<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7000] マシュー・バニングスの日常
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2010/03/17 21:46
まえがき




注意点


・主人公はマシュー・バニングスというオリ主です。

・リリなのの知識がある程度、ある方のほうが楽しめるかも知れません。

・お話は淡々と進みます。あまり劇的ではないかもしれません。

・ちょっと理屈っぽいかな・・・と自分では思ってます。

・設定には独自解釈があるかもしれません。必ずしも公式に準拠しないかもです。

・でもストーリーの大筋は変わらないと思われます。解釈が違うって方向性です。

・××年×月×日、などの年月日表記が為されている場所については時系列の矛盾とかスルーして下さると作者が泣いて喜びます。


以上の注意点を踏まえた上でお楽しみください。ほんの一瞬でも日常の無聊をお慰めすることが出来たら幸いです。








長くなったので、大雑把な粗筋を付け加えてみます(2010/3/17)



(第一話~第十七話)

無印As編です。全体の導入、サラっと流して読んで頂いて大丈夫かと。



(第十八話~第三十話)小学生日記・・・退院・卒業

原作ではサラっと流された、なのはさんの撃墜、大怪我、治療が主題です。なのはを中心に話が進みます。



(第三十一話~第四十五話)

中学生日記です。つまりそういう話です。



(第四十六話~第六十九話)アリサinミッド・・・VS.八神!

八神はやてという人物が主題です。主人公のスタンスもここでやっと明確になるかも。



(第七十話~)リスタート~

ギャルゲ「とらいあんぐるハートinリリカル!」 パッケージ記載の説明は七十話あとがきにあります。









[7000] マシュー・バニングスの日常  第一話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/16 04:17
マシュー・バニングスの日常      第一話








 姉ちゃんは美人だ。まだ9歳だけど既に美人だし将来も美人になること間違いなしだと思う。

 姉ちゃんは頭が良い。既に小学生のレベルを超えていて、親父の会社を継ぐための経営学まで勉強しはじめてる。

 姉ちゃんは運動神経も抜群である。たいていの男子よりも足は速いし力も強い。



 で、俺の方だが・・・

 俺は地味である。生来の金髪に整った容姿を持つ姉ちゃんと違い、ほとんど黒に近いダークブラウンな髪と目を持ってる。よ~く

見なくては絶対に黒では無いとは分からんと思う。まあ日本では目立たないから良いのかもしれんが。顔立ちは姉ちゃんと似てる部分も

あるんだろうが、俺は姉ちゃんと比べればちょっと痩せすぎていて・・・もうちょい肉が付けばもしかしたらとは思うが。


 俺は大して頭が良くは無い。比べる相手が姉ちゃんでは分が悪いにも程があるというのが本音であるが、まあ同学年と比べれば十分、

頭が良いほうではあろう。しかし、実は既に大学レベルの学問に手をつけ始めていて、小学校には付き合いで出てるだけみたいな状態の

姉ちゃんとは・・・比較にならんね我ながら。


 俺は運動神経については・・・運動以前の問題である。生まれつき心臓が弱いらしいのだ。たまに痛む。不整脈はしょっちゅう。

一年のうち半分は寝込んでいる。さらにそのうち半分は入院している。食欲は慢性的に無い。ゆえにガリガリである。骨と皮。意外と

背丈だけは姉ちゃんより高いのだが、姉ちゃんより体重が軽いというのが笑えない事実である。たぶん、俺の骨ってスカスカなんだろう

なあと思う。体は弱い・・・というより、はっきりいえば慢性的病人であろう。両親は金持ちなので、カネにものを言わせて世界中の

病院をまわってきたが、結論としては「不治」。いつまで生きていられるかも分からんらしい。



 だからって変に運命を恨むこともないだろう。金持ちの両親の子供として生まれることができたからこそ、こんな体なのにのんびりと

暮らして来れたわけだし。

 美人の姉ちゃんが「俺の分まで頑張る」って頑張ってる姿を見るのは、裏表とかなく、ホントに嬉しいし。


 しかしまあ・・・今の調子だと、俺って、二十歳くらいまででも生きられるのかなあ・・・とボンヤリ考えるだけの毎日を俺は過ごしていたわけだ。


 生まれたときからこういう体の人間というものはだねぇ・・・「健康に走り回ってる状態」というのを経験したことが無いからこそ、

別に現状をつらいとも思わないのよ。持っていたものを失えばこそ、惜しむということもできるわけで、持っていたことがなければ、

羨ましいとすら思えない。ただ違うのだと納得して、諦観するのみなのよねえ。


 まあ諦めているみたいなことを言ってしまうと、姉ちゃんが泣いて怒るので言わないけどさ。


 自己紹介がまだだったかな。

 俺の名前はマシュー・バニングス。

 姉の名前はアリサ・バニングスという。

 ちなみに双子である。

 全然似てないけどね。







 さて、寝たり起きたりを繰り返しながら、それなりに平和だった日々がいきなり途切れたのは、3年生になってすぐくらいのこと

だったと記憶している。俺も一応、姉ちゃんと同じ学校、同じクラスに所属はしているが、なにせしょっちゅう休むので、日にちの

感覚は薄くて、正確な日時は分からない。


 俺の眠りは、常に浅い。熟睡というのも健康でなくては出来ないことで、俺は多少の気配がするだけですぐに目覚める。夢というもの

も見たことが無い。俺は昏睡して意識不明か、目をつぶって何とかうつらうつらする程度か、どちらかの状態しかないみたいだ。

このことを姉ちゃんに話したことがある。また泣かれたが・・・

 「なんでも話せ! 隠し事はするな!」と強要するくせに、素直に思っていることをいうとすぐに泣くのである。困ったものだ。


 その夜、俺は夢を見た・・・ような気がした。はじめての経験で、それなりに嬉しかったのを覚えている。


 はるか上空・・・宇宙空間か、それより高いところを船が通っていた。

 その船はSFに出てくる宇宙船のように思えた。

 その船の一部が、いきなり爆発し、そこから次々に船が壊れていった。

 そして船から20個くらいの光る石が飛び出して、この海鳴市に降り注いだ。

 石を追うようにして、同年代くらいの男の子が船から飛び出し、墜落するような勢いで地表に向かってきて・・・
 

 そこで目が覚めた。


 夢ってのは変なものなんだなあ・・・と思いながら、目が冴えてしまったので灯りをつけて、サイドテーブルの上の水差しをとって

水を一杯飲んで、さっきまでの夢を反芻してみた。

 宇宙船の形とか、よく思い出してみようと目を閉じると・・・

 おかしな感覚に気づいた。

 なにかおかしなものが・・・市外全域にバラバラに落ちている?

 さっき夢に見た石のような、不思議な力を感じさせる何かが、大量にある?

 距離にして数キロから数十キロ、かなり正確に感じ取れる・・・多分、近づけばさらに正確に分かる気がする。

 なんとなく面白くなって、さらに精神を集中してみる・・・と、まるで意識が際限なく広がっていくような不思議な感覚とともに、

海鳴市の範囲を超えるほどに、自分の「センサー」のようなものが広がり、例の奇妙な石の位置が俯瞰図から見下ろすように正確に

把握されていった。


 石の一つが妙に光っている・・・それに注目。


 何か、光が強くなり、しかし同時に濁りが混ざり、しかも近くに人がいるような・・・


 もっと細かく見よう・・・と意識を集中したところで。


 いきなり心臓が激しく脈打った。

 手足から力が抜ける。

 サイドテーブルにもたれかかり、水差しが落ちて、深夜の静寂を破る。

 しかし俺は、その音を気にすることもできず、床に崩れ落ち、半ば意識が朦朧としたまま、荒い息をつくしかできない。

 全身が虚脱し、心臓は激しく脈打ち、呼吸は激しくなるが同時に浅くなる。

 薄れていく意識の中で、最後に見えたのは、必死に涙をこらえる姉ちゃんの顔だった・・・






 翌朝のとある小学校での会話。

「あれ? アリサちゃん休みなのかな? すずかちゃん、なにか聞いてる?」

「病院に寄ってから来るんだって。昨日の夜、マシューくんの具合がまた・・・」

「そうなんだ・・・そろそろ学校に来れるくらいになるって、先週、嬉しそうに話してたのにね・・・」

「そうだね・・・早く治るといいね、マシューくん・・・」








「というわけで、妙な夢を見たんだよ。」

「へー。ほんまに妙な夢やなぁ。」


 飽きるほどに見慣れた病室で、病院仲間の八神とダベる。八神は下半身が麻痺していて、まともに歩けた記憶が無いそうだ。定期的に

心臓が暴動を起こして担ぎ込まれてくる俺とは顔馴染みで、いつの間にか親しくなってた。八神も心臓が痛むことがあるそうで、俺は

まだ歩けるだけマシかと思う。


「それはどーかなー。私、マーくんと違って、マジで動けなくなることってあんまないしな。」

「地の文に突っ込むな。あとマーくんはやめい。俺だって、マジで動けなくなることなんて一年に何十回かくらいしか・・・」

「それだけでも十分やがな。うちはそんな経験、これまでで2~3回くらいしかないしなぁ。」

「今年はまだ十回に達していない・・・俺も健康になってきたもんだ。」

「笑えんなぁ・・・そのジョーク。」

「おっし! 入ったー! 油断したな八神! このまま決めてやる!」

「あああ卑怯や!」

「ふはははは。金髪マッチョのアメリカ人のくせに八極拳を使うなどというわけわからんキャラはボコボコじゃ!」

「それがええんやないか! そんなひょろいジャッキーもどきのコンボなんて・・・」

「7、8コンボ・・・しまった途切れた!」

「甘い! 浮け!」

「なんの防ぐ! そんな大技当たるか!」

「はいそこで下段から崩拳やぁ!」

「ぐはああああああ。」


 鉄○シリーズを通じてコンスタントに強いキャラを使う八神。どちらかといえばトリック系キャラが好きな俺。二人ともゲームくらい

しかやることがないような境遇なので腕の差は無い。そうなるとどうしても八神が勝ち越してしまうのだ。

「おのれ・・・チャンピオンでリベンジだあ!」

「ふ・・・プロレス技にこだわるマーくんのタイ○ーマスクなんて怖ないわ。」

「言ったな八神! 今度こそグラウンドのフルコンボを決めてやる!」

 ○拳の激闘を続けるうちに検査の時間が来た。んじゃまたなーと八神と分かれる。

 くそう・・・また負け越した・・・












(あとがき)

あんまり激しく戦うような展開には全くならないまま・・・バニングス弟の闘病記が続きそうな話でございます。

第三者視点から、エースたちを見守るような流れで行くと思われます。

ご意見、ご感想をお待ちしております。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/16 04:35
マシュー・バニングスの日常   第二話





 16時くらいに、また姉ちゃんが見舞いに来た。良くも悪くもなりそうも無いんだから来なくてもいいよ・・・って昔、言ったことが

あるが30分くらいマジ泣きマジギレされたので不用意な発言は控える。午前中も二時間目までサボらせたので心苦しいのだが。


「調子はどう? マシュー。」

「なーに絶好調だよ。ヒマなんでゲームして遊んでたし。」

「ホントに?」

「ホントだってば。」

「・・・うん、顔色は良くなってるわね。」

「月村さんも高町さんもわざわざありがとね。別に大したことないから大丈夫だよ~」



 姉ちゃんの親友二人組み、月村すずかさんと高町なのはさんもなぜかやってきていた。

 月村さんは普通に優しい子である。控えめで穏やかで大和撫子って感じ。

 高町さんもいい子だけど、姉ちゃんとは別のベクトルで押しが強い。しかし俺に対しては常にビクビクしている。実は一年生のとき、

久しぶりに学校に行った俺に対して、自分を「なのは」と名前で呼ぶように強要しようとしたことがあり、追い詰められた俺がマジで

倒れて三日寝込んだというシャレにならない事件があったのだ。



 姉ちゃんが月村さんをいじめていた時に、強引に仲直りさせて、それから親友3人組になったという出来事の後に起きたことで、

姉ちゃんマジ切れ、高町さん蒼白、月村さんパニック、高町さんの親御さんまで出てきて頭を下げるという大騒ぎになってしまい、

高町さんに無用なトラウマを背負わせてしまった。俺は大して気にしていないのだが(なにせ倒れたのはその年で既に10回を超えて

いたし)、やっと学校に行ける状態になった俺を速攻で病院送りにしてしまった高町さんには大変なショックだったらしい。


 気にしないでくれ~俺は気にしてないよ~と百回は言ってるはずなのだが高町さんは未だに気にしている。

 善意と親しみで押した行動が、まるきり裏目に出るって経験がなかったんだろうなあ。

 でもそこが彼女の長所だと思うので、そんなに控えめになることもないと思うのだが・・・


「うん、思ったよりも元気そうで安心したよ。」

と微笑んでくれるのは月村さん。いいな~なごむわ~。


「ほ、ほんとに大丈夫?」

と腰が引けながらなんとか微笑んで見せるのは高町さん。うーむ。



「ほら、あんたが言ってた地図、持ってきたわよ。」

と微妙な空気を切り裂いて、姉ちゃんが海鳴市の地図を手渡してくれる。午前中に気まぐれに頼んだのだ。俺から何かを頼むことは

めったに無いので姉ちゃんは俺の頼みはほぼ絶対的に聞いてくれる。どんなに不可解な頼みであってもだ。


 手渡された地図は、広げれば大きな一枚の紙になるタイプの「海鳴市街図」。コンビニとかで手に入る安いやつだ。


「でもなんでそんなもんが欲しかったのよ。」

「う~ん。気のせいだとは思うんだけどね。ちょっと待ってね。」


 俺は地図を広げ、枕もとの筆立てからマーカーペンを取り、少し目を瞑り、昨日の夢の記憶を思い出す。



・・・あの妙な石が落ちた場所・・・その俯瞰図・・・



 目を開けて、記憶が薄れないうちに、素早く地図上にマークしていく。うーん、15箇所くらいしか思い出せないなあ。



 地図を前に、マーキー片手にうなる俺の横から3人が地図をのぞきこむ。マークされた場所は不規則で、一体なんの印なのか、

分かるはずもない。


「で、なんなのよこれは。」

「うーん、言ってもバカにしないでくれよ?」

「内容によるわね。さっさと吐きなさい。」


 倒れて入院してる双子の弟にも手加減しない、そんな貴女は素敵ですアリサお姉さま。

 で、八神にも話した例の夢について話してみる。


 と、なんというかコメントに困る、という顔をしてる二人。


・・・ん? 二人?



 姉ちゃんと月村さんは、「なに言ってんだろうこいつ、とうとう頭に来たのか」という感じの、悲壮感すら混じったような表情をして

いるのに対して(それもかなり傷つくのだが)


 高町さんだけ何か違う。この表情は、驚愕? そしてそれを必死に隠そうとしている?


「高町さん、どしたの?」

「え?! にゃ、にゃんでもにゃいょ!」


 ううむ。これほど分かりやすく動揺する人は見たことがない。


「なのは? なんか心当たりでもあるの?」

「なのはちゃん? なにか知ってるの?」

「え、ええええええっと、にゃんでもないです!」



「「「・・・・・・」」」

 高町さん以外の3人の無言の視線が集中する。沈黙に耐えかねて高町さんはいきなり俺の話した夢の話に話題を引き戻そうとした。



「で、でさあ! それじゃあマシュー君は、夢で不思議な石が落ちてくるのを見て、その位置を覚えてたってことなんだね!?」

「ん~まあそうなんだけどさ。夢の話だし。」

「でもさあ! 不思議な夢だよね! うんうん、ほんと不思議だな~」

 高町さんは何か空回りしながら発言を繰り返してる・・・ほんとに何か知ってるのかな?

 っていっても元ネタが俺の夢の話だし・・・

「ちょっとその地図、貸してくれる?」

 と言うが速いが、俺の手元から地図を奪い異様な集中力でガン見してる。まるで覚えようとしてるかのような感じだ。

 高町さんの異様な雰囲気に、姉ちゃんも月村さんも若干引いている。

「う~ん。この地図の縮尺だと誤差が結構・・・」

とかブツブツ言いながら地図を見つめる高町さんは結構怖いと俺も思った。夢の話だってばさ。



「え~と、高町さん?」

と俺が穏やかに呼び戻そうとしても返ってこない。姉ちゃんにアイコンタクト。

「なのは!」

姉ちゃんのデコピン炸裂。

「あうううう。何するのアリサちゃん。」

「それはこっちのセリフよ。なんかおかしいわよあんた。」

「なにか気になることでもあったの、高町さん?」

「え、えっとね、うんとね・・・」



 ふむ、ラチがあかない。何がなんだかよく分からんが・・・


「なんか地図が気になるみたいだし・・・なんか良く分からんけど、貸そうか? それ。」

「え! いいの!?」

「そんな勢いで喜ばれると引くんですけど・・・」

「あ、ごめん。」

「俺だけじゃなくて、姉ちゃんも月村さんも、なんだかわけ分からん状態だし・・・そのうち説明してくれるなら貸すってことで。」

「うう・・・うん、わかったよ。ありがとう。」

「ありがとうってあなた・・・夢の話だって言ってるでしょうが・・・」

 とかなんとか言いながら姉ちゃんたちは帰っていった。






「・・・というわけで、夢の話なのに異様な盛り上がりだったんだよ。」

「ふーん。その高町さんってなんか変わった子やなぁ。」



 個室であるはずの部屋で八神と夕食を摂る。

 この状態になるまでには紆余曲折がある。


 なにせ俺はものを食わない。俺の食事は「The 病人食!」といった感じの味も素っ気も無い、流動食とスープばかりのもので、

健康な人間の口には全くあわないものであるらしい。しかし俺は少しでも塩気がきついとか、肉が多くて重すぎるとかになるとホントに

全く食わなくなるので、俺の要望を入れる形でどんどんと味は薄くなり、たんぱく質は少なくなり、量も少なくなり、しかもそれでも

俺は残すことが多い。

 半強制的にムリに食べさせようという試みは、とっくの昔に挫折している。そのたびに意識不明の重態になったからである。


 しかし前に一度、偶然、八神と一緒に食事を摂った時に、出されたものを残さず食べるという快挙を成し遂げたために、八神が一緒に

食事を摂る場合は、無条件でそうしてよいと認められているらしい。


 ちなみに、姉ちゃんと一緒に食事した時は、俺の食事のあまりのマズさに味見した姉ちゃんが例によってマジ泣きしたために、

かえってほとんど食えなくなったという記録が残っている・・・


「しっかし相変わらず、マズそうなご飯やなぁ。」

「しょーがねーべ。っていうか正直言うとだなあ。」

「ん?」

「生まれてこの方、メシがウマいとか感じたことはない。」

「・・・」

「食わなくてはいけないって義務感で食ってるってのが本音だし。」

「・・・」

「っとゴメン。妙な話した。暗くならんでくれぃ。」

「いつか絶対な。」

「ん?」

「いつか絶対、うちのめっちゃ美味しい手料理を食べさせてやるわ!」

「へ? お前、料理とかできるのか?」

「失礼やなあ。これでも料理は得意なんよ?」

「へーすごい意外。」

「覚悟しとれや! その言葉、後悔させたるで!」

「おう、期待しとくよ~」

「せやから・・・それまでに・・・」

「分かってるって。体を治して・・・」

「うん、絶対に二人で元気になるんやで!」


 八神の下半身不随は治療法が無い。俺の心臓疾患も治療法が無い。

 本音を言えば俺はどこか諦めてる。八神も似たようなもんだろう。

 でもまあ・・・

 八神の作るメシを美味しいと感じられるくらいまで健康になれるなら、意味があるような気もした。


「ふ~なんとか食い終わった・・・疲れた・・・」

「おし、ちゃんと全部食べたな、ええ子やな~マーくん。」

「ええい! てめぇ同い年だろうが!」

「ふん。うちより体重軽いくせに。」

「うぐぐ・・・それは言うな・・・」

「せめて腕相撲で勝てるようになったら意見も聞いたるわ♪」

「おのれ・・・舐めんなよ・・・男女差があるんだから、そのうちきっと・・・」

「そうなるとええな~」

「くっそ~いつか絶対押し倒してやる・・・」

「できるもんやったらやってみい。」

「あ~眠くなってきたかな。食事って疲れるんだよな・・・」

「そか、じゃあまた明日な、マーくん。」

「マーくんはやめい・・・」


 車椅子を回して八神は出て行った。ちょっと微笑んでいたような気がしなかったでもない。






 某剣術家の娘の部屋にて。

「ねえユーノ君、この地図見て!」

「えっと・・・これはこの付近の地図なのかな?」

「そう! で、ここがユーノ君の倒れてた公園。ここが私が初めてジュエルシードを封印した動物病院。」

「このマークはなに? なのはが付けた・・・ってわけでもないのかな。」

「あのね、私のお友達のアリサちゃんの話はしたっけ。その弟にマシュー君って子がいてね・・・」


(しばらくお待ちください。なのはが興奮した口調で要領を得ない説明を頑張ってしてます)


「ううん・・・話は分かったけど・・・偶然じゃないのかなあ。だって微妙にずれてる位置に印が付いてるような感じだよ?」

「マシュー君は、落ちた場所をマークしたって言ってたよ? その後に微妙に動いたから、ずれてるんじゃないかな?」

「確かに可能性としてはあるよ? でもね、その話を聞くと・・・」

「なにか変なの?」

「いや、彼の言葉通りだとすると、彼はデバイスも無しで、ありえないくらいの広域探査魔法を発動したってことになるんだよ。」

「それっておかしいの?」

「しかも励起状態になっていないジュエルシードの位置まで正確に把握するってのは・・・それが出来たら苦労は無いって話でさあ・・・

僕だって、それが出来ないから困ってるわけなんであって・・・」

「ねえ、それって絶対に出来ないことなの?」

「それは絶対とは言わないさ。僕だってまだまだ未熟者だし、防御とか結界には少しは自信あるけど探査は専門家レベルとは行かない。

でもね、励起状態でないジュエルシードの場合、どんなに腕の良い探査系魔道士でも、やっぱりせめて数百M以内とかじゃないと

分からないはずなんだよ。専門家であるスクライア一族でも、そのくらいが限界だったし・・・」

「う~ん」

「彼は下手すると十キロ単位とか、そのくらいの範囲で、しかも励起状態でないジュエルシードの位置を探査できた、しかもしかも

デバイスもなしでってのは・・・ちょっと現実問題、ありえないとしか言えないよ。」

「ううう・・・」

「悪いけど、僕の意見としては、これは保留かなあ。」








(あとがき)

 様々な設定については細かく考えないで頂けると幸いです。

 でもあまりにも違うだろってとこは教えてもらえると嬉しいです。




[7000] マシュー・バニングスの日常  第三話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/16 04:41
マシュー・バニングスの日常  第三話






 検査入院でしかなかった八神は翌日には退院してしまい、俺はヒマだった。

 あいつがいなければ対戦できないしなあ。実際、一人でCP相手に技を覚えても、意味がないとは言わないが、必ずしも有効に

活用できるとは限らないもんだし。

 今は懐かしきバイ○ハ○ード2で豆腐の大冒険でもやるかな・・・あのクリアなんて出来るわけがない絶望感がたまらん・・・



 俺は普段から、恐らくギリギリ生きてるか生きてないかレベルで何とか生きてる程度の状態のため、一度、倒れることによる

消耗を回復するのに少なくとも数日はかかる。

 俺がゾンビ相手のムナしい戦いを始めようかというときに、珍しい客人が来た。




 なんか思いつめた様子の高町さんである。




 高町さんは誤解してるんだろうが、実は俺は基本的に高町さんのことは好きである。

 明るいし前向きだし、姉ちゃんの暴走を強引に止めてくれるキャラクターを持ってるし、姉ちゃんのかけがえの無い親友でもあり、

嫌いになれるはずがないのだ。

 「なのは」と呼べと詰め寄られて発作を起こして倒れた一件にしても、姉ちゃん以外の女の子にあんなに近づかれたのが初めて

だったのでドキドキしたというヘタレな理由が実は一番大きかったんだと思うし。倒れて妙なトラウマを負わせてしまってホントに

悪かったと思う。

 しかしそれにしても一人で見舞いにくるってのは珍しい。例の件以来、高町さんは俺と一対一で会うのは怖がっていたのだが。

「んと、どーしたの高町さん。珍しいね。」

「うん、迷惑だったかな?」

「いやヒマだったし。基本的に人が来てくれるのは歓迎。」

「そか。よかった。」

「・・・」

「・・・」



 沈黙が痛い・・・



「うーん・・・」

「・・・」

「あのさあ、ここはぶっちゃけて話そうよ。」

「え?」

「高町さん、ズバリ、なんか用事があって来たんじゃないの?」

「あ、でもお見舞いもね・・・」

「うんうん、それは分かってる。でも他にも用事あるんでないの?」


 しばらく黙って下を向いていた高町さんは、決心したのか足元のカバンからなんかボロボロになった紙を取り出した。


「実は、これの話なの。」

「ってなにそれ。なんかボロい紙だね。」

「ボロい?・・・ああ! ホントだ! ごめん弁償するね。」

「いや心当たりが無いんですが。」

「いや、ほら前に見せてもらった地図だよ、ほら。」

「おおう、確かに。しかしなぜそこまでボロボロに・・・それ貸してからまだ何日かしか経ってない気がするんだけど。」


 再び沈黙が。よほど言い出しにくいことらしい。



「実はね・・・」

「ん、なに?」

 高町さんは決意を目に真剣な口調で話し出した。なんか雰囲気違うなぁ。



「驚かないで聞いて欲しいんだけどね。」

「うん、努力する。」



「・・・マシュー君の見た夢は、多分、正夢なの。」



「・・・ん? どういうこと?」

「不思議な石が、たくさんこの海鳴に落ちてきたってのは本当だってことなの。」

「へー。」

「実際、マシュー君がつけたマーキングに従って探してみたら、立て続けに3つも見つかったの。」

「へー。」

「街中とか人の多いところではともかく、そうじゃない場所なら凄い精度で見つかってるの。」

「へー。」

「へーって・・・驚かないの?」

「いや、夢の話を真に受けて、わざわざ実際に探してみる高町さんのヒマ人っぷりには驚いてますよ。」

「だから! 現実に石は存在したんだってば!」

「ふむふむ。」

「ふむふむって・・・」



 いきなりそんな話をされてもねぇ。



「高町さんの頭の中身って俺の想像以上にぶっ飛んでたんだなあ。」

「違うって! ホントにホントなの!」

「はああああ・・・じゃあ一応確認。その石とやら、持ってたら見せて。」

「え! いや、持ってないわけじゃ無いんだけどね、でも今はちょっと・・・」

「家にでも置いてあるのかな?」

「いやそうじゃなくて、今も持ってるんだけどね、でもちょっと事情があって・・・」

「そのカバンの中にでも入ってるの?」

「そうじゃないんだけどね、でも。」

「なるほど・・・うんうん分かったよ。このことは黙っておいてあげるから・・・」

「ちょっとまって! なんか誤解してない?」

「大丈夫、いつもの高町さんなら精神疾患とか感じないから、ゆっくり休めばきっと。」

「違うってば! ホントに持ってるの!」

「じゃあ見せてみ。」

「だからそれには事情があって!」

「うんうん、分かってるよ。今日は帰ってゆっくり休みなさい。」

「だーかーらー!」


 しばらく押し問答が続く。メンドイので話を切り替えるとしよう。


「えーっとさ、高町さん。とりあえず地図を弁償するとか言ってたよね。」

「う、うん。」

「じゃさ、近くのコンビニでも行って同じ地図買ってきてくんない? 手持ち無ければ貸すから。姉ちゃんに返してくれれば。」

「いや大丈夫! うん、ちょっと待っててね。」


 互いに頭を冷やすために時間を作ることには成功したかな。


 しっかし何がどうなってるんだか。

 あれは夢・・・にしてはリアルだったような気もするが、しかし宇宙船とか出てきた時点で夢だろう、どう考えても。

 石が落ちてきたのは本当ねえ・・・

 ああ~なんつうか正直言うと・・・

 ダルい。

 メンドい。



 これは何年も経ってから当時の自分を振り返って分かったことなんだが、このときの俺はありとあらゆる意味でスタミナというものが

無かった。肉体的にはもちろん、精神的なスタミナもだ。きちんと根をつめて考える、筋道を立てて理が通るように頭を使う、という

行為も、ちゃんとできなかったのだ。恒常的な疲労感、定期的な苦痛に耐えるため、俺は俺自身を鈍くしていたように思う。だから

結局の所、大して考えることも無く、思いつきだけで行動していたのだろう。


「お待たせ~」

「おかえり。んじゃちょっとその新しい方、貸してみ。」

「え? うん、はいどうぞ。」



 俺は大して考えることもなく、ただメンドイから話を早く終わらせるために、また適当にマークでも付けて、やっぱりデタラメだった

という結論にしようと思っていた。後になって思えば、この完全に近い無心な状態、何の成果も求めない心が、皮肉にも異常な成果を

実現する動因となったのだろう。



 まあとにかく俺は、ただ集中するフリをするつもりで目を閉じて、なんとなく前の夢を思い出した。

 自分を中心にセンサーが限りなく広がっていく感じ・・・

 っと・・・海鳴が上から見える・・・あの妙な石も見えるなあ・・・

 集まってる場所もある・・・

 あと変な人・・・妙な力を感じる人が・・・


 目を開ける。同時に忘れないうちにと速攻で石の位置をレの字でマークしていく。

 さらに変な人がいたところには×マークを付けていった。

 作業が終わって、地図を高町さんにわたす。


「ふ~これで所詮は夢の話だってはっきりすんでないかな~」

 俺の気楽なセリフに高町さんは全く同意しなかった。なんだか前にも見た愕然とした表情で俺のほうを凝視して、口もポカンと

開けっ放しだった。なんつーかマヌケである。

「どしたの?」

「い、いやそのうん、えっとはい見せてもらうね!」

 ユカイに動揺しながら高町さんは地図で顔を隠す。しばらく見入っていた高町さんが5分ほどしてから再起動。



「えっとさ、確認なんだけど。」

「うん。」

「レの印のところが、石の位置かな?」

「そだよ~なんか前よりはっきり分かったようなそうでないような・・・まあ微妙なんだけど。」

「×は何?」

「なんか変な人がいたところかな。」

「変な人?」

「まあそうとしか言いようが無いな。とにかく妙な人。例の石ほどではないけど、なんか変だ。うまくいえないけどね。」

「ねえマシュー君ってさ・・・私の自宅ってどこか知ってる?」

「なんだよいきなり。翠屋は知ってるけど、確か自宅は違う場所だっけ? まあ知らないけど。」

「これ、この×印。うちなの。」

「ほほう。では高町さんの家に変な人がいると・・・いや知らなかったわけだし、そもそも夢の話だし、そんなマジな顔しなくても。」

「ううん、怒ってるわけじゃなくてね・・・」

「えっと・・・そういや今になって思い出したけど、なんかこの病院付近も俺、マークしまくってなかったっけ?」

「え? ああホントだ・・・レが集中してる・・・×も幾つかあるのかな?」

「ふむ、ということは病院付近に例の石が大量に存在して、しかも変な人もたくさん・・・て無いじゃないか。これだけでもデタラメ

だってはっきりしたなあ。ああ良かった。」

「・・・そうだね・・・」



 で、その後は大した会話も無く、夕食の時間が来たので高町さんは帰っていった。貸すとも言ってないのに新しいほうの地図も

持って行ってしまったのは天然というのだろうか。


 高町さんが帰って行った後にすぐ、何か凄い脱力感が体を襲った。

 まるでこれまでは何かが補給されていたから何とかなっていたのが、それがいきなり無くなって、本来ならばこうなるはずだった

状態になるかのように・・・あ・・・やばい・・・これはまた意識失うかな・・・





「マーくん、そろそろ夕飯の時間やで。」


 急速に意識が戻ってくる。あれ?・・・発作でも起きるかと思ったのに力が戻ってる。


「って八神、お前、退院したんじゃ無かったっけ。」

「やっと起きたな。なんか妙に深く眠っとるから心配したんやで。」

「ああっと・・ああそうか俺は眠ってたのか。で、なんでいるのお前。」

「なんやその言い方は~せっかくうちが手料理を作ってきたったのに。」

「手料理? っていつものお粥とスープじゃん。」

「甘い! 主治医の先生とか栄養士さんと相談して、うちが作り上げた間違いない手料理やで!」

「あ~八神、気持ちは嬉しいんだけどさ、俺は普通の人が食うようなものは食えなくてだなあ・・・」

「大丈夫や! ちゃんとそこも考えてある! マーくんは濃い味とか重いものとか受け付けへんからな、繊細な味の部分で勝負や!

とにかく騙されたと思って食べてみい!」


 そこまで言われては仕方ないので、スプーンでスープを一口・・・


「あれ・・・なんか違うなこれ・・・いつものとは・・・」

「せやろ!」

「お粥の方は・・・あれ? 確かにこれも違う・・・」


 これまでに感じたことの無い感じ・・・


「ああそうか、これが美味いって感じなのかな・・・」

「ふふふ・・・うちの勝ちやな!」



 その後、八神が、丁寧なダシの取り方から、野菜の一品一品に至るまでの切り方、下ごしらえ、火を通す順番などのこだわり、

お粥にしても単に米が砕けるまで煮るなんて単純なものではなく、絶妙な水と米のバランスや火加減の調整などについて薀蓄を

垂れていたようだがよく覚えていない。

 俺が珍しく、ほとんど中断せずに一心不乱に食事を摂るのを満足げに眺めていた八神は、俺が食い終わると、俺に礼を言わせる

ヒマも与えずにさっさと帰ってしまった。

 今度、何か礼をしないとな・・・


 食い終わった俺は、例によって速攻で眠りについてしまった。




 某喫茶店の娘の部屋にて。


「見てこれユーノ君。」

「前とは微妙に位置が変わってる?」

「それとさ、ユーノ君、私が病院に行ってた時間、うちにいたんでしょ?」

「うんそうだけど・・・ん? この×印・・・」

「奇妙な力を感じる人がそこにいる、って印だって言ってたよ。」

「それとこの病院の位置の集中は・・・」

「私と、マシュー君、それに私の手元のジュエルシード、それを全部書き込むとそうなっちゃったんじゃないかな。」

「ちょっと待ってよ、仮に彼が、ジュエルシードの位置を認識できるだけでなく、魔道士の位置まで分かるっていうのなら・・・」

「ん?」

「この家の位置は良いよ、僕がいたからね。病院も良い、なのはと彼がいたわけだから。でもこれ見て。かなり離れた場所にも×印が

ある。これが本当なら、他の魔道士がいるってことになるよ。」

「マシュー君みたいに、自覚してないけど、何らかの力を持ってる人がいるってこともあるんじゃない?」

「ううん・・・これはその時の位置に過ぎないからね・・・正確に把握するには継続調査が・・・いやまだ確実に彼にそんな探査

能力があるって決まったわけじゃないし・・・」

「ユーノ君も頑固だねえ。私は間違いないと思うけどなあ。それはともかく週末は、すずかちゃんの家に遊びに行く約束してるから、

そのとき、このすずかちゃんの家のところの印を調べよう?」

「友達の家なんでしょ? なんで後回しにしたのかよく分からないんだけど。」

「すずかちゃんの家はね・・・すっごく広いし、敷地内を無断で歩き回るなんて危険なマネは出来ないのよ・・・ちゃんと招待されて

行くんだったらいいんだけど、気づかれずに無断で入るってのは無理なの・・・」

「どういう友達なんだい・・・」







(あとがき)

 戦闘シーンは基本、傍観すらせずに事後報告で流す予定です。

 それでいいのかと疑問に思いつつ、とりあえず今の感じでいってみます。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/16 04:42
マシュー・バニングスの日常   第四話





 さて週明けである。俺も無事退院することが出来た。週末も八神がまた遊びに来たのでゲーム三昧の日々であった。でも考えて

みると俺って八神の住所も電話も知らないなあ。余りにも病院でよく会うもんで必要性を感じなかったという笑えない理由が原因

なのだろうが。


 八神の家に遊びに行くという案も考えないでも無かったのだが、なにせ俺は、いつどこで倒れるか分からない体だ。

 八神の目の前で倒れるのは避けたい・・・そうなると八神自身には何もできることがないしな。

 まあ今度、電話番号の交換くらいはするかな~とか考えながら、二週間ぶりくらいの学校へ登校した。



 うちはスクールバスによる登校が主流だが、俺の場合は自宅から車で送ってもらっている。

 さらに歩けないわけでは無いのだが車椅子に座ってる。俺の体は長時間の歩行に耐えないからなあ。

 校門前に待っていた姉ちゃんたちと合流し、いつものように姉ちゃんが車椅子を押す。



「あ~学校久しぶりだわ。ついてけるかなあ。」

「大丈夫でしょ。分からないところは教えてあげるわよ。」



 学校では姉ちゃんは俺にベッタリである。席も隣だし、授業中以外の時間も常に俺のそばにいる。俺が学校で姉ちゃんから離れるのは

トイレと、体育前の着替えの時間くらいである。過保護じゃないかな~と昔、遠まわしに言ってみたのだが、いつ倒れるか分からない

くせに生意気言うなと一刀両断だった。

 俺としては、姉ちゃんは俺に構わずに自分の可能性を追求してくれたほうが嬉しいのだが、姉ちゃんは俺が何を言おうと絶対に

俺を構うのを止めようとはしない。この辺は堂々巡りで、議論してもムダであるのは身にしみている。



 その日は何だか雰囲気が妙であった。

 仲良し3人組であるはずの姉ちゃん、月村さん、高町さんの間に流れる雰囲気がギスギスしている。

 観察してみると、高町さんが何か鬱屈したような表情をしていて、姉ちゃんと月村さんはそれについて訊きたくても訊けないような。


 昼食時、俺と3人は屋上で弁当を取る。俺は弁当とは言っても魔法瓶に入ってる流動食と、大量の薬だけなんだけどね。


 天気は晴天。実に気持ちの良い日だ。俺は、今度病院に行くときは携帯電話を持っていって八神と番号を交換しよう、でもその

ためには意識不明にならずに病院に行く必要がある、そういえば八神の定期健診の日も分からないし、いっそ姉ちゃん付きの執事の

鮫島さんにでも頼んで八神の番号でも調べてもらったほうが早いかな~とか考えながら粥をすすっていたのだが。



「もういいわよ!」

 とお姉さまの怒声が響き、肩を怒らせていきなり屋上から退場していった。なんだ? 俺が原因・・・ではないよな。

 月村さんはオロオロしている。

 高町さんは下を向いて表情が見えない。


「月村さん。」

「な、なに? マシュー君。」

「俺はこの場に留まった方が良いかな。それとも姉ちゃんを追ったほうが良いかな?」

「え~と、それじゃ・・・なのはちゃんをお願い! 私はアリサちゃんの方に行くから。」

「りょうか~い。」



 高町さんは下を向いたままだ。姉ちゃんたちの話は正直、よく聞いてなかったが、つまりは高町さんが何かに悩んでて、その悩みを

姉ちゃんが例によって「隠し事をするな! 何でも話せ!」というおせっかいモードを発動させて聞こうとしたのに、高町さんは

打ち明けることが出来ず、姉ちゃんが逆切れしたってとこかな。

 俺が誰の味方をするか、といえばもちろん、無条件かつ絶対的に姉ちゃんの味方ではあるのだが。

 しかし姉ちゃんが短気なのは身内であるからこそ良く知ってるし。



「高町さんさあ・・・なんか悩んでるんだよね。」

「・・・」

 答えは返ってこない。姉ちゃんなら同じ問いを繰り返した末に切れるだろうが俺は違う。

「簡単に言えるような悩みじゃないんでしょ。だったらその内容は訊かないからさ。」

「えっ。」


 俺の気軽な口調に高町さんは顔を上げる。ぶっちゃけ俺は姉ちゃんほど情が熱くないだけなのだろうが、でもそういう冷静さが

必要とされる局面ってのもあるんでない?




「言え、言えない、の押し問答繰り返してもしょうがないし。でもさ、あんな短気

な姉ちゃんだけど、高町さんのことを本気で心配してるってことだけは分かって欲しいんだよね。」

「それは分かってるよ! もちろん! ・・・でも。」

「うんうん、だからさ、今は言えない、けど、いつか言えるときが来たら言うから、って約束すればいいんでないかな?」

「・・・」

「それとも、何があっても絶対にどうしても言えないような話? それならそれで、そういうことだとはっきりすればさ、そこを

敢えて訊こうとはしないと思うよ、姉ちゃんは。」

「ううん・・・うん、ありがとうマシュー君。いつか話すよ・・・話せる時が来たら。」

「それは姉ちゃんに言ってやってね。」

「ふふっ・・・マシュー君は聞きたくないの?」

「内容によるなあ・・・姉ちゃんならどんな深刻な話でも受け止めるだろうけど、俺はあんま重い話は勘弁。」

「えー。マシュー君にも聞いて欲しいなあ。」

「いやいや勘弁して~ってそろそろ休み終わるよ。」

「あ、そうだね。うん、じゃあアリサちゃんにはちゃんと話しておくね。」

「頼むわ。」



 高町さんはまだ何か悩んでる、それは変わってないが、まあ少しは表情が明るくなったかな?


 しかし下校時、俺は姉ちゃんから色々と問い詰められる結果になってしまった。

「マシュー、本当に何も聞いてないの?」

「だから、何も知らないってば。大体、高町さんと会う機会なんて学校くらいしかない俺が、なんで姉ちゃんより詳しいなんて

ことがあるんだよ。ホント何も知らないってば。」

「それはそうだけど・・・ねえ、どんな細かいことでもいいから心当たり無い?」

「だからそもそも会っていないから・・・あ。」

「なによ! やっぱ何かあるんじゃない!」

「いや、この前、高町さんが一人で見舞いに来てくれたことが。」

「なによそれ! 聞いてないわよ?」

「でも一時間もいなかったし、大した話したわけでもないし。」

「いいから! 何の話をしたのか詳細かつ正確に言いなさい!」

「ほら、前に姉ちゃんたちが3人で来てくれたときに出た地図の話? そのくらいしか。」

「ああなんかあんたが見た夢の話だったわね・・・まあそれはどうでもいいわ、他には?」

「いや他にはなんというか雑談くらいしか。」

「その雑談! 思い出せる限り詳細かつ正確に言いなさい!」

「そういわれてもさあ・・・」


 きつかったです、はい。少しは弟の体を思いやって欲しいと思いました。





 それから半月ほどは何事もなく日々平穏だった。

 連休に姉ちゃんと、高町さん一家、月村さん一家が温泉旅行に行くという話になって、俺もどうかという案も出たのだが、俺が

遠出をするとなると専属医とか専属看護師がついてくるとかの大げさな話になるし、気を使わせては悪いので、俺は大人しく家で

遅れた勉強を取り返す作業に励んでいた。

 あれから倒れていない。絶好調である。しかしそういう時期もあるというだけのことだということは分かってる。実際、先月は

ほとんど寝たきりで過ごしていたし。今月は好調だというだけ。

 病院に行く機会も無いし・・・八神としばらく会ってないな・・・



 高町さんの悩みは休み明けも解消されていないようで、雰囲気は微妙のままである。

 っと思っていたら、いきなり高町さんが学校を休んだ。

 なんでも家の事情でしばらく来れないらしい。

 何があったか知らないが、例の悩みの件と関係してるんだろうな。


 恐らく休み明けには元気になった高町さんが見られることであろう。

 うんうん良いことだ。

 平和だなあ。







(あとがき)

知らない所でなんか激闘が起きているのになんも気づかないまま平和に過ごしております。

戦わず関わらず、なんのフラグも立てない主人公の将来がちと不安です。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/16 05:09
マシュー・バニングスの日常  第五話






 マシューがのんびり暮らしていたその頃、衛星軌道上の謎の船のブリッジでは謎の会話が交わされていた・・・


「話は分かった・・・つまりこの地図にマークした人間は、自分が魔道士であるという自覚も無いのだな?」

「マシュー・バニングス君ね・・・なるほど、そこそこ魔力あるかな。でもそれほど規格外な探査魔法が使えるかどうかは

分からないわね。」

「生まれつき心臓が悪いというが・・・ん? 心臓?」

「リンカーコアの先天的異常の可能性が高いかも。この惑星の医療も、魔法関係を除けば決してレベル低いわけじゃないし。」

「治療可能か?」

「残念だけど遠くから見てるだけじゃ分からないかな。心臓自体もかなり弱ってるし。専門的調査が必要になると思う。」

「この距離から分かる範囲でいいから、精査することは出来ないか?」

「出来ないことはないけど、専門の医療機関で検査しなくては結論は出せないよ?」

「まあいい、できる範囲でやってくれ。」

「了解。」



 謎の船の謎の和室の中で。


「それじゃあマシュー君は治るんですか!」

「う~ん、やっぱり専門的検査をしなくては結論は出せないんだけど・・・可能性はあるわね。」

「マシュー君は世界中の病院を回ってきたんだってアリサちゃんが言ってました。それでも治らなかったって。もし魔法的治療で

治るんだったら、すごく喜ぶと思うんです! お願いします! マシュー君を助けてあげてください!」

「落ち着いて、なのはさん。」

(う~ん、これは難しいわね。治療できる可能性があるにしても、これまで魔法のことを全く知らなかった人間にいきなり接触する

のは禁じられているし。リンカーコアの異常という線は固いだろうけど、それに引きずられて心臓だけでなく全身くまなく弱ってる

ようだし・・・どのみち治療するには専門施設への長期入院が必要になるわ。アースラの医療室なんかで片付くレベルじゃない。

 でも、なのはさんみたいに事故的に巻き込まれたって事情があるわけでも無いから、いきなり接触するわけにも・・・

 それにしてもこの探査能力は桁違いなのよね・・・

 二枚の地図の情報を元にしてアースラでシミュレーションしてみたら怖いくらい正確にジュエルシードの位置が分かったわ。

 ああ、そういえば、この海にまとまって落ちてるジュエルシードについては、先に回収するべきか・・・それとも敢えて残して

おいて、フェイトさんを誘き出すのに使うべきか・・・

 う~ん。あれもこれもどうしようかな・・・)




 なんか見られてるような気がして、落ち着かない気分になったのは、高町さんが学校を休むようになってちょっとしてからだった。

 誰かが近くにいるときはそうでもないが。例えば深夜に一人きりになったとき、ふとしたはずみに、確かにどこかから見られてる、

それも無遠慮に凝視されてるような妙な感覚がするようになった。

 よく「視線を感じる」などと言うが、実際にはそんなもの無いだろうと俺は思ってる。だからこそこの違和感には戸惑った。

 近くに人がいれば、そのうちの誰かが見ていた、ってことで済ませられるのだが。

 誰もいないときに限って、その違和感があるのだ。



 その夜、違和感がさらに強くなった。

 ただ見られてるレベルじゃない。凝視されてるって程度でも無いな・・・なにか、ほとんど感じないようなレベルだけど、妙な

力が体に注がれて、ああそうだこの感覚は、レントゲンとか取るときの放射線が体を透過するときの違和感に似てるような・・・

 その時の俺は、ベッドに横になって、うつらうつらとしていた。半覚醒状態だわな。


 だからこそ何の自制もせずに、全力全開で、その違和感の元を探ってしまった。



 その頃、謎の船のブリッジでは謎の二人がまた妙な会話をしていた。

「精査の進み具合はどうだ?」

「60%経過。う~ん、彼のリンカーコアは出力は凄いのに、魔力を大気から集める方に問題があるのかな。バランスがとれて

いない感じ。だから体中の微弱な魔力までムリやり引きずり出そうとして、体に負担をかけてる可能性が・・・」

「ふむ、意外と出力リミッターをかければ、それだけで安定したりしないか?」

「素人考えは危険だと思う。心臓だけでなく体中が衰弱してるから、気軽に手を出すと取り返しのつかないことになる可能性もあるし。

リミッターかけて、これまでのバランスが崩れたとき、彼の体のどこかに新たな負担がかかったりしたら、それだけで死んじゃう

可能性は大いにあるわ。」

「確かにそうだな・・・やはり入院が必要だな。」


 二人の見つめるスクリーンに急に異変が現れた。


「探査魔法の発動を確認! 凄い出力!」

「何事だ!」

「凄いわ! 彼を中心に50以上のサーチスフィアがドーム状に展開して、さらに凄い勢いで広がっていってる! これは・・・

もしかして気づいてる? ドーム状だった形が崩れて、一直線にアースラ目掛けてサーチスフィアが近づいてきてる!」

「なに!」

「うわ届いた! 気づかれてる! 見てるわよ、これ。」

「バカな! 衛星軌道上で、しかも隠蔽されているアースラに気づくはずがない! 大体、魔力反応なんて感じないぞ!」

「これ見てクロノ君! 対外魔力レーダー、通常なら誤差の範囲内くらいしか数値の変動が無いけど、さっきから、繰り返して

確実に、その一定値の誤差が連続して観測されてる!」

「しかしサーチスフィアにしても反応が弱すぎる!」

「信じられないくらい薄い密度の魔力だわ! なのにサーチできるだけの形は保ってる? 凄いわこれ。

こんな薄い魔力を制御できるはずないのに・・・これ体感だったら絶対気づけないわよ。今だって、あらかじめ注目してたから

気づけたようなもんだし。」

「彼はこちらを見てるのか? 確実に。」

「いやあ確実にどうかって言われると自信ないけど・・・なんせこんなレベルの探査なんて・・・ああ!」

「どうした!」

「まずい! 魔力切れを起こしてバイタルに異常が! 心臓発作だわ! 全身も痙攣してる! バイタル低下!」

「くっ! 緊急事態だ! 仕方ない、僕の責任で緊急転送を!」

「なにごとですか、クロノ執務官。」

「艦長! 例のマシュー・バニングスが精査中に!」

「ああっ! お姉さんたちが部屋に駆け込んできた!」

「なんだと!」

「看護士さんらしき人が何か注射したわ・・・落ち着いたみたい。お姉さんが病院に連絡してる。入院するみたいよ。」

「大丈夫なのか? 命に別状は?」

「どうだろう・・・とりあえず落ち着いたみたいだけど・・・繰り返しになるけど、やっぱりこれムリだよ・・・専門的な医療機関じゃ

なければ分からないってば・・・」

「そうか・・」

「ゴメンだけどクロノ君、私、もうイヤだからね、これ。下手に刺激するとまた命にかかわるレベルの問題になるわ。」

「エイミィ・・・分かったよ、確かにな。」

「で、二人とも、報告してくれる?」

「「は、はい。」」






 遠くから八神の声が聞こえる。

「マーくん、聞こえてるか~?」

「なんか相当危なかったらしいで、今回は。一回、心臓止まったって。お姉さん泣いとったで~。」

「はよ、目ぇ覚ましてな・・・またうちが料理作ったるからさ・・・」

「大丈夫やんな・・・絶対に目ぇ覚ますよな?」

「待っとるから・・・」







(あとがき)

なーんもしないまま、いきなり主人公、死に掛ける。

この場合やはり加害者はクロノでしょうかね。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/03 09:13
マシュ・バニングスの日常  第六話




「マーくん、はよ起きてーな・・・」

 八神の声が聞こえたような気がした・・・



 そして俺は目を覚ました。

「知らない天井だ・・・」

 狙ったわけではない。本当に知らない天井だったのだ。自宅でも無いし、病室でも無い。


「あ・・・目が覚めた?」

 聞いたことが無い繊細な声がベッドの横からした。首は・・・動かせない、ダルイ。何とかそちらに視線だけでも向ける。

 見たことの無い金髪美少女がそこにいた。姉ちゃんより長い髪をツインテールにしてる。ふむ、姉ちゃんが派手目の美少女、太陽の

ような美貌の持ち主だとすると、この子は月だな。姉ちゃんと同じ金髪だが、この子のほうが髪の色は淡い、少しプラチナブロンドが

入ってるような感じだな。姉ちゃんと違って、おしとやかで引っ込み思案な印象を受ける。まあそれはともかく。


「えっと、ここはどこ、君は誰?」

 久しぶりに出したのであろう声は、思ったよりかすれて聞き取りにくいものだったと思う。


「ここはアースラの医務室。私はフェイト・テスタロッサ。」

 女の子はちゃんと聞き取って答えてくれた。それはいいのだが、ううむ・・・全く分からん。


「なにがなんだかさっぱりわからん・・・ゴメン、説明してくれないかな?」

「うん、ちょっと待ってね。今、目覚めたって連絡するから。」



 20代くらいの女性と、黒髪のローティーンくらいの男の子が部屋に入ってきた。

「大丈夫かしら? どこか痛かったりしない? 気分は悪くない?」

「とりあえず説明お願いします。何が何だかさっぱり分からない。」



 さて、ここからその女性、リンディさんのした話は荒唐無稽なファンタジーそのものでありながら、妙に説得力や整合性を持って

いるようにも思え、俺も正誤の判断に迷った。

 まず、ここは時空管理局の船の内部であり、その船の名前はアースラということ。時空管理局とは多次元世界を警邏してまわる

警察組織のようなものであること。動力源は「魔力」という特殊なエネルギーであり、これが次元世界では主流であること、同時に

魔法も存在し、魔道士も存在すること。この船の任務は、魔法的犯罪の取り締まりや、魔法的事故のフォローであること。今回、

ここに来た理由は、ジュエルシードといわれる例の奇妙な石が、思ったより物騒なものであったそうで、それが事故で、本来は魔法の

無い管理外世界(地球)にばら撒かれてしまったので、それを回収してフォローすることが目的であったこと。


「えっと、あなた達の目的は分かりました・・・っていうかまだ全然納得してないですけどとりあえず分かったことにしときます。

それより、なんで俺はここにいるんですか?」

「高町なのはさん、お知り合いでしょう?」

「ええ高町さんならよく知ってますが・・・ああ、あの妙な態度が・・・」



 例の石がばら撒かれる事故が起きたとき、現場にいた関係者(必ずしも責任者って立場でも無かった少年らしい)が、自力で

石を回収するために地球に一人で下りたこと、しかし彼は封印作業に難航して傷ついて倒れ、そこを偶然通りかかった高町さんが

助けたこと。成り行きで高町さんはジュエルシード集めを手伝うと言い出したのだが、なんと高町さんは次元世界でも稀なほどに

優れた魔道士の素質を持っていて、封印に大きく役立ったこと。

 ここまで説明して、リンディさんは一息ついた。



「さて、ここからがあなたに大きく関係してくる話になるわ。」

「はあ・・・もしかして例の地図ですか。」

「その通り。あなたが印をつけた二枚の地図。怖いほど正確にジュエルシードの位置を示していたわ。」

「えっと・・・あれは夢だと思ってたんすけど。」

「信じられないだろうけど、結論だけ言うわ。あなたは広範囲にわたる探査魔法を無意識に組み上げて、発動したのよ。」

「はあ・・・さいですか。」

「やっぱり信じられない?」

「とりあえず保留ってことでいいすかね。」

「そうね。じゃあ話を続けるわ。次は、魔道士というものの体の特殊性と、あなたの病気についての話になるわ。」

「え・・・」



 魔道士の胸部にはリンカーコアと呼ばれる器官がある。これは肉体的な器官では無いのだが、胸部に集中した魔力が、ある程度、

組織だって固まりとして存在するものである。魔力というものは漠然と、大気と自然の中に拡散されて存在しているのだが、魔道士は

それを呼吸するように体に取り入れて、一度、胸部のリンカーコアに貯めて、それを自分の魔力として引き出して自在に操ることが

できる。リンカーコアの有無は生まれつきによるもので、一般に、魔法文化の恩恵を受けている世界にはかなりの数の生まれつきの

魔道士がいるのだが、地球のように魔法文化が存在しない世界には、ごく稀にしかリンカーコアを持つものは生まれない。しかし・・・



「何事にも例外はあると・・・高町さんがそうであるように、俺にもそのリンカーコアってやつがあったと?」

「そういうことね。しかもあなたのリンカーコアには先天的異常があるようなの。」

「もしかしてそれが俺の心臓病の原因、とか?」

「断言は出来ないわ。私たちは医者じゃないし、アースラは病院船じゃない。でも、地球でありとあらゆる外科的・内科的治療を

受けても原因不明だったのなら、原因が魔法的疾患である可能性は高いと思うわ。専門的検査が必要になるけど。」

「はあー・・・それがホントで、治るならば・・・と信じたい気持ちはありますよ、ありますけどね・・・」


 次の病院では治る、今度の治療法は希望が持てる、と言い続けられて世界中まわって既に9年。いつしか俺は、疲れ切って、

希望を持つことが出来なくなってしまっていた。


「まあ、それはおいといて・・・俺っていつの間にここに連れてこられたんですか?」

「それについてまず謝罪させて欲しい。すまなかった。」

 リンディさんの横の男の子が、いきなり頭を深く下げた。

「えっと・・。」

「クロノだ。覚えていないか? 君が倒れた夜のことを。君は自分の体を調べられていることを感じたんじゃ無いか?」

「あーっと・・・ああそうだ、クロノ君とエイミさんのコンビに、あ、そういえばリンディさんも一瞬見えたかな・・・そっか、

あれも夢では無かったってことか・・・」

「なのはたちから話を聞いてね。地図も見せてもらった。君の探査能力というのは凄まじいんだ。心臓が弱いという話を聞いて

いたのだが、興味を持ってね。アースラはシーリングモードで衛星軌道上にいたから、そこから遠距離探査する分には、君には

何の悪影響も与えないはずだ、と思ってたんだ。ところが君の感知能力・探査能力というのは正に桁外れだった。微妙な魔力の

発動を察知して、自分を探っているものを逆に探ろうと、探査魔法を君は全力で展開し・・・結果、魔力切れを起こして倒れて

しまったんだ。意図したことではなかったとはいえ、君が倒れたのは全面的に僕の責任だ。どんな償いでもする。

 本当に済まなかった。」


 クロノは再び、深く深く頭を下げた。


「艦長として、クロノの上司として、私にも責任はあるわ。マシュー君を調べても良いかってクロノに聞かれたとき、許可を

与えてしまったから。私からも謝罪します。本当に済みませんでした。」


 リンディさんもならって頭を下げる。


 俺は苦笑いしながら答える。

「いや、気にしないでくださいよ。倒れるのは慣れてますから。一年に何十回も倒れてますしね~」

「・・・でもねマシュー君。今回は本当に大変だったのよ・・・」

「はい?」

「一時、心肺停止したわ。」

「へ?」

「そこから強引に蘇生させるために電気ショックなんて使ってたみたいだし・・・心臓は動き出したんだけど、自立呼吸に障害が

出て、人工呼吸器をつける状態になったのよ・・・」

「げげ」

「言葉を飾らずに言えば、植物状態になった。しかも回復する余地が地球の医学では見込めないレベルのな。」


 なんと・・・除細動機まで使う状態になってたのかい。俺は倒れて脈拍低下しても、停止までは至ったことは無かったはずなのだが。

そこで仕方なく使ったら、呼吸不全で、人工呼吸器装着、植物状態か・・・俺の自意識の有無という観点で生死を分けるとすれば、

その時点で死んでいたに等しい状態だったんだな・・・


「今、思ったんすけど・・・もしかして俺が倒れてから、かなり時間たってます?」

「既に12日、経過している。」

「おおう! しまった姉ちゃんが泣いてる!」

「落ち着いて。今度は、そのあたりを説明するわね。」



 まず大前提としてリンディさんたちは、ジュエルシードという危険物を回収・封印する任務のために地球に来たわけだ。高町さんの

活躍もあり、俺の地図も役立ち、回収はスムースに進むかと思われた。ところがジュエルシードを狙う、他の魔道士というのも存在

したそうなのだ。それが少し離れたところに黙って座ってたテスタロッサさんと、その母親のプレシアさんだったというから驚きだ。

 プレシアさんは凄腕の民間魔道士(Sランクとか言うらしい)で、危険物であり所持も違法になると分かっていたのに、自分の

研究に使うためにジュエルシードを独自に求めていたそうだ。テスタロッサさんも母親の言うことを聞いてそれに従っていて、

高町さん・管理局の側と、プレシアさん側とでジュエルシードの取り合いになったらしい。無論、管理局側の方が圧倒的に有利で

あった。高町さんは地図を元に、圧倒的な効率でジュエルシードをどんどん集めており、プレシアさん側は、ほんの数個しか見つける

ことが出来なかったそうなのだ。


 そこでテスタロッサさんは高町さんの持つジュエルシードを奪うため、実力行使に出て、戦いになった。それも何度もその戦いは

繰り広げられたそうだ。

 で、俺が倒れたその晩にも、某所で戦いが起こったので、俺が一命を取り留めたのを確認すると、アースラのスタッフも、俺のことは

とりあえず後で考えることにして、ジュエルシードを巡る戦いの方に集中してしまったそうなのだ。

 次の日に俺の様子を確認すると、人工呼吸器とか取り付けられてはいるものの、とりあえず小康状態だった。

 そこでやっぱり俺のことは後回しになった。


 その間に局面はどんどん進み、プレシアさんの邸宅への強制捜査が行われることとなった。

 ところがプレシアさんは、違法行為だと分かってやってて腹を据えている。相手が管理局なのにガチで反撃してきたそうだ。

 Sランク魔道士というのは、平均的魔道士が何十人と束になってかかっても全員、返り討ちにするくらい強いらしい。

 でもまあすったもんだの末、何とか取り押さえる寸前までいったのだが、最後にプレシアさんは自爆装置みたいのを発動させ、

身柄を拘束することも出来ず、生死を確認することも出来ないまま、管理局側は撤退。

 娘のテスタロッサさんは拘束されたが、よく事情も聞かされないまま命令されるままに動いていたということで、何とか軽い刑罰で

済みそうだ、ということだ。



 多分、もっといろんな事情があるんだろうなあと聞きながら思った。

 プレシアさんの話の時とか、テスタロッサさんはなんか微妙な反応してたし。

 でもまあ、相手が聞かれたくないと思ってることは聞かないのが俺のモットーだし。

 なーも気づいてない顔して、そこはスルーしとこう。気軽に聞ける話でも無さそうだし。


 しっかし既にお腹一杯な情報量なのだが・・・

 まだまだ話は続きそうだわ。









(あとがき)
事件は勝手に終わってて主人公はほぼ無関係。
説明の嵐に困っています。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七話(無印編・完)
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/16 04:37
マシュー・バニングスの日常  第七話






 プレシアさんの自宅崩壊、生死不明で争いの幕は閉じた・・・

 娘のテスタロッサさんの処遇問題とかは残ったものの、ジュエルシードを巡る問題は、大体片付いたわけだ。

 んで、一連の事件が片付いて、高町さんは悩みも晴れてスッキリした顔で登校したそうだ。

 すると今度は姉ちゃんが、この世の終わりみたいなこれ以下は無いほどに暗い、陰隠滅滅とした雰囲気を漂わせている。

 そこで高町さんは、俺が倒れたこと、今度はこれまでになく重態で、今は人工呼吸器と点滴で何とか生命維持してるだけの植物状態で

あることを知る。

 その日の放課後、月村さんも一緒に再び俺の見舞いに来た3人。機械とかチューブだらけで何とか生きてるだけの状態の俺を

見て、高町さんは非常の決心をする。

 怒られてもいい、どんな処分でも受ける、でももしかしてマシュー君を助ける方法があるのなら・・・



 高町さんは二人を自分の部屋に呼び、これまでの事件の経緯と、魔法というものの存在について、実演つきで説明したそうだ。

 考えてみれば姉ちゃんはともかく月村さんにまで説明する必要は無かったような気もするが・・・

 一通り説明が終わり、二人がなんとか納得したところで、クロノが部屋の中に転送で現れたそうだ。

 クロノは別に高町さんを咎めず、こうなってはしょうがない、とりあえず一回、艦長に会ってもらおう、とアースラに呼んだ。


 そこでリンディさんから、俺の病気は魔法的疾患の可能性が高いこと、根治には魔法的治療しかないと思われること、しかし

そのためには、こことは違う異世界ミッドチルダの病院に長期入院する必要性があることを説明された。

 姉ちゃんの決断は速かったそうだ。全く迷い無く。

「どんなことでもするし、いくらでも払う、弟を助けてください。」

 誇り高い姉ちゃんが、土下座しそうな勢いで頭を下げたそうだ・・・



「とまあそういう経緯で、君はここにいるわけね。」

「なるほど・・・納得しました。いくつか質問いいですか?」

「なにかしら?」

「まず高町さんですけど、魔法をバラしたことで何か咎められたりするんでしょうか?」

「それは無いわ。そもそも君を植物状態にまでしまったのはこちらの過失。遅かれ早かれ接触するつもりだったからね。彼女が

少々、先走ったくらいのことは問題にならない。」

「そうですか・・・」


 ちょっと安心する。高町さんの心に、これ以上負担をかけたくないからな。

 そんな俺を見てリンディさんが微笑んでるのはスルーしてと。


「次に、肝心な問題ですが・・・治療費の方は?」

「私たちが妙な接触をしようとしなければ、君はあんな重態にまではならなかったはずよ。だから治療費はこっちで持つわ。」

「それは、公費でそういうのが出るってことですか?」

「その辺は心配することないわよ?」

「公費で出るんですか? それともリンディさんが個人的に払おうとか考えてます? その辺をはっきりしないと、後で姉ちゃんに

追求されますので。ちゃんと教えてください。」

「しっかりしてるのね。しょうがない、正直に言うと、管理外世界の住人への過失傷害では、せいぜい出てもお見舞金くらいしか

下りないし、君のように長期治療が必要な重病人の治療費までは出ないわね。だから私たちで出すつもり。」

「私たち?」

「私と、クロノ、それにエイミィも責任感じて、少し出すって言ってるのよ。」

「それは地球の通貨なり、貴金属なりで代替できますか?」

「通貨は難しいわね・・・貴金属はモノによるけど・・・でもホント気にしないでいいのよ? 君を重態にした過失責任は、確かに

私たちの側にあるのだから。賠償だと思って素直に受け取ってくれないかしら?」

「そうですか・・・まあその辺は、姉ちゃんとも相談して決めますよ。」


 確かに賠償を受け取る権利もあるような気もするが。しかし一方的に恩を着せられるような感じもするし。要相談だな。


「そだ、最後に、姉ちゃんと連絡取れますか?」

「ええ大丈夫よ。専用の端末をアリサさんに貸してあるから。」

「それっていつでも大丈夫ですか? その・・ミッドなんとかとかいう世界にいっても通話可能ですか?」

「ミッドチルダね。異世界間通信になると専用の通信機が必要になるから、少し手間取るけど、大丈夫、ちゃんと通信できるわ。」

「そうですか。んじゃとりあえず連絡入れたいんですけど・・・」

「わかったわ。それでは席を外すわね。その枕もとのボタンがナースコールになってるから。何かあったら呼んでね。」


 通信端末の説明をして、部屋を出て行く3人。俺は何とか身を起こして、端末のスイッチを入れた。



 学校帰りに、肌身離さず持っている端末から呼び出し音が響いた。

 一緒にいたなのは、すずか、ユーノも反応する。

「ユーノ君、結界張って!」

「わかった!」

「え、なんでわざわざ・・」

 いきなり目の前にディスプレイのような画面が宙に浮いて現れる。


 思ったより元気そうだ。顔色はまだ悪いけど。ちゃんと動いてる。目を開けてる。起きてる。生きてる・・・


「よう姉ちゃん。今起きたんだよ。なんか色んな説明を怒涛のように受けて頭がパンクしそうだよ・・・

っていきなり泣くなよ。」


 いつの間にか私は涙を流していたらしい。


「うるさい! 散々心配かけて! 今度こそ死んだかと思ったじゃない! あんたほんとに・・・!」


 言葉が出てこない。たった一人の弟が、生きていてくれた。連絡の無かった10日余り、毎日毎晩、神経を磨り減らしていたのが

うそのように解消される。

 涙で言葉に詰まる私の肩を、すずかとなのはが優しく抱いてくれた。

 マシューのバカは私から気まずそうに目をそらして、なのはに話題をそらした。


「あ、高町さん。なんかマジで魔法少女になったって聞いたけど、ほんとなの?」

「ほんとだよ~ここで変身して見せようか?」

「いや、いーわ。考えてみれば様子が変だったのは、こういうことだったのかって納得しちまったし。」

「にゃはは・・・マシュー君には実はすごくお世話になりました。」

「そーだ地図、結局、返してもらってないなあ。」

「あれほんとに助かったんだよ~今度なにかお返しするね!」

「ん~期待しとく。俺はこのまま入院なのかな? ああその辺の細かいことも聞いてないや。え? なんすか? 検査?

 はい分かりました。ごめん姉ちゃん。とりあえず、起きたっていう報告だけで。なんか検査とかいろいろするんだってさ。

 また夜に連絡するわ。」

「絶対連絡しなさいよ!」

「するってば。いろいろ相談もあるし。じゃあ月村さんもまたね~」


 通信は途切れた。結界も消えた。


「ねえ・・・すずか、なのは、今日って何か用事ある?」

「ないけど。」

「ないよ~」

「マシューが目覚めたパーティーやるわよ! 翠屋で! 今日は何でも奢るわ!」





 アースラの地球付近での任務が終わって、ミッドチルダに帰還する日が来た。

 なんでもテスタロッサさんと高町さんは、激闘の末に友情が生まれたそうで、別れる前に一度、会いたいということで、最後に

地球を訪問することになった。このへんは人情措置らしい。しかし殴りあった末に友情が生まれたって・・・どこの熱血マンガだよと

内心で突っ込みたくなった。


 俺は大して良くなっていないが、発作も起きていない。なんでも専門的な医療機関に入院するまでは、下手な治療を試みることなく、

症状を抑えることだけに集中しているそうだ。その俺も一時帰還、姉ちゃんとしばしの別れを惜しんだ。



「なのはだよ。名前で呼んでフェイトちゃん。」

「うん、なのは。」




とか友情劇を繰り広げてるところから少し離れて、俺と姉ちゃんは話している。

「んで、父さんと母さんにはどう説明したんだよ。」

「それがね。時空管理局って組織のこと、父さん知ってたわよ。」

「マジかよ。」

「政界とか財界のトップになると、意外と知ってる人も多いんだって。ただこちらからコンタクトを意図的に取るってことは

すごく困難で、今回のことみたいな偶然でもなければ無理みたいね。」

「へ~。まあそういうもんかねえ。よくわからんけど。」

「とにかく! 今は余計なこと考えないで、体を治すことだけ考えなさいよ!」

「分かってるよ。船医さんとも話し合ったんだけど、やはり少なくとも3~4ヶ月は完全に入院する覚悟しとけってさ。」

「それで治るなら大した事無い期間だわ。」

「あと、結局魔力の運用に偏りがあるって問題だから、自力でも魔力コントロールが出来るように魔法の勉強もするように

薦められたよ。治療されつつ、魔法の勉強もしなくちゃならんって・・・ああメンドイ。」

「自分の体のためなんだから頑張りなさい!」

「ん、わかってるって。あとさあ・・・もしもちゃんと体が治ったときの話なんだけどさ。」

「もしとか言うな!」

「ごめんって。じゃ、体が治ったときの話なんだけど。」

「なによ。」

「姉ちゃんには悪いんだけどさ、俺さぁ・・・医者になりたいかも。」

「へ? 何が悪いのよ。」

「いや、バニングスの家のこととか全部、姉ちゃんに負わせることになっちゃうかな~と。」

「あ・ん・た・ね~!」

「痛い痛いつねるな!」

「くだらないこと気にしてんじゃないの! 医者になりたい? 結構じゃないの! 元気になって、そんで立派な医者になって、

病気の子供たちを助けてあげなさい!」

「まだそんなにはっきり決めてるわけでもないよ? 漠然と、将来のこととか、考えられるようになっただけというか。」

「うん、いい傾向よ。あんたこれまでは何だかんだ言っても将来とか丸きり諦めてたでしょ?」

「なんだバレてたか。」

「お姉さまを舐めるんじゃないわよ。でもそんなあんたが、やっと自分にも将来があるって可能性を考えられるようになった。

うん、すごくいい傾向だわ。別に医者じゃなくてもいいから、とにかく元気になって将来につながる生き方をしなさい!」

「うん、わかった。」


 姉ちゃんの優しい手が俺の頬を撫でる。


「・・・もう少し肉付きが良ければ、私に似た美形になるはずなのにな~あんたもう少し太りなさいよ?」

「おし、肥満体になって驚かせてやる。」

「バカ言ってんじゃないわよ・・・マシュー元気でね。一週間に一回は連絡してね。」

「ああ。姉ちゃんも元気でな。」

 ぎゅううううっと、痛いくらい姉ちゃんは俺を抱きしめた。



 そして俺は旅立った。異世界ミッドチルダへ。








 個室を独占してた少年の姿が消えうせ、同時に彼の私物のゲームなども回収されて寂しくなってしまった病室を見て・・・

 車椅子に座った少女は一人寂しくベッドを眺めていた。


「マーくん、転院したんですか?」

「そうなんや・・・植物状態が続くから、それを直せるかもしれん遠くの病院に・・・」

「ひどいなあマーくん。結局私になんも言ってくれへんかった・・・」

「また会えるかな・・・もし会えたら・・・」

「まずは一発、どついたる!」

 病院で出来た友人と死別する経験を、既に彼女は何度もしていた。

 でも彼とはきっといつか会える・・・そんな根拠の無い確信が何故か胸にあった。

 ベッドに座り、自分にゲームで勝って喜ぶ少年の姿を幻視して・・・

 八神はやては少しだけ、涙ぐんだ。








(あとがき)

 主人公は指を動かして地図に印をつけただけで無印編終了。

 寝たきり主人公、治療編に続きます。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八話  幕間
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/16 04:39
マシュー・バニングスの日常   第八話






 さて地球のある世界から、位相の違う別世界にあるというミッドチルダへ行くには、次元転送という作業が必要になるそうだ。

 これは別に困難なことでは無く、やろうと思えば強引にミッドチルダ至近に転送の割り込みをかけることが可能であるという。

 しかし現実にはそうは行かない。交通法規みたいのは、やっぱりあるそうだ。

 滅多に無いことではあるが、同一座標への転送が重なる転送事故などが起こるとシャレにならない大被害が起きるらしい。

 であるから、交通管制局みたいなところの指示を忠実に守り、法規に従って転送しなくてはならない。

 転送事故が起きた場合の被害がシャレにならないため、管制指示に従わない行為は、仮に何の被害も無くても結構な罪になるそうだ。



 さてなんでこんなことを説明してるかと言うと・・・

 なんか意外と時間がかかるってことが今になってやっと分かったからである。



「意外と不便なんだな~もっとこう、『距離に意味が無い世界』みたいなの想像してたんだけどなあ。」

「ふふっ。そんなことはやっぱりないよ? アースラみたいな大質量のものを転送しようと思えば、安全確認の手間が大変になるから

結局時間かかるし、個人単位だともう少し便利だけど、やっぱり質量制限はあるしね。」

「そして結局、カネもかかるし手間もかかる、と。テレポートできても実際には距離がある、と。夢がないなあ。」

「うん、そうかもね。」

 微笑みながら俺に説明してくれるのはテスタロッサさんである。

 この子は、なんつーか、すごくいい子である。素直で、控え目で、おしとやかで、欠点らしい欠点が見つからん。

 母親の犯罪に巻き込まれて犯罪者扱いとか、するやつのほうが外道なのではと思ってしまう。


 艦内に同じくらいの年の子が全然いないので(実はクロノは5歳も上だと判明、驚いた)、食事時のテスタロッサさんと適当に

ダベるのは楽しいひと時である。テスタロッサさんは最初のうちは、無遠慮に話しかけてくる俺に戸惑っていたようだが、もともと

素直な子である、今では普通に会話できている。

 まあ俺は流動食をすすってるだけなんだけどね相変わらず。



 また話を戻す。やはり未知の技術は面白い。

「それじゃあ専門の転送機械を二箇所に設置するとかすれば、もっと手間は省けるのかな?」

「うん、そうなると、あとは機械の維持費だけが問題になるね。」

「しかし転送するたびにエネルギーは消費するわけで、しかも質量に比例してエネルギー使うんだろし、しかもやっぱりあんまり

大質量のものに対応した機械は無いってところかな?」

「そうだね。でも個人向けの転送ポートは、そういう固定した転送機をたくさん設置してネットワークを作ってるみたい。」

「どーも魔法って感じじゃないなあ・・・どっちかといえばSFだ。転送魔法とかって無いの?」

「もちろんあるよ。でも、それは魔道士の力量にもよるけど、やっぱりせいぜい数人が限界かな。しかも全く知らない場所とかはムリで、

あらかじめ座標を指定しなくちゃいけないし。」

「ふむ、知ってる場所にしか行けないし、大質量を運べるわけでもない、と。やはりそういう魔道士の転送魔法が前提にあって、

それを機械化したのが普及してるって感じなんだなあ。」

 ずずっとお茶を飲む。なぜか緑茶だ。テスタロッサさんは紅茶かな。

「そだ、テスタロッサさん。なんか魔法の初歩的な本とか持ってない?」

「本? どうして?」

「俺は体の問題があるから、実践とかは入院治療しながら少しずつって感じになるんだろうけど、とりあえず勉強できる範囲で

知識だけは詰め込んでおこうと思ってさ。」

「う~ん。私は持ってないなあ。リンディさんに聞いたほうが良いんじゃない?」

「そういやそっか。」


 高町さんはそれこそ昨日今日に魔法を知ったばかりで素人同然であることは分かっているのだが、それに対してテスタロッサさんは

小さい頃から魔法の教育をちゃんと受けていたのかな? いろいろと聞きたい事は多い。彼女は自分から何か話すということはあまり

ないのだが、こちらから質問する分には親切に答えてくれる。


「あとさあ、テスタロッサさんて」

「マシューくん・・・」

 俺がまた質問してみようとすると、急にテスタロッサさんの表情が曇った。不機嫌そうというか悲しそうというか。

 なんもまずいことはしてないはずだが・・・

「え? なに?」

「マシューくんって、私のこと嫌いなの?」

 なんでそんなこと思ったのか分からない。嫌いになれるような人では無いのだが。

「へ?! な、なんで?」

「だって前から、私のこと苗字でしか呼ばないし・・・」

「いやあ日本ではね、普通は互いのことを苗字で呼び合うもんなんだよ?」

「だって、なのはが言ってたもん!」

「な、なにを?」

「ちゃんと友達になったら、互いに名前で呼び合うものなんだって!」

「いや、それは高町さんの独自ルールであって、決して日本において一般的では無いと言いますか・・・」

 うむ、俺は間違ってないぞ。高町さんは普通ぶってるが実はかなり特異なキャラクターなのだ。

 しかし簡単に切り返された。

「マシュー・バニングスくんは日本人じゃ無いって聞いたけど?」

「うぐ! そうだ、言われてみれば確かにそうだった・・・」

 俺は世界一周入院の旅みたいなことをしてきたが、拠点はなぜか日本であり続けた。なぜ父さんが拠点を日本にして我が子たちを

住ませていたのかは良く分からない。欧米だと敵が多過ぎて危険だとかじゃないよな・・・

 とにかくメンタリティは日本人に近いのだ。国籍はともかく。

 俺の内心とか関係なくテスタロッサさんは押してくる。意外と押しが強い。

「できれば私のこと、フェイトって呼んで欲しいんだけど。」

「あーうー俺のポリシーとしてですね、女の子を名前で呼び捨てするってのは・・・」

 ちなみにリンディさんは例外である。本人の前では言えないがあの人は女の「子」じゃないし。

 恐らく一番親しい女友達である八神でも八神としか呼んでないわけでして。

 しかしテスタロッサさんは納得せずに、暗い顔で俯いてしまう。
「やっぱり私のこと嫌いなんだ・・・」

「涙目はズルいぞ・・・」

「そうだよね、私みたいな子とは普通、友達になりたいなんて誰も思わないんだよね・・・ごめんなさいマシューくん、困らせちゃって。

うん、やっぱり私なんか・・・」

「いやフェイトさんは良い子だと思うよ!?」

「え」

「ゴリ押しされれば逃げ切れるんだけどなあ・・・泣きながら引くタイプ相手ではムリだった・・・それはともかく、フェイトさんは

前はちょっと間違ったことをしちゃったかも知れないけど、そんなのこれから取り返せる程度のものだし、そもそもフェイトさんは

凄い魔法の才能あるし、優しいし、お淑やかだし、素直だし、いいとこずくめだよ? フェイトさんと友達になりたいって人は

いくらでもいるって。特にこれから先は友達になりたい人が群れをなして押しかけてくるくらいだと思うよ!」

 姉ちゃんが泣くと俺は全面降伏するのがパターンであるのだが、同様に女の子が泣きそうになると俺はその子の言う事を全面的に

聞いてしまうのかもしれない。なんかこれって将来的には危険な気がするが・・・

 とりあえずテスタロッサさん改め、フェイトさんの機嫌は直ったようだ。


「・・・ありがとうマシューくん。」

「んじゃこれから友達ね。ほい握手。」

「うん、よろしくね。」

 笑顔になるフェイトさん。



 フェイトさんは非の打ち所のない完璧美少女かと思いましたが、ちょっとしたことで際限なく後ろ向きになる超ネガティブ

自虐型思考の持ち主で、意外と扱いずらいということが判明しました。

 さらにその後の入院生活で見舞いに来てくれるたびに、笑えないような高レベルの天然ポカを連発してくれたり、異常に一般常識が

欠落していることが判明したり・・・やっぱり本物のヒロインてのは月村さんしかいないなあと思いました。




 八神?

 あれはいいやつだが女は感じないなあ。

 小さい頃からの病院仲間で一番親しい「友人」だわな。









 一番親しかった友人が植物状態のまま転院してしまったため、以前よりもさらに寂しい日々を送っていた少女が、

なんか妙にムカついて、今度会ったらその友人を1発では無く2~3発は殴ってやろうと思ったかどうかは定かではない。

「別にこっちかて意識してるわけやないけど、でもそういうふうに言われるとなんか腹が立つっていうかな。」








(あとがき)

 フェイトさんと友達になるの巻です。マシューは踏み込まない性格なので、なんか事故でもない限りは良いお友達で相談役のままの予定です。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第九話  入院日記
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/04 09:45
マシュー・バニングスの日常   第九話   入院日記






○月×日


 リンディさんのご厚意で、時空管理局本局付属病院に入院することが出来た。ちなみに個室である。これから、早くても3ヶ月の

入院生活の始まりだ。なんでもハラオウン家は、結構な家柄で力もあり、特に本局

内にはコネもあるので、本局付属病院なら多少の融通も利くそうだ。


 フェイトさんは公式の取調べとか裁判とかがそろそろ始まるそうだ。これも数ヶ月かかるらしい。ていうか裁判なのにわずか数ヶ月で

終わるというのは大したものである。日本とかアメリカではありえんのでは。いや司法取引を含めた簡易裁判って話だから、ありえる

範囲内なのかな。

 姉ちゃんに連絡して、本格的な入院が決まったことを報告。何かあったら時間とか気にせず、いつでも連絡するようにと念を押された。

学校の時間とか深夜とか気にして、変に遠慮した場合は相応の処置をとると宣告された。何をする気なのかガクブルである。


 入院費等については、俺は気にしてるのだが、姉ちゃんはクロノが刺激したことで俺が植物状態になってしまったという裏事情を

聞いた瞬間「向こうが悪いのだから全面的に賠償させろ!」と凄い剣幕になってしまった。アメリカ流の訴訟社会の勉強もきちんと

してる姉ちゃんの怒りはシャレにならない。場合によっては高町さんを脅して言うことを聞かせて、次元の果てまで追いかけて取立てを

始めそうな勢いだったので、とりあえず入院費は何も気にせず受け取ることにした。



○月△日


 検査検査の毎日である。地球と変わらない血液検査みたいのも多いが、検査の半分が魔法関係なのが面白い。俺のリンカーコアは

出力過剰、入力過少の状態でアンバランスに固まってるのがやはり問題らしい。出力にリミッターってのをかける安全策を当面は取るに

してもできれば将来的には自力でバランスが取れるようになるのが理想だそうだ。枷を嵌めることで体の他の場所に負担がかかる可能性を

考慮して、体の他の場所に治癒魔法というのが施される。なんでも魔力を補給することで、補給された部分を一時的に活性化し、同時に

補給された魔力が続く限りは通常より頑丈にすることもできるそうな。治癒魔法が内臓にも施された影響からか、異様に腹が減る。

生まれてこの方経験が無い勢いでガツガツとメシを食った。


 取調べが続いてヒマなフェイトさんが来た。同じことを繰り返し言うだけなので大変らしい。しかも被疑者なので行動の自由が少なく、

自由に高町さんと連絡を取ることもできないとグチってた。フェイトさんの使い魔のアルフも元気が無かった。フェイトさん、果物の

皮を剥こうとして、なぜかナイフがすっぽぬける。俺の枕に柄まで刺さった。




○月□日


 クロノが見舞いに来た。何か必要なものは無いかというので、魔法の練習用に安いデバイスでもあれば助かるという話をした。

 管理局の武装局員とやらが使う、標準的なストレージデバイスをくれた。中古だがモノはしっかりしてるそうだ。さらにそれを一回、

初期化して、ありとあらゆる種類の初歩魔法を入力しといてくれたそうだ。助かる。

 治療の方は、まずは治癒魔法を活用して、肉体をとにかく頑丈にして基礎体力を付けることに集中してる状態である。何か大胆な

手術ぽいものをするにしても、俺にはそれに耐える体力がそもそも無いのが問題だからだ。


 ここにきて治癒魔法というのをわが身に受けてから常々考えていたのだが、俺が自分に自分で治癒魔法を施すことができれば、

それだけでかなりの問題が解決するのではないかと思うんだよな。まずは治癒魔法の習得を目指すとしよう。俺のリンカーコアが、

過剰に放出してしまう魔力を、そのまま我が身の治癒回復に充てることができれば・・・



○月▽日


 ついにはっきりとしたことなのだが、俺の肉体それ自体には、どこからどう調べても、やはり異常は無かったそうだ。何度も精密に

検査された心臓についても、別にどこにも異常はない。リンカーコアの異常による魔力障害からくる肉体の慢性的衰弱である、という

ことが明確になった。

 姉ちゃんに、俺の肉体自体には何の異常も無いことを報告すると、また泣いて喜んでくれた。

 しかし生まれつき崩れていたリンカーコアの出力・入力バランスを取る、それもできれば自力で、というのが理想的な状態であると

はっきりしたために、俺自身が頑張らねばならない部分が思ったより多かったとボヤくと、目を三角にして叱咤されてしまった。

「あんたはこれまで寝て過ごしてたんだから、ちょっとは根性見せなさい!」と、さすが姉ちゃんである。


 だがリンカーコアにどうしてそんな形成異常があるのか、という点については原因不明・・・現状では対策は見つからないらしい。


 例えば生まれつき、冠状動脈に形成異常があるとかだったら、外科的手術で形を整えてしまうこともできるわけだが、本質的には、

「ある程度の秩序をもったエネルギー体」に近いリンカーコアでは外科手術するというわけにもいかない。

 またリンカーコア自体に過剰な接触をすれば命に関わる危険性も高いので、やはり俺が制御できる状態にまで持っていくという

遠回りな安全策こそが、最も優れた治療法ということになるらしい。



×月○日


 看護師さんに付き添われたまま、魔力リハビリルームで地道な訓練を繰り返す。看護師さんもDクラスくらいの魔法なら一通り

扱えるということだが、良く分からない。まずは明らかに得意であると思われる探査魔法を発動してみようとすると、デバイスが

過負荷で壊れかけたのでそれは後回しにしろと言われた。使ってみたい魔法No.1である治癒魔法は、まあ悪くないが上の下くらい

の適性であると言われた。攻撃の基本であるという初歩の砲撃は、超ショボかった。花火くらいのレベル。防御の基本である楯を

作ってみるとまた、超ショボかった。強度は紙一枚といったレベル。実戦で重要になるという高速移動は・・・なんか気持ちだけ

速くなった様な気がしないでもない程度。

 しかし結界、転送については探査に次ぐくらいの高レベルであると言われた。並べてみると

(探査)>>(結界)=(転送)>(治癒)>>>(越えられない壁)>>>(防御)>(攻撃)>(移動)

 完全に補助系魔道士の適性しか持たないと、自信を持って断言されました。いやいいんだけどね・・・

 苦手なのは完全に後回しにして、得意なのだけ伸ばすことにしよう、まずは。治癒は特例で最優先だが。


(後年日記のこの部分を見直した時の補足)

 探査は超天才Sオーバーレベル、ほとんどレアスキルで誰も真似できないレベル。結界と転送も十分天才Sレベル。治癒は秀才、

頑張ってAAAくらいまで持っていけたレベル。しかし防御紙、攻撃ゴミ、移動なめくじw



×月△日


 攻撃魔法についての適性は絶望的だから、捕縛系(バインド)も試してみるべきだと言われてやってみた。少なくともロープで

縛るくらいの束縛は与えるはずだったのだが、ティッシュで作ったこよりくらいの強度しかなかった。ううむ、こよりバインドに

ティッシュシールド、花火砲撃と来たか・・・前線で戦うのは絶望的とのこと。将来像としてはどう考えても探査役になるから、

探査して、すかさず転送で逃げる移動式レーダーがせいぜいらしい。

 今日はリンディさん、クロノ、フェイトさんが3人で見舞いに来てくれた。リンディさんとクロノは地上に戻ったのは久しぶりな

ために溜まってたデスクワークの山と激闘中だそうだ。フェイトさんはまだ証言と裁判の日々。お役所の手続きは煩雑で手間がかかる

のはどこでも同じらしい。

 俺の魔法の傾向について話すと、どうやら俺は魔力を収束させるのが苦手なのだろうとのこと。逆に、拡散させた魔力を操る方には

尋常ならざる才能があるはずだと、リンディさんとクロノは口を揃える。ちなみに高町さんは収束系の天才で、彼女の砲撃は他に類例を

見ないくらいのレベルだそうだ。フェイトさんは超高速移動から至近距離で魔力でぶん殴るみたいな攻撃が得意で、これもやはり収束が

ちゃんとできるからだろう。俺には絶対にそういうことは出来ないらしい。

 普通に探査魔法を発動しようとしたら、このデバイスは壊れかけたので試すことも出来ないという話をすると、しばらく難しい顔で

考え込んでいた。今の俺はリミッターをかけてDクラス程度の出力しか無いはずなのにそれでも壊れかけるということは、恐らく

魔力自体の出力の問題でなく、同時に拡散された多量の探査球から送られる情報処理のための演算性能に問題があるのだろうとのこと。

初歩なら一個しか出せないものが、俺は同一の魔力しか使わなくても10個以上を余裕で出せるようだ。すっごく密度が薄いのに、

機能は失っていないようなのを。しかもそれでも余裕があり、本気でやれば現状でも20はいけると思う。そういう俺の特性に耐える

ためには、頑丈で、しかも演算性能に特化したデバイスが必要になり、オーダーメイドする必要があるとか。

 既製品の中古である今のデバイスと違い、オーダーメイドは桁違いに高いらしい。どうしたものやら。


 探査は保留してやってみてる結界と転送はやはり得意だな、俺。近頃その練習ばかりしてる。



×月□日


 リハビリが一段階進み、リミッターを一時解除してみる日が来た。

 俺は無意識に魔力をリンカーコアから発散させ続けて、それが肉体への負担になっていたわけだから、その発散を抑えて自力で

制御できるようになるのが理想であるわけだ。

 リミッターを外した瞬間、体から力が抜ける。ひどい貧血に近い状態だ。立つのもきつくてふらつく。

 なるほど俺は魔力の拡散・発散というのが得意なのだな・・・ていうか自動的に全身から魔力が蒸発していってるぞこれは・・・

そうかこれまでは意識できなかったが、ずっとこの状態に耐えていたのか俺って凄いな・・・

 心臓の鼓動が浅く早い・・・治癒だ治癒魔法・・・心臓に魔力を込めることができれば・・・

 力が戻る、やったか・・・と思った瞬間。

 いきなり呼吸困難に。左肺が破れたか? 吐血する、だめだ肺の中に血が溢れて・・・地上で溺死する・・・やばい・・・


 目が覚めたらまたベッドの上だった。この感じは久しぶりだな。

 これまでは心臓に直で負担がかかったわけだが、今回は肺になった。前よりはマシになったと言えない事も無い・・・らしい。

 とりあえず結構な量を吐血したらしく、しばらく安静にしていろとのこと。

 リミッターはC相当程度に直した上で、まだ付けておく。少しずつ慣らす以外に方法は無いそうだ。

 やれやれ・・・やっぱり先は長いなあ・・・


 思ったんだけど、制御するというのは、押さえ込むということで、収束するというのに近いわけだ。俺の特性は発散であり拡散。

まるきり逆で、もとから苦手なんだな多分。「肉体の細胞一つ一つに魔力をこめていく」という治癒魔法は、比較的、拡散するという

方向性に近いから俺にもできるわけなんだろうが・・・やっぱ治癒しかないのかな。



×月▽日


 寝て無くてはダメで暇なので姉ちゃんに連絡する。

 隠してたら怒られるので、事態の経緯をちゃんと説明。

 難しい顔で、そのリミッターをずっと付けているだけという状態にするのは無理なのか、と訊かれた。

 それは俺も思わないでも無かったのだが・・・何せこれは俺にとってはリハビリ用の補助具のようなもので、やはり理想的には

補助なくして、完全に自立して安定しなくてはいかん。そこを目指しての治療なのだから、補助具に依存するような状態は避けたい

という旨を伝えると、渋々ながらも納得してくれた。

 その後は、俺の背が伸びたとか、肉付きも良くなって少しは見られる顔になってきたとか嬉しそうに話してくれた。


 結界術って色々あるんだなあと学習中。しかし実践では魔道士以外を人払いして微妙に位相をずらすタイプのものくらいしか

使われてないみたいね。完全に閉じ込めるタイプのは余程の凶悪犯相手にしか使われず、しかもそういう凶悪犯が強力な魔道士

だったりするとすぐに破られたりするらしい。

 転送は、見える範囲内の移動という初歩から、遠くにあらかじめマークしておいて、そことの間の転送という中級に入った。

しかし見える範囲内の簡易転送に比べ、遠距離転送は発動が遅いな。なんとかならんかな。

 治癒魔法は日々努力してるが、技量はジリジリとしか上がらんなぁ。不得意では無いが、それほど飛躍が望めんかも知れん。



△月○日


 今日はみんなで相談して、一緒におしゃべりしようと約束した日だ。フェイトさんが見舞いに来ており、通信機の向こうには姉ちゃん、

高町さん、月村さんがいる。フェイトさんもそろそろ裁判が終盤で、やっとリアルタイムで他者と連絡する許可が降りたらしい。

 姉ちゃんたち4人が凄い勢いで喋っている・・・女の集団の姦しいお喋りには全くついていけない。

 俺に気を使ってくれたのか、月村さんが俺に話をふってくれる。さすが月村さん、真の癒し系だ。

 俺の魔法適性の話とかしてみる。攻撃防御の適性ゼロで、完全に補助か探索しか出来ないということを言ってみる。

 それはユーノ君に似てるね~と高町さんが言う。ユーノ君とは高町さんの肩に座ってるオコジョのことらしい。

「へ~そのオコジョも補助系魔道士なんだ。使い魔みたいなもん?」

 と尋ねると、なぜかみんなが爆笑。オコジョは何か必死に抗議している。

 オコジョの話によると、自分の今の姿は仮のものであり、実は人間の魔道士だとのこと。あとオコジョではなくフェレットだとか

抗議してたが、オコジョとフェレットがどう違うのか分からん。オコジョもフェレットもイタチもテンも似たようなもんだろう。

 大体、好きでオコジョになってるんだろうからオコジョ扱いされて怒るのは変だろうオコジョ。

 ユーノ・オコジョはからかうと面白いということは分かった。



 探査魔法は、そ~っと発動すれば出来ないことはないと分かった。これまで各種補助魔法はリソースを等分にしてデバイスに

インストールされていたのだが、探査については逆にリソースを極小に切り詰めた。これはデバイスにかかる負荷を減らすと同時に、

俺から探査時に発動される魔力も思い切り減らすという行為なわけだが、そこまでやってやっと落ち着いて制御できるレベルになった。

しかしこの状態でも半径数百メートルが簡単に「見える」。看護師さんも驚いてた。

探査は天才だと持ち上げられた。ちょっと気分が良い。探査魔法については、どういうわけか知らんが俺の異常な探査性能に、デバイスが

ついてこれないってことなのかな。

 後は結界、転送のリソースもいじくってと・・・治癒には最大スペースを与えて、どーせ使えない攻撃防御とかはガリガリと

削りまくったw



△月×日


 再びリミッターを外す日がやってきた。今度はあらかじめ、心臓と肺に注意しておく・・・

 リミッター解除、脱力、心臓に治癒、続けて肺に治癒、次はどこに来る・・・?

 頭がドクンと脈打つ、おし頭か! 速攻で頭に治癒、おし、安定したか・・・?

 数分はそのままだったと思う、おし安定したか・・・と少し気が抜けた瞬間。

 腹部に激痛! 胃が破れたか? 喉元に胃液と血が混ざってせり上がってくる、激しく吐血、きつい、連続して激痛が襲ってくるのに

意識が鮮明なままなのが超きつい、激痛の余り全身から力が抜け、激しく嘔吐しながら地面に倒れる。やべえ痛い、しかも意識が

途切れない、気絶できない、うわこれまでで一番きついかも、痛い痛い痛い・・・


 目が覚めたらまたベッドの上だった。看護師さんが俺を気絶させて強制的に安静にしてくれたらしい。

 なんでも信じられない速度で胃壁に大量の潰瘍が出現し、大出血したそうな。

 それでもリミッターはB相当まで緩めることにしたそうです。

 ただ、魔力の出力量とか、俺の治癒術のレベルとかいろいろバランスを考えると、今のアプローチではこれ以降は改善する余地が

見込めないとか・・・出力量は俺自身で抑えるのがそもそも出来ないわけだから、俺の治癒術のレベルに進歩が無ければ、この

状態からのさらなる向上は難しいそうだ。

 リミッターをつけている分には、日常生活は保障できると言ってくれたのだが・・・

 この状態では、俺の日常は、リミッターという名の補助具に依存したままになってしまう・・・



△月□日


 リンディさんが来てくれたので現状の相談をする。

 俺のリンカーコアの出力過剰の状態はどうにも先天異常で直る見込みが薄いこと、自分自身に治癒術をかけることでバランスを

取れる可能性はあること、しかしそのために必要なレベルの治癒術とは、一般的なレベルではダメで、専門的な治癒魔法の勉強とかが

必要になること。

 その上で、そういう専門の教育機関は無いものか、と尋ねてみた。やはり医学校みたいのはあるらしい。

 ミッドは就業年齢が低いので、俺でもそういう医学を学ぶ機会はあるそうだ。

 そのうち、学費のかからないところは無いかと訊いてみると・・・


 時空管理局付属ミッドチルダ中央魔法医学校というのがあるそうな。実質、軍医養成所に近いところで、タダで教育してくれる

代わりにその先、一定の管理局への貢献が義務付けられる学校だ。

 リンディさんは、なんだったら学費は貸してあげるから、普通の民間医学校に行けばどうかとも言ってくれたが。

 いくらなんでもそこまで借りを作るわけにはいかねーよな・・・

 ただでもリミッターは借り続けなくてはいかないわけだし。


 俺は退院し、帰省して姉ちゃんに報告した上で、その中央魔法医学校に進むことを決めた。

 フェイトさんも裁判が終わり、高町さんに会いに地球に行くという。微罪で済み、管理局への短期の奉仕義務だけになったそうだ。


 久しぶりの地球である。


△月▽日


 フェイトさんは、リンディさんに養子にならないか、と薦められてるそうだ。どう思うかと相談された。フェイトさんは天涯孤独の

身の上なのだそうだ。でも今でも生死不明の母親に対しては強い愛情を持ってるようで・・・正直困った。こういう重い相談になんて

どう答えたらいいのか分からない。

 リンディさんが良い人であるのは分かってる。今でもフェイトさんの法的な保護者をしてくれてるらしい。さらに正式に養子にまで

しようというのは純粋に好意なのだろう。俺という、無責任な第三者の立場から言えば、フェイトさんが養子になることは、基本的には

良いことのように思えるのだが・・・しかし肝心なのはフェイトさんの感情だしなあ。

 話を聞いて相槌を打つくらいしか出来なかった・・・良さげなアドバイスもできない未熟なガキの自分にちょっと自己嫌悪。

 もうすぐ地球に着くことだし、高町さんにでも相談に乗ってもらうとしよう・・・

 結界の勉強でもして気を紛らわそう・・・

 明日は地球につく・・・







(あとがき)
 以前の半死人の状態に比べれば、何とか半病人くらいになりました。
 アリサが管理局付属の医学校への進学を認めてくれるか、どうやって説得しようか頭が痛いです。

 次はいよいよ闇の書と守護騎士たちが登場する予定。主人公の援護が渋く光ればいいなあ・・・と思ってます。もちろん戦いません。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十話  A’s突入
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/05 08:56
マシュー・バニングスの日常  第十話





「地球よ・・・私は帰ってきた。」

 リアルにこのセリフを言える日が来るとは思わなかった。


 今の俺はなんと・・・長時間立って歩けるのである!

 ちゃんと腹も減るし、物を食うと美味いのである!

 生まれて初めての経験なのだから、俺が多少浮かれていたとしても大目に見てほしいと思う。




 しかしそんな気楽な俺とは違い、アースラスタッフは何かバタバタしていた。

 まあお仕事でお忙しいのはしょうがないので、俺は一足先に家に帰るとするかな~。既に、今日帰るって姉ちゃんに連絡してしまって

いるのだ。約束を破るなんて恐ろしいことは俺にはできん。

 姉ちゃんに頼んで、俺の転送目標になるような目印を、俺の部屋の片隅に置いてもらっている。ふふふ・・・転送魔法についてなら、

ちゃんと事前に目印を作っておけば、結構簡単に出来るレベルにまで成長しているのだ。

 背丈も伸びたし、まだ痩せ型ではあるけど、前みたいな病的な骨と皮状態とは程遠い、健康に見える状態になった俺を見て、姉ちゃんが

喜んでくれるだろうと思うと心が弾む。

 んじゃあ、リンディさんに挨拶して、とっとと転送するとしよう。

 リンディさんどこかな~

 あれ?


「結界展開!」

「高町さんが囚われてる?!」

「既に戦闘状態に入っています! 映像出します!」

「結界の強制解除は出来ないの?」

「この距離からは無理です!」

「危ない!」

「私が行きます! 行かせてください!」


 アースラスタッフの怒号の嵐。いきなり出てくる映像、さらにフェイトさんが宣言して出撃。

 あれよあれよと言う間に・・・


「敵に増援が!」

「高町さんが危険です!」

「ええい僕も出るぞ!」

「待ってクロノ。恐らく結界を張ってる他の魔道士が。」

「しかし!」

「フェイトさんも劣勢です!」

「な! 強い!」



 う~む。高町さん、やばい。フェイトさんもやばい。しかし俺には戦う力は無い。戦う力は無いが・・・

 転送はいける。映像の片隅に座標がきちんと算出されて表示されてるし。

 問題は結界解除か。結界の勉強の成果で、多分できるけど、この距離からは無理だな。結界の中か、せめて

すぐそばまで行ければ出来るだろうと思うが・・・

 速攻で、行く、結界を解く、二人を連れて戻ってくる、と。

 いけるか?


 まあいっか。

 高町さんを助けられる状態なのに助けなかったとか姉ちゃんに知られたら後が怖い。


「ちょっとマシュー君?」

「マシュー!?」

 リンディさんとクロノがなんか叫んでいるのを華麗にスルー。


 転送っと。

 結界内部、ただしその壁のすぐそば。

 結界に手を近づけて解析。ふむふむ・・・

 やばいぜw

 結界術は適性があったし結構頑張って勉強したつもりだったのだが・・・見たことが無い術式だ。なんか古風な印象が・・・

 しかし古風だけど力強い。硬い・・・

 うむむむむ・・・また結界について一から勉強しなおすような労力で、目の前の結界を解析する。


 むむ。なんか近づいてくるぞ。これは俺もよく知ってる探査用サーチスフィアだな。

 ふん・・・隠蔽が甘いな。俺には余裕で分かるぞ近づいてきてるのが・・・

 でもやばいな気づかれたくない、なんとか見られる前に・・・

 急げ俺ー!

 もうすぐ視認される距離に入りかねない!

 ってとこで解析終了、アンチプログラムの作成完了、注入、結界解除!


 急速に日の光と、街中の雑踏が蘇る。

 低レベルで探索、すぐに高町さんとフェイトさんが見つかる。宙に浮いて呆然としてる。

 転送、転送、二人連れて、さらに転送!

 アースラに帰って来ました。

 疲れたべ~


 あ。なんかリンディさんが怖い顔で睨んでる。

 ふふふ・・・甘いなリンディさん。

 俺はこういう無茶をしたら・・・

 血を吐くんだぜい。

 ブハッ!




 海鳴の街中をスキップして歩いていた某少女。


 フェイトちゃんとマシューくんが帰ってくるって話を聞いて、私はすごく浮かれてました。

 アリサちゃんがパーティーの準備をしてるみたいです。会場は、うちにするかアリサちゃんの家にするかで結構、揉めましたが、

結局、うちですることになりました。ちょっと不満なアリサちゃんは、うちの床が抜ける勢いで豪華料理を持ち込むつもりでいるそうです。

 マシュー君は、自宅に直通で転送できるそうで、フェイトちゃんが転送してくる海沿いの公園まで私は迎えに出かけました。

 ところがその途中でいきなりの結界展開。

 驚くヒマも無く、赤い女の子がハンマーで襲ってきました!

 すごく強い!・・・お話とかする余裕も無い!

 私がどんどん追い込まれて、もうすぐやられる!って時に、フェイトちゃんが援護に来てくれました。

 ところがこれまで姿を見せなかった、剣士ぽい女の人が現れて、フェイトちゃんも劣勢になってしまいます。

 このままでは二人とも・・・

 という時に、なぜかいきなり結界が解除されました!

 すっごく驚きました。いきなり、いつもの日常の海鳴市街の上に浮かんでる状態になりましたから!

 向こうも相当慌てていました。なんか怒鳴りあって確認したりして。

 そして私のほうは、一息ついて、瞬きを少しした・・・と思ったら。

 いきなりアースラの中にいました・・・わけわからないです。

 後ろを向くと、同じようにびっくりした顔のフェイトちゃん、そして・・・

 血を吐き出して倒れこむマシュー君の姿が!









(あとがき)
主人公、場をぶち壊して即時撤退。しかしそれだけで倒れる。出番終わり。

なお主人公の頭の中身は現在(姉ちゃん・60% 魔法・20% 八神・10% その他・10%)というふうになってます。

以前は(姉ちゃん・80% 八神・10% その他・10%)だったのでかなりマシになっております。 



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十一話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/06 08:43
マシュー・バニングスの日常  第十一話






 ゲホゲホゲホ! ゲホゲホっと・・・ぐぶぶ・・・さらにゲホッ。

 デバイスは地面に落とし、左手首に巻いたリミッターをきちんと締めなおす。ふうう・・・少し緩めるだけできついなあ。

 あせったもんで少し本気出しちゃったよ。

 蒼白になってる高町さんとフェイトさんを安心させようと、にこりと笑ってみせる。

 後で聞いたら、口元から血を流しながら笑われても怖いだけだったそうだ。


 とりあえず現状を報告せねば・・・

「結界解除成功、転送も成功、俺は軽症、動脈は破れてないし。まあ無傷に等しいかと。」

 ブホブホと血を吐き出しながら言っても説得力は無かったかも知れない。でもホントだしなあ。

「説教は後ですることにします・・・医療班!」

「いや大した事無いですよ。胃壁に少々穴が開いた程度です。この程度なら慣れてますし・・・ガボガボ」

 ガボガボは血が流れ出る音である。

「黙ってなさい!!! なのはさん、フェイトさん、マシューくんを医務室に連行して!」



 俺の両脇にまわって、両腕をそれぞれがつかんで、高町さんとフェイトさんが俺を医務室に引きずっていこうとする。

 っと

 いきなり俺の中に、ある程度の力が回復してきた。立てないくらいの状態から、なんとか立てるくらいの状態にまで回復。

 同時に高町さんとフェイトさんが、脱力していきなりコケた。側頭部を床に打ちつけて痛みでうずくまってる。

 なんだ? まるで二人から力をもらった・・・というか抜き取ったかのような・・・


「二人も限界に近いみたいね・・・ああ担架が来たわ。マシュー君、乗りなさい。」

「いや大したことは・・」

「マシュー君、乗りなさい。」

 無表情に繰り返すリンディさんマジ怖いっす。




 医務室で強制的に横にならされた俺のまわりに、椅子に座った高町さん、フェイトさん、さらにリンディさんとクロノが集まった。

「それでマシュー君、言い訳はあるかしら?」

 リンディさんは素敵な笑顔だ。一片の隙も無い。半病人にそんな笑顔を向けないでほしいなあ。

「転送だけなら多少連発しても、体に負担が来ない自信はあったんですよね。結界の解除も、普通の結界ならもっと簡単にできた

はずだったんですが、なんと見たことのない術式で、解析に手間取って、んで思ったよりも体にガツンときました。」

「・・・あれはベルカ式魔法による結界よ。」

「ベルカ・・・えっと、古代式の魔法でしたっけ?」

「まあそれはいいわ、後で調べなさい。それよりも!」

「はい!」

「いいかしらマシュー君、あなたは民間人なのよ? しかもやっと退院したばかりで、すこし動いたらすぐに血を吐くような

体で、勝手に戦場に乗り込んだりして! このことはお姉さんにしっかりきっちり報告させてもらいますからね!」

「うう・・・はい・・・」


 高町さんを助けなくても姉ちゃんに怒られただろうし、助けても怒られるというわけか・・・悲しいぜ・・・


「まことにすいませんでした・・・軽率な行動を反省してます。どうか姉ちゃんには、こう、言うのはしょうがないと思うんですが、

なんとかオブラートに包んだ表現で・・・お願いします。」

「まったくもう・・・私はお姉さんと高町さんのご実家に連絡してくるから、あとは細かいことをクロノ、聞いておいてね。」

「わかりました艦長。」

 リンディさんは医務室を出て行った。聞こえないようにホっと一息。



「やれやれ、怒られたなマシュー。」

「胃から血を吐く程度なんて負傷のうちに入らないっての。全く健康な人にはそれがわかっとらんのです。」

「・・・そのジョークは笑えないよマシュー君・・・」

「・・・どこから血を吐いたことがあるの・・・?」

「え~とね、まずは」

「「言わなくて良いから!」」

 俺の吐血歴を詳細に説明してあげようと思ったのに。大体、俺に言わせれば本気でやばいというのは心臓が止まってそもそも血が

流れなくなる状態のことを言うのであって、胃から少々血が流れ出るなんてのはかわいいもんだ。



 クロノが気軽な口調で質問してきた。

「さて冗談はここまでにして、マシュー、あの転送魔法は何だ?」

「なんだって普通のミッドチルダ式の転送すけど。」

「術式展開が早すぎる。通常5秒前後かかるものが・・・君のは一秒かかってたか?」

「目標、一秒以下にしてアレンジしてみたんすよ。といっても、俺が認識できる範囲に限ってだけどね~」

「なるほど・・・座標の把握などはお前の得意の探査で別途に行い、転送は転送だけに特化して、瞬時に行えるように

改良した、というところか?」

「さすが執務官。大正解。ううむ簡単に見抜かれてしまったか。」

「普通なら探査は探査で、結構負担のかかる魔法だから、なにかと併用などは難しいものだが・・・お前の場合は、今の

リミッターがかかった状態で、しかも片手間の探査でも、普通の人間では認識できないほどの広範囲を、好きなように

把握でき、高速転移が連続できるというわけか・・・。」

 転送魔法のプログラムは、単に転送するという作業の発動式だけで成り立っているものでは無くて、実は8割がたは座標の

正確な特定・把握の式で埋められていることを、勉強しているうちに気付いたのだ。実際、広大な空間の中からの特定の座標の

選出・固定の方が遥かに複雑な計算を必要とするもので、そっちに大きく手間を取られるから転送魔法の発動には5秒はかかるのだ。

 で、俺は特技の探査で座標特定は異常な速度で行えるので、転送魔法の展開も異常に早いのだ。


「あの結界を破壊したのも、マシュー君なんだよね?」

「うん、結界ってのは広域に拡散した魔力で空間に干渉して位相をずらす術だからね~。そういうの操るのは得意だし。」

「すごい・・・マシュー君、病気を治しながら魔法の勉強もしてるって聞いたけど・・・頑張ってたんだ。」

「そこのところ姉ちゃんにアピールよろしく! そうだよ俺は頑張ってたんだよ~」

「もう! ふざけてるとアリサちゃんに言いつけちゃうんだからね!」

「すいませんでした反省してます。」


 ふと、さっきの違和感を思い出した。まるで俺が高町さんとフェイトさんから力を吸い取ったような感触を。

 二人とも疲労してるけど怪我はないし、ちょっと試させてもらおうかな・・・


「フェイトさん、ちょっといい?」

「ん? なに?」

 俺はベッドから身を起こして、偶然、近くに座ってたフェイトさんの手を取り、握り締める。

 なお、俺がベッドに寝てる、枕元に近い側に椅子をおいてフェイトさん、足もとのほうに高町さんという順番に

座っていたからってだけの話であって、別に特別な意味はない。

「え? えええ? な、なに?」

「ちょっと黙ってて。」

 ぎゅっとフェイトさんの手を握りしめ、ちょうど治癒の逆の要領で、魔力を与えるのではなくて魔力を吸収する

感じで・・・むむむ・・・

 なにも起こらない。やっぱ偶然だったのか?

 無意識にはできたのに、意識的にはできないのか? ううむわからんなあ・・・

 フェイトさんの手を握り締めて、自分の顔のほうにもっと近づけて集中・・・あ・・・なんかできそうな・・・


「なにやってるのマシュー君!」

 高町さんがいきなり叫ぶ。なんなんだ全く、と目を開けると。

 真っ赤になって黙ってしまったフェイトさん、なんか呆れているクロノ、同じく赤くなった高町さん。


「なにか誤解があるような気がする。」

「なんでそんなに冷静なの!」

「あ、あの・・・マシュー、はなして・・・」

「・・・で、何をやろうとしてたんだ?」


 クロノに説明する。さっき二人の体の魔力を吸い取ったような気がしたので、もしかしたら、また手を触れるとか

すれば同じ現象が起きるのではないかと思ったと・・・


「えらく物騒なことを試そうとしていたんだな・・・」

「いやあ、俺ってリンカーコア異常で自分の肉体から魔力を限界まで吸い取ってたわけじゃないすか。もしかしたら

『肉体から魔力を取り込む』ことが他人にもできるんじゃないかなと漠然と・・・」

「もう! そんなこと考えてたの?! 心配したのに!」

 席を立って憤然と部屋からフェイトさんが出て行ってしまった。むむ。これはまずいかも。

「マシュー君! ちゃんとあとで謝るんだよ! フェイトちゃーん。」

 高町さんもフェイトさんを追って出て行った。むむむ。


 しかし二人が出て行ったところで、クロノの表情が、これまでの苦笑い気味の顔から、真面目なものに切り替わった。

「ちょっといいか。」

「なんか深刻な話ですか?」

「本来なら君には関係ない話なのだが・・・母から聞いた。君は管理局所属のミッド中央医学校を志望してるそうだな。」

「ええ、治癒魔法を専門的に勉強しないと・・・このリミッターが取れそうもないんで。」

「少し力を使うと血を吐くか・・・」

「前までは心臓止まってましたから、すごくマシになったんですよこれが。」

「事実だったのは知ってるから笑えんな。まあそれはともかく、ミッド中央医に入った場合の、卒業後の拘束義務は

知ってるか?」

「何事も無ければ8年間でしたっけ? 管理局の仕事をしなくちゃいかんのは。」

「それは短縮できる可能性があるんだ・・・管理局への功績が他の形で認められれば、な。」

「んーと、この体がボロボロの俺にそれでも仕事をやれと・・・いやあクロノさん鬼だw」

「その通りだ。」


 真面目なクロノの顔には怯みもためらいもない。


「僕は管理局の正義のために、どんなものでも利用しようとする人間だ。それに人がどういう感情を抱こうと気にしない。」

「ふむふむ。いやそういうふうに割り切るクロノさんは嫌いじゃないっすよ。法と正義を守るために、私情を排して頑張ると

覚悟を決めた人間ってのも世の中に必要なもんですしね。」

「君は・・・達観してるんだな。」

「いや。そんなこともないと思うんすけどね。」


 当時の俺は、死んでるか生きてるか分からないような状態を長年続けてきたせいで、自分の命に限らず、何かに執着すると

いうこと自体がほとんど出来ない状態であった。だからガキのくせに異様に冷静で中立的な視点を持っていたし、自分自身が

何かに執着できないために、何かに執着する激しい気持ちというものに漠然と憧れをもっていたかもしれない。

 姉ちゃんの激しい感情や、俺への愛情、クロノの信念へのこだわり、そういった強い気持ちはどんなものでも、俺にとっては

まぶしく感じた。


「体調がある程度、戻ってからで良いのだが・・・君の全力に近いレベルでの探査をお願いしたい。」

「いや、そういわれても今のデバイスでは・・・」

「君のために演算処理性能を極度に高めたデバイスを用意し、提供する。君の探査時には専属の医師と護衛をつける。」

「・・・これはまた太っ腹な。そんなに大変な事態なんですか?」

「まだ確定では無いのだが・・・十中八九間違いない・・・『闇の書』なんだ。」

 『闇の書』という単語を言ったときのクロノの表情は・・・これまでにみたことが無いほどに深刻なものだった・・・








(あとがき)
クロノはちょっと理想が先走っちゃうけどいいやつです。言葉を飾れないのも若いからで善人の証拠です。

フェイトフラグは別に立ってません。そもそも9歳の子供ですしねぇ

なお主人公はスーパーパワーに目覚めたりはしません。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十二話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/07 07:49
マシュー・バニングスの日常  第十二話






 クロノの説明によると・・・

『闇の書』は古代ベルカの遺産で、大層危険なロストロギアらしい。ジュエルシードの場合は「悪用することもできる」って

程度のものだが、闇の書は、記録に残る限りでは、「悪用されて大惨事になった」前例しか存在しないという。

 闇の書は、魔道士に取り付いて魔力を食らい、同時に4体の「守護騎士」という人間型プログラムを生み出す。守護騎士たちは

周囲の魔道士たちを襲ってリンカーコアから直接に魔力を抜き出し、闇の書に蓄える。襲われた人間は死ぬ場合もある。

 そして一定の魔力が闇の書に蓄えられると・・・その次元世界ごと滅ぼすほどの破壊力を発揮する。実際に、そうして崩壊した

次元世界は存在するという。

 最新の記録では、完成寸前になった闇の書を、その周囲を巻き込んで戦艦砲「アルカンシェル」で吹き飛ばして、なんとか

それ以上の被害を食い止めたという。


「吹き飛ばしたんでしょ? そこでおしまいでは。」

「そこがやっかいなんだ。闇の書には自動転生機能がついていて、ただ吹き飛ばしてもいつの間にか復活して、また別の魔道士に

取り付く。次元世界ごと滅びた事例でも復活してきたんだ。」

「なんとまあ・・・」


 そして近頃、魔道士や、魔道士以外のリンカーコアを持つ生物などが襲われて、魔力を奪われるという事件が幾つかの次元世界に

分散して起こるようになったという。事件の起きた世界は多数あるが、その分散具合を見ると、もしかしたら地球のあるこの世界が

彼らの拠点である可能性もあるという。

 しかもついさっき、高町さんとフェイトさんは謎の魔道士に襲われた。彼らは明らかにベルカ魔法を使うベルカの騎士(そういう

ふうに呼ぶそうだ)であり、使われていた結界も今時見ないベルカ式。


「杞憂であったなら、それはそれでいいのさ。しかしもしもこれが闇の書がらみであった場合・・・」

「この世界まで危険になる可能性があるわけですか。」

「その通りだ。」


 ふむ。俺は俺の命には大して執着が無いのだが・・・姉ちゃんに危険が及ぶ可能性というのは冗談では済まんな。


「ありがとうございます。クロノさん。」

「ん? なんだいきなり。」

「そんな事態であるってことを、別に話す義務もないだろう俺に教えてくれて、ありがとうございます。この世界に危険が及ぶ可能性、

・・・ていうか姉ちゃんに危険が及ぶ可能性があるなら、全面的に協力しますよ。」

「そうか、頼む。」

「いやあ事情が事情ですからね。しばらく大人しく養生して、本気の探査が出来る体力を蓄えますよ。」

 どうせ多少血を吐くだけですむし。今の体なら。なーに死にはしないだろ多分。




「・・・ところで闇の書絡みで俺に協力を頼むって話は、リンディさんも許可してるんですよね?」

 ビクっとクロノの体が硬直した。

「・・・いや、僕の独断だ。君の協力が得られれば大きく事態は好転することは間違いないのだから。」

「俺はいいんすけど・・・リンディさんの説得はもちろん、やってくれるんですよね?」

 クロノが冷や汗を複数、額に浮かべた。




 まあいずれにしても先の話になるし、俺は医師に回復魔法を胃にかけてもらい、自分も軽く魔法かけて微調整、自慢にもならんが

胃壁が破れるのは慣れてるので治すのも慣れている。また怒られるかもしれんがとりあえず起き上がって、クロノと二人でブリッジに

向かうことにした。

 ブリッジではリンディさんが通信スクリーンを広げて困惑した表情で話しこんでる。

 高町さんとフェイトさんもその周りにいるようだ。

 近づいてみると・・・


 鬼の形相をした姉ちゃんがリンディさんに凄い勢いで噛み付いていて、リンディさんは何とか姉ちゃんを静めようと頑張っていた。

 高町さんとフェイトさんもたまに口を出すが、焼け石に水のようだ。


 スクリーンに映らない位置に慎重に退避した上で、しばらく話を聞いてると、同じ内容の押し問答をしてるので話は分かった。

 魔道士を狙う事件が近頃、付近で頻発しており、今日も実際に高町さんたちが襲われている。安全を確認するまで、俺たちは

アースラのほうに留まったほうがよい、と主張するリンディさん。とても理性的な大人の意見である。

 対して姉ちゃんはかなり感情的で支離滅裂、しかし迫力だけは凄い。数ヶ月ぶりにやっと弟が帰ってくるのだから、こっちは

パーティの準備も大掛かりにしてるのだ、それをいきなり直前に中止とは言語道断、大体治安維持はあんたらの役目なんでしょうが

この給料泥棒! とリンディさんで無ければ怒ってるんでは無いかというクレーマーっぷりだ。

 穏やかに理性的に説得を繰り返すリンディさんにもさすがに疲れが見える。

 感情優先で怒りをぶつけてくるクレーマーの相手はきついようだ・・・



 仕方ないので俺が出てくことにする。



「おう姉ちゃん、久しぶり。」

「マシュー! 元気だった?」

 俺の顔を見るなり、表情を一変させて笑顔になってくれるのは嬉しいのだが。

「その・・・なんだ、パーティーの準備とかしてくれてたんだって?」

「そうなのよ! やっとマシューが一時帰宅できるっていうから気合入れてたのに!」

「うん、ありがとう。ほんと嬉しいよ。でもさあ・・・」

「なによ!」

「リンディさんも言ってたけど、魔道士を狙った通り魔みたいのが出てるってのも、今日、高町さんたちが襲われて、結局は

無傷で切り抜けたんだけど、それでも結構、危なかったってのもホントなんだよ。」

「それは何度も聞いたわよ・・・でもせっかく・・・」

 涙目になる姉ちゃん。


 ううむ。リンディさん相手なら怒ってたんだが、俺が相手だと泣いてしまうのか。

 どっちにしても感情が激しいんだよな。まあそれが姉ちゃんのいいところなんだが。

 しかしリンカーコアを抜かれるというのは・・・

 健康な人でもしばらく寝たきりになるそうだ。

 不健康な俺だとどうだろう・・・即死するかもしれん・・・

 しかししかし、それを言って姉ちゃんを黙らせるのもなんだしなあ。


「えと、リンディさん。」

「なにかしら?」

「やっぱり俺と高町さんとフェイトさん、3人で警戒するから、何時間かだけでも帰る、ってのも・・・無理っすか?」

「ごめんなさい・・・実際に負傷する可能性がある以上・・・許可は出来ないわ。」

「やっぱそうすか。」


 まあそうだよね。言葉を濁して「負傷」といってくれたが実は俺に限っては死にかねないし。無理やりでも引き止めなくては

いけないくらいのレベルだろうなあ。

 しかしどうしたら姉ちゃんは納得してくれるだろうか・・・いや聡明な姉ちゃんのことだから既に頭では分かってるんだ。ただ

感情が治まらないわけで。その感情をなだめる、気持ちを落ち着かせるにはどうしたらいいのやら・・・


「え~と、姉ちゃん、そんな状況なんだよ。」

「分かってるわよ・・・」

「その・・・なんだ、可能な限り早く事件を片づけて、すぐに会いにいくから。」


 地雷を踏んだことに俺は一瞬気付かなかった。

 急激に姉ちゃんの表情が変わる・・・般若の形相に・・・なんかまずったか・・・


「あんた、いま、なんていった?」

「え・・・」

「あんたが! 事件を! 『片付ける』! とか言ってなかった? 聞き間違いかしら?」

「えっとだな、その、少しくらい協力したら、解決に役立つかもと・・・」

「寝てろ!!! 動くな!!! あんた病人でしょうが!!!」

「あーうー。」

「リンディさん・・・今でもリミッターで何とか命を保っていて、少し動けば血を吐くような弟を、無理やり働かせるような真似は

しませんよね?」

「もちろんよ。そんなつもりはないわ。」

 リンディさんは迷いなく即答。ほんとにそんなつもりは全く無さそうだ。


「なのは!  フェイト!」

「「はい!」」

「マシューがバカやりそうになったら、後ろからぶん殴って強制的に止めて、睡眠薬でも使って眠らせておきなさい! 

私が許すわ。力ずくでも止めること、いいわね!」

「「はい!」」

 高町さんとフェイトさんは完全に迫力に呑まれてる・・・敬礼しそうな勢いだ。


 姉ちゃんはしばらく額に手をあてて考え込んでいた。急速に冷静さを取り戻しておりこのへんはさすがである。

 目を開けて、静かに俺を見ると、おもむろに姉ちゃんは口を開いた。

「なるほどね・・・分かったわ。」

「えと、なにがでしょう、お姉さま。」

「私がゴネたら、あんたのことだから、私のためにとか思って、その妙な事件に首突っ込む可能性があるってことがわかった。

いい、マシュー。こっちの都合なんて気にせず、安全が確保されるまでは絶対に! 絶対に! 船から降りちゃダメよ!分かったわね。」

「あー・・・でもさあ。」

「わ・か・っ・た・わ・ね・?」

「はい・・・分かりました・・・」

「なによその歯切れの悪い口調は、もう一度! わかったわね!」

「はい! わかりました!」

 元から俺が姉ちゃんに対抗などできるわけがないのである。




 さて、ここで一旦、通信は終了し、俺は毎日状況を姉ちゃんに報告することを義務付けられた上で、また部屋に戻って寝てろと

ブリッジから連れ出されてしまった。なお一緒に来たのはリンディさんで、クロノとなんか話す隙も無かった。念話という手も

あるだろうと思われるだろうが、あれは、周囲の人が念話での内緒話に無警戒だった場合に限り、有効になるものなのである。

 念話してんじゃねーかと疑ってかかりさえすれば、傍受は結構簡単なのである。

 よほど秘匿に気を使って傍受不能に近い上級念話を使うということも可能だが、これだと魔力が漏れる。聞こえないけど、なんか

話しているということはバレるのである。結局、本当に内緒話したければ、どこかに隠れて、肉声で話すのが一番なのだ。

 妙に念話を使うことで、かえって傍受されてバレということも多いのである。

 まあ少なくとも俺が相手だと、念話での内緒話は非常に困難である。探査が得意なのと同様、俺は念話傍受も実は異常にうまく、

その気になればアースラ全体の念話を、部屋にいながらにして盗聴する自信がある。疲れるからしないけどね。



 さてリンディさんに俺の個室まで引きずって来られた俺は、強制的に寝かしつけられた上で、デバイスを取り上げられ、転送機能を

封印されてしまった。俺の転送は異常に発動が早いので、俺が転送を発動しようとしてから止めようとしても難しいということは

すでにお見通しであった。魔法の訓練は事件中もしてよいが、転送以外のものをしてろとのこと。俺がこれまで使ってた、管理局の

武装局員の標準デバイスは、上級者の権限により強力な封印ができるものであったそうだ。艦長権限での封印は、デバイスを作ってる

専門家のマイスターでも簡単に解けるものではない、と念を押された。ううむ、そんなに信用できないか・・・



 さ~て、どうするかね・・・










(あとがき)
主人公、ちょっとカコイイ決意をしてみるもののすぐに却下される。

姉ちゃんに危険が及ぶなら何かしたいのだが、姉ちゃんに命令されたら無条件で言うことを聞いてしまう。

すぐ死にそうなマシューがいるのでアースラの対応は慎重になってます。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十三話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2010/05/23 20:30
マシュー・バニングスの日常  第十三話





 転送も封印されて、姉ちゃんには大人しくしてろと命令された。


 さてどうするかな~と少し思ったが、まあ・・・


 この時点では俺は、姉ちゃんの言うことを素直に聞く気だった。クロノは悪い奴じゃないのは分かってるし、その信念には確かに

尊敬できる部分もあるし、俺の数少ない男友達でもあるわけだが・・・比べる相手が姉ちゃんでは、もちろん比較にならない。

 おまけにリンディさんまでこの調子だし。そこで俺は言ってしまうことにした。

「でもリンディさん、クロノがなんか新しい、俺の探査能力に最適化したデバイスを作ってくれるとか言ってましたよ。」

「そうなの? 聞いてないわね。まあいいわ、それが事件中に入手できても、まずは私の手元で転送は封印しますからね。」

「わかりました。」

「クロノはもしかして・・・他に何か言ってない? 協力してほしいだとか・・・」

「いやそこまでは言ってないです。」

 ここは嘘をついて、クロノを助けておくとしよう。男の友情だ。

「それならいいけどね。」

 にこやかな笑顔なのに、心の奥が全然見えない、年季を感じさせる表情だなあ。

 もしかしてクロノを微妙に疑ってるかもしれないが、まあそこはそれ、そこまで面倒みれん。


 実はリンディさんにこの段階でばらしたことは、結果的には良かった。

 クロノは様々な部品を集めた上で、アースラのデバイスマイスターと相談しながら、こつこつと俺のデバイスを組み上げていたのだが、

それはあくまでクロノ個人の裁量と、知識をもとにしたもので、まあそれでも悪いものは出来なかったとは思うが、リンディさんに

それがばれて、リンディさんが組み立てに協力してくれるようになったことで、性能はかなり向上したのだ。


 俺は、普通ならありえないほどの大量のサーチスフィアを同時に展開できるわけだが、そのために情報処理にかかる負担が普通では

無い。通常のデバイスというのは、おしなべてバランス型なのであり、多種多様な魔法の発動を補助し、効率を上げ、術者の負担を

減らすようにできている。デバイスなしでも慣れれば魔法は使えるが、通常は、デバイスの演算処理性能は人を大きく超えているため、

魔法発動効率はデバイスありに比べれば落ちるわけだ。デバイス無しでは、消費魔力対魔法出力の効率が落ちるだけでなく、発動した

魔法の効果も落ち、さらに肉体への負担も増え、発動速度も落ちる。それぞれ数%ずつの低下に過ぎないにしても、全部が相乗的に

重なるのでデバイスありとなしを比べれば違いは明白である。

 また、通常の魔道士は、デバイスありを前提に魔法を組むものだ。自分一人でも出来る魔法を、デバイスを使って効率を上げる、と

いう状態に留まらず、より大きくデバイスに依存し、魔道士自身が負担するのは魔力と最低限の制御のみで、術式展開や演算処理などは

デバイスに丸投げするという形が多い・・・というより主流である。

 実際問題、そうしたほうが強いのは確かである。

 しかしそうなると、デバイスなしで使える魔法は極少数、デバイスが無ければ魔法が使えないに等しい状態になってしまうのだが。

 もとは人が何の道具も使わずに魔法を使っていたはずだ。

 魔法発動の効率を上げるための道具が本来のデバイス。

 しかしデバイスの進化は急速に進み、演算処理性能などデジタルな能力は、人の頭脳より遥かに高くなり。

 デバイスの存在を前提として、デバイスと協力して魔法を発動する状態が主流になったと、そうしたほうが強いから。

 デバイスの記憶容量も人の限界をとっくに超えてしまい、演算処理、記憶保持でデバイスは人の上になり。

 その進化の究極形として、デバイス自身が知性を持つ、インテリジェントデバイスがあるわけだな。

 デバイスの存在は前提で当然、デバイスと魔道士が協力して魔法を使う形として、最高であるわけだ。

 しかしインテリジェントデバイスは、余りにも高度にソフトの面が発達してしまったため、純粋な道具としての頑強さは失って

しまっているという欠点がある。汎用性が非常に高く、なんでもできる上に、初心者でも魔力さえあれば一端の魔道士として振舞う

ことができるほどの教育性能さえ持つのであるが・・・

 例えば、知能を持たない純粋な道具であるストレージデバイスを持つ熟練魔道士と、同じレベルの魔道士がインテリジェント

デバイスを持ち、戦った場合を仮定してみる。

 戦うということに限定すれば、必要なのは、攻撃・防御・速度。非常に単純な要素に還元される。汎用性は必要ないのである。

 そうなるとストレージデバイスの持ち主のほうが、それぞれの限定された要素に関して、1%以下でも上になるのだ。

 勝敗・生死は紙一重。それだけの差が決定的な差になる。

 インテリジェントデバイスの持ち主がうまく立ち回って、一度は互角に打ち合う状態になったとしても、耐久性に劣るインテリジェント

デバイスは、激しく打ち合うと迅速に性能が劣化してしまうのだ。

 ゆえに実戦志向の魔道士はストレージデバイスを使うという場合も多い。また実際問題、あらゆる種類の魔法がまんべんなく得意である

なんて万能の人間はめったにいない。普通は、何かが得意だけど何かは苦手、得意なのはよく使うけど苦手なのは使わない、さらに日常に

出会う局面では、限られた数種類の魔法くらいしか使わない、というのが良くある状態である。だから多くの場合、AIの無いストレージ

で十分なのである。

 「魔法を使う道具」に徹しているのがストレージデバイス。それ以前に「道具でもあり魔法も使える」というアームドデバイスという

ものも古代ベルカ式には存在している。アームドデバイスは、先に武器であり、次にデバイスでもある、という形式のもので、ストレージ

デバイスよりもさらに実戦志向のものだ。


 まあ結局の所、道具は使う人次第、使い手の力量が何よりも大きな要因であるのだが。


 俺の場合は、通常のデバイスの十倍以上の演算処理性能が必要とされているわけだ。そして既製品では、ハードの部分において、

そこまで一つの魔法に演算処理を使うようには出来ていない。魔法発動・制御・情報処理などがパッケージ化された状態で、分散された

設計になってるのが普通なのだ。ゆえに演算処理の部分をある程度、独立させ、しかもその機能を通常のデバイスに比べ飛躍させた

ものが、俺のために組み上げられようとしていた。

 魔法プログラム処理の部分と、演算処理専用部分とが、切り離されている構造のため、特に大規模な演算処理を必要とするような

魔法を使う場合は、通常のデバイスよりも発動が遅いという欠点は出来てしまった。しかしまあ、わざと演算処理部分を経由させずに

単純な魔法を発動させる分には、瞬間転送などは普通に使えた。


 俺専用の情報処理特化ストレージデバイスが完成して、手渡されるまでの一週間ほどの暇な時間、俺は上記のようなデバイスの

勉強とかをしつつ、のんべんだらりと過ごしてた。結局、俺は限られた魔法しか使わない。必要なのはとにかく情報処理性能。それに

特化したデバイスなら、ストレージのほうが優れていたのだ。



 その間、事態に大きな進展は見られなかった。

 被害状況から見て、この世界が敵の本拠地である可能性は高いものの、決定的な証拠が見つからない。

 俺が探査すればなにか分かるかもしれないが厳重に禁止されてる。


 囮捜査をする、という方針が、危険を承知で認められたのは、皆が焦っていたからだと思う。

 高町さんやクロノは分かりやすく焦っていたし、リンディさんも顔には出さずとも焦っていたのかも知れない。



 まず高町さんが無防備に町を歩く。

 それに敵が引っかかって、襲ってくるのを期待する。

 もちろん高町さんの動向はアースラ側で把握していて、敵が襲ってくると同時に敵を封じる強力な結界を敷く。

 そこに増援を送り込んで一網打尽にする、と。まあ分かりやすい作戦だ。


 事前の情報に寄れば、闇の書の守護騎士は4体、そのうちまともに戦えるのは3体のみで、残り1体は補助系らしい。

 高町さん、フェイトさん、オコジョ、アルフさんだけでも余裕を持って、その実戦組3体に当たれるはずだそうだ。しかも同時に、他の

武装局員の援護も得られるはずだし。

 クロノは遊軍として待機し、もう1体の場所が分かればそこに急行、戦況によっては味方の援護をする予定だ。


 何度も囮が空振りになり、もしかしてここじゃなかったんじゃないかと思った頃に・・・状況は動いた。


 潜伏していた武装局員の集団が、まず襲われた。あっというまに十数名がバタバタと倒れ、リンカーコアを奪われた。

 近くにいた高町さんが焦って局員たちに近づこうとしたところで、敵側の結界が発動。

 それを受けて、フェイトさん、アルフさんが敵の結界内部に乗り込む。オコジョはもとから高町さんと同行していた。

 さらに敵の結界を覆う規模で、味方の捕縛結界が発動。中にいる人が出て行けないタイプの結界だ。

 高町さんとハンマー少女、フェイトさんと剣士、アルフさんと敵の狼みたいのが戦い始める。オコジョは高町さんの援護だ。

 しかし数的な有利は大して効かなかった。圧倒的な実戦経験の違いにボコられる高町さんたち。

 そして動けなくなった高町さんの胸からいきなり腕が生え・・・リンカーコアからの魔力蒐集がされてしまう! 

 だがそれによりもう一人の守護騎士の居場所が判明、クロノが転送で駆けつけ、その騎士を拘束しようとしたのだが・・・

 いきなり敵の増援が来た。4体しかいないはずだったのに。5人目の謎の仮面の男はクロノを吹き飛ばし、そこでクロノからの情報は

途切れ、気づいたら結界は壊されて、敵は逃げ去った後だった。



 結局、高町さんが被害にあったのみで・・・作戦は失敗に終わった。



 俺は一連の流れを、眺めていることしか許されなかった。


 しかし傍から眺めていたからこそ気付いたことも多かった。特に俺が注目したのは、敵の補助系守護騎士の動向だ。

 アースラのレーダーからも逃れる隠蔽能力、隠れていた武装局員を的確に見つける探査能力、視認できない距離から弱っていた

高町さんを狙い打ちにしてリンカーコアを奪うのも敵ながら見事だし、強力な捕縛結界を崩したのも、結局はその補助系騎士の

力量なのだろう。罠を張っていたことに気付かれていたようだし、後手に回ってしまって、結局、罠も破られた。前線で戦っていた

騎士たちの勝敗を決定付けたのは、結局、後ろで援護していた、その人の力量によっていたのだ・・・

 もちろんアースラ側の後方支援が不十分だったわけではない。考えられる限りの準備もしたし、少なくとも人数という点では確実に

敵よりも上回っていた。

 しかし今回は、敵は見事にこちらの裏をかき、人数差を覆してしまったわけだ・・・


 どうも前々から感じていたのだが・・・ミッドチルダを中心にした魔法文化世界は魔力の強さで全てが決まるみたいな単純思考に

陥る傾向が高いんだよな。そしてその考え方は実際9割がた正しいから話はややこしい。魔力の高い魔道士の方が強いというのは、

ほぼ間違いの無い話なのだ。敵の守護騎士たちは魔力という点で言えば、個々は高町さん以下であったらしい。フェイトさんも魔力

だけの話をすれば守護騎士たちよりも上であったようだ。

 しかし多少の差を覆す実戦経験、戦闘技術というのは、稀にではあるが確かに存在するわけだな。そういう例外にぶち当たったとき、

対処に困惑するのが、魔法至上主義社会の弊害というところか。

 まだ若く理想が先行する傾向のあるクロノはともかく、リンディさんはそんな弊害から逃れているはずだと思うのだが・・・

 とまあそんな年よりくさいことを考えつつ、俺は珍しく他人を見舞いに行くことにした。


「高町さん、具合はどう?」

「なんだか力が入らないけど・・・大丈夫、別に痛くも苦しくもないから。」

 リンカーコアから蒐集される被害にあった高町さんは、寝たきりではあるが、命に別状は無さそうだった。

「もう船医さんから、治癒魔法は受けたんだっけ?」

「うん。極度の魔力の枯渇以外には異常は無いって。自然回復を待つしかないって言われた。1週間もすれば大体戻るって。」

「そっか・・・あのさ、俺もちょっと診てみていい?」

「え? マシュー君、診察とかできるの?」

「これでも医者志望だし。リンカーコアに起きてる魔力異常という分野については俺の体のこともあって、ちょっと詳しいよ?」

「そうだったね・・・じゃあちょっとお願いしようかな。でも無理したらだめだよ?」

「大丈夫だって。」

 俺はデバイスを軽く高町さんの胸にあてて、目を瞑る。


 魔力はどこにでもある。自然に分散しているものだが、これを直接に操ることはできない。魔道士は、一度、これらの魔力を

リンカーコアに蓄えなくてはならない。魔道士が操れるのは、原則として、このリンカーコアに蓄えられた魔力だけである。

リンカーコアは体内にあるだけあって、無機的な魔力の結晶ではなく、有機的な魔力の結合体であるように俺には感じられていた。

パッと見には、確かに宝石のように感じ取れるものであるが、実は、無機物の結晶であるダイヤやルビーではなく、有機物の

結晶である真珠や琥珀のような・・・

 魔力の有機的結合体であるリンカーコアには複雑精密な構造があり、その構造の間に隙間が大量に存在し、そこに魔力を取り

入れて蓄えることができる。スポンジに似てると言えるかも知れない。リンカーコアから魔力が蒐集されるとは、いわばスポンジを

ギュっと絞って水気を搾り出されたのと同じこと。ここに他者が強制的に魔力を送り込むのは・・・まあ出来ないことは無いのだが

危険である。有機的で繊細な構造をしているものに無理に力を加えて、その構造を破壊してしまっては取り返しが付かない。

 だから船医さんも、疲弊した肉体のほうに回復魔法をかけるだけで、リンカーコア自体には手を出していない。現状、確かに

これ以上のことは出来ない、出来ないのだが・・・

 魔力を分散して探査するのは俺の得意芸。人の体は無数の細胞から成り立ち、それ自体が一つの小宇宙。ゆえに普通の医者だと、

せいぜい器官や組織のレベルまでしか把握できず、「心臓が弱ってる」とか「胃が弱ってる」程度しか分からない。精査しても

せいぜい「心臓の中のこの部分が弱ってる」までしか把握できないはずだ。しかし俺には分かる。もっと細かく、もっと正確に、

弱っている器官、その中の弱っている組織、そしてその中の弱っている細胞群・・・

 俺は高町さんの体の中で、疲労している部分、弱っている部分をピンポイントでピックアップして、そこにだけ、最小限の

治癒魔法をかけてまわった。治癒には大して魔力は使っていない。


 一通り済んだ。現状、俺にはこれ以上できることがない。

 探査と治癒に集中していたのをやめて、目を開けると。


 なんだか赤くなった高町さん。

 同じような表情をしてるフェイトさん。

 怖い笑顔で、にこにこと笑うリンディさん。

 なんか傍観者ぽい位置を保つクロノ。

 さらに感心したように俺たちを見る船医さんもいた。


「あー」

 っと俺が何か言おうとしたら。

「すばらしい!」

 と船医さんが目を輝かせて割り込んできた。

「通常、治癒魔法を覚えただけの初心者は、肉体全体を漠然と回復することしかできないものだ! ところが君は治癒ポイントを

限定して集中している! しかも余り強い治癒だと、後にかえって体に負担がかかることを見越して、最小限に抑制している!

