部の結合崩壊を引き起こした。



「あのクソ女絶対にいつか斬る…!」
「…カモメでも鳥葬って出来るんでしょうかね」

 ナミの頭を殴られた氷女とサリーは、ブツブツと文句を言いながらもサンジが作ったギガントシャークの料理をガツガツと喰べている。
 無論、私も2匹には負けていない。

「な、なんというか、豪快ね…」

 ビビが引き攣った顔で笑いかけてきた。
 
「―――?」
「口よ口。あんたを含めたアラガミ全員、耳まで裂けてるでしょうが」

 ナミが「いー」と歯を見せながら人差し指で両頬を口端から耳元までなぞる。

「そんなことか。と言うより、ビビ、お前ウィスキーピーク行くまで一緒に船に乗っていただろう?」
「あの時はそれどころじゃ無かったから…それに、カリギュラさんは私を全く信用してなくて一緒に食事はとらなかったし、氷女ちゃんとサリーさんはまだ刀と卵だったし…」

 食事を貪っていた2匹の手がピタリと止まり、ビビを睨みつける。

「氷女ちゃん言うな!」
「次卵って言ったら焼き殺しますよ?」
「ヒッ!ご、ごめんなさい!」

 ビビ涙目。

「…まあ、ヒトの形をしてはいるが、本質は化物だしな。料理の味を味わい、かつ効率よく喰らうことを考えると、この形が理想的というわけだ」

 私は口を最大まで開き、鋭い歯をガチガチと鳴らす。

 実は、捕喰形態に変えた腕で捕喰しても味は分からないというか…無味で不味い。例外として、悪魔の実の能力者はそれなりに美味いんだが…やはり、人間の口で喰らうのが一番だ。
 これは恐らく氷女の斬撃捕喰も同じであろう。
 ゆえに、味を最大限に楽しむためには人間形態の口から摂取する必要がある。

「へー、そうなのか」

 モグモグと焼き魚を頬張りながら得心するキャプテン。

「クス。ヒトとしての意思があるなら、やっぱり美味しいものは美味しく頂きたいですからね」

 それに妖艶な笑みを浮かべて言葉を返すサリー。
 キャプテンにしな垂れかかったとき、ふと視線をテーブルに落とす。

「あら、マスター。魚の身がまだ残ってますよ。勿体ないです」

 そういうとサリーはキャプテンの手から箸を優しくとると、器用に余った魚の身を取り、キャプテンの口元に運ぶ。

「はい、アーンして下さい」
「な、なんか照れ臭いな…」

 そう言いつつも、鼻の下を伸ばしながら口を開くキャプテン。

「………!」

 サンジ、こんなことで血涙を流すな。

 そんなサンジの呪視をよそに、サリーは次々と魚の身を取り、キャプテンの口へと運んで行く。
 それほど時間も掛からずに魚は綺麗に骨だけとなった。

「いやー、美味かった。ありがとうな、サリー」
「クス、お粗末さまでした。…あ、マスター、ちょっとじっとしていてください」
「―――?」

 サリーは呆けているキャプテンの顔に両手を添えると、一気に顔を近づけて、肌と同じ色の長い舌でキャプテンの頬を一嘗めした。

「サ、サリー!?」
「クスクス。喰べカスが着いていたので取らせていただきました」

「グホォッ!」
「サンジが血を吐いた!?」

 サリーがキャプテンに朗らかに笑いかける。
そして、キャプテンに見えぬよう、部屋に掛かっていた鏡に嘲笑を見せつけた瞬間、鏡が突然爆ぜた。


「―――!敵襲か!?」

 私を含めたサンジ以外の全員が戦闘態勢を取ろうとした時、サリーが落ちついた口調で語りかけた。

「安心なさい。敵襲ではありませんよ」
「…なぜわかる?」
「私の『眼』で見たからです。先ほど鏡が割れたのは鏡の向こうから私達を見ていたものが向こう側の鏡を破壊したからですよ」
「ならば、そいつがここへ来る可能性は?」
「ほぼ0です。私の見立てでは少なく見積もっても数百km以上離れた場所からの遠視ですから、物理的に不可能です。まあ、鏡を使った瞬間移動が使えるかもしれませんが…」

 サリーの一眼が光を放つと、サリーの周りに数個の眼を模した光陣が現れ、細く美しい指をパチンと鳴らすと船内中に散って行った。
 そのうちの1つは残った食堂の鏡に入りこんだ。

「これでそれも不可能となりました。だから、もう心配はいりません」
「そ、そうか。いやー、怖か…おれの実力を見せられなくて残念だった!」

 サリーの言葉を聞き、安堵したキャプテンがいつもどおりに虚勢を張る。

「クスクス。そうですね、ただ見ていることしか出来ないものに、私が負けるはずがありません」

 サリーの私に良く見せる勝ち誇った笑みがとても印象に残った。
 サリーは一体何に勝ったのか………まあ、私にはどうでもいい事だ。

「………」

 敵襲ではないと分かり、皆が席について食事を再開すると、氷女が食事の手を止め、自分の持つフォークに刺さった鮫の身をじっと見つめていた。

そして、意を決したかのようにゾロの方へ向き直り、鮫の身の刺さったフォークをゾロの前に差しだす。

「主殿、アーンだ」

 どうやらサリーの真似をしたいらしい。

「あ?おれは自分で食うからいい。お前もまだまだ食い足りねぇだろ。それは自分で食え」

 ゾロはアラガミである氷女の食欲を知っているので、遠慮したようだが…

「…ふぇ………ふぅぇ…」

 氷女の瞳に涙がたまる。
 どうやら、ゾロの返事は最悪の回答だったようだ。

「い…!な、泣くこたねぇだろうが!てかおれ何か悪いことしたか!?」
「ええ、あんたサイッテーの回答したわ」
「Mr.ブシドー、剣士としては一流だけど、男としては三流以下ね」
「クスクス、野蛮人に乙女心の機微など分かるはずがありません。分かり切っていたことです」

