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[8045] キャスト:高町なのは ~Whose story is this?~ (地雷注意、転生、キャラ死亡展開)
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/10/07 13:26
 いきなりで何だし、全ての逆行及び原作知識有り転生·憑依系SSに喧嘩を売る発言だとは判っているけど、一つ言いたい事がある。

――――例え今いる世界が自分の予め知っているものの過去と全く同じ人間で、全く同じ歴史で、全く同じ法則なのだとして。だからと言って、何故そこから全く同じ出来事が起こるという前提で動けるのだろう?

 バタフライ効果とかパラレルワールドとかそういうのを言ってるんじゃない。僕が言いたいのは、未来が単純な確率論で決定するのだとすれば―――タイムパラドックスとかその辺を都合良く無視している以上そうなると思う―――前回コインの表が出たからと言ってまた表が出ると断言出来ない。

 具体的に言おうか。分かりやすい様にテンプレ展開として、ネギまの世界にネギの兄弟として現代からトリップしたオリ主がいる、という状況を想定してみよう。皆が皆ネギ五歳で起こる悪魔の襲撃をどうするか、というのを当たり前の様に考える。だけど、ちょっと待とう。いくらネギまの世界でも、原作通りにイベントが進むとは言えないんじゃないか。ネギ三歳で襲撃が起こるかもしれないし、七歳くらいでネギが学校から里帰りした時に起こるかもしれない。石化攻撃なんか使わず住民皆殺しにする悪魔が来るかもしれないし、来ない可能性さえある。なのに誰もがネギ五歳で石化を使う悪魔が来るという前提で動くんだ。

 うん、判ってるよ?唯の揚げ足取りだって。こんな事をいちいち気にしてたら話が進まないし、無視するからご都合主義云々なんて殆ど読者の主観で判断されてしまうものだ。

―――それでも考えてしまったのは。初回でレイジングハート起動にまごついてジュエルシードの思念体にやられたのかな、体のパーツが幾つかに引き裂かれ血の池を作っている『高町なのはとユーノ·スクライアだったモノ』が目の前に転がっているから、なんだろうね。



キャスト:高町なのは
~Whose story is this?~

        written by saDRipe



―――この世界の全てが他人事だとしか思えなくなったのは、何時からだろう。

 こんな台詞だからって、別に世の中を舐めた中坊のガキみたいな事を言いたいんじゃない。悟ったフリしたキザ野郎を演じたいのでもない。楽しいとか不快だとか、そういう感情はきちんとある。ただ僕の場合、その発現の仕方がある意味特殊過ぎるんだ。

 他者に共感する事は出来る。だから僕自身以外で僕の異常に気付いている人はいないと思う。言い方は変かもしれないけど、自分自身に共感するも出来る。だから日常を送れるんだと思う。だけど、『自分で何かを感じる』事が出来ない。自分の周囲、自分自身さえも物語をどこか別の場所から眺めている様な気になって、直接的な感情が全く沸き上がらない。

 『母親』の死さえも物語のヒロインの死と同じ程度の悲しみしか抱けない、そうなったのは何時の事だったのか。

―――それこそ、『生まれる前』からなのか。

―――記憶を持ったまま今の自分、竹内希(たけうちなの)として『魔法少女リリカルなのは』の世界に生まれ変わってしまってからなのか。

―――新しい『自分の両親』が次々と死んでからなのか。

 それとも。

「あ、おはよう希くーんっ!!」

「おはようなのは。いい天気だね。」

「く、曇ってるんだけど……?」

「ああ、すずか。僕は不躾に照り付けるだけの太陽は少し位羞じらいを持った方が良いと思うんだ。そうなると、雲というのは差し詰め彼の太陽の最低限のエチケットの配慮と考えられるのかな?」

「言ってる事は詩的でも、本音は『暑いのも眩しいのも嫌だ』ってだけでしょうが。」

「その通り………だけど少しはオブラートに包むという事の意味を学んだ方がいい。という訳で宿題だ、次回を楽しみにしているよ。レディのたしなみとして、ね。」

「なんですってぇ……っ!」

「お、落ち着いてアリサちゃん。」

―――物語の登場人物に過ぎない筈の人々が、僕の日常に組み込まれてからなのか。

 切っ掛けなど些細だ。タカマチナノハとタケウチナノ、まず名字が近いので学校での席も近く、そして似た様な名前という事で何かとなのはと一緒になる機会が多かった、それだけ。

 まあ、今時、というより現実で見掛ける事なんかあり得ない魔王因子潜在少女におっとり系お嬢様、正統派ツンデレだから退屈はしないんだけどね。

「さて、僕の名前でもある『希』という字は『うすい』という意味があるのだけど。」

 只今時間は飛んで、昼休み。小学三年生が考える事は絶対無いであろう将来の進路―――将来の夢、ではないのがミソだ―――をテーマに進められる屋上の会話。アリサが家業を継ぎ、すずかが技術者、なのはが喫茶店を継ごうかどうか迷っている、と来て僕の番。

 ところで、こういう主人公組って屋上で弁当を食べるお約束がある気がするけど、わざわざ階段を移動してまで外で食べようとする物好きはわりと少数派なんじゃないだろうか。現に僕達以外屋上に人いないし。

「何よ、悪い?それに付き合ってるあんたが言う事じゃないわね。で、今度は何。あんたの言い方は回りくどくて仕方ないんだけど?」

「いや、『希』望はあっても望みは無い、という事さ。権力を持っても面倒なだけな気がするし、そういうのはやる気に満ち溢れた方々に任せて僕は適度に生活を送れるだけ稼げる仕事に安寧としているよ。」

「具体的な目標、とか無いのかな?」

 呆れるアリサに夢の無い話を返していると、なのはがおずおずと訊いて来る。

「僕にとっては必要無いね。なんかそういう事言ってると無気力な若者とかって世間では言われるかもしれないけど、目標が無くても日々を楽しく生きる事は出来る。」

「でも、そうやってただ生きてるだけって、何か違うと思う。」

「………そうだね。君はそうなんだろう。だけど、目標を達成して幸せを得るならともかく、幸せになる為に目標を定めるのは逆だよ。無いなら無いで良いと思う。」

「…………うん。」

 深い意味がある様な無い様な、そんなやり取り。僕以外の三人は少しだけ納得出来ない様子を見せていたけど、それは仕方ない。いくら交わしている会話がハイレベルだからといって、まだ自分と感じ方も考え方も全く違う人間がいるという事を理解出来る年齢じゃないから。

 その何とも言えない空気の中、昼休み終わりの時間が近くなって教室へと帰った。特に聴く意味の無い五時間目国語、小学三年相当の漢字―――当たり前だが日常的に使える―――が黒板につらつらと書き並べられるのを眺めながら過ごす。そして帰り道……………一緒に帰っていたなのはが、聞こえてきた不思議な声に従って脇道に逸れ、一匹のフェレットを保護した。

「さて、どうしようか。」

 なのはには言っていないけど、今朝ユーノ·スクライアが思念体に返り討ちにされる夢を見た。それに今、

『誰か、助けて下さい!』

………悲鳴に近い彼の念話が聴こえてくる。

 暗くなった部屋は、親が死んで引き取ろうとする親戚も全て断って一人暮らしのマンション。叱る人間もいないから、夜出歩いても問題は無いし、

「見るくらいしてもいいかな。」

 魔法を見てみたいという好奇心はあった。だから僕は、危険かもしれないなのはの初変身を見物しようと家を出た。

―――そして話は冒頭に移る。

 食い千切られたなのはの手にあるレイジングハートは待機状態のまま。僕はそれを拾い上げ、

「汝、使命を受けし者なり。誓約の下、その力を解き放たん。風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に。そして、不屈の心はこの胸に。レイジングハート、セットアップ。」

『Get set. Master recognized.』

 なんとなく覚えておいたワードを口ずさんで起動し、聖祥の男子制服に似たバリアジャケットを身に纏った。

 それなりの付き合いだったなのはの死が悲しくない訳じゃない。涙だって流れてる。だけど、バッドエンドの映画で泣いた人間がその後カラオケでお気楽な歌を思い切り歌うのと同じ様に、僕の頭は現状に対する術を全く冷静に弾き出していた。

―――念話が聞こえた事といい、今レイジングハートを起動出来た事といい、僕にはリンカーコアがある。すると魔力に反応する思念体に次に襲われる可能性が最も高いのは僕だ。ならば武装した方がいい。現に異常な大きさの狼が猛スピードで付いて来てる、って。

「こんな対処が出来る僕が言えた台詞じゃ絶対ないんだけど…………なのはの仇、楽に死ねるとは思わないでね?」

 狼にシューティングモードのレイジングハートを向ける。願うは破壊、紡ぐは砲撃。胸の奥底から溢れ出すエネルギーが精緻に組み立てられ、僕の念じたまま自在に変形する。

「ディバイン……バスタァァァァ――――――ッッ!!!」

 僕の前面に描き出された幾何学的な魔法陣から発せられた桜色の光条が、狼を丸ごと飲み込んだ。最後まで悲鳴を上げる事すら許さずに存在を消し飛ばす、それどころか結界を張る事など出来る筈もない以上通常の色の夜空の向こうまで砲撃は抜けていった。

………この威力と、魔力光の色は、まさか。

「は………………はは……ははははっ!そういう事かっ!?」

 タカマチナノハは死に、似た名前と魔法の才能を持ったタケウチナノがここにいる、という事。

「なんて奇縁!僕に演じろと言うのか、『配役<キャスト>:高町なのは』を!!その為にオリジナルを殺してまで。なんて馬鹿げたシナリオ………でも、いいさ、やってあげるよ。せめて退屈はさせないでね?」

『Serial number XXI receipt.』

 僕はディバインバスターの軌道上に唯一残ったジュエルシードの封印を進めながら、皮肉と苛立ちの混じった嘲笑を吐き捨てた。

――――手に転がり込んだのは、彼女のものであった筈のチカラ。

――――物語だからこそ、半端な完結は許せなくて。

――――なのに閉ざされてしまった少女。

――――僕は………。

――――魔法少年リリカルなの、

 始まってしまいました。




[8045] Innocent sorrow
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/07/13 14:18
―――責任感が強いというのは美徳。でも、だったら一人で勝手に死ねばよかったのに。

 無惨な姿のなのはをこのまま野ざらしにしておくのは嫌だと、どうせ誰かがするだろうけれども一刻も早く回収して欲しいと、恐慌を来した幼子を装って警察に通報した僕が内心考えていた事。

 ユーノ·スクライアの行動は、実際こんな結末に終わる可能性が最も高かった筈だ。管理局の中では防御寄りとはいえ平均より明らかに上な彼が敗北する相手。例え助けを呼んだ所で、それに勝てる様な魔導師ランクの人間が来てくれる可能性より『この』なのはの様にのこのこ来てユーノ共々殺される人間が来る可能性の方が圧倒的に高いに決まってる。だったら誰も巻き込まず大人しくしておけと。

………まあ、危機に瀕した九歳の子供にそんな理性的かつある意味酷な判断を求める方が間違ってるっていうのは判る。それに僕だって事情は特殊だとしても結果的になのはを止めずに危険な場所へ行かせたのだから同罪。

 だとしても。

「…………っ。」

「ひっく………、なのは、ちゃんっ。」

――――必死で涙を堪えるアリサとぐすぐすと泣きじゃくるすずかを見ていると納得出来るものじゃない。

 なのはの死亡は一晩で学校側に伝わっていたらしく、早速全校集会で生徒達に伝えられた………が、所詮九歳。いきなり担任に『高町なのはちゃんが亡くなりました』と言われても、人間の死というものを認識し実感出来た者は半分を切った。きちんと悲しむ事が出来たのは、うちのクラスではこの二人とあと数人くらいのものだ。

「…………一、二時間目はみんなで天国のなのはちゃんへのお別れの言葉を書きましょう。」

 教室に戻った後、そう言って先生は朝の会を終える。この選択は正しいのかもしれない。

 まず、本格的に泣きに入っている子を授業に参加させられる訳がない。それに、文章として形にする事でなのはの死を実感させると共にその折り合いを付けさせる。アリサもすずかも、書いている内に少しずつ落ち着いて来ている。その意味では、気を紛らわすという目的もあるのか。

(…………って何分析しているんだよ。)

 それに、何故単純に弔いたいのだという感情が真っ先に出てこない。

―――やっぱり、他人事なのか。物語、なのか。

『天国のなのはちゃんへ

 優しくて強い子だったなのは。どんな事にも全力で打ち込んで、全開で挑んで。時々ドジで、でもやると決めたら絶対に挫けない。そんななのはが死んでしまった事は未だに信じられない。

 よく一緒に遊んで、喋って………でも、思えば僕は君に友達と言われる様な事が出来たのかな。何かをしてあげられたのかな。分からない、それでもなのはは僕の事を友達と言ってくれるんだろうね。だから友達として、陳腐だけど嘘ではない言葉を送ろう。冥福を祈る。

         竹内希』

(…………白々しいッ!)

 僕が書いた文章はこんな感じだけど、破り捨てたくなる衝動を堪えるのに必死になる。そんな僕に、声を掛けて来る子がいた。

「なあなあ、竹内。」

「………何?」

 クラスの悪ガキとされる男子で、文章を書いた気配も無い。一応警察官の息子だったと記憶しているけど………、

「高町の死体、お前見たんだろ?父さんが言ってた。『だいいちはっけんしゃ』だって。」

「…………。」

 服務規定違犯じゃないかな、君の父親。

「でさ、どんなんだった?」

「………、何が、かな。もう一回、言ってくれる?」

「だからさ、高町の死体ってどんなのだったんだ?」

「……っ!」

 只でさえ抑えがたい衝動があったところにこの無神経な問いは、流石に限界だった。

 襟を深く掴み、手首を捻る。それだけで喉元は締め付けられ悪ガキは苦しそうな顔をする。構わずその体を窓枠に叩き付けた。僕の怒りに反応してレイジングハートが勝手に起動しそうになったのを咄嗟に抑えた事と窓ガラスに叩き付けなかった事は一応理性が残っていたのかもしれない。

「教えてあげようか、君の体で!?」

―――ピンク色の臓物が飛散し。

「希っ!?」

「希くん、落ち着いてっ!!」

 アリサとすずかが慌てて僕を止める。この年代では却って女子の方が体格がいい事もある、鍛えている訳でもない以上二人がかりで取り押さえられた。

―――血ではない白い液体が骨から流れだして赤一色の地面に斑模様を描いて。

「くぅ………っ。」

 すずかが差し出したハンカチ。それが僕の目元をなぞると、濡れて少し色が変わった。

―――千切れた腕に付いていた指は何本か欠け。

「泣いてる………。」

 なんで、僕は泣いてる………?

