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[714] うずまきナルトのカレーな生活
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde
Date: 2008/10/04 23:40





プロローグ 1





火の国、木の葉隠れの里。
五の隠れ里のうち最大勢力といわれているその里は、普段は人がたくさん出歩き、活発に活動している。
先の大戦で勝利をおさめた火の国は五大国中、環境も豊かで自然も豊富に存在する。
その、森に囲まれた里が、今は見る影もなくなってしまっていた。
いたるところに倒れたまま動かない死体が散乱し、死臭と血臭が充満している。
五体満足の死体も少ない。
建物もほとんどが倒壊し、煙が上がっている場所もある。
だが、里の中にはそれをどうにかしようとする人影は見当たらない。
生きている里人の姿も無い。
時折、遠くのほうから破壊音と人の叫ぶ声が響いてくるほかは、この里は無音に包まれていた。




それは突然の出来事だった。
いつものように朝を向かえ、いつものように人々の日常が始まるはずだった。
それを疑うものなど存在しなかった。
確かに時折他里の者が襲撃に来ることはあったが、そんなことはまれであったし、国境警備隊のものがきちんと対処していた。
だがその日常は一瞬の閃光と轟音のうちにもろくも崩れ去った。


九尾。


妖魔の中でも最強の力を持つといわれる尾獣。
その中でも九つの尾をもつ、尾獣のなかでもおそらく一番力を持っているとされる九尾。
それが襲撃してきたのだ。

なぜ襲撃してきたのかはわからない。
だが今、この火の里が追い込まれているのは確かだ。
忍びが総出で対処しているが、全く効果が無い。
尾を一振りするたびに多くの忍びの命が消えていく。
だが彼らは後には引かない。
待っているのだ。この窮地を救ってくれる英雄を。
希望を。
四代目火影を――




「四代目が来るまで足止めをかけろ!!」

生き残っている忍びの一人が声を荒げる。
周りにいるものも全身ずたぼろで立っているのがやっとのものがほとんどだ。
無傷の者はいない。
もう一度九尾に足止めをかけようと足に力をこめたとき、彼らの後方から歓喜の声が上がった。

「火影様が来られたぞ!!」

皆いっせいにその声の方向を向く。
すると巨大な蛙の上に立つ、金色の髪の毛を持った青年の姿が見えた。
四代目火影、波風ミナトだ。

「火影様…!」
「四代目!」
「ここは引いて! 後は僕がする!!」

凛とした声が響く。
低すぎず高すぎず、耳に心地よい声。

「しかし四代目…!」
「大丈夫。僕がなんとかするから。君たちは引いて。」

こんな窮地には似合わない、落ち着いた声だ。
戦う力のほとんど残っていなかった彼らは、足手まといになるのではと、それ以上いうのは止め、火影のいうとおり素直に引いた。
立てないものに肩をかし、即急にその場から退散する。
時折ちらちらと巨大な蛙のうえに立つ四代目火影の姿を確認しながら彼らは遠ざかっていった。
九尾の狐と退治する四代目火影の凛々しい背中が徐々に小さくなっていく。
それが、生きている四代目火影の目撃された最後の姿だった。




彼らを見送り、ミナトは溜め息を吐いた。
大丈夫、なんて大口を彼らにたたきはしたが、はっきり言って九尾をどうこうすることなどできはしない。
アレは人間ごときにどうこうできるものではないのだ。

「…どうしよう…?」

思わず本音がポツリと漏れる。
それを聞き、頭に四代目を乗せていた大ガマは焦る。

「おいぃ!? 何か策があったんじゃねぇんかいな!!」

口寄せを受けて当たり前のように九尾の前まで来てしまったが、それは四代目の落ち着いた様子で何か策があるのかと思っていたが…


無いの!!?


一瞬九尾に対峙していることすら忘れてうろたえる。

「…だっ大丈夫だよ!…………………………………今から考えるから。」
「沈黙ながっ!! ほんとじゃろうなぁ!!?」
「ほっ、ほらぁっ! 九尾攻めてくるから集中してよ!!」

バシバシとガマの頭を叩く四代目。
巨大蛙、ガマブン太はしぶしぶ目の前の九尾に集中することにした。




◇◇◇




結論。
敵うわきゃない。


ただでさえ巨体、戦いづらいというのに、その力の強さといったら…

「反則だよね…」
「ぐちってるヒマはないぞ、四代目!」

かろうじて致命傷は避けているものの、勝負はもう見えているようなものだ。
こちらはぼろぼろなのに、向こうには傷一つない。
四代目の脳裏に一つだけ策がひらめく。
実は最初から手段の中には入れていたが、気が進まず、策から省いていたのだ。


屍鬼封尽


死神と契約を交わし、相手の魂を抜き取る術。
契約を交わしたものは、死神の胃の中にひきずりこまれ、一生戦い続け、苦しまなければならない。
開放されることも無い。
また、魂を死神によって抜き取られた相手も同じ道を行く。
ただ一つ、九尾にコレをするには問題がある。
いくら死神とはいえ、尾獣の魂は取り込めないのだ。
人間的に言えば、食あたりをおこすようなものだろうか?
だから、魂を抜き取ったらその魂は別の場所に封印しなければならない。
だがどこに?
九尾は尾獣のなかでも最強レベル。
九尾の魂を丸ごと封印するとなれば、その器は、九尾よりも容量が大きくなければならない。
そんなもの、居ない。居る訳ない。
それに死神の腹の中に入るなんてなんだかぞっとしない。
いっとくが、四代目は極めて健全な精神構造をしているのだ。
まあ、忍びで四代目になるくらいなんだから、大量殺人してますが。
それでも忍びの中では健全な方だ。
そんな、死神の中で永久に苦しみ続けるなんて…私、マゾヒズムじゃありませんから!! 残念!





しかしそんな甘いことは言ってられない。
自分は四代目火影。
里の、忍びたちの長。
大黒柱。
彼らを守ることが自分の仕事で至上命題。
どんなことをしても里を守ると、火影の名前をついだときに誓ったのだ。
初代、二代目、三代目のぼひょ…ゲフンゴフン、火影岩に。
(注、三代目は生きてます)
ならば今、自分がすることは――



「屍鬼封尽をする。」
「なんじゃと!? あの術は――」
「うん、わかってる。でも…他に方法、無いし。」
「ぬ…」
「お願い、ブン太。力を貸してくれ。僕1人の力では術がかけれない。一瞬、一瞬だけでいいから、九尾の動きを止めて。」
「………簡単に言ってくれるな。」
「うん。」
「わしには牙も爪もないんじゃぞ?」
「…うん。でも、ブン太ならできるでしょ?」
「ガハハハハ! その通りじゃ!! ミナト…その目ん玉よーくひん剥いてワシの勇姿、見とけよぉ!!」

高笑いを一つすると、四代目火影を載せた巨大蛙は無謀ともいえる突撃を開始した。

これが自分の最後の戦いとなるだろう。

ブン太の頭の上でミナトはそう思った。
成功しても、失敗してもこれが最後の戦いだ。
だがミナトは笑いがこみ上げてくるのを感じた。
このような危機的状況の中で、何を、と思う。
ついに頭に異常をきたしたか、とも思うが、笑いを止めることはできなかった。
こんな時でも自分についてきてくれる仲間がいる。
それが心底頼もしく、そして嬉しかった。

「ああ!行こう!!!」

咆哮を上げる九尾に急接近をする。
今から命を散らすというのに、四代目は不思議と恐怖を感じなかった。



次の瞬間、空気が爆ぜた。




続く。




[714] うずまきナルトのカレーな生活 プロローグ2
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:efbbb689
Date: 2008/02/18 00:44

うずまきナルトのカレーな生活





プロローグ 2







パチパチと物の燃える音があたりに響く。
そんな中、ミナトはぼんやりと空を見上げていた。




結果はほぼ予想通り。
屍鬼封尽をかけることには何とか成功したものの、死神の腹の中に九尾の魂は取り込まれず、いずれは元の身体に戻って活動を再開してしまうだろう。

(時間稼ぎにしかならなかったか…)

予想していたとはいえ、もしかしたら…と考えていたのだ。
結局予想通りの結果しか得られなかったが。
それでも、里のものが避難できる時間は稼ぎ出せた。
それでよしとするしかない。
自分の死は無駄ではなかったのだ。




身体の力が急速に失われていくのをミナトは感じた。
ミナトは最後の力を振り絞り、あたりへと視線をめぐらせる。

よくもまあ、もうすぐ死ぬとはいえ、五体満足でいられたな…という破壊っぷり。

自分が口寄せした、一緒に死地へと赴いたブン太の姿は見えない。
屍鬼封尽をしたのとほぼ同時期、口寄せの時間が過ぎ、元の場所へと帰ったのだ。

無事だといいけど…

確認する術は無いが、おそらく無事だろう。
口寄せが切れる直前まで口がよく回ってたし。
四代目は口寄せの切れる直前のブン太を思い出し、苦笑をもらした。






「はっ…ぐ、げほっ!」

大量の血を吐血する。
その血の色は鮮やかな紅。動脈血だ。
内臓をやられているらしい。
数回吐血を繰り返す。
忍びとして見慣れた光景だが、自分のものだと思うとやはり感じることも違う。
もはや視界すら危うくなってきた。

「…死ぬ、のか……僕は…」

見下ろしてくる死神の姿を見つめ、ミナトはポツリともらした。
身体に負った傷は致命傷。
その上、屍鬼封尽をしたので魂は死神に食われてしまうのだろう。
ミナトはふと自分の教え子を思い浮かべた。

自分が受け持っていたときに亡くした、うちは一族の子供。
仲間を、かばって死んでしまった幼い生徒。
死ぬ瞬間には立ち会えなかったが…

「君も…こういう気分……だったんだろうか…」

答えてくれるものはいない。




木の葉の隠れ里の火影になってから、色々思うところがあった。
隠れ里のありようについてとか、忍びのありようについてとか。
先代の三代目火影は忍びとは忍び耐えるものだといった。
それも忍びの形の一つなのだろう。
自分はこれからどのような形をとっていくのか。
そしてめざすのか。
それすら決まっていないというのに…
それほどまでに短い期間しか火影をやっていないというのに……




「…死にたく、ないな……」

これまであまたの命を奪ってきておいて言えた事ではない。
でも、これから里がどうなっていくのか、見てみたかった。
自分が育てた生徒達の行く末をみたかった。
生徒達の子供を抱いたりもしたかった。
幼馴染の子供が産まれる予定もあった。
今アカデミーに通っている子供達がどんな忍びになっていくのか見守っていきたかった。
カカシと成人になったら酒を飲み交わす約束を果たしてもいない。
これまでなのか。
このまま、終わってしまうのか。
今までの出来事が走馬灯のように流れる。
いよいよ死期が近いらしい。

「…死にたくない…っ!」

四代目火影ははそうもらすと、一筋涙を流し、そのまま意識を失った。








先ほどまで響いていた地響きが無くなり、里の者達はいままで伏せていた顔を上げた。
耳をすませてみても、周りに居るものの息遣いしか聞こえてこない。
皆ワケがわからず視線をあたりにうろうろとさまよわす。
そんな中、1人がポツリと呟いた。

「四代目だ…」

それを契機にざわめきが全体に広がった。

「そうだ、四代目火影だ。」

「火影様が九尾をお止めになったんだ!」

「火影様!!」

歓声を上げる里人達。
避難していた者達は、女・子供・一般人をその場において外の状況を確認するため、避難場所から飛び出した。






「これは…!?」

外に飛び出した者達が見たのは、破壊尽くされた、以前の様子とは変わり果てた姿をした里の様子であった。
活気のあった里の姿は見る影も無い。

「そんな…」

「我々の里が…」

呆然とする中、1人の老人がその場に瞬身で現れた。
一般人ではないことは、その格好を見ればわかる。忍びだ。
外に出てきていた者達は一瞬身構えるも、その者の姿を見てすぐに膝をつく。

額にかけられた木の葉のマーク。
なによりその下にある、見知った顔。
少し前に引退し、四代目火影にその場を譲った三代目火影がその場に立っていた。

「三代目…」

引退してからは忍び装束を身に着けていなかったので、その忍び姿を見るのは久しぶりだ。
「皆無事か?」

「は、我々も、ここで避難しておりました者達も皆無事でございます。」

「そうか…他のところも廻って来たが、破壊されたところもあってな…とにかく無事でよかった。」

「あの…それで九尾と四代目は…?」

「それを今から確認しに行くところじゃ。」

「では我々も――」

「ダメだ。まだ九尾が生きているやも知れん。わし1人で行く。」

「しかしっ!」

「これ以上の犠牲は出したくないんじゃ、わかってくれ。近寄っても大丈夫だと確認しだい、のろしを上げる。」

「…わかりました。」

若い忍びの者達はそれでも不満そうな顔をしていたが、先輩達が承諾した手前、反論することもできずしぶしぶ頷いた。

「では、後を頼んだぞ。」

三代目火影はその場を後にし、一番最後に九尾の姿が確認された、ひときわ破壊の爪あとの激しいところへと向かっていった。









続く。



[714] うずまきナルトのカレーな生活 プロローグ3
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:710b6550
Date: 2007/12/07 01:04
序章 赤子





「ひどいもんじゃな…」

四代目火影と九尾が争っていた場所。
そこは爆心地の中心部のように地面がえぐれ、生えていた木という木が失われていた。
その中を三代目火影は駆けていく。
周りには人の気配も、動物の気配も無く、静まり返っている。
だがその中で、三代目火影は微弱な…とても微弱な気配を感じていた。
近づくにつれて緊張が高まる。
九尾か、それとも四代目か。
可能性としては九尾である可能性のほうが高い。
四代目火影があの時あの場所で何をしたのか。三代目は確信していた。

屍鬼封尽。

死神と契約し、魂を対象者から引きずり出す術。
だが前提として近寄らなければ発動しても意味が無いことが一つの問題であった。
もう現役を過ぎた三代目火影では九尾相手では近寄ることすら難しかった。
しかし四代目火影には近寄る術があった。
時空間忍術を変幻自在に操ることができる四代目ならではの術が。
あの術を使用すれば、近寄ることはできたはずだ。
なにより地響きが消えたあのときに感じたあの九尾のものとはまた違った禍々しい気配。
アレは死神に物ではなかったのか。
死神を召喚したものがどうなるかは言わずもがな。
ではこの場に漂うこの気配は……
三代目火影は嫌な予感を振り払うように、走るスピードを速めた。






「………。」

気配の源にたどり着き、三代目火影は呆然と立ち尽くした。
そこにいたのは、想像していた、どのものでもなかった。

赤子。

その場には似つかわしくない、服もまとっていない赤子の姿があった。
その下には、四代目火影の着ていた服がしかれている。
三代目は周りを見回した。
服がここにあるのならば、四代目がこの近くに居るのではないか、と。
しかし、周りには何も無く、死体すら遠くに吹き飛ばされてしまっている。

「……どゆこと?」

目を丸くする三代目火影。
マジマジと赤子を観察する。

(なんだか見覚えがあるような気が…)

赤子は眠っているようだった。
ただ裸であるだけに寒いのか、眉間に皺が寄せられ不満そうな顔をしている。
三代目が見覚えがあると思ったのはその赤子の毛だ。
鮮やかな金髪。
金髪の者はめずらしいが里にだって数人存在する。
旧家である山中家だってその一つだ。
だが、四代目火影の髪の毛は彼らよりもなおいっそう鮮やかで、目立っていたものだ。
赤子はそんな四代目火影と同じ髪の色をしていた。




九尾が追い込まれて逃げる力も無く、変化している姿なのかと一瞬考えるが、すぐに違うと首を振る。
赤子に変化するメリットが無い。
それならば死体やら、草木やら、小動物に変化したほうがまだマシだ。
ワケもわからず、とりあえず九尾本人でないことは明らかなので、三代目火影はその赤子を抱き上げた。
人肌が安心するのか、一瞬身じろぎするも、すぐにスヤスヤと安らかに寝息を立てる。
先ほどまで赤子の額に刻まれていた眉間の皺も解消された。
そこで三代目火影は赤子の腹に刻まれた文様に気付き、目を見開いた。
指をそこに這わせ、もう一度確認する。
赤子の腹、そこには八卦の封印式が刻まれていた。

「封印…」

――何を?

三代目は驚いて赤子を取り落としそうになったのを、いままで培った精神力でなんとか踏みとどまった。
封印するなんて、この場では一つしかない。
九尾だ。
だが九尾は妖魔の王、尾獣中最強といわれた妖魔。
そんなのをまるごと取り込めるものなんてない。
居るとするならば、それは九尾と同じ存在であろう。
最も九尾は今のところ一体しか確認されていないが。

「………。」

三代目はその赤子を四代目火影の服で包み、周りから見えないようにする。
とにかく調べてみないことには、何もわからない。
四代目火影に姿が酷似しているのも気になるところだ。
のろしを上げ、駆けつけた忍びに四代目火影の捜索を命じると、三代目火影は赤子を抱いたままその場を後にした。








連れ帰って子供を調べたところ、予想以上に大変なことがわかった。
見たときから似ているとは思っていたが、医療班に解析してもらったところ、その遺伝子が100%四代目火影と一致することがわかった。
似ているどころの話ではない。
完全一致だ。
この事実は三代目火影をより混乱の渦へと叩き落とした。




懸命の捜索も空しく、四代目火影は影も形も見つからなかった。
死亡していたら死亡していたで死体があるはずなのだが、それすらわからないほどに粉々にされたのだろうか、と忍びたちの間で囁かれている。
それでも四代目火影を心酔する者達が生存を信じ、捜索していたのだが、一ヶ月を過ぎた頃、生存が絶望的だということで死体もないまま葬儀が行われた。


…話がそれた。


とりあえず九尾襲来から一ヶ月が過ぎたものの、三代目火影は赤子の処遇を思い悩んでいた。
一応育ててはいるものの、得体が知れない。
遺伝子は四代目と一致してはいるが、余計に得たいが知れない。
四代目火影には血縁者が存在しない。
親は早々に亡くしており、兄弟もいない。
結婚もまだだったので子供もまだいない。
なのに…この赤子は何だ。
それになにより問題なのは、里の中で広まる噂だ。
人の口にはかどがたてられないとはよく言ったもので、戦場から持ち帰った赤子の噂は医療班の者から里の者へと伝わり、瞬く間に里中に広まってしまった。
この時期に現れた出自もわからぬ不自然な子供。
しかも三代目火影が自ら世話をしているときく。
里の者達がコレはおかしいと思うのは無理からぬことであった。
また、否定することもできない三代目に噂は確定へと変わった。
今現在も机の上に広げられている書類の6割は火の国上層部からの赤子の所在や出生をこちらに明かすようとの要望書だ。
そんなコトに頭を使う暇があるのなら、里の復興に力を入れてもらいたいものだ。
そんな危機的な自分の状況も理解できず、スヤスヤと眠る赤子の姿を羨ましく思いながら三代目火影は執務を続ける。
四代目火影が死んでしまったために、三代目に火影の仕事が回ってきたのだ。
老体に鞭打ちとはこのことだ。
最近曲がってきた腰を気にしつつ、三代目火影は机へと向かった。




◇◇◇




――???――


何かに呼びかけられる気配がして目を開く。
そこに広がるのは黒い、ただっぴろい空間。
なんだ、夢か、ともう一度目を閉じる。
なんだか最近夢をみているみたいに現実感が無い。
ちょっと前は三代目火影にミルクを飲まされる、拷問のような夢をみた。
すると頭に走る衝撃。
もう一度目を開けると、目の前に漂う、黒いマントを羽織ったいかにも怪しい格好をした男。
顔は整っているものの、そのマントが全てを台無しにしている。

「余計なお世話だ!!」

再び頭に走る衝撃。先ほどの衝撃は彼が原因らしい。

「それより、さっさと起きろ四代目火影。」

言われるがままにミナトはその場にゆっくりと立ち上がった。
そしてアレ? と思う。
最後に自分は九尾に屍鬼封尽をかけ、死にかけていたはずだ。
今はその傷もない。
なによりその魂は死神に食われているはずなのに…
注意深く全身を確かめるが、やはり五体満足だ。
ワケがわからず、目の前に浮く男に視線を向ける。
「やっと目を覚ましたか…」

やれやれと溜め息を吐く男。
もしかして…

「死神?」

「いかにも。」

鷹揚に頷く。
えぇ!? とミナトは思う。
なんだか印象が違う。
何か、鬼みたいな顔をしていて、白装束を着込んでいたじゃないか。


…なんでマント?


顔に出ていたのだろうか、男は胸をはり、のたまった。

「趣味だ。」

「……じゃあ、あの顔は?」

「面だ。見てわかるようにハンサムマスクだからな。見とれて戦闘が疎かになってはいかんだろう。服装は面に合わせて作った。鬼といえばやはり着物だろう。」

何それ。
ミナトは目が点になるのを感じた。

「そんなことより、お前、何者だ?」

「何者って…四代目火影、波風ミナト…だけど。」

四代目って呼んでいたから、知っていると思ったが。
その答えにイラついたように死神はガリガリと頭をかきむしった。

「そーじゃなくて…聞き方が悪かったのか? こういえばわかるか。お前は本当に人間か?」

「はい?」

予想外の質問にミナトは目を丸くする。

「えぇと…人間、だけど。」

「本当に?」

「人間だよ。」

「本当の、本当に?」

にじり寄る、自称死神。
「………多分。」

自信が無くなり、ミナトは小声で多分、と付け加えた。
両親は幼い頃に亡くしており、記憶はあいまいだ。
そうにじり寄られて聞かれると、自信が無くなる。

「お前、今の自分の状況がわかってるか?」

「えっと…食われたんじゃないの?」

「食えるかっ!!」

怒ったように言い返してくる死神にミナトは首をかしげた。
じゃあ…

「ここ、どこ?」

「お前の精神世界だ。本当に今の状況理解していないみたいだな。」

「…うん、そーみたい。」

「じゃあ、お前、あの時俺に何をしたのかも覚えていないのか?」

「………うん。」

なんだか怒ってる風の死神に、ミナトは恐る恐る頷いた。
思わず正座をする。

「ふ、ふ、ふざけるなよっ! あんなことをしておいて!!」

「ご、ゴメンナサイ…」

どんなことをしたか知らないけど。
とりあえず頭を下げるミナト。
ミナトが頭を下げたことで、死神はひとまず落ち着きを取り戻した。

「お前、左手の甲を見てみろ。」

言われるがままに左手を見る。

「なにこれ?」

ミナトの左手、そこには今までに無い紋様が刻まれていた。
なんだか口寄せの術式に似ている。
ごしごしとこするが、取れる様子は無い。

「………契約の証だ。」

「契約? 何との??」

「…俺。」

「ふーん。」

……。

「えぇっ!!?」

死神との!?



驚愕してあらためて自分の左手を凝視するミナトに死神は再びイライラと髪をかきむしった。

「お前はあの時、お前を食らおうとしていた俺を調伏したうえに、九尾を封じやがったんだよ!!」

しかも無理やり俺と契約まで結んでいきやがった。




契約。
それは口寄せの妖魔や動物などの間で結ばれる主従契約だ。
契約したモノは自分の意思に関係なく、契約主に口寄せされる。
従来は絶対服従のような形をとっていたが、最近では術式が簡略化され、種族で契約する形が主流となっている。
特に妖魔ではそうだ。
忍犬などではまだこの絶対服従の形をとっている口寄せ動物も居るが、妖魔はプライドが高く、力も強いため、契約しても契約主の意向に沿わないことが多い。
なおかつ契約するのが尋常じゃなく難しい。
今の妖魔との契約は頭を下げて、どーぞ助けてください、みたいな感じだ。
実際四代目火影もブン太とはそういう関係で来た。
しかし、今四代目火影の左手に刻まれている契約の証は実際に死神本人との間に刻まれた絶対服従の契約だ。
驚くのも無理はない。




しかし、ミナトは死神の中に気になるワードを見つけた。

「そうだ、九尾! 九尾はどうなったの!?」

わー! 忘れてたぁ!!
と騒ぎ立てるミナト。
死神は溜め息を吐いた。

「ほんっとーに、自分が何したか覚えてないんだな。」

「だからそう言ってるじゃないっ! 九尾は!?」

指をさす死神。
その指の先には。

「…僕?」

「そう、お前の中に封じられている。」

「へー…」

………。

「僕ぅ!!?」
再び驚愕。
あわてて服をめくってみると、臍の辺りに刻まれた八卦の封印式。



うそーん。
だって九尾の妖狐だよ?
最強の妖魔だよ?
そんなの受け入れられる器なんてあるわけないじゃん。
そうか、コレは夢なんだな。



再び現実逃避をしてその場で横になり目を瞑るミナト。
死神は再びその頭をはたいた。

「…痛い。」

「当たり前だ。精神世界のこととはいえ、実際に今起こっていることだからな。」

「でも九尾だよ? そんなの人間が丸ごととりこめれるわけ無いじゃん。確かにフツーの人に比べればチャクラの量は多かったけどさー…」

「だから最初に聞いただろう。お前本当に人間か、と。」

「う…」

「もしかしたらお前の先祖、妖魔と交わっていたのかもしれないな。しかもかなり位の高い奴と。お前の髪、地毛だろ?」

「うん。」

「おそらく大陸の外の妖魔だな。先祖がえりでその血が強く出たんだろう。」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ! その言い方だと僕が妖魔の血が入ってること決定してない!?」

「当たり前だ。どこの世界にふつーの人間が死神と強制的に絶対服従の契約をしたうえに九尾を丸ごと飲み込めるような器のでかい人間が居る?」

「ぬがっ!」

的確な切り返しを受け、ミナトはあえなく撃沈した。




「それと、今の状況だがな…なかなか面白いことになってるぞ。」

死神はそう言って、何時の間に手に持っていたのか、リモコンのスイッチをポチリと押す。
すると、黒い空間に映画のように映像が映る。
そこに映っているのは…

「三代目?」

机に向かう三代目火影の姿が映っていた。
ちょっと前に三代目にミルクを飲まされる夢をみたので、ミナトは嫌そうな顔をする。
そして再び死神がリモコンを押すと、三代目火影の横にあった、赤子のベッドへと画面が切り替わる。

「へ?」

ミナトはその画面に映る赤子に目を丸くした。


なんだか、誰かに、似てま、せん??
その髪の色とか…


慌てて死神に振り返る。
鷹揚に頷く死神。そしてとどめの一言。

「お前だ。」

ミナトは今度こそ意識を失った。







続く。



[714] うずまきナルトのカレーな生活 1話
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde
Date: 2008/01/31 13:36
1話 新たな門出





死神にたたき起こされ、死神の姿を確認したミナトが再び失神という悪循環を三度ほど繰り返した後、ミナトはしぶしぶ今の状況を認めた。
認めざるを得なかった。
なぜなら…

「はーい、ミルクでちゅよ~」

コレだ。
元々子供好きなのか、得体の知れない赤子だというのに嬉々としてミルクを差し出す三代目火影の姿。
何の拷問だ。


ミナトは耐えた。
自分は、今は何の力も持たぬ赤子。
1人で生きていくことはできない。
養ってくれる人は必要だ。
しかし――

「いい子でちゅねー」

三代目火影の顔が近づいてくる。
近づいて…
近すぎじゃね?
まだ近づく気?
…まさか、コレは…


キスする気ですか!?


「あるぅ〇☆■◇!!」

赤子が出すべきでない泣き声を出し、ミナト(赤子)は小さな手を勢いよく出した。
油断しきっていた三代目はそれを正面から受ける。

「へばっ!?」

所詮赤子の力だ。たいしたダメージは与えられないのだが、赤子の手は見事に三代目火影の鼻の穴に突っ込まれた。
これはプロフェッサーと呼ばれた三代目火影でもたまらない。
慌てて赤子から距離をとる。



このようなことが繰り返されたからだ。
食事は生きるためには必要不可欠なもの。
死神のときのように失神して現実逃避することもできない。
こうしてミナトは現実を受け入れることになった。
ちなみにオムツ換え時は失神している。
いくら必要なことだとわかってはいても、元、健全な成人男子である以上、認めたくても認められない。
複雑なのだ、男心というものは。





◇◇◇





――再びミナトの精神世界――


「――で、認めたか?」

相変わらず趣味の悪いマントを羽織った死神が問いかけてくる。
ミナトはしぶしぶ頷いた。
本音を言えば認めたくない。認めたくないが、現実として受け止めるしかないのだろう。

「んじゃ、今のお前の危機的状況について話すぞ。真面目に聞けよ。」

そして再びリモコンを操作しようとする死神に、ミナトはふと疑問に思ったことを訊ねた。

「なんで、そんなに親切なの?」

「………。」

黙。
リモコンを握ったままの姿で硬直する死神にさらに続ける。

「いや、僕としては感謝感激っていうか、助かってるんだけど…なんで?」

「……お、ま、え、な~~~!!!」

胸倉をつかまれ、持ち上げられる。

「だぁれが人間に好き好んで手を貸すかっ! 自分の命がかかってるからに決まってるだろーが!!」

「へ?」

「だ~か~ら~」

胸倉から手を離し、ミナトの左手の甲をトントンと叩く。

「普通の口寄せの契約と違って、絶対服従のこの契約は、契約主の命が尽きると契約された相手も死ぬんだよ。だからこその“絶対”契約。命がかかっている以上、契約主の命を守るのが契約されたものの宿命だ。」

契約主が契約を解消しない限り、それは続くという。

「へー、そうなんだ。」

「それぐらい常識だろ常識。お前火影だったんだろ? 頭ゆるいんじゃないのか。」

「そんなことないよ。コレでもアカデミーでは首席で…最近では絶対服従の契約は一部の忍犬としか交わされてないからなぁ…知らなかった。」

つまりは一昔前のコアな知識。
勉強になった。
それに憮然とするのは死神。
もしかして俺、年寄り扱いされてね?

しかし、へー、ほー、ふーん、と感心仕切りのミナトにいちいち指摘するのがバカらしく思い、スルー。先ほど操作しようとしていたリモコンを取り出し、ボタンを押した。
すると画面に映る、見覚えのある方々。
それもそのはず、火影襲名時に挨拶にいった覚えがある。
火の国上層部を占める老人の方々だ。
なんだか会議の真っ最中らしい。
全員が全員、気難しそうな顔をしながら深い皺の刻まれた顔に、より皺を刻んでいる。

「何コレ?」

「現在開かれている会議の生中継だ。」

「へー、便利だね。こんな風に見れるなんて。」

「遠眼鏡の術の応用だ。三代目がよく使ってる水晶で遠くを見る…って、そんなコトより内容を聞け。」

死神に促され、ミナトは交わされている会話に耳を傾ける。




『三代目火影の返答はどうだった?』

『相変わらずじゃ。知らぬ、存ぜぬ、とな。』

『今更そんな言が通じようはずが無かろう!』

『今すぐ子供を明け渡して、しかるべき処置をせねば…』

『しかし、子供を殺せば九尾が再び出現する可能性が捨てきれないぞ。』

『ぬぅ…』

『そんなに難しく考える必要も無かろう。いっそのこと里の兵器として利用するのはどうじゃ?』

『おお、それは名案だ。』

『しかし、力を与えるのは逆に危険なのでは。』

などなど。
なんだかとてもとても不安を掻き立てる内容ばかり。
決定的なのは、“九尾”という発言。




「………ねぇ、もしかして、コレ…」

「お前をどう処分するかの検討会。」

「…やっぱり。 や~だ~! 処分されたくない~!!」

ごろごろと精神世界を転げまわる。


せっかく何の因果か死なずにすんだのに、姿が赤子に代わっていたり、ついには処分!?


せっかく一生懸命、命を懸けて戦ったというのに。
いや、彼らは赤子=四代目火影とは知らないのだろうけど。
それでも、里の者達のために全てをなげうって九尾と戦ったのはこんな仕返しを受けるためではなかった。
また、あのとき死にたくないと思ったのは、こんなことをされるためでもなかった。
里のため、忍びのため、これから生まれてくるだろう新たな木の葉の者達のため、火影としての職務を全うしたものに対する仕打ちがコレ。
ミナトはなんだかだんだんムカついてきた。
画面の向こう側ではなお、好き勝手なことを老人がしゃべっている。


ムカムカムカムカムカムカ………………プチン。


「ふっふっふっふっふ…」

急に笑い出すミナト。
死神はギョッとしてミナトから距離をとった。

「だ、大丈夫か? お前。」

「大丈夫? 大丈夫か、だと? ふ…っっざけんなぁー!!

ウラーっとちゃぶ台をひっくり返すミナト。
ここはミナトの精神世界。
やろうと思えば、自分の望むものを出現させることができる。


ミナトは精神世界に仰向けにひっくり返った。

「もう知らん! どうなろうが知らん! 勝手にやれ!! つか、死ね!! 死にさらせ!! あんな奴らがどうなろうが、僕は、もう一切手を貸さん!!!」


テメェらのために命を懸けたんじゃねぇよ!!


と、ミナトは仰向けに寝転んだまま散々罵倒する。
そして全て吐き終え、息を整えると静かに悔し涙を流した。


あんな奴らのために、僕は…


「…ちくしょ……っ!」



悔しい。
…こ の う ら み ゆ る す べ か ら ず 。



ミナトは傍らに呆然と立っていた死神につかみがかった。

「お前、僕と絶対服従の契約をもぎ取られたって言ったな!?」

「あ、ああ。」

「じゃあ、今すぐその力を僕のために使え!!」

「はぁあ? んなことなんで俺がしなきゃ――」

「あ、なんだか僕、ものすごく死にたくなってきちゃった。」

そう言って、精神世界に作り出した、天井から吊り下げられた縄のわっかに首を通す。

「ぬおぉおおおお!!?」

あわてて止める死神。
ミナトに今死なれてしまっては、死神も死んでしまう。

「わかった! 力を貸す!!」

「ホントに?」

「ああ。」

「ホントのホントに?」

「本当の本当だ。」

その死神の言を聞き、ミナトはゆっくりと首に通していた縄を取り除いた。





「じゃ、コレ、計画書ね。」

ミナトはぺらりと死神に紙を渡した。
死神は、最初こそ真面目くさった顔でそれを眺めていたが、眺めていくうちに呆れた顔をし、最後まで目を通した際には目が点になっていた。

「…聞きたかないけど………これ、ナニ?」

「だから、計画書。」

「……何の?」

その問いに、よくぞ聞いてくれました、といわんばかりにミナトはその場から立ち上がり、拳を握り締め、声高らかに宣言する。

「僕の人生は、あんな死にぞこないの、骨と皮だけのクソジジイやクソババアのために命を懸けることじゃなかった! 僕の人生は僕のもの!そうだ!! 僕はこれから好き勝手に、自分の好きなように生きる!! 僕は僕のために生きる! 自分の力は自分のために使う!! これぞ、ビバ☆ 自分の人生を楽しくおかしく謳歌するぞ! 計画!!」

「……あ、そ。」

死神は止めるのを諦めた。





◇◇◇





それからは様々なことが里で起こった。


赤子の処分を検討委員会の皆様方はどこからともなく跳んで来た野球ボールで骨折し入院したり、何故か落ちていたバナナの皮で滑って入院したり、外を歩いていると、どこからとも無く飛来したバケツに視界を奪われて転倒したり…


話はそれだけではすまなかった。
里の者達にも赤子の処分に積極的に乗り出していた者達が、任務の最中に子供の掘ったと思われるブービートラップにひっかかったり、集団食中毒になったり、何故か突っ込み用のたらいに見舞われたり。
はては、火影の屋敷に忍び込み、赤子を処分しようとした強硬派の者達が何故か大移動をしていた象の群れに巻き込まれて大怪我という事件まで発生。
他の強硬派の連中を震え上がらせた。


こうして、赤子の処分の話はお流れになった。
誰だって自分の命は惜しい。


そして赤子は九尾の子供の噂とは取って代わり、天に愛された子供としてまことしやかに里で噂されることになった。






続く。

*************************************************************


あとがき

はじめまして、ヤドクガエルです。
ナルトでは初投稿となります。
ナルトが里の者達からいじめられてるの知ったら、四代目火影、
怒るだろーなー…なんて考えてて思いついた小説。
オリジナルキャラはこれ以上出さず、原作どおりに運んでいくつ
もりですが、原作と性格変わっているキャラは結構居ると……(汗

それではよろしくお願いします。




[714] うずまきナルトのカレーな生活 2話
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:96972ce7
Date: 2007/12/07 01:05
2話 





あれから6年。
三代目火影により“うずまきナルト”と名づけられた赤子は、聡明な少年へと成長していた。
相変わらず、危害を加えようとするものにはどこからともなく跳んで来た何かに撃退されることになったが。





6年前の災害から復興、大幅に減少してしまった忍びの数の問題、さらには避難等に関しての問題点の洗い直し。
まさしく三代目は忙しさの渦中であった。

赤子の面倒をみる時間など本来は存在しない。
3時間おきのミルクやりなど本来ならばもってのほか。
しかし三代目はたとえ指を鼻の穴に突っ込まれようとも、根をあげずによくやってくれたものだ。

ただしそれが続けられたのも、ナルトが3歳になるころまで。
さすがに三代目補佐官が根をあげたのだ。
「もう勘弁してください、火影様…私だって家に帰って子供と顔を合わせたい」と。

そのためナルトは3歳から三代目火影の元を離れ、猿飛家のある人へと預けられることとなった。
そのある人とは三代目火影の息子の1人、三代目の火影の子供達の中では一番の末っ子、唯一の独身、アスマだ。
もっとも一時的なもので、家事一般ができるようになれば三代目から家(アパートの一室)があたえられ、1人暮らしをすることになるのだが。
つまり、アスマは家事一般をナルトに教えるためにつかわされた、教師役なのだ。

最初に会ったときは、本当に家事できるの?
と、はなはだ疑問であったナルトだが、その考えはすぐに改められることとなった。

生家を出て1人暮らしをしているアスマは、なかなか、どうして気の利く男で、家事も全て自分でこなしていた。
カカシの同期らしいと後で聞いたが、えらい違いだ。
カカシは家事は壊滅的、やればできるのだろうけれど、日常においても夕食に携帯食料をほおばっていたことなど一度や二度ではすまない。
みかねたミナトがよく夕食時に食堂や店などにつれだしたりしたものだ。
…今はどうか知らないけど。

そんなわけで、ナルトは現在、アスマの部屋で世話になっていた。
カカシほどではないが、若くして上忍であるだけにいい部屋に住んでおり、急に1人住民が増えようが申し分ない広さであった。

またアスマは三代目の血をひく息子だけあって、得体の知れないとされるナルトに対しても含むこともせず、普通に接してくれる数少ない1人でもあった。
最近ではアレが効いたこともあり、敵害心を向けてくるものは居ないが――
まあ、居たら居たで制裁行動に移るんだけど…――やはり積極的に関わろうとするものは居なかった。
そのため、ナルトは転生してより人間の醜い部分のみが目に付いてしまい、心がささくれ立っていたのだが、最近ではそれもおさまってきた。
口には出さないが感謝している。


