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[9604] HUNTERxHUNTER ―サムライガールの憂鬱―(現実→HxH オリ主転生 TS)
Name: ぴろし357◆4be33175 ID:280dbc78
Date: 2009/06/15 17:48


 このたびHUNTERxHUNTER ―サムライガールの憂鬱―(現実→HxH オリ主転生 TS)を執筆させていただく事になりましたぴろし357と申します。

 当作品はHUNTERxHUNTERの二次創作であり、設定などが原作とは異なる場合があります。


 この作品には以下のものが含まれるかもしれません。


 ・主人公最強&ご都合主義

 ・TS

 ・現実世界からの転生

 ・オリジナル能力&設定

 以上のものが含まれるかもしれません。

 私としましては精一杯いい作品にしようと頑張っていくつもりですので、よろしくお付き合いください。

 そして良ければ感想・指摘など寄せてもらえれば、作者の励みになりますのでよろしくお願いいたします。

 それでは本編を次からお送りいたします。お楽しみいただければ幸いです。



[9604] 第一話『転生』
Name: ぴろし357◆4be33175 ID:280dbc78
Date: 2009/06/15 17:51



 HUNTERxHUNTER ―サムライガールの憂鬱―(現実→HxH オリ主転生 TS)



 第一話『転生』



 俺は今、アスファルトの上で最後のときを迎えている。
 流れ出るおびただしい血流は、もはや助かる見込みが無いことを物語っていた。
 そして、それは脇腹に刺さった包丁からとめどなく、今も流れ続けている。

「貴方が・・・・・・浮気なんかするから・・・・・・」

 そう言って涙ぐむ彼女の顔には、まったく見覚えが無い。初対面だ。
 事の発端は一時間前。何時ものように大学の講義とバイトを終え、今日も無事一日を終えようとしていた。
 最寄の駅から、築二十年のボロアパートまでの二十分を短縮しようと、普段通りなれない近道を通ったのが運のツキだ。
 もうすぐアパートが見える場所へと差し掛かったとき、彼女が現れた。
 彼女は、「あの女は誰!」だの、「私は貴方のなんだったの?」だのわけの分からないことを口走った挙句、脇に構えた包丁を困惑する俺の脇腹に突き立てた。

 当然、俺も痛みを我慢して抵抗したさ。でも、それが悪かったらしい。
 彼女は止めとばかりに、包丁をめった刺しに突いてきた。
 それから彼女は動かなくなった俺の頭を無理やり膝に乗せ、頭を梳くように撫で付け続けている。

 もうだめだ・・・・・・そう思った時、初めて彼女の膝の柔かさと良い香りに気づき、不覚にも彼女を可哀相だと思ってしまった。
 だから視界が暗転する直前に素直な感想を口にした。

「・・・・・・あぁ・・・・・憂鬱だ」

 それが俺――近藤勇(コンドウイサミ)の最期の言葉となった。







 う・・・・・・眩しい・・・

 次に目覚めたのはまばゆい光に包まれた世界だった。
 誰かに抱え上げられている感覚があり、ふわふわと中を浮く感覚を味わった後に、柔かい物に包まれた。
 不思議とそれは何年も前に味わった気がして、既視感を感じていた。安心するぬくもり。

「生まれてくれて・・・ありがとう・・・・・・私があなたのママよ」

 そう言って微笑みかける女性に答えるため声を上げようとすると、腹の下から込み上げてくるものがあり、思わず声を上げてしまう。

「ふぎゃぁぁぁぁぁ! ふぎゃぁぁぁ!!(うわぁぁぁぁl!)」

 あれ?
 今口から変な赤ん坊のような泣き声が・・・・・・。

「ふぎゃぁぁぁっぁ!!(なんだこりゃ!)」

 手足を動かそうにも圧倒的に短く、力も入らない事にも気づいた。


 これは・・・・・・俺は赤ん坊に生まれ変わったのか?
 しかし、次に告げられる「事実」に比べれば些細な事だと、この時状況が少しでも理解できていたら思ったに違いない。

「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」

 こうして、俺改め――私の第二の人生がスタートしたのだった。

「あぶぅ・・・・・・(憂鬱だ・・・・・・)」






 私――凛=ノーザンライトが第二の人生を迎えたのは、ザバン市の郊外にある片田舎。人口1000人ほどの小さな集落だった。
 いつも柔らかな笑いをたたえる良妻賢母の母と、一家を支えるため片道二時間もかけて、ザバン市の役所に勤める勤労で優しい父との間に生まれた一粒種が私である。
 二人は大恋愛の末の駆け落ちで、結ばれたと聞く。その結果として産み落とされた私には惜しみない愛情が注がれた。
 生まれてすぐの頃は転生を嘆いてよく泣いたものだが、そのたびに両親に暖かく抱きしめられた時は、素直に嬉しかった。
 私はこんなやさしい家庭に生まれたことを感謝し、「俺」としてではなく、「私」として生きていくことを決意した。

 二歳迎える頃、私はようやく私の取り巻く状況を理解していた。
 いや・・・もしかするともっと早く気づいていたのかもしれない。
 そして二歳になったその日に、母様に意を決して聞いてみた。

「ねぇねぇ母様、はんたーってなーに?」

 舌っ足らずなその言葉に少し驚いたようになったが、すぐに慈愛に満ちた笑顔に戻り、とんでもない事実を告げた。

「ハンターっていうのはね、とっても難しい試練を合格した人だけが就けるお仕事よ~。昔母様もハンターだったのよ?」

 なんと! 母様はハンターだったのだ!
 違う! 驚くところそこじゃない!
 独特の文字や聞き覚えのある地名が流れてきているのは知っていた。ただ、気づきたくなかっただけなのかもしれない。


 そう・・・・・・ここは「HUNTERxHUNTER」の世界。私はとんでもないところに転生させられたのかもしれない・・・・・・。

 とはいえ、そに事実を「再確認」した後の私の行動は早かった。
 この世界で生きていくのに、必要不可欠な力を付ける為の努力は惜しまなかった。
 文字の読み書きをはじめとした、「この世界」についての知識に始まり、散歩と称して野山を駆け巡り、基礎体力のトレーニング。
 四歳になる頃には、森を熟知する野生児としての能力を遺憾なく発揮していた。

 でも、そんな慢心が・・・・・・あんなことになるなんて誰が想像出来たろう。

 その日は日がくれる寸前まで、森を駆けずり回っていた事もあり、近道を通ろうと普段は絶対に通らない崖を全力で走っていた。
 前世での教訓が頭に響いた頃には、すでに足を滑らせて宙を舞っている途中であった。

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 このとき以外にも私の頭の隅に湧いた考えは、「あぁ・・・俺もすっかり女の子みたいな悲鳴を上げるようになったな・・・・・・」という場違いな感慨だった。
 こうして私は、全身への激しい衝撃と共に、意識を消失させた。







