<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[2193] 機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)
Name: デルタ・08◆83ab29b6
Date: 2007/12/29 19:02
最初に:この作品はタイトルにあるとおり現実→UCへの憑依ものです。ジオン側を有利にする為ご都合主義(もちろん連邦にもてこ入れしてますが)がはいるときがあるので、ご都合主義が嫌な人は見ないほうが吉かと思われます。なお今のところ月間ペース(2ヶ月に1つとか1月に2つとか)で投稿しております。





目が覚めるとそこは・・・・・・

知らない部屋でした・・・・・・

機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)

「・・・知らない天井だ」

まぁお約束の台詞はおいといて、本当にどこだここ? たしかGNO2をやってたら急に眠くなって・・・気がついたらここにいたんだよな。ってかマジでどこだよここ?

「・・・よっこらせっと」

そこ! じじぃくせぇとかいうな! ん? 誰への突っ込みかって? そりゃ聞くのはヤボってもんだ・・・しかし本当にどこなんだろう? 確実に俺の部屋でないことは間違いない。こんな広い部屋はうちのどこにもないからな。

「・・・? なんだ? 体に違和感を感じる? ・・・鏡どこだ?」

周囲を見渡すとクローゼットの横に鏡があった。その鏡を覗きこんでみると・・・

「・・・誰?」

自分の知らない人物の姿がそこにあった。歳はだいたい20代後半ってとこか? 鏡の中の自分の姿に呆然としていると、いきなり頭の中に膨大な記憶が流れ込んできた。その記憶は本来この体の持ち主、ツィマッド社の若社長『エルトラン・ヒューラー』のもので、ここがUC、宇宙世紀だとも知った。つまり・・・

「ガンダムの世界に憑依ですかい!?」

しかし憑依ものだとしても、普通はパイロットとかだと思うのだが・・・よく考えりゃパイロット=G等に耐える訓練等があるからインドア派の俺にとっちゃ根を上げる可能性が高いか・・・そういや結構前にジオニックの社長に憑依するSSがあったな~・・・しかしツィマッド社とは・・・ツィマッド社のMSっていったら何があったっけ? 有名なのでギャンにゴック、ドムシリーズだよなぁ・・・そういやヅダとイフリートもだったな。

そんなことを考えていたとき、ある重大なことを思い出した。

「そうだ、今何年だ!?」

・・・敗戦間際だったら洒落にならんと思いつつ、部屋においてあるカレンダーを見るとそこには・・・

「UC70年? 70年っていうと・・・開戦9年前だよな・・・他にもなにかあったような気がするんだが・・・」

そこまで考えてふと思い出した。

「そうだ! コケるモビルスーツが開発された年じゃないか! ってことは・・・すでにモビルスーツの開発が始まってるってことじゃないか!・・・たしかツィマッド社はMS技術でかなり出遅れたんだよな。今からジオニック社と技術提携をすればMS技術で出遅れるということはないだろう。いや、逆に旧ザクとのコンペでヅダが勝利できるかも知れないぞ」

そこまで考えて彼はある重大な問題を思い出した。

「そういやジオンが負けたのって結局派閥争いの為だったんだよな・・・ギレン派にキシリア派、ドズル派か・・・たしかランバ・ラルがホワイトベースに特攻しかけたのも派閥がらみで補給がされなかったからじゃないか。新型機を作っても派閥争いとかなんとかしないと負けるかも・・・問題山積みだな・・・」


・・・憑依してから早速問題が山積みの彼に未来はあるのか!?



[2193] 第2話
Name: デルタ・08
Date: 2006/08/07 23:26
「社長、『ヅダ』の問題はやはりこのままだと根本的な解決には時間がかかりそうです。このままではコンペに間に合わないかもしれません」

「そうか、なら今回のコンペはある程度リミッターをつけた状態で望むようにしよう。『ヅダ』が木偶の坊ではないことを一応は証明しなきゃならんからな。今回のコンペでの『ヅダ』の正式採用は諦めよう、だが早急に対処してくれ。ジオニック社は今回コンペにだすザクの改良型を設計しているという話だ。その時にその新型との性能比較で勝てれば指揮官機又はエース用として採用される可能性は高いだろう。場合によっては『ヅダ』の1からの再設計も許可する」

「分かりました。 ・・・実は設計部の話によると、『ヅダ』の再設計が完成間近らしいです。今はこの強化改良型でなんとかしようと四苦八苦してますが、その再設計案では機体強度をかなりとってますので空中分解はしないそうです。まぁ、もし空中分解の恐れがあっても、我々が意地でも『ヅダ』を安全な機体に仕上げて見せます」

「頼んだ。期待しているよ」

ふ~・・・やれやれ。社長も楽じゃないね。お、久しぶり。 ・・・え? 誰に久しぶりって? そりゃ突っ込まないのがエチケットですよ。さて、あの後色々苦労しましたよ。主に会社の重役を説得するのに。まぁ『もし開発計画に参入しなかったら我が社の損害は計り知れない』という言葉と『万が一失敗したときは私の全財産を売り払って補填する。もちろん私は社長を辞職しよう』という言葉で納得してくれたんだが・・・あれで態度を豹変させるってどうよ? ・・・まぁいいさ、その後すぐに開発計画への参入を表明したら諸手を挙げて歓迎してくれましたよ、ええ。どうやら結構失敗してて金銭的にも雰囲気的にも危険な状態だったらしく、うちが参入したおかげで開発ペースが飛躍的にあがりましたよ。MSの基礎技術の取得もできたし、今のところはいい感じかな? おかげで『EMS-04 ヅダ』の開発も一応順調に仕上がってるよ。 ・・・機体の強化をしてもまだ空中分解する危険性を持ってるが、さっきの話では再設計するので克服するのも近いうちにできるみたいだし。だけど史実よりも強化した機体に仕上がったのにそれでも空中分解の危険があるってとんだ暴れ馬だよなぁ・・・ あ、ちなみに今はUC74年後半だよ。

「社長、あの御方との会食が迫ってます。そろそろ準備を」

「ああ、すまんな。早速準備してこよう」

ふぅ、軍の面々との会食は疲れるよ。え? あの御方は誰かって? それは会ってからのお楽しみってやつで。







「お久しぶりですな、ガルマ様。元気そうでなによりです」

「久しぶりだねエルトラン、そちらも相変わらずだね。それに君と私の仲じゃないか、呼び捨てで構わないよ」

「ははは、それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ、ガルマ」

そう、あの御方とはガルマ・ザビだったのだ。なぜガルマ・ザビと親しくなっているかといえば、今後の戦略を考えた上での行動だったのだ。現在ジオンには3つの派閥が存在する。即ち、ギレン派・キシリア派・ドズル派である。ここにガルマが入ればどうなるだろう? まず間違いなくドズル派と合流し、3つの派閥がほぼ拮抗した状態になるだろう。またジオン公国の公王でガルマを溺愛しており、こちらの影響力も馬鹿にできない。うまくいけばガルマ・ドズル派とデギン公王とのスクラムでギレンとキシリアを押さえ込むことも可能だろう。その関係でガルマ経由にてドズルとも親しくなっていたりする。

「そういえば士官学校で行われた1年次試験で主席になったんだって? おめでとう」

「いや、本当は次席さ。私の親友のシャア・アズナブルが本当は主席だったんだ。だが彼には感謝してるよ。私に華を持たせてくれたから」

シャア・アズナブル。有名人キターって叫びたいね。ガルマって死ぬ間際まで彼のことを親友と思ってたんだから・・・不憫な子(核爆)

「なるほど、で士官学校の生活はどうだい? 面白い話はあるか?」

「いや、特にないな。そっちこそ面白い話はないかい?」

「面白いかどうかは分からないが、うちの新型機についてなら話はあるぞ」

「へぇ、どんなのだい?」

「ああ、この前話した『ヅダ』のバリエーションの内の1つなんだが、開発中の新型スナイパーライフルを装備した高機動スナイパー型の『ヅダイェーガー』っていうのを開発してるんだ」

「へぇ、すごいじゃないか。それが量産されればジオンはかなり有利に戦えるんじゃないか?」

「ところが話はそううまくいかない。母体となる『ヅダ』の開発が壁にぶちあたったんだ。このままじゃ次の『YMS-05 ザク』とのコンペで負けることになる。コンペまでに改修できればいいんだがけっこうやばい状態なんだ」

「それは大変だね・・・だけどそれは企業秘密じゃないのかい? 私に教えても良かったのか?」

「もちろんトップシークレットさ。でも君なら口外しないだろうし信頼できるからね。まぁいざとなったらジオニック社の機体をライセンス生産するさ」

その後もしばらく話して1時間ほど後に会食は終了した。

現段階での『ヅダ』の実戦配備は難しい。だがあの後設計部で話を聞いてみたら再設計された『ヅダ』は機体の外見こそ変わってないが、大きさは一回り大きくなり、機体強度もヅダの2倍近く高くなっているそうだ。これで計算上は空中分解の危険は無くなったらしい。 え? 社長自ら社の機密を他人(ガルマ)に話してどうするだって? 心配無用! 話では強力無比なように聞こえるが実際は旧ザクにコンペで負けたと聞いたら連邦はどう思うかな? たしか旧ザクが鹵獲されるのが76年だったはず。鹵獲した旧ザクの性能を連邦は分析するだろう。そして分析が終わったらこう結論付けるだろう『この機体に負けるようなら『ヅダ』とやらはこれより弱いだろう』と。それと平行して『ヅダ』の試作機を連邦の巡視エリアで放棄する計画も進行中だ。当然のことながら放棄する機体はいかにも試験中に破損したかのような機体に仕上げて、機体を復元したとしてもまともに動くことすらままならない張りぼて並みの機体だが。これを鹵獲した連邦はジオン、そして『ヅダ』をなめるだろう。そして開戦の日に性能が段違いの『ヅダ』の部隊によって片っ端から撃沈される・・・まぁ防諜・欺瞞戦の1種だね。もっとも、連邦の技術が上昇することも考えたが逆立ちしてもMS技術に転用するのは不可能といえる機体だからいっか。

ツィマッド社 社長室

「社長、例の件なんとかなりそうです」

ん? 例の件ってなんだ? 思い当たること、主に秘密工作等が多すぎて(なにやってんのぉ~)どの件かわからん・・・

「・・・例の件ってどの件なんだ?」

「あ、失礼。例のテストパイロットのスカウトに関する件ですよ。社長が指名した人、連邦に入る寸前でこっちへのスカウトに成功しました」

「おお、成功したか、もうひとりのほうは?」

「こちらはまだ学生ですがバイトという形でなんとかなりましたが一時的なものですよ?」

「わかりました、ご苦労様です。一時的とはいえ顔を知ることが今後に繋がっていくのですよ」

「分かりました社長。それでは」

そういって通信回線は切れた。

・・・これであの悲劇は防げそうですね。そもそもアレックスとかは早期に木馬に退場してくれれば開発はされないでしょうし・・・
次回は旧ザクとヅダのコンペをかけるかな? 



[2193] 第3話
Name: デルタ・08
Date: 2006/08/08 14:00
UC75年 初頭

「久しぶりですなエルトラン社長。どうです? お宅の『ヅダ』の調子は?」

「久しぶりですねタクマ社長。いやぁ、今回のコンペは半分諦めてますよ。『ヅダ』に致命的な問題が発生しちゃってね・・・今回はリミッターをかけた初期試作型の機体をお披露目する形です。あぁ、ザクの量産の際にはライセンス生産させてくださいよ」

「そりゃ災難ですな。まぁ我々ジオニック社と貴方方ツィマッド社との仲ですから最大限の援助はさせてもらいますよ」

「ありがとうございます。ではうちからも技術者をだしてお宅の『ザク』の改良に手をお貸ししますよ。もちろん研究費としていくらか持参します」

「ありがとうございます。今後ともいい友人でありたいものですな」

お、久しぶり。え? なんだこの会話って? 見ての通りジオニック社と親交を深めているだけだよ。やっぱジオンが勝利するには企業提携は必須だからねぇ・・・『統合整備計画』が既に企業間で始動しているって感じかな? この分だと意外と早く新型MSが設計できそうだが・・・このままいけばゲルググとギャンって開発されるのかな? 激しく疑問だ・・・

「それではこれより試験を開始します。このコンペにてジオンの未来が決まるといっても過言ではありません。各社準備はよろしいですか?」

「こちらジオニック社。YMS-05、『ザク』準備よし!」

「こちらツィマッド社。YMS-X04『初期試作型ヅダ』準備よし!」

そのアナウンスが流れたとき会場にざわめきが起こった。それもそうだろう、ジオニック側がほぼ完成している機体なのにうちは試作といっているのだから。

「・・・エルトラン社長、どういうことですか? このコンペに作りかけの機体をだすなんて」

うわ、軍関係者がこっち睨んでるよ。ってギレン総帥、こっちをそんな睨まないで~

「ええ、実はうちの主力機『ヅダ』に致命的な問題が発生して、それを改修するのに手間取ってしまったのです。ですので今回はリミッターをつけ安全性を高めた試作機をだしたのです。我々ツィマッド社にとって今回のコンペは『ヅダ』が不完全な試作機でもどのくらいの実力を持っているか皆さんに知ってもらう、いわばお披露目なのです。現在その問題は『ヅダ』の再設計によって解消されてますがその再設計機が完成するのが遅れて、今回のコンペに間に合わなかったもので・・・ですが今回お披露目する『初期試作型ヅダ』の性能は目を見張るものがあり、皆様が満足される結果を残せると自負しております」

「そこまで大風呂敷を広げたのだ。満足な結果が出なかった場合は・・・分かっているな?」

うわ、こえぇ・・・万が一失敗したら暗殺されそうな気配だよ。ってか殺気感じるんですが!?

「ご心配なく。我々の試験では満足な結果がでております。皆様ご安心を・・・」

そうこうしているうちにテストが始まった。その結果は驚愕すべきものだった。格闘性能試験、射撃性能試験、耐久性能試験、飛行性能試験、機動性能試験。この全てにおいて『ヅダ』は『ザク』を上回る結果をたたき出したのだった。問題だった飛行試験及び機動性能試験ではリミッターがかかり大事には及ばなかったが、それでも『ザク』を上回る結果だった。どうやら設計の段階で史実よりも強化したことが各種性能を向上させることに繋がったようだった。『ザク』が勝っていた点はコスト(史実の『ヅダ』は『ザク』の1.8倍だったが本機では機体強度等が変更されている為『ザク』の2倍になっていた。当然再設計機はそれ以上になる見込み)・信頼性・整備性・汎用性だった。

この結果に会場は騒然となった、特にジオニック社は・・・それもそうだろう、試作機から抜け出ていない機体に万全の状態で臨んだ『ザク』が圧倒的な差で敗北したのだ。これで試作機なら正式機はどれほどの性能を持つというのか・・・会場では『ヅダ』採用の声が上がったが、開発元のツィマッド社が採用を否定した。曰く・・・

「今回試験に臨んだ『ヅダ』は試作機で、今すぐに量産することは不可能であり、正式機も未だロールアウトしていない為、現段階で『ヅダ』を採用すればジオンの戦力化は大幅に遅れることだろう。よって、ジオニック社の『ザク』を正式採用、量産し『ヅダ』は指揮官機として採用して欲しい。コスト・整備性に優れる『ザク』は現場においてもっとも重宝する機体となるだろう。いずれジオニック社が開発する『ザク』の発展改良型機と我々が胸を張って送り出す『ヅダ』の正式機と改めてコンペをすることを我々ツィマッド社は希望するものである」

この言葉に軍上層部は納得し、ジオニック社の『ザク』を正式機として採用した。会場が散閑となり始めた時、ジオニック社のタクマ社長が話しかけてきた。

「エルトラン社長、お宅の『ヅダ』は凄まじいですな。我が社の自信作の『ザク』がああまでも叩きのめされるとは・・・」

「いや、あれはまだまだ試作機ですから。それに現在開発中の再設計機はあれを凌ぐ性能を持つと開発部の者が言ってましたが、やはりコストや信頼性、整備性や汎用性に関してはうちはまだまだです。実際の戦場でちゃんと戦えるかはまた別問題ですし、操作性もお宅の『ザク』が上回っておりました・・・正直『ヅダ』はエース向けの機体で、とてもじゃないですが一般兵が乗りこなせるモノじゃないのです・・・」

「ほう、以外ですな。ですがあの性能を見せられたらそれも納得しますな。ところで例の派遣のことなんですが・・・」

「ええ、分かっております。うちから派遣する技術者に『ヅダ』のエンジンデータ等を持って行かせましょう」

「ありがとうございます。ではこちらからは『ザク』の設計図とライセンス生産の際には便宜を図りましょう」

「ありがとうございます。今後とも手を取り合っていきましょう」

「ええ、それではまた・・・」


コンペに参加したとある技術仕官の記録
ツィマッド社の新型MS『ヅダ』の性能は驚異的で、ジオニック社の『ザク』をほぼ全てにおいて上回る。だがその性能のせいでエースパイロット仕様ともいえる機体となったことと推測す。だが今回のコンペにて試験を行った『ヅダ』は欠陥がある初期型の試作機であり、今後の正式機においてはそのあたりがどう改善されているかが焦点となると推測される。今後の配備方式としては一般兵に『ザク』熟練兵に『ヅダ』というハイ・ローミックス方式での配備が望ましいと推測される。


ツィマッド社社長室

「社長、例の偽装工作は終了しました。コンペは『ザク』が圧勝したと連邦に伝わるでしょう。後、『ヅダ』もどきは無事連邦に発見・回収された模様です」

「わかりました、ご苦労様です。で、頼んでた件はどうなりましたか?」

「ミノフスキー物理学に詳しい人材をかき集め開発中ですが、未だエネルギーCAPの実用化には時間がかかるとのことです。ですが開戦までには意地でも実用化させてみせると開発チームは豪語しております」

「結構です。追加予算を出すからがんばれと伝えてください」

「分かりましたが・・・重役達は大丈夫なのですか?」

「ええ、騒ぎ立ててましたが切り札をチラつかせたら納得してくれましたよ」

「・・・まさかこの前の贈収賄の調査は、もしかして・・・」

「はい、そこまで。それ以上は禁句ですよ。深く考えないように」

「わ、分かりました。では報告終わります」

そういって通信は切れた。

・・・これでなんとかエネルギーCAPの実用化には目処が立ちそうですね。しかし・・・なんか悪役になった気がするのは気のせいかな? まぁいい。これであの計画が始動できますね。歴史の改変、やってみせようじゃないか。ちょうどいいし煩悩を暴走させてやる。これくらいの役得はいいだろう。

はたしてエルトラン社長の野望によって、ツィマッド社はどこへ逝くのか・・・それは今は誰も知らない・・・



[2193] 第4話
Name: デルタ・08
Date: 2006/09/05 16:19
「それじゃエルトラン、君の会社のMS、期待しているよ」

「助かったよガルマ。何から何まで頼っちゃって・・・」

「なに、君は私の友人だし、これまで私によくしてくれたからね。ささやかな礼というやつだよ、それじゃあ」

「また今度お礼をするよ、それじゃあ」

ふぅ・・・持つべきものは友人&コネってことか・・・情けは人の為ならずとはよく言ったものだね。ちなみに今はUC78年8月、開戦前夜ならぬ開戦前年だよ。さっき話していたガルマは士官学校を卒業して軍に入ってるよ。これでガルマ・ドズル派ができるね。

一応現状の説明をしておこうか。現在のジオン主力MSはザクⅡとヅダ。このザクⅡはうちがテコ入れした結果高性能化に成功したよ。後は固定武装として手に持つタイプの盾を標準装備することに成功したよ。うちのエンジン使ったおかげで出力に余裕ができたからだね。今はC型、F型、J型の開発が終了して生産開始したところで、性能も若干向上しているよ。 え? 一気にザクⅡ改とか作らないのかって? 無茶言うなよ、そこまで一気に開発できるわけないだろ? ザクシリーズのデータを纏めて開発されたのがザクⅡ改なんだから、いくら統合整備計画が実行されてもすぐに設計できるものじゃないんだ。まぁ今年中にはザクⅡ改の設計・開発にかかるらしいが・・・まぁそういうことで後は地上攻略用にジオニック社と提携して作った『MS-07グフ』があるね。これも各種性能が若干向上しているよ。

で、ここで問題が起こったわけ。ジオン航空隊は制空戦闘機としてMIP社が開発した『ドップ』を使用してるが、これがまた航続距離が短いんよ。これじゃ発進基地が遠ければ部隊上空での戦闘時間が限られてくるし、なにより敵の後方にいる補給部隊等を攻撃できない。そこでうちとMIP社と共同で新型戦闘爆撃機を開発しました。名称はDFA-07 『ジャベリン』 長距離を飛行し、一撃離脱戦法を取るまさにドップとは逆の機体設計だったけど、意外とうまくいきました、ええ。将来的にはコアブースターみたいな感じに改装できるように設計してあるからかなり余裕を持った機体で、2t爆弾を4発搭載可能な機体に仕上がった。ちなみに標準装備は有線誘導ミサイル6発に通常爆弾を6発、大型増槽に30mmガトリング砲を機体両脇に2基装備している。これで航続距離は5000kmとまさにバケモノといってもいい機体だ。 ・・・もっとも、巨体になってガウ攻撃空母のドップ用格納庫からの発進ができなくなったがまぁ問題ないだろ。ちなみに『ドップ』はうちやジオニック社の協力もあり去年の11月には開発が完了してたよ。

後は水中戦力だが、完成しました、MS運用が可能な潜水艦(各社共同設計)と水陸両用MSの『MSM-03ゴック』が・・・いや、なんで海が無いコロニーでいきなり潜水艦や両用MSが作れるんだ!? って突っ込みが聞こえるから弁解するけど・・・確かにコロニーに海は無い。だが・・・水圧のテストならいくらでもできるんだよ、水圧を人工的に作る施設があれば。そこで海水に似た成分にした水を満たし実験したんだよ。結果・・・潜水艦は実用化の目処が立ったけど、ゴックの問題点が解決しませんでした。まぁ水中でメガ粒子砲が発射可能になったのには技術者に脱帽したね。で、ゴックの問題点、陸上での稼働時間の問題だが、結局未解決になってます。一応対処はしたがそれでも焼け石に水で・・・まぁ水陸両用MSは現段階ではコレしかないから軍から発注が結構きてるからいいけど、早急に『MSM-03C ハイゴック』の設計を行わせています。実用化の目処は79年の3~4月あたりになりそうだけど、まぁハワイとかを攻略する時には生産は間に合ってるだろう。 それもこれも先月開発できたエネルギーCAP技術のおかげだね。ゴックには間に合わなかったが・・・まぁ、これができたおかげでビームライフルの実用化に目処が立ったし・・・まぁこれはうちでもかなりの極秘事項扱いになってるんだが、しばらくうちで独占させてもらうつもりだよ、だいたい来年1月くらいに特許をとって公開する。やっぱ資金がやばくなりそうだからね。特許料が洪水のように押し寄せてくるのは間違いない! で、それでビームライフルやビームバズーカの実用化に目処が立ったって話だけど、そのビームライフルも画期的なものにしました。つまり・・・エネルギーCAPを弾装にみたてたカートリッジ式エネルギー供給方法だ。これならマシンガンのようにビームを撃ちつくした後カートリッジ型エネルギーCAPを交換すればすぐまた連射が可能になるわけだ。これの名称はEパック式ビームライフルってなったよ。これで火器管制装置さえあればどんなMSだってビームを撃てちゃうんだ。

他にも色々と手を出してるんだ。たとえば新型ムサイ級の開発・建造とか。これはムサイS型にそっくりの外見(PSギレンの野望ジオンの系譜参考)で、この艦の最大の特徴はムサイ級の特徴だったコムサイを組み込んでないんだ。武装こそ2連装メガ粒子砲2問だが、この艦はあらゆる戦闘艦を上回る機動・運動性を誇り、対MS戦を意識した防衛用の新型CIWSを装備しているんだ。ちなみにMSは6機搭載。艦型は『ジークフリート』級って呼ばれてる。これは既に10隻発注がきてて、結構利益がでてる状態だね。・・・まぁ他のMS開発計画とかで使った分を埋めるには足りないがね(泣)

後は『MS-08イフリート』に『MS-09ドム』の開発とかかな。最初に断っておくけどイフリートの開発はこちらの計画ではどうしても必須だったんだ。ってことでまずはイフリートについて話そうか。

イフリートの設計コンセプトは従来機とは違う特殊部隊等が使用する強襲用MSの開発。 ・・・このコンセプトを聞いて分かった人もいるかもしれないね。そう、イフリートは『MS-18ケンプファー』の母体となるべく開発さしたんだ。開発は順調で合計12機のイフリートが製造されているよ。テストが終わったら軍に売却してその後も追跡調査するけどね。イフリートの武装はショットガンにビームソード、スモークディスチャージャーだけど対MS戦用にさっき言った新型ビームライフルを装備することができるようにしてある。ショットガンは対MS戦には不向きのように見えるが、これは元々対MS戦用じゃないんだ。ショットガンは主に対歩兵・建造物用で装備しているんだ。もちろんMSに使用し、相手のメインカメラ等のセンサー類を破壊することもできる。

次に『MS-09 ドム』についてだが・・・今現在プロトタイプ・ドムが陸上・宇宙用共に完成して、テスト運用中だ。しばらくしてから量産機の設計にかかる予定で、完成して量産に移れるのは来年6月くらいだろうな。もっとも量産型ドムは史実のドム・トローペンだし、宇宙用に開発中のリックドムなんてリックドム・ツヴァイだ。まぁぶっちゃけプロトドム=史実のドム&リックドムってことだし・・・まぁこのドムも性能が向上しているし、ビーム兵器の運用も可能だ。ぶっちゃけこのドムがあれば新型機は入らない気もするが・・・
で、話を戻すけどこの2機種から新たにある装置が取り付けられたんだ。それは緊急時に作動する脱出ポッドだ。これはコックピット周りを1つの区画にし、その区画ごと搭乗者をMSから脱出させる機構であり、人的資源の少ないジオンにとって必要不可欠な装備だろう。ちなみにこれを組み込むに当たり、コックピットへの出入り口を後ろ側からするといった変更もされている。これに連動して正面装甲の増大とスラスターの配置変更等が発生したが基本的にデメリットは発生していないから問題無しとしよう。ヅダにも装備させたかったがさすがに再設計しなければ無理で諦めた。本当は全天周囲モニターとリニアシート等も装備させたかったがまだ開発中なので不可能(今年中に完成見込み)だった。

で、次はMAいってみようか。当然のことながらツィマッド社はMAを開発していない。MAもどきはつくったことがあるが・・・で、そこでズム・シティ工廠が開発したモビルタンク『YMT-05 ヒルドルブ』この不採用が決定した機体の改修を申し出たら快く承諾してくれましたよ・・・謎だ。まぁいいか、で・・・初期の機体を参考にして開発してみました、量産型ヒルドルブというべき機体を。変更部分は主に可変機構で、この機体は最初から半MA形態にしておくことでコストを安くし、また量産効果である程度のコスト減にも成功しましたよ。 ・・・まぁあの頭部をうちが試作してる長距離支援用MSの頭部に使用したんで・・・まぁなんだかんだで初期型のヒルドルブの2/3まで価格を下げることに成功しました。代わりに搭乗員は3人必要だが・・・意外とコスト減らせたことに驚愕したよ、ええ。とりあえずうちで生産した量産型ヒルドルブ、正式名称は『MT-05 Mk-2 ヒルドルブⅡ』計5機ロールアウト予定です。ちなみにヒルドルブ再開発にかかった費用、グワジン級を1隻建造できるほどだったよ。重役を落ち着かせるのに苦労しました(大泣)

で、最後にたぶん誰も予想しなかったであろうことを実行に移しました。すなわち、『ツィマッド社特別試験部隊の設立』通称は『ヴァルキリーフェザー』 いまいちピンとこないだろうから説明しよう。この部隊はツィマッド社所属の新型兵器運用試験部隊で、あらゆる兵器を戦場で運用試験するといった部隊なんだ。
・・・だけどこれは表向きなんだよね。本当はこの部隊は私の私兵で歴史を改変する実行部隊という役目を持っているんだ。つまり、連邦に負けないように立ち回る部隊ってこと。もちろん規模が大きくなったらザビ家から目をつけられるだろうけど、ちゃんと手は打ってある。この部隊はガルマ・ドズル公認のジオン側の傭兵って認識してもらう。ついさっきガルマと連絡してたのはこの件を頼んでたんだ。結果は大成功。ガルマ・ドズル両名がいる地域ではかなりの権限を与えてくれるそうだ。もちろん代償に新型MSの優先供給(秘密裏に生産した機体の横流し)を確約させられたが安いものだ。ゆくゆくはデギン・ドズル・ガルマを中心とした軍国主義じゃないジオン公国にしていきたいね。

さて、これからジオニック社とMIP社、他にもジオンを支えている会社を集めて話し合いをしなきゃ。ガルマ経由でブリティッシュ作戦の情報が入ったからね。他のコロニーを攻撃するのは勘弁してほしいってのが本音だ。せめて破壊するとしても親スペースノイド派のコロニーは攻撃しないで欲しいね。サイド3の大手企業からの署名ならザビ家もむげにはできないだろう。 ・・・暗殺される可能性はかなり高いけどね。他の社長にも社員とかに話さないように口止めしとかにゃきゃ。話がもれたら暗殺されるぞって言って・・・・・・終戦まで生き残れるかな、私?(そのまえにザビ家に暗殺されそうだが)


そう思っているエルトラン社長の机の上にはある書類が載っていた。

「極秘計画進行一覧書:UC78・7月 定時報告書
『大気圏内外両用型MS運用母艦建造計画:コード名 アルビオン』
『MS運用型防空戦闘艦開発計画:コード名 ヘッジホッグ』
『MS-08を発展させた新型強襲用高機動MS開発計画:コード名 闘士』
『超長距離砲撃支援MS開発計画:コード名 メルザウン・カノーネ』
『陸上拠点防衛型機動MA開発計画:コード名 ヒューエンデン』



上記の計画は順調に進行しており、特に『アルビオン』は79年3月には計画が完了、『ヘッジホッグ』も1番艦が79年1月上旬に建造終了予定。他の計画も予定通り7月までには完了見込み」



[2193] 第5話
Name: デルタ・08
Date: 2006/08/11 22:36
やぁ元気かい? 私? 私は今快適な病院ライフを楽しんでるとこだよ。ええ、端的に言えば・・・暗殺されかけちゃったよ、あはははは・・・そこ! 笑ってる場合じゃないだろ!って突っ込みいいねぇ! 山○君、座布団1枚もってきて~

・ 

まぁ混乱してるだろうし、ことのいきさつを説明しよっか。他のコロニーに対する攻撃を撤回してもらうようにジオン公国の主要な企業の書名集めてザビ家に渡しました、ガルマ経由で。そしたらなんとかコロニーへの攻撃をするのをやめてくれたんだが、数日後にジオニック社とかとホテルで会談終了後、車に乗り込む間際を狙撃されちゃってねぇ。幸い弾は急所には外れたんだが腹を貫通しちゃって・・・で、急遽病院へ入院したんだ。入院翌日にガルマが見舞いに来てくれたよ。それ以降は不穏な気配がしないからもう大丈夫かな? って感じなんだ。今思えばあれはわざと腹を狙ったのかな、警告のつもりで。まぁそんなことでそろそろ退院なんだがもう開戦まで後1ヶ月無いよ。そういやジオニック社やMIP社から見舞金とか送られてきたけど・・・これって賄賂とか贈収賄になるのかな? ありがたく受け取ったが・・・

さて、ブリティッシュ作戦なんだが入院中にガルマに聞いた話では小惑星に核パルスエンジンを装着して落下させる方法をとったらしい。これをジャブローに落下させるらしいんだが・・・大丈夫なのかな? まぁ入院中なので行動ができないからとめる術はないけど・・・

で、話を変えるけど、私の私兵の『ヴァルキリーフェザー』長いから今後はVFって呼ぶか・・・そこ! マク○スとかいうなぁ~ ちなみに部隊のエンブレムはヴァ○キリープロ○ァイル2の戦乙女をモデルにしてたり・・・まぁそれは別にいいか、話を戻すけどVFが準備整いました。装備しているMSはヅダとプロトリックドムですよ。 え? 全てリックドムじゃないのかって? やだなぁ部隊に配備してる試験用の機体を除けばドムシリーズの正式量産機はやっと再設計に移ったところだよ。あくまでプロト機で性能・問題点等の洗い出し等を行いそれから再設計するって計画だったからね。量産が始まるのはUC79年6~7月あたりかな? まぁプロトリックドムもまぁまぁの性能だがやはり加速性能は現段階ではヅダの方が上だし・・・正式機はヅダ並を目標にしてるがね。まぁ話をおいといて、開戦後にVFはプロトリックドムの実戦テストと並行してヨーツンヘイムと合流、ヨルムンガンドの護衛をさせようと思っている。たしかにヨルムンガンドは艦隊決戦砲としては不適格かもしれないが、要塞砲と考えれば捨てたものではないと思う。まぁ艦隊決戦がおこるかかなり疑問な状況だが・・・そういえばかなりの数のパイロットを確保できましたね。しかしなんか疲れたなぁ・・・少しねま~す、おやすみ~







「社長、テストパイロット達は皆準備できました。全機出撃準備完了です!」

「分かった、開戦まで後少しだ。開戦と同時にMS隊を発進させ、コロニーに駐屯する連邦艦隊へ攻撃を開始せよ」

「了解!」

え?いきなり場面を変えるなだって? やだなぁ、それじゃ物語が進まないじゃないか。ちなみに今は開戦1時間前だよ。無事退院もできたし完全復活ってとこかな。

今VFはうちが開発したジークフリート級巡洋艦『ジークフリート』と『ワルキューレ』にうちの保有していた大型輸送艦『ズィード』と『ツァイン』そしてうちが試作した情報統制艦『アンドロメダ』という5隻の艦で移動してる真っ最中だよ。 え? なんで巡洋艦を持ってるかって? 簡単さ、軍部と最初に交渉した時、建造する何艦かはうちが運用試験の為に運用するっていったんだ。まぁ軍部もごねたが建造する艦の価格を割引してあげたら態度を豹変させたよ。ちなみに試作艦の『アンドロメダ』だがこれはレーザー通信能力とかが特化しており、大艦隊の旗艦としても通用するレベルなんだ。他にも情報収集能力とかも高いが、武装が護身用のものしか積んでなく、MSも4機しか搭載できないため軍から建造依頼は全くきてないね。まぁVFの艦隊旗艦用に建造したものだしまぁいっか。うちの大型輸送艦はMSなら12機搭載可能な大型の高速輸送艦だから艦隊全てでMSを40機運用できる。このMSの構成はヅダが10機にプロトリックドムが30機だよ。プロトリックドムは統合整備計画の恩恵を受けてヅダよりも操作しやすくなっているのでうちのパイロットの中でも経験の浅いパイロットを乗せてますよ。プロトリックドムの武装はジャイアントバズーカ、120mmマシンガン、胸部拡散ビーム砲、ビームソードと、何機かにはシュツルム・ファウストを持たせてある。
で、この部隊の初任務はサイド2に駐屯している連邦艦隊への攻撃で、コロニーに極力傷をつけないように戦わないといけないんだよね。駐留してる兵力もマゼラン級3隻、サラミス級6隻を中心にフリゲート艦や小型戦闘艦艇等、計18隻にトリアーエズにセイバーフィッシュといった宇宙戦闘機が計20機といった大兵力なんだ。 ・・・まぁ駐屯してる部隊の数よりこちらのMSの数の方が多いんであっという間に片付きそうだが(爆)それに乗ってるパイロットもガルマ経由でドズル中将からあるパイロット達を借りてるし・・・ってか実際借りれるとは思ってなかったが(汗)

「社長、時間です。」

っと、時間が経つのは早いですね。じゃあ戦闘開始といきますか。

「各艦に通達、ミノフスキー粒子散布ミサイル発射後、MS隊を発進させろ。コロニーにできる限り傷をつけるなと伝えてくれ」

「了解しました。各艦ミサイル発射!」

その命令と同時に大型輸送艦を除く各艦からミサイルが発射された。ミサイルは迎撃されることもなく炸裂、辺り一体にミノフスキー粒子をばら撒いた。そして混乱し始めた連邦艦隊を尻目にVFはMSを発進させていった。

「MS隊の発進を確認。先陣はサイクロプス隊のプロトリックドムです」


「各員いいな、我々の任務はコロニーに駐屯している連邦の部隊の撃破だ。その際コロニーに傷を付けるなよ。 ・・・ん? ミーシャ、また酒を飲んでるな」

「へへ、俺にとっちゃウォッカはガソリンみたいなものです。温まってきましたぜ」

「いい加減にしろよ、死んだら飲めなくなるんだからな。こちらガルシア、了解しやした」

「こちらアンディ、任務了解しました。ひよっこはどうだ?」

「俺だってVFの、サイクロプス隊の一員です。馬鹿にしないでください」

「バーニィ、落ち着いて。 クリス、発進完了です」

「よし、俺とミーシャ、ガルシアとアンディ、バーニィとクリスでチームを組め。それぞれマゼラン級を落とし、指揮系統を破壊するぞ。破壊したチームから残敵掃討に移れ」

そういって2機ずつに分かれたプロトリックドムはミノフスキー粒子で混乱している連邦艦隊のマゼラン級に殺到した。マゼラン級は対空砲火を撃ち放ってくるが、MSの機動の前にかすりもしなかった。ミサイルもミノフスキー粒子によって無力化され、主砲もMSを狙うには適さなかった。そうこうしているうちにサイクロプス隊の攻撃によってマゼラン級戦艦は全ての武装を破壊されスクラップ状態になっていった。

他のMS隊も駐屯部隊に攻撃を仕掛け、戦闘開始から僅か3分で連邦艦隊はほぼ無力化されていた。20機ほどいるセイバーフィッシュやトリアーエズといった機体が誘導が効かないミサイルやバルカン砲を撒き散らしながら突っ込んでくるのに対し、MS隊はマシンガンで迎撃し、これをスペースデブリに瞬時に変えていった。そして・・・

「艦長、もはや戦闘は不可能です。ガンポッドも使用不可能、砲座も全滅です」

「ミノフスキー粒子の広域散布なのか・・・しかしどうやって?」

「艦長、どうします? 最早戦闘力の残っている艦は・・・」

「・・・友軍の状況は?」

「はい、目視で確認しただけではマゼラン級1隻大破、航行不能と思われます。もう1隻は轟沈・・・サラミスも2隻が戦闘力喪失、1隻がスクラップ、残り3隻は見当たりません。他のフリゲート艦も2隻を除いて見当たりません。恐らく轟沈かと・・・戦闘能力を保持する艦は見当たりません」

「・・・ジオンの配置は?」

「正面の艦隊とサイド2方面にモビルスーツが分かれています。脱出は絶望的です」

「・・・仕方ない。発光通信で降伏を伝える」

「・・・了解しました。 ・・・残念です」


「連邦マゼラン級から発光! モールスです、読みます・・・『我サイド2駐留部隊所属マゼラン級戦艦艦長イライザ・オロマ中佐。貴艦隊に降伏する、部下の安全は保障されたし』だそうです」

「全部隊に攻撃中止命令をだせ、それと返信だ。『貴艦隊の降伏を受理する。乗組員の安全は保障する』と伝えろ」

「了解しました」

「さて、後はあのスクラップを回収して色々と・・・「緊急! 敵艦隊を補足しました。急速接近中!」方位は?」

「本艦から右45度、上方50度! パトロール艦隊と思われます。構成はサラミス級2隻!」

「すぐ動かせるMS隊はいるか?」

「少々お待ちください・・・エリザ・ヘブン伍長のプロトリックドムにジャン・リュック・デュバル大尉とフランツ・アドレー中尉のヅダが最も近いです。それぞれ迎撃に向かいました」

「分かった、『ジークフリート』と『ワルキューレ』も迎撃にあてろ。各隊警戒を怠るな!」


「こちらエリザ、目標を補足。これより攻撃を開始します」

「こちらデュバル大尉だ、我々は向かって右の艦をやる、君は左の艦を頼む。こちらはまだ弾があるが、そっちはどうだ? 弾が足りんようなら砲座を潰して後は巡洋艦に任せろ」

「了解しました。こちらはバズーカが2発のみですので、バズーカを撃ち終えたらビームソードで砲座を潰します」

「了解、健闘を」

そういって通信は切れた

・・・この戦争が終わったら私は自由に生きられる・・・

そう思うエルザは、ふとあの時のことを思い出した。彼女の原隊はムサイ級巡洋艦『チェール』のMS隊だった。あの日、サイド3へ停泊中に艦長に呼び出され艦橋に出頭した。

「エリザ・ヘブン伍長、ただいま出頭しました」

「ご苦労、エリザ・ヘブン伍長。君に転属を命ずる」

「・・・転属ですか?」

転属と聞いてどこの部隊に飛ばされるか全く分からなかったが、その行き先を告げられた時は正直思考がとまった。ありえないからだ。

「うむ、本日を持ってエリザ・ヘブン伍長は巡洋艦『チェール』の配属を解き、ツィマッド社の特別試験部隊、通称『ヴァルキリーフェザー』への転属を命ずる。詳しいことはこの書類に書いてある。以上だ、下がってよし」

「・・・は、はい? なにかの間違いでは・・・」

「これは上層部からの命令だ。明日までにツィマッド社本社へ出頭するように」

その後はあまり覚えていない。予想外の事態ばかりで思考が止まっていたのかもしれない。分かっているのはツィマッド社のパイロットになったということだ。そして次の日、ツィマッド社へと出向いた彼女を待っていたのは予想外のことばかりだった。どうやら彼女は軍を引退してパイロットとしてツィマッド社に就職したということになっていたのだ。そして契約期間は1年。それ以降は交渉によって決めていくということだった。つまり1年後には彼女は自由を手に入れることができるということだ。

・・・まさか来年には自由が得られるとは思ってなかった。それまでなんとしても生き延びなきゃ・・・・・・でも・・・自由になったら私は何ができるんだろう?

そんなことを考えているとコックピット内にアラート音が響いた。あわてて考えを打ち払うと、目の前にサラミス級が迫っていた。

「っ、このぉ!」

その声と同時にバズーカを連射する。放たれた2発の弾は真っ直ぐ直進し、サラミスの主艦橋を吹き飛ばした。この攻撃で指揮系統が混乱したサラミスはまともな指揮ができなくなり、エリザのプロトリックドムはバズーカからビームサーベルに持ち替えて接近戦を試みた。
そしてもう1隻のサラミス級にはヅダ2機による容赦無い攻撃が加えられいた。まずマシンガンで主な砲座を潰し、シュツルム・ファウストとバズーカで艦首ミサイル発射口とエンジンを破壊しようとしているのだ。彼らの戦法はヒット&アウェイで、1機が攻撃したらすかさずもう1機が支援する息のあった戦術機動で徐々にサラミス級からの抵抗は無くなっていき、止めにバズーカの弾がエンジンに直撃したのだ。次の瞬間、サラミスは太陽と化した。

1隻のサラミスが爆沈した時、もう1隻のサラミスも決着がつこうとしていた。エリザのプロトリックドムは至近距離から砲座を破壊していったが、さすがに距離が近すぎる為に反撃として何発か被弾する。だがその装甲の厚さに攻撃は全て食い止められ、目立った損傷は発生していなかった。そして・・・

「エリザ伍長、離れてください! 艦砲射撃を開始します!」

「了解!」

そう、エリザが敵の注目を集めているうちに、巡洋艦2隻はサラミスのすぐ近くまでせまっていたのだ。そしてエリザがサラミスから離れ、ようやくサラミス側が巡洋艦2隻を確認したとき、すでに決着はついていた。

「メガ粒子砲、一斉発射!」

その号令と共に撃ち出された8本のメガ粒子砲の線はサラミスの船体を貫き、サラミスは跡形も無く轟沈した。

ここに、サイド2を巡る戦闘は終了した・・・『ヴァルキリーフェザー』の初勝利と共に・・・



[2193] 第6話
Name: デルタ・08
Date: 2006/08/21 12:27
宇宙世紀0079 1月4日。ジオン公国は外宇宙からソロモン付近に運んできた2つの小惑星(それぞれ『テンペスト』と『カタリナ』と命名された)のうちのひとつ『テンペスト』に核パルスエンジンを装備させ、地球へ向け落下させようとした。目標は南米、連邦軍本部ジャブロー。

これを阻止すべくルナツーから連邦軍第4艦隊が出撃、必死の抵抗により小惑星は大気圏突入後に崩壊、砕け散った。そして砕かれた小惑星は無数の破片となり、そのうちの多くは大気圏で燃え尽きずに地表へと落下していった。もちろん地球連邦軍は地対宙レールガンやミサイル等で迎撃したが、とてもその全てを砕けるほどではなかった。拡散した小惑星は無数の破片と化し、地球全土に落下した。だが本来のコロニー落としにくらべればその被害は圧倒的に少ないだろう。核の冬にならなかっただけ・・・

この戦闘で連邦軍第4艦隊はその戦力の85%以上の損害を受け、またジオン軍も小惑星を護衛していた部隊に損害がでていた。特に小惑星の減速作業に従事していたMS隊に被害が多くでていた。

13日、ジオン軍はブリティッシュ作戦を再開、ソロモン付近に運んできたもうひとつの小惑星に核パルスエンジンを装着させる準備を開始する。だがサイド1が近い為『カタリナ』をコロニー付近から遠ざける作業にかかる。曳航するのに多くの艦船とMSを動員する。作業には細心の注意が払われ、予定は遅れていた。

14日、レビル中将の第3艦隊を中核とした連邦軍第1連合艦隊がルナツーを出撃、この部隊は地球連邦宇宙軍の残存艦艇のほとんどが参加する大艦隊で、『アナンケ』を中心に戦艦51隻、巡洋艦183隻、小型戦闘艦132隻、輸送艦及び補助艦艇86隻といった陣容だった。艦隊は核パルスエンジン装着中の小惑星『カタリナ』だった。その為に艦隊には大量の核弾頭が配備された。

15日、連邦軍艦隊、『カタリナ』及びジオン公国軍を捕捉、後に『カタリナ戦役』と呼ばれる大艦隊戦が始まった。



「社長、仕事はいいのですか?」

「大丈夫、上からの圧力はあるが一応全て順調だし私は確認だけすればいいだけだから。それよりどうです状況は?」

「そうですね・・・現在両軍は激戦中です。ここからだとまるで2本の電極の間で激しくスパークしているように見えます・・・それだけ損害も多いでしょう。予定ではもうMS隊が出撃しているはずですが・・・伝達に支障があった模様です、MS隊の出撃はみられません。
それと我々ですが、本艦アンドロメダとワルキューレ、それに輸送船のツァインの3隻のみなので警戒を厳にしています。搭載MSはご存知の通り22機ですが艦隊防衛用なら十分でしょう。もっとも、こんな主戦場から離れた場所に来る酔狂な敵は今のところいないと思いますがね」

「まぁそうですね・・・お、あれがヨーツンヘイムかな?」

「そのようです、ヨルムンガンドの組み立てはほぼ完了しているようですね」

「ああ、しかし・・・でかいな」

そう、艦橋からその大蛇は見えた。試作艦隊決戦砲ヨルムンガンド その巨大な姿に艦橋にいる者達は圧倒されていた。そして・・・

「! ヨルムンガンド発砲! 敵サラミス級及びマゼラン級それぞれ1隻に至近弾です。恐らくあの2隻は戦闘力がかなり削がれたことは間違い無いかと思われます」

「すごい・・・っと、ヨーツンヘイムに連絡を、内容は『我ツィマッド社特別試験部隊、通称ヴァルキリーフェザー。これより貴艦とヨルムンガンドの護衛を行う。大蛇の咆哮に驚愕す』以上だ」

「了解! ・・・・・・・・・返信きました、『貴艦隊の支援感謝す。されど未だ正確な照準データが入手できず』以上です」

「なるほどね・・・じゃあ艦長、よろしく。1つ回線を使うよ」

「分かりました。 ・・・全MS隊発進せよ! ヨルムンガンドに近寄る敵を全て叩き落せ!」

その号令が発せられると、3隻から10機のヅダと12機のプロトリックドムが出撃し、付近の警戒を始めた。


ヨーツンヘイム 艦橋

「な、なんだあのMSは!?」

「あれは・・・ヅダと見たことの無い新型機? ツィマッド社の新型MSか!?」

「・・・20機前後のMSにムサイを含む艦隊。それがヨルムンガンドを護衛するということは、我々は未だ期待されているということだ。間接射撃指示は必ず来るはずだ、もう少しの辛抱です!」

その時、ヨーツンヘイムの周囲を数多くの光が舞った。それは無数のザクとヅダからなるMS隊だった。そしてそれは集団で連邦艦隊を目指し、MS隊主力が彼らを抜き去ろうとする頃、前衛部隊は艦隊決戦の真っ只中に踊りこんだ。そして到達と同時に敵艦隊の中で次々と光芒が広がっていく。それは軍艦が沈んでいく印だった。

「何!?」

ヨーツンヘイムの目の前に赤いヅダが立ちふさがる。そして頭部には指揮官機を示すツノがある。その赤いヅダはモノアイを点滅させる。ヨーツンヘイムの艦橋では艦橋要員が眩しそうにその通信内容を読み取る。

「コノ場ヲ譲ラレタシ、もびるすーつノ襲撃ハ作戦計画ニノットッタ行動ナリ、しゃ・あずなぶる中尉」

それだけのメッセージを伝えると恐るべき加速性能で主力部隊と合流していった。艦橋には重苦しい沈黙に覆われていた。

「我々は・・・期待されるどころか・・・・・・相手にもしてもらえなかった」

うなだれるキャディラック大尉。艦橋が重苦しい空気に包まれているとき、それを打ち破るかのようにヘンメ大尉が喋った。

「今更・・・・・・何を言ってやがるんだ!! 俺達は最初から冷や飯を食わされてるんだ! たとえ戦力外でも俺は撃つぞ! 分かったか!!」

その時、傷ついたサラミス級とマゼラン級が1隻ずつ迫ってきた。こちらを敵と判断した2隻からミサイルが発射され、ヨーツンヘイムとヨルムンガンドに襲い掛かった。

「! いかん、緊急回避!」

「ま、間に合いません! 命中します!」

そう艦橋に響き渡り、皆が絶望に包まれかけた時奇跡は起こった。そう、今まで忘れ去られていたがこの場にはヴァルキリーフェザーが護衛に当たっていたのだ。そして・・・

「あ・・・ミサイル迎撃されました。ヴァルキリーフェザーのMS隊がサラミス及びマゼラン級を撃沈・・・これは? アンドロメダから通信が入っています、緊急通信です」

「緊急通信? 一体なんだ? ・・・まぁいい、護衛してくれた礼は言わないとな。回線開け」

「了解・・・繋がりました、どうぞ」

「こちらヴァルキリーフェザー所属、アンドロメダ。ヨーツンヘイム、応答されたし」

「こちらヨーツンヘイム、アンドロメダへ。護衛感謝する。 ・・・ところであなたは誰です?」

その質問に答えたのは技術士官のオリヴァー・マイ技術中尉だった。

「!? あ、あなたは・・・ツィマッド社のエルトラン・ヒューラー社長!?」

その一声に艦橋は騒然となった。それもそうだろう。ジオン有数の企業の社長がこんな戦場にいるのだから・・・

「はじめまして、ヨーツンヘイムの皆さん。どうやら自己紹介するまでもないようですが改めて・・・私はツィマッド社社長のエルトラン・ヒューラーです、今後ともよろしく。さて、本題にはいろうか。これより射撃データを送るのでその座標にヨルムンガンドを発射してくれ。敵艦隊はMS隊の活躍により崩壊しているが、もう一押し必要みたいだ。これは艦隊指揮官のドズル中将の許可を貰っているから安心してくれ」

その言葉に、キャディラック大尉は反応した。

「ドズル中将!? ギレン総帥が指揮を執っておられるのではないのか!?」

そう、彼女が事前に得ていた情報では、この艦隊はギレン総帥自らが指揮を執っているということだったのだ。だが今の言葉が本当なら自分は違う情報を伝えられていたことになる。つまり、総帥府は彼女に期待していないということになりかねない。だが・・・

「本当のことだ、この艦隊はドズル中将の指揮の下行動している。これは第2次ブリティッシュ作戦開始と同時に決まっていたことだよ。ギレン総帥はサイド3で行方を見守っているはずだよ」

「そ・・・そんな・・・では私は・・・」

項垂れるキャディラック大尉。それも無理ないだろう。小説で彼女のことを知っていたエルトランは内心そう思い、彼女に同情した。

「まぁ詳しいことはまた今度で、今はヨルムンガンド発射を頼む。データ送る!」

「! 射撃データ来ました。射撃指揮所、データ送ります!」

その言葉と共に射撃データが射撃指揮所に送られた。必要な情報を得たヘンメ大尉の行動は素早かった。

「よし、データ入力良し! 撃つぞぉ!!」

その言葉と共にヨルムンガンドは咆哮した。その光の大蛇は戦場を突き進み、示された場所に到達した。大蛇の獲物となったのはほぼ無傷のマゼラン級戦艦だった。そのマゼラン級を光が飲み込んだと思った次の瞬間、マゼラン級は爆散した。

「す、すげぇ・・・マゼラン級戦艦を一撃で・・・」

「こちらアンドロメダ、只今の砲撃見事なり。ついさっきガイア小隊が連邦軍旗艦アナンケを撃破、レビル中将を捕虜にしたそうだ。この戦い、ジオンが勝利したといっても過言ではない。現在後退中の連邦艦隊をここで叩き潰せば制宙権はこちらのものになる。全滅させれなくてもここで更に打撃を与えたら後々楽になる。次の射撃データ送る。目標は後退して態勢を立て直そうとしている敵艦隊。データ処理はこちらでやる、情報統制艦の名はダテじゃない。リアルタイムで射撃データを送るから注意してくれ。健闘を祈る」

「うわ! こちら実験観測指揮所、詳細なデータが送られてきた。そのままそちらへ送信する。秒単位で更新されているので注意されたし」

「こちら射撃指揮所、データが来た。こりゃすげぇ! これほどのデータがあるなら絶対外しはしないぜ、いくぜぇ!」

再び大蛇は咆哮した。その狙いは寸分の狂いも無く態勢を立て直しつつあった艦隊を襲い、マゼラン級1隻とサラミス級2隻を葬り去った。そしてしばらくしてから再び艦隊を大蛇は襲った。この2回の砲撃で連邦艦隊は少なくない艦艇に損傷を負い、その余波で態勢が崩れた艦隊に対し、MS隊が殺到しこれをことごとく沈めていった。


「すごい・・・圧倒的な威力だ・・・」

「これを最初に放てていれば・・・」

そんな言葉が交わされる艦橋で、ヨルムンガンドをチェックしていたオリヴァー・マイ中尉が警告を発した。

「大変です! ヨルムンガンドに異常発生! 射撃を中止してください。このままではヨルムンガンドが爆発する可能性もあります!」

「なんだと! 射撃中止だ、糞! 技術屋、修理にどのくらいかかる!?」

「損傷箇所は多数存在します・・・これは・・・スペースデブリによる破損です! アシスト・インジェクターが損傷を負っています。他にも多くは存している為、もうこの戦いで砲撃することは無理です・・・」

「なんだと!? どうにかならねぇのか!? 発射しても問題ないんじゃないか!?」

「無茶言わないでください! もしこの状態で発射したら、最悪ヨルムンガンドは大爆発を起こし我々は全員宇宙の藻屑になります!」

「くっ・・・畜生!!」

そういって射撃指揮所からの通信は切れた。その直後、アンドロメダから通信が入った。

「こちらアンドロメダ、ヨーツンヘイムへ。ヨルムンガンドの状態はこちらも把握した。残念だがこれ以上の砲撃は不可能だ。大切な試作品なんだ、修理に全力を尽くしてくれ。連邦艦隊は撤退に移ったようだ。ついさっきドズル中将に連絡したら、ヨルムンガンドは解体を開始し、解体終了後はソロモンに輸送、ソロモン防衛隊に引き渡すよう指示があった。任務ご苦労だった。貴官等の活躍で多くの兵達が救われたのは紛れも無い事実だ、以上だ」

その言葉にオリヴァー・マイ技術中尉は質問した。

「ちょ、ちょっと待ってください。それではヨルムンガンドは今後どうなるのですか?」

「ヨルムンガンドの正式名称を忘れたのかね? 試作艦隊決戦砲ヨルムンガンド・・・つまり艦隊決戦が終了した現時点では、今のところお払い箱ということになる。私の個人的な考えとしてはヨルムンガンドは要塞砲への転用、又は要塞攻撃砲としての運用を考えている。役目の終わった技術の再利用法を考えることも重要なことだぞ。このことを考えて報告書をあげておいてくれ、オリヴァー・マイ技術中尉。以上だ」

そういって回線は切断された。

「・・・役目の終わった兵器の次の運用方法・・・か」


『試作艦隊決戦砲・ヨルムンガンド技術試験報告書

カタリナ戦役に於ける艦隊決戦に際し、ヨルムンガンドは合計4発を放てり。この砲撃により敵マゼラン級2隻、サラミス級2隻を含む敵艦多数を撃沈せしむ。その威力、抜群なり。
 しかれども間接射撃指示が早期に到着せず、これにより艦隊決戦の決定打とはなり得ず。仮に、同時に投入された他の機動兵器と同様の信頼を得ておれば、結果はおのずと異なった可能性は残される。
今後この砲が艦隊決戦に用いられることは当面無いと推測されるが、その攻撃力から要塞砲又は対要塞攻略砲としての運用が可能と考えられる。

 宇宙世紀0079年1月17日 オリヴァー・マイ技術中尉』



「やれやれ・・・何を考えているんだか・・・」

「どうかしたのですか?」

「いや、ドズル中将はヨルムンガンドについて詳しい報告を受けていなかったそうだ。どこかで連絡が途切れていたってことさ・・・ヨルムンガンドを積極的に使うように各方面から連絡を入れていたのに・・・無様だな」

「・・・社長」

「・・・すまないね、どうも愚痴がでてしまう。不備がなければ多くの将兵が助かったかもしれないと考えるとね」

「・・・この戦争、きついものがありそうですな」

「全くだ・・・」



[2193] 第8話
Name: デルタ・08
Date: 2006/09/05 16:16
3月13日 外人部隊野営地

「ではこれより作戦を説明する。我々VF、外人部隊はジオン軍キャリフォルニアベース攻略部隊の支援にあたる。攻略部隊は北東、東、南東から進軍することになっている。敵航空部隊については常時DFA-07 ジャベリン が上空待機しているので発見次第黙らせることになっている。また航空支援も受けられる予定だ。この航空支援はVF所属の航空隊 第212戦闘飛行隊 ブルーランサー がしてくれるそうだ。我々は連邦軍が攻略部隊に釘付けになっているときに敵の本丸を叩く。敵の司令部があるのは基地中央のこの区画の建物だ。敵は61式戦車と対戦車ヘリが主力だ。油断しなければMSはやられはしない」

「指令、敵司令部までのルートですが、このルートでは敵の前線を突破することになりますが」

「ああ、どうしても前線を突破しないと無理だからな。ユウキ伍長はオルコスから指揮を執ってくれ」

「分かりました。ですがそれだと・・・」

「ああ、司令部代わりに使っているオルコスが落とされれば我が隊は壊滅的打撃をうける。だが空中から指揮すればミノフスキー粒子に関係なく指揮がとれるからな。それにブルーランサーがある程度の護衛をしてくれるから大丈夫だ」

「・・・了解しました。では我々も対空兵器をできるだけ発見・殲滅します」

「頼むぞ。だがもしかしたら必要ないかもしれん」

「なぜです? 対空火器を排除すれば移動司令部の安全も確保できます」

「いや、そうではなくそれらの対空施設は動作不能になるかもしれないということだ。現在VF所属の闇夜のフェンリル隊が地下潜水艦基地を襲撃する為に動いている。その都合で地下にある発電・変電施設を破壊することになっている。その発電所破壊がどれだけ影響を与えるかは分からないがそれが原因で動作不良になるかもしれん。ただこれは希望的観測だから結局は破壊してもらうことになるがな」

「なるほど・・・了解しました」

そんな会話がなされているとき、14歳の少女が入ってきた。

「たいちょ~ MSの整備終わったよ~」

「ああ、ありがとうメイ。どうだった、新型MSの感じは?」

「プロトドムなら今のところ問題ないよ」

そう、外人部隊には3機のプロトドムが配備されていた。武装はジャイアントバズーカに120mmマシンガンを装備している。

「だが本当に大丈夫なんだろうな・・・噂ではホバーの出力が安定せず転倒したとかホバーが使えず歩いたって話があるくらいだ」

「ジェイクってそんな心配しているの? たしかにその事故はあったけど、あれは試作機での話しだよ」

「って本当にあった話なのか!?」

「ええ、それについてはツィマッド社から確認を取ってあります。まぁ一番最初の試作機での出来事ですからすでに解決済みのものなので安心してください」

「コンティ大尉・・・それなら安心ってもんですな」

「もう、ガースキーまで! ガキの整備は不安だっていうの!?」

「落ち着けメイ。さっきの試運転の音を聞く限り何も問題はなさそうだったぞ。いい整備だと思っている」

「・・・ありがとう」

「ところで隊長、プロトドムの乗り心地どうでした?」

「ああ、悪くない。なんでプロトって呼ばれているのか不思議なくらいだ」

「あ、それはね。今正式機が設計中だからだよ」

「正式機が設計中? どういうことだ?」

「つまり、このプロトドムで各種データを取って、その運用データ等を元に設計するのが正式なドムになるらしいの。この機体はいわば雛形っていうことだよ」

「・・・無駄にすごいというべきなのか悩むところだな」

「ですよね、いっそ先行量産型ってことで大量に配備しちまえばいいのに」

「ツィマッド上層部はそれも視野にいれているそうよ。なんでも今回の実戦で得られたデータを元に改修した機体を先行量産型として配備する案があるらしいわ」

「でもジオニック社のグフが先に前線に配備される予定だからドムの開発は若干の余裕があるみたいだよ。それにデータ取りは今回の降下作戦で一旦終了して設計に集中するらしいから先行量産型を作るかはわからないよ」

「まぁ俺たちが言うことじゃないな。そろそろ時間だ。皆、出撃用意をしよう」





ロッキー山脈上空

「こちらコバンザメ、給油を終了する」

「こちらエアフィッシャー隊、給油に感謝す」

「武運を祈る。 ・・・・・・ふ~、しかしドップの燃料どうにかならんかな?」

「仕方ないですよ、あの形状ですし格闘戦を重視した結果機体が小型化されたんですから。燃料がすぐ空になるのは仕方がないかと・・・」

「だが限度があるだろ。ニューヤークの航空基地から発進してロッキー山脈で給油っていうのは・・・」

「まぁ燃料タンクをぶらさげれば航続距離は長くはなるらしいですが、その状態で敵と遭遇したら動きが鈍くてカモになりますからね。一応外部燃料タンクは切り離しができますが、つけたままの状態で奇襲されたらバタバタ落とされますよ」

「まぁそのせいで俺達がここにいるんだよなぁ。この機体は働き者だな、輸送に指揮に給油に大忙しだ」

そう、彼らが乗っているのはツィマッド社が新たに開発した新型輸送機「オルコス」だった。この機体は6基のエンジンで飛行し、護身用の4基の20mmバルカン砲と2基の有線型近接対空ミサイル発射機を装備する輸送機だった。外見は連邦軍のミデアに似ており、コンテナ部分に4機のMSを搭載することができた。また、コンテナ部分を改装することで空中給油機、空中指揮機、対潜哨戒機と色々な用途に使える優れた輸送機だった。コバンザメと呼ばれたこの機体は空中給油機仕様の機体だった。ちなみにコバンザメとは空中給油機仕様のオルコスの名称だ。

「機長、ジャベリンが先行します。我々は現空域にて待機せよとのことです」

そういうが早いか、窓の外をドップとは違う戦闘機が飛び去っていった。ツィマッド社製戦闘爆撃機 DFA-07 ジャベリン と呼ばれる機体だった。装備している武装はロケット弾ポッドや大型爆弾、各種ミサイルにクラスター爆弾、果ては偵察ポッドまでつけた機体が飛び駆っていた。これはあらゆる任務に対応することができるジオン期待の新型戦闘爆撃機なのだ。ジャベリンは高度を更に上げ遥か上空へと突き進んでいった。

「しかしツィマッド社はいい装備を前線に送ってくれるな。ドップなんかとは雲泥の差だ」

「ええ、この機体もツィマッド社製ですし・・・ある意味異様とも思えますね」

「異様?」

「だってそう思いませんか? 身近にあるもの多くにツィマッド社がかかわっているんですよ。それにこの機体を宇宙から持ってきたときの方法だって・・・」

「ああ、たしかバリュートシステムだったか? 降下のみの装置だが第一次降下作戦時に補給物資の降下に一役買ったやつだったな。たしかこれも大型のバリュートを使用して運んだんだったな」

「ええ、それの発案もツィマッド社だそうです。まるでツィマッド社があらかじめ準備していたというか、なんか変な感じが自分はするんです」

「・・・考えすぎだろう。それに俺達の役に立ってくれてるなら感謝こそすれ気持ち悪がるってのはお門違いってもんだ」

「・・・機長、もしかして何も考えていません?」

「当たり前だ。そんなこと考えている暇があるなら手を動かせ。もうすぐ最後の給油予定の部隊だ」

「・・・了解」

そしてコバンザメこと給油機仕様のオルコスは次のドップの編隊に給油を開始した。



「こちらイーグルリーダー、各隊いるな? 衛星軌道上に待機しているアンドロメダからキャリフォルニアベースから敵機が発進を開始したと報告があった。打ち合わせどおり攻撃するぞ!」

「こちら前衛、了解」

「こちら後衛、了解した」

「よし、全機突撃!」

その号令と共にジェベリンの群れはアフターバーナーを吹かし一気に加速した。





「こちらガーディアンリーダーだ。各機へ、偵察隊からジオン航空隊がこちらに接近中だそうだ。ミノフスキー粒子のせいでレーダーが使えん、警戒を怠るな。特に今日は雲が多い、下方にも警戒しろ」

「こちら先行しているウォッチリーダーだ! ジオン航空隊を確認、すごい速さだ! セイバーフィッシュ並みだぞ!」

「こちらガーディアンリーダー。すぐ援護に向かう、それまで持つか?」

「急いでくれ! 奴等はまともな航空機を持ってないはずじゃ『ブツ』・・・・・・」

「・・・ウォッチリーダー? 応答しろウォッチリーダー! おい、何が起こったんだ、返事をしろ!」

「こ、こちらヘブンリーダー、敵機発見! 正面上空だ!」

「なに!?」

その言葉で前を向くと、目に飛び込んできたのは数多くの黒い点だった。その近くには多くの黒煙が地上に伸びていた。恐らく先行していたウォッチ隊のTINコッドとフライマンタだろうとガーディアンリーダーは推測した。

「糞! ガーディアンリーダーから各隊へ、先行していたウォッチ隊は全滅した模様。油断するなよ! 各隊散開!」

その命令と共に一斉に連邦軍航空隊は散開しジオン航空隊に向かっていった。それに応じるかのようにジオン航空隊も一斉に高度をとり、次の瞬間連邦軍航空隊目掛けて覆いかぶさるように降下していった。

「ミノフスキー粒子散布下で使えるミサイルは有線くらいだ、糞! やつら太陽を背にして降下しやがる、これじゃ見えにくくてミサイルが使えねぇ!」

そう、ミノフスキー粒子によりレーダーや赤外線誘導が使用不可能になった状態では誘導可能なミサイルは有線誘導くらいのものだ。もちろんミノフスキー粒子があまり多く散布されていなければいくらかの誘導はできるだろう。だがそれでも一番確実なのは有線誘導方式だったのだ。そして実際いくつかの隊がミサイルを放つも、命中した機体はほんの十数機だった。しかもそれは誘導できずに直進して、『下手な鉄砲数うちゃ当たる』の諺通りの結果だったのだ。そして逆にジオン航空隊からは猛烈なお返しがまっていたのだ。

「な、ロケット弾の雨!?」

そう、ジオン側は制空任務を帯びたジャベリンにミサイルではなく大量のロケット弾を放ってきたのだ。その数は1機につき160発。それが連邦軍の頭上に降り注いだのだからたまらなかった。しかもたちの悪いことに1機の航空機に搭載されているロケット弾ポッドは1基ずつ角度を変えて装備されていた為、拡散して放たれたのだ。そして数千発のロケット弾のシャワーを浴びた連邦軍航空隊の中央あたりが根こそぎ撃破された。数発食らって木っ端微塵になる機体もあれば、当たり所がよくかろうじて飛行可能な機体もあったりする。だがこの攻撃で迎撃に出た連邦軍航空隊の約4割が叩き落されることとなった。ただこの攻撃で命中しなかったロケット弾がそのまま地上に落下し、地上を侵攻していたジオン陸上部隊に被害を及ぼしたり、敵機から離散し空中をゆっくりと降下している細かい破片に突っ込んだジャベリンが損傷を受け墜落したりとジオン側でも予測していなかった損害が多数でた。それでも制空任務を持った多くのジャベリンは急降下後そのまま速度を上げ上昇に移った。

「っち、逃がすか! 各機反転上昇し、敵機を迎え撃て!」

連邦軍も攻撃の為反転上昇しようとした矢先、いきなり伏兵に襲われたのだ。

「う、うわああぁぁ! 雲の中から大量の敵機が!」

「撃たれた、落ちる! 助けて母さん! うわああああぁぁぁぁぁ」

「糞! 雲の中から奇襲だと!?」

そう、ジャベリンが高高度から攻撃を仕掛けることによって連邦の目を高高度に移し、反転した時に低高度にいたドップが急上昇し攻撃を加えたのだ。このやり取りは後方にいる複数のオルコスでレーザー通信を中継してジャベリン隊とドップ隊に逐次情報を伝えていたのだ。

だがそんな事情を知らない連邦はたまったものじゃなかった。気がつけば前に上昇反転しこちらに向かってくるジャベリン隊、背後にはドップ隊が迫りつつあったのだ。

その後は詳しく書くまい。挟撃された連邦軍航空隊は一撃離脱のジャベリンと格闘戦に持ち込むドップの攻撃によりかなりの数が撃墜された。そんな中・・・


「糞、こんなところでやられてたまるか! パイレーツ隊各機、聞こえるか!? 状況を知らせろ!」

「こちらパイレーツ2、機体に損傷無し。ミサイル残弾2、戦闘続行可能です」

「こちらパイレーツ3、同じく問題ありません。ミサイル残弾は3発です」

「こちらパイレーツ5、本機は異常ありませんが4が煙をだしてます!」

「こちらパイレーツ4、機体損傷し戦闘は不可能です」

「こちらパイレーツ6、機体損傷、航法装置に異常発生」

「全機一応生きているか・・・こちらパイレーツリーダー、5は4と6を護衛し戦闘空域から離脱しろ! だがキャリフォルニアベースは恐らく無理だ。そのまま南下し第157臨時野戦基地へ撤退しろ。あそこは攻撃をまだ受けていないはずだ、そこまで持ちそうか?」

「なんとか持つと思います。幸いエンジンと燃料は異常ありませんから・・・」

「右に同じ、航法装置が損傷していますが先導してくれるのなら問題ありません」

「よし、なら食われないうちにさっさと行け! 2と3は俺に続け! さっき敵の後方に大型の機影を見た。恐らく空中指揮機か輸送機、給油機の類だと思う。俺達はそれを叩き落すぞ!」

「「了解!」」

そして3機は高度を下げ、東へと向かった。そして数分後・・・

「見えたぞ! 4機いる。外見はミデアに似てなくもないが連邦のでは無いな。気がついてないようだしミサイルを使う。誘導できないといってもまっすぐ飛ぶんだからロケット弾だと思って撃て! 中央は俺が、むかって右は2が、左は3がやれ。先頭を行く奴は最後に食うぞ! GO!」

その号令と共に3機のセイバーフィッシュはオルコスに残っていたミサイルを全て叩き込んだ。その不運なオルコスは第271空中給油部隊所属のでこの空域に展開している3つの給油部隊のうちの1つだった。うかつに前にですぎたといったらそれまでだが、ミサイルの洗礼を受けた3機は機体内部にまだ残っていた航空燃料に引火し大爆発を起こした。先頭を飛行していた残る1機は慌てて雲の中に入ろうとするが、その頃には既に3機のセイバーフィッシュに狙いを定められていた。

「き、機長! 敵はセイバーフィッシュ3機です。逃げ切れません!」

「くそ、迎撃しろ! バルカン砲と有線ミサイルでなんとか時間を稼ぐんだ!」

そして遅れてオルコスから反撃が始まった。だが本来4基あるバルカン砲はこの機体には2基しか装備されておらず、しかも相手が巧みに死角に入る為あまり役にたっていなかった。そして頼みの有線ミサイルはというと、発射した次の瞬間には敵機を通り越しワイヤーが切れてしまうなど、とても実用的ではなかった。最もこの有線ミサイルは航空機の場合、本来敵の背後から発射するものだからある意味当然といえば当然の結果だった。
だがこの時間稼ぎは結果としては成功することになる。なぜならオルコスからの反撃(有線ミサイル)に驚き、3機のセイバーフィッシュは有線ミサイルの死角にはいろうといったん後退し、態勢を整える前にオルコスから放たれた救難信号に応じた戦闘機部隊がやってきたのだった。その数ドップが3機。

「隊長、敵機確認! 旋回能力が高い機体です!」

「ああ、こっちでも確認した・・・3機か、輸送機は後回しだ。2、3へ、例の戦法を使ってみるぞ」

「え? アレですか!?」

「了解しました、隊長、お気をつけて」

「よし、行くぞ」

そういって彼らは2手に分かれた隊長機はまっすぐ敵機へ向かい、残り2機は急上昇をかけ雲に入った。接近してくる敵にドップは隊長機を落とそうとミサイルを発射するが、ばら撒かれたフレアで回避される。そして業を煮やしたのか格闘戦を挑もうとこちらも接近した。

「よしよし・・・食いついてきたか。もうそろそろだな」

そう呟くと隊長機は降下していった。だがそれは急降下ではなくどちらかといえば緩やかな降下だった。それを好機と捉えたドップは一斉に射撃を開始したが、その寸前、絶妙なタイミングでアフターバーナーをしながらセイバーフィッシュは急上昇に移った。だが完全にはかわしきれなかったのか数発の弾が機体に命中した。
不意をつかれ敵機に逃げられたドップは慌てて上昇に移ろうとしたが、そこに背後から機関砲を浴びせられ2機が撃墜された。

彼らの戦法は極めて単純だった。まず囮となる機が敵機を連れてきて、タイミングを見計らって上空から2機が奇襲を仕掛けるというものだったからだ。

残った1機も慌てて回避行動に移ったが、その時にはすでに手遅れとなっていた。急上昇していた隊長機が反転し、上空から機銃弾を浴びせかけたのだから・・・

「やりましたね隊長、敵機は近くには見当たりません」

「隊長、機体は大丈夫ですか?」

「ああ、いくらか食らっているが問題はなさそうだ。それより我々も撤退するぞ。恐らく制空権はジオンに移った」

「了解しました・・・ですがさっきとり逃した輸送機はどうします?」

「言っただろ、ここはもう俺達の庭じゃなくなったんだ。まごついているとジオンの航空隊の増援が来るぞ」

「了解しました・・・残念ですね」

「ふぅ・・・有視界戦闘とはWW2時代に逆戻りか・・・しかしサッチ戦法もどきが意外とうまくいったな。戻り次第検討するか・・・」


キャリフォルニアベースを出撃した連邦軍航空隊はジオン航空隊の前に敗北した。戦場を見渡せばこのパイレーツ隊のように善戦した部隊も多数あったが、全体的に見てみればキャリフォルニアベースの制空権はジオンに移った。
連邦軍のインターセプトを突破したジャベリンはキャリフォルニアベースの各所にロケット弾やミサイル、爆弾等を投下していき目ぼしい施設や部隊を攻撃していき、遅れてやっていたドップやドダイ、そして地上から侵攻してきた陸上部隊も戦闘に加わり連邦軍は空と陸からの立体的な攻撃に徐々に戦線を後退させていった。







VF所属 外人部隊

「激戦ですね」

「ああ、ここを落とされたら連邦はメキシコまで後退せざるを得なくなるからな」

「さて、おしゃべりはここまでだ。戦線を突破するぞ、アローフォーメーション!」

「「了解!」

・・・さすが新型機だな、MSについては素人の俺でさえ楽に動かせる。これが統合整備計画ってやつの恩恵か。

「隊長、2時の方向からヘリが3機向かってきます。後12時の方向に61式戦車多数、11時の方向にトーチカ群があるので気をつけてください」

「了解した。ガースキー、ジェイク分かったな? 分散して攻めるぞ」

「了解しました。じゃあトーチカ群を吹き飛ばしてきます」

「じゃあ俺はヘリを叩き落します」

「よし、各機散開!」


「・・・くそ、ジオンめ。好き勝手やりやがって・・・各車警戒を怠るなよ。目視で敵を探せ!」

「隊長、援護の航空機はどうなっているんですか?」

「知らん! そもそも基地全体が激戦区なんだ、そこまで分かるわけないだろう!」

「ですが・・・! た、隊長! 前、前!」

「あ? 前がどうし・・・」

そういって前を向いた戦車隊の隊長はそのまま意識を失った。プロトドムが放った120mmマシンガンの弾丸によって彼の戦車は吹き飛ばされ、後続の車両に被害を与え大爆発を起こした。

「て、敵真正面! 撃て、撃てぇ~!」

そういって5両の61式戦車は至近距離から主砲を発射したが、プロトドムの機動性の前に全て外れてしまった。その後ドムから放たれた弾丸で4両の戦車が破壊され、1両が中破した。そして敵を殲滅したと判断したプロトドムは前進を再開したが、中破した戦車はまだ戦闘力を失ってはいなかった。

「く、くそ・・・これでも食らえ!」

極至近距離から放たれた61式戦車の主砲弾はそのままプロトドムの胴体に命中した。これがザクやヅダなら恐らく中破したであろう。だがザクやヅダと比べると格段に厚い装甲は砲弾が貫通することを許さず、角度もあったせいか砲弾は弾き飛ばされた。

「そ、そんな・・・無傷だというのか?」

その言葉が彼の最後の言葉となった。

「・・・危なかった。こいつの装甲の厚さに救われたな・・・」

プロトドムのコックピット内でケンは冷や汗を流していた。それもそうだろう、一歩間違っていたら戦死していたのだから。最もドムの正面装甲を61式の攻撃で破壊されることはないのだが・・・

「油断大敵だな・・・ユウキ伍長、付近に敵の反応はあるか?」

「いえ、今のところないようです。この隙に前進しましょう」

「分かった、各機前進」

そして前進を再開して、司令部の付近まであと僅かといった地点で・・・

「隊長、そこから横の森林を通って進んでください」

「ん? なぜだ?」

「そこから少し前に敵の戦車隊がいます。データベースに無い新型のようです。数は30」

「新型の戦車か。確かに61式戦車が採用されてから18年近くも経っているから新型戦車が開発されていてもおかしくは無いな。どんな車両かわかるか?」

「少し待ってください・・・・・・これは、回転砲塔を装備していません。恐らく自走砲、又は駆逐戦車かと思われます」

「駆逐戦車?」

「戦車を専門に攻撃する砲塔を持たない戦車のことです。対戦車ミサイルの発達により廃れていったのですが・・・もしかすると対MS用の駆逐戦車かもしれません。主砲はレールガンの公算大です」

「レールガン搭載のMS駆逐戦車か・・・またとんでもないものを用意しているな」

「だがおかしくありませんか? そんなものがなんでここに配備されているんです? 普通なら前線に配備するものだと思いますが」

「たしかにそうだな、もしかすると試作機なのかもしれん」

「なるほど、運用試験中かもしれないってことですね」

「ユウキ伍長、敵戦車はどちらを向いている?」

「えっと・・・こちら側を向いていますね。付近にこれ以外の敵の反応はありません。この戦車隊を抜ければ基地司令部です」

「・・・ブルーランサーに航空支援を要請してくれ。航空支援によって相手が混乱したところを抜ける」

「ですが隊長、いっそ戦車隊を無視して司令部を攻撃してはどうです? 一撃離脱すれば問題はないかと思いますが」

「いや、司令部は地下にあるらしい。上部構造物に弾を当てて降伏するとは思えん。ならば司令部は敵部隊を殲滅した後に対処すればいいだろう」

「了解しました。ですがブルーランサーは3機編成なので撃破はあまり期待しないでください」

数分後

「こちらブルーランサー1、外人部隊へ。これより支援攻撃を開始する、通常爆弾投下後ガトリングを叩き込む。これが終了次第基地へ帰還する」

「了解した、支援に期待す」

「了解! ブルーランサー各機へ、ダイブ!」

そういったかと思うと3機のジャベリンは急降下し始め、18発の爆弾を投下した。そして・・・

「こちらブルーランサー、スコアはどうだ?」

「こちらVF、外人部隊オペレーターのユウキ伍長です。先程の爆撃で敵駆逐戦車14両の破壊を確認しました。他にも被害を負った車両が多数いるようです」

「分かった、今度は低空からガトリングをお見舞いしてやる。各機突入!」

そしてガトリングが放たれたが、その中の1つの光景に皆が目を奪われた。

「な・・・ガトリングを弾いただと!?」

そう、新型の駆逐戦車に真正面上部から浴びせた30mmガトリング砲の弾丸をことごとく弾き飛ばしたのだ。普通戦車の上面装甲は薄い物と相場が決まっているだけに、これには皆が驚いた。だが弾丸を弾いたのは正面から浴びせられた車両のみで、横や後ろから浴びせられた車両はあっけなく火を噴いた。

「た、隊長。どうやらこいつは正面と上面装甲が分厚いようです。ですが横と後ろからやれば火を吹きます!」

「分かった。各機それを踏まえて攻撃せよ!」

そして3~4回機銃掃射をした時・・・

「こちらブルー2、残弾0。基地へ帰還します」

「こちらブルー3、同じく残弾0。弾がありません」

「分かった。外人部隊へ、全弾撃ちつくした、これより我々は基地へ帰還する」

「了解しました。支援に感謝します」

「了解、貴隊の幸運を祈る」

そういってブルーランサーのジャベリン3機は帰還していった。この航空攻撃で新型戦車30両のうち21両を破壊した。残りの車両も損傷を負っているのが4両なので、健全な車両は5両のみだ。

「! 隊長、こちらに接近する連邦軍を確認しました。61式戦車が数両と装甲車多数です」

「よし、俺とジェイクのバズーカでこの新型を始末する。正面からでもバズーカなら破壊できるはずだ。ガースキーはマシンガンで援軍を始末してくれ」

「こちらガースキー、了解。だがマシンガンの残弾が少ない。バズーカを撃ち尽くしたら増援にきてくれ」

「分かった。ジェイク、遠方からバズーカを発射して撃ち尽くしたらガースキーの援護に回ってくれ」

「了解隊長さんよ。そっちも気をつけて」

「ああ、攻撃開始!」

そういうがはやいかケンとジェイクはバズーカを乱射した。何発かは外れて近くの建物を吹き飛ばしたり大穴を開けたりしたが、その攻撃で3両が吹き飛んだ。ジェイクは弾を撃ちつくしたバズーカを捨て、ガースキーの援護に向かい、ケンはマシンガンを構えて残りの新型戦車に向かっていった。新型の戦車はかなり機動性が悪いらしく、MSを照準に捉えようとしているものの全く捉えることができないようだった。ケンは1両の新型戦車の横に回りこみマシンガンの弾を叩き込んだ。そしてその戦車が炎上したのを確認すると残りの新型戦車に銃口を向け、今まさにトリガーを引こうとしていた。だが結局彼はトリガーを引くことはできなかった。なぜなら・・・


「隊長! 先程のバズーカの流れ弾が敵司令部の近くに命中したらしく、司令部要員が降伏を申し込んできました」

そう、なんと先程乱射したバズーカ弾が基地司令部の近くに命中し、地下にある司令部をかなり揺らしたらしく、動転した司令部はまだ部隊が戦っているのに降伏を申し出たらしい。
その知らせを聞いたケン少尉がコックピット内でずっこけたかはさておき、ここにキャリフォルニアベースは陥落。ジオン軍は連邦軍次期主力潜水艦U型を含む多くの機材と工廠を手中に収めることに成功した。その中には連邦軍の新型駆逐戦車も含まれていた。







ジャブロー某所

「いかんな、ジオンに北米を奪われたか・・・」

「だがやつらも北米全てを把握しているわけではない。事実いくつかの拠点が生き残っている。これらの拠点をベースに当面はゲリラ戦を仕掛けるしかあるまい」

「ああ、だが61式ではもはやMSの相手はきつすぎる。新型戦車の調子はどうなっている?」

「XT-79か。一応開発は終了しているがキャリフォルニアベースが陥落したことによって生産計画は大きく狂っている。だが報告によるとXT-79の設計図を含む全てのデータをキャリフォルニアベースから消去できたようだ。これは不幸中の幸いとしか言いようがないな」

「そうだな、あれの工廠も降伏後に爆破処分できたのは僥倖としか言いようが無い。だが生産されていた試作のXT-79が全滅したのは痛かったな」

「うむ。せっかく実戦を経験したのにその情報が全く手にはいらん。惜しいことだ」

「まさかとは思うが・・・ジオンの手には渡っておるまいな?」

「それはないだろう。基地司令部との最後の通信では『敵部隊の攻撃で実験部隊は全滅す』といっていきなり通信が途切れたのだから・・・」

「・・・途中で途切れたのがなんとなく不安だが、問題はないということか・・・まぁそれよりこの状況をなんとかせねばなるまい」

「レビルはMS開発案を進めているようだ、そうなれば我々は日陰者だ」

「いかん、いかんよ。V作戦だったかな? その計画が発動する前に我々の手でジオンのMSを破壊できることを証明せねば・・・」

「今最も実用的なのが高高度からのデプロッグによる絨毯爆撃だ。だが効率が悪すぎる」

「XT-79が量産されればジオンのMSなど・・・そういえばRTX-44はどうだ?」

「ああ、どうやらV作戦に組み込む気らしい。組み込まれる前にある程度完成した機体を前線へ送り、MSを撃破せねば全ての勲功はレビルのものになる」

「試作機でいいから前線に回す準備をさせよう。我らの権益を守らねば・・・」


追加データ

XT-79 新型戦車データ
79式戦車、または79式駆逐戦車とも呼ばれ、コストは61式の5倍もするが、主砲にレールガンを装備している為、MSといえど油断はきない。機動力を犠牲にし、攻撃力と防御力を重視した車両で、上面装甲と正面装甲では120mmザクマシンガンで破壊することは困難である。だが貫通力に優れた新型90mmマシンガン(例:史実のザク改が装備していたマシンガン)なら破壊は可能で、側面や後方の装甲はないようなもの。本来なら開発されることは無かった車両だが、一部技官が旧ザクのデータを見て密かに開発していたのが、開戦初頭にジオンにぼろ負けした結果公式計画となったもので、戦車というより自走砲又は駆逐戦車である。ザクマシンガンを上回る射程を誇り、その砲撃は旧ザクを正面から破壊できる威力を求められたが、一定の条件下ならザクⅡすら破壊できる性能を持つ。だが連射ができず車体に固定式であり、車両自体が高コストかつ汎用性が悪く、生産ラインもほとんど無い為調達数はかなり少ない見込みである。

RTX-44 対MS戦闘車両
ガンタンク系統の外見を持つ車両で、ガンタンクⅡはこの車両をベースにガンタンクを簡略化したものである。初期試作型の武装は左右に対人用の20mmバルカン砲を装備し、上部に試作120mm長砲身キャノン砲を装備する。また左右の武装を対戦車ロケットやミサイルに変更したタイプも存在する。



[2193] 第9話
Name: デルタ・08
Date: 2006/10/06 09:53
3月20日、第3次降下作戦展開。目標はアフリカを含む南半球の資源地帯。

アフリカに降下した部隊はオデッサから空中給油機を使用した超長距離飛行をしてきた航空隊の援護もありアフリカ主要部の制圧に成功。これに対し連邦軍はゲリラ戦を仕掛けるべくジャブローから輸送機部隊と輸送船団を発進させ、アフリカへ戦力の増強を図った。


3月20日
アフリカ西海岸近海 連邦軍第1079輸送船団旗艦 ヒマラヤ級対潜空母 ウラル

「こちら第1079輸送船団、第2610輸送船団応答されたし。繰り返す、こちら第1079輸送船団、第2610輸送船団応答されたし・・・」

「・・・だめか?」

「・・・ええ、通じません。予定ではすでに港を出港し我々との通信距離内に入るはずなのですが・・・」

「おかしいな・・・港からなにか通信はきてるか? 電波状況はまだ良かったと思うが」

「いえ、何もありません」

「・・・電光石火の早業で敵に港を制圧したということではないのか?」

「ですが港の周囲には多くのトラップと警戒網が敷かれているはず・・・敵が接近したらすぐに港に設置してある各種通信機で異常発生の報告がはいるはずです」

「ただ単純に通信機の故障とか・・・」

「航海長、そのような楽観的な考えは海に流したほうがいいぞ」

「す、すいません。ですがそれだと第2610輸送船団はどうなったのでしょうか?」

「それがわからんから話してるんだろ?」

「2610は我々1079よりも小規模だがそれでもフリゲート艦5隻を護衛に持つんだ。そう簡単にジオンの航空攻撃にやられるわけがない」

「ひょっとして潜水艦では?」

「ジオンの奴らにまともな潜水艦あるものか。あるとすれば水中用MSだが・・・たしかゴックとかいったのがあるだろ?」

「だがそのゴックとやらは航続距離が短いはず・・・母艦がない以上、沿岸部以外なら気にすることはないのでは?」

「・・・まぁいい、警戒を怠るなよ。最近ジオンの戦闘爆撃機がうろちょろしているからな」

「艦長、連絡機を飛ばしてはどうでしょう? 連絡機の航続距離からみれば港と本船団とを往復できる距離にいますので・・・」

「なにかあれば通信させるということか・・・よし、それでいこう。すみやかに連絡機の・・・!?」

艦長の言葉は最後まで言えなかった。なぜならウラルの船体が激しく揺れて、艦橋にいたものは一人残らず壁に叩きつけられるか転倒するかした。

「な・・・なんだ今の衝撃は!?」

「今海が光ったぞ!」

「か、艦長! 艦が、艦が傾きます! 甲板に駐機しているヘリ等が海に・・・」

「か、甲板に大穴が・・・」

「し、CICより連絡が! 艦体中央右舷喫水線下及び左舷甲板に大穴があいているそうです! 竜骨にも被害がでているだろうということです。ダメコンは不可能、沈没は避けられないので総員退艦を要せ・・・」

そこまで通信士が言ったところで艦の命は終わった。右舷に開いた大穴から大量の海水が浸入し、その重量によってウラルの竜骨が耐え切れずへし折れた。そして次の瞬間には船体自体がへし折れ、船首と船尾が持ち上がり「く」の字のようになって瞬時に沈んでいった。文字通りの轟沈であった。
このような光景は船団のいたるところでみられ、船団に所属していたフリゲート艦や輸送船はことごとく短時間で海の藻屑となっていった。


水中

「・・・さすがハイゴッグ、メガ粒子砲の威力がゴッグより上だ」

「ああ、特に2番機の攻撃がすごかったな。両腕のビームカノンでヒマラヤ級を撃沈だぜ、すごい威力だな」

「違うぞ、ヒマラヤ級を沈めたのには腰部ビームカノンも使っている。腕を含めて4門のビームカノンの集中砲火だ」

「どっちにしろこの機体は使えるってことだろ。それでいいじゃないか」

「そうですね。昨日港を強襲したときもすごい踏破能力を発揮しましたし」

「まぁたしかに港を強襲したときはその性能は十分生かせれましたしね。ゴッグでは陸戦に泣きましたがこいつなら十分陸戦ができます」

「だがこれは今のとこはここにあるので全部だろ? ちゃんとした生産ラインを確立するのはしばらく先の話じゃなかったか?」

「ええ、でも1ヶ月もしないうちに量産態勢に移行するとか聞きましたよ」


水中で会話をしている彼らはVF所属、第1潜水機動艦隊のMSパイロット達だった。そして彼らが乗っているのは完成したばかりの先行生産型のハイゴッグだった。機体に余裕を持たせた設計にした為、各種バージョンアップも可能に仕上がった機体の初期生産型であった。その性能はというと、基本的に史実のハイゴッグと大差なかった。変わっているのは通信・指揮系統の向上と頭部(?)魚雷発射管が無いことくらいだった。これは生産性の向上にも繋がっていた。

そう、連邦軍輸送船団を襲ったのは実戦に投入された水中用MS部隊だったのだ。その編成は先行生産型ハイゴッグ18機といったものだった。


「隊長、これは作戦成功なんですよね? じゃあさっさと帰りませんか?」

「ああ、そうだな。全機へ、任務完了、帰還するぞ」

そういって18機のハイゴッグは母艦との合流地点に向かっていった。そしてしばらく突き進んでいったら前方に3隻の大きな潜水艦が見えてきた。
この3隻こそ、先程輸送船団を襲った先行生産型ハイゴッグ6機を搭載するVFの、ジオン初の潜水艦隊だったのだ。この潜水艦はリヴァイアサン級潜水MS母艦と呼ばれ、ツィマッド社がゴッグを開発するときに平行して開発していたもので、MSを8機搭載可能で水中を30ノットの速さで航行することが可能な大型潜水艦だった。だがその反面静粛性や機動性は連邦のU型よりも悪く(つまりユーコン級よりも下)自衛用の魚雷発射管を6基装備する以外には固有の武装を持たないでいた。そしてここにいるのは建造されたほぼ全ての潜水艦で、艦名はそれぞれ「リヴァイアサン」、「モビーディック」、「クラーケン」と呼ばれていた。

なぜ宇宙で建造されたはずのこの潜水艦がここにあるかといえば、第1次降下作戦でバリュートシステムの有効性・実用性を確認した直後にこの潜水艦のように大型の機材を地球に降下させる為の特大のバリュートシステムを使用し、機材のみ大気圏へ突入させたのだ。ちなみにその大きさはムサイ級やチベ級がすっぽり入るくらいの大きさのバリュートで、迎撃されたらひとたまりもないシロモノだった。(ちなみに4番艦の「オクトパス」は大気圏突入に失敗して損失した為、特大サイズのバリュートシステムはそれ以降使用が控えられている)

「こちらディープブルーリーダー。部隊の着艦許可を要請する」

「こちらリヴァイアサン。ディープブルーリーダーへ、着艦を許可する。これよりポッドを開放する」

その言葉の直後、潜水艦の左右についている円筒形の物体が展開し、そこにハイゴッグが着艦していった。そして全ての機体が着艦したのを確認すると、ハッチは閉まっていき、完全に閉まったのを確認すると円筒形のポッド内の海水を排水しはじめた。そして物の数分で完全に海水は排水され、艦本体とポッドをつなぐゲートが開き、ハイゴッグはその中に設置されているMS格納庫で機動を停止し、その機体目掛けて整備員達がわらわらと集まってくる。そんな中このハイゴッグ部隊(6機×3部隊)の最高指揮官でもあるディープブルーリーダーことアリマ・シュンジ少尉はリヴァイアサンの艦長室に向かった。

「アリマ・シュンジ少尉、ただいま帰還しました」

「よし、入れ」

そう言って部屋の中に入ると、一人の女性が仕事の手を休め、彼に向き直った。

「作戦遂行ご苦労だった。だが戻ったところ悪いがまたすぐに出撃してもらうこととなった。連邦軍の大規模な輸送船団がアフリカに接近中とのことだ。そこで我が艦隊とアフリカに駐留する戦闘機と爆撃機部隊でこの艦隊へ攻撃を仕掛けることとなった。伝えられた作戦目標は敵護衛艦艇の殲滅だそうだ」

「ですが部隊は先程の戦闘でのメンテナンスがまだ終了していません。それに隊員達も疲労しております」

「分かっている。だがこれは上からの指示なのだ。作戦自体はマ・クベ司令が提案しているが命令元はキシリアだ。あの女、よほど我らVFが気に食わないようだな。まぁVFの名目上の指揮官であるガルマ殿も姉からの要請では断れんだろう。だが実際には、この作戦の本当の目的は我らVF潜水艦隊の力を削ぐことと見ていいだろう。なぜなら与えられた情報では護衛艦隊はヒマラヤ級1隻と護衛艦9隻となっているがとんでもない。VF情報部が入手した情報ではヒマラヤ級だけでも5隻、他に正規空母1隻、護衛の巡洋艦が9隻、駆逐艦12隻、フリゲート艦15隻という大艦隊だ。しかもこの艦隊の近海にいくつか小規模な艦隊がいる、恐らくこの艦隊のピケット艦隊だろうな。後ヒマラヤ級と正規空母に搭載されているのは艦載機型のセイバーフィッシュとフライマンタ、対潜哨戒機のドン・エスカルゴに高速偵察機のデッシュだ。味方の航空支援はあてにしないほうが賢明だな」

その言葉を聞いたアリマは唖然とした。最新鋭とはいえ18機でその大艦隊と戦えといっているのだから無理もない。

「少尉、この護衛艦隊だけで42隻、本命の輸送船団は20隻だ。護衛艦の数の割りに輸送船の数が少ないと思わないか?」

「そういえばたしかに・・・」

事実彼の部隊が沈めた輸送船団でも護衛艦はヒマラヤ級1隻に巡洋艦1隻、駆逐艦8隻で輸送船10隻近くを護衛していたのだ。この規模の艦隊だと輸送船が40~50隻近くいてもいいはずだった。

「少尉、恐らくこの艦隊は重要な物資を運んでいると私は睨んでいる。できるならば何隻かは鹵獲して欲しい。できるか?」

「それは・・・かなり難しいかと思います」

「だろうな。無理に鹵獲しようと思うな、できればの話だからな。それに簡単な話、護衛の航空母艦を殲滅するだけでもこちらは任務を遂行したことになるのだ。これは名目上航空隊との共同作戦なのだからな。空母がいなくなれば航空隊も輸送船くらい何隻か沈めるだろう・・・航空隊がきたらの話だがな。だが来なければそれはそれでいい。責任は来なかった航空隊に集中するからな。敵艦隊の殲滅はできなくてもかまわん、何かあれば私が対応しよう」

その言葉にアリマ少尉は幾分楽になった。敵艦隊を殲滅しろといわれるとかなり困難だが、敵空母だけでも撃沈すればいいとなると幾分楽になる。そしてその分隊員がやられる危険性も少なくなると思ったからだ。

「それでは少尉、吉報を期待しているぞ」

その言葉にアリマ少尉は敬礼して答えた。

「了解しましたアデナウワー大佐。ディープブルー隊は速やかに任務を遂行します!」


ブリーフィングルーム

「というわけで我々は機体の準備が出来次第出撃する。質問は?」

「・・・一応正規空母とヒマラヤ級を全て沈めたら作戦は成功と見なされるんですよね」

「ああ、そういうことになっている。撃破後残存勢力を殲滅し輸送船を可能なら拿捕する。ただし危険だと判断したら即時撤退するからそのつもりでいてくれ。最も司令に負担をかけたくないからできるだけ殲滅の方向でがんばろう」

「ええ、それはいいのですが・・・キシリア様は何を考えているんでしょうね。我々が消耗することはジオン軍の消耗でもあるのに・・・」

「たしかに・・・現在唯一の潜水艦隊ですからね、我々は・・・」

「大方うざいから消すって感じじゃねーのか? 隊長、戦法としてはさっきので空母は沈めれると思いますが、上空警戒機はどうします? 連邦も馬鹿じゃない、必ず警戒機を上げてるはずです」

「けっ、連邦ごときにハイゴッグが落とされるものか。心配しすぎだよあんたは」

「ジャス! そんなことを言ってると死ぬぞ。だいたいお前は何度命令違反をしてると思っているんだ!」

「だがそれでかなり連邦を撃破してますぜ。心配ありませんよ」

「そうですよ、ジャス先輩の腕なら連邦共なんて鎧袖一触ですよ」

「ブッシュ! お前も危なっかしいんだから無茶するのはやめろ! というかジャスを見習うのはやめろと何度もいってるだろ!」

「落ち着け軍曹。だが軍曹の言うとおり今回の任務はちょっとばかし困難なものだ。これまでのとは違うから油断するとお陀仏だよ」

「やれやれ・・・そういやジャスは元不良だっけ? 最近調子にのってきてるな・・・裏目にでなきゃいいが・・・」

「ああ、あのままだといつか馬鹿なことをやりかねん」

「ってかなんでうちに配属なったんでしたっけ? あの人」

「たしかザビ家のとある人物からうちに対する嫌がらせで強引に配属させられたって聞いたが?」

「紫ババァでしたっけ? それともデコっぴろ?」

「・・・・・・お前危ないことさらっと言うな、場所が場所なら暗殺されるぞ」

「皆、落ち着け! ・・・とりあえず質問は他にはないな? 今回の任務は難しいものだ。だからこの作戦終了後に皆生き残っているように、皆最善を尽くしてくれ。以上だ」

『お~い、隊長さんよ。準備できたぜ、いつでも出撃は可能だ。いつも言ってるが機体にできるだけ傷つけないで帰ってきてくれよ』

「了解した整備班長。最善を尽くします」

『ああ、幸運を祈ってるよ』







大西洋 連邦軍第15艦隊旗艦 正規空母 バルバドス

「艦長、来ると思うかね?」

「恐らく来るでしょうな。歓迎の準備も万全ですし」

「しかしうちの二重スパイもよくやってくれてる。この海域にいるジオンの水陸両用MS隊を誘い出す為にわざわざ出張ってきた甲斐があるというものだ」

「ええ、ジオンに大規模な輸送船団が出航したという情報を流し、ジオンの狼共がのこのこやってきたところを大火力で叩きのめす・・・下の奴らも手をこまねいているでしょうね・・・」

「全くだ・・・だが1079輸送船団が消滅したのに不安を感じるな・・・あれにはジオンの水陸両用MS・・・たしか名前はゴックだったか? それ対策としてドン・エスカルゴや対潜ヘリを載せていたはずなのだが・・・」

「ええ、ですが指揮官が無能だったのでは?」

「ふむ・・・その可能性もあるか・・・仮装護衛艦はちゃんと偽装してるだろうな?」

「もちろんです。偽装した艦は周囲の輸送船と同化しており、ジオンにばれる可能性は低いはずです」

「ならばよし。そろそろ航空隊の交代機をだすころだな。ピケット艦隊にも十分な警戒をするよう重ねて通告しろ」

「了解! ですがピケット艦隊の位置はこれでいいのでしょうか? この位置では隙間が多く、我々に接近するMSの探知が遅れる可能性が・・・」

「なぁに、四方に展開しているピケット艦隊は保険だよ、保険。この艦隊が全てだと思いたまえ。ソナーは全てピケット艦隊がいないほうへ集中しているし、もしソナーに反応がありキルゾーンに入り込んだ次の瞬間には対潜兵器の雨が降り注ぐ。いかにゴックとやらの装甲が厚くても大量の爆薬を叩き込まれて無事でいられるはずが無いからな」

「ええ、特にゴックとやらは機動性が悪いようなので対潜航空機の前には裸も同然です」

「だが油断は禁物だ。そのゴックで対潜航空隊の追撃を振り切った敵もいるのだからな・・・」

「はい、まぁ何事も無ければ例の荷物を無事に届けれるのですがね」

「ああ・・・例の対MS戦闘車両か。ダカールやキリマンジャロは陥落したがまだまだアフリカは広いということをジオンに教えられるな」

「それを言ったらアメリカもですよ提督。アメリカにはミデアで新兵器を運んでるって噂じゃないですか」

「ああ、例のアラモ作戦か。じきに反撃の態勢は整うだろう。そういえば提督、宇宙でもルナツーでいくつか兵器を量産している話だったし・・・」

「ほう? それは初耳だな、情報源はどこなんだね?」

「ええ、同期の者がこの前までルナツー勤務でして、この前飲んでた時にその兵器の話がでたのです。なんでも作業用ポッドを改造した兵器だとか・・・すでに一部は作戦行動していると聞きました」

「ふむ・・・作業用ポッドの改造とは量産性がいかにもありそうなものだな。だがその話は軍事機密だろう。軽々しく話すのはいただけんな」

「ふむ、そうですな。以後気をつけましょう」





艦隊近海 水中

「・・・やっとここまでこれたな。しかしこれ以上近づくとソナーで探知されるだろうな・・・しかも連邦の攻撃型潜水艦までいるとは至れり尽くせりだな。各隊へ、準備はいいか?」

「こちらマーメイド隊、準備いいわよ」

「こちらブラックパール隊、いつでもいいぜ。はやく帰って昔の映画を鑑賞したいぜ」

「よし、時間をかけると周囲に展開している艦隊がやってくる、各機ジェットパック噴射!」

その命令の直後、18機のハイゴッグの背中に取り付けられたジェットパックが勢いよく噴出し、水中を猛烈な勢いで加速していった。そしてその騒音は連邦艦隊にすぐに察知されることとなった。

連邦艦隊

「・・・! CICより艦橋へ! 正体不明の音源が本艦隊に急速接近中、数は18!」

「こちら艦橋、正体不明とはどういうことだ、詳しく報告せよ」

「は、今まで聞いたことが無い音源です。しかもこれは・・・速度が80ノットを上回ります、我々の知らないジオンの未知の兵器の可能性があります!」

「く、ジオンめ・・・航空隊の発艦を急がせろ! 各艦へ通達、これより本艦隊は対潜行動に移る、速やかに任務を全うされたし、以上だ。後第1・2ピケット艦隊にも集まるよう連絡を入れろ! 輸送艦と仮装艦は第4ピケット艦隊へ合流を急げ、第3は第4と本艦隊の間に布陣させろ!」

「了解! 各艦対潜攻撃準備! CIC、目標はどうなっている?」

「こ・・・こちらCIC、アクティブソナーにてピンを放ったところ、接近物の大きさはMSクラスであると判明、ジオンの新型水中MSと思われます! 艦隊との距離、1万切りました! 深度は300!」

「なんだと!? これでは対潜ロケットは使えん・・・提督!」

「く・・・全対潜兵器発射せよ!」

「了解! 各艦へ、全対戦兵器発射!」

その命令の直後、有効深度が300mまでの対潜ロケット弾を除く対潜魚雷や対潜ミサイルが艦隊の各艦から発射され、海中では攻撃型潜水艦が魚雷を発射した。対潜ミサイルは発射直後に落下し、弾頭の魚雷を切り離した。

「隊長! 前方から魚雷が無数に接近中です!」

「よし、艦隊との距離5000を切った、各機浮上するぞ!」

その言葉と共に今まで水平に突進していたハイゴッグは急遽姿勢を変え、垂直に近い形で上昇していく。それに焦ったのは連邦艦隊だった。

「こ、こちらCIC! 敵MSが急遽浮上してきます。これは・・・弾道弾のような速さです! 現在深度200を突破・・・まもなく海面に飛び出ます!」

「なんだと!? 一体どういうことだ・・・まぁいい、各艦対潜ロケットを当該海域へ発射せよ!」

「無理です、間に合いません! 目標、海上にでます!」

その言葉の直後、海面が隆起した。そしてそれを目撃した連邦将兵は呆然と口を開いた。

「も、MSが空を飛んだ・・・」

そう、18機のハイゴッグは自身のスラスターと背中のジェットパックを併用し、海面から空へ飛び上がったのだ。そう、無数の迫っていた魚雷を空中に飛び出ることでその全てを回避したのだった。そして飛び上がった直後、腕を伸ばし腕の先についている円筒形の物体を空母へと向けた。その円筒形の物体は先端が3方向に展開し、中から巨大なミサイルが姿を現した。

「各機へ、ハンドミサイル発射!」

その命令と共に大型ミサイルは発射された。最もミサイルというよりこれは大型ロケットといったほうがいいような無誘導の代物であったが、その威力は絶大だった。18機のハイゴッグから放たれた36発の大型ミサイルは2発がバルバドスに直撃し、艦橋を吹き飛ばし甲板にあった航空機を根こそぎ吹き飛ばしていった。またヒマラヤ級5隻にも20発近くが殺到し、次の瞬間には艦隊に属する全ての空母が無力化された。だがまだ空母のような大型艦は良かった。沈没まで時間があり、乗組員が退艦する時間があったからだ。これがフリゲート艦や駆逐艦では1発直撃した瞬間に轟沈する艦が続出した。また巡洋艦クラスでも当たり所が悪く轟沈した艦もあった。結局このミサイル攻撃だけで全ての空母が大破ないし沈没し、1隻の巡洋艦が沈没、1隻が大破。駆逐艦3隻とフリゲート艦5隻が沈没、駆逐艦2隻とフリゲート艦1隻が大破した。ハイゴッグはその後ミサイルカバーを完全に投棄し、背中に背負っていたジェットパックも投棄した。

連邦第15艦隊所属巡洋艦 アルハンブラ

「く、ジオンめ・・・なんてMSを作りやがった!」

「艦長、旗艦との通信繋がりません! それどころか旗艦の艦橋がありません!」

「他のヒマラヤ級はどうだ?」

「・・・応答ありません。恐らく・・・」

「そうか・・・全艦へ通達、これより艦隊の指揮は本艦アルハンブラが執る。各艦あらゆる兵器を用いて敵の足を止めろ! 本艦隊は輸送艦の盾になる」

「艦長、ピケット艦隊接近! 目視可能な距離にきました。後第3ピケットもこちらに移動中とのことです」

「よし、全艦へ通達、各艦魚雷を発射せよ! ありったけの対潜兵器を叩き込むんだ!」

その命令によって再び魚雷等が放たれたが、それは最初の攻撃と比べるとあまりにも少なかった。だがこれがゴッグ相手なら何機か大破させることが出来ただろう。だが相手は新型のビームカノンを装備しているハイゴッグだった。迫る魚雷に対し両腕のビームカノンを叩きこみ魚雷を迎撃し、海面下から艦隊に容赦無いビームの攻撃を仕掛けていた。そんな中・・・

「艦長! バルバドスの甲板に敵が上ってビームを乱射しています!」

「糞、ジオンめ・・・好き勝手にはさせんぞ。航空隊は何機いる?」

「はい、襲撃前に離陸したセイバーフィッシュが6機、ドン・エスカルゴが3機、対潜ヘリが2機です」

「よし、セイバーフィッシュ隊は空母の上にあがっている奴の目をひきつけろ! 残りは潜っているのを攻撃するんだ。後周囲の艦に速やかに空母上で暴れているMSを攻撃するように連絡を入れろ! 奴は本艦に向けて背後を見せている、チャンスだ!」




「ジャス、何をやっている!」

「見て分かりませんか? 連邦の野郎を始末してるんですが」

「そんなことじゃない! 空母の甲板上等という目立つところで攻撃をするなと言っている!」

「いいじゃありませんか。奴ら攻撃してきませんし」

「そういう問題じゃないだろ! 水陸両用機は隠密性が命なんだ、お前の機体が写真撮影されるだけでも敵に大まかな分析をされることだってあるんだぞ!」

「ですが最初に飛び上がったときにばれてませんか? それならいいじゃないですか」

「そうじゃない、できるだけそのような危険をなくしたいだけだ! それにそこだと攻撃を集中されるぞ!」

「へっ弱腰の連邦の野郎に、アースノイド共に仲間を撃てる勇気なんてありゃ」

そこでジャスからの通信は途切れた。なぜなら・・・


「速射砲、砲撃開始!」

その言葉と同時にバルバドス周囲に展開していた3隻の艦艇から一斉に速射砲が火を噴いた。一定のリズムを刻みながらアルハンブラの速射砲から弾が吐き出されていき、その弾はジャスのハイゴッグの背中に吸い込まれていった。

「速射砲が命中! 敵MSに多数直撃しています!」

「思ったより脆いのか? まぁいい、攻撃を続けろ!」

「あ、敵MS爆発! バルバドスも・・・」

そう、ジャスが乗っていたハイゴッグは連邦艦隊によって撃破されたのだ。だがその際に砲弾が核融合炉に直撃し、大爆発を起こした。その爆発でバルバドスは轟沈、周囲にいたアルハンブラを含む複数の艦も被害を受けていた。


「く、ジャス軍曹がやられた!」

「なんだって? ジャス先輩が!? 畜生連邦の豚共!」

「落ち着けブッシュ。各機へ、馬鹿な行動を控えるように。確実に仕留めていくぞ」

「了解!」

「なんてこたぁねえ。海面から腕だけを突き出してメガ粒子砲を叩き込めばいいことだ。余計なパフォーマンスは必要ねぇ!」

「敵は海上だけじゃない、空を飛んでいる航空機と海中の潜水艦もだ。ブラックパール隊は海中の潜水艦を沈めにいくぞ!」


アルハンブラ

ハイゴッグとバルバドスの爆発による爆風を受けたアルハンブラの艦橋は凄惨なものだった。艦橋のガラスは全て破れ、爆風を受けた側の通路は跡形も無かった。そして艦橋要員のことごとくが重症、又は死亡していた。運が良かった数名は軽症ですんだが中にはガラス片で生きたままミンチと化した者もいた。

「艦長、ご無事ですか!?」

「ぐ・・・私は大丈夫だ、それより艦はどうなっている?」

「は、CICの報告ではバルバドスの爆発の影響でマストが倒壊、レーダーも損傷しました。艦首速射砲及びCIWSは壊滅です。それより血が・・・」

「何、たいしたことは無い。攻撃を続行する。巡洋艦アーカントスへ発光通信で指揮を移譲すると伝えろ・・・ぐっ」

「艦長! 医務室へ、艦長が負傷されたので至急来てくれ!」

「こちらCIC、敵MS隊は潜行しました。海中の潜水艦ですが、先程1隻の・・・あ、訂正します。ついさきほど2隻の艦の圧潰音を確認しました」


海中

「くらえ!」

その言葉と同時にハイゴッグのバイス・クローが連邦の攻撃型潜水艦に突き刺さる。それは正確に発令所を貫き、艦の指揮系統を破壊した。そしてハイゴッグは周囲にいる潜水艦にビームカノンを浴びせた。当然のことだがビームを浴びて無事な潜水艦等存在しない。直撃を受けた潜水艦はそこから水圧に負けて崩壊し、圧潰していった。

「ヒイラギ隊長、あらかた潜水艦は片付いたようです」

「おっし、ブラックパールリーダーより各機へ、残ってる艦を沈めにいくぞ。航空機はどうなった?」

「さきほどマーメイド隊が殲滅しました。現在降伏勧告中だです」

「降伏勧告中だって? 遅れをとったか。各機急ぐぞ!」

「了解!」


アルハンブラ

「こちらCIC、潜水艦隊の反応無くなりました。全て撃沈された模様です」

「分かった。航空隊も先程全滅したな・・・副長、残存艦は何隻だ?」

「健全な艦は残っていません。見た感じ大破艦は11隻、中破艦は本艦も含めて4隻、小破が1隻の計16隻です。ただ大破した艦で総員退艦命令が出ている艦もいるでしょうから正確な数は・・・後アーカントスも沈没したようです」

「そうか・・・輸送艦はどうなった?」

「撃墜される前にドン・エスカルゴが送ってきた情報が小破した艦を通じてはいっております」

「・・・なんといっている?」

「囮の仮装艦を除き、単艦で各艦港へ向かう、とのことです」

「・・・空襲が無いことを祈っておくか」

「! 敵MS浮上しました。 目が光っている、これは・・・モールス信号です、読みます。『連邦艦隊残存艦へ、降伏されたし。降伏せぬ艦は撃沈す』以上です」

「・・・我々は輸送艦の護衛だ、ここで降伏したら護衛艦の意味が無い。諸君、いいかな?」

「ええ、ジオンの連中に海軍魂をみせてやりましょう」

「死ぬときは海で、と決めているものですから」

「やりましょう艦長、他の艦は知りませんがせめて我々だけでも!」

「諸君、感謝する・・・後部速射砲、及び対潜魚雷発射せよ!」

その命令の後、一瞬後にアルハンブラは再び咆哮した。それにつられたのか残っているほぼ全ての艦が攻撃を再開した。この攻撃を予期していたハイゴッグは退避するも、何発か至近弾となりダメージを受けた。だがそのお返しは猛烈なもので、たちまち海中からビームカノンが見舞われた。ある艦は竜骨を破壊され轟沈し、ある艦は開けられた穴からの浸水によりじわじわと沈んでいった、そして・・・

アルハンブラ

ビームを受けた次の瞬間すさまじい衝撃が走り、艦橋にいたものは全て倒れこんだ。

「艦長、機関部がやられました。極小規模ながら水蒸気爆発が起きたようです・・・もう本艦は・・・」

「潮時か・・・ダメコンでももう不可能ならばとるべき手段は一つしかないな。しかしこれだけの艦隊が全滅か・・・」

「ええ、ですが敵の新型MSを1機撃破したのです。十分胸をはれますよ」

「・・・そうだな。さて諸君、これまでついてきてくれたことに感謝する。総員退艦せよ! 副長、君も退艦したまえ」

「了解しました。ですが艦長とご一緒に退艦させていただきます。ここにいる皆同じ気持ちです」

「・・・やれやれ、艦と共にと思ったのだがな」

「艦長はこれが終わった後もまだやるべき仕事があります。今回戦った相手から得たことをこれからに反映していかねばなりませんし」

「ふっ・・・違いない。では諸君、急いで退艦しよう。もうこの艦は長くは持たない」

「了解!」


ハイゴッグ隊
「・・・どうやら輸送船団は取り逃がしたようだな。各機、損害を報告せよ」

「こちら2番機、目立った損傷無し」

「3番機。すみません、ドジりました。各部に警告がでてます」

「こちら4番、異常ありません」

「こちら6番・・・異常ありませんが、ジャス先輩が・・・」

「ジャスに関しては諦めろ。いかに脱出機構を備えていてもあの爆発では生存は絶望的だ。それにビーコンもでていない・・・各隊、損害は?」

「こちらマーメイドリーダー、私を含めて6機中4機が損傷を受けたわ」

「こちらブラックパールリーダー、1機損傷している。後は軽微だ」

「こちらディープブルーリーダーだ。1機、ジャスがやられた。他にも1機損傷している。損傷機は母艦へ帰還せよ。護衛はマーメイド隊が引き受けてくれ。残ったもので輸送船団の追撃をするぞ。おおよその針路は判明しているからな。後母艦にレーザー中継機を飛ばすよう頼んでくれ」

「こちらマーメイドリーダー、了解したわ。中継機だけど準備の時間も考えて・・・恐らく今から30分くらいで到着するかしら。でも敵戦力がどのくらい残っているか分からないのでは?」

「それについては大丈夫だ。事前に得た情報を元に分析すると、敵の護衛戦力は恐らく巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、フリゲート艦5隻だ。少しでも機体に不調を感じたら撤退しろ。以上だ」

「こちらディープ2、ブッシュはどうします? 一緒に引きあがらせた方がいいかと思いますが」

「そうしたいが今のままでも普段の戦力の50%の状態で攻撃を仕掛けるんだ。少しでも戦力は多いほうがいい。護衛に割いたマーメイド隊の2機も本当なら攻撃に参加して欲しいが損傷機だけだと何かと不安だからな。まぁ9機もいれば8隻の護衛艦はなんとかなるだろうが・・・」

「残りは8隻ですか・・・一人1隻沈めても一人余りますぜ」

「そうですね、でもここで作戦を終了するっていう手もありますよ。 ・・・最も相手は残り僅かですからこのまま攻撃続行がいいかもしれませんがね」

「ああ、相手の数が予想より多ければそこで作戦を終了する。だがいけるようなら攻撃をする。各機行くぞ」



[2193] 第10話
Name: デルタ・08
Date: 2006/10/06 09:54
連邦第15艦隊所属第4ピケット艦隊旗艦 ミサイル巡洋艦 ゲルマニア

「・・・艦隊との通信途絶、他のピケット艦隊とも通信不能。恐らく・・・」

「・・・分かった。副長、輸送艦を分離させたのは正解かもしれんぞ」

「ええ、ですが本体の健闘は無駄ではありませんでしたね。時間を稼いでくれたおかげで輸送艦は我々から遠ざかることに成功しました。運がよければ目的地に着くことでしょう」

「ああ・・・でだ、仮装輸送艦のことなんだが・・・」

「ええ、手筈通りに半数は布陣させました。後半数は輸送艦として振る舞いまずが、いつまでばれないことやら・・・」

「まぁ我々は我々にできることをするまでだ。艦隊各艦へ通達、対潜攻撃準備!」

「了解、対潜攻撃準備!」


水中

「隊長、見つけました。護衛艦は8隻です。ですが輸送艦の数が10隻しかいないようですが・・・」

「他に艦隊がいてそれに合流した可能性もあるな・・・近くに反応は・・・無いか、まぁいい。各機へ、この艦隊だけでも殲滅するぞ。できれば輸送艦は鹵獲したい、そのことに気をつけて行動せよ、以上だ」


ゲルマニア

「高速推進音探知! 数は・・・9! 恐らく敵の水中MSです!」

「9機? 確か襲撃してきたのは18機だったはずだが・・・まぁいい、分散しているのか離脱したのかは知らんが各艦全力でこれを撃破せよ!」

「了解! 対潜攻撃開始!」

その命令がだされ、各艦から対潜兵器が発射されるがいかんせん数が少なかった。だが戦力が減っているのはハイゴッグ部隊も同様だった。

「隊長! 魚雷の数が多すぎます!」

「最高速度で振り切るんだ! 相手の魚雷は最高速力はおよそ70ノット、こっちは80ノット以上だせるんだ。相手の燃料切れを誘え!」

「だ・・・だけど数が多くて・・・先の奇襲では空に逃げるという手でなんとか逃げれましたが、これじゃあ・・・」

「くそ、しつこい魚雷だ! こちらブラックパール3、敵フリゲート艦1隻撃沈!」

「逃げながら攻撃か、いい腕だ! こちらブラックパール6、敵駆逐艦大破に成功!」

「しかしうざいくらい多いな、この規模でこんだけの魚雷はただ事じゃないぞ」

「やられたな・・・この艦隊は対潜用の艦隊だったのか・・・対潜ロケットに対潜ミサイル、それに対潜魚雷・・・これでもかってくらいばら撒きやがる」

「こちらブラックパールリーダー。敵魚雷、密集しすぎで誘爆するのがでてるぞ」

「・・・調度いいポイントだ。ディープブルーリーダーより各機へ、もうすぐ敵艦隊の真下に魚雷が到達する。反転しビームカノンを魚雷に撃て、誘爆を誘うぞ!」

そして9機のハイゴッグが反転し、追ってくる魚雷に向かいビームカノンを叩き込んだ。次の瞬間、海水が空に向かって吹き飛んだ。

「ぐお! 各機へ、異常が出た機は報告せよ」

「こちらブラックパール2、機体各部に損傷! 任務続行は不可能、帰還の許可を!」

「許可する、他に損傷を負った機はいるか?」

「こちらブラックパール6、水中衝撃波でモノアイに異常がでた、腕部分ビームカノンも出力が安定しない」

「こちらディープブルー2、スラスターに異常発生! 浮力が低下しつつあります!」

「こちらブラックパール3、バランサーに異常発生、戦闘行為自体は可能」

「こちらブラックパールリーダー、損傷は特に無いが朗報だ! さっきの爆発で護衛艦艇が転覆しやがった。残ってるのは巡洋艦1隻と駆逐艦1隻、フリゲート艦2隻のみだ!」

「わかった、他に損傷した機はいないな? それでは今損傷を報告した機はすみやかに帰還せよ! 特にディープブルー2は危険な状態だ。各機サポートしながら撤退してくれ」

「残った奴らは攻撃を続行ですか?」

「ああ、本来なら撤退すべきところだが残りが4隻ならなんとかなる。こちらは残存機は5機か・・・いけるか?」

「いけますよ、軽い損傷を負っていますが戦闘に支障ありません」

「同じく、これくらいでやられるほどやわじゃねえ!」

「機体損傷軽微、まだいけます」

「先輩の仇を討つのにこのくらい損傷のうちにはいりません!」

「・・・ブッシュ、現在の機体損傷率は?」

「・・・・・・約7%です」

(・・・本当に損傷はそれだけなのか? 偽って報告しているんじゃ・・・だがこちらから確かめる術は無い・・・機体の調子が分かるリンクシステムもさっきの衝撃で損傷したみたいだし・・・信じるしかないか)

「分かった。だが無理をするなよ。いくぞ」


ゲルマニア

「艦長、先程の魚雷の誘爆により大破した駆逐艦が完全に沈没しました。後フリゲート艦も3隻転覆、又は沈没しました。残った艦も若干の損傷を受けています」

「・・・やられたな。しかもこの水中騒音じゃどこにいるのか分からないときた。逆に奴らからは丸見えだろうし・・・手詰まりだな」

「ですが何機かにはダメージを与えられたはずです。これだけの炸裂なら水中衝撃波もすさまじいでしょうし」

「楽観はするな。対潜ミサイルを後10秒後に本艦周囲にばら撒く。高度5000mまで上昇させた後に着水させろ」

「・・・なるほど、この水中騒音を利用した時間差攻撃ですか」

「ああ、本艦は発射と同時に回避運動に移る。 ・・・時間だ、VLS発射! 前進急げ」

その言葉の次の瞬間、海中から伸びてきたビーム砲により駆逐艦と1隻のフリゲート艦が貫かれ、爆発と共に沈没した。それとほぼ同時にゲルマニアは前進を開始し、VLSミサイルを上空へと飛翔させた。

「駆逐艦リリー及びフリゲート艦アックス爆沈! 残りは本艦とフリゲート艦アスメイラのみです!」

「・・・通信を送ってくれ、内容は『我第15艦隊、敵の新型MSの襲撃を受け艦隊は壊滅、救助を求む』以上だ。敵の攻撃は本艦から見て4時方向か・・・CICへ、右舷魚雷発射管から対潜魚雷を4時の方向に発射せよ。アクティブモードでだ、急げ!」

「了解! 右舷対潜魚雷発射します!」

そして魚雷が3本発射された。それと同時に上空を舞っていた対潜魚雷が着水、アクティブソナーを発しながら敵を探し始めた。だが彼らの奮闘もここまでだった。なぜなら次の瞬間ハイゴッグから放たれたビームカノンが艦中央を貫通、次の瞬間にはゲルマニアは大爆発を起こしながら針路を海底へと変更していった。そしてフリゲート艦アスメイラも程なくその後を追った。


水中

「敵残存艦撃沈! 敵の護衛艦艇はもういません」

「敵魚雷3本急速接近中・・・ ! 更に真上に魚雷着水、数は8本!」

「く、あらかじめ発射しておいたのか・・・各機へ、迎撃するぞ。真上の魚雷はディープブルー隊が引き受ける、正面から来る3本はブラックパール隊が処理してくれ。撃て!」

「あいよ、撃て!」

結果・・・魚雷は全て迎撃できたが、至近距離で何本か炸裂した為各機ともに損傷が増えていた。そして・・・


仮装護衛艦

「く、全滅か・・・」

「艦長、どうします? 受け取った命令では可能な限り敵の目を欺き、油断したところを一網打尽にしろとのことですが・・・」

「・・・各艦へ、攻撃準備を整えておけ。そろそろ来るはずだ。聞けば本体に降伏勧告をしたらしい。それを逆手に取るぞ、いったん降伏勧告を受理したと見せかけて油断したところを総攻撃する」

「・・・しかし汚い戦争ですな」

「しかたあるまい、これまでの常識を破ったのはジオンのほうだ。隕石落とし等したせいで地球の環境は激変したのだからな。核の冬にはならなかったのがせめてもの救いだ」

「艦長、敵MS浮上! 降伏勧告を出しています」

「受託すると通告せよ。各艦に通達、敵は罠にはまりつつある、いつでも攻撃できるように待機せよ、とな」



「こちらブラックパールリーダー、輸送船10隻は降伏勧告を受託したぞ! 完全勝利だぜ!」

「よくやってくれた。各機輸送船団を取り囲むように布陣、指示を待て。そろそろ中継機が来る頃だと思うが・・・ディープブルー4、見えるか?」

「いえ、まだなにも・・・あ、隊長。たった今水平線上に中継機らしきものを確認しました。恐らく繋がるはずです」

「分かった・・・こちらディープブルーリーダー、リヴァイアサン応答願います。繰り返す、こちらディープブルーリーダー。リヴァイアサン応答を・・・」

「聞こえているぞ。こちらはアデナウワーだ。少尉、手酷くやられたな」

「は、申し訳ありません」

「まぁいい、報告は聞いた。ジャス軍曹のことは残念だが初期目標は達成できたと見ていい。輸送船の拿捕、成功したのか?」

「はい、半数は取り逃がしてしまいましたが残りの約10隻が降伏しました。現在残存機で警戒に当たっております」

「分かった。現在そちらに向けて移動中だ、困難な任務をよくぞ達成してくれた。我らが到着するまで引き続き警戒を怠るな」

「了解! ・・・ふう、やっぱあの人は苦手だな・・・」

「隊長、ご苦労様です。でも当分は戦力の回復の為に出撃はないかと思いますが?」

「ああ、だが油断しなければ・・・!?」

そこまで言ったところでアリマはソナーから変な音が聞こえたことに気がついた。慌ててソナーの調整をして確認してみると、輸送艦の中から何かに注水するような音が聞こえた。そう、まるで魚雷発射管に注水する音に酷似した・・・
そこまで考えて慌てて彼は指示をだした。

「各機警戒! 輸送艦から魚雷発射管注水音だ!」

その言葉に反応した各機は一斉に輸送艦から距離を取り警戒した。そして・・・


「艦長、どうやら気づかれた様です!」

「チッ・・・魚雷発射管注水音で気がつかれたか? 仕方ない、全艦攻撃開始!」

次の瞬間、10隻の輸送艦に化けた仮装艦は今まで被っていた仮面をはずし、彼らに正体を現した。甲板のコンテナからは対潜ミサイルがいくつも飛翔し、艦底部からは魚雷が次々と発射されていった。


「く、仮装護衛艦だったのか!?」

「隊長、迎撃を開始します!」

「畜生・・・だが考えようによっては不幸中の幸いだぜ、母艦に攻撃されてちゃ大惨事だからな」

「しかし敵輸送艦の正体は実はアーセナル・シップ(武器庫艦)でしたってか!? なんて数の魚雷を吐き出しやがる!」

「だが1発でも当たれば景気よく大爆発していくぞ。ほれ」

その言葉と共に1隻の仮装艦にビームカノンの一撃を見舞うと、その艦は次の瞬間には洋上で噴火する活火山のごとく大爆発を起こした。

「・・・どんだけ弾薬積んでるんだ? まぁいい、各機へ、魚雷を迎撃しつつ敵艦を撃沈せよ!」

そして戦闘は次第にMS隊の防戦から攻勢に転じていった。それもそのはず、魚雷を撃つ艦が沈めばそれだけ撃ち出される魚雷数も減少するからだ。10隻いた仮装艦はその数を徐々に減らしていき、ついに残りは1隻となった。だが撃沈される間際に放ったほかの艦の魚雷が1機のハイゴッグの至近距離で炸裂した。


「く・・・こちらディープブルー6、ビームカノンに異常発生! これよりクローで敵を破壊します」

「な、馬鹿やめろ! すぐに後退するんだ!」

「ブッシュ伍長、すみやかに帰還しろ! これは隊長命令だ!」

「大丈夫ですよ! くらえ連邦、先輩の仇討ちだ!」

そういって制止を聞かずにブッシュ伍長は敵艦にクローを突き立てた。ブッシュ伍長がクローを突き立てたのは機関部と思われるところだった。当然のことだが当たり所が悪ければ爆発する。だがその爆発は思ったほど激しくはなく、彼の乗るハイゴッグにはたいした損害はでなかった。そしてクローの突き刺さった所が致命的だったのか、艦は徐々に傾き、沈み始めていった。

「どうだ! ジャス先輩、仇はとりました!」

「大馬鹿者! さっさと帰還しろ、状況を理解しているのか!?」

「大丈夫ですよ。これでこの海域には敵艦はいないんですから」

だが彼はひとつ見落としていた。彼の目の前で沈没しかけている艦は、徐々に失いつつあるが未だ火器管制システムは正常で、戦闘行為が可能だということに・・・つまり・・・

「だがブッシュ伍長・・・! ブッシュ、避けろ!」

「え?」

死ぬ間際の艦から放たれた複数の魚雷は、艦が完全に戦力を失ったと判断し艦に背を向けていたブッシュ伍長のハイゴッグに真後ろから突き刺さった。そしてハイゴッグの胴体にめり込んだ次の瞬間、魚雷が炸裂しブッシュ伍長のハイゴッグは爆散した。そして沈みつつある艦はブッシュ伍長のハイゴッグを破壊したことに満足したのか、次の瞬間には搭載していた弾薬が誘爆、爆沈した。

「ブッシュ! ・・・全機へ、これより母艦へ帰還する」

「・・・隊長、ブッシュ伍長の捜索は?」

「無駄だ。たとえ緊急脱出ポッドを装備しているハイゴッグといえど、機体が爆散しては生存は期待できん」

「隊長・・・気に食わない奴らでしたが仲間を失うってのはやっぱつらいですね」

「ああ、これでこの部隊だけでも5人目の戦死者か・・・」

そう、彼らディープブルー隊はこれまでに3人の戦死者をだしているのだ。それらは皆ゴッグに搭乗していたメンバーで、チーム結成から一緒に戦っていた仲間だったのだ。いかにVFといえどもパイロットはなかなか確保・養成することは簡単にはいかず、補充のパイロットは一人しか確保できなかった。その時にザビ家から嫌がらせ同然に派遣されてきたのがジャス軍曹とブッシュ伍長だったのだ。ディープブルーは問題を起こしまくる彼らを疎ましく思っていても他にパイロットがいない為に目をつぶっていたのだ。そしてそんな問題児だった二人ももういなかった。

母艦に戻ったアリマ少尉はすぐに艦長室へと出頭した。アデナウワー大佐に報告する為である。

「・・・以上で報告を終わります。本官は今回の作戦は失敗と思っております。いかなる処置も受けるつもりです」

「・・・なるほど、連邦に一杯食わされたというところだな。ご苦労だった少尉、敵の護衛全てを撃沈したのだから作戦自体は成功したと考えるように。後戦死した二人については残念だがVF作戦司令部から通達があった。正規の補充兵、つまり以前に戦死した者の補充がくるそうだ。ちゃんと訓練も一通り終わったもの達だそうだから今度は問題を起こさないだろう。またそれに関連することだが我らは戦力の再編成の為に一時的に任務を解かれることとなった。用は少しばかりの休暇だな」

そこまで聞いてアリマ少尉は気になっていたことを質問した。

「あの・・・取り逃がした輸送船はどうなったのでしょうか?」

「ああ、どうやらアフリカ大陸に10隻全てが到達したらしい。どうやら友軍の航空隊は出撃すらしてなかったようだな。これに対する責任は我らは考えなくて良い、なんせ我らは出来る限りのことはやったのだからな。責任があるとすれば航空隊かもしくは上層部だ。だが私としては輸送船が何を積んでいたのか非常に気になるな。少尉、貴官も気にならないか? あれだけの艦隊、しかも偽装した艦までもいたのだ。並大抵の物資ではないはずだ」

「たしかにそう思います。敵は何が何でも物資を守り通そうとしていたように感じます。それも必要以上に」

「うむ、そこまで必死に護衛していたものだ。恐らくは・・・対MS用の兵器だと私は考えている」







数日後 アフリカ西部 ルエナ近郊

ジオンの行った隕石落としは世界各地に色々な被害をもたらした。その破壊は気象の変化に始まって無数の隕石落下によるクレーター等が物語っている。ここルエナはかつて多くの人々が暮らす街だった。だが隕石落としによって生じたテンペストの破片の1つが狙い済ましたかのようにこの街の近くに落下した。幸い大きさはそれほど大きなものではなかったが街1つを吹き飛ばすには十分な大きさだった。そして街の半分はクレーターになり、残った地域も全壊した建造物の残る廃墟となっていた。当然街に住んでいた人達は全滅である。そんな街跡を進む複数の人影があった。だがそれは人間ではなかった。全長18mの高さを誇るMSだったのだ。先頭を進むのはジオンの象徴でもあるMSのザクだがF型やJ型とは少し違っていた。

MS-06D ザク・デザートタイプ

そう、この機体は砂漠戦用に特化した機体で武装は120mmマシンガンとヒートホーク、そして腕に装着された3連有線型ミサイルを装備している機体だった。そしてその背後には2機のMS-06J ザク陸戦型がマシンガンを持ち追従していた。そのうち1機はセンサー系統を強化し索敵性能を向上させたタイプのようだった。
彼らは先日この付近で消息を絶った2機のザクを捜索していたのだ。正確に言えば彼らの任務は途中からザク2機を破壊した敵の正体を探ることに変わっていた。なぜなら消息を絶った2機はここからすぐ近くで発見できた。

戦闘に破れた敗者の姿、残骸として。

すぐに本部へ報告し、返ってきた命令が『ザク2機を破壊した敵の正体を探れ』とのことだったのだ。当然本部もルッグン等の偵察機を索敵に出るよう命じたが、現地に到着するにはまだまだ時間がかかるのだ。そんな訳で3機のMSは付近を警戒しつつ何かないか捜索しているのだった。

「こちらヒュング2、付近にこれといった異常はないみたいだ」

「こちらヒュング1、了解した。引き続き警戒を怠るな」

「こちらヒュング3。隊長、どう思いますか? ザクを殺った犯人。あの残骸では大口径砲の直撃を受けたような感じがします。もう1機のほうは背中から多くのロケット弾か何かで撃破されたような感じでしたし」

「それは私も考えた。恐らく油断して背中を向けていたザクに自走砲とロケット部隊による直接照準射撃をおこなったのではないかと私は考えている。だがそれだと疑問点もでるんだよなぁ」

「ええ、この付近に連邦のめぼしい部隊はいなかったはずです。しかも直接照準したにしろ命中率が高いと言わざるをえません。よほどの熟練兵で無い限りは・・・ですが仮に熟練兵の少数のゲリラだとしてもおかしいんです」

「ああ、なぜ貴重な熟練兵をこんな僻地でゲリラ戦をさせるのかということだな。だいたい少数のゲリラ部隊がMSを2機も相手に戦うということ自体不可思議なものだ。まとまった数のゲリラならMSを襲撃するだろうが最低でも2~3個小隊は必要不可欠だ。かといってそんな規模が動いているんならやられたザクも少しは敵を破壊しているはずだ。だがその痕跡が全く無いときている」

「謎が謎を呼ぶってやつですかね?」

「だがどんな手品でも種はあるもんさ。俺達観客には分からないだけでね」

「さしずめ俺達は探偵ってとこですかね・・・ん?」

「どうしたヒュング2?」

「いえ、何かセンサーに反応が・・・2時の方角です。すぐ消えましたが」

「・・・各機2時の方向にセンサーを集中させろ、戦闘準備」

「もしかすると大当たりですかね、隊長?」

「かもしれん、トリックの正体を拝ませてもらうか」

そうして慎重に3機のMSはセンサーに反応のあった方向へと進んでゆく。そして・・・

「こちらヒュング3。隊長、反応がでました。距離2万です」

「ああ、こちらでも確認した。しかしこいつは・・・!? 未確認のレーザーの照射警報だと!? 全機散開、急げ!」

そういって散開した直後、先程まで3機が立っていた地点を砲弾が通り過ぎていった。そして敵が発射した地点と思われるところをモノアイの倍率を上げて調べていくといくつかの車両が確認できた。だがそれは彼らが見慣れていた61式戦車や自走砲といったものではなく、彼らが初めて見るものだった。

「なんだ? あの戦車と自走砲を合体させたような車両は?」

「腕がある戦車ってありましたっけ?」

「・・・試作機か出来損ないか? まぁいい、各機散開しつつ攻撃をするぞ」

そうして彼らは敵との距離をつめていく。敵は3台おり、途中何度か砲撃されたがレーザー照射を感じるとすぐに回避に移った為、砲撃のことごとくが外れていった。その射撃の腕前はお世辞にも上手いとはいえなかった。

「こちらヒュング3。マシンガンの射程内だ、攻撃する」

「こちらヒュング2、センサーにまた何か感じ・・・! 3、回避しろ!」

「え?」

その言葉がヒュング3の最後の言葉となった。彼のJ型は胴体を貫通され、次の瞬間崩れ落ちた。そしてその攻撃は目の前の出来損ないからの攻撃ではなかった。

「な・・・ヒュング2、どこから攻撃したか分かるか!?」

「ちょっと待ってください・・・9時の方向です!」

その方向をみると、巧みにカモフラージュされているが1台の車両が見えた。どうやら位置がばれたと分かるとそれは突然動き出し、その全貌を明らかにした。そしてそれはヒュング1が最近報告書で見たばかりの代物だった。

「何・・・あれはキャリフォルニアベースで確認されたXT-79とかいう駆逐戦車だ!」

「なんですかそれは?」

「言葉の通りだ。MSを駆逐する為に作られたと推測される連邦の試作戦車だ。主砲はレールガンでザクの装甲を簡単に貫通しちまう。おまけに正面と上面の装甲がやたら硬いそうでマシンガンじゃ破壊できんそうだ。後はレーザー照準以外にも光学照準による攻撃が可能な車両だ!」

「げ・・・そんなやつどうすればいいんですか? 幸いこの周囲に敵の反応はこの4台しかいないようですが、こっちがちと分が悪いですよ」

「大丈夫だ、あいつの装甲はたしかにやっかいだが側面とかは紙同然らしい。まず駆逐戦車を潰す。ヒュング2はあの駆逐戦車を破壊しろ、俺はその間出来損ないをやる」

「了解しました、幸運を!」

そう言って2機はそれぞれ分かれていった。このうち隊長の乗るデザートタイプはジグザグに走りながら出来損ないとの距離をつめていった。当然敵は射撃をしてくるものの、フェイントをかましたり遮蔽物を利用したりした為に命中した弾は無かった。そして一定の距離に到達するとデザートザクは腕に装備されていた3連ミサイルを発射した。当然のことながら有線誘導する暇も無かったので有線を切り無誘導での発射だったが、出来損ないは機動力が悪いらしく3発の内1発が1台の出来損ないに直撃した。その出来損ないは破壊できなかったものの、背負っていた2門の砲が損傷し、砲撃ができなくなってしまった。その損傷した機体にデザートザクは急速に接近し、マシンガンを叩き込み破壊した。意外と装甲が厚かったのか多くの弾を叩き込むことになったが残りは2台、だが1台破壊したことで気が緩んだのか隙ができ、次の瞬間彼のデザートザクに激しい衝撃が走った。彼は慌ててモニターに目をやると左腕が肩の部分から下が破壊されていた。幸いマシンガンを持っていたのは右手だったので戦闘に大した支障は無かったが、それでも両手でしっかりと持って撃つのに比べたら若干命中率が悪くなるのは当然のことだった。そして左腕が使えないということは、マシンガンの弾が切れても予備のマガジンに変えることができないということでもあった。幸い残弾はまだ半分近く残っているが、出来損ないを1台破壊するのにマガジン半分を使用したことを考えれば無駄遣いはできない。
そして彼は1台の出来損ないに向かって射撃を開始した。距離があるので破壊はできないだろうが彼の狙いは違うところにあった。

RTX-44 コックピット

「糞! 頭部センサーがやられた! こちら1号車、3号車バックアップしてくれ。こっちは頭部センサーがやられ・・・げ、右肩キャノン砲も損傷した。バルカンで牽制するがこちらは戦力として見なさないでくれ」

「こちら3号車、了解しました。ですがこちらも残弾僅か、腕のロケット弾は先日ザクを破壊した時に撃ち尽しまし・・・」

「ああ、腕部ロケットランチャーか・・・弾切れしやすいのを何とかして欲しいよな・・・糞、あたらねぇ! バルカンは多少は当たるが対人用だからセンサーとかに当たらない限り効果は少ない。だいたい支援のXT-79はどうした!?」

「さっきから呼びかけても応答がありません。恐らくは・・・」

「撃破されたってことか・・・3号車、周辺を警戒しろ! 恐らくXT-79を殺った奴がどこかにいるはずだ。挟撃されたらこっちの負けだ、なんとしても探し出せ!」

「了解、しかし支援用のホバートラックがいないのはきついですね・・・本部は何考えてんだか」

「大方正面装備のみに目がいっちまってるんだろ! 糞、また外れた。ジオンは精鋭が多いって聞いたが本当だな糞!」

そうこうしているうちにマシンガンが弾切れになったのか、デザートザクはマシンガンを放棄してヒートホークを構えた。だがただ放棄したわけではなかった。RTX-44に向かってマシンガンを放り投げたのだ。当然ながらそれなりの重量の物をそれなりの速度で投げたら立派な武器となる。RTX-44のパイロットはこの行動に驚いた為回避するのが遅れた。当然だろう、どんな教本にもそんな戦術は書いてないのだから。かくして投げつけられたマシンガンはRTX-44に当たり、パイロットはその衝撃で揺さぶられた。そして衝撃から立ち直った彼が最後に見た光景は、ヒートホークを振りかぶり、勢いよく振り下ろしたデザートザクの姿だった。

「な、隊長! 畜生、落ちろ!」

そう言って3号車は低反動キャノンを連射するが、すぐにデザートザクは死角に入られた。RTX-44の欠点は上半身がある程度しか旋回しないということだ(史実のガンタンクでは全く旋回しない)その為キャタピラを使って旋回しないとすぐに死角にはいられるのだった。そしてデザートザクを再び照準器の中に捕捉した彼は射撃スイッチを押そうとして、そこで背後からザクのマシンガンを受けて絶命した。

「隊長、大丈夫ですか?」

「ああ、左腕を持っていかれたがなんとかな。そっちはどうだ?」

「こっちは無傷です。地形を利用して背後にまわったんですが、割とあっさりと始末できました」

「そうか・・・しかし連邦も無能の集まりではないな、このような兵器を作るとは」

「ええ、ヒュング3がやられるなんて・・・いい奴だったのに、畜生・・・」

「だが連邦もまだまだみたいだ、本来なら指揮車両か何かがいなければならないはずだ。我々にもいえるがMSの指揮をする車両がいれば効率的な戦闘が可能になる。正直なところもし敵に指揮車両がいれば我々が返り討ちになっていた可能性が高い」

「・・・そうですね、その点に関しては幸運でしたね。 ・・・この戦いきつくなりそうですね」

「ああ、そうだな・・・帰還して本部へすぐに連絡しよう。この残骸を回収してもらわないとな」

そういって2機のザクは撤退していった。数日後に回収にきた部隊が目にしたのは若干の戦闘があったという形跡だけで、連邦の新型とヒュング3のザクの残骸は跡形も無く消えうせていた。そしてジオンの手元に残っていたのは交戦したザクの機体に残っていた戦闘データのみだった。
※ 本SSで登場した水中でのビーム兵器の使用についてはギレンの野望等のゲームをベースにしました。(ゲームでズゴックとかガンダムとか水中でビーム乱射しまくってたし量産型グラブロ(プランのみ)では機首にメガ粒子砲を搭載させる計画らしいので)
このことに対する突っ込みは混乱を避ける為にできるだけ無しの方向でお願いしますm(_ _)m
また、対潜ミサイルですが、ウィキ等で書かれている通り『対潜「ミサイル」と呼称されるが、実際には無誘導のロケット弾である場合が多い』(幾分省略)とあるのでミノフスキー粒子散布下でも使用は可能としました。



[2193] 第11話
Name: デルタ・08
Date: 2006/11/07 11:50
漆黒の宇宙、そこを数隻の艦隊が進んでいた。この艦隊は地球への補給物資を輸送すると同時に最近補給路に出没する連邦艦隊を可能なら捕捉・撃滅する為に派遣された艦隊だった。その内容は旗艦であるチベ級重巡洋艦1隻とムサイ級軽巡洋艦5隻、パプワ級補給艦3隻にコロンブス級輸送艦が2隻が混じっていた。
ここで多くの人が疑問に思うだろう。なぜ連邦の艦であるコロンブス級がジオンの艦隊に混じっているのかと。
その答えは簡単だった、このコロンブスは鹵獲された艦だからだ。戦争初期に各サイドに駐留していた艦隊の中にコロンブス級が存在しており、ほとんど戦闘力を持たないコロンブス級は戦が始まっても港に係留されており、そこを鹵獲されたのだった。それにパプワ級と比べて搭載量が多いのも使用する大きな要因だった。(最も船舶数が足りないために使えるものは何でも使いたいというのが本音だが)

チベ級重巡洋艦 レギオン艦橋

「提督、そろそろデス・ポイントです」

「ああ、警戒を怠るな。直掩のMSを発進させろ」

そうして艦隊から直掩用のMS-06F ザクⅡF型3機と索敵用のMS-06E ザク強行偵察型1機が発進した。なぜ直掩が発進したかというと、今艦隊が進んでいる宙域に原因はあった。この宙域はカタリナ戦役をはじめとする戦いで破壊された残骸が集まる宇宙のサルガッソーとでも言うべき場所なのだ。そのせいで見通しが悪く敵を発見したときはすぐ至近距離だったということも珍しくは無かった。そして最大の問題は、この宙域は地球へのジオンの有力な補給ルートだったからだ。だが最近この暗礁を利用したジオンの船が行方不明になっていた。その数は少なくなく、つい最近では警戒にでていたムサイ級1隻が行方不明になり、調べたところ暗礁の仲間入りをしているのが発見された。その為この補給路を通る艦はこの暗礁宙域をデス・ポイントと呼んでいた。そこを艦隊は撃破された艦船を調べながら進んでいった。

「それにしても妙だな・・・見つかる残骸は皆友軍のものばかりで襲ってきた敵の残骸が見当たらない」

「戦艦に襲われたというのはないでしょうか? 暗礁に潜んだ戦艦の目の前を横切ろうとして撃沈されたとか・・・」

「だが発見される残骸の破壊方法は実弾のようだ。ビームならもっと周囲が溶けていなければならない。それなら待ち伏せしていた戦闘機に襲撃されたというのが一番説明がつく。だがそれなら沈められたムサイが何機か撃ち落していてもおかしくは無い」

「あのムサイの状態はひどいものでした。艦橋は無くかろうじて胴体のみが原型を止めていたくらいですからねぇ・・・もっとも艦底部はほとんど無傷のようでしたが」

「うむ・・・しかしそうなるともっと防御力が欲しいものだな・・・」

「は? ですが提督、チベ級なら連邦のマゼランともやりようによっては渡り合える性能を持ってます。そうそう遅れを取ることはないかと・・・」

「違う、そういうことではない。いつまでもMSは我が軍だけの専売特許とは思わぬことだ。そのうち連邦のMSも出てくるだろう、その時艦自体の防空能力が今のままだと不安があってな」

「ああ、そういうことですか・・・ですが連邦がMSを開発する頃には我が軍が勝利しているでしょう」

「・・・本気で言ってるのかね? もしそうなら仕官学校をやり直してきたまえ。それに今すぐMSを開発しなくても連邦はMSを投入することは可能だと私は思っている。この戦争が始まって我が軍は少なくない数のMSを損失している、この中には当然連邦に鹵獲された機体もあるだろう。それを使用してこないとも言えないだろう?」

「ああ、たしかに・・・ですがそれなら我がMS隊で駆除できるはずですよ」

「・・・艦長、本気で士官学校に戻ってみるかね? 何も真正面から仕掛けなくても、暗礁の影から不意打ちをすればいいのだ。残念ながらチベにしろムサイにしろ対空砲火を向けられる範囲には限りがある。砲を向ける前に攻撃されればこちらの負けだ。その点VFの新造艦は素晴らしかったな、防空護衛艦ヘッジホッグ級・・・名前の通りハリネズミといえるあの艦が船団護衛につけば輸送船団の生還率はぐっと上がる」

「VFですか? あのガルマ様の指揮する地球方面軍の主力部隊の?」

「そうだ、元々VFはツィマッド社の兵器試験部隊だからいい兵器を持っている。事実この艦隊にもヅダや、増加試作分のプロトリックドムが1個小隊本艦に搭載されていることからも彼らの兵器の有効性がわかるだろう」

「ですが所詮試作機ですよ。プロトリックドムにせよ本格配備されるような代物じゃありませんし、第一乗っているパイロットはついこの間までザクに乗ってた者達なのですよ・・・だいたいツィマッド社もVFを作る余裕があるならヅダとかをもっと前線に回して欲しいもんですよ」

「だがそのVFも先月大西洋で手酷い歓迎を受けた。新型MSが2機木っ端微塵で他の機体も損傷し部隊は今も再編成中らしい。もっとも航空隊が出撃しなかった為に損害が増したという話だったが・・・」

「おかげでアフリカの空軍基地司令は左遷されたそうじゃないですか。空襲をしなかった為に味方にいらぬ損害を出したということで・・・まぁ基地司令はキシリア派の人間ではないし図に乗っていたVFも痛い目を見たことだしいい気味です」

「なんだ、艦長はVFが気に食わないのか?」

「・・・正直なところ気に食わないですね。元々地球方面軍はキシリア様の突撃機動軍の麾下でしかなかったのに連中のせいですでにキシリア様の手を離れているのですから。大体1企業がでしゃばりすぎなんですよ。そりゃ私兵はキシリア様も使っているからいいですが、それならキシリア様に最大限の協力をするべきなんですよ! それに・・・」

そして文句を言う艦長を尻目に提督は考えこんでいた。

(・・・やっぱり艦長は筋金入りのキシリア派か、表向き私は中立だが本当はダイクン派だから馬が合わないのは当然か。しかしVFのおかげでガルマ派はダイクン派に近い存在だから私としては歓迎すべきことだが、あの一件はどう考えても策謀だな。空軍基地司令の左遷後に居座ったのはキシリア派の将校だからマ・クベあたりが画策したのだろう。潜り込ませていた情報員が情報をわざと止めてVFに打撃を与えると共にキシリア派ではない空軍基地司令の左遷を実行に移したってところか・・・)

「提督、眠気覚ましのコーヒーでもどうぞ。艦長もどうですか?」

「お、参謀。ありがたくいただこう」

「気が利くじゃないか参謀。だがブラックはあまり好かないがな」

「文句言わないでくださいよぉ艦長~・・・あ、そういえば提督。ツィマッド社に対抗して他の会社が軍に新型艦の建造を提案していましたね」

「ああ、ありがとう参謀。その話は私も耳にしている、護衛空母や巡洋戦艦とかを提案しているそうだな。巡洋戦艦はともかく護衛空母は今後確実に必要となる艦だろう」

「でも護衛空母といっても何機搭載できるかによって話は変わってきますね。ツィマッド社が建造しているムサイS型はMSを6機搭載し、戦闘力も通常のムサイを上回っています。それを考えると最低でもMSを12機、欲を言えば30機搭載の護衛空母が欲しいですね」

「だが30機というのは無理だろう。ツィマッド社が建造しているガニメデ級高速空母ですらMSを30機積むのがやっとなんだからな。それなら15機ほどMSを搭載し、その周囲をムサイ2隻くらいで船団をエスコートするのが一番よさそうだろう。ジオンが制宙権を握っているところはあまりにも広大だからその警備をする艦艇の数が足りんし、そもそもMSパイロットも育成しなくてはならん。それに・・・」

そこまで話したところで、偵察にあたっていたMS隊より報告があった。

『敵艦隊発見』と・・・

その報告を受けた後から艦隊は忙しくなった。なんせ艦隊に残っているMS計15機を緊急発進させるのだから・・・報告によれば敵は旗艦と思われるトラファルガ級全通甲板型支援巡洋艦1隻にサラミス級巡洋艦2隻、コロンブス級輸送艦3隻が暗礁に身を隠しているとのことだった。これに提督は厳しい顔をした。

(サラミス級はいいとしてトラファルガ級にコロンブス級が3隻だと? 艦載機の発艦はまだ確認されてないようだが・・・いや、ここはすでに艦載機を発艦させてあると考えた方が無難だな。だとすると本艦隊の周囲にすでに布陣している可能性が高いか・・・)

そこまで考えた提督はMSを防空に全て回して敵艦隊は砲撃戦で沈めることにした。

「全艦砲撃戦準備! これより本艦隊は艦隊戦に移行する。MS隊は周辺警戒を怠るな!」

そしてその方向で皆が動こうとした時、待ったがかけられた。

「提督、その考えには賛同できません!」

「・・・なぜかね艦長? 敵艦隊の中でまともな砲撃能力をもっているのはサラミス級2隻のみだ。砲撃戦ならこちらに分があると思うが?」

「こちらにはMSがあるのですよ? なぜそれを積極的に使わないのですか!? MSで敵を叩けば艦隊を危険にさらすことはありません!」

「艦長、敵にはトラファルガ級にコロンブス級が3隻もいることを失念しているようだな。トラファルガ級だけでも戦闘機を60機搭載できるのだぞ。おそらくコロンブスも戦闘機を搭載しているだろう。少なく見積もってコロンブス級に20機ずつ搭載していたとしても120機はいるということだ。 ・・・もう分かったかね? つまりあの艦隊は我々に狩られるのを待つ生贄の羊ではなく、羊の皮をかぶった狼・・・機動部隊なのだよ。その戦力は侮れん」

「ですが敵はまだ艦載機を発艦させてません! 今は全力で敵艦隊を攻撃すべきです!」

「MSを出撃させ艦隊周囲をがら空きにしたところを襲撃されたら我々も只ではすまん」

その後しばらく口論が繰り広げられたが、結局半数の9機、3個小隊を攻撃に向かわせることで決着がついた。その内の1個小隊は艦隊に2個小隊しかないヅダで編成された熟練パイロットの小隊だった。そして準備が整い攻撃隊が敵艦隊へ向かおうとした時、敵艦隊を見張っていたザク強行偵察型からその報告は入った。

「敵トラファルガ級より戦闘機発進、機種はセイバーフィッシュ。数は現在30を超え、敵艦隊周辺で陣形を整えつつある。またコロンブス級3隻は後退しつつある」

この報告が入った時、またしても提督と艦長の口論が発生した。この動きはこちらを完全に察知している証拠だという提督と、艦隊直掩にあたっているMSを使い攻撃隊のエスコートをさせようという艦長だった。どちらの言い分もうなずかせるものがあり、結論を決めかねていた。だがその直後に悲報は飛び込んできた。

「大変です! 敵艦隊を見張っていたザク強行偵察型が撃墜されました!」

そう、艦隊の索敵機だったザク強行偵察型が撃墜されたのだ。これによって艦隊は敵艦隊の動向を探ることができなくなった。結果として攻撃隊は予定通り出撃、敵直掩機を撃破後に敵艦隊を攻撃することになった。その為2個小隊のザクF型はバズーカの他にマシンガンを持つフル装備状態で出撃することになった。そして・・・

「攻撃隊より連絡! 『敵直掩機を撃破、これより敵艦隊へ攻撃を開始する。現段階でのこちらの被害はザク2機撃墜、1機中破』とのことです」

「むぅ・・・1個小隊がほぼ壊滅か」

「だから言ったのです! 全てのMSを投入すれば彼らはやられなかった可能性が高いのにあなたは・・・」

だが彼の言葉は途中で遮られた。なぜならチベ級の船体に直撃弾を食らったからだ。

「う、右舷上部に被弾! 右舷対空砲が一部破損!」

「くっ、どこから攻撃された!? 直掩のMSは何をしている!」

彼等はダメージから攻撃してきたのが戦闘機だと判断した。だが攻撃をしてきたのは戦闘機ではなく、ある意味では彼らが見慣れたものだった。

「敵を確認! あれは・・・作業用ポッド!?」

「作業用ポッドを戦闘用に改造したのか」

そう、連邦は作業用ポッドを戦闘用に改造したのだった。そして襲ってきた作業用ポッドは2機種だった。

1つは艦隊に砲撃をしている180mm低反動キャノン砲を1つ装備する機体、後に形式番号RB-79 ボール と呼ばれる機体。そしてもうひとつは艦隊の直掩MSに攻撃をしている作業用アームとサブアームを持つ機体、RB-79K 先行量産型ボールだった。最も先行量産型の武装は2連装180mmキャノンや50mm連装機関砲、はては50mm4連装機関砲等、武装は統一されてはいなかった。そしてこれまで戦闘艦や戦闘機相手だったジオンのMSパイロットにとっては初めて遭遇したボール達は厄介な相手だった。なぜならこれまで真横や真上、真下に真後ろに移動できる敵を相手にしたことは無かったからだ。だがそれだけなら若干の戸惑いだけですぐにその機動に慣れるはずだった。問題はその数と、何より不意打ちということが大きく響いており、既に2機のザクが大破ないし中破の被害を受けていた。そしてボールの群れは艦隊の全方位から出現してきた。それらは全て薄汚く塗装されており、中にはわざとデコボコにした機体もあった。

「対空砲、何やっているんだ! さっさとあれを叩き落せ!」

「無茶言わないでください、この回避運動中に正確な照準は不可能です! MS隊も輸送艦の護衛に回っていますし、今すぐあの大群を始末するのは無理です!」

「やられたな・・・デブリに偽装していたということか。この数だと敵のコロンブスが載せていたのはこいつ等だったのか」

そう、この場にいるボールの群れは連邦のコロンブス級2隻に積まれていた部隊だった。それぞれ24機ずつ、2隻合わせて48機のボールの群れがこの艦隊を襲っていたのだ。そしてジワジワと損害が大きくなっていった。

「大変です! 巡洋艦『チャメル』艦橋被弾、艦長以下艦橋スタッフは全滅とのことです!」

「パプワ級『カルン』搭載していた弾薬に誘爆し爆沈!」

「巡洋艦『エメル』第2、第3砲塔に被弾、主砲発射に支障がでているとのことです」

「主砲、発射準備急げ。射撃準備が整い次第敵の近くのデブリへ向けて放て、デブリに隠れている敵をあぶりだすんだ」

「く、連邦め・・・デブリに偽装とは卑怯な・・・」

「戦争に卑怯もくそもないと思うがな・・・しかしこの規模に加えてデブリに偽装して待ち伏せするとは・・・この分だとどこからか情報が漏れていると考えたほうが無難だな、親連邦のコロニーからか?」

その言葉を発し終えた時、大音響と共に艦が激しく揺さぶられた。

「一体どうした! 今の衝撃はなんだ!?」

「ほ、報告します! 敵弾が本艦の格納庫に命中、置かれていたMSの予備弾薬等が誘爆しました!」

「ダメコンを急がせろ、被害はどうなっている?」

「はい、格納庫は使用不可能です。現在大火災が発生しており一部で機密漏れが生じています。艦全体の被害としては今の衝撃で電気系統がいくつかやられており、後部メガ粒子砲と左右の機銃座のいくつかが使用不可能な状態です! ですがそれ以外には戦闘に支障はありません!」

「分かった、ここが踏ん張りどころだ。各員一層奮励努力せよ!」

そうこうするうちに大きな損害は出たが、形勢は徐々にジオンへと移っていった。それも当然だ、元々ボールは機動性が悪く、これまでMSと互角に戦っていたのは数がMSの5倍近くであった為、数で押していたに過ぎなかった。そして残っているMSはザクより機動性が上のヅダにプロトリックドムだった。徐々に戦力差は4倍、3倍と減っていき、ついに敵は10機足らずとなった。この時になって撤退しようとしたのか、ボール達は一斉に艦隊から離れようとしたが、機動性に優れるヅダとプロトリックドムによって阻まれ、更に連邦艦隊を襲撃しに行っていた部隊もやってきたためボール部隊は挟撃された形となり、結局1機も逃げれずにデブリの仲間入りをした。

「・・・ひどいもんだな。攻撃に行った部隊は1機のヅダと3機のザクが撃墜、1機のヅダと2機のザクが小破ないし中破ときた。コロンブス級は取り逃がしたがトラファルガ級とサラミス2隻を撃沈。だがその代償はパプワ1隻沈没、本艦とチャメルが大破、他3隻が小破ないし中破し、MS隊にいたってはザク強行偵察型をはじめにヅダ2機、ザク3機が撃破、ザク2機が大破、プロトドムを含め8機が小破ないし中破か。無傷なのはヅダが2機とザク1機か」

「ふぁ・・・ですが敵の通商破壊艦隊の撃破には成功しました(なんだ? 急に眠気が・・・)」

「・・・艦長、敵の母艦だったコロンブス級3隻は全て取り逃がしたのだ。これのどこが撃破に成功といえるのだね?」

「ルナツーでも数が少ないトラファルガ級とサラミス級2隻撃破が成功というところで・・・す」

この答えに提督は頭痛を覚えた。もちろん艦長の言っていることも正しい。だがそれ以上にコロンブス級を取り逃がしたということが提督には重要だった。たしかにコロンブス級に搭載されていたであろう作業用ポッド(正式名称がボールということをジオンが知るのはもう少し後の話で、それまでジオンはこの機体のコードネームをボール(又はカンオケ)と呼び、正式名称が自分たちが仮称していた名と同じことに苦笑することになる)は恐らくその全てをこの戦闘で撃墜したことだろう。だが搭載機は補充すれば(パイロットを確保できればだが)いいだけであり、敵はいつでも通商破壊を再開することが可能なのである。

「・・・どの道これからは今以上にきつくなる。早くザクF型の更新を行って欲しいものだ」

「たしかF型の後期生産版のF2型でしたか? これまでのザクを上回る性能を誇るというふれこみの」

「そうだ参謀、今回の戦いもF2型に機体が更新されていれば被害は少なかったかもしれん。しかしプロトリックドムの特徴、装甲の厚さはすごいものがある。あの胴体をみたかね? かなりへこんでいたが貫通はされていない。簡単な報告が来ているがF型やヅダなら貫通されていたと報告書には書かれている」

「たしかにそうですね・・・ところで、艦長は?」

その言葉に艦長の方を向くと、なにやらそこにはトラファルガ級を撃沈したことで昇進した夢でも見ているのか、にやついた顔で眠る艦長の姿があった。その姿ははっきりいって不気味以外の何者でもなかった。その姿に艦橋スタッフは

『こんなんが艦長って・・・士官学校はどんな教育してるんだ?』

『これでいいのかジオン軍?』

『ってか戦闘直後に眠れるとは・・・どれだけ神経が図太いんだ?』

と思ったが口にはしない。触らぬ神にたたり無し。もっともこの艦長、書類整理では艦隊で一番の処理能力を持っており、その為だけに艦長職にいたりする。だが次の瞬間、小声で参謀が呟いた言葉に艦橋スタッフ一同は硬直した。

「・・・やっとうざいのが眠ったか。コーヒーにいれたのがようやく効いたみたいだな」

・・・どうやら参謀、この艦長がうるさいので艦長に手渡したコーヒーに睡眠薬を入れていたらしい。そしてその場にいた全員は今の呟きを聞かなかったことにした。

「・・・(汗)ところで参謀、敵の残骸の回収は順調か?」

「ええ、とりあえず6機分の残骸を回収しました。もっともそれで復元できるのは1~2機と思われますが・・・」

「かまわん。それと早急にMSの修理を完了するように通達してくれ」

「は? ですが通商破壊を行っていた部隊は撤退したのでは?」

「気になることがあってな・・・3隻のコロンブス級がいたのに襲撃してきたのは50機ほどのポッドだ。3隻分にしては少ない気がしてな。可能なら追撃したいし、それに・・・嫌な予感が消えないのだよ」

「嫌な予感ですか・・・ですがそうそう当たることは・・・」

「残念だが・・・戦いの後に生じる私の嫌な予感はかなり正確なのだ。この嫌な予感がした後はろくなことが起こらん。カタリナ戦役でも嫌な予感がした数分後にトリアーエズの特攻を受けた」

「それは・・・分かりました、すぐに通達します。後無傷の3機を直掩にあげておきます」

「頼んだ。整備班には苦労をかけるな」

「それが彼らの仕事ですよ」

その後艦隊が暗礁宙域を抜けた頃にはMS隊は大破した2機を除いた11機が応急修理され発進できるようになっていた。もっともプロトリックドムは装甲がへこんだままであったが・・・そして暗礁宙域を抜けたところで先ほど取り逃がしたコロンブス級3隻を捕捉した。


「提督、さきほど取り逃がしたコロンブス3隻です! 今からMS隊を発進させれば撃沈できますよ」

「そのようだな、各艦へ通達! MS隊発進を急がせろ」

「提督、我々はどうしますか?」

「大破した艦が3隻もいるのだ。ここはMS隊にまかせるしかあるまい。だが気を抜くな、いつでも砲撃できるように準備しておけ」

「了解しました。それと提督、先程ソロモンから連絡があり地球に物資を投下した後はソロモンへ寄航し、そこで艦の修理を行うようにとの通達です。その時に今回回収した敵兵器も引き渡すことになりました」

「ふむ、わかった・・・MS隊の発進状況は?」

「はい、ザクとプロトリックドムは全て発進し、残るはヅダ2機のみ・・・あ、今全ての発進が完了しました。それと・・・先程の戦闘の影響でプロトリックドムの予備のマシンガンが尽きたので試作品として受領した装備の中にあったMMP-78型マシンガンをプロトリックドムに配備しました。これは受領当事、置き場所が無かった為核兵器保管室に入れていたので格納庫誘爆で破壊されることを免れたものです」

「なにが幸いするかわからんな」

「全くですな。っと、そろそろMS隊が攻撃圏内に到達します」

その言葉でモニターを見る艦橋スタッフだが、その直後に事態は急変する。

追撃をしているMS隊の先頭を行くのはヅダ4機で、その後をプロトリックドム、ザクというふうに並んでいた。そして異変に気がついたのは先頭を行くヅダのパイロットだった。3隻いるコロンブス級のうち1隻から何かが射出され、それは凄まじい速度で真っ直ぐにこちらへ向かってきた。てっきりその速度と大きさから対艦用の大型ミサイルと判断したヅダのパイロットは迎撃の為マシンガンを構えたが、次の瞬間機体を撃ち抜かれて爆発した。そしてソレはあたり一面にチャフとフレアをばら撒きながらMS隊を突破していった。

「な!? ケティルが殺られた!」

「あれは大型ミサイルじゃないのか!?」

「敵の新型機か! だがミノフスキー粒子散布下でチャフをばら撒くなんてどんな意味があるんだ?」

「各機落ち着け! 全MSに通達、あの不明機を叩き落せ!」

「ですがあれだけ高速ですとバズーカでは当たらないかと・・・マシンガンを装備しているMSは半分以下ですよ!?」

そう、出撃したMSのうちその半数がバズーカ装備だったのだ。バズーカは対艦戦では威力を発揮するが高速で移動する目標相手だとその弾速のせいで当たりにくい。速度が速い敵には弾をばら撒けるマシンガンのほうが有利なのだ。そしてマシンガンを持つ機体は全てが不明機へと照準を合わせ、一斉にマシンガンを放った。だが不明機は更に加速し、マシンガンの弾幕をかわしていった。

「なんだあの加速力は、あんな速度はヅダでもだせないぞ!?」

「糞、チャフとフレアのせいで照準がしにくい・・・ええい、小賢しい!」

「落ち着け、今度こっちに来るときにバズーカを含めて射撃すればいいのだ・・・敵機は今旋回中だ、どうやら旋回中は速度を落とさねばならんようだな」

「みたいですね・・・ん? こっちにこないぞ、どこに向かって・・・げ! 艦隊の方に向かっていやがる!」

そう、不明機は旋回すると今度は艦隊の方に突撃してきた。これに慌てたのはMS隊である。いくらコロンブスを沈め不明機を撃墜しても帰るべき母艦が沈められたら洒落にならない、救助の艦がこなければ確実に死ぬからだ。
だが慌てて艦隊の護衛に向かおうとしたプロトリックドム1機が次の瞬間に突然爆散した。これに驚いた各MSが周囲を見渡すと、そこにはバズーカを構えたザクがいた。はじめは味方の誤射かと思ったがよく見ればその機体の周囲にはマシンガンやバズーカを構えたザクや旧ザクがいた。そう、この艦隊には搭載されていないはずの旧ザクが混じっていたのである。その数は5機で、しかも見慣れない盾まで装備していた。ここまで分かればもう結論はでている、これは敵だと・・・気がつけば艦隊のほうへと向かっていた不明機もUターンしてMS隊に向かってきていた。


レギオン艦橋

「ザクだと・・・そうか、敵の残骸が無かったのは味方の振りをして近くまで近づき不意打ちしていたのか。それに万が一やられても味方の残骸として処理されるだろうからな・・・」

「提督、あのザクの識別ができました。あの機体はブリティッシュ作戦、及びカタリナ戦役で撃墜されたと判断された機体ですが、旧ザクの方は所属がわかりません。後不明機の簡単な分析が終了しました、これをごらんください」

そういってモニターに映し出されたのは不明機の静止画像だった。それは弾道ミサイルに戦闘機をくっつけたような形をしており、機体の下部にはレールガンらしきものが取り付けられていた。

「これは・・・対MS用の戦闘機か?」

「おそらくそうだと思われます。武装がこのレールガンとチャフ・フレア発射機のみということから推測すると一撃離脱戦法に特化した機体と思われます。ですが急造の機体のようで、旋回の際には速度を落としているので狙うとしたらそこかと・・・」

「なるほど・・・コロンブスはどうしている?」

「それが・・・一目散にルナツー方面に撤退しています。もしかしたらあのMSは必死隊なのかもしれません」

「ふむ・・・このまま戦闘が長引けばコロンブス級といえども逃げられるな」

「ええ、今の距離でも追撃するにはきついものがあります。ここは諦めるのもひとつの手かと・・・」

「分かった。各MSへ通達、現時点を持って敵艦隊追撃を終了し敵機動兵器を殲滅せよ」

だがこの時点で友軍MSは更にザク1機を落とされ、MS同士の乱戦になっていた。しかもヅダは高速で飛び回る敵機に対処するのに手一杯で鹵獲されたMSに対する攻撃はプロトリックドムとザクのみに限られた。だがそれでも敵の旧ザク1機を撃破し、残るはザクC型が3機と旧ザク1機のみとなっていた。だが相手のパイロットも只者じゃないのかなかなかバズーカが当たらない。マシンガンによる攻撃は相手の持つ盾に吸収され効果はでていない。どうやら相手はザクを改造したらしく、機動性が上昇しているようだ。

「くっ・・・連邦め、ザクCの対核装備をはずしやがったのか? 機動性がC型のものとは違うぞ!」

「敵の機動性はこのF型に匹敵しますよ。それにしても盾がうざいですね」

「ああ、全くだ。真正面からの戦いだと盾を持ってる相手の方が有利だ。それに悔しいが連携も取れていやがる」

「ちっ、このままでは埒があかん。何かいい手はないのか、何か手は・・・」

「レギオン1、考え事はいいが落とされるなよ」

「糞! バズーカの弾が切れた、接近戦に持ち込むので支援を頼む!」

「こちらエメル2、了解した。エメル3へ、バズーカで支援射撃する」

「こちらレギオン2、マシンガンの弾が切れた! この試作品性能はいいが予備のマガジンが無いっていうのはきついぞ!」

「無駄弾をばら撒くからだ。だいたい・・・待てよ、そういえば・・・レギオン2、ついて来い! 一旦母艦へ帰還するぞ」

「はぁ!? ちょっと待て、こいつらどうするんだよ!」

「エメル2、一時的に指揮権を渡す。俺達が戻ってくるまで現状を維持してくれ」

「・・・その様子だといいアイディアが見つかったのか?」

「ああ、うまくいけばな」

「じゃあ任されよう。だがすぐに戻ってこいよ!」

「了解した。 ・・・さて、こちらレギオン1、レギオン応答されたし・・・」


チベ級重巡洋艦 レギオン艦橋

「提督、レギオン1より要請が入ってきています。本艦に搭載されている試作装備を全て格納庫に用意して置いて欲しいとのことです」

「試作装備をか・・・マシンガンの他に受理した装備はなんだったかな参謀?」

「ええっと・・・あ、これですね。新型弾頭を装備したジャイアントバズーカとショットガンが3丁ずつ、後は90mmハンドガンが2つです。これらの資料はパイロット連中には渡してありますから何かいい案でも思いついたのでしょうか?」

「そうだと思いたいな。ではそれらを早急に格納庫まで搬送したまえ、事態は一刻を争うのだからな」

「タイムイズマネー、時は金なりですか・・・たしかに時間は有限ですな、早速手配します」


格納庫

プロトリックドムが格納庫へ入ったとき、未だそこは試作装備の搬送でごったがえしていた。

「こちらレギオン1及び2だ。装備はこれで全部か?」

「いいや、まだ全部運び出していない。今ここにあるのはそれぞれ1セットだ」

「もっと早くできないのか!?」

「無茶をいうな! 本来こういう仕事をする整備兵は先の戦闘でほぼ壊滅してるんだ! 今ここで搬送に携わっているのはMSの装備の搬送には本来関係の無い部署の人間だぞ! だいたい俺なんてコックだ、それが手が空いているからということでかりだされているんだ。こんな短時間で1セットずつ搬送しセッティングできただけでも僥倖ものなんだぞ!」

そう、先の戦闘でレギオンは格納庫に被弾、置いてあった予備のバズーカやマシンガンの弾が誘爆しその時格納庫にいた整備兵は文字通り全滅していた。いまここで試作兵器の搬送に携わっているのは先の戦闘で難を逃れた極小数の整備兵と直接戦闘には関係が無い部署の人間だったのだ。

「・・・すまない。それでは搬送できたやつを教えてくれ」

「ちょっと待ってくれ、今2セット目が届いた。これで今ここに搬送できたのは新型弾頭を装備したバズーカ2つとショットガン1つ、後は90mmハンドガンが1つだ!」

「分かった、それだけでいい。搬送に感謝する! レギオン2、君はショットガンとハンドガンを持ってくれ。俺はバズーカを持つ」

「分かった。だがそのバズーカの弾ってたしか・・・」

「ああ、あの機動兵器対策にはうってつけだ。君は敵MSの相手を頼む」

「分かった、早めにすまそうぜ」


ヅダ隊

「糞、なんて速度だしやがる! この速度じゃマシンガンを撃ってもあたらねぇ!」

「ヘイメル1、そろそろ弾がやばくなってきた。弾の補充に帰還することをそろそろ考えないとやばいぞ」

「・・・そもそもFCS(射撃管制装置)があの速度に対応していないからな。加えて自機も相当な速度を出しているんだ。細かいブレが生じて弾が命中しにくいのは自明の理だ」

「冷静に分析しなさんなって・・・だが本当にまずいぞ」

そう、ヅダ隊は敵の機動兵器の速度に翻弄されていた。なにせこの機動兵器、急造ながら速度は後のMA-05 ビグロに匹敵する速度をたたき出しており、加えてビグロよりも小さい為照準しにくいのだ。(もっともこの機体は安定性が悪く装甲もないので一部の腕のいいパイロットでない限りヅダ等に追跡されたらMSを撃墜するどころではない為に量産はされずに試作機のみが戦線に投入されることとなる)そんな状況の中1機のMSが接近してきた。

「こちらレギオン1だ。ヘイメル1へ、こっちに敵さんを追い込んでくれ!」

「はぁ!? なんでこっちに来ているんだ? 鹵獲機の相手は済んだのか?」

「いや全然。先にこちらを始末してしまおうと思ってな。うまくいけば奴を追い払えるぞ」

「その両手に持っているバズーカが秘策か? ・・・ん? もしかしてそれは例の試作装備か?」

「ああ、そうだ。納得したか?」

「ああ、納得したよ・・・畜生、そういやそれがあったんだった! なんで気がつかなかったんだ俺は!?」

「まぁ俺もついさっき思い出したんだがな・・・それより追い込み頼むぞ」

「ああ分かった。ヘイメル1より各機へ、聞いたとおりだ。奴をレギオン1へ追い込むぞ!」

それから先の行動ははやかった。なんせ敵機を撃墜するのではなく特定の方向に向かわせるだけで済むのだから。こうなると牽制や弾幕で敵の進路を妨害していけばいいだけの話だったのだから。そしてヅダの連携によって敵機はレギオン1の方へと機首を向けていた。

「こちらヘイメル1。レギオン1へ、敵機はそちらへ向かった。撃墜してくれよな」

「こちらレギオン1、敵機を捕捉した・・・撃墜できるかどうかはこの試作装備頼みだ、ちゃんと作動することを祈っておいてくれ」

そういってレギオン1は2つのバズーカの引き金を引き、2つの弾が敵機へと向かっていく。当然相手もバズーカの発射を認め回避に移った。なんせバズーカは直進しかできないのだから射線から外れればバズーカ等脅威ではないのだから・・・だが敵のパイロットは次の瞬間、自分の認識が間違っていたことを悟った。

直進してきたバズーカ弾が突如炸裂、子弾頭が四方へと拡散し散弾の雨にまともに突っ込んだからだ。

当然のことながら予期していない攻撃だったので機体はまともに散弾の雨を食らい、弾道弾を改造したブースターから火が噴出した。こうなると脱出するしかないのだが既にパイロットはコックピットに直撃した散弾で戦死、機体はコントロールを失い回転しながらあらぬ方向へと飛び、次の瞬間機体は大爆発を起こし宇宙の藻屑と消えた。

「ナイスアタック、レギオン1!」

「いや、そちらこそナイスアシスト。しかしこの散弾バズーカ、強力なショットガンってイメージだな」

「ってか途中で炸裂するから相手は普通の弾頭か散弾なのか分からないってのもミソだな。しかし敵さんあっけないくらい簡単に落ちたな・・・俺達のさっきまでの戦闘って一体なんなんだ?」

「それについては不意打ちによる勝利と考えた方がいいぞ。それじゃあ向こうの連中を助けに行こうか」

「OK、了解した。だが弾がほとんどないからヒートホークでの戦闘になると思うぞ」

「なに、ヅダの機動性でひっかきまわしてやったらいいんだ。ただ流れ弾には気をつけろよ」

「俺達に当てない射撃を心がけてくれ」

そう言って4機のMSは未だ戦い続けている友軍の支援に向かった。そしてその向かう戦場では未だに激戦が繰り広げられていた。

「おいレギオン2! こっちは残弾無しだ、まだお宅の隊長は戻ってこないのか!?」

「今敵機を追い込んでいるらしい。後もう少し待てば吉報が入ってくるんじゃないか?」

「っていうか対艦攻撃だと思って予備の弾持ってこなかったのは失敗だったな。まぁあち
らさんも弾切れのようだが・・・この中で飛び道具を持っているのはお前さんだけだ。接近戦を仕掛けるから射撃を頼む」

そういってエメル2の乗るザクはヒートホークを振りかぶり突進していった。本来こういう機動は的となるだけだが、相手も弾薬が尽きて武装がヒートホークのみになっている為蜂の巣にされる心配はなかった。だが相手もヒートホークを構え、盾で攻撃を受け流すとすかさず反撃にでた。だがその攻撃がエメル2のザクに当たる前にレギオン2が放った弾丸が相手のザクに襲い掛かった。レギオン2の攻撃に気がついたザクはすかさず盾で防御するが無理な姿勢で防御した為に反動で機体の姿勢が崩れた。そしてそこをエメル2が再び襲い掛かった。これには相手のザクも完全には避け切れずに右腕を持っていかれ、このザクは後退していった。

「ふぅ、1機無力化するのにこんなに苦戦するとはな。しかも一時的なもので」

「ああ、認めたくは無いが相手は皆相当な腕前だ。こんな連中が連邦にいるなんて・・・」

「信じられんが目の前の事実は消えない、他の奴らを支援しよう」

だがその言葉の直後に1機のザクが敵のヒートホークによって胴体を叩き潰され破壊され、これで戦況は五分五分となった。

「糞! 俺達はザクをやるからレギオン2は旧ザクを速攻で叩き潰してくれ!」

「善処するがあの旧ザクもなかなかの腕前だからどうなるかわからんぞ」

そう言ってレギオン2は旧ザクへショットガンを発射した。これは牽制のつもりで撃った当人も当たるとは思っていなかった。当然相手もこの射撃に気がつき盾で防いだが、その間に距離を詰めることに成功した。

「盾で防ぐにも限度がある。この近距離で耐えられるものか!」

そういってレギオン2はショットガンとハンドガンを連射した。レギオン2が持っているショットガンとハンドガンだが、これは先のレギオン1が使った拡散バズーカを含めツィマッド社が提案・実行した統合整備計画の一環で作られたものだった。統合整備計画はMSの企画部材や部品、装備、コックピットの操縦系の規格・生産ラインを統一する計画だが、その中でMSが装備する装備の開発も推し進められていた。これには試行錯誤がありどのような装備が戦場で役に立つか、どんなものが前線で求められているか等様々な問題がありひとつひとつ手探りで探しているようなものだった。たとえば今もっているショットガンは片手で運用できるセミオートマチック方式だが他にもポンプアクション、ボルトアクション方式のものが開発されている。これはどれが一番戦場で使えるかという競合でもあり今のところはポンプアクション方式が有力だった。なぜ連射ができるセミオートマチック方式が連射のきかないポンプアクション方式に負けているのかは後で記述する。後はオートマチック方式のハンドガンだがこれは射程はザクマシンガンよりも若干劣り、命中精度は上回るといったものだった。当然のことながらザクマシンガンよりも軽量で、これは主に工兵隊や整備兵が使う旧ザクの武装として考えられている。これはかさばるマシンガンを持たずにハンドガンを携帯することで生存性を高めようという試みで開発されたものだ。旧ザクで作業をする時マシンガンは邪魔になるが、持っていないといざ敵襲というときに反撃ができないという問題があるからだ。それで腰の部分に携帯できるハンドガンを装備することで作業効率を落とさずに万が一の時は自衛できることが可能なように開発されていた。もっとも、このハンドガンはその弾丸が次期主力マシンガンの弾を流用している為にハンドガン(拳銃)といっていいかどうか迷うものだが・・・

さすがに盾を持っているとはいえ近距離からこれだけの銃弾を受けたら姿勢制御だけでも難しくなる。だが相手のパイロットはあろうことか盾を構えたまま突撃してきた。

「体当たりか、だがその突撃が命取りだ!」

盾を構えての突撃は友軍の支援射撃があれば有効な戦術の一つだが、援護も無い状況での突撃はただの自殺行為に近い。体当たりに失敗すれば無防備な背後から攻撃をされるからだ。そして体当たりをかわし無防備となった旧ザクの背中に向けてショットガンの銃口を向け、次の瞬間には無防備な背中からの攻撃で破壊される旧ザクの姿を想像しながら引き金を引いた・・・しかし、それは実現しなかった。

「糞、ジャムった!?」

そう、ポンプアクション方式がセミオートマチック方式よりも有力視されている理由はその信頼性であった。セミオートマチック方式はどうしても機構上複雑にならざるを得ない為こういうトラブルが発生するのだ。そして戦場でこういう事態に陥った時は例外無く隙ができるものだった。ショットガンが使えなくなったと判断するやいなや敵の旧ザクは体勢を立て直し、ボロボロになった盾を捨ててヒートホークを構え突撃した。

「なめるな! たかがショットガンが使えなくなっただけだ!」

そう言ってレギオン2は旧ザクめがけてショットガンを投げつけた。投げつけられたほうはたまったものじゃない。とっさにヒートホークでショットガンを防ぐもののその衝撃は大きく、更にヒートホークで切断した為にショットガンに残っていた弾が誘爆し至近距離から散弾を浴びてしまった。この隙にレギオン2は回りこみ、ハンドガンを連射しながらヒートソードを抜いて旧ザクの胴目掛けて薙ぎ払った。旧ザクが気がついたときにはもう手遅れで旧ザクは胴体を2つに分断され、次の瞬間には核融合炉が大爆発をおこした。当然至近距離にいたレギオン2も無傷では済まず、これ以上の戦闘続行は不可能な状態に追い込まれていた。

「くっ・・・こちらレギオン2。エメル2へ、聞こえるか?」

「こちらエメル2、終わったのか? それならすぐに援軍にきてくれ!」

「すまん・・・戦闘続行不可能だ。ダメージが酷い上にモノアイに損傷を負った」

「はぁ!? なんだよそれは!」

「すまん、ヒートソードで切るところを間違えて核融合炉がドカンだ。幸い武器は使えるようだが機体のダメージもかなりのものだ。一度母艦へ帰還する」

「・・・ったく! こっちは互角の戦いなんだ。援軍が来てくれればなんとかなるのに・・・ん?」

「どうした?」

「いや、敵が引いていく。どうしちまったんだ?」

「こちらエメル3、追撃しますか?」

「・・・いや、こっちももうボロボロだ。これ以上の追撃は返り討ちにあいかねん、一旦後退するぞ」

「了解・・・連邦にもできる奴らがいますね。ですがなぜ引いていったのでしょうか?」

「さぁな? 連邦に聞いてくれ」

もっとも、なぜ連邦が撤退したかといえば旧ザクが撃墜される少し前にヅダを相手にしていた機動兵器が撃墜された為、これ以上の時間稼ぎは不可能と判断した為だったが、彼らにわかるはずもなかった。そしてこの会話の数分後にレギオン1ら3機が援軍にやってきた時、彼等はもっと早く来てくれていたらと嘆くがそれはまた別の話。

レギオン艦橋

「・・・手酷くやられたな」

「ええ、プロトリックドム1機が大破、1機が撃墜。更にヅダ1機にザク2機も撃墜とは・・・これで大破した機体を除けば稼動可能な機体はプロトリックドム1機にヅダ3機、ザクが2機の計6機。 ・・・惨敗と言ってもいいですね」

「ああ、しかし敵が鹵獲したザクを使用しているとなると話が厄介だな」

「そのことで提督、重大なことが判明しました」

「ん? なんだね?」

「・・・回収した部品のシリアルナンバーから旧ザクの所属が分かりました。他サイド向けの輸出用の機体です。また大破した敵機のパイロットの遺体を回収した結果、そのパイロットは輸出先の業者の人間でした」

「なんだと!? それでは・・・」

「はい、輸出先の企業が連邦のダミー会社の可能性が大です」

これはジオンの戦略を揺るがす重大なことだった。史実では他サイドは壊滅した為に問題は無かったが、この世界では他サイドは無事な為に親サイド3派のコロニーに対し防衛・作業用として旧式化した旧ザクを輸出していたのだ。もちろん重機の輸出に関しては十分な調査の結果信頼できると判断された会社に対してのみ輸出されていたが、今回の件で大幅な見直しがされるのは確実だ。それ以上に連邦にMSのノウハウが流れており、パイロットの養成がされているということは今後いつ連邦のMSが出てくるか分からないということだ。

「・・・至急本国へ連絡したほうがいいな」

「ええ、事は一刻を争います。早急に対策を練るように進言しないと・・・」





連邦艦隊 コロンブス級輸送艦 アスラー

「・・・振り切ったか」

「そのようですな。時間稼ぎに出撃していたMSも2機帰還しました」

「MSが戻ったのは僥倖だ。戦闘データは格納庫で待機させておいたザニーのものだけと覚悟していたが嬉しい誤算だ。護衛艦が全滅したのは痛いがな」

「ええ、ですがこれでMSの戦闘データは一層充実しますよ。後支援ポッドもなかなかの戦果を挙げていたようですし」

「ああ、だが今回の件で恐らくダミー会社の事がバレただろう。それについては?」

「既に撤収させており残っているのは何も知らない一般職員のみです。これまでに輸入したザクⅠは既に特別便で輸送済みです」

「そうか・・・まさか連中もあの会社がダミー会社とは思わなかっただろうな。奴らのしてやられたという顔を思い浮かべると溜飲が下がるわ」

「ですが試作機動兵器を失ったのは痛いですな。データがあまりにも少ない」

「まぁ仕方あるまい。ある程度の損失は計算のうちだ。それにあんな不安定な兵器は欠陥品だ」

「まぁそれは否定しません。あれは急造品すぎますから」

「さて、ルナツーへ一刻も早くこのデータを届けねばならん、最大速度で帰還せよ」

「了解、最大速度で帰還します」







ツィマッド社 社長室

「なんてこった・・・この報告に間違いは無いのか?」

「はい、間違いありません」

「・・・分かった、下がっていいよ」

「分かりました。御用があればお呼びください」

はぁ・・・やれやれだな。お? 久しぶりだね~元気かい? こっちは秘書が持ってきた書類で頭を抱えているよ。 ・・・え? 秘書は美人かって? ・・・期待を裏切るようで悪いがツィマッド社の社長付き秘書って『男』なんだ(号泣)普通こういうシチュエーションなら秘書は若い女性っていうのが相場だと思うのに何が悲しくてむさくるしい男なんだよ・・・まぁ能力はかなりあるから仕事では問題ないんだが華が無い・・・女性の秘書か護衛官でも雇おうかな?