 ゾロ、女性陣にボコボコ。

「クソマリモ…!レディを泣かせるとは…!男の風上にも置けねぇ!ここでおれが引導を渡して―――アガッ!?」
「サ、サンジの首がえらい方向に!?」

サンジ、悪いが少し眠っていろ。ここは空気を読む場面だ。

「グス…エグ…あ、あるじ、どの、アーン…」

 氷女は泣きながらも再び鮫の切り身をゾロに差しだす。

「グ…」

 ゾロは冷や汗を流しながらそれを凝視している。
 その後ろでは棍とクジャッキー・スラッシャーを構えたナミとビビが冷たい目で見降ろし、サリーはニヤニヤと嗤っている。

「1、2、3!1、2、3!どうだ!?」
「だめだ、まだ意識が戻らねぇ!」

 そして、床ではルフィとキャプテンが必死でサンジの蘇生を行っている。

 …混沌としすぎだろ。

「…ええい、ままよ!」

 ゾロは意を決して氷女の差しだした鮫の切り身に被りついた。
 数回咀嚼し、嚥下する。
 それを見た氷女の顔が先ほどの泣き顔から一変して輝かんばかりの笑顔になる。

「おいしかったか?」
「あ、ああ…」
「じゃあ、もっと喰え!」

 そう言って氷女は次から次へと料理をゾロの口に運ぶ。
 未だ凶器を納めることのない2人の鬼女の所為で、ゾロはひたすらそれを喰べ続けるしかない。

幼女にアーンされる未来の大剣豪。何と言う恥辱刑。
勿論、サリーは大爆笑している。

………耐えろ私、緩むな口元!

「グアァァァッ!!」
「「やっと蘇生したと思ったらゾロ達を見て爆発したァァァッ!?」」

 サンジ、死ぬならギガントシャークを全て料理してからにしてくれ。





1-2 メリー号の船首を直そう

「えー、もうこれ以上ルフィがサリーの頭に乗ろうとしたり、氷女の髪を座布団代わりにしようとして殺されかけるのを助けるのは嫌なので、早急にメリー号の船首の修復をしたいと思う」

 全員を甲板に集めた私は、未だ折れたままの船首を指差す。

「やっとか!…だけど材料はどうするんだ?船に積んである木材だけじゃ足りねぇだろ」

 キャプテンの疑問は、尤もだ。
 だが、修理を可能にする方法が私にある。

「木材は使わない。この際、私のオラクル細胞を使って、船首を造ってしまおうと思う」
「出来るの、そんなこと?」

 ビビが首をかしげる。

「勿論だ。オラクル細胞はありとあらゆる形質を再現できる。船の船首とて例外ではない」

 古代では戦車を模したオラクル細胞も存在した。
 問題は無いだろう。

「…いきなりパックリいかれたりしないわよね?」

 ナミが半目で睨んでくる。
 やれやれ、心配性め。

「当たり前だ。古代に人間達が使っていた防壁の技術を応用して、お前達を捕喰しないように調整しておく。だから生身で乗っても大丈夫だぞ、ルフィ」
「おおー!やったァッ!」

 ルフィは目を輝かせて喜ぶ。

「ふう、これでようやく猿を焼くことから解放されるんですね」
「ああ、もうゴムを斬るのは飽きた」

 …アラガミにこれだけ襲われて生きているルフィを凄いと思えば良いのか、呆れれば良いのか。

「では本題だ。これより船首の構築に移るが、デザインをどうするか決めてほしい」

 全員を集めたのはこの採決のためだ。
 デザインそのものに興味は無いが、仲間達がどのような提案をするのか知りたかった。
 要するにただの興味本位だ。

「別に前のままで良いじゃねぇか。やっぱ見なれてるのが一番だぜ」
「確かにそれも一理ありますが、折角作り直すんですから、少し冒険してみても良いんじゃありませんか、マスター」

 元通りにするだけでよいと言うキャプテンに対して、以外にもサリーが異を述べる。

「ほう、ではどのようなデザインにするのかこれに簡単に書いてくれ」

 私はあらかじめ用意しておいたスケッチブックと鉛筆をサリーに渡す。

「あら、用意が良いですね。少し待っていてください。すぐに書き上げます」

 言うが早いか、サリーは淀みなく鉛筆を走らせ、10分と経たない内にスケッチを仕上げた。

「はい、どうぞ」

 サリーから受け取ったスケッチブックには驚くほど緻密に書き込まれた船首の姿があった。
 誰が見ても上手いと言わざるを得ない正確無比なものであり、各パーツの大きさや比率まで細かく書き込まれ、このまま設計図にしてしまっても良いくらいの出来だった。