その年で大した腕だ!」

「いや、まあリンカーコアが体に負担をかけた場合にどうなるかってことは、経験上、よく知ってるんで。」

 そういうことだ。まさに体で覚えてる。どこに負担がかかり、どこを治癒する必要があるのか。だからリンカーコアが原因の肉体

への負担の回復については俺ほどうまくできる人はいないかも知れないと思う。しかしこれが、他の種類の病気や怪我だったら、

こんなにうまくはできないだろう。

「ふむ・・・私はリンカーコアへの悪影響を恐れて、あえて心臓付近に治癒は施さなかったのだが・・・君は心臓にも治癒してるね。

それも心臓全体でなく、左心部の・・・これはどこに集中してるんだい?」

「冠状動脈の分岐の根元ですよ。」

「なぜここに?」

「経験です。俺の場合、そこにガツンと来て、心臓止まったんで。」


しーん


 場が凍る。

 うむ、冗談にならなかったか。


 リンディさんが咳払いして場を切り替える。

「マシュー君の治癒の腕が大した物だってことは分かったわ。でもあなたも病人なんだから無理したらダメよ?」

「リミッター範囲内の魔法ですよ。治癒した箇所は多いですが、それぞれの場所は針で突く程度にしか回復してませんし。遠距離

転送とか、結界破壊みたいな出力の大きい魔法じゃないわけですから。」

「でも、その前に、なのはさんの体の中を走査するのには、結構な魔力を使ったんじゃないかしら?」

「あれ・・・バレてましたか。おっかしいな~高町さんの魔力に紛れて、ほとんど見えなくなると・・・」

「どうしてなのはさんの顔が真っ赤なのか分からない?」

「はい?」

「あなたは、なのはさんの体の中を、無許可で隅々まで触ってまわったみたいなものなのよ? すごくくすぐったかったみたいね。」

「え。」


 リンディさんの言葉で思い出したのか、高町さんの顔がまた赤くなる。


「あ、あ~と、高町さん?」

「・・・」

 高町さんは顔を赤くして黙ってしまっている。


「ごめん、そんな妙な感触があるとは露知らず・・・いや知らなかったとは言え、ほんとにごめんなさい。」

「い、いやマシュー君が私を治そうとしてくれてたのは分かってたから! うん、大丈夫、気にしてないよ!」

 言いながらも顔が赤いし、まだなんか冷静ではないというか通常状態でないというか。


「その・・・ほんとに。」

「ほんと大丈夫だから! うう・・・でもマシュー君?」

「はい。」

「今度から、ちゃんと相手の承諾をとってね? その・・・体の中まで調べるときは・・・」

「う、うん。」

「軽く体の中を魔力が走るだけかと思ってたら・・・その・・・なんか隅々まで突っつかれるみたいな感触が・・・」

 言いながらまた真っ赤になってしまう高町さん。

「ほんとすいませんでした!」

 ここは本気で頭を下げておく。姉ちゃんに妙な具合で情報が流れると、なんか相当やばい気がする。


「しかしマシュー君、腹部にも分散して5箇所かな? 限定治癒を施しているようだが、この場所の理由は」

「ギル。専門的な議論は、まずマシュー君を部屋に寝かしつけてからにして。疲れてるはずだから。」

「あ、承知しました艦長。」

 唐突だが船医さんの名前はギルさんである。


 すぐに俺はギルさんに、俺の個室に連行されて寝かしつけられたものの、治癒術についての議論が白熱してなかなか休めなかった。




 その後の病室。


「なのは、具合はどう?」

「うん、フェイトちゃん。ギルさんには悪いんだけど、マシュー君の治療受けたらかなり体が軽くなったよ。ギルさんは一週間って

言ってたけど、これならもっと早く回復しそう。」

「あいつは治癒も上手いのか・・・大したものだ。」

「いえ、違うと思うわよクロノ。上手いのはやっぱり探査でしょうね。どこに負担がかかってるのかを、普通なら考えられない

レベルの精度で特定してるんだと思うわ。治癒術自体は、初歩的なものしか使ってないみたいだし。」

「なるほど。しかし艦長、あいつはこれだけのことをしてみせたわけですし・・・そろそろ例のデバイスをわたしてやっても

良くはないですか?」

「う~ん。でもね・・・また無茶しそうで・・・」

「今回の、なのはの治療にしても、デバイスが別なら、マシューにかかる負担はもっと小さかったはずですし。」

「でもね・・・」

「転送は封じておけば問題ないかと。治癒については何よりもあいつ自身の体のために必要なわけですしね。その・・・あいつには

借りを作ってばかりな気がするんで、せめてデバイスでも渡さなくては僕も気がすまないんですよ。」

「そうねぇ・・・」

 クロノには、できればマシューに探索に協力して欲しいという下心がなかったとは言えない。実際、もしもマシューが探査すれば

恐らく一瞬で、海鳴に魔道士がいるかどうかは分かるだろう。しかしそういった下心を除いても、自分がかつて意識不明状態にして

しまったこと、こうして治癒に協力してくれていることなどから、マシューには借りがある、それを返したいと考えていたのも本当

なのだ。リンディも借りがあるという認識は同様であった。



 考え込むリンディの思考を、なのはの質問が遮った。

「あの、デバイスの話ついでに聞きたいんですけど。」

「なにかしら?」

「私と戦った赤い服の女の子・・・ヴィータちゃんって言うそうなんですけど、あの子のデバイスって、何か変だったんです。

デバイスが動いたかと思えば、急に魔力が大きくなったりして・・・あれはなんなんでしょう。」

「なのはの方もそうだったの? 私の相手の剣士っぽい女の人・・・シグナムって名乗ったんだけど、あの人の剣型デバイスも、

ガシャンて動いて煙が出たかと思うと、急に強くなったりして・・・」

「それはカートリッジシステムというやつだな。ベルカ式には標準装備されてる。あらかじめ魔力を籠めた『弾』を容易しておき、

必要に応じてそれを装填し、消費することで短時間だが出力を大きく向上することができるのだ。」

「でもね・・・短時間とは言え、出力を激増させるわけだから、デバイスにかかる負担も、肉体にかかる負担も凄く大きくなるのよ。

彼女たちのデバイスは頑丈さ優先のアームドデバイスで、彼女たち自身もそれを前提にしているベルカの騎士。だから平気なんだろうけど。」

「それ・・・私のデバイスに組み込むことはできませんか? 今、レイジングハートは故障してますし・・・直すときに。」

「レイジングハートは繊細なインテリジェントデバイスだし、あなたはミッド系の魔法を使う魔道士、しかも子供だわ。カートリッジ

システムとは相性が悪いわね。いいかしら、なのはさん。ベルカの騎士は前線での戦闘に特化したタイプなの。それと正面から

打ち合うようなマネをすれば、ミッドの魔道士に分が悪いのは当然なのよ。」

「でも! 向こうだけがカートリッジを使うんでは、本気になられたら勝ち目がありません!」

「私もそう思います。相性が悪いのは分かってますけど・・・それでもそのシステムが無ければ、また負けると思うんです・・・」

「なのはさん、フェイトさん・・・」


 結局リンディさんは押し切られたそうなのだが・・・



 この頃の俺は、事件が解決した後でも、まだよく分かっていなかった。

 しかしまあ・・・リンディさんやクロノは管理局の法と正義のために体を張る信念を持っていたのだろう、それはいいとして。

 それほど確固としたものなど何も無い子供が、負けず嫌いの勢いで言ってることを、リンディさんほど分別ある人が受け入れると

言うのはどうなんだろうと・・・

 考えてみれば、俺に特製デバイスをくれたのも・・・とか

 しかしもちろん、この世の中には絶対善も絶対悪も無い。リンディさんは立場と権限に甘えず、可能な限り、人間的な良心を優先

させようと頑張る人であったし、クロノも同様であったことは知っている。

 組織の一員として生きようとすれば、黒いものを白だと言わざるを得ない場合があるんだろうってことも想像できる。


 姉ちゃんとも話し合ったのだが、やはり一面だけで簡単に人を悪だと断じることなどできるわけがない。私人としてのリンディさん

たちが善人であったことは確かなのだ。しかし公人としては、やはり立場を優先せざるを得ない場合もあった、それだけのこと。

 そういうものだから、社会において公人として付き合うときは、距離を取り、最低限の警戒は怠らず、過剰な借りを作らないように

気をつければ良いだけのこと。世の中に、全面的に信頼できる人間などいるはずもないのだ。

 一面が気に入らないだけで、全てを否定するべきではない。理解して対処すれば良い関係は築けるものだと姉ちゃんは言った。

 まあこの辺は、数年後の話になるんだけどね。

 しかし俺や姉ちゃんには分かっていても、高町さんたちはどうなのかは・・・正直疑問が残るところであった。








(あとがき)

主なストーリーは、なのは蒐集される、だけ。

デバイスとかで盛り上がってしまった。

考えてるうちに面白くなってしまったので書いてしまった。後悔はしていない。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十四話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/09 06:06
マシュー・バニングスの日常   第十四話








 次の日、俺は、リンディさんに呼ばれて、一緒に高町さんの見舞いに行った。

 そのとき、俺専用の演算処理特化ストレージデバイスを渡された。

 高町さん、フェイトさん、クロノ、リンディさんが見守る中、初めてのオリジナルバリアジャケット展開!

 これまでの既製品は武装局員の制式のものだったから、武装局員の制服だったからな。

 そこで満を持してオリジナルジャケットを展開したのだが・・・


 ううむ。俺の想像力が貧困であるゆえか・・・


 みなさんはロード・オブ・ザ・○ングという映画を見たことがあるだろうか。

 その中にガ○ダルフという灰色の魔道士が出てくる。

 ちょうどあんな感じである。

 中世的な魔法使い。男バージョン。

 デバイスも、もとから少しゴツイ杖って感じのものが展開して、かなりゴツく身長より高い杖になってる。曲がりくねってはいないが

長い木の杖に見えないことも無い。先のほうは太くなって盛り上がってる。ここに演算処理機があるんだけどね。

 なんつーか・・・爺さんになれば似合うのかも知れんが・・・

 まだガキの俺では、見習い魔法使いって感じだなあ。まほらの子供先生かい、俺は。


「なんていうか・・・渋いね、マシュー君・・・」

 高町さんは何とか褒め言葉を捜している。

「うん、そうだね。その・・・かっこいい・・かどうかはともかく、なんか風格があるよ!」

 フェイトさんは自爆しながらも何とかまとめようとしている。

「活動的な服装では無いな・・・まあ完全後衛型のお前には丁度よいか。」

 クロノの評価は妥当だと思う。

「あらあら、なかなかいいと私は思うわよ?」

 リンディさんはいつものように、にこにこと笑ってる。案外本気で言ってるのかも知れん。この人のセンスは計り知れないからな。


 そして俺はというと、そこそこ気に入っていた。クロノの言うとおり俺は完全後衛型なのだ。殴り合いになる前に、得意の転送で

サッサと逃げる、後ろのほうから探査したり、治癒したりと援護するというのが俺の役割なのだから。

 灰色のローブに、2M近くありそうな長い杖。まるきり魔法使いのコスプレのようなスタイル。

 これが似合うような爺さんになるまで、長生きしたいものだな・・・将来、ヒゲでも生やそうかな。

 ちなみに大きなフードもついていて、それで頭をスッポリ覆うと、外から顔がほとんど見えなくなった。ううむ怪しいw


 俺は杖に「サウロン」と名づけた。ほら、指輪物語の世界で塔の頂点にあった冥王サウロンの目が周囲全てを見通すみたいなシーンが

あったじゃないか。俺の探査能力に似てないかな。サウロンすなわち「冥王の目」。俺的にはノリで名づけたカコイイ名前って感じ

だったのだが、後にシャレで済まないほどに名前どおりになるなんてことは・・・この時点では気づけたはずも無い。

 まあ、ストレージデバイスにとって名前は、インテリジェントデバイスほどには重要ではない。この話はおいておいて・・・


 

 「武装局員もどき」から「灰色の魔法使い」にクラスチェンジした俺は、結構浮かれて訓練室に赴き、魔法を色々試してみる。

 転送は封印されてるから試せないけど・・・

 探査・・・前は半径数百Mくらいしか「見え」なかったが、これだと同じ労力で3kmは「見える」な。こいつはすごい。

 結界・・・封鎖結界、捕縛結界、そしてあらゆる種類の結界破り。ベルカ式も網羅した。前のような不覚はもう取らない。

 治癒・・・これはせいぜい効率1.5倍というところかな。デバイス変えただけでそれだけ効率向上するのも凄いんだけどね。


 そしてフェイトさんたちに付きあってもらって、他の魔法も試す。


「んじゃ行くよ、フェイトさん。」

「うん、いつでもどうぞ。」

「バインド!」

 フェイトさんが光のロープに捕らえられる! しかし!

「えい。」

 プツン、とあっさりバインドは破られた。

「えーと・・・バインドブレイクとか、使った?」

「ごめん・・・普通に力入れただけでなんかプツンと・・・悪いけど、紙みたいな触感だったような・・・」


 ふふふ・・・デバイスを変えても、こよりバインドに変化なしか・・・



「よし、次は砲撃だ! アルフさん、シールド展開しといてよ!」

「ああ、いつでも来な。」

「シュート!」

 俺の前の小さな魔方陣が出来、そこからシュルルルル~と花火よりはマシ程度の細い火線が走り・・・

 アルフさんのシールドにぶつかり、プスン、と音を立てて消えた。

「・・・」

「・・・」

「なあマシュー、今の本気で・・・」

「すまん、言わないでくれ。泣きたくなる。」

「悪い・・・」


 花火砲撃も変わらずか・・・



「よし、今度は防御だ! シールド展開するから攻撃を」

「待って」

「待ちな」

 フェイトさんとアルフさんが同時に止める。

「あのさ・・・まずはシールド展開してみて。その強度を見てから、攻撃するかどうか決めるから・・・」

「適性が無いとは聞いてたがここまでとはね・・・悪いが下手にあんた殴ると死んじゃうからね、慎重に行かせてもらうよ。」

「・・・わかったよ。では・・・シールド!」


 俺の前にボワワ~ンと半透明の半円型の膜が現れる。


 スタスタとフェイトさんとアルフさんは近づいてきて、俺のシールド?を慎重に眺める。

 そのうちアルフさんが、何の術式展開もせず、素のまま指でシールドを突いた。すると・・・


 ブスッ


 突いただけで穴が開いた。


「わ! フェイト、これ面白いよ! ほら、突けば突くだけ穴が開く! こんなシールド見たこと無いよ。アハハハハハ!」

「ちょっとアルフ。悪いってば。そんなに笑っちゃ。」

「いやこれは一つの才能だよ! ほら、なんかティッシュを重ねたような触感! こんなのマネできるやついないだろね。」

「え? ああホントだ。ティッシュが重なったみたいな・・・なんか面白い・・・」

 二人はしばらく指先でついただけでプスっと破れるシールドの感触を楽しんでいた。


「あれ? マシューどこいった?」

「あ。ほんとだ。マシュー君、どこー?」


 紙シールドまで従前通りだった俺は傷心を抱えて部屋に引きこもって寝た。

 いいんだ~いいんだ~攻撃とか防御なんてどうでもいいんだ~

 ちっくしょうこうなったら転送魔法を徹底的に極めて、1秒以下どころか0.1秒以下の本物の瞬間展開を目指してやる・・・

 俺の探査できる範囲内ならどこでも自由自在に瞬間転送できる真のテレポーターになってやるぞ・・・

 しかしどの道、攻撃力が皆無だなあ俺・・・

 やはり結界の応用かな・・・人が入ってこないだけとか、中の人を逃がさないだけとかの結界は甘すぎる!

 中の人を眠らせるとか、それに近いけど麻痺させるとか・・・いやダメだ。空気に干渉してそういう状態を作っても、バリア

ジャケットが展開されていれば、大抵は防がれる・・・

 魔道士は魔力さえあれば、その程度の逆境は跳ね返してしまうものだ・・・

 そうか魔力か・・・

 魔力を封じる、完全に封じられなくても減衰させる、対魔力結界・・・研究の余地があるかもしれん・・・

 そういえば前に魔力を人から吸収できたような感じ・・・もしも魔力吸収というのが本当に出来れば・・・結界の中に閉じ込めた

人たちから自動的に魔力を奪い続け、しかもそれを俺の力にするような・・・

 でもそれでも弱らせるだけって感じだなあ・・・俺には決定力が無い・・・




 事件の進展のほうだが・・・


 前回の作戦失敗で、敵は完全にここらに時空管理局が出張ってきているということを知ってしまった。

 そうなると敵も警戒する。

 それ以降のリンカーコア蒐集事件は、地球からかなり遠く離れた世界で起こるようになってしまった。

 どの世界を選んで蒐集するかは、向こうが決められるわけだ。事件が起こったと聞いてから、現場に急行したところで、とっくの昔に

敵は消えうせてしまっているので捕まらない。

 さらには、4体の守護騎士以外の、彼女たちに味方する謎の仮面の男の存在もある。


 ここに来て事件解決の糸口は全く掴めなくなった。


「そういうわけで長期戦になりそうなんだわ。」

「う~ん。じれったいわね・・・」

 姉ちゃんは機嫌が悪い。ディスプレイの向こうで腕を組んで、指を規則的にトントンと動かして落ち着きが無い。

「大体、管理局ってどうして船一隻だけしか寄越さないのよ? 捜索するべき担当範囲が広すぎて追いつかないなら、人員を増やす

べきでしょうが。そんなに人手不足なのかしら? それでよく時空を管理するとか大口を叩けたものね。」

「そだね~それは俺も思った。」

 クロノから闇の書の話を聞いてる俺は、この事件が相当大きいことは理解していた。状況証拠だけで、未だ決定的とは言えないものの、

悪名高い闇の書事件の可能性が高いという報告が上にいってれば、もう少し人員が送られてきて然るべきだろう。確かにここには不自然さ

を感じる。本当に人員不足で人手が割けないのか? 上の人にとっては世界の一つや二つどうでもいいのか? それとも・・・なにか

別の理由でもあるのだろうか?

「でもさ~今度、厳重な警戒をしながらも、一時帰宅が許可されたし。」

「できれば犯人が捕まってからのほうが良かったんだけどね・・・」

 あまりにも状況が動かないので、そういうことになったのだ。なんと護衛としてリンディさんとクロノがついてくるという豪華護衛陣

である。しかも近くには局員も控えてる上に、あえて存在を隠さずに誇示することで、どこからどうみても囮に見えるように演技して、

かえって敵が近づきにくい状況を作る予定だ。俺も転送封印を解除されてる上に、リミッター限界内の探査も許可される。

 この辺がリンディさんが本質的には善人であると感じる理由だ。する必要の無い苦労を自ら買って出ているわけだし。

 ただ条件として、俺、高町さん、フェイトさんは可能な限り一緒の行動をとるように念を押されてる。俺が一番先に気付くし、結界に

対処できるし、超長距離転送もできる。高町さんとフェイトさんは敵の前衛が出ても簡単には負けない。3人いれば切り抜けられるだろう

との判断である。

 とりあえず二日は高町さんの家に泊まり、さらにその後二日はバニングス家に泊まる予定である。この際、俺たち3人、リンディさん、

クロノは同一行動をとる。

 ちなみにリンディさんが一行の最強の実力者である。実はむっちゃ強いと聞いても大して意外には思えなかったのはなぜだろう。



 まずは高町さんの家に5人で向かう。

 高町さんの家はご両親と、お兄さんとお姉さんの5人家族だそうだ。ご両親には一年生の時以来、何回か会ったことある。

 しかし今日は、高町家以外にも、姉ちゃん、月村姉妹が勢ぞろいしており大賑わいだった。月村さんのお姉さんは、高町さんのお兄さん

と婚約しているそうで、見るからにお似合いであった。


 久しぶりに実際に会う姉ちゃんは、俺よりかなり背が低くなってた。再会した瞬間抱きつかれて、しばらく泣かれたのは参った。4ヶ月

と少しくらいしか会ってなかったのだが、その間に俺は背が伸びて肉付きも良くなり、姉ちゃんに抱きつかれても何とか受け止められる

くらいになっていた。寝たきりの骨と皮だった状態と比べれば雲泥の差の現状。姉ちゃんはすっごく喜んでくれた。

 その後のパーティも、まだ俺は重いものは食べられなかったが、普通の人の食べる範囲内で消化の良いものなら食べられるように

なっていたので大いなる進歩である。

 リンディさんは高町さんのご両親や月村さんのお姉さんと話して、状況を説明して、なかなか事態が解決できないことをしきりと

詫びていた。しかしどう考えてもリンディさんたちはベストを尽くしてるように思えるんだけどなあ。問題はなぜかリンディさんたち

だけに仕事を任せてる上の人にあるわけであって・・・


「なにか言いたいことがありそうだな、マシュー。」

 グラス片手に話しかけてきたのはクロノである。まさか酒飲んでないだろうな。

「いや、リンディさんに出来る以上のことは、誰にもできないんではないかな~と。どうして・・・」

「どうして、なんだ?」

「どうしてあんたらだけに押し付けられてるのかってことよ。」

 急に姉ちゃんが割り込んできた。

「どうしてなのよ、あんたら。人員が足りないなら上に頼んで追加派遣してもらえばいいじゃない。それともそんなこともできないくらい

人員不足なの? どうなってるのよ時空管理局ってのは。偶然、現場の近くにいた部下にだけ厄介ごとを押し付けて、後は現場だけに

任せて放置ってわけ? そうだったらロクな組織じゃないわね。」

「おいおい姉ちゃん、まあそのへんで。」

「耳が痛いな。その通りだ。」

 クロノの目が据わっている。あ、こいつワイン飲んでるぞ。

「確かにおかしい。巨大な組織だからね、手続き上の問題で対応が遅れるということは、遺憾ながらも良くある範囲のことなのだが、

それにしてもノーリアクション、こちらの要請に対する形式的な対応すら返ってこない。おかしい、何かが起こってる。それは確かだ。」

「あんたらが上に嫌われてるとか、そういうことはないでしょうね。」

「それも考えた。不仲な上官もいるし、妨害してきそうな同輩もいる、しかしそういったことは織り込み済みで、それでも上手く意見を

通すのが母さんの、艦長の得意芸であったはずなのだ。これではまるで・・・」

「まるで・・・なに?」

 姉ちゃんは静かにクロノの言葉を誘導する。うまい。

「どこかで誰かが、積極的な妨害工作を・・・犯人側に味方しているものが管理局内部にいるとしか・・・」

「あらあらクロノ、酔っ払っちゃダメよ。」

 笑顔のリンディさんがいきなり割り込んできた。口元に腕をまわして強制的に黙らせてる。

「ふーん。管理局も所詮は人間の組織で、一枚岩じゃないわけね。」

 姉ちゃんはクールに言葉をつむぐ。

「そうね・・・でもそれはどこでも同じことよね。」

 リンディさんも軽く返す。

「まあいいわ、リンディさん。このさい、はっきり言っておくけど。」

「なにかしら?」

「私の弟や、友達が、管理局に関わったことが原因で不幸になったら、許さないからね。」

「分かったわ。肝に銘じておく。」

 睨み付ける姉ちゃんの目を、リンディさんは静かに・・・同時に誠実に受け止めた。



 4泊5日の滞在中、一番困ったことは・・・4泊とも姉ちゃんが一緒に寝ると強硬に主張したことであった・・・

 俺は赤ん坊の頃から集中治療を受けてあちこちまわっており、姉ちゃんと一緒に寝たという経験がこれまで一度も無かったのだ。

 やっと一緒に寝れるくらいに元気になったということで、そうするってことは以前から(一方的に)決めていたらしい・・・

 結局、高町家では、皆が余計な気をまわしてくれて、部屋に二人きりで姉ちゃんに抱きしめられて眠ることになり・・・

 バニングスの家では、俺の部屋に姉ちゃんが襲来して、また同じベッドで眠ることになってしまった。

 仕方なかったんだ・・・一緒に風呂に入ろうとするのは何とか阻止できたんだが・・・


 でも、朝になって起こしに来た高町さんによると。

 俺の頭を胸に抱え込んで抱きしめて眠る姉ちゃんは、見たこともないくらい幸せそうな顔をしていたそうだ。

 まーそれならいいかな、と思わないでも無かったり。





 さて、以前の俺がリミッターなしに無意識に放った探査魔法は、海鳴全域を軽く網羅しただけでなく、集中すれば衛星軌道上まで

探査を広げることさえ出来たわけだが。

 今の俺は自分を中心にして3km程度しか感知できない。なおリミッターの効果は、範囲の限定だけではない。肉体に負担が

かからないように抑えるということがリミッターの目的である以上、出力が落ちて範囲が狭くなるだけでなく、制御プログラムも

肉体に負担がかからないように甘く精度の粗いものになってしまっており・・・具体的に言うと、以前は封印されたジュエルシード

さえも感じ取った俺だが、今はそこまでできない、魔法の発動や魔道士の存在くらいなら感知できるだろうが、それも精度が落ちてる。

 それでも通常の魔道士の探査魔法の数倍の探査力であるというから・・・意外と魔道士ってのは「見えない」もんなんだな・・・と

素直な感想を言うと、クロノに「お前が例外なんだ」と苦い顔で言われてしまったが。

 とにかくそういうわけで、俺は海鳴滞在中に、他の魔道士の存在を感じ取ることもできず、なんらかの異常も感じ取ることもできな

かったのだ。後になって思えば、このとき、病院にいってお世話になった先生にでも挨拶しようと考えていれば、いきなりビンゴを

引き当てたかもしれないのだが・・・病院にいって地球医学での現状検査をするのも、八神と久しぶりにあって話し込むのも、どちらも

ちゃんと時間が取れるようになってからと考えていたのが裏目に出た。


 せっかく地上に来たのに、何の収穫も無く再びアースラへと帰ることになった・・・








(あとがき)

デバイスげっとだぜ~

「冥王の目」として活躍するのは結構あとになっちゃうんだけどね~

次か、次の次くらいこそは八神が登場するはず・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十五話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/10 03:19
マシュー・バニングスの日常  第十五話






 アースラに戻って数日。やはり進展は無い。

 ここまで進展が無いのでは、仮に前は地球が敵の拠点であったとしても、目をつけられたのだから、既に拠点を動かしたのでは無いかと

アースラスタッフの多数が考え出し、クロノもそうかも知れないと考え始めていた頃・・・やっと状況が動いた。

 それは言わばアクシデント。

 恐らく、敵にとってのアクシデント。

 襲う、奪う、撤退すると非常に軽いフットワークでこちらを翻弄していた彼女たちだが、とある世界でリンカーコアを持つ特殊な

巨大生物を襲ったところ、意外に強く、手間取ったようなのだ。なんか砂だらけの世界の、その砂の中の巨大な虫らしい。



 また逃げられてはたまらない。何よりも速さが優先される。すぐに動けたのは高町さんとフェイトさん。速攻で現場に向かう。

 高町さんは赤い服のハンマー少女(ヴィータとか言うらしい)に、フェイトさんは剣士ぽい女性(シグナムとか言うらしい)に

全速力で近づき、接敵に成功、戦いが始まる!

 アースラスタッフは敵の転送の妨害、近くにいるだろう他の守護騎士の探索、敵の転送記録の逆探知などの作業を大車輪で行う。



 なんで高町さんとフェイトさんが行くんだ、こういうときはリンディさん・・・は艦長だからみだりに動くべきでは無いだろうが、

せめてクロノが先駆けて出るべきではないか?とか俺はこのとき思ってしまったのだが・・・

 実はリンディさんとクロノは、なぜか闇の書側に味方している管理局員が存在する可能性がある、という現状を何とかするために

地道な調査を隠匿して行っており、しかもこれは絶対に部下にバレてもいけないので、通常業務をこなした後で、さらにこの問題の

調査をするという、寝るヒマも無いようなハードワークをこなしていたのだ・・・ということは後で知った。

 この時も、どこかからの正体不明の捜査妨害や、例の守護騎士を助けた謎の仮面の男が転送してくる可能性などを考慮し、全力で

警戒していたらしい。そんだけ頑張ってたのに、ただ椅子に座ってるだけに見えてしまう、気の毒だなあ。と後で思った。



 砂の大地での激闘は、互角か、もしくは少し高町さんたちが押しているようにも見えた。

 既に高町さんもフェイトさんも、カートリッジシステムを使いこなし、頻繁に装填しては敵と打ち合っている。

 敵のほうが戦いが上手いから、しのがれてはいるが・・・このまま押し切れるか、と思った瞬間・・・


「転送ジャミング網の機能低下! 80%、70%、さらに低下、敵の転送を妨害できなくなります!」

「通信妨害が展開されています! アースラの周波数変更パターンに対応してる?!」

「敵の増援を確認! 例の仮面の男です!」


 状況が激変した。アースラの機能が撹乱され、作戦が崩される。援護体制が保てなくなる。

 高町さんの後ろに現れた「仮面の男」は不意打ちで高町さんを昏倒させる!

 さらにフェイトさんの後ろにも「仮面の男」が現れ、シグナムとの戦いに集中していたフェイトさんはあっさり不意をつかれる!

 通信妨害を受けて、乱れた画像の中で、仮面の男と、守護騎士たちが何か話し合い・・・


 フェイトさんのリンカーコアが蒐集され、敵は逃げ去った。

 やっと追いついたのに・・・再び作戦は失敗した。

「二人を回収して下さい。クロノ、ちょっと来て。」

 リンディさんの命令で、固まっていたアースラスタッフは再起動する・・・


 今度はフェイトさんがやられたか・・・俺に出来ることは治癒くらいしかないから、せめてそれくらいはしとこう・・・




 リンディとクロノは、あえて私室は使用せず、見通しの良い廊下の真ん中で、小声で話し合っていた。

「どうやら決定的ね・・・」

「はい。正に狙ったようなタイミングで、アースラのシステムに侵入し妨害。内部情報を知っている人間にしか出来ないやり方です。」

「それだけじゃないわ。あの仮面の男の転送のタイミング、覚えてる?」

「はい。あの時はまだ、『ベルカ式魔法での転送へのジャミング』は有効でした。それを強引に破る力量があるにしても、彼らは

余りにもスムースに現れた・・・」

「やっと少し、尻尾を掴めたかしらね・・・システムへの妨害プログラムを発動して、その後に焦って飛び出してきた感じだったわ。

守護騎士を援護している管理局内部の敵の実働部隊は2名しかいないか、いても少数のようね。」

「こうなると、そういう組織があるというよりは・・・誰かが個人的に暴走しているのかも知れませんね。」

「アースラの内部情報を入手できるのは直属の上官のみ。指揮系統から推測される『獅子身中の虫』のリストアップは終わった?」

「はい。しかしいずれにしても動機が分かりません。闇の書を助けて良いことなんてあるわけがないのに・・・」

「そう、まともな人間なら、あんな暴走ロストロギアなんてどうしょうも無いと分かってる。それすら分かっていないほどに頭のおかしい

人間か・・・その逆も考えられるわね。」

「逆といいますと?」

「独自の方法で、闇の書を破壊ないし封印しようとしている・・・そのためのプロセスとして蒐集が必要である、とかね・・・」

「艦長! もしもそういう動機だとすると容疑者が!」

「そうね、一人に絞り込めてしまうわ。アースラの内部情報を閲覧できる権限を持ち、闇の書に深いかかわりを持ち、それを独自に

何とかしようと考えていてもおかしくない人物・・・」

「まさか・・・グレアム提督が・・・」

「もちろん確定じゃ無いけど・・・一度、直接に本人の動向を確かめる必要があるわね・・・クロノ、今すぐにグレアム提督のところに

向かってちょうだい。提督の使い魔のリーゼ姉妹はあなたの魔法の師匠だし、あなたが顔を出すのは不自然じゃない。なにかが探れるとも

限らないけど、とりあえず会うだけ会ってきて。」

「了解しました艦長・・・」

「私たちが親子でお世話になったあの人が、そんな暴走をしていなければいいんだけどね・・・」

 二人の表情は暗かった。




 所変わって医務室。

 今度ベッドに寝込んでいるのはフェイトさんである。

 船医のギルさんとも相談し、今度は先に俺が治療を施し、ギルさんがフォローするということになった。


「それじゃフェイトさん、力を抜いて。」

「う、うん。」

 展開したサウロンの杖の先端をフェイトさんの心臓の上にあてる。

 治癒魔法の威力は上がってるが、必ずしもそれを全開にすればよいわけではない。むしろ最小限に絞り、ポイントだけを微回復して

まわり、肉体自体の自然回復力を後押しするように・・・そのための正確な探査と特定、こちらのほうが重要だ。こうして見ると、

フェイトさんは高町さんより筋肉質で引き締まってる、脂質は女性にしては少ない、それは運動性能という点では優れているが、

持久力に少し問題がありそうだな・・・集中集中・・・

 治療は5分ほどで済んだ。前に高町さんを治療したときより、かなり速い。


 目を開けると・・・


 フェイトさんはとろ~んとした目で、浅く息をついている。


 高町さんと、船医のギルさんは・・・なんだか気まずそうに目を逸らしている・・・


「えと・・・なにか問題あった? 前よりも深く徹底的に、しかも滑らかに出来たと思うんだけど・・・」

「あ~マシューよ。」

 ギルさんが俺の肩をポンと叩いた。

「今はまだ分からなくていいが、俺の言ったことをそのまま覚えておけ。いいか、それを気軽に女にやっちゃいかんぞ。」

「いや、でもちゃんと一通り走査しないことには治療もできないわけですし・・・しないってわけにも。」

「わかってる! うん、それは重々分かってる。だが、そうだな・・・これは人目のあるとこでやっちゃいかんわ。いやしかし・・・

二人きりの密室でやれば逆に危険か・・・ううむ、走査前に念のために眠らせておくべきかな・・・」

「麻酔の魔法は、それこそ気軽に人にかけちゃいかんでしょう・・・犯罪ですよ。」

「あ~確かにそうだな。まあとにかく覚えとけ、気軽に女に、お前のその徹底走査はやっちゃいかんぞ。」

「はあ・・・わかりました。」


「フェイトさん、具合はどう?」

「・・・」

 答えが返ってこない。ぼ~としてる。なんか半分寝てるかのような。でも麻酔なんてしてないぞ。

「うん、フェイトちゃんは私が見てるからさ。その・・・二人とも席を外してくれない?」

「そうだな、そうするか。マシュー、行くぞ。」

「いや具合が変ならちゃんと見なくちゃ。」

「いいから行って!」

 なんか高町さんの剣幕に押されて、ギルさんには引きずられて、医務室から出て行かされてしまった。




 医務室にて。

「フェイトちゃんも・・・その、くすぐったかった?」

「なのは・・・うん、くすぐったかったというか、むず痒かったというか、えっと、なんか変な気持ちに・・・」

「うん分かる、分かるから言わなくていいよ!」

「でも、すごく体調は良くなったよ。2、3日で回復できるような感じ。」

「そっか。マシュー君は凄いね。きっといいお医者さんになるよ。」

「そうだね。」

「「でもあれは・・・」」

 二人は同時に真っ赤になった。


 なお、マシューの腕が上がるにつれて、余計な刺激を与えることは少なくなり、徹底走査しても、「少しくすぐったいかな?」くらいの

状態にまで落ち着いたことは、重要なのでここで記しておく。この頃はまだ腕が悪かったので余分な刺激を与えていただけなのである。





 その頃・・・海鳴市立図書館にて。

 車椅子の少女が本棚の上のほうに手を伸ばして、なんとか本を取ろうとしていた。

 偶然、近くにいたのは月村すずか。前から何度か、彼女のことはみたことがあった。

「はい、この本がとりたかったの?」

「あ・・・ありがとうな。えっと・・・」

「すずか。月村すずか。前にも見たことあるんだけど・・・私のこと、見覚えない?」

「うん、覚えとる。私は八神はやて。」








 さてその後もまたしばらく何の進展も無かった。少なくとも俺はそう感じていた。

 フェイトさんに、ちゃんと回復したかもう一度調べさせてくれないか、と頼んでみたり(アフターフォローが治療に大切なのは当然)、

それでもう一度精査してみたら、なんかフェイトさんの体って普通の人とは微妙に違うような気がしたり、それが気になって、さらに

徹底的に精査してみたら、なんだかフェイトさんがピクピク痙攣し出して慌てたり、そこにフェイトさんの感覚を共有していた

アルフさんが怒鳴り込んできて誤解を解くのに手間がかかったり、高町さんも遠まわしに非難して来たので、それじゃあ高町さんも

ぜひもう一度調べさせて欲しいと言ったら真っ赤になって逃げてしまったりとか。まあ他愛も無いことはあったが。



 後で聞いたら、この時期のクロノとリンディさんは大変だったらしい。そもそもクロノの父親、リンディさんの夫であったクライド・

ハラオウンさんは闇の書がらみで殉職しており、最後に闇の書をクライドさんの乗っていた艦ごとアルカンシェルで消し飛ばしたのが

ギル・グレアムさんって人で、クライドさんとは友人であったそうで、そして仕方なかったこととは言え責任を感じたグレアムさんは、

クロノ、リンディさん親子の面倒も陰日向に助けてきた恩人であったのだが、なんとそのグレアムさんがどうもこの事件に関わって

いるらしい、と二人は疑い、裏づけ調査を進めてみたものの、敵は百戦錬磨の老提督、リンディさんでもなかなか尻尾が掴めない、

クロノが訪問したときは、なぜか上機嫌に「デュランダル」という新式の特製デバイスをプレゼントしてきたり、のらりくらりと

関係無い話をするばかりでどうにも分からない。いっそ徹底的な監視体制を敷くべきか、しかしそのためにはグレアム提督に対抗できる

地位にいる人にまず話を通さねばならないし、さてどうしよう・・・と大変悩んでいた・・・そうだ。

 そういやついでに、あの影の薄いオコジョは無限書庫とかいうとこで調べ物をさせられてたらしい。まあどうでもいいことだが。


 そして、事態は進展しないまま、もう年末になってしまった。


 いつものように姉ちゃんに連絡を取る。これも習慣になってしまった。


 高町さんは、既に日常生活に復帰している。安全が保障されたわけでも無いが、同じ人からもう一度、リンカーコアを奪うのは

意味が無いことであるから、高町さんについてはほぼ大丈夫であろうとのこと。

 俺はなにせ間違って蒐集されでもしたら次の瞬間、死にかねない。危険度が違うのでアースラに缶詰。魔法の勉強ばかりしてる。

 フェイトさんも結構頻繁に地上に遊びに行ってるが、基本的にはアースラ待機だ。魔法の練習を一緒にしたりしてるが、完全後衛型の

俺と、前衛型のフェイトさんでは、練習する内容が違いすぎる。俺の探査とか結界とか治癒とか・・・すごいね~ってくらいしか

フェイトさんにも言うことがない。逆にフェイトさんの超高速移動からの雷撃なんてなあ、俺もすごいね~てくらいしか言えないし。

 俺の連続瞬間転送を見たときは感心してくれたが・・・広範囲攻撃くらいしか対処しようが無いし逃げられたら追えないと保障して

くれた。俺の逃げ足は世界一ィィィィィィ!・・・なんか空しい。しかしフェイトさんの魔法は参考にならん。フェイトさんの戦闘術

にとっては基本であるという飛行魔法・・・これを一時熱心に教えてくれようとしたのだが・・・結果は惨敗。結局、飛行も移動の

一種なんだよな。そして移動魔法は適性最悪。無理無理と思ってたがやはり無理だった。まあいいんだ、俺は俺に「見える」範囲なら

自在に転送できるから、飛べなくても大した問題は無い。




 姉ちゃんと毎日のように話してると話すこともなくなって来る。

 少なくとも俺の方はそうだ。

 しかし姉ちゃんのほうは毎日あんだけ喋ってるのに、まだ喋るネタが無限にあるようだ。

 姉ちゃんが凄いのか、女というのはそういうものなのか・・・

 ふとした拍子に、姉ちゃんが何の気なしに言った。

「すずかがね、図書館で車椅子の女の子と友達になったんだって。そしてその子の体調が悪化して入院したんだけど、その子は体のことが

あるから学校にもいってなくて、お見舞いに行く人もいないんで、今度3人でお見舞いにいくことにしたのよ。お見舞いなんて、あんたが

入院していたとき以来ね、久しぶりだわ。」

 ん・・・今なんて・・・

「車椅子の女の子?」

 まさかな・・・

「うん、八神さんって言う子なんだけど。」

「八神!?」

「ど、どうしたのよ?」







(あとがき)

やっと八神が話に絡んできた・・・と思ったらもう終盤だった。

こっから急展開で一気にいくかもです。

戦わない主人公の見せ場は・・・多分あります、多分



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十六話
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/11 05:38
マシュー・バニングスの日常   第十六話






「八神の体調が悪化して入院?! 具合はどうなんだ?! 命に別状は?!」

 八神は下半身麻痺はしていたものの、それ以外には特に問題は無く、俺と違って本格的な入院などほとんど無かったはず。せいぜいが

検査入院で・・・その八神が倒れた?

「・・・知ってる子なの?」

「病院で良く会った・・・一緒にゲームしたりさ・・・あいつが倒れたって・・・」

「そんなに深刻な容態じゃないと思うわよ? 友人の面会が許されるくらいだし・・・」

「そっか・・・そだよな・・・」

「マシュー、知ってる子なら心配するのも当然だと思うけど・・・あんたの場合は例の犯人に襲われたら命にかかわるんでしょう?」

 既にそのへんまで姉ちゃんには知られていた。

「うん・・・」

「とりあえず私たちがお見舞いに行ってみて、どんな具合か確認してくるから・・・ほんとに危なかったら連絡するから。今は大人しく

待っててくれない?」

「そう・・・だな。うん分かってる。頼むよ姉ちゃん。」

 八神はいつでも元気に車椅子に乗って(妙な表現だが)、病院で俺を待っててくれてるような気がしていた。俺にとっては間違いなく

八神と過ごした時間は大切なものだったのだ。それが失われるかもしれない、という可能性を聞いて・・・俺はかなり動揺した。

 だからって自分の命にかかわるような無謀な行為はするわけには行かない。そんなことをすれば何よりも姉ちゃんが泣くし、八神

だって俺がそんな行為をしたと知ったら怒るだろう。

 少年漫画の主人公なら、それでも万難を廃して無謀な挑戦をするところだろうが・・・

 俺はそんな無謀なことは・・・絶対にしないしできない。


 そういうわけで見舞いに行けなかった俺は、やきもきしながら待ってたんだが。

 その時、八神の見舞いにいったのは姉ちゃんたち3人組に、地上に遊びにいってたフェイトさんも含めた4人。

 4人が病室に入ってみると・・・なんと守護騎士シグナムと守護騎士ヴィータがいた・・・

 必死に探していた相手と、まさかの場所で鉢合わせ・・・高町さんもフェイトさんもさすがにうろたえたらしい。

 なんかギスギスしてる高町さんとフェイトさんを無視して、月村さんは普通にお見舞いしてたらしい。姉ちゃんは、なんかあるなと

気付いたらしいが、そんなそぶりは見せずに見事な社交術で場を取り成して見せたらしい。

 そしてそのうち自然に八神は、姉ちゃんに気付いた。直接に話したことは無くても病院で何度も顔を会わせていたのだ。


「あれ・・・? アリサさん? もしかしてアリサ・バニングスさん?」

「ええそうよ。」

「あ! あの! マーくん、いやそやなくてマシュー君は! 今どこにおるんですか! 大丈夫なんですか!?」

 そのときの八神は必死で、守護騎士たちが落ち着かせようと駆け寄ったくらいだったらしい。

「落ち着いて。大丈夫、マシューは意識を取り戻したし、回復もしたわ。もうすぐ帰って来れると思う。」

「ほんまに! ほんまに大丈夫なんですか!?」

「敬語はやめてよ。はやて、マシューが帰ってきたらすぐにお見舞いに来させるわ。(妙な妨害が入らなければね・・・)」

「そっか・・・良かったぁ・・・」


 八神は泣き顔を枕で隠した。


「意識不明になって・・・人工呼吸器までつけて・・・もうあかんかと思って・・・回復したんや・・・よかったぁ・・・」

 姉ちゃんは思わず八神の肩を抱いた。

「ありがとう、マシューのこと心配してくれて。あなたも大変なのに・・・」

「ううん。うちは倒れたのなんてせいぜいこれで何回目って感じやけど・・・マーくんは一年に何十回も倒れて担ぎ込まれて・・・

マーくんは、俺のほうが歩けるだけマシだ~とか言ってたけど、ほんまはまともに歩けへんくらい弱ってて・・・そんで今度こそは

あかん、って思ってもうて・・・」

「じゃあ会ったら驚くわよ。今のマシューは背も伸びて、体重も増えて、見違えるくらい元気になってるから。」

 その言葉に、やっと八神は笑顔を取り戻した。

「え~ほんまに? 想像できへんわ~。あの、うちに腕相撲で勝った事も無いマーくんがな~信じられへん。」

「多分、腕相撲は今でも微妙かもね・・・なんとか肉はついてきたけど、まだまだガリガリだし。」

「そ、そんなことないよアリサちゃん! マシュー君、近頃は結構筋肉もついてきたみたいだし。ねえフェイトちゃん。」

「え? えええっとそうかな、うん、きっとそうかも!」

「フェイトちゃんて正直なんだね・・・」


 共通の話題である俺を出したことで場はなごみ、4人はしばらくしたら帰って行った。

 ところが帰り道に、シグナムとヴィータがついてくる。

 高町さんとフェイトさんは、姉ちゃんと月村さんを先に帰らせて、改めて向かい合う。



 とりあえず、後で分かったんだが・・・



 実は八神が闇の書の主だった。半年くらい前に、闇の書は目覚めて守護騎士たちが現れた。これは俺がミッドに入院してる時期だな。

で、異常に適応力の高い八神は、魔法とか闇の書とか細かいことはどうでもいいからと置いておいて、孤独だった自分の家族になって

くれと守護騎士たちに頼んだ。主にそういわれては従うしかないのが騎士で、それから何ヶ月かはのんびり暮らしていたらしい。しかし

八神の体調が悪化した、原因は闇の書らしい。解決するには闇の書に魔力を貯めるしかない。騎士たちは、今となっては心から家族である

と思うようになった八神のために蒐集をはじめた、八神に隠れて・・・


 で、ここで話をややこしくするのは、ギル・グレアム提督っておっちゃんだ。彼は多くの犠牲を出した悪名高い闇の書が、地球の孤独な

少女、八神はやてのもとに転生して現れたことを誰よりも早く知っていた。彼はなんと外道にも、八神一人を犠牲にして闇の書を封印する

計画を独自に立てた。具体的には八神が闇の書を完全起動させるのを待ち、八神と闇の書が融合した瞬間、凍り付かせて封印して、次元

世界のどこかに捨てるという計画だったらしい。闇の書は魔力が満ちて完成すれば、まずは主を取り込み暴走を始め、世界を滅ぼすもの

であるそうな。


 騎士たちは、八神の体を治すために魔力蒐集を続けていたのだが・・・それは最終的には、世界を滅ぼすほどの結果になったというわけ

なんだが・・・この場合、誰が悪いんだか・・・なにもしなければ八神の麻痺は全身に及び死に至った可能性もあった、それを回避する

ために騎士たちは蒐集活動を繰り返し・・・一つの世界を滅ぼす可能性を持った闇の書を封印するために、一人を殺すということをギル・

グレアム提督は躊躇無く決断し・・・

 後で事情を知った俺の感想は、正直言って・・・「単純な悪者などいない」という単純な感想だった。

 誰もが自分の信じるベストを目指して頑張っていた。目指していたものも悪などとは程遠いもので・・・

 リンディさんたちも頑張って闇の書の主を捕らえようとはしていたが・・・んじゃ捕らえた後、安全に闇の書だけ封印するって方法が

あったのかといえば微妙なのであって・・・

 そして守護騎士たちについて言えば、最終的に闇の書が暴走するという点については、もとから情報を欠損していたらしい。そう、

つまるところは暴走ロストロギア「闇の書」の掌の内で操られていたということか・・・



 さて起こった事態をありのままに記してみよう。



 まず、高町さん・フェイトさんと、ヴィータ・シグナムが向かい合って何か言い合っていた。

 そのときに、緊急転送反応が二体確認された。

 前からアースラでは徹底マークしていた仮面の男の二人組みだ。

 しかし二人組みは何故か、八神の病室に現れた。手には闇の書を持っており、それを八神の方に近づけた。

 そして八神の目の前で、シャマルとか言う守護騎士が書に吸い込まれた。

 このとき同時に、ヴィータ・シグナム。さらに八神の家にいたザフィーラという守護獣も吸い込まれたらしい。



 二人組みは目の前でシャマルが消えて動揺する八神に、さらになんか妙な魔法をかけた。

 後日の取調べによれば、精神干渉系の趣味の悪い魔法で、相手に悪夢を見せるものだったらしい。

 八神の心を絶望で一杯にして・・・闇の書と融合させ、そして融合した闇の書を封ずるつもりだったそうだ。

 しかしこの話し聞いたときは、グレアムさんの目的自体は否定できない部分があるにしても、やり方がマジ最低だと思ったものだ。



 そしてこの瞬間、クロノが転送と同時に、転送前から組み上げていた捕縛魔法で奇襲。

 仮面の男たちは闇の書に集中していて、奇襲をもろに食らった。ざまあみろである。

 クロノの捕縛魔法は、特殊拘束「ストラグル・バインド」とか言うものだそうで、束縛と同時に相手の魔法行使を封じる強力な

上級捕縛魔法であったそうだ。そしてそれにかかった二人は、いきなり女の子に変身。いや変身魔法が解けたのだ。

 見てた俺は結構驚いたのだが・・・その女の子二人を見たクロノは表情を曇らせ、リンディさんもモニターを見ながら、

「やっぱり・・・」と苦々しくつぶやいていた。グレアム提督の使い魔だったそうだ。

 この瞬間、確たる物証を抑えることに成功し、グレアム提督の違法行為が明らかになったわけなのだが・・・

 まあそれは置いといて。


 クロノが女の子二人を見て、表情を曇らせた、その一瞬の隙に・・・

 八神と闇の書が融合した。

 ていうか、闇の書が、溢れ出た闇の固まりみたいなのになり、その中に八神が入り込んでしまったのだ。



 そしてそこから何が起こったのか・・・

 余りにも怒涛のようで・・・

 正確にはわからんことも多い。



 ただ俺にとって肝心なことは、展開された結界の中に、事故で姉ちゃんと月村さんが巻き込まれてしまったことだ。


 二人は、高町さんとフェイトさんに言われたくらいで、なにかいわくありげな状況で素直に帰るような性格はしていなかった。

 強く意思を持って、高町さんたちのところにいく! と思ってた二人は結界の中に入り込んでしまった。

 1%以下の確率で起こるとされている結界事故だ・・・このタイミングで起こるとは・・・!

 なんかドンパチやってるようだが、関係あるか?


 姉ちゃんのすぐそばに魔法の流れ弾とかが炸裂してる!


 キレた。


 なんかリンディさんが叫んでいたような気がするが全く耳に入らなかった。

 リミッターを外す。

 アースラ船上から、直に姉ちゃんのいる位置を「見る」。

 瞬間に転移。

 状況を確認。

 最悪だ、姉ちゃんと月村さんに同時に流れ弾が向かってきてる。

 なら姉ちゃんだけ助ける。俺にとっては選択するまでもない当然のこと。

 しかし姉ちゃんは「すずかを助けなさい!!!」と俺を月村さんの方に突き飛ばした!

 「バ、バカ!」

 一人なら転送で確実に助けられたのだ。

 中途半端な位置で体勢を崩して、これでは二人とも助けられない!

 防ぐしか無い!

 防ぐならシールドだ!

 しかし俺のシールドは紙だ!

 うすっぺらな紙を砲撃の前にさらしたところで意味は・・・

 いや待て。確かに紙一枚なら指でも破れる。

 しかし十枚重ねればどうだ? 百枚重ねればどうだ? 千枚重ねればどうだ?

 幸い、俺の「サウロン」の杖は極度に高い情報処理能力を持ってる。

 限界まで使って、百枚、千枚、一万枚の紙を、同時に展開してやる!


 「シールド同時展開!」


 くそっ。もともと防御は苦手だ。同時に展開できるのは100枚程度が限界か。まだ足りない。

 100枚の後ろにさらに100枚、さらに100枚、さらに100枚・・・・

 800は行ったと思う・・・やっと防げたわ・・・

 これで流れ弾かよ・・・つきあいきれん。

 今度は有無を言わさず、まず姉ちゃんをアースラに転送、続けて月村さんを転送っと。

 ちょっと安心して気が抜けた。

 例によって血を吐く。

 胃と、喉も破れてんな。これならまだ動ける。

 ドンパチやってるすぐそばに転移。

 なんだあれは八神か? いや外見は違うんだがなんとなく・・・

 思い切り叫んでやった。

「てめえ八神! 大概にしとけよ! とっとと何とかしろ! お前が当事者なんだろが! このまま死にでもした日には、てめえの

墓には『バカな仔狸ここに眠る』って刻んでやるからな! マジでやるぞ! はやく起きろこのバカ女!」

 で、攻撃が来る前に転送で逃げてやった。ふん、俺自身を転送する分にはほとんど瞬間なんだよ、遅い遅い。

 アースラブリッジに転移して・・・姉ちゃんの顔を見た瞬間、気が抜けた。

 四肢から力が抜け、血を吐きながら倒れ伏す。

 ここで俺の意識は途切れた。






(あとがき)

大きい事件は片付いて、次は後始末編。

進路相談とか説明とか再会とか。

あ~A'sも終わっちゃうなあ・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十七話(A’s・完)
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/01 23:39
マシュ・バニングスの日常   第十七話





 目が覚めたのは数日後だ。

 姉ちゃんが同じ部屋の別のベッドで寝ている。

 ここはアースラの俺の個室で、船の個室というのは狭いのだが、そこに強引にベッドを持ち込んでるのはさすがである。


 リミッターは、またちゃんとつけてくれてるな。

 体調は、と。

 あらま思ったよりひどいかな。胃と食道にキてるのは予想してたが・・・

 十二指腸、小腸、まんべんなくボロボロになってるかな。これは3日はまともにものが食えんな。

 でもまあ心臓が止まるのに比べたらマシだし、俺的には全然平気である。

 ギルさんも治してくれてるが、俺も一応やっとくか。手元のサウロンを・・・


「あれ? サウロンがない・・・」

「デバイスのことなら、探しても無いわよ。」

 おっと。姉ちゃん起きてた。

「なんでまた・・・治癒魔法を自分にかけないことには体調が・・・」

「ねえマシュー。」

 姉ちゃんは体を起こしてベッドに腰掛けた。俺をまっすぐに見つめる。

「まずは、ごめんなさい。」

 いきなり姉ちゃんが頭を下げた。天変地異の前触れか。

「私が軽率だったわ。すずかは反対してたのに、なにか魔法絡みだってことも予想してたのに、強引に近づこうとした。」

「う、うん。」

「それで巻き込まれて自分だけでなく、すずかまで危険な目にあわせて・・・自分が情けないわ。」

「まあ・・・不幸な事故だったというか・・・」

 めったにない姉ちゃんのしおらしい表情に戸惑って、なんとか慰めようとしたのだが・・・

 さすが姉ちゃん、必要なかったようだ。

 すぐに姉ちゃんは表情を切り替えた。


「まあ、それはそれよ。反省もしたし後悔もしたわ。魔法関係は対処できない、だから近づかない、それが正しい選択肢だと学習した。

二度と同じ失敗はしないわ。だから、それはそれ。」

「う、うん。」

 姉ちゃんは立ち上がった。俺が半身を起こしてるベッドの傍に来て・・・


 パンッ


 俺の頬を叩いた。

 もしかして初めてかな。叩かれたのは。


「あんた、リミッター外したらどうなるか分かってたのに、あんなことやったそうね。」

「いや、だって姉ちゃんが・・・それに大した負傷でも無いし・・・」

「消化器系の内臓が! 全部ボロボロになって! それがたいしたことないの!?」

 船医ギルさんに聞いたのか・・・

 でもここは引けないなあ。

「でもさ姉ちゃん。姉ちゃんが危なかったんだから、俺は後悔してない。」

 それを聞くと姉ちゃんはボロボロと涙をこぼし・・・俺の頭を抱きしめた。

「マシュー・・・お願い。これからは、自分の身が傷つく代わりに、何かできることがあったとしても・・・そんなことはしないで。」

「それは、できればそうしたいけどさ・・・」

「お願い。約束してマシュー。自分の身を傷つけて、何かをするなんてことはしないって・・・お願いよマシュー。」


 結局の所、俺は姉ちゃんの言うことを聞いてしまうのである。


「わかったよ姉ちゃん。約束する。自分の身を傷つけて、何かをしようとはしない。」

 我が身を省みず突っ走り、自分自身をも傷つけても戦うとか、そういうのは確かに格好いいかもしれない。でもそういう生き方は、

自分だけでなく、間違いなく、近くで心配してくれる人たちをも傷つける。

 そういうことは絶対にしないと、姉ちゃんに約束した俺は、そういったヒーローには絶対になれない男になったが・・・

 なんの後悔もしていない。

 身近な人が悲しむような生き方が、正しいはずが無いのだ。


「約束、したからね。」

「ああ約束だ。」

「確かにしたわよ?」

「したってば。」


「よし、それじゃあサウロンを返してあげるわ。」

「あらま。そういう話だったのかよ。」

「そうよ。文句ある?」

「あーわかったよ。文句ないです。」

「よろしい。」

 姉ちゃんは大輪の花のような笑顔を見せてくれた。



「・・・にしてもあんた。サウロンって指輪物語の悪役よね。魔王だったか冥王だったか。」

「そだよ。かっこいいだろ。」

「もっと正義の味方チックな名前は思いつかなかったわけ?」

「なんだよーいいじゃないかー俺は気に入ってるんだよー」

「ま、いいけどね・・・」



 サウロンを取り戻して、自分に治癒魔法を施したところで、そういえば事件がどうなったか全然知らないことに気づいた。

 サウロンは展開すれば2Mを超える杖になるが、展開しなくても胸くらいまであるステッキである。

 サウロンを杖にして、姉ちゃんが支えようとするのを、いーからいーから、なにいってんのよつかまりなさいとか言い合いながら、

とりあえず皆が集まってるらしい食堂に向かった。


 食堂にいたのは、高町さん、フェイトさん、そして宿敵だった守護騎士の皆さん、さらに・・・


「マーくん!」

 八神が満面の笑みを見せた。

「マーくんは止めい、しっかし久しぶりだな。」

「なにいうとんねん。この前、会ったばかりやんか。」

「この前って・・・あれ? 伝わったのか、あれ。」

「そやで~。しっかり覚えとるで~。お墓に、『バカ狸ここにくたばる』て刻むとかいっとったなあ。」

「なんか微妙に違う気が・・・まあなんだ、お互い、よく生きてたもんだな、マジで。」

「ほんまやな~。マーくん、一時は完全に動かへんようなったし、あれはもう死ぬか思たで。」

「甘いぞ八神。俺みたいに病気に慣れてるやつは、逆にそう簡単にはくたばらんのだ。」

「今は結構元気そうやな。マーくんが普通に歩いてるってウソみたいやわ。」

「まーな。今なら八神を押し倒せる気がする。」

「そんな細腕やったら無理やな。なんや、まだ私より腕細いんとちゃう? 嫌味やなあ。」

「うるせえ。見た目は細いかもしれんが、力は強いんだよ。多分きっと・・・」

「おっしゃ、それやったら腕相撲やな。また圧倒したるわ。」

「ふふふ・・・後悔するがいい。負けてみじめに泣き喚け。」

「それはこっちのセリフや。おし、いくで!」

「おう!」

「「レディー・・・ゴー!」」

「ぐは!」

「なんや張り合い無いなあ。ぜんぜんあかんやん。」

「くっそう馬鹿力め・・・」

「こっちはいつも車椅子で、腕は鍛えられとるんや。全身虚弱体質のマーくんなんてペペペのペーやな。」

「ちっくしょう・・・確かに今は負けた、今日は負けた、まあそれは認めてやろう。」

「惨敗しといて偉そうやなあ。」

「だが見てろ! 男女差ってもんがあるんだ! いつか必ず俺が勝つ!」

「でも今日は負けたと。」

「おのれ・・・いつか絶対押し倒してやる・・・」

「できるもんやったらやってみい。」

 で、二人でふっと笑ったとき、周囲を置き去りにしてたことに気づいた。


「えっとー・・・仲いいんだね、二人とも。」

 高町さんがおずおずと言う。


「なんつーかまあ、かれこれ数年の付き合いだからな~」

「4年やで。マーくんが海鳴市立病院に落ち着いたんわ、その頃からやからな。」

「でもお前、あんま入院はしてなかっただろ。」

「定期健診に行った時に見たのが初めてやったからな。なんや目つきの悪いガイコツが喋っとって驚いたわ。」

「まあそれは昔だ。どうだ? 今はかっこよくなったろ。」

「アリサちゃんに似とるから、かっこよくなるはずなんやけどな・・・あかん、まだまだ。50点やな。」

「なんだと! なにが足りない!」

「主に逞しさやな。」

「ぐはっ。八神よぅ、それは言わない約束だぜ・・・」

「まあ元が元やからマッチョになれとは言わんけどな。にしてもまだまだ痩せ過ぎやわ。」

「うお! 誰もが気を使って言わなかったセリフを遠慮なく言いやがった!」

「そこに痺れてあこがれるやろ?」

「冗談。やはり八神は女の子ではなくタヌキの一種だと再認識しました。」

「この可愛らしい私のどこがタヌキやねん!」

「主にデリカシーの無さが動物なみだ。」

「ふん。ガイコツが人の言葉を喋っても気にならんわ。」

「まったく人間のフリが上手いタヌキだな、こんちくしょう。」


「はいはいはい、仲がいいのは分かったから。マシュー、聞きたいことがあったんじゃないの?」

 姉ちゃんが話に割り込む。さすがである。

 八神と俺では、この調子でいつまでも続いてしまう。


「ああ~と。そうだ。ちょっとマジメな話、していいかな。」

「せやな。ちゃんと話さんとあかんことがあったな。」


 そこで俺は、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの4体の守護騎士を紹介された。八神は彼女たちのしたことも、その存在が

プログラム体であることも知った上で、自分の家族だと断言した。まあ八神がそういうならそのへんはどうでもいいのだが。

 まずは一番聞きたかった、あの戦いの経緯だが・・・


 そもそも闇の書とは、本来の名前を夜天の書といい、古代ベルカの秘宝であったらしい。それが故障したり改造されたりバグったりを

繰り返した末に、悪名高い闇の書に成り果ててしまったと。特にひどかったのは自動防衛プログラム。単に書を守る範囲を超えて、

辺り一面を破壊することで身を守ろうと暴走する、プログラムの中の癌細胞のような代物だったらしい。闇に取り込まれた八神は、八神

自身の意識としては、しばらくはそのまま闇が見せる甘い夢の中でボーとしてたのだが、高町さんたちの攻撃を伴った呼びかけ、

さらにまあ一応、俺の言葉などもあり、夢から目覚めた。そして八神は、本来の夜天の書のプログラムの管制人格と会い、彼女に

リインフォースという新しい名を与えて制御に成功し、守護騎士たちも呼び戻して、夜天の書に取り付いた闇、すなわち暴走した防衛

プログラムの切り離しに成功する。

 そして切り離された闇を、高町さん、フェイトさん、八神と守護騎士たち、ついでにクロノなどが協力してボコり、衛星軌道上まで

追い出した上で、アースラのアルカンシェルで吹き飛ばしてカタをつけた。

 犠牲者ゼロの奇跡の結果。この結果をもたらしたのは・・・八神自身の非常に優れた魔道士としての才能だったとか。


「それじゃもう、暴走の心配は無い、と考えてよいのか?」

「うん大丈夫やで。」


 なーんか隠してる、微妙な笑顔だな・・・

 まーいい。

 そこは押して聞かないのが俺だ。


 後日に、数年がかりでポツポツと聞いた話では、守護騎士たちは大丈夫だが、管制プログラムであるリインフォースは闇の侵食とバグが

もはや取り返しのつかないレベルになっていて、既にリインフォースだけは自ら消滅の道を選んだ後だったそうだ。八神から見て、いや

近くにいた誰からみても、それはリインフォースが迷惑をかけないために自殺したように感じられたらしい。


 まあ後の話は後においといて。


「んで、お前、これからどうすんの?」

「せやなー。とりあえず魔法とか、次元世界とか、勉強せんことには話しにならんな。」

「ミッドに勉強しにいくとかか?」

「まあなんや、士官学校? みたいなとこやったらタダで入れるんやて。その代わり厳しいらしいし、卒業後も管理局への奉仕義務やった

かで拘束年限やらなんやらあるんやけどな。知らんかったこととは言え、うちの家族たちがご迷惑を皆さんにおかけしてたみたいやし、

この際、そういう義務とか拘束とか抜きにしても、管理局で働いて、償っていければな~って思うねん。」

「・・・まあ、お前がそう決めたなら、なんもいわんが。それって今すぐの話か?」

「取りあえず、足がちゃんと治るまでは、普通に地球で学校に行きながら、自宅で通信教育。足がちゃんと治った後は、一回、長期の

休みをとって何ヶ月かの徹底的な研修とかで缶詰になったあとは、今度は通いでボツボツ勉強やら試験やら実地研修やら、すすめて

いくんやって。」

「へ~そういうシステムもあるのか。じゃあ基本的にはミッドに行ったきりになるってことはないわけ?」

「ん~そういうこともあるにしても、ずっと行ったままってことはめったにないやろな。」

「そか。俺もさあ、ミッドの魔法医学校に行こうかと思ってんだけど、う~ん俺はまずは最低1年はみっちりと向こうに住んで専門的に

勉強しようかなとか思ってたんだよな。多分、地球に住んで通いで行く体制ってのもできんのかもしれんけど・・・それはそれで大変

そうだしなあ。学校いった後、さらに放課後に通うわけだべ。きついなあ。」

「あれ? それやったらマーくんは、主にミッドにいる状態になるんか?」

「さあそれはどうかしら。まずは事情をきっちり聞いてからね。マシュー?」

 いきなり姉ちゃんが切り込んできた。素敵に無敵な笑顔だ。まずった。


「ねえマシュー。その話は、私は初めて聞いたような気がするんだけど、気のせいかしら?」

 優しげな声が超怖い。

「いや言うの遅れたのは悪かった。帰ったらすぐに相談しようと思ってたんだけどバタバタしてて。そんでその後は、落ち着いたら

言おうと思ってたわけでして。やっと落ち着いたから、相談しようと思ってたわけでして。」

「ふう~ん。」

 姉ちゃんの目線が痛い。ダラダラと冷や汗が流れる。


「ごめんなさいね。皆さん。私たち、ちょっと話があるから席を外すわ。また後でね。」

 言うが早いが、姉ちゃんは俺の首根っこを捕まえて強制連行。

 ズルズルと引きずられながら、俺は皆に手をふった・・・シャマルさんと補助魔法について語り合いたかったなあ・・・

「また後でな~」



 姉弟が退場した後の食堂にて。

「そっか~マーくんはお医者さんになるんや。」

「うん、今でも治癒魔法は凄い腕前なんだよ。船医さんがベタ褒めしてたし。」

「私たちも治療してもらったことあるんだけど・・・うん腕前は凄かった。腕前はね・・・」

「あれ~? なんやフェイトちゃん。含みのある言い方やなあ。」

「そ、そんなことないよ!」

「フェイトちゃんて正直やなあ。なのはちゃん、なんかあるん?」

「うん・・・確かに腕はいいのよ。全治一週間だったはずの所を、全治三日にしちゃうくらいに・・・」

「それって凄いやんか。どこに問題あるん?」

「え~とね・・・うん、別に痛いとか苦しいとか言うことは全然無いんだけどね・・・でもあれは・・・」

「はやて・・・一回診てもらった方が早いと思うよ・・・説明しにくい・・・」


 後日。


「やばい・・・あれはあかんで・・・なのはちゃんもあれ受けたんか・・・」

「う、うん。フェイトちゃんなんて二回も・・・」

「だってマシューがどうしてもって言うから! 私は優しくしてっていったのに全然言うこと聞いてくれなくて! なんか気づいたら

隅々まで調べられちゃって頭が真っ白になって・・・」

「声が出ぇへんようにこらえるだけで体力使ったわ・・・マーくん、末恐ろしいな・・・」




 さてこの頃。リンディさんとクロノは、グレアム提督が行っていた捜査妨害や内部情報の悪用などの証拠固めを終えて告発しようと

していて急がしかったようだし、高町さん・フェイトさん・八神・守護騎士の皆さんは、妙に仲良くなって一緒に訓練してみたり、

勉強してみたりと楽しく過ごしていたようなのだが。



 俺は姉ちゃんに連行されてから、数日がかりの大激論を行っていて、他に意識をまわす余裕が全くなかった・・・

 まず、魔法医学を学ぶ必要性についての是非の討論。俺がリミッターに依存せずに生活できるレベルになるためには、俺自身の治癒

魔法の技能の向上が必須であり、それはやはり専門的教育機関で受けるしかない、という点については何とか初日に合意できた。

 リミッターをずっとつけたままにするとか、魔法医にずっとそばにいてもらうとか、そういう制約は可能な限り受けたくないという

俺の意思は分かってもらえた。

 だが次の問題は難しかった・・・俺は学費のかからない軍医学校的なとこに行こうと思ってたのだが、姉ちゃんはリンディさんから

借金してでも民間の医学校に進めと主張したのだ。地球では大金持ちな我が家だが、管理外世界と呼ばれ、ミッドを中心とした次元世界

との公式の交流が無い地球に住んでいるため、公式なミッドと地球の間での通貨交換レートなども無い。

 しかしリンディさんなら会う機会があるし、ミッドでも価値のある貴金属を代替としてリンディさんに受け取ってもらうことによって、

貸し借りなしの状態にすることも可能なのだ。両親もそのくらいは当然に出す、気にする必要はないと姉ちゃんは主張する。

 言われてみれば確かにそうだな。うちの両親ならリンディさん相手でも対等に駆け引きして、ちゃんと受け取るべきものを受け取らせる

ことも可能だろう。うむ、そうなると学費がかからないからって理由で進路を決めることはできない。

 この点については姉ちゃんの主張が正しいと俺も認めた。

 卒業後に管理局に拘束される義務のある所に行けば、どこに行かされるかわかったもんではない。管理局ってところはこれまで見てきた

ところでは実質的には軍隊、最大限贔屓目に見たとしても警察であり、どちらにしても武装組織だ。軍病院にしても警察病院にしても、

そういうところの勤務が過酷でないはずがない。あんたは自分の体を治しながら勉強しなくちゃいけないのに、さらにそんな義務を

背負ってしまったら治るものも治らなくなる!との姉ちゃんの主張は・・・なるほど正しい。


「わかったでしょう? なにか異論でもある?」

 姉ちゃんは言葉を止めて、俺をじっと見つめる。

 確かに姉ちゃんの言うことは筋道が通ってる。理がある。でもなんか俺の心の中でもやもやするものがあるのはなんだろう。

「なんだかまだ納得しきってないわね・・・いいわよ言ってみなさいよ・・・この際、なんでも。」



「・・・俺は、俺の命は、いつでも誰かに『生かしてもらって』た。」

「!」

「誰でも最低限、『生きるだけ』なら自分で生きてられるのに・・・俺は誰かに生かしてもらわないと生きることもできなかった。」

「・・・」

「今もそうだよ。俺はこの、誰かが作ったリミッターに依存して『生かしてもらってる』。」

「マシュー・・・」

「もしも誰かに依存することが無くなるなら・・・『生かしてもらう』んじゃなくて自力で『生きる』ことが出来るような可能性が

あるならば、俺は他の何よりもそれを優先して、実現したい・・・」


 姉ちゃんは黙って俺の話を聞いていた。



「いつでも姉ちゃんに頼って、両親に頼って、病院の医者たちに頼って、そして何とか生きていた。そういう状態はイヤだ。俺は自分の

命を自分で保てるような状態になりたい。そうだ俺はただ・・・『生きたい』んだ。『生かしてもらう』んじゃなくて。」


「俺はこれまで散々依存してきた。周りのみんなに。もちろん姉ちゃんも父さん母さんもそれを重荷だなんて思ったことは無いんだって

分かってるさ。でも俺は、やってみたいんだ。生まれたときから生かしてもらってただけの俺にも、純粋に『自力で生きる』ことが

できる、その可能性があるのかどうか試したい・・・」


「これは俺のワガママだと思う。でもさ姉ちゃん・・・やっと俺にもやってみたいことが出来たんだよ。自力で生きることが出来るのか

どうか、俺は試してみたいんだ。」


 姉ちゃんは黙って俺の頭を撫でて・・・この日の議論は終結した。


 でまあ、結論なんだが・・・


 双方妥協する形で、俺は一応、時空管理局所属ミッドチルダ中央魔法医学校に通うことは認められたものの、それはあくまで通い。

向こうに住み込むのは却下。だから通常なら最低1年で済む過程を2年かけて学ぶ形になった。


「考えてみたら、あんたがそういうワガママ言うのは初めてかも知れない。それを無碍にダメだって言えないわ。」

 というのが姉ちゃんの出した結論だった。

 そう、実は俺が姉ちゃんの言うことを絶対的に聞いてしまうのと同じくらい・・・姉ちゃんは俺の言うことを聞いてしまうのだ。

 姉ちゃんを悲しませるようなことだけは・・・絶対にしないと、俺は心に誓った。




 前とは少しだけ変わった、でも平和な日常が、再び始まる・・・








(あとがき)

事件は終わって、日常が始まりました。

次の大きな事件は「なのは撃墜」。

そこまで皆の成長や葛藤を描きつつ自然につなげられるか・・・道は遠いっす



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十八話  小学生日記
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/26 18:27
マシュー・バニングスの日常   第十八話







XX年X月X日



 俺はミッド中央医の受験勉強で忙しい。実技はともかく問題は筆記だ。ひーひー言いながら勉強してる。同じ境遇であるはずの八神の

やつはなぜか余裕そうだ。話を聞いたら特別捜査官候補生として推薦で行くみたいなことを言いやがった。なんでも八神の魔道士としての

ランクが現状で既にSランクとかで、高町さんとかフェイトさんと比べてさえ、上らしい。なんつーデタラメ。


 言ってみれば国家公務員試験をスルーしていきなり中央官僚としてのキャリアを始めるのが許されるみたいな話では?


 魔道士ランクってのは、経験や知識を無視するほどの価値があるのか?と大変疑問に思ったので正直に言ってやる。所詮てめーも

ただのガキに過ぎない以上、マジメに勉強して少なくとも知識レベルは上げておかないと絶対に後で泣きを見るぞ、と。


 ところが八神はその辺のことも分かってて、シャマルさんを専属教師にして勉強しまくっており、既に文系知識では俺は八神よりも

遥かに下であることが判明してしまった。くっそう医学の専門知識の詰め込みをしてる俺とは分野が違うんだよ・・・


 でも俺もシャマル先生の特別授業を受けることにしたけどね。シャマルさんいい人だ。


 ちなみにシャマルさんと俺とで八神の下半身麻痺の治療をすすめている。闇の書が八神に負担を与えていた結果の魔力障害が麻痺の

原因だったそうで、それが無くなったので自然に治る程度のレベルなのだが、まあ念のためだ。



 フェイトさんは嘱託魔道士としての時空管理局への奉仕義務の期間が終わったあと、どうするか悩んでいるようだ。そうだフェイトさん

と言えば、この前、正式にリンディさんの養子になった。めでたいことなのでみんなでお祝いした。今後の進路については、実際、

フェイトさんほどに強力な魔道士は、管理局に入ればかなり優遇されるようで・・・このまま管理局で働こうかな、どうしようかなと

悩んでいたが。まあマジメなフェイトさんには管理局は合っているような気もする。


 ちなみにフェイトさんは4年生から同じ学校の同じクラスである。ちゃんと友達と一緒に学校に通わせて上げたいというリンディさんの

親心だ。姉ちゃんも高町さんも月村さんも俺も同じクラスで、偶然なのかね、このクラス分け。美少女という点では姉ちゃんたちも

負けてはいないが、なにせ姉ちゃんたちは強すぎる。フェイトさんの薄幸ぽい雰囲気と萌えパワーは一瞬でクラスの男子をノックアウト

してしまった。しかし本人は全くこれっぽっちも気づいてないのがフェイトさんらしいわ。



 高町さんは本人の強い希望で、時空管理局武装隊に士官候補生として入隊した。正直、なにを考えてるのか分からん。俺は医者、

八神は捜査官、フェイトさんも総合職に行くかどうかって話なのに、高町さんは武装隊。バリバリ実戦の最前線を希望・・・



 分からん、どう考えても分からん。なぜそんなところに行きたいのか・・・



 やっぱ高町さんはおかしいわ。どっかおかしい。そんな確信を深めつつある今日この頃・・・




 身長は、同年代(ただし日本人男子平均)より少し高い、体重は同年代(ただし日本人女子平均)より数キロ重い。


 それが今の俺の体格である。マシュー・バニングスなんて名前でなぜ日本人平均を持ち出すなどという突っ込みは無しで。

 分かりやすく言えば姉ちゃんとほぼ同じ。ゆえに高町さん、フェイトさん、月村さん、八神よりも背は高い。

 体重のほうは、俺は俺の方が重いと主張するし、女性陣は自分の体重などはっきり言わない。ゆえに不明であるが・・・恐らく、俺より

確実に軽いのは八神くらいのものであろう。次点でフェイトさん。俺より実は重いのではないかと一番疑わしいのは高町さんである。仕事

で近頃筋肉がついてきたみたいだし。

 まだ八神と再会したばかりの頃は、少し病的な痩せ方をしていて、病気なのか病後なのかって感じだったが、近頃はなんとか、いきなり

病気かと疑われることも無くなった。まだまだ痩せぎすではあるんだけどね。八神いわく「65点くらいにはなった」とのこと。

 表面的には健康にも見える状態になったし、体調不良もほぼ無くなった。もともと全身の極度の衰弱だけが病気の症状みたいなもん

だったので、特にどこが悪いということも無かったのだ。しかも俺は長年の入院生活で、衛生観念とか、病気への予防意識とか極端に

高い。ちゃんと注意していればカゼなんて引かないもんだ。

 とはいえ、それも全ては今の段階では、左手首に巻かれたリミッターのおかげだ。これに依存して、今の「偽者の健康」がある。

 これを外せたとき、やっと本物になるわけだが、さてそれはいつのことか。まあ焦ってもしょうがないんだけど。





××年○月▽日



 試験は通った。思ったより簡単だった・・・というか実技重視だったなあれは。受験生のレベルと比べれば、俺の治癒魔法のレベルは

特に実践的な技術の面では段違いに高かったようだ。筆記も悪くは無かったはずだと思うのだが、それにしても実技優先の印象が強いな。



 八神も近頃は結構歩けるようにもなってきたし、そろそろ一回は向こうに詰めて集中教育を受けるか検討中だそうだ。


 フェイトさんは正式に管理局に所属することにしたそうだ。今のところは特にスキルとか無いので、まずは武装隊に所属して経験を

つみながら、クロノみたいな執務官を目指すといってた。そのための正式な訓練学校に行くとか。



 高町さんは・・・前線でバリバリ戦ってるらしい。任務の呼び出しがあると嬉しそうな顔をして学校から抜け出していくのが怖い。

敵は場合によっては非殺傷設定なんて気にしないような連中で、しかもそういう連中を強行鎮圧するような任務であるのに・・・


 ちなみに武装隊ってのは管理局の本局に直属してる組織であり、そこから各部署に派遣されるという形になってる。次元航行艦隊の指揮

系統とは別であり、艦に乗ってる武装隊員てのも派遣されて来てるのだ。まあ現場では現場指揮官の命令を聞くわけだが。高町さんとか

フェイトさんの場合は今はリンディさんの計らいで、主にアースラに乗船してリンディさん指揮下での仕事をこなしているが、将来的には

別の場所にも派遣されるようになるとか。




 姉ちゃんと一緒に高町さんの家に遊びにいったところ、実は父親・兄・姉が同様な武闘派であることが判明した。特に父親の士郎さんは

古流剣術の正統な当代の継承者?とか、本人も昔は物騒な仕事もしており・・・人の十人や二十人は軽く切ったことがありそうだった。

お兄さんとお姉さんもその剣術を習っており、二人とも既に実戦経験があるそうで・・・なんつー物騒な一家だ、高町家。


 血なのかな・・・多分そうなんでしょうね・・・と姉ちゃんと呆れながら論評した。全く呆れるほどに良く似た親子である。


 母親の桃子さんは、あんなに穏やかないい人なのになあ。高町なのはは父親に似すぎてる・・・





×○年△月○日



 どーもミッド中央医は実践重視に偏ってるなあ。より優れた治癒術を研鑽することよりも、実際に戦場で負傷している人を、うまく

治癒できるかどうかの方を重視してる。んでそうなると俺はかなり上手いので面倒だ。どんだけ実践治療が授業の中でうまくできたと

しても、俺は体力に限界があり、しかもその上限は他の人よりも低いのだ。軽症程度の人を迅速に大量にこなすことこそが実践で要求

されるスキルなんだろうが、俺はどっちかというと重症の人をきちんと治療するほうに向いてると思うんだけどなあ。


 アースラ船医のギルさんから連絡があった。リンカーコア原因の魔力障害に関する治療法について、闇の書事件の経験を踏まえて、

論文をまとめようとしているのだが、その草稿をまずは見て欲しいとのこと。俺が経験的に重視すべきだと分かってるポイントについて

思い出せる限り指摘して、それを資料にまとめて、添削して送り返す。



 八神は特別捜査官候補生としての勉強が結構忙しいらしい。フェイトさんの目指してる執務官は総合職で組織の中枢を担う人材、

高町さんの武装隊はモロに前線実働部隊、それに対して八神の捜査官とは後衛で、本質的には指揮官候補生って感じのもんらしい。

執務官は前線での総合権限を持つのだが、特別捜査官はそれらを監察する権限を持ち・・・実際には上の立場らしい。


 どーしててめーがいきなりそういう立場に立てるのだと小一時間、詰問してやったのだが、八神に言わせれば別にわざとではない。

そう結局の所は、ランクとやらなのだ。9歳で、既にSランクの八神は、上に立てる。AAAランクの高町さんとかフェイトさんも、

好きなところを選べる、年上の人がたくさん部下になるような場所でも。


 あーなんか絶対間違ってるなーどうなってんだ魔法至上主義ってのは全く・・・


 幸い、医者はパワーではなく技術が重要な職分だ。こっちはこっちでやるしかないな。


 ただまあ八神は、前線指揮官である執務官等に対する指揮権や監査権を持つことは出来ても、前線自体の指揮はあまりできないような

役回りになるだろうってことなのだが、にしてもねえ。





×○年×月□日



 いつものように八神と悪態をつきあっていたら、騎士ヴィータがなんかいちゃもんをつけてきた。前々から俺の八神に対する態度が

気に入らなかったそうだ。意外とシグナムは俺と八神がホントに仲が良いって分かってたんだが、ヴィータは見た目どおりの子供っぽい

精神を持っていて、わかっちゃいるけど気に入らないそうだ。しかし殴り合いをすれば俺はマジで死ぬのでヴィータの気に入るような

騎士っぽい振る舞いなんて不可能である。八神のやつはニヤニヤしながら見守ってやがる。この野郎、止めやがれ、俺は殴りあいに

なったら速攻で死ぬぞと言ってるのに平気なツラである。男らしく勝負しやがれというヴィータに、無茶を言うな俺が心臓悪いのは

冗談なんて一欠けらもなくマジだぞと言ってるのに聞かない。


 ヴィータはシャマルに結界を張らせて、ハンマーを取り出して騎士甲冑を展開して、見るからにマジである。そこで俺はサウロンを

展開して展開と同時にシャマルの結界を破り、さらにヴィータをその格好のまま夕方時で混んでいる近くのスーパーマーケットの中に

瞬間転送してやった。10分後に真っ赤になって八神家に駆け戻ってきたヴィータ。この野郎マジメにやりやがれと、今度は素手で

俺を殴ろうとするのでまた瞬間転送、今度は八神の家の庭の木を思い切りぶん殴る位置に飛ばしてやった。なんとヴィータは普通に素手で

木をぶち折った。あんな凶器を俺に向けてたのか。次は手加減抜きだ、海の中に直接転送してやると決意したところで八神のレフェリー

ストップが入った。


 木をぶち折ったのを怒られるヴィータ。俺にもなぜか怒り出す八神。理不尽である。シャマル先生からは、あんなに簡単に結界を

破られたのは初めてだ、そうかあの時、結界を破ったのは俺の仕業かと今になってやっとばれた。シグナムからも大した腕前だと

褒められはしたものの、正面から戦わないのは男らしくないと説教された。だから無茶言うなってば。



 八神いわく、「フェイトちゃんから聞いていた。本気になったマーくんを殴るのは無茶苦茶難しいと。だから簡単にはやられへん

やろうと思っていたが予想以上やわ~」。


 ザフィーラは「正面から戦うのを旨とするベルカ騎士とは最悪の相性の・・・正にミッドの魔道士だな。近づいて殴ろうとしても

全部かわすわけか。あの時、お前が前線に出てこなくて良かったよ。」といってた。


 ヴィータはシャマルと相談して、俺の転送封じの方策を検討しはじめた。無防備に近づけばいきなり転送されるなら、それに対する

防御プログラムをあらかじめ組んでおけばとか結構マジに議論してやがる。



 ヴィータ「いつか絶対にきれいに一発入れてやるからな!」


 だが断る。全部避けてやる。



 ちなみに守護騎士たちはベルカ聖王教会ってとこに戦い方を教えにいったり、管理局の仕事で出張したりと結構忙しいようだ。

 珍しく4人とも八神の家にいたある冬の日の出来事であった。









(あとがき)

小学校4年くらいを想定していますが5年にも差し掛かってるかも知れません。

年月日が全部伏字なのは・・・前後に矛盾無く完全に時系列を一致させる自信が今の段階では無いためでございます・・・

一年で一話くらい? 話によってはもっと? とかその辺もどんなペースになるか不明でございます・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第十九話  小学生日記2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/26 18:37
マシュー・バニングスの日常   第十九話





×○年□月○日



 3年生の一年は激動、4年生の一年は平和。今年は5年になるがさてどんな年になるか・・・

 まだ5年生にはなってなかった頃の寒い日。

 アースラ船医のギルさんと相互に連絡を取りながらまとめていた「リンカーコア原因による魔力障害に対する実践的治療法」に関する

論文が完成した。ギルさんは俺も共同研究者として名前を入れてくれた。ていうかギルさんは俺を主、自分を副としてこの論文を発表

しようとしてたのだが、それはいくらなんでも悪いので、あくまでギルさんを主、俺も連名という程度の扱いにしてもらった。実際に、

面倒なデータ整理などの手間がかかる作業はほとんどギルさんがやってくれていたので当然なのだ。

 結構、大きな医学の学術誌に投稿するそうだ。審査が厳しいらしいので、掲載されるかどうかも不明なのだが・・・楽しみである。




 学校のほうは、俺は実技のほうはどんどん単位を取ってしまって、実技単位に関して言えば二年はかかるはずのところが一年以下で

済みそうな勢いである。そこで研究系の専門単位も履修することにして、今は主にそっちにはまっている。戦場で頻発する怪我の治療など

は、どれだけ重症でもやることは変わらない、止血し、消毒し、傷口を縫合し、最低限の治癒魔法を施し、後は自然治癒を待つだけだ。

それらの技術がちゃんとできればそれ以上は学ぶことが無い、後は場数を踏むことだけだろう。俺が求めるのはもっと高度な治癒術、

怪我を治す程度ではなく、病気を治すための技術だ。しかしこっちになると単に魔法の治癒術でちゃちゃっと治せるなどという単純な

ものではなくなり、より地球の医学に近いような、薬学や生理学も学ぶ必要性が出てきた。基本的に魔法で生命力を活性化するという

方向性の治癒魔法では治せないのが病気というものなのだ。


 ミッドの医学は進んでいて、神経細胞の再生治療や、欠損した部位のクローニング技術による複製再生、あるいは高度な機械的な

義肢や人工臓器なども存在していた。しかしやはりというべきか・・・例えば悪性腫瘍を根治することはやはり難しい。相当、大胆に

外科的に切除しても、代替する器官を人工的に作れはするが、悪性腫瘍が二度と出来ないようにするというのはなかなか・・・

 俺の体を完全に治すために、治癒魔法を中心にしたアプローチばかり考えていたが、純粋医学も併用したほうが正しいのでは無いかと

思えてきた。やはりこちらの勉強もしなくては。将来的には地球の大学でも医学を学びたいかな・・・




 フェイトさんが執務官試験に落ちた。それはもう見事に落ちた。ものすごいマジメに頑張ってたのにそれでも落ちた。合格率は

5%だったか、それ以下という超難関であるにしても、フェイトさんならと思っていたのだが。フェイトさんの周囲の雰囲気はその日から

めっちゃ暗い。どよ~んとして誰も話しかけられない。クロノだってフェイトさんの年にはまだ受かってなかったんだから気にすることは

無いとか慰めをいってみても、目が死んでいる、聞こえてないなこれは。





 高町さんは空士として武装隊に本格的に入隊した。おいおい小学生の女の子だってのにどうなんだと思うのだが。何よりも問題なのは

高町さん自身が、誰が止めても突っ走りそうな雰囲気だってことなんだよな。今は正式には3等空士とかだったかな。武装局員の中でも

飛行魔法を自在に操れる魔道士は、航空武装隊と呼ばれてエリート扱いらしい。うんうん空を飛ぶのって難しいからねえ。まわりのやつは

全員飛べるので忘れそうになるが。な~に高町さんみたいな一直線の猪武者は、全開で飛んでるとこを転送して地面に思い切り激突させて

やればいいんだと本人に言ったら、すっげえムキになって怒って訓練室に強制連行された。だから俺は体弱いってばといっても聞く耳を

もたない。八神やフェイトさんや騎士たちに、リンディさんクロノまで見物にきやがった。まあ後で聞いたら、少しでも危なくなったら

止めるつもりで来たそうだが皆。


 高町さんは空戦AAAランク。

 俺はちなみに総合Bというランクである。実戦評価など持っていない。ていうか持ってるのは実戦派の魔道士だけなのである。そして

意外と管理局全体でも、実戦派の割合ってのは少ないのである。後方支援部隊のほうがはるかに多いものであり、俺の持ってる総合ランク

の方が普通なのだ。


 空戦AAAが、総合Bの医者をボコる。うむ、これは普通ならいじめである。ゆえに俺も容赦する必要を感じない。


 訓練室だから必要ないのだが、俺が一応、結界張ってもいいかと聞いたら好きにしろと言ったので遠慮なく罠を張る。

 研究中の魔力減衰結界である。人の体ってのは、俺ほどでなくても、多かれ少なかれ自然に肉体から魔力を発散してるものなのだ。この

自然蒸発分ってのは普段は意識されないし問題にもならない。だが俺はその量が過剰だったことの影響か、その蒸発する魔力に対する

知覚が鋭敏で、昔から、それを無意識に取り入れてなんとか命を保ってきたようなのだ。んで、研究中のこの結界は、人が発散する

自然蒸発魔力を、ほんの少しだけ多くする。さらに俺がそれを自動的に取り込める。ゆえにこの中にいる限り、相手は普段よりもちょっと

だけ疲れが早く、俺はちょっとだけ体力が長持ちする。まだその程度である。

 その結界の中に高町さんのみならず、見物人まで全員巻き込んでやった。さらに小細工はここからだ。


 高町さんはレイジングハート・エクセリオンという凶器を展開して殺る気まんまん。

 俺もサウロンを展開して自然体にかまえる。

 見た目は正義の白い魔法少女と、なんか怪しい灰色の魔法少年の戦い。ううむ俺が悪役ぽいなあ。


 リンディさんの開始の合図と同時に高町さんはまず、飛び上がった。俺が転移して逃げるのを予想して視界を広くして、確実に捕捉

する気なのだろう。

 一方俺は、結界に結界をさらに重ねた。魔力ジャミング結界である。この結界内部で、俺を魔力的に探知することが出来なくなる

高度な妨害結界だ。

 何をしたのか分からなかったのだろう高町さんから、直接砲撃3連発に、誘導弾も5発も飛んできやがった。直接砲撃だけを、

最小限の転移で回避する。誘導弾は制御できず、全部、明後日の方向に飛び去っていった。ふはははは。相手の魔力を探知して

向かっていく機能が働かないので、誘導弾は使い物にならんのだ。本人だけが誘導の制御してるつもりかもしれんが実際には、

そのプログラム自体に自動追尾機能が書き込まれているのであり、その部分を無効化してるんでね。


 眉をひそめた高町さんは、さらに誘導弾を10発くらい撃ってみた上で、全部使い物にならないのを見て俺に問いかける。

「・・・なにやったのマシューくん。」

「じゃま。」

「それは分かってる! どんな邪魔なの!」

「ふはは。結界張ってもいいと許可したのはそっちだ。」

「ああ! ずるい! なんか変な結界張ったのね!」

 真の罠である魔力減衰結界のほうには気づかないように騙しておこう。

「さて、どんな結界でしょうか。高町さんには分かるかな? 分からないまでも推測くらいはできるかな?」

「ううう・・・」

「こういう事態にも対処できなければいけないんじゃないかなあと思うんだよな。武装局員なんだから。」

 俺の挑発に高町さんは頭に血が上ったのか、直接砲撃を雨あられと撃ってきた。

 んで俺は転移して避ける避ける。たまに軽く体を動かすだけで避けたりもした。俺は目で見る以上に確実かつ精密に、どこに来るかが

全部「見える」。ゆえに、ただまっすぐ来るだけの攻撃なんて回避は余裕である。

 そのまま五分くらい経過。

「ああもう! いい加減当たってよ!」

「当たったら死ぬがな。無茶いうな。」

「もう! 誘導弾と組み合わせて避けられないようにいつもしてるのに!」

「知ってる。だから邪魔したんだなあ。」

「ずるい!」

 たまにバインドも挟んで来るのだが悪いが俺の察知能力はハンパではない。完成する前にまた避ける。ムダムダムダ~

「高町さんは魔力大きいから、バインドも発動前の気配が大きくて分かりやすいよね。」

「そんなの分かるのマシューくんだけよ!」

 高町さんが撃つ。

 俺が逃げる。

 その空しい繰り返しはさらに10分も続いた。

 高町さんが肩で息をしはじめる。疲れてきたみたいだな。


「高町さ~ん。俺は攻撃力ないしさ、この辺で引き分けってのはどうでしょう。」

「やだ! 納得できない!」

「でも疲れてきたみたいだし。あんだけ連発したら当然だろけどさ~」

「なんだか・・・妙に疲れる?・・・おかしい・・・」

「気のせいだよ、うん、きっと気のせいだ。」

「・・・なんかやってるんだ・・・」

「いやいやそんなことないよ。空振りは疲れるってそれだけだよきっと。」

 しまった。

 高町さんを早めに疲れさせて、それでなし崩しになあなあにしてお仕舞いにするつもりだったのだが。


 俺の小細工に気づいた高町さんの目が座ってきた。

 高町さんは無言で訓練室の端っこギリギリまで下がって、背後を壁にする。

 さらにカートリッジを装填。ガシャンガシャン・・・おいおい2発も入れるか?

「うふふふふ・・・マシュー君にハンパな攻撃しても全部避けるからね・・・」

「えっと高町さん? 落ち着いて・・・」

「私は範囲攻撃って苦手なんだ・・・だからここからそっちを砲撃の雨で全部吹き飛ばす!」

「ちょ! それはまずいってば!」

「これを避けられたら諦めるよ! いっけえええええ!」


 砲撃のシャワーが降ってくる。

 見物人の皆さんも一斉に全力防御してた。

 しかし俺は防御は・・・前に使った「百枚重ね」の連続シールドは体に負担がかかり過ぎるので使えない。

 実はまだ死角はある。避けるだけならまだ避けられるのだが・・・それだと繰り返しになるし・・・

 しゃあないやってみるかな。


「攻撃転送!」


 俺の位置に向かってきた砲撃を、そのまま転送して送り返す! 横から見てれば攻撃を反射したように見えただろう。軌道計算と

転送の複数同時瞬間展開が大変なので、俺のサウロンでも結構ギリである。

 それが全部高町さんに直撃っと。

 あ。

 倒れた。

 うむ、自業自得の見本だな。同情する気になれん。

 その後、見物人の皆さんによって医務室に運ばれた高町さん。

 俺は疲れていたのに責任とれと治療を押し付けられた。ううむ納得できん。


「しかし、実にせこいな・・・お前には正面から戦おうという気持ちはないのか。」

 シグナムが無茶を言う。

「無い。そもそも俺には攻撃能力が無い。ついでに防御能力も無い。打ち合いなんて不可能だ。」

「でもよ~最後のは攻撃じゃないのか?」

 ヴィータは誤解したようだ。

「あれは高町さんの砲撃のうち、俺に当たる可能性があった分を、転送して送り返しただけだ。実際に高町さんが撃った砲撃のうち、

ほんの数%程度だったはずだが・・・それでも倒れるとは、さすが高町さん。攻撃力が尋常じゃないな。」

「あ~そういうことやったんや。ほんまにマーくんは、正面から打ち合おうとする相手には強いなあ」

 八神はケラケラ笑っている。

「まあ相性の問題だな結局。俺からすれば一番、手強いのはシャマルさんだわ。逃げにくいって意味でね。」

「そうね。マシュー君が本気で逃げに入ったら他の人では止められないわね。私は今では妨害する自信はあるけど。」

 シャマル先生とは補助・回復・支援などの魔法で多くの議論をかわし、たくさん学ばせてもらい、逆に俺の特性も多くを知られて

しまっている。今ではシャマル先生が本気で敵にまわったら、かなりやばいレベルになってると思われる。

「防ぐことは出来ないが、送り返すことは出来る、か。しかし転送の展開速度が、砲撃の移動速度より速くなくては出来ない芸当だと

思うが・・・いや大したものだな。」

 ザフィーラが頷いている。

「前さ~持てる力の限りを尽くして攻撃を防御したら、それだけで力尽きたことあってさ。一発だぜ一発。それをまともに防いだだけで

力尽きた。だからもう防ぐのは捨ててるのだ。」

「あれ? いつそんなことがあったん?」

「てめーの撃った流れ弾だ。」

「あ・・・あんときか。あんときはゴメンなあ・・・」

「あ~いいから。今さら気にしてないし。それじゃ高町さんの回復するわ。」


 高町さんは別に魔力枯渇もしてない。リンカーコアにも異常は無い。自分の砲撃を自分で食らって昏倒してるだけだ。意識が戻る程度の

回復をすれば、それ以上は必要が無い、ごくごく軽傷である。すり傷以下である。

 んですぐに回復した。

 目を覚ました高町さんは・・・

「そっか。負けちゃったんだ・・・」

 いきなり泣き出した。おいおい。

「あのさー。訓練だし。そんな深刻に考える必要ないんじゃね?」

「でも負けた・・・戦闘訓練なんてほとんどしたことないマシュー君相手だったのに・・・」

「いや、罠も張ったし小細工もしたし、高町さんは見事に俺に騙されただけなんであって。」

「ううん。マシュー君の言ったとおりなの。それでも勝たなくちゃいけない、それが武装隊なんだから・・・」

「ああ~・・・」

 やっぱ高町さんはおかしい・・・なんでこんなに追い詰められてるんだ?

 ちょっと姉ちゃんとも相談して、本気で対策を考えなくちゃいかんかもだな。多分、心理的な問題だ・・・





△○年×月○日



 ギルさんとの共同論文、「リンカーコア異常による魔力障害への治療法」が医療専門誌「マギウス」の巻頭を飾った。

 この分野では前例の無いほど画期的な内容だったらしい。

 ギルさんはこの論文で、これまでの尉官待遇から、佐官待遇に出世した。


 共同研究者の俺も、この論文だけで卒業後の拘束義務が2年も短縮された。


 リンカーコア異常というのは、それほど手のつけようのない不治の病だとみなされていたらしい。

 実際にリンカーコア異常を抱えていてその対処法を独自に研究し続けていた俺と、闇の書事件の最前線で軍医をやっていて、その治療に

携わっていたギルさん、二人の経験と知識は他者には貴重なものだったらしい。



 俺が実務に入るようになったのは5年生の半ばくらいからだ。まだ勉強も続いてるが実務も半々くらいになって来た。実際には教育の

一環みたいな実習なのだが、実務ということで義務年限から日数がちょっとずつ減っていくのは良いね。

 姉ちゃんはグチグチ言っていたが、俺の選んだ道だ。

 ひよっこの俺に前線任務なんて回ってくるはずが無いと思っていたのだがそうでも無かった。

 人手が必要な局面などで俺は遠慮なく呼び出され治療に当たった。

 そう、ちょうど高町さんが、ヤバいときに呼び出されて力尽くで鎮圧に当たるのと対称に、そういうときに裏方で負傷者を治して

回る仕事に従事していたわけだ。

 やはり臨床経験を積むのは、ためになる。負傷した人間は、体以上に心が傷ついて動揺してる、それを何とか落ち着かせて治療を

受け入れてもらうまでが一苦労、俺みたいなガキでは信用できない人も何とか説得して治療する、苦労もするがためにもなる。



 八神も特別捜査官としての研修を終えて、実務にボチボチ入っていた。今の上司はナカジマさんと言い、なんと先祖は日本人らしい。

そういう場合もたまにあるそうで面白い。近頃仕事が面白くなってきたそうで、いっそミッドに移って仕事に専念するべきかと悩んでる。

しかし今の段階でそうすれば小学校中退というシャレにならない経歴になってしまうわけで、そうなるといざというときに地球に帰って

来てのんびり暮らすとかの選択肢も無くなる。やはり義務教育期間程度は、なんとか二足の草鞋で行くしかない忙しいとグチってる。


 なんか近頃は騎士たちがベルカの教会との縁が深まった関係で、八神自身もベルカ聖王教会との縁が公私共に深まってきたそうだ。

八神は古代ベルカの秘法、夜天の書のマスターでもあり教会としても放っておけない存在だったとか。グラシア家とかいう偉いさんと

コネが出来て、というか妙に気に入られて、そのお姉さんに良かったらうちの養子にならないか、正式に私の妹にならないかと誘われてる

そうだ。どう思うかと聞かれたが、俺はそのグラシアさんとかに会った事も無いしなあ。だからよく分からんと正直に答えといた。



 フェイトさんは今年の執務官試験は見送って、来年こそは確実に受かるために万全の勉強をしてる。執務官補佐の試験は受かった

そうで、そこで実務を積みながら来年を見据えている。どんなに難しい試験であったとしても、マジメに勉強しまくったあげく、

試験の過去問はほとんど全て暗記してるような今のフェイトさんが落ちるような試験などありえるはずがない。来年の試験こそは、

確実に受かることであろう。執務官補佐として、事務仕事などが多いようだが、たまには前線にも出てストレス発散してるようだ。


 高町さんは前線で戦い続けている・・・他に形容のしようがない。それが好きらしい。それが楽しいらしい。一体どういう精神構造を

してるんだか。功績を挙げまくって、あっという間に一等空士になってしまったし。

今ではアースラに来ることも少なくなり、次元世界中を派遣されて駆け回り戦いまくってるそうだ。



 ちなみに俺は軍医で、軍医というのは偉いのだ。曹長待遇なので高町さんに敬語を使わせることができるw

 実際、例えばアースラなどにおいても、艦長であるリンディさん、執務官として最高位の補佐役であるクロノに次いで、第三位の

待遇を受けるのが軍医のギルさんだったのだ。軍医であるというだけで偉いのである、うむ。

 前線での戦いにこだわる高町さんはまだ兵卒待遇、その中では最高位って程度なので今はまだ俺のほうが偉い。ふふふ。

 高町さんを階級で呼んで、いじめてやるのが俺のマイブームである。ほ~らちゃんと敬礼して敬語を使え。ふはは。


 フェイトさんは執務官試験に受かれば、俺より偉くなるかな・・・

 八神は既に俺より待遇は上だ。八神がトップ、俺は補佐くらいにしかなれん。

 タヌキのくせに生意気である。いつか絶対押し倒してやろうと思う。









(あとがき)

5年生から6年生初頭にかけて・・・だと思われます。

次か次の次か・・・なのはが・・・

今回はマシュー強かったです。探査・結界・転送しか使ってませんが。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十話  小学生日記3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/15 06:16
マシュー・バニングスの日常     第二十話







△○年×月□日



 時空管理局の次元航行部隊は本局と呼ばれ、通称は「海」。それに対してミッドチルダ首都防衛本部は本部と呼ばれ、通称は「陸」。

本来はミッドチルダの治安を守る組織として陸のほうが先に出来たそうだ。ところがミッドチルダの勢力が広がるにつれて、最初は

本部の一部門だった次元航行部隊が、どんどん規模が拡大して、事実上独立して、本局と名乗るまでになった。今では海の本局の方が

圧倒的に規模も大きく力も強い。そしてどーも陸と海は慢性的に仲が悪い。


 そういう派閥争いほどアホらしいものは無いとは思うが、人間の作る組織なんだから派閥が無いはずもないのだ。そんなに気にする

ほどのことでもないね。


 まあとにかく俺はこれまで、海の方であっちこっち派遣されてきたのが多かったのだが、今回は珍しく陸の方に呼ばれた。

 例のリンカーコア障害に関する論文、あの反響が大きかったのだ。船医ギルさんは海の方で引っ張りだこであり、ギルさん争奪で

海のほうはリンディさんみたいな艦長クラスから、本局病院の幹部クラスなどまでが群がってケンカしてるらしい。

 で、陸の方でもギルさんを呼びたかったのだが、海で既に争奪戦になってるので難しい。そこで一応、共同研究者となっている俺を、

ガキであるから不満ではあるものの呼んでみた、というわけだ。


 激しい魔法行使で、リンカーコアが慢性的に痛むような症状に悩む人は実は非常に多かった。しかしそれを治療する有効な方法は

見つからず、せいぜい体を治療して、その痛みに耐えられるようにする程度しかされてこなかった。ギルさんと俺の共同研究の内容は、

別にそれを根治する方法を見つけ出したというものではない。そんな方法があれば俺が知りたい。リンカーコアが原因で体にガタが来た

時に、どういう順番で、どこを治療するのが効果的かという点を、多くの凡例と、俺自身の経験から抽出した具体的な方法論であり、

それによって症状を大きく緩和することはできるというものだ。


 地上本部の病院に赴いた俺の前に、まずは年とった偉そうな人たちが何人か来た。若い頃には相当無茶をやったしその頃は平気だったの

だが、近頃は慢性的な胸の痛みがある、しかし心臓が悪いわけでもないし、やはりリンカーコア原因だろうとのこと。


 年寄りなので慎重に調べ、さらに一人につき一時間ほどかけてゆっくりと治療。別にくすぐったがたっりはしなかった。俺の腕が

上がったのか、年寄りなので鈍いのか、まあ後者だろうな。

 一通り治療したあと、さらにもう一度調べてみて、微調整したりして。

 その日はお年寄りの皆さんのケアだけで終わりました。

 しかし爺さん婆さんたちは、体が軽くなったと大喜び。俺の手を握っていい笑顔を見せてくれた。

 医者やってて良かったと思う瞬間である。


 実際、ギルさんのほうが多くの元データを持っていて、知識としては俺よりも上だろうが。

 治癒技術という点では、リンカーコア異常については体で覚えてる俺のほうがかなり上なのだ。


 喜ぶ爺さん婆さんたちに、この治療は、今日体験してもらったように、本気でやるとなると時間がかかる。皆さんも出来ればまた後日、

診察に来て経過を観察させてほしい、だからそんなにたくさんの人をこなすことはできず、俺が診れるのは一日に十人程度が限界である、

ちゃんと丸一日休んで治療に来れる人を、予約制で診ることにしたいと話しておく。

 爺さん婆さんたちは了承して、また必ず来るからといって帰って行った。

 その後は、年上の同僚たちと、例の論文を題材にして話し合い、今日の治療のポイントなども説明した。

 俺は特殊な探査能力で、超正確に患部を見抜いて治療するわけだが、それでは人には真似できず意味がない。ゆえにある程度、

マニュアル化して、まずはここ、次はここ、さらにここ、というふうに順番に治していくルートが必要になる。論文に示されている

ルートと、今日の俺が実際に通ったルートの相違点、その理由などなど、話していると定時が来たので、また明日~


 んで、なんだかんだで俺はそれから一ヶ月も地上に引き止められてしまった。なんか怒涛のようにやってくる患者たちの中には、

知らないうちに結構な偉いさんも混じっていたそうで、なんとか俺をこのまま地上に取り込むことは出来ないかと上のほうでは結構

マジに話し合いが持たれていたりしたとか。


 これまで曹長待遇だったのを、気づいたら准尉待遇にしてもらってた。引きとめ工作の一環だったらしい。

 俺は、これでまた高町さんをいじめられると喜んでいただけだったのだが。

 まあ結局のところは、週に一回、確実に陸のほうに来るということで落ち着いた。

 基本的に俺は臨時に呼ばれてあちこち行くのが多かったので、週一でも確実にいる、という状態は大きい意味がある。



 しっかし若い人たちも、今は自覚症状がなくても将来はやばいだろうって人が多かったな。地上勤務は、特に前線部隊となるとかなりの

激務らしい。海だと、結果的には意外と平和に済むロストロギア回収とかも結構多いのだが、陸は常に犯罪者が相手の戦いとなるのだ。

疲労が取れない、いつの間にか視力が相当落ちてた、アレルギーがひどくなった、風邪を引きやすくなったなど・・・魔力疲労が原因で

様々な症状に悩まされている人たちは、海よりも確実に多かった。





△○年□月□日



 地上本部からの帰り道のついでに、八神が今、滞在しているという聖王教会ってとこによってみた。来るのは初めてだ。


 なんでも八神は罪を被って自ら消えた、夜天の書の管制人格、リインフォースの能力を継承した、新たなユニゾンデバイスを作り

出そうと研究しているそうだ。八神自身が蒐集で蓄えた情報がなんちゃら、八神のリンカーコアをコピーしてなんちゃらとか専門的な

説明をマッドな目つきでしていた。右から左に流して聞いてたけどね。

 ちなみにユニゾンデバイスってのは、デバイスの中では実は最も古く、ほとんどロストロギア・太古の遺産に近いもので・・・

展開するとデバイスと自分自身がユニゾン、融合して、すんごく強くなるとかなんとか。誰でも使えるわけではなく、八神だから

使えるってもので汎用性は欠片も無いそうだ。


 カリム・グラシアさんて美人のお姉さんと会った。美人だが、リンディさんみたく迫力のある人だ。教会の偉いさんだとか。

 八神のことを相当可愛がってるらしい。こういう長身の迫力美人ってのは、八神みたいな小柄な子ダヌキみたいなコロコロした子を

愛玩したくなるもんなのかな。とか言ったら八神が怒ったが気にしな~い。



 カリムさんの横にシャッハさんて護衛みたいな女の人がいた。この人も相当無茶してるなあ。今はいいけど将来、絶対に体にガタが

来るぞ。今のうちからケアしておかなくては年取ったときに後悔するだろな~と思ったので正直に言ってみる。

 シャッハさんは現代のベルカの騎士で、聖王教会のなかの実働部隊の人だそうだ。俺の言葉にちょっとムカついたらしいが、俺が

准尉待遇の軍医であると説明すると何かに気づいたようだ。


「軍医で、マシュー・バニングス? もしかして近頃地上で評判になっていた・・・」

「はいそうです、本人です。魔力の使い過ぎで来る諸症状にはちょっと詳しいですよ~」

「なんと・・・若いとは聞いていましたが・・・」

「勤務時間外ですが、八神が世話になってるそうなので、軽く治療しましょうか?

 気づいてないんでしょうが疲労がたまってますよ。」

「いい機会ではないですかシャッハ。ぜひ受けさせてもらいなさい。私も評判の治癒術を見てみたいですし。」

 カリムさんの言葉で、シャッハさんは素直に、近くのソファーに横になった。


 八神が小声で話しかけてくる。

「マーくん、かまわへんから思い切りやったってな。」

 なんかニヤニヤ笑ってやがる。

「俺はいつでもきちんとやっている。手を抜いたりしない。」

「うんうん、その調子で頼むで~」


 シャッハさんは別に病気ってわけじゃない。自覚症状も無い。いわば「未病」の状態だな、東洋医学で言うところの。

 でもこの段階で小まめにケアしておけば、この世から病気なんて無くなるんだが、まあ実際にはそうもいかん、と。


 サウロンを展開して、シャッハさんの胸の中央、胸骨部分にあてる。

 んで集中・・・

 あ~やっぱ疲れ溜まってるなあ。全身の筋肉が鍛えられて鍛えられてさらに鍛えられて・・・

 この調子で行けば、俺の予想では40くらいから自覚症状が出て、一気に体にガタが来るな。

 鍛え上げた筋骨は衰えずとも、魔力中枢は自然に年を取り、滑らかに魔力を出すことが出来なくなり、心臓に来るかもだな。

 似たような症状の年よりは、すごい多かったのだ。だから良く分かる。

 循環器、消化器を中心に一通り・・・ついでに慢性疲労がたまってる筋肉もほぐしておくか・・・

 ううむ硬いなあ・・・入念にモミモミ、モミモミ、ちょっと強引に・・・

 よし、一通り終わった。

 んで目を開けると。


 シャッハさんは浅く息をついて、頬は紅潮しており、目はぼんやりしてる。

 なんかカリムさんは気まずそうに目を逸らしている。

 八神はニヤニヤ笑っている。


「あれ~。大丈夫ですかシャッハさん? どこか痛かったりしましたか?」

「い、いえ・・・そんなことは無い、無かったんですが・・・」

「今はちょっと力入らないかもですが、すぐに戻ります。前より体が軽くなったと思いますよ。」

「そ、そうですか・・・」


 八神がいきなり話に割り込んできた。


「はいはい、マーくん、ご苦労様。んじゃそろそろ帰ってな~。疲れてるやろから、教会の転送機使ってええから。」

「なんだよいきなり。もう少し様子を見てからだな。」

「ええから。マーくんの治癒の腕は良う知っとるから。ただ今はちょっと帰ってほしいねん。悪いなあ。」

「なんか用事でも? まあそういうことなら。」

「うん、そういうことなんや。それじゃマーくん、またな~」



 部屋に残った3人の会話。

「ふふふ・・・どうやシャッハ。腰抜けたんちゃうか~立てる?」

「騎士はやて・・・知ってましたね・・・」

「大丈夫、腕は確かやで。むっちゃ体が軽くなってると思うで。」

「む・・・本当だ。これまで痛いとも感じていなかった部分まで全部治されたような・・・確かにこれは凄い。」

「はやて、彼の治療は、その・・・いつもあんな感じなの?」

「そうでもないって。今回は、徹底的にやるって言ってたから。なんやシャッハ、マーくんの好みやったんかもな~」

「な! じょ、冗談・・・」

「真っ赤になって悶えて、声だけは出ないよう押し殺してたシャッハ・・・むっちゃ可愛かったで~」

「うぐぐ・・・」


 マシューの腕は上がってたのだが、今回のように「未病」の状態の患者を癒す場合は、なんか余分な刺激を与えてしまうようだった。





△○年××月□日



 元アースラ船医、今では本局病院でリンカーコア障害治療部というところで働いているギルさんが会いに来てくれた。

 俺も一緒に働かないかという誘いである。

 互いの臨床経験やデータをすり合せて、より精密な治療ルーチンを作ろうという提案には心が動いた。

「う~ん。どうしましょうかね。今は俺は週1で陸に顔をだす以外には、臨時で呼び出されてあちこち行ってる状態なんすけど。」

「ああ。君の今の勤務状況は確認した。これは本局・本部の上の方も了承してる話なんだがな・・・」

「なんです?」

「週1で陸に顔を出してるのと同様、週1で本局病院にも来てくれたら、君の拘束期間はさらに短縮される可能性が高い。給料も上がる。

あと、臨時に呼び出されることも、ほぼ無くなると考えてもらって良いそうだ。」

「あらま。いい待遇ですね。」

「まあ上としては、君みたいな優秀な若い医者は、無理やり義務で拘束などせずに、待遇を良くして自分から働きたいと思ってほしいと

いうところだろうな。つまり実質勤務は週2だ。そして可能な限り早く、より徹底的な治療ルーチンの確立を目指して欲しいとのことだ。

研究者待遇ってところが主かな。」

「なるほど。悪くないっすね~分かりました。受けますよ。」



 これ以降は、臨時であちこち飛ぶってことはガクンと減った。

 海の病院で勤務、次の日は陸の病院で勤務、で、次の日は海の病院に付属してる研究所でギルさんと話し合いながら膨大なデータを

まとめたりと研究作業、さらに教会からの出向要請を受けて、教会の病院にも定期的に出るって感じの日々になった。

 勤務日は土日で、平日の放課後は研究したり、出張したり。

 地球の学校の方は、金曜日を勝手に俺の休日にして休んでる。水木も基本的に仕事は入れない。

 ちゃんと休むのは重要なことなのである。特に俺は体力に自信ないからな。

 ギルさんは俺の体のことを良く知ってるので、相当、俺に気を使って、ゆったりと仕事もできるし。

 ちょっと忙しいのは陸の病院くらいで、全体には前より遥かに楽になったな~

 仕事する場所が固定されると、その仕事場に自分の休める環境を作れるってのも大きいし。

 つっても俺は前から基本的に休む権利のある日は全部休んでたみたいな勢いだったので、激務といえるほどの仕事してなかったけどね。




 久しぶりに高町さんに会った。相変わらず前線でバリバリやってるらしい。

「マシュー君! 私、空曹長になったんだよ!」

「なに! いつの間に・・・ありえんだろうその昇進速度・・・」

「ふふふ~♪ これでもうマシューくんにからかわれることも無いね!」

「甘いな高町空曹長。これを見よ!」

「な! それは准尉の階級章! そ、そんな・・・」

 高町さんはorz状態になってしまった。

「そっちも頑張ってるんだろうけど、こっちも頑張ってるんだな~。甘かったな高町さん。」

「ああそっか・・・聞いてるよ、リンカーコア障害の治療法で・・・」

「そういうこと。でもさあ高町さん・・・」

「ん? なに?」

「相当無茶してんじゃない? 気づいてないかも知れないけど、かなり疲労が溜まってるみたいだよ?」

「え? そんなことないよ。どこも痛くないし。」

「素人はこれだから困る。俺は医者だぞ。今の高町さんはギリギリだ。一回ちゃんと休めよ。」

「う~ん。でもお仕事は楽しいし・・・」

「今度、時間が取れるとき、一回ちゃんと診てやるから。暇な日ってない?」

「えとね~地球の休日は大体、お仕事に出てるの。学校の放課後も大体、お仕事だし。学校を休んでお仕事に出る日もあるし・・・」

「・・・ちょっと待て。それじゃあ完全休養日ってのが無いのか?」

「でも大丈夫! 絶好調だし!」

「いやちょっと待て。気づいてないんだろうがマジに・・・」

「あ! また呼び出しだ! ゴメン仕事だから~」


 あ~。

 あれはやばい。

 マジでやばいぞ。

 ご両親に話すべきかな・・・んで強制的に縛り付けてでも休ませる、と。

 しかしご両親も知ってて、それでも好きにさせてるわけなのか?

 わからんな。とても娘思いの、子煩悩なご両親にしか見えなかったのだが・・・どうなってんだ一体。

「空のエース」って名前も売れてきたみたいだが・・・今のままだとどこかで折れるぞ・・・





△□年×月□日



「あれ? 今日は姉ちゃんと月村さんだけか。」

 早朝のスクールバスでの会話である。

「おはよう、マシュー君。」

「おはよう、月村さん。」

「・・・ねえマシュー。どうなってんのよ?」

「八神は、なんか今、作ってるものがあるとかで今はそっちに集中したいってさ。新型のデバイスだったかな。あと、フェイトさんは

そろそろ執務官試験なんだわ。今、鬼気迫る勢いで追い込みしてる。」

「それは聞いてるわ。二人はまあ、いいのよ。問題はなのはよ。」

「あ~やっぱり姉ちゃんも思ったか。」

「なのはちゃん、働きすぎじゃないかな。」

「フェイトとはやては、たまにまとめてミッドに行くときもあるけど、基本的には普通に暮らしてるし休みに一緒に遊んだりもするわ。

あんたも病院勤務になってからは、余裕をもって仕事をして休みも多いし。でもなのはは・・・」

「近頃、一緒に遊んだりもしてないの?」

「うん、なのはちゃん、忙しいってばっかりで・・・」

「おかしいわよ、あの子。聞いてみたらやってる仕事も武力鎮圧とか強行突入とか・・・そもそも子供がやる仕事じゃないでしょ!

それをやらせる管理局もおかしいけど、それを嬉々としてやってるなのははもっとおかしいわ!」

「全くね。でもまあ、例えば八神なんかは上級職の捜査官として言ってみれば官僚的な方向の勉強してるし、そういう方面に将来は進もう

としてる。フェイトさんが目指してる執務官てのは、戦うこともあるけど基本的には指揮官であり総合職。高町さんは・・・自分から

希望して行ってるんだよなあ・・・武装隊に・・・。他の選択肢もあったはずなんだけど・・・」

「ほんとに何考えてるんだか・・・一回ちゃんと話しようにも、すぐに任務だ仕事だっていなくなるし・・・」

「マシュー君の目から見て、なのはちゃんはどうなの? 大丈夫そう?」

「ううむ・・・はっきり言えば危ない。慢性疲労が蓄積されてるのに本人は気付いてない。一回、強制的に休ませる必要があると思う。

その話をしようとしたんだけど、また仕事だって飛んでいっちゃってさ。」

「マシュー。なんとかできないの?」

「一回、高町さんの勤務状況をちゃんと調べて見たんだけどさ。義務としての出撃は、実は週3くらいしか無いはずなんだ。」

「週3どころじゃないわよ、あの子。」

「そう。高町さんが志願してるんだ、自分から。別に高町さんじゃ無くても良い任務にまで、手を出せる所には全部手を出すって勢いで

志願して出てる・・・上の人としても、もうちょっと休めと言ってるそうなんだけど、本人が聴かないらしいんだ。」

「なんでそこまで・・・」

「それで、この前、上の人と話し合ってさ。来月の定期健康診断のとき、内容をでっち上げてでもドクターストップかけるって案に

同意してくれた。だからそこで捕まえて強制的に休ませようと思う。」

「やるじゃないマシュー! ナイスアイディア!」

「でもさあ・・・多分、なんか心理的な問題だと思うんだよね。強制的に休ませることは一時はできるんだけど・・・多分、高町さんの

心の問題が解決されないことには、同じ問題がまた起こるような気がするんだ。」

「そうね・・・。」

「ご両親とも一回ちゃんと話し合う必要があると思ってんだよね。娘の様子がおかしいって気付いてないはずは無いんだけど・・・」





△□年×月□○日



 今日は本局病院。

 治療法もかなり確立されてきて、実践できる他の医師も増えてきたので俺の負担はかなり減っている。

 しかし、やはりかなり重症の患者とかだと俺が直接に診る。

 長年のツケが溜まって、心臓どころか全身にガタが来て、それでももとの肉体が頑強だから頑張ってガマンした末に、ついに

担ぎ込まれてきた元管理局員のご老人を診ることになった。しかし長年の無茶で体は隅々までボロボロだ。

 出来ることはほとんどなかった。少し、苦しみを和らげてあげるくらいしか・・・

 もっと早く・・・せめて十年早くきてくれれば何とか出来たかもしれないのに。

 色々と試してみたのだが、結局は、有効な対処法が見つからず。
 

 ギルさんに立ち会ってもらって、ご家族に、手の施しようが無い、事実上、手遅れだと告げなくてはいけなかったのはつらかった。

 本人は意識を取り戻すと、結構サバサバとした表情で笑ってた。少し楽になった、ありがとうといってくれたが。

 そのご老人は、これは寿命だ、気にしないでくれと言って帰っていったが・・・俺にはそうは思えなかった。適切なケアを前から

行っていれば、彼の寿命は少なくとも十年は延びたはずだし、余計な苦しみを味わうことも無かったはずなのだ。

 落ち込んでいる俺にギルさんが声をかけてくれた。


「マシュー。言い古された言葉だが・・・医者は神様じゃないんだよ。」

「分かってます。分かってますけど・・・」

「助けられる人もいる。助けられない人もいる。所詮、それが現実だ。」

「はい・・・」

「俺たちは、助けられる人を頑張って助ける。それ以上のことは出来ないんだ。」

「そうですね・・・」


 そうだな。せめて助けられる人だけは・・・助けていこう。




 この日。

 俺は病院で落ち込んでいた。

 八神はデバイス作成に熱中していた。

 フェイトさんは試験勉強を頑張っていた。



・・・そして高町さんは・・・任務中の事故で重傷を負っていた・・・







(あとがき)

小5終わりくらいから小6くらいかと思われます。

なのは負傷の日は・・・小6の一学期くらいを想定してますが細かい日時は突っ込まないで下さると幸いです。

治療編は話がちょっと深刻になっちゃうなあ・・・と心配です・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十一話  なのは治療編
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/27 19:17
マシュー・バニングスの日常    第二十一話








△□年×月□×日



 高町さん重態の一報は、なぜかしばらくは身内にさえ流されなかった。

 身近な人間でさえ、それを知ったのは、ミッドの民間放送局のニュースが第一報だったのだ。

 空戦のエースとは言え、一介の魔道士に過ぎないのだから、ニュースでの扱いは軽かった。今日のメインはどっかで管理局の作戦が成功

したものの犠牲が大きかったとか・・・最後に、では負傷者のリストをって流し読みされた中に・・・


「・・・XX一尉、△△准尉、さらに空のエースと呼ばれていた高町なのは空曹長(11)も重傷を負い、再起も不明とのことです。

 本当に心配ですね。


 次はミッドチルダ周辺の明日のお天気です・・・」




 俺はこのときテレビを斜めに見ながら、大量の書類と格闘しており、聞いた瞬間、書類の山を引っくり返してしまった。

 八神はデバイスのプログラムを組む作業を行ってたのだが、3日かけて入力したデータを全消去してしまったそうだ。

 フェイトさんはコーヒー片手に試験勉強してたのだが、そのコーヒーを机の上にぶちまけ、ノートを台無しにしたそうだ。



 関係各所に連絡を取りまくった俺たちは、互いにかけようとしてつながらなくて焦ったりなど繰り返しながら何とか3人での通信に

成功する。急いで情報を交換。八神もフェイトさんも何も知らない。二人は病院にいる俺なら知ってるんじゃないかと期待していた

そうなのだが俺も知らない。誰も知らないなら知っていそうな人・・・リンディさんかクロノだ。フェイトさんに頼んで、どちらかに

つながらないか試してもらう。俺も本局病院の入院患者リスト(部外秘)を引っくり返して高町さんの名前を探す。

 先にフェイトさんがリンディさんを捕まえた。リンディさんは苦しそうな顔で、高町さん本人から、なるべく人に知られたくないから

教えないで欲しいと頼まれたと言ってたが・・・


 続けて俺も高町さんを見つけた。俺が詰めてる、研究棟が付属してる第一病棟ではなくて、少し郊外にある第3病棟に入ってる。

なるほどそこなら俺は行かない。っていうか行ったことがない。これは俺を避けたのか? 何考えてんだ一体!

「八神、フェイトさん。本局病院前に集合な。場所が分かった。」

「分かった。15分で行くわ。」

「本局病院前ね!」

 二人は通信を切った。全速力で向かってくるだろう。街中での無許可の魔法行使が禁じられているのが痛い・・・速攻転移したいのに。


 俺はつい、画面の向こうのリンディさんに苦い顔を向けてしまう。

「リンディさん・・・高町さんが何を頼んだのか知りませんが・・・だからって言わないってのは無いでしょう。」

「そうね・・・本当にごめんなさい。」

「担当医は・・・っと。あ~あの先生か。良かった知ってる。」

「どうするつもりなの?」

「知ってる先生なんで、頼んで担当に加えてもらおうと思います。」

「そう・・・それが一番いいかもね・・・ねえマシュー君。」

「はい?」

「なのはさんを・・・あまり怒らないであげてね。」

「それは約束できません。では切りますね。」





 30分もせずに俺たちは第3病棟に到着した。都会の真ん中の第一病棟と違って、わざと郊外に作られて周囲には豊かな自然がある。

 今は時間的に夕方時であり、ちょっと面会時間としては不適切かも知れないが、顔見るだけならできるはず。


 ところが・・・

「面会謝絶?」

「どういうことですか! そんなに悪いんですか! それだったらなおさら!」

「いや、そうじゃなくてね・・・言いにくいんだけど、本人が会いたくないって言ってるのよ・・・」

「なんで!」


 看護婦さん相手に、激昂する八神とフェイトさんを横目に、俺は通信装置のスイッチを入れる。

「あ~ども先生。はいいつもお世話になってます。それで先生の担当患者で、高町なのはっていますよね。すいませんが彼女、俺の昔

からの知り合いなんですよ。無理言って申し訳ないんですが何とか担当に加えてもらえないですかね。いやほんと無理いってるのは

分かってるんですよ、そこを何とかお願いします! この通りです! はい、それじゃあ本人の同意が得られれば、ですか。大丈夫です、

間違いなく同意してくれますので。ただ彼女へのちょっとした言伝をお願いしたいんですが。いえ小さなメモ程度です。はい、じゃあ

ここの看護婦さんにメモをわたしますので、先生へ、はい分かりました。お願いします。」


 メモ用紙に書いたのはごく短い文。それを折りたたんで看護婦さんに渡す。看護婦さんは去っていく。


「どういうこと? マシュー。」

「取りあえず待とう。30分もすればきっと・・・」

「どないしたんやろな、なのはちゃん・・・」

「ああいう怪我や病気に慣れてない人間てのはさ、初めて大きな怪我とか病気すると、ものすごく動揺するんだよ。多分、今の高町さんは

普通の心理状態じゃない。パニックが続いてるみたいな感じじゃないかな。」

「そっか・・・」

「まあ俺が担当医に入れたら、二人をなるべく早く通すから。」

「大丈夫なん? ほんまに入れるん? なんや結構強引に頼んどったけど・・・」

「高町さんから頼んでくる。あのメモを見ればね。」



・・・40分後・・・


「バニングス先生。くれぐれも患者を動揺させないで下さいよ。」

「はい、分かってます。」

「お二人は、まだここでお待ちください。」

「え!」

「なんでや!」

「高町さんは、しょうがないからバニングス先生にだけは会う、と言われましたので。もうしわけありませんが。」

「あ~二人とも。なるべく早く説得するから、もうちょっとだけ待っててくれないか。」

「「ううう・・・」」

 不満に顔を膨らませる二人をなんとか宥めて、俺は一人、案内に従って病室を目指した。




 個室に横たわる高町さんは・・・憔悴し切っていた。

 頬はこけ、顔色は青白い。目からは輝きが失われ、下ろした髪もなんだか乱れている。いつもは溢れさせている無駄な元気パワーが

完全に失われ、布団の上に出した手にも力が無い。しかしそんなにボロボロの状態なのに・・・なにか焦燥感だけは見て取れる。

 元気なときからずっと高町さんを捉えて駆り立てていた焦燥感が、こんな状態になってより顕に見える。だが焦ってはいても今は力が

入ってはいない、しかしリラックスしてるわけではなく、虚脱しているだけ・・・

 やっぱり心の問題かな・・・



 高町さんが、普段では考えられないような力ない・・・注意しなくては聞き取れないような声で呟いた。

「やっぱりマシュー君には、ばれちゃったんだ・・・」

「メモは見たんだろ?」

「これはずるいよ・・・やっぱりマシュー君はずるい・・・」


[今は3人しか知らないが、態度によっては全員に知らせる]

 メモにはそう書かれていた。

 高町さんは怪我したことを知られるのを、やはり怖がっていた。出来れば誰にも知られたくない、家族にもってとこか。

 パニック状態でリンディさんに懇願したらしいのだ。で、さすがのリンディさんも対処に困ったと。



 俺は平静な、普段通りの口調で話しかける。こういうときは敢えて普段通りを意識しなくてはならない。

「俺もそうだが、八神とフェイトさんもな。3人とも偶然ミッドにいたんだが、夕方のニュースで高町さんが重傷だって流れたぞ。

空のエース、有名人だけあって全国放送のニュースで流れるとはな。」

「そっか・・・ニュースになっちゃったんだ。」

「まあ実質5秒くらいでサラっと流れただけなんだけどな。その他のニュース扱いで一まとめの中の一つって感じで。」

「そう・・・」

「で、二人はまだ下で待ってるんだが・・・どうする?」

「ごめん会えない・・・」

「おいおい、小一時間も心配して待ってる二人に・・・やっぱ帰ってくれって俺に言わせる気かよ。」

「ごめん・・・お願い・・・」

 目が涙ぐんできたな・・・感情が高ぶってる・・・まずは落ち着かせるのを優先するべきか・・・

 説教してやろうと思ってたんだが、それもせめてもう少し、回復してからだな・・・

 看護婦さんから聞いた話では、身内への連絡について口に出されるとパニック発作を起こすような状態にも成りかねないらしいし。


 気分を切り替えて、妥協案を提示する。

「おし、それじゃあ俺が担当医師の一人になることを受け入れてくれるなら、協力してやろう。」

「・・・え?」

「医者には患者の情報を他に漏らさない、守秘義務ってもんがある。俺が高町さんの担当医になれば、職業規定として、高町さんの

情報を、高町さんの同意無しに、他者に漏らすことができなくなる。」

「あ・・・」

「でも高町さんが、俺を担当医師として受け入れてくれないなら、俺たちはただの昔なじみの友達だ。友達として知ってる限りの人に

連絡してまわるかも知れないぞ。さて、どうする?」

「マシュー君って・・・ほんとずるいね。」

「答えはイエスでいいのかな?」

「うんわかった・・・お願いします。」

「了解。これからよろしく。」

 俺は高町さんの力ない手を取って、無理やり握手した。



 その後、高町さんに八神とフェイトさん宛ての手紙を一筆書いてもらった。内容は「悪いけどもう少し待って欲しい。落ち着いたら

連絡するから」って程度の走り書きだ。それを持って二人のもとに行ったものの・・・いやあ揉めた揉めた。

 もんんんんのすっごい苦労の末に、やっと二人には帰ってもらえたが・・・

 いつまでも誤魔化せるものじゃない。

 さて、どうするか・・・


 高町さんには絶対に聞こえない場所で、俺は深いため息をついた。





△□年×月□□日



 正直言うと、バカやって無茶してやっぱり大怪我した高町さんには言いたいことが山ほどある。

 しかしまずは体力回復させなくては言いたいことも言えない。



 事態の推移は簡単だ。

 命令ではなく、自ら志願した任務で、敵が予想以上で、そこで味方をかばって無茶をして、んで大怪我したのだ。



 大怪我も大怪我・・・全身に直撃した、殺傷設定の攻撃魔法、実に32発。

 そのうちバリアジャケットを貫通したのは12発。

 腹部に直撃したのが2発、背中から腰部に直撃したのが4発、胸部に直撃したのは6発。

 腹部については、一発は胃に当たって胃が内出血。一発は肝臓に当たって肝機能の一時低下に肋骨3本骨折。

 腰部については、第二腰椎、第三腰椎は一部が粉砕骨折し、脊髄も損傷、一時的にだが下半身不随状態。

 胸部については、胸骨及び肋骨7本にヒビが入り、リンカーコアにも損傷が認められる、と来たもんだ。

 ズタボロである。よく生きてたもんだ。




 骨については、ミッドの医学は優れている。肋骨や胸骨のみならず、粉砕した腰椎についても、形成して完全治癒が可能である。

 しかし脊髄損傷は重い。神経再生しても、一度は途切れてしまった神経をもう一度繋ぎ直すにには過酷なリハビリが必要になる。

 リンカーコア損傷は最悪である。これを決定的に治す方法は・・・ほぼ無い。専門家の俺だからこそ断言できる。





「ねえマシュー君。私、治るのかな~」

 空白な笑顔で高町さんが問いかける。らしくないな、ボロボロになって地面に倒れた向日葵みたいだ。そういう笑顔は見たくない。

「忘れてるのかも知れんが、俺も治ってないぞ。」

「え?」

 リミッターはまだ必要だ。俺のリンカーコア異常は治療法が見つからない。俺もまだ治っていないのだ。

「そっか、そうだったね。ごめんね。」


 病気とか怪我なんてたいしたことない、って言いたかったんだが。

 まあそれはともかく。


「いいかバカ町。」

「ひどーい・・・」

「てめーなんてバカ町で十分だ。お前は初めて怪我らしい怪我をしたからなんか大げさに考えてしまってるんだろうが、心臓が止まった

経験を持つ俺から見ればたいしたことはない。所詮は、治る程度の怪我に過ぎない。だがそれには患者の協力が必要だ。おまえ自身が、

自分を治そうと思ってくれなくては、治るものも治らんのだ。」

「うん・・・それはわかってる・・・」

「だけど、だ。今はそんなことも考える必要は無い。ただ、休め。できれば何も考えずに休め。」

「うん・・・」

「眠りが浅いとかだったら・・・いっそ俺の強制体内マッサージでも受けてみるか?」

「え! そ、それは遠慮したいかも・・・」

 高町は少しだけ笑ったが・・・ダメだ、まだまだ本当の笑顔から程遠いな・・・

 その笑顔が、あんまり儚くて、弱弱しくて・・・

 あの押し付けがましいくらいの明るさに満ちた笑顔を、必ず取り戻してやろう、と思った。


 


△□年×月□△日



 高町の担当の一人になった日から、三日ほど経ったのだが。

 八神は、デバイスが完成しそうも無くなって、ちょっと進んでは壊して、治してはまた壊したり、このままではどうにもならないので、

早く高町の情報を教えろと俺を日々、責めまくっている。

 フェイトさんは・・・最悪にも狙ったようにこの時に、執務官試験があり、ボロボロだったそうだ。自分でも受かってるとは思えない

出来だったとか。でも今はそれどころではなく、早く高町に会わせろと俺を毎日涙目で責めて来る・・・

 正式に担当医になった俺としては、軽率に高町の情報を人に話すことは出来なくなったわけだが。

 だが八神とかフェイトさんはまだいいんだが・・・



 問題は親御さんだ・・・ 


 ミッドでは高町は既に一人前扱いされてるんだが、地球の常識ではまだまだ子供だ。

 もしも親御さんが、これを知らされず、しかもそれが高町の意思だったなんて後で知った日には・・・親子関係に決定的なヒビが入る。

今でもどこか違和感があるというか、仲良さげに見えて、なんか隔意がある微妙な関係なのに、修復不能に最悪になってしまう。

 隠し通せるものではない。既に八神とフェイトさんは、高町が重傷であることを知っているのだ。

 やはり高町本人がなんと言おうと、親御さんにきちんと連絡しないわけには行かないだろう・・・





その旨を主治医の先生と話してみる。しかし先生としては、高町本人が連絡を待ってくれと言ってるのだから、今すぐどうこうする

必要は無いという意見だ。俺は何とか地球の常識というものを説明し、11歳に過ぎない高町が負傷したら本人の意思よりも保護者の

意思が優先されるべきで、とにかく保護者に連絡しないわけには行かない、これは絶対的な最低ラインであり、もしも連絡しないなんて

ことをしてしまうと俺は地球の常識ではモラル的に最低最悪の人間と見なされてしまうのだと強く主張。

 先生は、まあそういう常識の世界もあるのか・・・と最終的には何とか認めてくれた・・・助かった。




 高町がケガしたときの指揮系統を確認してみたが・・・

 あっちゃあ・・・

 そもそも命令による任務ではなく、本人の志願なのは知ってたが・・・

 XX管理世界での共同作戦、アースラも参加してたからリンディさんも居合わせただけね、偶然。

 複数の航行艦を全て指揮する艦隊提督、名前も聞いた事無い某少将、その直属に派遣された武装隊がいた状態だったと。

 ってことは筋として高町のケガの責任は、その少将さんにあるってことになるわけだが・・・

 その作戦はかなり過酷だったようで・・・最終的に死者こそ出なかったものの、作戦に参加したBランク以上の魔道士の中で、重傷者は

25名、軽傷者43名、派遣された武装隊は4割の戦力を失い、航行艦も一隻が中破してしまい、少将は作戦目的は一応遂行したものの

被害が多過ぎるので責任を糾弾されてる最中だわ・・・

 これは無理だ。上司で責任者にあたる人に一緒に親御さんとこ行ってもらおうと思ってたけど、こら無理だ。

 現地の武装隊の組織図では・・・10以上の小隊が派遣された形か・・・ダメだ高町、曹長だし偉いほうだ・・・それでも上司に当たり

そうな人は・・・うう~尉官は数名いるが全員重傷入院中・・・

 リンディさんはむしろ指揮系統をある程度無視してでも高町を助けてくれたようで・・・責任者とは程遠い・・・

 しかも・・・その中破した艦ってのがアースラなんだわ・・・リンディさんは今、事後処理で物凄い忙しいようだ・・・


 あー・・・しゃあない・・・一人で行くしかないか・・・







 ただ無表情に、ボーと天井を見詰めるのみの無表情な高町に、俺は軽く話しかける。


「とりあえず今は、少しずつでいいから体力回復することだな。ただ、その前に考えなくちゃいかんことがある。」

「なに?」

「海鳴の方だよ。どうやってごまかすつもりだ? お前は全治半年、歩けるようになるまでも何ヶ月かはかかるくらいの重態で、とても

学校とか行けたもんじゃない。休むしかないが、そこを何とかしないといかん。」

「あ・・・」

 高町は目を伏せて、体が軽く震えだした・・・海鳴とか、学校とか、実家の話をすると確実にこうなるな・・・

 あまり追い詰めると過呼吸発作を起こしたりしかねないし、今は妥協案を提示してやるしかない。


「知られるのは、やっぱりイヤか?」

「うん・・・」

「ふー・・・しゃあないな、んじゃあ、とりあえず知ってる人たちに協力してもらう必要があるぞ。」

「どういうこと?」

「八神とフェイトさんはミッドにいたから、お前が負傷したことを既に知ってる。今は俺が何とか、はぐらかしているが、そもそも

ニュースになるくらい大怪我したってことは知られてる以上、どうにもならん。だから二人については、ちゃんと受け入れて、見舞い

にも来て貰った上で、どうしても家には知られたくないんだって、ちゃんと説得せんといかんってことだ。で、二人を取りあえず味方に

して、その間に、俺が海鳴の方にいって、何とか誤魔化してくる、現状できるのはこのくらいかな。」

「・・・そっか。分かったよ。ごめんねマシュー君、ワガママばっかり言って困らせて・・・」

「八神とフェイトさんを呼んでも良いな?」

「うん・・・分かった。もう知られてるんだしね・・・」

 何とか同意はもらえた、少しは前進したかな。






 二人を呼び出し、まずは事前に注意。


 全治半年の重傷。特にひどいのは脊髄損傷と、リンカーコア損傷。骨もあちこち折れてる。

 本人は、やっと少しずつ落ち着いてきたが、実はまだまだ情緒不安定で、特に人に自分の怪我を知られるのを怖がってる。

 だからその話題には触れないで欲しい、パニック状態とかに再び陥る可能性がある。

 顔を見て、笑顔を見せて安心させてやること。

 今はまだ、絶対に責めるようなことは言わないこと。

 当たり障りのない話をして、身の回りの世話をしてやって、とにかく落ち着かせ、安定させること。


 さらに重要なこととして・・・

 俺は家族の方に話をしにいくが、高町には、俺が家族を誤魔化してくると思わせてる。

 なによりも家族に負傷を知られることを高町は恐れている。だからその話題には触れないこと。

 また俺が家族に話をしにいく件については、絶対に気付かれないこと。



 ここまでの話を、八神はじっとこらえて聞いていたが、フェイトさんは泣いてしまった・・・

 普段ならフェイトさんが泣けば皆が優しく慰めるわけだが・・・今はそういう状況じゃ無い。どーもこの人もメンタル弱いな・・・

 俺は冷たく注意する。

「フェイトさん。高町の前でも感情を抑えきれないようなら、フェイトさんは面会禁止にしますよ。」

「あ・・・ごめんなさい。」

「八神は・・・慣れてるから分かってるな。重態の人の扱い。」

「分かっとる。言われたことに注意するわ。・・・慣れてへんフェイトちゃんは、来ーへん方がいいかもな・・・」

「だ、大丈夫! 頑張るから・・・」

「いいですか、とにかく高町の感情を刺激しないのが第一なんです。フェイトさんの方が取り乱して、高町の前で泣いてしまったり

するのは論外なんですよ。演技できずに変な顔をしてしまうようでもダメです。うう~ん。どうだろ八神。フェイトさんには無理かな。」

「正直やからな、フェイトちゃん・・・」

「約束するから! 絶対泣かないって! だから私も会わせて、おねがい!」

 と必死に言ってるフェイトさんなのだが、既に泣いている・・・ああ~やっぱダメだわ。八神も苦い顔だ。

「別に意地悪で言ってるんじゃないんですよ。俺は高町の担当医です。だから高町の状態のことを第一に考えます。フェイトさんが

高町の前で取り乱すようなことがあれば、それは高町に大きな負担になります。既に涙ぐんでるようなフェイトさんは、やはりまだ

高町にはあわせられません。今回は諦めてください。」


 恐らくフェイトさんにはすがりついて泣くくらいしか出来ない・・・励まして支えになるどころか重荷にしかならなそうだな・・・

 それも許されないほどの重態、ってことは理解できてない・・・


「そ、そんな!」

 俺の言葉を受けてフェイトさんはショックを受けたようだが、仕方ない。


「まぁ、しゃーないやろな・・・」

 八神は大体分かってくれてるかな・・・


「八神、お前なら会えば、今の高町がどれだけ体も心もボロボロなのかすぐ分かると思う。だから基本的に、高町の身の回りの世話は

お前に任すわ。フェイトさんを会わせても良い状態まで回復したとお前が判断したら、お前の裁量で会わせてやってくれ。」

「分かった。」

「すいません、フェイトさん、今日は帰ってください。八神、こっちだ。」



 八神は見事に看護してくれた。さすがである。フェイトさんのことも適当に流して誤魔化して、しかも高町に不審を抱かせない。

 俺にもマネできんわ、この見事な腹芸。



 執務官試験に惨敗した上に、高町への面会も数週間にわたって禁じられたフェイトさんは、地獄の底まで落ち込むことになり、この後、

かなりの期間にわたって恨まれてしまった。まあ最終的には分かってくれたんだけどね・・・







 しかし高町の親御さんに話をしにいくのは気が重いな・・・


 でもやらないわけにはいかない・・・



 高町を騙して行くわけだが、この件については、俺は間違っていないはずだ。








(あとがき)

治療編その一です。

どう頑張っても明るい方向に行かない・・・

ああ次はさらに暗いかも・・・なんとかせねば・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十二話  なのは治療編2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/28 22:08
マシュー・バニングスの日常    第二十二話







△□年○月□□日



 あらかじめ、高町家に電話を入れてアポを取る。

 リンディさんからは、しばらく帰らないかもって程度の曖昧な連絡しか貰ってなかったそうだ。

 しかし娘がいきなり連絡もなしに数日も帰らず、上司からの連絡も無く、知り合いからも曖昧な話しかない。

 そこに俺が電話して「なのはさんのことで医者として話さなくてはならないことがある。」と伝えたわけだから・・・

 これで良くない話だってことは嫌でも察しただろう・・・

 電話口の向こうの桃子さんは不安そうだった。

 翠屋の営業が終わった夜に訪問。客間に通され、士郎さんと、お茶を持った桃子さんが入ってきて腰掛ける。


「まずは今の僕の身分を証明させていただきます。」


 ミッド語で書かれた身分証と、それを和訳したコピーとを見せる。

[ミッドチルダ時空管理局後方勤務管理部所属医官   マシュー・バニングス准尉]

[時空管理局本局病院リンカーコア障害治療部  研究員  マシュー・バニングス]

[時空管理局地上本部  第一病院内科第3課  チーフ  マシュー・バニングス]


 ご両親は、3種の身分証を確認した。深刻な話になるのできちんとしなくてはいけない。

 が、お二人は、それよりも早く話を聴きたいようだ。



「では早速本題に入らせていただきます。僕は今、高町なのはさんの担当医師の一人です。これがカルテの原本のコピー、そしてこちらが

和訳したもの、さらにこちらは抜粋要項になります。ご覧下さい。」



 二人はしばらく黙って俺の出した書類を読んでいたが・・・

 ご両親ともに手が震えて来ている。

 士郎さんは顔が真っ赤になってきて激昂寸前・・・全身から強い怒りと殺気が噴き出してきている。別に俺に怒ってるわけではなく、

無力だった自分への怒りか、娘を傷つけた何者かへの殺意か・・・

 桃子さんは手から力が抜けかけて、涙がにじんできて、全身が小刻みに震えてきた。

 二人とも言葉も無いようだ・・・



「話を進めさせていただきます。まず、脊髄損傷についてですが、治ります。下半身麻痺は一時的なものです。ミッドチルダには神経

再生技術があり、つなぎなおすことが可能なのです。体力の回復を待ってその処置を行い、頑張ってリハビリすれば、半年以内に再び

立ち上がれますし、以前と同じように走り回ることも可能でしょう。この点については間違いありません。」



 ご両親は、ほっと一息ついた・・・



「ただし、リンカーコアと呼ばれる魔力中枢には後遺症が残ります。従来のように全開で魔法を使おうとすると軽い痛みが走るでしょう。

また年を取ってからリンカーコア由来の病気になる可能性が高いです。適切なケアを行えば予防できる可能性もありますが、正直に

申しまして、楽観できません。」



 士郎さんは聞こえているのか・・・具体的な負傷の項を見つめたまま動かない・・・


 桃子さんが、なんとか声を絞り出して、問いかけてきた。



「どうして・・・なのはが・・・」


「そうです。今日、伺わせて頂きましたのは、それを聞きたかったからです。それが本題です。」



 訝しげに士郎さんが俺を見る。怒りと殺気が残っていて見られただけで体が震えそうだ。でも今日はこれを聞かなくてはならない。



「ご両親が、どこまで高町なのはさんの状況を正確に把握なさっておられるのか分かりませんが・・・まずは僕の方で認識している

事実関係を説明させていただきます。疑問点などがあれば随時、質問なさって下さい。


 まず、なのはさんが所属している部署は、時空管理局本局武装隊です。武装隊とはその名前通り、武力でもって有事に備え、戦闘力が

必要とされるような局面で派遣されて、実際の武力行使に及ぶ部署です。はっきり言って最前線の、もっとも危険な部署です。

 なのはさんには天性の才能があります。魔力量が尋常ではなく、管理局内部においても上位5%程度しかいないほどの魔力の持ち主、

現状で既にAAAランクという、稀有な天才なのです。

 管理局は魔力を尊び、魔道士ランクを重視します。なのはさんほどの力の持ち主なら、希望すればどんな部署でもいけるでしょう。

 ただ、問題は!」



 言葉を切って、二人を見詰める。



「武装隊に入ったのが、なのはさんの強い希望によるものだ、というのが、疑う余地も無い事実である、ということです。

 なのはさんほどの魔力の持ち主は、希望すればどんな部署にだって入れます。武装隊を選んだのは、なのはさん自身なんです。

 ご存知だと思いますが、八神はやて。彼女はなんと、なのはさん以上の魔力の持ち主なんですが・・・その彼女が選んだのは、特別

捜査官という後方部隊です。デスクワークが主になり、前線になんてめったに出ない、そういう役回りです。彼女ほどの魔力を持つ

魔道士なら前線で戦っても無敵に近いでしょうが、彼女は後方勤務を選んだし、それが許されるのです。

 しかし、なのはさんは前線で戦うことを選んだ・・・なぜなんですか?」



 本当に疑問だった。彼女は間違いなく、戦いたがっていたから。それがなぜなのか俺には分からなかった。

 ご両親からは答えは返ってこない。

 話を続ける。鞄から、ファイルされた分厚い紙の束を取り出す。ミッド語の書類だが所どころ、俺が訳を入れてる。

 それをご両親に見えやすいように広げて説明する。



「ちょっと見づらいかも知れませんが・・・これは武装隊のシフト表です。原本コピーで、注釈を書き込んであります。分かりますか。

ここに高町なのは、って書いてあるんです。ミッド語の綴りではこう書くんですよ。で、こっちが時系列で、斜線を引いてあるマス目が

拘束時間を現してまして・・・これで一年分あるんです、後で確認してもらえば分かるんですが、まあ結論から言いますと、なのはさんの

義務的拘束時間てのは、せいぜい週に3回、一回6時間程度のものなんです。バイト感覚ですね、本来は。

 ところが彼女の実際の出撃時間ってのは、そんなもんじゃ無かったですよね?