まぁそれは置いておこう。問題はこれなんだよねぇ・・・旧ザクとはいえMS技術の漏洩、しかもそれに付随する連邦製試作兵器の実戦投入ときたもんだ。先行量産型ボールに量産型ボールが登場、しかも鹵獲機のザクを改造した機体の出現・・・ザニーがいつ登場してもおかしくはないね。むしろ既に開発完了していると判断したほうがよさそうだね。まぁうちのドムシリーズなら史実のものと違って発展性を十分に残してある設計になっているから、当面はドムシリーズが主力になるだろう。まだ量産されてないがジムが登場してもある程度の戦力差なら十分勝てるはずだ。最も、ジオニック社もザクⅡF2型を生産しているし油断はできないが・・・

他にも困ったことが起こった。水陸両用MSをキシリアが新たに設立予定の戦略海洋諜報部隊の為に寄越せといってきたのは閉口したね。ガルマに泣きついてなんとかなったけど・・・戦略海洋諜報部隊の本拠地をどこに決めるかでドズルともドンパチしたようだが結局来月攻略予定のハワイを本拠地にする予定のようだ。おかげでツィマッド社はドズルの兄さん(爆)にガニメデ級高速空母を優先配備することになったが・・・まぁハワイを本拠地にするように誘導したのは私だが取らぬ狸の皮算用と思ったのは気のせいか? というかその作戦にVF潜水艦隊を投入するっていうのは仕方が無いといえば仕方が無いけど・・・ガルマに根回しして航空支援を頼んでおこう。
後は地上用MS等の生産ラインをキャリフォルニアベースに移転させる予定なんだが早くても移転だけに1ヶ月、稼動させるには2ヶ月は必要だ。最もこの数値はかなり無理をしての計算だから現地での生産開始は8月から9月頃かな? まぁこの為にキシリアの戦略海洋諜報部隊の本拠地をハワイに変えさせたわけだが・・・余計な邪魔はこれ以上入れられたくないしね。

さて、色々あったが来月には例の量産型MTがロールアウトする。先に北米に降下させてヒルドルブとソンネン少佐が来るのを待ちますか。







次回は遂にヒルドルブ登場!?







おまけ

新作予告!

突如本国との連絡が途切れた北米ジオン軍! 時を同じくして他の地域と連絡が取れなくなった南米連邦軍本部ジャブロー! 彼らが目にした光景とは!?

「おい、なんだありゃ!?」

「ヘリ? にしちゃあ馬鹿でかくないか!?」

「こ、こっちにくるぞ! う、うわあああぁぁぁぁ・・・」



「こちらハイゴッグ隊、高速潜水艦を捕捉した!」

「艦尾から小型潜水艦だと!?」

「な・・・核兵器!? いや違う、放射能は検知されていない」



「こちらミデア輸送隊! 謎の円盤に追われている、助けてくれ!」

「護衛のコアブースターはどうしたんだ!?」

「あのホーミングレーザーでとっくに落とされた! なんでレーザーが誘導できるんだ!?」



突如鋼鉄の咆哮の世界のアメリカ大陸と入れ替わり出現した彼らに各国の超兵器が襲い掛かる! そして彼等は生き延びるべく策をめぐらす・・・どこの国と手を結ぶか、彼等は決断を強いられる。そして戦いは激しさを増していく・・・

超巨大爆撃機ジュラーヴリクVS連邦機動艦隊!

超巨大高速潜水艦アームドウイングVSグラブロ!

超大型爆撃機アルケオプテリクスVSジオン空中艦隊!

超巨大陸上戦艦スレイプニルVSヒルドルブ隊!

彼らの未来は、世界の未来はどうなるのか!?

新作 機動戦士達の咆哮! お楽しみに!

※この新作予告は大嘘です。ただたんに何かの電波を受信してしまっただけですので気にしないでください。



[2193] 第12話
Name: デルタ・08
Date: 2006/12/26 13:42
サイド3 技術本部長室

「地球降下!?」

そう言葉を発したのは第603技術試験隊に所属するオリヴァー・マイ技術中尉だった。彼は新たな任務を受ける為にここに訪れていた。

「MT-05モビルタンク、ヒルドルブ。第603はこれを受領後、地上試験を実施せよ」

「お言葉ですが、この機体は2年前に全ての評価を終えています」

「たしかに2年前、不採用の烙印を押された狼ではあるな」

「では今更何を?」

「ヒルドルブは地上試験終了後そのまま現地配備とし、回収の必要は無い。試験終了後、君達は速やかに帰還せよ」

「なっ・・・それではまるで・・・・・・いえ、応急現地改修にも限度が!」

「配備先に関しては問題ない。ヒルドルブを引き取るのはあのVFだ」

「VF? あのツィマッド社の?」

「そうだ。今回の君たちの任務はVFからの依頼だ。試験終了後ヒルドルブはVFの実験部隊に配属されることとなる。それに機密事項になっていたがヒルドルブは2年前に不採用の烙印が押されたしばらく後にツィマッド社のものとなっている」

「ですがなぜ我々なのです? 今回の任務はただの輸送任務としか・・・」

「そう、君達603の任務はツィマッド社によって改修されたヒルドルブの実力を測り、可能ならヒルドルブに使われているだろう新技術の奪取にある」

「な!? それはつまり・・・」

「そう、産業スパイだ。ツィマッド社の技術はかなりのもので、ヒルドルブにもその新技術が使われているようなのだ。ツィマッド社から提供された資料ではその部分はブラックボックスとなっていた為今回の輸送任務となったわけだ」

「ですがそれならその技術をツィマッド社に提供してもらうよう要請すれば・・・」

「それができないからこうなったのだ。君も聞いたことがあるだろう。上層部がツィマッド社に、VFに過激な嫌がらせをしていることは」

「ええ、ですがあれは噂にすぎないのでは・・・」

そう、彼もその噂は何度か耳にしたことがあった。曰く、ジオンの時期主力MSを選定するのにツィマッド社製MSに不当な評価をくだしている。曰く、ツィマッド社と取引をしている企業に圧力をかけている。曰く、ツィマッド社の実験部隊であるVFに理不尽な命令をくだし損害がでるようにしている。曰く、ツィマッド社の輸送船の航行スケジュールを連邦に流し襲撃させようとした。などなど、他にも多くの噂が飛び交っていたのだ。

「残念なことにその噂は半分ほどは本当なのだよ。その結果、ツィマッド社は兵器は提供するがそれに使用されている技術に関しては一部をブラックボックスにしているのだ」

「な・・・」

マイ技術中尉は絶句していた。この軍民関係なく国民が一丸にならなければならないときに国家と企業がいがみ合っているという事実と、それによって自分達が産業スパイをしなくてはいけないことに・・・

「これは上層部の決定なのだよ・・・その命令の片棒を担がなくてはならんのは私も同じか・・・」

そう溜息をつき、マイ技術中尉を哀れみの視線で見ながら本部長は話を終えた。







ヨーツンヘイムの格納庫でマイ技術中尉はVFの整備員がヒルドルブに群がっている光景を眺めていた。VFの整備員はヒルドルブを積載した時に乗艦し、ヒルドルブの調整をしていた。また、VFはマイ技術中尉が上から産業スパイもどきをさせられていることを知っていたらしく、挨拶に行った時は同情の眼差しや元気付ける言葉をもらったほどだ。

『まさか元気付けられるとは思っていなかったな。だがそれでも整備の手伝いは了承してくれた・・・本来はこんな争いをせず一致団結して協力するべきなのに・・・上層部にとって、僕たちはただの便利屋だというのか?』

そこまで考えていたら、人の気配を感じ、我に返る。そこには一人の軍人がいた。身長はマイよりも少し高いくらいか。くずれたように軍服を着ているその男はラフな敬礼をし、マイに挨拶をした。

「俺がこのヒルドルブの運用を任されているデメジエール・ソンネン少佐だ」

「オリヴァー・マイ技術中尉です」

「ああ、世話になる。 ・・・っと、食うか?」

そう言ってソンネンは小さなケースを取り出しマイのほうに差し出した。

「眠気覚まし用のミント味のドロップだ。他にもハッカとかもあるぞ」

「あ・・・それじゃ頂きます」

そう言うとソンネンはマイに2~3粒のドロップを手渡した。

「でだ、あんたが上のほうから産業スパイをするように言われた技術中尉だな?」

いきなりそう言われてマイは手に持ったドロップを落としかけた。

「な・・・」

「ああ、別にどうしようってことじゃない。あんたも被害者だからなぁ。ところで、こいつはどうだ!」

そういうとソンネンは軽く飛び、ヒルドルブの頭部に取り付く。

「最高速度120キロ、主砲口径30サンチ!」

ソンネンは頼もしそうに戦車の装甲を手のひらで叩く。まるでこの巨大な金属の塊の一番の理解者は自分だというかのように。

「モビルタンクヒルドルブ、こいつはモビルスーツすら凌駕する地上の王だ。こいつの前ではモビルスーツですら獲物にすぎん!」

「ですが2年前は・・・」

「あんたも技術屋ならわかるだろ? 技術は常に進歩しているってことを。こいつの最大の問題だった放熱問題はとっくに解決している。まぁその放熱処理技術をあんたの上司は知りたいようだが」

そう、ジオン兵器局は新型機、特にモビルアーマー等のジェネレーター出力を向上させる為に放熱問題に四苦八苦しているのだ。優れた冷却装置があればオーバーヒートをせずにより出力の高い兵器や機関を搭載できるからだ。だがこれの解決に手間取り、実際はあまり進んでいないというのが現実だった。
そこに放熱問題で不採用にされたヒルドルブがその問題を解決したというのである。しかもツィマッド社はその技術を活かし新たな巨大モビルアーマーを開発したというのだ。


ヒルドルブの放熱問題を解決した技術を手に入れれば新型機の開発に加速がつく!


そう考え技術局はツィマッド社に技術提供を呼びかけた。本来ならこれで協力体制が整うはずだったがそこに横槍がはいったのだ。すなわち、一部の人間達(ザビ家の某二人系統)による妨害だ。時には品物の納入にすら支障がでた事もあり、その報復の為に極一部の技術は提供されなかったのだ。そしてこの放熱問題はそれに含まれていた。これに(上層部に)激怒したのは兵器局の人間だろう、なんせ上層部が勝手なことをした為に開発が遅れるのだから・・・

「たしかに2年もの歳月があれば改良は可能でしょう。ですがツィマッド社は、VFはこのヒルドルブ1機で何をしようというのです?」

そんな疑問を口に出すと、ソンネンは怪訝な顔をした。

「なんだ、知らないのか? VFはこのヒルドルブのりょう・・・」

だがソンネンが答え終える前に、キャディラックにワシヤが補充品であるザクをねだる会話によって中断させられた。キャディラックはソンネンの姿を認め驚愕し、ソンネンもまたキャディラックの姿に驚きの表情を浮かべた。





地球降下を前に、ブリッジで関係者のブリーフィングが行われようとしていた。そしてその作戦を説明するのはキャディラック特務大尉だった。

「作戦を確認します、ヒルドルブはコムサイに搭載し再突入させます。目標はアリゾナの第67物資集積所付近。中高度より投下されたヒルドルブはそのまま地上を走行し、射撃を行う。我々は各フェーズの移行の流れを検証します。なお試験にあたっては第67物資集積所の作業員がサポートにはいります。そして本艦に乗艦しているVFの整備員は降下せず、後日VFのランツ級高速シャトルと合流した時に退艦するとのことです。最後に、地上試験の情報収集はマイ中尉が、そして総指揮は私が取ります」

「貴官が?」

「なにかご不満でも?」

「いや、ただの確認だ」

その言葉のやり取りで周りの空気が変わりかけたことをプロホノウ艦長は察し、話題を変えるために口を開いた。

「あ~・・・第67集積所の東100キロ地点の第128物資集積所が10日前に敵の襲撃を受けて壊滅している。敵の残存戦力のことを念頭にな」

「その地域で100キロといえば目と鼻の先ですね」

「残存兵力か・・・用心に越したことは無いな」

「61式かそこらに少佐は不安になられるんですか?」

そう毒をはいたのはキャディラックだった。だがソンネンはその挑発に乗らずに違うことを言った。

「違う、連邦は鹵獲したザクを運用しているらしい。すでに宇宙では交戦記録がある、それがでてくる可能性もあるということだ」

そう発言したソンネンにキャディラックは違和感を、疑問を感じていた。

『一体どうなっているの? ソンネン少佐は自暴自棄になって過去を引きずったままの負け犬だったはず・・・最後に会ったのは1年以上も前のことだけどその間で少佐に何が起きたというの?』

その考えを見透かされたようにソンネンは呟いた。

「技術も人も、絶えず変わっていくもんなんだよ特務大尉」







「チェックド! オールエンジンズ、アーゴー!」

「こちらコムサイ280、デパーチャーチェックリスト、コンプリート!」

コムサイのコックピット内で最終チェックを終えたマイはキャデラックに話しかける。

「大尉・・・」

「ん? 何か?」

「いえ、ソンネン少佐とはお知り合いですか? なんというかいつもより・・・」

「毒舌が多い?」

「えぇ・・・っと、それ以外にも戸惑っているような感じが・・・」

「・・・・・・尊敬していたの」

「え?」

「ソンネン少佐のことよ。昔は彼は戦車教導隊の優秀な教官で尊敬してたの。でも2年前、モビルスーツへの転科適性テストにハネられてしまってね、若手の戦車兵が次々とモビルスーツパイロットに転向していくことにショックを受けて、あとは自暴自棄」

「・・・ですが会った感じでは少佐にそんな過去を引きずっていると感じさせられるところは無かったように見えますが?」

「えぇ、それが戸惑いの理由よ。最後に彼を見たのは一年半以上前、その時は確かに自暴自棄になっていたの。でも今日会ってみたらそんな自暴自棄のところが消えていた、いえ、それ以上に何か自信を持っていた。この一年半の間に彼に何があったのか・・・」

「・・・少佐に聞いてみれば?」

「聞けるわけないでしょ! ・・・仮にも初恋の相手だったんだから(ボソ)」

「え? すみません、最後のほうが少し聞き取れなくて・・・」

「なんでもないわ、それより最終チェックは?」

「あ、はい。全て完了しています」

「そろそろヨーツンヘイムから発進するわ、無駄口はここまでよ」







第67物資集積所

1機の旧ザクが歩哨に立っていた。つい先月までは物資集積所の歩哨にモビルスーツが用いられるということはあまり無かった。にもかかわらず旧ザクが歩哨についているのは、最近アリゾナの砂漠地帯で集積所を襲撃している連邦軍部隊がいるためだ。襲撃後からみると然るべき規模の部隊であるらしいが今もってその連邦軍部隊は発見されていなかった。しかも10日前にはここから東へ100キロ地点にある第128集積所が襲撃されたばかりなのである。その為歩哨に立っている旧ザクの他にこの集積所には新たに3台のマゼラアタックが配備されていた。その3台は集積所内で待機していたが・・・
それに今日はコムサイが降下してくる日なのだ。降下中のコムサイは敵に襲われたら無力な存在なので守ってやる必要がある。

旧ザクのパイロットは音響センサーを調整しながら周囲を警戒していた。その音響センサーが何かの機械音を捕らえたのはそれからしばらく後だった。その姿を確認すべく機体をその方向に向けてモノアイをズームする。が、そこで彼が見たものは2機のザクの姿だった。

「よう、コムサイは見えたかい?」

接近してきたザクはマシンガンを掲げながらそう尋ねてきた。だがその言葉を聞いた旧ザクのパイロットは違和感を感じた。どこの部隊か知らないがコムサイの降下を知っていたことにだ。

「いや、まだだ。そろそろこの辺を通るはずだが・・・」

「北西から進入するらしいぞ。ところで、こいつの120ミリ、あるか?」

「詳しいな、あっちか。弾薬は主計課に聞いてくれ・・・っと、その前に所属部隊を教えてくれ」

「ん? 見ればわかるだろ?」

「いや、一応規則なんでな。そこらの経緯は知ってるだろ?」

「・・・ああっと、どうだっけか?」

そこまで会話をしていて旧ザクのパイロットは強い違和感を感じていた。つい最近全軍に連絡された事柄、すなわち連邦軍が鹵獲した機体を運用し、友軍に騙し討ちをしているということを目の前のパイロットは知らない、もしくは忘れているということに。

「っと、すまんが主計課に弾を聞いてみる。ちょっと待っててくれ」

そういうと旧ザクのパイロットは基地に通信を繋げた。

「こちら歩哨のザク、目の前にいるザク2機に不審なところがある。警戒態勢に移ってくれ」

「わかった、待機中の戦車隊を出動させる。後コムサイが進入してきた、そちらも警戒しといてくれ」

そう言って通信は終わり、旧ザクのパイロットは2機のザクへと通信を繋げた。

「すまんが弾薬は今主計課が在庫を調べている、もうちょっと待っててくれ。後そちらの所属を述べて・・・」

「お、コムサイがもう見えるぞ」

所属を問おうとした矢先に相手のザクからコムサイが見えたという通信が入った。思わず旧ザクのパイロットが北西の空を飛行中のコムサイの姿を確認しようとしたのはある意味当然の反応だったのかもしれない。

「お、本当だな。ってそうじゃなくてあんたらの所属部隊はどこかと聞いて・・・」

その言葉を彼が最後まで発することはできなかった。なぜなら次の瞬間には彼の旧ザクに夥しいマシンガンの弾丸が直撃したからだ。銃声を聞いて集積所で待機していたマゼラアタック3台が反撃しようとするも、それよりもはやく旧ザクを破壊したザクが合図を送り数体のザクと旧ザク、それに61式戦車が第67集積所に攻撃を開始しマゼラアタック、そして集積所に容赦無く弾丸を撃ち込んでいった。


一方のコムサイはというと、地上からミサイル攻撃を受け1発が水平尾翼に命中し・損傷を負い、機体の安定をなんとか維持しようとしていた。

「右舷スタビライザーサーボ、作動不能!」

「救難信号は!?」

「ヨーツンヘイムは地平の向こうなので通じません。67集積所は交信不能です!」

「67はあてにするな!」

そう言ってソンネンはモニターを切り替えた。それは炎上している第67物資集積所の姿だった。

「最近我が軍にちょっかいをだしている連中に襲撃されているようだ。だがVFの部隊が近くにいるはずだ、そいつに連絡を頼む!」

「VFの部隊がこの近くに?」

「この試験終了後にコイツが配属される予定のとこの部隊が近くに来ているはずだ、そいつらと連絡が取れれば一網打尽にできる! 後、俺とヒルドルブを降ろせ!」

「無謀だ、危険すぎる!」

「コムサイを軽くしなけりゃならん。それにコイツなら連邦のこそ泥をアウトレンジから攻撃でき、十分な回避能力も持っている!」

「大尉、少佐の言うことは論理的です」

「・・・了解した」

「ソンネン少佐、急ぎチェックを! 高度700フィートで投下します、後40秒!」

「もう済んでいる、いつでもいいぞ!」

「投下高度!」

「投下します!」

その言葉の直後、カーゴベイからヒルドルブを載せた投下用パレットが射出され、パラシュートを展開しつつ高度を急激に下げていった。そしてそれは地面に着地し、パラシュートがほぼ同時に切り離された。そして機体をパレットに固定していた金具が解除され、ヒルドルブは機動を開始した。

「コムサイ、そっちは救難信号を出してくれ。連邦に傍受されるだろうがそれより早くVFとコンタクトがとれるはずだ。VFの部隊と連絡が取れたらすぐに支援に来るように伝えてくれ。現在ファーストトレンチに到着した」

「少佐、敵の規模はわかりますか?」

「ああ、鹵獲されたと思われるザクが6機いる。後は旧ザクが2機に61が1、2両程度だ。他にもいるかもしれんが集積所に見えるのはそれくらいだ。どうやら128をやったのもこいつらだろうな」

「なんて卑劣な・・・生存者を残さないつもりか・・・」

「少佐、今VFの部隊と連絡がとれ、こちらに急行しているとのことです。後部隊名はケーニッヒス・パンツァーだそうですが・・・」

「ああ、それに間違いない。こっちは先に始めているから到着次第加わるように言ってくれ」

「了解しました」

「さてと・・・止まっている奴からやる。背中向きの奴を第一、05の残骸を調べている奴を第二目標。APFSDS(装弾筒型翼安定徹甲弾)を装填、次弾も同じ!」

そして数秒後にヒルドルブの主砲が吼えた。



「ん!? 光った!」

この連邦軍ゲリラ部隊を指揮しているツァリアーノ中佐はモニターの隅で何かが光ったことに気がついた。だが砲弾の光点の接近を認めるや彼は攻撃を知るが、味方に警告を出すには遅すぎた。砲弾の衝撃波と共に1機のザクは分解、四散した。

状況を把握した機体は傾斜地を下るが、全ての機体が状況を把握できたわけではない。

「敵の攻撃だ、伏せろ!」

「敵襲!? どこだ?」

撃破した旧ザクを調べていたザクが振り向くが、次の瞬間には真正面から砲弾を食らい爆散した。



「初弾命中、撃破! 次弾も命中した! 火器管制及び冷却システム異常無し、全てのシステムは正常に作動中だ」

「少佐、知っていると思いますが弾薬は今撃ったAPFSDS2発を含めて試験用に搭載されている30発しかありません!」

「わかっている、後28発もあればあいつらを叩きのめすには十分過ぎる」



丘の影に隠れているザクの音響センサーに雷鳴のような音が入った。

「くそったれ! 今のが発射音かよ!?」

「着弾から35秒、10キロ以上の距離かよ!」

「ザクをあれだけ吹っ飛ばすなんてどんなAP(徹甲弾)だ!」

「落ち着け! 今のは止まっている奴から狙われた。10キロも離れていたら動く目標には当たらん。どうやらコムサイに載せていた新兵器ってのはこの砲撃の主のようだな」

「ですが隊長、ザク6機と61式3両でコイツに太刀打ちできるでしょうか?」

「確かに戦力不足ではあるな・・・ニルス、聞こえているか?」

「聞こえています、増援の要請ですか?」

「そうだ、たしか攻撃ヘリを含む部隊がこの近くに展開していなかったか?」

「ちょっと待ってください・・・・・・あ、ありました。現在ここから南に50キロ地点に展開しています。戦力は戦闘ヘリが5機に61式が2両の部隊です」

「よし、そいつらにヘリだけでもいいから南から挟撃するように連絡を入れてくれ。おそらく奴は移動したはずだ。この地形だとアンブッシュに適しているのはこの3点だ。これらに準備射撃を加えつつザクの有効射程距離内まで接近するからその間に急いで来るように伝えろ!」

「了解しました、通信をするには遠いので移動します」

そういって集積所から離れたところに止まっていたホバートラックは南へと全速で移動を開始した。

「よし、マリオンとミッチェル、それにカーターの61式は迂回して先行! 稜線から出ないように回り込め! モビルスーツはフットポッドの一斉射撃後、二手に分かれて突進する! 旧式ザクはバズーカで支援射撃をしろ!」

4機のザクはフットポッドのミサイルを順次発射した。ザクの潜む地形の陰から次々と白煙を曳いてミサイルが撃ち出される。目標は敵が潜んでいそうな3箇所のアンブッシュだ。それとは別に2機の旧ザクもザクバズーカを構えて砲撃を開始した。



ミサイルの発射はヒルドルブからも確認できた。そして敵が何を意図しているのかも。

「来たな・・・戦争を教えてやる、曲射榴弾込め!」

ヒルドルブは後進しつつ主砲を上に向け榴弾を次々と発射する。連邦の指揮官は優秀な奴だろう、地形のなんたるかを知っておりヒルドルブがどこに潜んでいるかあたりをつけているだろう。だがそれは敵がどのコースで接近してくるかはある程度予測可能なことを意味している。ソンネン少佐も榴弾が敵に直撃するとは思っていない。この射撃で少しでも足を遅らせればいい、足を止めたときが奴らの死ぬときだからだ。

「現在セカンドトレンチに移動中だ、敵の攻撃はかなり正確な照準のようだ。友軍はどうしている?」

「現在ここから30キロ地点にいるそうです。後敵の通信と思わしきものを傍受しました、発信源は集積所から南の少し小高い砂丘と思われます。増援がくるかもしれませんので気をつけてください!」

「わかった、恐らく敵の指揮車かなにかだろう。発見したら最優先で攻げ・・・」

その直後に弾着と思われる音が聞こえ、それ以降ヒルドルブとの通信は途絶してしまった。

「ヒルドルブ! ヒルドルブ応答せよ! ヒルドルブ!」



「よーし、GO!」

ミサイルの弾着と共に、6機のモビルスーツは3機ごとに分かれて一斉に前進する。その周囲にヒルドルブの放った榴弾が炸裂する。

「見つけた! 11時に発砲炎!」

「絶対に止まるな! 動いていれば大丈夫だ!」

ツァリアーノ中佐の言葉を裏付けるかのようにヒルドルブの砲弾は彼らの近くの着弾するが命中弾はなく、6機のザクは前進を止めない。



6機のザクが接近してくる様子をソンネン少佐は照準器の中で確認していた。現在ヒルドルブは集積所の南に移動しつつあった。移動している目的はどこかにいるだろう敵の支援車両を潰すことだった。支援車両を潰せば敵の戦力は確実に低下する。だが先ほどのミサイルの至近弾で通信装置が損傷したらしく情報支援をしてくれるコムサイとの通信は一切できなかった。

「コムサイ、応答しろ! ・・・くそ、通信装置がやられたか。とにかく記録は続ける。次は焼夷榴弾でびびらせる!」

砂漠なので敵のザクは60キロほどしか出ていないだろう。その速度は命中弾を出すには難しいが至近弾にはなる速度でもあった。そしてヒルドルブの主砲が吼え、焼夷榴弾が放たれた。



砲弾はザクの手前で爆発した。徹甲弾なら外れだがソレは焼夷榴弾、つまりナパーム弾だった。着弾した次の瞬間には火炎幕がそこに形成され、突っ込んできたザクを包み込んだ。

「うわぁあ!? 機外1200度です! 隊長!!」

いきなりモニター一杯に炎が映し出されたその機体のパイロットはパニックに襲われ、動きを止めてしまった。

「落ち着け! ただのナパームだ、止まるんじゃない!」

だがツァリアーノ中佐には次に何が起こるかわかった。戦場で動きを止めるものには死が待っているということを・・・そして事態はその通りに推移していった。炎によって動きを止めていたザクに徹甲弾が撃ち込まれ、そのザクは爆発した。

「ジャクソーン!!」

ツァリアーノ中佐は叫ぶ。この戦闘で貴重なモビルスーツパイロットが既に3人も失われた。こいつらは将来、全員がモビルスーツ隊の隊長として戦えるだけの力量を持っていた奴らだった。
何者かはわからなん。しかしこいつは今未来の連邦軍モビルスーツ隊を3つ叩き潰し、そして更にスコアを重ねようとしていた。

「隊長、回り込みました! 敵影を確認、巨大な自走砲のようです!」

61式で迂回していたマリオンから報告があった。マリオンの61式の位置はわかる、ここで勝負をかけるしかない。

「一気に接近するぞ! 全機飛べぇ!!」

ツァリアーノのザクを含む5機のモビルスーツはバーニアを噴かし、ジャンプする。ツァリアーノの視界は急激に広がった。半径10キロ以内に何かいれば確実に見つかるはずだ。むろん敵もこちらを認めるだろう。はたしてツァリアーノの視界の中に動く物体があった。

「見えた、でかいぞ!!」

それはモビルスーツほどもある巨大な自走砲で主砲は戦艦並か。こんな化け物に狙われたらモビルスーツだって木っ端微塵だろう。
だが彼はまだ心のどこかで油断していたのだろう。自走砲なら対空戦闘能力は決して高くないはずだ、と。だがそれが間違いであることはすぐに証明された。



「ふっ、バーニアを噴かして上空から攻撃か。いい手だが相手が悪かったな。3式弾発射!」

そう、ソンネン少佐は相手がモビルスーツであると知ったときから、ある程度接近したら敵はブースターを使い上空から奇襲してくることを予測していた。そしてその対抗手段もすでに用意していたのだ。

3式弾

それはかつて旧世紀、第2次世界大戦といわれた戦いで襲い掛かってくる航空機相手に水上戦闘艦が使用した対空攻撃手段のひとつだった。それはいわゆる巨大な散弾であった。ヒルドルブにはこれが対空・対地用砲弾として搭載されていた。そしてそれを装填した主砲が空中に飛び上がり、降下してくる1機のザクに狙いを定めて発砲した。



その巨大な自走砲の砲が鎌首を持ち上げた時、ツァリアーノは敵が何をしたいのかわからなかった。そして発砲した後も数秒は相手のことを内心せせら笑っていた。 ・・・1機の旧ザクが散弾で穴だらけにされるまでは。

「な!? スティーブ!」

迂闊といえば迂闊だったかもしれない。まさか対空砲弾を搭載しているとは夢にも思っていなかった。普通の連邦軍将兵に自走砲が搭載している砲弾は何がある? と聞けばたいてい榴弾と徹甲弾の2つが返ってくるだろう。それも当然だ。どこの世界に対空用の砲弾を用意する自走砲があるというのだ。連邦軍の陸上戦艦であるビッグ・トレーですらその2つくらいしか搭載していないというのに・・・これは連邦軍のミスであったがもともと防空をミサイルに頼っていた連邦軍は旧世紀の3式弾等というものはすでに記憶のかなたのものだった。

それでも気持ちを落ち着かせ、仇討ちとばかりにツァリアーノはマシンガンの照準を自走砲に向け撃った。だが移動中のザクから移動中のヒルドルブへの命中弾はごく僅かなものだった。しかも当たってもマシンガンの弾はその上面装甲にことごとく跳ね返されていた。

「ガタイに似合わずすばしっこい! しかもかたい! 奴の足を止めろ!」

ツァリアーノは着地の寸前バーニアを噴かし着地し、同時に銃弾をヒルドルブに浴びせるが本当にあれには人が乗っているのかと疑いたくなる機動力で弾をかわしていった。だがばら撒けばそれなりの弾は当たるわけだが、当たった弾もその悪魔的な装甲によってむなしく弾かれるだけだった。そしてお返しとばかりに後退中のヒルドルブはいきなり反転し、砲弾を撃つ。さすがに無茶な機動をとったせいか照準が甘く、ザクは辛うじてその攻撃をかわした。

「止まったらカモだ! 全機動き続けろ!」

後方にもザクが降下しヒルドルブは包囲される形になり、ヒルドルブの周囲にマシンガンとバズーカの雨が降り注ぐ。だがヒルドルブの機動力は尋常ではなかった。この砂漠の中で6基の履帯は核融合炉のパワーにものを言わせ、この巨大自走砲にワルツを躍らせていた。しかもこのヒルドルブは2年前から改修を続けられており、心臓部でもある核融合炉は最新型のものに換装してあった。その結果、出力が増大したことによる速度や機動性の上昇、新素材を使用した装甲の改修、最新機器による性能の向上につながっていた。つまり2年前と今とでは形こそ同じだが全くの別物といってもいいくらいにヒルドルブは進化していたのだ。四方からくる銃弾をかわしつつ丘を飛び越え、なおも機動を続けるヒルドルブ。しかしそれは逃走ではなく挑発だった。そして追撃するモビルスーツにもそれはわかっていた。どちらも止まった奴が死ぬ。
そのワルツを止めたきっかけは1台の車両だった。正確にはホバートラック、この連邦軍部隊の指揮通信車両だった。増援を呼ぶ為に南に移動していたニルスだったが、通信を傍受したヒルドルブが戦場を南に移動させていたのだった。そしてホバートラックに気がついたジャクソンは叫んだ。

「ニルス、逃げろ!」

だが彼の忠告は遅かった。ヒルドルブはあろうことか向きを変え、ホバートラックのほうに向かったのだ。ホバートラックは慌てて逃げ出そうとするが遅すぎた。次の瞬間ホバートラックはヒルドルブに吹き飛ばされた。正確には踏み潰されたと言ったほうがいだろう。砂丘をジャンプしたヒルドルブが逃げようとしたホバートラックを半分潰し、半分を衝撃で吹き飛ばしたのだから。

「ニルス! 畜生!」

そういって旧ザクのバズーカが火を噴いた。その弾頭はまるでニルスの仇といわんばかりに急旋回中のヒルドルブの履帯に直撃し、吹き飛ばされる。

「や、やった! 当たった! 足を止めました!」

「よくやった!」

「近づいて仕留めます!」

そう言って1機のザクがシュツルムファウスト(使い捨てのモビルスーツ用巨大無反動砲)を構え、巨大自走砲に接近する。そしてもう1機、バズーカを構えた旧ザクも接近していく。どちらも直撃すれば自走砲なら始末できるはずだ。
だが自走砲はまだ死んだわけではなかった突然スモークディスチャージャーが発射され、辺りは煙幕によって包まれた。4機のザクはこの煙幕で相互支援できなくなり、下手をすれば各個に撃破される状況だ。
そしてヒルドルブは破壊された履帯を解体し、誘導輪を自由にした。ヒルドルブは履帯が1つ破壊されたぐらいで機動力を失うことはない。ただ動けないふりをし、相手の油断を誘ったのだ。

その時までツァリアーノとその部下達はヒルドルブを巨大な自走砲だと思っていた。戦艦の主砲を搭載した、全長35メートル程の自走砲。だがヒルドルブの正体を彼らは知らなかった。車体の両脇のアームが動き、30センチ砲を支える自走砲の砲架が車体との固定を外され、そのまま迫りあがる。自走砲の砲架はそのまま主砲を支えたまま持ち上がり、その高さがモビルスーツ並みになったところではじめて止まる。
ツァリアーノはそこではじめてこの自走砲の砲架の正体を知った。主砲を支える砲架はそれ自体が旋回可能な砲塔であり、主砲直下の砲塔にはモビルスーツと同じ赤いモノアイが光っていた。なぜ砲塔を露出させたのか、その理由は明らかだった。砲塔には近接防御用のマシンガンを抱えたモビルスーツの腕のようなアームが左右両側に装備されていたからだ。
そう、ヒルドルブは単なる自走砲、単なる戦車ではなかった。その砲塔はモビルスーツの上半身そのものだった。左右の手にはマシンガンが握られており、ツァリアーノのザクにその銃口を向けていた。

「こいつはやばいぞ!! 下がれスチュアート、ケディ!!」

ツァリアーノ中佐はそう叫び、マシンガンを乱射しながら突っ込む。部下を後退させる時間を稼ぐ為に・・・だが戦車の正面装甲は例外無く厚く、銃弾はむなしく弾かれる。そしてヒルドルブの両手に抱えたマシンガンから放たれた銃弾は彼のモビルスーツを撃ち抜き、彼のザクを機能停止に追い込んだ。

「隊長ぉぉっ!」

「スチュアート、後退するぞ! 隊長の意思を無駄にするのか!?」

敵戦車の動きは早かった。ツァリアーノ機を破壊するとその場で急旋回し、シュツルムファーストを抱えたザクに主砲を、バズーカを構えた旧ザクにマシンガンを向ける。主砲を受けたザクは一撃で吹き飛び、多数のマシンガンを全身に浴びた旧ザクは煙を出して崩れ落ちた。僅か30秒足らずの間にモビルスーツ3機の戦力が失われた。



ここまでは計算通りだ。敵の指揮官は優秀な奴だった。だが教科書通りにはいかないのが世の真理だ。敵がこちらを仕留めるために密集したところを各個撃破する。ハイリスク・ハイリターンだったが賭けは成功したようだ。もっともヒルドルブは2年の間に増加装甲を取り付けられたり新素材の装甲に変更したりと色々と改良されていた為、危険は少ないと判断したのも賭けに出た一つの理由だった。
流石に景気良くばら撒き過ぎたかマシンガンの残弾が心もとなくなっていた。元々ヒルドルブのマシンガンは予備兵装で、近距離に接近された時の為の護身用のものだった。故に予備マガジン等は携帯せず、弾が切れたらそれまでというものだった。

「マシンガンが弾切れ寸前だ。自力で調達する!」

そう言ってソンネンは目の前のザクにありったけのマシンガンの弾丸を叩き込んだ。そのザクは比較的我に返るのが早かったのか回避行動をとろうとしたが、近距離からの銃弾の雨からは逃げ切れず破壊された。だが当たり所が悪く銃弾の1発がマシンガンに直撃、ソンネンが手に入れようと目論んだマシンガンは木っ端微塵となった。

「ちっ、ヘマしちまったな・・・まぁいい、主砲でカタをつける!」

そう言って弾頭にAPDS(装弾筒型徹甲弾)を装填した時、ヒルドルブの周囲に弾着、ヒルドルブの巨体に衝撃を走らせた。どうやら何発かは当たったようだ。敵の残存戦力はおそらくザク1機。だが照準器に映し出されたのは61式戦車3両だった。

「61か、俺の相手には役不足だ、出直して来い!」

そう言って彼はAPDSを61式戦車にお見舞いした。元々30センチものAPDSだ、要塞ですら破壊する砲弾は、その直撃した戦車を跡形なく吹き飛ばした。だが残り2両の61式は巧みな機動で稜線に逃げ込もうと移動していた。そうなるとなかなか厄介だ。ソンネン少佐は1発しか搭載されていないAPHE(徹甲榴弾)を選択し、2両が稜線の影に隠れた瞬間に発射した。
確かに戦車は辛うじて稜線の陰に隠れることができたが、ヒルドルブの主砲の前にそんな小細工は通用しなかった。山を吹き飛ばしたAPHEはその短遅延信管が作動し炸裂、2両の戦車をスクラップへと瞬時に変えた。
そしてソンネンが残りの敵を探そうとした次の瞬間、ヒルドルブに衝撃が走った。そして響く警告音。ソンネン少佐が何事かと見てみると、主砲に損傷を負い射撃ができなくなったことを示しており、モニターには発射し終えたシュツルムファウストを構えたザクの姿が映し出されていた。

「ちっ、主砲に命中したのか・・・だが主砲を潰したくらいで勝った気になるな!」

そういって彼はヒルドルブをザクに向かって走らせた。これに慌てたのはザクのパイロットだ。何せあんな巨大な物体が体当たりでもしようものなら機体に重大な損傷を負う事は確実だからだ。だがヒルドルブはザクの直前で急旋回した。そして急旋回をした意図をザクのパイロットが理解する前にザクのパイロットは強烈な衝撃を受け戦死した。

ソンネン少佐が行ったのはザクの手前で急停車&急旋回し、その強烈な遠心力を利用して作業用アームでザクにラリアットをしたのだ。当然ながらかなりの勢いがついた作業用アームは十分凶器となりうる。人間で言えば車で速度を出し、ドリフトをしたときにスコップを窓から出して立ち止まっている標的にぶつけるようなものだ。当然凄まじい衝撃で、食らったザクはきりもみしながら空を舞い、地上へと落下していった。

「・・・終わったか?」

そうヒルドルブの中でソンネン少佐は呟いた。主砲が損傷したがヒルドルブはたった1機でザク8機、車両4両を撃破したのだ。思えば2年前、ヒルドルブに不採用の烙印を押され、モビルスーツパイロットへの転科適性試験にはねられ自暴自棄になっていた自分に救いの手を差し伸べてくれたのは他でもないツィマッド社だった。ヒルドルブはツィマッド社に引き取られ、自分の意見を取り入れられて持っていた問題点を一つ一つ克服し、進化していった。それに伴い最初に自分が持っていた負の感情は徐々に消えていった。まるで、ヒルドルブに改修が加わるたびに自分の心の中の闇が消えていくようだった。そして今彼は肩で息をしていた。ひどく疲れていたがそれは何かを為し遂げた後のここちよい疲労感だ。

だがその心地良い気分は長くは続かなかった。コックピット内に警報が鳴り響き、ソンネン少佐は我に返った。いつの間にか接近してきた敵の増援のヘリがこちらにミサイルを撃ってきたのだ。幸い分厚い装甲で損傷はたいしたことはなかったが今のヒルドルブにとって戦闘ヘリは対処できない敵だった。なんせ今のヒルドルブは主砲が損傷している為に砲撃できないのだ。このままでは無数の銃弾を浴びてしまう。いや、それよりもなんの抵抗もできないコムサイを攻撃しにいくかもしれない。そう思ったところで彼の思考は中断を余儀なくされた。空中のヘリが爆散したからだ。

自分は撃っていない。では誰が?

考えるまでもない。通信が途切れる前にコムサイが連絡してきた味方の増援だろう。そう思ってモニターを見るとそこには1つの巨大な物体が映し出されていた。

砲塔の上にのっかる巨大な主砲、砲塔から伸びている腕、ヒルドルブに似ている巨大な車両。そう、これはヒルドルブのデータを下に開発された量産型ヒルドルブ『MT-05 Mk-2 ヒルドルブⅡ』だった。現れたのはたった1両だけだったが戦闘ヘリ相手には充分過ぎだった。1分もしないうちに連邦の戦闘ヘリは叩き落され、戦場には静寂が戻った。







「VFのケーニッヒス・パンツァー隊所属のシュトライバー大尉です。それではMT-05 ヒルドルブの受領、確認しました」

「確かにヒルドルブを届けました。 ・・・ですが驚きました。まさかヒルドルブを量産していただなんて・・・」

「まぁこの計画は最近までVFの、ツィマッド社の極秘事項でしたから知らないのも当然ですよ」

「しかし・・・2年前には不採用の烙印を押されたこの機体をどう運用するのです?」

「運用は意外と多いですよ。30センチという大口径を活かした長距離射撃や対艦・対要塞攻撃に機動力を活かした強行突破や陽動、数え上げればきりが無いくらいですよ」

そこで初めてキャディラック特務大尉が口を開いた。

「・・・ソンネン少佐は今後どうなされるんですか?」

「ソンネン少佐はこのヒルドルブ部隊、通称ケーニッヒス・パンツァーの隊長として赴任する予定です。元々この部隊はソンネン少佐を中核とし、VF地上軍の遊撃戦力として作られたのですから。激戦地を回ることになるでしょうね」

「そうですか・・・少佐、御武運を」

「ああ、貴官も元気でな」

そういってキャディラックはコムサイの中に戻っていった。彼女は挫折しても人は立ち直れるということをソンネン少佐の姿から学んだ。


『モビルタンク ヒルドルブ技術試験報告書

我が第603技術試験隊は、去る5月9日、ヒルドルブの地上試験を実施せり。然れども敵コマンドとの遭遇により対モビルスーツ戦闘へと発展せり。この戦闘において試験パイロット、デメジエール・ソンネン少佐は複数のモビルスーツと交戦、その悉くを撃破し、試験任務を全うす。
ヒルドルブの戦闘力は驚異的であり、整備性を考えなければ1両でマザラアタック1個大隊を上回ると思われる。
なお途中からヒルドルブの通信装置が損傷を負ったせいでコムサイのほうでのデータ収集が不可能になり、一部データしか手元にあらず。VF側にデータの提供を求めるも上層部と協議した結果連絡するとのこと。以上を鑑みてヒルドルブに使用されている新技術の奪取には失敗したものと考える。このような味方同士での不毛な争いをするより、一刻も早く手と手を取り合って良好な協力関係を結ぶことが一番重要と考えるものである。
宇宙世紀0079 5月11日 オリヴァーマイ技術中尉』











砂漠に放置された1機のザクから一人の男が這い出てきた。ヒルドルブによって部隊を壊滅させられたツァリアーノ中佐だった。

「糞・・・ジオンの野郎共、俺を殺さなかったことを後悔させてやる・・・糞!」

そう言っていると南から61式戦車2両とホバートラックが1両やってきた。戦闘が始まってから増援を要請した部隊だ。そう思いツァリアーノは悪態をついた。もしもっと戦闘ヘリが早く着いていれば戦闘はまた様変わりしていたことだろう。そうすれば部下達の何人かは生きていたかもしれない。そう思うと行き場の無い怒りが渦巻いてくる。そんな彼の思考を途切れさせたのはホバートラックから降り、マシンガンを構えた男からの詰問だった。

「貴様、名前と階級、所属を言え!」

「・・・見たら分かるだろう、この残骸を指揮していた男だ。名前はツァリアーノ、階級は中佐だ・・・」

「ツァリアーノ・・・うちに増援を要請した部隊の隊長か・・・で、こいつはいったいどういうことなんだ? 戦闘ヘリを先行させてれば通信が途絶し、少し速度を落として慎重にきてみたらこの有様だ。あんたんとこは鹵獲していたザクを使っていたんだろ? それなのにこの惨状とは・・・いったい?」

「・・・ジオンの化け物にやられた。自走砲とモビルスーツを足したような化け物で戦艦の主砲に匹敵する大砲を抱えてやがった。しかもそいつが後からもう1両来てあんたらのとこのヘリを叩き落したんだ」

「・・・なんてこった。ジオンめ、なんて新兵器を・・・」

「とりあえずそっちにお邪魔してもいいか? 立ち話もかなりきついんだが」

「ああ、すまない。しかしうちの主力のヘリがやられたんじゃ再編成だなこりゃ・・・いったん後方で再編成かなこりゃ」

「立ち去る前に生存者がいるかどうか探すのを手伝ってくれ。後データの回収と」

「分かった。ジオンの新兵器のデータが無事に残ってるかどうかは分からんがさっさと回収してさっさと立ち去ろう。いつ襲撃してくるか分からんからな」


部下を全員失ったツァリアーノ中佐、彼はその後復讐に燃えるモビルスーツ隊の指揮官となるがそれはしばらく後の話であった。



[2193] 閑話1
Name: デルタ・08◆83ab29b6
Date: 2008/01/01 20:17
ハワイ攻略戦の準備が進められる中、キャリフォルニアベースから出て行く車列があった。それらは北米で多く見られる光景となっていた。
数十台規模のトラックは途中で徐々に別れていき、それぞれの目的地へと行く。
舗装された道路かと思えば次の瞬間には大きく抉り取られたような場所があり、そこを迂回しながら進んでいく。これらは北米降下作戦中連邦軍が破壊したものであり、ジオン地上軍のMSや車両による攻撃の流れ弾等で抉り取られたものでもあった。破壊されてから2ヶ月ほどになるが、やはり北米大陸は広大で未だ修理が手付かずの場所がかなり多く存在した。中には橋等の戦略上優先的に修理を進められたところもあるが全てを直すには物資も人手も圧倒的に足りないのが現状だった。

数時間後、一つの施設の前にキャリフォルニアベースから出発した数台のトラックが停止した。そしてそれは軍事基地ではなく民間の施設だった。

「あー、宅配のおじちゃん達がきたよー」

そんな声がしたかと思うと建物の中から多くの子供達がトラックに駆け寄り、少し遅れてから大人達が近づいてきた。

「お~坊主共、久しぶりだな。元気にしていたか?」

そう声をかけるトラックの運転手。声をかけながらトラックに乗っていた者達は荷台から数多くの箱を降ろし始める。その箱の表面には『小麦粉』『粉末牛乳』『砂糖』『卵』等の文字が書かれていた。他にもスナック菓子等が入った箱もあり、それらは子供達が我先にと中に詰まっているお菓子を取り、大人がそれをたしなめるという光景をかもしだしてはいたが。

そう、このトラックは基地から生活物資を運んできたのだ。そしてここはツィマッド社が北米復興の一貫で設置した孤児院なのだ。他にもツィマッド社は各地に託児所や職業斡旋所、学校といった物を数多く設置している。
なぜツィマッド社がこのような施設を作っているのかというと北米の復興と民衆を味方につける為だった。前者はある程度復興すればツィマッド社等が作った民需物資が大量販売出来る為、後者は連邦軍のスパイ対策&志願兵の募集の為だった。
前者はまぁ分かるだろう、裕福になれば民衆は多くの商品を買ってくれるのだから。そして後者のスパイ対策、これは民衆を味方につけることで連邦のスパイが浸透してきた場合密告してもらいやすくなるからだ。更にもし敵の部隊がやってきても住民からの連絡で敵の位置や編成がわかりこちらが有利になりやすなるからだ。実際北米では連邦のミデア輸送機による小規模なゲリラ部隊が輸送されており、これらのうちいくつかは既に住民からの報告で急行した部隊によって運んできたミデアごと撃墜できた例もあった。そして志願兵の募集、これは人的資源に劣っていたジオン、更には民間企業の私兵集団であるVFの人員補充に無くてはならないものだった。組織上VFは徴兵が出来ない為、人員はジオン軍からの出向&引き抜きの他には民間からの志願兵しか人員の補充ができないからだ。

まぁこういう打算によって北米各地にこのような施設が多く作られ、更にはオーストラリア大陸にも施設を作り始めていた。
このような施設の運用・維持費等は馬鹿にならないが北米ではガルマ・ザビ大佐、オーストラリア大陸ではウォルター・カーティス大佐というそれぞれの大陸の最高指揮官が支援してくれていたおかげであまり負担にはなっておらず、ツィマッド社内部でもこれらは未来への投資と考えられておりあまり反対意見はでていなかった。
またこの政策は戦争で疲弊していた民衆に好評で、更にはモビルスーツまで使った大規模な公共事業(インフラの整備)では作業するVFやジオンの人に現地の人が差し入れを持ってきてくれるほどだった。

だがこの施設の為に食料を中心とした各種物資がVFで一時的に欠乏し、VF内部に不満が溜まったこともあったほどで、これの解決のためにツィマッド社は頭を悩ますことになったのである。ちなみにこれは工場野菜(雑菌が入らないように徹底管理された空間で、養液と人工光を使いながら栽培する方式で、このSSではジオン等宇宙コロニーでは一般的な栽培方式とします)の大規模増産と他サイドからの緊急輸入、VFの人員への特別ボーナスによって一応は解決した。

このような占領地住民への支援活動をした結果、VFが展開している北米とオーストラリア大陸では親ジオン・VFの人間が多くなり、この地域に進出した連邦軍ゲリラ部隊及び連邦軍諜報部は特に目立つ戦果を挙げることは無かった。だがこの政策のせいで後にジオン上層部の数人がツィマッド社とVFに対して一層の敵意を抱くことになるのだが今この時点でそれを知っている人は他にいなかった。

話を戻そう。上の思惑はこのようなものだったが、現地住民とそれに触れ合うジオン・VFの面々はそんなものは関係なかった。施設を各地につくり、物資の運送を開始した当初こそ住民が山賊行為を行うようなことがあった。幸い護衛に出ていた車両が威嚇射撃をしただけで退散していったが、山賊行為に走るほど当初は現地住民は食糧不足に喘いでいた。だがそれから1ヶ月もすると山賊行為に走る住民は極端に減り、職を求めてやってきた人達にツィマッド社の職業斡旋所はインフラの整備等を手配しインフラを徐々に回復させ、孤児達を孤児院に収容することで孤児による強盗等は減っていった。
逆にVFやジオンの者達は自らが行った隕石落としにより多大な被害を受けた現地住民達を見て罪悪感が生じ、復興の為に力を尽くしていた。そしてその過程で見る子供達の笑顔や感謝の言葉を受け一層復興活動に励んでいった。中には自分達の組織が行った行為(隕石落とし)に嫌悪感を抱き軍を退役する者もいたが、その数は少数だった。
そのうち復興が進むにつれ住民と復興作業を行っているジオン・VFの人間は一種の連帯感を感じ、復興した街の住民との交流会を開いている部隊もあるほどだった。
もちろん軍というのは巨大な組織なので中には規律を破り住民への略奪行為を行う者もいたが、大抵はやった次の日あたりには復興事業にかかわっていた他の部隊からつるし上げを食らったりするほど住民と軍との意思の疎通は円滑になっていた。

笑い話になるが、輸送途中だったトラックを襲った連邦軍ゲリラ部隊がおり、この輸送トラックが着くはずだった町の住民がやってきた連邦ゲリラ部隊の面々が自分達の町に来るはずだったトラックを殲滅したと知り、歓待したように見せかけ朝ゲリラ部隊が気がついたときには部隊全員がロープで縛られてジオンに引き渡されたという話まであったほどだ。

そして今日も基地から輸送トラックは出て行く。住民への支援物資を満載し・・・



[2193] 13話(別名前編)
Name: デルタ・08◆d442d9e1
Date: 2007/07/01 00:29
はじめに

4月に更新するとかいっておいてもう6月も終わり7月に・・・時がたつのは早いですな(マテ
とりあえずなんとかできましたが半分以上はほとんど1月の時点で出来上がっていたものを少し手直ししたもので、正直なところ微妙かとは思います。後やたら長くなったのも自分自身なんで長くなったのか疑問ですが・・・ワードパッドで594kbって一体なぜに!?
それと今回は試験的に視点がころころ変わる展開にしており読みにくいとは思いますがそこは勘弁してくださいorz
恐ろしく長くなったので一応4つにぶつ切りしました(爆
とりあえず後編のあとがきに続く


13話

5月20日

・・・お久しぶり、ツィマッド社長でVFの総責任者でもあるエルトラン・ヒューラーです。突然だが・・・胃が痛い。こいつが神経性胃炎ってやつですかそうですか・・・診断結果は神経性の胃炎ってお墨付きもらったよこんちくしょう! まぁ胃癌とかでなくてよかったが・・・医者からはあまりストレスを溜めないように言われたけど最近は色々あってストレス溜まる一方だからこれ完治するのいつだろう? 激しく不安だ。

まぁそれは置いといて現状を説明しようか。会社のほうなんだが・・・嫌がらせ食らってます! まぁこれは結構前からあるから何を今更って感じなんだが・・・慣れって怖いね(爆)まぁ具体的に言えばうちとの取引先が圧力食らって取引がお流れになることもあったが最近一番でかい嫌がらせはやっぱこれだろう。

『爆弾テロ未遂』

・・・なんか皆からの絶叫が聞こえた気がするんで、簡単に説明しようか。サイド3を出港予定のうち(ツィマッド社)の輸送船に爆弾が設置されてたんだ。どうも荷物の中に紛れ込んでたらしいんだが密告があって、それで急遽調査したら発見されたって具合だよ。 ・・・え? 何を運ぶ予定の輸送船だったのかって? キャリフォルニアベースに輸送予定の資材を満載したHLVを積んでいたんだよ。特にVFに配属予定だった新型MSも搭載していたから爆破されなくて助かったよ。爆弾が爆発していたら大量の物資を抱えたHLVは壊滅、船は良くて航行不能、悪ければ轟沈して物資は地球に届かなくなるところだったからねぇ。人的被害も馬鹿にならないし、特に積んでいた資材の中にはキャリフォルニアベース守備の為の広域防衛装備があったし・・・まぁ効率は落ちるが今は荷物をひとつひとつ確認してから運搬するようにしているけど・・・むかつく! まぁ当然ながら犯人は見つからなかったが、これももしかしたら警告の一種なのかもしれないなと思っている。
っと、思い出したら胃が痛くなってきたような(汗)・・・まぁこの話題はもうやめよう、自分の為にも・・・

でだ、軍事面で大きな事といえば、一昨日大規模な軍事作戦、トライデント/ジャベリン作戦で地中海・アフリカ戦域における大規模な進撃作戦が開始された。ただ地中海・アフリカ戦域における進撃作戦と言っても実質は中東進撃と残敵掃討ってことだけど・・・まぁ私の気のせいかもしれんがこの作戦って18日に発動したんだっけ? そこらへん忘れてきてるからやばいな・・・こいつが若年性痴呆症ってやつですか!?(まぁこっちにきて9年もしたらそら忘れるわ)
で、その影響か連邦軍の太平洋艦隊の多くがインド洋に移動を開始したみたいなんだ。こっちとしては明日に控えているハワイ攻略作戦の障害がひとつ減ったからありがたいんだがなんだかご都合主義なような気も・・・まぁ正直空母の艦載機や戦艦並みの主砲を持つ戦闘艦とかがいたらこっちの損害もかなりでかくなるのはわかっているからねぇ。前の海戦で大損害を食らったVF潜水艦隊は一応万全の状態に戻ってはいるが、肝心のハイゴッグはキャリフォルニアベースでの生産はまだ不可能だからいちいち本土から輸送しなきゃならないし、今回投入する新型モビルアーマーもどんな不都合が起きるか分からないし・・・とりあえずハワイ攻略作戦のおおまかな計画はこうだ。うちの潜水艦隊を中核とする水陸両用モビルスーツ部隊がハワイの航空基地を襲撃し敵の迎撃機を極力離陸させないようにさせる。次にその合間を縫ってガウ攻撃空母とオルコス輸送機からなる輸送機部隊を進出させモビルスーツ隊を降下させる。当然これには空中給油型オルコス、通称コバンザメと護衛に戦闘爆撃機のジャベリンを用意している。そして敵がかく乱している時に上陸支援艦艇と揚陸艦、輸送船で多くの陸上戦力を揚陸させるといった手順だ。既に輸送船団はハワイ近海まで進出しているはずだし、輸送機部隊も離陸を開始したころだろう。夜明けと同時に攻撃が開始される手筈だからね。
・・・え? よくモビルスーツとかを搭載できる揚陸艦艇を配備できたなって? 言っとくけど最後の輸送船団は徴用した民間のフェリーがメインだよ。後は鹵獲した強襲揚陸艦や戦闘艦艇だね。当然モビルスーツを乗せれる船は限られてるからフェリーとかにはマゼラアタックとかが乗せられているよ。一応モビルスーツを乗せられる大型タンカーもいるけど・・・タンカーというよりもモビルスーツサイズの上陸舟艇だな、WW2時代の感じの。なんせタンカーを凹型に改造してそこにモビルスーツを搭載しているんだから・・・まぁこれは急造なんでモビルスーツを乗降させるのに苦労するがモビルスーツのスラスターを使えば問題は無いはずさ。この輸送船団が到着しないとハワイの制圧は不可能だからねぇ。やっぱり最終的に敵地を占領するのは歩兵の役目だし。
幸い18日のトライデント/ジャベリン作戦で宇宙からミノフスキー粒子を搭載したHLVを東南アジアに大量に落下させ、追加で昨日中東・西アジア方面に落下させたミノフスキー粒子散布用HLVのいくつかを大気圏突入失敗に見せかけて太平洋に、しいてはハワイ近海に落下させることができた。これでジェット気流に乗って今頃いい感じでハワイ近海に拡散しているはずだ。ミノフスキー粒子の濃度は場所によって激しい差がでるけど仕方ない。

さて、そろそろ時間なんで失礼するよ。これから重役会議があるんでね。 ・・・それが終わったら病院で診断か、気が滅入るな(泣







20日 23:42 アメリカ西海岸上空

闇に包まれた空を多くの光が西へ向かって飛んでいく。よく目を凝らせばそれが無数の航空機であることが分かるだろう。

「こちらキャリフォルニアベース、エア・コマンダー・リーダーへ。現状を報告せよ」

「こちらエア・コマンダー・リーダー、キャリフォルニアベースへ。現在のところ異常無し、全機問題無く飛行中だ」

「了解した、それではレーザー通信を終了、次に話をするのはハワイ占領後だな。良い空の旅を」

「了解、いい旅を祈っておいてくれ」

そう言って基地との通信を切った。

「機長、連絡お疲れ様です。今のうちに仮眠を取ってはいかがですか?」

「そうしたいがエア・コマンダー各機の報告を聞くまでは無理だな」

そう機長が言ったら機内通信が入った。

「あ、機長。それなら機長が基地と連絡している間にはいってきました。各機異常無く各編隊共に異常無しだそうです」

「そうなのか、分かった。じゃあしばらく仮眠させてもらうよ、2時間ほどしたら起こしてくれ」

「分かりました、ゆっくりしてください。何かあれば呼びますので」

「頼んだ、2時間したら君と交代するよ」

そう言って機長はコックピットから出て行った。

「やれやれ、機長も根詰めすぎだよ」

「まぁ作戦時に眠くなったら困るからな」

「違いない・・・しかし凄まじい数だよなぁ通信士」

そう副機長がつぶやくのも無理は無い。なんせコックピットから見える範囲には無数の航空機が飛んでいるのだから・・・

「まぁガウ攻撃空母だけでも10機、オルコス輸送機型が50機の計60機の輸送機ですからね」

「おい管制官、いいのか管制してなくて」

「別に問題はないようですし、少しくらいなら大丈夫でしょ。話の続きですがさっきいった60機の他にこのエア・コマンダー型早期警戒管制機にコバンザメ型空中給油機、トーカイ型対潜哨戒機に護衛のジャベリン戦闘爆撃機が含まれますし」

「まぁガウとジャベリンを除けば全てオルコスだもんな・・・それと対潜型はトーカイじゃなくてトウカイって名前だぞ」

「あれ? そうでしたっけ?」

「ああ、まぁトーカイでもいいような気もするがな。だが早期警戒管制機がエア・コマンダーってストレートすぎる、ネーミングセンス悪すぎだろ。もっとまともな名前は考えれなかったのかと命名した奴に文句をいってやりたい」

「それを言ったらおしまいでしょ? しかし・・・オルコスの派生機って多いな」

「まぁ連邦のミデアをモデルにしてるらしいですしね。数に関して言えば大量に生産することで量産効果で安くなるってことですし」

「でもこの編隊の内オルコスシリーズに関しては相当数がうち(VF)所属なんだろ? VF地上軍と北米に駐屯している正規軍の大半がこの作戦に参加しているってのも頷ける話だな」

「ただでさえ大編隊なのに加えて空中給油を真夜中にするんですから、これだけ多くの早期警戒管制機がいるのも頷けますよ」

「それもそうだ・・・しかし・・・VFって元私兵とは思えないくらい拡大してるよな」

「まぁたしかに・・・正規軍の友人に聞いたんですが、ほとんどの奴らがVFをガルマ様の地球方面軍の主力精鋭部隊だと勘違いしてましたよ」

「まぁそれは光栄なんだろうがあまり仕事を増やしてもらいたくないよな・・・ってか他の正規軍はどこに展開してるんだ?」

「噂じゃパナマ運河を維持しつつ北米の残敵掃討を行っているって聞きました。なんでも連邦は輸送機と潜水艦で多くの戦力を北米に送り込んでゲリラ戦を仕掛けているようで」

「たまったもんじゃないな。索敵網の完成っていつ頃なんだ?」

「沿岸一帯に監視拠点なんて設置しようものなら人員がどれだけあっても足りませんよ。ルッグンとトーカっと、トウカイでしたね。それらで海岸一帯を定期的に見回っているらしいんですがたまに連邦戦闘機の襲撃を受けて索敵網に穴が空くとか・・・」

「まぁ連邦にとっちゃ喉もとに突きつけられたナイフみたいなもんだからなぁ」

「その為に援助物資をばら撒いて北米の人心の掌握をしているって話ですしね」

「・・・副機長、この戦闘いつ終わるんでしょうね? 俺本国に恋人残してきてるんですよ、この任務が終わって休暇が取れたら結婚しようって約束をしt」

「通信士、そういうセリフを言うと死ぬってのがセオリーだぞ。少なくとも俺は巻き添えを食らいたくはない」

「同感、そういうセリフは単座の戦闘機かなんかに乗ったときに言ってください」

「・・・すいません。ですがそれって漫画やアニメとかの話では?」

「こういうことは機長が詳しいんだが、コトダマっていうのがあるらしい。つまり嘘でも口にするなってことだ」

「了解しました、自分も死にたくは無いですしね」







ハワイ諸島 オアフ島 連邦軍太平洋艦隊基地

「哨戒中の潜水艦が消息不明?」

「はい。消息を絶ったのはM型潜水艦で、4時間前の定時報告に応答が無く、現在も連絡が取れません」

「ただ単に通信装置の故障ということは?」

「たしかに先日降下に失敗したと思われるHLVから大量のミノフスキー粒子が流出し、ハワイ一帯は激しい電波障害が起こっているのでその可能性も否定できませんが、近頃活発になってきたジオンの潜水艦隊に撃沈された可能性もあると推測しております」

「ジオンの水中艦隊か、たしかに最近東太平洋は騒がしいが・・・」

「はい、それを裏付けるかのように様子を見に行かせた偵察機も消息を絶ちました」

「ふむ・・・ジオン潜水艦隊の可能性が高いということかね?」

「その通りです。そこで司令、インド洋に派遣した太平洋艦隊をハワイに戻すことを提案します」

「それはできん、潜水艦1隻と偵察機1機が消息不明になったからといって派遣した艦隊を戻すことは不可能だ」

「ですが司令、現在ここに残っている艦艇はヒマラヤ級を含めて空母が2隻、巡洋艦が6隻に駆逐艦が18隻。しかもその内の何隻かはドックに入っている状態です。しかもミノフスキー粒子もかなり大気中に漂っている状態です。もしジオンに襲撃されたら・・・」

「・・・たしかにそうだが、インド洋への太平洋艦隊派遣は連邦議会の要請でもあるのだ。我々のような一介の軍人にそれを覆す事などできないのが実情だよ、レビル将軍等の例外を除いてはな」

「ええ、確かに今回の派遣に際して、減る戦力の代わりとばかりにホイラー航空基地、ヒッカム航空基地には多くの航空機が配備されました。特に戦闘機部隊はかなりの数です。ですが水中からの脅威に対抗できる対潜哨戒機はあろうことか太平洋全域の航空基地への転属命令で、配備されていた機数は減らされました。次の補充は未定だそうですが、これでは東太平洋を跳躍跋扈するジオン潜水艦隊を押さえることはできません! 辛うじて増派された中に水中ポッドがありましたが実戦で使えるかどうかわからない代物ですよ!」

「私も憂慮しているよ。君に言われるまでも無く増援要請はだしてある。だが与えられた戦力でできる限りの事をするのも軍人の仕事だよ。それと君の言う水中ポッドだが既に一部では潜水艦に搭載しジオンの通商破壊船を何隻か撃沈する戦果を挙げている。それに幸い増援要請が認められたのか明日明け方近くにジャブローから航空隊の増援がくる」

「それは初耳です。いつ決まったのですか? それに増援内容は・・・」

「通達されたのはつい先ほどだ。君が来るのと入れ違いに関係各所に通達されたのだろう。内容はミデアにデブロック、フライマンタだ。航続距離の問題からフライマンタは増槽を取り付けており弾薬に関してはミデアが輸送するということらしい」

「なるほど・・・しかしやはりドン・エスカルゴはこないのですか・・・」

「まぁ今となってはドン・エスカルゴは引っ張りだこだからな。例のゴッグというモビルスーツの被害がインド洋や大西洋で拡大している。特に大西洋では輸送船団の護衛についているヒマラヤ級に必要不可欠だ。インド洋でもつい先日始まった敵の侵攻のせいで護衛は不可欠になっている。それまでは手元にあるドン・エスカルゴと対潜ヘリでなんとかしなければならん」

「・・・わかりました。では対潜警戒についてはこちらで何かいい案が無いか検討してみます。後当該海域には夜明けと共に対潜哨戒機と護衛戦闘機を発進させます」

そういって参謀は退出し、この数時間後にハワイ近海の哨戒案を新たに作成するがその案が連邦に採用されることは無かった。







21日 04:45 ハワイ諸島近海

ここに複数の巨大な物体が深海で息を潜んでいた。その中の1つ、VF潜水艦隊旗艦であるリヴァイアサンの発令所から周囲に潜む潜水部隊にひとつの指令が発せられた。

「時間だ、各機作戦を開始せよ!」

その指令を発した次の瞬間、辺りに展開していた水陸両用MSが一斉に動き始めた。目標は連邦軍太平洋艦隊の根拠地、ハワイ諸島。ここを陥落させることができれば連邦の太平洋艦隊は大きく後退せざるをえなくなり、太平洋のミリタリーバランスは大きくジオンに傾くことが予想できた。その為この作戦にはジオン・VF双方の水陸両用MSの半数以上が投入されることとなった。数で一番多いのはゴッグで、次に多いのがVF所属のハイゴッグだった。そしてその中で新たに配備されている機体が存在した。

MSM-07 ズゴック

MIP社がツィマッド社と共同開発したMSで、ハイゴッグのデータを参考にした為、外見は史実のズゴックだが若干性能が向上し、ハイゴッグと部品の共通化によりハイゴッグが装備する外部ジェットパックを装備することが可能になった。

今回その初期先行量産型(つまり量産された試作機)が30機投入されていた。そしてジェットパックを装備したズゴックとハイゴッグ達はある程度ハワイに近づいたら一斉にジェットパックを使用し一気に加速した。そしてそれと同時に海中に潜む潜水艦から一斉に対地ミサイルが発射された。



オアフ島 海岸線

「・・・暇だな」

「暇なのは否定せんがな。明け方の見回りはいいもんが見られるぞ」

「・・・どうせ日の出とかいうんだろ? それに夜明けってまだ先じゃないか」

「それ言ったらおしまいだな。しかし聞いたか? あの噂」

「ああ、確かここの陸軍が前線に投入されるってやつだろ? 太平洋艦隊が出撃したんだから本当のことじゃね?」

そう談話しながら歩哨についている連邦兵、彼らのいる場所はホノルルに近い南端の海岸線だった。戦争開始後しばらくしてキャリフォルニアベースが陥落し、キャリフォルニアベースの目と鼻の先のハワイ諸島は表面上は連日警戒を強めていたが、多くの連邦兵がハワイにジオンが侵攻してくるとは思っていなかった。
それも当然である、元々艦船の建造には時間がかかるのだから。仮に鹵獲した船舶を使用してもハワイには連邦海軍最大の戦力、太平洋艦隊が存在するのだ。そうでなくても強力な航空戦力を保有するハワイを攻撃するということは自殺志願者とまで言われていたのだから。

もっとも、今回太平洋艦隊の大半が移動することになりハワイ諸島の防備が手薄になったのは紛れも無い事実だ。そしてキャリフォルニアベースの生産能力を知っている者達にとっては今回の移動が危険な事も・・・
そう、キャリフォルニアベースの船舶建造能力は驚異的で、輸送艦なら僅か1ヶ月で建造できるほどだった。さすがに戦闘艦艇を1ヶ月で作るのは不可能だが、占領してから2ヶ月もあれば小型艦くらいは量産している可能性もある。 ・・・実はキャリフォルニアベースではジオンに占領されるまで多くの戦闘艦艇の建造が行われており、少なくない数の船舶がジオン軍に鹵獲されていたのだ。もちろん爆破処理されたものも多数あったがそれでも少なくない数の戦闘艦艇がジオン軍に無傷で鹵獲されたのも事実であり、先々月には大西洋でジオンの(実際はVFの)潜水艦隊により多くの船舶が失われていた。

つまりいまやジオン軍は海軍戦力でも侮れない存在となっていたのだが、それでもやはりハワイの連邦軍将兵の多くは楽観視していた。そして気がついた時には手遅れになっていた。

この二人の連邦兵が異常に気がついたのは沖合いの海面から多数のミサイルが飛び出し、こちらに向かってくるのを目撃したことだった。

「ん? ・・・おい、あれはなんだ!?」

「え? 水柱? ・・・って水中発射型ミサイルか!? 大変だ、すぐに基地に連絡を・・・」

そして無線機に手を伸ばしたところで彼らのすぐ近くの海面がいきなり隆起し、ブースターを噴かしたモビルスーツが飛び出してきた。彼ら二人にとって幸運だったのはこのモビルスーツ達は時間との勝負中だったことだろう。どのみちこれだけ派手な行動をすれば連邦軍に気がつかれるのは分かりきっている為、時間を惜しむこともあり彼ら二人は無視されることとなったのだ。

彼ら水陸両用モビルスーツの目標はホノルル市の制圧と、ホノルル空港と隣接したヒッカム航空基地、そして連邦軍の太平洋艦隊が停泊している真珠湾だった。ヒッカム航空基地はヘリやVTOL機主体の空軍基地で、多くの戦闘ヘリが駐機しており、これを制圧できればハワイ制圧の関門が一つクリアできたも同然だった。そして真珠湾にはインドに派遣されなかった艦艇が停泊しており、それだけでも十分脅威となる戦力だった。

そしてオアフ島の南側で騒動が起こっている時、北側でも騒動が起こっていた。その舞台はディリンガム民間飛行場近辺だった。突如海面から複数のモビルスーツが上陸し、ディリンガム飛行場を占拠したのだ。その機体はゴッグでもズゴックでも、ましてハイゴッグでもなかった。

MSM-04 アッガイ

それはジオニック社の系列会社であるスウィネン社が独自に開発した偵察用モビルスーツだった。外見とは裏腹にザクのパーツを流用したそのモビルスーツは生産コストが低く、ステルス性能も高い機体となった。武装は頭部に105mmバルカン砲を4門装備し、腕部分を換装することで多彩な装備を持つことができ、当初の想定よりも戦闘能力が高い機体として完成した。今ここにいる機体の多くは右手がアイアンネイル&機関砲、左手が6連装ミサイルランチャーという兵装だった。中には腕がグレネードランチャー発射機や普通のマニピュレーターとなっている機体もいた。
元々ディリンガム飛行場は民間空港で、軍の航空機は緊急着陸等の非常時でしか運用していない。その為、警備しているのは民間の警備会社なのでモビルスーツに対抗する戦力など最初からなかった。重要なのはオアフ島の北側で騒動を起こし、連邦軍の注意を分散させることだった。空港を一時占拠したアッガイは何機かを警戒の為に残し、残りはそのままオアフ島中央へと進軍していった。

さて、ここで二つの疑問が生じる。一つはジオンの攻撃はオアフ島に集中しているようだが他の島々はどうなったということだ。これについては理由は簡単だ。ハワイ諸島に展開する連邦軍はその戦力の大部分がオアフ島に集中しているからだ。もちろんハワイ島をはじめに他の島々にも展開している部隊はいるが、それらは基本的に少数の歩兵部隊と数両の61式戦車と装甲車であり、最大の戦力でもハワイ島にいるミデア数機と護衛のセイバーフィッシュ6機に61式戦車15両といったもので、ジオンから見れば取るに足らない戦力と映ったからだ。
そして二つ目、ジオンの奇襲を許したとはいえその戦力はいまだ海岸沿いで、島中央にある連邦軍の航空戦力が集結しているホイラー航空基地はどうしているのかということだ。上陸から幾分時間が経過しているので、スクランブルした航空機がいても不思議ではなかった。だが現実にはいまだハワイの空を飛ぶ連邦軍航空機は少数の哨戒機のみだった。
これも答えは簡単だった。連邦軍航空隊は出撃したくてもできない状態にあったからだ。皆は覚えているだろうか? 水陸両用モビルスーツ部隊が一斉に行動した時、潜水艦隊が数多くの対地ミサイルを一斉発射したことを・・・これらは一定の距離(一定の燃料を消費したら)を飛行したら内部に抱える小型爆弾をばら撒くタイプのもので、ミノフスキー粒子の影響をうけないある種のロケット弾のようなものなのだ。そして、これらはホイラー航空基地の周囲に落下し抱えていた小型の時限爆弾 最長で1時間半後に爆発するもの を基地にばら撒いたのだ。その中には基地とは全く関係のない場所にばら撒いたものもあるが、大半はホイラー航空基地にばら撒かれた。その結果、いつ爆発するか分からない爆弾があちらこちらにある為に航空部隊は出撃したくてもできない状態に陥ったのだ。小型とはいえその爆発力は侮れず無理矢理離陸しようとした戦闘機がそれの爆発により大破したほどだ。
だが連邦軍もやられてばかりで済ますつもりは毛頭無かった。



ヒッカム航空基地郊外 06:21 

「こちらヴァリスタ・リーダー、ヒッカム航空基地に敵モビルスーツ多数侵入! さっき離陸したばかりのファンファンがやられた、ここで奴らを食い止めるぞ!」

「こちらチャーリー・リーダー、我々が前面から抵抗をする。その隙に側面に回って叩き潰してくれ」

「了解したチャーリー。デルタはどうした?」

「デルタはやられた、61式で馬鹿正直に真正面から撃ち合いをしてやがったから自業自得といえばそれまでだが・・・後ズールが後方に回っている最中だ、こちらはXT-79の部隊だから支援射撃は期待できそうだぞ」

「了解した。むざむざやられはしないがそっちも気をつけてくれよ」

「あいよ、そっちもな!」

「・・・よし、全車準備いいな? チャーリーが時間を稼いでいてくれる間に奴らの側面にでるぞ!」

「了解! 奴らに鉛弾のプレゼントをしてやりましょう!」

「ヴァリスタ3、鉛弾って・・・何時の時代だよ」

「いいじゃないか2、例えだよ例え」

「くだらない論議はそこまでだ。口を動かす前に手を動かせ! 友軍を見殺しにするなよ」

「了解!」

「こちらヴァリスタ2、配置につきました。目標を捕捉しました、相手はゴッグです」

「・・・なんてこった。よりによって重装甲で有名なゴッグかよ!?」

「愚痴を言うな! 例えゴッグの装甲が厚くても関節やモノアイは構造上装甲は薄いはずだ! そこを重点的に狙って行動不能にしてやれ!」

「付け加えていえば腰のメガ粒子砲も狙い目です。発射直前に命中すればエネルギーが逆流する可能性もありますし」

「聞いての通りだ。モビルスーツは無敵ではないことをジオンの奴らに教えてやれ!」

「了解!」



そのゴッグのパイロットは突如連続した衝撃に見舞われ、動揺したがあまり損傷が出ていない為まだ余裕を持って対処できた。当然である、膨大な水圧に耐えるため装甲は厚く、機体構造自体が頑強でありモノアイもあたりどころが悪くない限り破壊されないようにできているのだから。

「なんだ一体? ・・・あれは? データベース検索・・・・・・『大口径バルカン重装甲車』? ほう、ザクを撃破できるバルカンを持つ装甲車両か、だが・・・」

そこまで言って手で機体を守りつつ機体にチェックを走らせ、異常無しという結果を見たパイロットは不敵に笑った。

「このゴッグの装甲がバルカンぐらいでやられると思ってるのかよ・・・しかし俺だけでは少々きついな。こちらベア5、敵の対モビルスーツ用バルカン搭載車両と交戦中、速やかなる支援を求む!」

すると一瞬の間をおいてすぐに返事が返ってきた。

「こちらベアリーダー。ベア5へ、状況を知らせろ」

「現在61式主体の戦車隊と交戦中に横から大口径バルカン重装甲車の攻撃を食らいました。今のところ重大な損傷は発生していませんが数に押され苦戦中です。支援をお願いします」

「・・・こちらベアリーダー。ズゴックが数機支援に向かった、それまで現状を維持せよ」

「了解しました。 ・・・さて、バルカンは後回しにして先にコソコソ隠れながら撃ってくる61式から片付けるか」

そう言って彼は機体を操作し、61式戦車が隠れていると思われる建物に向かって腹部メガ粒子砲を撃ち込んだ。



「うわあぁぁぁ!」

「こちらヴァリスタ・リーダー。チャーリー隊、大丈夫か?!」

「こちらチャーリー2、チャーリー・リーダーの61式は破壊されたので自分がチャーリー隊の指揮を取ります。チャーリー3も建物の瓦礫で主砲に損傷が発生したらしいので後退を命じました! このままでは防衛線に穴が!」

「・・・こちらヴァリスタ・リーダー、了解した。 糞、各車もっと弾幕を張れ! こちらヴァリスタ・リーダー、防衛ラインに穴が開く! 至急、支援求む」

「こちら自走対モビルガン車両、H-116号車です。これより支援します」

そう言って現れたのは2連装機銃を持った装甲車両だった。これが持つ機銃は対ヘリ・対歩兵用と言ってもいいもので、実際の戦場では旧ザクに通用するかどうか怪しい代物だったが、牽制には使えるとヴァリスタ・リーダーは判断した。

「支援に感謝す。チャーリー2の61式を支援してやってくれ」

「了解しました!」



「流石に1撃で全滅してはくれんか・・・まぁいい。メガ粒子砲の脅威をたっぷりと味わってもらうか」

そう呟いたところにいきなりアラートが鳴り響いた。あわててチェックすると先ほど行った射撃で右側のメガ粒子砲が使用不可能になったというのだ。これは元々右側のメガ粒子砲は先ほどからの銃撃で若干損傷しており、射撃を行った際にその損傷が拡大したというのが真相だったが。

「ちっ、まぁいい。右腹部メガ粒子砲へのエネルギー供給は自動停止、余ったエネルギーは左メガ粒子砲にまわっているのか・・・まぁ大丈夫かな。さて、いい加減うるさいバルカンを黙らせるか」

そう言って機体右側にいる3両のバルカン装甲車に胴体をむけ、メガ粒子砲のトリガーを引こうとした瞬間、彼は機体に大きな衝撃を感じ次の瞬間には彼の意識は消し飛んだ。

そう、迂回して背後に回っていたズール隊のXT-79のレールガンによって彼のゴッグは背中のバックパックを撃ち抜かれたのだ。本来モビルスーツは一部の例外(史実のゾック等)を除けば大抵背中の装甲は正面と比べて薄くできている。そしてモビルスーツの多くは背中にバックパックを装備するタイプでそこだけはやはり防御力が更に薄くなっており、そしてその事実は連邦も掴んでいた。結果としてバックパックに直撃を受けたゴッグは装甲を貫通し内部の機器を破壊したのだ。そしてその内部の機器にはコックピットも含まれていた。
小爆発をしながら崩れ落ちるゴッグを見て周囲の連邦兵は歓声を上げた。もちろんこれで敵の攻撃が終わったわけではないが、重装甲として知られるゴッグを破壊したことはオアフ島で戦っている将兵の士気を上げることにつながる。

「こちらヴァリスタ・リーダー。ゴッグ1機破壊を確認、今のうちに戦線を立て直すぞ!」

「こちら第9145小隊所属のホバートラック、ヴァリスタ・リーダーへ。そちらに敵新型モビルスーツが3機向かっています。後真珠湾に停泊していた艦船は敵のモビルスーツによってその大半が破壊、港は占拠された模様です。またオアフ島北側のディリンガム民間飛行場も敵の新型モビルスーツによって占拠されました。残存戦力はホイラー及びヒッカム航空基地に集結せよとの命令です」

「了解した。だがホノルル市はどうなる?」

「おそらく後で奪還することになると思います。今ホイラー航空基地の滑走路は使用不可能な状態なので航空戦力はヒッカム航空基地の戦闘ヘリくらいしかないので・・・」

「了解した。これよりヒッカム航空基地の防衛ラインの構築にあたる」

ハワイを巡る戦闘は始まったばかりだった。



真珠湾 時間は少し巻き戻り05:19 

「こちらディープブルーリーダー、マーメイド及びブラックパール隊は作戦通りに行動せよ」

「こちらマーメイド隊、了解しました。これより敵艦船への攻撃を開始します」

「こちらブラックパール、予定通り真珠湾の陸軍を殲滅する」

そう言って18機のハイゴッグはそれぞれの役目を果たすべく行動していった。ディープブルーの役目は真珠湾の占領だった。もちろんたったこれだけのモビルスーツで一大海軍拠点である真珠湾を落とせるとは思っていない。本体が来るまで占拠していればいいのだ。基本的に連邦軍のハワイ駐留部隊は真珠湾の海軍、ホイラー&ヒッカムの空軍、ホイラーに隣接する陸軍といった配置だった。つまり真珠湾の近くにはヒッカム航空基地しか大きな部隊は存在しないわけだった。そして海軍基地で一番の大火力を持つのは戦闘艦艇だった。

「こちらマーメイドリーダー、マーメイド各員へ。ドックの中にいる敵艦も確実に仕留めなさい」

「了解! しかし後片付け大変じゃありませんか?」

「その心配をしてて返り討ちにあったら目も当てられないじゃない。それにここ使うのはいつも私達に嫌がらせをしてくれてる紫ババァだから気にしなくてもいいわ」

「了解しました~、ってことだから皆ちゃっちゃと片付けましょ~」

「・・・カナー軍曹、もうちょっと緊張感を持ってちょうだい。まぁそういうことだからさっさと片付けるよ」

そういい真珠湾へと侵入した彼女達だったが、思いがけない敵が真珠湾で待っていたのだ。



「くそぉ・・・ジオンの奴等め、このハワイを襲うとはいい度胸だ。艦長、発進はまだか!?」

「無茶を言うな! 本艦は停船しているのだぞ、ここの水深ではあんた達を発進させるにはギリギリなんだ! 1発でも攻撃を食らって浸水でもしたら即発進不可能なんだぞ!」

「だがこのままなにもせずに艦と一緒に水没するのは却下だ! 散々馬鹿にした潜水艦乗り、いや海軍の全員にこいつの真価を見せるときなんだ!」

「だがはっきり言わせてもらうがそんな棺桶で・・・」

「艦長! いくら艦長といえど今の暴言は許さんぞ! あんたはさっさと俺達を発進させればいいんだ! これ以上グダグダぬかすと無理やりハッチをこじ開けるぞ!」

「・・・ったく、生きて帰ってこいよ。格納庫に注水完了次第ハッチ開放だ、急がせろ! フィッシュアイがでるぞ!」

そして輸送艦『リーロ・パタ』の格納庫に水が満たされ底部が開放され始めた時、搭載されていた15機のフィッシュアイが起動した。

フィッシュアイ、正式名称RB-79Nは地上で製造されていたボールの生産ラインを急遽変更して実戦配備されたものだ。ボールを海中用にしたものといえばそれまでだが、180mm低反動砲を連装式のロングスピアに変更し、作業用マニピュレーターを巨大なクロー・アームに変更し後部に大型ダクト型式の推進装置をとりつけられ、クロー・アームと併用することで水中での高い機動性能を実現している機体だった。一部では宇宙でも似たような改装(クロー・アームと大型推進装置の設置)を施してみてはどうかとの意見がでるほどのものだったが、このフィッシュアイは航続距離に恵まれなかった為、母艦からあまり離れることができないという機動兵器としては致命的な問題が発生した。もっとも母体となったボール自身航続距離が短いので気にするほどではなかったが・・・そしてこのことから口の悪い将兵からはこのフィッシュアイのことを『ひも付き』と呼んでいた。
だがこれを扱う兵士達はこの機体に自信を持っており、更にここにいるのはジオンの通商破壊船を数隻血祭りに上げたことのあるパイロット達だった。

まだ開ききっていないハッチから出撃したフィッシュアイはそのままゆっくりと艦を離れていった。敵の水陸両用モビルスーツに察知されることを警戒してのことだが、停泊艦の破壊音等があたりに響いているのでソナーは気にしなくてよかっただろう。既に2隻ほど着底しており、モニターに映った敵モビルスーツの腕についていた円筒形のものからミサイルが放たれ、新たに大きな破壊音が海中に響き渡った。

「糞、戦闘艦艇は致命的なダメージか・・・だがそれにしては補給艦や輸送艦には攻撃をしていないな。まさか本気でここを占領するつもりなのか? そうはさせん。各機へ告ぐ・・・友軍の為にここで死ね! 我々が時間を稼げは稼ぐほど反撃の態勢が整うんだ。後敵モビルスーツの腕の円筒形の物体はおそらく大型ミサイルコンテナだ。そいつにスピアを叩き込んでやれ! 後は各自の判断で戦闘しろ」

そう言って彼は左腕に円筒形のミサイルコンテナを持っている機体にロングスピアを放った。ロングスピアは細長いロケット弾のようなもので水中ではかなりの速度を持ち、低空を飛行するヘリすら撃墜可能な武装だったが攻撃力という点で見れば小型の魚雷くらいの威力しかなかった。だが彼の放ったロングスピアは一直線に円筒形のミサイルコンテナに突き刺さりミサイルコンテナは誘爆、そのハイゴッグの片腕片足を破壊した。



「きゃあ!?」

「!? ハルナ、無事!?」

「こ、こちらハルナ、左手の大型ミサイルユニットに被弾し誘爆しました! 機体大破、左手足全壊してます!」

「落ち着きなさい。敵の追撃が来る前に後退しなさい!」

「こちら5、敵潜水艇・・・いや違う、敵機動兵器を確認しました。宇宙で使われているボールっていうのに似ています!」

「水中用に改造したのかしら? まぁいいわ、各機迎撃を開始しなさい」

その言葉にハイゴッグ何機かがフィッシュアイにメガ粒子砲を内臓した腕を向けるが、それより先にフィッシュアイの放ったスピアランスが襲い掛かった。それらは水陸両用機では比較的装甲の薄いハイゴッグに命中していくが、さすがに間接部等装甲が薄い場所に命中した機体を除いてほとんどの機体が無事だった。中には横を向いていたハイゴッグの足を狙ったスピアランスが発射直後、目標機体がこちらに向いた為足と足の間をすり抜け斜線上にいた味方艦船に直撃するという笑えないことも起こっていた。

そしてスピアランスを放ち終えたフィッシュアイはその巨大なクロー・アームでハイゴッグへ格闘戦を挑んだ。だがその巨大なクロー・アームは『はさむ』ということより『殴る』といったような鈍器扱いされるような代物だった。なぜならこのクロー・アームは瞬間的な握力が弱く、装甲が厚い水陸両用モビルスーツ相手ではある意味見掛け倒しなのだから。そして彼らはそのことを熟知しておりこのアームではよほどのことが無い限りゴッグすら破壊することが難しいということも・・・
それを知っている彼らが生み出した戦法は、格闘戦に移行した機体を囮にし背後からロングスピアを放つというサッチ戦法のようなものだった。戦術的に1対多数で戦うのは間違っていない。
だが彼らは一つ間違いを犯した。それはハイゴッグの運動性をゴッグの20%増しに考えて戦闘を行ったことだ。ハイゴッグはゴッグの最大の特徴であった装甲の厚さを捨て、機動性を大幅に向上させた機体であるということを彼らは知らず、更に言えばその機動性はゴッグの20%増し程度のものでは無いということを・・・

結果からいえば彼らフィッシュアイ部隊は健闘したと言っていい。元々急造品であるフィッシュアイでハイゴッグ部隊を相手にし、更に1機を大破させたのだから。だがその代償に15機いたフィッシュアイはいまや4機にまで数を減らしていた。水中にいる敵機は4機で同数とはいえこのままでは全滅は確実だった。

「くそ、やはりこいつじゃジオンの新型相手だときつすぎるか・・・」

「隊長、こいつら機動性が想定よりもめっちゃ高いですよ!」

「ロングスピアは威力不足だし弾切れ・・・クローは鈍器代わりしか使えないか。今回の戦闘データを下に新型機を開発して欲しいところだな、我々が生き残れたらの話だが・・・」

打つ手が無くなり、このまま全滅するかと思われた時に連邦軍海軍の反撃は始まった。フィッシュアイがハイゴッグと戦闘し時間を稼いでくれていたおかげで戦闘可能な艦船が反撃準備を整えれたのだ。ある艦は炎上しダメコンをしながら対潜魚雷を発射し、ある艦は陸上に上がった敵モビルスーツに向けて速射砲を放ち、ある艦はミサイルを飛翔させた。この攻撃に泡を食ったのは陸上に上がったモビルスーツ隊だろう。なんせ事前の取り決めではマーメイド隊が水上艦艇を始末するということになっていたのだから。当然無事な艦艇を見つけたら他のモビルスーツ隊もビームをお見舞いしていたがとてもではないが全てを破壊する余裕は無かった。
とにかくこの攻撃はある意味不意打ちとなり、ズゴックを含む数機が犠牲になった。

「チャンスだ! 各機各自の判断で行動せよ、撤退してもかまわんがその場合は戦闘データを友軍に必ず送り届けろ!」

そう言って彼の乗るフィッシュアイは1機のハイゴッグに向かって突撃、いやこの場合は特攻といってもいいだろう。そのハイゴッグは迫りくる対潜魚雷を迎撃するのに忙しいようで、気づいたときにはフィッシュアイのクローの射程内だった。フィッシュアイの左のクローでハイゴッグの右腕を挟み、右手のクローを機体全体を使ってハイゴッグのモノアイに勢いよく叩きつけた。
さすがに至近距離からこれだけの質量を勢いよく叩きつけられたら無傷で済むわけが無い。モノアイスリットは大きく歪み、しかもオートバランサーが損傷したのかゆっくりとその機体は後ろ向きに倒れていく。パイロットが衝撃で気絶したのかもしれないが1機倒れこんだということは事実だった。他の機体を見てみると2機が格闘戦を挑んでおり片方のアームを破壊されたフィッシュアイは浮上しながら撤退を開始していた。

だが一時混乱していた敵は冷静さを取り戻し、フィッシュアイと浮かんでいる艦艇に容赦なく反撃を開始した。陸上のモビルスーツが艦艇にビームの嵐をお見舞いし、撤退していたフィッシュアイはビームを喰らい爆発、格闘戦を挑んだフィッシュアイ2機も破壊されていった。そしてフィッシュアイの隊長が最後に目にしたのは倒れていたハイゴッグの腕が伸び、4本の鋭いクローが自機に迫る光景だった。

「隊長、敵機動兵器全て沈黙。洋上の艦艇も浮いているのは残り数隻です」

「思わぬ反撃だったわね。連邦の水中用機動兵器・・・なかなか侮れないわ。ところでファー軍曹、無事か?」

「な、なんとか生きてます。でも機体はオートバランサーが損傷、モノアイスリットも歪んでいるのでモノアイが満足には・・・」

「とりあえず戦闘行為には支障が出るわけね・・・とりあえずハルナとシャーリーの護衛をしてて。大破したとはいえ3機もいれば大抵の敵は攻撃してこないわ」

「隊長、私達は作戦続行でいいんですよね?」

「ええ、疑わしきは全て罰せよで少しでも怪しいものには容赦なくビームを叩きつけてやりなさい。いくわよ」

そしてそれから数分後には真珠湾に浮いていた戦闘艦艇は1隻残らず沈められ、艦橋やマストが海面上に覗かしているだけとなり、港湾施設も多く破壊された。だがディープブルーを含む水陸両用モビルスーツ隊の面々が痛い目に会うのはこれからが本番だった。



[2193] 14話(別名中編)
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:d442d9e1
Date: 2007/07/01 00:22
・ 06:24

「ジオンの奴等、好き勝手しやがって・・・太平洋艦隊残存艦艇は全滅か」

「隊長、どうします?」

「決まっているだろ?」

そう言うと彼は不敵に笑い、背後を見た。そこには数台のミサイル・ランチャー・バギーと30人ほどの連邦兵が集まっており、手には対戦車ロケット砲『スティンガー』や対物狙撃ライフル等を持っていた。

「お前等! 俺達は何だ!?」

「サー!! 連邦軍第7海兵隊の特殊部隊です!!」

「お前等の仕事はなんだ!?」

「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」

「ジオンの糞共に何をすればいい!?」

「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」

「お前等は連邦を愛しているか!? 戦友を信じているか!?」

「ガンホー!! ガンホー!! ガンホー!!」

「OK! 俺達は奴等をぶちのめしに行くぞ!! 別働隊に指一本触れさせるな!」



初めに狙われたのはブラックパールリーダーだった。海兵隊員が動かすミサイル・ランチャー・バギーが装備する10連装ミサイルランチャーが火を噴いたのだ。ミサイルの接近に気がついたヒイラギ・タクヤ少尉はミサイルを避けて反撃しようとするが、既にバギーは建物の陰に逃げ込んでいた。そして違う建物の影から新たにバギーが現れ、ミサイルを発射し後退していった。これに追撃を仕掛けたのはヒイラギ少尉と同行していたブラックパール2のチャールズ曹長だった。

「ちょこまかと・・・追撃して叩き潰してやる!」

「待て曹長! うかつに突撃するな!」

そうは言ったがやはり不用意に突撃するような真似はチャールズ曹長はしなかった。一度建物の角で止まり、そこから様子を伺った後に前進したのだ。これは北米で不用意に敵を追ったザクが待ち構えていた連邦の戦車隊に蜂の巣にされたことがあったので、その戦訓であった。そして続いてヒイラギ少尉の乗るハイゴッグも角を曲がった、その時だった。

「撃てぇ!!」

連邦の士官が攻撃命令を発した次の瞬間にはハイゴッグに4発の対戦車ロケット弾が直撃した。そしてそのロケット弾はハイゴッグの左右のビルの1階と4階近くから放たれていた。

単純なことだった。先程からのミサイル・ランチャー・バギーは海兵隊員が布陣している建物付近に誘い込む為の囮に過ぎなかったのだ。普通なら対戦車ロケット弾程度ではモビルスーツは滅多なことではやられはしない。だが今回は当たり所が悪かった。1階から放たれたロケット弾の1発は胴体と腕の間、ショルダーアーマーの中に吸い込まれていき爆発、右腕が吹き飛ばされてしまった。そして更に悪かったのは4階から放たれたロケット弾だ。それはバランスを崩し前方に倒れたハイゴッグの背後のスラスターに直撃したのだ。さすがにスラスターに装甲をすることは不可能、故にそのロケット弾はヒイラギ少尉の乗るハイゴッグに致命傷を与えてしまった。スラスターから飛び込んだロケット弾は炸裂し、内部の機器を破壊した。不幸中の幸いというべきことはハイゴッグはコックピット自身が強固な脱出ポッドを兼ねていたということだろう。このおかげでパイロットのヒイラギ少尉は命を失わずに済んだが機体を破壊した衝撃は大きく、ヒイラギ少尉は重症を負い、機体はスクラップとなってしまった。そして隊長機がやられたことによってブラックパール隊の指揮は一時的に混乱した。
突出したチャールズ曹長のハイゴッグはいきなり隊長機が破壊されたことに驚き、一瞬動作が止まってしまった。そして棒立ち状態のハイゴッグ向かって横にあった小さな路地からミサイル・ランチャー・バギーがミサイルを発射、機体に直撃しチャールズ曹長のハイゴッグは転倒した。そして近くの建物の中に潜んでいた連邦兵が対物狙撃ライフルを発砲、転倒したハイゴッグのモノアイやスラスター、間接部に弾丸を叩き込んでいった。ハイゴッグは他のモビルスーツと比べて装甲が紙のように薄いとはいっても、流石に対物狙撃ライフル程度で撃ちぬけるほど弱くはない。だが相手も対物狙撃ライフルでモビルスーツの装甲を貫通できないのは知っている。そして執拗にモノアイを狙うスナイパーのライフルに装填されている弾丸は普通の弾ではなかった。

「しくじった・・・オートバランサーが逝かれた? スラスターも異常反応、間接部にも若干異常か・・・ん? ・・・なんだよこれ!?」

チャールズ曹長が仰天したのはモニターに映し出される光景だった。あろうことか敵はペイント弾をモノアイ周辺に命中させていたのだ。そのおかげでモノアイの映像を映し出すモニターはそのほとんどが赤く塗りつぶされていた。しかし・・・

「くっ・・・たかがメインカメラが使えないだけだ、水陸両用機をなめるなよ!」

そう言って彼は音響装置と赤外線装置を起動させた。水陸両用モビルスーツであるハイゴッグには音響装置と赤外線装置が搭載されており、この二つの機能はモノアイが使えなくても彼に十分な情報を教えてくれた。敵の大まかな位置を音響センサーで捉え、赤外線装置で場所をある程度特定し腕のメガ粒子砲を放つ。



倒れこんだモビルスーツが反撃したのは3人のコマンドが潜んでいるビルだった。1階に潜んでいたコマンドを狙ったメガ粒子砲はコマンド一人を蒸発させ、そのまま建物の基部を破壊し建物は崩壊。中にいた他の2人は瓦礫の下敷きになり圧死した。

「第7班がやられました!」

「敵機更に2機接近中です!」

「糞、さすがに破壊力があるな・・・全員聞け! 今持っているスティンガーを叩き込んだらここは撤収するぞ!」

「了解! 足の間接部に集中しろ!」

「ファイア!!」

そう言って放たれた3発の対戦車ロケット弾は距離が近かったこともあり3発とも命中し、立ち上がりかけた時に足に損傷を負った敵は再び転倒した。そしてこの隙にハートメン少佐率いる連邦軍海兵隊、後にゲリラ戦のプロフェッショナルと呼ばれジオンから恐れられる連邦軍第7海兵隊はこの場を後にした。そして他の場所でも同様の攻撃をし、2機のハイゴッグに損傷を負わせることに成功していた。



「アリマ少尉、ブラックパール隊がやられました!」

「なんだって!? どういうことだ」

「どうも連邦の反撃でやられたそうです。死者は幸いなことに無いそうですが隊長機が大破しヒイラギ少尉は重症、他にも3機がやられ、そのうち1機は戦闘継続は難しいと・・・」

「・・・わかった、すぐに後退するよう伝えてくれ。ブラックパール隊の残存機はこちらの損傷機と合流しその護衛をするように伝えてくれ」

「了解しました」

「しかしブラックパール隊がやられるとは・・・マーメイド隊、聞こえるか?」

「こちらマーメイドリーダー、何アリマ少尉?」

「そっちの状況は?」

「ドックの中のも含めて全ての敵艦船を破壊したわ。今は残敵掃討にかかっているところよ」

「分かった。ただ気をつけてくれ、ブラックパール隊が連邦の反撃を受け隊長機を含む4機がやられた」

「・・・嘘でしょ? タク・・・ヒイラギ少尉は!?」

「少尉の機体は大破し重症らしいが命には別状は無く、死亡者もいないらしい。今は無事な2機で後退中だ」

「ふぅ、無事でよかった・・・にしても予想外ね。あの人がやられるってこともだけどここまでこっちを苦戦させるなんて。こっちは新型機だってのに」

「友軍も損害が増えてきている。連邦も必死なんだろう」

「そうね、こちらも3機やられたわ。機体の性能に知らず知らずのうちに甘えていたみたいね」

「そうか・・・今データをみてるんだがブラックパール隊はどうも歩兵にやられたらしい。歩兵によるゲリラ戦もあなどれないってことだな」

「市街地や倉庫の多いところでは車両よりも歩兵のほうが脅威ってことね・・・改めて勉強になったわ」

「これからディープブルー隊は残敵掃討に移る。そっちは防衛線の構築を急いでくれ」

「了解、こちらも戦力が少ないから周囲の部隊と連携して早めにしておくわ」





ホイラー航空基地 07:14

「報告します! ホノルル市及び真珠湾に展開していた部隊を含め、ホイラー・ヒッカム両航空基地に部隊の集結を完了しました」

部屋に入ってきた参謀が部屋の中にいた二人にそう報告した。

「ご苦労」

「・・・少し聞きたいのだがホワス陸軍少将、まさかとは思うが文字通り全部隊を撤収させたのですか?」

「その通りだが何か? メルマンド空軍大佐?」

「馬鹿な、何部隊かは後方にまわしてゲリラ戦を仕掛けるべきではないのか!? それにホイラーとヒッカムだけ残っていてもじり貧ではないか!」

「・・・大佐、私は少将だよ? 口の利き方に気をつけたまえ。後ゲリラだが海軍と海兵隊がやっている。奴等は真珠湾とホノルルにまだいるはずだからな」

「な・・・」

メルマンド大佐は絶句した。目の前の男は海軍と海兵隊を捨て駒にしているのだから。確かに兵隊は極端に言えば捨て駒だろう。だが十分な装備がない部隊でゲリラ戦をしても、それはただの犬死だった。だが結果的に時間稼ぎができたのは事実であり、彼は目の前の男がそれほど冷血では無かった事をすぐに知った。

「考えてみたまえ、彼等の指揮系統は壊滅した真珠湾にあった太平洋艦隊司令部にあったがその司令部は壊滅している。もちろん私の名前で自由戦闘、後退も許可したものの、現場がどう判断するかは分からん」

「では少将は海軍司令部が壊滅することを見越して・・・?」

「私がジオンなら真っ先に空軍戦力と海軍戦力を叩くよ、特に真珠湾はジオンの水陸両用モビルスーツなら襲撃しやすい場所だからな。過去に行われた真珠湾拡張工事、水深が15m程度だったのを大型潜水艦が湾内でも潜航できるように水深30mまでしたのはやりすぎだったな。おかげで報告では陸上からでは潜航している敵に攻撃できないというし」

「たしかにあの拡張工事は不必要なものも多くありましたからね」

「その通り。海軍が足止めできなくともファンファン等の攻撃機で敵をかく乱、時間を稼ぐことは可能だ。小出ししたら各個撃破されるのがオチだからな」

「では部隊を後退させたのは・・・」

「部隊を再編成し効果的に部隊を派遣する為に決まっている。ところで大佐、航空隊はどうなっているのかね?」

「数分前の報告ではホイラー航空基地にばら撒かれた時限爆弾の処理は順調で、4つの滑走路の内3つの滑走路に投下されたものは処理が完了しました。またそれと平行し破損した各滑走路の復旧も現在急ピッチで行っており一応ですが2つの滑走路が使用可能で、それを使ってフライマンタとセイバーフィッシュを順次出撃させる予定です」

そう言ったメルマンド大佐にホワス少将はとんでもないことを言った。

「メルマンド大佐、今は非常時であり指揮系統は統一したほうがいいのではないか? 2人も命令を発する者がいては混乱するだろう。よって航空隊の指揮も私がとろう」

「はぁ!?」

まさに絶句、彼は目の前の男のことを見直していたがこれで評価は全くの振り出しに戻った。だが少し考えてみて今の発言の裏には焦りがあるのだと彼は考えた。元々ホワス少将はジャブロー所属のエリートだった。それが少しのミスをしたばっかりにハワイに左遷されたのだ。そして彼がジャブローに返り咲くには手柄を立てることが必要だった。もし彼の指揮下に入った航空隊が陸軍と協力しジオンの水陸両用モビルスーツを殲滅すればその功績の多くはホワス少将の手柄となる。そしたらジャブローへ返り咲くどころか中将へ昇進することも夢ではない、そうメルマンド大佐は考えた。そしてその結論に達した彼は当然ながら反対する。

「それは不可能です。今指揮を譲渡でもしようものならその関係で混乱がおき、結果情報が混乱し部隊は使い物になりません。第一少将には航空隊の詳細な指示はできないでしょう」

「この場で一番上位の者は私だ。君は私の命令に従えばいいのだよ。何、実際の命令を下すのは君だ。一時的に私の部下になるということだよ」

「そんなことをする時間があるなら今はジオンに対する対策を考えるべきです! 航空戦力を無力化し、真珠湾を今なお占拠しているということは今いる部隊以外に上陸部隊がいる可能性が高いということです!」

「ふんっジオンの宇宙人共が部隊を上陸させる艦艇を持っていると仮定しよう。だが奴等に敵前上陸できる技術があるかどうかはまた別問題だ。上陸するときを狙って集中攻撃すればモビルスーツごと海の藻屑にできるのではないか?」

「たしかにそうかもしれません。ですがジオンを甘く見るのは危険すぎます! 奴等を侮っては・・・」

「敵を過大評価するのも危険だと私は思うがね。確かにモビルスーツは脅威だがさっき言ったように海の上で輸送している船を沈めれば簡単に無力化できる。上陸前にMLRSや自走砲、空からフライマンタや攻撃ヘリで上陸艦艇を攻撃すればいい。何か間違ったことを言っているかね?」

「それは・・・たしかに間違ったことは言っておられませんが、現に上陸している敵の水陸両用モビルスーツはどうするのです?」

「それも問題無い。たしかにやつらのゴッグというモビルスーツは装甲が厚く破壊するのも一苦労だがやりようによっては破壊は可能だ。事実うちの戦車隊がゴッグを破壊したという報告を受けている。航空隊がつかえるなら敵モビルスーツのいるところに絨毯爆撃という手もある」

「ちょ、ちょっと待ってください。敵のモビルスーツが展開しているのはホノルル市や海軍港、それに民間空港といったところです。いずれにせよ絨毯爆撃などできない場所ですよ!?」

「戦争に犠牲や被害は付き物だよ。犠牲も被害もなく戦いに勝てるというのは幻想でしかない」

「それはそうですが、市街地に絨毯爆撃などしようものなら・・・」

「もちろんホノルル市に絨毯爆撃はせんよ。あくまで最後の手段だ。だが民間空港ならあまり問題なかろう? 被害は全てジオンのせいにすればいいのだから。もっとも、北部の占拠された空港にジオンがまだいるかどうかはわからんがね」

「しかしそれでも真珠湾に居座る敵には・・・」

「たしかにそうだ、真珠湾へ居座る敵は別の手段で駆逐する」

「その方法があるというのですか?」

「・・・君も知っていると思うが、我々もモビルスーツを1個中隊、計12機保有しているのだよ」

「1個中隊も!? いったいどうやってそれだけの数を・・・」

「なに、奴等が旧ザクと呼んでいるものだがね、宇宙からのプレゼントだよ」

「ここの陸軍がモビルスーツを運用しているとの報告は受けていましたが、せいぜい1~2個小隊程度だと思っていましたが・・・そんなにも」

「試験中隊だからな・・・これ以上説明するつもりはない。ところで、例の輸送部隊は今どのあたりにきているのかな?」

「ああ、今日やってくる航空部隊ですか。オアフ島は危険と判断しハワイ島の民間空港に着陸するよう命令しました。弾薬もミデアで一緒に輸送しているとのことなので1時間以内には再発進が可能になるでしょう」

「なんだと! ここに着陸させなかったのか!?」

いきなり立ち上がりそう叫んだ少将に疑念を感じながらもメルマンド大佐は答えた。

「え、ええ・・・まだ滑走路の時限爆弾は完全に除去されたわけでは無いので大事をとってそう命じましたが何か?」

そう言うとホワス少将は椅子に座りなおしこう答えた。

「・・・あの輸送部隊にはザクを元にした我軍の試作モビルスーツがあるのだ。わざわざハワイ防衛の為に呼び寄せた実験部隊だが・・・他にも私が上層部と取引してまで配備を頼んだRTX-44とその派生型もな。ミデアが運んでいる『弾薬』とは、ジオンに感づかれないように戦力を集結する為に付けられたそれらの部隊のことを指している暗号なのだ」

その言葉に今度はメルマンド大佐が驚いた。目の前の少将は12機の旧ザク以外にも対モビルスーツ用に部隊の増派を手配していたのだ。てっきりメルマンド大佐は彼のことをジャブローのモグラ、威張り散らし手柄を独占することしかしない人間だと思っていたのだがしっかり防衛のための戦力を用意していたのだ。しかし、同時に彼はあることに気がついた。

「ちょっと待ってください。ということはミデアには航空爆弾等は・・・」

「ほとんど搭載していない。おそらく増援部隊の1会戦分も運んでいないだろうな」

「そんな・・・」

そう、秘密裏に部隊を輸送しようとした代償がこれである。メルマンド大佐はハワイ島を臨時の野戦飛行場とし、そこから攻撃隊を反復出撃させようと考えていたのである。それがここにきて当てにしていた弾薬が無いときたのだ。

「・・・ホワス少将、航空戦力の一部を燃料・弾薬ごとハワイ島のヒロ民間空港に移動させることを提案します。増援部隊もそこにいるのでジオンの水陸両用モビルスーツがきても撃退できると思います」

「たしかにそうだが・・・これから輸送するのでは途中迎撃されないか?」

「それも承知の上です。万が一こことヒッカム航空基地がが落とされたら他の島の守備隊は降伏を余儀なくされます。それを避ける為にもあえてヒロ民間空港に部隊を移動させるべきかと・・・それに敵の部隊が展開している地域を迂回させれば攻撃を受ける可能性は少なくなります」

「そしてここが陥落寸前になったら残存部隊はハワイ島に退避するということか・・・たしかに戦闘を経験した兵士は当然ながらここにいる熟練整備兵も今の連邦には貴重な存在だからな」

「ええ、まぁここは滅多なことでは落ちませんが・・・」

「分かった、可及的速やかに移動を開始せよ。輸送隊は輸送が完了したらすぐに戻ってこさせろ」

そこまで言ったとき、室内に一人の兵が入室した。

「報告します。ホイラー・ヒッカム両航空基地の外部防衛ラインが整いました! なおヒッカム航空基地から戦闘ヘリ部隊が出撃、敵部隊に攻撃を開始しております。それと新たに島の東に偵察にでたディッシュが消息を絶ちました。現在消息を断った方向に向けて偵察爆撃任務を帯びたフライ・マンタとセイバーフィッシュ隊が出撃しました!」

「・・・すぐに全部隊に伝達せよ! 敵の上陸部隊が接近している可能性大とな! ぐずぐずするな、走れ!」

「りょ、了解しました!」

そういって伝令は部屋を飛び出していった。

「ホワス少将、まさか・・・」

「そのまさかと考えていいだろう。この状況で偵察機が消息を断つということは敵の本体がいる可能性があるからな。どうやらジオンに兵無しというのは若干誤りのようだな」

「しかし敵が本格的に上陸してきては・・・」

「ジオンが上陸するとしてもまだ先のはずだ。それなら火砲の配置は十分間に合う・・・今のうちに叩けるところは叩くか。メルマンド大佐、ヒッカム航空基地から戦闘ヘリを出撃させてくれ。真珠湾に砲撃を仕掛ける」

「分かりました。ですが狙うならヒッカム航空基地を襲撃中の部隊のほうがよいかと・・・既に戦闘ヘリ部隊が交戦中なので、その部隊に連絡をとります」

「ふむ・・・それではヒッカム航空基地を襲撃中の敵の詳細なデータをうちの砲兵隊に伝えたまえ」



ヒッカム航空基地 08:02

「こちらスチョップ2! 敵の新型モビルスーツは腕からビームをぶっ放してくるぞ! 各機警戒して攻撃せよ!」

「こちらホップ2、ですがこっちの戦闘ヘリは対人用といってもいいような貧弱な機体ですよ! これでどうしろと!?」

「一応対戦車ロケットランチャーをつけてるだろ! そいつで隙を狙ってぶち込め!」

「無茶言わんでください、とってつけたような代物じゃないですか! それにたった4発でどうしろと!? これならファンファンの部隊を待ったほうがましで・・・うわあぁ!!」

「くっ・・・こちらホップ4、ホップ2が撃ち落された! こっちの残りは2機だ! 弾薬も少ないしこれ以上の攻撃は無理だ!」

「くそ、なんで重攻撃ヘリがいないんだ!? いたらこっちの苦労も軽減されるってのに!」

「最前線にまわされてるそうですよ。ハワイのような戦力の整っている場所にはこんな軽戦闘ヘリで十分だとでも思ったんでしょ」

「唯一ここに配備されていた部隊は今はインド洋へむかう空母の上だしな。こんな武装ヘリで何しろってんだか・・・」

「こちらホバー71号車、攻撃中の全部隊に告げる! 敵部隊の位置を知らせよ」

「位置を知らせてどうするんだ!? 糞! また1機落とされた」

「砲兵の射撃が行われる。座標を教えてくれとのことだ」

「こちらファン3了解! 敵新型モビルスーツ1機が作戦エリアのアルファ75にいる。通りをおよそ時速30kmくらいで北進している。こいつに砲弾を叩き込んでくれ!」

「了解、砲兵に伝える。しばし待て!」

「こちらハーテック1、ポイント34でゴッグを確認! ゴッグは胴体のメガ粒子砲以外に対空装備は無い。相手がゴッグなら背後に回りこんで熱いのを叩き込んでやれ!」

「こちらベリュー1、了解した。カマほってやるぜ!」

「馬鹿ベリュー1! 変なこと言ってるんじゃねぇ、思わず吹いちまっただろうが!」

「こちらホバー71、私語は慎め。 砲兵がアルファ75全域へ射撃を開始した。着弾まで後30秒、全部隊アルファ75周囲から離れろ!」

しばらく後、ポイントアルファ75に数多くの砲弾とロケット弾が着弾した。この攻撃を受けたのはズゴックだがさすがの新鋭機もこれにはたまらず、機体に直撃して数瞬後にはズゴックは大爆発を起こし破壊された。

「こちらファン3、敵モビルスーツの破壊を確認! 砲兵に支援感謝と伝えてくれ!」



「糞! 敵の砲撃によってカース3がやられた! 敵の攻撃ヘリが座標を教えていやがるのか!」

「落ち着け! つまりは敵が引いたら全速で回避すればいいだけだ。しかし支援部隊がこっちにいないのはつらいな」

「報告! 中継通信機から通達! 『パレンバン』開始を通達してきました、作戦は次の段階へと移行します!」



ホイラー航空基地 08:18

「報告します! 戦闘ヘリ及び砲兵隊の攻撃により敵モビルスーツ数機を撃破、敵部隊はヒッカム航空基地周囲から後退しつつあります」

「ご苦労。メルマンド大佐、どう思う?」

「順調といってもいいでしょう。ですが最大の懸念は・・・」

「敵の本体がどこにくるか、だな。真珠湾を奴等は制圧しているが真珠湾に上陸とは考えれん。おそらく北部のディリンガム民間飛行場が制圧されたことを考えると敵は北部に上陸すると考えてもいいだろう。そしてその前提で自走砲とMLRSを配置した、だが・・・」

「ええ、北部に上陸するとしても上陸間際を狙い撃ちされればかなりの損害をだすことは奴等も知っているはずです」

「・・・我々は何か重要なことを見逃しているような気がするな。一体なんだ? 何を見逃している?」

そうしてホワス少将が迷っているとき、新たな報告が入ってきた。

「報告します! 偵察爆撃隊がオアフ東部およそ300kmの海域にて多数の艦艇を発見、友軍の戦闘艦が多数確認されました。後その中にはヒマラヤ級空母を1隻確認できたそうです。現在敵の直援機と交戦中とのことです」

「鹵獲された友軍の艦か・・・キャリフォルニアベースで鹵獲されたものだろう。あそこは有数の軍艦建造拠点だったからな」

「ジオンでヒマラヤ級に載せられる航空機といえばドップでしょうね。ジャベリンという戦闘機はどうか知りませんがドップはガウに搭載可能らしいですから・・・それに連邦の戦闘機より小柄だから搭載数も多いでしょうし、敵艦隊の防空能力は侮れないと考えていいでしょう」

「あの・・・後、その中に一際異様な艦影を確認したといってきました」

「異様な艦影? なんだそれは、詳しく報告せよ」

「は、なんでもホバー走行しているようで、戦艦並みの砲台を持っているようだとのことです」

「・・・ホバー走行で戦艦並みの主砲? ビッグ・トレーでも鹵獲・・・違うか、それならビッグ・トレーと報告するだろう。ということは・・・」

「ジオンの新兵器、ですか?」

「そう考えるのが無難だな。しかし300kmとは・・・偵察隊の失態だなこれは」

「申し訳ありません。ミノフスキー粒子が濃く、飛ばしていた哨戒機もレーザー通信の中継として、また砲撃ポイントの指示や対潜攻撃をおこなっていましたから・・・もっとも対潜攻撃を行った機はほぼ全てが撃墜されましたが」

「なんにせよここから300kmということは30ノットもだせば5時間でやってくる。今すぐに攻撃隊を出撃させるべきではないか?」

「そうですな。デプ・ロックとフライマンタ、護衛にTINコッドとセイバーフィッシュをだします」

「トリアーエズはどうするんだ? 現地改造していると聞いたことがあるが」

「セイバーフィッシュと違い、バルカンしか持たない元航宙機なぞあまり役に立ちません。たしかに小型ミサイルを2発搭載できるように改造しましたが、その程度では基地の防空くらいしか使い道がありません。もちろんいつでも出撃できるように準備はしています」

「分かった、それでは・・・」

続きを言おうとしたホワス少将をさえぎったのは、血相を変えて部屋に入ってきた将兵だった。

「何事だいきなり!」

「た、大変です! 偵察爆撃隊のフライマンタから緊急連絡が! て、敵の大規模な航空部隊がオアフに接近! その中には多数のガウ攻撃空母に数多くのオルコス中型輸送機が中心で、護衛と思われる敵戦闘機と現在交戦中だそうです!」

「な!?」

「しまった! 空挺降下か!?」

そう、ジオンの主力はこの航空部隊だった。ガウ攻撃空母だけでも10機、オルコス輸送機が50機の計60機の輸送機部隊に護衛の戦闘爆撃機、空中給油機、早期警戒機など、軽く100を越える機体が一路オアフ目指して進撃していたのだ。それは北米のジオン軍の航空戦力の大半であった。

「メルマンド大佐、今すぐ迎撃機を飛ばすんだ! 空襲警報を知らせろ!」

「りょ、了解しました。直ちに迎撃機を飛ばします!」

「糞、ジオンめ・・・海と空の3次元戦闘か・・・しかしこのオアフで空挺降下とは大胆不敵というかなんというか・・・各隊へ至急対空戦闘準備と伝えろ!」



ホイラー飛行場 08:19

「まわせまわせ~!! 敵は待ってはくれんぞ、トリアーエズ隊はB滑走路から緊急発進! セイバーフィッシュ隊はC滑走路だ! TINコッドはトリアーエズ発進後B滑走路で緊急離陸だ、A滑走路はまだ使えない! D滑走路は大型機用に空けておけ」

「待て、A滑走路からTINコッドを離陸させろ、A滑走路に散布された爆弾の処理はついさっき完了した! 後大型機は後回しだ、どうせ上げてもカモられるだけだぞ」

「馬鹿、D滑走路をよく見てみろ! デプ・ロック等の大型機で埋まってるのが見えないのか!? どっちみちD滑走路は今は使えん!」

そこはまさに戦場だった。ホイラー飛行場の管制室では緊急発進する戦闘機部隊への指示と、飛行場内に配備された対空部隊の配置でてんやわんやだった。

「第936防空部隊、滑走路を横切るな! そこは戦闘機が今離陸寸前なんだ! そこのフライマンタ、敵艦隊を攻撃したい気持ちは分かるが道を空けろ! 今時間は貴重品なんだ!」

「離陸した戦闘機から連絡! 敵航空部隊を目視したそうです、既に一部の部隊は戦闘を開始した模様!」

「こちらホイラー管制室、ヒッカム管制室へ! 敵と戦闘を開始した、戦闘機隊のいくつかをそちらにまわすからできればヘリ部隊をこっちにいくらか遣してくれ!」

「こちらヒッカム、無茶言うな! こっちはいまだ基地周囲で敵と戦っているんだ、戦力を引き抜かれた状態で敵の空挺がきたらヒッカムは落ちるぞ! それに戦闘ヘリ部隊の損害も大きい。今再編成しているがそちらに派遣できる戦力は無いものと考えてくれ!」

「糞、了解したヒッカム管制塔、なるべく善処する! こっちの部隊が戦闘に入ったので指揮管制を開始する、オーヴァー!」

「主任、滑走路までならなんとか無線が使えますかららいいですが離陸させちまったらレーザー通信以外はできません!」

「・・・忌々しいミノフスキー粒子め」



オアフ島東150km上空 08:29

「こちらエア・コマンダー・リーダー。編隊各機へ、敵の迎撃機が多数接近中。事前に決められた通り各早期警戒管制機は指揮を開始、各航空隊はそれに従うように。ガウ攻撃空母各機へ、艦載機の発進を始めてくれ。発進したドップは各自対地攻撃を開始、弾薬を撃ち尽くしたら帰還して対空装備で再出撃するように。ガウ攻撃空母各機はモビルスーツ投下後メガ粒子砲をスタンバイ、ただし敵基地への爆弾投下終了後別名あるまでそのまま高高度で待機せよ」

早期警戒機から命令された各機はそれぞれ命令されたことを実行に移した。3機1小隊編成のジャベリン戦闘爆撃機隊は出撃してきた連邦軍戦闘機に戦闘を挑み、ガウとオルコスは高度10000mをそのまま悠々と飛行していた。



「こちらゲトール1、敵戦闘機を視認した。例のジャベリンとかいう機体だ、セイバーフィッシュを上回る性能を持っているはずだから気を抜くなよ!」

そう上昇中のセイバーフィッシュのパイロットが言うと同時に共に飛んでいる友軍から無線が入り始める。だが上空とは違い低空ではミノフスキー粒子が濃い為か無線は途切れ途切れに聞こえる。

「こちらオグ・・・ガウから多数の戦・・・の発進を確認した・・・らくドップだ、格闘・・・意せよ」

「こち・・・・ク、了解した。まず敵・・・機を片・・・る。奴等が・・・の腕前か、空戦で確か・・・」

「アグレッ・・・連中に負けるなよ。ジオ・・・・・・き落とせ!」

「・・・糞! レーザー通信装置がありゃ友軍とまともな通信ができるってのになんで後回しにされたんだ畜生!!」

そう、ハワイの航空隊でレーザー通信を装備しているのは極少数で、大半の航空機は未だレーザー通信が装備されておらずミノフスキー粒子のせいで満足な通信ができない状態だったのだ。これは中東や南米、アフリカといった最前線や敵の脅威度が高い所に優先して装備を回している為比較的襲撃の危険が少なく防衛戦力が充実していると判断されたハワイの航空隊にはレーザー通信装置は配備が進んでいなかったのだ。地上部隊や艦船には配備がされていたがこれは地上兵力と艦隊が前線への増援として準備されていたからであり、基本的にハワイ防衛を主任務としている空軍よりも配備が優先されたからだ。
そして無線が途切れ途切れ聞こえる中双方の戦闘機部隊は激突し、互いに相手を撃墜しようと乱戦になっていった。例のジャベリンという機体はロケット弾を雨霰と叩き込んできて、編隊が崩れたところをドップが防衛線を突破していった。連邦の航空隊がドップの狙いに気がついたときにはもう手遅れだった。

「あのドップどこへ行く気・・・ってまさか奴ら基地を空襲するつもりか!? こちらシグヴァー3、敵戦闘機が基地へ向かっている! 速やかに迎撃してくれ! 足の速い奴らはあいつらを止めろ!!」

「こ・・・では無理で・・・・・・後方に敵機が、食いつかれ・・・助け・・・」

「こち・・・ガ11、機体に被・・・・・・・イジェークト!」

ドップの狙いに気づき反転、追撃しようとした機体はジャベリンに背を向けることになり、ジャベリンに背後を取られロケット弾やガトリングで叩き落されていく。この場の連邦軍航空隊はジャベリンの群を蹴散らさないと何もできない状態になっていたのだ。結果、連邦軍の戦闘機の多くはジャベリンとの戦闘に忙殺され、ガウとオルコスを食い止める事はできなかった。極少数の戦闘機は攻撃を仕掛けたものの逆に護衛についていたオルコスのガンシップ型の反撃に会い撃退された。そしてガウとオルコスの編隊は悠々と空を飛び、11分後には降下地点へと到達した。

「しかしジェット気流のせいで予定より大幅に遅れましたね」

「仕方あるまい。それに海上のほうも時化とかで予定が大幅に狂っている。予定は未定とはよく言ったものだ。さて、そろそろ降下ポイントだ。ナビゲートしっかりしろよ!」

「こちらエア・コマンダー7、担当機が目標エリアに到達。これより空挺降下を開始します」

「こちらエア・コマンダー4、同じく降下を開始させます」

そういう通信が続々とエア・コマンダー・リーダーの機体に入ってきた。それと同時にガウから3機、オルコスから2機のモビルスーツが射出された。



「なんだありゃ? なんで奴等あんな高高度で投下してるんだ?」

あっけにとられたのは地上の連邦軍防空部隊だった。てっきり高度3000m程度まで降りてきて、そこから降下させるものと彼らは思っていたのだ。高度8000mからの空挺降下等、並みのスラスターでは落下速度を緩和できず、地面に叩きつけられて御終いだと思ったからだ。
しかし彼らは思い違いをしていた。人間が空挺降下する際に必ず必要なあるモノを、モビルスーツが持っていないと断言できないということを・・・



「高度2000切りました!」

「予定通り高度1000でパラシュートを開きな! 後は連邦のボウヤ達に制圧射撃しながら行くよ!」

そう言って空中を落下しているのはこの作戦で唯一空挺降下を選んだキシリア派の部隊、シーマ海兵隊だった。彼女達は今回の作戦に今まで使っていたザクⅡF型から新たな機体を受理していた。そしてシーマ海兵隊はこの作戦に一つの希望を持って戦っていた。

「しかし、まさかシーマ様が本当に艦隊指令になられるとは思ってもおりませんでした。おまけに今作戦では新型機を受理しましたし」

「ふっ、ザビ家の坊ちゃんとツィマッドの連中には感謝すべきかね」

そう、シーマは本当に1つの艦隊を任されていたのだ。ここに至る経緯は簡単なもので、ガルマにエルトラン・ヒューラー社長がシーマ艦隊の境遇を教えたのだ。それを聞いたガルマはエルトランの提案でこのことをキシリアに尋ねたのだ。そしてその結果キシリア配下のシーマの上官であるアサクラ大佐が汚れ仕事を実行させていたこと、更にギレン派に有利な手駒として使っていたことがキシリアに知られたのだ。こうなれば話は早かった。即刻アサクラ大佐は解任され、シーマが艦隊司令に昇進し、初任務として今作戦にシーマの部隊は投入されたのだ。なおこの作戦投入がなぜ決まったかは不明だ。そして作戦の計画段階で敵を迅速に征圧する為空挺降下部隊に選ばれ、その時点でこれまで使用していたMS-06F ザクⅡF型からより性能の高いヅダS型、通称ヅダイェーガーに機種転換されていた。さすがにイェーガーの名を持つだけあって対艦ライフルから転用した狙撃用ライフルでの狙撃は命中率が高い。だが空挺降下中に反動の大きい狙撃ライフルでは精密射撃はできない為、全てバズーカと共にコンテナで投下された。今もっている武装はMMP-78 120mmマシンガンだった。円形のドラムマガジンではなく長方形のマガジンであり予備弾を比較的携帯しやすくなっているタイプだ。そして高度1000mになった時パラシュートが開かれ、速度が一気に減速した。当然ながら連邦軍はチャンスとばかりに対空砲火を放つ。対抗して空挺部隊もマシンガンで迎撃する。圧倒的に撃ち下ろす空挺部隊の射撃の方が命中率は高いが、やはり連邦軍の対空砲火に捉えられパラシュートに穴が開く機体が続出した。

「うわ! こちらデトローフ、パラシュートに被弾しちまいました! 予定より早いですがパラシュートを切り離します」

「減速ブースターを高度300で全力噴射しな! 後は分離後自身のスラスターでなんとかおし!」

「がってんでさ!」

そういったかと思うとそのヅダイェーガーはパラシュートを切り離し、高度300で減速ブースターを作動させた。この空挺降下パックは背中にメインスラスターが装備されているモビルスーツ用に開発されたもので、メインスラスターにかぶせるようにメインパラシュートが設置されていた。簡単に言えばリュックサックを背負ったような状態なのだ。そしてそのリュックサックには4箇所に減速用の小型ブースターと2基の大型減速ブースターを装備していた。これらは実験段階では降下中に使用すれば機体を空中で停止、更には上昇させることが可能なほどの推力を誇り、これで一気に降下速度を落としたヅダイェーガーは高度100でそのリュックサックを分離、自身のスラスターを使用して無事に着地することに成功した。そして着地に成功した機体はそれぞれ敵にマシンガンを浴びせていった。



ホイラー航空基地 08:57

「報告します! 敵モビルスーツ部隊が各地に空挺降下しました。その数およそ100機を越える見込みです。降下した敵はここホイラー飛行場の征圧に取り掛かっており、また滑走路では離陸寸前の機体が敵機の攻撃を受け爆発炎上している為一時的に制空権を失いました! 更にヒッカム航空基地は防衛ラインが突破されて最終防衛ラインで戦闘中、このままではヒッカム航空基地は陥落します!」

「・・・メルマンド大佐、防空ミサイルは何をしていたのだね?」

「無茶言わんでください。配備されている防空ミサイルは全てレーダー誘導式ですから誘導できませんよ。それにドップの攻撃で多数の損害がでております」

「無誘導でも発射すべきではなかったのかね? 敵は編隊を組んでおり旧世紀には高射砲という無誘導の対空兵器もあったはずだが?」

「それは・・・たしかにそうですがもはや敵降下部隊はその多くが降下してしまいましたし・・・」

「それに付け加えて敵の上陸部隊がいるし、進退窮まったということか」

「少将、ヒッカム航空基地はおろか、オアフ島の放棄も考えなくてはなりません、どうしますか?」

「・・・切り札を使う。1個中隊の内2個小隊を機動防御に回せばなんとかなるか。残り2個小隊は拠点の防衛にあてよう。基地の方はそうだな・・・ヒッカム航空基地へ連絡してくれ。車両も時限爆弾を設置し全て破壊して手荷物無しでミデアに乗り込みハワイ島まで撤収せよと伝えろ。殿は戦闘ヘリ等の航空部隊に任せておけ」

「了解しました。こちらに移動可能な部隊は移動させますか?」

「おそらく無理だろうな。敵に分断されているのだ、小柄なドラゴン・フライならともかくミデアではたどり着く前に撃破される可能性が高い」

「了解、ではこの基地も万が一の準備をしておきます」

「頼んだ」



ホイラー航空基地 09:05

「中尉、出撃準備完了です!」

「よ~し、ジオンの奴等にモビルスーツが使えるのは自分達だけではないことを教えてやろうぜ」

「第1、第2小隊でるぞぉ!」

その声と同時にハンガーの一つから白く塗られた旧ザクが姿を現した。それはダミー会社を通じて手に入れた旧ザクで、手には連邦製の120mm低反動砲を持っていた。

「命令では基地の守備を任された。第1小隊はこのまま基地に一番近い敵目指して進撃、第2小隊は少し後方からサポートを頼む」

「了解」

その様子を見ていた第3小隊の隊長、メソン・ゲール少尉は冷ややかな目で出撃する2個小隊を見送っていた。

「隊長、俺達はどうするんですか?」

「どうもこうもあるか、俺達は120mm砲持って待ち伏せだ」

「地味ですね・・・だがそれがいい!」

「マーク、そのネタなんだよ・・・まぁ今の自分達の技量だとそれがいいですよね」

「その通りだハス、ここは第1、第2の連中も含めて待ち伏せに回すべきなんだ。今の俺達の技量はジオンの奴等の新兵なら勝てるが熟練兵相手だとかなりの確立で負けるってレヴェルだからな。それに武装も広範囲に弾をばら撒けるマシンガンは無く変わりに長距離砲撃用といっても差し支えない120mm砲だ、これで奴等と戦えばすぐに接近されてジ・エンドになるのがオチだ」

「そうだな、まぁ我々2個小隊が残ったのは私の監視ということもあるだろうね」

「ビル・・・まぁ第1の奴等はお前をあからさまに敵視しているが俺達はお前を信用しているから、それだけは覚えといてくれよ」

会話に割り込んできたのは第4小隊隊長のビル・クロートだった。彼が敵視される理由、それは彼が元ジオン兵だからだ。ブリティッシュ作戦で隕石落とし、小惑星テンペストを地球に落下させる際に旧ザクで警備についていた彼は自らの所属する陣営の行為に恐怖し、軍を脱走したのだ。普通なら追っ手がくるところだったが丁度カタリナ戦役が始まろうとしていたために追っ手を出したくても出せない状況となり、彼が脱走したという報告は上に伝わらずにいつしか戦死判定を受けていたのだ。そして彼はカタリナ戦役で敗走中の連邦艦隊と遭遇し投降し、連邦軍に志願した。当然連邦は彼を工作員と疑い彼が志願した後は常に見張りをつけ監視しているが、彼のようにサイド3出身の連邦兵は多数いる為それ以上の事はできなかった。また台所事情がきつい連邦にとって彼のモビルスーツ操縦技能は他の鹵獲したザクの操作や解析に必要なものだったのだ。そして彼は紆余曲折の末ハワイで旧ザクの部隊の小隊長を勤めていた。
だがやはり隕石を落とした同類と見られている為彼を見る目は厳しく、時には暴行されたことも何度かあった。だが彼はジオンの行った隕石落としを許すことはできなかったし、今更軍を抜けられるはずもなかった。

「まぁあいつらはお前さんのアドバイスを聞こうともしていなかったからやられても文句はいえんだろうが・・・お前さんはこの状況をどう見る?」

「そうだな・・・正直情報が不足しているが敵が空挺降下を行ったことは確かだ。それはここを占領する目的以外考えられんから俺達は拠点に篭って防衛戦をするのがいいだろう。正直旧ザクではそれくらいが限界だ」

「やっぱジオンの新型の前にはコイツじゃきついか?」

「当たり前だ、俺がジオンを脱走する前のザクはC型、F型というものだったがそれらは旧ザクを全てのスペックで上回っているんだ。ましてやエース用といわれるヅダでは性能に差がありすぎる。それが数ヶ月前なんだから改修された機体、もしくは新型機がでてきてもおかしくない」

「じゃあ遮蔽物に隠れてコソコソ射撃するのが一番か・・・結局歩兵同士の戦いみたいなもんだな」

「歩兵同士の戦いっていうんならこの120mmは強力な火器だな。実験ではザクの正面装甲を破れる性能を持っているから当たれば確実に損害を与えられる」

「なるほどね、つまり巨大な歩兵同士の戦いって考えりゃいいってことっすね。 ところで隊長、その4つのコンテナなんですか? なんか衝撃厳禁って書いてあるんですが」

「ああ、それはこれから配布する。試作品だがこういう市街戦では役に立つはずだ。クラッカー、つまり手榴弾だ。連邦製の試作品でここにあるので全てだ、各小隊ににコンテナ1つ分だ」

「・・・あれ? コンテナ未開封ですよね? じゃあ第1と第2の奴らは」

「持っていっていない。というより持って行けと言ったが無視された」



そして出撃していった第1、第2小隊は隊列を組んで基地の外縁部に到着し、そこから更に郊外に出て行った。だがその数分後には彼らは恐慌状態に陥っていた。なぜなら先頭を歩いていた隊長機がいきなり狙撃され、破壊されたのだ。そして間髪いれずもう1機も・・・

「こちら第2小隊2号機! 敵はどこだ!? どこから撃ってきているんだ!」

「落ち着け! 伏せて状況を確認するんだ! 120mmで怪しげなブッシュ(茂み)を吹き飛ばしちまえ!」

「うわあぁぁぁ!!! メインカメラをやられた! 前が見えない!」

「落ち着け! サブに切り替えろ! 9時の方向に発砲炎を確認しました!」

「敵はなんだってんだ!? 糞、ぶっ飛べ!!」

そう言って9時の方向に手持ちの120mm低反動砲を乱射するが敵に当たった手ごたえは無く、逆にこの方は敵の正確な狙撃の前に徐々に無力化されていった。そしてそれから数分後、残っている旧ザクは建物の陰に隠れることができた2機になっていた。

「糞、支援はどうしたってんだ!?」

「無理だろう、さっきから要請してたが本部は自力で切り抜けろとしか言ってこない。しかし流石ジオンだな、モビルスーツの使い方がうまい」

「感心してる場合か! このままだと俺達死んじまうんだぞ!」

「だが打つ手が無いのも事実だ。おそらく敵は複数いる。最初の攻撃の時に間髪入れずに敵弾がきただろう? ということは今この瞬間も敵に狙われているということがありえるわけだ」

「じゃあどうするんだよ! 一旦後退するか?」

「・・・それこそいい的だ。匍匐前進で少しずつ進むか?」

「モビルスーツで? 無茶だろそれは」

「だよな・・・いっそ機体を放棄して逃げるか?」

「・・・魅力的な案だな。それでいくか?」

「じゃあそうす・・・! 敵だ!」

逃げようとした彼らだったがその案を実行することはできなかった。突如茂みからモビルスーツが跳躍し、空中から近距離で狙撃銃を発砲したのだ。放たれた弾丸は1機の旧ザクの右腕、120mm低反動砲を持つ腕を吹き飛ばした。そして腕を吹き飛ばされ、残されたほうの手でヒートホークをつかもうとしたその旧ザクは横から飛んできた弾丸で吹き飛ばされた。



「なんだい、もう終わりかい? よくそんな腕前で生き残っていられたねぇ・・・」

そう呟いたのはカーキとパープルのカラーリングのヅダイェーガーに乗っているシーマ中佐だった。彼女は135mm狙撃銃を使ってこの近くに展開している部下と共に敵の旧ザクを叩いていた。

「ったく、でしゃばらなければ死ななかったものを・・・」

そう言いながら120mm低反動砲をこちらに向けようとする旧ザクに彼女は135mm弾を叩き込んだ。それは旧ザクのコックピットに直撃し、あっけなく旧ザクは破壊された。

「すまなかったねぇ。あっさり勝たせてもらってさ」

「シーマ様、エア・コマンダーからここいら一帯に展開している部隊に対して指令がきました。このまま基地外周部を攻撃せよ、本格的な侵攻は上陸が成功してから行う予定だったが進攻が可能なようであれば順次進撃せよ、だそうです」

「あいよ、それじゃ連邦の坊や達をたっぷりかわいがってあげようか」

「了解しやした。それじゃあっしはバズーカで支援をしますシーマ様」



ホイラー航空基地 09:14

「出撃した試作小隊2つが全滅だと!?」

「はい、どうも敵の指揮官と思わしきカラーをしているヅダを確認したので、おそらく敵エースによって・・・」

「むぅ・・・・・・航空隊はどうなっているメルマンド大佐?」

「は、破壊された機体の除去作業を行いつつ並行して戦闘機の発進を行っております。ただ敵のガウ攻撃空母が高高度爆撃をしてくる為、基地の施設に少なからざる損害が発生しております。敵の戦闘機もなかなか手ごわく、支援している戦闘機が少ないヒッカム航空基地の損害はかなりのものになっております」

「・・・ヒッカムはもうだめか?」

「客観的にみればもう陥落寸前といったところでしょう。最新の報告では脱出用のミデアと輸送ヘリにも損害がでており、戦闘ヘリ部隊の損害は戦闘前の67%を越えております。ヒッカム航空基地の総合戦力は30%以下で、このままでは確実に・・・」

「分かった、ヒッカム航空基地に人員の脱出を命じてくれ。行き先はハワイ島だ。戦闘が始まる前に念の為にクリスマス島に駐留する輸送隊に支援を命じたから、もうすぐハワイ島に到着するだろう。それで順次クリスマス島に後退させればいい」

「・・・いつの間にそんな手配を」

「何、私はジャブローのモグラだよ。真珠湾が襲撃された時嫌な予感を感じたから念の為脱出手段を用意したまでだ。今回はそれをヒッカム飛行基地から脱出する将兵に割り当てるだけのことだ」

「・・・さすがジャブロー組、抜かりが無いというかなんというか」

「これくらいできなければジャブローにいる少将としてやっていけんぞ。常に最悪の事態を考えて手を回しておくのはあそこでは必須だからな」

「・・・と、ところで敵の上陸部隊はどうしますか? 報告によれば弾薬を使い果たした敵機は撤退したようですが、ガウに着艦可能なドップは弾薬を補給して再出撃しており、以前制空権は取り返せておりません」

「こちらが沿岸部に展開させつつあった自走砲とMLRSの半数近くが降下したモビルスーツによって破壊された。それどころか我々は周囲を包囲されつつある・・・デプ・ロックとミデア輸送機、それにドン・エスカルゴを除く航空戦闘可能な航空隊は制空権奪取の為に行動させろ。敵の上陸はやむをえんが、脱出路だけは確保しなければならん。すし詰めでかまわんからデプ・ロックとドン・エスカルゴにも人員を乗せてハワイ島に後退させろ! ミデアの発進準備もしておくんだ!」

「オアフを放棄、ですかな?」

「仕方あるまい、モビルスーツが100機もいるのでは陥落は時間の問題だ。それならハワイ島に後退しそこに最終防衛拠点を作ったほうがいい。奴らは空挺降下を再度するには時間が足りんからハワイ島に上陸するとしても水陸両用モビルスーツか揚陸艦艇くらいだろう。制空権を互角に持ち込めればミデアの生存率も高くなる。自走対モビルガン隊に大口径バルカン重装甲車隊には既に対モビルスーツ戦闘ではなく対空戦闘をするように指示をだしておいた」

「なるほど、懸命な判断でしょう。あれらは当たり所がよければモビルスーツを破壊することができますが、気休め程度ですからな」

「まぁ射角をとるのが問題だがな、ところで航空隊の残存機はいくらいる?」

「・・・ここホイラー航空基地にいる機体であれば最新の報告ではセイバーフィッシュが38機、TINコッドが11機、トリアーエズが72機です。他に戦闘爆撃機のフライマンタが56機、デプ・ロック爆撃機が42機、ドン・エスカルゴ対潜哨戒機が23機、デッシュ偵察機が17機、ドラゴン・フライ連絡機が42機です。ミデアは100機くらいかと・・・」

「随分と残っているな。たしかガウ攻撃空母に搭載できるドップは最大8機、ガウは確認できただけで10機だから合計で80機程・・・数で押し切れるのではないかね?」

「確かに一見すると多いように見えますが、本来ここに所属していた戦闘機の総数は軽く500機を越えます。固定翼機全てだと1000機近くもあったんです。それが敵の攻撃のせいで600機近くが破壊された計算になっているんですよ。それに数で押し切ろうとしても、敵のモビルスーツによる対空砲火で叩き落される始末で・・・不幸中の幸いは撃墜され脱出に成功したパイロットの多くが友軍に回収されたことくらいです」

「ふむ、そのパイロット達はミデアで後退させたほうがいいな。後は・・・殿の為にドラゴン・フライ連絡機を置いておくべきか。 ・・・MLRS、自走砲は弾を全部撃ちつくしてかまわん。友軍が撤退する時間を稼ぐんだ! ハワイ島を最終防御拠点にする。歩兵は輸送機、爆撃機等に乗って後退、整備要員を含む後方支援要員の脱出を優先させろ!」



ヒッカム航空基地 09:23

「報告! ヒッカム航空基地の放棄が決定しました! ヒッカム航空基地の部隊は順次ハワイ島へ後退せよとのことです!」

「・・・負けか。まぁ仕方あるまい。我々海兵隊は殿をし、その後ドラゴン・フライでホイラー航空基地へ移動、そこでまたゲリラ戦を仕掛けるぞ!」

「ハワイ島ではなくホイラーへですか?」

「あちらも戦力は少ないだろう。なら俺達第7海兵隊が時間稼ぎすれば友軍の支援になる」

「了解しました! 直ちに準備にかかります!」

「ああ、それとブービートラップはちゃんと仕掛けたか?」

「もちろんであります! 工兵隊や手持ち無沙汰になった連中と協力して用意しました。ひっかかれば盛大な歓迎が・・・」

そこまで言った時、遠くでいきなり爆発音が響き渡った。そして二人は顔を見合わせニヤリとした。

「マヌケがひっかかったな。まぁこの場合マヌケといって言いかわからんが・・・まぁいい、撤収するぞ!」

「サー、イエッサー!」



「パンター3、大丈夫か!?」

「こちらパンター3、ダメだ。脚部の損傷が大きい。一体何が起こったんだ?」

「敵のトラップではないか? もしくは自爆か・・・」

そう言って周囲を警戒する2機のグフ。ここにいる3機はガウから空挺降下した1小隊で、ヒッカム航空基地の制圧をするために前進していたのだ。そしてその内の1機が損傷したのだ。その機体は右足の装甲が吹き飛ばされ、歩行に障害が生じているようだった。

「一体何をしたんだ? 横の建物が吹き飛んでいるようだが・・・」

「わかりません。普通に建物の影に隠れながら前進していたのですが・・・」

「・・・それか。おそらく建物の窓際に爆薬を設置されていたんだろうな。センサーで感知して爆発したのか、それとも遠隔操作で爆破したのか・・・」

「やられたな。これからはうかつに建物の影に隠れることができないぞ」

「・・・こちらパンター、エア・コマンダー応答してくれ」

「・・・こちらエア・コマンダー7、パンターどうした?」

「敵のトラップにひっかかった。パンター3が脚部を損傷し歩行が困難だ。敵は建物の窓際に爆薬を設置していたようだ」

「了解した。貴隊の現在地から13kmほど後方に友軍の補給ポイントがある。そこまで行けるか?」

「少しきついかもしれませんが何とか自力でいけるかと思います」

「・・・だ、そうです」

「了解した。パンター1、2はそのまま前進してくれ。今連絡をしたがウルフが近くにいる。3kmほど前進してウルフと合流してくれ」

「了解。ウルフっていうと・・・」

「第573モビルスーツ小隊、通称キャットチームだ」

「ウルフなのにキャットねぇ・・・」

「今の発言はパンター2か、彼らを侮らないほうがいいぞ。彼らはスラスターを改造したデザートザク3機を運用しており、機動戦ではグフを装備する部隊と互角に戦える」

「・・・マジっすか」

「ってかこの作戦の期間中だけコードが変わるってのはどうも馴染めんな」

「本当と書いてマジと読む! それにブリーフィングを聞いていたのか? 防諜上での対策だ! つまらんこと言ってないで行動してくれパンター」

「こちらパンター、了解した。 ・・・さて、3は周囲を警戒しつつ後退、我々はトラップに気をつけて進むぞ」

「了解しました」

「了解、お二人とも気をつけて」

だがその言葉がパンター3の最後の言葉となった。彼らはいまだ第7海兵隊の仕掛けた巧妙な罠の中だったのだから。少しずつ後退していたグフが、先程通った通りを歩いていたらいきなりさっき通過した時はなんともなかったビルが爆発したのだ。しかもそれに連動してか、周囲のビルから対戦車ロケット弾が発射されたのだ。その攻撃をまともに受けたパンター3のグフは破壊され、パイロットは死亡した。

「パンター3!? そんな馬鹿な、さっきはなんとも無かったのに!」

「一体何が・・・糞!!」

仕掛けは簡単だった。最初に爆発したトラップはビルとビルの間にワイヤーを張って、ワイヤーが切れた瞬間に爆発するといったものだった。だがそれよりも狡猾なのは後退したグフにトドメをさしたトラップだろう。先のトラップの爆薬にワイヤーを張って、それが爆発したら必然的にワイヤーが切断、トラップが目覚めるといった代物だった。そして一度通過したから安全だと思い込んでいる通路を通過ようとする敵がきたらそれを感知し爆発、更にその爆発に連動し周囲に仕掛けられた対戦車ロケット発射機からスティンガーを発射するといった仕組みだった。これらは歩兵がいれば問題なく解除できるトラップだがモビルスーツのみが先行するとひっかかるタイプのトラップだった。他にも第7海兵隊が仕掛けたブービートラップは『放置されている車に設置した爆弾』や『ある一定の振動(モビルスーツが真横を通るとき等)で爆発する爆弾』、『対戦車地雷を路面に設置、迷彩シート等を上において偽装する』、『マンホールに爆薬を設置する』といったありきたりな罠に加え『建物の中に数多くの対戦車ロケットやバズーカを設置し、ワイヤーかセンサーでモビルスーツを感知したら一斉に発射する』『建物内に燃料を気化させ、建物自体をひとつの気化爆弾として扱う』といったものも数多くしかけていた。
連邦第7海兵隊にとって都合がよかったのは、ここオアフ島はジャブローから太平洋側に弾薬を送る中継地点となっていた為に武器・弾薬・燃料が豊富にあったことだろう。普通の基地でこれと同規模のトラップを仕掛けようとすれば、たちまち基地の弾薬の備蓄がなくなるほどであった。そして様々なトラップのせいで基地を制圧しようと前進する部隊の進撃速度はかなり低下し、やっとヒッカム航空基地の主要施設にモビルスーツが到着したときには既にヒッカム航空基地はもぬけの殻となっており、更に主要施設は自爆され一部は巨大な爆弾として到着した部隊を巻き込んで大爆発するほどで、基地施設の復興には多大な時間と労力がかかることが間違いない状態であった。



[2193] 15話(別名中編2)
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:d442d9e1
Date: 2007/07/01 00:27
ホイラー航空基地周囲

「こちら第3小隊3番機、ザク3機を確認。敵モビルスーツ急速接近中!」

「隊長、奴等盾を持ってます。・・・うまく奇襲できればいいが」

「各機へ、ぎりぎりまでひきつけろ。3番機は射撃開始と同時に手榴弾を2発投げろ!」

ここは基地外周部にある陣地。元は自走砲やMLRSが潜む為につくられたのだが、若干手を加えモビルスーツが待ち伏せできるようにしてあった。そしてその窪みに潜んでいるのは拠点防衛の為に残った第3小隊の旧ザク1機、残りの2機は後方に潜んでいる。各地で火災が発生している為熱センサーでこちらを捕らえることはできないはず、レーダーはミノフスキー粒子の為使用不可能なので敵を発見するのは昔ながらの目視かソナーくらいだろう。敵のザクはこちらに気がつかないまま接近している。

「今だ、撃て!」

その命令と同時に隠れていた旧ザク2機が120mm低反動砲を、急ごしらえの陣地に潜んでいる1機が手榴弾を投擲した。だが発射の直前にこちらに気がつかれ、120mmはザクが構えた盾によって防がれてしまう。さすがに衝撃まではこらえきれずそのザクはバランスを崩したが、残った2機は盾を構えながら即座に120mmマシンガンを放ってくる。が、突如射撃は中断する。投擲された2つの手榴弾は空中で炸裂したからだ。これにより1機のザクが持っていたマシンガンが破壊され、その機体を含む2機が頭部センサーにダメージを負った。これにより一時的に弾幕が途切れ、その隙に120mm低反動砲を持つ旧ザクの連続砲撃によりこのザク3機は破壊されていった。

「・・・なんとか勝てたな」

「隊長、意外とこの手榴弾使えますね。敵の射撃を中断させるにはもってこいですよ」

「ハス、口ばかり動かしてないで手を動かせ! さっさとそのザクのマシンガンとマガジンを回収しろ」

「やってますよ。 ・・・あぁ、このマシンガンはダメだな、壊れてやがる。こっちも銃身が曲がってるし・・・使えるのは1つだけか」

「マガジンは予備含めて4つ回収できたな。これだけでも大収穫だ」

「・・・こちらヴァーム97、試作第3小隊聞こえるか?」

「こちら第3小隊隊長のゲールだ。なんだ?」

「ああ、そちらに敵モビルスーツが新たに向かっている。ヒッカム航空基地が陥落したせいで敵の戦力が徐々に流れ始めているようだ」

「なるほど、情報に感謝するが少し遅かった。目視で敵機を確認した、これより迎撃に移る」

「了解、可能なら増援をまわすがこっちも修羅場だ。生き残ってたらまた連絡するよ」

「聞いての通りだ、敵さんがこっちに向かってきている。急いで迎撃するぞ」

「ですが隊長、手榴弾は2つしか手元にありません。鹵獲した武装があるとはいえ一度補給に戻ったほうがいいのでは?」

「こっちも同じく120mmキャノンの予備マガジンが1つのみです。これが終わったら鹵獲品もって補給に戻りましょうよ」

「分かった、生き延びれたら補給に戻るぞ。敵はどうやらグフという機体が1機とザクが2機、他にあれは・・・未知のモビルスーツだな。首が無く指の部分が爪だとは・・・水陸両用機か?」

「隊長、更に敵増援です。ゴッグが1機接近中です」

「それよりも隊長、敵さんのグフに見慣れない物がついてるんですが? あれは・・・ガトリング?」

「盾に武装をくっつけたのか? 隊長、あれって有効だと思いますか?」

「・・・微妙な点だな。それよりもうここは店じまいだ、お客さんにはお帰り願おう。景気良くぶっ放せ!」

「了解! ありがたく食らってろ!」

その言葉と共に手榴弾は投擲され先程と同様に空中で炸裂し、2機の旧ザクは射撃をしていた。だがさっきの部隊の時と違ったのは手榴弾が炸裂した時には既に敵は散開し近くの建物の影に潜み、こちらに対して攻撃を開始していたところだろう。



「強固な敵防衛部隊がいると聞いてきてみれば・・・我軍の旧ザクを使って戦闘していたのか」

「隊長、どうします? 奴等連邦の癖にいい戦い方してますぜ」

「機体性能で劣っている分まともにこちらと戦うとは考えられません。敵の伏兵がいる可能性があります」

「何、あれは厄介な砲台陣地だと思えばいい。モビルスーツは機動力が命だが陣地防衛ではその特性が殺される。逆に言えば陣地防衛では機動力が無い旧式の旧ザクでも厄介なシロモノだということだ。特にさっきからブービートラップの損害が馬鹿にならんレベルまでなってきてるからな」

「たしかに。で、どうします?」

「決まっている、ズゴックとゴッグがこれから仕掛けるそうだ。こっちも新戦術を試したいし仕掛けるぞ、全機突撃!」

「「了解!」」

その言葉と共に2機のザクは射撃しながら、グフはブースターを噴かして空中に飛び上がり試作75mmガトリングシールドを乱射した。それとほぼ同時にズゴックとゴッグがメガ粒子砲を放ちながら前進した。



地上からザクが放つマシンガンやズゴック、ゴッグが放つメガ粒子砲は陣地によってある程度防がれていたが、グフが空中から放った弾丸は急ごしらえの陣地とそこに隠れている旧ザクに容赦なく降りかかった。試作第3小隊の旧ザクは盾によって防ぐが2番機に幾らか被弾してしまい、動揺は隠せなかった。

「うおわ!? 頭部及び左肩部破損、頭部の被害が軽症なので射撃には特に支障無し。隊長、洒落にならない弾幕ですよ、どうします!?」

「慌てるな、こんな時の為の手榴弾だ。ハス、敵のグフが着地したと同時に最後の1発を投擲しろ。投げたらすぐに一斉射撃だ!」

「了解・・・投擲します!」

そして投擲された手榴弾は空中を舞ったがザクマシンガンの直撃を受け空中で爆発した・・・・・・そのマシンガンを放ったザクの目の前で。
偶然ザクの目の前に落下した手榴弾はあろうことか弾丸を放っているザクマシンガンの銃口の前に落下してきたのだ。確立でいえばどのくらいのことなのか想像できないが、その手榴弾の爆発によりそのザクはマシンガンとそれを持っていた両手を破壊されてしまう。そして投擲と同時に旧ザクから放たれた弾丸は着地したばかりで、更に手榴弾の投擲に気をとられたグフに直撃した。
命中したのは旧ザクが本来装備していた105mmマシンガンではなくザクⅡが標準装備する120mmザクマシンガンだ。いかにザクよりも装甲が厚いグフといえどただではすまなかった。とっさにグフは盾を構えようとしたがそれは若干遅かった。シールドに装着されていたガトリング砲は破壊され、斜めに構えた盾に当たった弾丸が弾かれそのまま頭部を破壊した。これによりグフは射撃は物理的にすることができなくなり、格闘戦も難しい状態に追い込まれた。
そう、このグフは史実のグフB型とは違いフィンガーバルカンではなくマニピュレーターを装備し、史実のグフA型、もしくはグフB-3型に近い形となっていた。これはグフA型を純粋に発展させたもので、一説には某社長が『わざわざ機構を複雑にしてまで指をバルカンにすることは無いだろう』と発言したのが関係しているとか・・・
話を戻そう、そういうわけでこのグフは両手がマニピュレーターだが射撃武器に関していえばシールドに装着された試作75mmガトリング砲のみで、史実のB-3型のようにシールドの内側に3連装35mmガトリング砲を装備していないのだ。この欠点は後に試行錯誤を繰り返していくこととなる。
チームのグフとザクを無力化されたことで動揺したのだろう、残ったザクの動作が一瞬止まった。だが戦場では一瞬でも止まったり動揺したら負ける可能性は飛躍的に高くなるのだ。そしてその通り、120mmザクマシンガンが数発直撃し中破した。



「ヴァルド2、影に隠れろ! ヴァルド3、フットミサイルで後退援護!」

「ラジャ!」

そして両手を破壊されたザクの脚部に取り付けられたミサイルランチャーから6発のミサイルが放たれた。牽制程度の効果しかないがこの場ではそれで十分だったのだ。ミサイルが飛んでくるのを確認した連邦軍は陣地の中に隠れ、その隙に中破したザクは建物の影に隠れることに成功した。気がつけばズゴックとゴッグも物陰に後退していた。

「こちらヴァルドリーダー、ズゴック及びゴッグへ。聞こえてるか?」

「・・・こちらラスカルリーダー、なんだ?」

「こっちは戦闘続行は不可能だがそちらはどうする?」

「・・・残念だが一旦引いたほうが良さそうだな。しかし着地の瞬間に狙われるのは分かってたはずだろ、グフのパイロット?」

「・・・・・・面目ない、手榴弾の投擲に気を取られたのもあるがこっちの落ち度だった」

「まぁいいさ。こっちも1機ゴッグを失っている状態だったからな。ヒッカムに行っていた部隊と合流して攻めるさ」

「すまない」

「気にするな、俺は気にしない。それでいいだろ。 ・・・しかし連邦のパイロットも中々やるな、正直旧ザクと侮っていたが・・・・・・」

「確かにそれについては同感だな。相手が旧ザクって油断もあったんだろうけど、逆に言えば旧ザクでもグフすら破壊できる・・・よく考えたら当たり前のことだよな」

「ああ、またこれを元に戦訓ができるんだろうな・・・っと、それじゃ俺達はそちらの護衛につく。さすがにその有様だと反撃も満足にできんだろ」

「すまん、感謝する」



「あれ? 隊長、奴等後退していってますよ」

「・・・なんとか助かったというところか。今のうちにこちらも後退するぞ!」

「了解!」



ホイラー航空基地 10:41

「報告します。第7海兵隊所属の特殊部隊がここホイラー航空基地に到着しました。ここで殿となってゲリラ戦をジオンに仕掛けたいと申しておりますが・・・」

「かまわん、許可すると伝えろ。それと今どのくらい輸送完了している?」

「XT-79は殿を除いた全車両がハワイ島への退避が完了しました。後方要員もつい先程無事にハワイ島に到着したと。後航空隊ですが順次ハワイ島に移動させ、そこから再出撃させております。幸い第1陣で送り出した航空燃料や弾薬を搭載したミデアが全て無事に到着したおかげで今のところ不足はしておりません」

「データの消去はどうなっている?」

「重要施設のコンピュータの自爆回線を開きました、いつでも自爆させることが可能です。後それと平行しておこなっている機密データのコピーと消去は順調です。重要なデータはできる限り持ち出したいところですがそんな余裕は無いと思うので重要なデータのみコピーし残り全てのデータは消去させています」

「一応順調だな。ではある程度部隊がハワイ島に移動完了するまでここに残る志願兵及び決死・・・いや、事実上必死隊だな。その編成は?」

「一応連絡がつく部隊には通達しましたが、意外と数が多いです。この調子なら時間稼ぎは十分可能かと・・・それとその中から決死隊を募っておりますがこちらもかなりの数が志願してくれています。後航空隊ですが対空戦闘可能な残存機は41機です。既にドップを60機以上は撃墜したそうなのでこれ以上敵航空隊の増援が無ければ制空権は確保できるかと思われます」

「・・・敵の長距離戦闘爆撃機のことか。確かにあれがでてきたら危ういな。それに敵の揚陸部隊も気になる・・・作業を急がせろ! おそらく敵の長距離戦闘爆撃機がもう1度空襲に来るはずだ! ハワイに着いた後方要員の内、航空機と戦闘車両の整備員以外はそのままクリスマス島に送り出せ。ハワイ島にいる対モビルスーツ部隊とXT-79の部隊で防衛線を作らせておくんだ」

「後はここがいつまで粘っていられるかですな」

「うむ、できるだけ時間を稼がないとハワイ島の部隊も危険だろう。ミデアの速度ではハワイ島とクリスマス島を往復するのに6時間はかかる」

「ハワイ島に到着した航空隊の内フライマンタとデプ・ロックは爆装させ敵部隊への爆撃を命じました。後20分後には出撃するとのことです」

「前線は待ち伏せとトラップでなんとか時間を稼いでいる状態だ。突破されるのは時間の問題か・・・一番簡単なのはこのまま何も知らせず我々だけ撤退して友軍ごと基地を自爆、敵を一気に殲滅する方法だがそんな鬼畜な真似はしたくは無いな」

「少将、それは・・・」

「もちろん実行したりはせんよ、どうせ基地を自爆しても他の敵が来たら打つ手は無くなるからな。それに十分ジオンを痛めつけたはずだ、それなら実戦を経験した兵を戻し基地だけ自爆させたほうが我々にはメリットが大きい。しかしそろそろ危険だな」

「・・・少将、我々は後退しないので?」

「はっきり言ったらどうだ大佐? ジャブローのモグラが未だ戦場にいるということに違和感を隠せないと」

「い、いえ・・・そういうことでは・・・」

「どのみちハワイが陥落すれば私は降格だよ、無理言って増援を持ってきたんだからな。ならできるだけ指揮をとったほうが降格しても納得できるじゃないか」

「それは・・・まぁそうかもしれませんが・・・」

「何、もう少ししたら私も後退するよ。だが今はここで指揮を取っておきたい。久しぶりの指揮だが昔を思い出したよ」

「昔・・・ですか?」

「ああ、ジャブローに行く前、大佐だった頃をね。あの頃は模擬演習で泥塗れになりながら部隊の指揮をとったものだ・・・それがジャブローに行って忘れてしまっていたよ。だから今の状況はある意味懐かしいとも思えているのだ。でだ大佐、話を戻すが敵軍の状況は?」

「あ、はい。どうも前線の一部が突破されたようですが、その敵の一部がうまくXT-79の狙撃ポイントに入り込んだのでその入り込んだ敵は撃破できた模様です。後はゲリラ戦でなんとかしている状況です」

「基地エリアの半分はジオンと交戦中・・・ここもそろそろ危険だ。大佐、君はミデアに乗りハワイ島へ一足先に行きたまえ。一緒に移動しようとして二人とも戦死では指揮系統に穴が空くからな」

「了解しましたが少将は?」

「次の便で行く。だがどうやら敵に脱出を察知されたようだな。敵の部隊が滑走路を目指している。他にも脱出ルートに布陣しようとしているようだ。そいつらに早急に航空攻撃するように伝えてくれ」

「了解しました、直ちに命令します」



ホイラー航空基地周辺 11:02

建物が崩壊し車両が炎上する中を1機のザクJ型が警戒しながら進んでいく。彼の小隊は連邦が仕掛けたトラップで彼を残して壊滅していた。

「糞、もっと楽な任務じゃなかったのかよ! 連邦軍がここまで抵抗するなんて聞いてないぞ!」

そう愚痴を言いながら彼のザクは前進していく。時たま視界に入る車両に120mmザクマシンガンを叩き込みながら。120mm弾を撃ち込まれた車両は大抵が爆発炎上するが、たまにトラップが仕掛けてあったらしく大爆発するのもあった。だが彼にも油断があった。そのまま彼が進むと炎上している61式戦車が視界に入った。炎上しているので彼はてっきり他の友軍が撃破した車両だと思い、彼はそれを無視して通り過ぎた。
だが次の瞬間その炎上している61式の150mm連装砲が火を噴き、背中を見せていたザクJ型を破壊した。そしてそのザクが倒れたすぐ後に周囲に潜んでいた連邦兵が消化剤で61式戦車の火を消していった。

「お疲れ様っす。しかし撃破されないかひやひやものでしたよ」

「表面にガソリンを散布してそれに火をつけるなんて最初は正気かと疑ってしまいました・・・」

「何、派手な偽装と思えばいいんだよ。戦場で炎上している車両は無意識の内に警戒の外に置いちまうからな。まぁ心理戦みたいなものか?」

「なるほど・・・ですが急いでここから離脱しないと。敵の増援が来たら61式じゃきついですよ」

「馬鹿野郎!! 61式よりも優れた兵器は存在しねぇ!」

「・・・あの馬鹿、禁句言いやがって」

「まぁ戦績がアレですからね。61式でもモビルスーツを破壊できるのは実証済みですし」

「戦車長、そろそろ移動しましょう。このままだと取り残されますよ」

「む・・・それもそうだな。よし、全員移動するぞ! 」

そして展開していた連邦兵は擬装していた2台のバギーに乗り込み移動を開始した。ちなみにこの戦車長、かつてキャリフォルニアベース防衛戦で1機のザクを仕留めた事があり、しかもここハワイオアフ島に来るまでに各地の戦場で合計6機のモビルスーツを仕留めた事のあるベテラン戦車兵だった。その為61式戦車に絶大な信頼を置いており、61式を貶されたら怒声と共に説教を小1時間聞かされる羽目になったりする。
まぁそれはさておき、後退しようとする61式戦車だったがそう簡単に帰してくれそうには無かった。1機のザクJ型が後方から追撃してきたのだ。不整地での追撃ならばモビルスーツに分があり、普通の61式ではやがて撃破されてしまうだろう。

「ザクがこっちに来ます! どうするんですか!?」

「慌てるな小僧、ここは防衛陣地の近くだぞ。数は1機のみか・・・主砲旋回、APFSDS(装弾筒型翼安定徹甲弾)を装填しろ!」

「APFSDSは2発しかありません! それ以外に残っているのはAP(徹甲弾)が数発だけです!」

「じゃあAPFSDS装填した後にすぐにAPに切り替えろ。出し惜しみするなよ、いいな?」

そして砲塔を旋回し追ってくるザクに砲口を向けた。

「照準に捕らえた、交互連続射撃するぞ!」

そう言って61式戦車の砲が1門ずつ交互に連続射撃を開始した、これは一度に両方の主砲を撃つよりも交互に撃つことで弾があたる衝撃で相手にこちらを照準させにくくするのが目的の射撃だった。61式の主砲でザクの正面装甲を破壊するのは難しい、だが正面から撃って確実に破壊できる部分もモビルスーツには存在した。放たれた弾丸は吸い込まれるようにザクのモノアイに命中、連続して直撃を食らった頭部は吹き飛び、そのザクは棒立ち状態になった。そしてその次の瞬間には飛来した120mm砲弾が直撃し、そのザクは爆発炎上した。ザクを破壊した砲弾を放ったのは陣地に陣取る旧ザクだった。

「こちら試作第3小隊、そこの61式無事か?」

「おかげさんで助かったぜ、ありがとよ」

「これが仕事だからな、当然のことだ」

「だがあんたらがいなけりゃ俺達はどうなってたかわからん。ところであんたらは決死隊か?」

「いや、ぎりぎりまで友軍の支援するだけだ」

「そうか、それじゃ貴隊に幸運があらんことを」

そう言って通信を終える。

「あの旧ザクは友軍の試作中隊ですね、2個小隊があっけなく破壊されたけど腕はよかったんだ・・・しかし戦車長さすがっすねぇ~ ピンポイントでザクのモノアイを破壊なんて凄いですよ」

「こちとら万年戦車兵なんだ、このくらい造作も無いわ! 今のが態勢立て直す前に急いでずらかるぞ、もう弾がねぇからな」

「さすがに弾切れには勝てませんな」

「ああ、それに後退命令だ。後は決死隊として志願した奴等に任せて俺達はハワイ島へ行くぞ。ぐずぐずしてると取り残されちまう」

そう言って彼らは味方拠点まで後退し、ミデア輸送機で脱出することに成功した。


オアフ島上空 12:21

「まいったな・・・完全に停滞しているぞ」

「機長、敵主力はハワイ島に離脱している模様です。ホイラー航空基地に残っているのは殿を勤めている部隊かと・・・」

「・・・予定変更、海上の揚陸部隊の一部をハワイ島に上陸させよう。ライノサラスにそう連絡してくれ」

「了解。 ・・・こちらエア・コマンダー・リーダー、ライノサラス応答せよ」

「・・・こちらライノサラス、何かあったか?」

「ああ、敵主力がオアフからハワイ島に脱出した。揚陸部隊をハワイ島に向けてくれないか?」

「その前に聞くがハワイ島の敵部隊の数は? 後味方の航空支援は?」

「ハワイ島を偵察した部隊によると作戦前には61式戦車とバギーが数両ってところだがオアフの戦力が移動したこともあってかなりの大部隊と考えられる。なお未確認情報だがモビルスーツらしき機影を見たと報告する航空隊のパイロットもいるから鹵獲したザクを使用している可能性もある。後友軍航空隊だが知っての通り第1陣のジャベリンは全機帰還中だ。第2陣のジャベリンは後1時間もしないでくるだろう。だが今展開しているのはガウ攻撃空母所属のドップ19機だけだ」

「ドップは80機はいたんじゃなかったのか? 今のところ制空権は自前のドップでなんとかしてるが」

「連邦の戦闘機部隊と対空砲火でその大部分が叩き落された。もちろん連邦航空隊にも多くの損害を出させただろうが数が違う。今は制空権はモビルスーツの対空射撃のおかげで互角な状態だ」

「なるほど・・・どうりでさっきからこっちのヘリが吊り上げる友軍パイロットの数が多いわけだ。なら歩兵やマゼラアタックは予定通りオアフに上陸させるがモビルスーツを乗せているのはハワイ島に上陸させよう」

「感謝する。ガウ攻撃空母で支援射撃したいが下手に高度を下げると的になりかねん状況でな」

「ふむ・・・ところでオアフの制圧状況は芳しくないな。ホイラーはいつ落ちそうだ?」

「分からん。正直なところここまで連邦が粘るとは思っていなかった。おかげでモビルスーツがかなり食われている、主にトラップ等でだが」

「トラップか・・・作戦が終わったら対モビルスーツ用トラップの傾向と対策を練ったほうがいいな。後戦術も大幅な見直しがいるだろう」

「そうだな・・・まぁこんだけ損害が大きければ否応も無く調査委員会みたいなのができるだろう」

「だろうな。さて、じゃあハワイ島に強襲をかける。揚陸開始は13:45を目安に」

「了解した。13:30には航空支援が受けられるように対処する・・・さて、ガウにも働いてもらうか」



ホイラー航空基地 12:52

「少将、ハワイ島にメルマンド大佐が無事に到着したとのことです。また残存部隊も順次ミデアに搭乗させます」

「分かった、我々も後退するぞ。ここはもうだめだ」

「了解であります。ここを放棄とは・・・無念です」

「まぁ戦力が整った時に取り返せばいい。ゲリラ戦を仕掛けたおかげで基地施設の被害は甚大だから最低でも修理期間は1ヶ月はかかるだろう。ましてや武器弾薬に燃料を備蓄するのには時間がかかる。1ヶ月はオアフ島は使えんよ」

「報告します、データの消去及び基地の自爆装置を起動、後30分もすればここは破壊されます」

「ご苦労。ではオアフ島の全部隊に通達、『ホイラー航空基地の主要施設は30分後に自爆する。速やかにホイラー航空基地から脱出する機に乗り込むように』とな。当然退避命令はだしてあるのだろう?」

「はい、既に10分前から撤退命令をだしております」

「わかった。志願してここに残る者達には基地が後30分後に自爆するということを伝えてくれ」

「了解しました、これより全部隊に通達しておきます」

「さて、急ぐぞ。ジオンと一緒に心中したくはないだろう」

そう言ってホワス少将は指揮所を後にした。既にホイラー航空基地の各防衛線は破られておりいつ滑走路にモビルスーツが現れてもおかしくない状態だった。だが実際はトラップと伏兵を警戒し慎重に進んでいる為に時間が思いの外かかり、多くの連邦の部隊が脱出に成功することになった。既に滑走路上にミデアが5機出されており、他にも格納庫内で発進準備を急いでいる機体が8機近くいた。その5機の内の1機にホワス少将と残っていた取り巻きは乗り込んでその数分後、他の4機に脱出する連邦将兵が乗り込んだことを確認した5機のミデアは滑走路を飛び立ち、一路ハワイ島を目指した。幸い雲が出ており上空にいるであろうジオン戦闘機には発見されず、オアフ島の海岸線を越え海に出たところでようやくミデアに乗っている者達は安堵の息を吐いた。だがその時間は長くは続かなかった。敵戦闘機の襲撃を警戒して編隊飛行をしていたミデアだが今回は完全に裏目にでたのだ。海上では雲が晴れており見晴らしが良く、ソレを最初に見つけたのは編隊3番機のミデアに乗っている兵士だった。

