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[9180] 次世代ドラゴン(巣ドラ物)
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:7e84d488
Date: 2009/07/14 13:48

ローガス
歳?
41
まぁ今年で42
彼女?
まぁ
当たり前に
居ない
てか
居る訳ないじゃん
みたいな
状況は
竜の村へ行く寸前
てか
自らの墓を掘りに逝くまでの
猶予期間
みたいな 


次世代ドラゴン


 いざ巣立ちという事で、何か必要な物は無いかと40年近く世話になった自室を眺めてみる。
 ギュンギュスカー商会より取り寄せた玩具や書籍。
 母さんに怒られた時用の緊急医療具。
 暇潰しの一環で作っていたガラクタのような楽器。
 これから、この住み慣れた巣を離れ、新しい場所に向かうには無用の長物。
 …緊急医療具だけは持っていこうと思うのだが、良く考えればしばらく母さんと会わないのだから必要無い。
「ローガス様、準備はOKでしょうか?」
 部屋の外から年若い声が聞こえる。この口調はメイド36号と思う。
 今日でこの巣も最後と思うと妙に感慨深い。せめて、と、メイド達を連れて行きたくなるが、竜の村は他種族厳禁。
 違反者は打ち首獄門である。
「ああ、待たせたな」
 最後に自室を一瞥し、後に続くメイド36号の足音を聞きつつ昔を懐かしむ。
 40年の思い出は伊達じゃない。
 母さんに殴られた事。
 ダークマジシャンのスキル、賢者は頭の良さではなく性的な意味で賢者だと知った事。
 母さんに骨という骨を折られて寝込んだ事。
 ハラミボディに地位を奪われて閑職に居たハンマースイングを慰めた事。
 両親の情事を邪魔して母さんに殺されかけた事。
 無駄に鍛えられたトウフ君lv99の防御力を確かめた事。
 母さんに、母さんに、かあさんに……
 …ノンビリとした足取りだったのに思い出せば思い出すほど早足になる。不思議。
「あの、ローガス様。そのまま行くのですか?」
 すたこらさっさと巣の入り口に向かっていると後ろからメイド36号の嬉しくない言葉を貰う。
 おじさん、ママに出会うとトラウマが出るから、そんな心遣い要らないから。
「暫くお別れになるのですから、せめて一言だけでも…。それに他の方も皆集まっております」
「…そうか、場所は大広間で良かったな?」
「はい」
 大広間、元は大迎撃として活躍し数多の英雄の血を吸ったそこは現在では何も無いただの広間である。
 最もこの巣を閉じてから60余年、時々人間が伝説や噂を頼りに竜の巣を探し出して忍び込む事は良くあること。
 つまり、ただの広間とは言え、有事の際には元の役割を何時でも取り戻すのだが、それはともかく、今は別用途。
 理由はこの巣はとにかく、でかい。父さんの血と汗と涙と恐怖の結晶なのだ。
 巣もでかいだけでなく、人も多い。メイドから防衛部隊まで、優に3桁は超えている。故に彼らが一同に集まるにはこの大広間しか無いのだ。
「ああ、ローガス様! ダメですよ、人の姿のままじゃ!」
 大広間に足を踏み入れた処でメイド36号が叫んでくる。とはいえ、皆が雑談に興じているこの喧騒では大きくは感じられないが。
「…何故だ?」
「入り口付近の方はローガス様に気づいても、奥にいる皆は気づかないじゃないですか。だからちゃちゃっと竜の姿になってください!」
「あ、ああ…わかった」
 竜の姿になると攻撃的になるから余り好かんのだが…。そういうことなら仕方あるまい。
 ていっ。と気合を入れて本来の姿に戻ると、一斉に広間の喧騒が静まる。
 そして、爆発的な声。
「ローガス様! 巣を出てもお元気でー!」
「今度来るときはお土産おねがいしまーす!」
「素敵な婚約者ができるといいですねー!」
「ローガス様ー! あっしらハンマースイング隊も連れて行ってくだせぇー!」
「トウフ隊も鍛えているんでごわす! 次来た時には穴は簡単には開きませんでごわーす!」
「ローガス様ー! H本はもう要らないんでそこの所お願いしますー!」
 ぎゃーぎゃーわいわい。
 竜の姿になり、来た言葉はいきなりお別れの雰囲気。既に俺の出番終了のお知らせ。
「では、ローガス様行ってらっしゃいませ!」
「さよーならー!」
「お達者でー!」
「私達を忘れないでくださいねー!」
 …え、何、終わり?

 コツコツと響く足音が耳に響く。
 遠くに聞こえるのは大広間の喧騒。
 まあ、つまり何が言いたいかと言うと、本当に終わりました。
 しかも両親も居ませんでした。
 いや、いいんだけどさー? 竜なんてこんなもんですよ。はい。
 まあ、俺が子供作ったらこんな思いはさせないけどね? いや、本当に何とも思ってないから。
 どうせだし、最後に親に顔を見せようとね、探し回ってる訳ですよ。
 竜の間を探し、風呂場やトイレも探しましたとも、そして訪れた食卓の部屋の前。
『次は私が食べさせてあげる。はい…アーン』
 親を発見したのはいい。
 だが、母さんは父さんと二人きりの場を邪魔されると烈火の如く怒るので部屋に入れない。
『どう? おいしい?』
『あ、ああ美味しいぞ。所でリュミス、ローガスがそろそろ…』
『うれしい。じゃあ、次は私に食べさせて?』
『……』
『……』
『……アーン』
『…早いわよ!』
 母さんの怒声が響くと同時に俺は防御体勢を取る。
「あの、ローガス様…何故そんな過剰反応を…」
 しゃがみこみ、両手で顔をガードしている俺に声を掛けてきたのは胸が妙に寂しいお偉いさん。
「クーか、生きるためにはこうしたほうが良いぞ」
「そ、そうですか…」
 しかし、クーは何故、連隊長と呼ばれているのだろう。
『美味しかったわね』
『そうだな、所でローガs』
 連隊長の由来を聞こうとしていた所、食事が終わったらしい。
 これなら多少はヘソを曲げることはあれど、まあ、殴られることは無いだろうとドアノブを握り、
『えへへ、アナタ…キスして?』
 即、離す。人生、いや、竜生において石橋は叩いて叩いて、叩き壊すぐらいしてから渡るべきだ。
『いや、しかし、ローg』
『してくれないの…? 酷い…』
『……』
 もう、村に向かおうかな…。
『短い…愛が冷めたのね…』
『……』
「ローガス様、大広間へはもう向かいましたか?」
「ああ、妙に簡潔だったが…」
「申し訳御座いません、麓に冒険者の団体が見られ、警戒態勢に入っていますので…」
 顔を曇らせ、頭を下げるクーだが、この巣はそこまで防衛力が弱いというわけではない。むしろ、堅固な難攻不落とも言えるのだが。
「いえ、団体には【銀】が居ますので、世代交代をしたとはいえ、勇名を馳せたチームです、長らく戦闘経験をしていない現在ではこれが適当かと」
 俺の疑問を見て取ったのかクーが補足してくる。【銀】ならば俺でも聞いた事があるぐらいだ、余程の有名団体なのだろう。
『あ、ああん…ベッドにいきましょう?』
「……さて、行くとしよう」
「…あ、ローガス様。強固な隠蔽結界を施しているといっても完全ではありませんので、できれば人間の姿のままここを出て貰って構いませんか?」
 確かに、何の変哲も無いと思われている山から急に竜が現れると、そこには何かがあると思うのが普通だな。
「わかった。では、な」
「――はい、いってらっしゃいませ。ローガス様」

 巣を出ると鬱蒼と茂った森が目に入る。
 空を飛べば簡単ではあるが、それで冒険者に目を付けられて巣を騒がしくすると母さんが怒る。
 必然、俺の所為になり、手痛い目に遭うのはわかりきっているので、人間の姿のまま森を下っていく。
 それに木々や虫、モンスター等は我々、竜にとっては障害物になりえない。
 邪魔な木は叩き折ればいいし、虫やモンスターは竜の気配を感じただけで近寄りもしないのだから。
 道無き道だが舗装された道のように快調に下っていくと小さな村が見受けられた。
 そういえば、父さんが言っていたな…『麓の村には手出しはしてはならない』だったか…しかし見れば見るほど田園が広がるだけの長閑な村だ。
 手出しを控えるのは利益が出ないだけなのだろうか? しかし、食料の調達と言う点では役に立ちそうだが。
「あのー、そこで何をなさっているのでしょうか?」
 草むしりをしていた幼い獣人の娘が急に口を開き、次いで周りを見渡すが、人影は見当たらない。
「それは、俺に言っているのか?」
「はいー、そうです」
 ふむ、おかしいな。気配遮断魔法を使っているのだが…まあ多少は不安定でも仕方ないか、混血とは面倒なモノだ。
「それでー、何をしようとしていたのですか?」 
「いや、特に何もしないが」
 しかし、この小娘を見ていると何やら僅かな怖気を感じるな…。
 小娘は小娘で剣呑な視線を向けてくるが、いっそのこと無視してさっさと竜の村へ行くべきか?
「おーい、モミジ嬢ちゃん。息子夫婦が街から美味しいお菓子を買ってきてな、一緒に食べんか?」
 お菓子という言葉に注意が途切れた隙に俺は面倒事は御免とばかりに一息に山を降りていく。
 流れる景色と目前に迫る木々。それを時には避けて、時にはなぎ倒す。逃げ遅れた獣やモンスターが進路に居るならば、運が悪いと思ってくれ。
 時間にして3秒にも満たないだろうが、それなりの本気を出せば小娘、いや、下級魔族程度ならば余裕で振り切れる。
 最も、眼前に広がる広大な平野を見ると、それなり処かわずかな力で行けた気もする。
 丁度いい、遙か向こうに見える街まで、一度本気を出してみようか。巣では本気を出すこと等無かったからな、いい機会だろう。

「なんだったんだ? さっきの音は」
「冒険者同士の喧嘩じゃないのか?」
「ちげぇねぇ、ここで喧嘩しないなら何でも良いけどな」
 結果から言うなれば、街には『直ぐ』に着いた。
 最も、人間の姿のままだから、本来の姿ではどうなのかはわからんが。それなりの目安にはなるだろう。
 それでも、まさか地面が凹むとは思っていなかったし、大気というのがここまで邪魔とは思わなかったが。
 …さて、次は気配遮断が不安定かどうかを調べるか。
 都合よく近くにいた三人組の男の間近に立ってみる。
「所でよ、この街にも旧王国のレジスタンスが潜入したらしい」
「かーっ、まーたライトナ軍の監査が入るのかよ…奴ら金を払わないから困るんだが」
「ライトナもレジスタンスもいい加減諦めろって感じだよな」
 傍から見れば4人で輪になって喋っているように見えるが、誰も俺の方を見ようとしない。
 この男達も全く俺に気づいていないようだ。
 やはり、偶々魔法の調子が悪かったか俺の集中力が途切れたかのどちらかだな。
 さて、もう用は無い。さっさと本来の目的地に向かうとしようか。
 
 街を随分と離れた所の森がある小さな丘陵地帯で、辺りを綿密に見渡し、人影が無いと判断した俺は竜の姿へと戻る。
 空を飛ぶのは久しぶりだが、やはり気持ちがいい。なにより邪魔なモノが存在しないのがいい。
 別段、障害物を避けるのは構わないのだが、それでも真っ直ぐに自分の思うとおりに進めるのであれば、それに越したことは無い。
 一日目、天候良好・悠々自適。
 二日目、雲多し、それなりに飛んでいる。
 三日目、天候快晴、飽きてきた。
 四日目、天候悪し、飛ぶのに飽きたのと腹が減ったので獣を捕まえて食う。やはり生肉は美味しくない、メイドの料理が恋しい。
 五日目、豪雨、雨が鬱陶しいので雲の上を飛ぶ。
 六日目、天候良し、途中の街近くで降りて、人間から食べ物を買う。まあ、生肉に比べたらマシ。
 七日目、雲一つとて無し、人間も一人とて居ない。
 八日目、晴れ、何重にも張られた結界地帯を感知、恐らく竜の村と思われる。
 九日目、感知しただけ。意外と遠い。
 十日目、到着。

 俺は結界の手前にあるなだらかな草原に降り立ち、そのまま村の方向へと歩いていく。俺を確認していた、恐らく母さんが言っていた見張り役の大人だろう、同族が向かってくるのが見て取れる。
 俺の数倍はありそうな巨体だが、その重さも感じ取れないように優雅に降り立つと人間の姿になったので、同じように人間の姿になる。
 やはり、人間の姿のほうが楽だ…心情的にも。。
「いらっしゃい、竜の村へ。坊やの名前は何て言うのかしら?」
「ローガスだ、よろしく」
「ローガス? もしかして坊やの親の名前はリュミスベルンとブラッドかしら?」
 驚いたような顔で女が見てくる。さて、うちの親はそんなにも有名だったのか?
「そうだが?」
「…ブラッドの子供か。あはは、私はブリッツ…よろしくね」
「こちらこそ。所で何故人間の姿に?」
「ん、あの結界は内側から出ることは可能だけど、外からは入れないのよね。だから人間の姿になってここの、入り口から入るのよ」
 村では十分飛びまわれる広さがあるから、と声を掛けながら小さな洞窟に入っていく。途中で何回かチリリとした感覚…結界に触れたがそれだけで後は何の変哲もない至って普通の洞窟であった。
 しかし、感心するほどの防衛である。この村でこれだけの防備を固めた所で誰が攻めてくるのか。
 しかも、侵入者からしたら敵は竜である。複数の。数十人とかいう単位で。誰得。
 さて、村に入り、まず思ったことが広い。
 村というより、山々に所々大きな家があるぐらいで、それ以外はなにもない。そも、村というには物理的に家の距離が違う。
 そして興味津々に入り口に取り巻く圧倒的多数の女と極少数の男。
「ブリッツ、彼が新しい子かしら?」
「ええ、名前はローガス。なんと、リュミスベルンの子供よ」
 母さんの名前を聞いた瞬間、皆がホゥとざわめきだす。 
「――へぇ、リュミスベルンの子供?」
 女が一人、殺意を放ちながら俺に近寄ってくる。周りが止めようとしているが、なにやらそれとは別の他の女達に邪魔されて思うように止めれないらしい。
 ジロジロと不躾な視線でもって俺を見てくるのが不愉快だ。
「赤毛、俺に何か用か?」
「生意気」
 風を切る音と共に蹴りが飛んでくるのを捉えた。確かに早いが、母さんに比べると遅い。
 まあ…残念ながらわかった所で竜族の生態上、男では避けれないので何時ものように腕で防ぐ事に。
 瞬間、腕に衝撃が走り、その力のベクトルのままに体が浮くのがわかる。
「…いきなり何をする」
 腕が折れ、胴体には一部裂傷と恐らく骨のヒビが見受けられるが、腐っても竜だ、この程度はすぐに回復する。
「口に注意しなさい? 次は胴体が離れる事になるわ」
「ルヴィア! やめなさい!」
「止めたければ、止めれば?」
 その時は貴女が死ぬだろうけど。とブリッツを一瞥してから場を去り始めると妨害していた側の女達も後を追うように離れ、他の大人達も渋い顔や澄ました顔を浮かべながらも俺を見るのに飽きたのか各々が去っていく。
 今現在、俺の近くに居るのはブリッツともう一人の女、そして男達だけ。
「…まったく、あの決闘の和解は済んであるというのに。ああ…気にしなくて良いわ、私はミュート、よろしくね」
「ローガスだ、よろしく」
「君の住む所は彼らが案内してくれるわ、じゃあね」
 二人は仲が良いのか知らないが、ブリッツと共にミュートが竜の姿になると肩を並べて飛び去っていった。
「まあ、何はともあれ、ようこそ、新しい男の子」
「…あの程度で済んで良かったと思うべきだ」
「早く婚約者が出来るといいな。なるべく温厚な、が付くが」
 簡単な自己紹介の後、同情するかのように肩を叩いてくるが、この男達は身長もバラバラだ。
 女は大抵が成人していたように見えるが、男達は基本的に若いように見れる。
 それでも俺が一番年下で、見かけも人間の子供だが。
「まずは住居に案内しよう。こっちだ」
 一番の年長の男についていった先は、他のと比べて僅かに小さい家。
 古臭いが作り自体は重厚で悪くない、味が有ると言うのだろうか。
「ここが、これからローガスが過ごす家だ。まあ、女達の住居に比べると幾分劣るが、仕方ない」
「それはわからないでもないが、この所々壊れている所はなんだ?」
 大きな破損箇所こそ無いとは言え、チラホラといくつかの破損箇所が目に入り、それが気になる…別段、年月による破損なら気にしないのだが、明らかに人為的と思われるような箇所がいくつもあるからだ。
「ああ、代々、男竜の住処だったからな…つまり、女達にやられた」
「…?」
 何かしらの逆鱗に触れたのか? まあ、破損による構造上の問題は見当たらないから構わないが。
「それはともかく、俺達はもう行くぞ。ではな」
 あれよあれよと言う間に一人になってしまったが、ここで突っ立っていても仕方あるまいと思い直し、家を一回りしてみる事に。
 リビング・キッチン・談話室・トイレ…家という住処に不足は無いだけの設備はあるが、風呂が無い…。いや、有ることは有るのだが…元の巣では風呂のシステム、と言うべきか、シャワーから温水設備等、諸々付属しているのを総称して『風呂』と信じていただけに、風呂桶が置かれただけのコレは果たして風呂と言えるのだろうか?
 女性は身嗜みを気にしていると、どこかで聞いた気がするので追々、対策をしなければなるまい。
 やれやれと、埃被った椅子に座り込み、前途多難な新生活に頭を痛める。
「…まあ、何とかするしかあるまい」

――赤毛に風呂に巣作りに…嗚呼、全く持って面倒だ。



[9180] 次世代ドラゴン 第二話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:7e84d488
Date: 2009/11/25 23:19
 いきなりだが、竜族の性別間における能力について語りたいと思う。
 まず、第一に竜族において男女の性能差は多種族の追随を許しておらず、人間における男女の力関係だとか社会的地位だとかジェンダーフリーとかそんな可愛いものではない事を知ってもらいたい。
 例えば、種族で一番優れた男性の竜が全力の攻撃を放つと、少し大きめの島一帯を壊滅できる。反面、種族中一番優れた女性の竜が全力で攻撃を放つと大陸が沈む。この時点で『女>>>>>>>>(超えられない壁)>>>>>>男』というのが分かって貰えただろうか?
 では、理解したと信じて次に検証するのが種族中一番優れた男と一番出来損ないの女をモデルにしてみよう。
 先程と同じく男が息や魔力を振り絞って攻撃して大きめの島を壊滅させている間には出来損ないの女のほうは大きめの島の大部分を壊滅できる。ここでの力関係は『女>男(極一部)>女(平均以下)>男』ということになる。
 従って竜とは全体で見れば能力や個体数共に『女>男』であり、これは竜の定理としてテストに出るので受験生諸君は板書を忘れないで戴きたい。
 では、そろそろ俺は地面に衝突する頃なので今日の講義は終わりとする。


次世代ドラゴン


「すまない、少し時間があれば付き合って欲しいのだが」
 恐らく、今の俺は半身が何か巨大な質量体がぶつかったかのように傷ついているだろう。
 原因は女の名前の件だった。俺が部屋の掃除を済ませ、部屋でゴロゴロするのも如何かと思い、散歩していた所、大人の女が挨拶をしてきた。
 勿論、俺は友好的に接したつもりだったのだが、相手の名前を尋ねた所「私の名前を知らないっていうの!?」と殴られたのである。
 成程、確かに最初は自己紹介から入るべきだったと反省をして、傷を癒した頃に丁度別の女が通りかかったので、改めて軽く自己紹介をして、相手の名前を尋ねたところ、相手の気に障ったのか、激怒しつつ手が飛んできた。
 そして、またもや傷を癒しながら先程の反省をしていた所、どうにも俺が悪いとは思えないのだが…さりとて、またもや殴られたいとも思わず、女の名前を知っている男に協力を頼もうと訪れたのだ。
「それは構わないが…どうしたんだ、その傷は」 
「女の名前の件でこうなった」
「そ、そうか…」
「ついては、俺と同行して女が居たら会話と同時に、その女の名前を言ってもらえればと思っている」
 つまり、俺一人では名前の所で殴られるが、名前を知っている人物を連れて行く事により、俺がその女の名前を覚え、更に面識も深まるという一石二鳥作戦に出ることにした。
 これなら痛い思いをせずに目的を達成できる…ふむ、我ながら素晴らしいと思う。
「…全部回るのは無理だぞ?」
 無理しない範囲で良い、後は自分で何とかするという旨を伝え、相手の了承を貰ったところで家を出る。
 竜族は大抵、引きこもりがちではあるが、それでも何人かは外に出ているもので、そう時間は掛からずに一人目と接触した。
「あら、ケインとローガス…だっけ?」
「やあ、ミレーネ」
「改めて自己紹介しておく、ローガスだ。これからよろしく」
 なるほど、この栗毛はミレーネというのか。忘れては元も子も無いので、不審に思われない程度に上から下まで観察しておこう。
「で、二人ともどうしたの?」
「俺はまだここを良く知らないからな、案内を頼んでいた」
「ふーん? まあ、ここは広いだけで何も無いから、すぐに飽きるでしょうけど。それより、リュミスベルンって巣ではどうなの?」
「父さんと仲睦まじくやっている」
 と、ある程度の雑談をしつつキリの良い所で話を切り上げて、次の目標へ。
「ミレーネはどちらかといえば温厚だな、よし、次はあそこで座っているケティだ」
 という具合に難なくこなして、三人目、四人目と順調に来て五人目を探していた所、
「そこの小僧」
 と、道を塞ぐように立っていた老人。
 竜の村は竜族しか入れないのでこの老人は竜という事になるのだが、竜は人間と違い寿命が長い、いや、もしかしたら無いのかもしれない…自然死したという竜族は聞いたことが無いのだ。
 必然、竜は殆ど老化というモノはすれど、それは千年という単位での月日が経ち、初めて『ああ、ちょっと老けたかな』と思う程度である。父さんは800余年近く生きているらしいが未だに青年の姿で、母さんも少女と言える容姿をしている。
 なのに、この竜は老人のような見た目である、最初は偽装しているのかと疑ったが、身に宿った魔力は尋常ではない。竜は年月と共に魔力を身に宿していく、数千年を生きた竜は最早、無敵と言っていい…そして、この老人の魔力は偽装ではない。
「ローガス、竜の村の長老だ」
 誰なのか分からないという俺の雰囲気を感じ取ってくれたのかそう、助け舟を出す。
 …長老とやらが一体何の用なのかは検討も付かないのだが。
「名はローガス、父はブラッド、母はリュミスベルンで相違ないかの?」
「…? ああ、そうだが。それより、俺からもいいか?」
「なんじゃ?」
「老人、何年生きた?」
 至極どうでもいい質問なのだが、気になると調べたくなるのだ。
 それに、この老人は既に浮世離れしすぎて、実感が沸かない。もし、魔力が無ければどこかの霊体が半物質化しただけの老人と勘違いしてしまいそうだ。
「ふむ…時間等既に、無意味。小僧、付いて来い」
 それだけを言うとそのまま滑るように歩いていく。
「長老が喋るところを始めて見たな。何があるのかは知らんが、行ったほうがいいんじゃないか?」
「…お前は行かないのか?」
 俺の言葉に嫌そうな顔で、
「こう言うのもなんだが長老は不気味なんだ。だから、俺は帰る。じゃあな」
 と吐き捨て、来た道を戻っていったので仕方なく、老人の方へ目をやると何時の間にか、かなり遠くまで行ったようでなんとか人影らしきものが見える程度だった。
 まあ、呼ばれたならばと足を進めても一向に追いつかず、竜の姿になり空を飛んで向かった先は、何も無い草原地帯。
「魔王竜・電光竜・烈風竜・火炎竜・水氷竜・暗黒竜・地砕竜…そして、古代竜。この村には今この八つの種族の血がある」
 俺が漸く辿り着いた矢先だった。
 何かを待ちわびていた共、まだ足りない共見て取れる声色だが、老人は背中を向けているので表情は読めない。
「小僧、お主にはこの八つの竜の血が流れておるのは知っておるな?」
「ああ、知っているが?」
 父さんが古代竜以外の血を引く混血、母さんが純血の古代竜とは聞いてある。
「ならば話が早い。身体の異常は無いか? 魔力は安定しておるか? 又、その出力はどうじゃ?」
「老人、何が言いたい?」
「――答えよ」
 真意を測ろうと思うのだが、老人は答える気が無いらしい。
「…至って健康、魔力はともかく属性が一部反発、一部共振。出力は安定しない」
 そうか、とだけ答えた刹那、老人を中心に広い範囲での結界魔法を展開した。
 無詠唱・無拍子でここまで大規模なそして、それに恥じないだけの強固なモノを作るのは流石、と言うべきなのか。
「遠慮は要らぬ、どこでも構わぬ。八つの竜の力を使って見せい」
「混血の竜とは言え、老体には堪えるのではないか?」
 心配半分、毒気半分でそう告げるが帰ってきた返事はあろうことか、
「ふむ、その老体に向けて放ってもよいぞ?」
 まるでこれからそよ風が、やってくるとばかりの態度に本当に放ってやろうと思うが、ムキになるのも癪なのでやめる。
「順番は何でもいいな?」
 構わん、と言葉を貰ってから何も無い中空にまずは、俺の中で一番濃い血である古代竜の力を放つ。
 続けて、魔王竜。
 更に烈風・電光・地砕・火炎・暗黒・水氷竜の順で放ってみる。尚、古代竜以外は特に順番を決めていない。
「成程、あいわかった。もうよいぞ」
 パチンと結界が弾ける音を最後に老人が霞の如く薄れていくと最後には気配すら消えてしまった。
 書籍に書いてあったな…確か、こういうのを…仙人と言ったか? 霞を食べて暮らしていると書いてあったが、間違いないかもしれないな。
 しかし、一体何がしたかったのかはわからないが、俺自身にはいくつかの新発見がわかったので、そういう意味では有意義だった。
 この身体に流れる半分は母さんの古代竜の血、それ以外が父さんの混血の血が混じっているせいか、本気で属性別に力を放つと随分と総合的な威力が違うらしい。
 一番強いのが、古代竜。一番弱いと思われるのが火炎竜ないし魔王竜。俺の不得手というのもあるかもしれないが、恐らくこの二つが混血の最初だったのだろう、他の属性と比べて幾分弱い力しか出せなかった。
 ふむ…巣を出てよかった、色々と新発見があって飽きないな。次は何をしようか?
「さっきから何をニヤニヤしてるのよ」
 老人の声ではない、女の声がしたので周りを見渡すと向かって右側に赤い竜が飛んでくる。
 はて、人間の姿ならばある程度は思い出せるのだが、竜の姿はまだ全員分見てないので覚えきれないのだが。
「少し考え事をな…それより、何時からそこに?」
 ここで重要なのが、誰とは聞かない事だ。殴られたくないからな。
「喋りかけないで!」
 ボンッとそれなりの威力のブレスを身に受ける。
 最初に話したのはこの竜からなのだが…。
 完全に着地し、羽を畳むと瞬時に人間体に変化したまだ年若い竜は、この村に来たときに意味も分からずに蹴ってきた赤毛だった。
「…なんだ、赤毛か」
――あ、しまったな。
「っなんだとは、何よ!!」
 と思ったときには、既に遅し。とてつもない巨大なエネルギーを腹部で受けた俺は慣性の法則に則り、少し離れた地面に激突した。
 …これは、効いた。痛さで、暫く身動きできず、何やら叫んでいる赤毛の声が段々と遠くなってくる。
 だが、このままでは流石に不味い、と思い薄れゆく意識を必死で繋ぎ止め、黄金の数十倍の価値があると言われている竜の血の溜め池の中、俺は必死で内臓を元の場所に押し込む。
 確か東方の方で良い言葉が…『口は災いの元』か。言い得て妙だ、東方にも同じような境遇の生物が居るに違いない。
 そのようなどうでも良い事を考えていると、他の竜もチラホラと集まってきたようだ。
 結界を張っていたので、何も被害は出なかったとは言え、村中で早々竜の力を使っていては、何かあったと思うのが普通だろう。
「あれ? さっきから魔力を使っていたのはローガスだったの?」
 この茶色い竜の声色はミュートだ。いい機会だから少しでも竜の姿と人間の姿を記憶させておこう。
「誰かと思えば、ローガスじゃない」
「いきなり暴れていたのは貴方だったの」
「家が寂しくなったんじゃないかな?」
 色々と大人達が集まってくるが、ここまで俺の身体を気遣う発言は無い。
 誰一人とて、俺の惨状について治療魔法を掛けるだとか、そういう心遣いをしないというのは、当然だ。竜は気位が高いのだから。そも治療魔法というのすら必要が無いのだろう。
 やはり巣から緊急医療具を持ってくるべきだったが、今更後悔しても遅い…帰ったら治療魔法を習得しておこう。
「ふーん、リュミスベルンの子供っていうから、どんな力を使うのかと思ったけど…男の中でも更に弱いじゃない」
「混血らしいし、まあ当然と言えるけど」
「混血なんてものじゃないでしょう? 雑種よ、雑種」
 好き勝手言ってくれる…俺とてこんな混血なんて面倒は背負いたくなかったが、言い返すほどの実力も気力も体力も残っていない。
 それに、他の大人達を見てもこの若い女達に大なり小なり同意している面も見られる。
 俺の、この村での立場は限りなく低いようだ。
「ねえ、ルヴィア。貴方もそう思うでしょう?」
 俺を蹴った位置から仁王立ちで俺の睨んでいた赤毛…ルヴィアに同意を求める女だが、ルヴィアは俺から視線を外すと、
「――五月蝿い。道を空けないと殺すわよ」
「…え、何を言っているのよ?」
 だが、ルヴィアが本気で殺そうとしているのを見て取った女が慌ててその場から退くと、それ以上は何もせず、ルヴィアは飛び去ってしまった…一体、何をしに来たのだろうか。
 ルヴィアが立ち去るまでもなく、既に帰路についていた大人達は時間と共に俺の周りに居なくなり、俺が漸く、内臓を元の位置に戻せたと確信した時には既に誰も居なかった。
 たった一人血まみれで腹を抱えこんでいる俺は傍目に見て滑稽な物であろう。
 しかし、混血の利点とは本当に何なんだ? どれも中途半端で純血竜の力には届かず、純血を尊ぶ竜族に混血が尊敬される訳でもなく…。
 そう考えれば、母さんと父さんは何故結婚したのだろう、母さんの事だから嫌な事は捻じ伏せると思うのだが、いや、もしかしたら父さんには隠された秘密だとかそういう、
 
 めぎょッ!