「………」

 だったが…

 私は無言でサリーのスケッチを全員に見せるように掲げた。

「「「ブゥーーーッ!!?」」」

 私とサリーを除く全員噴き出した。
 しばし、全員がせき込む音が虚しく響く。

「何が悲しくて長っ鼻の裸体を船首にせにゃならんのだーーーッ!」

 氷女の絶叫は恐らく全員の心の声を代弁していただろう。
 サリーのスケッチに書かれていたのはキャプテンを模した船首だった。裸体の。
 しかも300%ほど美化されていて、妙に筋肉質なところが気色悪い。

「な、ななななんてこと抜かすんですかこの餓鬼!世界にこれ程素晴らしい船首は無いですよ!?」
「サリー、お前の頭は腐っている」
「カ、カリギュラまで!?ク、こうなったら仕方ありません、そこに書いていない秘密兵器について明かしましょう!実は股間の部分から大砲が―――」
「もういい。それ以上喋るな」

 お前のためにも。

「な、なら、乳首から―――」
「サリー」

 そして、沈黙を保っていたキャプテンがついに口を開いた。

「さすがにコレは無いわ。勘弁してくれ」

 顔が素だ。キャプテン本当に嫌なんだな。

「マ、マスター…!う、うわーん!」

 サリーがその場に泣き崩れた。

「あー、サリー、そのなんだ、お、おれは結構良いと思うぞ?」
「グハァ…!」

 サリーが甲板に倒れ伏し、完全に沈黙した。
 ルフィ、慰めたいのは分かるが、いつも空気が読めないお前がそういう行動を取っては逆効果だ。



「ヒャハハー!色ボケ毒蛾がくたばったところで、次は私がやるぞ!」

 轟沈したサリーを嘲笑いながら、氷女が私の手からスケッチブックを捥ぎ取った。
 その場に腰を下ろすと、グリグリと鉛筆を押しつけるようにして、船首の絵を描き始めた。

「おい保護者、氷女の言葉遣いが汚すぎるぞ。どういう教育をしている」

 氷女の雑言を訊くに堪えかね、隣に立っていた保護者―――ゾロを叱責した。

「勝手に保護者にすんな!」
「じゃあ、恋人か。お前の女だろ、何とかしろ」
「何言ってんだテメェ!」
「マリモ、今日から『ロリ狩りのゾロ』がお前の二つ名だな」
「あ゛ぁ!?このエロコック、曝し首にしてやろうか!?」

 ゾロとサンジは今日も平常運航だ。

「出来たー!」

 ゾロとサンジのじゃれ合いが一段落ついた頃、氷女が完全に芯が無くなった鉛筆を甲板に置いた。

「では見せてみろ」
「ヒャッハー!カッコ良く描けたぞ!」

 氷女は非常に上機嫌で満面の笑みを浮かべながら私にスケッチブックを手渡す。

 …今の氷女を見ていると何と言うか、こう、胸が熱くなるな。この感覚は前にもローグタウンで………

 得も言われぬ感覚を誤魔化しつつ、氷女の描いたスケッチに目を落とす。

「………」

 一言でいえば幼稚園児の人物画だった。
 3本の刀らしき物体とマリモに良く似た頭部から、恐らくモデルはゾロだろう。
 あ、隅っこに『あるぢどの』って書いてある。…後で文字の授業だな。
 
「ふふーん」

 氷女、勝ち誇った顔をしているが、お前もサリーと同レベルだ。
 だが、あの顔を見ていると正直そう告げるのは躊躇われるので、赤の鉛筆で書き込みを行い、ゾロ(氷女画)のページを破いて氷女に渡した。

「ん?『たいへんよくできました。はなまるです。でも『あるじどの』のもじがちがうので、あとでおべんきょうしましょう』…ってなんじゃこりゃーッ!」

 氷女は私の書いた文章を朗読してから紙を甲板に叩きつける。

「他に何か案はあるか?」
「無視すんなーーーッ!」

 誰も手を上げない。と言うか、皆一様に疲れた顔をしている。
 
うん、その気持ち良く分かる。

「では、修繕する船首は以前のものを復元する。では、氷女以外は解散」

 皆が解散していく中、快気炎を上げる氷女と氷女が描いた自身の絵を見て頬を掻くゾロだけが甲板に残る。

「うぉっしゃー!上等だコラ!掛かって来いやァッ!」

 私は血気盛んに叫ぶ氷女の頭を鷲掴みにする。

「ああ、たっぷりと付き合ってやる。これからお前は言葉遣いと文字の勉強だ。3時間でなんとかなる様に仕込んでやる。何、私もお前もアラガミだ。多少の無茶は出来る」
「―――!」

 私の言葉から何かを感じ取ったのか、真っ赤だった顔を真っ青に変えて、氷女はなんとか脱出を試みているが、逃がさない。

「あ、あるじどの…」
「あー…出来るだけ手加減はしてやってくれ」

 半泣きの氷女に縋られ、ゾロはやれやれと言った様子で助け船を出す。

「手加減か…ふむ、そうだな、『優しく』教えてやろう。色々と、な」
「―――!!?い、嫌だ!あ、主殿!お願いだから一緒に居てくれ!私を一人にしないでくれ!」

 氷女マジ泣き。

「…ああ、分かった。カリギュラの笑みがヤバい感じになってるからな」

 おや、私は笑っていたのか?自覚は無かったのだが。
 しかし、とても残念な気持ちになった。

「…チ。まあいい、さっさと行くぞ」
「お前、そういう趣味なのか?」
「さぁて、な」

 私は氷女を右手に持ったまま、ゾロを伴って蔵書室へと向かう。

 後には未だ蘇生しないサリーだけが残った。





1-3 地獄少女

「………」

 どことも分からぬ場所に立つ道場の中央に少女は座していた。
 年のころは十を超えて少し。肩にもかからぬほど短く切りそろえた髪は烏の濡羽の如く美しく、その黒い瞳は鋼のごとき意思を感じさせる。
 針葉樹の無垢板で造られた床の上には、白い柄と鞘に入った一振りの刀が少女のすぐ右側に置かれている。

