NARUTO
『人柱力と妖魔の敵』
第1話 人柱力の邂逅
「・・・・・・やっと、終わった」
血まみれで傷だらけの体を起こして呟いたのは、5歳程度の金髪の少年。
里外れの小さな川のほとりで水を汲んでいたら木の葉の里の人間が来て、突然背後から襲われた。
数名の大人による気が遠くなるような暴力は、数十分続いてようやく終わった。
少年・うずまきナルトは血や泥がついた体を綺麗にするために川に入って汚れを落としていた。
冷たい川の水が傷口に沁みこんでピリッと痛みが走るが、その痛みが現実感と生を実感させる。
それがとても苦しくて、ナルトはぽろぽろと涙を流した。
「・・・・・・なにが、いけないのかな・・・・・・なんで、ボクだけ」
自分が何か悪いことをしているつもりはない。
だけど、周りの大人はみんな冷たい目で見てくる。
なんでそんな目で見てくるのか、さっぱりわからなかった。
こういう、不当な暴力という表現が生易しい程の行為は日常茶飯事におきている。さすがにナルトの心も里の人達への憤りと憎しみでいっぱいだった。
父・四代目火影『波風ミナト』と母『うずまきクシナ』が我が子の荒んだ状態を見たら、どう思うだろうか。
妹が、今の自分を見たら間違いなく泣いてしまうだろう。
ナルトは必死に涙を止めようと袖で拭う。
そんな時だった。
「見つけた・・・・・・」
突然聞こえた声に振り返ったナルトは、目の前にいる15歳程度の女性に見入った。
金髪に黒目、特に変わった人ではない。
ただ、その姿から溢れ出す気配が、そして瞳が、ナルトに不思議な感覚をもたらしていた。
「お姉さんは、誰?」
「ん? 私の名前はユギト。雲隠れの特別上忍にして『二尾』の人柱力よ」
「ジンチュウリキ?」
初めて聞く言葉に首を傾げるナルト。
ユギトと名乗る女性はナルトの頭を撫でながら微笑んだ。
「そう。君と一緒でね、雲隠れの里の人間に嫌われてて、そんな今が嫌で・・・・・・幸せになりたくて、同志を集めてるの」
「お姉ちゃんも?」
「そう、お姉ちゃんも。そして君の苦しみも悲しみも寂しさも、究極の所まで理解できるうちのひとりよ。だから君を助けにきたの」
「・・・・・・助けてくれるの?」
「うん。お姉ちゃんについて来たら君の友達になれるし、もっとこれからも友達を増やしていける」
「友達も?」
「そう。それでどうかな? 私の同志にならない? 組織名は『縁』って名前なんだけどね」
思い出すは、火影という立場にありながら自分を目にかけてくれる老人。
尾を引くは、日向という名門のお嬢様でありながら、自分に懐っこく接してくる少女との関係。
心配なのは、双子の可愛い妹。
「・・・・・・つれてって」
ナルトはユギトと名乗る女性の話は難しい言葉が多すぎていまいち理解できていなかった。
しかし不思議な感覚が、自分と目の前のお姉さんは特別な繋がりがあると、子供ながらに感じ取っていた。
それは人柱力同士だから・・・・・・ということではあるが。
そして何よりも、平穏が手に入るというのは、ナルトという少年にとっては麻薬の魅力があった。
「よし、そうこなくっちゃ! ・・・・・・って、そうだ、君の名前は?」
差し出されたお姉さんの、ユギトの手を握り締めナルトは、やっと現れた『家族』に向かって、生まれて初めて妹と日向の少女以外に微笑み返した。
「うずまきナルト」
この日、火の国の木の葉隠れの里から、最強の妖魔『九尾の狐子』を封印した、うずまきナルトがいなくなった。
そして、この3年後に『雲隠れの里』が突如滅亡し、『縁の里』が設立された。
「だぁ~! 寝坊した~~~~!」
自室の目覚ましを寝ぼけ眼で見た少年、うずまきナルト(十二歳)は、姉の呼び出しの時間に僅かながらオーバーしていることに大声を上げていた。
姉のユギトは普段は温厚だが、生活のことや仕事関係・礼節関係の事になると沸点が著しく下がってしまう。
あの人の折檻だけは受けたくないものだ。
「こら、紫苑! 起きろ!」
ナルトの布団の中で眠っていた少女に大きな声で怒鳴りつける。
「んん・・・・・・朝? ・・・・・・おはよう、ナルト」
少女の名前は紫苑。かつて鬼の国の巫女をやっていた彼女だったが、ナルトやユギト、そして仲間たちの力とあることがきっかけで魍魎を見事に打ち倒し紫苑を縛り付けた運命を打ち払った。