「――ぐおおっ!?」
 な、なんだ!? 何か背中辺りに物体がめり込んだが!? 隕石か!?
 放っておこうと思ったが、このまま身体に異物があるのも嫌なので、背中からめり込んでいる物体を取ろうと思ったが、腹側から取ったほうが早いかもしれない。
 結局、自らの直りきっていない腹部に手を突っ込み、激痛にのた打ち回りながらも、異物を取り出したるは、強化硝子で出来た細長い瓶。
 竜の身体にぶつかっても割れることの無いこの瓶は専用の強化魔法を掛けられ、模様や外見も綺麗でパッと見ただけでかなりの価値があると思われる。元の巣でも之ほどの逸品はそうそう見つからないだろう。
「…これは…傷薬、か?」 
 独特の薬品臭さが鼻に付き、顔を顰める。
 一体全体、何故かはわからないが、俺は運がいいらしい。傷ついた所に傷薬が降って来るなど、まあ、そのお陰で新しい怪我ができたが。
 一番酷い部分である腹部に重点的に使わせてもらい、残りを背部に傷薬を垂らす。途端、怪我が治るというより再生していく勢いで怪我が塞がっていく。
「…これは、もしや、傷薬ではなく、あの再生薬ではないのか?」 
 昔、一度見たことがある。父さんが死にそうになった時、全財産を叩いても買えない医療薬が必要と言われた時、確か母さんが『当てはあるわ』と、どこかに飛び去り、暫くしてから、尋常ではない量の財宝が運び出されてきたが…。
 確かその時の薬がこんな感じの作用だったはず…名を【輪廻回帰】と言ったか…、もし、これがそうならば、俺はどれだけ馬鹿な事を仕出かしたんだ。
 重態ではあったが、命までは失わなかったと言うのに、普通の傷薬のような感覚でこの貴重な品を使ってしまうとは…っ!
「み、水とかで薄めれば、まだ使えるかもしれないな、うん」
 …そういえば、あの時以来、叔父さんが遊びに来なくなったな。

 何はともあれ、無事に家に帰った俺は空から降ってきた瓶をテーブルの上に置き、殺風景な家の彩りの一つとして飾りつける。
 家の豪華度が+2ぐらいはされたのではないだろうか。いや、何を言っているのか我ながらサッパリだが。
 そんな感想を他所に、俺は体中に付いた土埃を落とすべく湯船に向かう。男たるもの、身嗜みを整えねばな…。
 湯船に水を入れ、魔法で適当に沸かす、が、どうやら沸かしすぎたらしく泡を拭き始めたので水を入れる。今度は温くなりすぎる。そしてまた沸かす、と繰り返すが、一向に適温にならないので、多少は熱いが湯船に浸かる事に。
 …熱い、もう出よう。
 風の魔法で水分を飛ばしつつ、血糊のついた所は水の魔法で流しとる。ついでに、最初からこうすれば良かったと軽く自己嫌悪。
――よし、俺が巣を作ったら風呂設備は完備させよう。

 



[9180] 次世代ドラゴン 第三話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:7e84d488
Date: 2009/07/14 13:51
 さて、今日は、竜の成長について語りたいと思う。尚、成長と言っても身体的なものではない、所謂、経験等の分野である。
 竜とは肉体的に非常に優れた能力を見せ、骨が折れた・腕が千切れた・内臓が潰れた等の怪我は程度にもよるが、大概が一時間も掛からず、たちまちに直ってしまう。
 更に、頭脳や魔力も他種族が100年掛けて学ぶモノがあったとしたら最長一日、最短一回、見ただけで我が物にしてしまう。太古の昔、天界・魔界・人間界の三界を相手に戦争を吹っかけるだけの自信があってしかるべきだ。しかも、敗戦後の能力が削られた状態でこれだ、戦争前の状態は言わずもがな、だ。
 だが、そんな優れた能力を持っていても、生まれた時より巣に居たメイドに甘やかされ、生きるのに役に立つ知識というのを得る機会が無いのが現状である、が、仮に問題が起きたとしても持ち前の能力で力尽く解決できてしまうので、性質が悪い。
 では、本題に入るが、巣立ち前は対人コミュニケーションというのを全く知らない子供が、村を出る頃には対象限定ではあるが立派な紳士となって巣作りに向かうのだ。
 理由を語りたい所ではあるが、如何に優秀な頭脳を持っていたとしても、それ以上の優秀な腕力の前には無力なのである。
 ふむ、そろそろ、鉄拳が俺の顔に当たるので今日はこれぐらいにしておく。生徒諸君は予習を忘れないように。


次世代ドラゴン


「あー、つい、やっちゃった。はい、おかわり。今度は美味しく淹れてね」
 始まりは簡単だった。
 俺が草原で横になって昼寝していると、ブリッツがやってきたのだ。正直、女には関わりたくないのだが、そうも言ってられないので、適当に雑談をした後にお茶を誘ったのだ。
 ここでミソなのが、女に何もせず『はい、さようなら』とすると、相手は軽んじているのか、と怒る。しかし、相手が忙しい時にそんなことを言うものなら『忙しいのよ!』と怒る。
 確立は単純に二分の一と思われるが、相手の挙動や表情を見逃さないようにすると、殴られないで済む確立が上がるのだ。
「いや、俺が下手だったからな。気にするな」
 普段の俺ならば、何かしらの珍しい物や綺麗な宝石を探し出して、出会い頭の場面に備えるのだが、生憎と持ち合わせが無かった。
 しかし、相手は暇そうにしているので、今殴られるより、後で殴られようとお茶に誘った訳である。
 結果は、今、俺が紅茶まみれで、顔に青痣がついているのですぐに分かると思う。
「あはは、ブラッドも最初は散々だったからねー」
 そういえば父さんも母さんに紅茶を淹れる事が多々あったが、クーにも負けない手際よさだった。きっと父さんもこうやって鍛えられたのだろう。
 しかし、紅茶というのは茶葉を淹れて御仕舞いという訳ではなく、湯の温度や蒸らしたりするのも必要だと知った。。普段、何気なく飲んでいて、手順については全く見てなかったのが悔やまれる。
 勿論、カップを置くときは取っ手を取り易いように置くのもワンポイントの一つだ。
「待たせたな」
 6度目の正直。今回のは中々香りも良い。
「ん、んー…まあ、いいかなぁ? 次出したらダメだけどね」
 手厳しい。だが、これ以上やり直しの度にカップと拳が飛んできては、カップの在庫も俺の傷も大変な事になるのでまずは良しとする。
「いやー、リュミスベルンの子供っていう立場は辛いねー。彼女が村に居たときに苦渋を飲まされたのが一杯居るから、あはは、まあ私もその一人なんだけど。あ、このお菓子美味しい」
「そうなのか、すまない」
 母さんが何をしたのかは分からないが、謝っておいて間違いは無いと思う。多分。
「ローガスが謝ってもねー、まあ私とかミュートは別にいいんだけど、他の大人達にとってはリュミスが居なくなったからねー。皆鬱憤が溜まってるのよ、頑張れ男の子」
 母さんに対する憎しみを俺にぶつけられても困るだけなのだが。
 すると、ルヴィアも母さんが何かしたのだろうか?
「あ、他の女の事考えてるなー? 目の前に綺麗な女性が居ると言うのに、別の女の事なんか考えちゃって…えいっ、竜誅!」
 殴られた。
 何故分かったのだろう。
「ふっふっふ…女性はそういうのに鋭いのだ。離しを戻すけど、大人達と違ってルヴィア達のような年若い子はリュミスベルンを知らない世代でねー、本人に会った事も無いのに恐れる理由なんて無いみたいな事を言ってね、反発してるのよ」
 まだまだ青臭いわー。と、言いつつ本当に美味しいのか、お茶菓子に出したクッキー、その最後の一枚を口に入れる。俺はまだ食べていないのだが、そんなにも美味しかったのだろうか。
「…まあ、ルヴィアには一応、因縁があるかな?」
 お菓子を補充すると、ズイとカップを押し付けてくる。おかわりか。
「ほう、何があったんだ?」
「昔、リュミスベルンと火炎竜の一族の一人が決闘してね。リュミスベルン、殺しちゃったのよ、決闘相手」
 美味しい紅茶を作るために注意を払っていたが、この時ばかりは多少注意散漫になっても許してもらいたい。
「…で、どうなったんだ?」
「戦争になりかけたわ。火炎竜全ての一族とリュミスベルンで」
 言葉を失うとは、今の俺だろう。如何に母さんでもやりすぎではないだろうか。
 同族殺しは禁忌にも近いのだが。
「実際戦争していたら、リュミスベルンの圧勝でしょうけどねー。一人で天界と魔界に喧嘩売れる実力があるからね、くやしいけど、敵わないわ。話を戻すけど、ルヴィアはその殺された決闘相手の妹なのよ。しかも、火炎竜一族の俊英、村全体で見てもかなり上のほうの実力があるわ。勿論、プライドも。だから、ローガス、機嫌を損ねると死ぬから」
 まあ、リュミスベルンには全然届かないけど。と軽く言ってくれるが、俺には死活問題だ。
 何分、混血の上に男である、女に敵うはずが無い。断言しよう、決闘を申し込まれたら俺は死ぬ。
「…まあ、事情はわかったが、その、そんな母さんがなんで混血の父さんの結婚を受け入れたんだ?」
「なんでだろうねー。元々、リュミスベルンが婚約者じゃなかったのよね」
 竜はその親同士が決めた婚約者が存在する。婚約者が決まった男はその婚約者を迎え入れる為に巣を作り始めるのだが、婚約者が変わるなんていうのはまず、無い。
 男が一方的に断れば、婚約者に殺される、女にとって不名誉な事だからだ。
 ちなみに、男が作った巣が気に入らなければ殺される、婚約者に、不名誉な事だから。男は頑張って巣という名の墓を作るのが宿命なのだ。
「あはは、案外、遺伝子が求めたのよ。なんて言うかもね、ともかく、ブラッドの混血には長老の意向が働いてるのよ」
「…? あの仙人が何故だ?」
「私も良く知らないけど、なんでも、竜の弱点を直すんだか、戦争に備えた実験だとか、まあそんな理由らしいわ」
 残念ながら、自分で言うのも悲しいが、弱体化していると言わざるを得ないな。諦めたら如何か、と実験体たる俺から言わせて貰おう。
「じゃあ、もう行くわね」
「そうか、次はより美味しく淹れられるようにしておく。また来てくれ」
「あはは、期待しないで待ってるわ」
 男の嗜みの一つ、次回の来訪を期待しているとの言葉を伝える事。
 こうすれば、相手から好印象を得られ、女は程々に自尊心が満たされるのだ。尚、この言葉が必要というのに気づくまで俺は何度殴られた事だろうか。
 
 さて、知人が去ってまず、すべきことが有る。
 風呂に入る事だ。割れたカップの破片を気にするより、この紅茶まみれの身体を何とかしなければなるまい。
 後片付けもそのままに、浴室に入った俺はイソイソと衣服を脱ぐ。魔法で作れば簡単なのだが、俺にはそんな器用な真似はできない。
 湯を沸かして適温にする。この作業には慣れたもので、自分好みの温度にすることなど今では息をするように出来る。
 湯船に浸かり、気分が落ち着いてきた頃に、玄関からノックをする音が聞こえる。恐らく、カインかリュークか…男しかわざわざ訪れる者がいないからな。
 奴らならば、そう急ぐこともあるまい、とガウンを着込み、タオルで頭を拭きながら――魔法連発は面倒、混血故の悲しさだ――玄関口を開く。
「遅い」
「…………ルヴィ、ア?」
 エターナルフォースブリザード、俺は死ぬ。
「上がるわよ」
「あ、ああ…談話室はそこの突き当たりを右に曲がった所、奥から二番目の部屋だ」
 予想外の珍客にどうしようかと迷い、まずはこの格好をなんとかしようと、服を着替える。
 危ない危ない、この格好のままでは殴られる所だった。
「すまん、待たせぐぉ!?」
「汚い!」
 ドアを開けた瞬間、俺は反対側の壁に激突した。
 そういえば、カップの破片や紅茶が散乱していたままだった…っ。
「す、すまん。すぐ片付けよう」
 水の魔法で汚れを洗い流し、風の魔法で破片を無理矢理集めて、ゴミ箱へ。
 テーブルクロスを元の位置に素早く戻す。勿論、あの空から降ってきた瓶はきちんと退けてあるのでそれを元の場所へ。まあ、何とか、客を迎えれる体裁は整ったと思う。
「今、お茶の用意をする。アールグレイでいいか?」
「何でもいいわよ」
 まさか、俺がお茶の種類を覚える時が来て、あまつさえ、それを自分で淹れる時が来るとは、数年前には思いもしなかった。
 八回目ともなれば、ある程度は雑念が混じっても淹れられる。これなら、満足とは言わなくても及第点だろう。
「待たせたな」
 色、香り、共に初回目とは比べ物にならないぐらい進歩している。味も自信有り、だ、クーのレベルにまで達するのにそう、遅くはないだろう。
「ふん……あら? 中々、お…紅茶は今まで淹れたことがあるの?」
「いや、今日が初めてだ。先刻、ブリッツに鍛えrぐぁ!?」
 先程より強い衝撃が顔を襲う。椅子ごと半回転したが、それでも椅子は壊れること無く、床も傷が付くことがないのは、流石、竜の住処というべきか。
「美味しくないわ、やり直し」
 …一体何が悪かったのだろう。ブリッツに及第点を貰った時より上手く淹れれたと思うのだが。
 いや、成程、気位が高いからそのような妥協は気に入らないのか。
 前回の反省を生かし、都合、九回目に取り掛かり、最高の紳士動作(?)でお茶を置く。
 間違いない、これは、完璧だ。
「やり直し!」
 コトリと、置き終えた瞬間には、カップが俺の額に直撃していた。
 一体何を言っているのかわからないが、拳銃だとか電磁砲だとかそんな、玩具のようなものじゃなかった。もっと恐ろしいモノを味わった。
 カップは衝撃で粉末状になり、湯気の立った紅茶と共に俺の顔を襲う。目がー目がー。
「……」
 一体、何が悪かったのだろう。せめて、一口ぐらい口を付けてから文句を言ってもらいたいのであるが、そんな事を言ったからには俺は、効果があるか知らないが水で薄めた【輪廻回帰】を使わざるを得ない事態になるのは、子供でもわかる。
 だが、これ以上となると、俺は出来る気がしない。
 …いや、待てよ。淹れなおすのではなく、文字通り、最初からやり直せばいいのではないか?
 つまり、ブリッツに淹れた、あの色のついた苦い水から始めればいいのか、いや、しかし、あれは自分でも酷いと思ったが、いやいや、次に同じ過ちをすれば今度こそ、俺は死ぬ。
 いや、人の姿だから死ぬことは無いが、それでも辛い事には変わりない。そも、竜の姿で暴れて、ルヴィアにまたもや殺されるというのも容易に想像が付く。
「…………」
「早くしなさい。殺すわよ」
 …やるしか、無いのか。いざとなれば、頼んだ、お薬よ。
 おもむろに茶葉を適当に一掴みし、泡だった湯に放り込み、適当な色が付くまで放置してからカップに注ぎ込み、茶とは言えない茶が完成。
「で、できたぞ」
「…」
 なんとも言えない匂いをかもし出す、茶を見つめるルヴィア。俺がドモったり、手が多少震えるのも仕方ないと思って欲しい。
 ブリッツならば、この時点では既に手が出ていた後だったが、ルヴィアは何も言わないし、手も出さない。だが、それが逆に怖い。
 ルヴィアがカップを持ち、匂いを嗅ぐ。眉をしかめるのを見て、俺は冷や汗で服を濡らす。
 カップを口に近づける。残り2cm。
 『ルヴィアはその殺された決闘相手の妹なのよ』
 いやいやいや、俺は直接的には関係無いだろう、大丈夫と思いたい。
 紅茶がカップの淵で隠れて見えなくなる。残り1cm。
 『村全体で見てもかなり上のほうの実力があるわ。勿論、プライドも』
 そうだ、堂々としていればいい、女は卑屈だと、逆に情けないと怒る。だから堂々と、堂々と…
 眉をしかめたままのルヴィアが遂にその小さい唇をカップにつけて傾ける。
 ど、どうどうどうどうどうぅ…
 『だから、ローガス、機嫌を損ねると死ぬから』

――ピクリ

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
 ルヴィアの瞼が動いた刹那、俺は瓶を握り締め部屋の隅にまで転がるように、逃げて、うずくまる。
 恥も外聞もあったものではいが、怖いのだから仕方ない。
 中身は既に無いというのに、必死に【輪廻回帰】の瓶を壊れるのではないかという程握り締め、ルヴィアからの攻撃に備える。願わくば、脳髄部分はやめてほしい。
「ぁぁぁ……あ?」
 別段、胴体が千切れる訳でもない、意識が薄れ行く感覚も無い。まして、攻撃を受けた訳でもない。
 何もされないのに疑問を感じて、ルヴィアをチラリと盗み見る。俺としては、良くて即死と思っていたのだが、ルヴィアは続けて、二口目でカップの残りを一気に飲み終わった後に、
「美味しくないわ、淹れなおして頂戴」
 …こ、これは確率上、二分の一、いや、百分の一の生き残る選択を引けたと思っていいのか?
「何をしているの、早く」
「あ、ああ。すまんな…」
 俺は疑問に思いつつ、死にたくない一心で、茶の量を前回より少し減らした改良版、旧二回目の方法で作った紅茶を、カップの中の下程度注ぐ。
 通常より、少ないが、もし、カップを投げつけられると、火傷の範囲を減らせるのでな。先程は通常通りの分量を入れたが、あれを投げられると、痛いし、熱い。
「先程より、大丈夫だと思うが…」
 色、香り、差し出す時の言葉まで、全てが二回目と一緒だ。だが、やはり、まだ怖いので手は震える。
 これで、機嫌を損ねると元も子もないからな。もし、ルヴィアが美味しい紅茶を求めていたのならば、俺は死ぬ。
「少ないわ。ふざけてるの? もし、そうだとしたら、殺すわよ」
「あ、ああ、確かに少ないな。すまん、淹れなおそう」
 ルヴィアの言葉に慌てて、別のカップに定量注ぎなおす。
 二回目とは言え、またもや冷や汗が出るが、我慢する。
 一口飲んだ後は、同じように眉を潜め、お茶菓子を口に入れる。当然だろう、ただ渋いだけの茶なぞ、美味しくないのだから。
「必要ないわ、下げなさい」
 一向に、カップを投げ捨てようとしないルヴィアに対し、砂糖の入ったガラス容器をさりげなくルヴィアの近くに置くが、にべもないお言葉を貰う。
「…無理に、飲むことはないぞ?」
「黙りなさい」
「…」
 悪戦苦闘しつつも、律儀に五口目には全てカップの中身を飲み干し、
「全然駄目。次、淹れなさい」
 三回目も、まだまだ茶とは言えないが、それでもルヴィアは文句も言わずに飲み干す。いい加減、辛いだろうと、分量を減らそうとしたが、怒られたのでやめた。
 結局、最後の六回目の茶も全て飲み終えたルヴィアが視線で次、と言うが、俺は首を振る。
「いや、さっきので最後だ」
「…そう。帰るわ」
 さて、次は何が来るんだ、と身構えていると以外にもあっさりと席を立ち、帰ろうとする。結局、何をしにきたのだろうか、碌に会話もしていないのだが。
 最も、そのお陰で俺自身はルヴィアの鋭い視線から解放され、漸く、体中の筋肉という筋肉が緊張状態から脱した。勿論、精神も。
 微かな溜息と共に、事有る毎に握り締めていた瓶をテーブルに戻すと、ルヴィアが怪訝そうに口を開く。
「さっきから、それ、大事そうに握り締めていたけどそんなにも効能があったのかしら?」
「ああ」
 迷い無く、首を縦に振っておく。もし、我侭を許してもらうなら、もう一度、この天からの恵み物を貰いたいものだ。今後の為に。
「ふーん……。ローガス、元の姿になりなさい」
 言われた通り竜の姿になり、理由を聞こうとするが、そんな暇もなく、胸部に強打。バキャッという骨が折れる音と、その折れた骨が肺や心臓に突き刺さる感触。
「怯えすぎ――情けないわ」
「ずま゛ん゛、づぎヴぁ、う゛ま゛ぐ淹れよ゛う」
 また来てくれと、紳士に振舞おうとしたが、もう声が、血が邪魔で、息が肺に残って無くて、喋れない。
 俺は、次第に消えていく心音の中、ルヴィアにあの瓶の中身が薬と言ったか? と、どうでも良い事を思いつつ、赤毛を揺らしながら去っていくルヴィアを見送る。
――…嗚呼、瓶が、瓶が遠いよ。手が、届かないよ。

「おーい、ローガス。居てるなら、返事を……うぉお!? ローガス!? 死ぬな!!」
 後日、俺に用事が有ることを伝えに来たカインに助けられた。
 処置が悪ければ、死んでいたらしいが、生きてた。
 うん、生きているって素晴らしい。



[9180] 次世代ドラゴン 第四話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:7e84d488
Date: 2009/07/14 13:47
 今日は竜の生活について語りたいと思う。
 竜は巣を出るまでは何かと巣にいるメイド達に甘やかされて過ごすが、巣立ちをし、竜の村に住んでいる竜達はそうは行かない。回りには同じ竜族しかおらず、我侭を言える竜といえば、極少数の男達だけ。
 しかも竜の女はプライドが非常に高く、自分が男が居ないと何もできない、等と噂された日には恥辱の極みと思っている節もある。だが、悲しいかな、プライド以上の不器用さも持っているので、細かい事はそうそう上手く行く事は無い。例として、俺の母親がスプーンにすくったスープを父の口に持っていくまで5分は掛かる。毎日毎日二人っきりで同じことを繰り返してソレである。当初はもっと時間が掛かったに違いない。
 さて、では料理を作らなくても良いじゃん。食べなくて良いじゃん。と思うかも知れないが…確かに竜は何も食べなくても生きていける、が、竜とて空腹は感じる。空腹のままずっと過ごそうなぞ、誰も思わないものだ。
 だが自分は料理ができない、でも腹が減った。となると現れるのが男竜である。勿論、直球で『飯作れ』と言う訳ではない。まずはどこかに出かけましょう、いいお天気ね、家で紅茶が飲みたいわ。あら美味しいわね、あらやだ、もうこんな時間じゃない。等と遠回り遠回りに料理を作れと強請る訳だ。
 こうすることによって、女はデートをしていると、男が料理を作ってくれた。という事になり、私は別段、一人でできるんだけど、などと周りに言えるのだ。…女で料理ができるのは見たことも聞いたことが無いが。
 俺自身はまだそのような事象は無いが、何時起きても不思議ではないし、ここで料理なんて無理ですと言った日には…。ま、まあそういう不幸な目にも会わない為、日々男は頑張るのである。
 以上、竜の生活だ。次回は竜種の説明を行うので予習を忘れんようにな。


 次世代ドラゴン


「…ローガス。そんな炭を女に出した日には、怪我じゃ済まないぞ」
「いや、わかっている。火加減が強すぎたみたいだな」
 手元のフライパンには過去には目玉焼きだった黒い物体が乗っている。
 何分、紅茶とは違い、料理はメイドに言えば出てきたし、言わなくとも時間通りには出てきたもので、このフライパンなる鉄の調理器具は初めて見た有様だ。
 そもそも、本来ならば竜は食事を食べる必要は無い。ただ、人間が料理から栄養を摂取しているように、竜は世界を覆う魔力を潤滑に体内に取り込む為の補助であり、いや、厳密には唯の気分的な問題だ。
 竜とて空腹は感じる、故に腹が減ったままより、ある程度は腹が膨れているほうが、気分が良い。竜にとって、食事とはその程度のモノだ。
 だというのに、俺がわざわざ、他の男竜に料理を習っているのは、女の所為である。
 他の男共は、俺が料理を作れないと知るや、口を揃えて『料理は、最低限作れたほうがいい』と言う。俺が何故だと問うと、簡潔に『女に殴られずに済むぞ』と。
 俺は、その話に飛びついたのは言うまでも無い。少し前には死に掛け、漸く、傷が治ったと思えば、ルヴィアにまたもや殴り散らかされる生活である。少しでも殴られる可能性が低くなるならば、俺は積極的にその方法を見に付けようと、心に誓ったのだ。
「女は時々、料理を作るよう言ってくる事があるからな」
「お前は経験があるのか」
「ああ」
 結論から言えば、大怪我したがな。と代わりの卵を投げてよこす。放物線を描いて飛んできた卵をキャッチすると、握り締めすぎたのか卵が潰れてしまったので、結局自分で取りに行く。
 気を取り直してフライパンに乗ってある失敗作を地面に放ってから、火魔法で熱してから、卵を投下。最初は卵そのものをフライパンに突っ込んだ事を考えれば、黒く焦げていても問題は無いのではないかと思う。
「よし、そこで弱火にして蓋をしろ」
 弱火、弱火と心で復唱しながら、魔力の出力を絞っていくと、プスンと情け無い音を出して火が消えてしまった。
 まあ、慣れた事なので再度、火魔法を使うが今度は強すぎて、みるみると卵が焦げていく。む、弱火、弱火。…プスン。
「…そもそもとして、何でこんな魔法ができないんだ?」
 フライパンに接している部分は焦げて、反対側にある表面はまだ生の、有る意味、半熟目玉焼きを見つつ、呆れた顔で俺を見る。
「俺は不器用だからな。長い目で見て貰いたい」
 混血というのもあるが、それ以上に俺が不器用なのが原因だろう。
 巨大ダムの放水部に一般家庭用の蛇口を付けた物を想像してほしい。蛇口を少しだけでも捻れば、ダムの圧力で勢い良く水が出る。蛇口を出るか出ないかの極限まで閉めても、圧力で出る。もっと閉めてみると今度は完全に閉まって水が出なくなる。つまりそういうことであり、俺はその絶妙な匙加減が出来ない。
 これは魔法の場合だが、竜の力の場合、他の属性がなにやら、その通るべき道筋に障害物のように邪魔していたり、道そのものを縮めたり、広げたりで安定しない。結局、邪魔するものを押し流すようにしてしまい、安定=全力という具合になってしまうのだ。
「目玉焼きでここまで苦労するなんて、お前、そんな所だけは女みたいだな」
「…褒め言葉として受け取っておこう」
 でないと、悲しい。
 …
 ……
 ………プスン
「ああ、もうやめだ。まずは火加減を調節できてから、だ」
 と、20回目の失敗作と共に全く火魔法が調節できない俺を見て、匙を投げられた。
 薪を使えば早いのだろうが、生憎と切るのが面倒なので備蓄していない。
 慣れれば、調理の必要は無い、生野菜と生肉で行ってみよう。いや、むしろ、食べないでいい。と、女に言えたらこんな苦労はしないのだが、俺にできるのは精々、木こり竜と化すことだけだ。
 自嘲的な気分で紅茶を注いでやっていると、空に複数の女達が村を飛びまわっている。
「…なにやら、最近、村を飛び回る女が多いな」
「ああ、あれな。何やら長老から言われて情報収集しているらしい。全く、目的はさっぱりわからないが、東方の情報を集めろだとさ」
 お陰で俺は女からの怒りの捌け口にされているんだ。と、渋い顔。
「何故だ?」
「それが知っていたら、苦労はしない」
 それもそうだ、と頷く。場は次第に最近の女の間での確執やあいつは宝石が好みらしい、等の情報交換。最終的には、お互い女について愚痴ったり。
 ふむ、偶には茶を肴に男同士、愚痴を言い合うのも悪くない。聞かれていたら、笑えないが。
 このまま、話の華を咲かせて一日が終わりと思いきや、
「おい、ローガス! 新人が来たらしいぞ!」
 まるで、良い娯楽がやってきたとばかりに、家に乗り込んできた珍客。確かに良い娯楽ではあるが、反面、新しい身の危険なのだが。
「おいおい、リュート、仮にも人の家だぞ、せめて声を掛けてからにしたらどうだ?」
 全くだ、と言いたい所ではあるが男同士、そして少数派同士、仲が良い。今更、他人行儀は要らない。
「ふん、今更さ。それより、行こうぜ。顔と名前を覚えなければならんからな」
「確かに、覚えないとな。しかし、ローガスが来てまだ十年も経ってないだろう?」
「…そうだな、大体…七年か?」
 竜の出生率は限りなく低く、竜の村に新しい子供が百年間来ませんでした、などというのは当たり前で、二、三百年経って漸く、『子供、最近こないわね』と話題に出る程度である。
 そして、漸くやってきた新人の性別は十中八九、女である。そのため、男の肩身は狭くなり、さっさと巣作りに出かけるので、村の男女別比は非常に偏っている。
 必然、雑用や怒りの捌け口が、この少数の男達に向かうので、男同士のコミュニティが出来て当然である。最も、性格が傲慢であったりと千差万別のため、一枚岩ではないが。

「まだかしら?」
「そろそろじゃない?」
「ブリッツ、まだなの?」
「私に聞かれてもねー…」
 わいわい、がやがや。
 山や草原は有れど娯楽は無いこの村において、新人がやってくるとなれば、暇を持て余した女が歓迎するという名目で野次馬と化すのは恒例らしい。
 男でもそうだが何分、女の性格が性格である。もしやってくるのが女ならば情報はなるべく早く収集したほうがいいし、男ならば万々歳、ようこそ、竜の村へといった所である。
「ローガスならまだ年は近い筈だから宜しく頼む」
「わかった」
 やはり、初対面の挨拶は同じ年齢層のほうが良い。俺もこの村に来たときは同年代方面が居なかったので少々寂しく感じたものだ。
 最も親しいカインと俺では年の差は100歳程度で、男連中の一番上が380歳だったか? 一番下が俺の50歳程度だ。自分の年なぞ数えてない。
「…うん?」
 芥子粒ぐらいの大きさだったが、20分も経つと今では肉眼でハッキリと姿が確認できる。勿論距離は相応にあるものの、人間とは視力が桁外れに違う。
 そして俺は確認した姿から女と理解して気分が沈みこんでいた所、俺の隣で目を細めていたカインが素っ頓狂な声を上げる。
「どうした?」
「いや…同族だ、と、な」
 妙に歯切れが悪く言うが、確かにあの黒金属のような光沢は魔王竜の一族だろう。カインも竜の姿になると鈍い光沢を放つ黒い竜になるのだから。
「近い親戚ならお前のほうが良いかもな」
「そうだな…」
 なにやら思案顔のカインだが、新しい女は大分速度を出しているのかグングンと近づいてくる。いきなり殴られるにせよ、何にせよ覚悟は決めたほうが良いと俺は言ってあげたい。
 村の傍までくると出迎えるのはミュート。一言二言か口を動かしてそのまま地面に着地し、少しするとやってくるミュートと新しい村人。
 ミュートの一歩先を歩き、自信満々とでも言うような表情で風を切って歩いてくるその姿は良く言えば気品に溢れ、悪く言えば、世間を知らない我侭な子供とも言える。
「あ、思い出した。あれ、多分…」
 ポンと手のひらに握りこぶしを振り落とし、喉に刺さった骨が漸く抜けたような顔をしたカインだったが、次の言葉を吐く前には、
「妾の名はエルザ。さて、まずはこの村に妾の兄が居ると聞いたのだがどこかや?」
「俺の妹だわ」
 すまん、忘れてた。皆よろしくやってくれ、と口を開けたままの俺含む男連中に対し、そう伝えるカイン。
 せめて自分の家族ぐらい覚えといて貰いたいと思ったのは俺だけではない筈。

 一通り顔見せが終わった頃合には女達は飽きたとばかりにそれぞれ解散すると男達も少し遅れて帰宅した。残されたのは俺とカインとその妹だけ、時刻はまもなく夕刻という所か。
 流石に、全員の自己紹介は無理なので、今後カイン妹は名前と顔を覚える日々であろう。
「いや、何十年か前に俺の妹が生まれたとは聞いていたんだが、それ以来、手紙も無くてな、村から出る訳にも行かず…うん、すっかり頭から抜け落ちていた」
「忘れるなんて酷い兄よの」
「はっはっは…すまんすまん。さて、そろそろ家に向かおうか。お前はどうする?」
「ふむ、今日の所は帰ろうと思う。疲れているだろうし、家の準備もあるだろう?」
 女とは言え折角の同年代だからもう少し話をしたいとは思うのだが、別段今日だけと言う訳ではないからな。
「なんじゃ…もう帰るのかえ?」
「ああ、何か困ったりしたことが有ったら遠慮なく言ってくれ。では、な」
 皆、すぐに帰ってしまって、殆ど顔なぞ覚えておらん。などとしかめっ面で呟くカイン妹に、時間はあるさ、とだけ苦笑しながら答えておく。俺も当初は好奇心に溢れ、皆と喋りたかったが…今? さっさと巣作りに逝きたい。今すぐにでも。例えそれが、自らの墓だとしても。
 まあ、それはともかくとして、俺も皆に習い、家に帰ろうと思う。尚、竜の村では一人に対して一つの家ではなく、あくまでも家族は同じ住居というのが相場である。カイン妹の性格はまだ詳しくはわからないが、まあ、兄に対してそう、酷い事はしないだろう。頑張れ。
 
 





[9180] 次世代ドラゴン 第五話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:7e84d488
Date: 2009/12/03 17:10
 竜は種族別に異なる力がある。
 例えば、烈風竜。これは名が示す通り、風の属性がついた力だ。鉄を切り裂く真空の刃、木々や家屋を薙ぎ倒す暴風…これらは烈風竜における代表的な攻撃方法だ。
 そして、現在の所、村には8つの種別が居る。過去に話したかもしれないが、復習がてら、もう一度おさらいしておこう。
 魔王竜・電光竜・烈風竜・火炎竜・水氷竜・暗黒竜・地砕竜・古代竜。この八つの氏族が構成している村を通称、竜の村と呼ぶ。
 さて、このそれぞれの力だが、電光竜・烈風竜・火炎竜・水氷竜・地砕竜・暗黒竜については名が示すとおりの属性を持つので割愛させて頂く。
 では、魔王竜と古代竜について説明させて頂く。魔王竜は『王』の字がついている事により、勘の良い生徒諸君は、答えに近づくだろう、いや、わからなくても問題無い、その為に説明するのだから。ふむ、少し脱線してしまったな。
 魔王竜は他者の妨げを捻じ伏せうる力を持つ。仮に、山が道を塞いでいたのならば山を捻じ切り、人間共が襲い掛かってきたならば、悉くを、在る者は文字通り、潰し、在る者は遥か彼方の空へと落ちて行く事になるだろう。魔王竜とは、即ち、空間や重力に影響を及ぼす能力を持ちうる…が、それは些細な事象に過ぎない。魔王竜とは、その身に溢れうる威圧や重圧、これこそが魔王竜の最大の攻撃だろう。普段もその一挙一動、全てが敵対する者を畏怖させる。故に、魔王竜とはその威圧を以ってして、竜種の中でも優秀な生存性と他者を圧倒する風格を持ちうる。
 では、古代竜はどうか。名が示すとおり、遥か太古、原初の竜の血を色濃く受け継いだ彼/彼女等は究極的な、完成された火を扱う事は出来ない、水も風も地も。さりとて、他の能力を使えるのか、と申せばそれはできない。古代竜は他種族が扱うような、象徴となるべき物はない、が、その象徴の元となる源泉…そう、源泉の力をそのままに扱う。分かり易く例えるならば、最高の石材と史上最大の腕前を持つ彫刻家が居るとしよう、石材が魔力、彫刻家が竜種と思ってくれていい…さて、各々の竜種は自らの属性に従い、その石材を加工していくのだが、古代竜は違う。その石材をそのままに叩きつけるのだ。最高の腕前を持ちながらもそれを、世に出すこと無く、無邪気に最高級の石材を、まるで価値が無いように、華麗な装飾を施さず――叩きつける。故に不器用、されど、無敗。故に、傲慢、だからこそ――無敵。それが、古代竜だ。
 以上、竜の属性別の特徴だ。
 では、諸君、次回も予習を欠かさんように。


次世代ドラゴン


 ――とは、言ったものの、それはあくまでも女の場合であり男には適用できないのである。否、適用はされるのだ。竜族の女を除けば。
 つまるところ、現在村の女達に襲撃を受けたばかりの俺は古代竜の血を濃く引いていても所詮は男であり、若輩の身であり、混血であるので、年季の入った女には敵わんのが実情だ。
 少しでも気を抜けば竜の姿になって暴れそうになるが、今暴れると漸く去ってくれた暴力の嵐がまたもや舞い戻りそうなので千切れた右手をくっ付けるべく、皮一枚で繋がっている左手の治療に専念する。
 腹部や脚部、果ては頭部も甚大な痛手を受けてはいるが、まだ繋がっている。だが右手がもし時間が立ったので繋げませんとなると怖いので、とにもかくにも今は五体を体にくっつけよう。
「…糞っ!」
 普段は理性の竜を信条としている俺だが、今は悪態の一つ所か二つや三つも吐きたくなる。
 俺が一体何をしたというのか。
 混血だからか。男だからか。そんな徒然とどうでもいい事が頭をぐるんぐるんと舞い踊る。
 今までも嫌がらせや軽い虐めはあったが、ここまでこっ酷くやられるのは初めてだ。ああ、願うなら早くこの村から出てのんびり暮らしたい。

……
………
「…すまんな、助かる」
「気にする程でもないさ…着いたぞ。しかし今回は度が過ぎているな」
 少しばかり傷が治り、這い蹲りながらも家に帰宅していた俺は偶然にも見知った顔に拾われ、予定より早く帰宅することができた。
 お礼に茶の一杯でも出してやりたいが、生憎ともうそんな気力も体力も無い。カインもそれを知っているのか、ご丁寧に寝室までの道程をずっと肩を貸してくれる。
「俺は嫌われているからな。…その、なんだ、俺に構いすぎるとお前も」
「何、其の時は其の時さ。うまくやる。じゃあな、俺は帰るぞ」
 それだけ言って、俺のベッドに寝かしつけると部屋を出て行く。
 村の女達がカインのような性格ならば、村は…いや世界はもっと平和になると思う。
 しかし、あいつは気にするなとは言ったが、あいつと俺では立場が全く違う。あいつはまだ村の女達から優しくされているほうだ。だが、俺に関わった所為であいつも俺と同じ目に逢うなどという事態になれば俺は一体どういう顔をすればいいのだ。
 全く、何時かお前が困ったら俺を頼ってくれ。俺は何でもやってやるからな…。

 自分でも気づかない内に寝ていたのか、額に何やら冷たい布切れを乗せられる感覚に次第に意識が覚醒してくる。
 一体誰が居るのだろうか、と目を開けると所々に引き千切られた布が散乱している中心部に、俺の隣で寄り添うように座り込んでいる黒髪の小さい女。
「…ああ、エルザか」
「漸く起きたかや。全く、妾を待たせる等、無礼千万じゃ…これこれ、まだ休むがよい」
 まだ重い体に活を入れ、体を起こそうとするとやんわりと寝かせられる。
「兄から事情は聞いておる。彼奴らめ、お灸を据えねばなるまいのう?」
 と、本気とも冗談ともつかない声色で語りかけてくるのに対し、俺は苦笑して場を濁しておく。
 気持ちは有難いのだが、これは俺の問題であり、エルザの問題ではない。それに、下手に関わらすとカインにまで問題が行くだろう。それだけは何としても避けたい。
「何、お陰でこうして、エルザの看病を受けられるんだ。感謝の一つでも捧げないとな」
「…な、何を世迷言を言っておるかや、このたわけ。そのような軽口を叩けるのであれば、茶の一つでも出さぬか」
「ふむ、ならここで飲むのも何だからな、談話室の方へ向かってほしい」
 ボフリと枕を投げつけられた俺は起き上がり、降参するように両手を上げて、お茶を入れようとキッチンに向かい、ティーポットを手に持つ。
 しかし、エルザは穏やかな性格で助かる。他の女と違って無茶な要求はしないし、無闇やたらに殴ったりもしない上に俺がこのような事態になるとこちらの体を案じてくれる優しさもある。
 ああ、やはり婚約者になる女はこういうのが良いなあ、と、考えていると、

ドォン…!

