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[8411] 逆行ルルーシュの記録(コードギアス 逆行物)
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/12/25 21:01
スザクをブリタニア軍から救出したが、自分の仲間になることを拒否され、
スザクが軍事裁判に戻るのを見送ったあと、疲れを感じつつアッシュフォード学園のクラブハウスに帰宅した。
「ただいま」
「おかえり、ルルーシュ」
ルルーシュは、シンジュクゲットーで死んだはずの少女が生きて自分を出迎えるという状況を受けて、思考が止まってしまった。
「お帰りなさい、お兄様」
ナナリーが話しかけている状態でも、ルルーシュは動けず呆然と二人を眺めてるしか出来なかった。
「お兄様、せっかくC.C.さんが来られたのに」
「C.C.……」
少女の名前を呟いたあと、気付くとC.C.と呼ばれた少女が目の前に立っていた。
「ルルーシュ……」
C.C.はそう呟くと、いきなりルルーシュの唇に自分の唇を押し当てた。
「……!!」
唇の当たった瞬間にルルーシュの頭の中に、数々の記憶がよみがえる。
クロヴィスを撃った場面。
カワグチ湖で黒の騎士団の宣言を行った場面。
ユフィにギアスがかかった場面。
スザクが皇帝に自分を売った場面。
ナナリーにゼロを拒否された場面。
シャーリーが死ぬ場面。
黒の騎士団に裏切られる場面。
ロロが死ぬ場面。
ラグナロクの接続を否定した場面。
第99代皇帝として即位した場面。
そして、ゼロレクイエムを行いナナリーの嘆きを感じながら、自らの生が終わる場面。

「お兄様、C.C.さん。どうなされたのですか?」
ルルーシュとC.C.の不思議な雰囲気を感じて、ナナリーが二人に問いかけた。
「心配するな。久しぶりに会ったのでルルーシュにキスをしていただけだ」
「!!、C.C.!!」
「まあ、お二人は恋人同士なのですね。お兄様も、こんな方がいらっしゃるなら紹介してくだされば良いのに」
「恋人というよりは、運命を共にする共犯者と言ったところだ」
「まあ、C.C.さん。それはとても素敵な関係ですわね」
C.C.とナナリーが会話している所、混乱から回復したルルーシュはナナリーに向けて言った。
「ナナリー、すまない。C.C.と二人だけで話したいから、C.C.を連れて行く」
C.C.の腕を握り、自室に向けて歩き出す。
「分かってます、お兄様。私も子供では在りませんので、お二人の邪魔をするようなことは致しませんとも」
ナナリーは少し寂しそうな顔で、しかし兄の恋路を邪魔しないように精一杯の笑顔で答えた。
「ああ、ありがとう。愛してるよ、ナナリー」
思わずルルーシュは、ナナリーに向けて言い訳っぽく言ってしまった。
「ふふ。私も愛してます、お兄様」

「C.C.。おまえはいつから記憶があるのだ」
ルルーシュはC.C.に問いかけた。
C.C.の記憶がかなり前からあるのならば、クロヴィスに捕まる事も無く、
またルルーシュへの接触をシンジュク事変まで待つまでも無く、もっと早く接触してくるはずだったからだ。
「私の記憶は、ルルーシュ。お前と契約した時に受け取ったのだよ。
 その為に、コードの新たな能力としての予知能力かと思ってしまったのだがな」
その答えを聞いてルルーシュは、「なるほど」と納得した。
コードの能力自体、不老不死とギアスを与える以外に何があるか本人すらも分かっていない状態なのだからだ。
「まあ、予知能力でないと確信したのは、ルルーシュ。お前のギアスが最初から既に両目の”達成人”の状態だったからな」
ギアスは片目の状態から暴走して、達成人と呼ばれる両目でON/OFF切り替え可能状態になるのだから。
しかも、記憶にある過去の状態では最初は片目の状態からだったから、予知能力とは違い、記憶を時が遡ったのだと判断したのだろう。
「そうか。なぜ記憶が時を遡るようなことが起こったのか心当たりは無いか?」
「さあな。しかし、お前は推察して当りを付けているのではないのか?」
ルルーシュの問いかけに、C.C.は逆に問いかけてきた。
確かにルルーシュはこの状態の推察を行って、原因と思われることにも心当たりがあった。
「俺はCの世界で無意識集合体、いわゆる神に”明日が欲しい”とギアスをかけた。
 その為に、ゼロレクイエムにより俺の明日が終わってしまうために、無意識集合体が過去に俺達を飛ばして、
 俺の明日を、いや未来を続くようにしたのだろう」
それを聞いて、C.C.は微笑みながら手を差し出してきた。
「ルルーシュ。お前は私に笑顔をくれると言ったな。だから、契約だ。
 この世界では私に笑顔を、いや私を孤独にせずに供にあると契約しろ」
ルルーシュはその差し出された手を掴み、C.C.を真っ直ぐに見つめながら答えた。
「ああ、契約するぞ。C.C.、お前と供にあり、笑顔をくれてやる」
その言葉を受けて、C.C.は涙を浮かべながらルルーシュの胸にすがりつき、またキスをした。

再び契約をした二人は今後のことについて語り合った。
「さて、ルルーシュ。今後のことだが、どうするのだ?」
ベッドに腰を掛けて、拘束衣を脱ぎながらルルーシュに問いかけた。
「ブリタニアの崩壊は置いておいて、問題はラグナロクの接続だろうな」
チェス盤の上に駒を置きながら、ルルーシュは答えた。
「ふむ、そうなると黒の騎士団は結成しないのか?」
「今、黒の騎士団を結成するメリットが少ないからな」
会話をしながら、ルルーシュはチェスの駒を動かす。
駒を動かしながら、今後の状況を推察し戦略を立てるのはルルーシュの癖のようなものだった。
「しかし、そうなるとお前の軍隊が存在しなくなるぞ」
「それなら、当てがあるさ」
「ほお、どんな当てなのだ?」
面白そうにC.C.はルルーシュを見つめながら聞いてきた。
「純血派さ。いや、正確にはジェレミアだな」
「オレンジ君を引き入れるのか? 確かにジェレミアの忠義は、お前にとって数少ない確かなものの一つだからな」
「そうだな、それにジェレミアをまた、あのような過酷な目には遭わせたくないしな」
そう言って、ルルーシュは苦笑した。
「そうなると、どうやって接触するのだ? 悪いことにお前によって、またオレンジ疑惑が浮かんでしまったぞ」
C.C.は意地悪そうに笑う。
「そのオレンジ疑惑を利用する。ジェレミアにオレンジの場所を教えるのさ。
 アッシュフォード学園のクラブハウスに閃光の子供達がいると、ゼロとして言うのさ。
 全力で見逃してもらった取引としてな」
ルルーシュの言葉を引き継いで、C.C.は言った。
「そして、閃光のマリアンヌの遺児として接触して、取り込むということか」
「そう。そうすればジェレミアの行動も皇族に対する忠誠として評価されることになる」
「お前は優しいな、ルルーシュ」
微笑みながらC.C.はルルーシュを見つめた。
「そうかな?」
C.C.を見つめ返しながらルルーシュは問いかけた。
「そうだよ。お前は優しいよ、ルルーシュ」

「話は変わるが、ルルーシュ」
「なんだ、C.C.」
「この世界で記憶があるのは、私とおまえだ」
「そうだな」
「その記憶と齟齬がある状況があるのだ」
C.C.の言葉を聴いて、ルルーシュはC.C.を見つめ次の言葉を待った
「V.Vが既に死んでいる」
「!!」
C.C.からもたらされた言葉は、予想以上にルルーシュに衝撃を与えた。
「一体どういうことだ! C.C.!」
「V.Vがマリアンヌを暗殺したあとに、シャルルによってV.Vのコードが奪われ殺されている」
その事実は、ルルーシュに一つの可能性を予想させた。
「記憶のある人間の条件はどうなっているのか、見当が付かないか?」
C.C.はルルーシュに問いかけるが、引き続き言葉を紡いだ。
「あの時、神にギアスを掛けた時に居た人間は、私にルルーシュ、枢木スザク、それにシャルルにマリアンヌだ」
「なるほど、あの時、あの場所に居た人間が戻ってきている可能性があるということか」
ルルーシュはC.C.の言いたいことを先取りして言った。
「しかし、スザクには記憶があるような素振りは見えなかったぞ」
C.C.はそんなルルーシュに自分の考えを伝えた。
「多分なんだが、当事者達が重要だと思われる場面、
 いや人生の分岐点もしくは運命だと思われる時にあの世界の記憶が渡されるのではないか?」
「ふむ。C.C.にとっては俺との契約、俺はC.C.との接触。皇帝シャルルは母マリアンヌの暗殺か」
呟いてから、ふと疑問に思った。
「待て、そうなると母マリアンヌはどうなるのだ?」
「V.Vに暗殺される瞬間の可能性が高いな」
「そうなると、アーニャにラグナレク接続の顛末の記憶を持って取り付いているという事か」
口にしてからルルーシュは、これからについて考えていたがC.C.に声を掛けられ思考を中断した。
「今は休め、ルルーシュ。これからのことはもっと情報を手に入れてから考えたほうが良いぞ」
「そうだな。今は休もう」
そう言って、C.C.の隣に横になった。
「お休み、ルルーシュ。私の魔王」
「お休み、C.C.。俺の魔女」

初投稿(09/05/02)
誤字修正(09/05/03)
改訂(09/12/25)



[8411] 2話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/04 00:28
ジェレミアは朝に総督代行用の回線から受けた情報を整理していた。
「おはよう、オレンジ君」
「き、き、貴様はゼロ!」
「ふふ、朝から元気だな、オレンジ」
「貴様、必ず捕まえてクロヴィス殿下の仇を討ってやる」
「まあ、落ち着きたまえジェレミア総督代行殿」
「貴様のようなテロリストと話すことなど無い」
「おやおや、良いのかな。オレンジの居場所を全力で見逃してもらった礼に教えようというのに」
「私はオレンジなど心当たりなど無い」
「ふふふ、アッシュフォード学園のクラブハウス。そこにオレンジ、
 いや閃光の遺児たちが匿われてる」
「!!」
「おや、どうしたのかな?総督代行殿」
「もしや、ルルーシュ様とナナリー様が………」
「さて、私も忙しい身なので、そろそろ失礼させてもらうよ」
「待て、貴様!」
プツ………ツーツー…………

ジェレミアはゼロからの情報から、アッシュフォード学園について調べてみた。
少ない時間だったが、ルルーシュとナナリーの情報はアッシュフォード学園には無かったが、
アッシュフォード学園の学生のブログや日記には、高等部生徒会副会長ルルーシュ・ランペルージや
その妹ナナリー・ランペルージについて書かれていたものも多かった。
その容姿はルルーシュのほうは黒髪で紫紺の瞳、ナナリーのほうは盲目で車椅子。
あの時、日本に人質として送られ、終戦後に死亡したとされる后妃マリアンヌ様の遺児。
そう思うと、居ても立っても居られなくなり同じ純血派のキューエルとヴィレッタを連れて、
アッシュフォード学園に向かっていた。

「なんだ、オレンジ。いきなり私達を連れて何処へ向かうというのだ?」
キューエルの苛立った声をヴィレッタが取り成すように話した。
「キューエル卿、オレンジは所詮疑惑であり、われら純血派がそのように内部分裂しては
 こちらに来られるコーネリア皇女殿下への忠誠を示すことが出来ません」
しかし、ジェレミアは落ち着いた声でキューエルとヴィレッタに語りかけた。
「そのオレンジを確認しに行く」
「!!」
その言葉を受けて、キューエルはジェレミアに問い詰めた。
「貴様!オレンジとは何なのだ!今この場で嘘は許さんぞ!」
ヴィレッタもその言葉に続いて言った。
「ジェレミア卿、オレンジとは何なのか説明をお願いします」
二人の顔を見つめ、真剣な面持ちでジェレミアは呟いた。
「アッシュフォード学園に后妃マリアンヌ様の遺児、ルルーシュ様とナナリー様が匿われている」
ジェレミアの言葉は二人に、特にキューエルに衝撃を与えた。
「閃光のマリアンヌ様の御遺児がお隠れになっていたのか!」
「ジェレミア卿、では、オレンジを公表するというのは、お隠れになっていた、お二人の居場所を公表すると
 言うことなのでしょうか?」
「ああ、お二人は後援貴族のアッシュフォード家が没落しているので、皇室に戻れば外交の道具として
 また、どこかの国に人質として送られる可能性がある。
 その為にお二人の安全を確保するためにだ、アッシュフォード家、我がゴットバルト家、
 そしてキューエル、貴様のソレイシィ家で宮廷の後援とし、軍部の後援として純血派がお二人を支持したい」
キューエルはジェレミアの言葉を聞き、震える声で答えた。
「このキューエル・ソレイシィ。閃光のマリアンヌ様の御遺児を主君として抱くことに不満は無い。
 いや、むしろ主君としてお二方を迎えることが出来るのなら、騎士としてこれ以上の栄誉は無いと考える」
対してヴィレッタは冷静にジェレミアに問いかけた。
「我々、純血派がお二方を支援するとしても、それを皇帝陛下がお認めになるかが問題では?」
その問いを受け、ジェレミアは自分の考えを二人に語った。
「うむ。確かに我々だけが支持をしても、少々力不足だろう。
 しかし、このエリア11に赴任される新総督であるコーネリア皇女殿下がお二人を保護したなら、いかに皇帝陛下といえど
 無視は出来まい」
キューエルは納得顔で呟いた。
「確かコーネリア皇女殿下がマリアンヌ様に憧れているのは有名だからな。
 それにユーフェミア皇女殿下もヴィ家のお二方と交流をお持ちなっていたと聞いている」
それらを聞いてヴィレッタは安心したように呟いた。
「そういうことなら安心しました。
 お二方を担ぎ出し、不忠者として放逐されるような事態は起こらないわけですね」
ヴィレッタの言葉を聞き、ジェレミアはヴィレッタを見つめて話した。
「ヴィレッタ、そなたには今回の件が終わり次第、男爵位を持ってもらおうと思う。
 そしてそなたの立てたヌゥ男爵家はそのまま、ヴィ家のお二人を後援してもらう」
ヴィレッタは爵位を貰うと聞いて、驚いたようにジェレミアに問いかけた。
「私が男爵位、本物の貴族に。良いのですか、ジェレミア卿?」
「ああ、コーネリア皇女殿下もヴィ家のお二人を後援する貴族は多いほうが良いだろうと考えるさ」
そんな風に会話を行っていると、アッシュフォード学園に到着した。

ルーベン・アッシュフォードは学園長室で、3人の軍人と面談していた。
「ルーベン殿、そなたらアッシュフォード家の忠誠を我ら純血派は大いに評価しているのです」
その言葉を受けて、ルーベンは匿っている二人の皇族について考えていた。
元々、ルーベンとその孫娘ミレイはお二人を匿い、そのまま穏やかな一生を送って欲しかった。
出来ることなら、ルルーシュ殿下には孫娘のミレイの婿として、このアッシュフォードに入って欲しかった。
ミレイもルルーシュ殿下のことを憎からず思っており、このまま上手くいけばルーベンの思惑通りになると思っていた。
しかし、状況がそのようなことを言ってられなくなっていた。
彼のクロヴィス殿下を暗殺したテロリスト、ゼロにお二人の居場所がばれてしまったようだ。
アッシュフォード家の一門が、お二人の皇族を匿っているのは没落した家門を復興するためだと思ってるように、
自分やミレイが、二人をブリタニアに売り渡すことになるとは。
自分はまだ良い、しかし孫娘のミレイは悲しむだろう。
特にミレイはルルーシュ殿下のことを好いているのだから、そのようになった時の悲しみは容易に想像できる。
無駄だと思いながら、ルーベンは3人に抗弁した。
「このルーベン・アッシュフォードにマリアンヌ様の御遺児を、ブリタニアに売り払えと?」
それを聞き、交渉の中心に当たっていたジェレミアが答えた。
「そうではない。先ほども話したとおりに、我ら純血派と、ゴットバルト辺境伯家、ソレイシィ子爵家がお二人を後援する。
 また、リ家のコーネリア皇女殿下にもお二人の保護をお願いするつもりだ」
そう、これ以上、自分の力でお二人を守ることは無理なのかもしれない。
ルルーシュ殿下の才覚なら、この箱庭たる学園を出てもナナリー様のお二人で生きていくことも可能だろう。
そう思い、言葉を紡いだ。
「分かりました。お二方をここへお呼びします。
 しかし、最終的な判断はお二人に委ねるという事で宜しいでしょうか?」
「もちろん。皇族たるお二人の御意思を無視するほど、我等は不忠者ではない」
ジェレミア・ゴットバルト辺境伯、この男なら二人を裏切ることは無いだろう。
かつてマリアンヌ様のアリエスの離宮を警備し、しかしマリアンヌ様の暗殺を防げなかったことを、
後悔し続けている、この男なら。
しかし結局は、この男は軍人であり、そして騎士である。
宮廷の闇からお二人をお守りするには、政治力が、または権謀術数が足りない。
保護を求めるといったコーネリア皇女殿下も武人、高い皇位継承権を持つが女性の身であり軍人である。
これが文官のNo1であるシュナイゼル殿下や、宮廷に影響力を持っていたクロヴィス殿下なら、
純血派としての軍部の支持と併せて、御二人は磐石の基盤を持っていることになったであろう。
いや、悲観することは無いのかもしれない。
純血派、コーネリア殿下、そしてマリアンヌ様の遺児、これらのブランドはルルーシュ様そしてナナリー様に
軍部の圧倒的支持を与えるだろう。
コーネリア様を武官のNo1として、そしてその補佐をルルーシュ様が行い武官のNo2、
またはコーネリア様に足りない政治力の補完を行って、リ家に無くてはならないものとすれば、
リ家の後援貴族をそのまま御二人の後援貴族として取り込むことも可能だろう。
なにより、そうなった時ルルーシュ様は直系男子、いかに直系の子の中で継承権が低かろうと女であるコーネリア皇女殿下より、
シャルル陛下の後継として第99代皇帝に登極する可能性は高い。
だからこそ危険とも言えるが、ここはルルーシュ様の才覚を信じることにしてみるしかない。
「私だ、ルーベンだ。ミレイ・アッシュフォード、ルルーシュ・ランペルージ、ナナリー・ランペルージの三名を至急、
 学園長室に呼び出してくれ」
ルーベンが孫娘のミレイを呼び出したことに疑問を感じて、ジェレミアはルーベンに問いかけた。
「ルーベン殿、孫娘のミレイ嬢も呼び出すのですかな?」
「孫娘も事情を知っている者であり、お二人を直接フォローしているのです。
 なら、今後のためにも、この場に呼びつけたほうが良いと思いましてね」
ルーベンの答えは、ジェレミアを納得させ、また二人に対するアッシュフォードの忠誠が感じられるものであった。

初投稿(09/05/02)
誤字修正(09/05/03)
誤字修正(09/05/04)



[8411] 3話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/03 05:26
コンコン……。
扉よりノックの音が聞こえた。
その音を聞き、ジェレミアとキューエルは緊張と高揚を感じ、身を硬くした。
このような事で、戦場でも感じたことの無い緊張を感じるとは、自分はまだまだだな。
そして、このような事でマリアンヌ様の御遺児を守ることが出来ようか。
そのように考え、ジェレミアは強く自らの身を律することにした。
「ミレイ・アッシュフォード、ルルーシュ・ランペルージ、ナナリー・ランペルージ、入ります」
柔らかな女性の声が聞こえてきた。
ルーベンの孫娘ミレイが代表して、声を出しているのだろう。
「入れ」
ルーベンが問いに答え、それを受けてミレイは扉を開け、部屋を見回した。
「!」
部屋に軍人、しかもエリア11の総督代行であるジェレミアの姿を確認した瞬間に、
後ろに居る二人を庇うように体が動いて、言葉を発していた。
「お爺様、一体どういうことなのです?!」
「落ち着け、ミレイ。これから説明する。それよりもルルーシュ様、ナナリー様。どうぞ、こちらに」
そう言って、ルーベンは二人を部屋に引き入れた。
そして、二人の姿を見たヴィレッタは思わず叫んでしまった。
「アラン・スペイサー!」
「ヴィレッタ!殿下の御前だぞ!」
ジェレミアがヴィレッタを叱責するが、それをルルーシュが止める
「いや、構わない。シンジュクゲットーでは、世話になったな」
ルルーシュの口から「シンジュクゲットー」という単語が出たためにルーベンはルルーシュに問いかけた。
「ルルーシュ様、シンジュクゲットーでは何があったのか、説明をお願いできますか?」
部屋に居る総ての人間が自分を見つめているのに気付いて、シンジュクゲットーでヴィレッタと出会った顛末を説明した。
もちろん、ギアスやC.Cそしてクロヴィス暗殺のことは伏せてだ。
「お兄様、危険なことは、やらないでくださいと言っているのに」
「すまない、ナナリー。これからは気を付けるよ」
ナナリーが場を代表して、ルルーシュの行動を諌めた形になったようなので、ルーベンは次の話題に移ることにした。
「さて、ルルーシュ様、ナナリー様。これから現在の状況と、これからの展望を説明いたしますので、
 それによるご判断をお願い致します」
その言葉に受け、ナナリーの体は震えた。
そして、震えたナナリーをミレイは包むように抱きしめた。
ルルーシュは安心させるように、ミレイの反対側から手を握り締めた。
そんな様子を見て、ジェレミアとキューエルは二人の不遇さに心を痛め、更なる忠誠を捧げ二人を支えようと考えた。
しかし、ヴィレッタは冷めた目で眺めた。
そして、自分達の旗頭となるべく皇子を値踏みする視線で見つめた。

説明の終えたルーベンは、ルルーシュからの言葉を待った。
二人の判断といっても、ルーベンにとって第一の主君はルルーシュである。
ナナリーは年少であり、目と足が不自由であることもある、ナナリーもさすが皇族と思わせる才覚はあるが、
それでもルルーシュと比べると数段劣ると見ていた。
ルーベンはルルーシュを後援としての贔屓目を抜きにしても、かの帝国宰相シュナイゼルを超える、
悪くてもそれに匹敵する才覚を持ち合わせているだろうと考えている。
だから、純血派の女騎士がルルーシュを値踏みする視線で眺めても気にはならなかった。
むしろ、ルルーシュを評価せずに単なる神輿にしようと判断したと感じたなら、純血派を切り捨ててしまえば良いと考えた。
一旦、帝国と接触しさえすれば、かの帝国第一の騎士ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿に話を持っていけばよい。
そう、彼の騎士はマリアンヌ様を尊敬する好敵手であり、皇帝陛下の次に忠誠を誓うべく主君であると考えていたはずだ。
ルーベンが持っている人脈は、爵位を失っても活きている。
むしろアッシュフォードの家門を守るために、爵位を持っていた頃より、その人脈は広がったと言っても良い。
そんなふうに、ルルーシュの言葉を待っていると、ナナリーから声があった。
「コゥ姉様の保護を受けるのですか?」
「そうだね。ナナリーは、ユフィやコーネリア姉上と仲が良かったから」
「お兄様、私はお兄様の判断に従います」
ナナリーは握っているルルーシュの手から、ルルーシュの心を感じながら言った。

ナナリーには異能がある。
触れた相手の心、もしくは考えを読み取るという異能を持っている。
この能力は、目と足を失った変わりに手に入れたものだった。
最初は、触れた相手が嘘をついている、または触れたときに相手の考えをイメージとして思い浮かぶ程度であったが、
月日を経るたびに能力は強くなっていった。
今では、集中して触れれば相手の心の深いところまで読み取れるようになっていた。
その為、今回のことはルルーシュが謀ったことであるというのも知ることが出来た。
ナナリーにとってルルーシュの思考を読み取るのは非常に困難であることが多い。
その理由として、まずは思考速度が異常に速いことがある。
ナナリーが理解する前に、次の思考に移り結局その思考を読み取れない状態になる。
もう一つの理由が、思考の数の多さである。
最少で3つ、最大だと20以上の別の思考を同時に処理しているのである。
最大の数が不確定なのは、ナナリー自身がルルーシュの思考を20以上追うことが出来なかったからである。
しかし、ナナリーにとってルルーシュの心は確実に感じるものが一つある。
兄が自分のこと何よりも愛しているということだった。
その揺ぎ無いものは、ナナリーにとってもっとも安心できる事実でもあった。
今、自分を心配して抱きしめてくれているミレイの心も感じることが出来る。
兄に対する恋心と、それを表に出すことが兄の重荷になるかもしれないと思っていることも。
兄を見つめているルーベンのことも分かっている。
ルーベンが兄を第一の主君として考えていることも、そして兄の才覚を誰よりも買っていることも。
だから、目の前に居る三人を試そうとナナリーは考えた。

「良いでしょう。あなた方の提案に乗りましょう。ただし、いくつかこちらの提案を呑んで貰うが」
ルルーシュが発言したことによって、場の流れが決まった。
「おお。われらが主君となる殿下の提案なら、どのようなものでも受け入れます」
ジェレミアが感動気味に答えた。
兄が彼らの提案を受けること明確にしたので、彼らを試すのは今だろうとナナリーは考えた。
「お兄様。宜しいですか?」
「なんだい、ナナリー?」
「ジェレミア卿、キューエル卿、ヴィレッタ候。手を」
そう言って、ナナリーは忠誠を求めるように手を差し出した。
その行為に、ジェレミアとキューエルは感動した。
流石は皇族。お隠れになっていても、その高貴さは失われないものだ。と。
それぞれ忠誠を誓う言葉を捧げながら、ナナリーの手を取った。
ナナリーは二人が自分達を通して母マリアンヌを見てること知り、納得と少々の失望を得た。
逆にヴィレッタは、冷徹に自分達を見ていた。
自分に利するか、否か。それを冷徹に考えていた。
その為、ナナリーはジェレミアとキューエルの二人は、様子見。
ヴィレッタは信頼は出来ないが信用はしよう。
兄は間違いなく才覚のある人間なのだから、このヴィレッタという女騎士にとって利するのだから。
「私はここで話を詰めることにするから、ナナリーはもう戻って大丈夫だ」
「はい、お兄様。先に戻らせてもらいますね」
ルルーシュの発言を受けてナナリーは退出する。
それに併せてミレイも一緒に退出した。

初投稿(09/05/03)



[8411] 4話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/04 00:27
「まずは、オレンジ疑惑のジェレミアから報告を受けないといけないのか」
夕刻にエリア11に到着したコーネリアは、呆けた報告をする官僚にゼロを探し出す厳命を与えたあと、総督室で呟いた。
「姫様、こちらの調査ではジェレミアが賄賂を受け取っていたということは無いと判明しています」
コーネリアの選任騎士ギルフォードが、コーネリアにオレンジ疑惑の調査結果を報告していた。
「ふん、そのような疑惑が浮かぶこと自体がブリタニアの騎士として恥ずべき事なのだ」
そのように話していると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「姫様、アンドレアス・ダールトンです。ジェレミア・ゴットバルトを連れてきました」
「そうか。入れ」
コーネリアの声を受け、ダールトンはジェレミアを引き連れて入室した。
「さて、ジェレミア・ゴットバルト。先のオレンジ疑惑について申し開きはあるか?」
コーネリアは早速、ジェレミアを詰問した。
「そのことについて、ご報告があります。コーネリア皇女殿下」
ジェレミアはルルーシュとナナリーのことについての説明を行った

ジェレミアからの報告と説明が終わり、退出させたあとコーネリアの様子をみてダールトンは呟いた。
「上機嫌ですな、姫様」
「ふふ、そうか?まあ、嬉しい事には変わりないからな」
エリア11到着直後のピリピリとしていた雰囲気から一転して、非常に嬉しげなく空気をコーネリアは纏っていた。
「しかし、マリアンヌ様の御遺児が生きておられたとは、正直、驚きました」
「そうだな、ルルーシュとナナリーを宮廷スズメどもから守るために、私に保護を求めるとはな」
コーネリアの発言を受けて、ダールトンは自分の考えを伝えた。
「姫様。ゼロに御二人の居場所がばれているのならば、
 このエリア11の不穏分子どもにも御二人の居場所がばれていると考えて宜しいのでは?」
「そうだな、そう考えるのが妥当だろうな」
「なれば、SPと護衛部隊を派遣するのが宜しいかと思いますが」
ギルフォードのSPと護衛部隊の派遣を聞いて、コーネリアは先ほどのジェレミアの報告を思い出しながら考えを口にした。
「SPは既にアッシュフォードが周りには分からぬように配置しているだろう。
 また護衛部隊は未だに、二人の地位が確定していないのだから派遣することは難しいだろうな」
「ならば、御学友という形で護衛を派遣したら如何ですかな」
ダールトンの意見を聞いて、コーネリアは検討してみた。
ルルーシュは17歳だから、軍を探せば同年の優秀な騎士はいくらでも存在するから問題は無い。
ナナリーが14歳で、しかも女子というのが問題だ。
まず年齢で第一のハードルが高くなる。
優秀な名門の子弟なら騎士として働いていてもおかしくは無いが、後援貴族でない貴族に護衛を頼むのは弱みを握られるも同然になる。
皇族ヴィ家として、確立しているのなら多少の弱みは問題ないが、現状では致命的になる。
次が性別という第二のハードルだ。
学友として護衛を置くなら、同性であることが望ましい。異性が常に傍に侍っているのは身分が公表されたあとで問題になる可能性もある。
ここまでコーネリアは考えたが、自分ではナナリーの護衛についてよい案が浮かばないと思い、二人に意見を求めた。
「ルルーシュは良い。17歳の男子であるから、充てはいくらでもある。
 問題はナナリーだ。女子で14歳なのだから、良い心当たりがまったく無いのだよ」
「同性であれば良いのであれば、ヴァルキュリエ隊が存在しますが、さらに同年であると難しいですね」
ギルフォードの言葉を受けて、ダールトンも言葉を紡ぐ。
「有名所ですと、皇帝陛下直属のラウンズ最年少ナイトオブシックスですかね」
「そうだな、陛下から彼女をお借りできれば良いのだがな。流石に無理だろう」
結論の出ないまま、なんとなく発言を行いながら、そういえばマリアンヌ様がラウンズであったときもナイトオブシックスであった。
と、意味の無い方向にコーネリアの思考が飛んでいた。

ユーフェミアは自分を呼び出した姉が、考え込んで居るを見て心配そうに声を掛けた。
「お姉様?」
声を聞いてコーネリアは意味の無い思考を中断し、ユーフェミアの方に向いた。
「すまない、ユフィ。少々難しい問題について考えていたのだ」
「なら、お姉様。その問題について教えていただけませんか? 一緒に考えれば、きっと良い考えも浮かびますもの」
そう言って、姉を促した。
「やけに上機嫌だな。良いことでもあったのか?」
「ええ。懐かしい人たちのお話を聞けたのです」
その言葉を受けて、コーネリアが微笑を向けながら言った。
「そうか。私からの話も懐かしい人についてだ。しかもユフィにとって、とても嬉しい話でもあるな」
「そうなのですか。じゃあ、そのお姉様の嬉しい話を教えてください」
そう言って、ユーフェミアは再び姉を促した。
「ユフィ、落ち着いて聞けよ。ルルーシュとナナリーが見つかった」
「え?」
ユーフェミアは姉から言われた言葉に対して、理解できずに思わず聞きなおしてしまった。
「もう一度言うぞ、ユーフェミア。ルルーシュとナナリーが生きて見つかった」
姉の言葉の意味が理解できると、ユーフェミアの心は歓喜に溢れた。
「本当なのですか?! それに、今何処に居るのです? 直に会えるのでしょうか?」
「本当のことだから落ち着け、ユフィ。
 居場所だが、終戦直後にアッシュフォードが保護したらしい。
 だから、このエリア11のアッシュフォード学園クラブハウスに住んでいるそうだ。
 あと、いつ会えるかは近いうちに政庁に来てもらおうと思っている。
 予定が決まれば直に教えるから、勝手に会いに行くなよ」
そのように言われて、ユーフェミアは直に首肯した。
「もちろんです、お姉様。ですけど、奇遇ですね。
 私の懐かしい人たちの話も、ルルーシュとナナリーについてなんですよ」
それを聞いて、コーネリアは興味を覚えた。
「ほう。どんな話なのだ? ユフィ」
「はい、今日出会った枢木スザクから、友達となったルルーシュとナナリーの日本での生活や、
 遊んだこと、約束したことを話してくれました」
コーネリアは、開戦前に二人が預けられたのが枢木首相の家だったな。と、思い出していた。
そうして語り始めたユフィの話をギルフォードは切りの良いところでさえぎった。
「それで、ルルーシュはスザクに「僕たち二人が揃って出来なかったことなんてない」って言って、
 そして、ルルーシュはブリタニア皇帝になって、スザクは日本首相になり二国の友好を結ぶ約束したんですって」
「姫様、思い出話もよろしいですが、今は御二人の護衛について語りませんと、そちらのほうが一刻も争いますので」
「そうであったな、ギルフォード。すまぬ、ユフィ。話はまた時間が在るときに二人と供に4人で語り合おう」
それを聞いて、ユーフェミアは話を止め、コーネリアの話を聞くことにした。
コーネリアから護衛の話を聞いたユーフェミアは、部屋に来る前に政庁の人間に頼んでいたこと、コーネリアに話した。
「実はお姉様、先ほど話の出た枢木スザクなのですが、ルルーシュと同年ということで学校に行けるように政庁の人間に頼んだのです」
それを聞いて、皇族という特権を特定の人間に対して使うことに対してコーネリアは眉を顰めた。
「それでですね。そのスザクにルルーシュの護衛をお願いするのです。
 ルルーシュとスザクは親友だって言ってましたから、スザクも喜んで任務を受けてくれますし、
 ルルーシュも負担に感じることが無いと思うのです」
その意見を聞いて、コーネリア、ギルフォード、ダールトンは、なるほどと納得した。
「ユフィ、ルルーシュの方はそれで良いとして、ナナリーの方はどうするのだ?」
「お姉様、二人が皇族として発表されるのに、どれくらい掛かります?」
ユーフェミアになにか考えがあることを察して、質問に答えた。
「そうだな。大体一週間ほど掛かるな」
「ならば、その一週間、アッシュフォード学園にユーフェミア・リ・ブリタニアが留学するのです。
 もちろん宿舎は、ルルーシュとナナリーが住んでいるクラブハウスで。
 そうなれば、護衛が学園内に居ても問題がなくなります」
「ほう」と思わず感嘆の声がコーネリアの口から漏れた。
ギルフォードとダールトンも、ユーフェミアのことを感嘆の眼差しで見ていた。
「素晴らしいな、ユフィ。その案で護衛を送ることを検討しよう」
姉に褒められたことで、ユーフェミアは嬉しそうに頷いた。
「さて、もう時間も遅いし、本国との時差も大丈夫なようだから、今回の件を皇帝陛下に直接報告するとしよう」
そうコーネリアが言うと、この場を解散させた。

初投稿(09/05/04)



[8411] 5話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/04 18:58
夜、C.Cはルルーシュに今日、純血派からの提案とこちらからの提案の説明を掻い摘んで受けていた。
「こちらからの要求は、アッシュフォードの保護と、ナナリーの護衛か」
「そうだ。アッシュフォードには借りがあるし、ナナリーは守らなければならないからな」
「その割には、当のアッシュフォードとナナリーは純血派に対して、懐疑的だぞ」
「仕方ないだろう。それにジェレミア等が忠誠を見せれ続ければ、そこらは解決していくさ」
純血派とアッシュフォード一門、そしてナナリーの間にある微妙な確執を、ルルーシュは気楽に答えた。

ルルーシュは一般民衆を知っているが、理解はしていない。
それは第一の理由として、隣に立ち共に戦った者達、枢木スザク、皇神楽耶、黎星刻。
後ろを守り、手助けした後援者、ルーベン・アッシュフォード、桐原泰三。
前に立ち、敵対してきた者達、シャルル・ジ・ブリタニア、シュナイゼル・エル・ブリタニア、
コーネリア・リ・ブリタニア、ユーフェミア・リ・ブリタニア。
幸運なことに、この者達はルルーシュの言う”撃たれる覚悟”をしている者達だった。
そして不運なことに、”撃たれる覚悟”が無い一般民衆というのに対等に向き合う機会が無かったのだ。
第二の理由として、アッシュフォードが用意した環境と教育だった。
アッシュフォードがルルーシュに与えた教育は、理想的な皇族としての在り方を身に付かせるものだった。
ブリタニア人にとって、理想的なブリタニア人は皇族であり、理想的な皇族とは皇帝のことである。
これはアッシュフォード一門にとってルルーシュとは自分達の王であり、偶像だったからだ。
それはアッシュフォード学園にも深く影響していた。
ルルーシュの傍に侍る生徒会、これはアッシュフォードによって厳しく選別されて、
人品卑しからぬ能があるもののみが選ばれていた。
アッシュフォード学園という箱庭は、ルルーシュの王国であった。
ルルーシュはアッシュフォード学園の王(皇帝)であり、生徒会はその側近達と言える。
そのため、枢木スザクという新参者が学園で容認されたのはルルーシュが認めたからだ。
ルルーシュはスザクが受けていた嫌がらせをナンバーズだからだと誤解していたが、
ルルーシュという王が、新参者の枢木スザクに格別の寵愛を与え側近として侍っていたから、嫌がらせを受けたものだとも言える。
そして、一般民衆を理解していないルルーシュは、一般民衆というのを理解しているシュナイゼルから、
民衆の代表といえる黒の騎士団との離間の策をうければ、たやすく騎士団は離反する。
それは有る意味、当然のことであった。

C.Cはそんなルルーシュを眺めながら、ふとジノ・ヴァインベルグと出会い、語り合ったことを思い出した。
ゼロレクイエムが行われ、世界が平和になり、その世界を見るために放浪していたC.Cは
同じように放浪していたジノ・ヴァインベルグと遭い、興味を覚えて会話をしたことがあった。
「ジノ・ヴァインベルグ。私のことはC.Cと呼べ」
「何者だ?」
「ルルーシュの共犯者さ」
「先輩の?」
そんな風に自己紹介を行うと、向こうも興味を覚えたのか、むこうも話を聞く体制に入った。
「聞いた話では、お前はルルーシュのことを気に入っていたようだが、なぜ敵対したんだ?」
「ああ、そのことか」
ジノは過去の汚点を指摘されたように、顔を歪めた。
しかし、ルルーシュの共犯者と名乗る浮世離れした雰囲気を持つ少女になにかを感じたのか、当時の心境を語り始めた。
「嫉妬したんだと思う」
「嫉妬? ルルーシュにか?」
「いや、スザクに。先輩に出会って、王に出会ったと思ったんだ。
 領土も騎士も何も無い、だけど王だと思ったんだ。先輩のことを。
 日本人達はゼロという王に率いられ戦っていた。アーニャはナナリー様のために戦っていたと思う。
 そして、スザクは亡きユーフェミア様とナナリー様のため。
 自分にもそんな何かが欲しかった。そんな時に先輩と言う王を見つけたと思ったんだ」
「なら何故、馳せ参じて供に戦おうとしなかったんだ? あまつさえ、ビスマルクの反乱にまで加担して」
「あの学園で、ルルーシュ先輩って王を頂いて、それを補佐するリヴァル、騎士の自分、
 そんな学園内の王国ごっこが、とても心地よかったんだ。
 でも、先輩は皇族じゃない。いつか学園から卒業して王は居なくなり、王国が消える。
 だけど、だからこそ先輩は自分だけの王であり、先輩にとって自分だけが唯一の騎士なんだって考えていたんだ」
そして、楽しそうに語っていたジノは、今度は懺悔するように言葉を続けた。
「そして、先輩が皇帝として即位したとき、スザクを自分の騎士として紹介したとき。
 何故、自分じゃないんだ。スザクを騎士として紹介したんだ。スザクの居る場所は、自分の居場所なんだって。
 そんな風に思えて、自分の居場所を奪ったスザクに嫉妬して、自分を選んでくれなかった先輩を認めたくなかったんだ」
C.Cはこんな時は何も言わないほうが良いと思ったので、単純な相槌のみ打った。
「そうか」
「先輩はこんな自分を、嫌になっていないかな?」
「ルルーシュはそんなことで、お前を嫌ったりしないよ」
「そうかい? ありがとう」
「気にするな。その手の愚痴はルルーシュで慣れてる」
「はは、先輩も弱音を吐く事があったんだ」
C.Cは意地悪く笑いながら、言った。
「今思いおこせば、あいつは弱音ばかり吐いていたよ」
ジノは信じられないって顔をしてから、そして真面目な顔をして言葉を、誰に言うでもなく呟いた。
「もし、やり直すことが出来れば、その時こそ先輩の第一の騎士になりたいな」

そう、今度はジノ・ヴァインベルグが個人で持った妬心を、純血派そしてアッシュフォード一門が持つ可能性もある。
純血派、アッシュフォード一門はルルーシュを王として見出し、主君として仰いだのだから。
そういった意味では、前のアッシュフォード一門と黒の騎士団については運が良かった。
アッシュフォード一門はシャルルによって記憶が改ざんされていた為に、自分達の王を忘れていた。
黒の騎士団は、ゼロと言う王を補佐した扇が最初から居た。
扇は有能ではないが、無能でもない。
自身の才能を良く知っており、だからこそ団員の意見を纏めゼロに過不足無く伝え、
ゼロの指示を団員達に過不足無く噛み砕いて伝えることが出来ていた。
バベルタワーでのゼロ復活から、扇たちの救出までの数日間はゼロが居るにもかかわらず、団員達はゼロの意思を伝え、
ゼロに団員達の意思を伝える者が居ないため、不安に駆られていた。
しかし、扇が救出され、ゼロとの意思疎通がスムーズになると黒の騎士団の運営はスムーズに行われ、
ゼロが居なくとも、ゼロの示した目標に向かって進むことが出来た。
ゼロにとって、扇 要は藤堂 鏡志朗、ディートハルト・リート、紅月カレンといった人物よりも重要で必要な人材であったのだろう。
そして、今回は純血派、アッシュフォード一門といった派閥の意見を調整してルルーシュに進言し、ルルーシュの意思を伝える補佐が
居ないことになる。
それは前に裏切られた黒の騎士団の時と同様のことが自然と起こりえる。
さらにはルルーシュを主君にした者達の内ゲバが発生して、ルルーシュとナナリーを巻き込みながら崩壊していく可能性もある。

「ルルーシュ、やはりアッシュフォードと純血派の意見を取りまとめる調整役が必要だと思うぞ」
「それはルーベンにやってもらおうと思っているが、問題でもあるのか?」
それを聞いて、C.Cは顔を顰めて答えた。
「問題大有りだ。今、お前の取り込んでるものには二つの派閥がある。
 軍部を中心とした純血派、お前を保護し養育してきたアッシュフォードだ」
それを聞いてルルーシュ、何を当たり前のことを、と思っていた。
「そして、その意見を纏める調整役が、アッシュフォードと言う派閥の長であった場合、
 それは、アッシュフォードに対して有利な、もしくは純血派にとって不利な意見をお前が選択したときに、
 ルーベンがお前に取り入って純血派をないがしろにしていると受け取られるのだぞ」
ルルーシュはそんなC.Cの意見を聞いて、安心させるように自分の意見を言った。
「大丈夫だ。ジェレミアの忠義をC.Cだって知っているだろう。
 そんな事態になっても、ジェレミアが純血派を纏めてくれるさ」
その意見を聞き、C.Cはルルーシュは純血派という派閥でなく、あくまでジェレミアという個人を見ていると感じた。
しかも、悪いことにルルーシュに忠義を貫いたジェレミアが、純血派を統率しきるだろうと考えている。
オレンジ疑惑でジェレミアが純血派の崩壊を防げなかったことを覚えているのに。
ルルーシュの在りかたは王であり、民衆と言うのをまだ理解していないのだろうと、C.Cは感じた。
二つの派閥の色の付いていない意見調整役を探す必要がある。
ブリタニア人の意見調整だけなら、ディートハルト・リートでも問題ない。いざとなったら、扇 要を強引にでも引き込めば良い。
ルルーシュにとって、藤堂 鏡志朗、紅月カレンは直ぐに換えの効く人材であるが、
扇 要のような人材はなかなか換えが効かない人材であるようだしな。
そんな風にC.Cは考えていた。

初投稿(09/05/04)



[8411] 6話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/06 20:24
ナナリーは友人達と昼食を取っていると、いきなりミレイから声を掛けられた。
「ナナちゃん、ちょっとこれからルルーシュと一緒に会って欲しい人が居るのよ」
ナナリーは兄と一緒ということで、またあの軍人達に会うのかと考えてしまった。
しかし、続けられたミレイの言葉でそうじゃないことが判明した。
「実はこの学園に短期で留学生を受け入れるんだけど、その娘の宿舎がクラブハウスになってね。
 そこに住んでいる、ルルーシュとナナちゃんに先に会って欲しいのよ。
 その人と仲良くなって欲しいから、今日はその人のおうちにルルーシュと一緒にお泊りの予定」
自分達の事情知ってるアッシュフォードがクラブハウスに人を入れるということは、
それだけ重要な人物か、自分達の事情を知っている人間なのだろう。
そういった意味では、昨日会った軍人達と変わりは無い。そうナナリーは考えていた。
「じゃあ、ナナちゃんを連れて行くから。二人とも、美味しいお茶を用意しておくから、また生徒会に遊びに来てね」
「じゃあ、また明日。アリスちゃん、ダルクちゃん」

監視対象が去っていくのを見て、ダルクはアリスに話しかけた。
「やれやれ、今日のお仕事は終わりだから、学校生活を楽しみますか」
「そんな風に言わないの。ダルクだってナナリーのことは気に入ってるんでしょう」
そんな風にアリスに窘められながら、ダルクは苦笑しながら言った。
「ルクレティアほど監視対象にお熱じゃないわよ」
アリスはルクレティアが監視対象たるナナリーの兄、ルルーシュに熱を挙げているのを思い浮かべ、
ダルクと同じように苦笑した。

アリスとダルク、そしてルクレティアは7年前に作られた皇帝直属の情報機関、機密情報局に所属している。
主な任務は、ルルーシュとナナリー、そしてアッシュフォードの監視とエリア11の調査にあった。
その調査の中には、故クロヴィス総督の内偵も含まれていた。
アリスとダルク、ルクレティアそしてミレイを監視しているサンチアは、アッシュフォード学園内の監視が主な任務であった。
4人はナンバーズであったが、皇帝シャルルよりブリタニア人の戸籍とギアスを与えられた。
ギアスを言う異能を与えられたが、任務は監視と、その監視対象の護衛であった。
そのことに、4人は疑問を抱いていたが、生活や環境は悪くないので不満は無かった。
機密情報局のトップはナイトオブワンのビスマルク・ヴァルトシュタインだが、
実質的には4人の最年長のサンチアがリーダーとして活動していた。

「そういえば、うちのボスがこのエリア11に来るから気を引き締めておけって、サンチアが言ってたよね」
その言葉を聴いて、アリスはなんとなく不安を口にしていた。
「クロヴィス殿下が暗殺されちゃったから、私達、首なのかな」
その不安を打ち消すようにダルクはアリスに語りかけた。
「クロヴィス殿下の護衛は私達の任務外だから咎められる事は無い、ってサンチアも言ってたから大丈夫よ」
ダルクは続けて、自分の考えを話した。
「ほら、あたし達のボスが来るのは、エリア11での国威高揚のためだって。
 今ここは、クロヴィス殿下が暗殺されて、ゼロも現れて浮き足立ってるから、それを鎮めるためでしょう」
「そうね。そろそろ授業が始まるし、教室に戻りましょう」
アリスの言葉に促されて、二人は教室に戻っていった。

ルルーシュとナナリーは、ルーベンとミレイ連れられて政庁に来ていた。
そこでコーネリアとユーフェミアに再会していた。
コーネリアとユーフェミアは二人との再会を喜んだ。
その場が落ち着いたところで、コーネリアはユーフェミアの留学と、ルルーシュの護衛について説明を始めた。
「ルルーシュ、そなたの護衛として枢木スザク一等兵をつける。
 また枢木スザク一等兵をアッシュフォードに入学させる。
 ルルーシュ、枢木スザク一等兵はお前の親友だというし、お前にとってもやつが傍に居ても迷惑は無いだろう?」
コーネリアは優しげにルルーシュに問いかけた。
「もちろん、何の不満もありませんよ、姉上。
 よく私達とスザクの関係が分かりましたね」
ルルーシュがスザクとの関係を知ってることを疑問に思い、問いかけるとユーフェミアがそれに答えた
「実は私が租界に外出したときに、スザクと出会ったんです。
 その時に、スザクがルルーシュとナナリーのことを沢山、私に教えてくれたんですよ。
 でも、不思議なことに、スザクは私のことを最初から皇族だって判っていたみたいなんです」
そんなユフィの言葉に、今度はコーネリアが答えた。
「ユフィとルルーシュ、そしてナナリーは異母だとしても兄妹だからな、その絆を枢木は感じ取ったのだろう」
続けてコーネリアはルルーシュに告げた。
「では、ここに枢木を呼ぶとしよう。ギルフォード頼む」
ギルフォードはコーネリアの意を受けて、スザクを呼び寄せた。
呼び出されたスザクは、まさに騎士としての動作で皇族たちの前に現れた。
その動作は、ギルフォードから見ても騎士として洗練されているものであった。
しかし、その動作を裏切るように、その視線はルルーシュに釘付けになっていた。
それを見てギルフォードは、死んだと思っていた友が生きて居ることを、自らの目で確認しているのだろう。そう考えていた。
「枢木スザク一等兵よ。これから我が弟ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの護衛に任じる。その命と忠誠を持って職務に励め」
その任務を聞き、スザクは一分の隙も無い動作で膝を折り、答えた。
「Yes,Your Highness」
そして、そのままルルーシュの選任騎士のように、そこに居るのが当然といった形でルルーシュの後ろに立った。
その動作を見て、ユーフェミアは非常に嬉しそうにしたが、逆にコーネリアはかすかに眉を顰めた。
しばらく歓談したあと、ルルーシュはスザクを引き連れて席を外した。