元々、ミナトとしての記憶があるため、家事一般に対しては身体の小ささに慣れるだけであったので、この奇妙な同居生活も後少しだろう。
少々寂しくも思うが、何時までも世話になっているわけにもいかない。

――そんな時だった、三代目火影から呼び出しが来たのは。







火影の執務室のドアを二回ノックする。
一呼吸すると、中から「入れ」という声。
ナルトは背伸びをしてドアのノブを回すと、「失礼します」といって中に入った。


中に入ってまず目に入ったのは、山のようにつまれた書類であった。
そして次に、ここ数年で随分と年をとってしまった、多量の書類に囲まれた三代目火影の姿が映る。
睡眠時間が足りていないのか、目の下にくまが刻まれている。

(うわぁ…)

ナルトは同情した。
そして…

(死んでよかった。)

と、内心溜め息を吐く。
本来ならばあの仕事、四代目火影であった自分がこなさなければならなかったのだから。


ナルトはひとまず書類を目の端に追いやると、三代目火影に走り寄った。

「こんにちは、三代目火かげさま。」

ペコリと頭を下げる。
すると今まで幽鬼の様な顔をしていた火影が顔をほころばす。

子育てしていたことが効いたのか、三代目火影のナルトを見る目は孫を見るそれだ。
名付け親でもあるしね。

「おお、よく来てくれたな、ナルト! アスマはよくやってくれているか?」



実はナルトをアスマに預ける際、一番反対したのは三代目だった。
“ワシがやる!!”と言ってだだをこね、補佐官たちをほとほと困らせた。

「無茶言うな!」
「そんな時間どこにあるんだ! ええ!?」
「この書類、誰が片付けるんだと思ってるんですか!」
――などなど。

結局一週間に一度、必ずナルトが三代目の元を訪れると約束することで一応の終局をみた。
今週も訪れた際に音の里の“蛇饅頭”という、何が入っているのかよくわからんとても怪しさ爆発のお菓子を出された覚えがある。
…食べたけどさ。
……美味しかったけど。以外に。



「はい、とても。ところで火かげさま。何かごようでしょうか?」

「ああ、よいよい。個人的な話でな。敬語を使わんでもよい。」

「…では?」

首を傾げるナルト。
何かまずいことしたっけ?
そんなナルトに三代目火影は一枚の紙を取り出した。
受け取り、それを読むナルト。

「じーさま、コレは…」

「忍者アカデミーの入学願いだ。お前ももう6歳。学校に入学する年だ。将来の夢など考えるにはまだ早いが、選択肢の一つと思ってな。」



ここは火の里、隠れ里(全然忍んでないし、隠れてないけど)。
子供の八割は忍者アカデミーに入り、忍びをめざす。
後の2割は商人や職人だ。

(そういえば忍びになりたいなんて、三代目の前で言わなかったな…)

忍びになることは自分の中ではもはや決定事項だったのだけれど、きちんとした意思表示はしていなかった。
ナルトは、その紙を大事に折りたたむとポケットの中に入れた。
書くにしても、今は実印がない。
――それに。


「でもじーさま。僕、じゅぎょう料はらえないよ?」

うずまきナルトには両親が居ない(当たり前だ)。
つまるところは金がない。
今のところは三代目火影にお世話になっているのだが、さすがに授業料まで払わせるのは気が引ける。
特に今日見てしまった書類の量が量だけに。

(うぅ…すみません、三代目。……手伝わないけど。)


しかしそんなナルトに三代目は安心させるように頭を撫でた。

「大丈夫じゃ、ナルト。この里は現在孤児が多くてな。…今は減っているが、その救済策ぐらい用意されておる。」


はい、九尾さんのせいですよネ。


ナルトのことを思って隠してくれているのはわかるのだが、事実を知っているだけに、むずがゆい。

「う…ん。」

一応悩むふり。
答えは決まっている。

「じゃあ、僕、アカデミーかよう!!」

「そうかそうか、では先ほどの紙を記入して一週間以内にじじいのところに持っておいで。書き方はアスマが知っておる。わからないことがあれば聞きなさい。」

「はいっ。ありがとう、じーさま。」








続く。


***********************************************************


次回
ナルト、入学す。
「…………ありえん。」



[714] うずまきナルトのカレーな生活 3話
Name: ヤドクガエル◆18b7829a ID:ad700629
Date: 2007/12/07 01:02


3話 入学式



桜も満開を迎える4月。
ナルトは朝早く、アスマの部屋へと向かっていた。





アカデミーへの入学を決めた後、ナルトは三代目火影に1人暮らしがしたいと申し出た。
予想はしていたが、猛反対された。
アスマにも反対された。



「ダメだダメだダメだダメだダメだ!!!」

「そうだ! まだ6歳だぞ!? 早すぎる!!」

「でも、ずっとこのまま、ダメでしょ? アスマ、僕がいるせいで長期任務につけてないし。」

「「ぬ…」」

ナルトの正論の前に、三代目とアスマの2人は黙り込む。
確かにその通りだ。
忍びの数が減ってしまった現在、わざわざ健康で若い上忍を遊ばせておくことはできない。
しかし、アスマは現在ナルトの監視任務のため、里を離れることになる長期任務が与えられずにいる。
これは上層部にとって大きな負担なのだ。

「しかしだな…」

「かんしなら、他の人と交代でみればいいし。」

「うぬぬ…」

「家事だって、もう、ちゃんと1人でできるようになったんだよ?」

「む、だがなナルト…」

「それに、家事ができるようになれば一人ぐらししていいって言った。」

「う…」

「……………ウソつき。」

「ううぅ…」



―――とまあ、このようにナルトは1人暮らしの許可を2人からもぎ取った。
2週間前から三代目が借りた部屋に1人暮らしをしている。
新たな監視役の者達とも顔合わせは終わっている。
新たな監視役は三名。
イビキとアンコとハヤテ。
三名ともそれぞれの理由があって、里を離れることができない特別上忍の者達だ。
一日交代でローテーションを組んでいる。

その三人との出会いは外伝で書くとして、その三名はナルトが懸念していた九尾への嫌悪感は感じられなかった。
そのため、ここのところナルトの機嫌はいい。
また、この三名、特別上忍の中でも変り種らしく、その行動にナルトは戸惑わされた。

普通忍びの監視任務というからには、こちらに気付かれることなくやるのかと思いきや、彼らは初日から堂々と姿をナルトの前に現し、玄関からナルトの部屋に上がりこみ、隠れることを全くしなかった。
コレには唖然としてしまった。忍びとしてどーなの?
不信に思い訊ねてみると、コソコソ見られているよりも、こうしていた方が気を張ることがないだろうと言われ、納得した。
最近ではナルトの食事に味をしめたのか、ローテの日でもないのに部屋を訪ねて来て食事を催促し、酒を持ち込み、まだ6歳(肉体年齢)のナルトに飲むのを強要する始末。
もっとも、収入の無いナルトだ。食事代と迷惑量はきちんと三人から(水増しして)徴収している。




それが何故アスマの部屋に向かっているのかというと…
入学式なのだ。今日は。
そのため、アスマに保護者役をやってもらうのだ。
監視役の三名は…イビキは子供に泣かれる。笑ったら特に。よって却下。
アンコはテンション上がる→酒飲む→叫ぶ→暴れる。よって却下。
ハヤテは楽しい入学式が一転、お化け屋敷の雰囲気に。よって却下。
こうしてお鉢がアスマへと回ってきた。
三代目も立候補したらしいが、補佐官にすげなく却下されたのこと。
当たり前だ。





コンコン。

ドアをノックする。
すると間髪あけずに開くドア。
もしかしてずっと待ち構えていたのだろうか…?

「遅かったなナルト。」

いつもとは違って、きっちりと忍び服を着こなしたアスマが出迎えた。
煙草を銜えてはいるが、火はつけていない。
どうやら口が寂しいらしい。今度飴でも送ってやろう。
というか……

「ホゴ者としてイワ感ないよ、アスマ…」

「………うるせ。」

猿飛アスマ、22歳。
彼は老け顔だ。


◇◇◇


アカデミー。
親子連れがわが子の姿をパシャパシャとカメラにおさめるのにいそしんでいるさなか、げっそりとした様子をした2人がいた。
ナルトとアスマだ。

例によって例のごとく、長ったらしい校長の話に、ナルトの入学式という事で気合の入りまくった火影のさらに長い話。
やっと式典も終わったと思いきや、カメラ片手に補佐官を腰に引っさげて追いかけてくる火影から逃げてきたのだ。

「つ、疲れた…」

「同感だ。入学式がこんなに疲れるものだったとはな。」

煙草を取り出し銜えるアスマ。
しかし目に入る学校内禁煙の看板に、しぶしぶジッポをポケットに戻す。

「でもいいデモンストレーションになったんじゃない? パパv」

「……何の話だ。」

「紅さん、キレーな人だよね。」

「ぶっ!! ナルト、おまっ、どこでっ!」

「新しい監視役の特別上忍の人たち~。嬉々として教えてくれた。」

「あの人たちは…っ!」

「で、付き合ってるんでしょ? 結婚は何時頃??」

「な!? 何言ってんだ! まだ付き合いだして三ヶ月ぐらいだぞ!? まだそこまで―――」

「へぇ~~~」

ニヤニヤ。
笑うナルトとは逆に、アスマは額に皺を寄せて黙り込む。
6歳児に大人がからかわれる。シュールな光景だ。
そこに一つの影が近寄ってきた。

「よぉ。」

片手を上げて近寄る人影。
黒い髪が後ろで一つに束ねられ、パイナップルみたいな髪型。
鋭い眼光。
傷が刻まれた顔を歪ませて近寄ってくるその見覚えのある人に、ナルトは目を見開いた。

名家の一つ、奈良家の現当主、奈良シカク。

生前、特に仲良くしていた者の1人だ。
九尾の事件で死亡(?)するまで、一緒に戦地で戦ってきた戦友。
確か九尾の事件の後、子供が生まれたということもあり前線を引いたと聞いた。
現在は奈良家の当主としての仕事に追われているらしい。

(そういや、九尾の事件の年に生まれたのなら、自分と同じ年の子供になるんだっけ…)

入学式にシカクがいるとは露とも思わなかったナルトであった。



「なんで猿飛のボンがここにいるんだ? はっ、まさかお前、あんな美人を恋人にしときながら…!」

「違います!! …今回は保護者役としてナルトの付き添いです。」

「ナルト…?」

「ええ、身寄りの無い子供でして、親父が引き取った子供です。本来なら三代目が保護者役として同伴するところですが、さすがにそれはダメでしょ?」

「なるほどなぁ。つかお前、違和感ねぇなぁ…」

「……ほっといてください。」

本日二回目。


「紹介しますよ。ほらナルト、挨拶を。奈良家当主、奈良シカクさんだ。」

アスマに促され、無視するわけにもいかず、ナルトはシカクの前に進み出た。

「はじめまして。うずまきナルトです。」

そう挨拶すると、いままで笑みを浮かべていたシカクの顔があからさまに引き攣った。
シカクの脳裏に今でも焼きついて離れないあの友人。
日常生活ではしこたま迷惑をかけられたが、忍びとしては優秀すぎたあの男、波風ミナト。
それをそのまま小さくした子供が、いま、ここにいる。

(ミ、ミ、ミナト!? って、んなわけねぇよな、ありえねぇ…あいつ死んだんだし。第一、年が違う。まさかあいつの子? でもそんな話は聞かなかったな。………隠し子か? あいつ、女には興味ないみたいなこと言ってたくせに隠し子をこっさえてたのか…!! なんてこった!!)

失礼なことを考える奈良家当主。混乱しているようだ。

「…シカクさん?」

「あ? わ、わりぃ…意識がトリップしてたみたいだ。よろしくな、ナルト。」

「はい、よろしくお願いします。」





**************************************************************

次回、出会い。
「……………(怒)。」



あとがき
アスマの年齢は公式の資料見てないので、あてずっぽうです…
間違っていたらすみません。



[714] うずまきナルトのカレーな生活 4話
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2007/12/11 23:16

4話 最悪の初対面



「おっと、子供相手に親が自己紹介してもな。…おいっ、シカマル! こっち来い!!」

シカクはナルトに背を向けると、後ろのほうでたむろっていた2人組の子供に声をかけた。
すると、その中からシカクと同じ髪色をした子供がタラタラトゆっくりこちらに歩いてくる。
頭のてっぺんで一つにまとめられた髪型、子供特有の丸い輪郭の中に鎮座する、子供にあるまじき鋭い目付き。
わざわざ言われなくてもわかる。
シカクの息子だ。
シカクはその子供らしからぬ自分の息子の態度に呆れながら、その頭に手を置いた。

「こいつが俺の息子だ。同じ学年になるし、嫌でも顔をつき合わすことになるだろうから仲良くしてやってくれ。」

自己紹介ぐらいしろ! と父親にはたかれ、子供はしぶしぶその重い口を開く。

「…ども、奈良シカマルです。」

子供特有のボーイソプラノ。でも、口調はシカクそのもの。
ナルトは湧き上がってくる衝動に、とっさに顔を伏せた。

「……ナルト?」

様子のおかしいナルトに、アスマは声をかける。
何だかんだいって、礼儀正しいナルトだ。
初対面のもの相手に黙っているなんておかしい。
しかし、心配しているアスマをよそにナルトはそれどころではなかった。

(笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ笑っちゃ…笑うしかないよ!)

「ナル―――」
ぶふぅっ!!!

アスマが名前を呼ぶのと同時期、ナルトはその、自分の頬に溜まりに溜まった空気を放出。
目を丸くする2人の大人の前で、ナルトは腹を抱えて笑い出した。

「ふふっ、あははははは!! ちょ、似すぎ…ぶふはっははっ、こ、コピーじゃん!? コピー忍者、なんつって!」

「コピー忍者ぁ?」

コピー忍者って、はたけカカシだろ。なんで6歳のお前がカカシの二つ名知ってんの? ってゆーより…

「確かに、コピー…だな。プ(笑)。」

ナルトと同じ笑いに襲われるアスマ。が、ここは大人の教示。何とか空気が漏れるだけですます。
シカクはシカクで、外見だけじゃなくて中身もあいつ(ミナト)と同じだぁ…と、遠い目。
つか、姿形が似てるのはナルトもでしょ!
まああなたの場合コピーではなく、オリジナルですけど。

一方、面白くないのは笑われているシカマル。
元々悪い目付きがどんどん悪くなっていく。
ナルトはそれに気付いたが、気付いても、任務中でもないため、その笑いをなかなか引っ込めることができない。

「はははっ、ぐほげほ! ご、ごめ…」

「……………(怒)。」

ますます顔を険しくするシカマル。
初対面の印象最悪だ。



膠着状態に陥っていると、ちょっと精神を遠くに飛ばしていたシカクが戻ってくる。
そしてナルトを睨んでいるシカマルの頭をはたく。

「お前も睨んでねぇで、向こうのガキんとこにそいつ連れてってやれよ。」

「……わかった。」

渋々頷くシカマル。
そして未だ笑いが収まらず、肩をひくつかせているナルトを連れてその集団に向かっていく。


「しかしアレがうずまきナルト。天に愛された子供、ねぇ。想像してたのと違うな…なんかもっとおどろおどろしいの想像してたんだが。」

「シカクさん…」

「お前が心配してるようなことはしねぇよ。…あいつにそっくりだしな。」

「四代目火影、ですか。」

「ああ…って、あいつらも気付いたみてぇだな。」

「は?」

シカクの視線のほうに目を移すと、こちらに向かって走り寄ってくる二人の男の姿が。
何だが幽霊でも見たみたいに青ざめた顔をしている。
1人はこの里ではめずらしい金髪を長く伸ばした男性。
もう1人は大きな上背に質量感たっぷりの恰幅のいい男性。
シカクと同じ名家の当主、山中イノイチと秋道チョウザだ。
2人は一目散にシカクとアスマの元に駆け寄ってきてシカクにつかみがかる。

「ミ、ミ、ミ、ミナ、ミナっ!!」

「よ、よ、よ、四代目っ!!」

「…落ち着け。」

「だがアレは! あの姿はっ!!」

「そうだ! あの金髪に青い瞳、それにあの顔!」

「落ち着けって。いーか、よく考えろ。生前あいつはあの若さで火影になったうえに、あのルックス…引く手数多だった。なのに、特定の女性を作っていなかった。時間がないとかいってな。」

「あ、ああ、確かに。」

「必要最低限、礼儀としてしか相手にしてなかったな…」

「そこで俺は考えた…あのガキは、あいつは―――ミナトの隠し子だ!!

「なっなんとぉ!?」

「隠し子!?」

「……おいおいι」(アスマ)



◆◇◆



そのころ、ナルトは…

「は…っくし!! う~何か変な噂たてられてる気がする…」

「………」

「さっきあった二人(イノイチ&チョウザ)は人の顔見るなり走り出すし。」

「………」

「きょ、今日いい天気だよね。」

「………」

「………」

(うう、まだ怒ってる…)

当たり前だ。



「あれ、シカマル、その子誰?」

しばらく無言で歩いていると、前方から金髪のぽっちゃりした体形の男の子が話しかけてきた。
秋道チョウザの息子だろう。シカマルほどではないが、父親そっくりだ。
てゆーか、シカマルだけじゃなく、チョウザの息子とも同期なんて…

「俺らと同じ新入生だ。親父に連れて行ってお前紹介して来いって言われた。」

嫌そうにこたえるシカマル。
確かに顔見て爆笑したのは悪かったけどさぁ。

「僕は秋道チョウジ。よろしくね。」

「僕はうずまきナルト。こちらこそお願いするよ。」

そうして握手を交わす。
シカマルのときと同じような失敗はしない。
つかシカマルのとき、自己紹介しなかったな…

「てゆか君、デブだね。」

さらっと、それはもう潔く、ナルトはチョウジの身体を見て言った。
その瞬間、空気が凍りつく。
そしてチョウジの目にみるみる涙が溜まる。

「う…」

顔を下に向けるチョウジ。

「てめぇ!」

ナルトは激昂したシカマルに胸倉を掴まれた。
が、意味がわからない。
どうして先ほどの発言で泣くのか。
先ほどの発言の何がいけなかったというのか。

(うーん…あ、もしかして。)

「…デブ?」

チョウジの肩がビクリと揺れ、シカマルの手にますます力が入る。
ナルトはシカマルの手を無理やり振りほどくと、チョウジに近寄った。

「何で?」

それはナルトの本心だ。

「秋道家特有の忍術なら知ってる。」

アスマからは感嘆交じりに、新たな監視役の特別上忍の者達からは、こんなすごい忍びもいるのだと聞いた。
自分自身も以前一緒に戦ってきた仲間としてそう思う。
だから―――

「その体は秋道君の武器でしょ? 誇っていいと思うよ。」

すごいね、と言うとチョウジが泣きそうになっている顔を上げた。

「……すごい?」

「うん。」

「だって、デブでトロイってよく言われるし。」

「スピードだけが全てじゃないし。第一それは何も知らない人の評価でしょ。僕は知ってる。アスマや僕の知り合いの忍びも言ってた。秋道君のお父さんはすごい忍びだって。」

「…誇って、いいんだ。」

「うん。」

チョウジは目に溜まっていた涙を拭き、笑みを浮かべた。
先ほどまでの陰りはもうない。

「僕のことはチョウジでいいよ。」

「じゃあ、僕もナルトって呼んでね。改めてよろしくね、チョウジ。」



シカマルはその光景に目を丸くする。
ナルトの言葉は口先だけのものではなかった。
本心からそう思っているのが言葉の端々でわかった。
今の今までくすぶっていた怒りが急速にひいていく。

(…変な奴。)

でも、悪い奴ではないらしい。
今まで周りにいなかったタイプの人種だ。退屈しなさそう。
シカマルは笑みを浮かべている2人に近寄った。

「俺も…」

「へ?」

「俺のことも、シカマルでいい。」

少しばかり頬を赤くして、そっぽを向きながら言う。
そういうところもシカクに似ているのだが。
ナルトは笑みを深くしてシカマルに手を差し出した。

「ナルトでいいよ。よろしく、シカマル。」

「ああ、よろしくな。ナルト。」




続く。

***************************************************************

あとがき

こうして、三人は仲良しになりました。
シカマル大好きです。
二部のシカマルでさらに大好きになりました。
シカクも大好きだ! 渋親父、渋親父!
たびたび登場すると思います。
チョウジも友達思いのいい子で好きなので一緒に仲良くなってもらいました。

これから先、チョウジはデブといわれても激昂したりしません。
コンプレックス解消しましたから。

次からは本編。
学校生活は外伝とかで思いついたら書いていきます。




[714] 外伝1 顔合わせ イビキ編
Name: ヤドクガエル◆1f705fa6 ID:7f8a36a9
Date: 2010/01/04 07:11
外伝1 顔合わせ  ―イビキ編― 







それは未知との遭遇であった。


イビキの顔はいかつい。
元々上背のあるほうで肩幅も平均男性と比べれば広く、いるだけで威圧感を与える姿形をしている自覚はある。
その上、他の里の忍びから拷問を受けた跡があり、バンダナをはぐと、リアルフランケンシュタインの降臨である。
よってイビキは子供受けが悪かった。最悪といっていいぐらいに。
実は子供は好きなほうなのだが、普通に泣かれるだけならまだしもひきつけを起こされること複数回。イビキは意識的に子供を避けるようになった。

そんな彼にとって、それは青天の霹靂であった。




「監視…ですか?」
「そうじゃ。」

三代目火影に呼び出されて向かった執務室。
イビキはそこで火影から聞かされた任務に聞き間違えたかと、再度問いただすが返ってくるのは肯定。
イビキは耳が悪くなってしまったのかと、耳を指でほじくりかえす。
だがそんな様子のイビキに火影は無情にも「もう決まったことだ。」と言い切る。

「いや、ですが…」
「アスマに今までたのんどったんじゃが、何時までも使える上忍を里内で遊ばせておける状況ではない。」
「まあ、今の時期では仕方がないですね。」
「そこで、だ。里内に常勤していることを指定された特別上忍のお前にこの任務を継続させることになった。」

捕らえられた忍び等の拷問係を任命されているイビキは、何時拷問の任務が入ってくるかわからず、拷問の中には緊急を要するものもあるので、里内で常勤することが決定付けられている。
そのことに不満はなく、当たり前のことだと思っているが、まさかこんな任務を仰せ付けられることになるとは。

「四六時中張り付けとは言っておらん、お前のほかに2人の特別上忍の者にも頼むつもりだ。その3人でローテーションを組んでもらうことになる。」
「はあ。」
「監視といっても拘束することはなく、特別変わったことがないか様子を見ていてくれるだけでよい。そう、難しいことでもあるまい。」

確かに難しい任務ではない。
むしろ簡単すぎる。
監視といっても、監視していることを気取られないようにするわけでもない。
だがしかし、イビキにとってはそれはとてつもなく難しいことであった。

「ですが…子供、なんでしょ?」

そう、子供。コレがイビキにとっては大問題であった。



監視対象、うずまきナルト。
それはいい。
九尾に対しては一緒に任務にも行ったことのある仲間の忍びが殺されたため恨みぐらいある。
だが元々自分達は忍びだ。敵忍びに殺された忍びの数のほうが多いし、その敵忍びの里と同盟を結ぶことだって今までだってあった。
そのたびに仲間の仇ぃ!とか言っていては、同盟など結べない。割り切ることぐらい忍びであればできる。
それにうずまきナルトの中に九尾が封印されていることは三代目から今回の任務内容を聞かされる際に聞いた。
つまりは、うずまきナルトの中に封印されている⇒うずまきナルト≠九尾。
うずまきナルト自体に何か思うところはない。
そもそも会ったことすらないのだから。
まあ一部の忍びの中にはそんな考えができずに未だにうずまきナルトに対して遺恨を持っている者もいるが。
今回の監視任務もそのような不満を抱く者達をある程度納得させるためにするらしい。
イビキにとっては迷惑以外のなにものでもない。



「えらく子供であることに拘るのぅ…」
「自分の外見ぐらい自覚していますから。」

そのイビキの発言で、三代目火影はイビキが何をそんなに気にしているのかにやっと気がついた。
見慣れてしまえば本人以外、外見などたいして気にしないものである。

「なるほどのぅ…つまりは子供がお主の姿を見て泣き出さないかが不安であると。」
「…まあ、端的に言えば。」
「ふむ…大丈夫だろうとは思うが、そういうことならば明日、一度ナルトと会ってみるか?」
「………は?」

我ながらマヌケな顔をしていると思う。
きっと鏡を見れば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているだろう。
しかし火影はそんなイビキの様子を無視し、勝手に話を進めていく。

「うむうむ、我ながら妙案じゃ。」
「いや、あの――」
「お主もナルトがお前の外見に対して泣いたり怯えたりしなければOKなんじゃろ?」
「……泣き出さなければ。」

無理と思うけど。



今まで泣き出さなかった子供は、幸運にも眠っていてイビキの姿を視界におさめることがなかった子供だけだ。
後は盛大に泣き出す、必死に泣くのだけは耐えたが、目に涙をあふれんばかりに溜めた子供たちばかり。



今までのことを思い返し、ちょっとへこむ。
火影はへこんでいるイビキを無視して話を進める。

「では明日3時頃に執務室に来るがいい。ナルトと他里の菓子を食べる約束をしておってのぉ。」

ぬふふ…と顔をほころばせる三代目火影。
言っちゃ悪いがちょっと不気味。
息子のアスマをつけるあたり、可愛がっているのだろうことは推察できたがここまでとは。
トリップし始めた三代目火影にイビキは溜め息を吐く。
三代目の中ではすでにイビキが来るのが決定事項なのだろう。
この件を断るにしても理由があったほうがいい。
イビキは喜色の悪い含み笑いをし始めた三代目火影に了承の返事をすると、そそくさと執務室を後にした。





◇◆◇





―次の日―

「はじめまして。うずまきナルトです。」

イビキを見ても泣き出すこともせず平然としており、六歳にしてはしっかりとした言動と態度をとるナルトにイビキが呆然としたのは無理もなかった。
また断る理由がなくなったことから、イビキはナルトの監視任務を受け入れることになる。

うずまきナルト。
それはイビキにとってはまったくの未知との遭遇であった。










********************************************************

あとがき

イビキとナルトの顔あわせ。
ナルトは元ミナト、四代目火影であるのでリアルフランケンシュタインでも
気になりません。
むしろ格好いい…とか言いそうです。



[714] 外伝2 顔合わせ アンコ編-1
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2008/01/31 13:41

外伝2 顔合わせ  アンコ編―1





その日、アンコは機嫌が悪かった。
どれくらい悪かったというと、廊下をすれ違う人が全員――上忍とか含めて――下を向いて視線を合わせないようにするほど悪かった。
元々つり目だった眼はますますつりあがり、剣呑な空気を周囲に振りまいている。
原因はわかっている。
先ほど三代目火影に話された任務のことだ。
任務自体はいい。どうでもいい。勝手にやってくれといった感じだ。
一部下の忍びで不穏な空気を振りまいている奴がいるらしいが、関係ない。
九尾の狐など、まったくもって興味もない。
ただその子供の監視を自分に任すとはどういうことだ。
これでも大蛇丸のうんぬんがあり、里から容易に外に出ることが許されていない身でこそあるが、実力的にいえばアンコは十分に上忍としてやっていけるほど力をもった忍びである。
それに子守をしろとは!?
下忍でもあるまいし、なぜそんな任務を任されなければいけないのか。
アンコは抗議した。猛然と抗議した。
だが三代目火影は無情にも「もう決定しちゃった。」…とのたまったのだ。
アンコはこのとき、プッチーンと自分の中で何かが切れる音を聞いた。
いつものことならそのまま暴れていたアンコだが、相手は仮にも里の長、三代目火影だ。
頭の中で素数を数え、乱れた息を整える。

ヒッヒッフー (違。

数回繰り返し、息を整ったのを確認すると、再び三代目火影へと向き直る。
このクソジジィ…!

「拒否権は?」
「んなもんないわい。」

決定、私刑。
火影、私刑。

アンコは高速で印を組む。
今までで最速の速さで印を組む。
今なら大蛇丸にもほめてもらえるだろう。うれしくないが。

「変化!」
「ぬっ!?」

モクモクと煙が発生し、その向こうに人影が見える。
火影は椅子から立ち上がりいつでも対処できるように姿勢を整えながら、その煙の向こうの人影に目を向ける。
しかし何故変化なのか。
攻撃系の術を使ってこないのはわかる。
火影に対して教えをこうてるわけでもないのにそんなもん放ったら、反逆罪で囚われてしまう。
だからといって、今変化したところで何ができるというのか。
そんなコトをつらつらと考えていると、煙がやっと晴れ、アンコの変化した姿が眼に映った。

「んなぁ!?」

すっとんきょんな声を上げる三代目火影。
それもそのはず。
アンコが変化したその姿、それは今は里を抜け出し、抜け忍となってしまった三代目火影の教え子、大蛇丸の姿であったのだ。
さすがというか、アンコは大蛇丸の教え子であるので、その姿は本物と比べても遜色がなかった。
細部まで再現済みだ。
しかし…それが三代目火影にとっては不幸であった。
アンコが変化した大蛇丸。それはふんどし一丁であったのだ。
一応、(変態だけど)里の三忍にも数えられた人物である。
その身体は見事といっていいほど完成されていた。
無駄のない筋肉。贅肉など一切見当たらない身体。立派な腹直筋。
万人が万人、褒め称えるだろう身体だ。首の上に鎮座するのが大蛇丸の顔でなければ。
顔を青くする三代目火影。
きもい。きもすぎる。
今では過去となってしまったとはいえ、弟子に当たる人物。
だがそれとコレとは別。
コレは生理的に無理。
冷や汗を流しながら後ずさる三代目火影にニヤリとアンコ(外見は大蛇丸)は笑い、再び印を組む。

「ちょっ、それは!!」

“影分身”の印を。


影分身
それは普通の分身の術とは違い、実態のある分身を作る術。
力をこめれば2体以上の分身ができ、多重影分身の術という禁術にまで難易度が跳ね上がる高等忍術である。
中忍程度では会得できない術だが、大蛇丸に指示していたアンコはもちろんこの術ができた。
もちろん分身の数は2体以上である。
一体でもこの威力。
もし複数、この大蛇丸(しかも実態つき)が出てきたら…?

地獄絵図だ。

止めようと手を伸ばす三代目火影だが、もう遅い。
影分身の術はその威力に反して印かものすごく単純なのだ。
その分大量のチャクラを消費することになるが。
よって……

「多重影分身の術!!」

ボボボン

大量に発生する大蛇丸(ふんどし)。
それは執務室をあふれんばかりに現れ、押し合いへし合い三代目へと向かう。

「立派でしょ、私のこの姿。」
「センセ、照れてるの? 可愛いわ…」
「ふふふ…見とれてるのかしら?」

などという台詞を吐きつつ、大量の大蛇丸(ふんどし)がセンセ、センセと三代目を襲う。

「ぬああああぁぁぁああっ!!!?」

三代目火影ご乱心。
寿命もいくらか縮んだかもしれない。
アンコはささやか(?)な仕返しをおえ、それでも任務をすることには変わりはないので、前述どおりに不機嫌な顔をして火影執務室を出た。






続く。





[714] 外伝2 顔合わせ アンコ編―2
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2010/01/04 07:13
外伝2 顔合わせ  アンコ編―2






(ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがってぇええ~!!)

三代目に仕返しをしたものの、決定した任務は実行しなければならない。
ましてや三代目火影じきじきの指名だ。
ただでさえ肩身の狭い思いをしているというのに、これでこの任務を放棄すればアンコは忍びとしての信用をコレ以上無く失墜させることになる。
それは別にかまわない。
元々大蛇丸の一件で、信用はがた落ちなのだ。
上からの許可が下りないと、おちおち里の外へも出れない。
だがそれでも三代目が特別上忍として起用してくれているおかげで、今のところは仕事がある。
そのことには感謝をしているものの、この任務、断ればそれすらも危うくなるだろう。
つまりは仕事が入らなくなってしまう。当然給料もなし。
そうなれば待っているのは死だけだ。
ようするにアンコにはこの任務を受ける選択肢しか残されていないのだ。

(この、私が子守!? ただでさえガキはキライだっていうのに。)

ギリギリ…

奥歯をかみ締めるアンコ。
ただでさえ鋭い目が今はかの師匠のような鋭い、かつ危ない目になっている。恐くて誰も指摘しないが。
アンコはその表情のままに、のっしのっしと商店街のほうへと足を向けた。






「だんご。とりあえず20皿。あとは机の上の団子がなくなってしまう前に、次をもってきてちょうだい。団子を机から絶やさないようにね。」
「に、20皿ですか!?」
「そうよ。二度言わせないで。…早く!」
「は、はいっただいま!!」

そうしてアンコは次々と持ってこられるだんごを片っ端から口におさめる。
腹が立つと、やけにお腹がすくのだ。
女とはいえないような所業でもっしゃもっしゃとだんごを食べるアンコの姿に、店の客は自分が食べるのも忘れて見入る。
もうすでに机には倒れんばかりに皿が積み重ねられている。
それでもアンコがだんごを食べる勢いに衰えは見えない。
「うっ」と客の数人が胃のあたりを押さえる。
見てるだけで胸焼けをおこしそうだ。
客は1人、また1人と青い顔をしながら店を後にする。
最終的には店にはアンコと店員しかおらず、次々とだんごを消化して行くアンコに厨房は上へ下への状態であった。


そんな中、1人の小さい影が店の中に入ってきた。
金髪、青い瞳、そして6歳にしては利発そうな顔。
言わずもがな波風ミナト、改め、うずまきナルトだ。
彼は店に入ってくると、アンコが座っている席の向かい側に座る。

ナルトは今日から本格的に引越しを始めたのだ。
といっても業者に頼んでいるわけでもなく元々私物もないし、電化製品など、買い揃えるほうが多いのだが。
そんなわけで今日は一日里内の色々な店を歩いていたのだが、行く店行く店まるで壊れ物を扱うかのような対応をさせられ、疲労困憊であった。
ましてや子供の身体。
木の葉隠れ(隠れてないが)里はコレでも忍びの中では最強の呼び名高い里。
それに値して、忍びの数は多く、その場所は意外に広い。
そこを朝からずっとうろうろしていたのだ、疲れて当然だ。
本当はアスマがついてくる筈であったのだが、急な任務が入ったとかでナルトは1人で1人暮らしに必要な物を買い揃えていた。
今日だけで全部揃えられたわけではないけれど、元々大人であるだけに電化製品など妥協は許さず、値切り交渉にもつい熱が入ってしまったのだ。
そうしてさすがに疲れ、どこかで休憩でもできないかと入ったのがこの店であった。

「あの、ご注文は?」
「だんご。とりあえず30皿お願いします。」

((何ぃ!?))
30皿だとう!?

店の者の声とアンコの心の声が重なった。
アンコでさえ――今でこそその倍以上食べているが――最初は20皿頼んだというのに、この子供…何者!?

アンコはだんごを食べる手を休めて、目の前でおいしそうに団子にぱくつく子供を観察する。

(んん? 何か…誰かに似てない??)

知り合いの子供か何かだろうか。
いや、何かもっと別の……

(金髪…秋道、じゃないわよね体格的に。食欲はそれに追随するものがあるけど。山中? いやあそこの子供は確か女の子って聞いたわ。)

他に自分の知っているものの中に金髪なんていただろうか…
あと思いつくのは、今は亡き四代目火影ぐらいしか……四代目?

(そうよ、四代目火影様! 四代目火影様にそっくりだわ! てか瓜二つ。)

「……隠し子?」

お前もかブルータス。



などと、アンコがそんなことをしているうちに、ナルトは出された30皿を瞬く間に腹に収めてしまう。

「あ、だんご10皿追加お願いします。」

そんなナルトの声に、アンコは我に返った。
だんご好きとして、6歳の子供に負けるわけにはいかない。

「こっちも10皿追加よ!」
「は、はい~」

厨房はますます戦場のていをようする。
後はもうひたすら食べる。食べまくる。

もっしゃもっしゃ。
もぐもぐ。

もっしゃもっしゃもっしゃ。
もぐもぐもぐ。

視線を交し合うアンコとナルト。

(やるわね。)
(そちらこそ。)

やがて根を上げたのはアンコでもナルトでもなく、店のほうであった。
その後、ナルトと顔合わせをしたアンコが、あの時のだんごの子供と知って、監視任務を快諾したのはいうまでもない。







**************************************************************

あとがき

ナルト「あっあの時の団子…じゃない、お姉さん!!」
って感じの再会ではないかと。

この話のナルトは別に甘党ではないです。
極端な味が好き。
今回のようにあま~いのとか、突き抜けてから~いのとか、青汁のようににっが~いものとか…。濃い味が好きってことかな?



[714] 外伝3 顔合わせ ハヤテ編
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2008/02/24 02:45


外伝3 顔合わせ  ハヤテ編






1人暮らしをはじめて一週間。
イビキとアンコとは顔合わせは済ませたものの、監視役は3人と聞いていたのに…と首を傾げていたのだが、どうやら最後の1人は現在入院中とのことをイビキから聞いた。
もうそろそろ退院してくるとのこと。
大丈夫なのかなぁ…



本日も1人暮らし用の様々な品物を見て、食事の買物をし、買物袋をえっちらおっちら持って三代目火影にあてがわれたアパートの一室へ帰ると、ナルトは眉を潜めた。

(何かいる…)

自分の部屋の扉の前に。
黒い服を着た――

「…死体?」

脈を確認していないからわからないが、たぶん死体。
ちょうど扉の前にバッタリと伏せて倒れている。
顔が見えないために額宛が確認できないが、服装を見る限り、木の葉の里の指定の忍び服を着ている。
別に死体が倒れていること自体は珍しくない。
今でこそ戦争はおこっておらず平和そのものだが、昔は任務で帰る途中に息絶えてしまった忍びだって多い。
なんたって昔の暗部の一番の仕事は、そんな死体を片付けることであったのだから。
しかし一応平和なこの時代、何で死体がこんなところに、しかも懇切丁寧に自分の部屋のドアの前にいるのか。

(…嫌がらせか?)