「・・・ん? あれはなん」

そこまで言ったところで彼の人生は終わった。いきなりメガ粒子砲の直撃を受けた3番機はそのまま爆散した。

「3番機が落とされた!?」

「警報! 編隊右上空にガウだ!」

「ガウだって!? 各機最大速度で振り切れ!」

「無理です、もう1機ガウが左上空に! このコースだとしばらくは一方的に・・・うわああぁぁぁ!!」

「4番機が直撃を食らった! 戦闘機はどこをほっつき歩いてるんだ!?」

「メーデー! メーデ-! こちら2番機、尾翼が吹き飛んだ! 機体のコントロールができない! このままじゃ墜落する、誰か助けてくれぇ!!」

「諦めるな2番機、頑張るんだ!」

次々と攻撃を受け墜落するミデア輸送機。いくらガウよりも高速といってもメガ粒子砲の射程圏内に入ったミデアはただの射的の的だった。攻撃を受けてから1分もたたず2機が落とされ1機が機体のコントロールが不可能な状態に陥っていた。

「糞、ジオンの奴等海上で待ち構えていたのか!?」

「・・・最早これまでか、全員覚悟を決めろ。メルマンド大佐に打電しろ、『我ガウ攻撃空母の襲撃を受ける。そちらに無事到着できる見込み無し、よってこれより全部隊の指揮をメルマンド大佐に委譲する。無事に兵を脱出させろ』以上だ」

「了解しました。 ・・・少将だけでも機から脱出してください。メガ粒子砲を食らうよりは生存できる可能性が高いはずです」

「・・・ノーサンキュー、気持ちだけいただくよ」

そしてついにホワス少将の乗ったミデアにガウ攻撃空母が放ったメガ粒子砲が右翼の付け根に命中した。右翼を失ったミデアはあっという間にバランスを崩しそのまま海面へ墜落、木っ端微塵となった。

なぜガウがここにいたのかというと、ただ単純にホイラー航空基地から脱出する機体を撃墜する為に布陣していたからだった。ガウ攻撃空母はあまり量産ができず貴重品であり、メガ粒子砲で対地攻撃しようものなら地上からの対空砲火に捉えられる危険があったからだ。しかも今作戦では滑走路を無傷で確保することは難しいとのことだったので、場合によってはオアフ島占領後にそのままキャリフォルニアベースまで帰還することも考えられていたからだ。当然損傷を受ければ長時間の飛行に支障がでる可能性があり、地上攻撃は高高度からの爆撃くらいしかしていなかった。そんなガウだがせっかくメガ粒子砲を備えているのに使わないのは損だから脱出するミデアを撃墜させようということでオアフ島とハワイ島の中間あたりに展開しており、ホワス少将の乗るミデアを撃墜したのはその内の2機だった。
そしてメルマンド大佐に向けて発した連絡はミノフスキー粒子が濃い為所々しか聞き取れなかったがホワス少将が乗る機体が撃墜されたらしいということは判明し、敵討ちと言わんばかりに戦闘機隊がハワイ島を出撃したが、護衛していたドップと戦闘に入り結局ガウを撃墜することはできなかった。そしてそれから20分後にはホイラー航空基地は自爆、少数の連絡が届かず自爆を知らなかった連邦軍部隊と最後まで基地に残り抵抗を続けていた決死隊を巻き込みジオンのモビルスーツ部隊も爆発に巻き込まれていった。



オアフ島上空 13:31

「こちらエア・コマンダー・リーダー、ホイラー航空基地が自爆した! オアフ島に降下した部隊に少なからざる損害が出ている。ガウと一部のオルコスはキャリフォルニアベースに撤退させる」

「こちら上陸部隊旗艦ライノサラス、上空援護はどうなるんだ!? 予定では・・・」

「予定通りジャベリンが行うがそっちも乱気流に巻き込まれたそうで予定よりも遅れている。他にドップの残存機はガウで弾薬補給後そちらに回すが、ホイラー航空基地が自爆したせいでそれ以上は無理だ。自前でなんとかしてくれ」

「オアフ北部の民間空港は? 予定ではあそこをオルコスの拠点にするはずだろ?」

「無茶言うな、ガウをあそこに着陸させるには滑走路の長さが不足しているし、更に言えばオルコス全てを着陸されるスペースが無い。ドップとオルコスの一部が今給油と部隊の積み込みを行っているがもうしばらく時間がかかる」

「じゃあこっちが敵の目に付いているときにハワイ島の西部にでも着陸させてくれ。残念だが上陸間際に狙われたらこっちの被害は大きくなる」

「了解した、敵の目がそっちにいっている隙に密かに空輸、背後から襲い掛かるってことにしよう。だが今すぐには無理だ、ジャベリンは今オアフの北東部にて空中給油を指示しているので最低でも20分は欲しい」

「・・・仕方ないか、では13:45上陸予定を変更する。14:00を目安にこっちは上陸戦を開始する」

「了解した。13:58にハワイ島を空襲させる。オルコスは55分には離陸できるからそれでいいか?」

「それではこちらはしばらく海上にて待機する。あ、それと歩兵部隊と車両は今オアフに上陸中だ」

「了解、おそらくハワイ島には簡易陣地のみだろうからモビルスーツのみで十分攻略は可能だと見ているがそっちも気をつけたまえ」



ハワイ島臨時指揮所 13:36

「大佐、全部隊配置につきました。数少ないMLRS部隊と自走砲、61式戦車を中心とした遊撃部隊も準備完了しました」

「ミデアにクリスマス島へ移動させる人員の搭乗が完了しました。後オアフ島から撤退する時に使用していた車両を処分した兵も一緒に移動させますがよろしいでしょうか?」

「かまわん、武器を持たない兵は役に立たんからな。急いで移動させろ、敵は待ってはくれんぞ」

「メルマンド大佐、第7海兵隊の乗ったドラゴン・フライが到着しました。彼らはどうします?」

「そうだな・・・ドラゴン・フライではクリスマス島まで行くのは不可能だ、囮として滑走路に並べておこう。部隊はそうだな・・・防衛に回そう。かなり活躍しているそうだから期待できる」

「了解しました、ではそのように手配しておきます」

「報告します、南部の臨時野戦飛行場の整備に目途がつきました。何機かミデアを回し偽装させておきます」

「デプ・ロック爆撃機の出撃はどうなっている?」

「現在補給作業中で10分以内には離陸を開始します。残っているフライマンタと戦闘機部隊も一緒に」

「急がせろ! 偵察機の報告では敵はいつでも上陸可能な状態にある。敵はおそらく上空支援を待っているのだ、今しか敵艦隊を攻撃するチャンスは無い」

「報告! ミデア3機が新たに給油を完了しましたので人員の搭乗を開始します。離陸予定は13:50です」

「今は一刻を争う時だ、離陸予定を前倒しにしてでもいいから避難させろ」

「陸軍の試作モビルスーツ中隊が到着しましたが損傷が激しいのでこのままクリスマス島に送ります」

「なになに・・・・・・2個小隊の内1機をオアフで放棄、登載した5機の内無事な機体は存在せず2機が大破、2機中破か。交戦データは貴重だからな、クリスマス島に輸送しジャブローからの指示を仰げ」

ハワイ島の連邦軍臨時指揮所は混乱に陥っていた。ホワス少将が戦死した為にメルマンド大佐の指揮する部隊が一気に増えた為だった。幸いなことに防衛線等はある程度整っていたがミデアの給油やハワイ島各所の開けた場所に臨時の野戦飛行場を設置する等やるべきことは山ほどあった。そして強行偵察したデッシュの報告ではオアフ北部の民間空港で輸送機へのモビルスーツの搭載が行われていることがわかると混乱はいっそう高まった。モビルスーツを輸送機に乗せる意味が分からない者はここにはいなかった。

ジオンは再び空中降下するつもりだ

それだけならまだいい。問題は海上で待機している敵艦隊だ。なぜ上陸してこないのか疑問に思っていた臨時指揮所の面々だったがこれでジオンの狙いがはっきりと分かった。
馬鹿の一つ覚えのごとく、空と海からの立体的な攻勢をまた仕掛けるつもりだと。
だがこれに対抗するには制空権の確保が急務なのだがその肝心の戦闘機はオアフ島での戦いですり減らされており待機中の機体も被弾したところを応急処置、ひどいのではそのままにしてある機体も多かった。そして彼らは決断した。せめて海にいる上陸部隊にダメージを与えようと・・・
攻撃に参加する航空部隊はデプ・ロック爆撃機が103機、フライマンタが7機、セイバーフィッシュが13機にTINコッドが9機といった編成だった。数だけ見れば132機と多いが高高度爆撃を主とするデプ・ロック爆撃機ではどれだけ損害を与えられるか疑問だった。だがやらないよりはやったほうが多くのダメージを与えることができるだろうということで攻撃部隊の出撃は決定した。最初は戦闘機・戦闘爆撃機の全てとデプ・ロック爆撃機13機の計42機が出撃した。もし敵機の姿がないようならば順次爆撃機を出撃させる予定なのだ。



ハワイ島近海 13:47

機影をまず確認したのは艦隊外周部にいた数少ないジオンが建造したフリゲート艦だった。ミノフスキー粒子が濃い状況でレーダーは使えず、全ての対空警戒を双眼鏡を持った人員に任せていたそのピケット艦はハワイ島方向から来る機影を発見したのだ。そして敵機発見の報はすぐに艦隊旗艦であるライノサラスと鹵獲したヒマラヤ級空母『アンデス』に伝わった。アンデスでは上空で警戒に当たっていたドップに迎撃を命じると共に、艦に残っている全てのドップを発艦させ始めた。

「こちらライノサラス、エア・コマンダー・リーダーへ。敵機が本艦隊に接近中、至急上空援護を頼む」

「・・・こちらエア・コマンダー・リーダー、ドップが今オアフから飛び立ったがジャベリンはまだ無理だ! しばらくそちらだけで凌いでくれ」

「了解した。だがこちらのドップもオアフ支援の為に出撃してかなり食われている、増援急いでくれよ・・・ライノサラスから各艦へ、対空戦闘用意! 搭載されているモビルスーツ隊も対空射撃を準備せよ!」

「砲術長、30cm砲射撃準備を急いでくれ。対空戦闘、全兵装使用自由だ」

「了解しました。30cm砲に試作FAE弾を装填、次弾は3式弾。カワ少尉は後部ガトリング砲を、エルヴィン少尉はアームを頼む」

「「了解!」」

巨大モビルアーマー ライノサラス
コードネーム ヒューエンデンの名で開発されたVFのモビルアーマーだ。史実では前線突破用の突撃砲のようなコンセプトで開発された機体だがここでは連邦のビッグトレーのような移動指揮所的な運用を考えられて開発された。ある程度の部隊を指揮し、その部隊と一緒に前線を攻撃するという考えで開発されたこの機体は史実のものより二回り以上大きく、ザクの胴体を流用していたところはヒルドルブの、しいて言えばザメルに似たものを使用している。
強力な通信能力を持ち、武装はヒルドルブの主砲を流用した30cm砲、MLRSコンテナ(18連装)を砲の左右に1基ずつ、グフ・カスタム等が装備するガトリングシールドを流用した75mm6銃身ガトリング砲を後部に2基、更には135mm対艦狙撃用ライフルと90mmマシンガンを内臓したアームを持つ化け物だった。当初はビーム兵器を搭載することも考えられていたのだが信頼性の問題で搭載は見送られた。もっとも、いつでも搭載(換装)できるようにされているのだが機動性が低下するのが予想されている為搭載するかしないかは今のところ未定だった。
また乗員も多く、史実のライノサラスが操縦士、センサーオペレーター、砲手2人、車長、機関士の6人だったのに対しこれは操縦士、オペレーター3人、砲手3人、車長(部隊司令)、機関士の9人となっており史実よりも大きい為か若干スペースは余裕が持たされていた。しかし当然といえば当然だが重量の関係で巨体の割りに装甲は薄くせざるを得なくなり、装甲の厚さでは史実の機体とあまり変わらないくらいだった。

ライノサラスが主砲の照準に敵編隊を捉えたとき、既にドップと連邦軍戦闘機部隊が戦闘を開始しており、更に言えば敵編隊発見の報を伝えたピケット艦はデプ・ロック爆撃機のスキップ・ボムによって既に波間に消えていた。

「目標捕捉・・・敵機高度およそ5000・・・高度300プラス、照準良し、撃ち方始めぇ!」

そう言って砲術長がトリガーを引いた次の瞬間にはライノサラスの30cm砲が火を噴いた。放たれた砲弾は敵機の頭上300mで何かを放出し、次の瞬間には大爆発を起こした。

試作FAE弾 それはFAE Fuel-Air Explosive の名前の通り砲弾用の燃料気化爆弾だった。対地・対空両方に使用可能で多大な戦果をあげられると期待されている砲弾だった。しかし・・・

「糞、何機か落としたがそれだけだ! やっぱり砲弾仕様じゃ大型爆弾仕様よりも威力が格段に落ちてやがる、これじゃ3式弾と変わらねぇ!」

そう、30cm砲弾のサイズにまで小型化した燃料気化爆弾は航空機から落とすタイプに比べて格段に威力は低下していたのだ。もちろん爆風等で数機の敵機を落としたのは事実だったが上層部が期待したほどの威力ではなかったのだ。そして更に悪いのは気化爆弾の炸裂により敵機が散開したことだろう。これにより次に撃った3式弾で落とせた敵機は1機だけだった。元々3式弾は密集しているところに撃ち込んでこそ大打撃を与えることが可能な兵器なのだ。それがばらばらに散開した敵機を落とすにはあまり役に立たない。そして3式弾の第2射を放った時には敵は自身のマシンガンやライフル、艦艇の速射砲やCIWSが射撃を開始した所だった。敵は少数の戦闘機が低空から、爆撃機が高空から侵入し攻撃をしようとし、それに対し輸送艦に積まれているモビルスーツや車両からも射撃が開始された。

低空から接近したセイバーフィッシュがミサイルを発射したかと思えば次の瞬間には輸送船に命中し炎上、運が悪いと搭載している部隊の燃料・弾薬に引火し搭載している部隊ごと海の藻屑になったりした。高空を飛行しているフライマンタが緩降下(急降下ではなく緩やかに)してくると翼に吊り下げられた爆弾やミサイルを発射し、同じくデプ・ロック爆撃機が爆弾をばら撒く。デプ・ロックの爆弾は大型の為威力が大きく、運が悪く命中した艦艇は一瞬で大破、そのまま沈む船もいた。戦闘開始から味方のドップが駆けつけるまでに上陸艦隊は3隻の輸送艦と1隻の駆逐艦を失い2隻の輸送艦と1隻の駆逐艦が大破し、それ以降も被弾炎上した機体が特攻したりして損傷した艦も多数出た。
これは上陸艦隊側に、オアフ島支援の為に半数近くのドップが出撃しており爆撃を阻止できるだけの十分な数が無かったこと、連邦軍が残っている全ての爆撃機を五月雨式ながら途切れることなく連続して出撃させたこと、そして何より上陸艦隊側の将兵の多くが『船酔い』に苦しんでいたことが大きな原因だった。
そう、船酔いにより戦う前からジオン及びVFの将兵の多くは戦うことができなくなっており、航海中に時化に遭遇したのがトドメだった。後に、ジオンが大規模な水上艦艇の部隊を設立しなかったのは船酔いにより十分な戦闘能力を発揮できないからだともいわれている。

話を戻すが、この空襲により上陸艦隊は少なくない戦力を損失し、それにはヅダイェーガーやグフ、プロトドムといったいまだ一般部隊には数が少ないモビルスーツも含まれていた。この攻撃で連邦軍は機先を制することができたと思ったが現実はそこまで甘くは無かった。飛行場へ着陸態勢に入った爆撃隊の背後から遥々キャリフォルニアベースから出撃してきた第2陣のジャベリン50機とオアフから飛び立ったドップ17機が襲い掛かってきたのだ。着陸間際を狙われた爆撃機はたまらない。ジャベリンから放たれたロケット弾を受けて爆発炎上する機体。車輪が地面に接したと思った次の瞬間に攻撃を受けて機体のコントロールを失い他の機体に激突するデプ・ロック、後方支援要員を乗せ避難させようと離陸した直後にミサイルを受け兵員を撒き散らしながら墜落するミデア輸送機等、いたるところで惨事が発生していた。そして最悪だったのは航空隊と陸上部隊の燃料・弾薬を置いてある場所への攻撃だった。この攻撃で少数とはいえ残っていた弾薬が一気に爆発、低空におりて攻撃したジャベリンも巻き込み大爆発を起こした。
攻撃開始から弾薬を使い果たした敵機が撤退するまでの数分間は長いようで短かったがその間に受けた損害は凄まじいもので、攻撃後の飛行場で飛行可能なのは極少数だった。この攻撃の直前に数多くの人員がクリスマス島への退避に成功したことは不幸中の幸いだろう。少数の部隊は避難が間に合わず撃墜されたが・・・
そして防衛についていた地上戦力に多くの損害が、特にただでさえ少ない自走砲やロケット部隊はその大半が破壊された。
だがこの戦闘でジオン・VF航空隊も甚大な損害を出していた。ジャベリン戦闘爆撃機は26機が撃墜され、ドップに至っては全滅してしまったのだ。運がよければパイロットは脱出に成功したが多くは機体と共に木っ端微塵になり、脱出したパイロット達も無事生還したのは極少数だった。それは海上に着水したパイロットは友軍に救い上げられるまで海上を漂うしかなく、運悪く回収されずに漂流してしまったパイロットもいないわけではない。また地上に降り立ったパイロットは南極条約に基づき捕虜になっていったが、少なくない数のパイロットが連邦兵に殺されていった。これはその連邦兵が隕石落としを行った敵という目で彼らを見ていたこともあり、更にこれまで働いていたオアフ島を奪った敵ということも災いしていた。もちろんこれを押しとどめようとした者もいるが銃のトリガーを憎しみで引くことは容易かった。

話を戻そう。ジオン側の機体が撃墜された大きな理由は今は亡きホワス少将が要請した増援部隊の旧ザク、RRf-06ザニー、RTX-44による対空攻撃のせいだ。特にRTX-44は腕を20mmバルカンから旧ザクから得たデータを元にマニュピュレーターにした後期型とその派生型である両腕のバルカン砲と片方の肩の120mm長砲身キャノン砲を各種センサーに変更した狙撃型で、前者は旧ザクの運用している105mmマシンガンを2丁装備していた為対空攻撃に威力を発揮した。だがこの機体は後にRX-75ガンタンクが開発されると生産ラインのほとんどがガンタンクに振り分けられることとなる。その理由は腕が短い為マシンガンのリロードをするには1機では無理で2機以上が手伝わないとリロードができないという致命的な構造的欠陥があったからだ。これは設計段階でミスがありそれがそのまま実戦投入された為に起こったことで、今回は弾切れになったら近くにいる旧ザクがマガジンを換装してくれた為にあまり目立たなかったが他の戦場に投入されたRTX-44後期型はリロードに手間取り撃破される例が相次いだほどだ。そして後者の狙撃型は長距離から敵モビルスーツを撃破する為に開発されたもので、両手と片方の120mmキャノン砲をセンサーに変更し命中精度を上げ、残った120mmキャノン砲を速射性能を高めた試作型レールガンに変更したものだが、対地射撃よりも対空戦闘(特に高高度を飛行する大型機)に優れている為、後に拠点の防空モビルスーツとして少数が量産配備されることになった。もっとも、レールガンを一定以上発射すると冷却装置の廃熱が追いつかずにオーバーヒートしてしまう初期狙撃型と後に呼ばれる代物だったが・・・

何度も脱線してしまったが話を元に戻そう。モビルスーツ等が配備されていた周辺は損害が少ないが、それでもやはり損傷を負った機体は有り、RTX-44と旧ザクが1機ずつ損傷していた。そして飛行場だが囮として配置していたドラゴン・フライに攻撃が集中しておりその多くが破壊されたが、逆に偽装された小型のファンファンや戦闘ヘリ等は難を逃れていた。これはジオン側の航空戦力が少なかったのと、目に付きやすい目標を攻撃した為だと思われる。更にハワイ島に残っていたミデア輸送機だが一部がハワイ島南部に移動しており難を逃れ、残りもモビルスーツ隊の近くに待機していた為少数が破壊されるのとどまっていた。

「・・・報告します。RTX-44の右肩の120mmキャノンが損傷、時間をかければ修理は可能だそうですが正直な所ジオンが上陸するまで時間があまり無い為修理はしないほうがいいかと思います。旧ザクの方は左腕にミサイルが命中し動作不能になっているようです。後は・・・飛行場に駐機させておいたドラゴンフライは全滅、デプ・ロックも全滅です。特に保管庫の爆発によりその周囲にいた人員が軒並みやられました。不幸中の幸いはモビルスーツ用の弾薬は別にしていたことですね。ですがこれで車両用の弾薬は各車両に搭載しているもの以外には輸送用トラックに積んであるものしかなくなりましたよ」

「そうか・・・輸送用トラックに積んであるのでどのくらい戦える?」

「そうですね・・・詳しいことは分かりませんが砲撃は各車数発分、MLRSは全弾発射1度きりといったところです。XT-79の砲弾は各車両の搭載しているものの他にはありません。61式の砲弾は多少はあるようですが肝心の61式が少数ですので・・・」

「つまり上陸されたら戦闘続行は難しいということか。撤収作業のほうは?」

「防衛部隊を除きほぼ完了しました。ただ防衛部隊の方はミデアの数が少ないので大半は見捨てる事になりますが」

「仕方あるまい、全部が脱出できるとは思っていない。優先すべきは実戦を経験し生き延びた兵達だ、足手まといになる傷病兵は置いていく。ただし比較的軽症で有能な者は脱出させるぞ」

「了解しました。後最後まで残る部隊の為に島の南部に避難したミデアの内数機を待機させておきます。脱出手段があるのと無いのとでは戦意が違ってきますし、実戦経験豊富な将兵は貴重ですからな」

「現在防衛の為に配置についている部隊は・・・・・・61式戦車22両、XT-79駆逐戦車31両、自走砲が4両に自走ロケット砲が2両、その他トラック等の軍用車両が54両、ファンファンが5機に軽戦闘ヘリが2機、海兵隊を含めた歩兵がおよそ3000人前後・・・・・・XT-79で時間を稼げるだけ稼ぐといったところですかな」

「オアフで迎撃しようとしてもその射程を生かせないからな。本来XT-79は平原等の開けた場所で運用するのが一番いいのだがオアフでは使いどころが難しい。まぁ拠点防衛で考えれば十分使えるのだが100機を越えるモビルスーツが相手では物量でもみ消される」

「山陰に展開していた砲撃部隊がやられたのは痛いですね。敵編隊は2つに別れ山陰から迂回して我々の背後から奇襲、挟撃しようとしたんでしょうが、そのせいで後方に展開していた砲撃部隊を発見され攻撃されるとは・・・」

「・・・防衛部隊の皆は全て志願兵で構成されています。友軍を逃がす為の壁となる、それが総意だそうです」

「・・・・・・将兵達の心意気を無駄にはできん。脱出の具合は?」

「モビルスーツ隊のおかげでミデアの損害は4機に収まり、もうすぐここからの脱出は完了します、我々もそろそろ・・・」

「うむ、全員ミデアに乗り込め。後は海兵隊のハートメン少佐に任せよう」



[2193] 16話(別名やっと後編)
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:d442d9e1
Date: 2007/07/01 00:31
「少佐! メルマンド大佐がミデアに搭乗、残りのミデアが離陸態勢に入りました。また命令通り島北西部に例のRTX-44が3両移動中です」

「分かった。俺達の任務はそのミデア達を無事に離陸させ、その後俺達も脱出することだ。島の南部のミデアは数機だが脱出手段は確保されていることを忘れるなよ。ミデアが離陸し終えたらゆっくり南部に後退する」

「少佐、沖合いの敵艦隊が動き出しました! 敵艦隊上空から敵編隊多数接近中!」

「全部隊へ、モビルスーツ隊は対空戦闘、その他地上兵力は敵上陸部隊を狙え! 戦闘ヘリ部隊は上陸用舟艇が接近したら攻撃させろ! 絶対にミデアをやらせるな!」

だが予想に反して鹵獲された『アンデス』から出撃した30機のドップの攻撃隊は対空砲火の射程外から、高高度からロケット弾を無差別に発射すると一目散に離脱を図った。高高度から放たれたロケット弾は推進剤が無くなった時点でそのまま落下していくが、その炸薬は生きている。これはあまりの航空隊の損害にアンデスの航空管制官が命じたことで、とりあえず弾をばら撒いて相手の様子を見ようというものだ。確かに航空隊の損害は無かったが放たれたロケット弾は極少数が連邦軍に何らかの被害を与えることに成功したが、残り全ては無駄に地表に穴を開ける程度だった。
この航空攻撃に連邦軍が拍子抜けしたのも無理はない。あまりにもお粗末な攻撃で『本当にやる気あるのかてめぇら!』と突っ込みを入れたいほどのものだった。だが一旦気が緩むとそれを引き締めなおすのには時間がかかる。そして沖合いの艦隊からの攻撃が始まったのはその直後だった。



「MLRS第1弾着弾、着弾誤差は予想範囲内です!」

「よし、試し撃ちは上々か。MLRS全弾発射、各艦にも砲撃を続行させろ!」

モビルアーマーライノサラスに搭載されているMLRSコンテナから次々とロケット弾が放たれていき、目標上空で炸裂し大量の子爆弾をばら撒き連邦軍部隊を蹂躙していく。そして自身の30cm砲も火を噴き、他の護衛艦艇も速射砲をバカスカと海岸一体へ撃ち込んでいった。砲撃は30分近く続きようやく停止した。

「アンデスその他艦艇より攻撃ヘリが出撃します」

「ドップの状態は?」

「現在全機着艦し、これから補給作業に取り掛かるそうです」

「ヘリと同時に攻撃は無理か・・・オアフのジャベリン隊は?」

「再出撃しこちらに向かっているそうです。ですが損傷の激しい機体が多く、14機しか・・・」

「予定は未定とは本当によく言ったものだな。思わず泣きたくなっちまう・・・空挺部隊と強襲部隊は?」

「空挺部隊はとりあえずオルコス10機が輸送中で、内訳はザク3機、ヅダ6機、グフ3機、プロトドム3機だそうです。後3分程度でハワイ島上空に到達し降下開始すると・・・」

「たったそれだけなのか!?」

「は、はぁ・・・そのようです。空挺降下用のパラシュート等の装備も予備が少なく、空挺降下に耐えれそうな比較的損傷を負っていない部隊を選んで出撃させたようです。ただ数機が低空から侵入し平地に着陸、部隊を展開させると言ってきました。後強襲部隊ですが、配置についたのでこれから上陸すると言ってきました」

「・・・どれだけ強襲部隊が潰してくれるかだな。よし、全艦へ通達。予定通り上陸を開始せよと」

「了解」



「少佐、ご無事で!?」

「ふふふ・・・ジオンの奴等やってくれるじゃないか。こちらの損害は?」

「は、防衛についていた61式が9両と歩兵500名前後がやられました。今のを飛行場にやられたらやばかったですね」

「まったくだ。おおよそ占領後に自分達が使いたいから攻撃しなかったんだろうがな」

「報告! 敵艦隊からヘリらしきものが飛び立ちました。確認できただけでおよそ20、こっちに向かってきます」

「ふむ・・・・・・全部隊へ通達、慌てずに敵上陸部隊を攻撃せよとな。水辺に注意しろ、敵の水陸両用機がくるぞ!」

「水陸両用機が?」

「戦闘ヘリを突っ込ませるんならさっき来たドップと一緒に来るだろう。恐らくあのヘリは水陸両用機の援護だ。分かったなら早く準備しろ。戦場という名のパーティに本来呼んでいない客がくるんだ、こっちも精一杯の歓迎をするぞ!」



「こちらオルパ7、配置につきました」

「よし、全機配置についたな。オルパリーダーより各機へ、作戦開始だ。友軍部隊と協力し合って敵を攻撃せよ!」

上陸予定の海岸から少し離れた別の海岸の沖合いに潜んでいるそれは水陸両用モビルスーツの混成部隊だった。本来なら主力としてこの場にいるはずだったVFのハイゴッグ部隊はパールハーバー攻略時に大半の機体が損傷するといった事態に見舞われており、本来作戦になかったハワイ島攻略には参加できないでいた。この場にいるのは少数のズゴックと多数のアッガイで、ゴッグはオアフ島攻略作戦中に多くの損害を出していた為少数しか参加していなかった。
命令が下されて水中に潜むモビルスーツ達はある機体はブースターを噴かし、またある機体は慎重に海面から姿を現していった。だがどちらにしても予想外の歓迎を受けるとは思っていなかった。

「うぉおお!? なんでこんなに砲撃がくるんだ!?」

「こちらオルパ3、被弾した! だめだ、脱出し・・・うわあああああ!」

「あれはXT-79とかいう戦車か。糞! 相手の指揮官は馬鹿じゃない、馬鹿なのは油断してた俺たちのほうだったか!」

「んなこといってる場合か! さっさと攻撃しr」

「ああ、オルパ1がやられた!!」

「慌てるな! 冷静さを失ったら殺られるだけだ、落ち着いて対処しろ!」

「バルカンが・・・105mmが弾かれてる!? バケモンかあの戦車は!」

「アッガイは105mmで弾幕を張れ! それとブリーフィング聞いてなかったのか!? XT-79はロケット弾のような威力の高い兵装を使え!」

ほんの数分でズゴックは2機、アッガイにいたっては7機も破壊されてしまった。元々アッガイは偵察用ということもあり他の水陸両用モビルスーツと比べても装甲が薄くできており、正面からザクを破壊できるXT-79のレールガンの前にその装甲は紙のように貫通されていった。更に言えば水陸両用モビルスーツの大規模な配備に伴って実戦を経験していない者達が多く配属されていたのも災いしていた。頭部105mmバルカン砲の直撃を正面から受けて平然と反撃してくるXT-79を見て恐慌状態に陥った機体が多く、それが被害を増加させたひとつの要因でもあった。だが徐々に冷静さを取り戻す強襲部隊とそれを援護するヘリ部隊のおかげで徐々に海岸線の防衛戦力は低下していった。それを察知したのか徐々に防衛についていた連邦軍も後退していく。

「こちらラスカル1、オルパ1がやられたので臨時に指揮を取る。各機は深追いせずに攻撃を続行されたし」

「こちら上陸艦隊旗艦のライノサラスだ。ラスカル1へ、敵の長距離砲がいるはずだ。もうすぐ上陸を開始させるができるならそれを潰して欲しい」

「こちらラスカル1、了解したが航空支援を要請したい。それに元々こっちは上陸支援、相手の目がこっちに向いてる間に本体を上陸させる予定でしょ?」

「ああ、だが思ったよりも敵戦力が分散していない。どうやら相手の指揮官はマヌケではないようだな」

「指揮官がマヌケだったら俺達はとっくに祝杯をあげてますよ」

「たしかにそうだ。支援のジャベリンは後数分でやってくる。こっちのドップはまだ補給作業中でしばらく時間がかかる」

「分かった、それまで戦闘ヘリと協力して地道に進みますよ」

「了解、武運を祈る」

そう言われライノサラスとの通信は途切れる。ラスカル1は支援してくれるヘリ部隊の隊長機を呼び出した。

「さて、こちらラスカル1。ヘリ部隊へ、エスコートをよろしく頼むぜ」

「こちらパピヨン1、了解した。さっさと攻略してお互いこんなふざけた名前から開放されたいもんだな」

「・・・ヘリ部隊もなのか」

「ああ、他にも戦闘機隊や戦車隊もランダムに名前をつけられてるそうだ。だがまだパピヨンはマシなほうだ、とある戦闘機隊にはブラッt・・・台所にいる通称Gって名前を引いちまった部隊もいるんだからな」

「・・・・・・哀れな。ちなみにその部隊は?」

「全機撃墜されたが全員ペイルアウトに成功して無事に戻ってきたそうだ。まぁ元々生還率が高い部隊らしいがな」

「なるほど・・・っと、敵駆逐戦車を確認した。これから攻撃するんで支援を頼む」

「了解した。さっきからレーザー照準されてるって警報がうるさくてかなわん。回避運動は燃料の消費が多いんで早めに駆除してくれ」

「善処する」

だがそう言った直後に1機のヘリがXT-79のレールガンによって撃墜された。超長距離からのレールガンの狙撃、モビルスーツ相手では分が悪いが戦闘ヘリ相手なら長距離からの狙撃は有効だった。当然戦闘ヘリ部隊も回避運動を取るがそれでも何機かは撃墜された。反撃しようにも戦闘ヘリが装備しているミサイルは有線誘導式で、当然の事ながら目標に着弾するまでヘリ側が操作しなければならない。それは回避運動にかなり制限がつくということで、レールガン装備のXT-79が相手の場合それは自殺行為となる。つまり、ジオンの戦闘ヘリ部隊は攻撃する手段がないのだ。もちろん発射直後に誘導用のコードを切ってすぐに回避運動をしたり、XT-79のレールガンで照準しにくい高度まで上昇したら攻撃は可能だろう。だがそれはできない、前者はあてずっぽうで命中する確立は無いに等しく、後者は・・・

「糞、パピヨン7が食われました! RTX-44と旧ザクの射撃がうぜえ!」

「落ち着け! 敵の射撃は遠距離からだ。高度を上げなければカモにはならん!」

「ですが低空だとXT-79のレールガンがきますよ」

「それだけこっちにきたら地上の奴らが楽をできる。俺たちの任務は上陸部隊への攻撃を少しでも軽減させることだ、これも任務のうちだ!」

そう、高度を上げるとRTX-44と旧ザクの対空攻撃が始まるからだ。ヘリ部隊が攻撃を受けている最中に水陸両用モビルスーツが前進する、それが今とれる手段だった。つまり空から攻撃を仕掛けようとするヘリ部隊は囮なのだ。

「全機へ、このまま前進を急げ! 一刻も早く敵を黙らせるんだ、ゴッグ隊はすまんが前面で友軍の盾として前進してくれ」

「了解した、だがこっちは後40分程で撤退させてもらう。冷却の問題があるからメガ粒子砲もバカスカとは撃てないしな」

「了解、それまでにはなんとかなってるだろう。空挺降下ももうすぐのはずだし、そいつ等が奇襲すれば・・・」

だが次に入った通信でその淡い期待は打ち砕かれていた。その通信は空挺降下の部隊が攻撃を受け多くの被害がでているという通信だった・・・



「こちら102号機、機体損傷! コントロールができない、墜落しちまう!」

「低空を飛行中の部隊は今すぐ撤退しろ、狙い撃ちされるぞ!」

「降下中の部隊が敵の狙撃を受けています! 既にザク2機とプロトドム1機がやられました!」

「強行着陸は失敗だ、各機直ちに反転し・・・うぉわ!?」

「097号機が被弾した! 煙を吐いているが大丈夫か!? おい、応答しろ! 聞こえないのか!?」

「こちら759号機、至近弾を食らった。破片でコンテナの中のモビルスーツ隊が損傷したらしく、加えてこれ以上はコンテナが持ちそうにない。これより強行着陸を試みる!」

「畜生! RTX-44が3機いやがる。待ち伏せされていたのか!?」

「まて、RTX-44の改造型みたいだぞ! ・・・砲門が1つのみでセンサーが増強されてるっぽいな。射撃精度を高めた機体か?」

「冷静に分析してないで反撃しろ! モスキート隊撃ち方始め!」

「馬鹿! 薬莢が下でパラシュート開いてる奴等にあたっている! 最初のオアフ降下時と違い今は密集しているんだ」

「慌てて降下した結果がこれか。って今グフに直撃したぞ!」

一方的に損害を出す空挺部隊、オルコス輸送機も3機撃墜され2機が損傷を受けていた。それはモビルスーツ隊が地上に降下するまで続いた。

「こちらゴリラ、降下完了! これより敵機を攻撃する」

最初に地上に無事に降り立ったのはプロトドム1機だった。3機一組だったはずなのだが1機は空中で撃破され、もう1機も空中で損傷し、そのせいで着陸に失敗し脚部大破といった有様だった。彼のプロトドムはジャイアントバズーカと120mmマシンガンを構えて3機のRTX-44に吶喊していく。RTX-44の狙撃仕様機は若干機動性が高くなっているのだが今回はあまり関係なかった。3機のRTX-44の内1機が迫ってくるプロトドムに攻撃を開始したがレーザー照射を浴びた時点で回避運動を開始すれば回避できた。もしこれがレーザー照準を切って光学照準のみで攻撃してきたらプロトドムを撃破できた可能性は高くなっていただろう。プロトドムのコックピットにはレーザー照射によるロックオン警報は出ずに、いつ攻撃してくるか分からないからだ。もっとも、ホバー走行するプロトドムでは機動性がザクやグフと全く違うから一撃で仕留められるかとなると疑問はでるが・・・

バズーカの射程まで接近に成功したプロトドムはジャイアントバズーカを乱射、ついで120mmマシンガンも撃ち始めた。弾速がマシンガンよりも遅いとはいえかなりの速度で突き進む360mmの弾は4発撃って1発がこちらを攻撃しているRTX-44の至近距離に着弾、そのRTX-44は爆風によりセンサー類が損傷した。だが損傷を負ったのはセンサー類のみ、レールガン本体には影響はなかった。そしてプロトドムが急接近したことで目視でも十分狙える距離でもあった。直接照準でレールガンから発射された弾はプロトドムの腰部に直撃、右足を吹き飛ばすことに成功した。片足を失ったことで盛大に転倒したプロトドムを無視し次の敵へとその砲門を向けるRTX-44。だがプロトドムに止めを刺さなかったのが災いした。

「な、なめるなぁ・・・」

プロトドムのパイロットは腰部に直撃した時に飛び込んできた破片のせいで頭から血を流しつつも、最後の力を振り絞り目の前のRTX-44にマシンガンのマガジンが空になるまで弾丸を叩き込んだ。マシンガンが弾切れで沈黙して数秒後、他のRTX-44からの攻撃でプロトドムは完全に沈黙した。目の前のRTX-44を道連れにして・・・だが彼の行為は無駄ではなかった。残り2機のRTX-44の注意がこのプロトドムに注がれている間に降下完了したザク1機、ヅダ2機、グフ2機と、被弾し不時着したオルコスからザク2機が展開を完了し、RTX-44に向かって突撃してきたからだ。さすがに7機相手に狙撃型のRTX-44が2機ではきつく、結局撃破されたが、それでもザクとヅダが1機ずつ接近するまでに撃破された。
現在ハワイ島に展開している連邦軍戦力の数%に匹敵する3機のRTX-44撃破は大きなものだろう。だがそのたった3機の為に輸送機5機、搭載されていたモビルスーツを含めれば15機以上のモビルスーツが破壊されたことになるのだ。いくら空挺作戦がハイリクス・ハイリターンとはいえこれは少しばかり洒落にならない状況だった。上空に残っていたオルコスにレーザー通信を入れて脅威を取り除いたので部隊を空輸するように連絡を入れたものの、それまではここを警戒するしかなくなっていた。つまりそれは水陸両用部隊と本体の援護ができないことを意味していた。



「糞! 俺達だけでこの場を切り抜けないといけないようだ」

「ゴッグ隊、攻撃は俺達が担当する。そっちは防御重視で頼む。後アッガイ隊へ、装甲が薄いんだからあまり前に出るなよ」

そう言っている間にもゴッグに多数のレールガンが命中する。だが装甲の厚いゴッグはそれによく耐えている。

「さすがゴッグだ! レールガンが当たってもなんともないぜ!」

「油断すると痛い目見ちまうぞ。もうちょいでロックできる・・・」

「こちらラスカル3、ロック完了! 攻撃します!」

そう言ってゴッグの陰からズゴックが腕部メガ粒子砲を放ち、それは偽装されたXT-79に直撃し爆発炎上した。

「1機撃破、やったぜ!」

「浮かれるな、警戒しつつ前進しろ」

そうラスカル1が戒めた時、1機のゴッグが爆発した。ふと敵のほうを見てみると、増援なのかRTX-44が新たに2機とバズーカを構えた旧ザクが1機こちらに攻撃を加えているのが見えた。そして敵が発砲した数秒後には1機のズゴックが直撃を食らって各坐した。

「ったく、新型機のズゴックがこうも簡単に撃破されるとは・・・開発直後は新兵器でも戦場に出れば消耗品って言葉考えたの誰だっけ?」

「たしかどっかの会社の社長だろ? んなこといってないで行くぞ!」

苦戦しつつ徐々に前進している水陸両用部隊とヘリ部隊だったが、ついにライノサラスから連絡があった。『我上陸を開始せり』と・・・



「逃げる連邦は只の的だ! 反撃してくる連邦はよくできた的だ!! ほんと戦場は地獄だぜフゥハハハハァア!!」

「・・・おい、あれ誰か止めろ。やかましくてかまわん」

「無理ですよ、エルヴィン少尉初陣でエキサイトしてますから・・・」

「あいつ二重人格だったのか? 見た目と発言は過激で暴走中みたいだが射撃は無駄弾が少なくて冷静みたいだが・・・」

「・・・さぁ? まぁやかましいのを除けば戦果挙げてるわけですし、我々が我慢すればいいだけでは?」

「オペレートには今のところ支障は出てませんが少し静かになればありがたいかと・・・」

そういう会話がされているのは上陸艦隊旗艦のライノサラスの中だった。ライノサラスは上陸艦隊から突出して浜辺に向かって驀進していた。後方の戦闘艦からの援護射撃を受けつつ自身の30cm砲、後部ガトリング砲、そしてアームに内臓されている武装を敵に向かって撃ちながら。その後方からは遅れて輸送艦が前進し、改造タンカーからはヅダイェーガーがスナイパーライフルによる支援射撃を開始し、鹵獲空母アンデスからは補給が完了したドップが次々と出撃していく。海岸沿いに展開していた連邦軍は必死に反撃していたが61式の主砲程度ではライノサラスの正面装甲は貫通できなかった。ここでなぜライノサラスではなくその後方の輸送艦を狙わないのかと疑問に思うかもしれないが、考えてみて欲しい。ホバー装甲をして全高が高く見えるライノサラスが自分に向かって武器を撃ちながら突進してきたら・・・恐らく誰もが恐怖を覚えるのではないだろうか? たとえるなら草食恐竜のトリケラトプスと一緒に獰猛な肉食恐竜のティラノサウルスが自分に向かって突進してきたようなものだ。

これにあせった連邦はライノサラスの進路上に自走砲やロケット砲車両から砲撃を加えた。さすがに直上からの攻撃には耐えられないだろうと思っての行動だったが、それは考えが甘かった。元々ライノサラスはその巨体故に直上からの爆撃等も考えられていた為、上面装甲も厚く設計されていたのだ。結果、幾つか機体上面に着弾するが、それは空になったMLRSコンテナ1つと30cm砲の砲身を歪め発射不能にするという戦果しか上げることはできなかった。連邦軍にとって幸いだったのは、発進に手間取った最後のミデアが無事に離陸することができたということだろう。なにせ飛行場には複数のモビルスーツが展開していた為、出撃したドップも飛行場だけは攻撃を、いや近づかなかったからだ。このことを受けて海兵隊のハートメン少佐は残っている全部隊にゆっくり島の南部に後退するよう命令を発し、連邦軍は徐々に後退していった。だが、敵を食い止めていた海岸線の部隊は脱出することは不可能だった。ライノサラスが上陸し、海岸に近づいた大型タンカーからはモビルスーツがブースターを噴かして飛び出し、上陸を開始したからだ。当然浅瀬でバランスを崩し転倒する機体も極少数だが存在したが、30機を超えるモビルスーツがハワイ島の土を踏んだのだ。海岸沿いの急造防衛線と飛行場に展開していた61式戦車5両に自走砲、ロケット車両部隊となけなしの航空戦力のであるヘリ部隊全てと、歩兵凡そ1000人はジオンを迎え撃ったが、ジオンの猛攻を受けて壊滅した。だがその中で2つのモビルスーツ小隊のおかげで連邦軍は島の南部に撤退できたということを記しておきたい。それはジャブローから増援として送られた第92独立機械化混成中隊の第3小隊の旧ザク3機、第5小隊のRRf-06ザニー3機だった。



戦闘ヘリが叩き落され、61式戦車が炎上する戦場で6機のモビルスーツは友軍を逃がす為に行動していた。目標は上陸してきたジオンのホバー走行する巨大兵器。RRf-06ザニーはキャノン砲を持ち、旧ザクは120mmマシンガンとヒートホークを持っていた。

「各機へ、これより突入を開始する。最大推力であたれ、帰還を考えるな」

「こちら2、今日は死ぬのにいい日だ・・・」

「3了解、我等死して友軍の盾とならん!」

そう言って3機の旧ザクはスラスターを噴かして突進していった。それを援護するように同じくスラスターを噴かしながら120mmキャノン砲を発射するRRf-06ザニー。スラスターを噴かし突撃しながら120mmキャノンを発砲するということがどれだけ機体に負担をかけるというのだろうか。早速トラブルが起きたのか1機のザニーがバランスを崩し地面に頭から激突、大破した。だがそれでも残った2機のザニーは頭部の60mmバルカンもばら撒きながら先行する旧ザク3機を援護していった。3機の旧ザクの突撃を阻む為に前に出ようとしたザクが120mmの直撃を受け四散、狙撃しようとしたヅダイェーガーは60mmバルカンに泡を食い後退し、ジャイアントバズーカを構えたプロトドムに突進する旧ザクから120mmが放たれ、それが直撃したジャイアントバズーカが大爆発を起こしプロトドムは上半身が吹き飛んだ。それでもジオンの迎撃で更に1機の旧ザクが破壊されたが、目標の巨大兵器、側面を向けたライノサラスを視界に捕らえることに成功した。
だがライノサラスも急速接近するモビルスーツには気づいており、車体を旋回しつつ当然のごとく迎撃を行う。アームの90mmマシンガンが、135mmライフルが、後部75mmガトリング砲が火を噴いた。これによりザニーが新たに1機撃墜されたが、カウンターとばかりに放った120mmキャノンが左後部75mmガトリング砲に直撃、破壊した。これにより左後方に死角ができ、そこへ2機の旧ザクは突進していった。だがここで彼らは一つの間違いを犯した。ライノサラスの装甲は120mmマシンガンが直撃しても大丈夫ということだ。つまり、周りの友軍がライノサラスに当たるのを承知でマシンガンを撃ったのだ。これにはさすがに1機の旧ザクが背後からの銃撃で破壊され、ザニーも1機が大破、残りのもう1機も中破したが、そこまでだった。ライノサラスに取り付いた旧ザクは至近距離からマシンガンを撃ちながらヒートホークを振り下ろした。さすがに対艦用に開発されたヒートホークを防ぐことはできず、それは左後部の機関部に突き刺さり、小爆発を起こしながら左第2機関部はその機能を停止させた。だがいつでもビーム兵器を運用できるようにジェネレーターを4基も持つライノサラスにとって、1基の機関部を破壊されただけではあまり問題は発生しなかった。ビーム兵器を運用しない状態ならジェネレーターが2基あれば必要最低限は稼動できるからだ。ついでにいえば3基残っていれば支障なく部隊の指揮を行うことは可能だった。だがその後に旧ザクがとった行動で部隊の指揮は取れなくなった。ヒートホークでできた裂け目にマシンガンの銃口を無理やり押し込め、残っていた弾丸を全て叩き込んだからだ。さすがに内部で多数の120mm弾が飛び交ったせいか、もう1基の左機関部も破損、爆発したのだ。これによりライノサラスは中破し、攻撃した旧ザクも周りから集中砲火を受けて爆発した。全て終わったと思ったが、それは甘かった。突如中破し右足が千切れ飛んだザニーがスラスターを全開にし、そのまま空中を飛翔しライノサラスに特攻を食らわしたのだ。この最後の攻撃でライノサラスはザメル風の胴体が破損し、30cm砲が折れ曲がった。連邦軍のモビルスーツ2個小隊は自身を犠牲にすることで上陸艦隊旗艦であるライノサラスを大破させることに成功し、この混乱に乗じて他の連邦軍部隊は後退に成功したのだった。



「・・・被害は?」

「30cm砲大破、MLRSコンテナ全損、左アーム電気系統に異常、左75mmガトリング砲大破、左機関部両方破損・・・本体左ホバーユニット大破。残念ですが戦闘機動は不可能、海上を移動するのも一苦労です。一応行動はできますが万が一海上でトラブルが起きたら機体を放棄するしかありません」

「まいったな。修復は可能か?」

「ホバーユニットの修理は可能かと思われますが、正直どこまで治るかは分かりません。潜水艦を使ってキャリフォルニアベースまで撤退させるのがいいかと思われますが・・・」

「仕方あるまい、アンデスに連絡してくれ。『我大破し部隊の指揮とれず。貴艦が今後指揮を執られたし』とな」

「了解です。後連邦軍は島の南部に後退しているようですがどうなさいますか?」

「追撃は慎重にさせよう。少なくともモビルスーツ隊が残っているはずだからな。ポイントパハラとミロリイを制圧後に再編成を行いつつ降伏勧告をし、その後に一斉攻撃だ」

この命令が下され、ポイントパハラとミロリイを制圧した時、ジオン・VF側はザク7機、ヅダ3機、グフ2機、プロトドム2機を失い、更に水中戦力でいえばズゴックを2機とアッガイ4機、ゴッグを2機失っていたが、連邦が払った犠牲は残っていたRTX-44と61式戦車全てとXT-79を13両、歩兵部隊を900人近くを失っていた。これは皮肉なことに前線でトラップやゲリラ戦を仕掛けた海兵隊が車両を多く受け取って他の一般兵はその間に後退させていたのが裏目に出ていた。海兵隊は車両に乗っていた為最後まで戦場にいながら比較的早く撤退できたが、早期に後退したのはいいが徒歩で後退していた一般兵がモビルスーツ隊の追撃に会い全滅した結果だった。しかしこの一般兵が全滅していなければ海兵隊も南部の集結ポイントに後退することはできなかっただろう。南部のポイントに最終的に集結できたのはXT-79駆逐戦車が3両、旧ザクが1機とRRf-06ザニーが2機、そして海兵隊含めた歩兵が600人前後といったものだった。これは残っていたミデアでなんとか運べる数で、再編成を完了させたジオン正規軍とVFが押し寄せた時には既にそこはもぬけの殻となっていた。





ツィマッド本社 社長室

「・・・・・・・・・この損害は本当ですか? 一種の悪いジョークだと思いたいんだけど?」

「残念ながら事実です」

「・・・分かりました。下がっていてください」

「分かりました、それでは私はこれで・・・」

部屋から秘書(男)が退室し、社長室にはエルトラン・ヒューラーが頭を抱えて目の前に置かれた書類を読んでいた。

「ライノサラスは大破しキャリフォルニアベース行き、他にもオルコスやモビルスーツの被害甚大・・・なんの悪夢なんだろうこれ? まぁモビルスーツとかはいいとして最大の問題はVFの将兵が多く戦死していることか。これだけ戦死されたら遺族に払う補償金も馬鹿にはならないし何より人的資源が不足しているジオン側、更に言えばうちにとって洒落にならない事態じゃないか・・・」

・・・頭と胃が痛い。病院からもらってきた胃薬飲むか・・・って久しぶり、といっても作戦開始前にあってるか。君も見てるだろ、この被害報告書? ん? まぁ細かいことは気にしないでくれ。話が続かないから。でだ、ぶっちゃけこんだけ被害でたらVFは大規模な作戦行動は取れないよ。モビルスーツは金と資源があればだがいくらでも作ることはできる。だけど熟練した、いや新兵も含めた兵士っていうのは作ることはできないからねぇ・・・ついでに言えば連邦もザニーを投入してきたみたいだね。ガンタンクもどきと駆逐戦車、それに水中用のボールもどきに密輸された旧ザクが今回ハワイで確認されたらしいんだけどやっぱりモビルスーツは地上においては万能じゃなく、機甲+砲兵=モビルスーツって改めて思い知らされる結果だよ。まさかゲリラ戦でこんだけ被害出るとは・・・はぁ、まぁ戦訓を見直して同じ失敗をしないようにすることが大事かな。
さて、予定では今度サイド6のフラナガン機関に視察にいくことになってるな。少し視察しつつまったりするか・・・じゃあまた今度~







サイド3 某所

「ハワイ制圧作戦は成功し、VFの戦力もある程度低下させることに成功か・・・」

「はい、現在施設の復旧作業中で半月もあれば必要最低限は使用可能になるかと」

「だがVFがガルマと、そして北米軍と親密な関係というのは気に入らんな。あやつらのせいでガルマ派という新たな派閥ができ、地上での拠点はオデッサと今回手に入れたハワイに限定されてしまった・・・エルトラン・ヒューラー、目障りだな」

「では・・・?」

「予定通り行動せよとマ・クベに伝えなさい」







あとがき

とりあえず長い駄文を読んでいただきありがとうございます。次回は宇宙の予定です。正直やっとこさテンションが回復してきたところなんで少しずつ書いていきます。
・・・正直マジで荒しで鬱なりかけてたんで(汗)

ついでに1月の時点でボツにした初期の13話、ハワイ襲撃時からのモノのみのっけときます。



水中から飛び出してきたモビルスーツに混乱している連邦軍に更なる災厄が降り注いできた。それは水中からでも空中からでもなく、宇宙空間から突入してきたのだ。



HLV内部

「これから派手なパーティが始まるのですね」

「ジョディ、こんなパーティ私は始めてだよ」

「私もこんなパーティは始めてです、マイコマンダー」



突入してきたのは3機のHLVで、特殊任務用に改造されたそれは連邦軍の赤外線探知網を潜り抜けハワイ上空へ、正確に言うならハワイ諸島で最大の規模を誇るホイラー飛行場へと落下してきた。そして連邦軍が気がついたときにはそれは空中で1機が突如爆発、中から1つの機影が飛び出してきた。そしてそれは連邦軍の、いや、ジオン軍から見ても異常なモノだった。

「オーケェー、レッツパアァァリィィイイイイイ!!!」

そう外部スピーカーで絶叫しながら爆発するHLVから飛び出てきたのはこれまで連邦軍が見たMSのどれでもなかった。いや、ジオン軍ですら元が何だったかは分からないかもしれない。そしてここに連邦軍ハワイ基地は常識をどこかに置いてきたような部隊によって蹂躙されることが決定された。

着地寸前にスラスターを噴かし軟着陸を果たしたソレはパッと見るだけでは元がなんだったか分からないくらい改造されており、右手に2基の75mmガトリング砲を持ち、左手には見たことも無いライフルを装備していた。

「地獄の底へようこそ、連邦軍諸君! 穴あきチーズにしてやるぜ!!!」

そう言い放った後にソレは猛然と走り始め、唖然とする連邦兵を尻目に右手に装備されたガトリング砲であたり一面に銃弾を叩き込んでいった。たまらないのは連邦軍である。一瞬頭の痛い奴か?等と思ったが次の瞬間には基地に駐留する多くの航空機がガトリング砲によって穴だらけにされ爆発炎上、守備隊が出撃しようとしても出撃前に格納庫ごとスクラップにされる始末だった。そしてハワイに駐留する他の部隊が異変を感じ派遣した部隊が飛行場についた時、格納庫や管制塔等の重要施設は粗方破壊炎上してしまっていた。恐ろしく広大な飛行場をここまで破壊する敵というのは正直なところ信じがたいが、事実飛行場は壊滅していた。そして動揺する戦車隊にも災厄は容赦なく降り注いできた。

「ナイスランディング♪」

そう声が聞こえたかと思うと目の前を走行していた61式戦車がMSに踏み潰されていた。驚いた各車両が迎撃しようとするも、それよりはやくMSは跳躍し車列の後ろに着地した。この時連邦戦車隊が不運だったのは平地の真っ直ぐの通りを2列で行進していたことだろう。着地したMSは左手に持ったライフルを地面すれすれに構え発砲した。これを怪訝に思ったのは戦車隊である。戦車の高さと同じ高さで発砲しても3~4台は破壊できるだろうがそれでお終いだからだ。ましてガトリングを撃てば弾は使うだろうがこちらを壊滅されることくらい造作もなくできるのだから。だが次の瞬間にはそれを考えるまもなく彼らは戦死した。なんと引き金を引いた次の瞬間にはそのライフルから光が発射され、2列で進んでいた戦車のうち1列分をあっという間に破壊したからだ。残された戦車もなんの行動もできずに次々と光に飲み込まれていった。

そう、この機体が装備するのはモビルスーツ用のビームライフルだったのだ。とはいっても未だ改良の余地のあるものだったが・・・

そしてビームライフルを乱射するMSに戦車隊は破壊されていったが、そうこうしているうちにヒッカム飛行場から飛び立った戦闘ヘリ部隊がやってきた。戦闘ヘリに気がついたMSは右腕に装着されているガトリング砲でヘリを攻撃しはじめたが、数秒後にはガラガラという音を出すだけになっていた。

そう、弾切れだった。まぁあれだけばら撒いていたら弾が切れるのは当たり前、むしろ今までよく弾があったと突っ込みを入れたいところだ。ここぞとばかりに連邦軍はこのMSを破壊しようとするが、それは突如辺りに響いた声と弾丸に邪魔された。

「フフフファハハハハハハァ・・・やぁマイケル、相変わらず弾をばら撒くのを楽しんでいるようだな」

「リチャード!」

「そろそろブレックファーストティーの時間だ、おいしいダージリンティーを飲みながら優雅に朝食をとりたいので、せいぜいヒィヒィ言って逃げ回ってくれよぉ連邦の諸君」

そう言って突如現れたそのモビルスーツは肩の部分に装着されているロケット発射機からロケット弾を放ち、更に左手に内臓されたグレネードランチャーからグレネードを発射した。周囲にいた連邦軍将兵は突如発生した火炎地獄に飲み込まれ、この火炎地獄を生き残った車両には右手に装備された3連装35mmガトリング砲と90mmレールガンで撃破されていった。

「リチャード!」

「マイケェル! ここは私が引き受けよう、さっさと弾を補充しに行きたまえ」

「オーケェ、ここは頼んだ!」

その数分後、オアフ島中央のホイラー飛行場は完全に沈黙した。

ハワイの航空戦力の大部分を占めるホイラー飛行場が陥落したという知らせは海軍基地にもはいてきた。だがその知らせとほぼ同時に災厄も海軍基地に襲い掛かってきた。なぜなら連邦軍太平洋艦隊司令部のある建物がいきなり粉砕されたからだ。そしてそれは海軍基地の災厄の始まりの合図だった。司令部崩壊後しばらくして1機のモビルスーツが基地に侵入してきた。それはドムのように見えるが改造してあるらしくあきらかにドムより一回り大きく、肩にキャノン砲と大口径ガトリング砲を装備し、両手にマシンガンを装備していた。そのモビルスーツは他の2機がしたように外部スピーカーを解放してしゃべりだした。

「前々からこんな大規模な基地・・・壊したらどんなに素敵かと気になっていたんですよね」

そのモビルスーツのパイロットと思われる女性の言葉を聞いた瞬間、全ての連邦兵は背中に冷たい何かが走った。それを気にせずに正体不明のモビルスーツは

「基地の司令には悪いですけど派手に壊してしまいましょう」

とのたまった。そして次の瞬間には肩に装備されているキャノン砲とガトリング砲、そして両手にもったマシンガンの火が噴き、あたり一面に破壊を撒き散らしていった。しかもその数分後、やっと海兵隊が混乱から立ち直り反撃を開始し始めた直後にホイラー飛行場を襲撃した2機のモビルスーツが増援として殴りこんできたからたまらない。ただでさえ(あらゆる意味で)厄介な敵なのにそれが更に増えたのだから当然だ。それでも艦船から反撃の砲撃が始まり、基地にいた海兵隊が歩兵携行用のロケットランチャーで瓦礫の間から反撃を開始する。一部の艦船は砲撃しながら岸壁から離れ港を出ようとしていた。そしてその反撃にドムの改造機と思われる機体が屈した。肩に装備していたガトリング砲に弾が直撃し誘爆したのだ。これでこの機体はガトリング砲ばかりか頭部にキャノン砲まで吹き飛び各座した。そしてトドメを刺そうと、まだ岸壁に停泊している艦船の砲塔がむけられた。だがその直後、誰もが目を見張ることがおきた。
ホイラー飛行場を蹂躙した右手にガトリング砲を持ったモビルスーツが比較的近くに停泊していた巡洋艦に近寄り、

「アアアァァァーーーーー!!! これが指揮官魂だああぁぁぁ!!!」

そう言ったかと思うとその船首をつかみ・・・

あろうことか持ち上げ、そればかりかその船体を振り回し始めたのだ。

この常識をどこかにおいてきたかのような光景に連邦将兵は唖然となったが、その唖然とする時間は少なかった。近くにあったハンガーは船体によってなぎ払われ爆発炎上、更にその振り回していた船体をあろうことか岸壁を離れ始めた巡洋艦に向けて放り投げたのだ。そして放たれた巡洋艦は目標となった巡洋艦に直撃した後海面をバウンドして、更に数隻の艦艇を巻き込んだ後に大爆発を起こして沈んでいった。これに戦意をなくしたのか残った艦艇は港からの離脱を一斉に開始した。当然ながら真珠湾の出入り口は渋滞し、玉突き事故を起こしてほぼ動きが取れにくくなった。そこにレールガン等の弾丸が降り注いだ結果。早期に港を出なかった艦船以外は壊滅した。無事脱出できたのは正規空母1隻を含む19隻程度だった。だが無事に逃げ切れたと思っていた彼らは、まだ甘かった。いきなり船体を振り回したモビルスーツが脱出した艦隊の方向にある岬を目掛けて走り出したからだ。その意図を察知した各座したドムの改造機のパイロットは叫んだ。

「マイケル無茶です!」

「無茶じゃない、なぜなら、私は、この部隊の統領(リーダー)だからだ!!!」

そう叫びながら岬をけり、ブースターを一気に吹かし空を舞った。

「Yeahhhhhh!!!」

「マイケル!」

「ジョディ・・・! ちょっと沖合いの艦隊まで行ってくる」

たまらないのは連邦艦隊のほうだ、常識をどこかにおいてきたかのようなモビルスーツ部隊からやっと逃げ切れたと思ったら、そのモビルスーツがこっちめがけて飛んでくるのだから。当然ながらパニックに陥り、有効な手段が取れない間に災厄は狙い済ましたかのように空母に着艦した。それから後は詳しく言わなくてもいいだろう。結果からいえば連邦艦隊は潜水艦等の一部艦船を除けば壊滅したのだ。たった3機のモビルスーツの前に・・・





以上! 最初に書いたけどあまりにもぶっ飛んだ話なんでボツにしたやつでした。反省はするけど謝罪と賠償は(省略)
せっかく書いたんだしのっけときますが、これノリでかいてたから作成は1月2日くらいだったんだけど読み返してボツにした結果、書き直し&卒論+試験期間&精神的に疲れてた時に感想の荒らし見たことによるモチベーション低下→復活に時間とられ、かなり遅くなりました。この場を借りてお詫びします。ちなみにこのぶっ飛んだ人達の元ネタ(?)はゲーム『メタルウルフカオス』の面々です。参考はYouTubeで動画のってますんで・・・後簡単な年表みたいなやつ作成中です、これは次回UP時にできたとこまでのっけます。まぁ他にもこんなネタもありました。



ハワイに敵が上陸してきたとき、連邦の将兵の士気は高くなかった。それを切実に物語っているのがホノルル市にMSが侵入したときに一番近くに駐留していた部隊が物語っていた。

戦車隊が防戦の準備をしているとき、ホノルルに敵が侵入したと知らせがあった。

「諸君、聞いての通りホノルルにジオンが侵攻してきた。これを食い止められるのは君達しかいない! 君達に大いに期待している、連邦の意地を見せつけてくれたまえ!」

その言葉を聞いた戦車兵達の反応は冷ややかだった。

「なんで俺達が・・・適当にしとけばいいんじゃねぇのか」

「めんどくせぇなぁ・・・他のやつらにやらせろってんだ」

そう、あろうことか守るべき市民を守るのをこの将兵達はめんどくさいといったのだ。この発言を聞いた基地の司令はこう呟いたといわれている。

「・・・腐ってやがる、(士官学校を卒業させるには)早すぎたんだ」

以 上 !!



[2193] ツィマッド社奮闘録 17話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:d442d9e1
Date: 2007/07/30 11:55
7月3日 サイド6 パルダコロニー

「それでサイコ・コミュニケーターとそれに付随するニュータイプ用兵器の開発は一応順調ということですかフラナガン博士」

「ええ、貴社が資金援助してくれたおかげで余裕を持って研究できましたから、エルトラン社長」

「それは何よりですよ、こちらとしてもサイコミュ兵器とそれに関する兵器の開発はわが社にとって莫大な利益をもたらしてくれるでしょうから我々はあなた方を支援するのですし」

「で、結果を出せなかったら支援を停止すると」

「ははは、そんなことはしませんよ。私はあなた方が結果を出せると判断したからこそ援助をしているのです。でも焦らず急げでがんばってください。急いては事を仕損じるとも言いますからね」

「なるほど、では援助はこれからもしてもらえると判断させていただきますよ」

「ええそれはもちろん。 ・・・それで例の話ですが」

「ええ、受け入れましょう。あなた方ツィマッド社のVFに対して調整が終了したニュータイプを何人かお譲りすると約束しましょう。まぁ現段階で調整が済んだニュータイプは皆無ですが」

「ここにいるニュータイプはどのくらいですか? 落丁してるのか報告書に書かれていなかったので」

「そうですね・・・調整をしているもの、これから調整をするものはララァ・スンやあなたが指定したマリオン・ウェルチを含め・・・っと、申し訳ないですがそれは極秘事項なので答えることはできません。これはオフレコですがこの極秘事項もフラナガン機関内部のもので、創設者であるキシリア様にも改竄した報告書を出しているくらいなのです」

「いいのですか? そんなことをいっても・・・・・・」

「ええ、だいたいそちらにお譲りするニュータイプもこの書類上ではニュータイプではなかった、もしくは元から存在していなかったことにすることで、そちらに譲渡することがはじめてできるのですから」

「なるほど、こちらの要請で迷惑をかけますな」

「いえいえ、貴社もうちに少なくない支援をしていただいているのです。これくらいしても問題ありませんよ」

「まぁその話はここらでやめときましょうか。・・・・・・話を変えますがシャア少佐の連れてきた女性の調子は?」

「ああ、ララァ・スンですね。彼女はほぼ間違いなくニュータイプだと思われます。彼女は調整が完了しだい連れてきてくれたシャア少佐の下へ配属される形になるでしょうな」

「なるほど、それはなにより」

「さて、私はこれから実験室に戻らなければならないのでここらで失礼させてもらいます。この先にあるロビーで少々待っていただければ手の空いてる者を回しますので、後の視察ではその者に質問をしていただければ・・・」

「ああ、ありがとうございますフラナガン博士。研究がんばってください」

「ええ、ありがとうございます」

そう言ってフラナガン博士は通路の奥へと消えていき、私もロビーへと足を運んだ。

機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)第17話

ふぅ~、やれやれ・・・お、久しぶり~。だいたい10日ぶり(SS内での時間経過)か~前回言った通りサイド6にあるフラナガン機関の視察に来てるんだよ。まぁ少なくない量の支援をしているからどれだけ研究が進んでいるのか確認する権利はあるからこそだけどね。サイコミュ兵器を開発すれば連邦の物量に対し互角以上に戦えるからねぇ。見えない敵ほど怖いもんはないし、その動揺は瞬く間に他の部隊へ連鎖していく。混乱に陥った部隊程脆いものは無いしね。
え? ララァ・スンのことはどうしたって? そりゃもちろんこっちからシャア少佐と接触したときにね。いやだってガルマってシャアに嵌められたわけだし、もしガルマを失ったらツィマッド社としても後ろ盾がなくなるわけだし。まぁ他にも色々と・・・

「む、エルトラン社長か。視察の真っ只中といったところか」

「・・・・・・いたんだシャア少佐」

「・・・私がここにいるのがそんなに意外かね?」

「いや、いきなり会って驚いただけだよ。ララァ・スンに会いに?」

「ああ、戦時休暇を利用してな。これからまた通商破壊任務に復帰する予定だ」

「分かった、まぁがんばってくれ。来月中旬か再来月初旬くらいにうちの新型機をドズル中将のとこにも回すから乗ったら感想聞かせてくれ」

「今月末の暫定主力機選定試験に出す機体のことかな? 噂ではドムが完成していると聞くが」

「・・・その噂は本当だよ、最終調整も完了したしやっとドムがロールアウトしたんだ。関係者の間では『ツヴァイ』のコードで呼んでいた重モビルスーツだけど、さすがに重モビルスーツだけあって加速性能と最高速度はヅダには後一歩及ばなかったよ。だけどジオニック社が出してくるザクの改良型、ザクⅡ改だったかな? それとならコスト面以外で十分勝算はあるよ」

「ふむ、楽しみにしているよ」

「ああ、楽しみにしてくれ。拡張性も高いからヅダを超える機動性にチェーンすることも可能だから。それじゃまた~」



通路の角へ消えていったツィマッド社の社長であるエルトランを見送った後、私は軽くため息をついた。

「・・・相変わらず人が読めんな」

戦争前までは民生品や各種軍事兵器、最近はモビルスーツにモビルアーマー、そしてVFという私兵まで作ったツィマッド社の社長であるエルトラン・ヒューラー。彼と会談するまでは何を目指してVFを作ったのかははっきりとはわからんがおおよその想像はすでについていた。

この戦争の勝利とザビ家の独裁政治の打破。

そうでなければ一企業が一方面軍に匹敵する私兵を設立するはずが無い。戦争に協力し、勝利に大きく貢献したということは国民に大きな印象を与えるだろう。事実サイド3ではツィマッド社とVFの名前が大きく広がっている。また前線に時々送られる予定外の補給物資にはモビルスーツ用の予備パーツ等の他に嗜好品等が満載されており、戦場で戦っている将兵達の楽しみのひとつとなり前線の将兵達の多くはツィマッド社に好意的である。更に言えば中立及びダイクン派に援助を行っていることも裏づけしているだろう。これで国民や兵士達に人気のあるツィマッド社を強制捜査等しようものならザビ家への不信感は増大し、権力は大幅に低下する。
うすうすザビ家の二人も気がついているのだろう、VFが自分の立場を脅かしつつあるということを。
そこまで考えて彼はエルトランと会ったときのことを思い出していた。



「ツィマッド本社に招かれるとはな・・・ドズル中将の命令があるとはいえどういうことだ?」

「名目は少佐の使用しているヅダB型の検査だそうですがそれだと技術者を派遣するだけで済むはずですがね」

「わざわざ呼び出すとは・・・ツィマッド社はなにを考えているのだ?」

「一応補足でヅダの中でも新型のS型の受領とかかれていますがどうも裏がありそうですね」

「まぁいい、サイド3に到着次第向かおう。留守は任せたぞドレン」

「了解です、少佐」

あの後サイド3に寄港すると待ち構えていた技術者によって私のヅダB型はトラックに搭載されて搬送されていった。私はそれよりも先にツィマッド社の用意していた車で本社に到着していたが通された先はツィマッド社の技術部ではなく社長室で、更に言えばエルトラン社長と会談とはさすがに驚いたな。

「初めまして、シャア・アズナブル少佐。ご存知だと思いますが私はツィマッド社社長のエルトラン・ヒューラーです、今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ、エルトラン社長。で、私をここに呼んだ理由を聞かせていただいてもよろしいか?」

「ああ、そうですね。それと一言、この部屋に盗聴器の類は存在しませんので本音を喋りあっても大丈夫ですので。では本題に入りましょうか・・・・・・ガルマ・ザビ及びドズル・ザビ両名、できればデギン・ザビも復讐の対象から外していただきたいのです」

・・・なんだと?

「・・・どういうことかよく分からないのだが?」

「・・・ではこういえばよろしいでしょうか、キャスバル・レム・ダイクン殿?」

・・・私の名前を知っており、『復讐』という単語を口に出している以上私のことは可能な限り調べ上げたと考えるべきか。

「私の名前はシャア・アズナブルだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「それは親を殺したと思われるザビ家への復讐の為に行動するシャア・アズナブルということですか? それともジオンの、スペースノイド達の独立を目指し戦うシャア・アズナブルということですかな?」

「・・・どこまで知っている?」

「あなたがダイクン氏の御子息で地球に逃げた際に妹のアルテイシア・ソム・ダイクン共々マス家の名前を名乗ったこと、親を殺したと思われるザビ家への復讐の為に軍に入ったこと、その仮面は他人に自分の正体がばれるのを隠す為につけていること等ですかね。安心してください、こちらとしてもザビ家に知らせるつもりは毛頭ありませんので。ただガルマ・ザビを暗殺した場合、我がツィマッド社は致命的ダメージを負うことになるので、それだけは避けたいのです」

「それを私に話してどうするというのだ?」

「本音を言いますとね。あなたを支援する用意があるということです」

「・・・なんだと?」

目の前のこの男は何を言ったのだ?

「ジオニズムの中で人類が進化した存在にニュータイプが掲げられていますが、それの研究機関はご存知ですか?」

「・・・フラナガン機関のことか」

「ええ、そうです。それとは別に我々も独自の調査を行っています。その結果、インドでニュータイプと思われる少女を確認しました。こちらがその写真です」

そう言うと彼は一枚の写真を私に見せる。そこには肌が黒褐色で、額に黒子がある一人の少女の姿が写し出されていた。

「彼女の名前はララァ・スンといいます。インドの『カバス』が運営している、とある売春宿にいます」

「・・・私に彼女の写真を見せてどうしろというのだ?」

「簡単なことです、彼女と会ってみてください。既にドズル中将にはインド戦線の視察ということで許可が下りてます。そこで彼女に会ってニュータイプとは何かを考えていただけないでしょうか?」

「まるで彼女がニュータイプだと確信しているような口ぶりだな」

「・・・私個人は彼女をニュータイプだと思ってますし、貴方もニュータイプであると思ってます。彼女を保護した後はフラナガン機関に身柄を預けたほうがいいでしょう。彼女を連れてきたのが貴方ならフラナガン機関も待遇がいいはずです」

「とにかく一度会わねばならないということか。手回しが良すぎるのが気に入らんな」

「まぁそこは勘弁してください。戦争には勝たなければ、もしくは有利な条件で講和・休戦しなければなりません。その為にはニュータイプの持つ能力が必要だと私は思っています。だからこそニュータイプを研究しているフラナガン機関には多くの援助をしているのですから」

「ふむ・・・最初に言った支援とは何のことかな?」

「現在ガルマ・ドズル派はダイクン派に近い存在になってきています。まぁそのせいでギレン・ザビとキシリア・ザビには目の敵にされていますが、戦争終了後、貴方がダイクン派をまとめて本当の名前を名乗るのであればツィマッド社は資金及び物資の援助、更にガルマ・ドズル派を貴方の味方にする工作を行います」

彼が言った言葉はツィマッド社がザビ家の独裁政治を打破することを目論んでいるという意味を持っていた。たしかに私の目的はザビ家への復讐だ。ならばザビ家の独裁政治を打破するということもある意味復讐になるのではないか? ツィマッド社もおそらくザビ家の独裁政治を打破したいと思っているのではないか、それなら利害が一致するのではないか? そう考えている私がいた。

「・・・・・・少し考えさせてもらおう。返事は次に来たときでもいいかな?」

「ええ、こちらもすぐに返事をもらえるとは考えていません。なにせうちもギレンとキシリアの両名に睨まれている状態でしてね」

「ふっ・・・事は慎重に、か」

「ええ、そういうことです。 っと、すみませんが技術部の方でヅダイェーガーの受領とこれまで乗ってきたB型に対する技術者の質問を受けてください。一応それがお呼びした理由なので」

「分かった。とりあえず今は君の言う通りにしておこう」

その後は地球に降り、ヅダイェーガーの地上試験という名目で最前線であるインド戦線に行き、暇を見てインドの『カバス』の運営する売春宿にいた彼女に会いに行った。
・・・正直なところ彼女を一目見た時、私は彼女の才能に感動した。私はその時エルトラン社長に言われたことに動揺しておりジオン等眼中に無い心境だった。だが彼女は私を生粋のジオンだと言ったのだ。
エルトラン社長がどこで彼女のことを知ったのかは分からない。だが彼には感謝したものだ、おかげで私は彼女と巡り会えたのだから・・・

後日、私はツィマッド社の社長室を訪れた。

「久しぶりだな、この間の話だが支援を受け入れよう」

「・・・分かりました。契約成立と考えてもよろしいですね?」

「ああ、ララァと会ってザビ家への復讐を考え直させられた。ガルマとドズル中将に関しては既に復讐の対象外、これでいいかね?」

「結構です。 ・・・堅苦しい言い方はこれでやめにしていいですかね?」

「かまわんよ、それより聞きたいことがいくつかある。君の目的はなんだ? この戦争で何をなそうとしているのだ?」

「・・・じゃあ説明させてもらうよ。っと、その前にこれまで通りシャア少佐と呼ぶけどいいかい? まず私がVFを設立したことに関係するが私の目的はスペースノイドの独立、これにつきる。この戦争、我々が介入しなければ各コロニーに対して殲滅戦が行われ地球には巨大な弾頭に見立てられたコロニーが落下していただろう。当然ながらこれじゃ戦争はサイド3と地球連邦との戦争という形になりスペースノイドとアースノイドの戦争という形にはならない。人は進化する生き物だ、人は過酷な宇宙に出ることによって新たな力、私はそれがニュータイプだと思っているがそれを手に入れることができるはずだ」

「ふむ、少しいいかね? スペースノイドがアースノイドに勝ったとして、それからどうするというのだ? そしてニュータイプという新たな力を得てそれをどうする」

「・・・ニュータイプはスペースノイド、すなわち過酷な宇宙空間で環境に応じ進化した人になる可能性がアースノイド、地球に住む者たちに比べ格段に高い。更に言えばニュータイプは感覚、意思疎通をテレパシーで行うことも可能といわれている。結論からいえばニュータイプによる人類の共存、それが私の最終目的です」

「ニュータイプによる人類の共存・・・ニュータイプという例を出すことで人は互いに理解しあうことができるということを声高に主張し、いがみ合うスペースノイドとアースノイドが手を取り合い協力する世界の構築、それが目的か」

「ええ、その通りです。ですがそれにはまずこの戦争を勝たなければなりません。戦争は技術レベルを大幅に上昇させることができます。ニュータイプの能力を利用した兵器の開発もその一環で、軍事技術として研究していますが戦争後は民間への転用も十分可能、ニュータイプの能力を増幅する機械があれば人と人が互いに理解しあうことも可能です」

「ツィマッド社がニュータイプを欲しがっているのもそれが理由か」

「それもあります。ニュータイプは残念ですが兵器と見ても優秀でシミュレーションでは運用方法にもよりますが正に一騎当千。VFに配属すればそれだけVFの人間が死ぬのを防ぐことができるとされる報告書もあります。まぁ他にも理由があるのですがね」

「・・・商売相手の内心を探らせるということか?」

「!? ・・・お気づきでしたか」

「ニュータイプは互いに理解しあえる、それならば相手の心も読めると推測するのは容易いことだ」

「たしかにそうですね・・・その通りです。ただでさえツィマッド社の敵は多く、様々な嫌がらせを受けています。ですがニュータイプを用いればその企みを事前に回避することも可能になる可能性が高い。今の我々に欲しい人材、そう言っても間違いありません」

「人は自分と違う力を持つものに対して排他的だ。それを解消する為に戦争にニュータイプを参戦させるという目論見かね?」

「ええ、戦争に貢献したという事実はそれを緩和するのに十分です。もしもニュータイプによって戦争を終結させることができたら・・・」

「その力に注目が行き新たなる人類、ニュータイプの存在は一般的なものとなる、か」

「その通りです、その為にジオニズムを提唱したダイクン氏の息子である貴方に協力するわけです。もっとも、私は貴方とは友人になりたいですけどね。キャスバル氏とは協力関係を、シャア・アズナブル氏とは友人とありたいものです」

そう言って手を差し出してきたエルトラン。それを私は握り返した。

「・・・ふっ、私はまたいい友人と出会えたようだ」

それから何度か彼とは会って話しをしたがやはり彼は何か重大な事を隠しているように思える。おそらく何人かはうすうすそれを感じてはいるだろうが知ることはできないだろう。一度聞いてみたがはぐらかされてしまったほどだ。彼自身の経歴に何もおかしな所は無かったことからおそらく仕事面での秘密だろう。仮にも一方面軍に匹敵する戦力の最高責任者なのだからな。

・・・しかしララァはいい女だ。私の母になってくれるかもしれない女性、そう表現したほうがいいかもしれん。

だが思考中のシャアは気がつかない。ララァによく会いに来る為、フラナガン機関の人間からついたあだ名が『娘に接する父親』『幼妻持ち』『ロリコン』ということを・・・



「クルスト博士、EXAMシステムの調子はどうですか?」

「おぉ、エルトラン社長ですか。対ニュータイプ機能を取り除き機体性能を向上させるOSというコンセプトで再開発している為開発は順調ですが、私的には不満があります」

「だが博士、貴方の理論では1対1の決闘くらいしか当初のEXAMシステムは使えません。量産し、いざ戦場で出撃の為に起動した直後に艦内で同士討ちはごめんこうむりたいのですが」

「・・・たしかにそれは私の計算ミスでしょう。ですがオールドタイプがニュータイプに勝つ為にはやはり必要ではないかと思うのですが?」

「ええ、たしかに敵にニュータイプがいたら脅威です。ですがそれなら今開発中のOSを組み込んだ新型機を多く投入すれば勝算はあるという報告書があったはず。一つの戦場に投入可能なニュータイプの数は限られており、新型機の投入できる数よりも確実に下です。ならば機体性能を向上させ数で殲滅すればよいのではないですか?」

「理論的にはそれでいいでしょう。当初の想定では単独活動のEXAM搭載機で敵集団に対し狂戦士的に戦う、いわば乱戦において最も威力を発揮するように開発を進めていました。つまり特殊部隊用といっても過言ではありません。それではなく大部隊対大部隊を想定すると対ニュータイプ機能はデメリットにしかならないということも分かります。だが相手の機体がこちらの機体を上回っていれば話は変わります」

「・・・イフリートではだめですか?」

「イフリート改と呼称してます。現在研究中ですが短時間でオーバーヒートする可能性があり、満足できる性能とはいえません。もっと新型機をまわしてもらえませんか?」

「う~ん・・・まわしたいのは山々ですが・・・生産段階に入りつつあるうちの新型機のドム及びリックドムを1機づつ回します。それでダメなら開発中の機体の試作機を回す、それでいいですかね?」

「・・・その新型機はドムよりも上なんでしょうな? ドムのカタログスペックを拝見させていただきましたが、そのドムでダメだったものをそれより低性能の機体でできるとは思わないでもらいたい」

「安心してください。その機体は一撃離脱戦法に長けた機体でドムを上回る性能を持つ予定です。ただ正式機のロールアウトはまだ先ですが・・・」

「・・・まぁいいでしょう。くれぐれも対ニュータイプ部隊の設立、約束を違えないでください」

「分かってますよ。EXAM搭載機による対ニュータイプ部隊、その一部を実験部隊としてあなたの指揮下に入らせることも」

「EXAMの力によってオールドタイプはニュータイプと戦えr」

「・・・社長」

「お? マリオンか、久しぶりだね。元気かい?」

「うん・・・クルスト博士も良くしてくれるから」

「・・・・・・マリオンがきたので話はまた次の機会に。私は研究にもどります、それでは」

「・・・あれは照れてるのかな?」

「・・・それもあるけど、博士は私を怖がってる」

「怖がってる、か・・・」

「・・・社長は私をどう見てるの? やっぱり兵器として?」

「・・・兵器として君を見ているということについては否定できない。ここの研究はニュータイプの軍事利用だから少なからずそういう目で見ざるを得ないからね。でもマリオン・ウェルチという一人の少女に私は今話をしている、違うかな?」

「ララァさんと話をしたの、ララァさんは自分を救ってくれたシャアさんの為に戦う決意を持ってる。私もそんな風になれるかな?」

「・・・将来の話になるけど年内には君はここから出てうちのVFの配属になる。その時は一人の軍属として周りから見られるわけだけど、そこでできた友人や戦友を助けるといったことじゃ戦う決意としてはだめかな?」

「そんなことない。でも私は戦いたくないの・・・望んで得た力じゃない・・・」

「・・・戦争が終わればニュータイプの力を平和に使うこともできるはずとしか今はいえない。本当は誰も戦いたくないというのが現状だけど、それをいう余裕はこっちにはないから。 ・・・あるものはなんでも使う、それが今の我々の現状だからね。本当にすまない」

実際、フラナガン機関で行われた人体実験とかのデータを見せ付けられたときは愕然とした。一気にニュータイプ研究所というところの現実を見せ付けられ、ゲーム感覚といった軽い気持ちは木っ端微塵に粉砕された。『廃棄』処分予定だった何人かを引き取ったのも後ろめたさがあった為、偽善だとしかいえない。そんな少数を引き取ったことで自らの罪が軽くなるという錯覚を持って・・・

「・・・あんまり思いつめないで。社長は偽善と思ってるみたいだけど私達からみれば善なの。やらない善よりやる偽善、教えてくれたのは社長・・・」

「・・・ありがとう。でも私が死の商人という事実は消えないよ。私の設立したVFによって多くの人間が死んでいる。いや、モビルスーツ等の兵器を製造しているツィマッド社の社長という時点で私は死んだら地獄に落ちるだろうね」

「でも社長の行った政策で救われた人もいます。そんなに悲観することはないと私は思います」

「マリオンに心配かけちゃったかな、まぁその話は置いとこう。ところでマリオン、背伸びたかな?」

「ええ、前に社長が来てくれたときよりも少し」

「あ~、なんか違和感を感じたんだけどそれかな? ところで・・・」

「社長、申し訳ありませんがそろそろお時間です」

・・・どっから沸いて出たこの秘書? さっきまで周りにはいなかったと思うんだが?

「・・・すまないマリオン、話はまた次の機会になるけどいいかな?」

「はい、楽しみにしてますね」

「ああ、それじゃあまた」

「社長、急いでください。予定よりも5分過ぎています」

・・・この秘書うるさすぎ、もうちょい話していたいんだけどなぁ~マリオン可愛いし癒されるし。

「・・・社長」

「ん? なんだいマリオン?」

「・・・・・・いやな予感がするの、気をつけて」

そういってマリオンは小走りで戻っていった。だけど嫌な予感ねぇ・・・マリオンが言うんならとりあえず警戒は怠らないほうがいいかな。しかしクルスト博士もやりにくかったねぇ。まぁEXAMが完成すれば一般兵の戦闘力は確実に増大する。そうすればこの戦争はこちら側有利になるし、目標も達成できる。機密保持から見ればEXAM完成の時点で博士を暗殺すればいいんだけどそれはあまりしたくないからなぁ・・・

「社長、そろそろお時間です」

「ああ、分かった分かった。じゃあ戻るとしますか」



サイド6 リボーコロニー

宇宙港へ続く道を二人の男女を乗せたエレカが疾走している、乗っている二人が言い争いをしながら。

「どうしてもっと早く教えてくれなかったの!?」

「無茶言うな! それにクリスだって買い物に熱中してて俺が話してたの聞いてなかっただろう!?」

・・・乗っている二人、VFのモビルスーツパイロットであるクリスチーナとバーナードの二人である。彼らはせっかくサイド6に着たんだからとクリスの実家のあるリボーコロニーに許可を貰って艦隊が補給をしている間滞在することにしてたのだ。だがクリスの実家に顔を出し、その後にしていたウィンドウショッピングで大幅に時間をとられ、気がつけば艦隊の出港まで時間がないという事態に陥っていた。いつの世も女性の買い物は時間がかかるものなのだろうか?

「うっ、それは悪かったと思うけど・・・」

「まぁクリスの両親と会うこともできたし、隣の家のアルとも親しくなれたからいいけど」

「父さんもバーニィのこと気に入ってたし・・・って、そういえばアルに自分のことを『トップ』エースって自慢してたわね」

「うっ・・・だけど一応5機以上撃墜してるからエースパイロットには違いないんだから問題ないだろ!?」

「でも『トップ』エースは言いすぎよね~」

「・・・スミマセンデシタ」

「まぁそんなことよりさっさと艦に戻らないと、置いてけぼりはないにしても叱責や減給は十分ありえるし」

「それは勘弁してほしいな。まぁこのペースが続けばなんとか間に合いそうだけど・・・」

後ろを振り返るバーニィ、そこには数台の警察車両が彼らのエレカを追跡していた。

「・・・スピード違反で捕まったら確実に間に合わなくなるな」

「むしろここで交通違反で捕まるのは勘弁して欲しいわ。周りからなんて噂されるか分かったもんじゃないし・・・」

「じゃここはこのまま宇宙港に停泊しているドックに直通でいいかな? さすがに警察も軍用艦艇の停泊しているところに乗り込む勇気はないだろうし」

「・・・このエレカ、レンタルなんだけど?」

「借りたのは俺名義だし、後でその会社に謝罪の電話と今回の迷惑料を振り込んでおけばよくないか? こっちは軍務なんだし」

「・・・・・・はぁ、それしかないか。じゃあ急ぎましょう、これで乗り遅れましたっていうのは冗談にならないから」

その数十分後、なんとかギリギリで補給作業の為に寄港していたVF戦闘艦に乗り込めた二人だったが、今回のことでこってり絞られ減給を食らったのは言うまでもない。その数十分後、艦隊はサイド6を出て漆黒の宇宙へと進んでいく。





暗礁地域 連邦軍トラファルガ級宇宙空母『プリンセス・ロイアル』

「報告します、サイド6の放送を傍受。キーワードを確認しました、『クックロビンを誰が殺した? スズメがロビンを殺したの』以上です」

「・・・民間放送を逆手に取った暗号通達とはムダにすごいよな。その上ミノ粉が充満している宙域じゃあ放送が聞けないからを隕石に偽装したレーザー通信用の中継ポイントを設置・・・小細工というべきかな?」

「ですがそのような手を使わねば現状ではジオン相手に戦えません。情報戦はいつの時代でも大切ですから」

「まぁなにはともあれ作戦開始のコードがきたんだ、作戦を発動する。サイド6をたった今出向したジオン艦艇にジオン高官が搭乗している。第1目標艦艇、第2目標艦艇、第3目標艦艇! 目標はその高官だ、脱出艇も見逃すな。敵艦隊は予定ではこのコースを取るからこの暗礁ポイントで仕留めるぞ」



あとがき:
キャラのセリフがどんなもんかわからねぇえええええ!!(核爆)
シャアのセリフどんな感じだったかとかララァってどこいたのかとか知る為に小説の「密会~」買ったけどw
と、いうことで登場人物のセリフがおかしいところやぶっちゃけ人格違うんじゃね?ってのがあるかと思いますが勘弁してくださいorz

ってか文短い上に途中(前編)で区切りますが、これは私用がありしばらく書けないからです。続きは8月中に仕上げる予定ですにで少々お待ちくださいorz



[2193] ツィマッド社奮闘録18話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2c860cca
Date: 2007/08/16 12:54
ツィマッド社奮闘録18話(別名中編 orz)

・・・嫌な予感ねぇ。マリオンはニュータイプだしなんか予知したのかな? まさか今以上に嫌がらせが激化するとかいうのじゃないだろうな? もしそうなら泣けるぞ。 ・・・っと、久しぶり。なんかマリオンに忠告されてから嫌な予感がビシバシするエルトランです(汗)まぁあるとすれば・・・今回
艦隊のもう一つの任務の試作機のテストが失敗するくらいかな? まぁそれはそれで大変なことになるんだが・・・

っと、そういえばサイド6に単艦で訪れているように思ってるかもしれないけど、残念ながらそれなりの規模の実験艦隊で訪れたんだ。今私が乗艦している艦はVFの保有する実験艦で、艦名は『アウロラ』というんだ。ローマ神話で暁の女神を意味し、オーロラの元となった言葉だよ。さすがに嫌がらせが過激になってきてるから単艦だとどんな事態に陥るか分かったもんじゃないし・・・

ちなみに艦隊構成はこの実験艦アウロラを旗艦に就役したばかりのガニメデ級高速空母『エウロパ』1隻、防空護衛艦ヘッジホッグ級『アブキール』1隻、新開発され就役したばかりの小型護衛艦レダ級の『レダ』『ハイネセン』の2隻、そして緒戦のサイド2攻略戦で鹵獲し、改造を施したマゼラン級戦艦『トータチス』の計6隻だ。
まぁ見た目は多いけどガニメデ級高速空母のエウロパは慣熟航行中で、しかも輸送艦代わりにフラナガン機関宛の援助物資を搭載していた為に艦載機は自身を防衛する程度の少数しか搭載しておらずしかもパイロットの多くは新兵だから今回に限って言えば見掛け倒し。小型護衛艦のレダ級にいたっては通商破壊・護衛任務や他サイドの防衛任務を考えて建造された全長180m程度の護衛艦で、防空能力はムサイ級に匹敵もしくは上回るが対艦攻撃力は連邦のサラミス級よりも下だ。そして鹵獲改装戦艦トータチスは全壊していた2連装メガ粒子砲を取り払って本来単装式だった135mm防空レールガンを連装式にした物を設置、対空銃座跡には6銃身ガトリング砲を設置し防空戦艦にしたものだ。艦底部の脱出艇は破損が激しかったため取り払われたがそこは新しくモビルスーツを3機格納することができる格納庫になった。対艦攻撃能力は著しく低下したが防空能力は飛躍的に向上している。で、肝心の私が乗艦しているアウロラの武装は・・・固定武装として135mm防空レールガン2基と6銃身ガトリング砲4基の他に、実験用に搭載していた3連ショット・キャノン(モビルスーツのショットガンを流用した近接防御用兵器)とマイクロミサイル発射ポッドを搭載している。かつてはIフィールdっとと、一応機密事項なんで勘弁してほしい。まぁ傍から見れば結構な規模だし搭載機もそれなりだから襲撃してくる輩はいないと思うけどね。

「社長、予定宙域に到着しました。これより試験を開始します・・・社長?」

「・・・ん? ああ、すまない。考え事をしてた、もう演習予定ポイントかい?」

「はい、これより試作機の発艦を開始し旧ザク及びザクとの模擬戦を開始します。ですが本当にあれは使い物になるのでしょうか?」

「大丈夫だよ。あれはわが社とジオニック社、それにMIP社の3社共同開発で完成した機体だ。少なくともガトルを上回る能力を持っている」

「まぁガトル等の航宙機の後継としては問題ないでしょう。コックピットが脱出カプセルを兼ねているというのもガトルと同様ですし、元ガトル乗りのテストパイロットからは好評とのことです。ですが対モビルスーツ戦となると・・・」

「公式な戦闘試験はこれが始めだけど非公式の戦闘試験なら十分に行ってある。まぁ基本戦術が複数機による集中攻撃だからねぇ。戦闘機や攻撃機といったコンセプトではなく戦闘ヘリに近い存在だからやりようによっては十分モビルスーツと戦えるはずだ」

「そうなんですか? まぁ果報は寝て待てという諺があるそうですし我々は試験を眺めていますか・・・艦隊各艦へ、これより試作航宙機『リール』のテストを開始する。リール発艦後に試験担当のモビルスーツ隊は出撃せよ!」

そして数分後、6機のリールが2隻のレダ級護衛艦から発艦しエウロパから1機のヅダと2機のザクF型、そして3機の旧ザクが発進した。ヅダとザクF型はペイント弾を装填したマシンガン、旧ザクは両手に90mmハンドガンを装備したもの、ショットガンを装備したもの、そして散弾バズーカを装備したものだった。

一通りの戦闘機動を試した後、6機のリールと6機のモビルスーツは模擬戦を開始した。

・・・結果から言えばモビルスーツ側の辛勝という結果に落ち着いた。リール側は全滅しモビルスーツ隊はヅダが小破、ザクF型1機撃墜1機中破、旧ザク2機撃墜1機大破というもので、新型航宙機の性能は十分合格ラインと判断された。これはモビルスーツ隊にはリールに関する事前情報を全く与えないで試験を行った為で、そもそもリールの開発コンセプトが「宇宙における戦闘ヘリ」というものでアクロバティックな戦闘機動を行うことができるのが大きく、従来のガトルやセイバーフィッシュといった直線的な動きを想定していたモビルスーツ隊の予想を大きく裏切った。

最終的に全滅判定が出たもののモビルスーツは宇宙空間においても無敵ではないということが改めて認識され、この結果を見た軍及びVFの将兵はモビルスーツはあくまで戦車や戦闘機を上回る戦力を持つ機動兵器ということを再認識し、少なくない数のモビルスーツ至上主義に大きな衝撃を与えた。

アウロラ艦橋

「試験は合格ですね、これでガトルを他サイドに払い下げることができますね」

「・・・セイバーフィッシュと互角くらいかと思っていましたがザクと互角レベルとは凄いですな。全て旧ザクなら全滅していたかもしれません」

「まぁ通商護衛任務の主力として開発されたものですからね。レダ級護衛艦に3機搭載し、2~3隻での行動を前提に考えていますから当然といえば当然なんですが・・・」

「なにか問題でも?」

「ええ、レダ級はリールの運用を前提に開発されたものですが、2~3隻を船団に貼り付けるよりムサイ級を1隻貼り付けるほうがいいのではないかという意見があるのです。実際ムサイ級1隻の艦の対艦攻撃能力とレダ級2~3隻の対艦攻撃力は同等なんで、それならムサイ1隻にすることで人材の集中を図ってはどうかというものなのですが」

「ですがムサイ1隻よりレダ2隻の方が運用する者としてはありがたいですな。防空能力は単艦でムサイ級に匹敵と先ほど聞きましたが、それなら防空に艦を使い対艦攻撃能力はリールに任せるという手もあります」

「ええ、ただレダ級3隻でムサイ級2隻とほぼ同じ乗組員を必要とします。他サイドからの志願兵を考えても通商護衛に果たしてそこまで必要なのかという意見もあって・・・」

「馬鹿な、通商破壊を軽視してる輩が上層部にいるというのですか!?」

「いや、売り言葉に買い言葉というべきでしょうかねぇ・・・ともかくそんなわけでこの間行われたジオン上層部と行われた会談は難しいものでねぇ・・・」

「まぁ試験は良好な結果を出したということで満足しましょう。帰りの航路ですが予定通り暗礁宙域寄りの経路なので暗礁宙域に近づいたら強行偵察型ザクを出撃させます。ですが本当に暗礁宙域でリックドムの試験をするのですか?」

「今回持ってきたリックドムの試験で残っているのはデブリの漂う宙域での機動戦闘試験です。その為には暗礁宙域は絶好の試験ポイントですからね」

「まぁリックドムは疑ってませんが・・・あのガトリング砲は役に立つのですか?」

「随分な事を言いますねぇ。あれはこの艦にも搭載されている75mm6銃身ガトリング砲そのものですよ? 信頼性は十分・・・」

「いえ、そうではなくもう一つのほうのガトリング砲のことです」

「・・・あの試作120mmガトリング砲のことですか?」

「ええ、改造旧ザクに持たせる予定のそれです」

「まぁそれの試験もデブリ帯で行うつもりですし、拠点防衛と考えればモビルスーツではなく固定砲台としても使えます・・・まぁ今回の試験で威力を確かめないといけませんがね」

「なるほど、威力が十分なら拠点防衛用の砲台としても活用できますな。 ・・・ところで、気になる報告があったのですが」

「気になる報告? なんですかそれは?」

「4日前、サイド6宙域付近でサラミス級1隻と旧式化したミサイルフリゲート数隻がサイド6船籍の貨物船に目撃されたそうです」

「・・・こっちには報告は入ってませんね。それが事実ならその艦隊はどこにいるのか・・・」

「おそらく規模から見て通商破壊を目的とした部隊と思いますが妙に気になって・・・」

「まぁ一応警戒しておきましょう。 私は部屋に戻って仮眠を取らせてもらいまs」

「社長、その前に書類の決裁をお願いします。既に個室に用意しましたので仮眠はそれが終わった後でお願いします」

「・・・ちなみに何枚です?(汗」

「そんなにありません。ざっと見て・・・一山くらいですから1時間もあれば判子押すのは十分でしょう」

「・・・なんだか本当に72時間働けますか? って感じがするのはなぜなんでしょうかね? いっそ下請けの製薬会社に『ツィマッド社社長愛用 72時間働けますか!?』って名前で飲みやすい栄養剤を開発してもらいましょうか・・・」

「戯言はいいですからさっさと働いてください。 ・・・・いや、その栄養剤の企画書出してもらえますか? 案としてはいいので発案者として責任を持って仕上げてください」

「・・・・・・社長、がんばってください。私としてはお疲れ様ですとしか言いようがないので・・・後で栄養剤の差し入れをもって行きます」

「・・・ありがとう艦長、じゃあ何かあれば呼んでください。では・・・」

肩を落としてとぼとぼと艦橋から退室するエルトラン社長、その背中に暗雲が見えたのはきっと艦長の気のせいではないはずだ・・・





数時間後 暗礁宙域

「司令、例の艦隊をβ隊が展開させた偽装監視ポッドが確認しました。規模は空母1、防空艦1、識別表にない新型駆逐艦2、輸送艦1、それに・・・マゼラン級に酷似した艦が1隻の計6隻です。予定通りβ隊は後退しました」

「・・・鹵獲されたマゼランに空母か。ジオン高官云々を除いても大きい獲物だな。空母を先に潰さないとこっちがやられる。奴ら予定通り演習を行うだろうから発見されないように攻撃地点へ進むぞ」

「了解、γにも通達します」





「社長・・・大丈夫ですか?」

「あははははは・・・聞かないでください(泣」

「(汗)まぁ気を取り直して・・・先行したザクの報告では付近に異常は特に無しとのことなので、リックドムの戦闘試験及び艦隊防空演習を行います。なお艦隊防空演習は先に演習を行うモビルスーツ隊、内訳はリックドム2機、ヅダ3機、ザクF型9機、旧ザク6機が艦隊を襲う連邦部隊役で攻撃を仕掛けます。もっとも、リックドムに関しては周辺宙域の警戒の為に実質演習には参加しませんが変わりにリール部隊を加えます」

「合計18機のモビルスーツと12機の航宙機による戦闘部隊か。 ・・・予定を変えてリール部隊の参加は見合わせよう」

「ですがそれではリール部隊の対艦攻撃訓練ができませんが?」

「変わりに後でリール部隊のみで対艦攻撃ということにしよう。なんだか嫌な予感がしてね、索敵を厳にしておいてくれ(マリオンに言われたからかな? 嫌な予感がするのは・・・)」

「はぁ・・・分かりました。全部隊に予定を変更すると通達します」



アウロラ格納庫

「じゃあもう一度言います。01のクリスチーナ機にはジャイアント・バズーカとMMP-80マシンガンの通常装備、02のバーナード機にはガトリングシールドと試作ビームライフルの他に12連チェーンマインを持たせてます。チェーンマインはそれぞれ分離させることもでき、これらは当然演習用のペイント弾と弱ビーム設定です」

「バズーカはモビルスーツ相手だと命中させにくいんだけどなぁ。バーニィ、援護よろしくね」

「俺だけならガトリングで弾ばら撒いてトドメにビームでいいんだけどなぁ・・・クリス、マシンガンで牽制しろよ。こっちはガトリングで弾幕をはるからそれを回避した直後に当ててくれ」

「分かったわ、あてにしてるから」

「あ、そうそう。後ガトリングシールドのことで言わなきゃいけないことがありました」

「え? まさかトラブルとか?」

「いえ、ガトリングシールドはおおまかに分けて75mmガトリング砲とそのドラムマガジン、本体であるシールドとそれに付随するヒートソード、35mm3連装機関砲とその弾装の3つに分けることができます。問題となったのはヒートソードです。グフ用のものを流用していましたがドムシリーズはビームソードの運用が可能になったのでこれをビームサーベルに変更しました」

「それじゃあ少し軽量化されたってことかな? ヒートサーベルってビームサーベルよりも重いし」

「いえ、元々ガトリングシールドは盾に装備されているヒートソードで本体を補強した形だったのでヒートソードを抜いた分、強化の為にシールドを若干分厚くした為重量はほぼ変わりません。余談ですがうちの開発部ではシールド自体を格闘兵装とみなしビームサーベル内蔵型の特殊シールドの開発を進めているという噂もありますね」

「例のガトリングシールドを両方に持つって案はどうなったんだ?」

「片腕ならともかく両腕だと接近戦をするのに支障が出る為射撃専用機にする以外はやめたほうが無難という結果だったと思います。まぁそれなら旧式化した旧ザクに装備させ前線で弾幕をはらせて友軍の支援をさせるという案があります。旧ザクは工作機械としての面が強いせいかザクよりも改造しやすいですから・・・まぁ他にもザクK型、通称ザクキャノンをベースに75mmガトリング砲を両肩に乗せて更に両腕にガトリングシールドを装備させた面制圧用の実験機がオーストラリア戦線で実験中というのも聞いてますが」

「色々開発してるみたいだけどどこからその資金って出てるのかしら? いくら軍の支援があるといっても一企業が新型艦や新型機をそんなに作る資金なんてないはずだけど・・・」

「・・・これは噂ですけど、北米制圧作戦初期にVFの制圧した地域に連邦高官の別荘に隠された裏金を摂取したとか、保管されていた連邦政府の金塊をそのまま頂戴したとか、連邦船籍の輸送船を拿捕していたとか・・・」

「それ本当? それなら一応説明はつくけど・・・」

「まぁ限りなく本当に近い噂って整備班では噂ですよ。話の出所は北米に降下した補給部隊って話ですから。だいたい今の連邦政府の政治家で汚職をしていなさそうな人っていますか?」

「・・・ごめんなさい、すぐには思いつかなかったわ」

「でしょう? ですから裏金を接収ってのは本当じゃないかって話です。北米だけでも連邦政府高官は数十人単位なんですから・・・っと、そろそろ出撃時間です、さっさと搭乗してください」

「おっといけね。もうそんな時間か・・・クリス急ごう」

「ええ、演習がんばりましょうバーニィ」



アウロラ艦橋

「リックドム2機、配置につきました。他モビルスーツ隊も配置につきました」

「全機展開完了、これより戦闘試験を開始します」

「各機へ、これより試験を開始する。艦隊はデータを取り忘れるなよ!」

その言葉と共にデブリ漂う宇宙空間で一斉にバーニアの光が眩いた。ヅダ3機はデブリを巧みに利用し悟られないようにリックドムの天頂方向へと移動し、ザクF型は旧ザクを後衛に持ち前進を開始する。といってもパレードのように隊列を組んでなんかいない。デブリ漂う宙域でそんなことをすれば至近弾1発でデブリが四方に飛び散りショットガンを食らったのと同様の惨状になる。一定の間隔をあけて慎重に進み、時には大胆に行動する。そのようにしてデブリの中を進む15機のモビルスーツ。そして先頭の1機がデブリの中にガトリングシールドを装備したリックドムを認め、後続に敵機発見を意味する簡単なジェスチャーをした直後、彼のザクに軽い衝撃が走り、コックピットのモニターに表示された被弾・大破の文字と被害状況を見て初めて彼は自分が撃墜判定を受けたと知った。



「うまく命中したわ。やっぱり光学センサーのみでの照準って奇襲ができていいわね」

「まぁロックオン警報が鳴らないから命中するか発砲炎とかで確認する以外気がつかないからね。っと、旧ザクがガトリングを撃ってきた」

「120mmガトリング砲は弾数が少ないから突撃の際の支援射撃ってとこかしら? バーニィ、来るわよ」

「後方のデブリに後退後、突っ込んでくるヅダを仕留めよう。多分正面と側面からは来ない。来るなら下部か天頂方向からかな」

その言葉を言っている最中にマシンガンを構えたザクは旧ザクの支援射撃の元デブリを掻い潜り突撃を開始していた。だが彼らを待ち受けていたのは周辺のデブリに紛れ漂っていた12個の吸着地雷(チェーンマインを分離させたもの)だった。突撃したザクF型14機の内、4機が被弾判定を受け2機が大破行動不能、1機中破脚部破損、1機中破右腕及び頭部破損といった結果となった。この混乱で一時的に足並みが崩れ、同時攻撃を仕掛けようと目論んだヅダ隊は単独で攻撃を敢行することとなってしまった。さすがにヅダのパイロットは新兵ではなかったが、さすがにヅダでリックドム相手はきつかった。なぜならヅダは機動性を上げている為、逆に進行方向から銃撃を受けたら彼我の速度が速い為に大きな損害を受けてしまうからだ。しかもデブリ宙域では戦闘機動も限られてしまうので、ヅダよりも重装甲のドムに軍配が上がった。ガトリングシールドの弾幕に捉えられ1機が中破、1機が大破行動不能という結果になり、トドメにビームライフルで撃破判定、更にMMP-80マシンガンとジャイアント・バズーカの攻撃で残った1機も破壊判定を受けた。

「やっぱりデブリはトラップが仕掛けやすいな。それにドムの重装甲が生きてくる」

「たしかにね。何発かヅダの120mmの命中判定でてるけどたいした損害になってないし・・・バーニィ、そっちは?」

「こっちもたいしたことはないよ。これがプロトリックドムなら戦闘に支障が出ていたかもしれない・・・」

「プロトタイプより装甲が厚くなってるから生存性も高いしビーム兵器も運用できるから、3個小隊いればプロトタイプの1個中隊に匹敵するんじゃないかしら?」

「まぁこれで残りはザクのみだから・・・警戒するのはザクよりも旧ザクかな。データによるとショットガンやガトリング砲、ロケットランチャーを装備してるから油断できない」

「新兵装の見本市って感じね。でもガトリングは厄介ね・・・数百発も直撃したら撃墜判定が出てもおかしくないわ」

「じゃあビームライフルでザクを牽制するからクリスは旧ザクのほうを」

「分かったわ。陽動よろしくね」

そう言ってバーニィのリックドムは弾幕を張りつつ突撃を開始した。ビームライフルの攻撃を受けたモビルスーツ隊というのは現時点でほとんどいない。その為回避するタイミングが全く分からず、マシンガン等よりも早く着弾するビームライフルを回避することは至難の技だった。更にここにいるのは新米パイロット、高い技量を持つ者もいるにはいたが、実戦を経験したバーニィのほうが技量では遥に上だった。損傷判定を受け戦闘機動がとりにくいザク2機を撃墜すると、牽制のガトリングを放つ。さすがに新兵といってもそこそこの訓練を受けているため、ガトリングの弾幕を回避していく。だがその回避行動こそバーニィの狙っていたことで、回避した直後にビームライフルの直撃を受けそのザクは撃墜判定を受けた。バーニィは隙があれば1機ずつ確実に仕留めていき、ザクの注意をひきつけていた。そして・・・

「こちらC部隊、リックドムの襲撃を受け4機がやられた! 救援求む、救援求m」

「しまった、後方にまわられたのか!?」

「マジかよ、C部隊が全滅判定だ!」

「旧ザクとはいえ6機ものザクがこんな短時間でだと・・・ いくらこっちが新米であっちがベテランといってもデタラメじゃないか!」

「無駄口叩くな! 背後からも来るぞ、第3小隊は後方警戒に回ってくれ!」

「ビームの連射速度は間隔が長いからその隙にやっちまえ!」

「無茶いうなよ、ガトリングの弾幕で無理だ! 一連射でも食らったらザクの装甲じゃアウト判定だぞ」

「デブリを活用しても出た瞬間に撃たれる・・・こっちの居場所が分かるのか!?」

「相手は熟練こっちは初心者、こっちが数で多くても烏合の衆だとでもいうのかよ」

「なんてやつだ、何発かあてたのにまるで効いた様子がねぇ! インチキじゃねえのか!?」

・・・結論からいえばリックドムはバーナード機が大破に近い中破、クリスチーナ機が中破でヅダ3機ザクF型9機旧ザク6機が全滅という結果だった。実戦を何度も経験した熟練の二人と実戦を経験したことのない新兵という差があるにしても、二人の機体がドムよりも装甲の薄いヅダだったら、もしくは戦場がデブリ地帯でなかったらおそらくどちらか片方はその物量で落とされていただろう。そして演習に参加していた機体が艦に戻り整備を受けている頃・・・



連邦軍トラファルガ級宇宙空母『プリンセス・ロイアル』

「ローム中佐、情報部もやはり仕事をしているみたいですな」

「ああ・・・しかし奴らの新型機、中々侮れん。詳しい性能は専門のところで分析しないと分からんが脅威であることに違いはない。いい手土産ができたな。後は襲撃するだけだ」

「敵艦隊は強力ですが奴らは予定では対艦演習をするはず・・・そこを狙えば」

「β、γに連絡しろ。奴らが演習を開始した後に攻撃を仕掛ける」

そう言ったフェン・ローム中佐の前にあるボードには暗礁地帯に潜む艦隊(トラファルガ級1隻、マゼラン級1隻、サラミス級3隻、改造型コロンブス1隻、ミノフスキー粒子のせいで一気に旧式化したミサイルフリゲート艦4隻)がそれぞれ展開している様子が書かれており、VF艦隊に対し今まさに牙をむこうとしていた。





後書きという名前の反省
家の手伝いと猛暑で夏バテでもしたのか書く気力が低下しつつある今日この頃・・・襲撃終わりまで書くつもりでしたが気力続かず、更になんか頭が回らないorz 後半は今月中に書き上げますがいつできることやら・・・(ぐふぁ
一日が96時間くらいあって電気代0円だったらいいのになぁ~と現実逃避してみたり(核爆)・・・皆さんも猛暑で健康管理に気をつけましょう。



[2193] 19話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:15257cb0
Date: 2007/08/31 13:26
「艦隊配置に就きました、いつでも試験は開始できます」

「各艦の設定の変更も完了しております。CIWSは弾丸を模擬弾に変えるのが手間がかかる為レーザー照射のみで命中判定を出します」

「では社長、そろそろ試験をはじめますか。本艦はコロンブス級の設定ですので自衛火器はCIWSのみとします」

「マゼランを先頭に空母と本艦が続き左右にサラミス級を想定したレダ級が続きます。空母は連邦のトラファルガ級を想定し、攻撃隊は連邦艦隊に攻撃を仕掛ける設定でこっちは補給部隊の護衛中の防空戦闘って設定です」

「分かりました、それでは防空演習を開始します。合図の信号弾を発射してください」

「了解しました、信号弾を発射します!」



「司令、敵艦隊が信号弾を打ち上げた模様です。おそらく演習を開始したものかと」

「β、γ両隊に通達しろ。行動を開始せよと、作戦名『マザー・グース』を発動する。3匹のスズメがコマドリを殺す、それに喩えるってのは妙な気もするがな」

「了解しました、『マザー・グース』作戦開始! 繰り返す、『マザー・グース』作戦開始!」





数分後、VF艦隊

「3-6-8から敵2機接近! CIWS射撃開始します!」

「ハイネセンに命中! ・・・同艦の艦橋大破、艦橋要員全員戦死!」

「エウロパに多数の命中弾、小破判定! されど敵機2機撃墜に成功!」

「ハイネセンに攻撃が集中しています。 ・・・ハイネセン撃沈されました!」

「トータチスの防空レールガンによって敵機更に1機撃墜、しかしトータチス中破してます!」

「本艦のCIWSに命中弾、本艦の防御火器70%低下! 死角から更に敵機、攻撃きます!」

「レダ大破、航行不能! 隊列が完全に乱れました!」

「本艦に命中弾多数、大破! 戦闘続行不能!」

報告が飛び交う艦橋で艦長と私は盛大なため息をついていた。

「・・・まさかここまでやられるとはねぇ。開始してから10分も経過してないだろう? それでこれだけの損害かい?」

「攻撃側も新米ならこっちも新米ですからね。アブキールと本艦くらいしか熟練兵は乗ってませんし、本艦は熟練が多いといってもCIWS4基のみでは・・・ですが旧ザクに持たせたガトリング砲が艦隊の防空火器の破壊に効果を発揮し、CIWSを含む防空火器の威力を証明することができただけでも大収穫ですよ」

そう、演習開始から10分もせずに攻撃側はヅダ1機にザクF型6機、旧ザク5機が撃墜判定を受けていた。だがそれ以上に艦隊はすごいことになっていた。レダ級のハイネセンは撃沈判定、同型艦のレダも大破し航行不能という判定が下され、戦艦トータチスと防空艦アブキールは中破判定、空母エウロパは小破判定でこのアウロラも大破、戦闘続行不可能という判定だ。旧ザクに持たせたガトリング砲の制圧射撃で艦隊の防空火器が軒並み破壊された事実があるとはいえ、双方勉強すべきことが多い結果となっている。

・・・そして演習が白熱しているその時にそれは発見された。

「アブキールに命中弾多数、レールガン2基損傷・・・え? それは確かか? ・・・緊急事態発生、付近を警戒中だったザクから連邦艦隊を発見したとの報告! サラミス級1、ミサイルフリゲート艦4の編成でこちらに接近中!」

「何? ・・・全部隊へ、演習を中止する。現在本艦隊に連邦艦隊が接近中、我々はこれを迎え撃つ。リックドム及びリール航宙機部隊はスクランブル、演習に参加したモビルスーツ隊は速やかに帰還し武装を整えよ。これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない!」

「艦長、モビルスーツの兵装を変更するのにどのくらいかかる?」

「そうですね・・・空母に戻って保管されていた実弾を装填するだけなので5分もあれば」

「まぁそれだけあればサラミス1隻とミサイルフリゲート4隻くらいなんとかなってそうだけど・・・警戒を怠らないでくれ」

「了解しました。後ミサイルに対処する為艦隊は密集し対空密度を上昇させます。なおビーム撹乱幕を前面に展開させますのでメガ粒子砲を撃ってきても大丈夫です。ですが万が一を考え、社長もノーマルスーツを急いで着用してください」

「・・・分かった。ただ強行偵察型ザクを艦隊周囲に展開させてくれ。万が一不意打ちを食らったら洒落にならないからね」



連邦軍トラファルガ級宇宙空母『プリンセス・ロイアル』

「司令、敵部隊は演習を行っていた部隊を帰還させ艦隊を密集させました。囮部隊には敵の新型航宙機と新型モビルスーツがむかってます」

「囮に食いついたか・・・よし、γへ通達。全艦、ありったけのビームとミサイルを敵に叩きつけろ!」



「ほ、報告! 艦隊後方に新たな敵艦隊出現! 艦影3、内マゼラン級1含む!」

「何!? ビーム撹乱幕発射急げ!」

「敵艦発砲、間に合いません!」

その次の瞬間、3隻から放たれたメガ粒子砲がレダ級護衛艦のハイネセンの艦首に命中し、それから遅れて前後の艦隊から放たれたミサイルが艦隊に降りかかった。幸いなことに艦首部分は破壊されたものの戦闘航海には支障は出ておらず、戦闘力は衰えてはいなかった。だが問題は飛来したミサイルだった。CIWSの75mmガトリング砲で多くは迎撃したものの、4隻ものミサイルフリゲート艦から放たれたミサイルは数が多く全てを撃墜しきるのは困難だった。そしてその中の1発が空母エウロパに直撃した。

・・・武装変更中のモビルスーツと弾薬がひしめく格納庫に。

そのミサイルは積まれていた弾薬に命中し爆発を起こした。コックピットの中にいたパイロットの多くは戦死を免れたがモビルスーツはほとんどの機体が中破ないし大破し、格納庫にいた空母の整備班達はそのほとんどが戦死した。だが今回輸送任務なのでバズーカやロケットランチャーをあまり載せておらず、命中し誘爆した多くがマシンガンの弾装だったのは不幸中の幸いだろう。もしバズーカやロケットランチャーが規定どおり積載していたらさすがにコックピットにいても戦死しただろうし、下手をすれば艦自体が沈没していたかもしれなかった。



エウロパ艦橋

「ダメコンどうした、CIC、本艦の状況を報告せよ!」

「こちらCIC、航行可能ですが電気系統が一部破壊され本艦の戦闘力及び速力は低下しております。また格納庫にいたモビルスーツは出撃不能と判断します。現時点で本艦は空母としての能力を完全に失ったと言って過言ではありません」

「糞、何て事だ。これでは腹に火薬を抱えて撃ってくださいと言わんばかりではないか!」

「それは空母の宿命ですよ。・・・各艦に速度を落としてもらうよう通達しました、このままでは追突しかねませんでしたので」

「対艦攻撃もできる135mm防空レールガンがないのは痛いな。まぁあっても戦艦相手だと余り意味はないかもしれんが」



実験艦アウロラ 艦橋

「報告、エウロパ中破! 格納庫で誘爆がおこり格納していたモビルスーツは全滅、艦外にいた2機のザクF型しか戦力は残ってません」

「リックドムに後方の戦艦を叩くように連絡しろ! 前方のサラミスとフリゲートはリール部隊で十分対処可能だ!」

「展開していた強行偵察型ザクの内2機が先ほどのメガ粒子砲とミサイルによって撃墜された模様!」

「リックドム、及びリール部隊がミサイルフリゲート艦2隻とサラミス級を撃沈! リックドム、後方の艦隊に向かいます!」

「前方の敵艦隊を突破する、各艦後方に備えよ!」



連邦軍トラファルガ級宇宙空母『プリンセス・ロイアル』

「敵空母ミサイル命中、誘爆している模様! 艦隊の陣形が崩れています」

「敵艦隊は混乱しているようですな。しかしまさかマゼラン級ですら囮であるとは思わないでしょうな」

「だがβは壊滅しかけている。まだβのフリゲート艦が生きている間に決着をつけるぞ、α隊艦載機全機発進!」

その命令が下され、プリンセス・ロイアルと艦隊に随伴できるように速度を上げた改造型コロンブスから艦載機が発進していく。トラファルガ級からは搭載できる最大上限ともいえる60機ものセイバーフィッシュが、そして改造型コロンブスからは30機のボールと今回の作戦の真打であるとある機体が15機、出撃していった。



ここでおさらいをしておこう。現在VFがいるのは暗礁宙域、その真っ只中だ。もう少し詳しく言うと、空間(デブリ)が開けて艦船の航行が十分可能で海図(?)にも記載されているような航路、通称『回廊』だった。その中でも一際大きく開けており艦隊行動が取れる広さを持つ回廊を航海しながら演習をしていたのだ。そして更に言えばこの暗礁はカタリナ戦役で沈没した艦船が主に形成していたが、戦争勃発前のデブリも数多く存在し、中には事故で失われた艦船も存在する。
つまり・・・暗礁の中に潜む敵艦隊を発見するのは大変なことで、発見が遅れたことは仕方ないともいえることだった。

最初に気がついたのは1機の強行偵察型ザクだった。艦隊の側面からやってきたセイバーフィッシュの群れを発見して艦隊に警報を発した直後にザクは撃墜されたが、警報をうけとった鹵獲戦艦トータチスの行動は素早かった。

「警報! 艦隊側面より敵機接近、全艦対空戦闘にはいれ! 対空砲火、撃ち方はじめ!」

「135mm連装レールガン、撃って撃って撃ちまくれ! 一機も通すな!」

トータチスの対空砲火は凄まじかった。135mm連装レールガンを7基にCIWSの75mmガトリング砲を20基も装備する為、防空能力は防空護衛艦であるヘッジホッグ級を上回る。瞬く間に3機のセイバーフィッシュが撃墜されるが、逆にセイバーフィッシュの攻撃で少なくない数の砲門が潰されてしまう。そして真打ちはそんな状況で艦隊に飛来した。

そう、艦隊攻撃の切り札として連邦艦隊が用意していた機体、宇宙突撃艇パブリクだった。これは突撃艇となっているがその元の姿は艦載攻撃艇だった。そして今回搭載しているミサイルは対艦用ではなく、対要塞用のそれだった。当然威力は桁違いで、それがどういう結果をもたらすかといえば戦闘結果を見ればわかるだろう。

「ウィスキー、ラム、ジン、ウォッカ、アップルジャック! 各小隊そろっているな、敵に呑まれるなよ、逆に敵を呑んでやれ! よし、散開!」

その言葉と共に15機のパブリクは散開し、その内の1小隊、これは中隊長の指揮するウィスキー部隊だった。それがトータチスに向けてミサイルを発射した。3機から放たれた6発の大型ミサイル、ここでトータチスの不運は他のセイバーフィッシュやパブリクに対空砲火の半数以上を向けていたことだろう。それでも1機のパブリクと4機のミサイルを撃墜できたことは大きかった・・・だがそれだけだった。
艦中央に命中した一基のミサイルで主艦橋が吹き飛び、2基目が機関部に命中した。 ・・・結果だけいえば、その2発だけでトータチスは爆沈を余儀なくされた。対要塞用の威力のあるミサイルだから仕方ないといえば仕方ないが、これで艦隊の防空体制に穴が開いた。その穴を抜けて対空砲火を突破した10機のパブリクと護衛のセイバーフィッシュが他の艦に攻撃を仕掛けようとした。戦艦を2発で撃沈できる威力を持つミサイルを保有する攻撃部隊の前にVF艦隊は全滅するかもしれなかった・・・後方の連邦艦隊を攻撃する為に戻ってきたリックドムと鉢合わせしていなければ。



「糞、好き勝手しやがって! クリス、そっちは後方のマゼランを潰してくれ!」

「最初っからそのつもり! 何のためにこっちのマシンガンとビームライフルを交換したと思ってるのよ、すぐに戻ってくるわ」

「じゃあ頼んだ! 連邦め、いくぞぉ!!」

バーニィが操るリックドムはマシンガンとガトリングを連邦の戦闘機が密集しているところにばら撒いた。効果はてきめんで、あっという間に2機のセイバーフィッシュとミサイルを抱えたままのパブリクが撃墜された。だがデブリ漂う暗礁ではどこにミサイルを抱えたパブリクが潜んでいるのか分かりにくい。更に言えばセイバーフィッシュのミサイルも艦船にとって脅威だった。いくら防空能力が高くとも発見が遅れれば対処が遅れるのは自明の理だった。その証拠とばかりに間隙をついた1機のパブリクが放ったミサイルの1発がレダ級護衛艦ハイネセンの艦首に命中し、艦の前部が崩壊した。レダ級は全長が180mしかなく、装甲はかなり薄かった。これは長大な航続距離とコストの低下を目標として設計された為で、その犠牲になったのが防御力なのだった。そして追い討ちをかけるかのようにセイバーフィッシュから放たれたミサイルが艦体各所に命中し、ハイネセンの全体から煙を吐き出していた。艦橋と機関部こそ無事なようだがどこからどう見ても大破している。被弾した衝撃でコントロールが狂ったのか、旗艦のアウロラのすぐ近くまで接近し、あわや衝突かと思ったほどだがすぐに態勢を立て直しアウロラと平行して航行し始めた。

状況はリックドムと前方の艦隊を撃破したリール航宙機部隊がきたことで持ち直してきたが、それでも現時点ではVFが劣勢だった。
そしてアウロラの艦橋では怒声が飛び交っていた。ハイネセンと衝突しかけたこともそうだが、艦に設置された75mmガトリング砲は唸りを上げ弾丸を吐き出していくが途中から思ったほど効果をあげていなかったからだ。いや、艦隊の防空能力はかなり低下していると言わざるを得なかった。そして・・・

「社長、このままでは危険です、比較的危険が少ない艦の中央部に・・・! 社長、危ない!!」

側に控えていた秘書が私に覆いかぶさってきた。そしてその前に私が見た光景は、遠くからアウロラめがけてミサイルを発射するパブリクと、煙を吐きながらアウロラの艦橋にまっすぐ向かってくる損傷したセイバーフィッシュの姿だった。



後書き
なんか忘れてると思ったらリールとかのデータUPするの忘れてたorz
薄々気がついてる人もいると思うけどリールは前に感想をくれた人のアイデアです。種のメビウスに似ている航宙戦闘機というアイデアだったので、今回ガトルの後継機ということで登場させました。ちなみにリールが配備されると同時にガトルは他サイドへ売却され防衛部隊に配備されます。
まぁ次1ヶ月ほど話の時間軸進ませようと思ってます。 ・・・メモリースティックに入れてたデータ(プロット&設定)がぶっ壊れててかなり凹んだのは秘密w

18話読み返してなんか撃墜比率とかが厨設定な気がしたのは秘密だ(核爆



[2193] 簡単な設定(オリ兵器&人物編) 
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:50ff6b36
Date: 2007/08/31 13:47
別名はチラシの裏だったりする(爆)が、とりあえずのオリ兵器データ&オリ登場人物表です。
本当に簡単なもの(特に人物)なんでそんなもんか程度に見てください
もしこの人が抜けてるって指摘がありましたら感想掲示板でお願いします。

連邦側

兵器
XT-79 新型戦車データ
79式戦車、または79式駆逐戦車とも呼ばれ、コストは61式の5倍もするが、主砲にレールガンを装備している為、MSといえど油断はきない。機動力を犠牲にし、攻撃力と防御力を重視した車両で、上面装甲と正面装甲では120mmザクマシンガンで破壊することは困難である。だが貫通力に優れた新型90mmマシンガン(例:史実のザク改が装備していたマシンガン)なら破壊は可能で、側面や後方の装甲はないようなもの。本来なら開発されることは無かった車両だが、一部技官が旧ザクのデータを見て密かに開発していたのが、開戦初頭にジオンにぼろ負けした結果公式計画となったもので、戦車というより自走砲又は駆逐戦車である。ザクマシンガンを上回る射程を誇り、その砲撃は旧ザクを正面から破壊できる威力を求められたが、一定の条件下ならザクⅡすら破壊できる性能を持つ。だが連射ができず車体に固定式であり、車両自体が高コストかつ汎用性が悪く、生産ラインもほとんど無い為調達数はかなり少ない見込みである。

RTX-44 対MS戦闘車両
ガンタンク系統の外見を持つ車両で、ガンタンクⅡはこの車両をベースにガンタンクを簡略化したものである。初期試作型の武装は左右に対人用の20mmバルカン砲を装備し、上部に試作120mm長砲身キャノン砲を装備する。また左右の武装を対戦車ロケットやミサイルに変更したタイプも存在する。

トラファルガ級全通甲板型支援巡洋艦(宇宙空母)
鋼鉄の咆哮のムスペルヘイムに似ているといえば似ているかな?PSのギレンの野望ジオンの系譜OPに登場。

人物

ハートメン少佐 連邦軍第7海兵隊を率いる ハワイ攻略戦に登場
第7海兵隊隊員マーク ハワイ攻略戦に(以下略
第7海兵隊隊員ハス ハワイ(同上
試作第3小隊隊長 メソン・ゲール少尉 ハワイ(同じく
試作第4小隊隊長 ビル・クロート ハワイ(略
フェン・ローム中佐:17話から登場。暗殺艦隊(通称)の司令

ジオン&VF側

兵器
量産型輸送機:『オルコス』
武装:20mmバルカン砲 4基
近接対空ミサイル発射機 2基
防御手段:フレア発生器4機搭載
ガウが高価で更に数が少ないために作られた低コスト中型(?)輸送機。
ガウよりも小さく、ジオン版ミデア。
六基のジェットエンジンで飛行し、飛行距離は物資を満載していても太平洋を横断(往復は不可能)できる。

DFA-07 ジャベリン戦闘爆撃機
武装:30mmガトリング砲×2
2t爆弾含む各種爆弾・対空ロケット弾ポッド・近距離ミサイル(あまり使用されていない)
MIP社と共同開発した機体で設計元は連邦から奪取したセイバーフィッシュのデータ。長距離を飛行し一撃離脱戦法を取るドップとは全く逆の機体設計で将来の発展を見越して機体に余裕を持たせてある。ガウからは発進できない為陸上基地専用の機体となっている。

採用版航宙機リール
ガトルの後継機として開発・採用された新型機。開発はMIP社とツィマッド社、更にジオニック社が関わっておりガトルが攻撃機の印象が強かったのに対し本機は戦闘ヘリの宇宙版といった印象が強い。搭乗員は2名でパイロット・ガンナーに分けられる。
武装は可動式30mm3連装ガトリング砲(ジャベリンの物を流用)に姿勢制御バーニア兼用の3連小型ミサイルポッド2基を基本とし、他に中型ミサイルや対艦ロケット弾ポッド2つを搭載できる為やりようによってはマゼラン級戦艦ですら単機で沈めることも可能である。(ただし可能なだけで実際にはかなりの腕前(エースクラス)の持ち主でないと難しく、そもそもそれほどの腕前の持ち主は他の部署に引き抜かれたりする)
イメージとしてはメビウスゼロをベースに下部ポッドを取り払って機首のレールガンを旋回式ガトリング砲に、左右のポッドをセイバーフィッシュの片側のブースター兼3連ミサイルポッド上下を合わせたものに、上部ポッドを中型ミサイル2発とオッゴにつけられていたロケット弾ポッドに変えたものと思ってください。カラーリングは基本的にオーシャンブルー(F-2の色と考えてください)となっています。
固定武装:30mm3連装ガトリング砲
ブースター兼3連装ミサイルポッド×2
オプション兵装:中型ミサイル&対艦ロケット弾ポッドそれぞれ×2
オプションは他にも変更可能。

『ガニメデ級高速空母』
武装:6銃身ビームガトリング砲(エネルギーCAP技術の応用でマシンガンのように毎秒1発のビームを発射することができるビームCIWS)8基
6銃身ガトリング砲(CIWS)16基
MSを30機搭載可能で船体はすでに完成していたが、鹵獲したサラミスやマゼランの技術を応用した新型エンジンを装備するため加速性能が更に向上した。

防空護衛艦ヘッジホッグ級
新型の防空戦闘艦で対艦兵装が極端に少ない。
武装は6銃身ガトリングビーム砲、135mm防空レールガン(アルビオン級に搭載しているものと同じ)、6銃身ガトリング砲、近距離用ショットキャノン(MS用のショットガンを流用したものだが使えるかどうかは未知数)、連装速射ビーム砲(6銃身ガトリングビーム砲よりも速射性能は劣る)、小型有線誘導型ミサイルポッド等を持つ。

実験艦アウロラ(オーロラ 暁の女神)
新装備を試す為の実験艦で艦体はユニット方式で建造されており、装備を変えたい場合はそのユニットごと交換する。マイクロミサイル発射コンテナやMA用大型メガ粒子砲、試作3連装ショット・キャノン(MSのショットガンを流用した近接防御兵器)等を搭載、実験した。なおIフィールドジェネレーター及びビットに関しては新造の実験戦艦エクスカリバーが引き受けている。主に本艦は後方の比較的安全な場所で試験をする。
固定武装は135mm防空レールガン2基と6銃身ガトリング砲4基である。

小型護衛艦レダ級(元ネタは銀河英雄伝説のレダⅡで艦影も同じと思ってください)
通商破壊を仕掛けてくる連邦のサラミス級に対抗する為に建造された小型の護衛艦艇。速度はサラミス級を若干上回るくらいで外見上の特徴はスマートな艦の形と艦橋の背後にある2つの円筒形のタンク(基本的にミノフスキー粒子を搭載するタンクだがたいていは水等の物資を搭載していたりする)だろう。これは液体(噴射剤や純水等)をいれるものだが用途に応じて変更される。説明するのに一番簡単なのは偵察仕様の艦だろう、この場合タンクではなく各種偵察装置やミノフスキー粒子を装備しているものに変更される。
武装は2連装メガ粒子砲を艦橋の前に1基、135mm防空レールガンを艦体左右中央部(サラミス級でいえば左右の艦橋部分)に1基ずつ、6銃身ガトリング砲を8基搭載する。最大の特徴はガトルの後継機として開発された新型航宙機のリールを3機搭載していることだ。これにより連邦のボール、後にでてくるジムと通商破壊戦で死闘を繰り広げることになる。
ちなみに量産性は高く、安い為に多く建造された

巨大モビルアーマー ライノサラス
コードネーム ヒューエンデンの名で開発されたVFのモビルアーマーだ。史実では前線突破用の突撃砲のようなコンセプトで開発された機体だがここでは連邦のビッグトレーのような移動指揮所的な運用を考えられて開発された。ある程度の部隊を指揮し、その部隊と一緒に前線を攻撃するという考えで開発されたこの機体は史実のものより二回り以上大きく、ザクの胴体を流用していたところはヒルドルブの、しいて言えばザメルに似たものを使用している。
強力な通信能力を持ち、武装はヒルドルブの主砲を流用した30cm砲、MLRSコンテナ(18連装)を砲の左右に1基ずつ、グフ・カスタム等が装備するガトリングシールドを流用した75mm6銃身ガトリング砲を後部に2基、更には135mm対艦狙撃用ライフルと90mmマシンガンを内臓したアームを持つ化け物だった。当初はビーム兵器を搭載することも考えられていたのだが信頼性の問題で搭載は見送られた。もっとも、いつでも搭載(換装)できるようにされているのだが機動性が低下するのが予想されている為搭載するかしないかは今のところ未定だった。
また乗員も多く、史実のライノサラスが操縦士、センサーオペレーター、砲手2人、車長、機関士の6人だったのに対しこれは操縦士、オペレーター3人、砲手3人、車長(部隊司令)、機関士の9人となっており史実よりも大きい為か若干スペースは余裕が持たされていた。しかし当然といえば当然だが重量の関係で巨体の割りに装甲は薄くせざるを得なくなり、装甲の厚さでは史実の機体とあまり変わらないくらいだった。

ヅダA型 初期試作機
B型初期機体 宇宙専用
C型宇宙・陸上使用可能
J型陸上専用
S型ヅダイェーガー
X型背中にX型のブースターを装備した試験機

グフ:35mmフィンガーバルカンを通常のマニピュレーターにしてある。
グフカスタム:史実のものと大差ない

135mm狙撃ライフル
135mm対艦狙撃ライフルをベースに開発された狙撃銃。大型だが多くの戦場で重宝する武装。ザク・ヅダでも取り回し可能。

人物

ツィマッド社社長 エルトラン・ヒューラー(一応主人公)
ジオニック社社長 タクマ(当初適当にでっち上げたのは秘密

ヴァルキリーフェザー所属兵

アデナウワー大佐(VF潜水艦隊司令
シュトライバー大尉(量産型ヒルドルブパイロット
アリマ・シュンジ少尉(ディープブルー隊隊長
ヒイラギ・タクヤ少尉(ブラックパール隊隊長
チャールズ曹長(ブラックパール隊
カナー軍曹(マーメイド隊
ハルナ軍曹(マーメイド隊
ファー軍曹(マーメイド隊
シャーリー軍曹(マーメイド隊
ジャス軍曹(戦死)
ブッシュ伍長(戦死)

カワ少尉&エルヴィン少尉 ライノサラス砲手



[2193] 20話
Name: デルタ・08◆d442d9e1
Date: 2007/10/11 19:42
8月21日

・・・・・・・・・・・・あ、久しぶり。社長のエルトランです、なんとか生きてます。 
・・・・・・1ヶ月近く意識不明なってましたが(汗
いや~今も病院のベッドの上なんだが退院までもう一週間くらいかかるらしい。まぁ今月末には退院できるだろうといわれてるよ。

え? あれからどうなったんだって? ・・・う~ん、簡単に言えばなんとか撃退(っていうか撤退してくれた?)できたとしか言いようがないよ。
あの時秘書が庇ってくれなかったら艦橋のすぐ近くで爆発を起こしたセイバーフィッシュの爆風で死んでただろうし、ミサイルのほうもハイネセンが横から割り込んで盾になっていなかったら確実に戦死してたな。 ・・・秘書を含めアウロラの艦橋にいた者の大半は戦死か重症を負ったんだ。秘書は背中に多くの破片が刺さり即死だったといわれている。
そして私は爆風の衝撃で盛大に庇ってくれた秘書ごと吹っ飛ばされて全身を強打、意識を刈り取られてそのまま病院直行だったんだが意識を取り戻したのがつい先日のことだったんだ。1ヶ月近く意識不明だったことには驚いたけど幸い会社は重役の面々がなんとか現状維持でがんばってくれてたみたいだ。正確に言えば私を支持している社長派と呼ばれる者達ががんばってくれたんだ。社長派以外の派閥、まぁ明言はしないけどVFを解体すべしという意見もかなり出ていたみたいだ。まぁ一番過激な意見はVFを軍に編入させて人件費と設備の大幅な削減をしようってのだし、しかもその編入先はギレン派閥とキシリア派閥に分かれいてガルマ・ドズル派にはほとんど戦力を回さないっていう意見だったから聞いたときには呆れたけどね。 ・・・後でその重役のスキャンダルを送りつけたら次の日に辞表を提出して出て行ったけど。

話を戻そう。後で今回の報告をまとめた書類を見たんだが、それにはマゼラン1隻とサラミス2隻、ミサイルフリゲート4隻を撃沈しサラミス1隻を大破ないし中破させることに成功、敵機(セイバーフィッシュとパブリク、それにボール等)を最低でも30機以上は撃墜したと書かれていたけどこっちの被害のほうが甚大だよ・・・鹵獲戦艦トータチスとレダ級のハイネセンが沈没。空母エウロパ、防空艦アブキール、実験艦アウロラは辛うじて沈没だけは免れたというレベルの大破で、再戦力化はかなり時間がかかりそうらしい。一番被害が少なかったのが中破で収まった護衛艦のレダっていうのはなんだかなぁ~・・・それに加えモビルスーツ隊の損害は装備を含めて見なかったことにしたいくらいだし(涙)まぁデータはなんとか回収できたからいいけどね。

しかし、例の連邦艦隊はルナツーを発進した艦隊だったらしい。しかも調査したら私を狙った暗殺であるという証拠が出てきてスパイ探しにうちの諜報部はやっきになってたよ。連邦軍に潜り込ませている『草』からの報告では今回の襲撃作戦の目的は何れかの艦船に搭乗しているジオン重要人物の暗殺であるといわれていたらしい。まぁ艦を特定されなかったのは不幸中の幸いだろうね。だから敵機は満遍なく艦隊全てを攻撃していたわけだし、艦が特定されていたら間違いなくパブリクのミサイル全てがアウロラに降り注いでいたことだろう。
で、その情報源なんだがどうも調べれば調べるほど作戦の発案者はエルラン中将あたりみたいなんだ。そう、マ・クベと内通しているスパイのエルランなんだ。もうこれはキシリア派の仕業と考えて間違いないだろうってことでうちの諜報部は捜査を進めていたらしいけど、調べてみると事前にこういうルートを進みますよってわざわざサイド3の港湾管制局に通達した馬鹿がいたみたいなんだ。申告するのにそんな詳しい予定航路と目的を申告する必要はないっていうのにだ。

で、調べた結果・・・その申告した人物ではなく港湾管制局の人間が黒だったよ。どうも管制局の方から詳しい航路や予定を聞かれたらしく、ついそれに答えてしまったというのが真相らしい。 ・・・その管制局員なんだが詳しいことを聞こうとしたらしいんだが、傷ついた艦隊がサイド3に入港したその日に『偶然』事故にあって死んでいたことが分かったんだ。
・・・どう考えても口封じです、本当にありがとうござい(略) まぁそれは置いといて、それが判明した時点でうちの諜報部は昏睡状態の私を搬入した病院(ツィマッド社直営病院)の警備を増強させていたらしい。まぁ何事もなくすんだけど、何があるか分からない状態だから油断はできないよ。

しかも・・・艦隊の襲撃と同時にサイド6においてあった研究施設が連邦の特殊部隊に襲撃されて初期型のビームライフルと少なくない数の研究者を誘拐されるとは思ってもいなかったな。しかもザニーの改造型を使ってまで・・・連邦版サイクロプス隊かよといいたいところだがこっちは逃亡に成功してるってのが気に入らないな。民間船にカモフラージュした高速艦で潜入&逃亡されたから追撃が間に合わなかったらしい。
あ、ちなみにミノフスキー博士が連邦に亡命したのが72年、さすがにこちらにきてすぐだった為ツィマッド社の足元が固まってなかったから亡命を防ぐことはできなかったんだ。だから史実通りにガンダムは開発されていると思って間違いないだろうね。

しかし放置プレイ(核爆)してたルナツーのせいで痛手を被るとは・・・ツィマッド社の戦略上放置していたほうがメリットがあるから放置していたんだが攻略すべきなのかなぁルナツー? あれがあるおかげでVFの宇宙軍は軍に編入されずに済んでいるんだし、護衛艦艇とかの拡張もスムーズに行えたんだが。
まぁ連邦はルナツーにいる友軍を助ける為に絶えず地球から物資を打ち上げていて、それを襲撃・強奪することで敵の戦力を低下させツィマッド社は奪った物資で少し楽ができるっていう一石二鳥だったわけなんだが・・・意外とこの強奪した物資っておいしいのよね~食料や日常生活で必要な物資に加え軍事物資も多く、中にはルナツーの将兵に渡す軍資金(軍票)とかも積んでたりするわけだし。まぁ鹵獲できるのは稀だけどね。

・・・・・・で、意識失ってた間に起こった最大の問題点は、先月末に行われた暫定主力機選定試験だろうね。予想通りジオニック社はザク改を出してきたわけだが、危うくドムがザク改に負けかけたみたいなんだ。
曰く、『宇宙でも地上でも使えるザク改の方がコストパフォーマンスがよく、汎用性も大きい』『既存の生産ラインの改修だけで量産が可能だ』『機体に(若干の)余裕が持たせてあり、今後の改修でビーム兵器の運用も十分可能』とのことだ。ちなみにそれを主張した者の多くはギレン派かキシリア派だった。

・・・うん、どう考えても陰謀です。本当に(略) ・・・ごほん、とにかく、たしかにザク改の『既存の生産ラインが流用可能』っていうのはメリットだろう。汎用性が大きいのもドムの価格が高いことも認めよう。
だけどドムシリーズの、正確に言えば地上用のドムと宇宙用のドムとの変更点っていうのはほとんどないんだ。ただ大まかに言えば地上用は熱核ジェットエンジンだけど宇宙用は熱核ロケットエンジンに変更し、防塵処理等の地上戦用装備を廃し脚部と腰部にスラスターを増設したものがリックドムといっても過言ではない。まぁ簡単に言えば部品の互換性は高いということだ。
次に『既存の生産ラインの流用』だけど、そもそも開戦直前にはプロトタイプとはいえドムシリーズは実戦配備されており、既に生産ラインは存在するということだ。それにザク改だって従来のザクから流用できる部品は限られている。話では従来のザクから流用できる部品は公式では6割未満、酷い話だと2割以下だと言う話だ。
後、『機体に余裕が持たせており今後の改修でビーム兵器の運用も可能』 ・・・もうドムシリーズのパンフレット見たのか疑いたくなるね。元々ドムシリーズは将来の発展性を持たせる意味合いで機体には十分な余裕を持たせて設計されている。まぁその性で若干史実のよりは大型化したっぽいけどコンセプトとしては連邦のジムのように発展性があるってことだ。更に言えば完成したリックドム、及びドムには『ビーム兵器の運用が可能』なように設計されている。エネルギーチャージの長いビームバズーカも試作品だが存在するし、試作ビームライフルも欠点の洗い出しが完了している。まぁ量産を優先させたから攻撃力は低いかもしれないけど、十分な射程と威力を持っているものができている。
更に言えば『宇宙でも地上でも使える』これについてだが、ドムF型、通称ドム・フュンフだが、宇宙でも地上でも使用可能という機体が開発プランに存在する。これは教育型コンピューターに地上・宇宙の機動を入力されており、戦場を選ばずに戦闘行為が可能となっている機体だ。もちろん熱核ロケットエンジンだから長時間のホバー走行はできないが、代わりに脚部ロケットブースターによる高機動戦闘が可能になっている。まぁぶっちゃけた話リックドムは地上では機動力が(ホバー走行できないだけ)減少するが、最低でも旧ザクを上回る運動性は発揮できるのだ。まぁこれはもちろん地上用の機体制御ソフトをインストールしてあるという前提条件がつくけど、あの足は飾りではないのだよ。 ・・・まぁ宇宙専用機として脚部丸ごとスラスターに換装したタイプも存在するんだけどね。
とにかく、ドムの発展性は折り紙付で性能もザク改よりも上だ。だけどやたらキシリア派とギレン派が難癖つけてきて(ドムまたは両方を採用すべしって言う人もいたがギレン及びキシリア派では少数派だった)危うくザク改に負けかけたんだけど、ドズル&ガルマ派の擁護とビーム兵器で廃棄処分の戦艦を撃沈してみせたことが救いになって、今回のコンペでは一般兵にザク改を、熟練兵にドムシリーズを配備するというハイ・ローミックス方向で決着がついたよ。 ・・・まぁ妥当というべきか判断に迷うけどね。ただ、ザク改とドムシリーズの性能が高かったために次のコンペは未定になって、実質今回のコンペが次期主力モビルスーツ選定試験になったということは予想外だったな。未定とはいえ次のコンペではジオニック社はやっぱりゲルググをだしてくるのか疑問だが・・・今度タクマ社長にカマかけてみるか。まぁそうなってもギャンは開発しない予定だし、作っても実験機扱いだろうけど。 ・・・個人的にギャンマリーネとかかっこいいなぁとは思ってるが(爆)

まぁそれはさておき、現時点での最大の問題は・・・・・・有能だった秘書が戦死したことによる圧倒的な仕事量の増加ってことだな(号泣)もう病室でも仕事におわれる日々ってのは勘弁してほしいよ、早く新しい秘書雇わなきゃ身が持たない・・・・・・それはさておき今度の秘書はかわいい女の子がいいなぁ、早速募集しとくか(核爆)

まぁ今回の襲撃は反省すべき点が幾つもあるからなぁ。まず第1に情報の流出に対する問題。どんなところから洩れるか分からない以上、情報の流出は完全には防げないって事だな。後はそれをどう致命傷にさせないかってことだ。第2に艦隊の防空面だ。空母は1発の直撃が命取りになる、それを改めて思い知ったよ。あれが酷くなったのがミッドウェー海戦ってことかそうですか。第3に、他方向からの飽和攻撃に迎撃が追いつかなかったって事かな。いくら多くのCIWSを装備していてもそれを上回る量の攻撃部隊を完全に食い止めることは不可能だということがわかった。あれだね、物事に完璧という言葉は無いって奴だ。まぁこれは護衛艦艇の増強と艦載機を運用した防空網の構築ってことである程度は解決するだろう。問題は・・・

「社長、我が社のHPにまたハッカーが。現在修復作業中ですがこれで今週だけで3回目です」

「・・・仕立て人はやはり?」

「はい、優秀なハッカーを破格の高額で雇って調査させただけあって、分かりました。星は公国の情報機関です」

「・・・・・・何やってんだかこの国の情報機関は、戦争相手の連邦ではなく身内の企業に攻撃を仕掛けるって」

「まぁうちが目障りなのは分かりますけど嫌がらせもいい加減にして欲しいですよ。うちの企画広報はうんざりしてます、自分も含めて」

「まぁ一応抗議だけはやっとくけどあんまり効果ないだろうな・・・すまんな、苦労を掛けて」

そう、派閥争いだよこんちきしょう! こればっかはなぁ・・・(涙) あ、ちなみに報告してるこの人はうちの企画広報課のトップね。一応秘書の真似事をしてもらってる。もちろん臨時報酬はだしてるけど。

「まぁ仕方ないですけどね。 ・・・ところで社長、この前言っていた企画ですが通りましたよ」

「・・・・・・企画?」

「ええ、ひとつは社長が襲撃される直前に前秘書が送ってきたもので、『72時間働けますか!?』という名前の栄養ドリンクです。ツィマッド社社員から社長までもが愛用しているという触れ込みで販売しようということになりました」

「・・・・・・アレか、あのなかばヤケクソになって作成した企画書の」

「基本は疲労回復と目の疲れ等に効くということですが、サイド3では手に入りにくい漢方薬等をサイド6経由で輸入し為に高価になりましたが現在市販されている合成型栄養ドリンクよりも効能は高くでたので十分ペイすると思われます。用法ですが疲れてると思ったときに飲むように開発された為、一日に5本以下なら特に体に影響はあまりありません。後、味が若干あれですが後に残らない仕上げとなってますので問題ないかと思われます」
「試供品ができたら持ってきてくれ。後色々と忙しい部署に差し入れとして持ってってやれ。疲労回復と試供品の感想を聞ける一石二鳥だからな。っと、聞き忘れたが人体に悪影響はないよな?」

「十分安全であることは既に確認されております。空腹時に飲んでも大きな影響はでないことがこれまでの試験の結果判明しております。後差し入れ先の感想が良好でしたら社内で先行発売でいいですか?」

「頼む。で、もう一つの案とは?」

「社長が提案したゲームセンター設置型の実物と同じ操作方法のモビルスーツアクションゲームです。機密情報の流出を恐れたので操作システムは旧ザクと同じに設定しており、旧ザクをモデルにしている為開発元のジオニック社との共同開発ということで開発は進んでおります。またサイド3限定設置ですので連邦のスパイが使用すると言うのはほぼ考えられないと思われます。プレイヤーは旧ザクに乗ったパイロットという設定でカタリナ戦役における宙間戦闘ミッション、第1次降下作戦時におけるオデッサでの戦い、第2次降下作戦におけるニューヤークでの戦闘で最後にキャリフォルニアベース攻略作戦でラストとなっております。機体は作戦前に武装の選択、作戦終了後に機体のカスタマイズができるようにし、戦闘中は友軍としてVFやジオン正規軍が登場します。ラスボスはスコアによって連邦のビッグ・トレー2台と、停泊中の連邦軍太平洋艦隊主力という2つのヴァリエーションを考えており、裏技でヅダを選択可能にしています。後技術部では新米パイロットの最新シミュレーターを流用しプロトドム等の操作方法にしてはどうかという案がありますが・・・」

「流石にそれは流出した場合洒落にならんからな。もうある程度流出してしまった旧ザクと同じ操作方法なら万が一流出しても被害は最小限で収めれる。よって却下だ。それとアップデートできませんってことはないだろうな?」

「それは大丈夫です。将来的にはゲームセンター同士を繋ぐネットワークを構築しオンライン対戦が可能なように設計に余裕をもたせてありますのでアップデートも容易でしょう。なお企画課ではこのアーケードゲームの名前を『ジオン独立戦争記~序盤h「ブバッ!」』だ、大丈夫ですか社長?」

「ゴ、ゴッホゲホゴホ・・・い、いや。もう大丈夫だ、心配は無用だ」

ごめん、思いっきり飲んでたお茶噴いた。元いた世界からクレームきそうなタイトルだったんでつい・・・

「あ~・・・すまないがそのタイトルは変更してくれ。そうだな・・・・・・『スペースノイド独立戦争~序盤編~』『戦場の巨人』とかにでも変更しておいてくれ、この戦いには多くの他サイドから義勇兵が参加しているし。後ミッションの中に地球からの義勇兵が活躍するシーンもいれるように開発部に言っておいてくれ、彼らの働きも決して無視できるものではないから。タイトル決まったら報告してくれ」

「はぁ・・・分かりました。後、序盤と銘打ってますがこれはプレイヤーに続きがあると思わせる為の仕掛けですが、今後の戦況がどう展開するかどうか分からないのである種の賭けになりますが・・・」

「まぁ問題ないだろう。余程の失策をしない限り・・・・・・訂正、あほな派閥争いとそれに付随する無謀な戦略を立てなければ大丈夫だと思いたい」

「・・・・・・社長、帰って不安になったんですが」

「気にするな、俺は気にしない(滝汗) まぁそれはさておき、何時ごろできそうだ?」

「そうですね・・・栄養ドリンクのほうは今月中に試供品が社内に行き渡ると思いますので速ければ来月にでも限定販売はできるかと思います。アーケードゲームのほうは既にプレゼンテーションをしてありますがその反響は高く、ネットで話題を呼んでいます。試作品であれば来月にでも発表できるかと思いますが正式版はどんなに速くても再来月ですね」

「分かった、なるべく早く完成できるように頑張ってくれ。特別ボーナスも考慮しておこう」

「分かりました、それでは失礼します」

そう言って企画広報のトップは病室から出て行った。

・・・いや~まいった、まさかそんなタイトルに変更されていたとは。まぁ変更させたけど提案したのも結構やばそうなタイトルだしなぁ・・・急だったんでいい名前が思いつかん。っと、さっきのゲームの話なんだけど元の世界に似た奴があったからその案をリアルにしただけなんだよねぇ。たしか戦場の・・・なんだっけ? 微妙に思いだせん。まぁいいとして、この企画には2つ重要なポイントがある。1つはゲーセンに通う若者が旧ザクとはいえ本物のモビルスーツと同じ操作方法で操縦するということ。これは若者にモビルスーツの操作方法を楽しみながら覚えることで、軍に入隊する前にこれで遊んでいればある程度の操作方法は分かるだろうし、最悪学徒動員になっても生き残る可能性は高くなる。そして2つめはVFの慢性的な人材不足を補う策ということだ。このゲームで上位にランクインした人をスカウトできれば訓練期間が短くてすむパイロットを確保できるっていう思惑だ。
まぁ実際は操作面はある程度簡略化しているけどね。でも実際の機体と同じ反応速度をシミュレーター内で再現できる。まぁクリアできるかは分からないけどね。うちのエースパイロットにテストさせるけどそれで苦労するようだと難易度下げないといけないし。まぁこの2つは販売の際のおまけみたいなものだしあまり期待はしていないが・・・こけたら本気でまたいくつかの新技術の売却をしなけりゃいけないな。ただでさえ新兵器開発とか無茶して危険な経営状況なのにこれで更に経営悪化したら洒落ならんよなぁ~頭痛い(泣)倒産しないようにがんばらないと。







連邦本部 ジャブロー地下ドック

「・・・ようやく完成したか」

「正確には竣工でまだ艤装せねばなりませんが・・・それも1週間程度で完了する見込みです」

「つまり今月中にこの2隻は就航するわけだ」

会話する連邦軍高官の眼前には2隻の宇宙戦闘艦が鎮座していた。それは『ペガサス級強襲揚陸艦』1番艦の『ペガサス』と3番艦『アレイオン』だった。
火力はマゼラン級よりも下だがV作戦の一環で建造された本格的なモビルスーツ運用母艦ということで軍部の注目を浴びている艦で、搭載すべきモビルスーツはサイド7で実験機がテストを行っておりジャブローでも生産ラインが準備されていた。

「サイド6でジオンの研究所にいた研究者達を亡命させることに成功したのが一番大きかったな。ただジオン高官を暗殺できなかったのは気になるが」

「そうですな(ってか特殊部隊を使ってサイド6から連れてくるってのは拉致っていわね?)まぁこの作戦のおかげでジオンのビームライフルの試作品を手に入れることができたのですから特殊部隊の連中は勲章モノですよ」

「ジオンの戦力強化も気になるがビンソン計画をはじめこちらの軍備増強計画も順調だ。マゼランKやサラミスKの量産に、それらに搭載させるモビルスーツ及びモビルポッドの開発、色々と忙しいがもうすぐ反撃のときは来る」

「一番割を食っているのは海軍でしょうな。太平洋艦隊がハワイ奪還を目論み水中ポッド・・・名前はたしかフィッシュアイだったかな? それを多く展開し敵水中用モビルスーツを迎撃するつもりだったらしいのですが・・・その前に航空攻撃の奇襲を食らって大損害、作戦は無期延期で艦隊はシンガポールにまで避退したらしいです」

「水中ポッドなど気休めに過ぎん。だがそれに頼らざるを得ないのが今の連邦軍だからな・・・忌々しい」

そう言ってその将官は手に持っていたパック入りのコーヒーを音を立てて一気に飲み干した。

「・・・下品ですよ中将、音を立てるのは」

「気にするな、この後は大量の書類とにらめっこせにゃならんのだ。それよりも問題はこちらの派閥争いとジオンの軍事増強だ」

「今はレビル将軍が率いているおかげでなんとか一枚岩といえないことは無いですが水面下では凄まじいことになってますからね」

「反レビル勢力も色々と画策しているからな。後奪取に成功したジオンのビームライフルだが、連射性能こそ劣っているが他はこちらのRX-78用の試作型に匹敵する性能だそうだ。亡命した研究者達の話では改良を施されて一部部隊に実戦配備されていると言っている。どこまで信頼できるかは分からんがホワイトベースのサイド7行きは早められそうだな」

「ですがペガサス級のエンジンの欠陥は・・・」

「分かっている。そのせいで竣工が遅れたのだからな。幸い2番艦のホワイトベースは建造途中だったから改装の手間が少なく既にルナツー付近で慣熟航行しているが、ネームシップであるペガサスのほうは遅れに遅れ、後から建造が開始された3番艦のアレイオンとほぼ同時に就航だからな。これを鑑みて4番艦からは設計を変更した改ペガサス級として建造予定だ。当然そのしわ寄せは戦力化の時期がずれ込むという結果となって我々の前に立ちふさがる」

「ですがルナツーではトラファルガ級の改修型、トラファルガ後期型の建造が急ピッチで進められております。これは航宙機母艦ですが、いざとなればそちらからモビルスーツを発進させることが可能です。後3ヶ月もあれば開戦前を上回る宇宙艦隊の再建が達成されます」

「まぁまずはジオンの快進撃を食い止めねば話にならん。幸い奴等は補給が追いつかなくなっているからしばらくは膠着状態だろう。我々は後方で書類と格闘し前線の将兵を少しでも楽にすることが仕事だ、気合をいれろ!」

そう言って2人の将官は立ち去っていった。後に残ったのはゴミ箱に投げ捨てられたコーヒーのパックと何十隻もの戦闘艦の建造音だけだった。







あとがき
なんか月間になってるなぁ~としみじみ思ってたり。季節の変わり目なので皆様お大事に(自分? 思いっきり体調崩してますorz 数年前から続くアトピー性皮膚炎が結構つらいです)おかげで今回も作品の調子が微妙?

ペガサス級3番艦『アレイオン』ですが3番艦の名前が資料を見るとホワイトベースジュニアとか書いてあったんですが作者の都合で勝手に変えましたw
秘書はいっそカードビルダーのあのキャラ引っ張ってくるべきか結構悩んでます(ってかまだ200戦いってないから隠し秘書手に入れてないから性格とか口調知らないが)

次の投稿は私用で少し間が開くと思いますのであらかじめご報告させていただきます。後感想掲示板ですがまた消えてます^^;もし誤字脱字があればお手数ですが感想掲示板で報告お願いします orz(土下座)

後一応お知らせとしてここに投稿していた『鋼鉄の咆哮 異世界からの艦隊』ですが書き直す為に削除しました。再投稿は未定です。



[2193] 21話
Name: デルタ・08◆fbe1f67d
Date: 2010/04/01 01:48
9月5日

ジオン公国軍宇宙要塞ソロモン、ここに1隻の戦闘艦が入港した。だがその姿はパプア級やパゾク級、ムサイ級はもとよりチベ級でもなかった。当然ながらグワジン級でもない。その姿はどちらかというと諜報部の入手した連邦の新型強襲揚陸艦『ペガサス』級に似ていたが、当然連邦艦ではない。もし連邦艦なら蜂の巣を突付いたような騒ぎになっているからだ。

・・・・・・もうお気づきになっている人もいるだろう。我等がツィマッド社社長、エルトラン・ヒューラーが暴走して建造させたVFの新型強襲揚陸艦『アルビオン』級のネームシップ、1番艦のアルビオンである。このアルビオン級は名前こそアルビオンと名づけられているが実際の形状は0083のアルビオンとホワイトベースを足して2で割ったような形をしており、ペガサス級やザンジバル級同様に大気圏突入・離脱能力を持っている。性能はさすがに0083のアルビオンには劣っているが従来の艦と比べれば画期的といっても良かった。武装は基本的に格納された状態であり、左右に連装メガ粒子砲2基と6銃身ガトリングビーム砲8基、135mmレールガン8基、6銃身ガトリング砲12基となっており、他にビーム撹乱幕を含む各種ミサイルコンテナも存在しそれなりに充実している。
そしてモビルスーツ運用型強襲揚陸母艦の目玉であるモビルスーツ搭載能力は、通常運用だけで片方の格納庫に4機と予備機体2機、合計で8機の実用機と4機の予備機(通常はパーツごとに分解してあるが)を搭載可能になっている。更に言えば新型のカタパルトも存在し、短時間で8機を連続発進させることも可能となっている。なにより最大の特徴は艦が7つのパーツに分類できるということだろう。艦橋と居住区等中枢部を占めるユニット、左右のモビルスーツ格納庫、同じく中枢ブロックの左右に存在する2連装メガ粒子砲やミサイルコンテナの存在するパーツ、そし最後に2つのエンジンからなる左右エンジンブロック。この7つで構成されておりホワイトベースのように非常時には切り離すことが可能となっている。この他にダメコンの合理化や防空システムの改良等で生存性が従来の艦に比べて高くなっており、その反面コストも馬鹿高くなってしまった。この為当初は計画された4隻の他に調子に乗って5番艦から8番艦まで計画されたが4隻全てキャンセルされており、建造予定は4隻で完了となっている。
そんなVFの目玉とも言える艦なのでソロモンの将兵は興味津々といった感じでアルビオンを見ていた。

そして入港作業が完了し、ソロモンに降り立ったのは他でもないエルトラン社長本人だったりする。
ソロモン要塞内部にある客間に通されたエルトランは今回のソロモン訪問で会う予定の人物と面会した。言わずもがなドズル中将である。

「よく来たなエルトラン、怪我は大丈夫なのか?」

「あはは・・・なんとかこうして動ける程度には復活してますよ。それよりも・・・御息女誕生おめでとうございます。これはささやかですがお祝いの品物です」

「これは・・・果物の詰め合わせか?」

「ええ、私とガルマ、そしてカーティス大佐からの贈り物です。テンペストの影響で収穫量は激減しているそうですが冷凍保存されていたのもかき集めましたよ。体力が落ちているであろうゼナさんに地球産の果物を食べて元気になってほしいと思って。ご息女のほうは?」

「おお、すまんな、なにせ待ち望んでいた子供でな。ゼナに似て将来絶対に美しくなるだろう。悪い虫がつかないか今から心配でな」

「はぁ・・・・・・(親馬鹿だ、親馬鹿がここにいる。ってかドズルってこんな性格だったか?)」

「ところでカーティスとは、オーストラリア方面軍のウォルター・カーティスか?」

「はい、その果物のゴールデンキウイ等はオーストラリアで収穫された物です。派閥的にみればガルマ派になるかと」

「派閥か・・・俺には派閥や政治なんて難しいもんはわからんが、ガルマの方針は聞いている。ガルマは将来、俺さえも使いこなせる将軍になると信じている。ならばできる限りあいつを助けてやろうと思っている。ところで最近のガルマの調子はどうだ?」

「そうですね・・・少し前までは親の七光りではないことを証明する為前線に出ようとしていましたが、最近は指揮官は後方から戦況を見、部隊を手足のごとく動かし敵を撃滅するということに気がついたようで、戦略シミュレーション等で勉強しているようです」

「そうか、前線に立つだけが戦争ではないとあいつも気がついたか・・・ありがとよエルトラン」

「いえ、私はアドバイスをしただけです。 ・・・あ、それとニューヤーク前市長の娘であるイセリナ・エッシェンバッハと相思相愛の関係です。結婚も考えていらっしゃるようです」

「ほう、それは早速親父にも知らせんといかんな。報告がきたら早速それと一緒に報告するか」

「・・・・・・報告とはなんの報告ですか?」

「ん? そういえば言ってなかったな。シャアが今通商破壊任務についているというのは知っているか?」

「ええ、こちらのゴタゴタでまだヅダを使っていると皮肉を言われましたから。まぁ予定では既にカスタマイズされたリックドムに乗り換えていた予定ですからなんともいえませんが」

「ああ、あのことか。兄貴と姉貴は一体何を考えて妨害しているんだか・・・戦いは数だというのにその数を作る会社を妨害しては前線で戦う将兵に影響がくるというのに・・・・・・っと、それはおいておくぞ。通商破壊の帰りに連邦の新造艦を発見し追尾したのだが、それはサイド7に入港したらしい。そしてシャアはその調査の為にコロニーへザクを潜入させるそうだ。もうそろそろ報告があると思うのだがな」

「え!? (まさかV作戦!? あれって今月中旬じゃなかったっけ? 歴史が代わった性で早まった!?)」

「どうした? 何か知っているのか?」

「ええ、うちの特務情報室が掴んだ未確認情報ですが、サイド7で連邦軍が新兵器を開発しているという情報を入手したのです。うちではモビルスーツではないかと考えていて、諜報に力を入れている状態なんです」

「何!? 連邦のモビルスーツだと! 詳細は判明しているのか?」

「いえ、残念ながら・・・・・・ですがその新兵器開発計画にRX計画とV作戦という単語があった為、情報室ではこの新兵器開発計画をRX計画、その計画とは別に他にもあるであろう計画をまとめてV作戦と呼称しているのではないかという仮説が上がっています」

「ふむ・・・どちらにせよシャアの報告が来るのを待つしかあるまい。エルトラン、おまえも同席してもらうぞ」

「分かりました、同席させていただきます(これはいい機会だしな。うまくいけばどんだけ歴史が変わっているのか分かるし)っと、その前に、果物をゼナ様にお渡しになられては?」

「おお、そうだな。早速渡してこよう。すまんがしばらく待っていてくれ」

数十分後・・・

「すまんな。待たせてしまって」

「いえ、夫婦水入らずの時を邪魔するっていう無粋な真似はしたくありませんから気になさらずに。ゼナ様はどうでした?」

「うむ、果物がおいしく感謝していたぞ。後でウォルターにも感謝していたと伝えておこう」

「それはなによりです」

「そういえば・・・話を変えるがカタリナの要塞への改修がほぼ完了したそうだな」

「ええ、名前は『カタリナ』のままにするか『ヴァルハラ』等の北欧神話に基づいた名前にするかはまだ社内でアンケートを取っている段階ですが・・・」

「ほう、だが俺が聞きたいのは施設の稼動具合だ。このソロモンも突貫工事だったからもしよければそちらの要塞の状況が知りたくてな」

「なるほど。たしかにここでもまだ工事中のところがありますしね。わかりました、お話しましょう」

そうして私はドズル中将にカタリナの状況を説明する。まぁ簡単に言えば元々鉱物を多く含む小惑星だったカタリナの内部をくり貫いて施設として整える。このときくり貫いたのにも多くの鉱物資源が含まれてたから資源として有効活用したが、元々小惑星『カタリナ』は『テンペスト』同様に地球に落下させることを前提として持ってきた理由がある。その為大気圏で燃え尽きないように鉄隕石と呼ばれる金属鉄から成っている。その為頑丈で、更に内部をくり貫いたとはいえその分厚さから宇宙戦艦の外壁以上の強度を誇っており、核ミサイルを数発命中させないと崩壊は不可能だろう(ソロモンの場合スペースゲートに直撃した為内部にも損害が出た)と言われている。で、肝心の施設内部だが本拠地として相応しい作戦司令部と通信装置、港湾施設(ドックを含む修理施設を含む)にモビルスーツ整備施設と弾薬等の簡易生産施設を持っている。さすがにカタリナはソロモンよりも小さい為、モビルスーツの開発・生産施設は設置できず、外に公社に依頼していたコロニーをもって居住施設兼モビルスーツ含む新兵器開発拠点とする予定だ。で、それらを防衛する設備としてモビルスーツ用のビームライフル(ビームバズーカ含む)を束ねた大型ビームガトリング砲とアルビオン級に搭載している通常サイズのビームガトリング砲に6銃身ガトリング砲、135mm防空レールガンにミサイル衛星等、既に『要塞』として十分な設備となっていた。もちろんまだ完成しておらず、港湾施設や娯楽施設は全て完了しているがモビルスーツ整備施設の一部と弾薬等の簡易生産施設等はまだ建設中で、完成は11月になるだろうという見込みだ。

だが結果として要塞としてほぼ完成しているカタリナの現状と問題点を最後まで説明することはできなかった。説明している真っ最中に、シャアから連絡が来たという報告が来たからだ。



ソロモン司令室

「なにぃ! ザクを3機も失っただと!」

「はい、連邦のモビルスーツは我々の予想を遥に上回る性能です。この映像をご覧になれば分かりますがこの白いモビルスーツはザクのマシンガンを弾き返す装甲を持ち、ザクを圧倒するパワーを持っています。更にザクを一撃で撃破できるビームライフル。現在のこちらの戦力では厳しいので補給をお願いしたいのですが」

「分かった。ザクを3機送ろう」

「いえ、できれば4機お願いしたいのですが」

「なにぃ、ザクを4機だと? ・・・ううむ、分かった。手配しよう」

「感謝します」

この間私は唖然としていた。なぜならシャア少佐の送った『映像』に釘付けだったからだ。その映像は・・・・・・サイド7と思われるコロニーを背後にシャア専用ヅダ視点で見る『2機』の連邦モビルスーツとの戦闘だったからだ。1つはRX-78-2ガンダムだとすぐわかった。だがもう1機の方が目に入った時、私は凍りついた。
それは黒をベースに白と赤でカラーリングされた、『ガンダムとほぼ同じ形をした』モビルスーツだったからだ。そう、ギレンの野望等のゲームをした人間なら知っているあの機体、『RX-78-1 プロトガンダム』だ。ついでに言えば歴史が変わっており、どうやらアニメ版の1話と2話が同時に起こってしまったみたいだ。私の記憶が確かなら補給を要請した後にガンダムのビームライフルが炸裂するはずだからだ。

「中将、いいですか?」

「ん? ああ、エルトラン。何かシャアに聞きたい事があるのか?」

「ええ、少し少佐に聞きたいことがあって」

「わかった。シャア、エルトランが聞きたいことがあるそうだ」

「失礼っと・・・シャア少佐、少し聞きたいのだがこの映像を見る限りこの2機のモビルスーツはザクを圧倒しているが、ヅダで対抗できるか?」

「・・・そうだな。正直なところザクと同程度の武装のヅダではきついだろう。まぁ狙撃用ライフル等の武器以外にヒートホークを使えば勝てるだろうが120mmのザクマシンガンを弾き返すあの装甲は脅威だ。だがドムなら勝てると思うな」

「・・・すまない。少佐用にカスタマイズしたドムは今積んでいないんだ。ヅダでがんばってくれ」

「かまわんよ。ヅダイェーガーも中々いい機体だからな。だが正直なところ2機はきついな。黒い方はまだ動きが読めるのだが・・・白い方はどう動くか予想しにくい。まるで初めて戦う素人だが、逆にそのせいで動きが読めん」

「そうか・・・ドズル中将、うちの新型艦アルビオンのテストも兼ねてシャア少佐の部隊に同行してもよろしいでしょうか?」

「アルビオンでか? ・・・わかった、こっちも補給に送るザクは4機も手配できるかどうか怪しいからな。ただ護衛としてムサイ1隻をつけさせてもらうぞ」

「ありがとうございます。 ・・・シャア少佐、聞いての通りうちの新造艦のアルビオンも同行する。リックドム2機とヅダイェーガー6機を護衛として搭載しているから支援としては十分かな?」

「そうだな、それだけの戦力と補給されるザクがあればあるいは・・・こちらの現有戦力は私のヅダのみなので、早急な補給をお願いします中将」

「分かった、すぐに向かわせる。それまで持ちこたえろシャア」

そう言って通信は終了した。

「エルトランよ、アルビオンの速力はどのくらいでる?」

「そうですね・・・本来ならジークフリート級を上回る性能を発揮しますがエンジントラブルのせいでパプアの全力と同じくらいです」

「ふむ、ならばパプアを派遣するしかないか。トラブルが無ければモビルスーツだけ先に運んでもらおうと思ったのだが仕方あるまい」

そう言ってドズルは退出していった。おそらく派遣されるのはあの渋いガデムのおっさんのパプアだろう。あの渋すぎるおっさんを殺すには惜しい。まぁ実際問題、アルビオンが増援にいってもおそらくホワイトベースは撃破できないだろう。まぁ元より宇宙空間で撃破できるとは思っていない、勝負をかけるのはVF地上軍が充実している北米降下後だ。そこならほぼ確実にホワイトベースを仕留めれる。いや、鹵獲することも十分可能なはずだ。

・・・これで北米以外に降下したら泣くけどね!!!