 それがこの赤丸でチェックされてるマス目でして・・・これは上からの命令ではなくて、他部署からの依頼により出撃した時間を

現してるんですよ。圧倒的に多いでしょ? 依頼であるのだから、これには義務はありません。なのはさんは、そういった依頼を

積極的に受け・・・というより、そういう依頼があればあるだけ全部、自分から志願して出撃していったんですよ・・・

 その結果が、あの余りにも長い仕事時間ってことになったんです。

 まわりの人間は皆、止めようとしてました。武装隊の上司すら、止めようとしていたんです。

 でも、なのはさんは止まらなかった。周りの意見を聞かず突っ走って仕事を受けまくっていたんですよ。

 なぜなんですか。なぜそこまでするのか、そこまでしたのか。

 周囲の人間は、みんな、疑問に思ってたんです。

 こういう言い方はしたくない。でも一度だけ、言わせてください。

 気付かなかったんですか。

 気付いていたのなら、なぜ止めなかったんですか・・・

 すいません・・・」



 士郎さんと桃子さんに悲しみの色が濃くなり、脱力してソファーに深く腰掛け、顔は俯いて見えなくなってしまった。

 ご両親を責めるのは本意ではない。

 しかし、これまでなぜか、実の娘に遠慮して、一線を引いて接していたかのような二人には、本音をぶつける必要があると思った。



「俺たちは皆、心配してました。異常にも気付いてました。八神はやて、フェイト・T・ハラオウン、姉ちゃんアリサ・バニングス、

月村すずか、リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、みんなです!  実は今月に予定されてた定期健康診断で、無理やりに

でっち上げてでも、強制的にドクター・ストップをかけようって計画が、武装隊指揮官、なのはさんの上司の了承を得た上で強行され

ようとさえ、していたんです!


 でも俺たちは! 所詮は友達で! 他人に過ぎないから! 立派なご両親がいるし! そのご両親が止めないってことは、大丈夫

なのかと! でも実際には重傷を負ってしまって!

 治りますよ。骨が十本以上折れようと、脊髄が損傷しようと治してみせますし、魔力中枢障害も俺の専門分野、実際にはほとんど、

なんの障害も感じなくなるレベルまで治して見せます。

 でも問題はそんなところにはない。

 異常に戦いを求め続け、そして戦い続ける。なのはさんの心の問題が解決されない限り・・・間違いなく、また同じような負傷を

負うに決まってるんです!」



 士郎さんは目を閉じて・・・額に手を当てて黙り込んでしまった。

 桃子さんは目を見開いたまま、涙をポロポロと流し続けていた。

 だが俺はさらに続ける。



「なのはさんは、重傷を負って、最初に言ったことが、『誰にも知らせないで』だったそうです。リンディさんに常軌を逸した様子で

泣きついて『お願いします! 誰にも知らせないで下さい!』って頼んだそうで・・・言葉を飾っても仕方ないんで、はっきりと言い

ますけど・・・誰よりも身内に、家族に知られたくないと、そう強く望んでいます。ここに俺が来たのも、なのはさんを騙して来たん

です。なのはさんには、家族には適当なことをいって誤魔化すと言って、それでやっと許してもらえました。

 『家族に負担をかけたくない』と・・・思ってる。

 そしてその思いは、自分が生死も危ないほどの重傷を負っても、それより優先されてる・・・

 おかしいですよ。彼女は。これまでずっとそう思ってきた。

 そしてその原因は、家族の中にあるとしか思えない。

 これは医者が解決できる問題じゃ無い。

 ご家族の問題・・・なのでは無いかと・・・」



 二人は答えられない。士郎さんは目元を右手で隠してるが泣いてるようだし、桃子さんは呆然と涙を流し続けている。



「俺の個人通信の番号です。置いていきますので、連絡してください。普通の電話から通じます。なのはさんの治療経緯については、

毎週定期的に連絡します。今は体力回復の段階ですが、もうすぐ具体的な治療に入れると思います。なのはさんの精神状態が・・・

その、あんまり安定していないんで、落ち着いたら連絡するように何とか説得します・・・」


 言いたいことは全部言った。

 場に静寂が満たされる。

 俺は冷めてしまったお茶を手にとって、ゆっくりすすった・・・日本茶だが、さすがに本職だな。美味しい・・・



 桃子さんが涙をぬぐい、俺の方をしっかり見据えた。


「今すぐ、なのはに会えませんか?」

「俺もそれが筋ってもんだと思います。本来なら。でも今のなのはさんは、その・・・家族の話とか、家族に連絡したらとか、そういう

類の話題を出すと、それだけでパニック発作を起こすような状態で・・・なのはさんもご家族に会いたいと当然、思ってるとは思うん

ですが、それよりも会うのが怖い、という方が優先されるようで・・・どうしたものかと俺も悩んでまして・・・」

「マシュー君、君の言ってることも分かる。だが俺たちはなのはの親なんだ! 頼む、会わせてくれ!」


 いきなり士郎さんが頭を下げた。


「やめてください士郎さん。おねがいします・・・

 今はなのはさんの身の回りの世話は、八神に任せてまして、あいつは自分が長年、半病人やってましたから看護には慣れていて、信頼

できます。それで少しずつ落ち着いては来ているんですが、なのはさんに会ったら間違いなく泣いて取り乱しそうなフェイトさんに

ついては、なのはさんに負担を与えるのを恐れて、面会禁止にしてるくらいなんです。

 ご両親と実際に会って、きちんと話をする、それが彼女の治療にプラスになるのか。

 それともそれに向き合うことも出来ないくらい、彼女の心は弱ってしまっているのか。

 俺には判断がつきません・・・

 もちろん、なのはさん本人は、知られたくないし来て欲しくない、としか言いませんし・・・」




 実際どうしたらいいものか分からない。何年にもわたって存在した、ご両親と高町との間の微妙な隙間。

 良いほうに考えれば、この機会に一気に隙間は埋まり、八方丸く収まるかもしれない。

 しかし悪いほうに考えれば、ご両親が来たことで、高町の心が暗い方向に転がり・・・さらに俺も高町の信頼を失い、担当からは

外されて、俺しかできないレベルの高度なリンカーコア治療をすることもできなくなるかもしれない。




「頼むマシュー君、この通りだ!」

「私からもお願いよマシュー君、なのはに会わせて!」


 二人はソファーから下りて土下座に近い状態・・・参った・・・

 俺も椅子から下りて、ご両親の前に座って・・・


「すいません・・・まず、俺は担当医師の一人ではあるけれど、責任者では無いんです。外科の先生で、別に主治医の方がおられまして。

だから、俺には権限が無いんです。今日ここに来たのも、主治医の先生を何とか押し切って無理に来たみたいなものでして・・・


 ですから、俺に約束できることはせいぜい、主治医の先生と話し合って、ご両親との面会を許可してもらうように頼む、って程度です。

 あと、主治医の先生と、なんとかお二人が会えるように、都合をつけてもらうくらいでしょうか・・・

 すいません、そのくらいしかできないんですよ・・・」




 お二人は床に手をついたまま考え込んでいる。

 そのまま時間が流れる・・・十分以上も経ったかと思う。



「分かった。主治医の先生とはいつ会える? いつでも良いし時間の都合は全てそちらに任せる。」

 士郎さんは何とか立ち直ったようだ。桃子さんの肩を抱いている。桃子さんはまだ震えながら力なく下を向いている・・・

「遅ければ一週間、早くても数日、といったところです。お忙しい先生ですので・・・」


 士郎さんは深く深くため息をつき・・・


「そうか・・・仕方ない。これまでのツケが回ってきたってことだな・・・

 マシュー君・・・」

「はい。」



「なのははね、昔からワガママなんて一つも言わない子だったんだよ。昔、俺はボディーガードなんて物騒な仕事をしていてね。

なのはが物心ついたころに、大怪我して、一年入院、リハビリも数年がかりって状態になってしまったことがあったんだ。その間、

家のことは全部、桃子がやってくれてね。喫茶店の経営も軌道に乗り始めたところで忙しくて、恭也も美由希も手伝いで大忙し、

その間、なのはは、ほとんど放置されてた状態になってしまった。悲しかっただろう、寂しかっただろう、全て俺が怪我なんかして

しまったからだ、俺の責任だ。

 そして俺は治療とリハビリ、桃子たち3人は店の経営に専念して、数年がかりでなんとか乗り切った頃には・・・

 なのはは、ワガママなんて一つも言わない、一つも言えないような子になってしまっていたんだ。


 俺は自分を責めたよ。放置され、孤独に苦しみ、周りに迷惑をかけないことだけを気にするような子供に・・・まだ小学生にもなる

前って年だったのに、そういう子供になってしまっていた。

 後悔したし罪悪感もあった。だから俺たちは皆で、それからは一生懸命、なのはに償いをしようと・・・出来る限り、愛情を示して

触れ合ってきたつもりだった。でも、なのははもう、ワガママなんて言わない子になってしまっていて、それは変えられなかった。


 なのはが魔法というものに出会い、それに夢中になって、その世界で生きて行きたいと言ったのは3年生の時だったな。

 それは、なのはが生まれて初めて言ったワガママだったんだ。

 危険もある世界であることは分かってたつもりだった。管理局ってとこは軍隊か警察かって組織だってことも知っていた。

 それでも、なのはの生まれて初めてのワガママを・・・俺たちは否定することなんて出来なかったんだ。


 余りにも、のめり込み過ぎて、危険なくらいの状態だってことも気付いてた。

 でも俺たちは、それでも、なのはに遠慮してしまった・・・今さらな言い訳だな・・・

 せめて少し休めと・・・そう一言、言うだけで良かったのに・・・なぜその程度のことも出来なかったのか・・・」



「そんなことがあったんですか・・・」



 高町の家族に対する過剰な遠慮は、幼少期のトラウマが原因、ってことか。

 であれば・・・すぐにどうこうできるもんではないな。



 高町は家族に強い愛情を抱いているが、その心の原風景は、その家族たちから放置された孤独な状態。そしてそれをひどく恐れる心。

愛しているからこそ、近付けない。恐らく幼少期の、その大変だった時期には、何度も一生懸命に家族に近づこうとしたのに、拒絶を

繰り返されてしまったことにより心に傷を負っている。家族の愛情を求めているのに、自分から踏み込めない高町には、何か他に

こだわれるもの、執着できるものが必要だった。それが偶然、手に入れた魔法の力。

 高町の魔法への執着はハンパではない。依存していると言っても良いレベルだ。それもトラウマがあってこそってことか。


 だが人間てのは、多かれ少なかれ、心の傷はもってるもんである。トラウマが性格を作ってるってくらいのもんだ。


 良いほうに転がれば問題無いのだ。その執着あってこそ、高町の魔法の技量がグングンと伸びて行ったのは事実であるし、地球で

生まれたから地球で過ごさねばならないと決まったもんでもない。この調子で健全に伸びていけば、高町は、生来の魔力の高さもあって、

将来はミッドチルダでも間違いなく高い社会的地位と、高収入を得られる立場になる。そこまで蹉跌も無くスムースに行くって場合も

十分、考えられた。

 ただ今回は、一回、ハデに転んでしまった。それだけのことだ。今なら取り返しが付くはず。



 まあ何にしても俺一人で決められる話では無い。


 なるべく早く、主治医の先生との面会時間が取れるように頑張ると約束して、俺は高町家を後にした。


 士郎さんと桃子さんは、深く深く頭を下げて俺を見送った・・・









(あとがき)

ほぼマシューの話だけで終わってしまいました・・・

言葉が過ぎることがあっても若さゆえ・・・許してやって下さると幸いです

今日は指摘しただけですね・・・簡単に解決出来る問題でもなし・・・ていうか出来るのか・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十三話  なのは治療編3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/26 18:43
マシュー・バニングスの日常    第二十三話









△□年▽月×□日



 二週間ほど過ぎて・・・

「そういうわけで、主治医の先生と、ご両親の面談は出来たんだけど、どーにも実際に本人に会わせるかどうかは難航してんだよ。」

「むつかしいとこやな・・・士郎さんと桃子さんも居ても立ってもいられへんやろし。でも先生の考えもわかるしな。」





 八神と話している場所は、高町の入院してる病棟から少し離れた位置にある喫茶店である。

 俺の職場の病院との中間地点にあり、近頃はよくここで八神と色々と相談している。





 頭を切り替えて話を続ける。


「そろそろ最低限の体力も戻ってきたんで、脊髄再生術を施そうかって話になってんだわ。神経系は難しいからな。後で自力で感覚を

取り戻すリハビリは長くかかるから、なるべく早めにつなげておいたほうがいいってことなんだ。」

「難しい手術なん?」

「大丈夫。主治医の先生の専門は神経外科で、この方面ではトップクラスの人だから。ていうか、そういう人だから高町の主治医に

選ばれたんだろな。どう見ても一番の重傷は脊髄だったから。ちゃんと上の人も考えてここに送ったみたいだ。」

「そっか。それなら安心かな。でもマーくんは何するん?」

「俺はリンカーコア障害治療部だからな。魔力リハビリ担当だな。」

「外科手術にはタッチせえへんの?」

「戦場負傷とかなら経験あるけど、こういう本格的な神経再生術なんてなあ・・・無理だ無理。一応手術室には入るけど、主に

魔力センサーでのバイタルチェックとか担当かな~」

「マーくんて内科やったっけ。」

「そだよ。分類すれば内科。」



 一応、一通り勉強はさせられたから簡単な外科手術とかはできる。しかし俺の目的は元々自分自身の魔力異常の治療で、それは外科的

手法でどうにかなるようなもんではない。本質的には怪我の治療であるのが外科、病気の治療が内科だ(思いっきり大雑把な分類だが)

 で、俺の目的は俺の病気の治療だから内科に偏る。一応、魔力中枢障害への治療という俺の専門分野以外でも、循環器系内科学も十分、

一般病院に勤務できるレベルになっている。


 まあそれはともかく。



「たださ、問題は、そんな大手術をしようってのに、事前にご両親に話を通さないのはどうなんだって話でさあ。言葉の飾り用が無いん

だよな。定期的に、ご両親に治療経過の説明してるけど、脊髄再生手術を行いました、って事後的に報告するわけにもいかんだろ。いくら

なんでも激怒するぞ士郎さん・・・事前に伝えるにしてもそういう大手術をとにかくやりますからって言うだけって無理あるだろ・・・

説明するにしてもやっぱ医者とご両親だけってわけにも・・・ああ~どうしよ・・・」

「そうやなぁ・・・」

 八神も良い知恵が浮かばないようだ。

「結局・・・高町がご両親に会う気になってくれさえすれば、全て解決するわけなんですが・・・そのへんどうでしょう八神さん。」

「なんでいきなり敬語やねん・・・でも、それもまだ難しいな。なのはちゃんて頑固で一直線やろ? それがこれまではええ方に向かって

たから出来たことも多かったんやろて思うんやけど、今は悪いほうに頑固になってもうてる。」

「そっか・・・あああ~マジでどうしよ~・・・」

「でも近頃は結構、笑顔を見ることも多くなったし・・・手術が終わったタイミングでフェイトちゃんにも来てもらおうと思っとんねん。

多分、ていうか間違いなくフェイトちゃんは泣くやろけど・・・そろそろ大丈夫やろ。」

「一歩前進・・・か。でもやっぱ最大の問題はご両親との関係なんだよな・・・」



 精神科の先生とか心理カウンセラーの人とか、もちろんいないわけでは無いのだが、今回の高町のケースでは、彼女はあくまで、ある

程度治るまでは家族と連絡を取りたくない、としか言っていないわけだ。そして既に管理局武装隊に入ってる高町は11歳だろうが保護が

必要な子供とは見なされないのがミッドの文化で・・・つまり一人前の大人が、怪我が治るまで余り知られたくないと言ってるだけで、

治療費なども高町個人のミッドでの貯蓄が手付かずであるし、そもそも任務中の事故だから局から治療費も出るため問題なく、つまり

どこにも問題が無い・・・


 地球の常識ではどうこうと考えて悩んでいるのは俺たちだけなのであり、そこまではミッドの人たちは共感してくれない。身内にも

別に連絡しないわけでなく、ある程度、治ったらすると本人が言ってるし問題無いと言われてしまえばどうにもこうにも・・・



 医者は治せる人しか治せない、助けられる人しか助けられない。

 同様に、やはり、できる範囲とできない範囲ってもんがあるってことか。

 俺は高町のリンカーコアについては最高度の治療を施す自信はある。

 しかし高町の心の問題については・・・どうしたらよいのか全く出口が見えなかった。






「あ、そうや、ユーノ君もお見舞いに来たいって言ってたんやけど。」

「ユーノ? 誰だそれ。」

「ほらフェレットの。」

「ああオコジョか。えっと・・・結構マジメっぽい、理性的な性格のやつだったっけ。」

「うん、どやろ。」

「んー任せる。まあフェイトさんよりはマシだろう。」







「オコジョじゃない!」


「ひどいよ!」









△□年▽月××日



 さらに数日後・・・

 もうすぐ高町の脊髄再生術が行われるってのに事態に進展が見られず、俺は悩み続けていた。

 オフにしている金曜日、バニングスの家の私室で、うんうんとうなっていると・・・


 姉ちゃんが部屋に入ってきた。

 あれ? 午前中なのに学校は? と聞くと、サボったとのお返事。

 なんでだよ、と聞くと・・・


「あんたが悩んでるから、でしょうが!」

 軽くキレられた。

「ま、確かに悩んでるけどさあ・・・」

 姉ちゃんは俺の目をじっと見て・・・

「なのはのことでしょ。」

 ズバリ正解。

 まあ姉ちゃんに隠し事なんて出来るわけもなし。

「確かにね、どうしたもんかと・・・」

 俺はつい深くため息をついてしまった。

「・・・ねえマシュー、話せる範囲でいいから、話してみてくれない?」

 姉ちゃんは心底心配そうである。

 ん~・・・

 確かに泥沼というか土ツボというか、にっちもさっちも行かない状況なんだよね・・・


「高町がさ~・・・親御さんに会いたくないって言ってんのは話したよね。」

「ええ、私もお見舞いに行けないのは納得いかなかったしね。本当に何考えてんだが・・・」



 詳細な負傷の情報などは当然伝えていないが、大雑把なことは知り合い全体に伝わっている。士郎さんと桃子さんにしても娘の友人たち

にはある程度は話さないわけには行かなかったし、そもそも高町の傍で看護している八神とは、姉ちゃんも月村さんも友達でありクラス

メート。八神も心得てるから余り詳しく話さないにしても、高町が重傷、でもちゃんと治る怪我だから大丈夫、ただし今は入院中、多分

半年ほどしたら全快するって程度のことはみんなが知っている。

 お見舞いに行くと当然言い出す姉ちゃんと月村さんに、今は無理だと納得してもらうのも苦労した・・・


 とりあえず、今は高町がなるべく誰にも会いたくないと言ってるんだ、ご両親にさえ会いたくないと言っているので、落ち着いたら

見舞いの手配もするから今は待ってくれ、高町もそのうち自分から連絡するって言ってるし、と言うしかなかったのだが、姉ちゃん

たちは当然納得していない。



「会いたくない会いたくないって言ってても、いつまでも会わないわけにはいかないのは当然だし・・・それにさ・・・」

「なに?」

「まあ詳しいことは言えないけど、出来れば一週間以内とか・・・なるべく早くに会わせたいんだよね・・・」

「・・・なにかあるの?」

「いや、詳しいことは言えないんだけどさ・・・」

「ふーん・・・」


 少し沈黙。姉ちゃんは考えながら言葉を続けた。


「なのはの説得は・・・出来そうもないの?」

「・・・俺は無理だな・・・八神も無理でさ・・・二人で頭を抱えてる・・・」

「・・・どうしてそんなに、なのはは頑なになっちゃってるのかしらね?」

「ん~・・・多分だけど、なんつーか、トラウマみたいなもんに状況が直撃してるみたいというか・・・」

「トラウマ?  ああ、もしかして・・・」


 俺がこの前、士郎さんから聞いた話。

 士郎さんが入院したことで高町が孤独になり、周囲に異様に気を使う子供になってしまったという話は、姉ちゃんは既に知っていた、

さすがは親友である。普段から高町は自分のことは後回しにして周りに気を使ってばかりいるので、それにムカついた姉ちゃんが怒って

ケンカになったことがあるそうで、大喧嘩の末に結局、姉ちゃんの方が高町の家に言い過ぎたと謝りに行ったとき、士郎さんからこの

話を聞かされたそうだ。まあそんなに詳しく聞いたわけではないようだが、高町に孤独だった時代があったこと、それで余りにも、いい子

であろうとする傾向があることは姉ちゃんも良く知っている、と。その余りのいい子ちゃんぶりが腹立ったそうだが・・・



「・・・でもそれだったら、一人になるのは嫌がるはずじゃ無いの? 今は無理に一人になりたがってるみたいにしか見えないけど?」

「あー・・・あんまりはっきりしたことは分からないけどさ・・・」

「なによ。」

「いや、あやふやな推測しか出来ないし、あんま不確かなことも言えないし・・・」



 そう、あくまで推測だ。


 つまり幼少期に家族に放置されたトラウマから、家族を愛しているのに近付けないという葛藤があること、そしてその心の隙間を

埋めるために魔法に過度に依存してること・・・恐らく高町は魔法が原因で大怪我をしたことで、家族に会えば家族は自分から魔法を

取り上げてしまうと恐れているのでは無いか、トラウマを埋めるための魔法への過度の執着は恐らく病的なレベルに達していて、それを

失いたくないということだけに心が歪んでしまっているのではないか・・・



 元々、高町は、魔法に係わり合いになるべき必然性が、俺たちの中では最も薄い。俺は死ぬか生きるかってところで魔法医療の勉強を

せざるを得ないという境遇だし、八神だって守護騎士たちが独断とは言え大騒ぎを巻きおこしてしまったために魔法世界に関わらざるを

得ない立場なのだ。フェイトさんは元々、ミッド世界の住人だし。



 高町の魔法世界への参加は、あくまで自発的なもので、どうしてもそうしなくてはならないという必然性が薄い。そのことは高町自身が

常々感じてることなのだろう。だが置いていかれること、孤独になることを過度に恐れてしまうのが高町なので、本人が本当に魔法に興味

があるというのとは別に、とにかく「置いていかれたくない」という心理が自らを束縛してしまっていると思われる。だから過剰なほどに

魔法世界に関わろうとして無茶な出撃とかもしてしまった。



 それで地球の親友たちや家族たちを高町自身が「置いていって」しまってるわけでそこには矛盾があるのだが、高町は思い込んだら

一直線な性格であって、はっきり言えば視野が狭い、見えなくなってしまってるんだろう・・・



 考えても考えても、答えの出る問題では無いが・・・

 またひたすら俺は考え込んでしまった。


 考え込む俺に再び話しかけてくる姉ちゃん。



「ねえマシュー、はやてはなのはの看護をしてるのよね。」

「ん? そうだけど。」

「どうしてはやては良いわけ?」

「それも前に言ったろ、ミッドの放送局でニュース流れて・・・」

「だから既に知っていた、だからお見舞いを受け入れるしかないって説得したんだっけ。」

「そうだよ。」

「はやてが会った時はどんな感じだったの?」

「んー、高町は最初はやっぱりビクビクしてたんだけどさ、八神は病人の扱い慣れてるし、高町がナーバスになってるのをちゃんと理解

した上で、すごく平静に振舞って、何も言わずに笑いかけてやってさ。ごく自然に高町の懐に入り込んで、なにげなく身の回りの整理とか

身だしなみを整えてやったりとかしてるうちに、高町も緊張を解いたみたいでさ。あれはさすが八神としか言えない。」

「そうなんだ。」

「だから、八神なら良いとしても・・・他の人を会わせるのはやっぱり怖いんだよなあ・・・」

「そう・・・」


 姉ちゃんはしばらく考え込んで・・・


「ねえ、ちょっとはやてと話せないかしら?」

「ん? いつも話してるんでないの?」

「学校で少し話すくらいだし。あんまりまとまった時間話せないのよね、はやても忙しそうで。」

「そだな・・・今の時間だと高町の看護してるかな・・・」


 デバイス通信で病院にかけて、と・・・


「もしもし。あ~どうもバニングスです。すいませんが館内放送で八神はやて、呼び出してもらえませんか。ええ305号室の高町さんの

看護をしてる、はいいつもすいませんお願いします。」

 ディスプレイが切り替わり、八神が姿を見せる。この調子で連絡取ることは多いので、高町も不審には思っていないだろう。

「なに? どーしたんマーくん。」

「今時間大丈夫か?」

「なのはちゃんは昼寝しとるわ。ちょっと前までちゃんと眠れてへんかったからな。近頃は良う寝とる。熟睡できるようになったんは

ええことやで~。」

「そか、それでだな、なんか姉ちゃんが話ししたいって。」

「ん? なんやろな。」



「悪いんだけどさ、マシュー。ちょっとだけ二人だけで話させてくれない?」

「ん? いーけど。」


 姉ちゃんは俺のデバイスごと持って部屋から出て行き・・・自分の部屋に閉じこもってしまったようだ。

 俺はなんだろな~とか思いつつも、今は悩みのタネが他にある。

 5分もすれば俺は再び、高町の治療計画を確認したり、高町の心の問題について考え込んだりし始めて、姉ちゃんと八神の会話に

ついては意識から消えてしまった・・・









 アリサの私室で。




「はやて。単刀直入に言うわ。会わせるべきよ、士郎さんと桃子さんと、なのはを。」

「う~ん、それは私らも分かっとんねんけど、なかなかなあ・・・」

「何が問題なの?」

「色々あるけど・・・やっぱ、なのはちゃんが会うのは嫌やってしか言わへんし・・・」

「なのはは11歳よ? 本人がなんと言おうと保護者の意見が優先されるべきじゃない?」

「日本やったらそうなるわな・・・でもミッドでは違うてな、仕事もしてるなのはちゃんは一人前扱いされるんや・・・この辺は文化の

違いとしか言えへんわなあ・・・」

「ミッドの文化がどうだろうと、なのはは地球の日本人なんだから、こっちの考え方が優先されるべきじゃないの?」

「その辺りはな・・・別に悪意を持ってミッドの文化を押し付けてるわけやなくて・・・こっちではそれが当たり前ってことで、ほとんど

気にしてないっていうか、無頓着言う感じかな・・・マーくんがご両親に説明しに行ったんも、地球ではそれが当たり前というか絶対に

せんとあかんことなんやって強く主張して、それで何とかなったみたいやし・・・」

「理解はあるってこと?」

「せやから、気にしてへんねん。管理世界、管理外世界、ミッドを中心とする世界は無茶苦茶広いから、色んな習慣とか考え方の違いが

あるゆうことは当然分かってて、せやから大らかっちゅうか、無頓着ゆうか、あんまり気にしてへんって感じで・・・ただ本人が何も

言わんかったら、当然のようにミッドの価値観で対応するわけでな・・・」

「なのはの場合は、ミッドの価値観としては別に問題ある主張をしてるわけでも無いってことになるのね。」

「せやな・・・11歳の子供のいうことなんやから、本人が何を言おうと保護者の意見優先言うんは地球の価値観で・・・」

「でも地球の価値観としては絶対なんだ!って主張すれば、受け入れてくれる余地はあるわけね。」

「う~ん。まああんまり対立するようなことやったら無理やろうけど、文化風習の違いなんだって強く言われると、大体、ミッドの人らは

ああそういう世界もあるのかって軽く流すことが多いかな・・・何せ次元世界は広いからな・・・」



 アリサは少し考えて・・・改めて質問した。



「なのはの主治医の先生の意見ってどんなもんなの?」

「本人の意思を尊重するってくらいやなあ。別になのはちゃんが無理なこと言ってるわけでも無いし問題ないって思っとる感じ?」

「ご両親とその先生は既に会ってるのよね?」

「そうみたいやな。通信で何回か、一回は実際に会いに来たみたいやな。マーくんが案内したって・・・」

「当然、ご両親は、なのはに会いたいって主張したと思うんだけど・・・」

「先生としては、患者は心身ともに不安定だから今は不確定要素は排除したい、悪いがそれしか言えないって・・・」

「あ~・・・言ってることは正しいかも知れないけどさあ・・・」

「そうやねんなあ・・・」



 アリサは考え込んだ・・・考え込んで・・・考え込んで・・・



「馬鹿馬鹿しい!」

 いきなり切れた。もともと短気なのだ。

 ただでもなのはは入院してるのに連絡も取れないしマシューは悩みまくってるしで、実は相当にイラついていた。




「そういうふうに考えちゃうから煮詰まって、それで何も出来ずに何週間も経っちゃったんでしょうが! このままだと間違いなく

ズルズルと時間が経っちゃって、気付いたら退院の日が来てるわ! なのは主観では、大怪我したくせに親に連絡もせず半年も勝手に

親元から離れた上に後から事情を説明するってことになっちゃうじゃないの! そんなことが許されると思う子じゃないわ! それで

また自分の殻に閉じこもって、これまで以上に家族との間に隙間が出来ちゃうに決まってるわ! そんなことになったら士郎さんも桃子

さんも恭也さんも美由希さんも、そしてなのは自身も! みんなが不幸になる、いいことなんて一つもない! そのうち連絡する、その

うち話もする、そのうちっていつよ! そのうちにできるならとっくにできてるわ、要はできないのよ! なんで出来ないのかも話は

簡単でしょうが! 単になのはは子供だってこと! なのはは地球の日本人の普通の子供で! だから自分ではきちんと決められない、

それが悪いの!? 地球では当然でしょうが! だから保護者の意見が優先されるべき! 当たり前でしょうが! ミッドの価値観なんて

知ったこっちゃないわ! 場合によるのよ、今は明らかに地球の価値観を押し通すべき時よ! 不確定要素だから排除するだ? ふざけた

ことを言ってんじゃ無いわよ! 桃子さんたちにちゃんと会える以上の薬なんて、なのはにあるわけがないでしょうが! 両親と会うこと

が悪い影響を与える可能性もある? あるわけないでしょうがふざけんな! なのはのことも桃子さんたちのことも良く知らないくせに

ただ安全策だからってのを言い訳にして! あああああ腹立つわ! 絶対に会わせるべきよ今すぐ!!! 時間が経てば経つほどに、

状況は絶対に悪くなる!!! 違うかしら?! はやて!」



 勢いに流されたことは否定しない・・・と後日、八神はやてさん(11)は証言した。

 実際アリサの言ったことは常々思っていたことでもあるし・・・ズルズル時間が過ぎるのを待つわけにも行かないのは確かで・・・



 二人はマシューは抜きで、プランを練り始めた・・・









(あとがき)

これはつなぎ的な話になりますね~問題解決編は次です。

どういうふうに誰が解決するかは丸分かりな気がしますが・・・

無事顔合わせが済めばリハビリ編へと移行できる・・・と思います。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十四話  なのは治療編4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/19 06:25
マシュー・バニングスの日常     第二十四話









△□年▽月×○日



 結論は一言で言える。つまり、さすが姉ちゃん。これに尽きる。

 俺も八神もご両親も全員が考えすぎて煮詰まって動けなくなった状況を一刀両断して解決に導いたのは完全に姉ちゃんのおかげである。


 姉ちゃんは圧倒的な迫力で押し切って、八神に、無理やり高町とご両親を会わせるという計画に同意させた、そうだ。

 俺は担当医だから、この計画からは外す。あくまで八神・姉ちゃんの私的なラインで行われた計画ということにする。

 バニングスの家に設置されてる転送設備は使わずに、新たに月村さんの家に転送設備を置く、その手配は八神が行う。

 俺の診察日の把握は八神が、家とミッドの行き来のペースは姉ちゃんが完璧に把握してたし。二人で協力すれば俺に全く気付かれずに

事を進めるのは容易だったみたいだ。





 全ては俺に隠蔽して行われ・・・俺が気付いたのは・・・

 ある日の午後、何も気付かないまま、体調チェックしに高町の病室に入ったその瞬間になってからだった。



 桃子さんの胸に抱かれて泣きじゃくる高町の姿・・・

 士郎さんもいる。八神もいる。姉ちゃんに月村さん。さらにフェイトさんにユーノまでいた。

 みんなが涙ぐんでいる。桃子さんだけでなく士郎さんもこらえきれずに涙をこぼれさせ、ただ高町の頭を撫でている。





「いつの間に・・・」

 俺が呆然とつぶやくと八神が答えてくれた。

「ゴメンなマーくん。本音言うと、一刻も早くちゃんと会わせるべきやって思っとってん、私も。」

「そうか・・・」




 高町は涙を流して泣いている。ああ、そういえば・・・入院してからこっち、影のある笑顔を何とか浮かべる程度で、ちゃんと

泣いたところも見たことが無かったな・・・そんなことに今さら気付いた。




「お母さん! お母さん!」

 と、他の言葉を忘れたかのようにそれだけを繰り返し、高町は桃子さんの胸で思い切り泣いていた。



 桃子さんと士郎さんの、やっと再会できた愛娘を見詰める目は・・・そっか、今さら思い出した。別に何をしてくれるわけでも無く、

ただ姉ちゃんに見守ってもらうだけで、心臓が楽になったもんだ、あの時の姉ちゃんの目と似てる。そういう目で見てくれる人を、俺は

わざわざ遠ざけていたわけか、俺はどんだけアホなんだ・・・丸きり何も分かっちゃいなかったな・・・




 本音で言えば、どちらも会いたかった、そんなことは分かりきってたんだ。



 だから会わせる、それだけで良かったのか・・・





 姉ちゃんはフンっと鼻を鳴らして俺を見た。

「今さら気付いてんじゃないわよ。大体、なのはが頑固で頭固いなんて分かりきってる話でしょうが。ワガママ言ったことない?

なに言ってんだか、なのははいつでも人に善意を押し付けてまわる傍迷惑なすっごいワガママなやつよ。ワガママが過ぎてただけ

なんだから、なのはの言葉なんて無視してガツンとやってやる、それで良かったの。」

「まーそれで結果的に上手くいったみたいだからいいんだけどさ・・・」

「・・・悪かったわよ・・・」

「いや・・・こっちこそすまね・・・」

 俺の判断とか無視して悪かったという姉ちゃんに、分かってなかったわスマネという俺。

 本当はどっちが正しくてどっちが間違ってたとかも、分からないけどさ・・・



 まあでも・・・

 医者も患者のことを考えていろいろ決めてるわけなんだし、その指示が優先されるべきだってのは確かに原則だが。

 娘が傷ついて泣いているので、駆けつけたいと思うご両親の気持ちまで堰き止めるのは正しいのかとか。人として。

 だけど本人の希望もあったし、悪化する可能性があるならば現状維持のほうが安全だというのが医者側の判断だったのだが。

 そして俺も高町の心の傷を重く見て、悪いほうに考えていて、高町を信じるってことは出来なかった。

 しかし高町の心の強さを信じていた姉ちゃんは、あっさり会わせる方が良いと判断。

 結果論だが、姉ちゃんは知っていたんだな。高町本人の強さと、家族との絆を・・・


 だがまあ俺は、できれば医者側の立場に立った慎重な行動をしたいと思うわけだが・・・

 家族側の立場に立った、そちらからの視点での行動を完全に止めるってのは必ずしも正しくないんだよな、今のように。

 今後に踏まえて活かせる様に努力するくらいしか俺には出来ないな。所詮、俺は未熟なガキか・・・

 しかし俺も医者としての立場から行動してるつもりではあったけど、本当に医者に徹するならば、そもそも勝手に家族に事情を伝えに

行くってこと自体が褒められた行動では無かったわけで・・・つまりどちらにせよ半端だったか・・・



 まあともかく・・・



「悪いほうに転ぶ可能性もあった」という理由で、「現実に出ている良い結果」を後から非難するのは難しい。それも賭けの内容は命に

関わるようなものじゃなくて、元から高町の心理的問題だけだったからな・・・もちろん心理的な問題も命に関わる可能性があるものだが

今回の場合は、果たして本当にその可能性があったか? ミッドの価値観を持つ医師たちはともかく、俺でもやっぱり、ご家族は勿論、

長年の親友である姉ちゃんと比べても、高町の心を理解するって点では丸きり劣っていたってことなんだろうな。高町のことを本当に良く

知っていれば、こうするべきだったというのは明らかで・・・俺は未熟なだけでなく無知でもあったか・・・





 結果オーライで上手くいったので、俺は主治医の先生にちょっと怒られるくらいで済んだ。まあそれも、意図的に俺を計画から外して、

俺の立場も考えてくれた姉ちゃんに、今回の件の主導者ですと自ら主張した八神の二人のおかげで・・・ま、実はあくまでミッドの医師

である先生にとっては、どちらにしても余り重要なことではなかったのかも知れないが・・・管理外世界の風習には一定の理解は示すが

あくまで一線を引いて接するタイプだからな、あの先生・・・元からこの件は高町を11歳の子供と見なす地球の価値観と、既に一人前の

大人であると見なすミッドの価値観の相違が根底にあって、11歳であれば保護者にちゃんと伝えるべきと考えた俺の主張へのスタンスも

「まーそういう考え方が君たちの世界の主流であると言うなら、患者に悪影響が出ない範囲で好きにしたまえ」って感じだったし・・・







 桃子さんと士郎さんも、今は何も言わずに抱きしめて安心させてあげているだけで・・・そしてそれが高町に与えた心理的効果は・・・

分かりきっていたこととはいえ、やはり、圧倒的なものだった。

 到底、医者では及びも付かない。

 実際に、バイタルもメンタルもこれ以降、不安定になることがほとんど無くなり食欲も増進、笑顔も明るくなって・・・

 劇的な治療改善効果があったわ・・・

 愛されてると信じていても、愛してると行動で示されることが、これほど大きいものなのか・・・





 考えてみれば近頃の俺も、前ほどには姉ちゃんとコミュニケーションもスキンシップも取ってないな。特に高町の一件があってからは

心理的にもこれに集中してしまって、地球に居ても上の空だったろうし・・・家族の愛情の重要さが見えなくなってたのは俺もか。

「人の振り見て我が振り直せ」って言葉が頭に浮かんだ。

 全く反省することだらけだわ・・・情けない・・・だが今は、今後のリハビリ計画だけに集中して・・・高町が元気になったあと、

思う存分、後悔も反省もするとして、そこまでは頑張ろう・・・








 脊髄再生手術は、何の問題もなく完璧に終わったことも付け加えとく。








△□年☆月○日



「それじゃあこれからはリハビリが主になるってことなんだね。」

「はいそうです。外科的処置は終わりました。」

「ふむ、それにしても魔法だって言っても、そう何でもできる訳では無いんだね・・・」

「そうですね。骨折の治療なんかにしても、やろうと思えばいきなり強引に繋ぎ治すってことは可能なんですが、それは緊急措置で、

やらないに越したことは無いって臨床結果が出ています。それをしてしまうと以前よりも一回り骨が細くなってしまうんですよ。

それを治すためには、今度は一度切り開いて、わざともう一度折って、自然治癒させるなんて手間が必要になってしまいまして。

代謝の活性化による治癒魔法も最低限に留めて、あくまで自然治癒を後押しする程度しか使わないのが理想的ですし。まあそれでも、

完全骨折でも3週間、亀裂骨折なら1週間と少しで治せるんですが。ただ今回のなのはさんの場合、一番重かったのは腰椎の粉砕骨折

でしたから、一ヶ月以上かかってしまいました。」



 翠屋に顔を出して、士郎さんたちに報告するのは、既に俺の習慣となってしまっている。

 クリームやバターを余り使わない、軽い焼き菓子を俺のために用意してくれるようになった。紅茶も薄めに入れてくれてる。



「なのはの腰は・・・大丈夫なの?」

 桃子さんが心配そうに問いかけてくる。

「繋ぎ直すのでは無くて、砕けてしまった骨を集めて、形だけ整える、これは魔法で行います。あくまで形だけに留めて、後は自然に

骨細胞が再結合するのを待つわけです。そのために魔法的ギプスをつけていました。これからもリハビリが終わるまでコルセットは

外せないでしょうね。機能回復については、過去のデータから言えば、同様の手術を受けた場合の回復率は90%を超えています。」

「90%・・・か・・・」

「すいません。100%とは言えません・・・」

「いや分かってる、そういうものだ。100%なんてことがありえるはずもない。9割成功するってだけで凄いよ。脊髄損傷に、腰椎の

粉砕骨折・・・地球だったら一生車椅子ものだからな・・・」


「これからのリハビリ計画はどうなってるの?」

「脊髄を繋ぎなおしたばかりですので、まずは寝たままで介護されて足を動かしてもらったりマッサージを受けたりが最初ですね。

自律反射が戻ったら、まず自力で車椅子に乗れるように訓練させて・・・手すりに捕まりながら歩く訓練を開始するまでに大体、

二週間程度を見込んでいます。正直に言っておきますが・・・このあたりはかなり過酷なリハビリになると思います。一定の時間は

何度、倒れてもまた起き上がらせて、繰り返すような・・・必死にならなければ、自分の足をもう一度取り戻すってことは出来ない

んですよ・・・その・・・横から見てるとかなりツライような、そういうリハビリになります。」

「確か前に、半年で治る、と言っていたな。ということは、そのリハビリだけで、これから数ヶ月もかかるということか・・・」

「はい。そうなります。やはり脊髄損傷は・・・重いんです。」

「そうか・・・」


 俺は菓子を食べ終え、紅茶を飲み終えた。少し冷めてもとても美味しい。


「なのはさんからの伝言なんですが・・・」

「なにかしら?」

「『自力で歩けるようになったら、まず一番に家に帰る。だからしばらくは来ないで欲しい』だそうでして・・・」

「そうか。」

「その・・・まあ本当に行かないかどうかは・・・お二人に任せますよ。今は面会禁止令も出てないですし。」

「分かった。ありがとう。」







 伝えるべき用件は終わったが・・・そこで俺はしばらく沈黙する。

 何かを言い出そうとして、言い出せない俺の様子を、お二人は見て、また心配そうな顔を・・・違う、こんな顔させてどうする!

 腹を据えて立ち上がり、椅子の横に立ち、お二人に向かって思い切り頭を下げた。


「先日は言い過ぎました! 真に申し訳ありませんでした!」


 実際に病院に来て高町を抱きしめていたお二人を見てしまえば・・・俺のあの日のご両親への説明はどうにもこうにも後悔ばかりが

残るもので・・・謝らずには気がすまなかった。そういう心自体が未熟と言われればそれまでだが、とにかく謝罪だけはしたかった。


 俺の唐突な謝罪に戸惑った様子の士郎さんは、少し考えて・・・

「先日・・・って、ああ、君が病状を説明に来てくれた日のことか?」

 士郎さんはなんでもないような口調で尋ねる。

「そうです! その・・・勝手なことばかり言いまして、ご両親の気持ちもちゃんと考えず責めるようなことを・・・」

 俺も高町を心配して、心配する余り気持ちが先走ってたんだろうな。実際には俺なんかと比較にならない程に深く高町を心配してたのは

ご両親なんだって当たり前のことを、実際に病室で会った高町と士郎さん、桃子さんを見るまで分かっておらず・・・




「はい、ストップ。」


 桃子さんが、俺の口の前に人差し指を立てて、にっこり笑って俺を黙らせた。


「何を謝るのかも分からないわよ?  ねえあなた。」

「全くだな。」


 士郎さんも余裕の微笑だ。本当に意外なことを聞いたって顔で・・・


「そもそも君はその義務も無いのに、わざわざ俺たちに伝えに来てくれたわけだしね。なのはのこと、そして俺たち家族のことを本当に

考えていてくれてたのは分かってる。感謝するならこちらだよ。あの時、伝えに来てくれて、本当にありがとう、マシュー君。」

「そうね。本当に助かったわ。あの時はありがとう、マシュー君。」

「いえ・・・! でも・・・!」

「いいからいいから。何も気にしてないよ。君も気にしないでくれ。でもそうだな・・・どうしても気になるなら・・・」

「はい!」

「なのはのリハビリを頑張って面倒見てくれれば、それでいいさ。」

「それは仕事ですし勿論ですが・・・」

「それだけで良いのさ。俺たちはそれ以上のことも、それ以外のことも、何も望んでいないんだから。」

「ええそうよ、マシュー君。なのはのこと、お願いね。」

「・・・はい。」



 涙が出そうになったが何とかこらえ・・・俺は深く深く一礼して、翠屋を後にした。

 しばらく歩いて人通りが少なくなったところで、俺は思い切り自分の頭を殴った。




 あ゛~~~~


 ダメダメだったな、俺


 結局、士郎さんと桃子さんに甘えさせてもらっただけだ


 あ゛~~~~情けない


 でもこれを教訓に出来なかったら本当にダメだ


 頑張るしか、無いか・・・






 さらに自分の頬を平手で叩いて気合を入れてから、俺は家に戻り、高町のリハビリ計画書をもう一度見直し始めた・・・










(あとがき)

なんとか一段落。次からリハビリっすね。

どーもやはり原作の情報の極度に少ない人跡未踏の荒野を進むのはアレだ・・・

それでも、なのは完治・退院・小学校卒業までは何とか描き切るのが当面の目標でございます。




[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十五話  リハビリ編
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/26 19:47
マシュー・バニングスの日常     第二十五話








△□年☆月△日




 大きな手術も終わったし、経過も順調だし、ご両親や友達とも再会できたし、高町についての大きな懸念はかなり片付いた。

 高町からは先日までの思いつめた雰囲気も失われ、対応するのもグっと楽になり、こっちも一安心。まあだからって、気を抜くつもり

も無いけれど、高町自身が自分の体を動かすリハビリに入るまでは大してやることがない。整体療法の専門家の方たちがマッサージとか

して少しずつ、高町の脚の最低限の反射と感覚を取り戻そうと頑張ってらっしゃるので、その結果を待つしかない。


 それなりにヒマも出来たある日。


 オコジョことユーノ・スクライアから呼び出された。


 こいつは高町が魔法関係の戦いに巻き込まれたきっかけを作ったやつだそうだが、正直あまり詳しく知らない。

 俺たちと同じ年で、今は図書館みたいなとこで司書みたいなことをしてるそうだ。調べ物が得意らしい。

 理性的で繊細な顔立ちをしている。高町の方が遥かにワイルドだなと正直思う。いや顔立ちは高町は可愛い系であるが、なんつーか

雰囲気がね、あいつは虎とかライオンみたく肉食獣の類だとマジ思う、幼いうちは可愛いというのも似てるだろ?

 それに比べると、こいつはいかにも学者って感じだな・・・インパラかガゼルか、まあ草食動物系だな・・・



 俺を喫茶店に呼び出したユーノは迷いの無い表情で、こう断言した。

「僕はなのはが好きなんだ。」

 ほほう。それを俺に言ってどうしようと言うのやら。

「今は、君が一番、なのはに近い。だから君に聞きたい。君はどう思っているのか。」


 好きだなんだと・・・まだ小学生なんだけどなあ。

 とは言っても、ミッドチルダを中心とする世界とは、恐ろしく多様な風俗・習慣を許容する世界でもある。

 結婚は登録制であり、生物学的に子供が作れる男女なら、双方の同意の下に、結婚できるって制度になっている。

 一夫多妻とか一妻多夫とか、そういう習慣を許す世界も、管理世界の中には存在し、そこに移住してしまうことも可能で。

 まあつまるところは事実上、なんでもありである。

 ただミッドの中心部については、婚姻可能な年齢が生物学的に決定される以外は普通に一夫一婦のようだ。結婚の平均年齢も、実際には

20前後って所で、まあ地球よりは早めかもだが、普通な感じがする。やっぱ実際にはそういう自然な感じに落ち着くんだな。


 俺は高町の担当の内科医の一人であり、さらに魔力リハビリ担当でもあり、ついでに今回はリハビリ計画全体を診る立場にも加えて

もらっている。だからして、高町のことは本当に隅から隅まで知っている。

 具体的に言うと、高町の生理の周期まで知っている。小6だし別に早くも無い。

 ユーノは真剣に高町が好きだそうだ。こいつの肉体的成長具合は知らんが、近い将来にマジで結婚できるって可能性もある。まあ双方の

同意があって場所がミッドならって条件でだけど。



 だがまあまずはユーノの質問に答えるとしよう。



「患者は患者だ。女の子としてとか見れなくなるんだよな正直言って。心配してるなら無用の心配だ。」

「本当に?」

「本当だよ。たださぁ・・・俺思うんだけど。」

「なにかな?」

「俺に言う前に高町に言うべきだろ。」

「・・・なのはは僕のことを・・・」

「まー友達としか思ってない雰囲気?」

「だからいきなり男女としてどうとか・・・」

「俺も同様にただの医者だっての。」



 元々は生きることを諦めていた虚無感みたいのは今でも俺の心の奥底に残っおり、たまにそれが表に出ることがあるようだ。そういう時

俺は年齢不相応の異常に冷静冷徹な表情になるらしい。俺は基本的に年相応の感情を持ってはいるとは思うが・・・それでもどこかに昔、

命を諦めていた時代の・・・死の冷たさを受け入れてしまった何かが残存しているような気がする。

 さらに今でも俺は見た目だけの「偽者の健康」しか持っていない。昔から俺は周囲の「健康な人たちの世界」ってのは俺にはどうしても

届かない別の世界みたいに感じていたが、今でも所詮はリミッター頼りで生きてるわけで、本当に健康な人たちの世界ってのは俺とは全く

とは言わないが、やはり余り関係が無い感じがどうしてもするというか・・・

 俺の興味の対象は正直言って圧倒的に、俺自身の肉体を治すための医学・魔法に偏っており・・・後は姉ちゃんを筆頭とする少数の

大切な人くらいしか俺の心の中にはいない。高町も大切な友人の一人だが、完全にその範疇に収まってるし。

 とにかく俺には惚れた腫れたの方向に感情を向ける余裕が無い状態だったといえるかも知れない。ピンと来ない。

 だからいきなり色恋話を持ちかけられた所で・・・せいぜい感じたのは軽い好奇心程度? 無責任な野次馬として対岸の火事を見守る

心境といいますか・・・


 そんな俺の心境を知ってか知らずか・・・ユーノの話は続く・・・


「どうしたらいいのか・・・ちゃんと告白するべきなのか・・・」

「さーそれは俺もよく分からんわ。頑張れってくらいしかいえん。」

「応援してくれるのか?」


 正直言うとどうでも良いのだが・・・まあ少し考えてみれば・・・


「・・・あいつは魔法依存症で、これからも戦いを求め続けて、多分また怪我するし、仕事は絶対に続けるし、平和で安らかな家庭とか

築けないタイプかも知れないと思うし、彼氏は絶対に苦労するだろうとは思うけど、それを全部承知した上で支える覚悟ができてる人でも

いてくれれば、それは良いことなんじゃないかと思う。」

「・・・そんなに大変?」

「間違いなく。でも頑張って欲しいとは思う。具体的な策もあるけど聞くか?」

「是非!」

「今の高町はまだ魔法もまともに使えないし下半身も動かない。強引にガバー!っと・・・」

「ふ、ふ、ふざけないでくれ!!!  そんなことできるわけがないだろう!!!」

「まあそれは冗談として。」

「当然だ!!!」

「でもさ、お前は、言葉で伝えてあいつに同意してもらってからとかの普通なこと考えてるんだろうが、お前も知ってるだろ、あいつは

『お話しよう』と言って砲撃をぶっ放すやつだぞ。『お話』=『砲撃』という肉体言語しか理解できないやつだ。どこかでお前が強引に

行かないと、絶対にお前の気持ちはあいつに伝わらない、たとえはっきりと好きだと言ってさえ伝わらないんじゃね?」


 まあ適当な推測だけど、間違ってはいないと思う。話し合おうとか言うわりに実際にはいざとなると話が通じなくなるやつなのだ。


「でも・・・僕は・・・」

「よし分かった。いきなりガバーっといけってのはハードル高かったな。まずは、そうだな、抱きしめるくらいから挑戦してみっか。」

「冗談じゃなかったのかよ・・・それはともかく、どうするんだい。」

「あいつはこれから歩くためのリハビリをするんだ。何度も転ぶだろうし、体勢がふらつくことも多々あるだろう。お前がその時、介護

すれば、自然に抱きしめる機会も増える。体を治すため必死に頑張る少女、それを助ける少年・・・王道だな、絶対うまくいく。」

「いい! いいねそれ! 頼むよ、その日は仕事サボってでも行く!」

「よし、それじゃあまた連絡するわ。」


 まあ高町のリハビリがある程度、進んだ段階になってからだな・・・


 気を使わずに済むユーノとの話は、それなりに気晴らしにもなり俺もそこそこ楽しかった。

 同年代の男友達との気楽なバカ話ってのも良いね。いつもは周りは年上ばっかりでさ。







△□年※月○日




 理学療法士の先生(中年の人の良いおばさんである)とも色々と相談したのだが・・・


 高町のリハビリは、まず脊髄、次にリンカーコアだ。感覚を取り戻し立ち上がるまでが第一段階、魔法を主に使った魔力リハビリが

第二段階。完全に立ち上がれるようになれば、そこからは魔力リハビリだけだから俺の専門となるが、最初の段階だと普通のリハビリが

主になる。しかし俺も都合の付く限りはリハビリを見学させてもらうことにしていた。勉強にもなるし、やっぱ心配だし。

 実際に高町が体を動かすリハビリの初日は、先生と俺が二人とも立ち会った。



 高町はベッドの上に起き上がれるようになったし、両腕にも力が戻ってきたが、足の感覚はまだ戻っておらず、足を引きずるようにして

ベッドの上を這うのが限界って状態である。

 理学療法士の先生は、まずは車椅子をベッドの横に置き、介添えしながら高町を車椅子に座らせた。次に再びベッドに介添えしながら

戻す。一連の作業を丁寧に、段階を踏みながら行った。

 高町の第一の目標は、今、介添えされながら行った、ベッドから車椅子、車椅子からベッドという移動を確実に自力で行えるように

なることだ。

 そう言われて、独りでやってみますと無謀な宣言をする高町。無理せずにという言葉もあんま聞こえてないな。



「うう・・・ああっ!」

 バランスが取れずにベッドの横に転げ落ちてしまう高町。泣きそうである。

 しかし床もベッドも車椅子も、転んでぶつかってもケガしない高度な衝撃吸収素材で出来てる。どれだけ転んでも大丈夫だ。

「はいはい、無理せずにね。」

 先生は手を貸そうとするのだが、高町は諦めない。今度は床から自力で車椅子に這い上がろうとして・・・


 できない。車椅子に登る程度のこともできない。ベッドの上にも戻れないだろう。

 下半身に力が入らない上に、高町は別に体を鍛えていたわけでも無い、おまけに一ヶ月以上寝たきりで筋力は衰えまくっている、

自分の体重を両腕だけで支えるなんてのは初めから無理だ。

「そんなに簡単には出来ないわよ? とにかく焦らないで。やはり腕力の強化もメニューに入れたほうが良いかしらね・・・」

「ううう・・・お願いします、出来るまでやらせてください!」


 意地をはる高町を適当に宥めながら、先生はリハビリを続けるのだが・・・


 午前中は結局、自力で車椅子に登ることさえも出来なかった。

 ダダをこねる高町に強制的に手を貸してベッドに寝かせ食事を取らせる。食後の休憩と昼寝を挟んで、午後のリハビリとなる。

 食後に少し落ち着いたところで、軽く高町の体を走査し、強くぶつけた場所などを軽く治療。催眠誘導で眠らせる。

 午後3時から二時間、同じリハビリ。まだ出来ない。



 夕飯前に八神が来る。必死に車椅子に上ろうとしてる高町を見て、

「手を貸したら・・・やっぱあかんのやろな。また後で来るわ。」

 と言って一時退室した。


 ベッドから車椅子、車椅子からベッドと自力で動けるようになるまでには一週間かかった・・・

 それでも予定より早かったのだが。

 どうも八神が車椅子を使うときの体のコツとか教えたらしい。所詮は慣れだし、力というよりは技だとか。






 リハビリを終えた夕食時、そろそろ帰るという俺に、高町が真剣な口調で質問してきた。


「マシュー君、魔力のリハビリはいつごろから始められるの?」

「そうだな。松葉杖を使えば歩けるってくらいになったら、本格的な魔法リハビリ、魔力中枢治療を始めよう。」

「わかった。頑張るね。」

「ああ頑張れ。」


 やはり魔法のことが本当は一番気になってるんだろな・・・







△□年※月△日



 筋トレや車椅子での移動などを経て、数週間後・・・


 車椅子から届く程度の高さにある、手すりに捕まっての捕まり立ちに挑戦中。

 全く足に力が入っていない。一回、勢いを付けて無理やり立ち上がろうとして、手すりにしがみついて5秒くらいはもったが・・・

 すぐに限界が来て倒れ伏す。


 と、そこにユーノがやって来た。もちろん偶然では無い。

 高町は床から体を引きずり起こして、また車椅子に座り、さらにまた手すりに捕まって立とうと試み・・・

 また失敗する。

 それが繰り返される。二時間経って、リハビリ終了。今日も立てなかった。


 リハビリ中は、なんかビビって近づいて来れなかったらしいユーノがやっと近づいてきて高町に声をかける。

 しかしリハビリで疲れきっている高町からは、はかばかしい返事も返ってこない。

 さらに「出来ればリハビリ中は来ないで。」と、素気無く切り捨てられてしまった。

 こういうところが高町は、まるで野生の獣のようと言うか・・・弱ってるところを見られるのを本能的に嫌うのだ。

 でもそこは乗り越えろよユーノ。強引に行かないと無理だってば。




 夕食後、一緒に帰ってユーノと話してみたのだが・・・

 ユーノは、高町の必死な表情、思ってたよりもずっと苦しそうなリハビリを見て、下心なんて持ってたのが恥ずかしくなったとか。

 そして自分には何も出来ない無力感・・・かける言葉が見つからなかったそうだ。


 まあそういうことなら気持ちは分かるけどさ・・・

 でもさあユーノ、多分だけど、こんなに弱ってる高町って下手したらこのあと一生、拝めないかも知れないぞ? 言い方は悪いけど、

こういう機会はきっと二度と無いぞ? 頑張って強がってはいるけれど内心は不安なのは間違いない、その不安を支えてやるのは別に

悪いことじゃないべ? お前が下心だけとは思わんよ、本当に高町のことを想ってるわけなんだろ? 


 リハビリに手を貸すのは、本人のためにならないからダメだけど、終わった後に優しい言葉でもかけて手を握るくらいのことは出来るん

じゃあないか? ていうかそのくらいしないと、何も進展しないんでね? 一回来るのを断られたくらいで諦めずに、何度も来て、高町を

見守って、夕食時まで付き合って話をしたり、とにかく共有する時間を長くするよう工夫するとかさあ・・・

 いくら言ってもユーノは暗い顔で頭を横にふるだけだった。

 まあ俺も男女の機微とか全く分からんから想像で言ってるだけだけどさ~

 それにしてもユーノは学者ぽい外見通り、ちょっと押しが弱すぎるような気がする・・・

 間違いなくいいやつなんだけどなあ。こいつが高町を一番近くで心身共に支えるって言うのなら・・・それって良いことじゃね?











(あとがき)

 リハビリ編ということで気楽に行ければなあと思っております。

 無人の荒野を進みつつ、なんとか半渡は叶ったようです。

 あー・・・なのはを完治させちゃうなあそれでいいのかなどと・・・悩んでます。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十六話  リハビリ編2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/27 19:13
マシュー・バニングスの日常      第二十六話








△□年☆月□日




 八神とフェイトさんがケンカした。

 穏やかなウサギさんチックで、ケンカを仕掛けるなんて想像できないフェイトさんに・・・ニコニコニヤニヤ笑顔を作るのが得意で

何を言われても平気で流せるタヌキ八神・・・この二人がケンカって・・・想像できん・・・


 まずは八神側の事情を本人から聞くと・・・




「フェイトちゃんがお見舞いに来てな。なのはちゃんの顔色が良くなったとか元気そうやとか満面の笑顔で気楽そうに言ってな。大体、

そのへんからもうムカついとったんや。そんでベッドの上に上半身乗せて、なのはちゃんの膝の上に頭乗せてな、なのはちゃんに頭、

撫でてもらって嬉しそうな顔して・・・なのはちゃんが一番大変なんやで? それを分かっとるのか分かっとらへんのか・・・

 あからさまになのはちゃんに甘えて依存して頼って、何をやっとるんや逆やろうって話やろ?

 フェイトちゃんがお母さんの問題とか色々あって大変やったんゆうんは知っとるわ。そやから人に依存しがちで、特になのはちゃんに

依存する傾向があるっちゅうこともな。そやかて、していい時と、あかん時いうんがあるやろ!

 まあそれだけやったらガマンできたかも知れへんわ。何せ、初めてや無かったし・・・いつもなんや! それとなく注意してみても

全然! ぜんっぜん理解せぇへんし!


 そやけど・・・

 それからフェイトちゃん、マーくんの悪口を言い始めたんや!

 なかなか会わせてくれへんかったとか・・・士郎さんと桃子さんについても、結局は上手くいったんやからそれやったら最初から

会わせとけば良かった、マーくんは分かっとらんとか・・・リハビリかて相当きついそうやけど、マーくんはほんまにちゃんとリハビリ

してくれとんのか分かったもんやないとか・・・


 キレたわ。でもその場では何も言わんかったけどな・・・


 お見舞い終わって帰るフェイトちゃんに声かけて、中庭に連れてきて言うたった。


 マーくんがどんだけ頑張ってたか・・・どんだけ悩んでたか知らんのか!

 自分も健康ってわけやないのに、寝食を削ってなのはちゃんのために治療計画を立てて、主治医の先生を押し切って士郎さんと桃子

さんにもちゃんと話を伝えにいって! 学校もあるし他に仕事もあるのに、リハビリに疲れたなのはちゃんの体を毎日慎重にチェック

して丁寧に治癒するの忘れたこと無いし! その間フェイトちゃんは何やっとったんや! グチグチと執務官試験に落ちた、マーくんが

会わせてくれへんて文句言うだけで! 実際になのはちゃんに会えば、全然気ぃ使わんとベタベタ甘えるだけで何しに来とるんや! それ

でお見舞いしてるつもりなんか! フェイトちゃんは自分の感情だけでしか物を考えとらん! ほんまになのはちゃんのことを思って

頑張ってたマーくんに文句言うなんて、ふざけんのもええ加減にせえ!

 って、思い切り言うたったわ。

 すっきりしたわ~。

 うん、全然後悔してへん。

 フェイトちゃんが謝らへんのやったら私から許す気は無い。

 あの子は、子供過ぎるわ。年から言ったら地球では相応なんかも知れんけど、ここはミッドやからな。同情したらん。

 多分、何が悪かったんかも分かっとらへんわ。マーくん悪いけどリンディさんにでも連絡して、フェイトちゃんと話しするように言って

くれへんかな。そうでもせんと解決せんわ。

 つくづくマーくんの判断の方が正しかったわ・・・フェイトちゃんは会わせるべきや無かったわな。

 本音言うと、今でも会わせへんほうが良かったわ。フェイトちゃんは、なのはちゃんに依存して甘えるしかできへんねんから、それ

やったらなのはちゃんが健康に戻ってから会わせて、好きなだけ甘えさせてやったらよかったんや。それでまたなのはちゃんを潰して、

死ぬほど後悔したらええねん!」



 うう~ん。俺の味方になって怒ってくれるのは嬉しいのだが・・・まあ実際は俺もそれほどご立派では無かったわけで・・・いや、

高町を治すことに集中してたのは本当だが・・・それで周囲への気遣いを忘れてた点も今になって思い返せば多々・・・


 とかブツブツ言ってると・・・


「せやから、それのどこがあかんねん! マーくんはほんまに頑張ってなのはちゃんを治そうとしてたし、今もしてる! 完璧や無かった

なんて当たり前やろうが! 完璧に出来る人なんておらへんのや! せやのにその頑張ってるのを一方的に責めてええんか! そもそも

フェイトちゃんがあんま頼りないからあかんのやろが!」


 うう~ん、らしくないな・・・

 あ~そうか、そもそも八神があんまり看護上手いんで、色々押し付けてやらせてしまって八神自身も大変だったのかも知れない。

 しかもこいつも自分が大変だなんて外には全く表さないやつだし・・・

 さて・・・どうしよう。



 フェイトさんの方は・・・連絡取れなかった。俺からと分かると繋がらなかった。



 ん~どうなんだろうね。これでフェイトさんが来なくなれば、また高町は余計に気を使うだろうし、だから結局フェイトさんには、また

普通に見舞いしてもらうしか無いんだが、だからって同じ事繰り返されたらまた八神が怒りそうだし・・・

 話し合いが必要だな・・・





 とりあえずリンディさんに電話して相談に乗ってもらう。

「つまりですね・・・フェイトさんは高町のことが大好きだし、高町だってフェイトさんが大好きだ、それは間違いないですよ。でも、

心身衰弱状態だった高町に、気を使わせたりは絶対にせずに、落ち着いて、安定した看護をフェイトさんが出来たかって言えば、その、

正直言ってフェイトさんには難しかっただろうと思うんですよね。」

「・・・そうね、フェイトならすぐに泣いちゃうわね・・・」

「ですから高町がある程度容態安定するまでは、フェイトさんには見舞いを遠慮してもらったわけでして。・・・その際の俺の言い方

も冷たかったかもとは思いますが、その判断自体は間違ってたとは思わないんすよ。」

「確かにね。そこはしょうがなかったと私も思うわ。フェイトにまで気を使える状態じゃあ無かったわけだし・・・」

「それで今回のケンカなんですが、つまりはフェイトさんが高町に・・・こうベタベタしてですね、甘えるみたいな感じで、どちらかと

言えば高町の方がフェイトさんに気を使って甘えさせてやるみたいな・・・そういう状態だったそうなんすよ。それで、そういう状態に

なるのを苦々しく思っていた八神が、ついに切れてしまったわけでして・・・」

「後でフェイトからも事情を聞くけど・・・多分言う通りだったんでしょうね。情景が目に浮かぶわ。あの子はなのはちゃん相手だと、

そういう感じになりがちだしね・・・でもフェイトは、はやてちゃんみたいな、きちんとした看護なんて心得も経験も無くて出来る

わけないし・・・」

「ええそれは八神も俺も分かってますよ。別にそんなに高度な要求をするつもりも無いですし・・・」

「・・・どうやらそれだけじゃないわね。他にまだフェイトが言っちゃったこととかあるんじゃない?」


 鋭い・・・ていうかリンディさんに隠し事とか・・・もとから不可能か。

 あんま言いたくないんだが・・・


「え~と・・・つまりフェイトさんに最初、面会も禁止したのは間違いなく俺でして、その際の言い方もどうも冷たかったようでして、

だからフェイトさんが俺に不快な感情を持ってしまったとしても、しょうがない部分もありまして・・・」

「なるほど、分かった。フェイトがマシュー君の悪口言っちゃったんだ。」

「あ~ま~端的に言うと。」

「患者の前で医者の悪口を言うのはちょっと不心得過ぎるわね・・・それにずっと一緒になのはちゃんの看護をしてきたはやてちゃんと

してはマシュー君の悪口なんて許せなかった、か・・・うん、事情は分かったわ。」

「八神も仕事あるのに、看護も手を抜かず、疲れていたのかも知れませんし・・・」


 リンディさんはしばらく考えて・・・


「とりあえずフェイトと話するわ。それでまた後で連絡するから。」

「分かりました、お願いします。」

「でもねマシュー君?」

 リンディさんはクスリと笑った。

「はやてちゃんのフォローはちゃんとするのよ? あの子にあんまり借り作ると将来怖いかも。」

「は、はあ・・・」

「それじゃマシュー君も体に気をつけて。またね。」





 リンディさんはフェイトさんとじっくり話し合い・・・今の高町に甘えるような態度を取るのは高町の負担となりかねない、八神は

高町にほんの少しの負担も与えないように細心の注意を払って看護してるのに、その目の前で高町に負担をかけるようなマネをしては

八神が怒るのも無理はない、とコンコンと言い聞かせ、納得させてくれたようだ。俺のことも色々言ってくれたようだが、そこんとこは

良くしらね。



 俺の方は、八神も仕事に看護にときついんじゃないか、大丈夫かと気を使ってみたのだが・・・何を言うとるねん、今でも見た目だけで

ホンマは病気治っとらんマーくんに気を使われるほど落ちてへんわ、なのはちゃんの治療だけで手一杯なクセに私にまで気を廻してる

余裕なんて無いやろがと反撃を食らい・・・いかん八神と議論しても絶対勝てないのかも・・・




 とりあえず三日後には、リンディさんの仲介で、八神とフェイトさんは顔を合わせ、フェイトさんが分かってなかったと素直に謝ると

八神も言葉が過ぎたと謝り、仲直りは出来たようだ。なんか俺にも謝ってくれたので、いやこちらこそ前は言い方が冷たかったよゴメンと

言うことも出来て、なんとかわだかまりは溶けたかな・・・と思った。




 んで、フェイトさんはまたすぐにお見舞いにやってきたわけだが。

 今度は、前みたいな失敗はしなかったが・・・高町のために何かしようと病室の中で色々とバタバタして、意気込みは分かるんだけど

さ・・・なんか空回りしてるというか・・・あっちに行ってものを引っくり返し・・・こっちに来てものを壊し・・・どうしても高町の方が、フェイトさんに気を使う

ような感じにしかならないというか・・・

 それはそれで、二人は楽しそうではあるので、必ずしも悪くは無いんだろうけどさ・・・どうなんだろう・・・

 フェイトさんが来ると高町の表情が明るくなる、これは間違いないんだわ。

 でもフェイトさんが来ると、高町は気を使うし普段よりも疲れるんだな、これも間違い無くて・・・

 全くもってこういうことばっかだな・・・どっちも悪くないしどっちも正しいし、だったらどうするべきなのやら・・・

 まあ心の問題にまで踏み込んで解決しようとか過剰に思うとロクなことにならんと学習したので、この件についてはなるようにしか

ならんと思うことにした。あ~でも結局、フェイトさんの空回りのフォローまで八神がさりげなくやってるし・・・いかん、また八神に

ばっかり負担がかかってる・・・八神には借りを作るばかりだな、なんとかせねば・・・


 フェイトさんていい人なんだけど・・・困った人だなあ・・・ああ、そういえば高町もいいやつだが・・・困ったやつだし・・・

 似たもの同士の親友なのかね・・・






 でもまあ、高町自身も今では心身衰弱とは程遠い状態だし、問題無い範囲かな~と思っていたわけだが。



 だがこの後も、高町の厳しいリハビリを見るに見かねたフェイトさんが飛び出して手を貸そうとしたり・・・

 高町も相手がフェイトさんだと困って、本当は自力で頑張りたいのに仕方なく手を借りたりだなあ・・・

 療法士の先生とか俺とかがフェイトさんに注意しても、涙目で高町しか見てなくて話が通じなかったり・・・

 それを見ていた八神が、後でフェイトさんを連行して小一時間説教したり・・・

 なのに懲りないフェイトさんはまた来るたびに同じことをしようとしたり・・・

 たまりかねてリンディさんに俺から連絡することになったり・・・

 そんでリンディさんが今度は厳しくフェイトさんに説教したり・・・

 それでまた俺が軽く恨まれてしまったり・・・

 そのことに八神がまた怒ったり・・・




 早く高町を治さんことには身がもたん・・・





「なあ八神・・・フェイトさんて、100%いい人だよなあ・・・」

「間違い無いで。120%ええ子や。」

「フェイトさんて頭も良いよな、聡明だし知識もあるし・・・」

「そうやな。成績も良いし理解力も高い。」

「なのにどうして・・・ああなんだろう・・・」

「ほんまにな・・・」





 親の愛情に恵まれなかったという点であれば八神はフェイトさんに劣らない。フェイトさんは何か特殊な生まれらしいが、だからって

別に健康に不安があるわけでも無く、俺みたく半死人みたいな状態だったこともない。つまりは彼女の個性、優しすぎるほどに心優しい

というのが彼女の性格であるというわけで、それはどう考えても悪いことでは無いのだが・・・




 結局フェイトさんにはリハビリ見学禁止令が下りました。リハビリ時間内に来ると受付に問答無用で面会を断られる状態となりました。

普通のお見舞いまで、今度は療法士の先生に禁止されそうになったので・・・俺もどうかと迷ったけど結局フェイトさんを弁護して・・・

限られた時間内だけの見舞いは許されるという状態になりました。でもそれは夕食後の30分くらいで、フェイトさんだって仕事がある

のでそんなに都合よく時間を合わせられず、あんまり来れなくなりました。んでまた何故か俺が恨まれました。




 いや、いいよ。いいけどさ・・・




 とりあえずかなり長ーい間、なんか俺とフェイトさんは微妙にギクシャクしてしまい・・・ちゃんと解決したのは数年後・・・











(あとがき)

前回はユーノ編。今回はフェイト編ですね。

駄目だフェイトにお見舞いさすとこういう展開にしかならない・・・フェイト好きなんだけどなあ・・・

いい人なんだけど困った人・・・フェイトには本当に参りますた・・・




[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十七話  リハビリ編3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/28 22:06
マシュー・バニングスの日常      第二十七話






△□年#月○日



 脊髄再生術を終えてから、二ヶ月と少しが過ぎた。

 高町は驚異の執念でリハビリに取り組み、すり傷を毎日作りながら根性で頑張り、ついに松葉杖を使って立てるようになった。

 ゆっくりとなら歩ける。




 歩けるようになったら、真っ先に家に帰ると言っていただろう、まずは一時帰宅しろと諭す俺。

 それに対して高町は一刻も早い本格的なリンカーコア治療、魔法リハビリの開始を望んだ。





 たかが数日くらいでは何の差も無いんだから、何日か実家でゆっくりしてこいってば・・・

 私は早くまた魔法を使いたいの! 空が飛びたいの!

 その調子で無茶して体をぶっ壊したわけだろ、焦るなってば・・・

 焦ってるかも知れないけど、でも私は魔法が!

 だからほんの数日の差だって言ってるだろう・・・

 だったら逆に今すぐやってもいいじゃない!

 数日だから・・・

 だったらすぐに!・・・




 八神が割って入ってくれるまで30分は同じ内容の押し問答をしていたかも知れない・・・

 その後、わずか15分の八神の説得によって高町は結局丸め込まれて一時帰宅を承諾。いや凄いわ八神マジで。





 高町は実家に帰ったら帰ったで、抱きしめられて泣きじゃくったり、大はしゃぎで笑顔全開だったり、すごく居心地よさそうにしか

見えないわけだ。みんな高町のことを心底愛していて、とくに父・兄の溺愛っぷりは危険性を感じるほどだ・・・



 もう大丈夫かな・・・高町と家族の間にあった微妙な隙間は・・・もう無いか、あっても前より小さくなったのは間違い無い・・・

 と思うが、うん、正直言おう。

 無理だって。患者の全部を全部、治そうと思うのは。ギルさんも言ってたが医者は神様じゃあないんだ。俺に出来ることはせいぜい、

リハビリに付き合ったり、リンカーコアについてはきちんと治す、それだけしか出来ないのだ。そしてそれ以上のことをむやみにしようと

して、心の問題やらご家族の問題やらに踏み込んではいかんのだ。少なくとも俺はそう思うようになっていた。




 しかしまあ、魔法へのあのこだわりだけはね・・・どうにもこうにも心配になる・・・

 もちろん俺も魔法へのこだわりも執着もある、しかしだなあ・・・


 得意な魔法が探査、好きな魔法は治癒という俺と違って・・・高町は、得意な魔法は砲撃、好きな魔法は飛行。

 うまく探して治癒するというのが俺の魔法の使い方だが・・・高町は、空から砲撃を地上にぶっ放すってわけで・・・

 高町が好きな魔法と得意な魔法を、全力全開で使える局面は・・・どう考えても物騒な局面しか無いわけだ・・・

 どーなんだろうね・・・








 それから数日は高町を中心にお祭り騒ぎになったが、その間も高町とご両親は何度も真剣に話し合っていたそうだ。




 高町から改めて、無茶と勝手をしたことへの真剣な謝罪。ご両親はそれについては許したが、今度からは第一に連絡するようにと何度も

厳しく念を押し、高町も承諾。今度同じようなことをしたら魔法の道に進むことを認めませんからねといわれると高町も一言も無い。


 それじゃあ高町が魔法の道に進むことは許してくれるのかと問えば、士郎さんは苦い顔で、桃子さんも仕方ないと言った表情で、それに

ついては認めざるを得ないと答える。家族だからこそはっきりと分かっていたことだが、高町は三年生時の魔法に出合ったあの日から、

魔法に夢中にのめり込んでいる。そこまで熱中して大好きなものを、取り上げるということは出来ないとお二人は答えた。




 けど、まあ・・・




 士郎さんはもちろんこの際、魔法を禁止して普通の小学生に戻って欲しかったわけだ。ところが士郎さんは自分自身が昔、娘以上に危険

な世界で生きていたという事実があり・・・実際、士郎さんはボディーガードの仕事で人を斬った数も十人や二十人では無いそうで・・・

だからこそ娘に危険な世界になど足を踏み入れて欲しくないという思いは強いのだが・・・


 桃子さんによれば、「子供は親の言うことを聞くんじゃなくて、することを真似るのだ」との事で、恐らく、娘がそういう生き方をする

事自体は何をしても止められないだろう、それにこれは単に娘が魔法に夢中だというだけの話ではなく本質的には、娘が自立の道を求めて

模索している過程なのだと理解していた。「少し早いけど・・・これはなのはが自立しようとして足掻いて努力して頑張ってるということ

なのよ。親は自力で立とうとしている子供を見守るしか出来ない、きっと手を貸しちゃダメなのよ。怪我したのは魔法のせいでもあるけど

それだけじゃない。魔法であろうと何であろうと、夢中になりすぎて周りが見えなくなって暴走しちゃって転んで怪我するってことは、

ありがちなことだと思うわ。私たちのするべきだったことは、夢中になり過ぎていた娘に注意してあげることだったし、それはこれからも

変わらない。そこに気をつけて、暴走しないように注意して、後は、見守ってあげる・・・それが一番正しいと思うの。」


 だからって場合によっては怪我するような危ない道に進むことは無いだろう、なのはなら将来は喫茶店を継ぐとかもアリだし、それ以外

にも平和的な生き方をすることはできるはずだと士郎さん。


 確かにそれはその通り。では実際問題、なのはから魔法を取り上げることが出来るか、取り上げた場合はどうなるかを考えなくては

いけないと桃子さん。なのはは私たちが強く命じて、仕事を切りの良い所で辞めること、デバイスも然るべき筋にでも返却すること、

どちらもさせることは可能だろう。だがそれでなのはは魔法を忘れるだろうか? その可能性はほとんど無い。デバイス無しでも効率は

下がるが魔法は使えるそうだし、あれだけ好きだったものをスッパリ諦めるなんて事実上不可能、おまけに学校の同じクラスには魔法の

世界で生きているフェイトちゃん、はやてちゃん、マシュー君がいて、彼女たちの間で魔法の話題が出ることもあるだろう。その度に未練

は募るだろうし、悲しくなるだろう。仕事を辞めさせる、デバイスを手元から取り上げることは出来ても・・・魔法を本心から諦めさせる

ということは不可能なのだ・・・例えば警察官に子供がなりたいと言い出したら、それを危険だからと止めるのも何か違うし、なのはの

進みたい道も同じようなものなのでは無いか・・・


 しかし子供だ。なによりもなのはは子供だ。子供にそんな仕事をさせるわけには行かない、と士郎さん。


 だから子供であることは優先させる、子供のうちは魔法を第一に優先するような生き方は許さないようにすると桃子さん。





 お二人の激論がどれほど続き、どういう経緯をたどったかなど正確には分からないが・・・

 結局は、桃子さんの意見に士郎さんが渋々承諾。

 条件付ながらも魔法の道に娘が進むことを認めることにしたようだ。





 ともあれ・・・




 高町が条件とは何かを尋ねると・・・





 まず学校である。これまでは余りにも疎かになっていた。エスカレーター式の私立聖祥学園は、中学から入るなら受験が必要な学校で、

つまり義務教育のうちとは言っても成績基準は公立より厳しいのだ。高町は6年生は入院でほとんど通わないことになるし、しかもそれ

だけでなく、それ以前から仕事ばかりで学校の成績は下降の一途。はっきり言おう、クラスでも成績最低集団の一人に数えられるほどの

存在に成り果てていたのだ。3年生までは理系はトップ、文系も平均くらいは取っていたのに。実は今でも理系の成績はマシではある。

しかしそれでも数学なら得意だから問題無いのだが、単に計算だけで済まない生物とか化学系は最低限の知識も覚えてないからダメだし、

文系なんか最悪であり見事に全滅。漢字は読みも書きも苦手、文章を使ったロジックも苦手、歴史の知識は壊滅的で徳川家康と漢字で書く

ことすら出来なかったし、地理に至っては海鳴がどこにあるか日本地図で探し当てるのにも手間取るという体たらく。聖祥は小学校から

簡単な英語教育もあるのだが、これも単語とか全然覚えてないしダメ。





 お前はどこのおバカタレントだって状態だ。





 日本とは本来、縁もゆかりも無いフェイトさんよりも、国語も社会も下だってのはどうなんだと・・・





 本来、魔道士であるならそれだけで頭は普通よりよいはずなのだ。魔道士には分割思考と呼ばれる技術があり、これは魔力を用いて自分

自身の思考力を明確に区切り、完全に別の事を複数同時に並列して思考できるという一種の魔法だ。勿論得意不得意はある、意外と八神は

苦手だったりするが、高町はこれは得意な方で、飛行して移動しつつ盾も張りつつ十以上の誘導弾を制御しつつ直射砲も連発できるなど

実に見事なものである。これらの並行する作業それぞれに分割した思考を充てているわけだから。



 俺も広域探査などでは探査球を同時に百近く操るのに使ったりと得意である。これを勉強に応用すれば、目で教科書を読みながら耳

からは別教科の学習テープを聴き、さらに協力者がいれば同時に念話でさらに別教科の講義をしてもらったりなども可能であるわけだ。

しかし、しかしだ。あくまで元の思考力を分割するに過ぎない訳だから、二つに分割されたならその思考力はそれぞれが元より理解力等

は劣るわけで、さらに分割すれば比例して一つ一つの理解力は落ちていく、当然だな。


 得意な分野でその知識も無意識に思い出せるくらいに体に染み付いてるような内容の思考なら、分割した思考でも対応できるものだが、

苦手な分野だとどうなるか。しかもその知識もまともに知らないようなものだと・・・当たり前だが分割した思考で対応するなど不可能

になる。例えば高町が苦手な国語などは分割する以前の高町の全部の思考力でも対応が追いつかないのだから論外である。高町の分割

思考可能分野とは、大好きで大得意な砲撃・飛行・防御の魔法制御に極度に偏ってる・・・というよりそれ専門であるとすら言えるのだ。


 それでも口頭での会話と、念話とを分割してこなす程度は高町は出来るが、それは誰でも出来るレベルの話。


 まあこれは俺もそうだが・・・やっぱ得意不得意ということからは逃れられないのだ、苦手なことはやっぱり苦手。それに対応するには

全思考力で頑張るしか無い。情報処理系の分割思考が得意中の得意である俺とは違い、実戦用魔法制御の分割思考が得意である高町は、

勉強という分野ではどうしても苦労することとなる・・・






 まあそれはともかく





 恐らく高町の学校復帰は、良くても二学期の終わりに間に合うかどうかくらいになると思うが・・・

 その後、3学期のテストでは平均点を取ること。さらにそれ以降も、必ず最低でも平均点をキープすること。

 これがご両親の出した第一の条件。

 高町は顔を青ざめさせて、頷いた。

 最終的には、科目個別で見るのではなくて、総合点で見てくれと高町が泣訴して、なんとかその線まで妥協されたらしいが・・・




 

 次の条件とは、徹底的な体調管理である。放っておけばどれだけ無茶するか分からないんだから、ちゃんとしたスケジュールを作って、

それを厳守すること、そのスケジュールは高町を良く知っている医師に作ってもらい、その医師から高町がスケジュールを守っているか

どうかも知らせてもらうという体制を敷く。



 それでまあ結局、なぜか俺はスケジュール作りとか体調管理とか士郎さんと桃子さんに頭を下げて頼まれてしまったのだが・・・


 お二人が言うには、自分たちでは魔法を使った場合とか魔法によるダメージを負った場合とかの疲労度とか損傷の程度とか良く分から

ない場合が多い、何よりマシュー君なら良く知ってるし信頼できる、と言ってくれたのだが。



 ん~つまるところ必ずしも地球の価値観が通じない世界で働く娘について、地球の価値観で対応して心配してる人間でしかも医師なんて

のは実際俺しかいないに等しく、選択の余地が無いしなあ。仕事量も、最初にスケジュールを相談しながら作り、後は定期健康診断の時に

話しあったり見直したりする、そして内容をご両親に連絡するってだけで大した手間でも無いし。

 そういうことで俺はご両親の依頼を聞くことにした。



 こうして、俺は高町という猛獣の首輪から伸びるリードを持つことになってしまった。





 最後にご両親は、少なくとも学生である間は、学校や日常を第一とし、魔法は二番目にするようにと厳しく言い渡す。

 高町は・・・まあ何とか頷いたようだ。

 だが勿論、ご両親も分かっていたことだが、高町の内心では今でも魔法が一番であるわけで・・・





 この後に頻発した高町家の親子喧嘩のタネは、常にこの問題で、その度に俺も証人として喚問されたりしてしまって・・・




 あー・・・やっぱ高町って苦手かも・・・嫌いじゃ無いんだけどね、付き合いきれんというか・・・










(あとがき)

ああ~士郎さんと桃子さんが何故、なのはが魔法の道を進むことを許したのか・・・

考えても考えてもキレイな結論とか出ないなあ・・・

結局、こんな感じになりました・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十八話  リハビリ編4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/30 19:24
マシュー・バニングスの日常    第二十八話







△□年#月△日



 とうとう高町のデバイス、レイジングハートを返す日が来てしまった。魔力リハビリ開始の日である。正直、嫌々渡す。

 カートリッジやら体に負担がかかるシステムをガリガリ削ってやろうかと思ったが、考えてみたら武装局員として結構なミッドでの

収入を持つ高町は、やろうと思えば私的にデバイスを改造することも出来るのでムダだろう。

 なーに使用履歴はちゃんと残るので、無茶な使い方してたらまた取り上げてやる。


 俺からレイジングハートを受け取った高町は、感極まって泣いてしまっている。どんだけ嬉しそうなんだよ。


 魔力リハビリルームに移る。高町は松葉杖でえっちらおっちら歩いているが、心なしか弾んでるみたいに見える。



「とりあえず注意事項を言うぞ。良く聞いてくれ高町。」

「う、うん♪」


 まーだ浮かれてんな~。ちょっと冷静になってもらおう・・・


「まずだな・・・お前は胸部に6発の殺傷設定の攻撃魔法をモロに食らったわけだが・・・」

「ううう・・・」

 嫌なことを思い出さされて苦い顔。



「その割には、胸骨にも肋骨にもヒビが入っただけで、骨については実は完治が一番早かったし後遺症も無い。ではダメージが少なかった

のかと言うと、そんなことは無い。胸部へのダメージは主に、お前のリンカーコアに集中したわけなんだ。」

「・・・」

「リンカーコアはエネルギー体に近く、本質的には魔力の塊だ。だが間違いなく肉体の一部でもあり、とっさの衝撃に反射的に反応して、

お前の胸部へのダメージを吸収し、お前の命を守ったわけだな。仮にお前が魔力など持たない人間であった場合は、攻撃は貫通し、より

致命的なダメージがお前の胸部に与えられたと思われる。」

「・・・どのくらい?」

「ヒビが入る程度では当然済まず、胸にある骨が全部粉砕するくらいで、しかも同時に心臓および肺がグシャっと行くくらいかな。」

「うわ・・・」

 どれほど危ない橋を渡ったのか今さら理解して青ざめる高町。ちょっと事実をありのままに言い過ぎかとも思ったが・・・魔法が再び

使えるということで浮かれてる気分は何とか牽制できたみたいだな。



「で、だ。そのダメージを食らわずに済んだのは、お前のリンカーコアのおかげなわけだが、だから当然、お前のリンカーコアには大きな

ダメージが残っている。分かりやすく言えば、はっきりとしたヒビが入ってるみたいな状態かな。」

「そうなんだ・・・」

「ここ数ヶ月寝ていたことでもちろんリンカーコア自体がある程度、自然治癒している。またリンカーコアの負傷により体内の魔力の

流れが変わってしまい、それにより各所にかかった負担などは適宜治療している、これは俺の専門分野だからな。」

「うん・・・」



「そしてだな・・・現在の技術では・・・リンカーコア自体の損傷については、リンカーコアの自律的回復に大きく頼る以外の方法が

ほとんど・・・無いんだ。医者側でできるのは、それにより起きる肉体への負担を癒すこと、それだけになる。

 だから魔力リハビリってのも、お前のリンカーコアが自力で治りやすいような状態を作るように導くって方向性になる。」

「どうすれば良いの?」


「具体的には・・・リンカーコア自体に刺激を与える。平たく言えば、お前が魔法を使うってだけだけどな。お前が魔法を使い、魔力を

消費する、するとリンカーコアは当然、疲れるわけだな。そして可能な限り魔力を使い切って、あとはぐっすり休む。するとリンカーコア

自体が自らの疲労を癒そうとして魔力代謝が活性化し、治って行くということになる。超回復現象に似てるわな。」

「えと、私が魔法を使えばいいだけ?」

「ただし、だ。」

「なに?」

「特に最初のうちは・・・相当痛むぞ。立ってられないくらいの激痛が走るかも知れない。」

「え゛・・・」

「だから、あらかじめ麻酔を使うって方法が考えられる。どこに負担が行き、どこが痛むか、その辺も大体予想できるから。胸部各所を

中心に全身の魔力ポイントに魔法的な局部麻酔を施し、痛みを和らげるわけだな。」

「そっか・・・」

「ただし、この方法だと、当然だが・・・魔法の感覚を取り戻すまでは時間がかかるだろうな。安全だが遠回りな道ってことだ。」

「どのくらい違うの? その・・・麻酔しなかった場合と比べて。」

「せいぜい一ヶ月? 長くても二ヶ月ってとこかな。しかし遠回りの方が安全なもんだし、俺としては麻酔アリのコースを推薦したい

わけなんだが・・・どうする?」


 高町は考え込んだ。


 こういう説明のしかたをすれば・・・当然、高町は麻酔なしで行くと言い出すだろう。それを予想してるんだったら最初から何も言わず

に麻酔してから始めればよいじゃないかと思うかも知れないが、実際、予後経過とか後遺症の程度とかの臨床データを見ても、麻酔は

使わないなら使わないに越したことは無いと言うことははっきりと分かっているのだ。ゆえに麻酔なしで行けるなら行くほうが良い、

それがベストであるのは確かであるのだ。だからそういう方向に高町を誘導したのは事実である。



「うん、じゃあ麻酔なしでまずはやってみる!」

 予想通りの答えであった。

「了解。んじゃこっち来て。」



 魔力リハビリルームの一角にある柔らかい椅子に座らせる。椅子の周囲も衝撃吸収素材の床で出来ていて・・・


「・・・ここなら幾らでも倒れられるわけだ。」

「怖いこと言わないでよ・・・」

「ま、やってみれば分かる。展開して良いぞ。」

「うん!」


 痛みがあると聞かされても、それでも実に嬉しそうだ。レイジングハートを握り締めた高町は・・・


「レイジングハート・セットアッ・・・プ!?」


 確かに一瞬は展開できた、バリアジャケットも発動した。しかしすぐに解けて・・・高町は宝石に戻ったレイジングハートを、床に

取り落としてしまい、さらに胸を押さえて真っ青な顔になってしまった。

 荒く息をついて痛みをこらえている高町をしばらく見て・・・俺は冷静に声をかける。


「どうする? やっぱり麻酔ありで行くか?」


 高町はキっと俺に鋭い視線を向けて・・・


「大丈夫! 大したこと無い!」


 うーん。凄い根性だ。


「んじゃまあ、とりあえず。午前中あと二時間、限界まで展開を繰り返してくれ。頑張れよ~」

 あえて気楽な口調で促す。

 高町はしばらく息を整えて、覚悟を決めてから再び展開。だがまたすぐに解ける。蒼白な顔、歯を食いしばって再び展開、だがまた

解ける、今度は椅子に座ってるのも無理になって床に崩れ落ちてしまう。


「う・・・うううああ・・・」

「休みながらで良いからさ。落ち着いて、覚悟が決まったら展開するって感じで。」



 ゼーハーゼーハーと息をつく高町は、もはや答える気力も無いようだ・・・




 それでも最後まで麻酔してくれとは言わずに耐え切った高町は、昼になって食事を取ると同時に倒れるように熟睡してしまった。

 体を走査して、負担がかかってる箇所を的確に治癒して、と・・・

 本人はそうとうきつかったようだが、そもそも痛いのは健康の証だしね。なんつっても高町は若いので回復力も優れているし。


 ん~痛がっていたわりには実は内出血とかも起こってないし・・・疲労と神経の極度の緊張ってくらいかな・・・固まった筋肉を

ほぐして・・・緊張しきった神経網にも軽い治癒をかけて・・・あと魔力を体内に流したことで負担がかかった箇所・・・うん、予想の

範囲内・・・慣れてる作業だ、得意の微細治癒・・・よし完了・・・一通りチェックして・・・うん問題なし。目が覚めたら少なくとも

今朝よりは状態は改善しているだろう、まあ薄皮を剥ぐように少しずつしか進まないだろうが、そこはしょうがない。



 目を開けると横に八神がいた。


「マーくん、お疲れさん。」

「ん~やっと魔力リハビリの段階で、ここからが俺の専門だしな。多少は疲れる。」

「でも今日は、なのはちゃんも相当きつそうやったなあ。」

「脊髄のリハビリで半分、リンカーコアのリハビリで半分だからな。峠は越したけど、まだ半分あるんだよ。」

「そっか・・・でも相当痛そうやなかった?」

「麻酔使わずにやった方が治りは早いって教えたら、絶対に麻酔なしでやるって押し通してさあ・・・いや凄い根性だ。」

「う~ん。なのはちゃんの場合は、ゆっくり治したほうがええかもって気もするなあ。」

「痛みを体に刻み込んだほうがいいかもって俺は思ったわけだわ。」

「なるほど。」



 実は今回のリハビリに限らず・・・高町の治療は出来る限り痛くしてやろうとか企んだりはしていない。

 していないったらしていない。







△□年#月□日




 痛みで体に気合が入ったのだろう。足のほうは順調に回復して杖なしで歩ける状態まで来た。

 魔法の方は、2週間かけて、なんとかバリアジャケットを展開しても、耐えられるくらいにまでなった。

 でもズキズキと痛むらしく、それに耐えながら立ってる姿は、かなりきつそうだ。



 俺は魔力リハビリルームの一角を指差して、軽い口調で言う。

「ほれ、そこに的があるだろ。直射砲、撃てなくなるまで撃て。魔力尽きたら休憩な。」

 高町は恨めしそうな顔で俺を見て、痛みに耐えながらそろそろと的の前に進んで、直射砲を撃ち始める。

 本来の高町の砲撃に比べたら、せいぜい牽制用の豆鉄砲程度のものだが、それでも一発撃つごとに痛みで眉をしかめている。


 ていうか、まだ相当痛いはずなんだけどなあ・・・良く耐えて、魔法行使まで出来るもんだわ・・・



 息を整えて、苦痛に耐えながら、何分かに一発ほどのペースで頑張って、一時間ほど撃ち続けて、砲撃がしばらく途切れた。

 肩で息をして、ぜいぜい言って、地面に膝を付いている。



「ふむ、今はこんなもんか。」

「・・・」

 高町は疲れ切って声も出せないようだ。

「まだ昼まで、一時間あるな。15分休んだ後、再開。」

 俺の非情な宣告を聞いた高町の目つきは、この野郎殺してやるってなもんだった。うわ怖いw



 昼に食事を摂りながら、いろいろ話す。



「お前は元々、スポーツとかで鍛えたことないよな。それなのになぜ、あんなにハードワークで魔法行使し続けられたのか、分かってるか?」

「え?」

「親譲りの頑丈な肉体があったからなんだよ。士郎さん、恭也さん美由希さん、あの人たちの体力って人間じゃねぇってレベルだろ。

お前は運動神経については受け継がなかったかも知れないが、頑強で壊れにくい肉体と、疲れにくい優れた基礎体力ってものを、なんの

努力も必要とせず、生まれつき持ってたんだよ。」

「そうだったんだ・・・」

「確かにお前は魔力量も生得の天才だが・・・同時に尋常ならざる体力を持っていた。その二つが合さって、空のエースと呼ばれる

ほどの実績、功績を上げることができた、あれほどのハードワークに耐えることが出来たんだ。

 しかし一度、お前はそれを壊してしまった。

 だから今度は自力で取り戻さなくてはならないし、今度は意図的に体力も鍛えなくてはならない。」

「うん・・・」

「足も動くようになってきたからな。明日からは午前中は体力作り、午後が魔法リハビリ、治癒とマッサージは夜ってスケジュールで

動く。かなりハードだが、今の調子でいけば・・・退院まで一月は短くなるかもな。」

「分かったよ。頑張る!」






 次の日から俺は、ひーひーいいながらロードワークを頑張る高町の前を自転車で気楽に走り・・・

 もう無理! と泣きが入った後で、じゃあラスト50な、と筋トレを続行させ・・・

 魔力が尽きて倒れ伏す高町に水をぶっかけて、リハビリを強制的に再開させ・・・




「鬼でした。悪魔でした。いつか殺すって本気で思ったのは初めてでした。私が苦しんでるのを見て、彼は絶対に笑ってました。

面白がってました。元気になったらまず一発殴るって固く決意してました。」

 高町なのはさんの後年のお言葉である。




 俺はあくまで怒らせて他のことを考える余裕とかなくしただけである。そう、治療の一環であり、他意など無いのである。

 ちゃんと理学療法士の先生の作ったメニューに従ってるし。

 弱ってる高町って面白いなーとか、あと1キロ走れと言われたときの絶望的な目がたまらんとか感じてはいなかったのである。



 それに、士郎さん譲りの「人間じゃねぇ」体力は、やはり高町の体の根幹にちゃんとあったようで、持久力も筋力も、怪我する前と

比べても遥かに上になったんだよ、最終的には。やはり問題ナッシングだな、うむ。







(あとがき)

猛獣なのはに容赦なくムチを入れて調教するの巻。

でも元が頑丈なのでやっぱり頑丈になるばかり。

いつか逆襲されるかも・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第二十九話  リハビリ編5
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/03/30 19:23
マシュー・バニングスの日常    第二十九話







△□年$月○日



 高町のリンカーコアには、ヒビが入ってる。


 これは不正確な表現であり、正確に言うならば、リンカーコアに大ダメージを受けた結果、その形が歪んでしまい、これまではムダなく

収束し運用されていた魔力が、あっちこっちにチョロチョロと漏れてしまい、その漏れた魔力が肉体に痛みをもたらす状態なのだ。


 しかし若い高町自身の持つ、自律的回復力も大したもので、その歪んだ形をなんとか補正しようと自らが頑張っている。また俺はこの

治療が専門で、どこに負担が行くか的確に分かるため、その部分を毎日ケアすることで少しずつ少しずつだが、薄皮を剥ぐように確実に

状態は改善の方向に向かっている。

 このままリハビリを進めても、恐らく9割がたリンカーコアは回復する。

 しかし恐らく軽い痛みか、違和感は残るだろう。


 それは高町の可能性を閉ざすほどのものではない。9割でも十分AAAだ。これまでの馬鹿げた出力頼みの単純戦法から、もっと考えて

巧みに技を組み立てるタイプへの、ある程度の傾斜は必要になるだろうが、それも悪いことでは無い。そのほうが安全だし、もしかしたら

その方がかえって、魔道士として大成するかも知れないとさえいえる。体力のほうは以前よりも確実に向上してるし・・・

 今のままでも問題ない、そのはずだ・・・

 しかし・・・




「なんか悩んどるなー、マーくん。」


 いつもの喫茶店。考え込む俺の前にいつの間にか八神が座っていた。


「まあな・・・」


 紅茶をすする。翠屋とは比べ物にならんな。

「なのはちゃん、どんどん回復してるし。今はもうリハビリ言うよりは、鍛えてる段階に入っとるんちゃう? 元気な笑顔も戻って

きたし、なにを悩むことがあるん?」


「ううむ・・・つまりさあ・・・」

「なに?」

「このままでも9割がた回復する、間違いないわけよ。」

「うん。」

「でもそれを10割か、もしかしたらそれ以上、回復させる方法があったとする。」

「へえ。」

「でもそれは安全な方法では無いし、なんつーか実験的なことになっちゃうし。」

「・・・失敗した場合は?」

「9割まで戻るはずだったのが、8割に・・・いや7割になるかもしれん。」

「そっか。」

「魔力がその程度、低下したところで肉体には悪影響は無い。日常生活には何の問題も無い。しかし魔力にこだわる人間にしてみれば、

魔力低下ってのは肉体が傷つくよりも遥かに重かったりするわけで・・・高町はモロにそのタイプだし、さてどうするか・・・」

「成功する確率とかは?」

「実験的な方法だから・・・まともな前例が無い。過去のデータから確率を出すなら・・・0%ってことになるな。」

「・・・マーくんは、成功させる自信あるん?」

「無ければ悩まないよ。」



 しばらく二人でお茶を飲んで考えていた。おもむろに八神が口を開く。


「なあマーくん、前も悩んでたよな、士郎さんたちのことで、どうするか。」

「ああ・・・」

「結局は何とかなったんやけど・・・やっぱあの時は、ちゃんと初めから皆で話し合えば? 意外と上手くいくのも早くなったんちゃう

かって思うねん・・・今になって思い返してみたらって結果論やけどな。」

「まあそうかもしれんが・・・」

「せやから・・・まずはきちんと話すことやで。マーくんは、リスクも含めて治療法の選択肢をちゃんとなのはちゃんに説明する、後は

どうするか、それを決めるのはなのはちゃんやで。それになのはちゃんは、多分、マーくんが思っとるよりも強いで? 心も体もな。

患者さんを信じてあげなあかんのちゃうかな・・・多少は悩んでも、その程度では潰れへんで。」


 ん~・・・

 そだなあ、高町の魔力の話だし・・・最終的にはあいつが決めるのが筋だわな・・・

 ん~先生方と話し合って・・・ギルさん当たりにも相談して、その上で高町に話してみるか・・・








△□年$月△日




「リンカーコア直接整形術」


 これが俺がずっと研究してきたテーマだった。もちろん自分自身のリンカーコア形成異常を何とかするために。


 俺みたいな例は特殊だが、もしもリンカーコアを直接どうこうして、それで魔力を上げることが出来るなら・・・って発想自体は、魔法

至上主義のミッド社会では結構普通に起こり得る発想であるわけで。また事故で胸部にダメージを負った後、魔力の出力が明らかに低下

したために直接いじって何とかしようと試みたという例も実はある。


 ただ、成功した前例は・・・存在しない。

 仮に一時的に上手くいったように見えても・・・結局はムリが出て前よりも悪化して魔力も低下する。

 だからリンカーコア異常への治療とは、全て間接的アプローチによる。負担がかかる肉体の方を巧みに癒す、その技術の向上が、

今のリンカーコア障害治療部の研究方針でもある。リンカーコア自体には手を出さない、それが原則だ。




 だがこれまでのリンカーコア直接整形へのアプローチには明確な欠点があったように俺には思えていた・・・


 実際にやられていたことは、高高度な治癒魔法と、さらに強力な増幅魔法を組み合わせてリンカーコアに強引なアプローチをかけると

言う手法ばかりが試されてきたのであり・・・治癒魔法とは結局、対象の代謝を活性化して一時的に生命力を向上させるというものだし、

増幅魔法とは、対象の有するあらゆる性能を魔力により後押しして一時的に強化するというもので・・・つまりは強引に強烈な干渉を

かけて何とかしようという方向性・・・前例で問題にされていたのは、より高度な治癒魔法を、より高度な増幅魔法をということばかりで

失敗したのも、それが足りなかったとか組み合わせがまずかった的な解釈ばかりが結論とされていた。



 しかし、例えばリンカーコアでは無い、心臓とかに、似たような高度治癒+強力増幅みたいなことをすればどうなるか、考えるまでも

無い、一時的に異常に機能が活性化した後に極度の疲労で・・・下手したら止まるんじゃねって話だ。肉体に対してそんな無茶なことを

するバカはいないのだ。しかしリンカーコアは魔力の結晶であるため肉体とは微妙に異なるし・・・最後の手段としてそういう無茶な

手法がとられてしまったのだな。




 なぜそんな手法が取られて来たかって理由のうち、重要な一つはリンカーコアは「見えにくい」ってものがある。肉体の器官ならば、

はっきりと目に見えるわけで、どこがおかしいか分かるので、そこを的確に整形できるわけだ。ところがリンカーコアは魔力の塊、肉体に

近い性質も持つとは言え、やはりその形とか普通ははっきり見えたりしない、ぼんやりとしか把握できないのだ、普通は。



 だが俺には「見える」。



 俺には、その正確なμ単位での形、さらにその内部構造、組織構成に至るまで精密に把握できる。

 これはまるきり、俺の探査スキルに依存したもので、他の誰かに真似できるってもんじゃないが。

 そうしてコアを把握した上で、微細な修正を加えて、整形する、可能であるはずだ。

 ポイントは、俺にははっきりとリンカーコアが「見える」こと。俺の異常な探査性能。

 そして決して強引な干渉などはしないこと。あくまで微細な魔力で最小限しか触らないこと、これも俺の得意芸。

 強引な手法とは全く対照的で・・・魔力低下リスクも実は非常に少ないはずだ・・・




 だが念には念を入れて、俺は探査を全開にする必要がある。つまりリミッターを外すのだ。

 外してもつのは、今なら・・・せいぜい15分か。その時間を過ぎれば、体のどこかが破れるだろな。

 そして、そうまでして人を救うことは姉ちゃんとの約束で出来ないし、だから15分が勝負、ムリなら諦める。



 んで結局・・・



 高町は、施術を喜んで受けた。魔力が回復する可能性てのは彼女にとって何よりも優先するらしい。手術の危険性を説明しても、俺が

やるなら出来るだろうと、なぜかこちらが戸惑うほどに信頼してくれていた。ご両親は、失敗しても日常生活には何の問題も無いという

点を何度も確認した上で、高町の意思を優先するとのことだった。


 主治医の先生は最初は眉をしかめたが・・・丁寧に説明すると分かってくれた。なるほどその手法ならリスクも極小、成功する可能性は

大いにある、ただ問題は君の特殊なスキルに依存する部分が大きいことか・・・詳しい話を聞きたいな、リンカーコア治療部の君の上司を

呼んでみよう・・・ということでギルさんも来て、俺のスキルについて詳しく説明し太鼓判を押してくれて結局先生も了承。


 ギルさんは、間違いなく俺なら出来るだろうとその点については全く疑っていなかった。ただ出来るとしても俺の肉体への負担が大きく

なるという点だけは心配してくれた。だからとにかく無理をしないこと、15分で出来なければ即時撤退と念を押された。




 手術室に、主治医の先生だけでなく、ギルさんやリンカーコア障害治療部の同僚たちも集まる。高町を眠らせて、バイタルチェックの

設備を確認し、いざ、施術に入る。

 リミッターを外した瞬間、俺の体から魔力が噴き出す。その量に皆が驚く。見たことあるのはギルさんくらいだからな・・・

 しかしそれは無視して高町のリンカーコアに集中。

 やはり、分かる。高町の桃色に輝く魔力中枢の結晶が、あちこち微妙にほつれていたり、歪んでいたり・・・



 ムリに癒すのではなく、形を整える、最小限の干渉しかしないように気をつける・・・俺にしかできない超微細な調整で・・・

 整える、整える、あと2箇所で全部・・・

 12分くらいが過ぎたかな・・・いかん・・・

 喉元に血の味がしてきた。

 ここまで来て止められるか! あと一箇所、これで最後!

 咳き込み、軽く血を吐き出す。ギルさんが素早く近付いて来てリミッターをしっかり締めなおしてくれた。

 タイムは13分25秒。なんとか成功。

 そのまま俺は手術室から連れ出されて・・・



 なぜか外で待っていた八神に引き渡された。シャマル先生が速攻で治癒してくれる。

 さらに八神はザフィーラ(人間形態)に俺を運ばせて、そのまま八神の滞在してる教会まで連れて行かれてしまった。そのために転送

許可まで事前にとっていたというから見事だ・・・



「あ~いまいち分からん。なんでここにいるのか。」

「それはどうでもええとこやな。」

 ベッドに横になる俺の髪を、なぜか八神は撫でていた。



 俺の体の問題と、その治療については・・・1がギルさん、2がシャマル先生って所だが、忙しいので俺に専念するのは難しいギルさん

と違ってシャマル先生はしばらく俺にかかりっきりになっても問題無い、ということで八神が事前に手を廻していたそうだ。倒れるのは

予想のうちで、高町の前で倒れた姿を見せるわけには行かないだろうと言われてしまえば従うしかない・・・血を吐いてまで治したとか

知られるのも気分悪いしな。



「また無茶して・・・それで、どうなったん?」

「完璧だ。間違いない。」

「そっか。完璧にしようとして、また血ぃ吐いたわけやな。」

「・・・明日起きたら、高町は驚くぞ。ウソみたいに楽になってるはずだから。」

「そやからってマーくんが血ぃ吐いてええって話にはならんわな。アリサちゃんに言おうかな~どうしよかな~」

「待て、それは勘弁してくれ・・・なんでもしますので・・・」

「それやったらな・・・」

「あんま無茶なことは言わないでくれよ・・・」

「これから、夕食は一緒に食べるって約束してくれたら、言わんとったるわ。」

「そんなことでいいのか?」

「うん♪」



 咽喉部程度からの軽い吐血に過ぎなかったので・・・シャマル先生の治癒を受けた上で、数時間横になってただけで、俺の体調は迅速に

回復。

 高町が目覚めるのも明日くらいの予定なので、俺は八神の家でそのままゆっくりすることとなり・・・



 八神が俺の体調を考えて作ってくれる消化の良いご飯は美味かった。


 しかし、「これから」ってのが「これからずっと」又は「これから可能な限り何時も」って意味だと、その日の俺は気付かなかった。


 まあ八神には借りばかり作って、労うことも出来なかったし、一緒に食事を取る程度で喜んでくれるならそのくらいはきちんと約束を

守りたいので、それからはミッドに来る週末はいつも八神の住居に行くこととなった。う~ん、しかし八神が料理を作って、んで俺はその

美味い料理を座って食べてるだけ・・・洗濯物とか出せとか言われて従ったら洗濯してくれてアイロンまでかけて返してくれたり・・・

食後の洗い物くらいは手伝ってみても、どうにも全然、借りを返してる気がしない。こんな事で良いのかと遠慮してみると、遠慮される

方がムカつくし約束しただろうと怒られるし。


 どうも八神は「一緒にご飯を食べる人」というのはなるべくたくさん欲しいらしいんだよな。家族である守護騎士たちにも、まずは

自分で作った食事を取らせるところから始めたらしいし。俺が初めて会った頃から既に両親はいなかったし、一人で家事をしてきた八神は

とにかく一緒に過ごして、自分の作った食事を食べてもらえるだけで嬉しいのだと言うのだが・・・


 夕食後はゲームとかして遊んだり、一緒に勉強したり、そうこうして時間が経つので風呂に入っていけ、泊まっていけという話に自然に

なって気付いたら俺用に客間が整備されてたり、なぜか男物のパジャマまであって俺用に買ったのだと嬉しそうに言うし、気付いたら俺用

の歯ブラシに俺用のコップに俺用のスポンジとか俺用のタオルまであるような気が・・・


 なんだかんだで週末は八神のところにずっと居るような・・・


 うーん、世話になってばかりだ・・・何をしたら返せるのか・・・








(あとがき)

悩んだけど・・・結局、完治させてしまいました。

なのはには傷がほぼ残っておりませぬ・・・

あ~次でやっと退院かなあ・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十話    退院・卒業
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2010/01/05 01:55
マシュー・バニングスの日常    第三十話








△□年¥月○日




 高町は完璧に回復した。っていうか昔以上の状態になったような気がする。誤差の範囲内かも知れないが昔より7%ほど魔力量が向上

しているという計測結果が出たのだ。まあ手術翌朝の測定だから、推移を見守ってからでないと結論は出ないけどね。

 軽い痛みも違和感も無くなり、魔法行使も昔より滑らかになった気がすると高町は言ってた。

 鬼悪魔かと思ってたけど、やっぱりマシュー君は凄かったと高町は泣きながら俺の手を取って喜んでくれたわけだが。

 そうか、やっぱりそんな風に思ってたか。これからも可能な限り痛くなるように工夫して治療してやろう。



 高町が退院する日が来た。全治半年とされていた入院期間は、4ヶ月と3週間程度で済んだ。


 高町の退院を喜んで、身内は全員集まっている。士郎さん、桃子さん、恭也さん、美由希さん、フェイトさん、クロノ、リンディさん、

姉ちゃん、月村さん、ユーノ、八神に騎士たちまで全員。

 お世話になった先生方には既に挨拶を済ませていた高町は、最後に俺のところに来て、深く深く頭を下げた。


「本当に・・・本当にありがとう。全部マシュー君のおかげ。どんなにお礼言っても足りないけど・・・ありがとうございました!」


 溢れる善意と明るさ一杯の・・・いかにも高町らしい笑顔だった。良し、確かに戻ったな・・・だったら・・・


「ふぅ~。高町、一つだけいいかな。」

「なに?」


 真剣な顔をして見せる。せっかくのめでたい退院の日だが・・・ちょっとこれだけは言いたい・・・


「俺がさ、9歳までまともに歩くことも出来なかったのは知ってるな。」

「・・・うん。」

「今でも完治はしていない。このリミッターで俺は何とか生きてる。表面的に健康に見えても、実は俺は病人だ、今でもな。」

「・・・うん。」

「対して、お前は健康だ。ケガが治ればまた今のように本物の健康に戻れる。俺が今でも手に入らない本物の健康に、な。」

「・・・」

「であるのにお前は自分の健康を一回投げ捨てた。俺は生まれたときから一度も持ったことが無かったものなのに。お前は感情に任せて

突っ走って、俺が渇望している本物の健康を、ドブに捨てるようなマネをしたわけだ。」

「・・・」

「お前のそういう行動見て、俺がどんな気持ちになったか想像つくか?」

「・・・ごめんなさい・・・」

「謝っても許さん。目を瞑って歯を食いしばれ!」


 高町はビクっとして言われるままの姿勢を取った。


 そして俺は・・・


 高町に、超全力デコピンをかましてやった。バチコーンとデコピンとは思えない良い音がしたww

 本当はこのバカが大怪我したときにみっちり説教してやりたかったわけだが・・・まあこれだけで勘弁してやろう。

 高町は涙目で額を抑えてる。ざまあみろである。


「なにするの!」

「あ~すっきりした。いいかバカ町!」

「バカじゃないもん!」

「二度と来るなよ。」


 俺の真剣な口調に・・・高町はただ、黙って頷いた。


「そうだな・・・次にまた入院するようなことになったら・・・今度はもっと痛くなるように工夫して治療してやるぞ。」

 ニヤリと笑う。高町はそれを見て顔を引きつらせる。

「う、うん。もうこんな怪我はしません! 無茶もしません!」

「その言葉が本当になることを祈ってるよ・・・」



 そのまま皆で高町家に向かい、盛大な退院パーティーをやった。

 士郎さんと桃子さんからも改めて頭を下げられ、恐縮してしまった。

 姉ちゃんにも手放しで褒められて、抱きしめられて頬ずりされて振り回されて・・・

 月村さんも参戦して、俺を振り回すもんで・・・どうなってんだあの人は誇張ではなく本当に俺を振り回す力があるぞ。

 それを横で見ていた八神がなんだか機嫌が悪かったように見えたのだが・・・うん、気のせいだな。




 そろそろ長袖が恋しくなる、とある秋の日の出来事であった・・・






△□年¥月△日



 術後の経過観察については、年単位で行わなくてはならないものの・・・

 俺の「リンカーコア直接整形」は、もしかしたら稀有な成功例かも知れないと、既に評判になっていた。

 そんな評判も冷めやらぬ中、これまで蓄積した膨大な臨床データを元に、「リンカーコア障害治療プロセスの標準化」と題する論文が

発表される。ギルさんと俺が主筆だが、他のリンカーコア障害治療部のスタッフたちも総力を挙げて作成したものである。

 この論文は、本質的には前の論文をバージョンアップさせたに過ぎないものだが、情報量が前とは比較にならず、ありとあらゆる場合の

リンカーコア異常に対する具体的な対応策が網羅されたもので、この分野の治療法の決定版とすら、後に言われるようになった。


 これが発表されたことで、ギルさんも俺もさらに出世。ちなみに俺は三尉待遇となった。本局病院リンカーコア障害治療部の評判は

不動のものとなり、その年の管理局全体での褒章式において、主だったスタッフへの勲章授与さえ行われた。軍事作戦と関係無い、純然

たる学術成果で、勲功章ゴールドメダルを与えられたとか前例が無かったそうで・・・どうもギルさんは近い将来に下手すると海軍軍医

総監とかになる可能性が高いとかの下馬評も行われ・・・本人はリンカーコア治療を地道に行いたいから、そんなに偉くなりたくないそ

うなんだけどね。メダルは受け取るから昇進は勘弁してくれと頼みに行ったとか・・・

 俺は勲功章シルバーメダルとかを授与されて・・・さらに拘束義務期間が3年も減ってしまった。そうなるだろうって前に約束して

くれてはいたが、本当にこんなに短くなるとはなあ・・・中学在学中に義務が終わってしまうぞ、これは。

 だがそれもこれも俺に病院の仕事を続けて欲しいと上の人たちが本気で思ってるからであって・・・今となっては義務が無くなった

からって気軽に辞めるわけにも行かないんだよなあ・・・継続治療中の人とかもいるし・・・どうすっかな~






 八神は、ついにリインフォースⅡを完成させた。高町の入院とかでドタバタしてたが、やっと出来たらしい。夜天の書の管制人格、

リインフォースを原型として、可能な限りそれに近付けたユニゾンデバイスで、これと融合することで八神は無茶苦茶強くなる、そうだ。

空を飛んで、広範囲を焼き尽くすみたいな攻撃が得意技らしい。いやあ物騒だねえ。

 そういう話をしても俺が全然、反応薄いので、不満に思った八神が不機嫌になったりしたが。

 俺としては、お前が元気で怪我も無く、また怪我とかしないような生き方をしてくれるほうが嬉しい、とかなんとか言ったら、機嫌は

すぐに直ったので特に問題は無いだろう。

 リインフォースⅡの外見は妖精少女って感じで、なんかふわふわ浮いている。

「はじめまして、マシューさん! リインと呼んで下さいね!」と元気一杯であった。普通に人格持ってるなあ・・・

デバイスだって言われても信じられないわ。

 しかし仕事の方は相変わらずの捜査系で、腹芸と話術で巧みにこなしてる。強くなる必要とかあんのかよと疑問に思った・・・






 フェイトさんにとってこの年は、執務官試験に落ちる(二度目)、高町の見舞いを担当医の俺に禁止される、さらに八神の逆鱗に

触れてブチ切れられて大喧嘩、さらにリンディさんにも説教されるなどなど・・・

 のちに「暗黒の一年」と自ら呼んだ、フェイトさんの黒歴史となったのだった。この年の話を後年すると、誰が言ってもかなり険悪な

雰囲気になり冗談が通じなくなったので、余程堪えたのだろう。敢えて口に出してからかうのはシグナムくらいのもんで、それも模擬戦に

誘うための挑発として使ってた。

 今年は散々だったフェイトさんだが・・・今度こそ、今度こそは執務官試験に受かるためにまた勉強している。さすがに次は受かる

だろうと皆が思っているのだが、なにせフェイトさんだ・・・どんなポカをやらかすか予想もつかない。俺は来年こそは受かる方に

賭けてる。八神は来年も落ちる方に賭けてる。八神が賭けに勝つのを目的にフェイトさんの妨害とかしないこと祈る。






 高町は、一ヶ月の完全休養、2ヶ月の足慣らしを経た上で、結局は武装隊に復帰した。

 休養中は勉強地獄・・・3年近くサボっていたのを取り戻す地獄の勉強合宿が行われ・・・真っ白に燃え尽きてたが・・・

 あれこそ正に自業自得w


 武装隊に復帰して、また魔法を使って戦えるようになったときは周囲が引くほどに号泣して喜んでいた・・・


 しかし、将来的には前線勤務から一線引いて、技術を教える武装教導隊のほうに入ることを目指すようになった。

 あまり家族に心配かけてはいかんと思うようになったのか・・・分からんけどね。

 前のように過剰に仕事に志願するということは無くなった。勤務シフト表を高町の上司経由で俺が入手し、それをさらに海鳴の高町家に

送るというルートが完成したのもあるが、やはり本人が反省したというのが大きい・・・と思う。

 ただ、自分から過剰な仕事を取りに行くということは少なくなっても、有給休暇を自分から使うという発想は無く、放っておけば

休まないため強制的に休ませているのだが、「休みって何したらいいの?」って何よ。その年でそれはまずいだろ。

 姉ちゃんに頼んで無理やり遊びに連れ出してもらっているが、将来不安である。

 だが、家族に対する感情は前よりも素直に出すことは出来るようになったようだ。前と大きく変わった点は、親子喧嘩を大声で出来る

ようになったことだとか。桃子さん VS 高町なのは のケンカが始まると高町家の面々は避難して息を潜めているしか出来なくなる

ほどに激しいそうで・・・まあ、前の妙に遠慮しあってた関係に比べればマシであろう。




 もうすぐ俺たちは小学生では無くなる。その後はどんな日々が続いているのだろうか。


 できれば今度こそ何事も事件無く・・・平和な日常が続いて欲しいものだ・・・








(あとがき)



 マシュー・バニングスの存在意義のうち重要な部分が、ズバリ「治療編」にありました。なのはの撃墜と治療回復、そのときに起こった

はずのなのは自身の葛藤、苦しみ、家族との関係はどうなったのか、友達はどういう対応だったのか、などなど、撃墜編は高町なのはに

とって恐らく、魔法に初めて出合った3年生のあの日にも匹敵するほど重要な時代であったはずで・・・なのに原作ではほとんど語られず

思い出話として少し出るのみ・・・それがどうにもこうにも不満であったこと、その時代を自分なりに描いてみたいと思ったこと、これが

マシューの生まれた理由のうち大きな部分を占めています。順番として、医療系のキャラとしてなのは撃墜に関わるということが最初に

決まって、そのために病弱である、魔法医療を学ぶ必要がある、特殊技能によって済崩しに巻き込まれる、病院仲間の八神と親しい、常に

入院していても余り暗くならないように家は金持ちということに・・・ではアリサの弟にしとこう、すると当然アリサが超重要人物になる

、原作のなのはの軌跡を傍観する立場が望ましいので攻撃的な性格はしていない、積極的に原作に介入はしないタイプで・・・などなど

属性が決まって行って、マシューのキャラメイクが為されたわけです。

 そして・・・なのはの撃墜・入院・治療が、ついに済んでしまい・・・そうなると・・・

 もともとそのためのキャラでしたから・・・

 それでもマシューというオリキャラが入ったことによる事態の推移などを想定して描いてみるなどということも出来るわけですが・・・


 しかし・・・原作によると・・・中学生時代などは、ゼスト隊壊滅・中3の時の空港火災くらいしか出来事が無く・・・高校時代に

あると思われるのはせいぜい、恭也と忍の結婚、クロノとエイミィの結婚くらいでしょうか。さらに1年の空白を経て、やっとSTS

時代に入るわけです。この余りにも大きな空白期間・・・病院勤務のマシューにはほぼ関係無い話ばかりで・・・

 それとも普通に、いきなりSTS時代に飛ぶか・・・


 大体、中学高校時代の話をするならば恋愛要素を排除するのは不自然過ぎるし・・・しかし余りにもイチャイチャラブラブするような

話ってのは続かないし・・・そもそもそういう話ってリリなの世界的に不適合なのではとか・・・

 いきなりSTS時代に飛ぶ線で考えてもこれが意外と難しい。無印・As・治療と折角時代を重ねてきたのにここでいきなり飛ぶと皆の

成長も葛藤も過程は無視して結果だけ言う形になり・・・無味乾燥な報告になってしまわないか・・・そもそもいきなり登場人物が激増

するし話が広くなり過ぎるのがSTSなのでどうしてもその前段として、順を追って話を繋げていきたい・・・ナカジマ一家を自然な形で

出すだけで一話かそれ以上欲しいし・・・JS博士と数の子たちなどは医療系ということでマシューと道が交錯する可能性も考えられ・・

・駄目だいきなり8年飛ばしは無理があり過ぎる・・・

 マジメな話以外にも、なのは&マシューがタッグを組んで「魔王と、その目」として悪名が高まるみたいな話もしてみたいし・・・

 甘ーーい話もしたいし、逆に苦ーーい話もしたいし・・・




 まあ色々と悩んで考えておりますが、とりあえず・・・ここで一区切りとなるのは間違いありません。


 今後も続くとしてもペースが大きく変わるとか・・・まずはこれまでの分を修正ばかりするとか考えられます。


 いつもと違って本文部分から失礼します。ご意見ご感想、いつも本当にありがとうございます。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十一話  中学生日記
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/01 23:39
マシュー・バニングスの日常    第三十一話






△&年○月○日



 俺たちも中学生である。皆で揃って聖祥の中等部に進学した。


 この頃には俺は人並み程度の体力は既に持っていたと思う。痩せ気味なのは変わらないが、体重も男子の平均よりも一回り軽い程度に

なってたし。激しい運動とかはまだ自信無いが、静かに継続する作業などだと、人より長時間できるようにもなった。それもこれもまだ

リミッターに命を保ってもらっているからだという状況には変化は無いが・・・偽りの健康であるにしても、確かに見せかけだけは健康に

見えるようにはなっていたのだ。

 俺と姉ちゃんはほぼ同じ身長で、少しだけ俺が高いくらい。あとは高い順にフェイトさん、月村さん、高町、八神だった。

 八神評価によれば、今の俺は「70点くらい・・・やっぱまだ逞しさが・・・」だそうだ。

 畜生、この年頃は女子の方が成長早いんだよ。腕相撲しても結構良い勝負になる程度・・・もしかして俺の周りの女子が、異常に強いの

ではないだろうかと疑いたくなる・・・特に月村さんとか、あの強さ絶対おかしい!





 そうは言っても、今でも小学生と大して変わらないようなのは八神だけで(本人に言うと殴られるがw)、他の面々はかなりきれいに

なって来ている。特に姉ちゃんとフェイトさんはシャレならんな。スタイルも既に女性らしく出るとこでて引っ込むところ引っ込んで、

中1とはとても見えない。聖祥の太陽の女神と月の女神って呼ばれて写真が高値で売れるとかどうとか・・・

 高町はまあ普通だ。今ではすっかり元気で前と変わらない・・・いや前よりパワーアップしてる印象が・・・それなりに少しずつ女の

子っぽくなってはきてるが、まあ普通だな。月村さんは将来的には、お姉さんの忍さんみたいな美人さんになることは間違いないのだろう

が、今のところはまだ、高町とおっつかっつかな。八神は少し背が伸びたそうだが・・・俺の方が伸びてるので昔より小さく見えるw

言うと怒るから言わないけどね。




 俺の外見は・・・また八神の表現だが「ただでも色白のアリサちゃんをさらに漂白した上で適当にベタを塗って、少しだけあっちこっち

をホネっぽくして、目つきを悪くして頬をこけさせた感じ」だそうだ。双子だから基本的に似ているはずなのだが、逆に言えば基本的な

部分しか似ていないというか・・・パっと見の印象では血の繋がった姉弟にも見えないと評判である。金髪碧眼で彫りも深く、ミルク色の

健康な輝く白い肌、見るからに外人であるゴージャス美人な姉ちゃんと、ほとんど黒に見えるダークブラウンの目と髪に日本人平均より

貧弱な体格、肌の色が白いというより青白く見えるというのは正直あんま改善されてないし、さらに姉ちゃんと似てるはずなんだけど

微妙に地味な顔立ちで、日本人の中に紛れていても誰も分からない俺。

 まあ別に俺としては目立たない方が好みだから、全然問題無いんだけどね。




 高町が退院・復帰して以降は、大きな事件も無く、皆がそれなりに仕事をこなし、学校を楽しむ平和な日々が続いていた。

 ずっとこんな日が続くといいんだけどね。







△&年X月○日




 高町家では五月初頭の連休には家族全員で温泉に行くのが恒例である。

 それは高町家だけでは無く、姉ちゃんや月村さん姉妹など親しい人たちも誘い合わせて一緒に行くもので・・・

 この年はみんなの都合が上手く付き、大層な大所帯となった。

 つまり高町家5人、月村姉妹にメイドさん二人、姉ちゃんと俺、八神と守護騎士4人とリイン、フェイトさんにアルフさんにリンディ

さん、ついでにたまには休めと強制的に連れてこられたクロノ、さらに何故かユーノまで。総勢22人。


 車で移動して景色を楽しむのも旅行のうちということで、高町家に集合した面々はそこから小型バスで移動。

 月村さんとこのメイドさんの一人(ノエルさんとか言う人)は大型車両も運転できるそうなのだ。


 バスの中での盛り上がりは・・・女性陣は凄い。女3人寄れば姦しいとは言うが3人どころの騒ぎじゃないからな・・・



 男性陣は・・・なんとなく固まって比較的静かにしてた。

 士郎さん、恭也さん、俺、クロノ、ユーノ、そして一応ザフィーラ(犬のままなので一応)。



 恭也さんが明るく騒ぐ高町をちらりと見て・・・ぽつりと呟いた。

「なのはは・・・もうすっかり元気になったな。」

「そうですね。」

 答えたのはユーノである。恐らく高町に一番注目してたのはこいつだったためだろう。





 クロノは無理に連れてこられたため、なんだか手持ち無沙汰で暇そうで・・・気まぐれに俺に質問してきた。

「その辺どうなんだマシュー?」

「おいおい、折角の旅行なんだし、あんまそういう話はだなあ・・・」

 と俺が嗜めるのだが・・・

「何か問題あるのか?」

 恭也さんが真剣な顔で聞いてきた。うーん。俺は士郎さんをチラリと見ると・・・

「そうだな。恭也にも一応は、一通り話したつもりだが・・・うん、いいよマシュー君、君の口から聞けばまた違うだろう。」

 士郎さんの許可を得たので・・・

「一言で言えば、全く問題無いです。後遺症ゼロ。」

 簡潔に事実だけを言う。

「ああ、それは一応聞いたのだが、いまいち納得いかないと言うかだな・・・」

 恭也さんはまだ心配そうな顔だ。ううむ、どう言えば納得してもらえるのか・・・

「骨折した部分については、昔より頑丈になってるくらいですし・・・」

「肋骨とかなら分かるんだよ。経験あるしな。でも腰椎って・・・つまり背骨だろ? その粉砕骨折ってのは・・・」

「全部じゃありません、あくまで一部。第二・第三腰椎の、さらに一部が粉砕骨折だっただけです。少なくともそれだけならば、地球の

医学でも、日常生活なら問題ない範囲まで普通に治るレベルかと・・・」

「だが脊髄が・・・」

 恭也さんの顔は苦しそうだ・・・今でも思い出すとそうなってしまうようだ。

「脊髄再生は、ミッドの医学の中でも高度な技術ですが、主治医の先生がその専門家でしたし。術後の経過を見ても完治してますね。

それでも後遺症が無いのか・・・と心配なさるのは分かるんですが、既に術後一年近くを経過して、足にも下半身のどこにも何の違和感も

無い状態ですし、他の臨床例と比較しても、非常に良好な状態でして。なのはさんご自身も若いですし・・・」

「・・・そうだな・・・」

 恭也さんは、やはりそれでも心配そうだ。やはり完全に安心させるなんて、出来るもんでも無いなあ。





 場を暗くしてしまったことに反省したらしいクロノが明るい?と思われる話題を振ってきた。

「そうだマシュー、聞いたぞ。最終的には10%増加したそうだな。」

「あ、僕も聞いた。ちょっとしたニュースになったよね。大評判なんじゃない?」

「おいおいその話かよ・・・」

 俺はちょっとブルー。

「何の話だい?」

「マシューが彼女のリンカーコア・・・魔力中枢への画期的な治療法に成功して、彼女の魔力が10%も向上したって話ですよ。」

「それって凄いことなのかい?」

「凄いですよ! 普通はリンカーコアへの負傷があれば、完治させて違和感ない状態まで持っていけても、どうしても魔力の出力は前より

落ちるものなのに、逆に上昇したわけですからね! 本当に前例が無いんです。凄いですよ!」

「えーと、マシュー君。完治したとは聞いてたが・・・」

「その・・・つまりですね、完治以上のレベルになってしまったと言いますか・・・まだ確定したわけじゃ無いですし・・・」

「なに、確か術後半年くらいだったか?を過ぎて、計測結果も出揃って来たんだろ? 医療誌じゃなくて、本局の普通の情報誌にも記事

が載ったくらいだぞ。いや大したもんだよマシュー。謙遜することは無い。」

 クロノは空気を読めないやつだと思った。

「つまり・・・なのはは前よりも魔力ってやつが強くなったと?」

「はい・・・そうなんです。」

「つまり前よりも・・・」

「魔法を使いやすくなったと言いますか・・・強力な魔法が使えるようになったと言いますか・・・」

「それではなのはは・・・」

「はい・・・力が上がったのが嬉しくてしょうがないようで・・・さらにのめり込むみたいな状態に・・・すいません・・・」

 士郎さんは額に手をあて、しばし目を瞑り・・・

「いや・・・マシュー君がベストを尽くしてくれたってのは分かる、分かるよ・・・しかしなあ・・・」

「こんなに上手く行くとは予想外でした・・・いやこうなると上手くいったと言えるのかと・・・」

「いや、いいことですよ? 間違いなく。」

 お前は黙ってろクロノ。





 んで旅館について





 その後、温泉に入ってみれば、俺が一番貧弱なのは当然としても意外とユーノもかなり貧弱なボーヤだったり。士郎さんと恭也さんの

余りにも圧倒的な体格を羨ましいなーと思ったり。

 宴会のとき、余興ということで、姉ちゃんに強制的に女装させられ化粧までされて酌をしてまわったり。

 それを見た高町や八神は笑い転げて、美由希さんには何故か凄い気に入られてしばらく捕まってしまったり。

 関係者しかいない宴会場だから問題無いので、魔法の実演ショーが見たいと要望されて、高町とかフェイトさんとか八神とかが、飛び

まわって見せて、俺は出来ないのかと言われたので出来ないと言ったら何か高町が鼻で笑ったような気がしたので転送して、畳の上で

前回り受身をさせてやったり。

 今日こそはリベンジしてやるといきり立つ高町に、よしまたボコボコにしてやると俺が受けて立つと、瞬間に俺の後ろに美由希さん、

高町の後ろに恭也さんが現れて捕まえ(見えなかった・・・どうなってるんだ)、仲直りさせられたり。

 んで以前、俺と高町が模擬戦したことがある話が引き出され、高町は強力だけど単純だし足払いして転がして罠に嵌めるみたいな手を

使えばちょろいと俺が言えば、マシュー君はずるい本当にずるい絶対に正面からやろうとしないんだから納得できない!と高町が絡んできたり。

 しかしそこに姉ちゃんが夜叉となって降臨し、少しお話しましょうねと言いながら高町を引きずって一時退室し、帰ってきたときは

高町は真っ白に燃え尽きていたり。その後、やっぱり俺も説教されたり。



 寝るときは一応、クロノとユーノと同室だったのだが、俺は姉ちゃんに連行されて一緒に寝るハメになったり。

 朝起きたとき、俺がいることに気付かなかったフェイトさんが下着姿になってしまい、そこで気付いて一悶着あったり。

 そのことでクロノにチクチク嫌味を言われ、ユーノからは羨ましそうな目で見られたり。

 周囲の散策に出かけた時、ユーノに頼まれたので高町と二人きりになれるように工夫したのだがどうにも上手くいかなかったり。

 渓流釣りに初めて挑戦したところ、俺も3匹釣れたし他の人もそこそこ釣れたのだが、なぜかクロノは坊主だったり。

 高町とフェイトさんが昔戦ったという古戦場巡りに付き合わされたけど、正直どうでも良かったり。

 俺のテキトーな態度にちょっとムカついたらしい高町が睨んできたので、ヘッと笑ってやったらまたデバイスを構えたので、よし、

ここなら遠慮なくやれるな川の中で岩魚と競泳させてやると言ったところで、八神がシャマル先生と共にえーかげんにせえと強制的に

止めに入って来たり。





 その夜の宴会で、大人たちから恋バナを振られたのだが、ユーノ以外は誰も反応せず、詰まらないわねえと呆れられたり。

 わーユーノ君て好きな人がいるんだー誰なのー?と高町本人から問われるユーノが余りにも哀れでかばってやったり。

 こうなったらいっそこの場で言うか・・・とテンパるユーノを息を呑んで見守るが・・・結局やっぱり言えなかったり。

 マーくんは気になる子とかおらへんのーと八神が聞くのでいないと断言したら何かすげえ不機嫌になったり。

 大人たちは酒が入って子供たちを酒の肴にしようとして、それじゃあ結婚するなら誰か、この場から選べとか無茶振りしてきたり。

 この場にいる人間限定、絶対に一人は挙げることと厳しく命令されてしまったり。


 クロノは調子良く、やっぱり桃子さんみたいな人がいいですねーとかわしたが士郎さんに睨まれていたザマァw

 ユーノは頑張って、な、なのはかな・・・と言ったのだが、本人はへーって言うだけで反応薄いし。

 俺はちょっと考えたが、やっぱり八神かなと呟くと、八神の機嫌は超良くなったみたいだったり。


 しかし姉ちゃんが、私マシューと結婚する!と抱きついて来たのでなんかまた・・・姉弟だしそれは無しだろうと大人たちから突っ込み

が入ったのだが、姉ちゃんは一切異論を受け付けず目がマジで・・・なんか怖くなったり。

 月村さんは、うーん敢えて言うならクロノ君かなーマジメそうだしと堅実な答え。クロノ顔赤い面白いw


 フェイトさんは、あわあわと慌てて色々考えたようだが、恭也さんみたいな人がいいかも・・・と顔を赤くして答え、その余りの萌え

に恭也さんも顔を赤くしてしまい、隣の忍さんの機嫌が急降下していた。俺とかは、恭也さん忍さんの二人は昔から仲の良いカップルと

しか思って無かったのだが、実はちゃんとまとまるまでは紆余曲折があったそうで、「高町恭也のハーレム伝説」というのは知る人ぞ

知る凄まじいものだったのだと忍さんがグチりだしたり。なかでも強敵に金髪美女がいた、まだ油断できない、あんた恭也そんなに金髪

が好きなの!とか・・・

 なんか理不尽な言いがかりをつけられる恭也さんを皆が生暖かく見守り・・・事実上見捨てたりw



 八神は、しゃーないな、この場から選ばんとあかんのやったらマーくんで妥協したるかと偉そうだ。

 高町は・・・お父さんがいいーと士郎さんに抱きつき、士郎さん感涙・・・ダバダバと泣いていた。





 あーなんとかユーノ君がいいかもとか言わせてやりたかったのだが・・・ユーノは既に諦めた表情だ・・・

 男3人の部屋に帰ると、ダメだ! 僕はダメだ!と打ちひしがれたユーノがいたり。

 まー気にするなよ、高町自身がまだ子供なんだよ、これから気長に攻めればいいんじゃないかと慰めたり。

 そういうお前は八神はやてと良い雰囲気なんじゃないかとクロノがうざかったり。

 クロノは本当はそういう人いないのかと逆襲するも、別にいないとあっさりしてて詰まらなかったり。

 一体どうすれば、なのはに分かってもらえるんだ!と苦悩するユーノを慰めるも、そのうち面倒になってきたり。

 告白すればよいだろうとクロノが断言するも、それを聞いたユーノは苦悩が深まるばかりだったり。

 まー面倒だし寝るわ・・・あっさり眠りについたり・・・






 まあ色々あったけど、楽しい旅行でした。













(あとがき)

4月1日のうちに書いておきたかった。冗談優先の話を・・・

今後どういうふうに繋がっていくのか時間軸はどうなるのかとか

一切不明五里霧中です。とりあえずこれをノリで書いただけっす・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十二話  中学生日記2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/03 18:30
マシュー・バニングスの日常    第三十二話






△&年○月%日



 中1の夏休みにあった話をしよう。





 その前に・・・

 そもそも俺は内科医であり、若くしてリンカーコア治療の権威である。ゆえに勤務地は病院か研究室が基本である。

 前線に必要とされるのは、何よりも外科医なのであり、内科医まで呼ばれるなんてのは・・・いわば戦地病院を作る必要性があるほどの

大規模な作戦行動のときしか、ありえないと言える。つまりメッタに無いのだ、本来は。




 第23?だったかなの管理世界でロストロギア由来の大災害が起こり、星全体が地震と津波で大いに掻き回されて、現地政府が機能

不全に陥ったばかりか、そこの管理局の支部も海沿いにあったため完全に水没して、星全体が大混乱という大事件が起こった。その星の

人口は全体で億程度だが、これは次元世界の人口密度から言えばかなり多い。地球と比べればそうとは思えないが、この点では異常に

人口密度が高いのは地球のほうなんだよな。とにかく結構、人口も多い立派な管理世界で、恐らくは一千万人レベルでの死者が出て、

負傷者は算定不能、ほとんど一つの世界の終わりといってもよい惨状だった。ロストロギアってのは全く・・・



 秩序は失われ治安も低下、まずは武装隊が乗り込み、拠点を築いて、そこを中心とした強引な治安維持を始めたそうだ、が・・・




 実はこの星は、大麻に似た特殊な薬用植物の一大生産地でもあった。しかしそれは高価な薬品の原料となり、非常に高く売れるので、

薬物を悪用しようとするものは常に極少数だった。しかし裏に流せば、表で売ったときよりさらに何十倍もの利益を荒稼ぎできる可能性が

あるので、犯罪者は絶えなかった。



 で、未曾有の大災害により治安が悪くなったことで、次元世界中の麻薬関係の犯罪組織が、我も我もと凄い勢いで乗り込んできたと

いうことなんだな。備蓄倉庫はあらゆる場所にあり、もともと結構頑丈で地震と津波に耐えたものも多く、そこを見つけて中身を頂けば

正に一攫千金だったとか。


 そういう連中を管理局は取り締まろうとしたが人手が足りない。敵は星中に分散して好き勝手にやっていて、強い魔道士の反応とか

あれば速攻で隠れて決して戦わず、過ぎ去ればまた出てきて現地の一般人に迷惑をかけ、薬物を強奪していた。




 治安回復まではどんなに早くても10年はかかるだろう・・・というのがどうにも希望の持てない見通しだった。





 余りにも大規模な事件だったために、あっちこっちから人手が掻き集められた。

 だからそこで俺と高町が出会ったのは、間違いなく偶然である。




「あれ?」

「あれ? マシュー君?」

「そっか、次の定期診断をずらして欲しいって言ってたのは、これか。」

「うん。マシュー君も来ていたんだね。」

「夏休みだし、臨時の予定だから、まあいいかなと思ってな。そっちはどうだ? 犯罪組織退治できてるか?」

「なかなかね・・・そっちはどう? けが人は少ないと思うんだけど・・・」

「現地の人たちで病気になってる人が多いな。そっちの治療が主。早く治安回復しないともっと増えると思われる。」

「そっか・・・無理も無いよね・・・」

「大災害、故郷も家屋敷も壊滅、そこに犯罪者の群れが襲ってくると来たら、病気の一つもするってな。PTSDの人も多いし、正直

言うと、このままでは手が足りないし、なんつーかもっと悪い方向に進みそうっていうか・・・」

「うう・・・何とか犯罪組織を捕まえるだけでもしたいんだけど・・・隠れるのが上手くて・・・」





 実は、この星には裏では、犯罪組織たちが勝手に決めた「縄張り」があったそうだ。

 互いに協定を結んで、その中のものは全部いただく、ただし他組織の縄張りは侵さない。

 で、時空管理局が出張ってきて治安回復し始めた場所は、丁度、3つの組織の縄張りが周囲を取り囲む形になってたそうだ。

 犯罪者たちは鬱陶しくてたまらない。星の裏側を縄張りにしてる同業他社は大もうけしてるってのに、自分たちの所はやりにくい。

 だから最初は、この3つの組織が組んで、管理局の拠点への破壊工作を試みることになった。

 だが、丸儲けしてる同業他社を許せなかった彼らは可能な限り多くの組織を巻き込むことに成功し・・・

 星に展開していた組織のうち6割近くが、精鋭武闘派を集結させて、管理局の拠点を襲撃するという計画になったそうだ。



 襲撃し、混乱させ、体勢を整えなおしてる間に、こっちは好きなように動いて、いただけるものは全部いただく。

 その上で、そろそろ旨味のなくなってきたこの星からは一斉に逃げる。

 補給艦が来て、人員交代とかして帰った後が狙いだ。実戦が起こらないので武装隊の人数は減ってきているようだし、まだ現地に

不慣れなスタッフが多い時点で一気にカタをつける。

 彼らの計画はそれなりに精妙であった。



 管理局の通信を妨害するジャミング設備は大量にあったし、質量兵器使いのエキスパートから、裏の世界のはぐれ魔道士など、

人員も豊富。管理局拠点には強力な魔道士は実は数が少なく、なによりも人手が必要だったので低レベル魔道士が多い状態だった。

低レベル魔道士は質量兵器でも対抗できることが多く、高レベル魔道士も数をそろえて囲めばなんとかなる。場合によっては民間人を

人質に取れば何もできなくなるだろう・・・








 襲撃の夜。

 一番初めに気付いたのは、やはり俺だった。

 普段は、多少何かに気付いても何も言わない。管轄が違うし、向こうには向こうのやり方がある。


 しかしこれは・・・


 魔力迷彩をしながらじりじりと接近してくる推定Bクラス程度の魔道士、実に18人?