―――そうしてなのはは、苦痛と絶望に歪んだ顔のまま死んでいた。

 『そんな吐く事すら忘れる程の暴虐の中に、僕はなのはを見捨てたのに―――。』

――――。

 結局、僕は錯乱(まあ、傍から見ればそうだろう)を理由に早退させられた。故に学校から帰ると、昨夜深夜かつ僕が子供という理由で延期されていた警察の事情聴取を受ける予定だったのも中止になった。カウンセラーを付けるのも打診されたけど、それは断った…………本当の意味で僕が精神的に参る事は多分無いから。

 ここまで『心』が痛んだのは初めてだけど。それには驚いたとだけ言っておく。

 それで、僕は高町家に向かった―――街中に溢れる警官達に見つからない様にしながら。何しろいたいけな少女が惨殺され、現場は重機を暴走させたかの様に破壊され、挙げ句に空に桜色の光の柱<ディバインバスター>が伸びたという非常識な事態が起こったばかりなのだから無理はない。

 着いた高町家は、まるで通夜―――唯の比喩でないのが皮肉だけど。当然、家族を失った一家に笑顔がある訳もない。

 それでも僕が空気を読まずに出向いたのは、全てを話す為。学校が終わる時間にアリサとすずかも呼んで、僕は口を開いた。

「じゃあ、なのはが死んだのは………!」

「直接的にはそのジュエルシード、間接的にはユーノ·スクライアが原因ってこと?」

 これは恭也さん、アリサの反応。魔法、次元世界、管理局、ロストロギア、ジュエルシード、輸送船襲撃、ユーノ·スクライア……などレイジングハートを使った実演を交えて『なのはを追いかけていって、ユーノがなのはに説明するのを聴いていた』という、嘘の様で嘘でない当事者二人が死んだ以上明白な検証が出来ない言い訳で不自然でない範囲で全て説明した。

 転生云々と僕がなのはを放置したのも一因である事は黙っておいた。前者は話してもややこしくなるだけだし、後者は言ってもこのメンバーを考えると『君は悪くない』と慰めてもらう結果しか予測出来ない。責めるつもりなら、行間から察せられる様に話したので何人かは指摘出来るのにしないのだから僕の予測も外れてはないだろう。ここでの慰めは互いが傷付くだけだ。

 ここにいるのは、僕を除いて高町家の四人にアリサ、すずか、月村忍、ノエル、ファリン。もう原作完全無視になるけど、そもそもなのはが死んだ時点であり得ないし。

 『魔法少女リリカルなのは』のハッピーエンドは、なのはの限りなく正道に近い過激な信念とご都合主義ギリギリの天運によるものだ。僕がなのはの代わりをしようにも全力も全開も全壊も存在しないので破綻するのが目に見えている。

 それなら、僕が一番効率がいいと思ったやり方でやらせてもらう。

「それで、この話をしてどうするつもりだい?」

「残るジュエルシード回収の為の協力をお願いします。」

 試す様な眼差しで見下ろす士郎さんに単刀直入に言う。

 実際、原作のなのはの様に隠すよりも話してしまった方が効率がいい。巻き込むのを危惧したにしても、何も話してなくてふらふらと危険に近づかれる方が余程危ないから。

「それは、君が回収するという事かい?何故?」

「そんな―――っ、」

「なのはの仇討ち……は、理由としては薄いですね。やったジュエルシードはもう封印してしまいましたから。だけど、」

 危険だ、と続けるのだろう桃子さんの発言を遮って僕は言う。

「これは多分もう僕しか出来ない。皆リンカーコアはそんなにないから。だよね、レイジングハート?」

『Yes. And even if not, it is Nano only who is my master.』

「…………ありがとう。そういうことで、更に死にたくない、もうアリサやすずかにまで死んで欲しくないという前提を足せば、僕がやるしかないと思いますが。」

 ジュエルシードは下手をすれば次元震を起こすし、暴走体を放っておいて被害が回り回って自分達に来るかもしれない。何より問題はフェイト·テスタロッサ。彼女にジュエルシードを集められてプレシア·テスタロッサに渡されると、最悪彼女が『アルハザードへの扉』を開く時に巻き添えを食ってこの世界そのものが崩壊する可能性だってある。

………そういえば、フェイトにジュエルシードをほいほい渡す憑依系主人公はその辺ちゃんと考えてるのかな?どうでもいいけど。

「つまり、死にたくないから、死なせたくないから、戦う。そういう事でいいんだね?」

「はい。」

 士郎さんの目をしっかりと見て答える。ヒーローとかみたいに赤の他人の為ではないけれど、嘘の理由ではないから。

「………やれやれ。分かった、子供に頼るなんてしたくないんだけど、その理由を忘れないなら出来る限りの協力をしよう。」

「私も手伝うわ。」

「絶対に無茶しないでね、希くん。」

 士郎さんが折れ、月村姉妹も続く。他の人々も、大人組は子供に頼る事が後ろめたいながらも諦めてどう協力出来るかを考え、子供組は僕を心配しながら見ているしか出来ない。

「ありがとうございます。」

 優しい人々だ。僕はこの人達を死なせたくないという『自分』に、共感した。




[8045] Howling
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/07/13 14:19
 額を冷や汗が流れ落ちる。雲一つ無い青空だけどそれを見上げても心は晴れない。上空に見える黒い影、それは烏とか鳩とかそんな可愛げのあるモノじゃないから。

…………さて問題。頭と翼は鷲、胴体はライオン、これなーんだ?

「ぐ、グリフォンって本当にいたんだね……。」

「ライオンってネコ科だし、『空を飛びたい』って願った馬鹿猫が居たんじゃないんですか…………、っ!」

 すずかが見たら喜ぶかな、とか。あり得ないけど。

 それより問題はこの神話の怪物もどきをどうするか。一応美由紀さんが人が来ないか注意してくれているらしいから巻き添えとか野次馬に騒がれるのとかは気にしなくていいけど、『らしい』という言葉遣いから判る様に今の僕にそれに気を払う余裕は無い。

 手の届かない上空から急降下。僕は横に飛び込む様に移動してその爪を避ける。失敗したと見るや再び舞い上がるグリフォンの傍で受け身も取れずにごろごろ転がる僕がいる。見た目は無様だけどバリアジャケットのおかげで傷·打ち身どころか土埃一つ付いてない。

 でも、美由紀さんじゃなく僕だけを狙うのは何か納得行かない。いや、魔力の大きな方から片付けようとしているんだろうけどさ。

「ああもう、ディバインシューターっ!!」

 むしゃくしゃしたのをぶつける様に撃った魔力弾は、やはりスペックは『高町なのは』と同じなのか飛行する相手の進路予測もそこへの狙いも完璧だったのだけど、躱されてしまった。

 ここでなのはなら飛行する相手に自分も、と飛び上がろうとするだろうけど、あまり意味が無さそうな気がする。むしろ飛べると相手が認識する事で今までのヒット&アウェイから接近戦に切り替えられたら、『高町なのは』のスペックだからこそ殴り合いに勝てる自信が無い。

(救いは相手が単調に急降下しては逃げてを繰り返してる事なんだからね。)

 人間は上からの攻撃に対処出来る様には造られていない、と聞いた事はあるけど今の所問題は無い。相手に飛び回って視界から外れるという知恵は無いから。

 とはいえ、このままだと教科書通りのジリ貧。こちらの攻撃は当たらず向こうの攻撃を躱すのはギリギリ。

「さあ………どうしようか……。」

―――手は、無い訳ではない。例えばプロテクションで思い切り弾いて怯んだ所を撃ち抜くとか。

 だけど、怖かった。いや、バンバン魔法撃ちまくって今更なんだとか言われそうだけど、勘違いしないで欲しい。全てを物語として認識している僕に本当の恐怖なんて有り得ない。そういう意味の怖いじゃなくて、危惧という意味で怖いんだ。

 魔力弾も砲撃も、相手が離れているから、もし使おうとして思った効果が出なくても別の行動に移る時間がある。だけど、僕が考えているのは全て相手が近寄った時に魔法でカウンターを入れるというやり方。

 もしプロテクションが出来なかったら?

 もし出来ても破られてしまったら?

 そう考えると、どうしてもあと一歩で躊躇ってしまう。

――――それを打ち破ったのは、予期せぬ声だった。

『Trust me, master.』

「え………?」

『And...believe yourself, master!!』

………こいつ、本当にAIなのか?

 そんな事を考えるくらい的確に僕の考えを見通した様なレイジングハートの声だった。

 触れて一週間も経っていない魔法だから、突然手に入った力に酔ってる厨二(原作のなのはもそんな感じがする)でない限りゲームオーバーを怖れて使うのに慎重になるのは当然。でもそれは自身の魔法の力を、そしてレイジングハートも信用していないと明言している様なもの。

 いや、実際信用してないんだけど。今までの生活の中に魔法なんて存在しなかったのだから。どうやら『高町なのは』と同じ事が出来ると分かってはいても自分の限界を断言も出来ない力を信用するのははっきり言って馬鹿のやる事だ。

(だけど、さ………。こう言われてまだ躊躇ってるのは流石にヘタレだよねぇー。)

 自棄とも言う。ぶっちゃけ不安しか無い。それでも僕は、レイジングハートに応える様に魔力を注ぎ込んだ。

 イメージ通りの結果をもたらす為に魔力が構成を組み立てられていく。式はレイジングハートが勝手にやってくれる、僕はそれをなんとなくで操作するだけ。『だけ』とは言うけど、それをそう言えるのはなのはスペック万歳なのかな。ユーノが死んで比較対象がいないから判らない。ついでに、今やってる事がコトなので視覚的には何も起こってない様にしか見えないから成功しているのかどうかも判らない。

 無防備に立ち尽くした様に見える僕に美由紀さんが慌てて声を掛けて来る。理性がすぐ別の行動を取れと言ってるのを無視する。どんとしんく、ふぃーる。

 そして――――、

「…………ふぅ。成功。」

 またまた直線的に突っ込んできたグリフォンは、まんまと設置したバインドに引っ掛かって無様にバタバタしていた。終わってみれば随分呆気ない。

………呆気ない分、今までの気苦労の大きさだけ黒い感情が湧き上がってきた。

 手が無意識の内にレイジングハートをグリフォンの胴体に当てている。なんかバタバタが激しくなってきた。何故か美由紀さんの顔が青い。

 まあいいや。

「散々手こずらせてくれて。……………じゃあね、ディバインバスター。」

 多分必要無いだろうゼロ距離からの桜色砲撃が、グリフォンくんを焼き鳥にしていった。

――――。

「…………って事があったんだけど。」

「ちょ、大丈夫なの!?」

「うん。まあ手に負えないと思ったら速攻逃げるから。」

「無理しないでね?」

「その辺はプロが付いてるから問題は無いよ。」

 グリフォン戦の事を学校でアリサとすずかに話してみた。

 そもそも、何であの場に美由紀さんがいたかと言えば、ジュエルシード探索の際に御神流の三人の内一人が同行してくれる事になっていたから。僕が負けても子供一人抱えて逃げるくらいは出来る人達だし、体力配分を考えてくれるから気が付けば疲れて動けないなんて事も無い。

 テンプレ展開ならここは彼らに戦い方を教わる所かも知れないけど、生憎何時ジュエルシードが発動するか判らない時に非常に疲弊しそうな練習をする程危機感が抜けてたりはしない。戦うに当たっての心構えをレクチャーしてもらうのに止まってる。

 まあ、そういう訳で保護者同伴で今は取り敢えず原作でジュエルシードが発動した場所を重点的に捜索してみているけど、やはり確率の違いなのかそれとも何かにくっつくなりして移動しているのかは知らないけどなかなか見つからない。そんな中でやっと見つけたと思ったらアレだったっていうのは、流石ロストロギアという事なのかそうでないのか。

「でも、本当に大丈夫?たまには休んだりしてる?」

「まだ三個目だよ?休むほど動いてる訳じゃないし。」

「…………はあ。希、週末のお茶会参加しなさい。」

「?」

「強制参加!そうでもしないとアンタ休日延々とジュエルシード探し続ける気でしょう?」

「………。」

 えっと、これは、心配してくれてるのかな?

「いいわよね、すずか!?」

「くすくす……うん、いいよ。だけど、アリサちゃんも心配ならそう言えばいいのに。」

「なっ、べ、べつに心配してる訳じゃなくて………そう、」

「うん、分かってる、心配してくれてるんだね。ありがとう。」

「そう、心配してるのよ!って、違う!?」

 これぞツンデレ?いいえ、これは唯のノリツッコミです。

…………まあ、なのはの事を表に出さない様にしてこれぐらいの会話が出来るくらいには立ち直ったんだろうか。だとしたら、強い子達だ。

(しかし、お茶会………まさかね。)

 ここに来ていきなり原作通り、なんて事は無いだろう――――――――なんて思っていた僕は甘かったのだろうか。

 原作通りになる保証が無いのと同じ様に、原作通りにならない保証もまた、無い。

「すずか様ぁ~、アリサ様希様、ねこさんがねこさんが大変なんです……っ!?」

「落ち着いて、どうしたのファリン?」

 ジュエルシードをまた一つ確保して、週末になったので訪れた月村邸。九歳の女の子に宥められるメイドさんというレアなものが見られたけど、僕はと言えば溜め息の一つでも吐きたい気分だった。

「ね、ねえ希……あれって………。」

「……ご想像通りだと思うよ。」

 アリサの指さす先、個人所有の森という凄い事は凄いけど実際どれくらい凄いのか判らない敷地の中で、木々を追い越す様に巨大化したネコが唸っていた。

「『大きくなりたい』という願いが正しく叶った姿、か。悪魔の契約だろうが神の奇跡だろうが結果論として願いに正しいも正しくないも無いと思うんだけどね。」

 そう一人ごちて、僕はひきつった顔のアリサ達に残っている様に言うと、レイジングハートを起動してそちらに向かった。

 向かおうとした。

「に゛ゃゃあぁぁぁぁぁぁっっ!!?」

「「「―――っ!?」」」

 なぶるかの様に猫の巨大な体躯に着弾していく鮮黄の光弾。

――――フェイト·テスタロッサ!!