 <<ビスケ>>

 その日私はザバン市に立ち寄るべく長い間修行の場として生活していた山を後に、麓の村へと下山しているところだった。
 心源流の修行のためといえ、女がシャワーも浴びられない山篭りなんかするものではないと、ひとりごちていた。

「はやいとこ、汗を流したいもんだわさ。明日には新しい弟子の修行を開始しなきゃならないんだから」

 誰に言うでもなくそうつぶやく。たしかウィングとかいう小僧だったか。
 ネテロの爺さんに頼まれたのでなければ断っていたところだ。





「ん?」

 その瞬間に見えた光景にはさすがの私にも唖然とさせられた。
 見たところ四歳くらいの幼女が足を踏み外して崖から落ちていく光景だった。

 気づいたときにはそちらに向って全力疾走していた。
 今まで多くの人の死を体験してきたにもかかわらず、何故かその時は無条件に体がその幼女を助けようと動いていた事に、私は少し安心した。
 まだ、私の心は腐ってはいなかったのだと。

「!・・・・・・これは・・・・・・」

 私が目にしたのは、この崖の落差。
 目測で30メートルはあるだろうか。彼女はピクリとも動かない。
 誰が見てももう助からない・・・・・・そう諦めかけたとき、幼女の体をわずかにオーラが覆っているのに気が付いた。
 それは弱々しくはあるものの、彼女の体を守ろうと漂っている。

 この子は助かる!

 そう直感した私は、幼女を片手に担ぐと麓の村を目指し、一気に駆け下りた。
 おそらく、死を直感した瞬間に、無意識に精孔が開いたのだろう。

 なんという幸運! なんという偶然!

 私はそれでも全身打撲の大怪我には違いない小さな命を絶やすまいと、村へ急ぐのだった。







 うっすらと開いた目に飛び込んできたのは、泣きはらした母様の顔だった。
 全身を激痛が走り涙目になるが、そんなもの母様のこの顔を見たときに受けた胸の痛みに比べればたいした事はなかった。
 私が泣かせた・・・・・・前世では疎遠になってたせいもあり、こんな母親の泣き顔を見るのは初めてだった。
 二度とこんな顔をさせちゃいけない・・・・・・それが一番の感想だった。

「気がついたかい?」

 ふとかけられた声にあまり動かない頭を軽く振ると、一人の少女が立っていた。その顔には凄く見覚えがある。
 私が呆気の表情にとらわれているのを確認すると、その少女は予想通りの名前を名乗った。

「私はビスケット=クルーガー。心源流拳法の師範代をやってる。あんたは私が崖下から助けてきたんだよ。正直無事で驚いてるとこさね」
「ありがとう・・・・・・ございます」
「ふむ、礼儀はしっかりしているようだね」

 困惑する頭をよそに、母様から習った礼儀作法を実践すると、感心された。
 母様は良いとこのお嬢さんであったらしいので、そこの所は結構厳しかったりする。

「あんた、どうやって助かったか覚えてるかい?」
「いえ・・・・・・」

 そんなの覚えてるわけ無い。崖から落ちたのに。

「覚えてないようだわね。というとやっぱり無意識にか・・・・・・」
「あのぅ・・・」
「ずばり言うけど、あんたは念と呼ばれる能力によって一命を取り留めたんだよ」

 おいおい! そんなにあっさり念の事しゃべっていいのか? あんまり広めたりしちゃダメなんじゃなかったっけ?
 と混乱する私をよそに、ビスケは念の説明を始める。
 だけど私も「HUNTERxHUNTER」は読んでたので、ある程度は分かる。ビスケの教えを復習するつもりで聞いてゆく。

「分かってると思うけど、通常この能力は一般には秘匿されている。なぜだかわかるかい?」
「えっと、ねんをおぼえた悪い人が悪い事しないため?」
「なるほど・・・・・・頭はいいようだわね。まあでも実際は、力のあるものは自然と行き着くから、悪人でも念能力者は結構いるわさ」

 なんか矛盾しているような気もするが、幻影旅団やヒソカの件もあるしね。妙に納得させられる。

「ところであんたの体から蒸気のようなものが立ち昇っているのが見えるかい?」
「えっと・・・あっ!」

 気が付くと、全身を生暖かい蒸気のようなものが覆っており、漂うように流れている。
 何てことだ、念能力に目覚めたのか!?あの怪我で?

「そう・・・・・・普通はありえない・・・ことも無いんだけどね、死に直面したときにショックで目が覚めてしまったのよ」
「そう・・・ですか・・・・・・」

 そう言うとビスケは二本の指を差し出して見せる。いわゆるピースサインだ。

「あんたには、二つの選択肢が用意されている。ちなみにどっちを選んでも両親には了解済みだよ」

 私のうなづく動きを確認すると。

「一つは、このままあんたの記憶を私が封じ、念能力も封じて何事も無く平穏に暮らすか」

 そう言って彼女は指を一つ折る。

「もう一つは、私の弟子になって正しく念を習得するか。その場合あんたの行く先は決して平穏とは言えない修羅の道となる」

 私は考えた。このまま平穏に暮らしていくことを両親は望んでいる。しかし、その場合いざという時にこの愛すべき人たちを守れるのかは、正直不安だ。
 少なくとも、原作開始の数年後にはキメラアントの事件によって、かなり広い範囲が危険に晒される事になる。
 そして、この村もその範囲に含まれる可能性を否定する事は出来ない。その状況を回避するにせよ何にせよ、力はあって邪魔になるものじゃない。
 それに、この世界に生きていくと覚悟を決めた二年前から、この人生が一筋縄ではいかないことくらい分かっている。
 そのために野山を駆けて体力を付けてきたのではないか?
 だったら迷う必要は無いな・・・・・・。

「決めました・・・・・・よろしくお願いします! 師匠!」
「よく言った! 怪我が治り次第修行を始めるよ。今のうちに覚悟を決めておきなさいな」

 こうして私は、ビスケの弟子になったのであった。
 このときはまだ、自分が地獄の門を叩いてしまった事にまったくといいほど気づいていなかった。



 こうして元俺―近藤勇と現私―凛=ノーザンライトの長い物語が始まったのであった。







[9604] 第二話『修行』
Name: ぴろし357◆4be33175 ID:280dbc78
Date: 2009/06/16 14:27



 HUNTERxHUNTER ―サムライガールの憂鬱―(現実→HxH オリ主転生 TS)



 第二話『修行』



 広大な意識の海を、私は漂っていた。
 ふわふわとした浮遊感に、幾分気分がいい。

 だが、次の瞬間頭にすごい衝撃を受け現実に引き落とされる。

「いつまで寝てるわさ」

 冷たく凛と響く声。あれ? 私は何してたんだっけ?
 そんな見当違いな思考から、一気に状況への理解が浮上してくる。
 私は大の字に寝転がってのびていた。

「まあ、初めての【練】を20分持たせただけでも上出来だわさ」

 そうビスケが呟くのが聞こえると、こうなった経緯を思い出す。



 あの転落事故から二ヶ月がたっていた。全身打撲による多数の単純骨折からすれば、この回復は異常なほどであった。
 つながった後の骨は、むしろ今までより強くなっていると医者に太鼓判を押されたときは、正直複雑な心境だった。