あとがき

やあ (´・ω・`)
ようこそ、ツィマッド社奮闘録へ。
このあとがきはサービスだから、まず落ち着いて読んで欲しい。
うん、「また予告を裏切って投下」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このSSを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「しばらく書けないんじゃないのかよ!」という突っ込みを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、今回のSSを投下したんだ。
じゃあ、注文を聞こうか。

・・・すません、レポート(?)や企画作成があって忙しいはずなのに気がついたら作ってましたorz今度のUPは未定ですが一応来月の予定です。
後、簡単な年表をUPすべきか少し迷っており、乗っけたほうがいいという意見があれば乗っけます。それとやっつけ仕事になった感じがあるので、作中におかしなところがあったらご指摘よろしくお願いします。
ってかあとがきにバーボンネタ入れてる俺ってもうダメポ(´A`)y─~(※作者はタバコは嫌いですw



[2193] 22話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:4c78984b
Date: 2007/12/25 15:59
アルビオン艦橋

「ふ・・・ふふふふふ・・・ふぅははははははぁ!!」

「社長、落ち着いてください。部下が怯えています(汗)」

「ははははは、これは一種の悪い夢ですか艦長? これが現実とは到底認めたくないのですが」

「・・・社長、自分が言うのもなんですが、現実とは時に酷く過酷なものなんです」

「HAHAHAHAHA! この恨みはらさずにいられるか・・・今ザビ家から嫌がらせされたらマジギレしてズムシティーに核ミサイル撃ち込んでしまいそうなくらい私はストレスが溜まってるんですよ。これは目の前の木馬に、元凶にすべての恨みを当てるべきという神の声ですかそうですか。アルビオンと同じ被害を木馬にも味合わせてやりましょうそうしましょう!!」

「・・・(社長がご乱心だ。この空気をなんとかできる勇者はいないのか?(泣))」

そう思い艦長は辺りを見るが、艦橋に詰めている要員は即座に皆アイコンタクトで返事を返してきた。すなわち・・・

「(無理っす!!)」

・・・ご丁寧にも全員涙目だ。

「(・・・そりゃそうか。艦長の私にできなくて部下にできると考える私のほうがダメか。社長が落ち着くまで待つしかないのか)」

そんなわけでアルビオンの艦橋は凄まじくカオスな空気になっていた。こんなことになった理由、それは数時間前にさかのぼる。





ルナツー付近

「よくもこんなくたびれた船が現役でいられるものだな」

「そういうなよシャア。パプアは確かに10年以上前に就役した船だが、船と言う物は大事に使えば20年以上使えるものだぞ。それにパプアはコロニーと地球間の物資輸送任務に多くが従事しているから、そこだけみてもパプア級が全て退役したらジオンの戦略は根底から覆え、状況によっては地球の拠点を全て放棄しなければならなくなるかもしれないんだ。それに輸送任務も責任重大な仕事だぞ。前線で戦っていられるのも後方でせっせと物資を運んできてくれている輸送部隊あってだからな」

「ふむ、たしかに失言だったな。だがパゾク級はどうしたんだ?」

「艦隊専属の補給艦として結構な数が取られているからな。それに連邦と張り合う為にパゾク等の補給艦ではなく正面装備のムサイを優先して量産したから絶対数ではパプアのほうがパゾクよりも遥かに多いのが実情だからね」

「なるほど・・・ところでひとつ聞いていいかね?」

「なんだい?」

「・・・エルトラン、君の乗っているその新造艦がやたら私の追っている木馬と似ているのは気のせいか?」

「・・・う~ん、一応このアルビオンは木馬、連邦で言うところのペガサス級だけど、その前身の設計図をベースに大幅に発展改良させた艦だからある意味木馬の親戚ともいえるね。ちなみにどうやって入手したかは裏取引があったとでも思ってくれればいいよ」

「裏取引か・・・何と何を取引したのか気になるが、それよりも木馬の前身とは何だね?」

「こっちが手に入れた資料だとSCV、宇宙空母としてらしいけどたぶん没になった案じゃないかと思ってる。でなきゃ裏取引とはいえ新造艦のデータなんて渡すはずが無いしね。事実木馬の全長は250mを超えているけど、手に入れた資料には200m前後と書かれているし、ここら辺は他の案を採用し建造途中でMS搭載能力を付け加えたんじゃないかと思うよ」

「ふむ・・・つまり木馬はそのアルビオンの性能と同等と考えていいのか?」

「う~ん・・・難しいとこだね。原点は宇宙戦闘機母艦でそれからアルビオンと木馬双方が派生するわけだけど、アルビオンは高速MS母艦、木馬は見た感じだとMS搭載型の強襲揚陸艦かな? もし木馬が強襲揚陸艦だとすると、コンセプトが違うからアルビオンよりも装甲は厚いだろうし近距離用の武装も充実している可能性が高い。もちろんアルビオンも装甲はそれなりに厚いし武装も充実してるけど向こうのほうがこちらよりも上と考えたほうが無難だと思うね」

「そうか・・・そろそろ補給準備にかかるか。ドレン少尉、パプアへ映像通信を開け」

「・・・赤い彗星が補給を欲しがるとはな。ドジをやったのか?」

「ガデム、敵は目の前だ。一刻を争う」

「わかっているよ、わしがそんなにのろまかね?歳の割にはすばやいはずだ」

「ドレン少尉、ハッチ開け。コンベアパイプドッキングを急がせろ」

「シャア、それにガデム大尉。補給中の護衛はアルビオンと護衛に来てくれたムサイ、それに搭載しているモビルスーツ隊がするから安心してくれ」

「おお、それは助かる。モビルスーツに武器弾薬、他にも日常品等の受け渡しがあるから最低でも30分はかかるからな」

「すまんなエルトラン。ドレン少尉、メインエンジンのパワーをあまり落としすぎるなよ」

「了解です。いつでも戦闘できるよう戦闘配置につかせておきます」



アルビオン格納庫

「おまえら出撃準備だ! パプアとファルメルが補給を行う。その間2隻は無防備になるのでその護衛に出撃するぞ!」

「隊長、装備は対艦装備ですか?」

「いや、対艦戦闘なら護衛のムサイとこの艦の主砲で迎撃できるからな。我々は対モビルスーツを意識した装備にしろということだ」

「対モビルスーツですか・・・といってもあまりこっちの装備は変わらないですけどね」

「まぁなにはともあれ、いつも通り交戦規定は一つだけでしょ?」

「ああ・・・生き残れ、それだけだ」

「まぁ俺達一人一人は弱いですし、生き残るように努力しないとVFのパイロットがいなくなっちまう」

「準備はいいな? アルフヘイム隊出撃するぞ!」



一方その頃、エルトラン社長は一つのモニターに釘付けだった。それはサイド7に潜入したザクが送ってきた映像で、白いモビルスーツ、ガンダムに撃破されるまでの戦闘記録でもあった。だがそこに映し出されている映像、特に前半部にエルトランは冷や汗を出しながら見ていた。そこに映し出されていたのは、エレベーターで港湾部、おそらくホワイトベースが入港しているところへ運ばれていく分解されたモビルスーツ等だ。だが問題はそこではない。映像はガンキャノンとガンタンクの胴体部分が港湾部へと運ばれたシーンから始まっており、映像が始まってから2回目にエレベーターで運ばれたのはその2機の下半身、そして3回目にガンキャノンが運ばれようとしたときにジーンが暴走、分解されたモビルスーツと研究施設、それに小型戦闘機へ攻撃を開始するシーンになっていた。

「(最低でもガンキャノンとガンタンクは運び込まれているってことだが・・・この後何機運び込まれたかが問題だな。後はコアファイターを何機か破壊したみたいだが・・・まるっきり残っている戦力が分からん。最低でも史実編成+プロトガンダムってことになるんだろうけど気をつけないと危険か)」

「社長? エルトラン社長~?」

「あ、なんですか艦長? どうも深いところで考えてたみたいで」

「いえ、アルフヘイム隊出撃完了しました。ムサイのほうもザク3機が出撃しましたがこれは自身の護衛用だそうです」

「まぁ妥当なところですね。太陽のほうを警戒して置いてください。そちらからだと目視しにくいので」

「了解しました、伝えておきます。後本艦も戦闘準備に入りますので指揮系統の確認だけ・・・」

「前にも言いましたが私はお飾りだと思っててください。この艦の最高責任者は艦長、あなたです。お手並み拝見っと・・・」

「・・・了解しました。それでは戦闘配置につかせます。全員ノーマルスーツを着用せよ」

しばらくすると第1戦闘配置の警報が鳴り響き、辺りが忙しくなるのが感じられた。



「モビルスーツ隊、全機カタパルトへの接続を確認。連続射出用意よし!」

「護衛対象がすぐそばだからカタパルトを使う必要はないがいい訓練だ。順次射出せよ!」

「了解、モビルスーツ隊、発進!」

そう言って左右に突き出した艦首からモビルスーツが交互に射出されていく。ジオン型のカタパルト(モビルスーツベッドと呼ばれている代物)をアルビオンは採用しており、射出した機体の速度こそ連邦の、例を出せばホワイトベース等よりも劣る物の、連続射出能力では勝っていた。機体を放り出したカタパルトはすぐにカタパルト上のロックをはずされ角度を90度変えて横の壁に立てられ再度自動で固定、後方に移動する。そしてカタパルトがクリアになったらすぐに次の台座ごとモビルスーツが射出、これの繰り返しである。当然ホワイトベースのような現在のカタパルトの延長線上のものよりも工程は複雑になり故障の原因になりやすいが、短時間で多くの機体を緊急発進できるというメリットがありその結果採用された代物だった。

「社長、本艦のモビルスーツ隊は全て発進完了しました」

「ご苦労様です。 ・・・何もなければいいんだが」

「たしかに、補給中何も無ければいいですね。本艦はいまだ慣熟航海中ですから少し不安が残ってますし」

「ん? あ、ああ。そうだな・・・(そっちじゃなくホワイトベースの搭載機が増えていなければいいって意味だったんだがな。まさか歴史が少し早まっているなんて思ってなかったからモビルスーツ用ビームライフルを搭載していないってのが気になるけどまぁいいか)」

だがそのしばらく後にエルトラン社長はバタフライ効果というものを身をもって知ることになった。



「・・・ん? 隊長、ミノフスキー粒子の濃度が徐々に上がってきています」

「何? ・・・連邦の新型艦は本艦と同様にミノフスキークラフトを使っている公算大と報告書にはあったな。敵さんのお出ましか?」

「隊長、一応母艦に警戒を知らせておきます」

「頼んだ。アルフヘイム隊各員へ、付近に敵がいる可能性が高い。警戒を怠るなよ」



「アルフヘイム隊から報告! 付近のミノフスキー粒子濃度が上昇中とのことです。敵の可能性あり、警戒されたし」

「社長、どうやら何も無ければ・・・とはいかないようですね」

「・・・シャア、ガデム大尉に通信をいれてくれ。付近のミノフスキー粒子が上昇中、敵がきている可能性があるので注意されたしと通信してくれ。後護衛のムサイに念の為モビルスーツ隊の援護を頼んでくれ」

「了解、通信します」



「・・・! こちらアルフヘイム7、敵機発見! 白と黒の機体が2機、急速接近中!」

「こちらアルフヘイム1、偶数番号機はアローフォーメーションで援護、奇数番号機はブイフォーメーションで迎え撃て!」

上空に上がっていた2機のリックドムと、着地していた6機のヅダはその命令を受け一気に2機の連邦モビルスーツの前に立ちふさがった。相手側からは上空にいた2機しか見えていなかったので、6機のヅダがいきなり現れたのに驚いたのか一瞬動きが鈍った。その隙は小さなものだが、アルフヘイム隊が無事合流できるだけの隙であった。
そうして合流した最新型の90mmマシンガンであるMMP-80を装備したリックドムとヅダは2編隊に散開し、2機の連邦モビルスーツに襲い掛かった。アルフヘイム隊の面々は個人ごとに見ると技量はそれほどたいしたことはない。それこそ新兵のジーンやスレンダーと同じ程度だ。だがそれでもそれを補って余りある、ある特徴がこの隊にはあった。
それは集団戦法による連携戦闘だった。数が多いことを最大に活かし複数の機体が相互に連携を取りながら戦い、常に射撃を目標に途絶えることなく浴びせ続けるのがアルフヘイム隊の戦い方だった。その戦い方でシミュレーター上とはいえあのジョニー・ライデンと互角以上に渡り合った実績を持つ。
・・・ただし本当はライデンではなくシャアのデータと戦いたかったらしいが機体カラーの見間違いで選んだらしく、データ上、それに難易度が低く設定されていたとはいえシャア少佐に勝ったと浮かれた隊員に微妙な感傷を抱かせ、更にその場に偶然ライデン本人(補給の為ソロモンに立ち寄っていた)がいて一連の流れを見ていた為リアル模擬戦に発展しかけ、事態を重く見たソロモン司令部が山のような書類を捌ききって仮眠を取っていたエルトランに緊急通信をして叩き起こし、交渉の末新型機が出たらライデンに優先的にまわすと約束することで決着がついたのはどうでもいい話だ。

散開した編隊の内、奇数番号の部隊が最初にガンダム2機と接触した。マシンガンと左腕のシールドの内側に搭載された、本来グフ用に開発された3連装35mmガトリング砲が火を噴いた。4機の機体は2機が相互に支援しつつ集中砲火の目標にした黒い機体、プロトガンダムに銃弾を浴びせかける。プロトガンダムの表面装甲に大量の弾丸が命中し、普通のモビルスーツならこの瞬間に決着がついていたことだろう。

・・・だが流石にルナチタニウムの前には貫通力に優れた最新型マシンガンの集中砲火でもきつかったらしい。

マシンガンの弾幕を抜けたプロトガンダムは頭部バルカンで牽制しつつ、ビームサーベルを抜いて向かっていく。幸いビームライフルをマシンガンの弾幕で破壊できたことがアルフヘイム隊にとって幸運だっただろう。これで警戒すべきはバズーカを持つガンダムのみに絞られたからだ。もちろんプロトガンダムも頭部バルカンでザクやヅダを破壊することが可能なので警戒は必要だが、一定以上の間合いを取れば問題は無かった。そしてバズーカは弾速が比較的遅く、対艦ならともかくモビルスーツを狙うには難しかった。それにアルフヘイム隊は常に弾幕を張っているのも相手にとってたちが悪かっただろう。1機を狙って急接近しようものなら正面以外からの支援射撃によって防御を余儀なくされるからだ。さすがにガンダムといえどマシンガンがスラスター等に命中したら洒落にならない。

「・・・白い機体の方は動きが素人くさいな。どういうことだ?」

「わからん、もしかしたら初心者なのかもな。だが機体は脅威だ」

「映像データを見てはいましたけど、これほどとは・・・」

「だが連携してないのか? 相互支援どころか、完全にバラけてるぞ?」

「・・・こちらアルフヘイム1、六面体へシフトし各機シュツルム・ファウストで黒い機体を攻撃せよ。1機づつ確実に仕留めるぞ」

「六面体了解!」

「了解、ポジションにつきます」

六面体、敵機を中心にサイコロの角の位置に展開する全方位包囲陣形のことで、この隊がエース相手に戦果を上げた戦法でもある。多数対多数では各個撃破されかねない陣形だが、敵機が1機のみだと牢屋として機能する陣形だった。更にその状況での攻撃にはある特殊な狙いになっていた。

「発射! 発射!」

「さぁ避けろ!」

その言葉と同時にシュツルム・ファウストが放たれ、同時に敵機も回避運動を取った。普通に狙っていれば外れていたかもしれない。だが真っ直ぐ進んだシュツルム・ファウストの内1発が回避行動をとっていたプロトガンダムに命中した。
・・・あらかじめ目標となる機体から少し射線をずらして放たれた1発が命中した。
そう、この陣形をとった時の射撃に関しては相手が回避することを前提に、そして友軍同士の誤射を避けるためあらかじめ射線をずらして発射されるのだ。当然回避を行わなかったら命中はしないだろうが、回避行動の為に機体を動かすとどれかに当たるという仕組みだ。たちの悪いことにロックオンをしている為狙われている機体には全方位からのロックオン警報が鳴り響く為、そこで攻撃されたらまず誰もが回避を行うだろう。つまりこれはある種の心理戦でもあった。そして爆発した瞬間に包囲していた8機はマシンガンを叩き込み一気に散開、距離をとった。

「・・・糞! シールドを破壊しただけか!」

「運がいいなあの機体。 っと、4番機支援する!」

「おわ! ・・・わりぃ、助かった」

「油断は禁物だ! 先程通信がきたが護衛のムサイが援護に来てくれるそうだ。後シャア少佐がこちらに向かっている。作戦を変更し足止めに徹するぞ! 各機機動戦闘に移れ」

「こちらアルフヘイム2、了解! じゃあ偶数番号機は対艦攻撃能力を持っている白い奴を狙うぞ」

「バズーカを狙え! 誘爆させれたらなおいい!」

「こちら8、攻撃します」

そういってガンダムに向かって攻撃を開始する4機。その攻撃は巧妙でガンダムが反撃しようとしたらすぐに違う方向から攻撃を加え注意をそらし、狙われた機体はその隙にすぐ離脱する。ビームライフルならともかくバズーカ装備のガンダムでは高速で動き回る機体を捕らえるのは困難、一方マシンガンやガトリング砲は弾幕をはれるので回避運動をとっても数発は当たる。バズーカに当たったら誘爆しかねないからガンダムは避け続けなければならない。プロトガンダムがガンダムを助ける為ビームサーベルを持って白兵戦を挑んでくるが、リックドムとヅダ3機の射撃によって中断させられる。だがその攻防が崩れることが起きた。

「・・・こちら7番機、35mmの残弾がもうありません。マシンガンの残弾も今装填しているので最後になりました、指示を請います」

「こちら5番機、同じく残弾0。マシンガンの方も予備マガジン1つのみです」

「・・・こちらアルフヘイム1、各機残弾知らせ」

そう、弾切れである。マシンガンは速射性能が高いためあっという間に弾を使い果たしてしまう。その為全ての機体がマシンガンの弾がもうほとんどない状態で、35mmガトリング砲に至ってはほとんどの機が弾切れを起こしていた。

「・・・硬すぎだな。並みのモビルスーツ相手なら何回も撃墜できるだけの量を叩き込んでるはずなのに・・・」

「対艦装備もってくりゃよかったな」

「ですがセンサー等は破壊できるはずで・・・きゃああああ!?」

そう言って回避運動を取りつつマシンガンを乱射していた8番機のヅダにガンダムの60mmバルカンが命中した。違う機体を狙った一撃が偶然命中したのだが、胴体下部から脚部に掛けて被弾、損傷してしまった。

「な!? 8番機被害を報告せよ!」

「こちら8番機、右脚部が破損しました。他にも損傷があり、被害は中破と判断します。後退の許可を」

「・・・了解した、護衛に7番機をつける。残りは引き続き足止めをするぞ」

「こちら7番機、了解しました。これより護衛に移ります」

「2番機了解、足止めを継続する。 ・・・糞! 偶数番号と奇数番号の紅一点が双方撤退かよ。残ったのは男ばかり、華がねえ・・・」

「・・・2番機、まじめにしろ」

そう言っても2機抜けた穴は大きかった。最初にも言ったがアルフヘイム隊は個人の技量はそれほど高くない。そしてそれを補っていたのが多数の友軍機との連携攻撃だ。当然友軍機が被弾・撃墜される事態を想定してのフォーメーションもあるが、残弾不足ということもあり徐々に押されていく。救いなのはガンダム2機とも頭部バルカンが弾切れのようだということくらいか。
ここでなぜアルフヘイム隊は白兵戦闘を行わないのかという疑問が出てくる。白兵戦闘なら弾薬は消費しないのだからもっと積極的に使ったらどうかという意見があるだろう。だが使わない理由は簡単だ。
・・・技量が未熟で、腕の差が出やすい白兵戦闘では撃墜される可能性が高くなるからだ。
飛び道具で遠くから撃つのと近くでヒートホーク等で叩き切るのとではわけが違う。エースパイロットや熟練パイロットなら白兵戦闘で勝つ可能性は高いが、新米や素人にやらせてもそれは攻撃が単純になり、動きを読まれ逆にカウンターをもらうことになるからだ。特にアルフヘイム隊では射撃と連携の練習がメインだった為、白兵戦闘は滅法弱い。近づかれる前に牽制し距離をとるというのがメインだからだ。そして更に彼らの連携を崩す出来事が起こった。

「・・・ん? な、なんでムサイがこっちに向かってきてるんだ!?」

「はい!? モビルスーツの援護だけじゃなかったのか! 対艦装備の機体がいるのに、いい的だぞ!」

「いかん、すぐに下がらせろ! 敵モビルスーツは対艦装備、急いで後退されたしと伝え・・・」

「ああ! 白いのに突破されました!」

注意がムサイのほうに向いたからだろう。一瞬の連携の隙をつかれプロトガンダムの援護のもとバズーカを持ったガンダムが包囲を突破、そのまま艦隊のほうへと、もっと言うならアルフヘイム隊の援護に来たムサイ級に向かっていった。これに慌てたのはアルフヘイム隊だった。敵は新型といえど僅か2機、こっちは8機で時間稼ぎをしていたのだ。それが2機後退させられ、更に突破されたとなると洒落にならない。最悪の場合、無能の烙印が押される可能性もある。社長のエルトランはガンダムの馬鹿みたいな戦闘能力を知っているからそんなことはしないだろうが、周囲の目は確実に厳しくなる。たった2機の、それも新型を含む8機で挑んで突破された無能な隊・・・そういう未来が想像できる為、どこか急いでいたところがあったのだろう。
突破しムサイに急接近したガンダムは、護衛のザク3機を無視してバズーカをムサイに向かって連続発射した。計3発放たれたバズーカは2発がムサイの回避行動によって外れたが、1発が右エンジンに直撃、爆発した。幸いエンジンが艦本体と独立したつくりのムサイ級な為、艦本体には目立った損害は無かったがエンジンを片方失った事で一気に機動力が低下した。このままでは狙い撃ちされ撃沈されてしまう。
だが幸い、彼らが稼いだ時間は無駄ではなかった。追撃を仕掛けようとしたガンダムに対し急速に距離を詰める赤い機体があったからだ。 ・・・そう、シャア少佐のヅダであった。

「アルフヘイム隊か・・・個人ごとの技量は未熟だが連携はうまいな。 ・・・私は白いモビルスーツをやる! 不慣れなパイロットめ、行くぞ!」

そう言って一気に距離を詰めるシャア専用ヅダ。それに気がついたガンダムはバズーカを撃ってくるが、そんな弾速が遅い物が当たるわけが無かった。そして弾が切れたのか、いきなりガンダムはバズーカを投げつけてきた。だがシャアの操るヅダは軽々とその攻撃をガードし、右肩につけられたスパイクアーマー(ザクの肩についているスパイク)でショルダータックルをした。そしてそれを見てシールドで防ごうとするガンダムだったが・・・

「フフ、甘いな。モビルスーツの性能の違いが戦力の決定的差ではないということを教えてやる!」

シャアのヅダはそのままシールド越しにショルダータックルをし、ガンダムを弾き飛ばした。体勢を立て直そうとするガンダムにシャアのヅダは更に追撃をかけるべく急接近する。その急接近に慌てたのかガンダムは頭部バルカンを乱射するが、それをかわして胴体にミドルキックを、そしてバクテンの要領で機体を回し、下部からシールドについている白兵戦用ピックを胴体に叩きつけた。並のモビルスーツなら、重装甲のドムシリーズでも破壊を免れないこの一連の攻撃だったが、ガンダムは撃破されていなかった。

「ええい! 連邦のモビルスーツは化け物か!!」



一方その頃、艦隊の方では・・・

アルビオンCIC内

「・・・モビルスーツ2機の他に敵影はありますか?」

「いえ、捕捉していません。ただしミノフスキー粒子が濃い為に、地表スレスレを飛行または移動してるのであれば探知は難しいかと・・・」

「社長、迎撃に出た部隊の報告ではシャア少佐のおかげで防衛線を突破した機体はいないそうです。心配することはないかと」

「・・・そうですかね? なんだか嫌な予感がするんですが・・・気のせいであってほしいものですね」

そう言って無理矢理笑顔を作るエルトラン。だが・・・

(・・・たしか原作じゃガンダムとコアファイターの2機で襲撃したんだよな。ってことはプロトガンダムのほうはリュウ・・・だっけ? カーゴ爆弾に特攻した奴。そいつが乗ってるってことと考えれば・・・? なんか見落としている気がする。しかもとんでもないことを・・・)

「・・・・・・!! 緊急、敵艦がこちらに向けて急速接近中です!」

「な・・・偵察はどうしていたんだ!?」

「申し訳ありません、敵モビルスーツ部隊の逆方向から来てたので発見が遅れました!」

「挟撃を狙っていたということか・・・数は?」

「確認できるのは1隻のみ、木馬かと思われます」

「たった1隻でこのアルビオンとファルメルを沈める気か? いや、狙いはパプアか。パプア周囲にビームかく乱幕を発射せよ! メガ粒子砲、レールガン射撃用意急げ! 本艦はこれより敵艦との砲撃戦に入る、気合入れていけ!」

「大丈夫ですか? 慣熟航行中に大損害を受けしばらくドック入りってのは勘弁して欲しいのですが・・・」

「大丈夫でしょう。ファルメルも砲撃準備をしているらしく、1分以内に砲撃を行うそうです」

「そうですか・・・(確か原作だとホワイトベースからの砲撃はなかったんだっけ? たしかパプアを沈めたのはガンタンクの砲撃・・・・・・ん? なんでホワイトベース砲撃しなかったんだっけ? たしかリュウのコアファイターが無線を切っていて・・・あ゛!?)」

そう、見落としていた何かをエルトランはようやく気がついた。原作ではリュウのコアファイターが無線を切っており砲撃の邪魔だったのだが、今回コアファイターは飛んでおらず、ガンダムは違う場所で戦闘中。つまり・・・

「! 敵艦発砲しました、ビーム及びミサイル接近!」

「回避! ミサイルは当たるコースの奴のみ弾幕を張って迎撃しろ!」

そう、バカスカ撃ってくるということだ。幸いパプアを狙ったメガ粒子砲はかく乱幕でノーダメージ、ミサイルもミノフスキー粒子が濃い状態では直進しかできないので回避運動を取ることで大半がはずれ、命中コースにあるものだけをそれこそ『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』の諺通り弾幕を張ることで破壊することに成功する。そして・・・

「は、外れたのか?(良かった~当たらなくって・・・肝を冷やしたよ)」

「そのようですね。よぉし、今度はこちらの番だ! メガ粒子砲発射後にレールガンを試し撃ちだ!」

その命令が各部署に到達し、左右に突き出した連装メガ粒子砲から4本の光が木馬目掛けて放たれる。間をおかずに元は対艦用に開発され防空装備の1つとなった135mmレールガン8基の内射線を向けれる4基が弾丸を発射する。もっと近づけばモビルスーツ用の試作ビームライフルを流用し威力を下げ連射速度を上昇させた巨大な6銃身ガトリングビーム砲も使えるのだが、そこまで敵は近づいてはいなかった。ファルメルも準備が整ったのか、メガ粒子砲の一斉射撃を行っていた。残念ながら2隻からの砲撃は木馬の艦橋を掠める至近弾だったが、驚いたのか木馬は高度を落とし、そのままルナツーの『山』に隠れてしまった。

「高度を落とし隠れたか・・・モビルスーツ隊がいれば低空から侵入させ攻撃させるというのに・・・」

「というよりも艦長? 一応ここってルナツーですよね? ルナツーからの増援、来ると思いますか?」

「・・・・・・長時間ドンパチしてたら来ると考えていいでしょう。つまり短時間に終わらせば来ない内に撤収できます」

「・・・この場にあるモビルスーツといえば、シャアの部下の機体しかないが・・・命令できないからなぁ」

「艦長、アルフヘイム隊より通信です。8番機被弾、護衛に7番機をつけ撤退させるとのことです。また護衛のムサイがエンジンに被弾、大破したとのことです。現在シャア少佐のヅダの援護のおかげで膠着状態に持ち込んでいるそうですが、アルフヘイム隊の残弾が底をついているそうです」

「・・・7番機にマシンガンの予備弾薬を持たせ、自身は対艦装備で行かせるべきですね」

「艦長の判断でいいと思いますよ。こっちは敵艦が顔を覗かせたら砲撃といった感じでいいでしょうし」

「そうですな。 ・・・それにしてもたった2機相手にアルフヘイム隊は足止めが精一杯とは。これがレポートにあったルナチタニウムを使用した連邦モビルスーツの性能という奴ですかな?」

「話じゃ120mmザクマシンガンの弾丸を弾いたと言われていますからね。ですが流石にバズーカ等の対艦装備やヒートホークなら通用するでしょう」

「むしろ通用しなかったら恐怖ですよ。まぁ流石にビーム兵器なら大丈夫でしょうけど、今現在モビルスーツ用のビーム兵器は搭載していませんからね。後4日ほど待てば搭載してたんですが残念です」

「まぁ今は目の前の脅威に集中しましょう。伏兵がいたら洒落になりませんし」

「そうですな・・・対空監視を厳にせよ、ルナツーからの増援にも気をつけろよ」

(・・・確か原作だと砲撃ができないからガンタンク発進って流れだったはずだけど、この場合どうなるんだ? 仮に発進するにしても来るとしたら正面からか? その場合メガ粒子砲をぶっ放せば問題ないし・・・あれ? その場合カイと・・・ハヤトだったか? あいつらどうするんだろう? 他の人がガンタンクに乗るのか? あれ?)

考え事をしていたエルトランだったが、その思考は強制的に中断されることとなった。なぜなら艦にいきなり衝撃が走ったからだ。

「おぅわ!? な、なんなんですか!?」

「敵の攻撃か!? ダメージリポート!」

「報告します! 右前方の小山の影に戦車らしきものを確認、更に反対側の左の谷からも砲撃です。データ照合完了、サイド7で確認されたタンクタイプと両肩にキャノンを積んだ赤い機体です。タンクタイプ2機、キャノンタイプ1機を確認しました」

「な、なんだってぇぇええええ!?(ガンダムが2機いたから覚悟はしてたけど、ガンタンクも2機乗っけてたのかい! ってかパイロットは誰なんだ!?)」

「報告! 右舷メガ粒子砲に被弾し大破、左舷下方レールガン損傷! ただし艦内部への損傷は軽微です」

「砲撃を行う前に発進させ、地表を歩いてきたのか? ・・・レールガンとガトリング砲で迎撃を急がせろ、左舷メガ粒子砲はそのまま正面を向けて敵艦に備えておけ。パプアとファルメルは?」

「パプア、補給用のコンベアーの格納を完了させ退避行動中です。ファルメルは回頭中、まだミサイル等は補給が完了していないようです。おそらく戦闘終了後に改めて補給をするものかと・・・ザクの発進ですが、現在パイロットが乗り込もうとしているところだと返事が来ました」

「格納庫よりアルフヘイム隊7番機の出撃要請が来ています。艦の護衛を任せますか?」

「いや、予定通り予備弾薬を持たせ部隊に行かせろ。もう弾薬が切れている頃だ、急がないと足止めができん可能性が高い! 足止めに失敗したらそれこそ敵のモビルスーツの増援が増えるだけだ」

「了解しました。7番機には当初の予定通り友軍部隊への援護に向かわせます」

そう言った次の瞬間、また艦に大きな衝撃と爆発音が響き渡った。

「報告、左舷ガトリングビーム砲1基大破、右舷上方翼破損!」

「くっ・・・じわじわと損害が増えてますね」

「こういうのを包囲されてフルボッコと言うのですかな。操舵主、高度を上げてCIWSの射線を確保しろ」

「・・・艦長、この状況を打開する案はありますか?」

「この艦の持つ防御火器で一応3機程度なら対応できるはずなのですが、何度も言うとおり本艦は慣熟航行中なので・・・しかも奇襲されたことで新米共がパニックを起こしているのが痛いですな。ですが本艦はガニメデ級高速空母よりも重装甲なので、モビルスーツ搭載型のキャノン砲なら重要区画への直撃さえなければ十分持つかと思われます」

「・・・それはつまり重要区画に直撃したら沈没の可能性があるってことかい? 簡単にまとめると自力でなんとかする、若しくはその間に援軍を待つしかないってことかな? こうなるとアルフヘイム隊が敵2機に拘束されているのが痛いな。 ・・・修理費がどれだけになるのか頭が痛くなるところですが、命には代えられませんからね。死者が余り出ないようにお願いしますよ、できれば艦の損害も最低限で」

「ええ、もっともな話ですね・・・砲撃主、もっと弾幕を張れ! パニックに陥ってるんじゃねえぞ、この艦を沈める気か!? 通信士、後方のファルメルへ連絡。敵モビルスーツのいる辺りをメガ粒子砲で薙ぎ払うよう伝えろ。特に右舷の小山の影からコソコソ撃ってくるタンクタイプの辺りをな」

「了解・・・・・・あ、ファルメルから援護の為受け取ったザク2機がたった今出撃し、これからタンクタイプに向かうとのことです」

アルビオンのCICのモニターの1つに、後方から接近するザク2機の姿を映したのはその報告とほぼ同時だった。



一方アルフヘイム隊はというと・・・

「チキショウ! どんだけタフなんだよこいつ」

「シャア少佐じゃないですが連邦のモビルスーツは化け物ですね」

「白い奴はシャア少佐が抑えているから除外するとしても・・・黒いのも大概ですよ。弾もないしどうします?」

「いや、今通信が来た。7番が弾を持ってこちらに向かってるそうだ。だがアルビオンが敵の母艦と別働隊から攻撃を受けていて小破しているらしい」

「それでなんと?」

「・・・アルフヘイム隊はそのまま任務を続行、焦らず敵モビルスーツ2機をその場で足止めされたしとのことだ」

「・・・アルビオンのほうはファルメルと合同で何とかするってことか」

「いっそ射撃援護の後に白兵しかけますか? ヒートホークやヒートソードが命中すればあるいは」

「いや、こちらからの攻撃を仕掛け、それを防がれて逆に撃墜されたらそれこそ破滅へ一直線だ。まだ我々の技量は浅いということを忘れるな、過信すると一気に落とされるぞ」

「了解、まぁ実戦データの収集としてがんばりますかね」

「黒い機体は接近戦を仕掛けるくらいだ。我々は隙を見て牽制すればいい。狙われた機の近くにいる機が白兵戦を仕掛けるというブラフをすれば相手は回避を取るかそのまま突っ込むかに分かれる。 ・・・しかしこれは帰ったら白兵戦の強化練習だな」

だが明るく言う口調とは裏腹に、アルフヘイム隊の表情は浮かなかった。当然だ、弾薬不足で練習を余りしていない白兵戦を仕掛けなければならないのだから。それを証明しているかのように、既にプロトガンダムとの鍔迫り合いに失敗して腕を持っていかれたヅダが2機ほどいる。援護射撃がなければおとされていたのかもしれない。そしてその援護射撃も危険なもので、外れた弾丸が誤射として2番機のリックドムに直撃、正面装甲を大きく凹ましていた。更に言えば、7番機が持ってきた弾薬ももう底を突きかけている。

「・・・これじゃ尻貧ですよ」

「まぁ今現在生きていることを喜ぼう。敵のバケモンみたいな新型機と戦って生きているということを」

「それは敵を撃退してから言いたい台詞ですよ、っとぉおお!? 危ねぇ、ビームサーベルが盾のピックを両断しやがった! ってぇぇぇええ!?」

「な!? ば、ばかもん!!」

「隊長と3番が激突した!?」

「この状況冗談抜きでやばいぞ! 可能なら一目散に逃げ出してぇ!」

そんな言葉を交し合っていたアルフヘイム隊だが、やはり不慣れな白兵戦だったのが原因で一気に窮地に陥ることになる。1機のヅダにプロトガンダムがビームサーベルを振り下ろし、ヅダはそれを防ごうとヒートホークで迎撃するも、タイミングを誤ったのかヒートホークを両断され更に左腕に装着された白兵用ピックを装備した盾をビームサーベルが際どい所でかすっていく。といってもカウンターを行う為に白兵用ピックを伸ばしていたせいで、白兵用ピックは両断されてしまい格闘攻撃ができなくなってしまった。更にビームサーベルを避ける為に行った緊急回避機動が運悪くヒートサーベルを振りかぶって接近中だったリックドムの接近コースと交差、見事に両機は激突しリックドムの手からヒートサーベルは離れあらぬ方向へと吹っ飛んでいく。つまり一気に2機の白兵戦能力が消失したわけだ。そしてもつれあった2機に止めを刺さんばかりに接近するプロトガンダム。流石にやばいと思った他の隊員が援護して難を逃れたが、その代償として残っていた予備弾丸は全て使い果たすこととなる。

「隊長、3番、大丈夫ですか!?」

「こちら3番、生きてるよ~」

「もっと返事はちゃんとしろ! こちら1番機、機体損傷軽微だ。だがヒートソードを失った」

「どうします? 今の援護で残弾無し、白兵戦できる機体は言うまでもなし」

「・・・シャア少佐のほうは?」

「向こうは・・・・・・互角!? あの白い機体やるなぁ」

「シャア少佐のチェーンされたヅダと互角!? ありえねぇ・・・」

「一旦撤退も致し方なしか・・・? 敵機が後退していく?」

「シャア少佐の相手をしていた白い奴も撤退を開始しました」

「・・・とりあえず見逃してもらったということか? ・・・糞!」

「・・・とりあえず隊長、母艦に戻りましょう」

そうしてアルフヘイム隊は撤退を開始する。だが母艦、アルビオンのほうでは洒落にならない事態が発生していた。



「敵艦砲撃を開始! ・・・敵メガ粒子砲はビームかく乱幕に命中しました。続いてミサイル接近、このままだと2発直撃します」

「回避運動と同時に弾幕を張って撃ち落せ。こちらもミサイルを相手のいる方向にぶっ放せ!」

「1発間に合いません、命中します!」

その直後に艦が大きく揺れ、警告音がCICに鳴り響く。そう、敵のモビルスーツ隊を対処中に木馬が攻撃を仕掛けてきたのだ。幸いタンクタイプの機体、ガンタンクをマチュウとフィックスが中破させ後退させることに成功していたが、それまでに更にアルビオンの被害は大きくなっており、残っていた左舷メガ粒子砲も損傷し残っている対艦兵装は135mm両用レールガン3基とCIWS(といっても攻撃力はかなりある)、それにミサイルくらいしかなくなっていた。

「艦下部に命中、内部に損害発生! 最寄のダメコンは急げ!」

「敵艦にレールガン命中! 被害程度は不明です!」

「ビームかく乱幕はだし惜しみするな! 後方のファルメルのミサイル支援はどうなった!?」

「とっくに弾切れだそうです! 側面にまわって射撃すると連絡がきています」

「糞、レールガンが弾かれた! 命中角度が浅かったみたいです、ダメージ確認できず!」

そして・・・この戦闘で最悪の一撃がアルビオンに直撃した。ホワイトベースの艦隊正面上部の連装砲塔と右舷側の連装メガ粒子砲からほぼ同時に放たれた攻撃がビームかく乱幕が薄くなったところに命中、威力を低下させつつもそれを突き抜け回避運動を行っていたアルビオンの右舷エンジンに直撃し・・・エンジンが爆発した。その衝撃は凄まじく、更に直撃してほんの一瞬を置いての爆発だった為に史実のホワイトベースのようにエンジンを切り離すことも出来なかった為に被害は拡大した。

「うわぁぁぁああああ!? (ガッ!!!)・・・・・・」

「ほ、報告! 右舷機関ブロックに直撃、大爆発を起こした模様! 左舷機関ブロックにもダメージ発生、各所で損傷増大! 左舷エンジンの出力低下、航行不能!?」

「ダメコン急げ! ・・・ルナツーに不時着する、総員対ショック態勢を取れ! いいですか社長・・・!? しゃ、社長!?」

「メディック、至急艦橋へ来てくれ! 社長が意識不明だ!」

艦橋から運び出されるエルトランだったが、それでも戦いは続いていく。報告される被害に顔を青ざめる艦長だったが、それでも木馬が接近してくるようなら生き残っている火器で反撃するために準備するが、それは杞憂に終わることとなる。アルビオンを撃沈したと判断した木馬は一目散にルナツー基地へと逃げ込む進路を取ったからだ。

おかげで命拾いをした双方(木馬はあと少しでファルメルの集中砲火を受けるとこだった)だったが、特に甚大な被害を受けたのはジオン側、特にVFのアルビオンだろう。幸いアルビオンは片方のエンジンだけで航行可能なように設計されており、損傷した左舷エンジンの修理が比較的順調に進んだこともあって数時間で応急処置は完了、ルナツーから速度は遅いが離れていった。なおパプアと護衛のムサイも沈没は免れてはいたが共に中破ないし大破判定だった。

ちなみにエルトラン社長は強い衝撃によるただの気絶(幸い後遺症とかはなかった)でたいしたことはなかったのだが、気絶した為この時損害を聞いたのは戦闘終了後のことで、損害を聞いた時のリアクションは冒頭に戻るわけだが・・・VF被害総計:アルビオン大破、モビルスーツ隊損傷機過半数・・・この被害に社長がトリップ(暴走)するのは仕方ないだろう。出来立てほやほやのアルビオンが大破したことでかなり精神的にきてるようだ。
そして社長がどこかへトリップしている間にシャア少佐はルナツー襲撃を決行、ノーマルスーツでルナツーへと侵入していく。このことにエルトランが気がつくのは騒ぎが起きてからだったりする。



あとがき

うん、また遅れたんだ、すまない。
今回の社長の冒頭のトリップは、たとえるなら長年憧れていた車を買った次の日に事故をおこされ傷物にされた気分だと思って欲しい。
そんな事態になればまずたいていの人がマジギレしかねないと思ったから今回の話を作ったんだ。
で、後言うべきことは・・・先月更新できなくてごめんなさいorz
やっぱ一気に書き上げたほうがいいな~暇なときにちょくちょくってどうしても途中まで書いた流れをぶったぎるし、自分自身どこまで進めたか思い出すのに苦労するし・・・自分自身の能力のなさに絶望s(ry



[2193] 23話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:47e79e72
Date: 2007/12/31 18:09

やぁ、お久しぶり。前回は見苦しいところを見せてしまったようだね。おかげで現実逃避で暴走世界に思わずトリップしちゃってもう大変大変・・・何かセリフがおかしい気もするが気にしないでおこう。冷静に冷静に、クールダウンクールダウン・・・そんなわけで、さっき報告を受けたわけなんですが・・・

「・・・つまりシャア少佐は生身でルナツーに潜入中、できるのであればバックアップを頼むということかい?」

「そうです。ルナツーに攻撃を仕掛け、連邦軍のモビルスーツ及び新造戦艦の木馬をおびき出そうということです」

「・・・こちらの戦力は?」

「シャア少佐のファルメルとヅダ、ザク2機の他にここにいる艦隊戦力、中破したパプアと大破したムサイとアルビオン、搭載機としてムサイのザク3機と本艦のリックドム2機、ヅダ3機です。ヅダ3機はまだ修理ができてません。パプアにも作業用に旧ザクが搭載されていますがこれは勘定に入れていません。後、社長がトリップしている間にドズル中将が補給としてザク3機をムサイに載せて輸送すると言っていました。到着は明後日になるかと」

「ふむ、結局今使える戦力は・・・ザク3機は艦隊の護衛として置いておくとして、アルフヘイム隊5機だけか」

「まぁ本来なら撤退していなければならない状態の艦隊戦力ですが、ムサイの左エンジンの調整や本艦のダメコン等に手間取っており、それが一応完了したのがつい先ほど、それも言葉どおりの応急処置ですからね」

「アルビオンのエンジンブロックに関しては建造中の4番艦『ハイウィンド』のものを流用すればいい。たしかエンジン部分を除いた建造率が68%だからなんとかなるだろう。後自走ドック艦を呼び寄せてくれ」

「了解・・・しかしとんでもないファミリーですなこの艦も。こいつは巨人、2番艦グレイファントムは灰色の亡霊、3番艦バハムートは大型魚、4番艦は・・・高らかな風ですっけ? 前から気になってたんですがVFの艦の命名基準てなんなんですか?」

「そんなの決まっている。私の趣味だ!」

(ちなみに5番艦から8番艦も名前はつけてあったんだがなぁ~主にファ○ナル・フ○ンタジーとかの名前をパクってるんだが。まぁ他の防空艦とかにも名前流用してるが)

「(それでいいのか命名基準?)・・・・・・そうですか。まぁそれは一旦置いとくとして、どうします?」

「アルフヘイム隊には対艦装備で支援するように伝えてください。前回の戦闘が事実上の初陣だったんですから無茶しないように言っておいてください」

「どのみち艦隊は損傷が激しく戦闘できません。危険と思ったら即座に撤退させますがよろしいですか?」

「ああ、それでかまいません。シャア少佐の支援はアルフヘイム隊の援護という形でいいでしょう」

「了解しました、どのみちまだエンジン部以外で応急処置しなければならないところが多いですからね。後ルナツーに落下した部品の回収も平行して行ってますが、これは先ほどめぼしい物は回収完了したとのことです」

「分かりました。 ・・・ところで自走ドック艦のティル・ナ・ノーグはいつやってきます?」

「先程連絡を入れたら、ソロモンを出発したムサイと合流してこちらに向かうとのことですからこちらも明後日といったところですかな?」

「こんなこともあろうかと自走ドック艦を建造しといて正解でしたね」

「まぁ地球への物資輸送を妨害する連邦艦隊と戦闘をする護衛部隊からは好評ですね。爆沈しない限り艦を祖国に戻して見せるというのが修理部隊の言い分ですし」

そう、自走ドック艦ティル・ナ・ノーグ級を建造しといてよかったとこれほど思ったことはない! ちなみに自走ドック艦とは言っているけど、ラビアンローズのような巨大な代物じゃなく、コストと量産を主眼に置きエポナ級補給艦をベースにした艦がティル・ナ・ノーグ級だ。まぁカテゴリーは自走ドック艦じゃなく修理母艦とでも言うべきなんだろうけど細かい事はどうでもいいや(爆)

「しかし・・・修理するにしても一時後退は必須です。この襲撃が終わり次第撤退し途中でティル・ナ・ノーグと合流します」

「ええ、その時ムサイにお邪魔してコムサイを借ります」

「・・・北米視察は今月中旬予定では?」

「木馬に搭載されているモビルスーツがジャブローに降りたら何らかのアクションがあるはずです。それにそなえ北米の戦力視察もかねて前倒しということです。ついでなんで北米に連絡しといてもらえますか?」

「・・・通信士、北米へ視察を前倒しにすると連絡してくれ」

「あ、後『ケーニッヒス・パンツァー』『スカイキッド』『ブラックナイト』に緊急展開準備をさせておいてください」

「・・・あのモビルタンク部隊とドム部隊、それに蒼空の狙撃者にですか? それらは北米方面軍の虎の子では・・・」

「ええ、もし木馬が南米に降下できなかった場合、北米に降下する可能性もあります。まぁ万が一の保険ですよ(試作型EXAMを搭載したイフリート改はオデッサで実戦テスト中だったっけ? あれ北米でする予定だったのにあの紫ババァめ・・・)」

「考えすぎかと思いますが・・・了解しました、通達しておきます・・・・・・お、始まりましたよ」

そう言われてアルビオンCICのモニターを見てみると、そこにはルナツーの港湾施設から爆発の煌きがあがっているのを映し出していた。

「アルフヘイム隊出撃準備急げ、パーティは始まっているぞ! 目標は出てくるであろう連邦部隊だ!」

だが、結果から言えばアルフヘイム隊が戦場に到着した頃には既に木馬がマゼランを艦砲射撃で吹き飛ばすという荒業をやってのけ、ザク2機を失ったシャアが後退するところだった。



「シャア、援護が遅れて申し訳ない」

「いや、まさか座礁したとはいえ再利用可能な戦艦を吹き飛ばすとは誰も思わんだろう。援護が遅れたのはやむをえないと判断している」

「そう言ってくれると幸いだよ。私もそちらにザクを送るムサイに乗せてもらって北米に降下するつもりなんだが、そっちはどうする?」

「そうだな・・・おそらく木馬は連邦軍総司令部ジャブローに降下するはずだ。もっとも、今ルナツーを出発しても大気圏突入前にこちらも補給部隊と合流、戦闘可能になるはずだ。おそらく大気圏突入間際で仕掛けることになるだろう。 ・・・そういえばバリュートシステムはアルビオンには搭載していないのか?」

「・・・本来ならモビルスーツ用ビーム兵器と共にアルビオンに搭載している予定だったのだが、あいにく搭載していない。それにアルビオンも、大気圏突入は現時点でやったら確実に艦体が崩壊する。艦体のダメージが大きすぎる」

「そうか・・・だが引き際を間違えなければ大丈夫だ」

「まぁ私は大気圏突入よりもこれからの事後処理・・・書類地獄が怖いけどね。どれだけ山ができているのか・・・あははははは」

「・・・それに関しては私はがんばれとしかいえんぞ。そもそもそんなに溜まっているのならなぜ北米に?」

「まぁ北米の視察は今月中旬に予定してたんだが、それを早めただけだよ。それに木馬がジャブローに降りたら北米にも何らかのアクションが近いうちに起る可能性もあるし。木馬のモビルスーツの実戦データを他のモビルスーツ、それこそ鹵獲されたこちらのモビルスーツに移植でもされたらそれだけでも脅威となるはずだ」

「その予防の為か・・・北米の部隊ですぐに動かせそうな部隊はそちらにあるかな?」

「一応北米にいるうちの遊撃戦力の中でも、かなりの戦力を保有する部隊を3つ準備させている。南米降下のコースは一歩間違えたら北米降下コースになるからね」

「流石だな、抜かりはないということか」

「備えあれば憂い無しという諺があるが、準備するにこしたことはないよ」

「違いない」



連邦軍ルナツー基地

「それでは補給の終わったサラミス級巡洋艦、マダガスカルを案内につける。大気圏突入時にはサラミスの突入ポッドの先導に従いたまえ」

「ワッケイン少佐、パオロ艦長は・・・」

「重症だったが命の危険はなくなった。だがしばらくはここの医療施設に入院し、安静にしていなければならない。なおパオロ艦長の指示がここにある。ホワイトベースの人事表だ」

「・・・私が艦長!? ・・・アムロがガンダム2号機、カイ、ハヤト、ジョブ・ジョン、それにリュウが交代でガンタンク要員ですか・・・ガンキャノン1機は予備機?」

「そうだ。ガンダム1号機とガンキャノン2号機、ガンタンク3、5号機は引き続き正規パイロットが運用する。これでホワイトベースはガンダム2機、ガンキャノン1機、ガンタンク3機の6機編成で、場合によっては予備のガンキャノン1機を加えた7機編成で運用していくようにとのことだ」

「難民達は・・・」

「ホワイトベースに乗っている難民はそのままジャブローで降りてもらう。ここの備蓄もジオンの通商破壊でぎりぎりだからな」

「正規兵といってもパイロット数名と若干の機関要員しかいないのに・・・」

「それでもジャブローにたどり着いてもらわねばならん。今の連邦で熟練兵は宝石よりも貴重な存在だ」



アルビオンCIC

「・・・ですから! こっちは決済待ちの書類が山脈になってるんですよ社長!」

「すみません・・・とりあえず北米に降下するのを早めるんで書類はキャリフォルニアベースに運んでもらえますか?」

「わざわざこの山脈を北米に!? どれだけ運送費が掛かると思ってるんですか!! それに加えて完成したてのアルビオンの大破とそれによる建艦スケジュールの乱れ! どれだけの出費だと思っているのですか!!」

「すみません、とにかく頼んだことお願いします!」

「あ、社長! 話はまd」

「・・・社長、通信途中で切っていいんですか? 秘書の娘かなり激怒してますよ」

「・・・次のボーナスは私のポケットマネーからも色を付け足します。それでなんとかなってくれればよいのですが・・・」

「艦長、エルトラン社長、修理母艦ティル・ナ・ノーグ及びムサイ級『ウィドメル』と合流しました」

「社長、それでは・・・」

「ええ、艦長。アルビオンを無事にカタリナまで連れ帰ってください」

「了解です、社長は気にせず北米の視察に専念してください。後武運を」



「で、予想通り南米降下コースだねシャア」

「木馬はこのままだと30分後には大気圏に突入する。おそらく戦闘時間は2分程度だろう」

「で? 木馬を落とせそうかい?」

「・・・現状の戦力でまともに戦えば難しいだろうな。だがこのタイミングで戦えば」

「撃沈することも不可能ではない、更に言えば撃沈はできなくとも降下コースを変更させることは十分に可能。2段構えの作戦かい?」

「戦いは非情さ。そのくらいのことは考えてある」

「戦いはいつも2手3手先を見て行うもの・・・ってことか」

「その通りだ。まぁ会社経営者には釈迦に説法だったかな?」

「ははは。まぁそれはおいとくとして・・・シャア、武運を祈ってる」

「ああ、吉報を待っていたまえ」

お邪魔しているウィドメルの艦橋からシャアとの通信を切ると同時にウィドメル艦長が話しかけてきた。

「エルトラン社長、コムサイの準備ができました。北米のキャリフォルニアベースに降下でよろしいですね?」

「ええ、無理を言って申し訳ありません」

「いえ、ツィマッド社の自走ドック艦や補給部隊には我々もお世話になったことがあるので、そのお礼だと思ってください。哨戒部隊や護衛部隊にとってああいう後方サポートをしてくれる部隊がいることはありがたいんです」

「艦長、本艦はどうします? 援護射撃程度ならできますが」

「本艦の受けた任務はファルメルへザク3機を輸送することだ。コムサイを大気圏突入させる時に余計な注意は引きたくないが・・・」

「できれば艦長、ミサイルの支援射撃をしてもらえると嬉しいのですが」

「ミサイルを?」

「ええ、木馬に搭載されているモビルスーツは驚異的です。シャア少佐のヅダイェーガーといえど苦戦するのは必至、それならこちらに注意を引き付ける一撃を加えた後に撤退すれば・・・」

「だがそれで連邦のモビルスーツが襲ってきたら・・・それにサラミスもいる」

「木馬は南米ジャブローに降下するはず、つまりその搭載機も突入の際には木馬に戻らなければならなくなるはず。それにサラミスはファルメルが牽制するはずですから、1対2となれば逃げに徹するはずです」

「・・・それもそうだな。ある程度の支援はしておくか」



「シャア少佐、ウィドメルが撤退ついでに木馬に対してミサイル攻撃をするそうです」

「そうか・・・敵もモビルスーツを発進させたようだ。ドレン、援護しろ。我々は二手に分かれて攻撃を開始する」

「了解」

「大気圏突入カプセル発進します」

「よーし、発進。ムサイ、ミサイル発射!」

その言葉から一歩遅れファルメルからミサイルが発射された。そしてそれにあわせウィドメルもミサイルを発射する。そしてウィドメルのコムサイが打ち出される。

「社長、本艇も軍用なので狙われる危険があります。よってファルメルのコムサイの後方から突入します」

「お願いします。もしかしたら一働きあるかもしれませんが・・・」

「本艇の武装はバルカン程度です。戦闘には役に立たないかと思います」

「いえ、大気圏突入で回収が遅れた機体の下に回り込めばあるいは・・・」

「・・・なるほど、たしかにその方法なら直接大気の摩擦熱で燃え尽きることはありませんね。ですが誰もやったことがないので未知数です。もし機体に接触したら諸共に・・・」

「ええ、ですが助けれそうなら助けたい。そう思っています・・・まぁそんなことならないように祈りますが・・・」

「ですがそういうのは嫌いじゃないです。スリルのある救出劇上等ですよ」

そして戦闘は続く。ザクの攻撃がサラミスの突入艇に命中し、その回収の為に木馬が突入コースを外れたりしたがそれは原作通りだったから置いておく。シャア少佐のヅダは白いガンダムを狙い、残り3機はプロトガンダムを相手にしていた。戦闘中にプロトガンダムのビームライフルでジェイキューが、ビームサーベルでコムのザクが撃墜されたがそこで時間切れになったらしくプロトガンダムは木馬に撤退していき、それをクラウンが追撃していった。

「まずいですね。あのザク深追いしすぎです。このままでは・・・」

「・・・割り込む準備をしときます。もうちょい艇を前にだしますんで注意しといてください」

「わかりました。ですが木馬も機銃を撃ってるので注意してくださいよ(一歩間違ったら死ぬっていうのになんで落ち着いてるんだろうね私は? ストレスで死への恐怖が一時的に麻痺してるんだろうかねぇ?)」

ここで死んだらこのSS崩壊しかねないんで今回は死にはしないよ。『今回』はね。

「・・・? 社長、どうなされました? 変な顔されて」

「・・・いえ、なんでもないですよ(なんか変な電波が着たような・・・気のせいだろうな。うん、絶対気のせいだ)」

そんな会話をしていた社長だが、予想外の事態が起きた。原作通りならクラウンを落とすのに固執しそのまま大気圏突入するはずだったのだが、なんとクラウンのザクとの距離を一気に詰めてビームサーベルで『真っ二つ』にしたのだ。そう、原作なら大気圏で燃え尽きるはずだったクラウンが『ビームサーベル』で戦死したのだ。

「・・・ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こす、バタフライ効果とはよく言ったものだな」

「は?」

「いや、独り言です。気にしないでください。ところで木馬の降下地点は分かりますか?」

「ええ、北米降下コースです。ジャブロー降下は阻止できたようですね」

「シャアと交信はできますか?」

「もうすぐ電波障害がおきるので短時間しかできませんがそれでもいいのであれば」

「お願いします」

「了解しました。 ・・・繋がりました、どうぞ」

「ありがとうございます。 ・・・シャア、聞こえるかい?」

「ああ、エルトランか。聞こえている、用件はなんだ?」

「私はキャリフォルニアベースに降りるから後は頼むよ。一応ガルマも知ってるとは思うけど、VF地上軍の精鋭部隊を準備させると伝えておいてくれないか?」

「わかった。 ・・・しかし白いモビルスーツ、反応が早くなっている。一筋縄ではいかんだろうな」

「ああ、シャアも気をつけてくれ」

そう言って私は通信を切った。木馬を見るとガンダムを収容したらしく、木馬の周りには何もなかった。

「連邦の新造艦が北米に降りたとなるとそちらも大変になりますね」

「大丈夫、うちのVFの精鋭なら問題はないよ。新型機を装備した部隊が展開しているからね」

「噂のドム部隊ですか・・・しかし噂では経営がやばいとか?」

「ええ、ただでさえ会計ごまかして重役を黙らせているってのにどっかの誰かさんの嫌がらせで色々とっと、今のオフレコでお願いしますよ」

「(汗)・・・がんばってください。本艇はこれより大気圏に突入します」

「ファルメルのコムサイは?」

「既に大気圏突入中です」



「無線が回復したら大陸のガルマ大佐を呼び出せ」

「二段構えの作戦が功を奏しましたな」

「ああ、だが連邦のモビルスーツのパイロットも只者ではない」

「ガルマ大佐です」

「ん」

「よう、なんだい? 赤い彗星」

「その呼び名は返上しなくちゃならんようだよ、ガルマ・ザビ大佐」

「はははは、珍しく弱気じゃないか」

「敵のV作戦って聞いたことがあるか?その正体を突きとめたんだがね」

「何? ・・・以前エルトランから噂として聞いたことはあるが詳しくは知らないな」

「そのおかげで、私はザクを八機も撃破されてしまったよ」

「君らしくないな。そんなにすごいのか?」

「そちらにおびきこみはしたが油断はするなよ。後程そっちへ行く」

「忠告はありがたくいただくよ。ガウ攻撃空母を含めた航空戦力で迎え撃つ」

「ああ、それとエルトランから伝言を言付かっている。VF地上軍の精鋭部隊を待機させるそうだ。彼自身はキャリフォルニアベースに降りるらしい」

「そうか・・・わかった、ありがとう」



「緊急出動だ、VFの航空隊にも出動要請をしろ」

「はっ!」

「本基地の全ての航空戦力は?」

「今いる戦力でしたら・・・ガウ攻撃空母1機、ドップ1個大隊、空中給油機3機です」

「報告します! 哨戒中の偵察機が敵の新型戦艦が降下していると通報してきました」

「シャアの言っていた艦か・・・ポイントはシャアの示した地点と一致しているな」

「このエリアにはマゼラアタック部隊が駐留しているはずです」

「よし、ガウにザクを乗せて出撃する。現時点でぶつけられるだけの戦力をぶつけるぞ、準備しろ!」

「「了解!!」」



あとがき:

年末で糞忙しく、更に学校の課題(あんまり進んでいない)片付けなきゃいけないのになんで作ってるんだろう俺orz
いっそ正月1日で閑話でも作ってUPしてやろうかと画策中w
・・・まぁとりあえず、皆さんよい年末年始を~



[2193] 閑話2
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:41f3ff5a
Date: 2008/01/01 20:15

ツィマッド社特別試験部隊、通称VFは地球上では主に北米、オーストラリア大陸を中心に活動を行っている。
そしてその中の部隊の一つ、ケーニッヒス・パンツァーは北米のとある連邦軍野戦基地を襲撃していた。これはミデア輸送機によって送り込まれた連邦のゲリラ部隊の拠点のひとつだった。

「ソンネンより各車へ、目標を捕らえているか?」

「こちら2号車、射撃準備完了」

「3号車、準備完了」

「4号車いつでもOKです」

「5号車、砲撃体勢を取りました」

「こちら6号車、目標はまだ気がついていません」

「よ~し、戦争を教えてやれ。砲撃開始!」



数分後、連邦軍の基地は30cm砲を大量に叩き込まれ燃え盛っていた。

「案外あっけなかったですね大尉」

「クルツ、油断はするなよ。気を抜いたときに敵さんはやってくるもんだ・・・こんな風にな!!」

そう言って30cm砲を発砲する量産型ヒルドルブ、その数秒後には茂みの中に隠れていたXT-79駆逐戦車が直撃を受けて茂みごと吹き飛ばされた。

「こちら2号車、潜んでいた駆逐戦車撃破! これよりポイントを移動します。 ・・・マイヤー、作戦エリアγ-17へ移動してくれ」

「こちらマイヤー、了解しました」

「さすがだなシュトライバー、すまんが3、4号車を率いてポイントΣ-97に移動してくれ」

「ソンネン少佐、なぜですか?」

「どうもその地点で連邦の輸送機を見たと言う地元住民からの連絡があった。連邦のコマンド部隊の可能性が高い」

「こりずに来ますね連邦の部隊も・・・」

「俺と5号車は残敵掃討をしてから向かう。お前さんはもし敵を発見したら殲滅しろ」

「了解しました。3号車、4号車聞いていたな? これよりポイントΣ-97に向かう」

「こちら3号車、ポイントは山間部ですね。このデカブツで侵入できますか?」

「4号車です、万一足場が崩壊して転落って事態になったら洒落になりませんよ」

「シュルツ、ハンス、言いたいことはわかる。だがそんなことにはならん。ミデアが着陸できそうなポイントは限られているから、現地に展開している部隊と協力して偵察すればいい。おしゃべりはここまでだ、パンツァー・フォー」

「「ヤボール」」



現地に着いた量産型ヒルドルブは現地で偵察を行っていた歩兵部隊と合流、現状の把握を行っていた。

「つまりこの山間部の渓谷に着陸したと?」

「ええ、地元の猟師が目撃したそうです。我々が調べたところ、ここの地盤はミデアの簡易滑走路として十分な耐久力を持っています。猟師には報奨金を既に渡しておきました」

「敵戦力は?」

「我々がここに来たときには確認できませんでした。輸送機2機分とのことですが、おそらく既に移動したものと思われます」

「・・・渓谷沿いに移動するとしても、通常車両では難しい。となると輸送機が運んできた物は歩兵、あるいは・・・」

「モビルスーツ、ですか?」

「ああ、モビルスーツならこの渓谷沿いに移動できる。しかも渓谷の上流には我軍の補給基地があるし、下流には水力発電所があるな」

「・・・この基地と発電所の防衛戦力は?」

「たしか・・・発電所にはマゼラアタック1個小隊が、補給基地の方は作業用の旧ザク2機しかいません。旧ザクの方はハンドガンを携帯しているはずですが・・・」

「戦力的に当てにできないか・・・」

「・・・あれ? この補給基地、3日前に新兵器が搬入されたと記述がありますが?」

「ああ、なんでもエルデンファウストという武装だそうです。実戦テストの為運び込まれたとか」

「どんなものなんだそれは?」

「詳しくは・・・ただシュツルムファウストに似ているとしか」

「とりあえず2号車はこの補給基地に向かう。3号車は発電所へ、4号車はこの場で待機し臨機応変に対応しろ」

そして別れる3両の量産型ヒルドルブ、だが分かれて十数分後に補給基地から敵襲との報が入った。



「補給基地まであとどのくらいだ?」

「およそ10分です。補給基地が呼び出しに答えなくなって既に9分経過しています」

「しかしこの補給基地、渓谷に作られている為北と南が通路、東と西を崖に囲まれています。よって補給基地のある窪地に侵入したら使える武装がマシンガンだけになります」

「マシンガンはともかく、30cm砲が命中したらほぼ確実に崖崩れが起きます。つまりマシンガンくらいしか我々には有効な武器がないということですね」

「まぁこういうケースもあるだろう。マシンガンでも十分通用する相手なのだろう?」

「はい、最後の通信で敵の戦力はおおまかですが判明しています。旧ザク2機とザニー1機です。こちらのマシンガンが旧式の120mmマシンガンといえど、十分通用する敵です」

「まぁ3号車は発電所に待機させているが、4号車はこちらに向かっているらしいからもしマシンガンがやられても十分手はある」

「陽動の可能性もありますからね」

「そうだ、まぁ万が一に備えるというやつだ」

そんなこんなで話をしている間にも補給基地との距離は詰まっていき、基地から黒煙と炎が立ち上るのを視認する距離まで近づいた。

「センサーを赤外線とレーダー重視に変更、ソナーは爆発音でかき消されているから最小限でいい。・・・・・・よし、敵を発見した。前方の崖の影に1機、その奥の崖上に1機だ。まずは突進し一気に距離を詰めろ!」

その命令と共に一気に量産型ヒルドルブは加速し、崖の影に隠れている敵機目掛けて突進する。これに慌てたのか影から旧ザクが飛び出し、この補給基地の備品と思われるMMP-80 90mmマシンガンを連射してきた。

「MMP-80マシンガンは通常のザクマシンガンよりも貫通力を強化されているといえど、こいつの正面装甲を貫通することはまずない。落ち着いて狙って撃破しろ」

「目を瞑っても当てれますよ。落ちろ!」

その言葉と共に両手に装備された120mmザクマシンガンが火を噴き、真っ直ぐ旧ザクの正面装甲に直撃し穴だらけにしていった。流石に量産型ヒルドルブのような化け物を相手にするとは考えていなかったのだろう。動揺したのか崖上に展開していたザニーが手に持っているシュツルムファウストらしきものを発射してきたが、それと同時に120mmマシンガンをザニーに叩き込んだ。飛翔したシュツルムファウストは量産型ヒルドルブの頭上で炸裂、千個近い子弾頭に分裂し量産型ヒルドルブを子弾頭の炸裂が襲った。

「くっ・・・やってくれる。モビルスーツサイズのクラスター爆弾がエルデンファウストの正体というわけか。都市部の制圧に役立ちそうだな」

「シャイセ!! 120mmマシンガン両方破損! 30cm砲も損傷したようです!」

その言葉と同時に燃え盛る補給基地の残骸に偽装していた最後の旧ザクがヒートホークを構えて飛び出してきた。相手と距離はある程度離れてはいるものの、相手はこちらに損傷を負わせることのできるヒートホークを構え、こちらの射撃装備は皆無となっていた。普通の指揮官なら後退し距離をとって、その後に増援と共に攻撃するだろう。だがシュトライバーが下した結論は違った。

「マイヤー、旋回し敵に向かって突撃しろ!」

「はい!? 本気ですか!」

「距離をすぐ詰められるぞ、急げ!」

そして旋回し、急ザクに向かって量産型ヒルドルブは突進した。距離も詰まっていたこともあり、旧ザクは量産型ヒルドルブの車体にぶつかりヒートホークを取り落とし、くの字の姿勢のまま崖に激突し真っ二つになった。

「見ろ、これが敵の死だ!」

「・・・大尉、むちゃくちゃしますね」

「今更すぎるぞクルツ、大尉の無茶は昔からだ」

その後、この地域に展開した連邦軍部隊は全滅したと判断しケーニッヒス・パンツァーのヒルドルブ部隊は撤退した。

このようなジオン占領下での小競り合いは連邦の地上兵力の4割近くが動員されたオデッサ作戦が終了し、結果的に正面戦力が不足しゲリラ戦をする余裕が一時的に無くなった連邦が一時中断するまで続くこととなる。



あとがき(連絡事項含)

12時間くらいで作った作品なんで荒いかと重いますが、今回はホワイトベースが北米に降下するまでに起った戦闘の一つといったシーンです。実際にはモビルスーツ対戦車や歩兵といったこともありますがまた閑話もしくは本編の大規模戦闘の中で書こうと思ってます。で、今回のびっくりどっきりメカ(違)は前に感想で頂いたこいつです!

・エルデンファウスト
対地掃討用のMS用使い捨てロケット弾。発射後、千個近い子弾頭に分裂し数百mの範囲を攻撃する。主に対歩兵、軽装甲車両を攻撃するための装備なので子弾頭1発の威力はそれほどでもない(別バージョンとして対戦車地雷散布タイプなども存在する)。広範囲に散布するためにはある程度の距離が必要なため水平発射するとただのロケット弾と変わらなくなる欠点がある。対MS用ロケット弾であるシュツルムファウストとサイズ的には同じなのでウェポンラッチに共通して装備可能。

上記が頂いたアイデアで、付け加えるならシュツルムファウストより弾頭部が大きく、射程は短いが市街戦での歩兵によるゲリラ攻撃用に開発された広域攻撃兵器といった設定で登場させました。

なお連絡事項ですが、感想は感想掲示板のほうにお願いします。理由ですが荒しが出ても対処できるのではないかと思っているからです。
あと・・・新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

・・・戦車兵の名前ですが、いいキャラ思い浮かばんかったからパンフロからゲスト出演ということで(超新星爆)



[2193] 24話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:88e01d86
Date: 2008/02/24 17:56
ツィマッド社奮闘録 24話

「いよう、シャア。君らしくもないな、連邦軍の船一隻にてこずって」

「言うなよガルマ。いや、地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐とお呼びすべきかな?」

「士官学校時代と同じガルマでいい」

「あれが木馬だな?」

「うん。赤い彗星と言われるほどの君が仕留められなかった船とはね」

「わざわざ君が出てくることもなかったと言いたいのか?」

「いや、友人として君を迎えに来ただけでもいい、シャア」

「大気圏を突破してきた船であるということをお忘れなく」

「ああ。その点から推測できる戦闘力を今、計算させている。君はゲリラ掃討作戦から引き続きだったんだろ? 休みたまえ」

「お言葉に甘えよう。しかし、ジオン十字勲章ものであることは保証するよ」

「ありがとう。だが私はガウから指揮を取らせてもらうよ。指揮官が出撃しては部隊の統制が取れないからね」

「・・・ふむ、ガルマ、将として成長したか?」

「いや、前に『将は軽々しく戦場に出ず大局を見極め、己の武勇ではなく配下の部隊を持って戦うんだ』と言われてね。私は少し焦っていたのかもしれないと思い自分を見つめなおし、広い視点から物事を見るべきだと考えたんだ」

「ほう・・・ドズル中将もその成長ぶりなら泣いて喜ぶだろう」

「・・・嬉しいんだけど、ドズル兄さんの抱擁は少し遠慮したいな。 ・・・抱きしめる力が強くて痛いんだ」

「・・・諦めろガルマ、君の生まれの不幸を呪うがいい」

「洒落になっていないこと言うなよ!?」

「まぁそれはさておき、木馬に搭載されているモビルスーツは強力だ、注意したまえ」

「分かっている。VFから回ってきた情報では3タイプいるそうじゃないか。急いでいたから回された情報全てに目を通してはいないが推測される運用方法と武装くらいなら知っている」

「特に黒い奴と白い奴は気をつけるんだ。あれは戦艦並のビームライフルを装備している」

「ああ、慎重にやるさ」

「ガルマ大佐、VF航空部隊接近中です。編成はDFA-07、ジャベリン戦闘爆撃機30機に給油機2機、空中指揮管制機が1機だそうです」

「そうか・・・ハンブル、お前達はそのまま前進し追跡しろ。ゲビル隊が前に回ったら攻撃を掛ける、ゲビルゆけい!」

「了解! ゲビル戦隊、行くぞ!」

そしてゲビル隊が出撃してしばらくすると、木馬が降下し始めた。

「山を盾にしようとてそうはさせぬ。地上部隊を前進させろ。敵艦を補足、占拠するぞ」



「マザーよりブルーランス各隊へ、異常は無いな? 無ければ敵新型艦への攻撃の準備をせよ」

「こちらブルーランス第二中隊、問題無し」

「同じく第一中隊もいけるぞ。すでにドップが攻撃を開始している、こちらも仕掛ける」

「分かっていると思うが、今回君達の機体に搭載されているのは小型ロケット弾で、敵艦の対空砲火を潰すことが目的だ。敵艦はミノフスキークラフトで飛行しているからレーダーは当てにしすぎるな。攻撃を開始せよ!」

「了解、これより攻撃を開始する!」

既に木馬にはドップが攻撃を仕掛けていた。だがドップのメイン武装はミサイルとバルカンと木馬に損害を与えるには中途半端な代物だった。ミサイルは木馬の発するミノフスキー粒子によって誘導が妨害され、更に近づくと対空砲火の洗礼を受ける羽目になった。ドップという格闘戦に優れている戦闘機にとって木馬のような大気圏内を航行する戦闘艦は苦手な部類だったのだ。せめて爆撃機であるドダイならもっと打撃を与えれただろうが、空の敵=戦闘機で対処という構図が少なからず存在する為用意されてはいなかった。まぁ単純にドダイが出払っていたということもあるのだが。
そして攻撃を避けるかのように低空に下りた木馬からモビルスーツが発進した。史実ならガンタンク1機のみだったのだが、実際に発進したのはガンタンクが3機にガンキャノン1機だった。

「あれが噂の連邦モビルスーツか・・・まぁこっちはこっちの仕事をするか」

「こちら管制機、攻撃目標に変更なし。ブルーランス隊は木馬に攻撃せよ」

「了解、上面の機銃座を狙うぞ。攻撃開始!」



「申し上げます! あの戦車は報告にあった新型のモビルスーツの一種です。ルナツーでの戦闘で確認されております。こちらがそのデータで、火力が並みの戦車のようでないとのことで、地上部隊に損害が出ております」

「新型モビルスーツ? あれがか? 赤いのはともかくあの戦車もどきが連邦の新型モビルスーツだというのか? ・・・ハワイ攻略作戦時にVFが痛い目に合わされたRTX-44のようだが、あれが資料に書かれていた長距離支援機と判断すべきか・・・」

「たしかVFからの報告書に画像データが含まれていたはずですが・・・」

「見ていなかった資料に画像データ等が含まれていたのか・・・そのデータはここにあるか?」

「は、こちらがそのデータと画像ファイルです」

「・・・武装はキャノン砲と腕部にミサイルランチャーか。 ・・・だが機動性は悪そうだな。やはりVFの推測通り長距離運用機を判断すべきだな。ザクを出撃させろ、接近すればおそらく容易いだろう」

「は」

「包囲部隊に告げたまえ、海に逃がしてしまっては連邦軍の制空圏内に飛び込まれるかもしれぬ、これ以上連中を前進させるな、とな。よいな?」

「は、かしこまりました。それとVF航空部隊が木馬に攻撃を開始、ロケット弾で木馬の対空火器を破壊しているようです」

「・・・なるほど、今回は敵の抵抗手段を取り除くということに専念しているということか。たしかに効果的で安全だな、誘導が効かず搭載している数も少ないミサイルではなく最初から撃ちっぱなしで数も多いロケット弾なら」

「ですが木馬の装甲を貫通はしていないようです」

「当然だ、仮にもあれは大気圏突入をした艦だろう。元々威力が低い小型ロケット弾では機銃座やセンサーを破壊するので精一杯なはずだ。艦橋の窓もロケット弾の直撃を受けて無事な物を使っている可能性だってある。だがそれはそれで都合がいい」

「センサーを破壊できれば木馬の行動も大きく低下しますし、機銃座等は言わずもがなですな」

「そうだ、木馬はVF航空隊に任せるとして、ハンブルとゲビル、それに地上部隊にはモビルスーツを狙え。ただし決して無理をするなと言え」

「は、了解しました!」

だがザクがガウから降下すると同時に、ガンタンクの内1機が木馬へと帰還していった。それをガルマは補給又は艦からの砲撃だと判断したが・・・



ガウから降下したのはマシンガン装備のザク2機とバズーカ装備のザクであった。ただしザクといっても陸上戦も可能というレベルのノーマルなF型ではなく、陸上用に改修されJ型に匹敵するF型で、脚部には3連ミサイルポッドが装備されていた。また、降下した3機の内マシンガンを装備する2機にはナックルシールド(スパイク付)を装備しており防御力の向上を図っていた。ただ、このスパイクシールドはマシンガンやガンタンクのポップミサイル等ある程度の攻撃は防げるが、表面積が小さく防御できる範囲が狭い為に右肩のシールドと併用して防御を行う必要のある代物だった。それゆえ海兵隊等の一部の将兵には好評だったのだが、さすがに技量の低い一般兵には扱いづらかったらしい。

攻撃を開始したザク3機は最初こそマゼラアタックと連携してガンタンク1機を中破(左肩のキャノン砲を破壊した)させる戦果を上げたが、そこまでだった。なぜなら・・・2機のガンダムが木馬から出撃したからだ。2機のガンダムはビームライフルを撃ちまくり、マゼラアタックやザクを血祭りにあげていく。前衛のザク2機はスパイクシールドと肩についている固定盾でふせごうとしたが、戦艦並みのビーム砲相手じゃ意味が無い。盾ごと機体を貫かれ爆散してしまう。

「ば、バケモンか連邦のモビルスーツは!? う、うわああああああ!!」

そう言って最後のバズーカを構えたザクは白いガンダムのビームサーベルによって真っ二つにされ爆発し、マゼラアタックに至っては蹴飛ばされて破壊される車両もいた。

一方VF航空隊はといえば・・・・・・弾切れになっていた。1機につきロケット弾を160発装備していたのだが、文字通りあっという間になくなったのだ。

「こちらブルーランス第一中隊、全機がロケット弾を撃ちつくした。帰還許可を求む」

「同じく第二中隊、こちらも弾切れだ。30mmガトリングは残っているがあれ相手には役に立たんだろう」

「こちらマザー、了解した。こちらからガウに連絡を入れておくので燃料の少ない機から順次燃料を給油し基地へ帰還せよ」

「了解、これより帰還する」

「しかし・・・話には聞いていたが無茶苦茶だな。どれだけ厚い装甲してるんだ?」

「ザクの装甲を紙のように貫いていたな。あんなのが量産されたらそれこそ気化爆弾を集中投下でもせんと破壊できないんじゃないか?」

「それでも倒せるか不安なとこがあるが・・・まぁいい、俺達は俺達の仕事でベストを尽くすのみ、帰還する」



「VF航空隊より連絡、『我残弾無し、戦闘続行不可。これより帰還する』以上です!」

「・・・我々も基地へ帰還する」

「このまま帰還するのですか? 大佐」

「見ただろう敵の威力を、現在の戦力では仕留めることはできんよ。可能であればあれを無傷で手に入れたいが・・・無理だろうな。だがあれは今度の大戦の戦略を大きく塗り替える戦力だ。奴らをこの大陸から一歩も出すな、私の監視の目の中に泳がせておけ」



一方その頃エルトラン社長はというと・・・



キャリフォルニアベース VF北米方面司令部

VFの北米方面司令部にある大会議室にツィマッド社社長のエルトランはきていた。 ・・・大会議室という比較的大きい空間に十数人の人間は少なく感じてしまうが、ここにいる十数人はVF北米方面軍の主要部隊の人間だった。

「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもない。連邦の新型艦が北米に降下しガルマ大佐が現在討伐に向かっているのは知っているか?」

「おかげでうちの航空隊の連中が出撃しましたからおおまかは」

「たかが1隻の戦闘艦ですよね? 資料を見る限りアルビオン級と似たようなもんだと思いますがそんなに強いのですか?」

「まぁ手ごわいからこそ俺達が集まってるんだろ。で、社長? 実際どうなんです?」

「そうだね。艦自体ではなく搭載しているモビルスーツが脅威的だ。資料の43ページをめくってくれ」

一斉にページをめくる音が響き、めくられたページには写真付で連邦のモビルスーツの推測が書かれていた。

「簡単に説明していくが詳しくは各々見ておいてくれ。見ての通り、通称『黒い奴』及び『白い奴』だが、こいつが手ごわい。正式名称はRX-78ガンダムといい、戦艦並みのビームライフルを携帯し、更に機動力もありビームサーベルを2本も装備しているので接近戦も十分こなせる。頭部にはバルカン砲が搭載されており、ザクでも当たり所によっては撃破される威力を持つ。しかも装甲はルナチタニウム製と思われザクのマシンガンを弾き返す防御力を持っている。次に肩に大砲を持つ赤い機体、RX-77ガンキャノンだ。両肩にキャノン砲、口径は分からないがおそらく200~260mmと推測されるが、それを搭載している。こいつもビームライフルを装備しており、ルナツー付近での戦闘で使用されている。おそらくザクキャノンのような中距離支援型の機体だろう。最後にこのモビルアーマーのようなタンクもどき・・・はっきりいえばモビルスーツの出来損ないの戦車みたいなのがRX-75ガンタンク。おそらくRTX-44 を発展させた機体と思われ、推定100~180mmの長距離砲を装備していることから長距離支援型の機体だろう。腕部はマシンガンのような速度で小型ミサイルを発射するミサイルランチャーでこれは近距離用の武装だろう。以上が諜報部とこれまでの戦闘で判明したものをまとめたものだ」

そう言ったら皆がため息をついた。

「最後二つはともかく・・・そのガンダムっていうのは連邦の試作機ですよね? こんなんが量産されたら洒落になりませんよ」

「おそらく性能実験機ではないか? そうでもないと説明がつかん」

「私もそう思う。モビルスーツ技術に関しては我々の方が上だが、量産を一切考慮しなければこれくらいの性能は連邦にも出せるはずだ」

「皆が言ってくれた通り、私はこの機体が実験用のワンオフ機・・・まぁ2機いるから試験用の少数生産機だと判断している。できれば鹵獲したいが難しいだろう。そこで・・・」

「失礼します!」

そこにいきなりVFの連絡兵が入室してきた。

「ん、どうしたんだい?」

「は、報告します。つい先ほど木馬攻撃の為に出撃させていた空中警戒機から連絡があって、ガルマ様率いる部隊が撤退したそうです。ザク3機とマゼラアタック隊等少なくない数が破壊されたようです」

「出撃した部隊の損害は?」

「未確認ですがザク3機、ドップ8機、マゼラアタック12両が少なくとも破壊されております。なお戦闘に参加したブルーランス隊の損害は軽微とのことです。こちらが戦闘記録です」

「ご苦労さん。それじゃこの映像データを見てどんな風に戦闘になったのか確認しようか」



戦闘記録閲覧中です、しばらくお待ちください・・・



「・・・で、結論からいえば木馬の対空能力を低下させることには成功している。更に映像を見る限りドップの攻撃が木馬のエンジンに命中しているから若干パワーダウンしている可能性もあるな」

「というより・・・相手のモビルスーツの被害が戦車もどき1両中破っていうのはなぁ」

「それよりビームの方が脅威ですよ。いくら大気圏内でビーム兵器の威力が落ちるといってもあれではいくら装甲を厚くしても危険です」

「俺のヒルドルブでも接近されると危険だな。幸いスモークディスチャージャーの増設に伴ってビームかく乱幕とチャフ等を装備したから一度なら防げそうだが・・・油断は禁物だ」

「まぁビーム対策にいくつか案を用意しているからこちらに任してほしい。北米方面に展開するVFの中でも最も本作戦に適していると思っているからこそ君達を招集したんだ。これから作戦会議に移ろうと思う。まず第一段階として木馬の進路を見極めねばならない。私の予想では木馬はミノフスキークラフトを最大限に生かすためにグレートキャニオンを通過すると思う。この通過中に嫌がらせをしてミッド湖周辺で片をつけたい」

「ですがそのルートを通ると言う確証はないのでしょう?」

「ああ、その通りだ。まぁ別のルートを取るのであればその都度作戦を変更するが、今はこのルートを通るものだと仮定して話を続けるよ。ミッド湖周辺は草原等が広がっており大部隊の布陣が可能だ。ここにガルマ率いる北米方面軍の正規軍を展開させるが、これは保険だ。勝負をかけるのは木馬がグランドキャニオンにいる間、または出た直後だ」

「ということは・・・グランドキャニオンにいる時に襲撃を繰り返し、痺れを切らしたときに一網打尽ということですかい?」

「そうだ、具体的に言えばグランドキャニオンに武装サムソン、これは牽引しているドーリーに多連装ロケット砲やマゼラトップ砲を装備したものだが、この砲撃部隊を展開し一斉砲撃しては逃げるといった戦術を取る。これが最初の嫌がらせで重要なのは不定期に攻撃することで木馬の疲労を増すということだ。もちろん航空部隊の高高度爆撃も行わせるし戦闘ヘリによる一撃離脱戦法も取る」

「で、いい感じになったところで一気に決めるということか・・・それなら俺のヒルドルブも参加したほうがよくねぇか?」

「いや、少佐の部隊はクライマックスで使うからこの嫌がらせには使用しない」

「それじゃあ社長、本命の作戦について教えてもらえませんか?」

「ああ、それじゃあ話そう。この作戦の流れとしては・・・・・・」

おっと、ここから先詳しい事は申し訳ないが皆には秘密だよ。ワクテカしながら(してくれたらいいな)待っていてくれたまえ。 ・・・間違っても手抜きじゃないし、この先の展開を考えていないなんてことはないからね!!(汗)



「・・・なるほど、よく分かった。社長の目論見どおりに行けばそうなる可能性は高いな」

「まぁ本当にうまくいけばの話ですけどね。ですがやってみる価値はあると私は思います、木馬を仕留めることはできると思っていますので」

「まぁ社長さんの言う通りやってみましょうか。万が一失敗しても正規軍に押し付ければいいのですからな」

「なお木馬には偵察型コムサイによって高高度から監視を継続しておりますので皆さんの元には定期的に情報が入るので注意してください。本作戦名称はメトロノームです。では社長、この場は解散としますがよろしいでしょうか? 」

「ご苦労さん情報参謀、そういうことで皆がんばってくれ。私はこれから書類という強敵に立ち向かってくるから・・・・・・本社から送られてくる増援の資料の山が来る前に少しでも減らしておきたい・・・」

「・・・・・・自業自得な気もしますが、我々からはがんばってくださいとしか言い様がありません」

「後はイキロですかい?」

「・・・・・・ありがとうというべきかなここは。それじゃあ皆もそれぞれの仕事に精を出してくれ。それでは解散!」

そう言ってその場を後にする各々。なおエルトラン社長は社の高速シャトルでやってきた山のような資料に号泣したとかしなかったとか・・・ただいえることは木馬の運命があと僅かとエルトラン社長が考え、それを裏付けるようにその舞台準備が整えられているということだろう。





注意事項:以後後書きや報告事項は感想掲示板のほうに感想と一緒に書きたいと思いますのでお知らせいたします。



[2193] 閑話3
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:88e01d86
Date: 2008/05/23 11:31



キャリフォルニアベース



大気圏突入に成功した木馬とガルマ率いる航空部隊が初めて激突している頃、地球に降り立ったエルトラン社長は真っ先にキャリフォルニアベースの開発陣を一つの広い倉庫に集結させていた。ここに集められた開発陣にはある一つの共通点があった。それは後で説明するとして、集められたメンバーの中には徹夜あけでやたらハイテンションな者もいるが特に問題は無いようだった。

「ウニョラー!!」

「トッピロキー!!」

「キロキローッ」

「オァ~~~~~~~~」

「おい、誰かそこの暴走してる第9研究チームを取り押さえろ!」

「というよりなんだそのくどい顔で長く鳴くネコは!? 気が抜けるからさっさと摘み出せ!!」

「はぁ~、さっぱりさっぱり・・・赤色の妖精が見える俺はもう末期か、あはははは」

「うふ、うふふふふ・・・・・・薬剤分が足りない、もっと調合しなきゃ・・・」

「だいこんらんデス、だいこんらんDEATH♪」

「ん? たしかあいつら特殊塗料を開発してた16研チームのメンバーだよな、塗料でラリってるのか?」

「いや、それより落ち着かせろよ。騒々しさが寝不足の頭に響いてつれぇ・・・」

「じゃあ黙らせるか・・・うるせぇぞ糞虫ども!! さっさとそのファッキンマウスを黙らせろタマ落とされてぇか!!」

「・・・まずてめぇが黙ってろ!!」

・・・訂正、疲労やストレス、何かの禁断症状っぽいのが発動しており場は混迷を極めていた。まぁそれは現れたエルトラン社長がどこからか調達してきたショットガンをぶっ放す(当然空砲だったが)ことで落ち着き、それから社長の暴走した演説が始まった。初めはなんだろうと思っていた少数の常人は演説が始まった途端その内容に顔が引きつったがそれは些細な問題だった。


「諸君、私は兵器が好きだ。諸君、私は兵器が好きだ。諸君、私は兵器が大好きだ。
車両が好きだ、携帯装備が好きだ、航空機が好きだ、戦闘艦が好きだ、潜水艦が好きだ、航宙機が好きだ、モビルスーツが好きだ、モビルアーマーが好きだ。

平原で、街道で、塹壕で、草原で、凍土で、砂漠で、海上で、空中で、泥中で、山岳で、湿原で、月面で、暗黒宙域で、衛星軌道上で、要塞で、アステロイドベルトで、この世界で戦う、ありとあらゆる兵器が大好きだ。

新しく開発された兵器が好きだ。
工場から輸送される真新しい兵器の群れを見た時など心がおどる。

熟練兵達の操る戦闘艦の攻撃で 戦艦を撃破するのが好きだ 。
爆発する戦艦から脱出した大気圏突入艇を拿捕した時など胸がすくような気持ちだった。

対艦装備のモビルスーツが敵艦隊を翻弄するのが好きだ。
恐慌状態の新米パイロットが既にスクラップになっている敵艦に執拗に射撃を加える様など感動すら覚える。

旧式化した機体で懸命に戦う様はもうたまらない。
自分達が精鋭だと思い込んでいる敵部隊が、指揮官の下した命令とともに
旧ザクのマシンガンで吹き飛ばされるのも最高だ。

廃墟と化した街に立てこもる連邦軍が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを、モビルアーマーの一斉砲撃で都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える 。

連邦軍に滅茶苦茶にされるのが好きだ。
必死に守るはずだった人々や同僚が蹂躙され殺されていく様は、とてもとても悲しいものだ。

連邦軍の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。
鹵獲された兵器を解析され連邦に利用されるのは屈辱の極みだ。

諸君、前線は兵器を、地獄の様な兵器を望んでいる。
諸君、ツィマッド社の技術開発に関わる諸君。
君達は一体 何を望んでいる?

更なる技術開発を望むか?
情け容赦のない 糞の様な技術革新を望むか?
つい先ほど開発された技術が骨董品になるような嵐の様な技術進歩を望むか?」


ここでいったんエルトラン社長は言葉を区切り辺りを見回した。そして・・・・・・


 「「「開発!! 開発!! 開発!!」」」


徹夜明けでハイになっている数人(若干名サクラ有り)からの叫びを始まりに、あっという間に開発コールの大合唱が倉庫を揺るがす。ある意味一種の洗脳だ。そしてそれは巡回中の兵士が何事かと驚くほどの音量だった。


「よろしい、ならば技術開発だ。
我々は技術開発によって新しい兵器を量産する工場だ。
だが、暗い開発部の部屋で研究し続けてきた我々に、ただの技術開発で作る兵器ではもはや足りない!!


大開発を!! 一心不乱の大開発を!!


我らはわずかにツィマッド社1社の開発陣にすぎない。
だが諸君は、一騎当千の古強者だと私は信仰している。
ならば我らは、諸君と私で総兵力100万と1人の技術集団となる。

我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。
髪の毛をつかんで引きずり降ろし、眼を 開けさせ思い出させよう。
先のルナツー遭遇戦の報復を我々が諦めていないと思い出させてやる。
連中に恐怖の味を思い出させてやる。
連中に我々の技術力を思い出させてやる。
我々ツィマッド社で木馬を攻略しつくしてやる。

ツィマッド社社長よりここに集まった各技術開発陣へ、第二次対連邦軍新型戦艦改め対木馬兵装開発計画、状況を開始せよ! 予算は用意した!!」


そう言った瞬間、それぞれが一斉に自らの持ち場へと奇声をあげながら走り去って行った。そう、ここにいる技術陣はかつて対木馬兵装開発に携わっていた。正確には連邦軍の開発している大気圏内も飛行できる新型戦艦対策の兵装で、ちなみに第1次で開発された兵器はエルデンファウストだった。今でこそ対地掃討用のMS用使い捨てロケット弾として重宝される兵装だったが元は戦艦のセンサーを破壊するという開発コンセプトの武装だった。が、大気圏内なら航空機搭載型の新型小型ロケット弾ポッドで事足りるということが判明してからはモビルスーツで運用する対歩兵、軽装甲車両用に開発コンセプトが変更され、しかも試作品は連邦軍のゲリラ部隊によって味方に使われる(しかも量産型ヒルドルブ)ということで対戦艦武装としてはある意味失敗であると判断された。
そしてここに来てその連邦の新型艦との戦闘である。しかも既にアルビオンを大破させ搭載していたヅダを撃退した部隊だ。この集まった開発陣にはアルビオンやヅダの開発に関わった人間も多くおり、ここに集められた時は常人だったが今の演説でやばげなスイッチが入った者もいるようで、走り去った者の中には目がギラギラ光っているのもいた。

そしてその後、木馬と戦うVFのパイロット達に技術陣が実践投入待ち、または開発中の兵装を渡して必ず木馬を落とせよと叱咤激励する場面や使い勝手の分からない兵装を持たされ迷惑している実働部隊の姿が見られたがそれは別の話であった。



[2193] 25話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:c766749a
Date: 2008/07/29 14:36
ツィマッド社奮闘録25話

グランドキャニオンの大地の上で何両もの車両が列を成して止まっていた。それは多連装ロケット砲を搭載させたドーリーとそれを牽引するサムソンだった。そして少し離れた所に停車している元連邦軍所属だったホバートラックの中で地図と有線電話を相手にしている者達がいた。

「・・・目標はトラップエリアをたった今通過したそうです。速度は変わらず」

「了解、現地の風速は?」

「・・・それも先程から変わっていないそうです。行動は予定通りにされたしと・・・・・・これ以上無ければ回線を遮断するので回収されたしとのことです」

「了解・・・・・・各車へ命令、予定ポイントに向けて全弾発射せよ! 終了次第逃げるぞ」

その命令が伝わった直後、ドーリーに固定されていた多連装ロケット砲から無数のロケット弾が空へと向けて撃ち出されて行った。そして乗せていた荷物を撃ち終えたサムソンは次々にその場を急速に離れていった。





ホワイトベース

周りに着弾した多くのロケット弾と数発の直撃弾でホワイトベースは揺れて、避難民達が悲鳴を上げる。

「敵の攻撃です! 何発か命中しましたが本艦の被害は軽微です」

「一体どこから攻撃してきているんだ! ブライト、さっさとガンダムを出して反撃しろ!」

「ですが敵影は周りに見えません、恐らくまた長距離からの砲撃です。ならばガンダムを出すのは得策ではありません」

「無駄でもいい、撃ってきたと思われる方向に索敵出撃だ! 敵の砲兵を叩き潰せばゆっくり安眠できるだろう、何度この攻撃を受けていると思っているのだ!」

「ですがそれでは・・・・・・」



ジオンの攻撃で揉めるブライトさんとリードさん、最近艦橋でよく見る光景だ。

「お~お~、やってるねぇブライトさん」

「カイさん、不謹慎ですよ」

「別にいいじゃねーか、ジオンの奴らのせいでストレス溜まってるんだしガス抜きは必要でしょ」

「ですけど・・・・・・」

「やれやれ、まじめだねぇ。そんなんじゃ肩こっちまうぞ」

「アムロ君、カイ君。ガス抜きはいいが抜き過ぎないようにな、いつでも出撃できる状態を保つのがパイロットとしての義務だからな」

「あ、エドワードさん」

現れた青年はホワイトベースの中でも少ない正規兵で、プロトガンダムのパイロットをしているエドワード・J・フォーリー少尉だ。オーストラリアのシドニー出身らしいけどジオンの隕石落としの時はイングランドに移住してたらしく、あまりジオンを憎んでいない人だ。僕達の間ではリュウさんと並んで頼れる兄といった立場の人だ。ちなみにリュウさんとプロトガンダムのパイロットを交代してたりする。

「たしかに連日の攻撃で精神的に弱るのは分かるが、どんな時にも民間人を守るのが軍人というものだ 」

「でもよぉ~、俺達も元々民間人だぜ。もっと俺達にも気を使ってほしいぜ」

「カイ君の言いたいこともわかるがな。連邦軍は今ガタガタだからそのせいで君達の力を借りねばならない。正直すまないと思っている」

そういってすまなさそうに頭を下げるエドワード少尉、そう素直に謝れると逆にこっちが申し訳なく思えてくる。

「そういえば疑問だったんですけど、なんでリュウさんではなくエドワードさんがガンダムに乗っているんでしょうか? リュウさんもエドワードさんも正規のパイロット候補生でどちらがなってもおかしくないと思うんですが」

「ああ、それはリュウの奴より俺のほうがモビルスーツの白兵成績が良かったからプロトタイプに搭乗することになったんだ。リュウはどちらかといえば射撃が得意だからな。ガンダムは汎用性が高いが基本は白兵型の機体だから俺をガンダムに乗せて射撃の得意なリュウがガンキャノン又はガンタンクに乗る。これが俺達候補生の中で噂されてた話だったな」

まぁもっとも、とエドワード少尉は続ける。

「サイド7についてから発表された人事じゃあ、本来ガンダムに搭乗する予定だったのはテストパイロットをしてたケンプ中尉とヴェルツ大尉で、リュウはガンタンクで俺はガンキャノンの予定だったんだわ。だけどその二人が戦死しちまって、俺にお鉢が回ってきただけなんだがね。あの攻撃で友人も何人か死んじまったし」

「す、すいません。余計なこと聞いてしまって・・・・・・」

「別にいいさ、軍に入ってから一応覚悟してたことだし」

そう言った所でカイが疑問に思っていたことを口に出した。

「ん~・・・なんかよぉ、エドワードさんってば余りジオンを敵視して無いみたいに思えるんだけど、そこんところどうよ?」

「そうだね・・・・・・正直なところ、俺はシドニー生まれだけど、物心付いたときにはイングランドに居たから、シドニーが隕石で消滅したと言われてもピンとこないんだ。それにこの戦いはサイド3に連邦政府が長いこと圧力かけた性で戦争になったという取れ方もあるからなぁ。まぁ俺の先生が話してた事なんだが、宇宙移民にとってみれば地球に裏切られたって思うのも無理ないし」

「? どういうことですか?」

「元々宇宙移民は増えすぎた人口を宇宙に出し、地球の環境を修復しようという事からスタートしたんだ。中には強制的に移住させられた人達もいる。だけどある程度移民が出たら政府は突如移民を打ち切り、スペースコロニーを植民地として扱ったんだ。空気すら税の対象にしてね。しかも特権階級は地球でのうのうと過ごしている。これじゃブチ切れるのも無理は無いさ」

「空気に税って、そうだったんですか?」

「おいおいアムロ君、知らなかったのかい?」

「仕方ねぇや、アムロは機械オタクで世間に疎いし、親父は連邦の技術者だったんだからな」

「なるほど、確かに連邦軍の人間ならそこら辺は免除されるからなぁ。 ・・・お、ようやくブライトさん達も終わったみたいだな」

どうやら攻撃の追加が無かったので出撃は無しの方向で決着したみたいだ。だけど艦内の雰囲気はギス ギスしている。不定期に行われるジオンの攻撃で乗組員と他の避難民との軋轢も出てきている。この前 エドワード少尉がコアファイターに乗り、弾道軌道で衛星軌道上から援軍を要請したけどミノフスキー粒子のせいで通信がちゃんと届いたかさえ不明らしい。エドワード少尉曰く『届いていて援軍が来てくれればもうけもの』だそうだ。
これから僕等はどうなるんだろう。



エドワード

アムロにカイと別れた俺は頭を抱えていた。あいつらには比較的楽天的に言ったがこの艦、ホワイトベースの置かれている状況は正直言ってかなり悪い。モビルスーツのパーツや弾薬は元から少なく、本来予備パーツだったものは組み立てられ戦力となっている。つまり予備パーツ自体がほぼ存在しない状況だ。整備班の話では、このまま補給がなければ共食い整備も考慮しなければならないらしい。ホワイトベース自体も主砲こそ損傷していないが、少なくない数の対空砲を破壊されているし、レーダーをはじめ艦体各部に蓄積しているダメージもかなりのものだ。幾ら高性能な機体があっても補給が無ければ、いずれは稼動しなくなるのは目に見えている。せめてサイド7でなし崩し的にクルーになった子供達は生き残って欲しいがな。元から軍人である俺やリュウ、士官候補生のブライトやサラミスからきたリードは死ぬ覚悟はあるだろう。

「ようエド、しけた面してんなぁ」

「グリュードか、ガンタンクの整備が終わったのか?」

俺に話しかけてきたのはホワイトベースで数少ない正規兵パイロットの一人、俺と同期のグリュード・エインフュ少尉だ。射撃が得意でガンタンクに乗っている。ガンタンクの整備をしていたはずだが、もう終わったのか?

「俺のはすぐに。まぁ前回の嫌がらせ攻撃時に出撃してなかったから簡単なチェックで済んだからな。 出撃してたらもっと遅くなってるよ」

「お前のガンタンクは特別だからな」

「まぁ普通のが2人乗りなのに対し俺のは1人乗り用に開発された機体だからな。上半身の回転が可能になったのはありがたいが、コスト削減の為にコアファイターを廃止した性で頭部コックピットで怖い思いをしなきゃならん」

「コックピットのガラスも、一応ザクマシンガンに耐えれるって話じゃなかったか?」

「確かにガラス自体は一応耐えれるんだが、パイロットの精神の方が先に潰れちまう。むき出しのコックピットに弾丸が命中するのは想像を絶する恐怖だぞ? モニター越しとは大違いだ」

そう、幾ら耐えれるといわれていても恐怖心だけは押さえられない。ナイフで寸止めすると言われて振るわれても恐怖を感じるのと同じだ。そう考えるとガンタンクの頭部コックピットに乗るパイロットは勇者だ。

「まぁ、俺の機体みたいなのをジャブローとかで生産してるらしい。噂じゃ量産型ガンタンクとかRX-75MPとか言われてるそうだぞ。勿論コックピットは頭部で」

「・・・どうコメントすればいい?」

せめて胴体内部にコックピットを設置してやれよと思うのは間違ってないと思う。

「まぁ長距離砲撃とかの支援射撃メインだから問題無いと判断したんだろ。実際ガンタンクは長距離支援機だからな。というわけでお前さんは俺みたいな後衛が活躍できるように前衛でがんばってくれよ」

「ふっ・・・了解了解。無事にジャブローに着いたらPXで酒とツマミを買って派手に騒いでやろうぜ」

「お、いいなそれ。それまでお互い死ぬなよ」

「ふっ、お前もなー」

そう言って2人は笑いながら別れた。だがその約束が果たされぬとは、今の二人には知る由も無かった。





「編隊各機へ告ぐ、困難な渓谷低空飛行で今まで1機の脱落も無い事を誇りに思う。作戦名『メトロノーム』が発動されているのは知っているな? 木馬までもうすぐだ、一番槍の我が隊の攻撃で奴らを魔女の大釜に招待してやれ!」

そう言うとレーザー通信から「了解」という声と、カチカチッと言う音が返ってきた。喋る余裕が無いときに多様される了解という意味の合図だ。
彼の背後には一定の間隔を置いて5機の爆装したジャベリン戦闘爆撃機が続いていた。スペック上ではジャベリン戦闘爆撃機は2t爆弾を4発装備できるが、機体の操縦性を重視し2発のみにして亜音速で、マッハで言うならマッハ0.7前後、時速860km程の速度でグランドキャニオンの渓谷を飛行している。まぁ当然860kmというのは渓谷内で出す最高速度で、カーブが多いポイントは失速ギリギリまで速度を低下しているが、危惧されていた操作を誤って渓谷に激突という自体が起きていない事からもこの部隊の優秀さが伺える。そしてついに目標を捕らえる。

「む? 赤外線センサーの反応増大するも機能低下中・・・各機へ、目標を捕らえたぞ。爆撃用意、目標は左右のモビルスーツ発進口だ。予定通り奇数番号は向かって左、偶数は右を狙え!」

そう、ただの爆撃なら普通に急降下爆撃で十分だ。だがモビルスーツ発進口を狙うとなると真正面からハッチを攻撃したほうが迎撃も少なく不意を打てる。更に言えば相手は大気圏突入が可能な装甲を持つ新型艦、ただの2t爆弾ではダメージを与えれるかどうかは分からない。よって進んでくる敵艦の前から攻撃することによって、相対速度を少しでも上げて敵に与えるダメージを上げようということであった。

「・・・見えた、攻撃を開始する!」

渓谷を曲がった先にはこちらに向かって進んでくる木馬の姿があった。既にレーダーはミノフスキークラフトの性で使い物にならず、赤外線センサーも機能低下していた。だからこそミサイルではなく攻撃力もある無誘導爆弾を搭載していたのだ。しかも今回6機のジャベリンの内、前衛の3機が搭載しているのは例えるならGBU、所謂バンカーバスターのような貫徹能力に長けている特殊なタイプの2t爆弾だ。しかもロケットで加速するタイプのもので、少しでも貫徹能力を増そうとする工夫が施されている。 後続の3機の搭載しているのは、通常の2t爆弾を搭載したのが2機、残り1機はナパームタイプを搭載していた。



「しょ、正面に敵機です! 数6、爆装してます!!」

「な、なんだと!? なぜ気づかなかった!」

「渓谷内を飛行してきた模様でs・・・敵機爆弾投下、命中します!!」

「各員衝撃に備え・・・」

直後、ホワイトベースの艦橋を大きな振動と爆音が襲った。しかもそれは次々に襲い掛かり、衝撃と爆炎が駆け巡った。

「各部、被害報告をしろ!」

衝撃で床に叩きつけられたブライトがそう言うと、しばらく間をおいて各所から報告が飛び込んできた。

「こちら機関室、何人か軽症者がでましたが特に異常ありません」

「こちら左舷格納庫、側面に直撃弾をうけたようですが内部に目立った損傷はありません。いい具合に装甲が爆弾を弾いたみたいです。人的被害も軽微です」

ここまでの報告に艦橋にいた皆が安堵しかけたが、遅れて入ってきた悲痛な叫びに顔を青ざめ、リード中尉はヒステリックに叫びまくる羽目になった。

「第2ブリッジです。死傷者多数発生、設備の一部が破損しましたが設備の多くはまだ生きています。 しかし今現在どこかで火災が発生しているらしく、入ってくる熱風が凄まじいので第2ブリッジから総員退去します」

「・・・・・・中央ハッチです。敵機が突っ込んできて火災が発生しましたが、こちらは無人だった為に人的被害は無し、現在消火活動中です。ですが搭載してたのがナパームらしく、消火に手間取っています。このままでは上の第2ブリッジや主砲、対空砲も危険なので要員の増援を。なおガンペリーも大破、炎上中です」

「・・・こちら右舷格納庫! パイロット及び整備員に死傷者多数発生。モビルスーツ発進口が破壊されてカタパルト使用不可能、更に内部に爆弾が飛び込んできて、直撃を受けた整備中のガンタンク1機が全損しました! 他のモビルスーツもプロトガンダムが中破に近い小破、ガンタンク1機中破です。 不幸中の幸いで、一番奥で整備してたガンキャノン1機は破片による掠り傷以外目立った損傷はありません」

そう、左舷のモビルスーツ格納庫こそ損傷軽微だったが直撃を受けた右舷格納庫は壊滅的な打撃を受けていた。
順を追って見てみよう。ジャベリン1番機が投下した特殊爆弾2発が右舷格納庫(カタパルト)ハッチに直撃しこれを破壊、2番機は左舷を狙ったが狙いが逸れて中央ハッチに1発命中、残り1発は左舷装甲に弾かれ崖に命中し崖が崩落し大量の土煙を巻き上げる。3番機は続いて右舷を狙い1発がガンタンクに直撃するが残り一発は目標をそれて渓谷の底に命中。
ここまでは順調だったが誤算が生じた。外れた2発の爆弾が巻き上げた土煙とホワイトベースの火災による黒煙で目標が視認しづらくなったのだ。その影響で4番機は見事に外してくれて、5番機は第2ブリッジに辛うじて命中させたものの、もう1発は外した。
そして最後のナパーム搭載機の6番機は・・・・・・ホワイトベースとの距離を間違え中央ハッチに激突しナパームが誘爆、中央格納庫を火の海にした。



「ブライト、ちゃんとジャブローまで到着できるんだろうな? この艦が沈められたら軍法会議だぞ!」

「ですが今ある戦力でなんとかするしかありません。この先のミッド湖周辺で敵の待ち伏せが考えられますが、ここを突破しなければ先に進めません」

「虎の子のガンダムも1機が小破、しかもそのパイロットの少尉も負傷したそうじゃないか。他のパイロットも数名負傷したそうだろう。それで突破できるのか!?」

「やってみせればいいのでしょう!(畜生、いつか殴ってやる)」







キャリフォルニアベース VF北米方面司令部

「超高高度を飛行している偵察型コムサイからの報告では、木馬の左舷は軽傷ですが右舷は重症の模様とのこと。帰還した攻撃隊のガンカメラの分析でも恐らく敵モビルスーツ1機の大破は確実視されています」

「一番槍の航空隊は任務を果たしました。困難な渓谷内飛行で犠牲が出ましたが、それでも木馬にダメージを与えたのは間違いありません。メトロノーム第一段階、オペレーション『ギャラルホルン』は成功しました」

「それでは第二段階、オペレーション『ヴィーグリーズ』に移行し、間髪開けず最終段階、オペレーション『ギムレー』を・・・これで作戦名『メトロノーム』が完遂されるわけですな」

やぁ皆お久しぶり、中々忙しくて死に掛けてるエルトランだYo。作戦室の一角で大勢の参謀と今後の展開について話しちゃってるよ。

「そうですね。木馬に圧力を与え余裕を奪う『ギャラルホルン』は成功しました。木馬の現在の進路は ?」

「当初の予想通りミッド湖方面を目指しています。恐らく二日後には開けた場所に木馬は出ます。既にミッド湖周辺にはガルマ様の率いる正規軍が展開しつつありますので、万が一失敗した場合でも対処は可能です」

「それじゃあ当初の予定通り『ケーニッヒス・パンツァー』『スカイキッド』『ブラックナイト』には出撃準備を。これで決着がつくだろうからね」

「しかし支給した武装、本当に使えるのでしょうか?」

「まぁアレらは実戦評価の意味が強いからね。特にブラックナイトの機体はドムシリーズの可能性を考えた機体だから、うまくいけば正式にラインに加える予定だよ」

そう言って私は最近多用している栄養剤と胃薬、漢方薬をミックスした飲み物Ⅹを飲んだ。それぞれが混ざり合って凄まじい味となり、睡魔など一撃で消し去ってくれる代物と化す。その味は正に混沌だが、それに微妙に慣れた自分が悲しい。・・・味覚まだまともだよな? いまんとこ趣味である紅茶は美味しく感じるし、まだ大丈夫か。さて、覚悟完了ということでさっさとコレ流し込むか。

「・・・・・・・・・・・・」

恐らく今私は形容しがたい顔になってるんだろう。その証拠に周りは皆少し引いている。まぁ当然だけどね。

「・・・社長、大丈夫ですか?」

「一つ一つは問題ないんだけどそれぞれが一緒になると・・・・・・不味いよ、この世の全ての不味さが競い合うように地獄の交響曲を・・・飲んでみるかい?」

「すいませんもういいです勘弁してください」

「メディック呼んだ方が良くないか?(ボソ」

「確か知らずに飲んだ奴がこの前気絶しなかったかアレ?(ボソ」

まぁ普通ならそうだろう。子供先生が登場する某漫画の図書館組の一人はまた違う感想をするかもしれんが、まぁそんな感性の持ち主はいないだろう。でも最近これでも睡魔が完全に取れなくなってきているし、他にも何か混ぜてみるか。

まぁ話を戻そう、後二日後、それが木馬の命日だ。既に賽は投げられた、後はどう転びどう対処するかのみ。まず手始めに・・・山脈から山まで減った書類をフルボッコにしなきゃね!(泣き



[2193] 26話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:81ee3b7d
Date: 2008/10/18 17:58
最初に:投稿滅茶苦茶遅れて申し訳ないorz 色々とありまして、正直テンション低下してました。学校の方で提出する代物が未だかけておらず、書こうと思ってもスランプなのか進まない。そんなわけでこっちもかなり執筆する事ができなくなったりしており、皆様にご迷惑をかけたのを謝罪します。

というか時間掛かった理由は原作キャラの扱いが難しく、更に原作キャラの言動とかいじってたら批判が怖くて何度も訂正した挙句大幅カットしたのは秘密だ(超新星爆








ツィマッド社奮闘録 26話



ガウ攻撃空母

やぁ、久しぶり。前回の飲み物Xをベースに改良(改悪?)した液体を飲んで少しハイなエルトランだよ。なんか某ハイポーションみたいな気もするけど固体は入ってないし粘り気も無いので気にしない。というか作ったからには食うのはお約束。一回に処理できるのはコップに半分以下が限度なんだが、量を間違えてやたら大量に作ったんで、処理するのも一苦労だよ。ペットボトル2~3本ぐらいか?
まぁそれはさておき、今日は友人に会いにわざわざガウまで行きました。

「直接会うのは久しぶりだなエルトラン」

「そうだね、君も元気そうでなによりだよガルマ」

「ああ・・・ところで、その愉快な色の液体は何かな? 見てるとやたら寒気がするんだが・・・」

「ああ、たいしたことないよ。栄養ドリンク+αを色々混ぜてちょっとラストエリクシャーができちゃっただけだから。飲むとかなり楽しいことになるけど、眠気がぶっ飛んで、最高にハイってやつになって仕事できるから飲んでるんだけどね。ガルマも少し飲んでみるかな? かな?」

「・・・・・・遠慮するよ。それ以前に、人体に影響は無いのか?」

「あははは、麻薬とかは入ってないし、普通に仕事するだけで人体に影響するから、飲んでも飲まないでもあんまり変わんないよ」

「そういう問題なのか?(なんだかしばらく見ない間にかなり壊れているような気がするのだが) ・・・とりあえず、身体には気をつけたまえ。それで本題だがシャアの機体、本当に大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だろう。元々シャアの為に調整してた機体だし、そもそもシャアのヅダイェーガーは分解してデータを根こそぎ解析してる真っ最中だから、機体を戻してくれと言われても無理なんだけどね」

「・・・・・・問題でたら洒落にならないな」

「大丈夫だって、シャアの機体はノーマルドムをカスタマイズしたものだから、問題は出ないはずだよ・・・たぶん」

「たぶんって・・・」

「問題あるなら、本来シャアの機体に標準装備予定だったビームマシンガンの開発が手間取って装備していない事くらいだし。問題あるならうち(VF)の方だね」

「へぇ? どんな問題なんだい?」

「ああ、実は今回の作戦に投入した新型機なんだが・・・・・・」





ミッド湖周辺 VF部隊野戦駐屯地

ガルマ率いる北米方面正規軍が展開している一角にVFの野戦駐屯地は存在した。そしてそこでは部隊名『ブラックナイト』所属のドムシリーズの出撃準備が着々と進められていた。『ブラックナイト』は名前から連想できるだろうが3個小隊計9機のプロトドムとドムを運用してきた部隊である。そして今回、彼らには試作機が回されていた。

「・・・確かに受領しました、ご苦労様です」

「いえ、突然の試作機運用ご苦労様です。正直操縦方法はドムシリーズとたいした差が無く、シミュレーターもされているので大丈夫とは思いますが、御武運を」

そう言って輸送部隊の面々は撤収していく。残されたブラックナイツ隊長のリカルドに受領した機体の一つからパイロットが降りて話しかける。

「う~ん・・・これはドムシリーズとはいえ、ドムの持ち味を殺してると思いませんかリカルド隊長?」

「そうか? 私はそうは思わんが」

「一旦ホバーを切ってドムを停止させないと満足な長距離射撃ができないなんてナンセンスですよ」

「だが180mmカノン砲はザクキャノンのもので信頼性もあるし、もう片方の肩に設置された多目的精密照準機のおかげでセンサー類も性能向上しているだろう」

「それならザクキャノンを改装した方がいいじゃないですか。なんでドムに・・・」

「うちに回されてきたのは全てドムシリーズの試験機で、お前のもその一つだ。それに今の時点でも移動しながら180mmを撃てないことは無いらしい。当然長距離精密射撃はできないが、それでも水平射撃の命中率はいいらしいぞ」

「・・・なんで自分がコレに乗ることになったんでしょうか?」

「お前がうちの中で一番長距離射撃の腕前がよく、シミュレーターで相性がいいと判断されたからだ、諦めろ」

その言葉にしょぼくれるパイロットの肩をもう一人のパイロットが笑いながら軽く叩く。

「ははは。アレス、諦めて後衛頑張れよ」

「アルベルトさんの機体の方がカッコイイから乗るならそっちの方が良かったですよ・・・」

「こいつは近接戦闘に特化させた機体で癖が大きい。射撃が得意なお前じゃ無理だ。だが白兵戦が得意な俺には打ってつけだ」

そう言ってアルベルトとアレスは少し後ろを見上げる。そこにはツィマッド社キャリフォルニアベース工廠で組み立てが完了したばかりの試作機達が威容を誇っていた。アルベルトの機体は形式番号MS-09G 史実ならMS-09F/Gb ドム・グロウスバイルと呼ばれる機体で、その横にはアレスの機体、MS-09K ドムキャノンが存在していた。

このグロウスバイルは今回地上用にカスタマイズされており、脚部にスラスター多数を増設しており史実の高機動型ゲルググに勝とも劣らない機動力を持ち、装甲をノーマル(トローペン)よりも厚くした為マシンガン程度では正面装甲を貫通できないとされている。しかも胴体の装甲表面に試作型対ビームコーティングをしておりある程度のビーム(ジムクラスのスプレーガン)なら表面を焦がす程度で済む。
ただし装備するスラスター付き超大型ヒートサーベルのせいで両手が塞がっており、射撃武装を今のところ一切装備しておらずパイロットを選ぶ機体と言えるが、総合的な性能はかなり高い。計画では腕部又は肩に射撃武装をオプションとして取り付けることも視野に入れていたが、白兵戦能力で言えば現行機最高ともいえた。

そしてドムキャノンの方は、足のサイズを安定性を増す為に大型にし、右肩に180mmカノン砲左肩に多目的精密照準機を装備している。長距離戦闘がメインなので白兵戦闘を余り考慮されておらず、白兵武装も小型のヒートナイフのみにしぼられている。今回はシールドの外側に3連装ミサイルポッドを装備したミサイルシールドと近距離用にMMP-80マシンガンを装備している。

そして最後の1機、リカルド隊長の乗る機体で、両肩にガトリング砲を搭載する外見は連邦のガンキャノンにある意味で似ていた。まぁもっと似ている機体といえば、種死ザクのスラッシュウィザードか? あれも両肩にガトリング搭載していたし。それはともかく機体名はMS-09G/B ドムアサルト。ドムキャノンが中~長距離支援機なのに対して、中~近距離での火力支援用にMS-09G ドム・グロウスバイルをベースに試作された機体だ。両肩に75mmガトリング砲を装備し、ガトリングから伸びるバレットチューブは背中に装備された専用の大型ドラムマガジンに繋がっている。面制圧能力でいえばドムキャノンを凌駕する機体だ。更に今回は右手にMMP-80マシンガンを、左手にヅダの用いる白兵用ピック(ヒートVer)付きシールドを装備する。装甲もグロウスバイルには及ばないが厚くし、アサルト(突撃)の名に相応しい性能を保有している。ちなみに開発陣ではブリッツクリークドム(電撃戦ドム)というあだ名が付けられていたが、語呂が悪く、プロトドムと同じくらいの速度しか出ない為電撃戦という名は相応しくないとされ、ドムアサルトの名に落ち着いたという裏話がある。

正直試作機オンリーである。MMP-80マシンガン等を除けば試作武装もてんこ盛りだ。第1小隊は今説明したとおりで、第3小隊の3機こそノーマルのドムだが第2小隊の3機も全て試作機である。特に第2小隊にはホバー走行するのに脚部はいらんとばかりに脚部丸ごとホバークラフトに変更した機体も混じっていた。それこそどこの新兵器見本市だと言わんばかりである。当然正規軍からは色々な眼差しで見られ、もし全滅でもしようものならツィマッド社製品の信頼度はガタ落ちする事間違い無しだ。だが逆にいい結果を残せたら信頼度はグッと上がること間違い無しとも言える状況である。

「しかし隊長、新兵器に新武装を開発するのはいいですけど、生産ラインのほうは大丈夫なんでしょうかね?」

「その疑問も最もだなアルベルト、だが今のところ辛うじて大丈夫なようだ。私の知り合いに生産ラインの調整をしている者がいるのだが、その者の話によると幾つかの統廃合が既に行われているようだ」



リカルド隊長の話を纏めるとこうなる。

マシンガン:105mm及び120mmザクマシンガンの生産を縮小し最終的には全てを貫通力に優れている90mmのMMP-80や同じ90mm弾を使えるハンドガンに更新。同時にアサルトライフルも90mmに統一。弾は徹甲弾・高速徹甲弾・成形炸薬弾・曳光弾・徹甲榴弾・榴弾・ペイント弾の7種類が生産される。

バズーカ:280mmザクバズーカを縮小し360mmジャイアントバズーカに更新。なおシールドを構えていてもそれごと敵を吹き飛ばせると評判のラケーテンバズーカは、ジャイアントバズーカに比べ取り回しが悪く、必要頻度が低い為に生産打ち切りになるそうだ。弾は徹甲榴弾・榴弾・粘着榴弾・成形炸薬弾・散弾・発煙弾の6種類が生産。なお、かつての核砲弾生産ラインは現在他の弾種のラインに全てが変わっている。

ガトリング:艦船及びモビルスーツは75mmで統一(グフシリーズは腕に35mmを装備しているが順次改修し30mmにすることが軍及び企業各社で合意している)し、車両、航空機、航宙機は30mmに統一。但し20mm及び12.7mmバルカン砲は軽車両やオルコス輸送機、歩兵部隊用の重火器として生産されている。弾はマシンガンと同じく7種類。ちなみに試作された120mmガトリング砲は拠点防衛用に採用され、120mmザクマシンガンの生産ラインを一部流用し生産している。

ショットガン:197mm口径に統一。散弾とは別にグレネード弾も生産。片手持ち用のオートマチックタイプ(フルオート)と両手持ち用のポンプアクションタイプの2方式を採用。

レールガン・スナイパーライフル・対艦ライフル:135mmに統一し、弾は高速徹甲弾1種のみに絞る。

カノン砲:180mmに統一(ヒルドルブ等の大型MAは例外)し、弾は最多の徹甲弾・高速徹甲弾・徹甲榴弾・榴弾・粘着榴弾・成形炸薬弾・散弾・発煙弾の8種類。

他にも、戦車は主砲を180mmカノン砲に換装し分離機能を撤廃、多目的ディスチャージャーを装備し車体に30mmガトリング砲を装備するマゼラアタック後期型へ、対戦車攻撃能力はともかく対モビルスーツ戦能力に乏しい戦闘ヘリを新型の対モビルスーツ戦闘を前提としたティルトローター機(ツィマッド社長の暴走の結果各企業合同製作)に機種変更の予定をしている。ツィマッド社の場合、モビルスーツもゴッグの生産ラインを整備補修用パーツを除いて全てハイゴッグに、ヅダのラインを半分以下に減らしドムの生産ライン確保等、統廃合が進んでいる。中立のコロニーに対しても、余り重要ではないパーツを生産してもらい、余剰となったラインの削減・転用を実行していた。

長くなってしまったが、一言で言うならば可能な限り生産ラインを纏めているとのことだ。

「本当は開戦前にラインを整えられたら良かったんだが、当時はどんな兵器が有用なのか全く手探りだったらしいからな。それに今言った中には試作兵器は入っておらず、正式採用された武器のみだそうだ」

「へぇ・・・あれ? 航空隊の奴らは鹵獲した連邦軍の爆弾使ってませんでしたっけ?」

「あれは規格が同じだから使えるんだ。なんせジャベリン戦闘爆撃機はうち(ツィマッド社)の特務情報室が奪取した連邦のセイバーフィッシュをベースに発展改良したものだから、規格を連邦ジオン双方の武装にあわせれるように設計されていたのだからな。まぁ明らかに原型がなくなっているといえば終わりだが。後歩兵も火器の弾薬は連邦の物を共有できるはずだ。地球降下作戦の初期に電撃戦が用いられたが、あれは連邦の基地に備蓄されている弾薬目当てで迅速に行動した一面もある。まぁ取らぬタヌキの皮算用にならずにさぞ安心したことだろう」

「やはり・・・当時連邦軍基地の施設を可能な限り無傷で押さえろと命令がきた理由はそれですか」

「うむ、古代の兵法書にも敵の物資を奪って使う事が記載されているほどだ。なんせ本国から物資を持ってくるには、HLVで大気圏突入という面倒なことをしなければならんからな。使えるものは何でも使うのだ」

「そういえば開戦前後あたりに、専用の武装とかを持つモビルスーツがあるって噂を聞いたことがありますが、それはどうなったんでしょうか?」

「ああ、それは恐らく試作ビーム兵器運用機のことだろう。後は量産を前提としていない特殊な試作・試験用の武装か? 実弾兵器に関して言えば専用武器は確かに存在していたが、FCS(火器管制システム)をいじれば全てのモビルスーツで運用できるからな」

「なるほど・・・あ、隊長作戦時間までもうすぐですよ」

「む? もうそんな時間か。少し長く講義してしまったようだ、お前達も最終チェックに入れ」

「「了解」」

そして彼らは準備が整うと同時に出撃していった。







「お~し、木馬が見えたぞ」

木馬をモニターで確認したソンネン少佐は部下の乗る量産型ヒルドルブに指示を出そうとする。その時、同行していた赤いドムから通信が入る。

「ソンネン少佐、そのヒルドルブというのは中々性能がよさそうだが、くれぐれも油断はするなよ」

「へへ、赤い彗星にこいつの力を認めてもらえるとはうれしいねぇ。こいつなら下手な事をしない限り問題はないぜ」

「ふむ、お手並み拝見といこうか」

「よ~し、各車両聞こえるな? 今日はゲストとしてあの赤い彗星が同行してるんだ、恥ずかしい真似はするなよ。まずは木馬をびびらせる、焼夷榴弾撃ち方始め!」

その言葉と同時にヒルドルブのコックピットでソンネン少佐がトリガーを引いた一瞬後、空には複数の30cm弾が飛翔していた。焼夷榴弾とはいえ30cmもの大きさの弾が着弾する際の衝撃は並大抵のものではない。6発の焼夷榴弾は2発が外れ3発が至近弾となり、残り1発が木馬の翼に命中し炎上した。至近弾の3発も爆風と炎で木馬を揺るがす事に成功した。

「続けて撃ち込め、弾種自由! 獲物が住処から出てくるまで射撃をやめるなよ」

焼夷榴弾だけでなく榴弾、徹甲榴弾、粘着榴弾等も撃ち続ける事数分、木馬を注意深く観察していた少佐は木馬からモビルスーツが発進するのを捉えた。

「よし、敵さんのお出ましだ。一端後退するぞ、スモーク散布!」

一斉にスモーク弾を散布し目くらましをした上でヒルドルブは一気に後退していった。



少し時間を遡ってホワイトベース
始まりは突然だった。避難民と揉めており、更におろそうとしてもガンペリーは大破し修理中。

「大型車両6両、モビルスーツ3機視認、データ照合・・・・・・北米で確認された大型機動兵器です! 推測ですが30cm砲を搭載し変形することができる機体のようです。更にモビルスーツはドムのようですが、その内1機は赤い機体です!」

「赤い機体・・・赤い彗星か!?」

「索敵は何をしてたんだ!」

「多くが破壊されている上に、生き残っているセンサーも不調があり発見が遅れたものかと・・・」

「それに、激戦があったのか周辺一体に残骸が散乱しており、余りの密度に金属センサーは役に立ちません。赤外線も、周囲の残骸が太陽光を受けて熱を帯び識別が困難です」

「ブライト、何をしているんだ! さっさとガンダムを出せ!」

直後、ホワイトベース周囲に砲弾の雨が降り注いだ。

「っく、モビルスーツ隊発進急げ! くそ、ミサイル発射口が生きていれば」

そう、前回の奇襲攻撃の際に3連装ミサイル発射管は壊滅していたのだ。左舷は発射口の損傷で済んでおり、不時着して修理すればいくらかは生き返るだろうが、敵地で暢気に不時着できるわけもなく、更に他にもすべきことは山積みだったので後回しにされていたのだ。なお右舷の方はミサイル自体が誘爆しており損傷を拡大させていた。

格納庫ではモビルスーツの発進準備を整えていた。特にガンダムにはビームライフルとバズーカを持たせて出撃準備をしていた。そしてエドワードは、格納庫へ行かずまだ部屋にいるアムロと話をしていた。

「アムロ君、出撃命令だ。ハンガーへ行くぞ、って大丈夫かい? 顔色が悪いが」

「サイド7を出てからこっち、ぐっすり眠ったことなんかないし、そのくせ眠ろうと思っても眠れないし・・・エドワードさん、連邦軍は僕達を囮にしているじゃないですか?」

「囮? 俺達がかい?」

「連邦軍はもっと新しい兵器を開発していて、それが完成するまでの間、敵の目を引き付けておく囮なんじゃ・・・」

「それはないな。ガンダムは文字通り連邦軍の技術を結集した機体だ。当然この機体の戦闘データをもとに新型機が開発される事になるだろうが、それはまだ時間が掛かるだろうし、それまではガンダムが最先端の新兵器だ。考えすぎだよ」

「ですけど・・・」

「それにアムロ君、君はともかく俺やグリュードは正規の軍人だ。命令があれば囮でもなんでもする。それがどんな任務でもそれをこなすのが軍人なんだ」

「・・・」

「割り切れないだろうけどこれだけは言っておくよ。戦場じゃ迷っている奴から死んでいく、これは集中力が散漫になるからだ。だから悩むのはこの戦闘が終わってからにしたまえ。 ・・・・・・よし、この戦いが終わったらパーっと騒ごう。そこでストレスを発散し、悩み事を俺やグリュードやリュウにぶちまけてしまえ。弟分のお前が悩んでるんならじっくり相談に乗ってやるのも兄貴分の役目だからな」

「・・・はい」

「・・・よし、それじゃブライトやリードが嫌味を言ってくる前にさっさと行くか!」

そしてパイロットが到着し次第、モビルスーツは出撃していった。







2機のガンダムをはじめ2機のガンキャノン、遅れて2機のガンタンクが出撃する。ただしガンタンクは機動力が低いのでホワイトベース上に砲台として待機している。
それも当然だ、比較的足が遅く回避力が低いガンタンクなど、30cm砲の直撃を受ければ大破してしまう。
そしてホワイトベース自身も主砲とメガ粒子砲を展開し砲撃準備を整えていく。主砲とガンタンクの砲撃で敵の退路を断ちガンダムで撃破する、それがホワイトベースのとった戦法だった。
対するVFも、木馬からモビルスーツが発進したのを確認した次の瞬間には一気に後退に転じていった。そしてガンダムとガンキャノンが追撃しガンタンクとホワイトベースが砲撃を開始する。
だが、ホワイトベースの面々は一つの失策を犯した。前方のヒルドルブ部隊に囚われすぎて、周囲の警戒を怠った事だ。

勿論ホワイトベースも常にセンサーで周囲を警戒していた。だが周囲には動かない磁気反応、残骸の反応しか無く、その残骸とは撃破された航空機や車両、モビルスーツを指す。そしてここに見落としがあった。



VF部隊は一斉に木馬に殺到した。それもかなりの至近距離から。
そう、金属センサーを騙す為にわざわざ残骸をばら撒いていたのだ。その上でモビルスーツが半分隠れるほどの蛸壺を堀り、それに入った上である程度赤外線を遮断する迷彩シートを用意し偽装、獲物が来るのを待っていたのだ。無駄に労力が掛かっている。ただ、迷彩シートはキャリフォルニアベースに備蓄していた物だが、生産されていた迷彩シートは北米各地に分散されており、キャリフォルニアベース自体に備蓄していた量は総生産量から見れば極僅かだった。その為ザクやヅダ、グフを30機カモフラージュさせる量しか確保できず、戦闘機に戦闘ヘリやドムシリーズ、そして迷彩シートが用意できなかった他のモビルスーツは木馬からモビルスーツが発進したのを確認した後で、潜んでいたところから出撃した。この為だけに戦場予定地に潜伏させた偵察部隊は、有線電話片手に逐一木馬の動きを報告していたのだ。そして本体の潜んでいた地点は戦場から離れていたが、高速で移動できる航空隊やドムシリーズなら充分に戦場に到着できる距離であり、その他のモビルスーツは空挺装備の上でオルコス輸送機にて搭載されていた。

最初に火を噴いたのは潜伏していたザクキャノンの180mカノンとバズーカだ。今回の為にこの作戦に参加したザクキャノンは全てが対艦用の装備、両手にザクバズーカ&両足にフットミサイル装備という攻撃力重視の装備だった。それこそバズーカ系は両手で持って撃たないと命中率が期待できないが、「命中率? ナニソレ ウマイノ?」といわんばかりに乱射する。そのせいで多くのバズーカが外れ、中には友軍に至近弾となり抗議がきたりするのだが、目標である木馬の大きさもあって命中し、とりあえずその主砲とメガ粒子砲を破壊することに成功する。
更に全弾持ってけと言わんばかりに腰のビッグガンとフットミサイルを撃ち込む。これで木馬の少なくない対空火器が吹き飛ばされた。
ザクキャノンを護衛するザクは史実のGP-02サイサリスのような巨大な分厚い盾を両手で持ち、砲撃からザクキャノンを守るべく布陣し、ヅダとグフはUターンしてきたガンキャノンと木馬上で砲撃してくるガンタンクへと目標を定めていた。そしてその中に、ガンダムの姿は無かった。





ガンダムと赤いドム率いるドム部隊、そしてヒルドルブの戦っている戦場には一面に紙吹雪が舞っていた。いや、それは紙吹雪などではなく、ビームかく乱幕だった。
少し離れた所に偽装して展開されている砲撃部隊が一定間隔を置いて周辺を砲撃し、ビームかく乱幕をばら撒いていた。この支援砲撃により辺り一面にビームかく乱幕が舞い、紙吹雪がビームを拡散し無力化していた。ちなみにこの時展開していた砲兵隊はサムソンに牽引されたロケット砲あわせて100門近くと、最新鋭とはいえたかが戦艦1隻相手には過剰戦力といえた。用意された砲弾はこの日の為に社長の肝いりで生産された大型ロケット用ビームかく乱幕散布弾で、これまでキャリフォルニアベースで生産備蓄されていた内の1万発だ。なにせ砲撃するよう命じられた砲兵隊は本当に撃ちつくしてしまってもいいのかと上層部に問い合わせた程だ。逆に言えば、それだけエースキラーである木馬をエルトラン社長は恐れていたといえるのだが。
そんな中、戦場は意外な展開を見せていた。

「見せてもらおうか。この新型機、ドムの性能でガンダムと渡り合えるかを!」

「少佐、こっちは黒いガンダムの相手で精一杯だ! そっちの白いのは任せた!」

白いガンダムとドムとは、ドムの高速移動で翻弄しガンダムのビームやバズーカを避けていた。その戦いぶりは他者の介入を許さない一騎打ちだ。だがその一方で、数に勝るヒルドルブ隊の方はたった1機の黒いガンダム相手に苦戦していた。

「ソンネン隊長、やっぱ30cmじゃあいつに当てにくい! かといってマシンガンじゃ牽制程度しか役に立たない!」

そう、ヒルドルブの武装はガンダムに対して帯に短し襷に長しだった。メインの30cm砲は威力は充分だが至近距離では当てにくく、マシンガンは貫通力を重視したMMP-80 90mmマシンガンといえど、ガンダムの装甲を抜くには威力不足だった。接近してショベルアームで白兵戦を挑むなど論外だ。

「一定の距離を必ず取ってマシンガンを頭部に集中させろ、センサーを潰すんだ! 接近されたらこっちに勝ち目は無い、やばいと思ったら迷わず後退しろ! ・・・・・・クソ、相手が悪すぎる」

マシンガンでも当てつづければ衝撃で内部の機器が誤作動を起こすことも充分ありえるだろう。だが、ガンダムのそれは厳選された中でも更に厳選された一品だった。マシンガン程度の衝撃ではびくともしない。だてに超高級機ではないのだ。そしてじわじわと損害が増えていく。

「こちら4号車、ビームが命中し小破! されど戦闘続行は可能、砲兵と技研はいい仕事をしてくれた」

だが黒いガンダムの方も攻めあぐねていた。ビームライフルは空中を舞っているビームかく乱幕で無効化され、命中してもヒルドルブの表面にコーティングされた試作型のビームコート、対ビームコーティング塗装によって小破させるのみ。弾速の遅いバズーカはその巨体に似合わない機動で回避され、ビームサーベルで挑もうとしても他のヒルドルブの援護射撃によって阻止される。ルナチタニウムといえど、30cm砲の直撃を食らえば一発でノックダウンだ。よって黒いガンダムはヒルドルブの射線に他の機体が入るように動き回り、接近戦を仕掛けるチャンスを探る。
だがそれも、シャアについていた2機のドムが介入したことで一気に不利になった。シャアがガンダムとの一騎打ちをしており、俄仕込みの連携ではかえって邪魔になるだけと判断したのだ。そして、苦戦しているヒルドルブに加勢するのは、同じVFの人間からしてみれば極自然なことだった。

そしてもう片方、シャアのドムとアムロのガンダムの戦いも決定打を持たない戦いとなっていた。原因はビームかく乱幕にある。これによりビーム兵器を双方封じられ牽制程度にか使えず、実弾兵器での戦闘を余儀なくされたのだ。
シャアのドムはビームライフルをウェポンラックに搭載し、左腕にガトリングシールド、右手に片手操作型のオートマチックショットガンという装備だ。特にショットガンは弾頭にルナチタニウムが使われているシェルショットで、ガンタンクやガンキャノンレベルなら一定条件下で撃破できる性能を持つ。
そんなショットガンだが、ガンダムの装甲の厚さは伊達ではなかった。同じ個所に複数回連続で当たるのなら貫通できただろうが、一度命中したくらいではガンダムのルナチタニウム装甲は貫通を許さなかった。ガトリングシールドも同様に、全く貫通できなかった。

「ぬぅ・・・やはり実弾では装甲を抜くのは無理か。ならば!」

シャアは一気に勝負をつけるべく、ガトリングシールドのガトリングを分離し、ショットガンをガンダムに投げつけた。そしてウェポンラックのビームライフルを左手に、ビームサーベルを右手に持ち一気に距離を詰める。



一方、ホワイトベースの方も苦戦・・・・・・いや、一気に劣勢になろうとしていた。ドム部隊が到着し、更には空挺部隊まで降下してきたからだ。更に戦闘機部隊から放たれるロケット弾の雨あられ。

「噂ほどの対空火力ではないな。友軍はいい仕事をしてくれた。油断せずに確実に潰していくぞ」

そう言いつつブラックナイト隊長のリカルドは両肩のガトリング砲を木馬の対空砲座に向けて掃射していた。木馬の対空火器はかつての第二次世界大戦時の機銃座のような、人が剥き出しで人員殺傷率がやたら高い代物が多かった。そこにガトリング砲を食らえばどうなるかなど考えるまでも無い。
あっという間に木馬の対空砲火は低下していった。極端な話、ドムアサルトが木馬の周囲を回りながらガトリングをばら撒くだけで木馬は反撃手段がどんどん潰されていくのだ。というよりも木馬の神がかったサバイバリティはガンダムを中心とするモビルスーツの働きによるものが極めて大きいとエルトラン社長は判断しており、モビルスーツと木馬を引き離せば十分勝機はあると判断していた。
その上で、反撃手段を奪ったらエンジンに集中攻撃することになっており、艦橋は交渉チャンネル確保の為に放置予定だ。所謂蛇の生殺しというものか? まぁエルトランの予想では木馬が航行不能になり、その時に降伏勧告をすれば艦長代理のリードなら受託するだろう。というよりそれしか手は無くなるだろうと考えていた。
だが木馬上のガンタンク部隊もやられたまま黙っているつもりは毛頭なかった。



「このー、落ちろ、落ちろー!!」

ハヤトのガンタンクは既に2機のモビルスーツと4機の戦闘ヘリを撃墜し、次の目標に接近してきたドムを選び砲撃を浴びせるが、ドムはその持ち前の機動力を持って砲撃を回避してしまう。元々ガンタンクは遠距離から砲撃する為に設計されている為、近距離戦は両腕のホップミサイルがメインになっている。しかもそのホップミサイルも牽制用と言える代物で、今回のドムのような高機動戦闘を得意とする相手とは相性が悪かった。逆に戦闘ヘリは機動性は高いものの、1発でも至近弾を受けたら致命傷になることがあり、ホップミサイルの連射で比較的簡単に落ちた。

「ハヤト、落ち着け! 今のまま闇雲に撃っても無駄弾なだけだ、動きが速ければお前が想定していた未来位置より前に弾幕を張ればいい!」

もう1機のガンタンクのパイロット、グリュード少尉は破壊された主砲の隣に陣取って弾幕を張っていた。120mmキャノンで敵の足を遅らせ、40mmホップミサイルで相手の武装を破壊・無力化する。既に彼はドム1機を中破させ、6機のザクやヅダに多大な損傷を与え、今も1機のグフを大破させていた。

「グリュードさん・・・よし、食らえ!」

そう言って今までの未来位置より前に向かって弾幕を張った。すると攻撃のリズムが変わったことに戸惑い、避け損なったドムの腕部に120mmキャノンが直撃、持っていた90mmアサルトライフル諸共腕部が爆発し吹き飛んだ。しかも外れた120mmキャノンの射線上に飛び出した運の悪いヅダが直撃を受け爆発した。

「やった・・・ボクだって、ボクにだってできるんだ!」

「気を抜くなハヤト、カスタムタイプのドムがそっちに・・・」

「う、うわぁあああ!?」

油断したのか左の120mmキャノンにドムキャノンの180mmキャノンとドムアサルトのMMP-80 90mmマシンガンが命中し爆発させる。しかもマシンガン数発が頭部コックピットに命中しヒビをいれた。


一方ガンキャノン2機にも刺客が訪れていた。グフとヅダを撃退していた2機だったが、グフとヅダは急に後退し、変わりに2機の前に現れたのはブラックナイト第2小隊の新型機3機だった。しかも第2小隊の機体はドムシリーズの中でも異色のモノだった。最大の特徴は・・・脚が存在せず、巨大なホバーユニットになっていることだ。
MS-09I 開発コード『ザラマンダー』こと、ドム・シュトルム、又はシュトルムドムと呼ばれる機体だ。史実ではMS-09F/Bn ドム・バインニヒツ、ここではMS-09H ドム・バインニヒツと呼ばれる機体をベースに地上用に改修したこの機体は、モビルアーマークラスのホバーユニットを搭載し、従来型のドムよりも長大な航続距離と機動性を持つことに成功した機体だ。ただし、それ相応の欠点も持っていたが。

とにかく、地上での機動性ではトップクラスの機体がガンキャノン2機を襲撃したのだ。・・・たとえ未完成品ゆえに前日まで開発部が必死に調整し、一時は作戦に間に合わないと判断が下されかけていたとしても。そしてそのせいか、1機だけ動きが少し悪かったとしても。その機動性は驚異的だった。
3機のドム・シュトルムはガンキャノンの攻撃をノーマルドムを上回る横滑りや高速移動中の急旋回等を駆使して回避していった。無論その機動性で油断すれば死を招くが、パイロットは熟練者だ。その辺りのことは承知している。

「お、俺だって、俺だって!」

カイの操るガンキャノンがキャノン砲を乱射するが、一向に当たらない。これがザク相手ならば命中弾を与えられたであろう。現に先ほど戦っていたヅダとグフを3機ほど大破させていた。だがあいにく相手はドムシリーズ。機動性はザクとは段違いだった。そして狙われた機は、回避した直後に反撃として両手に在庫一掃といわんばかりに持っているラケーテンバズーカをガンキャノン向かって撃ち出した。幸いにも急旋回した直後の無理な体勢で発射した為、直撃せずに至近弾となったが、それでもビームライフルが爆風と衝撃で手から離れた。

「うわあっ、お、俺を狙ってやがる」

「カイ、落ち着け! そんなに乱射していると・・・」

「ああっ…、た、弾が、弾がない…わあっ」

弾切れ、それはこの戦場で無力化されたという意味と同義であった。だが今回それはカイの命を救うことになった。今まで乱射していた砲撃が唐突に終わった事から、相手もカイのガンキャノンが弾切れを起こしたと判断し動きを牽制することに集中しだす。

『戦闘続行不可能と判断できる機体は技術研究の為、できるだけ捕獲するよう配慮せよ』

そういう命令が事前に下されていなければ不確定要素を排除する為、確実にカイのガンキャノンは破壊されていただろう。だが、母艦が無くなれば鹵獲できるので無理に相手をする必要は無かった。
だが、ガンキャノン2機を相手に優勢に戦っているように見えるドム・シュトルムも致命的な問題を抱えており、リュウのガンキャノンが放った砲撃の至近弾で、ついにそれが起爆した。

「こちら3号機、直撃じゃないのにいきなり警報が鳴り始めた! ホバーユニットにレッドアラートが・・・ガッ!!」

1機のドム・シュトルムのホバーユニットから薄い煙が立ち昇ったかと思うと小規模な爆発を起こし、その機能を停止させた。しかも高速機動中に。

・・・どうなったかは想像の通り。いきなり浮力を失いコントロールできなくなったドム・シュトルムはその速度のまま地面に激しくタッチダウン、ボールのように地面を転がっていった。片腕は激突の影響で吹き飛び、残り片方も辛うじて胴体にぶら下がっているだけという状態。頭部などへしゃげており胴体とホバーユニットの接続部分など半壊、千切れる寸前だ。当然戦闘力等残ってはいない。
後の調査で至近弾の衝撃と調整が不十分で無理をさせ続けた結果、ホバーユニットの回線がショートし周辺の回路を焼き切ってしまい、これにより制御伝達路が壊滅的な打撃を受け安全装置が作動したと判明する。この安全装置は機体起動時、つまりホバーで機体が浮かび上がっていない時に作動する物で、内容はホバーユニットへのエネルギー供給の停止措置。浮かんでいるときに作動すればどうなるかは実証された。
つまり、原因はあくまで今回投入されたドム・シュトルムが試作機の未完成品だということに帰結した。

話を戻そう。これによって残り2機になり、更にもう1機もガンキャノンの至近弾を受け、その衝撃で冷却装置が誤作動を起こしオーバーヒート気味になりつつあった。ただでさえホバーユニットによるモビルスーツのオートバランサーシステムは調整が難しいのに、至近弾等の衝撃を受け続けたらどうなるか。いかに装甲が厚くてもモビルスーツは精密機械、強い衝撃を受ければそれなりの損傷を受けるのは当然だった。

「こちら2番機、オーバーヒートです。まだ戦闘は可能ですが、念の為後退します」

「了解した、こちらも幾つか不都合が出てき始めた。ったく、これだから試作機は・・・・・・3番機のほうはそのまま置いておく、まだ死んだと決まったわけではないが期待するな」

「無事に生き残る事を祈るしかないのか・・・」

「・・・あれだけ派手に壊れていたら余裕が無い限り敵さんも無視するだろう。遺体は回収できる」



一方その頃、木馬攻略チームはホワイトベースの船体に中破レベルの損害を与えていた。
この程度で済んでいるのは大気圏突入に耐えれる装甲を持つペガサス級だからだといえるが、VFにとっては予想外だ。本来は既に不時着させているはずだったのだから。それができていないのは切り札となる部隊がトラブルに見舞われ未だ戦場に到着できずにいたからだ。特にその部隊は対艦用装備を持っていた為、他の部隊はザクキャノン部隊を除けば、どちらかといえば対モビルスーツをある程度考慮した武装にしていたからだ。その結果、ホワイトベースを守るガンタンク2機はそれぞれ中破していた。

「う、うわぁあああ!?」

そんな中、ハヤトのガンタンクが損傷した。しかも状況はかなり悪そうだった。

「糞、ハヤトのガンタンクが被弾した! ハヤト、ジョブジョン無事か?」

「こちらジョブジョン。無事ですけど、武装がやられてます。後、頭部コックピットの様子も分からないし・・・応答が無いんです」

「・・・コックピット全面にひびが入っていて中の様子が全くわからん。とりあえず格納庫に帰還しろ、俺が時間を稼ぐ」

だがそういうグリュードのガンタンクも損傷しており、右肩の120mmキャノンと4連装ホップミサイルしか生き残っていない。なぜなら左腕に180mmキャノン砲弾が直撃し、腕部はごっそりなくなっており、余波で左肩の120mmも損傷していたからだ。

しかしVFに与えた損害もそれなりになっていた。なぜなら、同じくサイド7で試験をしていた対モビルスーツ用重誘導弾『リジーナ』の改良型を数種類、合計数十基を搭載しており、破壊された機銃座から発射し、ある程度の牽制を行っていたからだ。おかげで不用意に近づいたヅダやザクを大破させる等の活躍をしている。特に空挺降下中を狙った攻撃でグフやヅダを大破させる活躍を見せている。故に今まで耐えれたのだ。だが、それももう限界だった。

甲板上で孤軍奮闘するガンタンクの姿は、ヒルドルブ部隊と戦闘を行っていたプロトガンダムのエドワードからも見えていた。そしてその満身創痍なガンタンクの姿を見て、エドワードは焦っていた。救援に行きたいがいけないジレンマ。それが彼の中で大きくなっていた。そして、もう一度ガンタンクの方を見たエドワードは、その光景に思わず叫んでいた。

「グリュード、後ろだ!!」

そこには、グリュードのガンタンクの真後ろからバーニアを盛大に噴かし、スラスター付き超大型ヒートサーベルを一気に振り下ろそうとするドム・グロウスバイルの姿があった。




[2193] 27話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:090660b4
Date: 2008/10/31 22:50


スラスターが噴かされ一気に加速した超大型ヒートサーベルがガンタンクに振り下ろされた。そしてそれはガンタンクの頭部コックピットを粉砕し、胴体半ばまでめり込んだ。
敵機が胴体半ばまで刺さったヒートサーベルを引き抜こうとしたが引き抜けず、一瞬だけ迷うがそのままヒートサーベルごとガンタンクをホワイトベースから蹴り落とした。直後、ガンタンクはホワイトベース上から落下し、途中で大爆発を起こした。その一連の出来事を、プロトガンダムに搭乗するエドワードは呆然としながら見ていた。

「グリュード・・・お前まで逝っちまったのか」

だが戦場でそんな余所見は命取りだ。迫り来る30cm砲弾に気付き慌てて回避運動を取るが完全には避けきれず、右肩に直撃しビームライフルを持っていた腕ごと吹き飛んだ。

「っつぅ・・・ライフルが吹っ飛んだ上に、傷口が開きやがった。本気でやばいな」

そう、前に低空からの奇襲攻撃を受けた祭に負傷した傷がその衝撃で開き、傷口から血が滲み出していた。それは操縦に支障が出て、動きが鈍くなると言うことに繋がった。

「ふむ、そろそろ黒いのは限界のようだな。だが、追い込んだ敵は慎重に殺せ。それが、戦場での鉄則だ」

「ですがソンネン隊長、可能ならば鹵獲せよとの命令ですが・・・」

「・・・んなことは知っている。俺が言いたいのは油断するなってことだ」

「・・・・・・今の間は」

「変な想像しただけだ、気にするな(・・・・・・なぜだか突進したヒルドルブがぶん回された挙句、吹っ飛ばされる光景が浮かんじまった。疲れているのか?)」

そんな些細なことは置いといて、周囲から放たれた30cm砲の砲撃を受け、プロトガンダムは命中こそしなかったものの、無数の至近弾を浴びた結果、遂に地に倒れ付した。この時、一部を除くケーニッヒス・パンツァーの面々は勝利を確信していた。

「・・・やったか?」

「警戒を怠るな、油断すると死を招くぞ」

だが、前者の発した言葉は死亡フラグ並(場合によっては死亡フラグそのもの)に危険なセリフだ。直後地面に倒れ伏していたプロトガンダムはブースターを噴かし、その強力な推進力で一気に加速。そのまま比較的近くにいた量産型ヒルドルブに体当たりをかまし、頭部バルカンを至近距離から乱射しつつビームサーベルで切りつけた。

「うわ! こちらハンス、機体大破、脱出します!」

泡を食ったのは4号車の搭乗員だ。幸いコックピットと核融合炉には被害が及ばなかったものの、機体のダメージは致命的だった。しかも今砲撃すれば4号車まで巻き込んでしまう為他の機体は攻撃できない。
そしてプロトガンダムはそのまま向きを変え再びスラスターを噴かす。だが、その向かった先はヒルドルブではなかった。



「連邦の白い奴、中々やる!」

「くそ、シャアめ・・・」

シャア少佐のドムはガンダムに接近戦を挑んでいた。が、意外なことにシャア少佐が苦戦していた。なぜなら機体の特性がこれまでシャア少佐が搭乗していた機体とは全く異なるからだ。
これまでシャア少佐の乗っていたヅダイェーガーは小回りがよく聞く機体だったが、今現在乗っているドムの場合ホバー推進によって小回りが効きにくいという欠点を持っていた。勿論従来機にできない高速での横滑り等ができるが、機種転換したてのシャア少佐はどうしても従来機の運動をしようとしてしまう。

話を戻すが、ガンダムの武装はルナチタニウムを使用したシェルショットを発射するショットガンによってサーベル以外はほぼ無力化されており、飛び道具は頭部60mmバルカンが少し残っている程度しかなかった。
仮にシャア少佐が後2~3日慣熟運転をしていれば、結果はもっと早くシャア少佐の勝利で終了していただろう。機体の操作はできてもそれに慣れるということは意外と難しいのだ。
だが、赤い彗星の異名はダテではない。スラスターを全快にして空中に飛び上がり、太陽を背にビームライフルをガンダムに向ける。ビームかく乱幕の密度が薄くなった現状では、一撃が致命傷になるのは容易に想像がつく。
当然アムロも黙ってみているわけではない。頭部バルカンで迎撃しつつサーベルでビームライフルを切り落とそうと飛び上がる。
60mmバルカンはドムの重装甲の前に効果はほぼ無かったがビームサーベルを投擲することでビームライフルを撃破できた。
が、ビームライフルを破壊したのは良かったが、それは大きな隙をみせることとなる。シャアは左手のビームライフルを囮にして、本命であるビームサーベルを叩き込む機会を待っていた。ビームサーベルの光は太陽光によって見えにくくなっており、アムロが気がついた時にはシャアのドムはスラスターを一気に噴かし、ビームサーベルが突き出されようとする瞬間だった。
そして突き出されたビームサーベルは、何も無ければアムロのガンダムを貫いていただろう。そう、何も無ければ。その時二人にとって予想外なことが起きたのだ。

「これ以上仲間をやらせるか!」

そう言ってスラスターを全力で噴かしてドムとガンダムの間にエドワードのプロトガンダムが割って入ったのだ。

「何だと!?」

「エドワードさん!?」

突き出されたドムのビームサーベルは、二人の戦闘に割って入ったプロトガンダムの胴体を、コックピットブロックを貫いた。そしてプロトガンダムは直後に大爆発を起こし、両者を吹き飛ばした。エドワードの生存は誰がどう見ても絶望的だった。

「く・・・シャア、よくもエドワードさんを!」

敵討ちといわんばかりにビームサーベルを構えて突貫しようとするアムロだたが、ホワイトベースからの通信にアムロは戦闘をやめざるをえなくなった。

「アムロ、武器を置いて!」

「セイラさん!? でもどうして・・・」

まだガンダムは戦闘可能でありアムロにとっては当然の疑問だったが、次にセイラが発した言葉をアムロが理解するまで、若干のタイムラグが発生した。

「ホワイトベースは・・・私たちは、ジオン軍に降伏したわ」



話は少し遡る。プロトガンダムが割ってはいる少し前に、木馬への刺客は訪れた。それは高度1000mを飛行してくる6機の編隊。ただし、その編隊は普通の戦闘機等ではなく、対地爆撃機のドダイの上にモビルスーツが載っていた。
スカイキッド、通称蒼空の狙撃者と呼ばれるVFの誇る対艦部隊だ。モビルスーツを搭載可能な対地攻撃機であるドダイと、それに乗るヅダイェーガーからなる部隊で、特にヅダイェーガーはビーム兵器の運用が可能なMS-04Sj ヅダイェーガー・カスタム、連邦のジムスナイパーⅡに相当する機体に仕上がっていた。色々改修した為に機動性はオリジナルよりも低下したが、ドダイに乗るのならば問題ないと判断された機体で、それが6機。内3機は135mm対艦狙撃ライフルを、残り3機は試作型の狙撃用ビームライフルを装備していた。ちなみにこの狙撃用ビームライフルは初期に開発されたもので、エネルギーCAPを外付けにした野心的なものだった。おかげで威力は戦艦を一撃で破壊できるほどなのだが、エネルギーを馬鹿食いし一撃でエネルギーCAPを空にする上に一度照射すると30秒近くの冷却時間が必要という代物だった。しかも接続部分に問題があり、5発以上はいつ自爆してもおかしくないというものだ。だが逆に言えば4発までは発射可能ということで、このライフルを使用してスカイキッドは、かつて行われたミッドウェー海戦では複数の巡洋艦や駆逐艦、更に空母1隻を撃沈する戦果を上げている。

ぶっちゃけた話、この部隊だけで木馬の撃墜は可能だった。が、乗っているドダイは様々な改修が行われた結果、オリジナルの対地攻撃機仕様のドダイよりも速度や運動性、機動性が低下し、容易に対空火器に捕捉されるという代物となった。つまり、木馬の対空機銃やガンタンク等の砲撃を食らったら一撃で叩き落とされる為に、陸上部隊と一緒に運用しないと危険という代物だったのだ。この問題点を解決する為にドダイを全面的に再設計し、モビルスーツ搭載能力と機動・運動性を向上させたドダイⅡが量産されつつあったが、生産ラインのずれ込みによってスカイキッドにはまだ配備されていなかった。

「スカイキッド1より各機へ、我々が遅れたせいで友軍に被害が出ている。きっちり仕事をするぞ」

「アイ、コマンダー。左舷の防衛が薄いようですが」

「というよりも対空砲火は皆無に近いです」

「いや、予定通り左舷はビームで、右舷は135mmでするぞ。対空砲火は友軍が犠牲になって低下しているんだ、この機を逃すな。各機照準を合わせろ」

「「「「「ラジャ!」」」」」

「レディ~・・・ファイア!!」

その言葉と同時にトリガーを引く。上空から木馬に致命傷を与えるビームと弾丸が降り注いだ。いくら大気圏突入が可能なほど装甲が厚くてもビームには関係ない。一撃で木馬の左舷エンジンは大破し、右舷のエンジンも大爆発した。
・・・・・・まぁこの大爆発はエンジン上部に置かれていたミサイル発射管の誘爆だったのだが、結果的にエンジンが損傷し出力を下げることには成功した。そして推力が低下し飛行が出来なくなった木馬はそのまま地面に墜落した。



「うおおおお!」

「きゃああああ!」

ホワイトベースの艦橋にいた者は墜落の衝撃で倒れていた。

「ううう、ブライト、何が起きたんだ!」

「・・・報告します、左舷エンジンが爆発し全損、エンジンルームでの生存者は皆無のようです。右舷エンジン損傷、出力低下。後部ミサイル発射管が誘爆したようです」

「両方のエンジンが損傷した性で浮上できません、航行不能よブライト」

「だそうですリード中尉、本艦は航行不能です」

「なんだと! どう責任を取るんだねブライト! そもそも君が・・・」

「きゃああ!」

不毛な議論に移るかと思いきや、その場はフラウの上げた悲鳴で終わりを告げた。窓の外には両肩のガトリング砲をこちらに向けたドムの姿があった。

『こちらはVF所属ブラックナイト隊長のリカルドだ。木馬へ告げる、直ちに降伏せよ。無駄な殺生は好まん、人道的な扱いをすることは約束しよう』

「・・・ホワイトベース艦長代理のリード中尉だ。降伏するから殺さないでくれ」

「中尉!」

「じゃあこの場を切り抜けるいい方法があるのかブライト! 私は死にたくないんだ!」

「・・・くっ、了解・・・しました・・・」

『・・・貴官の懸命な判断に感謝する。全員に戦闘中止を伝達してもらおう』

こうして、ホワイトベースを巡る戦いは終結した。史実には無い、木馬の鹵獲という形で・・・・・・





ガウ攻撃空母

ガルマと今後のことについて話していた時、通信が入電した。

「VF部隊から入電、『我が方の被害甚大なれども作戦は成功す。木馬及び搭載されていた3種類のモビルスーツの分析に移る』以上です」

「・・・・・・とりあえず被害が怖いですが、鹵獲できたってことですか。連邦の技術、利用させてもらいますよ」

「嬉しそうだなエルトラン」

「そりゃもう。だってガルマ、木馬は連邦の最新技術の結晶、未知の技術の宝箱だよ。設計思想や運用方法とか、連邦がどんな方法をとるのかもわかる貴重な資料だ」

「それもそうか。連邦のV作戦の詳細なデータが手に入る事を考えれば、君の喜び様も理解できるな」

そこまで言ったところで通信が入った。

「ガルマ、エルトラン、聞こえているか?」

「お、噂をすれば・・・お疲れさん、ドムの調子はどうだった?」

「ビームライフルと高速移動は魅力的だが、スラスターを噴かして滞空することが難しいな。障害物の多い地形では活躍できるか分からんな」

「う、やっぱりそれがネックか」

「うむ、後は反応速度と小回りがどうしても馴染まん」

「まぁホバーだからそこはしょうがないけどね。装甲の厚さと速度が生かせる電撃戦や機動戦以外では、ぶっちゃけドムの価値は半減しちゃうし」

「言うのもなんだが、ヅダイェーガーの方が私には合っている」

「・・・・・・よし、そこまで言うなら装甲は薄いが高機動高運動性を誇るうちの次世代主力機を用意してやる! 11月中にはその機体をまわしてやろうじゃないか。せいぜいその機体に乗ってみて絶賛するがいい」

「ほう、言ってくれるな。楽しみにしておこう」

「ところでキャ・・・シャア、エルトランとドムについて話すだけで通信してきたのではないのだろう? 何かあったのか?」

「ああガルマ、例の木馬なのだがどうもサイド7の避難民を多く乗船させているらしい。しかもその中でも若者は機体パイロット等をしているようでな。軍属として扱うべきか迷っているのだ」

「避難民を兵士として扱っていたのか!? 連邦の新兵器を開発していたサイド7の避難民か・・・よし、軍属として扱おう」

「ああ、ガルマ。それならそのパイロットも含めてサイド7からの避難民として登録して欲しいんだがいいかな?」

「ん? どういうことだエルトラン」

「いやね。避難民扱いならうち(ツィマッド社)で勧誘できるかなと思って」

「・・・・・・お前らしいといえばそれまでだが、理由は?」

「パイロットをしていたほどの人材だよ? 本土と地球で募集してるけど、一人前のパイロットにするにはやたらお金が掛かるんだ。即戦力の人材は喉から手が出るほど欲しいんだ」

「で、他の理由は?」

「連邦に渡したくないって事。避難民ってことにすればこれからどこで生活していくかって問題が出てくるわけだ。そこをうちが勧誘できたらいいなぁと・・・・・・まぁ最終的に実戦を経験した連中を連邦に渡さなければそれでいいんだし」

「その為には避難民として扱ったほうがいいのか・・・よしわかった。シャア、正規の軍人以外は臨時徴用した避難民ということで話を進めてくれ」

「分かった」

「それじゃこれから私は今回の事後処理があるからそろそろ帰らせてもらうよ」

「気をつけて帰りたまえ。後、例の件だが来月中にでも父上に話すつもりだ」

「ああ、よろしく頼むよ。それじゃあまた」









キャリフォルニアベース

VF司令部の大会議室で、エルトランは報告書を見て顔色を青ざめさせた。

「おっかしいな。仕事をしすぎたせいか幻覚が見える。今度まとまった休暇でも取るか」

「残念ですが社長、それは現実です」

「・・・・・・ああ、そうか。ようやく分かったよ」

「そうです、それが現実です。では会議を始め・・・」

「疲れてるんならあのラストエリクシャーを一気に飲めばいいんじゃないか。こんな幻覚一発で吹き飛ばしてくれるに違いない。 ・・・そぉい!」

「って、何ヤバげな液体ラッパ飲みしてるんですか!?」

「・・・・・・ウボォ!!」

「うわ汚え! って血も混じってる!? メディック、メディ~~ク!!」



ただいま場が混乱しております。しばらくそのままでお待ちください。



「うん、ちょっと河原で石積んでみないかって変なのに誘われたよ」

「それ三途の川では? とりあえず現実に戻られて何よりです。それとこれが終わったら人間ドックに行ってください、予約無理言ってとっておきましたから」

「で、認めたくないがこの報告書は本当なのかい?」

「事実です。廃棄処分扱いも含めて戦闘機6機、戦闘ヘリ27機、モビルスーツ19機・・・」

「新型とはいえたった1隻の新型艦と搭載機で?」

「これに加え量産型ヒルドルブを含む損傷した機体の修理や消費した物資の穴埋め、死者に対する保証金の問題もありますね」

「・・・・・・あれだけの部隊と物資を注ぎ込んだのに結果がこれか!? 最終的に最低限の目標は達したからいいものの・・・」

「まぁ対艦攻撃の要だったスカイキッドがエンジントラブルで出撃が遅れましたからね。それが痛かったですな。おかげで作戦がなし崩し的にずれ込みましたし」

「後、試作された新型ドムが派手に大破したおかげでイメージが少し微妙な事に。降伏勧告をした機体とシャア少佐のドムのおかげで総評は若干プラスになっていますが、当該機には乗りたくないとの声も」

「あははははは・・・・・・整備班長!」

そう言われ立ち上がったのは眼鏡をかけた初老の男性だった。

「整備班長のニトロ博士、事情を説明してもらおうか」

「いま少し時間と予算をいただければ」

「弁解は罪悪だと知りたまえ」

「ですが、実際時間と予算が欲しい状況です。それに今回のトラブルですがその責任は社長にもありますぞ」

「・・・ほう? どういうことだい」

「はい、VFは正規軍よりも比較的後方の人員が充実していますので、予定通りでしたら整備に問題は起きませんでした。ですが当時、試作機及び試作兵器が数種類持ち込まれた性で、整備員はまずその整備マニュアルを理解しなければなりませんでした。当然作業時間は減りますし、完全に覚えれた者以外はマニュアル片手に整備するので整備効率も低下します」

「む・・・確かにそうだな」

「更に、試作機という予定外の機体が加わった為、1機辺り担当する整備員の数が減少。結果整備に手間取ることになりました。この結果整備員がオーバーワークとなり・・・」

「・・・・・・たしかに私のミスだな。すまない」

「まだVFはマシです。酷いところでは後方人員の苦労もしらないで勝手なことを言いますからな」

「それで社長、鹵獲した木馬の乗組員及び確認されたサイド7の難民ですが、予定通りキャリフォルニアベースまで移送します」

「ああ、当然だとは思うが軍事機密は見せないようにね」

「それは大丈夫です。目隠しをしたバスに乗せますので」

「分かった。それでデータの方は?」

「現地に派遣した研究員の話では、木馬の方は応急修理でなんとか浮上させることは可能だそうです。よって、修理完了次第浮上させここまで曳航する予定です。なおモビルスーツの方は既に輸送機に乗せてこちらへ空輸中です。特にモビルスーツの方は研究素材としても素晴らしいとのことです」

「データは吸い出せるだけ吸い出してくれ。機体自体は本国の研究機関に持っていかれちゃうから」

「ええ、研究員達には出かける前に言った為、吸出し作業が凄まじい勢いで進んでいるそうですよ」

「連邦の最新技術の塊ですからね。気合の入れ方が違いますよ」

「分かりました。いい結果を待っていますよ」

「は、ご期待に沿える結果をたたき出して見せます」

「ああ、それとアクシズに通信をお願いします。例のことについて話をしたいと伝えてください」

「了解しました。それでは今回の会議はここまでにします。それでは解散」

全員が退出した後、一人残ったエルトランはボソリと呟き、部屋へと戻った。

「最大の問題は取り払われた。そろそろ動くとするか」



部屋に戻ったエルトランは極秘回線を開き、相手と話し始めた

「・・・久しぶりだね常務、頼みたいことができた。彼に会談したいと伝えてくれ。場所は中立地帯が望ましいがそちらにお任せすると伝えてくれ」

「・・・・・・」

「ああ、分かった。対価は大気圏内での連邦製モビルスーツの各種データでいいかい?」

「・・・・・・」

「ああ、ありがとう。それじゃあまた」

そう言って回線を閉じるエルトランの口元は、僅かに歪んでいた。

「さぁ、革命開始の鐘は既に鳴った。オーストラリアに展開したライノサラスと量産型モビルアーマー部隊、あれの活躍次第で彼との交渉の主導権・・・いや、今後の未来が決まる。さぁ、運命の女神は誰に微笑むかな? クックック、フゥハハアハハハハハ!!」

この後、人間ドックの予約時間になっても来ないエルトラン社長に業を煮やした病院関係者が、キャリフォルニアベース内の病院にエルトラン社長を強制移送したのは言うまでも無い。



[2193] 28話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:81ee3b7d
Date: 2009/01/18 12:09
ジャブロー

「ホワイトベースが落とされた、か・・・」

「仕方ありません。ジオン勢力圏内の真っ只中に降下した時点で、十分予想できた事です」

「如何に新型艦と強力なモビルスーツでも、物量の前には押しつぶされるだけだったか」

「ですが将軍、ルナツー経由である程度の実戦データは入手できております。それに、他の先行量産型モビルスーツを中核とする実験部隊からも、有益な戦闘データは得られております」

「君の特殊部隊もその一つだったな准将」

「はい。RGM-79G先行試作量産型ジム、通称陸戦型ジムからなる独立部隊です。総戦力は1個中隊規模で、この間も第3小隊がジオンの野戦整備基地を襲撃し、ザク3機を含む戦力を壊滅させたとの事です」

「たしか今はオーストラリア戦線で、後方攪乱任務中だったな。 ・・・悪いが、アジアに移動してもらう」

「アジアですか? ですがオーストラリア方面の戦力が低下しますが」

「承知の上だ。アジア戦線ではコジマ大隊を中心に激戦が繰り広げられているが、この方面は今のところ問題はない。RX-78の余剰パーツから組み立てられた陸戦型ガンダムが配置されているから、現在の戦況は一進一退を繰り返しているそうだ。だが、それとは別に東南アジア戦線で不穏な動きがある。君の中隊にはそれに対する押さえとして展開してもらう。オーストラリア戦線には代わりを送る」

「了解しました。ですが代わりの部隊というと・・・」

「君も知っているとおり8月に我々は量産型モビルスーツである、RGM-79の試作1号機を完成させた。その生産ラインを拡大した結果、ある程度まとまった数が配備できるようになった」

「それではその機体を・・・」

「うむ、オーストラリアの主要基地に、最低1個小隊規模のモビルスーツ隊をまわすつもりだ。なおトリントン基地は増加試作型のガンタンクとガンキャノンをそれぞれ1個小隊、チャールビル基地に鹵獲機とRGM-79で構成されたモビルスーツ1個中隊を派遣する」

「・・・トリントン基地に貯蔵しているアレを移すべきでは?」

「移すとして、どこに移送するのだ? ここは頭の固い官僚共が反対するし、ベルファストはDデイに使われると思われかねん。激戦区のインド・アジア戦線は論外だ。新しく保管場所を探すとしても時間も無いし、ルナツーも移送中に狙われんとも限らん。今はただ戦力を固めるだけだ」

「ですが、オーストラリア戦線には例のVFが展開しています。戦力の増強も行われているようなので、万が一奪われたら・・・」

「仕方あるまい。それにホワイトベースが落ちたせいで、かつてのV作戦反対派が盛り上がってきている。今はそちらにも対処せねばならん。莫大な予算を掛けた新型艦とモビルスーツを敵地に降下させ失うとは何事だと言い、わしを追い落とすつもりだろうがそうはいかん。もしあの者達が巻き返せばどうなるかわからんしな」

「はい、反対派には強硬派も少なくなく、例え戦争に勝利しても後にスペースノイドの弾圧に発展する可能性が高いです。そうなれば・・・」

「我々は戦争をしている。だが戦争にもルールがあり、むやみに虐殺することだけは避けねばならん」

「・・・レビル将軍、実はアナハイム社から私宛に通信がきたのですが」

「アナハイムから? 兵器の売り込みというわけではないようだな」

「はい、とある人物と会談を持って欲しいとのことです。そして会談に応じる対価はガンダムの地上戦闘データです」

「・・・会談相手はジオンか」

「はい、正確にはあのVFを運用しているツィマッド社の社長、エルトラン・ヒューラーです。今後について秘密裏に話し合いたいと」

「・・・コーウェン准将、会談に応じると返答したまえ。これも一つの転機なのかも知れんな」







キャリフォルニアベース研究施設

「調子はどうだいニトロ博士?」

「おお、エルトラン社長。中々のデータじゃわい。これがあればわしのメカロー・・・おほん、新型機の設計に役立とう」

「・・・また何か勝手に考えてるのかい? ほどほどにしてくださいよ。この前作られたゴキブリ型のメカが暴走して、余りの嫌悪感に基地がパニックになった事なんて記憶に新しいんですから。ところで、あそこに固めている機体の残骸もデータの固まりかい?」

そう言ってエルトランが指し示すのは残骸となったガンタンクとプロトガンダムだ。

「当然じゃ。ルナチタニウムにどれだけの防御力があるのかを示す貴重な資料じゃ。戦闘実証、それも対弾性能等で役に立っておるし、こちらの武装の有効射程距離を測るのにも役に立っておる。無駄なものなんぞかけらも無いわ」

「なるほど・・・・・・鹵獲した赤い機体、ガンキャノンはどうでした?」

「ふむ、多くの面でザクキャノンを上回る性能とだけ言っておこう。もっとも、元々対空用に開発されたザクキャノンと、対モビルスーツを目的に開発されたこいつとでは違うのも当たり前じゃがな」

「ガンタンクのほうは?」

「残骸となっているものと中破している機体とでは色々異なっている面もあるが、コアブロックという脱出機能に関して言えば疑問としかいいようが無いわい」

「疑問?」

「そうじゃ、胴体内部はともかく、頭部コックピットには脱出用の装備があまりないんじゃ。大破した機体にはそんな機能は無く、ただの一人乗り用に改修されておったが、こっちのほうが現実的じゃの。腰部が旋回できるのも悪くない」

「そうなのかい?」

「自走砲としても対モビルスーツ用の砲台と考えても優秀じゃ。アウトレンジから一方的に叩くということを前提にされておるから、あまり装甲はいらんように思えるがの」

「似たような兵器でザクタンクがあるけど、あれと比べればどうなんだい?」

「ザクタンクの種類にもよるが、コストではザクタンクじゃろう。砲撃能力では当然ながらガンタンクじゃ」

「それで・・・・・・どのくらいものに出来そうだい?」

「いま少し時間と予算を頂ければ、各種基礎技術に装甲材や武装、教育型コンピューターにインストールされたこれまでの戦闘経験など、物に出来るものは数多いですぞ。木馬の方もミノフスキークラフト技術を始め、多くの技術が参考になると報告がきておるしの」

「木馬の方はどのくらいで戦線投入が可能なレベルまで修理できますか?」

「わしは修理の担当じゃないからわからんが、おおよそでしたら・・・およそ1ヶ月あれば、キャリフォルニアベースで修理完了するじゃろう。ただし兵装は多くが破損しているので、変更する必要はありますがな。それにエンジンも応急修理に過ぎんから、新しく作ったほうがいいですぞ」

「ふむ・・・ありがとう。それと博士、そろそろ会議の時間だから切りのいい所で作業を区切って、会議に遅れないように頼むよ」





キャリフォルニアベース大会議室

「というわけで、はじめようか」

「では皆さん、手元の資料をご覧になってください」

大会議室には今回の作戦に関わった面子とVFの主要部隊の長が揃っており、そして社長の横にはVFの秘書兼看板娘として、そしてアイドルとしても活躍している『キャサリン・ブリッツェン』が立っていた。

いや~、まさかいるとは思わなかった。VFの秘書兼キャンペーンガール募集した中にこの娘かいたのを見て思わず唖然となっちゃったんだよなぁ・・・迷わず採用して、キャンペーンガールのコスをあの0079版コスチュームに変更させちゃったけど。それ着てキャンペーンガールとして活動させたら、やたら人気が出て、アイドル化しちゃったんだよなぁ。おかげで不純な動機でVFに入隊しようとする志願者も増加したが・・・キャサリンタンは俺の嫁って言う奴自重しろ。
というか既にVFと正規軍の一部で、キャサリン親衛隊が設立されてるからある意味手遅れか。他にも有名なのでコンティ大尉に叱られ隊とかいうのもあるけど・・・そこ、VFオワタって言うな!! ちなみに私は親衛隊から目の敵にされているがな。秘書ということで一緒にいる時間が長いから。ファンから送られてくる、月夜ばかりと思うなよって視線が怖いとです。
でもこうなると他のキャラクターもいそうだし、今度探してみるか。・・・・・・名前殆ど忘れちゃったが(爆

「皆さんの手元にある資料にあるとおり、連邦もモビルスーツの量産化を開始していると判断していいでしょう。木馬のデータから見てもほぼ確実です」

「ふむ、鹵獲機やザニーと呼ばれるザクもどきだけかと思っていたが、既に世界各地で連邦製と思われるモビルスーツが確認されているな」

「ということは新米の訓練プログラム、中でも対モビルスーツ戦闘を今よりも一層強化するべきか」

「それより問題は、こっちの対モビルスーツ戦術と連邦の戦術のあり方だろう」

「連邦の怖いところはその物量だ。たとえ旧式でも、圧倒的な航空戦力と地上戦力を揃えられれば、モビルスーツといえど飲み込まれかねん」

「それから言えることは、通常戦力でも十分モビルスーツは破壊できるということです。その点は連邦のほうが進んでいる」

「多くの犠牲と領土損失の上でな。だがこっちはそんな余裕は全く無いぞ」

様々な意見が飛び交っていたが、とある単語を司会進行役のキャサリン・ブリッツェンが発言した瞬間、喧騒は収まった。

「皆さん落ち着いてください。今後VFが取るべき方針は定まっていますので、これから説明します。北米戦線は守りを固め、オーストラリア戦線は近いうちに大規模な作戦が決行されます。そして、Xデーに備え戦力を整えます」

Xデー、この一言が発言された瞬間、会議室に静寂が降りた。その隙を突いてエルトランが口を挟む。

「皆、キャサリンが言ったとおりXデーが間近だ。調整がまだ済んでいないので正確な日時は未だ未定だが、第1段階を10月半ばから11月半ばと想定している。最終的には今年中に実行するので、そのつもりで行動してもらいたい」

「いよいよですか」

「遂にこの時が・・・」

感慨深い表情で呟く会議に集まったメンバーだったが、その中でダグラス・ローデン大佐が疑問を口にした。

「社長、Xデー実行時の戦力展開はどのようになるのですか?」

「それについては予定に過ぎないが、オーストラリアにはフェンリル隊とあなたの外人部隊を、北米にはソンネン少佐率いるケーニッヒス・パンツァーにスカイキッド、ブラックナイトを展開させる。作戦に参加するサイクロプス隊等の他の部隊は、ルナツー攻略といった名目で宇宙に戻す」

「地上はわかりましたが、カタリナ要塞の防衛は?」

「もちろんカタリナ要塞には防衛部隊を展開するが、それらは1個中隊もないだろう」

「ではカタリナの防衛戦力に不備が出るのでは? 万が一制圧されれば、我々は宇宙での拠点を失います」

そう危惧するダグラス大佐だったが、ここぞとばかりにニトロ博士が立ち上がり説明を始めた。

「心配するでない。こんなこともあろうかと、ギニアス技術少将の開発しているモビルアーマー、アプサラスⅡに搭載されている大型メガ粒子砲を転用した砲台がカタリナに運び込まれる手筈じゃ。衛星ミサイルより一回り大きいサイズの隕石を利用し、そこにメガ粒子砲とジェネレーターを設置したものじゃが、威力は計算上では戦艦の主砲を上回る。本当は拡散誘導型のメガ粒子砲を設置したかったのじゃが、まだ完成していないのでしょうがあるまい。代わりに威力も精度もかなり落ちるが、ザクレロに搭載されているタイプの拡散メガ粒子砲設置型を準備しつつある」

「アプサラスというと・・・たしか日本に拠点を置いているギニアス技術少将のジャブロー攻略用モビルアーマーでしたか」

「そうじゃ。この前わしがあの小僧、ギニアスに通信をしたのじゃが、アプサラスⅡがある程度完成したので、アジア戦線後方の秘匿物資集積基地であるラサ基地に移動し、微調整を行った後に実戦テストを行うそうじゃ」

「ああ、その報告なら私にも来たよ。でも計算ミスでミノフスキークラフトが不調になって、改修しようにも機体容量の問題のせいで不可能、そのせいでアプサラスⅡは完全にデータ収集用の機体にして、新たにドムシリーズのジェネレーター4基とミノフスキークラフト2基を搭載し、精密射撃可能な拡散メガ粒子砲を搭載するアプサラスⅢを開発するとかなんとか」

「・・・バケモンですなそのアプサラスとやらは。話を戻しますが、つまりその砲台は、モビルスーツの母艦を落とすことが主任務であるタイプと、モビルスーツ迎撃用の拡散型の2つがあるわけですか。それで万が一の対処が出来ますかね?」

「砲台自体は隕石に砲とジェネレーター、姿勢制御用のスラスターをくっつけた代物じゃから耐久性は無いに等しいがの」

「それに、作戦開始から終了までの時間が数時間以内と予想を立てているから、その間だけ時間を稼ぐだけならそれで充分だと私は判断しました。それ以上長引くことがあれば、それは作戦失敗を意味します」

「その時はプランIですか・・・わかりました」

「後、工兵隊の報告では今回の戦闘で大破したモビルスーツ等の回収作業も順調だそうです」

「大破って、正規軍じゃスクラップ扱いですよね?」

「たしかにそうですが、フェンリル隊のミガキ整備班長の言葉にすれば、修理を開始した瞬間からそれはスクラップから、未来の稼動機に変わる、大事なのは未来ということです」

「まぁ最悪、パーツ取り用としては使えるからな。胴体が全損していても脚部や腕部は無事っていうパターンもあるし」

「機体が大破していても武装は生きていることもありますからね。我々にとっては貴重な物資ですよ」

「今回は大規模な作戦が無いおかげで、回収作業がかなり順調なんだがね。これが激戦区なら簡単に回収なんてできやしない」

「まぁこういう員数外のモンが役に立つこともあるからな。ちゃんと整備すれば使用可能なもんは多い」

そんなこんなで報告は続き、最後に生産ラインの話に入った。

「では、最後に主力モビルスーツであるドムシリーズの生産状況についてです。皆さん赤い冊子をご覧になってください」

「皆も知ってる通り、地球上で運用されるモビルスーツは基本的にここキャリフォルニアベースで少なくない数が製造されている。占領直後からの大規模な工場増設もあって、生産ラインの拡張は順調だ」

「ですが、ここにきて問題が噴出しています。生産ラインを整えつつあるのですが、現在我々の生産ラインに乗っている兵器は、モビルスーツだけでもザク、ヅダ、グフ、イフリート、ドム、ゴッグ、ハイゴッグ等、多岐にわたります。ザク、ゴッグに関しましては生産ラインは今月一杯を持って他のラインに変更されます」

「ザクに関しては各社との協議の末に決まったよ。政治的な事で、今後ザク系の生産や近代化改修はジオニック社の管轄になる」

「まぁその方がこちらにとっても良かったんで妥協したという一面がありますけどね」

「イフリートは12機+α生産しただけで、後はずっと予備パーツのみの生産だったからもう他の生産ラインに切り替えたし、11月までにヅダとグフ、それに前線への配備がある程度完了したハイゴッグのラインをある程度削減することで、ドムシリーズの生産を拡大する予定だ。ただ、問題はそれだけじゃないんだよね~」

「皆さんもご存知の通りドムシリーズは拡張性が高く、多くの派生型が存在します。それゆえに互換性の無いパーツは多く存在します。他の機種のラインを縮小することで賄っていますが、それでも実戦配備は遅くなるでしょう」

「前線での整備も考えると現状でギリギリといったラインだからねぇ。グフやザクの生産から撤退し集中するっていう手もあるけど、デメリットも多いから無理だし」

「ですので、ドムシリーズが正規軍に実戦配備され大々的に普及するのは早くて来月から再来月中にかけてと予想しています」

その言葉に会議に集った一同が唸る。ドムは素早く展開できる機動性が売りなのだ。つまり、これが多ければ多いほど危険な状況に陥った戦場に短時間で増援を送れることになるのだ。連邦がいつ反撃を開始してもおかしくないので、ドムの配備は防御能力の向上という点でも急がれる事案なのだ。

ちなみによく運動性と機動性はごっちゃにされるが、これは全く違う別物である。(作者もよく間違えるが)
機動性は様々な場所に移動し部隊を展開できる性能のことで、巡航速度や航続距離、補給の容易さに大きな影響を受ける。
一方運動性は、攻撃に対する回避行動などの素早さを意味する。これは最大推力、重量 (戦闘重量等)、あるいは機体デザインに大きな影響を受ける。
簡単に言えばグフやイフリートは運動性が高く、ドムは機動力が高いということになる。
ちなみに機動性と運動性の両立は十分可能で、有名な例でいえば長大な航続距離と優秀な格闘戦能力を持つ、ゼロ戦こと零式艦上戦闘機が有名だろう。後は・・・フランカーとかか? 