とりあえずなんでこんなところにあるのかわからないが、死体を足先でつついてみる。
反応が無い。
やはり死体のようだ。
そしてじっくりと観察する。
任務で失敗してここで力尽きたような感じは見受けられない。
服は汚れていないし、戦闘の形跡も無い。
血の匂いがしないため、傷も無いだろう。
毒でも食べたとか?
いや、それにしても胸をかきむしった形跡とか苦しんだ形跡が無い。
キレイすぎる。

「つか、どーしよ。部屋に入れないや。」

なんといってもまだ身体は6歳。
いくら四代目火影としての記憶があろうとも、6歳の子供の身体で成人男性の死体を動かすことは至難の業だ。死体は結構重いのだ。
イビキが来るまではまだ少し時間がある。
仕方無しにナルトはアパートの階段に腰を下ろすと、持っていた買物袋を横にそっと下ろす。
そしてがさごそを中をあさると先ほど買っておいたコロッケパンを取り出した。
まだあつあつ。
袋から出すとコロッケのいい匂いがあたりに広がる。

「いただきまーす。」

元四代目火影、うずまきナルト。
横に死体があろうと無かろうと、ナイロンザイルのような精神構造をおもちのお方であった。
そのままアツアツのコロッケパンを口に含もうとするが、しかしそうは問屋がおろさない。
そのコロッケパンの匂いに、死体がピクリと反応を示したのだ。
あいにくとナルトはそちらに背を向けていたので気がつかない。

……シ…
「…うん?」
…メ・シ……

背後から聞こえてくる声に、ナルトはギ・ギ・ギと首を後ろへと回す。
そして死体と目があった。

メシ~!
「う、わぁあああ!!?」

高速匍匐前進をしてナルトに近づく死体。
ナルトは顔を青くして踵を返し、階段を駆け下りようとして――

ボスッ

壁と衝突した。
いや、壁ではない。

「…何をやっているんだ、お前ら。」

イビキであった。

「イビキぃ! し、し、死体がぁっ!!」
「死体? …あぁ、アレな。」

なおもナルトに近づいてくる死体に、イビキは手裏剣を放った。
すると死体は飛び起き、手裏剣を手で受け止める。
イビキも手加減していたのだろう、手裏剣はそれほど回転がかかっておらず、スピードもついていなかった。

「ゴホ…いきなりひどいんですね、イビキさん。」
「しゃべった!?」
「そりゃしゃべるだろう。ナルト、こいつが監視役の最後の1人、月光ハヤテだ。」
「よろしくなんですね。」

と、ゴホゴホ咳をしながら手を挙げるハヤテ。
ナルトは里の未来がとてつもなく不安になってきた。








[714] うずまきナルトのカレーな学校生活 0
Name: ヤドクガエル◆1f705fa6 ID:7f8a36a9
Date: 2008/02/24 02:39

うずまきナルトのカレーな学校生活 0





うずまきナルトは現在行われている授業をぼんやりと眺めつつ、隠すこともせず、盛大なあくびをした。
それに気付いた教師がピクリと眉を動かすが、授業を中断するわけにはいかず、また“九尾の狐”を宿した子供に熱心に授業を聞かれるのも嫌だと思い注意はしない。
それはある意味、拒絶よりも手ひどい、『そこに居ないもの』とみなした行為。
拒絶は、それでもそこに居ることを認識しているのだから。

しかしそんな教師の行動にも気にも留めず、ナルトは溜め息を吐いた。
今の気持ちを表せば、

暇。

この一文字につきる。
なんせ元、四代目火影。
しかも子供時代はアカデミーを首席で卒業もした。
今更こんな基本的なことを教わったとしても、知ってるから!ってなもんで。
それどころか、こんなこと教えてんの? 実戦では役にたたねー! ってな気分。
まだ手裏剣や体術の授業でもあれば少しはマシだったかもしれないが、あいにくとピカピカの一年生ではそんな授業もなく、座学ばかりだ。
じっと座っておくのにも飽きてきて、ナルトは頭を机にダイブさせる。
眠ってもいいのだが、どうせ寝るのなら横になりたい。
隣の席ではシカマルがすでに夢の世界に旅立っているが、ナルトはせまりくる眠気と、陽気に抗う。
時計をチラリと見る。
あと五分で授業が終わる。
しかし、授業はコレ一つではない。

(ぬ~~~~~…)

心の中でうなるナルト。
本人にとっては結構切実な問題だったりする。
そうこうしていると、響くチャイム。
授業を行っていた教師が宿題を言い渡すと教室から出て行く。
それを見届けると、ナルトは隣で寝ているシカマルと眠ってはいないが眠そうな顔をしたチョウジに近寄る。

「シカマル、チョウジ。」
「…どうしたの?」
「……なんだよ、寝てんだよ。邪魔するな。」

シカマルが机に伏せたまま不機嫌な声を出すが、ひとまず無視。

「――抜け出そう。」
「ラジャー。」
「のった。」

即決。
そしてすぐさま席をたつ3人。



こうして彼らはブラックリストの上位に君臨することになった。






続く。




[714] うずまきナルトのカレーな学校生活 1
Name: ヤドクガエル◆1f705fa6 ID:7f8a36a9
Date: 2008/02/24 02:39

うずまきナルトのカレーな学校生活 1





季節が春から夏に変わろうとしているころ。
イルカは自分の目に映ったその光景に目を疑った。

暑くもなく、寒くもなく、ちょうど心地よい気候の中、イルカの視線の先。
イルカが探していた彼ら――ナルト、シカマル、チョウジ――は、とてもとても幸せそーな顔をして、ネてた。
イルカは拳をギリギリと握り締める。

(こ・い・つ・ら・はぁ~~~っ! ヒトが必死こいてアカデミーじゅうを駆けずり回ってたっつーのに、幸せそうな顔をしてぇ~~~!!!)




アカデミーの教師となってまだ日の浅いイルカは、まだ1人で授業を任せてもらっていない下っ端である。
普段は先輩の行う授業の助手をつとめつつ授業のやり方を学んだり、チマチマした雑務などをやっているのだが、人が良く、根が真面目なのが災いして教室を抜け出す問題児達の連れ戻し要因として指定されていた。
しかしコレが彼の苦悩の始まりであった。

今までのサボり組みを捕獲するのは簡単であった。
新人といってもそこは中忍。
ヒヨコどころか卵にすらなれていない子供に出し抜かれることなんてない。
そう思っていた。
彼らが入学してくるまでは。





◇◆◇◆◇





新入生が入学し、新学期が始まって一ヶ月。
イルカは敗北感に打ちのめされそうになっていた。
今年の一年生のブラックリストトップ3。それがイルカを悩ます者達だ。
うずまきナルト。
奈良シカマル。
秋道チョウジ。
彼らを新入生と侮ってかかると、手ひどいしっぺ返しをくらう。
最初のイルカがそうだった。
つかっている術や罠は初歩的なものなのに、人の盲点をついた罠をしかけてくるのだ。
人体模型を使ったダミー人形などまだいいほうで、何時の間に掘ったのだろうか、とてつもなく深い落とし穴に落とされ、上からマンホールのようなもので出口(穴)をふさがれ、一日中そこにいるはめになったのは記憶に新しい。
今日も今日とて、彼らの罠にひっかかって頭に瘤をつくった。
まさか廊下のちょうど曲がり角の部分にワックスを塗るとは。
壁に激突した跡を見る限り、ひっかかったのはどうやら自分だけではないらしい。
その中には大人のつけたものであろう手形もあった。
そういや先輩教師の中で、頭に包帯を巻いている人物がいた気がする。
自分1人が罠にひっかかったわけではないことに、喜べばいいのか嘆けばいいのか……



結局、彼らを見つけることができず、瘤が痛むので保健室で氷でももらってこようと立ち寄ったトコロ、保健室。
そこに彼らは居た。
気持ちよさそうに日なたで、ベッドで布団をかぶって、とても幸せそうな顔をして、寝てた。
イルカが朝からアカデミー中を駆けずり回っている中。
イルカが彼らのダミー人形に一喜一憂している中。
イルカが瘤を作っている中。
―――彼らは寝ていた。


イルカの全身がわなわなと細かく震えだす。
そんな不穏な気配にも気付かず、3人の中の1人、チョウジがごろりと寝返りをうち、よだれを垂らしながら…

「ぬふふぅ…もう食べられないよ……むにゃ。」

ブチィ――ッとイルカの中で何かが引きちぎれた。

「テメェらああぁぁぁああああっ!!!!」

怒号がアカデミー中に響き渡る。
その声を聞き、教師陣は ああ、またか…と生暖かい目。
今日は酒にでも誘ってやるか…と先輩心を働かせたりする。


頑張れイルカ、君の明日はあかるい! (たぶん…)



*********************************************************

あとがき

こうしてイルカの能力は本人の預かり知らぬところで上げられていく…
危機回避能力はカカシ以上に。




[714] うずまきナルトのカレーな学校生活 2 修行編
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2008/02/24 02:40
5話 うずまきナルトのカレーな修行






「う~ん…」

本日のアカデミーの授業が終わり、ナルトは自室でうなっていた。
監視役の3人は夕方になってから来るので、部屋にはまだいない。

『何をうなっている?』
「あ、いたの?」
『………。』

確かに最近出番なかったけど…泣きたくなってきた死神であった。

『…それで、何をそんなにうなっているんだ?』
「今日手裏剣の授業があったんだよ…。投げれたしちゃんと目標に百発百中だったんだけどね…」
『ならいいじゃないか。』
「いや、それがさぁ、勢いっていうか…威力がいまいちなんだよねぇ……」
『…子供の身体で大人の頃と同じ威力を求めるほうが間違ってると思うぞ。』
「そーだけどさぁ…それを差し引いても威力がいまいちのような気がするんだよね。……身体鍛えなおすかな。」
『子供の時分に鍛えすぎると背が伸びんぞ。』
「痛いトコつくね。う~…どうしたらいいと思う?」
『俺に聞くのか…そうだな、チャクラコントロールを鍛えてはどうだ?』
「チャクラ? なんで? 自慢じゃないけど僕、チャクラコントロールには自信があるんだけど。まあ、最近は練ってないけどさ。」
『チャクラによる肉体活性で適齢期になるまで乗り切ってはどうかとな。それにおそらく以前のチャクラコントロールは今のお前には通用せんと思うぞ。』
「はへ?」

訳がわからず首を傾げるナルトに、死神はやってみればわかると言う。
ナルトは納得はできなかったが、監視役の3人が来るまでチャクラコントロールの訓練をやってみようと外へと出かけた。





◇◆◇◆◇





数ある訓練所の中の一つ、第7訓練所。
取り立てて変わったものはないが、昔、波風ミナトであったときにカカシたちと初めて任務(といっても試験だったが)をやった思い出深い場所でもある。
ナルトはぐるりと周りを一望すると、その一角にある慰霊碑に近づいた。
慰霊碑には任務中に殉職したものの名前が書き記されている。
その中から一つの名前を見つけ出すと、ナルトはその名前の部分をなぞった。

うちはオビト

初めて受け持った下忍で、任務中に殉職させてしまった初めての生徒。
あの時のことを思い出さない日はない。
昔も、そしてこれからも。
だが、オビトはまだ生きている。
僕の中で、そしてカカシの中でも。
ナルトになってからは一度もカカシにあったことはないけれど。

「久しぶり、オビト。そちらにいくのはもうちょっと…先になりそうだよ。」

そうしてもうひとなでするとその場を離れるナルト。
向かう先には1本の木。
チャクラコントロールを鍛えるにはやはり最初は木登りであろう。

(足にチャクラを集中…!)

そして第一歩を木に着け――

バゴン!!

響く爆発音。
なんとナルトが足をつけた木が、ナルトの足をつけたところを中心に爆発四散したのだ。

「…へ!?」

ナルトはその光景が信じられず、出したままの形で固まっている自分の足と爆発四散した木とを交互に見る。

「なんでぇ…??」
『やはりそうなったか。』

空中に現れる死神。
こうなることは予想済みだったらしい。

「どーゆうこと!? なんで、どうして、爆発しちゃうんだよ!!」
『落ち着け波風ミナト。』
「今はうずまきナルトだよ!! どうして!?」
『…少し考えればわかるだろう。とにかく落ち着けナルト。』

死神に言われ、深呼吸をするナルト。
ひとまず高まった気を落ち着かせる。
そして改めて死神に向き直る。

「なんでこうなったか君はわかってるの?」
『…ああ。少し考えればお前でもわかるだろう。今のお前の中には何がいる?』
「何って…九尾だけど……っ!」
『気付いたか。生前のお前は自分のチャクラしか使っていなかったのが、現在は八卦の封印式からもれ出る九尾のチャクラもつかうことになっている。しかも、おまえ自身のチャクラも生前と比べ物にならないほど高くなっている。なんせ九尾の魂を押さえつけられるほどだからな。単純に言えば、九尾×2の量のチャクラがお前の中に収まっているんだ。』
「うげ…九尾×2?」
『そうだ。当然今までのチャクラコントロールなどものの訳にもたたん。なんせ死神とはいえ、神と契約を結んでしまうほどだからな。今までのようなチャクラコントロールでは当然こうなる。』

…と、先ほど爆発四散させた木を指差す死神。
良かった、忍術の授業が入る前に気付けて。
もしこんなことが授業で起ころうものなら、たちまち大惨事だ。

「ねぇ…聞きたくないけどさ。もしこの状態で普通の忍術使ったら……どうなる?」
『そうだな、大規模忍術なら問題ないだろうが、普通の忍術なら火炎放射器で線香花火に火をつけるようなものだな。』
「………マジ?」
『大マジだ。』

はあぁぁああ…

大きな溜め息をつくナルト。
こんな基本的なことからやり直さなければならないなんて…

「とりあえず、木登り以外の訓練の仕方を考えなきゃ。」

毎回爆発四散させたんじゃ、木の葉の木が激減してしまう。






*************************************************************

あとがき

久しぶりの死神登場。
ナルトは修行開始。
たぶん原作1巻より3年ぐらい前。



[714] うずまきナルトのカレーな学校生活 3 修行編2
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2008/10/04 23:45

うずまきナルトのカレーな修行 2




うずまきナルトは大きな壁にぶち当たっていた。
人生初の挫折…というわけではないが、“うずまきナルト”になってからは初の挫折だ。
チャクラ量の大きさから(なんせ九尾の2倍)、チャクラコントロールが課題となったわけで色々試してみたがいい方法が思いつかないのだ。
少し前などためしに螺旋丸をやってみようとして大暴走。
火の隠れ里は、季節はずれの局地的台風に見舞われた。
三代目火影はひたすら首をひねっていたが、まさか自分がやりましたなんてことも言えず、ナルトは青い顔をしながら台風で壊れた里の改修を精力的に取り組んだ。
木登りがダメならば水面歩行はどうだろうと、木登りの失敗を見習って浅い水溜りで試したこともあったが、見事に一瞬で水溜りは蒸発。
お話にもならなかった。
この分だと現時点で飛雷神の術を放ったものなら、異次元空間とかに行ってしまいそうである。

「………………ハァ。」

溜め息を漏らすナルト。
アカデミーから帰ってすぐ、部屋に篭もり色々とあーでもない、こーでもないと考えるのだがいい方法が全然思いつかない。
溜め息をつきたくもなる。

『暗いな…黒いオーラがでているぞ。』
「出したくもなるよ。全然コントロールできないんだもん。訓練しようにもいい方法思いつかないし。」
『方法ねぇ…』
「そだ、僕より長い年月生きてるんでしょ? いい方法知らない? 年寄りの冷や水…でなくて、おばあちゃんの知恵袋みたいな!」
『と、年寄り!?』
「うん。ね、何か思いつかない?」
『…死神に向かって年寄りなどと言ったのはお前が初めてだ。だがそうだな、忍術使うたびにあんな騒動を起こされてはこっちも迷惑だしな……うーむ。』

透けた身体を部屋の宙に浮かせながら、死神はあごに手をあてる。
透けた身体からもわかるように、死神は普通の人には見えない。
霊感の極めて強い人にならば見えることができるだろうが、今のところそれに遭遇したことはない。
霊感の少しばかり強い人程度では、あれ? と少しばかり首をひねる程度だ。
ナルトは別に霊感が強いわけではないが、死神と契約を結んだことにより、問題なく見える。妖魔(?)の血が覚醒したことも視えるようになったことと関係があるかもしれない。
その他にも死ぬ間際の人になら姿が見えることもあるらしい。
ナルトはそれを聞き、
「え、うそっ! 三代目には見えるの!?」
――と、大変失礼なことを言ってしまったことがあるのだが、三代目火影には死神の姿は見えない。何て失礼な奴だ。

…話を戻そう。

『せめてそのでかいチャクラを分割でもできたら楽なんだろうがな。』
「そりゃそうだけど、そんな都合よくはいかないよ。」
『そういや忍びの術であっただろ。分身の術。』
「あるけど、あれは虚像の自分の分身をつくりだすだけ…で……」
『ふ~ん。』
「………」
『…ナルト?』

急に黙りこくったナルトに宙に浮いていた死神は視線を下におろし、ギョッと身を引いた。
そこには九尾と相対しているときのように鋭い視線をしたナルトの姿が。
幾多の戦いを生き抜いてきた歴戦の兵のオーラも出ていたりするが、姿が六歳児なのでなんとも違和感爆発の姿である。
それだけでも気持ち悪いのに、ナルトは鋭い目つきをしたまま顎に手を当て、座り込んでブツブツと独り言を呟いている。


分身の術、そうかその手が。
いや…だがそれは。
禁術指定を。
だがこの手なら経験値も…だし、分割も……
しかし、…が、禁術を。
印は知ってるから、問題はどうやって知ったかで。


などなど。
不気味だ。不気味すぎる。
ここが人目につかない場所でよかった。

「いい方法を思いついた。」

やっとこっちの世界に戻ってきたナルト。
だがその顔色は冴えない。

『なら試せばいいだろう。』

げんなりとした様子で返す死神。

「いい方法思いついたんだけど、それが禁術でさぁ…いくらなんでもアカデミー生なりたての新米が使える術じゃないんだよねえ。だいだい忍術の授業なんてまだ受けてないし。」
『ふ~ん。』

気のない死神の返事。

「…ちょっと、真面目に聞いてよ。相談してんだから。」
『そんなコトを言われてもな……』

はっきり言って死神は忍術関係にはてんで詳しくない。
相談をされたところで助言などできない。

『そういう相談は、本職の忍びに聞いたらどうだ?』
「本職の…にゃるほど。」

にやりと笑うナルト。気持ち悪い。
何かをたくらんでる気配が溢れまくり。

『…何たくらんでる? 言っとくが、俺は手伝わんぞ。』
「大丈夫大丈夫。本職の人に直接僕が聞くから。ほら、いるじゃない。身近に。本職の忍びが。」
『…あいつらか。』
「そーそー。監視役の人。イビキとかは口が堅いし、拷問係とかやってるだけに誘導は効かないだろうけど…アンコなんかは酒飲ませれば一発だね!」


そんなんで簡単に禁術教えていいのか、木の葉の忍び。


そう、里の未来を心配する死神であったが、想像する限り本当にもらしてしまうアンコの姿が容易に想像でき、溜め息を吐いた。
つか、酒飲ませなくてもあの女なら嬉々として教えそうだ。




…本当に教えやがった。




うずまきナルトは影分身の術を手に入れた。



続く。



[714] 外伝 うみのイルカのカレーな一日
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2008/10/22 00:24


さてさて、本日はアカデミー教員見習いとして日々研鑽している、うみのイルカ。
彼の日常に迫ってみたいと思う。


チッチッチッチ…


まだ薄暗い朝。
太陽が昇りきっていない時間帯。
ほのかな光に照らされた1DKのしがないアパート部屋に、目覚まし時計の時間を刻む音が響く。
遠くのほうで犬の声が聞こえる、日常的で静かな朝。
まだ活動するには早い時間帯から、うみのイルカの生活は始まる。



―AM 5:00―



ガシャ!

目覚まし時計の最初の音だけで止める。ジリ、とまではいかない。
彼の特技の一つだ。(誰にも自慢できることではないが)
寝起きもいい。寝坊知らず。


さて話は戻る。
うみのイルカの朝は早い。
「にわとり起こし」
「日曜日の子供」
「朝日に左右される男」
異名は数々。(全部自分で言ってんだけどな)
続いて寝床の上にて座禅を組む。
ベッドの上ではない。
俗に言う独身男の万年床。
恋人などという高尚なものには今までお目にかかったことがない。
座禅を組み、目を瞑る。
本日の瞑想のテーマは「人生と愛」。
……3秒で止める。



―AM 5:05―


「よいせっと。」
今まで眠っていた布団をベランダに干す。
万年床といっても本当に万年下にひいてるとカビが生える。
一度生えた。一度だけで十分である。
嗚呼すばらしい、人は学習する生き物であることが証明された。
なんてくだらないことを考えながら台所へ。
子供の頃、両親に先立たれ、1人暮らしには慣れている。
慣れた手つきで冷蔵庫から卵を取り出すと、それを簡単にフライパンで炒め、軽く焼いたトーストに乗せる。
朝から重いものは食べない。
これくらいでちょうどいいのである。
とかなんとか言いながらめんどくさいだけだろ自分。
んなことを考えながら朝食をとる。



―AM 5:20―


「行ってきます。」
部屋の片隅にポツリと置いてある二つの位牌に礼をして出て行く。
本当ならばちゃんとした台座に置きたいのだが、いかんせん先立つものがない。
アカデミー教師として正式採用され、給料が増えてから考えよう。
そしてアパートを出てどこへ向かうかというと…


「おはようございまーす。」
新聞屋。
そこには今日の新聞が山積みになっている。
「おう、おはよう。イルカさん。今日の分の用意、できてるよ。」
その店の主だろう恰幅のいいおっさんが、どっこいせと新聞の山をイルカに渡す。
そう、イルカは新聞配達のアルバイトをしているのだ。
まだアカデミー教師見習いのイルカ。
その給料は雀の涙ほどだ。
まあ下忍よりはいいが、それでも大の大人が1人で生活していくには少ない。
よってアルバイトをしている。
給料はそんなにいいとはいえないが、早朝の限られた時間でできるバイトといえばこれぐらいしかない。
毎年アカデミー教師見習いが通る道である。
それを証明するように、うみのイルカと同時期に採用になった他の面々もここでバイトしている。
顔を合わせると あ、君も給料足りないんだね…と物悲しい顔をして気まずそうに目をそらすのが常だ。
今日は幸いにもそうした同僚と顔を合わせることなく、イルカは新聞を背負った。
ここからが本番だ。

走る、走る、走る。
そりゃもう全速力で。
忍びの限界に挑戦☆てワケではないが、それに近いものがある。
普通の人にはそんなことないのに、アカデミー教師見習いだと知っている新聞屋のあのおっさんは、教師見習いにだけ渡す新聞の量が違う。
最初は普通の人と同じ量だったのに、なんだか徐々に渡す量を増やされ、今では全力疾走しなければ6:00までに間に合わない。
その上、早めに取りに行っても新聞を渡してくれない。
途中同僚とすれ違ったりする場面もあるが、挨拶を交わすどころか顔を見る余裕もない。
6:00をまわるとバイトの給料を減らされるから皆必死。
それにイルカは文句をいってやりたい。新聞を配る量が多いのに、一般人と給料が一緒とはどういうことだと。
時給ってなんじゃそりゃ! 差別だ!!
同僚があのおっさんは新人教育のためにアカデミーから派遣された者じゃないかと言っていたが、本当かもしれない。



―AM 6:00―


ぜえ、はあ、と肩を揺らし、まだ一日が始まったばかりだというのに汗だくだくのままアカデミーに駆け込む。
まだぴかぴかの新人であるイルカ達、教師見習いはやることが多い。
…雑務ばっかだけど。
とりあえず、朝一に来て正門を開けるのも彼らの仕事。
そして学校中に仕掛けられた罠を解除するのも彼らの仕事だ。
子供達が通う学校。
当然安全が確保されていなければならない。
アカデミーには名家の御曹司や里にとっては重要な血系限界の能力をもった者達も通うことになるため、安全には人一倍気を使っているのだ。
警備の者達も数人、夜に寝泊りしているが全てを監視できるものではない。
よってアカデミーには生徒が帰ってから罠が仕掛けられている。
夜侵入してくる不届き者を捕らえるためだ。
といっても、中忍に除去できる程度のものなので上忍などに来られてはあまり効果はないが、それでもすごい数だ。
やる気をそぐのにはもってこい。
時々猪とかがかかっていることもある。
そんな罠を、ちまちまちまちま除去していく。
もしこの罠を取り除き忘れて御曹司が怪我などしようものなら、あーた…
クビにされてしまう…!!!
なのでイルカたちの表情も真剣そのものだ。

「いいっでぇ!」

時々、罠にひっかかる馬鹿もいる。



―AM 8:30―


職員達が集合して朝礼が始まる。
これからが本番だというのに、イルカ達新米はすでに疲労困憊。
机に突っ伏している。
だが文句は言ってられない。
ついでに居眠りをこいてもいられない。
朝礼が終わると、授業がはじまるのだ。
今日も今日とてイルカは先輩教師の授業の補助へと繰り出す。
授業で使うプリントなどをコピーしたり、教室まで運んだり、生徒に配ったり。
寝ている生徒を起こしたり、内職をしている生徒を注意したり、授業中におしゃべりしているのも止めなければならない。
そして、授業をさぼった生徒の連れ戻しも。
ああ…気が重い。
胃の辺りを押さえながら教室に入るイルカ。
まずは人数確認。
朝の出席確認では全員が出席していることを名簿で確認し、イルカは生徒の数を数える。

…三人足りない。

諦め悪く、もう一度数えるが、やはり三人足りない。
ふっふっふ…落ち着け、落ち着くんだうみのイルカ。
目の錯覚だ。落ち着いて数えればちゃんと全員…
「イルカ…」
なんですか先輩、その同情した目は。
俺は今から生徒の数の確認をしなきゃならんのです(←往生際が悪い)。
「連れ戻して来いよ。」
ポム、と肩に手を置かれる。
ええ、ええ。わかってましたよ。
あいつらがいないことなんて。
教室入った時に、いたらすぐわかりますもん。
あんな鮮やかな頭髪してるんだから。
あんな後ろの人に迷惑そうな髪型してるんだから。
あんな目立つ体形してるんだから。
「了解しました……」
イルカは本日(も)授業をサボった三人。
うずまきナルト、奈良シカマル、秋道チョウジを探し回ることになった。



彼らを探し出すのは難しい。
ということは、ない。
探し出すのは案外簡単なのだ。
彼らは常に3つの場所でサボっていることが多い。
一つ目は屋上。
二つ目は保健室。
三つ目は当直室。
この三つのいずれかにいる。
そして本日は保険医が保健室にはいるので、保健室はない。
当直室も本日使われているのでなし。
一度、校長不在時に校長室でサボっていたこともあったが、今日は校長もいるのでなし。
ならば…屋上!
と、行き先を断定するまではいい。
そこから先が問題。
屋上へと続く階段をイルカはゴクリと喉を鳴らして見上げた。
一見、何の変哲もない階段に見える。
しかしイルカの目にはその屋上まで続く階段が、死の森に見えた。
深呼吸をして、第一歩。
「………。」
何も起こらない。
安堵の溜め息を一つ。
そしてもう一歩。さらにもう一……!?
「やられた…!!」
階段につけた足が動かない。
強力、両面テープだ。
透明で、違和感を感じないように階段全面に張られているため気付かなかった。
反対の足も動かしてみようとするが、動かない。
バランスを崩し、階段へと手をつくイルカ。
そこにも両面テープ。
もしかして、屋上まで続く道全てに両面テープが張られていたりするのだろうか。

「あいつらぁぁあああ!!!」

校舎にイルカの叫び声がこだました。
本日もイルカの負け。
うずまきナルト、奈良シカマル、秋道チョウジが入学してより半年。
イルカの連敗記録は更新中だ。




うみのイルカがその場から脱出できたのは、彼ら三人が昼食のため屋上から出てきたときだった。


**********************************************************

あとがき

最初のくだりはトラ●ガンネタ。
イルカならやってそう…と思いまして。
最後はしりきれトンボになってしまいました。すみません。
これが私の限界です(汗




[714] 外伝 見える人
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2008/11/29 15:39
その視線を無視するには、あまりにもねちっこかった。





うずまきナルトのカレーな生活  ~見える人~





その視線に気付いたのは一週間かそこらのときだった。
いや、気付いたのは最初からだったが、いやまさかな…と見ないふりをしていた。
だが無視するにはその視線はあまりにもあからさまでねちっこかった。


死神は基本、人には見えない。
契約した相手や極めて霊力の強い人間、そして死にかけの者になら見える。
例えば死神の手によって半ばまで魂の抜かれた者には死神の姿が見えたりする。
しかしナルトと契約をしたあと、死神召喚(屍鬼封尽)なんかされてないわけで、ナルト以外の目にとまることはなかった。
ナルトが赤子の際、色々と里の中を回って裏工作をしたときも、死神の姿を目に写すものは一人としていなかった。
それなのにだ。
いま、猛烈に視線を感じる。

場所はナルトの自室。
いつものごとく、監視役の三人がメシにあやかろうと集う。
アンコはすでに酒を飲んでいるのかほろ酔い気分。
イビキはそんなアンコをたしなめつつ、ナルトの料理に舌鼓を打つ。
そんな中、青白い顔をした目の下に盛大な万年隈を携えたハヤテは虚空に視線を漂わす。
そう、死神へと。
見えている? いやいや、そんなはずない。と狭い室内をふわふわとあっちに行き、こっちに行きするがハヤテの視線は間違いなく死神を捕らえている。

(見られている…めっさ見られている…!!!)

恐る恐る視線をハヤテと合わせる死神。

「………」
『………』

にやり。

死神に笑いかけるハヤテ。
その死神よりも死神らしい不気味な笑みに、死神はジョワッと鳥肌をたたせた。





「えぇ!? 形代が欲しい?? そんなコト急に言われたって…は? なんでもいい? …何があったってのさ。」

「おんなじ真っ黒くろすけで、これなんてどう?」
ナルトが掲げたカラス(死亡)に死神が即効入り(逃げ)込んだのはいうまでもない。




「………冗談だったのに…まじで入り込んだし。」










ナルトは忍鳥(ただし中身は死神)を手に入れた。

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あとがき

外伝アップ。
これで学生生活はひとまず終わりにして、次からは原作時系列を書いていきたいと思います。



[714] うずまきナルトのカレーな卒業試験1
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2009/01/03 23:49


長かった学校生活もあと数日で終わりに差し掛かった。
だからといって生活態度を改めるわけでもなく、今日も今日とてサボろうとナルト達三人は教室の扉を開けるのだが、そこには仁王立ちしたイルカの姿が。

…どこ行く気だ、お前ら?
「「「わお。」」」

地を這う声。
ナルト達が在籍する6年間。
イルカは何も手を打っていなかったわけでもないし、努力をしなかったわけでもない。
というよりもイルカは元々努力家。
6年という長い歳月はイルカを人間的にも忍びとしても成長させた。
かくして連続連敗記録は破られ、イルカは10回に1回はナルト達を捕獲できるようになった。
数だけ見れば情けない記録かもしれないが、現在在籍するアカデミー教師の中ではナルト達を捕まえられる数少ない1人であり、その中でもトップに君臨する。
すごいぞイルカ。
そんなアカデミーの最有力株へと成長したイルカを悩ます事があった。
そう、卒業試験である。




うずまきナルトのカレーな卒業試験 1




職員室の自分のデスクの上に書類を並べ、イルカは深々と溜め息を吐いた。
デスクの上に並べられたのは今年卒業予定の者達の成績。
実際問題、卒業試験に落ちるものはいない。
いや、いることにはいるがものすごく稀なことだ。そうそうお目にかかるものではない。
少なくともイルカは6年間このアカデミーで教師をやっているが、その間に卒業試験に落ちたものはいなかった。(その後ちゃんと下忍になれるかどうかは別問題)
では何故イルカは頭を悩ましているのか。
それは班分けである。
原則として下忍は三人一組の班を組み、班ごとに指導係り兼無謀な行動をしないよう監視係として上忍がつく。
この班分けは能力別に行われ、バランスが均等になるよう教師陣が決めるのだが…
ココで参考にされるのはもちろんのこと、成績表である。
だがここで、成績表がまったく当てにならない三人の人物がいた。
そう、ナルト・シカマル・チョウジの三人だ。
なんせこの三人、ほとんど授業に出ることはない。
体術や手裏剣の屋外授業にはそれなりの出席をしてはいたものの、その評価は、まったくあてにならない。




<CASE:チョウジ>
ポリポリポリ。
パリパリパリ。
もぐもぐもぐ。

「…お前ね、こういう授業の時ぐらい“それ”置いといたらどうだ?」
「もぐもぐ…当たってるからいいでしょ、先生。」

お菓子片手に手裏剣を投げるチョウジ。
手裏剣を投げる体勢もクソもない。
彼の頭の中にはある方程式ができているのだろう。
つまり、手裏剣<<超えられない壁<<食べ物。
いや、いいんだけどね(本当は良くないけど)。
手裏剣はちゃんと的に当たってるし、秋道家の特有の忍術は知ってるから。
でもねチョウジ、菓子片手に手首のスナップだけで手裏剣を的に当てる君に先生はびっくりだよ。




<CASE:シカマル>
シカマルはそれこそ普通の手裏剣だった。
体勢を作ってちゃんと投げてるし、的を外れていない。
だからといって命中率がいいわけでもなく、手裏剣の刺さった跡は中央もあれば、端にもあった。
しかしよくよく観察していると、どことなく違和感が。
的をながめるイルカ。
するとなんということでしょう、いささか歪ではあるが顔が見えるではないか。

(…スマイル……)

なにやってんだ、こいつ…とイルカが頭を抱えたのはいうまでもない。
笑顔を浮かべている的が小憎たらしくてしょうがなかった。



<CASE:ナルト>
手裏剣の的当ての授業、皆真面目に的の中心に当てようと奮闘する中、ナルトはというと…

「おい、ナルト。どこ投げてんだよお前は…」
「いやぁ、手元が狂っちゃって。」

ナルトの投げた手裏剣は的のある木には向かわず、100mほど離れたところに立ってある別の的に当たっていた。
他の生徒達は的に当てられなかったこといいことに、ナルトをからかっているがイルカは見ていた。
その、ナルトが投げた手裏剣が100m離れた別の的の中央に命中したことを。
また別の日には…

「お前手裏剣ヘタクソだなぁ。」
「そーかな。的に当たるようにはなったよ?」
「中央に当たんなきゃダメだろ。さっきから一発も当たってねぇじゃねぇか。」
「むむむ…」

そういいながら投げた手裏剣はやはり的の端にかろうじて当たる。
しかしよくよく見てみれば、手裏剣が刺さった跡がその的に一つしかないことに気付く。
つまりは何度も投げて、何度も同じ場所に手裏剣を命中させているのである。
イルカはその光景を見て、戦慄が走ったのを覚えている。
思わず誰かがナルトに変化しているのではないかと疑ったぐらいだ。
上忍でもあんな芸当をできるのはごく一部だろう。




「はぁ…」

そのときの光景を思い出し、盛大な溜め息を一つ。
アカデミー教師期待の星、海野イルカ。
彼の悩みは尽きない。彼らが彼らである限り。
まあそれでもシカマル、チョウジに関しては親世代で組んでいた班をそのまま反映することになるのは決定している。
つまりこの問題児二人にくのいちトップである山中イノを組ませる。
上忍に誰をつけるかはまだ決定していないが、この三人はすでに確定済みだ。
何より忍術の相性がいい。
それは彼らの親世代の活躍を見ればわかる。
その上やる気のないシカマルやクセのあるチョウジを引っ張っていけるほどパワフルで実力のあるくのいちは彼女だけだ。
残る問題はナルト。
成績は問題なくぶっちぎりでドベである。
しかし例に挙げた手裏剣のように、見ているとその実力が高い水準にあるのがわかる。
アカデミー教師の中でも、成績は別にして忍びとしてのナルトの評価は高い。
その評価と成績表とでは天と地ほどの差がある。
どちらを優先すればいいのか…悩みどころだ。
評価を優先して班を組めばなんともちぐはぐで、成績を優先して班を組んでもなんかバランスの悪い班しかできない。
というより、ナルト自身にむらっけがありすぎる。
やる気を出せばイルカに施していたイタズラのように忍びの才覚発揮しまくり、鰻上りだが、やる気がなければ寝そべって耳をほじくっているような奴なのだ。
こんな奴の手綱を握ってくれるような勇者もしくは救世主はアカデミーにはいない。
つかいたら見てみたい。

「あ~も~…! どうしろって言うんだよぉお!?」

頭を抱え込むイルカ。
まさに八方塞。
うーっ、と机に突っ伏してうめき声を発し始めたイルカに、アカデミー教師達の同情的な視線が集まる。

(ガンバ☆)
(骨は拾ってやるからな!)