 そして、体の傷もいえた今日早速修行に入ったわけだが・・・・・・。
 入院中に【点】を欠かさなかったせいか、【纏】はかなりの精度を誇り、ビスケの目を驚かせた。
 ・・・・・・そもそもそれがいけなかった。
 ビスケはいきなり【練】をやってみろと促し、それを私は実行して見せた。
 結果から言うとその試みは成功した。・・・・・・途中まではね。
 頑張りすぎたのか、それとも未熟な技の賜物か、一度解放したオーラは止まらずに、私が気を失うまで放出が止む事はなかった。
 そして、のびていた所をお上品に蹴り起こされて、今に至るというわけだ。

「いつまで寝てる、さっさと起きて【纏】の修行!」

 その鋭い眼光に背中を蹴り飛ばされるかのように飛び起き、自然体から【纏】をはじめる。
 イメージは薄く、澱みなく・・・・・・。意識を糸のように研ぎ澄ましていく。






 <<ビスケ>>

 私は目の前の現象に打ち震えていた。
 齢五つを数えるほどの、幼い少女を目にして。
 私の決して短くは無い人生の間においても、これほどの「原石」に出会うことの希少さを、誰よりも私自身が熟知していた。


 『天才』


 そんな言葉が頭をよぎる。
 自分がこの境地に至るもまでの研鑽を否定するかのようなその言葉に、苦笑せざるを得ない。
 そんな嫉妬にも似た感情と同時に湧き上がってきたのは、歓喜。
 この少女というなの「原石」を磨き上げる事になるだろうこの修行に、私自身が喜びを感じている。

 この村とザパン市の心源流道場を行き来する毎日が、辛くないといえば嘘になる。
 だが、今見ている光景はそれをもってしてもなお、余りあるのだ。


(この娘は強くなる・・・・・・私以上に・・・・・・)


 だが、この村に滞在できる限界年数はおよそ四年間。
 そのゆく末を見届けられないのが残念でならない・・・・・・。
 まあ、この村には「あの女」もいることだし、この「原石」が朽ち果てるに任せることも無いだろう。

 その少女を改めて見つめる。
 綺麗に整った顔。
 黒く透き通るような黒髪。
 均一に整った四肢。
 母親譲りのその美貌は近い将来、一気に開花させるであろうことを雄弁に語っている。
 例えるなら「ルビー」。
 世界で2番目に硬い硬度を誇ることもさることながら。
 血の滴るようなピジョンブラットは見るものを魅了する最高級の輝きにもなる。


 フフフッ・・・・・・鍛えるわよ~! 嗚呼、なんで磨けば光るものはこんなにも私を魅了して止まないのか。

 少女の怯えをよそに一人ほくそえむ私を誰が止められよう。
 それが、この少女の道程との最初の出会いだった。












 <<凛>>

 【纏】をやってる最中に、ビスケにただならぬ悪寒を感じふとそちらを向いてしまう。
 ニヤリと口の端を上げ笑っている。

 こわっ!ちょっ!なんですか!?

 こちらを射抜くような瞳は、なんか弟子を見る目じゃないよね・・・・・・。
 なにか私まずいことでも?
 そう思う私の鼓動に呼応し、【纏】が乱れる。

「ほら! 集中! 【纏】が乱れてるわさ」

 表情はそのままで冷たく言い放つから余計に怖い。
 とはいえ、このまま無様を晒す事は、さらに彼女の不評を買うことだろうと気を引き締めると、オーラも元の穏やかなものに戻ってゆく。
 そして、その日は【纏】を維持する修行に次、【練】【絶】の初歩を学んだところで、今日の修行はお開きとなった。







「ただいまー・・・・・・」
「凛、食事の後に道場にいらっしゃい・・・・・・大事な話があります」

 帰ってくる早々母様に、真剣な目つきでそう告げられた。

 家には、小さいながら道場がある。剣術道場だ。
 ジャポン出身の母様は、結婚前は名のある剣術の一門の娘であったらしいことを、以前聞いていた。
 一門の古いしきたりに嫌気が差し、飛び出した先で待っていたのは、厳しい現実だった。
 自分ひとりを食わせていく為にも、今まで培ってきた剣の腕を振るうのに何のためらいもなかった。
 そのうちに良き師範に出会い、ハンターを志し、賞金首(ブラックリスト)ハンターとして数年活躍したのだという。
 その仕事の最中に出会ったのが、当時外交官をしていた父との出会いだったという。

 話を戻そう、そんなハンターと外交官のカップルを祝福するものは、残念ながらそれほど多くはなかった。
 二人は隠れるように片田舎に駆け落ちし。母様はハンターから足を洗ってしばらくは、父様の稼ぎだけで生活していたのだが、それも長く続くものではなかった。
 その経済的危機を助けたのは、皮肉にも自分が捨てた剣術の教えだったと、自嘲気味に語った。
 母様のもとにはハンター時代の名声のおかげで、弟子入り志願が後を絶たなかった。
 その稼ぎで建てられたのが、この剣術道場というわけだ。以来、知る人ぞ知る剣術の修練場としてまことしやかにハンターの間で語られているという。
 まあ今はそのなりをひそめ、「ちびっ子剣術道場」として村の子供たちに、剣術を通して読み書きや、礼儀作法を教える学び舎となっている。

 かく言う私は、その厳粛な雰囲気が好きになれず、あまりその道場に近づいたことはなかったのだが。

 その空気も寝静まるかのような空間に、母様は鎮座していた。
 よく見ると、うっすらと澱みない【纏】をまとっている。

「凛・・・・・・そこにお座りなさい」
「はい、母様」

 この場のの雰囲気に飲まれ、自然と正座で座る。
 板張りがすねに食い込み、なれない正座は少々痛かった。

「これから貴女は、クルーガーさんに念を、そして戦闘訓練を私から学ぶ事になります」
「え!?」

 母様の普段のスキの無い動きから、只者では無いと思ってはいたが。ビスケに弟子入りした以上、心源流拳法・・・・・・すなわち戦闘訓練もビスケが行うと思っていた私は、少し驚きの声を上げてしまった。
 その声に母様は今まで見たことの無い厳しい表情で睨む。
 怖いです・・・・・母様・・・・・・。

「貴女には、この母の剣を継いでもらわなければならないというのに、この程度の事で動揺していては困ります」

 冷たく言い放つ母様に多少ショックを受け、涙ぐみそうになる。
 やばい、泣いてしまう。

 そう思って涙がこぼれる直前に見えたものに、私の心はその言葉以上に衝撃を受けた。

 母様が握る拳から一筋の血が流れている事に・・・・・・。

 そうだ・・・・・・母様だってこんなこと言うの辛いのだ。
 母様はこの人なりに、私の選んだ道の後押しをしてくれようとしてくれているのだ。
 それに私は選んだはずだ! 力を求める道を!