 と、地響きと共に窓硝子が割れるのではないという程の熱をもった強風が部屋に入り込んでくる。
「な、なんだ?」
 机に零れた湯を気にすることも無く、外を覗き込もうとするが、生憎、キッチンにある窓では木が邪魔で見えそうに無い。
 仕方なく、茶は置いといて談話室に居るであろうエルザの無事を確認とそのついでに外から何が有ったのか見えるかどうか確かめよう。
「エルザ、無事か?」
「当然じゃ。あの程度の熱風で妾が如何にかなると思っているのかや?」
 それもそうだ。部屋が多少、真夏に暖房をつけたような感じではあるが、人間ですら耐えれそうな状態で竜族の女が如何にかなるとは思わない。
 しかし、一体全体、何が起きたのかと外を眺めると何やら煙が出ていた。火事であろうか?
「全く、騒々しいの。人が折角茶を楽しみにしているというのに、無粋な奴よの」
 ほれ、茶を入れてたもれ。と視線で伝えてくるが、万が一ということもある。確認しにいかなければな。
「いや、済まないが俺は原因を見に行く」
「何故じゃ、放っておけば良かろう?」
「もし他種族が攻撃してきたとなれば笑えんからな」
 最も、俺が行ったところでどうにかなるとは思えないが…。まあ、少しは手伝えたら万々歳といったところか。
「ふむ、そうかや。なら妾も行こうぞ。いざというときは、守ってくりゃれ?」
 …俺より強いのに、俺が守らなければならないのか。

 村中の人物が集まっているのではないかと思われるほど、その震源地には人だかりができていた。
 溶けて硝子状に固まった地面にその高熱の余波か溶けた大地に続くように家が燃えていたり全壊していたりと、録な惨状ではない。もし、ブレスか魔法か知らないが放った方角が違っていたら俺の家も何かしらのダメージは受けていただろう。
 そして、野次馬とは別の周りの竜達に囲まれつつも無視して、蒸発したのだろうか、竜の姿の後が付いた地面を睨んでいる真紅の竜。俺の苦手な人物、ルヴィア。
「此方がまた何かやらかしのかや?」
「わからん…が、まあ穏やかな雰囲気ではないな」
 ルヴィアを取り囲んでいる大人達は複数とは言え、固体差でのルヴィアとの力の差は大きく、下手に動けば返り討ちに遭うのを恐れているのか動く気配は無い。
「おい、ローガス。お前はできれば離れたほうがいいかも知れないぞ」
「ああ、カイン。…そう言われてもな、先ほど来たばかりで何が何やら」
 横から声が掛かったと思ったら、渋い顔で俺にどこか逃げるように伝えてくる親友。
 だが、いきなり逃げろと言われても困るのだが。
「兄よ、何があったのかや?」
「まあ、簡潔に言うなら…決闘でルヴィアがラジットを殺してしまった。ああ、わかっている、何が言いたいのかはわかっている。だが、何故かルヴィアの機嫌は最悪だ。今、ローガスの顔をみたら普段のあいつの事だ。殺されるぞ」
 だから、今は逃げたほうが良いと。背中を押されて、帰るように促される。
「そうだな…触らぬ竜に祟り無しと人間で言われているしな。そうさせてもらおう」
「そうしろ、後で詳しく話してやるよ」
 状況は詳しく知りたい所ではあるが、生憎と命も惜しい。ここは信頼できる親友に任せて俺は逃げるとしよう。
 …訂正、くやしいから逃げるではなく、転進とする。結局、一緒なのだが。
「では戻って茶の続きを所望するのじゃ」
「ふむ、そうしよう」
 別段、エルザはこの騒ぎに興味は無いのかあっさりと俺より先に飛んでいく。
「エルザは先ほどの騒ぎの興味は無いのか?」
「うむ、当事者たるルヴィアもラジットもローガスを痛めつけていたからの。どうなろうと知ったことではないのぅ」
 むしろ、ルヴィアよりラジットのほうが陰険じゃから清々した。と悪びれも無く言うエルザ。
 確かに今朝方、ラジットを筆頭に一部の女達に酷くやられたが、流石にそこまでは思わないのだがな。まあ、結局俺がどうこうできる問題ではない。
 さて、逃げる場所と言われても特に無く、エルザは先程から茶が飲みたいと言っているので、俺の家に行こう。

「ジャスミンとダージリンのどちらが良い?」
「どっちでも良いぞ。妾は汝の茶であれば良い」
 …嬉しい事言ってくれるじゃないの。それじゃ、とことん喜ばせてやるからな。
 なんとなく、気合を入れて茶を淹れる俺は、対ルヴィア用の高級菓子もついでに付けてやる。これを出す事によって俺はルヴィアに殴られる回数が8割近く減る事が確認されているのだ。エルザもきっと喜ぶに違いない。尚、俺は食った事が無いので味は知らないが、美味しいらしい。
「やや、これは物珍しい菓子よの。食べていいのかや?」 
「ああ、構わん。茶も入ったぞ」
 女は甘いのが好きらしいからな。たかが菓子で俺の身の危険が減るならどんどん食べてもらいたい。
 最もエルザに限って俺に危害を加えるとは思えないのだが。
「いい香りよの。流石は汝じゃ、ほれ、頭を撫でてやろう。光栄に思うが良いぞ」
「…あ、ああ、喜んでもらえて幸いだ」
 なでりこ、なでりこ、と頭を撫でられるがままにしておく。ちょっと力入れすぎで痛い。
「さて、では折角の茶菓子、美味しくいただくかや」
 茶で喉を湿らせたエルザがぱくりとクッキーとケーキの間のような菓子に手を付ける。
 しばらく味わっていると余程気に召したのか、目を輝かせ始めた。
「こ、これは美味じゃ! 巣で居たときはこんな菓子食べたことが無いのじゃ! うむうむうむ、大儀であるぞ汝。何をしておる、頭を差し出すが良い」
「…どうも」
 本人は撫でているつもりだろうが、残念ながらこれは擦ると言ってもいい。痛い痛い、髪が、髪がぁ。
 思う存分、俺の髪の毛を引き千切った後はご満悦な顔で茶と菓子を食べつくすエルザ。
「…もう無いのかや?」
 都合、三杯目の茶を淹れてると、あのお菓子が食べたい、と目で語ってくるが…確か、後もう一つは有った筈。
「ふむ、ちょっと待っててくれ。探してくる」
 キッチンの棚をごそごそと探し回ると予備で置いていた菓子を見つける。生憎とこれが最後となるが、まあ、次にルヴィアが来る前に補充すれば問題無いだろう。
「待たせたな」
「うむうむ、ご苦労じゃの。流石は汝………さっさと頭を出さぬか」
「……」
 ブチブチブチブチッ! 
 痛たたたたたた!? 禿げる! 禿げるよおお!!
 この菓子を出すべきではなかった、と僅かに後悔するが、まあ、エルザが喜んでいるならそれも良いかと思ってしまう。俺にも妹ができたらこんな感じなのだろうか。
 と、思ったが、母の気性そっくりなまだ見ぬ妹を連想してしまい、慌てて振り払う。あんなのが妹なら俺は体が持ちそうに無い。
 机に散らばった俺の毛髪を手で払いのけつつ、後は雑談に終始し、陽が地平線の彼方へ沈もうという頃にはエルザは帰っていった。
 
 食器と毛髪の片付けをしている所、玄関から恐るべき勢いで戸を叩かれる。
 一体、こんな叩き方をするのは誰だと多少不機嫌になりながらも、玄関に向かうと、そこには必死の形相のカインが。
「助けてくれ! どこでもいい、早く!!」
「…は?」
 一体お前は何を言っているんだ、と問う間もなく、
「うわぁぁ! 来たぁ!!」
「何が」
 来たんだ、という言葉の疑問はカインが火達磨になりながら、吹き飛ばされるのを見て察した。
 来たんだ、と。冷や汗が留め止めも無く流れ落ちる顔を上空に向けると、まるで太陽がもう一つあるかのように錯覚する真紅の竜。
 太陽の化身たる彼女が俺の前に着地すると同時に人となる。表情はその豊かな髪が風に舞って確認できない。したくない。
「………」
「………」
 眉が極限まで上がり、口が一文字に噛み締められた彼女は間違いなく怒ってます。本当にありがとうございました。
「ルヴぃっ!? ア……立ち…話もな…んだから、上…がって良くか…?」
 殴られ、思い切り吹き飛ばされつつもなんとか、まだ生きてる俺。多分そろそろ死ぬけど。
「そうね、今日は邪魔な小蝿が多かったから。そうさせてもらうわ」
 勝手知ったるとばかりに、談話室に向かうのを見てふらつく体を壁にこすりつけつつ、後を追いかける。
 勿論、主人たる彼女は上座に当たり前のように座り込み、俺は下男の如くお茶汲みである。
 む…しまった。対ルヴィア用菓子はもう無いではないか。…出すべきじゃなかった。うお、ルヴィアお気に入りの茶葉までもが無い!
 うわあああ! ルヴィアが指定した泉の水も無いぃいい!!

「早くしなさい?」

――死んだ、か。
「ああ、すまん。待たせたな」
 茶葉はルヴィアのお気に入りではない。菓子もそのへんの市販品。水なんて貯めてあった雨水。もう何時死んでもおかしくない。
 無論、俺が悪いのだが、言い訳とてある。ルヴィアは三日に一回とか二日に一回どころか、多い時は一日三回とか家に来て茶を飲みにくるのだから。消費量が激しくなっても仕方ないだろう?
 そして、人間とは不思議なモノで死を受け入れると途端、心が軽くなるものだ。人間じゃないけど。
 確かにルヴィアには散々に殴られたが、俺は村八分にされているので友人というのが少ない。ブリッツやミュートも表面は普通に接してくれるが、やはり世間体もあるのか、それ以上は接しようとしない。
 …まともに家に訪れるのはカインとエルザ、そしてルヴィアだけか。なんだ、そう考えれば例え酷い目に遭うとしても、ルヴィアは俺の家を頻繁に訪れてくれる大切な人じゃないか。うん、そう考えれば、ルヴィアになら殺されても良いかもしれない。
「何をニヤニヤしてるのよ。それに、これ…何時ものじゃないわ。ふざけてるの?」
 またもや、殴られ、壁に叩きつけられるが、怒りも恐怖も沸いてこない。
「はは…済まないな。切らしてしまってるんだ。次があるなら仕入れておく」
「反省してるならその顔を止めなさい。殺すわよ」
「丁度先程、ふと思ってな。俺の家を訪れてくれるのはカイン達とルヴィアだけだな、とな」
 一体何を言っているの、とルヴィアが訝しげにしているが、どうせ死にそうだし言うだけ言っておこうと思う。
「いや、知っていると思うが俺は村八分されていてるからな。他の村人は俺の家に近づこうとすらしないんだ。だからカインやルヴィアには随分と助けられてるな、と思っていた。ふむ、お代わりはいるか?」
「……」
 ズイっとカップを押し付けてくるルヴィアに苦笑しながらもカップに茶を淹れ、少なくなった菓子を補充する。
「ああ、そうだ、ルヴィア。今日決闘したらしいが、怪我はしてないか? 具合も悪くないか?」
「ふん…この私があの程度の雑魚に傷を負うとでも?」
「俺が見たときは他の大人達に囲まれている所だったからな、本当に怪我とかしてないか?」
「う、うるさいわね! してないわよ! 私は火炎竜の純血種なの、混血とは違うのよ!」
 しつこい、とばかりに話を終わらせるルヴィアに俺はてっきり手が飛んでくるのかと思ったが何故か飛んでこない。調子が悪いのだろうか?
「なら、良いんだが、もし具合が悪くなったりしたらすぐに言え。お前が傷ついている姿は見たくない」
「あ、う、うるさい! 帰りますわ!」
 カップを机に叩きつけると同時に俺を壁に叩きつけて窓から跳び出て行くルヴィアを俺は見送る。やはり、ルヴィアはこうでないと駄目だ。
 しかし、せめて玄関から出たら如何かと思うのだが。まあ、何はともあれ、俺は生きてた。
 …世の中、意外と何とかなるものだなぁ。



[9180] 次世代ドラゴン 第六話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:7e84d488
Date: 2009/12/03 17:10
 気位の高い竜の女にとって、団体生活というのは難しい。何分、世界は自分を中心として回っていると思っているのが殆どで、実際その通りである辺り性質が悪い。回ってなければ回せるだけの実力もある。本当に性質が悪い。
 勿論、そうでも無い女も居るのだが…まあ宝くじの一等賞が当たるぐらいの確率だ。そんな女が見つかるのは。
 さて、如何に竜の村が広く、如何に引きこもり体質の竜であれ、団体生活を送っている以上、何かしらのトラブルはある。これが、男竜同士や片方が男竜ならば簡単だ、まだ話し合いで済むが、女同士だとそうもいかない。何分、気位の高さに定評のある竜の女は自分が折れるということは有り得ないと思っているのだ。
 では、どうするか…それが今回語ろうと思う『決闘』である。
 決闘とは相手が双方譲らず、実力によってどちらが正しいか決める竜の村での風習だ。ルールは簡単、一対一で戦って勝ったほうが正しいという単純なモノだ。
 だが、決闘で勝てばいいのだが、負ければ自分の矜持が傷つくのが見えている。そしてソレは相手も同様で決闘の後に仲違いや種族間での小競り合い等も良く聞く話だ。私が知る限り、母親が決闘を行ったらしいが、母は酷く強い。竜全員が束になっても勝てない程に。故に問題は無かったのだが…
 まあ、それはともかく、今回はこれまでとする。諸君のこれからの精進に期待している。


次世代ドラゴン

 
 俺の一日は水汲みから始まる。我が家から遠く離れた小さいながらも自然豊富な山の麓、そこにあるのはルヴィアのお気に入りの泉。
 紅茶良し、水浴び良し、デート良しの三要素が揃ったこの綺麗な泉に向かうには細心の注意が必要だ。ルヴィア曰く「私しか知らないし、誰にも教える気は無い。だからバレたりバラしたら殺す」と釘を刺されている。
 朝早く、人目を避けるように出かけるのもそうだし、新鮮な水じゃないと紅茶は美味しくできない。そして俺の命も危うい。
 前回はその帰り道に襲撃されて水が無くなったのであるが、今回は行きと同じく帰りも人目を避けて帰る。ルヴィアと一緒に向かう時は他の村人がルヴィアを恐れて離れていくので人目を気にすることは無い。
 さて、家に帰って風通しの良い日陰に水を保管すると次に行うのは食事の用意だ。この世知辛い竜の村での生活では自炊が当然である。だが更に世知辛い事に俺は料理…というよりその作るための火魔法の制御が至って苦手である。
 今日も今日とて、完全に焦げるか全然焼けてないかのどちらかの物体を食べ終わると、箒片手に家の掃除が始まる。
 中は言うまでも無く外の庭先までも綺麗に掃除しておく。別に綺麗好きという訳でもないのだが、俺の数少ない友人・知人が家を訪れる際には悪い気分を持ってほしくないからな。
 そして、シーツを干したり、服を洗濯したり、壁が壊れていたりすると応急処置を施したりと至って人間と変わらぬ営みを行う。例え竜とは言え生物だし、感覚は人間とそう変わらん。
 そうして、太陽が完全に昇りきり、昼までそうは掛からないな、という時間になると俺は村の物資運用係の大人の竜を探して飛び回る。
 食べ物は基本的になんとかなるものの、嗜好品等はそうはいかない。どこから仕入れてくるのか知らないが、月に一回程度、仕入れてくる。それを俺含む他の竜が受け取りに来るわけだが…生憎と嫌われている俺では、その時の竜が俺に対して最悪、普通に嫌うだけの人物だと嬉しい。まだ、物資は仕入れられるのだから。
 尚、お金という手もあるが、稼ぐ手段の無い竜は基本的に物々交換という形になる。宝石の原石とか珍しいものとか。ルヴィア? こんな係りをルヴィアに任命しに来る奴は命知らずか馬鹿か自殺希望者だけだ。
 さて、今回は残念な事に俺を大層嫌っている竜が係りを拝命されていたので、俺が頼むことはできない。
 だがしかし、だからといって無理という訳ではないのだ。持つべきモノは友、というようにこういう時はカインを頼る。カインが物資を仕入れる時に俺の分も仕入れてもらう。代金は少し色をつけてカインに渡す。これで何も問題は無い。
 カインには本当に世話になっている。何時か巣を作った時に財宝が溜まるとカインに渡しに行こうと思うぐらいに。
 そうして、必要な注文を行った後は、一日、陽が沈むまでゴロゴロしたり本を読んだり、カインと雑談したり、エルザに頭を撫でられたり、ルヴィアにパシらされたりと過ごす訳だ。
「以上、俺の一日だ」
「…やはり昨日ルヴィアに殴られすぎて頭がイカれたか?」
 可哀相な人を見るような目で俺を見てくるカインに俺は黙って茶を注いでやる。俺も何故声に出したのかわからない。
「しかし、昨日は生き残れたんだな」
「ローガス、それは俺の台詞と思わないか?」
 俺は至って普通のルヴィアの訪問だったが、カインは火達磨になって吹き飛ばされただろう。俺は耐えれそうに無いかも。
「結局の所、昨日は何故お前は追われていたんだ」
「ああ、お前が飛び去った後な、お前の飛び去る姿を見たルヴィアが急に今までの静けさから一転、囲んでいた大人達に襲い掛かった。で、大人達も反撃するも…まあ、ルヴィアには勝てん。最後の一人が瀕死になると同時に怖くなった俺は逃げてきたんだが、何故か追いかけてくるんだ」
「ふむ、で?」
「お前の家の前で俺は意識を失った」
 苦笑しながら、気づけば外で寝ていたよ。とつぶやくカイン。
「そうか…。しかし、同族殺しで問題になっているのではないか?」
「それなんだが、今ルヴィアとラジットの両親・氏族で戦争前夜らしい」
 ルヴィアだけなら問題は無いのだが、とカインが付け加えて、問題はそれだけじゃないと語る。
「ルヴィアの姉はお前の母親と決闘して殺されたのは知っているな?」
「ああ、知っている」
「なら話は早い。如何にルヴィアが強くとも、ラジットの一族全員では分が悪い。だが、ルヴィアの両親の子供は彼女一人だし、もう、次の子供が産まれる事も期待できず、更に二度も決闘が理由で我が子を失う訳にもいかない。前回ので火炎竜一族は矜持を酷く傷つけられているから引く事もできないのさ。勿論、ラジット側にも面子がある…何より殺されているからな」
「つまり…」
「ラジットの親戚とルヴィアの親戚達で戦争なら、まだマシだな。最悪なのは電光竜と火炎竜の全面戦争さ。そして後者が最も可能性が高い」
 カインはそう言うが…現在、村の人口の比率は8つの竜種で均等に割れるという訳ではない。純血の古代竜は母さんを最後に村から居なくなったし、他の竜も一つや二つ程度の混血持ちの竜も居ることには居る。問題は、その血筋だろう。火炎竜の血を半分引いた烈風竜や電光竜の血を引いた暗黒竜。ルヴィアの母親の姉の旦那が地砕竜とかそんな事もありうる。
 問題が広がりに広がって村を二分する戦いにもなる可能性があるという事か。
「ま、俺は魔王竜の純血種だからな…面倒事にはならん蚊帳の外って訳さ」
 全く、羨ましい限りだな。

 そんなこんなで正午も回り、午後、というより夕刻にはエルザに誘われて空の散歩と洒落込んでみる。
 できるならば、あまり外には出歩きたくはないのだが、折角誘ってくれたエルザに失礼かと思い、承諾して、今に至るという訳だ。
「どこに行くんだ?」
「どこでも良いのじゃ。汝と空を飛べたらそれで良い」
 それだけを言うとクルクルと俺の周りを飛び回り、時々、戯れのように体をぶつけてきては俺は墜落しそうになる。
 俺とエルザはまだ年齢は100歳未満の竜だ。他の大人たちに比べ一回りも二回りも小さい体躯であるとはいえ(俺はまだ大きいほう)、飛行中に当たったりするとバランスが崩れるのでやめてもらいたい。
「して、汝はこのか弱き乙女を、どこに連れて行ってくれるのかや?」
 都合、何度目かの墜落の危機をやり過ごし、太陽も大分地面に近づいた頃には飽きたのか、俺にどこかに連れて行け、と申すこの小さい姫君。俺は、それに従う忠実な従者として何と答えればいいのだろうか。
「ふむ…そうだな」
 暫し、思考の海に潜る事数秒。竜の優秀な頭脳のお陰で候補地は絞ってある。途中、山に広がる花畑やルヴィアの秘密の泉も思いついたが、花畑は季節が違うし、泉に案内すると俺の命の危機なので却下した。
「少し、遠いが大丈夫か?」
「構わぬ――このまま、妾を何処へも連れてってくりゃれ」
 その承諾を得た俺は、ずっと前に見つけた名勝地へ連れて行くことにした。最近は訪れる事は無かったのだが、偶には訪れるのもいいだろう。
「して、そこはどのような場所かや?」
「一言で言うなら大きい滝だな。その滝壺から出る飛沫のお陰で陽の光が当たると虹が掛かり、夜は月光で幻想的な輝きが見れるぞ」
「汝のお気に入りの場所かや?」
「ふむ…そう、だな。まあ、最近は訪れてはいないが、エルザが来る前はよく訪れていた。今日は丁度、雲ひとつ見当たらない満月だからな、エルザも気に入る筈だ」
「ふむふむ、楽しみよの!」
 そんな雑談を交わしながら、幾つもの森を越え、山を越え、たどり着いたのは村に何本か流れているとある川の最上流付近。昔、暇を持て余した俺が探索に出かけた時に見つけた場所だが、こんな時に役に立つとはな。
 ここがそうだ、と指差した時には待ちきれなかったのか一直線に急降下したエルザに墜落するなよ、と声を上げてから俺も着地する。
 俺が人型になる時には月光に煌く飛沫に見とれているエルザが居た。
「ここが、そうなのかや…素敵じゃ、素敵なのじゃ」
 高さ10メートル程の滝が勢いよく流れ落ち、盛大な飛沫を飛ばし、月光を反射させるこの光景は確かに素晴らしいと常々思う。
 それに滝だけではなく、木々に囲まれ、大きい岩が何個か転がっているので座ってのんびりするにも丁度いい。
「ああ、そうだな、月光に照らされたエルザも綺麗だと思うぞ」
「な、何を世迷言を申すかや…たわけぇ…」
 うん、エルザは初々しくていい…他の女なら 当 然 とばかりにしているからな。
「水も冷たくて気持ちいいのう」
 手ごろな大きさの岩に腰掛け、足を水につけてはしゃいでいる姿はとても生物の頂点たる竜族とは思えない。まるで普通の人間の女の子のようだ。
「の、のう汝よ…その、あっち向いといてくりゃれ?」
「ん? 何故だ?」
 はしゃぐエルザを見ていると穏やかな気持ちが心に広がるので、のんびりとエルザを眺めていると何か恥ずかしそうにそう言われてしまう。
「その…泳ぎたいのじゃが、汝に見られるのは恥ずかしいのじゃ…」
「あー…わかった、少し離れておこう」
 まあ、泳ぎたいと思うのも仕方が無い。水は綺麗だし、深さも広さも申し分無いし。何より俺も泳いだからな、気持ちはわかる。
「ま、待ちゃれ。汝がどこかに行くと寂しい…傍に居てたもれ…」
 どうしろと?

 結局、目隠しした挙句、後ろを向いて正座するという事で折り合いはついた。
 途中、俺も服を脱がすかどうかという議論になったが、別に俺は泳がないのに服を脱ぐのはおかしい、と論破した。
 それはともかくとして、泳ぎ疲れたらしいエルザは滝より少し離れた開けた場所に寝転がり、俺は膝を貸している。
「うむ、丁度良い高さの枕じゃ」
「そうか。寒くないか?」
 別段、竜は寒くとも風邪をひくことは無いし問題も無いのだが、寒いものは寒いのだ。季節は初夏とはいえ、流石に夜は冷える。
 何より、エルザはつい先程まで泳いでいたので体温は相応に下がっているだろう。
「汝が居るから暖かい、。問題は無いのじゃ。所での?」
「何だ?」
「あの滝なのじゃが、他の誰か知っている者はおるのかや?」
 ふむ…何分、遠いとは言え、川を遡れば辿り着くからな。他の誰かが知っていないとも限らないな。
「俺が居るときには誰も来たことは無いが…いや、居るか」
「誰なのじゃ?」
「俺の目の前に居る」
 そう答えると、エルザは体を横にして蹲る。まるで動物の幼子のように。
「そうかや…そうかや…」
 一体何が可笑しいのかクスクスと笑うエルザは何を思っているのだろう。
「のう、汝よ」
 ポツリと、笑うのをやめるとそう呟く。顔はこちらを向けようとしない。
「――妾達だけの場所なのじゃ」
「…? ああ、そうだな」
 何が言いたいのか良くわからないが、つまりこの場所は他の竜には教えるなという事か?
 しかし、女というのは~は教えるな、や、~は私だけというのが多いな。
「うむ、それで良い。妾は眠くなってきた、このまま寝ていいかや?」
「…無防備になるのは推奨できないな」
 俺が言外に外で寝るのはやめたほうがいい、と言うものの、

「妾だけを守ってくりゃれ?」

 と、言われては仕方ない。何よりそれ以来、エルザは目を瞑り、口も閉ざしてしまう。
 膝に感じる体温も先程よりは暖かいから、寒くも無いだろうと思うが一応、上着をかぶせてやる。 
――それに、偶には満点の星空を眺めながら夜を過ごすのも悪くは無い。




[9180] 次世代ドラゴン 第七話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:7e84d488
Date: 2009/07/16 21:17
 竜の村は無法という訳ではない。人間社会にも法があるように、竜の村でも多少は法が有る。法とは言っても明記されている訳でもなく、心得や、マナーとかそのような類だが。
 さて、竜の村で問題を起こしても当事者や、その近しい者や親戚がどうにかして問題を治めるのが極一般的なのだが、それらを巻き込んだ闘争や他の竜では解決できないような問題になると、竜の村の長老が出てくる。
 話は少し脱線するが、竜とは年月と共に体内に蓄える魔力が増えていく。年若い俺ですら、人間の最高位に就いている魔術師より遥か上の魔力を持っているのだ。何時から生きているのかわからない長老なぞ言うまでも無い。
 話を戻そう、長老が出てきた時には大抵が一方的に沙汰を下す。その力を背景に有無は言わせない。そうして、沙汰を下された竜の末路は酷いものでは性器を潰された上での追放、軽いものでは僅かな期間の謹慎まで多岐に渡る。
 つまるところ、現在、村に起きている問題で長老が出てこないといけない問題とはルヴィアとラジットの決闘問題である。当事者同士の問題で済ませればいいのだが、時として問題は全く無関係な人物にまで飛び火する事もあるのだ。
 以上、今回は竜の村における問題の対処法を説明した。学生諸君はノートの取り忘れをせぬように。


次世代ドラゴン


 最近、村の雰囲気がおかしい。
 一部は極めて苛立っていたり、所々で軽い小競り合いを見たりと客観的にみても平和や平穏というような文字を当てはめることはできない。即ち、社会的弱者である俺は最もその余波を受けやすく、比較的温厚な女ですら、俺に辛く当たってくる。
 半数以上が攻撃的になっている現状において数少ない知人、そして親友やその妹は言うに及ばず、普段通りで助かるのだが生活をする以上、何かしらの稼ぎ手段を持っていなければこの村で男竜は生きていく事はできない。
 そして、今現在、俺ばかりかカイン達、他の男竜も身の危険を感じているのか、普段は各自、金策としての採掘採集採取をするのを変更して、何人かで徒党を組んでさっさと終わらせようという訳である。外に出る時間が短ければ短いほど女にいちゃもんを付けられるのを防げるからだ。
「そういや、ルヴィアの決闘の件だがな」
 よっ、と貴金属の出る鉱山を蹴っ飛ばして穴を掘り採掘作業をしていたカインが言う。
「どうした?」
 俺はそれ等を確かめて貴金属が保有されていそうな石を分別していく。あ、これ銀混じってる。
「長老を交えて話し合いがあったらしいぞ、そろそろこの問題も解決するんじゃないか? と噂になってるらしい」
「ほう、それは助かるな。更に助かるのが、この辺は銀鉱脈があるみたいだ、掘って掘って掘りまくれ」
「了解、だ!」
 蹴りの衝撃で爆発音と共に驚異的速度で石飛礫が飛んでくるが、生憎、竜にその程度は効かない。注意すべき点は、音が五月蝿いのでなるべく遠く女の家から離れる事と、手早く見極めて効率を上げる事だ。 
 しかし、問題が解決するとなんとか俺の平穏も前回の水準に戻ってくれるので嬉しい。巣と巣を行ったりきたりするから、こんなにも時間が掛かるんだ、と内心で愚痴っておく。
「よし、一度整理してみるか」
「そうだな」
 俺の後ろには山のように積まれた銀保有石とその更に後ろに山脈のような状態の普通の岩石。
 勿論、この銀保有石を整理するのではあるが、このまま持っていくことは面倒だし、布にも入りきらない。そこで行われるのが、銀の保有している部分とそうでない部分を分離させる事だ。道具は別にいらない、手で壊せるから。
 余談ではあるが、竜が時々山を攻撃している目撃談があるが、あれは攻撃ではない。採掘だ。巣作りを始めて金に困ってどうしようもない成人した男は時に自らが生きるために採掘をする事が稀にある。人間諸君はその後の惨状に呆然とする一方、運が良ければ後に残るのは微量の貴金属保有岩石と剥き出しの鉱脈が有る可能性が高いので、運が良いとでも思ってもらいたい。
「結局ルヴィアはどうなるんだ?」
「さて、な。まあ性器を潰されるまではいかないが…追放辺りが妥当なんじゃないか?」
 殺してさえ居なければ、まだ万丈酌量の余地があるんだがな、と銀と岩石を一緒に叩き潰しながら保有が多いと思われる部位を布を敷いた場所に放り込んでいく。
 尚、他にも期限付きで追放等もあるが、気位の高い女はそれ以後、村に戻ってくることはあまり無く、事実上の追放と思ってもらっても構わない。無罪か、追放か。大抵はこの二つである。更に言うなれば、性器を潰されるのは大抵男である。女が自分の体を許すと言う事は有り得ないからだ。
 性器を潰すのは、竜の血を無差別に他の種族に入れないために、そして竜が理性ではなく本能で動くのを防ぐ為だ。
「男ってのは、損だな」
「何だ、藪からぼうに?」
「…潰されたくないよな」
「…」
 二人して、心なしか前屈みになって作業をする。やはり、二人だと効率が良い。

「じゃ、俺は帰る。またよろしくな」
「ああ、こちらこそ」
 大きい布をぶら下げた俺とカインは俺の家の前で別れる。カインの家は先程の帰り道から見てもう少し奥にあるからだ。
 袋の中身は言うまでも無く銀鉱石だ。途中、普段から世話になっている礼と実際、肉体労働をしたのはカインであるために分け前はカインを多くしようとしたのだが、『共同作業っていうのは五分五分だ』と言われ、結局は等分に。
 よっこらせ、と倉庫に荷物を放り込み風呂へ向かう。飛礫によるダメージは無いものの、それは肉体に限ってであり、服や土埃は防げない。ボロボロの衣服を脱ぎ去り、軽く水浴び。
 気分もサッパリしたところでつい最近、入手した古い書籍を手に取り優雅な読書に浸っていた筈だったのだが…。
「早くしなさい、出かけるわよ」
 とまあ、このように、気づけばルヴィアに出かけるようせっつかれてる訳だ。
「このローガス・ライン、既に準備はできている」
「そう、なら行くわよ」
「このローガス・ライン、しかと承った」
 ルヴィアが飛び去るのと同時に俺もその後をついていく。
「ねぇ…さっきから自分の名前を連呼してるけど、何故なの?」
「ふむ、少々、古い本だが、過去に人間達の間でベストセラーになった本を読んでいたら、妙に名前を連呼していてな。何やらこれが正しいのかと思った」
 尚、ローガス・ラインというのは先程俺がつけた名前だ。人間の姿の時にでも使おうと思う。
 しかし、あの本は良いな、この強烈な印象が残っているのが良作の証だろう。
「何を意味のわからないことを…とにかく、このルヴィア・エーデルフェルトについてきなさい」
 …気に入ったのか?