 推定Aクラスも3人、さらにAAクラスぽいのも一人いるぞ?

 さらに見るからに物騒な銃やナイフに、大口径のハンドキャノンを抱えた特殊部隊ぽいのが40名?

 これはいかん。しゃれにならん。敵は本気だ。

 俺自身の体調の安定と共に索敵範囲も向上していたので・・・3~5キロの範囲内に敵が分散して接近してきてるのが分かる。

 だが範囲外にもまだ敵がいないとは限らない・・・むしろ今、見えてるのは最初に奇襲して混乱させるための尖兵か?





 確かこちらの戦力は・・・いかんC以下の魔道士なら100人単位でいるが・・・ほとんどが医療系とか補助系の人で、地域の人たちの

生活福祉向上のための要員だ。戦闘訓練など受けていない者ばかり。はっきり言えば魔力攻撃の無い地球のプロの軍人相手でも、なんの

抵抗もできずやられるレベルの・・・つまり民間人に等しい・・・10対1でも負けるだろな・・・


 管理局員だが魔力とか無い事務系スタッフは何百人もいるし、今、この基地周辺に臨時に出来てる現地の皆さんの仮設住宅の町の人口は

数万人ってとこで、この人たちを守るには・・・


 肝心の武力は・・・第8武装大隊が派遣されてきてるのだが・・・


 そもそもミッド世界は魔法至上主義で、優れた魔道士は全てを解決するみたいな考えがあり、だから少数精鋭主義でもあるわけなのだ。

小隊は10名、中隊は二個小隊以上、大隊は二個中隊以上って構成なんだが、つまり大隊は最低でも40名以上って計算になるべ? 

そして実際の編成だともっと人数が多くなるはずだと思うだろ? ところが違ーう。それがミッド社会クオリティだ。人数ではないのだ、

魔力なのだ、高ランク魔道士がいるかどうかなのだ、そっちのほうが重要なのだ、ってことになってるのだ。優れた魔道士がいるならば

人数はそれほど必要無いとされるのだから・・・AAA+の高町なんていた日には・・・


 つまりは大隊とは言っても30名くらいしかいないはず。さらに平均ランクはB-程度かな。ランクは大隊長でA+程度。他にAは3名

くらいはいたかな・・・人数だけなら敵より上だが・・・奇襲されれば危ない程度の差しか無い。


 こんな危険な場所になぜこれしかいないのか? その理由は簡単で、実際の戦闘に至った事例がここまで皆無だったのだ。犯罪組織は

逃げ隠れするのみ。管理局に正面から楯突こうなんて誰もしなかった。だから最初の頃は何倍も人数多かったのだが、余りにも戦いが

無いので人員交代の度ごとに武装隊の人数は徐々に減らされていき・・・そして現状に至るってわけだ。その代わりに医療とか補助の

スタッフがどんどん増えてるんだけどね・・・





 上の人のやることと言うものは全く・・・とグチを言っても仕方が無いな。どうもこの星の復興は武力よりも補給が重要だと考えた

らしく、補給だけは有り余る量を送ってきてくれてもいるわけだし・・・それで現地の人たちを元気にして、現地の人たち中心で復興

するって方向性自体は間違っていないわけでもあるし・・・そもそも管理局ってのは別にこの星の治安維持義務があるってわけでも無い、

多次元指名手配を受けた犯罪者がいるって報告も無いし、災害の原因となったロストロギアも既に消滅が確認されてて暴走させたバカは

それに巻き込まれて死んでいる、部隊派遣と復興支援も実は正式な要請を受けてのものではない、なにせ現地政府が機能してないので、

麻薬関係の犯罪者が跋扈しているのは問題だが連中はタダのコソ泥でしか無かったってのがこれまでの評価だし・・・



 色々あるが結局は、間が悪かったというか運が悪かったというか・・・今この時にここに居てしまってることが。




 まあそれはともかく・・・




 しかしどうするか、俺以外は気付いていないだろう。

 俺は医者として圧倒的に有名であるが、魔道士としての腕前はあまり知られていない。

 俺の常軌を逸した探査技能を今から一から説明してる・・・ヒマがない。

 説明せずとも分かってくれて、動いてくれるのは・・・





 俺は深夜の高町の部屋に無断で転移した。

 すぴーすぴー言いながら気楽に寝てやがる。

 なんかムカついたので驚かせて起こしてやろう。



 枕もとのサイドテーブル上に置かれたレイジングハートを、簡単に手の届かない位置までずらして、と。

 ゆっくりと高町の肩を掴み、押し倒すかのような体勢で・・・

 頭突きしてやった。


 ゴン!



「起きろ高町。」

「ふえ?」

「起きろ、ただし騒ぐな。」

「ふえええ! な、なにマシュー君、いきなり大胆過ぎない? 私マシュー君のことは嫌いじゃないけど、でもそういう対象としては

見れないって言うか、ああっ。何するの? 離して、ああレイジングハートが遠くに! ずるいよマシュー君はいつもずるい!」


 混乱する高町にさらに顔を近付けてやる。


「ダメ、ダメだってば。落ち着いてマシュー君、そんな勢いでなんて・・・」


 顔を赤らめてイヤンイヤンしとる。アホか。なんか微妙に押せば行けそうだから怖いな・・・なんであのオコジョは押せないのか・・・




 まあそんなことを考えてる場合でなくて・・・


「落ち着くのはてめーだ、バカ町。まずは起き上がれ。」


 肩を掴んでよっこいしょと上体を起き上がらせる。

 高町は掛け布団で体を覆って、なんか赤い顔してる。まだ落ち着いてないな。


「まず水を飲め。」


 といって水差しからコップ一杯の水を汲み、飲ませる。食えとか飲めとかの俺の命令には条件反射で従うレベルになってる。入院中に

徹底的に調教してやったからな。


「いいか良く聞け。

 これは今の段階では俺しか気付いていない。

 俺の探査能力は知ってるだろう。

 この拠点を中心として、半径3キロから5キロの範囲内に、敵対勢力と思われる魔道士が22名、質量兵器で重武装した兵士が40名、

ここを目指してジリジリと近づいてきている。

 今のペースだと実際の襲撃まで2時間から3時間ってとこか。」


 俺の言葉が進むにつれて、高町の目はすぐに真剣なものに切り替わった。


「通信ジャミングも確認した。軌道上に待機している航行艦にも、ミッド本国にも通信は通じないだろう。

 敵は一気に決める気らしい。」

「ど、どうすれば・・・そうだまずは報告しないと・・・」


 高町は色気の無いパジャマから着替えることもなく、その上に直接バリアジャケットを展開。慌ててるな。



「報告するのは良いんだが・・・これは俺の探査能力によって分かったことで、俺以外には誰も気付いていない。説明に時間がかかる。

 できればその前に一気に、カタをつけてしまいたいんだが。」

「そか・・・方法はあるの?」

「俺には敵が全員『見える』。俺の誘導で高町が撃てば絶対に当たる。お前には見えない距離からでもな。」

「分かったよ。ちょっと待って・・・緊急事態だから念話報告で許される範囲だから・・・大隊長に連絡・・・」



 ちなみに高町はダントツに強いため、小隊指揮などの指揮系統からは外れて大隊長に直属し、遊撃任務が主だそうだ。襲撃などの緊急

事態においては独自の裁量範囲も大きく、報告義務さえ忘れなければかなり自由に動けるとか。うーん魔法至上主義だなあ・・・


 敵を独自に捕捉したので迎撃します、大丈夫です出過ぎたりしません、基地内から砲撃して退けます、緊急事態ですとだけ高町は念話で

伝えたらしい。詳しい報告をしろと言われて揉めるのを予想してたのだが意外とあっさり終わった。


「もう報告終わったのか?」

「ううん。詳しく話せって言われたけど、時間無いからってこっちから切った。今はそれどころじゃない。私が後で多少怒られること

よりも、皆を守るほうが大事だよ!」

「そか・・・」


 組織人としては出世しそうも無い考え方だが、まあこれが高町か。


「行くぞ。」

「うん!」









(あとがき)

なのは&マシューの初タッグ戦でございます。

意外と長くなって次まで続いてしまいました。

完全オリ話なのでドキドキです・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十三話  中学生日記3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/06 20:48
マシュー・バニングスの日常    第三十三話





 空は曇り、月も無く、わずかに仮設住宅の町から漏れる光はかえって闇を深くする効果しか無い深夜に・・・

 比較的高い建物、臨時病院の屋上に、二人の姿が唐突に現れた。

「うーん、前より速くなってない?」

 と問いかけた少女は、白を基調としたスクルーガールファッションを身に纏い、茶味がかった色の髪を両サイドで括っている。

「コンマ一秒以下でも発動速度を上げるため、転送は改良を繰り返してる。」

 答えた少年は、灰色のローブに黒い短髪、右手に身長よりかなり長い焦げ茶色の杖を持っている。

「なんでそこまで・・・」

「俺は当たったら終わりなんだよ。回避命だ。当然だろう。」

「そもそも戦わないでしょ。」

「もちろんだが・・・残念ながらこういう局面に現実問題、巻き込まれてるしな。」

「そだね・・・」


 目つきの鋭い・・・というか若干悪いような少年、マシューはさらに目を細めて意識を集中させ・・・

 トンッ。

 とサウロンで一回地面を叩き・・・

 彼の体から発せられた、恐ろしく薄い魔力波は、至近距離にいた少女にすら、ほとんど何も感じられないレベルだった。


 マシューは一瞬で周囲数キロを「視て」・・・


「質量兵器の方がやばいな・・・彼らの武器の射程距離内にそろそろ入るかも知れない。ハデに打ち込んで混乱させるつもりか。

一般人を巻き込むとか全然気にしてないな。そうされてしまえば間違いなくパニックが起きる、こちらの戦力はさらに激減・・・

 だがこの連中は魔法防御は出来ないから・・・」

「どうする?」

「林とか利用して微妙に隠れてる・・・まっすぐ撃っても・・・よし、誘導弾を出してくれ。まずは十発で良い。待機状態で。」

「分かった。」

 なのはは一瞬で魔法を展開し、周囲に桃色に光り輝く魔法の弾が10個、浮かび上がる。

「これ、威力はどのくらいだ? 一日くらいは寝込ませること、できるか?」

「魔道士じゃない人なら、二日は寝込むよ。」

「上等だ。」



 さてと・・・



 俺はサウロンを高町の出した誘導弾の一つに向かってかざし・・・制御を奪った。

「えええ? なんでそんなことできるの?」

「既に結界張ったの気付かなかったか。魔力の制御に干渉する結界だ。」

「ああ・・・前にマシュー君にボコボコにされたときに見たやつの・・・さらに応用版かな。いつの間に・・・」

「さっき地面叩いたときだよ、まあそれはいい。行くぞ!」



 目視されたら効果が下がるよな・・・まずは思い切り、誘導弾を振り上げる・・・上空一キロとかまで持っていって・・・待機させな

がら、二キロ先の質量兵器部隊を確認・・・ふむ、まずは先頭の狙撃銃ぽいの持ってるやつに頭上から・・・えいっ、と。んでガツンと

頭頂部直撃。即意識不明。視認出来る速さではなかったはずだが・・・よし混乱してる。今のうちに・・・


 そっからは事務的な作業であった。

 高町が弾を出す。俺がコントロールを奪い、手加減なしに数キロ先の敵にぶつける。その繰り返し。

 10分足らずで、敵の質量兵器武装部隊は全滅した。

 視界が悪いのが彼らにも災いしたな。ほぼ何も分からないうちに、一瞬、光っぽいものが見えたと思ったら仲間が倒れたって認識しか

出来なかったはずだ。



「ふむ・・・敵の統制が乱れてきたな。混乱してる。何人か勝手に退却しようとして・・・ダメか、帰ってくれない・・・

一番強いAAくらいのやつが近づいて無理やり引き戻してる。

 次は魔道士相手だ。頭から叩く。AAクラス魔道士のバリアジャケットを確実に貫通させることのできる砲撃はあるか?」

「あるけど・・・距離はどのくらい?」

「こっちのほう、3.2キロってとこだな。」

 何も見えない真っ暗な空間を指す。高町にはもちろん何も見えないだろう。

「3キロ以上か・・・ちょっときついなあ・・・」

「そっか・・・まあいい、俺が何とかするから、気にせずにこっち向けて適当に撃ってくれ。」

「ほんとに大丈夫?」

「任せとけって。」

「じゃあ・・・確実に倒さなくちゃいけないし・・・」

 ガシャン。カートリッジ入れたよこの人、格下相手に。

「いい?」

「よし・・・撃て!」

「ディバイン・バスター!」

「攻撃転送!」



 単に制御を奪うのと比べれば、こっちの方が少々きつい。だけど十分行ける範囲。



 敵のAAクラスの強力な魔道士の後ろにいきなり出現したディバインバスター(カートリッジ増幅付き)は、彼の後頭部に直撃。

 うわああ・・・痛そう・・・

 至近距離から食らったのに近いしな・・・非殺傷設定とはいえ、ホントに生きてるだろうか・・・


「よし、あと21人。21発頼む。方向は同じでいい。」

「了解! いくよ!」


 また単純作業であった。どこから撃ってきているのか分からずに大混乱に陥る敵の魔道士部隊は、15分で全滅した。

 最初の5人くらいは後頭部直撃を食らわせたんだが、警戒してジタバタ動くようになったもんで、狙いが微妙にずれたりして・・・

それでも何とか後数人ってとこまでは頭にガツンと食らわして・・・警戒してても当たるもんでパニックになったらしいそいつらが、

頭をガードしつつ全力で逃げようとするもんで・・・同じ男として忍びなかったが・・・残存した3人は股間に高町のディバインバスター

を直撃させて貰った。だって上と後ろばかり警戒してて下がガラ空きだったんだもん。別に後悔はしていない。

 大人しくしてれば後頭部に食らうだけで済んだのになあ・・・

 しっかし至近距離から高町の収束砲なんてもの食らえば、果たしてどうなるんだろうな・・・あとで被害状況を調べてみよう。

特に最後の3人は敵ながら哀れ過ぎるし・・・



「終わり~。よし、敵さんが気絶してる位置データだけ、レイジングハートに送っておくわ。武装隊で確認にいってくれ。」

「え? マシュー君は来ないの?」

「管轄が違うし、俺はあんまり魔道士としては、名前が売れたくないんだよ。せっかく医者で平和に暮らしてんだから。」

「そっか・・・」

「完全に黙ってろとは言わないけどさ、できれば俺のことはぼやかす方向で努力してくれると嬉しい。」

「うん。」


 部屋に帰り、ベッドにゴロン。

 ん~少々疲れたけど・・・まあそれ程でも無いな。俺の体力は確実に向上してる。

 そういや前に高町の砲撃を転送したときは面白かったな・・・とか思い出しつつ、俺は眠りについた。



 この頃になってやっと基地の中がバタバタし出して、高町も大隊長に結果を報告に行ったようだ。

 俺も行くべきだったかな~とちょっと思ったが・・・管轄が違う人間があんまりしゃしゃり出るのもあれだし・・・

 聞かれたら答えるってことにしとこう・・・




 翌朝、基地はちょっとバタバタしてたが基本的に平和であった。

 どうも大隊長は高町の報告に半信半疑だったようだが、高町と武装隊が夜のうちに、実際に気絶した連中を捕獲してくると納得するしか

ないわけで。全員きれいに気絶して、目覚めそうも無かった。いやあ高町の砲撃は凶悪だなあ。

 高町は結局、俺の探査魔法は凄いってことだけは言ってしまったそうだ。自分はそれを知っていたが他の人は誰も知らない、事態は

一刻を争うものだったから、独断で彼の協力を得て攻撃してしまった、すいません。

 軽い叱責はされたようだが、元から迎撃なら独自判断が許される立場だし。


 後で調べたら、どうも敵の質量兵器には、広域破壊用の焼夷弾が多数ありそれを打ち込まれれば仮設住宅の被害は計り知れないものに

なっていたらしいとか、Bクラス程度の魔道士のジャケットを貫く可能性がある特殊な対魔道士砲なんて物騒なモノまであったそうで、

いち早く対処した高町の判断の正しさが見事に証明されることとなった。もしも拠点まで攻め込まれていたら、町はあちこちから出火して

大混乱となり、それを収拾するのに人手を取られたのは間違い無く、そこに襲ってきた敵の魔道士に気を取られたら、後ろから質量兵器

で攻撃されて、武装隊にも甚大な被害が出た可能性があったとのこと。

 それを一晩で一人で壊滅させてしまった。さすがエースと持ち上げられて高町は居心地が悪そうであったが、俺はしらね。


「なんか気分悪いよ・・・ほんとはほとんどマシュー君の力なのに・・・」

「いやあ俺にはあんな砲撃撃てないし。まあ協力して倒したってことでいいんじゃね?」

「それだったらやっぱりマシュー君にも何か、報奨が無くちゃ・・・」

「いや、魔道士として有名になるのは勘弁してくれ。俺は医者だ。」

「ううう・・・」


 大隊長さんにちょっと話を聞かれたが、まあ探査は得意なんすよ~って適当に言っただけ。詳しい話を聞きたがってたが、病気の人が

多いのでまた今度と逃げる。病人多いのは事実だしね。




 捕まえられてきた連中は、それから4日も目を覚まさなかった。やはり至近距離から当たったからかな・・・

「桃色の光が・・・」

「どこだ! どこから撃ってる! うううあああああ・・・」

「助けてくれ! 桃色の砲撃がああああ・・・」

 彼らの寝言である。確実にトラウマになってるな、これは。


 そうだ、例の不幸な3人だが・・・うん、潰れてはいなかったよ、うん、実に良かった。トラウマで立たなくなるかもとか・・・

いやあ、人の心の問題にまで踏み込んで、過剰に解決しようとか思うとロクなことにならんのよ。そこは気にしないのだ。



 そういや、いつの間にか通信妨害が解けていたんだが・・・

 後で知った話だが、実は奇襲部隊以外にも、作戦が成功したら乗り込む予定の略奪部隊とか、奇襲部隊の動向を見守る監視部隊も、

これは俺の索敵範囲外にいて、彼らが通信妨害も担当していたそうだ。彼らは戦況をじっと見守り・・・味方が何も出来ずにただ一方的

に蹂躙されていくのを見て冷や汗ダラダラだったそうだ。

 今は見つかってないが妨害魔力波なんて分かりやすいもの出してれば、そのうち確実に気付かれる、全滅する前に切ったとか。

 その後、あれは勝ち目無いわと最寄の縄張りの犯罪組織から漸次、撤退していき、意外と治安回復は早く済んだ。

 高町の砲撃の恐ろしさは、一つの星の平和を取り戻したのだった・・・





△&年○月△日


【最強】第23管理世界の復興を祝うスレ  Part.8【無敵】

8 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 今回は管理局GJ!
 文句なし、いい仕事したわ!

10 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 実際に活躍したのは第8武装隊らしいお
 現場丸投げ変わらず
 偶然うまくいっただけだろJK

11 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 アンチって文句言うだけだから楽だよな。ニートは黙ってろ。

12 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>11  つ「鏡」

13 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 まあまあ餅付け。現場の第8武装大隊が主に活躍したってのは本当らしいが、補給部隊も充実してて物資が大量に送られてたってのも
事実なんだわ。公平に見て、今回の管理局は良くやったと思うよ。

 しかし第8の中の、例の噂の空のエース・・・まだ若い女子らしいが。なんでも100人くらい一人でなぎ倒したとかな。
 ランクAAAってのはどんだけ化け物なのかとw

14 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 漏れは200人と聞いた。
 あとランクはS-くらいじゃ無かったっけ?

15 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 空のエース、高町なのは空曹長の画像集はこちら!

 ttp/nanoha/love.PHOTO.XXXXXX

 AAA+の魔道士でありながらこの可憐な容姿! あらゆる種類の静止画が揃っています!

16 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>15
 ちょ、おまwww 実名出して階級出して肖像権侵害しまくってwww
 それシャレならん、捕まるぞオマイwwwww

17 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 やべえマジ盗撮か・・・飛んでるの下から狙ってスカートの中見えてるのは・・・おいおい犯罪杉・・・

18 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 それを誰よりも早く見つけた>>17が一番変態なんだけどなw

19 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 その後>>15の姿を見たものはいない・・・
 まあアホは置いといて、彼女の愛称でも作ってみてはどうかと提案

20 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 そして>>17もいなくなった・・・
 愛称っつうか二つ名みたいのあるといいかもめ

21 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 いやマテ、俺は>>17だが、断じて変態では無い。偶然だ偶然。

 彼女は普通にエースとかで良いだろ。

22 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 天使だ。ほかに無い。

28 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 いや百名くらい一方的に蹂躙したって言うし、どっちかと言えば魔王様とか。

35 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 敵から見たら悪魔なんだろな。空の悪魔、白い悪魔、魔王様、冥王様・・・とか既に呼ばれてるらしいお

40 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 管理局の白い悪魔か・・・なんか語呂がいいかも

43 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 天使だっつってんだろが!

51 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>43
 ロリコン自重しろ。全くロリは>>17だけで十分だっつうの。
 俺は魔王がいいと思うぞ。冥王もいい。

53 17だが断じてロリではない   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
 違う・・・違うんだ・・・俺は普通に成熟した女性が好きです・・・

55 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>53
 そしてお前にとって中学生は成熟した女性なんだろ。

57 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>17は間違いなく、あの違法画像保存してるんだぜww
 ちうがくせいのパンツみて喜んでる>>17がロリ以外のなんだとwww




 ミッドのネット世界に存在する巨大掲示板「Xちゃん○る」。

 ここでも少しずつ高町=魔王と認識され始めているな。

 どうするか・・・俺も魔王だと思うと煽るべきか・・・あの戦いで俺の情報も少し漏れてしまったしな・・・高町を目立たせて、俺は

目立たないようにするとか出来るかな・・・それにしても果たして17はロリなのだろうか・・・

 とかアホなことを考えてたら・・・



 八神に見つかって、即、高町にも情報が流れてしまった。しまった八神の家だったのを忘れていた。

 あんまりじっとPC見詰めてたから不審に思われたか。

 断じて俺は書き込んでいないと必死に主張したのだが疑いの目で見られる・・・

 結局、八神とリインがログ調査とかして無実を証明してくれたものの・・・

 高町の疑惑の目は晴れず・・・



 ポロっと

「私にあんなことしといて・・・」

 とか言い出したところで話がさらにややこしくなった。

 ちなみに位置関係は、俺の前に、高町の映ってるディスプレイ、そして俺の後ろに八神。その後ろにリイン。

 高町の微妙な発言を受け、なんか八神の周囲から冷気が・・・

 そして高町は怒った顔のまま、いきなり通信切りやがった。


「マシューさん、あんなことってなんですか~?」

 リインが首をかしげて質問してきた。

「いや、ちょっと驚かせただけなんだけどなあ・・・」

 うん、そのはずだ・・・

「へ~・・・とてもそうは思えへん言い方やったけどなあ・・・」

「えと・・・八神さん?」

 いつの間にか八神の距離が遠ざかり・・・こっちに背を向けてる・・・

「ほんと何も無かったよ? っていうか俺が高町に何かする? ありえんありえん、絶対ありえんし。」

 言い訳じみた口調になってるような気がする。

「ほんまかな~・・・」



 何を言ってみても、八神の機嫌はなぜか微妙に悪い状態が・・・二週間ほど続いてしまった。

 最終的に、シャマル先生のアドバイスにより、週末に俺が八神のとこに寄る時に、いきなりちょっとした花束をプレゼントするという

作戦によって、今度はいきなり機嫌が良くなったのだが・・・



 相手が八神なら・・・出来る限りのことはしようと思うわけだが・・・

 中学生になってからこっち、どうも昔よりも扱いにくくなってるような気がするなあ・・・これが思春期ってやつか・・・

 でもまあ昔は俺は八神に気を使われるばかりだったし、こちらから気を使えるくらいの状態になったのは良いことだな、うん。







(あとがき)

なのは&マシュータッグの第一戦は圧勝ですた。あんまり簡単に勝ってしまうためXちゃんネタを持ち出したら長くなったかも。

4/6にちょっと修正。あんま変わってない気がする・・・

うーん・・・次の話から・・・ちょと暗くなるかも・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十四話  中学生日記4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/09 06:16
マシュー・バニングスの日常    第三十四話








△&年○月X日



 夏休みは例の事件に、八神の機嫌を直すので終わり・・・二学期になってしばらくしてだったかな。



 地上本部の病院での出来事なんだが・・・


 ナカジマさん一家って人たちが診察に来たんだわ。


 お父さんはゲンヤさん。お母さんはクイントさん。娘さんは上がギンガさん、下がスバルさん。ギンガさんで俺より2つ下くらい?

スバルさんはそれよりさらに二つ下。娘さんは両方ともお母さんそっくりで、とても仲良さそうな一家であった。


 しかし中島源也さんに、中島銀河さん、中島昴さんと来たか・・・まるきり日本人だな、おい。ただしゲンヤさん自身、先祖が日本人

らしいとしか知らないらしい。それでも日常生活の習慣などに日本人ぽい部分が残ってたりするそうだ。



 ゲンヤさんは八神の教官だったこともあり、八神も日本人、微妙に思考法とか似てる部分があって互いに取っ付き易かったそうで、

今回、俺のところに来たのも実は八神の紹介によるものだ。ナカジマさんご夫妻は地上勤務の陸士部隊だそうで、それも前線での激務に

耐えてる最も消耗の激しい位置にいるそうで・・・それを八神が心配したというのが理由の一つ。



 リンカーコア障害治療部がある海の本局と違ってだなあ・・・陸は事実上、俺が出張してきてるみたいな本部病院内科第3課、つまり

ここしかリンカーコアの最先端のケアは受けられないのだ、そして海と違っていろいろ充実していないので、陸の人たちはここの予約を

取るのは非常に大変なのだ。この人たちが優先されて診察を受けに来たのはちょっと事情があって・・・まあ早い話が八神に頼まれたん

だけどね。どーも事情が色々あって・・・まあそれが無くとも、実働部隊で消耗してる人を治療することは俺の本意でもあるし。



 だがまあ実際には、ご夫婦はお二人とも非常に頑丈で・・・リンカーコアに日常的な消耗はあったものの病的な部分は無く、あっけない

程に健康であるってはっきり分かっただけであった。それでも一応、念のために、一通り体内の走査・微細治癒などを施し、「未病」の

状態をも解消させると・・・普段から体を使ってる人たちだからだろう、驚くほどに楽になった、疲れていたと気付かなかった場所まで

回復してくれたのかと大層感動してくれた。しかし奥さんはともかくゲンヤさんの方は大した魔力は無いし・・・指揮官タイプの人か、

なるほど八神の知り合いって感じだわ・・・ちなみに俺の腕は上がっているので以前のような妙な感覚を与えることも無い。



 そして事情ってやつなんだが・・・

 八神によれば「娘さん二人が少し特殊・・・でも何も言わずに診察してやって欲しい」とのことで・・・



 なるほど特殊だな・・・



 体の中が機械だらけ・・・大きな事故にでもあってそうなったのかと思ったが・・・なんか違うな。負傷を取り繕ったなどという感じ

では無い。むしろ最初から肉体を強化することが目的で、改造でも施したかのような・・・筋骨自体の強度が常人レベルでは無い、これは

有機的強化の範囲内なのか?・・・いや機械は機械だ、しかしナノマシンが集合して機械の集合体なのに有機物に近い構造を持ち、しかも

それら機械部分の動力源は・・・信じられんがもしかして糖分か? 血中のグリコーゲンを利用してんのか? まあ糖というのは燃焼する

からそれをエネルギーにすること自体は可能だろうが、それだけでこんな複雑な機械を維持できるものなのか? いや機械部分自体は、

自律的に動くわけでも無いのか、脳の命令と本来の筋肉の動きに従い、動きを補強し、さらに強度自体を上げることに徹してる?・・・

維持するための消化器など内蔵系も強化されてる、消費カロリーとか多そうだな・・・リンカーコアは普通にあるな・・・その周辺は無理

に弄くられたりはしていないし・・・ん~・・・この改造が為されたのは、ギルさんと俺たちでのあの論文が出される前だな・・・あの

論文を読んでれば、肉体を効率よく魔力的に強化するために、こんな単純に機械的に強化するだけでなく、抑えるべきポイントとなる体内

の魔力のツボみたいな部分への干渉を行ってるはず・・・ただ全体で言えば、体内にこれほどに手を入れて機械だらけにしているのに、

見事にバランスが取れていて、日常生活に問題があるとも思えん。なんつーか信じられない程に見事な改造・・・自然の調和と均衡を崩

しているのに、それとは別の調和と均衡を作り出してるんだぞ・・・


 しかしまともな医療行為では無いよな・・・むしろ非人道的な人体改造技術みたいの?


 なんでこんな体なのか・・・しかし見るからに母親そっくりだし、実の親子にしか見えないし・・・

 まあいい。事情は聞かないと約束した。



 俺は、よし問題なし、健康そのものだよ、と娘さん二人に笑いかけて、まず二人を先に帰して・・・

 ナカジマさんご夫婦に向き合った。



「日常生活レベルでは何の問題も無いでしょう。これは保証できます。」

「・・・では、そうでない状況では?」


 ゲンヤさんが真剣な口調で尋ねてくる。


「余りにも高度で専門的な技術が結集していて・・・その・・・正直に言いますと・・・」

「うん、言ってくれ。」

「作った人間、専門のメンテナンス・・・失礼、治療が出来る人間で無くては、いざという時の負傷治療などは困難でしょうね。」

「・・・というと?」

「例えば、腕なども筋骨のレベルから異なり非常に頑丈であるわけですが・・・その腕が失われたりした場合。普通に生きている細胞の

部分から培養して、自然な状態の腕なら再生できるわけですよ。しかしそれは昔の腕では無い。昔の頑強さは失われているだけでなく、

肉体全体のバランスで考えても、いきなり片腕だけが普通に戻ることによる悪影響なども考えられる・・・絶妙なバランスで娘さん方の

肉体は成り立っており・・・やはり専門家で無ければ対応できない部分は多々出てくる可能性があるかと・・・」

「そうか・・・」


 ゲンヤさんはしばらく黙考していたが、そのうち目を開けて、クイントさんと目を見交わして頷き合い・・・


「ありがとう、よく分かったよ。娘たちは俺が守れば良いわけだしな・・・先生、今日は本当にありがとうございました。」

「本当にありがとうね。はやてちゃんから無理言って頼んでもらったって聞いたし・・・」

「いや、いいんですよ。ではお大事に・・・」


 ナカジマ一家は帰って行った。

 ん~たいしたことは出来なかったなあ。

 ていうかあれはもはや医学ではなく工学の領域で・・・

 娘さん二人に一体何があったんだろうか・・・








△&年○月□日




 その日は最悪に気分の悪い日だった。



 まず夢見が悪かった。心臓が止まり全てを失う夢。そして誰もが俺を置いていってしまう夢。



 真っ青になって目が覚めて、心臓が動いていることを確認する。そのとき左手首のリミッターに右手が触れて・・・衝動的にリミッター

を外したくなった。いったいいつまで俺は「誰かのおかげで生かされてる」状態を続けなくてはいかんのだと・・・考えないようにしてる

ことに考えが及び、気分は超鬱だった。



 食欲は無いどころか吐き気がする。バイタルが悪いわけじゃないから心理的なものか。俺はちょっと落ち込んだだけで、ものも食えなく

なるわけか、さらに気分が悪くなった。



 姉ちゃんも今日は朝から出かけていて顔を見ることも出来なかった。姉ちゃんがいてくれさえすれば・・・と姉ちゃんに依存しようと

する心を自覚。いつまでも俺はこのざまか、何の成長も出来ていないんだな、情けない。





 本局病院の仕事に向かったが、朝一で来たのは、どっかの金持ちのしつこい勧誘。ミッド有数の大企業、ランキングはなんたら総資本は

どれだけ、うちに来てくれたら収入は最低でもこれだけ保証します・・・いい加減にしてくれ。それでも研究設備とか整えてくれるなら

意味はあるが、実はこのバカ金持ちは、前に俺が軽いリンカーコア障害を治してやったときに、副次的に及ぼされたマッサージ効果の方に

興味を持ち、それを金儲けのタネにしよう、具体的には金持ちの年寄りをマッサージして儲けようとか・・・アホなことを考えてるだけ

なのだ。その技術を教えてくれたら幾ら、特許登録して登録料も5:5で渡しますとかもう・・・耐えられない。俺は俺の命を保つために

必死に治癒魔法を磨いているのに、こいつには商売のタネでしかないわけだ。俺の探査治癒は簡単に人に真似できるものでは無いし、

それでも俺以外にもある程度模倣できるようになるまで工夫して訓練してとか出来るかもしれないがそれはそれで一つの大仕事だ、大層

手間がかかるだろう。俺はそういうことをしてる暇は無いんだ、何より我が身の治療が出来ていないのだから。



 この男は間違いなく既に大金持ちだ。年も壮年、50くらいで十分元気・・・なのになぜさらに金を儲けるために、俺が俺の命を保つ

ための努力を妨げてまで、自分に協力させようとするのか?  理解が出来ない、いやこいつが理解していないだけか、俺が見た目だけは

健康な状態になったことの弊害、昔を知らないやつは俺を普通に健康だと思い込んでる。だけど仮に健康だったとしても興味が無いと

これだけ何度も繰り返して断ってる人間に、こうまでしつこく勧誘するってのはどうなんだ?!



 しかしこいつは管理局に対しても多大な金銭的貢献をしている大口支援者であるのも事実で、だからわざわざ俺が治す必要も無い程度の

症状だったのに俺が治療するハメになったのであり、それで興味を持たれてしまって付きまとわれてしまうことになったのであり、俺が

どれだけムカついても、こいつを今すぐここから転送してミッドの海中3000mに叩き込むというわけにもいかない。


 だけどもうそうしてやるかと本気でサウロンに手が伸びたとき、また来ますから考えといてくださいね~と一欠けらの誠意も無い営業

スマイルを浮かべて帰っていった。次は殺す。もしもあいつを今度受付が通したら本局病院やめてやる!




 一時間も無駄に取られた・・・もう最悪だという気分のとき、次の人。






 今度は本局の退役提督であった。管理局の仕事とは別にもともと資産家の生まれで大層なカネがあり、孫にカネを奪われたくないから

墓の中まで持っていこうと真剣に考えている恐るべき老人だ。偏屈で、人の誠意も善意も信じない、およそ患者として最悪のタイプだ。



なんだ若造、早くせんか、おい少し痛いぞ、もっと慎重にやらんか、今度は何も感じんぞ、ほんとは何もやっとらんのじゃろう、採血は

嫌いじゃ、全部魔法でやれ、点滴もイヤだ、なんだこのヒモは? センサー? 冷たいぞ。必要ない、はがすぞ文句ないな。はがさないで

くれ? センサーなど必要ないと言っとるじゃろう。若造のくせにわしに逆らうのか! お前なんぞクビにするのは簡単なんじゃぞ!

魔法を使うのは極力控えるのが正しい? そのほうが回復が早まる? バカモノ! 魔法こそが至上である! 貴様のようなヤブ医者に

なにがわかる! わしは管理局の正義のために50年間戦ってきたのじゃぞ! その末に今のこの体がある、刻まれた傷は全て、名誉の

負傷じゃ。医者ふぜいにはわしに意見をいう資格などはない! お前のような病気のつらさも知らんような若造にわしのつらさがわかる

ものか! 健康そのものの若いバカ面をさらしおって! 病気のつらさがわかっていればもっと誠意ある対応をするじゃろう! 

 ほら早く治療せんか! このヤブ医者。



 ああああああ。死んでくれ。マジで死んでくれ・・・


 ギルさんが割って入って、爺さんを連れて行ってくれなかったら、爺さんの心臓止めてたかも知れん・・・





 午前中、最後に来たのは、高町の上司だという、武装局員のおっさんだった。


 俺が渡した座標データとかが凄かったし、探査も確かに腕がいいんだろうから、戦闘魔道士としてのランク取得を考えないかとか寝言を

ほざいてくれた。鬱憤も溜まってて、すんげえムカついたので・・・


 俺のリンカーコア異常と9歳までの半死半生状態だった経歴、心臓停止に、リミッター外したときの出血履歴まで・・・

 徹底的にこと細かく教えてやった。

 青ざめて謝罪して帰って行ったが許してやる気になれん。

 ああいう無意識に皆が健康だと信じてるようなやつがいるから、世の中から病気も怪我もなくならないのだ。

 あのおっさんのリンカーコアが壊れても治療してやらんとまで思った。



 駄目だ、今日は世界全てを呪いたい気分だ・・・




 午後も困った患者ばかりだった・・・つまり俺が直接整形術に成功して有名になってしまったことの弊害であるわけだが・・・金があり

本局病院にコネがある、そういう立場の偉いさんで、大した症状でも無いのにわざわざ俺を指名して無理やり俺に治療させるという困った

人たちばかりが来たのだ。本当に深刻な痛みや障害を抱えている人たちを押しのけてまでやってくるこの手の人種ってのは全く・・・



そもそも年をとればある程度リンカーコアも自然老化するもので若い頃のようには行かないのは当然、その際に昔は感じなかったような

軽い違和感とかも普通に起こるものだし、若い頃と同じような強力な魔法行使をしようとすれば、場合によってはたまに軽く痛んだり

するのも当然。そうだ当然だ、治療もクソもない。年なんだから無理しないでとそれだけしか言えない! その程度の症状とも言えない

状態のを、完全に治せってあんた等、それはあんた等を若返らせろって言ってるのと同じなんだよ無茶苦茶言うな! という旨を何とか

オブラートに包んで四苦八苦しながら表現し、何とかかんとか分かってもらって、その度に「なんだその程度か」みたいな無理解な失望

した表情をされて、そしてそういう人たちばかりが5人も連続で来て、そして午後の診療も終わった!



 死んだ・・・もう嫌だ今日は帰って寝る・・・




 ふらふらと八神の住む教会の一角に向かう。そこにキッチン・寝室・客室複数・居間などがセットになった八神のスペースがあるのだ。

今日は騎士たちはいなかった。暗い表情の俺を見て、気にかけてくれたものの、今は八神の気遣いすら何だか重く感じる・・・


 悪いなと思いながらも無愛想なままで食事を食べ終えて・・・そこに高町からの通話が入った。



 高町は午前中に自分の上司が俺のところに勧誘に行き、無神経な提案をしてしまったと上司が後悔していること、それを改めて謝罪

したいと彼が思ってるので自分が仲介したい旨を伝えてきたのだが・・・生憎俺の気分は最悪絶不調でだなあ・・・



 てめえら健康な連中は病人のことなんて本当はどうでもいいと思ってるんだよな、所詮は全く分かっていない、お前にしても喉もと

過ぎれば熱さ忘れて、また反省の無いハードワークして体を酷使、それが許されると思ってやがる。俺は今でもリミッターを外せば

長時間生きている自信すらない。お前らは健康で、健康であるってだけで無神経なんだよ。ああ謝罪はいい。俺にははっきり分かって

るんだよ。お前には分からない、健康だからってことがな。


 かなり乱暴な口調で感情をぶつけて、通話をぶち切る。うわあ俺最悪だな・・・



「どうしたん? マーくん、らしくないで・・・」


 いつの間にか後ろに回っていた八神に、背中からふんわり抱きしめられた。


「あ~・・・確かにな。高町には悪いことしたな、今度謝らないと・・・」


「なんでそんなに腹が立ったん?」

「・・・今日は最悪でさ・・・いやなことばかり続いて・・・それに俺の体についてもさ・・・やっぱ劣等感は、あるわ。焦りもある。

高町のコアは治せたけど俺のコアは無理だし・・・一体いつになったら・・・」



 俺は他人のコアは治せる。しかし俺が俺に手術するってのはどう頑張っても無理だった。



 八神は後ろから俺を押して、ソファーの近くまで来させると、ポスン、と座らせた。

 そして俺の前に回り、肩を掴んで俺の目をじっと見て・・・


「大丈夫やで。マーくんなら絶対にできる。大丈夫や。」

「・・・根拠ねえだろ・・・」

「私が大丈夫やって言うんやから、大丈夫。」

「なんだよそれ・・・」

 八神は静かに俺を抱きしめてくれた。

 やべえ涙が出そうだ・・・

 少し震えた俺の体を、八神は力をこめてぎゅっと抱きしめてくれた。


 そのまま静かに時が過ぎ、顔を上げた俺は、八神の瞳をじっと見上げて・・・




「はやてー! 出張が思ったよりも早く済んだんだ! 今日の夕飯・・・」

「主はやて、ただいまかえりまし・・・」

 前触れも無く、部屋に入ってきたヴィータとシグナムは俺たちを見て固まった。



 俺は苦笑して八神から体を離し・・・おかえり~とか軽い口調で言うことが出来た。少し立ち直ったかな・・・


 この頃、俺が感じていた怒りと焦りは、実はこれまでは感じたことの無いものだった。なぜなら俺は常に諦めていたから。

 しかし俺も、この頃になってやっと、生きることに執着し、健康でない体に焦るようになってきたのだ。

 これこそ健康になってきた証だろう。

 そのことに気付いたのはかなり後だが。





 八神は俺に体を離されると・・・ニコニコと表面的には笑っているとしか見えないのに迫力があるという不思議な笑顔を浮かべて、

ヴィータとシグナムに問いかけた。


「今日は帰らへんって連絡あったよな・・・」

「も、もうしわけありません!」

「いや、帰って来てくれたんは嬉しいで? でもチャイムくらい鳴らしてから入ってくるべきちゃうんかなあ・・・」

「ご、ごめんはやて!」


 その後、シグナムが苦手な料理を食べさせられてたり、ヴィータの分のアイスまで八神が全て食べてしまったりしていたが、

まあ些細なことである。俺は気にしない。


 今日は厄日だったが、まあ終わりは悪くなかったかな。


 翌日にはすぐ高町と、彼女の上司にも謝れたし・・・八神にはホント感謝だな。















(あとがき)

だ・・・だめだ・・・この距離感の幼馴染で・・・なんも無いとか・・・無理だ・・・不可能だ・・・

このままでは・・・ひっついてイチャイチャ路線にいってしまうかも・・・

い・・・いかん・・・自重しろ俺・・・上手く行ってしまったら話が続かんぞ・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十五話  中学生日記5
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/09 06:16
マシュー・バニングスの日常   第三十五話





△&年△月△日



 さて、八神は特別捜査官である。これは指揮官職であり、査察官職でもある。


 執務官とか、航行艦の艦長とか、そういった結構エラい人たちをも捜査する権限があるので、立場は高い。

 しかし近頃分かってきたのだが、捜査官はあくまで捜査官。

 階級は高く、指揮権限もあることにはなっているのだが、それは例えば、執務官個人を捜査するために言うこと聞かせるみたいな程度に

とどまっている。執務官には下に多くの現場の部下たちがいて、部下たちを動かせるわけだが、捜査官の権限はそこまで届かない。


 そこで八神は正式に上級キャリア試験を受けてみようか・・・と近頃考え始めている。

 これに受かって、上級管理官というものになると・・・中央のエリートとしての立場は揺ぎ無いものになるだけでなく、実際に現場に

いったときも、現場に居る人間を全員、完全に指揮統括することができる。つまりはすんげえ偉くなるのである。


 今でも捜査官ってだけで幹部候補生なのに・・・そんなものになった日には、幹部を通り越してトップ候補生じゃねーか?


 そういえば気付いたら、八神のやつは二尉になってやがった。俺は三尉待遇・・・既に抜かれている。



 ううむ、いつか絶対押し倒してやろうと思う・・・って口癖は・・・近頃なんか危ない気がしてきたな・・・

 いや、なにがどう危ないってんじゃないんだが・・・

 仮にだよ、仮に。冗談としてだけど、もし・・・ノリで押し倒したりしたときに・・・

 向こうも冗談として、ぶん殴る勢いで跳ね除けてくれたら問題無いのだが・・・


 万が一・・・・・・抵抗してくれなかったらどうしよう・・・とか・・・



 よし、いつか見返してやろうと思う、って程度に変えておこう。

 しっかし・・・近頃は地球での学校生活の時は、家から弁当を持ってくることを禁じられて八神が弁当を作ってくるようになった。

 なんだろー別に不快ではないのだが、真綿で全身を縛られているかのような束縛感が・・・



 これを見た姉ちゃんの反応なのだが・・・

 姉ちゃんはお嬢様であり、言ってみれば生まれながらの支配者であり女王様、料理というのは料理人にさせるものだと心底思ってる

タイプの人だから、口に出しては、なんも言わなかったのだが・・・

 近頃、台所でボヤ騒ぎが頻発してるのは、貴女が原因ではないでしょうね、お姉さま・・・

 姉ちゃんだって苦手なものくらいあってもいいだろに、料理が出来ないとか気にするような男とは、多分そもそも付き合わないでしょ。

 今は想像できないけど、結局姉ちゃんが将来結婚とかするとしたら、相手は同じような社会的階級を持つパワーエリート、欧米には

今でも普通に存在してる本物の上流階級以外とはありえないんだから。

 だから俺に手料理を食べさせようとか企まないでね、いやマジで・・・一度、鍋に残った不気味なヘドロ状物体を見たのだが・・・

あれを食わされるとか想像したくないんすけど・・・




 そーいえば、高町はこの前の功績で、准尉になったみたいだ。

 今でも現場に出ることの方が多いのだが、近頃は教導訓練みたいのも手を出し始めているらしい。

 教導ってのは、文字通り、教えて導くことであるわけだが。

 あいつが戦闘訓練を人に教える・・・ううむ、ただ一方的にボコってる姿しか想像できない。

 圧倒的な力でボコられるだけの訓練・・・ためになるのだろうか。恐怖を克服するって訓練にはなるかもしれんが・・・




 俺の方はと言えば・・・


 やっぱ体を治さないことには何も始まらないのだと、腹を据えて改めて自分の体に向き合ってみた。正直現状でも日常生活には問題

無いし、それどころか戦闘すら耐える状態であるわけだが、それでもリミッター頼りであり、これを外せば長持ちしないのは変わらん。




 もともと俺のリンカーコアは、魔力を大気から吸収するよりも、蒸発して発散させてしまうほうが極度に多くなるという異常が先天的

に存在した。これは先天異常であり理由などわからん、ただそうであるというだけだ。そして常に限界以上の魔力が体から発散していく

状態に耐えるため、リンカーコアは全身から、肉体の中にあるごく微量の魔力までも絞り尽くして吸い上げ、しかも無意味に発散して

くれて、結果、俺は全身衰弱しまくってたわけだな。リミッターというのは本来、魔力の出力量に上限を設けるための道具で、恐らくは

本来の用途は拘束具、強力な魔道士を拘束するための手錠みたいなもんだろう。



 魔力は大気中などに自然に存在し、それを魔道士は体を媒介にして、一度、胸部にある魔力中枢・リンカーコアに蓄える、そして

蓄えた魔力だけが魔道士の使用可能魔力となる。そして魔道士は魔力中枢に蓄えられた魔力を、再び肉体を媒介にして外に出す。つまり

目には見えないし普段はほぼ認識されていないが、人の体内には魔力の循環網みたいのが実は存在するってことだな。血液とか酸素とか

神経からの伝達信号だとか以外の、何か別のものの体内での循環、という概念については地球でもたまに聞いたものだ、中国で言う「気」

とか、それを利用した気功とかいう技術とか、ほかにもチャクラとかヨガとか、まあ詳しくは知らんが・・・


 魔力の体内循環が、それらともしかして同一なのか、またそれらとは違うのかも分からん、それはともかく・・・体内の魔力循環網に

ついての研究でも無いかと探してみたのだが、これが意外と無いのだな。無いのも実は当然で・・・つまり全く認識できないのが実情

であるようだ。大気中からの魔力の入力も、魔法発動時の魔力の出力も、自然にいつの間にか、または一瞬で行われ、認識されない、

それが当然だと。



 であれば体内からの魔力の出力妨害するリミッターてのはどういう理屈で出来てるのかと言えば・・・


 結局、使われている特殊な素材が、魔力を無理やり凝固させる、流動性を失わせ、魔道士が頑張っていつもどおりに魔力を流そうと

してもそれに大きな負荷をかけるって理屈らしい。広い次元世界のなかのどこかにあるレアメタル系素材だそうだ。魔力自体がもともと

自然に存在するものだから、自然な物質の中にも魔法的物質とも呼ぶべき、例えば魔力吸収物質、例えば魔力干渉物質などが存在する

らしいんだよな。噂では魔力無効化物質なんてものまであるとかないとか・・・


 しかしやはりそれらはレアメタルみたいなもんで、産出量自体が極小であるだけでなく、それらの物質を好きに使われては魔道士優位

を原則とするミッド社会が崩れるので、それらの特殊な物質についての管理は、管理局の専任事項となってる。管理局はそれらの物質の

採掘加工などを完全に囲い込み、一体どこで取れるのかって情報のレベルから、絶対に漏れないように厳密に守ってるのだ。だからせい

ぜい俺もレアメタル「みたいな」ものとしか分からない。


 そういう独占も問題あるんじゃねーかと思わないでもないが、でも大抵のロストロギアってもんは、ずばりその手の物質を加工した

結果に生まれたものなのだな。そしてロストロギアの悪用は、この前の23世界みたいな大惨事を実際に生み出しかねない、だからこれを

管理局が管理するのも当然だという理屈になる。



 まーそれはともかく、そういう特殊な物質に依存して、自分の命を保ってる状態は気分が悪いのだ。



 体の中のどこを流れて、魔力が入力され、また出力されるのかも良く分からんし・・・確かに俺にも分からんからどうにもならん。


 目の前で八神に魔法を使ってもらって、それを全力全開で、止められたのにリミッター外しまでして魔法的に「凝視」してたのに、

それでも見えない。

 これはあれかね・・・光の速さを視認しようとしてるのに似た愚行であるような気が・・・ヒシヒシとするぜ・・・

 しかも相手は魔力・・・光以上に得体の知れない、いわばエーテルだとかタキオンだとか第5元素だとかみたいなもんだしな・・・



 長々と検討してきたが、結局の所は・・・

「体内の魔力循環網を見定めることによって、その循環部に処置を施し、出力異常を治癒する」というアプローチは不可能!

ってことが、はっきりと、もうイヤっていうほどはっきりと、分かってしまっただけであった。



「それでも、一歩前進ではあるで?」

「そかな・・・」

「これはあかんってはっきりしたわけやから、今度は別の方法考えたらええだけやん?」

「まーな・・・」 


 八神のメシはいつも通り美味いのだが、さてはて、俺が本当に治るのはいつの日か・・・






△&年△□月#日



 悪いニュースってのは続くのかね・・・


 中1も三学期に入って、もうすぐ終わるかって時期の話だったかな。


 とある日曜、いつものように八神一家と夕飯を食べながら、TVニュースを見てると、緊急速報が入って・・・



「ただいま入りました情報によりますと・・・陸のエース部隊として名高いゼスト隊が、作戦行動中に大きな被害を受け・・・

 えっ! なに? 差し替え! ちょっと・・・コホン、えー改めてお伝えします、ゼスト隊が全滅し・・・全滅?! コホン、

 すいません。ゼスト隊が作戦行動中に全滅、生存者は今のところ確認されておりません。今後新しい情報が入り次第・・・」



 見ていた八神の顔色がみるみる変わっていった・・・騎士たちも厳しい表情に・・・

 八神は青ざめた顔色のまま、立ち上がり・・・


「これは・・・ちょっと確認に行かんと・・・連絡・・・は、こんなときにつながるわけないし・・・」


 そのとき急に八神に通信が入り・・・しばらく話した後・・・


「第3級以上の査察官は緊急招集や。どーもキナ臭い事件らしいな、これは・・・みんな行くで!」

 騎士たち+リインも厳しい表情で頷く。


 っと、そこでやっと俺に気付いた。


「えっと、ごめんマーくん・・・」

「いやいや仕事だべ。うん、気をつけてな。」

「ほんまごめんな・・・その、夕食の後片付けとかはええから・・・」

「ん~帰ったほうがいい? なら帰るけど・・・」

「いや、別にそれはええねんけど・・・」

「ま、それはいいから速く行けって。緊急なんだろ?」

「うん・・・ごめんなマーくん。」



 そういうわけで八神一家は全員が行ってしまった。

 自分の分は食い終わり、皆の食べ残しにラップとかかけて、洗う食器は洗って片づけが終わった頃に思い出したが・・・



 そういえば・・・前に病院に来たナカジマさん・・・奥さんがゼスト隊所属とか言ってたような・・・

 ん~・・・そもそも本局捜査官である八神と、陸士であるナカジマさんとの間にどういう接点が?・・・

 単に、昔、ちょっと教えてもらっただけ? って感じでは・・・

 なんか特別な捜査の過程で知り合った重要人物?



 とかまあ推理は色々できるわけだが、そういうことは俺はしない。それは八神の仕事で、踏み込んで良い場所では無い。

 戦うのが仕事のやつもいる、捜査するのが仕事のやつもいる。

 そして俺の仕事は治すこと。

 だからってこういうときに何も出来ずにヤキモキするかと言えば・・・別にそうもしないのだな・・・

 八神は捜査が仕事だから基本的にそんな危険な場所に踏み込むこともないし、そもそも八神だって捜査官の中では下っ端なのだ。

 ん~でもこういうときは俺もうろたえたりとかするのが普通なのかな・・・でもそんな気にもなれんし・・・

 もしかして俺って冷たい?


 とかなんとか悩みつつ、そのまま八神の家の中の俺のスペースで就寝・・・



 この日、八神たちは結局帰らなかった。

 翌朝にも帰る気配も無く、俺は食べ物とか冷蔵庫に入れて帰宅し・・・

 なんとそのまま一週間近く、八神たちは帰らずに事態の収拾にあたっていたようだ・・・



 そもそも次元航行艦隊、海の本局ほどに恵まれていないのが、陸の首都防衛本部であり、若い優れた魔道士などが最初に目指すのは海

である。しかし陸は、ミッドチルダという場所に密着して、そこを守ることに集中した組織であるため、ミッド生まれで、故郷を守りたい

という自然な感情から、陸に来るという人もいる。


 ゼスト・グランガイツ氏は、陸どころか管理局全体でもトップクラスの一人に数えられる強力な魔道士で・・・確かSランク騎士とか

言ったかな。つまりベルカ式の近接戦闘の達人。実戦経験も豊富な壮年の男性で、彼に比べたら高町なんざヒヨッコである。昔から、彼は

海に誘われることも多かったのだが、愛する故郷を守るためか、陸に留まり、ミッドの治安を守り続けた人物である。


 その彼の部隊が通称ゼスト隊。正式名称も他にあるらしいが誰も知らんだろな。陸においては最強であるのはもちろん、事実上、唯一に

近いようなエース部隊で、陸の治安維持に過去数十年にもわたって大きな役割を果たしてきたそうなんだな。

 いわば陸の安全の象徴のような名詞が、ゼスト隊であったわけで・・・それが全滅てのはシャレならんのだな・・・

 陸には他にもレシアスさんだったか何だったかって有名人もいたが、その人は指揮官タイプらしいし・・・

 前線最強のゼスト隊に今回起こった大惨事で、頭を抱えてることだろうな・・・




 結局・・・全滅は確定だった。隊長ゼスト氏のみならず、主立った部下たちも全滅。

 その中には、前に一度治療したことのある、クイント・ナカジマさんの名前もあった・・・



 一ヵ月後に合同追悼式などが行われ・・・

 八神と俺も一応、顔を出してきたのだが・・・ゲンヤさんと娘さん二人に、かける言葉なんて見つからなかったな・・・











(あとがき)

 今回の話・・・前半「やっぱり治らない」、後半「葬式」・・・

 暗い・・・暗すぎる・・・作者のストレス解消のため明るい話します。ええ誰がなんと言おうとします。

 なのは召還! 一緒に暴れると風当たりも強いけど、やっぱなのは様がいないと明るくならん!



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十六話  中学生日記6
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/11 06:54
マシュー・バニングスの日常   第三十六話





△&年△月○日



 中2になる頃だったか、まあその前後で。

 久しぶりに明るいニュースが聞けた。

 フェイトさんがついに執務官試験に合格したのだ。泣いて喜んでいた。今日はパーティーである。



 女性陣が固まって華やかに盛り上がっているのから離れて、俺、クロノ、ユーノの3人はボソボソと話し合っていた。


「しっかしフェイトさんに執務官って勤まるのかねえ・・・」

「お前にとってフェイトのイメージってのはどんなものなんだ?」

「よく言っても天然? 悪く言えばマヌケ? いつもどこかが抜けてるというかさ・・・」

「ぶふっ! ひどいよマシュー、そんなはっきり言ったら・・・」

 ユーノが笑いをこらえている。

「・・・実際、フェイトが苦労していたのは知識を問う部分ではなくて、性格が分析される適性調査のほうだからな・・・」

「ああ、やっぱり。あんだけ勉強してたんだから知識に問題あるはず無かったよな。」

「執務官は前線指揮官、冷静で果断で公平で無くてはならないからね。性格を分析されちゃうとフェイトは・・・」

「そこをどうやって突破したんだ? 確か毎回内容の違う500問くらいある単純なイエス・ノー回答を短い時間内に選択させて・・・

整合性を徹底的にチェックして分析して、ほんの一つでも矛盾があればダメとか・・・あれは誤魔化すの難しいだろ。」

「以前はフェイトは素直に、何も考えずに回答してしまったようだな。結果は、あの結果だった。」

「納得。」

「だから今度は、分割思考の訓練からアプローチしてね・・・プライベートな自分とは別の、オフィシャルな自分の思考というものを

作って、『いざ仕事となったら心を切り替える』って訓練を徹底させてね。なんとかなったみたいだ。」

「へー。それが出来たら確かにフェイトさんでも執務官、勤まりそうだな。」


 フェイトさんの仕事モードへの切り替えは、この頃はまだ未熟だったが、そのうち見事にこなすようになる。

 それでもプライベートでの天然っぷりは変わらなかったが・・・



 ちなみにこの頃でもまだ、なーんか俺とフェイトさんは微妙にギクシャクしていた。

 高町退院から一年経過してんだけどなあ・・・

 いや、お互いに口もきかないとかじゃないよ? 普通に話せるけど、なんか高町入院のあの一件以前の、隔意の無い親しみとかが

見られなくなってしまった状態のままで、どーも壁を感じると言うかだなあ・・・

 クロノによると、別に怒ってるわけでも、今でも感情を害しているわけでも無い、ただ感情が未熟な傾向があるフェイトさんは、

どうしたらわだかまりを無くせるか分からずに戸惑っているだけ、時間が解決するだろうから気長に待ってやってくれとのこと。

 しっかし俺と似た立場であったはずの八神は、既に見事にフェイトさんとの距離を回復し、以前と同じ親しい友達に戻ってるわけで。

 うーむ、あれは八神のほうから上手くアプローチしたんだろうが・・・

 俺は八神ほどには上手くやれないなあ・・・


 ☆  ☆  ☆


 飲み物を取るときも、なにか食べて食べ終わったときも、ユーノはチラチラと高町を見てる。

 高町のちょっとした笑顔とか仕草に反応して、見惚れてみたり、思わずといった感じで微笑を浮かべたり・・・

 しかしもちろん高町は全く気付かない。

 はっきり言おう、高町以外は全員・・・すまんフェイトさんは例外かもしれん・・・が、とにかくほぼ全員気付いてる。

 だが肝心の高町は全く気付かない。見事な100%スルー。

 だがユーノは負けない!

 なんとか話しかけてみる(無理に話しかけるので会話が続かず高町は速攻で別の人と話し始める)。

 飲み物とか高町が欲しそうにしたら速攻で動く(ジュースを持ってきたらお茶が良いと言われ、お茶はすぐ側にあった)。

 高町の食べたいものとかとってあげようとする(量の加減が分からず、自分で取るからいいと切り捨てられた。ユーノは自分基準で

少なめに盛ったのだが、体育会系の高町は結構量を食うのだ)。


 ああ・・・ユーノよ・・・


 高町の鉄壁に阻まれて、また軽く落込んでるユーノは一時撤退。

 また男3人でボソボソと話す。


「しかしユーノ、お前、そもそも高町と会ってるのか?」

「今日、会ったのも2ヶ月ぶりだよ・・・」

「お前・・・本気で高町を落とす気あるのかよ・・・」

「その調子では難しそうだな、ユーノ・スクライア?」

「うるさいよ、ほっといてくれ。」

「今でも忙しくあちこち飛び回ってはいるが・・・前と違ってちゃんと休みも取ってるし、会おうと思えば会えるだろ。」

「だって・・・なのはは休みになると海鳴に帰るし。それに休み自体、最低限しか取ってないから僕と休みがあわなくて・・・」

「やはりもっと強引に休み多く取らせるかな・・・今でも怒らないと休み取らないし・・・有給も相当余ってるそうだしな。」

「まあその辺はお前に任せるよ。あんなことが二度とないようにしないといけないからな。」

「そうだね・・・でも僕が休めなくて、なのはと会えないのも、クロノが僕に無理な仕事を押し付けるからじゃないか!」

「ん? そんなにきつかったのか? いつもちゃんとこなしてるから普通に出来るのかと思ってたぞ。」

「冗談じゃない! いつもギリギリで何とかこなしてるんだ! おかげで今の僕は、前のなのは並に休んでないよ!」

「あーそれはいかんな。医者としても、ちゃんと休ませるよう忠告しておく。」


 ユーノの働く無限書庫とか言うところは正に無限に等しいほどのデータバンクで・・・その情報の海から有用な情報を引き出すのは

専門家でなくては難しく、ユーノはなまじ有能だったせいでかなりの超過勤務をしていたようだ。

 これ以降、少しは休みが増えたようだが、ユーノは自分から会いに行くかどうかも三日は悩み、その間にチャンスが過ぎ去るパターンを

学習せずに際限なく繰り返し・・・応援してやろうにも応援しようがないというか・・・

 魔王高町だぜ? 押し倒すくらいの勢いで行かなくてはそもそも気持ちも伝わらないだろうに・・・

 押せ、押すんだユーノと煽ってみるのだが、どーもこの調子だと難しそうだなあ・・・


 ☆  ☆  ☆


 3時間ほど続いたパーティも終わりに近付いて、そろそろ片づけしようかって雰囲気になってきた頃。

 なんかユーノとクロノが意味ありげに目を見交わして、爆弾を投げてきた。


「ところでマシュー、小耳に挟んだのだが・・・」

「ん?」

「近頃、八神はやてと、半同棲状態だそうだな。」

「ぶほっ! げほげほげほ!」

「意外と手が早いねマシュー。」

「待て、誤解がある、夕飯を一緒に食べることが多いだけでだな。」

「泊まることも多いと聞いてるぞ?」

「いやそれはあんまりないってば。」

「週にどのくらい?」

「せいぜい週3とか・・・」

「半同棲だな。」

「半同棲だね。」


 夕飯を一緒にとると約束して以来一年くらい経ってるが、今では火水木金はバニングスの家だから、土日月は八神の所で食事を取るって

ペースに落ち着いて・・・その際に八神の家に泊めてもらうことも・・・まあ結構多いかも知れんといえない事も無いが・・・寝室は

当然、別であるわけだし・・・既に俺の私物がかなり八神の家にあったりしないこともないが・・・


 断じて半同棲などではないのだ。


「彼女の家に、お前の部屋みたいな場所もあると聞いてるぞ?」

「いや・・・確かにいつも俺が使う寝室とかあるけどさ・・・」

「そこにお前の布団もお前のパジャマもお前の下着まであるとかな。」

「マテ。いや、それは事実だがマテ。どこからその情報が・・・」

「なんだお前、知らないのか?」

「なにをだよ。」

「ヴィータは武装隊で仕事してるんだぞ。」

「それは知ってるが・・・ってことはヴィータ→高町経由か!」

「なんだ今さら気付いたの? 鈍いねえマシュー。」

「全く鈍いな。」

「僕の聞いた話では、ヴィータがなのはにグチってたらしいよ。」

「・・・なにを?」

「二人が抱き合って良い雰囲気になってるところに踏み込んでしまって、そのあとはやての機嫌が悪くなって大変だったって。」

「うがああああ! おのれヴィータ・・・」

「ふん、その様子だと事実のようだな。で、どこまでいったんだ。」

「いっとらん。なにもしとらん。」

「でも二人きりで抱き合ってたんでしょ?」

「いや、だからだな・・・」

 二人にいろいろと訊かれてしまい、俺は必死に言い訳するのだがムダであった。

 うぐぐ・・・


 ☆  ☆  ☆


 後でヴィータを尋問したのだが、逆に切れられた。

「テメーが自重しないから、あたしのアイスが無くなったんだろうが!」

 って・・・俺のせいなのかよ・・・

 八神も味方にしようとしたのだが、なぜか八神は・・・

「もう、あかんでヴィータ♪」

 とか優しく怒ったふりするだけで、むしろヴィータの食事の内容とか食後のアイスとか若干豪華になってないすか八神さん。


 なにかが・・・

 なにかがマズイような気がする・・・







□×年○月○日



 さて俺と高町だと、完全に俺の方が立場が上である。


 俺に睨まれると仕事を取り上げられるので、俺の前に出るとき高町は基本的にビクビクしている。

 一月に一度の検診は、士郎さん桃子さんとの約束でもあり、高町はこれに絶対に来ることが厳命されている。

 どんな事情があっても検診をサボルことは、即、強制休暇一週間コース(最低でも)が待っている。



「だからー! ほんとに緊急事態なの! 無理なの、ウソじゃないの! 信じてお願いーーー!!!」


 画面の向こうで半泣きになって、検診に行けなくなったとぬかす高町。俺の返す目は冷たい。数日前までに連絡しておけば、少しは

日をずらしてやりもするのだが、こいつは当日朝になって言ってきたのだ。


「まあ一応、言い訳は聞いてやろう。然るべき処置は取るがな。」

「昨日のうちに帰ろうと思ってたのよ! でも昨日からいきなり転送ゲート封鎖されて、おかしいと思ったけど朝には復旧します、単純

な整備不良ですのでって保証してくれたし、だったら朝一で行けば間に合うはずだったのに、なのに今朝からなんだか、あっちこっち

騒がしくて、内戦みたいのが起こってるの!」

「ふむ、うまい言い訳だな。」

「うそじゃないってばあああ! 第38管理世界でクーデター騒ぎって臨時ニュースやってるてばああ!」

「仮にそれが本当だとして、いつごろ帰れる?」

「わかんないよ! 何にしても決着が付くまでは・・・」

「ふー・・・しゃあないな。レイジングハート、前にわたした『目印』を出せ。」

【Yes,Doctor.】

「え? なにこれ?」

「俺専用の転送用目印だ。それさえあればその気になればどこでも飛べる。」

「ええええ! いつの間に?」

「俺への対応次第で、レイジングハートにも仕事が無くなると教えてやったら、快く協力してくれたぞ。」

「あああ・・・レイジングハート・・・うん、仕方なかったんだね、わかるよ・・・」


 高町は、前に一度、中1の半ばくらいに検診日をずらして欲しいと頼んだことがあった他は、常に検診に出ていたので・・・

 確かに今回は緊急事態らしいし、俺の方は今日は偶然、色んなローテから外れて病院いても完全ヒマだったので・・・


 だからなんとなく気まぐれで、仏心を起こしてしまったんだな。わざわざこっちから行ってやるとは。

 まあ二度とせんだろが。


 サウロンを展開・・・ふん、少し遠いがこのくらいなら余裕だ。

 預けてた「目印」も俺の特製で実は結構カネかかってる。予算の都合で一個しか出来なかった試作品なのだ。

 次の瞬間、高町の目の前に転移。

 つい習慣的に、ほぼ条件反射のように周囲を軽く「見る」・・・ん?


「すっごい・・・ゲート封鎖されて妨害とかかかってるって言ってたのに・・・」

「あの程度の妨害は甘い。機械的な一般向けの妨害程度だからな。目印ある分には俺には問題ない範囲内だ。

 それはともかくここは・・・管理局の支部のビルか?」

「うん、そうだよ。」

「ほんとにほんとか?」

「なんで? ほんとだよ。」

「じゃあなんで、北から100名、西から80名の・・・魔道士部隊らしきものがここ目掛けて突っ込んできてんだ?」

「えええ!」



 ミッドチルダを中心とする管理局体制というのは、必ずしもどこの世界でも受け入れられてるものでは無い。実際、その内情を知って

みれば、管理局の権力ばかりが重く、各国政府の立場は軽いという倒置した状態が普通であるとか、執務官や艦長クラスの前線指揮官が

外交官特権と領事裁判権を併せたような重過ぎる権限を保持していてそこが納得できないとか、魔法至上主義で魔法以外の兵器を認めない

ために却って治安が悪くなった世界が実際にあるとか、魔力さえあればよいという態度で子供でも戦わせることに嫌悪感を抱く世界は

管理世界内においてさえ存在するとか、まあ色々とあるのだ、色々と。


 しかし管理局体制は、まがりなりにも150年だったか、次元世界を基本的に平和に保っては来たそうだ。

 実際、地球にしたって、平和な日本にいたら気付かないが、世界中で内戦紛争の殺し合いは途切れることなく続いているのであり、

どんな政治体制、社会体制であっても、争いは起きるものなのだろう。


 ただ問題は・・・その争いに不幸にも巻き込まれてしまったらどうするか・・・



「緊急! 緊急! 政府軍・クーデター軍、両軍から推定200の魔道士が当ビルに接近中! 館内の局員は全員、ただちに

第一種防衛体制を取れ! 繰り返す! 第一種防衛体制を取れ!」


 んー・・・なんだか物騒な館内放送が流れている・・・


 さてどうするか。












(あとがき)

 はやてさんの攻勢が・・・止められない・・・そろそろ防御がきつい・・・やばいぜ・・・

 気まぐれ起こした結果、また戦いに巻き込まれてしまうマシュー。二回目のタッグ戦です。

 しっかし中1だけで5話も行ってしまった。ううむ中学卒業までにはどんだけかかることやら・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十七話  中学生日記7
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/18 07:47
マシュー・バニングスの日常    第三十七話








「第一種防衛体制が発動されました。繰り返します、第一種防衛体制が発動されました。非戦闘員の皆さんは規定のプログラムに従って

行動してください。決して慌てずに、建物の外に出ないようにしてください。繰り返します・・・」



 やれやれ・・・また厄介ごとか・・・

 高町に会うと必ず厄介ごとがついてくる気がするなあ・・・

 しかし・・・たしか「クーデター騒ぎ」って言ってなかったか?

 ってことは政府軍と、クーデター軍が戦うのが筋ってもんだろうよ。

 なぜに管理局の支部のビルに、両軍が力を合わせて襲ってくるのか・・・

 どういう事情が・・・


 とか分からんことを考えてても仕方ないか。

 実際問題、どうするかね・・・



「あんな放送されてるが・・高町、お前は今は非番だよな。」

「うん、ここは単なる経由地の予定だったから・・・」


 実はすぐに帰れる。


 そもそも、転送ってのは、異世界をわたる場合は普通、事前の準備が必要で、準備が無い場合は異世界間転移機関を積んでる航行艦

とかの専門の乗り物が必要になるのだが、今回はこっちに来るのにレイジングハートに持たせた「目印」を使ったわけだ。「目印」は

異世界を跨いでも正確な座標データを常に演算しながら俺のサウロン直通でデータを送る小型計算機・発信機で、このデータ送信は大抵

の妨害に負けない自信がある。転送に必要な前準備ってのは要は8割型、座標の特定だ。星ってのは自転しながら公転してるもんで、

同じ世界の中にいてさえも、絶対空間座標軸を仮定した時の正確な現在位置測定ってのは恐ろしく困難なわけで、それが異世界の向こう

ともなれば困難というより不可能に近い。だからまあ分かりやすく言うと、転送していく「向こう側」と、転送前の位置「こちら側」の

両方に、何らかの目印を作っておいて引き合うようにあらかじめ調整しておく必要があるのだな、個人で異世界間転移をしようとする

場合は。そして「向こう側」にも「こちら側」にも高度な座標演算処理が必要とされるのだ。こちら側についてはデバイスがその役割を

果たすわけで、やっぱ問題は向こう側になるわけなんだが・・・


 まあ一般的な転送ならば、大抵のデバイスなら十分計算処理ができるものだ。普通のデバイスでも情報処理性能は地球のスパコンにも

劣らないほどのレベルであるし。

 そして事前準備だが、ミッドでの俺の宿舎の部屋、あと地球のバニングスの家の私室、二箇所に帰還用の「門」を作ってある。

 転送妨害が若干、かかってるようだが、この程度の一般向け妨害ならば、情報処理特化型デバイスであるサウロンを持っている俺は

妨害分も算出・特定・無効化できるし・・・



 高町を攫って問答無用で転移して帰るか・・・と薄情なことを俺が考えていたとき・・・



「高町准尉はおられませんかー!!」


 かなりせっぱつまった声が聞こえた。薄情な俺でもその口調を無視して逃げるのはためらうような真剣な雰囲気であった。


「あ、なんか呼ばれてる。面倒だな・・・俺は顔を隠す。」

 背中のフードはこんなときのためにあるのだ。口元くらいしか見えなくなる。

「なんで・・・まあいいけど・・・はーい! ここにいますよー!」

 ここの局員らしき20代半ばくらいの女の人が走ってきた。

「非番中に申し訳ありません! しかしお聞きになった通り緊急事態なのです! どうか手を貸してください!」

「もちろんそのつもりです。ところでビル内の魔導師の数は?」

「それが・・・Aランクが5名、Bランクが17名、Cランクが23名、併せて45名しか実戦経験のあるものがおりません。あとは、

一応、魔導師ではあるものの、普段は事務方の仕事をしているものばかりで・・・」

「そうですか・・・」

「それに、敵軍の作戦目的が不明のままでして・・・本来、政府軍とクーデター軍が争っているはずだったのですが、なぜか局外で中立

だった管理局支部に襲い掛かって来ている・・・もしも彼らが示し合わせて当支部を襲おうと本気でしているのなら、中途半端にやめる

ということは考えにくい、恐らく徹底的に攻撃する気なのでしょう・・・」



 ああ~・・・やっかいだなこれは。ここはれっきとした管理世界のうちで、なのに管理局支部を本気で襲う両軍・・・

 確かにそこまでやるからにはハンパで止める気も無いだろうなあ・・・

 高町にも引く気は・・・やはり全く無いな。無理やり連れ帰っても丸く収まるってことは絶対無い・・・あああ妙な仏心を出して、

気まぐれでこんなところに来なければ良かったなあ・・・やはりこんなことはこれっきりにしよう・・・それはともかく今は事態の

収拾を図らねば・・・面倒だけど・・・まあしゃあない、協力するか・・・


 
「なるほど。まともにやると勝ち目無いな。」

 俺がボソリと呟く。お姉さんはキっと俺を睨んだ。

「こちらは?」

 高町に対して尋ねる。

「えーとですね、その・・・った!」

 とりあえず高町の足を踏んで黙らせる。

「まともにやると勝ち目は無い。だからここは取り合えず、俺たちに任せておいて、あんたらは防衛だけしててくれ。」

「な!」

「おい高町。前にやったアレ、やるぞ。多分、多くても100発くらいで形勢を決められると思うが、いけるか?」

「少しきついかもね・・・」

「まあいい、この後は1週間はイヤでも休ませるつもりだったしな。」

「あーやっぱそうするつもりだったんだ・・・」

「ある程度広い場所でやったほうが安全だな・・・敵が近づくまで30分はある、中庭みたいな場所あるかな。」

「うん、確かあっちに・・・」


 俺と高町が小走りに移動を始めると・・・


「あ、待ってください高町准尉! 高町准尉ー!」

「高町准尉?!」

「空のエースだ!」

「頑張ってください! お願いします!」

「エースー!!」


 などなど周囲から声がかかる。

 なんか妙に注目集めてるな。これだから有名人は。高町の半歩後ろを歩く、灰色のローブをまとい顔をフードで隠して、長い杖を持った

怪しい魔導師(俺)までもなんか見られてるじゃないか。

 非戦闘員の見物人がゾロゾロとついてきて、そのまま俺たちは中庭に出た。

 中庭までついてこようとしたので、建物の中から出るなと言ったらなんか不満そうな顔をされたが、高町が同じことを言うと素直に

従った。さすが人望あるなあ。

 目立つのはイヤなんだが・・・仕方ないかこの際・・・

 杖を地面に軽く付き、瞬時に広域探査・・・発動速度といい発散される魔力密度の薄さと言い、何をやったかはまず分からないはず。

 で、周囲数キロを『視る』・・・ふむ、状況把握。

 俺はおもむろに口を開く。


「北から100名。これは政府軍だろうな。空を飛んでるものは10名程度。後はリニアカーで移動中。全体の平均ランクは概算でBって

所だろう。最も強いのは空中にいる・・・推定AA。リニアカーの速度に併せて行軍中、予想接触時間は28分後。

 西から80名。クーデター軍か。空を飛んでるのが7名。後はリニアカー。リニアカーに凄いのが乗ってるな・・・予想でAAA、これは

近代ベルカの騎士かも知れん。接近戦だとお前もやばいな・・・こっちは空のやつらは大した事無い、飛べるだけだ。25分で着く。

 まず車を止める! 高町、空に向かって連続で撃て、30発!」

「了解! 行くよ!」

「よし、いいぞ。」

「ディバイン・バスター!」

「攻撃転送!」



 先頭車両を破壊、それにぶつかる二台目は無視して3台目を破壊、同様に調整しながら動きを止めることを目的に車両破壊を連続。

 なーに死にはしないだろう、多分。乗ってるの魔導師だしね。


「よし、敵の足が止まった。まだ動く車も、急な攻撃にうろたえて停止、下車して散開を始めた。むむ! それでも統制の取れた動きで

接近してくる! しぶといな・・・よし次はA以上のやつらを片端から撃墜する。また連続30発頼む!」

「了解!」


 次々と指揮官クラスの魔導師たちが落ちていく・・・しかし・・・


「北の政府軍は統制が乱れない! AAのやつも落ちたんだが・・・ダメだ間に合わない、来る!

 西のクーデター軍は・・・下っ端はバラバラに逃げてるが、AAAの騎士は凄い固い、砲撃を防いだ! ノーダメってことは無いと思うが、

怯んだ様子が全く無い! 突っ込んで来る!」

「どうするの!」

「高町、北へ行って、残ってる連中をなぎ倒して来てくれ! 俺は西に向かう! 頼んだぞ!」

「分かった! 気をつけてね。」

「そっちもな。」


 高町は飛び上がり、俺は瞬間でその場から姿を消した。




 西側を防衛する魔導師たちは絶望しつつあった。斧型デバイスを振るうベルカ騎士の実力は圧倒的で、せっかく数では優勢になったと

言うのに、それが全く活きない。先ほどからの援護攻撃は高町准尉によるものだと聞いているが、北の方が敵が多いため、高町准尉は

そちらに向かったとの連絡も受けた。であれば自分たちは、ここをなんとしても死守する以外に方法が無い。

 彼らが悲壮な覚悟を固めたとき。

 いきなり目の前から、恐るべきベルカ騎士の姿が消えうせた。

 何が起こったのか分からず混乱したが・・・とにかく消えたとしか言えない・・・




 前線の人々から見えない位置に隠れていた、灰色の魔導師は・・・

「あ~大丈夫かな、あのおっさん。少なくともウン10キロ先までランダムに吹き飛ばしたんだが・・・

 なんかとぶつかったりしてないよな、多分・・・

 バシ○ーラってリアルだとシャレにならん魔法だなあ・・・」

 とかブツブツ言っていた。





 しかし飛ばした騎士も転送得意とかだと戻ってくる可能性もある・・・

 戻ってきてもまたすぐ飛ばして、戻ってくる気が失せるまで「ふりだしに戻る」状態を保たねばならん・・・

 気長に警戒するかな・・・と思い、物陰に座り込んだ。が・・・



 その時、いきなり高町から念話が来た

【マシュー君! 敵の指揮官が逃げちゃいそうなの! すごい速くて! お願い捕まえて!】


「あー面倒だ。戦うのはお前の専門だろうが全く・・・なぜ俺がそこまで・・・」

 立ち上がり、トンっとサウロンで地面を着き、北側に転移。

 敵魔導師部隊はゴロゴロ転がってる・・・味方も結構いるけど、疲れ切って座り込んでたり倒れていたりだな。

 うーん見通しの良い地形だ・・・隠れる場所が無い。目立つのは嫌だ。おしオリジナル結界「認識阻害Ver.5」を張ろう。

 「認識阻害Ver.5」とは・・・「一般人に気付かれない」+「魔導師にも気付かれない」+「意図的な探査をされても一定レベルまでの

探査球を無効化できる」+「高レベルな探査球が来た場合はそれを自動的に消滅させる」+「探査球を消滅させたことに気付かれない

ようにダミー探査球を出す」という・・・超高度な隠形結界である。俺を中心に半径15メートル程度にこれを張る。なにせ結界は得意

だし、この結界は既にパッケージ化されてて負担も少ないのだ。



 さて・・・高町は空を飛んで敵を追いかけてるが、向こうのが速い。

 あ~あれは一回高町の砲撃を食らって墜落したAAクラスの彼じゃないか。あそこから復活して逃げるとは根性あるなあ。

 高町は強力な砲撃が第一で、硬い防御が第二、という特徴の魔導師で、空は飛べるが、それはせいぜい三番目。

 本気で自由自在に空を舞うのはフェイトさんだな。目の前で逃げてる彼も、飛行だけなら高町以上のようだ。得意なんだろ。

 だが見えない範囲でも数キロ見通す俺の探査能力の前では・・・視認できる範囲なんてどこでも至近距離だわい。

 一瞬で、魔法的にも彼を把握。視認できてるとベクトルを多方向に振り向ける必要も無いので簡単に捕まえられる。



 とりあえず強制転送っと。

 対転送防御というのは、バリアジャケットの防御機能には含まれていないことが多い。だって魔導師なら、本人も転送とか結構、使う

もんだし、転送機は結構利用するもんだし、それを妨害する機能をつけてどうすんだって、ねえ。

 それに普通の転送は発動まで5秒はかかるし、5秒もあったら空飛ぶ魔導師ならどんだけ動くことやら。


 だから俺の強制瞬間転送は、初見の相手には、ほぼ確実に効く。知ってる連中は、わざわざその防衛プログラムを事前に組んでおいたり

するわけだが・・・つまり「知られる」ってことに非常に弱いのよね、実は。知られて対策を本腰を入れてやられると・・・少なくとも

シャマル先生レベルの補助系魔導師なら対抗手段を見出してしまうわけで・・・だからあんま表に出たくないわけでもあり、念には念を

入れた穏形結界を張ったりもするわけなのだ。俺は盲点をついてるだけに過ぎない。




 俺が彼に向かってサウロンを向けると・・・

 必死に逃げてた不幸な魔導師は、いきなり俺から30メートルばかり離れた位置の地面に垂直に衝突した。

 お~お~ハデに砂煙あがってるなあ。

 いきなり目の前から敵がいなくなってうろたえる高町に念話して敵の位置を教えてやる。



 混乱しながらも根性で立ち上がった彼は、また高町が一直線に近づいてくるのを見て、必死に飛び上がって逃げようとする。

 速度が乗ってきたところで、また強制転送。地面にまっすぐ向けてやる。

 ズガン

 また激突。

 どんどん高町は接近してくる。

 それでも立ち上がる。飛ぶ、逃げる、速度が出た、と思ったらズガン!

 泣きそうになりながら立ち上がって飛んで加速して、ズガン!

 もう完全に泣いてるが立ち上がって飛んで、ズガン!

 そして、また立ち上がろうとして目の前に立つ高町を見て・・・彼は膝を着き・・・

「ふ、ふひゃはひへえぶほへひへ・・・」

 奇怪な笑い声とも泣き声ともつかない声が・・・いかん壊れたかも・・・




「大魔王からは逃げられない」はリアルにやると・・シャレにならないんだなあ。




 ちなみに。

 中庭に来た見物人たちは戦闘タイプじゃない人がほとんどで、俺と高町のコンビネーションの意味はピンと来てなかったようだし。

 前線にいた魔導師たちは、あの砲撃は高町の援護だ、としか聞かされていなかった。

 そして復活してきた味方魔導師の皆さんが改めて戦場を見回すと、高町の前に座り込んだ敵魔導師は座り込んで狂ったように泣き笑い

してる。ちなみに他のザコは全員倒れている。まさに死屍累々。こっちは間違いなく高町が蹴散らした連中だ。

 こうして・・・



「敵の前に立っただけで、敵が泣き出した」という高町の大魔王伝説がまた一つ、生み出されたのであった・・・



 いやあ良いことだ。



「ちょっとまって?! なんか違うような気がする!?」



 気のせいだ。




 とりあえずしばらく警戒したが第二波とかは来なかった・・・


 しっかし疲れたな~すぐに寝たい・・・あ、でも健康診断しなくては・・・くっそう二度とこんなことしねーぞ・・・












(あとがき)

 小4くらいの模擬戦、中1夏、そして今は中2の一学期くらいと3回しか戦闘シーン無かったんですが、これでしばらく無くなるかなあ・・・

 ふう・・・また次からちょっと深刻な話をせねばならん・・・

 そこを抜ければ・・・今度はイチャイチャ方面で明るくなる・・・かも・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十八話  中学生日記8
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/04/14 07:53
マシュー・バニングスの日常    第三十八話







□×年○月△日


 非番でありながら駆けつけて、一つの支部を救った高町は三尉に昇進した。

 それで俺のところに今度こそ階級が並んだ! と自慢しに来たのだが。

 もうすぐ義務年限が明けてしまう俺を引き止めるために、上は俺を既に二尉にしていた。また見下して笑ってやった。



 実は俺も二尉になったので八神に並んだぞと自慢しにいったのだが。

 八神はいつのまにか捜査官として地道な功績を挙げていたそうで一尉になってやがった。

 あいつみたいな腹芸と話術が達者なやつは、捜査官向いてるんだろな~調べられるやつは気の毒だわ。




 そういやこの前の第38管理世界の事件は結局、管理局の現地支部に問題があったらしい。つまり現地の政府に配慮せず、管理局の

意思だけを押し付けようとする頭悪い管理局員ってのは、実は結構いるもんなのだ。何でもあの世界に古くから伝わり、信仰を集めている

神殿に安置されていた秘宝が、ロストロギアの疑いがあるからって事前の調査の申込もせず、通達すらせずに一方的に神殿に乗り込んで、

貴重な遺跡を考えなしに壊した挙句、現地にいた宮司さんみたいな人を問答無用で眠らせて(非殺傷だったら何やっても良いと考えてる

魔導師は大抵アホである)、秘宝を強奪したそうだ。そしてなんと結果はシロ。ロストロギアでは無かったのだ全く。それで一応、返しは

したものの、「ごっめ~ん、違ったわ。でも調べてやったんだから感謝しろよ」みたいなノリだったそうで・・・



 うん、そら怒るわ。政府の人も民間の人も、反政府武装団体みたいな人も。全員一様に管理局に対して激怒。

 それで皆で協力して、一芝居打って、内戦かと思わせといて一斉に管理局の支部を攻撃した、と。

 で、それを魔王高町様が粉砕してしまったわけである。うん、誰がなんと言おうとそうなのである。



 しかし現地政府の態度は負けても変わらず。正式な謝罪が無い限り管理局とは縁を切ると宣告。

「アルカンシェルでも打ち込む気なら打ち込んで来い! お前らの傲慢さにはうんざりだ!」と凄い剣幕だったそうで・・・

 管理局の上の人たちも頭を抱える事態となった。結局、政治・外交交渉がその後、数年にわたって気長に続けられて、最終的には、

やっぱり地上に管理局支部を置くことは認められず、衛星軌道上に艦を一隻駐留させることだけが認められたとか。




 この辺の話を聞いてしまうと、俺たちは結構深刻になってしまった。


 とは言っても、この辺も俺は冷たい。理由も事情も知ったことか。襲撃を受けたから迎撃しただけ。向こうに同情するべき点があった

としても、だったらなんだ? 大人しくボコボコにされるのが正しいか? 頑丈な高町はともかく、俺は魔法的にボコボコにされたり

したら、それが非殺傷であるとか関係無しにマジで死ぬかも知れんのだぞ? 命を守るための正当防衛だ。襲ってきたやつが悪い。


 とまあ俺は平然と割り切ってた。


 だから主に深刻になっているのは・・・

「管理局が間違っていたってことなのかな・・・」

 高町である。見事に落ち込んでしまった。事情を聞けばそうとしか思えないし、この件だと正にその通りだしな。



「うーん。人の作る組織だから、人が間違うように、組織も間違う、当然だろ。重要なのは間違った後、間違ったことを認められるか、

間違いを正す制度をちゃんと持ってるかってことだと思うぞ。」

「まあ、その通りやな。」


 今日は落込んだ高町が八神の家に来ていて、3人で話してるのだ。


「で、八神一尉殿、その辺の制度は大丈夫なんでしょうかね。自浄作用は働いているんでしょうか。」

「今回の38世界での事件については、事態は最悪なとこまで行ったけど、一応、その後でのフォローは出来とるわな・・・」

「下の方が、正義を狭量に解釈して暴走するってのは結構あることだべ。ただ、問題起こした連中は閑職送りにはなったけど、処罰らしい

処罰は受けてないみたいなのが気になるな。」

「死者はゼロ。壊したのは現地の古代遺跡だが魔法的価値は無し、だから大した問題は無い・・・ってとこやろな。」

「そんな・・・! でもそれって・・・うまくいえないけど、なにか違うよ!」

「まー今回の事件の具体的な流れよりもさ・・・もっと根本的に、管理局に自浄機能があるのかってことを聞きたいんだけどな。」

「管理局ってとこはな・・・元は警察みたいな治安維持組織から始まって、今は軍隊に近いけど、結局のところは・・・」

「結局は?」

「官僚機構って言うのが、一番近いと思うわ。」

「そか、なるほどな。」

「うううよくわかんないよ・・・」

「お前は後で勉強しろ。なるほど官僚機構か。国を動かすほどの権力を持ちながら、その選別は国民の選挙に拠らず、官僚登用試験に

拠り、試験に通れば誰でも官僚になれる。そして官僚としてキャリアを積みトップに立てば、事実上国を牛耳ることさえできる・・・

管理局の場合は、魔法の才能さえあれば、ってとこが違うだけか。」

「官僚組織内部では互いに厳しいから、内部的には自浄作用は結構ある。でも組織の外との関係では、組織の利益ばかり求める傾向が

優先されて、近視眼的にもなる・・・」

「管理局が巨大な官僚組織だとしたら・・・当然、それを抑える国会みたいのが必要になるはずだが・・・」

「歴史的な流れとして、昔、ミッドとベルカの二大国家が激突して、双方共倒れみたいになったらしいねんな。その後、秩序を失った

世界で、なんとか機能していたのは管理局って官僚組織だけで・・・だからそれからは管理局は国家にあまり依存しない組織として

振舞ってくることが許されてもうたんやな。警察権に軍事権、司法権もかなり持っとるし、行政も各地の政府がやることになっとるけど

実際には管理局は結構介入できるし・・・ちょっと権限集中し過ぎやわな・・・」

「立法権は?」

「各国政府の国会の法とは別系統に・・・管理局法ってもんがあるやろ? あれは本来、管理局の内部規定に過ぎへんはずやったんや

けど、今では事実上、一番強い法律になってもうとるわな・・・それを定めるのは管理局上層部やし・・・」

「各国法と対立した場合は・・・」

「双方が話し合うことになるわな・・・でも大抵は、国の方が大幅譲歩を余儀なくされるんやけど・・・」

「ああ~・・・どーも問題ありまくりだよな。外部監査機関は無いのかよ?」

「各国の政府は、基本的に管理局の権限拡大を必死に抑えようとするし・・・後は一応、聖王教会なんかも次元世界では最大の宗教組織

として、管理局への一定の影響力はあるかな・・・」

「・・・つまるところは、肥大化して権限集中しまくった官僚組織が、事実上、各地の国家の上位存在として振舞ってるってことか。

 しかし難しいとこだな、地球だと国家が事実上の最上位の組織、さらにその上の組織ってのは無いし・・・」

「国際連合とかあるんじゃないの?」

「おお、高町にしては物知りだな。」

「ううう・・・」

「だが国際連合てのは、有力国の会議って範囲を出ないし、事実上はアメリカのものだべ。そういうハンパなもんじゃなくて、本当に、

国家の上に立つ汎国家組織ってのは・・・地球には無い、だからそういう組織ってのは俺も管理局しか知らんわけだが、さーて、他に

例が無いから、そういう組織はどうあるべきかってのも気軽に言えないな、根拠が出せないw」

「理想的には、次元世界中の管理世界に存在する全ての国家からの代表者が集まって、国会みたいな機関を作るべきやけど・・・」

「しかしそうはなっていない、これまではそれで何とかなってきたのかね・・・」

「なにせ広すぎるねん、次元世界は・・・交流無い世界同士やと、もう文化風習何もかも違いすぎて共感して協力するとかムリで・・・

なかなか一まとまりになるゆうんはな・・・」

「そうなると管理局内部の自浄作用に期待するしか無いか。俺の知ってる範囲だと、陸の本部は、あれ警察だべ。海は軍隊だな。そして

両者は、牽制し合って事実上対立してる。仲が悪いのも悪くない、双方が互いのミスを監視し合ってるわけだからな。だがこれだけだと

弱いな・・・やはり管理局法を作ってる所と、管理局内部の司法機関、この関係性あたりがポイントになるかな・・・」

「さすがに立法部と、司法部は、明確に分かれとるけど・・・うーん、どやろな・・・仲が悪いとか聞いたことも無いし・・・」

「お前は捜査官だろ、捜査官は司法部系?」

「せやで。うーん・・・考えたら立法の方は・・・相当上の人らで決めとるみたいで・・・あれ? どうやって決めとるんやろ・・・」

「立法プロセスは、捜査官のお前にも不透明ってか?」

「・・・こういう法が必要やって稟議を上にすることは出来るけど・・・それで実際にどこが決めとるんか・・・」

「あー・・・どうなんだろね八神。」

「ほんま・・・どうなんやろな・・・」




 俺たち二人の議論はそこで止まってしまった。うーんしかし問題は多いなあ。



 しかしこれは俺の持論だが。



 まず問題の無い組織など無い。国家も同じだろ。問題を鵜の目鷹の目で探して重箱の隅をつつく様なマネをすれば

問題など幾らでも出てくるもんであるし。

 重要なのは結果だべ。結果的に上手く行くことが一番重要だ。正しい手段にこだわる余り、結果を蔑ろにするのが本末転倒ってことだ。

 管理局は、これまで平和を保ってきた、いまも何とか保ってる。

 つまりそうする力が確かにあるってことなんだよな。

 まずはその事実を虚心に認めなくてはならない。

 今回の事件にしても・・・

 思いっきり冷たい言い方をすれば、「死者出てねーじゃん」と切り捨てるのも一つの価値観。

 無用な混乱を招いた、現地の管理局支部の連中はバカとしか言いようが無いが、それだけを見て管理局全体を否定するならば、それは

木を見て森を見ずというものだわな。



 しかし管理局内部には不透明な部分が多いのは確かだ。


 特に立法プロセスが、捜査官八神一尉をもってしても不透明だってのは・・・





 それでどうするかって話は、俺については簡単なんだが。

 技術職は強いのだ。

 医者であることに徹する。君子危うきに近寄らずって方針で生きればよい。

 んでなるべく早く体を治して、いざとなったら地球に帰れば良いし。



 だが八神は、どうする気なのかね・・・

 こいつは管理局の中枢に近いところで働いている・・・

 正直、あんまそういうところには近付かない、というのが唯一の正解としか思えんのだが・・・



 八神は考え込んでいる・・・


 俺も考えながら、その八神を見詰めている・・・



 そして高町は、全く話しについていけずにオロオロしている・・・w


「ううう・・・わかんないよ。ねえ、結局、管理局は間違ってるの? 正しいの?」


 頑張って発言した高町の、その発言の内容は・・・うーむ・・・

 俺の内部で、今の発言を意訳すると・・・「私、そういうこと考えたこと全然無いから、サッパリ分かんない!」

 っという内容に変換されてしまうなあ・・・


「ふぅ・・・お前見てるとマジメに考えてるのもアホらしくなってくるわ・・・」

「な! なんかバカにしてない?」

「そっか、だからお前はいつでも明るいんだなあ・・・うんうん、良いことだよ。」

「ああー! またなんかバカにしてるー!」

「分かった分かった、お前にも分かるように説明してやろう。」

「ううう・・・」

「管理局は、今回は少し間違ってしまった。それは事実だ。」

「うん。」

「でも、一度の失敗で、全部を否定するのもおかしいだろ?」

「うん。」

「だから・・・管理局が正しいのかどうかは、これからお前が自分自身で、見極めなくてはいけないってことだよ。」

「私が? 自分で?」

「そらそーだろ。誰かに決めてもらってどうするよ。」

「ううう・・・あのさぁ・・・マシュー君はどう思ってるの?」

「自分で決めろと言った端からそれかよ・・・俺はこれから見極めてみるさ。ただ今の感想を正直に言うならば・・・」

「言うならば?」

「管理局は決して、正義の味方では無いわな。だからって悪の権化でも無いし。ていうかそういう極端なもんなんて、現実の世界には

存在しないんだよな、もともと。ここまでは分かるか?」

「・・・うん。」

「だが、管理局ってとこは、善悪どちらの割合が多いかと言えば、まだ善の占める割合のが多い組織だ、と俺は思う。」

「どうして?」

「次元世界全体を見れば、まがりなりにもある程度の平和は保たれてる。これは管理局の功績だろう?」

「そっか・・・」

「だからな高町、お前はこれまで管理局は純粋に正義の味方だと思ってたかも知れないが、必ずしもそうじゃないってこと。

 善悪、どちらも含んでるものだってことを認めて、だから自分の担当する範囲では、善の割合を多くするよう努力すること。

 それだけを意識すればいいんじゃないか?」

「・・・私は出来ることを頑張れば良いってこと?」

「あー・・・まあそうだな。」

「うん! それなら分かるよ!」



 本当に大丈夫か・・・心配だなあ・・・



 しかし、自分の現場で頑張る!と無邪気に決意できる高町の表情は少し明るくなっても・・・



 管理局の中枢で働き、その制度自体と向き合わねばならない八神の顔は・・・どうにも暗いままだった・・・











(あとがき)

 改めて強調しときますが設定には独自解釈が含まれる場合があります。

 しかしまあ戦って勝ってればそれでOKとはいかない場合もやはりあるでしょう、なのはにもそういうことはあったはず。

 とりあえず問題は、それでも踏み込む八神と、そこまで行く気が無いマシューでしょうかね・・・八神の踏み込む理由とは・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第三十九話  中学生日記9
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:8141cfbf
Date: 2009/04/18 07:58
マシュー・バニングスの日常     第三十九話







□×年○月□日



【凶悪】第38管理世界における管理局の横暴を許すな!!! part58【無比】


4 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 今回は弁護の余地ないな。管理局最低。


8 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 現地の宗教施設に安易に手を出すなってマニュアルに書いてあるの読めないの?

 文盲なの? バカなの?


13 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 ただ空気が読めないだけなんだろな。


19 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 貴重な遺跡壊して、祭器を奪って、それが何故犯罪にならないのか、どんなに考えても分からない漏れに誰か教えてくれ。


28 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

>>19
 管理局法には違反してませんし、現地政府との協定でもロストロギアの疑いがある場合の強制捜査権は認められています。


29 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>28
 だから? 自分たちは間違ってませんってか? オマイ一回死んで来いって。


30 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>28
 それでそのロストロギアは見付かったのかな? ねえねえ見付かったの?

 そんだけえらそうに言うからにはきっと凄い危険なロストロギアが見付かったんだろね?


32 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>28
 こいつって人の心とか、マジで無いんだろうな。哀れなやつだ。


36 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>28
 よし百歩譲って法律違反してないことは認めてやろう。

 だがそれでも常識という問題がある。

 事前に通告もせず、調査の申込すら省略し、何の前触れもなく遺跡に押し入り、遺跡を守っていた人たちに問答無用で魔法攻撃し、

非殺傷設定ではあったが文字通りボコボコにし、貴重な祭器を奪い、勝手に弄くり廻して調査し、ハズレだと分かると投げ捨てるように

して返すというその行動。

 それに問題が無かったと、お前は胸を張って言えるのか?

 言えるってんなら何も言わんよ。


39 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>28
 死ね。氏ねじゃなくて死ね。


(以下、実に80レス近くも28が超フルボッコされてるので省略します)


125 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 管理局にも失望したけど、例のエースにもガッカリだよな。結局は管理局の犬か。


130 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 まだ13歳とかだべ。そういう子供を操って言うこと聞かせるのが連中の得意芸だからな。


134 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 ガキだからって容赦してやる気には今回はなれない。あいつは悪魔だ。


140 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 魔王だよな。地獄からの使者って感じだ。


148 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 もう魔王としかいえないね確かに。


 ☆  ☆  ☆


 ミッドのネット世界に存在する巨大掲示板「Xちゃん○る」

 今日はなんか気軽に書き込もうなんて微塵も思えない雰囲気です・・・


 28みたいに、ごく稀にちょっと管理局を弁護するみたいな意見はたまに出るのだが・・・

 そのたびごとに28と同じか、それ以上の超フルボッコを食らっている・・・

 レスの進みも無茶苦茶速い、祭り状態で連続してるなこれ・・・


 高町はもう「魔王」で決定。異論なし。前みたく天使と呼べとか言うやつ皆無。言える雰囲気じゃねーわな。

 あー・・・さすがにこれは俺でも高町に同情するわ・・・でも弁護とか出来る状態じゃねーなこれは・・・

 しかし・・・むっ!


 ☆  ☆  ☆


654 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 確かに魔王はバカみたいに強いんだろが、今回のはいくらなんでも強すぎね?


657 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 ああ、それは俺も疑問に思った。魔王は広告塔としてたまに使われてるからな、公式な戦歴とかも航空武装隊のピーアールページで

ある程度は確認できるんだが、その戦歴見ても、今回のはちょっと強すぎるな。

 前に23世界を救った時でも敵の数は公式によると60名程度、うち魔導師は20名程度だったそうなんだよな。

 それだけの数を一晩で一人で壊滅させたってのも冷静に考えればありえん程の話なんだが・・・


 今回は相手200人だって言うじゃないか。しかも全員魔導師・・・これはいくらなんでもなあ・・・


662 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 自分は38世界の関係者です。ログ追跡して逮捕するならしろ。はっきりと書いておいてやる。

 いいか魔王はAAA+だ、だがな、こっちにもAAAの魔導師はいたんだよ、それも実戦経験豊富なベテランがな!

 なのに一蹴された、勝負にならなかったんだ、あれはおかしい!

 断言する。魔王だけじゃない、他に誰かいる。


663 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>662
 関係者光臨キターーーーーーーー!!!!!


664 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>662
 kwsk


665 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>662
 wktk


670 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>662
 すまね、あんただけ危険を負わせるのは心苦しいのだが、これだけは教えてくれ。

 38世界側のAAA魔導師は、何も出来ずに一方的にやられたのか?


 それなら確かにおかしい。魔王の魔力は異常だってのは聞くけど実戦経験豊富で魔力もほぼ対等ならワンサイドになるわきゃない。

 そのへんの事情、誰か知らないか?


675 名前 逮捕上等! 662だ! ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 俺だって直接の関係者じゃないから詳しい戦況とか分からんが、魔王以外に、妨害が異常に上手い魔導師がいて、そいつに完璧に

妨害されて、そもそも戦いに持ち込めなかったって話だ。

>>657
 俺も公式見たが、その23世界のとき、そして今回、この二つの戦いにおいては一人で倒した数が異常に多い、公式には一ヶ月ごとの

戦歴と倒した数の大雑把なデータしか載ってないけど、事件ごとの新聞記事など別ルートからの詳しい情報も併せて、一回の作戦ごとの

倒した数をグラフにしたら一目瞭然だ。作ったから見てくれ。

http//devil-nanoha.excel//XXXXXXXXXXXXXXX


679 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>675
 直リンおつ!

 しかし確かに凄いね。実戦を含む作戦なんて一ヶ月に数回って所だけど、それにしてもその2作戦だけガクンと撃墜数激増。

 あー・・・確かにこりゃなんかあるな。


688 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>675
 おいおい藻前らアクセスし過ぎww

 出遅れた漏れが入れねーぞwww

 まあ>>675の資料が信頼できるものだと仮定して話を進めるが、そうなるとやはり誰か別の、謎の妨害魔導師がいるんだな。

 そいつの情報マダー?


 ☆  ☆  ☆


 冷や汗ダラダラである。

 まずい・・・これは実にまずい流れだ・・・

 そうか冷静に過去のデータ調べれば異常性に気付くわけだな・・・

 俺のことまで詮索され始めて、しかもその流れが止まらない・・・

 そしてこのスレの終盤で・・・


 ☆  ☆  ☆


970 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

「目」とかいう謎の魔導師なら見たかも。


971 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx
>>970
 kwsk!!!


975 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 私は現地を通過しただけの一般企業のサラリーマンなんすけど、魔王さんと一緒に顔を隠した変な魔導師いた気がする。


984 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

「目」??? それがそいつの名前? まあ本名じゃ無いんだろが・・・


990 名前 名も無き一民間人    ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 ああああああ!

 折角面白くなってきたのにこのスレ終わっちまう! 誰か! 次を! 急いで次を立てるんだ!

 あと>>970、>>975は頼むから絶対次スレに来てくれええええええええええ!


 ☆  ☆  ☆


 やばい・・・やばすぎる・・・

 しかしなぜ・・・ああ、そうかあの時・・・

 やっちまったかもしれん。



 最初に高町に声をかけた、38支部にいたお姉さん、あの人は比較的、中庭とかでも近くにいて・・・

 俺が正確に探査して説明していたのが聞こえていたらしく、事件後に、今度お礼をしたいから是非、俺の名前も教えてくれと相当、

しつこかったのだ。必要ないといってるのに聞かない、しかもお姉さんは善意で言っていて押しが強くて・・・最悪なことに、少し

姉ちゃんに似ていたのだ。

 だが本名など明かすわけにはいかないのは当然で・・・言を左右にして逃げようとしたのだが・・・姉ちゃんに似た顔で悲しそうな

顔とかされるとどうにもこうにも・・・

 そんで最後の最後に、お別れするときにボソっと、「『目』です。それだけです。」とかなんとか言ってしまったのだが・・・あれ

聞こえていたのか・・・そういやあのとき近くに他の人とかもいたなあ・・・

 あのとき、近くにいた人の誰かなのか・・・普通の民間人も避難して来てたのか・・・




 あああああああ。

 俺はバカだ、バカ過ぎる・・・

 いくら相手が姉ちゃんに似た美人だったとは言え・・・

 隠れて無ければ弱い俺が、自分で自分の特徴を明かすような名前を名乗ってどうするんだ!

 なんか昔からちょっと調子乗っては、こういうバカな失敗をしてきたような気がする・・・



 今はまだこの話題ではあんま盛り上がっていないな・・・掲示板上では。

 下手に打ち消すと火を煽る。

 こういうときは徹底スルーだ! 他には手は無い。


 ☆  ☆  ☆


 だが夜、食後に八神の家のPC借りてつないでみると・・・

「なぜだあああああ!」

「ん、どしたんマーくん。」

「午前中は少し話に出てきただけだったのに!  今では『魔王』ないし『冥王』と『その目』の話が普通に前提のように話題に出て

きている! 『魔王の目』とか『冥王の目』って単語まで!」

「この前の38世界のスレ? ふむふむ、なのはちゃんが『冥王』or『魔王』で、マーくんはその目か・・・言い得て妙やな。」

「なんでこんなことに・・・八神、なんか知らない?」

「このスレ初めて見たし。分かるわけないやん。」

「ううう・・・既に午前中から19スレも消費してるのか・・・」



 それでも根性で履歴をざっと流し見て、状況を把握したところ・・・

 ネット世界の恐ろしさを再確認してしまったぜ・・・

 断片的な情報と、後は、実際に起こった結果から考えた逆算と推測だけで・・・

 事実に近いところまで噂が形成されて・・・そしていつしかそれが前提となり話が進むようになり・・・


<恐らくは補助系魔法を得意とする魔導師、直接は戦わず滅多に表に出ない、しかし今回は緊急事態だったので仕方なく出てきた、

 魔王と親しい? 管理局の裏側に所属している? 灰色のバリアジャケット、非常に長い特殊な杖型デバイス>


 といった感じがスレ住人の共通認識となってしまっている!!!  


 いかんぞ、これはいかん。




「あ~・・・慣れないことをするとロクなことにならんなあ・・・」

「結構、噂になってもうとるなあ。」

「向こうの事情とか知ったこっちゃないし、管理局の正義にも興味は無いが・・・結局、戦いってのは勝っても負けても・・・」

「・・・そうかもな。」


 勝てば丸く収まるってほどに世の中は甘くないってか。

 戦わずにすめばそれがベスト・・・高町に恨まれても強引に、あいつ連れて転送で帰るべきだったかな・・・

 しかしまあ「学習したから次に活かせば」いいことだ。姉ちゃんの言葉だが・・・

 でもま、ミスったな、明らかに・・・


「・・・俺、もう大人しくしてる。今度こそ二度と戦場なんかいかねー。」

「それでええんちゃう? マーくんはお医者さんなんやし。」



 行かない、今度こそもう二度と絶対に絶対に!


 戦場なんか行かねーぞー!!!










(あとがき)

 マシュー、懲りる。もう戦わねーと固く心に誓う。ほんとXちゃんは恐ろしいところですガクブル

 好みのタイプの女性に対して口が緩まない男はいない。だからこの流れ後悔していない。

 ふ~、やっと次回からまた少し明るくなるかな・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十話    中学生日記10
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:8141cfbf
Date: 2010/01/05 01:57
マシュー・バニングスの日常    第四十話






□×年△月%日


 高町は思い込んだら一直線、視野の狭くなるやつである。

 現場で頑張る!と決めたら本当に頑張る。脇目も振らず頑張りまくる。

 近頃は教導隊での研修とかも増えてきて、特にそっちの仕事は目新しいので新鮮で面白くて、夢中になってしまって・・・


 また例によって過労気味に。


 訓練場に乗り込んで、いつものように叱る。いい加減にしないとそろそろ強制休暇を取らせるぞ!

 その場に教導隊の人たちも結構いたのだが、医者だと知ると治癒魔法でいいのがあったら教えてくれないかと頼まれた。

 さすがに武装隊上がりの人たちなので、誰もが治癒魔法はそれなりに使えるし、よりよい術式を求めて各自勉強もしてるようだ。

 話を聞いてると、ケガに対する治癒魔法はかなりよく知ってる。だが病気に対するものは知らないなあ。

 そこで、風邪っぽい程度の軽い体調不良や過労に効く、俺命名「カゼ薬」の魔法を教えてあげた。そのままとか言わないように。

 体内の36箇所の魔力のツボを極微の治癒魔法でほぐしてまわるというもので、プログラムの容量も軽く、戦闘用デバイスの空き

程度の容量にも無理なく入る。ちょっと体が重いなあって時に、寝る前にかけるのが効果的だよと使い方もレクチャー。

 もちろん最終的には医者にかかって欲しいけど、医者にかかるヒマもない連続作戦行動のときなどには使えるだろう。


 この時は皆さん、ピンと来なかったようだが・・・後で教導隊・武装隊から正式な感謝状を貰った。

 相当、使えたらしい。



 で、高町はどの程度の治癒が使えるんだと聞いてみると・・・なんと「今すぐはちょっと使えないんだけど・・・」との返事。


 もしかしてと思って・・・


 基本的な探査魔法くらいは使えるよな?

 ・・・それも今は・・・

 基本的な結界くらいは、張れるよな?

 ・・・今すぐは無理で・・・

 事前準備をちゃんとすれば、同じ世界の中なら・・・固定された場所の間程度の転移はできるよな?

 ・・・えっとね、その・・・

 そして治癒魔法も、今すぐやれといわれれば出来ない・・・一つもか?

 ・・・うん・・・


 空を飛べること。防御が硬いこと。そして何より圧倒的な砲撃の破壊力。こいつはそれだけで勝って来た訳か・・・

 いや、レイジングハートの中には一通りの魔法データはあるよ? あるけど・・・ほぼ使われていなかったのでどんどん記憶部分の

奥の方に奥の方にと押しやられて何度も何重にも容量軽くするための圧縮変換されてたりして・・・解凍に手間取るほどの状態で・・・


 俺は教導隊じゃないからよく分からないけど、どんな魔法でも一通りは使えるくらいじゃ無いと、教える側としてまずいんでね?

 お前は教導隊に将来は行きたいんだろ?

 と問いかけると高町は黙り込んでしまった・・・



 ちなみに・・・高町のこういう状態を、周囲の皆さんも初めて気付いたそうで・・・

 それからしばらく得意の砲撃・防御・飛行さえ制限され、他の魔法の特訓をされたそうである。

 俺でも最初に基礎は全種類を一通り試すところから始めたものなのに・・・最初から撃ち合い殴りあいの実戦だった高町は、そういう

ことをしている時間は無かったのが、そのまま来てしまったらしい。そういう補助系魔法は、相方だったユーノ(補助系が得意)とか、

フェイトさん(万能型・バランス良く何でもできる)とかにまかせっきりだったとかで・・・昔は少しだけ使えたりもしたが、そのうち

どうせ不得意だしと全く使わなくなり忘れてしまったとか。

 レイジングハートの主要操作インターフェイス部分の容量内訳を見ても、砲撃3割、その他の攻撃2割、バインドなど準攻撃1割、

防御2割、飛行1割、空き1割とかの無茶苦茶偏った配分になっていたそうだ。砲撃・攻撃のバリエーションの多彩さなど、完全に

実戦仕様なのは間違い無いのだが。


 しかし・・・このときに苦手分野も一度徹底的に特訓したことは高町にとって大きなプラスとなり・・・

 しばらくして教導隊に正式に入った頃には・・・ついにランクSなんつー存在になってしまった・・・

 もはや管理局所属魔導師の中でも、上位2%くらいしかいないレベルである・・・


 正に魔王w





□×年△月○日



 中2ももうすぐ終わるかなって時期の話だが。


 八神が上級キャリア試験に余裕の一発合格しやがった。実につまらん。一回くらい落ちやがれ。フェイトさんを見習って笑いを

取るんだ、それでも関西人か、と言ってやったら、最後のところだけはちょっと考えてしまったようだ。

 私は笑いをとる目的で落ちたんじゃないよ!とか横で言ってる金髪少女は華麗にスルー。

 合格祝いに、また皆で集まって騒いだ。



 管理局は、大まかにいうと「前線実働部隊」と「中央管理組織」に分かれているとも言える。

 前線では、武装隊とか執務官、さらに艦長とか、管理世界の支部長、そして艦隊の提督とかには、なれるわけではあるが、そのまま

普通にしてれば基本的に、中央で全体を管理する部署には入れないのだ。

 提督クラスでも中央の命令を聞く立場である。それでも噂の「伝説の三提督」とかいう管理局体制初期から活躍してるような人にまで

なれば中央においても強大な発言権を有しているそうなんだが、これはその三提督の方が例外なのである。

 本物の管理局の中央最高指導部・・・「最高評議会」直属の組織が中央管理部なのであり、八神はそこに参加することを許されるという

資格を今回得たわけだ。しかしこの「最高評議会」も謎の多い組織で・・・というか実情は組織というものではなく、「評議長」と

「書記」と「評議員」(一名のみ)の3人しかいないとかいう話もあり・・・そしてこの3人はいつから生きてるか誰も知らないほどに

昔から生きているそうで・・・この3人の権力基盤の裏付けとか法的根拠とかもどうにも曖昧であり・・・ここにも管理局の権力構造の

不透明さが出ているわけなんだがな。


 まあそれはともかく。


 八神はこれまでも、管理局の中枢に所属する捜査官であったが、これは中央としては下っ端。今回、上級試験に合格したことによって

本格的に中央組織内部でのキャリアを積むことができるようになり、さらに絶大な指揮権も実際に振るえるようにもなり、まあこれから

どんだけ偉くなるんだか分からんわって状態である。



 そもそも八神ってやつは・・・


 まずこいつは、実際には4つもデバイスを持ってる。まずは「剣十字の杖(シュベルトクロイツ)」、八神のデタラメな魔力放出に

耐えるためだけのアームドデバイスで、これを使っての広範囲攻撃が得意技だ。さらにデータ蓄積用の魔導書型デバイス「夜天の書」、

これまでに蒐集された膨大な魔法のデータが載っておりその情報量はハンパじゃねえ。そしてユニゾンデバイス、リインフォースⅡ、

もしかしたら正式に登録されてるユニゾンデバイスなんてリインくらいしかいないんじゃねーかというレベルの超レアな存在だ。さらに

リインが使う「蒼天の書」、これは夜天の書とリンクして、その膨大な情報の中から有効な情報を検索して一時保管する、いわばサブの

データ倉庫でもあり、情報解析用のOSとも言える存在で・・・

 それだけのデバイスを以ってしても八神の全力には届かないとか言ってたような気もするし・・・

 本来のリインフォースⅠは、この4つの機能を一身に兼ねてしかも総合力では上回ってたとか・・・どんだけだよ・・・



 さらに、強力な4体の守護騎士たちの主であるわけで・・・少なく見積もっても、この4人は4人だけで、通常の武装隊などに換算

すれば下手すれば一個大隊クラスの戦力を有してるのでは無いかと思われるほどであり・・・なにせ4人は組んで戦う経験が長いので、

コンビネーションが絶妙に上手いのだ、八神の支援も受ければ果たしてどんだけ強いことか分からん・・・実際に八神の協力なしでも

アースラという一隻の艦全体の戦力をキリキリ舞いさせたりしてたしな・・・

 そしてなんつっても八神自身が生来持っている魔力量ってのは・・・はっきり言って規格外。高町やフェイトさんと比べてさえ

デタラメ。別に特別なデバイスが無くても八神自身の持つ異常な魔力だけで、すでに「歩くロストロギア」と呼ばれるほどであり・・・


 あと、夜天の書が、古代ベルカの秘宝であった関係から、聖王教会との強固なコネも持つし・・・教会トップでも屈指の名家である

グラシア家との縁は公私ともに深く、特に管理局員兼教会騎士であるカリム・グラシアさんあたりとは姉妹同然だし・・・

 ついでに言えば、これまでだって幹部候補生の特別捜査官としての功績を確実に積み上げてきており、別にこのまま捜査官の仕事を

していても将来は保証されていて、今の若さで既に一尉であって、同期で比肩する者など既にいない出世振りなのであり・・・


 そして、さらにさらに・・・今回、見事に上級試験にも受かったわけで、八神ってやつは色々と凄すぎるのである、が・・・



 女の子同士ではしゃいでる八神に近づいて、声をかける。

「八神~ちょっといいか。」

「ん? なに?」

「高町、フェイトさん、姉ちゃん、月村さん、ちょっと八神借りるね~。」


 軽く腕を取って歩き出す。八神は抵抗もなくついてくる。

 テラスに出る、一応ベンチはあるので並んで座る。腕を取ったまま座ったから微妙に近いが八神だとなんか平気だ。


「とりあえず合格おめでとさん。」

「んーありがとな。」

「しっかしよ、八神。正直言うとだなあ・・・」

「なに?」

「大丈夫かよ、お前。そこまで頑張ることも無いような気がするんだけど・・・」

「大丈夫やで~好きでやっとることやから。」

「いや、お前さ、管理局にあんまり深入りすると・・・抜けられなくならね?」

「今は、引くことは考えてへんねん。」


 こいつに限って分かってないってことはないはずなんだが・・・


「・・・管理局がさぁ、悪い組織だとは思わないよ? 人間の作る組織なんだから、良いところも悪いところもあるのは当たり前。でも

だなあ八神。地球生まれのお前が、そんなに無闇に踏み込むことも・・・」

「わかっとる。うん、わかっとるでマーくん。」

「管理局で働くのは別にいいと思うんだよな。実際、俺も一応所属してるし? だけど、あんま深入りしないほうがさ・・・」

「・・・マーくんが何を気にしてるのかも、多分、分かっとる・・・」


 そう。

 こいつに分かってないはずが無いんだ。

 だけど敢えて自ら踏み込もうとしている。深い所まで。危険を承知で。


 それは何故なのか・・・

 その理由を聞かねば、八神の真意は分からない。

 だけどきっと、それは八神の心の一番奥底にある気持ちで・・・

 そこまで踏み込んで訊くことは・・・


 俺には出来なかった。


 俺は、それを聞いたところでどうすることもできない。

 助けることは出来ない。俺はまず俺の体を治さねばならない。

 これが俺の第一で絶対の目標で・・・これも俺にとっては譲れない事なのだ。

 もしも八神に全面的に協力するなどということに決めてしまうと、俺の体の問題は当然後回しになるだろう。

 それは自分の身を犠牲にして誰かを助けようという行為であり・・・そういうことは俺は絶対しない、約束した。

 また八神自身もそんなことを望むはずがない。逆に俺がそんなことをしようと言い出したら力尽くでも辞めさせるだろうな。



 生まれて持った体だから今さら悲観的になる気も無いし・・・昔の半死人状態に比べれば今は劇的に改善されてるが・・・

 しかしやはりまずはそこをクリアしなければ・・・

 俺にとっては何も始まらないのだ。




 だからせいぜい俺に言えたことは・・・

「ほんとに・・・大丈夫か?」

 って程度だった。

「大丈夫や・・・」

 八神も変わらない平然とした口調で答える。

「そうかよ。」


 軽く肩に腕を回して、八神を引き寄せた。ほとんど無意識にそうしてた。やっぱ心配なんだろな。その気持ちが素直に表に出たのか。

 八神の心の奥底までも、本当に全てを支えることは出来ないけれど・・・

 今このときだけなら、少しだけ、寄り添って、八神の重荷を気持ちだけでも軽くすることは出来るかも知れない。

 八神は素直に俺にもたれかかった。


「あ~マーくんに心配されるなんて、私も落ちたもんやわ・・・」

「悪かったな。」


 八神は軽く俺の肩に頭を乗せる。ふんわりと良い匂いがした。


「悪いで~いつの間にか私より10センチ以上も背ぇ大きくなりよって・・・」

「自然な成長だ。」

「腕力は未だに信用できへんけどな・・・」

「うるせぇ。仕様だ。」

「情けないことで何を胸張っとんねん。」

「でも八神ひとりくらいの体重なら、支えられるようにはなってるぞ。」


 八神は少し微笑んで・・・より深く俺にもたれて、体重を預けてきた。今の俺は普通に支えられる。

 しばらくそのままで黙っていた二人だが、やがてポツリと八神が言葉を漏らした。


「・・・もうちょっとだけ頑張りたいねん。もうちょっとだけ・・・」

「まあいいさ。お前がそうしたいなら・・・」

「あ~なんか落ち着くわ~」


 俺が肩に腕を回すと、片腕で軽く覆えるほどに、八神の肩は細かった。やっぱ女の子だわ、それもこいつは小柄だし・・・

 普段のバイタリティを見てると、あんまそうは思えないんだけどな。


 しかしその小柄な体で・・・こいつはまるで焦っているかのように仕事をこなしキャリアを積み試験も突破して・・・

 より高い所へ・・・より深い所へ・・・挑もうとしている・・・

 協力することは出来ないけれど・・・


「・・・まああれだ、そばで見てるくらいはしてやるよ。お前の頑張るところをな。」

「見てるだけかい。」

「ああ~・・・ギリギリ譲歩して・・・いざとなったら一緒に逃げてやる、くらいかな・・・それまではスルー。」


 あ・・・なんか言っちゃったかも。と気付いたのは後日だ。


「ほんまに?」

「それまではスルーするのは本当だ。」

「そうやなくて・・・」

「あ~うるせぇ。とりあえず・・・あんま無理すんなよ。」

「うん・・・」


 俺たち二人は肩を寄せ合って、互いの体温を感じつつ・・・いつしか時が経つのを二人とも、忘れていたかもしれない。


 ☆  ☆  ☆


 野次馬たちはカーテンの陰に隠れながら、小声でエキサイトしていた。全く気付かなかった俺もどうかしてた。


「ちょっとちょっと凄くいい雰囲気よ! いつの間にあんな関係になってたの?」

「あれで付き合ってないとか言ってんだよね。誰も信用しないっての。」

「週3で泊まってるらしいしな。どこまで行ってんだか。」

「うわ~・・・私てっきりマシュー君は、なのはちゃんかと思ってたけど・・・」

「ちょ! それはないよ! うん絶対ない!」

「なんだか、はやて幸せそう・・・」

「あの雰囲気になることが家でもあってな・・・私達も困っている。」

「ほんと自重してほしいよな・・・」

「もともと距離が近いのに、さらに接近してることを・・・マシューだけが気付いていない。」

「あああ・・・はやてちゃん可愛いわぁ・・・」

「お二人とも幸せそうですぅ。」







「うーん、はやてか・・・まあいいけど・・・うん、祝福してあげなくちゃね・・・」


 姉ちゃんは皆に聞こえる声でそう言ったらしい。確かにそう言ったらしい。重要なことなので二回言いました。












(あとがき)

 あ~・・・先のことは知らね・・・もうあれっす、どうしょうもないっす。

 この二人は距離近すぎる何も無い方が不自然だ・・・

 しかし・・・まだだ・・・まだ言葉に出してはっきりしたとかじゃないし・・・何とかギリギリで・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十一話  中学生日記11
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:8141cfbf
Date: 2009/04/24 21:25
マシュー・バニングスの日常    第四十一話






□×年△月△日



 人間、得意不得意ということからは逃れられんもんだ。

 どんだけ訓練したところで、生まれつき苦手なもんは苦手なんだな。せいぜい、下手がマシに変わる程度で。

 まあ、魔力集束は極度に苦手と見切った後は、ほぼその努力をしてない俺が言うのもなんだが・・・



 実例として高町を挙げよう。

 彼女は俺と逆に、魔力の集束が得意中の得意である。

 一点に魔力を集中させ、さらに集中させ、さらにさらに集中させ、そこに魔力が集束し過ぎて、高町自身の魔力以外に周囲の大気中に

分散してる魔力まで集まってくるほどの段階になってから打ち出すという、あのデタラメ砲撃など、ほぼ高町しか出来ない。また普通に

使ってるディバインバスターってやつだって魔力密度は非常に高く貫通力は並ではない。それが彼女の天才たる所以、Sランクってのは

伊達ではない。魔力を集めて固めるのが得意な訳だから、魔力を集めて盾にするというのも得意で防御も固いし。



 しかし、それとは逆の作業・・・つまり力づくでどうにかできるものではなくて繊細なテクこそ必要とされる分野になると、高町は

本当にSランクかお前って状態になるわけで。



「だからさ、そんなに魔力集めなくていいんだって、むしろ集めるな。もっと微細な段階で探査球を形成しないことには・・・」

「分かってるよ! ううう・・・でも集まっちゃうんだもん!」

「無意識に集束させてしまうわけか・・・」

「でも、ほら! できた!」



 苦手分野を克服したいということで高町に拝み倒されて、探査・結界・転送・治癒の訓練に付き合わされてるのだが・・・

 ううむ。



「あのさ、確かに探査球は形成できてるけど・・・そんな大きくて強い探査球じゃあ・・・すぐ気付かれるぞ・・・」

「・・・それってマシュー君だけじゃなくて?」

「まわりの人に聞いてみれば分かる。」



 訓練室なので人はたくさんいる。教導隊とか武装隊の人たちに聞いてみたところ、探査球があると分かる人の確率90%・・・

 はっきり分からなくてもその空間に魔力の違和感を感じるという人まで含めれば100%であった。



「見られてると気付かれては探査の意味が激減する。うーん、やっぱまだ実用段階とはいえないなあ。」

「ううう・・・」



 この状態だが・・・しかし探査はマシな方なのである。向こうに見られてると気付かれてしまうとしても、探査魔法自体は発動するし、

数十メートル半径程度なら「見る」ことは出来るようになってる。しかし、やはり苦手には違いなく、同時に並行して別の魔法とかでき

ないし、だから俺のよくやる「見えるとこに自由に飛ぶ」転送はムリ。転送については・・・事前準備さえしっかりやっていれば10秒

くらい発動までかかるけど、できるようにはなってきた。しかしまだKm単位だと同じ世界でも不安。座標計算はレイジングハートに

丸投げしてるのだが、転送先座標を把握した後に、空間同士の位相を同調させる作業が苦手みたいだ、これも繊細な作業だからな。


 治癒も・・・どうも強烈な魔力を無意識に叩き込んでしまうというクセが治らないので・・・使わせるのが怖くてたまらん。あまり

強い魔力を体内に直接ぶち込まれるとかされると健康な人でもキツイのに、怪我人病人相手では・・・ゆえに一番基本の、ホ○ミ程度の

治癒しか使わないほうが良いと現状では判断せざるを得ない。


 んでまあ、もともと苦手な魔法ってのは、頑張ってもモノにならない割りに、デバイスの容量はムダに食ったりするわけで・・・


 結界まで手を伸ばすのはレイジングハートの容量的に問題があるってことで、とりあえずこれは保留。



 所詮、苦手なもんは苦手なのに・・・しかし・・・



「もう一回やる! 見てて!」

「ああ・・・」



 高町は諦めない。どんなにダメ出しされても、そこで少しへこんだりはするけど、でも諦めない。


 自分が苦手な分野なら、それが一番得意だと思われる人を連れてきて必死に学習しようとする。正直、それが効率よいやり方なのか

どうかも疑問な気がするが、しかし高町は迷い無く一直線に行動し、何度も何度も・・・挑戦し努力し続ける。



 そういう姿は、少し、まぶしいかな。



 俺の体の問題は、魔力が勝手に発散していってしまうというもの・・・自力で魔力の集束が出来れば治療できるかもって可能性は既に

考えたけど、余りにも苦手だからこのアプローチは半ば捨ててたのだが・・・


 少し高町の諦めの悪さに学んでみるかな・・・


 こいつが無意識にやってるレベルの魔力集束の方法を、観察して調査すれば、何か分かるかも知れない・・・








□×年△月△日



 高町は武装教導隊のほうに正式に所属が変わったそうだ。それでもこれからも前線にはバリバリ出るつもりだそうなんだけどね。

 一度、見物に行ったが、嬉々として周囲の人たちを当たる幸い薙ぎ倒してるの見て・・・教導受ける人、気の毒だなあと思った。

 まあ幾らなんでも、いつまでもあの調子では無いんだろう。

 マジメなのは高町の特徴の一つで、一生懸命、教導のテキストとか勉強しまくってるようだし。





 俺の方は、もうすぐ年季明けだ。つまり管理局の拘束義務期間が終わってしまうのだ。


 その後、どうするか、ギルさんは病院のほうでも研究室のほうでも好きなほうを選んでくれて良いから、本腰を入れてこっちに来ないか

と熱心に勧めてくれる。地上本部のほうの病院からも、俺みたいなガキにはちょっとありえねーだろって額の給料を提示して、正式に

所属して欲しいと言ってくる。


 実は「リンカーコア直接整形術」は、あれから僅かに5例だが実施している。限界が15分で、10分過ぎると危険なら、10分ずつ

何度も分けてやればいいだけの話だったのだ。ああなんであのとき気付かなかったのか・・・


 だがそれでもきついのは確かなので、余程の重態患者相手にしか行わない。基本的に頼まれてもしない。こちらが患者を診て、それ

しか無いと判断したときにのみ、行ってきた。俺は念を入れて、施術後は最低でも一週間は完全オフをとるし。


 既に、本局病院のリンカーコア障害治療部は、確固とした名声と地位を築いていて、新しい術式を客寄せにしたり功を焦ったりする

必要も無いしね。


 それでもその5人は劇的に治ったのだ。そしてそれぞれが完全復帰している。いずれもある程度若い人で、一番上でも25。若くて

柔軟性のあるコアでなくては危険だと説明してある。実際、まだ若く少しでも成長の余地があるなら、多少の刺激にコアも耐えるだろう

けど、年取った人のコアでは・・・自信が無い。



 だけど、高町だけでなく他に5例も直接整形術を成功させたことで、なんか妙に有名になってしまい・・・どうも治した人の中の一人、

まだ7歳くらいの少女だったのだが、その子が実は結構エライさんの孫だったとかなんとか、それやこれやで取材だとか昇進の打診だとか

いろいろ来て面倒だった・・・リンカーコア障害治療部のホームページにはメールでの質問が殺到し、そのために直接整形術関連の質問

はこちらって専用の受付アドレスが作られたり、その対応は俺だけでは到底ムリな状況になったり・・・まあ医者として名前が売れる分

にはいいんだけどね、「有名な医者である俺」と、例の「目」とを結びつけて考える人などまずいないはず・・・治療の時とか、取材の

時とかは、サウロンを展開することはあっても、ジャケットは展開しないように気をつけたりしてるし。




 まあそういう問題もあったりはするが・・・


 今後は二度と戦わないつもりだし、そのまま何年も過ぎれば自然に人の噂も収まるだろうし、実はあんまし気にしてない。


 ただまあ・・・うーん、結局の所・・・


 俺は・・・ミッド世界が色々と問題を内包しているのを知った上で、それでも別に嫌いじゃあない。完璧な社会なんてあるわけないし?