「はい! よろしくお願いします!」

 そう叫ぶように一礼する私を、母様は代わらぬ表情で見つめていた。

 でも・・・・・・私には、母様が笑っている様に見えたのだった。
 この表情を曇らせないためなら、私はどんな努力もいとわないだろう。
 そう自分に誓うのだった。














 訂正・・・・・・母様は鬼です。
 今、何度目になるかわからない竹刀による衝撃(鉄パイプで殴られたかのような)にもんどりうって倒れ、咳き込んでいる。
 その様子を見るためにビスケは、道場の端に陣取ってニヤニヤと笑っている。
 このドS師匠めっ!

 心の中の叱責を勘ぐったのか母様が竹刀を床に撃ちつけ、立ち上がるように促す。

「立ちなさい、貴女の敵はあなたが体を起こすまで待ってやるほどの慈悲は持ち合わせていないのですから・・・・・・」

 竹刀を杖代わりに何とか立ち上がると、その竹刀を軸足ごとなぎ払われて、また転ぶ。
 痛すぎる・・・・・・。しかし、その直後に背中に感じた殺気に、転がるように道場の端へと逃げる。
 すると、さっきまでうずくまっていた場所が少し陥没している。

 母様・・・・・・娘を殺す気ですか!?

「それでいいのです。常に命の危険があると心しなさい・・・・・・それが修行であっても」

 母様は鬼です。
 大事な事なので二回言いました。
 母様の怖いところは、烈火のごとく怒らない事です。
 あくまで冷静に、冷徹に、剣を振るう。だから余計に怖い。
 そして、一度指摘した所は二度と指摘せず、次からは体で分からせるのだ。

「何を安心してるのですか?」

 その刹那真後ろから母様の声が響く!!

 いつの間にっ!

 と言うか目の前には未だに母様の残像が揺らめいているのですが?!
 そう思うや否や、容赦ない打撃が背中から襲い、再び道場の反対側に飛ばされる。
 かろうじて意識のある私が最後に見たのは、なおも迫る母様の竹刀だった。

 そして・・・・・・私はあっさり意識を手放した。








 <<可憐(母様)>>

 私の最後の一撃を受け、昏倒する娘を見てわずかに嘆息する。
 表情は変えない。

「初日にしてはよく持ったほうさね、そんなに落ち込むことは無いよ」

 「ええ」と答えながら彼女――ビスケット=クルーガーの問いに、顔を向けぬまま答える。
 だが彼女の指摘は見当違いもいいところだった。
 衰えたとはいえ、かつては『真紅の可憐』とまで恐れられた自分の剣を、竹刀とはいえ幼い身で何発も受け凌いだ事実に、内心驚きを隠せなかったのだ。
 天は、無慈悲にも剣の才を娘にこそお与えにになったらしい。

「天賦の才」

 思わず口にしていた。
 そして、母としての私の心とは裏腹に、この才能を育てたいと欲している心があるのが分かる。



 昨夜修行から戻った娘を道場に呼び、最終確認をした。
 本当に覚悟が備わっているのかを確かめるためだ。
 娘にも・・・・・・。
 私にも・・・・・・。

 それに娘は一度は戸惑った。
 その可愛らしい瞳から涙が溢れそうなのを目にしたとき、とてつもない大罪を犯してるかのように、私の心臓を握りつぶした。
 実際、知らずのうちに自らの手のひらを力任せに握りこんでいた。爪が食い込むのもお構い無しにだ。

 私は母でありながら娘の幸せと平穏を奪っているのだ。
 その道を推し進める手助けまで、あまつさえしようとしている。
 私は母親として失格なのかもしれない。

 そう思う私をよそに、娘は大きな決意のこもった瞳で、私に決意表明をする。

 嗚呼・・・・・・。私の娘は、幼いながらも自分の行く道を自分の手で選んだんだなと思い表情を緩めそうになるが、つとめて冷静な自分を装うように表情を引き締めた。
 その瞬間から私の娘に対する甘えは一切消したはずだった。
 ・・・・・・少なくとも剣を手にしているその時は。

 そして今に至る。

「私は娘に甘いのでしょうか?」

 傍らで娘を見つめるクルーガーさんに答えの無い問いをぶつける。

「さあね・・・・・・子供を持ったことの無い私には分からないけど。武人としてと言うなら、あんたは手加減なんかしなかったよ」

 なんだ・・・・・分かっていたの?
 相変わらず意地の悪い人ですね・・・・・・貴女は。

 これからも、私は娘を痛めつけるだろう。
 もしかしたら、娘は私を恨むかもしれない。
 だが、この先私の甘さがこの子を殺す事の無いよう、たくさんの愛を持って叩き伏せよう。
 それが娘の為になると信じて・・・・・・。
























 後日私は娘に、特別メニューと称して大怪我をした崖に連れ出し・・・・・・。

 そっと、背中を押した。

「鬼ぃぃぃぃぃ・・・・・・!」


 谷に落ちていきながらも必死の形相で崖にしがみつく我が子に、涙をぐっとこらえた。
 獅子は我が子をも千尋の谷へ突き落とすのです。

 しばらく娘に口を利いてもらえませんでしたが。
 

 私は、少し泣きました。






[9604] 第三話『天空闘技場 其の一』
Name: ぴろし357◆4be33175 ID:280dbc78
Date: 2009/06/18 17:41



 HUNTERxHUNTER ―サムライガールの憂鬱―(現実→HxH オリ主転生 TS)



 第三話『天空闘技場 其の一』



「たぁぁぁぁっ!!」

 迷わず踏み込むと、相手の喉に向って抜き手を放つ。だが、目の前の相手はそれすら分かっていたかのように、眼前であっさりと身を翻す。
 その体裁きだけで、私の攻撃を全て無力化してしまうことに驚愕する。

 だがこの相手がそれだけではすまないことを、この六年間の修行でいやというほど体に染み付いていた。

 刹那、真後ろからの殺気を込めた攻撃を殺すために、軸足に体重をかけて限界まで屈伸し、回転する。
 一呼吸遅れて、頭頂部の髪を揺らす拳風が通り抜けていくのに、冷や汗が出る。

 相変わらず手加減無しなのですね・・・・・・母様。

「足元がお留守ですよ」

 そう言ってすぐさまなぎ払われる何かを、右に跳躍しながらかわす。
 すぐさま首に向けて手刀が放たれる。

 間に合わないっ!