ルルーシュとスザクの様子を見て、ユーフェミアは楽しそうに言った。
「やはり、ルルーシュの騎士はスザクで決まりですわね」
そんな言葉を受け、ナナリーも嬉しそうに言った。
「お兄様の騎士がスザクさんになるのですか」
そんな妹達の言葉を聴きつつ、コーネリアは考えていた。
ルルーシュを後援してるのはアッシュフォードと純血派だ。
そんなルルーシュの騎士にイレブンがなることは純血派の反発を買うだろう。
純血派の反発だけなら良いが、アッシュフォードとしても自分達が守ってきた自負があるのだろうから、
自分達の息が掛かった騎士をルルーシュの騎士にしたいだろう。
二つの派閥から反発を買わない、そして二つの派閥に染まっていない騎士を探し出し、
早急にルルーシュの騎士にするのが良いだろう。
時間が経てば経つほどに、ルルーシュの騎士を自分達からという期待が高まるのだから。
特に純血派は若手将校の集まりだ。血の気が多い騎士がルルーシュの騎士になることを夢見て暴走する可能性もある。
妹達が言うように、枢木スザクをルルーシュの騎士とするには、周りが黙るような功績が必要になる。
そう、たとえばゼロ捕縛のような目に見えて際立った功績が。

カメラの付いていない部屋に入り、ルルーシュはスザクに語りかけた。
「久しぶりだな、スザク」
それを受けてスザクは、持っていた銃をルルーシュに向けて言った。
「ああ、久しぶりだね。ゼロ」
ルルーシュが自分を見つめているのに気付いて、スザクはルルーシュに言った。
「ルルーシュ。僕にギアスは効かない」
その様子をみて、ルルーシュはスザクも記憶を持っているのだろうと判断した。
「いつから記憶が戻ってる? 純血派から助け出したときは、そんな様子は無かったはずだが?」
そんなルルーシュを、じっと見つめてスザクは銃を仕舞いながら答えた。
「ユフィと出会った時に。そちらはどうなんだい?」
「こっちはC.Cとクラブハウスで接触したときからだ」
ルルーシュはスザクと現状確認と今後のことについて語り始めた。

初投稿(09/05/05)
改訂(09/05/06)



[8411] 7話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/07 20:34
スザクを伴って、部屋に戻るとコーネリアが安心した顔でルルーシュに告げた。
「遅かったな、ルルーシュ。今、人をやって呼び戻そうとしたところだったぞ」
「申し訳ありません、姉上。久々に会って、いろいろ確認したいことが多くあったもので」
そんなルルーシュの言葉を聞いて、ナナリーはルルーシュに文句を言った。
「まあ、ひどいですわ、お兄様。私もスザクさんと、いろいろお話したかったのに抜け駆けするなんて」
「ごめんよ、ナナリー。でも、これからは何時でも会えるんだから、許してくれよ」
「もう。今回だけですよ。お兄様」
そんな兄妹のやり取りをみて、コーネリアは微笑んだが、気を引き締めてルルーシュとナナリーに告げた。
「ルルーシュ、ナナリー。これから通信機越しだが皇帝陛下に謁見することになる。
 その場で、ルルーシュとナナリーの皇族復帰が宣言されるが、これはエリア11の一部と本国上層部のみ知ることになる、
 正式発表は一週間後のクロヴィス国葬後になる」
「判りました。しかし、私もナナリーもアッシュフォード学園の制服のままですが、この格好でよろしいのですか?」
そんな疑問をコーネリアは答えた。
「今、二人の皇族服を作らせているが、間に合いそうにないのでな。
 それにアッシュフォードがお前達のために作った学園だ。その制服でも問題ないだろう」
その答えを受けて、ルルーシュはアッシュフォードがエリア11の軍部と上層部に対する牽制の一部として
コーネリアに二人がアッシュフォードの制服で謁見することを願い出たのだろう、と考えた。
これによって、アッシュフォードは皇帝に二人を保護し養育していることをアピールできる。
そして、新たに現れた軍部に対して圧倒的な支持を持つ皇族二人を、自分達アッシュフォード一門が
完全に掌握しており、自分達こそがヴィ家の後見筆頭なのだと周りに示したいのだろう。
そんな、既に発生している派閥同士の牽制や、それぞれがイニシアチブを握るためのやり取りを感じ、
ルルーシュは権勢や利益に惑わされないナナリーの騎士が必要だ、皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアの騎士でなく、少女ナナリーの騎士が。
そう考えた。

謁見の間に入ったルルーシュたちは、既に集まっていた官僚や軍人達の注目を浴びた。
その中には純血派のジェレミア達や、アッシュフォードのルーベンの姿も見受けられた。
そこで最もルルーシュの注意を引き付けたのが皇帝の映し出されるスクリーンの
隣に侍っている3人のラウンズであった。
ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン。
ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ。
ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。
コーネリアはラウンズの3人がこのエリア11に派遣されていることを驚いているルルーシュの様子に
いきなりの不意打ちでは、驚くだろうな、と考えていた。
そして謁見が始まり、スクリーンにシャルルが映し出された。
シャルルは早速ルルーシュに語りかけた。
「久しぶりだな、我が息子ルルーシュよ。
 互いに黄昏の間にて、優しい世界について語り合って以来か」
その発言を受けてルルーシュは、やはりこいつも記憶があるのかと考えた。
そんなルルーシュを無視して、さらにシャルルは言葉を続ける。
「ルルーシュよ、そなたには我とマリアンヌが求めた優しい世界の実現に手を貸してもらいたいと考える。
 その為に、そなたの求めた我が娘ナナリーの護衛として、我が騎士アーニャ・アールストレイムを派遣することにした」
ルルーシュはナナリーを人質に取られたと考えた。
アーニャの心には、母マリアンヌが巣食っているのだから、ナナリーを人質として自分を従わせる気なのだろう。
総てが後手に回っている。今、この場ではシャルルの策を受け入れるしかない。
ナナリーをシャルルの、マリアンヌの手から開放する最善手はギアスキャンセラー。
しかし、これはジェレミアを犠牲にしないと手に入らない。そして、ジェレミアを犠牲にする選択は破棄した。
なら、ナナリーを救う手立ての次善手を探す。
ルルーシュの様子を眺め、満足そうにシャルルは更にルルーシュに告げる。
「ルルーシュよ、そなたの元に居る我とマリアンヌの友であるC.Cに、我が計画に手を貸すように伝えよ」
「その必要はないよ。シャルル」
その声を聞いて、場に居たものは皇帝の名を呼び捨てで呼んだ不敬を咎めようとしたが、
当の皇帝が声の主に続けて、語りかけたのでそのタイミングを失ってしまった。
「久しぶりだな、C.Cよ。そなたが黄昏の間でルルーシュを選択して以来か」
「そうだな。で、私に何をさせるつもりだ、シャルル?」
そんなC.Cの質問を受けて、シャルルは答えた。
「C.Cよ。そなたは枢機卿として、第11皇子・第5皇位継承者、エリア11副総督ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを補佐せよ」
皇帝より告げられたルルーシュの予想以上に高い皇位継承権に謁見の間はざわついた。
クロヴィスが死んだことによる継承権の繰り上がりでなく、継承権入れ替えが行われたのだ。
ルルーシュがクロヴィスを暗殺したことを知る者達は、総ての情報を抑えているというルルーシュに対する牽制だと感じた。
しかし、クロヴィス暗殺の真実を知らない者達には、皇帝のルルーシュに対する期待の大きさを感じた。
それは皇族復帰直後でありながら、軍部の支持と女子の皇位継承者しか居ないリ家の後援を得て、
第1皇位継承者のオデュッセウスと帝国宰相シュナイゼルに次いで三番手の次期皇帝の有力候補に躍り出たのだった。
「残りの細かい俗事はビスマルクから聞くがよい」
そう言って皇帝の謁見は終了した。
そして、皇帝は結局ルルーシュのことしか語ってなかったと、コーネリアは気付いてしまった。

「お久しぶりでございます、ルルーシュ殿下。ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインでございます」
「お初に目に掛かります。ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグと申します」
「お久しぶりです。ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムです」
ラウンズがルルーシュに挨拶を終えると、ビスマルクが皇帝より預かった書状を読み上げた。
内容は以下のことであった。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは第5皇位継承者としエリア11副総督に就任すること
ナナリー・ヴィ・ブリタニアは第87皇位継承者とし、エリア11のアッシュフォード学園にて養育すること
ユーフェミア・リ・ブリタニアのエリア11副総督の就任を白紙とすること
それに伴い、ナナリー・ヴィ・ブリタニアと供にアッシュフォード学園に通うこと
ユーフェミア・リ・ブリタニアの護衛として、ナイトオブスリーを派遣すること
ナナリー・ヴィ・ブリタニアの護衛として、ナイトオブシックスを派遣すること
皇族二人を保護し養育したアッシュフォードに没収した爵位である伯爵位を再び授けること
純血派の今回の失態を不問とすること
そして、書状に書かれてはいなかったがC.Cの枢機卿就任も今回のことに含まれた。

その内容を聞いて、ナナリーだけでなくユーフェミアまで人質に取られたことをルルーシュは悟ってしまった。
前にルルーシュを閉じ込めていたアッシュフォード学園という鳥籠は、
今度はナナリーとユーフェミアを閉じ込める鳥籠になってしまった。
しかも周りにも本人達にも、それが鳥籠と気付かせないで。
高い継承権も報酬の前渡し、いや前に私達を捨てたと聞いたことに対する償いのつもりか。
そんな風に考えていると、コーネリアが話しかけてきた。
「いきなり高い皇位継承権と、エリア11副総督という地位を与えられて戸惑うのは判るが、
 それも、陛下の期待の高さの現われだ。それに恥じぬように職務に励み、このエリア11を衛星エリアに昇格させるのだ」
ルルーシュの様子を見て、コーネリアは過度の期待を受けて緊張しているのだろうと感じ叱咤激励を行った。
「ありがとうございます、姉上」
返答したルルーシュを見て、緊張がほぐれたのだろうと満足そうに頷いて、傍を離れていった。

そして、ルーベンらアッシュフォード一門、ジェレミアら純血派、エリア11の高級官僚、エリア11軍の高官達が
ルルーシュとナナリーに皇族復帰の祝い言葉を捧げながら、この場を解散して行った。

初投稿(09/05/06)
誤字修正・改訂(09/05/07)



[8411] 8話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/08 21:33
ルルーシュは自分に宛がわれた部屋にスザクとC.Cを伴って入室していた。
そして部屋の中でひどく荒れていた。
「くっ。総てが後手に回ってる。このままではシャルル達の思惑通りにしか動けなくなってしまう」
「落ち着け、ルルーシュ。向こうは7年間のアドバンテージがある。こちらが最初から不利なのは承知していただろう。
 その上での、現状での選択だったはずだ」
そう、C.Cに窘められた。
「ああ、判っていたさ。しかし今度こそ、ユフィをシャーリーをロロを救うことが出来るはずなんだ」
C.Cは少し時間を置いて、冷静になるまで待とうと考えた。そして、そんなC.Cに今度はスザクが問いかけた。
「C.C、君はどうやって、この政庁に入ってくることが出来た? ここは君のような不審者が簡単に入って来れないはずだ」
そんなスザクの問いに、C.Cはからかう様に答えた。
「良い女には秘密があるものだよ、坊や」
「はぐらかさないで欲しい、ここにはユフィとナナリーがいる。
 ルルーシュにとって一番の優先がナナリーであるように、僕にとってはユフィが一番の優先事項なんだ」
そんなスザクの言葉を受けて、C.Cはスザクを見つめながら言った。
「互いの一番大切なもののために、互いに手を取り合うのか。
 私なんかより、よっぽどルルーシュの共犯者のようだな」
「戯言は良い。早く答えるんだ」
「正面から堂々と入ってきたのさ。マリアンヌから「早く来ないとルルーシュを殺す」って脅されてな」
「ということは、警備の人間には話が通っていたということか」
ちょうどその時、部屋の扉が開いて、小柄な少女の姿が部屋に入り込んだ。
「久しぶり。ルルーシュ、相変わらず細いわね、ちゃんとご飯食べてる?」
扉を閉めて、いきなり話しかけるアーニャの姿を見て、C.Cは呟いた。
「マリアンヌか……」
「母さんが、ナイトオブシックスの権限を使ってC.Cを、この政庁まで素通しにしたのか」
「そうなのよ。ほら、前に黄昏の間でルルーシュに子供達を捨てたって言われちゃったじゃない。
 そのことで、シャルルと一緒に反省してね。こう陰ながら見守っていたのよ。
 V.Vは殺しちゃったけど、宮廷は二人にとって危険だったから、アッシュフォードが保護したのを渡りに船って感じで、
 二人を任せてみたのよ。
 まあ、アッシュフォードにも判らないように護衛を就けてたのよ。
 ほら、心当たり無い? 前に居なかった人物が近くに居るのを」
ルルーシュは驚愕に目を開いて、アーニャの姿をした母を見つめた。
「ナナリーの……」
「そう、アリスとダルクよ」
マリアンヌは続くべきルルーシュの言葉を待ったが、いつまでもルルーシュの言葉が発せられないために、不審に思って問いかけた。
「ねえ、ルルーシュ。あなたの周りのことは言わないの?」
「? 何を言ってるのです? 俺の周りには変化はないですよ」
マリアンヌは困った顔で、C.Cの顔を見つめたが、C.Cは首を横に振るだけであった。
「あのね、ルルーシュ。ルクレティアがあなたの護衛に付いているはずなんだけど」
「そういえば、彼女は前には居なかった人物だった」
「そう、とても良い子なのよ。アリスとダルクもナナリーに気を使ってくれる良い子だし。
 これがいわゆる親心ってやつね」
そんなマリアンヌの言葉にルルーシュは噛み付いた。
「そんな、俺達をいつも監視してるって念でも押しに来たのか! おとなしく言うことを聞かなければ、何時でも排除できると!」
「落ち着きなさい、ルルーシュ。あなた達を護衛しているのは機密情報局というのよ」
ルルーシュはその名称すら、皮肉を感じた。かつて弟が自分を監視するために所属していた組織の名前なのだから。
「一応ビスマルクがトップだけど、実質的なリーダーはミレイちゃんに付いてる最年長のサンチアって娘だから」
「ほお、それを何故、俺に教えるのです?」
「そんなに警戒しないの。サンチア、ルクレティア、アリスとダルク、この4人しか居ないけど、全員にギアスをシャルルが与えたの。
 そして、その機密情報局のトップをビスマルクから、ルルーシュに変更するから、上手く活用しなさい」
「判りました、母上。機密情報局を有効活用して見せましょう」
ルルーシュは、かつての機密情報局と同様に乗っ取ってやろうと考えていた。
そんなルルーシュの様子を見て、マリアンヌはため息をついて部屋を出て行った。

「ルルーシュ、僕達の優先すべきことは2つ。
 ラグナレクの接続の阻止。
 フレイヤとダモクレスを作成させないこと」
マリアンヌが部屋を出たあと、スザクはルルーシュに語りかけた。
「ああ、判っている。現状ではラグナレクの接続の阻止は、かなり後手に回ってるが、
 フレイヤとダモクレスについては、公な権力が手に入ったし、ニーナを抑えれば良いからな」
ルルーシュの言葉を聞いて、スザクは続けて口を開く。
「そう、ニーナにフレイヤとフレイヤ・エリミネーターを同時に開発してもらい、兵器として無効化させる」
「ダモクレスはフレイヤがなければ、脅威は格段に下がるからな。
 フレイヤがなければ、開発自体行われないかもしれない」
そう、ルルーシュは答えた。
「ルルーシュ、僕には既に「生きろ」ギアスが掛かっている」
「そうだな、そのことを考えると無意識集合体に既に「明日が欲しい」ギアスが掛かっていると考えられる。
 そして、それはラグナレクの接続を困難にし、やつらの計画を遅延させていることになる」
そこにC.Cの言葉が割り込んだ。
「だからこそ、シャルル達は私達を取り込もうとしているのだろう」
「ああ、やつらのラグナレクの接続を行う前に、やつらの計画を阻む手を見つけてみせる」
ルルーシュの言葉を受けて、C.Cとスザクは頷いて同意した。

コーネリアはダールトン、ギルフォードと供にビスマルクから、機密情報局の説明を受けていた。
その説明を聞き終わったあとにコーネリアは、やはり陛下はルルーシュを特別視している、と考えた。
このエリア11は途上エリアと言っても、重要な戦略物資のサクラダイトの供給地であり、中華連邦と接する最前線でもある。
そんな重要な地の副総督に、いきなり皇族復帰をしたルルーシュを抜擢するとは、
かつてシュナイゼル兄上が宰相の地位に就いたのと同様の衝撃が走るだろう。
ユーフェミアの副総督就任は、自分のゴリ押しだったが、ルルーシュの副総督就任は陛下のゴリ押しになるのだから。
そう考えると、陛下の御心では次の皇帝はルルーシュに決まっているのだろうか?
ラウンズのしかも、ナイトオブワンを一時期とはいえ派遣してきたことを考えると、あながち間違った考えでは無いのかも知れない。
「では、ユーフェミア様の留学中の護衛はヴァルトシュタイン卿が指揮を取るということで宜しいのですね」
「そのように陛下から伺っております」
ギルフォードの確認に答えるビスマルクを見ながら、これもユフィの護衛でなくルルーシュの護衛なのだろうな、と考えていた。
「ヴァルトシュタイン卿の指揮下にある機密情報局は、ルルーシュ様の皇族復帰正式発表後に指揮権がルルーシュ様に移ることになります。
 このことは、既にルルーシュ様はお聞きになっているのでしょうか?」
「現在、ナイトオブシックスが説明を行っています。
 彼女はナナリー様の護衛に就くため、機密情報局の説明を受けておりますので」
「なるほど」
そんな部下達とビスマルクの会話を聞きながら、やはり女の身では、いくら武勲を立てても皇位継承には参加できないのか。
かつて見たマリアンヌ様に憧れ、戦場に立ちナイトメアを駆ったが、届かぬものがあるのか。
そんな風に考え、コーネリアは鬱々とした気分になっていくのを感じた。
「姫様?」
ギルフォードが自分に心配そうに声を掛けるのに気付いた。
コーネリアは安心させるように言った。
「すまぬ。既に話は現場レベルのようだから、私は席を外しても大丈夫だろうか?
 ユフィとナナリーが待っているので、そちらのほうに注意がいってしまってな」
そんなコーネリアの様子を見て、ギルフォードは安心したように微笑み、そして答えた。
「もちろん、大丈夫です、姫様。あとは我々にお任せください」
「すまぬな。では、後は任せる」
「Yes,Your Highness」
3人の返答を聞きながら、今の気分を換えるようにユーフェミアとナナリーの待つ部屋へと、コーネリアは向かっていった。

初投稿(09/05/07)
改訂(09/05/08)



[8411] 9話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/08 21:33
教室に到着し、席に荷物を置いたあと、ルルーシュは目的の人物を探し始めた。
教室を見回し、目的の人物を見つけると、ルルーシュは近づき、話しかけた。
「ルクレティアさん、話があるんだけど、良いかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
ルルーシュはルクレティアを連れて、教室を出て行った。

二人が教室を出て行って、しばらくすると、教室はざわつき始めた。
「ちょっとリヴァル、ルルからさっきのことを何か聞いてないの?」
「いや、何も聞いてないけど。しかしルルーシュ先生は、相変わらずお目が高い」
そんなリヴァルの面白がる声を聞いて、シャーリーは反論した。
「相変わらずって、カレンの時は、カレンを気遣ってだから違うでしょ」
「いやいや、今回の彼女は、優しい雰囲気と柔らかい物腰で男子生徒から、なかなか人気があるんですよ。
 妹大好き人間のルルーシュが、ナナリーと似た空気を持つ彼女に今まで興味がなかったほうがおかしいんですよ」
「ちょっと、リヴァル!」
そのリヴァルの言葉に、シャーリーは思わず叱責してしまった。
「ごめん、ごめん、って」
「もう、真面目に答えてよ」
シャーリーの微妙に切羽詰った空気を読んで、リヴァルは真面目に答えることにした。
「うーん、そうだな。多分ナナリーに関しての話じゃないのかな」
「ナナちゃんの? ルクレティアさんとナナちゃんの接点が判らないんだけど?」
二人の接点がわからないシャーリーは、リヴァルに更に問いかけた。
「彼女の妹が、ナナリーの友達だからな」
「え。アリスちゃんとダルクちゃんのどっちが?」
「両方。ま、家庭の事情ってやつだな」
「そうなんだ」
リヴァルのはぐらかした答えを聞いて、シャーリーはそこで会話を終わらせた。

屋上にルクレティアを連れ出したルルーシュは、早速問い詰めた。
「俺は既に、機密情報局について聞いている」
その言葉を聞いて、ルクレティアは悲しい気分になった。
今朝、サンチアからルルーシュ達の身の上と、機密情報局の意味を伝えられていたが、
こうやって目の前で、現実を突きつけられるのは、やはりつらいものがあった。
もう自分は彼からクラスメイトでなく、機密情報局の駒、もしくは彼を監視する密偵としてしか、見てもらえないのだろう。
しかし、ナナリーに機密情報局のことが伝わってないのは良かった。
アリスとダルクがナナリーに持っている親愛と友情は本物だから、今の自分のように猜疑の目でナナリーに見られるのは悲しいからだ。
「私も既に、ルルーシュさんのことは聞いてます」
「そうか、皇族復帰正式発表後に指揮権が、ビスマルクから俺に移ることも聞いてるな」
「はい」
ルクレティアの様子を見て、ルルーシュは万難を排する必要があると考え、言葉を続けた。
「指揮権移譲後の最初の俺の命令は、機密情報局のナナリーへの接触の禁止だ」
「そんな!」
ルクレティアの予想だにしない反応に、ルルーシュは疑問を覚えて言葉を重ねた。
「別に驚くことはない。それに正式な命令で離れるのだから、処罰されることはない」
そんなルルーシュの言葉を聞いて、ルクレティアは感情のまま言葉を紡いだ。
「アリスとダルクがナナリーに持ってる友情を否定して、引き裂くというんですか!」
その言葉を受けて、ルルーシュも感情のままに言葉を紡いだ。
「その友情は、監視のための偽物の友情だろう!」
「最初はそうかもしれない。でも、彼女達が過ごした時間に嘘はないはず!」
ルルーシュはかつて、偽りの弟を懐柔するための言葉を、ルクレティアの口から聞いて気勢を削がれてしまった。
ロロを懐柔するために偽りで言った台詞を、彼女が二人のために本気で言ったのを否定したくて、更に反論した。
「大体、お前達は血の繋がりもない偽りの姉妹じゃないか! それなのに、何で二人の為に行動するんだ!」
「確かに、血の繋がりもない偽りの姉妹かもしれない。でも、私は二人を妹だと、サンチアを姉だと、みんなを家族だと思ってる!」
「!!」
ルクレティアの言葉を聴いた瞬間、ルルーシュは自分の中の何かが折れるのを感じた。
「すまない、ルクレティア。感情的になりすぎた」
ルルーシュが折れるのを見て、ルクレティアも冷静さを取り戻した。
「ごめんなさい。私も感情的になってました」
ルルーシュは、ルクレティアに向けて言った。
「アリスとダルクにナナリーの護衛について、ありがとう、と。そして、これからも護衛を頼む、と伝えてくれ」
そのルルーシュの言葉を聞いて、ルクレティアは嬉しそうに微笑んで言った。
「はい、必ず二人に伝えますね」
そのまま、教室に戻ろうと踵を返していたルクレティアをルルーシュは呼び止めた。
「ルクレティア。今まで、ありがとう。これからも、よろしく頼む」
「はい。では、先に戻ってますね」
そして、ルルーシュを残して、ルクレティアは教室に戻っていった。

午後、全校集会でユーフェミアが短期留学することと、その護衛としてラウンズと護衛部隊が来ることが発表された。
全校集会後、生徒会メンバーはクラブハウスに集合し、ユーフェミアと護衛たちと顔合わせをすることになった。
互いに自己紹介を行い、それぞれ男子と女子グループが出来、歓談が始まった。
「始めまして、カルデモンド卿。ジノ・ヴァインベルグと申します。どうぞ、ジノと呼んでください」
「あ、始めまして。リヴァル・カルデモンドです。俺のことも、リヴァルで良いからさ」
「じゃあ、リヴァル先輩って、呼ばせてもらいます」
リヴァルは、ジノが自分にだけ自己紹介したのを疑問に感じて、ルルーシュに問い掛けた。
「あれ? ルルーシュは既にジノと知り合い?」
「ああ、昨日、会長に呼び出されて出かけただろう。
 あれはユーフェミア様との、顔合わせの為に政庁に行って来たんだよ。
 その時に会ってるから、紹介済みってことさ」
そんな、ルルーシュの説明を受けてリヴァルは納得した。
「な~るほどね」
「リヴァル先輩は、ランペルージ卿とは長い付き合いで?」
「ジノ、俺のこともルルーシュで良いぞ。
 そうだな、高校に上がってからだから、1年ちょっとの付き合いかな」
ルルーシュの答えを受けて、二人の関係を何気なくジノは言葉に出していた。
「そうなんだ。二人はもっと長い付き合いなのかと感じたんで」
それを受けて、リヴァルは秘密めかして答えた。
「まあ、俺とルルーシュは二人で、何度か危ない橋を渡っている、相棒ってやつだからな」
「なんです、それ」
そんな会話をリヴァルとジノが行ってるわきで、ルルーシュはスザクを呼び寄せた。
「おーい、スザク。こっちだ」
その声を受けて、スザクが3人の元に近づいてきた。
「リヴァル、彼が枢木スザクだ。
 俺の古い友人でな。ここがエリア11になる前に、彼の家で世話になったこともある」
「あ、そうなんだ。始めまして、俺はリヴァル・カルデモンド。リヴァルって呼んでくれ」
「始めまして、僕は枢木スザク。僕のこともスザクで良いよ」
ルルーシュはかつての生徒会メンバーが殆ど揃っており、居ないのはロロだけなことに少しの寂しさを感じ、
そして、自分では果たせなかった、かつての約束を思い出していた。

初投稿(09/05/08)



[8411] 9.5話 前編
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/28 23:20
「にゃ~にゃ、にゃ~」
「にゃ~、にゃにゃ」
ユーフェミアとナナリーが、アッシュフォードに迷い込んだネコ相手にネコ語的な何かで会話をしていた。
このネコは租界でスザクとユーフェミアの治療を受け、既にアーサーと言う名をユーフェミアより授けられている。
これらのことを受け、ミレイはアーサーを生徒会室で飼う事を決定し、
そして、ユーフェミアとナナリーはネコ語的な何かで、そのことをアーサーに伝えていたのだった。

その様子を眺めながら、ルルーシュはスザクと雑談をしていた。
リヴァルとジノもなにやら雑談をしている。内容はチェスの話のようで、ルルーシュとスザクを巻き込んで4人で雑談を開始する。
「ルルーシュ先輩、賭けチェスに行くときは、今度は俺も連れて行ってくださいよ。護衛くらいになりますよ」
内容が賭けチェスになり、ジノが次に行くときは自分も連れて行って欲しいと願った。
これは、自分が護衛すると言う意思表示だろう。そうルルーシュは考える。
そんな風に時間を過ごしていると、ミレイとニーナが生徒会室に戻ってきた。
二人は生徒会室でアーサーを飼うための許可を職員室まで貰いに行ってたのだった。

ミレイとニーナが戻ってきたときには、ナナリーとユーフェミアの話題はユーフェミアの持っているロケットに移っていた。
そんな中、アーニャも話題に乗ってきて、幼い頃のルルーシュの写真を二人にこっそりと見せていたりもする。
アーサーはユーフェミアの手によって、左右に揺れるロケットに本能を揺り動かされていたのだった。
本能の赴くままに、揺れるロケットに前足を伸ばして、ロケットにちょっかいを出す。
そしてロケットに前足が強く当たったのか、大きく揺れてユーフェミアの手から離れてしまう。
「きゃ」
ユーフェミアが小さく悲鳴を上げると同時に、ロケットの鎖がアーサーの首に巻きついてしまった。
アーニャがそれを見て、アーサーからロケットを取ろうと、いきなりアーサーの頭上から手を伸ばす。
その行為にアーサーは危険を感じて、生徒会室を飛び出して逃げてしまった。
「あら、逃げちゃいましたね」
呆然とユーフェミアが呟いて、その呟きを聞いたミレイが慌てて確認をする。
「お怪我はありませんか? ユーフェミア様」
ミレイの言葉を受けて、ユーフェミアはのんびりと答える。
「はい、怪我はないですけど。アーサーの首に大事なロケットが絡まったまま逃げてしまいました」
その言葉を聞き、ルルーシュが即座に席を立つ。
「スザク! アーサーを捕まえるぞ」
ルルーシュの言葉を聞き、スザクもまた即座に席を立って答える。
「判った!」
そして、ルルーシュとスザクは共に生徒会室を足早に去っていった。
「私も探してくる」
そんな二人を見てアーニャもまた、すぐに生徒会室を去る。
3人が生徒会室を去っていったのを、見送りながらミレイはどうするかを考えていた。
「あの~、会長。俺達も探しに行ったほうが良いですか?」
曖昧に笑いながら、リヴァルは自分とジノを指差しながら問いかけた。
ミレイは少し考えてから、二人に指示を出す。
「リヴァルとジノは、ルルーシュ達と合流して、協力してアーサーを捕まえて。
 残った私達は放送室に行って、全校生徒にアーサーを捕まえるように放送を流すわ」
「判りました」
リヴァルが返事をして、二人も生徒会室を去っていった。
ミレイは、ニーナ、ナナリー、ユーフェミアを眺めながら告げる。
「私達は放送室に行きましょう」

スザクは隣で走っているルルーシュに問いかけを行う。
「前にも似たような事があったけど、あの時は何をアーサーに取られたんだい?」
その問いを聞き、ルルーシュは渋面を表しながら答える。
「アーサーがゼロの仮面を被って、学園内を逃走したんだ」
「ルルーシュ、君って時々物凄く間抜けになるね」
あまりの答えにスザクは呆れてしまった。
「あれは、偶々だ。大体気付いたときには、アーサーが仮面を被っていたんだから、俺の責任じゃない」
スザクの態度に、ルルーシュは思わず反論してしまう。
「うん、判ってるさ」
そんなルルーシュにスザクは笑いながら頷いた。

「ネコだ! 校内を逃走中のネコを捕まえなさい!」
ミレイの声が校内放送によって、響き渡る。
「ネコを捕まえたクラブは来期の予算を優遇します。そしてネコが持っているロケットはユーフェミア様の物なので返却してください。
 なお、捕まえた人には生徒会メンバーから、キッスのプレゼントォォォォォォ。ゴホッ、ケホッ」
ミレイの放送に学園内は騒然とした。そして、それにユーフェミアの言葉が続いた。
「ミレイ生徒会長の言葉を、このユーフェミア・リ・ブリタニアの名の下に保障しましょう」
その皇族の名の下に保障された報酬は、学園の生徒達の士気を上げることになった。

「く、会長。また悪乗りして」
ルルーシュの呟きに、スザクも苦笑する。
「でも、これで僕達も本気でかからないとね。ナナリーやユフィの唇がかかっているのだから」
「そうだな、本気で行くぞ」
「Yes, Your Majesty」
スザクが嘗て手を組んだときのように返事をした、その時にルルーシュの携帯が鳴る。
「ん。リヴァルからだ」
そう言って、ルルーシュは携帯に出た。
「はい」
「お、ルルーシュ。今何処にいる? 会長が合流してネコを探せってさ」
「なるほど、今、校舎とクラブハウスの間にある橋にいる」
「お、見えてきた。んじゃ、切るな」
そう言ってリヴァルは携帯を切って合流する。
「合流完了っと。んで、これからどうするんだよ、ルルーシュ?」
早速リヴァルはルルーシュにこれからの行動を聞く。
少し考えてから、ルルーシュは方針を決めた。
「スザクとジノはポイントマンとしてネコを追い詰める係りだ。俺とリヴァルは目撃情報などを整理して、二人に指示を送る」
それを受けたスザクが、ルルーシュに告げる。
「ルルーシュ、僕は携帯を持ってないんだけど」
その言葉に、ルルーシュはもう一つの携帯を出した。
「俺の予備を貸す。これを使え」
「判った」
そして、ルルーシュは三人に号令を出す。
「それじゃ、行くぞ」
「了解」
返事をしたリヴァルに、スザクとジノは笑いながら訂正した。
「リヴァル、こんな時はこう言うのさ」
「Yes, My Lord」
スザクとジノの言葉にリヴァルは笑いながら納得し、ルルーシュに頼んだ。
「ルルーシュ、悪いけどもう一度、号令を頼む」
その言葉にルルーシュは頷いて今一度、号令を掛ける。
「では、アーサーを捕獲する。行くぞ」
「Yes, My Lord」
三人はルルーシュの号令に答えた。

ミレイの放送を聞いたアリスは直に隣に居るダルクに話しかける。
「ダルク、ネコを探すわよ」
「ちょっとアリス、そんないきなり」
「いきなりじゃないわよ。いい? 誰か男が見つけたらその男にナナリーがキスするのよ。
 それは、護衛の任務を受けてる私たちが阻止しないといけないじゃない」
「ちょっと、アリス。理論が飛躍しすぎてるわよ」
ダルクは冷静さを欠いているアリスを宥めようとする。
「大体、あたし達だけじゃネコの位置すら把握できないわよ」
「大丈夫よ。サンチアもルクレティアも手伝ってくれるわ」
やけに自信満々にアリスが言い切るのでダルクは疑問に思い質問をする。
「やけに自信満々に言い切るわね。何でそんな風に考えられるのよ?」
「生徒会メンバーには、ルルーシュさんが居るのよ。だから、ルクレティアは手伝ってくれるわ。
 そして、私とルクレティアが参加して、ダルクが消極的賛成ならサンチアはリーダーとして私達の面倒見てくれるから、
 だから、私達の参戦は決定って事よ」
アリスの言葉にダルクは感心と呆れを持つ。
「なるほどね。んじゃ、早速二人に連絡いれて合流した方が良いわね」
「私がサンチアに連絡するから、ダルクはルクレティアに連絡して」
「了解」
二人は、ここに居ない仲間に連絡を入れた。

放送を聞いてヴィレッタは呆れてしまう。
しかし、ユーフェミアのロケットがネコに奪われたままというのは、具合が悪そうなのでビスマルクに相談する事にする。
その為、詰め所となっているクラブハウスの一室に向かいビスマルクに面談しようと移動を開始した。
クラブハウスに向かう途中で運良くヴィレッタはビスマルクに会うことが出来た。
「ビスマルク卿、ちょうど良かった。先ほどの放送でユーフェミア様のロケットをネコに奪われたとの事ですが、我らも捜索を行いましょうか?」
ビスマルクにどのようにするか、問いかけた瞬間に女学生の会話が二人の耳に入る。
「生徒会メンバーってことは、ルルーシュ君もよね」
「え~、やだ。それなら、がんばってネコを捕まえないと」
「もしかして、ジノ様も含まれるのかな?」
「だったら、うれしいよね」
女学生達の会話が耳に入ったビスマルクは苦笑いをしながら、ヴィレッタに言う。
「学生達の楽しみを奪うべきではないな。我らは静観するとしよう」
その言葉を発した直後に、今度は男子学生の会話が二人の耳に入る。
「生徒会って事は、ミレイさんは勿論、カレンさんやシャーリーさんもだよな」
「うおお、みなぎってきた」
「ユーフェミア様は流石に無いと思うけど、アーニャちゃんはアリじゃないの?」
「ええ。じゃあ、ナナリーちゃんもアリ?」
ナナリーの名が上がった瞬間にビスマルクは、通信機を取り出して連絡を入れた。
「現在、待機中の者は総て、ネコの捕獲に出動せよ」
ビスマルクの変わり身にヴィレッタは驚きながら、おずおずと提案する。
「ヴァルトシュタイン卿、護衛の指揮を引き継ぎましょうか?」
「うむ、宜しく頼む。我はネコ捕獲の指揮を取る」
ヴィレッタの提案を聞いて、ビスマルクは頷きながらヴィレッタに指揮権を渡した。
「Yes, My Lord」

初投稿(09/06/28)

あとがき
諸事情により本編が書き上がらなかった為、申し訳ありませんが途中まで書いてある外伝を
本編の替わりに掲載させていただきます。

読者の方々に、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。



[8411] 10話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/09 21:23
カレンは久しぶりに租界を抜け出して、ゲットーの扇グループの元へ向かっていた。
数日前にアッシュフォード学園に皇族が短期留学してきたとき、義母の喜びようはなかったものだ。
その為、毎日学校に通うことを強制されて、今までゲットーに行くことが出来なかったのだ。
生徒会メンバーとして、今回留学してきたユーフェミアと接触する機会が多かったが、思ったより悪い人間ではなかった。
護衛として付いてる名誉ブリタニア人の枢木スザクに対しても、なんら含むことなく接している。
なにより、日本人のことをイレブンと呼ばずに、ちゃんと日本人と呼んでくれるのは内心、少しだけ嬉しかった。
中等部に所属しており、生徒会に顔を出しているナナリーに対して、何くれとユーフェミアが世話を焼くことも意外であった。
本人の弁では、共にクラブハウスで生活しているし、妹が欲しかったのだと。
その世話を焼いている姿を見て、かつての兄と自分の幸せだった時間と重なって見えた。
その後で、ブリタニア皇室では同母の兄弟以外は皇位継承の競争相手であまり信用できない、そんな事情をミレイ会長が教えてくれたが。
共に護衛として付いてきているラウンズも、話してみると悪くは無かった。
中等部でナナリーと同じクラスに入ったアーニャ・アールストレイムは、とっつき難い所があったが、よく携帯で画像を取って、
それをブログにUPしてる普通の少女に思えたし。
ユーフェミアと同年であるため、同じクラスに入ったジノ・ヴァインベルグは結構気さくなやつで、枢木スザクにも良く話しかけている。
また、護衛そっちのけでルルーシュ、リヴァル、枢木スザクに絡んで、この学校生活を楽しんでいる。
ナナリーの兄であり、いけ好かない生徒会副会長ルルーシュ・ランペルージに枢木スザクという、日本人の友人が居たことも驚きだった。
確かに、自分の中にブリタニアに対する怒りと憎しみはある。
しかし、それがブリタニアの象徴である皇族ユーフェミアに重ならなくなっている。
それはブリタニア人に対する怒りと憎しみが、生徒会メンバーに重ならなくなったことと同様であった。
そして、曖昧になり始めた自分の中のブリタニアに対する怒りと憎しみを再確認するために、ゲットーの扇グループの元へ行くのだった。

扇グループのアジトに到着すると、玉城が大きな声で何か主張していた。
「だからぁ、今がチャンスなんだよ。ここで成功すれば一発逆転できるんだよ!」
そんな声を聞きながら、カレンは扇に挨拶をした。
「扇さん、こんにちは。なにか作戦のことでも話し合ってたんですか?」
「久しぶり、カレン。来てしまったならのなら、しょうがないが。しばらくは学校生活を楽しめって言ったじゃないか」
そんな扇の苦言を、カレンは苦笑しながら答えた。
「ちょっと、みんなの顔が見たくなって」
「そうか」
そんなやり取りを扇としてると、玉城がカレン相手に主張してきた。
「なあ、カレン。今、俺達は毒ガス奪取作戦に失敗してる。変な仮面の男を手伝って、枢木スザクを純血派から奪ったのに、
 評判になっているのはゼロばっかりで、俺達のことは全然話題にならない」
その言い草に、カチンと着てカレンは反論した。
「ちょっと、ゼロを手伝ったのは私と扇さんだけじゃない。しかも矢面に立ったのはゼロだけなんだから、話題にならないのは当たり前でしょう」
「う、確かにそうだけどよぅ。けどさ、カレンと扇が手伝ったんだから、少しくらい話に出ても、良いじゃネエか」
そんな二人の様子に扇は仲裁に入った。
「まあまあ、落ち着け二人とも。カレンも来た事だし、さっきの話を最初から検討しよう」
その言葉を聞いて、レジスタンスメンバーは同意した。
レジスタンスメンバーが同意したことを確認して、扇は話し合っていたことを整理しながら、説明を始めた。
「まず、今回の話は玉城たちが仕入れてきた情報だ」
その言葉をうけて、玉城、杉山、吉田が頷いた。
「ブリタニア第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアが租界内の学校に留学中だという」
「え」
続けて言われた扇の言葉に一瞬、思考が停止してしまった。
その様子を見て、扇が問いかけた。
「どうした? カレン」
「なんで、ユーフェミアが留学中だって、知ってるの?」
そのカレンの様子を驚いてるものだと思った玉城は、気を良くして言った。
「有能な俺様が租界内で情報収集した結果さ」
それを聞いて、杉山がすかさず突っ込みを入れた。
「偶然、ブリタニア兵の話を立ち聞きしただけさ」
そして、扇はそのまま話を続けた。
「で、玉城たちの提案で、その留学中の皇女を誘拐しようって話なんだ」
「え、誘拐?」
カレンが聞き返したので、扇は律儀に答えた。
「そう、誘拐。上手くいけば皇女の身柄を使って、ブリタニアから大幅な譲歩がもらえる。
 流石に日本独立は無理でも、日本人達の地位向上は出来るかもしれない」
扇の言葉を受けて、井上が言葉を続けた。
「私は流石にブリタニアのお姫様と言っても、民間人に手を出すのは嫌なんだけどね」
「俺も反対だな。ブリタニアの皇女ということは、かなりな護衛が就いている事が予想されるから、成功する確率は低い」
南も井上の言葉を受けて、反対の意思を表した。
逆に玉城は自分が持ってきた情報なので、誘拐を行うことに乗り気だった。
「だからぁ、ナイトメアも、もう無いし。このままじゃ、ヤバイってことは判ってるんだろう。
 それを覆すために、ここで一発勝負を行わないと、ダメだろう」
その玉城の意見を聞いて、杉山と吉田もそれぞれ意見を言った。
「俺は玉城の意見に賛成だ。このままじゃ、レジスタンスとしての活動自体出来なくなる」
「俺も玉城に賛成。新宿での失敗がでかい。ここで何かやらないと、これからの活動に支障が出る」
そんな風に全員の意見を聞いた扇は、カレンの意見を聞こうとして話を振った。
「こんな風に意見が割れてな。それでカレンの意見も聞きたいんだが」
「え、誘拐って、ユーフェミアと一緒にクラブハウス住んでるナナリーが危険なんじゃ」
そんな心在らずに呟いたカレンの言葉にレジスタンスメンバーは色めきたった。
「カレン、何か情報を持っているのか?」
扇は皆を代表して、カレンに質問した。
「はい」
カレンは自分の知ってる情報を、扇たちに話した。

カレンからの情報を聞いた扇たちは、また打ち合わせを再開した。
カレンの通っているアッシュフォード学園にユーフェミアが居ると聞いたときは、誘拐賛成派は色めきたったが、
護衛にラウンズが3人派遣されてると聞いて、意気消沈した。
元から、誘拐反対派はラウンズが派遣されていることを含め、目と体が不自由な民間人と共に暮らしていると聞いて、
更に反対してきた。
「でもよぅ、その目と足が悪いのを盾にすれば、誘拐出来そうじゃねぇか。なんでも、そいつら仲が良いんだろう」
その意見を聞いた井上と南が反論した。
「ちょっとそれは、後味が悪すぎるわ。逆にそんなことをしたら、誘拐に成功しても徹底的にやられそうじゃない」
「そうだ。それで成功しても、いやそれで成功したら逆に日本人達の立場が悪くなる」
自分の持ってきた情報だけあって、ここで誘拐を成功させたい玉城は感情的になって、反論した。
「後味が悪いって、そいつは結局ブリキなんだぜ!」
その言葉を受けて、カレンは反射的に言い返した。
「ちょっと、ナナリーを悪く言わないでよ!」
カレンの言葉を聞いて、玉城は今度はカレンに噛み付いた。
「はっ、ブリキの学校に通って絆されたのかよ。直人の妹つっても、お前は半分はブリキだからな!」
「な、私は日本人よ!」
「二人とも落ち着け」
仲裁に入った扇を見て、玉城ははき捨てるように言った。
「はっ、本当のことじゃねぇか。気分ワリィ、先に帰らせてもらうぜ」
そう言って、玉城はアジトを出て行った。
「すまない、カレン。玉城も感情的になっただけで、本心じゃないと思うんだ。だから、気にしないでくれ」
そんな扇の謝罪を受け、カレンも答えた。
「いえ、良いんです。私がハーフだっては事実だから」
扇は重ねて、カレンに謝罪した。
「そうか。すまない」

玉城が出て行き、カレンを帰してから、場は解散となった。
解散となった場所で、扇は一人考えていた。
やはり、自分では人を率いていくのは無理なんだろう。
あのゼロを最初に見たときは、物語の人物が自分の前に現れたのかと思ってしまった。
新宿でクロヴィス率いるブリタニア軍を蹴散らした、知略。
枢木スザクを純血派から奪い返した豪胆さ。
なにより、その総てで人を引き付ける、あのカリスマ。
彼と手を組み、彼に率いられて活動すれば日本開放も出来るのかもしれない。
幸い、彼の連絡先は記憶している。
一旦、彼と連絡を取ってみて、これからについて考えてみるのも悪くない。
扇はそこまで考えて、ゼロと連絡をつける事を決意した。

初投稿(09/05/09)



[8411] 11話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/10 20:49
スザクは学校の階段の踊り場に立っているルルーシュを見かけて、近づいた。
近づいてくるスザクを見て、ルルーシュは携帯の接続を切った。
スザクはルルーシュが携帯から暗号化ツールを外すのを見て、問いかけた。
「暗号化ツールを使う相手と連絡なんて物騒だね。誰と連絡してたんだい?」
そんなスザクの問いに、ルルーシュは気楽に答えた。
「扇からだ。内容はグループ内の愚痴と、自分達と手を組まないかという勧誘だ」
そんなルルーシュの言葉にスザクは意外そうに質問した。
「連絡先を教えていたのかい? 君のことだから、直に手を切って痕跡を消すと思ってたんだけど?」
そのスザクの言葉を聞いて、ルルーシュは苦笑しながら答えた。
「お前を助け出すときに、手伝ってもらったからな。それにこの手の伝手は多ければ多いほど、良いからな。
 具体的な不都合がなければ、接触する窓口は残しておくほうが上策だろう。
 と、前回は考えていたが、今回は流石に、そろそろ切ったほうが無難だな」
「そうだね。そういえばジェレミア卿とかの姿を最近見ないけど、どうしたの?」
スザクは何気なく疑問に思ったことをルルーシュに聞いた。
「ジェレミアたち純血派は、テロ組織撲滅の為に、このエリア内を奔走してるよ」
「そうなんだ。今回はコーネリア総督から干されなかったんだね」
その言葉を聞いて、ルルーシュはばつ悪そうに答えた。
「ああ、今回はオレンジ疑惑は無くなったからな」
「あれ? ルルーシュにスザクじゃん。こんなところで何、立ち話してんだよ。
 早いとこ、生徒会室に行こうぜ」
階段の下の廊下から、リヴァルに声を掛けられ、ルルーシュとスザクは生徒会室に向かって移動し始めた。

テロ組織のアジトを壊滅させ、休憩用のテントの中でジェレミアはキューエルと歓談していた。
「ジェレミアよ、我ら純血派に優先的にテロ組織を相手取り武勲を上げるチャンスがあるのは良いのだが。
 やはり、我等としては、ヴィ家の御二人の護衛として近くに侍りたいと思うのだが」
ジェレミアはキューエルの言ったことを、前に自分も考えコーネリアに上奏したことがあり、
その時の事について、キューエルに語った。
「うむ、実は私も同様のことを考えてな。コーネリア皇女殿下に上奏したことがあるのだ。
 そしたらコーネリア皇女殿下から、まずはクロヴィス殿下の暗殺と、ゼロに枢木スザクを強奪された汚名を雪ぐことを
 優先すべきだと言われたのだ。なにより、そのことをコーネリア皇女殿下に提案したのが、ナナリー皇女殿下であるのだから、
 我等としては汚名を雪ぎ、かの姫君の期待に沿わなければなるまい」
ジェレミアの説明を受けて、キューエルは納得したように言った。
「なるほど。そうなれば、ナナリー皇女殿下の期待に沿うように武勲を上げねばなるまいな。
 もしや、今回の護衛にヴィレッタが参加しているのも、ナナリー皇女殿下の采配か?」
キューエルの新たな疑問を受けて、ジェレミアは続けて答えた。
「うむ。流石に我等から一人も護衛を出さないのは、まずいだろうと、ナナリー皇女殿下がヴィレッタを護衛に入れるように取り諮ってくれたのだ」
ジェレミアの答えを受け、キューエルは申し訳なさそうに言った。
「我等が守るべきお方に、そのような気遣いをさせるなど、なんと未熟で恥ずべきことだろう」
そんなキューエルを見て、ジェレミアは純血派がヴィ家の二人を中心に纏まり、戦意を高めている状態に満足していた。