しかし八神みたいに深入りしようとも思わない。高町みたいに無闇に突っ込もうとも思わない。フェイトさんはもともとこっちに属する人だし。



 やはり・・・地球に基盤を築きたいな・・・あっちに俺の根があるのは間違いないのだから。



 俺は熟考した末に、まず姉ちゃんに相談し、父さんに協力してもらって推薦も得て、さらにSAT試験(アメリカ大学進学適性試験)を

受験して、まずはどっか入れるユニバーシティに潜り込み、きっちり勉強してなるべく早く学士資格を取り、その後はさらにメディカル

スクール(医療大学院)を目指すことにした。今さらだけど一応、国籍はアメリカなんだわ。





 いつも通りの八神の家での週末、食後に二人で話す。



「ってことはマーくん、義務が終わったら、地球に帰ってまうん?」

「アメリカは休日きっちりしてるからね。今より休みは多くなるかな。日本の義務教育くらい拘束時間の長い学校は無いんだよ。

 ただまあ大学の勉強にちゃんとついていけるかって問題もあるし、その辺は実際に経験してみないとなあ・・・」

「そんなに簡単に入れるもんなん?」

「簡単じゃあ無いって。頑張って進学適性試験はちゃんと高得点取ったよ。だけど実際の話、父さんの財力とコネでかなり後押し

されてるのは事実だわ。まあ入るとき多少コネ使った分は入った後で取り戻す。要はちゃんと良い成績取ればいいんだから。」

「医学部に入るんとちゃうん?」

「アメリカの場合、まず4年制大学を卒業して、学士号を得て、さらにMCAT試験てのを受けて、それで初めて医療の専門教育が

受けられるようになるんだわ。ハードルが高いわけね。ただし実力次第で、過程はスキップできたりもするから、まずはなるべく

早く、学士号を取るのが目標だなあ。」

「でもマーくん、中学卒業見込み、って程度やん。どうやって大学に・・・」

「知識だけなら大学レベルはあるぞ。大体既に現役の医者だっつうの。だから俺が地球医学の分野で書いた論文とか、父さんに頼んで

知り合いの大学教授とかに見てもらったりして、確かに勉強にはついてこれるだけの知識はあるようだって認めてもらって、それで

何とか・・・まあ最後はコネだな。うん、所詮はコネだ。強引にねじ込んでもらったのは事実だ。」




 アメリカには日本にはいない、本物の富裕層、本物のセレブってもんがいる。こういうクラスの人は大抵のものをカネで買う。

大学入学の権利とかも実際かなりカネで買える。そういう枠は一流どころでも元々設定してあるのだ。

 そしてバニングス家もそういう家なんだな。


 まあ、アメリカの場合は入学よりも卒業の方が遥かに困難であり、そして卒業資格を得なくては評価されないので、そうやって

入学は出来てもそれだけじゃ意味が無いってのもあるんだろうな。


 大学側からすれば高額な入学金とか、後はそういうクラスの人には当然のように求められる寄付金とかね、そういうのを払ってくれれば

問題ない、卒業できるかどうかまでは知らんってことだろし。




 八神は軽くため息をつく。

「は~。私らは中学卒業で終わりそうやのに、マーくんは大学行くんか~。」

「やっぱりな・・・地球でもちゃんとした医者になりたいんだ。実際になれるのは24くらい?になるかもだけど。」



 八神は俺の志望を聞いてなるほどと頷いたが・・・なんか・・・


「そっか・・・あのな、私は・・・中学卒業したら、もう正式にミッドに住み着こうって・・・思っとんねん。」


 不安そうな顔である。上目遣いにチラチラこちらを見てる。


「家とかどうすんの?」

「うん、いつまでも教会の一角を借りてるわけにもいかんし、教会から少し離れたところに一軒家を建てようかってな・・・」

「そこに俺の部屋ある?」

「へ?」

「いや、これまで通り、週末は泊まるわけだし。」


 なにせ俺は完治してない、その研究のためってこともあり、ミッドとの縁はまだまだ切れそうも無い。

 これまで通りの週末ミッドって生活は中学卒業しても多分変わらないのだ。


「な!・・・・なんや、あつかましいなあ自分。タダの宿屋やと思っとるんかい。」


 いきなり不安顔など消えうせて、いつもの不敵な笑顔が戻ってきた。回復早すぎるぞ、少しいぢめてやる。


「イヤなら来ないぜ~」

「い、いややなんて言うてないやろ! ただ・・・その・・・」


 八神は焦っている。珍しい。面白い。よしここは押そう。


「ああやっぱりイヤなんだ・・・じゃあ来るの止めようかな~」

「あかん! ちゃんと来な!」

「あれ~なにムキになってるの八神さん。顔赤いよ~」

「ううう・・・マーくんのアホ! もう知らへん!」


 おっとからかい過ぎたか。顔を真っ赤にした八神が立ち上がって背を向けてしまったので、近付いて肩に手を掛けてみる。

 八神は振りほどく。

 また俺が肩に手を掛けようとする。

 また振りほどく。


 とかなんとかやってるうちに、なんか八神は俺の腕の中にスポンと納まってしまった。

 正面から軽く抱き合う体勢。

 うーん。

 八神だとなんか平気だ。

 なぜだろう。

 そのまま軽く抱きしめて、八神の頭を撫でながら言う。


「ごめん、悪かったって・・・」

「マーくんのアホ・・・ほんまアホなんやから・・・」

「悪かったってば・・・」


 八神は俺の上着の胸のあたりをぎゅっと掴んで俺の胸に顔を埋めてしまってるので、表情は見えなかったが・・・

 なんとか許してくれたみたいである。


 そのまましばらく、俺が背中を撫でたり、八神が俺の胴に腕を回して来たり、やっぱ八神って小さいなあと思わず呟いたり、どこが

小さいって言うねん!と少し険悪になりかけたり、バカ背丈だよ、やっぱ女の子って感じだってぎゅっとしてやると大人しくなったり、

「まだ骨があたるしもっと太らんとあかんな」・・・「ちゃんと食べてるしこればっかりはどうにも」・・・「もっと考えてご飯作らんとな」・・・

「大丈夫だよいつも美味いし残さず食べてるだろ」・・・「でも意外とマーくんてええにおいするんや」・・・「こらこら鼻を擦り付けるな」

・・・「ええやないの減るもんやなし」・・・


 とか何とかやってるうちに時間がかなり過ぎていた・・・ような気がする。



 ☆  ☆  ☆



 二人の話す居間にはいなかったのだが、その続き部屋にいた騎士たち+1・・・


「なあシグナム・・・」

「なんだヴィータ・・・」

「見てらんないんだけど・・・」

「同感だ・・・」

「30分は抱き合ったままみたいに感じるのは、あたしの気のせいか?」

「安心しろ、確かに30分以上経っている・・・」

「あたし、『イチャイチャする』ってのがどういうことなのか、はじめてこの目ではっきりと見た気がするぜ・・・」

「言い得て妙だな・・・」

「週末はいつもあんな感じになるのかね・・・」

「なるべく週末は仕事を入れるとしよう・・・」

「そうだな・・・」

「ああ・・・」


 本気で悩む二人をよそに・・・

 リインは良く分かっていない。

 ザフィーラは犬バージョンで知らん顔。

 シャマルはすっごいイイ笑顔でひそかに動画を撮っていた。どうするつもりなのか謎である。


「あああ・・・はやてちゃん可愛いわぁ・・・」














(あとがき)

アメリカの大学制度については、予め言っときますが色々と違うとか突っ込まれても作者も詳しく知らないので答えませんすいません。

ただ実際にあった話として十代で既に正式な医師免許を取った天才少年とかはいたみたいなんでアリかなと。

とりあえず中学時代はこんな感じで行きそうかな・・・はやてとマシュー・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十二話  中学生日記12
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:8141cfbf
Date: 2009/04/27 08:27
マシュー・バニングスの日常    第四十二話







□×年△月×日


 中3になったのだが。


 在学中と、二年前の高町の退院後と、二度にわたって出されたリンカーコア障害治療に関する論文の功績で、俺の拘束年限は小6から

中2までのわずか3年間となり、ついにこの度、見事に年季が明けてしまった。


 終わってみれば早かったし、意外ときつくもなかったな。


 まあ俺自身のリンカーコア形成異常については未だ治療法が見つからないので・・・まだミッドで研究する必要がある。だから研究棟を

自由に使う権利を与えてくれている本局病院の方はやめる気は元々無かったのだ。地上本部の病院はどうすっかなーと正直迷ったのだが、

上の方の人が日々入れ替わり立ち代りして頼むやめないでくれと頭を下げてきて・・・



 そもそも海の本局には、リンカーコア障害治療部がちゃんとあり、そこにはギルさん始め優秀なスタッフが揃っており、研究設備も

完備、この方面ではトップであると断言できるわけだが・・・陸の本部の病院にはスタッフも少なければ、設備もどうも一段落ちる、

予算も少ないらしいし・・・なんなんだろうなこの格差は。俺は陸では内科の中の第3課という、実質上俺のためだけに新設された課に

所属しており、そこでチーフって役職まで貰って待遇も良いのだが、それも陸には専門のリンカーコア治療部ってのを作る余裕が無いって

事実の裏返し。


 つまり海は俺が居なくてもある程度まわるが、研究設備の関係で俺はそちらにちゃんと所属したい、陸は俺がいなければ話にならない

ので必死に俺を引き止める、という状況なわけだ。



 しかし本当に陸はなんとかしないといかん・・・


 予算が少なく設備もいまいち、優秀なスタッフもいないのならば・・・

 そして予算と設備については劇的な改善など、決して望めないというのが実情であるならば・・・

 優秀なスタッフを育てる以外に方法は無いわけだ。

 いや海の本局病院にはいるんだけどね・・・そっから引き抜くってのは難しそうです。俺が陸に顔出すようになったのは、俺の名前が

まだ売れてなかった頃に気まぐれで呼ばれて縁ができたって関係だから。んで行ってみれば、犯罪者相手の激務で魔力中枢をすり減らし

まくってる人がたくさんいて、継続治療とかしてると辞めるわけにもいかなくなって、そのままって感じなんだよな。しかし今になって

あらためて海から人材引き抜くってのは・・・いや派閥争いってほんとアホらしいねえ・・・「あの」有名な海の本局病院リンカーコア

障害治療部のスタッフってのは既に引く手あまたなのであり、その人材争いに陸も参加するってのはかなり困難なのだな。

 陸の人たちも分かってるし俺自身も分かっちゃってるわけだが、陸に顔を出し続けているのは、はっきりいって俺の厚意による部分が

非常に大きいのである。だからこそ情に訴えてお願いに来るわけなんだが・・・



 ☆  ☆  ☆



 例によって八神の家で。

「治療途中の人もいるし、一月に一回はちゃんと体内の魔力調整ケアしなくちゃいけない人も多いし、だから顔を出し続けてんだけど、

そうなるとまた新しい患者さんが来て、またつながりが出来て続けざるを得なくなるし・・・このままではズルズル行くなあ・・・」

「マーくんは辞めたいん?」

「患者さんの面倒は見たいよ。治せる人は治したい・・・でも今のままだと効率悪いなあ・・・」

「本局病院のほうに来てもらうわけにはいかへんの?」

「本局指定病院だと、本局所属者は医療費が割り引かれる。同様に地上本部指定病院だと、地上所属者は医療費が割り引かれる。保険の

管轄が、海と陸でスッパリ別れてるんだよ・・・陸の人に海の病院に来いとか・・・気軽に言えないのよ。」

「それは初めて知ったわ。そっか、それやと難しいなあ・・・」

「ああ~もうなんでこんな無意味な分割してんだか・・・効率悪すぎるだろ全く。」

「地上では、リンカーコア治療のスタッフさんは育ってないん?」

「ある程度は育ってるんだけどさ・・・これもなんか効率悪いんだよな。医者の方はそこそこ育ってきたような気もするんだが、医療

てのは医者だけじゃないだろ? サイドスタッフもきちんと育ってくれなくては話にならんわけで・・・ところがそのサイドスタッフの

候補として送り込まれてくるのがだなあ・・・」


 本当にこの件だけは相当鬱憤が溜まってたのでついグチをこぼす。


「なーんかいわくありげな怪しい人ばっか、入れ替わり立ち代り来たりしてさ。俺の技術を盗みたいっていうならそれは良いんだよ、

それで治療法が普及するのは本望だ。でも誰にでもできるよう標準化された治療法と、その補助とリハビリとかをマジメに覚えようって

言うよりは、俺自身の特殊スキルが前提にある直接整形術ばっかり興味示して、そんなもん必要ない圧倒的多数の患者さんへのケアを

適当にするようなのが多かったりしてさあ。あれは腹立ったんで陸の上に抗議してやったが・・・」

「どうなっとるんやろね?」

「少将さんだったか准将さんだったかが謝りに来たけどさ、謝るくらいなら初めからするなってんだよ。送り込まれた変な連中は全く

変としか言いようがないやつらだったし・・・」

「どんなんやったん?」

「ん~八神は知ってるよな・・・ナカジマさんちの娘さんみたいな・・・」

「ああ・・・」

「体の中が異常に機械だらけの女性が来てさあ・・・別にそれだけならね、ナカジマさんちみたいな?っても俺は良く知らないわけだが、

まあ何にしても事情あるのかなって思ってスルーしとこうと思ったのにさあ・・・怪しい行動しか取らないもんで、やる気ないなら辞め

ろと怒鳴ってやったな。それからも二人くらいだったか似たようなのが来て、やることも同じ、全員追い出したよ。


 そのうち自分の外見を常に魔法?・・・なのか何なのか・・・まあ魔法ぽい何かで偽装してるなんつー最高に怪しいやつが来たんで、

お前ら一体なんなんだいい加減にしろと、そいつも追い出して、上に文句言って、これ以上変なやつしか寄越さない気なら辞めてやるぞ

と怒ってやって、それでやっと普通のスタッフが来るようになってさ。全くなんだったんだか・・・」


 八神は少し考え込んだ。


「それは確かに変やなぁ。ちゃんと治療スタッフを揃える方が重要やろうに。ちなみにその上の人って名前は?」

「ほら、あの陸の有名人、レシアス・ゲイズさんだったっけ。」

「レジアス・ゲイズさんやで。・・・まあ暇なときにでも、ちょっと調べてみるわ・・・それは確かに変や。」

「仕事忙しいんだから無理すんなよ。」


 ☆  ☆  ☆


 八神の家にある俺のPCを立ち上げてメールチェックしてみたら、おお、スカさんからメール来てるわ。

 スカさんは外科系の医療研究者だそうで、本名は知らないがその圧倒的な知識には常に感心させられる。本局のリンカーコア治療部の

ホームページに何度も専門的な質問とかして来てた人で、メールやり取りしてるうちに親しくなって個人アドレスも互いに教える仲に

なったのだ。真っ当な病院勤務だけでは知ることが出来ないような、なんかアングラな医療行為に関する知識も豊富だったり。


 何者なのか不明だが、とにかくホントに凄い人ではあるのだ。


 まだ若く未熟な俺は相談とかにも乗ってもらったり。俺のリンカーコア形成異常についても相談してみたのだが、それは外科的治療で

治せるものではないだろう、できるとしても君しかできないだろうし、そのために協力しても良いよと言ってくれたし。


 この前、やっと陸のリンカーコア治療体制も軌道に乗りそうだ、ほんと上の人間の考えることは分からんみたいなグチを送ったのだが。

 スカさんからの返事によると、恐らく君の技術を個人的に知りたい権力者などが強引に手駒をねじ込んで来たのだろう、陸も一枚岩では

無いし、どこがどうつながってるか分からないからね、だが君は余分なことなど考えず、今、歩んでいる医者としての正道を進むことだけ

考えていくのがいいよ、とアドバイスしてくれた。


 うむ、スカさんはいい人だなあ。


 怪しいやつらばかり来て困る、あんなに分かりやすいのにバレないつもりかと憤慨したメールを送ったときも、相手のマヌケさを

笑っていればいいじゃないか、流しとけって言ってくれたし。



 しっかしほんとマヌケだったんだよ。人の体見抜くのが仕事の医者相手にあんな怪しいの送り込んできたら120%バレるっての。そゆ

こと考えたバカの顔を一度拝んでみたいもんだよきっと見るからに抜けてるんだろな~



 いやあ、そこまで言ってしまえるのは気持ちいいね。君じゃなければ分からなかったレベルだったから、他の人は騙されてしまった

のだろうに・・・ただ、妙な人間に目をつけられてるのは事実だろうから身辺に注意をしたほうが良いかもね・・・








□×年△月$日



 ユーノが通話してきて、今度こそ高町をデートに誘うので協力して欲しいと要請された。


「頼む! 今度こそ一歩、踏み込みたいんだ!」

「今、あいつ教導隊に移ったばかりであっちの仕事に夢中だぞ。時期が悪いなあ。」

「前、君も言ってたじゃないか。なのははきっと仕事は辞めない。いつも忙しく仕事を続ける。それでも付き合えなくちゃダメなんだ。」

「あ~なるほど。それは正しいかも。」

「なのはは仕事が何よりも楽しいみたいだけど・・・僕もそれに並ぶくらいに一緒にいて楽しい存在になるんだ。」

「それが出来たら、お前のもんだわな。で、どうすんの?」

「映画とか遊園地とか動物園とか水族館とかショッピングとか、いろいろ考えた。」

「ふむふむ。」

「そこで僕が考え付いた答えは!」

「なんだ? 意外とお前の分析も面白そうだな。」

「頼む! 君とはやての都合のつく場所にして、一緒に来てくれ!」

「・・・は?」

「だから、君とはやての都合で良い! 一緒に来れる場所ならどこでもいいから!」

「・・・つまり、俺と八神に付き合って欲しいって所が重要だから、場所は俺たちの方の都合で良いと?」

「その通りだ!」


 自信満々に断言してるその内容はどうなんだと・・・しかし逆向きかも知れんが振り切ってるのは確かだな。




 八神に相談してみると、高町は仕事仕事で趣味らしい趣味が無い、どこに出かけるにしてもきちんと着飾る服やアクセサリ、化粧品など

も驚くほどに全く持っていない。ここは一度、そういうものを一通り買わせるためのショッピングツアーが良い、自分も前から高町には

一回そういうものを揃えさせておいたほうが良いと思ってた、ということなので。


 八神が今度ヒマな時に一緒に買い物に行かないかと高町を誘う、二人で休みを合わせて出かける約束をする、それにさらに俺とユーノが

休みを合わせた上で、八神が高町に二人も一緒で良いかと聞く、という・・・まるきり八神頼みの作戦が実行された。


 ユーノよ・・・これじゃいかんだろと思うのは俺だけか・・・




 場所はミッドの繁華街ということになった。こっちの方が集まりやすいという以外に、例えば姉ちゃんなどの第三者の乱入の可能性が

低いし、高町が自由に使える金はミッド通貨の方が多いので、買い物させるにはこっちの方が好都合ってのもあるし。

 八神は集まる前に高町家に連絡を入れ、高町が制服とかで来ないように念を押したとか。

 女の子らしい買い物をさせるという八神の方針に大賛成した桃子さんの手によって、今日の高町は可愛い格好をしている。

 さらに、高町はミッドでは有名人なので変装の意味もあって、髪型を変えて、いつものサイドでまとめているのを止めて自然に流して

いる。エース高町と言えば写真は全て、サイドのツインテールに白いバリアジャケット、手には赤基本で装飾もついた派手な杖。

 今日の高町は背中にかかるくらいの長さの髪に、ピンク系でまとめられた服装、手には普通のハンドバッグ。この程度の違いでも、

直接の面識が無い人なら、まず分からないもんだ。



 いつもと違う高町に、会った瞬間から、既にユーノはドキドキしてる・・・



 どうなるか分からんが・・・とりあえず八神の先導で4人は歩き出した。


 ☆  ☆  ☆


 ブティックにて。

「ほらマーくん、このスカート似合う?」

「んーお前はもうちょい丈が長いほうが似合うんでね?」

「このデザインがええんやないか。わかっとらんなあ。」

「いや、あんまり脚出すのはさ・・・」

「あーそういうこと? 私があんまり露出高いとイヤなんや~。」

「違うわいアホ。俺は純粋にデザインの話をだなあ・・・」


 とか俺たちが話してるうちに・・・高町はあっさりテキパキと会計まで済ませていたらしい・・・

 事前に桃子さんから、最低限このくらいは買っときなさいよと言われただけの数のみスパンと選んで買ったとか。

 全く迷わずユーノに相談とかもせず・・・こういう日常の行動がどーにも高町は軍人ぽい。


「な、なのははあんまり買わないんだね。」

「うーん、私としては買ったつもりなんだけどね。」

「そ、そうなんだ・・・」

「今日は、はやてちゃんたちのデートに付き合うつもりで来たからね。」

「そ、そう・・・」


 とか言われてるのも知らず俺たちは色々と話してたが・・・気付いたら既に高町はブティックでの用件は終えて手持ち無沙汰。

 もともと八神は結構、色んな服も持ってるので新たに買う必要性も少なく・・・二着くらい買うだけで済ますことに。

 一時間もせずにブティックを後とすることになった。


 ☆  ☆  ☆


 化粧品売り場にて。

「ほら、なのはちゃん、一通り教えてもらったほうがええで?」

「でも化粧なんて、ちゃんとしたことが・・・」

「ええ機会やないか。女なんやから知っとかんとな。」

「はやてちゃんと違って、あんまり使う機会ないしな~」

「まあそう言わんと・・・」



 ん~・・・

 ここでは男はヒマだ。

 しかし会話の内容から察するに、八神は普段、化粧とかしてるのか?

 全然、気付かなかったが・・・そういうメイクとかあるのかね。

 だが、やはり高町の方はなんか乗り気じゃないなあ・・・


「高町は化粧する機会は無いそうだ・・・まずは意識させないことにはな・・・」

「わかってるよ・・・」


 んで、二人が色々とメイクしてもらったりした後を見て何とか褒めようとしたりしたのだが・・・

 正直言おう。

 分からん。

 確かに唇の色は若干、鮮やかになったかな? くらいしか・・・

 大体、二人とも若いのだ。だから濃い化粧とか必要無いわけで、当然、する化粧もごく薄いもので・・・

 その微妙な違いは男には分からんぞ・・・

 そういう俺の態度に対して八神の方はごく冷静。いつも気付いてへんしな~全く、とか言ってた。



 ユーノは一生懸命、高町を褒めるのだが・・・ああ~・・・こいつも男だ、俺と同じレベルで本当は良く分からんと見た。

 ゆえにどこを褒めれば良いのだとかそういうポイントがさっぱり分からんわけで・・・

 高町の反応も薄く・・・どーも化粧にちゃんと興味を持つって所にまでは至らなかったようだ・・・

 それでも最低限これだけは持っとけみたいなのは八神の勧めで買っていたようだが。


 ☆  ☆  ☆


 宝飾品売り場にて。

「あ~ほらマーくん、このネックレス結構ええと思わん?」

「ベルカの剣十字に似てるかな。んーペアでこの値段か。」

「ええと思うやろ?」

「分かったってば。これ頂きます。支払いは・・・」

「やったー。お揃いや。大事にするな~♪」


 八神が何か欲しがるとかあんま無いしな。ついでだし買っとくか。

 しかし俺たちが盛り上がっててはいかん、ユーノを援護せねば・・・

 と思って二人の方を見ると・・・


「な、なのはは何か欲しいの無い?」

「アクセサリは特にね~着ける機会も無いし。」

「そういわずにさあ・・・ちょっといいな~って程度でも・・・」

「特に無いかな。」

「そ、そう・・・」


 いかん高町はマジ興味無さそうだ。

 このままでは例によってユーノが撃退されて終わってしまう。

 俺と八神は念話をユーノに飛ばす。


「(バカ! ユーノ! そこは押せ!)」

「(ユーノ君! そこで引いたらこれまで通りやで!)」


 俺たちの念話を受けて、ユーノは頑張って踏み込もうとする!

「なのは! このブローチとかいいと思わない?!」

「そういうデザイン嫌い。」

「そ、そう・・・」


 一刀両断・・・

 ああ・・・ユーノよ・・・


 結局・・・

 涙無しには語れない、ユーノ惨敗の一日となった。高町が全く意識して無いことだけが明らかになってしまって・・・

 後日、八神の所に、この前はデート邪魔しちゃってゴメンナサイ、二人きりのほうが良くなかった?というメールが届いた。

 ユーノは哀れであるが、そのメールを見て、またこの前買ったネックレスを見て、八神の機嫌は良いから・・・

 俺的には問題なし。




「・・・僕は諦めない・・・」


 頑張れユーノ。










(あとがき)

 ユーノは将来報われる・・・かな? 実は基本的にはその方向で考えているんですが・・・

 ん~でもうまくいくとしても晩婚カップルとかになりそうかな・・・

 さすがにそこまでは描かない可能性がw



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十三話  中学生日記13
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:8141cfbf
Date: 2009/05/11 02:33
マシュー・バニングスの日常    第四十三話






□×年△月X日



 八神はこの年で既にかなりエライので、仕事は忙しい。

 しかし長期出張とかは余り無い。

 査察ってのは本人に対しても最終的にはするもんだが、それ以前の書類チェックの方が仕事時間は圧倒的に多く・・・その時間はやはり

中央でデスクワークだし。この前受かったばかりの上級管理官としての仕事はまだこれからだし、その仕事が本格的に始まっても、恐らく

中央から末端に指示するって形になるだろうし。


 その八神が珍しく、2週間がかりの出張に出かけたのだが・・・

 帰ってきたときは疲れきっていた・・・

 どーも上手く行かなかったらしい。


 軽く癒してやると、すぐ立ち上がって夕飯の支度を始めようとするので、まあ待てと言ったのだが、この二週間料理を作れず家事も

出来ずストレス溜まりまくっていたので作らせろ!というので、大人しく座っとくことにする。


 その間、騎士たちと適当にダベっとく。


「ん~・・・なんかよく分からんが大変だったみたいだな。」

「・・・まあな。」


 答えるシグナムも口調が重い。ヴィータはソファーに突っ伏してるし、ザフィーラも犬モードで目を瞑って丸くなってる。

 後方にいるのが基本のシャマルさんだけはいつもとそれほど変わらないようだが。


「そういや高町からも聞いたよ、今回は一緒だったんだって?」

「ああ・・・テスタロッサも一緒だった。」

「・・・それなのに・・・こんな感じになっちゃったわけか・・・本当に大変だったんだな・・・」

「・・・目当ての物は見付からず・・・災害を止めることも出来ず・・・散々だった。」

「・・・そうか。」



「はいはい! 暗い話はそこまで! 出来たで~食べよか。」


 八神が料理を運んでくるのでそれを皆で手伝って一緒に食うのだが、やっぱ皆疲れてるなあ・・・

 ヴィータなんて食いながら寝てるんじゃないか? 寝ながら食ってるのか・・・まあ同じか。

 八神も頑張って明るい顔をしてるが明らかに無理してるし。

 で、みんな何とか食い終わって。


「後片付け、俺がやっとくからさ、もう皆早く寝ろって。」


 後片付けは当番制なのだが、今日の当番ヴィータは既に7割がた寝てるし。

 俺にはこれくらいしか出来ることがないしな。

 疲れきった皆は反論もせず、素直に部屋に戻っていった。


 それほど疲れてなかったシャマルさんが後片付けを手伝ってくれて、二人で片付けながら話す。


「やっぱり八神でも上手く行かないこともあるもんですね。」

「もちろんよ・・・」

「うーん、しかし・・・これからは八神はもしかして・・・」

「なに?」

「いや、もしかして・・・忙しくなるばかりなのかなって、ちょっと。」

「・・・そうかもしれないわね。」

「・・・だったら、俺が・・・」

 来るのも負担になるんじゃないかなーとか言おうとしたが遮られた。

「絶対に来なくちゃダメよ。」

「へ?」

「何もしなくていいのよ、ただ、はやてちゃんの側に・・・いられる限りはいてあげてちょうだい・・・」

「・・・はい。」


 八神はこの頃から、何年も後を引く一連の事件、ロストロギア「レリック事件」とやらの調査に携わるようになっていたらしい。

 だがその調査だけじゃない、他の仕事も手を抜かずにバリバリこなし続けて・・・

 本当に無理をしていないのかね・・・


 しかし、俺に出来ることは、前に言った通り、せいぜい側で見守るくらいだ。

 その程度しか出来ないのに、側にいてもいいんですかね?

「お願い・・・はやてちゃんから言い出さない限りは、側にいてあげて・・・」





□×年△月□日



 問い:転送機がある世界に、なぜ空港があるのか。

 答え:転送は高いから。

 夢の無い答えだなあ。



 俺たちが結構気軽に地球と転送して行き来したりできるのは、ぶっちゃけ俺たちが結構偉いからなのである。まあ俺の場合は自力転送で

済ましてしまうことも多いんだが。しかしミッドから家に帰る時は良いのだけど、家からミッドに来るときはね・・・転送事故で物体融合

とかシャレならんので、転送目標地点の設置と認可を得るのは相当面倒だったりする。専用の転送機の設置と登録に比べたらまだマシなの

だがそれにしても面倒過ぎて、俺もミッドでは結局、自宅ってことになってる病院の寮の部屋にしか「門」を作ってない。八神の所は、

そこから歩いてもそんな遠くないし。

 地球の海鳴には、月村家と、うちとに専門の転送機が存在する。そのほかに、うち、地球のリンディさんのマンション、八神の家に

自力転送の目標となる設備がある。俺とかフェイトさん、あと守護騎士たちは主に後者を使うわけだな。補助系は訓練してもやはり苦手な

高町とか、あと意外と細かい魔力制御に難がある八神は、機械のほうを使ってる。機械の方は、ミッドの受け入れ側の転送機も使用する

必要があり、本来は当然無料では無い。それどころか結構な値段がかかる。


 しかし俺たちの場合は・・・

 自費でも転送費用を出せる収入もあるが、そもそも管理局員であり、士官である身分なので特権が多いのだ。

 転送を便利に使えるのも特権の一つである。


 では世の中の圧倒的多数の普通の人たちはどうしてるのか?

 そもそも「他の世界に転送で出かける」用事など無い。一つの星、一つの大陸、いや一つの地方だけで生きてるのが普通だ。

 だからミッド世界にも道路があり、車があり、飛行機もある。エネルギー源は魔力加工してなんたらって話だけど。

 少なくとも一つの星の大気圏内に話を限るならば、ほとんどの場合、航空機の方がコストは安い。かかる時間だって、それは一瞬とは

行かないけれども地球よりもかなり速いしね。ゆえに一般の人はこっちを使う。




 その空港だが・・・凄まじい大事故が起こったらしい。



 場所はミッドチルダ臨海空港。


 その場に居合わせたのが、八神、高町、フェイトさん。

 八神は教会のカリムさんから依頼を受けて、何かを受け取るために空港に向かったとか・・・

 かなり重要なものだったそうで、そういう任務内容については聞かないのが礼儀だ。

 ただ管理局側からも、護衛として高町、見届け人として執務官のフェイトさんが一緒に行ったくらいのもんだから・・・

 大方、ロストロギア関係だろな。


 まあとにかく3人は空港に向かい、そこで空港全部が燃えるような大事故に遭遇。

 管理局側の対応は遅く、現場にバラバラとやってくる陸士部隊。

 最寄の分署みたいな場所から、それぞれの部隊が散発的に来てるだけなので、現場の指揮系統は一本化せず救助ははかどらない。


 その状況を見るに見かねた八神。

 現場に来た部隊の中に、指揮官研修で世話になった知ってる人たちとかいたので、その人たちに話をつけて、そこから他の部隊にも

声をかけ、指揮系統を整理しようとする。

 そうなると全体の指揮官が必要になるわけだが、その場にいた中で最も階級が高く、権限も有しているのは八神だけだった。

 議論してる時間は無い、その間にも犠牲者は出ている。

 そこで八神は全体指揮の任に就き・・・八神の指揮下で、高町とフェイトさんも救助に飛び込む。

 3人の活躍で多くの人が救われたのだが・・・救えなかった犠牲者も30人前後も出たそうだ。

 現場で八神を補佐してくれた、ナカジマさんの娘さん二人は何とか助けられたそうだが・・・


 俺は現場を見てないからなんともいえないが、実際、八神たちがやった以上のことなど出来なかっただろうとは思う。

 八神は現場にいた人間の中で、最高の階級をもっていたし指揮権も持っていた。八神が指揮したのは法的には正しかった。

 だが世の中、そんなに割り切れるものでもない。



 空港は、地上本部の管轄だったのだ。そして現場に駆けつけた部隊も地上本部の部隊。

 八神は主に本局で勤務する特別捜査官として働いてきた時間が圧倒的に長い。つまり「海」の人間なのだ。

 陸で研修したことあるって程度では話にならない。今の八神は、普通に見れば丸きり海寄りだ。上級管理官としての仕事はまだまだ

これからって段階なのだし。

 教会の騎士という称号も持つわけだが、それも管轄が違うわけで。

 伝統的に海と陸は仲が悪い上に、その時、この事件を統括した陸の上層部の責任者は、徹底的な海嫌い、教会嫌いの人だった。


 結果として、「勝手にやって来て陸の指揮を乱した」として陸の上層部は海に猛抗議。法的にはどうとか理屈は通らない。

 感情的な対立が根にあるのだから始末が悪い。


 八神、高町、フェイトさんは、海ではそれぞれ上司から口頭で注意されるに留まったものの・・・

 3人揃って陸に謝りに行かされて、心にもない謝罪を口にさせられて、さらに嫌味や当てこすりも散々言われたそうだ。

 しかも火災のため、カリムさんからの依頼も達成できなかったそうで・・・散々だった。




「主が落ち込んでおられるのだ・・・頼む、今度の週末は確実に来てくれよ。主を慰めてさしあげてくれ・・・」

 とシグナムから連絡を受けたのが木曜だったかな。

 あいつがそんなに落ち込むってのも想像できないが・・・

 病院勤務を終えて、いつものように八神の家に向かう。合鍵はあるので勝手に入る。

 なぜか騎士たちは出かけていて、八神は一人でぼんやりと、PCのディスプレイを眺めていた・・・

 空港火災の関連情報を調べてるみたいだな・・・休みなのに休んでない、けしからん。

 デコピンしてみる。

「うあ! ってマーくん! なんでいるん、いつの間に!」

「ってお前・・・少なくとも10分前から横にいるんだが・・・」

「ほ、ほんま? あれ、もう6時過ぎてる? ゴメン、ご飯まだ準備も出来てへん、ちょっと待ってな。」

「待て待て。」

「あーもうなんでみんな声かけてくれへんかったんやろ。どこ行ったんや大体・・・ほんまもう・・・ちょっと待ってて。」

「お前が待て。」

 ぐいっとこっち向かせて、無理やり抱きしめて、そのまま近くのソファーにゴロン。

 俺が押し倒してる体勢ではなく・・・八神の顔が俺の胸の上で、あとはハンパに斜めに重なったみたいな形になった。

「なんなん? いきなり・・・」

 八神はまだなんか硬いなあ。

 そこで八神の体を転がして、ソファーの背と俺の間に入れる。横向きに向かい合って顔を見る。

「実は・・・前から思ってたんだけどな・・・」

「な、なに?」

 八神の髪を撫で、真剣な顔で、少しだけ近づく。

「これだけは信じて欲しい。ウソじゃない、本当にこう思ってるんだ。」

「せ、せやからなんなん?」

 さらに近づき、抱きしめて耳元に直接囁く距離までいって・・・



「お前って胸、小さいよな。」



「・・・・・・」


 弾き飛ばされました。殴られました。さらに倒れたところを蹴飛ばされました。少しは手加減してくれてもいいのではと思いました。



「な・に・を・言うんかと思えば真剣な顔して、なにをふざけとるんじゃワレェ!!!」

 倒れた俺をゲシゲシと足蹴にしながら八神は怒りが収まらない様子で。なんかガラの悪い河内弁入ってますよ。

「おんどりゃあ! あんま舐めとるとそのうち簀巻きにして海に沈めたんぞこんガキィ!!!」

 よろよろしながら起き上がり、八神と距離を取る。

「まーまー落ち着け八神、俺は間違ったことは言ってない。」


 八神は小学生同然の体型だった時代が長く・・・近頃やっとあちこち成長してきて、それなりになって来たものの・・・

 まだ大きいと胸を張っていえるほどではなかったのだ。

 だからって小さいってほどでも無いんだけどね、まあそれはそれとして・・・


「人が気にしてることを・・・!!! 言ってええこととあかんことがあるんやで!!! どーせアリサちゃんとかと比べて言っとるん

やろ!!! このシスコン!!!」


 むむ・・・比べる相手が姉ちゃんでは分が悪いぞ八神・・・やっぱ西洋人だし成長が・・・

 シスコンは今さらだし気にもならんw

 だけど取りあえず・・・


「悪かった、その点については俺が悪かった、ごめんなさい。」


 いきなり素直に頭を下げてみせる。


「そうやって頭下げてみせたかてな、マーくんは信用できへんねん。土下座くらい平気でしそうな男やからな。」

 なんとかいきなり殴られる可能性は減ったか・・・手の位置は下がってきてる・・・

 その手をいきなりぎゅっと握り締める。

「ほんと悪かったってば・・・」


 握り締めた両手越しに八神の目をじっと見詰めて言うのだが・・・


「誤魔化されへんからな・・・」


 八神はまだ膨れている。うーむ・・・考えながら言葉を紡ぐ。


「大体、気にする理由が無いだろが。」

「あるんや! 女の気持ちなんてマーくんには分からんねん。」

「だって俺は気にしてないし。」

「ふぇ?」

 八神は驚きの目で俺を見上げた。

「だーかーらー、俺はそんなこと気にしてないし。だからお前も気にすんな。」

 そのまま手を引いて、八神を優しく胸元に引き寄せ、軽く抱きしめる。

 そのまましばらく、八神の背中を撫でてやった。

「・・・マーくんって、凄いずるくて卑怯で性格が悪いってな、なのはちゃんが言っとったんや・・・」

「あいつならそういうかもなあ・・・」

「ほんま、マーくんは卑怯やわ・・・ほんま卑怯や・・・このアホ・・・」

「今回だけは、誤魔化されてくれない?」

「・・・今回だけやで。」

「ありがと、八神・・っ・・。」                                         あいしてっってうあやばい!

「あ、なんか今、言いそうになったな。」

「いやミステイクだ。勢いで口からなにか出そうになっただけだ。」

 なんか雰囲気に流されて決定的なことを言いそうになったので、八神から体を離して逃げる。

「あれー? 何を言いそうになったんかなマーくん? かまへんで。さあ言ってみ~」

「あああ、いいだろもう! 見ろ、お前、もう7時近いぞ! 夕飯はどうすんだよ。」

「あ、そうや材料も・・・」



「大丈夫です! 買ってきました!」

 いきなりドアが開いてシャマル先生、スーパーの袋片手に登場。

 後ろで「バカ早いよ」「あと5分は待つべき」とかコソコソ聞こえている。

「ちょっと手を加えれば、すぐに食べられるようなもの中心よ。出来合いのお惣菜も少しあるわよ。」

「えーと、シャマルさん?」

「なにかしら?」

「いつごろからそこにいたんでしょうか? 後ろの皆さんと一緒に。」

「大丈夫! マシュー君とはやてちゃんがもつれ合って倒れたところからしか見てないわよ! 気にしないでね♪」

「ほぼ最初からじゃねえかあああああ。うわあああ恥ずい!!!」

 頭を抱えてゴロゴロ転げまわる俺。

「しっかし、何をいきなり殴られてたんだよマシュー。」とヴィータ。

「その直前まではいい雰囲気だったと思ったのだがな。」とシグナム。

「何かバカなことを言ったのは間違いないな。」とザフィーラ。

「やっぱりお二人って仲がいいですね!」とリイン。


 八神はふっと微笑んで、

「ま、ええか。よし、ちょっと遅くなるけど、ご飯作るで~。マーくん邪魔やから端っこに寄っといて。」

 まあ元気になったならいいんだけどさ・・・




 週末明けて帰る日に。

「マーくん、ありがとうな。」

「なんのことやら。」

「落ち込んでるって聞いて、励ましに来てくれたんやろ。シグナムから聞いたわ。」

「落ち込んでるって聞いて、からかいに来たんだよ。」

「そうなん?」

「断固としてそうだ。」

「じゃあ私もからかい返したる。」

「っておま!」


 いきなり首に抱きつかれて顔に超接近された。どことどこがくっついたのかは言わない。









(あとがき)

 とりあえずもうすぐだし中学卒業までは・・・

 しかし恋愛話は難しいわ、原作が避けたのも当然か・・・

 とにかく中学卒業までは・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十四話  中学生日記14
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/08/03 18:33
マシュー・バニングスの日常  第四十四話








□×年△月K日




 地上本部の病院はいつも忙しい。



 予約は常に満杯であり、診察治療は途切れることが無い。


 近頃は少しずつスタッフも充実してきたが、まだまだ足りない。



 俺が直接治療しなくてはならないレベルの人は滅多に来ないにしても、最初に一回診るのはやはり出来る限りはやりたいし、その後に

担当となる医師と治療プランを話し合って、補助スタッフも決めて、一段落したらまたすぐに次の患者さん・・・





 おや。

 ナカジマさん親娘だ。


 ゲンヤさんと、上の娘さん・・・ギンガさんか。




「今日はどうしました?」

「あーっと、その・・・」


 ゲンヤさんは何か言いにくそうだ。言いあぐねたまま数分が過ぎ・・・


「お父さん! バニングス先生は忙しいんだから時間とらせちゃダメでしょ! 私から言うわ。」

「ああ・・・」


 ギンガさんが俺に改めて向き直り、俺の顔を真剣な目で見る。


「先生。私、戦闘魔導師になりたいんです。」

「え・・・」

「だから一度徹底的に私の体を調べて下さい。どこに限界があるのか、ちゃんと知っておきたいんです。」

「あ~っと・・・その、ゲンヤさん?」

「・・・そういうことなんだ・・・」

「どのくらい、話しました?」

「バニングス先生の仰ったことは全部、父から聞きました。」

「・・・そうですか。」

「でも改めて、きちんと調べて欲しい、そして教えて欲しいんです。私の体のことを。これは私自身の意思です。」


 ギンガさんの目は揺ぎ無く・・・昨日今日に気まぐれで言い出したなんてもんじゃないことがはっきり分かった。

 恐らくこの件で、この親娘は対立し、何度も何度も話し合い、平行線のまま・・・ついにここまで来たんだろう。

 危ない仕事はさせたくないゲンヤさん。

 お母さんのクイントさんのような魔導師になりたいギンガさん。



 娘の体の特殊性を心配するゲンヤさん、なにせ普通の医者にかかるのもためらうような体なのだ・・・だからケガでもしたら治す当て

とかが無いだろう、やはり危険な仕事は・・・と説得するゲンヤさん。


 ところがギンガさんはそれくらいでは止まらない。確かに昔からその体ゆえに医者にかかったという経験が絶無だったのだが・・・

でもそういえば前に一回だけ、バニングス先生に診察してもらったことがあったじゃないかと指摘。


 あれは特別な事情があってだなあ・・・と逃げるゲンヤさんを問い詰めるギンガさん、結局、信頼できる筋をたどって特別に診て

もらっただけなんだ、やはり普通に医者に診て貰うのが難しい以上・・・と言ったのだが。

 だったらバニングス先生なら良いんでしょう、診て貰って、それで決めましょうとギンガさんが押し切った・・・らしい。


 ゲンヤさんの俺を見る目は・・・すがりつく様だ・・・頼むからNOだと言ってくれと目が雄弁に語っている・・・

 しかしギンガさんの真っ直ぐな目を見ると・・・こっちも逆らうのは難しい・・・少なくとも嘘で騙すなんて無理だな・・・



 高町もそうだったが・・・周りがどんなに止めたくても、本人が突っ込みたがる場合は、抑えようが無いんだよな・・・



「とりあえず調べましょう。そこに寝てください。」

「はい。」



 サウロンをギンガさんの体の上にかざす。


 この人は特殊だ。


 医学のレベルを超えた高度な工学技術の結晶体・・・地球の言葉で言えばサイボーグに近い。

 作った人でも無ければ・・・専門知識のある人でなければ・・・とうてい正確には分かるはずも無い。


 だから、そこを本来、専門外である俺が調べて、可能な限り正確な答えを出そうとするならば・・・


 リミッターを緩める。

 俺の体から、全開では無いものの膨大な魔力が溢れ出し、二人は驚きに目を見張る。


 全ての魔力を探査に・・・より精密に・・・正確に・・・



 ナノマシンが全身各所に分散し、特に筋組織、骨組織に半分融合して強度を上げている・・・消化器回りも強化され多くのカロリーを

取り込める構造になっている・・・ここまでは前に見たとおり・・・もっと詳しく・・・この際、何よりも知りたいのは回復性能だ・・・

頑丈さという点では既に人のレベルを超えて頑丈だし運動性能も人を超えているだろう・・・だが問題は負傷した時・・・ふむ、軽傷を

負った程度だと回復力はやはり人のレベルを超えてる感じかな・・・だがそれも体内のナノマシンに依存してる・・・そのナノマシン

自体が大きく失われるような事態になったらどうなる?・・・ナノマシン自身に再生産機能はあるのか?・・・血液の中にもナノマシン

は含まれているが・・・ふむ腎臓から体外に出て行くということも無いようにうまく調整されているのか・・・排泄系に巻き込まれない

ようにはなっている・・・ということは、やはりナノマシンが失われることへの対処が為されているということで・・・逆に言えば、

やはり失われたらまずいってことだろう・・・負傷、出血などで失われるという可能性は大いにあるな・・・そうなると次は程度の問題

かな・・・どの程度失われたらまずいのか・・・さらに厳密に分析すると・・・前に診察したときより肉体に占める無機物の割合が・・・

0.01%以下でも確かに減っているような・・・あまりにも特殊な例だったのでサウロンに登録しておいたのが役立ったな・・・しかし

仮に2年前よりも0.01%、体内のナノマシンが失われたとする、そしてこれが自然に、普通に日常を過ごしていても起こる減耗だとする

と・・・日常を過ごしている分には50年経っても0.25%の減耗しかないということで、これなら問題にならないんだろうが・・・



 俺は目を開けた。



 なんかギンガさんの目が潤んでいるような・・・

 そしてゲンヤさんが俺を若干、睨んでいるような・・・


 しまった久しぶりに失敗したか・・・



「あ~すいません。徹底精密走査をしますと、妙な感覚があることがあるようで・・・事前に言わなかったのはミスでした。

 本当にすいません。」



 リミッターを締めなおしながら素直に謝る。

 だがまだ雰囲気が微妙だ・・・ここは何とか押し切らねば・・・

 咳払いをして話を切り替える。マジメな話だから何とかなるだろう・・・


「前に、日常生活を送っている分には問題無いといいましたが、今回の診察でそれは確信できました。今の肉体のまま、50年経っても

何も変わらないほどに安定している。日常生活なら間違いなく問題ありません。

 で、問題である、戦闘魔導師として働いた場合なんですが・・・」


 二人の顔が真剣になる。


「ギンガさん、あなたの体には、自然には回復しない機械的部分・無機物部分が多い、ここまではいいですか?」

「はい、知ってます。」

「その部分があるがゆえに、あなたの肉体は常人よりも遥かに頑丈であり同時に運動能力も高い、これは間違いないです、しかし・・・」

「はい・・・」

「負傷・出血などにより、その部分は確実に減耗して行きます。そしてその減耗は、肉体の通常の部分とは異なり、回復するということ

が無い、ゆえにいつか限界が来たその時、いきなりこれまでの状態を維持することが不可能になり倒れる・・・行動不能になるといった

可能性が考えられます。」

「・・・その限界は、いつ頃に来るんでしょうか?」

「それについては、あなたが実際に負った負傷次第、としか現状では申し上げられません。負傷するごとに、二年前に得たデータと、

今日得たデータとの比較を行って、どの程度の減耗があるのかを調べなくては分からない。ただですね、目安としての数値で言うと、

あなたは自然に過ごしている分には、一年に0.005%以下しか機械部分の減耗は無いんですよ。それなのに、一度の負傷で、例えば・・・

一気に1%とかの減耗が見られるとか言うことになったら・・・正直、戦闘魔導師としての仕事は諦めて欲しいですね。」

「・・・負傷しなければ良いんですか?」

「激しい仕事ですから、そもそも日常とは言えない。仕事をするなら定期診断は絶対に受けてもらいます。そして、その際の減耗率を

調べて、この場合もやはり余りにも減耗率が高いようなら・・・ってことになりますね。」

「・・・つまり・・・どういうことになるんでしょうか?」

「何もかもこれからですね。あなたの意思次第です。しかしあなたが頑張って戦闘魔導師としての資格を得たとしても、そこでいきなり

ドクターストップがかかる可能性があるということだけは覚悟していて欲しい。・・・茨の道ですよ・・・」

「・・・そうですか。」



 うーん。なにせ特殊だ・・・今後のことを考えると・・・



「ギンガさん、訓練校とか入ろうとか考えてます?」

「はい、そのつもりです。」

「でしたら・・・そうですね、とりあえず3ヶ月ごとにしましょう。優先しますので必ず健康診断、来てくださいよ。」

「え? 先生が診て下さるんですか?」

「・・・あなたの体は余りにも特殊です。これも何かの縁ですし、私が診ますよ。」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、どういたしまして。」



 なんでこんなことを言い出したのかと言えば、まあ同類相憐れむってとこかな・・・

 正確には知らないけど、ほぼ間違いなく・・・彼女も自分の意思によらず、今の体の状態を背負わされているんだろう。

 自分のせいでは無いのに、自分の体のことで悩む。

 境遇が俺と似過ぎている・・・

 だから可能な限り手助けしたいと思った。


 横でゲンヤさんは複雑な表情をしてるなあ。



「ゲンヤさん、そういうことですので・・・とりあえずは様子見ですね。」

「・・・分かった・・・まあしょうがないだろう。」

「お父さん! なんでそんなに失礼なの!」

「・・・だがなあギンガ・・・普通に暮らしてる分には問題ないって保証してくれてるのに・・・わざわざ・・・」

「もう! その話は何度もしたでしょう!」

「あ~すいません、次の患者さんが来るので。」

「「は、はい。」」



 親娘はケンカしながら帰って行った。



 どーだろね。ギンガさんには相当悲観的な、最悪に近い予想を言ったのだが・・・

 実は俺には別の直感があった。

 あの肉体改造は間違いなく戦闘用の改造だ。

 であれば戦闘による減耗は織り込み済み、恐らく活動維持に問題無いレベルの減耗しかしないように出来ているのだろう。

 だがそれでも、彼女は間違いなく、「昔、彼女を改造した人」の手元から離れて長い。

 つまり、「改造した人」ならば当然想定していただろう定期メンテとか、そういうのを全く受けていないはずであり・・・



「ま、念を入れるに越したことはない・・・」


 俺はそう呟くと、次の患者さんを呼んだ。















(あとがき)

ナカジマ家の娘たちの肉体については設定がオリ要素満載でございます。

あまり突っ込まないで頂けると幸いです。

しかし恋愛要素入れると話続かんですな。一回全部無かったことにして高校から仕切りなおそうかとか思ったりw



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十五話  中学生日記・終
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/08/20 13:03
マシュー・バニングスの日常  第四十五話








□×年□月○日



 さーてそろそろ中学も卒業だなあ。


 俺は適性試験の成績・父さんの影響力の範囲などから結局、USのCal大学に進学することが出来そうな見込みだ。ただしかなり強引に

押し込んでくれたので、特に一年目二年目は成績優秀でなければクビくらいの覚悟でいけと言われてしまった。

 アメリカは日本とは違いあからさまな富裕層、セレブ階級というのがいる。そういうセレブ層は、好きな大学への入学を、事実上、

カネの力で買えたりする。なにせ向こうは入学は簡単、卒業が難しいという制度だ。俺も実質それに近い形で、無理やり入れてもらった

のだ。だが、だからこそ優秀な成績を取らねばならないんだけどね。



 俺がUSの大学に進むと決めたことで姉ちゃんはかなり迷ったが・・・

 結局は、姉ちゃんも既に大学レベルの学力を持っていたことは変わらない。一緒に来ることになった。同じ大学である。


 姉ちゃんはギリまで日本で親友と過ごすか、将来のための本格的な勉強のため海をわたるべきか、悩んでいたのだが、俺が行くとなった

ので、結局は俺の方を選んでくれたのだ。決断したのが遅かったので、押し込むのは苦労したと父さんがぼやいてた。


 俺と姉ちゃんのために父さんは、高級マンションのワンフロアを買い切り、警備システムとか防弾ガラスとかの特注工事を始めたとか。

アメリカにおけるバニングス家は、そのくらい警戒して当然だそうで・・・そういう生活にも慣れなくてはいけないとのこと。

 俺は週の4日はここで姉ちゃんと過ごし、3日はミッドで過ごす生活になると思う。

 ミッドの病院も前と同じ程度の勤務は続けるつもりだしね。





 月村さんも、友達がみんないなくなってしまうので海外留学することにしたそうだ。月村家はドイツと昔から縁があって、ドイツには

屋敷も持っているらしい。近い将来、月村さんのお姉さん、忍さんと、高町のお兄さん、恭也さんが結婚する予定なので、月村さんは

姉夫婦とドイツ在住となる可能性が高いとか。月村家は、バニングス家に規模では及ばないものの、工学系専門技術の高さで知られた

企業集団を抱える財閥でもあり、今は信頼できる親戚の人がまとめてくれているが、将来的にはお姉さんと協力して月村さんもトップに

立たなくてはならない立場とか・・・お姉さんは工学系技術が大好き、というレベルを超えて既にマッドエンジニアに近い人で、余りにも

理系に偏りすぎてるので、妹の自分は、本当は理系のほうが得意だけど、経営学とか勉強しなくちゃいけないなあと言っていた。





 高町は・・・なにせ俺が進学するというのを高町家のご両親も聞いていたので大変であった。大喧嘩、大騒動、あれを高町家では

「第二次なのはの乱」と呼ぶ。第一次は入院のときだ。高校も行かないなんてどういうつもりだ、それでは全くツブシが効かない、

前はマシュー君が上手く治してくれたけど、また同じように上手くいくなんて保証は無い、魔法が使えなくなったらただの中卒娘で、

そんな考えなしのバカ娘は翠屋でも雇ってあげませんからね、大体マシュー君はミッドの病院も続けながら、アメリカの大学に入学する

なんてことが出来ているのに、あんたはたかが高校に行くくらいのことがなぜ出来ないんだと・・・鬼の形相となった桃子さんの迫力は

凄まじく・・・皆が震え上がったそうだ。


 「第二次なのはの乱」は、中3の二学期の全てを使って激戦が続き・・・結局、高町が通信制で高卒資格をちゃんと取る、ということで

決着がついた。ちゃんと普通の高校に通わせたかった桃子さん、通信制でも勉強にかなりの時間が制約されてしまうと決まった高町、

双方ともに渋々とではあったが、何とか妥協案が成立した。

 3年後には大学、せめて短大進学を巡って・・・「第三次なのはの乱」が起きるのではないかと関係者は戦々恐々としている。


 高町がワガママでないなんて誰が言ったんだか・・・末っ子はワガママって定説が絶対的に正しいと皆思った。





 フェイトさんは地球で出来た友達との別れを惜しみつつ・・・本格的に執務官としての仕事に打ち込み始めた。これからはフルタイムで

勤務することになる。執務官は次元世界中、あらゆるところに派遣されて、あらゆる業務をこなすことが求められる激務であるのだが、

フェイトさんは嬉々として仕事に打ち込んでいる。このへん高町と似ている。もうすぐリンディさんが前線の艦長職から退いて、後方の、

もう少し時間が取れる職にうつるとかで、海鳴が気に入ったリンディさんは海鳴に拠点を構え、高町家などとのご近所づきあいを楽しみ

つつのんびり過ごすつもりのようだ。そういやクロノは結婚するとかしないとか・・・なんか怪しいらしい。今度機会があったら徹底的に

問い詰めてやるとしよう。




 八神は・・・海鳴の家を引き払ってしまった。かなり大きな家だったので、維持するだけで結構な金食い虫でもあったし。残しておきた

いのだったら管理しておいてあげようかという誘いは、うちからも含めて複数あったようなのだが、未練を断ち切るかのようにスッパリと

手放してしまった。


 そしてミッドに本格的に移住し、教会のそばに一軒家を建てて、守護騎士たちと住んでいる。上級管理官であり特別捜査官である八神の

仕事っぷりは大したもので、バリバリ仕事をこなしてメキメキ頭角を現し、出世街道まっしぐら、もうすぐ佐官になるんでは無いかと

いう勢いだ。それでも互いに都合がついて週末に会えるときは、いつでも手料理を振舞ってくれる。しかし、やはり何か無理してるんで

はないかと心配になる。生きることに焦っているというか、何かに追い立てられているというか・・・だが今の俺には踏み込むことは

出来なかった。俺は俺で体を治さないことには始まらないんだよな・・・何もかも・・・




 そして俺たちは中学を卒業し、本格的にそれぞれの道へと旅立った。

 小学校からずっと一緒だったからな・・・女性陣の涙に、俺もつられそうになってしまった。

 これからは・・・これまでみたいにいつでも会えるってものじゃなくなって、会おうと思って頑張らなくては会えない距離に・・・

お互いになってしまうわけだな。



 これまでも大概、色々あったけど・・・今度こそは平穏な日常が続いて欲しいものである・・・










 ☆    ☆    ☆




以下の部分は番外編みたいなもので本作のメインストーリーとは関係ないものとみなして頂けると幸いでございます






(おまけ) 並行世界観測機


 通常とは異なる、とある不思議空間にて・・・


「と、いうわけでロストロギア『並行世界観測機』の時間がやってまいりました。司会は私ユーノ・スクライアでお送り致します。」

「どういうわけかさっぱりわからんぞユーノ。」

「マシュー! 細かいことは気にしなくていいんだよ! どうも本編では僕には良いことなさそうなんだから少しくらい僕に時間を

くれてもいいじゃないか!」

「いや、いいけどさ・・・」

「この機械はずばり、並行世界を観測できるものなんだ!」

「そのまんまだな・・・それで、なんでまたそんなものを持ち出してんだよ?」

「本編ではどうも僕には良いことがない・・・」

「うむ、原作から二次から当作品から、ユーノが良い目に会う確率はかなり低いと言わざるを得ないな。」

「良い目に会うのが決まってるオリシュのマシューには僕の気持ちなんて分からないんだ!」

「メタな話を振って悪かった・・・本題をすすめてくれ。」

「でもそんな僕でも! きっと可能性世界のどこかでは! 無事になのはとゴールインできてるとか! すでに子供もいるとか!

もしかしてもしかしたらハーレム系ssの主人公になってるとか! そういう可能性もあるかもしれない!」

「最後の問題発言はスルーしてやろう・・・つまりそういうあらゆる可能性をもった並行世界全体を観測できるんだな。」

「そういうことさ。概算だけど確率まで出せるんだ。」

「しかし上手くいく場合ってのを見ても・・・意味あんの?」

「上手くいく確率が分かるだけでも大きい! また上手くいった場合は僕はどういう行動をしてるのか? どこでフラグを立て、

どこで回収すれば良いのか? 分析すれば答えが分かるかもしれない!」

「そうかもな~まあどうでもいいけど~」

「ククク・・・」

「なんだいきなり不気味に笑って。」

「そんなことを言っていられるのも今のうちだよ・・・まずは衝撃の調査結果を教えてあげよう・・・」

「なんだよ?」

「ランダムにサンプリングした標本世界、実に1万! その結果なんだけどさ・・・」

「?」

「マシュー・バニングスがこの年まで生きている確率・・・0.1%以下!」

「ぶほっ!」

「正確に言うとね・・・アリサ・バニングスは99%以上の確率で存在してるんだけど同時に兄弟なんて存在しない。でも調べた

世界の一つで、幼い頃に双子の弟が死んだって記憶のある場合があったんだ。それで念のために母胎の受胎発生時から調査して

みると、なんと母親のお腹の中ではほぼ100%、君たちは双子なんだよね。ところが母胎内で成長する過程で・・・発生のごく

初期、アリサさんにはなんの悪影響も及ばないような時期に君になるはずの受精卵は溶けて消えてしまう・・・その確率は実に

90%を超えている。10%の確率を乗り越えて生き延びても、双子として生きて生まれてくる段階に至るまででさらに確率は

激減し・・・最終的に今の年齢までで考えれば生き延びる確率は実に0.07%程度・・・」

「ぬぬぬ・・・俺って生きてるのが奇跡だと我ながら思ってたが・・・」

「調査した世界は1万だから、そのうち7つしか『生きてる場合』が存在しなかったわけだね! すごいね!」

「・・・妙に明るいなオマイ・・・」

「なに大丈夫! つまるとこ、君が生きてる場合の世界・・・まあ1万に7つしかないような世界だけど・・・まあとにかく

そういう場合の世界の方が、諸事につけ良い方向に進んでるみたいではあるよ?」

「というと?」

「なのはが大けがしたことあったろ? あのときもしマシューがいなければ、どうもなのはは一生後遺症が残るような状態になって、

しかもそれを隠しながら強引に仕事を続けるみたいなんだよ。君のいるこの世界では完全回復+魔力10%UPなんてすごいことに

なったけど、これこそ本当に1万に7つ以下の奇跡的な超回復みたいだよ。」

「ほほ~。つまり高町は今の俺たちの世界では・・・ありえねーくらい頑丈になってるわけだな・・・よし、これからもあいつには

手加減する必要がないってことだな。」

「まあ後遺症っていっても軽いコアの痛みとか? 魔力は微減するみたいだけど大したことは無いようだし・・・」

「魔導師を続けられるんだけど、多分現役期間が短くなる程度ってところか?」

「だね。あとは、アリサさんについてだけど、マシューがいない場合、まあほとんど100%近い確率なんだけど・・・とにかく

その場合は、アリサさんは20%程度の確率で、不慮の事故や事件に巻き込まれて亡くなるみたいなんだな・・・ってマシュー、

これはあくまで計算上の話なんだから、そんな怖い顔しないでよ・・・」

「どういうことだ?」

「うーん、おそらくだけどね・・・マシューがいれば、いるだけで、アリサさんは確実にマシュー中心の思考方法、行動パターンを

とるんだろうね。そうして常に弟のことを思うがために行動も慎重になるし無茶もあまりしなくなる。本来のアリサさんはもしも

一人っ子なら、天衣無縫な性格に任せて結構暴走したり軽率な行動をとったりしてしまって・・・招かなくてもよい危険をわが身に

招いてしまうってことがあるみたいだね。」

「なるほど・・・姉ちゃんならやりそうだな・・・」

「マシューっていう重石があることで、自然、アリサさんの行動も慎重になり・・・結果としてアリサさんは安全平穏に生きることが

できるみたいだね。」

「そか・・・良かった。っておいユーノ、さっきから俺の話ばっかじゃねーか。お前の調べたいことはどうなったんだ?」

「む。」

「えーっと、そうだな、中3時点で、お前と高町が恋人同士って確率はどの程度なんだ?」

「・・・」

「意外とそうだな・・・俺は20%くらいはありえるんじゃないかと思うんだが?」

「・・・並行世界の可能性ってのは本当に面白いよ! なんと1%程度の確率で、フェイトに実の兄弟がいたりしてね! ほかにも

これは確率0.01%とかの話だけど僕たちのしらない第3者みたいな人が僕たちにとって重要な人物として行動する場合ってのも

あるみたいだね! 悪くなってしまう方の確率では、残念ながらPT事件の後始末が上手くいかずに犠牲者が増える場合ってのは、

10%程度の確率であるみたいだね・・・闇の書事件が丸く収まる確率も実は半々程度・・・うまくいかずに地球ごと吹き飛ばされる

場合ってのが5割もあるんだよ! 怖いね~」

「まあそういうもんかもな。それで、お前と高町がうまくいく確率は?」

「・・・」

「もしかして俺の生存確率よりも低いとか?」

「さあ、メタな話はこれくらいで終わろう! さ~て、来週の『並行世界観測機』は~♪」

「おいマジかよ・・・0.01%以下とかそんなレベルなのか? 哀れな・・・」

「ええい! まだ中3時点までしか調べてないから分からないんだよ未来は! きっと僕たちが上手くいくのはもう少し時間が

経ってからなんだ! きっとそうなんだ!」

「今後も継続調査すんのか?」

「もちろんさ! 誰が何と言おうとするとも! 僕となのはのグッドエンド成立フラグを絶対に見つけてみせる!」

「まあ頑張れや・・・」




 またやるかは不明!!!














(あとがき)

・「並行世界観測機」は酔っぱらって勢いで書いた。後悔はしていない。

・今後の推移は不明だが、なんとかstsに繋げようと模索中。

・進路は独自路線。しかし原作でもなぜ士朗さん桃子さんはなのはの進路を認めたのだろうか・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十六話  アリサinミッド1
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/09/02 01:55
マシュー・バニングスの日常  第四十六話








 日本は4月から新学期だが、アメリカでは新学期は9月からである。



 だからして俺と姉ちゃんは半年ばかり休暇が出来た。



 日本人ならこの期間内に語学の特訓とかするって話になるのだろうが、もともとバニングス家の家庭内公用語は英語である。

 ちなみに日本語の方は俺も姉ちゃんも適当に好きに喋ってるのだが、英語の方は躾が厳しく、米国東部の品の良い米語をきちんと話せる

ように幼いころから教育されている。

 でもまあいきなり大学に行くことになるわけだし、事前にある程度、勉強する期間に充てようと俺は考えていたのだが。

 しかしそれでも半年ってのは結構長い。

 そこで姉ちゃんの、せっかく時間があるんだからマシューの職場とか見たい!という要望により・・・


 ミッドチルダ観光ツアーが始まることとなった。




 別に管理外世界の人間が、ミッドに行くのは禁止とかされてはいない。

 ただ現実問題、普通なら伝手もなければコネもない、行く手段が無いのだな。

 次元航行を可能とする船に管理外世界の住民が乗る方法なんて無いし。

 転送ゲートなんてものはもちろん管理外世界に設置されてるなんてことは普通はありえない。

 しかしその例外として、月村家とバニングス家には転送ゲート設置をしてしまってるわけではあるが・・・

 それを発動するときの消費電力とかね、ハンパねーのよ。

 月村家とかうちだからこそ維持できるレベルと言いますか・・・

 無駄遣いすることも無いし、俺個人については普通は自力で転移魔法で飛ぶわけだけどね。


 他の面々も同様で、自力転移が怪しいのは長らく高町一人だけであったが・・・

 彼女も、固定されたマーキングの間に限定してであれば、詠唱に時間はかかるがなんとか自力転移が出来るようになった。

 出来るようになるまではかな~り苦労してたものである。誰かに連れて行ってもらうか、小型の航行艦にわざわざ迎えに来てもらうか、

ほかの都合が付かなくて俺に頼るしかない状態になったときなどはとことんからかってやったものだが、うーむあれがまずかったか。よほど

悔しかったのかついに自力で出来るようになってしまった。つまらん。




 閑話休題、とりあえず俺の勤務する病院から提供されてる寮の一室に転移して来た。

 ここには直接転移してくる許可を取ってる。

 ここはなんもない。

 たまにここで寝ることもあるって程度だし。

 キッチン・バスにベッドルームと、あともう一部屋あるって程度。安い独身寮だしね。もっとちゃんとした部屋を用意してもらうことも

できるのだけど、それって俺にはあんまり意味ないし。

 しかし我ながら、ほんとに閑散としてるなあ。


「ちょっとマシュー。なんでこんなに何も無いのよ。」

「うーん、一月に一回ここで泊るかどうかだからなあ・・・」

「それ以外は?」

「いや、まあ、ご存じの通り・・・」

「ふふん。それじゃあそこに向かいましょうか・・・主目的の一つがそこの偵察だからね。」

「・・・なんか嫌な予感が・・・」

「連絡はしてあるんでしょ? どうするの? また魔法で飛んでくとか?」

「八神の家は新築で、まだあそこへの直接転送許可とか降りてないしね。普通にタクシーで。」

「ふーん。そういうもんなんだ。」

「まーね。」


 転送は便利だが事故が起こるとシャレならんのでむやみに街中では使ってはいかんのだ。

 飛行魔法も同様で、特に市街地は無許可飛行禁止区域となっている。

 交通手段となる車はエンジンが魔法機関である以外は大して地球と変わらん。

 結局、町の風景も特にメカメカしいとか、逆にファンタジックであるとか、またはSF風未来都市とかそういうわけではない。

 確かに海鳴に比べたら巨大な都市ではあるが・・・たとえばニューヨークとかロサンゼルスと比べたらどうかね。人口密度も地球に比べたら

かなり低いわけでもあるし。まあそういうわけで・・・


「何度見ても、普通よねぇ。これが次元世界の中心ミッドチルダなのかって感じ。」


 何度も来てるが、あくまで一時的な滞在しかしてない姉ちゃんならまあそういうだろな。


「ん~パっと見には分かりにくいけどさあ。」

「なによ。」

「たとえば・・・ミッドに限って言えば・・・この辺の空気、郊外とほとんど変わらないんだよね。」

「?」

「この大都市のど真ん中で、大気汚染が全くない。化石燃料使ってないからね。」

「へーそれはすごいわね。」

「まあ完全にとは言わないけど・・・環境汚染の問題がほとんど無いね、こっちだと。俺みたいに体が頑丈とは言えない人間には住みやすい。

ミッドチルダ型の魔法文明社会ってのは、少なくとも『クリーン』であるってことについては間違いないね。」

「なるほどね・・・」

「何をもって『進んでる』と見なすのかってのは難しい問題だけど、意外と本当に進んでるってのは、そういう地味な所が洗練されてるって

ことなのかも知れないって思ったりもする。」

「そうかもね。」



 とかなんとか話してるうちに八神家に到着。車で15分くらいだし。

 八神の新居はかなり大きい。日本基準でいえば、もう家というよりは屋敷というか。

 まあ八神一家でリィンまで入れると6人、それぞれに個室と、さらに複数の客間に大きなキッチンにリビングに。

 二階建ての中々大きな屋敷である。ちなみにミッドではあまり流行らない、地球風バリアフリー建築になってるのも八神のこだわり。


 八神一家は、常に八神の護衛として犬モードで傍にいることになってるザフィーラ以外は全員、仕事を持ってるので収入はかなりある。

八神本人も既にかなりの高給取りだし、武装隊で実戦任務に就くことが多いヴィータも、正統なベルカ式魔法と騎士の戦い方を教える仕事が

多いシグナムも、医務官として働いているシャマルさんも、管理局職員の平均所得水準に比べればかなりの収入があるのだ。リインも近頃は

後方勤務の情報処理の仕事とかで働き始めてるし。だからこういう屋敷を純粋に自力で建ててしまうことができるのだな~

 ちなみに俺のミッドでの収入は、シグナムと同じくらい。シャマルさんよりは多い。八神にはかなり圧倒的に負けているw

 この家、建てるときに俺も金を出すかと言ったのだが・・・話し合いの結果、「まあ今はええわ」という八神さんの裁定が下ったので、

建築費負担はしてない。





 思ったより大きいわね・・・そーだろー・・・とか話しながら、姉ちゃんを連れて玄関に向かい、鍵でドアを開けて・・・



「ってなにを当然のように合鍵持ってるのよ。」

「いや、まあ、それも今さらだし・・・」

「あー、マーくん?」

「おーただいまー」

「おかえりー。アリサちゃんもいらっしゃい。」

「・・・『ただいま』なのね・・・はやて久しぶり、しばらく世話になるわね。」

「うん、荷物とか洋室の客間に運んどいたけど、それでよかった?」

「泊めてもらうわけだしその辺は任すけど・・・もしかして和室もあるの?」

「せやでー。マーくんの部屋は和室やし。」

「・・・なんで?」

「だってうちとか全部洋室だろ。和室に憧れてたんだよなぁ。実際住んでみると妙に落ち着くし。」

「いいけどね・・・」

「畳っていいよな~」

「近頃は作務衣とか浴衣とか着て畳でゴロゴロしとるもんな~いつも。もうちょいシャンとせぇって言いたくなるくらい。」

「いいだろ別に。えっと、シグナムたちは?」

「みんなは仕事やねん。私はちょっと休ませてもらったんやけどな。せっかくアリサちゃんが来てくれるわけやし。」

「平日だしなあ。やっぱあんまいられない?」

「ごめんなぁ。今日一日は空けたんやけど明日はまた朝から仕事。アリサちゃんと一緒に観光とかは無理ぽいわ。」

「あーいいっていいって。こっちはこっちで勝手にやってるから。姉ちゃんいる間は俺はずっとこっち泊まるし。」

「うん分かった。せや、味噌が切れそうやって言ったっけ?」

「味噌はミッドには売って無いからなぁ。いつもの合わせ味噌でいいのか?」

「うん、できればある程度まとめ買いしといて。家計から出すからレシート忘れんといてや。」

「味噌くらいなら別に俺が出しといてもいいんだけど。」

「あかん! マーくんもちゃんと食費出しとるんやからそういうことはきっちりせんと。」

「へいへい。」

「・・・・・・とりあえず部屋に案内してもらっても良いかしら?」

「あ、ごめんな。はい上がって。」

「靴、脱ぐんだ。」

「こればっかりはな。ミッドでも靴履いたままが普通やねんけど・・・」

「家入るときは靴脱ぐ方がいいって絶対。」

「あんた何人よ・・・」



 姉ちゃんを客間に案内。まあ普通の部屋である。あらかじめ送ってたスーツケースが何個か。荷ほどきをするのかと思いきや、俺の部屋に

案内しろというので連れてくると、あちこち家探しを始めるし。あのな、ここは八神が掃除するんだぞ、そんな変な物とか置いてるわけがない

だろうと言っても30分ばかりあちこちゴソゴソしてた。八神がお茶を入れてくれたのでリビングで一服。時間はまだ午前中。


 さてこれからどうするか。



「マシューの勤務先訪問は週末にするとして、まず今日はせっかくはやてがいるわけだし、一般人が見れるギリギリまで? 『管理局』って

ものを実際に見てみたいのよ。具体的には建造物とか施設とか、できれば資料庫とか図書館、博物館みたいのがあるならそれも見てみたい。

どういうものなのか知識としては結構学んだつもりだけどやっぱり実際に自分の目で見てみないとね。」

「うーん、一般公開されてる範囲となると、そんなに見れへんかもしれへんよ?」

「それならそれで良いわ。どの程度が公開されてるのかって範囲を掴むだけでも何がしか分かるでしょ。」

「おいおいなんか調べるつもり?」

「マシューたちが働いてる場所でしょう? 一回ちゃんと納得いくまで調べたかったのよね。これまで暇がなかったけどいい機会だわ。」

「うん、分かった。それやったら・・・ここから近いのはまずベルカ聖王教会やねんけど・・・」

「宗教勢力の規模と動向をつかむのは大切よね。さっそく行きましょう。」

「わ、わかった。」



 姉ちゃんの精力的な調査活動はかなり真剣なものであった。単なる観光って雰囲気では無いなぁ。

 その日は車をチャーターしてあちこち駆け回って結構疲れました。






(アリサチェック)


 はやての家はきれいに片付いてて申し分ないわね。マシューの部屋も隅々まできちんと掃除されてて・・・タンスの中の服も下着も、あれは

全部はやてが洗濯してたたんでしまってるのよね。夕ご飯作ってくれたけど相変わらず美味しいし。しかもマシューの体のことも考えた献立

だったみたいね。しかしマシューってば自分専用の茶碗にお箸に湯呑まであるのね・・・おまけに二人の会話が妙に所帯染みてるったら・・・


 とりあえず夕食後、マシューは自分の部屋で仕事でもしてなさいと追放して、はやてと一対一に。


 滅多にないこの機会、はやてには聞きたいことがたくさんあるのよね。

 マシューの部屋のガサ入れ結果とか、はやてにそれとなく聞いてみたときの答え方などから・・・どうやら二人は最後までは行っていない

らしいと確認できた。これは他のルート(ヴィータ→なのはetc.)から得た推測情報と一致するわね。


 ・・・というか・・・どーもこうして実際に二人を見てみると・・・もしかして今の状態で安定しちゃってる?みたいな・・・

 まだ一線を越えてないし下手したら言葉で確認もしてない、子供の時以来の一番近い幼馴染で、別に離れる気は無いけど、かといって、

これまでの関係を一新してもっと近づこうって雰囲気も、両者とも無いような感じがするというか。


 話をきいてると、今のはやては仕事が面白くて仕方無いみたいな感じなのかな。ロストロギア対策のための、部門横断的な部隊を作る

計画とか熱く語ってるし。実績を積んで、独立したひとつの部隊を任されるまでになって、その部隊を運用してさらに実績を積んで

キャリアアップを目指したいってところかしらね。もちろんそれはそれで結構な話なんだろうとは思うけど・・・うーん、もしかしてはやては

仕事に生きる女? 家庭的な子なのかと思ってたけど、これはもしかするとなのはに匹敵するワーカーホリックなのかな・・・


 マシューには早めに嫁を貰って子供を何人も作ってもらって、そのうちの一人をバニングス家の後継者として私の子にするって計画のため

には、一番良いのははやてだと思ってたんだけどこれはどうかしらねぇ。マシューに言われたら反射的に言うこと聞いちゃうクセのついてる

なのはをモノにした方が良いのかな?  一線越えさせるだけならそっちの方が簡単かも。でもどっちも仕事命だし・・・うーん、まだ焦る

ことは無いか・・・しばらくは様子見ね。私としてはマシューが幸せになれるならどちらでもいいわけだし・・・






 翌朝、仕事に出かける八神を見送って、さて今日はどうしますかと姉ちゃんに尋ねると、昨日は軽く眺めるだけだったクラナガン中央

図書館を今度はじっくりと見てみたいとのことなのでさっそく向かう。

 もちろん所蔵されてる書物はすべてミッドチルダ共通語で書かれているわけだが、姉ちゃんは普通に読めるのだ。




 翻訳の魔法ってのがあって、地球の性能の低い翻訳機などとは次元の違う正確さで他言語も翻訳理解できるし、その機能だけを抜き出して

作られた汎用の翻訳専用端末みたいのも普通に売ってはいるのだが、しかしそれは99%以上の正確さで翻訳されるもの、やはりどこまで

いっても100%ではない。ちゃんと自力でミッド語を理解できるにこしたことは無いわけで、俺とか高町とか八神ももちろんミッド語を

翻訳魔法など介さずに扱える。ちなみにミッド語の勉強も一番遅れたのは高町であった。というか高町の勤務部署って主に前線、武装隊とか

だったので、そういう前線の連中が使うような、つまり軍隊の兵士が使うようなスラングというのを高町は自然にかなり覚えてしまったり

したという問題があって・・・はじめて翻訳魔法を媒介せずにミッド語だけで喋ってみたときの高町の言葉の恐るべきガラの悪さというものは

実に衝撃的であった。そこから泣く泣く矯正のために勉強しなおしたので、結局一番遅れたのだな。今でも高町は、実はその気になって言葉に

迫力を持たせようとしたらシャレならんほど怖いガラ悪い言い方が出来たりするw  ちなみに八神はベルカとの縁が深いということもあり、

ちょっと古風な、いまどきのミッドでは流行らないような仰々しい言葉遣いの影響を受けたり、管理局員としても基本的に指揮官職で、そうい

う立場の人たちの言葉の影響を受けたりしたので、八神のミッド語は「丁寧だけどちょっとエラそう」な傾向があったりする。彼女の発言が

関西弁で表記されてるように見えるのはもちろん気のせいであるが・・・もしかしたら「古風」で、かつ「その話し方を押し通す」=「相手

の話し方に合わせない」=「ちょっとエラそう」であるというのは、どこでも関西弁で通すというのと似てるかも?? 関西人ってのは本来、

正しい日本語はこっちだと思ってるフシがあるからなぁ、まあそれはどうでもいい話だが。


 姉ちゃんは俺とか八神に付き合って勉強してるうちにあっという間にミッド語をものにしてしまった。実は高町よりも早く会話できるように

なったりしている。そもそもミッド語は言語としては英語系に近いので俺たちには覚えやすいものだったしね。





 さて姉ちゃんは図書館に来ると、管理局関連の文書の棚に向かって分厚い年鑑みたいのを調べだしたり、同時に図書館のデータベースの

画面を開いて色々参照してみたり、なんだか色々とやっている。なんでも時空管理局という組織の透明性・健全性・公平性などについて

納得いくまで調べてみたいとのこと。うーん、その辺は俺も気になる所ではある。ちょっと手伝おうかと言ってみるものの、聞きたいことが

あったら聞くから今は良いとかで、どうにも俺は手持無沙汰。仕方なく医学誌とか適当にパラパラと読んでみたり。



 昼は近所で適当に済ます。


 そこに八神からの通話、悪いが今夜はみんな仕事で帰れそうにないそうだ。


 まあ夕飯もその辺の店で適当に済ますとして、さて午後はどうする? と姉ちゃんに聞いてみると、当然のように図書館での調査続行。まだ

納得いくまで調べきってはいないそうな。まずは公開されてる資料がどの辺まで信頼できそうなものなのかあたりをつけようと様々な資料を

読み比べてはいるものの、地球とは感性が違うのか、意外な情報が公開されてるかと思えば、重要度低そうな話が非公開だったりどうにも

基準が見えにくい、この午後はまだそれを調べる!とのお言葉。



 午後は俺は壁際のソファーに座って雑誌を眺めながらウトウトと・・・



 閉館時間間際に姉ちゃんに起こされる。時間はまだ17時くらい。

 食事するにはちょっと早い、近所のデパート的なところをぶらぶらと散歩することに。


「つまり、紙媒体での記録とネット上で公開されてる記録との乖離ね、それに各種年鑑の記録も、その年鑑の版数によって微妙にニュアンスが

変えられてる可能性も・・・」

「いや、しかしその程度の齟齬は普通に存在するもんなんでね? 意図的に何かを隠そうとかしてるって可能性は・・・」

「もちろんあからさまに隠してるってわけじゃない、そうじゃなくて前後の情報から考えたとき違和感が・・・」」

「しかしそうなるとそれは非公開情報を調べないことにはどうにもならんわけで、それは無理が・・・」

「うん、分かってる。ただ私が問題にしたいのは、それが一般職員に対して犠牲を押し付ける形になる可能性があるかどうかで・・・」

 とかなんとか話しながらウィンドウショッピングの真似ごと。とはいっても姉ちゃんと議論しながらなので全然見てないけど。





 夕方の繁華街には結構な人混みがある。


 そろそろどこで夕飯食べるか、適当な店を探そうかなって頃合い、ふと見まわすと前方になんだか見覚えのあるカップル発見。

 金髪美女と黒髪の好青年。男はフォーマルな格好だが女性は適度に着飾ってる。年のころは20前後ってとこかな?

 いや女性の方はもうちょっと若いかな・・・うーん、どこかで見たような・・・

 腕組んでくっついて歩いてるしどう見ても恋人同士。


「姉ちゃん姉ちゃん。」

「なによ、どの店にするの?」

「いや、あのカップル、なんか見覚えない?」

「あんたならともかく私がミッドで知った顔なんて・・・あれ?」


 歩いてる方向が同じなのでたまに横顔が見えるくらいなのだが・・・


「なんだフェイトじゃない。」

「ああ、言われてみれば・・・」

「って! フェイトに彼氏!?」













(あとがき)

・意外な展開にはなりません。「やっぱり」という方向に行きますですw

・改めて強調しときますが、オリ主でオリ設定満載の話ですのでご理解お願いいたします。

・アリサinミッドで皆の現況説明後・・・エリオ編に行くかもって予定です。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十七話  アリサinミッド2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/09/13 14:04
マシュー・バニングスの日常  第四十七話







 いつもは基本的に下ろしてる髪を、大人っぽくまとめて結い上げてるし、服も見なれた制服じゃないし・・・

 なにより男連れで、腕組んでて、あの嬉しそうな笑顔では・・・

 とっさに分からなくてもしょうがないと思うのです。女は化ける。

 しかしなるほど女性の方がフェイトさんなら男の方は一瞬で分かった、しばらく会って無かったが・・・



「フェイトに彼氏がいたなんて!」

「いや、あれは」

「髪結い上げて軽く化粧して、あんな満面の笑みでベタベタ腕組んでるし! ほら見なさいマシュー、腕組んで、胸を押し付けて、しかも

組んでる腕はさらに絡めて手と手をギュって握り合ってるわよ! あれこそカップル繋ぎってやつね! うわあ幸せそうな笑顔~・・・

肩に軽く頭を載せたりして・・・フェイトにあんな相手がいたなんて! しかもそんな話全然聞いたことなかったわ! 内緒にしてたのね!

はやてもそんなこと言ってなかったわよね! これは後をつけるしか無いわ!」

「いや待てって姉ちゃん」

「はやく来なさい!」



 というわけで俺も強引に姉ちゃんに腕を取られて引っ張られ、フェイトさんたちを尾行。人混みが結構あるのと、おそらくフェイトさん

たちがあまり周囲が目に入って無い状態なので、気付かれてはいないようだ。

 数分も経たずに二人はそこそこ品の良さそうなレストランに入って行った。

 んで俺たちも当然そこに入る。



 姉ちゃんが監視に夢中なので、俺は適当に二人分の軽いコースメニューを頼んで、少しフェイトさんたちの方を見てみる。

 すぐに出される突き出しというか前菜的なものを・・・ふむ、あれは伝説の「あーん」ってやつだな・・・何をやってるんだか・・・

 フェイトさんが満面の笑みで「あーん」をして無理やり食べさせ、しかも男にも「あーん」してくれるように強要してる気配。

 いやはや全く・・・



「ちょっとあれはもう決まりじゃない? 絶対に彼氏よね? もうフェイトってば水臭いんだから教えてくれないなんて!」

「いや、ちょっと待て姉ちゃん。」

「そういう雰囲気すら感じさせないなんて意外とやるわねフェイト・・・あれは昨日今日の仲には見えないし、やっぱり中学の頃は完全に

隠し通していたってことよね? あのフェイトがそんなことできるなんて・・・油断したわ・・・いやそれだけ本気ってことなのかしら?

なんにしてもこれははやてにもなのはにも教えてあげなくちゃ! ねえマシュー、デバイス通信するからサウロン貸しなさい!」

「落ちついてくれ姉ちゃん、あれクロノだってば。」

「は?!」

「だから、あの男の方。クロノだってば。フェイトの兄の。」

「クロノ・・・ってあのチビでしょ? 全然違うじゃない彼、結構背高いわよ?」

「俺も久しぶりだけど・・・姉ちゃんはもしかしたら何年も会って無いかな。近頃急に背が伸びたそうだよ。」

「えぇ~~~・・・ホントにホント? だって見なさいよ、あの雰囲気・・・」

「まあ確かに妙な雰囲気では・・・」


 と、二人揃ってクロ・フェイの方を見たとき、なんか動きが。

 クロノが何か小さな包みを出してフェイトさんに手渡す。フェイトさん満面の笑みでそれを受け取り、包装を取る。中から小さなブローチ

みたいのが出てくる。フェイトさん、さらに喜び笑みを深くする。無垢な笑顔、純粋な瞳、大人っぽく結い上げた輝く金髪、シックにまとめ

られたイブニングドレス、胸元が少し開いてて谷間が見えたりとかもするし・・・あのフェイトさんの前に座って、あの笑顔を向けられて

しまえば、その魅力に抗せる男がいるとは思えんな。

 しかしクロノ頑張った。

 一瞬、その魅力に引き込まれそうになってもうどうでもいいやみたいな心理になったのではと同じ男の俺から見れば分かったがw

 立ち直り、持ち直し、対魅力心理バリヤーを張り、心持ちフェイトさんから身を引いて・・・

 何かをボソボソとフェイトさんに言った。その内容は聞こえなかった。

 しかしその言葉をフェイトさんが聞いた瞬間、いきなりそれまでの喜びの表情が嘘のように、一瞬無表情になり、その後、暗く沈んだ顔に

なり、さらにうつむいてクロノから顔を背け、しかもなんだか涙ぐみはじめ、ついに涙がポトリと落ちたりして・・・

 それを見て焦るクロノ、なんか言い訳がましくフェイトさんに一生懸命話しかける。

 しかしフェイトさんは表情を変えない。少しうつむき加減が深くなったくらい。無意識にか軽く首を横に振り聞きたくないみたいな。




 はっきり言えば。


 別れ話をするカップルにしか見えなかったなw


 あんな美人の彼女を振るなんてどういう男だと、レストラン中からクロノに突き刺さる非難の視線。




 しかし多分・・・


「・・・でもな姉ちゃん、あれは実は単なるちょっとした行き違いに過ぎないってオチになると思うぞ。なにせフェイトさんだし。あの人は

思考パターン独特な天然で、思いもよらない誤解とかに突っ走って周囲を困惑させることでは常習犯だし。話を聞いたらクロノが気の毒になる

ような状況なんじゃないかと思うね。せめて知り合いの俺たちくらいはさ、そこんところを理解してやって・・・あれ? 姉ちゃん?」



 気づいたら既に椅子から立っていなくなって・・・

 探すまでもなくなんだか肩を怒らせてクロノとフェイトさんのテーブルに向かってるし。

 ふむ・・・あれは絶対誤解してるな。

 フェイトさんとのみ、友人としての付き合いがあり、クロノとはほとんど接点の無い姉ちゃんなら、どう考えるか・・・

 あの二人が義理の兄妹で血のつながり無いってことは姉ちゃんも知ってるわけで、それで二人は実はこれまで隠れて付き合ってたのだが

クロノがいきなり別れ話を持ち出してフェイトさんをないがしろにしようとしててフェイトさんが泣いてしまってるがフェイトさんはあの性格

だから強いことも言えず多分このままクロノの言うとおりにクロノに都合よく別れを了承させられてしまって一方的にフェイトさんが犠牲に

されて・・・みたいな・・・最悪の場合、そういうストーリーが背景にあるのではと思いこんでるとか・・・

 もしもそういうふうに姉ちゃんが誤解してるなら、これからクロノにはさらに悲惨な目が待ってることになるなあ・・・



 放っておいてクロノがさらに悲惨な状況に陥るのを見てるのも楽しい気はするが、ここは助けとくかな。

 どーも俺の知り合いの女性陣は強すぎるし、男同士助け合わんとな。

 八神に色々ごまかすときのアリバイ工作員としてクロノの存在は貴重だし。

 とかなんとか考えてるうちに。


 姉ちゃん、フェイトさんの横に立ち、フェイトさんの肩を抱く。フェイトさんは少し驚くがすぐに姉ちゃんの胸に顔を埋めてしまう。

クロノもいきなり現れた姉ちゃんに驚くがすぐに思い出し、なにか言おうとしたところで姉ちゃんの先制攻撃! すごい勢いでクロノを

糾弾してるようだな。切れ切れに聞こえてくる内容は・・・「外道」「女たらし」「地位を利用して」「騙して利用した」「体だけ」「義理

とはいえ妹なのに」「弱みに付け込んで」などなど・・・うーむ、レストラン中から注目されてるこの状況で、そんな危ないキーワードの

連発では・・・クロノの社会的生命が危ないw

 しかし姉ちゃんの短気な性格の良くない面が暴走してるなあ・・・年とともにそういう暴走することはかなり減っては来たのだが、やはり

三つ子の魂百までと言いますか、生来の性格が完全に矯められるわけもない。

 クロノは蒼白になってなんとか言い返そうとするのだが、泣いてるフェイトさんと激高してる姉ちゃん相手に、所詮は常識人に過ぎない

クロノでは分が悪すぎる。いや、この状況ではどんな男でも絶対に対抗できないだろう。なんだか、前に見たことのある、恭也さんが忍さんと

美由希さんの二人掛かりで問い詰められて絶望的な表情になってるシーンとか思い出したり。クロノは恭也さんと何かが似たキャラクターの

ような気がするw


 とりあえず、クロノの絶望的な表情があまりにも哀れなので、俺も近づいて割り込んでみる。


「姉ちゃん落ち着けって。」

「マシュー!」

 地獄に仏と叫んだのはクロノである。うんうん、つらかっただろうね。

「まずは落ち着こう。うーん、しかしこの状況・・・」


 客観的に見ると・・・美人で性格も良さそうな彼女と、ちょっと冷たそうに見える彼氏(クロノも意外と感情表現が下手で、周囲から見れば

無駄にクールに見えて誤解されたりするタイプなのだ)の別れ話が盛り上がってるところに、彼女の友人らしい女性が乱入して来て男を糾弾、

野次馬の興味を引くキーワードが頻出し、さあますます盛り上がってまいりました! これはドキドキニヤニヤしながら注目するしかない!ってな

もんであって、レストラン内の客からはもちろんおそらく厨房の向こう側からも大いに見られている、正に晒しもの。


「とりあえず、店出よう。どこか落ち着ける場所に。」

「なんでよ! 場所なんて関係無いわ!」


 姉ちゃんは衆人監視を利用して徹底糾弾の構え。クロノさらに絶望的な顔に。しかしだったら・・・


「フェイトさん、ここにいると目立ちすぎるし、あんま目立つとクロノが困るんで、ちょっと場所移さない?」


 少なくとも、実は付き合ってて別れ話、とかいうオチだけは無いって、クロノは冷静でお堅いが同時に誠実でマジメなやつなので、もしも

万が一、二人が本当に付き合ってたとかでも、だったらそのまま責任とって結婚て流れになると思う。絶対になんかの誤解とかでフェイトさん

が暴走してるだけだろう。情緒不安定では定評のある人なのだから・・・

 クロノに迷惑がかかる可能性を指摘すると、フェイトさんは、それには今気付いたって顔で、場所を移すことに速攻で同意。

 やっぱりね~

 姉ちゃんもフェイトさんが同意するならと渋々ついてくる。



 俺と姉ちゃんも、クロ・フェイ組も、コースメニューを頼んでいたのだがそれをキャンセルする時間も惜しいとばかりにクロノがカードで

速攻、全額払って店を出た。俺たちの分まで払ってくれたのだがどうもそれにも気づいてないかもw

 とりあえずタクシーで八神家に到着するまでの10分間は、微妙な沈黙が漂っていた。



 みんな留守の八神家到着。

 とりあえずお茶を入れて一服するも雰囲気変わらず。

 そうだそういえば考えてみたらメシ食ってないよね俺たち皆。

 冷蔵庫には八神が下ごしらえして保管してある食材とか、ハンバーグとかたくさん作って冷凍してあるやつとか、特製の出汁とかあるので、

少し手を加えれば簡単な料理は出来る。よし軽く作るか、クロノ手伝えと言ってクロノを台所に連行。

 料理という分野では、当然クロノは期待できない。これはちょっと場所を移すための口実、それはクロノにはすぐ分かったと見えて素直に

ついてきた。冷蔵庫を開けて中を確認しながらクロノに尋ねる。


「それでさ・・・話を早くしよう、結局、今回はどういう誤解?」

「いや、つまりだな・・・要は、単に、僕は今度引っ越ししてミッドに本拠を移すって言っただけなんだ。」

「リンディさんはもう、主に海鳴にいるって状態だっけね。」

「そうだ、母は今度の異動で後方勤務に移った後は、もう海鳴に住みつくつもりだ。アルフも一緒にいる、フェイトにとっても海鳴の家が

実家ということになるわけだが、僕はだな・・・」


 クロノは次の人事異動で、今の執務官職(執務官部門という独立した部署がある、独立性が高い)から、正式に次元航行部隊に移ることに

なるそうなのだ。次元航行部隊ってのは早い話が「海」の艦隊であり、これは執務官部門とは管轄も指揮系統も異なる。将来的には艦隊提督を

目指しているクロノにとっては望むところであり、既にどこかの艦の主任士官としての配属も内定しているそうだ。

 執務官は、中央から派遣されてあちこちに行くことが多く、勤務内容も任務の遂行が優先であり、定時に出勤して定時に帰ってとか、そういう

勤務形態は取らないのだが・・・艦隊勤務となればそうは行かない。時間的な自由度は遥かに低くなるし、だから正直言って・・・


「艦隊勤務に移るなら、ミッドに引っ越しした方が便利だってこと?」

「そういうことだ。」


 それなら分からない話でも無いが・・・


「それを言っただけでフェイトさん、泣いちゃったわけ?」

「・・・そうなんだ。」

「それは・・・まあ・・・大変だったなクロノ・・・」


 ああいうふうに泣かれて、どう見ても悪い男にしか見えない状況に追い込まれて・・・気の毒だったとしか言えん。


「プレゼントとか渡してだな・・・ショックを和らげようとしたのだが・・・」

「逆効果だったかもな・・・」


 下ごしらえ済みの食材を利用して手早く野菜炒め定食みたいの完成。八神特製ダシで作った味噌汁もつけた。4人分作るのにわずか20分。

ふふふ、近頃は八神にも味をそこそこ褒められるくらいのレベルに達しているのだ。


「手際がいいな。」

「八神も近頃、忙しくてねえ。」


 みんなでモソモソと飯を食いながら話してみれば、やはり別に深刻な話では無い。

 姉ちゃんも、単に引っ越しして離れるのがイヤってだけの話だと聞いて呆れ顔。

 クロノに「言いすぎたわゴメン」ってあっさり謝罪。切り替え早いんだよね姉ちゃんは。



 さて、レストランを出てきたのは19時過ぎであった。

 八神家に到着してメシを食い終わったのが20時半くらい。

 そのあと、食後の一服とか、色々ダベってたりで、気付けば21時を大きく回り・・・



 そこにデバイス通信が入った。ちょっと失礼といって席を立ち、廊下に出て歩きながら通話画面を開いてみると・・・


「おやリンディさん、お久しぶりです、どうしました?」

「突然にゴメンねマシュー君。そっちにフェイトいってないかしら?」

「フェイトさんとクロノもいますよ。町で偶然会いましてね。」

「ほんと! 良かった・・・二人ともマシュー君とはやてちゃんの家にいるそうよ。」


 リンディさんの言葉の後半部は、ディスプレイから横を向いて誰かに言ったもののようだ。誰に言ってるのか知らんが。

(大丈夫、偶然マシュー君たちに会っただけ見たい・・・二人でどこかに宿泊とかじゃなくて・・・うん9時までには帰るって言ってたのに

そこのところは・・・だからねクロノの方は大丈夫だって・・・フェイトも多分・・・)

 とかなんとか横の人と小声で素早く話した後、またリンディさんは俺の方を向いて、


「二人にデバイス通信ONにするように言ってくれない? なんだか切ったままみたいなのよ。」

「はい分かりました。」


 そのあとフェイトさんとクロノが席をはずして通信を始め、漏れ聞こえてくる声に3人以外の女性の声も聞こえて、少し言い争ってるような

というか、クロノが責められてるかのような雰囲気も伝わったりしたのだが・・・



 とるものもとりあえず二人は急ぎ足で帰って行った。

 しかしフェイトさんはクロノの手をギュって握ったままだったし。

 クロノの背中からは苦悶か哀愁かが滲み出ていたように見えた・・・







 さて、この時点では何がどうなってるのか俺たちには分からなかったが、後であちこちから話を聞いて分かった話を姉ちゃんとまとめると・・・




「クロノには、訓練校時代からずっと傍にいて協力してくれてたエイミィさんって人がいたと。」

「漠然と将来は結婚するかもって思ってはいたものの、そんなに具体的にどうこうって話にはなってなかったみたいね。」

「クロノは管理局でも有名なハラオウン家って名家出身のエリートで、本来なら引く手あまたのはずだったけど、クロノの父親が若くして亡く

なり、リンディさんも頑張ってたけど彼女は必ずしも管理局内部の出世競争とかに興味あるタイプじゃ無かったのかな・・・

 リンディさんって人は・・・若いころから、同世代最強の魔導師として有名だったらしいけど、同時にやりたい放題の問題行動も多くて悪名

も高く、如何に強くてもあんま出世しそうにないタイプだったとか。そうして若いころは好き放題に暴れまわってたのだけど、クロノの父親に

出会った途端にメロメロに惚れ込んで突然の結婚妊娠出産、公務も引いてしまったとか。」

「一回、事実上引退に近い状態になって、そこからまた復帰したわけね。クロノが一人前になるまでは、若いころは嫌いだったお堅い仕事も

頑張ってやろう!って決意だったみたいね。」

「でもまあ本人がもともとそういう若いころはヤンチャだったってキャラだし、ハラオウン家が属してた派閥みたいのも、グレアム提督の

暴走から逮捕とかで大いに勢力が落ちたりしたし、クロノ本人も愛想良いとはお世辞にも言えないタイプだし、などなど、色々な理由から

クロノに縁談が持ち込まれるってこともあんま無く、エイミィさんは安心してられたそうだ。」

「ところがそこにフェイトが現れるわけね。小学生の頃は、まだリンディさんにも少し他人行儀みたいな感じあったんだけどね。クロノ相手

にも似たようなものだったんじゃないかしら?」

「ん~高町が入院したあたりでさ、色々あって、リンディさんと踏み込んだ話することも多くなって、遠慮も取れたみたいだな。そして、

一度遠慮が無くなり、懐いてしまえば、今度はちょっと距離感が近くなり過ぎるのもフェイトさんで・・・」

「リンディさんが中学の授業参観に来た時なんかもベタベタしてたわねぇ。仲良くなれて良かったな~としか思って無かったけど。」

「同じ態度をクロノにもとっていたらしい、まあこれは伝聞なんだが・・・後から調べてみれば噂が出るわ出るわ、クロノとフェイトさんが

『できてる』ってのはもう暗黙の事実として認められたみたいだし。なにせ距離感が近過ぎて、本局庁舎内でも、どっかの艦内でも、その

へんの道端でも、会った瞬間に抱きついてスリスリして、そのあとも時間の許す限りずっとくっついてるみたいな状態で・・・恐らく肉体関係

もあるんだろうしそのうち結婚するんでね?って認識が普通だったみたいだな、いやあクロノは大変だったろう。」

「うーん・・・クロノっていいやつなのねぇ・・・そんなフェイトを突き放せなかったわけね?」

「なんとか適度な距離を取ろうと試行錯誤はしてたらしいが。しかし結局そうしてベタベタするフェイトさんとクロノを、横でずっと見ていた

エイミィさんの心境はどんなもんだったのか・・・」

「最初のうちは事情も知ってることだし微笑ましく思ってはいたんでしょうね。でもフェイトはどんどん女らしくなるし、そうなっても全然、

自重しないし、聞きたくなくても噂が耳に入ってくるし・・・不安にならない女はいないわね。」

「それやこれやでゴタゴタしてるみたいだな~。」

「話を聞くだに、エイミィさんてしっかりした人だし昔からクロノを良く知ってるし、クロノが結婚するなら彼女の方だろって感じよね。

それにフェイトもやっと親しくなれた「お兄ちゃん」に甘えてるだけって認識だろうし。」

「そうなんだよな、フェイトさんには計算も無ければ下心もない、本当に純粋で・・・だから困るんだが。」

「・・・どこかにフェイトのことだけ見て、フェイトのことだけ愛してくれる誠実な男でもいないかしらね・・・」

「ぶっちゃけクロノはフェイトさんの相手として実は理想的なんだよな、そのクロノが他の女性と結婚するとなると・・・」

「フェイトの将来って心配ねぇ・・・地雷女とかにならなければいいけど・・・」

「いい人が見つかるように祈っとくとしよう・・・」

「ほんとにね・・・」













(あとがき)

 クロノ受難の日。仕事人間であるはずのクロノの若くしての結婚の背景の考察。フェイトの存在が影響なかったはずはないと思うのです。

 「リンディは元ヤンじゃない」ってレティさんが言ってたけど、「二人は共犯だった」ってギルさんから聞いたってマシューが言ってました。

 次の話は、なのはにするかギンガにするかはやてにするかどうしようかな・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十八話  アリサinミッド3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/09/24 19:31
マシュー・バニングスの日常  第四十八話









 週末は病院勤務である。




 いくら姉ちゃんでも部外者だからして、あんま病院の奥深くに入ってこれるわけではないし、俺の診察とか見物できるわけでもない。

 しかし姉ちゃんは、一般向けの一時通行パスと、俺を身元保証者にしたミッドでの身分証を用意させると、とりあえず一般人でも見れる

範囲で病院内を見物すると言ってどっかに行ってしまった。うーん、どこでなにをしてるのだろう・・・



 まあ姉ちゃんの事は後で考えるとして仕事仕事。




 陸の病院での、ギンガ・ナカジマさんの定期健診は今も続いている。

 彼女は陸士訓練校に通っている。そこでかなり激しい実戦的な訓練を受けているのだが・・・やはり思った通りだな。

 つまり、機械部分の減耗がほとんど無い。


 負傷はすり傷程度しかしていないとは言っても、平和に過ごしていた時と違って激しい運動をしているのに、それでも減耗率は平常時と

変わっていない。ううむ・・・どうなってるんだ? 前に徹底走査したときは排泄系周辺を特に念入りにチェックしたわけだが・・・

もしかしたら体内のどこかにナノマシン再生産機能でも備わっているのだろうか・・・でもそれらしい部分が見つからないしなあ・・・

ダメだ分からん、これは工学知識の有無の問題になるわけで俺の専門では無いし・・・ううむ、せめて似たような人体改造の記録とか

無いかどうか、今度ユーノに頼んで無限書庫で調べてもらおうかな・・・しかしやはり戦闘向け改造だったんだろな・・・



 今日はゲンヤ・ギンガ親娘だけでなく、なぜか妹のスバルちゃんまで一緒にやってきていた。

 そして俺は経過観察の結果を伝える。

 ううむ・・・ゲンヤさんには不本意な結果だろうけど・・・事実だからなあ・・・


「え~結論から言いますと・・・」

 俺の言葉に3人の表情が真剣になる・・・


「全く問題ありません。平常時と変わっていないですね。」


「「「え?!」」」


 3人の返事がハモる。余程意外だったのかな・・・そういや前はかなり悲観的な予測をしたからなあ。


「詳しい話は・・・っと、スバルちゃんに聞かせてもいいんですか?」

「ええ、それは構わないです。スバルも一度、ちゃんと先生の話を聞きたいと言っていますので。」

「ですか・・・いいんですか、ゲンヤさん。」

「・・・しょうがない。」


 ゲンヤさんは不満気だなあ・・・ここでも親娘対立してんのかね、やっぱり。


「つまり自然な肉体部分とは異なる、無機的機械部分が、激しい訓練により、平常時よりも激しく減耗する可能性を心配していたわけ

なんですが・・・ここまではいいですね?」

「はい。」

「ところがですね・・・減耗率が平常時と変わらないんです・・・せいぜいすり傷くらいしかしてないと言ってましたよね?」

「はい、軽く血が滲む程度の傷しか訓練ではしていません。」

「となると、その程度では、平常時と変わらない、どれだけ激しい運動をしてもってことになりますね。現在の結論としては。」

「そうですか! 良かった~~~。」


 ギンガさんは大きく安堵の息をついた・・・

 逆にゲンヤさんは苦い表情で・・・

 スバルちゃんも嬉しそうな顔だなあ。


「ただし! いいですか?」

「はい。」

「今の程度なら、という条件がつくことは忘れないで下さいよ? 例えば・・・すり傷程度では無い、創傷・切り傷とかですね・・・

そういう負傷で、まとまった出血などがあった場合はどうなるか、まだ分かりません。これは実験するわけにも行かないので、現状では

なんとも言えません。だからなるべくそういう傷は負わない、負ったらすぐに連絡する、ここは忘れないで下さい。」

「はい先生! あっと・・・でも、定期健診は受けさせてもらってますけど・・・そういう臨時の事態が起きたらどうしたら・・・」

「ん~っと、そうですね・・・」


 患者との間の連絡にプライベート回線アドレスを教えるとか、まあ普通はやらないことなんだけど・・・

 でもこの人たちは特殊だからなあ・・・

 教えてもそんなに困ったことにもならないだろうし・・・


「それじゃ、ゲンヤさん、ギンガさんには・・・俺のデバイス直通番号、教えておきますよ。」


 明らかに本人の意思とは無関係な非人道的な人体改造を受けて普通に医者にかかるのもためらうようなこの娘たちのためには・・・

 多少はムリして対応してやりたい・・・自分のせいでは無いのに所与の条件として体が弱いとか悪いとかってシチュエーションは、

俺自身の境遇に直撃するので目をそらすことができないのだ、まあこの子たちの場合は弱いってわけでは無いが。


「え! いいんですか! そこまでして頂いて・・・」

「あくまで臨時連絡に限りますよ?」

「はい! 分かりました、ありがとうございます!」


 ギンガさんは満面の笑み。ゲンヤさんも、ちょっと安堵した顔かな・・・

 っと・・・スバルちゃんが何か言いたそうにしてる・・・


「どしたの? スバルちゃん。」

「え、えっと・・・あの・・・」


 ちなみに、クイントさんは長い黒髪の明るい印象の強い美人だったが、ギンガさんは瓜二つ。髪型から何からクイントさんに似てる。

 それに対してスバルちゃんは同じ黒髪でもショートにして、どっちかと言えばボーイッシュな印象が強い子だ。

 結構、意思も強そうな感じなのだが・・・意外とシャイなのかな。とか思ってたら・・・


「先生! 私にも番号教えてください!」


 といきなりの大声。ちょっと引いた。加減の利かない子だなあ。高町にちょっと似てる。


「えっと・・・」

「私もお母さんみたいな戦闘魔導師になりたいんです! だから・・・その・・・」

「あ~・・・そうだったんだ。ゲンヤさん?」

「・・・そういうことなんだ・・・」


 ううむ。娘が二人とも物騒な道を自分から希望してる・・・複雑だろうなあ・・・


「そういうことなら・・・あれ? もしかしてスバルちゃんも訓練校に?」

「はい! まだ何年か先になるかもですけど、入るつもりです!」

「そっか・・・じゃあ教えておくよ。ただ、あくまで緊急連絡だからね?」

「はい!」

「あとは・・・そうか、じゃあこれからは、ギンガさんが来るときは、スバルちゃんも一緒に検診受けに来て。」

「先生、いいんですか?」

「なーに、二人のデータを比較すれば分かることもあるだろうし。それじゃ、そういうことで。」

「「はい!」」


 ギンガ・スバル姉妹は良い返事だ。

 ゲンヤさんは苦悩してるなあ・・・





 しかし少し早まったかもしれんわ・・・

 いや、個人番号教えたことなんだけどね。

 娘二人は、ちゃんとわきまえていて、無闇に連絡してくることは無かったんだけど・・・

 ゲンヤさんがなあ・・・たまに酔ってグチの電話をかけてくるんだわ・・・

 まあ適当に流して、ほとんど聞いてないんだけどね。


 で、次の検診時に、ギンガさんにそれを言ったら、ギンガさんの目尻が釣り上がり・・・

 その後、家で壮絶な親娘喧嘩が起こったそうで・・・

 それからはゲンヤさんが酔ってかけてくることは減ったものの、実は無くなっていない。


 心配なのは分かるんだけどさあ・・・だからって嘘言って止めるわけにも行かないじゃないすか? 実際、世の中には優れた医師は

たくさんいるわけで、俺に止められても、別の医師のところいって、やっぱ大丈夫そうだって話を聞く可能性は大いにあるでしょ?

あの二人の意思の固さから考えれば諦めそうにもない、だったら認めた上でフォローする体制を敷くのが、俺たちに出来ることなんじゃ

無いでしょうかね? ねえ違いますかゲンヤさん? とかなんとか言ってみたが。


 しかし結局、父が娘を心配する気持ちには・・・理屈じゃ勝てなかったりするのであった・・・







 さてギンガさんの診察が今日の午前中で最後の診察だったので、前々から気になってたことを確認してみたいな~と思って。


「ギンガさん、スバルちゃん、この後、予定なければ一緒に昼飯でもどう?」


 と誘ってみる。

 いきなり誘われてギンガさんはなんか絶句している。ゲンヤさんとスバルちゃんはポカンとしてる。


「いや、多分二人って相当、量食うでしょ? 消費カロリーが常人並みでは無いはずなんだよね。それで一回、その量とか食事の傾向とか

確認しておきたいなって思ったんだけど・・・ここの食堂で良ければ奢るから、だめかな?」


 その俺の言葉に、なんかちょっとガッカリって感じにギンガさんはなってしまったが。


「・・・そうですか、そうですよね、はい、分かりました。それじゃあご一緒させてもらいます。」

「ゲンヤさんもどうです? 奢りますけど。」

「ああ~私はいいよ。この後、すぐに仕事に戻らなくてはいかんのでね。」

「ですか。」


 そういうわけでギンスバ姉妹を連れて診察室を出て、食堂に向かう途中で姉ちゃん登場。

 時間を見計らって待っててくれたらしい。しかしどこでなにしてたんだろう。

 俺と一緒の姉妹を物珍し気にみて・・・

「あら? マシュー、知ってる子なの?」

 と姉ちゃん。


 ちなみに。

 西洋人女性というのは15~6の少女の時期というのが一番、美しいと言われている。そして姉ちゃんは正にその年ごろである。美人で

あるかどうかって基準で言えば、姉ちゃんくらいの美人なんてなあ、まずいない。弟のひいき目では無いと思う。フェイトさんなんかも

姉ちゃんと良い勝負ってくらいに美人だが、やはりあの人は少し控え目な印象があり、それに対して姉ちゃんの美貌には人目を引く派手さが

あり、大抵の女の子は姉ちゃんの傍にいると霞んでしまう。

 ナカジマさんちの娘さんたちは、基本的に母親似だが、やはりいつも一緒の父親の影響もあるのだろう、可愛いのだけどちょっと体育会系

というか、女っぽさには欠けるところがあるというか。高町と似てるかも。

 高町・八神・フェイトさんの3人娘は基本的に働く女性なのであり普段は見苦しくない程度に身だしなみを整えてるくらいなわけだ。しかし

それに対して姉ちゃんは生まれも育ちも本物のお嬢様なのであり身だしなみも服装もアクセサリも一分の隙もなく、言ってみれば、宝石で

あるにしても原石に近い状態の他の娘たちと違って、完璧に磨き抜かれて光り輝いてるのだな姉ちゃんは・・・







 バニングス先生って実は私よりも2歳上でしか無いらしいんだけど・・・

 いつも持ってる多分医療用の専門デバイスの杖をついて歩いてるし、身動きもなんだか慎重で基本的に物静かで老成した感じで。

 顔も良く見たら整ってはいるんだけどやっぱり地味っぽくて。

 年の割に老けてるのよね。


 だから親しげに話しかけてきたその女性を見たとき・・・意外だったってのが第一印象。


 何この美人デタラメじゃない凄い金髪しかも胸もかなりなのに腰細いし服も絶対凄い高級品よね小物までお金かかってるし化粧品とかも

きっとお母さんが使ってたのと比較にならないレベルの高級なの使ってるんじゃない一体どうしていやそれよりこの親しげな雰囲気って

もしかして彼女なのかしらそういえば先生には彼女いるって噂がそれにしてもこれは無いんじゃないいくらなんでも折角先生が誘ってくれたのに

いや私もちょっといいかなって思ってるだけなのよ? そんな本気でどうこうってわけじゃないけど少し近づいてみたいなって思っただけで

それにしても何なのよこのお嬢様風超美人って比べて私ってばガサツな一般庶民なのねあああこんなに同じ女で差があるとは・・・



 横で妹が、姉とそのお嬢様を見比べて、あちゃーこれはムリだー惨敗にも程があるーって顔をしてるのにも気付かずギンガは一瞬フリーズ

状態になった。 が、次の瞬間フリーズは溶ける。



「ああ姉ちゃん、患者さんなんだよ。折角だから昼飯、一緒でいい?」

「・・・お姉さん?」

「そだよ、似てないだろ。紹介するね、俺の双子の姉でアリサ・バニングス。」

「はじめまして、よろしくね。」

「で、こっちはギンガ・ナカジマさんと、妹のスバルちゃんだよ。何年も前から俺が診てる子たち。」

「中島? 日本人?」

「先祖がそうらしい。面白いよね~そういうこともあるみたい。」

「へ~。」


 ギンガは何とか立ち直り再起動を果たす。


「はじめまして! ギンガ・ナカジマです。バニングス先生にはいつもお世話になってます!」


 今度は別の意味で緊張してきた。

 繰り返すが別に本気で好きとかどうこうとかの話では無い、親切にしてくれるし年も近いし良い先生だなーって前から思ってたし、

これからも妹共々お世話になるわけだし、もう少し親しくなりたいなと思うのも別に自然な心の動きだろう。だからちょっと食事を一緒に

とるくらいは何の問題も無い、場所も病院の一般向け食堂になるだろし、周囲にたくさん人もいるわけだし。

 でもまあだからってそれじゃあ何も感じずクールにいけるかっていえばそれも違うわけで・・・つまるところは微妙なのだ・・・






(アリサチェック)

 ふーん、年下の患者さんの女の子か・・・2歳下とか言ってたかしらね。

 やっぱりミッドに勤めて結構長いんだから、現地で女の子と知り合いになってないはずは無いと思ってたけど思ったとおりね。

 見たところ、妹のスバルちゃんの方は、まだ本当に子供ね・・・この子は置いておいて、と。

 問題はギンガちゃんの方ね・・・


 マシューは当たり前だけど、ずっと私の弟やってきてるわけで。

 だからマシューの女性への接し方というのは全て、基本、「姉に対する態度」って状態。女性を無条件で上位者とする、レディファーストの

精神は叩き込まれてる、だけど同時にその女性が自分の面倒見てくれるのも当然と思ってて無意識レベルで甘えるのが上手い、私との距離が

普通の姉弟よりは近いし遠慮も互いに無いことの影響で、他の女性への遠慮も無いし平気で近付く、などなど。

 これまで見てきたところでも、例えば、なのは。あの子ってまるっきり末っ子じゃない。だからマシューとはどっか噛み合わない所があった

んだろうと思うのよね。でもあの入院以来すっかり距離が近づいて互いに慣れたみたいだけど。

 逆に、はやての場合。ずっと一人で頑張って来たので年の割にはすごくしっかりしてる。つまりはやてには「姉的要素」ってのがある、

だからマシューと上手く噛み合うってことになる。

 このギンガちゃんも、マシューよりも年下であるとは言え、妹がいて、実際に姉という立場であり、姉的要素ってのをマシューに対して

発揮できるようになる可能性はあるわね。そうなるとこれは将来有望かも。

 まだ今のところは、別にそんなに意識してるってわけでもなさそうだけど・・・うん、普通に軽い好意を持ってるだけって程度ねこれは。

 でもまあ一応、覚えておくことにしましょう。



 しかしこの子たち食べること食べること・・・私たちの十倍くらい食べてない?

 いくら成長期だからって・・・もともと食が細いマシューは参考にならないにしても、私たちの中で一番大食いのなのはと比べても、全然

比較にならないってレベルで食べまくってるわ・・・


 後でマシューに聞いたら、それやこれやで病院に来てるんだよ、患者さんのことだから話せないけど、別に糖尿病とかってわけじゃない、

ほらたまに凄い大食いキャラってテレビとかに出てるだろ、ああいう人たちの大食いも別に病気ってわけでもない、それと似たようなもんで

あれだけ食ってても別に異常ってわけじゃないからって話なんだけど、それにしてもねえ・・・






 しかしギンスバは実は本気で食べていなかった。

 姉は、なんかちょっと憧れたりしてる先生の前で控え目になったりしてたし。

 妹は、見たことも無いようなクラスの違う上流階級の美人を前に緊張したりしてたし。

 しかしそれにしてもマシューの二十食分以上は一回で食いつぶしたことは間違いない。



 ゲンヤさんはどうやって養っているのだろうかと本気で疑問に思ったマシューであった。
















(あとがき)

古なじみ同士ではもう安定してるので何も動かない。何かを動かすキャラとしてギンガに期待。

マシュー用語では「姉ちゃん」というのは人とか女とかより「女神」というのにニュアンスが近い。

「八神」は「半分家族」。「高町」は「患者兼ケンカ友達」。「フェイトさん」は「トラブルメーカー・困った人」



[7000] マシュー・バニングスの日常  第四十九話  アリサinミッド4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/09/30 21:07
マシュー・バニングスの日常  第四十九話









 今日は高町が遊びに来た。それもすっごく朝早く。



 姉ちゃんと一緒にミッドをあちこち見て回る予定、まあ今度こそ普通の観光になるだろな。

 しかし姉ちゃんは意外と寝起きが悪い。高町が来たからと起こしても、しばらくボーっとして、そのあとで「シャワー浴びてくる・・・」と

言って風呂場に消えた。姉ちゃんは一回風呂に入ると1時間弱は出てこない。


 ちなみに今朝も八神一家はいない。どーも近頃の俺はほぼ留守番である。フルタイムで仕事するようになってからの八神の仕事振りってのは

鬼気迫るものがあり、かなりムリしてるんではないかと思うのだが、さすが八神、体調管理も万全、休めるときに休める場所できちんと休んで

いるようで、帰ってきたときに俺が健康チェックしても、過労って程では無いのだな。




 とりあえず待ってれば良いだろと高町を居間に通して、茶を一応、入れてきたのだが・・・折角、はやてちゃんが良い茶葉を揃えているのに、

入れ方がなっちゃいないと文句を言いやがったので、だったらお前が入れやがれと言い返したら、喫茶店の娘を舐めるなと凄い気合を入れて

キッチンに向かった。ふふん、桃子さんには及ばないだろうが、八神の腕もなかなかのものだ、いつも八神の入れてるお茶を飲んでる俺が感心

するほどのものを、砲撃娘ごときが入れられるものかな。


「はい、入れてきたよ! さあ飲んでみて!」


 ずず・・・

 ぬぬぬ・・・

 美味いじゃねーか・・・


 素人がある程度気をつけて入れるって段階では無い。

 明らかにプロだ。

 既に一般的なお茶の入れ方の注意事項を守るって段階を超えて、さらにその上でのタイミングとかコツを競い合う境地なのか。


 八神は「上手な素人」なのに対して、これは「そこそこのプロ」だな。

 おのれ高町のくせに生意気な。

 とかジャイアン的な感想を思ってても仕方ない・・・


「さすが桃子さんだな。」

「いれたのは私だよ!」

「教えたのは桃子さんだろ。」

「お店で出せるくらいになるまで頑張ったのは私なの!」

「なんだよやっぱりちゃんとした訓練を受けてたのか・・・」

「そうだよ! それでどう? 美味しいでしょ!」

「・・・」

「美味しいでしょ?!」

「美味いよ畜生め。」

「ふふーん♪」



 むう、珍しく俺に勝ったのですごい嬉しそうに笑ってやがる。なんと反撃してやろうかと考えてると・・・


「あああ~ゴメンねなのは、目ぇ覚めたわ・・・」

 姉ちゃんが髪をタオルで拭きながらやって来たので、とりあえず水入り。



 今日は高町と一緒に普通の観光をする予定の姉ちゃんだが、本当の所それだけでもなく、今でもやっぱり仕事仕事で遊びが無い高町を、

休ませて遊ばせるって目的もある。

 仕事仕事ばかりといえば八神もそうなのだが・・・昨日も八神は帰ってきてない。今日の午後になんとか八神一人は帰って来れる予定。

 騎士たちが帰って来れるかは微妙・・・ザフィーラは大丈夫・・・シャマルさんは多分・・・シグナムとヴィータは微妙・・・リィンは

かなり危ない・・・みんなそれぞれの持ち場で実に忙しく働いている。



 そういうわけで今日は俺はやっと帰ってこれる八神を待つので一緒には行かない。

 多分昼過ぎに帰ってくるだろう八神と一緒に夕飯の支度をして、姉ちゃんと高町が観光から帰ってくるのを待ち、夕飯は家で皆で食べようと

いうのが今日の予定となる。



 ちゃんと目が覚めた姉ちゃんは手早く身だしなみを整える。意外とその段階になるとテキパキと準備が早くなったり。しかし姉ちゃんは、

飾り気のない高町の格好をジロリと気に入らないって顔で睨むと、自分の身支度とは別に高町の服や化粧や小物をアレンジし始める。高町の

抗議は一切聞く耳持たない。


 あんたせっかく素材が良いのにそんな恰好ってどうなのよ、化粧ってのはただの飾りじゃないのよ適切にすればお肌の状態を良好に保つって

意味もあるのに、そういえばあんた普段はどんな基礎化粧品を、なんですってそんな適当な手入れだけでどうしようっての! 桃子さんだって

あの若々しい外見のために努力とかしてるのよ、あんたみたいな体育会系の仕事をしてる女が手入れ怠れば迅速に劣化するわよ、桃子さんの

娘だからって甘えてるんじゃない、ほらまずは私が使ってるのを貸してあげるから、ああもうその手つきは何? 見てられない貸しなさいほら

こういうふうに・・・



 さすがのエース高町も美容って分野においては、そらまあ姉ちゃんに敵うわけがないのだな。

 しかし女性ってのは大変だね、やっぱ。


 だが、姉ちゃんから見れば、高町のそういう分野における無頓着さは、やっぱり我慢ならないものだったようで。


 ただの観光になるかと思いきや、高町を女性として変身させるツアー第二弾になりそうだな。

 姉ちゃんは高町を引きずって意気揚々と出発。

 とりあえず近場のデパートの化粧品売り場に向かうとのこと。

 高町の抗議の意見はやっぱりきれいに無視されていた。







 さーて午後には八神が帰ってくるだろうがそれまで何してるかな。

 あ、そうだ、予定としては今日の夕方には、姉ちゃんプロデュースにより女の子らしくアレンジされた高町が帰ってくるはずだよな。


 だったらそれをユーノに見せてやらないって手はないだろう。


 無限書庫の勤務時間・・・の前だな、まだ。今なら連絡つくかな~・・・



 ちなみに無限書庫ってやつは・・・原理は不明だが次元世界のあらゆる情報を半自動的に収集し蓄積し続けるって意味不明な代物で、

もしかしたらロストロギアなんでねーかと思われるのだがまあ無害らしい。しかしどーも作ったやつが所謂「頭良いバカ」だったのか、

あらゆる情報を自動的に積み上げるってー凄い性能とは裏腹に、その整理方法が適当でひたすら大雑把に情報積み上げてくだけみたいな

感じで、デジタルな整理とか皆無である。索引とか蔵書一覧とかが存在しないくせにひたすら巨大な図書館みたいなもんで、つまりそういう

状態だと目当ての情報を見つけるのも一苦労、ていうかまず見つからん。どこが政治関連で、どこが魔法関連でとか最低限の分類すらされて

いない状態でひたすら本が投げ込まれてる中からどうやって探せというのだ。まるで闇の書のような大雑把さ。大方古代ベルカの連中が適当な

ノリで作ったものなのでは無いか、しかし出来た後で「あちゃーやべー検索機能つけるの忘れた俺自重w」みたいな感じでそのまま誰も

まともに使わなくなってしまったのではないかと個人的には思ってる。

 しかし! そういう状態で、無限の情報は確かにあるのに利用不可能に近い、ってどーしょーも無いのを何とかした男。

 彼こそがユーノ・スクライアなのである。実は結構大した男なのである。

 やつがどうやってうまく調べてるのだかは良く知らん、が、とにかく彼にはそれが出来るということで実はかなり管理局内でも重要人物に

なっていたりするのである。なにせ書庫は勝手に無限の情報集めるわけだし中にはかなりヤバイ情報とかあったりするし。

 もっとも、それで親しい人にも話せない機密とか無駄に多く知ってしまったりとか、ユーノでなければ調べられないレベルの情報とか

多くて仕事が地獄のように忙しかったりとか、それやこれやで高町との距離を詰めるのが難しくなったりとかしてしまってるのだが・・・


 まあだから協力してやらんとね。





「・・・そういうわけなんだが、どうだ? 今日の夕方とかこっちに顔出せないか?」

「可愛く着飾ったなのは・・・見たい!」

「うんそれは分かってるから、で、来れる?」

「・・・なんとかする! よし今日は残業しないために頑張らなきゃ! ありがとうマシュー!」

「できれば18時くらいが良いが・・・まあ多少ずれてもいいから。」

「分かった。ああそうだ、この前、頼まれてた人体改造の資料なんだけどさ。」

「うん、見つかったか?」

「情報の機密レベルの分類で・・・上から二番目くらいの機密度Aの資料が結構あってさ・・・これ、はやてなら見れるレベルだけど、

どうなんだろ、マシューの今の権限だと・・・」

「上級管理官レベルでなくては見れない人体改造の記録? ・・・物騒だな・・・まあ実際にやってるわけだし実例を知ってるわけだが・・・

うーん、二尉待遇の医務官ではアクセス権限無い?」

「ん~ちょっと待ってよ、本局病院所属の医師としてのマシューの権限だと・・・アクセス権限は機密度Bまでか・・・やっぱムリかな、

一応、陸の本部病院の医師としての権限の方だと・・・・・・あれ?」

「どした?」

「どーなってんの? 陸の医師としてだと、マシューの情報アクセス権限が・・・医療分野に限ってだけど機密度Aまで閲覧可能に。

へ~陸の病院だと色々設備とか悪いって文句言ってたけど、その代わりにこういう所でマシューの待遇良くしてんのかな。」

「ほほう、いつの間に。」


 そういえば、かなり前に俺の病状と似た症例が無いか、先天性リンカーコア形成異常について調べたとき以来、無限書庫の利用ってして

無かったな。あれから俺の権限拡大とか陸の方で勝手にやってくれてたのか。


 ちなみに先天性リンカーコア形成異常については、前例らしい前例がなく、そういう生まれの子供は子供のうちに迅速にお亡くなりに・・・

って実に絶望的な記録しか残って無かった、あれ見て以来少し無限書庫を敬遠してたからなあ。




「それじゃあ頼むわ、サウロンに情報送ってくれ。」

「了解。そうだ、ついでにリンカーコア異常についても、機密度Aまでで見れる新資料とかあったらまた送っておこうか?」

「うん、いつでもいいから見つかったら送ってくれ。」

「それじゃまた夕方にね。」

「おう、今回は姉ちゃんプロデュースで女同士で徹底的に改造するって言ってたからな、期待できるかもよ。」

「うん期待してるよ!」






 さーて、ユーノから送られてきた情報は、と・・・


 人体改造の記録・・・むうう・・・人道とか無いなあ・・・正直気分悪いが・・・


 人体実験というのは残念ながら地球でも前例は多々存在するし・・・また今現在でも世界のどこかで金目当てで臓器とか切り売りするって

人たちが実際にいたりとかもする。日本だと輸血用血液は献血頼みなのだが、世界だとむしろ金銭的代償が与えられるのが普通だったりして、

売血という行為は普及していたりとかもね。それに俺が知らないだけで・・・多分、今でも地球のどこかで・・・人体実験とかって行われて

いないって断言できるか?っていったら微妙な気がするし。軍事機密に守られた研究所の内部とかでどういうことが行われているかなんて

分かったもんじゃあない。

 しかしだ、その逆に、本当に純粋により多くの人を救うための医療技術の発展というのも行われているわけだ。

 つまり表があれば裏がある、光があれば闇がある、良いことしてる人たちがいれば、悪いことしてる人たちもいると。

 それは地球でも当然そういうもんだし、ミッドでもそうだって、まあそれだけのことだろな。



 送られてきた資料は大別すれば二種類・・・

 ふむ、魔導師のクローンを作ってそのクローンに色々な加工を施して強力な魔導師にするって研究と・・・

 肉体に機械的改造を施して、一種のサイボーグを作る研究・・・

 ナカジマ姉妹は後者だな恐らく。

 うーんさすがに研究素体の個人名とか・・・研究者の個人名とかは載っていないが・・・



 元々、自然には回復しないほど激しい損傷を肉体に負った場合、機械的に修復するって技術自体は悪いもんじゃない。むしろ非常に有用な

技術の一つであるわけで。どーも資料を読んでくと・・・まず誰か一人、そういう工学技術と医療技術の融合ってもんについて天才的な能力を

発揮した人がいたみたいだな・・・その人は普通にその技術で多くの人を救っている・・・しかし彼はどうも医者というよりは、工学方面の

純粋な研究者って性格の持ち主で・・・つまり人を救うための医師であろうという意識より、より優れた技術を発展させようという意識の方が

高い人物だったようで・・・技術の発展、より優れた研究環境を求めて彼はどんどん現場から離れて研究所に閉じこもり研究に専念して・・・

そして非人道的な方向に走ってしまったようだ・・・しかしその非人道的人体改造に手を染めてからの研究も凄いなこれは・・・普通は絶対に

やらない、やっちゃいけないことをやることにより得られた情報ってのは残念ながら非常に有効性が高いのだな・・・彼は研究材料として、

ほとんど消耗品並みにクローン体を扱っていたようなのだが、その過程でクローン再生技術とか劇的に向上してたり・・・機械的強化を施した

戦闘兵器人間を作ろうとする過程で、義肢とかに応用可能な技術が大量に生み出されたり・・・うわちゃー・・・高町に施された脊髄再生術に

絶対必要だった神経細胞培養技術とか・・・絶対この違法研究の影響受けてるぞ・・・



 さてその最初の誰かの研究成果はある時から急に途切れる。強力な優れたクローン体の育成技術に専念してた時期にいきなり途切れてる、

そのあとは主役は別の研究者になってるな・・・なんで分かるのかと言えば、技術の傾向が明らかに変わってるから。工学技術に偏る傾向が

あった前任者に比べて、後任の人は医療技術や魔法技術を大いに利用するタイプで・・・工学技術も勿論使ってるが・・・なんつーかこの

後任の研究者は凄い万能型って感じだな・・・あらゆる技術を組み合わせて新しい境地を開いてるような・・・

 しかしその彼の研究も、ある時期を境に急に表に出なくなってる・・・実に不自然で唐突な途切れ方・・・

 研究者の個人名も研究施設の固有名詞も出てこないが・・・これって・・・単なる犯罪組織が出来るような規模の話では無いな・・・

 どっかで管理局と・・・管理局の暗部みたいなとこと?

 つながってるような話なのでは・・・



 うわああああ


 やべええええ


 いかん


 見なかったことに出来ないか


 ええい!!


 俺はだな!!!


 こういうヤバイ話には!!!


 かかわりあいになりたくないんだよ!!!!!



 おのれ本部病院の上司の誰かめ・・・


 俺に高いアクセス権を与えたのはこのためか!!


 いかん罠に嵌まったかも知れんぞこれは。逃げられなくなる。


 情報を送った、受け取ったって記録は書庫にもデバイスにも明確に残ってる、改竄とか出来るもんじゃねえ。


 くっそ~・・・どうすっかな・・・



 まあまだ固有名詞は全然知らないレベルなわけだし、ギリギリセーフ・・・ってことは無いかな・・・アクセス権限Aだと、分かるのは

ここまでで・・・その上のアクセス権限が無ければ個人名までは分からんのだろな。あー良かった、分からなくて。そういうの知ってしまうと

本気でヤバくなる。



 それにこの情報が無ければ・・・ナカジマ姉妹への適切な治療ってのが・・・


 機械化技術に使われた研究とか関連資料とか、その系統の技術の専門分野ってのは正確にどういう分野だとか、ちゃんと表側でこの手の

技術を公明正大に利用してるような施設はどこだとか、そういうのがちゃんと分かるんだよなこの情報・・・

 彼女たちへの治療にベストを尽くすには、やはりこの情報は必要だった。

 しかしこれはヤバイね、踏み込んだことを後悔せざるを得ないレベルの情報だ。

 たとえそれが医療行為で誰かを助けるための行動であったとして・・・それでも我が身を犠牲にして何かをしようって類の行動は俺は絶対に

とらない、とってはならないのだ約束した。




 でもさ・・・




 俺と同じように。




 自分のせいでは無いのに生まれつき体に障害を抱えてるって状態の患者の治療をちゃんとしないってのは・・・




 それでは俺が医者である意味があるのか、何のために医者になったんだ?



 ・・・危険は未知数・・・本当にヤバイのかどうかは分からん。

 それに対して有用性は確実、この情報知識があれば彼女たちの治療を確実にベストのものにできる・・・

 だが悩む。

 やはり悩む。





 ・・・





 うん、一人で考えててもどうにもならんレベルだなこれ。


 幸い、八神なら俺と同ランクの・・・いや恐らく医療分野情報に限定されてる俺より高いレベルの情報アクセス権限を持ってるはず。




 よし八神に相談しよう、そうしよう。






 時刻はいつの間にか12時近いし。昼過ぎに帰ってくるって話だったし。

 とりあえず台所に行って、適当に軽い昼食作って食べて後片付けして・・・まだ13時前くらいに。

 玄関の方で音が。

 八神が帰ってきたな。


「おかえり~」


 って言いながら廊下に出ると・・・


「マーくん・・・」


 って言いながら、なんか泣きそうな顔をした八神が俺にしがみついてきた。肩が震えてる、なんか弱ってる? いや体調に問題があるわけ

ではなさそうだな、そこは玄人だから分かる、むむ、どうしたんだろ。


 なんかあったのかな・・・
















(あとがき)

・ケーキはまだ触らせてもらえないけど、でもお茶は頑張ってモノにした、それがうちのなのはさんです。

・やはりプロの教えを受けられる環境があるというのは大きい。素人上手の八神より、分野によっては上手になったり。

・さて次は八神のターン行きますか。イチャイチャラブラブキャッキャウフフを書くには羞恥心を捨てて、と・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十話    アリサinミッド5
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2010/05/23 20:24
マシュー・バニングスの日常     第五十話










 八神と一緒にザフィーラとシャマルさんも帰ってきてたので、二人に目できいてみるも。

 なんか目を伏せられてしまった。

 言いにくいことらしい。なるほどね・・・



 俺の胸元にしがみついて顔を伏せてる八神を、苦労しながらリビングのソファの所まで移動させて・・・

 この体勢では普通に座るのも大変なのでとりあえず、ゴロンと二人でソファに横に寝転がる。そのくらいの広さはある。




 なんかあったのかな。

 あったんだろうな。

 でも簡単には言えないと。

 まあ言えない苦労ってのは良くあることで。

 こういうときムリに聞き出そうとかしない方がよい。

 けどまあ何も言わないのも何だし。


「・・・どうした? 八神。」


 優しく呟きながら、八神の頭を撫でてやる。


「なんでもない・・・」



 まーだ顔を伏せて表情も見せないくせにそんなことを言う。



「そか、なんでもないのか。」

「うん、なんでもないねん。」

「よしよし。」

「背中も撫でて・・・」

「はいはい。」


 十五分ばかり八神をイイコイイコってしてあげて。

 少しずつ八神は立ち直ってきたかな・・・


「姉ちゃんと高町だけどさ。」

「うん。」

「姉ちゃんが高町に化粧品とか買わせるって出かけて・・・」

「うん。」

「帰ってくるのは多分5時くらい。」

「うん。」


 また会話が途切れる。


「あのさ八神・・・」

「なに?」

「あんまりそうしてくっついてるとお前・・・」

「なに?」

「・・・いやなんでもない。」

「なんでもないことはないやろ。」

「いや、なんでもない。」

「うそや~」

「ほんとだって。」

「あ、もしかして・・・」

「ん?」

「えっちな気分になったとか?」

「ふん自惚れるな、今さら八神ごときにそんな気分になるものか。」

「ほんまかな~ほれほれ。」

「ぬぬ・・・お前近頃結構・・・」

「ふふん、大きくなってきたやろ。」


 ちょっと揉み合うがまあ互いにふざけてるのは分かってるのですぐに落ち着く。


「・・・しかしなあ八神・・・」

「なんなん、急に切り替えて・・・」

「お前、本当に大丈夫か?」

「・・・大丈夫や。」

「まだ頑張るのか?」

「もうちょっとだけ・・・」

「うん。」

「まだもうちょっとだけ頑張りたいねん・・・」

「そうかよ。」


 ギュっと抱き締める。


「あ~なんか落ち着くわ~」

「・・・なあ、やっぱり言わなきゃダメ?」

「当然やろ! はい言って。」


 はーっとため息を一つついて、


「・・・そばで見てるくらいはしてやるよ、お前の頑張るところをな。」



 何年か前にしたこの会話の流れ、八神はいたくお気に入りで・・・ことあるごとにリピートを要求されている。

 既に何十回目だか分からん。

 こういうのって一回だけだからいいもんなんでねーかと抵抗してみたこともあるが八神のおねだりの前には無駄であった。



「ちゃんと近くで見ててくれるんやんな?」

「アドリブには応じません。」

「あー卑怯やー」

「どっちがだこのやろ。」

「もう・・・たまにはサービスしてくれてもええやんか。」

「・・・実際、傍で見てるだろ、今日も、今も。」

「・・・うん。」

「あ~なんか眠くなってきたかな、俺。」

「私もちょっと・・・」

「そだ、後で八神に相談したいこととかあったんだけど・・・」

「うん分かった。」

「まあ、後でいいや・・・」

「うん・・・」


 まだ二時くらいだし、ちょっと二人で昼寝しても夕食の支度は間に合うだろう・・・



 そのままソファで並んで寝入ってしまった俺たちに、シャマルさんがタオルケットかけてくれたらしい。そこは感謝なのだが。

 しかし俺たちがくっついて寝てる状態のを起こさないように遮音結界まで張って注意しながら、意外と早く、5時前に帰ってきた姉ちゃんと

高町を連れてきて・・・

 二人に「もうこういう関係なのよ」って意図的に誤解する方向に話を持って行ったのは許さん。


 子供作る前に結婚しなさい!ってだからさ姉ちゃんそれは誤解で・・・

 出来ちゃった結婚なんて許さないわよまずはちゃんとしなさい!ってだからさ俺まだ16・・・

 16でもミッドなら正式な結婚できるよって、ええい高町お前は黙ってろ。

 ほら、チャイムが鳴った! お客さんだ! 俺が出るよ!

 ユーノ! よく来てくれた!! さあさあ上がってくれ!!!

 うん助かったよ、男同士助け合わないとな、今後も協力するから協力してくれ。

 高町の格好? そうだ良く見てなかったが結構きれいに着飾ってたような気が・・・

 分かった分かった服とか小物とかのブランドとかお気に入りとか姉ちゃんから聞いて後で教えるから・・・




 ☆   ☆   ☆



 八神がかなり落ち込んでた理由なんだが、実は聞かなくても分かってる。

 仕事が大変とか、甚だしくは仕事で失敗してしまったとかでも、そういうことで簡単にへこむやつじゃない。

 八神がひどく落ち込む理由ってのはひとつしかない・・・一言でいえば・・・つまり・・・


 闇の書、なんだ。


 闇の書のせいで亡くなった人といえば例えばクロノの父親のクライドさんなんかがそうなんだが。

 つまり、犠牲者の記憶はまだ生々しい。その関係者はまだまだたくさんいるのだ。

 八神の情報もかなり高度に規制されてて、ベルカの夜天の書が、闇の書だったってのも一般には知られてないのだが・・・

 さらに、4体の守護騎士が、4体で同時に同じ場所に揃ったりとかしないように、特に公共の場所、人目につく場所ではそういうことの

無いように注意されたりしてるのだが・・・

 それでも、やはり、分かる人には分かったりしてしまう。

 負の感情を、八神が、向けられてしまうってことがあるんだよな・・・たまに。

 復讐心とか恨みとか、そうだな・・・ぶっちゃけ騎士たち4人なら、いくら記憶が無いとは言え、やはりそういう感情を向けられてしまう

ってのは仕方ない部分があるかも知れないが。

 しかし八神は。

 八神は・・・むしろ犠牲者で被害者であるって点では同じようなもんなのだが・・・

 でもね。

 親しい人が犠牲になったなら、やはり湧き起こるのは怒りであり悲しみでありつまり感情であり。

 感情ってのは理不尽でも怨む対象を求めてしまうのだな・・・感情論っていうように。

 仮に八神についての事情を正確に知っていたとしても、それでも恨む気持ちを完全に消せるってもんじゃないんだろうな。

 ザフィーラが・・・他の仕事に就かず、常に犬型であたかも八神の使い魔みたいなふりをして常に八神を護衛してるのも・・・実はこれが

理由なんだな・・・実際にあったんだよ、八神には常時護衛が必要なんだって実感せざるを得ない出来事が・・・


 これは残念だが、八神がミッドチルダに住む限り、騎士たちと共に暮らす限り、一生つきまとう問題だろう。



 だから俺は、地球で医者になって、八神を連れて帰って・・・



 とにかく、今でもたまに実際に闇の書関係で嫌な思いをさせられるってことが八神にはあるんだ。

 そしてその時ばかりは本気で落ち込んでしまう。

 八神が悪いわけじゃない、そんなことは八神自身が一番知っている、恨んでくる方が理不尽で、そういう理不尽な思いに晒されて・・・

 傷つく八神を。

 俺はせいぜい、抱きしめてやるくらいしか出来ないが。

 今の俺ではそれが限界。


 いつかきっと・・・




 ☆   ☆   ☆




 とりあえずユーノを交えて食事して場が切り替わったかとマシューは油断したが、もちろんそれは甘かった。

 アリサのコーディネイトで微妙にお嬢様風になったなのはの姿を堪能して満足したユーノが9時くらいに帰ると・・・

 なぜかいきなりリビングの空気は重苦しくなり・・・

 マシューとはやてを並んで座らせると、その前にアリサが立ち、二人をじろっと睨む。

 なのは・シャマルは横の方に。ザフィーラは例によって知らん顔。



(アリサチェック)


 もうなんというか・・・

 いろいろ考えたのがアホらしくなるわね、この結論。

 やっぱりじゃないの結局。


 なにをギューって抱きしめあって体を密着させたまま寝て、それがいつものことだし大したことじゃない、よ!


 マシューの部屋をガサ入れしても避妊具が見つからなかったんで、まだだとばかり思ってたけど・・・ちゃんとそういうのは医者であり

男あるマシューのほうが準備するもんだと思ってたけど・・・もしや、はやてに準備させてるの!? それとも準備したのはマシューだけど

いつもはやての部屋で・・・だからそっちに置いてあるとか? でもはやての部屋は勝手にガサ入れするわけにもいかないし。もしかしたら

着けてないとかじゃないでしょうね! その可能性はあるわ・・・はやても平気で受け入れそう!

 先に妊娠しちゃえば踏ん切りがつくとか考えてないでしょうね!

 そういうのは良くないわよ!

 ちゃんと考えて計画的に!



 なによ。

 マジメに考えてるから、してないんだって?

 二人とも真剣だから、そんな気軽に軽率な真似なんてしない?

 ・・・

 ううーん

 それは本当ぽいけど・・・



 でも若い二人が一緒に寝て何もないなんてあるのかしら・・・


 ちゃんと目を見て答えなさいマシュー、ほんとにしてないの?


 じー・・・(アリサの魔眼発動、マシューには常にクリティカルヒット!)


 なに?


 少なくとも所謂古風な表現で言う所のABCのCまではしていません間違いありません?


 じろじろ・・・(マシューの精神値がマイナスに突入しました。「墓穴を掘る」モードが強制発動)


 いや、その・・・寝てる時にはちゅーはしないように気をつけてまして?



 ?・・・!



 一緒に寝てるときにちゅーしちゃって盛り上がって、しそうになった経験とかがあるわけね?



 なにを二人揃って目をそらしてんの!

 そこまでいって引き返した自制心を褒めてくれ?

 ふん、それは自制心が強いっていうより単なるヘタレってんじゃないの?


 すいませんもう勘弁してくださいって土下座するマシュー。

 大丈夫やで気ぃつけてるし、どーせ私が本気で抵抗したらマーくんには無理やりとかムリやしと笑うはやて。

 そのあんたも寝ててちゅーして盛り上がって寸前まで受け入れちゃったんじゃないの?

 マシューのことだから強引になんてするわけもなく優しく優しくされちゃってそれでヤバくなったんじゃないの?

 いやそれがな、いざとなるとなんか急に強引になったりしてな、そのくせすんごいテクニックが・・・って!!


 なんてこと言うのよって私は赤面したのに。



 『やっぱり』そうなんだ、いざとなると強引になるのね・・・って、なのは!!!!???



 凍りつく居間の空気・・・



 違う! 違います! 私にはやましいところなど一切ございません! と白を切るマシュー。

 しかし私が問い詰めるより早く!

 やっぱりなのはちゃんに手ぇ出しとったんやな、健康診断にかこつけて何をやっとるんやこのセクハラ医者!とはやてが噛み付く!

 違う・・・本当に違うって・・・高町! 誤解を招くような言動はやめてくれ・・・


 うつむいて表情を隠してるが微妙に肩が震えてるなのは・・・泣いてる?笑ってる?


 なのはちゃんと医務室で二人きりになって健康診断や言うて半裸にして・・・お医者さんごっことか毎月やっとるんかこの変態!

 マシュー君・・・先生だろ・・・先生恥ずかしいです・・・先生の言うことは聞かなきゃダメだぞ・・・でも先生そんなところまで・・・

さあいい子だから手をどけて・・・ダメです先生変な感じに・・・ダメじゃないさあこっちはどうかな・・・ああん・・・とか!

 いやちょっとまてそれは妄想行きすぎ落ち着け八神本当になんでもない高町おい笑ってないで事態を収拾してくれーーー!!!



 ほんとのところはどうなのよ、なのは。ほらマシューが締めあげられて泡吹いてるし・・・



 ごめんねー(かわいく舌ペロっ)

 なんだかマシュー君をボコボコにして完全勝利できそうな状況だったからつい魔がさして☆

 大丈夫だよ、はやてちゃん、本当に何もないからニコニコ



 悪魔め・・・・・・悪魔でいいよニコニコ



 むむ、成長したわね、なのは・・・

 本当に何もないともとれるし・・・実は何かあるともとれる・・・見事な笑顔だわ・・・

 いつの間にこんな表情できるようになったのかしら・・・でもそういえば桃子さんの娘なんだから・・・

 はやてもなんだか曖昧な、疑うべきなのか信じていいのか分からないって顔になってるし・・・


 やっぱりもう、したほうがええんやろか・・・って待ちなさいはやて。

 軽率にしないってあんたたち話し合って決めたんでしょ、それで正しいと思うわよ。

 大丈夫マシューが浮気したら私も吊るし上げに協力するから。

 私が裁判長ではやてが検察で騎士たちが陪審員で周囲を固めて、弾劾裁判すればマシューなんて何もできないから。


 弁護士は・・・とか呟きながらマシューがガクブルってるのは、まあ置いておいて・・・









 はあ・・・


 とりあえず!


 とにかく事後承諾で伯母さんになったって報告が来るようなことだけはやめてよ?

 事前にちゃんと報告すること。

 分かったわね!?










 その晩、アリサとなのはとはやては三人で布団を並べて寝たのだが・・・

 眠りにつく前の会話。



 ねえ・・・

 ほんとになにもないのよね?

 なにもなかったのよね?



 ほんとだよーマシュー君となんて冗談じゃないよニコニコ



 ほんまにほんま?

 ほんまになんもなかったんやんな?



 ほんとだってばニコニコ




(ダメだわ・・・読めない・・・)

(あかん・・・分からん・・・)


 母である桃子さんから女としてのスキルのうち強力な何かを受け継いだなのはに対し、どうにも

なにか勝てないものがあると初めて二人が実感した夜であった。


















(あとがき)

・起承転結のうち「起」が「無印・As」「承」が「~中学生日記」、「結」は「sts編」の予定で。

・「転」が今ですねここからです、やはり「転」が一番難しいって話は本当だった・・・

・早く連れて帰りたいマシューとまだ頑張りたい八神の意見の対立から来る壮絶な夫婦喧嘩・・・「VS.八神」編、はじまります。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十一話  エリオ編
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/11/06 04:36
マシュー・バニングスの日常  第五十一話













 姉ちゃんが俺と八神の仲について問い詰めて、それからも一週間ほどこっちを引っかき回してから地球に帰った後の話になるが。


 俺は忘れていた。


 八神に、例の機密度Aの情報について相談するのを。




 理由は幾つもあるが・・・



 まず相談しようと思った晩には姉ちゃんによる査問がありしかもそれを高町が無意味に煽ったりしてそれどころではなくなってしまったこと。

 しかもそれからも数日に及び、高町の煽りというか挑発というかそういうのが続いて俺たち全員それに気を取られていたこと。



 しかしそうやって煽った理由ってのが全く・・・



 はやてちゃんとくっつくなんてのは小学生の時から分かってたけどマシュー君が幸せそうだとムカつくってお前・・・

 素直でイイ子な「なのちゃん」はどこに行ったんだ・・・



 しかも、どーも近頃の高町は・・・士郎さん譲りの戦闘力と言うよりは?・・・桃子さん譲りの精神的な強さというか人格的迫力みたいのが

成長してはっきりと表に出てきたような気がする・・・何も言わない、何かするわけでもない、基本的に笑ってるだけ、たまに少しだけ寸鉄

人を刺す発言、そしてそれだけで圧倒する。

 この調子では桃子さんとかリンディさんの境地に若くして達してしまいそうだ・・・いかんやばいそうなると勝てん。

 ちょっと精神的に追い込まれるとすぐ「なのなの」と鳴き声出してパニクる可愛い高町はもういなくなってしまったのか・・・

 ううむそういうメンタル弱いところがあったからいつも俺のペースで高町に優位に立ってたのだがこれからは難しいかもしれない。

 百獣の王がついにそれにふさわしい威厳と迫力を身につけてきたかのような。

 やっぱり猛獣だ、そろそろ俺では制御は無理になってきたか。



 あと、それやこれやあったけどやっぱり八神は忙しかったというのも大きいな。

 一週間で家にいるのが平均して三日以下って状態。

 もう近頃の俺はずっとミッドの八神新邸で留守番状態だわい。

 帰ってきても疲れてて、ほとんど話さずにすぐ寝ちゃったりとかで相談どころじゃ無かったり。


 それにギンガさんたちの健康診断ってまだ3カ月に一度なんだよね。だから思い出すきっかけも中々なかったり。




 それで結局、相談しないままで・・・




 姉ちゃんが帰って数日して、例によって俺が八神家で一人のんびり過ごしていた時。


 珍しくフェイトさんから連絡があった。


 フェイトさん単独から俺宛ての連絡というのは中々無い。

 
 そこを押しての連絡だから俺も何かあったかと心配しながら話を聞いてみると・・・






 エリオ・モンディアルという少年の治療を依頼されたわけなんだな。






 彼はまだ小学校低学年って程度の年齢だったのだがその年で既に特殊な事情を大量に抱え込んでいて今度フェイトさんが保護したそうだ。


 その事情ってのは・・・まず彼はクローン体であること。既に亡くなっているエリオ・モンディアルのオリジナルの代わりにと・・・ご両親が

知る辺に頼んで違法に作り出したそうなんだ。


 実際問題ね・・・クローンを作ってもそれは同一人物では無い、単なる一卵性双生児に過ぎないわけだ。育ち方で幾らでも変わる、どれだけ

似てても、いや似てるからこそ感じる些細な違和感、特に肉親から見れば欺かれるもんじゃねえ。しかしそれでも生きていてほしいという事で

クローン体を作ること自体は実は違法ではない。ただし、9歳以下だったかの幼児で無くてはいけない(大抵の場合クローンはオリジナルより

生命体として不安定で長生きできない。老人のクローンとか作るだけ無駄だし一般には第二次性徴以前の本当の子供の時期でなくてはうまく

クローンは出来ないとされてる)とか、ムリに同一人物であると押し付けたりしてはならない、あくまで双子の兄弟として扱わなくてはなら

ないとか法律で決まっていたりする。それでも幼い子供を亡くした両親からすれば結構救われるもんでね? ただし実際には「死んだ子供の

代わりを作ろう」って思うくらい何と言いますか精神にキてる人ってのは意外と少なかったりもする。


 そういう法律ができるくらいだから結構問題多発する存在であるわけだクローンてのは。



 問題になったエリオ・クローンのご両親の場合、ムリに同一人物であると押し付けようとして薬物などを使った強制的な人格と記憶の

すりこみというかインストールというかを依頼して実際にやってしまったり、そのあとも役所への届けとかでも前に届けたエリオが死んだと

言う方が間違いで実は生きてたんだって強引に同一人物で押し通してしまったりとか、違法行為を重ねてしまったんだよな。


 そしてヒドイ話だが、そこまでやってもやっぱり「こんなのエリオじゃない! やっぱり違う!」って後から言い出して、エリオ君を、

実際に培養した設備とかあった、とある研究機関に戻してしまったのだな・・・だから死んだ子の代わりと思ってはダメなんだって

法律で決まってるのに、やはりそういうことする人はそういう人であるといいますか。



 さらにこの研究機関ってのが表向きは合法な顔をしながら実は内部で違法研究バリバリやってるという類の場所で・・・






 前々からフェイトさんは目をつけていたそうだ。


 執務官ってのは何でもやるのだが、フェイトさんの場合は個人任務で色々やることが多いそうな。どっちかといえば指揮官系に進んで、

実際に部隊を率いる役回りが多かったクロノとは違う道に進んでる。集団指揮、団体行動・・・ってのは、実は特異なキャラクターを持つ

フェイトさんには向かなかったりとかね。個人としての内偵調査とか、個人行動が主になる任務が多く割り当てられるのがフェイトさんの

現状らしい。まー向き不向きってのはあるからね。そしてこの研究機関の調査もフェイトさんに与えられた任務だったそうで。



 ちなみに。



 「違法クローン」研究というのはフェイトさんの逆鱗である。



 ここに触れるとフェイトさんマジギレモードが発動する。




 その理由はエリオ治療を通じて俺も今回初めて知ったんだけどね。


 しかし普段のフェイトさんが風邪薬のCMに出てくる風神の相方の雷神程度の抜けてる感じの存在だとすると。(cf.風邪ひいてまんねん)

 違法クローンが絡んだ時のフェイトさんは北欧神話の雷神トールに等しい。

 全ての攻撃が某要塞のトールハンマーレベル・・・みたいなもんである。

 数か月がかりの内偵の末、ついに強制捜査決行の許可が降りた日、フェイトさんの周囲はバリバリ帯電して味方も怖くて近付けなかったそうな。

(フェイトさんは気合入れると魔力が電撃に変わるというビックリ人間である・こういう人は魔導師でも滅多にいない)

 その調子で圧倒して薙ぎ倒して蹴散らした後、捕まって非人道的な実験の材料にされてたエリオを発見したフェイトさん。

 調べればすぐにどういう境遇の子なのか分かる。

 そして分かった瞬間フェイトさんは今度は逆方向に極端に切り替わり・・・

 なんとしてもこの子を救おう! そのためならどんな手段も使おう! と決断してしまう。

 この際、ちょっとした俺との間の隔意とかそんなものは無視されてしまう。


 そしてそこで俺のところに連絡が来たわけだ。


 まー俺の専門分野で無かったとしても、単なる一般患者として来院して何科に行けば良いのかも分からん状態から始めるのと、いっぺんまず

知り合いの医師に見てもらって最低限の治療をしてもらってさらに何科に行けば良いか指定してもらって紹介状とかもらえるのとではかな~り

違うもんだしね。医者の知り合いが一人はいれば良いと言われる所以である。


 しかしこのフェイトさんからの第一報は、まだ何というか微妙に権限逸脱っぽかったようなのだが・・・


 だってエリオ君って・・・かなりヤバイ話に関わり合ってる子だったしね・・・


 でもフェイトさん泣きながら頼むし、ちょっとヤバイかなと思いつつも、まあしょうがない、と。


 俺は急いで、フェイトさんが蹂躙して半壊状態の違法研究施設に向かった。





 そして瓦礫だらけの旧研究所の中で、実際にエリオ君を調べてみると・・・実に不快な事実が判明した。

 俺たちが頑張って発展させてきたリンカーコア治療技術が悪用されてる!