 そう思った私は【流】によって喉元に即座にオーラを集め、【凝】でガードする。
 次の瞬間みぞおちに激痛が走り、嘔吐感が込み上げる。
 下を見ると鳩尾に深々と膝が突き刺さっている。

「うげぇぇぇぇぇ!」

 我慢できずに胃の中のものをもどしてしまう瞬間、コレの後始末をしなければならない事を思うと、憂鬱になる。


「ありがどう・・・ございまじだ」

 未だに嗚咽でくぐもった声で、開始位置にて母様に礼をする。

 ちなみに、母様は先ほどの稽古で念を一切使っていない。
 どこまでも規格外の母である。

「このように念に頼ることなくとも、手垂の者であれば易々と念能力者を屈服させられるのです。経験の差というのは、それほどまでに彼我の力量にも影響を及ぼす事を頭に入れておきなさい」

 私は、まだひりつく喉の痛みをこらえ何とか返事をすると、行儀悪く道場に大の字に寝転んだ。
 そんなことできるのは母様だけですって・・・・・・。

 この六年で分かった喜ぶべき事は、母様が予想以上に優れた剣士であり。無手、剣において未だ凄腕のハンター足らしめる実力を有している事。

 この六年で味わった絶望は、母様が予想以上に優れた剣士であり。無手、剣において未だ凄腕のハンター足らしめる実力を有している事。

 ・・・・・・正直この人の相手ばかりさせられているので、まったく強くなった気がしません。
 念の修行も、二年前にビスケがここを去るときに言い付かったメニューを真面目にこなしているので、もう全ての応用技を習得している。
 そのおかげか、以前なら意識を手放していただろうこの容赦ない攻撃にすらも、強固な念により耐えられるようになっている。
 しかし、私にとってその事実は喜ばしい事なのか、はなはだ疑問だ。

「貴女に圧倒的にたりないものは経験です。ですから貴女には一つの試練を申し付けます」
「し、試練ですか?」

 母様が佇まいを直し正座するのに合わせて、私もすぐに起き上がって正座をする。
 なんだか、修行を開始する前のあの道場での出来事を思い出してしまう構図だ。





「天空闘技場にエントリーし、200階クラスで十勝してくるのです」



「・・・・・・はい?」


 天空闘技場ってあの、原作で出てきた格闘家の聖地的なやつ?
 その思考を読んだかのように、母様が静かにうなずく。

「安心しなさい、あなたの実力はもはや200階クラスの闘士と比べてもなんら遜色ありませんよ。この母が保障します」

 まあ、念を覚えてるからそれくらいはいけるとは思いますが。

「ですが、このまま行っては修行の効果としては薄いでしょう・・・・・・凛・・・右腕を出しなさい」

 まさか、腕一本切断して片手で行ってこいとか言うんじゃ無いでしょうね?
 私はそう思いながらも、おずおずと右腕を差し出す。

 意外にも母様は私の手を柔かく包み込むとなにやらお守りのような模様の紐を腕に結ぶ。
 嗚呼・・・・・・母様。
 貴女はなんだかんだと言って、私の身を安じているのですね。
 このようなお守りを下さるなんて・・・・・・。
 疑ってすみません! 母様っ!


 ・・・・・・ってあれ?この紐どっかで見たことあるような?


 そして、呆気に取られている私に母はとんでもない事を言ってのけるのだ。

「この紐は『念封じ』の念をかけられた腕紐です。200階クラスで一戦交えるまで効力を発揮します」


「えぇぇぇぇぇぇっ!!」

「つまり、貴女は200階クラスの念能力者と少なくとも一戦は、念に頼らずに戦わなければならない。これが貴女に与えられた試練です」

 ちょっ!待って!試練ですって!!
 混乱しつつも必死に腕紐を外そうとするが、まったく外れない。

「無駄です。その紐は目的を達成するまでは何をしても外れない仕組みになっています」


 か、母様の鬼ぃぃぃぃっ!!


 こうして母の鬼の試練を課せられた私は、天空闘技場を目指す事を余儀なくされてしまったのであった。








 <<リカルド(父様)>>


 娘が十一歳の誕生日を無事迎えた。
 四つのときの大怪我を思えば、ここまで無事に育ってくれた事は親としてはこれ以上の無い喜びだ。

 娘は美しく成長した。
 母親譲りの肌理細やかな黒髪。
 白磁器のような白い肌。
 やや切れ長ではあるが、優しさを湛えるその瞳は村の男たちを魅了して止まない。
 自慢の娘だ。

 五歳の時から可憐と、命の恩人であるビスケさんに師事しなにやら稽古をしているが、武芸の心得も無い私には何をやってるかすらも計り知れない。
 この父の手を離れ、我が道を歩みはじめた娘を思うと少し寂しい気持ちになる。

 だがあの子は相変わらず私を慕ってくれている。
 父親として、尊敬してくれている。
 そのことだけでも、娘が「良い子」に育ってくれて嬉しい反面・・・・・・いつか嫁に行くときに引き裂かれる痛みに耐えられるか、とても不安だ。




 近頃では村の同年代の少年たちばかりか、独身の男、さらには妻帯者までもが娘の美貌に振り返るようになった。
 無理も無い、私でも振り返るほどの美少女だ。

 その事実を妻の前で告げたら、無表情で絞め落された。

 しかしそんなことで自重する私ではない。
 せめて娘に悪い虫がつかないように草葉の陰から見守っている。

 なぁに、特別な事はしていない。
 娘に近づいて悪戯しようとする悪ガキを拉致して、真っ裸で吊るしたり。
 たまにやって来る観光客のナンパ野郎に、妻をけしかけて袋叩きにしたり。



 もちろん、その後私も袋叩きだったが。

 一度娘が感ずいて、私の前にやってきた。

「父様・・・・・・自重してください」

 と呆れ顔で言われたときはさすがの私も泣いた。赤子のように。

 けれど、そんな私を娘は優しく抱きしめて慰めてくれた。
 自重はしないけどね、と呟いた後はそのまま絞め落されたが。

 そんなことがあっても、私を以前のように慕い続けている娘は、私の一番の宝物だ。





 そんな娘が「天空闘技場」とやらに修行に行くそうだ。
 正直言って私は反対した。娘にも、「修行ならここでも良いじゃないか」そう諭したが、娘は。

「無事に帰ってきますから・・・・・・」

 と疲れたような笑顔で、私の手を包んでくれた。
 優しい子だ。
 修行に付き合ってやることの出来ない私がこの子にしてやれるのは、無事帰ってくることを信じて待つことだけなのか。
 そう思うと、ちょっぴり自分の人生を後悔した。
 だが、ちょっとだけだ。
 この人生がだったからこそ良き妻と出会い、その間に可愛い娘まで授かったのだ。
 これ以上望むのは、娘の幸せだけで充分だ。
 帰ってきたら、思い切り抱きしめて「おかえり」と言ってやろう。
 そう胸に誓った。























 翌日、妻にナイショで村の腕自慢の青年に頼んで娘の後を見守ってやるように頼んでおいたが、その青年が森の中で真っ裸にされて吊るされた姿で発見された。
 その事実が妻にばれ、今私もこうして道場の梁に吊るされている。

 娘よ・・・・・・父は生きてお前に会えないかもしれません。

 目の前には竹刀を構えた、般若の面の妻。

 私は静かに目を閉じた。







 <<凛>>

 おそらく父様が護衛と称して付けていたであろうヘタレ男が、村が見えなくなった時点で後ろから襲ってきた。
 とっさの事で少し胸を触られたので、叩きのめして森に吊るしておいた。もちろんマッパで。