 森に不気味な静けさが戻る。今封印作業中なんだろう。

「な、何!?希くんっ、」

「話は後。離れた所で待機してて!」

 僕はその場に止まり、警戒を続ける事にした。今から行っても待ち伏せを喰らう可能性が高い。

 果たして暫く経って魔力反応は収まり、

『Blitz action.』

『Frier fin.』

 森から飛び出した金と黒の影―――影、としか認識出来ない程度の速さだった―――が僕の胴を狙って魔力の刃を振るう。飛び上がって回避した僕は、周りに付き従う様に起動させておいたディバインスフィアに指示を下した。

「ディバインシューター、シュートッ!」

「ッ、プロテクション!」

 フェイトを薄く輝く膜が覆うか覆わないかの内に、昼間から派手な花火でも射ったかの様なピンク色の光が襲い掛かっては爆発し視界を埋め尽くす。その中から、しかしバリアジャケットの端が切れてる位でダメージの無さそうな少女が立っていた。

「あなたの持っているジュエルシードを、渡して。」

「そういうの、通り魔強盗って言うと思うんだけど?」

 見上げる形と見下ろす形で。それが、僕らの出会いだった。




[8045] nephilim
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/07/13 14:21
 言葉を交わしたのは相手の意思の確認でしかない。目が合った一瞬後、次に交わしたのは魔力弾。

「賭けて。あなたの持っているジュエルシードを。」

「えっと。ところでさっきから、ジュエルシード、って何?」

「………、それは、っ!?」

「――――とでも言うと思った?知らない訳ないだろ馬ー鹿。」

『Divine shooter.』

 ディバインスフィアをフェイトのやや斜め上方面から囲み撃ち込む。その隙に森に下り、サーチャーをばら撒く。目的はフェイトの位置の確認だけなのでそれ以外の情報をシャットアウト、光弾の雨を凌いだフェイトに視界外から更に攻撃を加える。

「てかさあ、なんでこんな強盗紛いの事やってるの?お母さんに盗みは駄目だって教わらなかった?それに落ちてる物を拾って自分の物にするのも、ジュエルシードはもともとスクライア一族の物だから『遺失物等横領』っていう立派な犯罪だよ。」

「………っ、その母さんが、必要だって言ったんだ!」

 こちらの位置を掴んだか、突っ込んで来る。こっちは森という障害物が文字通り林立している地形を生かして魔力弾で牽制しつつその速度を殺し、後退する。再びフェイトの視界から外れた僕は言葉を投げた。

「母さん、かあ。その為だったら見ず知らずの他人には迷惑掛けて良いんだ?」

「ごめん。でも、ジュエルシードを全部集めたら、きっと母さんは喜んでくれる!」

 まず神経を逆撫でして、カマを掛けて、掘り下げる。全力全開も場合によりけり―――いくら原作知識があるとはいえ、単純にも聞き方次第でぺらぺら話してくれるんだね。まあ『話し合おう』なんて相手に会話のペース渡したら拒否·黙秘されても何の文句も言う資格は無いんだけど。

 しかし、フェイトは原作通りか。健気で優しい心を利用されて罪を罪とも自覚せずに危険を犯す。ある意味一番性質が悪い。まあ『高町なのは』がいなければジュエルシード探し自体は落ちてる物を拾い集めるだけだし暴走していた場合はそれを止めて人助けにもなる以上罪を自覚するのは難しかっただろうけど。

………同情、してるのかな。倒していいものか躊躇している結果が、今の、経験の差があるとはいえ言葉で引っ掻き回して機動力を殺す森の中での戦闘に持ち込んでもまだ仕留められない現状なのかな。

「――――プラズマスマッシャーっ!!」

 痺れを切らしたのか接近を諦め木々ごとぶち抜く砲撃が走る。鮮黄の雷電の輝きは圧倒的な破壊力を内包しながら僕に向けて突き進む。そして、

「ディバイン……バスタァァァァァァ―――――ッッッ!!!!」

 そろそろ来るだろうな、とチャージ自体は先に済ませておいた桜色の砲撃が、後より来たりて斬り抉った。

 砲撃魔法の威力は『高町なのは』と同スペックの僕の方が上、だけどその為に、原作同様力押しを諦めたフェイトが離脱し高速移動、僕の後ろに回る。

「(間に合うか………っ)レイジングハート!」

『Protection.』

「遅いっ!」

『Haken saber.』

 衝突し、軽い爆発を起こす魔力。侵食される桜色。直前まで砲撃に力を注いでいた僕のシールドは若干の抵抗を見せながらもフェイトの一閃に断ち切られる。返す刀で―――、

「ダメぇぇぇぇ―――っっっ!!!」

 割り込んだ少女の体躯に、ぶち当たる。

「ア、リサ………?なんでっ!?」

「ふざけんじゃ、ないわよ………!」

 僕を庇う様に立っているのはアリサ。フェイトの武器が鎌という事でリーチを間違えればそこまで殺傷力を発揮しなかったんだろうけど、それでも身体能力が強化された攻撃だし現に右腕の感覚が無いのかそこだけ不自然に垂れ下がっている。

 でも、立っていた。痛みなんておくびにも出さずに立っていた。

「ジュエルシードとか、魔法とか。そんな訳の分からないものでなのはが殺されて。今度は希まで?ふざけんじゃないわよっ!!帰って、これ以上私から奪わないで!!」

 叫ぶ。有無を言わさぬ、否定はさせぬ、唯自分が本当に望む事だけを叫ぶ。健気と言えば聞こえは良くても無邪気に母親だけと笑顔で暮らせればそれで構わないという薄っぺらい幸せしか望めないフェイトは気圧されるしかなかったのだろうか、青い顔をしながら背を向けて逃げる様に飛び去った。

 それを確認して気が抜けたのか、痛みが限界に達してアリサは気絶する。それを後ろから抱き止めながら僕は唇を噛んだ。

――――。

 鎖骨が完全に折れていたらしい。全治一週間。そんな怪我を九歳の女の子が耐えていた事を考えると物凄い精神力だけど、証明しても虚しいだけ。

 ふと目を離した隙に僕の方に向かっていったらしい。今月村さん家は関係者の皆に監督責任の不手際を詫びていて僕の所にも謝罪は来た。でも、謝りたいのはこっちだった。

―――これ以上私から奪わないで!!

(気付いて、あげられなかった………。)

 なのはの死を振り切れた訳でも、まして立ち直れた訳でもなかった。まだ僕という身近な人間に危険があって、落ち込む暇すらなかっただけなんだ、って。

 アリサの悲痛な叫びがずっと心の中で反響してる。僕を責める様に。歪んだ物語が、せせら笑う。お前に与えられているのは唯の役割だと、これはお前の物語ではないんだと…………なんだ、僕もフェイトの事を何も言えないか。

―――だとしても。自惚れでもなく、アリサもすずかも僕の事を心配するし死んだらなのはの時と同じくらい悲しむだろう。

 なら、もう絶対に悲しませられない。演じるだけのキャストでも、そう足掻くのは間違いじゃない筈。

 顔を上げる。本当に負ける訳にはいかなくなった。負けてジュエルシードを奪われる事は即ち僕もアリサもすずかも他の皆もプレシア·テスタロッサによって世界ごと消滅する事を意味する位に考えた方がいい。だから、フェイト·テスタロッサを打ち破る方法を原作·実物両方の面を考慮して組み立てて行く。少しでも穴の無い様に。手段など選んでいられない。

 フェイトには同情しよう。母親に虐待され、なまじ『昔の優しい母親』を知っているから余計に状況が悪くなっている。うん、悲劇だ。…………ミッドはどうだか知らないけど、二週間に一回は家族殺しのニュースが流れる日本に住む人間からすれば、本当にありふれた悲劇だ。何も思わない訳ではないけど、同情止まりでしかない。ましてフェイトは助けたいなんて真似、だったら児童相談所に勤務すれば?フェイトよりもっと沢山家族に恵まれない子供を助けられるよ?ああ、可愛い女の子を助けたいんだね、………帰れロリコン。そんな感じ。

「まあ、ちょっとどこにでもある崩壊しかけの家庭に止め刺すだけだから。」

 だから構わないと言う気は無いけれど、それでも。

「同情なんかで懸ける程、僕らの命は軽くはないらしいしね―――。」

 この時を以て、僕はフェイトを完全な『敵』と認識した。




[8045] fre@k $How
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/07/13 14:24
<Interlude:side Fate>

「フェイトっ、どうしたんだい!?」

 多分現地人の、白い魔導師の男の子と会って戦った後拠点のマンションに帰り着いたわたしを、使い魔のアルフが出迎えてくれた。狼素体のこの子とはリンクで繋がっているから、わたしの感情の乱れを感知してか心配そうな表情を向けてくる。

「何かあったのかい?フェイトが失敗するとは思わないけど、なんかフェイトが苦しんでる様な……っ。」

「ありがと、アルフ。」

 わたしは靴を脱いで上がり、ソファーに座るとずっと落ち着かない目で見ているアルフにおいでおいでする。狼形態で寄ってきたアルフをきゅっと抱きしめた。

「あったかいね………。」

「フェイト、本当にどうしたんだい?何かあったのなら言いなよ、あたしはフェイトの味方だよ?」

「うん。実はね―――、」

 わたしは、話した。柔らかい顔立ちをした栗毛の、でもどこか不気味な男の子。バルディッシュと同タイプのインテリジェントデバイスを持ってピンク色の魔法を操り、同時にわたしのしている事が立派な犯罪で通り魔だと突き付けた子。名前は、ナノと呼ばれてた。

 そして、男の子をナノと呼んだわたしと同じ金髪の女の子。だけどわたしよりよっぽど強い目をしてた。魔力も持ってないのにAAランクの戦闘に割り込んで、骨が折られてるのにわたしをきっと睨み付けてきた子。ナノにはアリサと呼ばれてた。

 その、骨を折った―――人を傷つけた感触がまだ手に残ってる事。

 母さんの為にしている事が悪い事だと断言したナノの嘲り声がまだ耳に残ってる事。

 アリサの叫びが、まだ心の中で響いてる事。

「わたし、母さんに笑って欲しくて……でも、犯罪だって。アリサは、奪われたって。わたしに奪われるって。」

 ナノハ、っていう子の事はよく分からないけど、ナノに関してはあの場で倒して持っているジュエルシードを貰うつもりだった。でも、アリサからすれば傷付けられる事に変わりは無い。非殺傷設定を使ってたかどうかなんて関係ない、わたしが母さんやアルフを同じ様にされたら、間違いなく悲しんで怒る。

「分からない……分かんないよ………っ。」

 ついぽろぽろと泣き出してしまう。アルフはその涙を舌で舐めとると、優しく声を掛けてくれた。

「じゃあ、止めようよフェイト。そんな想いしてあんな鬼婆の命令を聞く事ないよ。今からでも遅くない、どっか遠くに―――、」

「………それは、ダメだよ。母さんが一人ぼっちになっちゃう。」

「フェイトっ!!」

 アルフが声を大きくする。わたしの事を心配してくれてるのは判るけど、わたしは涙声でもそれを遮った。これだけは譲っちゃいけない。

「わたしが頑張って、母さんに笑ってもらえる様にしないと………。」

「~~~~~っ。………そう、ならフェイトの好きにしなよ。言ったけど、わたしはフェイトの味方だからそいつらぶっ潰してやる。こんな健気なフェイトに甘ったれた生活してる奴等が何か言う資格なんか無いんだ、遠慮する必要も無い!力ずくでやっつけちゃえばいい。」

「力ずく、で………。」

 アルフの提案は、すごく楽に思えた。言葉だけじゃ、何も変わらない。だからわたしは顔を上げてその選択を―――、

―――採る前に、玄関のチャイムに割り込まれた。

「誰だろう?」

 マンションのオートロックではなく玄関の表示が出てる。でもこの地球にわたしの知り合いはいないし、間違いかなと思いながらわたしは部屋の玄関を開けた。

 そこに立っていたのは、銀髪のショートカットの綺麗な女の人。スーツの内側から金の印の付いた黒い手帳をわたしに見せて、言う。

「やあ。ボクはリスティ·槇原。善良な一般市民のみんなの味方な警察官だ。テスタロッサさん家で合ってるよね?」

「あ、はい。そうですけど、でも、警察?」

 警察、現地の治安組織。さっきまでの犯罪という言葉がまた浮かんできて、体が硬くなった。それに、この女の人、話し方は軽い感じだけど顔は全然笑ってなくて寧ろ苛々してる。でもわたしが見ている事に気付いたのか、

「ああ、悪いね。ちょっと歳が離れた妹みたいに可愛がってた子が訳の分からない殺し方されててね、気が立ってるんだ。」

 笑顔を浮かべた。わたしが原因じゃないらしい。この分だと、ナノの言ってた犯罪とも用件は違うのかもしれない。

 安心してほっと下に息を吐いた。だから、人型で様子を見に来たアルフを見るリスティさんの目が鋭くなり、笑顔がまた消えたのを見逃した。そして、どこからともなく何か書かれた紙を取り出して見せながら言われた言葉にも、理解が追いつかなかった。

「――――さて、アルフ·テスタロッサ及びその被保護者フェイト·テスタロッサ。密入国、公文書偽造その他四件でこの通り令状が出てる。叩けばまだまだ埃が出そうだけどね。先日の海鳴市少女猟奇殺人事件の重要参考人としても、署まで同行願おうか。」

<Interlude:out>

「月村家とバニングス家に日本警察、間違っても舐めちゃいけない、かな。」

 フェイト……というかアルフがあんな立派なマンションを借りられたのは何故か。引っ越しをした事のある人なら判るだろうけど、あれはかなり煩雑な書類の整理が必要になる。中でも重要なのが住民票と騰記名簿。そんなものをこの世界に来たばかりの二人が持っている訳がない。それどころか戸籍も日本国籍も持たない二人は、客観的に見れば密入国者以外の何者でもない訳だ。

 そもそも、フェイトは子供でアルフに至っては法律上『器物<モノ>』扱いされてもおかしくない狼女。娘を傷物にされて怒り心頭のデビット·バニングス氏がでっち上げるまでもなくその辺の書類が偽造されている事など分かりきっている。魔法がどこまで優秀かは断言出来ないけれども、偽造されてると判っててその証拠を見つけられない程日本警察も馬鹿じゃない。ましてこの世界に来たばっかりのアルフの俄細工じゃ、ね。

 斯くして利用するようだけどアリサやすずかの家の方から手を回してもらって、警察を動かせば指名手配犯アルフ&フェイト·テスタロッサの出来上がり。フェイトの情報をどう教えるか悩むまでもなく人相だけからその所在地まで突き止めていたバニングス家の情報力には逆に呆れもしたけど。

「まあ、そういう事です。」

「………………………え、えげつないな。」

 ジュエルシード探索、今日のお守り役である恭也さんにフェイトの事を詳しく話すついでに前述の対応を説明した。物凄く引かれてるけど、まあ知らないふりをしよう。

 二人は警察から逃げて姿を眩ましてるらしいけど、ジュエルシードを集める為にはなのはの件で大量に警官が動員されてる海鳴でも離れる事は出来ないだろうね。そうなると、今頃身動きが取れなくなってる筈。

 そして、なのはが殺されたのと前後する様に海鳴に現れた不審人物を警察はどう思うか。まず無関係ではないと思うよね。実際全く無関係じゃない訳だし。

 それら全ての状況が、警察の目を恐れて迂闊に人前に出られなくなったフェイトの居場所を削っていく。勿論警察が彼女らを捕らえるのを期待してはいないけど、嫌がらせにはなる。未知の土地での探索作業、しかも拠点無しという状況が幼い子供にとってどれだけの負担になるか。

「向こうは犯罪者だし。大義は我にあり、無ければ作ればいい。誰の言葉かは忘れたけど。」

「………。」

「―――――止めますか?恭也さん。」

 恭也さんが真剣な顔でこちらを見ているのに気付いて、立ち止まる。

………自覚はある。僕がやっているのは外道とかそういう類の所業だ。恭也さんの心の中では、既に道を踏み外している子供を正してやるかどうかという迷いが迫ぎ合っているのかも知れない。

 だけど僕に覚悟は無い。恭也さんは視線を僕に捉えて離さない。怖い?違う、怖いのは現状を楽観して最悪の結果を招く事。なら何故その視線が痛い。最低の悪と蔑まれる事が、僕は―――、

――――悲しい?