 例の人造魔導師計画かね・・・

 このエリオ君はリンカーコアの出力が最高度に上がるように、魔力負担がかかる肉体の各所をピンポイントに的確に強化されてる。

 そしてその強化の具合が、まるきり「リンカーコア障害治療の標準化」論文に指摘された重要個所をなぞってる!


 これに気付いた時は正直・・・血の気が引いた・・・


 しかもそれだけじゃない。

 昔から、強引にリンカーコアに魔力を流して強化できないもんかって大雑把な実験も為されてきたもんなんだが・・・

 その種の強制刺激も加えられてきた形跡がありありと見える。

 コアがボロボロだ。

 実験結果としての数値だけ得られれば良い、彼が死んでも構わないって方針だったとしか思えない。

 これは・・・俺がこれまで見た中で一番ひどい「後天的魔力中枢障害」だな・・・

 今すぐは死なないが・・・適切な治療を施さねば若くして・・・

 治療法は・・・最終的に根治させるには「直接整形術」しか無い。

 そう断言できる数少ない症例の一つだ。
 

 しかし十五分とかで治せるレベルじゃない、まずはそれ以前に肉体全体がまんべんなくボロボロだ。

 もとがクローン体だけに根本的な生命力も低い・・・下手したら数年がかりの治療になるな、これは・・・

 肉体を治しつつ、適宜、コアも少しずつあちこちの綻びとかほつれとかを繕って、急には治さずあくまで少しずつ・・・

 かなり大変なことになるだろうが。

 しかしリンカーコア障害治療部が頑張ってまとめた研究成果を悪用された実例を目の当たりにすると・・・




 絶対に治してやる。

 と決意せざるを得ない。








 だが。


 エリオ君の治療は・・・問題山積み。


 まず、ぶっちゃけ、エリオ君とは、違法製造による実験用クローンに過ぎない、と言ってしまえるのだな。

 それでも人間だ! というのは確かに正論。


 しかし現実問題・・・


 実験用、クローン体、両親は放棄、研究所も崩壊、本人はボロボロ、非常に高度な治療を施さねば多分数年で死ぬ、そしてその非常に高度な

治療というのは普通なら・・・無茶苦茶高いだけでなく一般人でもなかなか受けられないようなレベルのもので・・・

 ここまでくれば普通なら、気の毒だけどしょうがないからってんで放置されて、一応は気休め程度の治療も軽く施されて、それで義務は

果たしたって見なされて、あとは誰か担当した気の毒な人が涙一筋流して無縁仏に手を合わせる。

 それでおしまいってなもんだろう。


 そういう状態だってことを正直にフェイトさんに言う。

 フェイトさんはさらにボロボロ涙をこぼしながら自分に出来ることは何でもするし法律上の保護者が必要なら自分がなるから!と即断。




 ・・・フェイトさんも似たような研究によって生まれた存在で、実の母親に疎まれてたのも今では認めてる、しかしそういう境遇の自分は

信じられる人たちに出会って救われた、だから自分も同じような境遇の子供がいたら救うんだ!ってのはフェイトさんの根本的な行動原理。

 問題が多々あるだろうと分かっていても止まるもんじゃない。こういう子供を救うのは彼女のレゾンテール。


 俺としてもこういう自分のせいでないのに生まれによって無理やりハンデを背負わされた子供、しかもリンカーコア障害治療の研究成果を

悪用されてさらに容体が悪化してる子供なんてのは何が何でも治したい。





 ここに初めて、俺とフェイトさんの完全協力体制が敷かれることとなった。


 俺たちの間にあったわだかまりみたいのは元から実体の無い蜃気楼、一瞬で溶けて消え去った。




 そして、その場からすぐに俺たち二人は動きだした。



 だが実際想像していた以上に、エリオ君の治療環境を整えるのは大変であった。



 できれば本局病院リンカーコア治療部に入れてあげたいところだがそうは行かない。半年先まで予約で埋まってるし、予約が取れるかどうか

の基準も純粋かつ厳密に医学的に必要であるかどうかで決まる制度になっているのだ。昔はエラいさんのコネとかで変な患者が押し込まれて

来たりもしたが、責任者ギルさんはそういうのを本来嫌う人であるし、またそういった横車を認めていては追いつかない勢いで患者は次々に

やってくる、自然、診る側であるこちらの立場が強くなりギルさんの方針で正当な手続きを経ずには来れないようになっている。俺もそこに

所属する一局員に過ぎず当然、知り合いだから優先的に入れてくれって言うわけにはいかない。

 それにそもそもまずは肉体全体を回復させるのが先決だし信頼できる知り合いの医者に紹介して、コア治療については予約してもらって。



 エリオ君に関する法律関係問題とか機密情報関係問題も面倒であった。


 囲い込んで無かったことにしようとする見えない力は常に存在した。そこを強引に潰して、エリオ君をあくまで一般人の被害者として

扱うにあたっては・・・フェイトさん、クロノ、リンディさん、エイミィさんなどの協力が不可欠で・・・かなり無理させたんではないかと

思われる。特に、クロノとリンディさんの政治力だな・・・まぁそれを負担と思う人たちではないがしかし気がひける・・・


 結局何とかしてエリオ君の担当医に俺はなれたわけだがそれにあたってサインする必要のあった守秘義務誓約書類とか、もう勘弁してくれ

冗談だろって枚数であった。それでも何とかなったのは、恐らく、エリオ君は・・・言っては何だが元々実験体としても消耗品扱いだったから

なんだろうな。死んで元々という軽い扱い、それほど貴重な研究データとかってわけでは無かったのだ。生まれは本来ならオリジナルの代わり

として人間として生きることを意図されていたのだし、つまり根っからの実験用素材ってわけじゃなくて、あくまで後から臨時に実験に使って

も良いよって扱いに変わった存在ということで、そういう存在は実験体としては使いにくく価値も低いってことだろう。



 それやこれやで、エリオ君と出会って以来しばらく、俺は非常に忙しくなったわけだ。




 特に最初のうちは関係各所を俺とフェイトさん二人で駆けずりまわって手続き根回し頑張らなくてはいけなくて・・・




 とりあえず信頼できる入院先を見つけて、法律関係何とかして、一段落したのは、一ヶ月くらいしてからだったかな。

 この一カ月はほぼこの問題に専念してた。





 とある地方病院のラウンジで一服しながらフェイトさんと話し合う。


「それでも何とかなったかな・・・フェイトさん、エリオ君のご両親の方はどうなった?」

「うん、完全にエリオに関する権利放棄させた上で、きちんと当局に引き渡してきた。でもそれほど重罪にはならないみたい。」

「そっか・・・非人道的実験とかを実際にやってたのは研究所の方だしな・・・」


 ちょっとミネラルウォーターをごくり。フェイトさんは珈琲だ。ブラックかな。

 品良くカップを傾けて一口、音をさせずにソーサーに戻してフェイトさんは話を続ける。


「マシュー、エリオが本局病院に入院できる時期は・・・もう少し早く出来ない?」

「ごめんそれはムリ、絶対ムリなんだ。情実を入れたら収拾付かなくなるんで絶対禁止になっててね、本当に悪いんだけど。」

「ううん、ごめんなさいムリ言って。何度も聞いたのにね・・・うん、一刻も早く治療を受けさせたいって思いは皆同じで、そういう人たちが

じりじりしながら順番待ってるのに、知り合いだからって割り込ませようとか考えちゃダメだよね。ゴメンなさい、二度と言わない。」



 感情が走るとすぐにグダグダになる人かと思ってたが・・・理性的な意見に驚いてちょっと見直す。



「・・・そうしてクールに話してると執務官みたいに見えるから不思議。」

「私はもとから執務官だよ!」

「だってさ~・・・時効だと思うから言っちゃうけど、高町入院したときとかフェイトさんにはまいったんだよ本当に。」

「うぅ~~~それは言わないでよ・・・」

「まあいいじゃない。今のフェイトさんなら普通にちゃんとした看護も出来そうだし。いやあ見違えた。」

「本当にそう思う?」

「うん、お世辞抜きにそう思うよ。」


 バタバタしてたのが少し落ち着いて。

 フェイトさんと親しく話すなんてのは実は小5の時以来とかかもしれん。

 いつも顔は良く見てたんだが、まるで久しぶりに会ったみたいな気分にお互いなって、会話が弾んでしまった。

 なんというかフェイトさん、こうして改めて正面から話してみると・・・格好良くなったなぁ。

 気付いたら既に午後8時過ぎとか・・・




 あ。



 今日は八神が帰ってきて夕食作ってるとか言ってたかも。


 近頃時間が合うことが少ないのでこれも3週間ぶりとかの話で。


 連絡せずに八神との約束をすっぽかす・・・うん、自殺行為だ。




 既に遅いかも知れんがまずは連絡を入れねば・・・



















(あとがき)

・4年は経ってないけど丸3年以上は経ってるかな・・・フェイトさんとの「再会」と仲直り。

・19で中佐になる八神のその異常な出世の代償は当然、仕事以外の時間を犠牲にすること。すれ違い。

・エリオ原作より強くなるかも。まあいっか。既になのはも強いしw



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十二話  エリオ編2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/11/06 04:36
マシュー・バニングスの日常  第五十二話











 通話画面の向こうの八神は冷静かつにこやかで実に普通であった。



 やべーすげー怖い。



 事情があったんやろ、わかっとるで、そんなに急がんでええからな、と言ってるのに何故こんなに怖いのか。



 プライベートモードに入ると相変わらず抜けてるフェイトさんが画面に後ろから入ってきた瞬間とかピクリと動いた瞼が超怖い。


 しかしフェイトさんが事情を説明した所、なるほど仕方ないと八神も納得してくれた。うん、少なくとも言葉ではそう言った。




 それじゃまたねと俺は急いで帰宅。



 転移魔法使って良い場所まで徒歩で移動 → 病院の寮の自分の部屋に転移 → 八神の家まで徒歩、というのが普段の帰宅ルート。

 この最初の転移魔法使って良い場所まで移動というのが意外とクセモノで、なかなかそういう場所が見つからない場合はそれだけに結構な

時間を取られたりする。が、今回はちゃんと場所把握してたので速やかに帰宅できた。街中とか人の多い所、また病院なんかは勿論、別に

転移魔法に限らず原則として無断で魔法を発動するのは禁止されてるのだ。使いようによっては物騒な力だから、まあ当然の規制だわな。

魔法使った記録はデバイスに残るし座標も記録されるし無断違法使用は必ずバレる。記録の改竄は専門家なら可能だそうだが、使用履歴記録の

改竄は、軽い違法使用なんて目じゃないレベルの罪となる。そうだな、全く人に危険が及ぶ可能性なしの状況で魔法を無断に使用した場合の

罪が信号無視程度のもんだとすると・・・記録改竄は交通事故で人身事故起こしたくらいの扱いをされてしまうのだ。




 まあそれはともかく。


 帰ってみると、今日は珍しく全員揃っていた。いつも皆忙しいので、誰かはいないってパターンが続いてたのだが。


 八神は普通・・・に見える、少なくとも表面上は。

 しかし周囲の騎士たちがなんだか硬い・・・

 むむ・・・俺、なんか忘れてたっけ?

 誕生日では無いし何かの記念日とも思えんのだが今日・・・さすがにそういう日なら忘れないし。




 とりあえず遅れた言い訳を再びしようとした俺を手で制して、八神はまずは食事と言うので。


 みんなで一緒に夕飯。ほんと久しぶり。しかしどうも会話が弾まない。

 騎士たちは奥歯に何か挟まったみたいな状態だし八神は平然とした表情を維持し過ぎ。

 もそもそと飯を食い終わり後片付け。騎士たちが気を使ってくれて俺と八神二人で洗い物するのだがまだ八神は基本沈黙。

 食後のお茶とお茶菓子を二人で用意してリビングに戻る。

 微妙な雰囲気の騎士たちの前に茶と菓子を並べていくのだが・・・



 雰囲気に耐えられなくなったのか。



「すいません! 先に風呂を頂きます!」

 シグナム逃亡。


「ああ~っと、ええ~と・・・そうだアレだ! うんアレだよ、なっシャマル!」

 ヴィータが訳わからん発言。


「そうよねアレよね! うん、じゃあ悪いんだけど席外すわね! さあ行きましょう!」

 シャマルさんが意味不明の同意。


「そうだな、アレだから仕方がない、うむ。」

 ザフィーラ迅速に逃げる。


「ええ~私、お菓子もっと食べたいですぅ~」

 とリインが言うのだがヴィータに捕まえられて一緒に強制退場。





 あっという間にリビングに俺と八神、二人きり。

 まるで夫婦喧嘩の冷戦が醸し出す雰囲気に耐えられず逃げ出す子供たちのようだ。



「ところで・・・アレってなんだよ。」


 思わず突っ込む俺の発言に八神は少し微笑む。


「みんなに気ぃ使わせてもうたな。」

「リインの分の菓子はとっといてやろうぜ。」

「うん。」





 お茶をずずっと啜る。昔から飲みなれた、やっぱり落ち着く味だ。



「えっとさ・・・とりあえず、遅れてゴメンな。ほんとゴメンなさい。」


 やはりこれを怒ってるのだろうと思うのだが。


「ううん、それはええねん、ほんまに。」

「え?」


 むむ、そうなると全くわからん。そもそも何で今日に限って・・・


「そういえばなんで今日は皆、揃ってたわけ? なんかの記念日とかじゃあ無かったと思うんだけど。」

「そうやな、それやねん。」

「?」

「私ら近頃は、全然、みんな一緒に食事とか無理やったやん。いつも誰かが仕事で抜けてて。それがな、今日は偶然、ほんまに偶然やったんや

けどシフトがポカっと空いてん、それも皆同時に。こんなことって滅多にないやん? せやから嬉しくなって、それやったら今夜は久しぶりに

皆で一緒に夕ご飯や!って張り切って帰ってきてん。でもそんな日に限って今度はマーくんが仕事で・・・」

「うう~ん、しかしそれはしょうがないと言いますか・・・」

「せやな、しょうがないねん。それは分かっとるクセに、私な、マーくんが今日に限って中々帰ってこぉへん言うの分かったとき、正直いうと

まずは腹立ってん。何を遅れとるんや! せっかく皆おんのに! ほんまにマーくんは!って。」

「やっぱり。」

「うん、せやけどその後にすぐ思い直したんやけど・・・つまり・・・私が言えた義理か?ってな。」

「む。」

「いつも忙しくして家にマーくんを放置しっぱなしで、それでもたまに帰ってきたときにはマーくんに甘えて慰めてもらって、いつでも家に

帰ればマーくんおんの当然みたいに思とったわ、いつの間にか。仕事ばっかで帰らへんでいつもいつもマーくん一人にしとんのはどう考えても

私らの方で・・・たまたま一回だけマーくんが遅れたからってそれを責める権利とか、私には無いわな・・・」

「なるほど、うむ、確かに。『お前が言うな!』ってやつだな。」

「・・・そこまではっきり言わんでもええやん。」


 とりあえず卓上の八神の右手を右手で取ってキュっと握ってみる。握った手ごしに八神の目をみて笑って見せてやる。


「まあそんなに気にすることは無いんだけどな・・・実はな八神、今日についていえば本当は7時前には帰れた。」

「え?」

「フェイトさんが保護した子の話は聞いたよな。その関係で一緒にあちこち走り回ってるうちにいつの間にか、昔みたいにフェイトさんと

隔意無く普通に話せるようになってさ、それで久しぶりに話してみたら会話が盛り上がってしまって・・・そんで遅れたわけよ、本当は。」

「緊急の治療とかあったわけやなくて?」

「うむその通りって、痛いってつねるな。」

「なのはちゃんだけか思っとったらいつの間にかフェイトちゃんまで・・・伏兵やった・・・ほんまもぅマーくんは・・・」

「おいおい落ち着けって、どっちも何も無いなんてことは本当は分かってんだろ。」

「せやけど・・・」

「まーそれはともかく、やっぱり一回、ちゃんと聞いとくべきかな。」


 少し真面目な顔をして八神を正面から見つめる。


「なんなん?」

「つまりだな・・・お前が仕事頑張るってのはいいとして・・・その・・・ずっとこんな調子で頑張り続ける気か?」


 聞いてしまった、が、しかし確かにいつかは聞かねばならんことで。


「それは・・・」

「中学卒業してからこっち・・・いや実は中学の頃もそうだったけどさ、お前、忙し過ぎとしか思えん。」


「・・・」


「いつか・・・そうだな、仕事辞めろとか無茶は言わんがせめて普通の会社員程度の勤務時間くらいにはなるのかね? 休日も普通に世間並み

のさあ・・・今のお前だと本当に四六時中仕事で休日も不定期で休日の予定でも仕事入ったら仕事で・・・今月は確かに俺の方も忙しかった

とは言っても俺は普段から余裕持って世間一般から比べると凄く休みが多い状態で仕事してる、それが今月は俺は珍しく、そこそこの仕事時間に

なって社会人として普通程度に忙しかった。いやそれでもまだ本当にフルタイム勤務してる人よりは拘束時間は少なかったろな。

 そしてそういうふうに、俺がちょっと忙しくなっただけで、お前とこうしてちゃんと向き合って話ができるのが・・・3週間ぶりとかって

どうよ? 常時待機し続けて、臨時に帰るお前を待ってなくちゃまともに会えない状況ってのはどうも・・・一緒に食事取れるのも久しぶりで

それを喜ばなくちゃいけないってのがそもそもだなあ。」


「・・・」

「せめてさ、日曜の夕食だけは一緒にとか・・・出来ない?」

「・・・わからへん。」

「このままの状態がずっと続くとか・・・流石に無いよな?」

「・・・わからへん。」

「・・・そか、分からん、か・・・」


 重い空気になってしまった。


「・・・まぁ、俺もお前も若いしな? バリバリ仕事したいって気持ちも分からんことも無いし。うん、これは今すぐにどうこうって結論が

出せる問題じゃあ無いか。」


「・・・」


 卓の向こうでうつむいてしまった八神のそばに回り込んで、片手で軽く抱きしめながら片手で顎をつまんで顔を上げさせる。


 むぅ、泣きそうだ・・・不安そうで、申し訳なさそうで・・・



「マーくん・・・」

「あんま気にすんなって。」




 軽くキスしてやるのだが表情変わらず。ギュっとしてやってもなんか心ここにあらずというか。

 俺は「大丈夫だよ~ほんと気にするなよ~」って言いながらよしよしってしてあげてたんだけど。

 そのまま八神は俺の胸に顔を埋めて、すんすんって啜り泣きをしばらく続けて・・・いつの間にか眠ってしまったようだ。

 眠りについても寝顔も何かすっきりしてないというか、まだ表情の曇りは拭われてないままというか・・・

 とりあえずリビングのそばで隠れて待ってたシグ・シャマを手招きして八神を寝室に運んでもらう。





 さーてどうしたものかね。



 その日はそのまま、それぞれがそれぞれの寝室で眠りについたのだが。

 朝起きると既に八神・シグナム・ザフィーラ・リインがいない。早朝払暁に任務が来たので出たらしい。

 シャマルさんとヴィータと話してみるも、やはり今の過密な程の仕事も八神が自分の意思でやってることなので止めるとか無理とのこと。

 俺たちがすれ違うのを二人ともかなり真剣に気遣ってくれているのだが。

 しかし八神本人の意思が今は仕事優先ということにある以上、どうにもならねーと・・・ヴィータは無念そうな表情で言う。




 結局、解決策などは見つからず。

 やはり八神があそこまで仕事する、その理由が問題なのかな。単に仕事好きってだけとも思えん。

 なんとかそのへん話し合わないことには・・・



 しかしその機会も無いまま・・・






 ☆    ☆    ☆





 時がたつのははやいもので。


 もうすぐ夏が終わってしまうって季節になった。


 夏が終わればアメリカの学校が始まってしまう。これまで以上に時間が取れなくなる。ミッドに来るのも減るだろう。


 そのことに漠然と不安を感じながらも、まあこれが俺の決めた道だし。


 しかし八神とは相変わらず一カ月に数回とかしかちゃんと顔合わせて食事もできんぜ・・・どーもな・・・


 中学卒業するまでは何も問題無かったはずなのだが・・・卒業して八神がフルタイム勤務するようになってからこっちどうにも俺たち二人は

少しずつ、なにがしかのズレが出てきてしまってるかのような・・・




 まあ、あんまり深く考えるのは止めとこう。






 学校開始前、夏休み最大の出来事は・・・





 エリオ君の本局病院への入院であった。やっと順番が回ってきたのだ。


 保護してから数カ月は衰弱した肉体の回復と静養に努めてきた。


 どこかに致命的な傷があるとかそういうことは無いのだがとにかく全身ボロボロだったのだ。



 そして・・・肉体よりも重いのが心の傷の方で・・・



 彼は自然な成長による自然な人格の獲得というのをしていないのだそもそも。ある程度の年齢まで培養層の中で人工的に成長させられて、

半覚醒状態のまま睡眠学習的に言語だとか常識だとか知識だとかを刷り込まれて、さらに彼の場合は親御さんの希望で、薬物などを使った

強制的な深い暗示をかけられて、親御さんとエリオ・オリジナルとの間にあった会話集などの膨大な凡例を頭脳の奥底に無理やり植え付け

られて、さらに実家の映像だとか両親の笑顔だとかも記憶させられて・・・

 彼がその状態から目覚めた時、まずは実家の自分の部屋で両親に見守られていた状態だったそうだ。

 人工的な記憶だ、齟齬はある、しかし記憶と現状に大きな差は無いし両親への愛情も確かに自分にはある、違和感がどこかにあるけどそれは

両親の言ったように事故で混乱してるだけなんだろう・・・とエリオ君は思ってたそうだ。


 ところがその平和な箱庭は、両親たち自身の手によって破壊される。


 本当にちょっとしたクセとか仕草が、やはり微妙にオリジナルとは違っていたそうで、そういうことが重なるにつれて両親は、両親とは

信じられないほど冷たい顔をエリオ君に見せるようになり、そしてある日いきなり引き離されて研究所に逆戻り。

 何がどうなってるのか分からないままで恐ろしく苦痛を伴う人体実験をされ、最初のうちはエリオ君は泣き叫んで親を呼んでいた。


 しかしある日、余りにもうるさいので研究員の一人が残酷な真実をエリオ君に告げてしまう。

 お前は作りものだと。

 お前は代用品に過ぎないんだと。

 そして失敗作だったから捨てられたんだと。

 子供でも納得せざるを得ないように映像とか交えて正確精密に説明されてしまったそうだ・・・

(そんなことをした鬼畜研究員はフェイトさんの手によって刑務所に叩き込まれた)


 しかしそれを聞いた時からエリオ君から表情が消えた。

 苦痛を感じても全く表に出さなくなった。

 正に人形のように・・・その境遇を受け入れてしまった。


 彼の心は。


 一度、壊れたのだ。





 一度そういう状態になってしまった子供に・・・もう一度心を取り戻させるにはどうしたら良いのか。


 簡単で便利な方法などは無い・・・


 人工的に人格を植え付けられた上に一度それも壊れてるわけだから・・・


 新たな人格が、自然に成長するまで、気長に接し続け、話しかけ続けるしか無いのだ。


 そうだな・・・実の親でも出来ないくらいに愛情深くエリオ君を見守り接し続けるってことが出来る人でもいないことには彼の・・・肉体は

ともかくとして心の回復は望めないわけなのだ。そして普通の医療従事者はそこまではしない。俺も含めて。そこまで一人の患者の面倒だけを

専門的に診るってのは現実問題不可能だ。



 だからフェイトさんしかそれはできず、そしてフェイトさんはそれをした。



 本来は縁もゆかりもない子供なのに、エリオ君を見出したその日からずっと。


 フェイトさんはエリオ君を見守り続け、話しかけ続け、接し続けた。


 それも我慢して頑張ってそうしてるわけではない。あたかも自分の本当の肉親に接するかのように・・・



 その甲斐あって、なんとか近頃は、イエス・ノー程度の受け答えはしてくれるようになった。


 時として優しすぎるほどに優しくなり、すぐに感情があふれてグダグダになってしまうのはフェイトさんの欠点かと思っていたが・・・


 あふれる優しさを惜しみなく注げるってのは凄いもんだ・・・俺ではとても真似できん。




 そして予約の順番も回ってきたので。


 本局病院リンカーコア障害治療部にエリオ君を回して、そこで本格的なコア治療に移ることとなった。




 これまでの地方病院から、移送用に一台救急車借りて、まだ基本的に寝たままのエリオ君を寝かせて、それにフェイトさんと俺と、あと

看護師さんが一人付き添って、車だと数時間はかかる本局病院に向かう。エリオ君はたまに発作的に暴れることとかあるけど基本的に大人しく

してるし何かあってもフェイトさんなら取り押さえることができるし、容態は肉体的にはかなり回復してて、大きな障害が残っているリンカー

コア以外の部分は既にほぼ健康、何の問題もなく本局病院につくことであろう。ちなみに彼は魔法的疾患にかかってるわけだから、なるべく

こういうときは魔法的刺激を与えない方が良いので転送とか飛行魔法は使わない。彼のコアは長年の過剰な魔力刺激で過敏になっているので

念のためである。ほぼ大丈夫だろうけど万が一まで考える。



 さて。

 俺は医者で、乗ってる車は救急車で、やってることは患者の搬送で、走ってる場所はクラナガン郊外のハイウェイ。

 これで警戒しとけって方が無理だよな?



 妙に交通量が少なくて対向車を全然見ないとか。

 山道に入って前後にも車を全く見なくなったとか。

 そしていきなり車が停まったとか。



 つまるとこ、注意しようとして無ければ気付かないのだな。


 なんだかんだ言っても俺は患者のエリオ君にこそ注意してたが周囲には意識を払って無かった。



 そこがさすが執務官。

 フェイトさんは停車した瞬間、立ちあがり。


「マシュー。何かおかしい。警戒して。」


 と平静な口調で言った。



 それに対して俺は、


「はい?」


 ってマヌケな口調で返すしか無かった・・・

















(あとがき)

・エリート若手キャリア出世街道驀進中!の八神には定時も無ければ定休も無い! 普通に会えるわけもない!

・やばい本当の夫婦でも離婚しそうだ、これが続けば・・・

・エリオ君の境遇マジメに書けば洒落ならんですな。次回はフェイトさんと初タッグなるかも。数の子も出るかな。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十三話  エリオ編3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/01 21:57
マシュー・バニングスの日常     第五十三話











 クラナガンはミッドチルダの首都であり大都市だが、郊外にいけばすぐ田舎になるって程度では日本はもちろんアメリカよりも凄い。

 もとから人口密度が違うから当然そうなるわけだが。都市を出ればすぐ田舎というより荒野といってもいい感じ。

 都市と都市との間をつなぐハイウェイは整備されているものの、そもそも交通量自体が日本の道路などと比べれば圧倒的に少ないのだ。

 だから多少、車の影を見なくても気にならない、それが普通。



 カーブの多い山道。

 道路の両脇は上に傾斜してる、谷の部分。

 クラナガン市街地まであと一時間程度の距離。



 そこで急に停車。

 フェイトさん警戒しながら立ちあがる。

 俺はまだどこかのんびりしながら運転手さんに聞く。


「どうしました?」

「いえ、なんだか事故みたいです。」


 なるほど道路前方に倒れた大型車・・・トラックみたいな?

 それが道路塞いでますね。

 その前に乗車してた人らしいのがなんか手を振ってこっちを停めてる。

 しかし完全に道路塞いでるってわけでもないかな・・・ギリギリ路幅を使えば迂回して通過できそう。

 なにせこっちは救急車で患者搬送中、スルーしても問題無いのだが。

 だが。

 まあ。

 俺は医者だ。


「ちょっと見てきますね、怪我人いるかも知れませんし。」


 運転手さんと看護師さんに言って車を降りようとする。

 しかし。

 止める人がいる。


「待ってマシュー。」

「どしたのフェイトさん。」

「なにか・・・おかしいの。」

「なにかって言われても・・・あの事故なら怪我人いるかもだし。」

「うんそれは分かる、分かるけど・・・」


 執務官としての実戦経験から何か違和感を感じるらしいフェイトさん。

 だけど、俺と彼女は持ち場が違うのだな。

 俺は治すのが仕事で。

 怪我してる人がいるって可能性あるのに見捨てるのは無理なのだ。



 そして俺は車を降りて事故車に近づく。


 その途中。


 急激な脱力感。思わず膝をつく。


「なんだぁ?」


 呟きながら辛うじて立ちあがる。異常に力が抜ける。サウロンに体重を預けてなんとかしっかり立つ。

 目の前にはさっきまで手を振ってこっちの車を停めていた男性・・・の筈が。

 どっか見覚えのある女性に変わってる?



「えとー・・・確かアンナさんとか? 言ったっけな、すまん良く覚えてないんだが。」

「お気になさることはありませんわ。それも偽名ですし。」


 昔、地上本部病院に何度か繰り返し送りこまれてきた体中機械だらけの・・・ナカジマさんちの娘さんたちと似た妙な女性陣。

 その中の一人・・・体の表面を魔力なのかなんなのか妙な力で覆って常に偽ってるって極め付けに胡散臭い女。

 その彼女が目の前にいた。髪の色は黒くも見え金髪にも見え顔立ちもクール美人にも見え地味で真面目そうにも見え、二つの映像がぼやけ

ながら同時に見えたり見えなかったり、やはり怪しい。前に見たときはもっとはっきり真面目な黒髪女性の下にクールな金髪美女が見えたん

だが今はちゃんと見えないな・・・多分他の人が見たら真面目な黒髪女性としか見えないのだろう。


 警戒しながらも・・・足がふらつく、サウロンにすがって立ち直す。


「あら、大丈夫ですか? ドクター・バニングス? あなたにはくれぐれも危害を与えないように申し使っております。」

「なにがなんだかわからんが・・・そもそもこの脱力感はなんだ?」

「AMFと言いまして。アンチ・マギリング・フィールド。魔力の結合に大幅な障害を与える特殊な力場ですわ。」

「魔力妨害結界みたいなもんか?」

「そうですわね、まだ魔力消失とまではいきませんし。」

「それで何の用だ?」

「あなたには特に用は無いのですが・・・そうですねついでに、そのデバイスを頂いていきましょうか。」

「・・・なんでだ?」

「これまでのリンカーコア手術データ、かなり入ってるんじゃありません?」

「・・・生データは専用の保管庫だ、ここには粗データしか入って無い。」

「それでもかまいせん。では・・・」


 女は近付いてくる。

 俺は力が抜けてる。

 正直、まともに魔法が使える気がしない。

 下手に使えば凄い反動が来そうだ。


 そこに!

 いきなり金色の閃光が割って入った。


「時空管理局執務官フェイト・T・ハラオウンです。貴女の行為は管理局法に抵触します。速やかに抵抗をやめ投降してください。」


 バリアジャケットを展開しバルディッシュをかまえ臨戦態勢のフェイトさんは冷静にそう告げる。

 だが女は笑ったまま。


「目的は何ですか!」


 フェイトさんが問い詰める。


「・・・実験体の回収、って言ったら分かりますよね?」


 女はにこやかに返す。


 それを聞いた瞬間、フェイトさんの顔色が変わる。

 そのまま数秒二人は睨みあう。




 だが睨みあってても仕方がない、俺はフェイトさんと話し合うために念話しようとするが。


 念話が通じない・・・AMFとやらの影響か・・・フェイトさんが俺に近づき耳元で呟く。


(マシュー、連絡出来るところに連絡してみて。AMF下で普通の通信はできないけどマシューなら・・・)

(こいつだけじゃない? ほかにも敵が?)

(その可能性は高い・・・最悪、私達だけで切り破っていくしかない・・・お願い連絡してみて。)


 互いにゼロ距離でボソボソ呟いて意思疎通。

 さて通信通話魔法というのはどちらかと言えば俺は得意だが。

 しかし通常の通信が無理という状況下で、それでも通じると言うのは・・・


 ああ、あったな。


 高町には相当な状況下でも通じるように、レイジングハート直通を特殊加工して大抵通じるようにしてる。


 あとその加工した後で一応、念のために八神にも、いざというときを考えて高町と同レベルにどんな状況でも通じるようにしてる。


 二人に通じれば、そこから別の場所に連絡も行って、この状況を打開してくれるかもしれない。



【襲撃。座標xxx-xxxx。救援請う。緊急事態。医官マシュー・バニングス二尉。識別コードxxxxxxxxx】



 この程度のテンプレ文面なんだが、そういうメールを俺から送るってことは・・・これまで一度も無かった。

 これ見たら本当に緊急なんだって分かってくれるはず。

 通信波長を加工して通じ易くしてる二人だけでなく周辺一帯に送ってるし。誰か気付いてくれるだろ。



☆    ☆    ☆



 「彼女たち」の今回の目的は。


 第一に「実験体の回収」。


 ただし優先順位は一に少年の方、執務官の方は余裕があったらで良いと言われている。


 第二に「治療データの入手」。


 バニングス医師のリンカーコア治療技術はほとんどレアスキルに近い。そのデータは以前から彼女たちの主「ドクター」はあらゆる手で

可能な限り集めているもののまだ足りない。重要な部分は明らかに海の本局病院リンカーコア障害治療部に保管してあると思われるのだが、

その部署は本局病院の中枢に位置するだけでなく、その部署自体、非常に新しい・・・ここ数年で出来たような新設部署、他の部署との横の

関わりが薄く、現状スタッフはほぼ主幹医師ギル氏の個人的な知り合いで固められている、つまり他所から情報入手を目当てに工作員を

送りこむとか非常に困難。

 何度か工作員を送り込むだけは送りこめた地上本部の病院とはセキュリティが違うのだ。


 本来ならば本局病院内のデータバンクから情報を不正に詐取できればそれで済んだ話なのだが。


 それが出来ない現状。


 ゆえにまずバニングス医師の治療を受けた実験体の少年「エリオ」を回収、その肉体に施された治療経緯を精査したい。



 ただし。



 バニングス医師は今でも表面的に健康に見えても実は慢性的な病気を患っており、実態は半病人に近い。

 荒事に巻き込むと容易に命の危険があると思われる。

 ゆえにまず彼を引き離し、できれば拘束し、彼の安全を確保するように強く命じられている。


 「ドクター」は自分の趣味嗜好をどんな時でも優先させる人なのだ。彼はバニングス医師をつまるところ気にいっている。

 下手に傷つけて将来を奪うようなこと無く、彼が彼なりに独自の技術を発展させることを「ドクター」は望んでいた。

 ただそれはそれとして今の段階での彼の技術についてももっと詳しく知りたい。

 リンカーコア治療技術とは裏返せばリンカーコア加工技術になり得る。

 その技術は「ドクター」をもってしても難易度の高い技術であり、得られる情報は可能な限り多く欲しい。






 「彼女たち」の襲撃は順調に進んでいた。

 事故を装いバニングス医師を引き出すことに成功。

 すかさずAMFを展開、バニングス医師は明らかにその影響で脱力しふらついている。まともに動けそうにない。

 彼のデバイスもついでも貰っておこうとしたところでF計画の実験体出身執務官が妨害に来たが。


 それはつまり彼女が、エリオ少年の傍から離れたという事。

 どうやって引き離すか悩んだのに実際にはあっさりうまくいくものだ。

 執務官はニアSクラスの魔力を持っておりこのレベルだと、AMF下で多少力が落ちてもまだまだ戦闘力は保持している。




 すかさず「妹たち」に指令を送る。


 救急車から同乗していた看護師の悲鳴が上がる。


 ハっと振り向く二人の視線の先には、ぐったりしたエリオ少年を抱えた長身で無表情な女性。


 そしてその足元の地面から湧き出すように水色の髪をした少女が浮かび上がってきた。



 エリオ少年が手渡され、長身女性が一言「行け」。

 水色の髪の少女は無言で頷き、エリオ少年を抱えたまま再び地面に沈みこもうとした。



 一体彼女たちは何なのか、まるでプールに潜ったり浮かんだりするみたいに地面から浮かび上がりまた潜ろうとしている彼女は何なのか、

その能力は魔法なのかも分からなかった、分からなかったが。

 マシューとフェイトには一つだけは確実に分かった。

 彼女たちはこのままエリオを連れ去るつもりだ。


 それが分かったフェイトは激発する。


 今、まさに沈みこもうとしている彼女に向かって超高速移動! 

 そのままエリオを取り戻そうとするが、長身の女性に阻まれる!


 腕から奇妙な羽状のエネルギーを放出しながら彼女はバルディッシュを見事に弾き返した。


 だがそのくらいでフェイトは止まらない!


 停止したのはほんの一瞬、即座に体勢を立て直し全身から魔力が変換された電撃を迸らせつつ再び・・・




 そのとき。



 フェイトの体から強力に放出される魔力の影響か。


 いきなりエリオの体がビクっと跳ねた。


 そのまま全身痙攣を起こす、全身がガクガク震えている、保持できなくなった少女がエリオの体を地面に落とす。


 少女はうろたえている。フェイトと長身女性も倒れて痙攣するエリオを見て固まる。


 マシューがそれを見て叫ぶ。


「魔力発作だ! 類似性の高いフェイトさんの魔力に反応して不安定なコアが暴走してる!」


 マシューの方を振り返るフェイト、思わず顔を見合す敵の3人。


 そのままマシューはエリオの方にまっすぐ近づく、足元はまだ少し危なっかしい。


 近づくマシューを警戒するかのように長身女性が前に立ち妨害しようかと動いたが・・・


「命にかかわる! 迅速な治療が必要だ! 邪魔するな!」


 一喝されてひるむ、が、彼女たちも任務だ。


「命にかかわるってのが分からないのか! お前らの目的が誘拐だか略奪だか何だか知らないが! そんなことは後でやれ後で! 今は

エリオ君の治療が最優先だ! 医者の治療を邪魔してはいかんってことも知らんのか! どけ!」


 足元はまだふらついている、顔色も悪い、片手で軽く突くだけで倒せそうだ・・・

 が。

 そんな彼に圧倒されて結局、どいてしまった。




 魔力の特徴が拡散・発散であるマシューにとって、魔力結合を妨害するAMFというのは相性が悪かった。

 恐らく普通の魔導師一般よりもそれが与える悪影響は大きい。

 しかし今は気合が入っていたので一時的にそれにも気付かず。


 リミッターを緩める、少し緩めただけではまだいつものように魔力が出せない、この際リミッターを完全に解除する。

 それでやっとAMF下でも通常の治療が出来る程度に魔力が出てきた、出てきたがきつい!

 しかし今はそれどころでは無い、サウロンを展開しエリオの体を精査する。


 これはいわばアレルギー反応に近い。つまり免疫過剰、反応過剰による悪影響。エリオのリンカーコアは長年の人工的で強力な魔力刺激に

よって、普通の肉体に例えれば皮がズタズタで内容物が剥き出しになってるような状態で少しの魔力刺激でも過敏に反応する。治療するには

まずは再び自然に皮が表面を覆うまで待ち、しかる後に内部の魔力回路の整頓をと思っていたのだが、まだ薄皮が張った程度の現状でこんな

ことになり発作が起きてしまった。

 仕方ない、予定を前倒しして、今の段階でリンカーコア内部に接触し最低限の整形を行う!

 集中する、集中する、集中する。


 半眼になりサウロンをエリオの胸にあてて膨大な魔力を発するマシューの姿を周囲は唖然と見守る。



 時間にしたら、ほんの10分足らずだったろう。

 みるみるうちにエリオの痙攣が治まり・・・顔色も良くなり、目を開く。

 不思議そうに周囲を見回すエリオ、治療中のマシューをぽかんと見上げる。


「最低限、治した。どこか痛むところ、違和感のあるところは無いか?」


 尋ねられてエリオは。


「大丈夫です。これまでずっと違和感あった心臓の上くらいの所も・・・なんだかとても楽になりました。」


 こういうふうに普通に受け答えするのは実は初めてだった。フェイトが驚きと喜びに表情を輝かせる。



 そこに割り込もうとした次女。


「あらあら、名高い『直接整形術』をこの目で見られるなんて。光栄ですわ、それじゃあ治療も終わったようですし・・・」


 再び戦闘開始と言おうとしたのだが。

 そこでいきなりマシューが血を吐きながら膝を付く。


「ガッ! ガフガフ! ゲボ・・・ぐぐぐぐ・・・」

「マシュー!」


 フェイトが叫んで肩を支えようとする。血が彼女の服に飛び散った。

 口から下は血だらけの凄惨な顔で、彼は周囲の敵性女性たちを見回した。


「エリオ君は大丈夫だ、けど、俺がヤバいなあ・・・ゲホゲホ、ヒュー、ヒュー。」


 吐血しつつ苦しそうに息をつき、


「AMFって言ったっけ。これきついわ、俺には特に。そこで無茶した・・・死ぬかも俺。」


 言いながらニヤリと笑う。




 それを見て一瞬判断に迷った。


 死ぬかもと言いながらも笑ってる、実は余裕があるのでは? と思う反面、彼の表情態度物腰からは何か、死ぬことへの諦観みたいなものが

伝わってくる、死んでもともと、別に平気だって顔してるようにも見える。

 『リンカーコア直接整形術』がバニングス医師の肉体に大きな負担を強いるため、滅多なことでは使えないという情報は事前に入手したし。

 彼が死ぬことは無いようにと「ドクター」から言われているし。


 しかし何の成果も無く帰るわけにもいかない。

 そこで咄嗟に判断。


「セインはエリオを! トーレはバニングス先生のデバイスを! そのまま撤収!」


 やはりうろたえていたのかこれまで避けていた個人名を出して命じてしまった。その時は彼女はこの失態に気付かなかったのだが。

 そのまま偽名アンナ(本名ドゥーエ)は迅速に逃亡に移った。多分両方入手は無理だろうがどちらかなら・・・



☆    ☆    ☆



 それを聞いてフェイトさんはエリオを奪われまいと俺の傍から離れ、セインと呼ばれた少女を牽制。

 真正面からフェイトさんに対抗する力は無いらしい。彼女は悔しそうな顔をしてそのまま地面に潜って逃亡した・・・らしい。

 問題はトーレと呼ばれた長身女。見るからに武闘派、さっきはフェイトさんの攻撃を正面から弾いてたし。

 俺に対抗手段は皆無である。


「しゃーねえ、もってけ。」


 言いながらサウロンを手放そうとする。

 このなかにはあらゆる情報が入ってる。特に今やったばかりのエリオ君のコア直接整形の生データ、これはかなり貴重だろうなあ。

 悪人の手にわたれば幾らでも悪用する余地があるだろう。

 しかし俺もここで死ぬわけにもいかん。

 さっき死ぬかもと言ったのは6割はハッタリ、実はこの程度ではまだ死なん、せいぜい一週間入院くらいで済むだろう。

 見た目は派手に血を吐いて見せたが・・・ここ数年はこういうことが全くなく体力を養ってきたし意外とダメージは少ない。

 とは思うがそれも多分だ。

 だが何にしても既にエリオ君の治療は大方済んだ。

 であれば後は俺が無事に生還すること、それが重要、抵抗して危険を冒したくない。


 トーレは少し、目を細め、また無言のまま俺の手からサウロンを取ろうとした。



 そのとき。


 桜色の砲撃が彼女を吹き飛ばした。


 特徴的な魔力光に、この距離から吹き飛ばす強力な砲撃魔法、誰が来たか明白。

 それを見て、俺は、安心して。


「おせーぞバカ町・・・」


 呟きながら今度こそ本当に倒れて気を失った。



 あああ~~~やっぱ久しぶりにきつかったわ・・・














(あとがき)

連絡付いたのも助けに来たのも、なのはの方でした。さてはていやはや、うーむ。

数の子の活動時期は大きく変える気は無いのですがセイン例外。ここにはズレが出てるということで。

エリオとは将来仲良くなりそう。忙しいフェイトの留守に一緒にメシとか行くかな・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十四話  エリオ編4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/05 03:19
マシュー・バニングスの日常          第五十四話









「久しぶりだな~この感じ。」

 目を覚ました俺の第一声である。


 本局病院の病室だなすぐ分かる。時間は・・・意外と経ってないかな。



 俺の寝るベッドの横に座ってるのは高町。


「あ・・・眼覚めたんだ、良かった。ギル先生から見た目ほどひどくない、むしろ意外と軽傷だったって聞いてたけど・・・」

「ああ、やっぱりね。うんその通り。久しぶりだったってだけだな。」

「でもマシュー君が倒れるのなんて本当に久しぶり・・・小学3年以来とかじゃない? だから心配だったよ。」


 なるほど高町の認識ではそうなるわけか。八神の前ではそれ以降も結構倒れたりしたのだが・・・まあそこは置いとこう。


「俺が倒れてからどのくらい経ってる?」

「3時間くらいかな。」

「なるほどやっぱり軽いな、そんなすぐに目覚めるってことは。」

「でもアリサちゃんにはもう連絡したからね。」

「ぬな!」

「当然でしょ?」

「ぐぐぐ・・・しかし余計な心配かけずとも・・・この通り軽傷だし・・・」

「ダーメ。私の時もすぐに家に連絡したくせに。」

「それはそうだが・・・あ、そういえばなんでお前、あんなにすぐに駆けつけて」


 来れたんだ? と聞こうとしたのだが。


「マシュー!」


 半泣きで飛び込んできた姉ちゃんへの対応でしばらくそれどころではなくなった。

 ぐずる姉ちゃんを宥めたりすかしたり、立ち直ってからは怒りだす姉ちゃんに謝ったり言い訳したり。

 なんとか事故的に巻き込まれてこうなっただけで望んで無茶したわけでは無いと分かってもらえた。

 それに本当に軽傷で、一週間は念のために入院するとしてもそれもあくまで念のため、大したことは無い。


 30分ばかりして姉ちゃんはやっと落ち着く。


「えっと、そういえばフェイトさんは?」

「フェイトちゃんはエリオ君の方についてるよ。向こうも大丈夫そうだって。」

「そか、良かった。」


 一息つく。


 そこで姉ちゃんは何か不審げに周囲を見回し、一言。


「はやては?」


 確かに八神は来ていない。


 それになんと答えたものかと思ってるところにギルさんが病室に入ってきた。


 ギルさんから本当に軽傷であると保証されて姉ちゃんも胸をなでおろす。


 その上でギルさん、微笑みながら、


「別に入院するほどでもないよな、本当に。いつものように彼女の家で休むんだったらそれでいいぞ、マシュー。あれ? そういえば彼女は

どうした? 一番に駆けつけてくると思ったんだが・・・まあいいか、じゃあまた後でな。とりあえずエリオ君の方は容態安定してるから、

彼女来たら帰っていいぞ、シャマルさんに容態説明するからこっちによこしてくれ、じゃあな。」


 ギルさんの中では八神=彼女、この方程式は当然の前提になっている。八神の身内であり、なかなか優秀な医師でもあるシャマルさんが俺の

専属担当みたいなもんであるのも良く知ってるわけでこういう発言になるのだな。ちなみに・・・結婚式では絶対に自分が一番にスピーチする

んだと、酔うと強硬に主張することがあり困ってる。リンディさんと競っているらしい。

 そしてギルさんは病室を去り、後に残った3人。

 姉ちゃんが先ほどの発言を繰り返す。


「はやては?」

「えっとね、その・・・」


 高町がむにゃむにゃと言葉を濁す。

 むむ、どうやら高町の方からは連絡付かなかったのか。ということは何らかの出張任務中とかかな。

 しかしそれでも俺が入れた連絡は届いてると思うのだが・・・


「連絡はしたけど、ちょっと遅れてるのかな。仕事中だろし。まーそういうこともあるさ。」


 俺は軽くそう流そうとした。実際まだ俺が倒れて数時間とかの話だぜ?

 そんなに咄嗟に駆けつけてこれるもんじゃあないだろ、仕事中の人が。


「むー。」


 しかし姉ちゃんは不満気である。なにせ姉ちゃんの方は連絡が行くが早いが速攻でこっちに来たみたいだし。

 備え付けの転送設備からミッド中央の公式ポートに、さらにそこから公共の交通機関を使って来た姉ちゃんが既についてる以上・・・

 転送魔法飛行魔法も上級管理官権限でかなり自由に使える八神が来るのが姉ちゃんより遅いというのは。


 でもそれは。


「仕事だし、しょうがないって。」

「それはね、そういうこともあるかも知れないけど。」


 不満気に腕を組む姉ちゃんの横で、俺と高町はちらりと目を見交わした。




☆    ☆    ☆




 さてそれから一週間だが。



 姉ちゃんは毎日来た。あれこれ世話焼こうとして困る。だから風呂にも自力で入れるくらいで本当に何でも無いんだってば!

 体を拭く必要とか無いし! だから脱がそうとするな! じゃあ一緒に入って洗髪とかしてあげるって勘弁してくれ!

 本当に大丈夫だってば!

 メシも普通に食えるから! あーんとか必要無いって! 頼む本当に大したこと無いんだよ分かってくれー!



 フェイトさんはエリオの所とこっちとに毎日顔を出す。

 驚いたのはエリオ、必要最小限しか治療してなかったのに既にメキメキと回復しつつある。

 メンタルの方もかなり立ち直って来て、今ではかなり普通に喋れるようになった。

 姉ちゃんに後から聞いたら「ちょっと無口だけど普通の子」としか思わなかったそうだ。

 フェイトさんに連れられて一緒に俺の病室に来て頭を下げるので、仕事だから気にすんなと笑ってやるのだが・・・

 どうも目の前で血を吐きながらも自分を治療してくれたというのを過剰に恩に着てるようだ。

 なんだかこういう生真面目なところはフェイトさんと似てるかも。


 んでまあ、このとき初めてフェイトさんから色んな事情を説明された。

 エリオ君だけでなく自分も人造魔導師計画により生み出された存在であること、

ゆえに襲撃者の言った「実験体の回収」には恐らく自分も含まれていたということ、自分とエリオが揃って孤立無援な状態になったのを狙っ

て襲撃されたと思われること、だから完全に自分たちの事情に巻き込んでしまったこと、本当にごめんなさいと謝罪されてしまったのだが。

 ま、運が悪かっただけだ、気にしないでくれと言っても気にしてるな、これ。エリオ共々青ざめた顔してるし。うむ似てる。

 しかし実験体ねーっと言ったら、また二人揃ってビクっと肩が震える。

 ううむ、フェイトさんにはそういうハンデがあったわけね。うすうす分かってはいたが。そういう出身であるということで微妙に差別を

受けたりとかもするだろうな。確かに肉体的にどっか弱い可能性は高いし。


「エリオ君の方は良いとして、フェイトさんには、そのへんの事情分かってる信頼できる担当医とかいるの?」

「え? ううん、あんまりお医者さんって好きじゃ無くて・・・」


 医者に対してこの発言。さすが天然。


「なるほどそういう経歴なら無理もないが。エリオ君の担当はどうせ俺だから、だったらついでにフェイトさんも、うんそうしよう。」

「え? え? どういうこと?」

「一回徹底的に調べる。どこかに異常が無いか。後は定期診断に絶対来ること。高町と一緒でもいいよ。」

「え? そんな? あのさ、そこまでしてくれなくても・・・」

「フェイトさーん、俺を巻き込んで申し訳ないと思ってる?」

「う、うん。本当にご免なさい。」

「じゃあ検診絶対来ること、これでチャラだ。」

「・・・なんかおかしいような??」

「ふふふ・・・俺の徹底走査を受けねばならないんだぜ。覚えてるだろー。」

「あう・・・」


 赤面して俯くフェイトさんをエリオ君は不思議そうに眺める。

 なーに今では妙な感覚与えたりしないよう上達してるから心配すること無いんだがね。

 フェイトさんにはしばらく困っててもらうとしよう。面白いし。





 高町もなぜか毎日来ている。

 手作りの軽い焼き菓子と、ちょっと薄めのお茶、俺好みの見舞い品を差し入れしてくれる。

 どうも桃子さんから聞いたらしい。お茶の方はプロ級であるし、菓子もそんじょそこらの既製品より美味い。

 無念だが美味い・・・とブツブツ言いながら食う俺に、何が無念なの!っと突っ込みながらも毎日持ってきてくれる。


 そういやなんであんなに早く駆けつけてこれたのかだが。

 俺からの連絡を受けた時、高町はクラナガン郊外、ただし俺たちのいた場所とは丁度、都市部を挟んで逆側くらいにある訓練所で、教導の

研修を行っていたところだったそうだ。高町は俺からの連絡をすぐ上司に見せて、緊急性を強調し、正規の武装隊出動の前にとにかく私は先に

行くと強引に押し切り、市街地飛行許可を無理やりもぎとり、さらにクラナガンの転送ポートへの割り込みをかけてまずクラナガンに(公共の

転送施設は市民が順番に使ってるもので、これに緊急に割り込むのは一応高町の権限で許される範囲ではあったがそれでも強引であったことは

変わらない)、そこからさらに飛行魔法でまっすぐ現場に駆け付けてくれたそうだ。

 その際、まだ高町の権限で上空無断飛行が許されない範囲(中央庁舎やエネルギー設備など重要機関所在地)の上も通り過ぎたりしてしまい

微妙に権限逸脱、その処分として軽い譴責食らったそうだがそのくらいなんでもない、と高町は笑っている。

 結局、高町がトーレを遠距離砲撃で吹き飛ばした後、加勢が来たと判断した彼女たちは迅速に撤退。

 実際に武装隊と最寄りの陸士部隊が派遣されてきて到着したのはその15分後・・・もう既に敵は逃げ延びた後だった。

 高町は、今は敵を追撃するより、エリオと俺との安全確保が優先と判断。

 俺のデバイスも奪われることなく八方丸く収まってしまった。



「うーん、でもさ。」

「なに?」

「お前って本局の、つまり海の人間だろ。クラナガン郊外は地上の担当で無かったか?」

「うん、それはあったね。でも大丈夫だったよ?」

「なんで? 前に縄張り違うだろって絡まれたり怒られたりしてたこともあっただろ。」

「今回は逆だった。マシュー君を無事に救ってくれてありがとうって陸の偉い人にお礼言われちゃったよ。」

「ほほう、どうなってんだか。」


 しかし多分、俺が地上の病院にほぼ厚意だけで出向いてるってのと関係あるんだろな。なるほど俺をあくまで地上の人間として扱いたいわけ

かね。地上の大事な医者である俺を助けてくれてありがとうと海の人間に言っておきたかったとか。ま、それも考え過ぎかもだが。

 それはともかく。


「そういや、ちゃんと言って無かったな。」

「なにを?」


 高町相手とは言え親しき仲にも礼儀あり、言うべきことは言わねば。


「助かった。本当に。ありがとう。」


 頭を下げる。

 高町はちょっと驚いたようだ。


「も、もう! 何いってるの! 当然のことをしただけだよ! 気にしないで! ほらもう頭上げてよ!」


 頭を上げてみると高町はちょっと顔が赤い。面白い。でもまあ。


「助かったのは本当だからな。AMFって言ったっけ? あれきついわー。体にかなり来るね。」

「そうだね、特にマシュー君にはきつそう?」

「ああ。しかしだなあ・・・」

「なに?」

「お前らって、ああいうの相手に戦ってるってわけか・・・」

「それは、そうだけど・・・うん、そういう仕事だから。」

「やれやれ・・・好き好んでそういうことするあたりがなんともはや・・・」

「でも! 誰かがやらなきゃいけない仕事だよ! 私だけじゃない、フェイトちゃんも、はやてちゃんも! ・・・あ。」


 名前出しちゃったね。じゃあ仕方ない、その話しますか。


「八神、連絡取れないなー。」

「・・・そうだね。」

「このままでは俺、退院しそうなんだけど。」

「・・・そうだね。」

「一週間くらい連絡なしで仕事に行きっぱなしというのは実はこれまでもあった、あったが。」

「・・・アリサちゃんが。」

「うむ、姉ちゃん、最初から不審気だったが何日たっても八神、顔も見せないんで・・・」

「かなり怒ってる・・・かな?」

「かなりね。」


 直通の連絡をデバイスに入れただけでは無い。

 クラナガン郊外での救急車襲撃事件というのは軽いニュースにさえなって、テレビとかで放送されたりしてしまったのだ。

 夕方のニュースで一回だけって程度だったけどね。

 バニングス医師が襲撃を受けて負傷したって、その筋にはこれでかなり知れ渡ってしまった。


 それを見て驚いたナカジマ姉妹とかがお見舞いに来てくれたりしたし。

 その時は一緒に姉ちゃんがいて、面識あったから結構話も弾んだり。姉ちゃんもお見舞いにきてくれた二人にお礼を言ってた。

 他にも地上本部の病院関係者とかも結構来てくれた。

 地上本部のエライ人とかも来て治安維持責任者として謝罪すると真剣に頭を下げるので正直困ってしまった。

 昔の患者さんたちも何人も来てくれて心配してくれた。

 リンディさんもクロノも二回くらい顔を出した。

 ついでにユーノもよく来る。こいつは高町目当てで来てるような気がしないでもない(邪推w)



 しかし八神は来ない。

 よほど遠くとか。

 よほどの極秘の任務とか。

 通常の連絡がつかないだけじゃなく公共の放送からも遮断されたような状況にいるんだろな。

 そうじゃなければ来るさ、それは分かってる。


 来れないような状況に、このタイミングでいるってのは・・・不幸な偶然程度のもんだろ。

 少し考え込む俺に、気分を切り替えるように高町が明るく声をかけてきた。



「あのさ、9月からマシュー君たち、アメリカじゃない?」

「ああ。」

「その前に一回、うちに遊びに来てほしいってお母さんが言ってるの。」

「そっか、そうだな、色々お世話になったし一回ちゃんと顔出しに行くか。」

「予定とかある?」

「この通り大事をとって入院したくらいだし、ちょっと仕事休むから・・・退院したらすぐ行くかな。いい?」

「うん分かった。伝えとくね。」




 んでまあ。

 退院の日が来てしまった。と言っても実際には病院に六泊した程度なんだが。

 姉ちゃんに高町にフェイトさんにエリオまで来た。

 エリオと少し話して、俺の休みが終わったらもう一度治療に来るからと言っておく。

 それやこれやと病院ロビーで話してるときに。




 駆けこんできたのは八神。

 顔が真っ青で泣きそうに取り乱している。

 まっすぐ受付に向かう、ロビーの離れたサイドにいた俺たちには気付いてない。

 そのまま受付に必死の形相で問いかけ・・・受付の人は笑ってこちらを指さす。


 八神は振り返り俺たちの・・・俺の方を見て、ふらふらと近づいてきた。


「マーくん・・・」


 って言いながらも泣きそうなので取りあえず抱きしめてやろうかと思ったところで。


「マシュー、ちょっと待って。」

「なに姉ちゃん。」


 姉ちゃんのストップが入った。


「今日、このままなのはの家に向かう予定でしょ。私は後から行くから。ちょっとはやてと話させて。」

「いやしかしだな。」

「お願いマシュー。」


 真剣な眼差しで姉ちゃんに頼まれると断れん。

 うーむ、やはり姉ちゃんこれは怒ってるな。かなり八神にこっぴどく当たりそうだが・・・

 しかしどのみちこの状況では一回は姉ちゃん怒らんと済まないだろう・・・止めても無駄だな。

 それに俺と八神は後でゆっくり話する時間がある・・・はずだ。


「じゃ、まあ後でな。大丈夫この通りなんともないから心配すんなよ。」


 軽い口調でそういうのだがまだ八神の表情は晴れない。

 姉ちゃんは八神を眼で促して二人で離れて行った。


「大丈夫かな。」

「不安だが・・・」

「はやてちゃん怒られそうだよね。」

「だよなあ・・・しかし。」

「うん、しょうがないんだけど・・・」



 不安を感じつつ、とりあえず予定通り高町の家に向かう事にした。












(あとがき)

 間に合わなかっただけじゃあない。いくらなんでも一週間は無いんでね?

 とか書いてて自分で言いたくなったのですが。しかしこの場合は日数の問題で無いのかな、とか思ったり。

 さあアリサのマジ切れモード発動、はやて超フルボッコにされる次回・・・なんか既に可哀想に思える・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十五話  エリオ編5
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/07 21:54
マシュー・バニングスの日常        第五十五話










 人気のない病院の裏庭まで無言で先導したアリサは、おもむろに向き直り、はやての目をまっすぐに見詰める。

 はやての顔色はまだ青い。目にも涙が残ってる。

 事情は知らない、知らないけど、おそらく連絡を見てからすぐに泡食って全速力で来たというのは間違いないだろう。


 しかし、別の意味でも事情は知らない、そう、アリサにとっては知ったことではない。



「ねえ、はやて。」

「ごめんなさい! 本当に! 仕事で・・・」

「うん、そうなんでしょうね。マシューもなのはもそうだろうって言ってたわ。」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい。」

「ねえ、はやて、ちょっと顔上げて。」


 はやては恐る恐る顔を上げ、無言のままアリサの言葉を待った。


「・・・」

「あのね、はやて。」

「・・・」

「私はね、マシューのことが本当に心配なの。」

「はい。」

「ちっちゃいころはそれこそいつ死ぬか分からないような状態だったしね。今は多少マシにはなったけどそれでもまだまだ健康じゃないわ。

私はマシューのことをいつでも心配してる、本当に心配なのよ。」

「・・・はい。」

「マシューは今でも『本当は』健康じゃない。そんなことあんたは良く分かってるわよね。」

「・・・はい。」

「マシューはどうも正直に言わなかった。あんたを庇ってるみたいね。でも言葉の端々から分かることもあるわ。」

「?」

「あんた、近頃はほとんど家に帰って無いんじゃない?」

「!」

「一緒に食事できるのも一月に数回とか? いないのが普通で、マシューはいつでもあんたを待ってるだけみたいな?」

「・・・」

「そういう状態だってことで間違いないわね。」

「・・・はい、そうです。」



 やっぱりか。アリサは思った。


 はやてが来ないのを不審に思ったアリサはマシューに近頃変わったこととか無かったか、はやてとケンカでもしてるのか、近頃の二人の

生活はどんなもんなんだとか、根掘り葉掘り聞いていたのだ。そしてどうもマシューは言を左右にして曖昧なまま話を濁そうとする傾向が

見られた。この前ミッドに来た時も、はやては非常に忙しかったし、もしもあの調子で今も仕事してるなら・・・と推測するのは容易。


 しかし、その結果として・・・



「そして結局、幸い軽傷だったとは言え、マシューが倒れた時も、連絡もつかないような状況だった、と。」

「・・・はい。」

「軽傷で済まなかったら、済んで無かったら! どうするつもりだったの!」



 マシューが遠くで倒れて意識不明のまま苦しんでいつの間にか冷たくなってしまう。

 それはアリサにとっては小さいころから常に想像しては怯えてきた、彼女にとって最大の恐怖だった。

 そんなことがあるかもと考えるだけで体が震える。

 だからそんな可能性は一片たりともあってはならない。

 はやてにとっては・・・その最悪の可能性が実現しないように努力するという以上に・・・重要なことがあるというのだろうか?

 これまでアリサは、はやてもその恐怖を共有してると言う点では、自分と同じだと思っていたのだが。

 しかしはやては・・・


「・・・ごめんなさい。」


 としか答えない。アリサはさらにイラつく。


「謝ってほしいんじゃないわよ、はやて。どういうつもりなのか、どうするつもりなのか! それを聞いておきたいの。」

「・・・それは。」

「私はね、これまでは、遠いミッドにいてもあんたがマシューの傍にいてくれるから、いざというときも安心だと思ってたのよ!」

「・・・」

「どうなの! これからはもうあんたを信頼してたらダメってことなの?」

「わたしは・・・」

「やってしまったことは仕方ない、幸い軽傷で済んだわけだしね、でも問題はこれから! これからどうするつもりなの!

 はっきりと答えなさい! 今みたいな状態を続ける気? それとも改善する気はあるの? どうなの!!!」



 返答次第では考えがある。

 アリサにとっての優先順位は常に明確なのだから。



 アリサがはやてを睨む。

 はやてはその視線を受け止められず、視線を落とす。

 そのまましばらく・・・もしかしたら十数分も沈黙が続いたかもしれない。


 なんとか気を取り直したはやてが何か言おうとした。

 そのとき・・・





☆     ☆     ☆




 裏舞台における謎の会話。



「いやー見事に失敗したな。」

「申し訳ありませんドクター。」

「私も『上』からも関係各所からも滅茶苦茶に怒られてしまったよ。彼の治療の評判は圧倒的で、彼の治療を受けた患者には結構地位の高い

ものも多いし。特に地上関係からの猛抗議が『上』に行ったらしいなあ。そういえば基本的に海所属の筈の彼が地上の病院でも勤務してるのは

おかしいなとは思ってたが、あれはほぼ彼の厚意で行ってる状態だったらしいね。その彼に地上の管轄で危害を加えたりされたら今度こそ彼は

地上勤務を辞めてしまうかも知れない、せっかく来てくれてるのにどういうつもりだ!って、まあ本当に激怒したらしい。」

「そうですか。」

「実験体の回収が主目的だったんだ、こちらとしても彼を巻き込んだのは不本意だって言い訳も聞いてくれないね。」

「重ね重ね申し訳ありません。」

「なに私も悪かった。AMF下で治癒魔法を使うだけで血を吐いて倒れるとはね・・・直接整形術が彼の肉体に負担をかけるとは聞いていた

があれほどとは・・・彼の体の弱さを見誤っていたよ。記録としては知っていたつもりだったが、どうやら彼は本当に病人らしい。」

「はい、そのようにしか見えませんでした。」

「そうか・・・しかしやはり彼の治療データは欲しいね。だがこれも困難な作業になりそうだ。強引に行くと簡単に、肝心の目当ての彼は

死んでしまいそうだし。」

「・・・彼には偽装も通じませんし。騙して近づくのも非常に困難です。以前地上本部で近付こうとした件に今回の件、完全に彼は私達に

対しては警戒するようになってしまったと思われます。」

「ふむ、アプローチを変えてみるか。彼本人は可能な限り避けて、本局病院コア治療部のデータバンクだけ専門に狙うかな。」

「そうなると・・・」

「うん、情報戦だね。クアットロに頑張ってもらうか・・・これまでは別の手もあるだろうって色気を出してたからね。今度はこれだけに

本格的に絞るとしよう。」




 携帯端末にスカさんからメールが来てた。

 お見舞いメールが物凄い量来てたのでその中に埋もれてしまっていたのだな。

 心無い襲撃者は全く許せない、君が無事で本当に良かったと心から安堵してくれてるのが文面から伝わってくる。


 うん、スカさんはやっぱりいい人だなあ。





 心配したのも本当、安堵したのも本当。ただ・・・それとこれとは別というだけ。





☆     ☆     ☆





 久しぶりの高町家。

 フェイトさんはまだエリオが入院してるし今日は来てない。

 ゆえに二人きりで高町家にやってきたわけだが。まあ後から姉ちゃん来るが。もしかしたら八神も。


 ただいまーと高町、おじゃましまーすと俺。

 しかし今はまだ翠屋の営業時間中で無いのか、考えてみたら。

 恭也さんも美由希さんもいないなあ。


 そういうわけで高町と二人きり、リビングで茶を一服。


 しかしこうして二人きりで静かに向かい合って茶を飲むとか、こいつとは珍しいシチュエーションだな。八神とは基本シチュなのだが。

 そうだ八神だ、ううむ心配だ。


「八神、大丈夫かな。」


 思わず言葉が漏れる。


「アリサちゃん、あんまりきついこと言わなければいいけどね。」

「そうだなそれだな。姉ちゃん切れると容赦なくなるからな。」

「仕事が忙しいっていうのも、考えものだね・・・こんなことも起こっちゃうわけだし。」

「うわ、お前がそれを言うか? ワーカーホリックの高町さん。」

「でも今回は、偶然近くで仕事してたから間に合ったんだよ。」

「だろ、そういうことだ。」

「え?」

「良い方に回ることもあるし、悪い方に回ることもあるし。今回、八神はタイミング悪かったけど、それであいつの仕事否定する理由には

ならないだろー。」

「マシュー君はそう思うんだ・・・」

「まーね、なんつっても長い付き合い、多少の波乱があっても問題なかろう・・・と思うわけだ。」

「・・・はやてちゃんのすることならどんなことでも許しちゃう?」

「いやそれも違うだろ。怒らないといけないこともあるだろが・・・今回のは運悪かっただけでね?」

「・・・そう、だね、うん・・・」



 とかなんとか話してるうちに一時間ほど経過。

 遅れて姉ちゃん到着。


 八神はいない。


「あれ、姉ちゃん、八神は」

「知らないわよ!」


 うわ切れてるよ。


「まだ話済んで無いのに! また連絡が来て! また仕事だって! 緊急事態で! ほんとに行かなくちゃいけないって!

 はいはいそれは本当なんでしょうよ! それが一番大切なわけね! まったくもうなんなのよ!!!」

「あちゃー・・・そういう状況か。」



 思わず眉をしかめる。ううむ色々タイミング悪いなぁ。



「でもさ姉ちゃん、八神はだな、そもそも」

「はやては私達みたいに親兄弟もいない、だから仕事頑張るんだってそれは分かるわよ! でもどうなのマシュー! あそこまで仕事仕事に

専念して他の時間全部犠牲にするみたいな! ほんとにそんな必要あるの?!」

「あー・・・しかしまあ八神には八神の考えがあって」

「分かった黙ってて。」


 俺の発言を容赦なくぶった切る姉ちゃん。


「あんたはどうにも・・・はやてを庇うわよね。この件ではあんたの言う事信用出来ない。なのは!」

「は、はい!」


 高町に矛先が向く。姉ちゃんの迫力に思わず身をすくめる高町。


「あんたのミッドでの収入ってどの程度?」

「え?」


 意外な質問にきょとんとする高町。


「いいからキリキリ答える!」

「う、うん、えっと、月給でいいのかな?」

「あんた一人だったらミッドで普通に暮らせるくらいの額は貰ってるんでしょ?」

「うん、それはもちろん。」

「っていうか・・・この前、ミッドの図書館で色々調べて分かったけど高レベルの魔導師で武装隊から教導隊ってエリートのあんたは・・・

ぶっちゃけた話、実はかなりの高給取りでしょ? 違う?」

「え、えっと・・・うん、実はそうかも。」

「で、はやては中央直属の捜査官だったのよねもともと。」

「そうだね。」

「調べて分かったけどこれって下手したら、あんたよりエリートコースよね?」

「そうかも。」

「しかも中央の上級キャリア試験に受かって上級管理官資格まで持ってて・・・」

「えっとだな姉ちゃん」

「黙ってなさい! 本来はやては捜査官だけでも裕福に暮らせるだけの収入あったんでしょ。違う?」

「・・・それは、そうかも。」

「生活のために仕事するって範囲を超えてるわよね? 明らかに過剰に仕事に入れ込んでるわ。」

「いや待て姉ちゃん。」

「黙ってなさい!」

「いや黙って無い。いいか八神には八神の考えがあってそうしてるんだ。横から色々言うべきじゃない。」

「それであんたをずっと放置して一人にしてたまに帰って甘えるだけで全然面倒も見ないで、あんたを犠牲にしてんじゃない!」

「俺は犠牲になってるなんて思って無い。俺がいいってんだからいいだろ!」

「それに今回みたいにあんたが倒れても一週間も顔も見に来ないなんて!」

「一回の失敗で全部否定するのは良くない。今回は運悪かっただけだ。」

「違うわね。はやてが今みたいに仕事第一で突っ走ってる限り今回みたいなことはまた起こるわよ!」

「そんなの分からないだろ。」

「分かってからじゃ遅いのよ!」



 しばらく睨みあう。高町が横でおろおろしてるが俺たち二人の目には入って無かった。



「マシュー、あんたもうはやての家に寝泊まりするの止めなさい。意味無いわ。あんたの体調が悪いときとかに安心だろうって思ってたけど、

ほとんど帰ってきてないわけだし。あんたが留守番してあげてるだけじゃない。病院の寮の方がマシだわ。」

「それは俺が決めることだろ。いいかとにかく八神には八神の考えが」

「どんな考えよ!」

「・・・それは。」

「私が訊いても何も答えなかったわよ、はやて。あんたにはちゃんとどういうつもりでいるのか説明してんの?」

「・・・いや、その・・・」

「やっぱりね。あんたにも全然説明しないで・・・一方的にあんたに甘えてるだけじゃない。あんな子だとは思わなかった、見損なったわ!」

「そこまで言う事は無いだろ?」

「何も話さず分かってもらおうとか甘えてる以外のなんだってのよ! とにかく私は納得できないわ!」

「・・・分かったよ、ちゃんと聞く。今度こそちゃんと・・・」

「なるほど、あんたもちゃんと話そうとしてたのに、話せなかったわけ? それともはやてが話さなかったのかしら?」

「とにかく俺が今度、きちんと話すからさ・・・」

「話さず逃げるようなら縁を切るって私が言ってたって伝えときなさい。」

「ちょ!」

「そのくらい言ってやらなきゃ、あの子なにも話さないわよ。」


 ・・・やはり客観的に見て問題ありってことかな、今の俺と八神。

 話さないまま、うやむやにしたまま過ごしてきたことを。

 今度こそはっきりさせねばならない、か。

 しかし。


「とにかく、今度こそ、きちんと、話すからさ・・・」

「最後のチャンスだとも言っときなさい!」

「姉ちゃん・・・」


 重苦しい雰囲気のまま、俺たちはしばらく沈黙していた。

 そこに。


「ただいまー。」


 気付けばもうそんな時間か、翠屋の営業終わったみたいだな。高町一家が帰ってきた。


「あ!」


 急に高町家の末っ子が声をあげる、ああそういえばいたな。


「ご飯の下ごしらえ頼まれてたの忘れてた! 急いでやらなきゃ!」

「それは大変。よし手伝うよ。」



 ちょっと姉ちゃんから離れたかった。

 ちなみに姉ちゃんはもちろん台所仕事なんてしない。



「うんお願い! このエプロン使って。」

「りょうかーい。で、何からする?」

「うわー、ご飯も炊けてない!」

「おいおいそこからかよ・・分かった俺が炊く、何合だ?」

「えっとね・・・」


 高町に指示されながら一緒に台所仕事に勤しむ。


 うーん高町とだと新鮮だな。八神とだと・・・半年前まではいつもの風景だったのだが。

 ハァ・・・

 あああーーー!

 やめやめ、八神の事はまた今度だ。

 今は考えない考えない!




 帰ってきた桃子さんが、一緒にエプロンつけて台所仕事してる俺たちを見て、うわー新婚夫婦みたいねーとからかう。

 この人のこういう発言いつもは困りものだが今は雰囲気変えてくれて実に助かった。

 その発言をうけて士郎さんと恭也さんが顔を見合わせて、まあマシュー君なら別にいいよとか言い出すし・・・おいおいちょっと待った、

そこはお前なんかに娘(妹)はやらん!ってところじゃないんですか?

 美由希さんが姉ちゃんにどうでしょう解説のアリサさん、マシュー君の嫁としてうちの末っ子に可能性はありますか、とか聞いてるし。

 姉ちゃんも、そうね、なのはだったら全然問題無し、むしろこちらからお願いしたいところとか待て姉ちゃん。

 こら高町そこで無言で赤面するな、いつもみたいに「それはない!」って言えよ!

 マシューが18になったらすぐになのはと結婚させても私としては大歓迎とか頼む待て姉ちゃん自重してくれ!

 あらあらそうなのそれもいいわねーだったら婚約だけでもしとく?って桃子さん乗らないで下さい! 



 でもま、雰囲気は明るくなり、楽しい夕食になったのだが。

 しかし・・・いかんな姉ちゃん完全に高町派に切り替わってるというか・・・八神株大暴落だな、姉ちゃんの中で・・・

 私としてはなのはが妹になってくれれば嬉しいしみたいな話を事あるごとにしてくれる。

 それにまた高町家の皆さんが乗るし・・・

 これはちとまずいかも・・・姉ちゃんと高町家の皆さんが結託して陰謀を進めれば気付いたら高町と・・・なんてことになりかねん。




 高町は嫌いじゃない、嫌いじゃないが、俺は八神のことが・・・

 あー

 そういえばそれもちゃんと言って無かったか、もしかして。

 うし

 ちゃんと言おう、それも。

 まずは直接、八神に、面と向かって。


 これまでみたいに、なんとなくのままじゃあ、ダメだよな。



 はっきりさせよう。













(あとがき)

 さらに仕事が入り八神墓穴を掘る、状況悪化。マシューの気持ちだけが頼り。でもアリサ切れたまま。

 さてそろそろ「VS八神」に入れそうなのですがその前に・・・ちゃんと各人の思いを整理するために・・・

 視点を変えてマシュー以外の各人の気持ちを描いた話をしてから「VS八神」に入ろうと思います。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十六話  「なのは」1
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/09 18:05
マシュー・バニングスの日常          第五十六話 












 はじめて会った時の事はまだ覚えてる。



 忘れられるはずが無い。



 ・・・人を病院送りになんてしたのは初めてだったのだから・・・







 小学生になったばかり頃、気の弱そうな黒髪の女の子が、見るからに勝気でその年で既にゴージャスな雰囲気すら持つ金髪の少女に、何かを

取り上げられて泣きそうになりながら「返して! 返してよ!」って言ってるのを見た。あれは何時の休み時間だったろうか。いじめ・・・と

までは行かないかもだが、かなりタチの悪い嫌がらせだと思った。そう思って、気弱な黒髪少女に同情する雰囲気は周囲にもあり、なんとか

金髪少女を止めようと何か言いかける子も何人かはいた。しかし金髪少女の持つ強気な雰囲気にのまれて、じろりと一瞥されるだけで皆撤退。



 高町なのはにとって一番重要なのは「いい子」でいることだった。それはなるべく問題を起こさず大人しくしてるということでもある。だが

このときはなぜか我慢できなくなった。黒髪の少女の泣きそうな顔を見てられなかったのだろうか。それとも取り上げて意地悪して周囲からも

「なんだよあいつ・・・」と白眼視され浮き上がってる状態なのを知りながらそれでも無理に意地悪を続けてる金髪少女の目が・・・実は、

とても悲しそうに見えたのが原因なのだろうか。



 小1のときの自分の心境なんて正確には分からない。



 分からないけど結局、なのはは割って入っていきなり金髪少女・・・アリサ・バニングスの頬を軽く平手で張る。

 そういう経験が皆無だったアリサは痛みより驚きに硬直し呆然となる。




 確か、「痛い? でもそんなのより大事なものを取られた心の痛みのほうが痛いんだよ!」とかなんとか言ったような気がする。

 今、思い返せば本当に赤面である。

 なにも分かって無い子供であるなんて今でも変わって無いのに、さらに幼いその頃にそんな偉そうなこと言うなんて・・・




 そのままアリサと揉み合い掴みあいのケンカになり、それを見てしばらく呆然としていた黒髪少女、月村すずかが止めに入り、気付いたら

3人で、やめてやめない離して離さないとダンゴになってもう誰が相手なのやら。やっと先生が呼ばれてきた時には、既に止められるまでも

無く・・・3人は顔を見合わせて、互いにぐちゃぐちゃになった服や髪をみて・・・思わず笑ってしまった。



 後から考えてみると、実はクラスに馴染めず浮いていて、それに焦って、それを怖がっていたのはむしろアリサの方だったのかも知れない。

結構いいとこの子もいる私立聖祥ではあったが、その中でもバニングス家は群を抜いていた。とんでもない超お嬢様で近寄りがたい雰囲気を

もともと持っていたし本人も絶対弱みなど見せないプライドの高い性格。しかしそんなアリサでもずっと孤独なままでは嫌だった。友達が

欲しかったのだ、だから自分と似た境遇のお嬢様で・・・もしかしたら仲良くなれるかもって期待してた月村すずかになんとか接触しようと

試みたのだ。しかしその試み方が・・・もろに「気になる子をいじめる」という態度に直結したのはどうなのかと思うのだが、それはアリサも

まだ幼かったのだし仕方ないことなのだろう。


 それに対して、すずかの方は、今でもその傾向があるのだが、その頃はもっとひどく、ちょっと過剰なほど引っ込み思案だった。一人静かに

本を読む以外のことはなるべくしようとせず別にアリサに対してだけでなく誰に対しても壁を作って、なるべく人と関わり合いにならないよう

にしていたように思える。その態度はなのはも気になっていたが・・・アリサの強引な接触無しには、たぶん何もしなかっただろう。



 しかし結局、そうしてケンカした3人は、そのまま親友となった。

 アリサにとっても、すずかにとっても、なのはにとっても、それは非常に大きい・・・一生意味を持つ程の出来ごとだった。


 高町なのはが「身内」に対しては遠慮勝ちで引っ込み思案、しかし「他人」に対してはおせっかいで親切を押し付けて回るというその性格。

 その傾向が明確になったのはこのときの経験が原因の一つ。

 実はアリサの影響が大きいのだ・・・




 家でも幼稚園でも静かに大人しくしてるだけだった高町なのはの世界は。

 小学校に入って2人の親友が出来たことで大きく変わった。

 毎日学校に行くのがとても楽しくなった。

 表情も態度もとても明るくなり、心配してた両親もほっと一息。




 しかしそれから数カ月後・・・再び、なのはの表情が暗くなる出来事が起きる。




 親友のアリサには実は弟がいるそうだ。

 双子ということは同い年なのだが・・・それでもアリサは「弟である」と断言。

 そのへんよくわからなかったがアリサちゃんがそういうならそうなんだろうと流す。

 そんなことよりまた友達が増えるかも!っという楽しい希望の方に気を取られていた。


 体が弱いからちょっと外国の病院に入院していた、これから同じ学校に来るけど、それでも多分休みがちになってあんまり来れないかも。

 本当に体が弱いからくれぐれも注意してね、と言われていたのだが・・・



 なのはは、やらかしてしまう。




 他人にはなるべくおせっかいなほど親切に!っという態度に変わってまだ数カ月、やり過ぎの範囲が分かって無かった。

 いや、この場合は・・・

 マシューの体の弱さが、普通の人間には想定外だったというのが正しいのだろう。



 髪の色も黒く見えた。骨と皮ばかりのガリガリな体格、正直アリサの双子の弟とは信じられないほど似てない。車椅子に乗ってアリサが押し

てきたのだが、それに押される彼の表情もなんだか、かなり無表情で無感動、周囲に壁を作ってるようにも見えたし、それが前のすずかと

重なって見えて、だからつい手加減きかずガンガン押してしまって親しくなろうと近づきすぎて・・・

 迷惑そうな顔をする彼に自分を名前で呼ぶように!っと押して押して押しまくっていたとき、急に彼の表情が一変。

 車椅子に座ってることもできなくなり倒れて痙攣しだす。



 あのときの驚きと恐怖は・・・実は今でもたまに夢に見る。

 これまで生きてきて、それなりに色々あったけど。

 正直、仕事で敵中に孤立して集中攻撃されて撃墜されたあの瞬間よりも・・・まだ怖い。




 アリサはもちろん一度は、なのはに対して思いっきり切れた。

 しかし一度思い切り怒って感情を吐き出してしまうと、またすぐ切り替わるのがアリサであって。

 結局は、「ちゃんと具体的に注意してなかった私も悪かったわ、そんなに気にしないでね」と言ってくれた。

 ビクビクしながらお見舞いに行くと、倒れた彼自身も、「まあ気にしないでくれ」と意外と優しそうな顔で笑って言ってくれたし。

 それでもやはりまた再び、引っ込み思案になりそうになったなのはだったのだが。


 それを許さず、強引にこれまで通りでいるように矯正してくれたのが親友二人組だった。

 アリサが押しつけ、すずかがフォローし、気付けばまた前の通りに振舞えるようになっていた。

 本当に二人には感謝である。






 だがだからといって、彼に苦手意識を持つようになってしまったこと自体はどうしょうも無かった。

 いつでもなにか気になってる。

 心のどこかで彼の事を心配してる・・・心に刺さった小さなトゲのように、どうしても気になってしまう。







 彼の考えてることとかも全く分からない。


 彼の体の悪さというものが・・・後で知れば知るほど本当にひどくて・・・実は絶望的、いつまで生きていられるのかも分からないほどの

状態なのだと知ってしまったというのもある。生まれた時から寝たきりに近く、まともに歩けた経験もほとんどなく、いつ死ぬかも分からず、

そしてそういう状態のまま自分と同じ年まで生きてきたというのだから・・・健康である自分に全く分からないのも仕方ないのだろうか。



 しかしそんな弟をアリサは溺愛・盲愛していた。


 実はアリサの世界が弟を中心に回ってるということは、マシューを紹介された後はすぐに分かった。

 どんなときでもなにがあってもアリサは弟を優先していた。

 そしてマシューもアリサに対しては強い愛情を持ってることもすぐ分かった。

 二人は姉弟でありもっとも親しい身内であり、互いに思いやりながら意外と遠慮なく口ゲンカもするし、本当に仲が良かった。


 実は、身内とそういう関係でありたいというのも、なのはの持つ根源的な欲求の一つ・・・ただし叶えられない思いの一つだった。

 だからそんなふうに自然にいかにも仲良し姉弟である二人の姿は、少し、羨ましかった。







 3年生になって魔法に出会ったあの日の衝撃はもちろん今でも忘れていない。

 一生忘れない衝撃と、感動だった。


 そして同時に忘れえない思い出が、マシューにもその才能があったと知ったことだ。


 さらに事態が進んで、マシューは魔法的治療を受ければ治るかも知れないと知った時の喜び。

 だがそれはまだ正直言うと、それをきくとどんなにかアリサが喜ぶことだろう!っという思いの方が強かったかも知れない。

 マシュー個人に対しては、まだやはりどこか・・・苦手意識があったのだ。


 結局なのはは、「魔法を知らない人には教えてはダメ」という言いつけを破り、マシューを助けることを優先する。

 悲しみのどん底に落ちたアリサの顔を見ていられなかったし、

 助ける力があるなら助けるべきでそれ以上に重要なことなんて無いと思ったから。






 出会ったときにいきなり病院送りにしちゃったけど。

 これで少しは、マシュー君に借りを返せたかな・・・と。

 ちょっとだけ、ほっとしたのは誰にも言わなかった。








 しかしそれからしばらくの間は、どこかマシューとの距離感を見失い・・・

 アリサに対するように遠慮なく振舞おうとしたのか、それとも単に混乱してたのか・・・

 強引に模擬戦に誘い出して・・・

 軽く当ててすぐ降参させるつもりだったのに・・・

 逆に、罠に嵌められてボコボコにされたのは・・・

 今でも思い出しては鬱になる出来事であった。



 やっぱりマシュー君は苦手だ・・・と思った。






 魔法を知ってから、なのはの世界はさらに大きく広がった。

 学校に行って親友に出会ったあのときのように・・・いやそれ以上に!

 家でも役立たずで、学校でもやはり実は物凄い頭の良い親友たちに比べたら大したことない自分。

 そんな自分が持っていた魔法の力!

 この力を使えば皆の役に立つんだ!

 誰からも必要とされる自分に変身できる!




 なのはは夢中にのめり込み、それ以外のことは何も見えなくなった。





 そういう状態だったということは今になれば良く分かる。

 マシュー君に散々言われたし・・・



 だが撃墜されるまでは周囲の制止の言葉なんて全く耳に入らなかった。

 後から考えれば皆が・・・何度も何度も言ってくれてたのに・・・気付かなかった。




 撃墜されて、脊髄とリンカーコアを損傷して、魔法の力が無くなるかもと言われた時の絶望感、良く覚えている。

 それは自分にとって、全てを失う事のように思えた。

 あまりの絶望感に押し潰されてそれ以外の事はまたなにも見えなくなった。






 マシュー君がベッドに寝たきりの私の周りをなんかうろちょろしてたのも実はほとんど目に入って無かったの。

 まずは体力の回復? はいはい・・・

 そろそろ手術の準備、まずは脊髄を? はいはい・・・

 そんなことよりも。

 私はまた魔法を使えるようになるの?





 今は昔と逆だね、マシュー君。

 マシュー君はそうして元気に歩きまわってて、私は寝たきり。

 もしかして自業自得だとか、ざまぁ見ろとか思ってる?

 そう思われてても仕方ないんだけどね!

 どうせ私が悪いんだから!



 そんなことは言わなかった・・・はずなの。

 暗い気持のなかでさらに弱気になったときとかでも、さすがにそんなドロドロした感情をマシュー君にぶつけるとか・・・

 してないよね、うん、してないはずなの。

 そう信じたい・・・







 暗く暗くひたすら暗くなってた私。

 でもある日いきなり、お母さんとお父さんが病室に。

 絶対連れてこないでって言ったのに!



 ベッドの傍らにいてどう見ても事情知ってそうなはやてちゃんと、入って来てチラリとそのはやてちゃんと目を見交わしたアリサちゃん。

 この二人の仕業?

 アリサちゃんが噛んでるってことはマシュー君も?

 私のためにとか言いながら結局私の言う事聞いてくれなかったんだ!

 マシュー君は私を裏切ったんだ!





 ・・・そう思った自分の記憶を消したい。

 いやむしろその頃の自分を抹消したい・・・

 時間を遡ってその日の自分を横から見るとか出来てしまえば・・・

 私、羞恥心のあまり昔の私を問答無用で消してしまうかもしれないの・・・

 今でも思い出しては恥ずかしさにのたうちまわる思い出。






 気付いたらお母さんに抱きついてワンワン泣いてたんだもん、私。

 そしてなんだかそれだけでスッキリして・・・ウソみたいに気持ちが軽くなったし。

 でもどうやらこれはマシュー君の仕業じゃなくて、はやてちゃんとアリサちゃんがマシュー君にも黙ってしたことらしいんだけどね。

 あとではやてちゃんに確かめたらそう言ってた。

 でも!っと釘を刺されたけど。

 マーくんがどんだけなのはちゃんのことを心配して、なのはちゃんのために頑張っとるんか、なのはちゃんは知らへん。

 マーくんのその真剣な気持ちだけは、分かってあげてな・・・



 そうだったんだ・・・そんなにマシュー君は・・・頑張ってくれてたんだ・・・って?




 あれ?

 でもなんでそこまでしてくれるんだろ?

 私ってマシュー君には、ひどいことばかりしてるような気がするんだけど?






 あ、そっか。

 私が、アリサちゃんの友達だからだね。

 今でも姉ちゃんベッタリ、姉ちゃん第一のマシュー君だもの。

 アリサちゃんが私を心配して暗い顔になるから、それをなんとかしたくて・・・そういうことだよね、うん。















(あとがき)

 まず、なのはの気持ちを整理しようと思って至近の出来事をなのは側から見ただけの話を書いてみたところ。

 ダメだもう少し前から描写しないとつながらない。もう少し前、もう少し前と繰り返されて結局最初から。

 だが「VS八神」前後は全体の肝になるべき部分・・・冗長になることを恐れて描写を削るわけにもいかぬ・・・困った・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十七話  「なのは」2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2010/05/10 07:17
マシュー・バニングスの日常         第五十七話















 それからの私は、少しはマシな人間になったと信じたい。


 お母さんともお父さんともちゃんと話せるようになった。


 何も言わず勝手に魔法の道に突っ走るんじゃなくて、きちんと理解を得た上でそうしようと思うようになった。





 そしてずっと私の治療リハビリを担当してくれたマシュー君。

 マシュー君は何でも前例のないほど画期的な治療法を私に施してくれて。

 なんと魔力が昔よりあがりました!

 すごい! すごいよマシュー君ありがとう!




 でも・・・


 それからは昔みたいに「近づいて傷つけるのが怖い」って恐怖感はほぼなくなったんだけど。

 なんだか別の意味で苦手になった、マシュー君の事。





 だって月一の健康診断絶対受けるの義務になって、それもマシュー君の担当になったし!

 仕事内容も全部把握されて、少しでも無理してるようなら問答無用で休ませるって断言されちゃうし!

 しかも両親だけじゃなく周囲の人間全員、武装隊の上官に至るまでマシュー君の味方だし!

 もう完全に頭が上がらなくなりました・・・


 なんていうか・・・天敵?

 蛇に睨まれた蛙?

 絶対に敵わない相手になってしまいましたマシュー君。





 しかもね・・・

 なんだか両親の中でマシュー君の株が高騰してるような。

 昔は、お母さんもお父さんも、マシュー君の事は腫れものに扱うみたいに、やっぱちょっと苦手みたいな感じだったんだけど。

 なんでもきちんと私の病状とか説明に来てくれたこととか真摯な態度とか。

 その後も色々とマシュー君と話す機会が大いに増えて。

 あれなら、なのはが嫁に行っても安心だって、ちょっと待って!



 それは無いから! 絶対無いから!



 私、マシュー君のこと苦手だもん!







 それに大体・・・

 うん、そうだよ。

 マシュー君って、まずアリサちゃんのものだったけど。

 なんか近頃変わって無い?

 少しずつ・・・

 はやてちゃんのものになりつつあるというか。

 それも、とても自然に。




 あれは結婚するでしょ絶対。

 苦手だけど、嫌いじゃないよ、それは確か。

 でも明らかに既に、はやてちゃんのものってムードだし。

 だから、それは無い。

 私とマシュー君がとか、それは絶対無いんだよ。









 やっぱり中学に入ってしばらくしてみれば。

 なんだかもう見てて腹立つくらいのバカップルになってるし二人!


 一緒のお弁当は当然、週末同棲、ヴィータちゃんから聞いた話によると家のなかではいつもベタベタイチャイチャ実に暑苦しいとか。

 たまに口げんかぽい雰囲気になることもある。

 でもそういうときこそ注意が必要。

 気付けば抱き合ってイチャついて、おいケンカはどこにいったんだ!って突っ込みたくなることが多々あるそうで・・・




 夫婦喧嘩は犬も食わない。

 つまりどうせ仲直りすることが前提にあり、横から何を言っても無意味なのだ。

 というかそれもイチャつきのうち、一環に過ぎないのだろう。





 私が入院したとき、一気に距離が縮んだんだって。

 私は知らなかったけど、実質、マシュー君とはやてちゃんが協力して私の看護体制を整えてくれていたとか。

 別にそれが無くともどうせそのうち結婚しそうな二人だったけどね!

 私にとっては一番昔からの親友といえばアリサちゃんとすずかちゃんになるけど・・・

 マシュー君とはやてちゃんは病院つながりでそれ以前からの知り合いだそうだし。




 もう早く結婚してくれないかな・・・正直、ウザいの。






 高校生になって、アリサちゃんがミッドに遊びに来るっていうから一緒にあちこちまわった後ではやてちゃんの家行ってみれば。

 なんなの?

 なにを真っ昼間から互いに堅く抱きしめ合って一緒に寝てらっしゃるわけなのこのバカップルは?!

 思い切り体密着させて足とかも軽く絡めてるとか、まだ外明るいって分かって無いのこの二人?!





 だから多少、意地悪してやったとしても私は悪くないと思う。


 幼馴染で健康診断を毎月してる・・・うふふ・・・浮気相手の可能性あるよー

 マシュー君が私に対して常に立場強いのを利用してえっちなことを強制してるかもよー




 もちろん実際にはそんなことは皆無だけど。


 私の入院以来、私達二人は昔に比べたらかなり仲の良い友達にはなったけど、それだけ。

 たまに医者と患者の関係になるわけだけど、そういうときはむしろマシュー君は完全にビジネスライクに切り替える。

 すごく冷静に、あくまで一線を引いて、礼儀正しいけど余所余所しく、決して過剰に近づかない。

 そういうお医者さんモードのマシュー君は、なんだか冷たくて・・・ちょっと嫌いかも。

 私とも口ゲンカとかたまにするけど、そういうときの遠慮無く皮肉を言うマシュー君の方が・・・





 それはともかく、このバカップル。

 幸せそうにお互いの体を撫でたり、むにゃむにゃ甘いセリフを寝言でも囁き合ってたこの二人。

 なんだか妙に腹が立ったので・・・

 私とマシュー君の間に、本当に何も無かったのか曖昧なままで逃げてやったの。

 はやてちゃんも少しは疑いを持ったかも?




 ふん。


 どうせあのバカップルならすぐ仲直りするに決まってるの。


 そう、決まってるの、絶対。












 マシュー君には借りばかり作ってる。



 だからやっぱりいつもどこかで彼の事を気にしてる。




 研修中、レイジングハートの発したメール着信音はマシュー君専用。

 もちろんほかの着信は受けない、研修中だもんね、切っとくのが当然。

 でもマシュー君のだけは入れたまま。そもそも健康診断の連絡以外にはほぼ連絡してこない人だし。

 だからいつごろマシュー君から連絡来るかも、言われるまでもなく分かってるし。

 今日、この研修中に、マシュー君から連絡が来るはずは無いのに。おかしいな?



 周囲の非難の視線を気にしながらコソコソとメール確認、多分間違いとかじゃないかな・・・

 と思ったけど見た瞬間、私は立ちあがった。

 講義してる教官も、一緒に聴講してる教導隊・武装隊の同僚たちも私の唐突な行動に驚く。




 そこからは無我夢中だったかも知れない。


 だってこんなメールなんて初めて見た。

 マシュー君って・・・認めたくないけどあれで相当強いよ?

 正直、今の私が本気でやっても倒せるか分からないくらい。

 ただしそれは、互いに向き合って、よーいドン、で始めればって条件だけどね。

 マシュー君には実戦魔導師として致命的な弱点がある。

 一発当たれば、終わりに近いのだ。

 だから全部よける、それが前提。

 もしも完全な奇襲とか不意打ちとかで、最初に間違いでも一発入れば・・・そこで終わりだ。

 マシュー君の打たれ弱さは前線に立つ実戦魔導師としては致命的なのだ。


 これはもしかしてマシュー君、間違って最初に一発当てられてしまったのでは?

 そうなるとそれだけで彼の場合、命に関わるかも知れない!





 強引に飛行許可とか取って私は先発する。


 メールにあった座標に探査魔法を向けつつ全力飛行!


 私の探査は結局、「相手に気付かれない」って隠蔽性能はどうしょうも無かった。

 でも相手に気付かれてもしょうがないという前提で探査球を発動する分にはかなりの距離をカバーできるようになってる。

 マシュー君には及ばないだろうけど。





 探査が届いた。


 これは・・・AMF!

 AMF下に入って私の探査球も急速に性能を減じる。

 しかしそれでも機能をなんとか失わない。それが魔力集束に特性のある私の利点。

 そうか逆に魔力発散が特徴であるマシュー君には・・・AMFって致命的なのかも?




 急げ、急げ、急げ!




 あれはフェイトちゃんと・・・この前保護したっていう少年、エリオ君?

 そのエリオ君の前に膝をついて・・・マシュー君が治癒してるように見える・・・

 敵は3人? 少なくとも見える範囲では。



 治癒が終わったらしい、マシュー君は立ち上がろうとして・・・血を吐いて倒れそうに!

 AMF下で! きっと体も苦しいのに! エリオ君を治そうとして! 体に負担が来たんだ!

 そしてそんなマシュー君の手からデバイスを奪おうとする敵!





 間に合う?

 届く?




 間に合わせる!

 届かせる!




 カートリッジ装填! 集中力が冴え渡っている、我ながら驚くほど滑らかに魔力を集束させて・・・これが私の全力全開!


「ディバイン・・・バスター!」


 絶対に助けるよマシュー君! 







 急速に接近する私を見て敵はひどくあっさりと撤退した。

 増援を恐れたのかな? それはあるだろうけど・・・

 フェイトちゃんは後日、「マシューの行動を見て気が引けたというか・・・戦う気がかなり失せたんじゃないかな」と言ってた。




 てきぱきと事後処理。なんだかとても頭が冴えていた。

 倒れるマシュー君を冷静に抱え起こして・・・うん生きてる、大丈夫。



 無防備なマシュー君て珍しい・・・そしてこういうふうに倒れたマシュー君の面倒見るのはアリサちゃんか、はやてちゃんの役目だったのに

なぜか今日は私の役目に。抱えあげたマシュー君、意外と重い。昔は私達のなかで一番体重軽かったそうなんだけどさすがにもうそれは無い

みたいだね。ちゃんと成長して、男の子らしくなったんだ。



 背丈は私よりかなり高い。うーんどうやって運べばいいんだろう。

 フェイトちゃんの助けを借りて、私はマシュー君を背中におぶった。

 救急車の中の紐とかでそのまま落ちないようにあちこち補強してもらって・・・



 武装隊の人も陸士部隊の人も徐々に集まって来た。

 幸いエリオ君はマシュー君の治療で既にかなり回復してるみたいだし・・・

 後の事はフェイトちゃんに任せて私は本局病院に一直線。



 病院入口に文字通り飛び込んできた私に、受付の人とか驚いたみたいだけどマシュー君はここではかなりの有名人。

 すぐにギルさんに連絡が行きストレッチャーが運ばれてきてマシュー君は運んで行かれる。

 私はずっとそばに付き添ってマシュー君の手を握ってた。



 ギルさんがそれを見てちょっと怪訝そうな顔をしてたのはなんでなんだろ?

 友達が倒れたから心配してるだけなのにね。



 ギルさんから「大丈夫、意外と軽傷、命に別状なし」と聞いて気が抜けた。





 良かった・・・


 助けられた。



 これで少しは借りも返せたかな・・・







 もうほんとに・・・


「アリサちゃんが心配する気持ちも分かるなー。こんなふうにすぐ倒れるんだもん、マシュー君。早く起きてね。」


 マシュー君の耳元で囁く。





 マシュー君が吐いた血の匂いが強かったんだけど・・・それ以外に。


 ちょっと男の人の匂いがして。


 私はなんか慌ててマシュー君から離れた。













(あとがき)

 むむむ・・・前後編にも収まらぬ。

 3まで行きそうかな。

 さすが主人公、存在感あるなあ・・・軽く済ませられない。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十八話  「なのは」3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/12 00:51
マシュー・バニングスの日常      第五十八話










 聞こえてるか分からないけど、ベッドに寝てるマシュー君に語りかける。



「勝手にアリサちゃんに連絡しちゃうからね。うふふ、アリサちゃんきっとまた泣くし怒るだろうなー。でもこれも自業自得なんだからね、

心配かけるマシュー君が悪いんだから。きっと『奥さん』も心配してるよー。」



 奥さん、って言ったのは軽い気持ち、からかうつもりで、前からたまにマシュー君とはやてちゃんの周りにいる皆は、私も含めて、二人に

「奥さんはどうした」「旦那さん今日はどこ?」とか言うことあったし。


 二人は照れながらもまんざらではないというか、もう諦めてるというか、そういうからかい混じりの問いかけにも普通に答えてたし。



 だから大したことじゃ無かったはずなのに。

 なんか私は少しだけ・・・自分で言っといて勝手に自分で落ち込んだような?

 なんで?

 別に落ち込むところなんてどこにもなかったよ?






 うん、どうせすぐに「奥さん」来るだろうし。

 そしたらマシュー君の大好きな「姉ちゃん」と「奥さん」がすぐに二人揃ってマシュー君の世話を焼き始めて・・・



 私はそれを、結局、周囲から見てる立場。





 そういうものなんだから、それで別に良いよね。







 でもなぜか。

 私はアリサちゃんにはすぐ連絡したんだけど。

 はやてちゃんにはしなかった。

 大丈夫だよきっと?

 マシュー君が連絡した・・・筈だから。

 うん、きっと、間違いなく。

 目覚めたマシュー君もそう言ってる、うん問題無い。







 うーん・・・



 ほら、マシュー君て基本的に私には意地悪じゃない。



 普通に起こせばいいのになんか夜這いみたいな雰囲気でガバーって来て起こしたり。


(あの時は驚きすぎてなんか体から力が抜けた、冗談だったから助かったんだけど・・・)


 それに私のリハビリのときのあの鬼悪魔鬼畜外道な仕打ち・・・あれ絶対面白がってたしいつか目にもの見せてやるって思ったし。


 一緒に戦った時とかも結局全部自分のペースに持ってってしかも戦後処理とかは全部、私に丸投げだったし。


(もちろん私がするのが正当なんであって医官であるマシュー君には本来権限無いんだけど何か釈然としないものが・・・)



 それなりに色々あったんだよね・・・そしていつもマシュー君は私より立場強くて私はいつもマシュー君には逆らえなくて・・・




 だから、弱ってるマシュー君って久しぶりだったから、こう、珍しく私の方が上から目線でマシュー君の世話を焼くのが・・・


 普段の復讐というか、日頃のリベンジというか、妙に楽しかったというか・・・



 でもきっとすぐにはやてちゃん来て私の役目も終わるわけだし、今、少しだけこの状況を楽しんでも、いいよね?









 なんか遅いね、奥さん。なにしてるんだろ?


 でも・・・こうしてマシュー君の近くにずっといるとかって私が入院したとき以来かな。

 あの時は本当に本当に助かった。今回少し助けた程度じゃ釣り合わないと思う。

 うん、借りを返せるうちに返しとかないとね。






 ある日、二人きりで会話してたとき、急にマシュー君が真剣な顔で私をじっと見詰めてきた。

 な、なに、そんな真面目な顔して、ちょっとドキドキしちゃうじゃない・・・

 って、ああ、助けたお礼ね、もう、そんなこと大したことじゃないのに・・・



 その後も何だか二人でいる時間が多くて・・・

 なんだかぼーっとマシュー君の横顔見てて思ったんだけど。

 近頃マシュー君、アリサちゃんに似てきた?

 そう見えるかって?

 ううん実は全然見えない。

 だったら言うな?

 だけどなんでだろ、顔立ちはともかく内面的に? そんな感じがしてきたような・・・







 バニングス姉弟は、なんといっても双子なのだから、似てないようでどこか似ている。

 外見はともかく内面的にはその傾向が特に顕著である。

 二人とも表面的には結構、人当たりが良いとは言えないタイプ。

 アリサは陽性で、プライドが高くて人を近付けないように見え。

 マシューは陰性で、ちょっと冷たくて人が近づきにくいように見えるという違いはあるが・・・

 そしてアリサは一旦、仲良くなるとむしろ過剰なほど情が熱い内面を見せ、面倒見も良くなる。

 実は、同様の事はマシューにも言える。ただアリサほど感情表現が激しくないからそう見えないだけで、一旦、仲良くなり、身内に準ずる

みたいな距離感になった相手に対しては、いつでも気を使い、さりげないフォローを常にする。


 実は似たもの姉弟。

 姉と仲良くなれる人は・・・

 弟とも仲良くなれるのだ。



 なのはは漠然とそのことを感じるようになっていた。







 なんだ、意外とマシュー君って・・・苦手じゃないのかも?

 さりげなくというか・・・微妙に優しいのかな、微妙なのが微妙なんだけど。

 でもそういうところが、はやてちゃんは好きなのかなー












 ちょっと遅れる程度だと思ってたのに。

 一日来なかった時もまだ大丈夫だろうと思ってたのに。

 ついに一週間も来なかった時、疑問に思った。




 どうしたの、はやてちゃん。

 どうするの、アリサちゃん切れてるよ、これ。

 静かな・・・穏やかな顔してるあたりがほんとヤバいよ?

 でも今回はアリサちゃん怒っても仕方ないと私も思う。

 私自身、なぜか・・・どこか、腹が立って来たような気がするくらいだもん。





 でも、はやてちゃんが真っ青で泣きそうな顔で病院に駆け込んできたのを見た時、責める気とか失せたんだけどね。

 仕事に専念して、専念し過ぎて、他の事を見失って、そして失敗する。

 はい、私にも経験あります。

 声高に責める権利とかありません。




 でもアリサちゃんは容赦なく、はやてちゃんを捕まえて・・・そのままどっか行った。

 さすがに私も心配になった。

 本気で怒るアリサちゃんは・・・本当に怖いから。私も良く知ってる。






 そのままマシュー君と一緒に、うちに帰って来て話してると・・・

 マシュー君は・・・どうも、もしかしたら全然? はやてちゃんに怒って無い?

 倒れたのも心配されるべきなのもマシュー君の方なのに、逆にマシュー君がはやてちゃんを心配して庇って・・・

 なんなの? はやてちゃんなら全部オッケー、なんでもありなの?

 ついそんなことを口に出してしまう。

 マシュー君は、そんなことはない怒る時は怒るさと言ってるものの・・・うーん、信用できないような気がするの。




 怒りながら帰ってきたアリサちゃんも同じ意見みたい。

 「あんたははやてを庇う! 黙ってろ!」ってさすがはアリサちゃんなの。

 でもマシュー君、基本的に全面服従の「姉ちゃん」相手なのに、それでもはやてちゃんを庇う。

 マシュー君にとって絶対の存在であるはずの「姉ちゃん」相手にしても、それでも、はやてちゃんを庇うんだね。




 はやてちゃんと話し合うの?

 ふーん、話し合えばまた前みたいにバカップルになるのかな。

 意外と簡単にまたそういう関係に戻りそうな気もするの。そういう仲だったしね。

 でももしかして・・・それが変わりつつあるのかな?


 お母さんとかお姉ちゃんが読んでる女性週刊誌に書いてあったの。

 仕事の環境とか変わって、あまり会えなくなると、夫婦でも関係を維持するのが難しいって。

 離婚原因ランキングとかで、性格の不一致とか金銭問題とか並ぶくらい、そういう環境の変化は大きいんだって。


 考えてみたら結局のところ、二人は夫婦では無いんだしね、正式には。

 あっさり仲直りするのと同じだけの確率で、あっさり別れちゃうってことも・・・あるのかな?

 そうしたらマシュー君はどうするんだろう。

 それでもはやてちゃんのことを思って過ごすんだろうか。

 それとも別に恋人作ったりするのかな?


 とか考えてる所に。



 いきなりアリサちゃんが「なのはがマシューの嫁になってくれれば大歓迎」とか言い出すし!

 ちょ、ちょっと待って!

 それはないよ! だってマシュー君は! はやてちゃんの・・・じゃ、なくなるかもなくなったらそしたら私が嫁っていや待って!

 いつもならもっと気軽に「それはないよ!」って言えるのに。

 なんだか言えずに黙って赤くなっちゃった。

 それを見て困り顔のマシュー君に、さらに盛り上がるお母さんたち。



 その後の食事中もずっとアリサちゃんは「なのはをマシューの嫁にするなら・・・」って話ばっかりするし。


 もう!

 はやてちゃんに怒ってるのは分かるけど!

 そこで私をあて馬にしないでほしいの!



 アリサちゃんて感情走るとこういう暴走すぐするんだから!

 大体マシュー君なんかの嫁になんて・・・そんなマシュー君が言うわけ無いし、嫁になってくれとか、うん言うわけ無いし。

 仮に言ったら? いや言うわけ無いんだけどもしもマシュー君が真剣な顔で「結婚してくれ」とか・・・



 妄想過ぎるの!

 ダメダメ! 高町なのは! 落ち着いて!


 いくら小さいころから知ってる幼馴染だからって、ほらマシュー君て意地悪だし、うん意地悪だけど微妙に優しかったりもするけど、でも

やっぱり微妙だしね微妙。私の体を一生懸命治してくれたりしたけど、それは仕事で、でも仕事にしても相当頑張ってくれてたらしいって

後から聞いたけど、でもそれとこれとは別だし、私の周りには他にもっとカッコイイ男の子とか・・・いや仕事関係の人しかいないような

気もするけど、そしてそういう仕事で会う人はみんな私の事は「凄い魔導師」扱いで敬遠気味な雰囲気あって、そういう人たちに比べたら

マシュー君て私のこと「バカ町」とか呼んで全然普通の女の子扱いしかしないような感じが居心地良いとか、ううんほらほかにそういう態度で

接する人っていったらユーノ君とかも一応、だから決してマシュー君だけ特別ってことも無いし、だいたいつまりうーんとえっと・・・


「どうしてもイヤ? 絶対にありえない?」

「そんなことはない・・・かもしれないけど・・・」


 とたんに盛り上がるお母さんたち。あれ? わたし声に出てた?


「なのはの同意も得られたし、この際一気に婚約を・・・」

「姉ちゃん、いい加減にしとけよ。」


 マシュー君が苦々しげにアリサちゃんを止めた。


 そのマシュー君の顔を見て私もなんだか冷める。



 あ、そっか。

 やっぱりマシュー君は、はやてちゃんのことが・・・

 うんそうだよね。分かってたし、分かってる・・・





 その日はマシュー君とアリサちゃんは、うちに泊って行った。

 私はアリサちゃんと同じ部屋で色々お喋り。

 いきなり私とマシュー君をくっつけようと画策し始めたアリサちゃんにしっかり怒っておく。



「いい、アリサちゃん。まわりがどうこう言っても、結局、マシュー君の気持ちが大切なんだからね。マシュー君ははやてちゃんのことが

好きなんだよ結局。アリサちゃんが怒っても反対しても、今度ばかりは言う事聞かないと思うよ、マシュー君。」

「ふうん・・・まあ、そうかもね。」


 意外とあっさり同意するアリサちゃん。拍子抜けする私。



「でもね、なのは。」


「なに?」


「あんたはどうなの?」


「はい?」



 なにをいってるのか分からない。



「あんたは好きじゃないの? マシューのこと。」


「はい?」




 一瞬頭が真っ白に。真っ白なままなんとか言葉を口から押し出す。




「・・・・・・別に・・・・・・そういうふうには、好きじゃない・・・」





 うん、そうなんだもん。

 だってマシュー君は、はやてちゃんのことが好きなんだから。

 だから私はそんな気持ち、持ってない。

 なんか理屈がおかしい気もするけど。

 とにかく違う、違うんだから。



 それを聞いたアリサちゃん。

 別に問い返しもせず。



「そう、分かったわ。うん、今日はゴメンなさい、からかったりして。はやての態度があんまり腹立ったもんでね、つい。それにマシューも

ないがしろにされてるってのに怒って無いどころか・・・はやてを庇って弁護してそれもムカついて・・・・・でもゴメンなさい、本当に。

なのはに迷惑かけたわね・・・・・・寝ましょ。」


 言うが早いがすぐ布団をかぶってしまうアリサちゃん。


 私はしばらく固まってたけど・・・のろのろと再起動して、部屋の明かりを消して・・・布団に潜った。


「マシュー君は、お友達だよ。」



 小さく呟いたその声が、アリサちゃんに聞こえたかどうかは、分からない。






 やっぱりマシュー君は苦手だよ・・・



 いつもこんなふうに・・・



 私を困らせてくれる・・・








 いつの間にか私は眠りに就いた。



















(あとがき)

 「まず意識させる」作戦をアリサが意図的に発動したのか、まだ切れてて勢いで言っただけなのかは作者も知りません。

 しかし姉ちゃん大暴れ・・・ううむ困った人だ・・・一番勝手に動く人なのです、強すぎるw

 フェイトは友達復帰しただけ、アリサは既に言いたいこと言いまくり。故に次「はやて」行きます。さあ一気に巻き返す・・・予定です。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第五十九話  「はやて」1
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/12 18:07
マシュー・バニングスの日常        第五十九話










 私くらい不幸な子供ってなかなか探してもおらへんと思う。


 物心ついたころには両親ともに死去。


 そしてなぜか誰も新たな保護者になってくれない。


 まだ幼稚園に行くかどうかって年にやで?





 お金の使い方も良く知らんかった、料理なんて最初は当然出来へんかった。

 でもほんまに生死が懸かってたからやろな、無我夢中で・・・頑張ってるうちになんとかなった。

 出来あいの惣菜買ってきて食べるだけの生活がしばらく続いた、はじめてご飯を炊いた時は研ぐのも知らんかったから不味かった。

 お風呂沸かす方法かって一人になってから何カ月も分からんかったから水風呂に我慢して入ってたり。

 掃除の必要性ってのもよく理解してへんかったからハウスダスト原因で気管支炎になったこともあったな。

 


 生きるため、ただ生きるために・・・必死になっとった。



 そんな生活の中で、きっと私は・・・あっという間に「子供」ではなくなっていった・・・



 少なくとも精神的には。



 私がほんまに「子供」やったんは、もう記憶もおぼろげな両親が生きてた時代だけ。

 そして両親の記憶で・・・ちゃんと覚えてられたのは、この言葉だけ。

 関西弁でずっと通すのはこれだけが私の覚えてる唯一の両親の思い出やから。





 一人でがむしゃらに生きるしか無くなった時はもう、私は「子供」や無かった。





 せめて施設に入れてくれたらって思ったこともあるのに、両親の知り合いだというグレアムおじさんの意向でそれも却下。

 生活費は全部、その人頼みやから言う事聞くしかなかった。

 たまに、ごくたまに通信くれるだけの人やったけど・・・でもその人だけが私にとってこの世に縁のある人やったし。

 逆らうとか考えもせんかった。





 なんとか銀行からのお金の引き出し方とか、最低限の料理、とはいってもご飯炊いたり味噌汁作ったり出来る程度やけど、まあ一応は

できるようになって、お風呂とか洗濯とか掃除とかも一通りはできるようになった頃。


 あれももう正確には・・・両親が亡くなってからどのくらい経った頃かも覚えてへんけど。なんせ必死やったし。



 ある日。

 気付いたら。

 両足が動かへんようになってるし。

 混乱しながらなんとか救急車を呼ぶ、病院に行くと・・・




 下半身不随やって。これから多分一生車椅子やて。




 そういう状況やのに、施設にも入れず専属のヘルパーさんとかもつけてもらえず。

 後で考えたらあれはどう考えてもおかしかったわな。

 病院の先生方も不審に思わへんかったんやろか。




 まあそこまでグレアムさんが・・・魔法使って思考操作とかしとったわけなんやろけど。

 もしかしたら私も、なんかされてたんかもな・・・






 車椅子に乗ってガランと広い自分の家に一人で帰って来て。

 両親の写真見て。

 泣くだけ泣いた。

 丸一日は泣き続けたと思う。

 いやもっとかも。






 でもそこで気持ち切り替えた。

 泣いとってもどうにもならん。

 確かに両親とももうおらへんし、下半身不随なってもうたし、それでも一人で生活せんとあかん。

 けど生活費は十分ある。金銭的には不自由してへん。


 グレアムさんもさすがに良心の咎めを感じたんやろな。

 一人暮らしの子供には過剰な・・・後で計算してみたら、一般的会社員の生涯年収くらいの金額を・・・

 私が援助受けてた数年間に、私の口座に振り込んでた。




 まあ、せやからって、あの人は、そうして私を飼い殺しにして、私ひとり犠牲にして「闇の書」片付けようとしとったんやし。

 感謝するって気にはなれんなあ。








 私は孤独やった。

 病院行く時が、顔なじみの先生とも話せて知り合いの患者さんたちとも話せて一番楽しいって・・・

 この年でどうなんや、ほんまに。




 病院にいって心が慰められることも多いゆうんは、正直言うとな。

 私よりも不幸そうな子とか、たまに見るねん。

 それみて安心するとかもちょっとあったかもしれへん。



 いくら純真無垢な八神はやてちゃんでも、さすがにこんだけ不幸続いとったら多少は心のどっかが黒くもなるで?

 しゃあないやん。別に悪いとは思ってへん。



 でもなあ、病院は病院やから。

 一時的に入院して、治って、そして退院ってだけの普通の人らは、まあ私に比べたら全然幸福やわな。

 孤児で原因不明の下半身不随やで、この私に不幸で勝てる人なんて病院でもめったにおらん!

 って不幸自慢してどうなんねん・・・むなしいだけや。





 ある日いつものように病院に行くと救急車が入って来て、患者が搬送されてきた。まあ良く見る風景やな。

 運ばれてるのは、骨と皮だけみたいなガリガリの子供。あんだけ痩せとると年も良く分からへんな。

 でもその子は一週間もしたら退院しとったみたいやし? やっぱ大したこと無かったな。


 最初は、そう思った。




 一カ月後。また救急車が来た。そしてまた見覚えのある痩せ細った男の子が運ばれていった。

 あれ? また来たんか。一カ月で二回? うーん結構すごいな、って思ったんやけど。

 こんときもそうとしか思わず、普通にスルーした。




 ところがそれから二週間後。私は風邪ひいて、普段の定期とは別に臨時に病院に行った。

 で、そしたらまた例の男の子が運ばれてきたんや。

 なに? 一ヵ月半で3回?

 どんだけ体弱いねん・・・

 それも見たところ毎回意識不明かい。

 うーん、ちょっと話してみたいかなって好奇心が湧いた。


 でも向こうはしばらく緊急治療とか受けてたみたいでその機会も無かったんやけど。







 それからまた二週間後の定期診断の時。


 私は馴染みの石田先生に車椅子を押してもらって病院の廊下を進んでた。


 そしたら向こうから、例の骨と皮だけの男の子が同じように車椅子に乗って看護師さんに押されてこっちに来た。


 うわー。こうして起きてるの見るのは初めてやな。しかしほんまに骨と皮やな、意外と背は私より高いか、でも体重は私より軽そう。


 腕とかほんま細い・・・でも病的な細さやから羨ましいとも思えへんけど。


 よしこれからこの子は「骨皮くん」て呼ぼう。心の中で。





 じろじろと無遠慮に、骨皮くんからしたら初対面のくせに見入ってしまったかも知れへん。

 骨皮くんもなんか不審そうにこっちを見返した。

 焦って咄嗟に視線を外す。

 そしてそのとき、手に持ってた保険証とかいろいろ入れてたポーチの中身を廊下にばらまいてしまった。

 なにやっとるねん私、アホかと。

 ボールペンが彼の車椅子の足元に転がり・・・

 骨皮くんは危なっかしい歩調で立ち上がり、それを拾って、こっちに手渡してくれた。

 ここはありがとうって言うところやのに。


「なんや、歩けたんか。」


 って私もどんだけ失礼やねん。でもほんまにそれが一番意外やったんや。歩けそうに見えへんかったしな。

 骨皮くんは私の発言に少し眉をしかめて言い返す。


「俺は少々、心臓悪いだけだ。それよりここは普通、礼を言うところちゃうんかい。」


 語尾を関西弁もどきにしとる!

 あかん!

 所詮、標準語しか喋れん人間が無理に真似した関西弁もどきくらい聞き苦しいもんは無い!

 イントネーションが全然違うんや!


「あかんで無理に関西弁の真似したら。全然ちゃうねんから。」

「さらにそうくるか。それよりだな、お前、お礼は?」

「あ、ごめんな。拾ってくれてありがとう。」

「まったく・・・くそ、ちょっとふらつく。」

「無理せんで車椅子座ったら? 歩ける言うてもまともに歩けへんのやろ、ほんまは。」

「関西人はデリカシーが無いな。っとすいませんやっぱ座ります。よっと。」

「勝手に私を関西人代表にせんといて。」

「関西人って初めて見たししょうがないだろ。」

「私は両親がそうやったってだけで・・・私自身は実際に関西住んでたこと無いし。」

「へー。そういう場合もあるわけか。」

「うん、ところで、えっとあんたって近頃結構良く見るよな、病院で。」

「そう? ふーん、近頃になってやっと良く見るって言い出すってことは・・・お前まだまだ甘いな、病院シロウトだな。」

「な!」


 これはカチンときた。私くらいの病院プロはおらへんで!


「なにを言うとるんや! 私なんてここ半年は病院に来っぱなしやで!」

「俺は生まれたときからだ。」

「え?」

「生まれた時から、今に至るまで。入院してなかったという経験がほぼ無い。家に帰るのは基本的にたまにだな。どっちが家か分からん。」



 それで年聞いてみたらなんと私と同い年やし。



「そんなに心臓悪いん?」

「なーに大したことは無い。」

「大したこと無いわけないやろ・・・」

「今年はまだ病院に担ぎこまれてきたのが・・・十回ちょっとくらいか、まだマシな方だな。」

「どんだけやねん・・・」




 私が目撃したのは、そのうちのほんの数回やったんか。

 あかん負けた。

 完敗や。

 こんだけシャレならん病状でしかも私と同い年かい。




「まあそうは言っても海鳴の病院に移って来たのは最近だから、見知って無くてもしょうがないんだけどね。」

「それをさきに言わんかい! それやったらしゃあないやんか!」

「まーな。」

「これまではどこの病院におったん?」

「あちこちだな。少しでも治せそうな可能性あったら移るってのを繰り返してんだよ。」

「ってことは、またここからもすぐ移ってまうん?」

「いや分からんわ。しばらくここに落ち着くかもって話も聞いたんだが・・・」

「ここやったら治るってこと?」


 私の考えなしな質問に、骨皮くんは、少し困ったような顔で答えた。


「さーな、それもこれもよくわからんし。」

「そうなんか。」



 ほんまにこんときの私は考えなしやった。


 実際のところは、このとき既に彼は世界中の病院を回って、そしてどこにいっても治らなかったという経験を経た後だったのだ。

 画期的な治療法などどこにいっても見つからず。

 だったらせめて姉と一緒に暮らせる環境をと・・・そういう理由でここに来たのだ。



 でもそんなこと私は良く分からへんかったし。

 なんか初対面やのに妙に話が弾む、この骨皮くんと知り合いになれたのが単純に嬉しくて。



「なあ骨皮くん!」

「待てい! 勝手な命名するな関西人!」

「私ははやて。八神はやてや! 関西人ちゃう!」

「八神ね、はいはい覚えたよ。」

「あんたは?」

「あー、俺はマシュー・バニングス。」

「はい? あんた冗談は顔だけにしぃや?」

「なんだそれは!」

「マシュー・バニングスってまるっきり外人の名前やないか!」

「本名だから仕方ないだろ!」

「ええ~・・・でもあんた髪も目も黒いし、顔立ちもそんなに彫り深くも無いし、大体エセ関西弁使えるくらい日本語ペラペラて・・・」

「姉ちゃんは日本に住んでるんだよ。」

「あ、そうか、マーくんは養子とかって、そういうことか。」

「勝手に人の名前省略すんな! ええい、俺はバニングス家に生まれた生粋の西洋人だ! 本当だってば!」

「信じられへんなあ・・・」

「双子の姉ちゃんとか天然の金髪だぞ! 大体俺の目も髪も、よーく見ろ、よーく。良く見たら黒じゃない。微妙に焦げ茶だってば。」

「お姉さんの件は置いておいて、あんたなあ、その程度に黒と少し違うくらいって純粋日本人でも、普通におるわい。」

「む・・・それはそうかもしれん・・・よしいつか姉ちゃん見せてやる、そうしたらグウの音も出ないはずだ。」

「それまではほんまに外人かは保留にしといたるわ。」

「ああーもう別に信じなくてもいいよ・・・」

「やっぱマーくんはエセ外人?」

「本物だ! あとマーくん言うな!」

「えーやんマーくん。」

「あのな。」


 マーくんが何か言おうとしたとき。


「マシュー君、そろそろ検査の時間だから。」

「あ、はい分かりました。」

「・・・ほんまにマシュー君て呼ばれとる・・・」

「しつこいねお前も。だから本名だっつうの。」

「よし、それやったら今度英語喋って見せてな!」

「知るか。じゃあな八神。」

「うん、マーくん検査頑張ってな。」

「だからマーくん言うなと・・・」






 そんな出会いやったんやけど。

 実はマーくんが外人や言うんは私はしばらく信じてへんかった、マジで。

 でもまあその後の長い付き合いで少しずつ本当らしいって納得していったけど。

 最初のうちは、そんなこと正直どうでも良かったし。


 ただ、同い年で病院で良く顔を会わせる友達が出来たいうんが、嬉しかったんやな。

 マーくんとは妙に気が合って、会話はいつも弾むし。



 それにいつもは無力で人に助けてもらうしかできへん私やったけど。

 寝込んでるマーくんは私以上に、ほんまになんもできへん。

 たまに身の回りの世話とかしてあげたりな。

 ほんまマーくんはしゃあないなあ、私が面倒みたらんとあかんのやって、思えるのが楽しくて。



 でも、姉ちゃんに紹介するってマーくんの申し出からは・・・実は微妙に逃げとった。

 マーくんには身内がちゃんとおるんやってのがやっぱどっか複雑やったんや。

 せやからお姉さんがマーくんの世話してる時は・・・マーくんの病室をスルーしたりな。



 ほんま私もアホやったなあ。

 変なこだわり持たず、もっと早いうちからアリサちゃんとも知り合いなっとけば・・・

 色々助かったことは間違い無かったのに。

 それも後になってから分かったことやけど。














(あとがき)

 改めて強調しますがこの作品には独自設定などが存在する場合があります。

 しかし両親亡くなった頃のはやてって考えれば考えるほどシャレにならん不幸さだ・・・

 二人の会話が子供っぽさに欠けるかなと正直思いましたが構成上必要なので・・・目を瞑ってください^^;



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十話    「はやて」2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2010/01/05 01:56
マシュー・バニングスの日常      第六十話









 マーくんと出会ってからは病院行くんがさらに楽しみになった。


 風呂にも入れへん状態のマーくんの体を拭いたったこともあるし。

 スプーン持つ力も無くなってる時はゆっくりとスープとか食べさせたったし。

 熱出してうなされてるときは何時間も手ぇ握ってたこともあった。


 元気な時は一緒にゲームしたり。

 面白い本があれば互いに薦めて交換して読んだり。

 ほんまに英語が喋れたマーくんに初歩の英語を教えてもらったり。

 私は学校行ってへんかったしマーくんもまともにはほとんど行けてへんから一緒に勉強したりとかもした。

 実はマーくんは相当頭良かったな・・・それまでの私は生活で必要なことだけ、がむしゃらに我流で覚えただけやったから・・・

 マーくんのおかげでかなり助かった。でもすぐに追いついたったけど。

 マーくんが90点しか取れんかった学校のテストを私がやらしてもらって軽く100点取った時は凄い悔しそうな顔しとったw



 一年に何回かマーくんは外国の病院に行ったりもした。

 その間はほんまヒマやったけどマーくんは外国から絵葉書出してくれたりした。お土産も買ってきてくれたんやけどな・・・


 ハワイの病院帰りに、現地のなんか怪しい突起物の細工品とか持って帰って来た時はしばらく口きいてやらんかった。

 見た目がおもろかった、メガテンの魔王マーラーに似てるよなとか、そんなもんを女の子に渡すなや!

 京都の病院に行った時とかわざわざ寄り道して・・・本場の信楽焼のタヌキを買ってきおった。

 ほら見ろでかいよなって、ほんまマーくんはアホなんやから!

 イギリスの病院行った時は、わざわざ不気味な英国王子蝋人形とか買ってくるし・・・見た目怖いっちゅうねん!

 全然かわいくない! なんでそんなもん選んでくるんや!

 ロサンゼルスの病院行く時は、ハリウッド関係のなんかって指定したのに。

 シ○の暗黒卿のマスクとマントなんていらんわい! 本場もんだぞ日本では売ってないとか知るか!


 はっきり言ってどこ行ってもマーくんはろくなもん買ってこんかったけど・・・

 でもそんなアホなお土産が、気付けば私の大切なコレクションになってたり・・・


 そんな日々をマーくんと一緒に、気付けば何年も過ごしてた。


 せやけど。


 私も治らへん。マーくんも治らへん。

 二人ともちょっとも治らへんなー。

 でも私は病状悪化も無かったんやけど・・・


 マーくんはこれ・・・ほんまのところは・・・いつ死んでもおかしくないんかもしれんって。


 そのうち分かるようになった。



 ほんまにどうにもならんのかなあ・・・

 いつか分からんけどきっと、マーくんは私より先に死んでまう。

 それはどうしょうもない事実で・・・

 マーくん死んだら私どうするかな・・・

 私も正直、生きてても死んでてもしょうがないような気がするねん。

 家族もおらんし、友達もせいぜいマーくんくらいしかおらへんねんもん。

 そのマーくんが死んでもうたら・・・

 私も死のうかなあ・・・とか。


 そんなこと思ったんは一瞬だけ! たった一回だけやで?!

 あれは気の迷いやったんや、いくらなんでも私そこまで思ってへんて、うん、あれはなんかの間違い!

 それは置いといて!



 いきなりマーくんが消えたのは小学3年生の時やったな。

 そうは言っても私はそのときは学校行ってへんかったけど。


 心臓発作、自律呼吸不全で植物状態。

 機械に繋がれて、かろうじて生きてるだけになってもうたマーくん。

 もう話もできへんのかな・・・死ぬのはしょうがないのかもしれんけど・・・せめてもう一回だけでも話したいなあ・・・

 そう思ってるうちにマーくん、病院移ってもうた。


 まだ治る見込みがあるから・・・病院移ったんやんな?

 うん、きっとそうや、そう信じよう。

 そう思ったけど・・・でもやっぱり私は落ち込んでた、そんなとき。




 いきなり家族が出来たんや!



 妙な本の中から出てきたとか、その本はほんまに怪しい本やったとか、そんなことどうでもええねん!

 ずっと一人で暮らしてたガランと広い家の中に、私と一緒に暮らしてくれる家族が出来た!

 それだけが本当に重要なこと。

 私はほんま嬉しかった。嬉しくって嬉しくって、しばらくマーくんの事も忘れたくらいや。



 でも、しばらくすると私の体調が・・・妙に悪くなってきた。

 そしてついに入院。

 お医者さんは気を使ってはっきり言わんかったけど、私の体や、私自身が一番良う知っとる。

 下半身だけかと思ってた麻痺が・・・上の方にも登って来たみたいやな。

 あちゃー。

 折角、家族が出来たのになあ。

 ええことばかりは続かんいうことか。


 もとから下半身の麻痺の原因も不明やったんや。

 原因不明の麻痺が上半身にも及んできたんやで?

 必死に私を治そうとするお医者さんにも、折角できた家族の皆にも悪いねんけど・・・

 これ、このままやと、まず助からんなあ。

 私には、はっきりと分かってもうた。



 ほぼ助からんって状態でベッドに一人で寝てると、いつもマーくんの事を思い出す。

 うーん、マーくんも似たような境遇やったわな。

 ほぼ助からないって分かった上で、いつも一人で寝てた。


 マーくんもそうやったんやろなあ、私もそうなんやけど。

 実はあんまり悲しいとかつらいとか思わへんねん。

 自分の体については、もう受け入れてしまって。

 それより残していく皆の事が気にかかる。

 どうなんやろ、でも守護騎士の皆は、私が消えたら一緒に消えんのか。

 なんとか私が消えても、みんなは消えへんで済む方法とか無いもんかなあ。


 ほかには会いたい人って・・・せいぜいマーくんくらいか。

 でもマーくんも生きとるのか死んどるのか・・・分からへんし。

 病院の先生に聞いたら分かるのかも知れんけど、怖くて聞けんかったんや。

 五分五分かなあ、多分。

 でももしも生きてたら・・・また会いたいなあ。


 そう思っとったら。

 前に偶然、図書館で会った月村さんって子がわざわざお見舞いに来てくれた時に。

 一緒に来た人。

 前に何度か遠くから見た。

 アリサさん?

 もしかしてアリサ・バニングスさん!?


 驚いたんでついつい、これまで怖くて聞けへんかったこと、聞いてもうた。

 でもそれに対する回答は、最高やった!

 マーくん治った?

 ほんまに!?

 今は普通に歩いてる!?

 ウソや信じられへん!

 でももしもほんまやったら?!


 生きるしか無い!

 あきらめたらあかん! 

 あんだけ絶望的やったマーくんでも治った!

 そうやきっと治るんや!



 このとき持てた希望のおかげで、そのあとも色々と・・・乗りきっていけたんちゃうかと思う。




 グレアムさんの陰謀、闇の書の闇の暴走。

 そして夢の中の理想の世界、ウソで固められた希望の世界。

 でもあれは笑ってもうたで。

 マーくん元気に走り回って私を抱き上げたりするんやもん。

 ありえへんやん。


 そもそも。

 理想通りの世界やったら、私とマーくんは出会ってへんねん。

 両親生きてて私が何の不自由もない幸福な世界やったら。

 下半身不随になって病院に行くこともなかったし、そこで年中慢性的に死にかけてるあのマーくんに会う事も無かったんや。

 大体治ったゆうても、多分まだ完全にってわけやないやろ、そんなこと言ってたし。

 まだ頼りないけど、でも少しずつでも確実に、健康になろうとしてる途中の、そんなマーくんに私はこれから会えるはずなんや。

 今の事態を乗り切ったら!


 それでも悪戦苦闘しとったとき、遠くからマーくんの声が聞こえたような気がした。

 せやけど、ここは「頑張れ」とか「愛してるぞ」とか言う所ちゃうんかい!

 「死んだら墓にタヌキって刻む」とはなにごとや! 空気読まんかい!

 あああ、でも、そんなこというってことは、あれは間違いなくマーくんや。



 気合入った!

 おっしゃあああ、片付けるでぇ!



 私は根性で何とか闇の書の闇を分離して、それを皆で一緒に吹き飛ばして。

 ついに私にも、健康になれるって希望が出来た。この闇が私の病気の原因やったからな。

 その闇が無くなった以上、多分、私の方が先に健康になりそうやな。

 ほんまマーくんはしゃあないなあ、私が面倒見たらんと。



 なんとか事件は乗り切って、悲しいことも起こったけど・・・

 それも落ち着いてしばらくしたころにやっとマーくんと再会できた。



 久しぶりに見たマーくんは、大体私の予想通り。

 やっぱりな。完全にはまだ治って無い。

 でも確かに昔に比べたら劇的に回復してる。

 いつ死んでもおかしくないみたいな雰囲気はもう無い。

 久しぶりの会話も弾む。

 でもやっぱり腕相撲は弱いな。全然勝負ならんわ。

 いつか押し倒す? できるもんやったらやってみぃ!






 それからしばらくは・・・


 想像したことも無かったくらい、楽しさに満ち溢れた日々が続いた。

 たくさん友達が出来た。学校にも行けるようになった。家族のみんなも元気や、仕事も勉強も面白い!

 私の足も治って歩けるようになった。

 マーくんも少しずつ健康になってきて今ではちょっと痩せ気味くらいで、知らん人が見たら病気とか分からんやろな。






 夢中に過ごしてた日々に・・・あの事件が起きてもうた。




 なのはちゃん大怪我?

 しもた・・・様子おかしいて私も気付いてたのに・・・

 自分の事ばっかりになってた、友達やのに止めてあげられへんかった。




 冷静なふりしとるけど、実は内心ではむっちゃ熱くなって必死になのはちゃんを治そうとするマーくん。

 付き合い長いんやからな、まるわかりやっちゅうねん。

 でもフェイトちゃんは誤解しとるかな・・・でも今はしゃあないか、それどころやないし。



 まだ完全に自分の体も治っとらんくせに、寝食削ってなのはちゃんのために頑張って・・・

 あかんでマーくん、倒れたらどうすんの?

 私もそんなマーくんが心配で頑張って手伝えることは手伝って。


 アリサちゃんと相談して、ご両親をなのはちゃんといきなり会わせたりとかもしてもうたけど。

 あれは私、間違っとったとは思っとらへんで?

 それでなのはちゃん凄い明るくなったし、マーくんもかなり楽そうになったやん。


 そうしてやっと一息ついたころに、フェイトちゃんが無神経なこと言うし・・・

 あれは切れたわ。あんなに怒ったんて記憶に無いかも。

 なんなん? マーくんがあんだけ頑張ってたの全然見てへんの? 信じられへん!



 ああー。

 でもマーくんもあかんねん。

 アリサちゃんと私くらいちゃう?

 マーくんの頑張りを・・・ほんまに分かっとったんは。

 そうか、マーくんも・・・

 なにせ長い間、病人扱いしかされてこぉへんかった。

 いつまでたっても半病人、妙に気遣って一線引いたみたいな態度で接してくる人ばかり。

 せやから・・・マーくんは・・・普通の人みたいに見てほしいんやんな?

 せやから・・・マーくんは人に弱みを見せたくないんやんな?

 そしてそういう表面だけ見て、騙されてくれる人も結構おるゆうことか。



 しかしほんまに似たもの姉弟やわ。こういうの専門用語を使うと、ツンデレ姉弟って言うべきかな。



 でもマーくんが無理とかせんと、休める場所も必要やんな。

 アリサちゃんの所がまずその一つ目の場所なのは間違いないけど。

 うん、しゃあないな、私の所を二つ目の、マーくんが本音出して休める場所にしたろ。

 ほんまにマーくんは手がかかるわなあ・・・私がおらんとあかんねんから・・・



 そういうわけで、なのはちゃんの手術後にまた倒れたアホを連行して来て、これからここで夕食摂るように言っといた。

 これまでミッドおるときはどうしてた? なに? 外食? アホか、ほんまにアホなんかマーくん。

 私が考えてメニュー作るからこれからはここに来ること! 分かったな、ちなみに異論は聞かんから。



 でもまあそうやってると、夕食後とか夜遅いし泊った方がええゆうときも結構あったんで。

 マーくんの日用品、揃えにいこか。

 食器、下着、寝巻、布団、日用品色々・・・

 なんなんシャマル・・・ニヤニヤしながら私を見て・・・

 新妻みたいねって・・・アホか!

 そんなつもり無いわ!

 その・・・今はまだ・・・



 とか言っとったんやけどな。



 うーんしかしなあ。

 あかんね。

 私らみたいな幼馴染の年頃の男女が。

 週末同棲とかしとると、うん、あかんね。

 なるようになってまうやん自然に。


 というかな、マーくんがあかんねん。

 「いつでもそばで見ててやる」とかな。

 「いざとなったら一緒に逃げてやる」とかな。

 そういうこと真顔で言うんやもん。

 マーくんて意外と女たらしの才能あるんちゃうか思たわ。


 それに肩とか平気で抱いてくるし。

 私が落ち込んでたらきゅって抱きしめるし。

 なにヴィータ?

 最初にぎゅっと抱きしめたんは、私ちゃうんかって?

 うるさいわそこは気にせんでええんや。あんときマーくん、体のことで苦しんでたししょうがないねん。

 最初にちゅーしたんも私の方からちゃうんかって?

 やかましなぁ、あれは軽くや。本格的なんを本気でしてきたんはマーくんの方からなんは確かや。


 中3の後半くらいには・・・既に、ちゅーくらいは平気でする状態になってたな・・・

 そんでな、ある晩、何か盛り上がって、抱き合いながら倒れこんで、そんでちゅーとかしてたら・・・その・・・

 なんというか普通は触ったらあかんとことかな、うん、なんというか流れで・・・

 もう、「あかん・・・あかんでマーくん、あかんて・・・」って言ってもな、やめてくれへんし・・・

 ほんまマーくんはえっちなんやから・・・


 しかし揉まれたら大きくなる言うんは、ほんまの話やったんかも・・・

 って!

 なにを言うとるんや私!


 コホン、それは置いといて。


 あ、誤解したらあかんで。

 最後まではしとらんから。

 ほんまやて! ほんまにほんま!

 私はそんなに軽い女とちゃうねんから。


 絶対にほんまに最後までは、最後ま、で、は、してへん。

 じゃあどこまでしたんかって?

 言えるかいアホ!

 とにかく子供作りはしてない言うことや。

 かろうじてそこまでしてないだけで、かなーりえっちなことを毎週しとった・・・なんて事実は無い。


 コホン、とにかく最後まではしてない、それだけでも大したもんちゃう?