「………」

 少女は無言のまま、右手に刀を掴むと立ち上がり、柄に手を掛ける。

 瞬間、四方の窓が爆ぜた。

 否、怒涛の如く押し寄せる青い髪の侵攻に耐えきれず、決壊したのだ。
 しかし、全てを喰い尽くす蝗害の如き青髪に、少女は毛ほどの動揺も無い。

「ついにここも見つかったか。まあ、遅かれ早かれ、こうなっていたでしょうけど」

 少女の手が一瞬ぶれる。それと同時に、チンと刀が鞘に収まる音が聞こえると、四方より迫っていた青髪が細切れにされた。
 これぞ鞘滑りを利用して、最速の斬撃を叩き込む抜刀術の絶技である。
 だが、少女を喰らい尽くさんと迫る青髪の侵攻はまだ終わらない。
 細切れにされた青髪がズルズルと蛇が這うように1ヶ所に集まり、巨大な口を持つ蟒蛇と成って、再び少女を喰らわんと襲いかかる。

「何度来ようとも同じことッ!」

 蟒蛇が少女を飲み込む瞬間、床を砕くほどの強烈な踏み込みで蟒蛇の腹の下に潜り込み、
その速度も乗せた居合を放つ。
 その強烈な一撃は、見事青髪蛇を真っ二つにした。だが―――

「ああ…やっと見つけたぞ」

 青髪蛇の落とされた首から鈴を転がしたかのような声が響く。だが、憎悪が満ち満ちたその声を、可愛らしいとは絶対に表現できない。

 直後、青髪蛇の額がひとりでに割れ、中から1人の少女が現れた。
 作りもののように整った顔立ちと青い絹糸のような長い長い髪を持つ、一糸纏わぬ雪のような肌を晒す美しい少女である。
外見は黒髪の少女とほぼ同じ年齢に見えるが、爬虫類のように裂けた瞳と体から溢れる殺気はとても人間のものとは思えない。

「お前だ。お前が私と主殿が繋がるのを邪魔している不純物だ」

 青髪の少女は黒髪の少女を憎悪している。
 敬愛する主と一つになることを邪魔する不純物を。

「不純物は貴女でしょう?宿主に寄生し、吸い殺すおぞましいヤドリギ、それが貴女よ。かつてあいつと誓い合った夢…それは絶対に穢させない」

 黒髪の少女は青髪の少女を憎悪している。
 かつて友情を誓い合った無二の親友を侵さんとする不純物を。

 彼女等は不倶戴天。
 どちらか一方が存在すれば、もう一方は滅びる。決して並び立つことは無い対存在。

「………」
「………」

 最早互いに語るべきことも無い。否、元々そんなものは無い。
 ただ滅す。それのみが互いに抱く感情。

「―――疾ィィィッ!!」

 最初に動いたのは青髪の少女。右手を文字どおりに手刀と変えて、黒髪の少女の脳天に落とす。

「破ァァァッ!!」

 黒髪の少女はそれに居合いで持って答える。
 金属をぶつけ合う激しい火花と音が生じ、互いの刀が弾かれる。
 だが、黒髪の少女はその反動を利用して瞬時に刀を鞘に納め、二の太刀を放つ。

「ヌグ…!」

 青髪の少女は自らの首を狙った斬撃を驚異的な反射神経と体捌きで避ける。
 だが、完全には避け切れず、首を半ばまで切断された。
 本来であればアラガミと呼ばれる青髪の少女にとって、ただの鉄の刃による斬撃など意味を為さないのだが…

「他のほぼ全てを侵食されたとはいえ、ここはまだ私の領域。現世では倒せない貴女も、この幽世ならば人間の理で滅すことが出来る!」

 ここでは互いに対等である。否、黒髪の少女が領域の支配者である以上、青髪の少女にとって、不利である。

「嘗めるなァァァッ!」

 ぐらつく頭を押さえながら、青髪の少女が吼えると、彼女の髪が凄まじい勢いで伸び、床を、壁を浸食する。
 彼女の髪はその1本1本が名刀の一振りであり、これだけの質量があれば、斬圧して殺すにはあまりある。
八方全てを斬髪に抑えられた黒髪の少女に逃げ場は無い。

「甘いッ!」

 だが、彼女は全方位から迫りくる凶刃を全て切り裂き、その身体に1本たりとも触れさせない。
 それどころか、徐々に瀑布の如き斬髪を押し戻し、青髪の少女へと間合いを詰めている。
 そして、ついに自らの間合いに彼女を捕えた。

「首級頂戴!」

 威力、スピード、タイミング、その全てが完璧な必殺の居合。
 黒髪の少女が相手の首が落ちることを幻視した瞬間―――

―――青髪の少女が凶悪な笑みを浮かべた。

 黒髪の少女は背骨に氷柱を突っ込まれたかのような悪寒を感じたが、既に遅い。

「オラ、出番だぞ。レモン女」

 突如、天井にのたくっていた青髪から何かが落ちてきた。
 それは正確に黒髪の少女の上に落ち、彼女を『押し潰す』。
 人間程度の大きさにも関わらず、巨岩と等しい重さを持っているそれの直撃を受け、黒髪の少女は床にめり込む。
 無論、それだけに止まらず、床を完全に貫通し、その下へと落ちる。
 普通に考えれば、その下は地面であるが、ここでは違った。