閑話休題

そんなわけで、生産ラインの話はまだまだ続く。

「それに他の生産ラインの問題もある、モビルアーマーに関してだ。手元の書類に書いてある通り、10機以上の量産を計画されているモビルアーマーは現時点では少数だ。これはモビルアーマーが高価格かつ生産性がモビルスーツよりも悪いということに起因している」

「最初から量産を前提にされているモビルアーマーに、開発コードTCK、正式名称イーゲルヴィント級モビルアーマーがあります。これは量産型ヒルドルブの生産ラインを流用して生産していますので、ある程度の融通が効きます。その反面、量産型ヒルドルブのラインは一時的に閉鎖します」

それを聞いて一人の佐官が立ち上がった。言わずもがなヒルドルブ隊隊長のソンネン少佐だ。

「社長! ヒルドルブはまだ活躍できます!」

「ソンネン少佐、わかっている。誰もヒルドルブが役に立たないと言っているわけじゃない。それどころか私はヒルドルブを評価している」

「だったらなぜ・・・」

「生産ラインを閉じるといっても、ヒルドルブを廃棄するわけじゃない。それに、ぶっちゃけて言うとヒルドルブはこれ以上の量産は不可能なんだ。ヒルドルブのコストは高くて、量産型といっても容易く量産できる値段じゃない。それにヒルドルブが必要とされる戦場は今のところ北米には存在しない」

「ならば他の戦線に・・・」

「それも一つの手だけど、ケーニッヒス・パンツァーは北米方面軍の力の象徴と言ってもいい。その方向で各地で宣伝してしまったからね。よって政治的な問題で他戦線に投入することも難しい。それに補修用パーツも備蓄があるから、大規模な作戦が無い現状なら一時的な閉鎖を行っても問題無いと判断したんだ」

「・・・・・・」

「その点イーゲルヴィント級はこれから必要になってくる兵器だ。少佐、イーゲルヴィント級の特徴は知っているかな?」

「噂では・・・ライノサラスの小型版で連邦の使っているホバートラックの大型版、ホバー版ヒルドルブと聞いたことがありますが」

「まぁ大まかに言ってしまえばそうなるね。だけどこれはモビルアーマーというか、その実態は前線指揮官機、連邦のミニトレーみたいな物だということだ。一定数の部隊を率い、迅速な戦術行使を可能にする移動指揮所。流動的な戦場を支配する為の切り札といってもいい」

「皆さんもご存知の通り、連邦は我々の後方支援部隊を集中して攻撃する傾向にあります」

「中でも指揮系統の破壊は優先順位がかなり高いみたいでね。自衛能力の低い指揮車両がよく狙われてるんだ」

「・・・重要度はヒルドルブより上ってことですか」

「ああ、そういうことだ。だからといってヒルドルブの重要性は決して低くない。正規軍の戦車乗りはヒルドルブに憧れているという報告もきているからね。ただ、今はこっちを優先しなきゃならないんだ」

「・・・・・・了解しやした、そういうことなら納得しましょう。実際問題、こっちは4号車が修理中ですからね」

「ありがとう。さて、時間も無いから次の案件に行こう。次は・・・・・・」







翌日 キャリフォルニアベース

ジオン公国軍キャリフォルニアベースは一言で言えば都市を含む軍事拠点だ。当然一般人が入れる区域や軍人でも一定以上の者しか立ち入りが許可されていない区域が存在する。そして、その中でも一般人の立ち入りを禁止されている区域を人員輸送用に改造され、しかも窓に目隠しをされたサムソンが何台も通過していく。そして、その乗客は本来この区域に立ち入ることは絶対に許されない存在だった。
そして、高台にある巨大な建物の前に停車し、乗客を降ろしていった。建物の駐車場には多くの車両が駐車しており、それだけでもここにいる人員の数がわかるだろう。

「・・・ここがキャリフォルニアベースか」

未だ連邦軍の服を着ているものの、サイド7の難民扱いされているアムロは複雑な気持ちでキャリフォルニアベースの地を踏んだ。
あの後捕虜となり、エドワード少尉を含む少なく無い数の人を殺したジオンをアムロは憎んだが、ある光景を見たことでその思いは失散した。

ボディバッグ(死体を入れる袋)に入れられる女性パイロットの遺骸にすがり付いて泣く、恋人であったであろう男性兵士の姿だった。
そして周りを見渡すと、少なく無い数のボディバッグが搬送されていた。

今回の戦闘ではアムロはシャアと戦ったが、これまでに彼は少なく無い数の兵器を破壊した。当然それらには兵士が乗って動かしていたのだ。そしてそれを破壊するということは、乗っていた兵士を殺すこと。

『相手がザクなら人間じゃないんだ、僕だって』

そう思って戦っていただけに、アムロにとってその光景は衝撃的だった。当初は精神状態が不安定になるほどだったが、仲間達からの説得や荒治療によってなんとか精神の均衡を保っていた。

そんなアムロだったが、肩を叩かれたことで我に返った。気がつかないうちに思考の海に潜っていたようだ。

「おいアムロ、下見てみろよ。ピラミッドみたいな奴が動いているぜ」

「ピラミッド?」

そう言ってカイが指差した方向には、たしかにピラミッドのような存在が動いていた。ソレがピラミッドと違うのは色が緑で足が4本あるモビルスーツだということだろう。そしてソレはホバー走行しているのか、地面から浮いてゆっくり移動していた。

「なんなんだあれは? ジオンの新型モビルスーツなのはわかるが・・・」

そう言ったのはリュウだ。ソレはどんな運用方法なのか全く見当が付かず、外付けと思われる追加装甲のせいで機体を覆っている為に、機体固有の武装らしきものが見当たらなかった。いや、頭部にメガ粒子砲らしきものがみえるが、どう見ても水平射撃はできそうになかった。

皆の注目を集めるソレはゆっくりと前進していたが、次に行った行動に皆が唖然となった。
ホバーが故障したのか、突然その場で360度回転を行い始めた。しかも勢いが半端ではない。もし昔の遊びを知っている者がいれば、まるでベーゴマ(コマ)みたいだといったはずだ。

「なんだ? ジオンの新兵器もたいしたもんじゃないのか?」

「ホバーの故障のようですね。あれは実験機みたいですが、乗っているパイロットには同情しますよ。リバースしないかとね」

リードと他数名はその光景を馬鹿にするが、実際にはその機体、ゾックのモノアイは全周ターレットを回転する機体の動きとは逆に動き、常に一定の方向を向いていることには気付けなかった。そして、このモビルスーツがヨーロッパで連邦軍相手に大暴れして、暴れた場所からドイツの破壊神と連邦軍に呼ばれることになるとは、誰も想像すらできなかった。

「無駄口言っていないでさっさと動け!」

そう言って銃を持った男が建物内へ入るよう言ってくる。ちなみにサイド7からの避難民には女性兵が当たっているが、こちらは親切に接している。まぁ老人が多めなので当然だが。

建物内に入ったら最初から連邦軍に所属していたリード中尉やブライトさん、リュウさん達と、サイド7でホワイトベースに乗った人とで別けられた。
そして僕達はホールみたいな所に通され、置かれている椅子に座るようにジオンの兵士に指示された。

「おいアムロ、さっきの兵士みたか?」

「何をですカイさん?」

「肩のところに戦乙女の紋章だよ。ありゃ噂に聞くVF、ヴァルキリーフェザーってやつじゃないか?」

サイド7でもVFのことは良く知られている。というより、宣伝放送でよく流れているから多くの者がその存在を知っていた。曰くジオンの特殊精鋭部隊、曰くザビ家直属の私兵部隊、曰く人道的な支援を民衆にする偽善者の集団、曰く連邦軍の作成するブラックリストの最上部、曰く戦乙女ではなく死神、疫病神etcetc・・・・・・突拍子も無いものになると、ジオンを影で操っている組織とか、この戦争はVFによって仕組まれたものでザビ家ですら操り人形に過ぎないというのまである。

そんな事で話していると、護衛をつれて軍人には見えない男性がホールに入ってきた。

「はいはい皆さんこんにちは。皆さんはサイド7の避難民で間違いありませんね?」

「そうだが・・・誰なんだあんたは?」

「っと、これは失礼。私はジオン公国の企業であるツィマッド社の社長、エルトラン・ヒューラーです。VFの元締めもしてますがね」

その言葉にどよめきが走る。まさか社長が出てくるとは誰も思っていなかったのだから当然か。結果、ホールは避難民の話し声でがやがやとうるさくなる。

「VFの元締めって・・・」

「VFって噂どおり一企業の私兵だったのか」

「そうだったの? てっきりサイド3以外のサイドからの義勇軍だと思ってたけど」

「わしの知人の息子がVFに入ったらしいが、元気かわかるかのぉ・・・」

「はいはい、皆さん落ち着いて。とりあえず我々は貴方達をしばらくここに拘束します」

「・・・」

「・・・」

唐突に言われたその一言で場が一斉に静まり返る。そして次の瞬間怒声が辺りを支配した。

「・・・ふざけるな!!」

「わしらをここに連れて来たのはお前達じゃろう!」

「さっさと開放してくれ!」

「静かにしなさい、話はまだ途中です!」

「ヴォク、アァルヴァアイトォォォオオオ!!」

静止の声も聞こえるが一向にざわめきは収まらない。当然だ、ここに連れて来たのはそちらなのになぜ拘束するんだ。それなら最初から連れて来るな、という事である。怒声を発するサイド7の皆さんと、それを静止する兵士達の声がホールに響き、いい感じにカオスになっている。



十数分後・・・

「さて、説明したとおり移住先や仕事先を、我々ツィマッド社が紹介することができます。ただ、サイド7は半軍事拠点なので帰ることはかなり難しいといわざるを得ません。よって地球上での移住先はジオン管轄下になります」

その言葉に高齢者の避難民は再び地球に住めるという驚きの表情が、若者は生まれ育ったサイド7に戻れないという悲しみの表情が多かった。だがこれに疑問も出てくる。

「なぜそこまでしてくれるのです?」

そう、普通はそこまでする義理はないはずなのだ。普通は裏を疑うだろう。

「簡単なことです、皆さんはサイド7に住んでいた。つまりスペースノイドです。同胞を支援するのは当然でしょう。それに、こういう慈善事業をすることで我々ツィマッド社のイメージアップも兼ねてますので」

その言葉に、一同はなるほどといった表情を浮かべる。メリットがあるからやるのであれば納得できる。

「なお、北米とオーストラリアならばツィマッド社が展開しているのでバックアップしやすくなっております。数日後に個人面談を行い希望をそれぞれお聞きしますので、その時までにどうするか決めておいてください。なお、ホワイトベースで戦闘や整備とかに関わった人は残ってください」

そう言ってホワイトベースの運用に関わった若者達がその場に残された。





さて、名高いホワイトベース隊の面々がいるね~アムロにカイにセイラさんに・・・ってあれ? ハヤトはどこだ? 気になったので隣にいる警護の兵に何人かいないようだと尋ねてみた。

「社長、先日の戦闘の際に負傷して、現在我々の病院に搬送された者もいますので、お探しの者はそれに含まれるのでは?」

納得、そういやガンタンク派手に壊れてたな。まぁいい、そろそろ本題に入るか。

「さて、貴方方は軍人では無いのに我々との戦闘行為を行った。これは本来ならゲリラ扱いで射殺すべきところです」 

そう言ったら反応がすぐきたね。まぁ当然か。

「それはあんた達が攻撃してきたから・・・」

「ですが、貴方方が我々に攻撃してきたことは事実です。そして我々は少なくない損害が出た。多くの戦死者もでました。そしてそれをしたのは貴方方だ、違いますか?」

その言葉にアムロの体がびくっと反応する。ってか、そういや報告書にメンタル面で問題が出た者もいるってあったな。ランバ・ラル戦のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が早く発症したのか?

「あえて言いましょう。我々は貴方方を解放して連邦軍にそのまま兵士として採用される事を恐れています。貴方方は実戦を経験した優秀な兵士で、連邦軍にとっては宝石よりも貴重な存在だからです。故に貴方方を解放することはできないと思ってください」

「そんな・・・俺達はただ生き残る為に必死で・・・」

「ええ、それは理解します。ですので、貴方方には次の選択肢が存在します」

そう言って辺りを見渡す。まぁこんなことしたくはないが、こっちも必死なんだ、許してくれよ。

「一つ、監視下の元で戦争が終わるまで不自由な監禁生活を送る事。二つ、我々VFに志願兵として入隊する事。三つ、ジオン軍に志願する事・・・」

「ちょ、ちょっと待ってください。監禁ってどういうことですか!?」

「言ったとおりです。君達は優秀な兵士ですので、再び敵に回られると洒落にならないのです。本当なら処刑したほうが手っ取り早いのですが、それはさすがに外道すぎるだろうというので私がやめさせました」

「処刑って・・・」

「最初は銃殺刑を真剣に検討してましたよ、ジオンの担当者は。それを我々ツィマッド社が処分を引き受けたのです(半分は本当だけど半分嘘だけどね)」

その言葉に動揺が広がる。だが実際問題、サイド7やルナツーでは正規軍の制服を着ずに戦闘を行った者も多く、戦時条約でも庇いきれないものがあった。ゆえに、捕虜になった際にどう扱うかは運任せといっても良かった。そして、捕虜の人権を守るその戦時条約でさえ守られることは稀であった。酷いところだと降伏勧告し兵が武装解除した後に、戦時条約? ナニソレ、ウマイノ? と言わんばかりに笑いながら処刑するという悪質な者もいる。

「正直三つ目はお勧めできませんね。使い潰されるのが目に見えてますから。ですので実質一つ目か二つ目を選んだ方が無難でしょうね」

「監禁されるか、VFに入ること・・・ですか」

「VFといっても、ツィマッド社に入社という形ですので保険とか福祉とかは正社員と同等ですので安心してください。守秘義務は当然ありますが、戦争が終わったらその時点で退社していただいても結構です。それにVFに入隊しても前線行きとは限りませんよ。モビルスーツに乗っていた人ならテストパイロットとして後方で働くという選択肢もありますよ」

その言葉にまたざわめきが起きる。監禁かツィマッド社で働くか。しかも後者は正社員並の扱いというのだから無理も無い。何時終わるかわからない監禁生活か、ツィマッド社で働いて自由を得るか。

「まぁ結論は今すぐ出さなくて結構です。これから貴方方は我々の用意した施設に他の避難民の方と収容されます。他の避難民の方に希望を聞いたときに回答をお願いします」

「あの・・・ブライトさん達は?」

「今は捕虜として収容しています。彼らは正規の軍人ですからね。それじゃあ皆さんには他の避難民の方と同じ場所に移動してもらいます。それと・・・」

そう言って辺りを見渡す。見覚えのある金髪女性がこちらを睨んでいるのが視界に入る。となりにアムロがいるし、パイロットメンバーが一緒にいるのである意味わかりやすかったな。

「この中にセイラ・マスという方がいると思うんですが、どなたですか?」



「この中にセイラ・マスという方がいると思うんですが、どなたですか?」

こちらを見ながらそう聞かれた時、私は言いようの無い不安感に襲われた。これはあくまで確認なのだろう、でないとずっとこちらに視線を向けてくるはずが無い。そう思っていたら、

「セイラさん、危険じゃないですか?」

「・・・たぶん大丈夫でしょう。私がセイラです、何の用ですか?」

そう応えると、やたらいい笑顔でとんでもない事を言ってきた。

「じゃあ私の後についてきてください。貴方の知り合いという人がいて、その人に会ってもらうだけですから」

・・・知り合い? 誰? まさか兄さん? いえ、それよりも私の正体がばれた? ジオンの企業の社長にばれたということは、どこまで知られているのか・・・

「それでは他の皆さんは、兵の指示に従って移動してください」

そう言ってその男性はさっさとホールを後にし、私は少し考えてからその後ろを見張り役の兵と共についていった。







うん、後ろからの視線がすごいよ。やっぱ警戒してるなぁ・・・まぁ仕方ないけど。そうそう、この施設はうちの支社で、会議とかによく使われてるんだよ。ここの大会議室でホワイトベース対策の会議を何度もしてるし。まぁもとは連邦の研究施設だったみたいなんだけど、高台にあって見晴らしが良かったから使ってるんだけどね。きちんと『清掃』は済ませてあるから問題ないし。

「私の知り合いと言われましたが、一体誰なのですか?」

と道中聞かれたけど、

「う~ん、今言うのもつまらないし、直接会ってみたらわかると思うよ。それまでは秘密ということで」

と言ってスルーさせてもらった。ぶっちゃけセイラさんがどんなリアクションしてくれるか楽しみだから言わないだけだし・・・そこ、H・E・N・T・A・Iとか言うな! 私はノーマルだ!

まぁそんなこんなで社長室の前まで到着。さっさとドアを開けて中に入る私と、その後に続くセイラさん。っていうか今更だが肝据わっているなセイラさん。そこに痺れr(ry
それはさておき、社長室には私の他にシャアと、壁に背を預けているガルマ、更に木馬攻めの後詰としてわざわざドズルが派遣してきた、ランバ・ラルの姿があった。まぁドアの横に観葉植物を置いてるせいでセイラさんの位置からはガルマは見えにくいわけだが。
入ってきたセイラを見て、まず真っ先に反応したのはランバ・ラル、次にシャアだった。


「おお・・・ひ、姫様! 間違いない、姫様だ」

「・・・アルティシアか」

「え・・・に、兄さん!? キャスバル兄さん!? それに・・・まさか、ラル?」

驚くセイラさんもといアルティシアだが、自分の背後から声を掛けられたことで更に驚いた。

「で、エルトラン。今後について聞かせてもらおうか」

驚いたセイラが振り向いた先には、ザビ家の一員であるガルマが立っていた。シャアとラルを見て驚いていたせいか気が付くのが遅れたようだ。まぁある程度死角だったということもあるんだが。

「とりあえず、ここで話す事は他言無用でお願いするよ。ここには盗聴器とかは無いので安心して欲しい」

「別に君がダイクンの娘としても、危害は加えないよ」

そう私が発言すると同時に、ガルマも紳士的に応える。間違っても変態という名の紳士ではないので安心して欲しい。むしろ変態という名の紳士は仮面をつけているシャ(検閲入りました、強制終了します)

「それにアルティシア、お前は私がザビ家に復讐する為にジオンにいると思っているのだろうが、私はもうザビ家への復讐は望んでいない。いや、これもある意味復讐かもしれんがな」

「に、兄さん。どういうことです!?」

「簡単に言えば、ガルマと共闘し本来のジオンをつくる。アルティシア、手伝ってくれ」







後書き:色々あって文書きたくない病が発症しました(マテ)やっぱ有名すぎる原作キャラをいじくるのは自分にはきついっす(核爆
まぁそんなわけで(どんなわけとか突っ込み禁止)色々リアルで問題が発生し、投稿が遅れた事をお詫びします。ぶっちゃけ毎月風邪にかかって寝込むとかありえん。今はまだ学生の身分だからある程度休めるが、就職したらそんなこと言ってられなくなるんだろうな。というよりも、就職先が未だに決まらない・・・大嫌いだ不況なんてorz
・・・宝くじで1億とか当たらないかなぁ~(超新星爆
うん、現実見ると軽く鬱になりそうだが、初心の気分転換を忘れずに頑張っていくか。



[2193] 29話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2009/03/18 17:17
インド戦線。
連邦軍マドラス基地及びコロンボ基地を中心に、インド全域に渡ってジオンに抵抗している戦線である。補給ルートはアフリカを抑えられている為に、主にオーストラリア方面に依存しているが、当然ジオン公国オーストラリア方面軍の迎撃を受けている。よって基本的に補給は空輸になり、海路も潜水艦が主力となっていた。

話を戻そう。ゆえにジャブロー等からの補給は少ない。だが、それでも戦線を維持していたのは理由がある。それはインドが連邦軍の大規模軍需工場でもあったからだ。インドは豊富な人的資源があり、工業力も高かった。資源も東南アジア戦線が地の利を活かしたゲリラ戦で連邦有利な状態で膠着している為、そこから資源を輸送し兵器を量産していた。そして次々に工場から吐き出される兵器はインド戦線以外に、アジア戦線・中東戦線にも輸送されていた。そして、そこでジオン相手に戦う兵器は、何も連邦製ばかりとは限らなかった。





インド北部戦線
大インド砂漠と呼ばれる砂漠に面する都市ジョドプル。その近郊に位置し、この戦線の防衛を一手に担っている連邦軍のジョドプル基地では、陸軍及び海兵隊所属の大量の車両が出撃の時を待っていた。その車両の種類は様々で、その中でも最も多いのは太い砲身を2つ突き出している鋼鉄の狼だろう。

61式戦車

150mm連装砲を持つ連邦軍の主力戦車だ。今から18年前に正式採用され、これまでに何度も近代化改修を受けてきた鋼鉄の古強者。そして一度は生産中止になったものの、ジオンの地球降下作戦によって激減した戦力補充の為に再生産が決定された戦車である。
そんな戦車が整然と停車し、数十単位で待機している様は、陸戦の王をモビルスーツに奪われた現在でも力強さを感じる。そしてその中でも一際強そうに見える車両が最前列に並ぶ戦車だった。

61式戦車5型

開戦前から開戦後にかけて大規模な近代化改修を行われた、61式戦車の中でも新しい型である。主砲を155mm滑腔砲に変更し多くの所に手を加えられた結果、従来の61式に比べあらゆる性能が向上している。流石に主砲がレールガンである対モビルスーツ駆逐戦車、XT-79のように真正面からモビルスーツの装甲を貫通することは難しいが、やり方次第では十分モビルスーツを破壊できる戦車だ。そしてその横の群は、そのライバルというべき存在が整備を受けていた。

HT-01B マゼラアタック

言うまでもなくジオン公国の主力戦車である。だがその車体には連邦軍のマーキングが施されていた。
そう、鹵獲兵器である。輸送中に敵に奪われたり、戦場で部隊が降伏して鹵獲された兵器だ。そしてこの戦争において、鹵獲した兵器を使用するのは極一般的なものだった。このマゼラアタックもそういった経緯を持つ兵器だった。
だが、鹵獲兵器というのは整備に時間が掛かるものだ。それも当然、自らの整備体系に元々存在しないパーツを使用しているのだから、これを大規模に整備しようとするとなると自らの整備体系で生産されたパーツを流用するか、使われているパーツを解析してそのパーツを生産するか・・・

簡単に言えば整備兵泣かせということだ。

現に今マゼラアタックを整備している戦車兵は書類と睨めっこしながら汗だくで整備していた。

「おい軍曹、そいつの具合はどうだ?」

そんな戦車兵に後ろから男が尋ねる。忙しい真っ最中に訊ねられた戦車兵は振り向かず、質問に少し投げやりな感じで返事を返す。

「ああ? 正直、突撃砲か駆逐戦車扱いするしかねぇよ。分離機能のせいで砲塔が旋回しないせいでやりにくいったりゃありゃしねえ!」

「その分離機能はどうだ? 使いこなせそうか?」

「俺は根っからの戦車兵だ、航空機パイロットじゃねえ!」

そう言って振り返って相手を見た途端、彼の顔は凍りつき、直後に最敬礼をした。振り向いた先にいたのはハワイ基地で多大な戦果を上げ昇進した、連邦軍第7海兵隊を率いるハートメン中佐だったからだ。というか階級的にもかなり上位の佐官様だ。間違ってもそんな口調で言っていい人物ではなかった。

「ちゅ、中佐。申し訳ありませんでした!」

「構わん、それくらいの意気がないと宇宙人共に遅れを取ってしまうぞ」

連邦軍第7海兵隊、ハワイ基地を脱出後に各地を転戦し続け、その戦績から人員が大幅に増員され、ここインド方面に派遣された部隊だった。その戦績はずば抜けており、その為多くの戦地から引っ張りダコだった。そんな彼らがインド戦線に配属されたのは理由がある。一つ目は新兵の教育の為に。そして二つ目に・・・これが一番の理由だが、とある作戦の主力として投入する為に、ここインド戦線に仮配置されたのだ。

「俺の海兵隊にも戦時急造の新米が多く配属されているが、軍曹のとこはどんな具合だ?」

「はっ・・・は! 増強された我が陸軍第25戦車中隊の半数近くが新米であり、手の開いている者は新米の特訓に出向いております!」

「ふむ・・・・・・やはり開戦初期の痛手からはそう簡単には治らんか。質の低下は止むを得ないとして、使い物になりそうか?」

「は、使い物になるかどうかではなく、使い物にするのが自分達の役割と考えております!」

「・・・上出来だ軍曹、その調子で頑張りたまえ」

そうハートメン中佐が言った直後、基地に警報が鳴り響く。

「敵襲か・・・お前ら出撃準備急げ!」





「ハートメン中佐、司令部から渡された情報では、こちらにザク7機が先行し、その後方をマゼラアタックを中心とする戦車部隊が凡そ30台接近中です。この基地を落とすには小規模なので、威力偵察と思われます」

帰還した偵察機の報告を受け、司令部は慌てた。本来ならば防御陣地に篭って防御に徹するのだが、それは実行不可能だった。なぜなら敵部隊の侵入してきた方面に設置されていた防御陣地は、つい数日前に敵の大規模な空襲を受け損壊し、未だ修復途中だったからである。
その為、この陸軍基地で最も有力な戦闘力を持つ第7海兵隊に司令部は出撃を命じた。そしてハートメン中佐は部隊を召集し、簡単に作戦を伝える。

「お前達、良いニュースと悪いニュースがあるが、どちらから聞きたい?」

意地悪くハートメンが部下に尋ね、その言葉に一番新米の兵士が口を開く。

「では悪いほうからお願いします」

その言葉を受け、ハートメンは愉快そうに現状を述べた。

「この方面に展開していた自走ロケット砲部隊が先日壊滅して以来、未だに補充されていない。よって支援射撃は無く、陸上戦力は我々だけだ。ついでに言えば対地攻撃機も損傷している機体が多く、修理中で来れんそうだ」

その瞬間部隊の面々、正確には配属されたばかりの新米達が暗い雰囲気になった。だがそれも当然である。
現在連邦軍第7海兵隊に配備されている兵器は鹵獲兵器のマゼラアタックが7台、XT-79駆逐戦車1台、61式戦車が32台で、その内5型が16台である。合計40台もの戦車部隊を持ち、他にもM72LAKOTAといったジープや装輪装甲車といった各種車両が配備されていた。だが、ザク7機を相手するには厳しいものがあった。なぜなら、茂み等を使い至近距離からの砲撃でザクを倒した例は多いが、真正面からの撃ち合いでザクを撃破した例は少数だからだ。しかも相手はモビルスーツだけではなく、マゼラアタックまでもいるのだ。モビルスーツだけに拘れば敵戦車によって蹂躙されかねない。特に砂漠では遮蔽物が砂丘などの起伏しかないのでなおさらだ。特に、今の第7海兵隊は新米が多く配属されており、それの教導も兼ねていたので実際の戦闘力はどの程度なのか全くわからなかった。ついでに言えば、ジープや装輪式の装甲車は砂漠ではキャタピラ式の車両に比べ、満足に性能を発揮できない事も理由の一つだ。

「そんなお前等に良いニュースだ。新しく編成された第1984及び1985混成ヘリ部隊が支援に来てくれる。特に1984はベテランの操縦する重戦闘ヘリが含まれている」

その言葉に先程とは一転して各所から口笛が響く。
重戦闘ヘリ。ミサイルを多数搭載し、対戦車戦闘を重視した戦闘ヘリのことだ。形状としてはかつてのAH-64アパッチに似ている。かつてキャリフォルニアベース防衛戦にも投入され多数の戦闘車両を撃破したが、モビルスーツには敵わずその多くが叩き落されたヘリである。他にも連邦軍には対人戦を重視した武装ヘリというべきものもあるが、対戦車ロケットランチャーを一応装備するにはするが、コストと生産性、それに整備性と操縦性以外はあらゆる面で重戦闘ヘリに負けており、特に火力不足は致命的だった。その為に今では治安維持や偵察以外にはあまり使われなくなった。後はファンファンがあるが、こちらは海軍や海兵隊を中心に配備されている為に、元々陸軍基地であったジョドプル基地には配備されていなかった。
話を戻すが、重戦闘ヘリの最新のタイプは対モビルスーツ用重誘導弾『リジーナ』を搭載している為に攻撃力は飛躍的に上昇し、エンジン等にも手を加えられ運動性も向上していた。

話に上がった第1984混成ヘリ部隊には、その重戦闘ヘリが6機、武装ヘリが6機配備されており、重戦闘ヘリのパイロットは皆開戦以来戦い抜いてきたベテラン達だった。ちなみに1985は全て武装ヘリである。

「中佐、質問があります」

そう言って挙手したのは古参の下士官で、ハワイ基地防衛戦でも活躍した兵士だった。

「なんだ軍曹?」

「友軍の戦闘ヘリがくるのはわかりましたが、別に我々だけで獲物を食っちまっていいんでしょ?」

そう言って不敵に笑う軍曹に、新米達はぎょっとした表情をし、ハートメンを初めとする古参連中はにやりと笑う。

「そうだな、ヘリの連中にはデザート1品くらいを残しておけば十分だ。その為にも各員出撃準備を急げ!」

「サーッ!! イエッサー!!」





大インド砂漠、タール砂漠とも呼ばれる砂の海の、遥か遠方からやってくるモビルスーツの姿、正確には上半身をハートメン中佐達は砂丘の陰から確認した。当然車両も待機させている。

「報告どおり7機確認、戦車隊はここからでは確認できませんね。マシンガン持ちのザクが3機にバズーカ持ちが2機、片肩にキャノン砲を背負ったザク・・・ザクキャノンと呼ばれる機体ですね。それが1機と・・・やたらでかい、通信用と思われるバックパックを背負っている旧ザクが1機ですかね」

「バルティ少尉、武装の詳細を正確に言いたまえ。最後2機は武装について言ってないぞ」

「あ、申し訳ありません。ザクキャノンは両腕に外付けと思われるロケット砲を確認しました。旧ザクは・・・ライフルらしきものを持っています」

「ライフル? 狙撃用か?」

「おそらく・・・防衛陣地に立てこもる車両を狙い撃つつもりだったのでは?」

「なるほどな。それならば納得できる・・・ヘリ部隊は?」

「我々が基地を出る前に、エンジントラブルで遅れるといってきた以降は何も・・・」

「チッ、ヘリ部隊は当てにせず、我々だけで対処するか」

そう言っている間にもザクは接近してくる。ただし、マシンガンとバズーカを持った機体が先行し、残り2機が結構な距離をとって追従し、更にその後方にマゼラアタック等の車両が追従する形だった。しかも、先行しているザクは武器を構えてもおらず、油断しきっているように見えた。

「やつら、もう勝ったつもりでいるようですね中佐」

「らしいな、では教育してやるか」



「こ、こちらマムルーク5、配置につきました!」

「遅いぞ! マムルーク1より各マムルークへ、戦闘開始! GOGOGO!!」

マムルーク、今回の戦闘の為に割り振り分けられた第7海兵隊内部での呼称である。戦車を8両1組で振り分け、61式戦車5型をマムルーク1及び2、他の61式をマムルーク3から4、そして、最後に鹵獲兵器であるマゼラアタックとXT-79からなるマムルーク5である。他に装甲車やジープと言った車両には5両程度のまとまりでフェイント1~5という呼称を振り分けている。
マゼラアタックはそれなりに優れている戦車である。ただ、若干旧式な為に主砲は175mm砲(最新型は旋回可能な180mm砲)だが、それでも61式戦車よりも攻撃力の点では上回っている。
最大の問題は砲塔が旋回しないという点だろう。よって、マムルーク5各車はそれぞれ砂丘の陰に身を潜めていた。
作戦自体は簡単なものだ。装甲車やジープで構成されるフェイント1~5は遊撃部隊兼派手に動き回るかく乱役。主力であるマムルーク1及び2が陽動を行い、それに反応した敵をマムルーク3と4が攻撃。その間にマムルーク1と2は後退し背後に回り、マムルーク5はその場で予め指定されたエリアに砲撃をしつつ、隙を見せた敵に対して攻撃を加え、後方のザクと前衛のザクを切り離すというものだった。厳密に言えばマムルーク5に配属されているXT-79、コールサインスナイパーだけは単独行動を行い敵の背後に回り込むが。
ここまで言って、なぜマムルーク5が砲兵の役割をしているのか疑問だろう。勿論攻撃力が一番大きいというのもあるが、それよりももっと重大な問題点があったからだ。

XT-79を除くマムルーク5、鹵獲したマゼラアタックを操るのは新兵なのだ。

なんで新兵に鹵獲戦車なんて乗らせるんだというツッコミがあるだろうが、考えて欲しい。熟練の戦車兵にとって、ジオンのマゼラアタックは異質すぎたのだ。扱おうにも61式の時の癖がしみこんでおり、いらぬトラブルを起こしたりする。それならば最初から戦車に馴染んでいない新兵に扱わせた方が部隊として運用度が高くなると判断しこういう編成になっているのだ。

つまり、裏を返せば新兵のマゼラアタック部隊にはあまり期待していないということでもある。それも当然である、これまでチームとして機能していたところに新米を教育目的で編入されたのだから、新米が足を引っ張るのは想像しやすい。ならば下働きとして使いつつ、戦場の空気や雰囲気を感じさせ、その上で成長させるのはあながち間違ったものではない。

・・・・・・本人達の気持ちを考えなければ。

新米達にとって、この措置はひどく自分達を侮辱するものだと思った者もいる。なぜならかれらは短期とはいえ軍事訓練を一通りこなしてきたからだ。そして、口では死ぬ覚悟はできていると言ってきた。なのに後方からただ砲撃をし、隙があれば狙ってもいいぞと言われることは、一部の者達にとって自分達を見下しているように思えたからだ。





戦闘が始まって数分後、辺りには後方のザクキャノンからの砲撃と、ザクの持つバズーカの弾が容赦無く砂を空高く吹き飛ばす。その合間を縫って砂丘の陰から61式戦車が動き回りながら155mmを発砲する。発砲したらすぐに砂丘の陰に移動し、間髪射れず先程までいた場所にザクから放たれたマシンガンが着弾する。そしてそのままマシンガンを放つザクがいきなりバックステップをすると、先程までザクがいた空間を150mm砲弾が飛翔する。

「敵にじっくりと照準させる暇を与えるな、絶えず攻撃を浴びせ掛けろ!」

「よし、ザクに命中・・・ちっ、盾に弾かれた。角度が浅かったか」

「こんだけ乱射して当たっただけでも上等だ! マムルーク1よりスナイパーへ、今こっちは陽動中だ。そっちの調子はどうだ?」

「現在砂丘の陰を移動しているせいで周囲の状況はわからんですが、奴等の進撃速度を考えるとそろそろ後衛の近くに出るはずです」

「OK、キャノン付にはフェイント部隊が向かっている。しばらくしたら後衛はそっちに手一杯になり敵の砲撃は止まる。その時に仕留めろ!」

「アイ、コマンダー!」



「いけいけいけいけ!! 派手に俺達が砂煙を巻き上げたら友軍が気がつかれずに接近できる。ついでに奴等を誰よりも早く食っちまえ!」

砂の海を猛スピードで疾走するのは2両の装甲車と3台のジープだった。荷台に旧式の対戦車ミサイルや対モビルスーツミサイルを搭載したフェイント4の面々だった。時に蛇行し、時に砂丘の陰を走ってザクキャノンに迫る彼らだが、当然ながらその巻き上げる砂は遠くからも視認できる。彼らは見つかることが役割なのだから。少し離れてフェイント5の車両も走行しているので砂煙は一層派手に巻き上がる。
案の定、接近する車両群を確認したザクキャノンは砲撃をこちらにしてくる。運が悪く直撃を受けた装甲車は吹き飛び、至近弾を受けたジープはその速度を保ったまま横転しかけた。

「くそ・・・怯むな! 近くに行けばキャノン砲は撃てん、このまま進め!」

「リジーナがあればもう発射できたんだが、無いものねだりか」

彼らの主力は射程の短い無誘導の対戦車ロケット弾か、旧式の対戦車ミサイルだ。本来なら対モビルスーツ用重誘導弾『リジーナ』が用意されるはずだったが、あいにく全てに行き渡るほどの数は無かった。幾ら連邦の物量が凄いといっても限界はある。それにリジーナは多くの部隊で引っ張りだこなのだ。それゆえ優秀な戦績を誇る第7海兵隊でも要求分を満たすだけの量は存在しなかった。

話を戻すが、現在ザクキャノンは肩のキャノン砲で攻撃している。開戦後数ヶ月が経った現在までに連邦は多くのジオン製兵器の鹵獲に成功している。そしてその中にはザクキャノンもあり、調査した結果長~中距離用のキャノン砲から近距離用兵装である腰のビッグガンを使用するにはFCS、火器管制システムの切り替えが必要とされることが判明している。つまり、ある程度まで近づけばザクキャノンは攻撃できない時間が生まれることになる。その隙を突けば旧式の兵器といえど十分勝機はあった。

が、そんなことはジオン側も当然知っていた。FCSのアップデートやFCS自体の変更、戦訓を取り入れた戦闘マニュアルの作成等の対策は採っていた。そして、その対策の一つがフェイント4の車両に対して牙をむいた。
ザクキャノンが突如何も持っていない腕をフェイント4と、少し離れて追従するフェイント5に向けたと思ったら、次の瞬間には腕についている3連装ロケット砲らしきものから何かが連続して飛び出した。放たれたそれは車両の頭上で炸裂し、鉄の雨と賞するに相応しい密度で装甲車とジープといった軽装甲車両を襲った。
これはハワイ基地を含め、多くのモビルスーツがゲリラ戦を行う歩兵部隊によって損傷を受けたことに対する一つの答えで、エルデンファウストを搭載した3連装対歩兵用近接散弾ロケット発射機だった。弾頭を小型化した為に威力や範囲は低下したが、それでもその効果は絶大で、直撃を受けた装甲車は穴だらけになり爆発炎上し、もろに食らった歩兵は体をズタズタに引き裂かれた。

「シット! 散開しろ! 不用意に近付くな!」

そういう彼も飛び散った破片で左足を切断され、大量の血を傷口から噴出していた。いや、同じこのジープに乗っている者の多くが何らかの怪我を負っていた。むしろ大きな怪我が足一本だけで、車両が大破しなかったのが不思議なくらいだ。

「畜生ジオンの豚野郎・・・絶対殺す、殺してやる」

そう言って喚くミサイル操作を担当していた曹長が喚くが、彼の利き手は散弾で腕ごと吹き飛ばされていた。そして、しばらく走っていたジープも次第に速度が低下し、ついには停車してしまった。

「おい伍長、なぜ停止する! 止まったら狙い撃ちされるぞ! 聞いてい・・・!」

左足の太ももをきつく縛るといった応急処置を施した少尉が見た時、すでにジープを運転していた伍長は事切れていた。そして先ほどまで喚いていた曹長も、今ではぐったりと背もたれにもたれていた。辺りを見渡すと、フェイント5が走行していた場所には、炎上する塊が5つあった。

「・・・こちらフェイント4。フェイント5共々我々は壊滅した、後は頼む」

まだ生き残っていた無線機にそう言って、彼は運転席で事切れている伍長をどかし、アクセルを残った片足で踏み込む。

「連邦軍人の意地を見ろ!」

そう言って彼はザクキャノンの足にジープを特攻させようとするが、途中で気が付いたザクキャノンに、腰のビッグガンで吹き飛ばされた。だが彼の行動は無駄ではなかった。急接近する彼のジープにザクキャノンの注意が向いた瞬間、砂丘の陰に隠れていたXT-79のレールガンが放たれ、ザクキャノンに命中したからだ。そして幸運なことに、ジオンにとっては不幸なことに、放たれたそれは腰のビッグガンに直撃し弾薬が誘爆、ザクキャノンの上半身が吹き飛んだ。



「命中! 上半身がぶっ飛んだぜ」

「こちらスナイパー、ザクキャノン撃破!」

「フェイント4、5の仇はとったぞ!」

XT-79の車内は沸き立った。照準機越しに、友軍の車両が破壊された瞬間を目撃した砲撃手は特に興奮した。

「報告、フェイント1及び2は敵戦車部隊にミサイルを撃ちつくした為に後退、3はその牽制を行っているようです」

「なら後衛の旧ザクは俺達が頂きだな。後衛を潰せば本体が楽になる」

「それはいいが旧ザクを仕留めてすぐに撤退しないと、ジオンの戦車隊に囲まれてフルボッコにされちまう。急ぐぞ!」

だがXT-79の移動速度は61式に比べるとかなり遅い。攻撃力と限定的ながらも防御力を飛躍的に高めたこの駆逐戦車は機動性を犠牲にしているのだから。だが搭乗員の間に焦りは余り無かった。なぜならこの戦車の特徴として、後退速度が前進速度と同じ速さを誇るからだ。元々XT-79は防御用の車両としての役割が大きい。防御陣地である戦車用塹壕に隠れて敵を待ち伏せるのが最も効果的な使い方だからだ。結果的にそれは迅速な陣地変更ができるように求められ、後退速度が前進速度に匹敵するという戦闘車両が誕生したわけだ。
つまり、マゼラアタックが追ってきても後退しながら主砲を浴びせれば一方的なワンサイドゲームをかもし出すことも不可能ではなかった。が、当然ながら速度はマゼラアタックの方が速い為に限度はあるが・・・

話を戻そう。当然ながらザクキャノンを破壊されたことはすぐにジオンも察知した。砲撃が唐突に止み、何の連絡もなければ当然だ。現時点に留まり続けたら敵が殺到するのは目に見えている。よって速やかな陣地転換を行う必要があった。だが、XT-79はそのまま前進を開始した。その任務は敵後衛モビルスーツの撃破だからだ。誰かがやらねばならないこと故に、彼らは長距離からザクを破壊できるXT-79に搭乗しているのだ。そしてしばらく砂丘の陰沿いに移動をしていると、接近してくるモビルスーツを探知した。

「目標捕捉、こちらにやってくる。間違いない、ライフルを持った旧ザクだ。射撃用意!」

「照準用レーザーの照射は長くするなよ。気付かれる恐れがある」

「一瞬だけの照射だから気付かんよ。旧ザクのセンサーはたかが知れている」

そう、ただの旧ザクならば一瞬しか照射されなかった照準用レーザーを探知できなかっただろう。だが、目の前の機体はただの旧ザクではなかった。

MS-05E ザクⅠ・偵察型

MS-05L ザクI・スナイパータイプ同様、旧式化したザクⅠを改修し、通信・電子戦能力の向上やセンサーを増設させた偵察機である。通常の偵察にはMS-06E 強行偵察型が担当しているが、MS-06E 強行偵察型が単機又は極少数での活動を前提としているのに対し、この機体は部隊と一緒に行動することを前提にされており、必要ならばミノフスキー濃度が薄い時に電子戦闘を行う機体だった。本来ならば設置型のソナーをも搭載するのだが、この機体は今回の作戦用に通信機能を向上させた為に搭載されていなかった。もっとも、電子戦能力は容量の限られたモビルスーツ、しかも旧式機体なので低いが、並みのモビルスーツに比べれば高い。
それゆえ、砂丘の陰から照準用レーザーをほんの一瞬だけ照射したXT-79を即座に探知し、潜伏している場所に持っていた狙撃銃を照準するのは迅速だった。強化されたモノアイには砂丘の陰から狙っているXT-79を捕らえており、お返しといわんばかりに照準用レーザーを照射する。当然それはXT-79にも感知され、車内に警告音が響き渡る。

「げっ!? こっちに気がついたぞ、レーザー照準警報!」

「言われなくともこっちに向けてライフルを構えているのが見えている。くたばれや!」

その直後にXT-79のレールガンが発射され、高速で飛翔した弾丸は135mm狙撃ライフルに直撃・爆発し、旧ザクを中破させた。だがXT-79がレールガンを発射した数瞬後、旧ザクの135mm狙撃ライフルからも弾丸が放たれた。旧ザクの持っていたライフルは貫通力に優れており、放たれた135mm徹甲弾はXT-79の正面装甲を易々と貫通し、XT-79はスクラップとなっていた。



全長11.6mもの巨体の戦車が猛スピードで砂丘の段差を飛び越えたかと思うと、着地した次の瞬間には強引に超信地旋回を行い、進行方向を変えて再び前進する。下手をすればキャタピラが千切れる機動だがそれを躊躇なく実行するあたり、必死さが良くわかる。それも当然だ、旋回し終え前進し始めたのと同時に、その61式の頭上を予測射撃で放たれたザクのマシンガンが通過し、先程までの進行方向付近の砂を空高く舞い上がらせた。マシンガンのお返しとばかりに61式から放たれる155mm砲弾は、ザクがスラスターをふかしながらステップを踏んで回避する。

「スナイパー! 応答しろ、スナイパー! ・・・やられたか」

暑い日ざしの注ぐ砂漠で、ザク相手に止まれば即死亡という死のダンスを踊っている61式5型の中で、ハートメン中佐は溜息をついた。今までにマシンガン持ちのザクを1機側面から砲撃してマシンガンを持つ腕を破壊し中破させ、1機を撃破。更にバズーカ持ちのザク1機を撃破したが、XT-79を含め、多くの車両と連絡が取れなくなっていた。5ついたフェイント部隊も、つい先ほど1つが新たにやられ、残りは2部隊。それすら何両かやられているのだから、合計して10両未満になっている。61式にしても既に何両か破壊され、実際には各マムルーク部隊は平均して残り2~3台となっていた。特にマムルーク5、鹵獲したマゼラアタックは残りが2台まで減ってしまっていた。そして破壊された戦車は、それぞれ共通した事柄があった。

「やっぱり功を焦った新米共がやられているな」

「仕方ありませんよ。走行間射撃で当てるのも難しいですし、回避運動を取りながらならばなおさらです。回避パターンも読まれやすいですし、今も善戦している新米の方がある意味異常ですよ」

「そこは俺達の教えをしっかり守っている奴らと訂正した方がいいな。そいつらは伸びるぞ・・・しかし大半のスモークを使ってこの様か」

そう、積載されているスモーク弾の大多数を使用してかく乱した結果がザク1機中破なのだ。ハートメン中佐の考えでは既にザク4機を撃破している予定だったが、新米の動きが悪いのと、これまでの戦訓を取り入れてきたザク部隊といった不確定要素によって、その予定は大きく崩れていた。それでもザクを2機撃破1機中破させたのは流石というべきか。

「報告します。APFSDSの残弾0、APに切り替えます」

「ちっ、少しばかり景気良く撃ちすぎたか」

「ついでに言えば、この後ジオン機甲部隊も待っています」

「ジオンのマゼラアタックなんぞ、側面から挟撃すれば事足りる。問題はザクだ・・・よし、出し惜しみは無しだ。全車スモーク全弾発射!」

その命令が伝わり、周囲から発煙弾が周囲に展開される。当然ながら視界はなくなり、ザクのパイロット達は煙の隙間から目視で狙うか、当てずっぽうに攻撃するか、赤外線で61式を探知するかの何れかの手段を取る羽目になった。が、ここで問題なのは赤外線である。当然ながら61式戦車よりもザクの方が全高は高い。つまり見下ろす形になる。そして地形は日差しを受けて熱せられた砂漠。つまり、地面全体が熱を放っているせいで61式戦車を確認することが不可能なのだ。更に言えば、先程まで乱射したマシンガンの着弾跡の熱反応も紛らわしく、パッと見では停止している戦車を発見することは困難だった。逆に61式からは見上げる形なので、用意にザクを確認することが可能だった。

「各車、マムルーク1及び2が戦闘機動を行う。敵がその反応を追っていく隙に、砲弾を浴びせろ!」

その言葉と共に複数の61式戦車が再び死のダンスを開始し、同時に砲撃を開始した。その熱源を探知したザクは動き回る赤外線の周辺にマシンガンを叩き込む。そしてそれは正確な照準ができないといえども、脅威なのは違いない。速射されるマシンガンの弾が車体に直撃し、砲等が吹き飛ぶ61式が出たことでそれは証明される。
だがそのザクの命運もそこまでだった。動き回る戦車が敵の全てだと思い込んでしまったザクの背後から、150mmと175mm砲弾が大量に飛んできたからだ。回避しようにも他方向から何発も飛んでくる為に避けきれず、1発当たれば連鎖的に命中していく。そしてランドセルに直撃を受け爆散するまでに、ザクはスクラップになっていた。残りはマシンガンを失いヒートホークを構えるザクと、バズーカ持ちの2機のみ。

「よし、撃破したな。続けて残り2機を狙うぞ!」

「りょうk・・・待ってください、ザクが!」

マシンガンを持ったザクが破壊されたことで、残りの2機はこの場で戦う不利と悟り、勢いよくスラスターを噴かし空高く跳び上がり、一気にスモークの立ち込める戦場から後退したのだ。
モビルスーツが地上で恐れられる理由の一つに、このスラスターを使った跳躍があった。スラスターの消費が激しく多用はできないが、その効果は絶大で戦争初期にたった1個小隊のザクが、1個大隊もの61式戦車を翻弄したという記録も残っているほどだ。故に、この機動を取られたら61式戦車にはなす術は無く、後退するのを見守るくらいしかできなかった。

「糞、もうじきスモークが晴れる。マゼラアタックと一緒にこられたらやばいぞ・・・」

「フェイント部隊のミサイルも打ち止めだそうです。中佐、撤退を進言します」

「・・・・・・そうだな、そろそろ引き際か」

犠牲は多かったものの、7機のザクの内4機(ハートメンはXT-79の通信状況から旧ザクは倒していない、又は相打ちと判断している)までを破壊したのだ。撤退しても十分な戦果だ。ハートメン中佐がそう判断し撤退を全車に通達しようとした瞬間、無線機からいきなり通信が入ってきた。

「撤退を考えているのなら待ってくれ。第7海兵隊所属の戦車隊は前進し、支援砲撃を頼む」

「誰だ? 所属を述べろ!」

前進しろというその言葉に面食らいながら、若干怒りを込めながら通信機に怒鳴る。その一方で、頭の思考回路の冷静な部分が通信相手を予想させた。恐らくこいつは・・・
そう思い至った瞬間、予想通りの答えが返ってきた。

「陸軍第1984混成ヘリ部隊、コールサインはストームチームだ。私は隊長のストーム1、これより対地攻撃任務を開始する」

そう、空対地攻撃に特化した騎兵隊、混成ヘリ部隊の到着だった。



「遅いぞ! 戦闘開始からどんだけ時間が経過したと思ってるんだ?」

「すまんな、こっちもゴタゴタがあったんだ。遅れた分の仕事はするさ」

「馬車馬のごとく働いてくれ。敵4機は確実に食ったがこっちも犠牲が大きい。支援砲撃はするが当てにはせず、間違っても当たるなよ」

「ふっ、味方の弾に当たる奴はうちの隊にはいないよ。通信終わり」

そう言って地上部隊との通信を一端切る。ほんの数秒目を瞑り、遅れたせいで生じたであろう地上部隊の犠牲者に黙祷する。
バタバタバタというローターが大気を叩く音と振動が心地よい。この音をBGMに、何度敵と死闘を繰り広げたことか・・・
そう思いながら、ヘリ部隊の各機に通信を繋げた。

「こちらストーム1、各員よく聞け。かつて我々戦闘ヘリは陸上戦力にとって死神だった。だが、モビルスーツという二足歩行の玩具に多くの同僚が狩られてしまった」

その言葉に部隊のパイロットが頷いた。オデッサから北米、アフリカ大陸にオセアニア、ハワイといった激戦区で失った戦闘ヘリの数は洒落にならない量で、その穴埋めとして配属される新米は片っ端から叩き落されていく現実があった。
だがその現実を認識させたストーム1は不敵に笑いながら続きを述べた。

「では我々は無力なのか? 否、そんなことはない。今でも我々は地上部隊にとっての死神だ。その事を忘れ、地上を我が物顔でのし歩いている巨人共に思い出させてやれ!」

「ストーム2了解」

「ストーム3から7了解!」

「ストーム7から12了解」

各機からすぐに返事が返ってくる。流石は開戦以来各地で生き残ってきた猛者達だ。俺は改めてそのことを実感した。
この機体には有線誘導式のミサイルが16発搭載されている。他の重戦闘ヘリ5機も合わせれば96発。武装ヘリは全てロケット弾ポッドを満載している。1機当たり38発の小型ロケット弾を搭載し、これらがまともに直撃すれば、例えモビルスーツが相手でも充分破壊できる。特にモビルスーツはトップアタックが有効なのは実証されている。モノアイのある頭部を破壊すれば、後は背後に回ってランドセルを破壊すればいい。

「こちらタイフーンリーダー、我々は車両を叩きます。グッドラック!」

第1985混成ヘリ部隊、コールサイン「タイフーン」の武装ヘリは全て対戦車ロケット弾を搭載している。モビルスーツ相手には打撃力に欠けるので妥当な判断であった。

「ああ、そちらも幸運を! さぁ、狩りの時間だ。武装ヘリ、前へ。景気良く行くぞ!」

その言葉と共に6機の武装ヘリが部隊の前面に進出する。

「ストーム7よりストーム12各機へ、花火を全部ばら撒け。出し惜しみは無しだ!」

突出した武装ヘリが機首をずらしながら小型ロケット弾を大量にばら撒く。こうすることでモビルスーツを中心にロケット弾が降り注ぎ、回避行動をとっても無意味になる。案の定2機のザクは無数のロケット弾の洗礼を受けた。しかもその内の1機は当たり所が悪かったらしく、バランスを崩し転倒した。その隙を我々が見逃すはずがない。

「ぶっ放せ!!」

そう言って本命のミサイル、対モビルスーツ用重誘導弾『リジーナ』のヘリ搭載改良型を発射する。放たれたそれは空に螺旋の機動を描きながらザクの頭部・胴体・腕部間接・脚部間接に命中し、一瞬の間を置いて機体各部から爆炎を上げた。
そしてミサイルを発射した直後に私は機体を横滑りさせ、それと平行しエンジン出力を変動させ高度も変化させる。こうすることで敵の照準を外させるのだ。予想通りもう1機のザクが発砲し、先程までヘリがいた位置にバズーカが飛んでいった。他の機体も同様の回避機動をとっている。

「各機旋回しつつ敵の背後に回れ、絶対に止まるなよ!」

モビルスーツの旋回性能は脅威だが、足元が砂地ではそれもかなり鈍くなる。ヘタに急旋回をさせればバランスを崩し転倒するからだ。しかも持っている獲物はマシンガンよりも大きく重いバズーカだ。ヘタな姿勢で撃てば確実にバランスを崩す。モビルスーツの周囲を旋回しつつ30mm弾を叩き込む。流石に30mm程度でザクの装甲を貫通させることは不可能だが、こちらを注目させるには充分だ。特に間接等のウィークポイントを狙って叩き込んでいるだけに、相手はそれを無視できない。これがFS型と呼ばれる頭部にバルカン砲を装備するタイプだったら、私の戦闘ヘリを比較的楽に撃墜できただろう。だがここにいるのはただのザクJ型だ。こちらを撃墜する手段はその左手に持つバズーカくらいである。

「ふっ、運が悪かったな」

ザクの背後に回ったと同時に私の機体からミサイルが放たれる。ザクは辛うじて回避したようだが、他にも5発のミサイルが周囲から放たれる。だがこのザクのパイロットは只者ではないようで、放たれたミサイルを辛うじてだが全てを回避することに成功した。砂漠という足場の悪い地形で全周囲から放たれたミサイルを回避することなど、普通のパイロットではできやしない。ついでにいえば、回避行動を取りながら私の方にバズーカを向け反撃しようとすることが、目の前のパイロットが凄腕という事を証明している。
だが私はそれを冷静に見ていた。焦る必要などないからだ。
獲物を一人で仕留めようと思うな、協力して確実に仕留めろ。それが私の隊に徹底させている訓示だ。そして、ここには私の隊以外にも友軍がいる。

こちらにバズーカを向けたザクは次の瞬間背中に被弾し、ランドセルを盛大に爆発させながら前のめりに倒れた。
そう、味方の戦車隊からの砲撃だ。私は通信を再度開き、ハートメン中佐に連絡を取った。

「お見事。流石は名高い第7海兵隊だ」

「ふっ、そちらも流石は開戦から生き残っている猛者だな」

「お褒めの言葉恐悦至極。まぁそれはともかく、我が隊の武装ヘリは弾切れだ。そちらの現状は?」

「キャタピラを酷使しすぎてこれ以上の戦闘機動ができそうにない車両は撤退させた。今いるのは61式7両で、その内5型が3両だ」

「了解した。我々はこれより敵残存戦力の殲滅に・・・」

そこまで話したところで緊急通信が入ってきた。そしてその内容に二人の指揮官は顔色を変えた。

「こちら第1985混成ヘリ部隊、タイフーンリーダー! 敵の逆襲で被害甚大、対空戦車がいます。救援を、救援を!!」





「大変だ! 突出しているあの9両は全て対空車両だ!」

「くそ、事前情報ではアイツはいなかったはずだろ、なんでいるんだ!?」

「見逃したのでは!? ザクを警戒し遠方からの偵察だったら十分起こりえることで・・・うわあぁ!!」

「ああ、ルイ・ジャンがやられた!?」

対地攻撃を主任務とするヘリ部隊にとって、ただの地上部隊は一方的に刈り取られるだけの哀れな獲物。そう考えていた彼らだったが、すぐにその認識は改められた。いきなり叩き落された仲間の機体と、その攻撃をした敵の車両を目撃して。

ジオンの主力戦車であるマゼラアタックはいくつかファミリー化されており、マゼラベース部分をベースに多くの派生型が誕生している。有名どころでは自走迫撃砲「マゼラベルファー」がある。そしてそのファミリーの中でも今現在武装ヘリを攻撃している、航空部隊にとって脅威的な車両、対空戦車に改装された「マゼラフラック」がいた。高初速長射程の機関砲を搭載するこの車両は、これまでに多くの連邦軍航空機を血祭りに上げており、低空を飛行する戦闘ヘリを撃墜することは、この手の対空車両の主任務なのだ。これが重戦闘ヘリならば距離が離れており、かつ運がよければ装甲で防げたかもしれないが、碌な装甲を施していない武装ヘリを撃墜するのは朝飯前だった。

その対空車両が9両もいたのだ。油断していたタイフーン隊の武装ヘリは瞬く間に数を減らしていた。しかも車両と共にザクⅠ・偵察型がいるのが問題を更にややこしくしていた。武装こそXT-79の攻撃で腕部ごと破壊されているものの、その偵察能力は健在だった。ザクⅠ・偵察型からのレーザー通信を用いたデーターリンクにより、マゼラフラックの照準精度が跳ね上がっていたのだ。これによりより正確な対空射撃が可能となり、武装ヘリが初っ端に3機も叩き落されたのだ。

「タイフーン1より各機、超低空飛行で射撃をかわせ! 高度を上げたら的になるだけだ!」

「そんなこと言われても・・・うわあ!」

「タイフーン7被弾、不時着しました!」

超低空飛行、言うのは容易いが行うのは非常に難しい。何故ならタイフーン隊には新米が多く、誤って地表にぶつかるケースもありうるからだ。更に言えば、マゼラアタックからの砲撃も行われ、一層激しい弾幕に襲われていた。
現時点で12機の内5機までもが撃墜又は不時着しており、更に被弾する機体は増加の一途。戦力は一気に壊滅的なダメージを負っていた。

「くそ、各機各自の判断で行動せよ。撤退も許可する、だが生き残る事を最優先に考えろ!」

そう言いつつタイフーンリーダーは機体の真正面に出てきた敵車両、マゼラアタックに対戦車ロケットを発射した。対戦車用のロケット弾は真っ直ぐ飛翔し、狙い違わずマゼラアタックの砲塔部に直撃し大破させた。だが命中させたタイフーン1の表情に命中させた喜びはなく、逆にしかめっ面をしていた。

「マゼラアタックか・・・マゼラフラックだと思ったのに、やはりパッと見じゃあ誤認しちまうな」

そう言いつつ機体を旋回させつつ砂漠ギリギリを飛行する。タイフーン部隊のパイロットは新米に毛が生えたようなレベルだったが、隊長の彼だけは熟練レベルだった。そうでなければ教導することはできないし、部下達も隊長が新米ならば付いていこうとしないだろう。

「タイフーン9より隊長へ! 敵部隊は徐々に後退中、されど対空戦車が殿を勤めているせいで味方の被害甚大! このままでは・・・ぐぉ!? 被弾した、高度が維持できない!」

通信からは部下が被弾する通信ばかりが響いてくる。既に致命的なダメージを負っていない部下は4機程度まで激減していた。

「・・・くそ、このままじゃ一方的な負け戦じゃないか・・・」

そう愚痴をこぼすのも仕方あるまい。ここまで一方的にやられたんなら軍法会議ものかと真剣に考えていた彼だが、援軍が到着したのは正にその時だ。

「こちらストームチーム、援護に入る!」

「マムルーク各車へ、対空戦車を狙え! 戦車前へ、突撃!!」





眼下に見える戦車隊を追い越し、時速200km以上の速度で編隊を組み驀進する。とはいえ、このまま真正面から敵の対空車両と戦えばこちらが明らかに不利だ。タイフーン隊には悪いが、敵の目を引き付ける囮になってもらう。そして敵がタイフーン隊に夢中になっている間に迂回し、後方の車両を潰しながらモビルスーツを叩く。
幸先良く後退中の敵戦車3両と遭遇しこれを撃破した。しかもミサイルはまだ6発も残っている。指揮下の重戦闘ヘリ全体ならもっと多いだろう。
戦闘ヘリの移動速度は地上部隊のそれと比べるまでもなく速い。数分も飛ばずに敵の後退する車両の一群を新たに発見した。数は6両程で、マゼラアタックが4両に装輪装甲車が2両の編成だ。
敵を発見した私はいち早く機体を上昇させ、装甲車目掛けて搭載しているミサイルを発射する。部下達も同様にミサイルを放ち、1両辺り2発近くのミサイルが敵車両を襲った。
だが敵もやられっぱなしでは終わらないようだ。ローター音でこちらの接近には気がついていたようで、こちらがミサイルを放ち誘導している間に装甲車から白煙が上がった。おそらく歩兵携帯用の対空ミサイルだろう。発射母体からの誘導がいらず撃ちっ放しが可能なのが売りなミサイルだが、それはミノフスキー粒子が散布されていないのが大前提。散布下では無誘導のロケット弾と似たような脅威しかこちらには与えない。が、念には念を入れて高度を下げ砂丘の陰に隠れるように移動する。そしてミサイルが放って置いても命中すると思われる距離になり次第ミサイルの誘導コードを切断、一気に高度を地表数メートルまで低下させる。
メインローターが地表に叩きつける風圧で、砂丘の砂が一気に空に巻き上がる。とはいっても機体を隠すには程遠い量でしかないが、私にはコレで十分だ。砂を巻き上げながら一気に横滑りしつつ砂丘の陰に隠れる機動を取る。そして僅かに生きていたミサイルの誘導装置は砂漠で太陽に散々照らされて熱を持っている砂を機体と誤認して、そのまま突進し砂を吹き飛ばすという戦果を上げた。こちらの被害は爆風の影響で皆無とは言い切れないが、損傷としては掠り傷程度だ。
そしてその頃には発射母体の装甲車はこちらのミサイルの直撃を受けて炎上しており、それは他の5両の戦闘車両も同様だった。

「ストーム2からストーム1へ、ターゲットクリア。次の目標を索敵します」

そう言って前進しかけた部下を私は止めた。今の部隊を見る限り、恐らく敵はある程度の集団ごとに行動しているのだろう。今の隊には対空戦車はいなかったので楽だったが、逆に言えば対空戦車は殿としてモビルスーツと一緒に撤退するだろう。戦車隊が追撃しているとはいえ、ここで対空戦車とモビルスーツを相手にするなら、現状のミサイル残存数ではギリギリといた線だろう。

「いや、そろそろタイフーン隊もやばいだろう。これより我が隊は敵モビルスーツの撃破に向かう。対空戦車に優先してミサイルを叩き込め、以上だ」

「了解!」

そう言って部下を引き連れ、低空でタイフーン隊の交戦しているエリアに向かう。そして彼らがタイフーン隊を確認した時、タイフーン隊の武装ヘリは僅か2機しか飛んでおらず、残りは全て撃墜又は不時着を余儀なくされていた。
私は唖然とした。幾らなんでもやられすぎだ。そう思い、次の瞬間には新米が多いので仕方ないかと思い直す。眼前にいるのは腕の損傷した旧ザクと対空戦車今もなお対空砲火を浴びせている対空戦車2両。時折ノイズ交じりに聞こえる通信で、戦車隊は離れたところで別の対空戦車と戦っているようだ。

「よ~し景気良くいくぞ。全機、対空戦車にミサイルをブチかませ!」

そう言いながら私はミサイルを2発発射する。目標は対空戦車ではなく旧ザクだ。部下の機体からミサイルが1~2発程発射される。たった2両の対空戦車に8発ものミサイルが襲い掛かる計算だ。
こちらがミサイルを発射したことに気がついたのか対空戦車の砲火がこちらに向く。だが狙いは別のようで、片方はミサイルを誘導する母体であるヘリを狙い、もう片方は飛来するミサイルを激激しようとしている。旧ザクはヘリに照準用レーザーを当て射撃精度を高めようとするが、私の放ったミサイルを回避する為に一端レーザーを遮断した。その判断のおかげか、私の放ったミサイルは2発共回避されたが・・・

「その判断は誤りだったな。お前はミサイルを腕に受けるぐらいの意気込みで直前までヘリを狙うべきだった」

旧ザクからの射撃データが送られてこないということは、対空戦車は自前の観測・照準用機器で狙いを定めないといけない。それ単体でも精度はかなりのものだが、やはり武装ヘリとは運動性が違う重戦闘ヘリには中々当てにくいようだ。当然ミサイルの誘導をしなければならないので際立った回避行動はできないが、持ち前の装甲でなんとか致命傷は避けている。一般的に対空機関砲よりもミサイルの方が射程が長く、こちらのミサイルの射程ギリギリに対空機関砲を当てても威力はかなり低下する。無傷とはいかないが、致命傷ではないことに感謝しよう。
ミサイルを迎撃している対空戦車は善戦し、ミサイルを3発も叩き落された。が、彼らの活躍もそこまでだった。放たれたミサイルは対空戦車に命中し、スクラップへと変える。対空機関砲の攻撃で重戦闘ヘリ2機が小破ないし中破したが、撃墜された機体は皆無だ。
眼前に残ったのは旧ザク1機のみ。そしてこちらに残っているミサイルは部隊全体で10発程度。

「各機へ、残っているミサイルを全て叩き込め!」

そう言いながら30mm機関砲弾をばら撒きながら突進し、ある程度接近したところで残ったミサイル2発を連続発射して急上昇する。その後方で残ったミサイルを全て発射する重戦闘ヘリ。10発近いミサイルが旧ザク目掛けて飛翔し、慌てた様子で旧ザクが回避行動に移る。が、改修してあるとはいえ、所詮は旧ザク。回避行動も限界があり、何発か回避することに成功するも、避けそこなった1発のミサイルが命中し、着弾の衝撃で動きが止まった次の瞬間には数発のミサイルが新たに直撃し、命中した場所から激しく炎を噴出しながら崩れ落ちた。
それを確認しストーム1は戦車隊に通信を繋げる。

「ストームリーダーからマムルークへ。こちらはミサイルを使い果たした。機関砲弾はまだ残っているが、そちらは対空車両は全て破壊したか?」

「・・・すまんな、何台か逃げられた。5両はなんとか破壊したが、マゼラアタックに横槍を入れられて残り2両は確認していない」

その言葉にストーム1は顔をしかめる。機関砲のみということは必然的に敵に接近せざるを得ない。その時に対空砲火を食らえば損害が出るのは必至だ。少しの間思考を巡らせ、無理はしないほうが無難という結論を出した私はハートメン中佐
に応えた。

「了解した。では安全策をとって帰還するか?」

「・・・・・・そうだな、そのほうが良かろう。戦闘終了、帰還する」





「・・・こちら観測室。戦闘の終了を確認、こちらの威力偵察部隊の大敗です。観測装置の収容完了しました」

「XT-79を中心とした部隊で篭城戦をすると思ったが、読みが外れたな。まぁいい、その旨本部に連絡するぞ」

「了解、それじゃあ観測員達は順次休憩に入る。後はよろしく」

先程まで戦闘が行なわれていた地表より、遥か高みを飛ぶ物体が存在した。全体的に真っ黒に塗装され、機体を改修し航続距離と偵察能力を飛躍的に高めた、偵察型コムサイ(外見は0083のコムサイ&ブースターに近い)だった。

「ゴースト17より本部へ、友軍の威力偵察部隊の撤退を確認した。帰還許可を求む」

「こちら本部、いいデータはとれたか?」

「いいデータかはともかく、砂漠での戦闘データが収集できた。地上部隊の偵察ザクからも撃破されるまで情報を貰ったから、解析すればそれなりのデータがあるだろう」

「了解した、ゴースト17はすみやかに帰還せよ。その空域付近は確認されていないが、インターセプトに食いつかれないように気をつけろ」

「了解。情報収集完了、これより帰還する」

この機体の任務、それは戦闘が起きている上空を飛行して戦闘データを収集し、確実に帰還することだった。収集されたデータは分析され、様々な分野に反映される。
今回偵察型コムサイは戦闘開始まえからデータ収集を行なっていた。つまり、地上部隊が生き残ろうが全滅しようが、どちらにせよ戦闘データは入手できるようにジオン上層部は手を打っていたのだ。

「そういえばゴースト49が先日ベルファスト上空で撃墜されたらしいですね」

「ああ、話には聞いている。なんでも空中警戒中の魚(セイバーフィッシュのあだ名)と鉢合わせして、逃げ切れずに蜂の巣になったって話だったな」

「他の地域でも魚が空中警戒していることが多くなったそうです。一応護身用の武装はありますけど、鉢合わせしたらヤバいですよ」

「その為に気休め程度とはいえ、見つからないようステルス対策されているんだ。少しはそれの性能を信用しろ」

「目視で確認されたらおわりですよ。・・・コース変更が完了しました。後1時間半後には基地に戻れます」

「よし、偵察機の任務は無事に帰るまでが仕事だ。周辺空域の警戒を怠るなよ」

そんな会話をしつつ、偵察型コムサイは飛行していく。地上で立ち上がる黒煙の届かない超高高度を飛行して。



[2193] 30話(又は前編)
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2009/04/02 16:07
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!
『ついこの前まで連邦軍と独立戦争をしていたと思ったらいつのまにか火星で無人兵器と戦闘していた』
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、私も何をされたのかわからなかった。
頭がどうにかなりそうだった・・・
催眠術だとか夢オチだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・

「社長、んなことはいいですからユートピアコロニーとやらの市長と面談を行ってください!」

「報告します、敵未確認兵器はビーム砲を捻じ曲げる防御兵器を持っています。恐らく重力制御かと・・・」

「ですが、高出力のメガ粒子砲ならば敵小型兵器のシールドならば貫通することが判明しました。後実体弾も有効です」

「信じがたいことですが、観測の結果間違いなくこの星は火星という結果がでました。カタリナどころかキャリフォルニアベース等地球に

あった施設まで一緒にこの世界に来ている理由は全くの謎です。社長、これからどうなるんでしょうか?」

・・・花の名前の戦艦の世界ですかい!?

「ま、まだ慌てるような事態じゃない」

「社長、十分慌てる事態です!」

「・・・で、現在の我々の戦力は?」

「宇宙軍はモビルスーツが200機近く、モビルアーマーが20機近くいます。艦船も戦闘用艦艇が60隻、その他の宇宙輸送艦が80隻です」

「地上戦力はモビルスーツ200機、モビルアーマー30機近くです。戦闘機も300機近くいますし、機甲師団も複数存在します」

「問題は資源ですが、ユートピアコロニーの救援を行った際に火星の資源分布図が得られました。他にも火星周辺のアステロイドベルトに浮かぶ小惑星から資源の採取は可能と判断します」

なるほど、なんとか生き残れるかもしれないということか。ボゾンジャンプとかのチート技術はこの際置いておくとしよう。

「わかった、なんでこうなったのかわからないが、今は我々が生き残る事を最優先に行動しよう。各員一層奮励努力してくれ」

突然花の名前の戦艦の世界に飛ばされた社長。果たしてエルトラン社長達はこの世界で生き延びることができるのか?







はい、嘘です。
せっかくのエイプリルフールなんで、作成した代物です。不評ならば削除します(爆
そんなんエイプリルフールネタじゃないだろうとか、エイプリルフールは午前のみじゃ? とかいうつっこみはこの際置いときます。
それじゃあ遅くなりましたが、本編始めます。

ツィマッド社奮闘録 30話(またの名を前編)



シンガポール。連邦の太平洋艦隊の残存兵力が逃げ込んだ、東南アジア最大の軍事拠点だ。そしてその駐留する戦力は大きく、パプアニューギニアやフィリピンをジオンに占領されているといえど、未だ東南アジア一帯の連邦の力を象徴していた。
シンガポール軍港には連邦海軍が集結しており、戦力を大幅に減少させたといえど、未だその戦力は侮れない。
空母だけでも大型正規空母2隻、ヒマラヤ級空母4隻、タンカー改造のヘリ空母6隻が未だ健在で、アルバータ級等の巡洋艦や駆逐艦も多く、U型潜水艦、所謂ジュノー級潜水艦も10隻近くが存在する。
だが、これだけの戦力が一度に集結しているわけではない。なぜなら、この艦隊は太平洋艦隊とインド洋艦隊の残存戦力の集合体だったからだ。書類上では太平洋艦隊はシンガポールを母港にし、インド洋艦隊はコロンボを母港にしていた。そしてその上で部隊を再編し、2つの空母機動部隊を編成し防衛に当てていた。その機動部隊の戦力は正規空母1隻、ヒマラヤ級空母2隻、改造ヘリ空母3隻、巡洋艦11隻、駆逐艦19隻、潜水艦6隻からなっていた。本来ならばフリゲート艦が加わるのだが、全てのフリゲート艦は港湾施設の警備、又は哨戒任務の為に各地の軍港に展開していた。
・・・これだけみればかなりの戦力ということがわかるだろう。開戦以来多くの艦艇が撃沈されたのに、未だにこれほどの艦艇が生き延びているのだ。それだけでも連邦の物量がよくわかる。





大型正規空母ハーディング
艦載機を100機近く搭載可能な大型の航空母艦であり、今の連邦軍には両手の指の数くらいしか残っていない貴重な大型正規空母だった。ミサイルや戦艦並の砲塔を持っているヒマラヤ級とは違い、武装は近接防御用のCIWSと個艦防衛用の対空ミサイルしかない。
だが、これは純粋に両者の祖先が違うからだ。ハーディングの祖先は言うまでも無く航空機運用艦としての航空機母艦、所謂空母の直系だ。一方ヒマラヤ級は、そのルーツは純粋な空母ではなく、強襲揚陸艦。すなわち、ヘリコプターによる空輸を主体とした揚陸を行う軍艦の子孫である。多くのヘリやVTOL機を持って上陸部隊の支援をする強襲揚陸艦がベースになっている為、ハーディングのような正規空母よりも艦載機数が少なくなっている。
更に、ヒマラヤ級のコンセプトとして『部隊を支援できる各種火器・部隊を指揮できる戦闘指揮所・世界の海を駆ける連邦海軍を象徴する威圧的な容姿』が求められ、その結果艦載機搭載スペースが減少したという話もあった。

話を戻そう。現在ハーディングの主な艦載機はFF-M3 セイバーフィッシュ艦載機型で、艦隊にエアカバーを提供するのが主な役目となっている。これは8月に起きたミッドウェー海戦が原因だった。この戦闘で水陸両用モビルスーツを警戒し、制空戦闘機を減らし対潜哨戒機を多く搭載し、結果的に上空警戒がおろそかになり、航空攻撃によって艦隊が大ダメージを受けるという結果になったからだ。それ以降、正規空母は制空戦闘機、ヒマラヤ級は戦闘攻撃機と対潜哨戒機を多めに搭載するといった、ある種の住み分けが行われるようになったのだ。
そんな空母の艦橋から眼下を見下ろすと、戦闘機が80機近くも飛行甲板に並べられている。その姿は壮観の一言であった。

「ウィーカー提督、物資の積み込みが完了しました。これで乗組員が戻れば、いつでも作戦行動が可能です」

「うむ・・・久しぶりの作戦行動だ。簡単な任務とは言えんが、我が艦隊の将兵ならば見事やってのけるだろう。そうだろうニコラス艦長?」

「ええ、今回のフィリピン攻撃任務。11月前後を想定しているあの作戦の肩慣らしには丁度いいでしょう。輸送艦群もクアラルンプールに・・・」

「・・・艦長、それは機密事項だ。私は今何も聞かなかった、いいね?」

「は、申し訳ありません」

「さて、そろそろ会議室で会議の時間だ。紳士が時間に遅れるわけにはいかん、速やかに移動しよう。でないとジャブローからわざわざやってきた参謀達がへそを曲げてしまう」



ハーディング会議室
提督と艦長が会議室に入ると、既に二人以外の会議参加者の各艦長や参謀達が集合していた。

「すまない、どうやら待たせてしまったようだな」

「いえ、事前準備をおこなっていましたので「艦隊のトップというべき提督と、旗艦の艦長が遅刻とは・・・軍紀が乱れているのではないか?」」

艦隊直属の参謀を遮ったのは、ジャブローからわざわざ来た参謀の、アレン・ペロー大佐だった。しかも悪いことに、この参謀はエリート意識が強く、現場に無理難題を吹っかけることで有名な男だった。第二次世界大戦時における大日本帝国陸軍における辻政信や牟田口廉也のような男と思えば納得できるだろう。もしくはBSEに感染し暴走特急と化したブ○・ハ○ゼー(マテ

「・・・あ~、それでは予定よりも早いですが、会議を始めます。まず、本作戦についての概要を、発案者であるペロー大佐に説明していただきます」

そう言って参謀の一人がホワイトボードに文字を書いていく。その横でペロー大佐が作戦の説明を開始した。

「作戦名ラス・フィリピナス。この作戦はフィリピンのジオン基地、特に航空基地と港湾施設を叩くということが最大の目的です」

そういった直後、別の参謀が立ち上がりパネルのスイッチを操作し、ホワイトボードにフィリピン近海の地図が浮かび上がった。そして艦隊直属の参謀が補足を付け加える。

「捕捉しますが、フィリピンには敵の大規模な魚雷艇基地が存在し、海におけるゲリラ戦を仕掛けてきます。レーダーが使えない以上、この戦術は極めて脅威です。事実、これまで哨戒任務中に喰われたフリゲート艦は多数あり、見過ごせない損害です」

「幸い物資の積み込みは完了し、我が艦隊は明日には出航できるでしょう。出航後に対空対潜哨戒を厳にし、ジオン軍マニラ基地を航空戦力によって叩きます」

そこまで言ったところで別の男性、巡洋艦の艦長が手を上げて発言した。

「航空戦力による攻撃といえど、こちらの戦力は空母1隻とヒマラヤ級2隻、VTOL機の運用がなんとか可能なヘリ空母が3隻。当然敵の方が戦力は大きいはず。マニラ基地の戦力を教えていただきたい」

「マニラ基地はこの方面におけるジオンの大規模な航空基地です。最新の報告では大幅な増援があったようです、これです」

そうペロー大佐が言い、ホワイトボードに映し出されたのは、DFA-07 ジャベリン戦闘爆撃機の姿だった。そしてホワイトボードには次々と違う機体が映し出されていく。

「これはDFA-07 ジャベリン戦闘爆撃機。我々のセイバーフィッシュをベースに開発したとされる、この戦闘機が大量に配備された模様です。ご存知の通り、この敵機はセイバーフィッシュを上回る性能を持っています。その戦闘機が少なくとも200機、格闘戦に優れたドップが100機、オルコスと呼ばれる我々のミデアを模倣したような輸送機が120機。なお、このオルコスは少しの改修で様々な任務に転用可能で、その中には爆撃機型も存在するので注意が必要です。更に、モビルスーツが搭載可能なドダイ爆撃機。これが100機近く駐機しているのが確認されています。この戦力ならば運用次第ではこのシンガポール基地を陥落させることも不可能ではありません」

「・・・航空パイロット達に死ねと言うのか? 無謀すぎるぞ!!」

「ええ、普通に考えればこちらの方が断然不利です。よって、本艦隊の運用可能な航空戦力の全てを敵基地にぶつけます。つまり、艦隊防空は皆さんで凌いでいただきます」

「・・・つまり、艦隊防空の部隊も全て投入するというのか?」

「ええ、段取りとしてはこうです。第一段階としてセイバーフィッシュが低空から侵入し、敵飛行場及び対空砲火へ奇襲攻撃します。第二段階として、爆装したドン・エスカルゴ対潜哨戒機とフライマンタ戦闘爆撃機による港湾施設への爆撃。第三段階としてミサイルを搭載したファンファンを中心としたヘリ部隊による対地攻撃を行います。そして最後に、基地に接近した艦隊から艦砲射撃を行い、これを破壊します。なお、我が方の艦載機発進と同時刻にシンガポール基地からデプ・ロックの編隊が発進、最後の仕上げとして生き残ったジオンの頭上に爆弾の雨を降らします」

その言葉を聞いた会議出席者は皆唖然とした。それはつまり、艦隊を敵の基地のすぐ側まで接近させねばならず、艦隊自身を危険に晒すことだった。

「・・・我々が事前に受けた任務内容は、ジオンの基地に対して航空攻撃を1回実施する。ただそれだけだ」

「間違ってないでしょう? ただそれに艦隊からの艦砲射撃を行うだけです」

「その為に、艦隊の人員を危険に晒してかね?」

「危険の無い戦争はない、そうでしょウィーカー准将?」

「ああ。だが同時に、無駄に部下を犠牲にさせる作戦は認めれん。任務内容の再考を求める」

「・・・ジャブローのオフィスは快適ですよ? それに、ジャブローから発せられた作戦命令を無視したとなれば、左遷されかねませんよ?」

「ふっ、私は潮風が大好きでね。それに、部下を無駄に危険に晒すような作戦・・・艦隊の最高責任者として拒否することはできるはずだが?」

そう言ってウィーカー提督とペロー参謀がにらみ合いになって、会議室全体に気まずい雰囲気が広がった。その雰囲気をぶち壊したのは会議室に飛び込んできた連絡だった。その内容は・・・

「所属不明の編隊がこちらに迫っている?」

「ああ、恐らく友軍でしょう。本作戦の為に空軍の援軍として、10機のデプ・ロックと20機のフライマンタが派遣されてくるはずです」

そういうペロー大佐だったが、次の一言でそれは完全に打ち砕かれた。

「違います、機体数は30機どころの話ではありません! 少なく見積もっても、60機以上とのことです!」



少し時間は遡る。
シンガポール沖高度5000mを早期警戒機であるディッシュが飛行していた。そして、異変に真っ先に気がついたのもこのディッシュだった。

ミノフスキー粒子が薄くなりレーダーがある程度使用できた為に、このディッシュはレーダー上に光点が現れたのを察知できた。30機程の編隊がやってくると通達がきており、最初はその編隊だと考えていたディッシュのレーダー手だったが、その考えはすぐに打ち消された。

なぜなら光点が30どころではなく、その倍の60近く確認されたからだ。ディッシュは大騒ぎになり、慌ててシンガポール空軍基地に連絡を取った。

「60機? エコーじゃないのか?」

「間違いない。報告と違うぞ、警戒空域に向かっている。撃退しろ、緊急発進だ!!」

「了解した、航空隊を直ちに発進させる。・・・おい、急いで艦隊にも知らせてやれ!」

「了解! ・・・シンガポール空軍基地より空母ハーディングへ、シンガポール空軍基地より空母ハーディングへ」

「こちら空母ハーディング、シンガポール空軍基地へ。何かあったのか?」

「所属不明機がこちらに接近中、対空戦闘準備を始めてくれ」

「まて、通達のあったそちらの爆撃機ではないのか?」

「いや、報告と異なり、輸送機の数は60。警戒空域に接近の為、フライアローが迎撃に向かう」

「こちらハーディング、了解した。こちらも対空警戒を発令する」

その通信内容はハーディングに伝わり、港に停泊していた艦船では蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。



「こちら管制機ストーン・ヘッド。マーライオンリーダーへ、聞こえるか? 貴隊はこちらの管制下に入った。全部隊、状況を報告せよ」

「マーライオン中隊、全機異常無し」

「リントヴルム中隊、異常無し」

「クエレブレ中隊、異常は無いぞ」

「よし、敵編隊の総数は60機。君達の真正面で高度差は無い。ミノフスキー粒子濃度の高い空域が多数あるが、戦闘予定空域のほぼ全ての空域でレーダーが使用可能だ。各機、全兵装の使用を許可する」

シンガポール空軍基地から発進したのはFF-6 TINコッドからなるクエレブレ中隊と、フライアロー戦闘機からなるマーライオン中隊とリントヴルム中隊だった。その数は15機編成の中隊3つで45機。緊急出撃から僅か数分、たったそれだけでこの数を出撃させられるのは特筆すべきことだろう。
接近している不明機はおよそ60。だがシンガポール空軍基地にはまだまだ戦闘機が待機しており、海軍の航空隊も発艦準備を行っていた。

順調に行けば、恐らくジオンの航空隊はシンガポールへの攻撃はできなかったかもしれない。だが運命の女神は気まぐれすぎたようだった



「な・・・緊急、レーダーに新たな機影を確認! ミノフスキー粒子濃度が高い場所にいたようだ。数は・・・30前後、方位200(180が南)から接近、近い! ミノフスキー粒子濃度が高い所を飛行しているのでレーダーが効き難い! 更に方位45(北東)から同じく30機前後の機体が接近中。以後、最初に発見した60機の編隊をα、次に南から接近中の編隊をβ、北から接近中の編隊をγと呼称す・・・くそ、βを見失った!」

「おいおい、合計120機か!? 空中管制機、俺達はどうすればいいんだ?」

「待て・・・今シンガポール基地から新たにインターセプトが離陸した、数は3個中隊45機。彼らはβに向かう。君達は予定通りαに攻撃を開始してくれ! γは後続に任せる」

この新たに離陸した3個中隊はフライアローで構成された制空戦闘機部隊だった。そして、彼らはミノフスキー粒子濃度が高いところを飛行している編隊βに向けて飛翔した。ジオンやVFの使うジャベリン戦闘爆撃機は空軍の主力戦闘機であるフライアローよりも高性能であり、もしこの30機が全てジャベリンで構成されていれば30対45といえど、油断はできない。
そして、今のシンガポール空軍基地は制空戦闘機が不足していたのだ。というのも、シンガポール空軍基地に駐留する戦闘機はTINコッドが60機、フライアロー戦闘機が120機、フライマンタ戦闘攻撃機が90機、合計270機という数で、書類上では膨大な戦力を保有している。

そう、『書類上』では・・・

実際は整備中で飛行できない機体や、弾薬や燃料を搭載していない機体が少なくなかった。更には非番のパイロット達の少なくない数が街に繰り出しており、緊急発進した90機以外はすぐに飛び立つことができる機体は多くは無かった。
そして、緊急発進してβ編隊に向かった45機のフライアローは目の前の光景に唖然とした。

目の前を飛んでいたのは友軍の10機のデプ・ロックと増槽を装備した20機のフライマンタだったのだ。目視可能距離まで近づいたこともあり、IFFが反応し友軍反応が表示される。

迎撃に来た45機のフライアローは同士討ちせずに済んだ事に胸をなでおろし、次の瞬間には慌てた。なぜなら、先行してα編隊と遭遇した45機のフライアローが相対したのは、60機ものジャベリン戦闘爆撃機だったからだ。そして管制機の報告で、新たに60機以上もの編隊が接近中との報告が来たからだ。





一方、連邦海軍も戦闘態勢を整えつつあった。空母に会議の為集まった各艦の艦長を各々の艦に戻し、艦載機の発進準備を始めていた。だが、半舷上陸をしていた為に、肝心の乗組員の少なくない数が艦内にはおらず、作業は時間が掛かっていた。
その為、艦隊が岸壁から離れ港から離脱しようとする頃には、ジオンの攻撃部隊は空軍の迎撃を突破していた。

「イーグル、ドラゴン各隊の発艦準備が整いました!」

「レーダーに機影、IFF(敵味方識別装置)に反応無し!」

「対空戦闘用意! これは訓練ではないぞ、急げ!」

「総員、対空戦闘用意。総員、対空戦闘用意。イーグル、ドラゴン各隊は直ちに発進、敵機の迎撃に向かえ。総員、対空戦闘用意。総員、対空戦闘用意。イーグル、ドラゴン各隊は直ちに発進!」

空母ハーディングのカタパルトからFF-M3 セイバーフィッシュ艦載機型が飛ばされていく。だが、カタパルト打ち出し終了後、違う機体をカタパルトにセットするにはほんの僅かだが時間が掛かる。発艦を待つ間にミサイル等を取り付けるという流れ作業で行動しているとはいえ、一度に発艦できるのは4機が限度だった。
そして、イーグル小隊及びドラゴン小隊の計8機が空に舞い上がり、次の部隊を発艦させようとした所で、ジオン航空隊、およそ30機は艦隊の防空圏に侵入した。

「敵機、更に高速で本艦隊に接近」

「インターセプトは?」

「接触まで、もうしばらくかかります」

「ミノフスキー濃度は? ミサイルの使用は可能か?」

「およそ・・・平均で20%です。 昨日まで50%近くだったのに、幸運です。これならミサイルの誘導がある程度ですが可能です!」

「よし、全艦対空ミサイル発射だ!」

「ラジャ、対空ミサイル発射!」

「オールステーション、オールSAM(対空ミサイル)! オールステーション、オールSAM!」

その言葉が旗艦からの命令として各艦に伝達されると、一斉に甲板から白煙をだしつつミサイルが発射された。
艦隊全体から放たれた数十発のミサイルは、ミノフスキー粒子の影響もあって少なくない数が外れたが、それでも10機以上の敵機を撃墜することに成功した。ミノフスキー粒子といえども万能では無い。
ミノフスキー粒子が散布された空間では電波、一部の可視光線、赤外線は伝わることができない、所謂ミノフスキー効果が発生する。これが原因で従来の電波による交信や、レーダー、センサーの多くが使用不能となり、長距離誘導をなされるミサイルの誘導が不可能となってしまい、有視界下における戦闘を余儀なくされることとなる。
だが逆に考えてみよう。散布されていてもその濃度が低ければレーダーはノイズが酷いが(ゲーム『ジオニックフロント』でセンサーにレーダーがあるのを参考にしています)使用でき、ミサイルはある程度の誘導が可能になるのだ。そして東南アジアは大気の撹乱を引き起こす現象がすぐ側を通過する。
そう、台風である。シンガポール周辺はつい三日前、フィリピンを通過した台風によってミノフスキー粒子が拡散され、偶然ながらミノフスキー粒子濃度がまだらになっていたのだ。この為連邦にとって幸運、ジオン側にとって不幸なことに、ある程度誘導された数多くのミサイルによって迎撃を受ける羽目になったのだ。
が、それでもまだジオン航空隊は10機近くの機体が残っており、発進した8機のセイバーフィッシュと戦闘に入った。こうなるとミサイル攻撃はもうできない。無闇にミサイルを発射すれば味方を誤射しかねないからだ。
そして双方の航空機がドッグファイトをしていると、新たにジオン航空隊と緊急発進した友軍の戦闘機が参戦。瞬く間に数十機の戦闘機が入り乱れる大規模な空中戦が勃発した。

「ドラゴン3、4ロスト!」

「ホーム(空母)に向かうぞ、追撃しろ!!」

『うわ! 機体に直撃弾、制御不能!!』

「そこのフライアロー、後ろに付かれているぞ。振り切れ!」

「無茶を言うな! ・・・くそ、被弾した。オメガ11、イジェークト!!」

「またあいつか! あいつ、いつも空戦の度に撃墜されてるじゃねーか」

「あいつはほっとけ、またしばらくしたら空に上がっている」

「そしてまた撃墜のエンドレスじゃねーか! くそ、背後に敵機!」

「管制機、目標を指示してくれ!」

「方位280から敵侵入・・・駄目だ、数が多すぎる!」

「しっかりしろ! あんたの指示が必要なんだ!」

『A隊は敵艦船へ、B隊は港湾施設を破壊しろ。C隊は上空制圧だ、了解か?』

『了解した、攻撃を開始する』

「港湾施設にミサイル着弾! 迎撃は何をしている!」

次々と入ってくる通信。無線が一部で使用可能なようで、時々ジオンの通信も聞こえてくる。そして空戦空域を突破した複数のジャベリンが抱えていた大型タンクからあるモノを散布しながら艦隊に向けて突進していった。
そしてそれは、ジャベリンの行く手を阻むように航行する駆逐艦から放たれた速射砲の砲弾が1機のジャベリンを、その抱えている大型タンクごと爆散させたことではっきりとその存在を明らかにした。

「目標撃墜! ・・・ん、ECMか? いや、これは・・・」

「な!? ミノフスキー濃度急激に上昇、ミサイルの誘導ができません! レーダーロスト!」

「敵機、更にこちらに向かってきます!」

「ぶつけてでも止めろ!!」

「ダメです、間に合わない!!」

そして接近したジャベリンは爆撃コースに入り、標的に定めた駆逐艦に爆弾を投弾する。投弾された2発の爆弾は1発が至近弾になり、残り1発が艦中央部に命中し炸裂、数分後にこの駆逐艦は大破炎上による総員退艦命令が発令された。だが、投弾したジャベリンも駆逐艦からカウンターとして放たれた対空砲火に捉まり撃墜された。

最初に空戦に投入された60機の制空用のジャベリンを除き、侵攻してきたジャベリン戦闘爆撃機の少なくない数にミノフスキー粒子を満載した大型タンクが搭載されており、所定の空域に到達次第タンクからミノフスキー粒子を散布していた。それが意味するのは、これまで使用が辛うじて可能だった誘導ミサイルが誘導不可能になったということであった。

そして、シンガポール沖での死闘とは別に、もう一つの災厄が連邦軍に迫っていた。真っ先に異変を感知したのは、シンガポールから北に僅か200kmしか離れていないクアンタンの沖合いにいた、救援の為にシンガポールを目指して航行していたフリゲート艦6隻だった。

「ん? こちらソナー、海中に複数の不審な推進音を探知しました」

「不審じゃわからん、もっと正確に言え!」

「音紋照会中・・・これは・・・!? ジオンの水陸両用モビルスーツ、しかもハイゴッグです! 他にもゴッグ及びズゴックと思われる音紋を確認しました! 数は最低でも・・・20機以上!?」

「・・・空に目がいっている隙に海からか。各艦へ対潜攻撃用意と伝えろ! 後司令部へ緊急連絡だ」

「了解! 対潜攻撃、魚雷発射準備完了!」

「対潜魚雷発射、爆雷もスタンバっておけ!」

そう言ってフリゲート艦から魚雷が3本射出される。それに遅れて残りの5隻からも3本、合計18発の対潜魚雷が発射された。が、たった18本の魚雷で食い止めれるわけも無く、魚雷は回避又は迎撃されていった。連邦フリゲート艦隊にとって最悪なことに、対潜ミサイルの類をこのフリゲート艦群は搭載しておらず、対潜兵器は対潜魚雷ととってつけられたような爆雷のみだった。しかもその爆雷も高速航行中に使う事を前提にされた旧式のもので、有効射程距離はほとんど無く近接防御用といってもいいレベルの代物だった。
そんなフリゲート艦隊をあざ笑うかのように水面からズゴックとハイゴッグが飛び出し、フリゲート艦にメガ粒子砲の洗礼を浴びせていく。
数分後、海上に浮かんでいるのは4隻の大破炎上したフリゲート艦だけだった。残り2隻は既に海面下に没している。その周りに浮かぶ救命イカダの上で、フリゲート艦の艦長は呪詛を口にする。

「くそ、俺達の艦が・・・あんな水陸両用モビルスーツを作った奴の顔を見てみたいぜ!」







その頃の社長

「へっぷし!」

「風邪ですか社長?」

「どうだろう、後で熱を測っておくか・・・それはともかく、やっぱりご飯と味噌汁が一番だな。朝に食べると目が覚めるよ」

「社長、朝ではなく今はもうお昼過ぎなのですが・・・」

「HAHAHA! 連日徹夜で書類と死闘を繰り広げていたせいか、これまで以上に強力な睡魔が襲ってきてね。気がついたら数時間寝てて、ついさっき目が覚めたんだ。つまり私の体内時計では今は朝なのだよ」

「寿命縮めますよ?」

「・・・・・・なんであんなに書類が多いんだろうね?」

「それは社長が暗躍しすぎたせいです」

「あっはっは、ですよね~・・・orz」







「スマトラ島の戦闘機隊、全て発進完了しシンガポール目指し飛行中!」

「クアンタンに戦闘爆撃機を差し向けろ! デプ・ロックもだ!」

「陸軍は既にクアンタンへ移動するよう命令しました!」

「な!? 馬鹿もん、シンガポールの防衛を固めるのが最優先だ!!」

「コタバルに駐留していた陸軍機械化歩兵中隊、クアンタン奪還に向け進撃開始しました!」

「タイランド湾に展開していた友軍艦隊、支援の為に南下を開始しました。編成は巡洋艦1、駆逐艦5です」

「海軍の強行偵察機フラット・マウス、クアンタン上空で撃墜されました! 最後の報告では、敵モビルスーツは南下を開始とのこと!」

「ここ(シンガポール)狙いか!? 他の地区の守備隊に援護要請を出せ!」

クアンタンにジオンの水陸両用モビルスーツ部隊が出現したという報告を受け、シンガポールの連邦軍司令部は大混乱に陥った。それも当然だ、クアンタンからシンガポールまでおよそ200km。モビルスーツの速度を考えると数時間で到着できる距離なのだ。しかもクアンタンには大規模な飛行場を建設中で、既に3000m級の滑走路が1本完成していたのだ。

もしここをジオン航空隊が拠点にしたら?

考えるまでも無い。シンガポール一帯はジオンの航空機の航続距離圏内となるのは明らかだ。そうなればシンガポール陥落に現実味が帯びてくる。だが、パニックになっている司令部の一角では、冷静にこの事態を分析している者もいた。

「クアンタンをジオンが航空拠点にするとは思えんな」

「同感だ。クアンタンの空港は完成しても滑走路が4本、しかも現時点では航空燃料すら置いていません。戦力化するには時間が掛かりすぎる」

「ですが、連中のミデアもどきならば弾薬燃料を一気に運び込むことは十分可能と思われますが?」

二人の将官が作戦地図を見ながら考えこみそう発言する。それに意見を言うのはパニックを起こしている基地の参謀の一人だった。その意見を二人は鼻で笑う。

「クアンタン空港の完成率は50%にも達していない。滑走路が1本完成しているとはいえ、管制塔等は未だ未完成だ」

「満足に機能させようとするならば、輸送機が何十機いると思っている? おそらくクアンタンは・・・」

「「囮だ」」

そう断言する二人の指揮官。ならば真の目的は?

「クアンタン周辺に我々の眼を釘付けにする為・・・となると」

「報告では、上陸した敵モビルスーツは一部が空港に居座るものの、その多くは南に進撃しているとのこと。シンガポール狙いならば航空隊と共に攻めたはず」

「ならばシンガポール狙いとは違う。そしてこの地域で戦略上重要な場所といえば・・・」

そう言って二人の指揮官は同時に地図の一点に注目した。

「「クアラルンプール」」

クアラルンプールに何があるのか? 一言で言えば、シンガポールの大動脈が存在する。まず、インドとの大規模な海上輸送ルートの一角を担っており、これだけでもクアラルンプールの重要性がわかるだろう。インドに東南アジアの資源を輸送し、インドからは武器弾薬を輸送する重要なルート、特にこのルートはマレー半島に展開する陸軍の主力補給ルートなのだ。しかも、現在クアラルンプールには大規模な輸送船団が停泊していたのだ。
次に、シンガポール一帯に対して電力を供給している大規模な核融合発電所が存在していた。ここから供給される電力の大多数が軍事施設に供給されており、ここが破壊されるとシンガポール一帯、いやマレー半島一帯の連邦軍基地の機能が低下する程だ。
それほどの戦略的に重要な拠点、狙われないはずが無かった。なのに今までここへ攻撃されなかったのには理由がある。その理由は簡単で、単純に防衛戦力が大きいからだ。手薄と思われがちなインド洋方面はセイロン島とスマトラ島の間に海底設置型のソナー、SOSUSアレイのような聴音網が設置されており、海からの侵入はすぐさまわかるようになっていた。かといってシンガポール方面には常に1個艦隊が停泊している。更に空からの攻撃を企んでも、シンガポール航空基地を中心とする各航空基地に多くの戦闘機によって拒まれる。

だが今はどうなっている? ジオン航空部隊の攻撃によってシンガポール周辺の空軍及び海軍は戦闘に忙殺されている。陸軍もクアンタンに上陸した敵水陸両用モビルスーツの対処に追われている。

「准将の部隊に出撃要請だ。目標は・・・」





それから一時間後、司令部は未だに混乱が収まったとはいえない状況だった。そして事態は違う方面で大きく動いた。
スマトラ島の南に位置するメンタワイ諸島。その上空を1機の航空機が飛行していた。連邦海軍所属の強行偵察機フラットマウスだ。偵察活動を終えパレンバンに帰還途中、この機体はとんでもないものを発見してしまった。そしてそれがこの機体の命運を分けた。

「ほ、報告! シベルート島の南西30kmの空域に敵機多数! なお、ガウ攻撃空母を多数含m」

そこまで報告してフラットマウスは蒸発した。ガウ攻撃空母からメガ粒子砲の一斉射撃を受けて。
この報告を受けて司令部は再びパニックになった。なにせ、迎撃可能な機体は全てシンガポール沖に回されており、迎撃機の手配ができなかったのだから。



ジオン公国西太平洋方面軍所属 ガウ攻撃空母

「敵偵察機撃墜! 付近に敵影ありません」

「高度2万を維持、このまま進め。 ・・・しかしこんな作戦なんかに西太平洋方面軍の貴重なガウを6機、オルコス輸送機を12機も投入するとはな。しかもこんなに迂回までさせて」

そう、この空中部隊はフィリピンのマニラ基地を飛び立ち、オーストラリアへの増援と思わせる為にわざわざポートヘッドランド空軍基地に着陸。そこで補給物資の積み下ろしを完了したという偽電文を発信した後、ジャワ島を迂回しスマトラ島上空を通過するルートでクアラルンプールを目指していたのだ。だがその甲斐あってか今まで連邦軍の迎撃に遭遇しておらず、目的地まで後500km程度のところまで接近できた。

「ですが、クアラルンプールの発電施設を破壊すればこの方面の敵の脅威は激減します。輸送船団にダメージを与えれば、こちらが楽になりますし」

「違うな、全て無駄な作戦だよ。通商破壊なら潜水艦隊に任せればいい。あわよくばシンガポールの占領も目論んだこの作戦、戦力が足りずに我々が敗北するのは目に見えている。我々の運んでいる降下部隊も全滅するだろう」

「その為の囚人兵部隊です。一応救出部隊の準備は整っていますし、全滅しても惜しくはない存在では?」

そう、この部隊に搭載しているモビルスーツを操縦するのは犯罪を犯した囚人達だった。この作戦に参加すれば恩赦を与え解放する、そう言われて作戦に参加した者達に与えられたのは、使い込まれたザクと旧ザク、そしてごく少数のグフだった。ザクが24機に旧ザク12機、グフ6機の合計42機。数の上ではかなりの戦力だったが、その実体は在庫一層セールとも言うべき旧式武装を持った特攻隊だった。一応救出部隊がいることになっているが、実際にその場にいるかどうかはわからなかった。なので囚人達の間では『生き残りたかったらクアラルンプールで暴れた後はクアンタンに行け』だった。実際回収ポイントの一つにクアンタンが指定されており、そこならば機体は捨てることになるが、友軍の水陸両用モビルスーツにパイロットだけ回収されて帰還できると言われていた。

それを踏まえての参謀の発言だったが、指揮官は気に入らなかった。

「その発想が好かんのだ。囚人といえど、死刑囚ではない。たしかに一部の兵は死刑囚らしいが、他の者はそれほど重い刑罰ではなかった。それをむざむざ死地に送るとは・・・」

「ですが、誰かが破壊せねばならぬこと。ならば囚人兵を投入するのは間違った判断ではないと思います」

「報告します、後20分で目標上空に到達します」

「対空警戒を怠るな。敵影確認次第ドップを発進、防空に当てさせろ」

そして20分後、クアラルンプール上空に華が幾つも咲き乱れることになった。





※本SSでのヒマラヤ級の解釈等は自分の思いつきですので注意してください。
4月1日に投稿した際に一部抜けてた部分があったので修正



[2193] 31話(別名後編)
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2009/05/14 22:34



シンガポールが空襲されている。
そんなニュースを耳にしたのは、私が街中の洒落たティーラウンジで紅茶を飲んで休憩していた時だった。ここクアラルンプールからシンガポールまでおよそ200kmだが、そのニュースを聞いたとき、私は他人事のように別にたいした事の無いニュースだと聞き流した。
なぜなら、シンガポールに駐留する連邦軍は膨大だという事を知っていたからだ。確かにここクアラルンプールは戦略上重要な拠点というのは知っていた。だがそれに比例して周辺の連邦軍の駐留部隊は大規模だ。私がその事を知っていた理由は単純で、インドで取れる紅茶をここシンガポールで販売するのが私の仕事だからだ。その仕事の関係上、連邦軍の基地にも紅茶を販売する。いや、連邦軍に紅茶を売るのが仕事と言っても過言ではなかろう。紅茶の売買契約で基地で働く人と交渉するうちに親しくなり、そんな情報も手に入る。
だからこそ私はシンガポール空襲を聞き流した。ここが戦場になることは無いだろうと判断して。
だが、気がついたときには周囲は戦場だった。
遥か高みから爆撃するジオンのガウとオルコスとかいう爆撃機仕様の群れ、そして空からパラシュートという華を使い降ってくる巨人達。
それから必至に逃げ、シェルターに逃げ込んで一安心した時に真っ先に私が思ったことは、今もまだ港に停泊しているだろう、商品である紅茶を大量に積載した私の会社の輸送船のことだった。
とある貿易商の証言 デイリーマラッカ記者インタビューにて





モビルスーツを降下させた後、行きがけの駄賃とばかりにガウとオルコス爆撃機仕様がクアラルンプール空港に対して爆撃を行い、速やかに元来た道を引き返す。残ったのは炎上し航空機の離発着が不可能になった空港施設と駐機していた航空機、そして降下したモビルスーツだった。
勿論降下に失敗した機体も少なくなく、ザク4機に旧ザク2機、グフ1機が降下に失敗し全損。他にもザク2機と旧ザク1機が脚部大破で行動不能に陥っていた。つまり、モビルスーツをはやくも10機、42機いる全体のおよそ四分の一を失った事になる。
そしてこれらの機体に乗っていて、かつ生存していた囚人兵は3パターンの行動をとった。
ひとつは機体を捨ててそのまま逃走するケース。だがこれは仲間の機体に回収してもらった一部の幸運な者を除き、全てが住民に捕らえられ、中にはリンチにあって死亡した者もいる。
ふたつはそのまま投降した者。もっともこれは、重傷を負ったりコックピットハッチが歪んで開かず、機体から脱出できずそのまま連邦軍に救助され捕虜となったケースだ。
最後に、自棄になった者。あたりかまわず弾丸を叩きこんだりして暴れまくった結果、市街地で大規模な火災が発生したりした。この行動を行った囚人兵の末路は言わなくてもわかるだろう。
そして無事に降下した機体、旧ザク9機、ザク18機、グフ5機の合計32機は事前に振り分けられていた目標目掛けて行動を開始した。旧ザク9機とザク10機が港湾施設に、ザク8機とグフ5機が郊外の核融合発電所を目指し移動を開始した。





「グフ2から各機へ、目標の核融合発電所の破壊を確認しました。とりあえず私達のノルマは達成したわけですが、これからどうします?」

「一応このまま港湾施設破壊に行った連中と合流すべきではないっすか。マリエの姉さん」

降下完了から一時間。核融合施設を防衛する装甲車等を蹴散らした後、模範囚である彼女が指揮するモビルスーツは核融合発電所の破壊に成功していた。これほどあっさり発電所の破壊ができたのには理由がある。万一の事態に備えて地下に建設されていたとはいえ、元は民間が建設し運用していた物なのだ。おかげで軍の施設とはお世辞にもいえない防備で、軍が駐留するようになってからも最大の戦力は61式戦車1個小隊といった状態だったのだ。元々施設単体の防衛能力ではザク1個小隊でも十分お釣りが来ると言われる施設に、モビルスーツが12機も襲来したら結果は明白だろう。
ちなみに、本当はグフ1のコールサインを与えられていた模範囚がこの襲撃の指揮をとる予定だったが、降下に失敗してこの場にはいない。ちなみにマリエと呼ばれた彼女は夫を殺害した罪で投獄されていた。ただ、その夫が働かずに酒を飲んで暴力を振舞い続けるということで状況酌量の余地があると判断され、かつ彼女自身が罪を認め自首し牢獄では模範囚として振舞ったことがこの降下部隊の副長を任された所以である。

「私は反対です。あっちのザクに乗ってる奴らには悪いですが、見捨てて合流ポイントで移動すべきです」

「おいおい、そんなに奴らが嫌いかオルデン?」

「言っちゃ悪いけど旧ザクの奴ら・・・死刑囚と一緒に行動するのは嫌なんだよ」

そう、この作戦では死刑囚は旧ザクに、他の囚人はザクに、そして囚人の中でも模範囚にはグフが与えられていた。死刑囚に与えられているのが酷使した旧ザクなのにはそれなりの理由がある。
乗り逃げ防止という理由が。
もしグフに乗せてそれを手土産に連邦に降伏でもされたら痛いからだ。当然今までグフの鹵獲機は出てはいるが、使い込まれたとはいえ即稼動するグフをこれ以上連邦の手に渡る危険を冒すべきではない。その点旧ザクならば開戦初期から鹵獲されまくっている性で、今更鹵獲されてもたいした痛手ではないと判断されたからだ。なにせ他サイドに輸出していた旧ザクが丸ごと連邦のダミー企業経由で実戦配備されたのだから。
そして乗り逃げの危険が少ない模範囚にグフを預けることで部隊を纏める効果を期待していたのだ。
そしてそんな模範囚を中心とする普通の囚人達と死刑囚との間で溝ができていた。死刑囚は自分達の旧ザクよりもいい機体を乗っているほかの囚人に嫉妬し、他の囚人は死刑囚と同じ視線で見られることに嫌悪して。

「ピッヂ、お前さんの意見は?」

「・・・正直な話、死刑囚達と行動を共にするのは嫌です。ですが、戦力に不安がある以上合流ポイントまでは一緒に行動すべきかと思います」

たしかに、ザク8機とグフ5機の合わせて13機ではクアンタンまでたどり着けるか不安ではある。それなら港湾施設を攻撃している部隊と合流し、一丸となって移動するほうが連邦の追撃も迎撃しやすくなるだろう。ピッヂと呼ばれた彼の言い分に間違いはない。

「・・・じゃあこのまま港湾施設を攻撃中の部隊と合流し、そのままクアンタンに移動。これでいいかしら?」

「他の合流ポイントは信頼できませんからね。クアンタンならば最悪でも撤退する水中部隊に拾ってもらえます」

「直線距離でここからクアンタンまでおよそ200km、ザクなら3時間もあれば十分到達できます」

「よし、そうと決まればさっさと連絡を行いますか」

だが、合流の為に通信を行ったところ、返ってきたのは・・・

「こちら発電所攻撃部隊、港湾施設攻撃部隊へ。そちらの状況を・・・」

「発電所部隊か!? 援護を、た、助けてくれ!」

「糞連邦の野郎、タンクもどきのくせして!」

「足をやられた、移動できない! う、うわぁああ!!」

・・・返ってきたのは、悲痛な叫びだった。港湾施設を攻撃していた友軍は、連邦軍の逆襲に遭遇していた。





「ガッデム! さっさと輸送船団を沈めなかった結果がこれか!!」

そう言いつつ彼のザクは廃棄予定の240mmザクバズーカを停泊している輸送艦に叩き込む。ジャイアントバズーカと比べると威力は低いが、かつてはマゼラン級宇宙戦艦等を沈めるのに有効だったバズーカだ。放たれた弾は輸送艦に命中し、直撃を受けた輸送艦は積んでいた弾薬に引火し、船体をくの字にして瞬く間に沈没していった。

「おいヘンリー、さっさと逃げ出したほうが良くないか!?」

そう言いつつ彼と一緒に行動しているザクは、港に停泊している船舶に120mmザクマシンガンを叩き込む。連射中に弾切れになるが、素早く予備弾装に交換し空になったドラムマガジンを近くのビルに叩きつける。

「だがジャック、どの輸送船に連邦軍の兵器が積み込まれてるのかわかったもんじゃない。浮かんでいる輸送船を沈めてからでないと、背後からいきなり撃たれる羽目になりかねんぞ!」

「・・・たしかに、いきなり輸送船からあんなもんが出てくるとは思っても無かったからな。だが、もうそろそろ移動しないとやばいぞ?」

「・・・・・・わかった、撤退しよう。しかし僅か十数分でこの様か」

そう、事は十数分前まで遡る。彼らの受難が始まったのは1機の旧ザクが破壊されたことから始まった。




「ひゃっはっはっはっは!! 燃えろ、沈め、逃げ惑え!! ゴミのように掃除してやんよ! もっと俺を楽しませろ!!」

そう叫んでいるのは元死刑囚の乗る旧ザクだった。快楽殺人犯の彼は、自身が犯した殺人の数を優に上回る数の人間をこの旧ザクで殺害していた。
この死刑囚の旧ザクやヘンリー達のザクを含め、港湾施設攻撃に向かった機体は1~2機ごとに行動していた。これは港湾施設に停泊する輸送艦が多いということで、効率よく破壊活動を行うにはバラバラになって広範囲で行動する方がいいと判断されたからだ。それ以上に、こんな人間と一緒に行動したくないという事も大きな理由の一つだが。
そして、結果的に多数の輸送船を沈めることには成功した。が、連邦軍も黙っていたわけではなかった。座礁し炎上する輸送艦の噴煙で視界が利きにくくなった隙を突いて、数隻の輸送船がその内部に積んでいた兵器を起動したのだ。それらは61式戦車や装甲車といった代物が多かったが、その中にはモビルスーツを撃破するのに十分な兵器も含まれていた。

「あーひゃっひゃっひゃっひゃ!! ひゃ?」

次の目標と定めた輸送船に向けて105mmマシンガンを叩き込もうとした彼だったが、その行動は輸送船から出てきたあるモノに目を奪われできなかった。そして、それが彼の最後に見た光景だった。
次の瞬間には彼の旧ザクは吹き飛ばされたのだから・・・

そしてそれを偶然目撃した囚人兵のザクが慌てて後退し、他の機体に知らせ攻撃を行おうとした結果返り討ちにあい、その部隊が発したのが発電所を攻撃した部隊が傍受した通信だった。

RTX-440A 陸戦強襲型ガンタンク

RTX-44をベースに改良され、進化の系譜としてはRTX-44とRX-75 ガンタンクとの間に位置する機体。
史実ではデータが漏れた為に進化の道を閉ざされ、捨て駒扱いの囚人兵に与えられたような機体だが、この世界では扱いが全く違っていた。というのも、その大きな理由は史実以上に大きな勢力となっているV作戦反対派だった。
V作戦反対派によってRTX-44が実戦デビューし、モビルスーツと戦える事、モビルスーツを撃破できる事を証明した。そこまではいいが、そのデータがガンタンク開発に反映された結果、V作戦反対派の人間の考えとは違いレビル将軍を中心とするV作戦派にその権益を一部奪われたのだ。理由は簡単で、生産ラインが足りないのでRTX-44の製造ラインの一部をガンタンク製造ラインにまわされたからだ。
これだけならまだ反対派も自重しただろう。だがそうはならなかった。RTX-440のデータが漏洩し、それを知ったV作戦派の高官が漏らした一言が反対派を刺激したからだ。曰く『機密の漏れた代物は生産する意味が無い。RTX-44も含め、全てRX-75のラインに変更してしまえ』と。
これを知ったV作戦反対派は激怒した。自分達の権益を掠め取られる結果となっていた上に、この上更に権益を奪おうとされたのだから。
そして彼らのとった行動がこの機体に光を浴びせた。前線で戦う将兵に一刻も早く、ジオンのモビルスーツと戦える機体を回すべきだという『建前』を声高く言うことで、自分達の権益を回復しようと目論んだのだ。そしてその結果、この陸戦強襲型ガンタンクの量産を実行した。勿論、可変機構を組み込んだせいで量産性と整備性がガンタンクよりも低下したが、それすらも次世代機への技術試験項目だと言い張り、尚且つ可変機構を取っ払って突撃砲形態のみの機体も量産していた。なお、機体設計に関わったアリーヌ・ネイズン技術中尉は史実通り投獄されたが、すぐにV作戦反対派の命令によって陸戦突撃砲型ガンタンクの設計に関わり、終了後に特別任務を与えられたのだが、今はどうでもいい話である。
それが輸送艦から現れ、旧ザクを吹き飛ばした兵器の正体だった。
もちろん作戦に参加している囚人兵には簡単な連邦軍兵器の一覧を貰っていたが、陸戦強襲型ガンタンクが車高を稼ぐ為に突撃砲形態で登場した為に、それが一体なんの兵器かわからず迷ってしまった。パッと見ではXT-79駆逐戦車に腕が生えたような形なのだから、彼が悩んだのも仕方ない。
そしてその隙に陸戦強襲型ガンタンクは腕を動かし、腕部のホップミサイルを発射して旧ザクを破壊した。

そして現れた陸戦強襲型ガンタンクはそれだけではなかった。他の無事な輸送艦からも多数陸揚げされ、6機近くが起動したのだ。そして突撃砲形態のみのRTX-440B 陸戦突撃砲型ガンタンクが6機、そしてそれに対抗するかのように派遣されていた量産型ガンタンク3機の合計15機が戦場に降り立った。

・・・正直洒落にならない状況である。だが同時に、ある疑問も思い浮かぶ。なぜこれらの兵器がここクアラルンプールに存在するのか?
答えは簡単、インドから戦力増強の為に派遣されてきたのだ。こうして対モビルスーツ用の戦力を増強し、余分な人員を後方に回す。そしてその人員が新しく製造された兵器の搭乗員になるといった、ある種のサイクルができていたのだ。おかげでこの東南アジア戦線やアジア戦線では大口径バルカン重装甲車やミサイルバギー、対ザク用タンク型自走砲といった旧式兵器は姿を消しつつあった。しかもアジア戦線を東南アジア方面から突き崩す事を目的とした、北上侵攻作戦が計画されておりその為にこの部隊は派遣されてきたのだ。
つまり簡単に一言で言えば、この囚人兵部隊には『運が無かった』と言える。

話を戻そう。こうして撃破されたのは旧ザク6機とザク3機の9機だ。残っているのは旧ザク3機とザク7機。発電所破壊に行った部隊を含めると数の上では渡り合える戦力だ。しかも連邦側は自分達の勢力圏の市街地で戦う為に、民間人を巻き込む危険性を持つ地雷やMLRS、火炎放射器が使えない。それを見るとジオン側が有利なようにも見えるが、相手は訓練をつんだ正規兵で、こちらは囚人兵という事を忘れてはいけない。瞬く間に味方が撃破された事は士気の崩壊を意味し、各人がバラバラに行動するハメとなった。そしてそれとは逆に連邦軍は統制を取り戻し、ジオン側を各個撃破していくということでもあった。

結果・・・港湾施設を攻撃していた部隊は敗走を余儀なくされた。



話は戻るが、ヘンリーとジャックは違うエリアで船舶を攻撃中に仲間の断末魔の通信を傍受してしまった。そして、偶然輸送船から現れた陸戦強襲型ガンタンクを発見、これをバズーカで吹き飛ばした。そしてそれは二人の周囲にある輸送船にも兵器が積載されている可能性が極めて高いということだった。

「・・・周囲の船はあらかた炎上している。さっさと逃げようぜ」

「・・・ああ、このまま発電所を破壊しに行った連中と合流できれば・・・ん?」

センサーに友軍の反応があり、そちらに目を向けるとそこには1機の旧ザクが接近中だった。そう、死刑囚に与えられた旧ザクが。

「・・・そこの旧ザク、何の用だ?」

強めに詰問され、旧ザクから返ってきた返事は少し戸惑いの声が含まれていた。

「ああ、いや別にたいしたことじゃない。ただ、君達が撤退の算段をしてたみたいだから、加えてもらえないかと思って・・・」

だが、それに対する二人の答えは冷徹だった。考えてみてほしい。死刑囚と一緒にいたいか? と聞かれたらほとんどの人はNOと答えるだろう。よほどのことが無い限り離れていたいというのが本当のところだろう。

「死刑囚と一緒に行動はしたくない」

「同感だ、幾ら同じ囚人兵といえどな・・・悪いけど一人で行動してくれないか?」

それに慌てたのが旧ザクに乗る囚人兵だ。旧ザクの持つ武器は旧式の105mmマシンガンとヒートホークのみ。予備のドラムマガジンも1つしかない。群れから離れたものが辿る末路は動物も人も変わらない。その為に旧ザクの囚人兵は必至になった。

「ま、待ってくれ。たしかに俺は死刑囚だ。だが俺は冤罪だ、嵌められたんだよ! それを晴らさないで、死ねないんだ! 頼む、一緒に連れて行ってくれ!!」

「・・・と、言われてもな」

「正直な話、気が進まないというのが本音だ。何か借りでもない限り、一緒にはいたくないな」

「・・・なら、これでどうだ!」

そう言って目の前の旧ザクはマシンガンをこっちに向けて・・・て!?

「うぉい!? ちょっと待て!」

「正気か? やめろ!」

だが制止の声を無視し目の前の旧ザクはマシンガンを発砲。放たれた105mm弾丸は飛翔し・・・ザクの脇を通って背後の陸戦突撃砲型ガンタンクに命中し、蜂の巣にした。

「あ・・・」

「何時の間に背後を取られたんだ!?」

「これで君達は俺に命を救われたっていう借りができたわけだが、一緒についていってもいいかい?」

呆然とする二人だったが、その言葉に我に返り、苦笑いを浮かべる。

「・・・本当は気が乗らないんだが、借りは返さないといけないな」

「OKわかった、こっちの負けだ。あんたも一緒に来いよ。そうと決まればさっさと撤退しよう」

そう言って3機のモビルスーツは港湾施設から撤退した。だが、その合流地点であるクアンタンに上陸し進撃していた水陸両用モビルスーツ部隊も受難を受けていた。





「デルタゼロよりデルタリーダーへ、敵更に接近! ゴッグ2、ズゴック1です」

「わかった。デルタリーダーより各機、アローフォーメーション!」

「了解。ジオンの奴ら、連邦のモビルスーツパイロット全部が素人ばかりと思うなよ」

「へへへ。ラリー少尉、こういうときこそ焦りは禁物ですよ」

クアンタンとクアラルンプールの間にあるパハン(Maran)、両都市を結ぶハイウェイが通るその地域のクアラルンプール側の山中で、ジオンの水陸両用モビルスーツとコーウェン准将貴下のMS特殊部隊第3小隊、デルタチームの3機のRGM-79(G) 陸戦型ジムは激突していた。
なぜ彼らがここに展開しているのかというと、シンガポール司令部から出撃要請があり、実戦経験豊富なジョン・コーウェン准将貴下のMS特殊部隊1個中隊に白羽の矢が立ったからだ。

ジョン・コーウェン准将貴下のMS特殊部隊には5つの部隊が存在し、それぞれα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、Δ(デルタ)、ε(イプシロン)と呼称されている。このうちαはコーウェン准将直属のMS特殊部隊の補給部隊であり、主に物資や部隊の移動を手がけている。が、MS特殊部隊に所属しているのは書類上のことで、実際はMS特殊部隊の動向に左右されず行動する一種の独立部隊だった。故に、MS特殊部隊は実戦部隊である4つの小隊から構成されている。更に、β-第1小隊、γ-第2小隊、Δ-第3小隊、ε-第4小隊となり、この4つの小隊もそれぞれ独自の命令を受け行動している。つまり、中隊として一まとまりに行動することは無く、行動するのは常に小隊毎なのだ。その為、マット達第3小隊を含む4つの小隊が東南アジア戦線、しかもマレー半島シンガポール軍事拠点周辺という一つの地区で協力して作戦行動を行うことは部隊設立以来無かったことであった。
そして第1小隊はクアラトレンガヌ防衛、第2小隊はシンガポール防衛、第3小隊はジョホールバール防衛、第4小隊はクアラルンプール防衛の為にそれぞれ3機のミデアで輸送された。が、その途中にクアラルンプールが攻撃され、第4小隊は戦場となったクアラルンプールに近いメラカ(マラッカ)に降りてから急行する事に、第3小隊は敵部隊の合流を阻止する為にパハンに展開することになったのだ。

「デルタツー、敵と接触した」

「こちらデルタスリー、隊長、危なくなったら助けてくださいよ」

「隊長、ゴッグに100mmマシンガンは接近しなければ効きません。ロケットランチャーやミサイルを使ってください!」

「わかっている。ロケットランチャーを使う」

そう言ってデルタチームの隊長、マット・ヒーリィ中尉の乗る陸戦型ジムはゴッグに向けて左手に持っていたロケットランチャーを2発連続して放つ。
放たれた大型ロケット弾にゴッグは気がつき回避しようと試みたが、その努力は実らず1発が腕部に、もう1発が腹部に直撃し、直後にゴッグは爆散した。それと同時に2番機のラリー・ラドリーが180mmキャノンでもう1機のゴッグを、3番機のアニッシュ・ロフマンが100mmマシンガンでアッガイを破壊していた。

「隊長、ソナーに反応無し。この周囲の敵は一掃したようです」

「わかった、ただ警戒は怠らないでくれ。デルタツー、スリー、残弾はどうなっている?」

「こちらデルタツー、180mmキャノンは今装填されている1発以外ありません」

「スリー、マシンガンはともかくミサイルの残弾がないです。こりゃ一度補給に戻った方が良くないっすか?」

「・・・そうだな、ロケットランチャーも弾切れだから一度補給に戻るか。各機後退! ノエル、補給部隊に準備を頼むと伝えてくれ」

「了解しました!」

今回マット機は100mmマシンガンとロケットランチャー、ラリー機には180mmキャノン、アニッシュ機には100mmマシンガンとミサイルランチャーを装備させていた。そして今回、長距離からアウトレンジできる180mmキャノンやミサイルランチャーにロケットランチャーは使用頻度が高く弾切れとなり、逆に接近戦で使う100mmマシンガンは装甲が厚いゴッグが相手ということもあり弾は携帯している分でまだ十分という状況だった。

「ノエル、付近に展開している部隊はどれくらいだ?」

「少し待って下さい・・・我々の後方10km、クアラルンプール方面の幹線道路に61式戦車1個小隊が展開したようです」

「じゃあ後方からいきなり奇襲されるってことは無さそうだな。前方に友軍が展開したセンサーの反応は?」

「今のところ問題無く作動しています。敵影は今のところ確認されていませんが、状況から考えるとまた敵がやってくる可能性は高いと思われます」

「わかった。っと、ミデアが見えた。デルタツー、スリーの順で補給作業を開始しろ」

直線状の道路を臨時の滑走路に見立て着陸した3機のミデアには、1個小隊を構成する3機のモビルスーツとホバートラック1両の他に、護衛用の対空車両2両と、多くの弾薬を積んだ補給用のホバーカーゴトラックが1両積載されていた。ホバーカーゴトラック自体は非武装だが、そのカーゴには消耗品である各種弾薬が満載されている。
なぜこんなに用意周到なのか、それはこの部隊が派遣されてきた理由にこそ答えがある。元々MS特殊部隊は『東南アジア戦線にてジオンに不審な動きあり』という情報が入ってきた為に急遽派遣されたわけであり、スクランブルの時に弾薬が足りなくなるのを防ぐ為に、あらかじめ武器弾薬を搭載したホバーカーゴトラックを用意してたのだ。その為今回シンガポールが空襲されたと報告された時には既にいつでも離陸できるように準備が完了し、シンガポール司令部から出撃要請が来た時には既に離陸していた程だ。

「しかし隊長、奴らなんでこんな無謀な作戦をしたんでしょうかね?」

「こっちに来る水陸両用機ですけど、クアラルンプールの発電所を破壊した敵部隊と合流してシンガポールを目指すって言うのが上の判断らしいですが、本当にそうなんでしょうか?」

「それは俺もわからない。が、俺はその可能性は低いと思っている。恐らくクアンタンの部隊はクアラルンプールを攻撃した部隊の回収部隊じゃないかと睨んでいるんだが・・・まぁなんにせよ来る敵を撃破すればいいだけだろう」

「隊長の考えが当たりの可能性は大いにあります。現に戦闘ヘリ部隊が我々から左へ30kmのポイントで、クアラルンプールに空挺降下したザク部隊がクアンタン方面に移動するのを確認しています」

「そのヘリ部隊はどうなったんだ?」

「・・・反応が無いので、恐らく撃墜されたものと思われます。それと前後して付近の戦闘ヘリ部隊と対モビルスーツ特技兵が出撃したとの情報もあります」

そう言いつつ作業は進み、補給が完了した頃に、前方に展開していたセンサーが敵の接近を捕らえた。

「! 隊長、前方に敵モビルスーツの反応を探知しました」

「わかった、各機散開して対応しろ。3方向から一斉攻撃を仕掛けるぞ」

「よっし、さっさと片付けてしまおうか」

「俺はやりますよ、やりますとも」

そう言って散開しつつ前進する3機の陸戦型ジム。先程まで戦闘を行っていた場所まで前進したところで敵モビルスーツ、MSM-04 アッガイの姿を視認した。そしてアッガイはデルタチームを視認するや否や、頭部に装備する4門の105mmバルカン砲を乱射する。牽制代わりの一撃なのだろうが、その弾丸は十分な破壊力を持っている。しかも3機が一斉に弾幕を張るのだから、全てを避け切る事は不可能だった。

「無事かアニッシュ!」

「くそ、被弾しました。ですが戦闘は続行可能です」

「よし、各機一斉射撃・・・今!」

アニッシュ曹長の機体に多少の被弾が発生するものの、戦闘に支障無し。お返しとばかりにアニッシュ機から100mmマシンガンとミサイルを3発、時間差をつけて発射する。それと同時にラリー少尉の180mmキャノンを放ち、マット中尉もマシンガンを放ちながらロケットランチャーを放つ。別々の角度から放たれた弾幕にアッガイ達は被弾し、1機がマシンガンの十字砲火で蜂の巣に、もう1機もミサイルと180mmキャノンで木っ端微塵にされ、残り1機も頭部を吹き飛ばされ仰向けに倒れた。

息の合った連携でアッガイ3機を撃破したところで、更にデルタゼロから報告が入る。

「敵増援を確認、気をつけて!」

「おいおい、ジオンに兵無しってのは嘘だらぁ」

「まぁまぁラリー少尉、レビル将軍の悪口はやばいですって」

「デルタゼロ、敵の詳細はわかるか?」

「前方からモビルスーツ2機、恐らくザクタイプと思われます」

その言葉にマットは軽く疑問を抱く。空挺降下したザクは後方にいて、前方からくるのは水陸両用モビルスーツのはずだったからだ。が、深く気にせずクアンタンの飛行場に輸送機で運んだのだろうと判断した。
そして数分後、やってきたザクは普通の機体ではなかった。

MSM-01 ザク・マリンタイプ
水中で活動できるようにザクF型をベースに開発され、その大半が新造パーツで構成されたザクだった。が、武装は60mm機関砲2門と、水中専用のM6-G型4連装240mmサブロックガンと貧弱だった。ぶっちゃけ陸上での戦闘力は旧ザク以下である。ただし、目の前のザクにはブラウニーM8型4連装180mmロケットポッドが左腕に、シュツルムファウストが腰の左右に4基とりつけられており、火力の底上げがされていた。
先程撃破したアッガイから報告を受けていたのか、2機の水中用ザクはデルタチームを確認した次の瞬間にはそれぞれシュツルムファウストを2基放ち、その直後にロケット弾を放ってきた。が、遠距離から放たれるロケット弾はモビルスーツにとって回避しやすい。
事実、デルタチームの陸戦型ジムは全機回避に成功してロケット弾は全て空しく地面に穴を開けるだけに留まった。
そして戦闘力の低い水中用ザクを破壊しようと3機が動き出した時、新たに報告が舞い込んだ。

「敵、更に増援を確認! モビルスーツ4機ですが、ゴッグタイプとザクタイプと思われます」

「まだくるのか・・・」

「やれやれ、ちっとは休ませて欲しいもんだ」

しかし次の瞬間には彼らは慌てることになる。なぜなら・・・

「あ!? 敵増援が高熱源体を発射、ミサイルです! 大型ミサイル8発を含む32発がそちらに向かっています!」

「な!?」

「各機後退! おそらく目の前のザクがこちらの位置を連絡したに違いない、急いでここから離れるんだ!」

増援に現れたのはMSM-02 水中実験機とMSM-03-1 プロトタイプゴッグがそれぞれ2機だった。特にMSM-02 水中実験機はMSM-01のデータを元に製造された実験機で、水中での運動性は向上しているが軍の要求には満たず、また陸上での機動性も悪く、水陸両用を目指すあまり両面の良さを消してしまった機体だった。
が、その反面火力は強力で6連装ミサイルランチャー×2、6連装腕部バルカン砲×2、背部バルカンポッド×2、対空・対艦ミサイル発射管×4といった重武装ぶりで、機動性が悪くなったのは武装を搭載しすぎたからだという話もまことしやかに囁かれている。
なお、キャリフォルニアベースにいる某企業の一部のマッd・・・頭のいい技術者達が試験用に運び込まれた1機のMSM-02の外見のかっこよさに惚れ込んで、浮いた経費や資材(廃棄機体等含む)を流用し性能を格段に向上させた魔改造機体を複数開発し一悶着起こした事件があったのだが、これもどうでもいい話である。

そしてその水中実験機から放たれた対艦ミサイル8発と24発の小型ミサイルがデルタチームに襲い掛かる。
更に間の悪いことに、デルタチームがミサイルの回避を行っている最中に水中用ザクが残りのシュツルムファウストを発射した。しかもこの2発はただのシュツルムファウストではなく、対地掃討用のエルデンファウストだった。放たれたそれはデルタチームの頭上で千個近い子弾頭に分裂し、鉄の雨を見舞った。
結果、マット機は頭部センサーが一部損傷、ラリー機は持っていた180mmキャノンを破壊され、アニッシュ機はミサイルランチャーが爆発し左腕ごと損失していた。

「くっ・・・各機報告」

「こちらデルタツー、武装を失いましたが他は特に異常ありません」

「デルタスリー、左腕を丸ごと失いました。機体中破!」

「わかった。とりあえずラリー、このロケットランチャーを使え」

「わかりました。しかし敵さんやってくれましたね」

プロトタイプゴッグを前衛に、水中実験機を後衛に展開していた。そして水中用ザクはその側面から回り込もうと移動している。が、その動きはかなり鈍かった。それも当然である。水陸両用機でありながら通常の陸上機並の運動性を誇るハイゴッグならばともかく、それより前のゴッグの試作機であるプロトゴッグや水中実験機、水中用ザクは陸上での機動性は旧ザク程度だった。しかもプロトゴッグの冷却システムは水冷式。故にオーバーヒートしないように動かざるを得ない。つまりますます動きは鈍くなるのだ。この水陸両用部隊は囚人兵部隊ではなく一応正規軍なので整備はちゃんと行われてはいたが、流石に陸上ではその性能はフルに発揮できない。
が、それを補って有り余る火力があった。正面のプロトゴッグから拡散メガ粒子砲が放たれ、デルタチームに迫る。幸い距離があった事と、陸戦型ジムの装甲がビームにある程度の耐性を持つルナチタニウム製(※GCBガンダムカードビルダーのカスタムカード『ルナチタニウム合金』を参照)だったこともあり破壊された機体はなかったが、デルタツーの右脚が破損、片膝を付いてしまう。

「くっ・・・右脚をやられました、反応がありません」

「ラリー! スラスターを使え!」

「! 了解!」

動きを止めたと判断したプロトゴッグは止めを刺すべく、一気に接近しその鋭い爪を振りかざす。が、その直前にスラスターを吹かしたラリーの陸戦型ジムは後方に飛び去り、攻撃をかわすどころか手に持っていたロケットランチャーを至近距離から放つ。水陸両用機であるプロトゴッグの装甲は当然厚いが、それでもロケットランチャーの直撃を受ければただではすまない。放たれたそれはプロトゴッグの右腕に命中し腕を吹き飛ばす。そしてバランスを崩し転倒したプロトゴッグに向かってマットがビームサーベルで斬りつけ破壊する。
それに向かってもう1機のプロトゴッグがクローで襲い掛かるが、その攻撃を何とか盾で受け流す。だがプロトゴッグの馬鹿力のせいで、腕部につけていた盾はへしゃげて吹き飛ばされ、左腕も損傷を受けた。それでもその行為は無駄ではなく、カウンターとばかりにサーベルでプロトゴッグの腕を切り落とした。それはアニッシュ機がマシンガンで水中実験機1機を破壊したのとほぼ同時だった。

「よし、後は4機・・・?」

「連中、撤退しはじめた?」

そう、攻撃の要であるプロトゴッグと水中実験機の半分がやられたせいで、残りの機体は撤退を開始したのだ。ちなみに水中用ザクは撤退途中、先程まで戦闘をしていて破壊されたアッガイ等から脱出したパイロット達を回収しつつ撤退していた。

「隊長、追撃のチャンスでは?」

「・・・いや、俺達の任務はここの防衛だ。デルタツーの機体の損傷もあるから、無駄な戦闘はするべきじゃない」

「はぁ・・・了解しました。ジオンの奴ら運がいいな」

「そういうことでデルタゼロ、敵の増援はいるか?」

「いいえ、周辺に敵の増援はいません・・・え!? 司令部から後退命令?」

「どうしたデルタゼロ?」

「あ、はい。たった今シンガポール司令部から後退するように命令がきました。敵をクアンタンに押し込めて一気に殲滅する為に一時後退しろと・・・」

「機体の消耗が激しいのでありがたいですが、どうも腑に落ちませんね」

「このタイミングで後退命令・・・お偉いさんの考えていることはよく分かりませんね」

「・・・だが命令は命令だ、デルタチームは後退する。アニッシュ、ラリー機の右肩を頼む。俺は左肩を持つ」

「了解しました」

「すいません隊長」

「デルタゼロ、アニーに連絡して修理の準備を整えておいてくれ」

「了解です隊長」







シンガポール軍港

「隣の給油艦が爆発した! 消火艇はどこだ? 本艦に燃え移る! 助けてくれ!」

「消火艇が爆発に巻き込まれた。2隻・・・いや3隻・・・燃えてるぞ」

「なんだ、この損害は? 俺様の想像力を上回るとは、どうなってんだ」

「湾全体が炎の中に」

そう、太平洋艦隊の根拠地であるシンガポール軍港は火に包まれていた。石油備蓄施設で爆撃機型オルコスが投下した爆弾が炸裂したからだ。10波以上にも及ぶ波状攻撃によって連邦の防空体制は食い破られ、連邦は少なくない戦力を失っていた。編隊を組んだ爆撃型オルコスの一斉投弾によって停泊していたタンカー等が炎上し、港内から脱出を試みる船舶がドダイに乗ったザクの攻撃で沈没していく。
そしてその報復とばかりにフライアローが突貫し、編隊を崩すべく空を切り裂く。オルコスとドダイはコンバットボックスを組み対空防火を放って接近を拒むが、被弾しても構わずに攻撃してくる戦闘機部隊によって1機、また1機と煙を吐いて落ちていく。

『密集しろ! 敵を近づけさせるな!』

「怯むな、奴らをなんとしても撃墜しろ! これ以上好き勝手させるな!」

「うぉ、被弾した! オメガ11、FOX4アーンドイジェークト!! イイイイィィィィィヤッホオオオオオオゥ!!」

『な、カミカゼか!? うわああああ!!』

「オメガ11がモビルスーツ付きのドダイを撃墜したぞ!」

「・・・滅茶苦茶すぎる。というか、あいつさっき落ちてなかったか?」

「ああ、海軍さんは知らんだろうが、空軍では何時ものことだ。気にするな」

「・・・・・・了解した、攻撃を続行する」

『護衛機、急いで来てくれ! このままでは全滅する!』

「敵の数が減っている・・・あと少しか?」

『う、うわ! 後方に敵機、撃たれた! メインエンジン停止、総員脱出急げ!』

「ヴァイパー10、敵爆撃機を撃墜した!」

「こちらレイピア7、敵機撃墜! 次はどこだ!?」

「ソード3から各部隊へ! 艦隊に敵機接近、大型ミサイルを持っているぞ」

「撃て、撃て、撃て、撃て! 防空艦の意地を見せろ!」

「上空の味方機、艦隊の射線上に出るな! 誤射してもしらんぞ!」

『なんて対空砲火だ。・・・対艦ミサイル発射、発射!』

「敵機対艦ミサイル発射、ファランクス撃ち方始め!」

「馬鹿っ、やめろ! 岸のドックを直撃してるぞ!」

「上空よりミサイル着弾。11時方向、距離200m」

『くそ、被害が大きい・・・ミサイルを撃ちつくした機体は撤退しろ!』

『連邦め、これほどの航空戦力を持っているだなんて・・・うわぁ!』

「敵は徐々に後退している。このまま守りきれ!」

『対艦攻撃部隊のオーソイド隊が撃墜されたぞ! 護衛は何をしていたんだ!』

「上空の援護がいい。いけるぞ!」

「対空砲火の手を緩めるな、砲身交換するくらい撃ちまくれ!」

濃密な対空砲火を撃ちあげ青空を爆炎で覆わんとする地上部隊。海上では炎上する海面と、対空砲を放ちながら高速航行し複雑な白い航跡を残す戦闘艦群。そして空では細長い白煙と大きな黒煙を青いキャンバスに塗りたくり、己の命を賭けて戦闘を行う双方の戦闘機部隊。
そして数の上で勝っている連邦戦闘機の猛攻の末、シンガポール航空戦はその幕を閉じようとしていた。

『・・・ジオン航空隊の各機聞け、こちら空中管制機フィリピン・アイ。特殊部隊がクアラルンプール発電施設の破壊に成功した。よって現時刻を持ってシンガポール空襲を終了する、全機帰還せよ。繰り返す、作戦終了全機帰還せよ! 空中給油機とのランデブーポイントに急げ、余裕のある機体は殿を頼む!』

『まだ爆弾や対艦ミサイル持ってる機体は全部使い切ってから撤退しろ。速度を稼ぐ為に少しでも機体を軽くするんだ!』

「お? ジオンの奴ら逃げていくぞ」

「俺達の勝利だ、守りきったぞ!!」

「追撃の手を緩めるな! 奴らをここで叩きのめすぞ、戦闘続行可能な機体は我に続け!」

『くそ、敵の追撃部隊だ!』

『慌てるな・・・キャリア隊へ、君達が主役になる時だ。雛鳥達を羽ばたかせろ! 繰り返す、雛鳥達を羽ばたかせろ!』

『・・・こちらキャリア隊、了解した。雛鳥達を羽ばたかせる!』

古来より撤退戦が最も難しい戦闘なのは証明されている。逃げながら敵と戦うというのが如何に困難なのか、それは航空戦においては更にハードルが上がる。
当然ながら飛行機は飛ぶのに燃料が必要で、それは激しい機動を取れば消費も激しくなる。燃料を気にしながら戦うのは必要以上に神経を使う作業で、戦闘に集中できず撃墜されることも多い。
そして作戦計画時に問題として取り上げられ、確実に発生するであろう撤退戦の為に、ジオンは秘策を用意していた。

連邦の追撃部隊と交戦しているのは殿を務めるジャベリン戦闘爆撃機とドップだった。なぜ航続距離の短いドップがこの戦場に舞っているかというと、近くを飛行するオルコスが答えを見せていた。

「キャリア7よりデスクロー1、2。用意はいいな?」

「こちらデスクロー1及び2、いつでもいいぞ」

「よし、打ち出すぞ! 発射、発射!」

その言葉と共にオルコスの格納庫から後方にドップが2機、平行にならんでいたカタパルトから続けて射出された。そう、ドップの航続距離の短さの解決の一つが、オルコス輸送機の空中空母化だった。と言っても発進のみで、着艦はガウ攻撃空母又は給油機で補給すると言った方法をとらざるを得なかったが。幸いジオンはガウ攻撃空母で、小さいスペースからドップを発進させたりする運用ノウハウ等を持っており、着艦を考えなければドップはオルコスの輸送コンテナから十分発進可能だったのだ。が、たった2機しか搭載できない為戦力としては疑問符が付いていた。だが、相手が燃料を消費している追撃戦時に格闘戦に強いドップが加われば、連邦の追撃を食い止めることが可能なのではないか?
この考えに基づき、2機のドップを搭載した空中空母改造型オルコス18機は戦場から少し離れたところを数機の空中給油型オルコスと共に飛翔し、撤退戦に移ったところで合計36機のドップを発進、殿に当てたのだ。
その結果、新手のドップが加わったせいで連邦軍は不完全な追撃戦となり、ジオン側の航空隊を取り逃がしてしまうこととなった。

攻撃を仕掛けたジオン西太平洋方面軍はフィリピンに展開していた航空戦力、特に航続距離に優れる制空戦闘機の半数以上をすり減らされるという大打撃を受けた。対して連邦軍は、展開していた航空戦力の多くを損失。空母の艦載機も半数近くが撃墜されてしまったが、その多くは補充された新米達ばかりで、少なくない数が撃墜時に脱出に成功し回収されている。人員が無事だった為に機体はまた作ればいい連邦軍に対し、ジオン軍は機体から脱出してもその多くは捕虜となるしか道が無かった。もちろん潜水艦や現地に潜入させていたエージェントを中心とするパイロット回収部隊を展開させてはいたが、シンガポール基地付近では活動は困難だった。
そしてジオンの定めた重要攻撃目標の一つだった太平洋艦隊も、改造ヘリ空母が1隻大破炎上したものの、空母ハーディングの至近弾による小破等、残りの空母達は1週間もあれば修復完了するレベルに留まった。更にエスコート艦も巡洋艦3隻、駆逐艦7隻、潜水艦1隻が撃沈又は大破炎上したものの、他の艦は損害が軽微だった。
結果から見れば、ジオンはクアラルンプールの発電所を破壊し、シンガポール軍港等の施設に多大なダメージを与え、連邦は攻撃してきたジオンのモビルスーツ部隊と航空隊の多くを撃破した。
こう書けばジオンの辛勝ともとれるが、今後の制空権を維持する為に航空隊の補充が必須なジオン側を見ると、連邦側の勝利と判断することもできた。そして、シンガポールで戦闘に参加した将兵は皆、連邦の勝利と判断していた。

「敵航空隊、完全撤退を確認しました!」

「ふむ、なんとか凌いだな。やはり我が軍はまだまだ戦える」

「損傷を受けた艦も、軽微な損傷の艦と大破した艦に分かれましたから、あの作戦にもなんとか参加可能でしょう」

「それにあれだけ航空戦力を失えば、しばらくはジオンも大人しくしているだろう・・・・・・ところで、あの参謀殿の姿が見えんが、どこにいるんだ?」

「あ~・・・それが・・・なんというか・・・」

「どうした? 報告は正確に言いたまえ」

「・・・本艦隊が対空戦闘を開始して少し経った頃に、司令部に戻って戦闘指揮を執る、と言われヘリで脱出されたものの、攻撃を受け搭乗されていたヘリが撃墜され、現在行方不明です」

「・・・・・・敵前逃亡と言わないかそれは?」

「まぁそれは置いときましょう。肝心なのはフィリピン攻撃を行わなくてもよくなったということです」

「それもそうだな。よし、今は艦載機部隊にもうひと働きしてもらう事に集中しよう。艦載機の準備ができ次第クアンタンを攻撃する」

「了解しました」

そして艦載機部隊の発進準備中に、陸上でも南下していたジオンの水陸両用部隊を撃退し、クアラルンプールに空挺降下した部隊もクアンタンに押し込めつつあり、奪還も時間の問題という報告が入り、この地を守る連邦軍全体が安堵しかけた頃、その凶報は飛び込んできた。

「き、緊急事態です! オーストラリア大陸全域でジオンの総攻撃が始まり、チャールビル基地及び・・・トリントン基地が制圧されました!」

「なん・・・だと・・・?」


※MS特殊部隊の設定も自分の思いつきですので注意してください。



[2193] 閑話4
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2009/06/14 12:33
サイド6宙域

ホワイトベースがジオン側に捕捉される数週間前。民間の航路に定められていないポイントで、2機のサイコミュ高機動試験用ザクが模擬戦を行っていた。腕部を分離させ相手の死角から攻撃し、それを回避しあうその様子は舞踏会を連想させる。長い間そんな戦いを行っていた2機だが、1機が機体制御を誤ったのかバランスを崩し、その隙にもう1機が腕部ビームを発射、その直撃を受けた。

「よし、模擬戦を終了する。1号機は2号機を回収してくれ。彼女はかなり疲弊しているようだから迅速にな」

「博士、いいデータが取れました。ですがパイロットの疲労もかなりのものです」

「うむ、やはり高機動戦闘とサイコミュの併用はかなりの疲労をパイロットに与えるようだな」

「とはいえ、ビット運用時に比べれば遥に負荷は低いですがね」

「それはそうだ。やはりニュータイプにはビットを、オールドタイプには有線誘導がベストか・・・」

そう言ってムサイから戦闘を観戦していた研究者達は模擬戦を行った2機のパイロット、ララァ・スンとマリオン・ウェルチの戦闘データを解析していた。





ムサイのパイロット待機室、そこに二人の少女は休んでいた。

「やっぱりララァさんにはかないませんね」

「そんなことはないわ。貴方も強くなっているし、油断すれば私もすぐに負けてしまう」

そうララァが言うと、マリオンは顔を曇らせた。

「・・・なぜなんでしょう。戦いたくなんてないのに、こんなにも私は戦える」

「・・・」

「戦いは何も生み出さない・・・あなたには、それが判っているはずです。なのになぜ戦うのですか?」

「私には・・・守らなくてはならない人がいるわ・・・強い、けれど深い悲しみを持った人・・・」

「判ります・・・その人を愛しているのですね。私もできる限りお手伝いします」

「ありがとう・・・でも、そういう貴方の方こそどうなの?」

「え、あの・・・・・・」

一瞬戸惑ったマリオンだったが、次の言葉を聞いた瞬間に顔が一気に赤くなった。

「よく貴方に会いに来るエルトランさんの事、好きなんじゃないの?」

「・・・・・・正直なところ、よく分かりません。でも、あの人と一緒にいると心が落ち着くんです」

「クルスト博士の所にいたときはどうだったの?」

「クルスト博士は・・・昔は父親みたいな存在でした。でも、今は違う。博士は私を怖がっている。いえ、私の存在、ニュータイプという存在を恐れている。だから・・・」

「エルトランさんに父親を重ねて見ている?」

「・・・そうなのかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。私自身、良くわからないんです」

「人は迷う生き物、だからこそ成長していく・・・がんばって。答えが見つかる事を祈っているわ」

それからしばらく沈黙が続いたが、最初にララァが、次にマリオンが何かに気がついた。

「これは・・・殺意?」

「敵襲・・・でしょうか?」

その言葉を裏付けるかのように、直後にアラートと敵襲を知らせる放送が艦内に響き渡った。





「敵艦を確認、急速接近中!」

「敵艦隊はサラミス級2隻とコロンブス級1隻、ただしサラミス級の上甲板にボールを搭載しているのを確認しました」

「威力偵察か? だがこの規模・・・実戦データの収集に丁度いい。モビルスーツを発進させるんだ」

「了解しました。サイコミュ高機動試験用ザク1号機、2号機出撃準備に入ってください。繰り返します、サイコミュ高機動試験用ザクは直ちに発進準備に入ってください。パイロットは格納庫へ急いでください」

「本艦は徐々に後退だ。ミノフスキー粒子戦闘濃度に散布、ビーム攪乱幕を艦前方にばら撒け!」





連邦軍通商破壊部隊 コロンブス級

「敵艦視認、やはりジオンのムサイです。周辺に敵影は他にありません!」

「やれやれ、通商破壊任務の対象ではないですが、相手はたった1隻・・・艦長、どうします?」

「ふっ、決まっている。宇宙人共を蹴散らすぞ、サラミス級は前進しボール部隊を発進させろ。本艦のザニーにも発進命令だ、奴らを殲滅せよ!」

「了解! 各艦へ打電、脱出艇1隻たりとも見逃すな、皆殺しにしろ! 本艦は部隊を発進させた後は後退する」

「了解しました、ザニー第1、第2小隊発進せよ!」





2機のサイコミュ高機動試験用ザクがムサイから発進した時、連邦艦隊からボールとキャノン砲を持ったザニーが発艦を完了させ、こちらに向けて隊列を組み前進を開始していた。

「本艦は後退しつつミサイルでサラミスを攻撃する。1号機ならびに2号機は敵部隊を撃滅せよ!」

「了解・・・・・・マリオンは実戦は初めてだったわね。悪意に囚われないで」

「はい。ララァさんも気をつけてください・・・・・・嫌な空気、これが戦場・・・」

一気に加速する2機のサイコミュ高機動試験用ザク。この機体は試験機の為に稼働時間は極端に短い。が、それでもボール6機とザニー6機を破壊するには十分な時間でもあった。

2機のサイコミュ高機動試験用ザクが一気に加速して近づく事に動揺したのか、慌ててボールとザニーは弾幕を張る。が、ヅダを上回る高速性を持つサイコミュ高機動試験用ザクにとってその回避は容易だった。攻撃を回避した2機は腕部を分離せずにビームを放つ。連邦側にとって不幸だったのは密集体系を取っていた事だろう。放たれたビームは命中した機体を貫通し、合計で2機のボールと4機のザニーを破壊した。
慌てたのは連邦軍である。数の上では2対12という兵力差なのにあっという間に半数に減らされたのだから。そしてビーム砲を装備しているという事実が更に連邦側を動揺させていた。

「ビーム兵器、だと? 馬鹿な、手に内臓しているのか!?」

「全艦対空砲火開け! 本艦に残っている戦闘部隊を全て出撃させろ!」

「しかし、今対空砲火を開けば味方に当たる恐れが・・・」

「たった6人のパイロットの犠牲で数百人の乗組員を救えるなら安いものだ、かまわんから撃ち方はじめ!!」

その命令が伝わった直後、2隻のサラミスから対空砲火が開始された。機関砲はもちろん、ミサイルや主砲まで使った砲撃だった。
が、もとより対艦攻撃を主眼にされているミサイルや主砲でサイコミュ高機動試験用ザクに命中させるのは至難の業、対空機関砲もミノフスキー粒子散布下では下手な鉄砲数撃てば当たるという感じだったから仕方が無い。が、仕方ないですまない部隊もここにはいた。

「待て、まだ俺達が戦っ・・・うわぁあ!?」

まさか自分達がいるのに対空射撃を行うとは思っていなかった連邦部隊は突然のことに回避が遅れ、ザニーとボールそれぞれ1機が味方の対空射撃で撃墜された。母艦からの攻撃を回避するのにボールとザニーは集中せざるを得なくなり、結果的に2機のサイコミュ高機動試験用ザクを阻む物はサラミス2隻のみとなった。
だが、その肝心のサラミス級の対空砲火は少ない上に、艦底部方向に発射できる対空機関砲は2基と少なかった。それを二人が見逃すはずも無い。

「「そこ!」」

二人の同時射撃でサラミスの1隻が20のビームの光によって貫かれ、一瞬の間をおいて大爆発を起こす。そしてサラミス級を撃沈した事によって、乗っていた乗組員の死の意識が二人に負のプレッシャーとして押しかかる。
認識力の拡大による精神的な共感を得る事ができるニュータイプにとって、戦場の悪意、哀しみ、人の死をより強く感じ取ることはかなりの苦痛であり、一歩間違えれば人格崩壊や、史実のカミーユのように精神疾患に陥る事も十分ありえた。
だが・・・二人には誓ったものがあった。

「私は・・・私を救ってくれた人のために戦っているの。負けるわけにはいかないのよ」

「この戦争を終わらせる為なら、どんな実験台にもなる。そう誓ったんです・・・ここで立ち止まるわけには!」

彼女達二人にとって、その悪意は少し頭痛を起こす程度の障害でしかなかった。言い方は悪いが、初めて人の死に触れたマリオンですら、サラミス級1隻分の悪意は『その程度』といえるものだったのだ。

その頃になると慌ててコロンブスから出撃してきたザニー3機と偵察用に搭載していたFF-4 トリアーエズ戦闘機6機が戦場に到着していたが、目の前であっさりサラミスが沈没したことで怖気づいてしまった。曰く、『話が違う!』と。それもそうだ、敵はムサイ1隻とモビルスーツ2機なのにこちらはその数倍の戦力を持っていたのだから。このモビルスーツがザクだったら彼らの思惑通り連邦の勝利で終わっていただろう。が、実際は違っていたのだからそう思ってしまうのも無理は無い。
そして数分もしないうちにもう1隻のサラミスも沈み、生き残ったコロンブス級とトリアーエズ4機、ザニー2機は撤退を開始した。ここで追撃すれば全滅させれることも十分可能だろうが、先に言ったようにサイコミュ高機動試験用ザクの稼働時間は極端に短い。既に推進剤は残り僅かになっており、戦闘続行は不可能だった。無事だったムサイ級が追撃を仕掛ける手もあったが、ムサイの主導権はフラナガン機関の研究者が握っており、敵の追撃よりも収集した各種データを分析する方が彼らにとって重大だった。





戦闘が終わりサイド6に帰還した二人は研究施設の一角にある休憩室で休憩を取った。ララァは数週間前にシャア少佐に同行してもらい、MS-06Z サイコミュ試験用ザクで実戦を経験していたおかげか特に変わった様子は無かったが、初めての実戦を、初めて人殺しという経験をしたマリオンは少し体を震わせていた。

「マリオン、どう? 初めての実戦は」

「・・・人の死の感覚は・・・慣れる事はできません」

「それは人として当然ね。むしろ、慣れてしまう事は恐ろしい事よ」

そう、人を殺す事に慣れれば、それはもうニュータイプなんかじゃない、ただの殺人鬼に成り下がる。

「でも、私達は戦う為に訓練を受けている。これからも、人を殺していく・・・」

「ニュータイプは人殺しの道具ではない・・・けど、仕方のないことなのかもしれないわね」

現時点でニュータイプの力は戦争を有利に行う為の力という認識を持つ者が多くいた。それは研究者の多くと軍上層部の大半の認識でもあった。その観点から見れば、本来戦いの為の道具ではないニュータイプの軍事利用は当然の流れだったのかもしれない。

「ええ・・・でもこの力が、ニュータイプの力がこの戦争を終わらせる切欠になれば・・・そう思って今は前に進んでいます」

「それはエルトランさんの考え?」

「・・・ええ、ニュータイプによる人類の共存があの人の最終的な考えらしくて、私はそのお手伝いがしたい」

「・・・私は来月になったらここを出て、シャア少佐の下に配属されるわ。そしてあの人はエルトランさんと協力関係にある。貴方が私を手伝ってくれるように、私も貴方を手伝うわ」

「ありがとうございます」

そう言って二人は硬く手を握り合う。ここまでで終わっていたら美談だったかもしれないが、一人の乱入者によって場の空気は一変する。

「あ、見つけた! ララァさん、来月には私のシャア少佐とペアを組んでラブラブするって本当なの!?」

「ハマーンさん!?」

「(ムカッ)あの人は貴方のモノではないでしょう?」

「・・・でも、今は貴方のモノでもないわよね。なら私にもチャンスは十分あるはず」

「それはどういうことかしら?」

「さぁ? 聞いたとおりだと思いますけど?」

「「ふ、ふふふふふふ・・・」」

「あ、あの・・・二人とも落ち着いてください(すごい黒い波動を感じて・・・二人とも怖い、社長助けて・・・)」

「「これ以上ないくらい落ち着いているわ」」

微笑みあうハマーンとララァ、そしてガクブル涙目なマリオン。恐ろしく場がカオスになり、休もうと部屋に入ってきた社員が思わずUターンするほどの黒いオーラが部屋の中に満ち満ちていく。この事態が解決するのは事態を知ったフラナガン博士がニュータイプ能力の測定名目でハマーンを呼び出した事で解決した。
というのも、ララァとハマーンの衝突は珍しい物ではなくなっており、有名なものでは『フラナガン機関の悪夢』と呼ばれるほど洒落にならない波動が出て、他のニュータイプ候補に影響を及ぼすといった事件もあったほどだ。

この事の発端は我らが社長エルトランにあると言っても過言ではなかった。というのも、シャアがララァと出会うようにエルトランが仕組んだのと同様、シャアがハマーンと出会うように仕組んだのも同じくエルトランだったのだ。なぜそんな事をしたのかというと、仕事中に呟いた社長のある一言が全てを物語っている。

「そういやハマーンってフラナガン機関で育成され、その過程で他人を拒絶するようになったんだっけ? で、シャアと接する事でハマーンは元に戻ったんだっけ? ならシャア少佐にハマーンに会うように伝えておいたほうがいっか」

そう、1年戦争時フラナガン機関にいたハマーンは心を閉ざしていた為、自分の重要な協力者であるマハラジャ・カーンの為にもなんとかしてあげたいと思ったからだ。まさかその結果、ララァとハマーンのシャア争奪戦が勃発するとは夢にも思っておらず、この時の事を書いたマリオンからの手紙を読んで、社長室で盛大に紅茶を吹いたのはどうでも良かったりする。







ホワイトベース鹵獲後のある晴れた昼下がり、市場に馬車が・・・ではなく、キャリフォルニアベース内に1台の大型バスが停車した。

「はい、ここがキャリフォルニアベースにおける我がツィマッド社の開発拠点です。ここには複数の研究開発施設が立ち並んでおり、その研究開発物は軍事用だけでなく、民生品・・・一例を言えばエレカーや品種改良を施された工場野菜などがあります。我々ツィマッド社は戦争で被害を受けた人々に支援を行っており、幾つもの孤児院などを経営しています。それらの経営資金の内少なくない額がここで開発され市場に出た商品で賄っており・・・」

キャリフォルニアベースの一角で大型バスから案内役のツィマッド社社員と、ホワイトベースでジオンと戦っていた元サイド7出身の若者達が降り、ビルの中へ入っていく。
彼らは戦争中は監禁生活を送るかツィマッド社やジオンに協力するかの二択しか選択肢がなかった。そんな中、エルトラン社長は彼らの技量を高く買っており、ツィマッド社に就職させようと行動を開始していた。この会社見学もその活動の一環で、その若者の中にはアムロやフラウ、カイやハヤト達も含まれていた。そしてその中にはセイラ・マスの姿もあった。特にセイラは積極的に社員に質問をしており、施設の研究概要を学んでいた。

「で、この施設では何を研究しているのです?」

「え~と、セイラさんでしたか。ここでは特殊塗料の研究と機動兵器の支援機材を開発しています。ただ、特殊塗料とは違い支援機材開発の方は幾つかの部署が協力して行っていますので、実際には複数の部署がこのビルにあります」

「特殊塗料と支援機材の内容はどんなものですか?」

「まず塗料ですが、16研・・・第16研究チームが主に開発を行っています。対ビームコーティング塗料やステルス塗料等を開発し、他にも幾つか実用化されています。たとえば民間用に開発された、色が長期にわたって落ちにくく価格が今より安い塗料とかですね。次に支援機材ですが、サポートAI等の開発ですね」

・・・

「セイラさんも変わったな。俺らの中で真っ先にツィマッド社に協力するって宣言してからあの調子だぜ?」

「アムロは何か知らないの?」

「いや、特には・・・」

「ハロ、ハロ。アムロ、リユウシッテル」

「・・・アムロ?」

「ハロ・・・・・・生き別れの兄がツィマッド社に協力していたからって聞いたけど、それ以上は・・・」

「へぇ、だから協力するってか? 分かりやすくていいや」

そう、アムロはセイラがツィマッド社に協力する理由をセイラ自身から聞いていた。セイラの長年探していた兄がシャア・アズナブルその人であり、セイラという名前も偽名であること、そして自分自身の本当の名前と立場なども、そしてこれから自分達がやろうとすることを手伝って欲しいとも。
そこまで打ち明けたのはセイラがアムロをそれだけ買っていた事でもあり、機体性能に助けられていたとはいえ、兄と戦って生き残れた戦士であるということもその理由の一つに入っていた。
この話を打ち明けられた時、アムロは悩んだ。エドワード少尉や、部下の行った事とはいえサイド7で父親やフラウの家族を奪ったのはシャアなのだから。

だが、本当に悪いのは誰なのだろうか? そう考えてアムロは悩んだ。戦争の早期終結の為に手を貸して欲しいと言われたとき、アムロはその提案に惹かれた自分がいることに気がついた。なし崩し的にガンダムのパイロットになったわけだ

が、その時は新しい玩具を手に入れた子供のような気分だった。が、連戦していくうちにガンダムのパイロットとして、いや戦う事に対して不満が募っていき精神的に疲弊していた。
そして迎えたホワイトベースの陥落と、自分と同じガンダムのパイロットをしていた正規兵であり、自分を庇って死んだ兄的な存在であったエドワード少尉。この結果アムロはモビルスーツに乗る意義を見出せなくなってしまった。

自分は一体何がしたいんだろう?

アムロは降伏してから今までそれを考えていた。仮にツィマッド社に協力してもモビルスーツパイロットとして働かせられるだろう。だがジオンに協力すればそれより悪い待遇で戦わせられるのは間違いないだろう。戦争が終わるまで軟禁されるのも考えたが、それは何時戦争が終わるか分からないので保留にしていた。
そして、アムロが悩んでいた理由の一つに、自分と同じモビルスーツパイロットだった友人のとある行動があった。

「そういうカイさんこそ、ツィマッド社に入るなんて言うとは思わなかったけど」

「・・・まぁ、アイツがツィマッド社で働いているからな」

「僕が入院している間に、カイさんに彼女ができるなんて驚きですよ・・・」

そう、カイもツィマッド社への入社を決めていた。それどころか彼女をもGETしていたのだ。
話は十数日前に遡る。その日も見学会が行われたのだが、その時訪れていたのはキャリフォルニアベース内に作られていた、ツィマッド社が運営する孤児院だった。そこでは特に地球出身の志願兵達の子供と、戦争で親を失った子供達が共に暮らす、保育所と孤児院が合わさったような場所だった。特に兵士不足に悩み続けるVFにとって地球出身の志願兵は引く手数多。そんな志願兵の家族の保護の為にこのような施設は多く作られていた。その一つに見学しにきたのだが、そこはひねくれもののカイ。集団から離れて単独行動を行ったのだ。そしてそこで、彼は孤児達の世話をする一人の少女と出会った。

本来はベルファストに住んでいたはずの、ミハル・ラトキエに。

史実ではベルファストでスパイ107号として活動していた彼女だが、この世界では我らがエルトラン社長が介入し、ベルファストからキャリフォルニアベースに移住したのだ。
そして移住後、ツィマッド社に正社員として就職し、イメージアップと福祉の一環で行われていた孤児院の一つに住み込み、そこで事務員として働く事になったのだ。ちなみにこの孤児院、正社員の寮としての役割も一応持っており、弟のジルと妹のミリーの3人で一緒に住んでいた。
そしてカイと出会った時、彼女は施設の設備点検を行っており、脚立に上って非常灯のチェックをしていた。が、ここでお約束と言わんばかりにミハルがバランスを崩し脚立から転倒、それを見たカイが体を張って受け止めるというアクシデントが発生し、その後二人は自己紹介。これが切欠で二人は交際するようになった。そしてその中で、ミハルがツィマッド社のおかげで余裕を持って生活できるようになったとカイに話し、ジオンとVFにマイナスイメージしか持っていなかったカイの考えを変えさせる一因になった。
後日、カイがツィマッド社に入社するという事を知り、入社するまでの経緯を知ったエルトラン社長はただ一言だけ呟いた。

「それなんてご都合主義だよ・・・まぁうちにとってはありがたいのはありがたいが・・・」
そうため息と同時に頭を抱えたそうだ。

話を戻そう。こうして見学は進み、最後の見学部署に一同はやってきた。

「そしてここが第9研究チーム、支援機材開発プロジェクトの参加部署の1つです。研究開発内容ですが人工知能の開発ですね・・・・・・今はかなりくたびれているようですが(汗」

そう言って案内された部署は・・・カオスだった。くどい顔をした猫のロボットが気の抜ける変な鳴き声を発しながら部屋を歩き回り、研究員達は頭をかきむしったり机に突っ伏したり奇声を上げていたりした。正直部屋に入りたくない。そんな見学者達に気がついた一人の女性社員が声をかけた。

「・・・ん? 何のようです?」

「いえ、会社見学ですよ。ほら、例のサイド7の・・・」

「・・・・・・ああ、今日だったのですか。すっかり忘れてました・・・まぁいいです、色々とアレですが気にせずに入ってください。私はここの副主任のウーノです。ここの主任は向こうでデータの打ち込みをしてるあの人、名前は・・・長いんでドクター、又はスカ博士って呼んでください」

そう言ってウーノと名乗った女性社員は自己紹介し、見学者達に説明を行い始めた。

「基本的にここでは人工知能の開発・・・その中でも主に自立型AIの開発を行っています。ここまでで質問とかはありますか? 流石に機密はいえませんけど、何でも聞いてください」

「自立型AIといわれましたが、それは戦闘用のAIですか?」

「う~ん・・・戦闘支援用AIの開発とかもおこなっているけど、基本的には軍民問わずのAIですよ。これが完成すれば人員の削減が可能になり、人件費のコストを削減する事ができるんですが、そのAIが・・・自分で物事を瞬時に判断して行動するということが以外に難しくて難航してるんですよ」

そう言ってウーノはパソコンの画面に表示されるプログラムに眼を向けた。

「一つの例ですが戦闘のサポート用AIを例にとってみましょう。戦場では一瞬の誤判断がパイロットを死なせます。開発中のサポートAIは瞬時にいる情報と要らない情報を分別することが必須ですし、モノアイ等の各種センサーから得られる情報、更に機体のコンディションやパイロットの状態・・・肉体的にも精神的にも、どのような状況にあり作戦遂行が可能なのかとか、メンタルケアとかもできれば行いたいですね。ですが、それゆえに開発は難航してるわけです。もっと人材が欲しいところですがどこも技術者は引っ張りだこですし、送られてきても今いる人材と似たような思考で、作業効率はともかく発想という点ではあんまり使えない者だったりしますしね・・・」

そう言ってウーノは傍らにおいてあったコーヒーを一口飲む。そこにチームの主任であるスカ博士が補足を入れた。

「まぁウーノの言った事が我々の今の課題かな。今の例えは戦闘用のものだが、このプロジェクトの最終的な目的は自我を持った人間サイズのロボットだ。一人暮らしの老人の介護とか、将来的にはやがて来るだろう太陽系外の探索に、人の変わりに自分で判断するロボットを当てるという計画もできる。人を減らし自分で判断できるロボットを乗せる事は保存食の消費が少なく、より遠くまで探索しにいけるということだからな。むしろこの研究は民生用の割合が高くなるだろう。本物そっくりの反応や仕草をして人々の心を癒やすペットロボットや、介護用のAIを搭載する人型介護ロボット、危険な作業や退屈な単純作業を人の変わりに実行する自立型ロボットとかね・・・ん?」

そこでスカ博士は一つの物体に目を留めた。それは・・・

「アムロ、脳波レベル活発、コウフンシテル」

「アムロ・・・機械いじりすきだから・・・いい加減にしたら?」

「別にいいじゃないか」

「ん、もう・・・」

「ン、モウ、ン、モウ、ン、モウ」

「(ムカ)うるさい」

・・・ゴツン! ボフ・・・

「・・・あ゛(汗」

そう言ってハロを蹴飛ばすフラウ。が、加減をミスったのか蹴られたハロは勢い良く転がり、そのまま研究室の壁にぶつかり置いてあった資材に埋もれてしまう。だが皆がやっちまったなと思う中、何事もなかったかのように手足を使い資材から脱出、アムロの元に戻っていくのは流石としか言いようがない。

「・・・君、それは一体? 昔市販されていた物みたいだが、性能が・・・」

そう、スカ博士が注目したのはアムロ作成のハロである。このスカ博士はハロが昔SUN社製が販売していたペット用の市販ロボットであるということを一目で見抜いていたが、その性能に驚愕した。

「ハロのことですか? 市販品を僕が改造したんです」

「君が改造・・・あのペットロボットの改造品にしては性能がいいな。さっきも脳波を測定したみたいだし手足を使って障害物を突破、オートバランサーも優秀だ。ところで、結構勢い良く蹴り飛ばされて壁にぶつかっていたが、本当に大丈夫なのかね?」

その言葉はアムロに向けられたものだったが、返事は目の前のハロから返ってきた。

「ハロ、ゲンキ、イジョウ、トクニナイゾ。オジサン、ヒロウ、タマッテル。ゲンキ、ダセ」

その一言にスカ博士は・・・いや、一連のやり取りを見ていた第9研究チームの人員は皆驚愕した。自分で理解し即座に反応する。まさにこの第9研究チームの開発しているコンセプトそのものだったのだから。

「自分で反応し応えた・・・き、君! これを本当に君が作ったのかい!?」

「え、ええ・・・でも作ったと言うより改造しただけですけど」

「謙遜は止したまえ、私はあのペットロボットの初期ロットを見た事があるが、あんな優秀じゃなかった。それをあんなに性能向上させるなんて・・・すごい!」

思ってなかった反応に戸惑うアムロだったが、褒められた事に不思議な感動を覚えていた。これまで自分の機械いじりを褒めてくれたのは昔の父親くらいなもので、他人からこのように褒められた事はなかったからだ。そしてそのせいか少し浮かれてしまい、目の前の主任の目が獲物を見つけた肉食獣のような目になっていた事にアムロは気がつかなかった。

「君、名前は?」

「アムロです。アムロ・レイ・・・」

「是非ここで働いてくれ!! ウーノ、急いで人事部に連絡したまえ! 見学者のアムロ・レイをうちの部署に配属するように要請するんだ!」

「はい、直ちに!!」

「あ、あの・・・?」

「彼は正に我々が求めていた人材だ! ここで出会えたのも何かの縁、共に人類の未来の為に人工知能開発を行おうじゃないか!!」

マッド達の巣窟にハロを持ち込んだのが運の尽き。その後、アムロはツィマッド社の人工知能開発プロジェクト関連の部署から猛烈な勧誘合戦があり、後にツィマッド社に技術者として就職する事になるのは、ハロをつれて見学に来たときからの運命だったのかもしれない。



[2193] 32話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2009/06/30 23:57
ツィマッド社奮闘録32話

時間は少し遡り・・・・・・
10月3日 サイド6

やぁ、皆さん久しぶり。最初に挨拶をするのも久しぶりかな~まぁ色々と忙しかったからあれだったけど。まぁそんなこんなでサイド6に訪れています。キャリフォルニアベースで書類仕事に一段落したから息抜きも兼ねてるんだけど、重要な用事があったからね。マリオンをうち(ツィマッド社)が引き取るという用事がね。

「ではエルトラン社長。約束どおりニュータイプのマリオン・ウェルチを貴社へ引き渡します。今回は彼女だけですので、この書類だけです。ここにサインを」

「はい、確かに彼女は受け取りました。・・・なんか奴隷売買っぽくて嫌ですねこのやり取り」

「・・・言わないでください。必要な事とはいえ、人体実験等の非合法な研究してる為、皆微妙に気にしてるんですから」

「じゃあ改めて・・・マリオンはどの程度できる子ですか?」

「サイコミュの試験ではララァ・スンより劣りますが、試験を行った際にはビットを12機の操作を確認しました。ですが直後の疲労が著しいので、安全を考えると8機程度が無難かと思われます」

「有線型の方は?」

「MS-06Zでテストをした後にタコアシ、MSN-01 サイコミュ高機動試験用ザクで高機動耐性試験を兼ねてテストしましたが、正直な話有線型ではエースクラスの腕前がないと接近された際厳しい物があります。ですのでマリオンを使うのならばビット機体でしょうな。後は高機動耐久テストの結果、高速運用時の疲労が激しいので注意が必要です。ただ、サイコミュとの併用だったので高機動耐久能力は普通のパイロット並にあります」

「ふむ・・・分かりました。ところで今の話の流れから推測するに、今後有線型はオールドタイプのエース向けを目標に?」

「その通りです。有線型ではニュータイプの能力を大幅に制限してしまう。それならば有線型はニュータイプだけでなくエースパイロット、最終目標は一般兵でもアウトレンジ戦闘が可能な有線型を開発したいと思っています。それこそ社長の言ったインコムとやらのようにね」

「あはは・・・あれは酒の話のネタだったんだが(汗」

「いえいえ、酒の席であれほどのアイデアが出るとは、羨ましい限りですよ」

「(やばい、まさかうっかり口が滑ったなんて言えない)と、ところでブラウ・ブロとエルメスの調整はどうです?」

「そうですね・・・MAN-08 エルメスは開発に問題はありません。問題があるのはMAN-03 ブラウ・ブロですね。あの巨体で有線砲台4門・・・実際は連装が2門あるので6基ですが、それだけのメガ粒子砲しか武装が無いというのは問題です。まぁオールドタイプでどの程度サイコミュができるかの実験機でもありますから、仕方ないといえば仕方ないのですがね」

「今は確かシムス技術中尉が実験をしていましたっけ?」

「ええ、彼女はいい技官です。ですが正直、性能を発揮しきれないというのが実情ですね。もちろんニュータイプに比べてという意味で、オールドタイプによるアウトレンジ攻撃という観点ではかなりの成果を出しています」

「ほう・・・っと、そろそろ時間なんで失礼しますね。余り待たせすぎるとマリオンがご機嫌斜めになりかねませんので」

「おお、もうこんな時間ですか。・・・エルトラン社長、マリオンはいい子ですが、手を出すのは犯罪ですよ? 一応シャア大佐とララァ少尉の場合は法律上問題ありませんが、マリオンはまだ14歳なので念のため」

「・・・え~と、ブラックジョークですか? まぁたしかにマリオンは可愛いけど、なんというか・・・兄を慕ってくれる妹って感じですよ」

「・・・はぁ」

なぜにため息? しかもやれやれってポーズまで・・・あ、ちなみにシャアなんだけど、ついこの間一気に昇進したよ。木馬に遭遇する前にしていた通商破壊作戦でマゼラン級含む連邦の小規模な艦隊を撃破した功績で中佐に、その後の木馬関連の功績で大佐に昇進したよ。一度に二階級昇進ってどんだけ~って感じだけどまぁ気にしたら負けだなと思っている。で、今はララァとペアを組んで行動してるわけだ。今はオーストラリア大陸だったかな?

「ともかく、マリオンの事をよろしくお願いします。それと・・・我々が廃棄した子達は今どうしてます?」

「とりあえずうち(ツィマッド社)の直轄の孤児院にいます。そこでリハビリしつつ一般常識等を学ばせ、将来的にはうちに就職してもらうつもりです。まぁ成人するまではこっちが面倒を見るつもりだし、障害の残ってしまう子に関してはこちらが責任を持ってサポートしますよ」

「面倒をおかけしますな。その子達のように強化され、それでいてある程度無事な者達の多くは、戦争の為に引き取られる者も多い。中でもキシリア様貴下のグール隊が有名でしょう」

「グール隊・・・話には聞いてます。彼らが行動を行う地区の部隊からは蛇蝎のごとく忌み嫌われていると」

「ええ、彼らに比べ貴方に引き取られた者達はかなり恵まれています。選べる選択肢が多いのですから。それゆえ引き取られた者達も、そして貴方も注意してください。・・・有力なスポンサーを失うことは我々も避けたいので」

「ええ、警戒は怠らないつもりです。暗殺はもうこりごりですからね」





待ち合わせ場所である施設のロビーに急いで行ってみると、そこには旅行用バッグ一つを傍らに置き、一人佇むマリオンの姿があった。

「あ、社長」

「久しぶりマリオン、待たせたかな?」

「ううん、そんなに長い時間待ったわけじゃないから」

「と言うことは少し待たせちゃったって事か。ごめんな」

そう言ってマリオンの頭に手を乗せて撫でてみる・・・うん、撫ぜ心地いいね。こういうことしてみたかったんだ~現実世界にいた時は年の離れた兄貴がいただけだから、可愛い妹ってのに憧れてたんだよね。

「あ、あの・・・社長・・・」

ちょっと少し暴走してたようだ。我に返ってみると顔を赤く染めたマリオンが見上げていた。

・・・正直に言おう、グッときた(爆

「ああ、ごめんごめん。そろそろ行こうか?」

そう言ってマリオンの頭を撫ぜていた手をどける。少し名残惜しいが気にしない。

ん? 馴れ馴れし過ぎないかって? いや、マリオンとは手紙のやり取りを結構してるからねぇ。地球産のお土産とかも偶に送るし、サイド6に来たときは一緒に散歩とかもしたりするし、このくらいはスキンシップの内だろ? というかマリオンと一緒にいると癒やされるんだよな~とにかく、一緒にいてマリオンに悪い虫がつくのを阻止しなきゃね。

・・・今シスコンとか言った奴、表出ろ(怒





サイド6から2機のランツ級高速シャトルが発進する。1機は3機のリックドムを搭載した護衛搭載機で、残り1機に社長とマリオンは搭乗していた。ランツ級高速シャトルはモビルスーツの整備はできないが、搭載するだけならフル装備の機体を3機搭載可能なのだ。そしてそれは万が一の時の保険としては十分なものだった。

「今後のことだけど、これからマリオンはVFの一員として働いてもらうわけだから、キャリフォルニアベースについたら施設の案内だね。マリオンは私の護衛兼秘書兼テストパイロットという形になっているから、施設の見学が終わったらテストパイロットとしてある程度働いてもらうことになるかな」

「テストパイロットと護衛は分かるけど・・・秘書って何するの? やっぱり書類仕事とかお茶入れとか?」

「う~ん、まぁそうなるかな? ただそれは名目だけだし、しばらくは環境の変化に慣れてもらう為に護衛に専念してもらうことになるだろうけど」

常に一定に定められているコロニーの環境とは違い、地球の環境はスペースノイドにとってつらいものだ。季節の変わり目に風邪を引くと言われる程に。しかも今の地球はテンペスト落着によって、常に季節の変わり目と言ってもいい状態なのだ。

(まぁマリオンが地球の環境になれるのに1週間くらいと見ておくとして、その間は軽い仕事を任せるべきかな。とりあえず施設見学と周辺に設置した孤児院とかの見学かな? 秘書としての仕事はキャサリンの方からも指導してもらえばいいか。その後はテストパイロットとして・・・・・・ん? 今のとこテストパイロットは足りてたか? 足りないのは実戦部隊だから、試作機の実戦テストか? だけど実戦予定のゾックはパイロット決まっているし、今のところ仕事が無い? ニュータイプ用の機体開発は・・・アレ以外は独自開発してないから今後の小型化待ちってところか。宇宙用モビルアーマーが幾つか開発中だが、それは地球で試験しないから却下。ということはドムシリーズの試作機又は次期主力モビルスーツのテストか? たしかプロトタイプ自体はロールアウト間近だったはずだが・・・新方式を導入したタイプと従来型の2機種を作成したせいでかなり計画よりも遅延したよなぁ)

「社長、大丈夫?」

「ん? ああ、少しボーっとしてたけどモーマンタイ」

いや、今更なんだが隣に座るマリオンの格好が気になってしまう。今のマリオンの姿なんだが・・・蒼色のツインセーターに同じく蒼色の膝上長さのスカート、そして黒タイツとブーツ。

・・・

いや、無重力な宇宙でスカートってわけじゃないんです。シャトルが発進するまでは重力があったわけだし。無重力になる頃は席についてシートベルトしてたわけだし。まぁ結論から言えば眼福なわけだが・・・マリオン可愛いよマリオン。やっぱりマリオンと一緒にいると癒やされるなぁ。

「・・・社長?」

「ん? 何かあったかい?」

「ううん・・・ただ、社長が忙しそうな感じがしたから。社長の仕事ってそんなに忙しいの?」

「・・・まぁ会社の一番トップなわけだから、目を通さなくちゃいけない資料も多いし、私兵集団を持っているからそれの管理運営をしなきゃいけないしね。それに・・・」

「それに?」

「・・・いや、なんでもないよ(さすがにドロドロとした派閥争いとかのことは言わない方がいいな)」

「・・・・・・社長」

そう考えていたら、マリオンに顔を覗き込まれた。

「な、なにかなマリオン(汗」

「・・・何か辛い事隠してる?」

「・・・・・・なんでそう思ったんだい?」

「なんとなく、そう感じたの」

「それはニュータイプとしての感覚?」

「・・・・・・わからない。ただ、そんな気がしたの」

「・・・マリオンにはかなわないな。確かに言ってない事があるけど・・・いや、マリオンも秘書として働くわけだから、知るのは時間の問題か」

正直、マリオンにドロドロとした政治に接しさせるのは気が引けたが、一方でマリオンに協力して欲しい気持ちもあるのは事実。

「・・・エゴかな」

そう思わず呟いてしまった。そしてそのままダムが決壊したかのようにマリオンに愚痴交じりに現状や政治のゴタゴタ、泥沼の派閥争いといった事を吐き出してしまった。正直な所、私は誰かにこの愚痴を聞いて欲しかったのかもしれない。今まで政治や派閥争い等で受けたストレスを発散する為に、史実で実用化された兵器の開発を開発部に命令したり、紅茶を飲みながら気に入った音楽を大音量で聞いたりして発散していたが、愚痴をこぼす相手がいなかったのもまた事実。我に返った時、既にマリオンに溜まっていた愚痴をぶちまけた後だった。しかもその愚痴の中にはザビ家との裏での暗闘や、地球連邦との交渉、連邦軍への内部工作等といった機密レベルの高い物まで含まれていた。
正直、今日まで政治の裏側や派閥争いにあまり関わっていないマリオンに聞かせるのにはきついものだ。心なしマリオンの顔が青ざめているのも無理はない。幸いなのはこのシャトル、客室は防音構造になっており、更に盗聴器等が設置されていないのも確認済みな事だろう。こんなこと外に漏れたらどうなるか分かったもんじゃない。

「・・・すまない。どうも愚痴が溜まっていたみたいで、悪い事をしたね」

そう謝罪するしかなかった。正直内部の強硬派や連邦のスパイに対する行動、暗殺や薬物を使った洗脳は聞いていても胸糞悪い話だ。まともにマリオンの方を見れやしない。



「・・・すまない。どうも愚痴が溜まっていたみたいで、悪い事をしたね」

そう社長が謝罪する。社長が愚痴交じりに喋ってくれた事は私にとって衝撃的だった。
特に、暗殺や洗脳を行う用に社長が指示しているということは、ショックを受けた。

だけど・・・その言葉に社長が受けている苦痛を感じた。
それに逆に考えれば、私を信頼してくれているからそんな裏事情を全部喋ってくれたのかもしれない。
・・・私は社長の理想に共感し、それを手伝う事を私は望んだ。なら、社長を支える事が今の私にできるお手伝い。
そう思い私は社長の手を握りしめた。驚いた表情を見せる社長に、私は顔をほころばせる。

「・・・社長、私でいいんなら愚痴を聞きます。ですから、そんなに溜め込まないでください」

私は頭を社長の肩に預け、そう社長に告げた。

「・・・・・・少し弱気になったら、また愚痴を吐くかもしれない。その時は聞いてもらっていいかい?」

「はい・・・いつでも言ってください。あんまり負の意識に囚われすぎないでくださいね」

そのまま穏やかな時は流れ数十分後、シャトルは地球への補給艦隊と合流した。二日ほどかけて地球の衛星軌道上に到達した艦隊から、二人は護衛についていたムサイのコムサイを使い地球へと降り立った。二人がキャリフォルニアベースについた時、空からは綺麗な夕日が目にすることができた。





翌日、キャリフォルニアベースツィマッド社エリア 社長室

「社長、報告にきまs・・・」

「お、丁度いいとこに。キャサリン、君に頼みたい事ができたんだ」

「私にですか?」

「ああ、今度新しく秘書となったマリオンに施設の案内と、秘書としての役割をレクチャーして欲しいんだ」

「レクチャーはともかく・・・施設の案内ですか?」

「ほら、女性の好きそうな売り物を売っている施設とか、そういうのは知らないからね。そこで君に頼みたいんだ」

「そういうことなら任されますね。で、マリオンさんはどこに?」

「ああ、今はまだマリオンは部屋の整理とかをしてるだろうから、後で迎えに行ってほしい」

「わかりました。でもとりあえず・・・」

そう言って秘書、キャサリン・ブリッツェンは持っていた書類を机の上に置き報告し始めた。

「報告しま~す。予定通り西太平洋方面軍が行動を行います。航空戦力のほぼ全てが出撃する模様です」

「あそこはキシリア派とガルマ派が入り混じったところだから根回しに苦労したなぁ。まぁその甲斐はあったというべきか」

「ええ、これでやっと作戦の第一段階が開始できます。これが成功すれば今後のアドバンテージを握ることができます」

「まぁ展開させた戦力から見ればほぼ成功するだろう作戦だからなぁ」

「後は・・・荒野の迅雷直属の部隊にはドムを配備し、機種転換も完了しました。他にもライノサラスを含むモビルアーマー部隊も展開完了しましたし、切り札もありますからね」

「ああ、後は連邦が戦術核並の威力を持つ大型気化爆弾を使うかどうかってことだが、使ったら使ったで問題は無い。むしろ使ってくれた方が今後を考えるとありがたい」

「使った方がいいって、社長も鬼ですね」

「はっはっは、こういう思考ができないと社長なんてやってけないよ。悲しいけどこれって戦争なのよね~っと、ところでサイクロプス隊は?」

「え~と、予定通りです。外人部隊とフェンリル隊も同様に予定通り行動中です」

「ならよし・・・サイクロプス隊はこれが終わったら宇宙へか・・・まぁ優秀だからこそ引っ張りダコなわけだが」

「ええ・・・ところで、気がかりな報告があります」

そう言ってキャサリンは顔を少し顰める。

「気がかりなこと? 作戦に影響を与える程のかい?」

「ええ、以前からオーストラリアにビッグトレーが配備されていたのは判明していましたが、ヘビィ・フォーク級を確認したという報告が入っています。他にも詳細な情報が入っていないので未確認情報ですが、ビッグトレー級やヘビィ・フォーク級を上回る大きさのホバー戦艦をプリスベーン基地やヒューエンデン基地の哨戒部隊が見たという報告が・・・」

「・・・マジで?」

その報告を聞いた瞬間眩暈がしたよ。というか絶句するしかない。多数の陸上戦艦がいたら洒落にならんぞ。というかそれを上回る陸上戦艦って何?