 完全に村の喧騒から離れ、外界との接続を切り離されたかのような静けさ。目を瞑ると音となるものは絶えず流れ込んでくる清流の音と小鳥の囀り。アクセントとして木々が揺れるのは風ではなく、小動物の贈り物。
 そんな、柄にもない詩人になってしまうのが、案内されたルヴィアのお気に入りの湖畔の特徴だろう。
 先日行った滝は滝で良いが、これはこれで別の味があって良いな…。
「貴方も座りなさい。後ろで馬鹿のように立っていると目障りなの」
 少し上流にある絶えず湧き出る泉によって成り立つ、小さな湖畔の淵に腰掛けたルヴィアは差し出した指に止まった白い小鳥を追い払うでもなく、そう言い放つ。
「ああ、そうだな…そうさせて貰おう」
 しかし、座ると言われても普段ならば、人型で三人分座れるスペースがあるこの草生した場所のど真ん中をルヴィアが占拠してしまっている。他の場所は大小の石が転がっていたり、地面が水に侵されていると座るには居心地が悪い。
 さりとて、離れた場所に座りにいくのも変だし、回りの石を退けて座るのも時間が掛かって不興を買うかもしれない。ルヴィアは「騒がしいのは好きじゃない」と断言していたしな。
 さて、どうしようか。普段ならば、ルヴィアは座り心地の良いこの三人分の場所を二人分使って、残りの一人分を俺が使うのだが…。隣に座ると、なんというか、距離感が。 
「隣、座るぞ」
 殴られるのを覚悟でそう言うが、意外にもルヴィアからの返事は無い。(物理的な意味で)
 それはともかくとして、座れたのはいいのだが、肩と肩が触れるか触れないかの距離に俺の心臓が高鳴ってくる。(恐怖的な意味で)
 いや、まあ、ホイホイと誘われるがままについてきてしまった俺が悪いのだが、かといって断ると後が怖いので…。
 そんな内心を思いつつ俺が一人挙動不審だと変なので心を落ち着かせようと湖畔の向こう側までを眺めて心を落ち着かせる。
「あの、趣味はございますでしょうか?」
 全然落ち着けなかった挙句に気分転換に尋ねた事がコレだよ。
「そうね、ふざけた事を言う男を嬲り殺す事かしら」
「…すまん」
 流石に俺が悪かった、そう思うぐらいの落ち着きはある。
 一体何を目的で連れてきたのか、と自問するも、案外何も無いかもしれない。前回もそのまた前々回も無かったのだから。
 何となく、横を向いてルヴィアの横顔を見れば、俺より年上だが小柄なルヴィア。ルヴィアより年下だが大柄な俺。
 この俺より小さい体で俺より遥かに高い実力を持っているのだからな…。
「…私の姉は決闘で殺されたけど」
「ん?」
「別に恨んでないわ…」
 遥か昔の、私が生まれる前の事だから、と目を細めて囁くようにそう呟いてくる。
「そうか…」
「うん…」
 そよ風が葉を運んでくるが言葉は運んでこないらしい。
 ただ二人黙って景色を眺めこむ。
「なぁ、ルヴィア」
 その紅の髪は何を象徴しているのだろう。
 その緋色の眼は何を見ているのだろう。
 その小さい口から何を伝えようとしているのだろう。
「何かしら?」
「いや、呼んでみただけだ…」
 この湖畔が静かすぎて、風景に溶け込みそうだったから。
 だから、俺はこんな恋人同士でするような事を言ったのだろう。
「ふふ…失礼ね…」
 だからきっと、ルヴィアも溶け込みそうだったから、笑って許しているのだろう。
 両手を上に伸ばしてこの冷たくも穏やかな空気を胸一杯に吸い込もうとすると、深呼吸ではなく欠伸が出る。
「眠い?」
「ふむ…眠くは無いが、安らげるな」
 心が無防備になる、というか安心できるというか、そんな気持ちになってくる。
 何時しか、ルヴィアが隣に居ることすら忘れそうになるぐらいの心地良い空間。時折魚が水面に波紋を作っている。
「決闘の理由を貴方は聞かないのね」
 湖の端で作られた波紋が、その反対側まで届くと不意にそう問うてくる。それは見逃すと、独り言とも勘違いしてしまうくらいに。
「聞いてほしいか?」
 俺が近づいた所為で警戒して飛び去った小鳥達がルヴィアの隣に近寄り、構って欲しそうに歩き回る。
 だがルヴィアはそれに構うことは無く、かといって、何をするでもなく…。
 構ってくれないとわかった小鳥達がそのまま飛び去るのを見て、
「以前までは村を追放されようが、どうでも良かったの」
 今はどうだと聞くと、返事の代わりに首を傾けて俺の肩に預けてくる。
 だからだろう、体を預けているルヴィアが、普段の気丈さはまるで見当たらない、まるで何かを怖がっているように感じても。
「ねぇ、ローガス」
 それに俺は答えない。答えれない。少し触っただけで壊れそうなルヴィアが、
 音の振動だけでも崩れそうなルヴィアが、
 儚くて、可愛くて、そして、こんなにも弱かったのかと。
「――呼んでみただけ」
 俺は唯、肩を貸したまま。
 ぽちゃん、と水面を騒がせた。



[9180] 次世代ドラゴン 第八話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:25761afd
Date: 2009/12/03 17:11
 さて、最初のほうの講義にて竜の村におけるルール等について語ったのではあるが…今回はもうすこし掘り下げて、諸事情を抱えた竜の行く末を学んでもらう。
 とはいえ、一言で言うには幾分と込み入った事情もあるので一概にこうだ、とは言えない辺りを念頭にいれてもらいたい。
 まず典型的な例として、結婚して巣立ちした夫婦のどちらかが戻る場合である。竜は結婚すると生涯、その巣に篭り生活をするではあるが、例えば金銭的に巣を維持できなくなったり、侵入者や予期せぬ事態にて配偶者が死亡した時には二つの選択肢がある。
 ・巣に篭って、生活する。(※害を成した人間や夫またはその原因に報復後)
 ・竜の村に戻り、生活する。(※害を成した人間や夫またはその原因に報復後)
 前者における選択肢は老衰による自然死も含まれているので注意してもらいたい。後者における選択肢ではまだ子供が作れる年齢と判断された場合、他の竜との再婚もありうる。…まあどちらにしろ、男にとってはどちらも色々な意味でよろしくない。
 そして、数は極めて少ないながらも竜の村で問題を起こし村に居辛くなった竜や追放された竜の今後における例を紹介しよう。処罰内容については割愛させていただくが、まあ大体において実家(両親の巣)に戻ったり世界を放浪したりするのが普通だ。中には自暴自棄になり戦争を吹っかけるような無謀な勇者も居てそうだが、これは馬鹿の極みであると言える。
 実家に戻るのが大半ではあるが、ある程度理由がないかぎり恥の上塗りであるし、なにより親の愛の巣に戻るのも考えさせられる。なまじ弟妹ができた時の気まずさは達筆しがたい。
 世界を放浪するにしろ、自らの自尊心や矜持は傷つけられたままであり、時間も立ち、目撃者も増えればあっという間に『はぐれ竜』の仲間入り…末は冒険者達の餌食か国家に丁重に利用される奴隷がいいとこである。
 つまるところ、関係希薄な竜といえど、異端者には容赦がないのは人間も竜も変わらないのである。
 今回の講義はあまりテストとは関係ないのでノートを取る必要はない、こういう事もあるんだと頭の片隅に入れておけば十分だ。
 では諸君、今日はこれで終わろうと思う。


次世代ドラゴン


「よう、今話題のローガス…結構、いや…多少…少し…違うな、僅かに良い話と極めて悪い話とそれと同等程度の悪い噂と俺本人として貴様を殴りたい話、どれから聞きたい」
 昼下がりの午後、何をするでもなく暇という事象を弄んでいた俺に来客者ではる親友は開口一番、玄関でそう言い放った。何やら不機嫌な様子で嫌な予感がしないでもないが、どうせ起こりうる事ならば先に聞いて心の準備をしておくに越したことはない。竜生、諦めが肝心である。
「…それは俺に関係する事なのか?」
「シャラップ! ちぇあっ!」
 途端、ガツンと視界がブレたあと、頬に痛みが走る。無論ルヴィア程ではないのでなんともないのだが。殴るならば、カインが言う『殴りたい話』とやらの時に殴ってもらいたいものだ。
「…ふぅ、すまん。ついカッとなって殴ってしまったよ。で、何から聞きたい? 良いほうから言ってやるから聞け」
 何も言ってないのに決められるとは…。
 まあいい、どうせ全部聞く事だと思い直し、応接間まで話を待ってもらい、椅子に腰掛けるとカインは意地が悪そうな顔で、
「お前は村から出て行きたがっていたな? おめでとう、出れるかもしれないぞ?」
「――ぇ、どういうことなの…」
 晴天の霹靂とはこの事なのか、村から出られるというこの一語は正に俺にとっては救いの光。つまるところ、俺は村の女達にパシらされたり殴られたりしなくて済むという事。
 今、思い返せば俺はこの時の為に生きていたのかもしれない、とまで思ってしまう。
「勿論、村から出るんだ、婚約者『達』が居るぞ。まあ、今はまだ候補程度だが」
「…『達』?」
 竜は一夫多妻とはいえ、最初は一夫一婦が当然なのである。
 その一番最初の妻の許可を得て第二婦人、第三夫人になっていくのだが、最初から婚約者が二人も三人も居るのは制度上を見ても無い。
「ああ、疑問は後にしてくれ。正直俺も如何言えばいいのか解らない上に、多少俺の我侭でお前を殴りたい。だからまずは椅子から立って殴られる準備をしておけ」
「断る」
「断る選択肢は無いと思ってくれ…まあいい、で、その…婚約者だが、な…あー、なんだ、その、あれだ」
 言い難そうに俺から顔を逸らすその仕草はまるで、精肉所へ連れて行かれるのを見てられないような、そんな類。
「ルヴィアだ」
 いや、まだ候補だから大丈夫。まかり間違ってそうなってもお前なら耐えれるって、何、巣作りを引き伸ばせばなんとかなるんじゃないか、いや、ほんと、逃げちゃダメだって。と早口で捲くり立ててくるカインの言葉が俺の耳を右から左へと通過していく。
 この気分はなんと言えばいいのか、絶望ではないんだが、諦めでもない。賭け事の騎馬争いでいきなり、初っ端から出遅れて、早10馬身開いている最下位に全財産を注ぎ込んだというのだろうか。
 いや、これは夢に違いない、もしかしたら逆転、一等で俺は掛け金を総取りなんていう淡い希望だってあるかもしれない。
 そうだろ?

「ああ、すまんな、ちょっと気が散ってしまってな。わざわざ済まないな」
 カインが入れた紅茶を手に一息をつく。わざわざ客人に茶を入れてもらう等とこのような失態はこれからは避けねばな。
「何、気にするな。親友だろ?」
「ああ、そう言って貰えると助かる、で、話を戻そう。お前が殴りたい話だったか」
「そうだった…、とりあえず今から殴るからその手に持ってる紅茶を降ろしてくれ、3,2,1」
 言い終わるや否や、視界が縦に半回転した後、椅子ごと床に叩きつけられ勢いで後ろ回り、首が下になり回転は足で止められているので今の俺は非常に情けない姿をしているだろう。
「で、だ。その婚約者候補の一人に俺の妹がっ、エルザが入ってるんだ!
くぅっ、可愛い可愛い俺の自慢の妹がっ! 男とちゅっちゅするなんぞ、俺は嫌だっ知りたくないーーーっ!
ローガス! そこに直れ! 修正してやる!」
 机に乗り出して飛び掛ってきたカインを俺は必死に止める。前々からシスコンだとは思っていたが、ここまでだったとは。
「落ち着け、大体それは俺の責任なのか?」
「ただの嫉妬だ!」
 なんでこいつはこんなにも清々しいのだろうか。俺もこういうのは見習うべきなのか迷うところである。
 なんとか、落ち着きを取り戻してくれたシスコンは大人しく椅子に座ると、こうなった経緯を話し出した。
「俺も聞いただけだからな? 本当の事知る由もないが…。
本来なら長老が追放の沙汰を下してはい、お仕舞の筈だったんだが、ルヴィア側の両親筋達が猛烈に反対してな、例え自分達が死のうとも、追放なんてしたら戦争という姿勢を崩さなかったらしい。
まあ、普段なら打ち滅ぼせばいいんだが、相手が火炎竜一族きってのお偉いさん、さらに当事者がたった一人残った跡継ぎ娘と来たもんだ。それを失うというのは種族にとって痛手だからな。
加えて相手は普通の電光竜とその両親。両者の力量差を見てもな。
まあ、だからといって、こんなので無罪放免なら竜の村運営はやっていけない、というわけで。
そして出番だローガス君?」
「何 故 そ こ で 俺 が 出 る」
「被害者側の面子をたてつつ、加害者に配慮した結果の妥協の産物だろ?
つまり被害者側からみたら相手は純血種としての歴史が終わるわけだ。お前と結婚すると。
加害者側からみたら、追放はしないかわりに、お前の所の跡継ぎ娘が生んだ子供は純血じゃないよって事だ。お前混血だし。
やったな、ローガス! 村の危機を救った英雄という名の生贄だ!
ま、これは俺の推測だが、なかなか真に迫っているとは思わないか、全く俺の知略は素晴らしいな。おいおい、いくら俺が凄くても男に頭とか撫でられても嬉しくないぞ?」
 褒めてない。この最後辺りエルザの影響だろうなと思わざるを得ない。 
「ああ、そういえば、なんでエルザが俺の婚約者候補に入っているんだ?」
「貴様ァ! 妹のどこに不満があるんだっ!」
 またもや机を乗り越えて俺の胸倉を掴み唾を飛ばしながら叫んでいるカイン。
 とりあえず非常に顔が近いのでもう少し離れてもらいたい。
「俺の婚約者になることを歓迎しているのか、反対しているのかどっちなんだ…」
「複雑な心境だから困っているんだ! …まあいい、今は真に不本意ながらその疑問に答えてやろう。
ルヴィアがお前の婚約者というのをどこで聞きつけたのやら、その足で長老に直談判しにいったんだ。勿論、それを知った俺は引きとめたとも、それはもう全力で。無駄だったがな。
まあ、全くもって関係のない第三者の小娘が異議を唱えたところで、一蹴されたんだが、そこで妹はあろうことか…。
あろうことかっ! 『妾はローガスに惚れておる。まかり間違ってもローガス以外には身も心も開かぬ、故に妾をローガスの元へ行かせてくりゃれ』なんて、村の上層部が居る中で言い放っちゃってよぅ、俺、涙目。
もうさ、なんていうの? 例え妹とは言え竜の女があそこまで堂々と言い放つなんて、俺でも…真似できるけどさ、なんていうの、貴様がっ!貴様が、居なければっ、妹は、妹は! って感じでさ。
なあ、頼むから殴らせろよ、先っぽだけでいいから殴るね。3.2.1」
「え、ちょ…っ」
 
 今まで女共には数多くの暴力を振るわれたが、まさか男に、しかも親友にここまで有無を言わさず殴られたのは初めてである。
 悔しいことに、力関係では負けているので反撃の余地も無かったが、気持ちはわからなくも無い。
 エルザは基本的に腕力で有無を言わせず、男というのを総じて尊重し、立ててくれている節があるので、男は皆エルザに対して一定以上の感情を持っているのだ。
 それが一番、近いところに居ながら、絶対に手が届かないのがこの男、兄であるカインなのだから。
「…ふぅ、すまん。取り乱してしまった。これからも取り乱すから反省はしない」
「その情熱を他にぶつけてくれると助かる。しかし、エルザが俺にそんな感情を持ってくれているとはな。
その、なんだ、中々にむず痒いものがあるな」
 うん、エルザとならもうそれは最高の未来があるだろう。巣作りは墓作りというのが相場だったが、正に愛の巣といえるかもしれない。
 そう思うと人知れず、顔が緩んでしまう。
「なぁ、ローガス。取り乱していいか?」
「すまん。しかし、俺に関わるとエルザが…」
 余計なトラブルに巻き込まれる、と心配していると、
「ああ。そのことならば、問題ない。まさか、5mはありそうな大岩を1cm程の小石にするぐらいの高密度重力場を詠唱無しで使えるなんて思いもしなかった」
「……」
 その言葉に俺は唖然とした。普通の重力魔法程度ならば魔族でも人間でも使えるが、それでも物を浮かしたり、少量の水を彫刻のようにできるだけである。
 それを、詠唱も無しに、しかも重力を打ち消す斥力ではなく、難度の高い加重力を扱うとは…。
「流石にそれを目の辺りにした、女は逃げていったけどな。まあ、妹は予想以上に強かった。多分、ルヴィアといい勝負できると思うぞ、俺は」
「争い事は御免だな」
「ま、そんな素晴らしい妹も残念だったな! あくまでもルヴィアが有利だぞ、当事者だけにな。
俺としては何故、長老が断らなかったのか、わからないが、とにもかくにも妹はお前の婚約者という立場なわけだ」
 しかし、巣作りか…年齢がもうすぐ4桁の男竜もまだ居るというのに、2桁の年齢で村を出るのは俺が最初ではなかろうか。まあ、竜は年齢なんてあってなきに等しいものだが。
 精々、二人の女性を失望させない程度には頑張ろうと思う。




[9180] 次世代ドラゴン 第九話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:68879489
Date: 2009/11/25 23:21
 では今期最後の講義を始める。
 今日は竜の村から出立する男竜について語ろう。最後とはいえ気を抜かないように。
 まず、男竜と女竜が巣を出る、というのは意味合いが大きく違う。男は基本的に竜の村を出ると基本的にもう村には戻らない。勿論例外とてあるが、基本的には巣を活動拠点とするが、反面、女竜は何度も出たり戻ったりをする。理由はそれぞれではあるが、例えば婚約者の様子や巣がどれくらい出来上がっているのかを確かめたりする。
 つまり、女は竜の村は何度も帰れるが、男は帰れないし、帰りたくないものだ。理由は言うまいが。
 さて、本題ではあるが、男竜が村を出た後にすべきことは巣を作る事だが、さてどこに作るのかを語ろう。
 まず一番重要なのが、人間の存在。これに尽きるといっても過言ではない。巣を拡張するにも今後の生活の為にも欠かせない資金源であると同時に厄介者でもある。例えばどこか大きな町や首都近くに巣を作れば確かに貢物や侵入者の質・量ともに見返りとなる金額は大きいだろう。そこまでの防衛設備を整えれるならば、とつくが。
 初期の巣は真に貧相と言わざるを得ない。穴と部屋のみが一番最初の巣である。こんな状態の巣では禄に財宝は貯めれない上に人間の侵入者達に簡単に財を奪取されてしまう。
 では、人が居なければいいのか、というとそうでもない。巣を作り、いざ侵入者を待ち構えようとも、肝心の侵入者がいなければ、それいじょうの巣の発展は阻害されてしまう。このさじ加減がまた難しい。また、町の富裕にも気をつかわなければならない。
 更に立地という条件もある。まず一番重要なのが、巣を作るに耐えうる地盤か否か。活火山か休火山か、大きさもある。更に気候の条件も視野に入れなければならない。女がこんな貧相な山は嫌、寒いのや暑いのは嫌と言われた日には…。
 更に更に、頭の痛いところでは在るが、周りに他の竜のテリトリーではないかも重要だ。それが活動中か如何かに関わらず、人間達が家の周りで騒がれるのはよろしくない。
 まとめてみれば、①近場に手頃な町がある事。②女が自尊心を満たす程度の大きさと美観がある住居。③周りに他の竜の巣が無い事。この3つが最低条件である。
 好条件の類として、巣から見て、少し遠いところに大きな町。周りに重要な拠点や軍事施設がない事、地下水が豊富で水に困らない等…。
 つまるところ、男は竜の村という名の監獄を抜けると今度は世間の冷たい風を一身に浴びなければならない。勿論、失敗は即ち死である。巣の住居を見つけるのに何十年かける竜すら居る程だ。
 世の中には竜とは勝ち組だという輩も居るようだが…私からみれば負け組もいいとこ、である。私の母や婚約者達ならばそれこそではあるが。
 長々と語ってしまったが、最後の授業を終わろうと思う。諸君、今までご苦労だった。これからも勤勉を忘れないでもらいたい。


次世代ドラゴン


 例えば、喉が渇き、空腹に耐え切れない時があるとしよう。そこには食料も水も豊富にあるが、どちらか片方しか選べないとしたら、水を選ぶべきか、食物を選ぶべきか。
 例えば、どうしても今、必要な品物が二つあるとしよう。今の手持ちの現金では片方の品物しか買えないとしたら、どちらを選ぶべきだろうか。
 このような状態では、どちらを選んでも間違いではないのだ。正解ではないだけで。
 では、本当の正解とは、と言われれば簡単である。両方選べばいいだけだ。だが、普通の人物やもたざる人物はその両方を選べないだけで、持つべきものは金を出すなり、相手が望むものを出すなりして両方選ぶし、有能な者や口達者な、所謂、一角の人物は値切るなりなんなりで両方選ぶ。
「………」
「………」
 つまるところ、俺から見て二人が並び、俺と向かい合っているこの現状において、人間でいう、確か『ダブルブッキング』といったか。さて、小説では華麗に切り抜けるスーパーマンを演じていた劇中の人間ではあるが、現実でもそれが可能か? と言われると首を捻らざるを得ない。
 その小説の主人公は、甘いマスクと蕩けるトークが売りの貴公子だった。だがしかし、残念な事に俺は甘いマスクでも蕩けるような会話もできそうにない。
 やはり、物語は一人のヒーロー、一人のヒロイン。これが一番バランスが良い。ヒロインやヒーローが何人もでると物語に歪みが出来てそれはきっと崩壊してしまう。
 だからといって、物語という名の俺の精神が崩壊してはいけないのだ。何故なら、方や生粋の紅の御令嬢。もう一人のヒロインは黒の女王ときたもんだ。曲がりなりにも俺だけのヒロインとなったこのお二方にはとてもではないが見せられない姿である。
 物語の序盤というのは以外にも必要がないのかもしれない、最も重要なのは結果であり、俺が必要としているのはその結果に結びつくまでの過程。
 ただ、偶々ルヴィアとエルザが偶然にも同じ時間帯に、偶然にもお互いに俺の家に寄っただけであり、偶然にもそれが玄関で鉢合わせしただけの、本当にそれだけだったのに。
「………」
「………」
 例えばここで、身の程知らずの悪漢が殴りこんできたら、それは俺にとっての英雄になる。
 例えならなくても、話の切欠にはなる。その英雄は英霊になるであろうが。
 しかし、こうしていても状況は好転しないだけ、つまるところ、その身の程知らずの悪漢は俺であり、英雄は俺自身であり、結果として…いや、考えるまい。
「まあ…たった数十年とは言え、いざ離れるとなると、案外、感慨深いな。
最初にこの村に来た時は、ルヴィアと婚約者になるとは夢にも思わなかったが…」
「…ふん」
 不機嫌なのか少しばかり目を伏せているルヴィアに俺は苦笑しつつ、
「すまんな、不甲斐ない上に頼りないだろうが、ルヴィアに釣り合うような男になるよう努力するよ」
「当然ね」
 これまた手厳しい意見に俺は頭を軽く掻く。全くもって、何時になったらルヴィアと釣り合う日が来ることやら。
「汝、何を言うかや、妾が恋敵はそう思うとも、妾には十分に過ぎたるのじゃ」
「はは…俺こそエルザは過ぎたるものだろうな。
好意や恋慕の情なんていうのは俺には無縁だったからな、その、なんだ、ありがとう。嬉しいよ」
 …こうも真っ直ぐに好意をぶつけられると照れるな。
「何? 私とは嬉しくないのかしら?」
「…いや、嬉しいとか嬉しくないというよりだな、俺にとっては二人とも高嶺の花、だからな。
正直俺の婚約者は、至って普通の、程々に俺を嫌っているような女と思っていた。
それが、急に手が届かないその宝石が手に転がり込んできたみたいなものだから…そういう、実感がまだ沸かないんだ。
今こうやってお茶を飲んでいる最中にも『実は嘘でした』と言われたら、ああ、やっぱりそうだったんだ、と思ってしまいそうだ」
 だから、どこにも行かないで欲しい。とそう遂、口走ると同時に自己嫌悪。猛烈に恥ずかしい。
「…ふん。精々私を掴んでおくことね」
 放っておいたら私は容赦しないわ、と早口に捲くし立て紅茶に手を伸ばすルヴィアを横目に見ていたエルザが何が楽しいのか笑っていた。
「くふふ…まぁよい。何、汝よ。妾は逃げぬ。
妾は汝が傍に居るだけで、それだけでいいのじゃ。だから妾を捨てないでくりゃれ?」
 それは全くもって俺の台詞だ。
「ああ、本当に嬉しいな。こうも素敵な婚約者に居られては折角、今日のうちにでも出立しようとした決意が鈍るな」
「…貴方にはまだ私を持て成す責務があるわ」
「うむうむ、そう急ぐことはないのじゃ、もう暫し、この温もりを感じさせてくりゃれ」
 だがそうは言われても、婚約者が決定して長老からも巣作りに入れと言われている現状では、少しばかり難しい。
「そうは言ってもな…まあ、明日ぐらいまでなら構わんが…」
 まあ、確かに身辺整理も必要だろうし、多めに時間を取ったと思えばいいだろう。
「賢明ね、なら明日私に付き合いなさい」
「それがいいのじゃ、明日はあの場所に連れていってくりゃれ?」
「…いや、俺の体は一つしか…その…なんだ」
 時間的に見ても一つの場所しか巡れないのだが。
「……」
「……」
 場所に関する質問はあまり受け付けたくないのだが…。

 結局3日間時間を取った。
 不眠不休でも問題ないこの体に万歳。
 



[9180] 次世代ドラゴン 第10話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:68879489
Date: 2009/11/26 05:05
「おー、ローガス君ももう巣作りかぁ…早いなぁ、今までで最速記録じゃない?」
「だね、まぁ、ブラッドに息子が出来て、その息子が巣作りに向かうというのに私たちは…」
「あーあーあー! 言ーわーなーいーでー!」
 なんだかんだいいつつ、楽しくも危険な三日はあっという間に過ぎさり出立の朝。
 一部の親しい女と男連中が見送りにきてくれている。
「ローガスが巣作りか…いいなぁ、俺も早く村を出たいぜ」
「しかも相手はエルザだからな、もげろよ」
「それにもう一人、ルヴィアだな…ははは、ご冥福をお祈りしますってか…うぎゃっ!」
「お前、本人が居てるのに…しかし予定では三日前には出立じゃなかったのか?」
「皆、婚約者が決まったらもう、それこそ直ぐにでも出て行ったからな、最長記録だな」
 色々と身辺整理が必要だったんだ。
「うん、しかしお前本当に生きているんだな…素直に褒めるぞ、凄いな」
 何がだ。
「いやルヴィアの件で、俺達の一部や先人達は実はルヴィアに求婚したんだよな」
「ルヴィアさ、凄いお嬢様然してるし、黙っていればって奴だからな、まあそれで調子にのって求婚したら」
「生きてるって素晴らしいぜ。ほんと」
「だから、お前が初対面の時もそうだが、婚約者になっても大丈夫なのが奇跡に思えてくるぜ」
 そうなのか。
 意外とモテたんだな、ルヴィアは。
「汝よ、無理だけはしないでくりゃれ?」
「問題ない、なるべく早く迎えに来るよ」
 最近気づいたのだが、意外とエルザは心配性らしい。
 人間如きに竜を殺せるとは思えないが…財産の管理のほうが心配ではある。
 『命の心配より破産の心配』とは言いえて妙だ。先人はこんなにも素晴らしい格言を残してくれているのだから。
「ローガス。精々破産には気をつけるんだな」
「ああ、そうするさ。結局、最初から最後までカインには世話になりっぱなしだった。礼を言う」
「巣作りで困ったときには相談しにいくから、気にするな」
 見慣れた友と別れるのは名残惜しいが、別段二度と会えないというわけでもない。
 飛び立つ前に最後にもう一回だけ見ておこうと後ろを振り返ると皆が手を振っている。
 まあ、一人は早く行けと言わんばかりだが…。
「では、な。行ってくる」
 頑張れよ、またな。と声援を背に受けつつ飛び立つとそこには村と一緒の、だが少し違う景色が俺に広がっていた。


次世代ドラゴン 巣作り編


「さて、どこに作ったものか…」
 風に上手く乗り、半滑空状態。俺は一人呟く。
 これが俺一人ならば、適当に人も居ないような秘境にて一生を過ごすものなのだが、生憎と将来の伴侶の為にも俺は粉骨砕身、一所懸命に働かなければならない。サボると文字通り粉骨砕身である。
 …少し怖い想像を振り払い、各々の希望をまとめていく。
 ルヴィアの希望は『この私に相応しい場所』と。
 エルザの希望は『やはり四季があると嬉しい、巣に篭ってばかりではなく、たまには自然を感じたいのじゃ』と。活動的な婚約者らしい希望だ。
 エルザはまだいいが、ルヴィアに相応しい場所…か…。意外とこれが困る。無理難題のほうが目的が確固としてあるので、やりやすいのではあるが。
 例えば、数十日前に訪れた地域には、所謂、『巣作り三要素』が揃っていたが、残念な事にエルザの希望に沿えそうになく。
 今この現在は、それなりに好条件だが、他の竜のテリトリーだと思われる。尚、判別方法は感とか気配もあるがやはり、人間の町に行き、過去に竜の襲撃があったかどうかを確かめる事で大体がわかる。
 やはり、皆が皆、好条件立地を求めているあたり、この付近はもう無駄だろうか。
 竜は適当に巣を探して飛び回ると思われがちだが、案外そうでもない。
 いや、居るには居るだろうが、少数派である。大抵、まず最初に分かれるのが、内陸か海岸沿いか、だ。
 内陸は場所にもよるが…得てして貧しい国が多いが、情勢的に安定していることが多く、貢物も一定の額を納めてくれる。人間にしても、交通の便が悪い上に竜まで住み着くとまでなると、他国からすれば火中の栗状態になり、その国は軍事的に安定するので双方、利益が出るという訳だ、お陰で冒険者や軍隊という盗人が大挙して襲ってこず、名のある冒険者まあ殆ど来ない。更に、鉱石や食物も中々にいいのがあるので、いい小遣い稼ぎになるし、巣を閉じても人が何より少ないため、そうそう、騒がれにくい。
 海岸沿いや交通の要衝に近いところは、内陸に比べて発展しているので、貢物等の利益も大きいが、反面、リスクも高い。名のある冒険者が襲ってくるのはまだいい、撃退し、奴らの装備を売るのが一番の利益なのだから。だが、安い装備に身を包んだ軍隊が押し寄せてきた日にはもう、鬱陶しい事このうえない。撃退しても装備売却益が殆ど無い上に人海戦術で対応も出来ない事がある。そして結局、取るべき物は取っていくのだから性質が悪い。巣を閉じても荒らそうと人間が押し寄せてくるし、と、まあ…色々ある。
「…ふむ。これは、中々いい立地ではないか?」
 どうせ、当てもない旅と思い、『風の向くまま、気の向くまま』なんていう、少数派的進路を取ること幾数月。
 穏やかな波が押し寄せる湾岸線に流れ込んでいる広い川、その三角州を中心に広がる大きな町。俺は川にそって上流を目指す。川の上流…つまり源流となる場所は湖か山というのが相場だ。勿論、地上からではわからないだろうが、この身は大空の支配者、川の上流にあるたった一つ、だが大きく聳え立つ山に俺は舵を切る。
 途中、川沿いにあるいくつかの中規模程度の街を通り過ぎ、人も疎らな、村が点在する上流に近づいてくるにつれ、俺は確信した…人間の分布条件は最高だと。河口にある大きな街から十分遠く、周りに軍事施設や、大きな街道も見当たらない。途中にある中規模な街は十分に発展への足がかりになる、それまではこの点在する村でも十分だと。
 山の麓に下りたった俺は早速、水源がどういう類のものか調査する事に。たとえば地下水脈から湧き出るものなのか、それとも雨が降った後に山や周辺の土地に溜まったものが漏れ出しているのか。これが違うだけで状況は全く違ってくる。山に溜まった水が途中で染み出してくるならば、その山の地盤は脆く、崩れやすいからだ。
 そして、結果として湧き出るのは山と平地の境目が殆ど…つまり山の自重で湧き出す、地下水脈という事。一応、念には念を入れ、山の周囲を回り、不安な点は無いか、山の地質や火山活動の形跡なども調べておく。
「素晴らしい」
 ただ、そう言うしかない状況。人間でいうなれば、一等地も一等地、特A級であった。
 山の地質は岩石ベース、火山活動は当の昔に終了して、危険は感じない。周りは豊富な自然に囲まれ、人の手がついた痕跡も余り無い。恐らくは、獣とモンスターが跋扈しているのだろうが、竜にとっては有難い限りである。
 早速この地域の情報を聞き出そうと人間の姿のまま山を下っていく。例えば、今から料理をしようと思い立ち、下拵えをするために材料を切っているところの素材をつまみ食いされては堪ったものではない。つまり、目立ちすぎて巣作りを初っ端から邪魔されては鬱陶しいのだ。
 こんな取りとめもない事を考えている辺り、俺は相当に浮かれているのだろう。まだ確かめる事はあるというのに。

 河口にある『大きい街』…名前は先程知ったのだが、俺にとってはどうでもいいので便宜上こう呼ぶが…この街は港町の類であるらしく、海からやってきた船が積荷を忙しなく積んでは降ろしてを繰り返し、また海に戻っていく。一部は川を遡っていく船もあった。
 きっとこの川を上がっていく船は途中にある中規模な町により積荷を降ろして、その町からは近隣の村から取り寄せた食料を積んで帰ってくるのだろう。
 …つまりここは流通の中心地。財力的観点で見ると極めて魅力的ではあるが、それはまだ当分は先の話だと思い直す。
「そこの兄ちゃん! 美味しい燻製鰊はどうだい!? 一匹たったの2B(ブレッド)だよ!」
 さて、雑踏を掻き分けていると何時の間にやら、バザールについてしまったようだ。いや、無意識に食べ物の匂いに釣られただけかもしれない、存外、自分は欲望に忠実なようだ。
 だが、悪くない。それが高かろうが安かろうが、碌な『食物』をしばらく食べていなかった俺にはどうでもいいことだ。
 俺はポケットから硬貨を二枚、行商人の手に乗せ、代わりにその美味しそうな鰊を貰う。
 …美味い。いや、実家の料理に比べると天と地程の差はあるが…やはり、『食用物』は基本ができている。
「言い食いっぷりだな兄ちゃん! もう一本どうだい?」
「貰おうか。ここに来るまで、碌な物を食べていなかったからな」
 そうして、硬貨を三枚渡して、再度齧り付く。
「お? こいつは、嬉しいね。俺としても気に入ってもらえて何よりだ! で、兄ちゃんはどっから来たんだ?」
「旧エルブワード王国…今はライトナ王国か。向こうは『天災』が居るなんていう噂だ…落ち着かないな」
 『天災』が居る…その言葉の意味を知った時には俺は腹を抱えて笑ったものだ。一体誰が『地震・雷・火事・ドラゴン』と言い出したのであろうか。
 そして実家には竜から見ても、一際異彩を放つ『天災』が居るからな…笑えないが、笑ってしまった。
「ほぉー…また随分と遠くから来たもんだな。ま、こっちは『天災』は居ないから安心しなって!」
 それは良かった、と世間話を終わらせ、他にも数件程近場に竜が住み着いていないかを確かめたが…結果としては竜が住み着いているなんていう事は噂や伝承ですら確認されなかった。
 ああ、これは当たりだ、と内心で笑みを浮かべる。更に嬉しい事にこの地方は今は春でもう暫くすると夏が来る、と、つまり四季が…エルザの希望に沿うという事。
 世の中、悪い時に悪い事が重なるように、良い時というのはとことん良い事が起きるらしい。ああ、この世界を紡いだ奴らは本当に愛憎篭った仕事をしてくれることだ。
 …
 ……
 ………
 巣とするに申し分ない素質を持った山の頂上で俺は、一人待つ。
 入り口とする場所も決めた、周りの集落についても調べた、今後の展開も何もかも。
 後、たった一つの要素を俺は待つ。
 別に竜は巣が必須というわけではない。山に作らねばならないなんていう強迫観念があるわけでもない。エルザのような大人しい竜ならば、山のような財宝も要らないだろう。大きな巣も必要無いだろう。
 大きな巣、山のような財宝…これらは暴れん坊な女を封じ込める極上の牢獄なのだ。
 程々に女が独占欲やプライドを満たせるというためだけの大きな巣。
 夫がお金を稼ぎにいかなくても、一生一緒に生活できるだけの財力。
 それが竜の巣の実情。ただ、山なのは昔の名残というだけだ。
 だが、それもここまでくると、最も合理的で、最も間違いではない選択肢。男達が生き残るための必然的な結果。
「…巣を作る事が竜の伝統ならば、それに付随する従者も最早、伝統だな。そう思わないか?」
 誰かは知らない。だが、ヒトではない気配。
「――はい。始めまして、私、ギュンギュスカー商会より派遣されましたセリアと申します。
以後、お見知りおきを。ローガス様」
 …まあ、父と同じ道を歩むのも、悪くはない。