 髪。ただ只管青い髪が満ちた世界が広がっている。
 青髪は絶えず流動し、それが何万、何億もの蛇が蠢いている様を連想させる。
 蟇盆の如き地獄に落ちた黒髪の少女は一瞬して青髪によって体を拘束される。

「キャ、キャは、キャハはハ!?こ、これで、これで良いのよね!?」

 黒髪の少女が拘束されるのを確認すると、彼女を押しつぶしたモノが立ちあがった。
 レモンの輪切りが描かれたワンピースとハニーポットのような帽子を被った女だった。だが、全身に刃物で斬れら、貫かれたような傷があり、衣服は血塗れで、赤く染まっていない個所を見つけることの方が難しい。
 けたたましく叫ぶその顔は、笑い顔と言うよりも狂人のそれに近い。

「ああ、良くやった」

 女の狂相の先から青髪の少女が現れた。
 先ほど斬り裂かれた首は完全に元に戻っており、美しい肌を晒している。

「や、約束!約束ッ!」
「あ?…あー、そういやしてたっけな。良いぜ、お前はあそこから解放してやるよ」
「キャは!キャハハハはハhaハッ!!」

 青髪の少女の返答を聞いて、女は更にけたたましく笑う。
そして、甲高い声で笑いながら、その場から消えた。

「あれは…」
「私が喰らったモノたちの1つだ」

 青髪の少女は拘束されている黒髪の少女を覗き込むように、横に立つ。
 黒髪の少女は必死にもがくが、青髪の拘束は微塵も揺らがない。

「そんな、ここは現世とは隔絶した場所のはずなのに…まさか!」
「ヒヒヒ、そうだ、アレは魂だ」
「…化物め」

 この場所は特殊な法則に支配されている。
 言わば霊界。現実の物理法則とは隔絶した場所であり、ゆえに通常では傷つけることすら困難なアラガミを打倒することも出来る場所。
 実際、ここに居たのが他のアラガミであったのならば、黒髪の少女は勝ちを拾えていたかもしれない。
 彼女の天敵が喰らった魂を隷属させる特性を持っていたのが、この勝負の明暗を分けたのだ。

「まあ、お前もその1人になるんだ。仲良くやれよ?」
「貴女、あの女の人にさっきは解放するって…」
「ああ、斬られたり刺されたりする紅蓮地獄からはお気に召さなかったらしい。約束通り解放してやるよ。私は優しいからな。あ、そうだ、次にあの女を落とす地獄はどんなのがいいか、お前が決めてくれねぇか?」
「な…!」

 落ちてきた女は確かに自らを責め苛む紅蓮地獄から解放された。
 だが、この青髪の少女からは解放されない。また別の地獄に堕ちるだけだ。
 そう、この少女は『地獄』そのものなのだ。
 其処に堕ちれば、永劫、少女の姿をした地獄の虜囚となる。正しく無限地獄。

「貴女が…お前なんかがこの世に存在していて良い筈が無い!滅びろ、悪鬼羅刹!」

 指1本とて自由に出来ない身ながらも、黒髪の少女は鋼の意思を宿す瞳で青い悪鬼を睨みつける。

「…威勢だけは良い、な!」
「ガッ…!」

 青髪の少女の白魚のような足が眼下の顔を踏みつける。
 華奢で柔らかそうな足は、鉄の如き硬さと冷たさで、黒髪の少女を攻め立てる。

「まあいい、お前は主殿のお気に入りでもあるしな。特別に見せてやるよ。主殿が世界一の大剣豪になる様を」

 黒髪の少女はその鋭利な美貌を踏みにじられながらも、決して青髪の少女を睨みつけることをやめない。

「斬滅鏖殺。この理の下、主殿が最強となる様を私の中から見続けろ」

 青髪の少女は黒髪の少女から足をどけ、背を向けて去っていく。
 それと同時に、黒髪の少女の身体がズブズブと青髪の沼に沈んでいく。
 足、手、胴体、首と順々に飲み込まれて行き、顔のみとなった黒髪の少女が叫んだ。

「いつか!いつかお前を倒す!忘れるな、お前は私が必ず滅ぼす!首を洗って待っていなさい―――氷女!」

 それを最後に、黒髪の少女は沼へと消えた。

「ヒヒヒ…そいつは楽しみだ。何度でも踏みにじってやるよ―――くいな」

 そして青髪の少女も消える。後に残るのは蠢く青髪のみ。

 ここに、青髪の少女、氷女と黒髪の少女、くいなの『初戦』は幕を下ろした。



「どうだルフィ。この銃ならば接近戦もこなせると思うのだが」
「オオーーッ!カッコイイーッ!コレが本物のショットガンかー!」
「まあ、オヴェリスクと同じオラクル細胞を用いた模造品だがな」

「…よーし、成功だ。サリーの協力のおかげで、猛毒星が完成したぞ。これで万が一、サリーがいないときにアラガミに襲われてもなんとかなる…と思う、多分きっと、恐らく…」
「ああーん、マスター、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ!私は片時もマスターから離れません。勿論、トイレとかお風呂とか………ハァハァ」