「なんかヒルドルブ隊をまわすべきだったかなぁと後悔しているんだが?」

「後悔って後で悔やむと書くんですよね」

「orz ・・・・・・とにかく、今分かっているビッグトレークラスの配備情報は?」

「はい、チャールズビル基地にてビッグトレー2隻、ブロークン・ヒル近郊にヘビィ・フォーク級1隻を確認しました。後シンプソンズ・ギャップ基地後バーズビル基地、及びレインボゥ・ヴァレー基地にミニトレーがそれぞれ1隻です。なおチャールズビル基地のビッグトレーの内1隻は昔大破させた物を改修したものらしく、詳細なデータは不明です」

「・・・6隻+α? 本気で頭が痛くなってきた。というかなんだその数は? 予想じゃ多くて4隻だったのに・・・陸上戦艦の大盤振る舞いか?」

「それがどうもオーストラリアの防衛戦力増強の意味があるみたいで、他にもガンタンク等のモビルスーツ部隊が各地に展開しているようです」

「まぁそれは予想の範囲内だからいいけど、陸上戦艦の艦砲射撃は洒落にならん。遠くから大口径砲の斉射は洒落にならないからなぁ・・・まぁ対処策はいくつかあるからいいけど」

「じゃあ報告を続けますね。オーストラリア戦線の話から離れますが、かねてから建造を行っていた実験戦艦ですが、重要ユニット部を除いて順調に建造されています。ですが流石にIフィールドは現時点では小型化が難しく、搭載可能なサイズ及び能力になるには最短でも1年以上必要だそうです」

「・・・まぁ戦艦にIフィールドって一つの夢なんだが、やっぱり難しいか。当面は対ビームコーティング処理と追加装甲でお茶を濁すしかないな」

「え~と・・・技術部は稼働時間が短く、防護エリアを限定すれば不可能ではないのですが、その場合もう片方のユニットが搭載不可能になるとの結論です。でも、どちらにせよ価格が洒落にならない事になりますよ?」

「たしかにね、でもそれは織り込み済みだよ。元々Iフィールド搭載戦艦なんて価格が高くなるから量産なんてできない。だけどそれがワンオフ前提の、その陣営を象徴する旗艦だとしたら? ビームで沈まない旗艦となればシンボルにもなるし、技術力のアピールにもなる」

「まぁ相手から見れば悪夢ですからね。あ、それに付随するものですけど、Iフィールド搭載の要塞攻略用モビルアーマー、機体名称MA-08 ビグ・ザムを兵器局が開発を開始したようです。またアクシズでもAMA-00GR ゼロ・ジ・アールの設計が進んでいます」

「ああ、まぁその手の兵器は今はあちらに任せ、我々は拠点防衛用モビルアーマーの方に集中しますか」

「・・・というか社長のアイデアは無茶無謀な代物が多いと苦情が来てますよ?」

「キニスルナワタシハキニシナイ」

「・・・自覚してるんなら自重してください」

「だが断る! ・・・まぁ善処は一応するよ。しかし。結構非合法な方法で資金を得てきたけど、もう余力もないのが実情だし・・・どこかに大金積んだ連邦側の輸送船団いないかな?」

「海賊行為といえば、先日鹵獲した輸送船団に搭載されていた機体、改修が終わったそうですよ」

「本当に!? 間に合ったか、これでより成功率が上がるな」

「でもどうするんですかあんなもの作って?」

「あんなものって・・・対空に対地に使い勝手がいい兵器だよあれは。コストパフォーマンスがいいから、量産し防衛部隊を中心に配備していくつもりだよ」

「元々連邦軍の兵器なんですけど・・・」

「結果よければ全て良し。・・・しかしオーストラリア戦線、めがっさ連邦部隊増強されてるな」

そう言って手元にある資料に目を通す。そこには少なくない数の部隊がオーストラリアに展開した事を示していた。

「ええ、特に連邦軍基地に配備されている機体の中でも一番厄介なのは量産型ガンタンクですね。平地で遠距離からアウトレンジで撃たれたら、新兵じゃほぼ確実に一方的に破壊されますから」

「あれだ、砲は力なりってやつだな。まぁその為にあの試験段階の兵器を展開させたんだ。うまくいけば脅威は取り除かれる」

「はぁ・・・あ、そういえば開発部の方からの連絡を忘れてました。例の機体、格闘特化型ドムの報告です。MS-09I ドム・シュトルムを発展改良させ、固定武装として肩に75mmガトリング砲を搭載したMS-09T ドム・タトゥーですが、予定通り現地に展開させておきました・・・というかこの機体正気ですか? 両手にスパイクシールドを持たせた突撃戦仕様なんて・・・」

「使い道は十分あるはずだよ。援護射撃の元に瞬発力と正面装甲の厚さを活かして戦線を突破するのがこの機体の役割だから」

「というより、ノーマルドムの面影がないのですけど。モノアイもツインモノアイになって、ジオンらしくないとの声もありますけど?」

「そりゃ対弾性を高める為に形状を変えるのは当然だよ。ツインモノアイは片方のモノアイがやられてもある程度は問題ないからこそ、この突撃型に試験採用したんだ。特に問題はないはずだよ(というかまんまフ○ントミッションのタトゥーっぽいよなぁ。TCKとかも開発させたから後は・・・フロミ繋がりで地上拠点防衛用モビルアーマーでも開発させるかな? 黄色い悪魔ことビスミラーはガチでトラウマ&絶望だったし。あれって育成中途半端にすると涙目なるんだよね~ってか初めて戦闘した時ミサイルとキャノンの乱射っぷりに唖然としたのはいい思い出だな)」

「とりあえず報告は以上です。それじゃあマリオンさんに施設の案内をしてきますね~」

「ああ、流石に男の私では女性の使う施設とかは詳しくないから、よろしく頼むよ」

「では失礼しました」

キャサリンが退室した後、部屋に一人残ったエルトランは溜まっている仕事に手をつけた。本来なら今日は休日のはずだったが何時もの癖で仕事を開始し、マリオン達が戻ってくるまで気付かずに休日出勤していたのはご愛嬌。







10月8日 社長室

何時ものように栄養ドリンク片手に仕事を片付けているエルトランの元に、通信が入る。

「社長、アジア地区のギニアス技術少将から通信です。回線を回します」

そう通信士が言った後、社長室据え置きのモニターには技術将校のギニアスが映し出された。

「久しぶりだなエルトラン」

「お~、久しぶりギニアス。アプサラスには期待しているよ」

ん? なぜアプサラスの事を話してるかって? 予想は付くんだろうけど、史実では10月に開発がスタートしたアプサラス計画。この世界ではそれよりも早くツィマッド社の支援も受け開発がスタートされていた。やっぱ山一つ吹き飛ばす威力のメガ粒子砲は開発メリット大きすぎるだろう。それに開発が早ければギレンの○望で出る犠牲(ノリスとか)が出ない可能性が高いしね。

「そう言ってくれるのは嬉しいが、アプサラスⅡは失敗作だ。本命はⅢのほうだが、こちらもまだ未完成だ」

「だが、その攻撃力は失敗作でも十分な威力だろ? ならばこの作戦でそのテストを行えばいいじゃないか・・・ところで、アプサラスが1機しかいないみたいなんだけど、予定じゃⅡも一緒だったんじゃ?」

そう、予定ではアプサラスⅡとⅢの2機をオーストラリア攻略作戦の切り札にする予定なのだが、現在待機している機体は1機のみ。それ言うとギニアスは苦い顔をして呟いた。

「・・・先日連邦に射爆場で待ち伏せされて、アプサラスⅡは大破、爆破処理したよ。しかもそれ以降パイロットをしていたアイナの様子も妙なんだ。心ここにあらずといった感じでな」

・・・あれ? もしかしなくても08イベントスタート? ってことはシロー×アイナフラグもう立っているの? っていうか切り札が1つ潰れた!? というかシロー、おまえ一体何があったんだ!? てっきり家族と一緒に過ごしていると思っていたんだが。たしか当時は特務情報室が忙しく、そのせいで優先順位をかなり低くしたんだっけ? それがまさかこんな形で仇になるとは。後で情報を入手しないと・・・というかなんでこんな優先順位を下げたんだ? 疲れてたのかな?

「え~と、とにかくアプサラスⅢは予定通り作戦可能なのかい?」

「それは問題ない。アプサラスⅢは色々と問題点を抱えてはいるが、そちらの提示した運用方法上では特に大きな問題ではない。私の恩師であるニトロ博士や、そちらが派遣してくれた技術者が良くやってくれているおかげかな」

「そっか・・・ところで病気はいいのかい?」

そう、ギニアスは病気持ちのはずなんだが、会話が始まってから一度も咳き込んだりしていない。激しく疑問だ。

「いや、ニホンに来てからなぜか比較的楽になってね。水と空気があったのか、それとも開発が順調なおかげで気持ち的にも余裕がある為なのか・・・まぁ良く分からないがありがたいことだ。そうそう、ニホンと言えば現地採用したニホンの技術者達も中々話が分かる者が多いな。会話が弾むとでもいうべきか、アイデアを出した途端それを元にどんどんアイデアが出てくるので中々面白い」

・・・ニホンの技術者は変態か!? 思わずそう思ってしまうと同時に日本人だからなぁ~と納得してしまったのは内緒だ。

「そうそう、グフフライトタイプだがそのおかげもあって完成したぞ」

「マジで!?」

その言葉に驚いた。ギニアスに依頼していたのはMS-07H-4 グフ飛行型の開発・発展改良だった。うち(ツィマッド社)ばかりかジオニック社、そしてMIP社も技術者を派遣していたプロジェクトだ。で、各社のマッド共が集結したせいか爆発事故等は起こらず、その勢いのままグフ飛行型が完成。そしてそれを更に改良したタイプをギニアスに開発依頼したのだ。
しかし正直な話、爆発事故は起きるものと割り切っていたのだが嬉しい誤算だった。

「形式番号MS-07H8 グフフライトタイプだ。ついでに言えばこれを更に発展改良させた、量産を考慮した新型機体も開発中だ。とりあえずMS-07H9 グフフライトカスタムの名前で開発中だ。が、こっちは気長に待っていてくれ。なんせH8のデータを元に開発を行う予定で、フレームからなにから新規開発予定だ。それにアプサラスを優先するので、もしかしたら今年中には無理かもしれないな」

「いや、それでいいよ。で、そのH8フライトタイプは?」

「とりあえずロールアウトした機体6機全てを2機のHLVに搭載している。君の計画ではアプサラスの護衛はH-4だったが、こちらのほうがいいだろう。6機もいれば私のアプサラスの護衛としては十分だ」

「助かるよ。この作戦の成否はアプサラスの働きに掛かっているんだ」

「まぁ期待して待っていたまえ。私のアプサラスの力を・・・」

「ああ、期待して待っておこう。それじゃあ」

そう言って通信が終了し、残ったのは笑みを浮かべるエルトランただ一人。

「おおよそのところで予定通り進んでいる。これなら予定通り行動できそうだ・・・これがうまくいけば、今後の事もやりやすくなる。ふ、ふふふ、ふぅはははははははは!!」

この後、部屋を訪れた秘書二人が暴走中の社長を目撃し、一人はまたかという思ってため息をつき、もう一人はパニックに陥り泣きながら病院に緊急連絡をいれるというハプニングがあったが特に変わりない平常だった。



[2193] 33話 オーストラリア戦役1
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2010/04/01 01:48
10月8日 オーストラリア大陸 連邦軍チャールビル基地

「で、ジオンの暗号通信を解読した結果がこれか? 『悪魔は大陸にて吼える』・・・これが意味するところは?」

「はい、我々の予想では悪魔、つまりジオンの新兵器を実戦テストする、又は二つ名付きのエースを戦線に投入するという意味だと判断しています。そして大陸の事ですが、可能性としてはこのオーストラリア大陸の事を意味すると思います」

「ふむ・・・その根拠は?」

「南極及びアフリカ大陸は双方の部隊が少なく、通信量も増加していないので除外します。アメリカ大陸及びユーラシアは戦線が広いので可能性はありますが、分析の結果それも低いと判断しました」

「それで消去法でこのオーストラリア大陸? 幾らなんでもそれだけで判断するのは無理があるだろう」

「ええ、その通りです。ですが我々がこのオーストラリア大陸だと判断したのには理由があります。まず、ジオンの通信量が上昇しており、更にウォッチマンからの報告で連絡機の離発着数がここ最近になって増大していることが判明しています。そして、決定的なのは最近になってオーストラリアに大幅な部隊の増援を確認した為です」

「具体的には?」

「・・・・・・判明しているだけでもライノサラスと呼ばれる大型モビルアーマーに、エースパイロットの赤い彗星、そして青い巨星がこの地にいます」

「・・・シャア・アズナブルとランバ・ラルか!?」

「はい。特にここ数日、オーストラリア北部及び北西部のジオン基地の通信量が増加しています。しかもその中には『メガラニカ』の単語がありました」

「『メガラニカ』・・・なんだねそれは?」

「かつてヨーロッパに伝わっていた伝説上の大陸、テラ・アウストラリス・インコグニタの事です。そしてこれはかつて国だった頃の、オーストラリアの国名の由来です。おそらくは・・・」

「・・・このオーストラリアで奴らの作戦が実行される日は近い、そう言いたいんだな?」

「はい。その為に敵の攻撃に備え戦線の援護を行う、陸上戦艦からなる遊撃部隊の編成を提案します。」

「ふむ、動かせるとしたら・・・チャールビル基地のビッグトレー1隻とヘヴィ・フォーク級だけだな。ミニトレーは流石に戦線指揮の為に動かせんぞ」

「はい、それに加えてあの試作陸上戦艦の使用許可をお願いします」

「・・・まさか、べヒーモスを? あれは速度が遅く、拠点防衛に使うべきだろう?」

「ですが火力と搭載部隊数はビッグトレーを上回ります。よって、我々はあれ1隻からなる防衛用の遊撃部隊と、ビッグトレー及びヘヴィ・フォークからなる攻撃用の遊撃部隊の編成を提案します」

「・・・その分各基地の戦力は低下するが、まぁモビルスーツが配備されたからなんとかなるか。わかった、編成を開始したまえ。必要ならスタンリー大佐の部隊にも北部方面の防衛を命じ、警戒に当てさせるんだ」

「は、ありがとうございます」

「・・・・・・まさかとは思うが、悪魔とはトリントン基地の核のことではないだろうな?」

「それは・・・ないと思いたいですね。仮にジオンがあれの存在を知っているとなると、それは連邦内部、しかもかなりの高官にスパイがいることになります。あれの存在は最高機密ですから」

「だが、可能性としてはあるわけだな? トリントン基地の主力は量産型ガンタンクが2個小隊、増加試作型のガンタンクとガンキャノンがそれぞれ1個小隊、合わせて1個中隊規模のモビルスーツ戦力がいるのだからそう容易く落ちはしないだろうが・・・トリントン基地に近いコーバーに戦闘ヘリ部隊を展開させるか。採掘所跡地だから偽装は十分可能だろう」

「伏兵としてですか・・・今すぐ手配できるのはファンファン12機と重戦闘ヘリ15機の合計27機のみですね」

「それで時間は稼げるだろう。それと同時に空挺装備の陸戦型ジム1個小隊をチャールビル基地からミデアで送り出せば、援軍主力の到着まで持ちこたえれるはずだ」

「了解しました。早速手配します」







10月10日 深夜

オーストラリア中央部に位置するシンプソン砂漠、その西側に第329警戒拠点と呼ばれる連邦の哨戒基地が存在した。だがその内実は、偽装されたコンテナと迷彩テント複数で構成され、有刺鉄線すら存在しない基地であり、装備もジープ3両とバイク3台しかなく人員は最大で5人という、基地とは到底いえない小規模な拠点だった。当然モビルスーツに襲われたらひとたまりもないのは分かりきっている。一応防衛用に旧式の対戦車ミサイルが配備されてはいるが、その性能も数も絶望的だった。ただし通信回線は光ケーブルが通じており、即座に連絡を送ることが可能だった。
そう、この哨戒基地は所謂使い捨ての拠点であり、もし破壊されても音信普通になる事で敵の攻勢を知らせる拠点でもあったのだ。そしてこれと同様の拠点は数多く作られていた。
話を戻すが、岩と砂の起伏が多い砂漠に面するこの哨戒基地の重要度は決して低くはない。いや、近くにアリススプリングスというジオンに制圧されているオーストラリアの大動脈とも言える都市があることから、その重要度は高いといえる。

・・・が、そんな拠点も少しばかり腑抜けていた。なぜか? それはオーストラリア大陸で戦闘らしい戦闘が数ヶ月間行われていなかったからだ。故にこの拠点に配属された兵士達は若干平和ボケをしていた。というよりも全滅前提のような基地に配備された者が緊張感を維持できるわけがない。故に彼らは今日も緊張感のかけらもなく雑談をしながら哨戒任務にあたっていた。

「それで、シンプソンズ・ギャップにモビルスーツが配備されてたんだが、それがザクやザニーじゃない、正真正銘の連邦製モビルスーツなんだぜ?」

「それでそいつはどんな感じなんだ? もったいぶらずに言えよ」

「そうだな・・・シンプルでザクよりも量産しやすそうな形だったな。例の陸戦型とか言われる奴よりもシンプルだったぞ。ただその時持ってた武装はマシンガンやバズーカだったがな」

「じゃあ上は、数は力なりを実行したのか。これでかつる!」

そんな他愛もない話をしていた時、彼らは異変に気がついた。

「・・・ん? ジェット音か? 飛行予定あったっけ?」

「というよりも、これは西から聞こえないか?」

あいにく空は曇りで、ところどころ雲の切れ目がありそこから星を眺める事ができる程度の視界しかなかった。が、次の瞬間にはそんな事は問題ではなくなってしまった。

「な!?」

「なん・・・だと・・・?」

彼らの頭上を数十機、いや数百機もの数の航空機が飛翔したのだ。慌てない方がどうかしている。

「け、警戒警報を鳴らせ! 味方に知らせるんだ!」

「りょ、了解!」

だが、その行為は結局なされなかった。なぜなら・・・

「この音は・・・なんだ?」

ジェット音とは違う何かの音が聞こえ、そう見張りの兵士が呟いた次の瞬間、彼の顔が・・・いや、この拠点の全ての人間の顔が驚愕に満ちた。
・・・音源の発生源である、砂漠を越えて前進する戦闘車両とモビルスーツの大群を目撃したが故に。そしてこの数分後、第329警戒拠点はこの地上から消滅した。

後世に『オーストラリア戦役』と呼ばれる、ジオン及びVFの一大攻勢の始まりだった。





「ヴェルガーリーダーより空中管制機へ、スカイクリア隊が全滅した! 援軍はまだか!?」

「こちらデザートアイ、空中管制指揮機だ。現在オーストラリア全域でジオンと戦闘中、特に後方の大規模航空基地に攻撃が集中している。援軍はこれない、なんとしても戦線を維持せよ。地上部隊が対空支援を行っているのでそれを有効活用してくれ」

「無茶な! 地上部隊はモビルスーツに蹂躙され戦線は崩壊している、支援などあてにできん!」

「機体性能ではセイバーフィッシュよりもジェットコアブースターの方が性能は上だ。なんとかして空域を維持せよ!」

「比較は敵のジャベリンとやってくれ! くっ、食いつかれた、やられr・・・」

「ヴェルガーリーダー、応答せよ! ヴェルガーリーダー!?」

「こちらヴェルガー2、隊長機は撃墜された! 戦線は崩壊した、敵モビルスーツによる地上からの対空砲火も激しい! 撤退許可を!」

「撤退は許可できない。繰り返す、撤退は許可でk・・・」

「・・・デザートアイ、どうした? 応答しろデザートアイ!」

「友軍各機へ、デザートアイが撃墜された。各自の判断で行動せよ!」

「撤退というが、どこに撤退すればいいんだ! 大規模な空軍基地は襲撃されてるんだぞ!」

「地方の比較的小さい基地に行くんだ! そこなら襲撃されてないはずだ!」

ジオンとVFの大規模な侵攻作戦が開始され、その多くの戦力は連邦の勢力化にある街と基地を目指し進軍を開始した。そしてそんな地上戦力を守るべく上空には対地攻撃任務の戦闘爆撃機が支援を行っていた。
当然連邦軍も迎撃の為航空戦力を出すが、その数は余りにも少なかった。

なぜか?

その答えは余りにも明白だった。
ジオンとVFの航空戦力が連邦軍の航空基地を攻撃する為に飛翔し、それを迎え撃つ為に連邦軍の航空戦力は忙殺されていたからだ。それこそ空戦にはいまいちなフライマンタも投入されるほどに。
オーストラリア方面における総航空戦力は数の上では連邦軍が優勢だった。それは制空戦闘機の数でいっても連邦が上回っていたのだ。だが、現在の航空戦の戦況は連邦よりもジオン&VFのほうが若干優勢だったのだ。
これも理由は単純だった。連邦軍は各地の基地に航空戦力を分散配置していたのに対し、ジオン及びVFは戦力を特定の基地に集中して振り分けたからだ。展開している航空機数が十数機足らずの小規模な連邦軍航空基地には目もくれず、数十機から数百機もの航空戦力を展開させている大規模な航空基地に、その航空戦力を振り分けていた。しかもそれに先立って、海からVFの潜水艦隊が対地ミサイルを各基地に向けて乱射したのだ。少なくない数が外れ、極少数のミサイルにいたっては友軍の頭上に落下したものさえあったが、その多くは連邦軍勢力下に落着した。特に航空基地に多く発射されており、この一斉攻撃で連邦軍航空隊は出鼻をくじかれたと言っても過言ではなかった。
なぜ少数の機体しかいない基地を無視したのか? それはたった十数機の航空機ならばモビルスーツ等の対空砲火で十分撃退できると判断したからだ。この為、地上を進軍するモビルスーツ部隊には必ず対空戦専門の部隊が展開していたのだ。主にそれはザクキャノンやザクタンクだったが、その180mmカノンは元々対空用。ゆえに連邦軍の航空戦力は迂闊にモビルスーツを狙えない状況になっていたのだ。
そしてファイタースイープ、迎撃機狩りが終了した頃合に護衛付きのガウやオルコスが襲来し、爆弾や空挺降下部隊が基地を襲っていった。特にバーズビル基地は激戦が繰り広げられた。

連邦軍バーズビル基地

バーズビル基地では60機近くの輸送機が空挺部隊を投下し、基地の内外で激しい戦闘が繰り広げられ、数十機単位で配備されていた航空部隊は滑走路と共に炎上していた。元々バーズビル基地は戦線の比較的後方に位置し、陸上戦力の配備数は比較的少数だった。だが、これがモビルスーツだけが相手ならまだ良かった。

「10時の方向、ハンガー内に61式だ! 砲撃開始!」

『畜生、敵の空挺戦車だ! 61式がやられているぞ』

『敵はマゼラアインとかいう戦車だ、砲塔が旋回するから気をつけろ!』

「トラッカー4、待て! 装甲車が前に出るな、敵の餌食になるぞ! ・・・くそ、いわんこっちゃない。ロケット弾で吹き飛ばされやがった」

「敵討ちだ、2時の方向にミサイル搭載型ジープだ。撃て!」

そう、飛来したジオン航空隊の内、15機の鹵獲ミデアやオルコス輸送機から大量にマゼラアイン空挺戦車が降下したのだ。ミデアやオルコスには4両のマゼラアインを搭載することができた。それが15機分、60両が降下したのだ。マゼラアインは突撃砲じみたマゼラアタックとは違い、普通の戦車といっていい。61式戦車に匹敵するマゼラアインはその性能を遺憾なく発揮し、モビルスーツと協力し基地防衛隊と基地施設の破壊を行っていた。しかもこの他に装甲車とかも空挺降下したのだから、対歩兵戦闘も同時に行わなければならなかった。
更に言えば、ここに投入されたモビルスーツはザクJ型が中心だったが、この中に普通のJ型ではない機体も多数参戦していた。

MS-06JT 装甲強化型ザク

ツィマッド社の誇るドムシリーズを参考に、ジオニック社が地上部隊の現主力機であるザクJ型をベースに追加装甲を施して防御力を向上し、戦場での生存性の向上を図った発展強化タイプのザクだ。基本的にザクJ型を改修したものだが、追加装甲に付属している外部スラスターによって瞬発力ではノーマルのJ型を上回る。これに似たような機体は連邦のRGM-79FP ジムストライカーだろう。更に腕部外装にエルデンファウストを1発装備し、機体各部にSマインを搭載するなど近距離での対ゲリラ戦を意識している。
しかも今回、それに混じって普通のF型ザクも展開していたが、それらは基地施設にとって凶悪な代物を装備して参戦していた。

「こちら戦車隊、敵のミサイル攻撃で2両マゼラアインがやられた! 11時の方角の建物だが、主砲の仰角が足りん、支援を求む!」

「了解した。ファイア2へ、11時方向の建物内部に敵ミサイル兵、派手にやってくれ!」

「了解・・・目標の建物確認、燃えろ!」

そう言ってそのザクはホースのような物を建物に向け引き金を引き、次の瞬間にはホースから火炎を盛大に放射した。

そう、この機体が装備していたのはモビルスーツサイズの火炎放射器だ。対ゲリラ殲滅用装備ともいえるモノで、モビルスーツ相手には効果が薄いが、建物や人相手には凶悪な威力を誇る。ただし、背中の燃料タンクに直撃を受けると当然ながら誘爆し大爆発を起こすので注意が必要な武器ともいえる。
火炎放射をくらった建物はそのまま大炎上する。当然消火設備が作動するが、馬鹿みたいな規模のナパームの炎を受けて普通の火災を想定した消火施設が満足に機能するわけがない。炎は建物を蹂躙し、炎の勢いが弱まったかと思ったときに追加の火炎放射をザクが行うのだからたまらない。
当然ながらこのような火炎放射を行うと、施設を完膚なきまでに破壊してしまう。そして建物内部の書類やデータも根こそぎ破壊される。その中には当然機密情報や統治する上で必要不可欠な書類もあるわけで、占領後に苦労する事になるはずである。
が、それを無視してジオンは火炎放射を実行した。それは極めて単純な事で、人員を失うリスクよりも書類やデータを失うリスクのほうがまだましだと判断したのだ。そして、オーストラリア全土を制圧し連邦軍をたたき出せば、その分戦力を他に回せ、かつ書類作成に必要な情報等の収集が安全にできると判断したからだ。

話を戻そう。そんなわけでバーズビル基地を蹂躙するジオン軍だが、連邦軍もただやられてばかりではない。基地に火炎放射を行っていたザクが突如マシンガンを浴び、火炎放射器の燃料タンクが誘爆、機体は炎に包まれながらゆっくりと倒れこんだ。

「何事だ! どこから攻撃を受けた!」

「3時の方向からの射撃です! あれは・・・ザクです、IFFに反応ありません!」

そう、彼らの視線の先には、白く塗装され、マシンガンをこちらに向けて構えているザクの姿があった。その数4機、盾に連邦軍のマークが施されていた。

「・・・鹵獲ザクか。装備は120mmマシンガン・・・ファイター2及び3、この機体の力を見せ付けるいい機会だ、突っ込むぞ!」

そう言って彼と彼の部下の操る装甲強化型ザク3機は一気にブーストを噴かして突っ込んでいった。機体各部につけられた増加装甲付属の外部スラスターと本体のスラスターを一気に噴かした突撃はそれだけで脅威的、それに加えて肩に装備されるスパイク付きシールドを鹵獲ザクに向けて突進する。
当然鹵獲ザクもマシンガンで反撃する。次々とザクに着弾し、爆発が連鎖する。が、それは外部装甲が受け止め本体にダメージを与える事はできなかった。
そして・・・

「・・・手ごたえ、あり!」

隊長機が体当たりした鹵獲ザクはスパイク付きシールドが刺さり、そのままの勢いで隊長機と共に数十メートル後方のビルに激突。その衝撃で更にスパイクが鹵獲ザクの胴体にめりこんだ。コックピットが押しつぶされパイロットが死亡した鹵獲ザクは、そのまま建物にめり込んだまま全ての行動を停止した。
残された鹵獲ザク3機だが、慌てて隊長機をしとめようとする機体とこちらにせまってくる部下2機の装甲強化型ザクをしとめようとする機体に丁度分かれた。が、鹵獲ザクにのっている連邦兵が行った、どの機体を狙うか通信でやり取りしたその時間が明暗を分けた。
隊長機は建物に鹵獲ザクをめりこませた姿勢のままでマシンガンを放ち、2機の部下もスラスターを噴かしながらマシンガンを放った。不安定な姿勢からの射撃だったが、それでも近距離から放たれた弾丸は鹵獲ザクを破壊する事に成功した。

「追加装甲、役に立つな。それに重量そのものを武器にできるのもよし! 各機、油断せず周囲を警戒せよ」

「「了解!」」

だが、この時既にバーズビル基地の残存戦力は基地の放棄を決定し、現在指揮系統から孤立し命令が届かなかった部隊や、撤退を悟らせない為の陽動部隊を除き、そのほぼ全てが撤退に移っていた。そしてそれにジオン側が気付いたのは、なんと連邦軍部隊が撤退した後だった。これには侵攻してきたジオン側が困り果ててしまった。なぜなら、空挺降下した彼らの目的は基地の占領もしくは破壊ではあったが、それ以上にこの攻撃自体が連邦軍の目をバーズビル基地に向けさせる為の陽動でもあったのだ。オーストラリア有数の航空基地であるバーズビル基地が陥落の危機に陥ったら、連邦軍は援軍を差し向けざるを得ない。そしてその後に本命へと攻撃を仕掛ければ、連邦軍はどこへ攻撃すべきか指揮系統に乱れが生じる。いや、確実に本命へ向かうだろうから、それを背後から一気に叩きのめす。その為に基地で派手に暴れ、連邦の目をバーズビル基地に引き寄せ他の方面への集中力を分散させるのが目的だったからだ。が、これでは連邦の目はもうこちらには向かず、陽動にはならない。
・・・前にも言った事だが、バーズビル基地は比較的戦線の後方に位置し、地上戦力は少ない。とはいえ、本来ならばもっと多くの部隊が駐屯しており、最低でも後数時間は持たせられるだけの戦力があったはずである。だが、この方面の戦線指揮を執るミニトレーが数日前から北部方面の警戒の為に、この基地に駐屯している部隊をつれて出撃していたのだ。おかげで北部から侵攻してきたジオン部隊に対し優勢なまま後退戦をし、ジオン側はオーストラリア北部において少なくない数の連邦軍部隊を取り逃してしまったのだ。そして撤退に成功した連邦軍部隊は、東を目指した・・・

・・・なお、このMS-06JT 装甲強化型ザクだが、MS-06G 陸戦高機動型ザクに順ずる性能を持つが、その反面操縦がノーマルより少し硬いとしてパイロットには賛否両論の意見となっているが、整備班にとっては批判意見が圧倒的過半数を占めていた。そしてそれは、自前の作業用モビルスーツ等を持っていない整備班からは蛇蝎のごとく忌み嫌われていた。
・・・その理由はこのザクの最大の特徴である追加装甲にあった。
被弾して帰ってきた場合、まず追加装甲を外さなければならないのだが、破損している追加装甲は本体から外すのにも一苦労するのだ。場合によっては本体から取り外した瞬間に追加装甲の残骸がボロボロ崩壊し、危うく作業中の整備員が下敷きになりかけたという話があったほどだ。更に衝撃は本体にも確実に響いているので本体のチェックを全て行わなければならない。つまりチェック項目がやたら多いのだ。無傷の追加装甲も精密検査を行う為、その苦労は洒落にならない。
結果・・・この部隊の面々はこの作戦終了後に整備班に頭を下げ、アルコールやタバコ等を差し入れすることを約束させられたというオチがあったりするのだがここでは割愛させていただく。







ジオン正規軍とVFが連邦軍の『ソレ』と初めて遭遇したのは、チャールズビル基地を目指し地上を進撃しているモビルスーツ部隊の1つだった。その部隊はザクJ型15機とザクタンク6機からなる部隊で、連邦の防衛線に展開している61式戦車等を破壊しながら前進していた。

「XT-79、撃破! これでこの辺の敵戦力は全滅か?」

「そのはずだ・・・後、この付近で戦闘ヘリ部隊が全滅したらしい。警戒を怠るなよ」

「了解しました。しかし戦闘ヘリ6機が全滅って・・・対空陣地はこの周辺にはなかったはずですが?」

「そんな事は知らん。少なくとも敵がいたことだけは確かだ、気を抜くなよ?」

「・・・おい、10時方向の岩陰に何かモビルスーツらしき影がいたぞ」

「本当か? 見間違いじゃないだろうな?」

「間違いない、モビルスーツの影だった。IFFにも反応はないから敵だろう」

「・・・わかった。ザクタンク部隊へ、指定目標に砲撃を要請する」

「了解した。たしかに何かいるな。これより砲撃を・・・ん、あれは・・・!? やばい、全車緊急回h」

その直後、ザクタンクが突如爆発した。そして次々と他のザクタンクが同じ末路を辿っていった。

「な、何事だ!?」

「て、敵の砲撃です! 岩陰にいたのはガンタンクで」

「くそ、ザクタンク部隊壊滅しました! 10時方向の岩陰からの砲撃です」

「ガンタンクと言っていたな。ならば接近戦で仕留めるぞ! 全機突撃!」

そう言って6機はそのまま岩場に向かい、3機ずつ左右から回り込むように移動し、残り3機がスラスターを噴かして上空へ飛翔した。
が、このザク部隊の指揮官は判断ミスをしたと言わざるを得なかった。目標を最初に視認したのは飛翔した3機だったが、それゆえに彼らの運命も分かりやすかった。

「こちら第2小隊、目標を視認しました! ガンタンクが6機に・・・・・・あれは、なんだ?」

「あれは・・・ザクやザニーじゃないぞ、連邦のモビルスーツか!?」

「やばい、俺達を狙ってい・・・」

その言葉を最後に、彼らは2機がガンタンクの砲撃で吹き飛ばされ、1機がマシンガンによって蜂の巣にされた。が、彼らが稼いだ時間に接近した残り12機のザクは、連邦軍の姿を視認することに成功した。

・・・そこにいたのは、史実では新規ナンバーを与えられる事のなかった、RX-75MP 量産型ガンタンク6機と100mmマシンガンを構えた連邦初の量産型モビルスーツ、RGM-79 ジム6機の姿だった。

「白いモビルスーツ? まさかガンダムとかいうやつか!?」

「まて、データベース検索・・・だめだ、データにないぞ! ガンダムとも違うし、アジア戦線で確認された陸戦型ジムとかいう機体に酷似してはいるが、恐らく別物だ!」

「ぼさっとするな、散開しつつ攻撃しろ!」

その言葉と共にザク部隊はマシンガンやバズーカを放つが、同時にガンタンク部隊も砲撃を再開した。120mm低反動キャノン砲と40mm4連装ボップミサイルランチャーの同時撃ちに加え、ジムの100mmマシンガンも火を噴いた。
この攻撃で回避に失敗し撃破されたザクが2機、肩盾を構え防御しようとしたものの撃破されたのが1機、合計3機のザクが瞬殺された。そしてザク部隊の攻撃は2機のガンタンクと1機のジムを撃破した。
が、圧倒的に不利なのはザク部隊なのは明らかだ。なにせ弾幕という観点で見ると、圧倒的にザク部隊の方が不利だからだ。しかもクラッカーやフットミサイル、グレネードといったサブウェポンはここに来るまでに戦闘で使い切っていた。
そしてあえて言うならば、平地でのガンタンクの砲撃は凶悪極まりない。水平射撃をすればザクどころかグフ、状況によってはドムですら一撃で破壊できる威力を持つ高初速のキャノンを持っているのだ。
本来ならガンタンク相手には相手の視界を塞いで射程距離のアドバンテージをつぶし、高速でジグザグ移動して弾を回避しつつ接近戦に持ち込むのが有効とされていた。だがそれに護衛機が加わっているのであれば話はまた別だった。

「ガンタンクでアウトレンジ、その護衛にマシンガン持ちのアンノウンか。我々だけでは無理だ、増援を要請しろ!」

「既に要請しました。VFのモビルアーマーが支援に来るそうなので、我々は一時後退せよとのことです!」

「わかった・・・全機スモーク散布、フレアとノイズも忘れるな! 一時後退、急げ!」

そう言って彼らは一斉に煙幕を展開し、フレアとノイズ・・・音響センサー対策の妨害音波発生器をその場に残し撤退を開始した。



ザク部隊を退けた連邦軍部隊、第67独立機械化混成部隊のパイロット達はコックピット内で歓声を上げていた。何せ犠牲は出たものの自分達の攻撃でザク部隊を撃破、撤退に追い込んだのだから。そして加えて言えば、先行していたジオンの戦闘ヘリ6機を叩き落したのも彼らの仕業だったりする。

「おっし! ジオンの奴ら、逃げていくぞ! ガンタンク、砲撃をお見舞いしてやれ」

「だめだ、スモークとデコイのせいで狙いがつけれん・・・これ以上の砲撃は無駄弾だな」

「・・・ちっ、しょうがねぇな・・・まぁザク6機撃破なら十分な戦果だし、今の内に陣地変更しておこうぜ」

「そうだな・・・この座標に砲撃されたらなす術がない。全機直ちに移動する!」

・・・が、この時点で彼らの運命は不幸だったとしか言いようがないと断じる事ができる。それはなぜか?
当然ながらジオン側も侵攻部隊が強敵に阻まれたときの為に予備戦力を残している。それはたいていの場合機動力に優れた部隊がその任務に当たる場合が多く、そして『ソレ』は先程支援要請があったこの場に向かっていた。そう、VFの『モビルアーマー』が。そして、VFを運営しているツィマッド社の我らが社長は・・・ネタに走る事が多いということが、彼らの不運を決定付けていた。
そしてザク部隊が後退して十数分後、待ち伏せに最適な場所に移動中だった彼らは自分達の方に迫り来る『ソレ』を目撃した。

「・・・む? 南西方面に砂塵確認、敵襲だ!」

「待ち伏せ予定ポイントはまだ先だが・・・まぁいい、ガンタンク部隊は砲撃準備だ!」

だが、その砂塵の方にカメラを向けた直後、連邦兵は思わず固まってしまった。

「・・・なんだあれは?」

その問いに答えれる連邦兵はその場にはいなかった。
ソレは外見は連邦軍のホバートラックにレールガンとおぼしき砲塔を左右につけたような形状をしていたが、大きさがあきらかに大きかった。それによく見てみると、どことなくホバートラックよりもヒルドルブやライノサラスに似ているようにも思えてくる。
それが3機、こちらに砂煙を舞い上げてやってくるのだ。

「敵の新兵器か・・・ガンタンク部隊、砲撃しろ!」

「あいよ。あの図体だ、全弾命中させてやれ!」

その声と共に4機の量産型ガンタンクが水平射撃を開始する。
が、発砲炎を確認したと同時にターゲットは横滑りし、放たれた砲弾は全て外れてしまった。そしてお返しとばかりに先頭の大型機動兵器が発砲、超高速のレールガンが2機の量産型ガンタンクを撃ち抜いた。

「な!?」

「なんて奴だ・・・全機、弾の出し惜しみは無しだ。全弾叩き込んでやれ!!」

その命令と同時に再び連邦部隊は発砲、ジムに至っては頭部の60mmバルカンまで乱射するのだが、ターゲットの大型機動兵器はその巨体に見合わず、ホバー走行独特の横滑りを高速で行いガンタンクの砲撃を回避した。流石に連続して放たれるジムの100mmマシンガンや60mmバルカン、量産型ガンタンクの40mm4連装ボップミサイルは何発も命中するが、正面装甲に火花を散らすだけで、全く効果が無い様に見える。

「ジオンのやつら・・・どんだけ新兵器を開発したら気が済むんだ!!」

「そんな・・・ザクを破壊できる威力を持つ100mmマシンガンだぞ! それが効かないんじゃどうすればいいんだ!?」

「落ち着け、奴は120mmキャノンを回避しているんだ。当てればダメージを与えれる事はできるはずだ! 落ち着いて狙えb・・・」

それが彼らの最後の言葉となった。まず彼らの目の前にいる大型機動兵器の車体に設置されている2基の砲塔が発砲、生き残っていた2機の量産型ガンタンクは頭部のコックピットをレールガンで吹き飛ばされ、その次の瞬間にはその後ろにいた2機の大型機動兵器の攻撃、レールガンや有線誘導ミサイル、果てはヒルドルブの主砲と同じ30cm砲による攻撃で残っていたジムも吹き飛ばされたからだ。







「敵部隊殲滅確認、センサーに反応無し・・・周辺に敵影はありません」

「ふっ、そんな戦力でこいつを止められると思ったか! 我らがツィマッド社の技術は世界一!!」

「車長、落ち着いてください。しかしこいつの初陣、無事飾れましたね。今のところ新型機特有のトラブルも大きな物は起こってませんし、順調です」

「このTCK・・・イーゲルヴィント級は陸戦における突破力を求められて開発されたモビルアーマーです。マシンガンレベルで正面装甲を貫通できるものですか!」

「姉御、クールダウンクールダウン」

そう、開発時にはTCKと呼称され、正式名称にイーゲルヴィントと名づけられたツィマッド社の最新鋭モビルアーマーの初陣だった。

イーゲルヴィント級はライノサラスをベースに量産化を前提に設計されたホバー走行する大型機動兵器だ。大きさはヒルドルブ並で4つの大型ホバーユニットと車体本体、そして本体後部の上部に取り付けられる大型バックパックにて構成され、戦線突破や防衛戦の切り札とされている。
搭乗員は車長兼パイロット(ドライバー)1名、ガンナー2名、オペレーター2名の計5人で、比較的安全な車体本体内部に搭乗している。
そして肝心の武装だが、車体本体の前部左右にVFの宇宙戦闘艦で使用されている135mmレールガンを1基搭載した砲塔を持ち、車体本体中央の側面に戦闘艦艇のCIWSである75mm6銃身ガトリング砲が2基設置されており、それにひっつく形でスモークやフレアを搭載する多目的ディスチャージャーが装備されている。また大型バックパックは機動性を向上させる大型ブースターパックと、18連装MLRSコンテナ×2基+15連装有線誘導型ミサイルコンテナ×2基を持つ火力増強型パック、そしてヒルドルブに搭載されているのと同じ30cm砲を持つ砲撃用パックの3つが完成していた。
・・・ちなみに当初はモビルスーツ(ザクを想定されていた)の上半身を砲台として搭載する予定だったのだが、シミュレートしてみると重心が高くなりバランスが悪化、更にザクの上半身では装甲が薄く破壊される可能性が高いと判明し、急遽変更された事実がある。この為、本来なら車体本体に装備するジェネレーター以外に2つのザク上半身に存在するジェネレーターを利用し、当時開発中だったビーム兵器を運用する計画だったのだが車体本体のみのジェネレーター出力ではビーム兵器の運用は不可能となり、急遽艦載型の135mmレールガンを流用した砲塔を開発した経緯がある。
・・・更に蛇足だが、ザクの上半身を使う案がボツになった際、「やっぱりフロミのTCKの再現は無理か・・・」とエルトラン社長が少し落ち込んだりしたのだが、それはまた別の話だったりする。

「ふむ、後は一時撤退した連中に任せるのが筋だが・・・このまま敵基地まで3機で前進するか?」

「ですが車長、CIWSが2基しかないですから接近されたら危険ですよ」

「それに大きいエラーは無いものの、小さなシステムエラーは今も発生しています。あ、今新たにホバーユニットでエラー・・・直りました。着弾等の衝撃はできるだけ押さえてください。最悪の場合はシステムがフリーズしかねませんので」

「分かっている、ようはアウトレンジで戦い続ければいいんだ。2号車、3号車にもその旨しっかりと釘を刺したんだから問題はない」

「ですが、こいつは突撃砲なんですから護衛部隊を要請しないとやばくないですか?」

そう、このイーゲルヴィントは基本的に開発コンセプトが突撃砲なのだ。その為遠~中距離での射撃戦を念頭に設計されている。が、近距離戦(格闘戦)は75mmCIWSでの迎撃しか考慮されていない為(レールガンは砲身が長い為に近距離では不向き)に敵に接近されたら最大速度で離脱かその旋回性能を生かして迎撃するといった戦法を取るしかない。そして肝心の装甲は『カタログスペック上』ではジャイアントバズーカレベルの実弾の直撃に耐えることが可能だが、どこまで耐えられるかは未知数だった。
つまり、イーゲルヴィントの運用には護衛機が必須だったのだ。エルトラン社長は史実におけるモビルアーマーの敗北理由、格闘戦又は至近距離戦闘に持ち込まれて撃破という点に注目していた。

『モビルアーマー単独での運用はビグロに代表されるヒット&アウェイ戦法以外じゃダウトだろJK(常識的に考えて)』

そう開発者に言ったほどだ。なおこの発言が原因でド・ダイⅡに代表されるサブフライトシステムの開発がより一層加速し、更にどこをどう間違えたのか自衛用火器を山のように積んだモビルアーマーの開発が進んだりしたが、それはまた別の話である。

「ふむ、確かに護衛機は欲しいな。付近に友軍はいないか? チャールビル基地攻略部隊は?」

「ここからなら・・・少し北部方面に友軍のグフがいます。グフ2機とザク4機の混成部隊で、ここから十数分といったところです。丁度その頃に混成部隊は敵防衛ラインに接触するはずですから、側面から強襲できるかと思います」

「・・・途中に河川があるが、まぁこいつなら問題ないか」

「ホバーですからね」

話を戻すが、イーゲルヴィントの機動性は意外と高く、ホバー走行独特の横滑り等のトリッキーな動きが可能だが、基本的に開けた場所(砂漠・平野・海上)での運用を前提としている為にジャングルや森林地帯、山岳地帯では運用そのものが不可能な場合がある。が、ここはオーストラリア大陸。砂漠化が進んだせいでイーゲルヴィントが活動できる場所は多いのだ。
そして3機のモビルアーマーは進路を北に向ける。次なる獲物を探して・・・

数十分後・・・

連邦軍第334支援砲撃部隊 指揮車車内

「報告します。敵新型モビルアーマーによって第941戦車隊所属の61式が全滅しました。敵新型モビルアーマーはそのまま陣地を蹂躙しつつ前進中です」

「第67独立機械化混成部隊を叩き潰した奴か・・・第1031防衛防衛ラインの防衛率は?」

「およそ・・・37%です。その第1031防衛線の指揮所から支援要請が先程から・・・」

「無視しろ」

「は、ですが・・・」

「無視しろと私は言ったのだ。敵の新兵器を破壊する為、あえてここは友軍に犠牲になってもらう。第1031防衛ラインに深く入り込んだところで砲撃し、動きを止めた敵機を現地の部隊が撃破する・・・それにあの陣地の指揮官は私の同期だ、私の事を良く知っているから分かってくれるだろう」

「はぁ・・・わかりました。失礼します」

そう言って通信兵は指揮車から出て行った。残った指揮官は、それを見届けた後ボソリと呟いた。

「・・・・・・ああ、あいつは良く知っているさ。これまで事あるごとに私を散々いじめてくれたのだからな。ジオンはあそこの防衛ラインで指揮を取っているあいつを殺し、私はジオンの新兵器を撃破し昇進する・・・くっくっく、運が向いてきたかな?」

そう言って目を向けた先には指揮下のロケット砲部隊の照準目標・・・第1031防衛ラインの指揮を統括する指揮所周辺が書かれた戦域地図だった。

ここはチャールビル基地の北西に位置する野戦砲撃陣地だった。陣地と言っても自走ロケット砲と支援車両を並べただけの、フェンスも何も無いものだったが、自走ロケット砲の数は数十台と決して少なくはなかった。
しかもその内数台は新開発された対モビルスーツ用試作吸着地雷散布ロケット弾を装填していた。効果を疑問視され、更にコストの面から不採用となった代物だが、今の連邦軍に贅沢は許されない。それにザク程度ならばなんとか撃破可能なのも魅力の一つ、これならばジオンの新兵器にダメージを与える事ができるだろうと彼は判断していた。

「報告します。ジオンの新型兵器、第1031防衛ラインの指揮所付近まで侵攻しました。同時に第1031防衛ライン指揮所からの通信、途絶しました・・・」

「くっくっく・・・全車両射撃用意! ジオンの新兵器だろうが、鉄の雨と呼ばれるMLRSの釣瓶打ちをくらえばただではすまん。点ではなく面での制圧攻撃、防げる物なら防いでみるがいい」

たしかにそれならばイーゲルヴィントといえども損傷していただろう。完全無欠など存在しないのだから、ひょっとしたら試作機ゆえにMLRSの衝撃でシステムが停止し、連邦にとって雲がよければ鹵獲の可能性もあった。
・・・だが、彼は言霊という言葉を知っておくべきだった。彼がそう言った直後、次々と指揮下の車両が爆発を起こしていく。ほんの数秒で、先程までいつでも砲撃可能な状態だった自走ロケット砲部隊は自らの弾薬によって生じた火炎地獄の真っ只中に突き落とされた。そしてその焔は無事だった車両と人員を殺傷し、二次被害を拡大していった。
そしてそれを指揮車の中から呆然と見つめる指揮官。

「な、何事だ!?」

「わ、わかりません! 次々と自走ロケット砲が爆発し、あちこちで誘爆が・・・」

そう言っている間にも次々と無事だったロケット砲が爆発していく。既に彼が見渡せる範囲に無傷の自走ロケット砲は存在していなかった。

「わ、私のロケット砲部隊が・・・昇進が・・・・・・」

そして数十秒後、彼の指揮車も乗っていた者もろとも爆発した。





彼方で爆発炎上する連邦軍自走ロケット砲部隊を、複数のカメラが捉えていた。

「・・・目標に命中、破壊を確認した。無傷の車両はもういないようだ」

「よし、ならさっさと移動しよう。長居は無用だ」

自走ロケット砲部隊が撃破された場所から少し離れた岩陰に、135mm狙撃銃を構えたヅダイェーガーと、その隣に強行偵察型ザクの姿があった。そしてよく見ると、他にも遮蔽物の陰にも狙撃銃を構えたヅダイェーガーと強行偵察型ザクの姿があった。
そう、連邦のロケット砲部隊を殲滅したのは、強行偵察型ザクとヅダイェーガーによって構成される狙撃部隊だった。ヅダイェーガーもノーマルヅダより狙撃性能を強化してあるが、それでも強行偵察型ザクとペアを組んだ方が多くの情報を入手でき、より遠くを精密射撃することが可能となる。
このようなかく乱部隊はステルス処理を施された輸送機で連邦軍の後方に展開し、このような破壊工作を各地で行っていた。

・・・そして数時間後、チャールビル基地がジオン及びVFの連合軍から攻撃を受けるのと時を同じくして、後にオーストラリア戦役と呼ばれる戦闘における、最大の事件が発生した。
そう、連邦軍トリントン基地への襲撃である。



[2193] 34話前半 オーストラリア戦役2-1
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2010/04/01 01:45
ツィマッド社奮闘録34話前編

1機のガウ攻撃空母が黒煙を噴きながら高度を落とし、そのまま地表に激突し爆散した。低空飛行中に襲撃され、基地を出た時15機もいたガウ攻撃空母の編隊は壊滅しつつあった。

「護衛は何をしている! 緊急出撃した中にはベテランの乗るヅダイェーガー部隊とグフカスタム部隊がいたはずだろう!」

「それが・・・出撃したモビルスーツ部隊は、先程最後の1機が敵バズーカの直撃を受け撃墜されました。また、搭載していた戦闘機部隊も同じく壊滅しました、ガルマ様」

そう、既に搭載していた直援のドップ及びモビルスーツ部隊は全滅し、友軍は僅かなガウのみとなっている。
状況はこちらが極めて不利。戦っている将兵を鼓舞する為にガウで前線に向かっていたガルマは窮地に陥っていた。

「くっ、まさかここまでとは・・・」

攻撃を受けているのはガルマの乗るガウを旗艦とする空中艦隊だ。が、既にその威容は無く、残っている機体もガルマの乗る機体以外は残り1機・・・いや、たった今撃墜された為ガルマの乗るガウしかいなくなった。そしてそれをなしたのは見慣れないものの、同じジオンの機体だった。
その青い機体達は護衛についていたドップやザク、グフにヅダの攻撃を恐るべき運動性で回避し、逆にハリネズミを思わせる豊富な武装の数々で護衛機やガウを撃墜していった。
そしてそのモビルスーツ2個小隊を指揮していた1機の赤いモビルスーツがガルマの乗るガウの背中に飛び乗った事で、勝敗は既に分かりきっているだろう。その機体は接触通信でガルマに通信を入れてきた。

「ガルマ、聞こえていたら君の不幸を呪うがいい」

「なに、不幸だと?」

「君はいい友人だったが、君の指揮ミスがいけないのだよ」

「シャア! 謀ったなシャア!」

その言葉を最後に、赤い機体は至近距離からガウにビームマシンガンを浴びせかけ、スラスターを噴かしてガウから離脱。その直後にガルマの乗るガウ攻撃空母は大爆発を起こし墜落した。







ガルマ専用ガウ攻撃空母 機内

「してやられたよシャア。まさかそっちが高コストの精鋭部隊で編成される攻撃部隊と、コストの掛からないミサイル兵や各種トラップを展開できる工作部隊だけの守備隊で構成されていたなんて」

「そして君は無難にグフとヅダ、そしてザクを主力として少数のドムを遊撃部隊として編成か・・・数を重視した編成なのはすぐに気がついたが、まぁ今回はこちらに運があったというべきかな? 君が突然両翼を攻めるのをやめ、片側を一点突破しようとした時には負けるのを覚悟したよ。まぁ前線鼓舞の為に前に出てきてくれたから、待ち伏せして逆転できたが」

「ああ、あれか。戦線を膠着させたと見せかけ再編成した部隊を使って強襲したんだが、まさかその途中で待ち伏せをくらうなんて・・・君自身が待ち伏せ部隊を指揮するなんて思って無かったよ。いや、十分考えられるのにそれを考慮しなかった私のミスか」

先程まで激戦を行っていたガルマとシャアが飲み物片手に各種データを見ていた。その後ろでは双方についていたオペレーターが互いに話していた。
そう、先程の戦闘は高性能シミュレーターを使った演習だった。白熱した戦闘を行っていた二人はお互いの戦略及び戦術の推移を見ながら反省会を行っていた。
ちなみにこのシミュレーター、エルトラン社長が周囲を巻き込んで大暴走してできた産物で、その高性能ぶりと豊富なオプション(戦場の絆のようなコックピットルームのオプションをつけることによってシミュレーション上のモビルスーツを操る事ができる)のせいで軍内部に結構な数の隠れゲーマーを育成していたりする。嘘か真かは不明だが、これが切欠でゲーム中毒になった将官もいるらしい。なおこのシミュレーターは当然軍用で、大きさは一つの大部屋を占める規模となり、価格も当然ながらかなり高価であるが、それを個人で購入しようとした者もいたようだ。

「にしても、君の指揮していた部隊の機体・・・ケンプファーはチートだろう? あの回避性能は尋常じゃないぞ?」

「まぁ元々運動性が高い機体なのに加えて、それに魔改造を加えられたエース専用タイプだからな。ノーマル機体でもたった1機でフル装備のドム2~3個小隊が購入可能なコストに設定されているが、投入してよかったと言えるな・・・・・・むしろ、ケンプファーが普通の機体に見える、もっとチートな機体を出していたわけだが・・・」

「ああ、戦線の中央にいたあの黄色い悪魔だな・・・あのモビルアーマーは一体なんなんだ? 長距離から榴弾と有線ミサイル、中距離からはビームとレールガンを雨あられと撃ってくるせいで突破できず、こっちの損害が洒落にならないんだが」

「・・・エルトランのところで構想されている拠点防衛用モビルアーマーで、名前はビスミラーだ。今はまだペーパープランだが、もしこの通りの性能が発揮されれば恐ろしいな」

そのデータには洒落にならない性能が書かれていた。

機体分別:陸上拠点防衛用巨大モビルアーマー
機体名:ビスミラー
要求項目:数で勝る敵を圧倒できる攻撃性能及び防御能力
上記項目の為生産性及び機動性は考慮しない
形状:下部がライノサラス、上部がビッグトレー、それに砲撃用の腕部をつけたモビルタンクのような外見
武装:腕部3連装180mmキャノン砲
135mm連装レールガン3基
連装メガ粒子砲2基
多連装有線ミサイル発射機
MLRS(多連装ロケットシステム)発射機
艦船用75mmCIWS4基

正直ふざけるなと言いたいスペックだ。シャアが言うのも理解できる。そしてデータ項目を見ていたガルマが顔を引きつらせながらシャアに尋ねた。

「・・・・・・なんだこのコストに性能は! 馬鹿みたいな数値だぞ!? というか、ここのシミュレーターにはそんな機体は登録されていないぞ? なのになぜあんなものが出てるんだ?」

「ああ、キャリフォルニアベースを出る前に中途半端に時間が空いてな。その時に丁度休憩してたエルトランとシミュレーション勝負して、それに勝った時に景品としてもらったからだ。まぁ出来立てほやほやのボーナスデータみたいなものだな・・・・・・そのせいか、これ1機のせいで設定されていた軍資金の半分近くが消滅したからな。ザクやグフがダースどころかグロス単位で購入可能な価格設定だったが、最後まで生き残っていたのだから配置してよかったというべきか」

「よかった、で済まさないでくれ。むしろこっちの虎の子の部隊、ビームマシンガンや対艦ライフルを装備したドムの攻撃を受け流すのはバグじゃないのか? しかもそのドム部隊は返り討ちにあって全滅したし」

「・・・私もこれのスペックを見て呆れたよ。分厚いルナチタニウム合金の多重装甲とIフィールドジェネレーターのセットという悪夢みたいな防御能力だ。まぁその反面機動力は無いに等しいが、気休めにもならんな」

シャアが画面の一部を指差す。そこには装甲と特殊武装の項目があり、そこにはルナチタニウム合金とチタンセラミック、対ビームコーティング塗装の多重装甲や、Iフィールドジェネレーターやら広域電子戦装備やらその他多くが書かれており、一層ガルマの表情を引きつらせた。

「・・・実現不可能だろ、これは?」

「私もそう思う。参考資料のところに『更なる技術革新無くば現段階では実現不可能、特にルナチタニウム合金の発展開発及びIフィールドの小型化、ジェネレーターの高出力化と冷却装置の高性能化は必要不可欠』と書かれていたからな・・・もっとも、『現段階では』とか書かれている時点で、この機体案は冗談ではなく本気で作る気満々なのかと小一時間問い詰めたいが・・・・・・この機体案を出したのはエルトランらしい」

そう、機体名から分かるとおり、この機体データを作成したのはエルトランだった。事の発端はFM2を遊んだ多くのプレイヤーにトラウマを与えた、あの凶悪兵器をガンダム世界で再現できないかと思いついたのが切欠で、日頃のストレスを発散するいい機会とばかりに勢いで作成し、社長曰く『(ストレスが溜まり)むしゃくしゃしてやった。ビスミラー無双ができればなんでもよかった。今では反省している』とのコメントを残した、ある意味最悪な機動兵器案だった。

「・・・・・・エルトランも最近過労で暴走気味だからな。こういうのでストレス発散しているんだろう」

この作戦が終わったら長期休暇を勧めようと心に決めたガルマだったが、シャアの言葉に深いため息を付くはめとなった。

「その原因のひとつに、君の家族が関わっているのだが・・・」

「・・・言わないでくれ。ギレン兄さんもキシリア姉さんもいい加減にしてほしいよ。内輪もめ・・・足の引っ張り合いは連邦に利するだけだということに気がついているだろうに」

「だからこそ君も決意したのだろう。二人のやり方に疑問を持ったから」

「・・・ああ、それが私のできる、この戦争を引き起こしたザビ家の責任の果たし方だと思っている」

「そうか・・・」

しばし訪れる沈黙だったが、それは報告の為に入ってきた兵士によって破られた。

「報告します。作戦ポイント到着まで後5分を切りました」

「そうか・・・シャア、よろしく頼む」

「ああ、勝利の栄光を我らに」

そう言ってガルマはガウのコックピットに、シャアは格納庫へと足早に立ち去っていった。







少し時間を遡り、トリントン基地

「緊急の要件とはなんだ? 詰まらん事なら減俸ものだぞ?」

「すいません司令、実はレーダーに不審な編隊が映りまして・・・」

「不審な編隊? 敵か?」

「いえ、敵かどうかは・・・ミノフスキー粒子の影響で探知が遅れましたが、形状は我が方のミデア輸送機の確立が85%で、その周囲に小型機らしき機影がまとわりついています。これは形状照合の結果ジオンのドップの確立が90%です。どうも戦闘を行っているようなのですが・・・この空域をこの時間に飛行する予定の編隊はいません。念の為FF-X7 コアファイター1個小隊をスクランブルさせ、FF-6 TINコッド1個小隊が現在発進準備中ですが・・・」

「ふむ・・・いい判断だ。数時間前から前線でジオンの通信量が活発になっているらしい。・・・戦闘態勢を整えておけ、モビルスーツ隊も発進準備させろ」

「了解しました・・・あ、その編隊から緊急通信です! コードは・・・ミデア輸送機を使う連邦軍輸送部隊の一般的なコードです。IFFも確認しました、間違いありません」

「ということは友軍か?」

「ですが・・・正規の輸送機部隊コードには載っていません。特殊部隊か、敵の鹵獲部隊かは正直・・・」

「・・・通信をつなげろ。一応ここは一般部隊は飛行禁止になっている空域だからな。もしジオン訛りがあれば即座に敵と判断し撃墜しろ。スクランブルした機にも、怪しいところがあれば撃墜するように命令しろ」

「了解しました・・・通信繋がりました、どうぞ」

「うむ・・・接近中の編隊に告げる、こちらはトリントン基地管制塔。貴隊は飛行禁止空域に侵入しようとしている。ただちに」

そこまで彼が言った時、レーダーを監視していた兵が叫び声を上げた。

「あぁ!? レーダーから編隊内部の機影が1つ消えました、撃墜された模様です!」

「なに!?」

それと同時に件の飛行部隊から返信が返ってきた。それは途切れ途切れで良く聞こえなかったが、切羽詰った悲鳴のような通信だった。

「こち・・・邦軍特殊部隊ビッグマ・・・敵機・・・攻撃を受け・・・陸許可を・・・護衛は何を・・・援護を・・・」

「おい、通信が粗いぞ! メンテはちゃんとしてるのか!?」

「それは機器のせいではありません。この編隊が飛行している空域は比較的ミノフスキー粒子の濃度が高い空域です。そのせいで雑音交じりなんです」

そう通信官と司令がやり取りをしている間にも事態は進んでいく。

「4番機が・・・ら火を噴いた! 落ち・・・・・・脱出しろ! あ・・・・・・衛型ミデアがやられ・・・援を!」

「司令、レーダーから更に機影が2つ消えました。撃墜された模様です・・・」

「くっ、こちらの戦闘機隊は?」

「スクランブルした小隊が接触まで後30秒、続いて離陸したTINコッド部隊は1分30秒掛かります」

「輸送機部隊へ、今そちらに増援を送った。それまで持ちこたえよ! ・・・糞、厄介ごとか。通信士、後は君の仕事だ。私は仕事に戻る」

「りょ、了解しました・・・・・・確かに厄介ごとだよ畜生、昨日まで平穏無事だったってのに・・・」

管制官が愚痴を言っている間も事態は進み、この30秒後にスクランブル発進したコアファイター3機はミデア輸送機とそれを襲撃しているドップ3機を目視した。

「こちらコアファイター隊、目標はミデア輸送機5機とそれを攻撃しているドップ3機。ミデアはどれも機体各所に被弾している模様。内1機は黒煙を吐いている、早急に着陸させないと危険だ」

が、次の瞬間飛行していたミデア輸送機1機が突然爆発し、空に盛大に黒い華を咲かせた。と同時に襲撃していたドップ3機は踵を返し撤退を開始した。

「ミデア1機が撃墜された! 我々はどうすればいい、ドップを追うのかミデアを護衛すればいいのか!?」

目の前で友軍と思しきミデアが撃墜されたことで、コアファイター隊は管制塔へ指示を仰いだ。
だが、彼らはミデア爆散の派手さのせいで、重要な物を見逃していた。・・・その爆発したミデアの機首から細いコードが飛行を続けているミデアのコンテナに伸びていた事に。

「コアファイター隊へ、追撃は許可できない。ミデアの護衛を行え。なお、ミデアの動向を警戒せよ。もし不審な点を発見したら鹵獲機と判断し、ただちに撃墜せよとの命令だ」

「・・・了解した。だが外から見る限り弾痕は本物です。鹵獲機ではないと思われますが」

「念のためだ。後ミノフスキー粒子の高い空域は抜けたのでこれよりこちらはミデアに通信を試みる。以上だ」



「接近中のミデアに告ぐ、こちらはトリントン基地管制塔。貴隊の所属と飛行目的と目的地、それに被害状況を知らせよ」

その通信がミデアのコックピットに届いたとき、操縦士と副操縦士は互いに頷きあい通信を入れた。

「こちらはジャブロー直属の諜報部所属の輸送隊、コールサインはビッグマンだ。飛行目的地はアフリカ東部で、そこに特殊部隊を展開させゲリラ戦と情報収集をするのが目的だ。なお編隊編成はミデア輸送機が8機とミデアを改造した護衛のガンシップが3機・・・ガンシップは全機撃墜され、輸送機も4機が落とされた! 生き残っている我々の機体も損傷が激しく飛行続行は難しい!」

「こちら管制塔、了解した。ビッグマンへ、平地への着陸は可能か?」

「こちらビッグマン、機体が無事ならばともかく今は損傷が激しく平地への着陸は危険すぎる! それに燃料も残り僅か、着陸許可を求める」

「・・・わかった、トリントン基地の滑走路への着陸を許可する。それと、積荷は何だって?」

「着陸許可に感謝する。積荷はアフリカに展開予定の特殊部隊だ。残っている4機には鹵獲ザク5機、量産型ガンタンクの改造機が3機、指揮通信用のホバートラック1両、作業用のミドルモビルスーツ3機と、それを改造し警備用に仕立てた機体を3機搭載している。他にも補給物資や61式を載せていたのだが、あいにく撃墜されちまった。・・・後で通信借りてもいいか? 補給物資とそれを運搬するミデアの手配を上に要求したい。現状の物資量では当初の目的だったゲリラ戦の遂行は不可能に近いからな」

「ふむ・・・了解した。可能ならば補給物資が届くまで我が基地の防衛を手伝ってもらえるか? 最近この方面でもジオンの活動が活発でな」

「それくらいならお安い御用だ。数日は滞在する事になるだろうから、その間防衛の手伝いは任されよう。ただ機体の保守部品の融通は頼むよ。それと着陸後、搭載しているモビルスーツを外に展開するがいいか?」

「了解した、まぁいいだろう・・・よし、順次着陸態勢に入ってくれ」

「了解・・・損傷の少ない機から着陸させる。1番機、8番機、3番機、6番機の順で行く」

そこまで言って管制塔との通信を切った操縦士は眼前のトリントン基地に目を向ける。そこには万が一に備えたガンキャノン3機が滑走路脇に消防車と救急車と共に待機していた。

「・・・上から見た限り、ガンキャノン1個小隊の他にはガンタンクが多数か。戦闘車両は格納庫内か?」

「航空戦力も先程の2個戦闘機小隊を除けば輸送機が少数ですね」

「とりあえずこの程度ならば問題は無いか」

「そうですね、どうやらうまくいったみたいです」

「時間は・・・丁度いいな。各機へ、パターン3に沿って行動せよ・・・・・・よし、着陸成功。他の機体は?」

「・・・・・・どうやら無事着陸できたようです。4機とも無事です」

「よ~し、各機へ。荷物を外に出せ。量産型ガンタンクを先にな」

そして少し間をおいて、8番機から3機のモビルスーツ・・・量産型ガンタンクが展開した。が、それは連邦軍の機体とは少し違っていた。

「こちら管制塔、ビッグマンへ。量産型ガンタンクを確認したが、若干機体が違うようだが?」

「それはそうだろう。ジオン側の砲弾を使用できるよう改修された機体だからな」

「ジオンの弾丸を? ・・・そうか、敵の砲弾を奪ってゲリラ戦を続ける為か。えらく気合入っているな」

「まぁそんなとこだ。続けて他の機体からもモビルスーツを出す。しかしここの警備はガンキャノンだけか? ジオンがきたらどうするんだ?」

「まさか。他にガンタンクが3個小隊いる。つまり1個中隊規模のモビルスーツがこの基地には駐留しているんだ。ジオンの奴らが来ても時間は稼げるし、この近くにチャールビル基地もあるから増援も期待でき・・・ん? なんだ? ・・・な!? それは本当か?」

管制塔で何か通信が届いたらしく、一気に喧騒が激しくなる。

「おい、どうした? まさかジオンが攻めてきたって言わないよな?」

「・・・そのまさかだ。オーストラリア戦線の全域で攻勢が始まったらしい。君達をこの基地に迎える事ができて幸運だったな。早速だが君達の運んできた特殊部隊、基地の防衛についてくれないか?」

その言葉ににやりと笑うミデアの乗組員。

「ああ、安心しろ。こちらは既に作戦行動についている、フル装備のモビルスーツ隊が展開完了したところだ」

そう言いつつ外を見ると、量産型ガンタンクもどき3機の他に砂漠迷彩を施されたザクJ型が5機、外に展開していた。ザクJ型は手にMMP-80 90mmマシンガンと腰にシュツルムファウスト3発、脚部に3連装ミサイルポッドを装備しており、肩に狼の紋様をつけていた。

「狼の部隊章? どこかで見たような・・・!?」

だが次の瞬間、5機のザクと3機の量産型ガンタンクもどきの外装の一部が突然爆発。剥がれ落ちた外装の下にはジオンマークとVFの戦乙女のマークが描かれていた。

「おい、今の爆発は何だ、何があっt・・・ジオンマーク、だと?! て、敵襲!! ・・・お、思い出した、ブラックリストに乗ってた特殊部隊、フェンリr」

管制塔の通信はそこで途切れた。なぜなら、ザクの90mmマシンガンで管制塔が蜂の巣にされたからだ。それだけではない。基地の対空施設や航空機格納庫にシュツルムファウストを他のザクが叩き込み、滑走路脇にて警戒待機していた3機のガンキャノンは量産型ガンタンクもどきの水平射撃の前に倒れ、基地の通信用アンテナやレーダーサイトも破壊された。



「・・・作戦とはいえ、こういう騙し討ちってどうかと思うわ」

「シャルロッテ、それは言わない約束だろう」

「ですが、自分達が特殊部隊である以上このような偽装は仕方がないと、自分は判断しますが・・・」

「あ、スワガー曹長。気分的な問題なもので・・・」

「理性では分かるけど感情では、ってやつですよ曹長」

「安心しろ三人とも、連邦も似たような事をしてるんだからおあいこだ」

「それに交戦前に所属を明らかにしたから大丈夫だ。そうですよね隊長」

「・・・まぁ、グレーゾーンだが国際法上問題無い筈だ。それよりも各機、応援が来るまでに制圧するぞ」

そう、この5機のザクは特殊部隊『闇夜のフェンリル隊』のザクだった。そして量産型ガンタンクもどきの方からフェンリル隊に通信が入った。

「フェンリル隊へ、こっちは予定通り通信アンテナとレーダーサイトを破壊した。予定通り残敵掃討に移るので露払いを頼む」

「ケン少尉へ、了解した。・・・そのガンタンクはどんな調子ですかな?」

「中々いい機体ですよゲラート少佐。外見こそ連邦の量産型ガンタンクですが、操縦系や武装などをこっち側に仕様変更したおかげで性能はこちらの方が上です。まぁ接近戦になった時はそちらを頼らせていただきますが・・・敵ガンタンク更に1機撃破!」

「了解した。こちらも部下がガンタンクを破壊したようです。主力が来るまで防衛戦・・・篭城することになりますが、頼りにしてます」

「フェンリル隊の司令にそう言ってもらえるとは嬉しいですね。引き続き警戒を行います、では・・・」

「・・・しかし、随分あっけない。内側から崩されるとこうも脆いとはな。本当にここは核貯蔵施設なのか?」

そうゲラート少佐は呟いた。そしてその数分後、トリントン基地は防衛部隊と主要施設を破壊されVFの制圧下となった。とても核兵器貯蔵庫としての役割を持つ基地とは思えないほどの、あっけない幕切れだった。

とはいえ、それまでに行われた根回しは相当なものだった。この作戦は現代版トロイの木馬というべき代物で、鹵獲したミデア輸送機で連邦軍に偽装し、基地内部から基地を制圧すると言うものだった。その為に作戦に使うミデア輸送機にたいし、本当にドップを使って銃撃し、銃痕をつけたのだ。史実でもサイクロプス隊が偽装輸送船に死体を乗せ、それを外から撃ち抜いて戦死したように見せるという手法を使ったが、それと同じ手口である。なお、当然ながら銃弾で損傷した内部の機器は補修がされているが、それはパッと見で機内からの応急処置と見えるように施されていた。これはタイムスケジュールが狂った場合、基地で修理の為に機体を見られても不自然ではないように施された処理で、更にモビルスーツの国籍表示も基地に降り立たず平地に降りるように指示された際に連邦を欺く為の偽装の一つだった。
だが、これよりも手の込んでいるのは、爆薬を積んだミデアを用意し、基地に接近した際に来るであろう連邦軍の航空機の目の前で自爆させ、あたかも襲撃しているドップの攻撃で撃墜されたかのように演じた点だろう。

そしてそれとは別に、モビルスーツも特殊といえた。今回投入されたザクJ型は連邦軍でも鹵獲部隊が編成されているので不思議ではないが、量産型ガンタンクもどきの方はジオンに該当する機体は存在しない。ならどうやって機体を用意したのか?

答えは連邦軍が鹵獲部隊を運用していたように、ジオンとVFも連邦軍の機体を鹵獲して使っていたからだ。事実少なくない連邦軍の兵器が開戦以来鹵獲されており、輸送中に船舶や輸送機ごと鹵獲された例も多い。宇宙空間だと撃破された輸送船から回収されたりするのも珍しくは無かった。
そしてこの量産型ガンタンクも、元はといえば前線に輸送中だった輸送船をVFの潜水艦隊が拿捕したおかげで手に入った代物だった。
このように拿捕された機体は徹底的に研究され、少数の機体が大規模な改修を受け実戦配備された。
そしてこの作戦に投入された量産型ガンタンクは操縦系統から兵装まで全てを改修した、ある意味ジオン・VF版ガンタンクの試作機といえる機体となっていた。
特に連邦版量産型ガンタンクとの大きな変更点としては、

1:操縦席を胴体内部に変更(頭部は外見は変わないが中身は多数の精密観測機器にし、有効射程距離を伸ばす事に成功)
2:肩の120mmキャノン砲をザクキャノン等で運用されている180mm砲に変更
3:腕部40mmホップミサイルを75mmガトリング砲に変更

この3点が挙げられる。
なお外人部隊が今回の作戦で使用している機体の装甲は元となった機体同様にルナチタニウム合金だったが、これとは別に量産型ガンタンクを再設計し防衛戦力として量産が決定された機体では装甲にも手が加えられ、ルナチタニウム合金から超硬スチール合金に変更し生産性の向上とコストの削減を図っており、その代わり胴体コックピット周りの装甲を重点的に厚くする事でパイロットの生存率を高めていた。
そしてこの改良成功によって、新たにRX-75RZ又はMA-75 鹵獲改良型ガンタンクと命名され北米及びオーストラリア戦線等の防衛部隊に配備されることが決定されており、派生型も180mm砲から135mmレールガンに変更した防空特化型やビーム砲搭載型といった機体が計画されていた。

そして今回使用された機体はその鹵獲機を改修した機体で、実戦テストの意味合いも兼ねていた。少なくとも本家量産型ガンタンクよりも攻撃力では上なのは間違いなく、防御力も向上していた。そしてそれを操るのは開戦以来戦闘を行ってきた外人部隊。

・・・だが、当然ながら3個小隊にも満たない部隊では基地の維持は難しい。そしてトリントン基地が陥落した事実は既に連邦軍に知れ渡っていた。







「トリントン基地が制圧された!?」

「はい、友軍に偽装した敵の特殊部隊によって陥落した模様です」

「・・・・・・今すぐ動ける部隊は?」

「コーバーに展開させたヘリ部隊、チャールビル基地のヘヴィ・フォーク級1隻とその護衛に同基地の鹵獲ザクから編成された2個小隊、空挺装備の陸戦型ジム1個小隊とその護衛のフライマンタ2個小隊が限度ですね。それ以上チャールビル基地の戦力は動かせません。動かしたらチャールビル基地そのものが落ちかねませんので」

「ならば戦闘ヘリと空挺部隊を先行させ、その後に陸上戦艦を突入させろ。・・・いざとなれば証拠隠滅を行え」

「!? それは・・・・・・」

「トリントン基地は旧世紀の原子力発電所から出た放射性物質の貯蔵施設で、ジオンによってそれらがダーティボムとして使われるのを阻止する為に奪還作戦を行った。だが運悪く放たれた砲弾が敵モビルスーツの核融合炉に直撃し大爆発、更にそれがトリントン基地に集積されていた『特殊』な燃料気化爆弾の誘爆を引き起こし、同基地に集積されていた放射能物質が拡散、周囲は放射能によって汚染された・・・いいね?」

「・・・了解しました、ヘヴィ・フォークの車長にそのように命じておきます」







トリントン基地 貯蔵施設

とある施設の前に人だかりがあった。そしてその周囲にはミドルモビルスーツであるドラケンEが3機と、その改造型が3機、警戒に当たっていた。
このドラケンEは開発元であるサイド6以外にもグラナダなどで採用されており、作業用の他に市街地などでの歩兵支援用、または警備用として幅広く使われていた。この機体もその1種でドラケンS型と呼称され、右腕を12.7mm3連装バルカン砲に、左腕を30mm機関砲に換装し、ビームサーベルと背部の短距離ミサイルを外しそれらの弾薬庫にした制圧兵器であった。当然モビルスーツの相手はできないが、遮蔽物に隠れた歩兵や装甲車両なら十分すぎるほどの戦力だった。事実、反撃を試みたトリントン基地の歩兵部隊も、この機体の集中砲火で遮蔽物を木っ端微塵に砕かれ少なくない戦力を損失し、遂には降伏させた程だ。
そんな部隊に警備されている人だかりの中に、外人部隊の司令であるダグラス・ローデン大佐の姿があった。

「・・・ダグラス大佐、プロテクトの解除に成功しました」

「ご苦労、引き続き作業を行ってくれ・・・しかしこんなものがここにあるとはな」

そう呟くダグラス大佐の視線の先には、とある表示がされていた。それはこの貯蔵施設がなんであるかを雄弁に物語っていた。その表示は黄色く、こう書かれていた。

『 ☢ Caution!! ☢ Caution!! ☢ 』

言わずもがな、核兵器貯蔵庫であった。だがそのセキュリティはかなり脆かった。なんせ捕虜にしたシステム管理者の女性のイニシャルをパスワードにしていたくらいだ。この事実を知ったとき、システム破りを行っていた作業員とそれを見ていたダグラス大佐はあきれ果て、捕虜となっているその女性を白い目で見たくらいだ。当然、その女性兵は同僚からも白い目で見られる事になったが、捕虜となった者の中には同じく顔を背けている者も少なからずいたので、重要施設のくせにかなり管理体制が杜撰だったことが浮き彫りになった。まぁ奪取する側にとっては都合が良かったのだが・・・

そうこうしているうちに、コンピューターを操作していた兵が歓声を上げた。

「やりました、システムの掌握に成功しました! これよりゲートの解放を行います!」

「良くやった。作業員は急いで行動しろ」

そしてゆっくりとドームのゲートが開いていく。最初は歓声をあげながら中を覗き込む者もいたが、中を見た者は例外なくそのあまりの光景に息を呑んだ。
・・・事前情報では『数発』の核が保管されているとのことだった。だが開け放たれた貯蔵庫の中にはそれとは異なり、『数十発』もの核兵器が保管されていたからだ。そしてその多くは戦術核だったが、中にはあの0083で有名なMk-82型核弾頭の姿もあった。

「・・・なんて数だ」

「いや、我々ジオンもグラナダに多数の核を貯蔵している事を考えれば不思議ではない数だ。核兵器は爆破処理できるような代物ではない。故に処理待ちの弾頭が無数にあってもおかしくは無い。それよりもすぐに作業を開始しろ、もうすぐ時間だぞ」

「了解しました。ドラケンEは直ちに作業を開始しろ!」

そして作業員が行動を開始しようとした時、警戒に当たっていた外人部隊から緊急連絡が届いた。

「こちら外人部隊、連邦軍の部隊が接近中だ。交戦を開始する」



「隊長、北西から接近中の機体は重戦闘ヘリとファンファンです。チャールビル基地からの敵地上部隊は増援のドム部隊が阻止するらしいですから、こちらは敵航空部隊に専念してください」

「了解したユウキ伍長。ガースキー、ジェイク、アウトレンジで叩くぞ!」

「了解隊長。しかしモビルスーツもどきで戦闘とは・・・ジェイクは楽しそうだな?」

「まぁ新必殺技のジェイク・フルバースト・アタックが試せるいい機会だからな」

「ジェイク・・・まぁいい。フェンリル隊もある程度まで接近されたら攻撃を行う予定のはずだ、それまでに数を減らすぞ。各機全兵装使用自由、攻撃開始!」

「「了解!」」

その命令と同時に3機の鹵獲改良型ガンタンクの180mmキャノン砲が火を噴いた。元々この180mmキャノンは対空目的にザクキャノンに搭載されていたものだ。その性能は折り紙つきで、それが2門同時に火を噴いたのだからたまらない。そして放たれた砲弾は対空砲弾、時限信管で一定時間後に起爆し破片を撒き散らす砲弾だった。
結果的にこの初撃で1機の重戦闘ヘリと2機のファンファンを撃墜、3機の重戦闘ヘリと1機のファンファンを損傷させ不時着させる事に成功した。が、それでもヘリの数は残り20機。回避機動が絶望的な鹵獲改良型ガンタンクにとって、それらの機体の持つミサイルは十分脅威だった。そして何度目かの砲撃を鹵獲改良型ガンタンクが行った際に、新たな脅威に彼らは気が付いた。そう、チャールビル基地を発進した空挺部隊だった。

「隊長、新たな目標を確認しました! これは・・・フライマンタとミデア輸送機・・・空挺部隊と思われます! フライマンタは大型爆弾らしきものを搭載している模様!」

「なんだと!? 各機、フライマンタとミデアを最優先で落とせ! フェンリル隊へ、ヘリの相手をしてもらっていいか?」

「こちらフェンリル隊司令のゲラートだ。今命令したのでヘリは気にせずそちらはミデアを頼む」

「協力に感謝します。よし、ミデアを照準・・・撃て!」

だが、ミデアを狙った事がレーザー照準で気が付かれたのか2機のミデアは撃墜される直前に3機のモビルスーツを投下した。その内1機はミデアの爆発に巻き込まれそのまま墜落したが、残り2機はスラスターを吹かしながら空中で姿勢を変えながら降下した。それだけでこの2機がベテランであることが伺える。惜しむらくはトリントン基地から少し離れた所に降下したことだろう。

「隊長、機体形状からして敵モビルスーツは陸戦型ジムと思われます」

「こちらも確認した。武装はマシンガンとバズーカだけのようだが、動きがいい。だがそれよりも残りのフライマンタを落とすぞ」

実際、フライマンタの爆弾搭載量は油断ならない。1t爆弾の直撃を受ければいかにモビルスーツといえどただではすまない。いや、至近弾ですら重大な損傷を与える可能性があった。しかもガンタンクならばなおさらだ。改修した結果頭部には精密砲撃に必要な観測機器が集中しているからだ。もちろんサブシステムは搭載しているが、精度は比べ物にならないくらい低下する。
よってこの場合、優先度はフライマンタ>戦闘ヘリ>降下したジムとなる。その事を理解している外人部隊のガンタンクは両腕の75mmガトリング砲も対空砲火に使用した。つまり6機のフライマンタは6門の180mmキャノン砲と6基の75mmガトリング砲によって集中攻撃を受けたのだ。結果は言わずとも分かるとおり、6機のフライマンタは瞬く間に叩き落された。だが撃墜される寸前にフライマンタはミサイルを発射しており、それと同時にフェンリル隊が相手をしている戦闘ヘリ部隊も同じくミサイルを発射した。その内数発は撃墜したものの十数発が着弾、ガンタンクのセンサーをかく乱した。そしてその隙に2機の陸戦型ジムはスラスター全開で基地への侵入を試みた。
これが普通の部隊ならばこの試みは成功していただろう。だが彼らが相手にしたのはVFの誇る特殊部隊、しかも2部隊であった。土煙が収まった後に彼らが見た最後の光景は、こちらに銃口を向けた3機のガンタンクの姿だった。

「今のミサイルの雨はヒヤッとしたが、相手が悪かったな。ユウキ伍長、他に敵影は?」

「いえ、周囲に敵影はありません。ですが先程のミサイル攻撃によってガースキー機が被弾、キャタピラに直撃を受け移動不可能です。友軍の損傷はフェンリル隊のザク1機が小破、もう1機が中破した程度です」

「・・・ならばしばらくは仕事がないと考えていいか。各機へ、増援を載せたガウが到着するまでこのまま警戒態勢をとれ」

だが、増援を載せたガウがトリントン基地へ到着するのは予定されていた時刻を大幅に過ぎてからであった。



[2193] 34話後半 オーストラリア戦役2-2
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2010/04/01 01:46
ウォルゲットとウィンゲーディーの中間にあたる荒野を1隻の陸上戦艦が南に移動していた。チャールビル基地を出発したヘヴィ・フォーク級陸上戦艦である。そして護衛の鹵獲ザク2個小隊が周囲を囲み警戒しつつ前進していた。その艦橋で車長(陸上戦艦は連邦陸軍所属なので、軍艦でいうところの艦長)でもありこの独立部隊を率いるギート大佐が不機嫌そうに呟いた。

「・・・気に喰わんな」

「車長、部下に伝染しますのでやめてください」

「・・・だが、色々と気に喰わんのは事実だ。ああ気に喰わん」

なぜ突然ジオンが攻勢に出てきたのか。なぜ後手後手に回ってしまったのか。なぜ戦線を縮小して戦力を集中しないのか。なぜこういう事態を想定し核を移動させなかったのか。なぜこの艦の護衛が鹵獲ザク2個小隊しかいないのか。なぜ自分が動かなければならないのか・・・そのような理由が渦巻き、車長は気に喰わないと辺りに愚痴をもらしていたのだ。

「しかしトリントン基地を制圧するとは・・・どこから情報が漏れたんでしょうか? あれは第1級の機密情報だったはずです」

「どうせ政府内部の日和見主義者か軍内部の敗北主義者、そいつらがわが身可愛さに情報を売ったんだろう。売国奴めが・・・」

「車長、断言されるのはどうかと思いますが・・・」

「まぁどちらでもいい。どうせトリントン基地に貯蔵している核はごく一部だ。他の貯蔵施設の警備を見直す切欠になると前向きに考えればよい」

そう一人で自己完結したギート大佐を尻目に、副官は人知れずため息を付く。願わくば何もトラブル無く任務を終えれますようにと思いながら。
が、そんな思いはすぐに打ち消される事となる。

「敵機高速で接近! これは・・・ドムです! ドムが1個小隊接近中!」

その報告に艦橋は一気にあわただしくなった。というのも、陸上戦艦にとってドムは死神と言える存在になっていたからだ。その運動性から、主砲を撃っても回避され機関砲を撃っても数発命中した程度では致命傷にならないのがその理由だ。

だがそんな喧騒の中でもギート大佐は落ち着いていた。

「落ち着きたまえ諸君、慌てる事は無い。例の戦法を取るぞ、護衛にもそう伝えたまえ」





ヘヴィ・フォークに攻撃を仕掛けたのはトリントン基地の援護の為に突出したドム1個小隊だった。

「よ~し、目標を発見した。あのデカブツを仕留めるぞ! ・・・だが、その前に連邦に使われている不憫なザクを始末する。2番機は俺に続け、3番機は戦艦の対空機関砲を破壊しろ」

「「了解!」」

急激に接近するドムを止めようと鹵獲ザクがヘヴィ・フォーク級の左右に展開し射撃を開始する。が、ドムを破壊できる240mmザクバズーカはドムの運動性で容易く回避され、120mmマシンガンは何発か命中してもドムの装甲で致命傷にはならなかった。当然連続で当たり続ければ撃破は可能だが、ドムのスピードはそれを不可能にしていた。2~3発命中しても、滅多に致命傷にはならないのがドムの売りだからだ。そして、命中すればドムといえど一撃で破壊される陸上戦艦の主砲は沈黙を保っていた。

本来ドムならばビーム兵器の搭載が可能だったが、小隊には不運な事に・・・逆に言えば連邦側には幸運な事に、この小隊は対空及び対モビルスーツ戦を意識した武装であり、隊長機がショットガンとハンドグレネード、2番機が90mmマシンガン2丁、3番機がジャイアントバズーカといった装備だった。幾らビーム兵器が使えるといえど、地上ではビームよりも実体弾の方が有利な時もあり、更に言えばビーム兵器の配備が間に合っていないというお寒い事情もあった。
そして遠距離からバズーカを撃っても、宇宙ならばともかく地上では風の影響や迎撃によって命中しない可能性が高いと言う事を熟練兵達は知っていた。

故に、直接照準でバズーカを撃つのはある程度接近してからというのが彼らの共通認識だった。
そしてヘヴィ・フォーク級の対空機関砲の射程に入るかどうかという距離までドムが接近した時、ヘヴィ・フォーク級の3連装砲3基がドムの方向に砲身を向け、次の瞬間火を噴いた。だがその光景を見てもドムのパイロット達は事態を楽観視していた。

「馬鹿め! 戦艦の主砲がそうそう当たるものか!」

そう、戦艦の主砲はそうそう当たる物ではない。しかも今の射撃は砲身がこちらを向いてすぐに射撃した。つまり精密射撃ではないということだった。そのような砲撃ならば、発砲を確認してから横滑りをしても十分回避できる。彼らはそう判断した。そしてその認識を持っていたからこそ、接近するまでバズーカを撃つのを待っていたのだ。
・・・が、数秒後に彼らは身をもってその認識が違っている事を知る事になる。彼ら自身の死を持って。



学ばない事は罪である。人である以上失敗するのはあって当然だが、同じ過ちを何度も繰り返すのは許されない事である。戦争も同様、いやそれ以上に学ぶ事は大事な事である。
開戦以来、ジオンと戦ってきた連邦軍は陸上戦艦の運用に悩んでいた。陸上だけでなく宇宙戦艦も、遠距離攻撃には強いが懐に接近されたら終わりなのが泣き所だった。が、陸上戦艦と宇宙戦艦には大きな違いがあった。その一つが、主砲が実体弾かビーム砲かの差だった。たしかに実体弾よりもビーム砲の方が威力が高いのは事実だ。が、実体弾ではビーム砲にできない曲射や多数の弾種があった。
そして、連邦軍に苦渋を舐めさせられている兵器の一つに、VFの運用しているヒルドルブが上げられる。そのヒルドルブと交戦し、なおかつ生き残ったセモベンテ隊隊長のフェデリコ・ツァリアーノ中佐からの報告で、鹵獲ザクが対空散弾で撃破された事に連邦軍上層部は注目した。

陸上戦艦と対空散弾の組み合わせはモビルスーツ接近時に役に立つのではないか?

この考えの元、対空散弾の開発が連邦でも開始された。もちろん対空散弾といった弾種はそれまで連邦軍には存在していなかったが、生産は不可能ではなかった。少々開発に手間取ったものの、ある程度量産され陸上戦艦に一定の割合で搭載されるようになったのである。そしてこの瞬間、初めて連邦製対空散弾がジオンに牙を向いた瞬間でもあった。
いかに重装甲で知られるドムといえども、陸上戦艦から放たれた大口径砲弾の対空散弾は洒落にならない。運が悪い機体では装甲を貫通され、またある機体ではバランスを崩し転倒、無事だった機体もセンサー類等に重大な損傷を受け戦闘続行は不可能な状態だった。
そしてなんとか機能していたドムも護衛についていた鹵獲ザクから集中砲火を受け、完膚なきまでに破壊された。

「対空散弾、使えますな」

「うむ・・・だがこんなところまで敵が浸透しているようでは、これ以上の前進は危険だな。本艦はこれよりトリントン基地の奪還を諦め、艦砲射撃による殲滅戦に移る。目標はトリントン基地の重要物資保管施設だ。射程に入り次第徹甲弾を3斉射、榴弾を2斉射し、その後に特殊砲弾を放つ!」

「特殊砲弾・・・あの小型化した気化爆弾をですか? ですが車長、あれは9発しか搭載していない虎の子では?」

「トリントン基地の件は上からの命令だ。それを効率よく行うにはあの砲弾がうってつけだ。つべこべ言わず命令を復唱したまえ」

「・・・は、了解しました。これよりトリントン基地に対し、機密保持の為砲撃を行います!」

が、その命令が実行に移される事は無かった。なぜなら・・・

「け、警告! レーダーに敵影を捕捉、ガウ攻撃空母です! 周囲に小型機・・・ドップ戦闘機の機影も確認しました!」

「なんだと、なぜ探知が遅れた!」

「申し訳ありません、低空を飛行しているせいで探知が遅れました。まもなく視界に入ります、本艦正面です!」

「なに!? ガウが低空飛行・・・車長、敵は搭載部隊を降ろすつもりと推測されます!」

「うむ、弾種を対空砲弾に切り替えろ。持て成しの準備だ!」





「先程のは・・・タイプスリー、対空砲弾か。あれだけ大口径ならば威力も馬鹿にはならん。ドムが敗れたのも理解できるな」

「事はそれだけに収まらないぞシャア。これまでは陸上戦艦の主砲による直接射撃は早々当たる物ではないというのが常識だったが、その前提が覆されたんだ。これからは陸上戦艦の艦砲も、モビルスーツにとってかなり危険な事が実証されたわけだ」

「だがガルマ、対空砲弾の対抗手段は幾つもある。敵の射線軸上に余裕を持って乗らなければ滅多に当たらんさ」

「それもそうだが・・・まぁいい、続きは帰ってきてから議論しよう。シャア、ラル、ララァ、三人とも頼むぞ。ドップ隊は敵地上部隊を無視し、敵機を警戒するんだ。ドダイⅡは上空にて戦闘が終わるまで待機だ」

その言葉と共にガウのハッチが開き、三人の乗った機体は空へ飛び出していった。そしてモビルスーツを降下させたガウは、ヘヴィ・フォーク級に牽制のメガ粒子砲を放つと同時に一気に急上昇に転じ、機体各部からチャフやフレアをばら撒きながら雲の中に隠れていった。そしてガウから降下した機体は連邦軍が初めて目にする機体だった。

「さて、エルトランが言っていた次世代機の力、絶賛するほどの性能か実戦で確かめさせてもらおう!」

そう、ガルマのガウから降下した3機は型番にYがつく試作機だった。

YMS-18 プロトケンプファー

それが降下した3機の機体の正体だった。従来機を上回る機動性と運動性をかね揃えた、ツィマッド社の誇る最新鋭機である。
だが、降下した3機は型番こそ同じYMS-18であるが、実際にはかなり差異があった。事実、この3機にはYMS-18の型番の後ろに違う記号が振り分けられていた。

緑色に塗装されてスカートアーマーが装備されており、史実のYMS-18そのものであるのがララァ少尉の搭乗するA型。

蒼く塗装され、一体型装甲の採用やスカートアーマーを排除することで機体の軽量化を進めた、史実のケンプファーに相当する機体がランバ・ラル大尉の搭乗するB型。

そして赤く塗装され、外見はB型に近いが初めてムーバブルフレームを採用した機体が、シャア大佐の搭乗するC型。

正直、このYMS-18シリーズはガンダムと同じく、多数の新機軸(マグネット・コーティングや全天周囲モニター、リニアシートに教育型コンピューター等)を盛り込んだ実験機だった。事実、この3機以前にA型は4機、B型は3機、C型は6機製造されてそれぞれ各種耐久実験を行っていた。つまりララァ少尉の乗るA型は5号機、ランバ・ラル大尉の乗るB型は4号機、シャア大佐の乗るC型は7号機であった。

なぜA型よりもC型の方が数が多いのか、それは新技術であるムーバブルフレームに理由があった。あくまでB型がA型の改良型で、しかもA型がある程度従来の技術を持って作られているのに対し、C型は基礎設計から違うからだ。しかも未成熟な技術を持って製造されたC型は、最初の1号機から4号機までが事故で損傷したり損失していたのだ。ムーバブルフレーム単体の実験機は既にツィマッド社が極秘で幾つか開発し、それによって少なくない新技術の蓄積を得ていた。だが、これに強襲用というコンセプトが加わった為、それまでの実験で出なかった様々な問題(機体強度や関節軸の摩耗等)が出たからだ。
そしてある程度完成したC型が5号機からであり、それを改良し実用に耐ええるようにしたのが6号機、それを更に改良したのが今回シャア大佐の登場する7号機だった。実際には次世代(第2世代)機ではなく、アレックス(ムーバブルフレームではない)やガンダムMk-Ⅱ(装甲がチタン合金セラミック複合材)のように1.5世代機に相当する機体だったが、そこまで持っていく事に成功した技術者には頭が上がらない程だ。

・・・なおこの時の開発秘話で、C型の試作4号機までもが事故で損傷又は損失した為に開発費が高騰、当然ながら機体損失等で発生した金額は洒落にならず、技術がまだ追いついていないのでC型の開発は中断すべしという意見が出て、一時期C型は開発中止に追い込まれかけていた。それを社長がごり押しし結果的に5号機である程度結果を出せたから良かったものの、もし5号機までもが事故を起こしていたらC型の開発は凍結されていただろうとされている。

ちなみにそれぞれの武装はA型とB型が手にポンプアクション方式のショットガンを持ち、ジャイアントバズーカ2基と予備のショットガンを背中に、腰部にシュツルムファウストを2基持っていた。
それとは逆に、シャア大佐の乗るC型は先の2機よりも武装は少なく、手に持つビームライフルと腰後部に装備した90mmマシンガンだけだった。
本来ならC型もA型やB型に匹敵、又はそれ以上の武装を装備する予定だったのだが、ここである問題が浮上したのだ。それはC型がA型やB型のように重装備することで、その重量で間接等に影響が出た為に急遽重量軽減を図ったからだ。つまり早すぎた技術、未成熟なムーバブルフレームが原因であり、根本的な解決にはまだ時間が掛かるのが現状だった。

ガウから降下したプロトケンプファー3機は地上に着地した直後にスラスターを全快にし、地表スレスレを前傾姿勢で滑空した。

「シミュレーターとテストで何度か操縦したが、やはり従来機とは桁違いの運動性だな」

「ですな、まさか地表スレスレとはいえ滑空できるとは・・・従来のモビルスーツでは考えられない事です」

「ですが大佐、装甲は従来機並です。どう攻めますか?」

「ふっ・・・この場で一番脅威なのは陸上戦艦の主砲、ならばそれを使えなくすればいい。二人は右側のザクを始末してくれ」

そう言ってシャアの乗る赤いプロトケンプファーは一気に垂直上昇し、ビームライフルをヘヴィ・フォーク級に向け撃ち放った。
このビームライフルは既に量産されているエネルギーCAP内蔵型ではなく、エネルギーCAPを外付けにしたEパック方式のビームライフルだった。かつてホワイトベースを航行不能状態に陥らせたVFの誇る対艦部隊、蒼空の狙撃者と呼ばれるスカイキッド隊の運用していた試作型の狙撃用ビームライフル、それの問題点を解消した発展型である。一度に放つエネルギー量を少なくし射程と威力を犠牲にしたが、その結果Eパックの交換は3発撃って交換というレベルに低下し、5秒に1発の速度でビームを放つ事が可能となっていた。威力と射程も低下したとはいえ、それでも狙撃用ではない普通のライフルとしては十分なスペックだった。
機体の上昇が止まった瞬間に1発、引力に引かれ機体が降下し着地寸前にもう1発、あわせて2発のビームが放たれた。そして放たれたそれは初弾がヘヴィ・フォーク級の右側、そして2発目が中央の砲塔を破壊した。正直誘爆が起きなかったのが不思議なくらいだ。命中した砲塔は小規模な爆発を起こしており、使い物にならなくなったのは確実だった。

それと同時にランバ・ラル大尉とララァ少尉の機体は右側に展開していた鹵獲ザクに急激に接近した。当然鹵獲ザク側も迎撃するが、たった1個小隊ではエースパイロットが操るプロトケンプファーの前には無意味だった。攻撃をことごとく回避し、近距離からショットガンに装填されていた弾丸を全て叩き込んだ。流石にルナチタニウムでコーティングされた弾頭の前に、鹵獲ザク1個小隊はなす術も無く撃破された。

反撃とばかりにヘヴィ・フォーク級が左側の主砲を放つが、シャア達の3機は破壊された砲塔の方にスラスターを噴かして移動することで回避した。いかに対空散弾といえど、射線の死角にいる敵を破壊する事は不可能だった。
更にヘヴィ・フォーク級の受難は続いた。敵はシャア大佐の機体1機だけではないのだ。

「大佐、援護します!」

「キャスバル様、余り無茶をなされないでください!」

そう言って二人はシュツルムファウストを2発ずつ放ち、更にジャイアントバズーカを乱射した。乱射といってもかなり正確な速射で、ヘヴィ・フォーク級の対空火器をことごとく破壊していった。対空火器が必死に弾幕を張るが、3機のプロトケンプファーはモビルスーツとは思えないアクロバティックな機動で回避する。
3機から寄ってたかって右側の武装を全て破壊され、反撃手段が無くなったヘヴィ・フォーク級はその場で急旋回をする。武装の残っている左側を向け、攻撃しようと言うのだ。それと同時に残っていた鹵獲ザク1個小隊もヘヴィ・フォーク級を右側に出る形で前進した。

とはいえ、鹵獲ザク1個小隊の錬度はジオンやVFのパイロットから見れば余りにも未熟だった。ヘヴィ・フォーク級の影から出た瞬間に3機のプロトケンプファーから集中砲火を受け、あっという間に2機が撃破されたのだから。そして残る1機はシャア大佐の機体に不用意に接近しすぎ、プロトケンプファーのニースパイクでコックピットを蹴り潰されるというやられ方をしたほどだ。

だが彼らの犠牲は無駄ではなかった。鹵獲ザクが撃破されたその間にヘヴィ・フォーク級は旋回をある程度終え、辛うじて生き残っていた左側の主砲が再度シャアを狙い砲撃をしたのだから。
が、シャアは逆にヘヴィ・フォーク級の方へと全速で突進した。これには砲撃したヘヴィ・フォーク級の方が驚愕した。

「しょ、正気か! 自ら死ぬつもりなのか!?」

たしかに弾丸に向かって自ら接近するというのは自殺行為のように見える。が、ここで対空散弾の欠点が暴露された。
シャアを狙った対空散弾はシャアの機体を通り過ぎてから時限信管が炸裂、何も無い空間に散弾をばら撒く結果となったのだ。原因は信管が作動するするよりもはやくシャアが機体を前に出した為だった。

そしてシャアは腰後部の90mmマシンガンを左手に持ち、ヘヴィ・フォーク級の上甲板に着艦した。

「私に出会った運命を呪うがいい」

そう言ってシャアは機体正面に見えるヘヴィ・フォーク級の艦橋に、装填されていた1マガジン分の90mm弾を叩き込んだ。そして甲板を蹴りつけると同時にスラスターを噴かし離脱、トドメとばかりに残っていた左側の主砲にビームを叩き込んだ。これがトドメとなって、ヘヴィ・フォーク級は沈黙した。・・・というよりも、弾薬が誘爆しヘヴィ・フォーク級は跡形も無く吹き飛んだ。煙が晴れた後にそこに残っていたのは、十数メートルのクレーターだった。

そして攻撃を仕掛けたシャア大佐のプロトケンプファーC型は・・・中破していた。装甲には無数の傷が付き、頭部のツノは途中からへし折れ、膝を突いている姿は陸上戦艦を撃破した機体とはとても思えないほどだ。
なぜ攻撃した側なのにここまで損傷したのか? 原因は新型機特有のトラブル・・・いや、C型特有のトラブルと言った方がいいだろう。元々シャア大佐のC型7号機はムーバブルフレームのせいで不安定な部分が多い機体である。強襲作戦に投入可能なレベルに仕上がっているとはいえ、それも限度はある。そしてアクロバティックな機動を取ったりモビルスーツを蹴り飛ばしたりしたことで、一気にその負荷が脚部に集まり、肝心なところで脚部に損傷が発生したのだ。

「大佐、ご無事で!?」

「キャスバル様!」

「私は無事だが、脚部フレームに歪みが発生したようだ。そのせいで飛びのく距離が足りず、爆発の衝撃波に巻き込まれたようだ。爆発に巻き込まれたせいで、機体各部に多数の損傷が発生している・・・私もまだまだ未熟と言う事か」

「それよりも! キャスバル様の機体は3機の中で最も不安定な機体なのは、事前に分かっておられたはずです! このような事が起きる可能性があったからこそ、余り無茶をなされない様何度も何度も・・・」

「む、むぅ・・・ララァ、周囲に敵影は?」

「あ、キャスバル様! まだ話は終わっていませ・・・」

「いいえ、周囲に敵影は見当たりません・・・あ」

そうラルが説教をはじめたところで、上空で戦闘の様子を見ていたドダイⅡ3機がプロトケンプファーの周囲に着陸した。

「大佐、迎えがきました。今は時間が大切です、すぐにガウにもどりましょう」

「うむ、ララァの言うとおりだ。ラル、帰還するぞ」

「・・・わかりました。続きは戻ってからするとしましょう」

そして3機のプロトケンプファーはそれに乗り上空で旋回を続けるガウへと帰還し、ガウは本来の目的地であったトリントン基地へと進路を変えた。
なお、ガウに戻ったシャアがラルとハモンの二人から説教を受けるハメとなったのは割とどうでもいい話だった。







オーストラリア北部戦線

ヒューエンデンを基点に侵攻を開始したジオン軍だったが、その侵攻は進まず、逆にヒューエンデンが逆襲されるという事態に陥っていた。というのも、ヒューエンデンの後方に位置するクロンカリーという都市が、前線を迂回し潜入してきた連邦軍の特殊遊撃モビルスーツ小隊『ホワイト・ディンゴ』の奇襲によって制圧されたからだ。
そしてこのクロンカリー制圧という事実は北部戦線に計り知れない影響をもたらした。

なぜならクロンカリーは西部戦線にも影響を与えている交通の要所であり、特に制圧当時ここには前線への補給物資を満載したサムソンがいたからだ。
これらの補給部隊の護衛に当たっていた部隊はPVN.3/2 サウロペルタ軽機動車両6両、機関砲搭載型のPVN.44/1 ヴィーゼル水陸両用装輪偵察警戒車が9両という編成だった。
一見貧弱そうに見えるが、これでも補給部隊という後方部隊の部隊と考えると比較的充実した装備の護衛だった。特にサウロペルタはザクを破壊できる対モビルスーツミサイルや対空ミサイルを装備しており、それに加えクロンカリーの防衛部隊は旧ザクが4機、マゼラアタック6両に戦闘ヘリが3機といった陣容だった。特に旧ザクは何も改修のされていないノーマルな機体が2機いたが、それでも武装は90mmザクマシンガンを持っていた。そして残りの2機だが、腰部側面にハンドグレネードを3発携帯できるように改造されており、手持ち武装もポンプアクション式のショットガンという機体だった。
たしかにこれらの部隊を正面戦力として考えた場合、これらは余りにも貧弱だった。が、そもそも戦線の後方に位置する警備用の部隊と考えれば十分過ぎるレベルだった。だが、それは民兵やゲリラ勢力に対してという意味で、モビルスーツを有する正規軍の特殊部隊を相手にするには戦力が足らなかった。
当然ながら、ジオン側も後方撹乱の可能性を考え警戒は怠ってはいなかったが、部隊の連携という面から言えばホワイト・ディンゴの方が上手だった。
ホワイト・ディンゴは配備されたばかりのRGM-79 ジムをチェーンしセンサー系統を強化した機体が3機、そして装甲ホバートラックが1両の編成だったのだ。
クロンカリーにいたジオン軍にとって不幸な事は、ホワイト・ディンゴの方がセンサーが優秀で、更に連携に優れていた事だろう。
たしかに数ではジオン側の方が上回っていた。だが連携はほとんどとれなかった。なぜなら補給部隊が郊外に出たところをホワイト・ディンゴが奇襲、搭載している弾薬が誘爆してジオン側は混乱に陥り、次々と連携のとれたホワイト・ディンゴの攻撃によって各個撃破されていき、最終的にクロンカリーは連邦軍の手に落ちた。厳密に言えば駐屯戦力が壊滅しただけだが、それでも陥落したと言っても過言ではなかった。

だがここまではまだ良かった。ジオン側もこれらの想定はしており、万が一の際は北部戦線は攻勢を断念し防衛戦に移行する事があらかじめ決められていたからだ。これにしたがってクロンカリーが襲撃された時点で北部戦線はヒューエンデン及びタウンズビルを放棄、最終防衛ラインと定めていたカランバ・クロイドン・フォーサイス・ケアンズを結ぶルートに一斉に後退した。正直、戦略上の要地を2箇所も放棄するのは各方面から異論が出たが、更に大胆な案をオーストラリア方面軍は定めていた。これらの最終防衛ラインが破られ、本当に北部戦線が崩壊した時にはヨーク岬半島の港湾都市ウェイパまで撤退、そこから順次空路及び海路でカーペンタリア湾を横断し、西部戦線に合流するという案だ。この為、港湾都市であるウェイパには鹵獲した駆逐艦が警戒の為に沖合いに展開し、機雷を散布された際に処理を行うゴッグが3機配備されていた。もちろん他にも戦力(地雷散布用のMS-06H ザクマインレイヤーや狙撃用のMS-05L ザクI・スナイパータイプ)は展開していたが、あくまでこれらは保険の意味合いが高かった。
だが、真剣にジオン側は北部戦線の全面放棄を検討しなくてはならなくなった。なぜか?

理由は簡単だ。ヒューエンデンとタウンズビルの中間に位置するミルチェスターに展開していた防衛部隊が、モビルスーツを伴う連邦軍に突破されたからだ。しかも、ビッグトレーやヘヴィ・フォークとも違う、ビッグトレーの二倍という巨大な陸上戦艦を伴う部隊によって、防衛部隊として展開していたザク1個中隊は壊滅した。
そしてそれをなした陸上戦艦は北進を続け、タウンズビルに向かっていた。当然ジオン側も迎撃を出すが、そのことごとくが壊滅していた。そして今もプロトドム3機とグフ3機の部隊が突撃を敢行し、激しい砲火に晒されていた。

「おわ!? なんなんだあの戦艦は、いつから俺達の相手は宇宙戦艦になったんだ! う、うわあああぁぁぁぁ!?」

「ジャーキーがメガ粒子砲の直撃をくらった! ドム部隊は壊滅したぞ・・・ぐわ!?」

「カルパスがやられた!? 3連装砲が4基に連装ビーム砲が2基ってどんだけ火力主義なんだ!」

「対空機関砲も馬鹿みたいに多い! 主砲も対空砲弾を撃ってくる・・・鈍い陸上戦艦潰すだけの楽な任務じゃなかったのかよ!」

数分後、攻撃を仕掛けた6機は壊滅し、悠々と連邦軍は前進を続けた。
そう、この陸上戦艦こそ、連邦軍のV作戦反対派が建造したベヒーモス級陸上戦艦である。
外見は鋼○の咆哮に登場する超兵器、超巨大航空戦艦ムスペルヘイムにある程度(空母部分を後ろに延長)似ていた。そしてそれは、3連装砲塔を前後2基合計4基にマゼラン級戦艦の物を流用した2連装メガ粒子砲を前後1基合計2基装備する、いわば陸上航空戦艦である。当然防衛用の機関砲も多いし、艦載機が搭載可能と言う事は上空のエアカバーがあるということでもあった。事実、迎撃に出てきたジオン側のドップとドダイの編隊は、ベヒーモスから発進した艦載機型セイバーフィッシュによって迎撃され撃退されていた。
ちなみに本来空母とは可燃物の多い危険な代物だが、ベヒーモスは空母部分と戦艦部分を分離して配置する事でこのリスクを下げていた。
そしてこの陸上航空戦艦と共に前進している部隊も問題だった。

「エイガー少尉、前方に敵の防衛ラインを確認しました。モビルスーツも少数ですがいます」

「よし、サカキ軍曹の隊は右翼を砲撃しろ。制圧砲撃を加えながら前進する。偵察機が上空からレーザー通信でデータを逐一送ってくるからそれを確認して叩け!」

そう、ベヒーモスと行動を共にしているのは連邦軍内における屈指の砲術士官と言われ、軍首脳部での評価も高いエイガー少尉率いる実験部隊だ。
そして彼が率いる部隊も戦車や自走砲ではなく、ガンキャノン1機と量産型ガンタンク4機からなる部隊だった。
しかも砲術の専門家であるエイガー少尉の搭乗する機体はただのガンキャノンではなく、エイガー少尉が開発に関わっているRX-78-6 マドロックの開発データ収集の為に、脚部をホバーに変更したカスタム機だった。

多くの人がここで疑問に思ったことだろう。なぜこの時期にエイガー少尉がオーストラリアにいるのか?
答えは彼が主導しているマドロックに原因があった。連邦軍ではホバートラック等、多くのホバー車両が存在する。が、モビルスーツをホバー走行させるというのは経験が無かった。エイガー少尉にとって幸運だったのは、戦場で撃破されそのまま放棄されたドムを何機か連邦軍が確保し修繕、数機が稼動状態にあったことだろう。それによってモビルスーツのホバー走行のデータは得る事ができたが、そこに次の問題が発生した。
・・・ホバー走行しながら両肩に装備したキャノンを撃った時のデータである。こればかりは自前で収集するしかなく、ガンキャノンの脚部を手に入れたドムの脚部に変更した機体を急遽作成したのだ。
そして完成したホバー走行するガンキャノンを試験する事になり、戦線が落ち着いていたオーストラリア大陸に運び、ロングリーチから東へ100km程はなれた場所にキャンプを設け、ホバー走行しながらの砲撃における問題点の洗い出しを行っていたのだ。そしてテストも終了し、数日後には機材を持ってジャブローに戻るという時にジオン及びVFの一大攻勢が発動したのだ。

当初はチャールビル基地に移動し指示を仰ごうとしたのだが、その時に偶然どこかの部隊の通信を傍受した事で事態は一変した。傍受した通信は後方に回り込んで奇襲をする狼の部隊が北部戦線にいると言っており、それを聞いたエイガー少尉はそれが闇夜のフェンリル隊と判断し、因縁のあるフェンリル隊と決着をつけるべく北部戦線へ移動したのだが、その途中でそれが友軍のホワイト・ディンゴの事(偶然敵の通信を拾ってしまい、それを友軍の発した通信だと勘違いした)と判明したのだ。とはいえもう目と鼻の先に友軍の陸上戦艦がいるのにチャールビル基地に戻るわけにもいかず、そのまま北部方面のジオンにエイガー少尉は八つ当たりとばかりに砲撃を叩き込んでいた。正直相対するジオン軍にはいい迷惑だ。
とはいえ、一端落ち着いたエイガー少尉は極めて優秀な士官だった。
放たれる砲撃は的確に防衛部隊の陣地を潰し、接近戦を挑もうとするグフには周囲からの一斉射撃で黙らせた。
今もまた陣地にいた最後のマゼラアタックにキャノン砲が直撃し大爆発を起こす。そして防衛線にいた敵部隊があらかた壊滅したと判断した鹵獲ザク1個小隊が、120mmザクマシンガンを撃ちながら前進を開始する。が、それにエイガー少尉は警告を発した。

「馬鹿野郎! まだ前進するんじゃない!」

「は? モビルスーツに対応できる敵戦力は見当たりませんが」

「そういう場合は歩兵と共に前進するのがセオリーだ、死にたいのか!」

「ですが敗残兵など我々だけで・・・ガッ」

防衛陣地手前の土塁を超えようとしたその鹵獲ザク小隊は、土塁が突如爆発し次の瞬間には機体が穴だらけになって壊滅していた。
あえていうならば、ヒルドルブの30cm砲から放たれた対空散弾を至近距離から喰らったザクのような有様だ。

対モビルスーツ用クレイモア地雷 通称ベアリング・ボム

元々強襲・突撃用の機体向けに開発されたオプション兵装だったが、単騎ならばともかく複数で行動中に使用すると跳弾の危険性があるにも関わらず、射角が広いために近接して使わないと流れ弾の被害が出るという点と、さらには誘爆の危険性があるという大きな問題を抱え、結果的にガトリング砲を使った方が有効とされモビルスーツへの搭載は諦められた代物だった。
だが近距離ならばグフクラスのモビルスーツを十分撃破可能な代物だった為に、陣地防御用の対モビルスーツ用地雷として採用されたのだ。
そしてそれが複数、不用意に前進したザクの足元で炸裂したのだ。結果は見ての通り、3機の鹵獲ザクは穴だらけのスクラップとなった。
そしてそれだけで終わらず、エイガーの乗るガンキャノンは遠方から飛来する砲弾をセンサーで確認した。後方の小規模な野砲陣地から放たれた砲弾だが、飛来した砲弾は数が少なく目標となったであろうエイガー少尉の部隊には効果は余り無かった。

「敵の砲撃だ、対砲兵レーダーを起動させ着弾地点を確認しつつ回避! 着弾後にお返しを叩き込め!」

そう、エイガー少尉の率いる部隊はガンキャノンと量産型ガンタンク、共に砲撃戦に特化した機体なのだ。当然全機が対砲兵レーダーを持っているので、飛来する砲弾の弾道を予測し回避することは容易だった。そしてカウンターを入れる事も容易だった。
数発の榴弾が着弾したものの被害は無く、逆にエイガー少尉の部隊が一斉射しただけでジオンの野砲陣地は壊滅した。
少なくない損害を出しつつも、北部戦線の連邦軍はジオン側に逆侵攻し、ヒューエンデンとタウンズビルの制圧に成功。更に北部戦線の最終防衛ラインに迫りつつあった。

が、それは新しく入ってきた報告によって事態は急変した。そしてそれは、オーストラリア攻防戦が次の段階に移った事を意味していた。

「チャールビル基地が敵新型モビルアーマー及び新型モビルスーツの奇襲によって陥落す。なお、敵新型機はどちらも空に浮かんでおり、敵モビルアーマーの一撃で基地の半分が消し飛んだ!」



[2193] 35話 オーストラリア戦役3
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2010/08/26 00:47
キャリフォルニアベースツィマッド社エリア 社長室

オーストラリアで戦闘が始まる数日前、社長室で報告書を読んでいたエルトランの端末に緊急報告がはいってきた。

「ん、これは・・・特務情報室から緊急通信? 一体何なんだ? ・・・・・・私だ、緊急通信を使うなんて何かあったのか?」

話を聞き始めたエルトランだったが、最初は驚愕し、そして徐々に無表情になっていった。そしてその無表情の裏にあるのは怒りだった。

「・・・・・・なんだって? すまないがもう一度言ってくれるか? ・・・・・・・・・・・・まて、ジョークにしてもブラックすぎるんだが・・・本当なのか? ・・・・・・ふっ、ふふふふふふ、いや私は冷静だ。それよりも続きを・・・・・・・・・・・・わかった、あらゆる手段を許可するから詳細な情報を、いやまずは至急裏を取れ。もしその報告が事実ならば例のシナリオに、KG-82に組み込んで始末するように手配しないといけない。・・・・・・ああ、事実なら彼には死んでもらう。もちろんKG-82の開始を遅らせることも視野に入れておく。とにかく、最優先で確認しろ! 急げ!!」

最後には怒鳴りつける口調で相手に命じ、通信を終えるエルトラン。通信終了後に深呼吸を数回行った後「ざけるな!!」っと大声を出した。

「まさかとは思いたいが、そういえば彼には史実で前科があったな。目的の為に手段を選ばない、そんな人だと言うことを忘れていた自分が迂闊だったか・・・」

そういってエルトランは頭をかきむしった後に盛大にため息をついた。

「たしかに援助はうちだけではないが、それでもかなりの援助をしていたのは事実。特に彼には多くの援助をしてきたのに・・・もしこの事が本当ならば決して許される事じゃない・・・というか堪忍袋の緒がキレちまった。とにかく本当だったという事を前提に予定を組みなおすか・・・マリオンには言えんな、色々な意味で・・・」

そう言ってエルトランは手元の端末を操作し始めた。







チャールビル基地、それはオーストラリアにおける連邦軍の一大軍事拠点だった。核保管施設であるトリントン基地防衛の為に機動性に優れた部隊が多く配備されており、その戦力は極めて大きかった。

が、僅かな時間でその戦力はチャールビル基地から消え失せてしまった。といっても別に攻撃を受けたわけではない。
その理由は単純で、オーストラリア大陸全土で一斉に始まったジオン及びVFの攻勢の前に、その戦力を救援として各地に派遣しなければならなくなったのだ。機動性に優れた部隊が多く配備されていたが故に、チャールビル基地には各方面から救援要請が飛び込み続けていたのだ。いかにトリントン基地防衛の為の部隊と言えど、この基地の本来の任務を知るのはごく一部の上層部のみ。故に事実を知らない実働部隊の多くが救援要請に応えるべきだと上申したのだ。
そして基地にいる各部隊はいつでも出撃できるように準備を整え、救援に行けという命令を待ち続けたのだ。
決定的になったのは、その本来の防衛目標であるトリントン基地にアフリカでゲリラ戦を行う特殊部隊を乗せた輸送機が緊急着陸したという情報が入った事だ。これでついに上層部は多方面への増援を決断した。
この時上層部はトリントン基地に着陸した特殊部隊について深く考えなかった。理由は簡単で、南米からアフリカに向かう便ならば、オーストラリアの部隊が情報を知らなくても当然だという事だ。ミノフスキー粒子の影響で大陸間の通信網は乱れており、そのような寝耳に水な増援は意外とよくある話だったからだ。
そしてトリントン基地に緊急着陸した部隊が実は敵の特殊部隊で、同基地は陥落したという報告を受けた時、チャールビル基地にいた多くの部隊は既に出撃した後だった。これはトリントン基地の通信施設が真っ先に破壊され、即座に救援を要請できなかったことが大きい。トリントン基地と通信が繋がらなくなった事に疑問を抱いたチャールビル基地が偵察機を派遣し、そこでようやく敵にトリントン基地が制圧されたという事実を知った時、既にチャールビル基地に所属していた多くの部隊は救援要請をしていた各戦線に移動中だったのだ。

とはいえ、一部の空挺部隊及び航空部隊、ヘヴィ・フォーク級とその護衛に鹵獲ザク2個小隊を出撃させても、チャールビル基地にはビッグトレーとRGM-79 ジム1個中隊を中心に多数の部隊が残存していた。そしてそれらの他にも員数外の部隊、数日前に長距離狙撃実験の為に配備されたモビルスーツ1個小隊、RGM-79[G] 陸戦型ジムの狙撃改修型であるジム・スナイパーも存在しており、そのこともあって未だチャールビル基地の戦力は侮れず、この基地が陥落する事はまだこの時は考えられてすらいなかった。

が、その時は唐突にやってきた。出撃したヘヴィ・フォーク級が見た事も無い敵の新型機、しかもカラーリングからして赤い彗星及び青い巨星と思われる敵から攻撃を受けるとの報告を最後に音信不通となり、トリントン基地奪還(破壊)は失敗に終わったとチャールビル基地の司令部は判断し、今後の戦略を考えていた時にソレは襲来した。



最初にそれを確認したのは上空で警戒中だったデッシュ早期警戒機だった。

「緊急! 大気圏外から突入してくる飛行物体を発見、数は5機! その内2機は形状照合の結果HLVの可能性が大、残り2機も小型の大気圏突入ポッドの可能性が大なれど、最後の1機はデータに無し! 敵の新兵器の可能性あり、至急迎撃準備をされたし!」

この連絡が届いた時、まだチャールビル基地の司令部の大半は事態を楽観視していた。理由は単純明快で、チャールビル基地を落すにはHLVの数が少なかったからだ。標準的なHLVはMS6機又は人員60名、戦闘車両10両を含む大量の物資を搭載可能だが、たった2機では12機前後しか搭載していないことになる。たしかに12機ものモビルスーツは脅威ではあったものの、現時点では脅威とはいえなかった。なぜならそれを搭載するHLVの数が少ないということにある。数が少ないということは対空砲火を集中させやすいと言う事でもあったからだ。幾ら新兵器がいろうがたった1機、たいしたことはできないだろうと高をくくっていたのだ。
事実、ジオン及びVFの大攻勢の為に上空警戒に出ていたセイバーフィッシュやフライアローが迎撃に向かい、地上ではモビルスーツ部隊をはじめとする各部隊が行動を開始した。
そして戦闘機部隊が降下してくる物体にミサイルを発射したのを見て、地上で行動を開始した彼らは思った。例え新兵器がいたとしても、自分達が行動する前に戦闘機部隊が全て叩き潰してくれるだろう、と。

が、その希望はあっけなく叩き潰された。突然彼らの頭上で光の奔流がミサイルを飲み込み、更に迎撃に出ていた戦闘機部隊までもがそれに飲み込まれたのだ。そして光が収まった時、そこには先程まで飛行していた戦闘機部隊の姿は無かった。





「私のアプサラスに挑もうとは愚かな・・・それにしても、美しい・・・・・・光の雨だ。全てを飲み干す光の雨・・・私の念願が、ここにある・・・ゲフッゴホッゴホ!!」

「お兄様、大丈夫ですか?」

「・・・大丈夫だアイナ、それより予定通り行動を開始するんだ。ノリス、聞こえているか?」

「はっ、ギニアス様。いつでも出れます。それと余りご無理をなされないようにしてください」

「そうですお兄様、あまりご無理をされては・・・」

「・・・すまない二人とも。だが私の夢の為、そしてサハリン家の再興の為、私はここで立ち止まるにはいかないのだ」

そう言いつつ錠剤を数個口に含み、座席横に置いていたミネラルウォーターでそれを飲むギニアス。史実に比べ症状は軽いものの、それでもモビルアーマーのコックピットに乗って大気圏離脱や再突入をすれば体が悲鳴を上げるのは自明の理だ。

「・・・了解しました、ギニアス様。予定高度に達したのでこれより発進します」

「ノリス、無事に戻ってきてくださいね」

「大丈夫ですアイナ様、自分には御利益のあるお守りがありますから」

「ノリス、頼むぞ・・・アイナ、メガ粒子砲発射準備。目標は事前に言ったとおり・・・」

「はい、分かっています。ビッグトレーと基地主要施設、そして抵抗してくる戦闘部隊ですね・・・再チャージ完了しました」

「ああ・・・連邦よ、降り注ぐ光の雨で散れ!」

そしてギニアスはトリガーを引き、次の瞬間には地上に光が降り注いだ。それらはまずビッグトレーに向けて収束し放たれ、次にそれが数百もの細い光に分かれてそれぞれが基地の主要施設を貫いた。そしてその細い光の一筋一筋が破壊力のあるメガ粒子砲だった。時間にして僅か10秒にも満たない攻撃だったが、たったそれだけでビッグトレーのいた場所は大きく抉り取られ、その周囲は地表が溶解していた。そして細い光によって基地の主要な施設は炎に包まれ、たったそれだけでチャールビル基地はその能力を失った。
アプサラスⅡでさえ連邦軍はジャブローの防空網を持ってしても防ぎきる事は不可能と言わしめたのだ。それの発展型を持ってすれば、ジャブローほど堅牢ではない基地を炎に包む事は容易い事だった。

そう、たった1機でアプサラスⅢはチャールビル基地を壊滅に追い込んだのだ。チャールビル基地の多くの格納庫は内部の兵器や人員を巻き込んで崩壊し、空を向こうとした対空兵器は爆発炎上した。滑走路では緊急発進直前の航空機達が炎上するも、滑走路自体はほぼ無傷だったが、その他の基地の主要施設は大爆発し黒煙を上げ視界をさえぎった。

だが、それがいけなかった。
基地全域で発生した大規模な火災によって上昇気流が発生し、巨体のアプサラスを揺らす。そして安定用の脚を展開せずにメガ粒子砲を2度も全力で撃った為、機体各部にエラーが発生し、機体の制御は徐々に難しくなりつつあった。
というのも、このアプサラスⅢは史実の物とは違い未だ未完成品であり、多くの箇所に技術的な爆弾を抱えた代物だったのだ。収束型よりは拡散型の方が反動は低いものの、制御の難しさで言えば拡散型の方が明らかに困難だ。1回目は数秒程度の照射だったが、2度目は十数秒以上も連続照射していたのだからその負荷は計り知れない。

「お兄様、機体を水平に保つ為のバランサーに異常が発生しました。後、2度もメガ粒子砲を全力発射したせいか、ジェネレーター出力も不安定となり、ミノフスキークラフトも・・・このままでは機体が安定しません、安定脚を展開します」

「・・・シミュレーションを何度もした上でデバッグを行ったのだが、やはりトラブルが起きたか。アイナ、メガ粒子砲へのエネルギー供給を一時遮断しクラフトにまわす。私はシステムエラーの対処をするので、その間機体を維持するんだ」

当然その間アプサラスは無防備になる。事実、生き残ったチャールビル基地所属の自走対空機関砲や砲座がアプサラス目掛けて発砲した。
だが、装甲の薄いヘリや航空機を想定している30mm前後の機関砲弾では流石にモビルアーマーを撃墜することはできず、更に言えばそんな事を見逃し続けるほどジオンは甘くは無かった。対空射撃を行っていた部隊と、ようやく準備が完了し砲撃を開始しようとした対空砲陣地に、突如頭上から75mmもの弾丸が叩き込まれたのだ。慌てて連邦兵が頭上を見上げると、そこには信じがたい光景があった。

・・・6機のモビルスーツが文字通り空中に浮かんでいたのだから。

「これ以上攻撃はさせん!」

そう言って攻撃を開始したのは、ノリス率いるMS-07H-8 グフフライトタイプ6機の集団だった。この6機は左手にガトリングシールドを持ち、ノリス機を含む3機はMMP-80マシンガンを、残り3機はジャイアントバズーカをそれぞれ右手に持っていた。そしてガトリングシールドの外側に2基のエルデンファウストを保持しており、それに加え腰前部にハンドグレネードを携帯していた。
3機のマシンガン持ちが対空砲を破壊し、バズーカ持ちが対空陣地ごと対空兵器を吹き飛ばしていく。それをなしていくのはノリス・パッカード大佐やフランク・ベルナール少尉といった、エースパイロット又はグフフライトタイプに関わったパイロット達であり、彼ら精鋭部隊は縦横無尽に空から攻撃を続けていく。

ここでちょっと考えて欲しい。マシンガンはともかくジャイアントバズーカは弾数が少ない。それこそ数発撃てば撃ち止めだ。なのにグフフライトタイプはバズーカをバカスカ撃っている。これではあっという間に弾切れになり、戦闘続行不可能になってしまう。
事実、1機のグフフライトタイプの持っていたバズーカが弾切れとなり、バルカン砲を放っていた連邦軍の装甲車に向けてバズーカを放り投げた。弾切れになったとはいえモビルスーツサイズのバズーカが命中した装甲車は押しつぶされ、そのまま炎上する。
だがそれではこのグフフライトタイプはどうやって戦うのか?
それはこのバズーカを放り投げたグフフライトタイプの行動を見れば分かるだろう。バズーカを投げたグフフライトタイプはそのまま高度を下げ、アプサラスの近くに落下した小型の大気圏突入ポッドに近づいた。降下した1機は建物に直撃し半壊していたが、幸いもう1機のポッドは無事で、地上に降り立ったグフフライトタイプはポッドの中から新品のジャイアントバズーカを取り出した。

そう、2機のHLVと共に降下した小型の大気圏突入ポッドが弾薬不足に対する答えであった。アプサラスの近辺に降下した2機のポッドには予備弾薬が搭載されており、そこから随時弾薬を補給して戦闘していたのだ。もう1機の半壊した突入ポッドも内部は余り破損しておらず、弾薬を回収可能だった事も大きい。

縦横無尽に空中から弾幕を展開する6機のモビルスーツ。これほど理不尽な物はないのではなかろうか? 通常ならば建物が多く立ち並ぶ場所は、歩兵にとって絶好の対モビルスーツ戦闘の舞台である。それは対モビルスーツ用ミサイルの発射から命中までの時間が極端に短く、更に言えばミサイルの発見がし難いからだ。
が、地上から上空に向けてミサイルを発射する場合、確実に目標に命中するまでの時間が長くなり、更に言えばミサイルの接近を探知されやすい。逆にグフフライトタイプからは、ミサイルを発射した建物目掛けて弾を浴びせかければほぼ確実に歩兵を無力化できた。しかも上空からだと開けた場所では部隊が密集している場所が一目瞭然であり、そのようなところには容赦なくエルデンファウストが飛来し、散弾の雨によって部隊を殲滅していった。

数分後、チャールビル基地はほぼ壊滅していた。最初にアプサラスの放ったビームによって司令部や待機状態だった兵器が壊滅したのが主な原因だが、それでもなお抗戦する連邦軍部隊は賞賛に値する。主に歩兵部隊がメインだったが、運良く生き残った戦闘車両やモビルスーツが対空射撃を開始していく。もちろん上空にいるグフフライトタイプによって沈黙させられていくが、それでも彼らは任務を果たした。彼らの奮闘によって、他基地に援軍に行っていた部隊の幾らかがチャールビル基地に戻ってきたからだ。

最初に戻ってきたのはFF-X7-Bst コアブースター9機とFF-3 セイバーフィッシュを主力とする数十機もの混成航空隊だった。アプサラスが健在ならばただの射的の的と化していただろうが、そのアプサラスは不具合の為一時的に射撃ができない。
空を飛べるとはいえ、カタログスペック上でグフフライトタイプがコアブースターに勝っているところは運動性の高さと装甲の厚さ等だ。逆にそれ以外の最高速度や機動性(航続距離)等では圧倒的に航空機の方が勝っている。格闘戦に優れた零式艦上戦闘機が一撃離脱戦法に優れるP-51やP-38といったアメリカ機に負けた(パイロットの錬度不足とかはこの際置いておく)ように、そういう観点でみればコアブースター側の勝利は疑いようが無かった。

・・・相手が機体の前方にしか攻撃できない航空機であるならば。

残念ながら彼らが相手にするのは航空機ではなく、機体正面は勿論、側面や上下方向にも射撃を行えるモビルスーツだ。しかも運動性が高いと言う事は、事実上あらゆる方向に攻撃が可能と言う事を示していた。しかもそのパイロットは慣熟訓練を終え、グフフライトタイプに慣れた熟練及びエースパイロット達だ。
まさに開戦直後の宇宙空間における航宙機とモビルスーツの図式が、そっくりそのままこの場に出現した。メガ粒子砲をコアブースターが放つものの、グフフライトタイプはその攻撃をかわしつつそのまま反転し、コアブースターの前方へ予測射撃、その弾幕の中に自ら突っ込んで蜂の巣になるコアブースター。

真っ先に増援に来たコアブースター9機はその真価を発揮する前に全て叩き落され、セイバーフィッシュとTINコッド、そして少数のフライアローはたった6機のグフフライトタイプに翻弄されていた。
特に元々グフカスタムに搭乗していたノリス大佐の活躍は目覚しい物だった。6機のグフフライトタイプの内、ノリスの乗る機体だけ他の5機とは異なっていた事も大きい。ノリスの乗る機体には右腕にグフカスタムの持つようなアンカーを内臓し、その関係で間接部を強化しているのだ。いうなればノリス専用グフフライトタイプとでもいうべき機体となっていた。そしてこのアンカーだが、出力の関係上グフカスタムのようなヒートアンカーではなかったが、ヒート機能を排除した分アンカー自体の耐久力はグフカスタムのものよりも上だった。
そして史実でも陸戦機であるグフカスタムで空中戦をやらかしたノリスである。ましてや今搭乗している機体は空を飛ぶことができるグフフライトタイプである。どうなるかは容易に想像が付くだろう。

すれ違いざまにヒート剣で敵機を切り裂き、アンカーを敵機に放ちぶら下がりつつガトリングを放ち、攻撃を受けたらアンカーでつながれた敵機を盾代わりに使い、あるときはそのまま敵機にぶつけて武器代わりに戦う。更に敵機がある程度密集していると見ると、そこにエルデンファウストやハンドグレネードを放ち散弾の雨でこれを撃墜し、敵機から放たれたミサイルと機関砲弾の雨をわざとスラスターを切り推力を0にし、人為的な失速を行いその集中砲火を回避する。更には向かってきた敵機を踏みつけ、その反動で更に加速する。そしてマシンガンの単発射撃で1機、また1機と無駄弾なく確実に撃墜していく。
まさにノリス無双。本当にお前はオールドタイプか? と疑いたくなる戦闘光景である。しかもこの戦闘の最中、ノリス大佐はヒートアップしていた。少数の友軍で多数の敵と戦うというシチュエーションでテンションが高くなったノリスはコックピット内で高揚(と書いて暴走と読む)しており、一例を挙げると「これは避けられるか!?」「フン! このワシもなめられたものだ!」「もう少し骨のある奴はおらんのか!?」「この程度では話にならん!」「怯えろっ! すくめえっ!」「ふわぁっはっはっはっは!」等と叫んでいた。もしもオープン回線で連邦にも聞こえていたら、間違いなく連邦兵にトラウマを与えていた事だろう。幸いな事に回線は全て閉じてあったので外部に聞こえる事は無かったが、もし友軍回線だけでも開いていたら、一緒に戦っている友軍ですらドン引きしていただろう。

だが連邦軍は数が多かった。それなりに節約しつつ弾を使っていたのだが、既にノリス以外は75mmガトリング砲の弾丸を撃ちつくし、75mmガトリングユニットを切り離して3連装30mmガトリング砲を使っていた。そしてまだ75mmを使っているノリスでさえ、75mmの残弾は残り僅かであった。降下した補給ポッドには30mmの弾薬はあったが、75mmの弾薬は無かった。これはガトリングシールドの場合、撃ち尽くしたらガトリング部分をパージすることで重量軽減を行う事が前提になっているからだ。
もちろん切り離さずに弾薬を補給し再度射撃を行うという事もできるが、それ以前にガトリングが付いている部分は『盾』だと言う事が大きい。
当然盾を使えば敵の弾が盾に命中する。そこについている75mmガトリングユニットにも命中する。つまり、攻撃を盾で防げば恐らくガトリングユニットは損傷するだろうから使い捨てにすればいい。そういう発想で補給ポッドには75mmの在庫が無かったのである。
話を脱線させるが、上記の欠点があるにもかかわらずガトリングシールドは一般的な武装としてジオン及びVFには出回っている。
それはなぜか?
答えは簡単で、盾として扱え、弾幕を張る事ができ、いざとなれば盾から切り離す事で重量を軽減し、運動性を向上させて生き残る事ができるようになるからだ。多く作ればその分量産効果が出るという理由も勿論ある。が、盾と一体になっていることで攻撃から防御までのタイムラグがほんの僅かとはいえ短くなっているという研究結果も出ている為、前線では多用しているのだ。
・・・普通の盾よりもガトリングシールドを装備した方が自分の機体の外見がかっこよく見えるという、見も蓋もない理由もあるにはあるのだが。

それはともかく、連邦軍航空隊が残り十数機になった時にようやく連邦軍待望の部隊が到着した。1機のセイバーフィッシュを叩き切ろうとしたノリスの機体に警告が鳴り響く。瞬時に攻撃を中断し回避運動をとった次の瞬間、先程までノリスがいた空間を一筋の光が通過した。

「む、ビームだと!? 新手か!」

光の出所にモノアイを向けると、そこにいたのはビームライフルを構えた連邦軍の量産型モビルスーツ、RGM-79 ジムの姿だった。既に他の戦線でも投入されてはいるが、ノリス達が見るのはこれが初めてである。特にビームライフルを持っているのはノリス達に警戒を促した。

「ふむ、面白い! だがそれだけで我らを止められると思うなよ」

現れたジムは6機、3機1組で行動しており6機全てがビームライフルを保有していた。そしてノリス目掛けて続けざまに発砲しており、その後方からは61式戦車や歩兵戦闘車、自走対空車両に重戦闘ヘリが迫ってきていた。
だが61式戦車や歩兵戦闘車は対空戦闘を行うのは困難で、近距離では空を飛ぶグフフライトタイプにとってあまり脅威では無かった。そして対空車両や重戦闘ヘリも、ビーム砲を持つコアブースターなどに比べると脅威度は低かった。だがそれでも兵力の差を無視することもできず、ノリスは決断を下した。

「ハンス! お前達は航空隊を狙え、戦車部隊は後回しで構わんが対空車両は見逃すな。第2次降下部隊が来るまでに可能な限り排除しろ! 私は連邦のモビルスーツを相手にする」

「了解しました大佐、御武運を!」

そういって5機のグフフライトタイプは航空隊との戦闘を続行し、一部は対空車両にバズーカを放っていた。一方ノリスはビームを回避しつつ、目の前のモビルスーツに向かってガトリングを放つ。75mmガトリング砲から放たれた弾丸は一直線にジムへと向かうが、ジムは盾を掲げる事でそれを防ぎ、そればかりか次の瞬間にはジムはビームライフルで反撃をも行った。防御からすぐに攻撃に移るという動きを見てノリスは僅かに目を細めた。決して新米パイロットがが行える行動ではないからだ。
それもそのはずで、このジム部隊はそれなりにモビルスーツでの実戦経験を積んだ部隊だったのだ。そして3機のジムがノリスの前に立ち、残り3機はノリスを迂回しつつ他のグフフライトタイプを狙おうとしていた。
が、彼らの目の前のパイロットは只者ではなかった。

「ふむ、俄仕込みではないようだな。・・・だが!」

そう言うと同時にアンカーを飛ばし、ジムの『盾』にアンカーを命中させる。連邦兵にとって不運だったのは、彼らは以前に普通のグフとも戦闘を行い、その際にヒートロッドという武器の存在を知った事だろう。彼らにとってアンカー=電撃を流す武器という方程式ができており、即座に盾を手放すのは彼らにとって当然の行動だった。そして盾を放棄した機体を追撃から守るように残り2機がビームを放つ。が、放たれたそれは外れ、ビルを1つ崩壊させるだけとなった。更にいえば、ノリスは最初から盾をアンカーで巻き取るつもりだったのだ。そして盾を回収したノリスは盾の付いた状態でアンカーを再度発射した。

「盾を手放すという判断はいい・・・が、甘いな! こういう使い方もあるのだ!」

航空機すら盾代わりにしたノリスである。そのままアンカーを操り、アンカーについている盾をジムの頭部に命中させる事は彼にとって造作も無かった。
まさか自分の持っていた盾で頭部を破壊されるとは思ってもなかったジムは体制を崩し、そこに追撃の90mmマシンガンが命中する。貫通能力に優れたMMP-80マシンガン数発がジムの胴体に着弾し、その内の1発がコックピットに直撃した。コックピットを破壊されたジムはその場に崩れ落ち、ようやくそこで他のジムのパイロット達は相手が尋常じゃない事に気がついた。その証拠に他の機体を攻撃する為に迂回中だった3機が慌てて援護に加わったのだから。そして5機のジムから一斉にビームが放たれる。だが・・・

「ふはははっ! 楽しませてくれる!」

ジム5機のビームライフルがノリスに向かって連続して放たれるが、ノリスはそれに慌てず建築物の谷間を速度を上げながら低空飛行する。それもジムに向かって斜め左へと。
こうなると困るのはジム部隊の方だ。実弾兵器ならばともかく、ビームライフルならばビルを貫いてノリス機を攻撃する事は十分可能だ。が、改めて言うがこの戦場はチャールビル基地内部、つまり友軍の基地の中なのだ。当然ビルには連邦の人間がいたはずで、まだ内部に彼らの同僚がいるかもしれないのだ。そう、今の現状は同士討ちをしかねない状態といえる。その為、この時のジム部隊の行動は真っ二つに分かれた。3機のジム小隊は攻撃を躊躇い、最終的には敵の進行方向にある大きな交差点へとビームライフルの照準を向けた。そこならば方向転換の為に敵機はスピードを落さなければならず、必然的に回避行動もとりにくいからだ。勿論敵機が飛んでいる事実を考えて3機の内1機はその上空に照準を向け、即座に再照準できるようにスタンバっている。そして1機が撃墜された小隊の方は・・・ビームライフルどころか頭部バルカンまで発砲し攻撃を行った。
放たれたビームの奔流はビルを易々と貫き、モビルスーツを撃破できるだけの威力を保持したままグフフライトタイプに襲い掛かる。もっとも、直接照準ができないので最後に確認した速度を計算した上での予測射撃だったので、途中で速度を増速したノリス機の背後を貫いていく。そしてノリスの前方には大きな交差点が迫ってくる。3機のジムが照準を合わせている交差点が。

・・・が、何度も言うが彼らが相対しているのはエースパイロットのノリスである事を忘れてはいけなかった。
ノリスは全速で突き進みながら、進行方向右手にあるビルに右腕に内蔵されているアンカーを放つ。そしてビルに食い込んだアンカーに引っ張られ、勢いをほぼ保ったまま機体の進行方向を右へと変える。それに加えアンカーを一気に巻き戻す事により、ノリスの機体は通常ではありえない急旋回を行った。
グフカスタムでこんな事をすれば腕部の間接が激しく磨耗するだろうが、ヒート機能を撤去した変わりに各部の耐久力を増してあるのがこの機体だ。急旋回を難なく終えたグフフライトタイプの前には、速度を殺さずに正面に現れたグフフライトタイプに驚きつつもビームを放とうとする2機のジムの姿があった。

「怯えろ! すくめ! モビルスーツの性能を生かせぬまま死んでゆけ!」

そう言い放ちつつノリスは残りが極僅かな75mmガトリングをジムに叩き込む。直撃を受けたジムは黒煙を吐きながら崩れ落ち、それと同時に弾切れをおこしたガトリングユニットを切り離し、ノリスのグフフライトタイプは更に身軽になった。そして慌ててビームを放つジムの弾幕を避け、すれ違いざまにヒートサーベルでそのジムを切り裂いた。

『ちょ、こっちくんな! うわあああ!?』

『また1機やられたぞ! こんな短時間で3機も・・・なぜあいつは落ちないんだ』

『なんてやつだ・・・たった1機で俺たち6機を翻弄するなんて・・・奴はバケモノか、それとも悪魔か!?』

『バケモノの方がまだましだ! ありゃそんな生易しいものじゃない。ああいうのはな・・・鬼神っていうんだよ!』

よくグフタイプは一つ目の鬼と形容されるが、まさに彼らにとって目の前のグフフライトタイプは鬼そのものだった。そして恐怖は自らの判断力と行動を鈍らせ、放たれる弾幕もまともに照準するまもなく連射する為、命中率は低下の一途を辿っており、その隙を的確にノリスはついていた。

更に言えば、この時増援の重戦闘ヘリを含む連邦軍航空隊はノリスの部下のグフフライトタイプ5機によって壊滅しており、61式戦車を中心とする機甲師団も攻撃を受けていた。といっても、自走対空車両の反撃を警戒し遠距離から対空車両の辺りに弾を撃ち込む程度だったが、それだけでも連邦軍の車両は少しずつ、だが確実に破壊されていった。つまり彼らは増援にきたのに逆に返り討ちにあっていたのだ。その精神的なプレッシャーはどれほどの物だろうか。視界の端で1機、また1機と撃墜される航空隊に、同じくマシンガンやバズーカによって吹き飛ぶ味方車両の姿。ジムのパイロット達を慌てさせるのには十分な光景だ。恐怖と焦り、この二つによってジムのパイロット達は本来の力を出す事ができなくなっていた。
そしてそれがもたらす結果は分かりきっている。
ノリス機がジムに向かって突貫して来た瞬間、3機のジムのパイロットは恐怖によって一瞬硬直した。それでも直後に行動に移ったことは評価できるが、その一瞬が彼らにとって命取りだった。

「・・・フン!! その程度の動きではこれはかわせまい!!」

ノリスは持っていた最後のハンドグレネードを相対する1機のジムに向かって投擲し、直後にマシンガンで既に撃破され倒れている機体に射撃を加えながら高度50m程度まで上昇し、すぐさま水平飛行に切り替え突貫した。射撃を受けた残骸は爆発炎上し、辺りに爆炎が立ち込め視界を悪化させる。そしてハンドグレネードを投擲されたジムはなんとかそれを回避したが、それもただの牽制に過ぎなかった。

「その反応の良さが命取りだッ!!」

ジムが回避した直後にジムの頭上をノリス機はフライパス、それと同時に直上からガトリングシールド内側の30mmガトリング砲を浴びせかける。この30mmは小口径だが至近距離から、更に言えばトップアタックをすればモビルスーツを十分破壊できる代物だ。原作では35mmだったが、それでもガンタンク量産型を破壊したことからその威力が推し量れる。頭上から攻撃を受けジムの頭部は当然ながら破壊され、チタン系合金の装甲を貫き胴体をも破壊した。そして連邦軍にとっては不幸な事に、ジムが回避したハンドグレネードはそのままボロボロになったビルの1階にめり込んだ状態で起爆、ビルを崩壊させ、ビルのすぐ側にいた1機のジムを巻き込んだ。とはいえいきなり衝撃を受け転倒しただけだが、それをノリスが見逃すわけが無い。すぐさまマシンガンが放たれ、転倒したジムを破壊した。
これで残るジムは1機となったが、ここでノリスの機体にも問題が発生した。突如コックピット内に警告音が鳴り、それを見たノリスは思わず舌打ちした。

「スラスター残量が残り僅かだと? 遊びが過ぎたようだな・・・」

グフフライトタイプはある程度完成した飛行型モビルスーツといえるが、当然ながら空を飛ぶ為に必要な推力は無限ではない。特に急な加速や減速等は容赦なく燃料を食うのだ。勿論まだ戦闘は行えるが、それを差し引いても無理はしたく無いというのが本音だった。第2次降下部隊がやってくるまで持たせられればノリス達の勝ちだが、万が一降下部隊が迎撃されたらシドニー湾に展開している友軍の水陸両用モビルスーツ部隊到着まで戦線を維持しなければならないからだ。
故に、ノリスはスラスターを節約する為に地上に着地する。そしてそれを見た最後のジムは盾を構えながらビームサーベルを展開、ノリスに向かってスラスターを噴かして突撃を敢行する。が、悪く言えばやけっぱちともいえるこの行動をノリスは冷静に見ていた。

「ほう・・・私に挑んだ勇気は認めるが、もう少し腕を磨くべきだな」

そう言ってノリスはアンカーを自身の立つビルの屋上に向かって放ち、ジムが間合いに入る直前に一気にアンカーを巻き上げ、かつスラスターを一気に噴かして急上昇する。節約していても使うべき時には使うのが正しい判断である。直後、先程まで自身のいたところをジムのビームサーベルが空しく通過する。そして背後をとったノリスはヒートサーベルをジムに向かって『投擲』した。そして投擲されたそれは、突然目の前の敵が消えた事に焦り後ろを振り返ったジムの胴体に見事なまでに突き刺さり、そのまま機能停止したジムは後ろに転倒した。
そしてそれと同時にアプサラスからノリスに向かって通信が入った。

「ノリス、アプサラスのシステムエラーが直った。敵に砲撃を放つから部下達を退避させろ」

「は、了解しました。 ・・・各機へ、アプサラスが砲撃を行う。速やかに射線上から退避せよ!」

見るとアプサラスは既に砲撃準備を行っており、砲口にはチャージされたメガ粒子の光が見えた。
そしてそれを確認した5機のグフフライトタイプが慌てず急いで射線から退避した直後、アプサラスが3度目の射撃を行った。放たれた光の奔流は狙い違わず61式戦車と歩兵戦闘車の部隊を飲み込み、光が収まった後、そこにあったのは運良く射線から外れていて助かったほんの僅かな連邦軍部隊と、メガ粒子砲によってえぐれた大地だけだった。

「むぅ、アプサラスの射撃は何時見ても驚かさせられる。ハンス、ウォルター、お前達は弾薬補給後にフランク少尉の指揮下に入り敵を追撃、その後基地周辺の警戒を行え。後の二人は私と共に基地内の残敵掃討を・・・む? あれは・・・しまった、基地の生き残りか!」

ノリスが見つけたのは、元が格納庫であった残骸の中に伏せている1機のモビルスーツの姿だった。そしてそれはこのチャールビル基地の虎の子といえる機体で、ジムスナイパーと呼ばれる陸戦型ジムの狙撃仕様だ。このモビルスーツの所属していた狙撃小隊は襲撃時に格納庫にいた為、アプサラスのビームによって2機が破壊されたのだが、その中でなんとか1機だけ生き残っていたのだ。そして半分崩壊し炎上する格納庫は絶好のカモフラージュとなっていたのだ。
一矢報いようとするジムスナイパーはノリスの方にロングレンジビームライフルを向けており、ノリスが気がついた直後にビームを放った。
が、最初から照準が甘かったのかビームはノリス機の側を掠めるだけに終わり、逆にノリスの持っていたMMP-80マシンガンが火を噴きジムに着弾、まともに90mmを食らってジムは蜂の巣になっていく。が、このジムは任務を果たしていた。それにノリスが気がつくのに時間は掛からなかった。

「なに!? ・・・やられた、狙いはアプサラスだったか!」

ノリスのグフフライトタイプが振り返ると、そこにはミノフスキークラフトが破壊され不時着したアプサラスの姿があった。
そう、ジムの持っていたビームライフルはノリスのグフではなく、最初からアプサラスを狙ったのだ。そして放たれたビームはアプサラスにとって重要な、右側のミノフスキークラフトに命中しこれを破壊した。結果、浮力を維持できなくなったアプサラスは墜落したのだ。

「ギニアス様、アイナ様! ご無事ですか!?」

「ノリス、私は無事です。ですがお兄様が・・・」

慌ててアプサラスとの通信を開くノリス。そこには墜落の衝撃でヘルメット内に吐血しているギニアスの姿があった。前が見えにくくなったヘルメットを脱ぎコンソールを確認するギニアスの表情は険しい。

「ぐ・・・私は大丈夫だ。だがアプサラスがやられたか」

言葉どおりアプサラスはミノフスキークラフトをやられて墜落しており、更に墜落の衝撃で他の場所にも多くの損傷を負い、ジェネレーターが緊急停止しているほどだ。簡単に言えばアプサラスは大破、修理すれば飛行可能だがここは部品も無く整備する人員のいない最前線。現状では起動不可能というレベルだった。

「まぁいい・・・・・・墜落したものの、アプサラスによって作戦は成功した。ならアプサラスの有用性は実証できたのだ。アプサラスⅣの開発を・・・ゴフ!」

「お兄様!」

「ギニアス様!」

盛大に口から血を吐いたギニアスに二人は慌てる。が、当のギニアスは慌てずに慣れた手つきで錠剤を口に含み、飲み水で口の中に溜まった血ごと薬を飲み干した。

「・・・ふぅ、大丈夫だ。それに我々は役目を果たした。基地周囲には敵影はないのだし、後は後続に任せ我々は少し休もう」

ギニアスが見ていたモニターには自身の吐いた血によって汚れていたが、そこにはまだ生き残っていたアプサラスのセンサーが捕らえた、遥か上空から降下してくる複数の物体を映し出していた。それらはバリュートを用いた降下部隊であり、本来はドズル貴下の宇宙攻撃軍に所属しているザクⅡF2型18機だった。そしてその他にもコムサイが6機ほど確認できる。コムサイには2機のモビルスーツが搭載可能であり、この降下部隊の総数はモビルスーツが30機。基地1つを維持するには十分な数であった。

数分後、グフフライトタイプの追撃を受けていた撤退中の連邦軍残存戦力は全滅した。一連の戦闘で瓦礫の山となったチャールビル基地は戦力など残っておらず、増援のモビルスーツが大地に降り立ったのを見て基地の各所で連邦兵は降伏していった。

ここにチャールビル基地を巡る戦闘は、ジオン及びVFの勝利という形で終結した。そして、そのことを確認したギニアスはノリスに通信を繋いだ。

「戦闘は終了したようだなノリス」

「はい、残敵掃討もほぼ終了したようです。これから降伏した連邦将兵のリスト作成や、崩壊した建物の瓦礫撤去をする予定です」

「ノリス、可能なら医療班を乗せた輸送機を手配してください」

「・・・アイナは心配性だな」

「ただでさえお兄様は病を患ってらっしゃるのに、先程の衝撃で血を吐かれたのですから、心配するのは当然です」

そう、ただでさえ病弱なギニアスである。墜落のショックで吐血しただけならばいいのだが、衝撃で骨にヒビが入っていてもなんらおかしくはない。故にアイナの心配は当然だった。そして当の本人はその言葉を聞き、暫し目を瞑った。そして何かを決めた表情で二人に話しかけた。

「・・・・・・いい機会だ、アイナには言っておくことがある。ノリスも聞いておいてほしい、サハリン家の今後の事だ」

「お兄様?」

「・・・我らの念願であるサハリン家の再興、それはツィマッド社のエルトラン経由でザビ家に頼み込んだ結果なんとかなった。デギン公王にガルマ・ドズル両司令もサハリン家を再興してくれると約束をくれたのだから、これは確実だ。もっとも、ザビ家の残り二人がどう動くか分からんし、例え再興できてもそれは戦後の話になる・・・だがその際、私は当主にはならない」

「ギニアス様・・・それは・・・」

「・・・短時間とはいえ宇宙線を浴びた私は不治の病に冒された。まぁ今はストレスも少なく、服薬することで症状を抑えているが、この状態でいつまで体が持つかは全く分からん。よってサハリン家の次期当主はアイナ、おまえがやるんだ。ノリス、すまないがアイナを支えてやってくれ」

「・・・わかりましたお兄様」

「・・・わかりました、ギニアス様」

「ただ一つ、アイナには言っておかなければならない事がある」

そう言ってギニアスは少し不愉快そうな表情をする。そして続いて出てきた言葉にアイナは動揺する。

「アイナ、お前は連邦の男に惚れているな?」

「え? ・・・・・・!? お、お兄様一体何を!?」

「ふん、雪山に遭難してからのお前を見れば一目瞭然だ。その事について言っておく」

少しの間目を瞑り、次の瞬間目を見開きギニアスが放った言葉は、盛大にアイナを混乱させるものだった。

「・・・アイナ、結婚は許すが嫁入りは許さん! サハリン家を残す為にも、婿入り以外は絶対に許さんぞ!!」

「え、お、お兄様!?」

「ギ、ギニアス様!?」

そして暴走するギニアスと混乱するアイナとノリス。

「というかどこのどいつだ! 私のアイナを惑わした男は! そいつには祝砲代わりにアプサラスのメガ粒子砲で出迎えてやる! 私のアイナと結婚するのであれば私と私のアプサラスの残骸を越えていけ!!」

「ギニアス様、落ち着いてください! 今はそれどころでは・・・」

「お兄様、落ち着いてください! それにこの機体のメガ粒子砲の威力では、幾らシローがガンダムに乗ってるといっても無理です!?」

慌ててノリスがギニアスの暴走を止めようとしたが、混乱していたアイナが放った言葉でより一層場が混沌となってしまった。

「アイナ様!? ・・・いや、今ガンダムと申されましたか? 雪山で見たあの機体もガンダム、それに確か08のマーキングが・・・ということは、以前トーチカ基地で・・・ザクに乗っていたとはいえ、私と互角に戦ったあの機体の持ち主がアイナ様の思い人か!?」

「シローだと!? そいつが男の名前か! ノリス、即刻情報部に問いただしそいつの現在地を確認後、出撃するぞ!」

この暴走はその後しばらく続き、顔を真っ赤に染めたアイナが暴走したギニアスを気絶させる事で終結した。







西部戦線 砂漠地帯

西部戦線の一角でドップ戦闘機とジャベリン戦闘爆撃機がフライアローやTINコッド、セイバーフィッシュ等の連邦軍航空隊と激しい空中戦を行っていた。この空域の戦況はわずかにジオン側に傾いている。これは投入した戦闘機の数の差で、泥縄式に複数の中小規模基地から緊急発進した連邦側と、出撃の時間を合わせ一度にまとまった数を投入したジオン側の差が現れた結果だった。それは陸戦にも大きな影響を与えていた。連邦にとって制空権がおされ気味という事は、敵陸上部隊への対地攻撃どころか、ジオン側の戦闘ヘリを駆逐するのさえ容易ではないということなのだから。

この戦線では進攻しているジオン側のモビルスーツはデザートザク2個小隊とグフ1個小隊、ザクタンク1個小隊の合計12機のみで、主力は戦闘ヘリとマゼラアタックだった。モビルスーツの数が少ないように思えるかもしれないが、それもそのはずでこの部隊はこの戦線で最も突出した部隊、功をあせっているのではなく威力偵察をかねている部隊だからだ。
それに対する連邦側はロールアウトしたばかりのRGM-79 ジム3個小隊に混成鹵獲機(旧ザクにザク、ヅダにグフ)部隊1個中隊、61式戦車や自走砲を含む機甲師団に武装ヘリというものであり、連邦側がモビルスーツ戦力では勝っている状況だった。
では陸戦では連邦側が押しているのかというと、その答えはNOと言わざるを得ない。むしろジオン側が押していた。その原因は連邦側のモビルスーツを駆逐しているジオン側の通常兵器にあった。

「機甲師団の被害甚大、敵ヘリを食い止めろ!」

そう指揮車が指示を出すが、それに返ってきたのは罵声だった。

「やれるもんならやっている! それより空軍に頼んで航空支援を・・・うわぁ!?」

「モビルスーツが落とされた、なんだあのヘリは!? ヘリ部隊、やつらを何とかしろよ!」

そうモビルスーツ隊の隊長がヘリ部隊に文句を言うが、返ってきたのは悲鳴交じりの返事だった。みれば武装ヘリはジオンの新型戦闘ヘリと交戦しており、一方的に押されていた。それも当然で、元々対人戦メインの武装ヘリの機関銃だ、重戦闘ヘリならば話は別だろうが武装ヘリの機関銃が命中しても敵のヘリにむなしく弾かれる光景がそこにはあった。

「ファック! 無茶言うな、護衛のヘリに遮られてそれどころzy」

「また1機落とされたぞ! あの護衛ヘリを狙え、撃墜するんだ!」

「機動性が高くて照準がつけにくい・・・敵の護衛がミサイル撃ちやがった、回避!」

「・・・3番隊のヅダがやられた! なんて速さのミサイルだ、ヅダの上半身が吹き飛んだ!」

「足元が不安定なせいで回避行動がろくに取れない!」

「落ち着け、さっきから分析しているがあの高速ミサイルはおそらく無誘導だ、従来型の有線誘導型ミサイルと併用してるから気を・・・」

そこまで指揮車が通信していた時に後方のジオン戦闘ヘリが発砲、放たれたのは1発だけだったが命中、指揮車を盛大に吹き飛ばし完膚なきまで破壊した。

「指揮車がやられた! レールガンだ!」

「とにかく動きまくれ! 機甲師団の援護をしつつ敵ヘリ部隊を撃破しろ!」

とは言うものの、件のヘリはモビルスーツ隊の保有するマシンガンの遥か射程外、当然機甲師団に所属する自走対空機関砲も射程外だ。バズーカを撃ってみるものの、余裕を持って回避される・・・どころか、バズーカを構え狙いをつける最中に狙撃を食らうこともあった。
そしてヘリ部隊に翻弄される間にジオン地上部隊は連邦軍地上部隊との距離をつめていった。

なぜヘリ部隊がモビルスーツ隊を一方的に撃破するような事態になったのか、その疑問の答えは遥か開戦前に遡る。
モビルスーツを最初に開発したのはジオンだが、それと同時に一つの問題に突き当たった。すなわち、モビルスーツが量産可能な兵器である以上、連邦軍もいずれはモビルスーツを戦線に投入してくるという事だ。最初の実用的モビルスーツであるMS-04開発当時は史実道理の開戦計画が存在しており、その計画を実行した場合連邦軍VSジオン単独という戦いになることが想定されていた。当然短期決戦を目標にしていたが長期戦になった場合、確実に連邦はモビルスーツを投入してくる。しかも国力を考えるとこちらを上回る数でだ。モビルスーツの数で負けるならばどうすればいいかという研究がジオン各地で開始され、ジオン技術部はモビルスーツの高性能化、いわゆる量より質という結論を出した。だがその中でツィマッド社は研究を重ねた結果、それとは異なる1つの結論を出した。

曰く、『モビルスーツの敵はモビルスーツだけだと誰が決めた?』

旧式兵器、又は従来の兵器でも武装がモビルスーツを倒せる代物ならば十分通用する。史実でも旧ザクがジムを105mmマシンガンで倒していたように、61式戦車がザクを倒したように、爆撃機の絨毯爆撃でモビルスーツを粉砕したり、歩兵携行型のミサイルでザクを倒したり・・・このように必ずしもモビルスーツを倒すのにモビルスーツは必要ないのだ。そしてモビルスーツは戦車やヘリよりも高価で製造期間も長い。ならば従来兵器を対モビルスーツ戦に特化させればどうなるか?