「いや。」

「……っ。」

 思索を遮ったのは、先に視線を外した恭也さんだった。何故、と困惑する僕の頭に手を乗せて彼は聞こえるか聞こえないかといった具合の声量で語る。自分を納得させる様にも感じる言い方で。

「きっと。大切なものを守る為に、それは必要な事だから。」

 言ったきり、恭也さんは前を再び歩き出す。その背から読み取る事の可能な感情は無い。

 そんな背中を見つめながら、僕は胸の支えがどこか削れたのを感じていた。

―――何故支えが取れたのか。

―――そもそも支えとは何だったのか。

―――何の為に、恭也さんに話さなくてもいい事を話したのか。

 浮かび行く疑問が、更なる支えを増やすのを感じながら。

(………駄目だ。なのはが死んでから、どうも『感情』を持て余してる気がする。)

 それにすら、何故?と浮かぶツカエ。首を振って打ち消し、僕は恭也さんの背中を追って歩き出す。

 結局その日は、何の妨害もなくジュエルシードを一つ封印した。




[8045] ドレス
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/07/13 14:15
 朝。といっても二時間目が終了した所で右肩にギプスを填めたアリサが登校してきた。これがまあ三日ぶりの登校で、しかし何時もと同じ様に気軽に僕とすずかが駄弁っていた所に近付いてくる。

「おはようっ、すずか、希。」

「うん、おはようアリサちゃん。」

「アリサ。遅刻してきた人間に『御早う』というのは語感からして不思議に思えるけど………まあ慣習の問題だしね。結論としては重役出勤のアリサ様といえど挨拶は一つだという事になるのかな。」

「そういう希の事を、『ご挨拶』って言うんじゃないかしら?相変わらず遠回しな物言いが好きよね、おはよう位まともに言いなさいよ。」

「失礼な、僕は本筋しか辿らない思考があまり好きじゃないだけだよ。それに君も君で相変わらずじゃないか。いや、僕の真心百パーセントの言葉を嫌味で返す程度にはレベルが上がったのか……とにもかくにも大丈夫そうだね、良かった。」

「――っ、あ、ありがとう。」

 呆気にとられた様な顔で礼を返すアリサ。

「………そんなに僕が君の事を心配するのが意外かい?」

「っ!?ち、違っ、」

「ふふ。希くんはいちいち遠回しだからね、たまに普通に優しい事されると……ほら、コロッ、と。」

「すずか。人をタラシみたいに言わないでくれるかな。」

 そもそもそんな簡単に女の子が口説ける訳ないと思う。というかツンデレはアリサだ。

「だ、大体希は昨日もすずかと見舞いに来てたでしょ!?問題なんか殆ど無いって知ってるでしょうに!」

「いや、学校に来て悪化した可能性もある事だしね……、」

「あ、チャイム。」

 元はどっかの時計塔の鐘の音だった様な気がする定番の音が会話を止めた。三人各々の席に戻ろうとする。そんな中僕に言い残す様に、アリサは囁いた。

「――――本当に、たかが骨の一本や二本が折れただけなんだから。そんなに気にしないで。」

「………。」

 見透かされてる、か。

 後ろ姿から判る程真っ赤になって自分の席に着くアリサを眺めながら、僕は肩を竦めて机から教科書を出した。

――――。

 アリサは時間が進むに連れ不機嫌になっていった。昼休み、例によって三人で屋上に行くと、周囲に他の人がいない事を確認すると吐き出す様に次々と喋り始めたんだ。

 曰く。

「何よあの腫れ物を触る様な態度はっ!?ちょっと骨折しただけなのに話し掛けるだけでおどおどして、言いたい事があるならはっきり言いなさいよっ!だいたいいつもなら他人の骨折を凄いとか言ってはしゃぐ連中までびくびくして、私はそんなに怖いわけ!?ていうか涙目で『手伝おうか?』ってそんな私が泣かせたみたいだから困るんだけど!」

「あ、アリサちゃん――、」

「――実際ちょっと怖いよぉ、だって。」

「………す·ず·か?」

「ち、違っ!?希く~ん……。」

 まあ冗談は置いておいて。

 お姫様はクラスの子達の対応にご不満があるらしい。確かに骨折程度の対応にしては大袈裟だけど、でも…………ってちょっと待て。

 もちもちとしたすずかのほっぺたを伸ばしているアリサを止めてみる。

「何よ。」

「いや、気持ちは判るけど、八つ当たりですずかを苛めちゃ駄目だよ?痛そうにしてるじゃない可哀想に。」

「ってそれ希くんが言う台詞じゃないよね!?」

 涙目のすずかはスルー。スルーって言ったらスルー。

……全て僕のせいと言えなくもないけど、スルーだ。

 よくよく考えれば小学三年生が『腫れ物に触る様な』なんて大人の対応をする訳がない。では何故かというと、誰も自分から進んで窓枠に叩き付けられたくはないからそういう対応をとっているだけ、………下手を踏むと数日前に僕がした行動をアリサもするかも知れないと怖がっているんだろう。それまで僕は人畜無害で通ってた訳だし。だから今アリサに対する周囲の微妙な反応も僕のせいと言えなくもない。

(うん、でも、こういう経験を積み上げていって人は成長するんだよ。だから僕はむしろイイコトをした。)

 そんな感じで責任回避的な事を考えながら、

「いい加減食べようか。」

 昼食にシフトする事にした。

 屋上の床にシートを広げ、座る。胡座だと食べ辛いので膝を崩す。すずかは正座、アリサは所謂女の子座り。この辺性格が出てる気がする。

 と、すずかがこっちをじっと見ているのに気付いた。さっきまでの恨みがましい目がまだ続いている訳ではなさそうな雰囲気の視線。

「どうしたの、すずか?」

「いや、そうやって座ってると希くん妙に色気?があるよね、と思って。」

「あー、確かに。下手な女の子より女の子っぽいわ。」

「………。」

 どう答えろと?

―――まあ、偶然か必然かは知らないけど僕はなのはスペックだからね。髪は栗色だし体格も成長期前とはいえかなり華奢。顔のパーツは確かに美形と言えば美形だけどその方向性は可愛らしい女の子のもの。男子に告白されて殴り倒した事があるのはいい思い出で。

 返答に困ったのでまたスルーして弁当箱を開けた。

 お握りと卵焼き以外は冷凍食品と適当に野菜を刻んだり焼いたりしたものを放り込んだだけの何の特色もない弁当。親がいないから自分で作ってるんだけど、別に一人暮らしだからってそこまで料理がうまい訳でもない。

 それに引き換え二人のお嬢様の弁当は……、

「ぅん?」

 何か傍でアリサが困っていた。別に開けた弁当に変なものが入っていた訳ではなく、職人のこだわりが感じられるブルジョワなランチボックスだ。

………箸をきちんと使わなければ食べられないような。

「ああ。」

 アリサの右肩のギプスを見て納得する。左手では箸を持てないけど、かといって具に箸を刺すみたいな食べ方はお嬢様としてできないんだろう。

 それにしても作った人は気を利かせてサンドイッチとか左手だけでも食べられる様にしなかったのかな。アリサに訊くと、ちゃんと使用人はそういう弁当を作っていたけどその為にいつもと違う弁当箱だったから別の人のと間違えて持ってきてしまったとの事。

「うー………。」

「アリサちゃん……。」

「………む。」

 この時期に昼食抜きはきつい。どうしたものかと唸るアリサに、僕は取り敢えず、

「はい、あーん。」

 自分の箸でアリサの弁当のベーコン巻きを取って彼女の口元に持っていってみた。

「「「……………。」」」

 沈黙。あれ、スベった?という危惧は、しかし直後否定される。

「な、なななななんむゅっ!?」

「希くん、何をっ!?」

「おいしい?」

「……ごくっ。おいしいわよ。じゃなくて、希!?」

 微妙にキャラが違う気がする叫び方のすずかを他所に、驚きから迂闊に開けられたアリサの口におかずを入れた。

………冗談のつもりだったのに顔を真っ赤にして可愛らしい事で。

 こんな事彼女でもない女性にやったら次の日からその子とは口を利けないのを覚悟しなきゃいけないけど、この歳ならまあ微笑ましい光景で済むよね。自分で言うのもなんだけど。

「うん、良かった。じゃあもう一回あーん。」

「~~~っ、あ、あーん。」

「希く~ん!!アリサちゃんも乗せられないの!」

「すずかもやる?」

「え………っ?あ、いや、それならいいの、かな?」

「って希!さりげなく私のお弁当つまみ食いしてるんじゃないわよっ!」

「あ、ばれた。」

「………ほっ。」

 楽しい楽しいお弁当タイム。この後アリサがどう食べたって?ご想像にお任せしよう。

――――。

「はあ………。」

 夕方。ジュエルシード探索に士郎さんと歩いていた僕は、ぼうっとした息を吐いた。

「どうした希くん。」

「いえ。今日学校であった事を思い出してまして。」

 あの『あ~ん』を他の生徒に見られていた事とか。

 それで朝の態度などコロッと忘れた様に騒ぐ悪ガキとか耳年増とか。

 その子達の囃し立てに、恥ずかしさのあまり遂に真っ赤になって怒鳴り散らすアリサとか。

 それでも静まらない、というかより加速する子供達をすずかが笑顔で威圧して撃沈させた事とか。

―――なのはがいない日常が、回り続ける。『キャスト:高町なのは』がいる日常が、回され続ける。

「これが……『日常』なんでしょうね。」

「さあ、だな。」

 肩を竦める士郎さん。その後、ぽつりと漏らす様に語り始めた。

「俺は、駄目な父親だよ。」

「………。」

「こうして希くんと歩いていると、恭也と武者修行とか行ってあちこち連れ回してた頃を思い出す。これは言い訳にもならないが、自分の子供の愛し方も知らなくてな………学校を何度も休ませて、剣を教えてからかって振り回して。結果あいつには友達の一人も出来ず、無愛想で朴念仁で女泣かせの鈍感野郎に。当然だな、学校に行って沢山の人と触れ合う事もそれだけの価値があるんだ。」

 それは、一人の男の、決して生き様とは言えない今までの生。

「桃子と再婚して、なのはが生まれて。やっと落ち着こうと思った頃に仕事で大怪我して入院した。一家を支えるべき俺がその時家族全員に迷惑を掛けて、結果構われなくなったなのはは言いたい事も言えないイイコちゃんになった。だから少しの我が儘くらい見過ごそうと思っていて―――――死なせた。」

「っ、それは……っ!」

「君の責任じゃない。君はなのはを放置した事を悔やんでいる様だけど、それは俺が―――俺達高町家こそが背負うべき認識なんだよ。『小さな子供を夜外で遊ばせない』そんな当たり前の事さえ守れていればなのはは死ななかったんだ。………昨日恭也に聞かれたよ。守るってなんなのか、な。」

 先日の恭也さんの、僕の頭を撫でた後に見せた背中を思い出す。あの時彼の心の中では、手段を選ばず守ろうとする僕に対してなのはを守れなかった自分に葛藤していたのかも知れない。

 昨夜士郎さんに言ったそうだ。

―――何が御神の剣士。何が最強の実戦剣術。普通の家族に出来る事もしないで妹を死なせたんじゃないのか。

 返すべき言葉は無かった。共感するだけで実感出来ていない僕に、返していい言葉は無かった。

「………守るって、何なんでしょうね。」

「さあ、ね。」

 結局口から出たのはそんな言葉。恭也さんが言った事を繰り返すだけの問答。

「今日はこの辺にしておこうか。翠屋に行こう、コーヒーは飲めるんだよね?」

「………はい。」

 士郎さんは切り上げを宣言した。僕の体力に余裕がなくなった訳ではないのは明らかだったけど、気付かないふりをする。

 なのはが死んだのは、誰もが悪いと言えるし誰も悪くないとも言える。だけど、当事者達にそんな慰めは全く意味が無いんだから―――。




[8045] JAP
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/08/15 01:41
 何故………。

 地力で劣る事なんか分かり切ってた。真っ当な訓練を受けてきたフェイトと毎回ぶっつけ本番な僕じゃ全てにおいて話にならない。だからこその策謀。だからこその作戦。その筈、だったのに。何なんだろう、この差は。

 只でさえ薄い相手のバリアジャケットはボロボロ、特に右手は見るのも憚られる程に直接焼け爛れている。対する僕は、所々が裂けて血が滲んでいるけどその程度。でも、今しっかりと滞空しているのはフェイトで、悲惨な右のその拳で殴り飛ばされているのが僕。

 何故。どうして。立て直さなきゃいけないと分かっているのに、そんな疑問ばかりが頭の中でぐるぐるしていた―――。

<Interlude:side Fate>

「この、役立たずがっ!!」

「くぁう……っ!?」

 ひゅん、と空を裂いた鞭が何の防備もしていない躯を打つ。打たれた場所が、熱を持ってココロを圧迫する。

 地球に降り立って一週間、集められたジュエルシードはたったの一個。猫に寄生していた分を確保しただけ、他にも発動を何度か察知したけど……すぐに向かう暇なんかなくて現場に着いたらもう回収された後だった。

 ケーサツの相手だけで一杯一杯だった。青い制服を着た人達ならまだしも背広を着た人達は数が多すぎてどの人がそれかなんて判らないから、なるべく大人の人と会わない様に動くしかなくて、それでも何処からか現れて逮捕しにやって来る。家に帰れないからホテルに泊まった時なんて、寝て朝起きたらドアの前にお兄さん達が居た。お金はあっても迂闊に施設を使えない。そんな中逃げ続けていたらいつの間にか『公務執行妨害』とかいう罪状まで増えて、この三日は路地裏でゴミに埋もれながら眠るしかなかった。

 寒くもないのに、夜は体が震えっ放しだった。何度も警察の人達をぼこぼこにすると息巻くアルフを抑えながらも、怖かった。淋しかった。

 犯罪者になるって事の本当の意味を、知った。一度手を差し伸べてくれたお婆さんが、わたしたちが犯罪者だって知った時虫けらを見る様な目に変わった事が忘れられない。母さんの為なら、何でもやるという気持ちに驚く程あっさりと罅が入る。悪い事をするって事は、その社会全てを敵に回すという事なんだ。

 そんな中ジュエルシードの発動を察知しても、最終日なんか体を動かす気力すらなかった。それに、同じ様にジュエルシードを集めてるナノに遇う事が怖かった。わたしは犯罪者。あっちが多分正しい。そんな事と鼻で笑ってあの子を叩き伏せる事は………出来そうにない。

 それよりもとにかく、居場所が欲しかった。だから一週間毎で報告しに帰って来いと言われていた事だけに希望を持って時の庭園に帰って―――、

―――待っていたのは何時も以上の罵声と虐待。

 何でたったの一個なの。ごめんなさい。そこまで無能だと思わなかったわ。ごめんなさい。見てるだけでも本当に気分が悪くなる。ごめんなさい、ごめんなさい。

 何時もなら優しかった母さんがいつか戻ってくるって、今はちょっと調子が悪いんだって、そう思える筈なのに。よく判らない思いがお腹の下に澱む。ふと、昔の母さんの思い出が頭を過った。

―――ア……シ…、ご本を読んであげる。

―――……リ………、ご飯の時間よ。

―――行ってきます。いい子にしててね、………シア。

 何時もなら心が暖かくなって支えにもなってくれるそれが、異様に神経にざらつく。全て思い出せる楽しかった記憶が、何故か砂が掛かった様にぼやける。

 違う。違う。気持ち悪い。なに、この気持ち悪さ。

『分かってるんでしょ?』

(違うっ!!)

 気持ち悪い。

 何が違うのかも判らないまま、只気持ち悪さだけが増していく………鞭で叩かれる痛みさえ、感じられない程に。

「フェイト、どうし………………っ、プレシアあぁぁぁっっ!!」

「あら、駄犬。ここはペット禁止よ。」

「ふざけるなっ!!オマエ、自分の娘じゃないのかい!?何でそんな風に………っ、」

「あ、る……ふ…?」

 何か母さんに叫んでるアルフがいた。関係ない。今はこの気持ち悪さを何とかして欲しい。なんかしんどいけど、手も動かして這っていく。ぎゅっ、て抱きしめてもらえたら、この気持ち悪さも無くなるかも知れない。

 ずるずる這う。もうちょっと。もうちょっとがんばれば、アルフに抱きしめてもらえる。

「――――ああそうだ、いい事を思いついたわ。こんな鞭なんかじゃ足りないから、フェイトはジュエルシード集めを怠けたのね。だったら………。」

「―――なっ!?」

 どかん。

 わたしのうえをぴかぴかしたむらさきがとんでいって、あるふにあたった。

 あるふ、まっかっか。あるふ、たおれる。

「……………………………………………………………………………………………………………………………え?」

 あるふが、うごかない。

 アルフが、死んで、る?