ゼロとの通信が終了して、扇は憂鬱になっていた。
グループ内の現状を話し、ゼロにリーダーとして自分達を率いて欲しいと伝えたが、返された答えは明らかに乗り気が無いものであった。
その様子から、コンタクトの取れた通信も切られ、こちらから接触することが出来なくなりそうだった。
枢木スザク救出の時に、グループ内の全員で手伝っていれば、いま少し向こうの心象も良くなり、今回の話も聞き入れてもらえたかもしれない。
そんな風に考えていると、アジトの扉が開き、玉城が中に入ってきた。
「よう。って、なんだ扇だけかよ」
「俺だけって。おまえなぁ」
相変わらずの玉城の様子に、扇は苦笑した。
「そうそう。扇、昨日はすまなかったな。ついつい、カッとなっちまってな」
玉城は直に感情的になるが、時間がたって自分が悪いと思えば、直に謝ることが出来る。
そんな玉城の様子を見て、扇は安堵して言った。
「ああ、判ってるよ。だけど、カレンにだけはちゃんと謝っておけよ」
「判ってるって。んで、そのカレンはまだ来てないのか?」
玉城の問いに、扇は答えた。
「ああ。昨日の今日だしな。しばらくは来ないように言っておいた」
「ワリィな。なんか気を使わせちまってよ」
その見慣れない玉城の姿が可笑しくて、苦笑しながら答えた。
「気にするなって」
それで気分を変えたのか、玉城は扇に問いかけた。
「んで、昨日の話しだけどよ。流石に誘拐は無理だって、俺も思ったわけだよ。
 でも、そうなると俺達が、これからどうするかって話が出るじゃん。
 そこら辺を扇は、どう考えているんだ?」
「ああ、実はさっき、ゼロに連絡を取って俺達と組まないかって話を持ちかけたんだ」
それを聞いて、玉城は驚いたように答えた。
「あの仮面野郎を仲間にするのかよ」
「断られてしまったがな」
それを聞いて、玉城は別の意味で不機嫌になった。
「チッ、俺達は手を組むには値しないってことかよ」
そんな玉城を宥める様に、扇は言った。
「仕方ないだろう。一回目の時は、成り行きで手を組んで。二回目の時は、俺とカレン以外、手伝わなかったのだから」
「仕方ないって。大体、あんな怪しい仮面野郎を手伝うほうがおかしいだろ、普通はよ」
玉城の言い分に、納得できるものもあり扇は、それを受け入れた。
「まあ、玉城の言うとおり、あの仮面は確かに怪しいよな」
「だろう」
互いに笑ったあと、玉城が更に疑問を投げかけてきた。
「そういや、結局オレンジって、なんだったんだ?
 仮面野郎から聞いてないか?」
「そういえば、聞いてなかったな」
「それを聞き出せば、上手くすりゃ、俺達の活動に有利になるんじゃないのか?」
玉城の意見を聞いて、それもそうだと思った。だが、口に出たのは別の言葉だった。
「確かにそうだが、俺達にはもう、それを知ることは無理だろうな」
「なんでだよ? 連絡先知ってんだろ?」
「確かに向かうから教えてもらった連絡先は知っているが、こちらの勧誘を断られたから、その連絡先はもう使えないと考えて良いだろう」
扇の言葉を受けて、玉城はがっくりとして、呟いた。
「あ~あ、なんか、上手くいかないよなぁ。なんだったら埼玉のレジスタンスグループと合流でもするか?」
扇は、玉城がなんとなく呟いた、埼玉のレジスタンスグループとの合流を、悪くない手だと考え、今度検討してみようと思った。

初投稿(09/05/10)



[8411] 12話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/11 21:28
「ミレイ会長。朝からルルの姿が見えないんですけど、何か知ってません?」
シャーリーにルルーシュの所在のことを問われて、ミレイは困ったように笑いながら答えた。
「あ~、そのね、実はルルーシュとナナちゃんは、政庁のほうに行ってるんだ」
「え~、これからクロヴィス殿下の国葬式があるんですよ。
 いくらナナちゃんがユーフェミア様のお気に入りだからって、皇族の方と一緒に国葬に臨むのは無理なんじゃないんですか」
その、どこかずれた意見を言うシャーリーに、ミレイはその認識を改めさせた。
「違う、違う。ルルーシュとナナちゃんは国葬後にあるイベントの関係で政庁に行ってるんだって」
「あ、そうか。ユーフェミア様の留学は今日までだから、そっちのほうか」
そんな風に言って納得しているシャーリーを見て、ミレイは曖昧な笑みを保ったままだった。

クロヴィス国葬式典後の、ルルーシュとナナリーの皇族復帰の発表、そしてルルーシュのエリア11副総督就任は
アッシュフォード学園では驚愕と、幾ばくかの納得を持って受け入れられた。
そんなアッシュフォード学園の生徒会室では、ミレイがシャーリーとリヴァルによって詰問されていた。
「ちょっと、ミレイ会長! ルルとナナちゃんが皇族って、一体どういうことでなんですか?」
「そうですよ、会長。いきなりルルーシュが皇族って、説明してくださいよ」
二人の様子を見て、ミレイは二人を宥めるように言った。
「説明するから、落ち着いて欲しいな。特にシャーリーには」
「べ、別に動揺とかしてませんし、私は十分落ち着いてますよ」
シャーリーの反論を微笑みながら受け、そしてルルーシュとナナリーの経歴等の説明を始めた。

ミレイからの説明を受けた生徒会メンバーは、それぞれに納得していた。
「だから、ミレイちゃんは二人に気を使っていたんだね」
そんなニーナの台詞をうけ、それぞれに感想と発言を始めた。
「あ~、会長。俺、ルルーシュを賭けチェスとかに連れて行ってたんですけど、それって処罰の対象になります?」
「リヴァルのそんなことより、ルルとナナちゃんって、学校辞めちゃうんですか?」
そんな風に騒いでいる生徒会メンバーの中で、カレンは一人呆然としていた。
カレンは数日前に玉城に言われた言葉が、頭に蘇りながら考えていた。
カレンにとって、ナナリーは自分が憎むブリタニアと最も重ならない存在だった。
弱肉強食を謳うブリタニアの中であっても、明らかに弱者と呼べる存在であり、
彼女の兄ルルーシュが彼女に何くれと構う姿を、かつての自分と兄を重ねて見ていたこともある。
その彼女を、新宿で虐殺を行ったクロヴィスと同列に見ることはカレンには無理であった。
そんな風に思考の迷宮に入り込んだカレンを、ミレイは気を遣って語りかけた。
「ほら、カレン。いくら驚いたからって、そんなに呆然としないの。
 今日は、生徒会のお仕事も無いし、みんな落ち着くために解散しましょう。
 では、かいさ~ん」
ミレイの号令を受け、生徒会メンバーは解散した。

カレンは纏まらない思考を持て余しながら、前日に受けた扇からの連絡を思い出していた。
「カレンか。実は俺達はこのままじゃ、どうしようもないから、他のレジスタンスグループとの合流を考えているんだ」
「そこで候補に挙がったのが、埼玉のレジスタンスグループなんだ。
 あそこはゲットーの住人のほとんどがレジスタンスグループを支援してるし、俺達を受け入れてくれる余裕もありそうだからな」
「とりあえず、玉城と杉山、その纏め役として南の三人に、埼玉に行ってもらうことにしたんだ」
「そんな訳で、アジトに来ても誰も居ないことが多くなると思う」
「そうそう。玉城のやつが、反省しててカレンに謝りたがっていたから、あいつに会って謝罪を受けたら、許してやってくれないか?」
「それじゃ、落ち着いたら連絡するから、それまでは学校生活を楽しめよ。またな」

カレンは扇グループが他のレジスタンスグループに吸収されることに、なんとなくの拒否感を持っていた。
元々このグループは兄・直人が結成した組織で、カレンにとっては行方不明になった兄の形見のようなものであった。
虎の子のナイトメアも新宿での活動で失い、スザク奪還時も扇が乗っていたナイトメアは乗り捨てていた。
その為、グループ内に残っている武器は、旧式の小火器が少しといったところだった。
そのように考えていると、カレンの頭に天啓のようにひらめくことがあった。
そうだ、ゼロと手を組もう。
カレンは自分の頭に浮かんだ案を、検討してみた。
ゼロは仮面は怪しいが、新宿やスザク奪還を見るに、その能力に疑いは無い。
どんな手段かは判らないが、必要とあればナイトメアを調達してくる、あの手腕も素晴らしいものがある。
なにより、彼と手を組めば兄の残したグループが、他のレジスタンスに吸収されることなく残ることが出来る。
そこまで考えると、ゼロと手を組むというのは最上の手段のように思えた
そしてカレンは、次に扇の連絡を受けたときに、この案を提案しようと決意した。

新宿に残っていた扇たちはクロヴィスの国葬式典と、その後の発表を見て驚いていた。
「しかし、カレンの言っていた、このナナリーって子が皇族だったなんてな」
「そうね。でも、誘拐しなくて正解だったんじゃないの。皇族だったなら、その護衛はかなりのものになっているでしょうからね」
扇の発言を受けて、井上が今回の判断に対して安堵して言った。
それについて、吉田が追従する様に言葉を紡いだ。
「まったくだ。チャンスと思って飛びついていたら、罠にかかって終わるところだったな」
二人の様子に、誘拐しなかったことに対する後悔がないように見えて、扇は安心した。そして、場を明るくするように、おどけて言った。
「玉城あたりだと、逆に誘拐しとけばよかったって、騒ぎそうだけどな」
そんな扇の言葉に、二人は笑いながら同意した。
一頻り笑うと、井上が心配そうに呟いた。
「でも、カレンは大丈夫かしら。このナナリーって子のことを、かなり気にしていたからね」
吉田も、それを聞いて呟いた。
「そうだな。こうやって見ると確かに、敵として思い難いってはあるな」
扇は二人の感想を聞いて、ふと思ったことを口にしていた。
「ん? そうなると、このルルーシュがカレンの話していた、いけ好かないカッコつけのルルーシュって訳か」
カレンからルルーシュへの文句を聞いていた二人は、笑いながら答えた。
「この子が、あのルルーシュって訳ね。枢木スザクを友達って言うくらいだから、日本人にたいして穏健なのかも」
「でも、カレンが言うほど、カッコつけとは見えないけどな」
吉田の言葉を聞いて、井上が笑いながら答えた。
「ほら、カレンもお年頃ってやつじゃないのかしら」
「ははは、なるほどな」
そんな二人のやり取りを聞いて、扇は発言をした。
「実際にカレンにとっては、この二人が皇族だってことでレジスタンス活動に支障が出るかもな」
扇の発言を受けて、吉田も自分の考えを言った。
「まあ、カレンは埼玉のグループと接触が終わるまで、こっちの活動にはノータッチだから大丈夫じゃないのか。
 それにカレンだって自発的にレジスタンス活動してるんだ、いざとなったら覚悟を決めるだろ」
「確かにそうだな。でも、カレンには友達を撃つ様なことはして欲しくないな」
扇はカレンについて、祈るような気持ちで自分の考えを口にした。

コーネリアは総督室で、ギルフォードとダールトンと共に軍事作戦の検討を行っていた。
そんな中にC.Cはノックもせずに総督室に入ってきた。
「これは枢機卿猊下、なにか私に御用でも?」
かつて黒の騎士団で纏っていた衣装と同じデザインで、胸の黒の騎士団のマークからブリタニアのマークに変わっただけの衣装を着たC.Cは、
拘束衣を着ていた頃と比べると、格段に怪しさが減り、また枢機卿という地位によって政庁のどの場所でもフリーパスで行動できていた。
「いや、暇だったから昔話でもしようと思って来ただけだ」
その言葉を聞きコーネリアは、C.Cに今回は退散してもらおうと語りかけた。
「実は現在は軍事作戦の検討中でして、この後でよろしかったら、お付き合いしますが」
C.Cはそんなコーネリアの様子を頓着せずに、総督室をうろついていた。
コーネリアは、このC.Cという女性が苦手であった。
俗世の権力とは結びつきは無いとはいえ、皇帝に次ぐ枢機卿という地位に就き、
また、皇帝と后妃マリアンヌの友というのも、コーネリアに遠慮させるものがあった。
昔話として、ギルフォードやダールトンに、自分とマリアンヌの話を、特に自分がマリアンヌの前で失敗した話や、
マリアンヌに挑んで一蹴された話をされたので、苦手になってしまった。
そんなC.Cが机上の地図を見て、呟いた。
「シンジュクゲットーの地図と、サイタマゲットーの地図か。
 ゼロに招待状でも送って、捕まえようとでも言うのか?」
それを聞いて、三人は驚愕しながらC.Cを見た。
「よくお分かりになりましたね。その手の知識をお持ちで?」
ギルフォードがC.Cに対して、質問を行った。
「いや、なんとなく、そう思っただけだ」
C.Cは偶然だと言う様に答えた。そして、C.Cはそのまま言葉を続けた。
「だが、今回はゼロは捕まらないと思うぞ」
「何故です? ゼロはプライドの高い劇場型の犯罪者、ここまで舞台を用意すれば、必ず乗ってくるはず」
コーネリアはC.Cの意見を否定した。
「そうだな、ゼロはプライドの高い、ブリタニアとブリタニア皇族に恨みのある、頭の良い人間だからな」
C.Cの言葉で、自分の中に不安感が広がっていくのを否定するために、言葉を紡いだ。
「そうです。ここでゼロを捕まえて、ルルーシュとナナリーの安全を確保するのです」
そんなコーネリアの言葉を聞いて、C.Cはコーネリアに語りかけた。
「コーネリア。私はお前が最後までルルーシュの味方であることを望んでいるよ」
C.Cはそう言って、入ってきたときと同じように総督室を出て行った。
そんなC.Cの様子を眺めながら、コーネリアの頭の中には否定したい一つの推察が生まれていた。

初投稿(09/05/11)
誤字修正(09/05/11)



[8411] 13話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/14 23:19
コーネリアはナイトメア格納庫にて、第7世代ナイトメアの説明を受けていた。
「コーネリア様?」
ロイドはコーネリアの説明を聞き流してる様子に不審を覚え、呼びかけた。
「ああ、そのランスロットのパイロットだが、名誉ブリタニア人の枢木スザク一等兵と聞いている」
そのコーネリアの問いを受けロイドは、パイロットが名誉ブリタニア人なのが問題なのか、と考え答えた。
「はい、仰るとおり、名誉ブリタニア人 枢木スザク一等兵がパイロットです。
 しかし、彼のランスロットへの適合率は全ブリタニア軍の中でも一番の成績を残しております」
ロイドのパイロットが名誉ブリタニア人であることの説明をコーネリアは遮った。
「いや、説明は良い。枢木スザクは一等兵から准尉に昇進させる。理由はルルーシュ副総督の護衛による功績だ。
 また、今度の軍事行動時にルルーシュ副総督の護衛 兼 直衛として参加を認める。
 そのときはルルーシュ副総督の指示に従うよう。以上だ」
コーネリアの言葉を聞き、内心でスザクに感謝しつつ、返事をした。
「は、ありがとうございます。コーネリア様」


「すみません、宿題まで見てもらって」
ランスロットの格納庫でセシルに宿題を見てもらい、そういった瞬間にスザクは強烈なデジャヴに襲われた。
「あれ、これって前にもあったような?」そんな風に思いつつ、セシルとの会話を続けた。
「ふふ、いいのよ。普通の学校には通っていなかったんだもの、仕方ないわ」
「ああ、この会話、前にもしたことがある。やっぱり時を遡ったんだな」とスザクは感慨に耽った。
「生徒会の人や、ルルーシュにも教えてもらってるのですが、なかなか。あ、ルルーシュ副総督でしたね」
言い直したスザクの様子に笑いながら、セシルは言葉を続けた。
「本当言うとね。ちょっと心配してたの。総督の命令で、護衛として入学することになったんですから、
 フランクな学校と言っても馴染めないんじゃないかって」
セシルの言葉にスザクは懐かしさと、どんな状況でも自分を心配してくれるセシルの優しさを感じた。
「ありがとうございます。でも、ルルーシュ副総督にナナリー皇女殿下が居ることが判ってたので、
 そういう心配はありませんでした」
「ルルーシュ副総督との友情を大切になさい。二人の友情が続けば、再会は偶然じゃなく必然になるの」
「はい、ありがとうございます」
そう言って、スザクはルルーシュとのことについて、考え始めた。
再会は偶然じゃなく必然、そう自分とルルーシュは時を遡り、また手を組もうとしている。
まるで、互いに手を取り合い、何かを成すための必然とでも言うように。
そんなスザクの様子を見て、セシルは気分を変えさそうと自分の作った料理を食べさせることにした。
「ね、それ食べてみて」
「あ、ありがとうございます」
スザクはそう言って、おにぎりを手に持ち口に運んだ。
あれ、このおにぎりって確かジャムが。と考えて、動きが止まった。
その様子を見て、セシルが不思議そうに問いかけた。
「スザク君、どうしたの?」
「あ、いや。おにぎりだなんて、珍しくて、つい」
「そうなのよ。スザク君も喜んでくれると思って作ったのよ」
嬉しそうに微笑んでいるセシルを見て、この人の期待を裏切ってはダメだ、と思って、おにぎりを口にした。
「どうかしら? 良いブルーベリーが手に入ったから、入れてみたのだけど」
「ええと、塩味とジャムの味がちょっとアンバランスかなと思います」
「なるほど。私もそこはちょっと気になっていたのよね。次はもっと美味しくするから期待しててね」
「はい、ありがとうございます」
そんな会話をスザクとセシルが行っていると、ロイドが格納庫に入ってきて叫んだ。
「は~い、お~め~で~と~う~。これからサイタマゲットーに行くから、急いで準備してね」
そのロイドの言葉に、スザクは反応した。
「これからサイタマゲットーに出撃ですか?」
「その通り。それとスザク君、おめでとう。君は准尉に昇進だ。ルルーシュ様の護衛として、コーネリア様に認められたんだよ」
その台詞を聞いてセシルが我がことのように喜んだ。
「おめでとう、スザク君。これからも、がんばってコーネリア総督の信頼を勝ち取りましょう」
「そうだよう、スザク君。ちなみに僕達はルルーシュ様の直衛として、今回は参加だからね」
「判りました。直に準備に取り掛かります」
「うんうん、よろしくね~」
そんな上機嫌なロイドの言葉を受け、スザクは立ち上がり行動を開始した。

南、杉山、玉城の扇グループの三人は、埼玉レジスタンスグループのリーダー泉と交渉していた。
「新宿はクロヴィスのせいで壊滅してしまったから、そちらと合流したいんだ」
そんな南の言葉を受け、泉は幾つかの確認したいことを聞こうと思った。
「そちらが合流したいと言うのなら、こちらも歓迎する。しかし幾つか確認したいことがあるんだが、いいか?」
「ああ、こちらで答えることが出来るものなら」
「うちに合流するするのは、ゼロも含まれているのか?」
その質問で、扇グループと埼玉のグループの両方が息を呑んだ。
そして玉城がその質問に噛み付いた。
「なんだよ! ゼロが居ないと俺達と手を組めないとでも言うのかよ!」
そんな玉城の様子に、南が慌てて割り込んだ。
「玉城、自重しろ。俺達はケンカをしに来てる訳じゃないんだ。すまない。こちらの者が失礼をした」
南の言葉に続いて、玉城も謝罪した。
「すまねぇ」
玉城が謝罪したのを確認して、南は質問に答えた。
「それでゼロのことなんだが、ゼロは俺達のグループの者じゃないから含まれない。すまないな、期待に添えられなくて」
その言葉と玉城の態度で泉は、このグループとゼロは一時、手を組んだがその後、確執が生まれたのだろう。
そうなると、このグループを受け入れるのは、将来ゼロがこちらに接触してきたときにデメリットになる可能性がある。そう考えた。
「次に人員と、持っている武装を教えて欲しい」
「ああ、ここに居る3人を含めて7名だ。武装は旧式の小火器が少しといったところだな」
受け入れるメリットがほとんど無いが、ここで見捨てるのも後味が悪いだろう。
そして、受け入れるなら相手のリーダーからゼロのことを徹底的に聞く必要があるな。泉はそう考えた。
「判った。君達を受け入れる方向で考えよう。その前に君達のリーダーと会いたいから、ここに連れて来てくれないか」
泉の様子から、南はあまり歓迎されていないことを感じ取った。
「判った、こちらのリーダーを連れて出直してこよう。直には無理だと思うから、一週間後と言うことで良いか?」
南が提案を受けたので、泉も同意した。
「ああ、一週間後にまたここで会おう」

サイタマゲットーを抜けてから、玉城がぼやいた。
「あ~あ。なんか歓迎されてないのが、丸判りだたよなぁ」
それを受けて、南が玉城に言った。
「お前が言うな。ゼロのところで噛み付くから、こうなるんだ。少しは自重しろ」
「すまねぇ。でもよぅ、何処行ってもゼロ、ゼロ、ゼロで俺達がゼロのオマケみたいじゃないか」
そんな玉城の言葉で、南はため息をついた。
「しょうがないだろう。俺達とセロじゃ、知名度が違いすぎる」
旧式の軽自動車を運転していた杉山が二人にささやいた。
「ブリタニア軍の検問だ。怪しいことはするなよ」
それを受けて、二人は無言で頷いた。

初投稿(09/05/14)



[8411] 14話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/15 21:38
ジェレミアは純血派に宛がわれた格納庫の中で、出撃の準備をしながら満足していた。
今回のサイタマゲットーでのテロリスト殲滅作戦に参加するルルーシュの直衛となる。
そうルルーシュの初陣に直参として、従軍するのだ。
そのことは、純血派内で高揚と共に名誉なこととして受け止められていた。
そして、準備を行っていると手が空いてしまい。手持ち無沙汰になってしまった。
ジェレミアは同じように手が空いてしまったキューエルに話しかけた。
「キューエルよ、とうとう殿下の下で戦う日が来たな」
キューエルも高揚した気分を誰かと、共感したいと考えていたのか、会話に乗ってきた。
「そうだな。しかも殿下の初陣に我ら純血派が、殿下の直衛として参加するのだ。
 ただ、特派のイレブンが共に殿下の直衛なのが気になるがな」
「まあ、そう言うな。殿下がエリア11に居たときの友なのだ。
 しかも、殿下のために誇りを捨て、我ら、ブリタニアに下ったのだ。多少は寛容に扱ってやるのが礼儀だろう」
ジェレミアはキューエルを窘めたが、名誉ブリタニア人が軍に居ることに対する侮蔑は隠さなかった。
「ふん、ならば文官として殿下に御仕えすれば良いものを」
キューエルはそう言って、鼻で笑った。

純血派は軍の名誉ブリタニア人やナンバーズのテロリストには評判は悪いが、それ以外では悪評は立っていない。
それは、純血派の考えが、兵役を高貴なる義務として捉えているからだ。
欧州では、市民が政治に参加するための権利として兵役があると考えられている。
純血派の考えもこれに近く、ナンバーズの上に立つブリタニア人のみが高貴なる義務としての軍務に就くことが正しいと考えていた。
この考えは、古い貴族から見ると貴族の権利を侵害している思われていた。
ブリタニア軍は騎士至上主義であり、その為に貴族の高貴なる義務としての軍務であるという考えが色濃く残っている。
その為に純血派は、高貴なる義務としての軍務をブリタニア人全体に拡大したリベラルな若手将校の派閥として、受け止められていた。
しかし、第98代皇帝シャルルの植民地政策によって軍が急速に拡大し、その補充が間に合わないための名誉ブリタニア人制度が発生した。
この歪みの為に、リベラルな派閥としての純血派は、名誉ブリタニア人とナンバーズによって、保守的な派閥と誤解されていたのであった。

キューエルは今回の作戦にヴィレッタの姿がないことを思い出し、ジェレミアに問いかけた。
「ジェレミアよ。今回の作戦にヴィレッタの姿がないのは、やはりナナリー皇女殿下の護衛のためか?」
「うむ、流石にナイトオブシックスが護衛についているといっても、一人では手が足りないらしくてな」
ジェレミアの言葉を聞き、キューエルはしばし考えてから、ジェレミアに意見した。
「我らの姫君のためにも、ヴァルキュリエ隊のように女性だけで構成された部隊を設立するのを上申したらどうだ?」
「我らの姫君か、ナナリー皇女殿下を指し示すには良い言葉だな」
そんなジェレミアのようにキューエルは苛立った様に声をかけた。
「おい、ふざけてる場合ではないぞ」
キューエルの声を聞き、ジェレミアは慌てて謝罪した。
「すまん」
そして、ジェレミアはキューエルの意見を検討し始めた。
ナナリー皇女殿下のように、繊細で儚げな方の傍に無骨な軍人を置くのは、かの姫君には辛いであろう。
また、ナナリー皇女殿下はユーフェミア皇女殿下と一緒に、アッシュフォードで学業に専念しておられる。
なれば、ヴィレッタを中心として同性の護衛部隊を編成し、お二方の護衛を担当するのが良いだろう。
「キューエルよ、良い考えだな。この戦いが終わったら、コーネリア総督とルルーシュ副総督に上申しよう」
ジェレミアはキューエルに上申することを約束した。

ルルーシュはG1ベースの中で悩んでいた。
今回のコーネリアの作戦はゼロを誘き出すための作戦で、その為にシンジュクゲットーと同じ状況を作り出すことになってる。
現れるはずの無い自分を誘い出すためだけに、サイタマゲットーの住人達を殺そうというのだ。
基本的にゲットーの住人は、余程の事が無い限りレジスタンスをブリタニアへ通報することが無い。
これは大多数の日本人達が選んだ消極的な抵抗活動だった。
黒の騎士団は正義の味方の看板を掲げることによって、名誉ブリタニア人と主義者のブリタニア人も取り込んだことによって、
活動範囲を広げていったのだった。
このサイタマゲットーで、レジスタンス達を通報しないことで反政府活動の支援者として殺そうとしている。
前にギアスが暴走し、ユーフェミアが日本人の虐殺を行ったときと同じく、自分のせいで、また虐殺が起ころうとしている。
ルルーシュはサイタマゲットーの虐殺を回避しようと思考していた。

コーネリアもまた、G1ベースの中で悩んでいた。
今までのゼロの情報を整理すると以下になる。
ブリタニアとブリタニア皇族に恨みを持つもの。
プライドが高い。
シンジュク事変でテロリストという弱兵を率いて、クロヴィスが率いるブリタニア軍を手駒に取れるほどの、知略がある。
ブリタニア人であること。
枢木スザクを危険を冒してまで、助け出すことに意味を持つもの。
周到に隠されていたルルーシュとナナリーの所在を知ることが出来るもの。
一つ一つに該当する人間は多いが、この総てに該当する人間は一人しか居ない。
そして、その人間は今、このG1ベースに居る
コーネリアはここまで考えて、ふと機密情報局について思い出していた。
機密情報局は皇帝直属の機関で、主にルルーシュとナナリーの監視と護衛を行っている組織だ。
そう、7年前から現在も監視と護衛を行っている。
シンジュク事変が起こり、クロヴィス暗殺の時もルルーシュを監視していたはずだ。
そこでコーネリアは戦慄した。
自分の兵を持たず、テロリストという弱兵を即興で率い、そしてクロヴィスが指揮した正規軍に勝利し、クロヴィス暗殺まで行う。
他者と競い、奪い合うことを肯定する陛下が、ルルーシュの行ったことを知ったら、どうなる。
クロヴィスはルルーシュと競い、奪い合って負けた。そう考えるだろう。
そして、奪い合いに負けたのだから、クロヴィスはルルーシュに総てを奪われなければならない。
皇位継承者、そしてエリア11総督としての地位と力をクロヴィスからルルーシュへ。
ルルーシュがクロヴィスの後釜として第5皇位継承者、エリア11副総督になったのは陛下の贔屓でなく、
陛下にとって、当然の報酬だったのだろう。
ルルーシュがゼロであることを、皇帝は知っている。
だが処罰しないということは、皇位継承にまつわる争いの一種として許容してるのだろう。
今日の軍事作戦を行っても、C.Cの言った通りにゼロは現れない。
ゼロは、ここに居るのだから、現れようが無い。
コーネリアはしばし躊躇してから、自室にルルーシュを呼び出した。

初投稿(09/05/15)



[8411] 15話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/16 21:40
ルルーシュが部屋に入っても、コーネリアは暫くは無言だった。
そしてコーネリアは、意を決したのか言葉を紡いだ。
「ルルーシュよ。このサイタマゲットーにゼロは現れると思うか?」
ゼロが現れないと確信しているのに、現れるかと聞くコーネリアの様子に不審を覚えつつ答えた。
「多分、現れないでしょう。ゼロは単独犯であるから、この軍に対抗するために即興で現地のテロリストと組んでも、
 錬度が違い、かつ指揮官としての信頼度が無いので、ゼロが指揮しても直に抵抗活動は瓦解します。
 そう、ゼロが動くとしたら、自らの軍を手に入れてからです。ですので、今回は負けるのが判っているので、ゼロは動かないでしょう」
ルルーシュは前に、このサイタマゲットーでコーネリアに負けたことを苦い思いで思い出し、ゼロが現れないことの理由をコーネリアに説明した。
ゼロが現れないことにコーネリアが納得すれば、サイタマゲットーでの住人を巻き込んだ殲滅戦は行わないだろう。
コーネリアはルルーシュから、一時も目を離さずに意見を聞いていた。
「そうか。ルルーシュもゼロは現れないと判断したか」
ゼロが現れないと判断したのに、より一層、緊張感を漂わすコーネリアの様子に、自分の考えていないイレギュラーが発生したことを悟った。
「ルルーシュ。ゼロは何処に居ると思う?」
コーネリアのいきなりの問いにルルーシュは、ゼロの正体が自分であることがばれたのか、と考え慎重に答えた。
「コーネリア姉上。私にはテロリストの居場所など判るはずも無いですから」
コーネリアはルルーシュを見つめている。これはルルーシュにとってギアスを使うのに有利な状況だった。
「そうか。私はゼロの居場所が判ったぞ」
コーネリアのその言葉を聞いた瞬間、ルルーシュは両目にギアスの紋章を浮かべた。

「二人とも落ち着け」
ギアスの紋章を両目に浮かべ、命令を発しようとした直前にC.Cの静止の声をルルーシュは聞いた。
ギアスの紋章を消し、声の方向に振り向きドアの前に立つC.Cの姿をルルーシュは確認した。
「C.C」
「猊下」
C.Cは二人の声を無視して、いつもの様に気侭に部屋の中へ入ってきた。
「どういうつもりだ? C.C」
「私はヒントをあげただけだよ。答えを得たのはコーネリアの功績さ」
「なぜ姉上に?」
「私はお前の味方だよ。だから、お前の仲間を増やそうと思っただけさ」
そんな、ルルーシュとC.Cの間で行われる一問一答を聞いて、コーネリアは二人の会話に割り込んだ。
「枢機卿猊下! あなたは最初からルルーシュがゼロであることを知っていたのですね」
「ああ、知っている。というか、私のせいでルルーシュはゼロになった様なものだからな。
 そして、ルルーシュがナナリーの為に最初は、新たに派遣される皇族を殺そうとしたこともな」
C.Cは前の状況のことを含めて、コーネリアにルルーシュがゼロであることを肯定した。
コーネリアは、ルルーシュが自分とユーフェミアをナナリーの為に殺そうとしたことにショックを受けていた。
そんな状態のコーネリアに畳み掛けるようにC.Cはさらに、言葉を続けた。
「そもそもルルーシュがクロヴィスを討ったのは、クロヴィスの親衛隊がルルーシュを討とうとしたからだ」
その言葉を受けて、コーネリアがぎこちなくルルーシュに振り向くのを確認して、C.Cはルルーシュに小さく頷いた。
C.Cからの合図を受けて、ルルーシュはここでコーネリアに納得できる答えを用意して、言うことにした。
「姉上、私はシンジュク事変の時にテロリストのトレーラーに巻き込まれて、シンジュクゲットーに居たのですよ。
 そして、私のことを知らない親衛隊にテロリストの一味として殺されそうになったところを、そこのC.Cに助けてもらったのです。
 そう、私はシンジュクでの虐殺に巻き込まれ、殺されそうになったのです。
 私は生き残るために、シンジュクのテロリストを率いて戦わねばならなかったのです。
 クロヴィス兄上を殺したのは、宮廷に後ろ盾の無い私達が生きていることを知られたくなかったために、
 またナナリーが政治の道具として扱われないように、口を封じなければならなかったのです」
ルルーシュは厳しい口調で、クロヴィスを殺したことについて語った。
「では、なぜ。私達に生きていることを知らせた?」
コーネリアの疑問にルルーシュは今までとは一変して、優しい口調で答えた。
「勿論、このエリア11にコーネリア姉上とユフィが派遣されることになったからです。
 姉上は我が母に憧れていらっしゃいましたし、ユフィは私は元よりナナリーとも仲が良く、幼い頃より交流がありました。
 そう、二人なら私とナナリーを無下には扱いはしないだろうと、信頼しての行動でした。
 そして、姉上は私達を保護してくださった。この事について、私はとても感謝しているのです」
コーネリアはショックにより混乱した思考の中でも、ルルーシュが自分を信頼し頼ってくれることに安堵と喜びを感じた。
「そうか。枢木スザクの時は、自らの友人を救うためにやったのだな」
「そうです、姉上。少々派手にやってしまいましたが、姉上以外が派遣されることになったら、そのままテロ組織を契合させ、
 このエリア11で抵抗活動を行う予定でしたから。
 しかし、こうなると派手にやりすぎてしまったと、今では後悔しています」
ルルーシュの言葉を受けて、コーネリアはルルーシュがクロヴィスを討ったのは仕方の無いこと納得した。
何より、皇帝陛下がルルーシュの行動を認めているのだ、今更、私が処罰云々を語ることでもないか。
コーネリアはルルーシュの行動を容認できる逃げ道を発見して、そこに飛び込んでいった。
「なら、ゼロの件は不問として、これで終了させよう。
 まあ、このままエリア11でゼロ騒ぎが続くようなら、ゼロを捕まえて処刑したと公式に発表しなければならないがな」
ルルーシュはコーネリアが、自分がクロヴィスを殺したこととゼロになったことに納得したことを感じ取った。
「ゼロが現れないというのなら、ここまで派手にやる必要はなかった。
 ちょうど良い。ルルーシュ、今回のサイタマゲットーのテロリスト殲滅作戦の指揮を取ってみないか?
 初陣だろうから勿論、私やダールトン等のフォローは行う」
「ありがとうございます、姉上。非才の身ながら、全力を持って事に当たらせてもらいます」
コーネリアはルルーシュの様子に満足していた。
そしてルルーシュは、この件が完全にクリアされ、コーネリアを自陣営に引き込めたことについて満足していた。

C.Cと共にルルーシュはG1ベースの自室に戻っていた。
「ルルーシュ。良かったじゃないか、コーネリアを取り込むことが出来て」
「C.C。いきなり姉上を取り込むため行動を起こすのはやめてくれ。そういうのは事前に教えてくれなければ準備も出来ずに困ってしまう。
 今回は運良く説得できたから、良かったものの」
ルルーシュの様子を眺めながら、C.Cは鼻で笑いながら言った。
「ふん。スタンピードとマッチポンプによる懐柔を説得というなら、そうだろうな」
「くくく、良いじゃないか。それによって姉上を完全に取り込むことが出来たのだからな」
ルルーシュは頭を悩ましていた問題が解決したことによって、上機嫌になっていた。

ジノは生徒会室で、ルルーシュの初陣のことを放送で知った。
「あああ、ルルーシュ先輩の初陣に、何で俺が呼ばれないんだ」
そんな風に叫んでいると、ナナリーと一緒に居たアーニャに文句を言われた。
「ジノ、うるさい」
ジノは淡白なアーニャに反論した。
「いや、スザクは参加してるのに、俺達が参加しないってのは不公平だろう」
「ジノはユーフェミア様の護衛、私はナナリー様の護衛、そしてスザクはルルーシュ様の護衛。不公平でもなんでもない」
アーニャの的確な反論に、ジノは言葉を詰まらせた。
そんな状況に、リヴァルは生徒会室に入ってきた。
「ちわーす、って、ナナリーにユフィ様とアーニャにジノか。会長はまた来てないの?」
そういってリヴァルは、想い人の姿を探した。
そのリヴァルにアーニャは「リヴァル、ナナリー様」と、言い直す事を求めた。
しかし、それは当のナナリーによって止められた。
「アーニャ、良いのですよ。いきなり敬称を付けろと言われても、戸惑いますし、今までの呼び方のほうが私は良いのですから」
それを受けて、アーニャは「はい」と、返事をした。
「そうですね。私も様付けは要りませんよ」
そうユーフェミアもナナリーの言葉に続いた。
「了解です」
そう答えたリヴァルに、ジノが面白がって、笑いながら言った。
「そういう場合は、こう言うのだよ。Yes,Your Highness、ってね」
「まあ、学校内ではそういうのは、やめて欲しいですわ」
ユーフェミアも笑いながら、ジノの言葉を受けていた。

そんな和気藹々とした生徒会室の空気とは別に、カレンは扇の言葉を思い出して血の気が引いていた。
扇グループが合流しようとしていたのは、埼玉のレジスタンスグループ。
そして、今回殲滅作戦が取られるのは埼玉である。
シンジュク事変を何とか乗り切った扇グループは、今回のことで壊滅するかもしれない。
そう考えると、カレンは居ても立っても居られなくなっていた。
血の気が引いてるカレンにリヴァルが気付いて、声をかけた。
「おい、カレン。顔が真っ青だけど、大丈夫か? 何なら保健室に行くか?」
カレンは自分の病弱設定が、意外なところで役立ったのを感じていた。そして、それを利用してこの場を離れることにした。
「うん、ありがとう。でも、ちょっと、きついから今日は帰宅するね。それじゃ、またね」
そういって、カレンは席を立った。
生徒会室に居る面々は、それぞれカレンを気遣う言葉掛けた。
その言葉を受け、カレンは生徒会室を出て扇と連絡が取れる場所まで、急いで移動した。

初投稿(09/05/16)
誤字修正(09/05/16)



[8411] 16話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/17 19:47
「ルルーシュ、サイタマゲットーのテロ組織撲滅。これは前にコーネリアがやった住民ごとの殲滅が一番効率の良いやり方だぞ。
 テロ組織、いやレジスタンスグループとは一般市民が武器を持っただけの民兵達の集まりなのだからな」
C.Cの言葉を聞き、ルルーシュは冷静に言葉を返していた。
「確かに、その場で組織を殲滅するには効率は良いが、組織を撲滅する手段とすると、あまり効率が良くないな。
 何故なら、力によって抑えつければ、新たな民兵達をレジスタンスグループに補充させることになるのだからな」
「ほう」
C.Cは面白そうに相槌を打ち、話を続けさせた。
「前にナナリーが総督をしていた時に、エリア11は矯正エリアから途上エリアに格上げした。
 カラレスが総督をしていた時よりも、簡単にな。何故だと思う?」
「お前が蓬莱島に不穏分子を総て連れ出したからだろう」
そのC.Cの答えにルルーシュは頷いた。
「それもある。だが、それ以上にナナリーの傍にスザクが居たことが効果的だったんだよ。
 目に見える形で、自分達も従い努力すれば報われる、そう思われたこと。
 そして、ナナリーが生活環境の向上等で、日本人達の不満と不安を解消したこと。
 これらによって、抵抗するより従ったほうが良いと、残った日本人達に思わせることが出来たから、生産性や治安が上がったのさ。
 つまりだ。ゲットーの住人にレジスタンスが味方でなく、敵であり。ブリタニア軍が敵でなく、味方であると思わせれば良いのさ。
 そうすれば他のゲットーのテロ組織も撲滅できる。」
「ふむ、これからのコンセプトは、正義の皇帝ならぬ正義の副総督か?
 しかし、それはこれからの戦略的な対応だ。このサイタマゲットーのテロ組織撲滅とは関係が無いぞ」
ルルーシュはC.Cの指摘を受けて、答えた。
「そうだな。今回は穏健に炙り出して行こうと思う。
 まずは、指定した時刻までに民間人たちをゲットー外延部、G1ベースの近くにでも集めさせよう、監視付きだがな。
 この時の誘導時には決して攻撃を仕掛けてはならない。テロの対象になりやすいから、ナイトメアをメインに使って誘導する。
 指定した時刻になったら、ゲットーを一斉攻撃する。このときにはテロ組織もこちらに対抗する準備も終わっているだろう。
 まあ、先の民間人に紛れて逃げるならそれで良い。今回はサイタマゲットーのテロ組織を撲滅するのが目的だからな。
 そこから先の対応は、先ほどの戦略で対応すれば良い」
C.Cはルルーシュから今回の対応を聞いて、思ったことを口にした。
「そうか。今回は策は練らないで良いのか?」
「ああ、指揮系統、錬度、装備、そして数。この総てが勝っている、下手な小細工は必要ないだろう」
ルルーシュの答えにC.Cは納得して、頷いた。

コーネリアはルルーシュより、今回のサイタマゲットーの対応と今後の戦略を聞いて、満足していた。
「なるほど。組織を殲滅するのでなく、組織の存在意義を失わせていくのだな」
「その通りです、姉上。ゲットーの住人に敵は我々でなく、テロ組織だと認識させるのです」
共に聞いていたダールトンがルルーシュに対して、自身の疑問を投げかけた。
「そうなりますと、今回のサイタマゲットーのテロ組織メンバーを大量に見逃すことになりますが、よろしいのですか?」
「構わない。このエリアに居る住人総てに、我々が強圧的な支配者でなく、民衆の守護者であると言うことをアピールするのが優先だ」
その場に居る騎士達へのパフォーマンスとして、彼らの好む言葉で今回の行動と、これからの立ち位置を説明していく。
「我らが、ナンバーズに庇護と安寧を与えているということを、判りやすく理解させるのですね」
純血派の代表というより、アッシュフォードに次ぐルルーシュを後援する派閥の代表として会議に出席していたジェレミアは、
納得したように呟いていていた。
その呟きを受けて、ルルーシュは更に発言した。
「そう、だから今回の作戦では、抵抗する者達以外は無傷で確保しなければならない」
「皆の者、今回の作戦の概要と今後の方針が判ったであろう。では、各自準備を行え」
コーネリアはルルーシュの発言後、騎士達が作戦を理解したのを確認して、解散させることにした。
「Yes,Your Highness」
コーネリアの号令に一同は返事をして、解散していった。

コーネリアの傍にはギルフォードとダールトンのみが残っていた。
そして、その二人にコーネリアは意見を求めた。
「ルルーシュの今回の対応をどう思う?」
それを受け、まずダールトンが意見を述べた。
「そうですな、まるで軍を率い、そして統治を行った経験があるような手並みでしたな」
次にギルフォードが意見を述べた。
「ダールトン将軍の言うとおりに、やけに手馴れてましたね。
 更に言えば、会議のときに騎士達の不満をかわし、戦意を上げるパフォーマンスも馴れていました」
二人の意見にコーネリアは満足しつつ、自分の意見を言った。
「確かに二人の言うとおり、手馴れていたな。
 ユフィに聞いた話では、アッシュフォードでイベントを行うときは大体ルルーシュが指揮を取っていたそうだ。
 その為に、人を使うことに馴れているのだろう。
 アッシュフォードは良い環境と教育をルルーシュに与えたのだな。これだけでも功績ものだな」
二人はコーネリアの言葉を聞いて、納得していた。
「しかし、どちらかというとルルーシュは前線指揮官ではないな」
コーネリアの言葉を聞いて、ギルフォードは疑問を感じた。
「姫様、先ほどの会議では、ルルーシュ様は指揮官としても優秀な方だと感じましたが?」
「確かに優秀すぎるほど優秀だが、あれは組織を作り上げ運営していくタイプだな」
その言葉を受けて、ダールトンが意見を述べる。
「なるほど。そうなりますと、これからはルルーシュ様には、このエリア11の運営を任せるのですか?」
「ああ。私が中華連邦とテロ組織を相手取り、ルルーシュがこのエリアを統治する。
 ルルーシュにとって良い経験になるだろう。なに、失敗しても我らがフォローすれば良いしな」
この時、コーネリアはブリタニア皇族としての悪癖である、懐に入れたものに対する無条件の信頼と寛容さをルルーシュに対して見せていた。

「はあ」
シャーリーは生徒会室で溜息をついていた。
「どうしたの、シャーリー。溜息なんてついちゃって」
シャーリーの溜息を聞いて、リヴァルが話しかけた。
「いや、ルルの初陣ってことは戦場に居るんだよね」
「まあ、そうだな」
シャーリーの言葉にリヴァルは頷いた。
「戦場ってことは、危険なんだよね。怪我とかしないかな?」
そんなシャーリーの不安を消し去るようにユーフェミアは語った。
「大丈夫ですわ。戦場といっても、お姉様の傍に居るはずですから、危険は無いはずです」
そんなユーフェミアの言葉をジノが否定した。
「あれ? コーネリア様って姫将軍として有名な方で、パイロットとしても一流の方だから最前線に出るのでは?」
「ええ! それじゃ、ルルが危険じゃないですか!」
ジノの言葉を聞いて、シャーリーは慌てて叫んでしまった。
「シャーリーさん。コゥ姉様がお兄様の近くに居ないときは、コゥ姉様の専任騎士であるギルフォード卿がお兄様を守ってくれますし、
 お兄様の護衛として、総督代理だったジェレミア卿もいらっしゃいます。
 何よりお兄様の傍にスザクさんがいらっしゃるのだから、ご安心ください」
「うん、そうよね。ルルのことをみんなが守ってるんだし、何よりスザク君が傍に居てルルを守ってるんだから信頼しないとね」
シャーリーが安心したのを確認して、ナナリーはジノのに向けて言った。
「ジノさん、シャーリーさんを不安がらせるようなことは、あまり言わないでくださいね」
「すみません」
ジノは素直に謝った。
リヴァルは空気を換えようを、違う話題を振ることにした。
「しかし、専任騎士かぁ。ルルーシュも副総督になったし、専任騎士を選ぶのかなぁ」
その話題にジノが真っ先に食いついてきた。
「そう、専任騎士。私もラウンズの誘いに乗らずにもう少し待てば、ルルーシュ先輩の専任騎士に成れたのかも」
「お、ジノはラウンズに不満でもあるの?」
リヴァルはジノが話題に乗ったので、さらに話題を広げるために疑問を投げかけた
「いやいや、最強の12人の騎士ってのも良いけど、騎士として一人の主に忠誠を尽くすってのも憧れるんだよ」
「へえ、そうなんだ。ってことは、さしずめ現状ではスザクはルルーシュの専任騎士代理ってところか」
リヴァルが出したルルーシュとスザクの関係に、今度はユーフェミアが食いついてきた。
「私はそのまま、ルルーシュの専任騎士にはスザクがなるのが良いと思うんですけど、お姉様が難色を示しているんです」
「あ~、ルルーシュの専任騎士は実は結構微妙な問題でねぇ」
ユーフェミアの言葉にミレイが続けて発言した。
「微妙って、どういうことです?」
シャーリーが、ミレイに問いかけた。
「ほら、うちってルルーシュの後援じゃない。同じ後援に純血派があってね。
 どっちが専任騎士を出すかで、結構ピリピリ来ちゃってるのよ。コーネリア様もそれを知ってるから、
 どっちの派閥の色が付いてない騎士を専任騎士にしたいらしくって、三つ巴で紛糾してるのよ」
「あれ? でも、それなら一層スザク君が適任なんじゃ?」
シャーリーがミレイの説明で思ったことを口にした。それを受けてニーナがポツリと呟いた。
「スザク君、イレブンだから」
「あちゃー、そういうことね」
リヴァルが大げさに納得して、暗くなりそうだった空気を払拭した。

「扇さん、大丈夫なんですか?」
携帯から扇に連絡を入れたカレンは、扇が出てきた瞬間に早速問いかけていた。
「カレンか。ああ、大丈夫だ。埼玉には南達の三人しか行ってない状態だからな。
 南たちの話だと、今日にレジスタンスグループのリーダーと顔合わせだそうだ」
その言葉を聞いて、カレンは驚いた。
「え! それじゃ危険じゃないですか?」
「いや、大丈夫だと思う。我々と合流するか決まっていない状態だから、真っ先に南達を逃がすと思う。
 それに、顔合わせが終わって埼玉から出たときに、包囲が開始された可能性もあるからな」
カレンは扇の自分を安心させようと助かる可能性を述べていることを感じた。
「扇さん。状況がはっきり判るまでアジトで待っていても良いですか?」
扇はカレンの意見に、断っても無理矢理、来るだろうと思ったので許可を出した。
「今回は緊急事態だし構わないが、遅くなるようだったら、家に帰して連絡を入れることにする」
「判りました」
カレンは扇に許可されたので、新宿にあるアジトに急いで向かうことにした。

初投稿(09/05/17)



[8411] 17話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/18 22:15
「戻ったぞ~」
玉城の言葉がアジトに響き、埼玉に行っていた三人がアジト入ってきた。
「南、杉山、玉城。無事でよかった」
扇が三人の姿を確認して言った。
「あ~、ま、無事っちゃ、無事なんだが。ブリタニアに捕まってたからなぁ」
玉城の言葉を聞いて、カレンが慌てた。
「え! 捕まったって大丈夫なの? それよりも後をつけられてない?」
そのカレンの言葉に南が冷静に答えた。
「いや、そこら辺は大丈夫だ。ただ、名前と年齢、それに現住所は記録されたけどな」
「そうか。大丈夫なんだ」
安心した様子で扇が、南の言葉を受け入れていた。
「つーかさ、捕まった後は、ずっと埼玉の住人と一緒に纏められて、んでもって、晩飯食って、はい、解散って感じだった」
「まあ、その間に埼玉で戦闘をしたらしく、銃撃と砲撃の音が聞こえたけどな」
玉城の言葉に、南が補足を加えた。
「今なら、埼玉でのことがニュースになってるんじゃないのか?」
杉山の言葉を受けて、扇はテレビの電源を入れた。