その結果がVF主導で開発した対MS戦闘ヘリコプター『シュッツェ』(ドイツ語で射手)とその護衛を勤める戦闘ヘリコプター『シュヴァルベ』(働き者の燕)の2機種だった。
それまでジオンが持っていたのが兵員輸送もできる戦闘ヘリ1機種だけだったのに対し、この2機種はそれぞれの目的に特化した機体となっている。しかもモビルスーツやモビルアーマーといった技術をフィードバックされており、性能は従来型のヘリとは一線を画していた。

シュッツェはV-22 オスプレイのようなサイドバイサイドローター式の大型ヘリで、ユニット化された135mmレールガンを胴体中央部に備える対モビルスーツ戦闘に特化した戦闘ヘリだった。図体がでかいせいで運動性は悪いがホバリング時の安定性は極めて高く、長距離から135mmレールガンを放つ狙撃者だった。135mmレールガンが元々狙撃用に開発されていたために圧倒的な射程と威力を誇るものの、その反面連射性能は極めて低い。それも当然で、元々これはモビルスーツや艦船での運用を前提にされた兵装で、空中に浮かぶヘリで使うことは考えられていなかったのだから。ヘリで使えば当然ながら発射の反動で機体は揺れ動き、十数秒は安定化に時間がかかる。とはいえこれは驚異的な性能だった。例外は存在するものの、一般的なヘリはホバリングしても振動が存在し、精密さを求められる長距離狙撃なんてできないのだから。
そしてこの発射に時間のかかる狙撃手を守るために開発されたのがもう1つの戦闘ヘリのシュヴァルベだった。運動性が極めて高く、連邦軍の重戦闘ヘリやフライマンタどころか、状況によってはフライアローやトリアーエズとも空中戦を行えるだけのポテンシャルを持つ高速戦闘ヘリだった。その秘訣の一つにコックピットブロックに採用されたリニアシートの存在があげられる。モビルスーツと同様とまではいかなかったが、これによって従来機よりもパイロットに負担をかけずに戦闘機動を取れるようになったのだ。しかも機体各所に機体制御用の小型スラスターを持ち、それによって常識を超える変態機動が取れるようになっていた。
武装も長砲身30mm3銃身バルカン砲1基の他にミサイルポッド、ロケット弾ポッド等を6つ搭載することが可能というもので、特にこの機体の持つ新型の超高速対モビルスーツ用ミサイルの威力は驚異的だった。これは無誘導だったがモビルスーツの正面装甲を貫通するために速度が半端ではなく、ドムクラスでさえまともに命中すれば大破は免れないという代物だった。

さて、ここで新たな疑問が出てくるだろう。すなわち、なぜもっと早く戦場に登場しなかったのかという点である。
これの答えは主に二つある。一つは技術のフィードバックが遅れたこと。これはシュヴァルベのリニアシートやシュッツェのレールガンユニット及び安定装置が大きい。機体に余裕を持たせて設計されているとはいえ、肝心の部分の開発が進まなければ意味がないからだ。
そして二つ目は・・・どの組織にも存在する天敵である『予算不足』だ。特にツィマッド社はただでさえ金食い虫のVFという私設軍を保有しているのだ。そちらの運営費も馬鹿にならない。特に艦船やモビルスーツのほうが優先順位は高く、技術的に課題も多かった新型ヘリ開発はどうしても順位が下がっていたのだ。とはいえ結論が出てから設計は小規模ながら開始され、78年に当時の新型モビルスーツ計画のドムシリーズがプロトタイプとはいえ一応完成したことを受け、ようやく大規模なプロジェクトとして動き始めたのだ。
だがそれから本格的な開発を行ったのでどうしても開発は遅れる。レールガンユニットは当時の艦船やモビルスーツ用のデータをベースにできたから比較的短期間で済んだが、リニアシートや安定装置は難航を極めた。ただでさえリニアシートはできたばかりの技術なのに、それを小型化してヘリに組み込むというのは困難で、更に大気の気流や自然環境という大敵が存在する地上用の機体及び射撃装置の安定装置は開発期間がかなり延び、結局これら2機種がある程度のテストを終えて完成したのは9月になってからだった。それから実戦テスト用の機体生産及び組み立てを開始し、大規模な作戦を予定していたオーストラリア大陸にある程度のテスト部隊を配備できたのが10月の初めになる。パイロットのほうはシミュレーターで訓練を行っていたからよかったものの、これが初の実戦デビューとなったのだ。
そんなわけで、この2機種は西部戦線に3個部隊、南部戦線に2個部隊の合計5個部隊が展開するのみの貴重品であった。1個部隊にそれぞれシュッツェが6機、シュヴァルベが9機の15機編成で、合計で75機のヘリ部隊だった。北部戦線にも1個部隊を展開する予定だったが、生産が間に合わなかったのでこの数になったのだ。
なお、当然そんなテスト中の最新鋭機の情報など連邦は詳細を知らず、ジオンが何か新型ヘリを開発しているという情報を入手するだけにとどまっていた。
今回のオーストラリア戦役では数が少なかったのでそれほど注目はされなかったが、後に連邦軍は・・・それどころかジオンでさえMSは万能兵器ではないことを再認識することになる。

話を戻そう。機甲師団には通常型のジオン戦闘ヘリがミサイルを放ち、武装ヘリにはシュヴァルベが攻撃し、モビルスーツにはシュッツェが狙撃をする。これだけで連邦軍地上部隊は消耗していった。
この流れが変わったのは連邦軍に航空隊の援軍が来たことがきっかけだった。

「敵増援を確認、注意しろ!」

「こっちも増援が到着したんだ。数の上では我々がいまだ有利、慌てず仕留めろ」

激しい空戦で双方被害が出ており、ジオン側は21機、連邦側は18機まで数を減らしていた。そこにジオン側に9機、連邦側に7機の増援が到着した。連邦軍はサッチウェーブをとっていたが、ジオン側もジャベリンが一撃離脱、ドップがそれから逃れた敵機を追い回しといった戦術を取っていた。
だが、そんな空戦もたった1機のセイバーフィシュによって戦況は変わっていった。

「敵の増援はセイバーフィッシュとフライアローがメインか・・・気を抜くなよ」

『こちらスカイア・・・・・・生日は過ぎたが・・・・・・ントしてくれ』

「・・・む? やけに動きのいい敵機がいるぞ、警戒しろ!」

『メビ・・・・・・ージ!』

「くっ、こちら赤2被弾した。撤退する」

「緑6、同じく被弾した。機体が持ちそうに無いので脱出する!」

「2機とも同じ機体にやられた・・・あの機体、手練か」

「あれか? ・・・リボンのマーク? ふざけたマークをしやがって・・・背後を取ったぞ、落ち・・・な!?」

「青8が撃墜された! なんて機動をとりやがる!」

『・・・ウス1がまた1機撃墜したぞ! あいつ本・・・米か? 全機メビ・・・・・・かりに手柄を取らせるなよ』

「各機、あの敵機だけに拘るな! 他の敵機にも警戒しろ、敵機をヘリ部隊に通さなければ我々の勝利だ」

「というかあのセイバーフィッシュ、艦載機仕様だぞ? 着艦用のフックがあった、一体どこから飛んできた!?」

「ただ単に陸上基地からだろ、そんなくだらない事よりも・・・くそ、何機か突破された。ヘリ部隊のほうに向かうぞ!」

「慌てるな、シュヴァルベが迎撃に向かった。こっちはこっちの仕事をするぞ。これ以上突破させるな」

突破したのはフライアロー1機とトリアーエズ2機だったが、それを出迎えたのは連邦の武装ヘリをあらかた撃墜し終えたシュヴァルベ4機だった。フライアローに2機、トリアーエズに1機が迎撃に向かったのだ。後方発射型のミサイル等を持つ機体を例外とすれば、戦闘機は基本的に前方にしか攻撃できない。だが戦闘ヘリはそんなことはお構いなしだ。普通なら音速を超える戦闘機をヘリが撃墜するのは困難だ。が、火器管制装置と対応する兵装が戦闘機の速度に対応しているのであれば話は全く別となる。しかも相手はヘリを撃墜する為に、自身の速度を音速以下に落していたのだからなおさらだ。
常識的な戦闘ヘリの最高速度は経済性、現実性の観点から時速300km、それを無視しても最高速度は400km(ただしオスプレイやシコルスキーの実験ヘリのX2等、時速400kmを越えるヘリは出てきている)が限界だが、このシュヴァルベはレシプロ機並の速度を出す事に成功している。これは搭載しているエンジンがモビルスーツ用エンジンをベースにしているという事で納得して欲しい。東の方の二人目の腋巫女ではないが、常識にとらわれてはいけないのだ(マテ

話を戻そう。向かってきたシュヴァルベを無視しようとしたトリアーエズ2機は奇想天外な機動をするシュヴァルベによって撃墜され、シュヴァルベの撃墜を目的にしたフライアローは一撃離脱で仕留めようとするが、シュヴァルベはそれを各部のスラスターを噴かして高い運動性を発揮し回避、すれ違いざまに30mmを叩き込んでくる。特に攻撃されていないもう1機が牽制の弾幕を張ることでフライアローの進路をある程度限定し、フライアローは穴だらけにされ墜落した。
これだけを見ると犬死のように見えてしまう。結果的に1機もヘリを落としていないのだから。とはいえこの3機が果たした成果は大きかった。シュッツェは向かってくる戦闘機から退避する為に狙撃を中断して回避行動に移り、数十秒も狙撃をできなくしたのだから。そして彼らがこの戦線で狙撃を行う事はもうなかった。

「あの動きの良いのに突破されたぞ!?」

「まずい、ヘリ部隊聞こえるか!? そっちに手ごわいのがいった、急ぎ退避しろ!」

だがその警告を受けても、護衛のシュヴァルベはそのセイバーフィッシュに立ち向かっていった。彼らの任務は護衛、つまり自らを盾にしてでも対象を守りきるのが任務なのだ。そして先程3機の戦闘機を返り討ちした事も仇となっていた。ヘリでも戦闘機を撃墜できるんだという自信を与えてしまい、返り討ちにしてやると意気込んでいたのだ。そう、彼らは撤退の時期を見誤ってしまったのだ。

戦闘機部隊を突破したセイバーフィッシュはブースターを一気に噴かして突撃し、向かってくるシュヴァルベを射程に捉えた瞬間に機首の25mm機関砲4基が放たれた。セイバーフィッシュに向かっていた2機のシュヴァルベは慌てて回避行動をとるが僅かに遅く、回避し損ねた1機に25mm弾の雨が直撃した。回避に成功した1機が弾幕を張るが、それをセイバーフィッシュはブースターを噴かした状態でバレルロールを連続で行いそれを回避、更に突撃を続ける。目標は明らかに後方のシュッツェだった。それを妨害しようとシュヴァルベはするが、そもそも音速を超えている戦闘機を補足するのは無理だった。そして急いでシュッツェ隊は後退を行った。対空部隊のザクタンクに合流できれば敵も諦めると判断したからだ。

「くそ、あの戦闘機本当にセイバーフィッシュか? シュッツェ隊、急いで対空任務のザクタンク部隊に合流しろ! そいつは危険だ!」

「あのリボン付き、まるで死神だ・・・畜生、また1機落とされた!」

だが最高速度が遅いシュッツェが全て逃げ切れるわけもなく、このセイバーフィッシュが弾切れで撤退するまでの数分間、この戦域のヘリ部隊にとっては悪夢の時間となった。6機いたシュッツェは3機が撃墜され2機が攻撃を受け不時着、なんとか1機だけがザクタンクの所まで逃げ切って生き残った状態であった。その護衛のシュヴァルベも5機が撃墜され2機が攻撃を受け不時着、2機だけが生き残っている状態だった。他の戦闘ヘリはもっと酷い。行きがけの駄賃といわんばかりに攻撃され、15機近くが撃墜又は不時着していた。空戦を行っていた戦闘機部隊も酷い損害を受けており、一度再編成をする為に後方の航空機基地に後退した。
そして保有戦力を大幅に損失した威力偵察部隊は攻撃を中断、再編成すべく一時撤退を行い、連邦軍もまた防衛ラインの大幅な後退を行った。
そしてこの時、連邦軍は1つの決断をくだそうとしていた。







タウンズビル付近ビッグトレー艦内

「チャールビル基地が陥落した・・・だと? 間違いではないのか? 先ほど基地が半壊したという知らせが入ってきたばかりではないか!」

「救援に向かった部隊の通信車両からの通信なので、間違いありません」

「むぅ・・・・・・・・・・・・これほど短期間でこの地の主要基地がほぼ全て陥落するとはな」

「ええ、やはりジオンは侮れません・・・ただ、ミサイルが数発着弾したもののイェップーン海軍基地はほぼ無傷です。当然ながらそこにいた艦艇、補給の為に入港していた第960輸送船団も無事です」

イェップーン、それは元は港町だった。だが今では隕石落しのせいで各地の港が壊滅し、かつジオンの降下作戦を受けて臨時に設営された海軍基地を指す。隕石落しの性で最初は港は機能しなくなっていたが、軍港となり港湾施設拡張工事の結果、大型輸送船舶の係留が可能となり、オーストラリアにおける連邦軍補給ラインの一角を担う港町となっていた。

「不幸中の幸いだな。イェップーンにいる船舶の詳細は?」

「第960輸送船団の護衛も含め、戦闘艦艇は巡洋艦2隻に駆逐艦4隻、フリゲートが6隻とU型潜水艦2隻です。他にミサイル艇や魚雷艇といった高速艇が10隻ほどいます。後は強襲揚陸艦2隻に輸送艦16隻、そして補給艦3隻です」

「輸送船舶は18隻・・・1隻当たり2000人搭載可能だとすると36000人は運べるか。車両を搭載せず人員だけの場合どの程度載せれる?」

「車両を搭載しないとなると・・・・・・恐らく40000人は可能と思われます」

「40000人か・・・・・・戦闘可能な陸上戦艦の集結状況は?」

「現在ミニトレーが1隻随伴しており、ベヒーモスとミニトレーが合流する為にこちらに接近中です」

「・・・レインボゥ・ヴァレー基地にいたミニトレーがやられたのが痛いな」

「はい、ですがまだ我々は戦力を保持しています。我々の保有戦力は航空戦力こそ30%以下になり壊滅的打撃を受けましたが、機甲師団はまだ全滅扱い・・・6割は残っています。現在再編成中ですが、数時間以内にある程度再編成は完了するかと・・・」

「それだけあればなんとかいけるか・・・参謀、ジャブローから何か言ってきたか?」

「いえ、何も言ってきていません。恐らく向こうでも収拾が付かないのでは?」

「まぁ何はともあれ、戦線をニュージーランドに移さざるを得ないか。オーストラリアの価値は激減したな」

「はい、イェップーン海軍基地を除く主要基地が攻撃を受け機能停止、小規模な基地は生き残っていますが、それも時間の問題です。更に言えばトリントン基地を失った事はかなりの痛手です」

「逆に言えば・・・イェップーンを除く主要な基地と核施設のトリントン基地を失った我々にとって、最早オーストラリアにこだわって死守する必要性はなくなったといっても過言ではないな」

「その通りですが・・・・・・! まさか!?」

「我々はこのオーストラリアの地から撤退する。負傷者はイェップーン基地の輸送船で後送する。ただし危険な状態である重傷者は赤十字をつけた建物に置いておく」

「重傷者は放置・・・ですか」

「うむ、今の我々に余裕は無い。1人の重傷者を輸送できるスペースがあるならば2人の人員を輸送するべきだ。それに輸送に耐えられないことも考慮すれば、現地の病院関係者の治療を受けつつジオンに降伏させた方が生き残れるはずだ」

「そうなると・・・・・・負傷者と戦闘に関わらない事務要員等で輸送艦はほぼ一杯になりますね。その搭乗作業も時間が掛かりますし・・・」

「護衛にモビルスーツ1個中隊とそれを載せるミデアを用意する。出航したらモビルスーツはこちらに呼び寄せればいい。後ニューカレドニアの部隊に上空警戒と対潜警戒を要請しろ。艦艇はニューカレドニア経由で撤退させるからそれでとりあえずはいいだろう」

「我々が貧乏くじですか」

「私はレビル派ともV作戦反対派とも違うからな。どうせ今回の件で責任取らされて降格されるのは目に見えている。ならば精々好きにするさ・・・巻き込む君達には悪いがな」

「いえ・・・・・・となるとこちらの最大火力であるベヒーモスは、突破口を開いた後は殿ですかね? 脱出の際に陸戦兵器の搭乗員達はミデアで?」

「そういうことだ・・・全軍進撃、戦闘可能な部隊は血路を開くぞ!」







ガルマ専用ガウ攻撃空母

「そうか、チャールビル基地が落ちたか」

「アプサラスだったか、ジャブロー攻略用モビルアーマーと聞いていたが流石としか言いようが無い」

「これでオーストラリア大陸の南部は制圧した。西部戦線も順調だが、問題は北部戦線だな」

「ああ、連邦軍の逆侵攻を受けているからな・・・・・・ん? ガルマ、北部の撤退を準備しているのか?」

「そうだシャア・・・既に現地の部隊には撤退作業に入るよう指示を出したし、余裕ができた西部戦線から輸送機を追加でまわしてある。追い詰められた連邦の逆襲があるとすれば、それは戦力的に優位に立っている北部戦線だろう。もしそうなったら北部戦線は壊滅する」

「だが連邦軍が撤退するとしたらこちらが占領している北部からよりも、連邦軍の維持している北東部からが一番確率は高い。その為に連邦軍を追い詰め過ぎないように、イェップーン海軍基地への攻撃を軽いものにして脱出手段を与えたのだからな。あそこには今複数の大型輸送船が停泊し、その東方に位置するニューカレドニアには連邦軍の対潜哨戒機部隊もいる」

「そう、ある程度のエアカバーと護衛艦隊があるのならそれを使って脱出すると我々は想定した。だからこそ敵が海上に出たところで襲撃しこれを殲滅する計画を立てた。その為にシドニー湾にいた潜水艦隊をまわす計画だったんだが・・・」

「ああ、まさかこんなに早く追い詰めれるとはな・・・最短でも後十数時間は掛かると踏んでいたのだが、そのせいで潜水艦隊の展開が間に合わん・・・だが、それでなぜ北部撤退案を? 何か情報が入ったのか?」

「・・・それなんだが、どうも陸上戦力がいまいち削りきれてなくてね。ミルチェスター付近で大規模な再編成をしているようなんだ。で、再編成しているという事は大規模な作戦、つまりどこかを強行突破する可能性が出てきてね。しかも向こうの陸上戦艦は全てホバークラフトだ」

「ふむ、となると北部の強行突破が現実味を帯びてくるわけか・・・だが、北部からだと撤退先は東南アジアになるだろう。その道中でポートモレスビーの対艦攻撃機部隊と戦闘することになるぞ。幾ら陸上戦艦といえど、人員を満載しては満足に戦闘もできまい」

そうシャアが指摘すると、ガルマは少し顔を歪ませた。

「・・・そうか、シャアは知らなかったな。確かにポートモレスビーには対艦戦闘用にドダイやジャベリンが多数展開していた。だが今は事情が異なるんだ」

「どういうことだガルマ? ・・・まさか、ポートモレスビー航空隊も例の陽動に、シンガポール奇襲に参加したのか!? 参加予定になかったはずだろう!」

「ああ、当初はそうだったんだが西太平洋方面軍の要請で増援に回ったんだ。こちらが要請した作戦だけに断れ切れなくてね。おかげで今、ポートモレスビー基地航空隊にいる航空隊は1個中隊にも満たない。もし北部が突破されれば、そのまま逃げられる可能性は高い。それに仮に出撃したとしても攻撃自体ができるかどうか・・・」

「・・・例の大型陸上戦艦か」

「ああ、情報によると陸上空母ともいえる存在だから、敵艦隊のエアカバーは存在すると判断すべきだ。となると最悪、現在のポートモレスビー航空隊を出撃させても返り討ちとなるかもしれない」

「そして後はたいした障害も無く突破されると・・・たしかに北部の撤退案を実行したほうがいいな。その方が被害が抑えられる」

「ああ・・・とにかく、こちらは北部は撤退、他の戦線は少しずつ前線を押し上げていく事になる。脱出する艦船の攻撃はもう半ば諦めているよ」

そこまでガルマが言ったとき、通信を担当していた士官が悲鳴のような報告をした。

「大変です! 連邦軍が北部へ大規模な攻勢を開始、最前線の防衛ラインは各所で突破されています! なお敵は陸上戦艦多数含むとのことです」

その報告にガルマとシャアは顔を見合わせる。

「まさか・・・早すぎる。こちらの撤退が完了するにはまだ時間が必要だぞ!」

「ガルマ、防衛ラインの構築はどうなっている?」

「たしか・・・最終防衛ラインこそ整ってはいるが他は未完成だったはずだ」

「ならば最終防衛ラインに戦力を集結しつつ、足止め部隊を展開すべきだ。撤退時の事も考えると機動性に優れた部隊をだ」

「それは分かっている。だが他の戦線から北部に戦力を回すにせよ、航空戦力以外にそんな部隊があったかシャア? 輸送機で運べば何とかなるかもしれないが、生半可な部隊では返り討ちにあうだけだろう」

そんなガルマの問いにシャアは不適に笑いながら答えた。

「いや、丁度いい部隊がいる。義勇兵からなる実験部隊と荒野の迅雷の部隊がたしか北部に向かっていたはずだ。彼らならば期待に応えてくれるはずだ」



[2193] 36話前半 オーストラリア戦役4-1
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2010/08/26 00:40
北部戦線


北部戦線の防衛ライン、その少し後方に多数設置された急造の野戦砲撃陣地。そこかしこに土塁や塹壕が築かれており、そこに設置されていた無人の多連装ロケットランチャーの迷彩シートがはがされていた。
他にも野戦榴弾砲を荷台に搭載したサムソントレーラーの姿もあり、土塁の影にはザクタンクが数両待機していた。それだけに留まらず、塹壕にはザクJ型数機がマゼラトップ砲を構えてその時を待っていた。
そしてこの混合砲撃部隊の指揮車両のサムソンに1つの命令が入ってきた。

「・・・命令きました。『D5・X193・Y755・TN』です」

「うむ、座標入力急げ!」

「・・・砲撃準備完了!」

「キメラ1、撃て」

その言葉と共に1機のザクJ型がマゼラトップ砲をぶっ放した。そして数十秒後、再度通信が入った。

「修正値、E2のN1だそうです」

「分かった、直ちに修正し再度砲撃せよ」

そして再び発砲し、その数十秒後・・・

「・・・全力射撃のオーダー来ました! それとランチャーも全て放てとのことです」

「よ~し、各機砲撃開始! ロケットも全部ブチかませ!」

その命令が各機に伝わった次の瞬間、陣地から一斉に光が解き放たれた。大量に設置された無人の多連装ロケット砲は基本的に使い捨てだが、その分一時的な火力の投射量は洒落にならない。直撃すれば戦車も破壊できるロケット弾が大量に解き放たれていく。そして連続して砲撃をするのはマゼラトップ砲を構えたザクJ型とザクタンクを筆頭とする砲撃部隊だった。撃ち始めて十数分後にはザクタンクの180mmカノン砲が弾切れになり、マゼラトップ砲を構えたザクの予備弾装もそろそろ無くなりかけるまで続行された。

「よ~しよし、いい感じだな。とはいえ弾切れになり始めたし、そろそろ陣地転換するべきか」

「そうですね。向こうもこちらの位置を把握している頃でしょうし、移動すべきかと・・・」

「よし、各機陣地転換するぞ。慌てず速やかに移動せよ」

が、それらは僅かに遅かった。砲撃を終了し移動を開始したこの部隊に、無数の砲弾が降り注いだのだから。それでも自走榴弾砲レベルならまだなんとかなっただろう。問題はそれが明らかに自走榴弾砲レベルではない、戦艦クラスの砲弾が降り注いでいる事だった。

「第3小隊のザクタンクが消し飛びました! 至近弾だったのに全機応答ありません!」

「こ、この砲撃の威力は・・・まさか陸上戦艦の射撃か!? まずい、総員全速でこのエリアを離れろ、急げ!」

そう指揮官が命ずるが、もはや手遅れなのは明らかだった。どう考えてもこの陸上戦艦の艦砲射撃は複数と思われる量で彼らの頭上に降り注いでおり、彼らにとっての地獄の釜の蓋は既に開いていたのだ。そう、この砲撃陣地の命運はもはや尽きていた。数分後、この砲撃陣地の部隊は極僅かな生存者を残し文字通り全滅していた。いかにモビルスーツといえど、戦艦クラスの艦砲射撃では至近弾ですら致命傷なので、簡易陣地しか存在しないただの砲撃拠点では防ぐ事もままならないのだ。
こうして砲撃を仕掛けるジオン陣地はビッグトレーとベヒーモス、そしてミニトレーからの砲撃の前に次々沈黙していく。レーダーが使えないといってもある程度ならば使用可能だし、対砲兵レーダーも使える。そしておおまかな位置を掴んだ後は砲撃によって怪しいポイントを吹き飛ばせばいい。ドラゴンフライ等の偵察機を飛ばし弾着修正をすればより短時間で殲滅できる。

だが陸上戦艦が砲撃陣地を主に攻撃するという事は、ジオン側の防衛ラインに対する砲撃が疎かになるということだ。簡易的なつくりとはいえ、正面から敵の攻撃を受け止める防衛ラインにはザクやグフがマシンガンやバズーカを構え、連邦軍が射程に入るのを待っている。その少し後方にはマゼラトップ砲を構えたザクJが砲撃の合図を今か今かと待ち構えていた。とはいえ、そのJ型は普通のJ型ではなかった。手にマゼラトップ砲を持っているのは別にいい。腰にマゼラトップ砲の予備弾装をしこたま持っているのも特に問題ない。が、右肩のシールドと左肩のスパイクショルダーの上に観測機器と通信機器が、それもとってつけたかのように増設されているのは異様だった。しかも全ての機体が用途は同じだが外見は全く異なったパーツを使っており、機材から機体内部に繋がるコードもむき出しだ。これがザクキャノンならまだある程度は理解できるが、普通のザクにこんなものはいらない。それだけでここのザクJが現地改造機であることが伺える。

現地改造といえば連邦軍の陸戦型ガンダムを現地改造したEz-8やジオンのザクタンクが有名だが、それらは全て機材不足や戦力の足しにするために改造を行われており、このザク達も同様の理由で改造されていたのだ。
そもそもこの北部戦線において支援射撃を専門に行う機体が少なく、特に防空にも対地攻撃にも威力を発揮するザクキャノンの絶対数が不足していたのだ。いや、それどころかそれを補うキャノン砲を装備したザクタンクですら不足していた。オーストラリア戦役の初期、北部戦線の部隊は進攻に失敗した為に慢性的な砲撃部隊の欠乏に悩まされており、その為現地ではこのような砲撃用に改造したザクをでっち上げて戦線に投入していたのだ。流石に性能の向上はスズメの涙程度だったが、機材さえあればそれほど機体を弄らず機材を乗せて固定し、それらの配線を弄る程度なら数時間程度で行えた為、このような簡易急造型ザクキャノンもどきザクは結構な数がでっち上げられた。

このようにそれなりの戦力を整えていたジオン防衛部隊だったが、それと戦う連邦軍もジムや鹵獲モビルスーツを持っており従来兵器もかなりの数を保有していた。が、それでもこれだけだと連邦側の分が悪いのは言うまでも無い。
だがここで忘れてはいけない事が1つだけあった。それは自分達の思惑通りに相手が動いてくれるとは限らないという事だ。
防衛陣地に自走榴弾砲やロケット車両からの砲撃が加えられ、61式戦車が前進してくる。そしてそれに向かってマシンガンやバズーカを放ち、61式戦車を吹き飛ばすザクやグフ。少し後方にいた改造ザクJの一部の機体で、連続砲撃の衝撃で肩に乗せていた機材がずり落ちたというハプニングもあったが、概ね全ての機体が砲撃を続行し、進軍する連邦軍を叩いていた。ただそれだけを見るならば、連邦軍の進撃とそれを防ぐジオンの構図だった。・・・連邦の後方にやたらでかい何かが複数存在する事を除けば。
それに最初に気がついたのは偵察を行っていた強行偵察型ザクだった。

「連邦め、調子に乗りやがって・・・む? なんだあれは?」

「どうしたパパラッチ2、何かあったのか?」

「敵の後方に妙な物が・・・トレーラーに何か乗せている? 大砲かあれは? 画像データを送る、各機で確認されたし」

そう、進撃している連邦軍の遥か後方に巨大な大砲を載せたトレーラーがいたのだ。詳細は各部にシートがかけられていた為に分からなかったが、それが何かの武装だろうという事は容易に想像がついた。

「砲口が四角い・・・レールガンかビームバズーカですかね? それにそれぞれ微妙に異なっている、急造兵器か?」

「ビーム兵器でも、あんな後方に配置するか? ・・・隊長、どうしますか?」

「こちらのバズーカの射程外だ、ほっとけ。曲射すれば届くかもしれんが、まずは目の前の敵から確実に始末するぞ。弾は有限なんだから、あれの脅威度が分からん以上明確な脅威に対処しろ。いざとなれば砲兵に任せればいい」

「了解」

が、ここで無理にでも攻撃しなかった事を彼らは後悔する。なぜなら、そのトレーラーに乗せられた何かから巨大なビームの閃光が迸り、ジオン側の防衛部隊が密集していたところを飲み込んだのだから。この攻撃によってその地点にいたザク4機とグフ2機は大破し、運悪くビームが直撃した機体は跡形も残らなかった。そして続けざまに同様のビームが複数迸り、何箇所かの防衛陣地が文字通り消滅した。

「な・・・今のは何だ!?」

「後方のデカブツがビームを・・・・・・まるで宇宙戦艦の艦砲じゃないか!」

動揺する隊長に対し、宇宙戦闘を経験した熟練のモビルスーツパイロットが思わずそんな感想を言ったが、ある意味でそれは正解だった。なぜなら今ビームを放ったのは連邦軍が誇る対艦戦闘用移動砲台のバストライナーだった。その威力は絶大で、掠っただけでダメージを与えるような代物である。
だが問題も無いわけではない。そもそも、このバストライナーはオーストラリアの倉庫に死蔵されていた、初期型のバストライナーだった。ジェネレーターや廃熱といった多くの問題を抱えていた兵器であり、運用するには色々と制約があった。とはいえジオン側の防衛線を食い破るには十分すぎる物であり、このまま放置してジオンに鹵獲されるくらいなら使い潰してしまおう、という思惑もあって大型トレーラーに搭載して突撃砲扱いしているのだ。
更に言えば、なぜ複数のバストライナーが存在するのかといえば、オーストラリアという土地に理由があった。
元々オーストラリアは人口密度が低い土地で、その人口も沿岸部に集中しており、大陸中央部には軍の演習場に最適な広大な砂漠があった。
つまり、軍の新兵器の実験をするにはうってつけの場所であったのだ。そしてここでバストライナーのテストを行ったのだが、初期型は不安定で多くの故障や暴発、酷い時は小爆発まで起こしたのだ。当然現時点では改良されている物の、その影響で初期型のバストライナーは失敗作扱いされており、テストを終えた複数のバストライナーはそのままオーストラリアの倉庫に埃を被って眠る事となったのだ。もちろんある程度の整備は行われてはいたようだが、上層部からはほとんど存在を忘れ去られた代物だった。
が、オーストラリアでジオンの動きがきな臭くなると話は一変し、連邦軍はあらゆる兵器を整備し出した。そしてその中に倉庫に眠っていた複数の初期型バストライナーが存在しており、それを改造して戦線に投入したのだった。

その効果は抜群だった。たった1撃で防衛ラインの一角が崩壊したのだから、その動揺は隠せない。そこを突破口にすべく連邦軍は突進し、ジオン軍はそこを塞ぎに掛かる。が、その為に再度結集したモビルスーツ隊に向かってバストライナーが光を放ち、モビルスーツ十数機を飲み込んだ。これによりジオン側は突破口の封鎖どころか戦線の維持すら困難になり、戦線の後退をすべく撤退行動へと移行した。そして連邦軍は突撃を敢行し、陣地を食い破っていく。

とはいえ、そんな急造兵器が何度も活躍できるはずも無い。ただでさえ問題を多数抱えている初期型バストライナーである。進軍中のビッグトレーにはバストライナー砲部隊から報告が舞い込んだ。

「ライナ4及び7にトラブルが発生し、機体を放棄するとのことです。既に機体の爆破処理に掛かりました」

「・・・これで砲撃可能なのは5機だけか。最初は9機いたのに1機がトレーラーに砲を載せる時点で壊れ、1機が行軍途中で脱落・・・所詮は急造兵器か」

「ですが使い捨て兵器としてはよく持ってる方では? あれのおかげでこちらの損害が少ないのは事実です」

「まぁいい、予想よりも順調に進攻できているのはいい事だ。偵察機へ通達、敵の砲撃陣地を発見次第座標を送って寄越すように伝えろ! 砲撃陣地は最優先撃破だ!」







オーストラリア北部 ディクシー ジオン補給基地

本来ならばオーストラリア北部から連邦軍領土へと進攻する為に作成された、滑走路すら保有する大規模後方補給基地は、その溜め込まれた物資を載せた多数のトレーラーが移動を行っていた。ただし、南方ではなく北方のウェイパに向けて輸送されていった。

「連邦め、なんて進軍スピードだ・・・急げ急げ! 敵は待ってはくれんぞ! 持っていけない物は爆破処分するから1箇所にまとめておけ!」

この補給基地の本来の司令官はとっくに後方へ撤退し、指揮を取っているのは整備班のリーダーだった。彼は大量に備蓄された資材を優先順位の高い方から輸送を行っており、各方面に連絡を取り物資の輸送を手伝わせていた。ジオンの輸送機が着陸し、物資を詰め込んでオーストラリア西部に向かって離陸していく。その一方でMS-06W 一般作業用ザクやザクタンク、果ては基地防衛の為に配備された旧ザク3機も手伝わせて物資の運搬作業を行っていた。
そんな彼の元にこの基地の防衛部隊の隊長を勤める男が声をかけた。

「フェブラック、そっちはどうだ?」

「ん? ああ、カフェシグか。見ての通り大忙しだ。そっちの旧ザクやザクタンクに手伝ってもらってるおかげで助かってる。とはいえ今積み込んでいるトレーラーで最後だから、残っている補給物資は爆破処分だな」

そう言って遠くを見ると、モビルスーツ用の補給物資や生活物資が複数の小山となって積まれていた。

「もったいないが仕方ないか・・・ところであの作業用ザクはどうする? さっき部下から聞いたんだが、もうかなりガタがきているらしいじゃないか」

元々一般作業用ザクは使用不能になった機体をリサイクルした機体であり、整備性や稼働率は一般的なザクよりも低めだった。それが今回のオーストラリア攻略作戦に伴い酷使されすぎ、その結果一度オーバーホールが必要な機体ばかりとなったのだった。そしてその機体は当然ながら戦闘力など期待できない。

「その作業用ザクには・・・確か倉庫にスクラップ寸前の120mmマシンガンと105mmマシンガンがあったはずだ、それを持たせてそこらにでも立たせておけ」

「な!? こんなポンコツに廃棄処分前の旧式マシンガンって、パイロットを死なす気か!」

「勘違いするな、俺は立たせておけといったんだ。つまりただの案山子として使えという事だ、もちろんコックピットはぶっ壊してな。他にも簡単な物だが色々と偽装はしている」

余りの発言に防衛部隊隊長が激昂するが、整備班長が言った言葉に怒りを収め周囲を見る。よく見れば戦闘はおろか自走すら不可能なマゼラアタックや装甲車があたかも防衛についているかのように配置され、滑走路でも飛び立てそうに無いドップ戦闘機が滑走路に引っ張り出され、出撃準備を行われているような偽装工作がなされていた。更に基地施設内部の窓側にはどこから調達したのかマネキンが軍服を着て置かれていた。

「・・・基地に戦力が存在すると見せる囮か。勿体無いと思うが仕方ないか」

だが幾らなんでもモビルスーツを案山子にするのはもったいない。そう考えてもいいのだが、案山子にする・・・いや、せざるを得ない事情もまた存在していた。

「ああ、そもそもパイロットも足りないし、ここを出ても恐らくウェイパからの脱出用の機体に載せるスペースは無いだろう。新品ならまだしもあんな使い古しの機体ならばなおさらな。ならここで囮にして少しでも、それこそ数分でもいいから時間を稼ぐのが賢い選択だ。時間があればマシンガンを適当に乱射できる程度の小細工ができるんだが、そんな暇は無いからな」

「そういえばあの作業用を動かしてるのは整備班の人間だったな。防衛部隊のパイロットも足りてない状況だから、仕方ないと言えばそれまでだが・・・」

「何もかも足りない上に初戦の敗北だ。南部や西部は押してるらしいが、その結果こっちに敵さんが集中するんだからなんともはや・・・」

そう、案山子にせざるを得ない理由とは、モビルスーツパイロットが足りないのだ。サイド3以外のスペースコロニーや地球からの義勇兵で賄ってはいるものの、基本的に人員不足はどこも似たようなものなのだ。そこで戦闘行為をしない作業用のモビルスーツには整備兵や工作兵が乗り込んで作業する事も多い。流石に動作の一つ一つは普通のモビルスーツパイロットに比べたら遅いが、それでも従来の重機よりは作業能率は格段に違っていたのだから。
が、撤退になると話は別だ。確かに整備用のパーツを満載したコンテナを運ぶ際には重宝するが、撤退するときには邪魔になる。平時ならば多少の故障なら修理すれば直るが、撤退時は修理する時間すら勿体無い。更に言えば戦闘ができない機体を持っていても邪魔なだけである。1機のモビルスーツを載せるスペースに多くの人員を載せる事ができるからだ。
これが戦闘訓練をきちんと受けた正規兵ならば補給物資の中のマシンガンで武装する事もできるだろうが、あいにく乗っているのはただ動かすだけの整備兵。マシンガンを撃てない事は無いが、命中率は極めて低いことは容易に想像が付く。
撤退の際に物資を積めたコンテナをモビルスーツの手に持って撤退するという方法もあるが、それだとモビルスーツが故障を起こした場合その物資までも廃棄せざるを得ない事になりかねない。よって一番安全なのは動作が怪しい機体はトラップにするということだった。

そして数十分後、ディクシー補給基地は放棄された。そして数時間後、この基地に案山子と化した無人ザクや車両、戦闘機を確認した連邦軍はミノフスキー粒子の影響もあってそれを案山子と見抜けず、戦力が充実した基地と判断し艦砲射撃によりここを砲撃、整備班長の目論見どおり砲撃の行われた十数分間の時間を稼ぐ事に成功する。





連邦軍の北方戦線突破にジオン側も手をこまねいていたわけではない。敵陸上戦艦を含む地上戦力の撃破の為に各地の航空基地からは攻撃隊が発進していった。だが・・・攻撃目標の上空には連邦軍戦闘機部隊が展開していた。しかもジオン及びVF航空隊は波状攻撃を仕掛けたのだが、運悪く到着時刻が微妙にずれて五月雨式に襲撃するハメになり、結果的に各個撃破の対象となっていた。一部肉薄できた部隊もいたが結果は・・・

「こちら茶5、被弾した! 爆弾を投棄し撤退する」

「敵機多数、爆撃機を守り切れない!」

『対空砲弾、撃ち方はじめ! 撃ちもらした敵機は戦闘機隊が始末しろ』

「あのデカブツ、陸上戦艦なのかと思ったら陸上空母兼任かよ! ・・・くそ、敵戦艦の砲撃で爆撃機部隊の損害甚大、援護を!」

「モビルスーツを載せた爆撃仕様のドダイは運動性が悪い。モビルスーツは可能なら降下して攻撃してくれ」

「無茶言うな、降りたらどうやって戻ればいいんだ。俺達に死ねって言うのか!?」

『爆撃機更に多数接近、モビルスーツ隊の降下も確認しました。指示を!』

『モビルスーツを載せている機体は動きが鈍い、対空砲火で撃ち落せ! 降下したモビルスーツにはガンタンク部隊があたれ!』

「敵地上戦力からの対空砲火にも気をつけろ、油断すると喰われるぞ!」

「射程に捕らえた、撃て!」

『ミ、ミサイル接近!』

『慌てるな、弾幕を張り母機もろとも撃墜せよ!』

「だめだ、被弾した・・・うわあああぁぁぁ!?」

上の通信を見たら分かる通り、そのことごとくが壊滅的被害をこうむっていた。とはいえ、少なく無い数の連邦軍戦闘機や地上戦力を破壊しているので次第に連邦軍の戦闘能力は減っていた。が、それ以上にジオン及びVFの航空戦力の枯渇は深刻だった。オーストラリア戦役初期の航空戦を立場を逆にして再現してしまったのだ。ただでさえ北部方面からの進攻に失敗して展開できる航空機数が少なくなったのに、更に航空機を失ったのだから当然だ。ある程度の戦闘機は脱出予定の輸送機の護衛にまわさなければならないのだから、もはや増援がなければ航空攻撃は不可能というレベルだ。
だがそれでも航空隊は役目を果たした。この航空攻撃の影響で連邦軍の進軍速度が遅くなったのだから。そして連邦軍の進撃速度を緩める為に、更なる攻撃が待ち構えていた。







ストラスバーン、ディクシー補給基地のあったところから北北西に100km程のところに位置するこの都市はいまや激戦地と化していた。北部を突破しようとする連邦軍と、その猛攻を防ぐジオンVF連合軍の激戦だ。
元々この地には守備部隊としてザクⅡF型6機、グフ3機、ヅダJ型3機、対空防衛用のザクタンク6機とザクキャノン3機が展開しており、それとは別にマゼラアタックが15両、対空戦車型のマゼラフラック12両が存在していた。それに前線から撤退してきたプロトドム4機、ドム1機、ザクJ型5機、マゼラアイン7両が合流した。勿論他にも前線から撤退してきた部隊は多いのだが、それらの多くはここを通過し後方に撤退していき、この場に残り遅延戦闘をする事にした機体だけを合計すると、モビルスーツ31機、戦車34両となる。これだけ見ると結構な数のようだが、問題は連邦軍の規模にあった。ここを攻めている連邦軍は主力部隊ではないが、ここストラスバーンに殺到したのはその数倍の規模なのだから。
ちなみに連邦軍主力はストラスバーンよりも東におよそ70km離れているヤレードンを中心に前進しており、言ってみればストラスバーンを進軍しているのは連邦軍の左翼側に展開する部隊であった。ヤレードンの防衛部隊はザク3個中隊を基幹とする部隊だったが、それも連邦軍の猛攻の前にすり減らされていた。

そしてここストラスバーンに展開している防衛部隊も連邦軍の攻撃によってすり減らされていた。特に連邦軍部隊の後方に展開するMLRSや自走榴弾砲から放たれる攻撃は守備隊に甚大な損害を与えていた。いかにモビルスーツといえどトップアタック、頭上からの攻撃には弱かった。このままいけば守備隊の壊滅は時間の問題だったのは間違いないだろう。
・・・・・・とある増援部隊が来なければ。

突然複数のオルコス輸送機が護衛戦闘機付きで戦場の上空に姿を現し、コンテナから多数のモビルスーツを降下させていった。その多くはグフやドムシリーズだったが、ほぼ全ての機体がなんらかのカスタマイズを施されており、それらの内の何機かは大型の通信センサーが増設されたものもあったが、これらはそんなに印象に残る物ではなかった。いや、それよりももっと特徴的なものが降下した部隊には付いていた。それらは主に2つのマーキングだった。1つは雷神(眼帯をしたドクロマーク)のマークを施されたグフカスタムを中心とした、風神雷神のマークをつけた部隊。そしてもう1つはコウモリをエンブレムとする部隊の姿だった。
そう、戦場に降り立ったのはジオンのエース、荒野の迅雷ことヴィッシュ・ドナヒュー中尉率いる部隊と、エンマ・ライヒ中尉率いる義勇兵部隊だった。
内訳は荒野の迅雷側がグフカスタム6機、ドム3機、ドムアサルト3機、ドム・グロウスバイル3機、ドム・シュトルム3機の計18機。義勇兵側がヅダJ型3機、プロトドム3機、そしてMS-09T ドム・タトゥー6機の計12機。合計30機のモビルスーツ隊であった。

「ライヒ中尉、我々は迂回し敵の後方を叩きつつ増援を絶つ。現在防衛線に攻撃をしている敵前衛部隊を任せてもかまわんか?」

「・・・了解! 私達義勇兵が荒野の迅雷率いる部隊と一緒に戦えるなんてね。皆、義勇兵でも十分戦えるという事を証明するよ」

「中尉、功績を焦って命を落すのは愚か者のすることだ、愚か者にはなるなよ!」

そういって2つの部隊はそれぞれの目標を確認しあった後に降下を開始した。

さて、ここで義勇兵部隊の使っているMS-09T ドム・タトゥーについて説明しておこう。ドム・タトゥーはドム・グロウスバイルよりも更に格闘戦闘に特化したドムであり、ベースはMS-09I ドム・シュトルムとなっている。外見はFM2のヴァンツァーであるタトゥーに似ており、これは完全に社長の趣味のごり押しといえた。
武装は右肩に90mmマシンガン、左肩に8連装ミサイルランチャーを搭載しておりそれなりの火力を持っているが、それ以上に特徴的なのは腕部であった。腕部はいざとなれば丸ごとドム・シュトルムのものと変更可能なようになってはいるが、基本的に対ビームコーティングを施された大型スパイクシールドと一体化した格闘腕となっていた。ちなみに開発当初は社長の提案したこの格闘腕に否定的だった開発グループだが、鹵獲したガンダムのデータを分析し、従来型のM-120A1 120mmザクマシンガンどころか貫通力に優れたMMP-80 90mmマシンガンが全く効かないルナチタニウム装甲に衝撃を受け、どこをどう間違えたのかガンダムを正面から殴って撃破できるだけの格闘戦能力を持つ事を念頭に開発された。
が、当然ながら殴るだけではヒートホーク以下の射程しか確保できない為、ゴッグやハイゴッグで採用されているフレキシブル・ベロウズ・リムと呼ばれる多重関節機構を応用し、史実のMSM-08 ゾゴックのアームパンチのように拳骨を当てる直前に数メートルながら腕部を伸ばし、格闘攻撃の有効射程距離を伸ばす事に成功している。
なお開発終了後しばらくたってから普通にヒートホーク等の格闘兵装を持たせればよかったのではと気がつき、開発者一同が『どうしてこうなった』と頭を抱えたという噂もあるが、割とどうでもよかったりする。
それ以外にドム・シュトルムよりも装甲を強化し、特に機体前面の装甲はマシンガン程度では撃破できないレベルとなっており、更に加速用ロケットブースターをホバーユニット後部に持つ為、瞬発力ではドムシリーズでも屈指の性能を持つ。

さて、ここまで聞けばこれがなぜ正規軍ではなく、正規軍よりも下に見られやすい義勇兵部隊に配備されているか疑問に思うだろう。格闘能力、加速性能、装甲の厚さはドムシリーズでも屈指の物なのにだ。
が、よく考えて欲しい。この機体は汎用のきくマニュピュレーターではなく格闘腕というイロモノ機体である。その余りの玄人向け・・・いや、変態向けにどれほどの人が乗りたがるだろうか? ゲームとかならば使ってみようかなと思う人はいても、実際に命を預けようと思う人間はいるだろうか? そう、このモビルスーツには乗り手がいないという致命的な問題が浮上したのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが義勇兵部隊だった。言い方は悪いが正規軍よりも使いつぶしの利く義勇兵ならば、こんなイロモノを通り越した変態兵器でも使わざるを得ないだろうという思惑もあり、試作された機体が押し付け・・・もとい配備されたのだ。(義勇兵部隊は正規軍で使い古した機体を使っているところが多く、その機体は大抵旧ザクや初期型ザクであった。例外は北米やオーストラリア方面等に代表されるドズル・ガルマ派閥に配属された義勇兵部隊だった。彼らは新兵器の実験という名目で、信頼性もある程度はある新品の兵器を与えられていたからだ。故に外れくじも引きやすいという事でもある)

とはいえ、カタログスペック上では高性能な機体である。8連装ミサイルランチャーをブチかまし、可動式の肩マシンガンを乱射しながら敵陣に突撃後、格闘戦メインの乱戦に持ち込むのがこの機体の基本戦術だった。流石に弾薬を撃ち尽くせば再装填は戦場ではほぼ不可能な為に格闘戦のみになるが、それでもその戦闘能力は侮れない。

「・・・しかし、まさか私達義勇兵にこんな最新の機体が回ってくるなんて、世の中分からないものね」

そうライヒ中尉は呟き、これまでの事を思い出していた。





「キャリフォルニアベースへ行け、か。一体何でこんな命令がきたんだ?」

「さぁな。だがキャリフォルニアベースということは戦闘目的ではないのは確実だ。恐らくは・・・」

「なんらかの実験や訓練、又は装備の受領ってとこかしら? ・・・もっとも、それだけならいいんだけどね(ボソ」

「しかし残念だったなスミス、交際をしているジオン娘さんと離れる事になって」

「ふん、甘く見るなよマクリーン。俺と彼女の仲なら少しの間離れてても問題ない!」

「ふふっ・・・私の考えすぎならいいんだけど(ボソ」

そんな会話をしつつライヒ中尉率いる地球出身の義勇兵部隊はキャリフォルニアベースへ向かうコムサイへと乗り込んでいた。他にもこれまで宇宙で戦っていた他の義勇兵達も乗り込んでいることから、今回のキャリフォルニアベース行きが義勇兵を使った作戦を行う可能性があるとライヒは考えていた。

「(・・・最悪、私達義勇兵を捨て駒にする作戦がなされていると考えた方がよさそうね。・・・とはいえ、こうなることを承知で義勇兵になったのだけど)」

が、彼女の予想は半分当たり、半分外れる事となった。





キャリフォルニアベース シャトル発着場ロビー

「・・・意外と多いわね」

「ああ、これだけ義勇兵が揃うのも珍しいな」

「っていうか、空港のロビー1つを貸しきっているって事が凄いぜ」

そう、地球のキャリフォルニアベースに集められた義勇兵はライヒ達の乗っていたコムサイだけではなかったらしい。少なくとも数十人もの地球出身の義勇兵がおり、その倍の他サイドからの義勇兵達もいたのだから。おかげでシャトル発着場のロビーは大勢の義勇兵達で埋まっていた・・・といってもそれぞれチームを組んでいた部隊ごとに、それぞれ気に入った場所を占領しているだけだったが。
いや、それに違う部隊が合流して交流を深めているせいで喧騒が止まらない。その原因をライヒは見つめていた。

「たしかにこの中で隊長をしてたけど、まさか中隊の隊長をする事になるなんて・・・」

「俺たち5人以外に7人加わった12人編成か。責任重大だな」

「しかも義勇兵扱いから傭兵扱いだし」

そう、それぞれ3~8人規模で形成されていた義勇兵達を12人ごとの中隊に再編しており、その関係で新しく加わった同僚との交流がロビーのあちこちで行われていたのだ。中には馬が合わず殴り合いの喧嘩も勃発しており、中々カオス具合が広がっていた。

数十分後、ようやく一段落したロビーに背広姿の男達が入り、それぞれの中隊に加わっていった。ライヒのチームにも背広を着た男が話しかけてきた。その旨にはツィマッド社の社員章がついていた。

「え~、はじめまして。ツィマッド社営業部のタナカです。はい、確認ですが皆さんはライヒ中尉が隊長の義勇兵部隊で間違いありませんね?」

その言葉で12人が頷くのを確認した後、タナカと言った社員は早速本題に入っていった。

「じゃあ確認もとれたことですし、それではこれから皆さんが乗られるモビルスーツの置いてある格納庫まで案内しますんで、しっかりついてきてくださいね」

そしてタナカについていく事十数分、案内された先は巨大な倉庫群の中の1つだった。

「え~っと、G-6に間違いないな・・・はい、この中に皆さんに乗ってもらうモビルスーツがあります。期待してもらっていいですよ」

そうタナカは言うが、ここに来た義勇兵の多くは旧ザクに乗っていた者達だった。そのせいで少し不安げな表情を浮かべていた。なぜなら彼らが乗る機体はどのような物か、事前に知らされていなかったのだから。

「それでは・・・開けてくださ~い」

微妙に気の抜ける声と同時に格納庫の扉が開放され、そこには黒光りする複数のモビルスーツの姿があった。そして義勇兵達の一番前に鎮座している6機のモビルスーツにはマニュピュレーターが無かった。

「ウォッ、すげぇ! これが俺達の新しいモビルスーツか!?」

「これは・・・実験機か? 武器を持つ為のマニュピュレーターがないじゃないか」

「だけど最新鋭だ! もう誰にもポンコツだなんて言わせねぇよ!!」

「そうよ、私達やっと認められたのよ!」

そう喜び合うエンマ・ライヒ中尉達だったが、ここまで案内していた技術者がわざとらしい咳払いをしたことで、彼の言葉に耳を傾ける事にした。

「これらが貴方方に使っていただくモビルスーツです。奥からヅダJ型3機、プロトドム3機、そして手前の6機がMS-09T ドム・タトゥー、格闘戦特化型のドムです。これら合計12機のモビルスーツが貴方方に配備された機体ですが、誰がどの機体に乗るかはそちらで決めてください。武装ですが、ヅダJ型には135mm狙撃用レールガンとその予備弾薬を、プロトドムにはショットガンとジャイアントバズーカを持たせています。勿論要望があれば武装変更は行いますので遠慮なく申し出てください。ただし、実機に乗るのはまだやめてください。あちらにシミュレーターが調整してあるので、そちらで軽く訓練してからにしてください」

その言葉に再度歓声が上がった。それもそうだ、プロトドムもヅダも正規軍にしか使われていない機体であり、特にヅダは今でもエース用機体としての意味合いを持つ。今まで使い古された旧ザクを使っていた義勇兵からしてみれば、それだけで自分達は認められたのだと思うに十分な事だった。

・・・が、幸せはそこまでだった。次に紹介された人物によって、義勇兵の皆さんは地獄を経験する事になるのだから。

「あと、皆さんのモビルスーツの教官を務めていただく方々を紹介します。中佐、どうぞ!」

その言葉と共に現れたのは屈強な男たちを率いる1人の女性佐官だった。

「あんた達の指導をすることとなった海兵隊のシーマ・ガラハウだ。短期間だから容赦なく鍛えてあげるから覚悟するんだね!」

余談だが、この時キャリフォルニアベースに集められた義勇兵部隊だが、一時的にツィマッド社が地球方面軍から雇った傭兵部隊という立場となった。そして今回の作戦に参加し、かつこれからドズル・ガルマ両名直轄の部隊として活動する報酬として提示されたのが、ガルマ貴下の地球方面軍やドズル貴下の宇宙攻撃軍から正規軍と同様に扱うという保証、そしてツィマッド社から貸し与えられたモビルスーツをそのまま部隊に配備し、配備申請があれば便宜を図るという事。たったそれだけなのに義勇兵達はその条件を受け入れた。
なぜその条件を受け入れたのか、その理由は彼らが受けていた扱いにある。
他のスペースコロニーからの義勇兵ならば待遇はそう酷い物ではないが、史実のライヒ中尉のように地球出身の義勇兵は扱いが他よりも酷かった。とはいえこの戦争では義勇兵によって戦線が大きく助けられているというのもまた事実なので、史実のように整備不良品を与えられるという事は少なかったのだが、それでも地球出身の義勇兵が肩身の狭い思いをしていた事は事実だった。そしてそれは逆に言えば厄介者と軍上層部が見なしているということでもあった。
そこに目をつけたのがツィマッド社だった。ツィマッド社の創設したVFは現在では正規軍の精鋭部隊という間違った認識があるが、元々はツィマッド社特別試験部隊という名前の新型兵器運用試験部隊で、その実態はツィマッド社の私兵であり、基本的にVFの人員はツィマッド社の社員だ。故にVFの人的損害が大きければ各種手当てが必要となり、その金額が馬鹿にならないのだ。死亡したら死亡手当てを払わないといけないし、危険手当もおおきい。それならそういうコストの掛からない義勇兵を借りられれば、それが無理なら軍と交渉して傭兵という形で雇い入れたらいい。そういう判断らしいが、実際は史実を知るエルトランの指示だったのは言うまでも無い。それがツィマッド社にプラス方向に作用しただけである。
そして傭兵となった地球出身の義勇兵達だったが、ここで思いもよらない問題が発生した。

・・・・・・これまで旧ザクに乗っていた彼女達にヅダやドムの操作は難しく、即戦力化ができなかったという事だ。
改めて言うがこの世界では統合整備計画が民間主導で行われた結果、ヅダやザクⅡといった機体の操縦系統は統一されている。逆に言えば旧ザクはザクやヅダとは操縦系統が違うという点である。
これは違う義勇兵部隊をツィマッド社が雇い、慣熟訓練を行った際に発見された問題点で、旧ザクの時の操縦の癖が治らず、そのせいで撃墜判定を出される義勇兵は少なくなかった。
そこで今回は雇い入れた地球出身の義勇兵達を一箇所にまとめ、再度大規模な軍事訓練を行う事となり、地球出身の義勇兵という事でキャリフォルニアベースに集められたわけだが、その集団戦の訓練を行う際に新たな問題点が発生した。
・・・簡単に言うと実戦を教えられる教官がいないということだ。いや、教官はいるにはいるが他の仕事で手一杯で、とてもじゃないが急遽集められた義勇兵部隊に教える余裕がなかったのだ。
とはいっても訓練をしなければ作戦効率が低下するし、死者が出る可能性は高い。ではどうするか? 答えはツィマッド社内部で解決するのではなく、外部に依頼するという案だった。では誰に訓練の以来をするか? モビルスーツでの連携がうまく、それでいてツィマッド社になるべく不利益を与えないような部隊は?
そこで白羽の矢が立ったのが、たまたまキャリフォルニアベースに補給と休養の為に立ち寄っていたシーマ海兵隊であった。キシリア派に属するシーマ海兵隊だが、史実でも『故あれば寝返るのさ』と言っているので問題ないとエルトランが判断したのが一番の理由だった。

当初は「なんで私らが休暇中にそんな面倒な事をしなきゃならないんだい?」と言っていたシーマ・ガラハウ中佐だったが、ツィマッド社の担当者の「勿論ただではありません。臨時教官手当てとして、新品のドム3機と・・・(電卓を見せながら)これくらいでいかがです?」との声に折れた。ただ、後にシーマ中佐は「安易に引き受けるんじゃなかったよ」とうんざりした顔で語る事になる。

そうやって始まった機種転換訓練だが、数週間の短期間で訓練をするのだからその内容は濃く、更にシーマ海兵隊の訓練は海兵隊らしく罵声を浴びせながらハードな訓練は当たり前、24時間耐久モビルスーツ戦闘という無茶もあったりした。だがその甲斐あって義勇兵の面々は受領した機体に慣れ、熟練兵並の技量を持つ事に成功した。

ここまで書けばいい事尽くめで、なぜシーマ中佐が引き受けなければよかったと言ったかは分からないだろう。
その答えは義勇兵にとある派閥が発生したからだ。

その派閥の名前は『シーマ様に罵倒され隊』という。その発展系に『シーマ様に弄られ隊』もあるが、その活動内容に関してはノーコメントとさせていただく。
これらの発足の原因だが、どうやら特訓の最中に罵声を浴びせられすぎた結果、何かが目覚めた義勇兵が多数発生し、それらが義勇兵の一部でファンクラブ(?)を結成したのだ。
この報告を聞いたシーマ中佐は最初は唖然とし、次に頭痛が発生して頭を抱える事となった。しかもその報告を聞いたのがリリー・マルレーンの艦内だったことも災いした。そう、リリー・マルレーンの艦内にもシーマ中佐のファンは存在し、今まで自重し水面下での活動に押さえていた彼らまでもが活動を活発にしたのだ。その報告を聞いた瞬間シーマ様が・・・

「・・・お仕置きが必要かねぇ?」

「でもあいつらの場合『我々の間ではご褒美です』とか言いかねませんよ?」

「・・・・・・ちょっと病院に逝ってくる、後は任せたよ」

と、余りの事に現実逃避をしてしまったのは余談である。
話を戻そう。シーマ海兵隊のおかげで練度を上げた義勇兵達は、正規軍の熟練兵と互角に戦える技量を持つにいたった。

そのおかげか、空挺降下したばかりなのに義勇兵部隊は着地後すぐに行動を開始した。ドム・タトゥーがミサイルを発射した直後にブースターを吹かし一気に突入、それを迎撃しようとする61式戦車やIFV(歩兵戦闘車)に向かってプロトドムが前進しつつバズーカを放ち、後方で指揮を取るホバートラックをヅダの狙撃銃が撃ち抜いて破壊していく。
懐に飛び込まれた連邦軍部隊は装甲車両からリジーナといった対モビルスーツ用ミサイルを発射するが、それすらもドムシリーズの特徴であるホバーを使った横滑り等で回避される。そして至近距離から放たれるショットガンで装甲車両は穴だらけにされていく。特にタトゥーのナックルで殴られた戦闘車両は悲惨だった。爆散するか潰れた空き缶のようになるかの2択しかなく、当然その状況では生存者など期待できない。
しばらく戦場を縦横無尽に暴れていた義勇兵部隊だったが、それでも回避し損ねた攻撃や流れ弾を受けそれなりのダメージを受ける。それに加え、流石に連邦軍も態勢を立て直しに掛かる。その為に投入されたのは連邦軍の虎の子であった。

「敵の増援を確認しました。これは・・・モビルスーツです!」

そう、この方面に展開する連邦のモビルスーツ隊、今となってはもはや貴重品といえる、ジムの姿だった。ただし、装備しているのは100mmマシンガンとバズーカで、しかも数はたった4機だったが・・・それでもモビルスーツの登場は連邦軍将兵の士気を上げるには十分だった。が・・・今回に限って言えば相手が悪かった、激しく相手が悪かった。

「ジョージ、連邦のモビルスーツって本当か? ・・・ならこの機体の格闘腕がやっと役に立つってことか!」

「マイク、落ち着いて。私とマイク、ヘルベルトの3人で突撃してこれを撃破します、各機援護を!」

対モビルスーツ格闘戦に特化したドム・タトゥーの前ではただの獲物にしか過ぎなかった。
3機のジムは100mmマシンガンを放ってくるが、そんなもので破壊できるほどドム・タトゥーの正面装甲はやわじゃなかった。バズーカに対しては横滑りして回避し、ブースターを用いた急激な接近に慌てて盾を構えつつもマシンガンで弾幕を張る1機に対して両腕の格闘腕による攻撃を振舞った結果・・・・・・まず1撃で腕ごと盾が吹き飛びバランスを盛大に崩し、続くもう1撃を胴体にまともにくらったジムは、命中した胴体が吹き飛び上半身と下半身が分離した。
そして突入したもう2機のドム・タトゥーによって残りの2機のジムも盛大に殴り飛ばされ、ひしゃげたスクラップとなり大地に崩れ落ちた。
そして残った1機のジムは・・・・・・恐慌状態に陥り後退りしながらマシンガンを乱射した。が、それをものともせずホバーを噴かしてゆっくりと、しかし確実に迫り来るドム・タトゥー。確実に命中弾を、それも至近距離から何発も当ててるのに怯んだ様子もなくその腕を振りかぶる。

「マ、マシンガンがこの距離で効かない!? う、うわぁあああ!?」

最後にこのパイロットが見たのは、凄まじい衝撃と同時に正面のモニターがフレームごと自身に向かって凄まじい勢いで迫ってくる光景だった。
この4機のジムがやられた事で連邦軍の士気は激減した。なにせ至近距離からの100mmマシンガンの直撃を受けても目立った損傷を負っていないドム・タトゥーの姿を見ればそれも納得するだろう。
そして士気が激減した連邦軍がとった行動は、彼らの本隊がいるであろうヤレードン方面に向かっての撤退だった。普通ならここで追撃をして戦果を増すところだったが、追撃はあまり行われなかった。

「よぅし! 追撃に移るぜ」

「待って! 皆、追撃するのはいいけどほどほどにして。こっちも態勢を立て直すわ」

「そうだな、こちらも弾薬が心もとない。補給を受けなければこれ以上の戦闘は危険だろう」

一件ジオン側が優勢なように見えるかもしれないが、彼らの任務はあくまでも時間稼ぎ。敵を殲滅する事ではないし、そもそも手持ちの弾薬の関係上敵の殲滅などできるわけが無い。それに義勇兵部隊の各機は少なからず損傷しており、腕が破壊された機体も見受けられた。
それでも彼らは戦い続ける。義勇兵部隊は派手に前線で暴れ、後方に回り込んだ荒野の迅雷の部隊がこの方面へ新たに向かう増援を撃破し、敵を一時後退又は違う方面から増援を送らせることにある。もちろん敵が一時後退しても、根本的な解決にならない事は分かっているし、増援が来ると今度はこちらがきつくなるのだが、それは織り込み済みだった。ようは最終防衛ラインに部隊が集結する時間を稼ぎ、なおかつそれが受け持つ負担を少しでも軽くすればいいのだから。その為に彼らは過酷な戦いを強いられていたのだ。

そしてそれは後方に回った紺屋の迅雷の部隊にも言えた。そう、増援部隊を撃破する荒野の迅雷の部隊の方も激戦を繰り広げていたのだ。





「隊長、敵部隊の壊滅を確認しました。周囲に敵影は見当たりません」

「このエリアの敵は倒したか・・・各機、次のエリアに向かうぞ。第3小隊(ドム・グロウスバイル3機)を前面に出しその左右を第1小隊(荒野の迅雷率いるグフカスタム3)、第2小隊(グフカスタム3機)でアロー隊形で進軍。第3小隊の後ろに第4小隊(ドム・シュトルム3機)、第1小隊の後ろに第6小隊(ドム3機)第2小隊の後ろに第5小隊(ドムアサルト3機)でブイ隊形にて進軍しろ」

「了解!」

荒野の迅雷率いる18機のモビルスーツは義勇兵部隊が戦っている戦場を迂回し、連邦軍の後方に展開していた部隊を強襲していた。後方といってもその戦力は膨大で、特に前線に向かって砲撃を加えている砲兵部隊の護衛として61式戦車を中心に、携行型ミサイルを搭載したトラックや装甲車、随伴歩兵が展開していた。この携行ミサイルも中々侮れない。特に74式ホバートラックことM353A4 ブラッドハウンド(ブラックハウンドとも言われる)の後部にランチャーや大口径機関砲を搭載した戦闘車両は、たかが通常兵器と侮る事はできない代物だった。ランチャー搭載型の場合、その搭載しているミサイルは高確率で対モビルスーツ用ミサイルのリジーナ又はそれの改良型だからだ。他にも旧ザクの装甲を破壊可能なほど威力を高めた、対モビルスーツ用ともいえるグレネードランチャーを持っていたりするので油断は禁物だった。機関砲搭載型はそれほど脅威ではないが、それでも対戦車ミサイルを搭載しているのが常なのでこれもある程度の脅威があった。

・・・とはいえ、相手がエースクラスが率いる精鋭部隊ではこの護衛部隊も余り意味を成さなかった。
モビルスーツの接近に気が付いた61式戦車が前進しつつ砲撃を開始するものの、それらは余裕を持った回避運動で全て回避される。

「ほう、くるか! 『荒野の迅雷』の戦いを見せてやる!」

荒野の迅雷の戦いは他のジオン軍部隊とは異なり、集団での戦いを重視した戦闘だった。故に連邦軍は1機づつ処理しようと攻撃を集中していると、他の機体から攻撃を受けて撃破されていった。
勿論何かがおかしいとは連邦軍も早々に気が付いてはいたものの、『連携』をとって戦っているという事にはっきりと気がついた時には、既に護衛の61式戦車と護衛すべき自走砲及びロケット車両が全滅し、残りの護衛部隊の戦力が半分まで低下した頃だった。
それに気が付いた連邦軍は動揺し、更に風神雷神のマーキングを見つけて相手がエースだと判明してからは更に士気は低下した。
そこにオープン回線及び外部スピーカーで「無駄死にするだけだ! 引け! 無益な戦いは望まん!」という荒野の迅雷の言葉が戦場に響いたのがトドメとなった。防衛目標が全滅し、自身の戦力も低下した後衛部隊にとってこのまま戦い続けるのは無駄死に、しかも前衛部隊も敗走しつつあるという情報が入った為に後衛部隊もヤレードン方面に撤退を開始していった。
そしてそれを荒野の迅雷は手を出さずに見守った。本当ならここで追撃し戦果を拡大する方がいいのだろうが、こちらも義勇兵部隊と同様に弾薬を節約する為に追撃は行わなかった。彼らは他のエリアの支援も行わなくてはいけないのだから。

「各小隊、弾薬が心もとない機はいるか?」

「いえ、今のところ弾薬不足に陥った機体はいません。まだ戦えます」

「よし、これから付近の敵部隊を撃破しストラスバーンへの圧力を減らす。ソルディスへ、付近の状況はどうなっている?」

部隊の現状を把握したヴィッシュは付近の空域に展開しているオルコス派生機である空中指揮管制機に問い合わせた。

「こちらソルディス。現在貴隊の付近で複数の戦闘が発生中、特に隣接するエリアD-5にて支援要請が出ています。友軍はザク2個小隊を含む1個中隊が撤退戦を行っていますが、敵は2個中隊規模で追撃をしており戦力的に危険です。そちらの援護をお願いします。後はエリアE-8にて敵が進行中とのことですが、こちらはまだ時間に余裕がありますので後回しでもかまいません」

「了解した。各機聞いたな? これより我々はD-5エリアへ・・・」

そう指示を出しかけた荒野の迅雷だったが、その言葉は管制官の驚いた声によってかき消される事となった。

「あ、待ってください。近隣の部隊からの緊急支援要請を確認しました・・・・・・え? 嘘!?」

「どうした、何かあったのか?」

「あ、はい・・・敵モビルスーツ1個小隊の攻撃で友軍のモビルスーツ1個中隊、ザク及びグフの混成部隊が壊滅寸前だそうです。座標はエリアF-8で、援護を求めています。申し訳ないですが、こちらを優先してください」

「・・・1個小隊相手に1個中隊が壊滅寸前? それは本当なのか?」

「はい、どうやら各個撃破をされていったらしく、気がついた時には部隊は壊滅していたとのことです。あ、更に1機撃墜されました! ・・・友軍部隊、残りはモビルスーツが4機のみです」

「なるほど・・・各機聞いたな? 急いで援護に向かうぞ。ただし第2、第3、第4小隊はD-5の友軍の支援に向かえ、連携して戦う事を忘れるなよ。第5、第6小隊は私に続け」

そうして二手に別れた荒野の迅雷の部隊だったが、急いでF-8戦闘エリアに移動した彼らが見たものは、1機のグフがバズーカの直撃を受けて吹き飛ぶ姿だった。そしてそれをなしたのは白く塗装されたジムの姿だった。

「白いモビルスーツ・・・機体そのものはジムという機体のようだが、塗装が許されているという事はエースか、それとも特殊部隊か・・・どちらにせよ一筋縄ではいかんか」

だがヴィッシュにはまだ余裕があった。敵は各個撃破をしてきたらしいが、彼は自分が鍛え上げてきた部下を信頼していたし、連携をとって戦う事をこれまで教えてきた結果、彼の部下はチーム戦において優秀な成績を残す者ばかりだったからだ。
が、その余裕は管制機から入ってきた通信によって薄れることとなった。

「大変です、E-8エリアの友軍がF-8方面に向かって敗走を開始しました! 敵の追撃部隊がそれを追っています、可能ならば援護してください」

「こんな時に・・・・・・仕方あるまい、この敵は第1小隊が引き受ける。第5、第6小隊はE-8エリアからこちらに向かってきている敵を迎撃しろ」

が、彼はまだ余裕を持っていた。味方が減ったとはいえ、同数になっただけなのだ。特にこちらは格闘戦に優れ、射撃もガトリングシールドを持つことでカバーしたグフカスタム、しかもカスタマイズが施されており、運動性を若干だが向上させた機体なのだ。相手のモビルスーツの詳細な性能は不明だったが、それでもグフに匹敵する性能と考えてもこちらがある程度は優勢と思われたからだ。それに左右に展開する2機のグフカスタムのパイロットもベテランで、その腕前は準エースといっても差し支えないものだった。

が、実際にはそのようには事は運ばなかった。1機に攻撃を集中しようとしたら残り2機が的確に妨害をいれ、こちらが隙を見せようものなら連携してそれを撃破しようとするのだ。敵は3機とも左腕に小型のシールドを固定し、2機の前衛がマシンガンを持ち、残り1機がバズーカを構えマシンガンを予備に持つ後衛だった。
グフカスタム3機を2機のジムが拘束している隙に後衛のジムが仕留めていく戦法だと悟った時、彼は知らずに笑みを浮かべていた。

「各機、一時後退しろ。敵の隊長機は私が引き受ける。お前達は残り2機を引き受けてくれ、できるか?」

「愚問ですよ隊長、久々に1対1の戦闘を楽しませていただきますね」

「スラスター残量にまだ余裕があるので、自分は後衛を引っ掻き回してやります」

「よし・・・・・・今だ、後退しろ!」

その合図と共に3機のグフカスタムは一気に後方へ跳躍した。3機のジムはそれを追うことなく、油断無く警戒している。そんな中、ヴィッシュのグフカスタムはヒートソードを構え、目の前の部隊に通信を入れた。

「連邦のエース聞こえているか、こちらはジオンのヴィッシュ・ドナヒューだ。お前と戦える事を神に感謝する」



「連邦のエース聞こえているか、こちらはジオンのヴィッシュ・ドナヒューだ。お前と戦える事を神に感謝する」

まるで一騎打ちを望んでいるかの通信に、連邦軍特殊遊撃モビルスーツ部隊ホワイト・ディンゴの面々は一瞬だが呆気に取られた。
だが次の瞬間には現実に引き戻された。なんせ剣を構えた機体以外の、2機のグフカスタムがそれぞれマイクとレオン目掛けてスラスター全快で突進してきたのだ。
そしてそこで彼らはジオン側がそれぞれ1対1の構図に持ち込もうとしている事に気がついた。

「ヴィッシュ? ・・・ジオンのエース、荒野の迅雷本人か!」

「どうします隊長? っく、こいつらベテランで気が抜けません」

「アニタ、敵はグフの改良型なのは間違いないんだな?」

「はい。グフカスタムと呼ばれる機体で、通常のグフよりも性能が向上しているタイプです。それに、センサーの反応から判断すれば、3機とも更に強化されている模様です」

「よりにもよってエースにカスタム機か・・・」

「うわっ、後衛だから楽ができると思ったのに・・・」

「マイク、離れていった6機の敵新型機と戦わずに済んだだけよしとしておきなさい。しかし、このままでは危険です隊長」

そう、アニタが言うとおり、状況はこちらが不利といえる。操縦者の技量も機体性能も、恐らく向こうがこちらを上回っている。ならば彼らが取れるのは一か八かの賭けに近い手段だった。

「エースを倒し、残りが動揺した隙を突いて各個撃破するしかないか・・・レオン、マイク。しばらく持たせてくれ」

そして通信を目の前のグフカスタムに入れる。

「こちら連邦軍ホワイト・ディンゴ、貴君と戦える事を感謝する、行くぞ!」



格闘戦に特化したグフカスタムと、陸戦用にカスタマイズされたノーマルジムの一騎打ち、グフカスタムはヒートサーベルのみで戦い、ジムもサーベルだけで戦うそれは、英雄の一騎打ちというのに相応しかった。とはいえ、幾らカスタマイズされているとしてもジムではグフカスタム相手では荷が重すぎた。ジェネレーター出力こそジムの方が上回っていたが、格闘戦に密接な関係を持つ機体重量ではグフカスタムの方が10t以上も重かったのだ。その重さは1撃1撃の攻撃の重さに影響を与え、相手の機体に負荷を与えていく。そして徐々にレイヤー中尉のジムが押され始め、ついには回避が遅れて左腕をヒートサーベルで切り落とされた。が、レイヤー中尉も負けてはいない。ビームサーベルを切り返し、グフカスタムのシールドについているガトリング砲の先端を切り落としたのだ。その後お互いに一歩後退し、グフカスタムはガトリングをパージし、レイヤー中尉も左腕をコントロールから切り離した。
部下のグフカスタムも、手傷は負わしているものの相手のジムを今だ撃破できていない状態だった。
そうして向かえた膠着状態だったが、それを破ったのは当事者達のリアクションではなかった。

「・・・む? 援軍か」

西の方角から戦闘ヘリが複数接近してくるのが分かった。それも従来型の対戦車戦闘をメインとした戦闘ヘリではなく、新型のシュヴァルベ戦闘ヘリ6機とシュッツェ狙撃ヘリが3機だ。それを見たヴィッシュは目の前のジムに再度通信を入れた。

「連邦のパイロット、聞こえるな? 後退するのであれば見逃そう。今戦い続けるのは無駄死にするだけなのは分かっているだろう?」

「・・・・・・分かった、あんたとは戦争が無いところでゆっくり話をしたいもんだ」

そう言ってホワイト・ディンゴの面々は撤退を開始する。そして後退を開始した事を確認したヴィッシュはこちらに向かってきているヘリ部隊へと通信を繋いだ。

「接近中のヘリ部隊へ。こちらは荒野の迅雷ヴィッシュ・ドナヒュー中尉だ、聞こえるか?」

「・・・感度良好、こちら第3臨時混成ヘリ部隊です。司令部から貴隊の援護を行うようにと命令を受けています。これより敵モビルスーツ部隊に対して攻撃を開始します」

「いや、ここはもういい。逃げる敵には攻撃するな。それよりも義勇兵部隊はどうなっている?」

「は、義勇兵部隊と交戦していた連邦軍がヤレードン方面に撤退を開始、ある程度追撃を仕掛けた後は補給に戻るとのことです」

「ふむ・・・ならそちらも問題ないか。では隣のエリアに敵の増援がきているらしい、それを叩くので支援してくれ」

「は、はぁ・・・了解しました」

ヘリ部隊の指揮官は背中を見せる敵を攻撃したい誘惑に駆られるが、著名なエースパイロットのヴィッシュからの要請を無視するわけにはいかず、進路を変更した。そしてヘリ部隊に命令を出したヴィッシュだったが、コックピットで一言呟いた。

「・・・あの敵部隊、いいチームワークだったな。私の部下に欲しいものだ。1対1に持ち込んでも部下の攻撃に耐えれる腕もいい、私の好敵手としては合格だな」



[2193] 36話後半 オーストラリア戦役4-2
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a
Date: 2010/08/26 00:40
北部方面西側空域

ファットアンクルを含む数十機ものヘリの編隊が、東から西へと移動を行っていた。というのも、陸路での撤退だと時間が掛かる場所にいた部隊は空路にて撤退していた。部隊ごとに少数のヘリが派遣されていたが、西に撤退するときは合流し大規模な輸送ヘリの編隊が形成されていた。その姿はある意味で圧巻だった。
が、連邦軍がそんな部隊を見逃すはずも無かった。輸送機とはいえヘリよりも遥に速い固定翼機のオルコスや鹵獲ミデアは敵機の襲撃を受けずに済んだが、足の遅いファットアンクルや戦闘ヘリ部隊は連邦軍戦闘機部隊の襲撃を受けて少なくない損害を出していた。
ジオンの戦闘ヘリはMi-24 ハインドのように機体に兵員や物資を乗せる事が可能であり、更に言えば戦闘ヘリである為にある程度攻撃を受けても自衛できるだけの性能を持っていた。そのため今回のような人員を輸送する際には重宝する機体だった。
・・・とはいえ、相手が戦闘機となると話は違う。人員を乗せている為に運動性は低下しており、頼みの武装も基本的に対地用なので後ろから迫ってくる戦闘機を撃つ様にはできていない。故に、必死に逃げ回るくらいしか戦闘ヘリには打つ手は無かった。
とはいえジオンも馬鹿じゃない。戦闘ヘリの護衛として戦闘機部隊をつけているので、ある程度ならば対処できると予想していたのだ。連邦軍も自身の撤退に忙しく、仮に戦闘機を差し向けてきたとしても、その数は少数だと判断していた。が・・・

『捕捉した。これより敵ヘリ部隊に攻撃を開始する』

「こちらヘリ部隊、限界以上に人員を積んでいるので速度が出ない! 支援してくれ!」

「敵機がヘリ部隊に攻撃を仕掛けています!」

「ヘリを攻撃させるな、各機ヘリを狙う敵機を優先しろ!」

輸送部隊の護衛についている戦闘機部隊はドップ9機、ジャベリン9機の18機のみ。一方攻撃を加えてきている連邦軍戦闘機部隊は40機を超えている。2倍以上の兵力の前に苦戦せざるを得ない。戦闘機部隊も手一杯だったのだ。

「味方の数が足りん、俺達だけじゃ守りきれんぞ」

『敵機を突破した隊はヘリを狙え。生かして返すな』

「て、敵の攻撃を受けた、高度が下がる!」

「エンジン不調!? さっきの攻撃のせいか・・・このままだと落ちるぞ、総員対衝撃体勢をとれ!」

「くそ、また1機ヘリが落とされた! 敵の追撃が激しい、誰でもいいから助けてくれ!」

『ファットアンクルを落としたが、敵機が後ろに付いた!』

『慌てるな、打ち合わせ通りにやれ。制空部隊は敵護衛機を撃墜し安全を確保せよ』

「畜生、ヘリ護衛という足枷が無ければもう少しはうまく戦えるのに・・・被弾した、脱出する!」

『敵機撃墜! 一撃離脱をすることができないフィッシュもどきを優先的に狙え!』

更に、ヘリの護衛という枷が付いているせいで自由に戦う事ができず、そのせいで護衛の戦闘機部隊も敵機の数に押されて撃墜されていく。
特に不幸なのはジャベリン戦闘機だろう。格闘戦に優れたドップはともかく、一撃離脱戦法に優れたジャベリンは本来の戦い方ができずに翻弄され、1機、また1機と容赦なく落とされていく。気がつけばドップは4機、ジャベリンは全機が撃墜されていた。

『敵機はドップのみだ、一気に叩き落せ』

「くそ、ジャベリンが全部落とされてるぞ! このままだと全滅だ!」

そう悲鳴を上げるドップ戦闘機部隊だったが、そこでようやく待ち望んだ知らせが入ってきた。そう、友軍部隊の到着だった。

「戦闘空域の各機へ、こちらはオルコス改空中指揮管制機のアジルエだ。現在そちらに友軍戦闘機部隊の増援が接近中、到着まで1分を切った。部隊名は地球方面軍第156航空隊、アクィラ隊だ」

アクィラ、その単語を耳にした瞬間、戦闘機部隊とヘリ部隊からは歓声が上がった。

「アクィラ・・・黄色中隊か!?」

「黄色中隊が来てくれたか・・・各機、エースにばかり働かせるなよ!」

彼らが見つめる先には急速に接近する5機のジャベリン戦闘爆撃機の姿があった。それもただのジャベリン戦闘爆撃機ではなく、主翼両端と機体下部を黄色に塗装された機体だった。

『13より全機、連邦軍機を始末しろ』

『了解。撃墜します』

5機の黄色いジャベリンは散開し、連邦軍戦闘機部隊に向かっていった。その数分後・・・連邦軍航空隊で撤退できたのは、両手の数で数えられる程度だった。







最終防衛ライン

ジオンが構築した最終防衛ラインは殿部隊が展開を完了していた。あちらこちらにデコイが設置され、両腕に75mmガトリング砲を取り付けた弾幕形成専門の旧ザクや、両肩に180mmカノン砲を取り付け両腕にマシンガンを構えたザクタンク、モビルスーツ用の即席塹壕に身を潜め狙撃体勢をとるザクスナイパーに、同じく即席塹壕から砲塔だけを覗かせるマゼラアタック・・・そして航空攻撃によって破壊され、黒煙を立ち上らせ炎上する兵器群。

そう、既に最終防衛ラインは連邦の航空攻撃を受けていたのだ。その攻撃は激しく、高高度からはデプ・ロックの絨毯爆撃、低空からは75mm自動砲を持つ対地攻撃機のAF-01 マングースの編隊からの一斉射撃、その中間、高度4000m前後からフライマンタによる急降下爆撃が防衛陣地に対して行われたのだから。防御陣地を築いていたとはいえ、出し惜しみなしといえる圧倒的な航空戦力の前に部隊は半壊したのだった。
もちろんウェイパに展開していた殿の戦闘機部隊が迎撃戦闘に参加し、地上部隊も対空砲火によって多数の敵機を撃墜したが、それでもウェイパ方面に敵機を通さないようにするのが精一杯といった状況だった。

そしてその十数分後、今度は連邦軍の自走ロケット砲や自走砲による準備砲撃が数分間続き、その最中に連邦の地上戦力が彼らの視界に飛び込んできた。61式戦車を先頭に進撃し、その後を歩兵戦闘車や装甲車が続き、遥か後方からは砲撃が行われていた。61式の射程に入るまで砲撃を続けるつもりなのだろう。
そうこうしているうちに射程に入ったのか61式戦車は射撃を開始した。その射撃の多くは分かりやすいデコイに向かって放たれており、なおかつ移動しながらの射撃な為に命中精度は低下していたが、それでも被弾し破壊された本物の兵器が出てきた。そして連邦軍部隊が彼らの視界に入ってしばらくしてから、展開する部隊に通信が入った。

「・・・決死隊各機へ告ぐ、我々がここで時間を稼がねば撤退行動中の友軍が全滅する。我々の任務は友軍の撤退完了まで時間を稼ぐ事だ、それまで連邦を通すな! ・・・最後に、この任務に志願してくれた事を感謝する。各個に攻撃始め!!」

その言葉が伝わると同時に一斉に陣地の部隊が発砲した。MS-05L ザクスナイパーが135mm狙撃用レールガンやビームライフルで狙撃し、モビルスーツを優先的に破壊していく。ここを突破されたら撤退作業中の友軍を攻撃される事になるのだから彼らも必死だった。だが、相対する連邦軍も必死だった。ここを突破しなければ戦死か降伏かを選ばなければならないという背水の陣な為に攻勢も激しい。
1機、また1機と防衛部隊が減っていく。その消耗率は当初の予想をはるかに上回るスピードで、戦闘開始から1時間経過した時、防衛戦力は当初の10%程度まで低下していた。軍事用語ではなく一般的なイメージでの、文字通りの全滅だった。
が、彼らが命を賭してまで稼いだ時間は無駄ではなかった。1つの通信が防衛部隊の指揮を取る隊長機に入ってきたからだ。
その内容は『ウェイパから脱出船団出航完了。ユーコン級潜水艦2隻とオルコス及び鹵獲ミデアが君達の為に待機している。陣地を放棄し速やかに撤退されたし』

「たった今ウェイパを輸送船団が出発したそうだ、我らの任務は果たした。・・・皆良くやってくれた、これより各自の判断で行動せよ。ウェイパには我々を回収する為の部隊がまだ残っているそうだ。私は最後の突撃を敢行し、1人でも多くの敵兵を道連れにして諸君が撤退する時間を稼ぐ。 ・・・・・・皆は撤退しろ」

そう部隊の指揮官が述べた数秒間、沈黙が漂った。そしてそれを打ち破ったのはこの死地にいる部下達の返答だった。

「・・・こちらザクJ第5小隊、隊長1人だけ行かせるわけにはいきませんよ、我々も御供させていただきますよ」

「そうそう。決死隊として・・・いえ、必死隊として死ぬ事前提で志願してるんですから、ここで降伏なんて不完全燃焼もいいとこですよ。ザクF第11小隊も突撃に加わります」

「今更ですね。突撃の際に支援射撃は必要でしょ? 残弾僅かなれど、我らザクキャノン第17小隊は支援射撃を行います」

「こちらワッパ隊。我々の仕事はこれからですよ? 敵陣に突入してミサイルや爆薬を仕掛ける時を待っていたのに、それをせずに撤退しろと? それはお断りしますよ」

「あ~あ、皆熱いですねぇ。この流れだと断れませんし、どの道我々の足では撤退できませんし、捕虜になれるかどうかも疑問です。マゼラアタック第17中隊残存機、吶喊します」

「・・・どいつもこいつも死に急ぐ馬鹿ばっかだ。だけど、仲間の為に散るっていう心意気は嫌いじゃないですよ。部隊の仲間も散ったし、さっき被弾して脚部が逝かれたんで動けません。自分だけとなってますが第107独立狙撃部隊所属、ザクスナイパーは狙撃を続行します」

「・・・・・・らしいですよ隊長? せめて我々は我々を回収する為に、今もウェイパに留まり続けている連中を逃がす為に時間を稼ぎましょうや」

次々と寄せられる返答は言い方は様々だったが、その全てが最後の突撃に参加するという内容だった。もし仮に降伏したとしても連邦軍が彼らを捕虜にするかと聞かれると、その答えは限りなくNOといえる。彼らも脱出に専念しており、捕虜という余分な荷物はもてないのだから。そんな中で降伏してきた場合、連邦がとるだろう手段は2つある。1つはそのまま武装解除してその場に解き放つ事。だがこれは武装解除する時間が掛かるのが問題だった。よって可能性が高いのはもう一方、降伏を無かった事にし、敵として一掃することだった。当然ながら南極条約違反だが、切羽詰っているときにそんな事を気にするとは思えない。これが彼ら必死隊の考えだった。どうせ死ぬなら1人でも道連れに、そう考えても不思議ではなかった。
それに・・・予想より激しい消耗率のせいで、今となっては撤退を開始してもそのまま前進し続ける連邦軍にやられるというのが現状だった。今ここで生き残っている兵達は、それを理解していたのだった。

「・・・すまんな皆。よし、これより突撃する! 我等の死様、連邦に見せつけよ!」

「ジークジオン!!」

「ジオン公国に、栄光あれ!」

そう言いながら部隊は最後の突撃を敢行した。とはいえ、遮蔽物から飛び出して突撃を行った事で、連邦軍の火力を正面からまともに浴びる事となった。戦車砲弾が、ミサイルが、砲撃が、ありとあらゆる火器が彼らに放たれた。散り際に何かを叫ぶ者もいれば、一言も発することができずに死んでいく者もいる。とはいえ、彼らからの攻撃で連邦軍も少なくない被害を負った。走りながらマシンガンやバズーカを撃っていた為命中率こそ低かったが、それでもまとめてバズーカで歩兵が吹き飛ばされ、スクラップ一歩手前の半壊したザクが最後の力で跳躍し低空を飛行していたマングース攻撃機と差し違えたり・・・特に隊長機は最後の通信をウェイパに送信した後にシールドを構えてスラスター全快で敵陣に突入し、敵の密集しているところで盛大に自爆を行って、周辺に展開していた戦車や装甲車を吹き飛ばした。
そして防御陣地に残って攻撃を続けていた部隊も、これでもかと言わんばかりの砲弾やロケット弾によって殲滅されていった。最後の突撃を開始してから十数分後、そこにジオン側の生存者はいなかった。





船舶は既に出航しており、ウェイパの港に残っているのはユーコン級潜水艦2隻とその護衛についているズゴックが3機、先程出航して西へ進路を取る輸送船とそれを護衛する鹵獲フリゲート艦1隻だけだった。ただし空路の方はまだまだ残っており、鹵獲ミデアやオルコス輸送機が野戦滑走路で殿部隊を回収すべく待機しており、その護衛にマゼラアタックから派生した対空戦車のマゼラフラックや、設置型の対空機関砲及び対空高射砲が展開していた。その一方、持ってきたはいいが積み込めなかった物資があちらこちらに山とつまれており、それらには自爆用に地雷や各種砲弾薬といった爆薬が設置されていた。

そんな中、臨時の北部方面軍の指揮所にされた潜水艦に通信が飛び込んできた。

「報告します、殿部隊より通信が着ました!」

「そうか、合流まで後どのくらい掛かると言っている? それと敵の侵攻状況もだ」

だがその問いに通信兵は表情を曇らせながら続けた。

「それが・・・・・・読み上げます。『我残存戦力極僅か、現時点で撤退は不可能と判断し、死して友軍撤退の礎にならん。今すぐ撤退されたし、撤退部隊の幸運を祈る』以上です・・・」

「・・・・・・あの馬鹿野郎共め。絶対回収してやると言ったのに逝きやがったか」

しばらく指揮官は黙祷を捧げた後、全部隊に通信を入れた。

「全部隊へ告げる、最終防衛ラインの部隊は我々を逃がす為に玉砕した。これより我々最終便は撤退に移る。彼らの死を無駄にせず、残る全員が無事に撤退できるよう死力を尽くせ」

その命令後、対空戦車を急いで回収した輸送機部隊はすぐさま離陸を開始し、同時に護衛についていたズゴックをユーコン級が回収して出航、港外へ出たのを確認した直後に潜行していった。
時間にすれば30分にも満たない時間であるが、これでもギリギリだったといえる。その十数分後、連邦軍の先遣隊がウェイパを射程に捕らえ、その数時間後には連邦軍の本体がウェイパに到着したのだから。





ウェイパを占領した連邦軍は即座に戦車や装甲車といった陸上兵器を放棄し、脱出用に待機していたミデア輸送機やベヒーモスを含む陸上戦艦に多くの将兵が乗り込んでいった。それこそベヒーモスの航空機用甲板にも人が溢れるほどに。そしてその結果、離着艦できなくなったベヒーモスの艦載機は他の連邦軍航空機と同様にジオン軍が使っていた野戦滑走路に着陸していた。流石に直前まで使用していただけあって、滑走路への破壊工作はできなかったのだ。

ビッグトレー艦内

「報告します、展開していた地上部隊の人員、全員の乗艦が終了しました。モビルスーツ隊を除く陸戦兵器は全て放棄しましたが、時間が足りず爆破等の適切な処置ができなかったのが少なくない数あるとの報告です・・・後、陸上戦艦の甲板上にも兵を乗せているので艦砲射撃はできません」

「残っていた戦車砲やミサイルで破壊するという案は弾切れで実行不可能な部隊も少なくないか・・・まぁ仕方あるまい。多少の通常兵器が鹵獲されるのも織り込み済みだ。東南アジア方面の友軍におこなった支援要請の結果は?」

「シンガポール周辺地域が攻撃された為に混乱していますが、クパン海軍基地から駆逐艦1隻、フリゲート艦2隻が我々の支援の為に出航。ソエ空軍基地からフライアローとTINコッドの混成部隊1個中隊と空中給油機が出撃した模様です」

「そうか・・・ベヒーモスの飛行甲板も人で埋まったから空中給油機はありがたい。後方の航空基地は?」

「既に補給を終えた航空隊全機は離陸、補給整備に関わっていた人員もミデアに全員搭乗完了、こちらも離陸したとのことです。ですが基地の破壊は時間が無いので中途半端にしかできなかったとのことです」

「わかった。ジオンの追撃が無かったのが幸いだったな。ジオンの動きは?」

「強行偵察機フラットマウスが1時間前に偵察した時点では北部の包囲のみに留めているようです。あちらも我々が逃げるという事は分かっていると思われますので、恐らくは追撃して窮鼠猫を噛む、になりたくないのでは?」

「それはありがたいが上空警戒及び対潜警戒は怠るなよ? 全軍に通達、我々は一気に撤退するぞ。追撃はあるものと思って行動せよ!」

その十数分後、連邦軍は渡海を開始し東南アジア方面へと脱出。そしてそれを止める術を、ジオン及びVFは保有していなかった。







「連邦軍はオーストラリア大陸からの脱出に成功した・・・か。まさか両方取り逃がす事になるとは思わなかったよ」

「仕方あるまいガルマ、こちらも予想外のことが多すぎた。今は北部戦線にいた部隊の多くを脱出させる事ができ、想定以上の被害が出ずにオーストラリア全土を制圧できた事を喜んでおこう」

「・・・それもそうだなシャア。ところで、トリントン基地の核はどうなっている?」

「まだガウに積載中だが、予定通り48時間以内にはブースター装備のコムサイに搭載できるとの報告が来ている。とりあえずは順調だな」

「そうか・・・わかった。すると問題は地上側ではなく宇宙側か・・・予定よりも早く終わったせいで、核の運搬部隊とその護衛が到着するのに時間が掛かるからな」

「そういえばこの作戦、KG-82の予定が一部変更になったらしいな」

「ああ、この書類を見てくれれば色々分かるよ・・・色々とね。護衛部隊を一部変更するとのことだ。ツィマッド社の依頼で開発した新装備を運用する部隊を投入するらしい」

「・・・ふむ、新型装置搭載のモビルスーツ3機を搭載した輸送艦を中心とした部隊か。・・・良く分かった、しかしこの部隊も哀れだな。茶番に付き合わされる事になるのだから」

「ああ、これがまさか偽装工作だなんて思わないだろう。エルトランも思い切った事をする・・・・・・さて、それじゃあ私は通信室に行って来る。キシリア姉さんにトリントンに核兵器が存在し、それをこちらが無事確保した事。そしてそれを核貯蔵施設のあるグラナダに運搬する事についての報告をしないといけないからね」

そう言ってガルマはガウの通信室へと足を進めていった。茶番劇の開始を合図する為に・・・



[2193] 37話
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:debcd0f0
Date: 2010/12/24 23:14
キャリフォルニアベース

VF司令部の大会議室で、今回行われたオーストラリア制圧作戦についての会議が行われていた。とはいえ、細かい事まで話し合う会議はオーストラリアに派遣した人員が戻ってきてから行われる予定であり、今回の会議は残っている信頼の置ける者達を集めた、簡単なものになるはずだったのだ・・・が。

「さて、今回のオーストラリア戦役の事だが・・・この数字は間違いだろう?」

そう言ってエルトランは引きつった表情で、あえて言うなら冷や汗も大量に流しながら、手元の書類をバシバシ叩く。認めたくない数字を見て彼も(現実逃避に)必死なのだ。それを生暖かい目で見つめるVF司令部につめていた指揮官と参謀や研究者達。そして社長の暴走をなんとかしようとする秘書2人。

「あ、あのぅ・・・社長、それは・・・」

「マリオンちゃん、こういうのはきっちり言わないと・・・社長、残念ですが数字に間違いはありません」

マリオンが言いよどむが、それをキャシーがズバリといった。まぁ被害報告を見れば誰でも現実逃避したがる数値だったが。

「その数字、今回の作戦で生じた損害ですが、書類に記載している数値はVFのみではなく正規軍を含めた数値となっています。その損害ですが、ドップ及びジャベリン戦闘機部隊の損耗率が37%、ドダイ攻撃機部隊が61%、新型を含むヘリ部隊が43%、モビルスーツ隊の損耗率が29%、戦闘車両を含む車両の損耗率は44%となっており、この損失の4割前後は北部方面部隊の損害が占めています」

「4割・・・なぜそんなに被害が?」

「主に戦闘初期の北部攻略失敗の影響が極めて大きく、更に後半では連邦軍の猛攻にさらされた結果かと」

「・・・どうしてこうなった? ドウシテコウナッタ?」

「あ、あの社長・・・修理できる機体が大半を占めてますから、再戦力化すればこの数値は低くなりますよ?」

「いや、それは分かってるんだが・・・分かってるんだが・・・・・・頭痛いな(涙」

「あ、あぅ・・・」

「マリオンちゃん、ガンバ・・・え~と、戦闘の経緯等といった事はお手元のリストに記載しています。疑問点とかある方は発言をお願いします。皆さんも積極的に発言お願いしますね」

こめかみを押さえながら俯く社長。なんせ全ての兵種が全滅(損耗3割)ないし壊滅(損耗5割)判定を食らっているのだ。
会議に出席していた参謀や各隊の司令はそれを見て、しばらく社長はマリオンに任せてほっとこうと考え、それぞれが発言を開始した。

「キャシー秘書官、最初にあった情報だとたしか・・・北部には有力な部隊はいないとされていたから、ある程度の兵力を他の方面に回したんでしたっけ?」

「はい。これについては情報が足りず、こちらの予測が甘かったといわざるを得ません。入手した情報では北部には有力な部隊は・・・ロングリーチとロックハンプトンに展開している敵モビルスーツ部隊のみということでしたので」

「蓋を開けてみれば複数のモビルスーツ隊の上に陸上戦艦、おまけに後から陸上戦艦のバケモンが登場か。だがそれでも被害が大きすぎやしないか? 何か他に理由でもあるのでは?」

「他の理由・・・思い当たる件があります。北部方面に配置した部隊からの報告ですが、体調不良を訴え動きが悪かった部隊が多数いたそうです。しかも他の戦線でも同様の症状を訴える将兵が多くいたようです。これがその体調不良を訴えた部隊のリストです」

「動きが悪い理由はなんなんだい? リストを見せてくれ・・・・・・ん? どうも作戦前に部隊展開を完了させたとこに多いみたいだが?」

「あ、社長・・・そのことなのですが、兵士の皆さんが体調不良を起こしています。特に新兵の方や地球が初めての方に多く見りゃれます・・・・・・あぅ」

「ん? どういうことだいマリオン?(噛んだ事はスルーで、いいな諸君?)」

「(了解です社長 by一同)」

「は、はい・・・北半球と南半球の季節の差、それと時差の関係みたいです。後は慣れない地球の環境のせいで・・・」

「あ~・・・わかった、納得したよ。そっか、新兵とか他の地域からの援軍ならその問題も考えないといけないんだったな。作戦の機密を維持する為に作戦発動の直前に部隊を集結させた事が裏目に出たって事か」

「・・・申し訳ありません、見落としておりました。こんな事ならもっと早く展開して気候に慣れさせておくべきでした」

実際地球の人間でも時差や季節の差は問題だ。日本から海外に移動した際、よく体調不良を起こしたりするのはいい例だろう。これまでいた所と全く違う環境というのは、ボディブローのように響いていくのだ。実際、作者は欧州に旅行した際に、環境が全く変わったので食欲不振になった事がある。東欧で夕食時に食べた、芋を蒸してパンケーキのようにしたと思われる食べ物はほとんど食べれなかった。同じ芋料理ならファーストフード店のフライドポテトがいいと切実に思ったのは作者の秘密だ。
ちなみにその後日本に帰ってきて数日ほど体調不良に陥っていたりするが、本編とは全く関係ないのでどうでもよかったりする。

「まぁそういう理由なら被害が多いのもある程度は分かります。ですがドダイの損害は洒落になりませんぞ?」

「資料を見る限り、北部方面はドダイがほぼ全滅してるな。他の方面でもやはりドダイはかなり落とされている。これはなぜです?」

「それについては以前から指摘されていた問題点、モビルスーツを載せることによる運動性の低下が原因です。実際モビルスーツを搭載して出撃した際に多くが撃墜されています。この点に関しては、やはり現場での小手先の改修ではもう解決はできないかと思われます」

「損害が拡大した原因の1つは、ドダイとモビルスーツがセットで落とされた結果か。やはりドダイⅡの方がよりベターか」

「たしかにGA型(爆撃及びコンテナ輸送専用)を改造したYS型(モビルスーツ搭載型爆撃機)よりも、武装を取り払ってモビルスーツ輸送用に再設計されたドダイⅡの方が生還率は高いな」

「社長、現場の人間からの意見では、ドダイⅡ以外のドダイはSFS、サブフライトシステムとしてではなく、攻撃機として運用すべきではという意見が多数寄せられています」

「う~ん・・・まぁドダイは攻撃機(爆撃機)と輸送機を足したような機体だから仕方ないといえば仕方ないけど、この損害は洒落にならんな。やはり運動性の低い改修型ドダイは微妙か・・・このデータを添付してモビルスーツ輸送専門のドダイⅡを量産する方向でガルマに意見具申するか。どうせうちのジャベリンならドダイ並の火力を発揮できるわけだし」

そうエルトランが言った直後、タイミングを待っていたのか設計チームの1人が立ち上がった。

「社長、ドダイの事でお話があります。次期主力サブフライトシステムとして開発が進められているドダイⅢですが、開発が遅れ気味となっております。我々開発チームとしてはドダイⅢの再設計を提案します」

「ん? 遅れ気味はまぁいいとして、再設計? どういうことだい?」

「はい、ドダイⅡをベースにせず新規設計、しかも地球上だけでなく宇宙でも使用可能なようにするというのが初期のドダイⅢの計画案でした。これにバリュートシステムを組み合わせる事で宇宙から地球上へ迅速な部隊展開をすることが期待されていました。ですが、その場合地球上でも宇宙で使うスラスターで針路変更せざるを得なくなり、余分な燃料を使用するために航続距離が当初計画されていた予定数値よりも遥かに低下するという問題が発覚しました。しかも長距離輸送中に戦闘機動をとれば、最悪の場合だと燃料切れで母艦に帰還できない可能性もあるそうです。ですので、できるならばドダイⅢは宇宙用か地上用かのどちらかに絞るべきかと考えます」

「加えて、まだ検証段階なのですが宇宙専用SFSを開発する場合、ザクやヅダなら上下に2機ずつの計4機を1度に搭載することが可能になるかもしれません。確かにバリュートシステムを使って宇宙からSFSごと大気圏突入、そしてそのまま飛行可能というのは大きなメリットですが、現時点では技術的に難しいです。この事は追加資料の『技術部門意見書ver3.14』の12ページをご覧ください」

その言葉に一同が一斉にページをめくり、該当ページを読んでいく。そこにはドダイ関連の資料や研究結果等が記載されており、技術部と開発部の合同研究部門に『現在の技術では実現は困難と判断、更なる技術の発展又はフレームのみ共通とし地上及び宇宙専用の機体開発することを提案します』という結論が載っていた。

「・・・社長、どうなされますか?」

「う~ん、両用は現時点では諦めるほかないか。フレームを共有する試作機は何時頃できる?」

「そうですね、早くても2ヵ月後になるかと・・・その試作機で問題の洗い出しを行うので、実際に完成するのはもっと後になりますが」

「ふむ・・・わかった、とりあえず地上用はドダイⅢ、宇宙用にはスペースドダイの名で仮登録し、可能な限り早く運用実験を行ってくれ」

「了解しました。ですが、本当に非武装でいいのでしょうか? 地上用はともかく宇宙用にするのであれば多少の無茶は効くと思いますが」

「とはいえ、それで今回武装を持ったドダイが叩き落されたわけだから、鈍亀になるくらいなら少しでも運動性を上げて素早くした方がいいんじゃないかな? 宇宙用にしても同様だ。サブフライトシステムの概念から言えば、武装よりも航続距離と機動・運動性に重点を置く方がいいと思うんだが・・・勿論技術が進歩すればある程度は武装を施せるだろうけど、現時点じゃこれで精一杯だろ?」

「それは・・・・・・否定できません」

「ですが社長、現場からはモビルスーツを載せていない時は非武装では心もとないという意見も出てきてます。なんせドダイがモビルスーツを搭載して飛行する時っていったら、前線行きって相場が決まってますからね」

「モビルスーツパイロット側は武装を取り払ってでも運動性の向上を、ドダイパイロット側からは非武装はやめろ、板ばさみですね」

「まぁミサイルランチャーを持つドダイも非武装のドダイⅡも、結局は対空戦闘では役立たずなんですが」

「ドダイⅡの試作機で搭載されていた後方機関銃を装備させたとしても、モビルスーツが搭載したら迂闊に発砲できない代物となることがあきらかですからね」

「非武装で生じるデメリットは運用で、例えば護衛を出すとかである程度なんとかなりませんか?」

「ええ、我々も同じ考えでドダイは単独行動させず、可能な限り戦闘機を護衛につけて行動させています。ただ、たとえモビルスーツを搭載し徹底的に警戒していても、落とされるときは落とされますから。それに前線の哨戒任務だと護衛が満足に手配できない事もあるので・・・」

「それに、前線のドダイパイロットの中にはモビルスーツが炎上し、その影響でドダイの脱出装置が使用できずに戦死したという者もいます。そこで社長、ドダイⅡは有人機ですが無人機としても扱えます。それを更に推し進めて人的損失を防ぐ為にも、完全な無人機ってできますかね?」

「あ~、問題はそこか・・・完全な無人機としてモビルスーツ側から操作できるようにするべきか・・・離発着時が問題だな。モビルスーツパイロットの負担が大きくなるからそのあたりは全自動に・・・いや、機体に損傷があれば全自動は危険すぎるな。下手すればコントロールを失い墜落する。いや、でも・・・・・・ああもう頭痛い!」

「・・・発言してもよろしいでしょうか?」

そこに元モビルスーツパイロット、現在は士官学校で教導している士官が発言した。この会議には彼の他に何人か作戦に直接関わっていない者がいた。違う部門の意見も聞き、違う視点の意見を言ってもらう為だ。

「社長、現場を知る人間として言いますが、完全な無人機は諦めた方がいいです。モビルスーツパイロットの教育を見直す事になりますから改革は大規模な事になりますし、パイロットの負担がかなり増える事は間違いありません。新兵だと他の事が疎かになる可能性も否定できません。一応モビルスーツ側からの簡単なドダイの遠隔操作は教育していますが、やはり本職の航空機パイロット並の運動は無理です。できてひよっこパイロット並といったレベルでしょう」

「つまり、モビルスーツパイロット側の意見としては、無人機の開発は時期尚早ってことかな?」

「はい。もちろん専門の空挺部隊のような部隊を編成するのであれば話は別ですが、現時点ではそこまで手が回るかどうか・・・それに無人機だとドダイから降下した後、残されたドダイはどうなるのかという問題点が生じますので」

「ああ、そっちの問題もあったか・・・」

「有人機なら幾らでも臨機応変に対応できますが、無人機だと選択肢が限定されます。たとえばその場に着陸させ待機するか、敵に特攻させるか・・・」

「・・・完全な無人機はしばらく無理か」

「じゃあ脱出システムの更なる改良だけでもお願いします。文字通り命がかかってますので」

「わかりました。前線のパイロットと技術者の交流会をさせ、そこで意見交換をさせよう。各自もいい案があればレポートにまとめ開発部に送ってくれ」

「さて、ドダイのせいで脱線しましたが、話を戻します。現時点での損耗率はこちらが先手を打てた攻略戦としては極めて高い数字ですが、修復する事で戦線復帰可能な兵器の数字がその多くを占めています。具体的な数字はまだ出ませんが、現在の数字の半分程度にはなるかと思われます」

「それでもドダイは全滅判定なんだが(ボソ」

「とりあえず他の被害も・・・」

そんなこんなで今回の戦闘で発生した被害報告が続き、しばらく気がめいるような話題が続く。そして数十分後、新たな議題へと移行した。

「・・・次に、今回投入した新兵器の評価に移ります。とはいえ、まだまだ現場からの声を集計中ですので、ここでは今までに判明した事を説明します。まず新型のモビルアーマー、TCKことZMA-02 イーゲルヴィント級ですが、実戦投入された機体は撃破された機体はなく、最大の損傷が中破です。ただしシステムエラーが多数発生し、内1機は中破した際にシステムがフリーズしたそうです」

「やっぱ試作機だからか。フリーズした時の状況は?」

「敵の防御陣地を突破しようとした時に頭上からMLRSを含む多数の砲撃を受けました。トップアタック対策はある程度はされていたのですが、運悪くセンサーユニットに榴弾が直撃し半壊。その時点ではまだ小破扱いだったらしいのですが、その後センサーの死角となったところにいた量産型ガンタンクからAP(徹甲弾)による攻撃を受け大型ホバーユニット1基が大破。その時ホバーユニットに回していたエネルギーが一部逆流し電気系統が損傷、結果的に安全装置が過剰反応したようです」

「現地にいる特別チームは既に修理と平行して電気系統の改修を行っています。また開発部としては、現在製造中の機体は今回の件を受けて当該部位の改修をおこなっております」

「後トップアタック対策ですが、やはり一部のセンサーを保護する事が限界です。機体は耐えれますがセンサーは・・・こればかりは陸戦兵器の宿命と思ってください」

「まぁ割り切るしかないな。イーゲルヴィントの修理も急がせてくれ。他に無いか? ・・・・・・無い様だな、じゃあ次を頼む」

「はい、次は連邦の量産型ガンタンクを鹵獲し改良を加えた機体・・・MA-75 シューター、別名RX-75RZ リファインガンタンクですね。まぁ正規の書類以外では普通にガンタンクと言ってるそうですが・・・これについては現時点では特に無いです」

「ん? 不具合がなかったのか?」

「あることはあるのですが、致命的なレベルのものは皆無です。それどころか目立った問題点は出なかったそうですよ。再設計したとはいえ、連邦もいい仕事してますね。この結果から、少なくとも拠点防衛用・後方支援用と考えれば十分成功作だと判断できます。あえて言うなら腕部75mmガトリング砲の消費が激しいので、もう少し装弾数を増やして欲しいという要望があるくらいですね。開発部からは腕部兵器をいっそグレネードやMLRSに変更させたり、肩の180mmカノン砲をガトリングにするのも手ではないかという意見もあります」

「まぁそれはバリエーションを増やすという事で対処するか。派生型として大型ガトリング砲やビーム砲、レールガン搭載型の開発計画案はあるわけだし、その要望も特に問題ないレベルか。じゃあガンタンクはいいとして、次は?」

「はい、次は対MS戦闘ヘリコプターのシュッツェ及び戦闘ヘリコプターのシュヴァルベです。シュッツェはやはり狙撃の際に時間が掛かるということが最大の課題となっておりますが、モビルスーツを遠距離から撃破可能という点ではかなりの高評価を受けています。シュヴァルベも敵戦闘機と空戦を行い、これを撃墜したとの報告もあります。まぁその後に撃墜されたそうですが、シュヴァルベの性能が高い事は証明されました。更に言えば、両機種とも設計段階から余裕を持たせてあるので、今後の拡張・発展性も十分にあり主力機としては十分と思われます」

「既に北米方面軍からは追加発注を受け取りました。ライン拡張の問題もあり本格的な量産体制に入るには多少時間が掛かりますが、半月後には量産開始が可能です」

「特にシュッツェは狙撃ユニットを丸ごと変更することで兵員輸送ヘリや対潜ヘリとして運用可能ですので、発注数は多く見込めます」

「つまり、大きな問題は無いということだね?」

「そうなりますね。では次ですが、格闘腕を持つMS-09T ドム・タトゥーについてです。義勇軍にて運用した機体の戦果は大きいのですが、やはりイロモノすぎて正規軍での採用は極少数になると思われます」

「やはり武器腕ということがネックですか・・・武器内蔵腕という案は面白いと思うのですがね」

「使い勝手が未知数だったからな。で、評価はどうなったんだ?」

「そのことですが・・・我々情報部が受けた報告によりますと、義勇軍の活躍を守備隊が記録しており、至近距離からマシンガンを受けても平然と進み、その格闘腕で敵モビルスーツを吹き飛ばすシーンが撮れていました。これを使用しプロパガンダ作戦を行う予定ですので、タトゥーは有名になるでしょうな」

「このプロパガンダは我々広報部主導で行う予定です。61式の砲撃を弾き飛ばしたりもしてましたし、機体性能はともかく、映像としては優れた宣伝素材になるかと思われます」

「ただ、やはり重装甲と新機構の採用ゆえに整備性は劣り、義勇軍に供給した機体も現在オーバーホールの真っ最中です。先行量産型試作機という名目での少数生産でしたので、部品の在庫もほとんどありませんし」

「ふむ・・・まぁ宣伝は情報部及び広報部の連携に期待する。やっぱりタトゥーの生産は停止にすべきかな・・・(元々趣味と暴走の結果でできた産廃みたいなもんだし、黒歴史決定な代物だからなぁ)」

社長の趣味で設計・少数生産されたタトゥーはここで終了かと思われたのだが、そこで異議を唱える者が現れた。そう、社長が煽り立てた開発部からの異議だった。

「待ってください、タトゥーに関してですが開発部から報告があります。我々開発部では今回実戦投入したタトゥーは実験機という認識です。実験機でない完成版の機体データを用意しましたので、どうかご覧ください」

そこで開発部から各員に薄い書類が行き渡る。その内容は・・・

「何々・・・『量産型タトゥー機体案 Ver3.14』・・・量産する気満々なのか開発部は。というか3.14って円周率か?」

「肩武装ユニットの規格統一? ・・・ほぅ、簡単な改修で既存機にも設置可能か。但し既存機自体にある程度の余裕が無ければ無理というのはあれだが、中々面白そうだ」

「簡単な改修で火力が増えるというのなら現場は歓迎するだろう。特にガトリングシールドやCIWSとして採用されている75mmガトリング砲を肩に装備できるのはいいな」

「とはいえ全体の重量のバランスを考えないと、装備が重くて機動性が極端に低下なんてことが容易に想像できるな」

「・・・質問だが、この妨害装置というのは?」

「はい、MS-08 イフリートをベースに特殊戦仕様に仕上げたMS-08N イフリート・ナハトに搭載されているジャミング装置、それの強化版です。これを搭載することによって相手の連携を断ち、見通しの悪い場所、例えばジャングルでの戦闘を更に有利に進めることができます。特にタトゥーは全高が低いので、見通しの悪い場所では不意を突くことが容易とのデーターもあります」

「つまり視界が悪い場所でのゲリラ戦に特化させるわけか・・・だけど乗り手がいないという問題はどうする? 今回義勇兵に渡したのもそれが原因だぞ?」

「今回いい映像がとれたと言っておられましたので、それを流していただければ希望者は出てくるかと思っております。至近距離からマシンガンを浴びて平然と進む耐久力、魅力的では?」

「それに、いざとなったら他の武器腕や通常のマニピュレーターに変更すればいいだけです。その辺は臨機応変に対処すれば問題ないかと」

「・・・ジャック大佐、ゲリラ戦や強襲を得意とする特殊部隊の一司令官としての意見を聞きたい。タトゥーは使えそうか?」

そう言ってエルトランは一人の佐官に話をふった。話をふられたジャック大佐だが、彼が指揮するのはゲリラ戦等の不正規戦や強襲等の高機動戦闘を得意とする特殊部隊だ。これまで3回行われた地球降下作戦全てに参加し、降下後の迅速な敵地の強襲で有名になった部隊であり、その中でも特に精鋭であるといわれるメンバーの機体には外見すら異なるレベルの大規模なカスタマイズがされており、個性豊かな調整を施されていた。そしてその総合機体性能は元となったノーマル機を遥かに上回るものとなっていた。そして大気圏突入作戦がほとんど行われなくなった後は、北米方面での残敵掃討任務やアジア方面での後方破壊任務等についており、その過程で多くの名称がこの部隊につけられた。そしてその中でもこの部隊を表す代名詞となった名称がある。
曰く、粗暴な元傭兵という事でついた、戦場を転々とし死を振りまく『鴉』と、柔軟な行動をとりフットワークが軽い『山猫』の二つだ。
ちなみにフットワークが軽い原因だが、この部隊ではパイロット一人一人に専属のオペレーターが付き各種サポートをしている事が挙げられる。これによってすぐさま情報を分析し、柔軟な対応をすることが可能となっているのだ。
そんな強力な部隊をまとめる、ある種のカリスマを持ち経験も豊かなジャック大佐の方をエルトランは見たのだが・・・





興<(意見を聞くのが)遅かったじゃないか。





・・・見たのだが、エルトランは激しい違和感を感じ、深く考え込む事となった。

「(・・・・・・今の奇妙な感覚はなんだ? ジャック大佐から変なイメージが・・・いや、それよりもなぜこのガンダム世界にいてはいけない人物という印象を私は受けたんだ? 彼とは今日が初対面、それなのにどこかで見た気がするのは・・・知ってるはずなのに知らない? 有名な部隊だから資料で見たのを錯覚した? いや違うな、そんなもんじゃない。もっと他の・・・前世の記憶か? だが違和感が消せない・・・・・・ダメだ、幾ら考えても思考に霞が掛かったかのように思い出せない。なんでなんだ?)」

違和感、切欠はジャック大佐を見たことによって起きた疑念だが、それはエルトランに深い混乱を巻き起こした。知ってるのに知らない。いや、『特定』の情報を知らない事に気がつき愕然とする。

「(・・・むぅ、大佐をどこで見たのかやはり思い出せん。もしかして他のゲーm・・・・・・まて、ゲーム? 思い出せ・・・・・・タトゥーやビスミラーの元ネタはフロントミッション、レダ級小型護衛艦は銀英伝のレダ級高速巡航艦、今回実戦投入された戦闘ヘリのシュヴァルベの外見はパトレイバーのヘルハウンド、コロニー向けの多層式航宙機母艦のドメル級はヤマト。ここまではいい。だがなんで・・・・・・前世で覚えているサブカルチャーに登場する兵器は覚えているのに、なんでそれに登場していたキャラクターを覚えていないんだ! いや、むしろこれは・・・『他作品のキャラクターに関する情報』が思い出せない? どういうことなんだ一体)」

前世の記憶に穴が、それも『忘れた』といったレベルではなく『そこだけが思い出せない』という事に恐怖する。一体何故そこだけ思い出せないのか。一体自分は何なのか。そんな不安をエルトランは受け悩み続ける。
その悩む社長の姿に会議の出席者は疑問を抱く。質問をふっておいて考え込むとは一体何事かと。とはいえ、社長がストレスのせいで変な行動を取る事はここにいる多くのものは承知していたので、いきなり黙り込んで考え込む社長の事を『ああ、また発作かな』とスルーすることにした。側にいたニュータイプのマリオン以外は。

「(? 社長が悩んでる・・・これは、自己への不安と恐れかな)社長、大丈夫ですか?」

「(・・・ん? うぉ!?)・・・いや、なんでもない。なんでもないはずだ、うん。皆も心配させてすまない」

しばし俯いて考え込んでいた社長だったが、マリオンがこちらを心配そうに覗き込んで声をかけたことによって、思考の海から浮上することとなった。心配そうに覗き込んでたマリオンの顔との距離が近く、何かいい香りがしてかなりドギマギしたのはエルトランだけの秘密である。

「えぇっと・・・・・・うん、改めて聞くがタトゥーは使えそうかジャック大佐?」

「悪くは無いが、やはり格闘腕装備だと遠距離武装がほとんど無いのがネックだ。まぁ開発中の肩へ装着するタイプの兵装ユニットがあればそれも解消できし、通常のマニピュレーター仕様なら問題は無いともいえる」

「・・・つまりは機体の構成次第だと?」

「そうだ。それにどうしても格闘腕に眼がいってしまうが、結局はTPO、時間と場所と場合を考えて機体構成を組めばいいだけのことだ。タトゥーは悪い機体ではないのは確かだ」

「ふむ、そこまで言うなら少数生産を許可しよう。ただし増産数は2個中隊分、24機のみだ。それ以上増産するかどうかは今後の動向を見て結論付ける、これでいいな?」

「十分です。アジア戦線にてタトゥーが使える事を証明して見せます」

そしてタトゥーに関する話を纏め終えた頃には、エルトランが思ったジャック大佐への疑問は綺麗さっぱり、不自然なレベルで消えていた。そして疑問が消えうせていた事にエルトランは気がつかない。まるで最初から疑問を抱いてなかったかのように・・・

「次は・・・・・・荒野の迅雷? まて、なぜ彼がこの議題に上がっているんだ?」

「え!? ・・・あ、申し訳ありません。資料のミスです。これは勲功の方の項目です」

「・・・まぁいいや、ついでだし、彼だけ見てみよう。キャシー、説明を頼む」

「はい、分かりました。荒野の迅雷ことヴィッシュ・ドナヒュー中尉ですが、撤退戦時に連邦のモビルスーツ隊と戦闘し、これを故意に見逃したとの事です。幸い正規軍の方には知られていませんが、これが参謀本部と人事部の方で問題視されており、議題に上がったものとされています」

「ん? ただ単に継戦能力に不安があったから引いたとかではないのか? 弾薬不足になったとか」

「それが・・・本人曰く『例の計画がうまくいけば、ここで彼らを見逃す方が我々の利になる可能性が高いと判断した。彼らは部下に欲しい優秀な人材だ』とのことです」

その発言を聞いた一同は若干名がこめかみを押さえ、一部は頭を抱えていた。電波でも受信したのか? と呟く者もいたが、それは周りの喧騒にかき消され誰にも聞こえなかった。

「・・・・・・彼は人材コレクターなのか?」

「むしろ、バトルマニアか? 釣った魚が小魚だったから成長するまで待つみたいな感じの」

「彼がそんな性格だったとは知らなかったよ」

頭を抱える一同。お前キャラクター崩壊してないか? という疑問を抱くものの、さっさと議題を変えることで自身の精神の安定を維持しようと図る。

「・・・まぁこの件においては厳重注意ということで」

「ですな。キャシー殿、次をお願いする」

「はい、次はギニアス技術少将関係ですね」

「少将関係というと、あのモビルアーマーと護衛機ですな?」

「はい、MS-07H-8 グフフライトタイプとSMA-03 アプサラスⅢです」

「SMAシリーズ、アプサラスですか。この戦果は流石戦略級と言わざるを得ませんな」

参謀の1人がそう呟き、それに皆が同意した。
SMAシリーズ、Strategy MOBILE All Range Maneuverability Offence Utility Reinforcement 戦略全領域汎用支援火器といい、後に戦略モビルアーマーという独自のカテゴリーを持つモビルアーマーのシリーズで、所謂アプサラスシリーズの為だけに存在する。
ちなみに実際のアプサラスの形式番号は一切不明で、この形式番号も本作独自の分類。ついでにいうならばTCKことイーゲルヴィント級につけられているZMA-02の形式番号だが、これはツィマッド社(ZIMMAD)が主導して開発したモビルアーマーを指しており、ツィマッドの頭文字をとってZMAとなっている。なおZMA-01はライノサラスだったりする。

「アプサラスⅢは大気圏突入後にチャールビル基地を破壊しましたが、敵の反撃で大破し墜落しました。ですが幸い修復は可能とのことで、現在大破した機体の回収作業を行っております。回収部隊の報告によると、2週間以内にギニアス技術少将が本拠地にしている日本に輸送可能と思われます」

「キャシーさん、そのギニアス技術少将本人の事を言わないでいいの?」

「・・・あ、いけない忘れてた。ありがとうマリオンちゃん。皆さん申し訳ありません、言い忘れがありました。ギニアス技術少将は健康上の理由で強制入院されたそうです。妹のアイナさんからの連絡では最低でも1週間は検査入院らしいです」

「入院? 強制と言うところに不安を感じるが、まぁ撃墜されたわけだから検査入院は妥当なところですな」

「修復作業はそれからか・・・大体どの程度の期間が必要か知らされてないか? あの機体はアジア方面の防衛戦力の切り札にできるからな」

「破損具合から見ても、早くても1ヶ月は掛かるでしょう。ですのでしばらくアジア方面は防衛戦力の強化が必要です」

「それについてですが、我々参謀本部は航空戦力の増強を持って対処したいと思っております」

「航空戦力? 言っておくが北米方面軍からはもう出せないぞ。ただでさえ戦力不足なんだ、これ以上減らされたら南米からたまにコマンドを抱えてやってくる敵航空隊への対処ができなくなる」

「それにまだカナダ地区やアラスカ地区といった北方には連邦軍の残党がいるんだ。勿論残敵掃討作戦で残り少なくなっているが、未だにゲリラ活動は続いている。本音を言えばもっと部隊を展開して欲しいくらいだぞ」

「・・・北米方面から部隊を抽出する事はありません。北米の航空戦力が減った原因はオーストラリア攻略の為でしょう? 今ならその戦力をアジア方面にシフトするだけで事足りますよ」

「いや、そうだとしてもオーストラリア方面の戦力を削るのは不味くないか? 結構な損害を航空隊も受けたんだ、再編成にも時間が掛かる。それにインドという敵の根拠地がある以上、うかつに戦力を削ると逆襲を受ける可能性があるのでは?」

その指摘は正しかった。なにせこの前行われたシンガポール攻撃では一定の戦果が出たものの、出撃した部隊も甚大な損害が出た為そちらも再編成が必要になっているのだ。インドから兵器を輸送すればいい連邦軍と、北米から輸送するのとでは運ぶ距離が全然違う。しかも機体を用意してもパイロットが足りないという事態に陥りかけているのだ。未来の航空機パイロットよりも今の航空機パイロットを前線は欲していたのだ。まぁ人手不足はどこも一緒なのは変わらないが。

「それに関してですが、もし敵の攻撃があるとしたら航空戦力のみと判断しております。現状での海軍による輸送は危険極まりないと向こうも承知してますからね。ですのでしばらくは対空戦闘に優れた部隊、ザクキャノン等で構成された部隊をオーストラリア西海岸沿いに展開します。それに加え、レーダーや対空ソナーを搭載した小型飛行船を一定空域に展開し、早期警戒網の構築を行います。これによってある程度の防衛ライン構築が可能になると思われます」

「まぁその手の戦略会議は後日しましょう。時間が押してますから・・・ただ、その意見は後で議題にしますのでまとめておいてください。で、話を戻すけどMS-07H-8 グフフライトタイプに関しては?」

「現地からのレポートでは『機体性能はそれほど悪くは無いが、運動性の更なる向上、それに推進剤の増加や予備弾薬を携帯できる場所の増加等の継戦能力の増強を望む』というコメントが寄せられました。実際に戦闘後に推進剤が尽き、万が一敵の増援がきていたら危なかったとの報告ですので、飛行時間の延長は急務でしょう。これは激しい戦闘機動を常時連続して行った為に予想よりも早く推進剤を消費した結果との事です」

「特にフライトタイプの脚部は飛行能力に重点を置いた為、地上での運動性が通常のグフよりも低下しております。今回の戦闘に参加した機体の全てが脚部を酷使した為、整備基地に運んで大規模なオーバーホールを行う予定です。なにせ一部の機体では脚部がかなり破損していますので」

「まぁ故障や破損はテストではよくあることですが、それが今後の課題となるかと思われます。地上戦もそつなくこなせるようにする事と、滞空時間の延長が今後の問題点です」

「後、継戦能力の向上もですね。出力の関係でグフフライトタイプには、現在配備されているビーム兵器の運用が不可能となっています。まぁEパック方式のものでしたら使用可能ですが、実体弾以上に弾薬の問題が出ますので、そこら辺も問題です」

「それに関してですが、開発部からも報告させていただきます。現在キャリフォルニアベースの研究所にて、省エネかつ高品質の新型推進剤を開発中です。現在使用している推進剤よりも数%の質の向上が見込まれており、これならば熱核ジェットエンジンの燃費を向上させ、滞空時間の延長が図れるかと思います。ただ・・・開発途中なので今すぐ配備というわけにはまいりませんが」

「継戦能力の向上については?」

「ギニアス少将からの提案で、ジェネレーターを強化した上でEパックを複数携帯し、更に撃ち終えたEパックを充電する装置を搭載することによって弾薬不足を解消するというものがあります。これはH8の後継機であるH9、グフフライトカスタムへの搭載を検討しています」

「・・・H9はこの戦争中の実用化は無理ってギニアス本人から聞いたから、それは今は役に立たんな。そもそも設計すら出来上がってないとか言ってたし。で、H8については?」

「・・・・・・強襲するなら補給用のコンテナを用意するのが一番手っ取り早いとの回答です」

「やっぱりか・・・まぁこればっかはしょうがないか」

「申し訳ありません。H8は機体に若干の余裕がありますが、ジェネレーターの交換といった大掛かりな事は不可能です。ジェネレーターの小型高出力化ができれば話は全く違ってきますが、現状では今だ試行錯誤の真っ最中です」

「それに今回投入された機体は初期生産型の実験機的な機体です。いいデータがとれましたので今後に生かせます」

「ふむ・・・そのあたりは今後に期待しよう、いい物を仕上げてくれ。他に問題は?」

「問題というよりも決定事項ですが、ノリス大佐の機体だけについていたアンカーを量産機にも標準装備することが決定されました。というのも、今回ノリス大佐の機体がアンカーを駆使して活躍されたので、たとえヒート機能がついてなくても十分使えると判断されたからだそうです」

「映像は見せてもらったが、曲芸だよなあそこまで行くと・・・というか一般兵、まぁ乗るのは熟練兵あたりだろうけどアンカーを使いこなせるのか?」

「・・・・・・そのあたりは未知数ですが、戦術の幅が広がる事は間違いありません」

「今の間がすごく気になるが、まぁいいか・・・他は?」

「右腕にアンカーを設置する関係上、重量配分を考えて左腕の腕部内側にグレネード発射機を装備させます。といっても2発のみですが、戦術の幅が広がるのは間違いありません」

「なるほど、使いどころによっては十分役に立ちそうだな。他に何かあるか?」

「他は特にありません。キャシー殿、次に進んでください」

「はい、分かりました。次はYMS-18 プロトケンプファーですね。お手元の書類にも書いていますが、シャア大佐の搭乗されていたC型は中破しました。これは機体のトラブルが発生した為に起きた損傷だということらしいです」

そう言って再び一斉に資料に眼を転じる一同。そこにはプロトケンプファーの戦闘経過や破損状況といった事が詳細に記載されていた。

「原因は新型構造か・・・社長、やはりムーバブルフレームは早すぎた技術なのでは?」

「もしくは、言いにくいですがムーバブルフレームは欠陥だったのでは?」

「違います! 技術部として言わせていただきますが、C型のムーバブルフレームは強襲作戦に投入可能なレベルに仕上がっています。たしかにアクロバティックな機動を取ったり、モビルスーツを蹴り飛ばしたりしたことで、一気にその負荷が脚部に集まり、肝心なところで脚部に損傷が発生したのは事実です。が、普通に運用する分には現時点で問題はありません!」

「だが実際にはトラブルが発生した。それに普通に運用とはどういうレベルなのだね?」

「運動性が売りの機体なのに、エースの動きに耐えられない。問題では?」

「・・・つまり早すぎた技術だったわけだな。社長、我々参謀本部としてはムーバブルフレームよりも信頼性のある従来型の構造の機体の方が、現時点では無難だと判断しますが?」

「我々もムーバブルフレームの有効性は承知しています。ですが、現場の人間の命を預かる身としては、新機軸よりも信頼性を取らざるを得ません」

「ムーバブルフレームを用いた多脚型モビルアーマーの試験が順調という話しも聞いてます。ですが、やはり高機動機体にムーバブルフレームは早かったのでは?」

そういって会議参加者の多くが私を見る。忌憚ない意見を言い合うという前提で会議をしているが、流石に査問を受けてるみたいであれだな。

「むぅ・・・・・・たしかにムーバブルフレームは早すぎたかもしれない。MS-18にはムーバブルフレームを現時点では使用しない。が、ムーバブルフレームは今後も開発は続けていく。今回は未成熟故に起きた事故だ。今後このような事が起きないように、より一層の努力を技術部には求めるものである」

「了解しました社長。より一層の新技術探索を行いますのでご安心を!」

「ただし! 予算は有限ですので有効に使ってください。私も無限に資金が沸く壺を持ってるわけではないのですから・・・というか、会社も自転車操業に近いものなんですからある程度は自重してください。今さっきの発言はマッド達が暴走しますよと言ってるように聞こえますんで」

「・・・・・・善処します(汗」

「頼みますよ本当に?(どうしよう、果てしなく不安だ」

「で、プロトケンプファーに関してですが、やはりムーバブルフレームの技術が未成熟な事を受け、技術部ではA型及びB型をベースに正式機の開発を行います。ベースは技術的に安定しているB型をベースにし機体を一回り大型化します。これはドムシリーズと同様に拡張性を持たせる為です」

「ファミリー化はどうなっている?」

その一言に、技術部の人間は資料を確認した後に発言をする。モビルスーツのファミリー化、派生機についてはまだまだ検討中のものが多いからだ。

「はい、現在のところ社長の指示に従い開発中ですが、プロトケンプファーから発展させた強襲用のE型をベースにし、一般兵向けに運動性をある程度犠牲にして装甲を強化したアサルトタイプのA型、アサルト型をベースに指揮通信能力を向上させた指揮官機仕様のS型、プロペラントタンクの増設等で継戦能力を中心に各種性能をバランスよく向上させた海兵仕様のM型、センサーやジェネレーターを改修した狙撃仕様のJ型、各部にセンサーを設置した偵察仕様のR型を検討しております。また、ムーバブルフレームのC型ベース機も同様のファミリー化を考えており、仮にC型ベースのケンプファーができた場合、形式番号はMS-18C-2とし、ケンプファーMk-2と呼ぶ事が決まってます。なお2の後ろに分類をつけますので、アサルト型でしたらMS-18C-2Aとなる予定です」

「なるほど。ただムーバブルフレーム機は設計が根本的に異なるから、形式番号と外見だけが似てるだけの全く違う機体と考えた方がいいですな」

「あの・・・疑問なのですが、なぜ形式番号を変えないのですか?」

「・・・ああ、マリオンの疑問も当然だね。これは防諜上の対策とでも考えてくれたらいいよ。例えとしては・・・同じザクでもF型とFZ型みたいなもんだと思ってくれればいいかな? とはいえ、あくまで暫定だから変えるかもしれないけどね(・・・言えない。MS-18という形式番号=ケンプファーというイメージなだけに、ケンプファーの名を冠する機体はMS-18の番号を与えたいという私のエゴだなんて絶対に言えない)」

「・・・? 理解しました社長(理由はまともなのに、社長の心に焦りを感じた? なぜ?)」

「では社長、今後プロトケンプファーの生産はB型中心という事でよろしいのですか?」

「ああ、ケンプファーに生かすデータ収集の意味も含め、B型以外に考えられないからな。ただ、分かってるだろうけどプロトケンプファーは生産数はこちらの事情もあるので、少数生産の予定だ」

「了解しております」

そこまで話しを終えた後、十分程度の休憩をはさんで再び会議は再開された。

「では次の議題に入ります。といっても兵器つながりの議題ですけど・・・ウェイパから脱出した連邦軍ですが、多くの陸上兵器を同地にて放棄した模様です。およそ半数近くが破壊処理されてましたが、それでもかなりの数の兵器を鹵獲できました。61式戦車やホバートラック、ジープに自走砲等ですが、やはり自走砲やロケット砲がかなりの数だそうです」

「まぁその二つは碌な装甲を持ってないから、攻撃受けたらほぼ無傷かスクラップかの二択しかないし」

「ですが、ロケット砲や自走砲は正直ありがたいです。防衛力強化の一部を担ってくれますからね」

そう防衛ラインの構築に関わっている士官が発言するが、それにキャシーは申し訳無さそうな表情で要請という名の命令を言う。そしてその言葉を聞いた士官は崩れ落ちた。

「それですが、ガルマ様から要請がありました。鹵獲した長距離兵器の大半を欧州方面に移動させて欲しいとの事です。トーチカ代わりにする為、61式戦車も可能な限り移動させて欲しいとも」

「・・・え゛? ぼ、防衛ライン構築計画に今回鹵獲した兵器も組み込んでたのにぃ・・・また白紙かょ」

「とりあえずお前はこの会議終わったら寝ろ。何徹してるかは知らんが目の下が凄い事になってるぞ」

「・・・ん? ちょっと待ってください、中東戦線ではなく欧州方面にですか? まぁ目と鼻の先にベルファスト基地があるんだから分からなくは無いですが・・・」

「今回の件はキシリア様からガルマ様に要望された事らしく、核弾頭の事を報告した時に言われたそうです」

「まぁ欧州方面軍のオデッサにいるマ・クベはキシリアの副官といえる存在だからなぁ。こちらもご機嫌取りにナハトを送ったりしてるんだがなかなか・・・」

「目の敵にされてますからね・・・頑張ってください社長」

「ナハトって言ったら、例のジャミング装置付きのイフリートでしたか。ニン☆ジャがモチーフの」

「そういえばイフリートってサムラーイが元ネタでしたっけ?」

「そんなこたぁどうでもいい。問題はマ・クベ大佐が我々を目の敵にしてる事だろ? 社長、どうします?」

「・・・(何か今発音がおかしかったけど突っ込んだら負けかな?)まぁいいか、この前ギニアス少将から北宋期と推定される壺を貰ったから、鹵獲兵器と一緒に送っとく」

「・・・なんでギニアス少将が壺を?」

「私が頼んどいたからな。マ・クベ大佐へのご機嫌取りに使うので、偽物でもいいから昔の壺を見つけたら送ってくれって頼んでたんだ」

「・・・左様で」

「それって偽物だった時やばくありません?」

「気にするな、私は気にしない。というかその場合は私の鑑定眼が悪かった事にしとけばいいことだ」

「はぁ・・・いいんですかねぇ」

「イインダヨ! で、鹵獲兵器は分かった。他の連邦兵器については何かあるかい?」

「はい、陥落した連邦軍基地にあった資料を基に作成されてますが、今回投入された新型戦闘機の事です」

「ああ、報告にあったビームを撃ってきたという戦闘機の事か」

「はい、その通りです。今回新たに投入された敵の新型戦闘機ですが、正式名称FF-X7-Bst コアブースターという機体である事が判明しました。推進器は熱核ジェット/ロケットのハイブリッドで、大気圏内外で運用可能。武装はコアファイター機首の機関砲に加え、多弾頭ミサイル発射口を装備、そして最大の特徴がモビルスーツのように反応炉を主動力とするため、メガ粒子砲2門を搭載している事です。このメガ粒子砲の性能はこちらの量産されているビームライフルに匹敵するそうです。ただ・・・性能的にはジャベリンを上回りますが、今回の戦闘ではカタログスペック通りの性能を発揮できていたかは甚だ疑問です」

「ん、どういうことだ? 性能を発揮できないという事は、急造品という事か?」

「いえ、機体には問題がありませんでした。原因はパイロットが新米だったからのようです。情報部が裏を取りましたが、連邦軍はモビルスーツパイロットに他の兵種、戦車や戦闘機のパイロット等をあてているそうです。つまり、現在の連邦軍における戦闘機パイロットはモビルスーツパイロットへの引抜が行われ、航空隊にいるのは古参兵か新米かの二択となるわけです。そして古参兵の割合が少ない現状を鑑みると、今回新型機に乗っていたのは、恐らく新米と思われます。まぁ古参兵でも機種転換訓練を受けてすぐに乗りこなせるかと聞かれれば疑問ですが」

「つまり、パイロットが未熟又は機体に慣れていない為に、本来優れている機体の性能を満足に引き出せず、結果的に実力を発揮できなかったと言いたい訳か」

「そうです。ですが今後、戦闘機パイロットの機種変更が順調に行われ転換後に訓練時間に余裕があった場合、間違いなく侮れない敵となるのは間違いありません。特にビームを持ってる為、ことは戦闘機部隊だけの話しに留まりません」

「油断したらモビルスーツや艦艇も餌食になる、そういうことか・・・厄介だな」

「それに、他にも問題があります。例の戦闘機は元々がFF-X7 コアファイターと呼ばれる戦闘機に大型ブースターユニットを装着させた戦闘機であることが判明しました」

「ん? ・・・たしかコアファイターといえば、例の鹵獲した木馬に積んであった、モビルスーツに内蔵されていた脱出用戦闘機の事ではなかったか?」

「ということは強化パーツという事か・・・・・・まて、という事はこのコアブースターとやらは、最初から戦闘機として設計された機体ではないということか!? 本格的な戦闘機ではないのにこれだけ高性能とは・・・」

「技術部からの意見を言わせていただきますが、このコアブースターは非常に汎用性の高いマルチロールファイターとして仕上がっています。これは、コクピットモジュールであるコアファイターがモビルスーツの操縦装置でもあり、そのコンピュータが従来の戦闘機をはるかに上回る処理能力を持っていたために実現したものだと報告があがっています。とはいえ、無駄が多いことに変わりはありません。追加ブースターをつけたことでコアファイター自身のスラスターが無駄になっており、その点を見ると余分なデッドウェイトを抱えた機体と言えます。そもそも本体のコアファイター自体がモビルスーツの脱出機能としての役割を持っていましたから。ですが、今後無駄を省き低コスト化を推し進めた量産機が出てくる可能性が極めて高いと判断しております」

「つまり・・・コアブースターをベースに、戦闘機または航宙機に特化した機体が出てくるという事か」

「そのことですが、我々情報部が掴んだ情報ではジェットコアブースターと呼ばれる地上専用の戦闘攻撃機が開発され、一部では既に実戦配備されているそうです。名前から推測すると、恐らくはこのコアブースターをベースにした戦闘機又は戦闘爆撃機かと思われます」

「それはそのコアブースターよりも高性能か? それともダウングレードした廉価版か?」

「詳細は不明ですが、例えダウングレードしたといってもコアブースターから余分なデッドウェイトを取り除くだけでコスト削減は可能なので、単純に決めつける事はできません。最悪、コアブースターよりも高性能で低価格となる可能性を考えるべきかと思われます」

「うわ、今後ジャベリンでは荷が重くなりそうですな・・・社長、例の新型機はもっと早く配備できませんか?」

「DFA-08、グングニル戦闘攻撃機のことか・・・現在先行量産型がロールアウトしてるが、計画実行時に配備できるのは一部の部隊だけと思った方がいい。それにグングニルの運動性はジャベリンと似たようなものだと聞いているから、まずはジャベリンと比較する事が最優先だろうな」

「では早急にコアブースターとジャベリンとの比較検証を行わないといけませんな・・・それはどうなっていますか?」

「研究班が残骸や確保した予備パーツから使えるものを組み立てて、現在2機のコアブースターを作成中です。ですが比較検証をするにしても、後数週間は必要と思われます。まずは組み立てた機体がちゃんと安全に飛ぶかを実証しないと・・・話はそれからですね」

「むぅ、頭が痛い問題だな・・・次は?」

「はい、次で予定表に書かれていた報告は最後です。連邦軍がチャールビル基地で運用していたビームライフルですが、調査の結果7月にサイド6にて強奪された、我が方の試作ビームライフルという事が判明しました」

「・・・ってことは味方の武器で味方を攻撃されたわけか。嫌な皮肉だな」

「ん? なんであそこ(チャールビル基地)にあったんだ? 強奪したんなら分解調査をするもんだろう。なんで前線に配備してるんだ?」

「・・・・・・恐らくですが、調査を完了させた上であそこに配備されていたものと思われます。用済みだから配備したのか、それとも実戦運用の為に配備されたのか、又は敵軍の兵器を自軍の兵器で運用できるかの試験だったのか、またはそれら以外の理由なのか・・・まだ詳しい事が分からないので現時点では推測するしかありません。ただ連邦のビームライフル開発は7月にこちらのビームライフルを鹵獲した際にはある程度形になっていたのではないかと思われます。これは先程述べた敵新型戦闘機や木馬、ホワイトベースの事を考えればお分かりになられるかと」

「ふむ、こっちは宇宙での運用を優先していたからな・・・地上への配備数はそれほど多くはない」

「地上だとビームは減衰するからなぁ・・・やはり地上では実弾兵器が好まれてるのが大きい。曲射による遠距離射撃ができるのも大きな理由だし」

「まぁその影響で地上部隊には配備数が少ないわけだが・・・宇宙ならば問題ない。こちらの方が配備数では上だろう」

「まぁビーム兵器の配備数で張り合っても余り意味は無い。要は運用の問題だ」

「とりあえず、新兵訓練マニュアルにビーム兵器の項目はあるが、実際に狙われてどのくらいうまくやれるか・・・その辺りが未知数ですな」

「個人プレーをしないように厳命しておこう。連携が稚拙だと各個撃破されて犠牲者が大量に出るだけだ」

「そうですな、新兵や民間人はどうしても華々しい戦果を上げるエースのみに眼がいきがちですから」

「ではまとめてみましょうか。今後連邦軍はモビルスーツとビーム兵器を戦場に出している。その性能は警戒するに十分で、対策としては個人プレーではなく連携しあって対処する、という事でいいですか?」

「その認識でいいのではないか?」

「同感だ。今度の会議にもっと煮詰めてみよう。今日は簡単な会議の予定だったからね」

「では、特に異論がないようなので本会議はこれにて終了とします。皆さんお疲れ様でした」

そうキャシーが言うが、席を立つものは誰もいなかった。当然だ、これからもう1つの議題を扱うのだから。当然書記も記録を止めている。

「で、ここからは非公式な会議の始まりか。次の議題はKG-82かい?」

「はい。作戦名KG-82、トリントン基地で確保した核弾頭の輸送計画です。その中で最も重要なキーである核弾頭、それのガウへの搭載作業が完了しトリントン基地を離陸、ラバートン航空基地に向かって現在順調に飛行中です。そのラバートン基地ですが、ジャベリン1個中隊を常に空中待機させており、滑走路ではコムサイを3機準備しております。現在コムサイへブースターを装着する作業に掛かっており、26時間後には取り付け作業が完了する手はずとなっております。それからコムサイに核を搭載しますので、全ての作業が完了するのは34時間後とのことです。ですので打ち上げはおよそ36時間後を予定しています」

「宇宙の送迎艦隊は? コムサイを打ち上げました。でもそこに味方艦はまだいませんでした、なんて事になったら洒落にならんぞ?」

「それですが、既に衛星軌道上にVF所属のレダ級護衛艦3隻が展開しつつあります。リール航宙戦闘機を合計9機保有しており、警戒する程度なら十分だと思われます」

「・・・予定よりも早く終わったのに、よく艦隊を展開できましたな」

「どうも哨戒任務中の艦隊だったらしいですよ。哨戒を終えて帰還する寸前だったらしく、物資に余裕は余り無いそうですがね」

「参謀長、回答ありがとうございます。で、本体の方は何時頃来るのですか秘書殿?」

「それに関してですが、回収部隊としてサイド6に展開していたジークフリート級2隻と鹵獲コロンブス1隻を既に派遣しています。更に本国からレダ級へ補給物資を届ける為に、我が社の保有する大型輸送艦ツァインとその護衛にガニメデ級空母カリスト、慣熟航行をかねて就役したばかりのティベ級巡洋艦アルバトロス、そして偵察機仕様のランツ級高速シャトル3機が向かっています。ツァインとアルバトロスは今回艦載機は搭載していませんが、カリストにリックドムを18機搭載しているのでこの3隻に関しては問題ありません。またジークフリート級2隻にはリックドムを計6機、コロンブス級には・・・」

そこで一旦キャシーは言葉を止め、社長の方を見る。エルトランはそれに頷き、キャシーは続きを話す。

「コロンブス級にはサイド6で我が社が研究を依頼していた、新型システム搭載機を4機搭載しています。これはクルスト博士の要請によって設立した対ニュータイプ部隊で、こちらがテストの為に供給した機体はイフリート1機にリックドム2機、そしてプロトケンプファー1機の4機となっています。これは対ニュータイプ部隊として実験的に設立された部隊ですが、そのパイロットにはあのニムバス大尉がいます」

「・・・あの冷酷な騎士か。実験部隊にいたとはな」

「ところで新型システムとは・・・EXAMシステムのことか?」

「半分正解で半分間違いです。向こうの説明を信じるならば新型システムは我が社が開発を依頼したEXAMシステムの改良型で、エースパイロットが操る機体に匹敵する性能を熟練兵が出す事ができるとのことです。なお衛星軌道上及び地上でのテストを行う予定でしたので、開発者のクルスト博士も同行しています」

その一言で場がざわめいた。なんせ熟練兵がエースパイロット並みの戦力となると言われたのだ。ノリスやヤザン、ガトー並のパイロットが大量に戦場に出てくるようなものだと思っていただければ分かりやすいだろう。ただ、裏事情を知る一部の者達は冷静に聞いていたが。

「ですが、新型システムは詳細が機密となっており、パトロンであるこちらにも『不完全な物を教えるわけにはいかない』とのことで情報がきておらず、この新型システムがどこまで使えるのかは、実際のところいまいち分かっておりません。それの検証をする為の試験でしたので・・・ですが供給した機体の基本性能が高いのですから、使い物にならないという事は無いと思います」

「だが熟練兵がエース並の戦力になるのなら、かなり楽になる。後で詳しく話を聞きたいですな」

「というか、EXAMシステムの改良型が開発されているとは驚きです。そもそもEXAMシステムは完成していたのですか?」

「たしかEXAMシステムといえば、機体性能を向上させるOSでしたか。それの発展型とは一体・・・?」

「まぁ今は話を戻しましょう。キャシー、続きを頼む」

「はい社長。我々の派遣した護衛戦力はこれだけですが、ソロモンからドズル中将が派遣するチベ級1隻、ムサイ級3隻、そしてパプワ1隻がやってくる予定になっています。搭載戦力はチベにリックドム3機、ムサイにザクF型が9機、パプワにリール航宙機が6機となっています。艦隊司令官はコンスコン少将で、これらの艦隊が衛星軌道上の部隊と合流するのは30時間後となっており、レダ級への補給作業もコムサイの打ち上げまでには終了予定となっております」

「・・・という事は、コムサイからの物資移送時間を考えても、二日以内には移動できるということですか?」

「いえ、もう1つの艦隊の集合を待たなければならないので、実際は三日後です」

「もう1つの艦隊? ということは・・・どっちの艦隊ですか?」

もう1つの艦隊という単語に、この場の全員がその艦隊の所属にあたりをつけた。まぁほぼ2択・・・裏を知っているものなら3択だが、3択目はまず公表しないだろうということで2つに絞っていた。すなわち・・・

「・・・グラナダから発進したキシリア少将貴下の艦隊です。艦隊司令官はデラミン准将、編成はチベ級2隻、ムサイ5隻、パプワ1隻です。なおムサイの内2隻は火力を増強した後期型(0083版ムサイ)で、搭載戦力はチベ級にヅダB(宇宙用)型6機、ムサイ級にザク改6機 ザクF2型9機、パプワに旧ザク3機です」

「しかも、コンスコン少将じゃなくデラミン准将が指揮を取るようにとの御達しらしい。変なとこで圧力かけてるなぁ」

「まぁ艦隊規模で言えばコンスコン少将よりもデラミン准将の方が多く引き連れてくるわけだから、しょうがないといえばしょうがない」

そう、ギレン派かキシリア派どちらかの艦隊ということだった。ガルマが既にキシリアに通信を送っていたという情報が既に出回っていたので、この場にいる大半がキシリア派の艦隊という事を事前に予想していたが。

「はぁ・・・指揮系統の問題はともかく、それなりの戦力ですな」

「はい、艦だけでもチベ級3隻、ジークフリート級2隻、ムサイ級8隻、レダ級3隻、パプワ級2隻、鹵獲コロンブス級1隻となります。ちなみに偵察機仕様のランツ級はカウントに入れていません。艦載機は試作機4機、リックドム9機、ザク改6機、ヅダB型6機、ザクF2型9機、ザクF型9機、旧ザク3機、リール航宙機15機、合計でモビルスーツ46機、航宙機15機となっています」

「・・・む? 空母他数隻はカウントしないのですか?」

「はい、ガニメデ級空母カリストとティベ級巡洋艦アルバトロスは大型輸送艦ツァインの護衛の為に別行動をとります。この3隻は一旦カタリナに寄港し、カタリナ宛の物資を引き渡した後にサイド3へ向かいます。元々輸送船ツァインはカタリナによってから地球各地へ物資を投下する予定だったので、行く順番が逆になってしまいました。ですので、レダ級への物資補給任務が済めばすぐに帰還させないとタイムスケジュールに誤差が出てしまいます」

「ああ、なんで輸送船の都合がついたのか疑問でしたが、定期便だったのですか。納得しました」

「むぅ、3隻が護衛に参加しないか・・・まぁ重巡洋艦とはいえモビルスーツを搭載していない慣熟航海中の艦と、武装がろくに無い輸送船がいるんだからカリストを護衛にして別行動させるのは正解ですな。下手に艦隊に組み込んでも足手まといになりかねませんし」

「そうですな・・・制宙権はこちらよりですし、上としてはこの艦隊規模で十分だろうという判断なのでしょうな。欲を言えば万が一に備えヘッジホッグ級防空護衛艦が欲しいところでしょうが、あれは引く手数多ですし」

「はっはっは、おかげで造船部門はウハウハですよ。まぁ他にも既存の艦艇の改修工事のせいで、最近は簡易ドッグ艦であるティル・ナ・ノーグ級すら増設作業の為に借り出されてフル稼働でね」

「その影響でサイド3以外のサイドで民間船の建造や整備が行われてるわけですね。他にも余り重要でない艦船のユニットを建造させてるみたいですし」

「ユニットを組み合わせて作る艦だからこそできる方法ですけどね。それにランツ級高速シャトルのライセンス生産を他サイドの何社かに許可してるからね、こっちも順調だよ。戦後は連邦の銀河級輸送用大型シャトル(ポケ戦でアレックスを打ち上げたシャトル)がライバルになるだろうけど、他サイドにライセンスさせることでランツ級を大量に普及させれるから、民間シャトル部門はまず間違いなく我が社の勝ちだ」

「汚いさすが社長汚い」

「なに、状況にもよるが戦後は軍縮路線、まぁ量より質という路線になるだろうから発注数自体が減るだろう。そうなったら民間部門を制したものが極めて有利になれるからね。勿論軍部も可能な限り受注をとれればいいが、ジオニック社や連邦のアナハイムがいる限り、幾らザビ家にコネを持っているとはいえモビルスーツ部門の独占はまず不可能だし、する気もない」

「軍民どちらの部門も黒字を出してますが、総合的には自転車操業ですからね。研究開発費やVFの費用のせいでかなりあれですしね」

「あれ? 社長、MIP社はどうなったんですか?」

「MIP社は買収工作を水面下で進めてる。ズゴックや各種モビルアーマーを作る技術は是非欲しいからな」

「・・・そういえば、開発中止になったMA-04Xを試作機どころか関連資料全部込みで購入してましたね」

「ええ、マリオンの言うとおりMA-04X ザクレロは我が社の実験機として資料諸共購入しました。その関係で開発を支援していたヨッフム家とも親密な関係となったのは嬉しい誤算でした」

「ちなみに現在MA-04Xは通商破壊作戦という名の海賊行為を行ってますが、そこで得られる物資や鹵獲艦も貴重な収入源です。 ・・・あ、そういえば地上用のMAX-03ですが、裏が取れました。やはりオデッサで複数機の建造が進められています。今更ですが社長、本当にMAX-03の共同開発の話受けなくてよかったのですか?」

「いや、あの時アッザムに投資していたらアプサラスの完成が遅れていた可能性が高い。それに言っては悪いが、対地攻撃は高いが対空能力が低いアッザムでは航空機にボコられたら終わりだ(それ以外の理由としてゲームであんまり強くなかったイメージが強いってのがあるけどね)」

「はぁ・・・まぁ過ぎた話ですので話を戻します。運ぶ物が物ですので、艦隊は最短ルートでグラナダに向かいます。途中で連邦軍の襲撃が予想されますが、その戦力は輸送船撃沈を狙った対艦部隊、恐らくパブリク突撃艇を中心とする機動部隊だと思われます」

「パブリクか・・・重巡ですらパブリクの対要塞用大型ミサイルを食らったらただではすまないな。鹵獲したマゼラン級戦艦のトータチスもこいつの直撃2発で爆沈したんだろ?」

「ああ、例の社長襲撃事件か。あれで艦隊防空が見直され、対空火器の増設工事でドックが満杯って現状になったんだからな。まぁ少しでも犠牲者が減るならそれに越した事は無い」

「まぁ話しを戻すけど、この合同艦隊がグラナダまで核を輸送する。前衛に数の少ないVF艦隊、本体に数の多いキシリア艦隊、後衛にそれなりの規模のドズル艦隊を配置し、偵察機仕様のランツ級シャトルを先行させて航行する。偵察用のモビルスーツを搭載していないみたいだが、幸い航路上にデブリベルトは少なく、その中を通過するポイントは1箇所のみ。そのデブリベルトの中を通過する時に最大限警戒すれば、奇襲されてもなんとか防げるでしょう」

「ですが、デブリベルトを掠めて通過するポイントが幾つもあります。デブリベルトに敵が潜んでいたら危険では?」

「そのあたりはリール航宙機を偵察機代わりに飛ばせばいいでしょう。まぁ最終的に判断を下すのは現場ですけどね」

「あ、それと報告が。我々情報部が掴んだ情報によりますと、ここ数日ルナツーの動きがあわただしいとの事です。具体的にはルナツーを発進した艦船が多数いるようです」

「動きが慌しい? それに出航した艦船の規模は?」

「はい、オーストラリア侵攻作戦が開始した直後から通信量が増加し、何隻かルナツー周辺にピケット部隊を展開させています。既に正規軍と協力してルナツー周辺にて偵察活動を実行中です。そして出航した艦船の規模ですが、昨夜マゼラン級戦艦1隻を含む艦隊が出航したとの事です。ただ、コロンブス級を何隻か引き連れていた事、そしてサイド7に向けての航路を取っていたらしく、これがサイド7への輸送艦隊なのか、それともどこか違うところに出撃する攻撃隊なのかは断定できません。他にもこの会議が始まる前に、コーラル級重巡洋艦(サラミス級以前の旧式艦)5隻とサラミス級巡洋艦2隻、コロンブス級1隻からなる艦隊が出撃したとの報告を受け取りました。残念ながら行き先は不明ですが、こちらも目的及び目的地は不明です」

その報告に一同は騒然となる。その報告は1つの事を皆に連想させたからだ。

「・・・まて、それでは情報部は今回の輸送作戦が漏れているといいたいのか? 社長、もしそうならもっと増援を送るべきでは?」

「うぅむ・・・正規軍はなんて言っている? 向こうと共同ということは、増援についても検討してるはずだろう?」

「はい、既に向こうでも分析をしているようですが、結論から言えばこれ以上の派遣は難しい、というのが正規軍の考えです」

「じゃあ現状の戦力で行くしかないな。情報部は引き続きルナツーを警戒してくれ。間違っても単独でデブリベルトの探索は行わないように、万が一を考えると危険すぎる・・・・・・ところで、ルナツーの監視に当たっている部隊の規模は?」

「了解しました、デブリベルトへの偵察は取り消します。後監視部隊ですが、分かってるだけで正規軍がムサイ級軽巡洋艦2隻、MS-06E ザク強行偵察型を2機、ザクF型を4機投入しています。一方我々は偵察型コムサイを搭載したムサイ級軽巡洋艦1隻、レダ級護衛艦2隻を投入し、MS-06E-3 ザクフリッパーを1機、旧ザクを2機、偵察機仕様のリール航宙機を6機投入しています。ちなみに旧ザクですが、カメラと緊急離脱ブースターを増設し偵察機仕様に急造した機体です」

「急造・・・そんな装備で大丈夫か?」

その一言をエルトランが言った直後、情報部の責任者は顔を俯かせつつボソリと呟いた。そしてその呟きを聞いたエルトランは情報部の責任者から顔を背けた。

「・・・予算の都合が」

「・・・・・・・・・・・・すまん」

改修にはお金が掛かるもの。お金が無ければ何もできない、それを切実に味わう案件だった。

「んんっ、まぁ偵察機材にはまた予算を回すよう努力するから、しばらく待っててくれ。とりあえず偵察部隊には無茶はしないように言いつけておいてくれ。・・・・・・さて、これで全ての案件は終わったのかな?」

「はい、これで全ての案件が終わりました。特に意見が無ければこれで解散としますが、何か意見のある方はいらっしゃいますか?」

そうキャシーが一同を見渡すが、特に意見があるものはいないようだった。まぁ今回の会議はあくまで事前協議のような簡単な物だったので、どうしても意見を言わなければならないという必要性が無かったのも大きいが。

「意見がないようなのでこれで終わりにします。社長、最後に一言お願いします」

「・・・これから連邦の反撃が本格的になるのは間違いないだろう。皆も引き続き警戒を怠らず職務に励んでくれ。これで今回の会議を終了とする、解散」

そうして簡易会議は終わり、研究者達は早足で研究施設に戻り、参謀や指揮官達はその場に残り意見交換をし、エルトランは秘書2人を連れて社長室へと戻っていった。悪巧みを行う為に・・・



[2193] 38話
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:debcd0f0
Date: 2010/12/26 01:19
キャリフォルニアベース ツィマッド社エリア社長室

「・・・社長、本当に皆に言わなくてもよかったんですか?」

「マリオンちゃん、うすうす分かってるんでしょう。社長が秘密にした理由を」

「それは・・・秘密を知る人が少ない方が都合がいいというのは分かるのですけど・・・」

秘書2人がなにやら話しているが、それをスルーしつつ私はモニターに向かい合っていた。そのモニターは画面が何分割かされており、複数の人物が映し出されていた。

「すみません皆さん、長らくお待たせしてしまって」

「来たようだな、エルトラン。君が一番最後だよ」

「この会議時間は限られているんだ、時間通りにきてくれないと困るよエルトラン」

「まぁVFの会議が長引いたんだろう、大目に見てあげなさい」

「むぅ・・・オレは政治や権力争いには興味が無いんだがな」

「ドズル中将、そういわずに・・・」

モニターにはオーストラリアにいるシャアにガルマ、オーストラリア方面軍司令官のウォルター・カーティス、ソロモンのドズル中将にアクシズの責任者であるマハラジャ・カーンの姿まであった。なおマハラジャはアクシズからの高速レーザー通信衛星網をフル活用しての参加であり、若干のタイムラグは存在していたが。

「さて、皆集まったので会議をはじめよう。エルトラン、君が先程までしていた会議の内容を簡単に説明してくれないか?」

「分かったシャア、それじゃあ説明するよ」


社長説明中
かくかくしかじかしかくいゾック、ツィマッド!


一通りの説明をしたところ、今回の被害報告レポートを初めて見たドズルとマハラジャは驚き、そして苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

「そんなに被害が出たのか!?」

「ふむ・・・奇襲でこの損害とは。まぁ連邦も新兵器や新戦術を取り入れているから仕方あるまい」

「ところでエルトラン、新兵器の実戦実証をするならもっと小規模な地域でもよかったのではないか? ケンプファーを中破させたせいで私はあの後ガウの中で説教を・・・いやなんでもない」

「・・・・・・まぁ話を戻すけど、今回の戦闘の資料は可能な限りはやくまわすので、それで勘弁してください」

「可能な限り早く頼むよ。この秘匿回線は機密保持の為に1時間しか使えないのだから」

「では次にいこう、半年前に決まった防衛計画はどうなっている?」

「む? 半年前・・・どの計画だ?」

「ほら兄さん、結果的には政財界の働きかけと父上の判断で実行に移った、各サイドの自主防衛計画ですよ」

「・・・・・・ああ、兄貴や姉貴が渋っていた他サイドの自衛戦力の事か。もう半年にもなるのか・・・旧ザクの件で一時期は大変だったな」

「ええ、あの事件のせいでモビルスーツの配備は認められない事になりましたから。ですがモビルスーツは持って無くてもその戦力はそれなりですから、防衛戦力としてある程度は期待できますよ」

「エルトラン、君のとこが主導で艦船の設計を行ったと聞くが、実際どの程度の性能なのだ? カタログスペックは知っているが、やはり設計・建造元の意見を聞きたいものだ」

「そうですね・・・簡単に説明しましょう。現在各サイドの防衛戦力として許可されたのは新設計の航宙機母艦とミサイル駆逐艦、そして正規軍でも運用されているレダ級小型護衛艦の3つです。航宙機母艦の正式名称はドメル級多層式航宙機母艦、ミサイル駆逐艦はルーベルグ級ミサイル駆逐艦となっています。なおレダ級以外はバズーカの1発でも直撃をもらえば致命傷になりかねません。これは設計ミスではなく、上から要求された仕様です。もしサイド3に反旗を翻しても回避力や耐久力が低ければ、対艦装備のモビルスーツで処理できるだろうとの思惑で設計された為です」

「ふむ・・・それぞれの性能は?」

そういいながら皆は電子端末に記録されたカタログスペックを見ていく。半年前に建造が開始された、それも他サイド向けの艦の事なので、詳細なスペックなどは覚えていないのだ。

「はい、カタログスペックですがドメル級多層式航宙機母艦は全長200mの空母です。ただし、モビルスーツの搭載が不可能な航宙機専用の母艦です。特筆すべき事は三つの飛行甲板を持ち、その特徴的な外見から三段空母と内外から呼ばれています。最上部及び最下段外部側甲板で航宙機の着艦を行い、最上部及び最下段内部、2段目甲板両面からカタパルトによる発艦を行います。中央甲板は上下に2つのカタパルトを持つ為、同時に発艦できる機体は理論上では8機となっており、最大搭載機体数は60機です。武装は6連装ミサイルランチャー4基の他に連装機銃を16基装備します。ただ、加速性能や運動及び機動性はかなり低く、装甲は紙です」

「・・・パプワ級や連邦のコロンブス級よりも脆弱だな。補給艦に劣る空母というのも珍しい」

「まぁ純粋な空母なら前線まで出てこないだろうし、この艦の目的はコロニー防衛と商船船団の安全確保だろう? それにある程度の妥協は止むを得ない。エルトラン、ミサイル駆逐艦の説明を頼む」

「わかった。ルーベルグ級ミサイル駆逐艦は150m級のレダ級護衛艦を上回る180m級の高速ミサイル艦だ。武装は135mm連装レールガン3基、艦中央部左右に4連装大型対艦ミサイル4基、艦首に145型大型ミサイルランチャー4基及びCクラス小型ミサイル多連装ランチャーが4基、艦後部左右に28連装×2ポッドの多連装対艦ロケット弾発射機を2基、艦前部中央よりの側面の上下にマイクロミサイルポッド発射機を4基、艦橋横に新型ミサイルの18連装発射機を2基、艦橋周辺部に連装機銃を4基装備している。まぁ一目で分かるとおり、主に対艦戦闘を重視した設計となっている」

「エルトラン、マイクロミサイルと新型ミサイルについて詳しく頼む」

「了解。このマイクロミサイルと18連装ミサイル発射機なんだが、マイクロミサイルは射出された後にコンテナの側面が開き、内蔵されている多数の小型ミサイルを乱射する代物で、1ポッドあたり24連×3面の72発を内蔵している。新しい面制圧防御兵器として開発した新兵器だ。更に18連装ミサイル発射機の搭載ミサイルは、ある程度大型化させ先端にマルチシーカーを備え、ミノフスキー粒子散布下でもある程度の誘導を可能な機能を持つのが特徴で、これによって有線誘導ミサイルよりも誘導性は低いものの、高速で敵機を追尾する事が可能となった。まぁ対艦ならともかく小型目標だと、回避運動を取られたらよく回避されるという試験結果があるんだけどね」

「つまり、数撃てば当たるというコンセプトか?」

「そうだね、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるという諺通りの艦だよ。とはいえ、逆に言えば大量のミサイルを持つわけだから、下手すればマシンガンの弾丸1発が当たれば誘爆して瞬時に爆沈する可能性もある。これもドメル級空母同様、ジオンに反旗を翻した際に処理をしやすくする為の処置だ」

「むぅ・・・胸糞悪いな、兵に死ねと言うのか」

「・・・私だって心苦しいよ。だが上は『お飾り』として各サイドの防衛戦力の配備を許可したわけだから、これぐらいしないととてもじゃないが戦闘艦の配備は不可能だった。我が社の設計が通ったのも、この防御がスカスカという点が他社よりも極端だった事が理由だったからね。うちの艦設計部門は嘆いていたよ。しかもそれが量産されてるから、収入という観点ではウハウハだけど、素直に喜べん」

「・・・そうか、すまんな」

「いいさ、防御はあれだが、火力としては十分な艦だ。ちなみに他社の提案した設計は防御はそこそこ、火力はショボショボってのが多かったね。いわば警備艇や巡視船といった代物だったが、サイド側が新たに『せめてムサイ級並の火力を持った艦』という要求を出したせいで、それなりの防御力の艦に火力を強化した結果、ムサイ級クラスとはいかないものの攻防のバランスがそれなりに取れた艦になったが為に、もし敵となったら沈めにくいじゃないかって危険視されて落とされたらしい」

「まぁ裏切った時に容易に沈めれないという点は重要だから仕方ないか・・・だがよくサイドの方が採用したな」

「まぁ火力はあるから案山子としては十分と思ったんじゃないかな?」

「で、空母艦載機のほうはどうなった? 新型のリール航宙機は配備を許可されていないのだから、売り払うのは旧式機だろう? 攻撃機はガトルだと思うが、戦闘機は?」

「ああ、DFA-05 スピアとDFA-06 ピルムを売り払っている。正規軍じゃほとんど訓練機扱いだから丁度いい在庫処分だったよ」

「・・・ああ、外見がセイバーフィッシュに似てるから戦場に投入されなかったあれか。この前本国の練習部隊で演習をしているのを見かけたが、中々の腕前だったな」

「もうスピアは本国に配備されていないはずですので、それは恐らく教導航宙部隊の所属機でしょうな」

「え~と、じゃあ軽く説明するけど、DFA-05 スピアはガトルが戦闘機というよりも攻撃機的な役割を持っていたため、純粋にトリアーエズ等と戦う為に70年代初頭に開発された航宙戦闘機だ。開発にはうち以外にMIP社が参加してて、この頃からMIP社との機動兵器開発協力体制が一層加速していったんだよね~懐かしい。あ、武装は20mm機関銃を4基と2連装ミサイル又は20連装ロケット弾ポッドを2基装備するよ。性能的にはトリアーエズにはある程度勝るという結果となり、採用が決定された」

「たしか・・・その直後だったな。連邦のセイバーフィッシュが登場したのは」

「ああ、セイバーフィッシュが相手だと確実に劣るレベルだから、77年にDFA-06 ピルムが登場してからはコロニー防衛用として配備されたり、航宙練習機や武装を外し偵察機材を搭載した偵察型が運用されてたんだ。知っているとは思うけど形式番号としてはF型が戦闘機、R型が偵察機、T型が練習機となっている。半年前、真っ先に各サイドへ売却されていったのがこの機体だったから、今じゃ正規軍にはもう配備されてないんだよね」

「このスピア、たしかそれなりに扱いやすい機体だが練習機として以外では、ほとんど活躍の場がなかった航宙機という評価だったな」

「ん? いやまて、この機体は以前グラナダに現れた連邦の小規模な艦隊の迎撃作戦で活躍したんじゃないか?」

「む・・・・・・ああ、たしか練習飛行隊が飛行訓練中に偶然連邦艦隊と遭遇し、そのおかげで迎撃部隊の早期展開ができたというあれか」

「ああ、軍の広報が練習機が敵艦隊を食い止めたという宣伝をしていたはずだが・・・」

「いえ、あれの真実は練習飛行隊の多くが敵機に落とされたという結果だったはずです。確かに飛行隊が時間を稼いでくれたおかげで緊急出撃した迎撃部隊が敵艦隊を撃破しましたが、その結果若い訓練生が何人も戦死したと飛行隊の者が言っていた事があります」

「まぁその通りの結果なんだよね。ぶっちゃけ戦闘機としては勿論、偵察機としても色々旧式だし、もう練習機又は簡易攻撃機扱いなんだよね。で、その後継機として開発されたDFA-06 ピルムだけど、これは入手した連邦軍のFF-3 セイバーフィッシュの設計図をベースにスピアと同様にMIP社と共同設計した航宙戦闘機だ。外見はセイバーフィッシュに似ているが、セイバーフィッシュを更に宇宙専用にした感じの改設計をして、各部に姿勢制御用スラスターを装備した結果、性能的には宇宙用のセイバーフィッシュの初期型と互角または若干上回っている。ちなみにブースターパックは機体と一体化されており分離は不可能となっているのも特徴だね」

「まぁとある事情で艦隊には配備されなかった、ある意味悲劇の機体だな」

「・・・そうなんだ、優秀な航宙機だったんだけど、外見がベースとなったセイバーフィッシュに似すぎていたんだ。そのせいでミノフスキー粒子散布下では友軍が誤射しかねないと言われ、その多くがコロニー防衛隊に配備されたわけだ。まぁその外見からセイバーフィッシュ代わりとしてアグレッサー部隊に配備され、多くの優秀な戦闘機パイロットを輩出したのは特筆すべき点だね。ただし、機体の拡張性が余り無い、ハードポイントが4箇所しかない為に生じた火力不足、旋回性能はスラスターを使ってもモビルスーツに劣る等といった様々な問題点が浮上したのも忘れちゃいけない。まぁこれらのデータは地上戦用の戦闘爆撃機であるDFA-07 ジャベリンにある程度受け継がれ、その結果ジャベリンはセイバーフィッシュを圧倒する性能を手に入れることとなるんだけどね。肝心の武装は30mmガトリング砲2基の他に、対艦用大型ミサイル、3連装ミサイルポッド、20連装ロケット弾ポッドのどれかを装備するわけだ」

「説明をありがとうエルトラン。それで最初の質問に戻るわけだが、これらの兵器はどの程度活躍できそうなんだ?」

「そうだね・・・各サイドの防衛や船団の護衛としては十分だね、張子の虎的な意味で。だけど本腰を入れた侵攻を受けた場合、時間稼ぎくらいしか無理だよ。基本的に空母はペラペラ、ミサイル駆逐艦は動く弾薬庫、航宙機は旧式機。救いはレダ級小型護衛艦がいることくらいだね。ただ輸出仕様のレダ級はある程度のダウングレードしたタイプだから、正規軍やうちで使ってる奴よりも性能は若干低めになってるよ」

「まぁ仕方あるまい。それでは各サイドの防衛戦力の配備状況はどうなっている?」

「それについてはキャシー、説明頼む」

「はい社長。それでは他サイドの艦艇配備計画ですが、各サイドともそれなりに順調に進んでいるようです。レダ級護衛艦だけでなく、他コロニー向けに建造された航宙機母艦のドメル級多層式航宙機母艦、ミサイル駆逐艦のルーベルグ級ミサイル駆逐艦の引渡しも順調との事です。ただ、先程社長がなされた説明でも言われたとおり、ドメル級空母もルーベルグ級駆逐艦も装甲は紙に等しく、ジャイアントバズーカどころか通常弾頭のザクバズーカ1発、それどころかザクマシンガンでも致命傷になりかねませんので調達数は少なめです」

「まぁさっき言ったように、反旗を翻したら容易に撃破できるようにすること、それが建造の際に上から出た命令だったからな。艦載機も多くは我々のお古の旧式機だし、ミサイル駆逐艦なんて数が無ければ命中率的な意味でも話にならん。唯一まともなのがダウングレード版のレダ級っていうのもあれだけど」

「とはいえそれなりの数が建造されています。サイド1はドメル級空母3隻、ルーベルグ級ミサイル駆逐艦9隻、レダ級護衛艦18隻を就役させる計画で、年内には実戦配備が完了します。この艦隊規模の理由ですが、同じL5にあるソロモン要塞が大きいです。万が一攻撃を受けたらソロモンからの援軍が来るまで時間稼ぎをするのが目当てだからです。これは同じL5にあるサイド4も同様の考えで、サイド4はサイド1と同じペースで軍備の調達を進めており、配備する艦の数も同じです。こちらも年内には実戦配備が完了する見込みです」

「まぁ小規模な艦隊ならなんとか防衛できるだろう」

「次にサイド2ですが、中立を宣言したサイド6が近いので、軍備は各サイドの中で最も低いものとなっています。具体的にはルーベルグ級ミサイル駆逐艦2隻、レダ級護衛艦8隻の計10隻を就役させる計画です。その任務も純粋にコロニー防衛任務となっており、空母が無いのもコロニーから発進する事で対処するつもりのようです」

「ある意味、一番無難な選択だろう。連邦からあまり目をつけられないだろう戦力にしたのは間違いではないな」

「小規模ゆえに警戒をもたれない。だが兵器購入という義理は果たしたといったところか」

「最後に・・・親ジオンサイドであるサイド5ですが、現時点で大規模な軍拡を計画しています。具体的にはドメル級空母6隻、ルーベルグ級ミサイル駆逐艦18隻、レダ級護衛艦42隻となっています。この他にもムサイ級軽巡洋艦やチベ級重巡洋艦の購入も打診しており、水面下ではヘッジホッグ級防空護衛艦やジークフリート級巡洋艦、ガニメデ級高速空母とそれに載せるモビルスーツも購入可能かどうか打診しているそうです」

この発言にサイド5の軍拡情報を知らなかった者は呆然とした。具体的には地球圏にいなかったマハラジャとか。呆然とするのも当然だ。いくら輸出用の低スペック艦とはいえ、それだけの規模だと正規軍の中規模艦隊程度ならやりあえるのだから。しかも現役バリバリの戦闘艦や輸出を禁じられたモビルスーツまで購入打診しているとなると、もはやジョークではないかと思うのも無理は無い。

「・・・・・・本気か?」

「我々も調査しましたが、事実のようです。ただ、ジオン上層部は却下する方針なのは間違いありません、これは裏を取りました」

「とはいえ、もし実現したらコロニーの財政が傾きかねないぞ? 幾らサイド5が親ジオンといえど、これほどの軍拡をする理由はなんだ?」

「この大規模な軍拡の狙いですが、この前サイド5の代表がスペースノイドの独立をうたった強硬派に交代したことが大きな原因と考えられます。彼らはどうやら今後構築されるであろうコロニー国家群の中での地位を考えて軍拡を行っているようです」

「・・・なるほど、武力を持ち貢献すれば発言力が高くなると考えているのか。だがそれほどの出費をサイド5の住民は許容するのか?」

「彼らは巧みな宣伝工作で住民を取り込むことでこの問題をクリアしています。我々が行ったサイド5の世論調査では、スペースノイドの独立の為なら軍拡の出費を許容するという調査結果が出ています」

「だが、戦力として期待できるのか? 船は作れても人材はそう簡単にはつくれんぞ!」

「まぁ新設計の2つとも、ダメコンを割り切ったせいで少数の人員で動かせる設計となってるから・・・不可能ではないっていうレベルではあるね」

その言葉に皆がため息をつく。まぁそれもしょうがないと思うのはしかたないだろう。

「ところでエルトラン、連邦へのリークはどうなったんだ? ちゃんと伝わったのか?」

「ああ、コーウェン准将に伝えておいた。向こうも隕石落しをしたザビ家の二人に核が渡るのを恐れているからな。レビル将軍にも伝えておくという返事が来たよ。十中八九、連邦軍艦隊が輸送艦隊に攻撃を仕掛けてくる、既にそれらしき艦隊の出航も確認されたよ」

「うむ、俺のとこの部隊も確認したぞ。マゼラン級を含む多数の艦が出撃を行ったようだ」

「なら間違いないか・・・そういえばドズル閣下、コンスコン少将にはなんと?」

「ふん、姉貴がでしゃばってくるだろうから、艦隊の指揮とその責任のどちらも預け、率いる艦隊の安全を最優先で考えろと言っておいたわ」

「結構です。無駄に兵を死なせる事もありませんし」

そしてしばらく輸送計画について話し、一区切りついたところでガルマが言った。

「ところでエルトラン、今度サイド6で会談をするんだって?」

「・・・耳が早いね。うちでもまだ幹部しか知らない情報なんだけど」

「ああ、イセリナ経由だよ。なんでもサイド6の中華街でジオニックとツィマッドの社長が参加するパーティーがあるって事で、その筋では結構情報が流れてるらしい」

「うわぁ・・・なんかまた面倒なことになりそうな予感がする」

「まぁ諦めた方がいいな。で、その会議で向こうと話しをするのか?」

向こう、その単語でエルトランの表情が苦笑いしていたものから真剣なものに変わった。

「・・・・・・ああ、武官と文官が2人くるらしい。私と秘書1名の4人で話しをする予定だ」

「予定に変更は? キャンセルされたりしないだろうな」

「大丈夫だろう。前回の情報提供の際、こちらで保護してたテム博士と他一名の身柄引渡しをしたんだ。向こうにとっては無碍にできんだろうさ。それに・・・今回くるのはレビル将軍の命を受けたコーウェン准将らしい」

史実ではサイド7でガンダムが戦闘を行った際に宇宙へ放り出されたテム博士と他一名だが、ここではツィマッド社の情報部によって回収されていた。とはいえ、彼らの回収は半ば偶然であった。機動戦士ガンダムを知るエルトランはサイド7に常に1~2隻の情報収集艦を展開させており、その動向を見守っていた。そして友軍のザクがコロニーに侵入したのを確認した時、戦闘が行われる可能性があると現場が判断し、黒く塗装された観測艇や観測機器を展開して情報収集を行っていたのだ。そしてコロニーに穴ができ、そこから放り出された人影を偶然捕らえたのだ。この時、放り出されたのは建設に関わっていたコロニー公社の人間だと情報部の面々は勘違いをし、船乗り精神に基づいて救助活動を行った。が、救助したのが連邦兵なのでとりあえず捕虜にしてカタリナに戻るまで所定の任務を遂行、彼らが帰還した頃には社長は地球に下りていたというオチがついた。ちなみにテム博士の復帰は表沙汰にできない事情がありすぎた為に、宇宙に放り出されたものの民間船舶に救出され、酸素欠乏症になりかけていたために治療とリハビリを受け、それが完了したので軍務に復帰した、という形になったらしい。

「で、今度は何を渡すんだ?」

「ホワイトベースの『軍人』を渡するつもりです。捕虜移送中に『偶然』エンジントラブルで輸送機が海に墜落、『偶然』付近にいた連邦潜水艦が回収してしまったというシナリオだよ。交渉結果次第で追加の物資を載せるかもしれないけどね」

「まったく、エルトラン君。その遊び癖は治した方がいいよ」

「ハハッ、まぁ白々しいとは自分でも思いますけどね」

微妙に乾いた笑いをしたエルトランだったが、そんな彼にシャアが警告を発する。

「それはそうとエルトラン、気をつけたまえ。どうもあの2人が動いているみたいだ」

「・・・・・・というと?」

「元脱走兵の海賊と渡りをつけているという噂がある。まぁそうでなくても君はあの2人から嫌われているんだ。警戒するに越した事は無いさ」

「脱走兵・・・とはいえ、モビルスーツ数機程度なら移動中も護衛がいますから対処できるかと思いますが・・・念の為警戒しておきます」

「ああ、君が死んだら計画は狂う。気をつけてくれたまえ」

「そうだな、万が一グール隊やらが出張ってきたら危ないだろう。それに狙撃の場合はかなり危険だ」

「う゛・・・否定できないのが怖い」

そしてその後しばらく話を詰めていったが、秘匿通信の限界時間となったので今回の秘密会議は解散となった。当然秘匿回線での会話時間延長を図る事が満場一致で決議されたのは言うまでも無い。







キャリフォルニアベース ツィマッド社エリア社長室

その日の深夜、後十数枚の書類決済で仕事が終わるといったレベルにまで仕事を終えたエルトランだったが、そこで限界が来て横長ソファーにもたれかかって休憩するエルトランの姿があった。ここ数日平均睡眠時間が3時間前後の彼には凄まじい睡魔が襲っていた。思わずウトウトと夢の世界にいきかけたエルトランだったが、そこにマリオンが飲み物を持って訪れた。

「失礼します。社長、お茶をお持ちしました・・・あ、お休みでしたか?」

そう言ってマリオンはカップを手渡しつつ、エルトランの横に座った。

「お、ありがとう。少し疲れて休憩してただけだよ。・・・はぁ、いい香りだ。ジャスミンティーのおかげで眠気が少し遠のくよ。もうちょっと頑張れそうだ」

程よい温度のお茶を飲んで一息つくエルトランだったが、そこにマリオンが疑問をぶつけた。

「・・・社長、今日の会議で何を悩んでいたんですか?」

「ん? 何のことだい?」

「今日の簡易会議の最中、ジャック大佐と会話された時です。何か、様子がおかしかったので・・・」

「え・・・ジャック大s・・・」

マリオンにそういわれてエルトランは会議中に悩んでいた事を思い出した。そして、会議中にあれだけ悩んでいたのに、今の今までその悩んでいたという事実そのものを思い出さなかったことに戦慄した。

「(そうだ、なんで忘れていたんだ? 忙しいから・・・いや、それにしては今の今まで、指摘されるまで気がつかなかったというのはおかしい。まるで、記憶を操作されているような・・・)」

「(また悩まれている)なにか・・・ご自身のことで深く悩まれていたようですけど」

エルトランの顔を横から覗き込むマリオン。純粋に心配してくれるマリオンに、ついエルトランは悩みを言ってしまった。

「・・・・・・私の個人的な悩みだよ。私は一体何なのかというね」

「社長は・・・エルトランさんはエルトランさん以外の何者でもありません・・・それに、自分が何かなんて、他の誰もがわからないと思います」

「・・・ありがとうマリオン。確かに自分が何者か知ってる人はいないだろうな」

「それに・・・それを言うのなら私は・・・」

「あ・・・すまない。無神経な事を言ってしまったかな」

「いえ、大丈夫です。気になさらないでください。それに、目指す目標があるなら自分が何者かなんて気にしませんし」

「・・・強いんだねマリオンは」

「いえ・・・・・・でも、なぜ急にそんな悩みを?」

「そうだね・・・例えるなら、知ってるはずの記憶を思い出せないんだ。忘れたっていうレベルじゃない、人物像とか特定の情報のみ思い出せないという状況かな。年は取りたくないものだよ」

「・・・社長は若いじゃないですか」

「・・・・・・精神年齢的には50に近いけどね(ボソ」

「え?」

「いや、なんでもないよ。ただ、そのせいで思うんだ。私は一体なんなんだろうって。まるで記憶を操られている人形のような、そんな感じかな。・・・・・・はは、馬鹿馬鹿しい。なんでこんな馬鹿馬鹿しい考えを思いつくんだろうね私は」

ハハハと元気の無い乾いた笑いをあげるエルトランだったが、マリオンの取った行動によって笑いは止まった。というか硬直した。



・・・空元気で笑っているエルトランを励まそうと、マリオンが横から抱きついたからだ。



「マ、マリオン!? 一体何を!?」

「・・・こ、こうすれば男の人は元気が出るって、ハマーンさんが言ってました」

顔を真っ赤にして呟くマリオンを見ながら、エルトランはマリオンに大変な事を吹き込んだハマーンに対し、GJと褒めるべきかなんてことを吹き込むんだと怒るべきか迷いつつ、シャアとララァに対し同情した。シャアにハマーンが抱きついて、それにキレるララァの姿が容易に想像できたからだ。
そして少し現実逃避から帰ってきた時に気がつく。肩、というか腕に何かやわらかい感触があることに。そして現状はマリオンが横からエルトランを抱きしめている。つまり・・・

「(マリオンってロリ巨ny・・・いやまて落ち着け! 煩悩退散煩悩退散煩悩退散! 紳士的に、紳士的に落ち着かねば)マ、マリオン。できるならもう離してくれても大丈夫だYO」

「・・・こうされるのは、嫌でしたか?」

・・・至近距離からのマリオンの困り顔にエルトラン沈没。ついでに言えば一時的に凌いだ睡魔が再度襲ってきて、今にも眠りそうな状態だった。

「いや、嫌いじゃないが・・・睡魔が酷くて眠りそうなんだ」

「じゃあ、眠られたら毛布を持ってきます。社長はこのままお休みください」

普段のエルトランならソファーで寝ずに寝室に戻って寝ていただろう。が、今の彼はただでさえ睡眠時間が少ないのに前日に徹夜をしたので限界を突破していた。彼は深く考えずに睡魔に身をゆだねる事を選択した。

「・・・・・・はぁ、まぁいっか。それじゃすまないけど、ここ(ソファー)で眠らせてもらうよ」

「はい、おやすみなさいエルトランさん」

「ああ、おやすみマリオン・・・(・・・そういえばマリオンから社長ではなく名前で呼ばれたのも久しぶりだな)」

そう思いながらエルトランは眠っていった。僅か数分でいびきをかくあたり、相当疲れていたのだろう。それを見ていたマリオンは隣の寝室(社長用仮眠室)から毛布を取ってきた。そして持って来た毛布をエルトランと自分にかけて座りなおし、自分が思っていた事を口にした。

「・・・私は、社長の事が・・・エルトランさんの事が好き。でも、これが父親に対する好きなのか、愛する方の好きなのか、まだ分かりません。・・・この答えが見つかった時、貴方は私を受け入れてくれますか?」

そう呟き、マリオンは寝ているエルトランの肩に頭をもたれかけ、目を閉じた。

・・・次の日、肩にもたれかかって眠っているマリオンに寝起きのエルトラン社長が仰天したのは言うまでも無い。



[2193] 閑話5
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:debcd0f0
Date: 2011/01/04 12:20















※はじめに

予め先に注意事項を言っておきます。今回は作品崩壊したかもしれません。
これ作った時の気持ちは以下の通りなので、その理由が分かるかと思います。



年末年始の雪かきに疲れ、むしゃくしゃしてやった。
折角の正月なので世界に誇るマッド達とチート兵器を出せればなんでもよかった。
今では反省している。



このSSでの閑話は本編に比べると基本はっちゃけて暴走気味ですが、今回は作者のテンションが変な事になっている為に、輪をかけてカオスです・・・特に登場人物がひどいです。
ぶっちゃけ『これはひどい』『ふざけるのも大概にしろ』『こいつらどっから連れてきた』『自重しろ』『作者は一度病院に逝ってこい』と言わざるを得ない代物です。ちなみに上の『』のはこの閑話を読み返して作者自身が思った思いです。
これらから分かるとおり、今回はすごく悪ふざけな代物です。

・・・まぁ正月ということなんで許してくださいorz
というかこいつらがいれば、どんなチート技術でも開発できそうだと思う。流石にそこらは自重するけど。

時間軸としては一応オーストラリア攻略完了後の2週間後くらい、37~38話から十数日後な話のつもりです。ただし今回の閑話で登場した人物については、今後出すかどうかは作者の反省具合によります。
もしかしたらこの閑話自体を無かった事として処理するかもしれません。テンションが変だったとはいえ、折角書いたのだからどうせならUPしようということで投稿しましたので、皆さんが不快に思われたのならこの閑話は消そうと思います。

なお、今回は恐らく会話が9、地の分が1くらいの割合になるかもしれません。しかも誰がどのセリフを言ってるのかほとんど分からないかと思います。作者も途中で誰がどのセリフを言っているのかわからなくなりましたから(核爆


以上の点に注意してお読みください。覚悟はいいですか?

コマンド?
>はい
 YES
 帰ります
 黄色い救急車召喚













ビスミラー開発秘・・・話?