「では早速ですが、料金プランとその結果の違い、また、複数注文による割引と特典の…」
 例えば、動物が巣を作るときは、母親が一人で作る種も居れば、父親が一人で作る種も居る。番いで作る種も複数作る種も居る。
 だが、竜は違う。自分一人では作れないが、他の種族が率先して巣を作ろうとする。例え、その竜に殺されるリスクがあろうとも…例え、その竜によって不興を買った種族全体に被害が及ぼうとも。何よりも率先して作ろうとする種族が、組織が居る。
 それは何故か? 
 答えは、リスクを圧倒的に上回る利益。これに尽きる。
 そんな鳥の巣や獣の巣とは比べることすらおごがましい。竜の巣は最終的に蓄える財産は国家規模であり――それを保管するに値するための巣の値段は財産に比例する。
 つまり、俺から見ればお金は出て行くが、セリアのような商会側から見れば極上の商談なのだ。動く金は最終的に国家予算程なのだから。
 故に、竜が呼ばなくとも、必要な時に呼ぶ前には、既に相手から挨拶に来るのだ。
「説明は要らない。セリア、お前に全て任せる」
 必要と思われる時に説明しろ、とそれだけを言う。
「…それは、専属契約、と、判断してもよろしいのでしょうか?」
「そうだ」
「っ…有難う御座います。これより、私、セリアはご主人様の支えになる事を誓います」
 少しばかりセリアは面食らったようだが、他の竜は大抵、他の商会と料金を見比べ、常に成績が良いほうを選ぶのが普通だが、専属契約は違う。
 他社の介入を許さず、たった一つ選ばれた商会を通じて巣を構築していく。勿論、他社とのパイの奪い合いも無いので、この時点でセリアの属する組織は国家予算の利益を得る事が確定したのだ。
 …最もそれも巣の経営を軌道に乗せれれば、だが。
 確かに、料金も割高になるだろうが、希少な商品等も最優先で割り振られる。巣の経営が軌道に乗るまでのサポートも段違いに分厚くなるだろう。
 まあ、一番の理由が、一々面倒な事はしたくないだけであるのだが…それは言うまい。
「では早速だが…」
「はい、巣作りを始めた事を竜の村の婚約者様にお伝えします。
尚、巣の造成作業員を既に待機させております、こちらの判断で巣の構築作業に入っても宜しいでしょうか」
「…頼んだ」
 やはり、竜の巣に派遣されるのは精鋭なのだろう。何を言うまでも無く、俺が言いたいことを全て手配してくれた。
 当面の資金は商会からの借金だが、専属契約のお陰で無利子、無担保、無催促。更には期限も無しと来たもんだ。やっててよかった専属契約。
 ともあれ、最初は自転車操業だろうが、この巣の立地条件は悪くは無い。
 そう遠くない将来、自前の資金で拡大できる事だろう。



現在の状況

・財力『500万B』(借金総額1000万B)
・H技術『0H』
・魔力『100M』
・恐怖『0!』
・捕虜『0人』
・巣豪華度『2豪華』
・配下モンスター『1部隊』




おまけ劇場


『ルヴィアがやって来た!』 

ローガス「ああ、よく来たな、余り持て成せないがゆっくりしていってくれ」
ルヴィア「…死にたいようね。全っ然、巣作り進んでないじゃない!」
ローガス「すまない。だが…ぐぉっ!?」
ルヴィア「不愉快だわ。帰る」

……
セリア「巣作りを始めて、まだ2日と経っていないんですが…」



[9180] 次世代ドラゴン 第11話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:68879489
Date: 2009/11/27 02:41
 竜が住み着いたぞ、という事を近隣に示すために、麓の村々の上空を飛びまわった数日後、山の麓の村から贈られてきた貢物をセリアの部下であるメイド達が仕分けをしていく。
 貢物といっても多種多様で財宝だけとは限らない。農産物や海産物等の食料、生贄としての女、時には希少な文献等も含まれる。今回は示威行動であったためか、幾分かの財宝の他は農産物が主流であった。
「とりあえずはこの程度で良いだろう」
「はい、お疲れ様です。次回からは脅威を与えるためにある程度は攻撃していきましょう」
 巣の経営も簡単ではない。
 恐怖を与えて人間から財宝を貢がせるには、町を破壊して自分の存在感をアピールしなければならないが、これが難しい。
 町を壊しすぎれば、貰うべき金品も貰えないし怒り狂った町人や冒険者、軍隊が大挙して押し寄せ…手加減をして少ししか壊さなければ、今度は舐められる。
 この匙加減を間違えれば色々と面倒なのだ。
 村を襲うか、町を襲うか…自分の巣の規模によって襲う場所も変えねばならない、身の程知らずは我が身を滅ぼし、小心者は大成しない。 
「連隊長ー、ちょっと来てくださいー」
「…申し訳ありません、少々席を外します」
 一言、俺に断り席を立つセリア改め、連隊長。
 メイド達はセリアのような部下を引き連れ、住み込みで働く上司を連隊長と呼んでいる。
 何故なら魔族だから、少し軍隊ちっくなのだ。そしてメイドは皆同じような顔ばかり…それぞれ個性はあるのだが、何分、覚えにくい。
 メイド村出身のメイド族なんていう事を聞いたことが有るような、無いような。
 業務上における秘密厳守は徹底しているので、空気として扱ってほしいらしいが、まあ追々覚えていくことにする。


次世代ドラゴン 巣作り編


 今は平穏で順調な発展をしている巣ではあるが、それも束の間。村落を襲い、財宝を溜め込んでいくと、それに比例するかのように知名度も広がっていく。
 そして知名度とは即ち、巣の大きさであり、溜め込んだ財宝の量でもある。
 次第に溜め込んだ財宝を狙って冒険者が無数に寄せてくるだろう。怒り狂った町村の人間も押し寄せてくるだろう。竜という邪魔者を排除するために軍隊も来るだろう。
 俺が為すべき事、それはそのような類の盗人を撃退ないし捕獲し、装備を売り払い、身代金によって財宝を貯めていく。
 そうして積み上がった財宝を狙ってまた冒険者が来る…巣の経営とはつまりはそういうこと。
 だが、それはもう少し先である。
「ご主人様、現在巣の防衛力に少々不安が残ります。新しい迎撃部屋と迎撃部隊の雇用は如何でしょうか?」
 今はこの束の間の平和を味わいつつ、来るべき時の為に準備を整えておこう。
「現在の予算ではどれくらいいけそうだ?」
「はい、ここ竜の間に至る直前の場所に待機部屋(小)とそこに配置するモンスターを雇用可能です。
雇用するモンスターの等級を落とせば竜の間にも定数配備する事が出来ますが、如何致しましょうか」
 竜の間とは俺の部屋であると同時に今現在、唯一まともな迎撃用の待機部屋でもある。この竜の間以外には入り口からここまで何も障害がない状況の上、この竜の間には宝物庫への道も繋がっている。
 つまるところ、竜の巣の心臓部位であり、侵入者に対する最終防衛線だ。
 追々、侵入者に対する罠部屋や迎撃用の待機部屋等の防衛施設を多数備えたいが、今は残念ながら予算不足である。
「うーむ…」
 迷うところである。必要なのは質ではない、しかし量も必要ではない。どちらも必要なのだ。
 例えば、最下級の迎撃モンスターである『ベト』は安いが弱い。将来性も無い。
 かといって強いモンスターを揃えても、数が無ければ何れは戦線を突破されて財宝を奪われてしまう。
 …ん、待てよ? 俺も戦えるじゃないか。竜の間で俺は居てるのだから、そこで俺は迎撃すればいのではないか?
 竜であるこの俺が戦うのだ。数多の有象無象は迎撃モンスターに任せて、それを突破した骨のある奴を俺が屠ればいいのではないか。
 ふっ…我ながら名案であると言わざるを得ない。ならば答えは一つ。
「等級は落とさなくて良い。なるべく強い奴を頼んだ」
「畏まりました、ではこれより『竜の間・真』への改築を始めます。改築が終わり次第、迎撃モンスターの召還に移ります」
 …
 ……
 ………
 ツルハシやスコップ担いだメイド達が随所に見受けられる工事区画。
 メイド達の努力とそれを指揮するセリアの手腕によって、洞窟の一部分があれよあれよと言う間にそれなりに広い部屋に変わっていく。
 セリアの説明によればこの『竜の間・真』は待機部屋に迎撃部隊をが2体、活動可能らしい。竜の間と合わせて合計、部隊を5個運用できるわけではあるが、とりあえずは最低限の防衛設備ではなかろうか。
 まあ、実家の防衛線と比べれば鼻で笑われる規模ではあるが、財宝を守れればそれでいいのだ。何より最終防衛線の竜の間には俺が控えているわけだし。
「ご主人様、巣の改築が終わりました。続いて迎撃モンスターを召還致します」
「頼んだ」
 そうしてまたもやあれよあれよと魔力で召還陣を敷いていき、準備が整ったのか、
「モンスター! 来い!」
 セリアは淡く発光している魔方陣に手をかざし、まるで誰かを呼び寄せるような仕草をすると、魔方陣からその手に呼応するかのようにモンスターが現れてくる。
 現れたモンスターはダークマンと呼ばれる、岩でできた人間型モンスター。今はまだスキルも無く強くもないが、これからの活躍に期待する。
 尚、 迎撃モンスターの扱いであるが、お金が掛かるのは最初の雇用費だけで、後は住居等も必要とせず、維持費は掛からない。
 なら飯や住居はどうするのか…と聞かれると困る。俺も知らないのだが…適当に各自でどうにかするらしい。
 だが、最初に大金を払うとはいえ…命の保障も住居も飯も出ないというのだから、環境的に考えるとひたすらに『黒い』のではなかろうか。まあ、彼らは彼らで契約に応じて来たので気にする事は無いのではあるが。
「連隊長、次は私が召還してもいいですか?」
 青い髪をしたメイドが私にやらせてっ、という雰囲気を出して手を上げている。
「構いません、次に召還するモンスターはマッドキラーだから間違わないように」
 その言葉に青メイドは「よーし、やるぞー」と、気合を入れて、先のセリアのように魔方陣に手を翳し、
「モンスター! 来い!」
「……」
「……」
 ……何も起きない。
「来い! 来い!」
 手をクイっと、クイっと。まるで事情を知らない人物から見れば、この青メイドはきっと微笑ましい視線か、生温い視線か、それとも狂人を見る視線をもれなく受け取るであろう。
「――来いぃぃぃぃぃぃっ!」
 細けぇこたぁいいんだよ、早く来てくれお願いします。とでも言うのを体で表している青メイドは、手だけでなく体も捻った随分と気合の入った仕草ではあったが…。
「…来ないな」
「あーん、連隊長みたいに出来ない…」
「…ただ叫んでいるだけでは、来ません」
 膝をついて落ち込んでいるメイドを尻目にセリアはサクっとモンスターを召還する。
 マッドキラー。まるでゴブリンのような青い肌をした面長なモンスターである。まあ、予算の関係上今回呼び出したのは全部弱めではあるが、君達の働きによって自身の労働環境は改善していくので頑張ってもらいたい。

 そして巣を改築した数日後。
「偵察部隊より伝令! 侵入者! 侵入者! 各員迎撃せよー!」
 そうしたメイドの声が響き渡ると俺は紅茶のカップを置く。
「遂に来たか」
「そのようです。迎撃部隊は間もなく所定の配置に付く模様です」
 メイドは先ほど迎撃せよ、と言っていたが、別にメイド達やセリアは戦闘に参加しない。
 彼女達は俺の部下ではあるが配下ではない。あくまでもギュンギュスカー商会より派遣された社員であるのだ。故に、モンスター達の指揮等はするが直接的な迎撃はやらない。
 戦闘中はそれぞれ、この竜の間の下にある彼女らの部屋に隠れているのだ。ちなみにその入り口は巧妙に隠されているのでバレないが、まかり間違って見つかっても彼女達は魔族なので相応に強い。
「しかし、財宝はセリア達の部屋の様に隠せば良いのではないか?」
「いえ、それでは侵入者は見つかるまで帰りませんし、財宝が無いと判断されれば、侵入者が寄り付かなくなりますので」
 成る程。
「それで、侵入者の詳細は?」
「はい、冒険者パーティが二組だけです。簡単な警戒トラップにも引っかかっておりますので脅威は低いと思われます」
「なら、意外と早く撤退しそうだな」
「はい、ではこれより私は迎撃部隊の指揮に入りますので」
 そうして、近場のメイド達に素早く指示を出していくセリア。優秀な部下を持つと上司は楽だ。
 それはともかく、竜の巣での侵入者との戦いは血で血を洗うような泥沼戦ではない。
 ある程度時間が立つと波が引くかのように侵入者は撤退していく。
 理由は簡単、竜の巣はリスクは高いが、利益も高いのだ。巣に待ち受けるトラップとモンスター…そして最後には主である竜が守っている巣。
 つまるところ、自分達以外のパーティは囮なのだ。他人がモンスターと戦っているうちにそのモンスターを回避して奥に進めば良いし、トラップにかかってくれれば、それだけ自分達はトラップに掛からなくていいのだから。
 そして、一人抜け二人抜けとしていくと一気に皆も撤退していく。囮がいなくなれば全てのモンスターやトラップを一手に引き受けなければならなくなるから。
 誰だって命は惜しい、けど利益も欲しい。だからこそ、こういう戦い方になったのである。
「…っよし! 竜に見つかる前にさっさと財宝を持って逃げるぞ!」
「それまで向こうのパーティが、モンスター共の相手をしてくれればいいんだがな」
 ほう、早速盗人が現れたか。
 比較的、他生物には温厚な俺ではあるが、生憎と自らに危害を加えようとする輩に容赦する程博愛主義ではない。
「っ!? …なんだ、同業か。この付近で竜は居なかったか?」
 向こうも俺に気づいたようだが、俺が竜とまではわからないらしい。
 案外、竜が人間の姿になれるというのは知られていないようだ。
「居るぞ」
「何っ!? どこだ!?」
「それより、あんたは逃げなくて良いのか?」
 剣を構えて周囲を警戒する人間達のその言葉に俺は声を出して笑ってしまった。
「…どうした?」
「その竜ならば、ここに居る。ようこそ、竜の巣へ。そして、さようなら、だ」
 本来の姿になった俺を見て驚愕したらしい人間達は次に恐怖に彩られた表情へと移っていく。
 そうして、憎むべき侵入者に対してその竜の力を身を持って味わってもらったわけだが、その、なんていうか忘れていた。
 俺は、力の制御ができない混血だということを。
 しまった、と思った時には既に遅し、巣が壊れた。まさかエンディングが破産ENDではなく生き埋めENDとは…。
 …
 ……
 ………
「ご主人様ー、生きてますかー?」
「…ああ、生きているが、精神的に凹んで動けそうに無い」
「大丈夫ですっ! ご主人様ならやれますっ! がんほーですっ!」
 ふぁいとっふぁいっ! なんて顔の瓦礫をどけてくれたメイドが俺に向かって声援を贈ってくれた。でも駄目。自力で動く気も無いです。
 そもそも、竜も魔族も生き埋め程度で死んでいたら、それこそ伝説級のモヤシっ子である。
「素直に、財宝を取らすべきだった…っ」
 後悔先に立たず。
 こうして俺はまたもや借金が増えたのであった。


現在の状況

・財力『300万B』(借金総額2000万B)
・H技術『0H』
・魔力『145M』
・恐怖『4!』
・捕虜『0人』
・巣豪華度『3豪華』
・配下モンスター『3部隊』


 


おまけ劇場


『その調味料の名は』

働くメイド1「やったー、パン屋のウェットニーさんに頼んでた秘蔵の調味料を貰ったよっ」
働くメイド2「へー、どんな調味料なの?」
働くメイド1「えっとねー、付属の説明書によれば…これでもかと言うほど酸っぱくて、命の保障もできないらしいよ」
働くメイド2「怖いわね…それ本当に調味料なの?」
働くメイド1「でもね、その酸っぱさが途端に、この世の何よりも甘い調味料になるらしいよー」
働くメイド2「それ、なんて言う調味料なの?」
働くメイド1「リュミ酢

 



[9180] 次世代ドラゴン 第12話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:68879489
Date: 2009/11/29 14:31
 竜は他の生物に殺されるなんて事は無い。
 だがそれは、今、大空を自由に飛べるからこそ言えるのだ。これが巣の中だと地面に足をつけて戦わねばならない。
 特に俺のような混血だと巣の中で戦うのは大きなハンデがある。勿論一人や二人ならば問題は無いが、万が一『金』や『銀』といった熟練の冒険者達が襲ってくるとなれば覚悟を決めねばなるまい。
 そして、そうした時が来ないよう、十分な迎撃体制を整える。
 これからの巣作りにおいて、前回のような苦難が幾度も襲い掛かるだろう。
 必要な物は屈強な迎撃部隊と高度なトラップ群、そしてそれを融通してもらうに値する商会からの信用だ。
 その為に必要なものは金、金、金なのだ。
「りゅっ…竜だっ! 竜が来たぞー!」
「逃げろー!」
 つまり、今現在人間の町を襲い、貢物としての金品を奪うという事は仕方ない事なのだ。
 無論、俺は理性の竜(自称)なので無駄な殺戮は好まない。
 こうして町の上空を旋回し、人間が逃げ惑う時間を与えてやっている。
 そして時が来れば、俺の力の一部を解放するだけなのだ。
「うわぁぁぁっ! 町がっ俺達の町がぁぁ…」
 …ふむ、やりすぎたようだ。


次世代ドラゴン 巣作り編


 山の麓から続く何台もの馬車の轍。それを辿れば竜の巣の入り口がある。
 そして規則正しく並べられた馬車の中身は貢物の数々。
「前回の襲撃時に町を一つ壊滅させたのが効いたのでしょう。初回が示威行動のみでしたので、今回の貢物は期待できそうです」
 普段は無表情なセリアだが、今回に限って言えば少し嬉しそうに貢物の目録に目を落としている。
 本来は町を壊滅させる等という、恨みを与えるだけで貢物の期待の出来ない行動ではあるが、今回はそれが裏目に出たのか人間達も貢物には力を入れたのであろう。
 実は町を半壊程度にしとくつもりであったのだが…まぁ、次回から気をつければいい。
「御主人様、生贄の処遇については如何いたしますか?」
「…生贄? 何故だ?」
「はい、地域によって人間には『竜は人間も食べる』と認識されていますので」
 開いた口が塞がらないとはこの事を言うのだろうか。
 一体、誰が好き好んで人間を食べようと思うのだろうか。俺は人間を食べるなんてそんな事、思いもしなかったが…人間の想像力は侮れないな。
 …それはともかく、生贄なんてお金の掛かる存在を連れてくるとは、迷惑にも程がある。
 食事も出さないと駄目だし、健康管理にも気を遣わねばならんのだ、そんな贅沢をする余裕は無い、が、俺は巣作りを始めて以来『夜の生活練習』をしていないではないか。
 これはいい機会なのかもしれない。
「生贄は女か?」
「はい、女性です」
 なら、都合が良い。夜の生活について調べる事は多岐に渡るのだから。
「ならここに連れてきてくれ、後は、そうだな…生贄用の部屋を作るから後で見積もりを持ってきてくれ」
「はい、かしこまりました。では失礼致します」
 元々、竜には性欲など無かった。だが太古の三界を巻き込んだ大戦争の後、種の保存の為に神界と魔界側が種の能力を大幅に削って、付与させたのが性欲である。
 しかし、誇り高き竜にはその押し付けられた性欲という名の制約は受けいれられなかったのか、それ以来、竜にとって性に関する事は禁忌に近い拒否反応を見せる。
 だからこそ『巣を作りました、結婚しました、めでたしめでたし』…とはいかないのが竜という種族。
 ぶっちゃけるならば絶滅危惧種なのだ。唯でさえ男の数が少ない上に、女のほうが強すぎて男が死ぬなんて当たり前。しかも、女は非常に嫉妬深く、他の女が居るなんて耐えられないと来たもんだ。
 そこで、それを解決する秘策が『夜の生活練習』なのだ。
 男が唯一、女に対して主導権を発揮できる場所、それは、夜の生活。
 第一婦人たる婚約者に対してもう、色々と、満足させる事によって第二婦人、第三夫人を娶る事によって出生率を上げる事が竜の至上命題。
 『竜の男は種馬』というのはマイト叔父さんの言である。全く持って異論は無い。
 それに両親を見てもわかるように、夜の生活は夫婦円満の源なのだ。俺は婚約者が二人なんていう、異例の事なので鍛えなければなるまい、色々と。
「お待たせいたしました」
 メイドに先導されてやって来た生贄の女が不安そうな顔でこちらを見ている。
 生贄は捕虜とは違って、侵入者というわけではないのでそれなりに丁重に扱うとしよう。
「あの…私、ここの竜様に会いに来たのですが…貴方は…」
 …ああ、そういえば人間は竜が人間の姿になれるという事は余り知られてなかったか。
 ちなみに、この人間の姿になるのも戦争後に与えられた能力の一つだ。
「ようこそ、竜の巣へ。俺がここの竜だ、何、食ったりはしないから安心しろ」
 どうやら半信半疑のようなのか、怪訝そうな目を向けてくる生贄に証拠とばかりに竜の姿になると、一様に怯えた声が聞こえてくる。
 …竜に会いに来た、というからこの姿になったというのに、いざ会うと怯えるのはどうかと思うが、まあ、仕方あるまい。
「最初に言ったように、食ったりはしないから安心しろ、命までは取らない。ただ、少しお前達の協力が必要だから呼んだだけだ」
 そう、なんせ情事に関しては種族上、疎い。
 どこをどうすれば喜ぶのか、嫌がるのか。どういう風に続ければ良いのか。する前はどうするのか、その後はどうするのか。
 そんな知識も経験も0の状態から、どんな事柄にも対応できるようにしなければならないのだから、自分本位では分かるものも分からない。
 いや、完全な0ではないのだ、あるにはある。親の情事も一部とは言え見たこともある、書物による知識もあるが、それだけだ。
「手荒な真似はなるべくしない事を約束しよう。…服を脱げ」
 何が手荒な事になるかもわからないが、嫌がったり、痛がったりしたらまぁ…善処すればいいだろう。
「…どうした? 早く服を脱げ」
「そ、そんな事、恥ずかしくて…できません」
 生贄は困ったような顔をしていた。
 ふむ、成る程、全裸になるのは恥ずかしいのか…竜の姿の時は全裸みたいなものだが、恥ずかしくはないな。
 まあ、人型になるときは、服を着ているが、これにしても回りや両親が皆、俺が産まれた時から服を着ているから、俺も服を着ているにすぎないからな…。
 自分が人前で全裸になったことなど無いのでそう思うかもしれん。自分が全裸になると恥ずかしいと思うだろうか?
 ふむ…試してみるか。
「っ…」
 俺が服を脱ぐと生贄は息を呑んで目を瞑っているが、これはお前達が恥ずかしいのか?
 …まあ、余り恥ずかしさは感じないが…ルヴィアやエルザの前なら恥ずかしいと思うのだろうか。
「俺は脱いだ。お前達も早く脱げ」
 それでも恥ずかしいのか、一向に協力しない生贄に俺は段々と腹が立ってきたので強めの殺気をぶつけてみると、生贄は漸く、服を脱ぎだした。
 やはり個人差が出るのだろう、体型的には均一性は見当たらない。
「場所はベッドでいいな?」
 とは言ったものの、これ以上待つのも面倒なので無理矢理にでもベッドに押し倒し、
「さて、これから行う行為についてはわかるだろうが、経験はあるか?」
 これからの不安なのか、それともまだ俺に対して恐怖を抱いているのか。怯える幼子のように身を丸め、目に涙を浮かべている生贄。
 それを俺は今から、その意思持つ儚い花を今から無慈悲に手折らねばならぬのだ。
「知っている事が有るならば、早めに言っておく事だ…それがお前の為にもなる。だから泣くな、可能な限り優しくしてやる」
 ゆっくりと、決して慌てず急がず、優しく手を伸ばす。
「ヒッ…!」
 恐怖の表情を浮かべているその顔の小さな唇に指を這わせると、びくりと奮え、か細い声が漏れる。
「…っ、やっ…」
 俺は安心させるように、唇から頬へ、そして肩、腰へと手を這わす。
 そして正面から優しく抱き、手は幼子をあやすように、ゆっくりとさすっていると緊張が解れてきたのか、体から強張りが抜けていき、
「んっ…」
 首筋に舌を這わすとぴくりとだけ反応したが、最初のような拒絶するような反応はしなくなっていた。
 やがて俺の手は最も典型的な女の象徴である乳房へと手を伸ばし、掌に収まりきらないその母性の塊を弄ぶ。
 柔らかい――本当に、こんな柔らかいものが世の中にあったものか。
「やっやぁっ、ぁ…っ…ぅっ…」
 …俺が、ここまで我を忘れるような感覚に陥るのは何時以来だろうか。生まれた時より竜の頭脳は周りの事柄全てを素早く理解してしまう。故に、飽きる。世の中に。
 だが、これは別だ。少し力を入れただけで違う反応を返す。少し弄び方を変えるだけでまたもや違う反応を返す。女の出す声までもが違ってくる。
 だからこそ、面白い。定型通りの反応しか返さない世の中に飽きた竜たる俺には、まるで、麻薬。
 圧倒的弱者たる人間だというのに、自分の思い通りにいかない事が、ここまで新鮮だったとは。
 やがて生贄に変化が訪れる。
 紅潮した顔と発熱する体、悩ましげに吐息を吐き出したのを見た俺は名残惜しげに手を乳房から外し、臍を通ってかつて俺が生まれ出た場所、新たなる生命を宿す器官の入り口へ。
「あ…っ!? 嫌っ嫌ぁっ!」
 途端、大人しかった生贄がその手を逃れるように暴れだすが、竜の腕力に勝てるはずがない。 
 だが、それでも優しく、まるで包み込むように生贄に被さり、まだ叫んでいるその口を塞いでやる。
「んっ!? んんーっ!!」
 混乱している隙を狙い、舌を伸ばして口腔内に進入するとガチリと舌を噛まれたが、気にせず無遠慮に更に伸ばすと、舌先に生ぬるい、少しざらざらした生贄の舌があったのでそれを絡めとる。
「―っ! ――っ!」
 それでも未だ暴れる身体と噛み切ろうとする口を押えて、思う存分に口を犯す。
「―…っ、…っ」
 少しづつではあるが、大人しくなってきた。
 どこかの書物でファーストキスはレモンの味と書いていたが、そんなことはなく、ただ噛まれた時に出た血の味しかしない、が、この女の舌を思う存分貪れるので構うまい。
「―んぅっ!?」
 脱力した女の下腹部、本来の目的の場所に手を伸ばすと、目を見開いて身動ぎしたが、口は塞いだままなので先程のように叫んだりはしない。
 いざ触れてみると唾液とはまた違う、滑りのある体液の感触。
「んっ…」
 その滑りの場所を確かめるように優しく、触れるか触れないか、という程度に動かしてみるとぴくりと反応を返してきたので、面白くなり、続けて触れてやると、
「んっ! んっ! んぅっ! はぁっ…ぁっ、あう! ひっ、やっ、やめっ…てっ! くっ…いっ!」 
 びくり、びくりと身体は素直に反応しているので、暫く続けていると、十分に男を受け入れる準備が整ったようだ。
 身体の汗が部屋の光を反射し、絶妙な色気を発している女のモノに俺の性器を宛がうと、女は力の入らない身体で嫌々をするかのように拒否をするので、少し力を入れてやると、
「んっ…やめてください…お願いしますっ…」
「それはできない。では、いくぞ」
 少しづつ、ゆっくりと押し込んでいく。
「あうっ! い、痛っ! やめてっ…」
「…初めて、か。痛いらしいが、少しばかり我慢してくれ」
 沈み込んでいく『それ』に比例するかのように女が痛がり、涙を流すその姿に俺は優しく話しかける。
「謝罪はしない。だがせめて、少しでも痛みが続かないように一気に行くぞ」
 そうして俺は女の腰をしっかりと掴み――
「ぃ、嫌…嫌っ! 嫌ああぁぁぁっ!」
 …
 ……
 ………
「生贄専用の部屋の建築を完了致しました。具体的な待遇は如何致しましょうか?」
 穏やかな顔をして眠る生贄の頭を優しく撫でながら、俺はセリアの報告を受けている。
 瞼の部分に見られる涙の後とシーツに残る鮮血の後が痛ましい。
「なるべく、精神的にも苦労はかけたくない。その辺の差配は任せる」
 ただし、開放はまださせない、と言っておく。
 俺としても開放させてやりたいが、何分これからも生贄には協力してもらわねばならない。
「かしこまりました。所でそちらの生贄の娘ですが…部屋に連れて行きましょうか?」
「いや、このままでいい」
「かしこまりました。では私はこれで…」
 セリアが退室したのを見届けて部屋の光を落とす。
 ぼんやりとした燐光の中、俺はこの憐れな、竜に捧げられたこの生贄にせめてもの救いを、と思い、優しく髪を梳いてやる。
「おやすみ、哀れな生贄よ…良い夢を」
 人間風に言うなれば、初体験を済ませた訳ではあるが、奥が深かった。まる。 


現在の状況

・財力『900万B』(借金総額2000万B)
・H技術『3H』
・魔力『155M』
・恐怖『9!』
・捕虜『0人』
・巣豪華度『8豪華』
・配下モンスター『5部隊』


おまけ劇場

『ガンホー足りてない』

喋るメイド1「いきなりだけどさ、ガンホー足りてないよね?」
喋るメイド2「本当にいきなりだね。で、何の?」
喋るメイド1「エロス」
喋るメイド2「仕方ないよ、これ作った人は非リア充だから…」
喋るメイド1「毎日毎日、飽きずにエロゲーしながら股間をガンホーしているというのに! エロ文はガンホーできないのかー!」
喋るメイド2「あ、あはは…」
喋るメイド1「大体、本当はもっと違うネタのおまけ劇場をするつもりだったのに、なんでこうなったの!」
喋るメイド2「エロ文を書いている内にド忘れしちゃったらしいよ?」
喋るメイド1「おまけ劇場の為に見に来てる人に謝れ!」
作者「ごめんなさいorz」



[9180] 次世代ドラゴン 第13話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:0480b5cb
Date: 2009/12/13 04:21
 人間にとっての一日は陽が昇る事から始まるが、反面竜の巣は違う。
 確かに、陽が上ればメイド達は人間に擬態し町に買い物に出かけたりはするが、基本的には巣の中は魔法の光で一日中明るいので朝の区別も夜の区別もつかない。
 そこで、竜の巣の朝というのは、我が家を荒らそうとする侵入者から始まる。
「うおおお! もう我慢ならねぇだ! 一揆だべ! ええじゃないか! えぇじゃないかぁ!!」
 侵入者と言っても目的はマチマチで、例えば怒れる村人であったり、
「えにくす、トンヌラ…準備はいい?」
「…」
「勿論OKさっ! なんたって俺達は『ぎんのつるぎ』を装備したCランクだぜ?」
 例えば、勝手にタンスを開けたり壷を割ったりする自称『勇者』達であったり…。
「ヒャアッハー! 今日こそが竜を打ち砕く俺様のジャスティス! 囚われの雌豚も溜め込まれた財宝も俺様のもんだぜwwwwうぇっwwww」
「本当に竜の巣は地獄だぜぇ! フゥハハッハー!」
 例えば、こんなならず者であったりもする。
 だが、俺には関係の無い事。
 理由は如何であれ、俺の巣を荒らそうとする敵なのだから。


次世代ドラゴン 巣作り編


 セリアの差し出した複数の書類を睨める事、幾分か。未だ決めかねている俺は頭を抱え、思考の海へとまた逆戻り。そうしてまたもや書類を眺めるなんていう堂々巡りをしている最中、悩む俺を見かねたのか、
「…では、こちらのプランでは如何でしょうか?」
 書類のタイトルは『小~中規模侵入者撃退計画#5』。
 そうして、差し出された新たな計画と既存の計画を見比べ、またもや云々…。
 つまるところ、次の巣の防衛体制はどうしようか、という事なのである。
 巣作りにおいて、ある程度発展し軌道に乗りかけた、この時期こそが一番悩める時期なのだ。
 人間達も馬鹿ではない。それぞれ交互に情報交換を行っているし、その情報を金銭で遣り取りをして生活をしている者も居る。例えば『待機部屋の前には石が転がる罠がある』だとか『どこそこの部屋は左に曲がると防備が少なかった』だとか…。
 故に防衛体制は絶えず変化をさせねばならない。固定された防衛体制なぞ、鍵の掛かっていない金庫のようなものであり、阿呆のする事だ。
 だがしかし、罠代や巣の改築作業費も馬鹿にはできないコストなのだ。罠の整備費や修繕費も考えねばならない。
 費用対効果もだ…費用が5000Bの罠で敵を仕留めました、利益は3700Bです、なんて事は避けねばならない。かといって5000Bの罠を仕掛けました、相手が手強く、引っかかりませんでした。なんていう事も歓迎できない。
 そして敵たる侵入者は程々に手強く、数が多い。そういう大望は抱けずとも小金は稼げる程度の実力を持った人間等、掃いて捨てるほど居る。間が悪い事にそういう人間が束になって掛かれば、財宝に手が届いてしまうのが、今の巣の現状なのだ。
 これが、どちらか両極端ならば、悩む必要はなかった。敵が弱ければ安価な罠で利益が出せるし、敵がAクラス以上の侵入者ならば極めて高価な罠でも利益は出るのだから。
 だが、侵入者の強さは次第にブレが出てきている…罠の種類と設置個数を増やし、設置場所も工夫をせねば…ああ、そういえば新しい待機部屋も作らねば…。
「…Aクラス以上の武具を纏った、Eランク程度の弱い侵入者とか居れば、な」
「流石にそれは無いかと…」
 普段から優秀なセリアは、呟き程度の愚痴にも律儀に返答をしてくれたが、だからといって状況は好転するでもなく…。
「連隊長、報告しますー。武具と防具の鑑定が終わりましたー」
「ご苦労。それで、利益は出せそうかしら?」
 そうだそうだーとにもかくにもお金が有ればこの問題は解決するんDAっ、なんて考えすぎて熱を持つ所か沸騰しかけの脳を冷やすために、暫し思考を止めてメイドの報告に耳を傾ける。
「はーい、約127万Bです。大体50万Bの黒字ですが…迎撃モンスターが一隊、天に召されたので…総合的に見ると赤字です」
 やはり、赤字でしたか…なんて呟く、セリアを横目にやがて俺は考えるのをやめたくなる。だが、その甘美な誘いに乗ることは俺の死にも繋がるので、止めておく。
「報告は以上ですか?」
「えーっと後は…捕虜の中に珍しくも神族の娘が居た事を報告します。こちらが報告書となります」
 神族とはまた珍しい。人間界に居ることもさることながら、その辺の盗人のような真似事を仕出かすとは…。矜持も地に落ちたものだな。
 いや、俺には関係無い、それよりも今はこの書類について考えねば。
「確かに珍しいですね」
「神族の娘の事か?」
「はい。報告書によれば名はオリヴィア。近隣の領主の娘ですが詳しいことは不明との事です」
 領主の娘ならば身代金も期待できるな、と適当に聞き流し、審議に審議を重ねた最終候補の書類二枚を見比べる。
 罠で弱った侵入者を迎え撃つ#3案。
 迎撃部隊で怪我や疲労を与えた後にトラップで確実に仕留める#4案。
 さて、どちらに……ん?
「領主? 貴族の、人間の娘か?」
「はい。報告書にはそう書いてありますが」
 これはまた珍しいことだ。元々、神族は世界の管理者としての自覚を須らく持ち、天界より余程の事が無ければ、そこから出る事すらまず無い、というのに。半神半人とは、神話の時代の御伽噺程度しか聞いたことがないな。
…ふむ、まあ実際に会えばわかる事だ。それに捕虜共には竜の巣に侵入するという事が、どういう事か教育しなければなるまい。