アイコンタクトでそんなメッセージをくれたりする。
激しく嬉しくない。
同情するより助力をくれ。
しかし世は無情。渡る世間は鬼ばかり。手伝ってくれる人は現れない。
心情は皆同じだ。触らぬ神にたたりなし。
余計な厄介ごとを自ら背負い込むような者はいなかった。
みんな自分の仕事もあるしね。
仕方なく視線を手元の書類に戻し、再びうなり始めるイルカだったが、そこに立ち寄る影があった。

「手伝いましょうか? イルカ先生」

救世主降臨!?
イルカは喜色満面でバッと顔を上げた。
そこには後光がさした、仏様のような同僚が。

「ミズキ先生…!」

思わず数珠を持ち出し、祈りを捧げてしまいそうだ。
ミズキ先生は柔和な笑顔を常に浮かべており、男女を問わずアカデミー生から慕われている。
何故アカデミーで教師をやっているのかと噂を耳にしたことがあるほど、忍びとしての能力も高い。
年が近いこともあり、イルカはよく話をする機会があった。
同僚の中では比較的仲がいい部類に入る人物である。

「それで何をそんなに悩んでいるんですか?」
「班分け自体はもうほとんど終わっているんですがね、1人だけどこに組み入ようかと…」
「一応聞いておきますが、誰です?」
「…うずまきナルトです。」
「………」
「………」

気まずい沈黙が流れる。
ミズキはイルカの机の前の椅子に落とそうとしていた腰を、再び持ち上げた。
否、持ち上げようとした。
しかしこの六年間に忍びとしての能力を飛躍的に向上させたイルカはその事実に気付きしだい、ミズキの腰に逃がさぬとばかりにしがみついた。

「ぐっ、離してください、イルカ先生。私には家で帰りを待っている子供達がいるんです!」
「あんた独身でしょうが! やっと手に入れた助力だ。猫の手だろうと誰が離すか!」

二人の間で(ヒトとして)低レベルだが(忍びとして)高レベルの争いが勃発する。
その光景を見やり、遠巻きに見ていた同僚達もそそくさと職員室から退去し、職員室には絡み合う二つの影が残される。

「柔らかくもない男に抱きつかれても、嬉しくもなんともないっ!」
「それじゃあ女にでも変化しますから!」
「中身は男でしょう!?」
「このナリで中身女だったほうが恐いだろうっ!」

その通りだ。
ミズキは想像したのだろう、うげぇ…という顔になる。
失礼な。まあ、嬉しそうな顔をされてもそれはそれで嫌だが。

「だいたい、彼はドベでしょう。そもそも班編成を考える前に、卒業試験のことを考えたほうがいいのでは?」

ミズキは腰にイルカを引っさげたまま、苛立たしげに呟いた。
そう言うミズキの顔は忌々しげに歪んでいる。
柔和な人物とはかけ離れた表情で合ったが、幸いにもイルカには目撃されなかった。
変わりに、

「…はぁあ?」

という、ありがたい言葉をいただいた。
そして強い力でしがみついていたイルカの腕の力が抜ける。
ミズキはその隙にイルカの手から逃れ、職員室を足早に退室した。
だから気付かなかった。
イルカの顔が目も口も開ききったマヌケな顔―― (゜◇゜)←こんなん ――をしつつも、なんか可哀想なものを見るかのような視線をミズキに送っていたことに。




続く。



[714] うずまきナルトのカレーな卒業試験2
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2009/01/24 11:35
それまで何不自由のない人生だった。
アカデミーを優秀な成績で卒業し、すぐ下忍にもなれた。
数年後には中忍試験にも一発合格をし、エリート街道をまっしぐらのはずだった。
だが自分の今の状況をみると、エリートとは程遠いアカデミー教師という枠にはまっている。
こんなはずはない。自分はもっと上にいるはずの人間だ。
そう、こんなところで終わるわけには……




うずまきナルトのカレーな卒業試験 2




「…と、以上が今週の報告です。」
「ああ、ありがとう。ご苦労じゃった。では引き続きナルトの監視任務についてくれ。」
「は。」

火影の執務室、そこでイビキは一週間毎の監視任務の報告をしている。
何故イビキがしているのかというと、他の二人が期待できないからだ。
だからこうして、二人分の報告書をイビキが理解できる言葉に翻訳して火影に報告することになっている。
といっても、監視任務自体が上層部を納得させるだけのもので報告も半ば形骸化しており、以前はそれなりの形を整えていたものの、現在は口頭での報告のみ。
火影も書類にサインしながら聞いているので、本当に頭に入っているのかは謎だ。

「…ああ、そういえば最近ナルトの周りをアカデミー教師がうろちょろしているのを見ましたが。」
「アカデミー教師? イルカか?」

ナルトの周りにいる教師といえばイルカぐらいしか思いつかない。
以前は九尾云々でアカデミー教師から接触があまりなかったが、現在は忍びとして高く評価されていて、嫌悪されることはほとんどなくなった。
ただし、日々のイタズラのせいであまり近寄ってくるアカデミー教師はいない。イルカ以外には。
だがイルカがナルトに構うのはいつものことだ。わざわざ言うようなことではない。

「いえ、イルカ先生ではなくてですね。なんか柔和そうな表情の…ミカヅキ?」
「あぁ…ミズキか。」
「そうそう、そういう名前の。何か三日ぐらい前からナルトの周りのうろうろしています。別にこれといって危害を加えたりとか、実害はないのですが気になりまして。」
「ナルトは気付いておるのか?」
「はい。外では気付かないふりをしていましたが、アパートに帰ってからそれとなく名前を出したら微妙な顔をしていましたのでおそらく気付いているかと。…あまりいい気分ではないようでしたが。」
「そうか…まあ確かに周りでうろつかれたらあまりいい気はしないだろうな。」

ふむ…とあごひげを撫でて一考。

「わかった、それとなくミズキに問いただしてみよう。それと、できれば止めるようにもな。」
「了解しました。それではこれで。」

そう言ってイビキが執務室を後にしようとしたとき、扉をノックする音が響いた。

「火影様、うずまきナルトです。入室の許可をお願いします。」

さっきまで話題の渦中だった人の出現にイビキと火影は顔を見合わせた。
今日は別に会う約束もしていない。
伝言があればイビキに託したはず。
二人は首をひねるが、ナルトを扉の外に待たしておくのもアレなので、火影は「入れ。」と許可を出した。

「失礼します。」
「どうしたのじゃ、ナルト。お主が突然ココを訪ねてくるとはめずらしい。」
「今日はお願いがあってまいりました。」
「お願い? なんじゃ、言うてみい。」
「封印の書を一冊お貸し願いたく。」
「「ブッ!!」」

イビキと火影は思わずふく。
封印の書とは禁術指定になっている術が記されている書のことだ。
普通の忍びでは扱いが難しいものから、人徳的に問題視されている術が載っている。
使い方によっては恐ろしいことにもなるのだ。
そんな危険な書を、何故ナルトが欲しがるのか。
急な展開についていけず、火影は疲れた顔をしてナルトに向き直った。

「…何故そのようなものを?」
「一時間ほど前のことですが……」




~一時間前~




「おや、ナルト君。買物かい?」
「…ミズキ先生。」

買物帰りだったナルトは偶然(本当に偶然だったのかは甚だ疑問だが)、ミズキ先生と会った。
ミズキ先生はアカデミーで会ったときと同じように優しそうな笑顔を浮かべてナルトに近づいてきた。
そして興味津々ナルトの抱えている買物袋を覗いてくる。
今日は三人とも来ることになっていたので、すき焼きでもしようかと大量に買っていたのだ。
買物袋でナルトの姿が隠れてしまうほどの量だった。

「しかし、また…一人にしては量が多いね。」
「あはは…お恥ずかしい。(アンコ達の食べる分も入ってるからね~)」
「それよりせっかくだ。甘味でも食べるかい? おごるよ。」

本心から言えば、断りたい。
今すぐ帰って夕食の準備をしたい。
だが、ここのところ周りでうろついているミズキの思惑が知りたかった。
今だって偶然を装っているものの、機を見て声をかけてきたに違いない。

「本当ですか!? じゃあ、あそこの団子おごってください!」

本心を隠し、ナルトは喜色満面の笑みを見せミズキの誘いに乗った。



「今日も授業をサボっていたようだけど、卒業試験が間近なんだ。大丈夫かい?」
「いや~、追いかけてくるイルカ先生のあの表情を見るとどうにも止められなくて。サボっても叱ってくれるの、イルカ先生だけだし。」
「イルカ先生真面目な人だから…小さい頃に両親亡くして、1人で頑張ってきて。ナルト君が自分に似てると思ったんじゃないのかな。」
「…そうかも、しれないですね。六年間お世話になりましたし。本当、感謝してます。あ、これイルカ先生には内緒ですよ?」
「ああ、内緒にしておくよ。それはそうと、本当に卒業試験、大丈夫かい?」
「え…?」
「言ってはなんだが、成績、悪いだろう?」
「はあ。」

何が言いたいんだ、こいつ?
思わずいぶかしげな顔になり、返事もおざなりになるが、ミズキは気にした様子はない。

「そこでとっておきの秘策を教えてあげよう。これをすれば卒業間違いなしだ。」
「……あ?」

目も口も開ききったマヌケな顔をさらすナルト。
思わず銜えていた団子もポロリと口から零れ落ち、地面に落ちてしまった。
その顔は図らずも三日前のイルカと同じような表情であったが、ミズキは気付かず話を進める。
フリーズしていてあまり話しを聞いていなかったナルトだが、頭になんとなく残ったことを整理すればこうなる。

→まず、火影の家に侵入し初代火影が封印した封印の書を持ち出す。
→ミズキ先生が教えてくれた場所で術の練習。
→卒業試験でその術を披露。
→卒業間違いなし!! イエイ☆




「…とまあ、こんな感じです。」
「…………」
「…………」
「100%実話に基づいてます。」
「………マジ?」
「マジです。」
「あー…言っちゃ何だが、そいつ、アホか?」
「身も蓋もなさすぎだと思いますが、僕もその意見に賛成です。」

ナルトの忍びとしての評価が高いことはアカデミーにとっては周知の事実だ。
ナルトのことを快く思ってない者達も、苦々しい顔をしながらも、それを認めている。
火影だって、監視役の三人だって知っている。
一部の忍びたちだって知っている。
なのに! 今更!!
卒業試験が危ない?
HAHAHA、楽勝ですよコンチクショウ。
ミズキがアカデミー教師でなく、長期里外任務とかに出ていたのならこの意見もわかる。
だが現役の。アカデミー教師が。そりゃないだろう。

「アカデミー教師といえば中忍だろう。…落ちこぼれか?」
「いえ、忍びとしては優秀な部類に入るという話を聞きましたが。」
「…能力的にはな。」
「「?」」
「ミズキはいわゆるエリートだった。中忍試験にも一発合格を果たし、上忍試験にもすぐ合格するだろうといわれていた。だがどうも視野狭窄なところがあってな…二度ほど上忍試験を受けたが落とされ、それ以降は受けることすらなくなった。」
「順風満帆に生きてきて、初めて味わった挫折に立ち直れなかったということですか。」
「そうだ。視野を広げてもらおうと、様々な者達が出入りするアカデミーを勧めたのだが…残念だ。まさかこのようなことを計画するとは…しかし何故わざわざミズキの話に乗るような真似をする? そのまま捕らえればいいのではないか?」
「証拠が僕の証言だけではいまいち押しが弱いのではないかと。」
「証拠がないなら作ってしまえってことか。ナルト、お前も悪よのぅ。」
「いえいえ、イビキほどではありませぬぅ。」

イビキと二人して黒い笑みを浮かべるナルトに三代目火影は深い溜め息をついた。
昔は可愛かったのに…
やはりあの濃ゆい性格の三人を監視役にしたのは間違いだったかもしれない。
火影は結構真剣に後悔をした。









[714] うずまきナルトのカレーな卒業試験3
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:7f8a36a9
Date: 2009/01/24 15:34

物陰から火影邸を観察する。
ナルトが入ってから大分時間がたち、失敗したのかとやきもきする中、動きがあった。
コソコソと背中に大きな巻物を背負ったナルトが窓から脱出し、森の方向へと消えていく。
顔が愉悦に歪むのを止められなかった。




うずまきナルトのカレーな卒業試験 3




イルカはその日、三日ぶりのまともな睡眠にありつこうとしていた。
ここのところ卒業試験のことやその後の班編成のことで寝るヒマがなかったのだ。
寝転ぶとすぐに訪れてくる睡魔。
そのまま意識を手放そうとすると、玄関のほうからドンドンとノックする音が響き、現実に連れ戻される。
無視して寝てもよかったのだが、そこは公務員の悲しい性、重い瞼をこじ開け扉を開ける。

「…どーしたんです?」

扉の外にいるのは同僚のミズキだった。
なにやら慌てた様子に、ただ事ではないと悟る。

「緊急招集です。火影様のところへ集まってください! どうやらナルト君がイタズラで封印の書を持ち出したらしくて……!!」
「!!」

嗚呼、ナルト……怨むぞ。





イルカとミズキが火影のところに行くと、そこはもう集まっていた忍び達が火影を取り囲んでいた。

「これはもうイタズラという枠を超えています!」
「今度ばかりはイタズラでは済まされません!!」

そーだそーだと周りの忍び達も賛同する。
そんな意見をただ黙って聞いていた火影は、イルカ達が合流し全員集まったのを確認すると、イルカの隣にいたミズキに先に命令を出す。

「お前はすでに事情を知っているな? 先にナルトを探し出してくれ。わしは今からこの者達に話しておかなければならぬことがある。」
「は。」

すぐさま姿を消すミズキ。
火影はそれを見届けると、集まっていた忍びたちに向き直る。
先ほどまで騒ぎ立てていた者達も全員口をつむぎ、火影の命令を一句たりとも聞き逃すまいと固唾を飲む。

「皆の者、ごくろうじゃった。もう戻っても良いぞ。」
「「「「…え?」」」」
「聞こえんかったのか。もう帰ってもよいといっておる。」
「しかしっ封印の書をナルトが盗んだと…」
「ありゃデマじゃ。第一、ナルトには監視のものを三人つけておる。そのような真似できるはずなかろう。」
「あ……」

今の今まで頭に血が上っていた者達がクールダウンしていく。
九尾を宿しているものに封印の書が渡ったと聞いて頭に血が上って冷静さを失ってしまったが、冷静に考えてみればすぐわかることだ。
うずまきナルトには現在監視役の特別上忍が三人ついている。
その者達の監視の目を盗んでそんなことを計画し、火影様の手から逃れ、見事封印の書を手に入れられるか…?
不可能に決まっている、そんなもの。

「では今回のことは…?」
「全部デマだ。封印の書は盗まれておらん。」
「しかし何故またこのようなことを?」
「証拠を得るために必要なことだったのだ。ナルトにはおとり役を勤めてもらっておる。皆の者は騒がせてすまなかった。」
「あ、はい…」
「失礼します。」

出鼻をくじかれるとはこういうのを言うのかもしれない。
特にナルトに対して不信感を持っている者は、この騒ぎに乗じて殺す気満々だったのか、フル装備で来ていたりする。
ナルトを可愛がっている火影に今回はそれをアピールしたようなもの。
すごすごと小さくなって帰っていく者達の背中はなかなかに涙を誘うものであったが、そんなものにも目もくれずイルカはわなわなと身を震わす。
三日ぶりの安眠…それがパア。
任務だと頭を切り替えてきたために、頭も冴えてしまった。
この召集のために何分睡眠に費やすはずだった時間を消費したことか。
明日は早いというのに…
肩を揺らし、顔をふかせながらイルカは火影邸に背を向けた。
イルカが足を向ける方向が自宅ではなかったのは言うまでもない。




◇◆◇◆◇




森の開けた場所で封印の書を枕にして(罰当たりな…)地面に寝転がっているナルトに、空から黒い影が舞い降りた。
安らかな寝顔をさらすナルトの脳天にぶすりとくちばしをブッ刺す。

「いいっっだあぁあ!!」

飛び起きるナルトに、黒い影、カラスは銜えていた紙をぺらりと落とした。
紙にはただ一言、開始、と書いてある。
それは網のなかに獲物が入ってきたことを意味している。
餌はナルトであり、封印の書。
そして近くにはイビキが隠行しており、もしものときのために森を取り囲むように数名の暗部も待機している。まさしく網だ。
中忍でも上の方の力を持っているとしても、ミズキでは突破できないだろう。

「始まったのか…じゃあ、ちょっとは術の練習してたっぽく、服とか汚しておいたほうがいいかな?」

パタパタと砂埃をかぶせ服を一通り汚すと、ナルトは横で毛繕いをしているカラスに恨めしげな視線を送る。

「う~まだ痛むし…もう少しソフトに起こしてよ、黒曜。」
「アホー」
「こういうときにカラスっぽく鳴くなっ、ほんとムカつくなぁ!」

キーキーとカラスと取っ組み合いをしだすナルト。
傍から見れば頭の痛い光景だが、ココには突っ込みを入れてくれる親切な人がいない。
しばらく戯れていたが途中で虚しくなり、はぁ…と溜め息を一つ。

「不毛だ…つか、まだ来ないの? ヒ~マ~!」

ごろごろとあたりを転げまわる。
そのおかげでわざとらしかった服の汚れがそれらしくなる。
この時ほど、ミズキをこいしく思ったことはない。
…と、里の方から近づいてくる見知った気配を感じた。
それは迷うことなくナルトのいるこの場所へと近づいてくる。
現在、森は暗部達が人払いをしているため、入ってくるものはいないはず。
それを通り抜けてきたということは…獲物が網に入ってきたということだ。
先ほどまで戯れていたカラス…黒曜に合図を送る。
ひと声返事のような鳴き声を放つと、黒曜は再び空へと舞い上がった。
その数分後、近寄ってくる足音が聞こえた。

「やあ、ナルト君。やっているようだね。」
「ミズキ先生!」

片手を上げ、いつもの表情で現れるミズキ。
ナルトは疲れたように地面に座り込んだまま首だけをミズキのいる方向へ振り向かせる。
肩で息をしているあたり、芸が細かい。
うっすら汗をかいているのは先ほど黒曜と戯れたためだ。

「先生、この封印の書の術難しいよ! なかなか上手くできなくて…」

しょんぼりと肩を落とす。
ミズキは苦笑を浮かべつつ、ゆっくりとナルトに近づいてきた。
まだ無手、攻撃の意志はない。
証拠を掴むためにはもう少しこの演技に付き合わなければならない。

「はは…そう簡単には習得できないだろうさ。どれ、見てあげよう。」
「お願いします、ミズキ先生。」
「どの術を練習しているんだい?」
「これです、この最初に載ってる“影分身の術”。」

広げてある書物を指差す。
ミズキはどれどれとナルトの背後からその書物を見やった。
確かに影分身の術について書かれてある。本物だ。
ナルトから顔が見えないことをいいことに、ミズキは愉悦に顔をゆがめる。
この書物さえあれば、上忍試験など軽く通れる。
それどころか術の力を上手いこと使えばなんだって思いのままだ。
そうだ。自分はこんなところで終わる人間ではない。
もっと上にいるべき人間なのだ。
こんなガキが持っていても意味がない。宝の持ち腐れだ。
あるべき者のところにあるべき物が来た、それだけだ。
後はこのクソギツネを始末して、コイツが書を持って姿をくらましたことにすれば――
足のポーチに入っているクナイを音を立てないよう引き抜き、右手で握りこむ。
何かコツとかないですかー? と問いかけてくるナルトの背中に向かってミズキはクナイを握った右手を振りかぶった。
その光景を近くで隠行してみていたイビキは確証を得られたため、暗部に合図を出し、自身もミズキを捕らえるために動き出そうとし…しかし、その横を高速で誰かが通り過ぎた。
暗部ではない。
予想外の展開に思わず、え…? と立ち止まる。
そしてイビキの横を高速で通り抜けた人物はそのままの勢いで、右手を振りかぶっていたミズキを側面から強襲した。

「ここで会ったが百年めぇええ!!!」

ドゴオッ!!

予想していなかった攻撃にミズキは受身すら取れずに吹っ飛ばされ、樹にしたたかに身体を打ちつけた。
何が起こったか理解できずに目を白黒させる。
しかしそれはナルト達も同様であった。
予想してなかった人物の登場にうろたえる。
先ほどまでミズキが立っていた場所に仁王立ちでたたずむ人物――イルカに。

「え? は? ええぇえ!? イ、イルカ先生?? どうしてココに…」
「くっ…イルカ、だと? 貴様どうしてこの場所がっ」
「………」

二人の問いかけにも黙したまま、イルカはナルトも隠行がとけてナルトの近くで突っ立っているイビキも無視し、ミズキにゆっくりと近づいていく。
そのイルカが放つ異様な気配にナルトは常ではないことを悟り、イビキの方へと避難する。
イルカはミズキの5m前方でやっと立ち止まった。
相変わらず顔は伏せたままで、明かりは月明かりのみなので表情が読み取れない。

「………の……だっん……」
「ああ!? 何言ってんのかわからねぇよ!!」

ぽつぽつと語るイルカ。しかし声が小さすぎて聞き取れない。
もはや取り繕うこともせず、顔を歪ませたままミズキは苛立たしげに吼えた。
あと少しであの書が手に入ったというのに…
この光景を目撃されたからには仕方がない。ナルト同様処分すればいい。
何、ナルトが殺したことにすれば何も問題はないだろう。
樹に身体をぶつけ痛めたが、戦えないほどではなく骨にも異常はない。
相手はただのアカデミー教師、中忍だ。
本気を出して戦えば勝負は見えている。

「三日ぶりの、睡眠、だったんだ。」
「は?」

思考が飛んでいた中に、再びイルカがしゃべりだす。
しかしその話す内容は理解できない。
いや意味はわかる。だがこんな状況の時に話すような内容ではない。
イビキとナルトも首を傾げる。

「最近忙しくて、やっと満足に取れる睡眠のはずだったんだ。」
「それがどうし――」
「それなのに、寝ようとしたら邪魔されるわ。頭切り替えて火影の元にいったらもう帰っていいって言われるわ…」
「何が言いたいのかわかんねぇんだよ!」
「俺の…俺の睡眠時間返せこのやろぉおおおおおおお!!!
「何っ!? ふげぇっ!!」

チャクラによって強化されたイルカの右ストレートがミズキの顔面に命中し、錐揉み状態になりながら吹っ飛んでいく。
とんでもない威力だ。
あの三忍の綱手を髣髴とさせる。
間髪いれず、イルカは吹っ飛んでいくミズキの足を掴み地面に叩きつけた。
ドガンっという鈍い音とともに地面が揺れ、土煙がもうもうと上がる。

「んっんっんっんっ…まだ休むなよミズキ…俺の気はまだ済んでないぞ?」
「ぐぎ…ずびばぜん……勘弁じでぐだざいぃぃ」

胸倉をつかまれ、無理やり立たされるミズキ。
その顔は先ほど受けた攻撃により鼻は折れ、歯も数本なくなっているという無残なものであった。
しかしイルカの無情な宣告。
これぐらいで誰が許すか。

安眠妨害拳!!」←今テキトーつけた
「ぐはぁ!」
スリープエナジィィイイ!!」←今テキ<略>
「ぎあぁあああ!」

響く破壊音と悲鳴。
その光景にイビキとナルトは二人揃って遠い目をして現実逃避をし始める。

「僕…イルカ先生の新たな一面を見た……」
「…俺もだ。」

響く破壊音に森を囲むように待機していた暗部たちもただ事ではないと、集まってくる。
それでも止まらぬイルカ。
このままボッコにしてミズキを殺されてしまってはかなわない。
自分たちはミズキを生け捕りにするように火影から命令を受けていたのだ。
勇気ある暗部の一人がイルカを止めようと近寄る。

「落ち着いてください、イルカさん。」
「ええいっ邪魔をするな!」

邪険にされる。
任務に忠実なもう1人も援護に。

「いやですね、それ以上すると命に関わると。」
「別にいい!」
「私たちは火影様から生け捕りにするよう言われてまして。」
「俺は言われてない!」

ガスッガスッガスッガスッ!

止まない暴力。
とうとう暗部たちは力行使にでた。
ミズキからイルカを離そうと試みる。
暗部の中でも大柄な人物がイルカを背後から羽交い絞めにする。
そのまま引きずって離そうとするが、イルカは足の裏にチャクラをまとわせ、地面に吸着させ離されまいと踏ん張る。
そして地面に吸着させてないほうの足でなおもミズキを執拗に攻撃する。

「くのっ! くのっ! くのっ! くのっ!」

ゲシッゲシッゲシッゲシッ!

「海野さんっ!」
「正気に戻ってください!!」

イルカの暴走はこの光景を水晶で見ていた三代目火影が駆けつけてくるまで続いた。
ミズキは幸運にも一命を取り留めたが骨という骨を骨折しており、三ヶ月の入院生活を余儀なくされ、監視つきのベッドの上で早くイルカの来ない安全な牢に入れてくれと呻いているそうな。
またこの一件はミズキの起こした事件にも関わらず、“イルカの乱”という名をつけられ、イルカは“怒らせたら恐い忍び”トップスリーに堂々ランクインすることになった。

ちなみに次の日に行われた卒業試験の課題は“分身の術”で、今年も1人の落第者も出さず全員が合格を果たし、イルカはホッと一息をついた。






教訓:真面目な人は切れさせると恐い。




[714] うずまきナルトのカレーな教示 1
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2009/05/10 22:48



前回でのミズキの一件、一応正式な任務ではないものの作戦に関わったことでナルトは三代目火影に報告に来ていた。
といってもその光景は火影自身も水晶を通してみていたので必要はないのだが、提出書類にサインをする場所があるので下忍になっていないナルトでも事務手続き上逃れられない。
そのあたりのことは実体験に基づき知っているので、ナルトは忌々しく思いながらも素直に火影執務室へと訪れた。




うずまきナルトのカレーな教示
木ノ葉丸参上!




「ココにもサインを頼む。」
「うえ…まだあるのぉ?」

何が悲しくて真っ昼間から年とった爺さんと二人で向かい合い、書類と格闘しなければならないのか。
もうかれこれ執務室を訪れてから一時間以上たつ。
上忍であったときにはこんなにサインする場所はなかったように思うが、どうやら正式な忍びでもないのに任務を手伝ったことから、複雑な事務手続きが必要になったらしい。
おのれミズキ。
最後まで手を煩わせてくれるとは…今からでも制裁に行ってやろうか。

「うぅうう…」
「そう唸るな。あと一枚で終わりじゃ。」

火影から渡された最後の一枚にやっとの思いでサインを書く。

「終わったー!」

ペンを放り投げる。
一時間同じ格好をしていたため凝り固まった筋肉をほぐす。
以前はこの程度ではどうもなかったがアカデミーで授業をサボりまくっていたせいか、机に向かって座るという行為がひどく苦痛になってしまった。
火影にサインした書類を渡し、さて帰って明日の下忍試験にそなえチャクラコントロールを磨いておこうか…そう思って椅子から腰を上げかけたのとほぼ同時だった。
盛大な音をたてて執務室の扉が開き小さい影が転がり込んでくる。

「じじィ!! 勝負だァコレ!!!」

思わず目を開いて中途半端な体勢のまま固まるナルト。
小さい影、それはナルト(の肉体年齢)よりも年下の少年だった。
首には明らかに引きずる長さのマフラーが巻かれており、右手には物騒なことに手裏剣が握られている。
暗殺者…? とも思うが即座に違うだろうと否定する。
火影の命を狙うにしては、この少年はあまりにもお粗末過ぎる。殺気もないし。
訳がわからずとりあえずこの少年が狙っている三代目火影に視線を移すと、なにやら頭を抱えている火影の姿が。
どうやら知り合いらしい。
手を出すのもアレだし、少年の動向を黙ってみていると勢いよく走り出し…

「…あ。」

少年の走る進行方向に老朽化のため、少しだけできた床の段差に気付く。
気付いたいいが、注意を促す前に少年はその段差にひっかかり勢いよく転倒する。

「いってェェ――――!!!」

あーあ…顔から行っちゃって。いい音したし、痛そ。
つかいちいち反応が大きいなぁ…
さめた目でその様子を見ていると、少年が飛び込んできた扉から忍び特有の黒の上下を着込み丸いサングラスをかけた、いかにもエリート然とした男性が駆け込んでくる。
額あてもしているし、様子からしてどうやらこの少年の家庭教師らしい。
…ということは、この少年かなりの家柄の出。正直見えない。
名家として有名な日向一族なんか礼儀とかにもいちいち五月蝿かったというのに。

「くっそぉぉ。トラップか、これ!?」

赤くなった額を押さえながら少年は起き上がる。
いいえ、ただの段差です。
こちらに飛び火してはたまらんので心の中でつっこむナルト。
そんな少年に家庭教師の男性はわたわたと近寄る。

「だ…大丈夫でございますか!? お孫様!!」

なんですと?
…孫??
マジマジと少年を観察する。
そういえば、顔に共通点がある。
約一時間前からつい先ほどまで向かい合っていた顔と。
特に目の半目ぐあいとか。

「ぶはっ!」

笑いのツボにヒットし、思わず噴きだす。
見れば見るほど三代目火影に似ている。
きっと身長だって、その年齢にしては小柄なのだろう。
ビバ☆隔世遺伝!
―と、少年と目があう。
シマッタ。せっかく巻き込まれないよう気配を消していたのに。

「そうか!! 貴様が何かしたんだな、コレ!!」

ナルトのほうに突っかかってくる少年。
年下だしお世話になっている三代目火影の孫だしとちょっと付き合ってやろうと思ったナルトだったが、あまりの口のききようにピキリと青筋をたてる。
敵ならいざ知らず、同じ里の者(しかも年上)に向かって会った直後に貴様呼ばわりだと…?
僕だってアカデミーに入学した当初は大人しく言うことを聞いていたというのに、このクソガキャ。
爽やかなの笑顔を浮かべ、しかしそれを裏切るように力を込めてお孫様の胸倉を掴むナルト。
家庭教師役の男性がなにやら騒いでいるが知ったことではない。
教育的指導といこうではないか。
しかしナルトの笑顔に隠された怒りに気付かない少年はなおもナルトの怒りを煽るような発言をする。

「なぐれるもんならなぐってみろ!!」

ほほぉう。
もはや満面の笑みを浮かべるナルト。
胸倉をつかんでいる腕の力をまったく緩めないどころか、掴んだままその腕を徐々に高い位置に上げる。
つま先がかろうじて地面につくような状態になって少年もやっとナルトの異様な様子に気付いた。
くっきりと浮かぶこめかみの青筋にも。手遅れだが。

「え、いやあの…」

怖い。
今までこれほど怖い笑顔を見たことがあっただろうか、いやない。

「はっはっはっは(棒読み)」

嘘くさい笑いをしながらなおも少年から手を放さないナルト。
もう少年の足は完全に床から離れ、ぷらぷらと宙を舞っている。
ぎりぎりと締まる首元と、ナルトの怖さに、この日少年は初めて失神する、ということを味わった。




◇◆◇◆◇




書類も提出し、やっとの思いで自宅への帰り道を歩くナルト。
先ほどからみょうちくりんなものがついてきているが、はっきりいって関わり合いになりたくないのでまるっと無視して家路を急ぐ。
あー今日はイビキ達が卒業祝いってことで、フグ鍋をしてくれるらしい。楽しみだなー…
現実逃避ともとれる思考をしながらひたすら後ろをついてくる物体から目をそらす。
時々気付いてほしそうに目の端をうろちょろしているが、やはり関わり合いになりたくないのでそれも無視。早足で進む。
先に根をあげたのは後ろの追跡者のほうだった。
早足で進むナルトを追い抜き、道の中央にふんぞり返る。

「フフフ…よくぞ見破った!これ!! さすが噂通りの男!」

僕別に見破ったりなんかしてないし。
道の中央でふんぞり返る少年をナルトは完璧に無視して横を通りずぎる。
春は変質者が増えるというからねー。
ナルトに全然相手にされない少年は、ふんぞり返った姿勢のままプルプルと震えだす。
さすがに十歳にも満たないだろう少年に対する態度としては可哀そうだっただろうか。
ナルトは渋々足を止め、少年のほうを振り返った。

「…なに?」
「…! オレ、お前の子分になってやってもいいぞ。これ。」

なってやってもいい…ねえ。

「あ・そ。」

再び正面に向き直り、自宅へと足を向けるナルト。
大人げない? はははは、礼節をわきまえん小僧が悪いのだ。

「まま待つんだな、これ!」
「今度はなにぃ? 用があるなら手短に言ってよ。」

う…とたじろぐ少年。
先ほど火影執務室でのナルトを思い出す。
震えが来たが、それをごまかして真っ向からナルトの視線を受け止める。

「火影の爺をその昔倒したアンコっていうの、知り合いなんだろ? 爺を倒した“おっとこ殺しの術”っていうの知ってたら教えてくれ!!」


解説しよう!
おっとこ殺しの術とは、外伝2 顔合わせアンコ編にてアンコが三代目火影に披露した技である。
術者自らが希代のヘンタ…天才と言われた三忍の一人、大蛇丸へと変化し、さらにその上で多重影分身の術にて実態のある分身を作りだし、敵を取り囲むのだ。
かけられた相手は多大な(精神的)ダメージを受ける。が、術者本人も多大な(精神的)ダメージを覚悟しなければならない術なのだ。
この術により三代目火影は寿命をいくらか縮めたという、恐ろしい禁術(?)なのである。


ひくひくと顔を引きつらせるナルト。
想像するだけにもかなりの精神的ダメージだ。
鳥肌とかたってるし。

「冗談じゃないよ! なんであんな末恐ろしい術を僕がっ」
「知ってるんだな、これ! 教えてくれ!」
「ばっ! あほか! 誰が教えるかっ!!」
「そんなこと言わずに!」
「いーやーだー!」

ずりずりずりずり…

腰に木の葉丸がしがみついてくるが、構わず家に帰ろうと足を進めるナルト。
身長の差のせいで木の葉丸は地面に引きずられる。
だが木の葉丸は諦める様子はなく、10mほど進んだところでナルトは足を進めるのを止めた。
身代わりの術とかで脱出することは簡単なのだが、こんな子供にそこまでするのも躊躇われた。
こなきジジイのようにしがみつく木の葉丸にちらりと視線を落とす。
深い深いため息をひとつ。

「…わかった。」
「教えてくれるのか、これ!」
「おっとこ殺しの術は教えない。だけどその代わりに三代目火影にはてきめんに効く術を教えたげる。名づけて…」
「名づけて?」
「お色気の術だ!!」






続く。






[714] うずまきナルトのカレーな教示 2
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2009/07/26 19:42

「お色気の術…? そんな術聞いたことないんだな。これ。」
「当たり前でしょ。今僕が考えた術だもん。」
「えー!? そんな術で本当にじじい倒せるのか、これ!?」
「文句あるなら教えないよ。」
「…………。」
「ま、僕は9割がた効くと思うけどね。(なんたって自来也先生の師匠だし)」




うずまきナルトのカレーな教示 2




「ところで変化の術ってできる?」
それができなければ“お色気の術”はできない。
教えるとはいったものの、そんなところから教えるとなれば時間がかかる。
これで覚えていないと言ったら今度こそ遁走しよう。
そう心に決め木の葉丸に聞いたのだが、その返事はYESだった。ちっ。
「一番最初に教えられた術だからできるんだな、これ!」
「…………お色気の術はその変化の術の応用。男にしか効き目はないけど、色々工夫すれば女にも効く術だろうね。」
「…最初の間が気になるんだな、これ。」
「気のせいだよ。お色気の術だけど、簡単に説明するなら美人な女性に変化するわけだけど、ここで重要なのはプロポーションだ。基本はボン・キュ・ボン。胸は張りがあって自己主張激しく、ただしくどくなく。腰はくびれ、ヒップは胸と同じく張りがあってくどくない程度に。全体的に細すぎてはだめ、太すぎてもだめ。適度に肉が付いていて弾力性が醸し出されればOKってこんなところかな。あと顔は美人で。」
「む、難しいんだな。これ。」
「ま、難しく言葉で語るよりもやってみるほうがいいかな。まずはやってみて。直すべきところを僕が指摘していくから。」
「おっす! 変化!!」
ナルトに促されて印を組む木の葉丸。
変化の術特有の煙が晴れたそこにいたのは…

ぼん、ぼん、ぼん!

引き締まったところなど見当たらない女性。
確かに胸も自己主張激しく、ヒップの肉付きもいいが、それは太っているからだ。
ウエストのくびれも見当たらない。
「ダメー!! 美人を舐めてんのか!? もっとスレンダーに、もっとビューティフルに!!」
「おっす!」
「ダメだ!! お前の引き出しはその程度のモノか!? もっとあるだろう! 想像力を働かせろ!」
「うっす!」
「モロよりももっと男心を掻き立てるようなものにするんだ!」
「Yes, ser!!」





「ところで…なんでそんなに三代目火影に食ってかかってるの?」
術の練習でチャクラを使いすぎ、地面に座り込んでいる木の葉丸に近くで買ってきたスポーツドリンクを渡しながらそんな質問をぶつけるナルト。
祖父と孫のコミュニケーションの一種というなれば聞こえはいいが(そうか?)木の葉丸の剣幕は幼いながらも真剣だ。
術の練習中も休みなく、ぶっ倒れるまでやる始末。
率直な疑問を木の葉丸にぶつけると、木の葉丸は眉を寄せる。
「……木の葉丸って名前は、じいちゃんがつけてくれたんだ。この里の名前にあやかって。でもこれだけ里で聞きなれた響きの名前なのに、誰一人その名前で呼んでくれない! 誰もオレ自身を認めてくんない。もうやなんだそんなの!!」
「だから今すぐにでも“火影”の名前が欲しいって?」
「……うん。」
気持ちはわからんでもない。
名前が呼ばれない、認められないという苦しさがどういうものか自分は知っている。
だが同時に“火影”の名が持つ意味も自分は知っている。
軽々しい気持ちで語れるほど“火影”の名は簡単ではない。
「甘えるなよ。」
「え!?」
「火影の名は、里の者全ての命を背負う覚悟があるものに、授けられる名だ。それだけじゃない。敵対した、倒してきた者たちの命も背負っている。その覚悟が君にはあるのか? 自分の選択のせいで散っていく者たちの命を背負う覚悟が。力が強いから火影を名乗っているわけではない。そういうものを背負う覚悟があるから三代目は火影を名乗っておられる。お前にはあるのか、そういう覚悟が。」
「………………」
泣きそうな顔になる木の葉丸。
10歳にも満たないであろう子供に語るには少々重い内容だったか。
しかし本当に火影を目指すのならばきちんとした覚悟を持って目指してもらわなければなるまい。
近い将来、平和になったとはいえ命のやり取りをする現場に足を踏み入れることになるのだ。
覚悟を決めておいたほうが彼のためだ。
その時、背後からこちらに近づいてくる気配があることに気付いた。
ふと視線をやると、先ほど火影執務室で会った木の葉丸の家庭教師の姿が見える。
どうやら木の葉丸を迎えに来たらしい。
「ほら、迎えが来たぞ。」
うつむいている木の葉丸の頭をはたく。
反応が薄い。やはり言い過ぎたらしい。
「見つけましたぞ、お孫様!!」
「………」
「さっ、お孫様帰りましょう。」
「………」
「お孫様?」
「うがぁああああああああ!!」
ガバッと顔を上げる木の葉丸。
「お孫様、お孫様うるさいんだな、これ! オレはじじいを倒して火影の名をもらうんだ、今すぐ!!」
だめだこりゃ。
考えがまとまらないうちに禁句である“お孫様”を連呼されたものだから、逆ギレしてしまった。
ここは何を言っても無駄だろう。
静観に徹するナルト。
前後の状況が理解できてない家庭教師は最初こそ目を白黒させていたが、気を持ち直し説教モードに入る。
しかしそれは頭に血が上った木の葉丸には見事に逆効果だった。
木の葉丸はプルプルと噴火直前の活火山のようになってしまっている。
それでも続く家庭教師の説教。しかも禁句含む。
その言葉にナルトも耳を傾ける。

「いいですか、お孫様。火影というのは仁・義・礼・智・忠・信・考・悌の理を知り、千以上の術を使いこなせてはじめて…」

マジで!!?