「………アルフ?」

 冗談。嘘。見間違い。夢。そんな何かを期待して、後ろの母さんを見上げる。

 ざまあみろと、笑ってた。

―――もう、仕方のない子ね、ア…シア。

―――ほら、こっちにおいでアリシ…。

 びしり。びし、びき。

 記憶が欠け罅割れる。違和感が爆発する。でも、違う。違う!母さんはそんな嫌らしい笑顔はしない。誰かを殺して笑ってたりしない。そうだ、目の前の母さんは、『わたしの母さん』じゃ―――――、

『認めちゃえばいいのに。』

(違うっ!この、母さんは、にせものなんだ!)

『虚しい言い訳だね。自分で自覚してる辺りが特に。』

 何時の間にか、母さんの後ろに女の子が立っていた。わたしにそっくりな女の子。その、全てを見透した様な目で笑う。嘲笑う。

『知ってるくせに。あなたの目の前にいる女が正真正銘あなたの母親。』

 やさしい母さんこそが、にせもの。

『それともこう言った方がいい?「プレシアじゃなくて、あなたがニセモノなんだ」って。』

―――ああ、愛しい『アリシア』。

 ぶちん

 決定的な何かが、壊れる音がした。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」

 に せ も の

――――。

「っあ……!?」

 頭を何かで思い切り殴られた様な衝撃で目を覚ました。落ちそうになる体と浮かび上がる意識。条件反射で周囲の状況を確認する。

 海鳴近くの山林地帯上空。温泉、とかいうのが近くにあったと思う。なぜいきなりこんな所に、―――いきなり?違う、途切れ途切れに記憶があった。

 あの後、叫び出して止まらないわたしを母さんは鬱陶しがって地球に転送した。

 慰めてくれるアルフもいなくなって、唯廃ビルの隅っこでぼうっとしてた。

 ジュエルシードの発動を感知して、なんとなく体が動いて、気付いたらそこまで飛んでいた。

 そして、封印作業中のナノと遭遇、交戦。

(っ、ナノ―――!?)

「……やれやれ。随分と元気そうだね。一週間ぶりかな、フェイト?」

 弾かれた様に顔を上げると、やっぱり白いバリアジャケットのあの男の子がいた。

「しかし、いきなり攻撃してくるなんて正気?封印作業が終わってたからいい様なものだけど――、」

「フォトンランサー。」

「っ!?チッ、訊くまでもなく正気じゃない、か。追い詰め過ぎた?ディバインシューター!!」

 何か言っているみたいだけど、聞き取れない。耳を澄ます前に、わたしの身体は勝手に魔法を紡いでいたから。

 ピンクと金の魔力光がぶつかり合う。いくらか打ち勝ったピンクのそれが抜けて来るけど、既にそこにわたしはいない。高速移動魔法でナノのすぐ右に現れバルディッシュを振りかぶる。がき、と嫌な金属音を立ててナノのデバイスとぶつかった。

「封印してるとはいえジュエルシードの近くで……っ、こんな都合の悪い事ばっかり原作通りってのもどうなんだろうね!」

 相変わらず何を言ってるのかも聞こうとしないまま―――ナノも多分それを承知して半分くらい一人言なんだろうけど―――身体が魔力を更に込める。バルディッシュを斧から鎌に変型、迫り合っている先から垂直に伸びる魔力刃がナノを貫こうとした、けどそれに反応したナノが飛行魔法を切って下がる事で空振る。

 そのまま前と同じ様に林の中に降りようとするのを阻止する様に下に回り込む。

「く………っ。」

 足に生えた翼の様な飛行魔法で、距離を取ろうとするナノ。でも甘い。速攻で追い付いて鎌を振るう。ナノは前に杖を突き出すけど、鎌の捌き方どころか接近戦自体心得が無いらしいナノは受け損ねる。脇腹から、血が跳ねた。

――――何でだろう。アルフが死んで悲しい筈なのに。自分が偽物で何もする気が起きない筈なのに。人を傷付けるのが、あんなに怖かった筈なのに。

――――――ナノの目を見てると、そんな身体を無理矢理動かされる様な感じが湧いて来るのは。

「はあっ……はぁ、く……っ!」

 それしかやりようが無いのか、必死になって離れようとする相手にぴたりと張り付き休む暇も無くバルディッシュを振るう。白いバリアジャケットは時間を追う毎に綻びが増え、赤く染まる。

………そして、時間を追う毎に増える傷は小さくなっていく。

「やっと、見えた。―――――そこっ!!」

 今度は高く響く金属音を立てバルディッシュが弾かれた。順応が途轍もなく速い?それまでのパターンが崩されたわたしは一瞬停止し、その隙にやっと離れたナノに光球の弾幕を喰らう。

 プロテクションでやり過ごしながらも幾らか被弾するわたしにナノは、次の手を―――、

「一か八か、だ。レイジングハートッ!!」

『All right. "Full armour protection" get ready.』

「…………っ?」

 追い打ちのチャンスだったのに、ナノが選んだのは防御魔法。しかも通常のプロテクションの上から装甲の様な防壁が取り巻き、中のナノの姿が磨りガラスの様にぼやける、多分わたしが全力で撃っても抜けない様な強固なバリア。

「自業自得。どうせ暴走させるのならこっちでタイミング取った方がいいからね!」

「っ!?まさか――、」

 猛烈に嫌な予感がしてナノが封印してそのまま宙に置き去りにされていたジュエルシードの方を見る。さっきの弾幕の一部が逸れて―――逸らされて、当たろうとしていた。

 ジュエルシードは高密度魔力結晶。内包する膨大なエネルギーは不安定で一度解放されれば甚大な被害を巻き起こす。そんなものに、ナノの高威力の魔力弾が命中すれば。

「きゃああああああぁぁぁぁ―――っ!!!」

 わたしの体は、あっけなく解き放たれた青の閃光に飲み込まれた。

<interlude out>




[8045] LEVEL4
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/08/15 01:33
「………ッ!」

 防御魔法が物凄い勢いで削れていく。ロストロギア『ジュエルシード』の暴走により解放されたエネルギーを至近距離で受ければこうなる、か。人里離れた山中なのが不幸中の幸いか否か、結界すら張ってないんだ………温泉旅館の宿泊客や従業員はほぼ間違いなく巻き込まれたかも知れない。毎年、なのは達と行っていた温泉旅行で顔を合わせていた人達が。

 ギリッ。

(考えるな………っ。)

 僕は引き金を引いただけで、どうせフェイトのせいで暴走は確定していた。そうする程にフェイトを追い詰めたのは誰?いや違う、そもそもフェイトがいなければここまでの苦労を、

――――オ前ハ配役<キャスト>ノ分際デ物語<セカイ>ニケチヲ付ケル気カ?

(考えるなッッッ!!)

 今一番に確認すべきはフェイトとジュエルシードの状態。そう、最終的に複合装甲防御魔法の装甲部分を半分程破壊した青白い光が収まった後に見え始めた、ボロボロになりながらも宙に浮いてこちらを睨んでいるフェイトとその悲惨な右手に握られている封印されたジュエルシードを――――、

「え……?」

「――――初めに君の事が不気味だと思ったのは、わたしにとって痛い事実ばかりを押し付けて攻撃してくるからだと考えてた。」

 何度目を疑っても始まらない。そこにいるのは、確かにバルディッシュは破損して待機形態なものの、それでも五体満足でいるフェイト。前回やさっきまでとは明らかに違う激しい光をその視線に込めて。その光に気圧され、僕は居すくんだ。

「違うんだ。君の目がどうしようもなく苛付くんだ。何故?―――どうしようもないものがこの世界にあるんだって気付かされてやっと分かった。君のその目にあるのは、悲しみと、『諦め』なんだって!」

「……っ!?」

「わたしは違う!違いたい、違わなきゃいけない!!君に何があったのかは知らない。でもわたしは君を超える、だってこうなってもまだ母さんが好きだから。」

「、やめろっ!!」

 不吉な予感。フェイトの言葉に胸の中が痛い程に跳ねる。これ以上言わせちゃいけないと咄嗟に叫んだ言葉は無意味。

「偽物だけど―――――――それでも、わたしは!『道化の鋳型人形<キャスト>:アリシア·テスタロッサ』なんかじゃないんだから!!」

「――――。」

 目の前が、真っ白になった。

 フェイトが動く。こちらに向かってくる。それが早いか遅いかを感じる事すら出来ずに、気付けばフェイトは僕の直ぐ前で右の拳を振り被っていた。そのまま振り下ろされる。レイジングハートの自動防御は、さっきの防御魔法に内容魔力まで使っていた事が仇になって発動しない。頬を衝撃が襲う。バリアジャケットの薄い部分のフィールドを突き抜けた殴打は、僕の体を一度で後ろに引っ張った。いや、落ちる。墜ちている。空が遠くなっていく。

 動け。この一撃で余力を使い果たしたのか滞空しているフェイトは姿勢を崩した。僕のダメージなんてこのパンチ一発だけ、骨にイった様子も無い。今ならフェイトを倒せる。それでジュエルシードも取り返して、全て終わる。その為の作戦。その為の策謀だった。

 その、筈なのに。僕の体はぴくりとも動こうとはしなかった。

―――全てを物語と認識し、何かに共感する事でしか動けない僕は。

 くすくす。くすくす。なのはの嘲る様な笑い声が聞こえた気がして。

―――そもそも、『動きたいと願っている僕は存在する』のか?

 自分は誰かのキャストにはなりたくない。今になって考えればある意味僕と似た境遇のフェイトは、でも僕の存在理由から否定する答えを叩き付けた。

―――共感『しか』出来ない。そこに自分自身が一片でも存在していると言う気か?

 揺らぐ、揺らぐ。

―――ナア、ドウナンダ『キャスト:高町なのは』サン?

「『僕』は……っ!?」

 答えを出せないまま、僕の体は森の中に吸い込まれ、地面に叩き付けられた衝撃で意識を閉ざされた。

 墜ちた。

<Interlude:side Suzuka>

 希くんが、帰らなかった。

 昨日の夕方、希くんはジュエルシードの発動を察知して山の方へ飛んで行った。本当に空を飛んだから、誰も付いていけなくて初めて一人で行かせたらしいけど、無茶しないって言ってたしアリサちゃんに怪我させた女の子も最近出ないようにしてあるって事だから大丈夫、そう信じてた。

 そんな時、世界が揺れた。

 『地』震なんて生温いものじゃない。重力が掻き乱され、風が歪み、空間が至る所で弾ける、そんな揺れ。次元震―――希くんが何度も強調する様に言ってた単語がその時わたし達の家にいた全員の頭に浮かんだ。

 希くんが言い残した言葉に拠ると、今回発動したジュエルシードはたった一つ。それがこれだけのものを生むんだから、それが二十一個もあれば確かに世界が滅ぶと言われても納得出来るもの。

―――そこまで考えて、最悪の可能性に思い当たった。

 希くんが止めに向かってから起こった、希くんが止めに向かったジュエルシードが起こしたと思われる次元震。それが何を意味するのか。

 封印に失敗、完全に暴走。または封印しに行く途中で次元震が起こる。どちらにしても希くんは至近距離であれを受ける事になる。

「希くん、どうか無事でいて……!」

 ノエルやファリンが屋敷の崩れたり落ちたりした調度品の片付けに走り回る中で、する事が無いわたしは祈るしか出来なかった。

――――。

 翌朝。テレビに映っている街の様子は酷かった。古い家は倒れ、火が回り、店の中は棚が全て倒れて荒れ放題。アスファルトはいくらか崩れ、下水が噴き出している所もあった。見慣れた街並みが、壊れている。誰かが、壊した。何百人も死んだらしい。怪我人なんて、もっと。知ってる人が、どれだけ巻き込まれたんだろう。これが、ジュエルシード。これを、自分の為に使おうとして引き起こした人。こんなものと、戦い続けた希くん……!

「早く、お姉ちゃん!希くんを探しに行こう!!」

「だから待ってってば、すずか。恭也達と合流してから……。」

「うぅ~っ。」

 もう六回目のやり取りを終えて拳をぎゅっと握る。テレビではもうこの『地震』の名前とか政府の対応とか地震波について奇妙とかそういうどうでもいい話に変わってた。

 希くんにはお姉ちゃんが念のため発信器を付けてる。だけど絶縁機能の付いたバリアジャケットを装着すれば反応が途切れるし、海鳴市外に出ちゃったら曖昧にしか探せない。今はその両方の状況。

「逆に考えて。発信器の反応が無いって事は、希くんはバリアジャケットを着てるって事でしょ。理論について聞く限りだと生きてるって事だと思う。」

「でも、動けなくなってるかも知れないんだよ!?希くん無事だったら絶対連絡くれるもん。」

「あーもー………って、あ、恭也来た。」

「―――――忍っ!支度は出来てるよな、希君探しに行くぞ!!」

「ブルータスお前もか。」

…………。

「希くーん!!」

「希君っ、いたら返事するんだ!」

 郊外の山の中。黒っぽい土とわたしの腰まである草、何より場所によっては十五メートル先が見えない様な木々の密集。希くんの発信器の反応が途絶えた辺りを捜す。

 山歩き、それも『地震』直後の崩れる危険がある山なので(わたしは無理に付いて来たけど)アリサちゃんと桃子さんは来てない。本当は士郎さん達も翠屋が大変な事になってる筈だけど、希くんの為に一緒に捜してくれてる。公機関は震災の対処に手一杯で山の中の遭難者に人を出せないから数が増えるのは助かる。

「希くん………っ。」

 それでも焦る。なのはちゃんが死んで全然経ってない、希くんまで死ぬなんて嘘。絶対に嘘じゃなきゃいけない。頬を木の枝が切るけど気にしないで藪を突っ切る。髪が泥だらけになるけど気にしないで突き出した太い蔓をくぐる。今着てるジャージなんてボロボロで二度と使えない様。でも、

「っ、見つけた………っ。」

 窪地になって濁った水が溜まっている所に座り込む様にして、希くんはいた。

「すずか……?」

「希くん、良かった!早く帰ろ、ね。」

「汚れるよ。」

「いいから。今更だし―――、っ!?」

 力が出ないのか、どこか怪我してるのか、へたり込んでる希くんを引っ張り上げようとして目が合う。息が、止まった。希くんの目にいつもの悲しくて寂しくて、でもその分だけ深く静かな光が無い。暖かくて優しい、わたしの大好きな光が無い。

「…………………ねえ、すずか。君、吸血鬼?」

「――ッッッ!!!?」

 そして、ふと思い着いた様に出た問いが、わたしを完全に凍らせた。

<Interlude out>




[8045] Ignited
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/09/16 16:32
 僕が口に出した瞬間、すずかの顔がさぁっと青褪める。反射的に彼女は後退り、泥に浸った木の葉を踏んだ。ぐぢゃ、と不快な音が鳴った。

「なんで、それ…を………っ?」

 ひゅう、と整っていない息がこちらまで聞こえて来る。すずかの額を流れる汗は、山歩きしたからというだけじゃないんだろう。

 夜の一族。月村家がイメージ的に吸血鬼に相当するそれだとは『魔法少女リリカルなのは』の中では明言されていない。大元の原作である『とらいあんぐるハート3(すずかは存在していない事になっている作品)』で忍さんがそうであるとなっているだけで、パラレルの世界観である此所ですずかが人外の存在であるとは限らない。

 故にまず確認。何故かと問われればなんとなくとしか答えられない。

―――『なんとなく』ですずかを傷付ける?