 まるでまともに換気もしてない、澱んだ空気。捕虜が垂れ流す排泄物の独特の臭い。
 トイレも風呂も何も無い、岩盤が剥き出しの牢獄に鎖で繋がれている女達は辛いだろうが、同情などする気は全く無い。むしろ、男と別で分けただけ有難いと思って貰いたいものだ。
 だというのに、この女達ときたらどうだ。
 敵対的な視線を送る者。
 暴れ、叫んで威嚇する者。
 恐怖、絶望、悲哀…凡その負の感情をした顔の者。
 総じて、捕虜という立場を改めて理解させてやろうと思うが、今はまだ捨て置いておく。
 目的はそんなありふれた『人間』という種ではなく、この地の獄で縛られて尚、冷静さを保っているこの女。
「…貴公が、ここの主か。今すぐ、我の戒めを解いてもらおうか」
 未だに理解をしていないのか、それとも貴族たる所以か、神族としての意地なのか。
「―くっ。笑わせてくれる…竜たる俺と刃を交えて敗れた、というならまだ解る。迎撃部隊と戦って敗れた、というのも百歩譲って解るとしよう。
だが、罠に掛かって無様に捕縛された敗者の言うべき事柄とはとても思えないが?」
 事前にこの女の詳細な戦闘記録には目を通してある。
 技術も高いとは言い難く、直情思考。今まで、無難に過ごせたのは、貴族としての地位と財力に支えられた武具と防具のお陰だろう、というのがセリアの判断であるが、いやはや、全くもって正しいと言わざるを得ない。
「――罠、等と。卑怯者めがっ!」
「成程、成程…卑怯者、と来たか。では聞くが、他の侵入者と同時に侵入してきたのは卑怯ではないのか?
それとも正々堂々と一人で竜の巣に入る実力も根性も無かったのか?」
 どうなんだ? と、問い掛けると幾分か視線を下げ、口を閉ざしてしまったのを見ると、多少は心当たりが有るらしい。
 最も、神族だろうが魔族だろうが、一人で侵入するなぞ自殺行為でしかないのだから、それは当たり前なのであるが。
「まあいい――俺はそんな堂々巡りをする為に足を運んだのではない」
 お前に捕虜としての立場を解らせる為に足を運んだのだ、と。
「…如何いう事だ」
「こういう事、だ!」
 言うが否や、手を縛り上げていた鎖を引きちぎり、頭を地面に向けて抑え付け、衣服を剥ぎ取ると、漸く、状況を理解したのか、俺の手から逃れようと暴れだすが、竜に力で勝とうなぞ愚問。
「――やっやめろ! 離せっ離さぬかっ!」
 そんな叫びを無視して、大きくは無いが、形の整っている乳房へと手を伸ばす。
 あ、うん。やっぱり柔らかい。
 まあ、俺としてはもっと、他の牢に響くぐらい叫んで貰いたいものだ。少しは他の捕虜も立場が解る事だろう。
 まあ、それはそれとして、柔らかい。小さいと固いのではないかと思っていたが、そうでは無いらしい。
「やめっ、その手をどけろっ…!」
 この女はどうやら、戦乙女の血が流れているのか、逃げようと必死にもがくと、薄い半透明の翼も呼応するかのように羽ばたく。
 正直、視覚的には邪魔であるが、物理的には存在しない魔法の羽なので我慢する事に。
 まあ、我慢した結果の結論から言えば、神族も人間も柔らかいって事です。
「いい加減、離さぬかっ…! このっ…ひっ!? やめろやめろっ! そこには触れるなっ!」
 あまりにも嫌がられたので、仕方なく手の向かう先を下げたら、余計に怒るとは。心外な。
「お前が嫌だと言ったから手を離しただろう?」
「だからといって…ぅっ…指を動かすなっ痴れ者がっ…!」
 逃れようとして岩盤を引っ掻いたのか、爪が剥がれかかり、血が出ているというのに。
 それでも尚、血塗れた指先を動かし岩を引っ掻こうとするのを見て、俺はついその手を止めてしまう。
「…必死な。まあいい、そんなにも嫌ならすぐにでも終わらせてやるぞ。神族の娘」
「―あ、ああ!? やめろっ! 頼む、やめてくれっ! そこだけはっ…!!」
 未だ蠢く手を無理矢理押さえつけ、もう片方の手で生殖器を宛がうと、今までのが嘘のように、全てを振り絞るかの勢いで暴れだし、それでも、俺がやめないと知ると、終に流す事の無かった涙を流し始め、
「…やめて…やめてください…それを失うと私は…本当に何も無い、人間になってしまう…。お願いします…お願いします…」
 何も無い、人間に、か。
「…興が削がれた。その女の指を治療してやってくれ」
 そう言い残して俺は牢を出る。
 別段、情に動かされた訳では無い。
 だが、すすり泣く声を聞いていると、どうにも、気分が乗らない。泣き叫び、罵倒でもしてくれれば、割り切れるのではあるが。

「もー、ご主人様! 聞いてますかっ!?」
「ああ、聞いている。所で、お茶のお代わりを貰おうか。二人分な」
 最初にやってきた生贄も大分ここでの生活に慣れたのか、俺の前で肌を晒す事も幾分か平気になっている。
 最も、今のようにメイドが室内に居ると恥ずかしがってシーツで体を隠してはいるが。
「はいっどうぞ! いいですか、もっとこう、捕虜には『ズドーンッバコーンッズキュゥゥゥン!!』っていくべきなんです!」
「ああ、解った解った、まずは落ち着いて、茶を飲んだらどうだ?」
 実際良く解らないが、メイド1号が腰に手を置いて、大きく腰を『ズドーンバコーン』とやらをしているのを見ると大体解る。と思いたい。
「頂きますっ」
 やれやれ、連隊長候補だからなのか、どうにもメイド1号は張り切っているな。
 俺としては、メイドが部屋にいると生贄とイチャイチャできないから困るんだが…。
「とにかく! 次はきちんとしてもらわないと、他の捕虜も舐めた態度を取りますから、注意してください!」
「あー、解った解った…もう一杯どうだ?」
「頂きますっ」
 セリア、早く巣の改築を終わらせて帰ってきてくれ。
 …早くイチャイチャしたいのよ。俺。


現在の状況

・財力『1500万B』(借金総額2000万B)
・H技術『8H』
・魔力『285M』
・恐怖『21!』
・捕虜『4人』
・巣豪華度『17豪華』
・配下モンスター『8部隊』



おまけ劇場

『ルヴィアとエルザの保健体育』

カイン「お茶、入ったぞ」
エルザ「うむ、有難いのじゃ。処で、恋敵よ」
ルヴィア「遅いわよっ…で、何よ」
エルザ「夜の生活練習とは言うが、所謂、子を成す為の練習であろう?」
ルヴィア「そうね、それがどうしたの?」
エルザ「赤子とはコウノトリが運んでくるのじゃろ? 何で練習する必要があるのかや?」
ルヴィア「朝起きたら、布団の間に生まれてるって聞いたけど」
エルザ「え?」
ルヴィア「え?」
カイン「…え?」



[9180] 次世代ドラゴン 第14話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:0480b5cb
Date: 2009/12/13 04:39
「ご主人様っ! 私こと不肖、メイド1号…圧倒的巣作り計画書を持参しましたっ!」
 圧倒的の意味が全くわからないが、机に叩き付けられた計画書。そして否応にも目に飛び込んでくるほどデカデカと書かれた計画名、『貴様っ……それでも人間か…っ』。
 …いきなり読む気が失せた。それに人間じゃないし。
「あのー、折角徹夜して書いたのに、なんですか、そのやる気の無さは?」
「…とりあえず、その計画がどの様なものなのかを話して貰おうか」
 ここで断っても、メイド1号は残念ながら、こういう事に関してはスッキリ爽やか爽快ドライ…ではなく、限りなく粘り気の有るウィットさん、という事は解り切っているので適当に対応しておく。
「むぅ…まぁいいですっ。これを聞いた時にはご主人様も、『眼から涙』って奴なのです」
 …それ涙じゃなくて鱗じゃないか?
「こほんっ…では、まずは巣の入り口から見て右のルートには『娯楽室(カジノ)』を作ります。まずはここで、侵入者と迎撃部隊から搾取っ…。勿論、暇を潰しに来たメイドからも容赦はしないのですっ…。
そして、精神的にもお財布的にも揺さぶりを掛けられた侵入者が向かう先の部屋は待機部屋です、侵入者の残った金銭を奪い取るのです」
 侵入者はともかく、味方も容赦なく搾取とは…。
「左のルートでは大店と待機部屋…通称『客の悲劇』を設置します。店を出て次に進むといきなり待機部屋です。侵入者に買って貰った商品はここで奪います。油断する方が悪いのです。
尚、どちらのルートでも脱落者には発電所を踏んで帰って貰って採掘所の効率アップなのです」
 え、なにそれ酷い。
「そして、待機部屋を命からがら次に進むと、両方共突き当たるのが『火急の選択』です」
「火急の選択? なんだそれは?」
「はい。まずは横長の待機部屋です。ここで、侵入者は傷ついた体にも関わらず、またもや戦って貰います。
そして戦闘の最中、迎撃部隊の攻撃からすり抜けた侵入者が見つけるのは3つのルート…大抵ここでは3つの内、1つは『当たり』と思ってしまいますが、処がどっこいっ…全て『はずれ』の罠部屋…これが現実…っ。しかも罠は脅威のヒット率を誇る偽宝箱…そして肉体的にも精神的にも参った侵入者が先に進むと襲い掛かるのが、またもや横長の待機部屋です。想定ではここまでで9割程度の脱落かと。
…どうですかっ? 完璧ですよねっ!?」
「確かにいい案ではあるが…見積もりはどれくらいだ?」
「大体これぐらいです」
「…3年後にその計画を採用しよう」
「ぶーぶー」
 今日も我が家は平和だった。


次世代ドラゴン 巣作り編


 いきなりではあるが、世の中には『アナルプレイ』なる性行為がある。
 初めてそれを、生贄から聞いた時には人生ならぬ竜生、二度目の文化的衝撃を受けたものだが、ここで俺の持ち前の好奇心が鎌首を持ち上げた。
 そして近い将来妻を娶る身としては、その斬新さ故に妻に対し優位に立てる可能性の高い性行為だと推測されるそれを、下策だとして無碍に捨てるような俺ではない。自慢ではないが、(ルヴィアから)痛い目に逢わない為にはなんでもできる自信がある。例えそれが、尻穴突撃だろうとも。
 しかし、いざ事が終わると、この類の性行為の弊害であろうが…俺の性器に、茶色い何かが付着して何とも情けない気分になってしまった。
「…屈辱だ…さっさと、殺せ…竜よ…』
 とは、我が生殖器についた『何か』を生成した下手人、神族の娘の言葉である。
なるほど、これは双方の精神に多大なる損傷を与える行為だったようだ。となると互いに得るものが無い、極めて無駄な行為なようだが、反面、ここまで突き抜けていれば非常にプライドの高い竜の女に対しては有用な奇手の様にも思える。
 最も、所詮奇手は奇手。まかり間違えば激昂した女に俺が汚物の上に血を塗りたくる羽目になるのは想像に容易い。
 ならばこそ、この娘をそう易々と手放す訳にはいかない、一体どの位この行為を重ねれば快楽を感じるか実証せねばならず、殺すなど論外である。
「それは出来ない相談だ。とりあえず、風呂に行くぞ。立てるか?」
 神族の娘から殺気の篭った視線を華麗に無視して、風呂に行く事を提案してみる。
 この類の性行為の弊害で、臭いや汚れが竜族のそれなりに優秀な嗅覚に対し、先ほどから不快な攻勢をしかけている。別段、疫病に罹るような軟弱な身体は持ち合わせていないとはいえ、このまま服を着るのもよろしくない。俺は獣ではなく、竜。それも知性派、だ。
 それに、未だに大人しく従わない捕虜も居る。協力的な者には段階的に生活水準を上げてやるのもまた方策。そう考えた俺は、捕虜に対してまずはどのように接するべきか、どう飴と鞭を与えるか、その実験としての風呂への招待なのだ。
「入りたくないなら、それでも構わないが」
 とはいえ、本人が望んでいないのなら、無理して入れる必要はない。彼女だって仮にも神族の端くれだ。そう易々と疫病を患う心配などないだろう。
「ま、待て…入らないとは言っていない…。ただ、身体に力が入らないだけだ…」
 まあ、それは仕方ない。この娘の痛がり方が尋常ではなかったので何事かと思ったら裂けていたのだから、相応に気力・体力を使ってしまったのだろう。
 最も、怪我の治療に関する魔法に関しては俺は既に習得しているので続行したが、やはり普通とは手順が違ったのか、生贄に聞いた話と少し違う気がする。
 …いや、今は風呂に向かう事にしよう、こんな臭いの元で考え事をするのは難しいし、先ほどから攻勢に慣れてきている自分がいる。コレに慣れる、というのは些かどうかとも思うのだ。
「っ…離せ、離さぬか…この下郎…」
 娘の言う通りに離すと、そのまま岩盤に直接身体が落ちるというのを理解しているのかしていないのか。別に全てメイドに任せても良かったが、メイドにはあの部屋の掃除をして貰わねばならないし、何より今回の性行為の経験者は現在では俺とこの娘しか居ないので、感想を聞かねばならないのだ。重要なのは、婚約者を満足させられる性技であり、俺の性欲の解消ではない。
 それに、俺とて我が家の自慢というのをしたい時もある。
 発展途上で貧相ながらも、事、生活設備に関しては妻を迎えた巣にも負けず劣らず充実しているというのが、我が巣の数少ない自慢なのである。女性というのはそういった細やかな所でこそ男を評価するのだと、母を通して知っていたし、生贄達の言からもそれは間違いではないと教えられたからだ。
 だからこそ、我が家の風呂は常に魔法で湯の循環洗浄と温度維持。市販品の石鹸だけでは飽き足らず、試供品や非売品まで取り寄せているのだ。あとは何故か美容液や化粧まで置いてある。此方に関しては俺は頼んだ覚えが無いのだが、何かと気が利くメイド達の細やかな気遣いといえよう。結して自分達が使いたいからとかそんな理由ではないと俺は硬く信じている。
 無論、これで終わりという訳ではない。次は、魔界で発明された『魔法洗濯機』なるものを導入しようとなどと画策している。
「着いたぞ。今から湯を流すから、じっとしていろ」
 風呂桶一杯に汲んだ湯をゆっくりと二度、三度と流すうちに娘は心地よさそうに目を閉じる。相変わらず立場が解っていないようだが、流石に風呂に居るというのに疲れ、動けぬものが汚物塗れのまま放置するというのは理性の竜としてはどうかと思っただけなのだ。
 よって、自身の汚れより彼女の汚れを先に落とそうとするのは、決して男竜の悲しい性ではない、と明言させていただく。
 …
 ……
 ………
「竜よ…幾度、我を汚せば気が済むというのだ…」
 のぼせたのだろうか、少しばかり上気した娘が、非難の眼差しで此方を睨みつけてくる。
「お前が非協力的だからな。自分で調べるしか無いだろう?」
 本来ならば、湯船に浸かって落ち着いた所を、先程の行為の感想と反省をしようとおもっていたのだが、口を閉ざしたままという態度に少しばかり困った俺は、早い話、復習をしたのである。決して、湯船で乳を揉んでムラムラした結果ではない。
 というか、娘が純潔を失いたくない、というからこそ示した妥協案だというのに、これ程文句を垂れられるのは心外であり、そんな視線を送られる理由は俺にはない。
「…もう良い、我は寝る」
 暫くは何か言いたそうではあったが、反論封じを兼ねて娘の額に乗せてある濡れタオルを裏返したり、手櫛で髪を梳いていると漸く娘は諦めたようだ。
 最も、癖が付くからあまり髪を弄ぶな、と釘を刺してから眼を瞑る娘。ふむ、手慰みに髪を梳くのは宜しくないらしい。
「寝る前に一ついいか?」
「なんだ」
「神族の能力を使えば捕まらなかった筈だが、何故使わなかった」
 巣に進入した時に捕まった罠は単純な落とし穴。それを空を翔る戦乙女の血を継いだこの娘が何故そうしなかったのかが未だに解らない。
 まあ、答えたくないならそれでも構わないのだが。
「――使えるならば、今頃は寝首を掻っ切っている」
 つまり使えないと、この娘は言うのか。
 確かに人間のように、両親が微量の魔力しか持って居ないというならば、子は環境によってはそのまま、魔力保有量が減少して、最終的には無くなるだろうが、事、我々のような上位種族にはそれは有り得ない。
 仮に娘の片親が魔力の才能が皆無であろうとも、神族という血を継いでいるならば、魔法が使えないという事はない。現にその象徴たる翼が有るというのに。
 1-1が0になるのは自明の理だが50-1が0になる道理はない。
「…あっ、こら、何をする…」 
 まあ、俺には関係の無い事だ。今関係があるのは、娘と間に隙間が有り、そこから冷気が入ってくる事。
 故に腕の中に娘を連れ込み、隙間風を防ぐ事を確認して俺は目を閉じる。
 精々、寝首を掻く努力をすることだ。今お前の目と鼻の先に無防備な竜が寝ているのだから。


現在の状況

・財力『1800万B』(借金総額2000万B)
・H技術『12H』
・魔力『325M』
・恐怖『26!』
・捕虜『7人』
・巣豪華度『18豪華』
・配下モンスター『8部隊』


おまけ劇場

『目先の利益』

メイド「ご主人様、SMプレイというのはどうでしょう?」
ローガス「なんだ、それは?」
メイド「はい、S役という鞭を持ったり言葉を使ったりして、M役をいたぶるプレイです。夜の生活で上位に立てますよ」
ローガス「変わった行為だな」
メイド「そういう性癖持ちには堪らなく良いらしいですよ?」
ローガス「だが、俺が仮にするとしても、俺は間違いなくM役にさせられる上に多分、俺の体が持ちそうに無い」
メイド「そこは先手必勝です」
ローガス「仮にS役になっても、鞭を振り上げた瞬間には俺はもう死んでいる」
メイド「あ、あー・・・確かに」
ローガス「万が一にプレイが成功してみろ。後が怖いだろ? 俺はそういう目先の利益には飛びつかない男だ」
生贄1「で、でも、女性の胸には飛びつくんですね…あぅ…」




[9180] 次世代ドラゴン 第15話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:0480b5cb
Date: 2010/06/16 00:52
 集落を攻撃するというのは中々に大変なのである。
 例えば、狙う対象が村ならば、金銭には期待できないが、半面、食料には期待できる。だからこそ、一番狙ってはいけないのは、畑や備蓄庫。これから貰い受けようと思っているものを自ら壊すのは馬鹿の極み。
 町の場合は、商館や工房等の富を生む施設を狙ってはいけない、無論、一般家屋にも財があるのだが、俺の無益な殺傷はしたくないという慈悲の心が功をなす。こうやって、今から攻撃するぞと飛び回り威嚇することによって、最低限の資産を持って逃げる事ができる、結果として人間達は破産せずに済み、俺はより多く儲かる。
 次に攻撃方法ではあるが、火系統のブレスを推奨したい。風や水では、建物が石造りという事もあり、人間達にとって後始末が面倒であるためだ。勿論俺自信、力加減があまり巧いほうでは無いので、余波で攻撃対象外まで壊してしまう可能性がある。しかし火ならば、人間達を恐れさす有効的な手段だ、竜は自然の驚異そのものだと。それに、どうせ加減が出来ないならより心理的に圧迫できるのがいいのである。
 つまるところ、合理的に物事を取捨選択した結果としての方法であり、決して、捕虜に『貴方、口臭がきつい』なんて言われたからではない。あくまでも、人間達を恐怖に陥れるためであり、口腔内の雑菌を焼き殺すためのものではない。勿論、朝晩の歯磨きを念入りに行う事は清潔さを保つ為であり、捕虜の言動に傷ついた訳ではないということを明言させて戴く。


次世代ドラゴン


 何時もの用に巣の入り口に置いていかれた金銀財宝、食料と怯えた生贄…いい加減、生贄の『竜は人間を食べる』という考えから離れたらどうだ、と思う。他の生贄達に説得させるように言ってあるが、やはり長年言われているだけあって中々考えを改めようとしない。
 認識を改めさせる事も視野に入れて古参の生贄を何人か解放すべきかと考えつつ、適当に珍しい貢物が無いかなと物色してみる。
「…ふむ、これは珍しい反物だな」
 白い光沢と滑らかな手触りが特徴的な服飾用生地。東方原産の、高級生地だった筈だが、さて、名称は何と言ったか…。
「うわ、ご主人様、これシルクですよっシルク!」
 そうそう、絹だ。実物はこれが始めてだが…成程、確かに権力者が愛用するというのも頷ける。試しに腕に巻いてみたところ、実に心地よい肌触りが…ん? 何故かメイドから凄い視線が。
「………」
 きらきら。
「………」 
 きらきらきらきら。
「………」
 きらきらきらきらきらきらきらー。
「………あー、わかったわかった」 
 結局、根負けしたような形ではあるが、絹の反物をメイドに渡すと、プルプルと震えた手で受け取りうっとりとした顔で眺めてそのまま数十秒、今度は手の甲で感触を試しては悦に入る。なんか、怖い。
 他の作業中のメイド達も気づいたのであろうか、皆、手を止めてシルクを見ている。そろそろこのメイドは反物に顔を押し付けて頬ずりしそうだ、誰か止めろ。
「メイド48号、貴方は何をやっているのですか! 他の者も仕事しなさい!」
「ひえっ、連隊長!?」
 怒り心頭といった風なセリアの形相に逃げるかのように持ち場に戻るメイド。俺はそれを見て苦笑しつつ、手元に返された絹の反物に視線を戻す。
「ご主人様、昼食の準備が整っております。」
「ん、わかった」
 しかし、反物とか貰ってもな…出来れば、財貨とか流動性が高い物のほうが嬉しいんだがなぁ…。加工するにしてもお金が掛かるし…保管には気を使わなければならないし…。
「ああ、セリア。これを服に加工できないか?」
「はい、早速ご主人様の丈に合うようにしますので食後にでもお時間を戴きたいのですが」
「いや、俺じゃなくて婚約者に渡そうと思ってな」
 メイド達の反応を見る限りではこれを服にしてプレゼントすれば喜んで貰えるだろう。それなりに量は有るので服二着分ぐらいならなんとかなる。というより、大人二人分無かったとしても、一人はまだ体躯が小さいので実質1.5人分だ。
「かしこまりました。では手配を致しておきます」
 寸法を測らねばならないので、早速手紙を出しておこう。喜んでもらえれば幸いだ。
「セリア、その前に」
「なんでしょうか?」
「――触っていくか?」
 反物をひらひら、光を受けて艶を放つシルク。ごくりと唾を飲む音は俺かセリアか。
「………ちょ、ちょっとだけ」
「あーっ! 連隊長ずるいぃぃぃ!! 私にも触らせてくださいよー!」
 女を魅了してやまない東方世界の特産物。希少な品であるが故の悲劇である。

 というわけで、手紙を送った数日後の事である。
「…あー、本当に来ましたね」
「貴方達、準備は大丈夫ですか?」
「はい、連隊長、ばっちりです」
 場所は竜の間、魔法で巣の外を映し出している状況である。
 本来ならば、巣の入り口でお出迎えと言いたい所なのではあるが、何分状況が状況なのだ。巣の外には、いざカマクラ(東方にある都市らしい)と言わんばかりの侵入者達、遥か後方には競い合うように猛スピードで近づいてくる二人の婚約者。尚、この準備というのは両方の意味での歓迎の準備の事である。
 それはともかくとして、手紙が届いて即行動というのは余程暇だったのだろう。気持ちはわかる。
「ご主人様、慕われてますねー」
「多分、暇だったからだと思うぞ」
「またそんな事を言って、ご主人様はこれだから…もう、フラグビンビンですよ?」
「…お前は一体何を言っているんだ」
 メイド一号は時々良くわからない事を言うから困る。フラグってなんだ。
 後、競い合うようにと先程言ったが、多分違うだろうな…エルザは只、早く到着するために全力で、ルヴィアは単純に負けたくないからだと思う。負けず嫌いだし。
「あ、敵が婚約者様達に気づいたようです」
「本当だ、必死に逃げようとしてるね」
「…婚約者様達が攻撃しようとしてますっ」
「衝撃防御体制、緊急発動ーっ!」
 や、やめてー、巣を壊さないでくれぇ。
 せめて、被害が少なければいいなと思いつつ、二人の攻撃を見守る。
 迫り来る業火と重力場、魔法画面だとわかっていてもつい、反射的に身構えて…。
 衝撃というよりは、一瞬だけの巨大地震とでもいうべきものが襲い掛かってくる。なんとか、壊滅的な被害は免れたようではあるが、入り口付近は酷い事になっているだろうなぁ…はぁ…また出費が。
「…うわぁ、これは酷いです」
「ちょっと、これは目を疑うと言いますか…」
「ご主人様よりつよーい」
 画面に目を向ければ巣の入り口に二人の婚約者。エルザ側は紙のように押し潰された侵入者だったモノで周囲一帯を真っ赤に染めて、ルヴィア側はルヴィア側で地表面が赤く溶け出した溶岩状態になっていた。それも丁度、二人の真ん中のラインで対極的に。
 後、誰だ、俺より強いって言った奴は…当然の事を何を今更言うのか、説教したい気分だ。
「…あー、とりあえず迎えに言ってくる。先程の衝撃は心配ないと生贄に伝えといてくれ、後二人の目につかないように」
 やれやれ、頭が痛い事だ…竜が一人居るだけでこれだけ騒がれるというのに、それが二人も、俺を合わせれば三人も居るとなると、侵入者がこれから来るだろうか…。いや、来てもきっとかなり手強い相手になりそうだが。
 これはもう、開き直って破産の覚悟をするべきか、いや、死にたくは無い。ここは頭を下げてでもルヴィアかエルザ辺りに巣に住まわすべきか、いや、やっぱり死にたくないからやめよう。
 手紙なんか出すんじゃなかった、と思いつつ入り口付近に近づくが、多少、衝撃によりガタが来ているものの十分に補修は可能であることがわかって少し気分が軽くなる。外側は…まあ適当に石なり砂利なりでなんなりと誤魔化せばいい。
 さて、入り口はすぐそこだ。
「久しぶりだ、二人とも」
 手を広げ、歓迎の意を示すと同時に小さい婚約者が走りよってくる。
「…汝っ! 会いたかったのじゃ!」
 ここで物語のようにふわりと抱きしめれば絵になるのだが、何分、エルザは小さくても女なので、その突進力は笑えないし受け止めきれない。
 つまり結論として、その角度上、ルヴィア側の熱で赤くなっている岩盤に叩き付けられる形になるのは必然であり、その状況で尚、腰辺りに回されたエルザの手を火傷させぬように、岩盤に接しないようにするのは竜の村での教育の賜物であると言わざるを得ない。
「会いとうて、会いとうて…でも迷惑かと思っていけんかったのじゃ…汝よ、寂しかったのじゃ…」
「俺からは会いにいけないが…迷惑ではないから何時でも来るといい、歓迎するぞ」
 自らの背中が焼ける痛みをこらえつつ、目に涙を溜めている小さい婚約者にそう優しく言って、頭を撫でる。
「…むぅ、また汝ばかり大きくなりおって…妾は全然大きくならんぞ」
「何、エルザより俺のほうが年が上だからな、当然の事だ。すぐにエルザも大きくなるさ」
 何というか、これで背景が血染めの岩盤とか赤く溶け出している岩盤とか、後、ルヴィアとか居なかったらもうこれ凄い雰囲気になってそうだ。物語でもここで濃厚なキスシーンは定番である…諸事情によりできないが。
「ふふ…やはり汝が妾の婚約者でよかったのじゃ…」
「ん?」
「何時でも、どこでも、汝の気が済むまで……構わんからの?」
「…?」
 すっと、手を離して唱えるは拙いながらも治癒魔法…気づかれていたのか。回復量は微々たるモノだが、その心が何より嬉しいものである。
 エルザが最後に目配せした先には少々憮然とした表情の紅い婚約者。
「…良く来てくれた、会いたかったぞ」
 殴られるのを覚悟で、軽く抱擁してそう呟く。
 婚約者が二人なんていう前代未聞の状況だからこそ、片方だけに愛情を注がないと決めた。村での酷い苛めで一番辛かったのが、無視されるという事だったから。
 だからこそ、俺は二人を平等に愛すると、出発の時に決めたのだ。だから今ここで殴られようとも、殺されようとも、俺はこの手を離さない…それが情けない俺が今出来る精一杯の愛し方。
「え…あ…ちょっ離れなさい!?」
 拒否するかのように、ぎゅっと強く抱きしめる。柔らかい体と鼻をくすぐる淡い香り、そして少し騒がしい心臓の脈動。
 やがて、逃れようと暴れだすが、ルヴィアを傷つけぬ用に全身に力を張って抑えつける。
「嫌か?」
「あ…うぅ…し、知らないわよそんなことっ!?」
 まだ混乱しているのだろうか、本気を出せば直ぐにでも振りほどけるだろうが、まだ俺でも抑え込めるので、存分にこの抱き心地を堪能することにしよう。
「…本当はな」
 ばたばたと暴れるルヴィアに優しく諭すようにゆっくりと語りかける。
「今直ぐにでも、お前達を迎えに行きたいんだが…」
 それが功を成したか次第に力が抜け、俺の話を聞く体勢に入ったようだ。
「まだまだ俺は未熟で、巣作りも完全じゃなく、途中で挫けそうにもなったりするから…」
 そうして、今では完全に力を抜いて俺に身を預けているような状態になっている。
「だから、顔を見せるだけでもいいから、来てくれないか?」
「…なんで?」
「――それだけで俺は頑張れるから」
 触れるかのように首筋にキスを一つ。
「……うん」
 む? 心なしか背中にルヴィアらしい手が。いや、もしかしたら慣れない事をしたものだから、脳内で恋人同士が抱き合ったような錯覚に陥っているだけかもしれない。
「……私、会いに行くね」
「ああ、会いに来てくれ」
 長い抱擁も漸く終わり、ゆっくりと体を離した後、すべきは優しく最後までエスコート。
「さて、ここで話をするのもなんだ…案内しよう、俺の巣を」

……
………
 応接間の机に広げられた絹に二人の婚約者から驚嘆の声が漏れる。
 驚きも無理は無い。竜の村やこの巣の地方では絹なんて文献上の存在でしかなく、その文献も単語としての絹という言葉はあれど、どのようなモノなのかは調べるのは困難であったのだ。俺がそうだったのだから。
 故に二人は絹というのを知ったのはこれが最初かもしれないし知っていたとしても実物はこれが始めてだろう。
「良い手触りなのじゃ…これを使った服を貰えるのかや?」
「ああ、その為に呼んだんだ…デザイン等は後で詳しく、な」
 その言葉に何度も何度もお礼を言ってくるエルザに背中が痒くなる。何分、お礼を言われるなんていう経験は殆ど無い…言う事は沢山有ったが。
「素敵な素材ね…」
「喜んでくれて幸いだ」
 メイド達が居る竜の間までは普段より素直だったルヴィアが竜の間に入ると何時も通りの不機嫌になって怖かったのだが、絹の前にまた先程のような素直さが出て俺も幸いだ。絹万歳。
「セリア、仕立てにはどれくらいかかりそうだ?」
「2着となると…デザインにもよりますが、凡そ3日程ですね」
「ふむ」
 デザインを決めるにしてもそれなりに時間が掛かるだろうし…一週間程度は見積もっておくべきか?
 その間、二人はどうするのか、一度聞いておこう。
「二人共ちょっと良いか?」
 手触りが良いだの、着色は可能なのかだの語り合っている二人に問いかける。
「実際にデザインが決まって服が出来るまで3日程掛かるらしいが、その間はどうする?」
 滞在しとくにしろ、一度帰るにしろ準備が必要なのである。色々と。
「滞在していくわ」
「出来上がるまで待つのじゃ」
 即答だった。そしてすぐに今度は絹の使用面積について熱く議論し始めたので調整役のメイドは二人のプレッシャーを一身に受け持つ身に。
「セリア、一悶着が起きそうな気がするから絶対に捕虜と生贄には会わさないように」
「はい、既にメイド達に命令は出しております。それより巣の防衛体制の事で相談が…」
「わかっている、その点に関してはメイド1号に先程新たなプランを用意するように言ってある、後、二人の寝室ではあるが…」
 こそこそと内容が内容だけに小声で会話。最も二人は白熱してきた使用面積についての議論に夢中なのでこちらに気が向くとは思えないが。メイド27号頑張ってくれ…っ! こっちに助けを求めるんじゃない…っ!
「ご主人様ー、こちらが新しいプランとなっております。多少割高になってしまいますが…これでも跳ね上がった『恐怖値』に対応できるとは思えません」
 恐怖値? なにそれ?
「ああ、ご苦労…セリア、多少安くなっても構わん、捕虜の身代金取得を優先してくれ」
「かしこまりました」
 さて、プランの吟味に掛かるとしようか…どれどれ?