家庭教師の男の言葉に愕然となるナルト。
これでも元四代目火影。
仁・義・礼・智・忠・信・考・悌の理を知りうんぬんは理解できる。
自分も実践できていたかははなはだ疑問だが、心がけていた。
しかしその次がいただけない。
千以上の術を使いこなせて…だと?
いまでこそアカデミーの落ちこぼれだが以前は首席でアカデミーを卒業した身、土・水・火・風・雷全ての系統の術が使用できた。
生来の系統である風は上級、土・水は初級程度という差はあるが。
しかしだ、使いこなせるとなるとその術の数は激減する。

四代目火影 波風ミナトが使いこなせた術
・飛雷神の術
・螺旋丸
・変わり身の術
・幻術返し
・口寄せの術
・五行封印を初めとする様々な封印術(屍鬼封尽含)
――――以上6つ。

………。
少なっ!!!
驚きの少なさ!
千には程遠い。それどころか十にも届いてないってどーよ?
飛雷神の術という特殊な術を使うため単独任務が多く、忍術のスペシャリスト、コピー忍者はたけカカシの師として有名なためあまり知られてはいないが波風ミナトの本来の戦闘タイプは近接戦。
ヒットアンドアウェイということはあまり世間には知られていない。
術よりも体術のほうが得意なのだ。
というより単に殴るのが好きなのではないか、というのが四代目火影と親しかった者たちの一致した意見だったりする。
生来より恵まれていたチャクラ量で無理やり筋力を強化し、破壊力を増したパンチやキックでクレーターを作成したことは両手では済まない。
もっともそれを知っているのは限られたごく一部のものたちであるが。

そんな事実にナルトは密かにショックを受けていたが、逆をいえばそれだけ飛雷神の術は強力だったともいえる。
簡単にいうなれば 千の術≒飛雷神の術 だ。
四代目火影が開発した飛雷神の術、今までの術では考えられなかった発想から生まれたこの術はその当時の忍術の常識を突き崩したにも等しかった。
その当時は戦争中であることもあり、より強力で破壊力のある術の開発が求められていた。
そんななかミナトが開発した術は破壊力という点では0であった。
時空を移動する術なのだから当たり前といえば当たり前だが。
そんなわけで開発された当初、誰にも見向きもされず一笑された術はミナトによって多大な戦果をもたらすことになった訳だがここは割愛しておく。



「―さ、わかりましたかお孫様。」

ブチ。

不穏な音が木の葉丸から聞こえた。
しかしこんなに禁句を連発するなんて、わかっててやってるんではなかろうかこの家庭教師。

「うるさい! お孫様お孫様連発するな! くらえ! お色気の術!!」

アハ~ンv

練習してきた中では最高の出来だった。
ぼん、きゅ、ぼんで見えそうで見えない、きわどいラインが悩ましい。
その術を真正面からくらった家庭教師であったが、鼻血を噴いて倒れるほどではない。
もっともタリ…と一筋の鼻血は垂れているが。
もうひと押しといったところか。

「あれ? 効いてない?」
「な、なんとお下品な術をお!! 私は紳士です!!! そのような超低俗な術には、決してかかりませんぞ!!!」
顔を赤くして怒る家庭教師。
しかしナルトは気付いていた。家庭教師がサングラスに隠された目で変化した木の葉丸を穴があくほど凝視していたことに。
いや、効いてたじゃん。鼻血垂らしてたじゃん、あんた。
密かにつっこみつつ、引きずられていく木の葉丸を観察する。
このまま放置してもいいのだが、このお堅い家庭教師の鼻をあかすのも面白い。
ニヤリ。
底冷えのする笑みを張りつかせ、ナルトは印を組んだ。

「影分身の術。」

実態をもった分身が10体姿を現す。

「む!?」
「な、すごいんだな、これ!」
「影分身の術は高等忍術…しかもこれは多重影分身。一介のアカデミー生が使用できる術では……」
驚愕しながらも、身構えるところはさすがといえるがナルトの狙いは家庭教師と戦闘をすることではない。
「…変化。」
「なに!?」

ぼふん。

10体いたナルトの分身+本体。
その全てが同じタイミングで変化の術を行う。
辺り一帯を煙が覆い、その煙が晴れた先に居たのは…

「センセェ、ひどくしないでぇ…」
「遊ぼうよ、センセv」
「イイコト…しよ?」
「センセ…顔赤い。」
「照れてるの? かわいいわ。」
etc、etc…
さまざまなきわどい格好をした、10代後半から20代前半の可愛いタイプから美人で色気むんむんの女性たち。
上眼づかい。涙目。耳に息を吹きかけるもの。怪しい手つきで体をたどるものまでその攻め方も様々だ。
「あが、げ、が、ご…」

ぶ―――――っ!!!

両方の鼻の穴から鼻血を噴きだし、地面へと倒れ伏す家庭教師。
ふっ、勝った。

「名づけて、ハーレムの術。」



◇◆◇◆◇



密かに孫とナルトの様子を水晶で探っていた三代目火影は、ナルトの使用した“ハーレムの術”に戦慄した。
なんつーおそろし…いやいや、くだらん術を。
影分身の術とお色気の術を複合させたのか。
…わしならばもろに、ひっかかるな。
鼻血を吹いて倒れ伏す自分の姿が容易に想像できる。
これはなにか対応策を考えておかなければなるまい。
ハーレムの術で敗れる三代目火影。
いやだ、嫌すぎる光景だ。恥だ。

(しかし…)

“火影”という名に過剰に反応したナルト。
そのナルトの言葉の節々には実際にやったことのある者特有の説得力というものがあった。
まだ12歳であるナルト。
そんなナルトに火影の経験があるはずがない。
普通ならばそう考えるが…

(ナルト…まさか、お主………)

こうして木の葉丸の一件は三代目火影に僅かな胸のしこりを残すことになった。






続く。



[714] うずまきナルトのカレーなサバイバル演習 1
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2009/09/12 11:29

うずまきナルトのカレーなサバイバル演習 1



アカデミーの教室で、卒業生のみの説明会が行われるのでナルトはいつもならばサボる身をおとなしく席に着席させていた。
説明会はどうでもいいが、班分けも発表されるためだ。

(それにしても、僕の成績表ってあてにならないだろうなー。授業ほとんど参加してなかったし。って、だからミズキのあの事件のときイルカ先生は寝不足だったわけか…ご愁傷様。)

自分のせいだというのに他人事のように可哀そうな境遇にさらされたイルカに手を合わせる。
しかし暇だ。
なんか暇つぶしはないものか…
ぐでんと脱力しきって机に伸びたままナルトは視線だけを巡らせた。
と、近づいてくる人影がいる。
シカマルか? と思うが、シカマルの頭に特徴的なちょんまげがない。
代わりにその頭には子犬がのっかっている。

「よお、ナルト。」
「…キバか。」

視線だけを合わせる。

「…相変わらずやる気がねえな、オマエ。」
「よけーなお世話だよ…何の用?」
「いや、お前の頭の上にのっかってるのが気になってよ。」
「頭の上―? ああ、黒耀のことか。」

黒耀、ナルトが契約した死神の魂が入ったカラス。
ナルトの忍鳥として登録してある。
もっとも忍鳥として登録してあるのはもっと速く飛べる鳥や猛禽類が多く、カラスを登録してあるのはものすごくまれらしい。
なんでだ。カラスの知能はすごく高いと聞くのに…

「で、黒耀がどうかしたのか?」
「カラスが忍鳥なんて珍しいと思ってよ。それに今までアカデミーには連れてきてなかったじゃねえか。」
「確かにアカデミーには連れてきてなかったけど…にしてもカラスだからって馬鹿にはできないよ。頭いいし。」
「…その割にはその黒耀ってカラス、さっきからお前の頭をブスブス嘴で刺してるように見えるのは気のせいか?」
「これはコミュニケーションの一種だよ。」
「………そうか? そうなのか?? めっちゃ血が出てんぞ?」
「血が出るほど仲がいいんだよ。」

ザクッ!

「ぎゃあああああ!!? ちょ、黒耀! さっきのは痛かったよ! 骨に到達するところだったでしょ!?」
「グアー」
「なんだ、全然仲良くないじゃねぇか。やっぱ登録するならこういうのじゃねえとな、なぁ赤丸。」
「わん!」
「だいたいカラスなんて、戦闘中には何の役にも――」
「キバ、お前は今言ってはいけないことを口にした…さらば友よ。お前の雄姿は忘れない。」

ナルトはキバからすかさず距離をとる。
離れていくナルトにキバは不思議そうな顔をする、次の瞬間。
教室の空いている窓から黒い大群がキバに殺到した。

「な、何だぁ!?」
「うわっ!」
「何がどうなってるんだ!」

教室中が混乱になるなか、その中心地からはキバの悲鳴が聞こえてくる。
もっともその姿は黒い…カラスの集団に紛れて見えない。
赤丸のキャン、という可哀そうな声も聞こえてくる。
南無…ナルトは一人と一匹に手を合わせた。
死神こと黒耀はここら一帯のカラスのボスなのだ。
いつの間にかそうなっていたらしい。
だから黒耀の呼びかけ一つでここら一帯のカラスが全て敵にまわるのだ。
おかげでナルト自身も下手なことは黒耀にはできない。
集団の力っていうのはこうもおそろしいものなのである。
と、感慨にふけっていると教室の扉が開き、うみのイルカが入ってきた。
教室の混乱した状況に頭を抱える。

「ナァルゥトォオオオ! またお前かぁああああ!!!」

拳骨をくらった。
キバはピクピク痙攣した状態で救出された。
赤丸も無事であった。




◇◆◇◆◇




「今日から君たちはめでたく一人前の忍者になったわけだが…しかし、まだまだ新米の下忍。本当に大変なのはこれからだ! これから君たちには里からの任務を与えられるわけだが、今後は3人1組(スリーマンセル)の班を作り……各班ごとに一人ずつ上忍の先生がつき、その先生の指導のもと任務をこなしていくことになる。」

イルカの説明を右から左に聞き流しながらナルトは頭をさすった。
くそう。黒耀がぶっ刺した上から拳骨をくらわせやがって…めちゃめちゃ痛い。
しかも6年間、ナルト達の行動によって否応なしに鍛えられたうみのイルカの拳骨だ。
もはやその威力は上忍レベル。
上忍試験を受けたら普通にパスするのではなかろうか。

「班は力のバランスが均等になるようこっちで決めた。」
「「「「「「「えー!!?」」」」」」」

班を好きな者同士くもうなどと甘い考えを抱いていた者たちは一斉に不満の声を上げる。
というか、当たり前だろう。
任務に出るということは、否応なしに自分の生死さえも左右するということなのだから。
好きな者同士くんでバランスの悪い班になったら、死んでしまう可能性だって高くなってしまう。
これが時代の流れというものだろうか。
自分たちのアカデミーの時は戦争中だったからか、班を決める時はかなり静粛な雰囲気であったはずだが。
平和であることに満足すればいいのか。
現状の下忍達の危機管理のなさに嘆けばいいのか、しばし悩むナルトであった。



次々と班のメンバーが決まっていく中で、ナルトの名前はいまだ呼ばれていなかった。
現在6班。
一体いつになったら呼ばれるのやらと再び机にだらけようとした時、名前を呼ばれた。

「次7班、うずまきナルト。」

ざわりと教室が騒がしくなる。
問題児筆頭のうずまきナルトのいる班だ。
どうか自分の名前が呼ばれませんように、祈るような面持ちで皆次のイルカの言葉を待っている。

「春野サクラ。」
「えぇえええええ!!」

残念、スケープゴート決定。
春野サクラはがっくしとその肩を鎮めた。
彼女の周りの空気だけ青く、縦線が入っている。
そして最後の一人は――

「それと…うちはサスケ。」

どよどよと陰気な空気を振りまいていた春野サクラは一気に天にでも上ったような顔をした。
春野サクラがくの一クラス人気ナンバーワンであるうちはサスケに好意を持っていることは有名な話だ。
好きな男性と一緒の班になれてうれしいのだろう。
うずまきナルトという最悪のダークホースが一緒の訳だが。

「…あれ? ちょっとまってイルカ先生。なんかバランス悪くないですか?」

次の班の発表をしようとしていたイルカにナルトは待ったをかける。
確かに自分の成績表を考えるに間違いなくドベだろう。
だから成績トップである春野サクラかうちはサスケと一緒の班になるのはわかる。
だがどうして二人ともと一緒の班なのか。
確かに…と春野サクラとうちはサスケもいぶかしげな顔をする。

「良く気づいたな、ナルト…この班はな、まっっっっっっったく成績表が当てにならんお前に俺が夜なべを何度も繰り返して組んだ班なんだ。」
「そんな“まったく”のところを強調しなくても…」
「だったらちょっとは授業に参加しろ! このバカ!!!」
「あーゴメンナサイ?」
「誠意がない。まあ、この7班だが、この班は問題児を集めた班だ。」
「ちょ、先生っ! 私のどこが問題児なんですか!」
「…………」

イルカの問題児発言に猛然と春野サクラが抗議した。
うちはサスケも口は開いていないが、憮然とした顔をしているので納得していないだろう。
だが問題児ときいてなんとなくナルトは納得した。

「まず春野サクラ。お前は実技がからっきしだ。」
「う…」
「言うなれば頭でっかち。」
「ううぅ…」
「で、うちはサスケ。お前は実技も座学もトップクラスだが…いかんせん協調性がない。いいか、任務というのは一人でやるもんじゃない。協調性がなければお前がどんなに優秀でも任務は失敗するんだ。」
「………」

心当たりがあるのだろう、うちはサスケは黙りこくった。

「最後にうずまきナルト…これは言うまでもないな!」
「ういーっす。」
「…ところで卒業が決まったお前に聞きたいことがあるんだが…」
「なんでも聞いてくださーい。」
「入学1年目からこの年までのテストの結果がここにある。1年60点、2年60点、3年60点…卒業に至るまでの全てのテストが何故か赤点ぎりぎりの60点なんだが、どうしてかな?
「ああ、それは狙って解いたからでーす。一点ももらさず、ギリギリ60点とるってのはなかなか難しかっ…プゲラッ!!」

ドガス!!!

イルカの黄金の右がナルトに直撃した。
しかも先ほど拳骨をくらった上に。

「お前はっ!お前はなんでっ!! どういしてそうやって無駄なところにばっか力を込めるんだ!!?」
「ぐがっイルカせんせ…ぐるじ……!」
「お前もだぞ奈良シカマル!!」
「俺も!? 俺はそいつみたいに均等に点はとってないっすよ。ちゃんとバラバラの点数になるように…あ。」
「シカマルゥウウウ!!!」
「ぎゃああああ!! ばかっ! ばかナルト! テメーのせいだぞ!!」
「ナルト君は気絶しました。」
「テメェ意識あんじゃねえか!」
「二人とも、覚悟はいいか?」

教室に鬼が降臨した。




◇◆◇◆◇




ところ変わって、ナルトの家。
そこには二人の人影があった。
不法侵入ではない。一応家主の許可は得ている。

「ここがナルトの家ですか…」
「そうじゃ。変わり者だがお前に見張らせるのが一番じゃ。お前は鼻が効く。」
「ところでその噂のうずまきナルトとはどういう人物なんです?」
「っ!」

ぎくりと人影の一つ、三代目火影の肩がこわばった。

「…なんです、その不安を掻き立てられる反応は。」
「い、いや、優秀? な奴じゃぞ??」
「疑問符付いてるじゃないですか! 大丈夫なんですか!?」
「それからお前の班には例のうちは一族のサスケもいるぞ。」
「いやいやいや、誤魔化してますよね!?」
「健闘を祈る!!!」

さっとその場を去る火影。
現役さながらのその動きはさすがプロフェッサーと呼ばれたにふさわしい動きだが…

「火影様ぁあああ!!」

うずまきナルトのいる7班の担当上忍となったはたけカカシはとてつもない不安に襲われた。
なんなんだ、一体。

(こりゃ大変なことになりそうだ…ハァ)



[714] うずまきナルトのカレーなサバイバル演習 2
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/01/04 07:02

ぐでーんと机に体をあずけ、ナルトは変化を示さない教室のドアに視線を向けた。
教室にはもはやナルトと、ナルトと同じ班になったサスケ・サクラを除いて人影は無い。
他の班の者たちは班の発表があったあと、すぐに新しい先生と教室の外に出て行った。
いまごろ下忍試験の説明を受けているころだろう。
イルカ先生も班の発表を行った後は、職員室の方へと戻っていった。
アカデミーの期待の星は忙しいのである。
結果、こうして担当上忍に待たされている7班のメンバーが教室に残されることになった。



うずまきナルトのカレーなサバイバル演習 2



「あなたが畑カカシ上忍ですか…」
「ええ、えっと…」
「失礼しました。私は海野イルカ。このアカデミーの教師をしています。しかし遅刻とは感心できませんな。」
「あーすみません。ちょっと火影様から呼ばれていまして…」

アカデミーの廊下を生徒のいる教室に案内してもらいつつ話をするカカシ。
イルカの非難する視線に申し訳なさそうにカカシは火影の名を出した。
効果はてきめん。イルカはすぐさまその非難する目つきをひっこめた。
もっとも火影に呼ばれたのはもっと前の時間で、ここまで遅くなる理由にはなってないのだが。

「…ところでカカシさん。自分が担当することになった生徒のことをどこまでご存知ですか?」
「軽く書類を眺める程度ですが…火影様からは優秀な者たちだと聞いているのですけれど。」
「優秀…まぁ確かに間違ってませんね。優秀ですよ。そう、優秀…ふふ、ふふふ…」
「…イルカさん?」
「これは失礼。ああ、あそこの教室です。」
「ありがとうございました。それでは私はこれで…」
「カカシさん。」
「はい?」

教室へと向かおうとしたカカシをイルカは呼び止め、おもむろに右手をカカシの肩へとポンと置いた。
そして万感のこもった一言。

「頑張ってください。」
「…は? いや、そりゃ頑張るのもやぶさかではないですが…」
「頑  張  っ  て  く  だ  さ  い  。」

再び遠い目をしながら言われる。
何だというんだ。
火影の態度が妙だったのも気になる。
カカシは妙に清々しい、晴れ晴れとした笑顔でこちらを見送るイルカを後にして教室のドアへと手をかけた。
何が待っていようと自分がやることには変わりはない。
普段緊張とは縁のないカカシだったが、立て続けに二人も不安な言葉を残していくこともあり、深呼吸を2回して、肩の力をほぐすと思いきって教室のドアを開いた。
そして3人の生徒に視線を走らせ、金髪の少年に目を止めた。
限界近くまで目を見開く。
鮮やかな金髪。
空を写し取ったかのような蒼い瞳。
幼くはあるが見覚えのある顔。
その全てがカカシの記憶にある人物と同じであった。
呆然としながらカカシは無意識に口を動かした。

「先生……?」




◇◆◇◆◇




「先生……?」

覚えている声よりも幾分か低くなっていたが、聞き覚えのある声。
何より自分を先生と呼ぶ存在に、ナルトは思わず飲みかけだったお茶を噴き出しかけた。
なんとか飲みこみ、扉から入ってきた担当上忍の姿を確認する。
背は高い。おそらくは以前の自分よりも。
そして鍛えられたバランスの良い体。
研ぎ澄まされた気配。
上忍としてもかなりの力を持った人物であろう。
自分の髪と同じくらい珍しい色彩の銀色の髪を、箒をひっくり返したみたいに逆立てて、顔の大半を黒い布で覆っている。
それだけでも顔のほとんどは見えなくなっているというのに、その男は額当てを斜めにつけ、左目を隠していた。
その状態で顔の判別など付けようがなかったのだが、ナルトはその顔がわかった。
というより知り尽くしていた。
12年前、波風ミナトであった時の彼の担当生徒であった畑カカシ、その人であった。
12年前に比べて身長は伸び、何故だか知らないが目は死んだ魚(ヒド…)みたいになってはいるが、間違いない。
想定外の出来事にナルトは脳が一瞬白くなりかけたのを渾身の力を使って現世へ呼び戻した。
そうだった、この7班にはうちはサスケがいたのだった。
うちは一族が彼ともう一人を除いて死亡してしまった以上、写輪眼を持っているのは表では彼だけになっていたのだった。
だとすれば彼が担当上忍として指名されるのは予想してしかるべきだった。
なんで気付かなかったんだ、僕は!
頭を抱え込むナルト。
一方状況に置いて行かれたのはサクラとサスケの二人。
やっと担当上忍が来たと思ったらナルトと見つめ合って停止。
ナルトの方はというと、数秒見つめ合った後、頭を抱えて机に突っ伏してしまった。
なんだかブツブツと机に向かって言っているが、幸運なことに何を言っているのかまでは聞こえない。
コミュニケーション能力に乏しいサスケにこの状況を打破しろというのはちょっと難しいかも、と女心を働かせたサクラは二人のうち話しかけやすそうなカカシへと声をかけた。
本来なら同期であるナルトのほうが声をかけやすかったのだが、妙に黒いオーラを出しているためだ。

「あの……私たちの担当上忍の方でいいんですよ…ね?」
「あ、あぁ…7班の担当になった上忍の畑カカシだ。とりあえず屋上に場所を移そう。」

サクラの言葉でやっと正気に戻ったカカシは、自分の仕事を思い出した。
担当することになった3人の忍び見習いを屋上へと行かせる。
彼の視線は相変わらずナルトに釘付けであった。





屋上へ着き、カカシは柵へと腰を下ろした。
3人の生徒はそれに呼応するように、カカシと向かい合う場所で段になっているところに腰を落ち着かせる。
カカシから見て右からうずまきナルト、うちはサスケ、春野サクラという順だ。

「じゃあ、そうだな…まずは自己紹介でもしてもらおうか?」
「具体的に何を言えばいいんですか?」
「そりゃあ、好きなもの嫌いなもの…将来の夢とか趣味とか…ま! そんなのだ。」

と、視線をうずまきナルトの方へと持っていく。
やはり似ている。親子とかそういうレベルではない。瓜二つだ。コピーだ。レプリカだ。
顔だけでなく、表情までも似ているのだ。
注意深くナルトを観察するカカシ。
その視線を受け止めながらナルトは若干顔を引きつらせた。もちろんカカシに気づかれない程度に。

「あ、あの! できれば先に、先生に自分のこと紹介してもらえませんか?」
「そうね…見た目、ちょっとあやしいし。」
「あ……オレか? オレは“はたけ・カカシ”って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない! 将来の夢…って言われてもなぁ…ま! 趣味は色々だ。」
「「「…………」」」
「なんだ、その不満そうな顔は。」
「ねぇ、結局わかったの……名前だけじゃない…?」
「………(これで本当に上忍か?)」
「………(カカシ君…変わり果てた姿になって(泣))」
「じゃ、次はお前らだ。右から順に…」
「では、僕は“うずまき・ナルト”といいます。好きなものは味の濃いモノ。嫌いなものは………ぶちっ
「「「!!??」」」

思わず三人とも座っている場所から飛び上がりかけた。
ナルトが何気なく手に持っていた、どこにでも転がっている石がその瞬間、木っ端になったのだ。握力で。
握りつぶしたのだ。いくらどこにでもある石といっても、普通の握力で握りつぶせるようなものではない。
ナルトは手から砂になったモノをさらさらと地面にこぼしながら、背筋が凍るくらい柔和な笑みを浮かべた。

「嫌いなものはジジ、ババです。普通の方は問題ないのですが、裕福で頭の賢しい、引退してもまだ口出ししてくるような輩はダメですね。」
「そ、そうか…(汗)」
「将来の夢は自分の人生を楽しくおかしく謳歌することです。」
「いや、普通上忍になりたいなーとか、歴史に名を残したいとか、家庭を築きたいとか…」
「人生を楽しくおかしく謳歌することです。」
「そうでなくて…」
「人生を楽しくおかしく謳歌することです。」
「……」
「人生を楽しくおかしく謳歌することです。」
「あ、うん。それでいいよ…」

カカシは諦めた!

「趣味はイタズラですね。」
「…じゃぁ次。」
「名はうちはサスケ。嫌いなものならたくさんあるが、好きなものは別にない。それから…夢なんて言葉で終わらす気はないが野望はある! 一族の復興とある男を必ず…殺すことだ」

眼光を鋭くさせて言うサスケの姿にカカシは内心顔をゆがませた。
(やはりな…)

「よし…じゃ、最後は女の子。」
「私は春野サクラ。好きなものはぁ…ってゆーかあ好きな人は…えーとぉ、将来の夢も言っちゃおうかなぁ…きゃー!!」

顔を赤くしながら隣にいるサスケをちらちら見ながら答えるサクラ。
サスケもその視線に気づいているのか若干頬を赤くしている。
まんざらでもなさそうだ。

「嫌いなものはナルトです。」
「いや…別にいい、よくもないけど…これから一緒の班で行動するんだからお手柔らかに頼むよ。」
「ふんっ! それで趣味はぁ…」

再び顔を赤らめてサスケをちらちら見るサクラ。
書類では優秀な人材だと書いてあったと思ったが…

(この年頃の女の子は…忍術より恋愛だな!)



「よし! 自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ。」
「任務? え、いきなり任務なんかやっちゃうんですか?」
「まずはこの4人だけであることをする。」
「4人で?」
「ああ、サバイバル演習だ。」
「サバイバル…(下忍昇格試験か。)」
「なんで任務で演習やんのよ? 演習なら忍者学校でさんざんやったわよ!」
「相手はオレだが、ただの演習じゃない。」
「「?」」
「どんな演習なんですか?」
「……ククク…」
「ちょっと! 何がおかしいのよ、先生!?」
「いや…ま! ただな……オレがこれ言ったらお前ら絶対引くから。」
「引く…?」
「卒業生27名中、下忍と認められる者はわずか9名。残り18名は再び学校へ戻される。この演習は脱落率66%以上の超難関試験だ!」
「「!!」」
「!」

脱落率66%以上と聞いて固まるサスケとサクラ。
一方、一応経験者として試験のあることを知っていたナルトであったがその脱落率の多さに驚愕した。
それもそのはず、彼が波風ミナトとして下忍になったのは戦争まっただ中の時代。
ようは使えるものはどんどん投入して行けやー…あっーの時代だったのだ。
当然下忍の死亡率は当時鰻上りだったが、下忍の合格率も今と比べれば鰻上りだった。
なにせ能力があれば年齢に達していなくても卒業ができるような者たちさえいたのだから。

(以外に合格率が低いな…)

「ははは、ほら引いた。」
「そんなバカなことって! じゃあ何のための卒業試験だったんですか!?」
「あ! あれか…あれは下忍になる可能性のあるものを選抜するだけ。」
「えぇ~!!」
「とにかく明日は演習場でお前らの合否の判断をする。忍び道具一式持ってこい。それと、朝めしは抜いて来い……吐くぞ!」

(吐く!? 一体どんな試験をするつもりなんだよ、カカシ君。試験の課題は上忍ごとに違うからなぁ…もしかしたら僕も学校に。いやいや、元四代目火影が留年にあうなんてマジで笑えないから!!)

サクラ、サスケとは違う意味で冷や汗を流すナルト。
その後カカシから詳しい内容を記した紙を震える手で受け取り、ナルトは蒼い顔をしたまま自分のアパートへと戻っていった。

その後ろ姿をカカシは複雑な顔で見つめた。
12年前、九尾が里を襲い、恩師であった四代目火影は命を落とした。
恩師と成人になったら酒を飲み交わそうという約束は果たされないまま終わってしまった。
その後自棄になり、暗部に入隊、里外の任務ばかりを請け負っていたのだが何とか心の整理がつき、数年前から里に戻ってきた。
久しぶりにあった同僚のアスマから九尾の狐をその身に封印された子供がいるというのは聞いていた。
それが“天に愛された子”ということも。
だがそんなことには心動かされはしなかった。
正体が得体が知れないというが、その子供に封印されているということは感謝してもいいのではと思えるほどだった。
だが、しかし。
あれは聞いてない。
その子供が四代目火影、波風ミナトに瓜二つだなんて聞いてない。
今日、アスマを待ち伏せにして問いたださねばなるまい。
明日は演習だが、酒もアスマに奢らせよう。
密かに決意し、カカシは同じく学校に担当上忍として来ているだろうアスマを探すため、屋上から立ち去った。



***************************************************************

あとがき

色々考えましたが、黒板消しに変わるあっと目を引くようないたずらが思いつきませんでした…
ナルト自身のほうが、カカシの目ん玉飛び出すぐらいの衝撃かなぁと。




[714] うずまきナルトのカレーなサバイバル演習 3
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/02/02 15:34

「うぅ…頭痛い……」

うめき声を上げながらカカシは渋々ベッドから身を起こした。
昨日、うずまきナルトのことを言及するためにアスマと居酒屋に向かったのだ。
そこで話を聞いているうちに八つ当たり気味に酒を次から次へと胃に流し込んだのがいけなかったらしい。
普段なら酒を飲んでも、のまれることはなかったのに。
久方ぶりの二日酔いの感触にフラフラしながら洗面所にむかう。
そしてふっと眼にとまった時計。
その示す時間に眠気も吹っ飛び、目をごしごしとこすり、ついでに“左目”まで使ってもう一度確かめる。

―AM 10:50―

ちなみに集合時間は8:30だったりする。

「マジで!!?」





うずまきナルトのカレーなサバイバル演習 3





結局時間はもうすでに過ぎているということで、今更だろ、と開き直りカカシは指定していた場所までゆっくりと歩いて行った。
演習に指定した場所は第7訓練所。
なんとも自分にとっては縁の深い場所である。
ゆっくりと進んでいくと、自分の担当となった下忍(仮)3人の姿が見えてきた。
忍び道具一式を持ってこいと言及してあったためだろう。傍らには大きなバックが見える。
3人が3人ともイライラした様子で待っているのかと思ったが、そのレベルはすでに抜けだした後らしい。
呆れた様子で待っていた。
そんな3人にカカシは片手をあげて近づいた。

「やー諸君、おはよう。」
「「「おっそーい!!!」」」

うむ、息はあっている。
冷静沈着なはずのうちはサスケまでも息ぴったりに叫んでくるのは少々予想外だったが。




◇◆◇◆◇




「よし、12時セットOK!!」
「「「?」」」

3本ある丸太の一つに目覚まし時計を12時に鳴るようにセットする。
現在時刻11:10。
首をかしげる三人の前にカカシはちりん、と二つの鈴を掲げた。

「ここに鈴が2つある……鈴を昼までに手に入れることが課題だ。もし昼までに鈴を手に入れることができなかった奴は昼飯ぬき! あの丸太に縛り付けた上に目の前でオレが弁当を食うから。」
「ふんふん…って昼飯食うなってそういう理由!?」

ぎゅるるるる…と三人からタイミング良く腹の虫が鳴る。
3人とも律儀にカカシの言葉を守って朝食を食べて来ていない。
しかも相手は遅刻してくるし、もう昼を食べてもいい時間だ。
もちろんのことお腹はすいている。

「鈴は一人一つでいい。2つしかないから…必然的に1人丸太行きになる。…で! 鈴を手に入れられなかった奴は任務失敗ってことで失格だ! つまり、この中で最低でも1人は学校に戻ってもらうことになるわけだ。」

どきん、と3人とも引き締まった顔をする。
それを確かめてカカシは鈴をもう一度3人の前で鳴らして手の中に収めた。

「手裏剣使ってもいいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな。」
「でも!! 危ないわよ、先生!!」
「まあまあ、春野さん落ち着いて。仮にも上忍なんだし大丈夫でしょう。それよりも、カカシ上忍。開始する前に一つ確認しておきたいことがあるのですが?」
「ん、何だ?ナルト。」
「どのような手を使っても構わないんですね?」
「? ああ、さっきも言ったが、殺すつもりで来い。」
「わかりました。」
「それじゃあ理解できたところで、始めるぞ。よーいスタートの合図で開始する。」
「「「………」」」

サクラはいまだ納得できてない様子だったが、始めるというカカシに全身を緊張させる。
ゴクリ。
誰かの喉が鳴った音がした。

「よーい…スタート!!」

全員一斉に散開する。
別々の場所へと気配を消し、身を潜める生徒達。
一方、カカシは本気で身を隠してしまうと生徒たちがカカシを見つけられずに時間が過ぎてタイムオーバーということになりかねないため、気配も殺さずに景色が開けた場所へと移動するにとどまった。
周囲をざっと見回す。

「忍びたる者―基本は気配を消し隠れるべし。」

下忍レベルでは合格点といっていいだろう、サスケとサクラがカカシを確認できる位置に気配を消して身を隠しているのが確認できた。

(よし、みんなうまく隠れたな。)

ナルトの姿は確認できないが、どこか別のところで身を隠しているのだろう。
スタートする前に“どんな手を使ってもいい”をいうことを確認していただけに何か企んでいると考えられる。

(まずはこの二人から仕掛けるか。)

カカシは近くにある木に寄りかかると、腰のポーチへと手を伸ばした。
ぎくりとしたのはサクラとサスケだ。
確かにカカシは手裏剣など使ってもいいと自分たちにいったが、カカシ自身も武器を使うのだろうか。
ただでさえ実力に天と地ほどの差があるというのに、武器まで持たれれば勝ち目など皆無だ。
しかし二人の懸念をよそに、カカシがポーチから取り出したモノは武器ではなかった。
一冊の本。
それも忍術書などという高尚なモノではない。
裏表紙に堂々と描かれた18禁のマーク。
表表紙にでかでかと書かれた“イチャイチャパラダイス”の文字。
明らかなエロ小説であった。
おもむろにページを開き、顔をだらけさせる。
ピキ、と青筋を立てるサスケとサクラ。
そしてサスケはだらしなく顔を崩し、隙だらけになったカカシ目掛けてクナイと手裏剣を投擲した。
直線あるいは弧を描きながらカカシに殺到するクナイと手裏剣。
その全てが吸い込まれるようにカカシへと命中した――と思った瞬間、カカシだったものが煙に包まれて一本の丸太へと姿を変える。

(変わり身の術!!)

チッと舌打ちをして、サスケは慌ててその場を離れた。
エロ本を読んだりしてわざと隙をつくったのだ、あの男は。
自分はそれにひっかかってしまった。ざまぁない。
とりあえず、今の攻撃で自分の居場所が相手にわかってしまった以上、速急に別の場所へ移動しなければ。
一方そのころ、サクラは訓練所の森の中を、姿勢を低くしてひた走っていた。
目指すは先ほどカカシに向って武器が飛んできた方向。
あんな攻撃は万年ドベに甘んじてきたナルトにできるとは思えない。
サスケがしかけたものだろう。
とりあえず、早くサスケ君の無事を確認して…

(もしかしたら、もう先生に…いや、サスケ君に限ってそんなこと……!!)

と、ガサっと前方の木々が揺れ、サクラは慌てて立ち止まり木々に身を隠しながら周りを確認する。
すると前方に相変わらずエロ本を読んでいるカカシの姿が見えた。
熱心に本を読んでいるようでこちらに気づいてはいないようだ。
ほっとサクラは安堵のため息を吐いたその時、背後から目の前で本を読んでいるはずのカカシの声がした。

「サクラ、後ろ。」
「へ!?」

慌てて振り返ると、サクラの間後ろにもカカシが立っていた。
絶句しているサクラにカカシは両手で印を組む。
すると木の葉が周囲を舞い、やがてカカシの姿は木の葉に紛れて消えていってしまった。
茫然とそれを見ていたサクラだったがハッと我に返る。
周囲を見回すが、カカシの姿はない。
声をかけられたところまでは覚えているのだが、仕掛けられた覚えがない。
自分の四肢を見回すも、攻撃を受けた形跡もない。

「??? !! へ? え!? 今の何!? どうなってんの!? カカシ先生は!?」

自分が身を隠していることも忘れて大声で叫ぶサクラ。
混乱した頭で周囲をもう一度見渡すと、かすかな声が木の陰からした。

「…クラ……」
(…! この声は、サスケ君!?)

恋する乙女のパワーというものだろうか、かすかな声にも係らずそれが好意を抱く男性の声だと一発で見抜くと、サクラは慌ててその木の陰へと走った。

「サスケ君!」

やっと見つけた、と輝いたサクラの顔が凍りつく。
そこにいたサスケは全身にクナイと手裏剣をはやしており、片腕が切り落とされ、片足が本来ではありえぬはずの方向へと捻じ曲がっていた。
歓喜に沸いた顔が一瞬で凍りつく。

サ…サクラぁ……た、助けて…くれ……!

かすれた声でサクラに助けを求めて手を伸ばすサスケ。
その手にも真っ赤な血がべっとりとこびりついていた。

「あ…あぎゃ嗚呼ああああああああああ!!!」

サクラは恐怖で顔をこわばらせながらおよそ女らしくない叫び声を上げ、そのまま白目をむいて仰向けにバタリとひっくり返った。
その様子を木の上から観察していたカカシはポリポリと頬を掻いた。
まさかあそこまでのリアクションをしてくれるとは予想していなかった。
もちろん先ほどサクラがみたサスケは本物のサスケではない。
カカシが忍術によって作り出した幻想、幻術だ。
サクラがサスケに好意を抱いているためにあのような幻術を見せたのだが…サスケにはとても見せられない顔でひっくり返っているサクラを見、カカシはため息をはいた。

「少しやりすぎたか…」



「……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

響いてきた悲鳴に、サスケは顔を上げ、目を細めた。
聞こえてきた声は女のもの。サクラの声だ。

「今の声は…(サクラか。)」

カカシにやられたのだろう、その声は絶叫に近かった。いや、絶叫だった。
表情をゆがめるサスケ。
その背後に足音もなくカカシが降り立った。

「忍戦術の心得その一、幻術。サクラのやつ、ものの見事にひかかっちゃってな。あそこまで盛大に引っかかってくれると、逆に見事というか何というか…」
「(幻術…一種の幻覚催眠……サクラなら引っかかるのも無理ないか)だが、俺はあいつ等とは違うぜ。」
「そういうことは鈴を取ってから言うんだな。里一番のエリート、うちは一族の力…楽しみだ。」

ちりん、とカカシの腰にある鈴が鳴り響くと同時に、サスケがカカシに仕掛けた。
姿勢を低くして手裏剣とクナイを投擲する。
それらを軽々と避けるカカシ。
サスケの投げたそれらはカカシには掠ることすらできずに背後の木へと突き刺さる。

「馬鹿正直に投げても当らないよ~」

本を読んだまま余裕の態度を変えないカカシに、サスケはにやりと笑った。
その直後、サスケの投げた手裏剣の一つが木々の茂みに隠されていた縄を断ち切った。
カカシが避けることも計算のうちに入れていたのだろう。
縄が切れたことによって仕掛けられていたトラップが発動し、カカシの背後から15本ほどの短刀が襲いかかる。
本を捨て、短刀を避けると、その動きを読んでいたサスケが背後から襲いかかった。
勢いの乗った回し蹴りが放たれ、避けられずカカシは腕で防御し、サスケの足首をつかむ。
が、それも予想のうち。
サスケは掴まれた足首を起点に体をひねりカカシの顔目掛けて拳を繰り出す。
これもカカシにダメージを与えることはなく掌で受け止められてしまうが、サスケは左足と右手をふさがれた状態で残っていた右足を振りぬき、カカシの頭を狙う。

「くっ!」

何とか蹴りをふさぐが、思わず声が漏れる。
と、カカシの目にニヤリと笑ったサスケの顔が映った。

(こいつ…!)

一撃目が左足、二撃目が右手、三撃目が右足。
サスケは残った左手で持ってカカシの腰につけられた鈴へと手を伸ばす。
ちりん、と少し掠めるもののその意図に気づいたカカシが腰を引いたために捕ることは叶わなかった。

「ちっ!」

いったん距離を開け、対峙するサスケとカカシ。
カカシは内心舌を巻いていた。
イチャイチャパラダイスを読む暇がない。
普通の下忍ならそこまでの体術はまだ身につけていない。
事実、今までサバイバル演習で試験を行ってきた下忍(仮)の中ではイチャイチャパラダイスを読んだままでも十分だった。

「(やれやれ…優秀なのはいいことだけど、力加減の具合が微妙で試験するこっちにしてみればやりにくいなぁ。)ま! あの2人と違うことは認め…いや、ナルトはどうかまだわからんから言えないか。」
「ふん。」

微妙な評価をするカカシを気にすることもなく、サスケは素早く手で複数の印を組む。
それにカカシは目を見開いた。
見覚えのある印。
だがそれは下忍(仮)が使用できるような術ではないのだ。
使用するには下忍ではチャクラがたりないはずのもの。
だが、サスケは印を組終えると、大きく息を吸い込む。
次の瞬間、すさまじい炎がサスケの口から放出された。

“火遁 豪火球の術!!”