「今回のサイタマゲットーのテロリスト殲滅作戦では、初めてルルーシュ・ヴィ・ブリタニア副総督が陣頭にて指揮を取り対応を行いました。
 ルルーシュ副総督は今回の作戦にて、民間人の犠牲を出さないことを第一として、まずイレブンを含む付近住人の避難誘導から開始し、
 その後、サイタマゲットー内を精査し、テロリストのアジトを壊滅させました。
 この時に、テロリスト23人を検挙し、またナイトメアを含む重火器を10以上と小火器を100以上押収しました。
 また、ルルーシュ副総督は今回の作戦で「ブリタニア軍は民衆の守護者であり、力なき人々の盾である。一般民衆を巻き込むテロ行為を
 一切許さない。また緩んでいた軍の規律を引き締め、今まで横暴に民衆を傷つけた軍人を処罰する予定もある」とコメントし、
 エリア11に蔓延する麻薬の撲滅を目指すと意思表明をしました。これを受けコーネリア総督はルルーシュ副総督の方針を全面的に支持し、
 また、これからのエリア11の運営を………………」
レジスタンスメンバーが埼玉の作戦のニュースを見て、玉城が真っ先に呟いた。
「チッ、正義の味方気取りかよ」
「正義の味方かぁ、これじゃ、ますます私達レジスタンスの肩身が狭くなるわね」
玉城の呟きに、井上が肩をすくめながら答えた。
「確かに、俺達はこの新宿に住む人たちを、巻き込んでしまったからな」
扇が苦く呟いた。
「でも、それはクロヴィスが虐殺命令を出したからで」
カレンが扇に力なく反論した。
そんな扇とカレンを見ながら、南は埼玉のことについて意見を言った。
「埼玉はもうダメだな。埼玉の住人が纏められてるところに居たんだが、このルルーシュ副総督が埼玉の代表に直接会って、
 今までレジスタンスを匿ったことを不問にすることと、今回の作戦の侘びとして居住区の再建と環境向上を約束した。
 これで、埼玉はブリタニアに靡いた。埼玉の住人にとってレジスタンは希望の星じゃなく、自分達の生活を脅かす敵になった」
「そうなんよな、しかも護衛にあの枢木スザクを傍に就けている。これでルルーシュ副総督の下ならナンバーズでも出世できると、
 考えた人間は多そうだった」
南の意見に、杉山が私見を付け加えた。
「あ~、俺はこのルルーシュってのが、俺達のことをジッと見るから、レジスタンスだってばれたのかと思っちまったぜ。
 まあ、そんなことは無かったけどさ」
「まあ、玉城の意見はともかく。ルルーシュ副総督ってのは、かなりのやり手だってことか。
 カレン、彼について何か知ってないか?」
扇は埼玉から戻ってきた三人の意見を聞いて、ルルーシュを警戒すべきだと判断し、彼を知ってるカレンから情報を求めた。
「おいおい、俺の意見がどうでも良いって、そりゃ無いだろ。
 っと、それよりもカレン、俺達ってあのルルーシュってのに会った事無いか? どっかで会ってる気がするんだよ。声も聞き覚えがあるしさ」
「ああ、それはルルーシュって新宿事変の時に新宿に居たらしいのよ。それでじゃない?
 声もゼロに似てて、私も最初はルルーシュがゼロかと思って問い詰めたことがあったし。
 まあ、ルルーシュが居るときにゼロから連絡が来て、彼がゼロじゃないって判明したんだけどね」
「なるほどな、んじゃ、あっちが俺達を見ていたのは、俺と一緒でどっかで見た顔かと思って、思い出そうとしたわけか」
玉城の言葉で、話の方向がずれてしまったがカレンはそのまま玉城に答えた。
「多分そうだと思うよ。あれ? ミレイ会長から聞いたのは、ルルーシュって一度会った人の事を完全に覚えてるって聞いたような……」
「うげ、マジかよ。頭が良くて、顔も良くて、生まれも皇子様って、恵まれすぎだろ。ちっとはこっちに分けろってんだ」
「でも、生い立ちは不幸みたいよ。開戦1年前に人質として日本に送られて、戦後に死んだことにしてアッシュフォードに匿われてたから」
脱線を続ける玉城とカレンに、流石に扇は軌道修正をすることにした。
「おいおい、二人とも脱線しすぎだぞ。」
「あ、ごめんなさい」
「わりぃ、わりぃ」
二人はそれぞれ謝り、話をルルーシュの情報に軌道修正した。
「ルルーシュは、めちゃくちゃ頭が良いそうよ。皇室から隠れるために目立てなかったけど、本気でやれば全国でトップを取れるって聞いたわ。
 あと、チェスが上手いそうよ。生徒会の人と賭けチェスに行って、一度も負けたことが無いんだって」
カレンの情報を聞いて扇は自分なりに纏めた意見を言った。
「そうなると、今後の活動にはかなりの支障が出るな。今回の行動からゲットーの住人を懐柔する気だ。
 それに、チェスが上手いって事は前線指揮も、上手いって事だな。う~ん、なんか弱点は無いのか?」
扇の言葉を受けて、カレンはルルーシュについて思い出していた。
「う~ん、体力が無いらしいけど。ラウンズや軍人の枢木スザクと比べてだから、どれくらいなのかは判らないかな。
 あとは、ナナリーに弱いわね。もう、ナナリーのためなら、何でもするって感じかな」
「う~ん、微妙な情報だな」
カレンの話を聞いて、扇は思わず苦笑してしまった。
「扇、良いか?」
そんな扇に南が発言した。
「どうしたんだ?」
「カレンの話からするに、彼は一度会った人間を完全に覚えてるそうだな。そうなると俺達がレジスタンスだってことが、
 ばれてる可能性がある。今回は何もしてないから、見逃されていると思って良いんじゃないか?」
南の意見を聞いて、メンバーは全員黙ってしまった。重い空気の中、扇は南の言葉に答えた。
「確かに、その可能性は高いな。まあ、暫くは活動できない状態だから大丈夫だと思うが、
 活動するなら、なるべく遠くで事を起こす必要があるな。杉山、自動車のエナジーはどれくらい残ってる?」
「自動車のエナジーなら、ブリタニア軍が融通してくれたから、フルパワーで残ってる」
「そ、まるで俺達が知り合いかのごとく、親切にしてくれたぜ。何せエナジーだけじゃなく、修理までしてくれたんだからな」
扇の問いかけに杉山と玉城が答えた。
「そうか。なら結構遠くのレジスタンスグループと接触できるな」
「遠くって、そんな遠くのレジスタンスグループに伝手でもあるんですか?」
扇の発言に、カレンは疑問を感じた。
「いや、無いけど、何もしないよりマシだろ」
その言葉はメンバー全員に納得を与えた。
「はあ。ゼロが仲間になってくれたら、もうちょっと楽になっていたかもなぁ」
扇は、溜息と共に愚痴が漏れてしまった。
「なんだよ、扇。あの仮面野郎に未練たらしいな」
そんな扇に玉城が叱責した。そして扇の言葉にカレンは驚いて、問いかけた。
「あれ? 扇さん、ゼロと接触したんですか?」
「ああ、ゼロを勧誘したんだ。リーダーとして迎え入れても良いと誘ったんだが、断られてしまってね」
その言葉を聞いて、カレンは肩を落としてしまった。
「なんだ、カレン。肩を落として、もしかして仮面野郎を勧誘しようとしてたのか?」
玉城の言葉にカレンは同意した。
「うん、なんだかんだ言ってもゼロは有能だったから、勧誘することを提案しようと思ってた」
「そうなんだ。まあ、考えることは誰でも一緒ってことか」
カレンの言葉に扇は苦笑しながら、答えた。

「みんな揃ったようね」
サンチアの言葉を受けて機情メンバーのルクレティア、アリス、ダルクは頷いた。
「なんで、いきなり集合を掛けたのよ?」
ダルクがサンチアに真っ先に問いかけた。
それを受け、サンチアは溜息をつきながら答えた。
「はぁ、実は陛下の肝いりでメンバーの追加が決まったのよ」
そんなサンチアを見て、ルクレティアは疑問を投げかけた。
「陛下の肝いりで追加ってことは、もしかしなくてもギアスユーザなの?」
「その通りよ。そして私たちとも顔見知りよ」
サンチアの言葉を聞いて、アリスが嫌な顔をして聞いた。
「もしかしてロロとか言わないでしょうね」
「アリス、大当たりよ」
サンチアの答えは、機情メンバーの空気を重いものにした。
「あの殺人狂を護衛にしたら、護衛の意味が無いじゃない!」
アリスが真っ先にサンチアに食いついていった。
「アリスはまだ良いけど、あたし達は気付いたら殺されるって事もありえるんだけど」
ダルクがアリスと同じように嫌な顔をして、意見を述べた。
「前よりも、マシになってるって報告は受けてるわ」
サンチアは自分でも信じていないことを、宥めるように三人に告げた。
アリスはその様子を見て、サンチアに宣言した。
「ロロが何かしでかしそうになったら、私が真っ先に排除するわよ」
「判ったわ。そのことは皇帝陛下に報告しておくから。
 それと新しいギアス抑制剤よ。ちゃんと摂取して、ギアスが暴走しないようにすること。
 以上よ、解散」
サンチアの号令を受けて、それぞれギアス抑制剤を持って部屋に解散していった。

初投稿(09/05/18)



[8411] 18話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/20 22:19
今回行われた、サイタマゲットーでのテロリスト殲滅作戦でルルーシュが目に見える形で功績を立てた。
それによって、純血派の軍部における影響力がルルーシュの軍才によって、飛躍的に増したのだった。
元々軍部に対する影響力は后妃マリアンヌの遺児ということと、帝国第一の騎士 ビスマルクが好意的に接しており、
ヴィ家に対するスタンスは好意的中立だったが、今回の軍功により中立から支持に変わってしまった。
しかも軍部内に幾つかの派閥も出来てしまった状態だった。
純血派を中心とした派閥、これはエリア11に元々派遣されていた若手軍人が主に参加している。
コーネリアを中心とした派閥、これはコーネリアがルルーシュ様を支持してることによる間接的な支持派閥だが、
コーネリアが直接かかわってくるので、政治力と周囲への影響力が一番強い。
名誉ブリタニア人が中心となっている派閥。これは枢木スザクがルルーシュの護衛として重用されているのを希望として
ルルーシュを支持している。派閥というほどの結束力もなく、力も他と比べて無いに等しい。
アッシュフォード一門は軍とは無関係の唯一の派閥となっている。
その為に、ルーベンは派閥間の意見調整役をルルーシュから頼まれているが、その役を行ったことはなかった。
純血派はコーネリアと意外なことにナナリーが押さえ込んでおり、上手く手綱を握っている。
名誉ブリタニア人たちは、なんとなくの希望なので声さえ上がらない。
コーネリア自身が直接ルルーシュに意見を言うので関わる事は無かった。
そして、今回の作戦を経てルルーシュが本格的にエリア11の運営を担っていく立場になったことによって、
コーネリアからルルーシュを補佐する人材を出すように、アッシュフォードに求めた。
そのことがルーベン・アッシュフォードを悩ませていた。
アッシュフォードはエリア11で学園経営を行っていただけあって、人材への人脈は多いが、それは薄く広い人脈であって、
信頼できる人材への人脈では無かった。
ここで下手な人材をルルーシュの下へ送って、コーネリアとルルーシュの失望を買いたくないとルーベンは考えていた。
既に皇位継承の三番手に浮上したルルーシュに会わせて欲しいと言う手合いが何人か現れていた。
そういう手合いに、ルルーシュに会って下手なことをした瞬間に良くて首が飛び、悪ければ家門が断絶すると言うことを、
やんわりと教えて会わせる事を断っている状況だ。
一門の中にも、ルルーシュとミレイを婚約させ、更なるルルーシュの取り込みを行おうとする人間も出てきている。
アッシュフォードは嘗ての権門を復興したのだから、これ以上の権勢と権益を求めるのは危険だとルーベンは思っていた。
確かにルルーシュは皇帝戴冠を夢見させるほどの人である。
だからこそ、その夢を共に見ようとする人が多くなり、それらとの争いが発生するだろうと今の時点でルーベンは感じ取っていた。
ルルーシュの下での各派閥の対立は、ルルーシュ自身に飛び火して炎上する可能性がある。
それは、嘗て皇宮で、皇族の後援貴族達が支援する皇族を巻き込みながら滅んでいった様相そのものである。
その為、ルーベンはアッシュフォードから人を出すが、コーネリアからも人を出してもらうという、角の立たない方法を選択した。

ジェレミア、キューエル、ヴィレッタの三人は、C.Cに呼び出されていた。
「枢機卿猊下、突然の呼び出しですが、何か御用でしょうか?」
代表として、ジェレミアがC.Cに問いかけた。
政庁の他の人間と同じく、純血派の三人もこの女性に隔意を抱いていた。
皇帝に次ぐ枢機卿という権威、皇帝と后妃マリアンヌの友、ルルーシュからの無上の信頼、これらは純血派にとっては
接すること自体を畏れ多く感じさせた。
「ああ、ルルーシュがエリア11の運営をコーネリアから任されることになっているのは知っているだろう。
 だから、お前達からもルルーシュを補佐できる人材を推薦して欲しいと思ってな」
ヴィレッタが驚いたように確認した。
「我ら純血派から、文官を出せということですか?」
「別にお前らから、出せとは言わない。そもそも、お前達は軍人だからな。
 民間人から取り込んでも良い。お前達の意見を代表して伝える人間を出せということだ」
それを聞いてジェレミアは疑問を覚えて、C.Cに聞いてみた。
「枢機卿猊下。我ら純血派はルルーシュ様の下に一つと纏まっており、今更ながら意見を纏め伝える人間を出す必要な無いと思いますが?」
それを聞いて、C.Cは鼻で笑った。
「ふん、私はお前達三人が純血派を中心とした軍人達を纏め統制できると考えてない。
 その証拠にオレンジ疑惑という事実無根の疑惑が上がっただけで、純血派は崩壊寸前になりそうだったじゃないか。
 お前達が勝手に瓦解するのは構わんが、それにルルーシュを巻き込まれると困るからな」
その言葉を聞き、ヴィレッタは納得し、ジェレミアとキューエルは不甲斐なさに俯いてしまった。
「申し訳ありません。我らの至らぬところをフォローして頂いておきながら、考えが及ばずに反論してしまいました」
ジェレミアが自らの不徳を恥じるように謝罪した。
「いや、構わん。ルルーシュはお前達を信頼しているからな。
 あいつは裏切らない限り、信頼した人間には甘いから、大抵のことを許してしまう。
 こうなってはルルーシュに釘を刺しても意味が無いから、お前達に釘を刺しただけだ」
そのC.Cの言葉はジェレミアに深い感銘を与えた。
そう、自分達はルルーシュ様の信頼を得たのだ。これからも騎士としてルルーシュ様に一層の忠誠を見せなければ。と考えた
キューエルもジェレミアと同じような状態であったが、ヴィレッタだけは違っていた。
ヴィレッタは、ナナリーの護衛として彼女の近くに居ることが多かった。
その為、ナナリーが自分の総てを見透かしている様に感じていた。
それは、自分がルルーシュとナナリーに不利益なことをした瞬間に消してくるだろうという、根拠のない確信と恐怖を持っていた。
だから、ヴィレッタはC.Cの言うようなルルーシュとナナリーを巻き込みながら派閥が瓦解するような場面になったら、
ナナリーがその前に自分達を躊躇い無く排除するだろうと思ってしまった。
ヴィレッタは手に入れた男爵位という地位と、皇族の近くに侍り護衛するという名誉を無くさない為に、純血派が瓦解しないように
目を光らせ、手を尽くす必要があると考えた。

「ねえねえ、スザクく~ん。今度さ、ルルーシュ様に最前線に出れるようにオネダリしてくれないかなぁ」
ランスロットの調整も終わり、そろそろ上がろうかと思っていたところに、ロイドがスザクに話しかけていた。
「今日ってさ、護衛任務だったから戦闘データが全然取れなくってさぁ。困ってるんだよねぇ」
それにスザクは答えた。
「最前線といっても、特派だけを送るわけには行かないから、他の部隊とですよね」
「そうだねぇ。僕のランスロットなら、単騎でも大丈夫なんだけど、一応軍だからね」
ロイドの言葉に苦笑しながら、スザクは答えた。
「他の部隊と一緒だと、命令系統が違う特派は敬遠されるから、後詰めになると思いますよ」
「スザク君もそう思うのかぁ。はぁ、スザク君がルルーシュ様の護衛に就いた時は、やった、と思ったけど、
 考えてみれば、最前線に飛び込むなんてコーネリア様みたいな人の護衛じゃないと、まず無いよねぇ。
 ルルーシュ様って、うちのスポンサーのシュナイゼル様と同じタイプっぽいしねぇ」
そんな二人の会話にセシルが割り込んだ。
「ロイドさん、データの整理は終わったんですか?」
「もう、とっくに終わってるよう」
ロイドの様子に、やれやれと肩をすくめながらセシルは二人に近づいた。
「それで、二人は何のお話をしてたんですか?」
「ん~、ルルーシュ様の護衛だけど、ルルーシュ様が前線に出ないからランスロットの戦闘データが集まらないって話」
「ルルーシュはナイトメアの操縦は出来ますけど、やっぱりエースと比べるとそれなりの腕前だって聞いてますから」
スザクは前のルルーシュのナイトメアでの操縦を思い出して喋っていた。
そんなスザクの言葉に、ロイドは肩を落としていた。
「はあ、それじゃあ、ますます前線になんか出ないね。コーネリア様がいるし」
そのロイドの様子に、スザクは軽い気分で思ったことを話していた。
「こう、ルルーシュが操縦するんじゃなくて別の人間が操縦して、ルルーシュはそこから指揮だけすれば良いナイトメアなら
 前線に出るんじゃないんですか? 勿論、そのナイトメアは防御力が高いことが前提ですけど」
そんな風に言ったスザクだが、「あれ? なんかそんなナイトメアに覚えがあるような?」と考えていた。
そのスザクの言葉を聞いて、ロイドは何かを考え付いたらしく、いきなりその場でクルクルと回り始めた。
「あっはぁ、スザク君。お~め~で~と~う~。君のおかげで希望が出てきたよ。うんうん、そうだよアレがあったよね」
そんなロイドの様子にスザクは引いてしまった。
「スザク君、今日はもう遅いし、仕事も無いから上がって良いわよ。パイロットは休むことも仕事ですからね」
セシルがスザクに帰るように促したので、スザクは素直に宿舎に帰ることにした。

初投稿(09/05/19)
改定・誤字修正(09/05/20)



[8411] 19話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/21 20:35
ナナリーは不機嫌だった。
数日前に護衛として、機密情報局という組織に配属されたロロと言う少年に対して兄がまるで彼も自分の家族だと、
言わんばかりの態度で接しているからだった。
ナナリーは兄から、機密情報局について教えられたときは驚いた振りをしたが、自分の異能によってアリスとダルクより
その存在を知っていたのだった。
アリスとダルクの二人は最初、護衛としてブリタニアより自分達に秘密で派遣されているのだから、近くに居る事だけを
許そうと考えていたが、二人がナナリーに対して本物の友愛を感じるようになる頃には、ナナリーも二人に友愛を感じるようになっていた。
また、兄の護衛に従事しているルクレティアも兄に思いを寄せていることを知った。
機情の四人はお互いに姉妹に対するような家族愛を持っていることも判った。
その為に、ナナリーにとっては機情は咲世子と同様に信頼できる者達だった。機情が兄の直属に変更になったことも更にナナリーの信頼を
あげるものがあった。
そんな中にいきなり現れた、ロロという少年はナナリーにとって不穏分子だった。
彼が未来に対して不安を抱き、家族という絆に憧れているのは知っている。
だが、ナナリーにとって兄の愛を第一に受けるのは自分で無くてはならなかった。
ユーフェミアは良い、他家であるが幼い頃より交流を持っていたのだから。
しかもその心が兄より、その友であるスザクに傾いてきているのだから。
ミレイも許そう、兄を想う心があるが、それを隠し兄と自分の負担にならないように接してくれてる。
ルクレティアも許そう、ミレイと同様に兄を想っているが一歩引き、自分の友であるアリスとダルクのことを考えてくれてる。
その献身に報いるという意味でも、彼女達二人は許そう。
シャーリーも問題ない、彼女に対してなにやら兄が罪悪感を感じているようだが、彼女自身の行動によって兄に心が届くとは思えない。
彼女の心が届いても、自分が第一であるという自信がある。
C.Cは自分とは違う立ち位置で兄の傍に立っているが、立ち位置が違うので自分の場所を奪うことは無いと思う。
ただ、彼女の心だけが読めないのが多少、不自由だがそこは兄を信頼しよう。
ナナリーにとって、兄の傍に立つ家族は自分のみ、または女としての位置は自分が選別すると考えていたのだった。
そこに自分以外の家族という立ち位置を兄の中に確保しているロロという少年は許し難いものがあった。
自分と兄の家族としての証であった、ランペルージという姓、これをロロが名乗っているのも更にナナリーの怒りを誘った。
それは兄が少年に心許してなく、また家族として認めていなければ黙認することが出来た。
しかし兄は少年を家族として受け入れたのだった。しかも自分と同等に扱っているのだ。
ナナリーは自分が独占してきたものを、同年の少年に横取りされたと感じていた。
ナナリーにとって、兄の愛は総て自分が独占すべきもので、自分が許した者達に分け与えることが当然のことだったが、
ロロはそんなナナリーの決め事を破る存在だったのだ。
しかし、兄が少年に心許している状態では、何も出来なかった。ナナリーにとって、兄は世界の総てであり、自分の総てなのだから。
だから、不快感と怒りを心に押し込めて、ナナリーは不機嫌になる以外に何も出来なかった。

アリスとダルクもナナリーに負けないくらい不機嫌だった。
ロロが機情に配属された。その時に現在の機情のトップであるルルーシュから殺しは御法度の命令を彼は受けてる。
だが、アリスとダルクはいざとなったら、そんな命令を無視することが判っていたので、気が抜けなかった。
二人はルルーシュがロロのことを信頼していること自体が信じられなかった。
二人にとって、ルルーシュは慎重すぎるほど慎重に、そして人に対しては警戒を解かない人間だったはずだが、ロロに対しては
無条件で信頼してしまってるようだった。
そんな状態なので、ロロがナナリーに近づくと二人の警戒心が跳ね上がり、緊張した空気が流れるのであった。
ここにナナリーの表の護衛としてのアーニャが加わると、彼女のダウナー系の空気と交わり、ロロを含め5人の周りに漂う空気は最悪になっていた。

この中等部の面々に流れる空気を生徒会メンバー何とかしようと考えていた。
たまに学園に来てレポートを出し補習を受けるルルーシュとスザクは、この問題になんの役に立たないことが直に判明したので、
当てにされていなかった。
ルルーシュは「きっかけさえあれば、直に仲良くなるさ」と気楽に答えて、スザクは「人は許しあって判り合えるんだから、大丈夫だよ」と
深いのか一般論なのか判らない事を、噛み締めるように答えたからだ。
「で~、会長。どうするんです? ナナリーたちの関係改善」
リヴァルがミレイに何か良い案があるのか、確認した。
「ふふふ。人間関係が悪いのは、お互いを知らないからよ」
「でも、互いに知るどころか、接触自体を忌避してますよ」
ミレイの言葉にユーフェミアが答えた。
「彼女達は14歳で思春期だから、ほら、恥ずかしいんじゃないか?」
「あ~、そういえば俺もそんな覚えあるかも」
ジノの言葉にリヴァルが納得いった様に頷いた。
「ふむふむ、そうなると切欠ってのが欲しいわね」
ジノとリヴァルの会話は生徒会メンバーに会話の方向性を持たせた。
このことで、中等部の面々の問題は思春期特有の男女間の隔意だと生徒会メンバーは誤認してしまった。
「でも、ミレイちゃん。切欠って言っても、住んでる場所も違うし会うのは学園くらいだから、ちょっと難しいよ」
ニーナの言葉にリヴァルは自分なりに考えて提案した。
「んじゃ、該当メンバーでクラブハウスにでも合宿でもするか?」
リヴァルの提案はユーフェミアによって却下された。
「ダメですよ。ナナリーの外泊許可を、そんなことでお姉様とルルーシュが出すはず無いですから」
ミレイは少し考えを纏めた。
「う~ん、ナナリーの外泊はルルーシュが許さない。でも、切欠としては寝食を共にするのは悪くない」
そんな時に、リヴァルが呟いた。
「いっそ、ルルーシュも巻き込んで旅行にでも行きますか? 名目は親睦会ってことで」
その呟きを聞いたミレイは、立ち上がりリヴァルを指差しながら、叫んだ。
「それだ!」
ミレイの叫びを聞いて、生徒会メンバーは驚いてミレイに注目した。
「ルルーシュを巻き込んでの生徒会メンバーと学園に在籍している護衛の人たちの親睦会。
 どっか観光地に泊りがけで遊びに行ければ、OKよ」
ミレイの言葉を聞いて、ユーフェミアがまたも否定的な言葉を言った。
「あの~、私とナナリーはお姉様とルルーシュからテロの対象になるから租界から出るなって言われてるんです」
「あ~、確かにコーネリア総督とルルーシュ先輩から、テロの対象になりやすいから周囲には気を付けるようにって言われてます。
 そんな状態で、租界の外に旅行とかは絶対に許可されませんよ」
ユーフェミアとジノの言葉は、ミレイの上がったテンションを一気に下げる威力があった。
「ルルーシュって、ナナリーに甘いからナナリーがおねだりすれば、許可しそうに思えるけど」
ニーナの意見は、ミレイにとって救いの言葉であった。
「ふむふむ、将を射んとすれば馬を射よ、流石ニーナなかなか的確な意見ね。早速ナナリーに言って来るね」
そういって、ミレイは生徒会室を出て、ナナリーの元へ向かって行った。

扇グループは周辺のレジスタンスグループだけでなく、多少距離のあるレジスタンスグループと接触していた。
だが、何処も扇グループの合流に対して肯定的な回答は得られなかった。
中にはゼロが居ないというだけで、門前払いされたこともあった。
そのことはグループ内に閉塞感と不満を燻らす事になった。
「何とも手詰まりで、どうしようもないな」
南の言葉に、扇は自分が責められているように感じてしまった。
「そうね。ここ新宿ゲットーもルルーシュ副総督のおかげで、再開発と再整備が行われ始めて住人は集まり始めたけど、
 その人たちはレジスタンス活動に否定的だしね」
井上の言葉は、更に扇の心を追い詰めた。
「そういえば、玉城達は?」
扇は気分を変えようと、ここに居ない玉城達三人のことを聞いた。そして帰ってきた答えは意外なものだった。
「レジスタンス活動の資金を得るために、新宿再開発の仕事に参加中。イレブンでも参加できるし日雇いで昼食付だから、
 手軽に参加してるわよ」
「玉城なんかは、昼飯に日本食が出るのに気を良くして結構な頻度で参加してるな」
「そうね。この前なんか、芋の煮っ転がしとアジの開きを食べれたって喜んでたしね」
「それに釣られて、吉田と杉山が参加したのは意外だったな」
井上と南の会話は、扇にとって痛いものだった。自分がリーダーとして引き継いだが、今にも空中分解しそうな状態になっていたからだ。
「なあ、俺達このままレジスタンス活動って続けていけるのかな?」
扇がこぼした言葉は、南と井上に予想以上の驚きを与えた。
「何を言ってるんだ、扇。俺達は現状を何とかしようと活動してるだろう。玉城達だって活動資金を集めるためにがんばってるんだし」
「そうね。リーダーのあなたが弱気になったら、私たちは空中分解して、おしまいになるわよ」
二人の言葉を聞いて、扇は何とか気分を持ち直して答えた。
「そうだな。すまん、弱気になってたみたいだ。これからも積極的に他のレジスタンスグループに働きかけるとしよう」
扇はそう喋りながら、空元気がいつまで続くか不安であった。

初投稿(09/05/20)
改訂(09/05/21)



[8411] 20話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/22 20:56
ロロは幸福であった。
7年前に皇帝のギアスによって与えられた、暖かな記憶。
成長した自分に兄が出来、家族として共に暮らし、学校に行き、穏やかに過ごす1年間の記憶。
この記憶を貰った時に、皇帝は約束してくれたのだった。この記憶を真実にしてくれると。
この瞬間にロロは当時の嚮主の座に就いたばかりだったV.Vを裏切る決意をした。
V.Vを裏切り、皇帝が嚮主の座に就いてからは嚮団は何かを研究することに集中して、危険な任務に就くことが少なくなった。
またギアス抑制剤などを作らせ、ギアスの副作用を抑えて団員達を大事にしていた。
それはロロに皇帝に対して忠誠を抱かせ、任務を受けたときはその忠誠を見せようと、任務に励むことになった。
その時に、任務を完璧にこなそうと多めに被害を出すこともあったが、それも許容してくれた。
そして、とうとう記憶にある制服を渡され、記憶にある兄の下に行くことになった。
護衛任務も含まれるが、自分に出来る家族の為に危険を排除するのは当然のことであった。
初めて会った兄は、記憶にあるように自分を暖かく受け入れてくれた。
皇帝が与えてくれた、彼の従兄弟という戸籍と彼の名乗っていた姓であるランペルージという姓、ただそれだけで彼は自分を受け入れてくれたのだった。
自分と同年の彼の同母妹は、なにやら警戒しているが家族なのだから、これから打ち解けていくのだと信じていた。
また、二つ上の彼の異母妹は、自分に姉と思って欲しいと言って受け入れてくれた。
思いかけずに家族が更に二人増えて、自分の幸運と幸福に感謝した。
そして、これらを与えてくれた皇帝に更なる忠誠を捧げようと、ロロは誓っていた。

ユーフェミアもまた幸福であった。
死んだと思っていた兄妹が生きており、共に暮らすことが出来る様になったからだ。
その為に、自分が就くはずだった副総督の地位を異母兄が就いてしまったが、副総督に就任すること自体に乗り気でなかった為に、
特に気にしてなかった。
むしろ、そのおかげで過去に皇宮で暮らしていたときよりも仲良く共に暮らせることのほうが重要だった。
兄妹が通っている学園に共に通い、新たな友と勉学に励む、夢のような生活だ。
それに兄の親友である名誉ブリタニア人の枢木スザクに心惹かれていることもあり、彼が自分の騎士に成らないかと夢想したこともあった。
新たに父たる皇帝が同母兄の息子、所謂イトコであるナナリーと同年の少年を護衛としてランペルージ姓を与えて派遣してきた。
ルルーシュがその少年を家族として、弟して受け入れたので、ユーフェミアも彼を弟として受け入れた。
少年はそれを喜び、直に自分達を家族として認識した。ユーフェミアにとっては新たに弟が出来て、嬉しかった。
だから、弟のロロと妹のナナリーが不仲なのが、ユーフェミアには納得がいかなかった。
そんなユーフェミアの気持ちを汲むように生徒会メンバーはロロとナナリーの関係を改善しようと、知恵を絞ってくれた。
だから、ユーフェミアは自分に出来ることとして、姉コーネリアにナナリーと自分の外泊許可を出してくれるように頼んだのであった。

ナナリーとユーフェミアによって、出された外泊許可とルルーシュと共に旅行したいという願いを聞いて、
コーネリアとルルーシュは頭を抱えていた。
総督室の中には、コーネリア、ルルーシュ、C.C、ギルフォード、ダールトンの5人、ある意味エリア11を統括しているトップが集まっていた。
「ルルーシュ。今の時期にユーフェミア達の願いをかなえると、確実にテロの対象となってしまう。何とか諦めさせる方法は無いか?」
「すみません、姉上。自分にも、どうやって諦めさせれば良いか、皆目検討もつきません」
ギルフォードとダールトンは皇族二人が願い出たことなので、無下に出来ずに諦めさせる方法が思いつかなかった。
C.Cは我関せずと届けられたピザを頬張っていた。
そんな中でルルーシュは、コーネリアに人を呼んだことを告げた。
「先ほど咲世子を呼びましたので、もうすぐ来るでしょう。ナナリーが一番信頼してるのは咲世子ですから、彼女なら良い知恵が出るはずです」
「そうだな」
そんなルルーシュの言葉を受け、コーネリアは納得したように頷いた。

エリア11政庁での咲世子の立場は微妙なものがあった。
名誉ブリタニア人であるが、復帰した皇族のルルーシュとナナリーの絶対の信頼を受けていること。
特にナナリーが咲世子を信頼して、彼女以外のメイドが現れると露骨に警戒するときがあった。
メイドとしてだけでなく、SPとしても傍にいること。
傍にいるという意味でメイドだけでなく、SPとして傍にいることは重要であり、一人で二役こなせる人材は他に居なかった。
アッシュフォードが皇族二人の為にわざわざ、派遣してきたこと。
現在のエリア11でアッシュフォードの権勢は、他に無いほどの勢いがあった。そのアッシュフォードがわざわざ派遣してきたのだから、
彼女に対して何かするということは、アッシュフォードに泥を塗ることと同義であった。
いろいろな要素が集まり、篠崎咲世子という存在はエリア11政庁では扱いに困る存在になっていた。

「お待たせしました。ルルーシュ様、お呼びでしょうか?」
メイド服を着た咲世子が総督室に入ってきた。それを受けてルルーシュが早速、相談を持ちかけた。
「ああ、咲世子さん。よく来てくれた。それで早速で悪いんだがナナリーが旅行をしたいと言ってきてね。
 それを断る良い方法が無いか考えてるが、良い知恵が浮かばなくて、ナナリーと共に居る咲世子さんなら良い知恵があるんじゃないかと、
 呼び出したんだ」
「そうだったんですか。判りました。この咲世子、非才の身ながらルルーシュ様のフォローをさせて頂きます」
そう言って、咲世子は考え始めた。そして咲世子は自分の中で導き出された答えを口にした。
「そうですね。ルルーシュ様がナナリー様に添い寝するのは、どうでしょうか?
 今回のナナリー様の願いは、ルルーシュ様がお忙しく御自分に構ってくれないために仰った事だと思いますので、
 その寂しさを埋めるために、ルルーシュ様がナナリー様の添い寝を行えば、ナナリー様も満足していただけると思います」
その答えを聞いたコーネリア、ギルフォード、ダールトンは微妙な顔でルルーシュを見た。
C.Cは結果が予想できたのか、ニヤニヤと笑いながら同じくルルーシュを見た。
当のルルーシュは前に108人の女生徒とのデートの予定を組まれたことを含め、咲世子が天然だったことを思い出し、
このような問題には咲世子は当てにならないことを再確認してしまった。
「いや、そうじゃないんだ。ナナリーの寂しさを埋めることじゃなくて、テロに遭わないように旅行に行くことを諦めさせて欲しいんだ」
「そうなのでしたか。難しい問題ですね。ナナリー様は勿論、ユーフェミア様やミレイ様もこの件に関わってるそうなので、
 正直、旅行に行くことを諦めて頂くのは無理なのではないでしょうか」
ルルーシュが咲世子の勘違いを正して意見を求めたが、その回答は無常なものであった。
そんなやり取りを聞いていたC.Cはルルーシュ達に向けて言った。
「諦めて、ナナリー達と一緒に護衛と共に旅行に行ってやれ。そのほうがむしろ安全だろ」
それを聞いて、ルルーシュとコーネリアは顔を顰めて反論した。
「それでは、ナナリー達に万が一でも危険に遭う可能性があるじゃないか」
「そうだ。いくら精強な者達とは言え、万が一にもユーフェミア達が危険な目に遭う」
C.Cは護衛と共に大きく動けば相手は警戒して手を出さないかもしれない、出しても護衛として配属されている者達なら、
簡単に襲ってきた者達を鎮圧することが出来るだろうと思って言ったが、ルルーシュとコーネリアはそれすら二人から遠ざけたいと思い反論した。
「まったく、お前達は。そんなに心配なら、私とコーネリアも共に行動すれば更に護衛を増やせるだろう」
新たに告げられたC.Cの言葉はコーネリアの心に響くものがあった。
「ふむ、最近は政務によりユフィと、ゆっくりと過ごす時間がなかったし、ルルーシュの政策によりテロ活動も下火になってきているから、
 私も参加しギルフォードやダールトンも加われば、護衛も問題なくなるな」
突然の姉の裏切りに、ルルーシュは混乱した。
「姉上! いきなり何を言い出すんですか! 大体、テロの暴発を誘うのはカワグチ湖でのサクラダイト供給会議に自分が立ち会うと宣伝し、
 囮になると決めたでしょう!」
「ルルーシュよ。そなたの覚悟は尊いものがある。だが、そなただけを囮にするのは少々心苦しかったのだ。
 それも、今回の猊下の提案に乗れば、そなただけを危険な目に合わせることが無くなるのだ」
コーネリアの言葉を受け、自分の意見が通らないことをルルーシュは悟ってしまった。
そして、いざとなったら自分のギアスと機情のギアスユーザのギアスで何とかなるだろう、と諦めて考えた。

ジェレミアはヴィレッタとキューエルと共に、ルルーシュに推薦すべき人材のピックアップを行っていた。
この作業の為に、ヴィレッタは一時的にナナリーの護衛を外してもらっていた。
しかし、純血派は軍人の派閥であって文官になりそうな人材は存在しなかった。
その為に、自分たちの伝手をそれぞれ利用して、探そうとしたが条件に合う人間が見つからない状態だった。
「キューエルよ、貴様に伝手は無いのか?」
「無理だな。妹は士官学校の生徒だ、半人前とはいえ軍人だから、今回の事には向かない人材だ」
「そうか」
ジェレミアとキューエルの問答を聞き、ヴィレッタもまた書類を見て自分たちの意見を代理として発言してくれそうな人材を探していた。
しかし、自分達が持ってるエリア11内の伝手は軍部が中心であるから、めぼしい人材は見つからなかった。
そこでヴィレッタは、ふとジェレミアが総督代行を行っていたときのテレビ屋のことを思い出していた。
「ジェレミア卿にキューエル卿、枢機卿猊下は外部の人間でも構わないと仰っていましたよね?」
そのヴィレッタの確認に、キューエルは答えた。
「ああ、枢機卿猊下は外部の人間でも構わないと仰っていたぞ。忘れたわけであるまい」
「いえ、念のために確認しただけです」
そのヴィレッタの様子にジェレミアは、良い人材が居たのかと思い、問いかけた。
「ヴィレッタよ。良い人材でも思い浮かんだのか?」
「はい、前に会ったテレビ屋のディートハルト・リートはどうでしょう?
 状況判断力と推察力に優れているように思われましたので、今回の我らが求める人材に近いと思いますが」
ヴィレッタの言葉を聞き、ジェレミアとキューエルは、件の人を思い出していた。
確かに、状況判断力と推察力は優れているようだが、ブリタニアへの忠誠という意味では疑問符が付く人材であった。
それでも、現状の手詰まりな状態では、なかなかに良い人材と思われた。
「ふむ、多少問題がありそうな人間ではあるが、居ないよりはマシだろう。早速、やつに会って交渉してみるか」
そう言って、ジェレミアは備え付けの回線から、Hi-TVエリア11トウキョウ租界支局に連絡を入れることにした。

初投稿(09/05/21)
改訂(09/05/22)



[8411] 21話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/22 20:55
応接間にて、ディートハルト・リートはジェレミア・ゴットバルト辺境伯を迎えていた。
ディートハルトはジェレミアの話を聞き、内容を纏め吟味した。
結局のところは、純血派のスポークスマンとしてのスカウトである。
しかも、彼らの支持するルルーシュ・ヴィ・ブリタニア副総督の下で、純血派のスポークスマンとして活動しろというのだ。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはコーネリア・リ・ブリタニアと並んで面白そうな素材ではある。
クロヴィス・ラ・ブリタニアの下だったら一蹴して断っていただろう。
だが、どちらもゼロと比べると素材として、何かが足りない気がした。
ゼロは不安定な中にも、渇望する何かを求める貪欲さがあった。
しかしルルーシュには、ゼロに無い安定感があり、貪欲さが薄い感じがした。
既に求めているものは手の内にあり、それを失うまいとした守りが見えるものであった。
少し前の自分なら、この話に飛びついていたが、ゼロという極上の素材を見た後では少々物足りないものを感じてしまう。
だが、ゼロは枢木スザク強奪事件より現れていない、これに呼応するようにエリア11の政庁もサイタマゲットーでのテロリスト殲滅作戦から
ゼロに対する執着がなくなったようだった。一応探してはいるが、前のように我武者羅には探していないようだ。
そうなると政庁がゼロを探さなくなったのは、既にゼロを処分している可能性があることになる。
枢木スザク強奪事件で、オレンジ疑惑に塗れたジェレミアをコーネリア総督は未だに重用している。
ここに不可解な点がある。
ゼロによるオレンジ疑惑ー隠れていた皇族の登場ーオレンジ疑惑当事者のジェレミアの重用。
これは、なかなか面白いものが隠されているのかもしれない。
「なるほど、お話は判りました。ですが、いきなり皇族に仕えよと言われても戸惑ってしまいます。
 そこで取材という形で、ルルーシュ副総督閣下の人となりを確認させてもらっても構いませんか?」
ディートハルトの物言いはジェレミアに不快感を与えたが、言っていることも間違ってはいなかった。
「ふむ、取材の件はコーネリア総督とルルーシュ副総督にお願いしてみるが、あまり期待しないで欲しい。
 取材の件が無理だった時の代わりを考えておいて貰う。それで構わないか?」
「ええ、構いませんとも。こちらとしては、人となりが判ればいいので」
ジェレミアはディートハルトの回答を聞いて、席を立った。
そして、皇族二人にどうやって話を持っていくか、頭を悩ませた。

「え~、コーネリア総督とルルが旅行を許可したんだ」
シャーリーの驚きは、生徒会メンバーにとって当然のもので、むしろ、シャーリーが真っ先に驚いたので、
驚くタイミングを失ってしまった状態だった。
「はい、お姉様とルルーシュが話し合って、最終的に許可したそうです」
「勿論、お兄様も一緒に旅行に行かれるそうです」
ユーフェミアの言葉に続けて、ナナリーも言葉を紡いだ。
今日のナナリーは非常に機嫌が良かった。
昨夜はナナリーが寝付くまで、ルルーシュが傍にいて手を握っていてくれたからだった。
そして、そのことを朝食時に咲世子に話したら、咲世子がルルーシュにナナリーが寂しがっていることを話してしまったと白状したのだった。
勿論、旅行の許可を出したときの顛末を含めてだ。
この時、ナナリーは多少天然な所はあるが自分達に誠心誠意仕えてくれているのだから、やはり咲世子は信頼できると思った。
「んじゃ、結構な人数になるなぁ。そうなると大きいホテルじゃないと無理があるな」
リヴァルの所感を受けて、ミレイが人数を数え始めた。
「えっと、中等部が、ナナちゃんにアリスちゃん、ダルクちゃん、アーニャにロロの5人か」
「ミレイちゃん、高等部はすごく人数が多くなっちゃうよ」
「まずは男が、俺とルルーシュ、スザクにジノと、4人か」
ニーナの言葉を受けて、リヴァルがまず男子の人数を数え始め、それを引き継ぐようにシャーリーが女子を数え始めた。
「えっと、私に会長、ニーナにカレン、最後にユフィと5人ね。となると、総勢14名って多すぎじゃありません?」
シャーリーが数えた人数にミレイが訂正を入れた。
「サンチアとルクレティアも、護衛だから二人も追加してね。だから16名ね」
ミレイの言葉をユーフェミアが更に訂正した。
「あ、今回の旅行にお姉様も護衛つきで参加しますから」
「そういえば、C.Cさんも参加するって言ってましたよ」
ナナリーがユーフェミアの言葉を引き継いで、更に追加要員を言った。
そして、初めて聞く名にシャーリーは疑問に思って、確認した。
「C.Cさん? 誰なの?」
「お兄様のお知り合いで、枢機卿の地位に就いてらっしゃって、お兄様の仕事を手伝っていらっしゃいます」
ナナリーの答えで、ルルーシュの仕事関係の人だとは判ったが、枢機卿と聞き覚えの無い言葉が出たので、更に疑問に思って問い返してしまった。
「枢機卿?」
「ああ、庶民には馴染みが無いか、俗世の権力には直接関係はしないが、その権威は皇帝陛下に次ぐと言われる地位なんだ。
 だから、ある意味このエリア11で一番偉い人と言えるかもしれないな」
ジノがシャーリーや周りの人間に判りやすいように説明した。
「ルルーシュのやつ、そんな人と仕事してるのかよ」
「ええ! そんな偉い人がこの旅行に参加するの!」
「ミレイちゃん、そんな人が参加するなんて、大丈夫なのかな」
それを受けてリヴァルとシャーリー、ニーナが驚いてしまった。
ミレイは豪華メンバーの追加にも、動じずに落ち着いて発言した。
「ふむ、そうなると政庁からの追加人数は、何人になるのかしら?」
「えっと、お姉様にギルフォード卿、ダールトン将軍にC.Cさん、それにナナリーのお世話ががりとして、
 咲世子さんも行きますから、5人ですね」
ユーフェミアの言葉を聞いて、今まで黙って話を聞いていたカレンが発言した。
「そんなに重要な人たちが一箇所に集まって、どこかに行くなんてテロの対象になったりしないの?」
カレンの発言を聞いて、生徒会メンバーが不安になったがアーニャが冷静に答えた。
「逆に重要人物を一箇所に集めて、護衛を厚くすることによって安全を高めようとしてる。
 聞いた話では、テロに遭うことが前提で護衛を連れて旅行に行くことになってる」
それを聞いたニーナなど、露骨に怯えてしまった。
「大丈夫ですよ。ラウンズと専任騎士に将軍、そして専門部隊が護衛に就くんですもの、たとえテロに遭ってもすぐに鎮圧しますし、
 安全で大丈夫なようにお姉様とルルーシュが考えてくれたんですから」
そんなニーナにユーフェミアは優しく声をかけた。その声を聞いて、ニーナは落ち着いていった。
「そうですね、ありがとうございます」
ニーナが落ち着いたのを確認して、ミレイが纏めるように言った。
「そうなると総勢21名の大所帯になるわけね。総督閣下が関わるとなると、こっちで勝手にいろいろと決めるわけにはいかないか」
「そのことでしたら、お兄様が会議室を取って話し合うから政庁に来て欲しいって言ってました」
ナナリーの言葉を受けて、リヴァルは疑問に思った。
「全員で?」
「ええ、全員で」
リヴァルの疑問はユーフェミアが楽しそうに答えてくれた。
「んじゃ、生徒会の仕事も無いし、アリスちゃん達を呼び出して、早速お呼ばれしますか」
ミレイの言葉を受けて、それぞれが行動を開始した。

初投稿(09/05/22)



[8411] 22話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/23 21:29
ジェレミアはコーネリアとルルーシュへの面談を求め、それが聞き入れられて二人の前に参上した。
「ちょうど良いときに現れたな。ジェレミア・ゴットバルト」
コーネリアの上機嫌な声を受け、ジェレミアはこの様子なら、ディートハルトのルルーシュへの取材の件は上手くいくかもしれないと考えた。
しかし、コーネリアより掛けられた言葉によって、それは吹き飛んでしまった。
「私とルルーシュは2,3日ほど、ユフィとナナリーと共に旅行に行くことにしたのだ。
 その時にそなたを総督代行に任命しようと思うのだ」
「は? いえ、大変名誉なことでありますが、この時期に御旅行でしょうか。テロなどがあり大変危険だと思いますが。
 その時の護衛として、純血派は随行しないのでしょうか」
軽く混乱をしているジェレミアを落ち着けるように、ルルーシュはジェレミアにゆっくりと声を掛けた。
「突然言われて混乱するのは判るが、ジェレミアよ。とりあえずは落ち着いたらどうだ」
「は、申し訳ありません。私を総督代行と仰いましたが、ダールトン将軍やギルフォード卿を任命しないのでしょうか?」
ルルーシュに言われ、自身の混乱を抑えてから疑問を口にした。そして、その疑問はコーネリアによって答えられた。
「ギルフォードとダールトンも、その旅行に護衛をして随伴する」
「そう、この旅行でエリア11の首脳部は全員政庁を離れ、集団で行動することになる」
ルルーシュの補足によって、ジェレミアには閃くものが在った。
「なるほど。では、万が一にもテロリストが政庁を占拠しようと攻撃してきた場合は、私の権限で撃退しても構わないということですね」
ジェレミアの察しの良さに満足しながら、コーネリアは答えた。
「勿論だ。この政庁がテロリストに占拠されては問題だからな。なるべくなら、そのテロリスト達は生け捕りが望ましいな。
 これを機会にキョウトという複数のテロリストグループを支援している団体の尻尾を掴んでおきたいからな」
「判りました。ご期待に沿うように、全力でがんばります。」
コーネリアとルルーシュは、ジェレミアの答えに満足し、そしてルルーシュがジェレミアの面談の目的を聞いた。
「今回の面談の目的は何だったのだ?」
それを聞いて、ジェレミアは本来の目的を思い出していた。
「は、実は純血派からルルーシュ様へ意見を伝えるために代理人を立てようとしましたが、
 その人物が現在、民間人であり、ルルーシュ様の人となりを知ってから回答したいと。
 それで、その人間はメディアの人間なので取材という形で会いたいと言っておりまして」
ジェレミアの言葉を聞き、ルルーシュは納得したように頷いた。
「それは道理だな。いきなり現れた皇族に仕えよと言ったところで、不安に思うのは当たり前だ。
 判った、その人間に会えるようにスケジュールを調整しよう。細かい段取りは任せた」
「ありがとうございます」
ジェレミアはルルーシュより許可を貰い、一安心した。
「して、ジェレミア。その者の名はなんと言うのだ?」
「はい、Hi-TVのディートハルト・リートといいます」
コーネリアの問いに答えたジェレミアの言った名に、ルルーシュは僅かに眉をひそめた。