 ここはウソップの部屋兼武器開発室。
 現在、この部屋にはアラガミ3匹とルフィ、ウソップ、ゾロがいる。
 最初は特に目的も無くだべっているだけであったが、途中から武器についての話になり、なら色々試してみようと言うことになって今に至る。

「クー、クー…」
「ぐごー、ぐごー…」

 しかし、氷女とゾロは興味が無かったのか、すぐに鼾を掻いて居眠りを始めた。
 氷女はゾロに半融合した状態で目を閉じ、長い髪をゾロに巻きつけている。
 朝の『釣り』で酷い目にあったことで、学習したのだろう。

「しっかし、こいつ等ホントに良く寝るよな」
「寝る子は育つと言いますが…頭の中身も育つんでしょうかね?」
「でもホントに気持ちよさそうに寝るよなぁ~。お、今笑ったぞ。楽しい夢でも見てんのか」

 可愛らしい寝息を立てていた氷女がにっこりと満面の笑みを浮かべた。
 何かとても嬉しいことがあったかのような、満足げな笑みだ。

「………首輪を着けて飼いたいな」
「「「えッ?」」」

 カリギュラの知られざる一面が垣間見られた瞬間だった。





 1-4 酒は飲んでも飲まれるな

「ひまー、ひまー、ひひまひまー」
「…氷女、騒ぐならゾロと一緒に寝ていろ。他の船員の安眠妨害だ。人間は私達と違って、睡眠が必要なのだから」

 夜も更け、丑三つ時も間近という時刻に船室のとある一室で、カリギュラは煙草をくゆらせながら読書をし、氷女はテーブルにうつ伏せに乗り、足をばたつかせながらヒマヒマと連呼していた。

「それも良いんだがな。何せこの姿になって初めての夜だ。なんか起きてたい気分なんだよ」

 アラガミは睡眠を必要としない。
 ゆえに、このように朝まで時間を潰すことがカリギュラの日課となっている。
そして、今夜から氷女とサリーが加わった。

「クスクス。お子ちゃまはさっさと寝た方がいいんじゃないですか?正確にはフリですが」

 氷女の言葉が終わると同時に船室の扉が開き、サリーが皮肉と共に船内に入ってきた。

「あ゛?やんのかゴ―――!?」

 サリーの挑発に乗った氷女が、勢い良く身を起して吼えようとした瞬間、その口を異形の手が鷲掴みにした。

「私は黙れと言ったんだ」

 その手の主はカリギュラ。左眼が微かに赤く発光しているが、怒りを湛えている様子は無い。しかしながら、逆にそれが不気味である。

「ムゴムゴ…!」

 カリギュラの様子を知ってか知らずか、氷女の瞳は怒りに燃え上がり、抵抗の意思を見せる。

「―――フフ」

 その必死な姿を見たカリギュラの顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。

「そうか、力では駄目か。では、コレはどうかな?」
「―――!」

 カリギュラは氷女の口を押さえたまま、彼女の耳を甘噛みした。
 氷女がビクリと体を硬直させる様を確認した後、空いている手で氷女の腹を摩りつつ彼女の下半身へと手を移動させていく。

「―――!テメェッ!」
「フフフ…お気に召さなかったか」

 カリギュラの手が足の間に達する直前に氷女は口を押さえていた彼女の手を掌ごと喰いちぎり、素早く距離を取った。
 対するカリギュラは喰いちぎられた手が再生していくのを見つめながら、妖艶な笑みを浮かべた。

「あ、主殿にもあそこまで触られたことはないと言うのに…!お、お前が、わ、私に…!」

 氷女は嬲られた怒りで呂律が回らぬほど激昂し、今にもカリギュラに斬りかからんとしている。
 対するカリギュラは何も言わないが、やるならば叩き伏せるのみと目で語っている。

「仲のよろしいことで。しかしながら、私良いもの持って来ましたので、この場はお互いに矛を納めて頂けませんか?」

「「―――?」」

 カリギュラと氷女はサリーの方を向くと、何だ何だと首をかしげる。
 カリギュラと氷女は数秒間視線を交錯させた後、お互いに戦闘態勢を解く。
 それを確認したサリーが満足気に笑うと、自身の浮遊高度を少し上げた。

「ジャジャーン!新鮮な人肉~」

 サリーがスカートを軽くゆすると、中からボトリと生きた人間が落ちてきた。
 だが目の焦点は定まらず、開きっぱなしの口からはダラダラと涎がこぼれ落ちている。

「ほう、ウィスキーピークで仕入れたのか?キャプテンを匿ったのと同じ能力で?」
「その通りです。マスターと違ってコレはただの食料なので、変な気を起さないよう、色々弄って壊しちゃいましたけど。まあ、味に変わりはありませんので、心配は無いかと」
「おおー!サンジの料理も良いが、やっぱり肉だよなー、じんにくー!」

 直後、3匹の女神に捧げられた供物が顔を恐怖で引き攣らせ、叫び声を上げようとした。
 頭の髄まで魔女の毒粉に犯されながらも、迫りくる死の恐怖に本能が答えた結果だ。
 だが、無慈悲な竜女帝はそれを許さない。

「潔さが足らんな」
「―――!??」

 供物が叫ぼうとした瞬間、カリギュラの抜き手が正確に喉頭を貫き、声帯を破壊した。
 激痛でのた打ち回るはずの供物はカリギュラに顔面を握られて床に頭から押し付けられ、ただ地獄の苦しみに顔を歪めることしか出来ない