すさまじい炎が広がった。
下忍とは思えぬ威力。
喰らっていたならば無事では済まなかっただろう。
だがそれも、喰らっていればの話だ。
炎が消えるとそこにはカカシの影も形もなかった。

「! (いない! 後方!? いや、上か!? くっ、どこに…)」
「下だ。」
「!!」

思わぬところから声が響いてぎょっとするサスケ。
だが身動きすることは叶わなかった。
声がかかると同時にサスケの足首はカカシのものと思われる手で、がっちりと捕まえていた。

「なっ!」
「土遁、心中斬首の術…」
「ぬおぉ…!」

足からずるずると地中へと引きずり込まれる。
抵抗する暇もなく、首から下まで地中へ引きずり込まれてしまった。
腕も足も地面の中。
周りに土があるため、もがいてみても思い通りに動けない。

「忍…戦術の心得その3! 忍術だ。…にしても、お前はやっぱ早くも頭角を現してきたか。でも、ま! 出る杭は打たれるっていうしな。ハハハ…」

再びイチャイチャパラダイスを拾い、読みながらその場を去るカカシ。
その様子をサスケは地面から抜け出すことができず、悔しそうに見送った。




「さて、と。後はナルトだけなんだが…仕掛けてくる様子がないな……」

気配を探るがやはり感じない。
こちらにもわからない程に気配を消し、周囲の景色と同化しているのか。
いや、隠れているだけでは鈴はとれない。
一体何を考えて……ちょっと待て、気配を消していて感じられないのではなく、感じられないような遠くにいるのなら。
だがそれでは鈴はとれないはず。
いやいや、相手はあのナルトだ。
三代目や教師の海野イルカまでも妙に温かい視線を自分に送ってくれたではないか。
ここはひとつ常識というものを捨て去って考えてみよう。




◇◆◇◆◇




―火影執務室―

「今日ですよね、ナルトの下忍試験。」
「気になるか? イルカ…」
「まぁ少しは。もし落ちたらまた面倒見なければならないですし。」
「フム…ナルトの担当はカカシじゃったな。難しいかもしれんな。あいつは今まで一人の合格者も出しておらん。あいつの出す課題はなかなか難しいからなぁ。」
「ゼロ…ですか。」
「ああ。」
「……………」
「……………」
「まぁ、ナルトですからね!」
「そうじゃな、ナルトだしな!」

((落ちるところが想像できん!!))




◇◆◇◆◇




「テウチのおっちゃーん、替え玉一つ!」
「こらぁああああああああああああああ!!!」

やはりナルトには常識というものが通じなかったらしい。
訓練所から離れた市街地の屋台、ラーメン屋に彼の姿はあった。
替え玉を頼んでるところからして、すでに一杯食べた後らしい。
肩に乗っている忍鳥がアホーとこちらに向かって鳴いてくるのが憎たらしいことこの上ない。

「あ、カカシ上忍。」
「あ、カカシ上忍…じゃないだろう! 何してるんだ!? 演習は!? 鈴は!?」

普段飄々とした態度を崩さないカカシがここまで崩れるのも珍しい。

「鈴なら、はい。」

ラーメンを食べながらナルトはポイとカカシに向かって鈴を投げつけた。
いつの間に、と瞠目しながら鈴を確認するも、カカシの腰につけられた鈴は2つとも健在である。

「…おい」
「カカシ上忍、自分の言葉には責任を持った方がいい。あなたは12時までに鈴を“手に入れる”ことを課題にした。その腰の鈴を手に入れるということを厳密には言及していない。」
「な!」
「なおかつ、僕は言いましたよ? どんな手を使ってもいいんですかって。」
「ぐっ…! だがな!!」
「ところでカカシ上忍…お酒臭いですね?
「!!?」
「まさか今朝の遅刻…二日酔いのせいだとか、ふざけたことをぬかさないですよね?」

ぎくりとカカシの肩がはね、顔色がどんどん悪くなっていく。
汗を大量に流しながらカカシはナルトから視線を外した。
何とか誤魔化さなければと思うのだが、こういう時に限って聡明な頭は機能してくれない。
それはひとえにナルトの容姿にも関係していた。
ナルトはカカシの師、四代目火影波風ミナトに瓜二つなのである。
まあそれは同一人物なのだから当然と言えば当然だが。
要するに何を言いたいのかというと、複雑なお年頃のころ、カカシは波風ミナトには多大なお世話をおかけしたのだ。
当然その時には怒られた記憶だってある。
波風ミナトは怒るときに大声とかで怒鳴ったり、手を上げるような師ではなかった。
どちらかというと静かに怒るタイプで、しかし妥協は許さず厳しい人物であった。
親のことなどもあって擦れていた時期、カカシはよく怒られた記憶がある。
特にオビトなどと問題を起こすたびに笑いながら静かに、言い聞かせるように言われる一言。
その一言だけでささくれ立っていた心がみるみるしなびていった。
つまりトラUMAスイッチ。
甦るその一言。

…カカシ君?
…カカシ上忍?

「っ!!! すいませんでしたぁ!!」
「つまり二日酔いで遅刻したと?」
「はいっその通りで!」
「上に立つべき人間が、大切な試験の日に?」
「申し訳ありません!!」

もはやははーっとひれ伏す勢いで謝り倒すカカシ。
話す言葉が敬語になっていることも当人は気付いていない。

「………」
「………」

汗をダラダラ流しながらナルトに謝っているカカシ。
その姿勢は直角90度だ。
それを見下ろしてナルトはため息を一つ吐いた。
おそるおそるナルトを見上げるカカシ。
おもむろにナルトは勘定すると、火影の居る火影亭の方へと走り出した。

「三代目火影さふがふが」
「まままままて! 待て待て!! 話し合おう、ナルト!!」
「じゃあ合格にしてくれますか?」
「いや、それはいくらなんでも。」
「ほかげさま~」
「いやー! 待ってー!! オレが悪かった! 合格だ、合格!! 合格にするから!!」

カカシは敗北した。




「ちょっと、ナルト。あんたどこに行ってたのよ! もう12時回ってるじゃない!」

訓練所に影分身を残していたカカシは、分身によってサクラとサスケを最初の場所へと集めていた。
時計を見ると12:05。
どうやらラーメン屋で話し込んでいるうちに時間が過ぎてしまっていたらしい。

「いや、ちょっとカカシ上忍の諦めが悪くて…」
「へ? 何それ??」
「こっちの話し。」
「てゆうか、先生、大丈夫ですか? なんかこの短時間で心持ちやつれたみたいに見えるんですけど…」
「あぁ、うん。大丈夫だ。サクラ…お前はやさしいなぁ」

涙ぐまれるサクラ。
今までの飄々とした態度が嘘のようである。

「あ、そうそう忘れるところだった。春野さん、うちは君、手を出して。」
「? はい。」
「…ほら」
「はい。」

ナルトはカカシにも見せた“買ってきた”鈴を二人へと手渡した。

「へ!?」
「…どういうことだ。」
「二人とも頭固すぎだよ。忍びは裏の裏を読め。カカシ上忍は“鈴を手に入れること”を課題にしたでしょ? 上忍の腰の鈴を、とは言及しなかった。」
「あ! そっか。」
「…オレはいらん。おしいところまでいけたんだ。次は捕れる。施しは受けない。」
「でも捕れないかもしれない。」
「……」
「さっきまではカカシ上忍も油断してたからいいところまでいけたけど、今度はサスケのレベルもわかってるから油断なんかしない。…合格、したいでしょ?」
「………………………………ふん、今回はお前に付き合ってやる。」
「ありがとー。カカシ上忍、いいですか?」

ナルトが二人に鈴を渡す光景を茫然と見ていたカカシはナルトの呼び声で我に返った。
今回の課題は追い詰められた状態でもチームワークが発揮できるかどうかを見るための試験だった。
ナルトの存在により大幅にずれたが、これでともかく3人とも鈴を手に入れた。
想像していたモノとは違ってしまったが、ナルトは他の二人を置いてけぼりにするつもりはなかったのだとわかり、カカシはにっこりと笑い、堂々と宣言した。

「よし、お前ら合格だ!!」









[714] うずまきナルトのカレーな人物紹介 卒業時
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/02/11 23:42


うずまき ナルト

今作品の主人公。
本当は波風ミナトで元四代目火影だが、九尾と死闘の末、屍鬼封尽をかけることに成功した後、魂は死神の腹の中へと食われてしまうはずだったが、何の因果か赤子の姿になっていた。
しかも腹の中に九尾というおまけ付き。
そのおかげでチャクラの量はもはや人外というレベルを超え、仮にも神という範疇に入る死神と無理やり契約を結んでしまう程。その量なんと九尾×2。
死神が語るところ、なにやら先祖に妖魔の血が入っていて先祖がえりでその影響が強く出たらしい。
しかしそのチャクラの量の多さからコントロールが難しく、生前(?)使えていた術のほとんどは危なくて使えない。
里の為に九尾と死闘までしたというのにその後の里上層部の対応にほとほと愛想を尽かし、自分の人生を楽しくおかしく謳歌することを人生の目標にしている。
外見は原作うずまきナルトの髭を消した感じ。
ちなみにオレンジ色の服ではない。
服は黒を基調とした半そで長ズボンの上に暗部で使用されている水をはじき通気性のいい白いフードつき外套を着て、腰にバックルを額当てに改造したベルトを着用。(外套は監視役の3人に卒業祝いとしてもらった)
基本、口調は丁寧。一人称は“僕”。
左手の甲に死神との契約の印が刻まれているが、死神と同じく普通の人間には見えない。死にかけの人間には見える。


<現在うずまきナルトが使える術>
・飛雷神の術:発動するとどこに行くかわからない。もしかしたら異次元空間に入りこむかも。危険すぎて現在使用は禁止している。

・螺旋丸(仮) :まだ完ぺきにコントロールできないので5回に1回は局地的タイフーンに変化する。一度木の葉を水浸しにした。自分で開発した術であるだけにコントロールは他の術よりまし。要訓練。

・変わり身の術:問題なし。

・幻術返し:問題なし。

・口寄せの術:波風ミナトの名で契約しているので、はたして“うずまきナルト”として呼び出してガマブン太が呼び出せるのか謎。また、発動できたとしても飛雷神の術のように異次元へ飛んでしまう可能性もあるため、現在使用禁止。

・封印術:やり方は知ってるけど…てか死神と契約しちゃったけど、この状態で屍鬼封尽したらどうなるんだろ? 不明。

・影分身の術:チャクラの量の関係上、どうやっても多重影分身になってしまう。喜ぶべきか悲しむべきか…やっぱ悲しんでおこう……

・風遁系の忍術:性質変化は問題なかったが、ここでもチャクラの量が問題に。訓練で葉っぱを二つにするはずが、大木一本を真っ二つにしてしまった。ただ、他の性質変化と比べれば元々生来の性質であるだけにまし。要訓練。

・火遁系の忍術:マッチに火をつけようとして森に引火。危うく山火事一歩手前に。要訓練。

・水遁系の忍術:コップの水で訓練、家の窓から滝ができ、危うくリビングで溺れかけた。要訓練。

・雷遁系の忍術:豆電球で訓練、木の葉謎の大停電事件へと発展。要訓練。

・土遁系の忍術:平地に小高い丘ができた。木の葉の7不思議の一つとしてアカデミーで噂されている。要訓練。





黒耀

うずまきナルトに契約させられた死神。
仮にも神であるのだから力は相当なもののはずだが、今はナルトのパシリと化している。
実態はなく、霊体に近い。
普通の人間には見えず、死にかけの人にならば見える。
どうやら姿が見えているらしい月光ハヤテを恐れ、今はカラスの死体へと入りこんでいる。うずまきナルトの忍鳥として登録されている。
普段の定位置はナルトの頭の上か肩の上。
黒耀という名前はナルトがつけた。本来の名前は人間には発音できないらしい。
服の趣味は悪い。





海野 イルカ

アカデミーの中忍教師。
ナルト入学当初より授業をさぼるナルト達を連れ戻す要員として彼らと接触することが多かったイルカ。
もまれてもまれて・・・今ではアカデミー期待の星。
本人は気付いていないがチャクラコントロール、頭の回転、とっさの判断力、危機回避能力など上忍と遜色ない。
ミズキの事件で怒らせると怖い人物として木の葉で認識されることに。
普段は生徒には厳しくもやさしい人気の教師。
三代目火影の信頼も厚い。
根っからの苦労人。





畑 カカシ

うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケの三人を受け持つことになったエリート上忍。
四代目火影 波風ミナトの教え子でもある。
四代目火影にはまったく頭があがらなかった。
そのためか四代目火影に瓜二つであるナルトに苦手意識を持っている。
暗部経験あり。





三代目火影(猿飛ヒルゼン)

本当は引退していたのだが九尾が木の葉を襲ったことにより四代目が殉職、再び火影の席に着くことに。
里の立て直しに尽力する。
九尾と四代目との死闘の跡から赤子のナルトを拾い、育てた。
四代目とナルトの間には何らかの関係があると踏んでいる。
九尾をその身に封印していることから里の上層部から色々圧力や発言があるが、火影の権限でそれを封じている。
基本的に子供が好きで、血のつながりのないナルトだが、実の孫のように可愛がっている。
実の孫の木の葉丸にはあまりのやんちゃぶりに頭を痛めている。
ナルトから木の葉丸がお色気の術を習ったことにより内心戦々恐々としていたり…
千の術を使いこなせる歴代火影の中でも最も強いと言われているすごい人。
ただ寄る年波には勝てず、体力の衰えと前髪前線の後退(笑)は隠せない。





猿飛 アスマ

三代目火影の息子。
3歳ごろからアカデミー入学までナルトの面倒を見ていた。
外見はクマのようだが、結構マメ。
ナルトが6歳のころから同僚のくの一と付き合っている。真面目な交際のようで、いまだ続いている。
カカシと同じく今年の下忍の担当上忍になった。
受け持つ生徒はシカマル、チョウジ、イノの三人。
ナルト達とはまた違ったくせのある生徒を受け持つことになったが、ある程度はナルトとの共同生活で慣れている。
ナルトを実の弟のように可愛がっている反面、ナルトのことを理解しているためカカシの未来に不安を抱いている。
ちなみに彼はカカシと違って遅刻をしたことはない。





奈良 シカマル

奈良シカクの息子。
外見は父親にそっくり。内面もそっくりだが、シカクにはない若々しさがある。渋みが足りないともいう。
頭はいいが、アカデミー時代はそれをさぼることにしかつかわなかった。
うちはサスケとは違ったタイプの将来の有望核と目されているが、なにぶん本人のやる気次第。
なんだかんだいってイノや母親といった気の強い女性には苦手意識があり、頭が上がらない。





秋道 チョウジ

秋道チョウザの息子。
体系も顔も父親譲り。
昔はそのぽっちゃりとした体形がコンプレックスであったが、現在は解消されむしろ誇りに思っている。
いつもお菓子を片手にほおばっている。
だが、いつも体術や手裏剣などそのままの状態でそれなりにこなすため、実力は高いと思われるが、何分データがない。
単独で使うには難しいタイプだが、特にシカマルと組んだときなどはその能力をいかんなく発揮し、イルカは何度も煮え湯を飲まされた。





みたらし アンコ
月光 ハヤテ
森野 イビキ

ナルトの監視役だった方達。
三人ともとある事情により里外任務がない為、ナルトの監視役へと抜擢された。
一癖もふた癖もある人物達。
現在のナルトの性格に至るにいたって様々な影響を与えた。
主に悪い方向に。




[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 1
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/03/03 13:24
ナルトはぼんやりしながら空を見上げた。
透き通るような蒼い空。言うまでもなく快晴。
白い雲が流れていく様子を見ながらナルトはたそがれていた。
いや、いいんだよ。
こんな任務しているということは、平和な証拠だから。
でも、だからって、ねえ?
戦争まっただ中に生まれた自分としては内心複雑だ。
以前下忍になったばかりのころといえば、狙われやすく殉職しやすい自分という立場に戦々恐々としながら毎日を過ごしていたものだ。
いつ死ぬかもしれぬという思いを必ずどこかに持っていた。
任務に就く前も気を引き締めていたものだ。
…それが、ねぇ?

「ちょっとナルト! 何さぼってるのよ! そっち行ったわよ、そっち!!」
「あ~うん、わかってるってば…」
「口よりも体動かす!!」
「…うすらとんかちが……」

迷い猫の保護。
保護なんていえば聞こえはいいが、別にこの猫が何か秘密を持っていて狙われているとかいうわけではない。
ただ単に家出した猫を捕まえてくるだけの任務である。
ぶっちゃけ忍びでなくてもできる仕事だ。
ナルトは再び空を見上げた。

「あ~平和っていいなぁ…」




うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 1




「御苦労だったな、第7班」

任務受付所に任務終了の報告をしに来た第7班、ナルト・サクラ・サスケに三代目は声をかけた。
彼らの背後で迷い猫であったトラが飼い主であるマダム しじみに頬ずりをされて叫び声をあげているが、そちらにはできるだけ目を向けない。
世界には様々な愛の表わし方があるのだ、うん。
キセルをふかせ、三代目は手元の書類の中から一枚の紙をとりだした。

「さて、7班の次の任務は……老中の子守。」
「却下。」
「…隣町へのかい」
「断固拒否。」
「……い」
「お断りします。」
「最後まで言わせんかい!」
「言われなくても想像はつきますよ。下忍になったばかりの身でこんなことを言うのはなんですが、忍びの仕事を与えてくださいよ。今までやったことはと言えば、一般人にもこなせる任務ばかり…」
「「(うんうん)」」

同意見なのか、口をはさまないが頷くサスケとサクラの姿がある。
まあ当然と言えば当然だ。
このようなしょぼい任務ばかりちまちまちまちまこなしてはいるが、肝心の技術・知識・忍術に関しては合格当初からなんら伸びてはいない。
カカシ自身にも指導するような気配がない。
フラストレーションも溜まってくるというものだ。
特にサクラにとってはライバルであるイノが同じように下忍へと合格をはたし、上忍からきちんと指導を受けてメキメキと力を伸ばしている事実がそれを追いうちする。
せっかくサスケと同じ班になれたというのに、力に差をつけられてしまえば意味がない。
そんな三人の様子にあちゃーとカカシは顔を押さえた。
そろそろ溜まったうっぷんが爆発するだろうとは思っていたが、何も三代目火影の前で爆発させなくてもよかろうに…
ナルトはそのあたりをわかって、わざと三代目の前で不平不満を言ったのであろうが、他の二人までそれに引きずられて不平不満をあらわにするとはカカシの誤算であった。

「ですからもっと身入りのいい仕事回してください!」
「金かい!」
「当たり前でしょう。今までとは違って援助はなく完全に一人だちしたんですから。家賃、ガス・電気代、水道代。全て自分で払わなければならないんですよ? この分で仕事をこなしていると、とてもではないですが一ヶ月持ちませんよ! 死活問題です!」
「それならワシが…」
「ダメです。そこまで甘えるわけにはいきません。むしろ今まで受けてきた恩をお返していきたいところだというのに…」
「な、ナルト…」

うるっとくる三代目火影。
年よりは涙腺が弱いと相場が決まっている。
そしてサスケとサクラの2人はというと、同じ年のアカデミーを卒業したばかりの同期の者の口から次から次へとポロポロ吐き出される言葉に内心ぎょっとしていた。
アカデミー教師見習いでさえその給与だけでは一人生活が難しいぐらいのお金しか支給されていない。
下忍なりたてといえばさらにその下。
雀の涙に等しいものである。
子供のお小遣いに毛が生えたようなものだ。
とてもではないが一人暮らしをまかなえるようなお金は支給されていない。
サクラは両親とも健在で、任務で払われたお金は未だに家に納めていない身である。
つまりは親のすねをかじっている状態だ。
普段自分の好きなようにしか動かないと思って毛嫌いしていた問題児筆頭ナルトの意外な一面にサクラは見直した。
一方、サスケの場合はうちは一族の遺産がある。
今はサスケ一人を残すのみになったうちは一族ではあるが、もともと強力な瞳術を持った里の中でも力のある一族であった。
その力を示すように、財力にも目を見張るものがあったのだ。
現在はその残された遺産を使って生活しているので、というよりそれを里が管理し、サスケは何不自由ない生活を満喫している。
家は里から派遣された者が掃除しているし、衣食住も自分では行っていない。
問題児の落ちこぼれだと思っていた者が、両親がいないという同じ条件で送っている生活のあまりの差に、サスケはどこか腹立たしさにも近いものを感じていた。

「…ナルト……」
「ちっ。」
「だから実入りのいい任務ください!」
「結局そこに行くのか。」
「ばかやろう! お前みたいなペーペーの新人に高ランクの任務なんて10年は早いわ!!」

いままで黙っていた、実は三代目火影の横に居たイルカが立ち上がってナルトを叱咤した。
忍者に与えられる任務はその難易度によりS~Dに分類される。
高ランクで達成が難しいものからS→A→B→C→Dとなる。
報酬もランクが高いもの程、報酬は高い。
S・Aランクは上忍、B・Cランクは中忍、C・Dランクは下忍が妥当なところだ。
時に能力があるものがあるものは下忍であってもBランク、中忍でもAランクの任務に就くことはあるが、非常に稀なことだ。
下忍なりたての第7班ならばDランクが妥当といっていい。

「別に高ランクじゃなくていいから、なるべく給与がよくって楽な仕事ないですか?」
「贅沢言うな! そんな仕事があるなら俺がするわ!」
「じゃあ、いいアルバイト先紹介してください。」
「忍びに副業は禁止されている。」
「アカデミー見習い教師の時、新聞配達やってたじゃないですか。」
「あれは特別に許可を貰っていたんだ。それにあそこはアカデミー見習い教師御用達だ。」
「くっ…やはり数でこなすしかないのか。三代目火影様、とにかく短時間で達成できる任務をお願いします。春野さん、うちは君、ごめんだけど付き合ってもらうよ。」
「……お前なぁ……」

担当上忍であるオレをおいて話を進めるなんて、いじけちゃうよ?
止める気力もなく眼前で広げられるコントのような応酬にカカシは傍観を決め込んだ。
藪蛇はごめんこうむる。
一方、カカシすらそっちのけで任務の書かれた書類をひっくり返すナルトに最初こそ同意していたサスケとサクラも茫然とその様子を見守る。

「ちょっと、火影様! なにをぼんやりみているんですか! 短時間でそれなりに報酬のいい任務をピックアップしてくださいよ! 一人の下忍の生活がかかってるんですよ!? 死活問題なんですよ!?」
「わかった、わかったから!! ………Cランク任務を第7班にやってもらう。」
「報酬は?」
「時間がかかるが、その分実入りは大きい。」
「喜んで!!!」
「うおぉぉぉおおい!! 担当上忍を差し置いて勝手に任務を請け負うんじゃない!」
「それで、どんな任務なんですか?」

ナルトののりについていけてなかったサクラだったが、普段なら請け負えない下忍にしては高ランクの任務に飛びついた。
身を乗り出して三代目へと質問する。
それに重々しく頷き、三代目火影はキセルをふかした。

「ある人物の護衛だ。」
「ある人物? 誰です?」
「説明するよりも会った方が早かろう、今から紹介する。」

傍らに立っていた補佐官に頷いて促す。
すでに請け負うことが決定している状況にカカシはとほほ…と肩を落とす。

(決定権ないのね、オレ)

と、補佐官が消えたドアがガラッと勢いよく開き、白髪赤ら顔の初老の男性が入ってきた。
頭にはねじり鉢巻きが巻かれており、老いを感じさせない忍びの強さとはまた違ったしたたかさを感じさせる。
手には酒びんを持っており、酒を飲んでいることがよくわかった。
その男性は少し酒気が回り座った目で三代目火影の前にいる三人をねめつけた。

「なんだぁ? 忍びの里最強と言われる火の里にわざわざ依頼しにきたってのに、超ガキばっかじゃねーかよ。……特にそこの一番ちっこい超あほ面。お前それ本当に忍者かぁ!? お前!」
「一番…ちっこい……アホ面……?」
「…………」
「…………」

サスケとサクラは黙ってナルトを見下ろした。
三人の中で一番背が小さいのはナルトである。
アカデミーではほとんどナルトと接点などなかった二人ではあったが、班を組んで何件か任務をこなしたこの短時間で二人はナルトの性格をなんとなくつかみだしていた。
ここは空気を読んでナルトから少し距離をとる。

「い、一番ちっこい超アホ面…ですか。ははは…面白いことをおっしゃる依頼者様ですね。ははははは、は は は は …

凍りつく依頼者。
吹き荒れるブリザード。
ナルトから放たれる威圧的なチャクラに、任務受付所はしばらくその時間を止めるのだった。




◇◆◇◆◇




依頼者である初老の男性は名をタズナと名乗った。
橋つくりの名人であり、橋ができるまでの間護衛を頼むということであった。
襲ってくると予想されるのはチンピラ程度とのこと。
それならばなんとか下忍だけでも対応できるだろう。
いくら優秀な成績を収めてきた者たちでも実戦と訓練とは違う。
下忍では、以前は戦争中のため殉職でその未来を閉ざされた者たちが多かったものだが、現在ではこの実戦で挫折しその未来を閉ざす者たちが意外に多い。
訓練では感じられない殺気や、殺し殺されるという状況に対応できず、混乱・錯乱してしまう者たちが多いのである。
だが襲ってくるのがチンピラ程度だというのならば、殺し殺されるという状況になることはないだろう。
里を出て、前を歩く自分の生徒たちとタズナを観察しながらカカシはこれからのことに考えを巡らせた。
一方下忍達の方は緊張感もなく話をしていた。
主に話をしているのはサクラだ。
緊張感でがちがちになるよりはましだが、意外と図太い性格をしているのかもしれない。

「ねえ、タズナさん。」
「なんだ?」
「タズナさんの国って“波の国”でしょ?」
「それがどうした?」
「ねえ、カカシ先生。その国にも忍者っているんですか?」
「いや、波の国に忍者はいない。が、大抵の他の国には文化や風習こそ違うが隠れ里が存在して、忍びがいる。サクラ、お前ペーパーテストは優秀だったそうだな?」
「え、はい。」
「じゃあ、忍び五大国を言ってみろ。」
「えーと…まずは私たちの里の木の葉、霧、雲、砂、岩の国です。」
「正解だ。忍びの里っていうのはその国軍事力のことだ。俺達木の葉の場合、火の国の軍事力ってことだな。軍事力といっても火の国と木の葉の里は名目上、対等の立場ではある。例外として、波の国のように他国の干渉を受けにくい小さな島国なんかでは忍びの里が必要でない場合もあるが…それぞれの里の中でも五大国は国土も大きく力も絶大なため、“忍び五大国”と呼ばれるんだ。―で、里の長が“影”の名を語れるのもこの五ヶ国だけで、その頂点に立っているのが“影”の名を背負う長だ。」
「それが火影様…」
「そうだ。他に水影、雷影、風影、土影という長が存在している。この5人が全ての忍びの頂点に立っているわけだ。」
「へー火影様ってすごかったんだ!(嘘くさいわね!)」

表面は素直に感心しているサクラだったが、内心ではそれを疑っている。
サクラが見たことがある三代目火影と言えばいつもキセルをふかしていて戦っているところなど見たこともないし、怒っている姿も想像がつかない。
人のいい好々爺というイメージしかない。
いきなり全ての忍びの頂点に立つとか言われてもいまいちピンとこないのだ。
そんな様子のサクラを見てカカシはポツリとつぶやいた。

「お前ら…今、火影様のことを疑っただろう……?」
「「!」」

ぎくりとサクラとサスケの肩がはねた。
話にこそ加わらなかったが、サスケも話に聞き耳を立てていたのだ。
サスケの中の三代目火影のイメージは、サクラと変わらない。
無理もない。元々引退していたのだ。
12年前の事件がなければ今頃、本当にただの好々爺として生活を送っていただろうに。
その事件で命を落とした自分の師匠、四代目火影を思い出してカカシはため息を吐く。
そしてちらりとナルトを見た。
火影のことを疑っていた二人と違ってナルトはけろりとしている。
話を聞いていなかったというわけではない。
彼には火影という立場の重さが理解できているのだ。
それを察してカカシは密かに顔をしかめた。
やはり、似ている。四代目火影、波風ミナトに。
何よりもその年不相応な、理解の早さに疑問を抱く。
サクラやサスケの反応はむしろ当然の反応なのだ。
木の葉の里は12年前の事件から一度も里内での戦闘を許していない。
厳重な警備に守られている。
ナルトのように理解できるのは、12年前よりさらに前、戦果にその身をさらしたことのある忍び達だけだ。
それが何故、まだ12になったばかりの少年がここまで理解を示すのか。
不可解だ。

「…話を戻すぞ。ま、安心しろ、サクラ。Cランクの任務で忍び同士の戦闘はない。そんな任務は本来Bランク以上に該当する。」
「じゃあ外国の忍者と接触する心配はないんですね。」
「もちろんだ。」

ほっとした顔をするサクラの頭を軽くなでるカカシ。
なんてことはない。
彼女は緊張していたのだ。
いつも以上に口が回っていたのはその緊張を紛らわせるために違いなかった。
しかしサクラのその様子を見ていたタズナはサクラから気まずそうに眼をそらした。
タズナの気まずそうな顔に気づいたのはナルトだけだった。





続く。



[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 2
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/03/12 20:55
波の国へと続く街道を歩きながら、不自然な風景にナルトは内心首をかしげた。
ここ数日このあたりは天気が良く、雨は降ってない。
しかし、地面も乾いているのに一部、その部分だけ雨が降ったかのように水たまりがあった。
あからさまに怪しい。
ナルトは肩に乗っていた忍鳥の黒耀に目線で合図を送る。
心得た黒耀は空へと舞い上がり…

ポチャ。

…糞をした。
長年(?)カラスの生活を送っているだけに、元死神といえどもその狙いは正確で、落とした糞は見事に水たまりの中へと吸い込まれていった。
まさかそんなものが落ちてくるとは思っていなかったのだろう。
動揺したのか水たまりは糞が吸い込まれていった後も、風もないのにチャプチャプと波打っている。

(やば…面白いかも。)

6年間のアカデミー生活とイビキ達との共同生活にてイタズラの楽しさをしってしまったナルトはにんまりとその水たまりを見て笑った。
サクラ、サスケの二人は気付いていない。
カカシはさすがというか気付いて、ハラハラと蒼い顔をしてこちらの様子をうかがっている。
カカシの心労を思えばここは止めておくべきだろう。
だが止められない止まらない。
ナルトはわざとらしくその水たまりの前で盛大にこけた。

「あぁーっと、足が滑ったあー」

見事な棒読み。
そして倒れこんだ拍子に、偶然…偶然、大切だからもう一度いうが偶然、ポーチの中に入っていたタバスコの瓶が放物線を描きながらチャプンと水たまりの中へと吸い込まれていった。
何故にタバスコがポーチの中に入っていたのとか、そのタバスコの瓶の蓋が開いていたのとかは聞いてはいけない。
赤く染まる水たまり。
しばらくは耐えていたのだろう、静かに波打っていた水たまりであったが、30秒もしないうちにその水たまりから二つの影が飛び出してきた。
思わず身構えるサスケとサクラだが、飛び出してきた二つの影の様子がおかしい。
忍術を使っていたところから見て、忍びだろう。
意味もなく姿を隠すなど考えにくいことから依頼主であるタズナさんを狙っていたと考えるのが妥当…なのだが。
だが彼らはこちらに攻撃をしてくる様子もなく、声もなく涙を滝のように流しながら悶絶し、ゴロゴロと地面をのたうちまわっている。
見ているこっちが哀れに思ってしまう程の苦しみようだった。
二人は脱力して、胡乱げな目でナルトをみた。
そこには何かをやり遂げた者が浮かべる満足げな笑みを浮かべた同班のメンバーがいた。




うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 2




「ごほん!」

カカシはこの場の雰囲気を変えるため、わざとらしく咳払いを一つした。
カカシ自身、ナルトの行動を止められなかったが…まさかあんな行動に出るとは予想だにできなかった。
意外性ナンバーワンの忍びとは言いすぎではないだろう。
だいたい今時…昔もないが、タバスコを武器として使う忍びなど聞いたこともない。
確かに効果は抜群だったようだが、真似して使おうとも思わない。
今の別名に変わって「タバスコのカカシ」なんて呼ばれた日には、恥ずかしくて里も歩けない。
ビンゴブックにのる「タバスコのカカシ」。
敵の忍びもその顔をみて戦慄するのだ。
「た、タバスコのカカシだ…!」
………嫌すぎる。

「と、とりあえず…よくやった(?)な、ナルト。」
「てゆーか、何? これどういう状況??」
「………」

脱力したサクラとサスケがカカシに疑問をぶつけてくる。
その視線は限りなく冷たい。
せ、先生は何も悪いことしてないよ!? 確かに止めなかったけど。
再び咳払いしつつ、ナルトに疑問をぶつける。

「しかしよく気付いたな、ナルト。」
「そりゃ、あんなあからさまに乾いた地面に水たまりがあれば、気付きますよ。ここ数日雨も降ってなかったですし。」
「そうか。…とりあえず、サクラ、サスケ。この悶絶している二人を拘束しろ。」
「は~い…」
「……フン。」

悶絶している二人の忍びを拘束するサクラとサスケ。
自分のことで手いっぱいらしい忍び相手なので、抵抗は無きに等しい。
あったとしても自分の涙と鼻水と他のもろもろの汁であふれている忍び相手ではいくら卒業したてのなりたてほやほやの下忍であろうとも、大した抵抗ではない。
拘束はものの数分で完了し、二人もろとも木の幹にくくりつけた。

「霧隠れの中忍ってところか…こいつらはいかなる犠牲を払っても戦い続けることで知られる忍びだ。」
「…今回は無理っぽかったみたいだけど?」
「あのねナルト。いくらなんでもさっきのは無理でしょ。耐えられないよ。先生でも無理だよ…」

写輪眼を開いた直後にタバスコで眼つぶし。
本当に効果ありそうで嫌すぎる。

「ところでタズナさん。」
「な、なんじゃ?」
「聞きたいことがあります。我々は依頼内容やギャングや盗賊などただの武装集団だと聞いていました。ごろつき集団からあなたを守るというCランクの任務だと。どういうことです? 我々はあなたが忍びに狙われているなんて話は聞いていない。これだとBランク以上の任務だ…依頼は橋をつくるまでの支援護衛という名目だったはずです。」
「…………。」
「敵が忍者であるならば、迷わず高額な“Bランク”任務に設定されていたはず…なにか訳があるようですが、依頼で嘘をつかれると困ります。今回は、…まあ、なんかこんな感じでこちらには何の被害もありませんでしたが、私以外はまだ下忍になったばかりの子供たちだ。次も切り抜けられるとは限らない。最悪のこと、死亡だってありえた。」
「ちょ、先生、死亡って…!」
「これだと我々の任務外ということになりますね。」
「そ、そうよ! この任務まだ私たちには早いわ! やめましょうよ!」

顔色を蒼くしながらサクラはカカシに訴えた。
今回はナルトの行動で戦闘らしい戦闘もなく切り抜けられたが次もそうとは限らない。
ましてや今回捕まえたのは中忍。
次はそれ以上のレベルの者たちが出てくる可能性が高い。
カカシならば大丈夫だろうが、まず狙われるのは力の低い下忍だ。
ちらつく“死”という恐怖にサクラは里への帰還を願う。
サスケは忍びとの貴重な実戦経験ができるかもしれないので、帰るのにはあまり気乗りはしないようだ。
相反する二人の様子にカカシは最後の一人、ナルトの様子を見た。
少し俯きかげんでたたずんでいるため、ここからは表情が判別できない。

「ん―――…ナルト、お前はどう思う?」
「金…」
「は、金??」
「ランクが上がった分、その分の追加料は払っていただけるんですか?」
「あ、あぁ…橋が完成すれば、その料金は払える…が……」
「…Bランク以上の高額任務。」
「ナルト…お前……」
「何をしてるんです、カカシ上忍。一人の善良な一般市民が助けを求めているんですよ? これは助けなければ木の葉隠れの里の忍びとして、恥! さぁ、全力で護衛任務を完遂しますよ!!」
「どの口がそういうのかね…今さっき思いっきり金のこと口にしたでしょ。」
……カカシ上忍?
「!!! な、何をボヤっとしてる! サクラ、サスケ! 任務続行するぞ!!!」
「え!? 里に帰るんじゃ…?」
「ひひひ一人の善良な一般市民がだな…!」
「それ、さっきナルトが言っていた台詞ですよ、先生。」

限りなく冷たい視線を送られたカカシだった。




◇◆◇◆◇




「失敗したじゃと!?」 

森の一角に建てられた小屋から男の怒号が響いた。
黒いスーツを着込んだ背の低い男。
背の低い男はその指を真正面のソファにふんぞり返っている巨大な刀を持った男につきつけ、怒鳴った。

「お前達が元腕利きの忍者だというから高い金で雇ったんじゃぞ!」

するとゆっくりとソファに座っていた男の手が、傍らに置いてあった刀の柄に伸び…次の瞬間、目にもとまらぬ速さで刀が背の低い男へと突き付けられた。
普通なら振りぬくどころか持ち上げることもままならないであろう人よりも巨大な刀だ。
冷や汗が止まらない。
今は高い金を払って自分が彼らを雇ってはいるが、いつ自分の命を狙われるかわかったものではない。
しかも彼らは抜け忍。
忠誠など得られるはずもない。
顔を蒼くして刀を凝視していると、その刀の持ち主が口を開いた。

「ぐちぐちうるせーよ。今度はオレ様がこの首切り包丁で…そいつらを殺してやるよ。」

何気なく、軽く持っているように見えるのにぶれることすらない刀に男は目の前の忍びの実力が高いところにあると、改めて感じる。
ごくりと喉が上下した。
護衛にと連れて来ていた者が、かばうように動くが自分の命がこの忍びに握られていることが感じられ、安心などできない。

「…だ、だが敵もかなりの忍びを雇ったようじゃし…本当に大丈夫なんだろーな? 前回、鬼兄弟の暗殺失敗で警戒も強まっているぞ……」
「ふん…このオレ様を誰だと思っている? 霧隠れの鬼人と呼ばれたこの桃地 再不斬をな!」





続く。



[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 3
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/03/13 00:50

生徒たちに冷たい目で見られているカカシに、タズナはためらいがちに近づいた。

「………先生さんよ。ちょっと…話したいことがある。」




うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 3




タズナに呼び止められたカカシは、生徒たちを制すると目線でタズナを促した。

「………依頼の内容についてじゃ。あんたの言う通りおそらくこの仕事はあんたらの“任務外”じゃろう…実はわしは超恐ろしい男に命を狙われている…」
「恐ろしい男…? 誰です?」
「…あんたらも名前ぐらい聞いたことがあるじゃろう。海運会社の大富豪、ガトーという男だ!」
「「ガトー?」」