だが困ったことに紫苑はナルトをいたく気に入ったらしく、そのまま助けられた勢いで着いてきてしまったのだった。
もちろん鬼の国とは同盟関係に結ばれているし、近い将来に姉妹国となるはずだ。
この紫苑だが、ナルトの妻になることを公言しており、夜毎に部屋に侵入しては布団に潜り込んできて一緒に寝ているのだった。
ナルトも最初の頃は照れていたが、慣れとは恐ろしいもので、今ではすんなりと受け入れてしまっている。
「紫苑! 早く広間に行かねぇとユギ姉に殺されるぞ!」
「え? ・・・・・・きゃあああああああああああああ! 大変!」
ようやく時計に気がついた紫苑は、時刻を確認するとナルトと同様に悲鳴を上げてバタバタと支度を始めた。
こうして床を転がるように飛び出した2人は大慌てで作戦会議室である広間にむかったのであった。
「すまん! 寝坊した!」
「遅くなりました!」
ドカドカと足音を立てながら飛び込んで来た2人を迎えたのは、この『縁の里』を支える幹部たち。
中央の一番奥、つまり里の最高指導者の席は空席だが、壁際には奥から順番に、厳じい・ユギト・君麻呂・白・我愛羅・デイダラ・九羅華がいる。
他の仲間たちは任務中でいないようだ。
ナルトと紫苑は慌てて自分たちの定位置で正座をすると、緊張したように背筋を伸ばしている。
「・・・・・・とりあえず説教は後でする」
「「はぅ!?」」
ユギトのドスが効いた言葉を聞いてビクつく二人。
白は苦笑いを浮かべ、君麻呂は無表情、我愛羅は溜息を吐いている。そして何故か九羅華は半目で紫苑を睨んでいた。
デイダラは「ナルトはMだな、ウン」とか言っている。
「今回の任務は久しぶりにデカイからよく聞きなさい」
ユギトは全員の目を見据えて言う。
その真剣な表情に皆も真剣な顔つきになった。
ユギトは厳じいに促して、四尾の人柱力である厳じいが口を開いた。
「デイダラを除いたお前たち6人には、来週開かれる木の葉の里の中忍試験に参加してもらう」
ナルトの眉がピクリと動く。
「理由は木の葉を潰そうと、最近できた音の里という連中と砂隠れの連中が手を組んで画策しているらしい。我々にとって来るべき戦いに勝利するためには木の葉が今弱体化、もしくは滅ぶのは好ましくない。従って中忍試験に潜り込んで我らの里の力を見せつけつつ、音の里の野望を阻止して欲しい」
「音の里ですか・・・・・・たしかそこのトップは大蛇丸という元木の葉の忍びにして伝説の3忍と呼ばれた変態でしたね」
白がこれまでに入手していた情報を口にする。
「変態か・・・・・・」
「・・・・・・どんな相手だろうが関係ない。オレたちは縁の里のために全力を尽くすだけだ」
「変態が相手なんだぁ。ナルト、私をしっかり守ってね?」
君麻呂が嫌そうに呟けば、我愛羅は素直に里への執着をみせる。九羅華だけは隣のナルトの腕に抱きついて甘えた言葉を囁いていた。
ナルトは紫苑のプレッシャーを感じながら、ハハハ、と薄ら笑いを浮かべている。
「2組のスリーマンセルを編成。1組目は白・君麻呂・我愛羅。2組目はナルト・紫苑・九羅華だ。必要な書類を下の受付で貰ったらすぐに出発してくれ」
「わかった」
「俺を外すなら、何でここに呼んだんだ? ウン」
白のチームはうなずくとすぐに瞬神の術で消える。
デイダラは仲間はずれが面白くないらしい。ふてくされている。
「大丈夫だ。お前も大規模な戦闘になったらすぐに参加してもらうから」
「わかってんじゃん、うん」
芸術を披露する機会があって喜ぶデイダラ。調子のいい男である。
デイダラに比べて白たちは余計な口は挟まず、そして迅速に行動できる彼らは優秀だった。
しかし。
「あ~、木の葉は億劫だぁ~。めんどくせー。いきたくねー」
「大丈夫よ、ナルト。私がずっと傍にいてあげるから」
「こら~! 紫苑! あんた懲りずにナルトのところで寝たにも満足せず、木の葉でもベタつくつもり!? そんなことさせないわよ!」
「・・・・・・おまえら、はよいけ」
「じゃあなナルト、ウン。これは餞別だ、ウン」
実力は縁の里の『四覇聖』と称されるほどに強くなったナルト。しかしどうもこの姿を見せられたら不安になってしまうユギトと厳じいであった。
こうして、うずまきナルトは7年ぶりに木の葉の里へ戻ってきたのである。