キャリフォルニアベース ツィマッド社エリア社長室

「う~ん・・・どこだったかな?」

社長室のデスクでエルトランはモニターに映し出されているデータを見て唸っていた。

「・・・社長? 何を見て唸ってるんですか?」

「ああ、マリオンか。いや、今日ここの大会議室で研究者一同が数ヶ月に一回行われる、ある息抜きを兼ねた会合を開いているんだけどね。その人員リストを見てて何か小骨が喉に突っかかったような感じを受けてね・・・むぅ?」

「拝見させていただきますね・・・・・・特におかしなところは無いようですけど?」

「どっかで見た事があるんだがどこだったかな・・・? 知ってるはずなのに知らないというか、記憶の一部が霞んでいるというか、突っ込みをいれたいのにどこに突っ込めばいいのかわからないというか・・・う~ん? でもこの感覚以前も感じたな・・・結局何なんだこの感じは?」

「しかしすごいですねこの会合に参加されている方々・・・有名な研究者ばかりですね」

「ん? ああ、うちの主要研究チームのトップと軍の有名な研究者の会合だからな。しかもうちに関係深い人達ばかりで、おかしいところは何もないはずなんだが・・・・・・この違和感は何なんだろう?」

「すみません、私にはよくわかりません」

「・・・まぁこの件は後回しにするか。というか、これだけマッドな方々が一箇所に集まる事自体が不安要素ではあるんだが」

「そうなのですか?」

「ああ、前回は5月に会合が開かれたんだが、たしかその時は・・・対モビルスーツ戦を含めた通常兵器の開発だったかな? それで実際に完成したのはなぜかMSM-02 水中実験機をベースにした水陸両用モビルスーツ、しかも強襲揚陸支援用モビルスーツといえる機体だったし。なんだかんだで結局採用となってMSM-08の機体番号をもぎ取った結果、軍の方で開発されてた特殊な機体の機体番号が1つずれ込み、なぜか私が頭を下げに行ったからなぁ」

「あ、あはは・・・」

「というかMSM-02 水中実験機をどう魔改造すればあんな機体ができるんだと突っ込みたいよ・・・さて、午前の内に書類も一通り終わったし、昼から夕方まで休憩にするか。・・・・・・マリオン、よかったら買い物に付き合ってくれないか? 久しぶりに服を見たいから意見を聞きたくてね」

「え・・・はい、私でよければお供します」

「じゃあ・・・1時間後に正面玄関横の公園で待ち合わせという事でいいかな?」

「はい、分かりました(これってひょっとして・・・デ、デートなのかな?)」

そう言って部屋を出る二人だったが、社長は知らない。今回の技術者達の会合が原因でトンでもない事になろうとは。

なぜなら、その会合に参加するメンバーの名前は、原作を知る者が見れば盛大に突っ込みを入れること間違いなしの陣容だったのだから。そしてそのリストは以下の通り。








『第⑨回 意見技術人材交流開発会合 主要参加者リスト
※1:各部門の参加者はあくまでその各人が最も得意とする部門を記しているだけで、その部門だけが得意ということではないので注意されるように。
※2:ここに記載されている方々の他にも多数の参加者がおられます。どうぞ交流を深めていってください。



・ミノフスキー物理学部門参加者
ギニアス・サハリン

・工学部門参加者
シロウ・サナダ技術長
セイヤ・ウリバタケ
センベエ・ノリマキ
ドクター西(ロボット工学)
ニトロ博士(同上)
ライト博士(同上)
ワイリー博士(同上)
コサック博士(同上)
アントン・カプチェンコ(航空宇宙工学)
サイモン・オレステス・コーエン(システム工学)

・物理学部門参加者
プレシア・テスタロッサ
ボルトスキー博士
カレン・クオリスキー

・医学・看護学部門参加者
フレサンジュ・イネス

・生命科学・生物学部門参加者
ドクタースカリエッティ
ディー博士
スティーブ・トロス博士
ラオン博士
アルベルト・ウーラ

・化学部門
ドクターガスト
ドクターホウジョウ

・計算機科学部門参加者
ユウコ・コウヅキ
イヌカイ博士

・地球科学部門参加者
カイ・ハナオカ



会合場所:キャリフォルニアベース・ツィマッド社エリア大会議室
会合開始予定時間 現地時間12:30予定
会合終了予定時間 未定(最低でも12時間)
※遅刻厳禁、遅れたら例の罰ゲームを行いますので遅れないように

皆さんお仕事ご苦労様です。お待ちかねの息抜き期間がやってまいりました。皆さんそれぞれ企画を持ち寄ってください。たまには仕事以外の企画を検討するのもいいでしょう、面白そうなアイデアがあればどんどん話し合いましょう』











大会議室

既に大会議室には多くの研究者や技術者達が集まっていた。会合開始の時間まで若干の余裕がある為、各所で研究者達のグループが形成されており、それぞれ話が弾んでいた。

「・・・ところでギニアス、おぬしこの前まで入院していたと聞いたが、無事だったのか?」

「ああ、それは検査入院だったので大丈夫ですニトロ教授。検査の結果特に異常はありませんでしたし、病も今のところ安定しています。まぁたまに吐血しますが」

「ふむ・・・ニホンの水と空気が肌にあっているのかもしれんな。たしかお主の基地に温泉を引いてからじゃなかったかの? 病が安定してきたのは?」

「・・・たしかにニホンに研究基地を作った際に温泉を掘り当てましたが、関係があるのですか?」

「温泉には様々な薬効があるからのぅ。老骨に温泉は至福の時じゃ」

「なら教授、一度温泉にはいりにきますか?」

「・・・へぇ、興味深いわね。今度湯質調査を兼ねて入りに行かせてもいいかしら?」

「む、コウヅキ女史か。たしか貴方の得意とするところは計算機科学だったのでは?」

「ふっ、甘いわね。確かに得意とするのは計算機科学だけど、生物学とか医学にも詳しいわよ? それに温泉には様々な効果があるけど、ニホンの温泉は美容にいいことでも有名。そこで新しく湧いた温泉があるならば、調べるのは当然でしょ?」

「・・・念のために聞きますが、美容にいいと分かった場合は?」

「当然私の研究拠点を一部そちらに移すに決まってるじゃない。あ、それと調査にはフレサンジュとプレシアも参加すると思うからそのつもりでね。他にも何人か誘ってみようかしら」

「・・・一応私の基地は秘密基地扱いなんだが」

「そんなの関係ないわ。あんたも男ならグダグダ言ってないでさっさと受け入れなさい。あ、ついでにあんたの妹のアイナちゃんに温泉拡張の要望を基地職員から集めとくように言っておくわね。折角なら露天風呂でも作るのもいいわね。早速連絡をしなきゃね」

「・・・・・・・・・わ、私の基地が orz」

「・・・ギニアス、強く生きるのじゃぞ」

言うだけ言ったコウヅキ博士はそのままプレシア博士とフレサンジュ博士の元に行き、後には凹んだギニアスとそれを励ますニトロ博士の姿があった。それを尻目に、他の会合参加者は話を続けていく。そして会合開始時間が迫り、参加者達はそれぞれ決められた席へと移動していく。

「さて、皆座ったな? それでは会議を始める・・・前に、1人遅れているな」

「うん? ・・・ああ、西博士か。遅れたら罰ゲームがあるのは知ってるだろうに」

「全員の食事を奢るっているあれだろ? 一度遅刻してボーナスが吹っ飛んだのはトラウマものだったよ」


「しかし西博士遅いな・・・もう時間だぞ?」

「さて・・・後10秒で遅刻確定だな」

「後5秒、4、3、2、1・・・ゼr」

「3倍アイスクリイィィィィィイム!!!」

0と言いかけたその瞬間ドアが勢いよく開き、奇声と共に1人の若者、遅れていた西博士がなぜかギターを持ちながら突入してきた。

「ちっ、ギリギリセーフか。食事キターと思ったのに期待を裏切りやがって・・・制裁が必要か? ショットガン誰かもってこい!」

「ギリギリだったのに我輩殺される!? というかこの扱いは酷いであ~る!」

「DA☆MA☆RE」

「KU・TA・BA・RE・♪」

「ノオオオオオ! ノオオオォォォォッッ! のあああああああっっ!?」

「おい、お前等イイ笑顔でショットガンを向けるな!?」

「おまいらもちつけ(というかそのショットガンどこから取り出したんだ?)」

「ノリいいな皆。・・・さて、話しを戻すぞ。全員来た様なので本題に入る、手元の書類を見てくr・・・」

「ズルズル・・・」

「そこ、ラーメン食ってないで書類見てくれ、本企画の名称をつけてあるから」

「なんだこの書類は・・・ってなんだこの企画名は! 「マッド達のハジケ祭り ドバっもあるよ」ってなんだいったい! というかドバってなんだドバって!?」

「・・・そぉい!!」

「どあっちゃ~~~~!?」

「ちょ、ラーメンぶっ掛けんな!! しぶきが、しぶきがあああ!!」

「・・・ふふふ、久しぶりにキちまったぜ。ちょっと頭冷やそうか(怒」

「ふむ、つまりはそういうことか。最初っからグルだったのか」

「はっはっは、一部凄惨な事になっているが話を進めるぞ。最初の案件は拠点防衛用モビルアーマー開発だ。これに関して皆の意見を聞きたい」

一部悲惨な事になっているが、参加者達はマイペースに話を進めていく。なぜなら彼らはマッドだからだ。

「ふむ、拠点防衛用なら私の案を見てくれ」

「どうしたんだギニアス。・・・円盤、というよりも傘みたいな形だな。名称は・・・アプサラスⅤ?」

「その通り、ミノフスキークラフトを4基、ジェネーターを8基持ち、対ビーム用にIフィールドを持つ、正に空中要塞といえる巨大モビルアーマーだ。主兵装のメガ粒子砲の威力はアプサラスⅢの5割り増しで、移動しながら精密射撃ができるのが特徴だ」

「・・・実現できるのかコレ?」
「現時点では100%無理だな」

「おぃい!?」

「これはあくまで夢だよ、夢。いつかは実現させたいが、Iフィールドの小型化等といった技術面での問題が山積みだ」

「よくこんなの考え付いたな」

「いや、アイデア元はエルトラン社長だよ」

「・・・あの社長なんにでもアイデア出すなぁ。でもなんでまたそんなことに?」

「なに、以前定期連絡を取ったときにね、お互いストレスが溜まってたので通信機越しに愚痴を言い合いつつ酒盛りをして盛り上がってね。ちなみに私は日本酒で彼は貴腐ワインだったよ。その時に酔いがかなり回ってたエルトランが話題に食いついてきて、その時にこれの元ネタとなる画像を送ってきたんだ。まぁそれ自体は即興で書いた落書き見たいな物だけど、インスピレーションが刺激されてね。えーと・・・なんだったかな、その時彼が呼んでた機体名称は・・・・・・そうそう、確かアンサラーだったかな? まぁいいか。とにかく、そんなわけでネタがどんどん膨らんでいってこいつになったんだ」

「で、本命は? おまえさんのことじゃ、ちゃんと用意してあるんじゃろ?」

「はは、ニトロ教授にはかないませんね。現時点での本命はこちらです」

「・・・アプサラスⅣ? 今度は(上から見れば)三角形だな」

「うむ、今設計しているアプサラスⅣは現実路線の機体だ。メガ粒子砲はアプサラスⅢと同じレベルの威力だが、機動性と運動性を向上させた機体だ。ミノフスキークラフトを3基、ジェネレーターを4基搭載する為にアプサラスⅢよりも若干大型化してしまったが、その分各種センサーも充実しているぞ。安定脚を展開せずとも精密砲撃が可能という点を重視している。諸々の都合でIフィールドは装備できないからビーム撹乱膜発射装置を搭載している」

「なぁ・・・おまえさんこの前グロムリンとかいうモビルアーマーの案を持ってきてなかったか? あれはどうなった?」

「ああ、あれは息抜きで持ってきただけだ。気にするな。というかあの後、設計図とかを入れていたデータがクラッシュしてやる気が一気に削がれたから没にした。フラナガン機関から派遣されてきた研究者の1人が原因だったんだが、開発中の新型コンピューターウィルスを入れていたデータを間違ってインストールしたらしくて、その性でアプサラスを含む多数の設計図がブチ壊れたんだ。まぁアプサラス関係はバックアップデータを幾つかとっておいたから問題無かったが、その研究者はデータを壊された研究者達から7割殺しされた上でフラナガン機関に送り返されたよ」

「それは災難だったな。ところで、ラビットについて提案があるんだが」

「ラビット? 何の事だ?」

「ほら、うさみみみたいに見える頭部を持つザクキャノンだよ」

「ああ、そういやラビットタイプっていうしな。で、どんな提案だ?」

「火力強化案だよ。ジオニック社からの提案なんだが、連邦のガンキャノンみたいに両肩に180mmカノン砲を載せてみるA案と、180mmカノン砲をビーム砲に変更し外部ジェネレーターを増設するB案の二つが出されたんだ。こいつについて意見を聞きたい」

「180mmを両肩に乗せるのは実用的じゃないな。元々ザクキャノンは重量配分のバランスが絶妙なんだ。両肩に搭載すると、給弾装置から何から再設計が必要になる。するとしたらB案だな」

「ビームか・・・ジェネレーター直結式にするか? それなら継戦能力がかなり高くなるぞ。機体の負荷は高くなるが・・」

「だが待てよ、たしかMA-75のビーム砲搭載型がまさにそれじゃなかったか? コスト的にガンタンクの方が有利だから、ザクキャノンには不利じゃないか?」

「いや、ガンタンクはあくまで地上専用だ。だがザクキャノンは改修すれば宇宙でもいけるし、航空機からの空挺降下や宇宙対応型を使ったバリュートシステムでの緊急展開をする事が可能だ。それならば制約の多いタンク型よりもキャノンの方が有利だ」

「じゃあその方向で話を送っておくよ」

「・・・ってかなんでザクキャノンなんだ?」

「そりゃ今年の干支が卯年だk「メタ発言禁止! このSSでは禁止だ!」」

「お前もだ馬鹿!! この話題は危険すぎる、違う話題を出せ!!」

「さて、今何かあったかい」

「いや、何も無かったが?」

「俺のログには何も無いな」

「じゃあ次の話題、というか話しを戻し拠点防衛用モビルアーマーの話に戻すぞ。ここのエルトラン社長の発案された拠点防衛用モビルアーマーのビスミラーについてだが・・・」

「現在の技術じゃ無理だ。が、不可能というわけではないな」

「ああ、中々興味深い。今のところIフィールドは小型化と消費電力、そしてそれに付随する放熱問題があるが、エネルギーに関してはダメージが与えられると判断した時のみIフィールドを瞬間的に展開するにするという案がある」

「でもそれって問題点あったよなアントン?」

「ああ、一歩間違えればビームに貫かれて終わりだ。信頼性が確立できるまでかなりの時間と予算を食うことになる」

「で、おまえさんのことだ。策はあるんだろう?」

「ああ・・・というよりも、あのビスミラーのリストにそのまま答えが載っていたよ。高出力Iフィールドのみで全てを防ごうとするから問題が出る。ならば低出力のIフィールドと対ビームコーティング処理を施されたルナチタニウム装甲ならば、高出力Iフィールドに匹敵するダメージ軽減は十分可能だ。エルトラン社長がそこまで考えて書いたのかは分からないが、中々面白い」

「・・・ということは、それを使えば防御はクリアできるってことか」

「いや、攻撃を受けるたびにジェネレーターに負荷が掛かるし、ビームコーティングも効果を失っていく。問題はあるが高出力Iフィールド案よりかは実現性は高いといったレベルだ」

「現時点で考えればそれで十分だろう。となるとビスミラーの最大の問題はクリアできるとして、次は武装か」

「最大の問題は、実体弾の搭載スペースをどのように割り振るかという点だろう。私としてはミサイルやロケットは1回のみで再装填の時は発射コンテナごと交換という案でいきたい。135mmレールガンと75mmCIWSは艦船用の物を流用すれば、給弾装置や弾薬庫もセットになるからスペースの節約になる」

「ジェネレーター出力も問題ですね。仮に低出力Iフィールドを使うにしても、他に連装メガ粒子砲2基、ホバー推進の為のエネルギー、広域電子戦装備等の特殊装備・・・それらを賄うジェネレーターと、それの放熱及び冷却問題をクリアしないといけない」

「冷却か、大型冷却ファンを取り付ける場所も・・・いや、暖かい空気は上昇する性質を持つから、ホバー内部に放熱すれば・・・・・・ファンで吸い込んだ外気を冷却に使い、それで熱を持った空気をホバーに転用すれば、幾らか機構を省けれるな」

「その案は要検討だ。メモしておこう・・・他には?」

「それならばこういった方式は・・・」

「・・・」

その後長い時間がビスミラーの検討会に費やされ、会場の空気はヒートアップしていく。ここまではまだいい。問題は、なぜかこの後拠点防衛用モビルアーマーの話からそれが守るべき前線基地の話に変わっていったことだ。
コンテナ式の簡易基地だと余り最前線で展開できない。輸送機を使った簡易拠点だと整備しにくい、本格的な基地だとそもそも前線基地ではない、などといった多数の意見が出され、その結果「前線で基地を作るのが難しいなら基地そのものを持っていけばいいじゃないか」という変な結論に達したとき、一人の男が更なる燃料をマッド達に注ぎ込んだのだ。

「ところで、先日ここの社長室からこんなものをパクって・・・いや、頂いてきたんだがこれをどう思うかね? 私としては大変興味深いと思うのだが」

「いやスカさん、その前にパクってって言わなかったか? 言ったよね? 社長室から無断で? ・・・それってやばくないか!?」

「いやなに、ゴミ箱に入っていたメモのようなので、別に問題ないだろう。シュレッダーにも掛かってない代物だし、第一捨てるなら我々が有効に活用すべきだよ」

そしてスカ博士が出した社長のメモには、120cm3連装レールガンをはじめ、135mmレールガン砲座、MLRS、多数のビーム砲座及びCIWSという馬鹿みたいな火力、大型機が着陸できる複数の展開型滑走路に複数のモビルスーツ用カタパルト、6本の巨大な脚で移動する全長2.4kmという巨大要塞、開発コード:超巨大自走前線基地 スピリット・オブ・マザーウィルが書かれていた。ちなみにそのメモ帳の端には護衛にはヒルドルブ隊又は武装強化型TCK部隊を想定等と書かれているあたり、どこまで本気だったのか分からない代物だった。

「とりあえず、他にも新型パイロットスーツや人口水上軍事都市の案があるが、これらはこのデカブツが終わった後に話し合おうか」

「・・・ほぅ、新型パイロットスーツ3種類、いいね。特にAとB案ってのが・・・セイヨクモテアマス(ボソ」

「そっちから離れろボケ」

「これは・・・例のモビルスーツ操縦ゲームにでも出すのか?」

「デカ!? 全長2.4kmってビッグトレーとかダブデとかのサイズじゃないぞ?」

「ドロス級大型宇宙空母5隻分って、どんだけだよ・・・」

「うむ、ここで提案なのだが気分転換代わりに、これが実現できるかどうかというのに焦点を当てたい。どうだろうか?」

「コンセプトは移動式前線基地か。前線基地以前に移動要塞だなこりゃ」

「前線に基地を作る事自体が難しいとは言ったが、これはこれで荒唐無稽だな。多少後方に展開していても、最前線からでも目視できるぞ、この大きさだと」

「基地というからには最低でもモビルスーツの整備修理はできる事が必須だな。それにヒルドルブやイーゲルヴィント級といったモビルアーマーの整備もできるようにしたい」

「これほどの大きさなら数十機は同時に整備できるな。甲板も整備に使えるならの話しだが」

「当然の事だが自衛用の戦力も欲しいぞ。とはいえ、見たところ大口径3連装砲2基の他にレールガンや対空火器が山盛りだがな」

「前線の移動に伴い速やかに移動できるようにしたいが、この大きさだと最大速度は時速十数キロ、下手をすれば一桁ってとこか?」

「ガウは無理だろうがオルコスや鹵獲ミデア、ファットアンクルは発着可能でないと補給面でつらいぞ。当然最大積載量でだ」

「スピリット・オブ・マザーウィルか・・・愛称は母ちゃんかな?」

「母ちゃんといえばプレシアさんだろう。2児の母なんだし」

「ああ、そういえば君は『アリシアちゃんとフェイトちゃんに頬擦りしたい』の会員だったかな? このロリコンめ(笑」

「ちょ、スカさん何を!?」

「・・・へぇ、私の子達に向かっていい度胸ね? 覚悟はできてるんでしょうね?」

「ス、スタンガンをしまってくれ。というかなんかバチバチ光を放ってないかそれ?(汗」

「当然よ、私が改良を加えた兵器だもの」

「護身用じゃなくて兵器!?」

「まて、プレシア博士落ち着け! お、おい・・・スカさん何とか言ってくれ」

「・・・ドンマイ☆」

「オンドゥルルラギッタンディスカー!?」

「何語だそれは!?」

「まぁそれはさておき、メインシャフトに弾薬運搬ルートとエネルギーバイパスを作るべきだな。メインシャフトの強化にも繋がる」

「メインシャフトに集中すると攻撃を受けた際に危険じゃないか?」

「問題ない、このメインシャフトは重装甲で覆われていて、防御力はそれこそ艦砲クラスのメガ粒子砲を何発も当てないと破壊できん。それに周りの構造物が盾になるようになっているからまず大丈夫だ」

「いやまて、それ以前に自重がやばいぞ。それにその案だと各部に配置された火器が攻撃されたらメインシャフトにまで誘爆するぞ? 最悪の場合、メインシャフトが破壊され自重で崩壊する」

「なら自重分散の為に、各部にミノフスキークラフトと非常用のサブジェネレーターをつければよくね?」

「おまい天才だな! それで逝こう!」

「防御だが、図体がでかいから回避行動をとるのは無理だ。各種装甲による防御とダメージコントロールでなんとかしないといけない」

「Iフィールドも今の技術力じゃ無理だ。ビスミラークラスならまだしも、この規模だとなぁ」

「あ、じゃあビームサーベルをプロペラみたいに高速で回転させるのはどうよ? ビームを相殺できるんじゃないか?」

「・・・それは思いつかなかった」

「でもどっちみちこの大きさだと、素直にIフィールドを各部に設置したほうがよくないか?」

「無数に回るビームプロペラ・・・色々と稼動部に制約がつくな。動いた瞬間旋回するビームサーベルで自分を切断は洒落にならん」

「う~ん、だめか」

「いや、発想自体は悪くない。それどころかそのアイデアはモビルスーツのシールドとして使えないか? 腕とかにつければ攻守一体の武器になるかもしれん」

「研究するか。とりあえずビームシールドっていう名称でいいかな」

『異議無し』

「装甲はチタン・セラミック複合材又は超硬スチール合金で、重要部に対ビームコーティングを施すしかあるまい」

「まぁそれが無難だな。ただしメインシャフトと各部の接合部分はルナチタニウム合金を使って、他の部分は超硬スチール合金かチタン・セラミック複合材で強度と重量を稼ぐべきだ。できるなら重要部以外もルナチタニウムを使いたいが、流石に全てをルナチタニウム装甲にするのは量的にも予算的にも不可能だからな」

「なら超硬スチール合金よりもチタン・セラミック複合材で作った方がいいな。言っちゃなんだが、超硬スチール合金だと自重で持たんぞこれは」

「では後の問題はジェネレーターとその放熱問題だが、艦船用の大型ジェネレーターを複数使うのがベターか・・・放熱はこの飛行甲板を放熱板としても機能するようにしたら解消できないか?」

「飛行甲板の上部は無理だが、下部を放熱装置とすれば・・・いけるな。ただ熱を拡散させる為のファンは必要だが、対した問題じゃない」

「いざとなったら放熱パネルを増設すればいい。それでかなり熱の分散量を稼げるはずだ」

「アクティブ防御、迎撃能力は対空をメインに考えた方がいいな」

「ああ、地上部隊なら主砲でアウトレンジから撃破できる。例えビッグトレー級やヘヴィ・フォーク級だろうと、こいつの120cmレールガンなら射程外から一方的だ」

「弾頭を改良型気化爆弾にすれば面で制圧できるな」

「となると、対空は艦船用の135mm両用レールガンとビームCIWSを使えば十分か」

「問題は配置だな。私としては甲板に設置するのがいいと思うが?」

「甲板に? ただでさえ自重がきついのにか?」

「ああ、先端にビーム砲座、本体との付け根に135mmなら可能なはずだ」

「まて、下部にも砲座は欲しいぞ。真下に敵が来てますが下には撃てません、だなんて悪夢だ」

「たしかに防衛隊にある程度防衛を任せるとしても、最低限の火器は欲しいな。ケンプファーのような高機動の機体で内部に潜り込まれたら対処できんかもしれん」

「とはいえ、下部の砲座が誤射して本体にダメージを与えるかもしれん。そこらを考えると、砲座は飛行甲板の先端下部と脚部を中心に配置すべきか」

「配置する武装も問題だな。モビルスーツを撃破でき、自身に着弾しても損害は軽微な兵装・・・75mmCIWSくらいしか思い浮かばん」

「ショットガンはどうだ? 結構前に兵装実験艦アウロラが試験を行っていた記憶がある」

「たしか・・・宇宙空間では減速しない散弾は友軍にも損害を与え危険だ、という事でボツになったらしいが・・・確かに地上なら問題ないな」

「それなら対モビルスーツ用クレイモア地雷、通称ベアリング・ボムはどうだ? いざとなればリアクティブアーマーの代わりにもなるだろう」

「ふむ、じゃあ下部兵装は75mmとショットガン砲台で、追加装甲兼用でベアリング・ボムで決まりかな?」

『異議なし』







その後、この会議は二日間にも渡って続けられ、大きな物(デカブツ)では移動前線基地のスピリット・オブ・マザーウィルに拠点防衛用モビルアーマーのビスミラーとアプサラスⅣ、ガウが子供に見える程大型な大気圏内用超大型飛行艇、ビグロやヴァル・ヴァロ等の専用母艦である宇宙用モビルアーマー専用空母、他にもマスドライバーを含む宇宙港施設や大規模なドックに工廠を持つ超巨大水上移動基地のテラフロートといった、誇大妄想の類な代物の具体的な設計案が纏められ、中型のものではザクキャノンやグフフライトタイプの改修案、レールガンを持つ次期主力戦車に対人対物専門の小型警備用ヘリが話し合われ、小さいものでは3種類の新型パイロットスーツ、ビームシールドの設計といった話題が話し合われ続けていった。勿論他にも軍事以外に民間向けの等身大ロボットや本物の人や動物と同じような行動をする人工知能、新型の塗料や欠損した四肢を補う義肢やバイオ技術、極薄の衣類素材や耐久性に優れた人口繊維、砂漠化を食い止める為の緑化バクテリアやミノフスキー粒子対応型高性能コンピューター及び通信回線の開発案など、その内容は多岐に渡る。

さて、そんなわけで多くの案が話し合われたのだが、恐らくこの話し合われた内容を見た人ならこう思うだろう。
皆ネタとして話しでストレスを発散させていたのだろう、と。

が、マッド達の辞書には自重の文字は電子顕微鏡で見なければ分からないほど小さく書かれているのだ。
この荒唐無稽な案の数々、後に一部は正規のルートで研究開発予算を得、正規ルートで予算を得られなかった案は、他の技術開発費の水増し請求、有志のポケットマネーからの寄付金提供、他のスポンサーからの交渉で得た資金等など、秘密裏に資金を収集しこれらの開発予算にまわされていった。そしてその後、その少なくない数の案がこの戦争終了後に実用化された。そしてそれらの案の報告書を受けたエルトラン社長はこう叫んだ。



「・・・どうしてこうなった!?」



なお、色々とエルトラン社長がネタとして出していた案も少なくなかったので、彼はその後、『変態会社の変態社長』『マッド達の総元締め』『暴走社長エルトラン』等など、不名誉なあだ名をもらう事になり、その時もう一度上記の絶叫を上げた事は言うまでも無い。





マッド達を1箇所に集めて話し合わせた今回の教訓


『せ か い の ほ う そ く が み だ れ る !』


オワレ

































































おまけの解説



作中にチラっと出てきた3種類の新型パイロットスーツ案

社長が宇宙世紀にきてしばらく経った頃にデザイン画と設定を書いたもので、その後金庫にて死蔵されていた。その後、ホワイトベース戦の際に社長がキャリフォルニアベースに降下した為、本社から決済待ちの大量の書類を運ぶ際に誤って紛れ込んでしまう。その後無事届いた大量の書類の山の中から発掘され、それに気がついたエルトランの手によってごみ箱にシュートした経緯を持つ。が、自身ですらその存在を忘れ去っていた、封印していた黒歴史を大量に見てしまい、(自身の精神安定の為に)処理を急ごうと焦った性でシュレッダーにかけ忘れ、その結果スカ博士によって今回の会合に持ち込まれ実用化の目途が立ってしまった。社長曰く『どうしてこうなった』である。

新型パイロットスーツは3種類。

A案はpixvの鉄巨人パイスーの射命○のスーツに似せており、元々は志願兵募集のコンパニオン用(プロパガンダ用)パイロットスーツとして開発された。外見重視だが性能も従来型を上回る性能を与えられており、耐熱・耐衝撃・耐G性能はそれなりに高い。が、当然製作費用も馬鹿高い。肌が露出してるように見える場所は極薄素材できちんと保護されている。なお対放射線防御性能は低い為にもっぱら地上戦用。

B案はエヴァン○リオンの綾○プラグスーツの外見。こちらもコンパニオン用のものだがこちらは宇宙での運用も考えており、A案を上回る性能を与えられるとされていた。

C案はあまり冒険せず堅実なノーマルスーツ。CDA若き彗星の肖像の公式ガイドブックP77に載っているハマーン(少女ver)が着ていたノーマルスーツです。
3つの中で一番まともかつ実用的。

C案はまともだがA案とB案、そのどちらも社長曰く男のロマンだそうだ。社長のイラスト能力はそれなりだったのでなんとか現物に近いものを書けたが、それが後の悲劇(不名誉なあだ名)の発端となる。
予断だが書いていた当時はD案としてマブ○ヴの衛士強化装備を書こうとしていたが、我に返った社長の手によって処分され、それまでに書いた3案も封印処置となった。


ちなみに後に採用されるのはC案だが、A及びB案も極少数が調達されることとなって、広告塔の部隊を中心に配備される。
なお、余りの黒歴史現実化にエルトラン社長が頭を抱えるのは言うまでも無い。

・・・自重しなかった、反省はしている。

※一部に誤字があったので修正



[2193] 39話 前編
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:15261ffd
Date: 2012/09/30 17:14
キャリフォルニアベースツィマッド社エリア 社長室

「・・・私だ、それで結果は?」

『・・・・・・』

「・・・そうか、裏が取れたか・・・・・・この前そちらに送ったプランを発動する。ああ、既に目標は護衛戦力と共にサイド6を出ているから、予定通り細工を仕掛けろ。後調査報告書はこちらにまわしてくれ」

『・・・・・・』

「そうだ、もっとも保険は掛けているがな。万が一にもばれるわけにはいかん。それにこちらも色々と厄介なことになりつつあるからな」

『・・・』

「ああ、よろしく頼むぞ」







10月15日
地球衛星軌道上。すぐ近くに巨大な地球の姿を望め、そして大気圏という地球を包む天然のバリアのすぐ外側。ツィマッド社の大型輸送艦ツァインから補給を受けている偵察機仕様のランツ級高速シャトル3機とコムサイ3機をはさむ形でガニメデ級空母カリスト、ティベ級重巡洋艦アルバトロスが停泊し、そしてその周囲を3隻のレダ級小型護衛艦とコンスコン少将率いるチベ級1隻、ムサイ級3隻、パプワ1隻の艦隊が警護にあたっていた。そしてその更に外周部にはリックドムやザク、リール航宙機が周辺を警戒していた。

ツィマッド社所属輸送艦ツァイン艦橋

「艦長、ランツ級とコムサイの補給作業が完了しました。またコムサイには地上向けの物資の積載を行っており、そちらは後30分で終わりそうです」

「ん、コムサイのパイロットはどうだ?」

「全員が本艦の食堂で休憩中です。アルコールは出していませんが、存分に接待してますので皆ご機嫌ですよ」

「まぁ向こうも忙しかったらしいから無理もない。それでコムサイの大気圏突入予定時間に変更は?」

「はい、このペースなら問題なく1時間後にはコムサイは大気圏降下シークエンスに入れそうです」

「ふむ、今のところは予定通りか。周辺宙域の様子はどうだ?」

「今のところ敵影は見当たりません。万が一の場合に備え、本艦の緊急加速用ブースターはいつでも起動できます」

その言葉に満足そうにうなづく艦長。だがひとつだけ艦長には心配事があった。

「ならいい・・・・・・で、例の核弾頭はどうなった?」

「無事コムサイから本艦の格納庫へと移送完了しました。一般作業員は格納庫内から退避を完了しており、特別作業員がコンテナ詰め作業を行っております。こちらは後数時間はかかります。しばらくこの宙域で本隊が到着するまで待機し、到着次第そちらの輸送艦に封印処置したコンテナごと移送する予定です」

「うむ、頼むぞ・・・・・・・・・・・・しかし社長も厄介ごとを押し付けてくれるなぁ。一時的にとはいえ、本艦に大量の核弾頭を積載するだなんて」

「まぁたしかに。トリントン基地にあった戦略核を含む核弾頭の量が量ですからね。特殊輸送用コンテナ10個分もの核弾頭・・・こんな厄介な代物、はやく核輸送の為に手配された輸送艦に引き渡したいものですよ」

「ああ、そうだな・・・・・・まぁ飛行艇にケーキの宅配を終えるまでの辛抱か」

そう言って艦長は艦橋にあるモニターの1つを見た。そこには格納庫の中で作業を続ける重機と作業員の姿があった。





ツァイン格納庫

地上向けの物資を満載したコムサイが輸送艦から離れ大気圏へと突入した数時間後、ツァインの格納庫では諸々の作業が終わろうとしていた。格納庫内には日用品や各種弾薬の入ったコンテナが多数置かれており、その1区画に核弾頭を搭載した複数のコンテナがあった。そしてそれらのコンテナにノーマルスーツを着込んだ男達や作業用重機としてツァインに配備されているドラケンEが群がり作業を行っていた。
そんな中、作業を監督している男に一人の作業員が報告の為に近寄った。

「班長、核コンテナへの作業が完了しました。最終チェックも終わり、現時点で不備はありません。後は引き渡しまで所定の場所に置いておくだけです」

「ご苦労。ところでピンの調子は?」

その言葉に作業員は周囲を軽く見て、近くに人がいない事を確かめた上で報告を続けた。

「今は仮眠してます。ですが予定通り一定時間後に目覚め、目覚まし時計の合図を待ちます」

「よし・・・ではカタリナ向けの日用品コンテナは?」

「コムサイへの搬送があったので一旦このエリアに移してましたが、こちらの作業が完了したので元の区画に戻します。ただ、飛行艇の冷蔵庫にしまうイエローケーキは指示通り別に置いてますが」

その言葉を聞き、班長は厳つい顔を緩め安堵の息を吐いた。そして予定通り進んでいる事に安堵している班長に、作業員が苦笑しつつ両者は会話を続けた。

「分かった・・・つまり万事予定通りだな?」

「はい、計画は予定通り進行中です」

「ん、ならばいい。こっちがこれだけ手間隙かけたんだ、是非受け取ってもらわないと割に合わん」

「しかし上も外道ですよね。こんなビックリ箱を用意するなんて・・・」

「無駄口叩くな。それにその件は他言無用だ、いいな?」

「了解です、私も命は惜しいですので」

そういって二人はそれぞれの作業に戻っていった。格納庫での作業は終わりに近づいていた。







連邦軍本部ジャブロー

高級士官しか入れない区画の中でも更にセキュリティーが硬い区画、その中の一部屋に三人の男が集まっていた。各自の手元には空になった紙パックが複数と多数の書類が雑多においてあり、この部屋で長時間会議が行われていたことを表していた。

「さて、これでおおまかな事は一通り決まったか・・・・・・そういえばコーウェン准将、出撃した艦隊はどうなっている?」

「艦隊といいますと・・・・・・ああ、例の阻止艦隊ですか? それならば先ほど、予定通り全ての艦隊がランデブーポイントに到着したとの連絡がありました。これから艦隊の再編成を行った上で行動を開始するとの事です。また、ルナツーから衛星軌道上へ向けてサラミス2隻からなるパトロール艦隊が出撃したとの事です。こちらには敵艦隊を発見したら牽制程度、それも一撃したら撤退するように命じておきました。最悪の場合、そのまま攻撃せずに撤退する許可も与えました。またペガサス級1番艦のペガサスも遊撃部隊として配置についております」

そうコーウェン准将が述べると、男は満足げに頷いた。それに対し3人目の男が訝しげに男に訊ねた。

「・・・レビル将軍、この情報は信用できるのかな? 御二人は信用されてるようですが、私には信じきれませんな」

「うむ、その懸念は最もだゴップ大将。私達としては十分信じるに値すると判断しているが、万が一のこともある。だからこそ、この情報の確認も兼ねてのサラミス級2隻による威力偵察だ」

そう、この部屋にいるのは連邦軍の総大将であるレビル将軍。連邦軍の縁の下の力持ちというべき事務関連の元締めのゴップ大将。モビルスーツの実験部隊を運用しているコーウェン准将の3人だ。

「もし情報が外れていた場合、出撃させた艦隊はどうされるおつもりですかな?」

「その場合はそのまま通商破壊にシフトさせるつもりだ。少なくともそのまま帰還させるという事はありえん」

「それに各地のまだ稼動している天文台からの情報で、地球衛星軌道上に多数の艦影を確認したそうです。その中にはチベやムサイと思われるシルエットが多数あるとのことです」

ゴップ大将の質問にレビル将軍は答え、それを補足するようにコーウェン准将が発言をする。そしてその答えを聞き、ゴップ大将は満足げに頷き発言を続ける。

「ならいいです。ただでさえ艦隊は金食い虫ですから、何かしらの成果を上げてもらわんと。 ・・・ですが、先ほど入ってきたこちらの情報、大規模な増援艦隊が準備されているというではありませんか。どうするのです? 今回の作戦の為にルナツーに駐留する艦隊戦力の少なくない割合を投入しているのですから、万が一艦隊が壊滅すればルナツーの防衛及び通称護衛任務に支障をきたしますよ?」

「それには手を打ってあります。すでにインドの宇宙基地から新造した戦闘艦の打ち上げを準備しております。これによりマゼラン級戦艦3隻、サラミス級巡洋艦6隻を近日中にルナツーへの増援としてまわせます。それに、ここジャブローにて建造中の艦艇も後1か月半もすれば打ち上げることが可能となります・・・・・・まぁ、乗組員は新兵が多いので即戦力としては微妙ですが」

「練度は仕方あるまい。それに情報提供者によると、こちらが襲撃を仕掛ける時はゴップ君が言った大規模な増援と合流する前になるらしい。つまり、この増援艦隊が想定よりも速く輸送部隊と合流しない限り、こちらは予定通りの作戦行動で問題はないということだ」

「ただ、情報提供者によると五月雨式に増援が合流していくとのことなので、なるべく早期に攻撃をしかけないといけません」

「一歩間違えば艦隊は壊滅しますな・・・まぁ計画で終わったにしろ、コロニーへの核攻撃や毒ガスを使用とした連中にこれ以上核が渡る事は防ぎたいので仕方ありませんか」

「ええ、今はまだ南極条約を守ってはいますが、状況によっては核の封印が解かれる可能性は十分あります。これ以上ジオンに核を渡すわけにはいきません」

そこまで話し合っていた時、場の空気は重くなっていた。なにせ情報提供者からのリークでジオンが開戦初頭にコロニーへの核攻撃や毒ガスの使用、更には確保したコロニーを弾頭に見立てて地球に落下させる、本来のブリティッシュ作戦といった情報を彼らは知っていたのだから。
そんな中、レビル将軍がある案件を思い出した。そして場の雰囲気を変えるためにゴップ大将に告げる。

「・・・それと、話題を変えるようだが今度この情報提供者と会談をする事になった。場所と日時は決まっているのだが、送る人員に悩んでいてね。コーウェン君と後1人を考えているのだが、君の部下でいいのはいるかね?」

「ふむ、私の部下という事は、武官よりも官僚よりといった人材ですかな? 私がその会談を知らないという事は非公式・・・となると、秘密を守れて有能かつ冷静な人物になりますか」

「すまんな、面倒をかける」

「ふむ・・・・・・1つ聞きますが、その会談は必要不可欠なことですか?」

「・・・現状を変える、いや戦争の終結の切欠になるかもしれん」

「ほう? ・・・いいでしょう。近日中にめぼしい人材をリストアップしておきましょう。それでは将軍、失礼しますよ」

そういってゴップ大将は手元にあった書類を機密保持の為に部屋に置かれているシュレッダーにかけ、そのまま退出していった。そして部屋に残ったレビル将軍は書類に目をやると同時にため息をつき、一言呟いた。

「戦争の終結、か・・・・・・戦争を続行させた戦犯である私がいうのも変かもしれんがな」

「将軍、戦犯というのは言い過ぎでは?」

それを聞いてコーウェン准将は反論するも、レビル将軍は顔を横に振った。

「勝てば戦犯ではなく英雄として扱われるだろう。だが、講和となると話は別だ。大量の戦死者を出して勝利ではなく講和となると、遺族は黙っていまい。そうなると政府はガス抜きの為のスケープゴートを求めるだろう。そうなれば私が戦犯として処分される可能性は大いにある」

「しかし、将軍はV作戦等の功績があります。現在計画中の地球での反攻作戦が成功すれば将軍の功績は極めて高くなり、罰することはできなくなるのでは?」

「いや、その見通しは甘い。コーウェン君、君は連邦政府の腐敗ぶりを甘く見ている。彼らは自らの保身の為には精力的に動く。おそらく私を敵対視する派閥も同調するだろう。それに、君が言ったように反攻作戦が成功すれば確かに私の功績は絶大になるだろう。だが、それによって自らの地位を脅かされると彼らが判断すれば、最悪暗殺という手段を使ってくるかもしれん」

「まさか!?」

コーウェン准将は信じられないという顔をするが、レビル将軍はイスに深くもたれかかり、ため息をついた後に呟いた。

「ふぅ・・・・・・本当に討つべき敵は、腐敗した連邦政府なのかもしれんな」

「将軍、それは・・・」

「わかっておる。だが、これを見てしまうとな・・・どうしてもそんな考えが浮かんでしまうのだよ。権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗するとはよく言ったものだ」

手元の書類、連邦政府の汚職行為や暗殺等を含む秘密工作といった類の事が書かれているそれらを見つめつつ、レビル将軍は今後の事に思いを馳せ、一つの決意を固めつつあった。







地球衛星軌道上 チベ級重巡洋艦チベ

ジオン公国宇宙攻撃軍の派遣した護衛艦隊の旗艦であるチベの艦橋、そこで少将の階級を持つ男は不機嫌そうにしていた。そんな男に副官が先ほどVFからきた通信内容を報告をする。

「少将、報告します。ツィマッド社の輸送艦ツァインから鹵獲コロンブス級輸送艦スケネクタディへの核弾頭コンテナ搬送作業、無事完了しました。これでいつでも出発できます」

「ん・・・予定通りデラミン艦隊の後ろにつくぞ」

副官の報告を受け、不機嫌そうに少将はそう答えた。それに副官は苦笑いを浮かべながら言葉をつづけた。

「・・・やはり怒っておられますか」

「当然だ。派閥争いの結果で艦隊の指揮を取られるのはたまったもんじゃない。指揮系統の乱れは無駄な犠牲を出す可能性が極めて高くなるのは常識だろうに・・・まぁそれは百歩譲ってもだ。階級が上のものに対して挨拶も無く一方的な通信を行うとは・・・全く、みっともないと思わんのかデラミンは!」

そういって少将は苦虫をダース単位で噛み潰したような表情を浮かべた。
男の名前はコンスコン、史実ではガンダム相手に3分もたたずにリックドム部隊を失いボロ負けし、そのせいで無能な軍人と誤解された男だった。

だがここで改めて言うが、コンスコンは無能ではない。むしろ優秀な将である。それは実力主義のドズル中将が艦隊を預ける事からもわかるだろう。史実ではニュータイプに目覚めたアムロのガンダムによってあっけなく敗れたが、そもそもシャアのようなエースパイロットを退けれる相手に一般兵が勝てると思うだろうか? つまり、コンスコンが無能なのではなく、その時のアムロが化け物なだけである。それに単艦のホワイトベースに手持ちの戦力を一気にぶつけたことは戦術的にみても妥当であり、ここを見てもコンスコンが無能ではない証明となるだろう。

話を戻そう。そんなコンスコンの怒りの原因、それはキシリア少将の配下であるデラミン准将の艦隊が合流した時、挨拶も無く艦隊は陣形を組み速やかに行動せよ、という一方的な通信をしてきたからだ。宇宙攻撃軍司令ドズル中将の部隊と突撃機動軍司令キシリア少将の部隊、命令系統が異なっている部隊ゆえにすり合わせは必要な事である。ましてやコンスコンは少将、デラミンは准将である。階級の下のものが上のものに挨拶も無く一方的な通告を行ったのだ。これでいい顔をしろといわれても無理だろう。
とはいえ、向こうにも向こうの事情というものがあった。なんせキシリア派はドズル派が傀儡だったガルマを引き込んだと考えていたからだ。これによってキシリア派は地球での影響力を低下させたのだから、その原因と見なしているドズル派を敵視するのは仕方のないことだといえた。更に階級はドズルが上だが、ザビ家内では次女であるキシリアの方が三男ドズルよりも上となっている。それは派閥としてもその関係を表しており、キシリア派とドズル派の力関係はキシリア派のほうが強かった。これがキシリア派対ガルマ・ドズル派となると逆転するのだが、単体で見た場合はやはりキシリア派の影響力はドズル派よりも強かった。その為キシリア派にとってドズル派は敵と認識されており、この為ジオン内部では派閥同士の争いが多発し、今回のようなことが起きるのも珍しくはなかった。

「VF艦隊が前に出ます。それとティベ級重巡洋艦アルバトロス、ツィマッド社大型輸送艦ツァイン、ガニメデ級空母カリストの3隻はカタリナへ向けて針路を取りました」

「うむ・・・前はVF艦隊が見張ってくれる、我々は後方を警戒せよ。危険なのは増援と合流するまでの間だ、警戒は怠るなよ?」

「了解であります」

そしてコンスコン艦隊が移動し始めたとき、状況に変化が訪れる。

「ん、なんだ? ・・・わかった。少将、本艦から2時の方向に敵部隊発見との報告です。サラミス級2隻、こちらの様子を伺っている模様」

「フン、物好きがいるものだ。迎撃のリック・ドムは?」

「既に向かわせました」





連邦軍パトロール艦隊 サラミス級巡洋艦クリーブランド

「・・・目標を確認しました。空母1、重巡4、軽巡10、駆逐艦3、輸送艦4・・・情報よりも多いですが、空母1、重巡1、輸送艦1は他の艦艇と針路が違います。それと輸送艦の内1隻はコロンブス級ですが、近接防御火器らしき装備が増設されています」

「ふむ・・・3隻は艦隊への物資補給か、地球への物資投下や回収をしていたといったところか? まぁいい、情報はだいたい合っていたわけだ・・・よし、ルナツーに報告しろ。それとメガ粒子砲及びミサイルスタンバイ。主砲3射後にミサイル一斉発射、その後針路を変更し最大戦速で離脱する。インディアナポリスにもそう伝えろ。ルナツーに報告完了と同時に攻撃するぞ!」

「・・・! 敵モビルスーツ急速接近、リックドムです。発見されました!」

「む、発見されたか・・・予定を繰り上げる、加速を開始せよ。攻撃して逃げるぞ!」

「了解。各砲座スタンバイ、警戒中の敵モビルスーツが来るぞ。無理に落そうとしなくてもいい、弾幕を張って牽制し、敵機の有効射程まで近寄らせるな」

2隻のサラミスは加速を開始し、核輸送艦隊に向けて攻撃を開始した。モビルスーツ隊と航宙機部隊が迎撃に向かうが、艦砲の有効射程ギリギリという長距離からの攻撃だ。砲撃とミサイルを発射し、そのまま一目散に逃亡を図るサラミスを撃沈するのは普通なら至難の業だった。が・・・

「!? インディアナポリスが被弾しました、ビームです! 敵モビルスーツはビーム兵器を持っています!」

彼らにとって不幸なことに、コンスコン艦隊のリックドムにはビームライフルが配備されていたのだ。その威力は絶大で、ビームの洗礼を受けたインディアナポリスはたった1撃で中破に陥ってしまった。そしてインディアナポリスの受難は終わらない。

「インディアナポリスはどうなった!」

「主艦橋が破壊された模様です。後、被弾の影響か針路が・・・このままでは、地球に落ちます!」

「ならインディアナポリスの副艦橋につなげろ、進路を変更する事はそこからでも可能なはずだ!」

インディアナポリスは船体そのものは無事だったが、操艦やその指示を出す主艦橋を破壊されてしまった。しかもインディアナポリスは被弾の衝撃でコースが変わり、全速を維持したまま地球へと向かっていた。悪いのは命中したビームの余波で小規模な爆発が甲板で発生している事だ。それによってインディアナポリスの艦内は混乱状態に陥っていた。

「インディアナポリスへ、すぐに進路を変更せよ! そのままだと地球に落ちるぞ!! 聞こえてるのか!?」

「・・・・・・こちらインディアナポリス第2艦橋! 被弾の影響で航法システムにエラーが発生し操艦不能! 繰り返します、我操艦不能! 誰か助けてください!!」

必死に呼びかけを続けた結果通信がつながる事はできたが、インディアナポリスの副艦橋から帰ってくるのは操艦不能という悲鳴だった。通信員は熟練兵なら知っている手動操作に切り替えるよう通信を送るが、帰ってきたのは絶望的な答えだった。

「落ち着け! 慌てず急いで手動操作に切り替えるんだ!」

「手動操作!? 一体どうやるんですか、そんなの我々は学んでいません!」

「な!?」

そう、インディアナポリスは戦時中に就役した艦で、その乗組員は新米が大半を占めていた。数少ない熟練兵は主艦橋に努めており、それが吹き飛ばされた事で手動操作できる者は皆無だった。そしてインディアナポリスはその内部に多くの乗組員を乗せたまま地球の重力に捕らわれた。数分後、摩擦熱で艦体を焼かれながら大気圏に突入、その更に数秒後に爆散し無数の流星となって地球の空に消えていった。

「・・・インディアナポリス、大気圏に突入・・・爆沈しました。脱出ポッドの類は確認できません」

「敵機、更に接近中!」

「くそ・・・本艦はこのまま最大戦速で振り切る。後方に向けてメガ粒子砲を牽制射! 当たらなくてもいい、とにかく距離を離せ!」

その後クリーブランドはビームライフルがかすって副艦橋の1つが破壊される被害を受けたが、追撃するモビルスーツが深追いを禁じられていた為に撤退に成功する。そしてその一方で、ジオン側にも損害が発生していた。
というのも、サラミス級には6連装ミサイルランチャーが2つに艦首部2連大型ミサイル発射管が8基もあるのだ。それが2隻分、大型ミサイル32発と小型ミサイル24発。それに加えメガ粒子砲が単装3基の3連射2隻分、合計18発が艦隊を襲ったのだ。
迎撃の弾幕を張るものの、偵察仕様のランツ級シャトル1隻が運悪く大型ミサイルの直撃を受けて文字通り爆散、鹵獲コロンブス級輸送艦スケネクタディに向かっていた小型ミサイル1発が、護衛をしていたジークフリート級巡洋艦のテューリンゲンが盾となって命中し小破した。

が、損害はそれだけであった。たしかに偵察仕様のシャトル1隻が撃墜されたのは痛い。索敵範囲が低下するからだ。だがジークフリート級のテューリンゲンの損傷は軽いものだった。幸い艦首部分の着弾だった事もあるが、命中したのが小型ミサイルというのがダメージが少なかった理由だ。
元々サラミス級の6連装ミサイルランチャーは航宙機及びミサイル迎撃用のものなのだ。なので艦船などの大型目標に命中しても重要部に命中しない限り致命傷を与える事はできない。

そして艦隊は警戒を強めながら前衛にジークフリート級巡洋艦2隻、レダ級3隻、偵察仕様のランツ級シャトル2隻を展開し、本隊にチベ級2隻、ムサイ5隻、パプワ2隻、鹵獲コロンブス1隻。後衛にチベ級1隻、ムサイ級3隻という編成で増援部隊とのランデブーポイントに向けて移動を開始した。
言うまでもないが、前衛がVF艦隊、本隊がデラミン艦隊+輸送艦、後衛がコンスコン艦隊である。







キャリフォルニアベース 社長室

社長室でエルトランが1人モニター越しに通信を行っていた。サウンドオンリーなので相手が誰かは判らないが、ただ言える事は1つ。この通信は強度の極めて高い秘匿通信を使って行われている事だ。それもボイスチェンジャーを使って声まで偽装する念の入れようだった。

「ああ、私だ」

『ワタシダさんですか?』

「・・・ワタシダさんではない。使い古された旧世紀のギャグはやめろ・・・・・・で、状況は?」

『お客様がピンポンダッシュをし、そのせいで監視カメラが1つ破損、軍馬が1頭軽い怪我をしました。ですが他には問題ありませんし、馬も問題なく行動しています。それと、来賓は予定通りこられると思います』

「荷はどうなった?」

『順調に移送中です。予定通りなら飛行艇に33時間後に到着予定です』

「ホーンテッドとカハホリは?」

『X-4を含む部隊はいつでも出れます。カハホリはバージンロードの位置が変更になったのでクラッカーを鳴らすポイントを修正、現在は再移動が完了したところですね。ですがカハホリは元がポンコツですから、急な移動のせいで体に少なくない悪影響が発生しています。もっとも、作戦終了時にはお役目御免なのでたいした問題ではありませんが』

「ん、ならいい。それよりもカハホリのブツはちゃんと機能するんだろうな? 機能しませんでしたなんてオチは洒落にならんぞ」

『大丈夫です、万が一に備え予備として配備したスカート付きにRBを持たせてます。弾頭はクラッカーと同じものですので、1発でも直撃すればブツは起動します』

「ならいい。こちらも一応は狩人を2人用意してはいるが使わないに越したことはない・・・まぁお客様が始末してくれればそれでいいんだが、おそらく無理だろう」

『・・・星雲を複数有する有力な集団ですよ? その根拠は一体どこから?』

「勘だよ」

『・・・・・・勘、ですか。まぁ貴方の勘は意外と当たりますからね。一応お客様を応援させてもらいますよ、心の中で・・・・・・しかしよろしいのですか? 投入している艦隊はどちらも壊滅する可能性が高いのですが?』

「かまわない。その程度の損失で・・・小規模艦隊の犠牲で作戦目的を達せるなら安いものだよ。たとえ文字通り全滅したとしてもね・・・まぁ犠牲が少ないに越した事はないが」

『そうですが・・・これが所謂、知らぬが仏ってやつですかね』

「さてどうだろうね。まぁそれはいいとして、頼んでたイシュチェルの調査は?」

『申し訳ございません。中々ガードが高く、何人か駒を失いました。調査を継続中ですが、おおまかな事しか分からないかと・・・』

「ふむ、まぁ仕方ない。そう簡単にいくわけないからな。くれぐれもカウンターには気をつけてくれ」

『心得ております・・・・・・ああ、そういえば聖典ですが、やはりこちらも予想した通りガードが硬いようです。ただ、保有しているのは間違いないかと思われます。現在向こうの上と接触するよう工作していますがまだまだ時間がかかりそうです』

「むぅ・・・後一押しだからもう一手何か欲しいというところかな。まぁそれは焦らずいこう。今は目先の事に集中したまえ」

『了解しました、それでは通信を終了します』

「ああ、それではな・・・」

そう言って通信を終えるエルトラン。しばらく手を組んでゲン○ウポーズで思考する。彼が悩んでいるのは核輸送作戦のことだ。あの会議後(38話)に更に横槍が入り、各派閥から大規模な増援が出る事となったのだ。そしてその結果、衛星軌道上からグラナダへ向かう途中にランデブーポイントを複数設置し、そこでそれぞれ増援艦隊が合流した上で行動する事となった。当然ながらその規模が大きいとなると計画の見直しが必要だ。
ちなみに具体的に言うと増援は以下のようになる。

ギレン派閥からサイド3本国艦隊のガニメデ級空母1隻、レダ級護衛艦5隻。ア・バオア・クー所属艦隊からチベ級重巡洋艦1隻、ジークフリート級軽巡洋艦4隻。

キシリア派閥からグラナダ所属艦隊のティベ級重巡洋艦1隻、チベ級重巡洋艦1隻、ガニメデ級空母1隻、ジークフリート級軽巡洋艦4隻、ムサイ級軽巡洋艦4隻。

ドズル派閥からソロモン所属艦隊のチベ級重巡洋艦2隻、ムサイ級軽巡洋艦4隻、ヘッジホッグ級防空巡洋艦3隻。

このように、互いに関係がよろしくない3勢力が競い合って大規模な増援を送る事となり、これを受けてガルマ派閥名目で私設軍を拡張したVFも増援を派遣しなければならなくなり、宇宙要塞となったカタリナで訓練中だった艦艇群、具体的にはティベ級重巡洋艦1隻、ジークフリート級軽巡洋艦3隻、ヘッジホッグ級防空巡洋艦2隻、レダ級護衛艦3隻、モビルアーマーを搭載した輸送艦1隻をガルマ派艦隊として急遽出撃させる事となったのだ。

合計で空母2隻、重巡洋艦6隻、防空巡洋艦5隻、軽巡洋艦19隻、護衛艦8隻、輸送艦1隻という合計41隻もの大増援艦隊である。正直核弾頭の輸送の護衛には過剰なほどで、ルナツーにカチコミをかけるといわれても納得してしまう規模だ。
これだけの規模に膨れ上がったのには先に言った3勢力の派閥争い(というか意地の張り合いか?)以外にも理由がある。それはただ単純に、連邦が通商破壊には戦力過多なほどの多数の艦船を出撃させたという情報がマ・クベの情報網に引っかかっただけだ。今の時期に艦隊を出す理由はこの核輸送艦隊しかないと判断され、その結果このような大規模な増援となったわけだ。

そしてこれはエルトランにとって好ましくない事態だった。これらの戦力が集結すれば、核輸送艦を狙って襲撃を仕掛けてくるであろう連邦艦隊を逆に返り討ちに、想定よりも規模が少なければ一方的な殲滅戦闘にもなりかねない。そうなってはキシリア派の戦力を減らす事ができなくなる。
そう、キシリア派がVFの戦力を削ごうとした様に、エルトランもキシリア派の戦力を削ごうと企んでいたのだ。だが状況がどんどん一人歩きしていき、今では当初の計画が実行できるかどうかさえ危うくなっていた。
幸いというべきか、この大規模な増援艦隊と合流する前に連邦が襲撃を仕掛けてくるという情報が入っており、タイミングさえ間違えなければ当初の予定通り事が進むと思われている。だが、物事に絶対という保障はない。もし失敗し事が露見すればツィマッド社は大打撃を受ける。それでもこの計画は行わなければ次のステップに移ることができないというジレンマがあった。
果たしてこの選択が正しかったのだろうかとエルトランは悩む・・・・・・が、数十秒後に悩むのをやめた。

「・・・はぁ、馬鹿馬鹿しい。もう賽は投げられたんだ、今更私が悩んでもなんにもならん。それに万が一に備えてこっちも狩人・・・Cバズ装備のヅダイェーガーという保険も用意しているんだ。使わないに越した事は無いが、備えあれば憂い無しとも言うしな・・・・・・それよりも今は目の前の敵を倒さねばなるまい。この強大な敵を・・・」

既に作戦は実行に移っているのだから、今悩んでも今更過ぎるなと思い直したエルトランだった。そして彼は隣の机の上にある、大量の決裁待ち書類の山を悲壮感を漂わせながら見つめた。他にも電子データとなって処理を待っているのもかなりある。これら書類仕事も社長の大事なお仕事であった。
エルトランは自作ではない、普通の安全な自社製栄養ドリンク片手に強敵(書類)の処理を開始した。
否、開始しようとした。

「社長、入りますね~(マリオンちゃん、ガンバ!)」

「しゃ、社長・・・は、入ります・・・(あうぅ・・・)」

「(ん? なんかマリオンの声が何時もと違うような・・・気のせいか?)ああ、どうぞ。一体どうs・・・・・・」

書類を手に取り最初の案件を見始めた瞬間、秘書2人が部屋に入ってきたからだ。そして入ってきた2人を見てエルトランは持っていた書類を落し硬直する。見事なまでに石化する。ザ・ワールド、社長の時は止まった。
そして社長が固まった原因は2人の姿にあった。
 
 
 
・・・2人は白い競泳水着を着ており、手は白いオーバーグローブ、脚は黒タイツの上に白のオーバーニーソックスという姿だったからだ。
ちなみに今更だが今は10月、北米は北半球だから夏はとっくに過ぎ去り季節は秋である。しかも隕石落としの影響で例年よりも寒くなっているのは言うまでもない。まぁ建物内は空調がきいてるので寒くはないが、そんな時期に二人は水着姿で社長室に入ってきたのだ。不意打ちにもほどがある。むしろ予想するほうが困難・・・というか予想できるほうがおかしい。予想した人間がいるなら即座に精神病棟に隔離するべきだ。
特にマリオンの姿のほうがエルトランには衝撃があった。キャサリンはいつものコスチュームが露出度の高いものだったので免疫はある程度できていたが、マリオンのほうはこれまで普通の秘書服でいた為に、このような体のラインが良くわかる服をエルトランは見た事はなかった。しかも持っているスーツケースを前に出し、両手でボディラインを隠しつつ恥ずかしそうに顔を赤らめてこちらを見ているのだから、エルトランの精神は既に瀕死だった。

「・・・・・・・・・・・・(機能停止中」

「キャ、キャサリンさん。社長が固まってしまったんですけど・・・や、やっぱりこの服はまずかったんじゃ・・・・・・恥ずかしいですし(涙目」

「というか、マリオンちゃんのボディラインを凝視してメロメロになってるという可能性もあるけど・・・急な展開で何が起こったかわからず固まっているっていうのが正解かな? それにしても意外と胸あるのねマリオンちゃん」

「ぎょ、凝視してメロメロって・・・は、恥ずかしいです」

「というか、普段そんな感じで恥ずかしがってるけど、時々大胆になるよねマリオンちゃんって。この前社長に抱きついて寝てた事とか」

「はぅ!? あうぅ・・・・・・」

「あ・・・マリオンちゃんも沈没しちゃったか」

そんな二人のやり取りの間になんとか再起動を果たした社長だったが、それでもまだ混乱しており状況を把握する為に口を開く。まぁそれでも動揺を隠せないのは仕方ない。

「・・・ふ、2人とも。その格好は一体?」

至極当然なエルトランの質問だった。そしてその問いに答えたのは顔を真っ赤に染めて俯いているマリオンではなく、キャサリンのほうだった。

「我が社の傘下の雑誌出版社『ツィツィ』の前線慰安用雑誌、『戦士達の休養』はご存知ですよね? それの来週号に載せる予定の読者サービスです。この社長室の隣にある待機室で着替えてきました」

その言葉を聴いたエルトランの行動は素早かった。即座に机の上にある受話器を手に取り、ある番号を選択し電話をかけた。

「・・・・・・(カチ)私だ、広報部へ通達。今すぐ出版社ツィツィの責任者、特に戦士達の休養の編集部の連中を呼んで来い。来週号の事で話がある(怒」

エルトランが責任者をどんな名目で処罰しようかと考え、マリオンがおろおろとする場面だったが、事態を収束したのはニヤニヤとしながらエルトランの様子を見ていたキャサリンだった。

「あ、ちなみにこの格好は私が提案したもので、向こうにはまだ何も詳細はいってませんよ。今日が初披露ですし、社長の許可貰ってから向こうに見せる予定ですから」

「・・・先程の通達は取り消す。無かったものとして扱うように、いいね(ガチャ)」

キャサリンの発した言葉を理解したエルトランは通達の訂正をして受話器を下す。当然キャサリンをジト目で見るが、当のキャサリンは気にした様子を見せなかった。

「で、どうですか? とりあえず男性受けする事を考えた結果こんな感じになったのですけど」

「いや、まぁたしかに男性受けはするだろうけど・・・・・・かなり過激すぎる気が・・・・・・」

そういって少し考え込むエルトラン、その中には邪念が渦巻いていた。

(2人ともかわいいよな・・・美少女二人の水着姿、しかもエロスな感じな格好だから、若い兵士にウケる事は間違いないだろう。が、慰安用雑誌に掲載という事はこの二人で賢者タイムになるやつも少なくない数・・・いや、かなりの数が出てくるってことだよな。なんだかんだで『戦士達の休養』は紙媒体と電子データの両方とも売れているからな。キャサリンは・・・別にどっちでもいいか、ファンクラブもあるんだし賢者タイムなんていまさらだな。でも、マリオンで賢者タイム? ・・・なんかやたら不愉快で許せんな)

キャサリンはどっちでもいいとかいまさらとか、キャサリンファンが聞いたら怒りそうな考えをしつつ、エルトランは続きを言った。

「・・・まぁ読者サービスという点では、男性読者によっては好評だろうけどな・・・だが、マリオンはいきなりこの服だと抵抗あるだろう。他にもっと露出度の低いものはなかったのか?」

「マリオンちゃんのほうはもう1つ候補があるんですよ。といっても上に着るだけだからすぐ済むんですが・・・社長、しばらく後向いて目を瞑っていてください」

そういってエルトランに近づくと座っている椅子を180度回転させ、その上で目を瞑った(というかアイマスクをさせた)事を確認したキャサリンはスーツケースを開けて中の服をマリオンに渡した。

そして数十秒後・・・

「社長、もうこちらを見てもいいですよ」

「いや、上に着るだけで私が賛成するとでも・・・・・・」

「じゃじゃ~ん! 社長、どうですかこれは? さっきのと比べて?」

「あぅ・・・社長、ど、どうですか?」

アイマスクを取って振り返ったエルトランが見たのは、上から白い燕尾服を着たマリオンの姿だった。分かりやすく言うなら、細部は違うが初音○クのミラクルペイントのマジシャン風な衣装で色は白バージョンといえばいいだろうか。

「いかがでしょうか社長? これはマリオンちゃんもOKしてくれてますんで、ここらが妥協案ではないでしょうか?」

「むぅ・・・それが妥協案か? マリオンがいいと言うのなら・・・(一応この社長室には万が一に備え監視カメラが動いてるんだが・・・まぁ72時間ごとに記録がリセットされるタイプだが、後で映像データを保存しておくべきかどうするべきか・・・ってそうじゃない)・・・しかし、それ以外には無かったのか? 他にもっと露出を抑えたマシなのは無かっt・・・」

あまり露出度的には変わらない気がするが、燕尾服のおかげでボディラインは結構隠れている。それがエルトランに露出度が減ったという勘違いを誘発させていた。最初に吹っかけて譲歩を引き出すのは基本である。そしてそれでも渋る社長にキャサリンはある事を言ってそれをクリアした。

「じゃあ決まりですね。他にも慰安用なので過激なコスチュームがあるんですが。こう、ハイレグが際どいバニーとかあるんですけど・・・社長見ます?」

その一言でバニー姿のマリオンを想像したエルトランは顔を赤くし、頭を激しく左右に振った。

「い、いや・・・・・・遠慮しておこう。それと、それはマリオンのためにもするなよ。そういうので雑誌掲載されたら羞恥心全開で沈没するだろうから。今でも真っ赤なのに・・・(く、マリオンのハイレグバニー姿とは。見たいのは確かに見たいが・・・いかん、想像したら鼻の奥が・・・・・・えまーじぇんしー、えまーじぇんしー、煩悩退散煩悩退散煩悩退散・・・)」

・・・ちなみにニュータイプであるマリオンはなんとなくエルトランの考えていることがわかり、ますます顔を真っ赤に染めて沈没しているのはご愛嬌とでもいうべきだろうか。そしてそんなマリオンを見て更にエルトランも顔を赤くし、キャサリンは両者を見てニヤニヤしていた。

「わかりました、それじゃあ今回はやめときますね(もう、社長も素直になればいいのに・・・もっとマリオンちゃんを焚き付けないと・・・次は着物や浴衣で攻めるように言ってみるかな。でも、奇を狙って各地の民族衣装でもいいかも・・・ん? そういえば今度のサイド6での会談の会場って確か・・・・・・よし、次の衣装は決まりね。早速手配しないと)」

キャサリンはここに来る前に、おそらくエルトランはマリオンを慰安雑誌に過激な衣装で掲載するのには賛成しないだろうという事を予想しており、その対策として最初に思考停止させ、それでペースを握ろうとしたのだった。そしてそれは成功し撮影許可が下りたわけだったが、キャサリンの真の目的は別にあった。・・・それはエルトランとマリオンをくっつける事だった。キャサリンから見て二人が共に好意を持っているのはわかっていた。そしてそれはライクではなくラブの方だと見てとっていた。

(マリオンちゃんのほうは親に対する好意のようにも感じてるみたいで、社長の方も妹に接する感じで応対してるみたいだけど、どっちもラブの方の好意よね。さっさと引っ付いてくれたほうが私としてももどかしくないからありがたいんだけどな~・・・やっぱりこれからも私が強くアシストしていかないとね)

そんな事を考えているキャサリンだったが、当然ながらそんな事はエルトランとマリオンはわからない。彼女はこれからもエルトランとマリオンを引っ付けようと暗躍する事になるのだった。
そして頭がそれなりに再起動できたエルトランは素朴な疑問を抱いた。

「ところで・・・男性向けの慰安はわかったが女性兵士向けのはちゃんとあるのか?」

あくまで二人の格好は男性向けの慰安である。だがジオンやVF、他サイドの義勇軍には女性兵士が少なくない割合で存在している。その比率は地球連邦軍を遥に上回っているほどだ。特に実戦部隊では地球連邦と比較するのがバカみたいな比率だ。そしてそちらへの慰安はどうなっているのかと疑問に思うのは当然だろう。

「抜かりはありません、占領地各地の低カロリーかつ美味しい食べ物の特集を用意しています。物資の乏しい占領地でも簡単に作れ、なおかつおいしい各地の料理や、低カロリーの料理とかを掲載予定です」

「ああ、確かにそれは魅力的だろうな」

「他にもニホン地区のフンドシスタイルという服装をしたイケメン俳優を複数掲載予定です。バラ的な感じのシーンもあるので、これで腐女s・・・いえ、ソッチ系の子もOKです!」

「まて、色々と待て! なにがどうなってどうしてそうなった!?(滝汗」

そんなどうでもいいやりとりが地球でされていたその時、宇宙ではそれぞれの準備が整いつつあった。







暗礁宙域、それは様々なスペースデブリが密集する危険地帯。それゆえに滅多に人は近寄らず、部隊が秘密裏に集合する場所として最適な場所でもある。そんな宙域に多数の艦船が集結していた。

連邦艦隊 砲戦部隊旗艦 マゼラン級戦艦セント・ヴィンセント

「艦長、艦隊総旗艦カワチからの通信です。 『ルナツー経由で届いた情報によると、敵艦隊は空母、重巡、輸送艦がそれぞれ1隻追加されている以外は情報どおり。ただしその3隻は他の艦と針路が違うので、艦隊へ補給しに一時的に合流した艦隊の可能性も否定できず。なお、敵モビルスーツはビーム兵器を保有する、警戒せよ』以上です」

「ビーム兵器か・・・厄介だな」

「ええ・・・何隻生きて帰れる事か、これで全く分からなくなりました」

セント・ヴィンセントの艦橋では砲戦部隊の最高責任者となった艦長と副長が話し合っていた。そしてビーム兵器を持つモビルスーツが配備されている事を知り二人とも表情が硬くなっていた。いや、艦橋にいる全員が不安な表情となっていた。
いくら戦艦といえど、ビーム兵器の直撃を受ければただではすまない。当たり所が悪ければビーム1発の直撃で容易く沈没しても全くおかしくないのだから。そしてそんなビーム兵器を持つモビルスーツ部隊を保有する相手にこれから攻撃を行うのだから不安になるのは当然だろう。
そんな暗い雰囲気を消し飛ばそうと、艦長は大きめの声で発言する。

「だがやるしかあるまい。敵機全てが装備しているわけでもないだろうし、そもそもこれ以上核をジオンに渡すわけにはいかん。作戦は変更無しだ、トラップはどうなっている?」

「はい、既に敵艦隊が通るであろうコース上に別働隊所属のRB-79M ボール機雷散布ポッド装備タイプ15機が機雷を散布しております。無人防衛衛星の配置もそろそろ完了する時刻かと」

「うむ、予定通りだな。上から連絡のあった第3勢力とやらはどうなっている?」

「こちらも予定の宙域に例のモノを展開中だそうです」

「ふむ・・・まぁ気休め程度に考えておこう。あくまで主役は我々だ」

「というか、今でも私は不安です。艦隊を3つに分けるのは防空的な意味で危険かと。敵モビルスーツがこちらにこれない状態を作り出せなかったら、我々は・・・」

「まぁそこは新型機を配備された機動部隊に期待するとしよう。それにこの部隊にもアンティータム級空母のセント・ローがいるわけだから、最低限の防空はできる」

「その艦載機はボールですがね。新型をある程度含むとはいってもどの程度期待できるものか・・・」

「前向きに考えろ、増加装甲によって耐久力が増したRB-79Fが15機もいるのだと。フィフティーンキャリバーを・・・・・・・・・・・・フィフティーンキャリバーを搭載しているから接近された時の浮き砲座として期待できる」

前向きに考えろといいながら発言中に少し間が空いたこと、しかも間が空いたのが変な場所であった事が副長に疑問を抱かせた。特に聞かなくても問題なさそうだったが、副長は好奇心で質問をおこなってみた。

「・・・すいません、先程の間は一体なんでしょうか?」

その問いに少し迷った表情を見せて艦長は答えた。

「いや、フィフティーンキャリバーに素朴な疑問を抱いてな」

「疑問ですか?」

「うむ、フィフティーンとは15の事だろう? 言葉のままだと15mm機関砲だが、そんな重機関銃程度の口径には全然見えんし、そもそもその程度のサイズではザクを撃破できんだろう。ではあれのサイズは一体どの程度なのだろうか、とな」

「書類に載ってなかったのですか?」

「私が見た書類には連装式フィフティーンキャリバーとしか書いてなく、たまに見かけるのは127mm連装速射砲やら180mm連装砲とやらだ。流石に大きさ的に180mm連装砲とは信じられんが、127mmというのも違うように思えるのだよ。もしかしたら秘匿名称なのかもしれんが・・・・・・そういえば、君は整備班の連中と親しかったな。フィフティーンキャリバーのサイズを知ってるかね?」

「ああ、ボールの砲は換装できますから、そのような大口径砲を混合しちゃったんですね・・・フィフティーンキャリバーですが、整備班の連中とこの前整備の都合で話しましたから存じております。あれの正体は50mm連装機関砲です」

「50mm連装機関砲? ・・・そういえばコーラル級重巡洋艦の近接防空火器がたしか同じサイズ(※本SSの独自設定です)だったような?」

「ええ、それであっています。そもそもボールは急造兵器で、ルナツーに大量に在庫のあったコーラル級重巡洋艦のCIWSである、50mm連装機関砲を流用してでっち上げたのがRB-79K 先行量産型ボールです。少なくない数のコーラル級が退役し解体又はモスボール化され、その際に取り外された50mm砲弾や砲座が保管品として大量にありましたからね」

「でもなぜ50mmをフィフティーンキャリバーと呼ぶのd・・・・・・まさか」

「たぶん、そのまさかかと。フィフティ(50 fifty)キャリバーを聞き間違えてフィフティーン(15 fifteen)キャリバーと伝わり、それが公式になってしまったのではないかと思われます」

「・・・それでいいのか管理部門」

「後、127mm連装速射砲やら180mm連装砲ですが、おそらく試作された代物だと思います。以前整備班の連中がそんな事を言っていました。私が聞いたのは180mm連装砲ですが、これは陸上用の砲を流用した為反動がきつく、バランスも極めて悪くて同時に撃ったら静止目標にすら当たらず、それどころかその後の姿勢制御ですら一苦労だったらしいですよ。127㎜もおそらく海上艦艇用のを流用したと思いますので、こっちも似たような状況だったんじゃないですかね? 結局バランスと反動の観点から普通のボールには新たに開発された180mm低反動砲が採用されています」

「ふむ・・・つまり、試行錯誤の時の情報が入り乱れて混乱することになったと?」

「そうなりますね・・・・・・あ、そろそろ遊撃艦隊が移動する時間です」

そう言われて艦長が艦橋から外を見ると、そこには移動を開始した5隻の艦船がいた。そしてその5隻のうち3隻にはモビルスーツを運用できるように格納庫が後部に設置されており、1隻はマゼラン級のように見えるが前半分の外見が違っていた。そしてそれら4隻は大型ミサイルのようなものを幾つか牽引していた。そして最後の1隻はコロンブス級輸送艦・・・いや、それをベースに艦載機運用能力を付与したアンティータム級空母が4隻の後をゆっくりと追い始めた。

「む、もうそんな時間か・・・戦艦2隻巡洋艦2隻護衛空母1隻からなる遊撃艦隊、しかもモビルスーツを運用できるマゼランK型1隻にサラミスK型2隻か・・・我が軍待望の量産型モビルスーツを搭載しているとはいえ、どれほどやれるか。しかも実際の任務は遊撃とは名ばかりの囮の為の突撃部隊だ。この5隻とは別に撤退支援部隊としてビーム撹乱幕を搭載したパブリクとセイバーフィッシュを搭載した偽装輸送艦がいるとはいえ、いったい何隻生き残れるか・・・・・・」

「アンティータム級空母1隻がついていますが、その艦載機はトリアーエズが36機。まぁ機動部隊にまともな艦載機を取られているからトリアーエズのような旧式機を配備されるのはしかたないですけど。最新鋭のモビルスーツと旧式の航宙機、とっても差が激しいですね」

「まぁ対艦ミサイルを2発搭載可能なように改造されているが気休めだな。しかもあんなものまで持ち出す羽目になるとは・・・」

そう言って艦長は4隻の艦艇が曳航している大型ミサイルのようなものを冷めた目で見つめた。大型ミサイルのようなもの、それは連邦軍の開発した試作兵器の1つだった。それはかつて期待の眼差しで見られ、今では評価が一変し上層部は見向きもしなくなった兵器の一つであった。

「不安ですか?」

「失敗作の烙印を押された、あの急造欠陥試作不採用兵器を在庫処分といわんばかりに全て持ち出したんだぞ? そのことに不安を覚えずにはいられまい? あれに乗るパイロットが不憫としかいいようがない。まぁトリアーエズのパイロットよりかはましだろうが」

「・・・弾道弾と戦闘機を組み合わせた一撃離脱戦闘機、XBF-1ですか。一応不採用が決まってからもちょくちょく改良は続けられていたそうですが、5機もよく生き残っていたものですね。不採用後は対艦戦闘に重点を置いていたらしいですが、ようは使い方次第では? 投入当初は高機動でしられるヅダすら翻弄した機体ですし(11話参照)」

「限度があるわ限度が。大体速度以外に取り柄が無い機体だから、速度に慣れられたらお終いだ。現に投入当初はそれなりの戦果を出していたが、ジオンが対策をとりはじめてからは、撃墜される機体が続出しているんだ。かつて予備機を除いて30機近く製造されたのに、今や残ってるのはあの5機だけだぞ?」

「・・・パイロットには聞かせられませんが、あれの部品の在庫も生産ラインが閉じてしまったのでほとんど無いらしく、あれらも整備は万全じゃなく応急処置がされているそうです。文字通りの在庫一斉処分としか考えられないと整備班がもらしてました」

「なおさら不安になるな・・・まぁ少しでも遊撃部隊の役に立つならいいか」

「しかし、やけに遊撃部隊を気にかけますね。何か理由でも?」

「・・・同期の友人なんだよ、遊撃艦隊の旗艦の艦長とは。あいつはこの戦争が終わったら婚約者と結婚するらしく、結婚指輪も準備しているらしい。できれば生きて幸せになって欲しいと思ってな。ただ、乗っている艦のせいでやたら不安でな」

「それはおめでたいですね。って、艦のせいで不安? 遊撃部隊の旗艦といえば・・・あぁ、修復されたマゼランでしたね」

「そう、ワッケインが座礁させたマゼランだ・・・ルナツーで座礁した上に艦首を吹き飛ばされ、半分沈没していたような状態だったが・・・まさかたった1ヶ月で復帰するとはな」

「ルナツーのドックがフル稼働してましたからね。ジオンの通商破壊の影響で物資不足でしたが、中立サイドから資材を購入できたおかげで完成したと聞いてます」

「しかもテスト艦としての改修を受けてな。聞いた話だと、何隻か同じタイプを建造するとか・・・どうなんだ、そのあたり知らないか情報屋?」

「誰が情報屋ですか誰が・・・まぁ私の得た情報では艦長のおっしゃるとおり、マゼラン級の改修案の1つとして損傷したマゼラン級の何隻かを改修するみたいです。新たにマゼランT型という型番で正式採用を検討してるらしく、あのマゼランはその為の試験艦扱いだそうですよ」

「他にも複数の異なるタイプが建造されてるらしいな。まぁ実験艦とはいえ、戦力が増えるのは歓迎すべきことなんだろうがな・・・」

マゼランT型、それはルナツーで座礁、大破したマゼランを砲戦力の強化という名目で改修した戦艦だった。この世界ではマゼランはルナツーで座礁しホワイトベースの砲撃で吹き飛ばされた際、艦首は消し飛んだものの艦の後部は比較的損傷が軽微な状態となったのだ。それこそ機関部は無傷に近く、艦首さえ塞げば出航できるほどな状態だった。それをスクラップにするのはもったいないという案がでて、その際にこの改修案が採用されたのだ。
その改修の具体的な内容だが、砲戦力の強化に恥じない内容であった。すなわち、吹き飛ばされた艦首を大気圏突入艇を装備せずに延長し、上部甲板に1番砲塔と2番砲塔の間に1基、下部甲板に2基の連装メガ粒子砲を前後に増設、各部に連装機銃を増設した火力強化型がT型である。
なお、艦首部分や増設された砲塔はルナツーで建造中の艦のものを流用しており、ある意味で継ぎ接ぎの艦ともいえる。
他にもルナツーでは多数の艦を建造しており、その中には史実では出てこなかった艦も多々あった。例えばマゼラン版バーミンガムとでもいうべき、火力を前方に集中させたマゼランL型や、マゼラン2隻を艦底部を引っ付けて双胴にしたような形状をした、リシュリュー型と呼ばれるマゼランN型というものだ。それらをルナツーでは同時に複数建造し、更にリシュリュー型のような打ち上げが無理なタイプ以外はジャブロー等でも建造が行われており、弱体化したとはいえ連邦軍の底力を見せ付ける一場面であった。

「とはいえ、所詮は戦時で突貫工事された艦だ。マゼランは機関を弄っていない、つまりジェネレーター出力は従来のままだ。そんな状態で砲塔を3基も追加したのだから、砲塔1基あたりの速射性能は低下する」

「ですが、砲塔の数から考えれば十分許容範囲内では?」

「ああ、確かに許容範囲内だろう。まともに改修されていればな・・・・・・戦場では何が起こるかわからんし、それに耐久性も疑問が残るし、負荷をかけるジェネレーターも不安だ。果たしてそんな艦でどこまでやってくれるか・・・」

そう、座礁してホワイトベースの主砲で吹き飛ばされ大破してから、僅か1ヶ月でマゼランは改修されたのだ。普通ならどこに不具合があるか分かった物ではない。それに継ぎ接ぎ改修なので、耐久力はカタログスペックよりも遥かに低下している。そんな状態でどれほど活躍できるかは全くの未知数だった。

「・・・まぁ、我々が悩んでいても仕方ないことか。それにあいつは悪運がやたら強いから大丈夫だろうが・・・・・・こちらの状況は?」

「各艦いつでも大丈夫です。退役間際だったコーラル級重巡洋艦はセント・ローの護衛にあて、マゼランとサラミスの後方に配置しました」

「うむ、後は獲物が来るのを待つだけか・・・・・・果たして狩人はどちらになることやら」

そう言って艦長は艦隊の様子を見つめる。果たしてこの戦闘に意味はあるのだろうかという疑問を抱きながら・・・







???

戦争によって生じた大量のデブリが集まる暗礁地帯、サイド4宙域近海にあるデブリ帯もその中の1つだ。そしてここは史実ではZガンダム時代にアーガマが侵入(アニメ7話相当)した魔の空域と呼ばれる場所でもあった。とはいえ、コロニーがあまり破壊されていないこの世界ではデブリベルトの密度は史実よりも遥に薄かった。
そのデブリ帯の中に1隻の漆黒のステルス塗装されたコロンブス級輸送艦の姿があった。そしてその艦橋にいる者達は正規軍の軍人のようにはどうやっても見えなかった。いうならば傭兵や海賊、悪く言えば犯罪者といった風貌をしている者達ばかりだった。

「キャプテン、連邦が動き始めましたぜ。ポイントは予想通りの場所です」

「ん・・・ダミー部隊は?」

「設置完了し、現在こちらに撤退中ですわ。後数十秒後に展開します」

「わかった。設置部隊を回収次第移動するぞ」

「「あいさー」」

数十秒後、このデブリベルトから少し離れた宙域に一斉に複数の艦影が出現した。その艦影は主に3種類、連邦のサラミス級とマゼラン級、そしてコロンブス級のものだった。そしてその周囲にはより小型の、セイバーフィッシュやボールの機影も多数あった。それを見届けたコロンブス級はゆっくりと静かにその場を立ち去っていった。



[2193] 39話 後編
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:15261ffd
Date: 2012/09/30 17:23
ジオン臨時編成核輸送艦隊 前衛部隊旗艦 VF所属ジークフリート級巡洋艦アリアドネ

月面グラナダ基地と地球を結ぶ現状での最短ルート、具体的にはサイド4付近を通過するルートの間には幾つかのデブリ帯が存在していた。安全を優先するならデブリのない宙域を通ればよかったのだが、上からは一刻も早くグラナダに送り届けろという命令が出ているのでデブリ帯を通るルートとなった。このルートならば地球衛星軌道上からグラナダまで、二日もせずに到着できるからだ。
だがデブリ帯では敵の奇襲を許す可能性が高くなる。その為前衛艦隊は警戒を怠らなかったが、前方に哨戒仕様のランツ級シャトルを哨戒に出している為それなりにゆとりはあった。そのため前衛部隊の旗艦となったアリアドネの艦橋もそれなりに緩んだ空気となり、艦橋で談笑する余裕があった。

「艦長、そろそろ第1合流地点ですね。増援部隊来てますかね?」

「さぁな。確かここでの増援部隊の内容は・・・」

「ドズル派のヘッジホッグ級1隻とチベ級1隻、それにムサイ級が2隻にうち(VF)のレダ級護衛艦3隻ですね。後はキシリア派のガニメデ級空母1隻とジークフリート級4隻です。ギレン派の艦艇は第2合流地点からですね。まぁ増援の増強が急に決まったせいで戦力の逐次投入となってしまいますが・・・」

「それは仕方あるまい。むしろ五月雨方式の増援だからこそ、それらの戦力と一足先に合流できると前向きに考えるんだ」

「そうですね・・・まぁ第2合流地点にはソロモンとカタリナからの増援艦隊の他に他派閥の艦艇が合流する手筈ですから、そこまでいけば楽ができそうですね」

「その前に暗礁宙域の側に接近する。合流地点の手前の暗礁地帯、最初の難関だ・・・攻撃を受けるならここの宙域が最も危険だから警戒は怠るなよ?」

「了解です。 ・・・そういえば、先日うち(ツィマッド社)の輸送船が1隻、暗礁宙域で消息を絶ったそうですね。それってここの暗礁宙域の付近じゃありませんでしたっけ?」

「ああ、他の皆もニュースでやっていたから知っているだろうが、今言ったように消息を絶ったのはこの宙域だ。VFの行った捜索にもかかわらずそれらしき残骸が見つからなかったので、連邦か海賊に強奪されたのではというのが公式見解だ。つまりここには敵がいると思って行動してくれ」

「了解です・・・ところで、その輸送船には何が積んであったのですか?」

「・・・そこまで詳しくは知らんな。誰か知ってる者はいるか?」

「いや、幾らなんでも知ってる奴なんていないでsy・・・」

「あ、知ってますよ。あれには衛星軌道上で行う予定の演習に使う物資が満載していたそうですよ。まぁ射撃のターゲットに使うブツらしいですが、ダミーバルーンというそうです。どうもうちらの社長発案のブツらしいです」

艦長がふった疑問に艦橋内で答えれたのは通信士官だった。というかなぜお前は知っている? そんな思いを艦橋にいたほぼ全員が思ったが、情報を取り扱う通信士官だからという事で無理やり納得させた。

「あ~・・・流石は通信士官、目ざといな」

「いえ、それとは余り関係ないかと。たまたま演習を行う部隊が新装備の点検まんどくせぇって愚痴っていたのを聞いただけですかr・・・・・・え、何? それは本当か!?」

話していた情報士官が急にコンソールへと向き直りレシーバーを耳に強く当て、何事かを確認しはじめた。その表情が真剣なものに変わったのを見て、艦長は何か大事が起こったのではと推測した。そしてその推測は大当たりだった。

「どうした?」

「先行しているランツ級シャトル3番から緊急通信、敵艦隊発見とのことです!」

敵艦隊発見という報告が入った瞬間、それまでゆとりがあった空気が一変し艦橋内に緊張が走った。

「敵艦隊だと? 内容は!」

「報告ではマゼラン級戦艦2、サラミス級巡洋艦8、コロンブス級輸送艦8を確認したそうです。敵艦隊は停泊中のようで動く気配は今のところないようですが、敵艦隊付近に敵機の姿が多数あり、3番機はこれより前衛艦隊と合流すべく退避するそうです」

「・・・中々の大艦隊だな。艦載機の姿があるということは、このコロンブス級は輸送艦ではなく空母扱いのアンティータム級か?」

「その可能性が高いです。おそらく情報が漏れていたのでしょう」

「うぅむ、巡洋艦2隻と護衛艦3隻で戦艦と空母を含む大艦隊とやりあいたくはないな。しかもテューリンゲンは小破してるんだ・・・・・・っと、まずは報告だ。本隊へ急ぎ連絡しろ、前方に敵艦隊が・・・」

その言葉の続きは新たに入ってきた緊急通信によってかき消された。そしてその内容も深刻なものだった。

「・・・! 右翼にいるレダ級護衛艦グライフより緊急通信、『本艦前方にて爆発と思われる閃光を確認。なおその方向を哨戒していたランツ級シャトル1番機との通信が取れず、撃墜された可能性があると認む。本艦はこれよりリールの発艦準備を開始する』以上です」

「何? ・・・1番機は確かデブリ付近を通るルートを哨戒していたはずだな。となると確実にデブリに敵がいるか」

「待ち伏せですか・・・まんまと罠に嵌ったということでしょうか?」

「だろうな・・・輸送艦隊旗艦のアドラーと後衛艦隊のコンスコン少将にこの事を至急報告だ。それとデブリ帯への偵察としてリール1個小隊を向かわせるようグライフへ伝えろ。艦隊各艦は第1種戦闘配置、搭載部隊を緊急発進できるよう準備をさせろ! ・・・あ、可能なら艦隊の針路変更をするように本隊とコンスコン少将に具申しろ。それとミノフスキー粒子散布準備をしろ」

「了解、直ちに実行します!」

そして数分後、グライフから発進したリール航宙機3機がランツ級が撃墜されたと思われる宙域に向けて発進し、各艦の艦載機もスクランブル発進していく。その頃には既に本隊に連絡が伝わっており、艦隊は選択を迫られた。





本隊旗艦 チベ級重巡洋艦アドラー

敵艦隊発見の報に艦隊の指揮を取るデラミン准将は悩んでいた。彼の任務は核弾頭をグラナダまで無事に運ぶことで、敵との戦闘は避けたいというのが本音だったからだ。だが、状況は戦闘せざるを得ない状態になりつつあった。

「うぅむ・・・本当に間違いはないのか?」

「間違いありません、画質は粗いですが静止画像が添付されており、それには間違いなく連邦艦隊がうつされています」

「待ち伏せか・・・敵空母はどうしてる?」

「今のところ更なる艦載機の発進は確認されていません。ただ、この艦隊以外にも消息を絶った1番機の事も警戒すべき案件かと愚考しますが」

「そちらはVFの偵察結果次第か・・・・・・チベのコンスコン少将に連絡してくれ。本隊の艦載機は発見された敵艦隊を攻撃する。コンスコン艦隊艦載機は艦隊の直援に当たれとな」

悩んだ末に彼が出した結論は先制攻撃だった。たしかに守るよりも攻める方が自由が利くので間違ってはいなかった。万が一に備え艦隊の護衛を残すのも妥当といっていいだろう。

「VF艦隊はどうなさいますか?」

「偵察結果を踏まえ考えるが、敵艦隊が潜伏しているようなら攻撃をさせる。ただし我々と一緒にいる核輸送艦のスケネクタディの機はこちらの直援をさせろ」

「・・・前衛にいるVF艦隊機動戦力はリックドム6機と航宙機部隊9機と、戦力的には小規模です。ここはコンスコン艦隊の機をまわすか、スケネクタディの艦載機と一緒に行動させたほうがよいのでは?」

副官の問いにデラミン准将は頭を振る。なぜなら彼には違う命令も受けていたからだ。

「キシリア様からなるべくVFを消耗させるように言われているのだ、今回の件はちょうどいい機会ではないか。それにスケネクタディの連中はこちら側だから温存するべきだ」

キシリア様からの命令、その一言に副官は納得した。ここ数ヶ月、ギレン及びキシリア派の将官はVF、そして元締めのツィマッド社に圧力や嫌がらせを行っていたからだ。なぜならVFという企業独自の私兵が増強され、しかもガルマの地球方面軍やドズルの宇宙攻撃軍と密接な関係を持ち、その関係でデギン公王とも関係を持っているのだから、これで面白いわけがない。その結果がこのような嫌がらせであった。そしてそれを知る副官も強力になりすぎているVFを警戒しており、ある程度VFの戦力を削れる機会だと考え直した。

「了解しました。ではVFにはそのように命じます。後、本艦隊のパプワ級に搭載している旧ザクは両手にガトリングシールド(ヒートソード未装備)を持たせた迎撃仕様なので、艦隊の護衛をさせるべきかと」

「ならばそうしろ、まぁ最新鋭のザク改が2個小隊もいるのだから大丈夫だろうがな。だが念の為に集結中の増援艦隊にこちらとの合流を急がせろ、戦力はあればあるほどいいからな」

「了解しました」

そしてこの会話から数分後、本隊からヅダB(宇宙用)型6機、ザク改6機、ザクF2型9機という、合計21機のモビルスーツが敵艦隊へ向けて出撃した。
だがこの時点でおかしいと気がつくべきだった。この期に及んで空母から艦載機が発進しない、そして艦載機が停止しているという事に・・・





デブリ内 連邦遊撃部隊旗艦 マゼラン級戦艦改めマゼランT型戦艦 マゼラン

ジオン艦隊の本隊からモビルスーツ隊の発進が開始された頃、偵察仕様のランツ級シャトル1番機が消息を絶ったデブリ帯の中に、ジオン艦隊の様子を伺う4つの艦影があった。

「艦長、前方の宙域に展開されている、我が軍の兵器のダミーに向かって敵艦隊よりモビルスーツの発進を確認しました」

「よし、全艦戦闘態勢に入れ。XBF-1の発進準備は?」

「パイロットは搭乗済みです、いつでもいけます」

そう、連邦の遊撃部隊の4隻だった。その旗艦であるマゼランの艦橋で艦長と副官はチェックを進めていた。そして全てのチェックを終えた副官がふと思ったことを口にした。

「しかしあの艦と機体のダミーはよくできてます、この距離からでは本物かどうか見分けがつきません。工作隊はいい仕事してますね、どこの隊でしょうか?」

「ああ、上層部の言っていた欺瞞工作隊だな・・・その所属は一切不明で、本当に連邦軍なのか疑わしいがな」

何気なく発した質問へ返ってきた答えに、副官は驚きをあらわにする。

「は? 我軍の工作隊でなければ一体どこの部隊ですか? 我軍以外にあのような工作を行うとこなんてありましたか?」

「・・・・・・これはあくまで噂話だ。あのダミーは鹵獲したジオンの輸送船に搭載されていたらしい。が、その輸送艦を鹵獲した部隊やいつ鹵獲したかは不明で、鹵獲した輸送船をルナツーで目撃した人間はおらず、更に言えばジオンの輸送船が係留された記録・・・いや、港に入ったという記録すら存在しない。これは港湾管制官の知り合いから聞いたから信憑性は高い。どうだ、面白い話だろう?」

「そ、それは・・・ちょっと待ってください。まさか艦長は上層部がジオンと・・・」

「滅多なことは言うな、他言無用だ。あくまで噂話だからな。 ・・・まぁ向こうに協力者がいるかもしれんといった噂だが、所詮噂話だからな」

「・・・私は何も聞いていません。艦長、今何かありましたか?」

「いや、何もないな・・・気にするな」

「了解、気にせず職務を遂行します」

その数十秒後、デブリ内部で警戒に当たっていた連邦軍期待の量産型モビルスーツ、RGM-79 ジムの部隊より緊急報告が飛び込んできた。

「警戒中のジム隊より敵機接近との報告。機種は航宙機、リールタイプです。数は3機!」

「慌てるな、敵偵察機を撃墜した時から予想できた事だ。予定とは違うが、プランCに移行する。XBF-1を全て敵前衛に突撃させろ。前衛突破後は本隊へ突入、敵後衛艦隊の注意を引き付けろ! 本艦隊は敵前衛艦隊と砲撃戦に入る。待機中のモビルスーツ隊も順次発進し敵モビルスーツ隊を迎撃、本艦隊に攻撃をさせるな。敵は巡洋艦2隻と駆逐艦3隻、艦隊の砲戦力ならこちらが有利だ!」

「了解! それと後方のアンティータム級空母バカラより入電、『我艦載機の発艦を開始す。24機発艦させ、残り12機は時間を空けて投入し、本艦はその後デブリベルトの奥に後退す』とのことです」

「よし、わかった。作戦計画通りに進めるぞ!」

そして攻撃命令が伝わった後、戦艦2隻巡洋艦2隻からなる連邦軍遊撃部隊はVF艦隊へと突撃を開始した。そしてそれを察知したVF側も迎撃機を出撃させ、戦闘開始の鐘は鳴らされた。







後衛艦隊旗艦 チベ級重巡洋艦チベ 艦橋

「報告、デブリ帯より大型ミサイル5基出げn・・・いえ、敵艦隊も出現! 戦艦2隻に巡洋艦2隻、前衛のVF艦隊に向かっております。どちらもマゼラン、サラミスを改造した艦の模様で。更に連邦のモビルスーツが展開しています。間違いありません、頭と手足があります。それにシルエットも我が方のモビルスーツとは違います! 数は・・・最低でも10機以上、更にその後方から航宙機多数出現!」

「航宙機はともかく艦船の改良型に連邦製のモビルスーツか・・・VF艦隊の様子は?」

「ジークフリート級及びレダ級、有効射程外ですが砲撃を開始。ですがやはり砲戦力が足りません。事前に出撃したリール部隊は敵艦を攻撃しようとしていますが、敵護衛機によって迎撃されています。それとVFはリックドム隊を持っていますが、数の差で苦戦する事は必至かと・・・」

「援護に向かわせたリックドム隊はどうした?」

「現在本隊を抜けて前衛に向かっています。後数分で到着の見込みです」

「しかしよろしかったのですか? 本隊から送られてきた命令は・・・」

「馬鹿もん、あいつが言ってきたのは『艦隊の直援に当たって欲しい』だぞ? つまり前衛も直援の対象だ。それくらいわからんか」

「は、申し訳ございません。ですが1個小隊で大丈夫ですかね?」

「む・・・・・・本隊が動くのならば1個小隊で大丈夫だと思ったが、動かなかったら問題だな。念の為もう少し送るべきか? だが残りのザク9機の内6機が本隊に取られている以上、本艦隊の直援についている3機を送るのは万一の際に不安だな・・・パプワ級のリール6機を派遣すべきか?」

「しかし残念です。先月就役した新型巡洋戦艦がいればよかったのですが・・・」

「ああ、ティベ級をベースに設計したエルベ級か。だがまだまだ慣熟訓練の真っ最中だったな?」

「はい、ですが3連装砲塔4基というあの艦の火力は同航戦ならマゼラン級戦艦2隻分に匹敵します。まぁ建造数が12隻で打ち止めとなったのが我が国の国力を示すようで悲しいですが」

「むしろ12隻もよく建造できたと思うがな。その12隻も派閥争いのせいで分散配置となった。それでは各個撃破されやすくなるというのに・・・まぁないものを嘆いてもしかたあるまい。それよりも敵の動きはどうした?」

「VF艦隊は135㎜レールガンでの対空射撃を開始しました。攻撃隊は・・・時間的にそろそろ接敵したはずですが」

「指揮系統がバラバラだと報告が来るのが遅くなってたまらんな。そのあたりの改善を具申せねばな・・・」

そうコンスコンが思案していると、とんでもない報告が二つ同時に入ってきた。すなわち、敵艦隊への攻撃失敗と新たな敵艦隊の発見である。

「敵艦隊攻撃に向かった本隊の攻撃部隊からの報告が回ってきました! 敵艦隊はバルーンで作られた偽装艦隊で、機雷を内蔵しているタイプも確認。機雷の爆発に巻き込まれ2機損傷するも敵バルーン全てを撃破、これより撤退する。以上です」

「ダミーだと? 一体どういうことだ・・・」

「ん? これは・・・・・・!? ほ、報告! 艦隊後方から急速接近する艦影を多数捕捉しました! 数は13、形状照合した結果、マゼラン級戦艦を3隻含みます!」

「なんだって! どこに潜んでいたんだ!?」

「副長、落ち着かんか! ・・・後方の敵艦隊がこちらを射程に捕らえるまでの時間はどの程度だ?」

「は、彼我の速度差を計算しますと・・・敵戦艦の有効射程距離に入るまで、後5分前後かと」

「空母らしき存在はいるか?」

「・・・・・・コロンブス級と思わしき艦影が1つありますが、敵艦隊の後方なのではっきりとはわかりません。それと敵艦隊ですがおそらく・・・マゼラン級3、サラミス級7、コーラル級2、コロンブス級1のようです」

「むぅ、編成から考えて防空部隊を載せた空母と考えたほうがいいだろうな。直援が必要だが、射程まで5分・・・本隊の攻撃隊はそれまでに戻ってこれるが、消費した弾薬と推進剤を補給する時間は無いか」

「どうしますか少将? こちらは重巡1隻に軽巡洋艦3隻、流石にこの戦力差では・・・」

「・・・通信士、デラミンに伝えろ。攻撃に向かわせた本隊のモビルスーツ隊の半数、弾薬と推進剤に余裕のある機をVF艦隊を攻撃している敵にぶつけ、残りは補給作業を開始。補給が終わり次第こちらのモビルスーツ隊と連携して後方の敵部隊を攻撃する。モビルスーツ隊の攻撃に合わせて後衛艦隊は砲撃戦に移行し敵を撃破する。それが無理なら護衛している本艦隊の部隊を前方の敵艦隊への攻撃にまわし、その隙に本隊のモビルスーツ隊は補給を済ませろとな。それと艦隊各艦へ砲撃戦準備と伝えろ!」

「了解しました」

そして命令が伝達された頃、VF艦隊の迎撃を突破して前衛艦隊に大型ミサイルが突入した。が・・・

「敵大型ミサイル、1機撃墜成功するも残りはVF艦隊に突入・・・これは・・・・・・訂正! 敵大型ミサイルはミサイルではありません。以前から確認されていた対艦戦用の一撃離脱型機動兵器です。レダ級護衛艦ファルシがレールガンと対艦ミサイルの攻撃を受け大破、ジークフリート級アリアドネ、レールガンが命中し小破。敵機、VF艦隊を抜け本隊へ攻撃を仕掛ける模様!」

「あの通称『通り魔』か!」

「そうです。あ、ファルシに退艦命令が発令された模様!」

そう、大型ミサイルと思われていたものは連邦のXBF-1だった。外見が大型ミサイルに似ているため、よく誤認される。それゆえに手痛い損害を受ける事が多々あったのだ。事実、レダ級小型護衛艦のファルシは2機のXBF-1の攻撃を受けて大破し、艦を放棄する事となった。
だが・・・

「慌てるな! 散弾を装填したジャイアントバズーカ装備機とショットガンを持ったザクで迎撃しろ。あれは速度は速いがそれゆえに運動性が悪く狙いをつけやすいはずだ、くれぐれも速度に惑わされるなよ」

実質剛健なドズルの元で鍛えられたコンスコン艦隊の動きは速かった。そのコンスコンの命令がモビルスーツ隊に伝わる前に現場のパイロット達は行動しており、命令が伝達された頃にはすでに1機を撃墜し、1機に損傷を負わせていたところだった。連邦軍砲戦部隊の艦長が危惧したように、このような高速の敵を想定してジオンのパイロットはシミュレーターで訓練していたのだ。特に優秀な成績を出したものには色々と特典がでるので、パイロット達はゲーム感覚で訓練に励んでいた。
・・・・・・その仮想敵だが、訓練難易度に応じてターゲットが変更され、更に攻撃もしてくるので他人との連携がないとクリアが難しい難易度となっていた。例を言うならば難易度ベリーイージーだとセイバーフィッシュ3機とトリアーエズ⑨機、イージーではセイバーフィッシュ3機とザク3機、ノーマルだとザク3機とヅダ3機、ハードだとザクレロと護衛のヅダ3機となっていた。が、ここまではまだよかった。コンピューター側の行動パターンがわかりやすく設定されているから、やりようによっては1機でもクリアできるからだ。が、次のベリーハードでは一気に難易度が高くなり、出てくる仮想敵はビグロとザクレロ、その護衛のヅダイェーガー3機という1機では無理ゲーレベルとなってくる。そして最後の難易度ルナティックの場合、クリアさせる気が全く無いと感じさせるレベルまで上昇する。なぜなら、出てくるターゲットは赤い彗星仕様のヅダイェーガーの6機編隊という、もはや無理ゲーではなく無理のレベルなのだ。これを1機でクリアできるのはニュータイプくらいだろう。なのでこの難易度を選んだ場合、クリア目的が敵機の撃墜ではなく自分が何十秒生き残れるかという目的に変わってしまい、周りでは賭けが行われるほどだ。
まぁこの場でそんな事はどうでもいい事だろう。話を戻すが、肝心なのはXBF-1の速さに対する対策が採られている事だった。速さだけが取り柄のXBF-1の命運は容易に想像できるもので、最後のXBF-1が撃墜されたのはこの2分後の事だった。
そしてその直後、本隊から返信が帰ってきたが、その内容はコンスコンの期待したものではなかった。

「デラミン准将から返信きました。ですがこれは・・・・・・」

「どうした、報告ははっきり言え」

「はっ、読みます。本隊は核の輸送を最優先とし、ダミーのいた宙域を突破して敵の追撃を振り切る。貴艦隊は後方の敵を食い止め本隊脱出の時間を稼ぐように。なお本艦隊のモビルスーツ隊はこれより補給に入るので、補給が完了するまで貴艦隊所属のモビルスーツ隊は他部隊の被害を省みずに本隊の直援を続行せよ。以上です」

「は? ・・・・・・・・・・・・み、みっともないと思わんのかぁああ!!」

そのあんまりな返信にコンスコンは唖然とし、次に激怒した。
当然だ、幾ら艦隊の指揮権を握っているといっても、自分の艦隊の事だけを考え、階級が上であるコンスコンの艦隊に死ねと言っている様なものだからだ。
またそれ以外にも、VFの事にまったく触れていない事も問題だった。これは壊滅寸前のVF艦隊を見殺しにすると暗に言っているようなもので、コンスコンからしてみれば職業軍人が民間人(一応VFは元々ツィマッド社の実験部隊なので民間の私兵部隊といってもいい)を見捨てろと言ってるに等しく、コンスコンが激怒するには十分な理由だった。

とはいえ、これはデラミン艦隊から見れば当然の反応だった。キシリア派はVFを快く思っておらず、そのVFと親しいドズル派を疎ましく思っていた。
そして彼らの現在の任務は核を一刻も早く無事にグラナダに届ける事。つまり、コンスコン艦隊やVF艦隊が連邦と潰し合いその隙にグラナダに無事到着できればいいのだ。うまくいけば勝手に連邦もVFもドズル派も戦力を減らしてくれて、キシリア派の1人勝ちになるからだ。

もっともそれはコンスコンも容易に想像が付いた。が、幾らなんでもそんな露骨な事はしないだろうという思いがコンスコンの中にはあった。VF艦隊を見捨てコンスコン艦隊を盾にしたとなれば、確実にコンスコンの上司であるドズルと、VFの運営を行っているツィマッド社とその後ろ盾のガルマとの関係が悪化するのは目に見えていたからだ。
が、デラミンはその選択を取った。核さえ手に入れば多少のデメリットは目をつぶってもいいと判断したのだろう。
そして本隊が進路を変更しようとし、それにコンスコンが激怒している間にも戦況は変わっていく。

「VF艦隊の被害甚大! ジークフリート級テューリンゲン大破、航行不能! 総員退艦命令が出ました。同級アリアドネは中破の模様です。レダ級ファルシ沈没、グライフ及びラトル中破! リックドムとリールも多数撃墜された模様です」

「ランツ級3番、敵モビルスーツに撃墜されました!」

「デラミンの大馬鹿者め。最初っから核輸送船のモビルスーツ隊とVF艦隊をセットにしておけばいいのに、本隊の護衛にVFの数少ないモビルスーツ隊をとってしまうからこの有様だ。かまわん、本隊を護衛しているザクはVF艦隊を支援しろ、本隊の護衛はリール隊を送れ! ここでVF艦隊が文字通り全滅すれば我々は前後から挟撃を受ける事になるぞ! 後デラミンに伝えろ。艦隊が一纏まりで行動せねば伏兵に食われかねん、VF艦隊を支援し敵艦隊撃破後にその宙域を突破するほうがいいと伝えろ」

「了解しました!」

「ふん・・・・・・まぁ既に艦隊針路を変更しているから聞かんだろうがな(ボソ」

そしてその予想通り本隊からの返信はなく、デラミンの率いる本隊は戦場を離脱し始めていた。

「だめです。通信は届いているはずなのに応答がありません。・・・いえ、命令に従って行動せよとの返信が・・・・・・」

「・・・・・・無視しろ。VF艦隊の支援に行かせたリックドム隊はどうした?」

「現在敵機と交戦中。ですが焼け石に水です。敵艦を狙いたいのに敵機に邪魔されているといった感じです。流石に同時に相手にするのは・・・! レダ級護衛艦、1隻爆沈しました!」

「むぅ・・・艦隊各艦へ通達。本艦隊は最大戦速でVF艦隊と交戦している敵艦隊と接触、これを撃滅後パプワ級を残して全艦反転し後方の敵艦隊と交戦する。本艦隊に残っているモビルスーツ隊は直援任務を継続、敵艦載機の襲撃に備えろ! 足の遅いパプワ級はVF艦隊の生存者の救助に当てろ。いいか、1発たりともパプワ級に敵弾を与えるなよ!」

その命令が発令されしばらく後、コンスコンの元に新たな報告が飛び込んできた。それは退艦命令が発せられていたテューリンゲンに敵弾が新たに命中し、臨界点を突破したという報告だった。

「テューリンゲン臨界点突破、爆沈します!」

そしてその直後、テューリンゲンが一際大きな火球となったのを観測した。そしてその直後、チベ級のセンサーはVF艦隊に迫る新たな艦影を捕捉した。

「これは・・・VF艦隊の側面から新たな艦影を複数確認!」

「敵の増援か!?」

「いえ、これは・・・・・・」







VF艦隊 ジークフリート級アリアドネ

「ラトルに命中弾・・・! ば、爆沈。ラトル爆沈しました!」

また1隻小型護衛艦が沈没し、前衛を務めるVF艦隊は既に壊滅状態に陥っていた。前衛艦隊旗艦であるアリアドネも既にその身に多くの傷を負っており、沈没に至る致命的な損害は奇跡的に無かったが、戦闘力はその過半を損失していた。敵のマシンガンや機関砲等で対空銃座は壊滅し、ミサイルも弾切れ状態。今まともに使えるのは比較的装甲が厚かったおかげで機銃弾の貫通を許さなかった主砲2基だけであった。

「艦長、テューリンゲンが沈みました。その際、脱出艇の何隻かが爆発に巻き込まれ沈没したようです」

「わかった・・・・・・くそ、辛うじて生き残っているのは本艦とグライフだけか・・・」

「本艦ももう限界です。グライフもいつ沈没してもおかしくありません」

暗雲が立ち込める中、朗報が飛び込んでくる。それも士気を挙げるには十分なものが。

「! 対艦装備のリール隊、敵巡洋艦1隻撃沈に成功! ジャックポット、轟沈です!」

そう、対艦装備で出撃したリールの生き残りがサラミスK型1隻の格納庫に直撃弾を出し、そのサラミスは艦中央部から真っ二つになって爆沈した。これによってそのサラミスの艦載機だったモビルスーツは動きが鈍り、その隙を逃さず生き残っていたVF艦隊所属のリックドムによって1機のジムが撃墜された。

「敵機1機撃墜、やりました!」

「ん、よくやってくれた・・・・・・現時点での味方機の残存戦力は? どの程度生き残っている?」

「確認します・・・・・・リックドム2機、リールが3機です。それ以外に増援として来てくれたコンスコン艦隊のリックドム1個小隊がいます。こちらは全機生き残ってます」

だが、相手はマゼランK型に中破の損害を与えているとはいえ未だ砲戦力では上回っており、更には相手のモビルスーツ隊も存在しているのだ。このままではVF艦隊の全滅は時間の問題といえた。

「・・・援軍はまだか? 増援艦隊は何をしているんだ、戦闘光を確認してからこちらに向かったとしてもそろそろ合流してもいい頃合なのに・・・」

そう艦長が呟いた瞬間、艦に一際大きな衝撃が走った。それは敵モビルスーツが放ったバズーカが1番砲塔に命中したもので、これによって1番砲塔は壊滅、更にその余波で2番砲塔の砲身が歪み射撃不可能となった。ここにアリアドネはその戦闘力を完全に損失し、そんなアリアドネに追い討ちをかける自体が発生した。

「1番砲塔被弾、また2番砲塔にも損害発生。主砲撃てません! 幸い主砲を撃った直後でしたので、エネルギーの逆流などは起こっておりませんが、本艦の戦闘力は完全にゼロです!」

「か、艦長! 敵機が目の前に!」

その言葉に艦橋にいた者達は一斉に前方を見ると、そこにはバズーカを艦橋に向けようとするジムの姿があった。距離にして300mも離れていない、必中距離である。そしてそれを迎撃しようにも、すでにアリアドネには稼動可能な砲塔は一つもなかった。

「・・・これまでか。皆、すまない」

艦長のその言葉に皆が死ぬ覚悟を決めた。が、その覚悟は無駄足に終わった。横から飛来してきた弾丸によってそのジムは撃ち抜かれ撃破されたからだ。その光景に艦橋の一同が唖然となったが、直後に入ってきた通信によって何が起こったかを理解し、歓声を上げた。

「我、ソロモン所属ヘッジホッグ級防空艦ヴォルケイノ。貴艦を狙っていた敵機の撃墜に成功。これより本艦隊は貴艦隊を支援する」

待ちに待った援軍の到着である。





全滅寸前の前衛VF艦隊に合流したのは第1合流地点に集結した増援艦隊だった。ヘッジホッグ級防空巡洋艦ヴォルケイノが先陣を切り周囲に弾幕を張っていく。それに向かっていくジム1機とトリアーエズ4機だったが・・・相手が悪かった。
ヘッジホッグ級防空艦、それは対モビルスーツ戦闘を重視した艦隊防空を担う艦だ。これまで航宙機や鹵獲機ばかりを相手にしていたヘッジホッグ級だったが、この時初めてその存在意義を発揮した。

「敵機、本艦右舷から複数接近。その方角に味方の機影はありません」

「ふっ、自ら地獄の釜の中に飛び込むとは・・・よろしい、介錯してやろう。ショットキャノン含む全対空火器、撃ち方始め!」

「了解、全砲門撃ち方始め!」

その命令の次の瞬間、ヴォルケイノの右舷が火を噴いた。別に被弾したわけではなく、砲撃を開始しただけだ。が、それは文字通り火を噴いたと形容できる光景だった。ヘッジホッグ級に搭載されている兵装の中でも特徴的な近距離用ショットキャノンはショットガンを何本もバルカン砲のように束ねて連射する凶悪な兵装だ。これはモビルスーツ用の197mmショットガンをベースにしており、破壊力も極めて高い。とはいえ、流石にこれらの弾頭は量産性とコストの都合でルナチタニウムコーティングされていない通常弾だったが、それでもザクやジムレベルなら容易く撃破できる威力を持っている。そして一つのショットキャノン砲座に5銃身の197mmショットガンが4つ設置されており、1つ1つの速射性能は高くないが、数を用意する事により一度火を噴けば絶え間のない弾幕を展開する事が可能となっている。それが速射され鉄の雨を作り上げ、それに加えて135mmレールガンや75mmガトリング砲、ビームガトリング砲に小型有線ミサイル等が火を噴き、襲いかかろうとした連邦軍部隊を襲った。
慌てて盾を構えるジムだったが、速射される弾丸の雨・・・いや、豪雨の前にバランスを崩し被弾し、瞬く間に機体がボロボロとなり爆散していく。もっと悲惨なのはトリアーエズだ。ジムのように盾もないし、そもそもたいした装甲も無いので命中した瞬間にデブリの仲間となっていった。


明らかにオーバーキルです。本当にありがとうございました。


そんな一言が思い浮かぶ光景で、それを見た他の連邦軍機、特にトリアーエズはヴォルケイノから距離をとった。当たり前だ。わざわざ自分から死地に飛び込む物好きはいない。そしてその結果、VF前衛艦隊の生き残りとヴォルケイノの間を塞ぐものは一時的にとはいえなくなった。

「艦長、チベ級ロマーニャより通達きました。『ロマーニャ以下全艦が砲撃にて正面の敵艦を排除する、貴艦はそのまま前進し任務を果たせ。VF艦隊残存戦力にこれ以上傷一つつけさせるな』以上です。またグラナダ艦隊は針路変更、本隊に向かう模様です」

「よし、ならば本艦はこのまま直進する。全ての火器は対空防御に専念しろ! 特に135mmはVF艦隊周辺の敵機を狙撃してやれ。防空艦の意地を見せろ、弾幕を張って張って張りまくれ!」

その言葉の直後、チベ級の3連装メガ粒子砲、ムサイ級2隻の連装メガ粒子砲、そしてそれに続航している3隻のレダ級の連装メガ粒子砲が正面の敵に対して一斉に火を噴き、合計で15本のメガ粒子砲が敵艦を襲った。







連邦遊撃部隊旗艦 マゼラン

「!? マゼランK型、ダンケルク被弾! 艦首が完全に吹き飛びました! 右舷格納庫も大破、火災発生の模様!」

「敵対艦ミサイル多数接近、迎撃急げ!」

「ダンケルクに航行に支障はあるかどうか確認しろ!」

増援部隊から放たれた15本の閃光の内2本がマゼランK型ダンケルクに命中し、更に遅れて飛来した対艦ミサイルが飛来した。幸い対艦ミサイルはマゼランの艦首付近で撃破された以外は外れたが、連邦軍遊撃部隊に動揺をもたらした。予定ではVF前衛艦隊を蹴散らして本体へ攻撃を仕掛けているはずだったのだが、予想外に粘られた上に逆に1隻撃沈され、更に増援が来た為に彼らは一転して全滅の危機にあった。

「くそ、至近弾か・・・損害を確認しろ!」

「敵艦隊側面から急速接近、敵前衛艦隊の後方からも接近中です! このままでは・・・」

「撤退支援部隊は? 予定ではもう来てる筈だぞ!」

「それが・・・・・・先ほど敵部隊と遭遇し交戦に入ったとの事です。それ以降偽装輸送艦は応答しません」

「新手か?」

「おそらくは敵艦隊と合流する予定だった増援部隊かと・・・」

そしてこの状況下で彼らの撤退支援をするはずだった偽装部隊が壊滅。この推測は彼らにとって最悪に近いものだった。それは本来予定されていた撤退路に敵がいるという事を物語っているのだから。

「ダンケルク、航行だけならば支障なしとのことです」

「報告します。先程の至近弾で艦首に歪みが発生。無理な加速をすると、最悪の場合はそこから折れる可能性があるとの報告です」

「むぅ、至近弾で歪みとは・・・ここまでだな。まぁ敵前衛艦隊を壊滅したんだ、任務は成功と考えていいだろう・・・副長、バカラはどうした?」

「デブリの中から気がつかれないように退避中ですが、逃げ切れるかどうかは・・・それと残りの艦載機12機をこちらの支援に向かわせるとの事です」

「ありがたいな。母艦が丸裸になるのに・・・無事に逃げ切る事を祈るか。各艦、速やかに撤退する。撤退支援部隊は来なくなったので最大戦速で逃げるぞ、主砲は側面の敵増援艦隊に向け砲撃せよ」

「機関部より報告、最大戦速を維持したままでの過度の砲撃はジェネレーター出力が不安定になり危険なので、速度を落とすか砲撃のペースを落としてほしいとのことです」

「ダメコン班より意見具申、最大戦速だとミサイルが1発でも命中すれば艦首がもげる危険があります。現在応急処置中ですが、艦首付近の人員は後部へ移動させることを提案します」

「何? ・・・無理が祟ったか。速度は最大、砲撃は最悪牽制程度でもかまわん。艦首付近の人員は後部に移動させろ」

「ですが艦長、このままでは追撃を受ける可能性が・・・そうなると相手の火力投射力がこちらのそれを上回ります。船足も低下しているので、逃げ切れずに撃沈される可能性が・・・」

副長が言うように、ムサイ級は後方への射線を取れない代わりに前方と側面に対し全砲門を使う事ができる。通常のマゼランはともかく、マゼランK型とサラミスK型はその設計上、後方に向けれる砲門がなかった。しかもモビルスーツ運用能力を持たせた結果、運動性や機動性も通常型よりも低下しているのだ。これでは副長の懸念通り、チベやムサイから逃げ切る事は難しいといえた。

「そうだな、普通に逃げればそうだろう。普通ならな」

「? それはどういう・・・」

「艦隊全艦は敵増援艦隊を正面突破し離脱する。敵が会頭するまえに逃げ切れればこちらの勝ちだ」

「む、無茶な!? それに敵モビルスーツからの攻撃を受ければ・・・」

「だが撤退支援部隊が来ない以上これしか手は無い。ジムは艦隊の直援を行い、トリアーエズは敵艦隊をかく乱させろ」

「りょ、了解」 

「それに、そろそろ時間だ。うまくいけば敵の追撃は無いぞ」

「あ・・・もうそんな時間ですか。なら我々の任務は成功ですね」

「ああ、後は生き残るだけだ・・・・・・あいつを待たせているんだ、こんなとこで死んでたまるか。絶対に生き残って見せるぞ!」

そしてジオン増援艦隊に向かって正面突破を試みた連邦軍。そしてそれを察知し連邦艦隊殲滅よりもVF艦隊の救援を優先し、あえて連邦艦隊の突破を許したジオン増援艦隊。この結果連邦遊撃艦隊は脱出に成功するものの、艦砲射撃と増援艦隊所属のモビルスーツの攻撃によってマゼランが艦首がもげて大破(後に自沈処分)、マゼランK型ダンケルク爆沈、サラミスK型1隻大破、RGM-79 ジム12機中10機撃墜、トリアーエズ36機全機撃墜という壊滅的な損害を出す事となる。一方ジオン増援艦隊も運悪くマゼランの真正面にいたムサイが1隻撃沈されたものの、VF艦隊で辛うじて生き残っていたジークフリート級アリアドネとレダ級グライフの救出に成功した。

そして、この直後状況は更に大きく変わることとなる。キシリア派のジオン本隊に対して連邦軍機動部隊の艦載機が襲撃を開始したのだから・・・







「敵機急速接近、対空砲撃ち方始め」

「直援は何をしている、さっさと迎撃しろ!」

「敵機にFF-X7 コア・ファイターによく似た新型機がいる模様、データにありません」

「敵機ミサイル発射! 回避、回避!!」

本隊旗艦であるチベ級重巡洋艦アドラーの艦橋は喧騒に包まれていた。それも当然だ、敵航空戦力が大挙して襲い掛かってきたのだから慌てるなというほうが無理だろう。
襲い掛かってきたのは連邦軍機動部隊から発進したセイバーフィッシュ60機と新型機12機の編隊。ファイタースイープ(護衛機排除)を目的とした戦闘機部隊だ。特に新型機は連邦期待の航宙機だった。

FF-S5 レイヴン・ソード宇宙戦闘機。

コアファイターに匹敵もしくは上回る総合性能を有するように開発され、30㎜2連バルカン砲4門と各種ミサイルを装備するコンパクトな戦闘機だ。ここにいるのは初期ロットの量産品な為に数は12機と少ないが、その戦闘力は侮れない。
それに立ち向かうのはデラミン艦隊所属のモビルスーツ隊24機・・・いや、既に2機損失しているから22機で、更にその内の何機かは損傷を負っている。しかもまだ補給中の機体が多く、実際に迎撃を行っているのはヅダが4機にザク改2機、ザクF2型4機と両手にガトリングシールド(ヒートソード未装備)を持たせた迎撃仕様の旧ザク3機の計11機であった。これ以外にコンスコン艦隊から派遣されていたリール部隊がいた。
数の上では不利だったが、敵戦力がこれだけならばなんとかなったかもしれない。が、核兵器輸送阻止を行う連邦軍は本気であった。第一波の戦闘機部隊はあくまで護衛機の排除が主任務、第二波からが艦隊攻撃の本命だった。

連邦軍機動部隊所属のアンティータム級(コロンブス級) 補助空母4隻から放たれた機動戦力、それはセイバーフィッシュやパブリク突撃艇、少数ながら投入されたコアファイターにコアブースターをも含む航宙機部隊、アンティータム級以外にも護衛のサラミス級巡洋艦の甲板に露天係留されて運ばれてきたRB-79K 先行量産型ボールやRB-79 ボールといったモビルアーマー(モビルポッド)部隊、更に少数ながらザクⅡCにザクⅠといった鹵獲機や、ザニーの改良型等といったモビルスーツ部隊まで投入していたのだ。その機動兵器(航宙機とモビルスーツ)の総数はおよそ100機以上、連邦の本気具合が良くわかるだろう。特に改良型ザニーは外見こそ大きくは変わっていないが、マニピュレーターを3本指から5本指に換装し、更にこれまでの戦訓を元に機体各部を改修した結果、ザクF型に匹敵するレベルまで性能を向上させる事に成功した機体となっていた。そして肝心の武装だが、頭部60mmバルカン砲2門以外に90mmマシンガン(ブルパップマシンガン)、380mmハイパーバズーカ、ヒートホーク等を用いており、その戦闘力は侮れない。

それらが60機のセイバーフィッシュと12機のレイヴン・ソードと戦闘中だったデラミン艦隊に第二波第三波と波状攻撃を仕掛けてきたのだからたまらない。
しかもこの直後にグラナダからの増援艦隊から救援に駆け付け、リックドムとザクF2型の混成部隊が敵機迎撃に参加した事で戦場は乱戦の坩堝と化した。本隊旗艦のアドラーには乗組員からの報告と混線した通信から聞こえる多くの声のせいで一気に騒々しくなっていた。

『敵機2機撃墜・・・畜生、敵の数が多い。これじゃ弾が足りなくなるぞ!』

『こちらアルトマルク。敵ミサイル回避成功、されど別の敵機が急速接近! ミサイルを撃たれる前に迎撃を急いでくれ、対空砲だけでは手が足りん!』

「パプワ級補給艦ローリダ右舷被弾、火災発生!」

「チベ級重巡洋艦アルトマルク左舷に被弾、対空砲が何基か破壊された模様!」

『よっしゃ、敵モビルスーツ1機撃墜。続けて撃ちま・・・うぁ!?』

「ぐっ・・・右舷3番銃座被弾、応答ありません」

『くそ、このままじゃジリ貧だ! 援軍をよこしてくれ!』

「直援についていたコンスコン艦隊所属のリール部隊、シグナルロスト。全機撃墜されました」

『被弾した、緊急着艦の許可を要請する!』

「今すぐ出撃できる機体は他にないのか!? このままでは磨り潰されるぞ!」

密集隊形を取り弾幕を形成するデラミン艦隊。モビルスーツ隊と重巡洋艦2隻に軽巡洋艦5隻が放つ対空砲火はそれなりの密度があったが、それでも防空網の突破は時間の問題であった。が、それは新たな増援によって防がれる事となった。

「輸送艦スケネクタディから通信! 搭載モビルスーツ4機を出撃させたそうです。実験機だそうですが、戦闘力は極めて高いとのことです」

護衛対象の核輸送艦から出撃した4機のモビルスーツ。たった4機とも思えるが、この4機が出てこなければ艦隊は更に大打撃を受けていただろう。戦闘に加わった4機のモビルスーツの内、頭部が巨大で両肩が赤く染められたプロトケンプファーの75mmガトリング砲が火を噴き、バズーカを構えていた鹵獲ザクⅡCを撃ち抜く。そしてもう片手に持った197mmオートマチックショットガンを連射し、不用意に接近したコアファイターを2機まとめて撃墜する。

「こちらチベ級重巡洋艦アルトマルク、スケネクタディ所属の機体へ告ぐ。優先して脅威度の高い目標、大型ミサイルを抱えたパブリクとモビルスーツを落としてくr「ふははははは! 不甲斐ない友軍に助勢してやろうというのだ、感謝するのだな!!」な!? ふ、不甲斐ないだと!?」

「ふっ、航宙機ごときに遅れを取る時点で不甲斐ないのだ! まぁいい、連邦の雑兵どもよ! 我が裁きを受けるがいい!!」

「き、貴様ぁ、ふざけた口を・・・名を名乗れ! このことは上に報告させてもらうぞ!」

「ふぅははは! いいだろう、今の私は気分がいい。EXAM実験小隊隊長、ニムバス・シュターゼン少佐だ」

フラナガン機関EXAM開発チーム所属実験部隊。
それが増援に出た4機のモビルスーツの所属である。その所属機は全てがEXAM実験機であり、MS-09RX[EXAM] EXAM搭載型リックドム2機、MS-08TX[EXAM]Mk-2 EXAM搭載型イフリート改2型(宇宙改修型)、YMS-18TX[EXAM] 試作EXAM搭載型プロトケンプファーの4機だ。
そして先の台詞を言ったのは試作EXAM搭載型プロトケンプファーに搭乗するニムバス・シュターゼン少佐だった。本来なら上官を殺害した罪で降格処分となり大尉となるはずのニムバスだったが、この世界ではEXAMシステムの早期開発をツィマッド社が依頼した結果、上官殺害が起きる前に彼を崇拝する部下数名と共にフラナガン機関EXAM開発チームのテスト部隊に引き抜かれたのだ。

「アブラハム、貴様達は小蠅を潰せ。私はモビルスーツを潰す」

「了解です少佐。グロス少尉、レイバン少尉は航宙機を潰せ。俺はモビルポッドを殺る」

「「了解!」」

そう言って2機のEXAM搭載リックドムはセイバーフィッシュやパブリクといった航宙機へ向かい、アブラハム大尉のイフリート改2型はボールに向かって突進していった。これは各機の兵装から見ても妥当なものだった。
というのも、EXAM搭載型リックドムはMMP-80 90mmマシンガンと30mm3連装機関砲付きグフシールドを持っており、弾幕を張るのが得意な構成となっていた。一方、イフリート改2型の方は6連装脚部ミサイルポッド2基は変わっていなかったが、腕部にあった2連装グレネードランチャー2基は腰部へと移動しており、腕部には30mm機関砲が内蔵され射撃能力の強化が図られていた。
が、元々接近戦を主眼に考えられており、更に言えば機体に余裕がなかった為にどうしても射撃の火力は低く、弾も少ない。つまり弾切れになった後に白兵戦を仕掛けるなら、航宙機よりも運動性の低いモビルポッドを狙うのは理にかなっていた。

一方・・・

「ふん、数だけは多いな。だが、ジオンの騎士たる私の敵ではない!」

3機がそれぞれの獲物に向かっていった時、ニムバス少佐は更に3機のパブリクと6機のセイバーフィッシュを撃墜しており、撃ち尽くしたショットガンの予備弾装を取り出してリロード(弾込め)を行っていた。それを好機とみたセイバーフィッシュ2機とザニー1機が向かっていったが、ニムバス少佐は冷酷な笑みを浮かべた。

「愚かな・・・罪深き者たちよ、我が断罪を受けよ! EXAMシステム起動!」

そう言ってコンソールを操作した途端、サブモニターに赤い文字が表示されると共に無機質な、それでいて幼児のような人口音声が流れた。

『NEW EXAMシステム、スタンバイ』

その音声が流れた直後、プロトケンプファーのモノアイが赤く怪しい光りを燈した。そして次の瞬間には急加速を行い、流れるような動きで2機のセイバーフィッシュを仕留め、急に運動性能が跳ね上がったプロトケンプファーに戸惑ったザニーの背後をとり、ほぼゼロ距離でショットガンの弾丸を叩き込んだ。

「ふははははは! EXAMによって裁かれるがいい!!」

その動きを脅威と判断したのか、2機の鹵獲ザクC型と3機のザニー、4機のボール(50mm機関砲搭載型)がニムバスに向かっていった。それをニムバスは冷笑と共に迎えた。

「ふっ、自ら死にに来たか」

言うが早いか、ニムバスは加速して一気に接近し、2機のボールに向けてショットガンを速射した。幾らボールが耐弾性に優れた球状だとはいえ、大量の散弾を食らっては耐える事は不可能だった。そしてそのままバズーカを構えていたザニーの目の前に現れ、ザニーが行動するよりも早くそのコックピットに残弾数が1発となったショットガンを突きたて、引き金を引いた。コックピットに突き刺さった時点でパイロットは死亡していたのにもかかわらずだ。
その行為にザニーとボールは怖気づくが、それでも怯むことなく2機の鹵獲ザクはヒートホークを構え、マシンガンを乱射しながら突っ込んでいった。この2機はそれなりの錬度で、連携して行動していたがニムバス相手には不足だった。

「身の程知らずが! このワタシが裁いてやる!」

そう言ってそのまま弾切れとなったショットガンを刺したままにして機体を翻し、ヒートホークをAMBAC(アンバック、Active Mass Balance Auto Control = 能動的質量移動による自動姿勢制御)を使って必要最小限の動きでかわし、すれ違い様にビームサーベルで胴体を切り裂いた。それと同時にもう1機の鹵獲ザクには75mmガトリング砲を牽制がてら叩き込んだ。鹵獲ザクはシールドを構えてこれを防ぐが、次の瞬間には勢いを殺さずに接近していたプロトケンプファーが振るったビームサーベルによってシールドごと切断されていた。

僅か1分にも満たない時間で、モビルスーツ3機とボール2機が仕留められたのだ。相対した残存部隊が恐慌状態に陥るには十分だった。ザニー2機はマシンガンを乱射したが、ボール2機はそのまま逃走を図る。が、それをニムバスが許すはずが無かった。

「くくくく・・・・・・無駄な足掻きだ!」

元々ベースとなったプロトケンプファーA型の機動性はヅダを上回る。それから逃げ切るのはボールでは不可能だった。逃亡しようとしたボールを追い、1機を75㎜ガトリング砲で撃破した後、残ったもう1機のボールを蹴り飛ばした。ケンプファーシリーズにはニースパイクと呼ばれる爪が脚部に装備されており、まともに当たればザクやグフのスパイクシールドを上回る威力を持つ。結果は言うまでも無く、蹴り飛ばされた時点でボールは半壊し、その数秒後に爆発して跡形も無く吹き飛んだ。

それを見てマシンガンを乱射していたザニー2機も心が折れたのか、機体を翻して一斉に逃げ始めた。他の友軍がまだ戦っているのに、目先の恐怖だけで目の前の敵から逃げる。立派な敵前逃亡だ。が、それでも逃げなければ確実に死ぬという本能からの警告に従って彼らは逃亡を選択した。
繰り返し言うが、推力ではプロトケンプファーの方が遥に上回っていた。このまま何も無ければザニーは2機とも宇宙の藻屑となっていただろう。
だが、結果だけいえばこのザニー2機はニムバスから逃げ延びる事ができた。なぜなら、ニムバスが新しい獲物を見つけたからだ。

「逃がすか・・・・・・む? どうした、何を感じたと言うのだ?」

『・・・・・・』

「ええぃ、はっきりしろ! ・・・ぬ、複数の脅威があるというのか?」

『・・・・・・』

「はっきりせんな、クルスト博士にはもっと調整するよう言わねば・・・・・・まぁいい、まずはその脅威に当たるか」

そして機体を翻し母艦に戻るニムバスだったが、彼がそこで目にしたのは本隊を襲撃している新手の姿だった。





それを発見したのはチベ級重巡洋艦アドラーの管制官だった。当初はニムバスの物言いに激怒していたが、すぐに割り切り戦場の管制を必死に行っていた。だからこそ、彼は艦隊に接近する4つの光点をレーダーにて発見した。IFF(敵味方識別装置)の表示は味方と出ていたが、増援にしては方角が妙だったことが彼を警戒させた。

「味方? だがどこの機体だ? ・・・接近中の機影に告ぐ、所属を言え。こちらはチベ級重巡洋艦アドラー、現在本艦を含む艦隊は戦闘中である。そちらの所属を明らかにせよ。応答無き場合は敵と判断s・・・」

警告を兼ねた通信を入れると、言い終わる前に正体不明の4機から応答があった。が、その返答に管制官は頭をひねる事となる。

『こちら第2943戦闘部隊、戦闘を確認して急行した。これより援護するが、当方任務中の特殊部隊につきこれ以上は機密保持の為説明できない。すまんな』

無機質な声・・・いや、ボイスチェンジャーでも使っているかのような妙な声に戸惑うが、通信を入れてくるということは味方だと当たりをつけ返答する。そしてその返答が届く頃には、4機は艦隊から視認できる距離に到達していた。

「味方か、援軍に感謝する・・・・・・しかし見たことのない機体だな、新型機か?」

その問いに相手は少しくぐもった笑いをしてから返答を行ってきた。管制官にとって・・・いや、艦隊にとって最悪な行動と共に。

『ああ、ちょっとわけありでね・・・各機、敵に対して攻撃を開始せよ』

その直後、見慣れぬ機体の内2機がシュツルムファウストを2発ずつ、合計4発発射し・・・・・・チベ級重巡洋艦アルトマルクにその全てが直撃した。

「!? 待て、味方を攻撃しているぞ! 攻撃を今すぐやめろ!」

『問題ない。任務通り敵を攻撃しているだけだ・・・各機、敵艦隊へ攻撃を続行せよ、核を敵の手に渡すな』

「な・・・敵か!? 偽装とは卑怯な・・・」

『勝てば官軍という言葉もあるのだよ・・・死人に口無しとはよく言ったものだ。4番機、核輸送艦の護衛をしている艦を集中的に叩け。2番機と3番機は護衛機を潰せ』

「くっ・・・敵機の分析急げ! 准将、敵は味方に偽装した部隊を投入しています! IFFでは友軍と出ていた為誤認しました。最新のIFFデータが敵に漏れているのかもしれません!」

「何!? 一体どこからデータが・・・情報部は何をしていたのだ無能共め! ・・・まぁいい、偽装した敵機は詳細は?」

「見た事もない新型機です。武装は・・・・・・我が軍の武装の他に見た事のない兵装があります。それとヅダ並みに高速で動きもいいです」

「むぅ・・・敵が速いなら散弾持ちとヅダ部隊で奴らを撃墜しろ!」

そこまで言った時、不明機の分析を続けていた情報士官が武装の解析が完了したことを報告してきた。

「敵機の武装の分析、完了しました。不明機4機はそれぞれが異なる武装を持っております。様々な角度からの映像を解析した結果、1機は120mmザクマシンガンと240mmザクバズーカを持ち、1機は197mmショットガンとハンドグレネードを持っております。また1機は両腕にナックルシールドらしきものを持ち、腰に外装式と思われる武装を持っております。外見から判断する限り、おそらくビッグガンと2連ロケット弾ポッドだと推測されます。最後の1機はやたら重武装で90mmライフルとナックルシールド、腰部に105mmザクマシンガンにヒートホーク、更に背部に197mmショットガンを持っております」

「・・・・・・最後のはベンケイ気取りか?」

「最後の機体を狙え、それだけ重装備なら運動性は他の3機に比べ低いはずだ!」

「だめです。連中もそれは承知の上のようで、常に他の機体がサポートを行っている模様です!」

そう指示している間にも状況は変わっていく。奇襲を受けたアルトマルクは艦隊から離れるように針路を変更しており、それに気がついた見張りが報告を入れる。

「アルトマルク、艦隊より脱落します!」

「何!? ・・・・・・くそ、よく見たら艦橋が前後ともに吹き飛んでいるじゃないか。あれでは内部の人間が応対するまで操艦できず漂流するしかない。この乱戦の中、果たして生き残れるかどうか・・・・・・」

「かまうな、あちらに敵の攻撃が集中すればこちらが生き残れる可能性が高くなる。今はこちらの事だけ考えろ! 本艦隊は陣形を維持できる最大船速にて脱出を敢行するぞ」

「りょ、了解しました。それと迎撃機が敵新型機に接触します」

その言葉通り、ヅダ2機とショットガン持ちのザク2機が敵機へと攻撃を開始した。だが・・・

「くそ、なぜ当たらん!?」

「なんて速度だ、このヅダ並どころか上回る速度だと? 悪い冗談だ!」

「おいバカやめろ! 外れた散弾が友軍機に当たりかけたぞ! ちゃんと狙って撃て!」

マシンガンや散弾が何発も放たれるが、それは一向に当たる様子を見せない。それどころか一部では友軍誤射までおきかける始末だった。
それも無理はない。なんせ敵機はヅダを上回る速度で味方を翻弄するのだから。しかも護衛のモビルスーツ隊は他の連邦軍機からも艦隊を守らなければならないのだ。そのプレッシャーは焦りとなり、ほんの僅かだが動きが雑になる。勿論雑にならずに任務を遂行するパイロットもいるが、焦りを覚えるなといっても難しいだろう。
話を戻すが、迎撃機が苦戦してる間も損害は増えていく。今も1機のザクがナックルシールドを両手にもった未確認機にぶっ飛ばされたところだ。しかも追い討ちとばかりに腰部分につけられた外装式バルカン砲を撃ち込まれ撃破された。
そして、ここでザクにのっているパイロットが何かに気づき、同僚に通信を入れた。

「くそ、1機撃墜されたぞ!」

「・・・・・・おい、何かおかしくないか?」

「あぁ? 何がだよ!」

「・・・他の連邦軍機、あの敵機に対して戸惑ってないか?」

怒鳴っていたパイロットもそう指摘されて初めて違和感に気がついた。あの4機が攻撃を開始してから何か挙動がおかしいのだ。まるであの4機が味方ではないかの様に・・・そしてそれは疑問を持っていた彼らの前で起こった。

「撃ってくる奴は敵、それが前線のルールだろ? 気にはなるが変なことを考えてると不覚を・・・何!?」

「な!? なんで奴ら同士討ちをしてるんだ!」

彼らが撃墜せんとしていた敵機めがけて、連邦軍のセイバーフィッシュが攻撃を行ったのだ。もっとも、その攻撃は難なく回避され、そのセイバーフィッシュは他の艦隊護衛についていた友軍のザクによって撃墜されてしまったのだが、その光景を二人はしっかりと目撃した。

「おい、あの不明機4機は連邦軍じゃないのか?」

「・・・いや、もしかしたら一般には知られていない特殊部隊所属の可能性もある。これなら一般兵が誤解してもおかしくない」

「特殊部隊が? 何の為に?」

「核を破壊する事、十分な理由じゃないか? 一般部隊が梃子摺ったら投入する切り札と考えれば、あの不明機体の事もある程度は納得できる」

「そんなもんか・・・」

「・・・ああ、それよりも奴等を早く落とそう。詳しい事は奴の残骸でも回収すればわかるだろう」

「そうだな、よし追うぞ!」

「ああ・・・(もっとも、他の可能性としてはこの艦隊のトップ、あえて言うならキシリア派を嫌う面々の、同じジオン側が雇った傭兵って可能性もあるがな。むしろこちらの方が可能性は高いだろうがな)・・・・・・まぁ疑念は後回し、今は敵機を落として生き残るのが優先か」

だが、彼がこの疑念を晴らす事はなかった。





正体不明機

「くっ・・・手強い」

核輸送艦に襲撃を仕掛けた4機だったが、艦隊の護衛についていた部隊、特に動きの優れているEXAM搭載モビルスーツに手を焼いていた。既に何隻かにダメージを与えてはいるものの、肝心の核輸送艦にはマシンガン数発が命中したくらいのダメージしか負わせていない。
しかも艦隊と接触しているせいで護衛の艦艇からの攻撃も激しい。そんな中護衛部隊の攻撃も凌がなくてはならないのだ。護衛のムサイ級から放たれる弾幕を回避しつつ、マシンガンをこちらに向かって急接近しようとするEXAM搭載型リックドムに向けて連射するが、数発撃ちだしたところで弾切れとなった。が、牽制程度には役に立ち、EXAM搭載型リックドムはいったん距離を取って体勢を立て直そうとする。
既に240㎜ザクバズーカは弾が切れ放棄済み、マシンガンも予備マガジンは使い切っていた。その中での弾切れ。つまり、この機体には兵装がもう残っていないのだ。

「弾切れか・・・各機、状況を報告せよ」

「・・・2番、予備弾及びハンドグレネード消耗。今装填しているマガジンで撃ち止めです。損傷は軽微」

「4番、105㎜マシンガン及び90㎜ライフルを投棄。ナックルシールド損壊。ショットガンは予備弾倉1つ残ってますが、左腕に被弾し肘から先が吹き飛びましたので再装填は無理です」

「3番、外装式武装両方弾切れです。機体各部に被弾しましたが、戦闘行動には特に支障ありません」

既に彼の部下達も戦闘続行は困難なレベルだった。

「ふむ・・・全機、一度集結せよ。後4番、ヒートホークを貸してくれ。こっちは弾切れで武装がない」

「了解、これからそちらに行きます」

そしてマシンガンをリックドムに向けて投げつけ、その隙に一気に機体を加速させ戦場から離脱を開始する。リックドムを含む護衛機は追撃を仕掛けたが、押し寄せる連邦軍攻撃機も無視できず追撃はできなかった。
そして輸送艦隊から少し離れたところで、4機は無事合流した。

「4番、ショットガンと予備弾倉を渡せ。再装填しておくから、その間にヒートホークを準備してくれ」

「了解・・・しかしあまりダメージを与えられませんでしたね」

「仕方あるまい。奇襲で重巡1隻大破させ、他何隻かを損傷させただけでも十分だ・・・よし、装填終わったぞ」

「ありがとうございます。でも、これからどうします? 戦闘続行ですか?」

その言葉に隊長は一瞬迷うものの、きっぱりと言った。

「いや、撤退だ。そもそも弾薬が足りんし、このまま無理に続けては返り討ちに合う。それに・・・そろそろ増援が来る頃だろう」

「・・・こちら2番。隊長、『そろそろ』ではなく、『もう』です」

その言葉と同時に3機が一斉に2番機の方に視線を向ける。2番機の遥か先には、こちらに接近中のスラスター光が多く確認できた。

「モビルスーツ部隊がこちらに接近中です。数は30機、おそらくキシリア派の空母部隊からの増援かと思われます」

「ふむ・・・輸送艦の護衛もある程度叩け攪乱もできたことだ。任務はある程度成功したと見なす。我らはこれより撤退する、撃墜されたり追跡されたりするヘマをするなよ?」

そうして撤退しようとした彼らだったが、ここで彼らは災厄に出会うこととなった。機体を翻そうとした彼らに通信が入ったのだ。そしてその発信源は高速で迫る1機のモビルスーツ。その機体はある程度近づくと止まり、ビームサーベルを4機の方に向けて話してきた。

『そこの機体、騎士である私に裁かれるがいい!』

そう、何かを察知して帰ってきたニムバスに目をつけられたのだ。帰還中に敵機を何機も撃墜した為、ガトリング砲はパージされショットガンも投棄していたが、目立った損傷は見当たらなかった。機体性能に優れ腕もいいパイロットと対峙するという事態であったが、隊長はニムバスに向けてこう言い放った。

「やれやれ、確かに凄腕かつ機体性能も高いようだから脅威だが・・・自己中心的なのは頂けんな。厨二病患者は精神病院に逝け。一度精神鑑定を受けてみろ、まぁ即日隔離されるだろうがな」

時が止まった。そして何を言われたか理解したニムバスは、怒りに顔を赤く染めた。

『き、き、貴様・・・・・・騎士である私を愚弄するとは、絶対に許さん!! そこに直れ、切り刻んでくれる!!』

「んなこと言われてはいそうですかと従う敵機がいるとでも? これだから単細胞は救いようがない。むしろ脳筋ってやつか? かわいそうに、両親が泣いているぞ。というか自らを騎士とか痛すぎて泣けてくるな。あれだ、『自称』騎士(笑)ってやつか?」

『・・・殺す!!!』

さらなる暴言にニムバスの怒りのメーターは振り切れた。目の前の敵機を切り裂くために一気に加速させるが、向こうが身をひるがえしスラスターを噴かせるほうが若干早かった。

「各機、予定通り撤退する。敵機を振り切れ、緊急加速ブースターを起動せよ」

『逃がさん! このワタシを愚弄した罪………その身で贖ってもらうぞ!』

1~2秒間だけ緊急加速できる外付け式の小型ブースターを正体不明機は搭載しており、それによって先手を取って離脱することができたが、ニムバスの試作EXAM搭載型プロトケンプファーは最高速度で正体不明機の最高速度を上回っていた。結果、即座に追いつきはしないが4機の正体不明機とニムバスとの距離を少しずつ、だが確実に詰めてられていた。正体不明機にとって幸運だったのは、これまでの戦闘でニムバスが飛び道具を撃ち尽くしていた事だろう。もし射撃武器が残っていたら確実に何機か食われていた筈だからだ。

「チッ、流石は新型機というところか。こちらの機動についてこれるとは侮れん」

『クククク・・・このスピードの前に敵なぞいないッ!! 我が裁きを受けるがいい!』

「隊長、少しずつですが距離をつめられています。このままでは・・・」

「・・・慌てるな、艦隊から引き離せば向こうはこちらを諦めざるをえん。それまで逃げるのみだ」

『それまでに貴様らを始末すればいいことだ!』

だが、死のレースは唐突に終わりを告げる事となる。当事者ではなく、第三者の手によって。





デブリベルト 不明艦

「目標の輸送艦、確認しました。艦隊の中央ですが、問題ありません」

「よ~し『魚雷』を放つぞ、装填できてるな!? 予定通り発射後にある程度時間を置いてからスリーパーミサイルを3斉射だ。3射ともほぼ同時に目覚めるように設定しておけ! それ以降は通常弾をオートで発射するよう設定しろ。俺らは自爆装置を起動させて逃げるぞ!」

「あいあい。まぁ自爆装置を起動させなくとも、一定の弾を発射したら動力がオーバーヒートして勝手に自爆するんですがね・・・『魚雷』特殊弾頭弾装填完了、目標の予想進路に照準完了・・・回避運動をとってもとらなくても、このコースなら確実に1発は命中しますぜ」

「まぁ他の艦が盾にならなきゃって前提だがな。最も、上は更に保険をかけてるだろうけど・・・っと、時間か。よ~し、ぶっ放せ!!」

「あいさ、ぶっこみいくぜ!」

そういって『魚雷』を発射し、しばらく置いてからミサイルを発射開始する。そしてミサイルを撃ち終えた直後には漆黒のステルス塗料が塗装された小型艇がデブリベルトへと脱出を終えていた。





本隊旗艦 チベ級重巡洋艦アドラー

「友軍増援艦隊接近、ガニメデ級1、ジークフリート級4、合流まであと・・・ん? なんだこれは?」

増援艦隊のモビルスーツ部隊が到着したことでアドラーの艦橋内でレーダーを見ていた管制官が不審な声を上げ、それを聞いたデラミン准将がその管制官に叱責した。

「どうした? 報告はちゃんとしろ、何かあったのか?」

「いえ、今センサーに妙な反応が・・・・・・デブリベルト方面に高速物体らしきものを確認したかと思えば、次の瞬間には反応が消えたんです」

「ゴースト(虚偽標的)又は機器の故障か?」

「いえ、もしかしたら・・・・・・! 10時のデブリベルト方面からミサイル6発高速接近、至近距離です!」

「回避急げ!」

その言葉に艦橋は一気に騒然となった。いや、ミサイルに気が付いた他の部隊もミサイルを回避しようと各個に回避運動を取り始めていた。

「何!? 索敵は何をしていた!」

「恐らくステルス処理をされたスリーパー・・・一定時間後にシーカーと推進器が目覚めるようにされたミサイルかと思われます!」

「まずいです准将。現在ミノフスキー粒子を散布していますがこの宙域のミノフスキー粒子濃度は未だ薄く、ミサイルの誘導能力が生きている可能性があります」

「いかん、迎撃を急げ! それとデブリベルトを調べさせろ、敵艦がいるはずだ!」

「待ってください。新たにミサイル探知、12発! 合計で18発が急速接近!!」

「当てさせるな、迎撃しろ!」

そういってミサイルに対して迎撃が行われるが、ミサイルに目がいっていたせいで彼らが『魚雷』に気が付くことはなかった。

「報告、護衛機がデブリベルト内に敵艦捕捉。これは・・・・・・サラミス級の改造と思われる艦が1隻います」

「改造? どういうことだ」

「外見の多くにサラミス級と同じ特徴を持っているのですが、艦首にレールガンらしきものが6門確認できます。おそらくミサイルを連続射出する為の装備かと・・・ただし、それ以外の武装は見当たりません。また船体もかなり損傷しているようで、おそらく廃船を流用した砲台ではないかと思われます」

「だがレールガンでミサイルを撃つにしても、ミサイルが誤作動を起こすだろ常識的に考えて」

「ミサイルに特殊な加工をしていたのではないでしょうか?」

「まぁいい、デブリベルトの敵艦にミサイルを叩き込め!」

だがそこで直援についていた護衛機の1機が異変に気が付く。輸送艦スケネクタディに高速で接近する複数の漆黒の物体に。そして。

「輸送艦スケネクタディに高速飛翔物複数接近中! 命中します!」

「何!? スケネクタディに回避命令を出せ」

「間に合いません!」

そしてソレらの内2つがスケネクタディの横っ腹に直撃した。が、予想に反してそれは爆発することもなく、突き刺さったままであった。

「ふ、不発か? 2発とも?」

「スケネクタディに被害状況を報告させろ。核に何かあったら洒落にならんぞ!」

だが、彼らがスケネクタディから被害報告を受け取る事はなかった。





輸送艦スケネクタディ 格納庫

格納庫内の1室、そこには様々な装置が設置され、そこをクルスト博士を中心とする白衣の男達がデータの収集と分析を行っていた。

「くくく・・・思いがけずいい実戦データが収集できた。手土産には十分すぎるな」

「ですが博士、ニムバス機の新型EXAMに若干の鈍りが出てきています。おそらくですが、初めての実戦のせいで負担がかかっているのだと予想できます。これ以上の戦闘はやめた方が安全かと思いますが?」

「それにパイロットも敵の挑発によって頭に血がのぼっているようです。幸い援軍が接近中とのことですので、一旦帰還させては如何でしょうか?」

「む? ・・・いや大丈夫だ、この程度なら許容範囲内だ」

EXAM機の後退するべきではという意見が出るが、クルスト博士は却下する。そしてそれに続くように周囲の男達もクルスト博士に賛同し、次々と会話に加わる。

「そうですよ。それにもっと実験部隊は戦果を上げれるはずです。あの機体はそれだけの性能を秘めているのですから」

「それにアレはこの程度の負荷で壊れるわけがありません。もし壊れても次の素体にそのデータを反映すればいいだけです」

「それにグラナダの研究拠点でもモルモットをベースにした素体の製造が開始されていますしね」

「そして戦果を上げれば上げるほどキシリア様はお喜びになられるでしょう。そして我々も予算が増えて万々歳・・・笑いが止まりませんな」

「は、はぁ・・・キシリア様、ですか・・・・・・」

「た、たしかにキシリア様は裏の支援を考えるとツィマッド社を上回るスポンサーですが・・・」

色々と問題のありそうな会話を研究員達はするが、その中の一人が思い出したように呟いた。

「そういえばツィマッド社派の連中、結局研究所に残ったままですね。理由としてEXAMシステムの独自改良型開発とか言ってたけど本当でしょうか?」

「ただ単にグラナダに行きたくなかっただけじゃないのか?」

「だとしたら奴らは馬鹿なのさ。キシリア様につくことで予算が更に増えるというのにそれがわからないだなんてね」

「まぁ彼らは良心とかの下らない感情に捕らわれた愚か者ですよ。なんでモルモットに感情移入するかなぁ?」

「真のEXAMシステム開発の礎になるのだから、モルモットも本望だろうに・・・」

「とはいえ、ツィマッド社からの注文通りのEXAMシステムを構築したのは彼らがメインだ。しばらくは協力しないと、我々の研究も遅滞する。その点もちゃんと頭に留めて置くようにな、諸君」

「わかりました博士」

そんな会話にEXAM機の後退させるべきと述べた二人はため息をつき、他の者と少し距離を取ったうえで二人で話し合った。

「はぁ・・・なぁ、もしかしてこっちの派閥についたのは失敗だった?(ボソ」

「今更過ぎるな。俺達もツィマッド社派に逃げてりゃよかったよ・・・・・・え、通信? 旗艦から? ・・・はい、はい・・・博士、旗艦より通信です。EXAM小隊、特にニムバス機が艦隊を離れて深追いしている件について、速やかに艦隊に合流させるようにとのことです」

「何!? ええい、後もう少しで不明機と交戦するんだぞ! いい実戦データが収集できるだろうというのに・・・ぬぅ!?」

そうクルスト博士が言っている途中、艦に突然衝撃が2度走った。そして数秒後、格納庫は衝撃で不具合が出ていないか機材のチェックをする者や、突然のできごとに戸惑う者といった具合に軽い混乱が発生した。そしてクルスト博士は艦橋に問い合わせの通信を入れていた。

「クルストだ。一体何事だ!」

「わかりませんが、おそらく敵弾が命中したものかと。ですが爆発していないところを見ると、不発弾かと思われます」

「不発弾か。万が一もある、速やかに撤去作業を・・・?」

その中でクルスト博士は異常に気が付く。周囲に甲高い音が鳴っていることに・・・

「む、なんだこの音は・・・一体何が・・・」

そこから先をクルスト博士が言う事はできなかった。なぜなら、響き渡っている高周波が一際高くなったと思った瞬間、膨大なエネルギーによって博士は次の瞬間消滅したからだ。

突如、艦隊中央にいた輸送艦スケネクタディから閃光が迸り、次の瞬間にはデミラン准将のチベ級重巡洋艦アドラーを含む本隊は閃光に飲み込まれて消滅した。
迸る閃光、それはスケネクタディに載せていた1発のMk-82型核弾頭が起爆したものだった。史実ではソロモンで観艦式をしていた連邦艦隊の半数を吹き飛ばした代物が至近距離で起爆したのだから堪らない。距離を開けていた・・・というか置いてけぼりを食らったコンスコン艦隊とVF艦隊は辛うじて無事だったが、核輸送部隊の本体と、その本隊を追撃していた連邦軍艦隊は少なく無い戦力が核に巻き込まれたようだった。





連邦艦隊 砲戦部隊旗艦 マゼラン級戦艦セント・ヴィンセント

「状況は!? 部隊の被害報告急げ!」

突然巨大な閃光が発生しその直後に艦を大きな衝撃が襲った。そしてその揺れが収まると同時に艦長は命令を下す。その数秒後には次々と被害報告が上がってくる。

「ほ、報告します。敵艦隊を追撃していた攻撃隊のシグナル、すべてロスト! 攻撃部隊は・・・ぜ、全滅したものと思われます」

「馬鹿な・・・」

だが、呆然となっている間にも次々と悲報は入ってくる。そしてそれは艦長を現実逃避させかける代物だった。

「先行していた第599戦隊の巡洋艦アリシューザ以下3隻の全艦から応答ありません」

「衝撃波によって戦艦マルテル及び巡洋艦カレドン大破、航行不能。総員退艦命令が発令されました」

「強力な熱と衝撃波、それにガンマ線等の放射線を感知! 爆発規模から推測するに、トリントン基地から奪われたMk-82型核弾頭が爆発したものかと推測されます」

「第593戦隊所属の巡洋艦ホークとアヴローラが衝撃波の影響で衝突、爆沈! またその余波で同戦隊所属巡洋艦マンリーにデブリが直撃し大破しました!」

そこまで報告を聞いて、艦隊総旗艦のカワチから何も言ってこない事に気が付いた艦長は通信士に尋ねる。

「カワチから何か言ってこないか?」

だがそれに答えたのは別の兵からであった。

「艦長・・・カワチのシグナルが随伴艦共々見当たりません。最後に把握していた位置は、巡洋艦アリシューザと戦艦マルテルの中間くらいの位置で、おそらく・・・・・・」

「沈んだ可能性が高い、か・・・・・・全艦に通達。旗艦との連絡がつかないため本艦が臨時に指揮を執る。戦闘可能な艦を殿にしてルナツーに撤退する。なお無事な艦載機は艦隊の護衛につけ」

この命令は通信だけでなく信号弾や発光信号も使って伝達され、連邦艦隊は撤退に入った。それを見送るジオン側だったが、こちらも追撃を仕掛ける余力は残っていなかった。





ジオン艦隊 チベ級重巡洋艦チベ

「しょ、少将。本隊のシグナル全てロスト、通信にも応答ありません。それと電磁パルス等が観測されています。恐らくは・・・・・・」

「・・・核が爆発したか。連邦艦隊はどうしている?」

「少々お待ちください・・・・・・・・・連邦艦隊、確認しました。ですが核の爆発に巻き込まれたらしく、数を減らしています。あ、信号弾確認、発光信号もです。どうやら撤退を開始しているようです」

「連邦の陣形は?」

「・・・・・・損傷の少ない艦を殿にする模様です」

「流石だな。核爆発で混乱しているだろうに、即座に行動できるとは・・・やはり連邦軍は侮れんな」

「少将、これからどうされますか? 連邦艦隊が撤退するのであれば追撃しますか?」

「いや、追撃は必要ないし、そもそもこちらもそんな余裕は無い。敵戦艦部隊との砲戦の被害が馬鹿に出来んしな」

そう、コンスコン率いる後衛艦隊は連邦砲戦部隊との砲撃戦の結果、チベが大破に近い中破、ムサイがそれぞれ1隻沈没、1隻大破航行不能(後に自沈処分)、1隻中破し、パプワ級はミサイルが被弾し小破という損害を受けていた。数で優勢な連邦軍砲戦部隊を相手にこの損害は極めて低いと思えるが、なんてことはない。連邦軍砲戦部隊の大半がコンスコン艦隊を無視して本体を追撃した為、コンスコン艦隊への圧力がかなり減ったからだ。とはいえ、マゼラン級戦艦1隻にサラミス級巡洋艦3隻と砲戦を行い、コーラル級重巡洋艦2隻に護衛されたアンティータム級空母1隻が搭載していた30機以上のボール部隊と交戦した結果でこの損害なら十分奮戦したといえる。しかもボール部隊に少なくない被害を与え、サラミス級1隻撃沈、1隻大破という損害を与えていたのだ。並みの将ならば全滅していてもおかしくはない。
だが、だからといってこの残された戦力で追撃などできるはずがなかった。

「それに核輸送任務は失敗した以上、現時点を持って任務を終了し救助活動に移る。後、増援艦隊と各方面に通信を送れ。敵の攻撃により輸送艦が沈没、核が誘爆し艦隊に甚大な被害が発生、本隊はほぼ消滅したとな」

ほぼ消滅。これは大破して漂流していたチベ級重巡洋艦アルトマルク以外のシグナルが全てロストしていたから発せられた。奇襲攻撃によって艦橋を潰され迷走していたアルトマルクだったが、迷走し艦隊から落伍したが故に核爆発に巻き込まれずに助かったのだ。人生万事塞翁が馬、何が幸いするかわからないとはこのことか。

「了解しました。アルトマルクは通信アンテナも全て全壊しているので、こちらから連絡艇を出し指示に従うように連絡します」

「うむ。敵味方関係なく助けを求めるものを救助せよ。それと損傷を受けた艦は応急処置を急がせろ」

戦闘が終了したと判断し矢継ぎ早に指示を出すコンスコンだったが、内心ではあることを考えていた。

(万が一に備え、戦闘になったら本隊とは可能な限り距離を取るようにとドズル閣下から厳命を受けていなかったら・・・考えるだけで恐ろしい。だが、そんな指示を出されたということはドズル閣下は核が爆発する事を知っていた? いや、まさかな・・・・・・まぁ責任を問われても元々無理のあった混成艦隊だ。あまり強くは追求されまい)

そんな事を考えつつ、コンスコンは指示を出し続けた。この戦闘の結果、連邦は核の奪取又は破壊という目標を達成できたが作戦に投入した機動兵器の大半と多くの艦船を失った。またジオン及びVFも艦船や機動兵器の多くを失い、輸送中の核弾頭を破壊された。
結果から見れば核を破壊した連邦側の辛勝ともいえる今回の戦闘だったが、投入戦力と損失戦力を考えれば連邦軍はジオン及びVFをはるかに上回る戦力を失った事となる。これがこれからの戦況に及ぼす影響は少なくなかった。







少し離れた宙域に、サイド6船籍の輸送艦がゆっくりと航行していた。だが、その船は民間船という割には偽装された各種センサーが多く設置されており、多くの情報を収集していた。

「・・・報告します。通信傍受の結果、輸送艦に積まれていた核が誘爆しキシリア派のデラミン艦隊が壊滅したようです。設置していた監視衛星からの映像と電磁パルス等の観測結果から考えても間違いないかと思われます」

「・・・・・・・ん、待機中のヅダイェーガーに命令。戦闘配置を解除、これより本艦は帰還するとな」

輸送船内部の偽装格納庫にて待機状態だった真っ黒な2機のヅダイェーガー。そしてその内の1機が持っている280mmザクバズーカに装填されている弾頭には、とあるマークが記されていた。
南極条約によって封印された、あのマークが・・・













キャリフォルニアベースツィマッド社エリア 社長室

「・・・そうです、クルスト博士は護衛していた核兵器の誘爆に巻き込まれて行方不明です・・・・・・乗っていた艦が消滅したようですし、博士は戦死したと判断せざるを得ないでしょう・・・・・・ええ、それですが博士の意思を受け継ぐため、EXAMシステムの開発は今後我々ツィマッド社が引き受けます。その為にもサイド6に残っている人員もこちらにまわしてくれるとありがたいのですが・・・・・・・・・いや、そちらの研究を譲り受けることになるこちらが礼を言わねばならないので・・・・・・彼の研究資料の回収は数日以内にこちらから人員を派遣しますので・・・・・・ええ、ありがとうフラナガン博士。それではまた・・・」

そういって悲しげな表情を浮かべながらエルトランは通信を切った。が、その悲しげな表情は通信を切った次の瞬間には無表情となり、ゆっくりと目を閉じた。そしてそのまま数秒目を瞑っていたかと思うと、大きなため息をしてかぶりを振る。そしてゆっくりと手元の書類に目を向け、残念そうな、それでいてどこか嫌そうな表情で呟いた。一番上の書類にはサラミス級の沈船を再利用した砲台、コールサイン『カハホリ』の隠蔽自爆が無事成功し船員も見つからずに脱出できたという報告書だった。

「・・・クルスト博士、あなたは極めて優秀な科学者でした。ですが恨むなら自分自身を恨んでください。あなたのした行動は我々にとって見れば裏切り行為であり、その結果我々はあなたを暗殺しなければならなくなったのですから。核弾頭と鹵獲輸送船への細工までしてまで・・・いえ、今回の核攻防戦という茶番劇で・・・」

エルトランの手元にはいくつかの報告書があり、それは内容を確認したエルトランを激怒させたほどの内容だった。元々エルトランは情報を外部に漏らさないことを条件の一つとしてフラナガン機関でも冷遇されていたクルスト博士の研究を支援しており、対ニュータイプ部隊の設立や資金・物資の手配等を行っていたのだ。だがエルトランの手元にある報告書はとある場所にクルスト博士が密かに送っていたもののコピーで、言ってみれば外部へ情報を流出させていた証拠といえる代物だった。
そこにはクルスト博士が研究していたEXAMシステムの報告書やEXAMシステム搭載型モビルスーツの詳細な設計データといったものも書き込まれており、これだけでも十分部外秘の極秘情報だった。が、その後に記述されている報告こそ、エルトランを激怒させ結果的にクルスト博士の暗殺を決めた内容だった。

『ツィマッド社宛て 7月5日:EXAMシステムは対ニュータイプ機能を取り除き機体性能を向上させるOSというコンセプトで開発を続けています。つまり、人間の脳波を電磁波として捉え、その中のいわゆる「殺気」を判別し敵パイロットの位置の特定や攻撃の瞬間を察知して回避するという、ソフトウェア的にニュータイプに近い戦闘動作を行わせるものです。ですがそれでもシステムの大型化は避けられず、機体に余裕が無いとバランスよく組み込む事ができません。ツィマッド社から提供されたイフリートに組み込んだ結果、機体に多大な負荷をかけ、起動すると短時間でオーバーヒートしてしまう結果となりました。新たにドム及びリックドムを1機ずつ受け取りましたが、これを2機ともMS-09F ドム・フュンフ(以後ドムと記載)に改造し、それぞれ違うシステムを組み込む事となりました。これによって2機のドムを使い比較検討することでシステムの改良点を洗い出したいと思います。これによって得たデータを用いてシステムを完成させますので、ドムを上回る新型機の提供をよろしくお願いします』

『××××宛て 7月15日:廃棄予定の被験者は表向きは処分されたことになっていますが、実際は極秘にツィマッド社に譲り渡されており、その数は推定で数十人以上と思われます。ツィマッド社はそれらの戦力化を進めており、警戒すべき事態と言えるでしょう。一方我々の手元に残る、文字通り自由に使える素材は本当に廃棄せざるを得ない被験者のみとなっています。いくら我々の研究が被験者を用いないとはいえ、これでは対ニュータイプ用システムの開発に支障が出ます。よって、廃棄予定の被験者のリサイクル案として生体脳コンピューターの開発、およびそれを利用した対ニュータイプ用の新型EXAMシステムの開発を提案します。なにとぞご支援をお願い致します。なお、すでに開発されたEXAMシステム搭載型のイフリート改の設計図を添付しますのでご利用ください。なお、イフリート改は陸戦機ですが、現在宇宙でもテストできるように改修を行っております。完成出来次第その設計図を送らせて頂きます』

『××××宛て 8月15日:ご支援ありがとうございます。各種援助のおかげで他部門の裏と協力関係の構築ができました。これで本格的に生体脳コンピューターの開発を行えます。ただ、協力関係となったマガニー氏の進める、ニュータイプ兵のクローンによる量産計画は正直私としては認めたくありません。将来の脅威を量産するなど唾棄すべき行為です。まぁその為のEXAMシステムなのですが・・・それとツィマッド社側が要求していたEXAMシステムですが、そちらの開発は一応順調であり、以前よりも完成度は高くなっています。ツィマッド社が開発依頼していたEXAMシステムを搭載するドムの設計図を添付します。システムはまだ未完成品ですが、ノーマル機と比べるとある程度の性能向上には成功しているのでご利用ください』

『××××宛て 8月24日:EXAMシステムとは関係ありませんが、私の知人であるレイビット・コジマ博士に支援をしてくださるようお願い申し上げます。博士が開発中の人の神経、脊髄や延髄を経て脳とモビルスーツの統合制御体が直接データをやりとりをする生体機体制御システムは大変興味深い代物です。一般兵士を手術することでモビルスーツを己の体と一体化させ、驚異的な戦闘力を会得する計画だそうです。この計画が成功すれば極めて強大な戦力が手に入ることとなるでしょう。支援の検討をお願い致します』

『××××宛て 9月1日:そちらのご支援のおかげでこの手の研究に詳しい外部の組織との接触ができ、資金及び物資と引き換えに必要なデータを入手しました。このおかげで生体脳コンピューター及びそれを用いた新型EXAMシステムの開発は順調です。この分なら来月中にでも、生体脳コンピューターを用いた新型EXAM搭載機が完成するかもしれません、吉報をお待ちください。それと私の手元から離れたニュータイプのマリオン・ウェルチですが、ツィマッド社社長であるエルトランの秘書兼護衛扱いになっており、彼女をそちらの手駒にするのは強硬手段以外では不可能と思われます。他にも廃棄処分扱いでツィマッド社に引き取られた者達の現住所を含む個人データを添付しました。参考にしてください』

『ツィマッド社宛て 9月8日:宇宙用に改修したイフリート改2型ですが、ある程度ものになりました。性能は満足できませんが宇宙でも地球でも使える機体となったので、ここにイフリートをベースにしたEXAMシステムの開発を終了とします。今後はこのデータを参考にドム及び譲渡予定の新型機であるプロトケンプファーへ乗せるシステム開発を行います。なお、万が一に備え予備のEXAMシステム開発計画をスタートしました。これは現在のEXAMシステムとは異なる方式で性能向上を目指すもので、保険として用意いたしました。ご了承ください』

『××××宛て 9月8日:マガニー氏の進めるクローン兵量産計画ですが、その派生型として誕生した『CTN』という計画に協力して欲しいと、CTN計画責任者のディアス・サイフォ氏から要請されました。どうも遺伝子に手を加えたクローン兵士の量産計画のようですが、今後の為にも協力する事となりました。この計画と私のEXAMを組み合わせることで、将来的には無人モビルスーツが完成することも夢ではありません。後、宇宙用に改修していたイフリート改がある程度ものになりました。システムとスラスターの増設といった改修がメインだった為に燃費は極めて悪いと言わざるを得ませんが、宇宙でも地上でも使用できる機体となりました。このイフリート改2型の設計図を送らせて頂きます』

『××××宛て 9月23日:クローン兵量産計画の一環である、遺伝子に手を加えた上で特殊な培養槽にて体を急成長させる短期培養型クローン兵計画を見学させていただきました。これは私見ですが、この計画は実用的とはいえません。戦力化できるのがおよそ6年前後とニュータイプクローン計画よりは短期間でできますが、外見年齢はそれでも10歳前後、更に寿命は格段に短く計画上では30年も持たないとされ、コストパフォーマンスは最悪と言えるでしょう。事実、マガニー氏はニュータイプクローン計画を優先しており、この研究はあくまで実験レベルと分かります。ニュータイプクローン計画の戦力化がおよそ10年前後、寿命も計画上では最低40年は持つとの事なので、あくまでこのCTN計画は短期間でクローン体を無理なく急成長させる方法、その研究がメインだと思われます』

『ツィマッド社宛て 9月25日:YMS-18A プロトケンプファーの受領、確かに確認しました。現在システムの高性能化を進めており、まだしばらくかかりそうです。遅くとも2週間以内にはある程度の高性能化ができると考えておりますので、吉報をお待ちください』

『××××宛て 9月26日:ツィマッド社から渡されたYMS-18A プロトケンプファーの解析が完了しました。そちらへ送らせていただきます。生体脳コンピューターの開発は他の部門との協力により素材も現時点では不足することはありません。2週間以内に実用に耐えるレベルのものが1つ完成できると思われます。吉報をお待ちください』

『××××宛て 10月9日:生体脳コンピューターの開発は順調であり先日1つ完成、本日明朝に新型EXAMへの組み込みが完了したところです。現在ツィマッド社の新型モビルスーツであるケンプファーに搭載を完了し調整中です。また、ツィマッド社の依頼だったEXAMシステムも完成度の高い物が仕上がり、試験中のドムへの搭載が完了しました。まだ調整が完全ではないので、完成次第両機のデータを送らせていただきます』

『××××宛て 10月13日:新型EXAMの微調整を本日無事終えました。テストパイロットのニムバス・シュターゼン少佐はうまく使いこなせている模様です。本来なら今回この新型EXAM搭載プロトケンプファーとEXAM搭載ドムの設計データを添付したかったのですが、完成した機体を今から地球からグラナダに向かう輸送艦の護衛を兼ねて試験運用する事となり、その準備に追われている為次回の報告時に添付したいと思います。その際今回の模擬戦で得られる各種データを添えて送らせていただきます』

タイトルには「対ニュータイプ用新型EXAMシステム開発案」「廃棄予定被験者リサイクル案」「生体脳コンピューター開発計画 定時報告」「生体脳コンピューター用ニュータイプ製造計画」「対ニュータイプ用強化人間開発計画」等と書かれており、他にも「孤児院等への襲撃事件」といった案件の詳細な報告書を眺めながらエルトランはため息をついた。

「今更ですがクルスト博士、別に貴方の行った研究自体には文句を言いません。研究内容は胸糞悪いですが、必要悪という言葉が存在するように、我々も似たような研究を医療目的で研究していましたからね。ただ3つの点が決定的に問題だった・・・・・・1つ目は貴方が対ニュータイプ戦を意識しすぎて我々をないがしろにしたこと。2つ目、この研究データを送った先が私の敵だという事。そして3つ目はマリオンを含む関係者の情報をばらしたことです。もし仮にこの3点・・・いえ、特に後者が無ければ、我々は貴方の研究を黙認し、貴方は今も研究を続けていた事でしょうね」

エルトランが見ていた報告書、その全ての文面はとある場所に送られていたとの報告があった。
その場所は月の裏側、フラナガン機関のもうひとつのスポンサーのいるところだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
言い訳という名のあとがき

投稿遅くなって申し訳ないですorz
以前生存報告した際、喉風邪を引き投稿が遅れると書き込みましたが……あの後病院逝ったら百日咳との診断を受けました(爆) しかもその数週間後、一向に治らないので更に検査したら、百日咳から進化して軽い喘息になってました(核爆
その後も色々あってモチベーション低下して執筆する気力が激減し、なんとか病気も治り持ち直した頃にはなんて書こうとしていたのかすっかりわからなくなってしまい、手探りで執筆&修正をしてました。
なのでどこか穴があるかもしれません。誤字脱字や矛盾点等を発見した場合は、お手数ですが感想の方に一報お願いいたします。



[2193] お知らせとお詫び
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:36051ed4
Date: 2015/04/03 01:17
本当にすいません、音信不通状態になってて申し訳ない作者のデルタ・08ですorz

そして更に申し訳ないのですが、家業を継ぐために来年3月から最低2年ほどPCが使えない状況になるので、これを機会に作品の改訂を行おうと考えています。よくよく見返してみたら色々と無理があったり、修正すると言ってた箇所が修正し忘れてたり、結構やばいことになってたりしてましたので(汗

本当は一旦休止にして復帰したらまた続きから再開しようと考えていたのですが、本SSはもともと当時執筆していた違うSS(現在は削除済み)の息抜きとして勢いで書き始めた作品でした。なので設定がすごいブレており、執筆当初の一応の終わり方はチートなジオンの勝利という形で考えていましたが、途中から色んな要素が加わった為にその方向での終わりができない状態になってしまいました。現在は違う終わり方を構想していますが、やはりそれに繋げるには色々と直した方がよさそうだと考えています。
それに最初は外伝でしか出してなかった他作品のキャラが本編に出てきた時点で、純粋なガンダム作品というよりクロスオーバー作品になってしまったので、その点も改訂をする理由の一つです。
なお改定を決意した最大の理由ですが、他のガンダム作品に出てくる兵器の存在です。ブレイジングシャドウに出てくる狙撃ライフル持ったヅダFを見た瞬間、本SSのヅダイェーガーを連想し、このヅダFを狙撃仕様という設定にした方がよくないかと思い、またジ・オリジンに出てくるレパント級ミサイルフリゲートは見た瞬間これは使えるんじゃないかって思いました。
勿論改定するにしても以前皆様から頂いたアイデア等は可能な限り使わせていただきます。それに改定せずそのまま使いまわす文章もあるので、実際のところ全面改訂ではなく一部の改訂といったとこでしょうか。

絶対に完結させると言っておきながらこの体たらくで本当に申し訳ないです。一応改訂版を出して完結させるつもりですので、できるならば見捨てないでやってください(滝汗

なお、改訂版を投稿できるようになったら以前の文章は削除します。
誠に勝手ですが、どうか皆様のご理解ご協力よろしくお願いします。



[2193] ツィマッド社奮闘禄 改訂版プロローグ
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:d119aeb1
Date: 2016/03/11 19:09
最初に
この作品は2006年8月7日に投稿を開始した作品の改訂版です。
とはいえ、改訂版と銘打っていますが実際は改定前のものに加筆や削除等を加えたもので、おそらく改定前のものと文章が変わってない場面が多いと感じると思います。
なので基本的に現実→UCへの憑依ものというのは変わらず、ジオン側を有利にする為ご都合主義(もちろん連邦にもてこ入れしてますが)がはいるのには変わりがなく、更に神様転生要素を含みますので、それらが嫌な人は見ないほうが吉かと思われます。
また他作品の兵器や人物が登場するクロスオーバーとなります、ご注意ください。 ……本当は他作品のキャラとかは改定前のだと閑話限定にするつもりだったが、ドウシテコウナッタ…………

誤字脱字と思われる場所は指摘をよろしくお願いいたします。
あえて前作では『……』を使わず『・・・・・・』としていましたが、リアル友人から突っ込みをくらいまくったので『……』に変更します。

なお、作者の事情(仕事や実家の都合等)で執筆が止まる可能性が多々あります。忘れた頃に更新されるかもしれませんが、お許しください。

また、旧版を残してもいいのではという意見がありましたので、一部の話を除き残しておくことにしました。



なお以前から告知していた通り家業を継ぐ為の修行に逝くので、今月から2~3年程PCが使えなくなり投稿する事が出来なくなります。
なので今回のプロローグはあくまでサンプルです。本当は2話ほどできてたんですが、復帰後に執筆する際はどんな感じで書いていたのか思い出すのが手探り状態&ガンダム関連の新刊も出ている事だろうから、それらを加味して改めて改訂版を出したいと思っています。
後、一応音信不通状態となるのでこの話はsage投稿としておきます。






???

多くの光が浮かんでは消えていく密室で男は何かの作業をしていた。

周りの光の一つ一つは何らかの文字の羅列で、中には映像もあった。

ある映像には剣と魔法のファンタジーな世界が映し出され、またある映像には無数の宇宙戦闘艦や惑星が圧倒的な光の渦に飲み込まれ壊滅していく様子が映し出されていた。

『よし、最後に……簡単に死なれてはつまらんしこのスキルを入れて、ここのこれをこう捻じ曲げれば……ん、成功。仕込みは完了、あとは彼の行動次第か』

その中で、その男は新たに生み出された光を注視し、ニヤリと笑みを浮かべた。

『さて、彼はどんな物語を紡いでくれるんだろう。私を失望させないよう、期待しているよ?』











目が覚めるとそこは……

知らない部屋でした……
 
 
 
機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)
 
 
 
「……知らない天井だ」

まぁお約束の台詞はおいといて、本当にどこだここ? たしかガンダムのゲームをやってたら急に眠くなって……気がついたらここにいたんだよな。ってかマジでどこだよここ?

「……よっこらせっと」

そこ! じじぃくせぇとかいうな! ん? 誰への突っ込みかって? そりゃ聞くのはヤボってもんだ……って、何を言ってるんだ俺は。痛い人な行動をするような人間じゃなかったはずだが…………しかし本当にどこなんだろう? 確実に俺の部屋でないことは間違いない。こんな広い部屋はうちのどこにもないからな。

「……? なんだ? 体に違和感を感じる? ……鏡どこだ? ってか声がなんか変だ……風邪でも引いたか?」

周囲を見渡すと目に映るのは先程まで寝転んでいたソファーに目の前にあるテーブル、そしてその上にぶちまけられている大量の錠剤と倒れて中身の多くが流れ出たミネラルウォーターのペットボトル。部屋一面がフカフカのカーペットで、部屋の隅にあるクローゼットの横に鏡があった。テーブルの惨状が気になったものの、その鏡を覗きこんでみると……

「……誰?」

自分の知らない人物の姿がそこにあった。歳はだいたい20代後半ってとこか?

「……ぐ!? ガッ、ギゃあaアアあああAアあ!?!!??!??!」

鏡の映す自分の姿に呆然としていると、いきなり頭を痛みが襲った。恥も外聞もなく、ただただカーペットの上を頭を押さえてのた打ち回る事しかできなかった。
そして数十秒とも数分とも思えた頭痛が収まった時、頭の中に膨大な量の記憶が存在する事に気が付いた。その記憶は本来この体の持ち主である、ツィマッド社の若社長『エルトラン・ヒューラー』のもので、ここがUC、宇宙世紀だとも知った。

つまり……

「ガンダムの世界に憑依ですかい!?」

しかし憑依ものだとしても、普通はパイロットとかだと思うのだが……よく考えりゃパイロット=G等に耐える訓練等があるからインドア派の俺にとっちゃ根を上げる可能性が高いか……そういやかなり昔にジオニックの社長か会長だったかに憑依するSSがあったな~ ……しかしツィマッド社とは…………ツィマッド社のMSっていったら何があったっけ? 有名なのでギャンにゴッグ、ヅダにドムシリーズだよなぁ……そういやイフリートもだったかな。
そんなことを考えていたとき、ある重大なことを思い出した。

「そうだ、今何年だ!?」

……敗戦間際だったら洒落にならんと思いつつ、部屋においてあるカレンダーを見るとそこには……

「UC70年? 70年っていうと……開戦9年前だよな……他にもなにかあったような気がするんだが……」

そこまで考えてふと思い出した。

「そうだ! コケるモビルスーツが開発された年じゃないか! ってことは……すでにモビルスーツの開発が始まってるってことじゃないか!……たしかコケるモビルスーツは70年5月のはずで、ツィマッド社はMS技術ではかなり出遅れたんだよな。今からジオニック社と技術提携をすればMS技術で出遅れるということはないだろう。いや、逆に旧ザクとのコンペでヅダが勝利できるかも知れないぞ」

思考の海に沈むエルトランだったが、彼は気が付いていなかった。エルトランになる前の本来の彼は確かにガノタ、いわゆるガンダムオタクと呼ばれる存在だったが、そこまでディープなオタクではなく、ましてやUC70年5月にコケるモビルスーツこと大型二足歩行機が試験を行うなど、ネットや本で調べない限りわからないということに。

そしてしばらく思考の海に潜っていたエルトランだったが、彼はある重大な問題を思い出した。

「そういやジオンが負けたのって結局派閥争いの為だったんだよな……ギレン派にキシリア派、ドズル派か。たしかランバ・ラルがホワイトベースに特攻しかけたのも派閥がらみで補給がされなかったからじゃないか。新型機を作っても派閥争いとかなんとかしないと負けるかも……問題山積みだな……」

しかめっ面をするエルトランだったが、彼はそこで更に重要な事を思い出した。

「……いやまて、そもそもここは……『 ど の ガ ン ダ ム の 世 界 』なんだ? ファーストガンダムっていっても、TV版&劇場版、漫画の0079版、THE ORIGIN版、サンダーボルト版とか色々あるし……なにより、ありえないかもしれんが…………『 岡 崎 版 ガ ン ダ ム 』だったら色々と洒落にならんぞ!?」

割と洒落にならない事に気が付き、頭を抱えるエルトラン。

……憑依してから早速問題が山積みの彼に未来はあるのか!?


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
1.4195539951324