 我が家伝来の「御仕置き術」の一つだ。

 野垂死なないように、股間に「私はロリコンの変態強姦魔です」と書いた紙と共に、身元証明を貼り付けて通報しておいた。
 犯罪ダメ。ゼッタイ。

 それから三日。

 やっとの事で、天空闘技場の塔の前にたどり着いた。

「うわぁぁ・・・・・・」

 思わず見上げて溜息をつく。
 さすがは、この世界で4番目に高いとされている塔だ。
 見上げても天辺が見えないことに、正直圧倒された。

 そして自分の右腕に結ばれた腕紐をみて憂鬱になる。

 見たところ薄い【纏】ぐらいなら体から見て取れるが、常人の垂れ流し状態とさほど変わらないレベルだ。
 ものすごく不安だ。

 そこへ、数多くうろついているダフ屋のおっちゃんの一人がニヤニヤしながら近づいてくる。

「よぅねーちゃん! チケット買わねぇか? 今ならヒソカ対カストロの注目の一戦がなんと! 15万だぜ!」
「え、遠慮します・・・・・・」

 その後もしつこく追いすがってくるおっちゃんを撒いてエントリー手続きを済ませながら考える。

 ヒソカ・・・・ってあのヒソカだよね・・・。
 しかも何?カストロとの初戦ですか。
 泣いていいですか?

 と言う事は200階クラスにあのキチガイピエロがいるのですか?
 馬鹿なの?死ぬの?

 私は運命の神様に思い切り恨みの念を込めつつ天空にそびえる塔を再度見つめた。

 どうか生きて帰れますように。
 見守っていてくださいね・・・・・・母様・・・。






「保護者? んなもんいねぇって! 俺がエントリーするの」


 ふと聞こえてきた声に何気なく横を向くと、彼がいた。
 神様はよほど私のことが気に入らないと見えます。

 その彼とは誰あろう幼少期のキルア=ゾルディックその人でありました。



 嗚呼・・・・・・もう一度・・・父様のオムライス食べたかったなぁ・・・・・・。






[9604] 第四話『天空闘技場 其の二』
Name: ぴろし357◆4be33175 ID:ceb043b5
Date: 2010/06/08 22:49



  第四話『天空闘技場 其の二』



 そんなこんなで無事エントリーを済ませ第一試合の会場へ。
 母様から授かった木刀を肩に担いで向かいます。
 あれ? そういえば200階まで武器の使用は禁止じゃなかったっけ?

 まぁあいいか、使わなければいいんだし。
 それに預けるところもなかったしね。




「4989番の方! Cリングへどうぞ!」

 私の番号が呼ばれました。
 四苦八苦……。なんだかこれからの行く末を暗示してるようです…。

「ここでは、入場者のレベルを判断します。制限時間は3分」

 よーしがんばるぞー。
 ってここで余り頑張らないほうがいいのかな?
 修行するには多くの戦闘経験をつまなくてはならないわけですし。
 ここは相手の力を利用して、楽に行く作戦で行きましょう!

「あー君」
「はい?」
「200階以下での武器の使用は禁止されている、その木刀はこちらで預かろう」

 審判の人が手を差し出す。
 あーはいはい。やっぱ使わなくてもだめなんですね。
 それなら預ける場所くらい作ってくれても……。
 とは言え、ここで渋る理由もないしおとなしく預けましょうか。

「はいはい」

 何気なく審判の人に渡す。


「うわ! 重…い…何だこの木刀!…っ」

 ………。
 母様…貴女って人は……。
 今まで気がつかなかった私もどうかと思いますが、いくら鍛錬のためとは言え木刀にまで細工しないで下さい。

 それを見た相手の大男がなんか顔面蒼白ですよ。
 わ、私はゴンちゃんみたいにいきなり吹っ飛ばしたりしませんよ?!
 本当だよ!

「そ、それでは、始め!!」








 とりあえず終了しました。
 目の前で泡吹いてる男が。若干気持ち悪いです。

「4989番、君は50階へ」
「はい、ありがとうございました!」

 まだ倒れてる男と審判さんに礼。
 大丈夫かな? あ、担架で運ばれていった。
 日常生活に支障がないことを祈ります……エイメン
 いや…キリスト教信者じゃないけどね?





 ≪キルア≫


 第一試合は正直つまらなかった。
 やたらわめき散らす大人の男が居たけど、無視して黙らせた。
 まだこんなところで負けるわけないじゃん。

「おぉお、Cリングの奴すげぇぞ……見に行こうぜ!」

 試合も済ませて、見事20階へ行くように言われた。
 そのままあがっても詰まんないから色々見て回るか。
 Cリングだっけ?

 そこには俺より少し年上の女が立っていた。
 相手はその娘から比べると見上げるほどの相手。
 何だつまんねぇの。あんなの見るまでもなく男の勝ちじゃん。

 何か格闘技やってるみたいだけど、大人と子供では力の差は圧倒的だろ?
 まぁ俺は例外だけどね。
 試しの門もⅡまで開けられるようになったし。
 もう兄貴たちの仕事にちょくちょく連れて行かれてるから、そこらのにわか格闘家なら軽くあしらえるだろう。

 もちろん、本物が出てきたら難しいだろうけど。

 ん? よく見ると男のほうが焦ってる様に見える。
 変なの、ダメージ負ってるわけじゃないのに。トイレ?

 あ突っ込んでいった。今度こそ終わったか?
 と振り返って移動しようとしたとき、周りから歓声が上がって再び振り返ると……事は終わっていた。
 この間わずか1秒にも満たない瞬間。

 倒れていたのは男のほうだった。
 何で?
 あのタイミングは反撃するにしても難しいし、かといって逃げ場もなかったはず。
 どうやったんだ?

「ねぇ。どうなったの? 見逃したんだけど」
「あ? あぁ、何かわからないがあの大男が女の子の襟を掴んだとたん、泡吹いて倒れたんだ」

 俺が子供だからちょっと動揺してたけど隣の男が答えてくれた。
 ていうか、「何かわからない」はないんじゃない? 仮にもここにエントリーしてる人間として。

 俺は呆れながらも「ふぅん」と興味なさげに呟きながら、その場を後にしようとして。

「カウンターだ……しかも恐ろしく速い…」

 ん? カウンター? てか見えてた人いたんだ。
 何気なく耳を澄ますと。

「襟首をあいつが掴んだ瞬間に……手がぶれて見えるほどの突きを、きれいに顎にかすらせたんだ。」

 確かに速い。
 この男の目が万が一節穴だったとしても、俺が余所見をして振り返る間にそれほどの攻防を完了させていたことになる。
 よそ見していたといっても周囲に注意払ってたし、わずかな気配でも気づいて見逃さない自信はあったのに。
 その俺の目を出し抜く形で終わらせたとしたら……。

 面白い!
 親父に言われて仕方なく来たけど、来たかいがあった。
 俺は女の子の背中をじっと見つめてから、その場を後にした。





 ≪凛≫

 なんか見られてた。
 誰にって? キルア君に。
 何でわかったかって?
 なんか殺気みたいなの? ぶつけられて睨まれました。
 なんか変な汗かいちゃった。

「こちらが今回のファイトマネーになります」

 本当に152ジェニー……どう見ても152円に見えるけどね。

 この世界じゃジュースは若干高めですね。とりあえず一勝記念に……一人で祝杯…。
 さ、寂しくなってないんだからね!?