 『推奨案#1
  ・暗黒騎士450万B *5   =2250万B
  ・ハラミボディ850万B *5  =4250万B
  ・漆黒騎士3100万B *3   =9300万B
  ・各種増改築(罠付き)    =12000万B
  ・服飾仕立て代(職人技)   =200万B
  総計               28000万B  
  オプション
  ・竜の巣強化対策Ⅰ      =5000万B
  (説明)竜族の迎撃参加可能。被害額(中)
  ・竜の巣強化対策Ⅱ      =7000万B
  (説明)竜族の迎撃参加可能。被害額(小)
  ・竜の巣強化対策Ⅲ      =10000万B
  (説明)竜族の迎撃参加可能。被害無し。
  ・竜の間・紅           =7500万B 
  (説明)婚約者が喜ぶ。迎撃時『ルヴィア』使用可能。
  ・竜の間・黒           =7500万B
  (説明)婚約者が喜ぶ。迎撃時『エルザ』使用可能。
  ・竜の間・愛           =15000万B
  (説明)婚約者が喜ぶ。迎撃時『ルヴィア』『エルザ』使用可能。『ローガス』能力値UP』

 何、これorz 
「……セリア、ちょっとメイド1号を叱っといてくれ」
「え、えー!? いや、流石に推奨案#1~5はアレですけどっ現実案は普通ですから! 痛い痛いっ連隊長痛いですー!」
 ちらりと右を見ればそろそろ実力行使に出そうなルヴィアとエルザ。そして震えながら土下座しているメイド27号。
 ちらりと左を見れば耳を引っ張りながら頭をグリグリしているセリアとされているメイド1号。
 もう何か色々と諦めたくなった今日この頃であった。


現在の状況

・財力『350万B』(借金総額2000万B)
・H技術『13H』
・魔力『475M』
・恐怖『412!』
・捕虜『6人』
・巣豪華度『20豪華』
・配下モンスター『12部隊』

おまけ劇場

『少女マンガのあのシーン』

最初の生贄「ご主人様、お許しくださいぃ。そこはらめぇっらめなのぉっ」
新人生贄「あのー…センパイ。何やってるんですか?」
最初の生贄「イメージプレイ」
新人生贄「あの、せめて誰も居ないところでやってくれませんか?」
最初の生贄「まだまだ青いわね。そんなのじゃローガス様を満足させられないわよ?」
新人生贄「あの、そういう問題じゃ…」
最初の生贄「もう、邪魔しないで。今、貴女の見ている前で犯されている所なんだから」
新人生贄「え?」
最初の生贄「あぁん、後輩の見ている前で繋がったままなんて、頭がフットーしちゃうよぉっ」



[9180] 次世代ドラゴン 第16話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:e14cd408
Date: 2010/10/07 23:20
「御主人様…」
 居並ぶメイド1号以下、上位ナンバーのメイド達の視線が突き刺さる。
 子供のようにはしゃぐ婚約者達の部屋と比べてここは、何と重い空気なのだろう。
 無論、メイド達が言っている事は嫌と言う程わかっているつもりだ。現在の資金状態が続くならば、商会からの信用を失います、とセリアからも明言されている程なのだから。
 …ここで優遇措置が受けれなくなるならば、即ち破産。破産だけは免れねばならないだろう。
 だが竜にとって、俺にとっては、破産そのものは、怖くは無い。襲い掛かってくる人間共も怖くは無い。
 破産だとかそんなもの正直な話、どうでもいいのである。怖いのは、破産した後の婚約者なのだ。 
 竜の死因が第一位――女竜に殺された…ぶっちぎりのナンバー1。二位以下を驚く程引き離して、ナンバー1。人気ランキングに母が絶対TOPになるぐらい、ナンバー1。
 人間が褒め称える『竜殺し』の英雄なんぞ、8割以上が破産した後に殺された男竜の屍骸を貪っただけのなんちゃって英雄という時点で察してもらいたい。
 だからそんな軽々しくお金無いので町襲ってきてください、なんて言わないで貰いたい。
 普通の状況ならともかくとして、今は、あろうことか、よりによって、婚約者達が滞在中――しかも自分が呼んだ――なのである。俺だって普通の状態なら、言われるまでも無く、行って襲って帰ってくる。
 呼ぶだけ呼んで、自分自身は何処かにお出掛け、なんぞ俺が酷い目に会うのは嫌でもわかる。
「御主人様…ご決断を」
 選択肢は二つに一つ。行って、死ぬか、破産して、死ぬか。右か、左か。男か、女か。ルヴィアかエルザか。
 選ぶなら――
「――エルザだ」
 そう結論付け、ルヴィアの部屋のドアノブから手を離し、回れ右。まずはエルザから許可を取ろうじゃないか…。
「御主人様。気が利く事には定評のある私メイド1号は――既にエルザ様の許可は貰っております」
「……」
 全然利いてない。本当に利くのならルヴィアのほうの許可を取って来てもらいたい。
「ささ、御主人様、ルヴィア様がお待ちでございます。我々忠実なメイド部隊は、御主人様の武運を自室にて心からお祈り申し上げます」
 撤退せよー、と足音も立てず、しかし、迅速な動きで逃げていくメイド部隊。
 ――逝くしか、無いのか。
「…あのー、ルヴィア…さん。ちょっと、お話が、有るんですが…」
 いけるのか、俺。大丈夫なのか、俺。生きていられるのか、俺っ。


次世代ドラゴン


「では行ってくるから、二人を頼んだぞ」
 目標は貢物に期待できる河口にある大きな港町。強い敵も来るだろうが、事前の偵察情報で熟練した冒険者連中が集まっていると聞いているので最早多少は変わるまい。我が家の家計は火の車、止まったら其の時点で負けなのである。 
「ご主人様…そのー、言っちゃあなんですけど、戦艦で例えるなら、撃沈判定食らってますよ?」
「竜族にとってこの程度は撃沈ではない、大破だ。そして俺にとってこれは中破だ」
 他の男共が如何かは知る由も無いが…ルヴィアと何十年も過ごしてきたのは伊達ではないのだ。
 それに、不器用な俺が唯一完璧の域まで使える治療魔法と相まってメリメリと傷が塞がっていくのを見て、戦闘にも支障は無いだろうと確認する。
「竜が飛ぶだけで、夜の生活練習をします。ご主人様、頑張れ!」
 とは、メイド1号の談である。毎回毎回、町を襲うときにコレを言われるのだが、一体何が言いたいのだろうか。
 そうして、俺は空を飛ぶ、人間共に恐怖を与えるために――弁当を手に持って。(エルザ謹製)
 なんだかなぁ、と思わないでもないので、少々、心持ち高空を飛ぶのは仕方が無い。
 …
 ……
 ………
 さて、街を襲うと一言で言っても色々と考えねばならない事が有る。例えば、何度も何度も同じ集落を攻撃してはいけない、という事だ。
 一度攻撃した集落に再度攻撃を加えても、最早出せるだけの金品など無いし、余計な恨みを買うばかりか、集落消滅という事になると貢物の出所が無くなる為だ。
 生かさず、されど、殺さずを心がける事と、もう一つ…集落同士を競い合わせるように仕向ける事だ。
 例えばAという集落が100の貢物を持ってきたとして、Bという集落が70の貢物、そしてCが50の貢物だったとしよう。これは我々の中ではAの集落は『優』判定であり、Bは『可』、Cは『不可』判定となる。
 『優』判定のAの集落にはその後、ある程度の貢物を維持しているとなると、我々からも色々と特典を出すのだ。再度攻撃しないのは勿論、治水工事の手助けだったり、病人の治療や火急用件での運搬、伝言等…優秀な村には飴を与える。無論、多少の貢物が減っても多めに見る。
 『可』判定のBの集落には、基本的には手を出さないが、それだけであり、別に我々からの特典は無く、貢物を維持してくれればそれで何も言わない。減らせば『不可』判定になるが。
 そして、『不可』判定のCの集落は、再度の攻撃を仕掛ける。それは示威行動であったりもするし、見せしめとしての殲滅だったりもする。それで態度を改めれば『可』判定にはなるが、『優』判定には相応の誠意が必要になるという具合だ。
 こうする事によって、村が競って貢物を出すし、我々としても無為な労力は必要としないという共生関係とも主従関係とも言える関係を構築していくのだ。普段貢物が来るのはこういう努力があってこそ、である。
 無論、村の貧富等も考慮しなければならないので、人間に化けたメイド達が散歩や買い物がてら村に立ち寄ったりもする。最近は生贄も夏の間、帰省したりとバリエーションも増えてきている。
 ――だが、それはあくまでも巣の近辺にある『小さい村』の場合である。
 巣から相応に遠く、また規模の大きい街には、継続した少量の貢物よりも、年に一度か二度程、大規模徴収するという具合が良いだろう。その理由としては幾つかある。
 ①街に赴くまで時間が掛かるし、何度も同じ街を壊せる程の魔力に余裕が無いという事。
 ②経済という魔物は、血液たる金が無ければ衰弱するが、反面、金があれば更に金を増やしてくれる為。
 ③貢物を小分けに巣まで運ぶ労力と費用が割に合わないだろうという試算。(無駄金を使わず貯蓄しといてもらいたい)
 という具合に、俺からしても人間からしても、そっちのほうが嬉しいだろうという俺の優しさ故に。決して俺が力の制御が出来ない癖に、燃費が悪く、又、魔力補充量が少ないからではない。あくまでも、合理的思考によりこの結論が出たのだ。もう一度言う。決して①が深刻という事ではないのだ。
 まあ、それは置いとくとして、眼下に広がる大きな町並みと何隻もの交易船…どうやら到着したらしい。
「りゅ、竜だ…っ」
「竜が来たぞー! 逃げろー!」
 上空から見ればノロノロと動いている用にしか見えない人間の群れ…まずは何時もどおり逃げる時間を与えておく。
 さて、その間にもう一度おさらいしておこうか。
 セリアからの情報ではこの『港街』はこの国の基幹都市にあたるらしく、議会や外交施設等の重要施設が目白押しでまた、交易を中心とした富を生み出す場所でもあるらしい。
 そして幸運にもこの国はギルド連合が支配する商人の町であり、戦争は小規模な軍隊は有るモノの常に傭兵主体で、有り余る資金と情報網で国を防衛しているらしい…いやはや、利益の無い癖に手強い軍人が居ないというのは、現在の巣の防衛状況から見れば有り難い事だ。傭兵なら、竜相手となると尻込みするのが普通だし。
 勿論、普通の人間なら困るであろう荷留めに代表される経済制裁は俺にはまるで痛くないし、情報もより巨大で近代化されているギュンギュスカー商会がバックに付いているので怖くも何とも無い。
 いやー、本当に立地だけは最高だ、と浮かれた辺りで、人間の避難も終わったようで、気配も悲鳴も感じない。
 後は攻撃する場所をどこにするか検討する。無論ここで、船を代表とする富を生み出す物や施設を狙ってはいけない。となると、後は…なるべく富を生まない癖に心の拠り所にしてそうな施設を…、
「お、ここにするか…」
 一人そう呟いた俺が見つけたのは大きな広場の中心に聳え立つ時計台。その広場を中心に放射線状に広がる町並みを見るに街の中心部だろうか。よし、周りには重要施設も無いし…いっちょやりますか。
 息を大きく吸い込み、体内で魔力を混合させる。使う力は自らの相性が最も良い古代竜。
 準備は出来た…後は、この町並みを――瓦礫にするだけだ…っ!
 吐き出されるは、竜の吐息、ヒトが恐れる破壊の象徴。
 竜が竜たるその由縁は余すことなく、時計台へと直撃し――
「ふむ、上出来だな」
 土埃が晴れた後には目を覆うような惨状が延々と続いていた。
 やりましたっ御主人様! と何故かメイド1号の声が聞こえたのは唯の幻聴だろう。

 巣に帰ってセリアに街攻撃成功の旨を伝えようとした所、既に情報が入っていたのか珍しくもニコニコと笑って出迎えてくれた。
 なんでも、街の壊した規模が丁度良く、人間は恨みを抱かないが恐怖を最大限抱いたとの事らしい。
「報告によれば、襲撃した街では現在貢物の仕分けが最終段階に入っているようです」
「そうか、何時も通り到着次第報告してくれ…所で、何だこれは?」
 机の上に置かれた一本の瓶、付いたラベルの文字は東方の文字が一つ『達筆』と呼ばれる独特の文字体系。えーっと、何々…?
「『竜殺し・改』と呼ばれる東方のお酒です。里帰りしていたメイドが魔界で見つけ、買ってきたらしいです」
 二本買ったので一本は贈り物とも言ってました、とセリア。
「……変わった、名前だな」
 というか、嫌な名前である。
 なんだろうか、そのメイドは俺に何か恨みでも持っているのかと、考えないでもない。
「実際に殺すわけではなく、竜でも殺せる程酔う、という意味らしいですよ? 我々、魔族も酒には強いですが、これには参ったと言ってましたから」
 ふーん。いや、まあ毒だろうがなんだろうが、その程度では竜は死なないから如何でもいい。
 事実、何度か俺も村に居るときに毒物を試しに食べて見たが、何とも無かった。というより、書物で知らされていなければ、毒とすら気付かなかったが。また、後で知ったという事もあった…つまり、実際の竜殺しと女以外、竜は殺せないという事だ。
「あ、御主人様、婚約者様が御呼びですよー?」
「ん? ああ、わかった」
 がたりと席を立って、手早く身だしなみを整える。最早慣れきったこの仕草は一瞬の内に終わる程だ。
「御主人様の部屋でお待ちですよ…あ、ああーっ、竜殺し・改じゃないですか! 御主人様もやっぱり酔いました?」
「いや、まだだが…」
「なら折角ですし、これを婚約者様達と飲んできてくれませんか?
魔界では長年、これを飲むと本当に竜が酔いつぶれるのか、というのが議論されてまして…」
 あー、つまり、それを知りたい、と。
 毒じゃないですし、本当に普通のお酒ですから大吟醸ですからーっと必死なメイド17号に押された形で承諾した俺は一路、自室へ。
 どうやら、頼んでいた絹の服が届いたらしいのだが…婚約者が俺の部屋で待っているという場合、これは、ノックをすべきなのだろうか。
 普通ならそのまま入るんだが、自分の部屋なのにノックするというのも何か違うだろう、いや、でも…ノックせずに入ったら怒られそう。そんな葛藤の末、ノックをする方を選んだのは悲しい性とでも言うべきか。
「入るぞ?」
 かちゃりと開けた扉の先、二人の婚約者がソファーに座り、俺を待っていた。
 共に、普段とは違う姿。服装だけではない、髪型も何時もと違うだけで雰囲気が変わるのは気のせいなのだろうか。
 エルザはむき出しのノースリーブが、ルヴィアは深いスリットの入ったドレスが、艶かしい色気を出している。
「…何をしておるのかや? こっちへ来りゃれ?」
「あ、ああ…すまんな」
 どうやら俺は見とれていたとも、固まっていたとも…扉を閉めて、俺の座る場所は、と眺め見る。
 暖炉の傍に置かれた、座り心地が密かな自慢の3つの長椅子の両隣は占有され、最も特等席たる正面が暖炉の長椅子がぽつりと一つ開いている。無論、ルヴィアが体を楽にしている椅子にも十分に座れるし、長椅子のど真ん中に座るエルザも同様だった。
 普段なら、この冬も真っ只中の、この季節。暖炉前の椅子は二人共勝手気ままに座っているというのに、何故か、今回に限って妥協の産物と感じるのは何故なのだろうか。
 無論、ここでルヴィア側の椅子に座る、エルザ側に座るといった選択肢は無い。唯でさえ、普段二人が座っている時に、ルヴィアに近い方に座ればエルザは良い顔をしないし、エルザに近い方の椅子に座れば今度はルヴィアが不機嫌になるという、実に気まずい選択をしている――別の場所に座る等という選択肢は許されず、用も無いのに部屋を出て行くというのは、尚更に――というのだから。
 となれば、後はもう、二人が来る前までは俺の場所だった、ここ、中央席の更に中央に座るしかない。
「すまんかったな、放ったらかしにしてしまって…その、なんだ――似合っているぞ」
 そして、褒める。無論、機嫌取りだとかそういうのではなく、本心からそう口に出た。
 ルヴィアは一枚の絵画のよう…暖炉の火に当てられた表情が憂いている用にも見える、深窓の令嬢。対して、エルザは白と黒のコントラストが魅力的な闇夜の貴人だろう。
 これだけでも、苦労が報われるというものだ。呼んで良かったと心から実感。
「汝が為の服なのじゃ…喜んでくれて妾は嬉しい」
 ありがとう、とエルザに言っておく。本当はエルザの為なのだが…。まあ、兎にも角にも喜んでくれているようだ。ルヴィアからの返事は無いが、多少顔が赤くなっているのを見るに、ルヴィアもそうなのだろう。
「……それは何なの?」
 ルヴィアの言うそれ、とはやっぱりこの酒の事なのだろう。
「ああ、何でも東方の酒らしい。メイドから貰った奴でな…飲んでみるか?」
 名前は言わないでおく。俺の為にも、相手の為にも。
「妾は酒精を口にした事がないのじゃ。美味しいのかや?」
 まあ、それはそうだろう。竜の村では酒の需要がまるで無かった…酔えないから。酒というか何と言うかそういう、状態異常を起こす類のモノはてんと効かないのが竜種なのだ。
 俺は試しとばかりに一度飲んで見たが、美味しいとは、思わなかったな。苦いというか、何と言うか、普通に茶を飲んでるほうが断然良かったのだが。
「まあ…ワインとはまた違うとは聞いているが、俺も飲んだ事が無いから何とも言えない。それに、折角の貰い物だしな。二人はどうする?」
「妾にもグラスをくりゃれ?」
「結構よ」
 恐らくはルヴィアも俺と同じで試しに飲んでみたのだろう、そう断りを入れてきた。まあ、それが普通だなと思いつつ、磨かれたグラスを二つ選ぶ。圧倒的にカップが多い食器棚とは言え、グラスなら幾つか入っている。
 キュポンといい音を立てて抜けた栓を置いてグラスに注ぐと、無色透明の液体…成程、東方の酒には色が付いていないのか、と無駄な感心。
「…東方の酒とは、水なのかや?」
 俺もそう思った。
「いや、水では無いと思うんだが…」
 試しに鼻に近づけると、アルコール独特のツンとした香りが鼻に付く。矢張り、これも歴とした酒なのだろう。エルザもアルコールの匂いに顔をしかめていた。
「無理そうなら飲まなくてもいいぞ?」
 と、言ってから一口飲んで見る。
 ワインとは違った…鋭さと言うべきか、清流というべきか、キレがあるとでも言うのだろうか、僅かな甘みと口に広がる何とも言えない辛味、そして、焼け付くような感覚が有る臓腑。
 こんな感覚は、ワインにはまるで無かった。これが、酒なのか。
「…っ! 汝、この辺が…熱いのじゃっ」
 と、胸の辺りをさするエルザ。ああ、全くだ。俺も驚く程だから、エルザも驚いて当然だろう。
「ワインを飲んだ時にはこんな事は無かったのだが…大丈夫か、エルザ」
「むぅ…何と言うか、不味くは無いのじゃが美味しくもない…しかし、この熱さは心地良いのじゃ。恋敵よ、お主も飲んだらどうかや?」
 ローガスが隣に居るような感覚なのじゃ、と。俺が隣に居る感覚とは何なのだろうか。
 それはさておき、エルザの言葉が効いたのかルヴィアも飲むとの事でグラスに注いでやると、これまた、エルザと同じような反応が返ってきた。
 恐るべし、竜殺し・改。竜種がここまで反応するような酒を造るとは…竜でこれなのだからメイドが参ったというのも頷ける話だ。
 二人共、この酒が気に入ったのか、注いでは飲んで、注いでは飲んで…俺の分は恐らくもう来ないだろう。そう思うと悲しくなり、酒を一気に煽る事で紛らわす。
「所で、二人共寒くないのか?」
 暖炉の熱は十分に部屋に行き渡っているとは言え、露出の多い服装である。普段着と比べれば薄布一枚だけと言っても過言ではない。
「…その、隣に座っても…いいかしら?」
 少し寒いの、とルヴィアが言う。普段なら俺の許可を取らないというのに、珍しい事もあるものだ。
「ああ、構わないが………あー、これを羽織っておくといい」
「…うん」
 とりあえず、上着を羽織らせておいたが、目が眠そうというか、何というか、変だ。何か様子がおかしい。隣というかすぐ傍というか、そういう距離に座る辺りとかも普段のルヴィアじゃない。
「妾も寒いのじゃ…隣に座らせてくりゃれ?」
「あ、ああ、構わないが…何か羽織る物を取ってこよう」
 生憎と俺はもう羽織らせるようなものは着ていないし、俺のシャツをどうぞという訳にも行かず、席を立とうとすると、服をエルザに引っ張られた。
「こうすれば…寒くないのじゃ」
 と、俺の腕を避けて密着してくるエルザ。どうにもこうにも、手の置き場の困った俺に気付いたのか、俺の手を誘導して、自らの肩を置き場とする始末。
 無論、手の置き場に困っているのはエルザ側だけではない。ルヴィア側もそうだ…余りにも近いが為に手を下に置いていると、少しばかり困った事になる。さりとて、足の上に手を置くと今度は重心が傾いてエルザに体重を掛けるという事態に陥る。
 さて困ったな、と思案し、最終的にルヴィアの羽織っている上着を直すついでに腕を後ろに置く事になったのは必然とも言うべきか。
「汝…飲まないのかや?」
「ん、そうだな」
 確かに見れば俺の分のグラスにだけ酒が残っている。
 だがしかし、ここでまた問題が起きた。酒を取ろうにも、両手の位置が悪いのだ。右手で取ろうとするも、エルザは俺の脇にくっつき、俺の手を離そうとしない。左手で取ろうとするとルヴィアの頭部に手が当たってしまう。
「…はい」
 有ろう事か、困った俺にグラスを渡してきたのは、あのルヴィアだった。
「…え、あ、ああ、すまんな」
 想定の範囲外、理解外の範疇。挙動不審になるのも仕方ないと思ってもらいたい。
 だが、受け取った所で結局、根本的問題が解決しておらず、飲もうと思えば、必然、腕でルヴィアを俺の方に引き寄せる形になってしまう。
「………頂こう」
 結局、俺は素直にルヴィアを引き寄せた。小さい悲鳴とも吐息とも取れる声を発するルヴィアからの鉄拳制裁は無いばかりか、かつての泉のように俺に体を預けてくる始末。
 流石に事ここに至り、酔ったのではないかと考え出す。酔ったときの基本症状は、滑舌の悪化・血圧上昇・判断力の低下…だったか。だが二人共、言葉は少ないモノの違和感は感じず、顔も別段赤くは無い。判断力は…少々わかりかねる。
 二人の様子が――特にルヴィア――変だというのに、両手から伝わる二人の体温が邪魔をして考えが進まない。白磁のような肌触りが自慢の絹に負けず劣らない二人の肌の滑らかさに俺は酷く興奮、いや、発情とも言えるような感情が胸を満たす。
「…妾は汝が傍に居ると怖いのじゃ」
「何故だ?」
「心の鼓動が早くなって、破けそうなのじゃ…」
 と、抱いていた腕の手のひらを、自らの胸へと押し当てる。
 ドクンドクンと早鐘のようになるその音は確かに俺に伝わった。
「…妾もな、寂しかったのじゃ。折角、汝に会えたというのに、汝は忙しそうであったから…でも、それが妾達の為というのも、それが妾達の所為であるとも解っておるのじゃ」
「いや、俺が不甲斐無い所為だから気にするな」
「…何時も、何時も、妾の為に恋敵の為に…自分の事なぞそっちのけで…貰ってばかりで…今もまたこのような服を贈ってもらえて…ほら、心地良い肌触りじゃろ…」
 心臓の有る場所から右へ、まだ幼い小さな膨らみの柔らかさが、痛いほどに伝わってくる。
「…そう思うと…嬉しいのに苦しゅうて…っ…胸が痛いほど締め付けられて…っ怖いのじゃ…如何すれば汝に…んっ…返せるのかや…」
 力強く、柔らかく、しつこく、ゆっくりと自らの胸元を弄るようにするエルザに、それは拙いと、止めなさいとは口から出なかった。喉がカラカラで、焼ける程、弄っている手が熱くて、エルザが、愛しくて。
「…っ…ぁっ…」
 熱くなる体躯、早くなる吐息、漏れ出す小さな声。
「…エルザ」
「熱いよう…苦しいよう…助けて…助けてくりゃれ…」
 性が禁忌な竜の身で、押し付けられた性欲という名の炎の消し方をエルザは知っているのだろうか。
 拙いながらも次第に激しくなる俺の手を始めて自分で動かして、一際感じるその頂を、一つ強めに引っ掻いた。
「あぅっ!? ひっ…あっ…やっ! あぁっ!」
 面白いように反応するエルザが可愛くて、何度も何度も弄ぶ。
 いよいよ、本格的に雌の顔をしたエルザに我慢できなくなった俺はより強く、より過激になっていく。止まらない、隣にはルヴィアが居るというのに。
 しかしルヴィアは何も言わない。エルザの痴態なぞ、眼中にも無いとばかりに唯、俺の顔を見ているだけだった。
「飲ませてくれ」
 だから、普段なら絶対に言わない様な事も口に出るのだろう。
 それは酒の所為なのか、服の所為なのか、エルザの所為なのかはわからない。
 もしこれが普段通りなら、今の時点で俺は壁に叩きつけられただろう…だが、今のこの状況は違う。男として、雄として、この雌を支配できると確信している。
「違う」
 ルヴィアに手渡したグラス。それをゆっくりと俺の口に近づけたのを見て、俺はそう制止させた。
 ぴくりと止まったルヴィアは如何すればいい、という目を向けてきたが俺は口には出さない。そのかわり、俺はルヴィアの唇に啄む程度のキスをする。
 驚いた顔をしているが、俺の意図は伝わったのだろう。グラスを傾けて口に含み、ゆっくりと俺に口を寄せ、
「――ん…」
 コクリ、と流し込まれた液体を飲んでいく。それは一人で飲むよりも、ずっと甘い味。ゆっくりと離れるルヴィアの顔は今までに無いほど赤く火照り、今までに無い程、魅力的だった。
「まだ…残っているだろう?」
 二口、三口…、その度にこくりこくり、飲み干して、最後の一口を飲み終わる。
 名残惜しそうに離れようとするルヴィアの頭を抑え付け、残った酒を飲む為に、ゆっくりと、しかし確実にその口内へと舌を伸ばす。
「…ん…んっ…」
 それを跳ね除けないが、それでもふとした拍子に追い出そうとするモノを同じもので絡みつかせる。
 生暖かい、甘酒の味が薄れ行くのを許さぬように、より激しく、より濃密に、ルヴィアから全てを奪うように飲み干していく。
「…ん」
 ぬらりと糸を引く唾液。荒く、しかし、方法を忘れたような不規則な呼吸をするルヴィアを安心させるように、ぐいと身を引き寄せる。
「黙って俺に身を任せておけ」
「…うん」
 そうして、また口を寄せる。今度は抵抗らしい抵抗もせず、俺を受け入れる。
 水音が場を満たし、俺自身も余裕が出てきた頃合だろうか。嬌声止まらないエルザのドレスの脇へと手を伸ばす。
 服越しよりも余程感じる熱と少し汗ばんだ肌。そして大きくなる声。
 ルヴィアはどうなのだろうか、と頭から手を離し、首から肩、そして脇に手を通して、その豊かに実ったその場所へと。
「――ふぁっ!」
 びくり、と震えた所為か口が離れ、艶声とも驚きとも取れる声が出る。
 あのルヴィアが俺の為すがままという事もあり、俺は興奮した手つきで荒々しくその胸を揉みしだく。
 ルヴィアも炎の存在すら知らないのか、嫌々と身を捩って快感に耐えているがそれを俺は許さない。
「っ!?」
 不意に、余った口が寂しいと気付き、エルザの口へと覆いかぶさる。
 焦らず、ゆっくりと、驚きに固まったエルザの口内に進んでいく。ルヴィアとはまた違った甘さ…小さい舌はやがて俺の舌を受け入れた。
「…ふ…んぅ…」
 背丈の関係上、俺はエルザの唾液を飲み干せない、だから俺の唾液を送り込むと、こくりこくりと小さな喉を鳴らして飲んでいく。
 まるで獣が如きマーキング。外も内も全て俺の色で満たしたような快感が堪らない。
「ぁ…ローガス…んっ」
 だから、ルヴィアにも同じように溜まった唾液を次から次へと送り込む。この雌は俺の物だと、誰にも渡さないと。
 やがて、手は丘を離れて、その下の窪みを通ってより奥へ。二人の下着がわかるほど、強めに尻を撫でていく。
 二人の下着は共に絹、装飾はシンプルながらもそれが俄然に俺を高ぶらせる。
「あぁ…ローガス…ローガス…」
 スカートを、スリットを、それぞれの位置へと手を伸ばす。ぴくんと体を震わせて、無意識ながらに拒もうとするのを意に介さず、より奥へ。抵抗が強いルヴィアにはより強く、口内を犯していく。
――くち…。
「――…あぁっ!」
下着を避け、エルザの秘奥に手が届く。
「ゃ…っ…ぁあっ…くっ…ふっ…」
 傷つけぬよう、怖がらせぬよう…まだ外見相応の場所ながら、雌としての役割を、にちゃり、という音を立てている。
 なぞるだけの愛撫。だが、エルザにはそれすらも耐え切れないとばかりに、俺の体にしがみ付き、声を漏らす。
「…っ…ぅっ…っ…あぁっ!」 
 ルヴィアの抵抗を圧し折るように、強く胸の頂点を摘むと、ルヴィアの目尻から、一筋、流れた。
 快楽か恐怖か興奮か、俺には解らない。だから、無我夢中で貪った、乳を、尻を、口内を、今はくたりと身を預けている。
「……ぁ」
 スリットを掻き分け、下着に手を潜り込ませる。窮屈ではあるが、それが余計に密着感を生み興奮させる。
 僅かに生えそろった恥毛の奥、濡れた場所へと進んでいく。ルヴィアは只、身を震わせている。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ローガス…許して…」
 ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、俺にそう哀願するルヴィアに普段の気丈さはまるで見当たらない。
「怖いか?」
 やりすぎたか、と思ったが、首を振るのを見る限りどうも違うらしい。
「なら、どうして謝るんだ?」
「私…っ何時も…酷い事をしてっ…本当は、こうやって…傍に居たいのに…っ。謝らなくちゃって…思っても…出来なくて…でも、今ならって思ったら…私…ごめん、なさい…ごめんなさい…!」
 幼子のように涙でくしゃくしゃになったルヴィアの頭を抱き抱えるようにして、落ち着かせる。
「…大丈夫…大丈夫だから」
 思えば、ルヴィアの手助けが有った様な場面が多々有った気がする。となれば、あれは照れ隠しだったのか…。いや、今はきっと初めての感情に情緒不安定になっているのだろう。今度落ち着いて話をしてみるか。
「…ん」
 唇が触れるだけの優しいキス。まだ肩を震わせているものの、ルヴィアは大分落ち着いたのだろう。
「汝…汝…止めないでくりゃれ…」
 そう、むしろ大丈夫じゃないのはエルザでもなければルヴィアでもない、俺の方なのだ。完全に興奮しきったこの体はちょっとやそっとでは落ち着かない。二人の痴態に留まる事を知らない。
「いいな?」
 と、聞くと、素直に頷いたルヴィア。今度こそ、その奥へと潜り込み、到達した。
 快楽に震えるルヴィアは、先程とは違い、硬さも何も無い、本心から俺を受け入れてくれている。
「…んっ、んんぅ…っ」
 ルヴィアに口を塞がれ、少し手を動かすとその度に鼻息が漏れ出してくる。
「ふっ…あっ! な、汝っ!」
 エルザも本格的に快楽を受け入れ始め、自ら腰を擦り付けてきた。
 甲高くなる嬌声、激しくなる動き、止まらない水音。
「――…!」
 同時に、きゅっと、押し潰した。
 声にならない声とガクガクと弓反りになる体。
「――! ――!」
 その最中でも、俺は手を止めず、何度も、何度も押し潰し、捏ね繰り回し、弾いた。途中、何度かもう止めてと言われた気がするが覚えていない。
 やがて、二人の反応が鈍くなったと思えば、どうやら気絶したらしい。
「…んっ」
 試しに弄ってみてもぴくりと動くだけ。調子に乗りすぎたか、と反省する。
「…しかし、まぁ…」
 惨状は酷いものだった。
 純白だったドレスは染めている部分を除き、色々な体液で色が変わっているし、座っていた長椅子に至ってはまるでカップをひっくり返したかのようにもなっている。
 どうしようか、これ…。
 …
 ……
「と、言うわけで、『竜殺し・改』はもう無いのか?」
 後始末をメイドに任せた後、俺はそう聞いてみる。
 竜の身でありながら、あの感覚を少ししか味わえなかったのが残念極まりないからだ。
「あれは元々数が少ない上に需要も無いですから…また見つけたら仕入れてきます。あれ、何処行くんですか?」
 しょんぼりと肩を落として次の目的地に行こうとするとそうメイドが声を掛けてくる。
 何処ってそんな事聞かれたら、ねぇ?
「コレを見てわからないか?」
「うわ、凄い夜の戦闘態勢ですね、でも良いんですか? 婚約者様に見つかるかもしれませんよ?」
「…少しだけなら大丈夫だろう」
 今この状態を放置すれば、二人に襲い掛かるのは間違いない。
 だが、流石に結婚もしてないのに致すのは如何なものか、と思った末に行くは女の場所なのである。
「じゃ、準備しますから」
「いや、必要ない」
 普段なら呼び出す時には事前にメイド達から女へ伝えられるのだ。そして、相応の準備をして…となるのではあるが、今は時間が惜しい。
 … ム、リュウヨドウシタ?
 …… キ、キサマ、マタワレヲッ!?
 ……… ヤ、ヤメヌカァーッ
 翌日、二人は帰ったらしい。メイド曰く、凄い速さでした。との事。

 余談ではあるが後日、街から凄まじい量の貢物が届いた。
「ひぇえ…御主人様、凄い量ですね」
 メイド1号の目が財宝に負けんばかりに輝いているのが少し怖い。
「だが、少しばかり多すぎないか?」
 何かの間違いではないかとセリアに聞いてみるも、
「調べて見た所、周辺地域を流通で抑えている所為か長い間戦争が無かった用ですね。
そこへ急に御主人様が来たので、脅威らしい脅威もなく、ぬくぬくと育った上層部は恐れたのでしょう」
 成程、つまり平和ボケしていた分、衝撃も大きかったと。しかも、相手はお金持ちと来たもんだ。
「最も、竜に対する準備期間とも受け取れるので警戒は必要ですが」
 構わない。これだけあれば、防衛体制が整いそうだ。
「…も、もう一度襲いましょうっ御主人様!」
「時間を置こうとも、流石に二度目は常識内の貢物量ですよ」
 恐れていても、出すものが無ければ無意味ですとはセリアの言。
 全く持ってその通りだ、袖を振っても出ないものは出ないのだ。今はあの街が復興して肥え太るのを我慢しようじゃないか。
 無論、魔力がもう無いからではない。
「そうですか…なら御主人様、次はこの街なんてどうでしょうか?」
 とメイド1号に中規模な町を紹介されたが、そこはほら、咳払いで誤魔化しておいた。




現在の状況

・財力『8350万B』(借金総額2000万B)
・H技術『18H』
・魔力『5M』
・恐怖『427!』
・捕虜『3人』
・巣豪華度『20豪華』
・配下モンスター『12部隊』


おまけ劇場
『俺達街の警備隊』

警備隊長「私達は、何者だー!」
警備隊員「街の治安を預かる警備隊です!」
警備隊長「私達は、何者だー!」
警備隊員「恐れを知らない、泣く子はもっと泣く警備隊です!」
警備隊長「よろしい。今回は流石に急すぎたので逃げたが、あの竜を倒すぞー!」
警備隊員「おーっ!」
警備隊長「次こそ倒すぞー!」
警備隊員「おーっ!」
警備隊長「絶対倒すぞー!」
警備隊員「おーっ!」
警備隊長「俺達無敵の!」
警備隊員「警備隊っ!」
街の人「また竜が来たぞー!」
警備隊長他「「に、逃げろーっ!!!」」
街の人「…冗談だったのに」