「全く、声帯くらい潰しておけ」
「うーん、自我は完全に破壊したつもりだったんですけどねぇ…今度はもっときちんと処置しておきます」

 カリギュラはやれやれとため息を吐くと、改めて供物を見据え、供物の顔面を押さえていない右手にブレードを展開する。

「では配分だ。私は頭を頂こう。人間の味噌は絶品だからな」
「にくにくー!特に心臓が欲しい!」
「では私は背骨から頂きましょう。脊椎と延髄の苦みが何とも言えないんですよね」
「―――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 生きながらにして五体を引き裂かれながらも、竜女帝の戒めを受けた口から終ぞ供物の声は何1つとして聞こえなかった。



「あ、忘れてました」

 食事も半ばまで行ったころ、サリーが唐突に声を上げ、スカートの中から一本の酒瓶を取りだした。
 中は薄らと発光する緑色の液体に満たされている。

「酒か?私達には意味の無いものだろう」

 脳漿を啜りながらカリギュラが憮然と答える。

 アラガミはあらゆるものを捕喰する。
 人間が飲めば酩酊する酒であっても、アラガミにとってはただの捕喰対象でしかなく、所謂『酔う』という現象は起きない。

 しかし、サリーはニヤリと笑う。

「勿論、ただのお酒じゃありません。私の鱗粉を混ぜたものです。毒の成分を調整して、オラクル細胞を僅かに活性化させるようにしました。つまり、アラガミでも『酔える』お酒を造ったんですよ」
「人間が飲めば?」
「即死です」
「…キャプテンたちが間違えて飲まないようにしておけよ?」

 余談だが、後日この酒と同種のものをゾロが美味そうに飲んでいるのを目撃したカリギュラにより、その酒について説明を受けたゾロがかなりへこんだことを記しておく。

「ささ、まずは一献」

 サリーはこれまたスカートの中から取り出した3つのグラスに酒を注いでいく。
 カリギュラはその内の2つを手にとり、片方を氷女に渡した。
 3匹は一斉に薄緑色の魔酒を呷る。

「…美味いな」
「んぐんぐんぐんぐ…美味い!もう一杯!」

 カリギュラとサリーが一口だけ飲んだのに対し、氷女はそのまま水でも飲むかのようにグラスを空にしてしまった。

「少しは風情と言うものを持ちなさい、貧乳」
「ば、馬鹿にすんじゃねぇ!いつかきっとカリギュラみたいにバインバインになってやるんだからな!」
「「…ハッ!」」
「鼻で笑ってんじゃねェェェッ!」

 両腕を刃に変えて暴れ出そうとした氷女だが、カリギュラが頭を鷲掴みにして宙にぶら下げられ、動きを封じられてしまう。
駄々っ子のように両腕を振るっている姿は、傍から見れば中々に可愛らしい。

「………そそるな」
「―――!?」

 氷女はカリギュラの言葉に背筋に悪寒が走る。
 そしてより一層手足をばたつかせるのがまた滑稽である。

「クスクス………」
「―――?どうした、サリー」

 それを見て意地の悪い笑みを浮かべていたサリーが急にさっぱりとした笑みを浮かべた。

「いえ、まさか私がこんな風に騒ぐ日が来るとは思わなかったもので。『生きていればその内良いことがある』なんて言葉、戯言だと思っていましたが、認識を改めなければならないようですね」
「熱でもあんのか?」

 なんとかカリギュラの拘束から逃れた氷女がせき込みながらサリーに悪態を吐く。

「本っ当に失礼な餓鬼ですね!」

 氷女の真顔の暴言にいつも閉じている双眼を見開いたサリーだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。

「愛すべきヒトを見つけて、その傍に居場所がある。これを幸福と言わずして何と言いますか。後はそう、マスターと交わり、子を成すことが出来れば最高ですね」
「…意外だな。お前の幸福観が其処まで人間に近いとは」

 元が人間であるせいか?等と考察するカリギュラ。

「数は大体100億匹ほど欲しいですね。そしてマスターを頂点、私をNo.2とした命令系統を確立し、圧倒的な物量と戦力で人間どもを殲滅します。この星を全てマスターと私の色に染め上げる…これぞ究極にして至高の幸福です」
「………そうか」

 人類滅亡へのカウントダウンがスタートした瞬間だった。

「ひゃはははは…わらひはなぁ~、あるじどにょと未来永劫万物を斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくるんだぁ~!斬れば斬るほど『声』も賑やかになるし、きっと楽しいぞぉ!ヒャハハハハ!」

 直後に魔酒を一気飲みした氷女は、どうやら限界突破したらしく、ベロンベロンになっていた。
 氷女とてアラガミである。それをここまで酩酊させるサリーの魔酒はかなり強力な物のようだ。

「私はこの一味の仲間を守ること。それが幸せだ………と先日までは思っていたんだがな」
「では、今は違うと?」
「そうとも言えるし、違うともいえる。先ほど言ったことは私が不完全であった頃の幸福感と言ったところか」
「ああ、そういえば、貴女はゴッドイーター共に殺されかけてこの時代に来たんでしたっけ」
「そうだ。散失直前の状態でヒトヒトの実を喰らい、この姿となった。その時はオラクル細胞よりも人間細胞の割合が高く、今よりももっとヒトよりだったのだ。精神と言うものが肉体に引かれるのかは不明だが、その時に生まれたのがこのヒトらしい幸福感だ」
「では、今は?」