 ここから先は一勝ごとに5万か……。何かとんでもない世界です。
 元の世界で地道に働いてる皆様に申し訳ない。

 ってもう勝つ気でいるのか私。
 確かに一戦目のレベルから判断するに、100階クラスまでならいけそうな気はするけど……なにせ…念使えないしね。
 そう思うとちょっぴり憂鬱気分がひょっこり顔をのぞかせる。

 体から立ち上るオーラを見ると、未だに常人レベルの薄い【纏】。
 念能力者じゃない者からの攻撃なら何とか耐えられるが、所詮ベースが10歳の女の子。
 200階で「洗礼」を受けて、無事でいられるかどうかが運命の分かれ道。


 もうちょっとで切れそうな縄のつり橋を、荷物満載の車で爆走してる気分です。
 泣いてもいいですか?
 かくなる上は、目立たないような試合運びをこころがk…。







「やぁ♦一回戦見てたよ♥」
「っ!?」

 背後からの声に思わず悲鳴を上げそうになるのをぐっとこらえる。
 今日一番がんばったよね? もうゴールしていい?

「こ、こんにちわ」
「こんにちわ♠わざと念を封じるなんて、珍しいことしてるねキミ♡」

 バレテーラ。

「条件は何かわからないけど……念が使えるようになったキミと殺る(やる)のを楽しみにしてるよ♥クックックッ……」



 その後たっぷり3分間、茫然自失の私がアホの子みたいに口をパクパクしていたのを、通りすがりの何人もが遠巻きに眺めて行きましたとさ。


 それがヒソカに最初に目をつけられた(嬉しくないよ!)瞬間でした。













 ≪リカルド(父)≫


 ……っは! 娘に危機が迫ってる気がする!
 こうしちゃおれん!
 何とかココ(家)をだっしゅ……出発して、娘のもとに……。





「あなた? どこにいらっしゃるおつもりですか?」

 娘よ……不甲斐無い父を許しておくれ。
 そして今度こそ…父はお前に会えないかも(以下省略)。

「さぁ、護衛の青年の件についての『罰』がまだ終わっていませんよ?」

 そう言って妻は、笑顔で私の襟首を掴んで道場のほうに引きずっていきましたとさ。



 そして、竹刀を108発尻に打ち込む音が朝まで響いていましたとさ。

 アッーーーーー!!










[9604] 第五話『ピエロとイケメンにご注意!』
Name: ぴろし357◆4be33175 ID:ceb043b5
Date: 2010/06/13 11:29




  第五話『ピエロとイケメンにご注意!』


 ここ天空闘技場は、目まぐるしく変わる順位に沸いていた。
 その中心に居るのはヒソカ。
 言わずと知れた、戦闘狂のクレイジーピエロです。

 私は何故か、ヒソカのセコンドに付いている。
 といっても、本当にリング脇に居るだけですがね。
 なんでかって? 逃げられるわけないじゃないか。はっはっはーっ! 久しぶりに命がかかった鬼ごっこ楽しかったよ?
 こ、この目から出てる汁は汗といってだな……(以下省略)。

「お待たせ♢…そんなに待ってないとは思うけど♥」

 リング上には明らかに死んでると思われる対戦相手が、文字通りの血の海に沈んでいる。
 それに対してヒソカはまったくの無傷。返り血すら浴びてない。

「わ、わーっさすがヒソカさんですね!」

 私はああなりたくないけどね。

「そうかぃ? キミが本気で相手をしてくれたら、もっと嬉しいけどね♤」

 だからそうなりたくないんだってばっ!?
 心の中で思いながらも、自分でも分かるくらいの作り笑いを浮かべながら、嘘の賛辞を述べる。
 それを見透かしているかのように、にやりと顔を歪める。
 怖いからね? やめてね? 嘘苦手なのよ?





 あ、そうそう。何でこうなったかという説明が抜けてましたね。
 ヒソカに目をつけられてしまったあの日以来、毎日食事を奢って貰っておりまして……。だ、だって! 母様、旅費ぴったりしかお金くれなかったんだもん!
 おまけに、闘技場の部屋を借りるには結構なお値段だし、100階クラスにいくまでに結構かかったのですよ。

 今思えば凄く、もの凄く軽率だったと反省しております。
 そういう訳で借りを返すためにも、付き人みたいなことしております。要らない借りを残すのは今後の私の人生にとって、非常に良くないので。
 もちろん、私が200階クラスに上るまでの間の期間限定ではあるのですが……。


 それと、念が復活したら真っ先に試合をするって条件で……。

 あれ? なんだか頬を伝う温かい汁が……(以下省略2)。


 そんな困難……もとい、そんなこんなでついに200階までやってきたわけですが、さすがに私もアホじゃないのでいきなり試合を組むような愚かな真似はしません。ええ! しませんとも!
 色々対戦者を下見して回って、一番リスクの少なそうな相手を選ぶ。
 そうしないと、死んじゃうからね。流石にね。



 そうして地上一階の賭け場にて情報収集していると、後ろから何かが衝突してきて抱きつく。
 本来、並の男なら抱きつく前にボコボコにしてるのだが、コレは正直そういう訳にもいかない。
 ことは非常にデリケートな問題なのだ!

「お姉ちゃん! こんなところで何やってるの?」

 声の主が後ろから抱きついたまま、嬉しそうに声をかけてくる。
 お姉ちゃんといっても、弟ではない。一人っ子たる私には兄弟なんていないし、実は血の繋がらない弟が居たりもしない。
 そんな、それ何てギャルゲ?的な設定を除くなら、思い当たる節があるのは一人しか居ないわけだが……。


「キルア君? 毎回気配消して背中から抱きつくのやめてもらえるかな?」

 後ろの人物、キルア少年にこめかみを押さえながら訊ねる。
 流石に村の護衛青年のように、胸を触ってきたり父のようにお尻触ったりしないので、ましなのですが。
 やっぱり往来でこのような強攻に及ばれるのは、ちょっと恥ずかしくはあるのだ。

 かといって、子供のやることにいちいち気にするのもどうかと。
 結果コレといって打開策はなく、結局呆れながら抱きつくに任せてるわけだが。
 身長差とかその他もろもろの状況から、周りからは仲のいい姉弟に見えていることでしょう。