新宿にあるアジトにカレンを除く扇グループのメンバーが揃っていた。
「すまない」
集まったメンバーにいきなり頭を下げる扇に、メンバーは困惑した。
「扇、いきなり頭を下げられても困るんだが、何かあったのか?」
全員の困惑を代表して、南が扇に問いかけた。
「そうだな、最初に謝るべきだと思って謝ったんだが、これじゃ判らないよな」
「そうそう、何があったか言ってくれないと、こっちとしても困るぜ」
扇の言葉に、玉城が相槌を打った。
「実はな、日本解放戦線と接触できたんだ」
その言葉に、メンバー一同は驚きと希望を声に乗せた。
「日本最大の反ブリタニア勢力と接触か」
杉山の言葉に、扇は頷きながら言葉を続けた。
「ああ、枢木スザクの救出を手伝ったことが相手の耳に入ってな。藤堂中佐と草壁中佐に接触できたんだ」
「うお! 奇跡の藤堂かよ! すげーじゃん」
有名どころの名が出て、玉城が感嘆の声を上げた。
それを聞きながら、二人に接触したときのことを扇は話し始めた。

「はじめまして、新宿でレジスタンス活動をしている扇といいます」
扇の言葉を受け、草壁と藤堂はそれぞれ挨拶をした。
「日本解放戦線の草壁である。階級は中佐だ」
「日本解放戦線で客将をしている藤堂だ。階級は同じく中佐をしている」
挨拶が終わると早速、草壁が扇に質問を行った。
「貴様達はゼロと共に、枢木スザクを強奪したそうだな。その時にゼロとの窓口は持っているのだろう」
「はい、ゼロとの窓口は教えてもらってましたが、実はうちのグループに勧誘したら断られてしまっているので、
 もう、こちらから接触する窓口は無くなっていると思います」
扇の言葉を聞き、草壁はその瞬間に扇たちに対しての関心は無くなってしまった。
「そうか。なら、さっさとこちらの答えを告げよう。
 日本解放戦線は貴様達を受け入れることが出来ないが、地下協力員として活動するなら支援しよう。
 ただし、その為の条件が貴様達のグループにいる半ブリタニア人の放逐だ」
「そんな! カレンは俺たちの仲間なんですよ!」
草壁の告げた言葉に扇は反論した。
「仲間といっても、そいつはブリタニアの禄を食んでいるのだろう。そのような半端者がいる以上、日本解放戦線では受け入れることも、支援することも無い」
「そんな」
扇の態度を見て、草薙はブリタニア人を放逐しないだろうと思い、話を終わらせることにした。
「その様子だと、ブリタニア人の放逐は無い様だな。ならばこの話は無かったことにしよう、以上だ」
そう言って、草薙はその場を立ち去ろうとした。その草薙に藤堂は声を掛けた。
「私は彼に話しがあるので、草薙は先に戻ってくれ」
「判った」
そう言って草薙は立ち去っていった。

藤堂は改まって、扇に向き直った。そして頭を下げた。
「まずはスザク君を救出してくれた事に礼を言う。ありがとう」
「あ、いや。頭を上げてください。自分達がやったのは、ほんの手伝いで、ほとんどゼロが助けたんですから」
そう言って扇は、藤堂の態度に恐縮してしまった。そして扇は疑問に思い、それを口にした。
「藤堂中佐は枢木スザクとお知り合いで?」
「ああ。私がやっていた道場に通っていたのだ」
その藤堂の言葉を受け、扇は頷いた。
「なるほど。でも、そうなるとスザク君がルルーシュ副総督の護衛についているのは不本意なのでは?」
「いや、逆にスザク君が名誉ブリタニア人となり軍に志願した理由がわかった気がするよ。
 スザク君とルルーシュ君は友人でね。戦前に二人が共にいる所を何度か見たことがあるし、スザク君よりルルーシュ君のことは話に聞いていたからね」
扇は藤堂の言葉を聞き、カレンから聞いた二人の様子を伝えようと思った。
「そうだったんですか。実は先ほど話に出たブリタニア人とのハーフなんですけど、カレンという名前の女子なんですが、
 そのスザク君とルルーシュ副総督とクラスメイトで同じ生徒会に所属してるんですよ」
そう言って、扇は自分がカレンから聞いた二人の様子を藤堂に話し始めた。

扇の話を聞き終わって、藤堂はポツリと呟いた。
「そうか、スザク君もルルーシュ君も、そしてナナリー君も不自由なく学園生活を楽しんでいるのか」
その呟きを聞き、扇は言葉を紡いだ。
「はい、カレンの話だと二人が揃うと、どんな難問もたちどころに解決するそうです」
扇の言葉を聞き、藤堂はまた頭を下げた。
「ありがとう。ルルーシュ君とナナリー君のことを気にしていたのだが、知ることが出来なかったのだ。
 その礼と言う訳でないが、私個人の連絡先を教えておこう。
 内輪の話で申し訳ないが、実は日本解放戦線はルルーシュ君の政策で地下協力員が減り、活動資金も集まりにくくなっているのだ。
 その為、君達を支援できないが、何かあったときには力を貸そう。
 また、君達にこちらから協力を要請することもあるかもしれないが、そのときはよろしく頼む」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って、扇も頭を下げた。

扇の話を聞き終わり、玉城は疑問を声に出した。
「なんで扇が謝るんだ? 奇跡の藤堂の連絡先を教えてもらって、大成功じゃん」
そんな玉城の態度に苦笑して、扇は答えた。
「いや、俺のせいで日本解放戦線の地下協力員になれなかったんだぞ」
「カレンを放逐しろって言う話なんでしょ。だったら、こちらからお断りよ」
井上の言葉に残りのメンバーが同意の声を上げた。
それを聞いて、扇は安心して微笑んだ。

初投稿(09/05/23)



[8411] 23話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/25 21:37
生徒会メンバーは枢機卿という地位に就いている人間を、歳を取った威厳のある男性だと考えていた。
しかし、紹介された人は自分達と変わらぬ年頃の少女であった。しかも、美少女である。
「あ、あの、はじめまして」
シャーリーがなけなしの勇気を振り絞って挨拶をした。そこにはルルーシュといつも共にいる少女に対する対抗心もあった。
「ああ、私のことはC.Cで良い」
シャーリーのことを見てから、アッシュフォード学園の面々に向かって自己紹介をした。
その様子にリヴァルが遠慮がちに自己紹介を行った。
「あの、俺はリヴァルって言います」
「知ってるよ、リヴァル・カルデモンド。ルルーシュの友人だろう。ちなみにここにいるメンバーは全員知っているから、自己紹介とかはしなくて良い」
C.Cの言葉に全員が、一歩引いてしまった。しかし、シャーリーはC.Cに対抗するように更に声を掛けた。
「C.Cさんは、ルルのことを手伝っているそうですけど、どれくらい手伝っているんですか?」
C.Cはそんなシャーリーを見て、面白いことを思いついたように微笑んで答えた。
「その質問は正確じゃないな。正直に、私とルルーシュがどんな関係なのか? どれくらい一緒に居るのか? と聞けば良い」
C.Cの言葉を聞いて、シャーリーは顔を赤くしつつ、慌てて反論した。
「いや、そうじゃなくて、私は別にルルのことを気にしてないですから」
シャーリーのリアクションに満足しながら、C.Cはシャーリーに言葉を続けた。
「ちなみに私とルルーシュは共犯者だ。そして、ルルーシュが政庁に居る時は大抵は傍にいる。
 シャーリー。お前の最大のライバルは私でなく、そこに居るミレイだ」
そういってC.Cはミレイを指差した。
「私がシャーリーのライバルですか?」
指を指されたミレイは疑問符を浮かべながら、C.Cに確認した。
「そうだ。アッシュフォードは嘗て、お前とルルーシュを婚約させたように、またお前達を婚約させてアッシュフォードの地盤を固めておきたいらしい」
「ええ~」
その言葉にリヴァルが真っ先に反応した。そしてシャーリーがミレイに問い詰めた。
「会長! ルルと婚約って、どういうことですか!」
「あ~、いや、ほらね、家の事だから私も知らなかったのよ。それにほら、ルルーシュって皇位継承が高くなったから結婚って
 ブリタニアの国策になるんじゃないかしら、婚約の話自体が立ち消えると思うわよ」
シャーリーを宥めるようにミレイが語りかけたが、C.Cはそれを更に混ぜっ返した。
「ルルーシュは皇族だからな。複数の夫人が居てもおかしくないぞ。なんと言ってもルルーシュの母が庶民から后妃に上り詰めた人物だからな」
C.Cの言葉を聞き、シャーリーはこぶしを握り締め、気合を入れた。
「C.Cさん。みなさんをからかうものじゃないですよ。お兄様の結婚とは、とても重要な事なのですから。そう、この上なく重要な事なのですよ」
ナナリーからC.Cを窘める声が上がった。それはC.Cを窘めるだけでなく、周りにプレッシャーをも与えていた。
部屋の空気が重くなったときに、ドアからノックの音が聞こえてきた。
これ幸いと、真っ先にリヴァルが行動した。
「は~い、今出ます」
ドアを開けたリヴァルを待っていたのは宅配ピザの箱を大量に抱えた政庁の役人達だった。
「枢機卿猊下が注文しましたピザが届いたので、持ってまいりました」
「判った。机の上に置いといてくれ」
C.Cの言葉を受け、役人達は机の上にピザを置いていった。
「ルルーシュの奢りだ。遠慮なく食べると良い。これを食べてるうちにルルーシュも来るだろう」
C.Cは一同にそう言って、早速ピザの箱を開け食べ始めた。
その行動に場の空気は変わり、それぞれがペーパーソーサーを配ったりサイドメニューを開けたりと行動を開始した。

桐原泰三は疲労を感じつつ、キョウト六家での会合での出来事を思い出していた。
会合では、新たに就任したコーネリア総督とルルーシュ副総督について話し合われた。
コーネリア総督によって、かなりのレジスタンスグループが潰され、
ルルーシュ副総督の日本人に対する政策は、コーネリアによって潰されたレジスタンスの代わりを補充する事を困難にした。
どちらか片方だけの軍事行動と政策だったなら問題なかったが、この二つが組み合わさった事でレジスタンスグループが大量に消えていった。
また、ルルーシュとスザクの友人としての関係が日本人達に伝わり、スザクが友人の為に名誉ブリタニア人になり軍に入り護衛することを、
浪花節に弱い日本人達は好意的に受け入れていた。
そして、そんなスザクを信頼し傍で護衛として重用するルルーシュの姿に日本人達は、彼の下なら日本人でも重用されると思わせた。
そのルルーシュがゲットーの生活環境改善や、日本人達を狙った麻薬の撲滅に動き出す事によって、彼を日本人達は好意的に思うことになった。
桐原はルルーシュによって、日本人達が骨抜きにされブリタニアに飲み込まれる事を危惧していた。
キョウト六家内でも、ルルーシュを支援して日本人の権利拡大を目指すべきだと言う意見もあった。
しかし、それは桐原にとっては許容できない事だった。それでは日本人でなく、日系ブリタニア人になってしまうからだ。
ブリタニアを憎んでいたはずの、ブリタニアの敵となったはずの彼がブリタニア側に付き、日本と日本人の敵になってしまった。
桐原は政庁への伝手を使い、ルルーシュに直接会おうと考えた。
それと同時に、支援している日本解放戦線らレジスタンスグループへ反ブリタニア活動を活発行う事を指示することにした。

「フン フン フフ~ン」
ロイドは鼻歌を歌いながら、ランスロットの調整を行っていた。その上機嫌な様子にセシルは、不思議に思ってロイドに話しかけた。
「ロイドさん。やけに上機嫌ですけど、何か良いことでもあったんですか?」
「ん~、ふふふ。実はね、アッシュフォードからナイトメア開発をまた行うから、技術提携しないかって提案されたんだよ」
ロイドの言葉に、セシルは驚いてしまった。
「まあ、アッシュフォードがナイトメア開発を行うんですか」
「そうなんだ、向こうも7年のブランクがあるから、うちと技術提携してブランクを埋めたいそうだよ。まあ、代わりにガニメデとかのデータは貰うけどね」
セシルはロイドが上機嫌な理由が、前から欲しがっていたアッシュフォード系列のナイトメアデータが貰える事に納得した。
「そうなりますと、シュナイゼル殿下にも連絡を入れないといけませんね」
その言葉を聞いた瞬間に、ロイドは萎れてしまった。
「あちゃ~。その事、忘れてた。この話、なかった事になるかも」
「どういうことです?」
「ほら、うちはシュナイゼル様がスポンサーじゃない。で、アッシュフォードはルルーシュ様。
 皇位継承の二番手と三番手だから、手を組むのを邪魔されるかもしれないし、互いに警戒して話がなくなるかもしれないってこと」
ロイドの話した事情にセシルは納得いった。
「はぁ、アッシュフォードのナイトメアだけじゃなく。皇帝ちゃん直属の機密情報局のナイトメアも触れる事が出来ると思ったんだけどなぁ」
「それって、噂の第六世代ナイトメアの事ですか?」
さっきとは打って変わって、萎えてしまっているロイドの言葉にセシルは確認した。
「そそ、表立ってじゃないけど、機密情報局が特殊な第六世代のナイトメアを運用してるって噂があるからね。
 ルルーシュ様の直属になったから、アッシュフォードと提携すれば、ガニメデとかと一緒にデータが貰えるんじゃないかと思ったんだ」
そんなロイドを慰めるようにセシルは話題を換える事にした。
「そこら辺は、しょうがない事として諦めるとして。ガウェインの移管の話はどうなったんです?」
話題が変わり興味が移ったのか、あっさりとロイドは復活して話題に乗ってきた。
「許可が下りて、現在はこのエリア11に移送中。ま、未完成部分があって僕じゃないと完成できないって事で、渡りに船って感じで許可が下りたよ」
機嫌の直ったロイドの様子に安心してセシルは相槌を打った。
「それは良かったですね」
「うん、うん。でも、新しい問題が出てね」
ロイドの言葉に興味を覚えて、セシルは問題の内容を聞く事にした。
「問題ですか?」
「そ、ガウェインは複座式でしょ。ルルーシュ様と誰を乗せるかって問題が発生しちゃってね」
「このエリアには、優秀なデヴァイサーが沢山居るじゃないですか。なんだったら、ラウンズの方々にお願いしても良いのでは?」
その言葉に頷きながら、ロイドは答えた。
「うん、うん。僕もそう思ったんだけどね。なんと! ルルーシュ様の専任騎士問題に拡大しちゃったわけなんだ」
「ああ、そういうことですか」
「そうそう、複座式だから共に乗るデヴァイサーはルルーシュ様の専任騎士か、その候補ってことになるからね」
セシルがすぐに納得するほど、軍部ではルルーシュの専任騎士の問題は有名なものがあった。
「そうなりますと、ガウェインの運用も満足に行えない可能性があるんですね」
溜息をつきながらセシルは、呟いてしまった。
「ん~、そこはルルーシュ様に一緒に乗るデヴァイサーを選んでもらおうと思ってるんだけどね。
 なんだったら、ランスロットと同じく軍から適合率の高い人間をデヴァイサーにして、専任騎士問題と切り離せば良いしね」
「それが良いですね」
セシルはロイドの言葉に同意した。

初投稿(09/05/24)
改訂・誤字修正(09/05/25)



[8411] 24話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/26 20:59
日本解放戦線の一室では、片瀬を中心に会議が行われていた。
「地下協力員からの報告で、政庁首脳部が揃って政庁を離れ、旅行に行くそうです」
草壁の報告に、場は騒然とした。
「その報告は確実なのか?」
片瀬の確認に、草壁は自信を持って答えた。
「はい、複数のルートから同じ情報が上がってます」
片瀬が頷き、納得したところで草壁は続けて発言を行った。
「そこで、政庁首脳部と政庁に対して二面作戦を提案します」
「ふむ、二面作戦か」
片瀬が興味を覚えて、聞いてきたので草壁は作戦概要の説明を行った。
「政庁首脳部が居る現地でキョウトが支援しているレジスタンスに合流してもらい、襲撃するのです。
 そうすれば東京租界の部隊が救援に向かい、東京租界の戦力が激減します。
 この時に我ら日本解放戦線が全戦力を持って、東京租界をブリタニアより開放するのです」
「なるほど、なら、その指揮は藤堂にとってもらおう」
片瀬が藤堂を指名したときに、草壁が異を唱えた。
「いえ、藤堂中佐にはレジスタンスをまとめ、政庁首脳部を襲撃する部隊の指揮を取って貰いたいと考えてます。
 なぜなら、レジスタンスは我らと違い烏合の衆、それを纏め上げるのは奇跡の藤堂以外に無理だと考えたからです」
草壁の意見を聞いた片瀬は納得し、藤堂に頼んだ。
「藤堂、頼まれてくれるか?」
「はい、片瀬少将には、一方ならぬ恩があります故」
片瀬は藤堂が引き受けてくれた事に安堵した。
「では、草壁と藤堂の二人が中心となって、作戦を決めてくれ」
片瀬は、そう言って場を解散させた。

「お、いい匂いだな」
食堂に向かって歩く扇は思わず呟いてしまった。
新宿再開発の仕事に共に参加してた玉城は扇の呟きを聞いて、笑いながら言った。
「だろ。実際、ここの飯はすげーうまいんだよ」
食堂に到着した玉城が鼻をヒクヒクと動かしながら匂いで今日のメニューを推察した。
「この匂いは、多分カレーだな」
「カレーか、久しぶりだな」
「そういや、扇は初参加だったな。ここは結構カレーの頻度が多いんだぜ」
扇は遠くのレジスタンスとの接触を取るために新宿再開発の仕事に参加した事が無かったが、
遠出するための資金が尽きてきたので仕事に参加する事にしたのだった。
初めて見る食堂を扇はキョロキョロと見回してしまった。そこで掲示板を見つけて見入ってしまった。
「いろんな仕事で人を募集してるな。しかも日本語で書かれてる」
「ああ。外の掲示板でも同じポスターが貼ってあるぜ。それを見て仕事に就くやつも多いんだそうだ」
そこには様々な仕事を募集していた。
『保育員募集』『日本人居住区治安維持士募集(警察補助)』『調理師募集』『小等部・中等部教員募集』……
「へえ、教師も募集してるのか。しかも全部が名誉ブリタニア人じゃなくても良いんだ」
「ん? そういや、扇は教師を目指していたな。興味でも沸いたのか?」
扇が熱心にポスターを見てるので、玉城は扇が教師を目指していた事を思い出して問いかけた。
「まあ、少しな。俺も直人も教師を目指しててな。大学に入って最初の夏休みにブリタニアとの戦争になったからな」
「ああ、そういや、お前も直人も暇なときに子供達に勉強を教えていたな」
二人は会話しながら、米とカレーをよそってラッキョ、福神漬けを皿の脇に盛った。
そして、席に付き食事を開始した。
「しかし、ラッキョや福神漬けまで用意してるなんて、驚いたな」
「まあな、副総督とその妹の御付のメイドが、名誉ブリタニア人でこの手の事に気付いて準備してくれたって話だ」
扇は備え付けのヤカンから、コップにお茶を注ぎ、口をつけた。
「お、麦茶じゃないか。こんなものまで用意してあるなんて」
「おうよ、ブリタニア人は焦げ臭いって言って、飲まないからな。これは焦げ臭いんじゃなくて、香ばしいって言うんだって」
苦笑しながら、扇は同意した。
「そうだな。ブリタニア人は、時々恐ろしい色のケーキとか売ってるからな。しかもそれを、美味そうに食べるからな」
「まったくだ」
玉城も笑いながら、同意した。
二人は食事も終わり、休憩所に場所を移動した。そして、声を潜めて会話をした。
「しかし、ここでの副総督の人気は凄いものがあるな」
「ああ、イレブンのままでも仕事をくれるし、飯も美味いものを用意してくれる。これだけ世話になれば人気も出るさ。
 しかも、護衛と御付のメイドが名誉ブリタニア人だ。自分達も名誉ブリタニア人になってヤツの下に就けば出世も出来るかもしれないからな」
玉城の言葉は、新宿に居る日本人達の最大公約数的な意見だった。玉城は続けて発言した。
「アッシュフォードが没落しても二人を匿っていたってのが、日本人の嗜好にあったからな。
 扇も好きだろ、そういう忠義もの。で、二人が皇族に戻ってから、その忠義に報いるように重用したってのも好感触だったらしいな。
 大抵の日本人は、アッシュフォードとあの二人の皇族に好意的になってる」
玉城の言葉に扇は難しい顔をして考え込んでしまった。そんな扇に、玉城は声をかけた。
「おっと、そろそろ昼休みが終わりだ。行こうぜ」
「ああ、判った」
そして二人は仕事に戻っていった。

ルルーシュとスザクは朝からアッシュフォード学園に居た。
アッシュフォードとコーネリアがルルーシュを補佐する人間を遣してくれたので、政務に余裕が出来て学園に来れる日が多くなってきたのだった。
その為に、この日は補習も無く生徒会室で疎遠になってしまった生徒会メンバーと時間を持とうと考えていた。
生徒会室ではリヴァルとジノがチェスをしており、またユーフェミアがスザクと雑談をしていた。
ミレイとニーナはネットで旅行先の情報を収集していた。
カレンはアーサーを構っていたので、カレンにルルーシュは声をかけた。
「カレン、ナナリーとロロ達はどうしたんだ?」
「ナナリー達は学校にあるガニメデのところに行ったわよ。ロロもそれに付いて行ったわよ」
「そうか」
ルルーシュの過保護っぷりに何となくカレンは微笑んでしまった。
「なんだ、カレン? いきなり笑って」
ルルーシュが不思議そうに言ったので、カレンは慌てて答えた。
「いや、相変わらず仲が良いな、と思って」
「まあ、普通だろ」
カレンの言葉に相槌を打ちながら、そういえばカレンには兄が居たな、と思い出していた。
カレンは何か思いついたように、ルルーシュに質問した。
「そういえば、この前から貴方の専任騎士が誰になるかって話題が出てるんだけど、決まったの?」
「何だ、カレン。騎士にでもなるつもりか?」
カレンの言葉を聞き、ルルーシュは懐かしい思いと共に、面白そうに混ぜっ返した。
「ん、なになに、カレンは騎士にでも興味があるの?」
チェスの勝負がついたのか、ルルーシュとカレンの話題にリヴァルが割り込んできた。
「そんなわけ無いじゃない。ただ、色々な所で話題になってるから興味が出ただけよ」
カレンはすぐにルルーシュとリヴァルに反論した。
「あ~。先輩の騎士か。俺がラウンズじゃなければ、俺がなっていたんですけどねぇ。どうです? 俺を騎士にしませんか?」
ジノの言葉に、ルルーシュは苦笑いをして答えた。
「おいおい、ラウンズは皇帝の騎士だ。それは俺に皇帝になれって言ってるようなものだぞ。下手したら反逆罪だ」
「いやいや、先輩は皇位継承者の三番手だから、ありえない話じゃないでしょ」
ジノの気楽な言葉にルルーシュは溜息をついた
「まあ、ジノの言い分は置いといて、俺の騎士候補の写真付きの一覧名簿があるが、見るか?」
ルルーシュの言葉に、カレンとリヴァルだけでなく、スザクを除くメンバーが反応した。
「どれどれ、ミレイさん達に見せなさいよ」
ミレイが代表して、ルルーシュから名簿を受け取った。そして、それぞれが好き勝手に言い合い始めた。
「ミレイちゃん、結構女性も多いね」
「そうね、やっぱりマリアンヌ様の影響だからか女性パイロットも多いからね」
ニーナとミレイの言葉に続き、カレンも気付いた事を口にした。
「あ、オレンジの人。あんまり強そうに見えないけど良いの?」
「ゴットバルト卿か。彼のナイトメアの腕はラウンズ級だから、このリストに載っていてもおかしくはないさ」
カレンの言葉にジノが答えて、カレンは「へえ」と感心したように相槌を打った。そこへルルーシュが口をはさんだ。
「ジェレミアは将来結成される親衛隊の隊長になってもらおうと思っている。だからジェレミアは専任騎士にはならないな。
 その事は既にジェレミアには告げてある」
その言葉にリヴァルが疑問に思った事を口にした。
「へえ、そうだったんだ。でも、そのジェレミア卿はそれで納得したの?」
「ああ。親衛隊の隊長は人を率いる立場になるからな。そこを話して納得してもらった」
リヴァルの疑問に答えてるルルーシュの言葉に、ユーフェミアの言葉が重なった。
「あら、お姉様のグラストンナイツの方も載ってるんですね」
その言葉に、今度はスザクが答えた。
「コーネリア総督はルルーシュを大事にしてるからね。出来るなら自分の子飼いの騎士を専任騎士にして欲しいんだと思うよ」
スザクの答えに納得したように、ユーフェミアは頷いていた。
そして、名簿を囲みながら好き勝手に話すメンバーをルルーシュは楽しそうに眺めていた。

初投稿(09/05/25)
改訂・誤字修正(09/05/26)



[8411] 25話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/27 20:28
特派ではガウェインのパイロットを選ぶために適合率をエリア11にいる軍人を対象に調べていた。
C.Cはそんな特派の様子を眺めていた。
C.Cは特派にガウェインが移管されると聞いて、興味を覚えて特派まで足を運んだのだった。
「う~ん、やはり高い適合率を示すのは、ルルーシュ様の専任騎士候補ばかりですね」
セシルの呟きに、ロイドも溜息をついた。
「だねぇ。その問題と切り離して運用したかったんだけどねぇ」
二人の言葉にC.Cは、後ろからリストを覗き込むとルルーシュの専任騎士候補たちが並んでいるのが見えた。
「そんなに面倒なら、ルルーシュをガウェインに乗せないで別の人間を乗せれば良いじゃないか」
C.Cが悩んでいる二人に、問題の根本からひっくり返す様な事を言った。
それに対してロイドが異を唱えた。
「いやぁ、実はですね。このガウェインにはドルイドシステムという電子解析システムが搭載してまして、
 これを使いこなせるのが、なんとルルーシュ様以外に居なかったと言うオチがありましてねぇ。
 だから、僕としてもルルーシュ様に使ってもらいたいんですよ」
そのロイドの言葉を聞き、C.Cは前もドルイドシステムはルルーシュしか使っていなかったことを思い出した。
そして、ルルーシュしか使いこなせない変態的なシステムは失敗作じゃないのだろうか、と思ってしまった。
そんなC.Cの考えを感じ取ったのか、セシルは慌ててドルイドシステムのフォローに入った。
「現状では試作品ですから、複雑な操作系になって扱いにくいですが、データが集まりシステムが洗練されれば、
 誰にでも使えるシステムに落とし込む事が出来ます」
セシルの言葉に、ロイドも続いた。
「そうそう、だから現状でも使いこなせるルルーシュ様に運用してもらい、データを集めたいんですよ」
そんなものかと、C.Cは納得した。
C.Cが納得したのを受け、二人はガウェインのパイロット選出の作業に戻った。
シミュレータを眺めて、C.Cは気付いた事を二人に告げた。
「そんなにガウェインが動き回ると、中に居るルルーシュが無事じゃないと思うぞ」
その言葉に、驚いてロイドは確認した。
「うわ、本当だ。パイロットは無事だけど、ルルーシュ様に限界を超えた負荷がかかってる」
続けてセシルもシミュレータを確認したのか、呟いた。
「パイロットが複座であるという事と、もう一人のパイロットの負荷を考えないで動かしてますね」
新たな問題発生に、ロイドはぼやいてしまった。
「あちゃ~。腕が良いだけじゃ、ガウェインは運用できないのかぁ」
「どうしましょう。これでは総てが白紙になり、一からやり直しですね」
流石にセシルも、この事態には呆然としてしまった。
二人の様子に、C.Cは何となく、前にルルーシュと共にガウェインを操縦してた事を思い出しながら提案してみた。
「なんなら、私が乗ろうか? 昔取ったナンとやらで、操縦できるからな」
「ええ! ナイトメアを操縦できるんですか? そういえばマリアンヌ様のご友人でしたね」
ロイドは驚きながらも、勘違いをした納得をしていた。
「そうなりますと、どれくらい操縦できるのか確認しないといけませんね。とりあえず、ランスロットのシミュレータをお願いできますか?」
そう言ってセシルは、C.Cをランスロットの操縦席に誘導した。
「判った」
C.Cはセシルに促されたので、ランスロットの操縦席に向かった。

ルルーシュとジノとカレン、ユーフェミアとスザク、ナナリーとアリスとダルクとアーニャ、そしてロロの10名は護衛の軍人を幾人かを伴って、
シンジュクゲットーを視察していた。
ことの始まりは、ナナリー達5人がガニメデの格納庫から戻ってきて時に、ユーフェミアが復旧しているシンジュクを見たいと言った事だった。
ユーフェミアにしてみれば、スザクと共に見つめた惨劇の傷痕が消えて、人の営みが行われているのを確認したかったのであった。
その事に、ルルーシュも近場なら大丈夫だろうと、コーネリアに許可を取って、ユーフェミアの願いを聞き入れた。
その時にルルーシュがユーフェミアに提案したのだった。
「ユフィ、今日はジノを護衛として貸してくれないか、代わりにスザクを貸すからさ。ジノが俺の護衛をしてみたいって言うから特別にな」
その提案に、ユーフェミアは嬉しいそうに答えた。
「構いませんわ。スザク、今日は私を守ってくださいね」
ユーフェミアにスザクは騎士の礼をして答えた。
「Yes,Your Highness」
スザクとユーフェミアを見ていたミレイが、ルルーシュにこっそりと話しかけた。
「ルルーシュがこんな気を使うなんて、珍しいじゃないの。ミレイさんは驚いちゃったわよ」
「なにを言ってるんです。俺は何時でも空気が読める男ですよ」
ルルーシュの返答にミレイは笑い、そしてコメントを控えた。
「んじゃ、ルルーシュ先輩。しっかり守りますから、安心してください」
ジノの言葉にルルーシュは「期待してるぞ」と返した。
そして、ゲットーに向かう生徒会メンバーは中等部の5人に、高等部の5人の計10人になった。
ミレイはルーベンに呼び出されているので行けないことを告げ、リヴァルはバイトで、ニーナはイレブンが怖いからと断った。
シャーリーは水泳部に出ていたので、生徒会室には居らずに今回の話に参加してなかった。

そして、復旧中のシンジュクゲットーを視察しながら、思い思いに会話をしていた。
「ねえ、ルルーシュ君。ゲットーの復旧作業と環境改善って、ルルーシュ君が行ってるって聞いたけど本当なの?」
カレンのいきなりの問いかけに、ルルーシュは落ち着いて答えた。
「ああ。高圧的に押し付けると、ゲットーの住人がそのままレジスタンスになるからな。
 ある程度の待遇と環境の改善を行って、日本人達が自分達で自分の面倒を見れるようにするのが目標だ。
 ブリタニアの方針として、ナンバーズはナンバーズ自身が管理するというのがあるからな」
「そうなんだ」
ルルーシュの答えに、カレンは何となく抵抗感を感じながら、相槌を打った。
心のどこかで、ルルーシュが日本人の為に行動しているんだと期待していたからだ。
カレンとルルーシュがそんなやり取りをしてると、周りではスザクがユーフェミアに日本人特有の風習を語っていたり、
アリスがナナリーに熱心に周りの様子を説明していたりしていた。

扇と玉城は一日の仕事が終わり、日給を貰ってアジトに向かうところだった。
「しかし、フレームだけとはいえナイトメアに名誉ブリタニア人を乗せて復旧作業させてるなんて、驚いたな」
「まあな。しかも待遇が良いから名誉になろうって気が起きるのも上手く出来てるよな」
扇は玉城に今日一日で検分して驚いた事を話しながら歩いていた。
そうしていると、遠くに見慣れた赤毛の後姿が見えた。
カレンはアッシュフォードの制服を着ているので学校帰りにアジトに向かうのであろうと扇は考えた。
その事に、玉城も気付いたのか、いきなり大声でカレンに呼びかけた。
「おお~い。カレ~ン」
その声に気付いたのか、カレンがこちらを向くのが確認できた。
「お、気付いたみたいだぜ」
そう言って玉城は早速、カレンの居るところに向かっていった。
二人で近づくと突然「イレブン!」と叫ぶ女の声が聞こえた。
そして二人は、カレンのほかにもアッシュフォードの制服を着た少年少女が居る事と、軍人が何名か居る事に気付いてしまった。
扇は、その中に居る二人の顔を見て、呆然と呟いてしまった。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、枢木スザク」
その呟きは扇が思ってたよりも大きかったようで、アッシュフォードの制服を着た少年少女達の注目を受けてしまった。

初投稿(09/05/26)
改訂・誤字修正(09/05/2)



[8411] 26話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/05/27 20:27
護衛の一人であるヴィレッタが突然、「イレブン!」と叫んだことによってナナリーは軍人の護衛が緊張するのを感じた。
しかし、兄であるルルーシュやその友のスザクからは危機が迫ったときの緊張は感じられなかった。
同じくアリスとダルクも身構えた気配を感じなかった。この事にナナリーは日本人が近づき、軍人が過剰反応したのだろうと判断した。
そして、日本人から「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、枢木スザク」と、兄とその友の名が呟かれたのを聞いた。
その声には敬愛も忠誠も思慕も、憎悪も嫉妬も嫌悪も無かった。ただ二人が居る事の事実を言葉にしただけの声だった。
ナナリーはヴィレッタが日本人をイレブンと呼んだ事に対しての謝罪を行おうと声を掛けた。
「日本人の方ですね。いきなりイレブンなどと叫んでしまい申し訳ありません」
そのナナリーの謝罪に扇は恐縮しながら答えた。
「いえ、俺達がイレブンなのは違いないですから謝る事は無いです。むしろ、謝られてしまうと、こちらが困ってしまいます」
その答えに、相手が気を害していない事を感じてナナリーは言った。
「そうなのでしたか。こちらの無作法を許してくださり、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ気を使って頂いて、申し訳ないです」
扇が更に申し訳なさそうに言いながら、頭を下げたが相手の目が見えないことを思い出して、何となく気まずい思いをした。
「カレンも彼らと会うのは久しぶりのようだし、ここの住人から現状を聞くのも悪くないな。ヴィレッタ、近くにこの人数で休める場所は無いか?」
ルルーシュが場を収めるように発言し、質問されたヴィレッタも直に回答した。
「なら、近くに公営の食堂がありましたから、そこに参りましょう。
 おい、先に食堂に行き事情を説明して、受け入れる準備をしろ」
「Yes, My Lord」
命令を受けた兵士はすぐさま、行動を開始した。
「じゃあ、詳しい話は食堂で行おう」
そう言って、ルルーシュは率先して移動を開始した。

「あっは~」
ロイドは機嫌良く、C.Cのランスロットのシミュレータの結果を見ていた。
「スザク君ほどじゃないけど、かなり高い適合率ですね」
セシルもその結果を見て、驚きながら呟いた。
「C.C様~。ランスロットの予備パーツでもう一台作りますから、パイロットやりません?」
ロイドの発言にC.Cは適当に答えた。
「やっても構わんが、私には金が無いぞ」
C.Cのぶっちゃけた言葉は、ロイドに自制を促した。
「あちゃあ、確かにもう一台作ってもお金が無いんじゃ、意味無いよなぁ。本当にお金ないの? 皇帝ちゃんの次くらいに偉いんでしょ?」
「ちょっと、ロイドさん!」
ロイドのあまりに無礼な物言いにセシルは慌ててロイドを静止した。
「まったく無いな。ピザもルルーシュの金で注文してるからな」
「んじゃ、そのルルーシュ様におねだり出来ないかなぁ」
しかし、止まらないC.Cとロイドのやり取りに、セシルは諦めてしまった。
「もう、どうなっても知りませんよ」
そう言ってセシルはC.Cのデータをガウェインのシミュレータに打ち込んでいった。
「別にルルーシュに頼んでも良いが、お前達はシュナイゼルの管轄だろう。お門違いだ」
「まぁ、そうなんですけどねぇ。はぁ、シュナイゼル様がスポンサーってだけで、アッシュフォードのデータは貰い損ねるは、
 機密情報局のナイトメアは触れないは、オマケにエリア11での開発費にも困窮するはで、良いこと無いなぁ。
 いっそのこと、ルルーシュ様かコーネリア様に鞍替えした方が無難かなぁ」
そのロイドの物言いに、流石にセシルも無視できずに注意をした。
「ロイドさん! 馬鹿なこと言ってないで、お仕事をしてください」
「あー、ごめんなさい、ごめんなさい。今やります」
C.Cはいずれ敵対するかもしれないシュナイゼルの手札を減らす事も悪い手でない、と考えて今夜ルルーシュにそれを告げることにした。

一同が食堂に付いた所で、ルルーシュが早速、自己紹介を行った。
「今更、自己紹介するのもおかしいが、一応やっておこう。
 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。このエリア11の副総督をしている」
ルルーシュを皮切りに、それぞれが自己紹介を行った。
そして、扇と玉城もまた自己紹介を行った。
「扇 要と言います」
「玉城真一郎だ。よろしくな」
そして、ルルーシュとユーフェミアが中心となって、ゲットーの生活について質問を開始した。

「お~い、スザク。このお茶、やけに焦げ臭いぞ。淹れるの失敗してないか?」
「ジノ。それは麦茶といって、そういうお茶なんだよ」
「ふ~ん。イレブンの庶民は変な物を飲んでいるんだな」
「それが文化の違いだよ」
ジノが食堂にある日本の飲食物に興味を持って、いろいろとスザクに聞いていた。
「あ、お漬物。懐かしい」
カレンはここ数年見る事の出来なかった食物に懐かしさを感じていた。
そんなカレンの様子に、ジノが質問した。
「そういえば、カレンは何でイレブンと知り合いなんだ? しかもここにあるのを懐かしいなんて言うし」
「私は戦前から、生まれてからずっと、ここで暮らしているから」
カレンの答えに、ジノは納得をした。
「なるほど、じゃ、イレブンとも知り合いなのも納得がいった」
そして、真実を知っているスザクは苦く微笑む事しか出来なかった。

「スザク君、ちょっと良いかな?」
扇はスザクに話しかけた。
スザクはさっきまで扇と話していたルルーシュを見ると、今度は玉城に集中的に質問してるのが見えた。
「なんでしょう。扇さん」
スザクが受け答えしたので、扇は自分の中の疑問をスザクにぶつけてみた。
「君はブリタニアが憎くないのか? どうして、副総督の下で働く事が出来るんだ?」
その質問にスザクは苦笑いしながら答えた。
「ブリタニアが憎いか、憎くないかで答えれば、多分憎んでるんだと思います。
 でも、僕にはそれよりも大事なものがありますから、それを選んだだけです」
そう言って、スザクはルルーシュと共に玉城に質問しているユーフェミアを見つめた。
「そうか」
その答えに、扇は藤堂の語ったスザク像と重なり彼の答えを納得と共に受け入れていた。
扇は最近のルルーシュの政策によってゲットーが豊かになり、抵抗活動は無意味なんじゃないかと感じ始めていた。
そして、扇は心の中にある疑問を晴らすべく、スザクに聞いた。
「なぁ、日本人ってなんだと思う?」
その質問を聞いたとき、スザクは呆然としてしまった。
スザクにとって、目の前に居る扇は最初からゼロ(ルルーシュ)と共に日本解放の為に戦ってきた男だった。
しかも、日本解放の為にゼロ(ルルーシュ)を裏切った男でもあった。
だからスザクにとって、扇は誰よりも日本人である事を知っているはずであり、日本を知ってなければならない男だった。
そして、呆然と見つめる扇の瞳に、迷いが浮かんでるのをスザクは感じ取ってしまった。
「僕は前にルルーシュから、「日本人とは、なんだ?」と聞かれたことがありました」
100万人のゼロの脱出のことを思い出しながら、扇に向かってスザクは自然と言葉を紡いでいた。
「その時、僕は「日本人とは心だ」と答えました」
その言葉に扇は真剣に耳を傾けていた。
「僕は今、名誉ブリタニア人かもしれない。貴方もイレブンかもしれない。
 でも、日本人の心を持っていれば、僕達は日本人なんです」
スザクの言葉は、扇の中に染み込んでいった。そして、自分の中にあった拘りが溶けていくのを感じた。
「そうか、質問に答えてくれて、ありがとう」
扇は、スザクに礼を言った

そろそろ場を解散させようとした時に、ナナリーは扇と玉城に言った。
「お二人とも、私は目が見えませんから、お手を拝借してもよろしいですか?」
そう言って、ナナリーは二人に手を差し伸べた。
その行動に二人は面食らって、ぎこちなく合意した。
「ああ。構わない」
「おうよ。問題ないぜ」
二人の同意が出たが、隣からSTOPが掛かった。
「ちょっと、ナナリー。二人の手に触るのをちょっと待ちなさいよ」
アリスはそう言って、厨房から濡れタオルを持ってきた。
「二人とも、そのタオルで手を綺麗にしてからナナリーに触れなさいよ!」
その一方的な物言いに、玉城が食って掛かった。
「なんだと! 俺達はバイ菌かよ!」
そんな玉城をジノが宥めた。
「まあまあ、彼女達は思春期なのだから、大目に見てくれたまえ」
その物言いに、玉城は毒気を抜かれ、扇は苦笑いをしてしまった。
そして、二人は手を濡れタオルでよく拭いてから、ナナリーと握手をした。
「これで、お二人は私のお友達ですね。何か困った事があったら、何なりと頼ってくださいね」
そのナナリーの言葉に、扇と玉城は照れてしまった。

初投稿(09/05/27)



[8411] 27話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/21 22:01
「私、トウキョウ租界を出るのって初めてなんですよね」
シャーリーは車両の中で、ミレイに語りかける。
「これから行くカワグチ湖は再開発地区で、租界と変わりないから安心よ。
 と、言ってもルルーシュがゲットーの再開発を行ってるから、最近は何処も治安が良くなってきてるのよね」
ミレイがシャーリーとニーナに、これから行くところと現在のエリア11についてコメントする。
「でも、専用電車の専用車両でいくとは思わなかったよ。ミレイちゃん」
ニーナのコメントにミレイも苦笑いしてしまう。
「そうね、後ろの貨物車両にはナイトメアが積んであるのもね」
そう言って、車両内を見回す。
車両内には想定したメンバーの他に特派の技術者である、ロイドとセシルも参加していた。
この二人の参加はC.Cがランスロットを持っていくなら、この二人も居たほうが良いだろうと参加を求めたからだ。
そして、それぞれが思い思いに時を過ごしていた。

藤堂は襲撃の準備が終えたので、今回の作戦に参加するレジスタンス達を見て回る事にした。
自分が見て回ることにより、士気が上がり襲撃の成功率が上がるならばと行動する。
藤堂は今回の襲撃を扇に連絡して参加するかを確認したが、彼らの仲間の一人がその旅行に参加するので襲撃には参加しないと答えられた。
逆に、襲撃が成功して首脳部を捕獲した時に手荒に扱わないで欲しいとお願いをされてしまう。
その時の扇の戸惑ったような苦悩した声を聞いて、人の良い男だと思ってしまったが、また信頼も出来ると思った。
「思ったよりナイトメアの数が多いな」
藤堂は並ぶ無頼とグラスゴーを眺めながら呟く。
その呟きを聞いた四聖剣の一人である仙波が答える。
「はい、キョウトが今回の作戦に期待を寄せてるようでして、草壁中佐率いる本隊にもかなりの数の無頼が配備されました。
 また、こちらにも出来る限りの無頼とグラスゴーが送られてきました。ブリタニアの政策によって抵抗活動が困難になってきてるので、
 この作戦を乾坤一擲として、状況の逆転を狙っているのでしょう」
仙波の言葉に朝比奈が言葉を続ける。
「そうですよ。なんてったって、キョウトは我々用に無頼改まで遣してくれたんですから。
 こちらにもナイトメアがあるんですから、7年前と違うってことをブリタニア見せてやりましょう。
 まあ、相手はそんなに数が居ないそうですから藤堂中佐なら、あっと言う間に終わりますよ」
藤堂は朝比奈の言葉に油断があったので注意する。
「朝比奈、確かに数は少ないが居るのは一騎当千の猛者ばかりだ。
 コーネリアにその騎士と将軍、ラウンズ。そして手に入れた情報では護衛をしてるのは特殊部隊となっている。
 いずれも油断できる相手などではない」
「はい、判りました」
藤堂の言葉に、朝比奈は真面目に頷く。
そんな藤堂達にレジスタンスグループの一人が話しかける。
「今回、俺達はあんた達の指揮で戦うようにキョウトから言われてる。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしく頼む」
レジスタンスの言葉に、藤堂は対等の同盟者として扱い協力を仰いだ。
「いや、奇跡の藤堂の下で戦えるなんて光栄だな。しかも狙うのが、ブリキのお姫様と皇子様だからな。
 ここで気を入れなきゃ、日本男児じゃないって」
その扱いに気を良くしたのか、そう言ってレジスタンスは機嫌よく、その場を去っていく。
「士気は高いようだな」
「はい、皆が藤堂中佐に期待を寄せております」
藤堂の言葉に仙波は答えた。
仙波の言葉に藤堂は、日本人が自分に寄せる期待の重さを再確認する事となった。

コンベンションセンターホテルの橋がメインを除いて、総て跳ね上げられる。
橋の前には、先に到着していたG1ベースが待機していた。
ルルーシュ一行は到着して、直にG1ベース内へと誘導される。
「え? なに? なんで、いきなりG1ベースに連れ込まれるわけ?」
リヴァルの驚いた様子に、ルルーシュが落ち着いて答える。
「リヴァル、楽しい旅行はここまでだ。どうやらレジスタンスが俺達を狙っているようだ」
「ひぃっ」
その言葉にニーナは怯えて、ミレイに抱きついてしまった。
そして護衛を担当していた者達は、あらかじめ聞かされていたようで自分たちのナイトメアに向かって移動し始めている。
「この部屋で待っていてくれ。直に終わると思うから、それにトウキョウ租界に戻るのも、このG1ベースで戻る事になる」
ルルーシュの言葉を聞いて、リヴァルが声を掛ける。
「ルルーシュ! 俺にも手伝える事は無いか?」
リヴァルの言葉を聞き、ルルーシュは驚きながら答える。
「リヴァル、これはチェスとは違って、実際に人と戦うんだぞ」
「それでも、俺はルルーシュを手伝いたいんだよ。俺達は友達だろう」
リヴァルの言葉に、ルルーシュは嬉しさを感じながら、その言葉を退けた。
「いや、ダメだ。専門の訓練を受けていないと手伝える事すら難しいからな。ここは戦場だからな、下手な事をすると、こちらに被害が出てしまう」
「そうか、すまない。我が儘言っちまって」
「いや、リヴァルの心遣いは正直嬉しかった。ありがとう」
そう言ってルルーシュは指揮を行うために部屋を出た。

最初にG1ベースから射出されたのは、機密情報局のナイトメアだった。
「地形情報クリア。周辺情報クリア。情報を送ります」
ルクレティアのナイトメアから通信が入り、周辺の詳細な情報が指令室に送られくる。
「敵味方識別信号クリア。正体不明機の位置情報を送ります」
次にサンチアのナイトメアから、正体不明機の現在位置情報がリアルタイムで送られる。
この様子を指令室から見ていたロイドは、楽しそうにセシルに語る。
「あっは~。それぞれに機能を特化させた第六世代ナイトメア。周辺情報収集と索敵。
 残りの3機は、格闘型1、近接型2。チームとして動く事を前提にしたナイトメアか、面白い発想だね。
 しかも、索敵用のサンチア機が担いでいるのは大型レールガンかな。こんなに良いものを隠し持っていたなんて、ぜひともデータが欲しいね。
 そうだよね。セシル君」
「ロイドさん、大人しくしてて下さい。ここはもう戦場になるんですから」
セシルがロイドを窘めたが、ロイドは聞く耳を持たずに更に言葉を連ねる。
「でもさぁ、あの近接型もスタントンファーじゃなくて、ブレードを4本も持ってるんだよ。
 MVSじゃないようなんだけど。それって気にならないの?」
「そりゃあ、気になりますけど、それは後でいいじゃないですか」
セシルの言葉に頷いて、ロイドは言う。
「うんうん、確かに後で良いね。今は僕のランスロットのデータを集める事に集中しようか」
「まったく、最初からそうしてください」

そして、次々とナイトメアがG1ベースより吐き出されていく。
「では、姉上。周辺情報と正体不明機のデータを送ります。
 かねてからの計画通りに、G1ベースの護衛は機密情報局が行います。
 また特派はラウンズと共に行動する事、また敵司令部が判明しだいデータを送ります」
データを受け取り、コーネリアは唸りながら言う。
「機密情報局のナイトメアは素晴らしいな。周辺情報と敵の位置が丸裸だとは。これで負けては、恥になってしまう」
同じくジノも唸っていた。
「機能を特化したナイトメアが、これほどとは。専用機の話が来てるし、その参考に出来るかも」
そして、ルルーシュがコーネリアに頼む。
「では、姉上。号令をお願いします」
コーネリアは頷いて言う。
「出陣」
「Yes,Your Highness」

カワグチ湖攻防戦が開始された。

初投稿(09/05/28)
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改訂・誤字修正(09/06/21)



[8411] 28話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/18 21:18
キュイーン……
アリスのナイトメアが握る右手のチェーンソーブレードが無頼の胴部に当たり、真っ二つになる。
背後からグラスゴーの銃口に狙われるが、自身のギアスによって加速された意識と肉体が反応し、ナイトメアを操縦する。
アリスのナイトメアが右に移動し、その勢いのまま右回転を行う。
回転した勢いで右手のブレードで銃を右腕ごと切り落とし、左手のブレードで胸部を切り裂く。
1秒足らずの瞬間に2機のナイトメアが切り裂かれ行動不能になる。
これにより、アリスと交戦していた4機のナイトメアは総て落とされた事になる。
アリスのナイトメアはアリスの自身を加速するギアスに対応するために、遊びの無い操作性とレスポンスになっている。
ナイトメアにまではギアスが掛からないので、アリスの反応速度に対応するための改造を行っているので、アリス以外は操縦できない専用機になっている。
敵ナイトメアの援護射撃を行っていた戦闘車両は、サンチアの狙撃により沈黙していた。
レーダーを確認すると、離れた位置で交戦していたダルクも敵ナイトメアを総て落としている。
G1ベースとサンチア機、ルクレティア機の護衛として残っていたロロ機には敵は1機も向かう事が無かったようだ。
ナナリーに危険が近づかなかった事に一安心し、アリスは報告を行う。