[9180] 次世代ドラゴン 第17話
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:e14cd408
Date: 2010/10/13 19:22
「時代はカジノですっ」
 ばんっ、と机に手を置いて、俺に直接直談判に来たのは何時もの用にメイド1号だった。
 置かれた書類にはでかでかと『竜の巣改造計画』と銘打ち、その厚さたるや硬貨を5枚重ねる程度にはある。
 ぱらぱらと捲っていけば予想図などと描かれた巣の周りをぐるりと囲む大都市。備考欄には推奨建設施設がずらりと羅列され、カジノやらホテルやら果てはアヅチ城なんていう巣の山全体を使った施設まで。一体メイドの何がここまで突き動かしているのだろうか。いや、そもそもとして、巣作りの意味を忘れているのではなかろうか。
 メイド1号も相応に多忙であるというのに、一体何時こんなものを作る時間が有るのだろう。
「…いや、カジノと言われてもな。その前に巣の防衛を充実させるべきではないだろうか?」
 大分余裕が出てきたとはいえ、やはりまだまだ心許ないのである。確かに、巣の防衛体制は初めと比べて格段に向上しているが、それに追随するように冒険者の質量共に上がっているのだ。
「わかっています、御主人様の言いたい事はよーく分かってます。
確かに巣は堅固になりました、しかし、冒険者の数も増えている…そこに、付け入る隙が、お金の匂いがあるんですっ!」
「確かに、その事は俺も思っている事だ」
 そう、竜の巣というのは日帰りで行けるというモノではないのだ。いや、竜の巣だけではない、ダンジョンに潜ったりするのも全てだ。
 冒険者とは危険を対価に金を得るような職業だ。となれば必然、準備にも相応の時間を費やし、体調が悪い時には無理をしないというのが普通である。それが、複数人のPTならば、尚更に。
 すると根拠地としての、近場の村ないし町、前線基地としての竜の巣入り口前となるのが相場だ。人が集まる所に金が集まるとは、良く言ったもので実際、麓の村は今までに無い程の活況を催しているし、普段は来ない行商人や娼館などの歓楽街まで出来始めている。
 そして、落とされた金は巡り巡って、竜の巣へ貢物としてやってくる訳だ。竜が住み着いて悪い事ばかりではなく、その国が破産しないという理由でもある。
「要は、一発逆転させるだけの環境を整えてやればいいんですよ。竜の巣に来るのも財宝を溜め込んでいるからであって、決して御主人様の命を狙っている訳では無いんですから」
 ふむ…確かに巣の前まで来たのはいい物の、直前になって怖気づくというのも良くある話だ。そう考えれば巣の入り口ないし、その付近に設置すれば確かに収益を上げれそうだな。
「仮に作るとして…管理は誰がするんだ?」
「この私、メイド1号…いえ、ギャンブラー1号に任せてくださいっ」
 何時でもざわざわ出来ます、と鼻息荒く詰め寄ってくるギャンブラー。ざわざわって何?
「……大丈夫なのか?」
「任せてください。ギャンブラーの心の動きは熟知しております。
 あの高揚と絶望の狭間、負け始めると熱くなるあの感覚…今までは搾取される立場でしたが、やっと、搾取する立場に…えへ…えへへへ…」
「……セ、セリアと協議した上で決定する」
 基本的には優秀なメイド1号が連隊長に昇格しないのは多分、こういう辺りが駄目なんだろうな…。

次世代ドラゴン


「第二防衛ライン突破されました! 侵入者はC3区画へと進行中!」
「戦闘が始まる前に、可能な限り戦力を集めなさい」
「第三トラップ郡、何時でもいけます!」
 とある者の言動を元にメイド1号が考案したこの簡易戦闘指揮室のコンセプトは『遊兵を作らない』だった。
 巣全体に連絡網を敷き、それぞれ独自に区画分けをする。それらをセリアの元、一元管理し、区画内での戦力相互補完をするという簡単なものだったが、侮れないのだ、これが。
 今までは一つに付き5部隊戦闘可能な二つの待機部屋に、それぞれ3部隊置いて各自守らせていた。もし侵入者が一つの部屋に入って激戦を行ったとしても、もう一方の部屋は敵が来るまで待ち惚けだったのだが、これを区画としてまとめる事により、迅速に2部隊を援軍として向かわせる事が出来るようになったのだ。
 無論、今までもそういう事が出来なかったという訳ではないのだが、何分、タイムロスが多く、援軍が間に合わなかったという事も多々有った。結果、少ない予算で遊兵を作らなくなったという点を見れば、十分以上の効果を上げていると言えるだろう。
 最もコレが正規の戦闘指揮室ならば、全体の把握は勿論、リアルタイムでの部隊状況や侵入者の自動追跡等が出来るのだが、お値段が簡易と比べて10倍と聞いた日にはこれで我慢するしかない。
「侵入者退いて行きます!」
「ご苦労、波状攻撃に対応できたのは良かったな」
 もし、この簡易戦闘指揮室が無ければ、財宝を奪われる、という事が無かっただろうが、その手前までは来たかもしれない。
「はい、それでもまだまだ改善すべき点は多いですが」
「正規の戦闘管理室を作るまではセリア頼みだな…では後は頼んだぞ」
 収益は纏まり次第報告してくれ、と何時もの用に頼んで部屋を出る。
 侵入者の撃退も終わった今、今日の仕事はもう無いと言っても過言ではなく、強いて言うなら夜の生活練習ぐらいのものだろう。
 向かう先は竜の間。別に夜の生活練習をしないという訳ではなく、
「…終わったのか?」
 している途中だった、というのが正しい。
「ああ、残念だったな」
 と、ここでの生活に慣れたらしい神族の娘にそう伝える。
「ふん」
 どうやら風呂に入ったのか、互いの体液の名残は見つからない。今は綺麗に身支度をして、机に置いてあった『竜の巣改造計画』を眺め見ていた。一応は機密情報に当たるのだが、連絡の手段も無く、また、こいつを解放しようとは思わないので黙認している。
「攻略の算段、いや、脱出の計画でも練っているのか?」
「とうの昔に諦めている…おい、胸を触るな」
 で、この乳を揉みしだいている相手こそが、とある者の言動者であったりもする。
 メイドの計画書を見て、セリアが指摘していた不備のある部分と同じ事を指摘したりと、中々に鋭い所があるのだが、
「お前を捕らえたトラップだが、何故掛かったんだ?」
 こう言ってはなんだが、この娘を捕らえた罠は、罠にかける為の罠だった。最初の罠を回避すると次の罠が瞬時に発動する二段構えの罠であり、最初の罠で掛かるという想定は無かったのだ。
 今までの言動や見識を見る限り、罠の構造や設置場所についても分かっていたようなのではあるが。
「そんな事は如何でも…っ、分かったから、揉むな! 摘むな!」
 最初からそう言えばいいものの、抗った罰として揉む手は休めない。
 恨めしい目で見てくるが、捕虜の言い分なぞ聞く必要は無い。揉み続けるのはその罰なのであり、決して揉みたいからではない。
「…あの罠の先には、もう一個…罠が、有っただろう?」
「そうだ」
 これは別段報告していないのだが、矢張り当然の様に気付かれていたようだ。
「そして、罠の避けやすい進行先には…モンスターが配置されていた…」
 確かにその通りだ。だが、聞きたいのはそういう事ではない。
「それで?」
 だが、娘はごにょごにょと口篭るばかり。故に強く、虐める。
「それで…ぁっ…それで…二つ目の罠を意識しすぎて、最初の罠に…掛かった」
「……くっくっく」
「わ、笑うな! 黙れ! 乳を揉むなぁっ!」
 生意気言ってきたのでお仕置きしてやった。

 事後、疲れ果てた娘の寝ている隣で俺は本を読んでいた。いや、読むというよりは調べるといっても言い。
 内容は神族に関する事…魔族と同じく神族にも色々な種族が居るものの、戦乙女に関しては案外知られていない。元々人間界に来る事が殆ど無い上に、そもそもの絶対数が少ないからだ。
 更に戦乙女が動くというのは余程の事であり、例えば戦争での大規模会戦の時や、天界の大事な何かが盗まれた時等の、限られた、重要な時にしか出てこない。
 普段は、天界の上層部に仕えているとは聞いては居るのだが、それ以上は知らず、セリアに調べてもらった所、あまり芳しくない。古の戦争を戦った者ならば知っているのだろうが…それとて、魔界の上層部等のそうそう簡単には会えない連中ばかり。
 それに、調べた所で何か有るという訳では無いのだが…。
「……お母様…行かないで…お母様…」
 目尻から流れた涙をそうっと拭う。この娘が幼子のように包まって寝る時は何時もこうだった。
 そうして、俺が再び書物に目を落とした時だった。
「御主人様、侵入者です」
「…侵入者だと?」
 今日はもう襲撃が終わった筈なのだが…。
「10名程の小規模な軍勢を確認、迎撃準備は完了しております」
「分かった」
 娘を起こさぬように起き上がり、戦闘指揮室へと足を向ける。
 奇襲か何か知らんが、自殺希望者を歓迎してやろうではないか。
「推定ランクはB前後と思われます」
 我が巣では侵入者の強さをそれぞれにランク分けをしている。こうする事によって、強い敵には精鋭の防衛部隊をぶつける事により余計な被害を生まないようにしている。
 等級については最低のEランクから始まり、現在はSまで暫定的に設けてある。Bランクというのは熟練した侵入者であり、今の我々からすれば、強敵と言ってもいいだろう。
「…防げない事は無いが、被害が出るな」
 忌々しい…いや、考えようによってはこれは良かった。
 これが他の有象無象と一緒に来たとなれば、被害もより拡大するだろう…何処の誰かは知らんが、竜の巣のセオリーをご存知では無いようだ。
 となれば、今のうちに殲滅して憂いを取り除くとしよう。万が一殺せなくても、撃退できればそれいい…傷を負わせれば、時間と共にそれだけこちらの防衛が強化される。
「こちらが、中心人物と思われます」
 偵察用の投影魔法のモニタには、一際目立つ防具を付けた中年の男が周りの奴らに指示らしき姿が映し出されていた。挙動を見る限り初陣という訳では無さそうだが、周りの冒険者の方が強そうに見えるのは傷の入った歴戦の防具を着けているからなのか。
「…照会記録の結果、名前はアレス・シルバフォーレム。捕らえてある、神族の娘の父親です」
「囚われた娘を奪還にでもしにきたか?」
「偵察しているメイドによれば、そのような会話をしているとの事です…敵、侵入してきます」
 次々と巣の入り口に向かっていく侵入者。巣の中は魔法範囲外なので後はセリアの手腕に任せるしかない。
 ふん……娘の奪還、か。
「敵、第一防衛ラインに到達します」
 …
 ……
 ………
 人間界の騎士団は戦乙女を良く引き合いに出している。主への忠誠と、高潔な志、華麗なる武技を象徴とする為だ。確かに伝承を読む限りでは間違ってはいない。物語に登場する戦乙女は須らくそのような性質を持ち合わせている。
 無論、騎士団だけではなく、他の世俗的な風習や子女の教育でも良く引き合いに出されている。戦乙女は、純潔の象徴でもある為だ。物語に登場する戦乙女は須らく、聡明で若く美しい乙女だった。
 そして、純潔とは戦乙女の力の源と言われている。娘が純潔に拘るのはこの所為だろう。
 つまるところ、人間界でのアイドルたるこの神族の娘は、斯様な性質を持って居る筈なのだが…生憎と身体能力という点においては話に成らない。戦乙女の力が発現していないのでは人間の小娘と大差ない。
「ん…」
 暫くはもぞもぞと動いていたが、頭が覚醒してきたのだろう、ゆっくりと起き上がり、可愛らしい欠伸を一つした。 
「起きたか」
「…とりあえず、我は身を清めてくる」
 覗くな、入ってくるな、と俺に言ってから、風呂場に向かう姿を見送る俺…ではない。当たり前のように、娘に続くように脱衣所にて服を脱ぎ、湯をかけてやる。
「入ってくるなと言ったではないか…。ほら、背中向けろ、湯をかけてやる」
 最早慣れきったこの行動。何時の間にやら娘専用の洗浄剤が配置されてる辺り、普段がどのような感じなのか分かってもらいたい。
 そうして、洗い洗われ、湯船に浸かり、娘は俺の上に乗るという形がいつもの定番だった。結構広い湯船だというのに何故、俺の上に乗るのかと、文句の一つでもつけようかと思ったが、思い返せば、乳を揉むために強制的にこの形にしていた所為だと気付き口を噤む。
「ふぅ、ここに来て唯一良かったのがこれだな」
 心地良さそうに目を閉じて、俺に頭を預けてくる娘はこの風呂が大のお気に入りなのである。
 やはり、温水に浸かるというのが珍しかったのだろう。当初は湯が勿体無いと言っていたが、今ではご覧の有様である。一日に複数回風呂に入るというのも珍しい事ではない程だ。
「なら料理は要らないんだな」
 我が家の料理は美味い。それというのも、完璧超人と言っても過言ではないセリアが毎日作ってくれているし、上等な食材を仕入れているからだ。
 実家では、魔族のメシは糞マズイと良く聞いたし、クーがそもそもとしてアレ――とにかく、酷い――だったから、当初は期待していなかったのだが、セリアが食通で良かった。ちなみに、実家では昔は酷かったらしいが、とある獣人のお陰で劇的に改善されたらしく、今はその弟子であるメイドが毎日作っている。
「む、待て。料理もだ」
 アレとコレとソレと、と指折り良かったのを数えている隙に、タオルで止めている髪を解いて、湯船に浸からせる。
 長い銀髪がゆらりと広がり、光をキラキラと弾くこの光景が俺は好きなのだが、これをやると娘は不機嫌になる。曰く、乾かすのが面倒だとか髪が痛むだとか。
「…竜よ、それをするなと何度言ったら分かる」
 みるみると不機嫌になる娘を意に介さず、手を娘に回して抱き寄せる。
「っ…ま、まさか、あれ程したというのに、またなのか?」
 感じる肌も娘の香りも、何度味わった事か。
 暴れる娘を逃さぬように、しっかりと捕らえて、しばらくその身を感じ取る。
「…どうした。何か、あったのか?」
 本来の俺ならば、既に何かしらのアクションを起こしているのだが、それをしないのを見て、娘が不審に思ったのか、そう問いかけてきた。
 どうした…か。
「――風呂が終われば、出て行け」
 息を呑む娘に開放する、とだけ伝えて湯船を出る。
「如何いう事だっ」
 背後の疑問には答えない。
 後のことはメイドが如何にかするだろう、とそのまま巣を出て、空を飛ぶ。
 湯船に暖められた身体に冷たい風が当たり心地良い。
「綺麗な月ですね」
 暫くして、山頂で月見と洒落込んでいた俺に声を掛けてきたのはセリアだった。
「…情報漏洩の対策は?」
 我ながら馬鹿馬鹿しい問いかけだと思っている。
 娘を解放するよう伝えた時から、セリアが対策を行うというのは解りきっているというのに。
「はい、既に申し付けております」
 それに、娘の性格から考えて、心配は無いだろう。どこまでも、まっすぐな奴だから。
「シルバフォーレム邸前までは我々が護衛致しますので、余計なトラブルも起こらないでしょう」
 そうか、とだけ言っておく。
 あの防衛戦で、一網打尽とまでは行かなかったものの、娘の父親を捕縛する事に成功した。
 どうやら、開放した捕虜から娘の情報を聞いたらしく、選りすぐった精鋭にて娘を奪還しようと…父親、と言っても血は繋がっていない。昔の縁で娘を引き取ったと言っていた。
 そうして娘を返してくれと、病に侵され、長くないだろう母親が、娘の顔を見ようと戻ってきたんだ、と。
「ふん…今日の夕餉は何だ?」
 別に母親の身に何が有ったのかは聞いてないし、聞こうとも思わない。
 この身は生物が頂点たる竜。誰が死のうが関係は無い。俺からすれば日々の食事のほうが余程重要だ。
「はい、豚肉と玉葱のハヤシライスです」
「気に食わん。人参も入れろ」
 それだけ言って、巣へと戻る俺。
 今日は娘の嫌いな人参が、漸く食卓へ。今日は俺の好物の人参が、漸く食卓へ。
 そう、娘の事より、処罰の事より、こちらのほうが余程…。

 あれから暫く経ち、娘の居ない性活にも慣れ始めた時である。
「第三防衛ライン突破されました!」
「トラップが全然効きません!」
 各区画から舞い込んでくる悲鳴の如き報告に、普段は冷静なセリアも声を荒げている。
 本日二回目の襲撃、侵入者はたった、一人。
 されど、巣の全周囲に張ってある警戒網以外はまるで掛からないという、前代未聞の出来事が強敵だと教えてくれている。
 数多の罠とモンスターを悉く避け、或いは掻い潜り、異常な速さで竜の間へと迫る侵入者。
「最終防衛ラインに接敵!」
「くっ…必ずそこで止めるように!」
 だが不思議な事にこちらの防衛部隊の損害は皆無だった。傷すらも負わせない技量も合わせて侵入者のランクがその都度変更された。
 そいつが何者なのか、偵察に向かったメイドが辿り着いた時には最早もぬけの殻というのが、また重圧を誘う。
「最終防衛ライン突破されました…」
 深い溜息を付くセリア。恐らくは責任を感じているのだろうが今回ばかりは仕方ないとも思う。
 単身で乗り込んで、手玉に取るような相手なのだ…我々ではまだ荷が重いであろう。今はこれを教訓にするのが良い。
「あの…御主人様、侵入者の方が御呼びらしいですけど…」
「…何? どんな奴だ?」
「侵入者を偵察しているメイドからの追加報告はありません」
 分からない、メイドからの追加報告が無いという事は俺の知り合いなのだろうか。
 だが、こんな愉快犯的な事をする人物に心当たりは無く…結局、会って確かめようと竜の間へと足を向ける。
 さて、竜が出るか鬼が出るかと少しばかりの好奇心を胸に扉を開いた先、
「どうだ、竜よ。最早トラップに掛かった馬鹿と言わせんぞ」
 胸を張っている神族の娘がそこに居た。
「…それで、俺の命でも取りに来たのか?」
 思わず力の抜けた俺はそう投げやりに聞いてみる。どちらにせよ負ける気はしない。
「いや、母上の事で礼を言いに来た。竜の派遣してくれたメイド達のお陰で母上の調子も良くなってきたのでな」
 それならば、現地に派遣しているメイドに言えば良いものを、と思わないでもない。
 まあ…調子が良くなったのならばそれでいいのだが。
「それと、貴方に我を捧げに来たのだ」
 かちゃり、と槍を俺に捧げる娘。その姿は書物で見た『戦乙女の誓い』にそっくりだった。
 書物によれば、仕える主に全てを捧げると、主の為の己になる、と。
「意味がわかって言っているのか?」
「うむ」
「…仕える相手は、竜だぞ?」
「そうだ」
「…大事な純潔を散らされるかもしれんぞ?」
「我の物は竜の物だ」
「…漸く手に入れた力を失うかもしれんぞ?」
「凶刃の盾にはなる」
「…後悔しないな?」
「我、オリヴィア・シルバフォーレムはローガス様の槍となり、盾となり、尽くす事を誓います」
 決心はしているという事か…ならば俺も、断る理由は、無い。
「――受け取ろう」
「はい、これより己は汝が為に――」
 誓いは成った。これから娘は、いや、オリヴィアは俺の味方になってくれるだろう。
 只、問題は書物通り受け取ったこの槍をその後、どうすればいいのだろうか、という事だ。オリヴィアもきっとこの先は知らないのだろう…ずっと俺の出方を待っている。
 …まあ、普通は返すよな、と思い、普通に槍を返してみた。多分間違ってないと思う。こういう辺り、専門の書物が無いというのは不便である。今度仕入れておこう。
「何か我に出来る事は無いか?」
「いや、特には無いな」
 強いて言うならセリアやメイドに部屋を用意するように伝えるぐらいだが、どうせ外で聞いているだろうし、何とかなるだろう。
「そうか、では我は風呂に入る」
 そう言ってオリヴィアを、勿論見送る俺ではない。当然のように付いていき、脱衣所にて服を脱ごうとしたら、服を脱がしてくれた。なんか新鮮だ。
 そうして、風呂場にて先に俺から背を流してもらうという、新鮮極まりない事を味わった。よくよく考えてみれば、オリヴィアも生贄も全て俺から先に流していたので、これが最初という事になるのか…。
「待て、俺が流す」
 けど何か違うなと思った俺は湯を自分に掛けようとしているオリヴィアを止めて、俺が流してやると妙に馴染む。口惜しいけど、馴染む。
「す、すまぬな。竜に世話をされるとは…我も世話をするから何でも言え」
 そんな嬉しい事を言ってくれた後は何時も通り洗い洗われ、乳を重点的に洗うのは俺の性癖という理由ではない。尚、オリヴィアは俺の性器を重点的に洗ってくれた。これは期待されていると見て間違いない。
 そうして、湯船に浸かると心地良い暖かさとオリヴィアの心地良い重みが…、
「待て、主の上に乗るのは如何なものかと思うんだが」
 先程まで俺を立てていてくれたのに何故当然のように俺の上に乗るのか。
「え、いや、我が竜の上に乗らずに浸かると、何時も我を上に乗せていたから、駄目なのかと…すぐ降りる」
「待て、今のは無しだ」
 やっぱり、この重みも必要だと思い直し、そのままで居るように伝える。うむ…なんだろうか、こういう、好きに命令できるというのがまた新鮮だ。思えばセリアにもメイドにも生贄にも俺の意見を押し通すという事が無かった気がする…いや、別に元々文句が無いだけなのだが。
「それで、力には何時目覚めたんだ?」
 まだ神族としての力に目覚めたという確証はないが、目覚めたと考えねば、ここまで単身では来れないだろう。
「完全に自覚したのはつい先程だが…開放されて、母上の元に向かえばメイドが居たのを見て、竜の為に尽くそうと思ったのが最初だな。高揚感というか力が沸いてくるというか…そんな感じだった」
 最も、当時は泣いていた所為もあるかもな、と照れくさそうに俺に身を預けてくる。
 ぱさりと髪を解いて湯船につけても怒ったり不機嫌にならない辺り、新鮮だ。
「それで、ここに来た時に竜に我を捧げれるんだと思ったら、凄い嬉しくて、今に至るという訳だ。今ではこんな事もできる」
「…そんな体勢でそんな機動を出来るのか」
 乳に伸ばそうとしていた手をするりと抜けて、重力を忘れたかのように逃れたオリヴィアを見て俺は関心した。確かにそんな予想外の動きが出来るのでは迎撃部隊も罠も歯牙には掛けない筈だ。
 今は元の定位置に戻り、思う存分乳を揉ませて貰っているが。
「竜よ…」
 もじもじと、身を震わせ、もぞもぞと太股と手で俺の性器を愛撫するのを見たら後はもう、致すしかないだろう。
 …
 ……
 ………
「う、奪ってくれても良かったのに」
 事後、オリヴィアにそう言われ、
「御主人様っそんな体位は普通の夜の生活では有り得ませんからっ」
 更に、メイドにもそう言われてしまった…神族の力を利用したが故の事だった。



☆ユニークユニットが参加しました☆

『オリヴィア』
LV:10 
HP:20 攻撃:12 防御:15
技1:戦闘指揮  効果:同じ待機部屋の味方能力UP・戦闘指揮室に配備すると全部屋で能力UP
技2:魔法障壁  効果:魔法無効化、1のダメージ
技3:竜の加護  効果:ダメージを15ポイント減らす

現在の状況

・財力『1750万B』(借金総額2000万B)
・H技術『25H』
・魔力『85M』
・恐怖『436!』
・捕虜『7人』
・巣豪華度『29豪華』
・配下モンスター『17部隊』



おまけ劇場①
『建国宣言』

ローガス「アヅチ城って何だ?」
メイド1号「エンディング条件の一つです」
ローガス「?」
メイド1号「まず豪華な巣・莫大な所持金・高い恐怖度・多数のモンスター部隊を揃えます」
ローガス「それで?」
メイド1号「次にアヅチ城を建設すると、エンディングの選択肢が増えます!」
ローガス「…良く分からんが、お高いんでしょう?」
メイド1号「築城費はたったの50000万B!」
ローガス「えっ」
メイド1号「さぁ、帝国END目指してがんばろーっ!」

おまけ劇場②
『1050年』

喋るメイド「そういえばカジノ随分儲かってるね」
メイド1号「侵入者は言うに及ばず、モンスターからメイドまで搾取してるんだから当然っ」
喋るメイド「す、少しは勝たせてよ」
メイド1号「全ては御主人様の為なのです」
喋るメイド「じゃあ、御主人様が来たら?」
メイド1号「妥協はしません(キリッ」
喋るメイド「…最後に一言お願いします」
メイド1条「誰でもウェルカム」

おまけ劇場③
『野菜好きの理由』

オリヴィア「竜よ、何故人参が好きなんだ?」
ローガス「人参というより野菜全般が好みだな」
オリヴィア「何故に野菜?」
ローガス「野菜は体に良いと言われてるからだ」
オリヴィア「…竜が健康に気を使うのか」
ローガス「健康の為なら死んでもいいっ」
オリヴィア「死ぬときは我も付いていくからな」




[9180] おまけ 劇中作① 
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:e14cd408
Date: 2010/10/07 23:24
※この作品の前半部は友人の一房氏からの提供でお送りしております。


おまけ 劇中作①

「…む?」
 普段は来ない宝物庫に足を運んだ俺は一冊の本を見つけて手に取る。
 題名は『Spicy & Hip's』…ふむ、まだ読んだ事が無い書物…と、なれば行う事は只一つ、趣味と実益と現実逃避を兼ねた読書の時間である。
 
『騎士は大変な訓練と共に日々を過ごす、農家は土いじりを、町商人ならば勘定を共とする。ならば行商人はというと、荷車を牽く馬の尻を眺める時間こそが日々の共だ。であれば、雄馬の尻を見て旅をするより、雌のそれを見て旅をする方が幾分マシであると考えるのは男の性ではなかろうか。
巷には、買った馬が化けて出てきてもいいように雌の馬を買うべきだ、なんて売り文句を真面目くさった面をしながらのたまう馬屋もいる位だ。女性がなることの極めて少ないのが行商人という人種である。その過半数は自身の中にあるそういった疚しいモノものに抗えず、雌馬を旅の共としている様にすら思えてくる。
 ならば、きっと行商人というのは莫迦の二つ名の様なものに違いない。自分は損をして、馬屋の主を儲けさせる。その癖自分は一端の商人で居るつもりなのだから、全く始末に終えない。
御者台に尻を預けながら、そんな考えを弄ぶ青年、クラフト=ロレンツもまた、そういった莫迦の一人であった。
「ああ、糞!クソッタレ!!」
 小奇麗な出で立ちと、優しげな言葉遣いで、魑魅魍魎の跋扈する商人の世界を渡り歩いて来た彼であったが、今日に限り口汚い罵りの言葉を、両の手で間に合わない位に彼女の尻に投げかけていた。
 というのも、先程、荷台が泥に車輪を取られ、誰かに助けを借りない限りどうしようもない、という事態に陥ってしまったのだ。そして悪いときに悪い事は重なるのか、今回の荷は生鮮物と来たものだ。
 忌々しげに睨む先…独立の際、師匠から貰った祝い金で買ったのが彼女だった。その頃は一人で買い物をするなどといった程度の事が贅沢に思え、酷く浮かれて居た様に記憶している。
 だが、熱に浮かされた記憶はあれど、その熱も5年も経てば冷めてしまう。ローレンツは過去の自分に罵声を浴びせたい気分で一杯だった。最も、数分も経たぬ内には矛先が彼女に向かい、それでも尚治まる気配のない煮えくりかえった怒りをぶつける為に、日頃の溜まった鬱憤をぶつける為に、キャストオフ
 状況も理解出来ていないであろうこのビッチに性義の鉄槌を振り下ろさねばなるまい。
「ひひんっ!?」
 尻尾を掴み、目標たる♀穴に対して息子♂をグリグリ。
  暴れるビッチも何のその、童貞だけど自称・超絶ファッカーは伊達ではない。長年のシャドウセクロスの末に老若男女問わず突っ込んだ瞬間にはアヘらせる素晴らしきテクニシャン…それが俺なのだ。俺って罪。
 「おらぁっ、ファッカー様のテクをとくと味わえ!」
 「ひ、ひひいいいいぃぃん!」
  ずぶ。
 「アヘッ('Д`;)」
  どっくんどっくんどくどくぴゅっぴゅ。
 「――スパイシー…」
  無意識に漏れ出た言葉、止まらない謎の蛋白質。そして未知の快感。
  俺はこの日、魅惑の香辛料に出会った。

  アニマルファッカー・KURAFUTO ~如何にして私が畜生道へ堕ちたか~ 完』

「…成程、つまり答えが行き詰ったら新しい事に挑戦しろという話か…勉強になるな」
 そういうことにしておこう。うん。



[9180] おまけ物語 超強いローガス君。
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:f35397c7
Date: 2011/08/13 12:34
 何時の日か、初めて母と喧嘩した時だ。
 崩壊する我が家、揺らぐ地盤。付近一帯と言えば小さすぎる程の範囲を消滅させたあの日。
 苦虫を噛み潰した顔をする母。
 すすり泣く父。
 羨望と否定が混じったマイト叔父さん
 慌しいメイド達。
 決着は着かなかった…否、『着けなかった』。
 それ以上やれば後戻り出来ない事態になると知っていたから、延々と母の攻撃を裁くだけに終始した記憶がある。
 母…強いては竜族の女の基本的な戦闘力のデータは十分入手したと思っている。
 女は強くて怖いから、と幼少時に父から言われ続ける事数十年…竜の村で女に虐められても、死ぬ事は無いと思う。
 実家の皆とは別れは済ませた。
 強いて言うなら、喧嘩後の周辺を含めた巣の修繕にお金が無いというクーの言葉から始まる一連の騒動からマイト叔父さんの姿を見てない事が気になるが…。
 眼下に広がるは長閑な村。
 俺の新たな新天地。

 
おまけ物語 超強いローガス君。


 竜の村へと繋がる洞窟を抜けた先、興味津々に入り口に取り巻く圧倒的多数の女と極少数の男。
 興味と憐憫が入り混じった視線に戸惑いを覚える暇も無く、ブリッツと名乗った女が口を開く。
「はーい、皆。紹介するわ、リュミスベルンの子供であるローガス。そう、『あの』ローガスよ」
 視線の質が途端に変わった。
 興味は憎悪に。憐憫は羨望に。
 母が有名だったかどうかは知らないが、俺が有名なのは少々理解しかねるが…。
「――へぇ、リュミスベルンの子供?」
 じりじりと晒される視線とざわつく群集を知らぬとばかりに進み出た赤毛の女。
 その赤毛を止めようとブリッツと他の女が止めようとしているが、それを無視して近づいてくる。
「赤毛、俺に何か用か?」
 途端、殺気立った雰囲気に、父の言葉が蘇る。
 『強くて怖い』というその言葉。虐めか、遂に来たのかっ。
 赤毛からの『洗礼』は、だがしかし、そう、俺は知性派の竜。
 暴力なんかには――屈したりしない(キリッ
「――!?」
 ぱしり、と掴んだ手には赤毛の拳の温もりか、それとも受け止めたエネルギーが熱に変換されたのかは分からない。
 だが驚愕に変わった赤毛は、次の瞬間にはハンニャ(東方にある怖い表情の代表らしい)のような顔でもう片方の手で殴ってくる。
 ……なんていうか、遅…うん、早いのだろうが…なんていうか。表情と行動が一致していないとしか思えない。
「っう…ぐっうぅぅ」
 必死そうな赤毛に対して失礼だろうが、最早何がしたいのか解らない。
 何故に初対面の女と鍔迫り合いごっこをしなければならないのか…。
 何か他に理由があるはずだが…あ、そうか、そういえば俺が生まれて直ぐに母が俺を抱擁していたな。
 あの時の父の慌てっぷりを考えるに自分が最初に抱きたかったに違いない。
 成程、詰まる所、これは母性や父性といった類の感情であるのは確定的に明らかである。
 あのパンチとも言えないパンチは矢張りパンチではなく、抱擁するための動作だったのだろう。
 それを思えば二度も拒絶した俺が悪者ではなかろうか?
「まあ、なんだ赤毛…家族以外…というより自分からするのは初めてだが…うむ、少しばかりされるのは恥ずかしいからこれで勘弁しろ」
 掴んだ手をするりと外すと慣性の法則により赤毛がバランスを崩す。
 向かうようにして倒れる赤毛の胴体に手を回し、高い高いをする。
 瞬時に重力魔法を展開し、椅子に座るような形で安定させると赤毛を下ろして向かい合って座る状態に。
「男である俺がされると恥ずかしいからな、勘弁しろ。甘えていいぞ」
 なでりこなでりこ。
 肩に赤毛の顔を乗せて髪の毛を撫でる。淡い香りと手触りが気持ちいい。
「………――~~~ッ!?」
 声にならない声と暴れる身体を押さえつけて抱擁続行。
 ポカポカとじゃれついてくる赤毛が可愛い。
「…どうしたんだ?」
 周りの大人達の口が開いているが、一体何だというのか。
 まだ若い赤毛ならともかくとして良い大人が甘えたいとか言わないで貰いたいが。
「どうした赤毛?」
 体温が上昇し、顔は先程のごっこ遊びよりも赤い。
 暑かったのだろうかと思い、手を緩めると俺から離れる赤毛。
 愛も変わらず声無き声を発しながら何処かへ行ったのを見るに満足したのだろう。
 強くて怖い女だけじゃ無かったんだな。うん。
「………」
「………」
 周りの大人達も先程と何も変わっていない。
「だから、どうしたんだ?」
「…あっ、そ、そうね。とりあえずローガスには男の子を紹介しておくわ。住居とかも彼等が案内するから。仲良くしてね、じゃ、解散っ」
 との事に俺が男連中に眼を向けて自己紹介をしている間にも、周りの女達は視線を向けたまま。
 解散と言ったブリッツ自身がまだ居ているというのは如何なものか。
 硬直から解けたらしい女達はヒソヒソと何か喋っているし、男は男で何故か変な視線を向けてくる。正直、鬱陶しい。
「所で、ローガスさん。聞きたい事が有るんですけど」
「何だ?」
「ローガスさんの母親と殺し合いしたっていう噂、本当ですかね?」
 あー、あの時のか。
 おかしいな、クーがあの喧嘩を見た人間は『居ませんでした』と言っていた筈なんだが…。
「殺し合いとは怖い事を言うな。唯の喧嘩ならばしたが」
 うおおっあの噂はやっぱり本当だったーっ、と騒ぐ男達。お前らも喧嘩の一つや二つは有るだろうに、何が珍しいんだ。
「ローガスさんっ、先程のルヴィア…あ、さっきの赤毛の女です。で、そのさっきの抱擁は一体っ…?」
「ああ、ルヴィアというのか。可愛い奴だな」
 うおおっあのルヴィアを可愛いだってよーっ、と騒ぐ男達。お前らの両親も同じ事やってただろうに。
「ローガスさんっ、記念に闘魂注入お願いしまーっす!」
 闘魂? …闘魂? なにそれ。
 というか知性派に向かって闘魂とはどういう事だと言いたい。
 ビンタしろ、との男の言葉に変な奴だと思いつつ、軽めにペチっと。
 ――ボンッ!
 うおおっトータスの首から上が無くなったーっ、と騒ぐ男達。え、滅茶苦茶軽くしたんだが。お前らどれだけモヤシなんだ。
 そして竜の姿になり暴れるトータスを女が一瞬で鎮圧するのを見る。
「矢張り、女は強くて怖いな…」
 吃驚するぐらい、賛同が無かった。


――未完!





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