 マーくんも言っとったけど、遊びちゃうねん、私らの仲は、うん。

 真剣やったらかえって、そういうのも抑制効くもんなんや。

 少なくとも私らの場合はそうやもん。


 ちゃんと最後までするとかそういうのはその・・・マーくんが地球で一人前のお医者さんになってからやな、うん。

 そしたら胸張って、みんなに祝福されて・・・



 まあ先の話やわ。

 多分そうなると・・・思う。



 せやから!



 仕事・・・片付けんとなあ・・・

 そう、仕事。

 いくつかな・・・


 どうしても

 どうしても!

 どうしても!!


 片付けへんと、あかんのが、あるねん。

 これマー君にもちゃんと言ってへんか。

 でもどうしても・・・











(あとがき)

 うーん、ちと長めかな。

 これでやっと中学卒業間際まで持って来れたか。

 やっと次で時間追いつく・・・かな?



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十一話  「はやて」3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/15 21:38
マシュー・バニングスの日常      第六十一話







 中学卒業後。



 私は仕事に時間全部使えるようになったんで思い切り仕事に打ち込んだ。



 まずは偉くならんと話にならんねん。

 階級で言えば最低でも佐官クラス。

 十代で佐官って、普通はありえへんわな。

 そこを何とかするんや!


 私は仕事仕事とそれに熱中しまくって。



 気付いたらマーくんを・・・ないがしろにしてたんか。

 将来のためにって言いながらも今を犠牲にしてた。

 それでもたまに帰って、んでマーくんに慰めてもらって・・・

 それで私の方は甘える人がいて、帰れる場所があって、それなりに満足やったんかもしれんけど。

 客観的に見たらどうやろな・・・って、問題あるにきまっとるやん、私。


 でもな。

 今は仕事したいねん。

 片付けたいことがあるねん。

 それもなるべく早く!

 早く片付けられたら!

 そしたらあとはのんびり暮らすんや。

 マーくんと一緒に・・・


 それを言い訳にして。

 また仕事に打ち込んでたら。




 マーくん倒れた。



 事故みたいなんに巻き込まれたて。

 健康状態は安定してたから大丈夫やと油断しとった。

 そうやな世の中には事故言うもんもあるんや。



 それを知ったんはニュースでやった。


 デバイス直通メールの方はな・・・事情あって使えへん状態で。

 ニュース見た時最初は何のことか全く理解できへんかったけど。

 きちんと名前を確認して、念のために複数の媒体でも確認して、間違い無いって分かってしまったとき・・・

 目の前が真っ暗になったな。血の気が引くいうんはああいうことを言うんや・・・


 これって・・・なんていうか・・・絶対にやったらあかんことを?

 おもいきりやってもうた?

 どんな言い訳しても許されへんことを?

 私は、やってもうた? 



 ニュースもな、最新のニュースをリアルタイムで受けられる環境や無かったんで・・・

 知った時に既にかなり遅くて・・・


 それから可能な限り早く駆けつけても・・・

 既にマーくん、退院するとこやった。

 よかった元気そうや・・・

 マーくんしか目に入らず、いつもみたいにギュってしようとしたら。


 アリサちゃんが割り込んできた。

 そのアリサちゃんの目ぇ見た瞬間・・・

 ああ・・・やっぱり許されへんこと、してもうたんやなって・・・

 はっきり分かった。


 マーくんはアホやから許してくれるに決まっとるんや。

 そうやマーくんはアホなんや、アホみたいに・・・私には優しいんや。

 そっか私、それに甘えてたんか、それも一方的に。



 これは・・・私が悪いなあ・・・

 ほんまに一かけらも自分を弁護できへん。

 反省して、今後はこういうこと無いようにできる?・・・かな。

 それも分からへん。

 しばらく打ち込まんと仕事の方は片付かへんねん。


 それやったらしばらく・・・どの程度のしばらくか分からんくらいの期間・・・

 私、マーくんに甘えるだけ甘えて何も返さんと、マーくんに負担かけるだけの日々が続く?

 それって・・・許されるんやろか。


 マーくんが許してくれるいうんは置いといて。

 それに甘える自分を許して・・・ええんやろか?

 アリサちゃんは・・・もちろんそんな私に都合ええ話なんて許す気は皆無やし。


 アリサちゃんが私を責める、当然やわな。

 「軽傷で済まなかったらどうするつもりだったのか?」って。

 どうもこうも・・・今回は事故やったけど・・・マーくんなら体調悪くして倒れるって可能性は常にあるわけで・・・

 そんときマーくんが私の家で一人で留守番してたら・・・近くに助けられる人が一人もおらんかったら・・・

 そしてマーくんが私の家で一人苦しみながら万が一・・・とか。

 考えただけでゾっとする。


 それやのに。

 ここ何年かは倒れたこと無かったから。

 それに、近頃は体調良かったし。

 何よりも、帰った時マーくんいてくれればすぐに甘えられて私には・・・すごく都合良かったし。

 せやからそういう状態のままに・・・しとったんやな私は。


 最悪や。

 言い訳の余地が無い。

 アリサちゃんになんて答えたらええんか全然分からへん。


 二度とこんなことが無いように・・・できへんから。

 「状況を改善する気はあるのか?」

 そうやなアリサちゃん、そこが問題なんや。


 私には、その気が、実は・・・・・・無いんか。

 仕事もしたいねん。

 でもそれやったら当然、アリサちゃんは・・・別れろって・・・言うやろ・・・

 でも私マーくんと離れたくないねん・・・

 でも仕事も片付けへんと・・・


 どっちを優先したらええんか心の中で結論が出てない。

 両方とも私にとってすごく重要で。

 そしてその二つが・・・矛盾する可能性とか・・・考えへんようにしてきて・・・

 実際に近頃矛盾してきて・・・負担をマーくんに押し付けてた現実から・・・目を逸らしてて・・・


 どうしたらええんか、なんて答えたらええんか分からんままにしばらく黙ってたんやけど。


 そこに連絡が。実は途中で仕事置いてきたんやけどその仕事に動きが、今いかんと間に合わん!


 でも・・・

 それを無視したらどうなったか。

 この仕事については失敗するやろな。準備して見計らって罠を張って向こうがかかるのを待つだけって状態にしとったんやけど、向こうも

用心深くてなかなか動かへんかったのがやっと動いた、この機会を逃せばきっと今回の仕事は失敗に終わる。

 でもそうなったらどうなんやと、取り返しがつかんのかと言えば違うわな、結局のところ、私の昇進が少し遅れる程度やわ。

 今、マーくんの命に関わる真剣な話をしとるのに・・・それより重要なことがあるんか!って。

 アリサちゃんはきっとそう思っとるやろし・・・


 せやから。

 その呼び出しに従って私が仕事に出たんは・・・

 逃げや。


 逃げたんや。

 どんなに言い訳しても変わらへん。

 アリサちゃんの責める視線に耐えられへんで逃げたんや。


 私は仕事を冷静にてきぱきと効率よく片付けた。

 あんなにうまく仕事かたしたことなんて無いくらい巧みに。

 私って逆境になると頭冴えるみたいやな。仕事関係については・・・


 でもそうしながらも心の中では分かっとった。


 最悪の上に、さらに最悪やな。

 これでアリサちゃん、完全に敵に回した。

 その原因は私が逃げたから。

 話にならんわ。

 一方的に私が悪い。

 マーくんにとって「姉ちゃん」がどんだけ大きい存在かなんて分かり切っとる。

 その「姉ちゃん」に完全に嫌われるような真似して・・・私は何やっとるんや?


 あかんわ。

 マーくんが倒れたって知った瞬間から、私は・・・無茶苦茶混乱しとる。

 ただ混乱して、ひたすら悲しくて、でも無事な姿をみて安心して、でも罪悪感で一杯で・・・



 こういうふうに混乱したとき。

 私はいつもマーくんに抱き締められて。

 ナデナデってしてもらって。

 そんで安心して。

 大丈夫や、私の事をこうして無条件で認めてくれる人がおるんやって思えて。


 でも今はマーくんに頼るわけにはいかへん。

 あ。

 それナシってことにされたら。


 どうしよう。

 今度の大失敗で、今後はそれナシってことにされたら。

 あかん怖い。

 むっちゃ怖い。




 どうしたらええんやろ。

 全然分からへん。分からへん?

 それはウソやな。


 答えとか分かりきっとるわなあ・・・


 私が、私の事しか考えへんと、マーくんに甘えてたのが悪かったんやから。

 今私のするべきことは反省して、今度は、今度こそは、本当にマーくんの事を考えて行動すること。

 マーくんの体の事を考えれば・・・今みたいなペースで仕事仕事では・・・また今回みたいなことが繰り返される可能性が・・・

 でも仕事は、なるべく早く片付けたいしそのためには出来ればもっと仕事に打ち込みたいくらいで・・・


 私が見てるのはどうしても無理なんやったら・・・家で留守番してもらうんは、いざというときマーくん一人やから危険やし・・・

 騎士たちのうち誰かに家にいつも残って貰うようにとか・・・あかんそれも難しいねん現状・・・

 マーくんのためには・・・ミッドにおるときは・・・誰もおらん私の家やなくて、人の多い病院寮とかにいてもらったほうが・・・

 いやそれやったら専属の看護人とか雇って家にいてもらってマーくんの事を注意しといてもらえば・・・

 でも結局、私がほとんど家に帰らへんっていうのは変わらへんのやったらそもそも結局マーくんに留守番してもらってるのと同じ?



 体の事だけ考えるんやったら看護人雇うとか手はあるかもしれん。

 問題の本質は・・・そことちゃうんとちゃうか?

 つまり私が、どちらを優先するんか。

 結局仕事を優先して、家にマーくん放置しとくんか。そうして都合のよい時だけ帰って甘えようっていうんか。

 そんな甘えを許さず、思い切って距離を置いて・・・仕事に専念するって覚悟決めるんか。

 どうしたらええんやろ。

 なにが正解なんやろ。

 あかん全然わからへん。



 千々に乱れる心とは裏腹に、私の頭と手は正確に素早く動いて書類をチェックしとった。

 残してた仕事が片付いたのは二日後。

 予定してたより早く終わった。


 それまで公用の通信端末しか使えへん状態やったんやけど。

 やっと私用のデバイス通信が許可されて。

 見てみるとまず8日前。

 マーくんから救援を求めるメールが来てたことを今になってやっと知る。

 見た瞬間また血の気が引いたわ。


 そうか私はこのメールを・・・完全に無視したと、そう思われても仕方ない状況なわけやな。

 思ってたよりも・・・事態は悪い。

 これっていくらなんでもマーくんも怒っとるんちゃう? 見殺しに・・・したようなもんやもん。



 さらに二日前、私がアリサちゃんから逃げ出した直後くらいの日時で。

 マーくんから、ちゃんと話し合う時間を作ってくれってメール来てた。

 そうやな、そうせんとあかんわな。


 今度はマーくんとの話し合いを優先する。

 でもなんとか時間を空けられたんは、やっと三日後のスケジュール。

 それも相当無理やりやったけど・・・しょうがない。


 今度こそ色々と・・・はっきりさせんとあかんのやろな。

 これまでみたいになんとなくでは済まされへん。






 話し合いの当日が来た。



 マーくんが来る前に。

 一人で部屋に籠もって。

 改めて考えを整理する。




「八神はやて。あんたは仕事を辞められるんか?」


 自分に訊いてみる。答えはすぐに出る。


「無理や。辞められへん。」


 さらに私は自問自答を繰り返す。


「せめて減らして・・・彼のための時間を増やすとかできへんのか?」


 今度は少し考えた、けど答えは決まっとる。


「それも無理。」


 せやな。ということは。


「つまり、彼か仕事かって問題で、仕事をとるゆうことか。」


 そういうことになるな。


「それでええんか?」


 ええんや。しゃあないやんか。

 ・・・・・・簡単に言うなあ、私。それやったら考えてみ?


「彼が・・・例えば、なのはちゃんをぎゅっと抱きしめて・・・キスとかして・・・」


 言いながら言葉が震えてきた。


「そしてなのはちゃんがマーくんに甘えて・・・優しくされて・・・」


 あかん。


「あかん! そんなん許さへん! あかんあかんそんなんイヤや!」


 しばらく・・・ぜいぜいと乱れた息を整えんとあかんくなった。

 彼が誰か他の女の子に、私にしてたみたいに優しくするとか・・・考えただけで、許せへん。


「それやったら彼を優先するしか無いんちゃう? この際、仕事は適当に諦めようや・・・大丈夫、私ら二人なら絶対幸せになれる。」


 小さいころからずっと一緒に苦しみを支え合いながらも・・・それなりに毎日楽しく過ごしてきた私ら二人なら・・・きっと幸せになれる。


「せやから、仕事は、諦めよう。」


 って言ってみる。ところが。


「それは無理や。仕事はせんとあかん。」


 なんで?


「仕事して、ある程度は偉くなって、色んな権限を得て・・・そうやないと・・・」


 そうや。そうせんことには・・・私は・・・仕事を・・・


「辞めるわけにはいかへん。」


 凄く静かな声で・・・私はそう断言した。

 ギリギリのところに来てもうたな。

 これまで誤魔化してきたことが。

 はっきりとしてしまった。



 もちろん「どっちも」がベストや。

 けどそれは理想論。

 実現は不可能、か。

 不可能やのに無理押しして、最悪にも・・・

 マーくんに負担押し付けるような真似をしとったわけや。

 やっぱり結論は決まっとる。



 私は、仕事を、とる。とるしかないんや。



 そう腹を据えると。

 実は考えたくなかったから頭に浮かばへんかっただけの事実を・・・思い出してしまう。


「単に仕事優先にするからマーくんのための時間が取れへんってだけやない。これから私は仕事の関係で・・・きっと危険な所にも踏み込む

必要とか出てくる、そういうときマーくんがそばにおったら最悪・・・巻き込むかもしれへん。それで万が一のことでもあったらどうするん?

アリサちゃんになんて言い訳するん? ただでも何の世話もせんと一方的に甘えて負担かけて、さらに危険に巻き込むとかなったら・・・

ほんまに・・・どうしょうもないで?」


 それやったらもっと早くに離れるべきやったん違うん?


「それは今更言ってもしゃあないな。アリサちゃんやないけど問題は『これから』や。大体、私、ほんまに昔は・・・少なくとも中学生に

なったばかりくらいのころは・・・マーくんと・・・こんなふうになるなんて・・・思ってへんかったんやもん。気付いたらもう手遅れで、

一度そうなったらもう離れるなんてイヤになって・・・せやからなんとか両立せんかなって思ってたけど・・・」


 もともと私ら二人は・・・距離が近かった。子供のころから本当に身を接して支え合うみたいにして生きてきた。病院で介護されながら

入浴するマーくんの髪を洗ってあげたこととかあるし。ベッドから降りて歩こうとしてふらついて私の方に倒れてきたんで腕の力だけで、

マーくんを支えて膝の上にどっこいしょって抱き抱えたこともある(そのくらい軽かった)、マーくんはむっちゃ嫌がったけど・・・私が

足、治ってからはマーくんが疲れてるときとか寄り添って文字通り支えるくらいは日常茶飯事やったし、せやから中学入った後、週末に

一緒に暮らすくらい私らは両方とも全然心理的に抵抗なかったし、一回ぎゅっと抱き締め合うとかしたらすぐにその距離が平気になったし、

一回ちゅーとかすると・・・またそれもすぐ平気になって・・・

 互いになんも特別なこととか言わへんでも・・・一緒にいるのが当然で自然で・・・身を接しても触れてもそれも当たり前みたいな感じで。


 そのままなにも無ければ私ら二人は・・・そのうち「そろそろ一応ちゃんとしとこうぜ」「せやなーじゃあ適当に明日にでも書類を」とか

そんな感じで普通の日常の延長みたいに・・・一緒になってたと思うねんけど・・・



 仕事。

 仕事!

 仕事か・・・



 順番で言ったらどっちが先ってことも無いなあ。

 つまり仕事に私が、のめり込んでいく過程と。

 私とマーくんが距離をどんどん縮めていく過程が。

 時期的にはほぼ同じくらいやったんかな。


 途中までは両立できてたと思うんやけど。

 ここまでくると・・・

 もう無理か。


 ほんまにマーくんの事、思うんやったら・・・マーくんとは、距離を置く、しかないな。

 いや、ハンパに距離を置こうとかしても逆効果になるかもしれへんし。

 思い切って突き離す・・・しかないか。


 マーくんを突き離すって言うんは具体的には・・・つまり・・・その・・・

 いわば・・・いってみれば・・・世間一般で言うところの・・・

 「別れる」ってこと?


 「わかれる」?


 はい?

 ずっと一緒やったマーくんと別れる?

 なんでそんなこと思えるん? そんなことできるわけないやん!


 立ち上がって部屋に備え付けてある姿見の前に立って、鏡の中の自分を睨みつける。


「なんで!? もうマーくんにぎゅってしてもらえへんようになるかもしれんねんで?!

 マーくんが他の女の子の所に行ってまうかも知れへんねんで?!

 それやのになんで・・・なんで・・・そんなんイヤや・・・イヤやぁ・・・」


 言いながらも・・・涙があふれてきて・・・力が抜けて膝をつき・・・鏡の中の泣いてる自分の顔を呆然と見てたけど。

 みっともない自分の顔を見てられへんようになって、いつの間にか目を瞑って下を向いてた。


 私にとって最悪やった時期・・・両親共に死んで下半身不随になって一人で泣いた日を思い出した。

 泣くだけ泣いたなあ・・・あの時も。

 でも泣いた後で、泣いててもどうにもならんって腹を据えて。

 あの日から私は一人で戦い続けてきた。


 そうやな、泣いててもどうにもならんのや。

 大丈夫や、今の私は一人やない、家族もおるし、きっと大丈夫。

 これはどうしょうもない。どうにもならん。


 今日はマーくんを突き離す日。今日はマーくんと・・・お別れする日。そうせんとあかんのや。腹が決まった。


「そうと決まったら、うん、普通に話してても難しいな・・・嫌われるつもりで行くしかないか。」


 マーくんを傷つけるようなことを言おう。

 マーくんが言われたくないことを言おう。

 マーくんが後で泣くかもしれんくらいのことを言おう。

 マーくんの事は良く知っとる。マーくんがマジ切れするくらいにまで持っていこう。


「ふ、うふふ・・・わたし・・・最悪やなぁ・・・」


 鏡の中の私は歪んだ泣き笑いの・・・変な顔してた。

 涙は途切れた、さらに目の周りを拭く。

 軽く化粧して、涙の跡とか絶対分からんようにしとかんとな。



 泣いたらあかんで、八神はやて。マーくんの前では。

 泣いたら優しいマーくんはまた私を抱きしめて私の決意を一瞬でぐらぐらにしてまうし。

 とにかく冷たく・・・突き離す、そう決めた。









(あとがき)

 足が治ってからは、公私ともに順風満帆、一切挫折も失敗もナシ、それが八神はやてでした。

 初めての大失敗。ものすっごく後ろ向きになってます。別れるしか無いんだと思いつめてます。

 それにマシューがどう対応するか。やっと今度こそは本当に「VS八神」を始められそうだ・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十二話  VS.八神!
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/17 21:01
マシュー・バニングスの日常       第六十二話











d-mail
to h.yagami@mid.xxxxxx
from matthew.bunnings@mid.xxxxxx


【日時はいつでも良いから、半日くらい落ち着いて話せる時間を取ってくれ。いくらなんでもこのままじゃ色々と無理だ。言いたかないが

姉ちゃんマジ怒ってるし。俺も事情を聞きたい、もちろん話せる範囲で良いから。とにかくそちらの都合の良い時にあわせるから、繰り返しに

なるが半日くらい落ち着いて話せる時間を作って、決まったら連絡してくれ。待ってる。マシュー】




 八神に送ったメールが返って来たのはそれから二日後だった。

 二日も経ってやっと返って来たとか姉ちゃんに知られるとまずいので隠す。

 しかも指定された日時がそれからさらに三日後だったし。

 しかしこれはあいつが本気で時間空けたってことだろ。忙しいししょうがないじゃん。

 俺は本当のところ最悪何週間待ちとかも想定してたし、むしろ予想より遥かに迅速だと感じたのだが。

 だが、んなこと不機嫌な姉ちゃんに言ったところで通じないし。





 それに俺も会う前に、何を話すべきなのか、俺はどうしたいのか、考えを整理しておかないといけなかったから。

 多少時間が空いたのはむしろ歓迎だった。


 自分の心を見つめ直す。

 まず俺は今回の件・・・怒ってるか?

 いや、今になって怒りだすなら最初から怒ってるな。

 ここ半年、仕事仕事で俺はほぼ留守番状態。まともに会えない状態が続いてた、そういう状態になったとこで怒ってるだろ普通。

 じゃあなんでそういう状態なのに怒って無いんだ?


 好きだから?

 いや、それとこれとは別でね?

 高町にも言われたけど、「八神だったらなにしても怒らないのか」って。うん、それは違う。

 俺はもちろんあいつの事は好きであり、将来は嫁にする予定であるが。

 だからって何しても怒らないとか、それではだめだろ。

 例えば俺と姉ちゃんだと今回の件でもそうだがそれ以外にも昔から・・・結構ケンカはしている。

 まあ姉ちゃん気が短いからな・・・・

 でもケンカして互いに言いたいことを言い合って、そして結局は互いに理解して歩み寄って仲直りもできるわけで。


 そう考えると、実は俺と八神の場合は・・・

 互いに「相手が分かってくれてる」って勝手に確信して、話し合わないままなんとなく・・・過ごしてきた傾向があるな、やっぱ。

 んでちょっと問題が起こったら・・・俺と姉ちゃんの場合のようにケンカして怒鳴り合って話し合って解決するんでなくて・・・

 ううむ・・・なんといいますか・・・抱き合ったりキスしたり・・・その、つまりイチャイチャラブラブと甘い雰囲気に逃げて・・・

 そんで何事も曖昧にしてきた傾向が・・・あるかな、俺と八神だと・・・


 そうか。

 俺と八神って。

 本気でケンカした経験が・・・もしかして・・・ない?

 これはこれで問題あるような気がかなりする。

 八神が何らかの理由で機嫌を悪くする → 俺が抱きしめてキスとかして誤魔化す → ほんまマーくんは・・・とかなんとか八神が言う。

→ いつの間にかそれもこれも曖昧に・・・このパターンで済ませてきたのか俺たち。


 やっぱりそれじゃあダメだ、近頃それで済まなくなってきた。そういうことか。


 俺は残念ながら体が弱い。まだきちんと治ってはいない。

 だから遠いミッドに行くにあたって、姉ちゃんが俺の体の事を心配するのは当然で、俺は姉ちゃんに心配かけてはいかん。

 八神家に泊まればそのへん安心だと姉ちゃんも思ってた、だが、近頃は事情が変わって来た。

 八神は忙し過ぎて、俺の事見てる暇とか、ほぼ無い。


 俺としてはどう思ってるんだ?

 八神が忙し過ぎることについて。まともに会えないことについて。


 八神には八神の考えがあるんだ。

 確かに八神はそれを俺に説明していない。

 説明しないまま分かってくれてるはずと考えてる可能性も高い。

 そしてそのままの状態で、たまに帰って来ては俺に甘えて元気を回復して、また仕事と。

 客観的に見て、問題ありの状況であることは俺も認める。


 八神の考え。

 八神の事情。

 八神があんなに仕事しまくる理由。

 説明されてない。

 そして八神は多分「俺なら分かってくれてる」と勝手に思ってる。


 だが。

 いや、多分だけどさ?

 本当のところは本当に・・・

 俺、分かってると思うぜ?

 いや推測だけどさ。


 つまり俺も、「八神は俺が分かってくれてると期待してるだろうが、その期待通りに何も言われなくても分かってる」自信があるんだな。

 だから言われなくても平気だったというか・・・

 しかしもちろんそれも俺の勝手な推測から来る自信。

 この状態のままで、俺たち二人についてなら、なんとなく関係維持できそうな気がしないでもない。

 二人とも互いに「言わなくても分かってる」って誤解かも知れないが思ったまま、それで何とかなるかもと思う。

 世の中の夫婦だって腹の中のことを一から十まで説明しあってるわけじゃないだろ?

 そう言う感じの・・・なんつーか習慣的な曖昧な信頼感を・・・互いに抱ける相手なんて滅多にいないと思うぜ?

 俺は情熱的な人間では無いので、あんま激しい恋情とか信じられない方で・・・俺と八神みたいにそういう日常的な信頼感を互いに持ってる

相手をこそ特別な人間では無いのかと・・・思うんだよな。恋愛の相手じゃなくて、結婚の相手って感じで。


 しかし・・・

 世界に俺たち二人だけってわけじゃあない。

 それで納得しない人がいるわけだな、筆頭が姉ちゃん。




 真面目に将来の事を考える場合。


 俺と八神の仲は、万人に認められて、祝福されるもので無くては困る。

 特に俺にとっての身内筆頭、生まれた時から姉ちゃんで、姉ちゃんである以上当然死ぬまで姉ちゃんである姉ちゃんとの関係は・・・

 現実問題、無視などできるわけもなく。

 いや、俺は姉ちゃんにこそ認めてほしいし、祝福してほしい、そしてそのためには納得してもらわなくてはいけない。


 今回の件で、今の俺と八神の状態については姉ちゃんは到底納得できないと明確になった。

 そのことは八神も思い知ったはず。

 だから、二人だけに通用する曖昧な信頼・・・のままで流すのは、もう無理だ。


 言わずもがなな気もするんだが、でもやはり、ちゃんと聞かんといかんわな。

 八神が頑張って仕事する、その理由。

 大体予想はつくのだが、仮に予想外の理由があったとしても、俺は大抵、受け入れられると思う。

 そして一度説明をちゃんと受ければ、俺は姉ちゃんに「説明されたし納得した」と胸張って言える。


 ・・・そうか。

 俺は。

 まず第一に「八神との関係を維持したい」って思ってるんだな。

 そのために、他の事は大抵受け入れよう、なんとかしようと思ってる。


 八神ならなんでもあり、だとは思って無いよ?

 でも、仕事の事情とか全部説明されないから、だから八神を嫌いになるか?って言ったらそれも違うだろ。

 どんな仕事をしてるのかとか一から十まで説明されないと納得できないか?

 現実問題、俺のしてる病院の仕事だって、患者さんの個人情報とか「身内にも話してはダメ」な情報って多々あるぜ?

 仕事上で、八神には話せないこと、話さないこと、多々あるさ。

 同様に八神にも、俺には話せない、話さないことが多々ある、それが当然、問題無い。


 俺は、ガキの頃から知ってる、小生意気で勝気で明るくて面倒見が良い関西弁の小柄な頑張り屋の仔狸が好きなんであって。

 仕事が多少忙しくて、近頃はちょっと会えることが少ないとか、その程度の事は・・・正直、あんま大きな問題では無いと思ってる。

 そのうちなんとかなんでね?


 ああ・・・でも問題はそこか。

 「そのうち」なら、なんとかなるかもしれんが。

 「いまは」問題あるって事実は消せないな。


 俺の推測する、八神の仕事する「理由」が、まあ大体当たってるとすると・・・

 八神が仕事辞めるわけもなく、恐らく減らすのも不可。

 多分、いや確実に・・・「まだ足りない」、だから「まだ頑張る」って以外の答えは無いだろな。

 そうなるとどのくらいの期間、現状のほとんど会えない状態が続くのか不明。

 しかしだな・・・それならそれで・・・


 「今はそうする、これは仕方ない、受け入れてほしい、でも別れたくない」って正面から姉ちゃんにぶつけるしか無いな。

 もちろん姉ちゃんの答えは「ふざけんな」ってもんになるだろが。

 うーむ・・・


 よし決めた。

 ここは譲らん。

 相手が姉ちゃんでもだ。


 俺の体のことだけ問題にするんだったら遺憾だが、八神たちが家にいないときは、病院寮に泊まるって体制は受け入れるしかないだろが。

 病院寮なら人が多いし安心だからな。

 でも八神が週末帰ってこれるときは連絡貰って八神の家に泊まって、これまで通りの関係を続ければ良い。


 俺たちの仲は・・・たまに会うって程度でも維持できると俺は思う。

 八神もそう思ってくれるはずだ。

 うん、八神にはそう言おう。




☆     ☆     ☆




 さて当日昼過ぎ、俺は話の組み立て方を考えながらミッドに向かった。

 今日は午後一杯と、夕方後も空けてあるそうだ。八神の仕事は明日の朝から。

 今日ばかりは臨時の仕事も一切受けない、通信を切ると約束してる。



 八神家に上がると・・・



 堅い表情の八神が俺を出迎えてくれた。


「よっ。ただいま。」


 あえて気軽な口調で挨拶するのだが、八神は。


「・・・久しぶり。」


 って堅い口調で返すのみ。少し腹立った。



 そのまま八神は廊下を通ってリビングに俺を先導しようとするのだがその前に。


「おい八神。」


 あえて廊下に立ち止まり少しきつい口調で声をかける。


 言われた八神は一瞬ビクっとしたような気がしたが、すぐ平静に戻り。


「話は、リビングで座って落ち着いてしよ。」


 と言うのだが。


「その前に一つだけ訊いておきたいんだが。」

「なに?」

「悪かったと、思ってるのか?」

「その話も・・・座ってから・・・」

「俺が何よりも最初に謝罪しろって言ったらどうする?」

「・・・マーくんがそう言うんも当然か、分かった、」



 言いながら振り向いて謝罪しようとする八神。

 を、捕まえて。

 抱きしめて。

 壁に押しつけながら。

 思い切りキスしてやった。



 驚いて無抵抗のまましばらくキスされてた八神は。

 正気に戻ると何とか俺を振り払い逃げようとするのだが。

 既に両腕ごと抱き締められて上から体重をかけられながら壁に押し付けられてるし逃げられん。

 かろうじて息継ぎで唇が離れた、その後に、もう一度キスされないように顔を背けるのが限界。


 そして泣きそうな顔、泣きそうな口調で。


「なに・・・すんの、あかんて・・・今日はきちんと話をせんと・・・」

「謝罪。」

「え?」

「謝罪を言葉じゃなくて、現物支給で貰っただけだ。だから気にするな。」

「なにそれ・・・」

「俺に謝らなくちゃダメだって思ってただろ?」

「それは、そうやけど・・・」

「じゃあ黙ってキスされてろ。」

「そんなん・・・あかん・・・」

「黙ってろ。」


 もう一度深くキス。

 そのまましばらく・・・キスし続けてた、下手したら十分以上。

 しかし八神の様子がおかしい。

 泣いてる。

 瞳から涙がポロポロと零れ続けて、止まらない。


 それに・・・なんだかすごく・・・悲しそうで。


「どうした? 八神。」


 って訊くしかなかった。


「どうしたって・・・ほんま・・・どの口で言うねん・・・」

「誤解するなよ? 今日はこんなふうにして全部うやむやにしようとか思って無い。ちゃんと話し合いに来た。」

「それやったら・・・」

「それはそれとしてやっぱり久しぶりなのは事実。前に会った時お前泣きそうだったろが。」

「今は・・・泣いとるで・・・マーくんに泣かされとる・・・」

「あんときゴメンな、姉ちゃんの言う事に咄嗟に従っちまった。かなりきついこと言われたんじゃないか?」

「でも、それは当然やから。」

「いやそれでも俺は後悔した。優先順位を間違えたんだ。」

「どういうこと?」

「今回は、姉ちゃんと喧嘩してでもって決意で来た。お前を優先順位、一番にする、腹が据わった。」

「そんなん・・・」


 八神は俺の胸にギュッとしがみつき・・・しばらく震えていた。

 俺はそんな八神の背中を撫でて・・・


 しかしいつしか八神は泣きやみ・・・


 今度は俺が不意を突かれた。


 捕まえる力が緩んだ一瞬、するっと八神は俺の腕から逃げ出して、身を離す。


「八神。」


 言いながら肩に手をかけようとするのだが。


「お化粧、思い切り崩れた。」

「ん?」


 意外な反論に咄嗟に言葉が出ない。


「久しぶりやし気合入れてたのに・・・もう、どうしてくれるねん。」

「あー・・・すまん。」


 化粧とかそういう女性特有の話を障壁にされると正直戸惑う、分からんからな・・・


「化粧直してくる。リビングで待ってて。」

「いや、別に俺は構わないんだが。」

「私が構うんや! ほんまマーくんは女心分かっとらんなあ。」

「そうですか・・・分かったよ待ってる。」

「ん、そんなに長くは待たせへんから。」


 なんか力無いさっきまでの口調じゃなくて、前の通りのちょっと強気な俺の聞き慣れたいつもの口調に戻ってたし。

 これなら大丈夫かなと、俺は言われた通りリビングに。


 そこには守護騎士たちとリインが揃っていた。全員難しい顔してる。

 俺がリビングに入ると全員一斉に立ち上がる。


 皆を代表してか、シグナムが一歩前に出て俺の方に。


「マシュー。」

「おう、久しぶり。」

「・・・すまなかった。」

「なに気にするな。事情あったんだろ。」

「まず、主が事情説明なさった後に、我々からも正式に謝罪させてもらう、が、その前に言っておきたい。本当に済まなかった。」


 シグナムの言葉にあわせ、皆も口々に謝罪しながら頭を下げる。


「はいはい分かったから。気にするなって。」

「そういうわけにはいかん。主はともかく我々は・・・」

「シグナム。」


 意外と早く戻って来た八神がシグナムを止める。


「事情を説明するのは私やから。」

「はっ! 申し訳ありません。」


 そして全員が卓に就く。

 いつもの俺の席は八神と並んでキッチン側なんだが・・・

 今日は八神はそのいつもの席をあえて外して、俺と向かい合う位置に座った。

 まあ仕方ないか、今のところは。

 まずは話をしないといけないからな。


 さて、では、話し合いますか。




 長い一日になりそうだ。







☆     ☆     ☆





 いつものように玄関を自分の鍵で開けて入って来たマーくんは、顔色もいいし普通に元気そう。

 表情も真剣やけど・・・そんなに緊張もしてないみたいな、自然体やな・・・

 ほんまいざとなるとずぶとい言うか根性すわっとる言うか・・・私なんて無茶苦茶緊張しとるのに。


 そんでマーくんをリビングに案内しようとした。

 まず私が説明して、皆と一緒にちゃんと謝って、その後は二人で話さんとあかんやろけど、とか考えてると。


 いきなりマーくんが、怒ったみたいな堅い・・・冷たい口調で私を呼びとめた。

 一瞬私は体が固まる。

 ああ・・・やっぱり私、甘え過ぎてたんや。

 やっぱりマーくんも私に怒ってたんや。そう思った。


 まず謝れ、か。当然やな、マーくん。


 必死に体が震えるのを抑えながら謝ろうとして振り返ると。

 なんか何が起こったんかよくわからんうちに・・・

 抱き締められてキスされてた。


 マーくんにぎゅっとされてキスされてると。

 一瞬、なにもかもどうでもよくなって。

 もうこのまま誤魔化されてしまおうかなって気になって。


 今ではこういう体勢なら・・・私くらいなら抑え込んでしまえるくらいに成長したマーくんの腕に抱き締められてると・・・

 ああ、あかん。

 やっぱり離したくない!って気持ちが・・・


 なにが「謝罪を現物支給で」やねん。

 「謝る気持ちがあるならキスされてろ」って・・・ずるいやんマーくん。

 それやったら私は黙ってされてる以外の選択肢が・・・


 やっぱりな。

 なんややっぱりマーくんは私の事・・・許してるな、最初から。

 騙されたわ・・・わざと冷たい声出して驚かせて・・・


 ほんまマーくんはアホや・・・アホみたいに私に甘い、優しい・・・

 でも今日はそんなマーくんと、お別れせんとあかん日なんや。

 こうしてぎゅってしてくれる腕も、これからは無くなるんや。


 そう思ったら涙が止まらへんようになって。

 さすがに不審に思ったらしいマーくんがキスやめるんやけど。

 そんで、力が入らへん腕になんとか力を込めて突き離そうとしたら・・・


「お前を、優先順位で一番にする、姉ちゃんよりも。」って・・・

 ちょっと待って、このタイミングで言われたら、そんなんまたせっかくの決心がぐらつくやん。

 その言葉があんまり嬉しくてしばらくマーくんにしがみついてもうた。


 いつもみたいに私の背中を優しく撫でてくれるマーくん。

 あああ・・・なんで私は・・・この暖かい場所を・・・捨てようとか思えたんやろ?

 もうマーくんがこういうふうにぎゅっとしてくれへんとか・・・ありえへんやん・・・


 ほんまにマーくんは私に優しい・・・甘い・・・やっぱり好きや・・・

 そうや好きやから。


 せやから・・・あかんねん。


 どうせな、多分一回くらいはこういう状態になって・・・決意が揺らぐやろうとか・・・想定内や。


 今度は間違えたらあかんねん。

 私も優先順位を、間違えたらあかん。

 前と同じ失敗を・・・したらあかん。


 凄い精神力が要ったけど・・・

 私は一瞬マーくんの腕が緩んだすきにさっと逃げ出す。

 そのまま化粧を口実に一回、マーくんから距離を置く。


 部屋に一時退避。

 思ってたより・・・きっついなあ・・・

 鏡の中の泣き笑いな私。

 これからマーくんと、お別れせんとあかんのやって決意を思い出したら。

 泣き笑いどころかなんというか・・・すんごい・・・絶望的な顔になっとるな私。


 具体的に思い出したんが痛かったな。

 ああやってぎゅってされる感触とか、体温とか、匂いとかな・・・

 思い出さへんかったらなんとかなったかもしれんのに。

 一回、思い出してしまうとな・・・


「それやったら仕事辞める?・・・・・・無理や。」


 再び自問自答、決意を呼び起こす。そうなんや、無理やから、せやから諦めんとあかんねん。

 あの感触を、諦めんとあかんねん。


 手早く化粧を直す。

 リビングに戻るとシグナムがちょっと喋りかけてたんで、取りあえずとめて・・・

 さあ、話そか。



 長い一日になりそうやな。











☆     ☆     ☆





<蛇足・・・・・・本編の真剣な雰囲気を壊したくない人は読まないでね>




「第一ラウンド終了。このラウンドは「関係維持派」のマシューの奇襲が見事に決まり「お別れ派」のはやてはガードで手一杯でしたね。」

「しかしはやてのディフェンスも堅い、決まるかと思ったが耐えて逃げ切るとは。だがこのラウンドはマシューがポイント取ったな。」

「まあまだ序盤、これからです。解説は私ユーノ・スクライアと、クロノ・ハラオウン、暇人二人でお送りいたします。」

「僕としてはフェイトxマシューを推薦したいんで、はやてを応援したいところなんだがな・・・」

「冗談じゃない、なのはxマシューが万一にも実現しないようにマシューに勝って貰わなきゃ。頑張れマシュー! 押し倒せ!」

「負けるなよはやて・・・うまく逃げ切れ・・・フェイトは尽くすタイプだからきっと上手くいく、後の事は心配するな・・・」

「クロノは自分の都合しか考えてないね!」

「お前が言うな。」











(あとがき)

 なにがあったのかという「事情」、なぜ仕事に専念するのかという「理由」。

 ここが大きな問題点になるわけですな、そこを話し合ってるラウンドは軽く5回以上は書きなおしてまだ不満だぜ!w

 とりあえずマシューは八神第一にすると心の中の優先順位書き換えました。しかし八神がそれを素直に受け取るかが・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十三話  VS.八神! 2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/20 00:43
マシュー・バニングスの日常      第六十三話






「で、まず最初に言っておきたいことがあるんだが。」


 八神が席に座ったすぐ後、俺が話し出す。


「ちょっと待って。」


 八神は止める。うんそれも予想内。


「先に事情説明させて。」

「駄目だ。」


 一刀両断。八神絶句。


「さっきも言ったが、俺に悪いことしたと思ってんだろ?」

「・・・うん。」

「じゃあ俺が先だ。諦めろ。」


 しかし八神、簡単に同意しない。しばらく俺の目をじっと見詰めて。

 いきなり卓上に頭ぶつける勢いで、頭を下げた。


「お願い! お願いします! 私に先に話しさせて!」

 これまで聞いたこと無いくらいの切羽詰まった口調でそう言う。



 むむ、どうするべきか・・・



☆     ☆     ☆



 あかんでこれはヤバい。

 マーくん、私が負い目を持ってる言う事、私が悪いことしたと思っとる言う事。

 このカードをとことん利用する気やな。

 そんでことあるごとにこのカード出してきて私を黙らせて。

 最終的には「俺が許すって言ってんだから問題無い黙ってろ」とか。

 そういう結論に無理やり持ってくつもりや、間違い無い、ほんまアホやどんだけ私に甘いねん。

 せやからこのカードはなるべく早く使えへんようにしとかんと。

 一方的にマーくんの言うこと聞くハメになってまう。


 でもマーくんがそのカード振り回したら私も言う事聞くしか無くなる言うんも事実。

 それは言わんといてと、こうして正面からお願いして・・・それを使わんようにマーくんに自主規制してもらうしかない。

 ここは交渉の最初の山場やな・・・しかしマーくん乗ってくれるやろか。

 せっかく有効な切り札あるのに自分から使わないとか普通の交渉ならありえへんけど。

 でもマーくんなら・・・私に甘いから・・・真剣に頼めば・・・言わんといてくれるかも。


 ああ、でも渋っとるな。

 いくら私が相手でもまだ迷ってる。

 でも迷ってるということは、チャンスはある。


 よし卑怯やけど、卑怯やって自分でも分かってるけど。

 泣くか。

 頭下げたまま涙ぐむ、なんか凄い簡単に涙出てきて自分でも驚く。

 泣き真似するまでも無く実はほんまに泣きそうやってだけやな。

 肩も震えてくるし、喉も詰まってくる。


「お願い、やから・・・」


 半泣き声で言いながら、少し頭をもたげ、マーくんから涙目が見えるようにする。

 それでもしばらくマーくんは苦々しい顔で迷ってたけど。


 ついに言った。


「・・・・・・分かったよ。」


 勝った。


 ほんまアホやなマーくん。

 私が泣いたら・・・結局、言う事きいてまうって・・・ほんまアホなんやからマーくんは・・・

 そういうとこ死ぬほど好きやけど。

 せやけど好きやから・・・




☆     ☆     ☆



 くそ。

 いきなり「好きだ」押しを連発して八神を何も言えない状態に追い込んで・・・

 なんならそのまま部屋に連れ込んでこれまで越えてなかった一線を越えてやろうかと思ってたのに。

 そしてそのまま、ミッドでの正式な結婚までしても良いと思ってたんだが。



 だが俺が口説く前に八神に順番を奪われてしまった。

 泣くのは卑怯だ、マジ卑怯だ、理屈じゃねーんだ、逆らえん。





 俺は憮然として八神に話を促す。


「じゃあ聞く。事情、しばらく黙ってる。」

「うん。」


 八神は軽く目元を拭い、姿勢を正して真剣な顔になる。騎士たちも主に倣って姿勢を正す。


「もちろん詳細には話せへん部分もあるねんけど。」

「んなこた分かってるよ、まとめて話せ。」


 黙ってるといっときながらつい突っ込む。


「私は今度の仕事を成功させたんで、三佐になる。」


 ほほう・・・この若さで佐官に・・・もしかして史上最年少記録とかじゃねーか?


「マーくんが倒れた時、その仕事に専念してた。マーくんを無視して出世を優先したんや。」


 ふん、その程度の偽悪は通じんぞ八神。ちょっとしらけた顔をする。

 さすが以心伝心、俺が全然その八神の偽悪的セリフを気にして無いのを見てとった八神は切り替えて話を続ける。


「試験的任務やった。私がこの年で佐官になるのは早すぎるって反対する人から出された任務でな。」


 そら反対する人もいるだろ、いくら八神が優秀でも若すぎるのは事実。むしろ反対しないほうがおかしいと俺は思うね。


「内容は極秘監査みたいなもん。ただし試験的な任務やから、いくつか条件がつけられた。

 まず、騎士たち皆の手助けは絶対に借りたらあかんっていうこと。」


 ふむそれだけなら・・・


「さらに、リインの手助けも無し。おまけに」


 ユニゾンデバイスとして、また情報分析役としてのリインの存在は大きい・・・それナシで、しかもそれだけじゃない? まさか・・・


「『夜天の書』まで持ち込み禁止とか?」

「そうや。」


 あくまで八神個人の力量だけを把握するための試験的任務ってわけか。しかしリインに『書』まで使用不可となると・・・


「まさか『剣十字の杖』だけしか使えない状態で?」

「そうや。」

「あれって単なる攻撃魔法用の砲身・・・つまり実質デバイスの補助は無いに等しい状態で?」


 魔導師としての八神は強大な魔力を持つものの運用に難があり・・・『夜天』『杖』『リイン』『蒼天』の四種のデバイスを駆使しても、

それでもなお全力が出せずセーブしながら魔法を使う必要がある。中でも『夜天』は膨大な魔法データの蒐集蓄積が為されており、八神が

その気になればその中の魔法はどれでも使える。実際にはデータ量が多すぎるし使うためにデータの解凍処理とか手間取るので、それらの

多彩な魔法を八神が全開で使うってのも難しいのだが・・・しかしその多様性、どんな状況にでも応用可能な柔軟性は大きな強みだ。

 それナシでやれというのは・・・つまり『夜天の主』としての力をほぼ封じられた上で・・・あくまで『八神はやて』という一介の魔導師

としての力量を見せてみろってわけで、それはそれで分からん話でも無いが・・・


「一応、簡単な通信とデータ整理用の公用デバイスは貸与されたけど、それだけ。」

「危険性とかは?」

「あったで? 不正な支局の極秘監査、中央の命令無視してた連中のところに潜入やったからな。気付かれたら戦いになったやろな。」

「それを騎士無しリインも無し、『書』さえ使わずにやれと? 一応、他に部下とかはいたんだろ?」

「現地協力者数名に、後は補佐官が数人程度。それだけの人数を指揮してなんとかせいって。」


 『書』なしだと八神が使える魔法というのは非常に少ないはず。『杖』を使った単純攻撃以外に・・・なんかできるのか? つまり捜査に

必要になると思われる探査系とか偽装系とか、また情報の収集分析にしても貸与された公用の簡易デバイスでどこまで対応できるのか。

 使い慣れたデバイスを取り上げられるというのは魔導師にとって多くの場合、致命的なマイナスなのであり、そんなことは誰でも分かってる

わけで、それなのにそういう状態を強制するということは・・・


「それは・・・無理難題ふっかけて昇進を諦めさせようって思ってたんじゃねーのか? 上の人。どうせ、付けられた部下ってのも・・・

あんまり協力的な態度じゃなかったとか?」

「私もそう思うわ。部下になった人たちも、こちらの指示には従ってくれたけどそれだけで、指示せんことには何もせえへんかったし。

あれは上から、別に邪魔はせんでええけどそんなに積極的に協力すんなとか? 言われてたんちゃうかな。」


「・・・それでもお前は・・・その任務・・・成功させたわけか。」


「そうや。」


 無茶苦茶だ。

 そんな任務押し付ける上の人も無茶苦茶だが。

 しかしその上司はつまりそうして諦めさせようとしたわけで。

 なによりそれでも何とかしてしまうと言う・・・

 こいつが一番無茶苦茶だ。


 頭いいやつってのはホントにタチが悪い。

 例えば高町とかなら最終的には力押し以外の手が無いためにデバイス取り上げるとか何らかの制約課すとかして力を奪ってしまえば。

 出来ることの幅がガクンと減るわけなのだが。



 八神はそれほど甘くない。


 こいつは確かにバカ魔力を持ってるし恐ろしく多彩で強力な魔法も使えるのだが。

 しかしそれに頼らない。

 そんなもんには実はたいした意味は無いと腹の底から分かってる。

 そう結局は、頭なんだよな。

 魔法使ってゴリ押しするのは言っちゃ悪いがバカのすることなんであって。

 こいつはそんなもん奪われても・・・多少不自由を感じるだけで・・・それが決定的なマイナスなどにはならない。

 考える、観察する、見抜く、それは全て八神が生来持ってる優れた頭脳、思考力によるもので・・・

 魔力とか・・・仮に全く無くとも、こいつは恐らく頭だけで上に行ける、そういう資質の持ち主なんだよな。


 しかし・・・


「俺から通信が通じなかったのはそれで納得。『夜天』直通だったからな。」

「うん、そういうこと。」

「で、騎士たちも皆・・・その間は隔離とかされてたってわけか?」

「24時間監視付き隔離やって。なにせ私はその気になれば召喚言うんも出来たりするしな。」

「え? お前単独で・・・遠距離での騎士たち強制召喚とかできたっけ? 最低『書』は手元に無いとダメじゃなかった?」

「デバイス無しでも慣れてる魔法なら使える、せやから私にはそれが出来る可能性はある、せやから一応、念のためって。絶対に厳密に私が

騎士たち皆の力を借りてないか証明するにはそれしか無いってな。」

「・・・それはさあ・・・実際にそう疑ったからというよりは・・・条件きつくするために悪意ある見方をしてる感じが・・・」

「するなあ。私もそう思うで。」

「・・・なんつーか、そこまで反対されてたなら、無理せんでも・・・」


 間違いなく「闇の書」関係の偏見でのマイナス補正・・・くらってんだな、やっぱり、しかしそれなのに・・・


「そうかもな、それで皆?」


 八神が騎士たちに呼びかける。シグナムが代表して答える。


「我々は監視付き隔離されていた。通常の通信も不可能だった。しかしあの通信だけは別だった。」

「俺からの緊急通信か・・・」

「そうだ。あの通常通信遮断網を掻い潜って・・・主の『書』直通に連絡を届かせるとは・・・あれは監視してた者たちも驚いていた。」

「ま、通信魔法は得意だしな、俺。」


 遠くに微細な魔力波を送る、探査と似てるしね少し。


「だから、我々は、気付いていたのだ。お前が・・・危険に陥ったことを。」

「しかし隔離監視ではどうにもならんだろ、仕方ない。」


 俺は気軽にそう返すのだが。


「いや・・・だが言い訳しても今さら始まらん。我々はその通信の緊急性を監視役の者たちに訴えた、訴えはしたが・・・」

「しかし八神への取り次ぎも却下されて、自分たちで行くのもダメで、せいぜい上に報告しますからって言われたくらい?」

「まさにその通りだ。そして監視役からその上司、そして上司たちが話し合いなどしてるうちに・・・」

「時間が経ったか。そうなると・・・うーん、すぐに高町来たからな・・・」

「1時間もしないうちに・・・高町三尉の活躍で事態は収拾し、お前も無事だから安心しろと言われた。」

「実際その通りだった。問題ない。」

「いや、問題はここからだ。」

「ん?」

「お前は軽傷で入院したと聞いた。これは何が何でも・・・せめて連絡の一本でも入れるべきではないのかと我々は話し合った。」

「そっか。まあそれほど気にするほどの事でも・・・」

「お前はそうだろう。お前は・・・事情があると理解し許してくれるだろう・・・しかし・・・」

「なんと・・・もしかしてお前らも・・・姉ちゃんの事、気にしてた?」

「気にしないわけがない。もしも連絡もせず完全に音沙汰無しだと・・・アリサ殿は激怒なさるだろうと・・・」

「そう私が特に主張したの。」


 シャマルさんが言葉を引き継ぐ。


「マシュー君が許してくれても・・・アリサちゃんが許してくれるはずがない。そうなると、はやてちゃんとマシュー君の仲に・・・

下手したら決定的な亀裂すら入りかねない。そう心配するのも当然でしょう?」

「あー・・・まあ不本意ながらそう心配されても仕方ないかな。」

「だから出来れば私達のうち誰かがお見舞いに・・・それが出来なくてもせめて連絡だけでもって思ったんだけど・・・」

「そしてその件について我々は話し合った、議論した、しかし何日も結論が出なかった。」

「なんつっても、はやてと連絡全然取れない状況だったしよ・・・正直言って、監視の連中振り切って飛び出してお前の所に行くとか? 

せめて通信封鎖を破って無理に連絡するとか? やってできねーことは無かったんだけどよ、でもそれやるとはやての任務がダメに・・・」

「外部との接触はどんな形でも厳禁だったのよね・・・せめて監視の人を通じて間接的に一報を伝えるだけでもダメかって頼んだんだけど、

それも結局は断られて・・・」

「それに主からは、今はこの任務に集中するから何があっても他のことは無視するようにと・・・命じられていた。」

「だがその主の命令を言い訳にする気は無い。つまるところ我々は・・・助けにも行かず連絡もしなかったのだ。」

「ほんとに・・・最悪よね。言い訳の余地が無いわ。」

「お前の命と、はやての任務と、どっちを優先するかってとこで迷った上に結局・・・お前のことは後回しにしちまったことになる・・・」




 そして八神が結論を言う。




「な、分かったやろ。私が、そう言ったんや。『今は他の事は無視しろ』ってな。」

「いえ主、我々もいくらそう言われたとは言え・・・」

「ちゃうでシグナム。結局最後の責任は私にある。『なにがあっても』『他の事は無視しろ』って命じたんは私。」

「はやてちゃん・・・」

「はやて・・・」




 ふむ、なるほどね。





 ちょっと整理しよう。




 八神は万一の事があっても俺の事を無視しろ、と取られても仕方ない命令を騎士たちに下し、自分自身は通信断絶下での任務をしていた。

 ゆえに八神は俺が倒れた時も気付かず間に合わず、病院に来た時もすでに俺は退院するとこだった。

 騎士たちは八神の任務と、俺の危機とを秤にかけて、結局、八神の任務を守ることを優先したと。

 俺がすぐに危険から逃れて軽傷で済んだことは騎士たちの方には伝わったし、そこで結局、八神の任務を優先、何もしなかった。


 ん~守護騎士たちは家族であるとは言え・・・その行動には限界点が明確に存在するのが欠点なんだよなあ・・・

 みんなは八神を守る、八神の言う事をきくというのを絶対的な制約として受け入れてしまうフシがあり・・・

 八神の意思を無視してでも、八神のためになることをって思考法はしない。八神の命の危険とかあれば例外だが。

 姉ちゃんが俺のためを思って、時として俺の意思とか平気で無視して色々押し付けてくるのとは対照的。

 やはり・・・遠慮があるんだよなあ。


 だが彼女たちはどうするべきか本気で迷ったと言ってるし、それが本当であることはすぐ分かるさ。皆とも長い付き合いだ。

 問題は・・・自由に行動も通信も出来ない環境下にあったこと、八神からの命令がありしかもその八神との連絡も取れない状況にいたこと、

さらに俺は意外とすぐに軽傷であっさり助かったという情報もすぐ知ってしまったこと。

 それでみんなも、迷ったんだ。迷って結局、なんもしなかったわけだが。


 さてと、どうするべきかね・・・







☆     ☆     ☆






<蛇足・・・ユーノとクロノの適当な解説>



「見事なテクニックでペースを奪ったはやてのラッシュ!ラッシュ! これはマシュー追い込まれたか?」

「むむ、このままラッシュが続けばはやてが一気に逃げ切る可能性すら見えてきたな。」

「うーん、はやては敢えて自分が悪いんだって結論に持ち込もうとして話してる感じしない?」

「うむ、しかしこれだけ聞くとはやて達が悪いとしか聞こえない、はやての巧みな攻撃に・・・反撃の隙を見つけられるかなマシュー?」

「頼むぞマシュー! 長い付き合いなんだろ! 彼女の偽悪を見抜いて一気にカウンターを決めるんだ!」

「必死だな。僕としてはこのままはやてが悪いってことで終わって別れてくれた方が・・・」

「なんてひどいことを言うんだいクロノ! 本当は愛し合ってる二人が上手くいくように応援してあげようって気は無いのかい!」

「お前の目的は別だろうユーノ。」










(あとがき)

 改めて強調しときますが、この作品には独自設定が含まれる場合があります。

 つまるとこ実質的に「見捨てろ」みたいな命令したのは事実なのであります。

 きっとアリサに知られたらマジで殺されるのであります。穏やかに解決する方法・・・・・・・模索中のマシュー。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十四話  VS.八神! 3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/21 22:12
マシュー・バニングスの日常      第六十四話








 暗い、自嘲的な雰囲気を漂わせながら、八神は言葉を続ける。



「分かるやろマーくん。『なにがあっても』って言ったんやで、言ってもうたんや。ほんま・・・我ながら呆れるわ。それはつまり、もしも

マーくんが・・・こういう事件に巻き込まれんでも、もしか体調悪くして倒れても・・・無視せいって言ったのと同じことやわな。」

「むむ・・・」

「これを正直にアリサちゃんにでも言ってもうたら・・・もう本気で殺されるかもな。そんだけのことを言ったんや。」

「なるほどね・・・」


 確かに姉ちゃんに知られたらヤバいかもな。

 しかし。


「まず確認しておきたいんだが。」

「なに?」

「お前、俺が退院した時、一人で駆けつけて来ただろ。」

「・・・せやな。」

「もともと騎士たちはどこかに隔離で、他者との・・・特にお前との連絡を絶対取れない状態にされていたわけだから・・・お前、多分、

ニュースとか見て俺の入院知ったんでね?」

「・・・なんで、そう思うん?」

「管理世界でも遠ければ、ミッド中央のニュースは何日遅れとかで届くってのもザラにある。遅れてニュースを見て、そこから自分が不在の

間の監視体制とか何とか整えて急いでミッドに戻って病院に駆けつけたってところでね?」

「せやから、なんでそう思うん?」

「一緒に騎士たち皆が来なかったからに決まってるじゃねーか。」

「あ・・・」

「任務がきちんと終わってて、拘束が解けて連絡もOKな状態なら、当然みんなで来てくれるさ、んなこた分かってる。そうじゃなかったって

ことは、途中だったんだろまだ、だから騎士たちは拘束されたままだった、違うか?」

「・・・・・・」

「そして姉ちゃんに怒られてる最中でまた飛び出して行った、その仕事を片付ける目処が立ったんで急いで片付けたかったってとこか。」

「・・・・・・」

「どうだ? 違うか?」


 八神は大きくため息をついた。そして諦めたように言う。


「その通りやで。せやけどそこでまた仕事優先して、マーくんを後回しにした言うんも、ほんまの話で・・・」

「はいはい。それはともかく、もう一つ確認したい。」

「なに?」

「お前、俺のバイタルデータ、毎日チェック欠かしたこと無いだろ。」

「へ?」


 八神は俺のサウロンが毎日自動的に俺に行うバイタルチェックのデータを、リアルタイムで自分の『書』に送信させて・・・それを毎日、

欠かさずきちんと目を通すという作業を絶対の習慣として行ってきた。

 それが途切れたのはこれまでの長い付き合いで、あの週だけ。

 実際、八神が姉ちゃんにぶち切れられたあの時以降も、自動的に送られるデータを八神はチェックしてたはずだと思う。


「違うか?」

「・・・それは、しとる。」


 渋々認める八神。ま、こういうことは誤魔化そうにもじゃあデバイス見せろって言われて調べられたら未読か既読かは一目瞭然だからな。


「で、さらに聞くが・・・お前がその任務に就いた頃の俺のバイタルデータ見て、どう思った?」

「・・・それは・・・」

「すごく安定してたよな? どっか乱れがあるどころか・・・むしろ過去に前例が無いほどに安定して健康だった、そう思わなかった?」

「・・・それは・・・でも・・・」

「お前はちゃんと俺の体調のデータを調べて大丈夫そうだと思ったからそんな任務に就いた。違うか?」

「・・・でも、無視せいって言ったんは、ほんまの話や・・・」


 確かに八神の指示は、俺の命に万一の事があっても無視しろと言ってしまったに等しい。

 いくらこれまで一度もそういうことを言ったことが無く、俺たちの長い付き合いの中で初めての失敗であったとしても。

 ことがことだ。

 命に関わるミス。

 許されないと八神が考えるのも当然か。


 しかし命とはいっても、俺の命。

 あれ? だったらまず俺が激怒するべきじゃね?

 いかんな・・・こういうところに昔の感覚が残ってる・・・

 死は常に身近にあり・・・生きてる方がおかしくて・・・自分の命をとても軽いものだと感じていたあの頃の感覚が。

 姉ちゃんとかが悲しむから命を大切にしなくちゃいかんとは思ってても、本当に自分の命に自分自身の意思で執着してるかといえば・・・

 とうてい、そうは言えない状態だった、幼い日々。


 近頃は半分くらいは健康な人間の感覚を持つようになって・・・自分の命にも自分なりに執着してるつもりだったが。

 日常的にはそうでも・・・実際に生死の瀬戸際に立つと・・・やっぱり平気になっちゃうんだな・・・いかんこれはよくない。

 俺が八神に怒りを感じてないのは、俺にとっては俺の命なんてなあ軽いってのが本音であるからか?

 もしもそうであるならばこれは非常に良くない感覚だと言わざるを得ない。

 きちんと自分の命に執着せねばいかん、そして執着するならば今、起こすべき行動は。


 やはり八神に怒ることか。

 本音をいうと大したこと無いとどうしても感じてしまうのだが、それじゃダメだ。

 一回、きちんと怒って、そして謝らせた上で、許せばよい。

 そして二度とこんなことが無いようにって言えば・・・それで正しいよな多分。


 考えながら言葉を紡ぎだす・・・


「なるほど確かに、お前の指示は、俺が死にそうになっても放っておけと言ってしまったに等しいのかもしれない。」

「・・・その通りや。」

「しかしお前は実際、今の俺は何事も無ければ・・・平穏な日常を過ごしてる分には、死にそうに無いってこともきちんと知っていた。」

「いや、それでも」

「まあ待て、聞け。お前は俺のバイタルデータのチェックを欠かしたことが無いだけじゃなく、長年ずっと一緒にいた経験からも、今の俺の

健康状態が非常に安定してることを実感として知っていて・・・だから一時的に、実際せいぜい一週間程度だが、完全に俺から目を離して

仕事に打ち込む時間というのを作った。これって初めてのことだよな?」

「それは・・・」

「俺たちの間の直通回線は『書』に通じてるわけだが、これまでは『書』も持たずにやれとかそういう無茶な任務無かったんだろ?」

「それは・・・そうや。」

「だったらまあ、いくら仕事に打ち込んでたとは言え、手元に『書』さえあれば連絡がついたしお前は飛んできてくれたはずだと・・・・・・

俺は、信じることができる。」

「それは仮定や・・・実際に私が行かへんかったいう事実は消えへん。」

「そうだな。でも、だったら許される余地が無いかといえばそうでもない。結果論だが俺は軽傷で助かったわけだし。」

「それでも! 許されへん指示やろ! 見殺しにせいって言ったんと同じで!」

「よーし落ち着け八神、どうどう。」

「ふざけんといて!」

「なんでお前の方が怒ってんだよ。」

「あ・・・ごめん。」


 むう・・・どうだろね。

 かなり八神は追い詰められてるな。自分で自分を追い詰めてるんだが。

 もうちょい冷静に考えてほしい。


「八神、お前って法律とかも詳しいよな?」

「え? それはまあ・・・医療関係除けば、マー君よりは詳しい思うけど。」

「客観的にお前自身のやったことを見てみろよ、難しいかも知れないけど。」

「客観的に・・・」

「まずお前は俺に対して殺人未遂でもしたのかね?」

「するわけないやろ!」

「まず意図的でないことは明白。つまり過失だな。」

「それは・・・そうやけど・・・」

「過失でも致死となれば無罪ってわけにはいかんが・・・今回は未遂でおまけに軽傷だよな、そうじゃないか?」

「・・・せやけど」

「本人には反省の意思があり、普段はそんな危険が無いように気を配ってもいた、おまけに初犯と。」

「・・・・・・」

「どうだ八神? 普通に見れば余裕で、『情状酌量の余地があるから執行猶予付き』で終わる程度の話じゃね?」

「・・・・・・それでも『有罪』やと思う。」

「だな。それじゃあ量刑を考えよう。これって死刑に値するほどの重罪?」

「・・・そうせいっていうんやったら。」

「アホウ! まったく・・・まだ冷静じゃねーなお前・・・とにかく普通に考えればこれは微罪で量刑も軽いものになる。」

「・・・・・・」

「それが当然、お前も客観的に見たら・・・そう思わないか?」

「・・・・・・・・・」


 八神は黙りこんでしまった。

 こいつの聡明な理性は、俺の言ってることが正しいと分かってるんだろうが、感情が納得してないってとこか。

 感情とは、つまり罪悪感。


 そうか。


 それを晴らすには・・・怒ってやらなきゃ、いけなかったのかな。

 怒って、そして、謝らせてやらなきゃいけなかったのか。

 最初から実は大して気にもせず許してた俺の態度にも問題あったか。


 さてうまく怒れるかな・・・よし姉ちゃんの真似をしてみるか、まず怒鳴って、声を荒げて・・・むつかしい・・・

 沈黙して俯いてる八神とそれに倣う騎士たちを見回して。


「八神!」


 少し強い、叱りつけるような声しか出なかったが。

 その声だけで八神はビクっとする。


「お前さ、悪いことしたと思ってんのか本当に?」


 きつい口調のままで続ける。八神は聞いたことのない俺の口調になんかキョドっている。


「姉ちゃんじゃねえが『やってしまったことは仕方ない』んだよ! そんで悪いことしたと思ったなら! まずどうすんだ? いつまで

そうしてウジウジ『私が悪いです』って退屈な演説聞かせる気だ? んなもんこっちはどうでもいいんだよ! わかってんだろ!」

「で、でも私・・・」

「立て!!」


 大声で命令。八神反射的に椅子から立つ、騎士たちも同時に。


「ほら、悪いことしたらまずどうすんだ! 言え!」


 俺は座ったまま腕を組み、立たされてる八神を睨む。八神は一瞬だけ迷ったがすぐに。


「ごめんなさい! 本当に今回は・・・私が悪かったです、本当にごめんなさい!」


 言いながらも涙ぐんでる、でも本当に・・・これを言いたかったんだろうなこいつ。そしてこの謝罪を、こいつが病院に駆け込んできたとき

に言わせてやっておけば・・・ここまでこじれなかったのかもしれない。

 八神の謝罪に続いて皆も。


「すまなかったマシュー、どうか許してくれ。」

「本当にごめんなさい。」

「本当に悪かったよ、マシュー。」

「謝罪する。誠に申し訳なかった。」

「ごめんなさいマシューさん!」


 口々に言って頭を下げる。


 皆が揃って頭を下げてるのを見て俺は冷酷に告げる。


「ふん、これだけでは許してやらん。」


 なるべく冷たい声を出したのだが、よかった真に受けてくれたようだ、みなビビっている。


「謝っただけで許してもらえるとは思って無いだろうな?」

「・・・どうしたらええん?」


 八神が半泣き声で問い返す。


「許してほしければ、俺がこれから言う条件を飲んでもらう。」

「・・・どんな条件?」

「まず第一に! お前ら全員揃って近日中に、姉ちゃんとこいって事情説明すること。」

「え。」

「いいか、俺を結果的に見殺しにするところだったって話を隠すことなくありのままに話せよ。」

「で、でも・・・そんなことしたら・・・」

「くくく・・・姉ちゃん、地獄の悪鬼羅刹の如き激怒と憤怒を見せてくれることだろうな・・・お前ら全員が全員、いっそ殺してくれって

言いたくなるくらい怒られることだろう。最低6時間くらいは荒れ狂うとみたね。」

「うぅぅ・・・」

「でも安心しろ。そうやって怒りに怒りまくったら、後で姉ちゃんは必ずこういうさ『こうして謝罪した以上、この件については許してやる』

ってな、絶対にそう言ってくれる。」

「あ・・・」



 昔、初対面の時の高町が俺を殺しかけたことがあるw

 まあ死にかけるのは日常の事だったし俺的には何でも無かったが。

 あんときも姉ちゃん、高町に切れまくったそうだ。

 でも最後に結局、許した。


 俺は死にかかるのに慣れている。

 そして実は同様に・・・姉ちゃんもそれに慣れてるんだな。

 八神のやったミスは大きく、高町が俺にやったことよりもひどいと言えるかもしれない。

 しかしそれでも過失であり初犯でもあり本人は反省の固まり状態になっており情状酌量の余地はある。

 姉ちゃんは必ずそのことを分かってくれるさ。

 まあ死ぬほど怒られるのは変わらないだろうけど・・・



「やってしまったことは仕方ない、悪いのは間違いなくお前、そしてそれを認めて謝罪した、そしたらそれは許すさ。一回の失敗でそれまでの

全てを否定するほど・・・俺はもちろん姉ちゃんも狭量じゃあないぞ? なんでそんなことも分かんなくなってたんだ?」


 本音言うとやっぱりこれは「運が悪かった」だけの状況だろとは思うのだが、今の八神は自分が悪いので怒ってほしい、謝らせてほしいと

思ってるので、仕方ない、そういうことにしておこう。実際そう言われて八神はやっと少しほっとした顔になりつつあるし。


「あ・・・ほんまやな・・・なんでわたし・・・」

「だが、まだ油断するな。条件は一つじゃない。次の条件!」

「う、うん。」


 俺は立ち上がって全員を見回して、はっきりと言った。


「この件についてはもう謝罪は済んだ。二度と謝るな、分かったか?」

「え・・・」

「いやしかし・・・」

「そういうわけにも・・・」


 やっぱり素直に言う事きかねーな。

 しかしいつまでも謝罪されてても話が進まないし。今日はこの話だけで終わるわけにもいかんしね。


「ああ~じゃあ、とりあえずお前ら全員に、貸し1だ。いつか返してくれれば、それでいい。」


 皆は深刻真剣な顔で頷き、


「・・・うん、絶対に返す・・・」

「分かったマシュー。騎士の名にかけて誓おう、この借りは必ず返す。」

「私も騎士の誇りにかけて、必ず今回の償いをするわ・・・」

「鉄槌の騎士の名にかけて借りはぜってー返す! ほんと悪かった!」

「本当に済まなかった、必ず我らはお前にこの借りを返すだろう、騎士の誇りにかけて。」

「わたし、何ができるか分かりませんけど・・・でも絶対にいつかマシューさんを助けます!」


 むむ・・・夜天の王と守護騎士たちにリイン、全員に貸し作ったというのは・・・実はかなり大きいな。

 こいつらが約束破るはずもなく。いざという時には助けてもらえること間違いない。


「じゃあ、もうこの件についての謝罪は蒸し返すなよ?」


 しかし俺がそう言っても、まだ皆、半分納得してないというか・・・

 そこでさらに繰り返す。


「この話はここまでだ。いいか、また蒸し返すようだったら俺にも考えがあるぞ!」

「どんな考えだよ。」


 聞き返すのはヴィータ。


「責任者として八神に償ってもらう。」

「なにをせいって言うん?」


 八神が尋ねる。


「一回、また謝罪をしたらそのたびごとに・・・」

「そのたびごとに?」

「いわゆるABCの順番で八神の体で謝って貰おう。3回目で最後に至るわけだな。」

「ぶ! ちょ! ちょっとそれは!」

「あんだ? 文句あんのか?」

「それは! だって最後まではせんとこうって! 言ったんは・・・」

「俺だな。だが今回の事態を収拾するため最終的にはそれしか無いって気もするし。うん、仕方ないね。諦めて抱かれろ八神。」

「何を勝手な・・・!」

「お前らが間違ってまた謝罪しようとかしなきゃ済む話だし。全然ゆるい条件だと思うんだがなあ。」

「それだったら私・・・また謝っちゃおうかな・・・」

「ちょっとシャマル! あかん! あああもう! みんな部屋戻って! こっからマーくんと二人だけで話するから!」

「ええ~いいじゃねえかはやて、もうこの際・・・」

「あかん! 主としての命令や! みんな部屋に戻ること!」


 結局八神に押されて皆、渋々部屋に戻る。

 戻る前に深く深く・・・無言で俺に一礼して行ったのだが・・・まああれは謝罪に入れないでおいてやろう。


「あああ・・・もう、汗かいたわ・・・」


 八神が力無く座りこむ。

 俺はまた、今のところは八神から離れた対面の席に座り。


「よし、こっからは八神にいかに謝らせるかだな。3回目が楽しみだ。」

「そ、そんなやり方で女抱いて! それでええんかい!」

「八神だし問題ない。」

「どういう意味や!」

「遊びじゃないし? どうせ本気だし? どっか問題あるのか?」

「私の意思は!」

「それも問題無い。」

「どこがやねん! 私、全力で嫌がっとるで!」

「試してみるか?」

「は?」

「最終的には結局絶対受け入れてくれると俺は勝手に確信してる。」


 言いながら俺は少し腰を浮かせてみせる。

 それだけで八神大いに焦る。


「ちょ! ちょっとまって! あかん! 今日はまだ話せんとあかんことが!」

「なーに本気で焦ってんだバーカ。当然だろ、まずは話をしないとな。」

「うぅぅ・・・ほんまマーくんて・・・」


 そう、話をしないといけないことがまだある。

 解決してない問題は多々あるのだから。

 うやむやに済ますわけにはいかないんだよな今日は・・・






☆     ☆     ☆




 そうか・・・ちゃんと謝ればよかったんや。

 もちろん私は無茶苦茶怒られるやろう。

 アリサちゃんが本気で怒ると・・・死ぬほど怖いって言うんは良く聞いとったし。

 うん、それこそマーくんの言った通り「いっそ殺してくれ」って言いたくなるくらい怒られるんやろな。

 しかもマーくんは「大丈夫許してくれる」って言っとるけど・・・私は必ずしもそうも思えん。

 ことがことだけにアリサちゃんは許してくれへんかも知れん、でもそれでもまずは誠心誠意、謝らなあかんかったんや。

 許してもらおうとか思わずひたすら謝る、事情もありのまま隠さず説明する、まずはそれからやな。

 それからも逃げた私が悪いわけやしな。


 よし、マーくんとの話し合いの結果如何によらず、アリサちゃんには怒られに行こう、それは決定。

 そこも曖昧にして逃げてたから、あかんかったんやなあ・・・


 そんな当然の事に・・・

 気付かへんかったんも・・・

 全部マーくんのせいやねんけど。


 でもマーくんのおかげで、やっぱり私は。

 そういう当たり前の事を。

 思い出すことも出来た。


 はぁ・・・

 そんなに私にとって・・・大きな意味を持つ人やのに・・・

 それでも、別れんと、あかんわけか。


 きっついなあ・・・







☆     ☆     ☆




<蛇足1・・・謎の二人の密かな会話> 注)本編とは一切関係ありません


「きちんと話もせずに逃げるから怒ってるのよ! 飛んで火にいる夏の虫・・・お望み通りギタギタにしてやるわよ! はやて!」

「落ち着いたほうが良いと思うの、はやてちゃんだって悩んでるんだし。」

「しかもこのまま、はやてとえっちしようとか! 何考えてんのよマシュー! そんな曖昧に流したら許さないわよ!」

「ちゃんと話し合うつもりだとは思うよ。・・・・・・それでもえっちなのはどうかと思うけど。」

「いや、やるわねこれは。マシュー本気よ! はやてもイヤンイヤン言いながら絶対受け入れるわね結局!」

「・・・そんなことないよきっと・・・二人とも慎重な性格だと思うしこれまではしなかったわけだし・・・」

「甘いわね、今日の二人は二人とも精神状態普通じゃないのよ? そのうちきっと本格的にケンカになって掴み合って抱きあって・・・」

「そのまま勢いでとか・・・あるのかなぁ・・・やっぱり・・・うん、それならそれで・・・きっと間違って無いと思うの・・・」






<蛇足2・・・ユーノとクロノの適当な解説> 注)本編とも上の謎の会話とも一切関係ありません


「うーん、これはもうこのままいきそうじゃない? はやての攻撃は全部跳ね返しちゃったよ。」

「マシュー、的確な連打であっさり逆転、このラウンドもマシューがポイントとったな。」

「『導入』ラウンド、『事情』ラウンド共にマシュー優勢! これはもうマシューの勝ちは動かないんじゃないですかね、クロノさん。」

「ふん、はやてはまだ肝心の『理由』については話していない。そこが正念場だ。そこではやてが逆転すると僕は思うね。」

「大丈夫さ、マシューなら・・・マシューならきっとヤってくれる! きっとXXX板行きの行動をぶちかましてくれるさ!」

「個人的な予想を言うと、実際にコトに及べばマシュー圧勝だろうが、そこに至らなければ、はやて逃げ切りも十分ある。」

「罪悪感に付け込んでさらに謝らせるんだマシュー! そして一気に決めてしまえ!」

「いや既に謝ったしな、八神はやてはそれほど甘くないはず・・・頼むぞはやて、逆転を信じてる・・・」







(あとがき)

 蛇足は本編と本当に全く一切関係ありません。名前や口調が誰かと似ててもきっと別人です。

 事情説明は大体こんな感じで。つまり謝りたい彼女を謝らせてやるってあたりが眼目でしょうか。姉ちゃんはまた後で・・・

 問題は八神の頑張る「理由」であり、状況を改善する余地があるのかって所。さあそこがこじれる・・・かな?



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十五話  VS.八神! 4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/23 00:55
マシュー・バニングスの日常        第六十五話










 八神がお茶を入れ直してきた。



 13時ごろから始まった話し合いは・・・いつの間にか15時近くになっていた。

 お茶うけに和菓子が出される。

 ふむ落雁か。体に優しい本格和糖で作ってあるやつ。こういう時でも俺の体の事を実は気遣ってるんだよねこいつ。

 多分本人気付いてないぞ、無意識にもう習慣としてやってる。既に嫁でね? 形式を実質に合わせても問題無いとしか思えん。

 しかしこれってミッドに売ってないよな・・・どこで買ってきたんだか。

 水分補給に糖分補給。

 さらに八神はみんなの分も用意して、部屋に配達にいった。


 それやこれやで15分ばかり間があいた。


 戻って来て再び席につく八神。


 しばらく無言で二人は茶菓子を喫し・・・


 さて、話し合い、再開しますか。


 だがこっからは正直気が重いな・・・


「謝罪は済んだわけだが・・・さて問題は、それでお前が・・・」

「状況を改善する気があるかってことやな。」


 八神はまっすぐに俺を見詰める。

 なんか気合を入れ直したって感じだな。

 小休止で態勢を立て直させてしまったか。


「ああ。」

「結論を言うと・・・」

「状況を改善出来ないって言うんだろ?」

「そうや。」

「仕事を・・・減らすこともできない?」

「そうや。」

「これまでみたいに滅多に会えない状態が続く?」

「そうや。」

「ま・・・それは仕方なかろう。」

「へ?」


 意外そうな顔をする八神。


「お前には・・・理由があり、仕事をしてる、その理由ゆえに仕事を減らすこともできない。そうだろ?」

「・・・そうや。その理由を」


 と言いかける八神をとりあえずスルーして。


「だからこれからは俺は、週末、八神が家にいない場合は病院寮に泊まる。向こうなら人が多いし安心だからな。」

「せやな、そうしたほうがええ。」

「だが八神が帰れる時は連絡を貰って、やっぱりこっちにくる。」

「え?」

「学校始まれば俺は週末しかこちらにこれない。そうなると会えるのは・・・下手したら二カ月に一回もあるかどうか?」

「もっとかも・・・」

「だけどだ、八神。」

「なに?」

「だったらだったで、二ヶ月か三ヶ月かに一度でも、ちゃんと会えば、それで済む話でね?」

「え・・・」

「俺とお前の仲って・・・そうして多少疎遠になるだけで自然消滅するほど浅いのかね? かれこれ十年来の付き合いだぜ?」

「それは・・・」

「俺たちなら、そうしてたまに会うだけでも、関係維持できると思う。そう思わないか八神?」

「・・・・・・」



 虚を突かれたって顔をしてやがる。

 つまり・・・こういう妥協案みたいのを検討してなかった、頭にも浮かんで無かったのか?

 そうなると、くそっ、考えたくなかった可能性だったが・・・どーもこいつ・・・「別れる」気だったってことか。

 そしてそれで頭一杯になってそれ以外の方法とか、多分探すことすらしていない。

 そうと分かればこっからは、さらに慎重に行かんとな。

 俺も気合を入れ直した。




☆     ☆     ☆



 なるほど・・・そう来たか・・・

 でも言われてみれば、ほんまにそうかも?

 それがあかんっていう理由が・・・咄嗟に見つからへんかった。



 悩む私をしばらく眺めた後、またマーくんが話し出す。



「ただ、やはり、問題は、理由か。お前がそれだけ頑張る理由。」

「うん。」

「実はさ・・・これ聞かないで済ましたかったんだよな、本音言うと。」

「え?」

「言えるなら最初から言ってるだろ、お前なら。言えなかったから言わなかっただけで・・・そしてそれでも俺との関係は維持したかったから

言わずに済まそうと、曖昧なまま流そうとしてたんだよな、お前。」

「あ・・・」


 ドンピシャや。

 そっかやっぱり分かってくれてたんや・・・


「で、俺の方も、お前がそんなに言いにくいことなら無理に聞く気は無いし? それにお前は中々帰ってこれなくても・・・帰って来た時は

会えなかった時間を埋めるみたいに俺にベタベタ甘えに甘えまくってたもんな?」

「・・・そ、そんなことないもん・・・」


 ただ会えるときはいつも抱きついてちゅーとかして撫で撫でしてもらってずっとくっついてただけやん。

 マーくんが中々ぎゅってしてくれへんと泣き真似とかしたり、それで困ったマーくんがよしよしって30分くらいするまで許さへんかったり、

いつものセリフを十回くらい連続で言わせたりとかもしてたけど・・・その分、マーくんが私の体をえっちな目的で触りまくるのも許したった

りもしたからイーブンやしな。それで私があちこち可愛がられて、変な声だしてたとかそういう事実はないし。

 それは普通やし、うん、別に甘えてへん、多分。


「ウソつけ。とにかくそういうお前の態度を見てれば、お前も関係維持したいんだってのは明白で、それが分かってれば、後は、今は忙しい

というその理由程度のもんは、大して気にならなかったというか・・・」

「マーくん・・・」

「だから、聞かずに済むなら済ましたかった、が、やはり、そうも行かなくなってきたな。」

「・・・うん、せやな。」

「つまりさ・・・仮に大雑把に言える範囲程度の事だけでも聞いてれば、俺は姉ちゃんに胸張って『説明は受けてるから大丈夫』って言えた

はずだったんだ。しかし大雑把な説明すら受けてなかったからな、そこを問い詰められると反論できんかった、それが痛かったな。」

「せやな・・・ゴメンな・・・」


 あ。

 しもた・・・謝ってもうた・・・

 でもまだ一回目やし・・・うん大丈夫やろ。それに別件やし。



☆     ☆     ☆



 ずずっとお茶を一啜り。

 今の「ゴメン」もひそかにカウントしておこう。

 3回目になったら容赦せん。



 それはともかく。


「さて、それで問題となってる、お前がそこまで頑張る理由ってやつだが・・・」

「うん、まずは・・・」

「司法取引による勤労奉仕?」

「最初はそこからやったな。」


 『闇の書』の引き起こした災厄は非常に大きい。

 特に八神の前の代の『闇の書』事件となると死者百名以上負傷者千名近く、航行艦数隻撃沈大破、その他器物損壊数知れず。

 またそれ以前に、実際に一つの次元世界を巻き込んで滅ぼしたなどという最悪の前例すら確認されている。歴史上の話ではあるが。

 八神の代の『闇の書』事件では死者は奇跡的に出ていない。しかし暴行傷害百件以上に公務執行妨害何十件に器物損壊も結構ある。

 守護騎士たちが、犯罪者だったのは、どうしょうもない事実なのだ。



 しかしその主たる八神自身についてはどうだったか?

 どう考えても、完璧に、被害者の一人に過ぎない。

 八神自身が能動的に犯罪を犯したことなど一度もないだけでなく。

 何の罪もないのに、扶養義務放棄されて孤独な環境に隔離され、そのまま凍結処分された上、さらに生きたままどこかに不法投棄・・・

 されてしまうところだったのだ。

 もろに被害者で、それ以外では無い、間違い無い。




 そしてだな、ここは管理局も捨てたもんじゃないと思う所なんだが・・・

 一般的には誤解してる人も多いのが実情、つまり八神が書の主として犯罪者の一人だったのだろうというふうに。




 しかし管理局はそこを公正に判断し、適切に裁いた。




 つまり八神個人は、あくまで被害者、犠牲者の一人。

 騎士たちが独断で行った犯罪に関する公的な責任は、八神には、一切、被せられていない。

 だから・・・


「もともとお前が、皆の減刑嘆願して自発的奉仕をするって言い出したんだっけね。」

「そうやで。なにせ皆は・・・奉仕義務の内容も結構大変なんが適用されようとしとったし?」

「管理局のために働く、それだけでその他の実刑は事実上免除ってのもそもそも甘い処置・・・なんだがな。さらに皆のその義務を軽くする

ためにお前が頑張るって言い出したときは・・・全員揃って大反対だったよなそういえば。」

「うん、でも私はそうしたかった。」

「まあそれは済んだ話だからいいんだが・・・確か皆の奉仕義務については結局・・・」

「事実上、騎士たち皆は・・・一生っていうか稼働できる限り・・・管理局のために働くようにって感じになるやろな。」

「でもせめて勤務条件・勤務内容についてはある程度の自由をってんで、お前は頑張って・・・少しは裁量範囲、増えたんだよな?」

「うん。でも私の専属護衛としてザフィーラは他の仕事につかへんって体制を受け入れてもらうためにまた少し・・・」

「でもまたそっから取り返して、確かうまく行けば数年もすれば? お前の部下に皆を呼べるかもとか言ってなかった?」

「うまくいけばな。」

「しかし・・・お前がいくら頑張ってもその功績によって騎士たちを・・・完全に自由にするわけにもいかんって話で結論出てたよな?」

「せやで。」

「・・・だから、それが理由では無い。」

「・・・その通りやな。私がいくら頑張って、管理局のために、仮に無料奉仕でもしても? そもそもそれとこれとは別やから、それで

騎士たち皆の義務をなくすとかそういうことは、ありえへんと。」

「そう判断するのは当然だと、俺思うけど?」

「私もそう思う。」

「だよなあ・・・お前はそういう判断誤らない・・・だから、考えられる可能性として・・・」

「ん?」


 湯呑を手の中でまわしながらゆっくりと話す。

 八神は実に平静な・・・表情の読みにくい微笑気味の顔を浮かべてる。

 どっちかといえば仕事用の顔だね、だがそんなもんで怯むと思うなよ。



「お前自身が偉くなる、とことん偉くなる、そしてそういった罪状認定みたいのにも口出せるくらいにまでなって・・・皆を完全に自由に

すること、それがお前の目的なのかと・・・」

「そうやな。」

「思ってたんだよな、長い間。」

「え?」

「でもそうじゃない。」

「・・・・・・なんで、そう思うん?」


 八神は一瞬だけ驚いた顔になったものの、またすぐ仕事用みたいな平静な笑顔に。

 ふん、そうやって防壁張らなくちゃいけない領域に話が及んできたわけだな。


 だが今日ばかりは、きかずにすまんし。


 さて、言いにくい話なんだが。

 お茶を一啜りして。

 覚悟決めて話しますか。



「今日は、本音を言う日だ。だからはっきり言うぞ、言いにくいことも。」

「うん当然やな。言って。」


 腹を据えて、呼吸を整え、冷静な口調で、はっきりと言う。




「所詮『闇の書』の主であるお前は、決して、一定以上、昇進することは出来ない。」




 正式名称はもともと「夜天」ですなんて言い訳、圧倒的に有名な通称「闇」の知名度を前にすれば実際には無意味だよ。

 だからあえて闇という。その名で通ってると言うのが世間一般の認識というものだ。

 騎士たちに部屋に戻って貰ったのは、この話を率直にするためでもあるんだろ、八神?

 ゆえに俺も遠慮なく本音を話す。



「・・・・・・・・・」


 八神沈黙。しばらく瞑目して・・・少し下を向いてしまった。


「『闇の書』の主でさえなければな・・・魔力といい頭脳といい、お前は本当に・・・実力だけで管理局トップに登りつめることが、可能な

人間なのかも知れないと思う。だけど無理だ、お前が『闇の書』の主である限り・・・」

 そして何よりも家族を求める八神にとって真の家族となってくれた騎士たちを見捨てるなんて選択肢は皆無である以上。


「・・・・・・」


 八神は沈黙を続ける。

 言い出してしまったからには。

 全部言ってしまおう。



「お前の代の『闇の書』事件はそれほど被害大きく無かったとは言っても、それも先代に比べればってだけの話で、冷静にそれだけ見れば

結構な連続通り魔事件で立派な犯罪。さらに先代の事件のときは、死者も百何人も出てるし、負傷者も、非殺傷なんて甘い攻撃されてない、

ちゃんと殺傷設定でズバズバ切られてグシャっと潰されて・・・大怪我した人も多い。その後遺症に未だに苦しんでる人を・・・俺は診察

したことすらあるんだよ、だから分かってしまう。

 闇の書の守護騎士達、本人たちにその記憶が無くとも、その被害者たちは忘れない、忘れてもらえるほどに時間が経っていない、クロノの

父親もその時に亡くなってるくらいだしな・・・」


「・・・・・・せやから出世に限界がある・・・・・・」

「違うか?」


 八神はまたしばらく沈黙してたが、ふっと一息つくと、茶を少し飲んで、そして少し笑った。


「やっぱな・・・マーくんから見ても、やっぱりそう思うんや。」

「悪いんだけどな。」

「別に悪くない、うん、ほんまの話や。」

「だろ。」

「出世競争言うんは・・・きれいごとやない。上に行けば行くほど、そのキャリアに傷が無いかどうか・・・深刻な問題になる。さっき、

マーくんは私は魔力と言い頭脳と言い、トップも目指せる人間やって言ってくれたけどな、でも実際はそんなことないで。優秀な人なんて

いくらでもおるし、魔力大きい人もいくらでもおる、そして両方とも持ってるって人もおるんや、やっぱり。そういう人間同士で、仕事で

競い合って、優劣付けるとなると、最終的には・・・・・・本当に『無傷』な人やないと、ほんまに偉くは、なられへん。」

「高級官僚の出世レースってのは、そんなもんらしいな。」




 「上に行っても問題無い」という身上を持ってるかどうかは恐ろしく重要なことだ。

 偉くなって有名になって管理局の顔ともなったような人がだな、いかに有能で人柄も良く仕事熱心で非の打ちどころが無かったとしても。

 もしもその人が過去に一つの世界を滅ぼすほどの大犯罪に関わった経歴を持ち。

 いまだにその犯罪被害者の憎しみや恨みが残っていて、その負の思いが、はけ口を求めているとかいうことでもあれば。

 その人がいかに今、有能かつ善良でも関係無い。

 その人に向けられる理不尽なマイナスの感情が、そのまま管理局へのマイナスの感情になったらどうすんだ?

 だからそういう「問題ある身上」である人間は、絶対に一定以上、上には行かせてもらえない。



 具体的にいえば。

 エース高町は広告塔として有名になっても問題無いし、本人が望めば前途洋洋だが。

 『闇の書の主』である八神は、エリートとは言え裏方系の仕事しか回ってこないし、既に先も見えているということ。

 それが現実であり、ぶっちゃけ仕方ないという以外に言いようもない。



 それを八神が分かっていないはずは無かったね、やっぱり。


「せやから私は・・・多分どんなに昇進しても・・・きっと、特に司法関係の問題とかには・・・タッチさせてもらえへんやろな。」

「だろな、お前自身が・・・所詮は犯罪者の身内であるって見なされて、罪状決める問題とかの関係からは意図的に遮断されるだろ。」

「そして、それをも決めるくらいのほんまに上のレベルにまでは、絶対に、出世させてもらえへん、と。」

「そうなるね。悪いが・・・間違いなく。」

「ふ、うふふ・・・やっぱりな、マーくん、やっぱり、分かっとったんや・・・」



 自嘲的に微笑む八神が・・・落ち着くまでしばらく待った。

 だが八神はまた珍しい、少し感情的な口調で話を続ける。



「ほんまのところぶっちゃけると、例えばフェイトちゃんとかもそうやな。犯罪歴があるって事実は消えへんのや。フェイトちゃんも、例えば

クロノ君みたいに? ほんまにどこまでも上を目指して出世できるか言うたら難しい・・・」

「現役期間を通じて結局・・・現場仕事から離れるってこともまず無いだろな。ま、フェイトさんの場合は本人もそれでいいんだろが。」

「ほんまに偉くなれるんは、例えばクロノ君、なのはちゃん、ユーノ君も管理局の仕事に専念すれば行けるかもな、そして、あとは、実は、

マーくんやな、マーくんも本気出せばむっちゃ偉くなれるやろ。せやのに、せやけど、私は・・・・・・」

「お前は現状で既に強力な魔導師であり優秀な官僚でもあり・・・俺たちの中でも一番階級高いさ、だが先行きは・・・」

「暗いな、絶対にどっかで頭打ちになる。私の見込みでは・・・今回は何とか佐官になれたけど? 将官になるのは難しいやろな・・・」

「ものすごく無理して頑張って功績も上げまくれば・・・少将くらいにまでは・・・なれるかもって思うぜ?」

「でもなったところで私がほんまに欲しい権限は与えられへんし、しかもそこから上にも絶対に行けへん、と。」

「・・・そういうことだな。」




 八神は一息ついて目を瞑ったまま、語り続ける。




「そうや、その通りや。しかも私にも、そういう上の人らの判断は妥当なんやろなって分かってまう。つまり上の人らの考えはこうや、

きちんと冷静に私の代の『闇の書』事件を見れば私は被害者、でも騎士たちは弁護の余地なく犯罪者、せやから騎士たちには事実上一生・・・

管理局のために働いてもらう、それで償ってもらう、そもそも皆は人間や無いわけやしそれで当然、一応ちょっと安めでも給料は払ってくれ

てるし? 現場レベルに終始するやろけど、階級とか権限も与えへんわけやないし? ただ離職の自由が事実上無いっていうだけで・・・

それだけやったら御の字やろと。先代の闇の書の事件とか考えればほんまのところは死刑でもヌルいしな・・・皮肉なことやけど、実際問題、

みんなが人間やない、プログラム体やからってことでの寛刑、これに下手に文句つけて人間やって扱われると・・・どうにもならん。


 私については、それなりに優れた魔導師でもあるから本人が管理局のために働きたい言うんやったらそれはそれで大歓迎やけどそれで私が

どんだけ働いても、騎士たちの処遇についてはそれとこれとは別の話、それに私についても実は・・・結局のところほんまに上に行かせる

気は無い、できれば中堅くらいの位置で? そこで頑張ってくれてればそれが一番嬉しい、ただ諸般の事情から私を一定以上出世させる気

は・・・ほんまに、ほんまに皆無なんや。中堅幹部から・・・上級幹部の一番下くらいが限界かな、多分。


 今回、無理に無理を押してなんとか佐官には、なれたけど、これもほんまきつかった。普通ならありえんやろって厳しい条件こなして、

それでやっとやで? そろそろ実際に『頭打ち』になりつつあるって空気をヒシヒシと感じさせられたわ。しかも今回もかなり厳しかったのに

さらに上を目指すとしたらもっともっと厳しくなるわけやな、いくらなんでもどっかで私も・・・力尽きるかもな。そしてそうして私が諦めて

辞めたとしたら、それは好都合としか思わへんやろな、上の人らも。騎士たちはどうせずっと働くしかないわけやし私はどんなに私自身が

強くても優秀でも・・・まあ仮にそうやったとしてやけど、そうやったとしても、逆にそうであればあるほど扱いに困る言うんが本音、でき

れば普通位の魔導師か、理想的には単なる一般人であってほしかったいうところか。・・・闇の書の名前は、重すぎる。


 私が・・・仮に有能でも誠実でも熱心でもどんなに頑張ってても! 闇の書への恨みが未だ根強く残ってるこのミッドで! 管理局で!

ほんまに上のステータスを与えられる、わけがない・・・」





 話す内容の苦しさに比べて。

 八神の表情は実に冷静。

 事実を事実としてありのままに認識し、しかもそれを今さら苦とはしてないって感じだな。



 感情的になっても仕方ないことだ、俺も冷静に言葉を返す。



「上にいって目立ち過ぎれば『夜天』が『闇』だってバレる危険性も増えるしな。」

「せやな・・・その通りや・・・私の事を気遣って、そんな急いで出世することないって止めてくれた人もおった・・・」

「俺も正直、同意見だわ。」

「マーくんは、せやろな・・・」



 あと、分かってる話だが確認しとかんといかんこととして・・・



「そもそも騎士たちは家族だ、皆は、お前が自分の人生を犠牲にしてまで騎士たちのために働くとか・・・本当に嫌がってるんだぞ。」

「わかっとる・・・」

「それに皆も罪に対する当然の償いであるとして受け入れている。」

「それもわかっとる・・・」

「そうだな、分かってんだよなお前は、そしてそれでも・・・」

「それでも、なんとかできるもんならって・・・」

「だがなんともならん、それはそれ、おいとくしかない。分かってんだろ?」

「・・・せやな・・・ほんまは・・・わかっとる。」

「皆をプログラム体であると見なして、一個の人格を認めず、あくまでお前という主の僕であるとお前が思ってるなら、お前が全員の責任者

として色々しなくちゃいかんって思うのも仕方ないが、だがそうではない。お前にとって皆は家族だ、違うか?」

「そうや・・・」

「だったら各人の自由意思をこそ尊重するべきだ。皆は今の境遇を、誰かから強制されたからではなく、自主的に受け入れている。それに

少しずつだが勤務地とかの裁量範囲も増えてきてるし、きっといつかは普通の勤め人程度の待遇までなら持っていけるさ。」

「うん・・・」


 八神は静かな表情で頷いた。

 まあこの件についてはそういうことで、こいつも本来納得してないわけじゃあ無いんだよな。



 ちょっと一息。

 また茶を啜る。冷めると微妙に渋くなるよね日本茶って。

 ちょっとばかり沈黙して・・・


 気分を切り替える。


 さて、まあ、これはこれとして・・・


「おい、話を戻すぞ。」

「え? なんやったっけ・・・」


 なんか力抜けてる八神。


「だからお前にとっては、出世それ自体が目的とは思えんって話だ。」

「あ・・・」

「お前が頑張って仕事に専念する理由。以上の考察から、出世自体が目的では無い。そう認識して間違いないな?」

「せやで・・・そこまで分かっとったら・・・隠しても無意味やわな、その通りや。」



 こいつの昇進には必ず上限があり一定以上は絶対に昇れない。

 だからそれ自体を目的にするわけがない、と。

 まあここまでは考えれば分かる話だが・・・



 さてと、まだまだこっからだな・・・







☆     ☆     ☆












<蛇足・・・本編の重い雰囲気を壊したくない人は読まないでね>




「水入り後は雰囲気変わりましたねクロノ親方。八神関が立て直しましたかね。」

「土俵中央でがっぷり四つだな。まだ力比べしながら硬直してる、しばらく動かないかな、これは。」

「うーんどちらも本来、技巧派なんですがね、柄にも合わず正面からの押し合い、珍しい取り組みですね。」

「摩周関が技をかけても、それがかえって隙になるかもな。しばらく両者、この状態で耐えるしかないか。」

「しかし深刻ですねえ、リアル事情の方だと、やっぱそんな感じなんでしょうかね親方。」

「親方と繰り返すなユーノ。残念ながら現実問題そんな感じだろう。彼女が如何に優れていても関係無い部分がある。」

「僕が本気出して偉くなったら色々変えられるのかな・・・」

「一人では無理だし数人でも無理、つまるところは『闇の書』のもたらした被害が大き過ぎると言う事さ・・・」












(あとがき)

 闇の書と八神、騎士たちの処遇問題、この辺は大いに荒れる話題であるのは重々承知してます、ほんとこの話は出すの怖かった。

 ですからしつこいようですが繰り返し確認しますが、この話には独自設定や独自解釈が出る場合があります!

 こうしたほうが妥当だろとかの指摘は聞いて誰も気付かない内に直したりしますが、この件についての議論は絶対しませんので悪しからず。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十六話  VS.八神! 5
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/25 05:09
マシュー・バニングスの日常       第六十六話








「お前が頑張る理由、仕事する動機・・・」


 俺は呟きながら八神を見る。

 既に八神は落ち着いてまた仕事スマイル。

 やはり簡単に崩せる鉄面皮では無い。


「まずは一応、お前の言う事を聞いとくか、お前の仕事の動機とは?」


 あまり期待せずに聞く。


「私はロストロギア被害を幼い頃に受けました、ですからロストロギア被害が無くなるよう、被害にあった人を救えるようになりたいです。」


 わざとらしい標準語で公式論を返してくる。それってあちこちで志望動機とか聞かれた時に答えた内容だろ。

 だが、そう言ったあと、八神はふっと笑う。


「・・・これで納得してくれるマーくんやとは、もちろん思てへんで?」

「当然だろバカ。」

「でもこの動機も、別にまるきりウソってわけやない。」

「それも分かってる。ただ実際・・・」


 こいつから本音を引き出すには、やっぱり思い切って言うしかないかね。

 一旦言葉を区切って八神を見詰めて。


「なに?」

「お前にとって一番苦しかったことって、闇の影響で死にかけたことだった? それとも半身不随になったことだった?」

「・・・え?」

「それより両親が亡くなった後の強制隔離されての4年近くの孤独・・・扶養義務放棄されて事実上は放置という名の幼児虐待。その時代の

孤独の苦しみ、お前にとってそれ以上に苦しかった事なんて無かったんじゃないか?」

「・・・・・・」


 八神は表情を固まらせ・・・反応する余裕も失ったか。これ思い出すようなこと言われると今でもつらいんだろが、今日は言う。


「お前を孤独から救ってくれたのが管理局だったなら話は早かった、お前は本気で心の底から管理局の正義を信じる事ができただろうな、だが

そうじゃない、孤独から救ってくれたのは違法ロストロギア『闇の書』の騎士たちだった、と。」

「・・・・・・」

「例えば俺なら管理局に命を救われたってのはガチの話だ。だから仕事の動機に恩返しの気持ちがかなりあるってのも本音。フェイトさんとか

も不幸な境遇から管理局に救われたと言える、ゆえに管理局のために働くことに迷い無し。ところがお前の場合は、俺やフェイトさんみたいに

単純じゃないよな? 最終的に救ってくれたのは管理局かも知れない、しかしお前が今でも引きずるくらいの心の傷を与えた孤独の苦しみ、

それを強制したのも間違いなく管理局員と。だからお前の管理局への思いって・・・相当複雑なもんだと思うんだよな。」

「い、今でも引きずってるとか・・・そんなこと・・・それにそれとこれとは別やて・・・」


 ふむ顔は何とか平静を繕ってるが声が震えて話す内容もまとまってない状態になったな。でも何言いたいかは分かるけどね。


「心の傷は癒えたかと俺も油断してたけどさ、お前、地球のあの家、売り払ったじゃねーか。あの家お前の両親の形見だろ。でもそれでも

売ってしまったのは、あの家のそこかしこにお前が孤独で苦しんでいた時代の思い出がこびりついてそれが余りにも生々しくて耐えられず、

売るしか・・・無かったってことだったんだろ? お前が中学卒業して本格的にミッドに移住した時に、うちからも含めて各方面から維持し

ておこうかって申し出あったのにそれも断って・・・ああして家を売ってしまうまで気付かなかったよ、お前の苦しみ。ゴメンな。」

「・・・うっ」


 目をつむって口元を抑えて俯いてしまう八神。だが30秒ほどですぐ立ち直り、また俺を見詰める。


「ほんまマーくんは・・・それは確かにそうかもしれんけど・・・でもそれとこれとは別やで?」

「グレアム氏の個人的暴走であり管理局の総意ってわけじゃなかったから、お前の孤独の苦しみは管理局のせいではない?」

「そうや。」

「と、理性では納得できるだろが、はたして感情ではどうかね? つまり管理局はそういう個人的暴走を許したんだろ? とかさ。」

「・・・・・・」

「別だと頭では理解して割り切れるが、それだけで済ませられるほどに浅い苦しみだったのだろうかと、5歳の頃からお前を知ってる俺と

しては疑問に感じざるを得ないわけだ。」

「・・・う」


 言葉に詰まる八神を見る。

 だがまあこの話は八神が公式論に逃げるのをふせぐためだけの話なのでこの辺で良いか。

 ちょっとまとめてみる。


「お前の仕事の動機は決して、管理局的な正義や理想のためでは無いだろ。そういうものを素直に信じるにはお前の境遇は複雑すぎる。

 それよりは出世が目的、家族のためと考えた方が理解しやすいと。

 ところが騎士たち家族のためというのを動機と考えても、まだ納得しきれない部分がある。ここまではいいか?」


 八神はため息をついて、少し首を横にふりつつ諦めたような口調で答えた。


「ほんまマーくんは・・・思ってた以上に・・・」                       ・・・ほんまに私の事わかっとるんやな

「なんだ?」

「・・・なんでもない。ただそれやったら私の仕事の動機ってなんやろな?」

「・・・それでもまだ自分から説明する気が無いとは・・・タヌキめが・・・」


 そう言われてもまた仕事用スマイルを浮かべるだけ状態に戻りやがった。全くもってほんと素直じゃねーよなこいつは。



「だが、まあそうなると・・・途端に分かりにくくなるんだよなあ・・・」


 言って、俺も一息つき、目を瞑って考えを整理しながら・・・話し出す。


「騎士たちを自由にするため出世するのが目的では無い、なぜならそういうことが出来るレベルまで出世することが不可能だから。

 これは間違いない、そしてそのことにお前が気付いたのは・・・多分、俺よりもかなり早い段階ではないかと思われる。」

「さあ、どうやろな?」

「そしてそうなると次に考えられる可能性は二つ。」

「何と何?」

「一つ目は、それでもその無理を押して、出世しようと目指してるって場合だな。そのために必要とされるのは恐らく物凄い、ミッド中の

大ニュースにもなるくらいの・・・誰も無視できない巨大な功績を上げようとしている、そのために仕事に専念してる。」

「なるほどな。」

「ただし・・・これはかなり困難だよな。地道な仕事で実績上げても頭打ちだから一発逆転狙いってことだし・・・そんなに都合よく?

そんな巨大な功績を挙げられるほどの事件が転がってるもんだろうか? いや無いだろ、そういうのが仮にあったとしても、それは偶然に

見つかるか出会うかするもんであって・・・探せばなんとかなるってもんでは無いだろな。さらに言えばそう言った大事件解決への報酬は、

地位によって報いられるとも限らないし・・・一時金と勲章で誤魔化されておしまいになる可能性も高い。」

「まあ、せやろな。」


 地位というのは能力と実績に対して与えられるべきもので、大事件解決などの短期的な功績に対してはむしろ勲章と一時金によって報われる

方が普通かもしれんのだ。高い地位には、それに伴う日常的業務を問題無く片付けることができるかって能力の有無こそ問題なのであって、

単になんかで一発あてて成功しただけのやつを高い地位につけてもそいつが仕事できるとは限らんしね。

 八神に限っては出来るだろう、その能力を示し続けて地位にふさわしいことを証明し続けるだろう、しかしそれだけではなんだかんだいって

上に行かせてもらえないから最後の後押しとして、なにか一発逆転するほどの大事件解決とか出来ればと考えても無理はないが・・・

 だが上の人の思惑次第では、すごーい勲章と、すごーい額の一時金だけで、それでもそれで誤魔化すって可能性、普通にある。


「それにお前の性格的に、そういう無茶な一発逆転を、本気で探すほどに・・・無思慮でも無ければ無計画でも無い。お前はもっと理性的な

人間だ、きちんとした計算ができる人間だ。」

「意外とちゃうかもしれんで?」

「だから二つ目の可能性、こっちのほうが現実的だ。」

「どんなんかな~」

「お前は仕事を通じて管理局の中枢に近づき・・・そうすることによってなにか・・・」

「なにか?」


 仕事スマイルの八神。

 俺が言い淀んでも表情も変えない。

 それには大して注意を払いもせず・・・

 俺は言うかどうか悩んだのだが・・・

 くそ、言いにくいな・・・


「今日は本音で話す日だったな、よし、言うぞ。」

「言ってみ?」

「何か、知りたいんでね?」

「え?」

「何かを調べてる・・・何かを知りたいと思って・・・そのためにはまだまだ仕事する必要がある、できれば偉くなれる限界までは偉くなって

おきたいし、そうしてより多くの情報アクセス権限も得たい・・・だがとにかく真の目的は『知ること』では無いか・・・」

「・・・・・・」

「そう、思った。」


 八神は完全に下を向いて表情を隠した。

 そのままの状態で、どっか堅い声できいてくる。


「・・・なんや・・・唐突やな。なんでそんなこと思ったん?」


 これを思いついたのは実はここ数カ月の話だ。

 俺自身が、機密度Aの情報にアクセスできるようになってから。

 だがこの話をするとそれだけで長くなりそうだから。

 とりあえず八神の話を進める。


「お前は闇の書事件の被害者だ。」

「うん。」

「そして加害者は・・・少なくともお前に対しては、グレアム提督だった。」

「うん。」

「本当に・・・本当にそれだけかね・・・」


 八神は何も言わず。

 異様な緊張をはらんだ目で俺を見詰めた。

 俺は言葉を続ける。


「グレアム提督がお前自身と、お前の周囲の情報操作を行って・・・お前をいわば操り人形みたいに扱ってたのに対して・・・もしかして

それと同じように? グレアム提督自身が、実は、操り人形だった・・・そんな可能性は無いのかな?」


 八神は完全に沈黙。息もひそめて下を向いた。


「真犯人が他にいる可能性・・・・・・もちろん根拠ゼロだけどさ。」


 何も言わない八神をとりあえずスルーして続ける。



「前も言ったが、別に管理局が悪の組織だとは思わん、人の作る組織なんだから良いところも悪いところもあるのが当たり前。しかも実際、

この問題となると、単純に『悪いこと』とも言い切れないんだよな。グレアムさんのやったことはお前に対しては最悪の犯罪だったが・・・

大事故大被害しか、もたらした前例のない悪名高い『闇の書』に対処するにあたって、『大の虫を生かすために小の虫を殺す』という方針で

臨むという、その態度自体は・・・客観的に見れば間違いではない。」


 グレアムさんのやったことは八神に対しては悪だったが、「闇の書」の被害を防ぐという一点のみから見れば、現実的でもっとも妥当性の

高い解決策だった。倫理的には悪だろう、だが社会秩序の維持という観点から見れば、正義だったと言い切れる。これまで誰にも解決できな

かった問題を、偶然、管理外世界の一少女がその才能だけで解決するとか? 闇の書については結果的にそういう形で落ち着いたわけだが、

あれは冷静に見れば単なるラッキーだろう。高町がいてフェイトさんがいて、そして何よりも八神自身が、常軌を逸した天才的な魔導師だっ

たこと、そんな偶然の連鎖。さらに多くの幸運が重なり、ほとんど幸運と偶然だけで奇跡的に解決した、それが真相で。そんな幸運に期待し

て対処法考えるやつがいたら、逆に管理局員として失格じゃないかってね。


 八神を犠牲にするなんてことは何があっても許さないというのは俺の本音だが。

 それとは別の話。

 秩序維持のための妥当性の高い正義が、正義であることを認めないわけにはいかない。


 この辺もしかしたら俺の考えは、なんだかんだいっても命を救ってくれたことは間違いない管理局を、基本的に肯定するスタンスに立ってる

と言えるのかもしれないが・・・でもそれが間違ってるとも思わんぜ?




☆     ☆     ☆




 少女一人を殺してでも、最悪のロストロギア『闇の書』を何とかしようとする態度自体は、間違いではない、か・・・


 それはそうやけど、きっついこと言うなあ、マーくん・・・


 もちろんマーくんは冷静に客観的に言っとるんや。彼にとって命は・・・本来軽い。常時瀕死に等しかった幼少時が尾を引いていて・・・

命に関わる問題でも、それがなに?って感じで普通ではない冷静さを維持する。お医者さんには向いてるんかもな、かえって。生死ギリギリの

患者を前にしても冷静さを全く失わず対処できるってのは大きいし。

 こうして私の命に関わる問題でもやっぱり冷静・・・せやからって私を大切に思ってへんわけやない、それは分かり切っとるけど。

 それに結局そういうとこも含めて全部、私が彼を好きなんやからまあええんやけど・・・冷静で公平なんはマーくんのええとこで、それが

裏返って人に冷たい時とかもあるかもしれん、でも欠点無い人間なんておらんし、私に対しては今みたいに、一生懸命関係維持しようと

頑張ってくれとるわけやしな・・・とか少し考えたけど。


 なんかそれどころや無くなって来た。


 つまりマーくんの話が・・・


 あんまり考えたくなかった・・・


 より悪い方向へ・・・接近してきた?


「そしてそのためにお前の人権を無視した手段を取った、それはグレアムさんが単独でってことになってる、なってるが・・・」


 せやで、そうなっとる、なにか問題ある?


「駄目だな、正直スッキリしない。本当に、本当に、グレアムさんが地球の孤独な少女にとりついた闇の書を見つけたのは偶然か。」


 偶然やろ・・・そう書いてあるやん、調書に・・・


「そしてお前だけを犠牲にして解決しようとしたその方針もグレアムさん単独で考え出したことか。他者からの提案・・・とまでは行かずとも

何がしかの誘導・・・グレアムさん自身も気付かなかったくらいのレベルの巧妙な誘導が行われたとか・・・なにせグレアムさんは、海の

艦隊勤務を長年務めた本当の叩き上げの純粋な軍人って感じの人で・・・権謀術数に長けたタイプに・・・俺は見えなかったよ。そもそも

リンディさんとかクロノとかね、ああいう人たちが信頼するに足る人物だった、本来は・・・と見えた。だから実際にお前に為されたような

非人道的な、奥深い企みなんてのを考えた人は、別にいると考えるのが自然ではないか・・・」


 なにをアホなこと言っとるねん・・・


「疑おうと思えば疑える節は他にもあり・・・例えば処分が軽かったよな、公職追放と罰金だけでさ。あれはおかしいと思った。確かあの人、

アースラの管制系にハックかけるとか指揮系統を紊乱するとか公務を妨害するとかかなりなことをやってたはずなんだけどそれにしては軽い、

しかもお前に対する実質的な幼児虐待とかのさ、知られれば恐ろしく不名誉な事実とか・・・全然ミッドでは問題にもされてなかったような

気がするんだよな、そういう話が流れないように、つまりどこかで誰か『真犯人』がグレアムさんをかばっていたかのような・・・」


 ちゃう、ちゃうからマーくん、そんなことない・・・


「そしてそういった方針を考え出した『真犯人』は管理局の・・・かなり上の方に、今でもいるのではないか・・・」


 あかんて、そんな疑いをマーくんは持ったらあかん・・・


「さらに言えば、そういう人がもしもいた場合・・・もしかしてお前の両親も」


 あかん限界や。



☆     ☆     ☆



「もうすぐ5時や!!」

「は?」


 いきなり八神が大声出して立ち上がった。


「夕ご飯の支度せんと!!」

「いや、おい八神」

「支度する、支度するから・・・マーくん、一時間ばかり、部屋に戻っといて。」

「ちょっと待てって、話をキリのいいところまで・・・」

「お願い。」

「・・・・・・」


 八神の目は怖いくらい真剣だった。

 なるほどね。

 俺、ちょっとヤバい話を・・・してたのかね。

 こうやって八神が、問答無用で遮るしか・・・無いくらいの。


「分かった。ただし八神、これだけは言っとくが。」

「なに?」

「言えない範囲がある、踏み込んでは危険な領域がある、だから何も言えない、って部分があれば。」

「・・・うん。」

「はっきり言ってくれ。別に無理に踏み込もうとは思わん。」

「分かった。」

「んじゃ、互いにちょっと一人になって、考えをまとめときますか。」

「・・・せやな。」

「じゃあまた後で。ご飯出来たら呼んでくれ。」

「・・・うん。」



☆     ☆     ☆



 マーくんは部屋に戻った。

 一人で台所仕事を始める。

 機械的に手を動かしながらも考えとった。


 あかんわ。

 なめてた。

 甘く見とった。


 マーくん、医療関係以外のことには興味無いみたいな顔しといて・・・

 実は見てる、考えてる、思ってた以上に・・・分かってる。

 知ってる範囲も・・・もしかしたら私が思ってた以上に・・・深いとこまで及んでるのかも・・・


 そうや今度のエリオ君の事件で、もしかしたらプロジェクトF関係の情報とかも知るようになっとるかも?

 そうなると戦闘機人関係も・・・もともと私が紹介したんは確かやけど、私はせいぜい健康診断くらいしてくれればと・・・

 絶対に信頼できる医師って言ったらやっぱりマーくんしかおらへんかったし・・・

 でももしかしたら・・・それもやったらあかんことやったんかもしれん・・・


 そうや思い出した。

 なんで別れへんとあかんのか。

 マーくんを巻き込んだらあかんのや!


 万が一のことでもあったらどうするんや!

 私が寂しいとか、何を甘えとるんやアホか!

 とにかく巻き込んだらあかん、絶対に!


 絶対にや!!!


 すごく冷静になってきた。

 よし、まずはマーくんが・・・どこまで知っとるんか確認する。

 これは丁寧にやらんとあかん。

 下手なことを私が口走らんように気をつけながら。


 そしてその上で、今度こそ本気で別れる。

 方法は簡単や。

 マーくんが絶対に言われたくないことを言って。

 傷つければええねん。


 そうや、言うのが私やったとしても、いや私やからこそ。

 絶対にマーくんに言ったらあかんことを言うんや。

 きっとマーくんは怒る、もしかしたら泣きそうになるかも知れん。


 でも。

 言わんとあかん。

 そして別れんとあかん。



 絶対にマーくんを巻き込んだら、あかんから。



 そう堅く決意した。




 気付いたら料理もかなりできとる・・・ほとんど無意識やったな・・・なんかすごいな私。


 最後に味見して、うん悪くない。


 盛りつけのために食器出しながら・・・またぼんやりと考える。



 しかしマー君て・・・

 私は「言わへんでも分かってくれとる」って勝手に甘えた考え持っとったわけなんやけど・・・

 ふたを開けてみてビックリや。

 ほんまに分かっとった。

 なにも言わんでも。

 それでもやっぱり、分かってくれとったんや・・・


 せやかて説明せんかったんはやっぱりあかんかったわな。

 これからはきちんと説明・・・


 これからって・・・


 アホか、私。


 これからマーくんと・・・お別れするとこやんか。


 あかん少し気ぃ緩むと普通に・・・当然みたいにこれからも一緒やて・・・感じてまう。



 自分の頬を軽く叩く。

 気合を入れる。


 それでもや。

 それでもマーくんを巻き込んだらあかんから。

 お別れせんと、あかんねん。











☆     ☆     ☆






<蛇足>


「・・・・・・やばい。」

「安定感のあるマシューの攻撃だったがここにきて、はやての気迫が変わったな。本気でカウンター狙いの体勢に入った。」

「・・・・・・マシューは気付いてないかも。」

「一応警戒はしてるつもりのようだが、足りないだろうな。横から見てると分かるんだがな、当事者には分からなくても仕方ない。」

「このままマシューがこれまで通りの一定のペースでの安定した攻撃を続けても・・・」

「無理だろうな、はやては本気で集中して、一気に倒す気で撃ってくるだろう、所詮は惚れた弱み、本気攻撃など出来ないマシューでは。」

「謝らせて、それでとか考えてる場合じゃないよマシュー! なんとか、なんとかして・・・」

「いや無理だろ。もうすぐカウンター一閃、はやての逆転KOが来る! 今度うちに食事に呼んでフェイトの隣に座らせて、と・・・」






(あとがき)

 この話には独自設定や独自解釈が含まれる場合がありますと再び繰り返し強調しておきます、しつこくすいません^^;

 前回から引き続き紛糾しそうな話題でありますが、荒れ防止のため議論は絶対にできませんのでご理解のほど宜しくお願い致します。

 微妙なズレの自覚と、はやての決心と。マシューがちょっと踏み込み過ぎたのが裏目に出たかな・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十七話  VS.八神! 6
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/27 09:13
マシュー・バニングスの日常        第六十七話








 夕食は皆で一緒に食べた、これもまた久しぶりやったんやけど。

 でも今日は話せんとあかんってみんな知っとるから・・・凄い急いで食べて速攻で部屋戻るし皆・・・

 そういう緊張した雰囲気やのに。


 マーくんは全然平気でゆっくりと、いつも通りに食べとるし。

 ほんまずぶといなあ自分?

 私と別れたくないんちゃうん? そのために頑張ろうとしとるんちゃうん? せやのに何をそんなに落ち着いとんねん!


 別れようとしとるくせに、私はそんな理不尽な怒りを少し感じたんやけど。

 でもすぐ考え直して冷静になった。

 あかんで八神はやて。マーくんをなめたらあかん。これは自信ある・・・言うことなんちゃう?


 私が何を言いたてても説得する自信が本気である?

 なんかほんまにそんな雰囲気・・・に見えてきた。

 ふん、甘く見られたもんやな、私も交渉術には自信結構あるでマーくん。


 一番最後にマーくんが食事を終えて、私はお茶とか準備して持ってきて。


 慎重に・・・何気ない感じで・・・単なる雑談みたいな雰囲気で質問する。


「そういえばマーくん、エリオ君だけやなくて・・・」


 マーくんはお茶を飲みながら平然とした顔で私の方を向く。


「フェイトちゃんの健康診断もすることになったんやって?」

「耳が早いな・・・そだよ。」

「やっぱりフェイトちゃんの体が・・・特殊やから心配になった?」

「ま、そういうことだな。昔から違和感は感じてたんだが、エリオ君絡みではっきりと知ったし。」

「違和感?」

「ああ。つまりだな・・・例えば樹木で例えれば、年輪ってもんがあるだろ。」

「うん。」

「あの年輪って自然な木だと、必ずしも毎年、等間隔できれいに整然と並んでるってもんで無いんだよな。」

「せやな。」

「天候の良い年、悪い年、成長の良い年、悪い年、年によって幅に差があり自然なばらつきがある。同様の事は実は人間の肉体にも言える。」

「へー。」

「人は病気もするし怪我もする、機能上は問題無いレベルに治っても、それでも完全にそれらの痕跡が消滅するかって言えば違う。」

「なるほど。」

「フェイトさんの体は・・・ある一定の年齢まで、不自然なほど整然とした成長をしていたように感じた・・・あれは恐らく・・・」

「自然に生きて成長したんやないってこと?」

「だな。今回エリオ君絡みで、そういうことを可能にする培養層とかね、はっきり見たし。」

「これまでは見たこと無かった?」

「少なくともあれほど高機能のものはな。限定的機能を持つものなら知ってたんだが・・・」

「そっか。」


 フェイトちゃん・・・・・・ほんまに・・・・・・困った子やな・・・・・・


「それやったら・・・その、具体的に・・・どのくらい知ってるん? その、フェイトちゃんみたいな・・・」


 ああ~なんて言ったらええんやろ。


「人造魔導師を作る計画、戦闘用機械人間を作る計画、そういうのがあるってのは知ってる、が、それらに関わる固有名詞は知らん。」


 いきなりマーくんは素直に言ってくれた。


「そうだな、このへん相談したかったんだ。俺はそのへんの計画については大体知ってるんだが、関わってる固有名詞は決して知らない、

つまり機密度Aの情報アクセス権限をいつの間にか与えられてたんだよ。これって危ない?」

「へ? そんなん・・・だってマーくん、まだ二尉待遇で・・・」


 おかしい。私が確認した時、本局では・・・


「なんだか地上本部の医官としての権限が拡大されててさ、そこまで見れるようになってた。」

「いつの間に!」

「だな、俺も驚いた。」

「うぅ~ん・・・・・・まだA?」

「そだよ、それは間違いない。」


 Aならば、まず絶対に「固有名詞」は伏せられとる筈。それ以外にも年月日とか地域とかとにかく「特定できる情報」は伏せられて、

あくまで大体何があったか分かるって程度の筈やけど・・・


「Aならまだ問題無い、問題無いけど・・・」

「ふむ、また勝手にアクセスランクを上げられたりして、気付いたら引きずり込まれてる可能性とかある?」


 すぐにそこに頭が回るんかい。ああ~やっぱりヤバいかなぁ・・・


「・・・そこが問題やな・・・」

「逆に訊けば、どうだ、そのへんってやっぱり知ったら危ないことってある?」


 機密漏洩とかしたら問題やろけど、マーくんにそれは無い思うし、正式な権限を得てアクセスしとるわけやからそれ自体には問題無い。

 けどその内容をもっと詳しく知ろうとかすると危なくなるかもやけど、そんなこともマーくんはせんやろし。

 知ってしまったこと自体が手遅れになるレベルの本物の機密とかは流石にな、最高度のアクセス権限Sを得た上で、そしてそういう通常の

アクセスランクを超えた所にあるレベルの話になるから普通にしとれば問題無い、はずやけど・・・


「・・・場合によるとしか言えへんわなぁ・・・なあマーくん、そもそもなんでそうやって気付いたん?」

「んーと、まずナカジマ姉妹の健康診断するにあたってさぁ。」

「うん。」

「気合入れて本気で徹底走査すれば専門分野違うとは言え大概分かるだろうと自惚れてたんだが・・・そうは行かなかった。」

「・・・そっか。」

「ああいう半分機械みたいな体、やっぱ純粋な医学とは畑違いの工学系知識とか、またはそのものズバリ機械的人体改造技術の前例とかさ、

そういうのをちゃんと知らないことには適切な診断も出来ない、と考えざるを得なくなったんだ。」

「・・・」

「そんでそれを調べてる最中に、俺の情報アクセス権限が陸では拡張されてることに気付いて・・・八神、どうした?」



 私はマーくんの気遣う言葉も良く聞こえへん状態になっとった。



 あちゃー・・・

 最悪や最悪や最悪や!

 それやったらまるっきり・・・

 マーくんがそういった危険度の高い情報にアクセスしようと思った動機は・・・

 私が検診依頼した戦闘機人ナカジマ姉妹をきちんと治そうと思ったからってことで。

 つまり私のせいや!


 私が、危ないところまで、既に、マーくんを、巻き込んでる!


 なにを・・・やっとるんや・・・それはやったらあかんて・・・分かってたはずやのに・・・


 なんでこんなことに・・・


 そうや私はマーくんの性格は良く知っとる自信がある。

 マーくんは危険に自分から好んで踏み込んだりは絶対にせぇへん。

 自分の体が結局は弱いこと、大きな危険とか負担とかに耐えられへんこと、良く知ってて。

 自分が無茶して、そして身近な人を悲しませたりしたらあかんって・・・そう強く思ってる。

 せやからマーくんが自分からそんな情報を求めるなんて・・・


 見誤った。


 なんで、なんで・・・

「なんでマーくんは、そんなこと調べようと思ったん?」



 八神がやっと絞り出したみたいな口調で言った言葉は・・・正直ちと不愉快だったが。

「患者を治すためにベストを尽くす、当然だろ?」



 マーくんはそうクールに答えたけど、それだけでは納得できへん!

「せやけど! それでも自分から危なそうなところに踏み込むなんて! それはせぇへんて約束してたんちゃうん?!」



 確かにな、姉ちゃんとそう約束したことは八神も良く知ってることだ。しかし。

「なあ、ナカジマ姉妹のさぁ、あの改造された肉体は・・・彼女たちのせいかね?」



 なにを言っとるんや?

「そんなわけ無いやん、あれは彼女たちの意思によらず違法研究者が勝手に・・・」



 そこまで分かっててなぜ分からない?

「つまり生まれつき自分の意思によらず肉体に障害を負わせられてたわけだわな。」



 それはそうやけど・・・あれ?・・・なんか分かりそうなんやけど・・・でも!

「それでもや! それでもあかん! マーくんはそんな危ないことは」




 雰囲気が変わった。




 これまで。

 八神はやてとマシュー・バニングスの間になされた会話の数など数えきれないが。

 二人はどちらも幼少期に死に直面した経験を持ち、生死に対する一種の諦観を強制的に持たされており。

 ゆえに精神的な成長度は、肉体に比して老成している傾向があり、その分、包容力や受容力も高い。

 そんな二人だから相当な皮肉や偽悪なセリフをぶつけあってもこれまでずっと平気だったし、どちらかが本気で怒ったことも無い。

 二人が本気でケンカしたこと無いというのは事実だった、そこまでどちらかが煮詰まるということが無かったのだ。


 しかし。


 今、八神はやては忘れていた。

 自分もまた、自分の責任では無いのに無理やり障害を背負わされて苦しんでいたことを。

 だがそれも無理は無い、彼女が健康体に復帰して既に長いのだ。

 忘れるともなく無意識に少しずつ忘れていってしまうのは自然なことなのだ。


 それに大してマシュー・バニングスにとってはその苦しみは現在も続行している。

 その苦しみを忘れることなど決してない、日々それに直面して生きている。

 だが彼は、八神はやてなら・・・それを分かってくれていると、彼女が忘れることは無いと、信じていた。

 だから今の彼女の、まるでその苦しみを忘れたかのようなセリフを聞いて・・・彼女に対して前例のない気持ちを持った。


 つまり、怒ったのだ。本気で。


「あのな、八神・・・」

「とにかく! そういう危ないことには!」

「聞け。」


 怒鳴らなかった。

 静かな口調だった。

 しかしこれまで、はやてが聞いたことのない迫力が込められていて、彼女は思わず沈黙した。


「自分のせいでは無いのに、生まれつき障害を負わされて、そのために苦しむという、その境遇。」

「あ・・・」

「それはもろに俺の境遇と重なる、そういう状態の子供を!」


 マシューははやてを睨みつけた。


「そういう状態の子供を! 俺が治さないというのなら! では俺が医者である意味がどこにあるんだ!?」


 そこまで言われてやっと理解したはやては青ざめて唇を震わせる。


 そう・・・それは彼にとっての例外。


 危険に自分から近づかないという制約を乗り越えてしまうほどの例外。


 自分と同じような境遇の子供を治さないというのなら、医者である意味は無い、それはこれまでマシューは明言したことは無かった信念で

あるとはいえ・・・彼の生まれ育ちを知ってれば当然分かる事であるはずだった。

 だが言われなければ気付かなかった、そこまで彼の事を注意して見ていなかった! 彼の事を考えていなかった!

 彼は自分の事を深く深く考えて理解してくれていたのに・・・そのショックではやては言葉を失った。



 そんな彼女をマシューは冷ややかな・・・怒りの籠もった視線で貫き、言った。



「俺が医者であることを、邪魔するな。」



 前例のない感情にマシューの口も止まらない。



「お前の仕事が多少どころかかなり危険を秘めているってことは当然俺も知っている。だがそれがお前のやりたい仕事なら仕方ない。だから

俺はこれまで一度も、お前がそういう仕事をすることにケチをつけたことは無い、いつも黙って見守ってきた。しかしそうであるのに、

お前の方が、俺の仕事にケチをつけるとはな! もちろんいくら治療のためであるとは言え普通なら俺も危ない橋など渡らない、しかし、

ナカジマ姉妹の場合は、そもそもお前に紹介された患者だったし、しかもその境遇が俺の境遇と見事に重なる。お前もそこまで理解した上で

俺に紹介したんでは無かったのか? いや違うか、単に一番信頼できる医者として紹介しただけだったわけか、まあそれはいい。だが俺は、

そういう境遇の患者を治すにあたっては普段より頑張らずにはいられない、それが当然だということが、お前には分かって無かったのか!」


 八神はやては理解した。

 理解して、そして後悔した。

 なんとか口から出した言葉は・・・


「ごめんなさい・・・」


 マシューはそれを聞き、苦々しい表情で、沈黙し軽く首を振った。



 そのまま十数分か、それ以上・・・ただ時計の音だけが部屋に空しく響いていた。





☆     ☆     ☆




 あはは。


 「怒らせる」つもりやったくせに、「怒られて」、どうすんねん私。


 しかしほんま・・・私って最低やな。

 マーくんに甘えてたって自分に認めたはずやったけど、どうも考えてた以上に甘えまくっとったんやな。

 自分が危険な仕事しといて、それについては一言も口出しせんマーくんに対して調子に乗って、マーくんがお医者さんとして絶対に、

曲げられへん信念にケチをつけて非難するとか、ほんま何様やねん。

 しかもそうしてマーくんが危険な所に近づくように、誘導してもうたんも私かい。

 マーくんのことを良く見てへんかっただけやなくて。

 マーくんが倒れた時に駆けつけへんかっただけやなくて。

 なによりも。

 マーくんがほんまに大事にしてたこと。

 お医者さんとしての生き方、態度、スタンス。

 そういうものを・・・きちんと理解することさえ。

 してへんかったんか、私は。



 あかん。

 ダメや。

 ここまで、やな。



 今になってやっとわかったんやけどな。

 マーくんの方が私よりもいつも体が弱かった。せやから私が世話したらんとあかんて私は思ってた。

 そうすることで、私は必要とされてる人間なんやって小さいころから私は・・・信じてたんやけど、実はそれって・・・


 マーくんが、そうさせてくれとったんか。甘えさせてくれとったんやな。あんだけ死にそうな病状やったくせにそれでも。

 そんなふうに私を気遣う・・・精神的な余裕は持っとったんや。そうか私は・・・

 私は、体はマーくんよりはマシやった、けど心は・・・いつも孤独に震えて不安定な精神状態で。


 肉体的にはマーくんの方が弱かったから私の介護とか助けとか、意味無かったとまでは言わへんけど。でも。

 精神的にはいつでも私は不安定で、そこをマーくんに依存して、安心させてもらってたんか。

 私ら二人は、実はそういう風に・・・支え合っとったんやな、今さら分かったで。


 つまり近頃になってやっと、私がマーくんに甘え過ぎるって問題が起こったわけやなかったんや。

 最初から。ずっと今まで、どんなときでも。私はマーくんに、精神的に依存して、甘えて頼ってそれは当然って思ってて。

 今回の件でやっと、実はそうやったんやってことを自覚しただけか。


 きっとそんなこととかアリサちゃんはお見通しやったんやろなあ。

 でもそこでやな、もしも私が彼の体のケアをちゃんとするんやったら、私が彼にメンタルで甘えてもええっていうんが・・・

 ずっと黙契みたいなもんとして存在して、それもアリサちゃんは分かっとった、せやから許してくれとったんや。


 私が彼の体の事を見れへんのやったら、私には彼に甘える資格が無いんや。

 それでもきっとマーくんは許してくれる? うん、せやろな、正直そう思う。またそれに甘えたくなるけど。

 あかんて、それは。そうなるとやっぱりどうしても・・・私は私を、許せへんわ・・・


 やっぱりな。

 考えてみたら結論は一つ。

 私には、マーくんの、そばにおる・・・資格が無い言うことやな。


 こんなに長く一緒やったのに、実は精神的に凄く依存してたってことすら気付いてへんかった私には。

 そのくせ上から目線で、体の面倒を私が見たってるんやみたいに、私の世話が必要とされてるんやって自惚れてた私には。

 そして何も気付かず勝手なことして勝手なこと言って・・・こんなにマーくんを困らせて、怒らせてしまってる私には。

 一緒にいる資格が無いし、正直、一緒にいても、一方的に負担をかける以外に・・・何もできへんとしか思えへん。


 マーくんが危ないこととかに巻き込まれたら今度こそ私らは一家総出で、それ以外のすべてを放り出してでも命がけでも助けて見せる。

 危ないことに巻き込まれへんように相談にものるし色々と話せる範囲の事は説明もする。

 せやけどそれってな、こうして一緒に暮らしてベタベタしてへんでも・・・普通に友人としてでも出来ることやわな。

 むしろそのほうが安全やろ、実質私の旦那さんみたいなもんやって知られてたらまたそれで色々危険度が上がる可能性あるし。

 ある程度、距離を置いて、友人として助言や忠告もして、そして今度こそ絶対助けると、出来るのはここまで、やな。


 一緒にいたい、都合の良い時にまたぎゅってしてもらって甘えたい。

 そう思って、そういう状態続けるんは・・・もうあかんってはっきりした。

 彼の事を・・・見てへんかった私には・・・一緒にいる資格は無いわ。



 自嘲的な笑みが浮かんできた。


 さて、既に最低な私やけど。

 さらに最悪なこと言うか。


 マーくんが許せへん、マーくんが傷つくことを。

 思い切り言いますか。


 あ、でも本気で言おうとなると・・・

 ちょっと正面から言うのは無理やな・・・

 どうしょうもなく顔が横向いて、マーくんの視線を避けてまう。


 でも大丈夫やろ。

 これ言ったら。

 マーくん傷つくしなぁ。



☆     ☆     ☆



 落ち着こう、よし落ち着こう、俺は姉ちゃんじゃないんだ。

 らしくないぞ俺。なんでそんなに怒ってる?


 なにをそんなに・・・そうか。


 俺の方は、八神の事を良く見ていた、良く考えていた、そしてきちんと分かっていたのに。

 だが八神の方は・・・何かを見忘れていて、最後まで考えておらず、そして・・・分かって無かった、そう思った。

 つまり俺は言われなくても分かってたのに、こいつは言われなければ分からなかった。

 それがショックだった、だから腹が立った、そういうことか。


 八神に怒るなんてのは前例が確かに無い。

 しかし良く怒る人なら身近に知っている。

 姉ちゃんの例でいえば・・・怒った時は怒り切らねばならない。

 そうして感情を全部吐き出して、そこでやっと気持ちも落ち着き、相手を許そうって気にもなるんだ。


 んで俺は姉ちゃんほど激しい感情が長続きしないな、やっぱり。

 これだけ言った程度で・・・既に気持ちが沈静しつつあるのを感じる。


 既に健康になって長い八神が、俺やナカジマ姉妹、エリオ君やフェイトさんが未だに直面してるような健康問題について・・・

 いかに自分も同じような境遇だった経験を持っているとは言え・・・

 どこか忘れてしまうこと。


 それ自体は仕方ないし、また当然で自然で、むしろ祝福すべきことだ。

 本当に健康になってきたんだって証拠だからな。

 俺は、八神がそこまで健康になったんだってのは、考えてみれば確かに嬉しいよ。


 そもそも「言わなくても分かってくれてる」って期待をしていたのはお互いさまで。

 俺は八神の事をかなり分かってたと思うがそれでも決して全部ではないだろ、まだ分かって無いこともあるはず。

 八神もやはり言われなければ分からなかったことがあった、それだけの話だ。

 つまりは互いに説明不足だったってことだな。

 そして俺の考えについて八神に説明が不足していたのなら、これは俺の方が悪いんでね?


 それに八神がどこか誤解するのも無理ない部分がある。

 つまり俺が自ら好んで危険に近づくわけは無いって確信が強すぎたんだな。

 そしてそれは間違いなく俺の行動原理の一つであり、それを良く知ってるがゆえに八神は判断を誤った。

 あくまで八神が俺のことを良く知っているがゆえだ。


 うん、考えてみればそれほど怒ることでも無かったような気がしてきた。

 単なるすれ違い、ちょっとした誤解だろこれは。

 話せばわかる事、ただ話し忘れていただけの事、うんその程度だ。


 八神、お前を一番にするっていったのは嘘じゃないぞ、掛け値なしで本音だ。

 俺はきっと生き方を変えようとしてる、まあ端的にいえば姉離れしようとしてるのかも知れんが、それって男として当然だよな?

 そして俺が新しい生き方をしようとするときに、そばにいてほしいのは八神、お前なんだよやっぱり。

 色々と不都合な事情も特に仕事関係とかで多いのは確かだけど、それは二人で協力すれば何とかなるさ。

 何か理由があって八神なんじゃなくて、八神が八神だから一番にすると決めた、これはもう理屈じゃない。

 だからこんなふうに多少、行き違いがあった程度のことはきっと俺たちにとって大したことじゃあ無いさ。

 やはりちゃんと話さないのはダメ、これからはきちんと話し合おうって互いに確認すれば済む話だな、うん。

 それで済む話だと、俺は八神なら無条件に信じることが出来るんだ。


 よし、まあこれはいいからって許しとくか。

 考えてみたら既に二回目の謝罪だし。

 実に良い感じだ、あと一回、無理にでも謝らせて、決めてしまうとしよう。


 と思ったものの。

 それでも感情が激しく動いたのは事実で、そういう経験は滅多に無かったので。

 とりあえず落ち着いて、平静な声が出せるようになるまでは少し待って・・・


 よし、そろそろ大丈夫かな、普通に話せそうだ。

 俺がとりあえず「もうこれはいい」と言おうとしたとき。




 八神はなんだか横向いて、ボソリと呟いた。


「マーくんが悪いんや。」


 あんだと? せっかく関係修復の努力を俺がしようとしてんのにその態度はなんだコラ。また少しムカつく。


「マーくんの、体が、弱いんが、悪いんや。」


 ・・・・・・・・・なんて?


「全部、マーくんの体が弱いこと、きちんと治ってないこと、それが悪い。」


 何を言われてるか分からなかった。


「いつまでも半病人のマーくんなんて私の・・・足手まといなんや。」


 呆然と・・・してたかも知れない。






☆     ☆     ☆





<蛇足>


「これって・・・・・・反則打撃では・・・・・・ないでしょうかクロノさん・・・」

「かもしれん、そうでなくてもギリギリだが、確実に言えることは・・・非常に有効だということだな。」

「モロに入った? カウンター? マシュー足が止まった! ガードも下がって来た!」

「それ以前にすでに彼には珍しい激しい感情により(精神的)スタミナも減っていたしな。しかも死に体になったか、決まったかな。」

「・・・それを言ったらおしまいってことをさあ・・・・ほんとは気にして無いくせに・・・」

「だが冷厳な事実でもあるからな。しかし八神はやては手段を選ばんな。手段を選ばず本気で倒そうとしている。」

「マシューは・・・ポイントを積み重ねて徐々にって戦術で・・・これでは・・・」

「はやて相手に本気攻撃などマシューには不可能、対してはやてはこういう手も使うと、ま、これで決まりだろ。」





(あとがき)

 行き違い、初めてのマジ喧嘩、怒られて八神ショック、暴走、さらに状況悪化、さてどうなるかと。

 この後の話ですけどね、このままマジ喧嘩別れパターンと、それでも仲直りパターンがあるのですな。

 そしてどちらにするかは、まだ決めてない、さてどうするのが正しいのやら・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十八話  VS.八神! 7
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a
Date: 2009/12/29 06:54
マシュー・バニングスの日常      第六十八話







「でもな、結局のところは・・・全部、マーくんの体が弱いこと、きちんと治ってないこと、それが悪いんや。」


 少なくとも十秒くらいはマジで何を言われてるのか分からんかった。


「マーくんが健康で丈夫やったらそんな色んな心配とかする必要も無かったのに・・・私が心配せんとあかんようになるんも、全部・・・

マーくんが体、弱いのがあかんのやないか・・・もう耐えられへんわ・・・」


 すごく遅れてやっと理解しだす。



 おいおい・・・それを、お前が、言うか・・・

 これは・・・なんだいきなり、そもそも唐突だ。

 八神がこんなことを言うはずがない。

 それって俺にはどうしょうもないことだろう。

 俺が生まれつき持っていたハンデ、そういう体であることは俺の責任ではない。

 しかも近頃は少しずつ改善されてきたのも事実で、それもこいつはよく知っていて。

 なのにそういう俺にはどうしょうもないことを、あたかも俺の責任、俺の悪いところみたいに言うとか。

 こいつがそんなことを思ってるはずがない、言うはずが無い、きっと無理してる。


 そうだ八神は無理してる、無理に言ってる、その証拠に顔を見せない、横向いてる。



 大体だな・・・世の中には例えば生まれつき心臓病を患って、乳児のうちからペースメーカーを心臓につけて暮らさなくてはいけないって

人もいる。そういう人はそのまま一生ペースメーカーをつけたままでいかねばならず激しい運動とかは出来ないが、しかしそれでも日常生活は

できるし、仕事にも就けるし、そういう体だって理解してくれる相手がいれば結婚だって出来る。八神は幼いころから病院暮らしが長く、そう

いった症例も当然知っている、こいつが知らないとかありえん。

 だから八神にはそういうことに対する理解があるし、俺の体の事なんて当然良く良く知ってるし、そしてその上で俺の事を受け入れてくれて

いたわけだし、将来的には普通に結婚もしてくれるつもりだったと思う。


 そうだ八神は理解してくれてる。

 八神は分かってくれてる。

 八神は受け入れてくれてる。

 今は無理して言ってるだけだ。

 そんなことは分かってる。


 分かってるのに・・・


 きいたわ。


 無茶苦茶、きいた。

 つまりこいつだけは絶対そういうこと言わないと。

 完全にこいつに対しては。

 そこんとこ無防備だったんだ心が。


 だから俺は何も言えず。


 絶句するしか、無かった。




 八神は続ける。


「マーくんが健康でありさえすれば・・・こんなに悩まんで済んだのに・・・全部マーくんの体が弱いのが悪い・・・そうなんや、それが

あかんのや・・・私がどんなに仕事忙しくても・・・マーくんの体が頑丈やったら・・・アリサちゃんもあそこまで怒らへんで・・・」


 呼吸が乱れる。くそっ! 軽く涙出てきたかも。きっついなあw

 他の誰でも無く、こいつに言われると、死ぬほどきつい、マジで。

 口が回らん、反論できん。

 心にもないこと言ってんだろ?

 無理して言ってんだろ?

 その証拠にこっち全然向かないじゃないか。

 俺の目を見て、同じことが言えるなら言ってみろ!


 だが俺の唇は震えるだけで言葉が出ない。

 うわあ。

 すんげえショック受けてるぞ俺。

 なさけねー。



 なんとか息を整える。

 心臓も・・・よし落ち着け、落ち着け俺の心臓・・・大丈夫だ・・・

 落ち着いてきた、よし深呼吸・・・


 やっと自分を落ち着かせる。

 落ち着かせると・・・


 急に。


 壁を思い出した。

 昔からあった、俺と、健康な人間の世界を隔てる、絶対的な壁。

 その壁は俺と八神の間にだけは、これまでは確かに無かった。

 だが急に、それが無いフリをしてただけで・・・実はあったのかと。

 そう思った。



 その壁を思い出せば。

 あとはいつもの情景。

 そうだ寝たきりの俺と、その壁で隔てられた周囲の世界を、完全に客観的に眺める・・・

 死と接し続けていた幼いころの心境に・・・俺は一瞬で立ちかえり。



 ひどく・・・冷静になった。


 頭が冴える。


 八神は今、俺に悪いことをしたという罪悪感がベースになってる心境から、やはりまだ抜け出ていない。

 だから考え方が全て後ろ向きに悲観的になってる、これもこいつにしては非常に珍しいことだ。

 さらに自分の仕事の・・・自分が仕事する目的の持つ危険性に俺を巻き込みたくないと思うあまり・・・

 俺を突き離そうとしている。

 そのために俺を傷つけようとしてる、これは間違いない。

 その直接的なきっかけになったのは、はじめて俺に本気で怒られて・・・それで本気でビビったってことにあるんだろ。

 ただでも悪いことをしたって後悔してたのに、さらに無神経なことを言って俺に怒られた、本当に私はダメだとか思いこんだんだ。

 そこで恐らく、かなりの程度衝動的に・・・俺が一番言われたくないことを言い出した。


 それを言ったらおしまいよって話だ。

 俺たち二人は俺の体が弱いなんて今更なことは前提として気にもせず、それでも仲良くやって来た、それが事実だ。

 しかしどうしても俺と別れねばと思いつめた八神は、ついにその前提を崩してきた。


 そのとおり。 

 俺が健康で頑強な肉体をさえ持っていれば全て問題は無かったのだ。

 だが実際にはそうではない。

 だから俺が悪い。

 俺の体が弱いのが、悪い。


 それは俺が望んでそうなったわけではなく・・・ただ生まれつきに強制的に負わされていた業であり。

 それは俺のせいではない、それは確かであっても。

 それでも、それは、情け容赦のない事実。



 そうだ、俺が悪い、俺の体が弱いから、だから俺が頼りないのが悪い、それが諸悪の根源だ、その通りだ。

 肺腑をえぐるような・・・俺にとっては一番痛い、触れられたくない・・・事実だ。

 それを言ってまで・・・そこまでして・・・俺を突き離してしまいたいと?