「あは~。彼女達、良いパイロットだね。しかも持ってるブレードがチェーンソーブレードかぁ。
 面白い装備だね。MVSを提供するから、代わりにレールガンのデータ貰えないかなぁ。いいなぁ、あのレールガン」
ロイドの呟きにセシルは怒ったように窘める。
「もう、ロイドさん! スザク君が戦ってるんですから、もっと真面目にやってください」
「は~い、判りました」
ロイドはそう言って、ランスロットのデータ収集に集中した。

スザクは銃撃してきたナイトメアにスラッシュハーケンを飛ばす。
4つのハーケンは総て別々のナイトメアに当たり、銃撃してきたナイトメア4機を沈黙させた。
共に行動しているアーニャのグロースターからの援護射撃により、前に出て銃撃していた残りのナイトメアも落とされていく。
ジノのグロースターは、その機動性を存分に活かして敵を援護していた戦闘車両まで移動し、手にしたランスとハーケンにより攻撃していた。
「ここらに居た敵は総て落としたようだな」
「そうだね。次のポイントに移動しよう。次は、この5機が固まっているポイントだ」
「判った」
付近の敵を一掃した事を確認して、次のポイントに移動を開始する。

コーネリアは目の前のナイトメアを串刺しにして呟く。
「どうやら、こちらに戦力を集中してきたらしいな」
その呟きにギルフォードが答える。
「どうやら、姫様を落とす事によって、一気に勝負をつけようと考えたのでしょう」
「しかし、姫様に我らが付いている故に、敵の思い通りにはならんでしょうな」
ギルフォードの言葉に続いて、ダールトンが言った。
「ふふ、頼もしいな。では、目の前の愚か者達を叩き伏せてくれようか」
「Yes,Your Highness」
そうして、コーネリア達は目の前の敵に向かっていく。

ルルーシュは戦況を見て、指示を出していた。
「サンチア。姉上に援護射撃を行えるか?」
「距離、位置共に可能です」
「ならば、姉上に援護射撃」
「Yes,Your Highness」
指示を出した後にC.Cが戦況を見て呟く。
「コーネリアに敵戦力が集中してるな。やはり敵もキングを落とそうと考えているのだろう」
「そうだな。姉上が落とされるのは、流石に不味いな。だが、スザク達が予想以上のスピードで敵の前線指揮官機らしいのに肉薄している」
敵がコーネリアに集中しているので、スザク達は大した抵抗も無く前進している。
「ナイトメアもあるし、私もコーネリアの援護にまわろうか?」
「そうだな、G1ベースの護衛してくれ。援護にはロロを行かせる」
「判った」
そう言って、C.Cは指令室を出て行く。
「ロロ機とダルク機は、姉上の援護に向え」
「Yes,Your Highness」
「アリス機は、G1ベースに戻り、C.Cと共に護衛」
「Yes,Your Highness」
ルルーシュは新たな指示を出して、戦況を見つめる。
ルルーシュは敵の作戦行動に見覚えがあった。
嘗ての黒の騎士団 統合幕僚長 藤堂 鏡志朗。
今回の襲撃は草壁でなく、藤堂がことを起こした事ということだろう。
日本解放戦線の草壁は強硬派であったはずだ。そうなると、今回の襲撃を藤堂に任せる理由が無い。
自分達より、草壁にとって魅力のある獲物は多分、”エリア11政庁”。
ルルーシュは自軍の総てに連絡を入れ、情報を共有することにした。

「なあ、スザク。俺達って結構いいチームなんじゃないか」
「同感」
ジノの言葉にアーニャが同意する。
「二人とも、ありがとう」
二人の言葉にスザクは微笑んだ。
「ところでスザク。お前の腕前はラウンズ級だし、戦勲を上げていけばナンバーズ初のラウンズも目指せるんじゃないか?」
その言葉にスザクは友達を売りラウンズになった事を思い出して、苦い思いと共に否定する。
「いや、僕はラウンズになるよりも守りたい人が居るんだ」
「お、専任騎士か。相手は誰だ? ルルーシュ先輩か?」
その言葉にスザクが答える前に、アーニャが割り込んだ。
「敵」
その一言にスザクとジノは会話をやめ、意識を戦闘に持っていくことにした。

確認できるだけでもナイトメアは5機、総てが無頼のカスタム機だった。
その事により、スザクはこの部隊が指揮官だと判断して、オープンチャンネルで投降を呼びかける。
「あなたたちの作戦は既に失敗しています。これ以上、無駄な犠牲が出る前に大人しく投降してください」
「その声は、まさかスザク君か?」
その声を聞いて、スザクはルルーシュの読みどおりに藤堂が指揮を取っていることを確認した。

「へえ、流石はルルーシュ先輩。ばっちり読みどおりって訳だ。そして、相手はスザクと因縁持ちときたもんだ」
「ジノ、スザクを援護する」
ジノの呟きにアーニャは自分の意思を伝える。
「OK、あの4機は俺達で相手しますか」
ジノはその意思に同意して、四聖剣を相手にする事にした。

「藤堂さん、降伏してください。一騎当千の騎士達をルルーシュが指揮しています。はっきり言って、あなた方に勝機はありません」
スザクの言葉を聞き、一本気なスザクが変わってない事に安堵しつつ、彼の言葉を退ける。
「私は日本の為に、戦ってきた。ここで私が降伏したら、私を信じて戦ってきた日本人達に対して申し訳が立たない。
 だから、スザク君。この場は君達を倒し、日本解放の礎とする」
藤堂の言葉で、スザクは彼と戦う事は避けれないと感じた。
「判りました、藤堂さん。貴方を倒して、一刻も早くトウキョウ租界に救援に向かう事にします」
「!!」
スザクの言葉に、藤堂は作戦が見破られたことを理解する。
しかし、この作戦は首脳部襲撃、政庁攻略のどちらかが成功すれば良い作戦なので、見破られたとしても勝てば良いと考えた。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」
スザクが叫びながら、藤堂の無頼改に向かっていく。
藤堂はそれを静かにカタナを構えて受ける事にした。

初投稿(09/05/29)
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改訂(09/06/18)



[8411] 29話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/18 21:16
無頼改に向けて放たれた2つのハーケンのうち、一つを左に避け、もう一つが正面から来るのをカタナで弾く。
その間に距離を詰めていたランスロットが右手に持ったMVSを袈裟懸けに振るわれる。
その一撃も辛うじて、カタナで受け止めるがパワーの差は如何ともしがたく、パワーで押されて体勢を崩す前に距離を取る。
目の前には斬撃により体勢を崩したランスロットがあった。
ここで藤堂は必殺の”三連突き”をランスロットに向かって放つ。
ランスロットは、一撃目を剣で弾き、二撃目を避け、三撃目を距離を取る事で回避する。
その淀み無い動作に藤堂は、スザクのほうがナイトメアの腕は上だと判断し、気を引き締めた。

ジノとアーニャは4機の連携に手を焼いていた。
一機が不利になると、一機が素早くフォローに入り、そして残り二機が牽制するので、突き崩す隙が窺えない。
拮抗した状態を破ったのは、四聖剣の朝比奈だった。
遠距離からの援護を中心として行っていたアーニャに向かって突貫し、近接戦闘を強いたのである。
アーニャは突貫してくる無頼改を落とそうとしたが、もう一機が牽制を行う事で落とす事が出来なかった。
朝比奈の接近から距離を取ろうとするアーニャに向かって、カタナを構えて朝比奈は叫ぶ。
「貰った! 藤堂さん直伝の”三連突き”を食らえ!」
「いけない!」そうアーニャが思った瞬間に、アーニャの意識は閉じていく。
一撃目の突きを避けたグロースターは、避けて崩れた体勢のまま無頼改の懐に入り、そのまま両腕を銃撃で壊し胸部に向けてハーケンを至近距離で射出すr。
至近距離からの攻撃に避ける事も出来ずに、朝比奈は脱出機構を起動させ、四聖剣に通信を入れた。
「すいません、やられました。離脱します」
朝比奈を下した、その動きはまさに閃光のように一瞬のうちに起こる。
「まだ死ぬわけにはいかないのよ。運が悪かったわね、ボウヤ」
目の縁を赤くして、アーニャの姿をしたマリアンヌは操縦席内で呟いていた。

一機が落ち、均衡の崩れた四聖剣の三人はジノとマリアンヌの猛攻を辛うじて凌ぐことしか出来なくなっていた。
戦力的には一機の余裕があり、1対1と2対1の状況が出来るが、1対1だと劣勢に入り2対1の一機がフォローに入らなければならなくなり、
そして、一機が抜けて1対1になると今度はそちらが劣勢になるので、常にフォローを入れながら戦わないといけず、状況はジリ貧である。
ジノは余裕が出来たので、コーネリアの状況をレーダーマップで確認する。
そして、コーネリア達に機密情報局の2機が援軍として合流している事を確認した。

目の前に居るナイトメアにプロテクターに覆われた右の拳を叩き込む、そのまま急激に方向転換し次に目に付いたナイトメアに左の拳で打つ。
勢いを殺して、後ろにバックステップする。
ダルクは自身のギアスにより強化された肉体で、ナイトメアから掛かる常人には耐えられないGを受けながら操縦を行っていた。
前後左右に掛かる負荷を無視して、縦横無尽に戦場を動き、敵を葬っていく。
ダルクのギアスもアリスと同様に自身に効果が現れるギアスであった。
サンチア、ルクレティア、ロロ等の周辺に効果を及ぼす”結界型”ギアスユーザのナイトメアのように、ナイトメアにギアス増幅装置が付いていない。
ギアス増幅装置は嚮団が開発したものだが、アリスやダルクの様に自身の強化を行うギアスの効果を増幅し、
ナイトメアなどの機器に効果を伝える機能を持つ装置は、未だに開発できないでいた。
その為にダルクとアリスは、ナイトメア戦でそれぞれのギアスで戦いやすいように嚮団が開発・整備したナイトメアを使用している。

ロロは無情に敵を葬っていく。
ルルーシュによって、ギアスの過度の使用は禁じられている。だが、ロロは自分の大切な家族を害そうとした人間達を許す気はない。
その為、彼は襲ってきた者達を皆殺しにするために、わざと脱出装置が作動しにくいようにナイトメアを撃破して、操縦者ごと葬る。
運良く脱出装置が作動した者達も、後で殺すつもりでいた。
今は兄が望んだ通りに、コーネリア総督の援護のために敵の数を減らしていくことにする。

「くっ」
スザクの攻撃により、藤堂の無頼改は左手を失っていた。
ナイトメアのスペック自体がランスロットに劣っており、また操縦技術もスザクが有利である。
それでも、何とか戦えていたのは豊富な戦場での経験があったからだ。
四聖剣も朝比奈が落ち、劣勢に立たされている。
コーネリアを急襲したレジスタンス達も、ほとんどが落とされていた。
作戦行動の続行は出来ないと考え、四聖剣に通信を入れる。
「これ以上の作戦行動は不可能だ。撤退する」
「承知」
四聖剣は藤堂の通信を受け、撤退信号を出す。
しかし、スザクはここで藤堂を落としておこうと考え、引き続き猛攻を行う。
スザクと藤堂に向けて、卜部がチャフスモークを焚く。
塞がれる視界とレーダーだが、スザクは直感によってハーケンを飛ばし突撃する。
ハーケンが弾かれ、不自由な視界に先ほどまで戦っていた藤堂のナイトメアを確認し、MVSで切りかかる。
その行動に虚を突かれたのか、藤堂は斬撃を食らってしまった。
だが、間一髪で脱出機構が作動し、コックピットが後方に向けて射出される。
尚もスザクはそのコックピットにハーケンを飛ばした。コックピットはハーケンを受け大きく揺れる。
そのまま、スザクは藤堂を確保しようとしたが、2機のナイトメアの抵抗によって邪魔をされる。
残りの一機に藤堂のコックピットは抱えられて離脱し、スザクは藤堂達を見失ってしまった。

「こちら、ランスロット。申し訳ありません。敵指揮官を取り逃がしてしまいました」
スザクの通信にルルーシュが答える。
「いや、構わない。むしろ藤堂を撤退させたのだ、誇ってくれ。追撃と残兵の掃討はフジ方面軍に任せる。
 俺達は襲撃を受けているトウキョウ租界の救援を急ぐ。直にG1ベースに戻ってくれ」
「Yes,Your Highness」
スザクはルルーシュへの通信を切って、ジノとアーニャに話しかける。
「G1ベースに戻ろう。多分、トウキョウ租界の救援で連戦になる」
「了解。んじゃ、休めるうちに休んでおかないとな」
「判ったわ」
ジノとマリアンヌはそれぞれに受け答えた。

ロロは撤退するレジスタンスたちを執拗に追撃していた。
その為に撤退中のレジスタンスはロロに抵抗して、更に撤退速度を落としていった。
そんなロロにコーネリアは通信を入れる。
「ロロよ。追撃はこちらの方面軍に任せる事にしたのだ。だから追撃を中止してG1ベースに戻るぞ」
コーネリアの言葉にロロは反射的に反論する。
「でも、こいつらは兄さんやナナリー、ユフィ姉さんに危害を加えようとしたんだ! 見逃す事なんて出来ないよ」
「ロロ! 命令だ。追撃を中止して、G1ベースに戻れ」
コーネリアはロロの反論を叱責する。
「はい」
ロロの返答を聞いて、コーネリアはひとまず安心した。
そして、従兄弟であるロロがユフィ達に懐いて、敵を倒そうとする態度に喜びと満足を持ってロロへの通信を切った。

藤堂達は作戦区域から離れたところで、ナイトメアを降りて顔を突き合わせていた。
「藤堂中佐、肋骨が折れている可能性がありますな」
藤堂の応急処置をした仙波が、本人に症状を伝える。
「くっ、そうか」
痛みに耐えながら、藤堂は応急処置の結果を聞き答えた。
「どうします? 藤堂さんを一刻も早く治療しないといけないですよ」
朝比奈の言葉に卜部が答える。
「怪我を押して、成田に向かうのは少々厳しいですね」
「ならば、近くのレジスタンスに匿ってもらったら、どうだ?」
千葉の意見に、仙波が反論する。
「この近くのレジスタンスは一斉に検挙されるであろう。だから、この近くのレジスタンスに助けを求めるのは危険だろうな」
「新宿に向かう」
突然の藤堂の宣言に四聖剣は戸惑う。
「草壁中佐の作戦が成功していれば、合流すれば良いし。作戦が失敗してても扇君のグループに助けを求めれば良い」
藤堂の言う、その言葉に卜部が確認を行う。
「藤堂中佐、その扇という男は信頼できるのですか?」
卜部が代表して聞いた四聖剣の疑問を、藤堂は頷きながら答える。
「ああ、信頼できる。自分達が困窮して日本解放戦線に接触したときに、こちらの要求は仲間の一人であるハーフのブリタニア人の放逐だった。
 それを聞いて向こうから、こちらの手を拒んだのだ。だから、我らをいきなり騙まし討ちにするような真似はすまい」
「なるほど。仲間を見捨てないって訳か。なら信頼できますね」
朝比奈の意見は、四聖剣の意見を代表していた。
「ならば、出発しますか。千葉、藤堂中佐を車に乗せてくれ。そして、そのまま藤堂中佐の面倒を頼む」
仙波の言葉に千葉は真面目に頷きながら答える。
「了解しました」

初投稿(09/05/30)
改訂・誤字修正(09/06/18)



[8411] 30話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/18 21:16
「ゲットー外延部にて、ナイトメアや車両等の不自然な集合があったと、イレブンより通報がありました」
その報告を聞いて、ジェレミアは御二人の読み通りだな、と思う。
「首脳部が不在の間を狙って、テロリストがトウキョウ租界に戦力を集中して襲撃してきたのだろう。
 租界に居る部隊を召集しろ。名誉たちの部隊にナンバーズたちをゲットーから避難させろ。
 避難先はアッシュフォード学園だ。有事の際の避難先として、ルーベン殿には既に許可を貰っている。以上だ」
「Yes, My Lord」
ジェレミアは矢継ぎ早に指示を出したあとに、ルーベンに連絡を入れる。
「ジェレミア卿、何か御用ですかな?」
「ルーベン卿、突然で申し訳ありません。実はルルーシュ様が予想したとおりにテロリスト共のトウキョウ租界への襲撃が行われるようです。
 ですので、打ち合わせの通りにゲットーのイレブン達への避難先としてアッシュフォード学園をお借りするので、その連絡を入れた次第であります」
ジェレミアの言葉に、ルーベンは状況を理解して提案を行う。
「承知しました。では、避難民の受け入れなどの手伝いを学園からもボランティアとして募集し、お手伝いしましょう」
「おお、ルーベン卿。感謝致します」
ジェレミアはルーベンの心遣いに感謝しつつ通信を終える。
そして、襲撃してくるテロリストに対抗すべく、各部署へ指示を出し始めた。

新宿ゲットーには嘗ての日本と同じく、災害があった時の為のスピーカーが各所に設置してある。
このスピーカーで時報などを流しているのだが、今回は何時もと違った放送が流れていた。
「ゲットー外延部にて、テロリストの大部隊が集結していると通報を受けました。
 危険ですので、ゲットー住人の皆さんは最寄の集合避難所に移動を開始してください。
 繰り返します……」
この放送を聞き、扇は最寄の集合避難所になっている最近作られた公園に移動する。
そして公園に移動した扇は、そこで扇グループのカレン以外のメンバーが揃っているのを発見した。
「よう。運良くみんな、ここに集まったな。」
扇の言葉に南が答える。
「まあな。どうやら全員がアジトに向かう途中だったそうだ」
その答えに扇は苦笑する。
「なんだ。みんな、俺と一緒か」
扇の言葉を受けて、他のメンバーも苦笑した。
「やっと落ち着いて生活できるようになったのに、テロリストなんて……」
「副総督がトウキョウ租界から離れているんだろう? ブリタニア軍は俺達を守ってくれるのかな?」
「せっかくここまで、町が出来たのにテロリスト達に壊されるのかな……」
「避難って言っても、このまま、ここに居るんじゃ、テロリストに攻撃されるんじゃ……」
扇は途切れ途切れに聞こえてくるゲットー住人の言葉に対して呟く。
「ここの住人にとって、レジスタンスは敵なんだな……」
その呟きを聞いた玉城は答える。
「まあな。ぶっちゃけて言えば、日雇いとはいえ、俺もこの町を作るのに参加してるからな。それを壊されるのは正直、気分が悪いぜ」
その言葉に他のメンバーも頷く。
「そうだな、ここは俺達の町だからな……」
扇が呟いた瞬間に、公園内に名誉ブリタニア人の軍人達がやってきた。
そして拡声器で、避難民達に告げる。
「これから、ゲットー住人はアッシュフォード学園に避難する。順番を守って車に乗り込むように。
 まずは子供、老人、病人、怪我人から。次に女性。最後に男性となる」
軍人の言葉にゲットー住人達に安堵が広がる。
「アッシュフォードなら、副総督のお膝元だから安心だ……」
「やっぱり、副総督は私達を見捨てたりしないのね……」
住人のざわめきから聞こえてくる言葉は、扇にこの町ではレジスタンスは必要ないことを突きつけていた。

扇は避難用トラックの荷台から、すれ違うナイトメアの集団をなんとなしに眺めていた。
そんな扇の様子に南は声を掛ける。
「扇、大丈夫か? 暫く前からぼんやりする事が多くなっているが、悩みでもあるのか?」
南の声に気付いて、周りを見ると他のメンバーも自分を見ている事に気付く。
扇は躊躇いながら口を開く。
「ああ。実は俺達のこれからの活動について考えていたんだ」
その言葉を聞いて、南は納得しながら意見を言う。
「そうか。なら、後でみんなで話し合わないか? 一人で悩んでもしょうがないだろう」
「そうだったな、すまない」
南の言葉を聞いて、扇は意見を受け入れてメンバーに謝る。
「ったく、扇はいつも一人で背負い込もうとするんだから、そんなことせずに俺達にガンガン言ってくれりゃ良いのにな」
玉城の言葉にメンバーは笑いながら同意した。

ジェレミアはゲットー外延部に展開した防衛隊指揮官のキューエルに連絡を入れていた。
「キューエル。ゲットーといえど殿下が作られた街に、イレブンとはいえ、そこの住人、殿下の民だ。街と民を守り、殿下への忠誠を示せ」
「Yes, My Lord。安心しろ、ジェレミア。我ら純血派の忠誠を今見せずに、何処で見せるというのだ」
そう言って、キューエルは笑いながら通信を切る。
その様子に、ジェレミアは頼もしさを感じていた。
「ジェレミア卿。コーネリア総督一行がテロリストの襲撃を受けたと連絡がありました」
「そうか、判った。フジ方面軍にコーネリア総督への増援として出撃するように指示しろ」
「Yes, My Lord。しかし、トウキョウの軍を救援に送らないのですか?」
部下の意見に、ジェレミアは落ち着いて答える。
「コーネリア総督とルルーシュ副総督の作戦だ。この為に向こうの護衛は少数精鋭にしてある。
 だから、心配せずに自分の職務に励め」
「Yes, My Lord」
去っていく部下の後姿を見てから、ジェレミアはゲットー住人の避難が完了した事の報告を受ける。
そして、避難完了の情報をキューエルに送った。

トラックがアッシュフォード学園に到着して、扇たちは学園前の広場に張られているテントに誘導された。
そこでボランティアらしきアッシュフォード学園の生徒から、数枚のクッキーと一杯のココアを受け取る。
受け取ったココアを口にして、扇は「ほぅ」と一息つく。
自分が思っていた以上に緊張していたようで、糖分を摂取した事によって、その緊張がほぐれたのである。
それは、他のゲットーの住人もそうだったのか、落ち着いた空気が周りに流れていた。
そして扇は落ち着いて周りを見てみると、名誉ブリタニア人の軍人以外の軍人が居る事に気付く。
「アレは……」
その呟きを聞いたのか、玉城が扇の視線を追う。
「ありゃ、姫さんの護衛じゃねぇか。一緒に旅行に行ったんじゃなかったのか?」
玉城が、褐色の肌の女騎士を見て疑問を口にする。
二人の視線に気付いたのか、ヴィレッタは二人に近づいた。
「あの時のイレブンだな。二人とも無事に避難したようだな」
その言葉に、扇は気が抜けたように答える。
「はぁ、どうも」
そんな扇の答えも気にせずに言葉を続ける。
「まぁ、良い。お前達に何かあるとナナリー様が悲しむからな。総てが終わるまで、ここで大人しくしておけ」
そこに玉城が口を挟んだ。
「って、お前はお姫様と旅行に行ったんじゃなかったのかよ?」
「お前と呼ぶな。私はヴィレッタ・ヌゥ。男爵だ」
思った以上に強い語調で言われて、玉城は怯んでしまった。
「えっと、じゃあ。なんと呼べば良いんですか?」
取り成すように扇が口にすると、ヴィレッタは呆れたように答える。
「まったく。お前達はイレブンだったな。私のことはヴィレッタ卿と呼べ。それが一般的な貴族への呼び方だ」
それに二人とも頷いて同意した。
「それで、そのヴィレッタ卿は何で、姫様と一緒じゃないんだ?」
玉城は再度、問いかける。
それに溜息をつきながら答えた
「ナナリー様から、今回のことのような事態になった時の為に、アッシュフォード学園を熟知している軍人として私を置いていったのだ」
「そうだったんですか」
「そうだ。とりあえず大人しく終わるのを待っているんだな」
二人が納得したのに満足したのか、ヴィレッタはそう言って場を離れた。

初投稿(09/05/31)
誤字修正(09/06/01)
改訂・誤字修正(09/06/18)



[8411] 31話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/18 21:14
草壁は部下から報告を受けていた。
「藤堂が皇族達を襲撃したが、東京の軍は動かずか。ふん、ブリタニアの豚共は忠誠というのが分かってないらしいな」
東京の軍が動かずにいたので、草壁としては少々思惑を外された形になる。
しかし、キョウトからの支援が思った以上にあったことで、正面から叩き潰す事が可能であろうと考える。
「草壁中佐、どうやらゲットー住人は総て租界内の学園で一箇所に集められているようです」
「そうか、潜入した部隊からの報告は以上か?」
あらかじめゲットー内に潜入させていた部隊からの報告で、追加の情報が無いか確認する。
「いえ、思った以上にブリタニアに対する反抗の意思が薄いと報告があります」
「そうか、判った」
報告してきた部下を下がらせ、次の報告を受ける。
「雷光と紅蓮の準備が出来たと報告がありました」
「うむ、そうか」
キョウトより供給された紅蓮と、切り札として持ち込んだ雷光の準備が終わった事で出撃する準備が総て終わり、
日本解放の時が近い事に草壁の精神は高揚していく。
「しかし、よろしかったのですか? 紅蓮と雷光のどちらかでも藤堂中佐にまわせば、更に作戦成功率が上がったのでは?」
「藤堂が、どちらも断ったのだ。雷光は作戦に合わない。紅蓮は一機だけ突出しては連携が取れないとな」
草壁の言葉に、質問を投げかけた部下も納得する。
「なるほど。確かに道理ですね」
「さて、そろそろ紅蓮に乗り込む。各自配置に就け!」
そして、草壁は紅蓮に乗り込むために移動を開始した。

キューエルはゲットー住民の避難が終わったと連絡を受けた直後に、テロリスト達が動き始めたのを確認した。
この事により、ゲットー住人の中にテロリストか、その協力者が紛れ込んでいる事を感じ取る。
だが、逆にテロリスト達がゲットー住人を傷つける意思は無いと、キューエルは判断する事になった。
今、政庁で指揮を取ってるジェレミアがナイトメアに乗らずに後方で指揮を取ってることに、少々の同情を浮かべながら、
ルルーシュより聞いた親衛隊の話を思い出していた。
ジェレミアを隊長として、純血派を中心に親衛隊を結成すると聞いたときは、全身の血が沸き上がったかのように高揚した。
ジェレミアは愚直で融通の利かないところもあったが、そこが評価されたのであろう。
なにより、純血派の中では彼がトップパイロットだからだ。
力あるものが評価される。キューエルはこの考えから、ジェレミアが親衛隊長を行うのは妥当だと思った。
今はジェレミアに及ばぬ自分の未熟を恥じて、研鑽を行えば良いと考える。
そして親衛隊結成の為の手土産として、このテロリストの殲滅は丁度良いとして、キューエルは各部隊にテロリストの殲滅を命じた。

扇は他のメンバーやゲットー住人と一緒に、学園前の広場にテントを張る作業を手伝っていた。
名誉ブリタニア人の軍人達は、怪我人、病人、身重の女性を学園の体育館に連れて行く作業の為に手が足りずに住人からの手伝いを募ったのである。
女性である井上も手伝いを申し込んで、他の手伝いを申し込んだ女性と一緒に体育館に横になれるように毛布を敷く作業を行っている。
これらの作業を総括していたヴィレッタは、思った以上にイレブン達の反発が無い事に驚いていた。
そして、扇が近づいてくるのを視界の端で確認する。
「あの、テントを張るのが終了しました」
扇の報告に、思った以上に早かったな、と考えながら答える。
「ああ、判った。今のところは手伝ってもらう事は無いから休んでてくれ。またイレブン達にもそう伝えてくれ」
「判りました」
いつの間にか、作業を行っているゲットー住人のリーダーになっていた扇に、ヴィレッタは人を纏める才能でもあるのかと考えた。
扇が離れようとした時に、別のイレブンの男が近づき声を掛けてきたので、そちらに振り向く。
「何のようだ?」
そのイレブンにヴィレッタが問いかけた。
「我々の人質になって貰いましょう」
そう言って、男は懐から拳銃を取り出しヴィレッタに突きつける。
虚を突かれたヴィレッタは、拳銃を突きつけられた時に何も出来ずにいた。
視線を動かすと、ヴィレッタと同様にイレブンに拳銃を突きつけられているブリタニア軍人が目に入る。
何名かのイレブンが荷物からライフルを取り出し、装備しているのも見えて身体検査と荷物の検査を行わなかった事を後悔した。
ライフルを装備した一人が銃口をヴィレッタに向け、ヴィレッタに拳銃を向けていた男が置いてあった拡声器を掴み、ゲットー住人に語りかける。
「我々は日本解放戦線である!」
その言葉に住民達はざわつく。
「我々は日本解放の為に立ち上がったのだ! 日本人諸君! 日本解放の為に力を貸して欲しい! 共にブリタニアを打倒しよう!」
この言葉を受けても、ゲットー住人の反応は鈍い。
男は熱狂的にゲットー住人が立ち上がり、日本解放の為に共に戦ってくれると信じていたのだったから、不思議に思い、更に言葉を連ねた。

扇に向かって、他の扇グループのメンバーが歩いてきた。
日本解放戦線は、軍人達は警戒してるがゲットー住人のことは特に意識していないようだった。
「どうするんだ? 扇」
代表して問い掛けられた南の言葉に、扇は苦悩する。
その扇に玉城は声を掛ける。
「気楽に考えろよ。どんな答えを出しても俺達は従うぜ。お前は俺達のリーダーだからな」
その言葉を受けて、扇は目を瞑って考える。
扇の中に、先ほどの日本解放戦線の言葉、避難所での住人の言葉、スザクの言葉が駆け巡る。
「俺は……」
扇は躊躇いがちに声を出した。
「俺は、新宿のみんなに傷ついて欲しくない」
その言葉にメンバーは笑いながら頷く。
「判った。玉城はあっちを。吉田は向こうを。杉山はあそこを頼む。俺はこっちをやる」
扇の言葉を受けた南がメンバーに指示を出す。
「扇はそこで演説してる馬鹿を頼む」
扇は南の言葉を聞き、頷いた。
そして、それぞれが行動を開始する。

男は日本人が一人自分に向かって歩いて来るのを見て、演説を止める。
「なあ、日本解放戦線は新宿の住人に武器を持って戦う事を期待してるのか?」
扇の言葉に、男は頷く。
「そうだ。日本解放の為に、共に戦って欲しいのだ」
「住人は戸惑ってるようだが?」
扇は男に話しかけながら、メンバーが移動するのを確認する。
「今は困惑しているが、日本解放の悲願の為に直に立ち上がってくれる」
「そうか……」
メンバー全員が配置に就いたのを見て、扇は言葉を切り男に近づく。
2メートル手前まで移動して、扇は立ち止まる。
その様子に、男は扇が共に立ち上がるのかと期待する。
一人が率先して立ち上がれば、続けて住人達も立ち上がるだろうと男は考え、扇のアクションを待つ。
「うおおぉぉぉぉ」
いきなり扇がタックルを行ったので、男は完全に虚を突かれて地面に押し倒された。
扇の咆哮と同時にメンバーも日本解放戦線を襲う。
しかし、扇の行動に最もすばやく対応したのがヴィレッタだった。
自分に銃口を向けている男を打ち倒し、軍人達を一喝する。
「テロリスト共を取り押さえろ!」
ヴィレッタの一喝を聞いて、ブリタニア人と名誉ブリタニア人の軍人達は一斉に動き出す。
また、ゲットー住人達も一緒に日本解放戦線のメンバーに組み付いたりして、動き出す。
いきなり、ゲットー住人に襲われた日本解放戦線メンバーは戸惑いとともに、発砲して良いのかを迷って取り押さえられていった。

初投稿(09/06/01)
改訂・誤字修正(09/06/18)



[8411] 32話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/14 18:19
草壁は紅蓮の中で、潜入部隊からの連絡が途絶えたと報告を受けていた。
「所詮は売国奴か。日本解放に手を貸して禊を行わせようとチャンスを与えたものを」
報告を受けた後、紅蓮の中で不愉快になった胸中を一人呟く。
しかし、そのような不愉快な気分も、この紅蓮の中に居る事で消えていった。
草壁はこの純日本製ナイトメア紅蓮弐式が、どうしても欲しかったのだ。
先ほどは部下の手前で藤堂が断ったというが、実のところは藤堂に頼んでまわしてもらったのである。
代わりに雷光を渡そうとしたが、こちらは先ほど言ったように断られてしまったのだ。
だから、せめてもの侘びとして出来る限りのナイトメアと戦闘車両、そして補給物資を融通した。

草壁が戦況を確認すると、前線では拮抗しているようである。
これは、ブリタニア軍がゲットーの被害を抑えようと行動しているのに対して、日本解放戦線は被害が出ようとも政庁に進軍する事を第一として
戦闘を行っているために、ブリタニア軍に対して拮抗できているのであった。
「トップは居らんが、士気は高いという事か」
攻めきれない事を、どうにか打破しようと考えていると部下からの報告が入る。
「周辺の地方ブリタニア軍が東京の救援に動いたそうです」
「思った以上に早いな。藤堂から連絡は来てないのか?」
ブリタニアの素早い対応に舌を巻きながら、藤堂からの連絡が無いか部下に確認する。
「いえ、何も連絡はありません」
「そうか」
草壁は藤堂が失敗した時の事を考えて、一刻も早く政庁を落とすべきだと判断した。

ゲットーへの被害が大きくなっていくのをジェレミアは苦い思いで見ていた。
イレブンへの思い入れはまったく無かったが、ルルーシュが行っている政策の成果が壊されていくのは自らの不甲斐無さのように思えてしまう。
「ジェレミア卿、アッシュフォード学園に避難していたイレブンの中にテロリストが紛れ込んでおり、ヴィレッタ卿を人質に取り、
 イレブンたちの蜂起を促しましたが、ゲットーのイレブンがテロリストを押さえ込み、その隙を突いてヴィレッタ卿ら軍人が
 テロリストを取り押さえたそうです」
「そうか、判った。あとでヴィレッタに詳細な報告書を提出するように言っておけ」
「Yes, My Lord」
報告を聞きいて、イレブン達が蜂起せずに逆にテロリストを押さえ込んだと聞いて、嘗てサイタマゲットーのテロリスト殲滅作戦時に聞いた、
ルルーシュの戦略を思い出していた。
ゲットー住人にテロリストこそを敵と思わせる。その成果が目に見える形で報告されてきたのをジェレミアは感動する。
なんという、卓越した戦略。やはり我らの主はルルーシュ様しか居ない。
感動に身を任せながら、そう考えていた。

ヴィレッタは政庁への報告を済ませると、早速まわりの状況把握をする事にした。
先程の騒ぎで怪我をした人間の中には軽症者が何名か居たようだが、幸いにも重症者と死者は居なかった。
その幸運にヴィレッタは安堵の溜息を吐く。
ここで下手に重傷者や死者を出すと、ナナリーの不興を買ってしまっている所だったからだ。
ヴィレッタは、ルルーシュを純血派と同じく主として仰いでいたが、実際には無意識のうちにナナリーのほうを主として仰いでいる。
その為に、ヴィレッタはナナリーの不興を買う事を一番に恐れていた。
テロリスト達が連行されていくのを見送って、テロリストに襲い掛かったイレブン達を見る事にする。
怪我をしたものは治療を受けているが、そうでないものも一箇所に集まるように指示していた。
「今回、お前達がブリタニアに示した忠誠は評価される事だろう。後日、その事について連絡を行う。以上だ」
ヴィレッタはそう言って、イレブン達の連絡先を取って置くように部下に指示する。
そして、最初にテロリストに襲い掛かった扇を発見して近づく。
「扇といったな。テロリストを取り押さえた事は感謝する。しかし、貴様達に何かあったらナナリー様が悲しむから金輪際、危険な行動はするなよ」
その言葉を受けて、扇は苦笑いをしながら頷く。
「判りました」
そして、ヴィレッタは扇の周りに集まる人達を見て、何となく聞いてみる。
「そいつらは、お前の知り合いか?」
「ええ、仲間です」
きっぱりと言い放つ扇に、そういうコミュニティなんだろうと、深く考えずに納得した。
「お前達のことは、私から直接にナナリー様とルルーシュ様に報告しておく。
 その為に後日、呼び出されるかもしれないが、何時でも呼び出されても良いように準備だけはしておけよ」
そう言って、ヴィレッタはその場を離れていった。

キューエルは政庁より首脳部がテロリストを撃退して、こちらに向かっていると連絡を受けていた。
この連絡はブリタニア軍全体の士気を高める。
高まった士気を利用しようと、キューエルは前衛部隊に突撃を命じる。
その突撃により敵の一部が崩れたのを見て、キューエルは自身がその前線に向かう事にした。
「これより我が隊は、崩れた敵陣に突入する。ブリタニアへの忠誠を今こそ見せるときだ。突撃」
「Yes, My Lord」
そして、キューエルは自らのナイトメアと供に激戦地へと移動した。

草壁は藤堂の作戦失敗と負傷の報告を受けて迷っていた。
この時点で報告が来たということは、作戦自体はかなり前に失敗していたのだろう。
また、これによってブリタニア軍の士気が高い事も頷けるものがあった。
その為に、今この時点で撤退して傷を浅くするか、玉砕覚悟で政庁に突撃するかを迷う。
その間に、軍の一部が崩壊して敵の突撃を受けてしまった。
これ以上は無駄だと、草壁は判断して撤退を行うように部下に指示を行う。
そして、指示を行った瞬間に目の前に二機のグロースターが空より降りてきた。

「そこの赤いの、投降しな。俺達ラウンズが来たからには、もうお前達に勝ち目は無いぜ」
ジノは目の前の赤いナイトメアと周辺に居るナイトメアに向けて投降を呼びかける。
しかし、その答えは自分達に向けての攻撃であった。
それに対応して、ジノとアーニャは周りのナイトメアの殲滅を行う事にした。
それぞれが素早く動き、相手の狙いを付けさせずにジノが近接攻撃で、アーニャが銃撃で周りのナイトメアを落としていく。
周りに居た十機近くのナイトメアは二人の連携によって、十秒足らずで全滅してしまう。
再度、ジノは赤いナイトメアに向かって投降を呼びかける。
「もう一度言う。おとなしく投降するなら良し。そうでないなら痛い目を見てもらうぞ」

ジノが執拗に投降を呼びかけるのは、このナイトメアを確認したときにルルーシュとロイドがなるべく傷つけずに確保しろと言ってきたからだ。
ロイドは知的好奇心から言うのは判るが、ルルーシュが言ってきたのは不思議に思って問いかける。
「先輩は何で、このナイトメアを確保するんです?」
通信ごしでC.Cの笑い声を背景にしながら、ルルーシュはジノの疑問に答える。
「キョウトとの、交渉材料にするつもりだ」
ルルーシュの言葉の後に、C.Cが面白そうに言葉を続ける。
「うまくいったら、ルルーシュの騎士をその機体に乗せるつもりだよ」
そのC.Cの言葉にルルーシュは「そんな予定は無い!」と否定する。
そのやり取りで、ルルーシュがこの機体に多大な関心を寄せている事は間違いなかった。
その為に、ジノはルルーシュの期待に副うべく無傷で機体を確保するために、投降を呼びかけているのであった。

初投稿(09/06/02)
改訂・誤字修正(09/06/14)

あとがき
読者の皆様、何時も拙作をご観覧いただき、ありがとうございます。
感想欄にて指摘される、誤字脱字、設定の不備や認識不足、また表現法の指摘など、
初めて二次創作の執筆を行う私にとって、ありがたいことであり、また執筆を行ううえでの糧となっております。
今回、感想欄にて心理描写と背景描写の不備と、一話の文章が短いと指摘を受けまして、
全体的に拙作を見たところ、地の分が少なく、心理描写と背景描写が不足している箇所が多々見受けられました。
また常々、一話の文章が少なくないかと考えていた事を踏まえて、
地の文による心理描写と背景描写を増やす事と、一話分の文章量を増やす事にしました。
今までは、連日更新の為に指摘されました心理描写と背景描写を疎かにしておりましたことを、謝罪いたします。

しかしながら、自分の能力では現在の状態が精一杯ですので、読者の皆様に不便をお掛けする事になりますが、
連日更新をやめ、定期更新に切り替えて、指摘された事項の対応を行っていきたいと考えております。
その為に、連日更新を心待ちにしていらっしゃる読者の方には不便をおかけしますが、
どうぞ、見捨てずにご指摘・ご感想をお願い致します。

定期更新を何時にするかは未定ですが、次回の更新時には決定しますので、
今回と同様に、あとがきにて報告させていただきます。

以上、これからも宜しくお願い致します。



[8411] 33話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/14 18:18
通信室でルルーシュはジノとの通信が終了後、C.Cに食って掛かる。
「C.C。なんて事を言うんだ! これではあのナイトメアのパイロットが俺の騎士にということになってしまうぞ!」
そんなルルーシュに対して、何処と吹く風といった感じで肩をすくめるだけでルルーシュの言葉を無視する。
更に言葉を連ねるルルーシュに向かって、共に居たスザクは二人の間に割り込んで取り成すように言う。
「落ち着きなよ、ルルーシュ。ジノもC.Cの言葉を本気になんてしないさ」
続けて、咲世子もルルーシュを宥めるように言う。
「ルルーシュ様、落ち着いてください。ルルーシュ様の意中の方を彼のナイトメアに乗せて、異論を挟む方はいらっしゃらないと思いますので」
「ほうぇあ! 咲世子さん! 何時の間に此処に?」
想定していなかった咲世子の発言に、ルルーシュは驚きながら問い掛ける。
咲世子は落ち着いて、ルルーシュの問いに答えた。
「はい。ジノ様との通信中に参りました。窺った用件ですが、ナナリー様とユーフェミア様が、一段落ついたようなので皆様とご一緒にお茶をしないかと、
 ルルーシュ様への伝言を頼まれましたので」
咲世子の言葉を聞いて、ルルーシュは動揺を落ち着けて言う。
「ん、判った。状況を皆に説明するのにもちょうど良いな。そうだな、20分程したら行くから先に始めててくれと伝えてくれ」
ルルーシュの言葉を受けて、咲世子はスカートを摘んで膝を折り返事をした。
「畏まりました。そのようにナナリー様とユーフェミア様にお伝え致します」
そして、通信室から出て行く咲世子を見送ってから、二人に問い詰める。
「C.C! スザク! どうして咲世子さんが居る事を教えてくれなかったんだ!」
そんなルルーシュにスザクとC.Cは落ち着いて答えた。
「ルルーシュが通信中だから、咲世子さんが気を使って音を消して入ってきたんだよ」
そのスザクの言葉に、C.Cが補足する。
「スザクが咲世子の気配を壁越しに気付いて、ノックする前に招きいれたのだ。
 私もスザクも咲世子も、通信中ということで極力音を出さないようにしただけだ」
二人の言葉には気付かなかったルルーシュが悪いという感じだった。そんな二人の言い分にルルーシュは力が抜けるような気分で言う。
「はぁ、判った。次から俺も気をつけるが、お前達も気付いたら俺に判るようにしてくれ。
 そうじゃないと、俺達のことが漏れてしまうからな」
ルルーシュの言葉にスザクとC.Cは軽い雰囲気のまま、同意した。

ジノは赤いナイトメアを攻め切れないでいた。
相手の腕は大したことが無いが、機体のスペックが段違いである。
ジノは戦っていて、そのスペックがスザクの乗るランスロットと同等、格闘戦に限れば相手のスペックが上と判断していた。
パイロットがそのスペックに振り回されている状態だから、まだ余裕があるが機体を乗りこなすパイロットだったら、こちらが倒されていただろう。
そう判断していた。その為に無傷で確保は困難だろうと考えていた。
「ちぃ、スザクからランスロットを借りればよかったか」
通信がONの状態のままだったらしく、アーニャがジノのぼやきに合いの手を入る。
「無理。スザクのランスロットも機情のナイトメアも、VTOLの規格が合わないから、私達だけで先行している」
その指摘に苦笑いしながら、ジノは答える。
「せめて武器くらいは貸してもらえば良かったかな。MVSとかなら借りれそうだったし」
その言葉にはアーニャも何時にない熱意で同意する。
「同感。レールガンは借りて使ってみたかった」
そのアーニャの言葉に、気を引き締めて言葉を口にする。
「取り敢えずは、目の前の野暮用を済ませてから、色々お願いしてみますか」
ジノの言葉を聞き、アーニャもまた気を引き締めて答える。
「了解。援護射撃を続ける。邪魔が来たら倒す」

草壁は紅蓮のコクピット内で焦っていた。
相手はどうやら自分を確保するために致命的な攻撃は控えていることは感じ取っている。
捕縛されてしまうとキョウトや日本解放戦線の情報が漏れてしまう事になるので、草壁はどうやって落ち延びるかを考える。
「くっ」
草壁はラウンズの二機が未見である筈の輻射波動を搭載した右手の射程を見切っている事に気付く。
接近攻撃を行う一機は常に自機の左側から攻撃を行い、援護射撃を行うもう一機は反対側の右側からこちらの射程外より攻撃している。
ただでさえ操縦技術がラウンズより劣っており、勝っている筈の機体スペックを発揮できないように戦われて、草壁は進む事も引く事も出来ずに、
場に足止めされていた。
時間が経つにつれて、残りエナジーも少なくなってきている。
そんな紅蓮の動きが鈍ってきたのを感じ取ったのか、接近戦を行っている機体のハーケンが左側の腕と足を拘束する。
それを振りほどこうと右腕を振り上げた瞬間に射撃を行っていた機体のハーケンが今度は右腕を拘束する。
そして、もう一つのハーケンが右足をも拘束した。
両手足を拘束された事により、草壁は決断する。
「ナイトメアのパイロット。投降してナイトメアを降りろ」
ジノの呼びかけをタイミングとして、草壁はチャフスモークをその場で撒く。
「チャフか!」
ジノはいきなりチャフスモークを焚かれたことにより警戒を行うが、一向に相手からのアクションが無かった事に不審を覚える。
だが、その疑問も直に解消される。
紅蓮の脱出機構が作動して、パイロットをコクピットごと射出したのだった。
「アーニャ! 頼む!」
ハーケンが塞がれ、手には近接武器しかないジノはアーニャの射撃に望みを託す。
「判ってる!」
しかし、チャフにより射撃の精度が著しく低下しておりコクピットを止める事は出来なかった。
「ごめん」
アーニャの謝罪の言葉を聞いて、ジノは明るく語りかける。
「気にするなって。お目当ての機体は無傷で確保したんだ、それに俺達ばっかり手柄を立てても不公平だからな」
ジノの言葉にアーニャも納得したのか、何時もと変わらぬ様子でジノに告げる。
「なら、報告宜しく」
アーニャの言葉を聞いたジノは、苦笑いしながら呟く。
「ちゃっかりしてるなぁ。ま、報告しますか」

コーネリアは政庁にて、ジノより指揮官らしき者を取り逃がしたと報告を受けて直ちにジェレミアに部隊を編成して追撃と捜索を行うように命じた。
ジェレミアはこの命令を受けて、予備として待機していた部隊を編成し自らが指揮を取り出撃する。
「一足先に戻ってきたが、急いで戻らずとも大丈夫そうであったな」
状況を確認したコーネリアが隣に立つギルフォードに向けて呟く。
「そうですね。我らが到着した時点で勝敗は決しておりましたから。
 ですが、兵としては、やはり自軍のトップであられるコーネリア様がいらっしゃるのと、いらっしゃらないのでは士気に断然の差が出ますゆえ」
コーネリアの呟きを聞いたギルフォードは、兵の気持ちを代表してコーネリアに伝えた。
そんなギルフォードの気持ちが伝わったのか、コーネリアは微笑みながら答える。
「判っているとも、ギルフォード。自軍のトップが居ると居ないとでは兵の心構えが変わってくるからな。
 だからこそ、ルルーシュは私達に先に戻るように手配していたのだろう」
そんな二人の会話にダールトンも加わる。
「その采配は流石としか言いようがありませんな。カワグチ湖での指揮も見事でしたな」
そう言いながら、コーネリアに今回の襲撃で起こった主な事柄を纏めた報告書を渡した。
気にしている弟のルルーシュが自分の股肱の臣に褒められ、悪い気はせずにコーネリアは受け取った報告書に目を通す。
「ほう」
いきなり上がったコーネリアの声にギルフォードとダールトンの二人はコーネリアを見つめた。
二人の視線に気付いたのか、コーネリアが報告書を指しながら言う。
「アッシュフォード学園に避難していたイレブンの中にテロリストが潜んでいて、イレブン達を扇動しようとしたが、
 逆にイレブン達に取り押さえられたそうだ」
「なるほど、ルルーシュ様の政策が実を結んだということですね」
コーネリアが声を上げた理由が知る事ができ、ギルフォードは頷きながら相槌を打つ。
そこでコーネリアは自分の考えの一部を二人に打ち明ける。
「うむ、このままいけば、このエリアの抵抗活動も下火になり無くなるだろう。
 その時にはルルーシュを総督に、そしてユフィを副総督にしてもらおう。
 欲を言えば、ユフィを総督にしてルルーシュには私の手伝いをしてもらいたいのだがな」
そのコーネリアの考えにダールトンは賛成する。
「なかなか良い考えですな。いっそのことルルーシュ様が総督になり落ち着いたら、ユーフェミア様に総督になってもらい、
 ナナリー様が副総督になって頂くというのは、どうでしょう?
 そしてルルーシュ様にはコーネリア様と共に、いまだ政情が不安定なエリアを統治するというの、どうですかな?」
ダールトンの言葉に報告書から目を離し、しばしコーネリアは考えに耽った。
ユーフェミアが総督でナナリーが副総督。
エリア11という重要な地の総督と副総督は二人を宮廷の闘争から守る上でこの上ない力となる可能性がある。
しかし、他の皇族がこの地の総督を狙った場合は、逆に狙われる可能性があるが自分とルルーシュが実績を積み、
優秀な軍と官僚団を整備し引き渡せば、その問題もなくなるだろう。
コーネリアはダールトンの意見を考え、現状ではベストに近いと思った。
ユーフェミアとナナリーに宮廷で守れるだけの地位を与え、なおかつ、何処と無く不安定で危なっかしいルルーシュを手元に置く事が出来る。
「良い意見だな、ダールトン。これからのことを含めると、それがベストだな」
コーネリアの言葉を聞き、ダールトンは自分の意見が採用された事を察した。
「ありがとうございます。姫様」
コーネリアとダールトンの様子を脇で見ていたギルフォードは、ここで前から提案されていた案件を挙げる。
「姫様。これからのことと申しますと、以前よりジェレミア卿より提案されていたユーフェミア様とナナリー様のための女性騎士で固めた護衛部隊の事ですが、
 いかがなさるのですか?」
ギルフォードの言葉により、暫く前にジェレミアを通して純血派より提案された件を思い出す。
「ふむ、その件か。機情がある上にラウンズが護衛についているので、あまり急ぐ件ではなかったので後回しにしていたな」
コーネリアは後回しにしていた事を告げて、今もあまり重要視していない様子で答える。
しかし、ギルフォードはコーネリアと違った意見を持っているのか、コーネリアに注進する。
「姫様、機情はルルーシュ様の直属ですので問題ないと思いますが、ラウンズは陛下の直属になります。
 現状では護衛の任に就いていますが、何らかのタイミングでその任から外れる可能性もあります。
 だからこそ、余裕のある今のうちに護衛部隊を編成しておく事が良いと思われます」
ギルフォードの考えに、コーネリアは一理あると思い、前言を翻す事にした。
「ふむ、たしかにその通りだな。本国待機のグラストンナイツを呼び寄せているが、これが着た時にラウンズの護衛は要らないと判断される可能性が高いな。
 そうなると兄上の特派も居なくなる可能性もあるのか。
 よし、ダールトンとギルフォードは今回の件が終わり次第、ジェレミアと共に二人の護衛部隊の選別を行うようにしてくれ」
二人はコーネリアの命令を聞き答える。
「Yes,Your Highness」