 サリーの問にカリギュラはすぐには答えず、怪しく光る魔酒を一口飲んでから口を開く。

「モノが壊れる様を見た時にも喜びを感じるようになった」

 一瞬の静寂。
 酩酊していた氷女とニヤニヤと笑っていたサリーも、少々緊張した面持ちとなる。

「モノが壊れる様、『そのものに』ですか?」
「…ああ」
「なんだそりゃ、私には想像もつかん。ぶっ殺したり、切り刻んだりするのはあくまで手段だろ」

 ここに居る3匹に破壊への忌避感など無い。それはアラガミとしての本能である。
 しかし、氷女とサリーにとって、破壊とはあくまで手段であり、それそのものが目的ではない。
 彼女等にとって、破壊は邪魔な物を消すためだけのものであり、それそのものに幸福を感じることは基本的に無い。

「まあ、仲間を守ると言うことは今でも私の幸福感を満たしてくれるということに変わりは無い。破壊そのものに喜びを感じるのはアラガミとしての私の幸福なのだろう。フフ、ある意味私が一番化物らしいのかもな」

 カリギュラは唇をほんの少し歪めて自嘲する。

「ま、貴女も所詮はアラガミと言うことですね。ある意味安心しましたよ」
「まあ、それなりにブッ壊すのは楽しいよなぁ…」
「そうさな、私も戦うこと自体は元々嫌いではなかったしな。だが、あくまでコレは今現在の幸福感と言うことだ。これから先更に幸福感を感じる物は増えるかもしれんし―――減るかもしれん」

 不安を誤魔化すように魔酒を呷りながら、仲間の価値がゴミ屑に変わるかもしれないと言うカリギュラに対して、サリーが真顔で話しかける。

「…貴女はマスター達の前で酒は飲まない方がいいでしょうね。発言が一々悲観的かつ不穏当すぎます。別にこの一味が崩壊すること自体は構いませんが、マスターが不快な思いをするのは耐えられません」
「そうだな、それがいい。どうにも私は愚痴が多くなる性質のようだ」

 それ以降言葉は続かず、ただ静かに酒盛りは続く。
 だが、これはこれで悪くないとカリギュラは杯を呷りながら思った。



「………ん~」
 
 場に沈黙が訪れて少したってから、今まで大人しかった氷女がムズがる様な声を上げた。
 心無しか吐息が甘い。

「………体熱い…主殿が欲しい…」
「おい、氷女―――」

 カリギュラが掛ける声を無視して、氷女は立ち上がると息を荒げながらフラフラと部屋を出て行った。
 その熱く潤んだ瞳と気迫はカリギュラに飢えた同族を連想させた。

「クスクス、効果は上々。さて、私も参りましょう」

 グラスに残った魔酒を一気に呷ると、サリーも宙に浮き上がり、氷女と同じように妖艶な笑みを浮かべて部屋から出ていく。

「…サリーめ、要らん効能を付与しおってからに」

 先ほどからカリギュラも感じている体の芯を焼く熱さ。
 懸想している相手でもいれば、ひとたまりもないほど熱く猛っているが、生憎と彼女は未だ恋を知らぬ孤高の竜女帝。
 酒瓶に残った魔酒を全て飲み干すと、コートから取り出した紫煙の息を吐く1箱400ベリーの恋人と交わり、その熱を沈める。
 ふざけた効能はともかく、味は文句なしに良い。ゆえに、残すなどと言うことはしない。

「………」

 きっかり3回恋人との口づけを交わしたカリギュラは一人ごちる。

「私を、私達をこの一味に繋ぐ鎖。それをヒトの言葉で表すとするならば………『欲望』とするべきか」

 世界を終わらせる化物である自分達がこの一味でヒトの真似事が出来ているのはコレがあるからだとカリギュラは考えている。
 仲間を守り、されど破壊を求める欲望、自らの宿主と共に永遠に修羅道を行くと言う欲望、愛した男と鏖殺を経た世界でずっと一緒に居たいと言う欲望。
 種類は違えど、彼女たちを一味に縛り付けているのはコレに他ならない。

 かつて自らがキャプテンと仰ぐ人物が語った心や誇りは欠片もない。

「所詮、化物に心も誇りも理解出来ぬ、か」

 心も誇りも、本来はヒトのみが持つもの。
ゆえに、それを本当に理解し、手に入れたいと思っていたのならば、自分は誰も喰らわず、ヒトになるべきだったのだ。
ヒトヒトの実を喰べた直後から、ヒトが喰べるものだけを喰し、オラクル細胞を活性化させなければこの身は完全なヒトに成れただろう。
その選択肢はおぼろげであったが、決して見えないわけではなかった。もし、自分がキャプテンの言った心や誇りを本当に理解し、手に入れようとしていたのならば、ヒトと成る選択をしていたはずだ。
だが結果はコレだ。自分は化物へと戻る道を選び、心と誇りは歪な物となってしまっているだろう。

つまるところ、彼女はどこまで行っても化物だったと言うこと。それだけである。

「フフフ…ならば、己が欲望のまま行くだけよ。化物らしく、な」

 カリギュラの口が裂け、笑みの形を取る。
 ランタンの光に照らされたその顔は、人外の凄艶とおぞましさを宿し、自身を嗤っていた。


































【コメント】
 この夜、名実ともに『ロリ狩りのゾロ』が誕生しました。


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