「どうして、知ってるの……!?」

「知っているから、としか、答えられない。」

―――待て、『なんとなく』で何を言おうとしている?

 僕は………。

「そうだね。全部僕は知っていた。理由なんか何でもいい、どうせこれだと断言出来るものなんかない。」

「……っ?」

「うん。――――すずかが『そう』かも知れないって事も。ジュエルシードがこの世界に降って来るかも知れない事も、その結果なのはが魔法に関わるだろうって事も何もかもッ!」

 力無く座り込んだままの僕にすずかは更に後退る。ずっと抱えていた秘密を平然と知っていたと言って、傷付けている。

―――そんな事までして、何を望んでいる?

「幼児の時から、世界は『知っているもの』で溢れていた。その再認を追うに連れいつの間にか自分の身の回りの日常の記憶が『経験』じゃなく『知識』になり始めた。………僕自身を含めた全てのものが、物語としか思う事が出来なくなった。」

 顔を、少しだけ上げた。目が合ったすずかの体がびくっと震えた。

「―――なのに、とっくの昔に手遅れになってるのに、初めて『知らないもの』が出てきたんだ。僕はなのはが魔法の力を使いこなしてジュエルシードから街を守るのを『知って』いた!この事件が結局めでたしめでたしで解決すると『知って』いた!けれどなのはは死んだ、主人公補正なんて鼻で笑い飛ばして餌以下のモノとして簡単に逝った!!残ったのは、現実<リアル>の感情を理解出来ずに徒に被害を増やしてこんな所でヘタれてる劣化した『キャスト:高町なのは』。『知る価値すら無かった』筈のスペックだけの彼女のデッドコピーさ。」

 次から次へと口を突いて出る言葉。それがここまで来て、やっと自分で言いたい事を理解出来た。その無様さに、嘲えた。

「ねえ、教えてよすずか……。そんな『僕』は、一体『何』?」

 僕は、答えが欲しいだけなんだと。

 それが分かったら、その答えが与えられる事なんて期待していなかった。出来る訳なかった。だってそう、自分自身で解らない問題を、設問文すら知らない相手にどう答えろと。

 だったら慰めて欲しいのか。ますます有り得ない、自嘲家気取ってさっきから吐いている言葉のどれだけがすずかを傷付けているか。

 なのに。

 木漏れ日と呼ぶには弱い枝々に弾かれた光が、足元に淡い影を落とす。それが膨れ上がったと思った瞬間。

「あなたは、『竹内希』じゃないの?」

「え………っ?」

 包み込んだのはバリアジャケット越しでも確かに判る温もり。

―――汚れるよ。

―――いいから。今更だし。

「希くんが何言ってるのかは全然分からない。だけど、自分のことをデッドコピーとか劣化したなのはちゃんだとか言っちゃだめだよ!私は希くんが優しい人だって知ってるんだから!!」

………全然的外れな事を言われた、その瞬間はそんな風に考えた。況してや僕が優しいとか、僕がフェイトにした事を知らないんだとも考えた。

 だから、続く言葉に咄嗟に答えられなかった。

「だって、なのはちゃんが死んだの、一番引き摺ってるの希くんじゃないっ!」

「―――――っ!!」

「そういう事なんじゃないの?なのはちゃんが死んだ次の日、涙が出るくらい怒ったのも、これ以上誰も死なせたくないって戦う事を決めたのも!!」

 そう、なのか?

 疑問がぐるぐる回って、心の底に納得として定着する。

 共感とか、同情とか。何時もの『言い訳』は役目を為さなかった。

―――結果として、なのはの死に怒り、泣いた『自分』がいたのは事実。

―――そして、状況がそうだとしか思えなかったとしても、すずかの言う様に無自覚になのはの死に重圧を感じていたのだとしても。

 『キャスト:高町なのは』を背負うと決めたのは僕自身なんだから。

 こんな当たり前過ぎる事に今更気付いた自分にまた自嘲しそうになる。それを止める様に、僕を抱き締める力が強まる。

「ごめん、ね。」

「え……?」

「こんな風に落ち込むまで、希くんが、無理…してるって気が付かなくてごめんね……っ。」

 顔は見えない。だけど、その涙声から優しいすずかが泣いているんだって判った。

「そして、ありがとう。」

―――守ってくれて、ありがとう。

「、っく…………!」

 その言葉を聞いた瞬間。僕の視界も涙で曇った。すずかに釣られてじゃない。

 ただ、命を懸けて戦って、守った人に礼を言われた、そんな当たり前の事がどうしようもなく嬉しかったんだ………。

――――。

「すずか、希くん見つかった?」

「行ったよ。多分もう大丈夫。」

「………そう。」

「ねえ、お姉ちゃん。全部終わったら、パーティー開こう?主役は希くん。お疲れ様っていっぱいもてなすの。」

「いいわね、それ。でも珍しいじゃない、すずかがそういう事言い出すのは。」

「だって、希くん私が夜の一族だって事知ってたんだよ。落ち込んでたから追及は先送りしたけど、そのぶん其処でとびっきりの『契約』結んでもらうんだから!」

「……あははっ。さっすが私の妹!」

―――そう。だから、絶対無事で帰ってきてね、希くん……。

――――。

 海鳴市に吹く潮風の薫りに煙ったいアスファルトの空気が混ざる。震災の爪痕冷めやらぬどころか災害の明けた次の日で、まだ立ち直りどころか被害を実感すら出来てない街に追い討ちを掛ける様に、現れた巨大樹。

 昨日の次元震でジュエルシードが発動しやすくなっているのか、見渡すと頭に魔と付けても文句は出ない様な犬と鳥も見える。

 ヒトを丸々喰らいそうな体躯の二体はそれぞれ自由気儘に動き回っては目に付いたもの全てを壊し回っているけど、何よりも巨大樹の根が延々と伸びて這いずり回り、地面そのものを呑み込んでいっているのが一番酷い。ビルもあっさりと追い越し、無限に生長する姿は何処ぞの光の宇宙人の敵役にこそ相応しい。

 勿論ここに究極の超人はいない。居るのはヒーローにはなれそうにもない自分本位の魔導師一人。

 それでも、十分過ぎるよね石屑共―――?

『Devine baster.』

 桜色の閃光が、樹の核を根刮ぎ撃ち砕いた。

「………人はそれぞれ自分の役割を背負って生きている。全ての出来事はその繋がりの中で始まり、そして終わるんだ。」

 封印した巨大樹のジュエルシードを叩き込む様にレイジングハートに格納する僕の姿を認め咆哮する魔犬と魔鳥。

「それは何処だって変わらない当たり前。人が人として社会を、世界を形作っている限り。」

―――例えそれがアニメの世界だったとしても。

 破壊を撒き散らしていた樹を一撃で消滅させた相手を脅威と見たのか、二匹纏めて掛かって来る。

「だから、いつだって世界は『こうなるべくしてなった事』ばっかりなんだよ。」

―――なのはの死もその一つ。今度こそ認めよう、なのはは死んだんだって、心の底から。

 ディバインスフィア、一斉起動。

「それに立ち向かうのも逃げるのも個人の自由。」

 一直線に滑空、突撃してくる魔鳥に向けて消し炭一つ残さない魔力弾の洗礼を浴びせ掛ける。視界を埋め尽くす弾幕に、断末魔すら掻き消された。

「自分勝手な悲しみに関係ない誰かを巻き込むのだって、それこそ構わないんだ。」

 魔鳥の撃破を確認した僕の後ろで膨れ上がる気配。空中に居る僕の所まで、論外の跳躍力を以て跳んだか。

「――――それが自分の選んだ役割<キャスト>なら!!」

 だけど、原型が犬である以上そのカテゴリを外れる動きは出来ない。鋼の様な牙の届くその下方へと潜り込むと、レイジングハートを腹に押し当ててディバインスフィアを零距離で起爆する。裂けて露出したジュエルシードを抉り出す。

「だから僕は、竹内希として『キャスト:高町なのは』を貫こう。」

『Juel Seed serial No.III,VII,XIX receipt.』

 三つのジュエルシードの封印完了を知らせたレイジングハートを背後に向ける。闇夜の衣を纏った金色の死神が、宙に佇んでいた。

「―――君が、『キャスト:フェイト·テスタロッサ』である様に。」

「…………互いのを賭けるとかせこい事はもう言わない。殺してでも君の持っているジュエルシード、全部奪い取るッ!」

「上等、魔法少女リリカルなのは<甘ったる過ぎて反吐が出る程優しい時間>はもうお終いだ。さあケリを付けよう、フェイト·テスタロッサァァ――ッ!!」

―――互いに譲れないものがある。互いに証明しなければならないことがある。

 想いを乗せた桜と金の魔力光が、ぶつかり弾けて解れ合った―――。




[8045] Meteor
Name: サッドライプ◆e9e9ef23 ID:dffb9f54
Date: 2009/09/24 07:13
 雷の矢が青空を裂いて飛来する。数はたったの三つ。防御魔法を使う必要も無く二つを身を捻って躱し一つをレイジングハートで叩き落とす。

「君相手に弾幕戦をする趣味は無い。もらった……ッ。」

「見飽きたんだよ、そのパターンは!」

 声が聞こえたのは背後。高速で接近したフェイトに対し僕はこちらから踏み込んでバルディッシュの振り上げを封じつつその勢いのままフェイトの頭に膝を入れる。高度的に僕の方が僅かに高かった為に近接戦の能力が低い僕でも可能だった。

 子供の蹴りにバリアジャケットを抜く力は無いけれど、伝わった衝撃はフェイトの頭部を揺らす。狙い通り意識がブレたらしく動きが鈍ったフェイトに、ディバインシューターを撃ち込みながら後退する。かろうじて防御するフェイト、翳した盾は砕け散り被弾―――、

「そう言わずに。付き合って欲しいな!!」

「………。」

 わざと、か。

 肩を射たれた痛みで頭部のショックによる朦朧とした意識を回復し、フェイトは斧形態のバルディッシュでディバインシューターを切り払う。派手な花火の様にその周りで閃光が散った。

 ふと首筋に違和感を感じ隙を見せない程度になぞる。たらりと血を流す裂けた様な傷の感触が指に帰って来た。膝を入れた時の交錯でバルディッシュがギリギリの所を掠めていたらしい。

 互いに何の確認もなく非殺傷設定を解除済み。その中で下手をすればそのままノックアウトになる自傷的な賭けを躊躇わずに実行したフェイト。後数センチ間違えば頸動脈が切られていたかも知れない僕。

 そんな命のやり取りを小学生二人が繰り広げる。この平和な日本で暮らす常人が見れば、まず現実を疑う状況。自分がその当事者の片割れであるという事実。ゾクリ。肌に走る冷気。躯を包むバリアジャケットが氷の衣と化す。

 無意識に歪む、僕の口元。

「―――――『付き合って』は僕の台詞だよ。趣味じゃないところ悪いけど、其処は僕の間合いだ!!」

 新たにスフィアを追加し、魔弾を斉射する僕。

 それに迷う事なく加速、前進、ギリギリでバルディッシュを振るい、体を捻り、躱し切れずに――しかし掠めた程度では止められない強襲するフェイト。

 間合いを空け、相手の動きに合わせて一部の弾丸を曲線軌道にして弾幕に混ぜる僕。

 フォトンランサーを起動し、自分が突破出来る程度に目の前のディバインシューターの群れに風穴を空けて無理矢理突っ切るフェイト。

 それにカウンターを浴びせる様にチャージを短縮したディバインバスターを放つ僕。

 砲撃に背中を焼かれながらも更に加速し、白のバリアジャケットを貫通して袈裟懸けに戦斧を一閃するフェイト。

 走る激痛と出血に耐え、緊急回避魔法で二の太刀を空振らせながら離脱する僕。

 半分以上が消失した黒外套を切り離し薄いレオタード姿で追い掛けて来るフェイト。

 シールドで敵の突撃を受け、衝撃に逆らわずに後ろに吹き飛ぶ僕。

 激突の際その場に置き土産として残したスフィアの爆発を受けながらそれすらも推進力として食らい付くフェイト。

「まだまだ……っ。そんな蝿が止まる様なトロさじゃ撃ち落としちゃうよ?」

「こんな生温い弾で?やれるものならやってみてよ。―――さあ。さあ今すぐッ!私のバルディッシュが君の首を切り落とす前に!!」

 気が付けば互いが互いに付き合っていた。僕がフェイトの機動戦に付き合い、フェイトが僕の弾幕戦に付き合う。そんな二人のオーダーを両立させる、フェイトが追って僕が逃げる鬼ごっこ。逃げる僕が追い付かれても終わりという事は無く、でも事によるとそれよりも更に物騒な遊戯。二人共が凶器をばら撒き、鮮血溢れる傷を作りながら、喰らい合っている。

(仕方ない、そうなるのは当たり前。フェイトが『鬼』なら僕は………………差詰め『魔王』だから、ね。)

 そんな冗談みたいな思考を他所に鬼ごっこは続く。元々は市街上空の遭遇戦だったのが、無意識に被害を拡大しない様にと考えたのか僕達の進行方向はひたすら上へ上へだった。薄白い雲を振り払い、舞い踊りながら桜と金が天空に駆け上がる。

 高度を増す程、感じる冷たさが増していく。逓減する気温?違う。バリアジャケットの損傷による温度調節のトラブル?違う。確かに冷たいけど、寒さなんか全く無い。

 高度なんか今の僕達には全然関係ない。バルディッシュが死の軌跡を描く度、魔弾が牙を立てて襲い掛かる度、躯の奥の熱が常温の肌に触れる空気すら液体窒素に感じさせる程に沸き上がっているだけのこと。骨髄がマグマとなって溶け出したかの様に全身を火照らせる。

 ちらりと見えるフェイトの表情も、僕の顔も勿論本当に児戯でもしているかの様に赤らんだ笑み。いや、それにしては些か凶暴過ぎるかな?どうやらこの殺し合いの中で沸々と湧く衝動を共有しているらしい。楽しい、という訳でも気持ちいい、という訳でもない。ただ熱い。命のやり取りが、闘争の駆け引きが、どうしようもなく熱いだけ――――!