草壁はラウンズの猛攻と、その後のブリタニア軍の残兵の掃討を逃れて、残った部隊の再編成を行っていた。
「逃れた人員は半分以下か」
草壁は作戦の失敗によって、半分以上が撃破もしくは捕縛された事に苦い思いを感じる。
そして、折角の紅蓮をブリタニアに奪われてしまった事も、草壁の忸怩たる思いを増幅させる。
「中佐、この分ですとブリタニアに成田のことがばれてしまう可能性が高いです」
部下の意見に草壁は同意する。
「そうだな。ここは片瀬少将に本拠地の移転を進言すべきだな」
部下はそれに、更に進言を行う。
「いっそのこと、中華連邦に居るという澤崎官房長官と交渉して、支援してもらうのは如何でしょうか?」
草壁は部下の意見に、多少の反発を覚えながら、その意見を退ける。
「今ここで、話すべきことではないな。成田に戻り次第、意見を纏めて提出してもらおう」
「はっ、了解しました」
部下が去っていき一人になったところで、内心の不快感を吐き捨てた。
「くそっ。逃げ出した臆病者の力を借りろというか。二人の皇族が来てから、総てがうまくいかなくなっている。
 特にあのルルーシュだ。7年前もヤツが居ながらブリタニアが侵攻してきた。ヤツは日本にとっての疫病神か」
吐き捨てた事により、心が落ち着いたのか幾分冷静になり、これからのことについて考える。
川口湖での襲撃に失敗して、政庁を攻め落とす事が出来なかった。
対応の速さと、冷静さは今回の二つの襲撃を予見していた事になる。
これにより、日本解放戦線と主要なレジスタンスの人員が半減してしまった事になる。
暫くは大きな行動が取れなくなってしまっている。全国に散らばっているレジスタンスをキョウトの伝手で日本解放戦線と合流してもらうのも手だろう。
その為には藤堂に、早く合流してもらわないと困る。
そういえば、そろそろ川口湖でサクラダイト生産国会議が行われる。世界が注目するこの会議に日本が死んでいないことを見せ付けるのは良い機会かも知れない。
ここまで考えて、部下の報告により思考を中断した。
「中佐、再編成した部隊の出発準備が整いました」
草壁は中断した思考は、成田に戻ってから検討しようと考えて、部下に指示を出す。
「判った。では、成田に戻るぞ」
「了解しました」

「うひょ~」
ロイドはG1ベース内に格納してある機情のナイトメアを目の前にして、嬉しさのあまり声を上げてしまった。
その様子に怯まずに機情のリーダーであるサンチアは冷静に対応する。
「私の機体とルクレティア機は、流石に機密がありますのでデータの提供は無理ですが、アリス機とダルク機のデータは提供します。
 替わりにMVSの提供を宜しくお願いします」
サンチアの言葉に、頷きながらロイドは答える。
「うんうん、判ってるよう。でもさ、僕としてはレールガンのデータも欲しいんだけどダメかな?」
ロイドの言葉にサンチアは少し考えてから答える。
「機情技術部の責任者に提供可能かどうか確認します」
サンチアの言葉に気を良くして、ロイドは言葉を連ねた。
「お願いね。そっちがレールガンのデータを提供してくれるなら、ドルイドシステムのデータを提供するからさ」
サンチアは聞いた事の無いシステム名称に戸惑いながら、聞き返す。
「ドルイドシステムですか?」
「そ、ドルイドシステム」
ロイドから説明する様子が窺えないので、ロイドの隣に居るセシルに視線を向けて説明を求める。
「ドルイドシステムというのは、環境データをリアルタイムで入力する電子解析システムのことです。
 この電子解析システムは、そちらの周辺情報収集と索敵を行う二機に搭載すれば、更に詳細な情報収集が出来るというのが、
 私たち特派の意見です」
セシルの説明と特派としての意見を聞いて、サンチアは納得しながら答える。
「なるほど、了解しました。そのドルイドシステムの事も含めて、技術部に連絡を入れます」
サンチアの言葉を聞き、特派の二人はそれぞれに答えた。
「うんうん。よろしくねぇ」
「宜しくお願いします」
二人の応答を聞き、サンチアは二人に退去する事を告げる。
「では、失礼します」
そして、サンチアは二人の前から去っていった。

そのまま、サンチアはルルーシュが待機している部屋に向かう。
サンチアは既にパイロットスーツを脱ぎ、あまり着る機会の無い機密情報局の制服を着ていた。
流石に非戦闘員と言うわけにはいかないので、ここに来るときに着ていた私服を着るわけにはいかない。
しかし、生徒会メンバーの護衛を兼ねて傍に居る、アリス、ダルク、ロロの三人は戦いの緊張を感じさせないために私服を着ている。
「入ります」
ルルーシュが待機している部屋にサンチアが入るとルルーシュとスザクとルクレティアが、それぞれ報告書等の書類を捌いていた。
ルルーシュの捌いている書類の数が多いからなのか、ルクレティアが甲斐甲斐しくルルーシュの秘書のように手伝っている。
そして、サンチアに気付いたルルーシュが視線を向けて口を開く。
「特派への報告ご苦労。続けてで申し訳ないが、機情の書類が幾つかあるので、それを処理してくれないか」
ルルーシュはそう言って、空いている机に乗ってる書類の束を指差す。
「Yes,Your Highness」
いささか硬い態度でサンチアは答えて、書類の処理を始める。
ソファーに寝そべってるC.C以外はそれぞれ、書類の処理を行っていた。
暫く時間が経ち、書類の大部分が捌かれた時にルルーシュが何気なくサンチアとルクレティアに問いかける。
「そういえば、機情のメンバーはギアスを使っていたが暴走する危険性は無いのか?」
その言葉を聞き、サンチアはC.Cとスザクに視線を走らせて、鋭く言葉を吐く。
「ルルーシュ様!」
その様子にルルーシュは落ち着いて答える。
「二人は大丈夫だ。C.Cもスザクもギアスのことは知っている」
ルルーシュの言葉を聞いて、サンチアは二人に視線を投げかけた。その視線を受けてスザクは答えた。
「僕はギアスの事は知っているよ。ギアスユーザという訳ではないけどね」
C.Cもまた、その視線を受けて答える。
「私はコードを持ってる。ルルーシュにギアスを与えたのは私だからな」
C.Cの言葉を受けて、サンチアとルクレティアはいきなり現れた、この女性に皇帝が枢機卿の地位を与えたことの理由が判り納得した。
そして、ギアスを知る人間のみという事で、サンチアはルルーシュの問いに答える。
「ギアスが暴走する危険はありません。私達はギアス抑制剤を摂取してるので、大丈夫です」
「ギアス抑制剤?」
ルルーシュはギアスの暴走を抑える薬に興味を覚えて、更にその事について聞く。
「はい、私たちは錠剤で飲むタイプ抑制剤を摂取してます。
 ギアスが暴走している状態になった場合はアンプルのギアス抑制剤を注射して、暴走状態を抑制します」
サンチアから抑制剤のことを聞いたルルーシュは、マオの事を思い出してC.Cに視線を送った。

初投稿(09/06/08)
改訂・誤字修正(09/06/11)
改訂(09/06/14)

あとがき
読者の皆様、何時も拙作をご観覧いただき、ありがとうございます。
33話の掲載が遅れました事をお詫び申し上げます。

今回より定期更新に切り替わりますが、その更新を日曜日と木曜日にさせて頂きます。
この更新は日曜日の更新として、次回は木曜日の更新を行います。
また、拙作の外伝の執筆も行っております。
外伝は本編と直接は関係ない日常の事柄や、本編から零れたエピソードを書き連ねて行く予定になっております。
外伝は定期更新ではなく、書きあがったときに更新しますので不定期更新となります。

感想欄にて、読者の皆様の意見に振り回される事を心配して頂いておりますが、
拙作の”逆行ルルーシュの記録”は最終話までのプロットは出来ております。
皆様の意見により、多少のプロット変更もございますが、最終的な着地点は見据えて執筆しておりますので、御安心ください。

読者の皆様には”逆行ルルーシュの記録”と”逆行最強系神聖ブリタニア帝国皇帝ナナリー”共に
これからのご愛読を宜しくお願いします。

以上、これからも宜しくお願い致します。



[8411] 34話
Name: ツチノコ酒◆049203a1 ID:7746f93c
Date: 2009/06/11 19:32
G1ベースがトウキョウ租界に到着したのは日が沈み、夜も遅くなった時間だった。
カワグチ湖の最寄の基地に行き、ラウンズとコーネリア達の5人をナイトメアごとVTOLでトウキョウ租界へ一足先に戻ってもらったために、
回り道ををしたので、遅い時間に到着したのである。
「今日は遅いし、護衛に人数を割けるほど余裕が無いからな。みんな、政庁に宿泊してくれ」
ルルーシュの言葉を聞いて、ユーフェミアが嬉しそうに女性陣に向かって言葉を紡ぐ。
「では、皆さんでパジャマパーティーですね」
その言葉を聞き、リヴァルは居心地悪そうに視線を彷徨わせてから、
ルルーシュにこれからの予定を聞くことにした。
「なあ、ルルーシュは今日のこれからはどうするんだ?」
ルルーシュはリヴァルの質問に対して、冷静に答える。
「俺はこれから、今回の件の後始末をしなきゃいけない。租界自体には被害は無かったがシンジュクを含めた租界外延部のゲットーの被害が大きいからな」
ルルーシュの答えを聞いて、リヴァルは顔を天井に向けて目を手のひらで覆いながら呻き、
暫くその格好で居たが何か思い立ったのかルルーシュに向かい言葉を掛けた。
「ルルーシュ。今度こそ、俺に何か手伝える事は無いかな? いやさ、俺一人だけが部屋で時間つぶしてるってのもナンだしさ」
リヴァルの苦笑いをしながらの発言を聞いたルルーシュは、珍しく考え込んだ。
民間人で学生であるリヴァルに自分が処理する書類の手伝いをやってもらうのは具合が悪いと考えて、
藤堂達の襲撃時のリヴァルが手伝いを申し出たときのように、リヴァルの提案を断ろうとルルーシュが口を開いた瞬間にC.Cが先にリヴァルに答えた。
「構わん。ルルーシュを手伝ってやれ」
断ろうと口を開きかけていたルルーシュを押しのけてC.Cがリヴァルの提案を受け入れたことにルルーシュはC.Cに文句を言う。
「C.C。何を言ってるんだ! リヴァルは民間人で、しかも学生だぞ! エリア11の政務に関する手伝いをして貰う訳にいかないだろう!」
食って掛かるルルーシュを眺めて、そして部屋に居る人物を見やってから、そこに居る人物達に聞かれても問題ないと判断してルルーシュに向けて語りかけた。
「良いか、ルルーシュ。私は純血派もアッシュフォードも信頼していない」
その言葉を受けて、ミレイは強いショックを受けていた。
皇帝より直接ルルーシュの補佐を頼まれた枢機卿の口からアッシュフォードは信頼していないと告げられた。
ただの補佐役の言葉なら気にはならなかったが、ルルーシュの彼女への信頼はミレイからしても今まで見た事も無いくらいのものだから。
それは、ルルーシュより直接アッシュフォードは信頼に値しないと言われたも同然であったからだ。
その瞬間、ミレイは体中の感覚が消え、奇妙な浮遊感に神経を支配された。
どういうことか聞こうとしても、ミレイは言葉を発する事が出来そうにない。
そんなミレイにルルーシュは視線を寄越す、その瞬間をミレイはやけにゆっくりと感じ、その時のルルーシュの表情は驚きと怒りが見て取れた。
そのルルーシュからC.Cに対して、きつい口調の詰問が行われる。
「どういうつもりだ、C.C。純血派とアッシュフォードを信頼していないとは?」
ルルーシュの様子から、彼がアッシュフォードの為に怒りを感じている事に奇妙な安堵をミレイが感じた時、
初めてミレイは自分の手が誰かに握られている事に気付き、手を握っている人物に視線を移す。
そこには目が見えないはずのナナリーが手を握っていた。
隣にアリスが居る事で、彼女に助力を頼んで自分の手を握ったのだと、ミレイは察する事が出来た。
そこに今度はC.Cの声が耳に入る。
「言った通りだ。私はお前の部下、後援として純血派とアッシュフォードは信頼していない」
その言葉を聞いてミレイは彼女がアッシュフォードを信頼していない事を確認する。
だが、ミレイは自分を励ますように手を握ってくれているナナリーの存在を感じる事で自分を保つ事が出来ていた。
「何故だ?」
ルルーシュの理由を問う言葉を受け、C.Cは説明を行う。それを受けて、その場に居た人間は総てC.Cの言葉に耳を傾けた。
「ルルーシュ、ルルーシュ・ランペルージ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。お前はいくつもの名を持っている。そして人はいくつものペルソナをも持っている」
C.Cは物語りでも紡ぐようにルルーシュだけでなく、その場に居る人間総てに語りかけ。その視線は総ての人間をなめていった。
「ルルーシュ、お前は第98代皇帝の第11皇子、閃光のマリアンヌの第一子、第5位皇位継承者、エリア11副総督」
C.Cは謳うように言葉を紡いでいく、その声にその場に居る人は引き込まれていく。
「私はな、ルルーシュ。お前個人の仲間を、味方を作れと言いたいのだよ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの味方でなく、ルルーシュの味方をな」
その言葉を聞いてルルーシュはC.Cに反論する。
「純血派やアッシュフォードは俺個人の味方ではないと?」
自分の発言により、ルルーシュとC.Cの口論に発展してしまった為にリヴァルは二人を落ち着けようと二人の口論に割り込む事にした。
「いや、二人とも落ち着こうよ。ほら、俺が我が儘言ったのは謝るからさ」
そんなリヴァルを一瞥して、C.Cは鼻で笑う。
「ふん。貴様のせいでこうなった訳じゃない。元々ルルーシュには言おうと思っていたが、今が丁度良い機会だから言っているだけだ」
リヴァルは困惑して、ルルーシュとC.Cの間で視線を彷徨わせる。
ルルーシュはそんなリヴァルを見てから、再度C.Cに視線を向け説明を促す。
「純血派は、閃光のマリアンヌの遺児を支持しているだけだ。お前やナナリーを支持しているわけじゃない」
その言葉を聞いて、ルルーシュは理解はしたが納得は出来なかった。
「純血派のことは理解した。だがジェレミアなら俺個人に忠誠を誓ってくれるはずだ。そしてジェレミアが従うなら純血派も従うはずだ」
C.Cはルルーシュの言葉を聞き、ルルーシュの認識を正そうとしたがその前に意外なところから声が上がったので口を噤んだ。
「お兄様、その考えは危険です」
ルルーシュはナナリーより否定の言葉を聞かされて軽く混乱する。その混乱のままルルーシュはナナリーに問う。
「ナナリー、どういうことだい?」
ルルーシュの問いかけにナナリーはゆっくりとした口調で答える。
「ジェレミア卿やキューエル卿等の騎士達はC.Cさんの言う通り、お母様の子であるから私達兄妹に従ってます。
 また、お兄様が信頼していらっしゃるジェレミア卿は純血派の代表であってリーダーではありません。
 今のお兄様はジェレミア卿ら純血派を無条件で信頼しすぎてます。これは私達にとって、あまり良い事とは思えません」
ナナリーはミレイの手を握り締めながら、ルルーシュの問いに答えていた。
ミレイは問いに答えた時にナナリーが強く手を握り締めた事がやけに印象的であったために、ナナリーを見つめているルルーシュの様子に気付かなかった。
ルルーシュはナナリーの指摘で自分が無条件にジェレミアと純血派を信頼しすぎている事に気付き、自分が思った以上に時間を遡る前の人物評価を
引き摺っていることに驚いていた。
そして、ルルーシュはC.Cとスザク以外の人物評価を一旦リセットして、再評価しなければならないだろうと考える。
そこへC.Cの視線を感じてルルーシュは、そちらへ視線を向ける。
ルルーシュの視線が自分に向いたのでC.Cは自分やナナリーの意見を総括して、ルルーシュへ告げた。
「ルルーシュ、今のお前の目で周りの人間を見ろ。過去の人物像に惑わされるな」
C.Cの言葉を受けてルルーシュは頷き、礼を言う。
「すまない。ありがとう」
ルルーシュの礼を受けて、C.Cは中断されていた言葉を続ける。
「アッシュフォード一門も純血派と同じだ。ブリタニアの皇子であるお前の支持者だからな。
 ただし、こちらはそこのミレイやルーベンはお前個人の味方であり、ルーベンは間違いなくアッシュフォード一門のトップだから純血派よりは信頼している」
C.Cの言葉でミレイは体中にあった浮遊感が消え、自身が平常心に戻るのを体感する。
ミレイは思った以上に自分がショックを受けていた事に内心で苦笑いしてしまった。
「だからだ、ルルーシュ。お前個人の味方として、そこに居るリヴァル等を取り込めと言っている」
ルルーシュはC.Cの言葉に納得し、リヴァルに視線を移して口を開く。
「リヴァル。お前が手伝うという事は、これから面倒ごとにも巻き込まれるという事になるぞ。それでも良いのか?」
念を押すように聞かれたルルーシュの言葉にリヴァルは笑いながら答える。
「なに言ってるのよ。俺たちゃ、友達でしょ。なら、面倒ごととか迷惑とか関係なく手を貸すのが普通でしょ」
ルルーシュはそんなリヴァルの言葉を受けて、僅かに笑いながらリヴァルに向けて言った。
「そうか。なら、これから今回の件の書類を処理するから手伝ってくれ」
ルルーシュの言葉を受けて、リヴァルは何時もと同じように気楽な感じで返事をする。
「了解。それじゃ、手伝いますか」

戦闘が終了し、ゲットーの住人は一旦解散を受けたが戦闘によって住宅が壊されたものは、軍に報告して一時の宿として仮設住宅が割り振られていた。
幸いにも扇グループのメンバー達の住宅はどれも被害を受けておらず、またアジトも無傷で残っていた。
そして、そのアジトにカレンを除いたメンバーが集まり今後の事について語り合っている。
「今までのレジスタンス活動を続けていても意味は無い」
扇は自分の発言が他のメンバーから反発を受けるものとして考えていた。
だが、他のメンバーからの反発は無かった。むしろ同意するような空気が流れている。
そんな空気を代表したかのように玉城が声を上げて同意する。
「扇の意見に俺も賛成だ」
玉城が代表して同意したことについて補足を行うように南が発言した。
「確かに今までと同じような活動を行う事は無意味だと、アッシュフォード学園の件で証明されたしな」
残りのメンバーも玉城と南の言葉に同意して頷いていた。
そんなメンバーの様子に扇は安心して呟く。
「そうか。ありがとう」
安心した様子の扇に向かって、井上がこれからの活動について問いかける。
「今まで見たいな活動しないのなら、これからはどんな活動のするのかしら?」
井上の問いを受けて、扇は自分の考えを整理しながらメンバーに語る。
「前に話したと思うが、枢木スザクと話したときに彼が日本人とは心だと言ったと」
メンバーは黙って頷いた。
その様子を確認して扇は言葉を続ける。
「だから、俺はこれからのレジスタンス活動は日本人の心を残していく事だと思うんだ」
そこに南からの合いの手が入る。
「むやみやたらに抵抗活動をすると、逆に日本人達の反感を買うという事だな。今回の日本解放戦線のように」
「ああ、その通りだ。幸いにも今は日本人の生活が楽になっているから、日本の工芸や伝統を守りやすくなってると思うんだ」
南の言葉に扇は同意し、そのまま一旦息継ぎを入れて一拍置いてから言葉を続けた。
「偶然だが俺達はブリタニアに対して功績をたてることが出来た。これを利用して、日本の工芸や伝統を収集して伝えることが出来るように頼むんだ」
扇の言葉に玉城が感心しながら口を挟む。
「へぇ、残っている日本をかき集めて保護するって訳だな」
玉城の的を得た言葉に、扇は笑いながら頷く。
「そうだ。そして、その日本を子供達に伝えて、次世代に日本を残していこうと思うんだ。それをブリタニアに対する抵抗活動にしたい」
そう言って、扇はメンバーを見つめる。メンバーが互いに視線を交してから代表するように南が口を開く。
「判った。俺達も扇の考えに異論は無い。それならば、どうやって日本を保護していくかを、みんなで考えよう」
メンバーの同意を得た扇は、大きく息をついてからメンバーに頭を下げた。
「ありがとう」
そんな扇に向かって、玉城が大きめの声で言う。
「なに言ってやがるんだよ。お前は俺達のリーダーだろ。もっとがっしりと構えてろって」
玉城の発言によって、場の空気が変わりメンバーの顔も緩む。
そんな時に、アジトにある連絡機から音が鳴る。
扇は不審に思いながら、鳴っている連絡機を取ろうと席を立つ。その間にメンバーは連絡機に声が入らないように一言も喋らずに静かにする。
「はい、扇です」
扇が連絡機からの連絡を受けてから暫くするとメンバーの下に戻ってきた。
何処と無く先ほどと違って憔悴した様子の扇に不審を覚えて杉山が扇に向かって問いかける。
「どうしたんだよ、扇?」
杉山の問いかけに扇は躊躇いがちに答えた。
「藤堂さんからの連絡だった」
その扇の一言により、メンバー達は息を呑んだ。
そこに扇は更に言葉を続ける。
「今回の襲撃の件で藤堂さんが怪我をしたので、部下の四聖剣共々匿って欲しいそうだ」
続けられた言葉はメンバーを一気に困惑させた。
「おい、扇」
動揺を抑えられないままに、南が扇に向かって声を掛ける。
それを受けて扇は、自身をも落ち着けるようにゆっくりと喋りだした。
「俺は彼等を受け入れようと思う。困ってる人たちを見捨てたくはないんだ」
扇の言葉でメンバーは一時の混乱から覚める。
「判った。彼等を受け入れる住居などの準備をしておこう」
南が扇に向かって言うと、メンバーはそれぞれ藤堂達を受け入れるための準備を始めた。

御前会議で桐原は日本解放戦線が行った作戦の顛末を部下より報告された。
「失敗したか」
桐原は日本解放戦線の作戦が成功するとは思っていなかったので、今回の結末を順当なものとして受け入れていた。
あからさまに狙ってくださいと言わんばかりの状況を作り上げたブリタニアに対して、予想通りに食いつく。
この結果、日本解放戦線の戦力は半減、いやナイトメアや戦闘車両の消耗を見ると1/3以下になったと言ってもよい。
支援していたレジスタンスの半数以上は壊滅状態になる。
罠と判っていても、そこに勝機を見出すしかなかったくらいに抵抗活動は困難を極めていた。
そして、今回のことで更に日本解放の歩みは遅れる事になるだろうと桐原は考えた。
「枢木のお兄様を助け出したゼロという方は、未だに何も行動を起こしていないのですか?」
神楽耶の突然の発言に六家の重鎮達は、ブリタニアの捜索状況と共に神楽耶に報告する。
「日本人からの活動報告は来てませんし、またブリタニアの捜索においても見つかってません。
 ブリタニアの捜索は埼玉の一件以来、殆ど行われていませんから埼玉でゼロに関係する何かをブリタニアが掴んで、捜索を打ち切ったと考えられますな」
その言葉を聞きながら桐原は、枢木のを救ったのはゼロであったな、と思い出す。
「枢木のお兄様は、彼のブリタニアの皇子と共にあるのでしょう。二人は友人でしたものね」
続けて桐原の耳に入った神楽耶の発言で、神楽耶がルルーシュとスザク、そしてナナリーと面識があったことを思い出していた。
「皇の。今はそのような事を話している場合ではない。日本のこれからについて話し合わなければならないのだからな」
その言葉を受けて、六家はそれぞれに自分の意見を言い合う。
そこでは、やはり副総督であるルルーシュに取り入って日本人の権利拡大を行うと言うのが主流になって話し合われた。
「桐原。副総督への面談はまだ行われないのか?」
桐原は自分とルルーシュの面談を申し込んだが、受け入れられていない事を話す。
「申し込んではいるが、未だに受け入れられていない状態だ」
キョウトとしては、ここでルルーシュに接触して取り込んでおきたいと考えている。
桐原としても、この手詰まりの状況を少しでも換える為に切欠が欲しいところだった。
「もっと積極的に副総督に接触できるようにしよう」
桐原が六家に向かって、ルルーシュとの接触を積極的に行う事を確約した。

初投稿(09/06/11)



[8411] 35話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/14 18:17
回収された紅蓮のコクピットを修復して取り付け、機体の解析を行ったロイドは思わず呻く。
「輻射波動。ラクシャータだね」
ロイドの呟きを聞いて、セシルも憂鬱そうに答える。
「そうですね。故郷に戻ったと聞きましたが、まさか、エリア11のテロリストと手を組むなんて」
ロイドは何時に無く真面目な雰囲気を持ち、解析を行っているディスプレイを見ながらセシルに言う。
「仕方ないさ。ナイトメアの開発を行うのにはサクラダイトが必要だからね。
 ブリタニア以外でナイトメアを開発するって言うなら、サクラダイトの最大供給地であるエリア11のテロリストと組むのが効率が良いのさ。
 なんと言っても実戦データまで取れるからね」
そんなロイドの言葉を聞き、セシルは悲しそうに呟く。
「ロイドさん」
ディスプレイから目を離し、紅蓮を見上げながらロイドは続けて語る。
「まあ、ソレを言うなら、僕達だって同じようなものだけどね。サクラダイトが潤沢にあり、かつテロ活動が活発であるから実戦データの収集が効率良く行える」
言葉も出せずにセシルはロイドを見詰める。
その視線を意識したのか、紅蓮から目を外して瞳をセシルに向けて、真っ直ぐと見詰める。
そして、ロイドはセシルに向かって口を開く。
「まあ、真面目なお話は、コレでおしまい。ラクシャータはこの機体を僕達に奪われて、さぞご立腹だろうねぇ」
セシルはロイドが何時もの調子に戻った事に救われながら溜息をつく。
そんなセシルを無視してロイドは、言葉を続ける。
「しかも、ほとんど無傷で確保したのがラウンズが乗っているといえど、第5世代ナイトメア。さぞラクシャータにとっては屈辱だろうねぇ」
笑いながら言うロイドにセシルは苦笑して声を掛ける。
「ロイドさん。今日は副総督と機密情報局が来る予定だったはずでは?」
セシルの言葉にロイドは本日のイベントを思い出す。
レールガンのデータを貰う替わりに、MVSを提供することに決定したのであった。
その為に、MVSを提供する機情のナイトメアとインターフェースに問題が無いかを確認するために、副総督と機情のメンバーが来るのである。
「そうだったね。じゃ、切りの良いところで終わっておきますか」
そう言ってロイドは、ルルーシュと機密情報局を迎えるための準備を始めた。

一日の仕事を終えた玉城と朝比奈は夕暮れの町並みを肩を並べて歩いていた。
復興される町並みを眺めながら足を進めていると隣の玉城がいきなり声を上げる。
「そうだ! この近くに銭湯が出来たって、吉田が言ってたんだよ。いっちょ、行ってみるか?」
玉城の言葉に少し考えてから、朝比奈は頷きながら言う。
「銭湯か、悪くないね。うん、他のみんなには悪いけど、行ってみようか」
朝比奈が同意したのを受けて、玉城が笑いながら言う。
「まあ、千葉の旦那は怪我だしな。怪我が治ったら骨休みを兼ねて、みんなで温泉でも行ったらどうだ?」
玉城の意見に笑いながら頷いて、朝比奈は新宿に到着したときの事を思い出していた。

藤堂一行が新宿に到着したのは、日本解放戦線の襲撃があった翌日の昼であった。
検問等のチェックを掻い潜る為に大幅な遠回りを行わなくてはならなかったからである。
扇グループはカレンを抜いた一同で藤堂一行を出迎えた。
用意していた担架で藤堂をアジト内に準備していたソファーベットに横たえてから、互いに現状確認を行う。
互いの状況を確認した所で、藤堂が自分等の行動を決定する。
「草壁中佐が敗走したのか、成田に戻るのは、この怪我では無理だな。扇君、暫くの間、この新宿に我等が滞在しても良いだろうか?」
藤堂の言葉を受けて、扇が答える。
「勿論、そのつもりで準備しました。ですが、そのちょっと問題がありまして……」
歯切れの悪い扇の言葉を引き継ぐように南が発言する。
「実はですね。ゲットーでも戸籍管理が行われるようになりまして、短期の滞在でも名前と年齢を登録しないといけないのです」
暫く前より行われ始めたゲットーの戸籍管理は藤堂一行も知っていた。
この戸籍管理はゲットーでのレジスタンス活動が困難になってきた一因でもある。
そして、南は言葉を連ねる。
「四聖剣の皆さんは別として、藤堂さんの名前は日本人とブリタニア人の両方に有名すぎまして、住居が用意できない可能性があるのです」
南の言葉を聞いて、朝比奈は疑問に感じた事を口にする。
「僕達、四聖剣は別って、どういうことだい?」
申し訳なさそうに扇が藤堂達を見つめながら言う。
「言い方は悪いのですが、四聖剣の皆さんは藤堂さんの部下としては知名度はあるのですが、
 個人としては余り知名度が無く専門家で無い限りごまかせると思うのですよ」
扇の言葉を聞いた千葉は、納得しながら口を挟む。
「ふむ、なるほど。つまり私達を匿うことは出来るが、藤堂中佐はその知名度により匿うのが困難だと言いたいのだな」
千葉達、四聖剣が冷静に対応するので、怒るであろうと予想していた扇は拍子抜けして相槌を打つ。
「はい、そうなります」
その扇の様子に、苦笑いしながら千葉が言う。
「我等、四聖剣が藤堂中佐に比べて知名度で劣ると言われて怒ると予想していたのだろう」
千葉の言葉に、ばつ悪そうに扇は同意する。
「え、あ。はい、その通りです」
千葉の言葉を卜部が引き継ぐように扇に向かって語る。
「四聖剣は藤堂中佐に従っている。だから、藤堂中佐と比較され劣っているといわれても問題ない。
 むしろ我等が藤堂中佐の足を引っ張っていると思われたりする事のほうが問題だと感じる」
二人の言葉に扇は頭を下げる。
「そうでしたか、失礼しました」
扇は下げた頭を戻して、藤堂達へ中断された話を再開した。
「それでですね。四聖剣の皆さんは匿うのに問題ないのですが、藤堂さんは流石に有名で匿うのが難しいのですよ」
扇の言葉に四聖剣は唸ってしまう。
奇跡の藤堂。いつもなら誇らしいはずの異名が今回は障害となって現れてしまった。
数日の滞在なら誤魔化せるが、怪我を治療する期間の滞在になると誤魔化せるわけが無い。
しかも扇グループの話だと、副総督とその妹が足を伸ばす可能性があるために住人の管理は一層厳重になってきている。
藤堂が怪我を押して成田に行くかと考えたときに玉城が発言する。
「なぁ、素人考えなんだけどよ。俺って、今この時に始めて藤堂の旦那を見たわけだよ。
 他の日本人もさ、名前は知ってるけど顔は知らないんじゃないか? だからさ、藤堂の旦那に別の名前を用意すれば問題ないと思うんだよ」
玉城の発言を聞いて、朝比奈が真っ先に反応する。
「なるほど。藤堂さんが”奇跡の藤堂”であることを気付かれなければ問題ないということだね」
その言葉は藤堂と残りの四聖剣に玉城の意見を判りやすく伝える事となった。
「そうなると、どのように藤堂中佐のことを誤魔化すかを考えますか」
仙波の言葉に朝比奈が笑いながら言う。
「なら、こういうのは、どうかな。藤堂さんには千葉と夫婦になってもらうのさ。
 そして、藤堂さんには千葉さんになって貰う。誰も、あの”奇跡の藤堂”が夫婦者として新宿に居るとは考え付かないだろう」
朝比奈の言葉を暫し検討してから、卜部はこの場に居る人間に賛成を伝える。
「賛成だな。藤堂中佐には申し訳ないですが、千葉と夫婦を演じてもらうのが得策でしょう」
卜部に続いて仙波も自分の意見を言う。
「私も賛成ですな。藤堂中佐は怪我をしていますから、常時、傍に誰かが付いているのが良いですから。
 ならば、夫婦を演ずれば傍に居る事も不自然でないですからな」
当事者である藤堂は自分の負傷と名によって、部下達を危険に晒すのは不本意であるために彼等の意見を大人しく聞いて吟味する。
暫く沈黙した後に千葉に向けて言った。
「千葉、お前に不服が無ければ、彼等の意見を採用したいのだが問題ないか?」
藤堂の言葉を受けて千葉は慌てながら返答する。
「え、あ、はい。問題ありません。偽りとはいえ藤堂中佐の妻になるなど、名誉な事です」
千葉は自分の言葉を聞いて、ニヤニヤと笑っている卜部と朝比奈を視界の端に居る事を確認し、二人を睨み付けた。
睨み付けられた二人は、笑みを消して真面目な顔をする。
そんな四聖剣の様子を眺めていた藤堂は扇に向かって頭を下げる。
「今、話した通りで、宜しく頼む」
「判りました」
扇の返事を聞き、頭を上げた藤堂に扇は確認する。
「では、藤堂さんは、そちらの千葉さんと夫婦という事で申請します。申請は千葉夫妻と言うことで宜しいですね」
その確認に藤堂は頷き、千葉も同意の言葉を言う。
「ああ、お願いする」

到着したその日に申請を行い、直に藤堂達は仮設住宅が割り振られ、また藤堂が怪我をしている事を伝えたら、治療も行ってくれた。
扇たちの紹介で登録を行ったのに微妙に優遇されていることに朝比奈は気付く。
そして、その事を玉城に聞くと意外な答えが返された。
「俺と扇は、あのナナリーってお姫様から、お友達に認定されてるからな」
その答えにまったく信憑性が無かったので扇に確認したら、同じ答えが返される。
それを聞いて、藤堂がしみじみと微笑んで居たのが、朝比奈には印象的であった。
そして、藤堂は割り振られた住居で治療に専念して、四聖剣の男達は日雇いの仕事を、千葉は食堂の調理師の仕事を行って日々の糧を得ている。
そんな事を思い出しながら歩いていると、玉城の言っていた銭湯が見えた。
下着などの着替えやタオルは汗をかいた時の為に持ってきていたので、朝比奈はそのまま銭湯の入り口へ進む。
玉城と共に料金を払い、服を脱いで浴場に入る。
体を洗い、湯船につかる。
「ふうぅぅ」
朝比奈は湯船で思わず、大きく溜息をついてしまう。それは何時の間にか、隣に居た玉城も同様であった。
二人とも何も喋らずに、暫く湯船を楽しむ。朝比奈は何気なく思った事を口にする。
「こうしていると、日本が戻ってきたような感じがする」
その言葉に玉城も何も考えずに言葉を返す。
「そうだな。日本だった頃のモノが色々と戻ってきてるからな」
玉城の言葉に朝比奈は、扇グループの抵抗活動内容を思い出す。
日本の文化や伝統を次世代に伝える。
最初に聞いたときは、なにを馬鹿なことを、と思ったが、こうしていると彼等の守りたいものや伝えたいものが判ってくる。
藤堂が真っ先に彼等の活動に理解を示さなかったら、朝比奈は彼等の活動を鼻で笑っていただろう。
そして即座に彼等の活動の意味を理解した藤堂に対して朝比奈は更なる畏敬を持った。

ルルーシュはコーネリアに扇グループから報酬の替わりに日本の伝統文化を保護したいという訴えを纏めた書類を提出した。
「総督、件のイレブンから報酬の替わりに、このエリア11にあった伝統文化の保護を求める訴えですが、
 書類に纏めてありますように、私はこれを受け入れようと考えてます」
ルルーシュより受け取った書類を捲り眺めながら、ルルーシュに向かって問いかける。
「イレブンの懐柔政策の一環として、伝統文化の保護か。表向きの理由はそれで良いとして、本当の目的は何なのだ?」
コーネリアから問いかけられ、ルルーシュは肩をすくめながら答える。
「この件を餌にNACから、日本解放戦線の本拠地を聞きだすのが目的です。まあ、捕まえた構成員からナリタ連山であることは確定してるのですが、
 確実にことを運びたいですから。それに働きのあったイレブンに対する恩賞として与える。この宣伝効果は見逃せませんからね」
時に強引に、時にはしたたかにエリア11の政務を行う弟に満足を覚えつつ頷く。
「判った。その件は許可しよう。またNACからの情報でナリタが日本解放戦線の本拠地であることが確定次第、攻略を行う事にする」
コーネリアの言葉を受けて、ルルーシュは頷き、返事をする。
「判りました。そのように準備します」
ルルーシュの返答を聞き、コーネリアはルルーシュに向かって語りかけた。
「ルルーシュ。話は変わるのだが、お前は自分の騎士をどうするつもりだ? もしや枢木を選ぶのではないよな?」
コーネリアが自分の騎士について聞いてくるので、ルルーシュは素直に自分の胸のうちを打ち明ける。
「スザクは俺の騎士にするつもりはありませんし、スザクも俺の騎士になるつもりは無いでしょう。
 俺はスザクを信頼しているので、ナナリーとユフィを守ってもらいたいと考えています」
ルルーシュの言葉にコーネリアは眉を顰めながら言う。
「ユフィかナナリーの騎士を枢木にするつもりか?」
その言葉にルルーシュは苦笑いしながら答える。
「姉上、専任騎士は互いの意思によってなるものです。だから、ユフィやナナリーが選ぶかどうかですよ」
コーネリアは自分の不要な心配を窘められたことに気付き、自嘲する。
そして、ルルーシュに対して脱線した話題を再度、問いかける。
「そうなると、純血派の騎士から選ぶのか? アッシュフォードは目欲しい騎士を抱えていないからな」
コーネリアの言葉にルルーシュは首を横に振りながら、再度否定する。
「いえ、純血派の騎士を選ぶつもりはありません。彼等は閃光のマリアンヌの遺児に忠誠を誓ってますから」
ルルーシュはC.Cとナナリーに言われ、一旦人物評価をリセットしてから観察を行った。
そして、純血派の騎士達は例外なく母に忠誠を誓っており、その遺児であるから忠誠を誓っている事をルルーシュは確認する事となった。
ジェレミアのように個人的に接点の多い者は、母でなく自分へ忠誠を抱くようになっているが、未だに母への忠誠のほうが大きい。
ヴィレッタは、ほぼナナリーに付いているせいか、母や自分でなくナナリーへ忠誠を持っていた。
コーネリアはルルーシュの言葉より、彼の純血派の評価を察して苦笑いをしつつ言う。
「そうか。なれば、機情のメンバーから選ぶのが良いのではないか?」
ルルーシュはコーネリアの言葉に機情メンバーを頭に浮かべる。
ダルクとアリスはナナリーが信頼しており、今更自分の騎士になるとは思えない。むしろ、既にナナリーの騎士といった状態だ。
ロロは再評価して観察したら、皇帝に絶対の忠誠を誓ってるようだ。将来的に皇帝と敵対する事になるから、ロロは論外になる。
ルクレティアとサンチアは腕は良いが、ポジション的にフルバックであり専任騎士としての適正が高いとは思えない。
「機情も微妙ですね」
ルルーシュの考えながら言った言葉にコーネリアも次の候補達が思い浮かばずに次に掛ける言葉を捜す。
しかし、コーネリアが候補者達を思い浮かべている途中でルルーシュから声が上がる。
「俺自身が信頼でき、そして俺個人に忠誠を誓ってくれる騎士に出会えるまでは、専任騎士はお預けですね」
ルルーシュの言葉は、コーネリアに取っても納得いく言葉であり反論する事が出来なかった。
「暫くは、スザクが俺の騎士もどきですね」
コーネリアは、ルルーシュがスザクを専任騎士もどきと言ったのを理解したが、ナンバーズなのにナイトメアに乗るスザクを騎士もどきと言ったのが、
笑いのつぼに入ったのか、堪えきれずに笑い出してしまった。
「くくく、枢木が騎士もどきか」
突然笑い出した姉に、ルルーシュは困惑しながらコーネリアの呟きに答える。
「ええ、スザクは現在はそんな立場ですからね」
ルルーシュの答えにコーネリアは笑いを堪えながら頷く。
「そうだな」
そしてルルーシュは話が終了したと判断して、コーネリアに退去を告げて部屋を退出していった。

初投稿(09/06/14)



[8411] 36話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/21 21:59
ディートハルトは副総督のことを思い出しながら、インタビューを行った映像の編集をする。
印象を一言で言えば、”面白い”である。
副総督就任の映像を確認し、自らがインタビューを行った映像を比べると明らかに印象が違った。
前はそこそこ興味が湧く程度であったが、今は違う。
この短期間に何があったのかは窺えないが、副総督はゼロにも匹敵するカオスがある。
大切なものを手に入れた幸福と、ソレに裏切られた絶望が交じり合う。
何かに絡みとられ身動きできずにいるが、それを打破しようとする執念。
面白い、退屈な素材であるブリタニア、そこから生まれたカオス。
ゼロの登場、そしてルルーシュ副総督の就任。
感じる、時代が動く流れを。ゼロ、ルルーシュ、このエリア11で新たな時代の幕開けを迎える。
ディートハルトは自分が興奮するのを抑える事が出来ずにいた。
そして、ディートハルトは純血派の提案を受けようと考える。
本当ならゼロの傍で彼の記録を残したいのだが意中の彼は事件以来、音沙汰が無いので彼と同等のカオスであるルルーシュの記録を撮ることにする。
「新たな時代の幕開け。その総てを私が記録する」
抑えられない興奮が、ディートハルトの口を自然に動かし言葉を発する。
発した言葉でディートハルトは自分の中の欲望が明確に形になるのを自覚した。

「う~ん」
シャーリーが生徒会室の椅子に座りながら唸っている。
その表情は眉を寄せており、考え込んでいる様子である。
そんなシャーリーをミレイは暫く見つめていたが、思い切って聞いてみることにした。
「ね、何を悩んでいるのかしら? ミレイさんに話してごらんなさい」
何気なく、冗談めかして軽い感じで語りかける。
ミレイは自分に相談しても良い悩みなら話すであろうし、そうでないなら軽い感じで聞かれたので話さないだろうと考えた。
そして、シャーリーはミレイに聞かれたのを切欠として、ミレイに相談をする。
「あのですね。ほら、リヴァルがルルの仕事を手伝う事になりましたよね」
シャーリーの言葉でミレイは彼女の悩みの検討がつく。シャーリーが話すであろう内容を考えて、ミレイはシャーリーに向かって曖昧に微笑みながら頷く。
シャーリーはミレイが頷くのを確認してから言葉を続ける。
「それでですね。やっぱり私もルルの手伝いとかをした方が良いのかなと考えちゃったんです」
予想通りの言葉にミレイは曖昧な微笑を維持しながらシャーリーに確認する。
「それって、ルルーシュの仕事を手伝いたいって事なのかな?」
ミレイの確認にシャーリーは頷く。
「はい。リヴァルやスザク君がルルの為にがんばってるのに、自分も何か手伝えないのかなって考えちゃって」
ミレイの確認にシャーリーは視線を合わせて真剣に答える。
その様子にミレイは曖昧な微笑を消して、溜息を吐いてから眉をひそめてシャーリーに語りかける。
「あのね、シャーリー。スザク君は軍の仕事で護衛しているの」
ミレイの言葉にシャーリーは黙って頷く。
「そして、リヴァルはルルーシュの腹心としての将来が決定してしまったのよ」
シャーリーはミレイの言葉に疑問を感じる。
不思議そうに首をかしげながら、シャーリーは感じた疑問を口にした。
「あれ? リヴァルってルルの手伝いをしてるだけじゃないんですか?」
シャーリーの言葉にミレイは、やはりという思いを抱き、彼女の疑問を解消する為に説明する。
「副総督の仕事をただの学生が手伝えるわけ無いでしょう。リヴァルはルルーシュの補佐官として手伝っているのよ。
 その為にリヴァルはバイトを辞めているんですもの。それに学校を卒業したら、そのままルルーシュについて補佐官になるのよ。
 将来はルルーシュの首席補佐官ね」
ミレイの説明はシャーリーにとって初耳の事であった。
そして、その説明はシャーリーに更なる疑問を抱かせる。
「え?! それって、リヴァルも承知している事なんですか?」
慌てながら聞くシャーリーとは対照的にミレイは落ち着いて答える。
「勿論承知してるわ。ルルーシュがリヴァルに説明してるわよ」
ミレイの態度に影響されてシャーリーも落ち着く。そんなシャーリーの様子を見詰めてミレイは更に説明を重ねる。
「私も学校を卒業したら、ルルーシュの仕事を補佐する事になるのよ。実際には、うちが出した人間の統括がお仕事になるんだけどね」
ミレイの言葉にシャーリーは取り戻した落ち着きを失ってしまう。
「え? あ? それじゃ、ルルの事を手伝ってないのって実際のところ私とカレンだけじゃないですか」
ミレイはそんなシャーリーを無言でジッと見詰め続ける。
そんなミレイの様子にシャーリーは若干ひるみながら口にする。
「な、なんです?」
ミレイは躊躇いがちに、しかし真剣な口調でシャーリーに聞く。
「ねえ、シャーリー。ルルーシュの事、好き?」
いきなり真剣な口調で問われた内容に、シャーリーは頬を染めながら答える。
「え、あ、その、えーと、す、好きです」
その答えを聞いて、ミレイは穏やかに微笑む。そして、ゆっくりとした口調で優しく語りかける。
「シャーリー。ルルーシュの事が好きなら、なおさら手伝おうと思っちゃダメよ。
 学園内なら、二人は学生同士で居られるけど。外に出たら、ルルーシュは皇族。決して届かない、そして壊せない壁が存在するのよ。
 あのリヴァルだって政庁でルルーシュを手伝っている時は、ルルーシュを殿下と呼びかけてるのよ」
ミレイのシャーリーに言い聞かせてるようで、自分自身に言い聞かせているような言葉にシャーリーは問う。
「それって、ミレイ会長もですか?」
その問いにミレイは優しく微笑んだまま頷く。
「ええ。私はルルーシュを殿下と呼び、ルルーシュは私をミレイと呼びかける。伯爵家令嬢と言っても、そこには厳然たる壁があるのよ。
 だからね、シャーリー。ルルーシュの事が好きなら、学生同士で居なさい。そうじゃないと、身分と言う壁が立ちはだかるわ」
シャーリーは自分に語りかけるミレイを見詰めながら、ブリタニアの階級社会を思い出す。
能力があれば這い上がれる。しかし壁は存在する、ナンバーズとブリタニア人の壁、平民と貴族の壁、そして決して越えられない皇族とそれ以外の壁。
一時的にその壁が失われる学生という身分。そこに留まるようにと諭すミレイにシャーリーは先ほどと違う疑問を感じて、躊躇いがちに再度問う。
「ミレイ会長。ルルーシュとナナちゃんが皇族に復帰したのを恨めしく思ってます?」
ミレイは微笑んだまま、首を横に振る。
「いいえ、恨めしくは思ってないわ。ルルーシュもナナちゃんも安全に、そして安心して暮らせるようになったもの」
シャーリーはその言葉にどこか寂しさを感じてしまい、一言頷く。
「そうですか」
そして二人の間にそのまま沈黙が降りて、結論の無いまま話は終了してしまった。