あまり世情に詳しくないサクラとサスケがそろって首をかしげる。
その反応とは裏腹に驚いた表情を浮かべるのはカカシとナルトだ。

「「ガトー!?」」
「え…!? ガトーって…あのガトーカンパニーの? 世界有数の大金持ちと言われる……!!?」
「金持ち…」
「……ナルト、金ってところに反応するな。」
「うおっほん! ガトーは表向き海運会社として活動しとるが、裏ではギャングや忍びを使い、麻薬や禁制品の密売…果ては企業や国の乗っ取りといった悪どい商売を業としている男じゃ…」
「ええ、彼についてはそういう話をよく耳にしますね。木の葉の里でも危険人物としてブラックリストに彼の名前が挙がっています。」
「そんな奴が一年ほど前じゃ…波の国に目を付けたのは。財力と暴力をタテに、入りこんできた奴はあっという間に島の全ての海上交通・運搬を牛耳ってしまったのじゃ。島国国家の要である交通を“独占”し、今や富の全てを“独占”するガトー…国も手が出せん状態だ。そんなガトーが唯一恐れているのがかねてから建設中の、ワシが手掛けている橋の完成なのじゃ!」
「なるほど…橋を完成させたくないから、橋を作っているオジサンが邪魔になったってわけね。」
「じゃあ…あの襲ってきた(?)忍者たちはガトーの手の者…」
「そう考えるのが妥当だね。なんなら口割らせてみる?」

と、ナルトはおもむろにカバンからその他調味料をとりだす。
そのどれもが攻撃力(?)の高い刺激物ばかりで…幹にくくられているガトーの手の者の忍者たちは顔色を悪くする。
霧隠れの中忍達をおどすそのナルトの姿はかなり様になっていて、監視役3人のうちの一人、拷問係の影響がちらちらする。

「やめとけ、ナルト。お前が言うと洒落にならん。…しかし分かりませんね……相手は忍びすら使う危険な相手だ。何故それを隠して依頼をされたのですか? 成功率も下がるでしょうに…」
「波の国は超貧しい国で、大名ですら金を持っていない。もちろんワシらにもそんな金はない! …ご、誤解するなよ!? 橋が無事完成すれば、払えるからな! 今は懐にないだけで!! だから小僧、そんな虫けらを見るような目でワシを見るな!!」

金がない、といった直後ナルトから送られる目線の冷たさにタズナは焦ったように言葉を付け加えた。
先ほど襲ってきた忍び達と同じ目にあわされてはたまらない。

「…で?」
「う、うむ。高額なBランク以上の依頼をするような金を今は払えんからな…Bランクにもなると仕事の成否は別にして前金も相当払わんといかんし。だからCランクと偽って依頼をしたのじゃ。すまんかった…」
「ま、しかたないですね…今回は後で追加料金を払ってもらいますが、今後はこんなことはないようにお願いしますよ。こちらとしても任務を偽られて無駄な犠牲を出したくないですからね。国へ帰る間だけでも護衛を続けましょう! サクラとサスケもそれでいいな?」




◇◆◇◆◇




ぎい、ぎいと手漕ぎの船でナルト達は波の国へと向かっていた。
前方はすごい霧で数m先がかすむほどであった。
先の戦闘でとらえた忍び達は幹にくくりつけたまま、木の葉の里のほうに連絡しておいた。
仲間が助けに来る可能性が高いがこちらはなんたって上忍一人に下忍なりたてほやほやが3人。
しかも拠点もない。
身を隠す方がいいと判断しての行動だ。
また捕えた中忍はそれほどのレベルではなかった。
あの中忍を助けて向こうの戦力が回復したといってもそれほど脅威になるわけではない。

「…すごい霧ね。前が見えないわ。」
「そろそろ橋が見える。その橋沿いに行くと波の国がある。」

手漕ぎの船であるだけに、その進むスピードは遅々としていた。
船の中に座って前方を眺めていた第7班のメンバー達だったが、やがてその進行方向の霧の中に巨大な建造物が浮かび上がってきた。
水の中に忽然とあらわしたその建造物は建造途中のもので、いたるところで中の構造がむき出しだ。

「うわぁあ…!」
「でっか…」

タズナが手掛けている橋、想像していた以上の規模の橋だった。

「静かにしていてくれ。この霧に隠れて船出してんだ。音で気付かれないようわざわざエンジンまで切って、手漕ぎでな。ガトーに見つかったら大変なことになる。」

慌てて口をつぐむ下忍達。
しばらくその巨大な橋の横を船で通り過ぎると、島が見えてきた。
目的地、波の国だ。

「もうすぐ国に着くぞ。タズナ…どうやらここまでは気付かれていないようだが………念のためマングローブのある街水道を隠れながら丘に上がるルートを通るぞ。」
「すまん、お願いする。」

そして船は薄暗いトンネルの中へと入っていく。
じめじめとしたその空間を抜けると、マングローブが密集している森が眼前に広がった。
周りすべてが陸の木の葉の里では珍しい光景に、サクラとサスケはしばし見ほれる。
やがて船は岸にある小さな船乗り場に到着した。
地元の漁師が利用しているものの一つだろう。
この濃霧では漁に出るのは危険なので、現在周りに人影はない。

「オレはここまでだ。それじゃあな、気をつけろ。」
「ああ、超悪かったな。ありがとう。」

4人とも船をおりると船はすぐにエンジンをかけ、猛烈な勢いでその場を遠ざかっていく。
先ほどまで音を殺していたものの、狙われているのはタズナだ。
タズナと離れた以上、その場にとどまるよりはガトーの目についてもいいから即急にこの場を離れるほうが安全だと判断したのだろう。
この様子ではガトーの恐怖に波の国の住民のほとんどが内心は別として、協力的ではないだろう。
頭の痛い話だ。
さらに頭の痛い話は、次に襲ってくる者たちのことだ。
中忍で撃退されたのだ。
次はそれ以上のレベル…つまり上忍が襲ってくる可能性が高い。

(あーやだやだ。どうしてこう厄介事ばっかり増えてくるかね…)

と、厄介事筆頭の下忍、ナルトに視線をやる。
タズナからつかず離れずの距離を保ちつつ周囲を警戒するその姿はベテランのそれだ。
しかし彼はいまだ下忍に合格を果たしたばかりの新人…のはず。

(本当、どうなってんのかね。これでアカデミーの落ちこぼれっていうんだからホント…まぁ、話を聞く限り、実力は高いってアカデミー教師も全員口をそろえていってるみたいだけど………っ!)

ハッとして警戒態勢をとるカカシ。
ほぼ同時にナルトも警戒態勢をとり、先ほどカカシが気配を感じた方からタズナをかばうように立ち位置を変える。
誰かに見られている気配を感じた。
体から余分な力を抜き、いつでも反応できるような状態に持っていく。
カカシの様子に気付いたサスケとサクラも二人に遅れ、タズナをかばうように臨戦態勢をとる。
タズナは急に様子の変わった4人にどう反応していいものか、どぎまぎしている。
その様子を頭上、木の上から見ていた男は背に背負っている巨大な刀の柄に手をやりつつ観察していた。
4人のうち、銀髪の忍びに焦点をあてる。
目的を達成するためには、一番の障害はあの忍びだ。

(なるほど…鬼兄弟が失敗するわけだ。こりゃあいつらのレベルでは荷がかちすぎたな。木の葉隠れのコピー忍者、写輪眼のカカシがいたんじゃなァ…)

警戒態勢をとってはいるが、こちらの位置はまだ知られていないようだ。
だが狙われているのはわかっているのだろう。
このまま仕掛けずにガトーのところに戻って、煩く言われるのも気がめいる。

(…仕掛けるか……)

たん、と隠れていた木の上から飛び立ち、背負っていた巨大な刀を標的に向けて投擲した。
刀は回転しながらものすごい勢いで彼らに迫っていく。

「全員ふせろ!!」
「「「!」」」

カカシの声に下忍三人は慌てて伏せる。
反応できないタズナはナルトが上に覆いかぶさって体を伏せさせた。
その直後、5人の上を巨大な刀が回転しながら通り過ぎる。
刀は数本の木々を切り倒した後、巨木の幹半ばまで食い込んでやっと止まった。
そしてその刀の上に人影が降り立つ。
眉のない…いや、あることはあるがものすごく短くて彫りの深い顔つきをしているのでないように見えるどう見ても強面の顔。
白い布を口元をぐるぐるに巻いた姿。
何故だか知らないが上半身に服をまとっておらず、隆起した筋肉が日に照らされる。
その見たことのある男の姿にカカシは目を細めた。
実際の面識はないが、知っている男だ。

「…これはこれは、霧隠れの抜け忍、桃地再不斬君じゃないですか。」
「………。」

確かに上忍レベルが来るだろうとはおもっていたが、ここまでの大物が出てくるとは…

「お前らは邪魔だ。下がってタズナさんを護衛しろ。こいつはさっきの奴らとはケタが違う。」

カカシは再不斬から目を離さずに下忍達に命令する。
先程までのおちゃらけた情けない上忍の姿はそこにはない。
戦いを前にした上忍の気配。
サスケとサクラはごくりと喉をならし、反論もせずに言葉に従う。
カカシは左目を覆っている額当てに手を当てた。

「このままじゃあ…ちときついか。」





続く。



[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 4
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/04/02 19:33


「このままじゃあ…ちときついか。」

額当てをつかんだカカシをみて、再不斬は刀の上から5人を見下ろして口を開いた。

「写輪眼のカカシと見受ける………悪いが、じじいを渡してもらおうか。」

悪いとは全然思ってない顔で平然と言ってのける。
そして再不斬の言葉に反応したのはカカシではなく、サスケだった。

(写輪眼!?)

驚いた顔をするサスケをしりめにサクラは首をかしげる。

「写輪眼…て、何?」
「うちは一族がもつ瞳術、それが写輪眼。」
「え、うちは一族って…サスケ君の……」
「そうだ。いわゆる瞳術の使い手はすべての幻・体・忍術を瞬時に見通しはねかえしてしまう眼力を持つという…写輪眼はそのなかでもうちは一族が特有に備え持つ瞳の種類の一つ…だが写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない。」
「クク…そこのガキ、詳しいじゃねえか。それ以上に怖いのはその眼で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだ。オレ様が霧隠れの暗殺部隊にいたころ、携帯していた手配帳にお前の情報が載ってたぜ。千以上の術をコピーした男…コピー忍者のカカシ。」
「……再不斬、まずは俺と戦え。」

カカシは額当てを上げ、隠されていた左目をあらわにした。
大きく縦に入った傷、だがそれ以上に目を引くのは不思議な巴型の文様が入った眼。
これが…写輪眼。

「ほう、噂に聞く写輪眼をさっそく見れるとは…光栄だね。」
「…ナルト、サスケ、サクラ! 特にナルト!! 卍の陣だ。タズナさんを守れ。お前達は戦いに加わるな。それがここでのチームワークだ!」
「なんで僕だけ二回も名前呼ばれる訳? 納得いかない…」
「自業自得だ。ウスラトンカチが…」
(だけどどういうことだ…? 写輪眼はうちは一族のなかでも一部の家系にだけ表れる特異体質だぞ。うちは一族はオレ以外には生き残りはいないはず。それにカカシは外見的特徴もうちは一族の要素が一つもない。もしかしてアイツ……)




うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 4




「さて、話はこのぐらいで終わりにしようぜ。オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねぇ。」

再不斬は乗っていた刃の上にしゃがみ込み、タズナに向けて殺気を放つ。
するとカカシの後方、タズナの前で3人の下忍が顔を蒼くしながらもクナイを構える。
腐っても忍びということか。
ひとまずタズナから意識を放し今度こそカカシと向き合う。

「だがその前に…カカシ! お前を倒さなきゃならねェーようだな。」

木を蹴り飛ばし、首切り包丁を幹から抜くと再不斬は水面に降り立った。
印を組み、かなりのチャクラを練りこむ。

「忍法……霧隠れの術。」

そう再不斬が言うと同時に元々濃かった霧がさらに濃くなり、やがて再不斬の姿を覆い隠してしまった。

「消えた!?」

再不斬が消えた後も霧は濃くなり続け、近くに立っているはずのタズナや生徒たちの輪郭すらぼやけている。
写輪眼は瞳術というだけあって、視界を遮られるとその能力を発揮するのは難しくなる。

(オレとの相性が悪いな…)

カカシは内心舌打ちした。
先程狙いをカカシにするような発言をしていたが、ブラフの可能性のほうが高い。
どう考えても弱い下忍を狙う方が、目標は達成しやすい。
それにカカシの記憶が正しければ桃地再不斬という男は…

「まずはオレを消しにくるだろうが……桃地再不斬、こいつは霧隠れの元暗部で無音殺人の達人とまで知られた男だ。気がついたらあの世だったなんてことになりかねない。オレも写輪眼を全てうまく使いこなせる訳じゃない…お前達も気を抜くなよ!」

カカシの忠告に下忍達の顔に緊張が走る。
その時だ、濃い霧の中を再不斬の声が響いた。
反響していて再不斬の場所はつかめない。

『8か所』
「!! え? なっ…何なの!?」
『咽頭・脊柱・肺・肝臓・頚静脈に鎖骨下動脈・腎臓・心臓………さて、どの急所がいい? クク…』
「えっと、なるべく苦しみたくないんで心臓かせぎぃっ!」
「真面目に答えるな!! この馬鹿!!」
「うすらとんかちが…」
「……………」
『……………』

緊張していた空気が一瞬でパァだ。
カカシは脱力するのを阻止するのにそれなりの気力を消費した。
なんとなく霧の中からも再不斬の呆れたような気配が漂ってくるが、認めたくないので無視する。
そして気を引き締めると、胸の前で印を組み殺気を放つ。
その場の空気ががらりと変わった。
触れれば切れてしまいそうな糸のような緊張感。
下忍達の中でそれに当てられたのは意外にもサスケだった。
サクラは気配にはそれほど敏感ではないらしく、蒼い顔をしてはいるもののサスケほどあてられてはいない。
サスケは下忍トップを自認するほどの実力を誇っているだけに、もろにその殺気にあてられてしまった。
ナルトは…書かなくてもいいような気がひしひしと感じるが、険しい顔をしてはいるものの、けろりとしている。
元四代目火影だし、このような戦場は数え切れないほど経験している。この程度であてられたりはしない。
あたりを包み込む殺気にサスケの顔色がどんどん悪くなっていく。
クナイを握っている手も、恐怖でカタカタと震えている。

(スゲェ殺気だ! …眼球の動きひとつでさえ気取られて殺される、そんな空気だ。…小一時間もこんなところに居たら、気がどうにかなっちまう!)

冷や汗があふれ、顎から地面へと何滴も滴り落ちる。
歯が鳴るのを防ぐために顎に力を入れるが功を奏したようには思えない。
徐々に息が上がり、呼吸が苦しくなる。

(上忍の殺気…自分の命を握られている感覚…ダメだ、これならいっそ死んで楽になったほうが……)

サスケの精神が限界に来ようかとした瞬間、こちらに背中を向けていたカカシから声がかかる。
先程までの情けない姿はそこからは想像できなかった。

「サスケ…安心しろ。お前たちはオレが死んでも守ってやる。オレの仲間は絶対殺させやしなーいよ!」

そして戦闘中とは思えない笑顔を不安げな顔をした下忍達に向ける。
恐怖にひきつっていたサスケやサクラは不覚ながらそれにしばし見惚れてしまった。
だがその直後、不吉な声が響く。

『それはどうかな…?』

再不斬の声。
そして霧の中から現れた再不斬。
その場所は、下忍達三人の立ち位置の中央、依頼人であるタズナの目と鼻の先だった。
やはり先ほどのカカシとのやり取りはブラフ。あくまでも狙いはタズナ。
しかし、声が発せられるその直前までまったく気配が感じられなかった。
無音殺人術の達人というのは伊達ではないらしい。

「終わりだ。」

宣言をして、首切り包丁をふりかぶる。
だがその刃がタズナに届くより、再不斬の懐に飛び込んだカカシが再不斬の体にクナイを刺す方が早い。
動きを止める再不斬。
カカシの持つクナイは再不斬の腹部深くまで刺さっている。
しかしその刃物から滴り落ちるのは紅い血ではなく、透明な水。
ハッとし、あわてて身を引こうとするが相手の行動の方が早い。
カカシの死角に現れた再不斬が刃を振りぬくのと、カカシが刺したはずの再不斬が水に変えるのはほぼ同時だった。
先ほどカカシがクナイで刺したのは再不斬の作った水分身。
力はオリジナルの十分の一程の力しか出せない水分身だが、かく乱させるのには十分すぎる。
腰部分で首切り包丁によって真っ二つにされるカカシだったが、そこから噴き出るのも紅い血ではなく、水。

(水分身の術、だと…!? まさかこの霧の中、コピーしたってのか!?)

驚愕に目を見開く再不斬。
気を取られたのはほんの一瞬だったが、上忍同士の戦いの中で思考にとらわれるのは致命的なミスだった。
背後から首筋にクナイがあてられる。

「動くな……」
「!!!」
「終わりだ。」

先ほどの再不斬の言葉をそのまま使う。
だが、再不斬は肩を震わせて笑った。
とても首にクナイをあてられている忍びの態度とは思えない。

「ククク…終わりだと……分かってねェーな。サルマネごときじゃあ、このオレ様は倒せない。絶対にな!」

余裕を崩さない再不斬の態度にカカシは視線を険しくする。
まだ、この状態から事態を逆転できる手があるのだろうか。
いぶかしげな顔をするカカシをしり目に余裕の態度のまま再不斬は口を開いた。

「しかし、やるじゃねェーか。あの時、既に水分身の術はコピーされたって訳か…分身の方『いかにもらしい』台詞を喋らせる事でオレの注意を完全にそっちに引き付け、本体は身を隠して、オレの動きを伺ってたって寸法か……」
「………」
「だがなぁ…オレもそう甘かあないんだよ!」

最後の台詞はカカシの背後から聞こえてきた。
眼を見開くカカシ。
再不斬はやはり眼の前にクナイを突き付けられた状態で居る。
では、この声は…
硬直するカカシに、ナルトは叫ぶ。

「伏せて! カカシ君!!」
「!!」

ナルトの声に我に帰り、慌てて頭を下げる。
カカシの頭上を首切り包丁が通り過ぎるのと、クナイを突き付けていた再不斬が水に還るのはほぼ同時だった。
しかしこれで再不斬の攻撃が終わった訳ではない。
流れるような動きで振りぬいた刀を地面に固定し、それを軸として後ろ回し蹴りをカカシに放つ。
無理な避け方をしたためにカカシはそれを避けられない。
なんとかガードはしたものの、威力は殺せずカカシは水中に吹き飛ばされた。

「(今だ!)…!?」

とどめを刺そうと一歩踏み出すが、足に痛みを感じ踏みとどまる。
見やれば地面に撒かれた複数のまきびし。
こんなもので…

「まきびしだと? くだらねぇ…」

不機嫌そうに舌打ちをし、再不斬は姿を消す。
その光景に息を飲む下忍とタズナ。
頼みの綱であるカカシが劣性であるが、手助けしようにも実力に差がありすぎて手が出せない。
むしろ足手まといになってしまう。

(あのカカシ先生が…蹴飛ばされた!?)
(体術も半端じゃねえ…!)

声もなく顔色を蒼くしながら二人の戦闘に見入っているサクラとサスケ。
一方、ナルトは苦り切った顔をしながら爪を噛んでいた。
ああ! 生前のようにチャクラが使えたら手助けできたのに!!
スピードは眼で追えるが、おそらく今の自分ではその反応に体のほうがついていかない。
昔の自分なら…あんなことや、こんなこと、そーんなことまでできたのに!!
イライライライラ。
フラストレーションがものすごい勢いで溜まっていく。
そんなことをしていると、いつの間にやらカカシが水牢に捕らわれていて、いつの間にか再不斬が目の前にいて、しかも蹴りを思いっきり放ってきたりして、しかもしかもその蹴りがクリーンヒットしちゃったりなんかして…

「偉そうに額当てなんかして、忍者気どりか? だがな、“本当の”忍者っていうのはいくつもの死線を越えた者。つまり俺様のビンゴ・ブックに載るようになって初めて忍者と呼べる。…お前らみたいなのは忍者とはよばねぇ!」

なんて言われた日には、あーた。
雰囲気を察したのか、吹き飛ばされても頭の上に乗っていた黒耀が空へと飛び立つ。
空気の読める忍鳥だ。
ナルトは危なげなく立ちあがり、口にたまった血をペッと吐き、口元を手でぬぐった。
痛みはある。
だが、骨までは痛めてはいない。
動くのに支障はない。
ぎり、と再不斬をにらみつけ、ナルトは顔をゆがめた。
笑みの形に。



こいつ、絶対に泣かす。





続く。



[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 5  鬼の目にも涙
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/06/24 16:06

Side:??

繰り広げられている戦闘を冷静に観察する。
体術は再不斬がわずかに勝っているようだが、忍術の印の組むスピードは相手の方が早い。
何度か刃を交わした後に、現在は相手の上忍を“水牢の術”で閉じ込めるのをみて、強張っていた肩の力を少し抜いた。
主要な戦力を封じられた相手の護衛の者たちの命はもはや風前の灯だ。
見る限りまだ下忍になったばかりの少年少女達だが、忍びになった以上こういうことになるのは平和になった今の世とはいえ、考えられる未来だった…はず。
胸にチクリとした痛みを感じつつ最後までは気を抜けないと下忍に視線を戻す。
そこではイタぶるように再不斬が3人のうちの一人を吹き飛ばしたところだった。
上忍で首切り包丁の持ち主として選ばれた再不斬に、下忍なりたての彼らが敵うことはありえない。
現に今も本体の十分の一程の力しか持たぬ水分身に吹き飛ばされている。
彼らの未来を思い、暗い気持ちを隠しながらそれを観察していたが、ゾクリと背筋を悪寒が走る。
その原因は3人のうちの一人、吹き飛ばされた金髪の少年が発している気配だった。
空気が変わる。
ゆっくりと顔を上げる少年。
その眼は再不斬がする眼と同じ…………忍びの眼だった。





うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 5  鬼の眼にも涙





『お前らァ!! タズナさんを連れて早く逃げるんだ!! コイツとやっても勝ち目はない!! オレをこの水牢に閉じ込めている限りこいつはここから動けない! 水分身も本体からある程度離れれば使えないハズだ!! とにかく今は逃げろ!』

カカシ君が水牢の中から何かを言っているが、聞ーこーえーなーいー。
視線を鬼人から離さずにナルトは茫然として腰の引けているサスケ達へと近づいた。

「うちは君、ちょっと耳かして。」
「…何だ。」
「いいから早く。作戦があるの。」
(この状況で作戦だと?)
「フン、お前がチームワークかよ…」
「クク…敵の前で堂々と宣言とは、勝算はあるのか、小僧?」

再不斬の顔が笑みにゆがむ。
その鬼人にナルトはハンと鼻で笑う。
忍びとして戦争中に活躍してきた中で、敵の神経を逆なですると友人達に評判だった笑みだ。
目の前の再不斬の顔もピクリと引きつった。

「煩いよ、眉なし。眉毛を生えそろわせてから出直してこい。」
「テメェ…」
「ついでに助言しておいてあげるけど、服装センス最悪。眉毛は百歩譲ってまあいいとしても、その服はありえない。何? 自分を見てもらいたいという自己主張の現れ? そんな格好をしたら逆効果だから。引くし。ドン引き。」
「…小僧……っ!!」

再不斬のこめかみには血管がくっきりと浮き上がっており、ぴくぴくしている。
水牢をカカシにかけているためその場から動けないが、動けたら真っ先に攻撃を仕掛けた。
水分身がいるにはいるが、再不斬は自分でいたぶりたいのだろう。
仕掛けてくる様子は今のところ見られない。
それなら分身と本体の位置を変えればいいのに、そこまで頭が回らないほど頭に血が上っているらしい。
動けないが今にもとびかかりそうな再不斬の様子にナルトはもう一度鼻で笑ってやる。
ついに我慢の限界だったのか、水分身がこちらに刃を向けてくる。
ふ、何のためにうちは君に声をかけたと思っているんだ。
ナルトは移動し、再不斬と自分との間にサスケを入れた。
怒りの形相(まさに鬼)でこちらに向かってくる再不斬に顔を蒼くするサスケ。
すかさずその手をひねりあげ、ナルトは…

「死ね小僧!」
「なんの。うちはバリアー!!」
「ナルトてめっぐはあ!!!
「サスケ君!?」

し~ん。
場が静まりかえった。
依頼主であるタズナも顔をひきつらせてナルトを凝視している。
カカシは半眼で(元からだけど)ナルトを見ている。
いち早く硬直から抜けだしたのは、この場を静まりかえした張本人であるナルト。
固まったままの水分身の再不斬に躊躇なくクナイを振り落とし、水に返す。
ばしゃっという音で全員(notサスケ)我に返る。

「何やってんのよ! ナルト!!」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと白眼向いてピクピクしちゃってるけど、急所には当たらないようにちゃんと調節したから☆」
「そういう問題じゃないの! 後、語尾に星つけるな!! ムカつく!!」
「おい…」
「だってうちは君腰引けてたし…あのままじゃ役にたた…んんっ! 足でまといだし。せめて盾ぐらいには役に立ってもらわないと。」
「ひどっ! 言いなおした意味、超なくない? なあ、そう思うのはワシだけか?」
「てめぇら…」
「あぁっサスケ君! こんな姿になって…!」
「とか言いながらにいそいそ膝枕してるし。顔にやけてるよ、春野さん。」
「いい加減に……」
「いいじゃない! こういう時にあぴっておかないと、点数稼ぐ機会なかなかないんだから!」
「春野さんてしたたかだよね~。僕には真似できない。」
「………………」

俯いてプルプル震えだす再不斬。
水牢内のカカシが同情的なまなざしを送っている。
ぐすっ 寂しくなんかないんだからね!!(涙目)

「分身を倒したぐらいで勝ったと思うなよ! 水分身の…」
「うちは君ぼでぃアタック!」

再不斬が再び水分身を出そうとすると、これまた何のためらいもなく、ナルトは白眼をむいているサスケの首根っこをつかみ、再不斬へと投げつけた。
回転しながら再不斬へと迫るサスケ。
予想外の攻撃(?)に再不斬は自分がどう対処するべきか迷った。
しかも白眼をむきながらこちらに迫ってくるサスケは想像以上に気持ちわるかった。
殴りたくない、ていうか、触りたくない。
だからと言って刀を抜くには距離がもう迫っている。
結局、気持ち悪いサスケには触りたくなかった再不斬は、体をひねって避けることにした。
結構な勢いで再不斬の横を通り過ぎ、かなりの勢いで顔から水にぶつかるサスケ。
ザパーン!! という大きな音が響き、再不斬の後方でぷかぷかとうつぶせで浮いている。
敵ながら同情を誘うありさまだ。

「馬鹿にするのもいい加減にしろ! てめえは絶対殺す! 覚悟しろ小僧!!」

血走った眼をナルトに向ける。
そして感じる違和感。
何だ、何かがおかしい。
…………何故
何故、うちはサスケが、そこに。春野サクラの膝元にいる?

「しまっ!」
「遅い。」

再不斬の背後からかかる声。
それは間違いなく、金髪の少年うずまきナルトの声だった。
バリアーにしたのはうちはサスケ本人だったが、皆の注意がサスケに向いている間にナルトは影分身の術を使用。
その後、再不斬に投げつけられてきたサスケはナルトの影分身がサスケに変化した偽物。
今の再不斬は水牢にカカシをとらえているため行動は極端に制限されているし、頭に血が上り怒りのままにナルトに攻撃しようとしていた為、前かがみになっていた。
つまり、背後がお粗末。
いくら弱体化しようと、そんな隙を見逃すようなナルト君ではない。
ナルトは再不斬の背後から、両手を揃えてぐっと指に力を加えて叫んだ。

「喰らえ! みたらしアンコ直伝、対大蛇丸用おっとこ殺しの術パートⅡ、千年殺しぃいいいい!!」

反応の遅れた再不斬はナルトの攻撃をまともに食らった。
そう、ケツに。
みたらしアンコがにっくき元師匠用に用意した男殺しの術、パートⅡ。
原作購読者なら言われずともわかるだろう、そう、あれ。
それをまともに食らった再不斬は…

「ぐげらぷ@あれ*のがで#ぶでへろ!!?」

この世のモノとは思えないうめき声とも叫び声ともとれる言葉(?)をもらし、もんどりうって水面に倒れこんだ。
もちろん、ケツを押さえながら。
カカシは無事水牢から解放され、形勢は逆転したものの、何とも言えない空気が辺り一帯を包み込む。

「むごい…」

し~んとしている中、ナルト達の依頼主タズナの一言が響いた。





***************************************************

注)あれ:ものすごいカンチョウ



没ネタ

「うちは君、ちょっと耳かして。」
「…何だ。」
「いいから早く。作戦があるの。まあ、返事は期待してないけどね!」
「なら聞くなあぁああああ!!」

電凹ネタ。わかる人が限られているので没。


没ネタ2

「死ね小僧!」
「なんの。ローアイアス(うちはバリアー)!!」
「ナルトてめっぐはあ!!!
「サスケ君!?」

現代人憑依ではないので、没。



[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 6  決着
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:67852236
Date: 2010/10/20 15:59

Side:??

金髪のナルトという少年に場をかき乱され、正常心を失い背後をとられた再不斬にまさか、と身を乗り出した。
寸でのところで飛び出すのを耐える。
自分に与えられた今回の指令は戦いを観察し、分析すること。
戦いに加わることではない。
しかし次に起こったことは、自分の予想をはるか遠くに突き破る出来事だった。
木上に居た彼は、その光景を見た瞬間、頭から転げ落ちるという忍びとしてあるまじき失態をした。




うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 6




「ぐ…」

水面に倒れ伏していた再不斬は、愛刀首切り包丁を支えにして何とか立ちあがった。
腰が引けて足がプルプルしているのはまあ、あの攻撃(笑)をもろに食らったのだ、仕方がないともいえる。
むしろ、それでもまだ立ち上がり相対する勇気を称賛する気にカカシはなった。

「くっ、水牢を解いちまうとはな…」
「解かされたんだろ…千年「黙れ!!」……うん、悪かった。」

敵に同情的なまなざしを送られ、かつ、こうも素直に謝れるなどいまだかつてなかったことだ。
再不斬はカカシから距離をとる。
この傷(…)では、腹立たしいが接近戦は無理だ。
忍術主体の戦法に切り替える。

『丑・申・卯・子・亥・酉・丑・午・酉・子・寅・戌・寅・巳・丑・未・巳・亥・未・子・壬・申・酉・辰・酉・丑・午・未・寅・巳・子・申・卯・亥・辰・未・子・丑・申・酉・壬・子・亥・酉!!』

長い印を組むカカシと再不斬。
組みはじめたのは再不斬のほうが早かったというのに、印を組み終わるのはほぼ同時だった。
そして発動する忍術。

『水遁 水龍弾の術!!』

再不斬とカカシ、それぞれから水でできた龍が生じ、二人の間で衝突した。
大きな水柱がたち、サクラ達へと水滴がスコールのように降り注ぎ、大量の水が津波のように襲いかかる。

「うおお!! お?」

タズナも水に飲み込まれて流されそうになったが、一瞬の浮遊感と共にその気配はなくなった。
いつの間にか木の上に来ており、両脇には金髪の少年ナルトの姿がある。
再不斬の水牢からカカシを解放する際、影分身の術を使用していたナルトだが、現在のチャクラコントロールではどうやっても分身体を一つに絞れない。
なのでサスケに変化した本体と、影分身。そしてもう一体の影分身は再不斬が正気に戻る前にそのあたりの林に紛れ込ませていたのだ。
だがそんな事実を知らないタズナは、二人に増えたナルトに眼をむいた。

「分裂増殖!?」

ナルトならできそうだ。
しかしこの発言を聞いたナルトはとてもとても軽蔑的な目でタズナを見た。
ていうか、先ほど似たような“水分身の術”を再不斬が使っていたはずだが…それにも気付かないあたり、タズナの混乱ぶりがうかがえる。
二人がそんなやり取りをしている時、サクラ達といえば水に飲み込まれていた。
タズナと違ってナルトの助けは入らなかったので、水に流されないように必死に踏ん張るサクラ。
気絶しているサスケもかばいつつだとかなり苦しかったが、そこは乙女の底力。
恋した男の為ならえんやこら。

「ふんぬらば!!」

サクラに姫抱きされるサスケ。
本人の意識があったならば憤死したくなるような光景がそこにあった。
やがて水も引き、中心にはクナイと首切り包丁を交えるカカシと再不斬が残された。
再不斬の腰が引けているのは愛嬌である。

(おかしい…どういうことだ…)

刀に力を加え、反発力によってカカシと距離をとる再不斬。
あらぬところがズキリと痛んだが、根性で押さえつけ、刀を背中に戻して印を組む。
それと同時にカカシも再不斬と全く同じ印を組む。
はっとして別の印を組むが、カカシもその動きをトレースする。

(こいつ…俺の動きを……)
「読み取ってやがる。」
「!!!」

再不斬が思っていることをカカシが口にする。
あせりが再不斬の顔に浮かぶ。

(? なに!? オレの心を先読みしやがったのか?)

すぐさま組んでいた印を別の術に切り替えるが、それもほぼ同時にカカシによってコピーされる。
カカシの写輪眼が再不斬を射ぬく。
まるで全てを見透かされているような感覚を覚え、再不斬のいらだちは高まっていく。

(くそ! こいつ…)
「むなくそ悪い目つきしやがって…か?」
「!!! くっ…しょせんは2番せんじ、『お前はオレには勝てねーよ、サルやろー!!』」

カカシと再不斬の声がかぶさる。
再不斬の苛立ちは遂にピークに達した。

「てめーのそのサルマネ口…二度と開かねェようにしてやる!」

印を組むスピードを上げる再不斬。
だが、カカシを見て動きを止める。
カカシの背後に…人影が見えた。

(あ…あれは……オレ? ……………ドッペルゲンガー!!?)


ドッペルゲンガーとは??
自分の姿を第三者が違うところで見る、または自分で違う自分を見る現象のこと。
自ら自分の「ドッペルゲンガー」現象を体験した場合には、「その者の寿命が尽きる寸前の証」という民間伝承もあり、未確認ながらそのような例が数例あったということで、過去には恐れられていた現象。
(ウィ○ペディアより抜粋)


(やべ、見ちゃった。ドッペルゲンガー見ちゃった。死ぬ。オレ死ぬ! いやいや待て待て、奴の幻術っていう可能性も無きにしも非ずで…)


この再不斬という男。
(生まれつき)眉もなく、どう見ても一般人としてかけ離れた強面の顔をして元暗部で人殺しなどそれこそ腐るほどしてきた再不斬だったが、どうしても克服できない弱点があった。
オカルトがダメなのである。
いっぱい人殺してるくせになにってるんだといわれるかもしれないが、だからこそ怖いとも言える。
元々苦手だったが、全く受け付けなくなったのは、暗部であったころ敵の忍びと遭遇した一件が発端だった。
依頼は当時から無音暗殺術を得意とした再不斬には簡単なもので、ある大名の不正の証拠である書類を城から盗み出すというもの。
しかし、途中で同じ書類を狙っていた木の葉の忍びと遭遇した。
与えられた任務は書類を里に届けることだったので戦闘は避け、相手の忍びとの追いかけっこが始まったのだが……この忍び、再不斬が逃げても逃げても、どこまでもどこまでもどこまでも追跡してきた。
気配を感じなくなってほっとした次の瞬間、背後に迫る気配。
どこまでいっても振り向けばいる忍び。
月明かりしかない森の中、仄かに月明かりを受けてボウッと浮かび上がる金色の髪はまるで火の玉のようだった。
結局怖くなった再不斬は書類を彼に投げつけることでその場から逃走することに成功した。
相手は一人。
木の葉の有名な忍びだと知ったのは命からがら里に戻ってからだった。
有名な通り名は「木の葉の黄色のなんとか」だが、霧の里では「木の葉の黄色い貞子」、「木の葉のストーキング(王)」「振り向けば奴がいる」と呼ばれて恐れられている。
彼のせいでオカルト関係が苦手になった忍びは多い。


※そこにいます(作者)


と、再不斬がトリップしているうちにカカシは印を組み終える。

『水遁 大瀑布の術!!』

「な…なにぃ!?」
(術をかけようとしていた俺よりも早く…っ!)