「「……ッッッッ!!!」」

 理屈を付けるなら、ヒトが理性の奥底に眠らせた筈の獣の戦闘本能―――いや、僕もフェイトも理性と知性は総動員でこの決闘に注ぎ込んでいるからこの表現も違うかも知れない。それよりも。

 幾十度目かの防御魔法と魔力刃の激突がスパークして僕もフェイトも弾け飛ぶ。鬼ごっこが一旦の硬直を見たのは遥か見下ろす街並みがぼやける程の高空だった。

 当然この硬直は熱が引く事を意味なんかしない。お互い全身の傷からの出血で体温は低い筈。感じる冷気も絶対零度を更に振り切った。それでも顔を見合わせて構える。ともすれば戦わなければならない理由さえ忘却の彼方かも知れない。

 飛行魔法に更なる力を注ぎ、同時に前に出る。この距離では僕が弾幕を張る前にフェイトの刃が届くから。フェイトはバルディッシュを鎌形態に、僕はレイジングハートだけにシールドを纏わせて即席の鈍器に。振り被って。時間にすれば一瞬にも満たない間に、僕とフェイトの距離は零へと―――、

「―――そこまでだ!管理外世界<ここ>での戦闘は、」

「「どけ邪魔だああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」」

 ぐしゃり。ぞぶり。激突の直前に竹内希とフェイト・テスタロッサの中間に突如展開された魔法陣から現れたなんか黒い物体が、振り下ろした杖に変形する程殴り潰され薙いだ大鎌に半ばまで斬り食われた音だった。

 差された水に若干どころでない苦々しさを感じながらも、フェイトに目線を飛ばす。

―――次の手ぐらいあるよね?

―――当然。

「アクセルバスターーっ!!」

「サンダーレイジぃっ!!」

 もっと。もっと、フェイトと。戦え。熱に従いそのまま超至近距離で閃光をぶつけ合う。真ん中にいた黒いのは塵も残らず消滅した。僕達も灼熱の混沌とした衝撃の余波をまともに食らい意識が飛ぶ。

(マズ……っ!)

 ほんの、それこそ紙一重の差。意識を取り戻したのが僅かに遅れた僕が、ライトニングバインドで拘束された。

「さて。此所でジュエルシード全部渡してくれたら、逃がしてあげてもいいけど。」

 不敵な表情で、フェイトが言う。その周りにはさっきまで僕が操っていたスフィアの数倍の雷球。そこからフェイトの命令で千に届く光の矢が襲い掛かってくるんだろう………、

「ふん。答えが一つしかないと知っていて、なおかつ君自身がそれを望んでいて。それでも訊くの、悪趣味って言わない?」

「………くすっ。」

 フェイトが場違いにも和やかそうな笑いを上げた事に気付いたけれど、バインドから抜けようともがきながら僕は叫ぶ。

「白々しい。僕は君に何一つだってくれてあげないよ。ジュエルシードも、僕の命も、世界もっ!ここで君を倒す、この世界を壊す様な真似はさせない。」

「くすくす。まるで正義のヒーローみたいな台詞だね。かっこいー。なら私は悪の魔女かな?」

「何を今更。僕は僕自身の都合で『正義』になる。君が『悪』を選んだ様に。言った筈だよ――――――それが自分で選んだキャストだから!!!」

 フェイトの笑いが僕の台詞を聞く程に深くなっていく。それが哄笑になるまで長くは掛からなかった。

「くすくすくす、あは、あはははははははははははははははははははははははははははははははっっっっっっ!!!そうだよ、それでこそナノだよ!!正義も悪も真実も嘘も、美徳も外道も秩序も無法も常識も狂気も干渉も無関心も饒舌も沈黙も理想も堕落も誠実も横暴も信念も怠惰も、何もかもをさりげなく自分の都合の良い様にねじ曲げてそのくせどうでもいい事で中途半端に悩んでそれらしい答えを見せてそして結局は力で押し通すっ!!」

「それがオリ主の特権ってやつだからね。」

「おりしゅ?は知らないけど。…………でも、ねっ。そんなナノと自分勝手をこうやって命懸けでぶつけ合って。痛くて、苦しくて、そして熱い。熱くて、焼けそうで、肌が裂けそうなくらい冷たい。その冷たさこそが世界!そんな世界に私は一人確かに在る!君と競り合う一瞬一瞬毎に、私が『フェイト・テスタロッサ』でいられると確信するんだ!!」

 ふと、フェイトの笑いが途絶える。表情は相変わらず笑顔だけど、その硝子玉の様な瞳の端から涙が零れ落ちた。右目からだけという歪さで。

「そう。私の人生で一番幸せな事は、君に出会えたという運命の様な偶然なのかも知れない。これから何かの奇跡が起こって私が母さんに愛されたとしてさえ、多分これほどの幸せじゃない。それはアリシアが既にされた事だから。君が私だけのものを刻んでくれるこの熱さ………、っ!」

「…………?」

「ふふ、えへへ、そうか、ああ、そうなんだ!これが恋なんだ。この溢れる想い、恋なんだ!!好き、好き好き好き好き大好きだよナノっ!――――――――――――――――――――だから、あはっ、死んで?」

 途中で何かに気付いて自己完結したかと思うととんでもない結論に達したフェイトは、まるで麻薬中毒者の様に歪な笑顔を更にだらしなく緩ませた。光を湛えないガラスの瞳と片側だけの涙はそのままで。

(あ、悪魔………?)

「もし全部終わって君も私も生きてたらその時は飼ってたくさん可愛がってあげるから。くすくす、うん、それもそれでいいね。取り敢えず。フォトンランサー、ファランクスシフトッッッッッッォ!!!!!」

 寧ろ自分が言われる立場になる筈なんだけどつい出てしまった心の声に返事は当然無く、重装突撃の軍列は全て僕一人を目掛けて殺到した。


 視界を埋め尽くす光の矢が向かって来るのとほぼ同時に、やっとの事でバインドを力ずくで破壊する。

(まさかのヤンデレ乙。けど………、)

 フェイトの言いたい事は分かる。凍えつく世界と沸きたつ自分、相手と魔法を交わす度にそれらが実感として浮かび上がって来る。その熱が恋愛感情だというのはフェイトの幼い無知故の勘違い………だと思いたいけど、確かに僕も彼女と同じものを感じているとはっきり言える。

 ただ。この戦いの一側面を見れば、お互いに自分が自分である事を証明する為の戦いと言える。フェイトがフェイトである証明を。竹内希が竹内希である証明を。特にフェイトについて言えば、さっき言葉端から窺えた様にもう自分が母に愛される事があるとはまるで信じていないらしい。それでもジュエルシードを集め続けるのは自分が自己を貫くという証の為、或いは本当に僕への執着か。

―――どっちにしても、主体性が無いっていうんだよねそういうの。

 帰るという約束がある。守りたい場所がある。フェイトは戦う為だけにここにいる。けど僕は、勝つ為に此処にいる!

「だから、僕は君に何一つ渡さないと……言っているだろうにッ!!」

 臆する暇は無い、全速前進。フォトンランサー・ファランクスシフトは、対象一人に向けるには弾数が多過ぎて一度拡散させてから曲線を描いて収束させないといけない。つまり前進すればする程僕に当たる矢の数は相対的に減る。それでもフェイトの決戦用の魔法なだけあって、腕を腹を脚を肩を胸を抉る様な衝撃が次々と襲うけど、それでも。

 雷弾の雨を受けながら飛ぶ。バリアジャケットの強度に任せた無様で強引な前進。左腕と右脚が悲鳴すらあげなくなった。他にも色々な場所が鈍くイカれてる。肋骨くらいなら軽く折れてるのかも知れない。左目の視界を塞ぐ、赤い液体。それでも。

『Shield bind.』

「……っ!?」

「はぁっ、はぁっ………捕ま…ぇた。今度は、僕の……っ、番、だね。」

 魔力弾の嵐を抜け切って伸ばした右手がフェイトの体に届き、その瞬間僕を中心として彼女よりも更に外側の背後に展開された半球状のシールドに磔にする。触れる程の至近距離でしか使えない代わりに―――シールドである以上当然の事だけど―――ただ頑丈で解除するにもバリアブレイクとバインドブレイクを同時にしなければならない、もともと対アルフ用に考えていた魔法。

「受けてみてよ………ディバインバスターのバリエーション!!」

 磔にされたフェイトを見ながら、レイジングハートに魔力を収束させる。

「これが僕の――、」

 杖とそれを握る僕の腕まで見えなくなる程に渦巻く魔力。

「僕なりの――、」

 大気中の魔力残滓まで掻き集め、桜色の極光とさせていく。

「僕だけの――っ、」

 魔力残滓と言っても、主なものは僕らが今まで駆け上がって来た軌跡に散らばるもの。つまり、地表からだと空に伸びていく粒子で出来た光の塔が現れた様に見えたかも知れない。

「全 力 全 開 !!!!!」

 バインドにより力を注いでいる為に、なのはの様にこの収束させた魔力を砲撃に加工はしない。そもそもこの至近距離でわざわざ砲撃にする意味が無い。ただこのバインドの相乗効果で対一・対人では星光の破撃を超える、『オリジナル』魔法。

「ミーティアライド………ブレイカァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!!」

「――――――っ。」

 収束魔力に与えられたのは軽い方向性だけ。それがシールドに吸い込まれ、暴れ狂い、フェイトの身体を焼き潰す奔流となる。走り抜けて内包する威力を解放してから半球面に沿って後ろへ流れて行って、でも次から次へと注がれる高エネルギーが対象を殲滅すべく牙を立て続ける。

 やがて収束を無くし薄い濃度の魔力となって後方へと解放された光が、推進力となってもはやフェイトの姿を完全に押し隠す程に桜光渦巻く半球と僕を押し始めた。

 ゆっくり。加速。加速。加速、加速、加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速―――――――ッ!

 重力加速度に増して加えられ続ける力が僕達を地表向けて導く。その光景はまるで尾を引いて墜ち逝く流星。

 音速を突破する。生じるソニックブームも、相変わらず注がれ続ける収束魔力も、やがて落着で叩き付けられる衝撃も。全てはシールドバインドの術式により焦点にいるフェイトに集約する。一人を破壊する為だけに、全ての力を一点に。

「はああああああぁぁぁぁっっっっっ!!!」

 炎が生まれる。最初から何もかも簡単に崩れる過ちだらけの僕達を灼き尽くす様に。

 そして、墜ちる光。

 流星が海鳴沖の海底まで突き抜けた瞬間。高さ数メートルの津波が観測された、らしい。




[8045] Black or White?(無印完結)
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/10/07 13:05
 実を言うと、その後の流れは全て他人から聴いたものでしかない。

………いや、お前オリ主だろとかそういうツッコミは分かるんだけど、だってあの怪我だし。最低限筋肉を維持する程度の運動以外月村家のベッドから一ヶ月近く起き上がらせてくれなかったんだから。

 ところで忍さん達医師免許とか持ってるのかな?いや、診断や治療は素人目にはてきぱきしていたし、この大事な時期に海鳴から遠ざけられるよりはましだからいいんだけどさ。何せ市内の病院は殆ど震災で機能してないし、近隣の病院もそろそろ入院患者がパンクしそうだって話だから。

 それはそれとして、じゃあ事件はどうなったのか、って話だね。

 まず管理局、というかアースラ。フェイトとの闘いの中で勢い余ってなんか殺っちゃったな、それであれってもしかしてクロノ·ハラオウンじゃないか、なんてやっとの事で思い当たったのは武装隊が僕の確保の為に月村邸に乱入した時。唯巡り合わせがよっぽど悪かったんだろう、よりによって恭也さんが訪ねている時に来ちゃったからさあ大変、と。

 まあ結果がどうなっちゃったかは必要ないかも知れないけど敢えて説明すると。

―――徹の前にはバリアジャケットなんて目じゃないぜ、魔力弾なんて銃弾に比べればあくびが出る、御神流KYOYA無双が発動し。

―――月村自慢のテクノロジー、科学者の魂ロケットパンチを筆頭に援護射撃。

―――武装隊涙目。以上。

 忍さん曰く――、

『だって日本国で日本警察でもない奴らが自宅に乗り込んで預かってる子供が犯罪者だから引き渡せ、なんていきなり言い出したら、特にうちみたいな家には面子もあるから相応の対応ってのがあるでしょ?』

――だそうで。

 要するに武装隊の人々も交渉の仕方を間違えたのかもね、予想だけど。

 で、リンディ登場、会談シーン。思えば、組織とか権力とか絡んでくるこの辺りから怪我とかに関係なく僕の出番は少なくなる必然だったんじゃないかな。

 僕の年齢は『生前』を合わせても二十代。但し、経験というものは只生きていれば付くものじゃない。失敗という要素が精神的な成長に最も影響をもたらすものだとすれば、『強くてニューゲーム』で大抵の事をそつなく過ごした二回目以降は大した蓄積にはならないと思う。せいぜい享年(?)プラスアルファが今の僕の精神年齢だろうね。

 ならそういう精神的な積み重ねが重要になる交渉の類は大学生ぐらいの年齢だけど一般人よりずっと濃密な人生送ってるだろう忍さんや外見だけお兄さんの士郎さんに任せた方がいい。名家の当主や元ボディーガードなんだから交渉のやり方とかも知ってるだろうし。

 それ以前に僕は『九歳の子供』なんだから、少なくとも地球の常識で管理局の交渉に積極的に口を出せる方がおかしいんだ。既に大抵の場合において僕一人の問題で済まない所まで話が進んでいるんだから尚更。

………まあ、基本的な方針は色々とお願いしたけど。

 それで、交渉の内容だけど、フェイトの処遇も関わってくるからそちらも説明しておこう。

 当然だけどフェイトの怪我は僕以上に酷かった。ていうか生きてたんだ、っていうのがあの後フェイトも月村邸まで連れて帰って力尽き、目を覚ました時に状況を聴いた僕の感想。

………だって対一魔法故のなのはのスターライトブレイカー以上の威力しかも殺傷設定の魔力攻撃+高度数千メートルから海底へ減速無し垂直ダイブした衝撃を、原作と違ってあの全身傷だらけの状態で受けたんだから。これが原作ヒロインクオリティか、と無駄に戦慄したりもしてみた。

 で、第一話のアヤナミ的にベッドで包帯ぐるぐるな………のに加えもはや拘束具じゃないのってくらい全身ギプスなフェイト。バルディッシュも没収してるからこの重傷患者が脅威になる筈ないって事で手当てしておいてあるのを一回だけ見舞いに行った。

 生きた心地がしなかった。

 僕が部屋に入った瞬間から出ていく瞬間まであの硝子玉の瞳が僕だけをじっと見てる。表情も薄っぺらいにこにこ。やめてそれ、少なくとも顔の半分が包帯巻かれた状態でやるのは。僕が肉体年齢通りの普通の子供だったら泣いてるよ?絶対。

 ヤンデレ美少女というものに実際にターゲットにされた場合恐怖以外の何物でもない―――それを快感と感じるかどうかは人それぞれとして―――事を実感しながら、僕はフェイトといくらか会話を交わした。

 戦う理由。自分の事。これからどうするか。

『……?ナノがわたしを飼うんじゃないの?』

『っは?いや、何の話?』

『だって、あの闘いで負けて生きてたら飼われるって。』

『………君が勝手に言い出しただけだよね。何上乗せされたルールっぽく言ってるの。』

『え、でも敗者に拒否権は無いし。』

『勝者にも無さそうな言い方だね。』

 ヤンデレ化していようがフェイトの天然娘というベースも崩れてはいないらしかった。

 まあ勝者が敗者を飼う云々は無理矢理冗談で済ませるとして、負けたからには以後僕の言う事を全部聞くらしい。フェイト的にはアリシアの偽物じゃなく、僕と自分自身の意思で戦い負けたフェイト·テスタロッサだという証が残せたのでそれでいい、との事。

 フェイトの言っている事に嘘は無いと判断した。あれだけの殺し合いをしたからこそ信用出来るものもあるし、何よりあの虚ろな貌は逆の意味で物凄く説得力がある。ていうか夢に出そう。