リヴァルは届けられる書類を確認しながら分別し、必要になるであろう資料を検索し纏めるいう作業を行う。
基本的なことは生徒会での運営を変わりなかったが、規模が大きく専門的なことが多いので戸惑う事が多い。
慣れてくると、ルルーシュの執務室に居るのは基本的にルルーシュ、C.C、リヴァルの三人でそこに時々スザクとルクレティアが加わる。
スザクは護衛としてもだが、この手の事務作業に慣れておりルルーシュの仕事を手伝う。
ルクレティアも護衛としているのだが、こちらは護衛というよりもルルーシュの秘書的な作業を行う事が多くなっている。
そのように作業をしながら、リヴァルは何となく思った疑問を口にする。
「枢機卿猊下って、一体何を手伝っているんです?」
リヴァルは執務室のソファーに寝転び、ピザが届いたらピザを食べて、働いている気配の無いC.Cをルルーシュの手伝いを行うようになって、ずっと見てきていた。
ともすれば不敬として受け取れる事をリヴァルは口にしたが、ルルーシュもC.Cも特に気にした様子も無く答える。
「C.Cには、俺の代理として、俺の予定がつかないときに動いてもらっている」
ルルーシュの言葉に頷きながら、C.Cはルルーシュの言葉の補足を行う。
「ルルーシュが居ないときは、私がルルーシュの替わりに対応する事が多いな。特に交渉事などは私が手伝う事が多いな」
そういいながらC.Cはソファーに寝そべったまま、手伝う気配も見せない。
「それにリヴァル。私のことはC.Cで良い」
C.Cから呼び掛け方のことを言われて、リヴァルは頭をかきながら苦笑して答える。
「いや、公の場所なんでちゃんとした呼び方をしないと、いけないんじゃないかと思いまして……」
特に気にしてなかったのか、C.Cは自分で言い出した事ながら、興味なさそうにリヴァルの言葉を流す。
「そうか」
いつも通りの対応にリヴァルは椅子に座った状態で肩を落とす。
そして、C.Cの相手はルルーシュの仕事だからな、と考え、気を取り直して作業を再開する。
暫くの間、ルルーシュとリヴァルの二人は政務の処理を行う。
そこに突然、C.Cが声を掛ける。
「そういえば、コーネリアが言っていたユーフェミアとナナリーに、このエリアを任せるという話はどうなったんだ?」
ルルーシュに聞くC.Cの言葉にリヴァルが口を挟む。
「なになに、このエリアをユフィとナナリーに譲るの? その時、ルルーシュはどうするのよ?」
リヴァルの明け透けな疑問とC.Cの問いにルルーシュは答える。
「姉上からの話でな。ここが衛星エリアになったら、ユフィを総督として、そしてナナリーを副総督として就任させるということでな。
 暫く先の話だが、そのときには俺は姉上に付いて行き新たなエリアで政務をつかさどる事になる。
 まあ、今と同じ体制を姉上は考えているそうだ」
ルルーシュの言葉にリヴァルは頷いて納得していた。
ルルーシュはリヴァルのことを視界の端で確認し、続けてC.Cに言う。
「俺はあまり賛成ではないがな。ナナリーの傍を離れるのはな。離れるとしたら補佐 兼 護衛としてスザクを置いていく事になるな」
ルルーシュの言葉にC.Cは現状でも皇帝にユーフェミアとナナリーの二人の身柄を押さえられていること、
傍を離れる事で更に二人を押さえられることを危惧してるのを感じた。
しかし、そういった事情を知らないリヴァルはルルーシュが妹離れ出来ない故にの言葉だと感じてしまう。
そして、リヴァルはルルーシュに対して軽い気持ちで言う。
「ん~、でも、いつかは二人とも総督になったりするんだろ? だったらさ、コーネリア様やルルーシュが傍にいる今のうちに政務に携わらせた方が良くない?」
リヴァルの何気ない言葉は、ルルーシュに考えさせられる内容であった。
「姉上や俺が傍に居てフォロー出来る間に、二人に政務に携わらせて慣れさせておくのか」
ルルーシュの呟きに、リヴァルは作業の手を止めてルルーシュに言う。
「そそ、いきなり総督になれとか言われても、実際困るでしょ」
ルルーシュも作業の手を止めて、リヴァルを見ながら口にする。
「確かに悪くないな。ふむ、姉上に上申してみるか。リヴァル、姉上に上申してくるから席を外すぞ」
その即断即決にリヴァルは苦笑して答える。
「Yes,Your Highness」

政庁の一室にコーネリアとルルーシュはユーフェミアとナナリーを呼び出していた。
エリア11の政務に携わる二人の呼び出しにユーフェミアとナナリーは疑問に思いつつも応じる。
そして呼び出された部屋でコーネリアから二人に告げられた内容は驚くべきものである。
「ユフィ、ナナリー。二人にはエリア11の政務に携わってもらおうと考えてる」
突然に告げられたコーネリアの言葉に二人は困惑してしまう。
「え、でも、お姉様。私達は皇帝陛下よりアッシュフォード学園で学ぶことを命じられているのでは?」
ユーフェミアがコーネリアに対して、自分達が皇帝より命じられたことに反するのではと確認をする。
それに対してコーネリアは総督室の椅子に腰掛けたまま、冷静に答える。
「二人には今まで通りにアッシュフォード学園に通い、その勉学に支障が出ない程度にこのエリアの政務に携わってもらう。
 私とルルーシュが傍に居るうちに二人には政務に慣れてもらいたいのだ」
その言葉にユーフェミアとナナリーは納得した。
ユーフェミアはコーネリアとルルーシュの二人に問う。
「そうなりますと、私達が関わりますお仕事は何なのでしょう?」
ユーフェミアの問いに、今度はルルーシュが答える。
「二人とも、政庁襲撃時にテロリストを取り押さえた日本人のことは覚えているだろう。その彼等が日本の伝統文化を保護して欲しい訴えたんだ。
 そこで政庁では、訴えた彼等に保護すべき伝統文化の調査と、その伝承のための作業を後援することにしたんだ。
 二人には、その伝統文化の調査と保護を行う彼等の監督と、保護すべき伝統文化の判断を行って欲しい。
 その補佐として、ダールトン将軍を就ける予定になっている」
その説明に、今度はナナリーが問う。
「お兄様、その伝統文化の保護はブリタニア人が行うのですか? それとも日本人が行うのですか?」
ナナリーの問いに、ルルーシュはユーフェミアとナナリーにそれぞれ視線を向けながら答えた。
「日本人、いや名誉ブリタニア人でないイレブンが担当する」
ナナリーは兄が日本人をイレブンと言い直した事で、どのような立場の人間が働くのかが理解できた。
それはユーフェミアも同様である。そこにルルーシュは更に説明を続ける。
「そして、政務を行うときには担当の人間の立場が立場だけに、要らぬ軋轢を排除するためにユフィの護衛をジノからスザクに変更する事になる。
 ナナリーについては、今までと同様にアーニャと機情のアリスとダルクがメインになる。また二人の警備隊長には、引き続きヴィレッタが担当する」
ルルーシュの説明を聞いて、ユーフェミアは頷き、ナナリーは「判りました」と答えた。
「ちなみに、その伝統文化を保護して欲しいと訴え、その人員として働くのはシンジュクゲットーで出会った扇と玉城の二人の仲間達になる」
そのルルーシュの言葉に、ユーフェミアは「まあ」と呟いて楽しそうに笑い、ナナリーは「あら」と呟く。
「二人とも初めてのことで慣れぬと思うが、全力を尽くすように。また何かがあったときは、私かルルーシュに直に連絡するように」
二人にコーネリアは厳しく言おうとするが、声に心配している心情が溢れてしまっていた。
そんな、コーネリアにユーフェミアは笑いながら答える。
「大丈夫ですわ、お姉様。ナナリーと一緒に、しかもスザク達も一緒に働いてくれるんですもの」
妹の楽観にコーネリアは苦笑しながら「そうか」と言った。

初投稿(09/06/18)
改訂・誤字修正(09/06/21)



[8411] 37話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/21 21:58
ゲットーの管理庁舎の一室で扇グループは自分達の新たな拠点を整備するためにそれぞれ動いていた。
「扇さん、こんなに真新しい部屋を貰えるなんて、すごいですよね」
エリア11内政省 自治委員会 エリア11文化保護部の立ち上げに手伝いに来ていたカレンは内心の感嘆を隠すことなく扇に伝える。
「ああ、そうだな」
扇は誇らしいやら、恥ずかしいやらの内心を照れくさそうに笑う事で表現していた。
そして、事後報告の形になってしまった新しい目標を話したときのカレンの様子を思い出す。

「日本の伝統文化の保護ですか?」
虚を突かれたのか、呆けた顔でカレンは扇に確認をする。
「ああ、テロによる抵抗活動は現状だとうまくいかないだろうと判断したんだ。まあ、俺達にそれだけの力が無いってのもあるけどな」
頷きながら言う扇の言葉を聞きカレンは暫くの間、沈黙して考える。
考え終わったのかカレンは扇を見詰めて話し出す。
「良い考えだと思います。今の状態でテロ活動を行っても意味がありませんからね」
カレンに対して事後報告の形で、話に加わらなかったことを含めて納得してくれたことに扇は安堵の溜息を吐く。
カレンは浮かんだ疑問を扇に向かって投げかける。
「でも、どうやって伝統文化の保護を行うんですか?」
カレンの問いは扇達が何度も話し合い、そして結論を出した事だったので直に答える。
「俺達がこの前の租界襲撃時に手柄を立てたのは話したよな。それで、日本の伝統文化を保護して欲しいって頼んだんだ」
前に聞いたアッシュフォード学園の事を思い出しながら、カレンは聞いていた。
「そういえば、ルルーシュが扇さん達のことを生徒会室で話してたわね」
何となくカレンが口にした言葉に南が反応する。
「ほお、どんな事を言っていたんだ?」
南の疑問は、扇グループ一同の疑問でもあったのが全員がカレンに注目する。その視線を受けてカレンは思い出しながら言う。
「たしか、学園で手柄を立てたし、日本人の懐柔にも丁度良いから扇さん達の意見を取り入れるとか言ってたような」
カレンの言葉を聞いて、玉城が歓声を上げる。
「おお、ヤッパリ判ってるじゃねぇか、あの皇子様はよ」
玉城の言葉に呼応して、扇メンバーがそれぞれに歓声を上げる。
「じゃあ、ブリタニアに保護するように頼んだってことですか?」
カレンは、扇グループが歓声を上げるのを聞きながら、扇に問う。
「正確には、俺達が保護するから援助して欲しいって頼んだんだけどな」
肩をすくめ笑いながら扇は答える。
そこにカレンは躊躇いがちに口を開いた。
「扇さん、私も何か手伝えないかな?」
カレンの言葉に扇は考える。そして口にした言葉は柔らかな否定だった。
「カレン。多分これからの活動は地道で気の長いものになる。カレンは学生だから俺達の活動に参加できるわけなじゃい。
 それに手伝うって言うのなら、学校を卒業してから俺達の上司になってくれよ。俺達はイレブンだけど、カレンはブリタニア人だからな」
微笑みながら言う扇の言葉に頷き、カレンは答える。
「判りました。学校を卒業して扇さん達の活動を手伝えるようにします。でも、休日や放課後に手伝いに来るくらいは問題ないでしょう」
カレンの答えに、扇は笑いながら受け入れる。
「勿論だとも」

こうして手伝いに来ているカレンは他のみんなと荷物を運んだり送られてきた荷物を開封したりしている。
そんな様子を眺めながら、用意されたばかりの机で扇は早速活動するための書類を書き始める。
皆の声をBGMに書類を纏めていると、カレンから意外な言葉が口にされた。
「そういえば、ナナリーとユフィが後で来るって言っていたから、そろそろ来るんじゃないかしら」
その言葉に最も驚いたのが扇であった。
「カレン! それは本当か?」
扇の問いにカレンはあっさりと同意する。
「ええ、生徒会室を出るときにナナリーに後で行きますって、言われたし」
扇の確認にカレンが答え、扇は目に見えて慌て始めた。
「ああ、お茶の用意を、いや、先に応接する場所を準備しないと、いやいや、その前に部屋を片付けなくては」
慌て始め椅子から腰を浮かして動こうとする扇に、玉城が不審そうに聞く。
「なにをそんなに慌ててるんだよ。お姫様達が来るのも好奇心だろ。落ち着けよ」
玉城の言葉に南も溜息を吐きながら続けて言う。
「そうだ。落ち着くんだ、扇。部屋が散らかっている事は向こうも承知しているはずだから、取り敢えずは落ち着け」
二人の言葉に落ち着きを取り戻し、椅子に腰を降ろした扇は二人に感謝する。
「すまない。いきなりの事で、慌ててしまった」
そんな扇に南は腕を組みながら落ち着いて言う。
「直接の上司が来るくらいで慌てるなよ」
南の言葉に今度は玉城が驚き、南に詰め寄りながら詰問する。
「なんだよ、俺達の上司って自治委員会のお偉いさんじゃないのかよ」
そんな玉城に、南は落ち着いて周りに居るメンバーにも聞こえるように言う。
「違う。俺達はルルーシュ副総督の監督の下に、ユーフェミア皇女殿下とナナリー皇女殿下の直属の部下として動く事になっている」
それを聞いたメンバーは南に注目していた視線を扇に移した。
扇はメンバーの視線が自分に集中するのを感じて、説明を行う。
「後でみんなに伝える予定だったが、俺達の直接の上司はユーフェミア皇女殿下とナナリー皇女殿下になる。
 ルルーシュ副総督から聞いた理由は、二人の直属になることでこの日本でのコーネリア総督とルルーシュ副総督の派閥の人間に対して、
 融通が利くようになるからだ。
 また、直属にする事によって予算の融通や、ブリタニア貴族からの横槍が入らなくするためだそうだ」
扇の説明に補足するように、カレンが口を挟んだ。
「そういえばルルーシュが、二人がこのエリア11の総督、副総督になるための練習だって言ってたわよ」
カレンの言葉に、玉城が感心したように口にする。
「へぇ、じゃあ、将来はあの二人がトップになるわけかぁ」
玉城に続いて吉田も口を挟む。
「その二人なら穏健派のようだし、俺達の活動をずっと支援してくれそうだな」
そんな風にそれぞれが好きに感想を述べていると、ドアがノックされる音に気付く。
その音に気付きメンバー達は、一斉にお喋りをやめてドアに注目する。
扇が代表してドアを開けると、そこにはスザクがドアの前に立っていた。後ろにはユーフェミアとナナリー、そして二人の護衛達が佇んでいた。

来訪者達を招きいれて、扇達はお茶を入れて振舞う。
「あら。変わったカップにお茶ですわね」
ユーフェミアの言葉にスザクが説明する。
「湯呑みと緑茶だね。日本のお茶とカップだよ」
スザクの説明を聞いて、ユーフェミアは嬉しそうに言う。
「まあ、では、日本文化の一部なのですわね」
そんなユーフェミアの様子をスザクは嬉しそうに見詰めていた。
二人の様子を見ていたカレンがこっそりとアリスに近づいて語りかける。
「ねえ、どうしてユフィの護衛がスザクなの? ジノじゃないの? それに何であんなに甘い雰囲気なのよ」
カレンに聞かれて、アリスはキョトンとしてから声を小さくして答える。
「ああ、カレンさんは生徒会室にあまり居ませんでしたね。あの二人は大体、あんな雰囲気ですよ。
 なんといっても、あのルルーシュさんまで空気を読んで気を使うくらいですから。
 まあ、その空気を読んだ結果、ユーフェミア様の護衛がスザクさんに変更になったんですよ」
アリスの言葉に驚きながら、カレンは言う。
「あのルルーシュ君が。なんというか、すごいわね」
そこに今度はナナリーが会話に加わる。
「ユフィ姉様は昔はお兄様の事が好きだったんですけど、スザクさんに出会ってからスザクさんに惹かれたみたいですね」
ナナリーの言葉にカレンとアリスが驚きながら聞く。
「あれ? 二人って兄妹よね?」
アリスの言葉にカレンも続く。
「兄妹でそれって拙くないの?」
そんな二人の言葉にナナリーは微笑みながら答える。
「皇族は母が違うと、住む宮が違うので兄弟というより近所の子という感覚。そうですね、むしろ幼馴染に近い感覚なんですよ」
ナナリーの説明にカレンとアリスの二人が納得したところで、玉城が口を挟んできた。
「なあ、あの二人って付き合っているのか?」
そう言った玉城はスザクとユーフェミアの二人を顎で指す。
ナナリーは会話の流れからして、スザクとユーフェミアのことであると確信して玉城の問いに答える。
「いいえ、お二人はお付き合いはなさってませんよ。その言いにくい事なのですが、スザクさんは日本人でユフィ姉様は皇族ですので……」
ナナリーの言葉に玉城は、頭を掻きながら頷く。
「あ~、そういや、そうだったな。あの二人を見てると、そんな事を忘れちまうんだよな」
玉城の言葉に、ナナリーは微笑みながら言う。
「そうですね。スザクさんとユフィ姉様が笑っていられる優しい世界になると良いですね」
ナナリーの言葉にカレンもまた微笑みながら同意する。
「そうね」
カレンはハーフである自分と日本人であるスザク、皇族のユーフェミアがそれぞれ笑っていられるナナリーの言う優しい世界を想った。

片瀬は草壁より提案された内容を纏めた書類を眺めながら検討していた。
草壁の提案は、サクラダイト生産国会議に合わせて、会議の行われるコンベンションセンターホテルを占拠して、
キョウトと日本人達に日本解放の悲願の意思を伝えるというものである。
2面作戦が失敗してから戦力は半減し、また藤堂も連絡が無く行方不明の状態であった。
キョウトからの支援も思うように受けられずにおり。また日本人はブリタニアの政策により牙を抜かれて家畜化されている。
そう片瀬は考えて、草壁の提案を見ると確かに理にかなってるように思えた。
虎の子であった紅蓮と雷光が先ほどの作戦でブリタニアに捕獲されたが、雷光はまだ何機か残っていたはずである。
玉砕覚悟であるが日本人の魂を世界に見せ付ける事により、日本人達の覚悟を呼び起こし日本解放の礎となるのも悪い考えではない。
そして、片瀬は決断し草壁を呼び出すために部下を呼びつけることにした。

ジェレミアとキューエル、ヴィレッタの純血派と、ギルフォード、ダールトンの二人を交えてユーフェミアとナナリーの二人を護衛する部隊の人選を行っていた。
「やはり、コーネリア様が士官学校の成績優秀者を侍女として引き抜いた者達を中心に編成するのが良いようだな」
ダールトンの言葉にそれぞれ頷き、同意する。
そこでヴィレッタが恐る恐る意見を述べる。
「ルルーシュ様直属の機密情報局のメンバーを加える事は出来ないのでしょうか? ナナリー様が機情のメンバーを格別に信頼しておいでのようなので、
 私としては護衛部隊に加わって欲しいのですが」
ヴィレッタの言葉に、ギルフォードが首を横に振り拒絶する。
「私どもも、同じように考えルルーシュ様にお願いしたのですが、機情のメンバーは正規の軍事教練を受けていないので護衛部隊に加えても
 混乱するだろうと断られてしまいました。機情のメンバーは見えない形での護衛として運用していきたいとルルーシュ様に言われまして……」
ギルフォードの言葉にヴィレッタは恐縮して答える。
「そうでしたか、差し出がましい口を利いて申し訳ありません」
ヴィレッタの言葉にギルフォードは微笑みながら言う。
「ヴィレッタ卿の意見は妥当なものですので、非を感じる必要はありません」
そこで一旦、一区切りを入れるためにダールトンが口を挟む。
「ここらで一旦、一休みを入れませんか? 長く作業を続けても効率が下がるだけですからな」
タールトンの言葉を受け、それぞれ一休みを入れるために作業の手を止める。
ヴィレッタが人数分の軽食と飲み物を注文し、それが来るまでの間に軽く雑談が始まる。
「ギルフォード卿、ルルーシュ様の親衛隊を結成するに当たって、何か注意点のようなものはありませんか?」
ジェレミアはコーネリア親衛隊の親衛隊長たるギルフォードに親衛隊を結成するに当たっての注意点を聞いた。
その問いに、ギルフォードは困惑してしまう。
コーネリアとルルーシュではどちらも行動や、このエリア11における立場が違うので注意点をあげても役に立つのかが不明であるからである。
しかし、ジェレミアの言葉を無下に出来るほどギルフォードは薄情ではなかった。
「そうですね。姫様とルルーシュ様では同じ親衛隊といっても、その意味合いが違いますので参考になるかは判りませんが、
 私の経験からいきますと、主の決めた事に最後まで付いていくことと、主を貶める行動を行わないことですね」
ギルフォードの言葉に、ジェレミアは感心しながら頷く。
「なるほど。やはり皇族の方の傍で仕えるには、比類なき忠誠が問われるという事ですね」
ジェレミアの言葉にキューエルもまた頷く。
そんな二人に、ダールトンが声を掛ける。
「内々の話なのだが、この前の租界襲撃とカワグチ湖襲撃で捕縛したテロリストから日本解放戦線の本拠地がナリタ連山であることが確定したのだ」
その言葉にジェレミアが反応する。
「なんと、ルルーシュ殿下の整備した町並みを破壊した不届き者の本拠地が確定したのですか」
ジェレミアの言葉に頷きつつ、ダールトンは言葉を続ける。
「うむ。それでそのナリタ連山を攻略し、日本解放戦線を殲滅することになるのだが。
 ルルーシュ様の親衛隊の初陣が多分そこになるだろうな。サクラダイト生産国会議の前に、このエリアの主要なテロ組織を潰しておきたいからな」
ダールトンの言葉を、純血派の一同は気を引き締めて聞いている。
「未だに、確定してはいないがそちらにも話がいくと思うので、親衛隊としての編成を早めに終わらせておいて欲しい」
その言葉を聞き、ジェレミアが代表して答える。
「了解しました。全力で編成を行い、いつでも出撃できるように準備しておきます」

初投稿(09/06/21)



[8411] 38話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:7746f93c
Date: 2009/06/25 22:17
藤堂と四聖剣の一同は扇から臨時で良いから仕事を手伝って欲しいと言われて、エリア11文化保護部で扇たちの仕事を手伝う事にした。
理由としては、藤堂自身が怪我が癒えてきた現状で養われる事に不満を覚えており、椅子に座ったままで書類仕事を行える仕事であった事と、
扇たち扇グループが組織としての書類仕事や連絡等の要領を全然知らずに居た事で、日本軍そして日本解放戦線と系統だった組織に所属していた
藤堂達に組織としてのイロハの教えを乞うてきたからである。
「扇君、なにやら交際費がやけに多いのだが何故なのだ?」
扇は藤堂に交際費が多い事を問われて、自分でもチェックする。
藤堂の指摘の通りに経費の中で交際費がやけに多い事に気付き、受け取ってある領収書を調べる。
「とう……、千葉さん。玉城からの交際費の領収書が多いです。玉城に問い質しますか?」
扇の言葉に藤堂は、顎に手を当てて暫く考える。
そして、扇グループが組織としての規律に緩い事を考えて、扇にリーダーとして〆る所は〆ることを覚えてもらうために扇の言葉に同意して、
問い質すことにする。
「そうだな。玉城君に事の詳細を聞くとしよう」
藤堂の同意の言葉を聞いて、手伝いに来ていたカレンが休憩室に居るであろう玉城に向けて内線で連絡する。
「もしもし、あ、玉城? 扇さんと、と…千葉さんが呼んでるから部屋に戻ってきて」
カレンの言葉を聞きながら藤堂は苦笑いをする。
「やはり、どうしても前の名前が出そうになるな」
藤堂の言葉を受けて、扇もまた苦笑いしながら返す。
「ええ。やはり日本人にとって千葉さんの名前は大きいからですね」
扇の言葉に自分が受けている日本人達の期待を思い出す。
しかし、藤堂はこの7年間、常に受けてきた重圧を一時でも忘れさせてくれるこの新宿での生活を思った以上に楽しんでいた。
怪我が癒えて日本解放戦線に合流しても抵抗活動は先細りになっていくことを藤堂は理解していた。
しかし藤堂は、自分には日本の期待を背負い戦い続ける義務と責任があると考えている。
そして、そのような死地しか無い戦いに四聖剣を連れて行くことに抵抗を感じ、
怪我が癒えた時にここに残るか自分に付いて行くかを選択してもらうつもりである。
「いきなりの呼び出しだが、何のようだ?」
部屋に入ってきた玉城は、真っ先に扇に問い質す。
良く共に玉城と行動している朝比奈も部屋に入り藤堂に向かって無言で頭を下げる。
扇はそんな二人を見詰めてから玉城に問う。
「玉城。お前からの領収書なんだが、やけに交際費が多いんだが、どうしてだ?」
その言葉を聞いて、玉城は少し考えてから頷く。それと同時に、朝比奈も納得したかのように手を打つ。
その朝比奈の様子に、自分の部下も関わっている事に気付き、藤堂は朝比奈を問い質す。
「朝比奈。お前も関わっているのか?」
藤堂に聞かれて、朝比奈は直に答える。
「はい、関わってますし、その理由も知っています」
朝比奈の答えを聞いた藤堂は頷き、扇に視線を移す。
その視線を受けた扇は改めて玉城に問う。
「それで、交際費が多くなった理由を教えてくれ」
扇の問いを受けて玉城は答える。
「扇や千葉の旦那は新宿から離れないから判らないが、地方のゲットーでは再整備されているとはいえ、未だに医薬品とかが不足しがちなんだ。
 それでゲットーに住む伝統技能の技能保持者ってのは、なんだかんだで年寄りが多いんだよ。
 それでな、交際費って事で支援が受けられるまでの間、医薬品とかを融通してるんだ。
 それに年寄りだからよ、住み慣れた土地を離れたくなってのもあるから新宿に来いって言っても聞かねえし」
頭を掻きながら答える玉城の言葉に扇は納得する。そこに朝比奈の補足も入る。
「それだけじゃないよ。伝統芸能も技能だからね。
 7年の間に錆付いた技能を取り戻してもらうために、再び作業を行うための道具を揃えたり、施設を修理したりしないとダメだからね。
 勿論、その間に食べていけるようにしないといけないからね」
二人の言葉に扇は、自分が思った以上に現場では苦労が多い事に気付く。
そして、対策する為にみんなを集めようかと考えていると藤堂から二人に声が掛けられる。
「二人とも、独自の判断で問題を処理したのは良い事だ。しかしだ、その件を報告しないのは問題だ。
 確かに今は二人が行った処理で解決するかもしれない。だが、規模が大きくなり沢山の人間が同じような問題に当たったときに、
 適切でない行動を取るかもしれない。そういった事が起こらない様に今後は、ちゃんと報告して欲しい」
藤堂の言葉を受けて、玉城と朝比奈は頭を下げる。
「扇、千葉の旦那。すまねぇ」
「二人とも、すみませんでした」
二人の反省を受けて、藤堂は扇に目を向ける。
「扇君。組織は報告によって問題点などを洗い出して、その問題点と解決法を共有する事によって個人でできない事を行うものだ。
 それは、君達や軍であっても違いは無い。だからだ、扇君。君は部下を信頼するだけでなく、部下の報告に疑問を持ち問い質す事も必要なのだよ」
扇は自分に向けられた藤堂からの言葉に頷きながら答える。
「はい、判りました。千葉さん、ありがとうございます」
扇は藤堂に向けて頭を下げる。
藤堂はそんな扇を見詰めながら、突出したモノやリーダーシップはないが周りの意見を纏めたり、必要な情報を周りに上手く伝える能力を見て、
強力なリーダーが居れば良い調整役や補佐役として活動したかもしれないと考える。
下げた頭を戻した扇は玉城の言った問題を解決するためにメンバーからの意見を聞こうと思い、
カレンに他のメンバーを呼び出してもらおうと声を掛けようとする。
丁度その時に、カレンの携帯のベルが鳴った。
カレンがディスプレイを覗き込むとナナリーの名が浮かんでいた。
「ナナリーからよ」
カレンが一言呟くと、扇達は一斉に口を噤んだ。
「もしもし?」
カレンが携帯に出て対応してる間、皆がカレンに注目する。
カレンが携帯を切ると同時に、藤堂と朝比奈を見詰めて言う。
「ナナリーが近くまで来ているから、ついでにここに顔を出したいそうよ。ちなみにこの建物の入り口に居るそうよ」
カレンは言いながら、ナナリーの悪意の無い行動について愚痴を吐きたくなる。
カレンの言葉を受けて、朝比奈は藤堂を見る。しかし藤堂は落ち着いて言う。
「この建物の入り口に居るなら、今更、逃げるというわけにはいかないか。紅月君、ナナリー君と共にいるのは誰だ?」
藤堂の問いを受けて、ナナリーから聞いた人数と人員を思い出す。
「ナナリーと、ラウンズじゃない同級生の護衛と、御付の名誉ブリタニア人のメイドだそうです」
その言葉を受けて、藤堂は言う。
「腹を括ろう。もしばれたとしても扇君たちは知らずに私を雇った事にすれば良い」
その藤堂の言葉に、扇は即座に否定する。
「そんな。気付かない可能性が高いです、もし気付かれても説明すれば何とかなりますよ」
扇は藤堂を見捨てられないことと、自分達の活動が終わってしまう事による葛藤に揺れてしまう。
そんな緊張を部屋が支配したときに、ドアからノックの音が聞こえた。
コンコン……
ノックの音を聞いて腹を括ったのか、扇は小さく呟く。
「見捨てません。また一からやり直せば良いんです」
その呟きを聞いた玉城とカレンは嬉しそうに頷く。そして藤堂と朝比奈は一瞬、驚いた顔をしたが直に苦笑してしまう。
そして玉城は扇を見てから、ドアに向かう。
「よう、いらっしゃい。姫様」
玉城はドアを開け、そこに居るナナリーに向かって声を掛ける。
「こんにちは。玉城さん」
ナナリーは玉城に向かって挨拶をする。ナナリーの挨拶が終わると同時に一緒に居たアリスが玉城に向かって文句を言う。
「ちょっと、相変わらずナナリーに馴れ馴れしいわね。もっと丁寧に挨拶しなさいよ」
玉城は何時もの事と受け流しながら、三人を部屋に招き入れる。
ナナリーは部屋に入ってから再度、今度は部屋に居る全員に向かって挨拶する。
「皆さん、こんにちは」
ナナリーの挨拶を受けて、部屋に居る全員が挨拶を返す。ナナリーはその時に聞き覚えのある声と、聞き覚えの無い声があることに気付く。
しかし、その事をおくびに出さずに咲世子の紹介を始める。
「皆さんは初めて会いますよね。こちら篠崎 咲世子さん。私とお兄様のお世話をして下さっている方です」
ナナリーの紹介を受けて、咲世子はスカートを摘んで頭を下げ挨拶を行う。
「初めまして。ナナリー様とルルーシュ様にお仕えさせて頂いている、篠崎 咲世子と申します」
咲世子の紹介が終わり、アリスが藤堂と朝比奈を見詰めて紹介を促す。
「初めまして。朝比奈 省悟です」
朝比奈が先に自己紹介し、次に藤堂の番になる。
「千葉 鏡志朗と言います。よろしく」
藤堂の自己紹介を聞いて、ナナリーが藤堂のほうに顔を向けて小さく「あら」と呟く。
その呟きが聞こえたアリス、咲世子、そして玉城はナナリーを見詰める。
玉城は藤堂をフォローするように言う。
「千葉の旦那はこの前、夫婦で新宿に来たんだよ。な、朝比奈」
朝比奈も玉城の言葉を聞き、共に言う。
「そうだね。僕も千葉さん夫婦と一緒に新宿に来たんだ」
玉城と朝比奈の言葉を聞きながらも、ナナリーは藤堂に顔を向けたままであった。
ナナリーが藤堂に顔を向けている暫くの間、部屋の空気が重くなっていく。
そして、ようやくナナリーが口を開く。
「そうですか。お二人とも”初めまして”、ナナリー・ヴィ・ブリタニアと申します」
ナナリーの言葉を聞いて、部屋の重かった空気は一掃される。
部屋に居た藤堂を除いた、扇グループと朝比奈は密かに肩の力を抜いた。
カレンは肩の力が抜けたまま、ナナリーに聞く。
「いきなり来るなんて、どうしたの?」
カレンの問いに、ナナリーはカレンの声がしたほうに顔を向けて言う。
「はい。皆さんが普段どういったお仕事をしてるか知りたくなって、アリスちゃんと咲世子さんに我が儘を言って連れてきて貰ったんです」
カレンはナナリーの答えに対して、少し呆れながら言う。
「それなら、もっと早く私に連絡してくれれば迎えにいけたのに……」
カレンはそう言いながら、早めに連絡さえあれば藤堂達を隠す事が出来たと考えていた。
そんなカレンにナナリーは落ち着いて言う。
「カレンさんがお手伝いしてるのを邪魔したくなかったんです」
カレンはナナリーの言葉に自分勝手なことを考えてると思い、慌てて口にする。
「そんなの気にしないで良いのよ。ほら、私はお手伝いだからナナリーを迎えに行くくらいは大丈夫だし」
慌てて言うカレンにナナリーは微笑みながら感謝を述べる。
「ありがとうございます。カレンさん」
「ううん、いいのよ。そんな事」
首を横に振りながらカレンはナナリーに言った。
カレンとナナリーの話に一段落ついたと思い、玉城はナナリーに向かって言う。
「なあ、俺達の仕事で伝統文化の技能保持者の生活を直に手助けできるように出来ないか?
 ほら、副総督のおかげで日本人の生活は楽なってるけどさ、地方だとまだまだ手が行き届いてない事が多いんだ」
玉城の言葉に、ナナリーは暫く考えてから、玉城と扇に向かって答える。
「判りました。生活支援の予算のことはユフィ姉様に話して準備できるようにします。また地方の生活改善についてはお兄様に報告しておきますね。
 お兄様に報告するための資料として、地方ゲットーの生活環境についての報告をお願いしますね」
ナナリーの答えを聞いて、玉城は歓声を上げながら感謝する。
「うっしゃ。持つべきものは話の判る上司ってな。ありがとよ、姫様」
そう言いながら、玉城は笑った。

片瀬と草壁はブリタニア軍に攻められているナリタ連山の指令室で会話をしていた。
「片瀬少将。既にここが落ちるのは時間の問題です。兵力を集中して一転突破で脱出しましょう」
片瀬は草壁の進言を受けて頷く。
「判った。草壁中佐、兵の指揮を頼む」
草壁は片瀬より指揮を任されて、敬礼して答える。
「承知しました」

ジェレミアは向かってくる無頼を落としながら、自らが指揮する親衛隊に通信を入れる。
「あまり派手に働きすぎるなよ。今回の作戦はコーネリア総督の軍がメインで行っているのだ。
 我々は指示があったときのみ動けば良い、ソレまではルルーシュ様の居るG1ベースを死守するのだ」
ジェレミアの言葉は、編成されたばかりのルルーシュ親衛隊の武勲を得ようと逸る騎士達を落ち着かせるものがあった。
「Yes, My Lord」
部下達の答えを聞き、ナイトメア内で満足そうにジェレミアは頷く。
今回のナリタ攻略戦はコーネリア軍が主体となって行う事になっている。
ルルーシュも参加しているが、これはルルーシュの親衛隊が参加するための口実の為に居るのであった。
その為に親衛隊の指揮はジェレミアに一任されており、正にルルーシュを守る盾としての行動を行っている。
また、ランスロットも今回の作戦に参加しているが、親衛隊とは逆に単騎で遊撃兵として苦戦しているポイントを転戦していた。
断続的に本陣たるG1ベースに向かって敵が襲ってくるが、ジェレミアたち親衛隊は危なげなく敵を殲滅していく。
「ジェレミア卿、敵が本陣の反対側の戦力が薄い部分に集まっていると連絡が入りましたが、如何なさいましょう?」
ヴィレッタの連絡に、ジェレミアは問う。
「ルルーシュ様より指示はあったのか?」
ジェレミアの問いに、ヴィレッタは即答する。
「いえ、特にはありません」
「そうか。ならば、このままG1ベースの防衛を引き続き行う」
ヴィレッタはジェレミアの指示を聞いて答える。
「Yes, My Lord」

「姫様、敵戦力が集中しています。我が軍の薄いところを一点突破して脱出を図るつもりでしょう。如何なさります?」
ギルフォードの通信を受けて、コーネリアは問い質す。
「ふむ。そのポイントに素早く到着できる部隊は?」
コーネリアの問いに、ギルフォードはG1ベースより送られたデータを見ながら言う。
「特派のランスロットと、ダールトン将軍の部隊ですね」
ギルフォードの答えを聞いて、コーネリアは呟く。
「枢木か……」
呟いてから、しばし考えてギルフォードに言う。
「まあ、良い。ルルーシュは枢木に手柄を立ててもらいたいようだからな。
 ギルフォード、枢木とダールトンにそのポイントに集まっている敵を殲滅せよと連絡しろ」
ギルフォードはコーネリアの言葉を受けて答える。
「Yes,Your Highness」

スザクとダールトンはギルフォードよりコーネリアの指示を聞いて、日本解放戦線の戦力が集中しているポイントに移動して交戦する。
これにより、そのポイントに集まっていた戦力は壊滅し日本解放戦線の本陣も落とし、ナリタ攻略戦は終了する。
幾人かの主要メンバーを逃してしまうが、敵本陣より破棄し切れなかったデータを得る事により日本解放戦線の他のアジトや、
共闘しているテロリスト達の情報を得て、ブリタニア軍としては大戦果と言ってよい状態であった。

そして、その晩に日本解放戦線の壊滅がニュースとして流れた。

初投稿(09/06/25)



[8411] 39話
Name: ツチノコ酒◆6da3d43a ID:de1bedac
Date: 2009/12/25 20:59
集中した戦力を囮にしてナリタを脱出できた片瀬と草壁は今後の事について協議していた。
「では、片瀬少将は流体サクラダイトを逃亡資金として国外脱出を行ってもらい、国外に居る反ブリタニアの抵抗勢力と合流していただきます」
草壁の言葉に片瀬は頷く。
「そして、私と解放戦線の一部の者は日本に残り、抵抗活動を続けます」
続けられた草壁の言葉に片瀬は、申し訳なさそうに言う。
「すまんな、草壁。藤堂が居たのなら、お主にだけに負担を負わすような事にはならなかったものを」
片瀬の言葉を聞き、草壁は首を横に振りながら答える。
「いえ、仕方がありません。川口湖では殆どの者が捕まるか戦死したのです。
 その中で藤堂中佐が戦死した、または捕まったという報告もないのはブリタニアの手を逃れたが、戦場で怪我をして我等と合流できずにいると言う事でしょう。
 ですので、我等が残り活動していれば、そのうち藤堂より連絡があるでしょう」
草壁の言葉に片瀬は草壁を見詰めて言う。
「うむ、日本解放の悲願を頼むぞ」
「承知」

四聖剣一同は藤堂と千葉に宛がわれた住居に集合していた。
ニュースによって日本解放戦線が壊滅した事を知った一同は、誰が言うわけでもなく藤堂の下に集合したのである。
「藤堂さん、ニュースでは日本解放戦線は一部の幹部と構成員以外は殆ど捕縛されたと言ってました。
 それを含めて、どうしましょうか?」
朝比奈の問いに藤堂は、目を瞑り黙考する。
四聖剣は藤堂の言葉を待つ。しばらくの間、そうしてると藤堂が目を開き語りだす。
「実は私は怪我が癒えたら、お前達にここに残るか、私に付いてくるかを聞こうと考えていた」
四聖剣は藤堂の言葉を聞き、少しも動じずに次の言葉を待つ。
「それでだ。今、ここで問おう。私は傷が癒えたら抵抗活動を行う、それは残った解放戦線と合流するかもしれないし、一からの活動になるかもしれない。
 先行きが何も決まっていない、だが私はこの活動を続けていこうと思っている。お前達がどうするかは良く考えて決めて欲しい、以上だ」
藤堂の言葉に四聖剣は互いに顔を見合わせる。そして一同を代表するように、卜部が藤堂に向かって言う。
「藤堂中佐。我等四聖剣は藤堂中佐と共にあるのです。藤堂中佐が進むと決めた道なら、例えどのような難関辛苦が待ち構えていようとも共に歩みます」
卜部の言葉に藤堂は頷き、そして一同に頭を下げる。
「すまない。これからもよろしく頼む」
頭を下げた藤堂に四聖剣が声を掛けようとした瞬間に、部屋の呼び鈴が鳴る。
その音に、一同は一斉に千葉を見詰める。一同から見詰められた千葉は全員に向かって一つ頷き玄関に向かう。
千葉が玄関に向かい話し声が聞こえてきた後に、千葉が扇と玉城を連れて部屋に戻ってきた。
訪ねてきたのが扇と玉城であったために、部屋に残っていた者達は安堵する。
そして、藤堂が代表して二人に問う。
「このような夜更けに訪ねてくるとは、火急の用でもあるのかな?」
藤堂の問いに扇が答える。
「はい。実は先ほど、私と玉城にナナリー皇女殿下より連絡がありまして。
 先ほど流れた日本解放戦線の壊滅のニュースですが、首謀者の片瀬と幹部の草薙が未だに捕まっていないので注意して欲しいと言われました。
 また、その事を周りに人達に伝えて欲しいと頼まれました」
扇が伝えたナナリーのメッセージは、藤堂たちへのこれからについての確認のように一同には聞こえる。
空気の重くなった藤堂一行に玉城が声をかける。
「なあ、日本解放戦線が壊滅したのは残念だと思うがよ。でもよ、旦那たちには俺達が居るぜ。
 困ったことがあったら何でも言ってくれよ。ほら、俺達は仲間だからさ」
そう言って、照れくさそうに笑う玉城を見て藤堂は、彼らと共に日本解放・打倒ブリタニアの名の下に闘う未来があったのかもしれない、と考えた。
しかし、その口から出された言葉は藤堂達が決めた決意を伝えるものだった。
「ありがとう、玉城君。しかし、私達は傷がいえたら日本解放のために戦うことを決めてるのだ」
扇はその言葉を聞き、息を呑む。
扇は藤堂一行はこれからも自分達と共に新宿で働いてくれると無意識ながら考えていた。
それは扇は自分で意識せずに藤堂に依存していることの証明であった。
玉城もまた、自分と行動を共にすることの多い朝比奈を呆然と見詰てしまう。
その視線を受けて、朝比奈は困ったように曖昧に微笑むことしか出来なかった。
「え、藤堂の旦那、嘘だろ? これからも俺達と一緒に日本を守っていくんだろ?」
扇は玉城の問いかける声を目を見開き、呆然と聞く。
「なあ、日本は将来はあの姫さん達が預かるんだぜ。わざわざ危険なことをしなくても、姫さん達なら日本と日本人達を守ってくれるはずだぜ。
 それにあのルルーシュって皇子が皇帝になれば日本を返してくれるかもしれないじゃないか。なんていったって、あの枢木スザクを親友にしてるんだからよ」
藤堂は玉城の言葉を聞きながら、二人を真っ直ぐに見詰る。
玉城はその視線を受け、言葉に詰まり俯く。そして扇はその視線をただ受け止めることしか出来ない。
「扇君、玉城君。君達の活動はこれから続いていく日本開放の為には必要なことだと思う。
 しかしだ、私に期待を寄せる日本人、そして日本開放の悲願背負って散っていった者達のために、私は戦い続けなければいけないのだ。
 ”奇跡の藤堂”とういう名に希望を持つ者たちのために」
その藤堂の言葉は、扇や玉城にとっても藤堂の心情が理解出来る言葉であった。
かつて、抵抗活動をしていたころの二人であったなら、その言葉に感動して、その心情を共有し感動したであろう。
しかし扇グループは既に血を流さない方法での抵抗活動である、日本文化の保護を行っているのである。
かつて、自分達が原因で引き起こした新宿事変での、新宿住民の虐殺のこともあいまって扇はレジスタンス活動に忌避感を持ってしまっていた。
藤堂のこれからの行動を止める事が出来ないのは、扇も判っており、その為に彼の口から出た言葉は次のものであった。
「判りました。ですが、今しばらくは新宿に居たほうがいいでしょう。
 現状ですと解放戦線の人達と合流するにしても、どこに居るかわからないでしょうから、ここで情報を集めたほうがいいと思います」
その扇の言葉に、藤堂は頭を下げ、扇に言った。
「すまない。そして、ありがとう」

エリア11最大の抵抗組織”日本解放戦線”を壊滅させ、主だった抵抗組織が消えた状態での今後をコーネリアとルルーシュは政庁で語り合っていた。
「今回の作戦によって、エリア11内の抵抗運動はほぼ消えたも同然だろうな」
執務室にルルーシュを呼び出したコーネリアは現状の確認を行うようにルルーシュに語りかけた。
コーネリアの言葉を受けて、ルルーシュもまたエリア11のこれからを考えるために、現状の確認をするために状況を口にする。
「姉上の言うとおりに、エリア11の抵抗活動はこれを契機に、一気に下火になるでしょう。
 テロが行われるとしても、散発的な小規模なものと予測されます」
ルルーシュの言葉に頷きながら、コーネリアはルルーシュに続きを話すように目で促した。
その視線を受け、ルルーシュは一つ頷きながら再び口を開き、語り始める。
「これからはエリア11内での、大規模な軍事行動は逃走した日本解放戦線の捕縛以外は必要無いしょう。
 その後の軍事活動としては、中華連邦に対する牽制くらいですね。
 内政面ではこのエリア11内に蔓延する麻薬”リフレイン”の撲滅と、イレブンへの融和政策によって生じた、このエリアのブリタニア人達の不満の解消といったところでしょう」
コーネリアはルルーシュが未だ燻っており、顕在化していない租界内のブリタニア人の不満のことを問題として取り上げたことに対してルルーシュに疑問を投げかける。
「確かにイレブンに対する政策によって、租界内のブリタニア人達が不満に思うかもしれないが、それ以上にテロ組織の撲滅などの成果を上げているのだから、
 その問題については無視しても良いのではないか?」
ルルーシュはコーネリアの意見を尤もなものとして受け取るが、あえて反論した。
「姉上、このエリア11はいずれはユフィとナナリーに引き継ぎます。だからこそ、小さな不満でも取り除いておき、
 二人にこのエリアを引き継ぐときは万全の状況にしておきたいのです」
コーネリアはルルーシュの意見を聞き納得する。
「そうなると、どうやってブリタニア人達の不満を解消するのだ?
 イレブンへの融和政策はユフィやナナリーも引き継いで行っていく政策になるだろう。ブリタニア人への勲章授与や、派手な戦火での国威高揚では不満は解消されないぞ」
コーネリアに問題を提示され、ルルーシュはその問題に対しての答えを語り始める。
「永続的に融和政策を行えば、ブリタニア人達の不満は溜まっていきます。
 しかし、その融和政策でブリタニア人達が利益を得るとしたら? しかもイレブンの上に自分達ブリタニア人が居ると、
 イレブンを支配しているのがブリタニア人であると、判りやすく理解できる構図でです」
ルルーシュの言葉に興味が沸き、より一層コーネリアはルルーシュに注視する。
そんなコーネリアの様子を確認しながら、ルルーシュは言葉を続ける。
「民衆を慰撫するものは、パンとサーカスです。
 そして、そのサーカスの部分で、保護したエリア11の文化を使うのです。具体的には、観光資源や食文化の吸収ですね。
 幸いにもエリア11の前身である日本は歴史的な文物が多く残してありました。
 今でも、整備されていませんが、かなりの数が残っているはずです。ブリタニア人の娯楽のために、その整備を行う。
 その為のイレブン優遇政策だとブリタニア人に思わせれば、優遇政策での不満も消えていくでしょう。
 かつて古代ローマ帝国が属州にした地域の文化を吸収して、かつて無い文化を築きました。
 それと同じことを、このブリタニアでも行おうということをアピールするのです」
「そして、そのアピールを行うのがユフィとナナリーと言う事だな」
ルルーシュの意図を読み取ったコーネリアはルルーシュの言葉を引き継ぐように発言する。
「その通りです、姉上。」
口元に薄く笑みを浮かべたままルルーシュは同意した。
「日本解放戦線を壊滅させたことにより、先ほど姉上が言ったように抵抗運動も消えていくでしょう。
 サクラダイト供給会議で私が囮になり、テロリストの暴発を誘う必要性も無くなったので、
 この機会にユフィとナナリーの二人を会議に派遣し、ホストとして二人が行っているエリア11の文化保護の成果を
 各国要人に見せるが良いでしょうね」
各国要人をホストとしてもてなし、エリア11内だけでなく周辺国家にも二人の存在を見せることはコーネリアにとっても望むものである。
そして、そのことにより、この地に住む民衆の支持が二人に向かうことは二人が為政者として、このエリア11を治めるのに何よりの財産となるだろう、
そこまで考えてコーネリアはルルーシュに向かって微笑む。
「二人のために、そこまで考えるとはルルーシュにとってナナリーだけでなくユフィも大切なのだな」
その言葉を受け、ルルーシュの脳裏に行政特区日本で虐殺を行うユーフェミアの姿が掠めた。
それにより湧き上がる罪悪感を隠しながら、コーネリアの微笑を返すようにルルーシュも微笑みながら答える。
「もちろんですとも、ナナリーだけでなくユフィも私の大切な妹ですから」
その言葉を聞いてコーネリアは笑みを深くしながら、何気なく言う。
「もしかしたら、何処かで選択を間違っていたら、ルルーシュがゼロのままで、テロリストとして私達姉妹と争うことになっていたかもしれないな」
この地でゼロとして二人と争った記憶を思い出すが、ルルーシュはその記憶を無視してコーネリアに答える。
「確かに、ありえた未来かもしれませんが、現状では私は姉上の隣で政務を司っています。
 起こったかもしれない争いより、今はより良い明日のことを想いましょう」
コーネリアとしても、有り得ない仮定の話よりユーフェミアとナナリーの為に、今後の話を詰めた方がよりと思い、
ルルーシュと共に今後のエリア11についての話を再開することにした。

初投稿(09/12/25)


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