「だってここつまんないよ。親父に200階まで行って来いって言われたけど、正直楽しめる相手もあんまりいないし」

 実際そうなのだ。キルア君のスペックから考えると、100階までの相手じゃそう相手になる奴もいないそうだ。
 それ以上だとさすがにキツイらしく、手こずってるが。
 それでも原作当事のように手刀一本ってわけにも行かず、ゾルディック家仕込の戦闘術で130階くらいを行き来しているそうな。
 何も戦闘は力押しだけではなく、天空闘技場というヴァーリトゥドゥ(なんでもあり)状態でもポイント制というものが採用されている以上、ポイント負けということも実際にあるのだ。
 そういう戦闘経験値の少ないキルア君(幼)は、実力では勝っている相手にもちょくちょく負けている。

「そういった発言は、せめてポイント負けしなくなってから口にすることをお勧めしますよ」
「うっ、だってあいつらずっこいんだもん。ポイントとか良くわかんない子供に対して……。大人気ないと思わない?」

 うん。全然思わない!
 と断言したいのも山々なんですが。自殺願望があるわけじゃないので、曖昧な笑顔を浮かべるのが関の山です。
 だって6歳にしてすでにあの強さですよ? 原作より6年も前の段階で、100階越えを成し遂げるくらいだもん。主人公組のチートッぷりにため息しか出ないよ。はぁ。

 とはいってもまだ所詮は6歳児。攻め手の素直さや、経験とかそう言ったものも含めて言えば、念なしの状態でも、まだまだ私のほうに若干分があるようです。
 そうしてどんどん200階に向かって上がって行く私を、背後から暗殺しようとしたのが運のつき……この場合どっちのかは触れないで…。
 本人は試してみただけって言っていたが、明らかに普段の負け越しの憂さを晴らそうとする殺気が滲み出ていたことは言うまでもない。
 それで、組み伏せて事情を伺った翌日くらいから……こう…なんででしょうね。懐かれちゃいまして。
 以来、私の姿を見つけるたびに飛んできて抱きつく始末です。
 私余計なフラグ立てた?



「それにしてもリンお姉ちゃんは凄いよね。次から200階でしょう? 俺も相当自信あるほうだけど、さすがに3ヶ月で行くなんて無理だよ」

 キルア君は素直な感想と共に、私を尊敬の念を持った熱い視線で見上げる。
 うう……。何かこう素直にほめられると照れる…。
 こほん…。と、とにかくそんなこんなで懐かれていますが、念に関する情報は原作まで我慢してもらうために教えてなかったりします。私も念を封じられてるので好都合。
 このまま何事もなく200階を突破できれば、無事に帰ることが出k…。

「俺さぁ! 190階まで行ったら家に戻るから、お姉ちゃん一緒に行かない?」

 神様。私が嫌いなんですね? そうなんですね?
 だったらこんな回りくどい事すんじゃねぇぇ!! かかって来い! ファ○キン神様!
 ……いえ、冗談です。だからこれ以上不幸にしないでください。お願いします。

「お、お姉ちゃんも家に帰らないと…」
「えーっ! お姉ちゃん行こうよ! 親父たちにも紹介するからさぁ。絶対楽しいって!」

 えぇそりゃあなたは楽しいでしょうが、親父さんとか爺さんとか兄上とか……あとカルト君とか、母君に目をつけられたくないんですっ!
 それに家族に紹介とか、色々吹っ飛ばして『嫁入り』とかさせられそうでものっすごく嫌なんですが。
 あ、誤解のないようにいっときますが。キルア君のことは普通に弟ちっくで好きですよ?
 ……ただ、私は元は『俺』なわけで…まだ男を好きになるほどの趣味にも目覚めることは、一生来ないでほしいと思うしだいでして…。







「おっと、弟君? お姉ちゃんを困らせたら駄目だろう?」

 そう言って転びそうな私の肩を支える手が伸びる。
 気が付かなかった。いや、気が付かされなかったというほうが正しいか。

 これは【絶】だ。

 振り返りながら相手を確認すると。そこには大層な美男子(イケメン)が居た。
 しばらく黙っていると何を勘違いしたか、ニコッと笑う。
 ありていに言えば……こいつうぜぇ……。

 確かにイケメンには違いないし、中ほどの分けられた金髪が爽やかではある。
 十人いたら五人くらいは振り替えるかもしれないが……。
 何かこう…胡散臭いのだ……。

 嘘臭いと置き換えてもいい。嘘の笑顔、嘘の優しさ、嘘の台詞。

 ほら。その証拠に、その男のオーラは……。

「だれ? おっさん。俺今お姉ちゃんと話してるからあっち行っててよ」

 現実に引き戻される声に、ハッとする。
 いけない。この男は、念能力者だ。
 念の力を身につけていないキルア君には…残念ながらかなわないだろう。
 今はまだ生意気な子供だと思ってくれているから、相手も敵意を向けないでいる。
 だが、キルア君が『間違って本気を出したら』……即座に敵とみなされるだろう…。そして敵意を持って念を向けられるだろう。

「キルア君…悪いけど先行っててくれる? 私の名前でいつもの席、取っておいて」

 できるだけ低い声で、有無を言わさないようにキルア君に『お願い』する。

「う、うん……リンお姉ちゃんなら大丈夫かもだけど……早くきてね(こいつ相当強いから…気をつけて…)」



 後姿を見送る横に立つその男のオーラを見ると、あまり確りした【纏】ではない。
 恐らく目覚めて間もない念能力者だろう。
 思えば先ほどの【絶】もあまり完成度の高いものではなかった。だから、今の私にも気づけたのだ。


「まったく…子供には困ったもんですね…」

 私もその子供ですがね。容姿的には十七、八くらいに見えなくもないけどね。
 ロリコンですか? そうなんですか?
 肩に置かれた手からのオーラでは、少なくとも敵と見なされていないと判断。
 たぶん念能力者で無いと思われているのか、随分と力を抜いている様子。

「次の対戦相手のサダソだ。おっと、断ったらあのガキがどうなるか……賢い君なら…分かるよね?」



 こいつ……。



 やっぱりそうだ……。

 こいつの禍々しいオーラの色は…その内面をあらわすかのように、気味悪く濁っていた。






 ≪サダソ≫


 今日いいカモを見つけた。
 女だてらに200階まで「運良く」上ってきたガキだ。
 見たところ念も身につけてないのに、随分とがんばったもんだが…それもここで終りだ…クックック…。

 目指すはフロアマスター。そのために念の会得法を盗み聞いて6年もかけてやっとこの領域にたどり着いたんだ。
 ここで躓くわけにもいかんのでな…。
 悪いが踏み台になってもらう。

「クックック……悪いが…か…こいつは癖になるかもなぁ」

 念能力(この力)を利用して、一生うまい汁を吸ってやる。





『さぁ! 200階クラス第一試合です! 最年少美少女剣術家・リン=ノーザンライト選手と、今話題の美青年闘士サダソ選手の美の対決です!!』

 この先に見えるのは栄光の道だ。

 さぁ……はじめようか…。












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