驚愕に包まれながら大量の水に飲み込まれる再不斬。
冷静に考えれば当たり前の結果である。
再不斬はカカシの幻術(notドッペルゲンガー)を見てから思考が過去に戻っていた。
そして印を組む手も止まっていた。
相手は千以上の術をコピーしたといわれるコピー忍者、カカシ。
その千の術の中に“水遁、大瀑布の術”が含まれていないなどとあるはずがない。
それもそのはず、“水遁、大瀑布の術”の術は水遁系の大規模忍術のなかではそれほど難しいものでもなく、効果も高く、水遁系の忍術を使う者たちにとってはフィールドを水浸しにできるのでその後の戦闘を有利に進めることもできる為、凡庸性の高い術としてポピュラーな術なのだ。
水遁の術を得意とする上忍と戦闘すると一度は目にする術だろう。

大瀑布の術の術を知っている天才コピー忍者
    VS
負傷中(笑)でトリップ中の元暗部

勝敗は明らかだった。

「ぐあぁ…!!」

圧倒的な水流に押し流され、再不斬は木に背中と尻を強打してやっと止まった。
まさに泣きっ面に蜂(笑)。
ぐおぉぉおおお…と情けないうめき声をあげてうずくまる再不斬。
態勢を立て直す間もなく、4本のクナイが放たれ再不斬の両腕両足に突き刺さる。

「終わりだ…」
「ぐっ!」

再不斬の脳裏に今日の出来事がリフレインする。
何故こんなことになった?
最初は順調に行っていた。
コピー忍者のカカシも水牢に閉じ込めることに成功したし、後は下忍を始末してターゲットである男を殺すだけだった。
狂ったのはあの少年のせいだ。
トラウマを植えつけた男と全く同じ髪色をしたあの少年。
そしてあの術(vv)。
あんな術のせいで追い詰められている自分。
もし今倒されて後世にまでそのことが伝わってしまったら…?
…………………………
…………



恥 だ 。


再不斬は最後の手段に出た。
このままここで倒れるわけにはいかない。
木々に潜んでいる相手に向かって密かに合図を送る。

次の瞬間。
首に二本の針のような武器が突き刺さり、再不斬はドサリと地面に倒れ伏した。

「フフ…本当だ。終わっちゃった。」






続く。



[714] お知らせとお詫び文
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:87da0f32
Date: 2015/05/17 17:22
原作での「NARUTO」にて最終戦に入りかけ、もうすぐ完結するだろう…とか甘いことを考えていた数年前の自分ぇ……
読んでくださっていた読者の皆様、大変申し訳ございませんでした。


色々当時とは設定とか明らかになった真実とかで書き直しする予定です。
(特に序章)
ただ、すでに序章なのに3話を軽く超えている始末…
またどう投稿していこうかも迷っています。
今まで投稿した文章を残すのかどうかとか…

とりあえず、書き溜め文だけでも順にあげていこうかと思っています。
遅々更新になると思いますが、何卒よろしくお願いします。




[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 7 親切心のありか
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:87da0f32
Date: 2015/05/24 16:55
「フフ…本当だ。終わっちゃった。」

軽やかな少年と思われる声の方向にカカシ達は鋭い視線を向けた。
そこには霧隠れの里のマークの入った白い仮面をかぶり、黒い髪を高い位置でくくっている、ナルト達より少し年上だろう少年が木の上に立っていた。




うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 7
親切心のありか





再不斬の首に刺さっている針状の武器…千本というのだが、それを放ったのは間違いなくこの少年だろう。
カカシは倒れている再不斬の首に手を当てた。
脈は感じられない。

(確かに死んでいるな…)

「ありがとうございました。ボクはずっと…確実に再不斬を殺す機会をうかがっていた者です。」
「確かその面…お前は霧隠れの追い忍だな?」
「………さすが、よく知っていらっしゃる。」
「追い忍?」
「そう、ボクは“抜け忍狩り”を任務とする、霧隠れの追い忍部隊の者です。」
「なんかいまいちピンとこないわ…」

首をひねるサクラにナルトは分かりやくす説明した。

「通称、死体処理班とも呼ばれてるね。」
「し、死体!?」
「死体をまるで消すかのように処理することで、その里を抜け出した“抜け忍”が生きた痕跡の一切を消すことを任務にしてるんだ。忍者の死体はその忍びの里で染み付いた忍術の秘密やチャクラの性質…その体に用いた秘薬の成分とか色々な情報がわかってしまう。例えばだけど、カカシ先生が死んだとする。」
「うんうん。」

わかりやすく例を出すナルト。
さらに分かりやすくする為に、自らの班の先生を具体例にする。

「ちょ、不吉なこといわないでよ…」

カカシが抗議するが、黙殺してサクラに説明を続ける。
カカシが肩を落とすのが視界の端で見えたが、これも黙殺する。

「そうなると、さっき先生が使っていた写輪眼を敵に全部調べられちゃうんだよ。下手をすれば敵の忍びに移植されて、戦場でカカシ先生の写輪眼と感動的な再会とかあり得る訳。」
「うわっ!」
「無視? 先生の言葉無視? っていうか、サクラ。うわって何? どういう意味のうわっな訳? ちょっと先生気になっちゃうな~」
「そういうのを防ぐのが追い忍なの。音もなく臭いもない…それが忍者の最後。」
「こわぁ~~!!」
「……………(悲)」

せっかく頑張ったのに…っ!
無視され続ける悲しさに、カカシは膝を抱えて座り込み、地面にのの字を書き始めた。
そこで蘇るおもひで。

バリアー(盾)にされるサスケ。
投げつけられるサスケ(ナルトの影分身だったが)。
おっとこ殺しの術Ⅱ(笑)を喰らう再不斬。

―うん、俺の方がましだ!!

自分より不幸と思われる人と比べてなんとか復活し、いまだ木の上からこちらを観察している仮面の少年にカカシは視線を向けた。

背丈や声からしてまだナルト達と大して変わらない年頃ってのに、追い忍か…ただのガキじゃないね、どーも……

仮面の少年は、スッと再不斬の横に舞い降りるとその腕を掴んで持ち上げた。
体格が倍程違うというのにその動作にふらつきなどは見られなかった。
先程の再不斬にとどめをさした一撃といい、あの若さで追い忍になっていることといい、ただのガキではない。
次いで、カカシは傍らにいる、先程人が死んだというのにまったく様子の変わらないナルトを見やる。
タズナは一般人として仕方ないにしても、初めての実戦での人死にだ。
サクラも気丈にふるまってはいるが、顔色は悪い。
というのに、様子の変わらなさといい、先程の…こ、攻撃(動揺)といいどういう訳か実戦慣れ、いや実戦慣れしすぎているナルト。

こっちも、ただのガキじゃないよねぇ…

それに、先程戦闘中に聞いた言葉も気になる。
密かに問い詰めなければ、と決意するカカシを置いといて、仮面の少年はこちらに向き直る。

「あなた方の戦いもひとまずここで終わりでしょう。ボクはこの死体を処理しなければなりません。何かと秘密の多い死体なもので。」
「あ、じゃぁどうぞ。」

さらっと告げたのはナルトだった。
横に居るサクラなどはキョトンとした顔をしている。
思わずカカシもその半眼が標準だった眼を100%開いた。

死体処理班というのは、通常殺した者の死体はすぐその場で処理するものである。
仮面の少年がそれをせず、再不斬の死体を持って移動しようとしていたのは、実戦経験の少ない、というかない下忍達を慮ってのことだったと思われるが、ナルトはここでやっても構わないとさらっと言ったのだ。
ナルトからすればわざわざ移動しなくても…と親切心から言った事だったのだが、これに焦ったのは他でもない仮面の少年である。
カカシ達からは見えないだろうが、仮面の下で冷や汗を滝の様に流した。
彼は再不斬をこのままこの場から脱することを目的としていたのだ。
ここで再不斬を解体してしまうことだけは、どうしてもできなかった。

「い、いや…どうやらそちらはまだ実戦経験の少ない下忍のようですし…後々トラウマになったりするとですね……」
「大丈夫大丈夫。ちょっと人一人解体されるぐらい。」

あっけらかーんと返すナルト。
どーぞどーぞとジェスチャーつき。
これに焦ったのは仮面の少年だけではなかった。

「え、ちょ、解体って…! 止めてよ!! せっかく別の場所でやるって言ってんだから、よそでやってもらってよ!!」
「でも春野さんだっていつかは経験することだし、ここで見学するってのもいいと思うよ。」
「いや、いつかはそうだけど、今じゃなくていいじゃない!! それに、ほら! サスケ君だって気を失ったままだし、ちゃんとした場所で手当てする方がいいと思うわ!!」

そうだもっと言え、と言わんばかりにこくこく頷く仮面の少年。
その姿に違和感を覚えたのはカカシだ。
別に解体の現場を見られたところで、そう困ることではない。
秘伝の技術などは死体を見た程度でどうこうできるものではないし、解体した後の死体は必要な部分以外は獣達に食わしてしまったり、燃やしてしまうのが定例だ。
必要な部分は彼が持って帰れば済む話。
ここまで拒否する事ではない。
事実、他里との連携をとったりする任務も時にはあるのだが、彼らが万が一死亡した場合は、解体場所を貸出たりすることだってままある。

「君…」

おかしいと思ったカカシが少年に声をかけようと一歩足を踏み出す。
少年の肩がぎくりと強張った。
自分の対応がいかに不審であったか気がついたのだろう。
しかし、カカシが一歩踏み出すとともに、カカシの体はその場に崩れ落ちた。
再不斬戦でのダメージだろうか?
ナルトとサクラの注意も少年から逸れてしまう。
そんな隙を見逃す少年ではなかった。
再不斬の体を抱えなおし、術を発動する。

「それではボクはこれで失礼しますっ!」
「…待て!」
「先生っ」

カカシが腕を伸ばすが届くはずもなく、少年と再不斬の姿はふっと煙に消えてしまった。
ナルトも少年を追いかけようとしたが、ハッとして足を止める。
現在カカシが戦線離脱。
サスケは気絶中。
その上まだ向こうの戦力がいかほどかもわからないのに、サクラにタズナの護衛まで任せて少年を追いかけるということは無理な話だった。
せめてカカシが倒れなければ話は違ったのだろうが…

「………上忍のくせに…役立たず……」
「!!? ひどい! 俺、頑張ったのに!!」
「ちっ」
「舌打ちつき!」
「ま、まあまあ。とりあえず彼は去ったのだし…」
「カカシ上忍、動けますか?」
「あー…ちょっと写輪眼使いすぎたみたいだわ……」
「つまり動けないと。上忍のくせに。」
「……そうでーす。」
「そこの黒髪の少年も気絶していることだし、当初の予定通りわしの家に来るか!」
「そうですね、頼みます。」
「…ん?」
「頼みますね、カカシ先生。僕たちじゃ体格的に背負えないので。」
「わし…依頼人なんじゃが。」
「依頼人だろうが何だろうが、使えるものは使う主義なので。ね! Bクラスの任務をCと偽った橋作り職人のタズナさん?」
「………………。」
「どうしたんですか、早く行きましょう。なんたって僕は3人の中でも一番小さいですし! ね、タズナさん?」

後悔先に立たず。




執念深いナルト。



[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 8 目覚め
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:87da0f32
Date: 2015/05/24 17:07
森の中、背負ってきた再不斬を地面に下ろして白は安堵のため息を吐いた。
追ってくる気配はない。
担当上忍が戦線離脱した状態で、戦力分析もできていない相手を単独で追ってくるほどあの下忍達も愚かではなかったということか。
再不斬と似通った眼。
本心はどうあれ戦闘時に人格を切り離し、理に従う事を優先する。
それはあちらの担当上忍も同じではあったが、まだ自分より年下の少年がした怒気の中にも氷の様に冷静に分析する眼に白はブルリと背筋を震わせた。

「………今は治療が先だね。」

頭を振って少年の影を振り払う。
まずは口布を切って――

「…先にこっちの治療、した方がいいのかなぁ………?」

気まずそうに白は再不斬の下半身、というか尻を見た。



うずまきナルトのカレーな里外任務 8
目覚め




「大丈夫かい? 先生!」
「いや…! 一週間ほど動けないんです…」

タズナの娘、ツナミに敷いてもらった布団に寝かされたカカシは唸りながらそう答えた。
事実、今は起き上がることも難しい。
明日になれば杖でもつけば歩けるだろうが、戦闘など無理だ。
“うちは”の者ならばこうはならないのだが、本来カカシは写輪眼を生まれ持ったわけではない。
ある事件の後、移植して得たものである。
本来持っていなかったものが適性を持たずに使うとその目の力に体の方が耐え切れずにこういう事態を起こす。
普通の戦闘ならばここまで消耗することもなかったが(戦闘の度に一週間も倒れてたら使えないだろ、フツーに)、今回は相手との実力も高く、写輪眼を発動していた時間が長くなったためだ。
あの水牢に捕えられたのが痛かった。

「あはは、護衛任務なのに担当上忍が動けないとか(笑)」
「…ですよねー……」

ナルトの言葉が突き刺さる。
ガトーがその豊富な資金を元に別の連中を雇ってここを襲いに来たら、そこでThe Endとかならないとも言えない。
さすがに再不斬レベルの奴をそうほいほいと雇えることはないだろうが、カカシを抜くとこの班は里外任務は初、護衛任務も初と初めてづくしの班である。
構成メンバーもちょっと前にアカデミーを卒業し、下忍になったばかりの子供3人。
もしも、がないとは言い切れないのが悲しい現実。

「写輪眼ってすごかったけど、体にそんなに負担がかかるんじゃ考えものよね!!」
「……」

サクラにまで言われてしまい、ますます落ち込むカカシ。
ええ、ええ、確かに俺の見通しが悪かったデス。
だからもう勘弁して。先生のライフは0なのよ。

「でもあの仮面の子って…追い忍って言ってたけど。」
「仮面見る限りは霧隠れの暗部だね。仮面の額の部分に四本の線が入ってたでしょ? あれが里の所属を表すマーク。僕たちの額宛と同じ。木の葉の暗部もおんなじような仮面に里のマーク入ってるよ。木の葉ではあんな無機質な感じじゃなくて、動物をあしらった仮面を使ってるけど。」
「…よく知ってるな、ナルト。ふつう暗部のことはアカデミーでは教えてないんだがな?」
「!! あ、えと、それはその、あれだよアレ。…そう、イビキ! イビキから聞いたの!」

カカシの質問にしどろもどろになるナルト。
先ほどの戦闘でとっさに発した言葉も聞き逃せない。
このタズナの家に連れてこられる道中、まさかそんなことがあるはずないとグルグル頭の中で回っていた考えも、スラスラと、まるで見てきたかのように・・・・・・・・・・・・語るナルトに確信に変わる。

「イビキ? 誰それ?」
「んーなんて言えばいいのかな、僕って孤児だからその保護者…ではないか。後継人って感じでもないし…まあ子供一人でちゃんと生活できてるか時々見てくれてた人だよ。木の葉の暗部にも顔出してる人でね。」
「だからいろいろ詳しかったのね。」
「そうそう。忍者の死体はあまりにも多くの情報を語ってしまうからね。つまり“追い忍”てのは里を捨て逃げた“抜け忍”を抹殺、死体を完全に消し去ることで里の秘密が外部に漏れ出てしまうことをガードするスペシャリストなんだ。」
「音もなく臭いもない…それが忍者の最後だ。」
「…じゃああのザブザも今頃バラバラにされて―」
「それなんだがな……」
「…んっ」
「サスケ君!」

カカシの隣に寝かされていた、ナルトに盾にされてからずっと意識を失っていた(実はいた)サスケはサクラの声にハッと目を覚まして起き上がった。
次いで何故か頭を襲う謎の頭痛に呻く。

「…? ここは? それに俺は……」
「気が付いたのね、サスケ君! ここはタズナさんの家よ。」
「家? なんで…俺は、確か―戦闘が、忍びに襲われて…」

サスケの言葉にビクリと肩を揺らしたのは言わずもがなナルトだ。
作戦のためとはいえ、サスケを再不斬の盾にしたのは他ならぬナルト。
どうするつもりなのかと見守る(藪蛇はごめん)メンバーにナルトは大げさに身振り手振りも加えてサスケに駆け寄った。

「大丈夫だった、うちは君!?」

お前のせいで大丈夫じゃなくなったんだろ!!

サスケ以外のメンバーが盛大に心で突っ込みを入れる中、サスケに立ち直る隙を与えずに畳み掛ける。

「むこうに雇われた忍びに襲われて! うちは君が僕をかばって倒れたときにはどうしようかと!!」

かばう!? 盾にしたの間違いだろう!!

「俺が、お前を?」

サスケが信じかけている…そんな馬鹿な!

愕然とする皆を差し置き、内心ほくそ笑むナルト。
しかし、そこに待ったをかけるのはサスケLOVEのサクラ。

「あのねサスケ君…」
「春野さんは今までサスケ君の看病してくれてたんだ! 応急処置も的確で、ね!」
「そうなのか、サクラ?」
「え…」
「そうだよ! 美人だし、頭もよくて応急処置もばっちりだなんてまさしく才色兼備! うらやましいね! こんな春野さんに看病してもらえるなんて!!」
「…そーよ! 私が看病したの!」

サクラは誘惑に負けた。
まあ、ナルトに盾として使われたという黒歴史などサスケは覚えていたくもないだろう。
そんな黒歴史よりも、サスケの好感度を上げる方がサクラとしては重要だ。

「そう…なのか? すまん、ありがとう。」

憮然とした顔をしながらも礼を述べるサスケにメロメロとサクラは体を溶かしたのであった。

(好感度up! しゃーんなろー!)

一方、必死にサスケをよいしょして都合の悪い記憶をなかったことにしたナルトに脱力仕切った大人組。
カカシをここまでおんぶで背負ってきたタズナは疲労と心労で床に大の字で転がり、写輪眼の使い過ぎで布団になついていたカカシも奔放な性格上今まで感じたことのなかった胃痛・胸焼けを感じ、二人そろって不貞寝を決め込んだ。



[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 9 再戦のカウント
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:87da0f32
Date: 2015/05/31 19:33
「それで、どうしてカカシが倒れてるんだ?」

気絶していた現在の状況を知らないサスケに再不斬を水牢から解放されたカカシが圧倒したこと、あと少しで倒すところを謎の仮面の少年が現れとどめを刺したこと、最後はなんだか焦りながら姿を消し、その直後にカカシが写輪眼を使いすぎて倒れ今なお動けないことをサクラがかいつまんで説明した。
ナルトに買収(?)され、筆記試験は優秀なサクラなだけに、どうやってカカシが水牢から解放されたかはうまくごまかしたようだ。



うずまきナルトのカレーな里外任務 9
再戦のカウント



「…というわけなの。暗部だっていうから今頃連れてかれた再不斬は―」
「あー。そのことなんだがな、サクラ。お前たちもよく聞け。」
「どうしたんですか、先生?」
「暗部…死体処理班ってのは、ふつう殺した者の死体はすぐその場で処理するものだ。」
「それが何なの?」
「分からないか? あの仮面の少年は再不斬の死体をどう処理した?」
「…知るわけないじゃない。だって、あの死体はあのお面が持って帰ったのよ?」
「そうだ。殺した証拠なら首だけ持ち帰れば事足りるのに、だ。それと問題は追い忍の少年が再不斬を殺したあの武器だ。」
「え…と、確か針状の…」
「針―千本か?」

現場を見ていなかったサスケがサクラの言葉から使用されたであろう武器の名前を口にする。
頷くカカシに考え込むサスケ。
サクラは何がそんなに疑問なのかが分からず目をさまよわせる。

「…まさか………!」
「そのまさか、だな。」
「二人で納得してないで、説明してくださいよ! 何がまさかなんですか!?」
「そうじゃそうじゃ、グチグチとつぶやいて気を持たせといて秘密にするとか超つれないぞ、お主ら! 依頼人であるわしにもわかるように超説明せんかい!!」
「あのね…タズナさんはともかく、サクラは自分で気付こうね。これだけヒントだしたんだから。」
「え…だ、だってナルトだって気付いて―」
「あ、僕はわかってるから。」
「ええー!!? 何時、何処で!?」
「あの仮面の子が、再不斬をつれ去った時、だね。」
「そんな前から…」

実技がからきしなだけに、頭の良さには自負があったサクラはアカデミー時代赤点ぎりぎりの点数しか(それも狙ってやったらしいが…)とってなかったナルトに先を越されたせいでガックリと肩を落とした。
答えを言うのは簡単だがこういうのは自分から答えにたどり着いた方がいい。
カカシはさらなる情報(ヒント)をサクラに出した。

「あの追い忍が使った千本という武器は、急所にでも当たらない限り殺傷能力のかなり低い武器で、そもそもツボ治療などの医療にも用いられる代物だ。別名死体処理班とも呼ばれる追い忍は、人体の構造を知り尽くしてる。一、自分よりかなり重い再不斬の死体をわざわざ持ち帰った。二、殺傷能力の低い千本という武器を使用した。三、ナルトにこの場で解体してもいいとの言葉の後の動揺。この3点から導き出されるあの少年の目的は?」
「…え? いや、まさか、そんな!」
「わし一人仲間外れ…超寂しい。」
「あー今言いますから、落ち込まないでくださいタズナさん。おそらく、再不斬は生きています!」
「なにーっ!? だがお主、確認しおったじゃないか!」
「そうよ! カカシ先生ちゃんと確認してたじゃない!」
「確かに確認はした。…が、あれはおそらく仮死状態にしただけだろう。つまりあの少年の目的は、再不斬を“殺しに来た”のではなく、“助けに来た”ということだ。」
「超考えすぎじゃないのか? 追い忍は抜け忍を狩るもんなんじゃろ?」
「いや…最後の動揺した姿から見て、十中八九再不斬は生きているとみていいでしょう。それにクサイとあたりをつけたなら出遅れる前に準備をしておく。それも忍びの鉄則です。」
「偉そうに言ってますが、その鉄則なら担当上忍が今倒れてるのはありえないんですけどー。」
「ぐぐぐ…!」

その通りなだけに反論できず、布団の上でうなるカカシ。

「それで、実際問題どうするんだ? しばらくカカシは動けねえんだろう?」
「先生ってつけようね、サスケ。まあ、でもそう深刻になることもないよ。確かに動けないけど、それは向こうも同じ条件だからね。仮死状態にまでなった再不斬は俺と同じようにしばらく動けないはずだ。そうゴロゴロ実力のある抜け忍が雇えるわけでもないし、ゴロツキ程度ならお前たちにでも対処できる。」
「ま、まあ確かにゴロツキなら…」
「問題はその仮面の少年だね。」
「どういうことよ?」
「次、再不斬が襲ってくるとき、次は仮面の少年も一緒に襲ってくるでしょ? もうばれちゃったんだし。」
「そ、そっかー」

仮面の少年の手腕を見ていただけに、サクラはガックリと肩を落とした。
再不斬を相手にしろと言われても無理だが、仮面の少年でも敵対するのはただのゴロツキではなく、「忍」になる。
本来ならBクラス任務、失敗すれば自分の命はおろか依頼人の命にもかかわる。
高ランクに携わりたいとは思ったが、いきなりハードすぎる。

「フン…だったら俺たちで戦えばいいだろう。」
「お、サスケ勘がいいな。」
「なに?」
「次、再不斬と戦うとき、俺はそちらにかかりきりになる。少年の方まで気をまわしている余裕はない。だから仮面の少年はお前らで相手してもらうんだけど、おそらく向こうは先の再不斬を仮死状態にした手腕からみても、少年といってもこの前相手にした中忍とはハッキリ言ってレベルが違う。そこで、だ。お前たちに修行してもらう。」

(゚□゚ ) (゚□゚ ) (゚□゚ )

「……なんだその顔は…」
「い、いや、予想外すぎて…」
「どの口が今更そんなこと言ってやがんだ…」
「うん…カカシ上忍、自分の胸に手を当ててみようか?」



~回想~

いやー遅れてメンゴv 足の悪いお婆さんが倒れていてね~(3時間の遅刻)

ねー先生、修行はー?
んー? 俺今ちょっと忙しいからまたね~(イチャパラ新刊に熱中)

Etc. etc.…



「……うん、お前たちに修行してもらう!」
「見なかったことにしたぞ、この覆面野郎。」
「全力でスルーしたわね。」
「カカシ上忍…(グスッ、変わり果てた姿になって!)」

3人がこそこそと話していると、玄関から扉の開く音がした。
再不斬が生きているという話をした直後のせいか、気配に敏感になった3人が見守っていると、帽子を深くかぶった少年と目があった。

「ただいま…じいちゃん。」
「おお、イナリ、お帰り。」
「この人たち…誰?」
「ちゃんと挨拶せんとダメじゃぞ、イナリ! 彼らはワシを護衛してくれる忍者達だ!」

孫であるイナリの頭を帽子越しに撫でながら、3人+寝込んでいる上忍を紹介するタズナ。
しかしイナリの表情が晴れることはなかった。
ジーっと三人+αを眺めると、イナリはおもむろに興味を失ったように視線を逸らした。

「こいつら死ぬよ…」
「…何?」

ピクッと真っ先に反応するのはサスケだ。
サクラもムッと口を引き結んでいる。
ナルトは…笑顔が怖い。カカシはそっと目を逸らした。

「ガトー達に刃向って、勝てる理由ないんだよ。」
「このっ―!」

立ち上がりかけたサスケを、ナルトが肩を掴んで押しとどめた。
カカシはそれにホッと詰めかけていた息を――吐けなかった。

「黙れ負け狗。」

(オオフ…)
カカシは精一杯意識を飛ばそうと、布団の上で無駄な努力をし始める。
子供の最初の言葉の時から、ナルトは冷ややかな笑顔を浮かべていた…止めてくれるはずがなかったんや……

一方、一見爽やかな笑顔を浮かべた少年に毒を吐かれたイナリは中々その言葉を理解することができなかった。

「ちょ、ちょっとナルト…!」

サクラの静止の言葉を振り切り、笑顔という名の無表情を顔に貼り付け、ナルトは固まっているイナリに近付いた。

「さ、お兄ちゃんと少しO・HA・NA・SHIしようか?」
「……!」

ギリギリと掴まれた肩が痛い。
すがるような目で祖父を見るも、明後日の方向を向くタズナに視線が合わない。イナリは4人が見守る中、ズルズルと家の外へと連れていかれたのであった。




あっー!

**************************************************************

「ナルトサン、トテモイイヒト」
「い、イナリー! 大丈夫じゃ、傷(?)は浅いぞ!! 浅いよ、な!?」
「の…のーこめんとで。」




[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 10 木登り
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:87da0f32
Date: 2015/06/06 18:00

「次だ! 次! 失敗すればここにお前らの居場所はないと思え!ほら行くぞ!」

陳腐なセリフを吐いて慌てて立ち去っていく雇い主の姿を見おくり、白は再不斬に向き直った。

「白、余計なことを…」
「わかっています。ただ、今ガトーを消すのは時期尚早です。ここで騒ぎをおこせば、また奴らに追われることになります。今は我慢です。」
「ああ、そうだな…」
「それに…あの。き、傷…治ってませんから…あまり動くのはそのぉ…(汗)」
「………」

ギリィ…と歯のきしむ音がベッドから聞こえた。




うずまきナルトのカレーな里外任務 10
木登り





一日たち、松葉づえをついてはいるが歩けるほどに回復したカカシは言っていた通り、修行するためにタズナの家から少し離れた森に来ていた。
タズナの護衛には、いくら体の麻痺が残っていようともゴロツキ程度ではどうにでも対処できるカカシの影分身を残してある。

「じゃあ、これから修行を始める!」
「「「…はーい……」」」
「修行初めからテンション低いね君たち…」
「気にしないで先生、まだ半信半疑なだけだから。」
「日頃の行いを反省するんだな。」
「どんまい!」

なんか班の中での俺の立ち位置ひどくない?
普段の自分の行動を棚上げして、最近の若人の冷めた態度に内心、苦言を申し立てる。
ま、今から行う修行じゃそういう余裕もなくなるだろう。

「始める前に、チャクラについてもう一度基本から説明するぞー」
「そんなのアカデミーで最初に習うことだろう。」

不服そうに唇をとがらすサスケをなだめ、カカシは簡潔に話をする。
本題は後だ。

「まー聞け。簡単に説明するとだな、チャクラには身体エネルギーと精神エネルギーの二つがある。つまり、術っていうのはこの二つのエネルギーを体内からしぼりだし、練り上げ、これをチャクラを練り上げるっていうんだが…そのチャクラを、印を結ぶことにより発動させる。これが忍術だ。」
「基本中の基本だね。」
「ごちゃごちゃと説明して、結局何が言いたいんだ? そんなの体で覚えるものだろう。現に俺たちは術をつかえている。」
「いーや、今のお前らは、チャクラを効果的に使えていない。いくらチャクラの量を多く練り上げることができても、バランスよくコントロールできなければ術の効果が半減してしまうばかりか、発動さえしてくれなかったり、無駄なエネルギーの消耗は長時間戦えないなどの弱点ができてしまうってわけだ。」
「今のカカシ上忍みたいにね!」
「確かに、いくら上忍だからって一週間動けないのは考え物ね。」
「後先考えないからこういうことになる。」
「………君たちね。」

先生泣いちゃうよ?

「それで結局のところ、どうするんだ?」
「体でそのコントロールを覚えるしかない。命を張って体得しなければならないつらーい修行…」
「―で?」
「…まったく、ノリが悪いね君たち。」
「もう、早く教えてくださいよ!」
「ん、木登り。」
「「木登り?」」

首を傾げるサスケとサクラを尻目に、ナルトは脂汗をかきはじめる。
アカデミー時代よりずっとチャクラコントロールを修行すること数年。
爆破させた樹木は数知れず。
木端になった木々、プライスレス。

まあ、つまり、ナルトのチャクラコントロールは遅々として成長していなかったのだ!

だってしょうがないじゃないかっ!
九尾×2なんだぞ!?
普通にチャクラ練っただけなのに普通の人が必死こいて練ったチャクラ量なんだぞ?
影分身でチャクラを分散させても、焼け石に水っていうか…
そりゃ、爆破させるに決まってるじゃないかっorz

内心焦っているナルトを置いて、カカシはチャクラコントロールの修行について説明を続けていた。
三人の視線の先に、木を手も使わずに垂直に上っていくカカシ。
サクラもサスケも口を開いてその光景に見入っていた。

「―とまあ、説明はこんな感じだな。あとは自分の体で直接覚えてもらうしかない。」

そしてカカシの放ったクナイが三人の足元にそれぞれ一本ずつ刺さる。

「今自分の力で上り切れるところに目印としてそのクナイで傷をうて。そして次はそれよりさらに上にしるしを刻むよう心掛ける。お前らは初めから歩いて上るほどうまくはいかないから走って勢いにのり、だんだんと慣らしていけ。」

カカシの言葉が終わるとともに、サクラとサスケはチャクラを足に練り、木に勢いをつけて上りだした。
木にある程度上ったところでサスケは練るチャクラの量を見誤り、はじかれ落下していった。
実技が苦手なはずのサクラは意外や意外、カカシと同じ高さの枝まで登り切り、得意そうに胸を反らせている。

「…ん? ナルト、お前も早くしなさいね。」
「あー…(汗)」

カカシに促されるも、目の前の木が爆散する未来しかみえない。
どうする、どうするよ僕ぅ…っ!と焦るナルトに過去の情景が思い浮かぶ。
遅刻をするたびに苦しい言い訳をしていた、以前の班のムードメイカーを。
偽りを口にすることもあったが全てが全て嘘だった訳ではなかったのを知っていた。もっともそれを真似て今からナルトが口にするのは偽りだが。

「あいたたたー(棒)、持病の癪が…!」
「…それ嘘でしょナルト。」

さすがに誤魔化されてはくれないカカシに、何としてでも木登りをしたくないナルトは食い下がる。

「なんで嘘だって言い切れるんですか診察もしていないのに。医療忍者でもないですよね、カカシ上忍。」
「いや、確かに違うけどね…」
「ちょっと言いくるめられないでよ、先生! だいたい持病って何よ? 初めて聞いたわよ!」
「実は元々胃腸が弱くてね。」
「はい嘘―っ!! 賞味期限切れた牛乳飲んでピンピンしてたでしょ!」
「何で知って…ゴホン。ストレスに弱くてね。」
「あんだけ場を好き勝手にしといて、あんたにストレスなんかあるわけないでしょ!!」

うんうんとカカシとサスケが頷いている。
失礼だね! これでも繊細な質なのに。
しかし、このツッコミの鋭さ……ちょっとあのお転婆姫に似てるかな。

「とにかく、無理なものは無理なの!」
「子供かアンタは!」
「(肉体は)12歳の子供ですが何か?」
「ぐぬぬぬぬ…!」

サクラとにらみ合う中、早々に説得をあきらめたサスケは自分の修行に集中しだした。
カカシはあきれたような溜息を吐き、ナルトに近付いてくる。

「まあまあ二人とも、熱くなりすぎない。」
「でも先生!」

不服そうに食いつくサクラの耳元でナルトは囁いた。

「僕が抜けたら二人っきりだよ。」
「…!」

効果は抜群だ!

「…サクラもナルトに買収されないの。」
「ばっ!? 買収なんてっ!」
「はいはい、サクラは自分の修行に戻ってね。ナルトは俺が話するから。…ちょうど、聞かなければならないことが色々あってね。そういえば、再不斬戦の時の礼を言うのを忘れていたな。」
「いえ…班のメンバーを助けようとするのは当然ですから。」
「ああ、助かったよ。あの時ナルトが声をかけてくれていなかったら、俺は背後から再不斬の刃でやられていたかもしれない。ありがとう。」

そういってニッコリしながら、肩をギュッと握られる。
食い込む手の強さに、逃がさないという意思をヒシヒシと感じる。
しかし再不斬戦の時?
最初は水牢から解放したことを言っているのかと思ったがどうやら違うらしい。
それ以外で…


『伏せて! カカシ君!!』
『!!』


「………あ。」

ギリギリ表情に出すのは抑えたが、漏れ出た声は誤魔化せない。
特に肩を掴まれていたのが致命的だ。
一瞬だがギクリと強張った体にカカシの目がスッと細くなる。

「まさかとは思いましたが…やはり、あなた・・・なんですね?」
「え、えへ?」

ちょ、肩痛いよカカシ君っ!



**************************************************************

NGシーン
「まさかとは思いましたが…やはり、あなた・・・なんですね?」
「テヘペロッ☆」
「(怒)殴っていいすか?」

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ…(以下略)




[714] うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 11 下剋上
Name: ヤドクガエル◆df2d8dde ID:87da0f32
Date: 2015/06/14 18:09
結界に閉じ込められ、見ていることしかできなかったあの時。
やっと結界から解放され見たのは、九尾の爪痕激しい里だった。
あちこちに倒れている動かない人影に見知った姿をみては心を痛めた。
火影になった先生はきっと最前線にいたはずだと姿を探し、ついぞ見つからず、遺体のないまま行われた葬儀に呆然とした。
ついに一人になってしまったと…

なのに。
なんで…



うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 11
下剋上





木登り修行をサクラとサスケに言い渡し、カカシは二人の目の届かないところに嫌がるナルトを引きずり連れてきた。

「さて、どういうことか説明してください。」
「いやあのね。説明するのはやぶさかではないんだけどね。…これはひどいんじゃないかなぁ?」

そういって抗議するナルトは、縄でグルグル巻きにされて地面に転がされている。
忍具も取り上げてある。
ナルトの戦闘能力が明らかでない今、警戒しておくに越したことはない。
特に以前のように「時空間忍術」が使えるのだとしたら縄ぐらいではすぐ抜け出されてしまうと目を光らせていたのだが、どうやら使う気はないらしい。もしかしたら、使えないのかもしれない。
忍具にも彼特有のマーキングされたクナイは見つからなかった。
木登り修行をあれほど嫌がっていたのも気になる。
いやそれよりも―

「三代目はこのことはご存知なんですか?」
「知らないはずだよ。」
「どうして黙っておられたんです!どうしてそんな姿になってるんですか!? あなたは…先生は、死んだはずだ……!」
「色々と、複雑なんだよ…カカシ君。」

そういってうずまきナルト―否、波風ミナトは疲れたように、大人びた笑みを浮かべた。



九尾と戦闘したこと。
里のため、時間稼ぎをするために“屍鬼封尽”を行ったこと。
術を行使し、気を失ったこと。
目が覚めるとなぜか赤子になっていたこと。
その後の里の上役の密談など。

把握できているところを簡潔に話した。
カカシはその間、神妙に耳を傾けていた。
話が終わり、沈黙が支配するなか、カカシが重い口を開いた。

「先生は…後悔してるんですか? 火影になったこと。」
「後悔はしてないよ。“屍鬼封尽”をしたことも、それで里を守れたことも。今だってことが起これば同じことをすると思う。でもね、言ったでしょ。複雑なんだよ、色々。」

里人のことは大切だ。
守るためなら犠牲になることも厭わない。
でも、だからといって謂れのない咎で攻め立てられて腹が立たないなんてことはない。
殴られれば痛いし、怒鳴られれば悲しい。
里を守れなかったことを泣いて責められることは受け止められても、人柱力だから九尾だからとただ里のスケープゴートにされるのは御免こうむる。

「というわけでせっかく得た二度目の人生だから、今度は“火影”というものに縛られずに好き勝手に生きてみようかと。」
「つまり、怒ってるんですね。」
「……怒ってないよ。」
「怒ってるじゃないですか…何年先生の部下やってきたと思っているんです。三代目に話さなかったのもそれが原因ですか?」
「そうだね…三代目の人となりは知っているけれど、里の長としての責任がある。時には本心とは違う決定をしなければならないことも。こちらとしては願ったり叶ったりだったけれど、人柱力を忍者アカデミーに入学させたのも上からの圧力に違いないからね。」

みすみす戦力になる人柱力を泳がせておくような判断を上はしないだろう。
火影就任に関しても何かと口出ししていた「根」の志村ダンゾウのこともある。
どうもうずまきナルトには手をだしてこない様子で、この体になってから一度も姿を見ていないけれど裏で何を企んでいるかもわからない。

「ところで先生、いつまでそうしてるつもりなんです?(笑)」
「……カカシ君、わかってて言ってないかい?」
「滑稽ワロスw」
「くぁwせdrftgyふじこlpッ!!」

この師匠にしてこの弟子あり。
力関係の上下はあれど、この二人は似た者同士だった。



◇◇◇



「とりあえず、木登りはできないことはわかりましたが…現状どんな感じなんです?」

縄を解いてもらい、地面に座り込んだままのナルトは言いにくそうに口を開いた。

「現状…ね。あー…記憶はあるから術系統は使える、と言いたいところだけど使わない方が身のためだね。」
「体術関係は体が育ってないことから弱体化してるのはわかりますが、どういうことです?」
「今、僕の中には九尾がいる。そのせいか、以前同様の感覚でチャクラを練ると想像以上のチャクラが噴出してしまう。結果大暴走だよ。一度、螺旋丸で試したことがあるんだけど…局地的タイフーンになっちゃったしね。」
「…あの突然の大嵐、もしかして先生の仕業ですか?」
「仕業って、故意にやったように言わないでよ!」
「木の葉の3割を水浸しにし、幸い死者こそでなかったものの倒壊した建物は数知れず。三代目も復興のために悩み、前髪前線を後退させたという、あの木の葉の大嵐ですよね?」
「う…ソノトオリです……」
「もしかして、他の7不思議も先生の仕業ですか? 突然の大停電とか、森の木々消滅事件とか、木の葉の名物大杉真っ二つ事件とか、湖消失事件とか―」
「ちょ…」
「謎の丘出現事件とか、梅雨なのに山火事ってどういうことだ事件とか。」

心当たりのありすぎる事例ばかりで、汗を流しながらミナトはさりげなく目を逸らす。
七不思議の全部が自分の仕業って…

「先生…」
「…えへ?」
「三代目に報告してきます。」
「待ってー!! やだよやめてよやめてください!」

プライドなど金繰りすてて、ナルトはカカシの腰に縋り付いた。
自分の担当上忍だった上司の情けない姿に、カカシはこれまでのことに溜飲を下げつつも溜息をついた。

「じゃあ、特訓ですね。」
「へ?」
「俺も先生の術に巻き込まれるのは御免なんで。」

次戦で、再不斬と一緒に螺旋丸でぐるぐる洗濯される姿がまじまじと浮かぶ。うわ、ありえそう…

「まずは…チャクラを分散させるために多重影分身してもらいましょうか? とりあえず10体ぐらいで。」
「あ、僕多重影分身しかできないから。」

チャクラ量が多くってどうしても分身を一体に限定できないんだよね、というナルトに頭を抱えつつ分身するように促す。

「影分身の術は分身体が戻れば経験が積み重なっていきます。それを利用しましょう。」
「それはわかってるけど、今までうまくいかなかったんだよ? いきなりできるようになるとは思えないけど。」
「大丈夫です。それは今まで危機感が足りなかったせいだと思うんです。先生の特訓する木の下にマキビシをまいておきます。」
「え!?」
「ついでに俺の雷遁で100万ボルト流しておきます。」
「ええ!!?」
「5回落ちるごとに、落ちてきたタイミングに合わせて土遁・土流壁で鳩尾狙います。」
「えぇええ!!!?」
「頑張ってくださいね、せん…ナルト。」

ニッコリと笑ったカカシ。
それは奇しくもミナトにそっくりだった。


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