『ふふ、そうなんだ。わたしがナノの夢の中にも出るんだ。嬉しいなっ。』

………言うんじゃなかった。

 とにかくここからは恒例の悪巧みタイム。

 基本的な方針はこれ以上はフェイトにもあまり被害が行かない方向で。盲信とも無気力とも潔さ、ましてや愛情とも微妙に違うんだろうけど、今の彼女はなんというか僕が死ねと言えば本当に死んでしまう様な印象がある。そんな無抵抗の相手にまでわざわざ追い討ちを掛ける趣味は無い。

 まずフェイトは現在日本国で犯罪者。これは動かし様のない事実。そっちを先に片付ける為に、一旦彼女が月村邸で大怪我して休養している事を警察に通報した。

 といっても、フェイトはベッドから動かせる状態じゃない。だから警察官だか検察官だかが出張して聴取していたけど、『何も分からない』で通させた。

 そうしておけばどう見ても十二歳に満たない彼女は実際のところ特に刑罰は科されない。公文書偽造その他の罪状は既に死んだアルフが主犯とされ、フェイトは倫理観の未熟なままそれに振り回されただけの子供だと見なされるから。

 海鳴が一連のジュエルシード災害で甚大な被害を受けていて警察とかも忙しそうなのは関係しているのかどうか知らないけど、結局名前も容姿も日本人離れしているとはいえ出身不明でしかも子供な為適当な外国に放り出す訳にも行かず、保護観察を付けた上で養護施設行きという事でフェイトの処遇は落ち着いた。

 ここで重要なのは、その過程で仮にでも現在日本国国籍をフェイトが持っている事。違法であるクローン技術で産まれたフェイトにミッドチルダの戸籍がある筈がないという事を踏まえた上で。

 つまり、『フェイト·テスタロッサ』は純然たる管理外世界の一住人である。

 話をリンディとの会談に戻そう。繰り返し言うが僕は直接は関われなかったので、ぶっちゃけ忍さん達から結論だけしか聞けなかった。

―――こちらの手持ちジュエルシード全てを引き渡し、この事件に竹内希、フェイト·テスタロッサ以下『管理外世界の住人』の関与は無かったものとする。

 経過については、考えられる範囲で言えばロストロギアの不法所持·管理外世界での無許可の魔法使用·何より執務官殺害を主とする罪状を押し付ける巨大な管理局の法権力相手に此方のカードを如何にどれだけ切れるかという展開だったと思う。

 その存在さえ知らない管理外世界の人間に管理局の法律を適用させるのは明らかに理不尽であるというカード。

 クロノ·ハラオウン死亡については、殺し合いのど真ん中にのこのこ現れたりしなければ少なくともあそこまであっさりと死ぬ事は無かった。そちらの白バイ隊員はスピード違反の車を止める為に体当たりという手段を取るのかというカード。

 ジュエルシードは自分達への被害が少しで出ない様に必死で回収したもの。ポッと出の得体の知れない連中に渡す義理は何一つ無いというカード。

 他にもフェイトも実はジュエルシードの被害を抑える為に回収していたけど僕と意見を違えて喧嘩が殺し合いにまで到った、今は反省しているなどと血で塗りたくった様に真っ赤っかな嘘を通したりと関係者の数が異常に少ない故の情報改竄を流れに応じて吐きまくってみたり。

 結論として見れば息子を殺されて怒り狂ってるだろうリンディ·ハラオウンを相手にこれで完全勝利と言っていい合意を取れたのは幸運と言っていい。あるいは、数でさえ劣ったたかだか管理外世界の人間にフルボッコされた事実を揉み消し管理局の面子を守る為、とかもあったのかも知れない。

………正直、殺人――というより過失致死?をした以上牢屋行きもあると思っていただけにホッとしたというより意外という思いが強かった。

 人殺し自体は、そもそもあの時本気でフェイトを殺してもいいという気持ちで戦っていた為自分からその中に飛び込んで来た奴が死んだ事にあまり強い感情は湧かなかった。けど、遺族のリンディにとっては僕やフェイトが何の償いもしないのは理不尽極まりないんだろう。だからといって何かをする訳でもないんだけれど。共感するだけの、無責任。

 もう、僕には関係なくなった、関係がないとされた問題。フェイト·テスタロッサもプレシアと何の関係もないとされた問題。この後PT事件がどうなったか、僕は知らない。フェイトも知らない。

 存在の意味とか、戦う理由とか。原作を散々引っ掻き回して、沢山の巻き添えの死を出して、その末の騒動の。

 結末なんて、こんなものだった。

――――。

「バッドエンドでもハッピーエンドでも、トゥルーエンドでさえないんだろうけどね……。」

「な、希、何か言った?」

「……。いや、視線が、ね。」

「あ、あはは………。」

 その後僕らは普通に日常に戻った。なのははいない、ついでに次元震や巨大樹に巻き込まれてクラスメートも何人か犠牲になっていて、それでも続く日常に。

 そして今日、入った養護施設が聖祥と提携していたらしいフェイトが転入生として普通に黒板の前に立っている。

 ただ相変わらずの薄い笑顔と硝子玉の瞳。児童養護施設に入っても直る気配が全く無く、教室に入ってからずっと僕に向けて固定でクラスの皆と先生は何事かと僕とフェイトを見比べている。隣のアリサとすずかは最近慣れてきたとはいえ引いている。

 一応アリサにもすずかにもフェイトとの面識はある。アリサに怪我させた件、きちんとフェイトは謝った。が、人格者の二人でも流石に今の状態の彼女には近寄り難いらしく、『なんか不気味な友人の友人』という評価で落ち着いてる感じ。険悪でないだけ、ましなのかな。

(まあ、いいか。)

 変な空気の場を収める為に、僕は思考を打ち切り椅子から立ち上がった。フェイトに真っ直ぐ手を伸ばす。

「ようこそ、フェイト―――、」

 ようこそ、フェイト。絶対に善意が報われ、悪意が裁かれるとは限らない世界に。

 ようこそ、フェイト。時に善意が裁かれ、悪意が報われる世界に。

 半分が無関心で出来ていて、歪んでいて、でも僕にとっては―――多分君にとっても―――リアルさを感じてしまう世界に。

 何故、と訊かれればそれはシンプルな理由。

 主役が開幕の前に死んでしまった。その時点で既にこれは誰の物語でもなくなってしまったから。僕達がキャストを演じるこの世界は、しかし誰の物語でもないから。

 ようこそ、フェイト。

「――――歓迎するよ。」

 僕の言葉に、少しだけ目を細めて頷いた笑顔。




[8045] private storm(後書き的な座談会集?)
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2009/10/07 13:25
キャスト:高町なのは ~Whose story is this?~ 編

………舞羽も黄巾党無双も書かずに何やってんだか。


Innocent sorrow編

…………ねえねえ、多分続けないとか言っておきながら何早速続き書いてるのかな?

…………だって意外に好評だったし。

…………そりゃタイトルに地雷注意って書いてるんだから気に入らない人はそのまま感想書かずに帰っちゃうからでしょうが。

…………また連載増やす気かい?敢えて言わせてもらうよ、『このバカ作者っ』。

…………しかも危うく鬱展開じゃない。

…………うぅ。あ、ちなみにレイジングハートの英文の否定疑問の答え方に付いては、分かりやすい様に日本語式で表記しました。厳密には、『ないよね?』と訊かれて『ない』と返したいなら『No』と答えなければならないと思うのですが、故意なのでそこにツッコミは入れないでください。


Howling編

…………タケウチナノは、現実と創作世界をはっきり区別し過ぎて微妙に目的意識が希薄。敢えて分類するとすれば、理屈を色々と捏ね回して失敗するタイプ。

…………でも、本人が言ってるほど自分の感情が無い訳じゃないのよね。なのはの死に対する態度とか。

…………自覚が無い分余計に厄介だけどね。

…………って、誰よこんな面倒なキャラ設定にしたの。

 作者だっ!

…………全く、話が破綻しても知らないよ?

…………もう手遅れじゃないの?


nephilim編

………ねえ、いくら地雷って言っても、やっていいことと悪いことって知ってる?

………うーん、でもねえ。憑依転生系って嫌いじゃないんだけど、彼らの行動が一般人としてまともかと訊かれると頷けないんだよね作者は。

………だからってタケウチナノはもっとまともじゃないでしょうが。

………むぅ、ちょっとくらいフェイトが完全な敵なお話があったっていいじゃん。

………ああ、ダメだこの作者、開き直ってる。

………舞羽は違うの?

………あれは寧ろなのはが敵キャラなイメージがあるじゃん。あの話じゃ世間一般的に言えば正しいのはフェイトの方だし。

………そう言えばユーノがいないせいで結界は~、って指摘があるんだけど。

………ああ、ぶっちゃけ無理かな~、みたいな。だっていくら起動しか出来ないとはいえ、デバイス無しで完成度の高い結界が組めるユーノの持ち物だったレイジングハートにはわざわざ結界魔法のデータを入れてない可能性の方が高いかと思って。だから結界無しでドンパチやってるし、アリサも乱入しちゃいました。原作ではなのはに渡した後にユーノがデータを入れてあげたって事で。そういう事にしといてっ!

………フェイトが結界張らなかった件については?

………完全にアルフ任せで、でもアルフいない状態でジュエルシード励起に慌てて駆け付けたから、じゃダメ?

………それが言い訳以外の何かに聞こえるのならいいかもね。

………すいませんっしたあぁぁっ!!


fre@k $How編

………あのさ。

………なぁ~に~っ?

………いやそのテンションもウザいけど、それよりもさ、――――せめて魔法使おうよ。『魔法少女リリカルなのは』だよ?

………だってみんなナノのこと外道外道言うんだもん。そもそもなのはが死んで代わりをしないといけなくなった主人公ってだけな設定で書いてたのに、何時の間にかそんなイメージに。――――だったら期待に応えるしかないだろうっ!!?

………それはアンタの書き方が下手なだけでしょ。第一、なんで『公文書偽造』とか『不法入国』とか生々しい言葉出してるのかって訊いてるの!

………だってだってぇ~、そもそも大抵戸籍の偽造って一行でサラッと流すかギャグで誤魔化すかしてるけど、本当はこれ一国家の重要文書を改竄するっていう某国じゃ銃殺モノの重大犯罪なんだよ?

………まあ、実際この世界に現金だけぽんと渡されて来たばかりのアルフがどうやってマンション借りたのかってかなり疑問だけどね。でも。いい加減その口調を直しなさいウザ過ぎる!

………はい誠に申し訳ありませんでした深く反省していますこれでいいですか!

………何で逆ギレしてるの。


ドレス編

………一端ストーリー進行はお休みしてほのぼの時々シリアス。

………そして意味が分からなくなった。

………こらそこっ!耳が痛いから言わないで下さい。

………曖昧なのが悪いんだから。はっきりさせようよ、色々と。最後なんかシリアス一直線だし。

………うぅ。最初はずっとアリサのターン!とかやりたかったんだけど、正直小学三年生の恋愛とか難しいにも程があるからぼかすしかなかったんだよ。

………つまり、どっちにも取れる様に誤魔化したと。

………逃げたとも言うわね。

………う、うるさいうるさいうるさいっ!話に絡めない中途半端な恋愛なら誤魔化した方が早いんだ!

………また出たよ開き直り。

………というか、声的にそれは私の台詞――、

………はいそこまで、こっち来ようねー。

………あ、作者さん何処へー!?


JAP編

………ねえ作者。君はフェイトの事が嫌いなのかい?

………いや、寧ろ好きだからどん底に突き落とす、というか?アルフはもうちょっと見せ場を作りたかったんだけどなぁ。

………戦闘シーンすらなく退場ですからね。

………希も追い詰め過ぎれば予測も付かない行為に出るとは分かっててほどほどにしようとした―――かもしれない―――けど、残念フェイトさん側には何もしなくても勝手にフェイトを追い詰めてくれるプレシアさんがいたのです、と。

………ところでジュエルシードの暴走ってあんなお手軽にいくものなの?

………それについては正直ご都合主義と言われても否定出来ないかもしれない。そもそも魔力を叩き込めば暴走するという原理自体がよく考えてみれば怪しいというか。まあ希も一か八か、って言ってるし。

………はいはいリリなののさりげない設定の曖昧さは別の場所で散々指摘されてるからってそれを言い訳にしない。

………ごめんなさい。


LEVEL4編

………見事に脈絡ないわね。

………ごめんなさいっ。

………ここでの謝罪はいい加減聞き飽きたよ?誠意を見せてもらわないと。

………ねえ、なんか怒ってる?

………ううん、何にも怒ってないよ?今更夜の一族の設定を持ち出した事なんか、全然、これっぽっちも怒ってないんだから♪

………ひぃっ!?

………あー、取り敢えず同情しておくよ。

………同情するなら身代わりになってくれ!

………そのいっそ清々しいまでの他者犠牲には呆れるよ。さっさと逝っておいで。

………あなたには、祈る時間も与えない。

………こじゅぅろぉっっ!?


Ignited編

………次回、遂に正面からの激突。

………全力全開?

………それは見てのお楽しみ。

………今回は何も言う事はありません。ではっ!!


Meteor編

………もはやギャグなんじゃないかしら、これ。

………ツッコミどころが多すぎるんだけど。

………いや、ね。当初はここまではっちゃけるつもり無かったんだけど、多分これ書いた時のテンションがぶっちぎっちゃってたんだと思う。だってこの話携帯投稿の字数制限余裕で突破しちゃってるからわざわざ一度分割してアップしてからそれをパソコンで再編集して~、なんてことしてるもん。

………具体的にどこまで予定してたの?

………まずクロノの最期はあれで確定してた。

………一番ダメなところじゃない!?

………いや、そこに地雷が落ちてたら踏みたくなる、みたいな。だいたいあのシーン、魔力量(≒威力?)でなのはとフェイト二人共に負けてるのにその正面衝突に割り込んで両方受け止めるとかさりげなくハイパー執務官補正が働いてるとしか。

………だからって名前すら出ずに秒殺って如何かと思うんだけど。

………それが究極のアンチクロノw

………こらぁっ!!

………んで、なぜか書いてるうちに変わってたのがフェイトの人格というかなんというかアレ。

………いきなり饒舌キャラになった上にメタな発言を希と交わした揚句―――、

………「まさかのヤンデレ乙。」だよ。このセリフ、作者の本音。

………もはや別人だよね。

………あと、ラストの全力全壊のオーバーキルも「竹内希」と「高町なのは」の区別をする為のオリ魔法でしかなかったから、単に加速して地面に叩き付けるだけだった筈なのに。

………「ぼくのかんがえたかっこいいまほう」マンセー一直線だね。

………ていうか文系のくせに津波とかそういう迂闊な用語使っちゃだめだよ。簡単にボロがでるんだから。

………ああ、今までで一番感想板を見るのが怖い。


Black or White?編

………台詞少な過ぎない?

………無理に完結の為に詰め込んだ感じだよね。

………説明長過ぎ。

………うぅ。

………展開が無理矢理なのはいつもの事として。

………お願いそれ以上言わないで。

………まあ、何はともあれ無印完結、か。A’s以降の予定は?

………実は構想さえ出来てない。

………えぇっ!?

………ネタはあるから、暫くそれで誤魔化すかな――――でわっ!

………あ。

………逃げた。



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