 まだ話はついてない、はっきりさせておくべきことは残ってるはずなのに曖昧にしたままで。

 こうして俺を傷つけて無理にでもおしまいにしてしまおうと?

 それも恐らくは、俺の体の事を心配してるからって大義名分を掲げて自分の心を納得させて?




 ・・・俺の体のことはいいんだよ、今さらだ。

 だけどな八神・・・お前、そうして、何も言わず、適当に傷つけて追い払おうとかさ・・・

 それはちょっと俺の事、バカにしすぎてるぞ?

 また腹立ってきたな。

 八神はまだなんかウジウジと「俺の体が弱いから」発言を表現を変えて繰り返している。

 はいはいそれは分かったから。


 あれだな、これはなんといいますか・・・言い返さずには気が済まんな。


 お前が、俺に、絶対に言われたくないことを言うってんなら。


 こっちも同様の事を言い返してやろうじゃねーか!





 八神は無理に・・・言葉を続けてる。


「もともと私らは二人とも体弱くて、せやから互いに依存して支え合うフリをしとっただけやったんや。でも今は違う、私は健康で・・・

マーくんはまだ半病人、そんなマーくんに依存されたかて・・・もう迷惑やねん、マーくんは・・・私の・・・足手まといなんや。」

「で?」


 俺の出した声は・・・なんつーか絶対零度?

 別に八神に対してってだけじゃない、誰に対しても出したことのないような声だった。


 八神は一瞬ひるむが、再び言葉を続ける。


「私はもう健康やから、せやからもうマーくんなんて、いらんねん・・・おっても邪魔なだけや、せやから・・・」

「で?」


 八神は唇を噛み、言葉を続けようとして・・・続けられない。


「今日は本音を言う日だって、言ったのは俺だったな。さあいいから続けろよ。言いたいことを全部言ってみな。」


 相変わらずの凍りついた口調。八神は・・・何度か唇を震わせるのだが・・・なにも言えなくなった。


「それだけか? じゃあ俺からも言いたいことがあるが・・・まずこっち向け。」


 横を向きしかも顔を伏せてる八神。

 俺に言われてこっちを向こうとしながら・・・どうしても向けない。



 いいかてめえ言われたくないことを思い切り言ってきたのはそっちからだぞ。

 同様の事を思い切り言ってどんな気持ちになるか教えてやろう!


「まず言うが・・・お前ははっきりいえば大して女性として魅力的では無い。」


 意外なセリフに驚いてこっちを見る八神。涙目だなやっぱり。


「例えば姉ちゃんとか、例えばフェイトさんとか、そういう誰がみても歴然とした美人ってレベルと比べれば、せいぜいちょっと可愛い程度?

まあそこそこ見られる程度か。スタイルも別によくは無い。これも標準かな。いやそれ以下か? なんつってもお前はチビだし、近頃やっと

あちこち成長してきたとはいってもまだ幼児体型の名残がそこかしこにあるしな、いや日本人体型というべきなのかな、だったらお前の

スタイルってのは多分一生その程度止まりなんだろな。俺とお前は結構、きわどい関係にもなってるわけだが結局、一線は越えてない。

超えずに我慢できたのはやっぱりお前の肉体ってのが・・・やらずに我慢できる程度の魅力しか無かったからなんだろうな。我慢できなく

なるくらい魅力的な肉体ってのはフェイトさんみたいな体の事を言うんだろ、それと比べればお前の体なんてな。」


 フンっと鼻で笑ってやる。

 八神、最初は呆然としてたが、俺の言葉が進むにつれて少しずつ俯き・・・なんか肩が震えてきている。


「仕事仕事で洒落ッ気も無いしな、普段着も大人しい地味なのばかり。いいか考えてみろ、俺にとっての女性の基準てまず姉ちゃんだぞ?

ああいう圧倒的な華やかな美人系が俺にとって基準であるわけだ。お前ってばそれに比べれば全く地味で、はっきりいえば十把一からげの

そのへんにいくらでもいる一山いくら程度の女に過ぎないっていうかさ~」


 八神は思わずといった感じで立ち上がる。

 テーブルに腰をぶつけて湯呑をひっくり返してる。

 が、そんなこと気付かないかのように・・・肩を震わせている。


「だがまあ外見の事は置いておこう。問題はむしろ内面にある。幼いころに苦労し過ぎたせいなんだろうが、お前って性格がひねくれて

ねじ曲がって素直さがかけらもない。常に腹黒く二枚舌で本心を明かさない、実は皮肉屋で冷笑家でもあり裏表があって・・・まあ総じて

言えば『かわいくない』性格の持ち主というかな、いやもっとシンプルに『性格悪い』とはっきり言うべきか。つまるところお前って女は

ひねくれものの性格ブスの腹黒チビ狸に過ぎないのであって、素直で優しくて裏表が無い純真な高町とかと比べれば、もうお話にならない

っていうか?」


 八神は・・・ブルブルと震えながら、なんか拳を握りしめている。

 もう一押しで殴ってきそうだな。

 だがまだここからだぞ八神、容姿スタイル性格の問題なんてまだ甘い。

 お前が本気で言われたくないことを言ってやる。


「お前もだな、俺の体が悪いから悪いって思い切りぶっちゃけてくれたよな。」


 まず前置きにそれを言う。

 それを言われると八神は急に怒気が薄れる・・・また力無く座りなおした。

 それをみてさらに続ける。


「さてお前は、ひねくれ腹黒チビ狸に過ぎないわけだが問題は他にもある。それは、お前が、孤児だってことだ。」


 八神は俺の言葉をきいた瞬間、体を硬直させた。一瞬、なにを言われたのかわからないって顔で呆然と俺を見る。

 なるほどさっきの俺もこんな表情してたのかもね。

 俺はその八神の目をまっすぐみて話を続ける。


「孤児で、親戚もおらず、中卒で、どこの馬の骨ともつかぬ小娘、それがお前だ。さて冷静に考えてみよう。体の問題で後継者から外れてる

とはいえれっきとしたバニングス家の長男である、この俺の嫁として、お前のような女がふさわしいかどうか。」


 八神は何を言われてるのか理解すると・・・目線を力なく下におとした。


「一言でいえば、ありえねー。そう断言できる。家柄身分など釣り合う相手と言えば、まず月村さんとかな。高町でも背景にきちんとした

二親揃った立派な家庭があり身元が知れてるからアリかもしれん。だがお前はありえん。どこの馬の骨とも知れない浮浪児同然のあわれな

みなし子であるお前が、バニングス家の長男と結婚するとか、どこのシンデレラだ、そんな話は現実には無い。」


 八神は俯いて・・・なんか今度こそ本当に泣きだしそうな顔になってるな。さらに押す。


「地球の話は置いても、さてミッド的に考えてみよう。お前は『闇の書』の主で、世間の常識的偏見によれば犯罪者の一味だ。それに対して

俺はどうだろうね? 若くしてコア治療の権威として有名であり若手医師有数の注目株、キャリアにも傷一つ無い。だからお前みたいな得体

の知れない犯罪者まがいの女と付き合うのは俺にとってマイナスにしかならない、あんな女と付き合うのは良くないよって親切に忠告してく

れた上官とか実際にいるぞ? 世間体を考えれば本当にその人の言うとおり、俺は反論する気にもならなかったよ。なにせその人は本当に

人柄の良い常識的な人物で、そういう人から見ればお前ってのはやっぱりそういう女なんだよ。」


 肩がぶるぶる震えてる、うーん本当に泣いてるかも。

 そろそろいいかな。


「おい八神、骨身に染みたか。」


 俺の問いかけに八神は答えない。


「八神! こたえろ!」


 仕方なく叱声を浴びせる。八神ビクっとする、そして力無く・・・


「せやな、その通りや・・・私なんて・・・私なんて・・・・・・」


 ふむ相当こたえた様だな。


「分かったか?」

「分かった・・・うん、私なんて・・・マーくんのそばにいる資格とか初めから無かったんやな・・・」

「違うわいアホ。」

「・・・え?」

「自分のせいでは無いのに、自分に強制的に背負わされていたハンデの部分をだな。」


 いったん言葉を区切り、八神の目を見詰める。


「容赦なく言葉でエグられると、どういう気分になるか、分かったかってんだ。」


 俺の体は、確かにダメさ。

 生まれつきな。マシになったとは言っても治って無いって事実は消せん。

 だがそれは、俺のせいでは無い。

 俺の意思によらず勝手に俺に背負わされてきたハンデ。


 八神が孤児であり、そういう存在であるという事が社会的に差別を受ける原因になるのは事実。

 進学でも就職でも結婚でも確実に差別される。保護者とか保証人がいないって死ぬほどきついぜ? 社会的には。

 さらに闇の書関係の偏見もどうにもならん、今だけでなく将来に至るまでこいつにつきまとうこと間違いなし。

 地球でもミッドでもこいつは実はそういうマイナス要素の固まりなのだ。

 だがもちろんそれは八神のせいではない。勝手に背負わされたハンデ。


 元からだな、俺は肉体的には慢性的に死にそうだったが姉ちゃんがいて。

 八神は俺に比べたら病状はマシだったが天涯孤独。

 だから俺の方が体は弱くて。

 八神の方が心は弱かったんだよ。

 そうして俺たちは支え合ってきたんだ。


 だから対等。

 最初からそうだったし。

 実は今でもそうなんだよ。


 分かってねーな八神。

 元から足が動かない程度で俺みたく日常的に死にそうだったわけでも無いくせに。

 お前自身の決定的な弱点、それ言われたらおしまいだって部分は・・・無くなってないんだぞ、今でも。


 やっと八神にも俺が何を言いたいか分かって来たらしい。


「あ・・・」

「きいたぞ、無茶苦茶きいた。『俺の体が弱いのが悪い』、なにせ事実であるだけに無茶苦茶きいた。」

「・・・う。」

「どーもお前は健康である自分が病弱である俺にそれを言えば俺は何も言えずに泣いて帰るとでも思ってたんじゃないかって気がするんだが、

甘いぞ八神。お前にも実はエグられると物凄くきいてしまう弱点、ハンデの部分があるんだよ。」

「・・・せやな、うん、せやから、もう、私らは・・・」

「うるせえ。」

「え?」


 俺はなんかぼんやりしてる八神を見詰めてはっきり言う。


「お前の言ったことも俺の言ったことも事実だ、だから互いに謝る必要はない、そしてこの話はここまでだ。」

「え・・・せやけど・・・」

「お前は俺を傷つけ怒らせて話を濁したまま、俺が帰るのを期待していた。」

「う・・・」

「だがそんな手には乗らん。だから取りあえず言い返した、そしてきちんと話に決着付ける、曖昧なままでは終わらせん!」

「あぅ・・・」


 無理に心にもないことを言ってた状態が解けたな。平常に戻った、表情で分かるさ。

 しかし俺が感じてしまった壁は・・・あるようなないような。

 これまでは確かに絶対に無かったものが、あるかもしれんって状態にされてしまったな。

 だけどね。

 それはそれとしてだ。

 今日は話さねばならないんだ。

 まだ八神に言いたいことがある。



☆     ☆     ☆



 うあっちゃー・・・

 あかんほんまに。

 またやな、また甘く見とったマーくんのこと。

 体弱いから邪魔やとか私に言われたら、それが決定打になって・・・そこで終わるやろとか思ってたんやけど。

 耐えるどころか・・・思い切り反撃してきおった・・・それもむっちゃ痛い的確な反撃。


 天涯孤独の身寄りのない孤児でおまけに闇の書の主と。うん言うとおりや、私って多少の健康問題なんて目や無いくらいマイナス要素

だらけの女やな。そこを思い切り言われると無茶苦茶痛いわ。孤児とバニングス家の長男では釣り合わへんし、少々病弱程度やけど有名な

エリート若手医師から見れば闇の書の主と付き合う事はマイナスにしかならんと、ほんまやな。


 しかしなあ・・・孤児やとかいうんは今さらやねんけど・・・

 考えたらなんで顔とかスタイルのことにまでケチつけられへんとあかんねん!


 ああそうか、それで私は普通に腹立って・・・感情が動いて・・・


 それまで無理して感情を殺して「マーくんの体が弱いから悪い」って言ってた心の状態が一瞬で変わって・・・普通に戻ったんかな。

 やるなぁ、マーくん、やっぱお医者さんやな・・・


 でもスッキリしたわ。

 これまで互いに遠慮して言わへんかったこと思い切り言い合ったな。

 これって初めての経験ちゃう?


 そしてそうなると・・・なんか心も晴れてきた。

 今なら、むやみやたらに罪悪感に駆られて後ろ向きに考える・・・みたいなこともなくなったような気がする。

 うん、私がアリサちゃんより美人やないとか、なのはちゃんより素直やないとか、フェイトちゃんよりセクシーやないとか!

 涼しい顔で平気で言いおったこのアホに、なんで気ぃつかわんとあかんねん!ってな。


 お茶を入れ直すために台所にきて、お湯を沸かしながらまた考える。

 うーんやっぱりマーくんは・・・長い付き合いだけあって・・・そんな簡単に騙すとか怒らすとか無理やったな、最初から。


 もうウジウジと策とか考えんの、やめよ。



 心に浮かんだことを素直に言おう。


 素直やないって言ったんもマーくんやったな・・・よっしゃそんな私でも素直になれるところを見せたろやないかい!






☆     ☆     ☆





<蛇足>


「凄絶な打ち合いですねクロノさん。」

「はやてのカウンターは間違いなく、もろに入った。しかしそれに耐えて打ち返したかマシュー・・・」

「こうなるとこれまでの蓄積ダメージがものを言う、やはりマシュー有利ではないでしょうか?」

「だが互いに仕切り直して無心に打ち合うとなると・・・もう戦術とか無しで純粋に打ち合うとなるとどうかな。」

「それでもマシュー有利は動かないと思うのですが・・・」

「はやても虚心になって思ってることを言うならば、つまり今は離れようってのが本音かもしれないぞ?」

「でも本当の本心では離れたくないって思ってるはずだよ! マシューはそう言うはずだ!」

「ここまでくるともはや意地だけの勝負かも知れん、僕としてはただ、はやての勝利を祈るのみだ・・・」





(あとがき)

 そんなことを気にして無いことは互いに当然わかってると。心にもないことを言っても相手には通じない。

 本音を素直にぶつけあった時に二人はどんな結論を出すのか。

 長々と引っ張って来たVS.八神! 次回で決着であります。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十九話  VS.八神! 終
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2009/12/31 00:35
マシュー・バニングスの日常      第六十九話








 時刻は午後9時をまわっている。

 八神が入れ直したお茶を一服。


 さてもう俺たちは大概言いたいことは言いあったと思う。これ以上は繰り返しにしかならんだろう。


 だからもうそろそろ・・・まとめんとな。

 こいつがいえないと判断してる範囲についてはきいたところで絶対言わないわけだからして。

 結局のところこいつが求めてるのは・・・「真相」では無いかと思うんだけどな・・・

 でもそれをはっきりさせようと管理局中枢に踏み込むのは危ないってんだ、多分。

 ま、そこはそれで聞かずに置いておくのが、やはり正しい気がする。


 で、は、と・・・再開しますか。


「お前の仕事、お前の出世、それらを手段として最終的に目的としてること、それは危険なことなんだな?」

「・・・・・・」


 八神は無言でお茶を飲むのみ。目も合わせない、が、それは無理に俺を無視してるというよりは、真剣に考えてるからこそ、俺に意識を

向けながらも目は合わせないって行動をとってる雰囲気だな、それじゃあそれはそれでと。


「だんまりかい。まあいい、それでその危険に身近な人が巻き込まれる可能性がある、だから俺を遠ざけておく必要があるってわけか?」

「・・・・・・」


 このへんはこいつは言う気なし、と。

 それを確認できればそれで良い。

 では具体的な方策の検討に移ろう。


「時間は?」

「え?」

「五年くらいかかるか? 目的達成までに。」

「・・・わからへん。」

「十年ならどうだ? せめて目処だけでも立たないか?」

「・・・そのくらいならもしかして・・・」

「そして、その期間内は・・・騎士たちだけを真の意味での身内として・・・それ以外の人間はあまり巻き込みたくないんだな?」

「そうや。」


 即答断言揺るぎ無し、と。ここがこいつの譲れない一線なんだな、やっぱり。

 だがまあそれならそれで・・・


「じゃあ一旦ここでお別れ、お前は目的達成、俺は自分の治療を頑張り、二人ともクリアできたとき・・・」


 治さねば俺の感じた壁は無くならない、だからその後の話になるが。


「結婚するか?」


 最初から本気だし。

 そう言う事に何のためらいもなかった。

 すごく普通に日常的な口調で、俺はそう言って。


 八神の答えを待った。



☆     ☆     ☆



 あんなぁマーくん・・・

 あんだけ美人やないとか素直やないとかセクシーでもないとか・・・

 哀れな孤児で社会的身分的に釣り合わないからバニングス家の嫁になんてなれるわけないだろwwとか・・・

 思い切り言っといて。

 そんで結局それかい。

 アホか。

 ほんまどんだけアホなんやマーくん。


 まあ、わかっとったけどな。


 美人で無くても素直で無くてもセクシーで無くても、そのへんの馬の骨の一介の小娘でも。

 ほんまはそんなもんマーくんにとっては関係なくて。

 それでも私が私やから。

 ただ純粋に私のことだけ見て。

 そんな私の事を・・・


 わかっとったけどな・・・


 でもなマーくん。

 そう言われて・・・

 どうしても私を・・・自分のものにしたいって正直に言われて。

 そうして私の存在を・・・ありのままで受け入れてくれるマーくんの優しさを・・・改めて実感して。

 そんで、ストンと、分かったんやけどな。


 そっか私が色々と術策を弄しても・・・全部簡単にマーくんに跳ね返された理由は・・・


 マーくんの気持ちは、それで、既に、きちんと、固まってたからなんやな。

 はじめから私を許す気で。

 私を一番に。

 そうアリサちゃんをすら横に置いて。

 私を一番にするって言ったんは・・・ほんまやったんやな。


 そう本気で腹を据えてるから、迷いが無いし、きついこと言われても動じへん。


 比べて私は、ほんまはずっと迷っとったんや。


 近頃全然マーくんのこと見んと仕事ばっかりで放置した末に倒れた時も何もできんで罪悪感一杯で、それにこれからの仕事の事とかも

色々と考えてとか頭の中は余計な事で一杯で、ほんまの本心では離れたくないのに「仕方ない」って自分に言い訳しながら無理に下らん

策とか盾にしてマーくんを突き離そうとか。

 不純で、曖昧で、ふらふらしとったんや、心が。


 ほんまの自分自身の・・・覚悟みたいなもんが・・・できてへんかったんか。


 マーくんはこの問題、私らがこれからどうするかって問題で一番重要なポイントがどこか初めから分かっとった。

 せやから最初に、「姉ちゃんよりも、お前を一番にする」って、はっきりと言ってくれたんや。

 私がマーくんにとって一番、せやから他の事は全部どうでもええ、何とかしようっていうわけやな。


 私は?

 仕事があるからしょうがなくって言い訳を・・・自分に許してるようではあかん。

 そうやなくて。

 ほんまの本心。

 素直に・・・心の底から今、私は。

 なんて答えたいんか。


 もう取りつくろうんはやめや。

 ただ素直に思う事。

 言お。


 そして私は答えた。




☆     ☆     ☆



 八神はまた黙りこんでしばらく考えて・・・

 顔を上げた時、なにかをふっ切ったような静かな笑顔を浮かべていた。


「ありがとうマーくん。すごい嬉しい・・・」


 まだ言葉が続きそうなので俺は待つ。


「でもそれはあかんで。」


 本当に嬉しそうな笑顔を浮かべてる癖にそれかい。


「なんでだ? 俺としては別にここで離れるってこともなく一緒に頑張るって選択肢もありだと思うんだけど?」

「ううん・・・あのさ、私の仕事もな、本気でこれに専念せんと・・・どうにもならんねん。それにマーくんの体も・・・あれやろ、

もう、普通に何か他の事しながらとかで治せるレベルの問題と・・・ちゃうんやろ?」

「・・・良く分かってやがるな・・・」

「ずっと見てきたもん。せやから良く知っとる。」

「・・・しかしだな、そこで各自がバラバラに頑張るんじゃなくて・・・支え合って頑張るって選択肢がなぜダメなんだ?」

「今回さ、はじめてマーくんと・・・こんなにケンカしたやん。」

「ああ」

「そんで色々と、初めて分かったことが多かった。ずっと一緒にいて近過ぎて見えてへんかったことが多かった。ほら私らって、ほんまに

小さいころからずっと一緒で・・・離れた時なんてマーくんがミッドの病院に入院してた半年くらいしか無かったやん?」

「だな。」

「小学生以前も、小学生の時代も一緒で、中学生になったらもっと近くなって・・・そのまま自然に一緒になるんやろなって漠然と・・・

思ってた、ほんまやで?」

「それは俺もだぞ。」

「うん、分かってた。でもなあ・・・うん、小さいころ、二人とも体弱かった時代のほうが考えたらマシやったんかもな。本当に二人とも

苦しかったから余計な事とか考えず純粋に支え合ってた。でも近頃は違ってたわ、お互いにお互いを支えるっていうんが唯一の重要なこと

では無くなって来たんや。少なくとも私にとっては。」

「・・・仕事か。」

「せやな、そして仕事を通じて達成したい目的・・・」

「ふー・・・それって俺を遠ざけてでも達成したいのか・・・」

「そうや。」


 お前がそうしたいってことは分かってたさ。だがこういうことは考えたか?


「お前がそうして俺から離れれば、素直な高町とかセクシーなフェイトさんと俺が色々するかもしれんぞ?」

「・・・ほんまな・・・そこがな・・・」

「そうしてなるようになったらもう、俺はお前と完全に離れて・・・別の道にいってしまうことになるぞ?」

「・・・・・・」

「一時的に別れるつもり、では済まない可能性、考えただろ?」

「・・・本音言うと・・・」

「いやだろ? だったら俺がいいっていってんだから俺の事、拘束しとけよ、約束とかでさ。」


 せっかくの俺の提案なのに、八神は一瞬目を瞑った程度ですぐまた目を開いて俺を見て、揺るぎない口調で言った。


「マーくんの意思は関係ない。」

「は?」

「私がどうしたいんか、それが重要。ちゃう?」

「まあそれはそうだろうけどよ・・・」

「散々迷った、きっと後悔もする、泣くかもしれん・・・」

「・・・・・・」

「でも、今は、距離を置きたい。ゴメンな、マーくん。」

「・・・・・・」

「一回離れて・・・もう一度色々と・・・見詰め直したいねん、どうしても・・・」


 くそっ。

 無理して言ってる雰囲気が無い。

 素直に本心から・・・言ってるようにしか見えない。

 だが俺は一応確認する。


「罪悪感からとかじゃなく?」

「うん。」


 微笑みすら浮かべて八神は即答する。


「巻き込みたくないとかいう言い訳からでもなく?」

「うん。そうやなそれも所詮は言い訳やった。そんなハンパなもんでマーくんが騙されるわけなかったわな。」


 苦笑しながらも八神の答えに滞りは無い。

 なら、もう、こう訊くしかないな。


「俺は離れたくない、可能な限りお前と一緒にいたいと、そう言ってもか?」


 八神は少し驚いたって顔で目を丸くするが・・・すぐに微笑みを浮かべて。


「・・・そんなに私のこと、好き?」


 ときいてきたので、素直に答えてやる。


「ああ好きだ、八神。ずっと好きだった。」

「私もマーくんのこと、ずっと好きやった。」



 しばらく何も言わず見詰めあった。



 しかし彼女の瞳には揺るぎない確信しか無く。



 ほんの少しでも何かそれ以外のものが浮かばないかと。



 時の経過を忘れてじっと見続けたが。



 変わらない。



 揺るぎない。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ



 そうか。


 分かったよ。


 ま、こういうことも・・・あるか。



 俺は深く深く、ため息をついた。



 さらに一分くらいは固まってたと思うけど。



 ゆっくりと立ち上がり。



 ポケットからこの家の合鍵をだして、卓上に置いて。



「くっそー・・・八神ごときに振られるとは・・・不覚だぜ・・・」

「ごときとはなんや、ごときとは。」

「ふん、言わなくても分かってんだろ。俺が他の女の子と幸せになるのを見て後悔するが良い。」

「私かて・・・一応仕事で親しい男の人とかいるもん。」


 うわそれ言われるときついな・・・いかん気軽に嫉妬心を煽るようなこと言ってはいかんのだな、今さら学習した。


「なあ・・・何年とか期間決めて、その間は互いに待つとかさ・・・」

「未練がましい男やなぁ。どんだけ私にベタ惚れやねん。」

「しょうがないだろ、八神だし。」

「なんやそれ。そや、そういえば結局・・・」

「ん?」

「なんで私の事、はやてって呼ばへんかったん? いつ呼び方変えても誰も何も思わんかったで? むしろ当然ゆうか・・・」

「結婚して名字変えたら仕方なく、名前で呼ぶってことにしてた。」

「なーんやそれ、アホやなあ・・・ほんまにアホなんやからマーくんは・・・」


 言いながら涙ぐみそうになった八神だが、すぐに涙を抑えて笑顔に戻る。

 やっぱ涙の出し入れは自在なんだな、そうとしか思えん。散々これに振り回されたもんだが・・・


「荷物は適当にまとめて病院寮に頼む。」

「わかった。」

「あ、そうだ、お前ら全員に貸し1だってのは忘れんなよ?」

「そっちが忘れても忘れへんわい。」

「姉ちゃんとこ謝りにいくのも忘れんなよ。」

「うん、今週中には絶対行く。」

「体壊したら一番に連絡してこいよ、他の予約無視して優先して診てやる。」

「一番に連絡はするけど、順番通りに頼むわ。」

「俺も少しは危ない話に関わったかも知れんのだが、それで何か問題が起こったら・・・」

「一番に連絡してな? 今度は何があっても一番に行く、今度こそ絶対、なのはちゃんには負けへんで!」

「その辺の相談とかも。」

「もちろん乗るで? いつでも連絡してきてな?」

「デバイス通信の直通設定はそのままでいっか。」

「せやな、私もそれでええと思うわ。」

「あー・・・あとは・・・」


 何か話題を・・・探してる自分に気付いた。

 なるほど未練がましい男だな、俺は。

 しかしもう何も言う事が思いつかない。


 なら仕方ない、か。


 俺も少し笑顔を浮かべて。


「じゃあな八神、元気でな。」

「うん、マーくんも元気で。」


 それを最後に、俺は振り返らずにそのまま居間を出て、廊下を歩き。

 ずっと俺の家同然だった八神家の玄関のドアを開けて。

 そして閉めた。


 そのまま無言で道を歩き、少しずつ背後の八神家は遠くなっていった。

 俺は振り返らなかったし。

 別に泣きもしなかった。


 確かに今日は負けた、今日は負けた、敗因は結局「治ってない」こと、それで感じた引け目、二人の間の壁。

 だから当初の予定のように一気に押し倒すことはできなかった、それは事実。


 でも、だから気合が入った、今度こそ本当に「壁」を無くして見せる。完治してみせる。

 そして治ったら。

 今度という今度こそは。

 有無を言わさず押し倒してやる。

 そう決めた。

 なにせあいつは今日・・・「3回謝ったら」って条件を満たしてしまったからな。


 完治して、そしてあいつを押し倒す日が楽しみだ!






☆     ☆     ☆




 私が見送らへんかった理由は簡単。

 笑顔を作るだけが精一杯で。

 それ以外に少しでも動けば・・・すぐに泣きだしてマーくんにすがりつきそうやったから。


 ドアが閉まってマーくんが出て行ったいうことが分かってまうと。

 我ながら呆れるくらいに速攻で・・・

 無茶苦茶・・・後悔した。


 あちゃー・・・

 やってもうたでこれは・・・

 最悪や・・・

 なにをやっとるんや私は・・・

 マーくんの言っとったことはほんまやで・・・

 私って女性的魅力って点ではせいぜい標準で・・・

 裏表があって、しかも可愛い気のない性格いうんもまるっきりほんまのことで・・・

 そんな私をあんなに・・・あんなに好きになってくれる人なんて下手したらこの後、一生みつからへんで・・・

 おまけに玉の輿やったしなあ・・・

 間違いなく一生遊んで暮らせるで・・・


 それを、全部、パーにしてもうた。


 なにより私はほんまにマーくんのこと好きで・・・

 マーくんも私のこと好きで・・・

 なんでそれやのに?

 それより重要なことあったん?

 あかん。


 今は、なんも、わからへん。


 なんというか呆然としてる。

 虚脱してる。

 頭が・・・動かへん。


 ふらふらと立ち上がって部屋に向かう。

 途中でシャマルとシグナムがなんか言っとったけど聞こえへん。

 そのままベッドに潜って寝た。


 夢を見た。

 夢の中では私は・・・仕事なんて無視してマーくんを選んでた。

 マーくんが18になったらすぐ結婚して子供もすぐ出来て。

 そう簡単に諦められるような仕事と目的や無かったはずやのに、それを諦めた私は。

 それまでの人生で・・・一度も感じたことのないような・・・幸福感にあふれてた。

 みんな笑顔やった。マーくんもいてアリサちゃんもいて騎士のみんなもいて。

 そしてその中心で子供を抱いた私の幸福な笑顔はほんまに・・・輝いていて。


 目が覚めると私は泣いてた。

 あの可能性を。

 あの夢が実現する可能性を。

 すてたかもしれへん自分のバカさ加減に・・・自分で呆れた。


 頬を叩いて気合を入れる。

 せやからな。

 こうなったからには。

 仕事するしかないやん。


 やるでえええええええ!!!



 もしも早く・・・思ったよりも早く仕事が片付いたら・・・

 また、なんとかならんかなぁとか。

 未練がましい自分の心は、とりあえず無視。


 ほらみんな起きて!

 今日も仕事や!

 頑張るでぇ!








☆     ☆     ☆



<蛇足・・・・・・本編の余韻を壊したくない方は読まないでくださいねくれぐれも>


「これはドローと見ても良いでしょうかね、クロノさん。」

「いやユーノ、目的を達成した方が勝利者であるはずだ。はやての判定勝ちだな。」

「でも二人とも実は互いに気持ちを残してる、実質的には引き分けでは?」

「ふん、我々二人では意見が平行線のようだな。こうなったら呼ぶか、最終ジャッジ、お願いします!」

「はやての勝ちね。それは動かないわ。ふん、マシューも結局丸めこまれて情けないったら。」

「そ、それで良いんですか!」

「しょうがないでしょ! 確かにはやてが目的達成したんだから! まあマシューを傷つけてくれたお礼は徹底的にするけどね。」

「いや二人は納得してこういう結果になったのでは・・・」

「そうであったとしてもよ! うふふふふ・・・謝りに来る日が楽しみだわ・・・この世の地獄を見せてやるわよ! はやて!」

「・・・落ち着いた方が良いと思うの・・・」




(あとがき)

 今回はちょっと長文失礼。


 起承転結の転が難しいという話は知っていたものの実際ここまで難航するとは思いませんでした。sts編に話をつなげて展開したいと

思っていたので非常にてこずったというのが実際のところでしょうか。もしもここでくっつくならそこで終わりです。八神の見た夢の通り

結婚して終わり、実は本当にそうなりそうでした。最初に書いた稿では、何をどうやってもくっついてしまうのでどうにもならんと、しば

らくの間投げ出して考えをまとめたりしたのです、そこで非常に時間がかかりました。しかし話し合った末に別れねばならない、これも

譲れない線でして。なぜならここで失恋せねば、マシューの病気完治フラグが立たないのです。病弱の体をありのままに受け入れるのが

八神の本音であり、それにマシューが甘えれば、半病人でもそれなりに幸せな夫婦生活を送ってそれで終わりです。結構長生きしそうな

気もするしそれはそれで皆、幸せ、問題なし。しかしマシューにとっての真の悲願は何よりもまず自らの完治であり、それを達成するには

ここでの失恋はどうしても必要でした。それに気づいたのは実はこのVS八神の最終話の前話で、マシューが八神の言葉に耐え切れず、その

場から逃げ出してしまい両者の仲が決定的に決裂するパターンを描いてみたときでした。そのままマシューの行動を追っていくと、八神に

いわれたことがショックで何が何でも治そう、手段を選ばず治そうとそういう方向に突っ走ったのですね。いわばスカさんルート突入バー

ジョンになりました。しかしこの場合、八神の方の事情として、アリサはじめ女性の友人たちとの仲も決定的に悪化して、機動6課が

成立しそうもなくなりました。ゆえに結構いい感じだなと思いつつ、そのルートは破棄しました。


 そこで今度はマシューに言いたい放題に言い返されて激昂した八神が殴りかかろうとして、そこで捕まえられて押し倒されてXXXに、

という展開を書いてみたところ、ああやっぱりこれもダメ。マシュー切れてるし避妊とかしねー、もう俺の子供を生めって勢いで、そう

なるとほんとは好きだし抵抗できず、それから毎日やりまくり方向に、ここで終わりの結婚パターンすね、だからこれもボツ。


 しかしVS八神では本当に軽く十回以上はマシューは押し倒しそうでした。そこをギリギリ潜り抜けてついに回避しきった八神・・・

蛇足で某姉がいってる通り、八神の勝ちです。最後の所も距離を置こうという八神に対してそれでも押せば押せたんですが、八神が指摘

して意識させた壁に気を取られ踏み込めず、八神さんお見事でした。

 最後に謝って三回目、だったら最後の一夜を・・・ってパターンも考えましたが結局ナシに。

 なぜなら!

 そのほうが萌えるからです!!

 やったらもうつまらないじゃないですか。やらずに背を向け合いながらも本当は想い合ってるから萌えるのであります。

 それに双方真摯に向き合ってる流れでマシューの方が術策持ち出して三回目だからって言ったら雰囲気ぶち壊しだしw


 さて一段落ついたので。

 しばらくのんびり行きますね。

 sts完結のその日まで・・・まだ道のりは遠いが。

 それでも空白期、既に四分の三くらいは踏破した! あと少し、焦らず慎重に行きたいと思います。


 今回は本文部分から失礼いたします。ご意見ご感想いつも本当に有難うございます。今後とも宜しくお願いいたします。


 それでは皆様、よいお年を。(2009/12/31 作者ごう)



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十話   リスタート
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/01/05 04:54
マシュー・バニングスの日常     第七十話







○年○月○日



 八神と別れて帰ってきてつくづくと思ったのだが。

 結局敗因は「治ってない」こと、これに尽きるね。

 だから根治、完治させねばならない、そう改めて決意した。


 現状のリミッター頼りの半病人状態でも、養生しながら慎重に生きればおそらく仕事も適当に続けられるしそれなりに長生きもできそ

うな気がするのも事実で、その現状に安住とまでは言わないが何がしか妥協して停滞してたな、俺は。


 しかし既に魔法医療を学ぶこと6~7年、常に「先天性リンカーコア形成異常」の治療法は探し続けてきたし、周囲の人も皆、非常に

協力的だった。ギルさんはじめ海の本局病院のスタッフ陣も、陸の病院の同僚たちも一応、誰より八神自身が何か俺の治療に役立つ情報が

ないかと常に探し続けてきてくれてたし、ユーノも無限書庫から目新しい情報が見つかれば頼まなくても送ってくれるし。

 そして、それなのに、未だに・・・根治法の糸口すら掴めない。

 だから今、認めなくてはならない事実。

 これ普通にやってても治らん!


 つまり「普通ではない」ような手を使わねば無理だ。


 多少・・・危険な橋を渡ってでも治そうと、俺は決意した。


 こういう決意が出来たのは俺の心境の変化が大きい。これまでは姉ちゃんによる制約、たとえ治療のためでも危ないことはするなって

約束は俺を絶対的に縛っていたのだが、俺が八神を第一にすると決めたときに何かが変わった。第一が姉ちゃんなら俺を完全に制約して

いたその約束だが、第一が八神になると・・・あいつも自分の目的を達成するために危険な橋を渡ったりしているわけで、つまり八神には

俺に「危ないことするな」とか言う資格は無いのだな。お前が言うなってやつだ。

 だから俺もこの際、多少危険な橋を渡ってでも治療法を探す、そうすると決意できたのだ。


 ではそのための具体的な手段とは?


 まず・・・研究の比重を増やす、それも出来ればより多くの情報を得るために、管理局中枢に近づいて・・・

 これまでは本局病院付属の研究施設を利用させてもらってたが、これはどうしても研究の方が片手間だった。

 そうではなくてこれからは、むしろ研究のほうを重視するくらいの勢いで・・・


 もちろん俺が治さねば治らないような患者は治すし、ナカジマ姉妹やエリオ君やフェイトさんのケアはする。

 でも実際「リンカーコア直接整形」が必要となるほどの患者というのはそれほど多いわけではないし。

 これからは基本的に研究所勤務で、そういう患者が来たときにだけ戻るって感じに切り替えるか。


 まずは俺自身を治すこと、何よりもそれを優先する。

 そして完治すれば今度こそ、何の不安も無く思う存分、医者であることに専念も出来るようになる。

 だから今は研究に専念しより多くの情報を集める。


 さらにそれだけでも足りないかも知れない。

 管理局から得られる情報については、俺たちの中でもっとも階級が高く中枢に近い八神とか、無限書庫の管理者であるユーノとかね、

この二人から得られる以上の情報など事実上無いのでは無いかって疑いもあるんだ。もちろん専門の技術研究の情報については二人は

その専門家ってわけでないから俺が見なくては分からないって部分もあるかも知れないが、可能性は低い。それぞれ別のベクトルだが

二人とも非常に優秀な頭脳の持ち主で、その二人が探してくれてて見つかってないってのはかなり希望を削ぐ話だ。


 だから管理局の中枢に俺も近づくってだけで答えが見えるってほど楽観できない。

 それ以外にも、出来ることは可能な限りやろう。

 これまで体調を気にしてセーブしてたこと色々とやってみよう。


 多少無理することになるかも知れないが。


 無理しなきゃ治らんよ。


 やってみますか・・・






○年○月△日



 八神は言葉通り、今度の人事で三佐になった。

 俺は陸からの強いプッシュにより一尉待遇となった。「辞めないでね昇進」である。

 高町も俺を助けた功績とかあって二尉となった。しかし本人、あんまり上に行きたがらずゴネたらしい。なるべく現場から離れたくな

いそうだ。この傾向は前からで上司も手こずっていたのだが今度、俺を助けて功績上げたし、もう諦めて昇進受けろという話だったとか。


 八神はこれまでは毎年、一階級上がってるんじゃないかって勢いだったのだが、ここから二年以上階級上がらないこととなる。

 やはり本人の言っていた通り、頭打ち傾向が強まって来たと見るべきか、いやあの若さで既に佐官でさらになかなか上がらないって

文句言うとかどんだけ贅沢なんだと言うべきか、微妙なところであろう。世間一般から見れば後者の意見が主流となるだろうが、俺には

前者に見えた。もともと能力だけなら問題ないやつなのだ、能力だけ、ならね。




 そういや八神といえば、別れた日から6日後に約束通り、一家そろって姉ちゃんに謝りに来た。


 場所はLAバークレーのマンションで俺と姉ちゃんが大学通うに当たっての新居である。ちなみにワンフロア全部買い切ってセキュリ

ティ強化とかしまくるなど色々施工済み。二人以外に使用人とかいるけど広いのであちこち空き部屋だらけ、そのうちの一つに転送設備

を持ち込んで設置してある。しかしどう考えても過剰なほどの居住スペースであるのに庭が無いとか犬が何匹かしか飼えないとか色々と

文句を言う姉ちゃんは流石である。マンションなのにどう考えてもミッドの八神家よりも広いんだけどね・・・


 格好良く別れてからわずか六日での再会、お互い苦笑してしまった。でも長年の親しみはそう簡単に消えるもんでもないなぁ、普通に

話せる。とはいっても前みたいに距離が近くなり過ぎないように互いに気をつけるって感じにはなったけど。


 姉ちゃんは八神一家を自分の部屋に入れる、俺は出てけと追い出された、少なくとも6時間くらいは近づくなと。



 仕方なく自室に戻って勉強を始めた。大学では姉ちゃんと一緒に経営経済系の勉強をしようと思ってる。医学大学院に進むにはまず

学部卒業が必要になるのがこっちのシステムなので、なるべく早く学部は終わらせたいし、それには姉ちゃんと同じ勉強するのが効率

良いし。しかし既に幼い頃から後継者として英才教育を受けてる姉ちゃんは大学学部で学ぶ程度の経済学経営学などとっくの昔に習得

済み。下手したら四年かかるはずの学部を・・・二年とかで卒業してすぐ経営大学院にいって、MBA取りに行くかもしれない。俺は

姉ちゃんから間接的に話を聞いて、経営学経済学の知識も普通よりはあると思うが専門的に教育されてた姉ちゃんには当然及ばない、

ついてくには必死に勉強せねばならん、しかし・・・魔導師である俺が並行思考などの技術をつかって勉強してるのにそれより上を行っ

てる姉ちゃんの頭脳というのはマジチートである。いくら先行されてるとはいえ頑張っても背中も見えん、実は八神より頭いいんじゃ

ねーかと考えざるを得ない人なんだよな、姉ちゃん。


 気付くと七時間も経過・・・やっと八神一家が姉ちゃんの部屋から出てきた。



 八神はうつろな目をして口から魂が半分抜けている!

 シグナムは小声でスイマセンスイマセンと呟きながら壁によりかかっている!

 シャマルさんはふらふらと部屋から出てくるとそのまま廊下にうずくまってシクシク泣きだした!

 ヴィータは「絶対勝てねー絶対勝てねー」と言いながら壁に頭をゴツゴツぶつけている!

 ザフィーラは・・・卑怯にも犬姿でダメージを軽減したようだ、皆を見回し申し訳なさそうな顔。

 リインはひたすらオロオロしている・・・一番責任が軽い立場だからな、あまり被害を被らなかったのか。



 そして姉ちゃんは、まあしょうがない許してやろう、だけどまだすっきりしてないみたいな顔で・・・

 うーむ八神一家をまとめてここまで追い込んでまだ不満ですか・・・姉ちゃんは測り知れん・・・

 ちょっとやり過ぎでね? と俺が言ってみるも、なによ少し怒っただけじゃない、大げさなのよと平気な姉ちゃん。


 そういえば八神一家は・・・家族内部ではみんな物わかりが良いから怒ることとかあんまなく、せいぜい互いに注意しあう程度で・・・

 仕事上での叱責とか職場で受けることはあるだろうがそれはまた違うし。

 こういうふうに今でも身内に準ずるみたいな扱いで、頭ごなしに怒られるとかそういう経験に欠け、耐性が無いのかもな。


 でもそういうふうに怒ってくれる人がいるというのは良いことだし、これも八神には珍しい貴重な経験だろうと思ったので。

 うつろな目をしてる八神に近づいて、良かったなと言ってやったのだが。

 鬼か悪魔を見るような目で見られてしまった。心外な。


 そしてそのまま八神一家はふらふらとミッドへと帰って行った。

 その後、騎士たちが姉ちゃんに会う機会とかあるときは、姉ちゃんに対して異様に畏まって対応するようになったのは・・・

 きっと気のせいである。




 さてその日の夕食。

 俺と姉ちゃん二人で食べるときは、専用の食堂で給仕されながらって感じになる。コックはお気に入りを姉ちゃんが連れてきてる。

 こういう場所でのマナーとかね、俺も一応叩きこまれてるが姉ちゃんほど優雅には行かない。

 食事中は余り話さない、それも礼儀と、だから食後にお茶を飲みながら姉ちゃんは言う。


「あんたらが別れたってのは納得、二人とも納得してそうしたってことも分かった、病院に来れなかった理由も聞いたし、もうこの件に

ついて蒸し返すってことはしないわ。」


 やっぱりね、話せばわかるんだよ。そしてもう言わないといえば絶対にもう言わないだろ、それも姉ちゃん。


「ただこうなると問題よね。」

「なにが?」

「あんたの嫁よ。」

「はい?」

「正直ね・・・私が何を言っても、もうどうしょうもなく、なしくずしに、はやてが嫁になるもんだと思ってたのよ。」

「はあ、まあ。」

「何と言ってもあんたは・・・はやてに本気だったし、実は今でも好きでしょ?」

「ああ、そうだよ。」

「でもね、私としてはなるべく早くあんたには嫁を貰って子供をたくさん作ってもらってそのうち一人をバニングス家の後継者にする

つもりなのよね、これはずっと前からそう思ってたんだけど。」

「はい?! なんだよ普通に姉ちゃんが結婚して生まれた子供を・・・」

「私は在学中も並行して仕事するようになるし卒業後はもう仕事仕事よ。結婚するとしても政略結婚、それも悪くは無いとは思うけど。」

「けど?」

「ねえマシュー、私達、ずっと家に二人だけだったじゃない?」

「まあね。」

「私としてはやっぱり両親とともに過ごすことができるような理想的な家庭に生まれ育つことこそ子供に良いと思うのよね。」

「それは、そうだろね。」

「はっきり言えば・・・私は政略結婚して子供が生まれたとしても、理想的な家庭を作る自信なんて皆無だし、子供に良い環境を与え

られるかも・・・うん、全然、自信無いわね。だからそこであんたなのよ。」

「いや、なんでそこで」

「マシュー!」

「はい。」

「バニングス家の仕事関係のことは全部私がやるのよ? そしてあんたは好きな勉強とかしてるだけ!」

「いや、まあ、それはそうかもだけど」

「だからあんたは! 絶対に! なるべく早く結婚して、子供をたくさん作る事!

 これは次期当主としての命令よ!」

「いやしかし俺も体を治さんことには・・・」

「リミッターつけてる分には日常生活問題無いんでしょうが。そこまで理解して嫁になってくれる子、絶対いるわ!」

「だがしかし・・・」

「はやては完全に治って無いのを口実の一つにして、あんたと別れたらしいわね・・・ふん、そんな子はこっちから願い下げよ!」

「いや、それはほんと口実に過ぎなかったわけであって」

「はいはい分かってるから。ただ一つだけ言っとくわよマシュー!」

「なんだよ。」

「二十歳までに結婚してなかったら!」

「なかったら?」

「私が嫁を見つけてくるからね! その際、異論を言うようだったら縁を切られることも覚悟しなさい!」

「ええ! ちょっとそれは強引過ぎでね?」

「多分、なのはか、すずかってところかしらね・・・」

「待て、なぜその二人が」

「なのはなら全然問題無いし、すずかは今の所はちょっと遠いけど、家同士で正式に話を進めれば向こうも乗り気になってくれると思う。

なんといっても知らない仲じゃないし? 月村家は当主である姉の方は恋愛結婚したから、家全体のことを考えれば次女には政略結婚して

ほしいのが本音、そこで小さい頃から良く知ってるマシューだったら、すずかも『まあそれだったら良いかな』て結構あっさり同意してく

れるに違いないわ! バニングス家と月村家の縁組なら政略結婚としても最上に近いしね! うん、どこにも問題なし!」

「いや、そこで俺の意思は」

「まだ4年くらいは猶予があるでしょうが! どうしてもはやてと結婚したいとかならその間に何とかしなさい!」

「うぐぐ・・・」

「いいわね、まあイヤっていっても聞かないけど。次期当主としての命令だからね!」

「・・・うぅ」


 バニングス家は巨大な財閥の総帥・・・そこの子供として生まれてこれたから俺たちは贅沢な暮しをしてこれた。

 だがその代償は、家全体のことを考えて我が身を捧げること、貴族の義務、noblesse obligeってやつだな。

 姉ちゃんは結局、非常に誇り高い人物なのであり精神的にも貴族、義務から逃げることなど絶対に自分に許さない。

 義務に従って生きて当然と心底思っている、そして今後もそうして生きていくのだろう。

 そこで家関係の大変な仕事を全部姉ちゃんにやってもらってる俺としては・・・

 体が弱いとは言えそういう義務を果たさなくても良いと守られ、姉ちゃんに甘えている俺としては・・・

 ダメだな、これは姉ちゃんの命令に無理があるとも思えん、しかも命令の内容は早く結婚しろってだけだからな・・・

 一度、命令だと断言したからには撤回する気も皆無だろうし・・・さてどうしたものか。


 八神のやつの仕事は・・・俺たちが二十歳になるまでには終わるのだろうか。

 俺はそれまでに体を治すことが出来るのだろうか。

 まあ頑張るしかないのだが・・・


「でもさ姉ちゃん、家同士の関係で月村さんは妥当だってのは分かるんだけど」

「なに?」

「なんで高町なのよ、あいつは仕事中毒って点では大して八神と変わらんような・・・」

「ふん」


 姉ちゃんは余裕気に鼻で笑うのだが、俺は言い募る。


「幼いころに家族と疎遠になったトラウマから仕事にのめり込んだって側面はあったけど今ではそれは解消されて仲直りしてるし、そして

それでも仕事仕事だぜ? あれは魔法が好きで仕事が好きで、本当にそれ以外は眼中にないっていうか・・・」

「甘いわねマシュー。いい、なのはは魔法使うのが大好きで戦うのも訓練するのも好きで、それは父親である士郎さんとすごい似てるって

話を前にしたことあったわよね?」

「ああ、だからあいつはその性に合った仕事に今でも夢中なわけで・・・」

「でも士郎さんは今はどうしてる?」

「あ・・・」

「桃子さんに出会って、結局は、平和な穏やかな喫茶店のマスターやってるわよね?」

「確かに。」

「男女逆だけどあんたが桃子さん役ね。本当に一緒にいたい愛する人さえ見つかればあの子は簡単に転身して家庭的な奥さんになるわ!」

「いやさ、それはそうかもしれんけど俺と高町の間には別にそういうのないし」

「ふふん、まあ見ときなさい。」


 姉ちゃんは妙に自信ありげであった。不安である。この人は何を企むか分からんし・・・

 しかし月村さんに高町ね・・・どちらも俺の知り合い女性としては「姉ちゃん経由」という性質を持ってることに意味がありそうな気

がするのは果たして俺の邪推であろうか・・・そもそも俺直接の知り合いって始まりだった八神への点が辛い気がするのも・・・


 ま、とにかく早く治さんとな、まずはそれからだ。

 その後の事はその後の事、今の俺にとって第一は何よりも「我が身を治すこと」。

 しかし二十歳までに嫁、決めてなかったら強制的に月村さんと結婚させられそうだな・・・

 いや月村さんは普通に好きだけど・・・うーん、だから困るな、イヤかと正面から言われればイヤと答えにくい。

 それなりに二人で幸せになれそうな気がしてしまうあたりが本当に危ない。

 高町は無いだろ、姉ちゃんも例えばって話で出しただけだよな、うん。


 だけど、まずは、治して、そして、八神を押し倒すのが俺の人生計画だからなあ・・・

 急がねば。




・・・・・・もしも上手くいかなかったら、間に合わなかったらどうする?

 一瞬だけそんな疑問が頭に浮かんだ。

 が、八神を一番にするって決意に揺らぎは無かった。

 そう八神が八神だから一番にするとそう思った気持ちにウソは無い。



 じゃあなんで八神なのだ?

 それは考えるまでも無い前提だろ?

 だからほとんど無意識にそこはスルーした。

 冷静な思考が出来るのが自慢だったはずなのに。

 このときは、きちんと考えなかったわけだが。

 しかしそういうふうに盲目的に思い込むってのは・・・俺が本気だった証でも無いのかな?










(あとがき)


 ギャルゲ「とらいあんぐるハートinリリカル!」


 攻略可能ヒロイン。

 幼馴染本命(はやて)、共通の親しい友人ポジション(なのは)、余り意識してない天然系(フェイト)、慕ってくる後輩ポジション

(ギンガ)、家の関係でお見合いするお嬢様(すずか)、その他に隠しキャラも複数います。


<ワンポイントアドバイス>


・治療イベント、日常イベント、戦闘イベントなど完全クリアした上で、協力イベントも完成させねば「はやて」は落とせません。

 はやての攻略難易度は高目です。ただしこのルートでなければ物語の謎の部分など全てを理解することが出来ません。

・なのは攻略で重要になるのは日常イベントと戦闘イベントです。また選択肢の分岐で余り彼女の好感度を上げすぎると逆に遠慮深い

 彼女は引いてしまいます。あくまで友達であるという程度の関係を維持し、特定のタイミングを逃さないことが攻略のカギです。

・フェイトの場合は本人よりも、彼女の周囲の人間関係に注意しておいたほうが良いかも? 彼女自身にあれこれ言っても通じない事が

 多かったりします。それより外堀をまず埋めることですね。被保護者とかと特に仲良くしましょう。

・ギンガは好感度が最初は上げやすいですが、その後は複数のイベントを一緒に経験せねばそこで話が流れます。また彼女の肉体の特殊性

 や陸士であることなどから陸寄り・某博士寄りのルートとなり他ルートとは一風変わったストーリーとなります。

・すずかの登場頻度は低いですがその時の選択肢で将来は大いに変わります。最悪お見合い話も流れ、禁断の実姉ルートに入るかも?

 ただし逆に意識的に実姉ルートに持っていくのは非常に困難で・・・しかもバッドエンド風味となります。

・治療イベントで非合法な方向に走ると、謎の博士と接触できるかも? そこで隠しヒロインに出会えるかも知れません。

・ハーレムエンドはありません。ただしバッドエンドは多数存在します。修羅場発生確率は低いですが起こればほぼ致命傷となります。

・休憩を入れずに忙しく働きすぎて体力の限界が来ると強制入院となります。体力ゲージが黄色くなったら要注意。

・1ターン消費する必要がありますが、ユーノに連絡を取るとその時点での好感度と傷心度が分かります。また彼の本命との仲をとり

 もつことも出来ます。治療イベント完成のためには必須の行動になるかも知れません。

・ゲーム開始は普通で言うと高一の秋くらいになります。終了はアリサの指定した二十歳で、この期限は絶対に動きません。




 所詮はこういう話である! と開き直ることにした作者です。あけましておめでとうございます。

 考えたらここは「とらハ」板だった! そんなことを今さら思い出してみたり。

 リリなの世界って男主人公不在のエロゲ世界ですよね。だから何か不自然で、なのはさんが男役であんなことになったのではとか。

 男がいない女性ばかりの世界は華やかですが何か無理がある。そこ解消した話を書いてみたいというのも本音。

 妄想上等、自重禁止、昼ドラ展開歓迎、ドロドロの愛憎嫉妬劇最高、恋愛話して何が悪いの? と開き直って突っ走ります。

 妄想が足りない! もっと際どく切なくエロく生々しくドロドロと!って叱咤激励なら受け付けますが。

 妄想し過ぎだろって言われても今後100%スルーする方向で行きますのでご理解下さい。そういう話です、ハイ。



 はやてルートと、あとifで、なのはルートくらいは書くかも。ただ他のルートもコンプリートするかは不明。

 マシューは基本はやてルート専攻で進む予定ですが、気持ちの再確認するまで迷ったりする可能性はあります。

 離れて見つめなおして、それでもやっぱり八神だと、確認するのかどうかは重要なポイントなので、そこ引っ張りますw



 しかし実際にこういうゲームあれば自分なら・・・先に他のルートやりたくなってしまいますね・・・

 はやてルートクリアせねば物語の全貌は見えないんだろうけど大変そうだし・・・

 すずかとお見合い結婚してそれなりに幸せってエンドでも全然悪くないじゃ無いかと思ってしまいそうだ。

 ちなみになのはさんも結構攻略難易度高いキャラなので多分、一巡目であっさりクリアは無理~って感じ。

 一巡目ならフェイトさんお勧め、メモリアル画像とかシーンもエロくて実際には人気一番! とかみたいになるのかな・・・

 はやてもなのはもかなりシリアスな話になって愛憎ドロドロ劇みたいになるかもですし。

 もしくは、製作側が力入れて作ったのに余り受けない、とらハ3原作における美由希みたいな感じになるかも。

 わかっちゃいるけど、はやてを押したい作者。読者の皆さんを納得させることが出来るかどうか、難しいところであります。



 ここからsts時代までの固定イベントといえば、クロノ・エイミィ結婚式、恭也・忍結婚式、キャロ保護・・・くらいしか原作には

無いんですよね、うーんいずれもフェイトかなのはの好感度UPイベントぽいですねえ。一応他にも固定イベント案は、既にある程度は

出来てはいますが・・・何か臨時イベント案でもあれば・・・感想に書いて頂ければそのうち書いた方も忘れたくらいの頃に実現するかも

知れません。「それ前に俺が書いたやつだww」って話が来たら遠慮なく突っ込んでください(´・ω・`) 今の予定としましては、

ティアナとかスバル、キャロ、ヴィヴィオなどをヒロインにする気はありません。ヴォルケンズも同様。ナンバーズもその内の一部がヒ

ロインになるかも程度であくまで裏道扱い、ゲームで言えばクリアしても写真やシーン回想など少ない感じでしょうか。


 メイン5人だけでもそれなりに描けるか・・・大変ですしね、枝道は書くとしてもまず誰かのルートクリアしてからです。

 目標は一話でヒロイン3人は出すことかな。最低でも二人・・・好感度と傷心度の上下ははっきりしてれば書くかも。

 まあ、適当にのんびりやりまする。今年もよろしくお願いいたします。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十一話   迷走日記
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/01/08 21:35
マシュー・バニングスの日常      第七十一話







 高町なのはは通信制高校に所属している。


 せっかく両親がエスカレーターで大学まで行ける私立聖祥に頑張って通わせていたのに、それを無にしてどうしてもと我がままを言って

結局そういう形に落ち着いたのだ。本当は学校にも行かず中卒で魔導師専業になりたかったなのはだが、今になって落ち着いて

考えてみると両親に悪いことしたかなという思いも持つようになっている。

 だから通信制とは言え高校の勉強は真面目にして、実は結構ある登校日も欠かさず通って、良い成績を取ってきちんと高卒資格を得よ

う、と本気で思っている。苦手な文系科目も頑張って、努力の甲斐もあり昔より偏差値は上がってるくらいの状態。

 前に過密スケジュールで仕事して大怪我したこともきちんと反省しているので完全休養日も作っている。

 毎週金曜は、彼女は仕事を一切入れず、翠屋にも出ず、勉強する日にしている。

 彼女の友人たちは皆、なのはは金曜は家にいるということを当然知っている。



 家族が翠屋から帰ってきて皆で一緒に夕食、そのとき電話がかかってきた。

 電話に一番近い席に座っていたのはなのはだったのですぐにとる。

 電話の相手は意外にもアリサ。今彼女はアメリカにいるはずで時差の関係で中々こんなこっちにとって電話しやすい時間とかに電話でき

なくなるかもと言っていたのに。だから少し驚いて少し緊張した、何かあったのだろうか?

 アリサは相手がなのはと分かると軽く挨拶した後、奇妙なことを言い出した。

 そう、奇妙で、奇怪で、なんというか意味不明で、わけがわからないこと。



 マシューと、はやてが、話し合って、正式に、別れたと。



 全く奇妙な話、意味をなさない言葉の羅列だと思った。

 そういう現実にはありえない話をなぜするのだろうかと思った。

 二人が明日結婚するという話なら分かる。二人が実は昨日結婚してたといわれても驚かない。



 しかし別れたというのはわけがわからない。理解できずに頭の中がぐるぐるまわる。

 最初からナシだと決まってて自分はその禁止を当然の前提として受け入れていたのに急にナシだったのナシとか訳分からない。

 別にそれナシで良かったのだ自分の心はそれで安定していた、急にナシナシにされても何がなんだか。



 そう思いながら、なのはは電話の子機を床に落とし。

 表情を固まらせて、夕食途中だったことなんて忘れて、部屋にふらふらと戻った。

 あからさまにおかしい様子の娘に驚いた桃子は、子機を取り上げて話を聞く。

 状況を聞いてすぐに納得したが念のため確認。


「アリサちゃん、それは本当の話?」

「間違いないです。二人両方から話を聞いて確認しました。それで、なのはの様子はどうです?」

「混乱してるわね。まだそれでどうこうしようって感じじゃない、ひたすら混乱してる。」

「どうなんでしょう? なのはの本当の気持ちって・・・」

「そうねぇ・・・意識はしていると思うけど、でもそれ以上はどうかしらね・・・」

「そうですか・・・私は、本音を言いますと・・・」

「うんうん・・・」


 高町なのはは頑固で一途な性格をしている。思い込んだら一直線で、そういう状態の時は周囲の意見など耳にも入らない。

 そういう彼女だからこそ、アリサは弟の嫁になって欲しかったのだ。

 なのはは一度本気で好きになってしまえば、そしてそれを認めてしまえば、きっと他の事は何も見えなくなる。

 本心では弟の幸せ以外のことは何も考えていないアリサとしては、なのはが弟に対してそうなってくれればそれが最高。

 すずかも悪くないけど、彼女との場合は間違いなく政略結婚的な要素が入るし。

 はやてでも良かったというのも本当だ、しかし今の彼女は明らかに弟を後回しにしていて、それは絶対に許せない。

 だから、なのはなのだ。

 純粋に弟のことだけを考える、そういうことが出来る人間はきっと、なのはしかいない、私は弟に幸せになって欲しいだけ・・・


 アリサは弟可愛さのあまり、暴走気味だ。間違いなく本心では弟の都合だけ考えているつもりなのだが。

 実際にはその弟の気持ちも無視して自分の思う幸せの形を押し付けようとしてるような雰囲気もある。

 それは桃子には当然、簡単に分かった。しかし桃子には桃子で思惑があった。

 もう高校生なのに浮いた話など欠片も見当たらない娘、もしかしたら初恋もしてないのではと疑わざるを得ない娘。

 そういう彼女が一番、意識してる異性といえばやはり彼だ。


 しかしアリサがどう頑張っても・・・はやてとマシューの絆は非常に強い。桃子から見れば既に夫婦も同然だ。

 仕事が忙しいから一時的に離れた、きっとそれが真実で事実。両思いなのは今でも変わっていないだろう。

 だが。

 なのはが、今のように気持ちに蓋をして、考えないようにして逃げているのは良いこととは思えない。

 前に娘が家族に対して遠慮し過ぎて逃げて暴走して大変なことになってしまったという後悔もある、同じ過ちは繰り返さない。

 無理に心を矯めずに、素直になるように導いてやらなくてはいけない、それが母としての勤め。

 素直になったらかえって傷つくかも知れない、だけど自分を騙して知らないふりをしたまま無意識に諦めるよりはマシなはず。


 結果的に、アリサと桃子、二人の思惑は見事に噛みあい・・・

「まず、なのはに意識させる」作戦が発動されることとなった。

 上手くいくならそれでよし、ダメならそれもよし、どちらにしても娘の成長の糧となる、それが桃子の方の本音。


 アリサの方は同意してもらって大喜び。

 アリサは世界で自分以上に弟を愛してる人間など絶対に存在しないという自信がある。

 そして弟にとっても同様であると確信しており揺らぎは無い。


 しかし不本意だが、弟には妻となるべき女性が必要なのだ。

 その女性は、自分には当然及ばないにしても、自分に次ぐくらいは弟のことを一途に愛していなくてはならない。

 だから、なのはがいい。彼女ならきっと一途に弟を愛するに違いない・・・

 はやてはダメだ。仕事と比べるなんてふざけている。

 弟は彼女を好き? ふん、そんなもの本当だとしても二番目に決まってて、弟が一番に好きなのは当然、私なんだ。

 だから私が選んであげるんだ、それが正しいのだからと。

 思い込むアリサは実はマシュー以上に、姉弟離れが出来ていなかったのかもしれない。



 アリサと桃子はそれから何時間も様々な企画を話し合っていた・・・そんなこと全く知らず。

 混乱したまま、なのはは自室のベッドに突っ伏していた。



 今さらナシにするとかありえない、そうだこれはきっと何かの間違い、間違いでなかったとしてもきっと二人はどうせ両思いで、そうだ

それは変わってないに決まってる、だから二人がそのうち結婚するのも絶対に確定した未来で、私たちはそれを前提にしてそれなりに仲

良く楽しくやってきてて、急にナシだからアリになったとか言われても困るし、それにどうせ結婚する二人なんだからもういい加減にして

欲しい! なにをあれだけ見苦しいくらいベタベタしておいて今は少し離れるとか人を混乱させて面白いのだろうか、混乱? 何を混乱

することがあるの? 困る? 何も困らないでしょ? そうだよ二人は一緒になるって決まってるんだから私には関係ない!



「うん、そうだよ、私には関係ない、それは何も変わってない・・・」


 呟きながら、なのははいつの間にか眠りに就いた。









○年○月□日



 エリオ君は、あの後もう一度、軽い直接整形術を施してコアがほぼ完治した後、ほんの二週間程度で退院。

 メンタル面での回復も順調、安定してきてる。うーむ結果的にショック療法みたいな感じで一気に改善したと見るべきか。

 まあそうはいってもあの襲撃者どもに感謝など絶対にしてやらんが。

 そして回復してくると彼は小学校低学年程度の年齢で、学校に通わせようと言う話に当然なる。

 フェイトさんとしては小学校くらいはのんびりしていて欲しかったので地球の学校に行ってはどうか? と提案。

 そのままハラオウン家に保護して正式に自分の養子か弟かにする気まんまんだったのだが・・・


 退院後、さらに二週間ほど経過した後。

 その話を自分がするとエリオは黙ってしまう、義母さんに話してもらっても上手くいかないと俺に泣きついてきた。


 既に退院した患者だし、後は定期診断のみで、その彼のプライベートまでケアするとかね、他の患者との差別にもなるし、なるべく

しないのが医者としての良識、しかしフェイトさんの泣き落としは実に卑怯であり・・・だってあの人、通話では埒があかないと見るや

わざわざ病院まで来て昼に食堂で飯食ってる俺の横に座って涙ぐみながら切々と訴えるのだ。

 お願い、お願いだからって涙を浮かべながら俺に頼みこむ儚げな金髪美女。

 周囲から聞こえる「あれ? バニングス先生の彼女って小柄な茶髪の娘じゃ無かった?」「前に違う雰囲気の別の金髪美女とも親しげに

してたよ」「あれってもしかして海の執務官とかじゃない?」「うわー3股とか? やるなあ」などといったヒソヒソ話。

 あーもう! 彼の体をきちんと治すのは俺の仕事だが! それ以上のことは・・・と言ってみるものの。

 分かってる、分かってるけどそこをなんとかとすがりついて泣きついてくる勘弁してくれ。

 ダメだ・・・エリオ君のこととなると話が通じん・・・前に精神的にも大人になって格好良くなったと思ったのは誤解だったか・・・

 とかブツブツ言いながらも結局押し切られた。全く手に負えん・・・


 休みの日に海鳴のハラオウン家に向かう。この前、俺と姉ちゃんは正式に住居をアメリカに移したばかりで、知り合いの皆さんと涙ぐ

みながらのお別れパーティーとかやったのに、もう帰って来てるぜ・・・

 家にはリンディさんとフェイトさんとエリオ君。そこで話をしようとフェイトさんは主張するのだが。


 あ~・・・こうして見てるだけですぐわかる事実として・・・絶対まず過干渉、かまい過ぎなんじゃないかな・・・

 リンディさんなら適度な距離をとってうまく扱うのだろうが、フェイトさんはそういう距離感うまく掴めない人だ。

 親しくなりたい相手に対してはもう身を接するくらいの勢いでベタベタしようとする、それが彼女の親愛の表現なのだが。

 あんまりそれされると・・・まだ親しさはそれほどでもない男の子では・・・かえって引くだろうなあ・・・

 そこでリンディさんにフェイトさん抑えといてもらって、しばらく二人で話するからとエリオ君を連れだす。

 なんでなんで私も一緒にと騒ぐフェイトさん、男同士じゃないと話しにくいこともあるのよとリンディさんに諭されて渋々納得。


 とりあえず翠屋に向かう道をブラブラ歩きながらエリオ君と会話。


「体調はどう?」

「はい、おかげ様でとても調子いいです。」

「そか、よかった。しかしだなエリオ君・・・」

「なんですか?」

「昔さ、つくづく思った事なんだが。」

「はい。」

「フェイトさんって100%、良い人だよなあ。」

「はい、僕もそう思います。」

「でも困った人だ。」

「あ・・・」

「なに男同士だ、ぶっちゃけようぜ。そう思わない? 良い人なんだけどどうにも困った人なんだよな、フェイトさん。」

「はあ・・・まあ・・・」

「日常的に過剰にベタベタとくっついてくるだろ?」

「はい・・・実は・・・」

「下手したらご飯とかもあーんしてこようとするとか? 一緒に寝ようとするとか? お風呂も一緒に入りたがるとか?」

「・・・それ全部です。」

「さすがだフェイトさん、期待を裏切らん。まあ大好きだからそういうことしてくるんだけどね。」

「はい、それは僕も分かってるんですが・・・」

「うん、・・・『だけど』って具合に逆接をつけたくなるんだよなあ、昔から全然変わらん。」

「あの・・・」

「なに?」

「先生とフェイトさんは・・・昔からのお知り合いなんですか?」

「えっと、そうだな・・・かれこれ6~7年前から知ってるかな。フェイトさんが今のエリオ君より少し上くらいの頃からか。」

「そうだったんですか。」


 とかなんとか言ってるうちに翠屋到着。

 末っ子はいなかったが美由希さん桃子さん士郎さんは普通にいる。

 もう帰って来たのか引っ越ししたばかりなのに早すぎると笑われながらエリオ君を紹介。

 今、フェイトさんが保護者やってる子なんですよ、とりあえず俺にはいつもので、エリオ君は好きなの選んでねって言ったところ。

 あれこれ目移りして選べない様子、俺は気軽な気持ちで遠慮しないで好きなだけ選んで良いよと言ったところ・・・

 いきなり十種類も選ぶし。うーむそんなに食えるのか、などと思ったのだが実はそれでも遠慮してたと後で分かった。

 すごくおいしそうにケーキをパクつくエリオ君。


 その合間にちょっとずつ話を聞きだすと・・・


 どーも彼は・・・なるべく早く魔導師として一本立ちしたい、そのためにミッドで学校に通いたいと思ってるのかな。

 地球でのんびりさせたいというフェイトさんの思いはありがたいのだがしかし・・・ってとこらしい。

 焦る事は無いのになあと思うのが地球人の感性だが、エリオ君は生粋のミッド人だし。

 難しいところだ、そうなると問題は動機なのだが。

 俺としてもしばらく地球でのんびりしても悪くないとは思うのだが、もしもどうしてもミッドで勉強したいのならば、こういう理由

だからミッドがいいんだってことをフェイトさんに正直に言って説得するしかないと思うよと言っておいた。

 エリオ君も、分かりました言ってみますと答えてくれた。


 ・・・ん?

 全然素直じゃん。

 それでもフェイトさん相手なら・・・過干渉に圧倒されてエリオ君が何も言えなくなったってパターンはあるだろうが。

 リンディさんなら普通に聞き出せる程度ではないかな、冷静だし彼。

 あれだけの目にあったためってのもあるんだろう、年齢不相応に落ち着いてるし。


 ハラオウン家に帰ってみると、なんかリンディさんの企みが分かったような気がした。

 食堂のテーブルの広い方に、俺、エリオ君、フェイトさんと三人並べて座らされて。

 帰って来ていたクロノとエイミィさんが向かいに、リンディさんは横に座って。

 そして俺とエリオ君とフェイトさんには座ってろ座ってろと言って、主に給仕はリンディさんにエイミィさん。

 そうかクロノが結婚するとかしないとか噂を聞いていたがとクロノに話を振ってからかおうとしたのだが。

 まあな、そういうことだ、式には出てくれよと非常に冷静で実につまらん。

 からかわれて赤くなるような嬉し恥ずかしドキドキな距離感の時期は既に通り過ぎてる段階か、っち! そういう時期に捕まえて普段は

冷静なクロノをとことんからかってやりたかった・・・


 そしてこの座り順だとだなあ・・・

 エリオ君がもりもりと食べ続けるだろ(凄い量を食う、ちょっと普通じゃない、理由は良く分からん、今度調べんとな)。

 フェイトさんが横で見てあれこれ口を出したがったり、取ってやりたがったり、とにかく世話を焼きたくて焼きたくてたまらなくて、

むやみに干渉しようとジタバタしてるわけだ。

 エリオ君はそれを強く断れない、彼は常識的な人格の持ち主で・・・恩人であるフェイトさんの言う事には逆らいにくいのだ。

 で、それを見かねた俺が、フェイトさんをたしなめる。

 いいから好きに食べさせてやった方がいいですよ、そんなに何もかもしてやろうとしないでと、何度も言うのだが。

 言われた時はフェイトさん、しゅんとしてしばらく言うこと聞くのだが・・・

 なに十分もすれば再び復活して同じことをしようとするのだ。

 懲りない人だ・・・

 エリオ君は俺がフェイトさんを止めてくれるので感謝の視線を送ってくる、うん、君も大変だったんだねえ・・・


 ミッドに行って学校通いたいというのは・・・このあまりにも強烈な愛情溢れる仕打ちから逃げたいってのもあるんではないかと・・・

 思ってしまったぜ。

 しかしそんなこと言うとフェイトさんは傷つくだろうし言えない、なるほど困ったものだ。


 そうしてエリオ君を中心に俺とフェイトさんがあれこれ会話してる光景を見て。

 リンディさんは「あらあら夫婦みたいねー」と。

 クロノがそれに乗るし。「マシューが父親、フェイトが母親、エリオが子供で、良い感じじゃないか。」

 エイミィさんの追撃、「エリオ君には父親がいた方がよいし、ほんとにそうなっちゃえば?」


 フェイトさんがクロノ相手にもベタベタしてそれにクロノが困ってるって話は聞いていたのですぐに分かった。

 なるほどそれが狙いだったのか。

 それでリンディさんは自分でもできるエリオ君からの事情聴取をあえてせずに俺にまわしてきたんだな・・・

 俺と八神が別れたって話は速攻で知り合い全員に回ったからな・・・

 それから一月ほど経った所で話を持ち出す絶妙なタイミングが流石リンディさん。


 フェイトさんはしばらくなに言われたか分かんない感じだったが理解すると素直に赤面する。

 だけどフェイトさんだし。プライベートでは激しく感情動く人なので一々気にするこたぁ無い、適当にスルーする慣れてる俺。

 「はいはい、からかうのはそれくらいで。ああこれ美味しいっすね」と話を逸らそうとするのだが。

 エリオはどう思う?ってリンディさんが話を振ると。


 僕としてはそうなってくれたらちょっと嬉しいかなって、待て待てエリオ裏切るなー!

 おいおいフェイトさんのことはともかく俺のことは良く知らないだろと言ってみるも。

 僕の事を命がけで治してくれたことは良く知ってますし、その後も丁寧に治療してくれたのも知ってますとキラキラした目で言われた。

 むむ・・・エリオよ・・・そうして良い印象もってくれてるのは嬉しいんだけどね・・・でもそれは医者としての俺であって・・・


 で、そのままからかわれながら食事終了。

 泊まってけ泊まってけとリンディさんとエイミィさんが力づくでも引きとめようという勢い・・・

 クロノも済まん、今日は諦めて泊まってってくれないかと、おのれ頼りにならんやつだ、既に女房に尻に敷かれてやがる。


 そしてまあ結局、エリオ君と同じ部屋に布団を並べて寝ることとなった。


 寝付く前に灯りを消した部屋でエリオ君と少し話してみると・・・


 どうも彼は少し・・・未だに人間不信ぽい所が残ってるのかな。無理も無いが。実の両親に裏切られたみたいなもんだしな。その心の

傷が癒えてない、当然だな。そしてフェイトさんたちが自分に愛情を注いてくれてるのも分かってる、分かってるけど・・・それでも今は

まず一人になって勉強とかして頑張ってみたいんだと。うーむ、親からの裏切りってのは重いなぁ・・・フェイトさんだって心の底から

リンディさんに懐いて親しむまでに時間かかったもんだし・・・新しい親になろうって人と日々一緒に暮らして一刻も早く本当に親子だと

相互に思えるくらいになるまで親しむというのも良いと思うのだが・・・このへんは性格の違いとしか言えないのだろうか。

 フェイトさんなら母親への依存状態が最初にあり・・・そこから友達やリンディさんという新しい母親の助けを借りて立ち直ったわけだ

が、未だに依存気味というか、ベタベタと親しくしようとする傾向は変わってない。これはもうそういう性格なんだろとしか言えない。

 エリオ君はどうやら元からかなりしっかりした性格なのかな。フェイトさんのような情緒不安定気味な傾向が無い。前に両親に裏切られた経験も

あり年齢不相応にクールでもあり、誰かに頼るのではなく自分の足で立ちたい!っと、そう強く思う心境にあるわけか。


 それはそれで悪くないと思うわけでして。


 最終的にはエリオ君の希望を入れてやるしか無いような気がする。


 結局、次の朝飯も頂いて、そして帰ったのだが。


 しかし寝起きで服の乱れたフェイトさんとか・・・あれはいかんよ・・・男が見て良いものではない。

 下着つけてないパジャマ一枚の上衣は無防備に形の良い巨乳の形をはっきり見せつけてるし。

(寝るときもブラつけたほうが良いですよ形が崩れるとか言えるほど俺は勇者ではない)

 ぼーっとしていつも以上にポヤンとした目つきとか無防備そのものの姿態とか。

 それで洗面所に入って来た時は・・・ダメだ、しばらくあちこち凝視してしまった俺を誰が責められよう!

 フェイトさんはボヤンとしたまま洗顔を始める、無防備にお尻が後ろに突き出されて下着の線がはっきり見えて。

 ぬおお・・・我慢できなくなるくらい魅力的な肉体ってのはフェイトさんみたいな・・・いや本当に洒落ならん・・・

 何とか目を逸らして洗面所から出る、フェイトさんは多分全然分かって無い・・・


 廊下でクロノに会い。

 あれとずっと一緒に暮らしてきて、ついに我慢し通したのか、お前って凄いなと思わず言ってしまった。

 うんそうだろう分かるだろう、だから是非に君に貰ってほしいとか待てい。


 洗面所から少し離れた位置でヒソヒソ話。


 エイミィが不安がるんだ分かるだろうあれを見れば、だからフェイトにも誰か良い男が見つかればとずっと思って

たんだがマシューなら実に手頃だ丁度よい、どうだこの際、うちとしては一家そろって大賛成なのだがって・・・あのなあ。

 とにかく今はしばらくそういうこと考えられないとはっきり言っておく。

 うんそれは分かってる、今すぐにどうこういうのは無神経だよな、ただ考えに入れてほしいというだけさって・・・

 こいつ本気だ・・・むむむ。


 大丈夫だろ、しばらくエリオ君に夢中になって構ってるだろうしその隙にエイミィさんと結婚してしまえよと俺が言うも。

 だがエリオはかなり独立心の強い性格のようでな、フェイトが好きなように構い倒して甘えさせると言うのも難しいようでと。

 あ~確かにエリオ君の方からフェイトさんが満足するくらい甘えてきてくれるってことは・・・確かに無さそうだわな・・・

 ああ、そういうことだ、そこで君の出番というわけだって、ちょっと待て。

 俺だってフェイトさんに甘えるとかありえねーぞ、大体あの人とは長年冷戦状態だったこともあるくらいで・・・

 いやそれは全く問題ない、今は逆に君にかなり強く頼りたがる精神状態になってきてる間違いないっていつの間に?

 エリオを見事に治してくれたし自分の健康診断もしてくれてるし、エリオは君を尊敬してるようだしなって・・・ううむ。

 とにかく俺の方にはそういう気持ちは無い、それだけは言っとくぞと言うものの。

 分かってる分かってるとも、別に無理にというわけではないさと軽く返してくるあたりが油断ならん。


 とにかくその朝もハラオウン家で過ごして、まだ早いうちに帰った。

 やれやれ・・・とにかく今は俺は体を治すことに専念したいんだよ。

 後の事は後の事だ。







(あとがき)


 なのは固定イベント。「おせっかいな企み(導入部)」発生。なのはは混乱中。おそらく自分からは何もしない。

 八神の場合は、二人がそれぞれ抱える問題の解決がポイントになるわけですが、なのはの場合は、頑固にそちらに意識を向けないように

している枷みたいのを外せるかがポイントになる、と。でも彼女は意志の強い人なのでそう容易には行かない。周囲のおせっかいは、必ず

しもプラスになるとも限らない、なにせアリサは本当は弟に正式に女ができるとか死ぬほど嫌だ・・・って問題もあるし。


 フェイト条件付イベント。「エリオ進路相談」発生。

 治療編の選択肢でフェイトの見舞いを断りフォローを頑張ってしようとせず冷戦状態になった経緯があるため好感度が足りず、「エリ

オと一緒に風呂、そこにフェイト乱入」イベントは起こらず。まあそのイベント起こっても少し見てしまうだけで、すぐにフェイトさん

出てくんですけどね。でもここでフェイトの写真一枚逃したw

 半裸のフェイトさんを拝むチャンスを逃したマシュー、実にけしからんです。そこは見とけと。


 アリサinミッド2で「クロ・フェイ痴話喧嘩?」が発生した時「声をかけてフォロー」を選んだのでクロノの友好度が足りていた事、

ナンバーズ襲撃時に「我が身を顧みず治療」を選んだのでエリオの友好度も足りていた事、二つの条件が合わさって、今回このイベント

発生となりました。今のマシューはフェイトルートを真に完成させるには既に初期イベントでフラグ複数逃してるみたいな状態ですね。

まだクリア狙えるけど完全には無理ってところか。


 今回の話はいわばゲームの導入イベントですかね。全員分サクっと終わらせて本筋に戻ります。次か、次の次で終わるかな。

 次はまず、すずかのターン、久しぶりだな・・・ていうかメイン張って出てきたこと無いのにいきなり大丈夫かと少し不安。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十二話   迷走日記 2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/01/11 13:12
マシュー・バニングスの日常        第七十二話








○年△月○日


 アメリカの大学に通うようになってしばらくすると、俺たち姉弟には親父から新たな仕事・・・「社交」ってもんをするよう命じら

れるようになった。あちこちのパーティに顔を出す、そして顔を覚えてもらう、まずはそれから。これは特に姉ちゃんにとっては重要な

れっきとした「仕事」であり、将来バニングス家を率いる立場になる姉ちゃんは・・・あらゆるパーティに出席して可能な限り顔を売る

必要があるのだな。



 政界財界の著名人とかたくさん来るパーティに出て上品に会話しながら顔を覚えてもらい仕事に繋がる話とかもして。

 まだ16とは言え際立つ美貌の姉ちゃんは考えなしに粉かけてくるアホ男からの誘いも優雅に回避せねばならなかったりして。

 それはもう無茶苦茶疲れるそうだ。本気で仕事、出される料理とか最高級でもとても食う気になれんと。



 せめてエスコートする男がいれば良い、でもそのへんの変な男を気軽にそういう立場にするわけにも行かない。だからせめてあんたが

来いと姉ちゃんが俺に言うのは当然の流れ。本当に気疲れする、せめてあんたでもいてくれないとと・・・慣れない社交で結構へこんで

る姉ちゃんの頼みでは俺は聞かないわけにはいかない。そもそも病弱とは言え長男であるくせにそういう仕事を姉ちゃんにやってもらっ

て甘えてるわけだし。できることはして、手伝わねばならん。



 しかし出てみても本気で退屈である。こういう世界の人間は非常にシビアなもので、バニングス家の人間とはいえ俺が病弱で後継者

から外れてるとか当然知ってて。ゆえに俺は気楽なものである、姉ちゃんがあちこちいって挨拶したり話したりしてるのについてく程

度。手持ち無沙汰な待ち時間ばかりだが、しかし姉ちゃん本当に大変そうだしな・・・身内だからこそ分かるのだが、あれは本気で疲れ

てる。優雅に上品にってのはともかく、おしとやかに振舞わねばならないってのは姉ちゃんにはかなりきついのだ。本来強引なほど活発

でアクティビティの塊みたいな人だし。だからせめて俺は付き添って出て退屈なパーティに耐えつつ、手助けできることはして、と。


 一月に2~3回はそんなパーティがある、俺は都合の付く限り姉ちゃんに付き添って出ていた。


 そんな日々にも少しずつ慣れてきたころ。


 とある米国財界の大物主催のパーティが開かれた。ゲスト的な立場としてドイツ、日本の財界人が招待されてる。




 そこで俺は久しぶりに、月村さんに再会した。




 その時、姉ちゃんは例によってあちこち挨拶回り、俺は壁際の椅子に座ってそれ待ち。


「ひさしぶり。」


 と言って話しかけてきた美女、最初は誰か一瞬分からなかった。


 紫掛かって見えるほどの艶やかな長い黒髪を結い上げて、それに合った紫色の華麗なイブニングドレス、こういう本気の正装してるのを

見るのは初めてだったので分からなくても仕方ない部分はあったと思う。しかしこういう格好すると正にお嬢様だな。客観的に見て・・・

姉ちゃんにも全然負けてないレベルだ、後は好みの違いだけで、俺としては実はこういうシックな方が・・・

 こういう席でバニングス家にコネ作りたい人間なら姉ちゃんのほうに行くわけで、現に今も遠くで誰かに挨拶してる姉ちゃんの周りには

それが終わったら姉ちゃんに話しかけようって人間が群がっている状態で。だから俺に話しかけてくる人なんて珍しい。

 だけど分からなかったのはほんの数秒。やはり小さい頃から良く知ってるし。


「だね~半年ぶり・・・以上かな? 月村さん。」


 彼女は優雅に微笑む。ううむ姉ちゃんと違って芯から、おしとやかなので無理が無い。

 俺の横の席に座って彼女は話しかけてくる。


「今、一瞬、分からなかったでしょ。」

「・・・ごめん、だってほら、見違えたし、やっぱり中学の制服見慣れてたしなあ、そこは大目に見てよ。」

「私は見慣れないタキシード姿でも、マシュー君、すぐに分かったけどなあ。」

「ごめんてば、ほんとに見違えて・・・」

「そう、それじゃあ今日の私を見て言うことは?」

「すごい似合ってるよ、きれいだ。」

「うわ・・・つまんない、平気でそういうこといえるんだ。」

「姉ちゃんに鍛えられてるしな。褒めないと怒るんだよあの人、理不尽に。」

「そっか。」



 このパーティに招待される側として月村財閥も来てたそうだ。ただ本来なら後見人でもある伯母が出席する予定だったのだが、急用が

入ってしまって、そしてそれでもこれは出なくてはならないパーティで。月村家はドイツと日本では強いのだがアメリカでの地盤は弱い、

だから可能な限り顔を出さねばならない、それも月村家当主に近ければ近いほど良い、そこで比較的ヒマだった月村さんが急遽、代打で

出ることになったそうな。重役の人とかも付き添ってきてるから彼女はあくまで「顔」の役、だけどそういう人間がいなくては話にならん

ってことで。いや大変だな月村さんも。彼女は当主でも次期当主でも無いから、姉ちゃんほどに忙しくは無いそうだが、それでもこうい

う社交儀礼に駆り出されるのは初めてではないそうだ。



 久しぶりなのでそれなりに会話も弾む。互いに近況を語り合ったり。

 中学までは楽しかったなって月村さん、ぽろりと本音ぽいのをこぼしたり。

 そうこう話してるうちに・・・なんか急に意味ありげな微笑みを月村さんは浮かべて、切り込んできた。


「はやてちゃんと別れたって?」

「・・・そうか、月村さんにバレないわけがなかったか・・・」

「当然ね? それで、どうして別れたの?」


 ぬぬぬ・・・なんか強引だな・・・らしくない気がするのだが。

 いや、女性というのはこういうゴシップ的な話が好きなのだろうか結局。

 そういうの大騒ぎして楽しむのは姉ちゃんとかだけで、月村さんは例外なのではと思ってた俺の夢が壊れたぜ。


「まあ、ありがちな話、あいつも仕事忙しいし、今はお互い距離を置いたほうがいいのではってさ、話し合って・・・」

「ふーん。それだけが理由?」

「・・・まあね。」


 あんまり詳しく話したいことでもない。

 そういうことを察してくれない人ではないはずなのに。

 なんだか今日の月村さんはちょっと違った。


「あのね、私のお姉ちゃんの話なんだけど。」

「なんだよ急に・・・忍さんがどうしたって?」

「お姉ちゃんはね、恭也さんに恋したの、本当に夢中で、その間は普通じゃなかったよ? 四六時中上の空で情緒不安定で・・・」

「へえ、あの忍さんがね・・・」

「それを踏まえた上で聞きたいんだけどね、マシューくん。」

「なに?」

「ねえ、いつも冷静なマシューくん? そういうふうになったことあるの?」

「は?」

「はやてちゃんに。そういうふうになったことあるの?」

「いや・・・それは無いかもだけど・・・」

「それって本当に恋してたのかな?」


 微笑を浮かべてはいるが目は冷静で真剣に、月村さんは俺にきいてきた。

 俺は言葉に詰まった。咄嗟に言い返せなかった。

 確かに、そういうふうになったことは無い。


「・・・だけどさ、友達の延長みたいな感じで・・・日常的に穏やかに自然とだな・・・」


 むにゃむにゃと反論する俺を月村さんは容赦なく切る。


「ねえマシューくん、私たちも友達だよね?」

「ああ、そうだよ。」

「はやてちゃんも友達、ただし間違いなく一番近い距離だった。」

「・・・」

「距離の違い、それだけ? 私とマシューくんが友達であることと、はやてちゃんとの関係、両者の決定的な違いはどこ?」

「・・・いや、しかし・・・」

「はやてちゃんの方が一年ばかり先に知り合っただけ? その分、近かっただけ?」

「だけど、うう・・・」


 違う。

 そうじゃないはず。

 決定的な何かがあったはず。

 それは何だったのだ。

 俺は八神を好きであるはず。

 そうだ結婚しても良いと思ったのは嘘じゃない。

 だからそう思うようになった何か決定的な・・・


 だがとっさに言葉に出来ない、わからない。

 そこで俺は反論できず黙るしかなかった。

 そんな俺に月村さんはさらに追撃してくる。


「私から見たらね、貴方たち二人には最初から・・・何か決定的な要素が欠けていたみたいに見えてたよ? ずっとね。」

「そんなことはない!」


 我にも非ず立ち上がり、少しキツイ声を出してしまった。

 周囲の人が何事かと振り向くので我に返り。

 再び席に座る。


「ごめんねマシューくん、ちょっときついこと言っちゃったね。」


 謝ってるのだが本気で謝ってるようにも見えん。こういうことを言うのは。


「なんか・・・月村さん、らしくないよ。」


 愚痴というか泣き言みたいなことを俺は言ってしまった。


「そうかもね。でもね、言っておかなきゃならない理由もあるんだよ?」

「・・・なんだよ、それ。」

「まだ正式な話じゃない、せいぜい軽い打診程度なんだけどね。」

「ん?」

「バニングス家から月村家に、マシューくんと私の縁談話が持ち込まれました。」

「な!?」


 驚いた。その話、いつか姉ちゃんが持ち出すことは覚悟してたが。まだ猶予期間だからってことになってるかと。


「アリサちゃん経由じゃないよ? マシューくんのお父さんからの話、だから本気で正式。でもまだ打診。だけど打診とは言え・・・」

「親父・・・手回しが早い・・・くそ、俺は何も聞いてないぞ・・・」

「だから打診程度だってば。でもそれもマシューくんのお父さんの親心だと思うよ? 実際まだ治ってないんでしょ、体。」

「ああ、そうだよ。」

「理解した上で、嫁になってくれそうな娘、しかも政略結婚としても私とマシューくんなら凄く良い話だし?」

「・・・・・・」

「多分その内、どちらからともなく自然に出た話だと思うな。」

「・・・だろね。」

「アリサちゃんもそうだし、私もそう。政略結婚の話から逃れるとか不可能だし?」

「忍さんはさ・・・」

「お姉ちゃんは恋愛結婚しようとしてるしね・・・でも純粋に護衛として考えれば恭也さんの存在も意味あるよ?」

「でも忍さんは政略結婚とか強制する人じゃ」

「無いよね、でもマシューくん、例えばアリサちゃんは政略結婚するとして、それを強制されてするのかな?」

「・・・無いな。それが必要だと割り切ってするだろな・・・それも義務であると考えて。」

「私も同じ。月村家に生まれた以上それが必要ならそうする、それは私自身の意思。」

「・・・分かるけどさ。」

「でもねマシューくん?」


 にこりと可憐に微笑む彼女。


「どうせ政略結婚するとしても、出来ればそれはそれで可能な限り幸せになれるような・・・結婚したいじゃない?」

「当然だろね。」

「きっとアリサちゃんもそのへん上手く調整して結婚するんだと思うな。」

「ああ、姉ちゃんなら上手くやるだろう。」

「だから私は正直、私たちの縁談、乗り気です。」

「はい!? いや、知っての通り俺は体が完治してないし」

「そんなことを気にする私でしょうか?」

「・・・すいません。」

「それにマシューくんの事情は体だけじゃなくて、魔法だとかもね、色々とあるじゃない?」

「そうだね。」

「そういう風に事情を抱えてる人間が自分だけだと思わない方がいいよ。私にも結構、深刻な事情があるかもよ?」

「・・・想像も付かんが。」

「だろうね。でも、だから私にとって・・・まず信頼できる人であるかどうか、すごく大きいの。」

「はあ。」

「マシューくんなら昔から良く知ってて、そこは問題ない。これだけで物凄く大きいんだよ? マシューくんの想像以上にね。」

「・・・よくわからんが。」


 謎めいた微笑み、直接に答えは言わず、彼女は言葉を続ける。


「単純に政略結婚としてもこれ以上の話なんて滅多に無いし? だから私は乗り気、分かった?」

「いや、でもさ、俺は八神が」

「そこでその問題になるわけね。マシューくん、貴方は本当に本当に、はやてちゃんが好きなの?」

「好きだよ」

「恋焦がれたこととか無いのに? 友達の延長みたいだったのに? 他の女友達との例えば私との決定的な違いはどこ?」

「うぅ・・・」

「彼女の意思を尊重して離れた? 尊重して引けるくらいの気持ちだった? それでもって押せなかったのはどうして?」

「それは、俺の体が」

「はやてちゃんがマシュー君の体の問題を今さら気にする? ありえないよね? わかってるんでしょ?」

「・・・・・・」


 何も言えなくなる。

 言葉に詰まる俺を見て彼女は微笑み。


「はい、それじゃあこれから一緒に考えましょう? マシューくんは、はやてちゃんを本当に女として愛しているのか?」

「・・・・・・」

「そこを私に納得させてくれたらこの縁談、私のほうから断ってあげる。でもダメだったら。」

「だったら?」

「これ以上良い話なんてあるとは思えないので、諦めて結婚して貰います。私たちもともと仲良しの友達だし? 家柄も釣り合っていて

政略結婚として理想的、うん、これ以上の話なんて普通無いね。」

「いぃ!? いや、ほんとにそれで・・・」

「悪くないと思うよ? それに大体・・・小学校低学年くらいの頃はマシュー君は。」

「ん?」

「私のこと、一番かわいい女の子だと思ってたでしょ?」

「ぶほっ!」

「やっぱりね。一番親しい友達は、はやてちゃん。でも女の子としては私だったんだ。」

「いや・・・しかし・・・それは昔で」

「今は、はやてちゃんが好きなはずだと、はいはい、そこを頑張って私に納得させてね?」


 月村さんの魅力的な微笑を、俺はほとんど見ていなかった。

 縁談云々の問題じゃなくて。

 俺と八神の間にあったはずの決定的な何かを・・・一生懸命探して・・・


 おかしい。

 実際に一緒に暮らして毎日のように顔を見てれば迷いなんて何も無かったのに。

 こうして距離を置くだけで。


 そんなことも分からなくなってしまうのか。

 分からない。

 俺は迷ってる。




 挨拶まわりから一時的に開放された姉ちゃんが、月村さんを見て驚いて二人で会話を始めて。

 既に縁談打診がされていたことを教えられて、頭越しにされた姉ちゃんが苦い顔とかして。


「まだ内々の話だけど、婚約者だね、これからよろしくね、アリサお姉さま?」

「・・・これまで通りで良いわよ、正式な話とかじゃ無いんだし・・・だから婚約者ってわけでも・・・」

「今度さ、うちのお姉ちゃんの結婚式があるんだけど。」

「知ってるわよ、それがなに?」

「そのときマシュー君、月村家側の親族席に座ってもらって良いかな?」

「はぁ!? なんでよ、普通に友人席でいいじゃない!」

「あちこちからお客様をお招きするし、そういう席で少しずつ一緒の席に座ってもらって認知度を高めていって・・・」

「だから! まだ正式にどうこうって話じゃないんでしょ! それなのにそんなことしたら引っ込みが・・・」

「つかなくなるかもね、それが悪いのかな? ねえアリサちゃん、私は乗り気なんだけど?」

「な、なんでよ、別にあんたはそんなに本気で好きだとかそういうこと・・・」

「友達としては最初から好きだし、結婚すれば自然に夫婦としても大事に思えるようになるんじゃないかな? 政略結婚としては、そうい

う関係こそが最上、こんなに理想的な政略結婚の話とか無いよ? 分かってるんでしょう、アリサちゃん。」

「で、でも・・・」




 なんだか姉ちゃんが押され気味で、姉弟揃って月村さんに圧倒されてしまったようだが・・・





 俺はそれどころではなく。


 考え続けた。


 そうか「離れて二人の関係を見詰め直したい」と言ったのは八神だったが。

 こういうことか、確かにあいつは正しかったのか。

 俺に決定的な何かが足りなかったから、だからあいつは離れたのか。



 それが何なのか。

 再発見せねば。

 きっと体が治っても。


 昔のような関係には戻れないのかもしれない。














(あとがき)


 すずか固定イベント「偶然?の再会」、連続して「本当に好きなの?(1)」発生。

 中学卒業以来大体7~8ヶ月ぶりかな、すずか登場。無茶強い。自覚を拒んでるなのはより遥かに。

 家同士の関係でも、夜の一族としての秘密の問題でも、幼馴染マシューは優良物件すぎる。

 すずかが一番精神的に大人なのかも知れない。弟離れできないアリサをも引っ掻き回して圧倒する予定。

 これを見越して、今は懐かしい無印編と幕間、入院日記とかで「月村さんが真のヒロインだ」とか言ってたのなら作者は本当に凄いの

ですが、実際には偶然であります。そこまで計算とか出来るわけが無いw でも折角前に書いたし伏線だったことにしましたww


 マシューここから迷います。フラフラします。きっと見ててイライラする男として振舞ってしまうことでしょう。

 形だけ離れただけど思っていたけどそれだけで済まない、心の状態も本当にニュートラルに近くなり。

 それでも八神だ! と再確認するかどうか。さてそこが重要な分岐点、自覚できるのか。

 自覚できなければ、すずかに押し切られます。別にそれでいいじゃん、彼女の言う通りそれなりに幸せになれそうだしとかw


 次はまずギンガ、そして治療イベント本編に。

 治療イベントを本気で進めると自然に本筋、正ヒロイン八神と出会う機会も多くなるかも。

 そこで再認識できるかどうかですねぇ。

 治療イベント本編後、余裕あるようなら、久しぶりになのはさんと戦闘イベント行くかも・・・そこまでは無理かな・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十三話   迷走日記 3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/01/17 17:04
マシュー・バニングスの日常       第七十三話









○年×月△日


 さて地球にはクリスマスってもんがある。


 これは別にキリスト教徒で無くても祝うもんだなんて話は今さらだが、まあ一般的な日本人ならそれなりに祝うもんだ。

 欧米ではそれなりに本当に聖なる日だったりして宗教行事の一環という側面もあったりするのだが、幼少期からずっと日本にいた俺は

どっちかといえば日本的な感覚が強く、クリスマスといえば互いにプレゼントしたりパーティしたりくらいの印象しかない。

 この頃には俺は当然知っていたが、クリスマスの頃に、八神の最初のデバイス、初代のリインフォースⅠが亡くなったそうで、だから

八神はこの時期には一度地球に戻って彼女が消えた場所に花を供えたり、さらに両親の墓にも参ったり・・・つまり八神にとってはクリ

スマスってのは・・・正確にはこのクリスマス前後の時期ってのは感傷的になってしまうそれなりに重要な期間なんだな。


 俺は墓参りには毎年付き合ってきた。別れたとは言っても今年も付き合うつもりだった。

 クリスマスパーティは高町家で開催される予定、それに俺も姉ちゃんも月村さんも八神もフェイトさんも出席する。

 久しぶりの全員集合だから楽しみである。八神と連絡とると墓参りに付き合うのはOKしてくれた。

 待ち合わせ時刻も決めてと、よし間違いなく行かねばな。



 クリスマスは平日で、だから当然俺には仕事の予定は無かった。

 大学も休みで、つまり完全フリーだったが、俺は日本のバニングス邸で、大学の勉強の予習復習をしていた。

 一人っきりでのんびりと好きな勉強するこの時間は、俺は結構好きだ。


 でもそろそろ八神との待ち合わせに間に合うよう準備をしようかなという頃に。


 いきなり静寂が破れる。デバイス通信が入ったか、サウロンからコール音が・・・

 うーん、ここに直通で掛けてこれる人となると限られている。姉ちゃんか、八神か、高町か・・・

 まさかギルさんあたりから緊急の患者が入ったから手を貸してくれとかは・・・無いよな・・・とりあえず出てみると・・・


「先生! すいません!」


 ディスプレイに現れたのは予想だにしなかった・・・グスグスと半泣き状態のスバルちゃんだった。

 あーそういえばスバルちゃんにも番号教えてたなあ。

 しかし緊急時しか使わないようにとの言いつけをきちんと守る子だったから、ということは・・・


「ギンガさんに何かあった?」

「そ、そうなんです! ギン姉は言うなって言ったんですけどでもあたし心配で・・・!」

「とりあえず冷静に。何があったか教えて。」

「は、はい・・・」


 スバルちゃんは半分泣いてる上に、話をまとめるのがもともと苦手なようだったが・・・

 そこをなんとか聞き出して、いくつかのキーワードをピックアップしてみると・・・


「死者が出るほどの大事件」「次元犯罪者」「武装隊すら退けられた」「援護部隊に駆り出された」「前線に立ってたわけじゃない」

「なのに運が悪くて」「巻き込まれた」「骨折」「かなりひどい」「何箇所も」


「なるほど分かった。それで今、ギンガさんはどこの病院に?」

「・・・それが・・・この程度なら治るから大丈夫だって言って・・・」

「病院に行ってない?」

「・・・はい。」


 ・・・あまり自分の体のことを知られたくない、か・・・気持ちは分かるが。この程度なら治るって言ってるってことは・・・経験

済みか? 確かに骨折のような傷であれば強引に修復する機能とかありそうな体ではあったが・・・やれやれ、意外と悪い患者だった

みたいだな、ギンガさん。隠し事してたか。


「今は家?」

「はいそうです。」

「うーん・・・地上本部第一病院前に30分で来れる?」

「はい? はい、行けますけど。」

「よし、じゃあそこで待ち合わせしよう。すぐに向かう。」

「は、はい! ありがとうございます!」

「いーからいーから。」


 少しずつ仕事を研究方面にシフトさせて来てはいるが、他ならぬナカジマ姉妹の治療なら、俺には最優先だ。

 急いでミッドに向かうとしよう。

 そしてこの時、俺は、それ以外のことは・・・忘れてしまった。




 病院までスバルちゃんと会って、急いでナカジマ家にかけつけ。


「先生! どうして・・・」


 ナカジマ家はなんつーか普通の家で・・・日本の一般家庭みたいな雰囲気であった。その一室でギンガさんはうずくまって痛みに

耐えていたらしいのだが・・・ゲンヤさんとスバルちゃんの案内で俺が入ったときの第一声はそれだった。


「やーれやれ、まーそれはいいから、まずそこに仰向けに寝て。」

「・・・でも。」

「怪我人は医者の言うこと聞く! ほら早く!」

「は、はい。」


 サウロンをかざして軽く走査っと・・・ううん、この頑丈な半分機械の体の、半分金属製みたいな骨を折るか・・・左鎖骨、左側の

肋骨数本、さらに左腕の橈骨も折れてるな・・・さらに左上腕骨もヒビが入ってるし・・・手根骨にもダメージが・・・しかし確かに

既に治り始めている?・・・いや本当には治っていない、正確に言うと体内のナノマシンが強引に繋ぎ合わせて当面の機能維持だけは

しようとしてるのか・・・骨折しても戦闘続行できるようなシステムってわけか・・・本人の痛みとか無視するなら優れたシステムだ

な確かに・・・恐らくこのまま放って置いても自然に治る、それも本当だろう・・・しかし強引に折れた部分を機械で補って繋いだ

状態がその間続くわけで、恐らく普通なら耐えられない痛みがあるのではないか?


「やれやれ、あんまやっちゃまずいんだけどな・・・」

「先生?」


 麻酔の魔法ってのは、実はそんなに難しい魔法では無いのだ。だがだからこそ恣意的に使用することは規制されている。悪用されたら

シャレならん魔法の一つだからな・・・個人認証パスまで必要なロック状態で保存されてて、使った記録は必ず残るように調整されてる。

しかし負傷者などを見つけた時の応急処置として使うことは許されているのだが、事後承諾となると後で色々書類とか審査とか面倒な事に

なるわけで・・・だけどこの状況、使わないわけにもいかんだろ。

 サウロンから麻酔魔法プログラムを呼び出し、パスコードを入力して本人認証を通過。

 他の魔法よりも手間を取りつつ、サウロンをギンガさんの肩のあたりに軽く触れさせ、麻酔展開。


「あ・・・」

「どう? 痛みは。」

「楽になりました・・・」

「ふー。これは一応、24時間は持つかな・・・でもそれだけじゃあ骨折が直るまでは、もたないかな?」

「はい、私の体でも3日は・・・って、あ!」


 まずいことを言ってしまったと気付いたらしい。


「やっぱり前にも経験あったわけか、骨折。黙ってたわけだ。」

「・・・すいません。」

「なんで黙ってたか、は聞かないよ。想像つくし。しかし・・・事情を知ってる外科の先生とかは心当たり無いの?」

「はい・・・」

「分かった、んじゃ俺から紹介するから。大丈夫、信頼できる先生だからさ。」

「はい・・・重ね重ねすいません・・・」



 とりあえず居間に行ってゲンヤさんと話したのだが・・・なんといっても娘二人の肉体は特殊だ、信頼できる筋からの紹介でなければ

医者にかかるのも怖かった、ギンガ自身も知らない医者にかかるとか非常に嫌がるので強くも言えず、と。

 だからってこれから戦闘魔導師として働くなら医者と係わり合いにならないわけには行かないだろう・・・


 あと、まあ重要な話では無いが、一応何があったのかを聞いてみると・・・


 何でも元々は本局の管轄の事件だったそうで、とある次元犯罪者が武装隊によってミッドまで護送されてきたらしいのだ。

 ところがそこで、そいつの味方らしい連中からの襲撃があって、護送されてきた犯罪者は脱走し、武装隊も大きな被害が出た。

 武装隊の空士の一人が死ぬほどの大事件だったとか・・・

 本局武装隊すら大きな被害を出すほどの事態だ、本来なら本局のほうで片付けて欲しかったのだが、場所が地上だったので陸士部隊も

出撃することとなった。とは言っても援護程度で、犯罪者たちがいると思われる場所の周囲を遠巻きに囲む程度だったのだが・・・

 その遠巻きの輪の、さらに一番外くらいに、まだ正式には陸士ではないギンガさんも研修で参加していた。


 ところが運悪く・・・犯罪者たちの逃走経路が、正にその位置だったため巻き込

まれ、主犯である次元犯罪者の強力な魔法によって吹き飛ばされて重傷を負ってしまったのだ・・・


「とりあえずさっき、ざっと診た感じでは、あのまま普通に回復して元通りになりそうですね・・・」

「そうか・・・」

「その・・・信頼できる医者ってのは・・・意外といるもんですよ? そんなヒドイ医者に変なことされたから、信じられなくなるって

気持ちも分からないことはないですけどね・・・」

「いや、分かってるよ。君が紹介してくれるなら大丈夫だろう・・・ただな・・・」


 まあそういう問題じゃない、か。

 怪我しても治せる態勢を敷くのも重要だがそれ以前に・・・

 本当はそんな危険に近付かないで欲しいと・・・


 ゲンヤさんの悩みは尽きることが無さそうだ・・・


 んで、その後すぐに病院に連絡したり、管理局に連絡して入院患者の搬送だからって言って転送許可を取ったり、地上本部病院で

信頼できる老練の外科医を紹介したり、その際に事情説明を俺からしたり、ナカジマ家の3人が揃って頭を下げるので恐縮したり、

麻酔使用についてちゃんと書類をまとめて提出したり・・とかしているうちに時間が過ぎて・・・


 時間を確認したら・・・地球の日本時間では午後8時!!!


 がああ! やっちまった! 八神との待ち合わせをすっぽかしたあげくに! パーティも遅刻だあああ!!



 全速力で高町家に向かう。

 急患だった旨を説明して何とか分かってもらったものの。

 八神、わかったからと言うばかりで何というかよそよそしい、それ以上話させてくれない。

 月村さん、本当に大変だったねっていいながら妙に近い、姉ちゃん何処かイライラ、高町は上の空・・・


 考えて選んだプレゼントを渡して、それでやっと皆普通程度の機嫌に戻ったくらいが限界でした・・・

 今度みんなに埋め合わせしないとなあ。







△年○月○日



 年が明けてしばらく経った頃。


 ギルさんとも時間をかけて話し合い、今は俺自身の治療に専念する時間を増やしたい旨を了解してもらった。

 役に立たなくて済まないと謝ってくれるのだが仕方ない。彼は優れた医者ではあっても研究者では無いからなぁ。

 でも推薦して貰って、クラナガン第一技術研究所という、管理局所属としては最大の研究所に籍を置くことが出来るようになった。


 まだ研究所の方に専業というわけではなく、両属という形ではあるが。

 そこに所属できるだけで前より一ランク上の情報にアクセスできるようになったのが非常に大きい。

 しかしだな、結局の所、そのレベルの情報なら既にギルさんならアクセスできてたわけで。

 そしてそれでも俺の治療法は見つからなかったのだよな、んなこた分かってたが。


 あーダメだ。

 やっぱこういう普通な経路を辿ってるだけではダメだね。

 今の俺は単なる一介の若手医者ってだけに過ぎない、これでは大したこと教えてもらえん。


 不本意ではあるが・・・何らかの派手な功績でも挙げて見せなくては・・・

 もっと深い所に入り込み、より多くの情報を得るってわけにはいかないだろう。

 俺にどんな研究をして欲しいのか、上の人の思惑は、実は分かりきっている。


 歪んで傷ついたコアを修復することが俺には出来るわけだから、そこから一歩進んで。

 健康なコアに手を入れて、魔力の出力増幅とか出来ないものかと。

 その辺の研究をして欲しいと思ってるのだ、研究所の上の人達は。


 実は出来るだろうとは思うのだ。

 でもだなぁ・・・俺が頑張って何人か・・・魔力出力を例えば上手くいって、10%以上増幅させる手術を成功させたとして?

 それって管理局全体にとっては、どれほどの意味があるのだろうか?

 皆無に近いね。

 俺の体力には限界がある、生涯費やしても多分、数百人にそういう手術できる程度? やっぱり意味無いねえ。


 例えば高町なら結果的にそれくらい魔力保有量増幅とかしたけどさ、それが彼女の魔導師としてのランクとか決定的に変えたかと言えば

そんなことは全然無いのだ。あいつは元から無茶なバカ魔力を既に持っていたのであり、さらにその上で多少増えたってだけなんであり。

つまり健康なコアに手を入れて魔力増幅固定したとしてもそれが決定的な違いを生むとは思えん。保有魔力なら確かに高町は多い、例えば

シグナムなんかより多い、ヴィータよりも多い、だけどそれじゃあ高町とシグナムとかヴィータが一対一で本気で戦うとかしたりすると

仮定して、魔力多い高町が絶対勝つか?って言ったらそんな単純なもんじゃあない。それでも百回模擬戦でもすれば、最終的には、今では

凄く技も巧みになった高町が勝率では上回るかもしれんよ、でもそれだけだ。もしも後の無い一回限りの命が懸かってるような真剣勝負と

かした場合はどうだろうね。修羅場になれてるシグナムとか本気で殺す気で戦えばいざというときはどんだけ強いか分からんぜ? ああ、

でも高町なら父親譲りの戦闘民族の血がギリギリになると目覚めてさらに強くなってとかあるかも・・・

 うん、高町だと例えとして悪かったなw だがつまるとこ魔力量の問題なんて単純なもんじゃ無いのは確かだ。高町が強いのは元からで

魔力多いのも確かだが、それは非常に重要な要素ではあるが、決定的な要素とも思えん。


 そういう正論はミッドの人間は全員分かっている、分かっているがしかし。

 それでも、保有魔力量の多寡は非常に重要な問題として・・・魔導師の生涯を大きく左右するほどの問題として存在する。

 BとBマイナー程度の魔力量の違いなら、客観的に言えば、後は努力の差でどちらが上か決まるから本質的には変わらんのだが。

 しかしそうは行かないのがミッド社会で、そういうランク付けの差は、進学就職雇用待遇賃金などに大きな影響を与えるのだな。

 人生そのもの全てに影響を与えるといっても良いくらいだ。


 悪名高い闇の書の主でありながら八神が出世できてるのも結局、あいつが異常な魔力保有量を誇るから。

 それさえあれば、他の事は多少、目が瞑られる傾向さえあるわけだ。


 そういう文化、価値観にケチつけても始まらん。単に文化が違うってだけだし。

 例えば日本では生まれながらの日本人であるかどうかって凄い大きいんだぜ。外国人に対しての登録義務の強制とか相当きつい。

 アメリカに比べれば段違いだ。それじゃあアメリカにはそういうの無いかって言えば実際にはあるよね。同じアメリカ生まれのアメリ

カ人でも、白人、アングロサクソン、プロテスタントって人間と、それ以外の人間とは、生まれが違うってだけで物凄い差があったりね。


 んで、魔導師か、そうでないかに区別・・・いやはっきり言おう、差別があるのがミッド社会というものだ。

 そして魔導師内でも、地道な実績とか、見事な功績とか、そういうの以前に、魔力保有ランク付けで差別が存在する。


 まあ完全な自由と平等の社会なんて存在しないってことで。それが現実。

 だが同時に、実際には魔導師としての力の全く無い人が、頭脳だけで中将とかになってトップになってる例とかもあるし。

 その差別は存在するが、しかし絶対のものでも無い、それも現実と。


 話が逸れたが、まあとにかく。

 ミッドにおいて魔力保有量の多寡は大問題。

 だからそれを少しでも上げる技術でもあれば・・・大うけすることは間違いない。

 そして、俺には、そういうこと、多分、できると思う。


 リンカーコアは半分エネルギー体みたいなもんだが、逆に言えば半分有機体みたいなもんで、よくよく見れば「コアの中のコア」と

言うべき部分が存在し、その中核部から螺旋状に魔力の筋みたいなもんが通ってるように俺には見えるのだが、従来のコア増幅試行例

ではそういう構造を無視してただ外から強烈な魔力を浴びせていた、そんなことしても周辺部にほとんど弾かれて中核部には届かず、

余分な魔力はコアの構造を破壊して結果的には魔力量も減るだけだった。もしも中核部を明確に特定して、そこに魔法的な針みたいのを

差し込んで、中核部だけに一時的に、構造を破壊しない程度の魔力を流すことが出来れば、そこからの魔力が放出される経路にも一回、

強く魔力が流れて筋道が整理強化されて、安定したまま出力が上がる可能性が高いのではないかと。


 「中核刺激法」によるリンカーコア安定増幅。


 その論文は、前から考えていた方法でもあったので、すぐ書き上がったのだが。


 これを研究所の上司に提出するかどうかは・・・しばらく迷った。


 つまりだな・・・これも・・・悪用しようと思えば・・・できる技術なんであって。


 悪用される危険性がある技術でも、それが「治療」の技術なら発表することにためらいは無い。

 必ずその技術で救われる人がいると断言できる技術なら問題無い。

 でもこれは、治療の技術ではない・・・・・・


 管理局の中枢に近づき、より多くの情報を得るため、それも我が身を治すためではあるのだが。

 つまり俺が俺の命を救うための技術にはなる、世の中には「緊急避難」てもんがあるじゃないか?

 二人で溺れてて掴まる板が一枚しか無ければ、殺してでもその板を奪っても良いのだ。


 だが俺は現状、別に死にそうってわけでも無いぜ? 養生すればそれなりに普通に生きていけるだろ・・・

 この技術を発表したことでどっかで違法研究者が、俺みたいに中核部をきれいに特定できない違法研究者が、数打ちゃ当たるだろって

適当に多くの人体実験とかして犠牲者が出たりとか、ありえるのかも知れない。エリオ君のような例もある。

 数百数千と実際にコアの構造を精査して、中核部の存在確率が高い位置を、俺みたいに直接に見えなくても、把握できるようにして、

その上で発表するなら問題無いのだが、それにはその調査統計整理が済むまでは絶対的な機密として扱ってもらわなくてはいけない。

 実際の手順としては、まず論文を提出する、志願実験者を募って実際に何人かで成功してみせる、有効性が証明された後で、本格的な

統計調査に入り、手順を標準化して安全性を高め、一定の設備がある環境なら実施できるように持っていって・・・


 その過程で、恐らく・・・有名になること、評判になってしまうことは避けられない。最初に成功して見せた時点で大評判になるだろ。

そして俺は成功する自信がある、本質的には直接整形術の応用に過ぎないから、高町にも実際には似たような施術を行ったしな、だから

成功する、そこまでは良いのだが、それで評判になると、どういう技術なのか問い合わせが殺到するだろう、それもきちんと正規の手順

を踏んでくれるなら良いのだが、ことがコアの出力増幅となれば、非合法な方面から情報を奪取しようという動きも出かねない。


 だけどだな。

 例えば、視力回復手術ってあるじゃないか。レーザーで角膜削るやつね。

 あれをやって視力が回復する、それはどういうことかといえば具体的には「眼鏡がいらなくなる」程度。

 別にいきなり鷹のような視力が手に入るとかそういうわけではない。


 俺の「リンカーコア中核刺激による魔力出力安定増幅」も、それと似たようなものなのよ。

 高町みたいな若さと、異常な魔力量をもともと持ってる人で、10%程度のアップ。

 それはランクBの人が、B+になる程度の違いで、すごーく運がよければAになるかも? 程度だ。

 それも魔力の出力だけだからなあ。

 実質的には魔力保有量が増えたと見て間違いでは無いだろが。

 だけどそれだけだとあんまり意味無いんだってば。

 魔導師としての実力とは・・・それに技術や知識や経験が積み重なって総合的に決まるものなのであって。


 つまり要点は。

 これは決定的な技術では無い!ってことなんだ。

 コアの出力を増幅して安定させる! とか聞けば魔導師なら、もう夢の実現みたいで有頂天なるだろうが。

 でもこれだけで何かが決定的に変わるかといえば絶対にそんなことはない!

 比較的に、いろいろと有利になるかもだけど・・・でもそれだけだ。


 そのへん、冷静に皆さんに分かってもらえれば、それほどフィーバーしないで済むかな。

 そうなるとむしろ隠すよりは、積極的に情報開示すれば。

 分かる人にはわかるだろ、なんだその程度かって。


 でもそれでも新しいアプローチであることは確かだから違法研究者とかに流れて悪用される可能性も・・・


 でもだからそれほど決定的な力を生み出すような技術じゃ無いんだってば。


 断言するが、Bの魔導師にこの手術受けさせてB+にするくらいなら、最初からB+連れて来る方が早いし安く済む!

 この技術が敷衍しても、若手魔導師全体の微妙な底上げ程度の意味しかない! 

 そしてそれだけだと管理局全体にとっても、微妙にプラスになるって程度の意味しかない!


 だからもう発表してしまおう! 論文提出しちゃおう! そしたら上の人は驚いて喜んでくれること間違いなし!

 そして実験成功させて、大いに実績を上げることで、より深く管理局中枢の情報を得られる立場になれる!

 なんといっても俺は管理局に命を救われた恩がある、恩返しはせねばならない、これは大いなる恩返しになるだろう!

 これでもう貸し借りなしのイーブンだぞと言えるくらいだと思う、そういう状態になりたい!


 それが俺の正直な感情なのだが。

 すぐに記憶がその気持ちを引き止める。

 つまりエリオ君だな・・・

 彼は、実際に、俺達の研究成果を悪用されて、人体実験とかされてた、その惨状をこの目で見た。


 でもどーだろね。

 それは俺の管轄じゃないだろ。

 俺は情報漏洩など絶対しない。だからその情報が流れるとしたら俺以外からで。

 そういう情報漏らすやつが悪いんだろ。そしてそういうのを捕まえるのは捜査官とかの役目でさあ・・・


 できることしかできんのだよ人間は。

 持ち場があり、役目がある、その中でベストを尽くす、それが組織に所属するものの義務であり。

 自分の役目では無いところまで心配して、今、研究員であるという立場に求められる義務を果たさないというのも違うよな。


 とは思うがでも悩む、悩む悩む結論出せん。


 迷いに迷った俺は、書きあがった論文を研究所にも置かず、地球の家に持ち帰り、自室の机の引き出しにしまった。


 相談したい。

 誰かに。


 いや、八神に、か。


 おおう! 少し驚いたのだが。

 こういうときに。


 姉ちゃん → いいからやってしまえという。姉ちゃんにとっては俺が第一で他の事はどうでもいいから。

 高町 → 相当悩む、そして大して有効な忠告は出来ない。

 フェイトさん → 高町よりは少しは詳しいかもだが現場止まりの情報しか持たず。

 月村さん → 悪いがあんまりミッドの事情とか詳しくないしこの件では頼りにならない。

 ユーノ → 違法研究の実態とかそれほど詳しいとも思えん。彼が詳しいのはあくまで蓄積された過去の情報で現状では無い。

 クロノ → 艦隊勤務に移って結構経ってる。今はほぼ純粋な軍人。もともと前線での部隊指揮が多かったタイプ。

 リンディさん → 既に後方勤務に移ってるし元から艦隊勤務の人。でも八神に次ぐくらいは頼りになるかも?



 それに比べて。

 八神なら、元々は特別捜査官でありさらに上級管理官を兼ね、情報関係は彼女の専門。違法研究の捜査など前線で当たってる担当者でも

あり、しかもそういう捜査官全体の動向とかも把握できる立場にもあり。


 こういうときには、どう考えても一番、頼りになる!


 よし何とかしてあいつを捕まえて、相談に乗ってもらうとしよう・・・










(あとがき)


 ギンガ選択イベント「隠していた負傷」。発生条件はスバルにも直通番号教えておくこと。

 これを選ぶことで「お墓参り(1)」は実行できませんでした。でもこれは断れないよね普通・・・

 ギンガの方で、続くイベントが起こるフラグは立ちましたが・・・八神の傷心度アップ。


 また「クリスマスパーティ(1)」にも出席できず。ただしこのパーティに最初から出ると、すずかが各人の気持ちをはっきりさせる

ために挑発を繰り返すイベント「本当に好きなの?(2)」が強制発動、かえって雰囲気は悪化、体力ゲージが30%強制的に削られ、

しばらく休息以外できなくなるだけでなく、各ヒロインの傷心度が軒並み上昇(すずかも含めて)します。

 うーんデスイベントですねえ。ただし出なくては写真かなり逃すのでフルコン目指すには出るしか無いのですが。



 治療イベント「中核刺激法による魔力中枢安定増幅術」論文完成。年明けに起こる固定イベントです。


 現状の選択肢。

 すぐ提出 → 治療イベント次の段階に進みます。スカさんルートに近づくかも?

 すぐ破棄 → 治療イベントはもう進みません。八神攻略は事実上不可能になります。

 八神に相談 → もう一度、選択肢が与えられます。ためになるアドバイスも貰えます。


 ここまでで一連の初期イベントは終わり。

 ここから本格分岐。「なのは・はやて」方面「フェイト・ギンガ」方面「すずか・その他」方面が大まかな流れ。

 書いてみて分かったんですけどフェイトさんとかギンガとかもね、本気で書くとなるとそれ一本に集中せんとどうにもならぬ。

 すずか方面はそれなりに堅実なルートだけに書きやすいのだが、他のヒロインの好感度を上げなかった場合の裏道すなわちスカさん

ルートとなるとこれはもう全然別の話になるし、そっちにも色気出すとか無理だあw

 ゆえに他のヒロインも・・・とか考えるのは先の話、まずは明確に「なのは・はやて」方面に進みます。

 さらばだフェイト、さらばだギンガ。さらばだ隠しヒロインたち、味方としてのドクター。


 ちょっと筆が滞ったのには訳がありまして。

 つまりですね、しばらく皆、悩む段階に入るのです。マシューも治療に自分の気持ちにと悩む、八神も仕事に嫉妬にと苦しむ、なのはは

うじうじと気持ちを認めず後ろ向きになって悩む、ユーノもそれに振り回されて暗くなるなど。

 恋愛話って、くっついてしまえば甘甘ラブラブな明るい雰囲気になるけれど・・・そこに行く前の悩んでる状態って暗いですねえ。

 でもどうしようも無いようです。そうして真剣に悩んで成長していく過程を正面から描く以外に出来ることは無さそうです・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十四話   迷走日記 4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/02/10 22:28
マシュー・バニングスの日常        第七十四話






△年×月○日



 高町、フェイトさん、エリオ君、3人の健康診断はまとめて同じ日にしている。


 フェイトさんの健康診断するようになって、すぐに仕事詰め過ぎで過労気味であることが判明したので、リンディさんに通報、共謀し

て無理やり仕事を減らしてやった。


 文句言われたが聞こえない。あんまりしつこく言うようならリンディさんだけでなく各所に通報してもっと完璧な包囲網を敷いた上で

仕事を激減させてやろうかと脅した所、震えながら青くなって謝った。なに実際には執務官部門にはあんまツテとか無いんだけどね、だ

からあくまで脅しだったのだが、高町がそういう包囲網敷かれてるのを知ってるので真に受けた。素直で面白い。


 エリオ君も問題無いのだが、しかし大食いの理由が分からんな。

 ナカジマ姉妹みたいに消費カロリー多いのも仕様ってわけじゃないのに。

 なにせフェイトさんはむしろ普通の人よりも少食なくらいだしな・・・

 もしかしたら単なる偶然という可能性も確かにある。そういうふうな元から生まれつき大食いみたいな? それで別に体悪いってわけ

でも無いって人、珍しいけどたまにいないわけでもないしなあ。現状、別に問題無いとしか分からん、要継続調査だな。



 エリオ君は結局自分の意思を通し、ミッドの学校に通うことになった。それも寄宿舎つき全寮制の結構良い学校。

 フェイトさんは海鳴から通うのが無理なら、それじゃあミッドに家を買うから一緒に住もうという勢いであったのだが。

 学費を全部払ってもらう上にそんなことをしてもらうわけには行かないというエリオ君の意思は固かった。

 おそらく将来的には稼いで学費も返そうとか思ってるのでは無いかと思う。

 そんなときがくれば果たしてどれほど大騒ぎになるか・・・フェイトさんが嘆き悲しむだろうと思うとちょっと心配だ。

 しかしそういう独立心の強い性格のエリオ君であるから、これはずっとエリオ・モンディアルで通しそうだな。

 そのうちエリオ・M・ハラオウンになるもんだろと思ってたが、それは無さそうな雰囲気である。

 リンディさんでも説得できなかったんだろな、うん、だったら無理だ。それはそれで仕方ないんでね?

 人それぞれの道があるし、フェイトさんには悪いが、彼は違う生き方を選びたいと思ってるなら、その意思を尊重すべきだろ。



 午前中、朝一に二人の健康診断を終えた。


 エリオ君は学校あるのでこれから登校。フェイトさん当然のようについていく。

 いくら保護者とは言え、授業参観日でもないのに学校の中にまで入れるわけでも無かろうに。

 それでもついていけるところまではついていく気らしい。エリオ君は諦め顔だ、うん頑張れエリオ。


 さて本来なら、高町も同じ時間に来るはずだったのだが。

 遅れてやがる。連絡も無い。

 どうもね、近頃のあいつは様子がおかしいのだ。



 って、まあ現実から目を逸らしてても仕方ない。



 分かってますよ結局・・・


 姉ちゃんと桃子さんの陰謀なんだよね、あの二人の悪ノリといいますか。


 近頃は、あからさまに焚きつけるみたいな、そういう言動を高町に対しても俺に対しても・・・

 姉ちゃんは家では俺に対して、なのはが良いなのはが良いぜひぜひ嫁にしてしまえ大丈夫、押し倒したら抵抗できなくなるって。

 あーもう、悪いがうるさい。

 さすがに近頃は、あんまりしつこいので俺が不愉快な顔とかすると・・・

 姉ちゃん、それ以上は押せなくなって、しばらく言わなくなるのだが。

 ダメだね、それでもしばらくしたらまた同じこと言い出すし。

 でもどうも姉ちゃんらしく無い、つまり単純に、なのはが良いとそればかり繰り返してて。

 姉ちゃんが本気で俺を嵌めようとか思えば、むしろ逆にそんなこと臭わせもせずに、いきなり不可逆な罠に落とすとかしそうだが。


 本質的には、ただ、八神に対してまだ腹立ててるだけみたいな?

 今でも俺は八神が好きなことわかってて、それが気に入らなくてムキになって高町を推してるだけみたいな?

 そんな感じに過ぎないわな、あんまり本気を感じない。

 ちなみに自分から言い出したクセに月村さんのことは一言も言わなくなったりしてる。

 八神を俺が好きなの気に入らない、月村さんに持っていかれるのも気に入らない、高町なら色々好都合?

 ま、そこまで邪推するのも姉ちゃんに悪いが。とりあえず姉ちゃんはそんな感じであるが。


 でも高町の方はどうなのか分からない。

 単純な押し戦法しか使ってこない姉ちゃんと違い・・・桃子さんが本気出すとどうなるのか予想も出来ない。

 陰に日向に意識させようと巧みな術策を、高町に対して行っているのだろうと思う。


 そして高町、近頃は妙に意識するようになって・・・

 俺に前みたいな普通の友達程度の距離も? 近づくことが出来なくなって。

 ぎくしゃくして、俺が診察で近づくと顔赤くして身を固まらせて、もうガチガチになってしまって。

 普通に会話も出来ない。

 困ったもんだ。フェイトさんと普通に話せるように戻ったと思ったら今度は高町だ。


 だけど高町もだなあ・・・変に意識させられてしまってるだけなんであって。

 そしてそういう感情にとことん不慣れな彼女であるから、普通以上に変になってるだけなんであって。

 俺のことを好きかといえば微妙だと思うぜ?

 真の気持ちは、混乱ってとこだろ。

 こいつは間違いなく、俺が八神を好きだってこと分かってるし。

 なぜかといえば、彼女が変になって固まってしまうたびに・・・その状態を解消して普通くらいにもってくには。

 結局、その話をするしか無いからだ。


 八神とは今でも直通の連絡を俺は取り合ってるとかね。(誇張表現ありだがウソでもない)

 将来は嫁にするつもりだとかね。(これは本気)

 もちろん八神が好きなんだとかね。


 多少、会話に脈絡が無くても。

 そういう話を俺が持ち出すと、高町はとたんに冷静に、普通に戻ってくれる。

 そんで診察も済むという感じになるのだが。


 そうしてまた高町、家に戻るだろ。

 そしたら桃子さんの煽りが入って。

 また普通じゃない状態になってしまって、俺の所に来ると。

 そこからまた普通に戻すため、俺は八神が好きだって話を繰り返し。

 もしかしたら八神に言った以上に、高町には、俺が八神を好きだって言いまくってるような気がするぜ。



 しかしそろそろ限界だな。

 桃子さんに真剣に抗議して、そういう煽りはやめてくれと言おう。

 実際こうして健康診断にも遅れてくるくらいで、つまり俺たちそれぞれの仕事への妨害にすらなってきてるし。



 1時間、何も言わずに待ったのだが。

 さすがに遅すぎるぞ、レイジングハートに直通連絡。

 コール音がしばらく続く。


 もしもまた仕事に夢中になって健康診断忘れたとかなら容赦せん、しばらく休ませてやる。


 だが、そうじゃないなら、はて・・・どうしたら良いのかな・・・

 桃子さんとかユーノとか、そして高町自身とも。

 きちんと一回、話し合う必要があるのか、やっぱり・・・




☆     ☆     ☆




 高町桃子は、なのはに対しては負い目がある。

 幼い頃に孤独にしてしまってそれが魔法への過度の依存をもたらし、そして大怪我してしまった。

 母親として言い訳できない大失敗。もっと早くからきちんと踏み込んで話をしていればそんなことにはならなかったのに。


 だから同じ失敗は絶対に繰り返せない。

 おせっかいでも、なのはに鬱陶しいと思われても、押し付けがましくても。

 でも母親なのだから、変に遠慮してはいけないのだ。


 なのはに、素直にならせなくてはいけない。


 なのはは家族に愛情を求めることが出来ない過度に遠慮した心理に陥り、魔法に仕事に依存して大怪我した。

 今では幸い、家族に対しての遠慮というのは無くなっている。自分とも何でも話し合えるようになってると思う。

 しかし「遠慮する心」みたいのは無くなってはいない。


 自分の感情に対して素直ではないという傾向が、やはりある。

 なのはは自分の感情を抑えるという行為に・・・慣れてしまっているのだ。

 義務を優先し仕事を優先し、決まっていることに従うということを優先する。


 なのはは頭脳・理性面ではともかく感情・情緒面では明らかに未発達で年相応にも達していない。

 頭はともかく、心は過度に子供っぽいのだ。

 そこを成長させるには、やはり意識させ自覚させるべきだろう。


 ゆえに桃子は、嫌がるなのはを捕まえては恋愛の話を振る。



 まずユーノが、なのはを好きだという話を振ってみた。そんなこと桃子には当然お見通しである。


 ところがなのははそれも認めない。友達だと言い張る、彼は自分にそんな感情は持ってないと逃げる。


 桃子の見る所、恐らくユーノは最初からなのはのことが好きだ。一目ぼれに近いのでは。しかし数年は自覚していなかった。自覚した

のは、なのはが入院したとき。それまで顔見知り程度で別に気にもしてなかったマシューがなのはに急接近したことに恐らく嫉妬心を感

じて、そこではじめて好きだと分かったのだろう。そこで好きだと分かったからすぐに告白とは行かなかったのだが、それも仕方ない、

本気の告白など人間そう簡単に出来るものではないのだ。それにマシューの場合、すぐに、はやてと結婚しそうな勢いだったということ

もある。マシューとはやてが一緒になってしまえば自動的にライバルは消える、そしてそうなるとしか思えなかった、だから大丈夫だと

安心していたのだろう、ユーノは。今はその油断を後悔してかなり焦っているのではないか?


 しかしそれでもユーノはすぐに告白とか出来ない。出来ない理由も簡単、なのはの気持ちが不明だから。

 不明というか不安定、まだまだそこのところは子供で、そもそもはっきりしていないし考えてさえいないし。

 いや意識しないようにしてるフシがあるというのが正確か。

 恐らく、今、ユーノがなのはに好きだと言っても、なのはは・・・友達だと言って逃げるのではないか?

 実の母親の目から見てもそう思える。なのはは恋愛感情を持つことを怖がっている。


 それではダメだ。別にマシューのことを好きになれとかユーノの気持ちを受け入れろとか言うつもりは無いが。

 それを考えないようにして曖昧なまま逃げてはダメだろう。


 だから桃子は、なのはと顔を合わせると嫌がってるのを承知でまた恋愛の話を振る。


 あまりしつこく言われるのでなのはは近頃、桃子の顔を見ると逃げ腰になるくらいだ。

 だが各方面から情報を集めると成果はあがっているらしい。


 近頃なのはは、マシューの前に出るとガチガチになってしまうとか、ユーノ相手でもこれまでみたいに気軽に話せなくなったとか。

 異性であることを意識して気軽に近づけない状態、普通なら小学校高学年か遅くても中学生でなる状態では無いか?

 高校生になってはじめてそういう状態になった、遅いが別に問題ないだろう、そういう意識を全く持たないほうが問題である。

 特に女の子なのだから、異性に対してそういう意味で無警戒だと周囲に無用の混乱を起こすものだし。

 親友のフェイトなどもその辺の意識に大いに問題がある、リンディと母親同士で話し合って互いにグチを言うことも。

 リンディと桃子は実はその点では結託している。この際マシュー君には悪いが、娘たちの情操教育のダシになってもらおうと・・・


 なに、どちらかが上手くいったならそれはそれで良い。彼なら問題ないし。

 しかしどうせ紆余曲折はあっても、はやてが持って行くのではというのも二人共通の見解。

 別にそれでよい、重要なのは娘たちが心の成長をすること。


 だから今日も桃子は、なのはを捕まえては「本当にマシュー君のこと好きじゃないの?」としつこく尋ねる。

 もちろん娘の答えも決まってる「そんなことは無い」。


 本当に、そんなことは無いのなら。


 ねえ、なのは、例えば・・・ユーノ君には、軽く抱きついて、ちゅーとかできる?


 できるかな・・・なんとか・・・


 それじゃ、マシュー君に、軽く抱きついてちゅーとか


 できるわけないでしょ!!!


 あれ? どうして? 二人ともただの友達なんでしょ?


 違うもん、だってマシュー君は、はやてちゃんが好きで、はやてちゃんを好きで、だから私は・・・・・・



 
☆     ☆     ☆



 もうヤだ。

 お母さんは鬼だ。

 せっかく友達として楽しく過ごしてきたのに。

 変に意識させて。

 ユーノ君とも前みたいに気軽に喋れなくなったし。

 マシュー君の前に出ると体が固まっちゃうし。


 いつまでも子供のままじゃいられない。

 子供の頃の乗りで男女関係なく友達として楽しく過ごしていたいと思っていても。

 それじゃ済まないって、言ってることは分かるけど・・・



 今日は健康診断の日。

 フェイトちゃんとエリオ君と一緒の日にしてもらって本当に助かった。

 一人きりでマシュー君の所に行くとか・・・ハードル高すぎる。


 朝ごはんの時、お母さんはまたしつこく繰り返す。

「ユーノ君は私を好き」で、「私はマシュー君を好きな疑いがある」って。

 だから何でそんなこと思うのかって。

 横から見てると、そう思わざるを得ないって。

 私がマシュー君を好きとか無いってば・・・

 ユーノ君が私を・・・ヤだ、わかんない。

 友達としてなら話は簡単、私は二人とも好きだし?

 ユーノ君は自然にほんわかした感じで好きだし、マシュー君はちょっと苦手だけど何だかんだ言っても好きだし。

 でも友達だし。それでいいじゃない? なんでダメなの?


 お兄ちゃんはもうすぐ忍さんと結婚するからその手の話の対象には出来ないとして。

 そうだお姉ちゃん! お姉ちゃんの世話を焼けばいいじゃない! 私じゃなくてさ。

 え? そういうふうに分かってないから、私の世話を焼かざるを得ないんだって? どういうこと?


 お姉ちゃんは実は、男女としてお兄ちゃんのことが好きだった・・・って! ウソでしょ!?

 兄妹じゃない! ああでも前に聞いたけど、実はお姉ちゃんは正確には従姉妹で・・・

 お父さんの妹さんの娘なんだって、でも小さい頃からずっと一緒で兄妹として育ってきた二人で、実の兄妹同然でしょ?

 そんな単純に割り切れるものじゃない、それでも好きだった、それが兄は今度正式に他人のものになってしまうから。

 今のお姉ちゃんは傷心状態で、二人の結婚式を見てしばらく気持ちの整理がつくまではその手の話はできない?


 それが・・・ほんとなら・・・そうかもって思うけど・・・

 そういうことも全然分かってないから、私は子供過ぎるって?

 それはそうかもしれないけど! でもそれで誰かに迷惑かけた?!

 ユーノ君は、私の気持ちが見えなくて悶々として悩んでるって・・・それはお母さんの推測でしょ!

 本当かどうかなんて分からないじゃない!

 もういい! 今日は健康診断だから! 遅れられないの!



 急がないと、フェイトちゃんとエリオ君よりも先に済ませてもらわないと。

 焦って転移、まずミッドの中央ポートに飛んで、そこからバスで病院に向かう。

 飛んでいくのはもちろんこんな私用ではダメだし、タクシーを簡単に使う気にもならない私は小市民。


 十分、時間に余裕はあった、間に合うはずだったのに。

 本局病院の近くに何故かこんな時間にユーノ君発見!

 なんで? ユーノ君もそろそろ勤務時間、病院の側とか普通いないでしょ?

 風邪でも引いたのかな、でも病院に入っていくわけでも無い、バス停あたりで人待ち風情。

 バスがとまる、ユーノ君は乗ってこない、私は降りなきゃ・・・

 降りなきゃ・・・


 ダメだいきなり顔会わせるのが何故かきつい。

 マシュー君と会わなきゃいけないって覚悟は決めてきたけどユーノ君まで追加注文とか、いきなり無理だし!

 心の準備が・・・もう、なんでこんな状態に・・・普通に挨拶すればすむ話・・・

 多分、今日、私が健康診断の日だって知っててちょっと会いたかっただけとかそれだけの話だよ、そういうこと前もあったし。

 だからいつも通りに挨拶していつも通りに雑談して・・・


 でも私はバスの椅子に深く座って窓から顔を隠して、ユーノ君に見つからないようにして。

 そのまま停留所を通り過ぎてしまった。

 次の停留所で、降りよう、そして迂回しながら徒歩で戻ってきて・・・大丈夫、間に合う。


 人影や物陰に隠れながら戻ってくる、ユーノ君、病院正面玄関付近に陣取って動かない!

 もう! なんで邪魔するの! 理不尽に腹を立てながら私は別の入り口に回ろうかと思ったんだけど。

 ユーノ君、正面玄関から病院内に入った? そして受付カウンター付近に位置を移して・・・そこで待機?


 ああん! もう! そこにいられたら私も一回受け付けの人に話してマシュー君に連絡してもらわなきゃダメだから。

 絶対に捕まっちゃうじゃない! なんでそんなことするの! どいてよ!


 うぅー・・・と正面玄関の外の植え込みの陰から涙目でユーノ君を睨む私。


 じりじりと下がって、間違っても見つからない位置まで来て、改めて自分の胸に手を当てて考える。


 負けちゃダメだよ、高町なのは!

 お母さんの陰謀になんて負けちゃダメ!

 そうだよ、ユーノ君も、マシュー君も、ただの友達なんだから!

 友達、友達、友達、だから平気、平気、平気、なんでもない、なんでもない、なんでもない・・・・・・

 ユーノ君は昔からずっと男女として本気で私のことが好きだったとか・・・・・・

 私は実は昔からマシュー君を意識してたんだけど、はやてちゃんに遠慮してたんだとか・・・・・・

 そんなことは無い、絶対無い、友達、平気、なんでもない・・・・・・


 よし行こう!

 でもちょっと待って! 5分だけ深呼吸して落ち着こう、顔が赤くなったりしないように!

 では行こう!

 だけどちょっと待って! 軽く屈伸でもして、気分を変えよう!

 じゃあ行こう!

 うんちょっと待って!


 我ながらバカなことを繰り返してたと思います。

 病院の近くを通り過ぎる人たちが、不審人物を見るような目で私を見ていたのではないかと思います。

 そのうちついに、レイジングハートにマシュー君から直通コールが!


 とっさに道端でディスプレイ開いてしまう私。

 なにやってるんだコラ!って言われて、ごめんなさいマシュー君!って大声で謝っちゃう私。

 その声を聞いて後ろからユーノ君がいつの間にか近づいてきて、あぁ少し遅れたんだ、どうしたのなのはって言ってきて。

 前にディスプレイ上の不機嫌そうなマシュー君。

 後ろに至近距離に心配そうな顔のユーノ君。


 うぅ、うん、ちょっと遅れて、ごめんなさいと、しどろもどろに言葉を返す。

 通話画面上の私の背景に写る本局病院を見て、なんだもう来てるのか、早く来いよと言ってマシュー君は通話を切る。

 急がなきゃ!って私はユーノ君にゴメンね後でって言いながら病院内に駆け込もうとするんだけど。


 ちょっと待ってって私の手を取るユーノ君。

 いきなり手を握られて、それも前だったら平気だったのに、なんか咄嗟に振り払っちゃう私。

 あ・・・ユーノ君、そんなことされて少し傷ついた感じに・・・


 ご、ごめんなさいってまたしどろもどろに謝るんだけど。

 いや急に悪かったよってユーノ君も謝って、健康診断、一時間もかからないよね、その後、少しいい?って。

 な、なんなんだろう、別に今日は午前中は空いてるから、いいんだけど、でも変に意識してしまって。

 とりあえず曖昧に頷いてしまう私、じゃあ一緒にマシューのところまで行こう、外で待ってるからって。


 ふらふらと地に足がついてないみたいな状態でマシュー君の所に行く。

 なんだ単なる遅刻か?って言われてうんごめんなさいってまた繰り返して別に健康診断自体はあっさりと済む。

 終わって廊下に出る、ユーノ君がそこに待ち構えてて。


 マシュー君が、あれ? ユーノどうした?って。

 うん、今度さ、クロノとエイミィさんが結婚するじゃない、結婚祝いを一緒に選ばない?ってなのはに相談しようと・・・って。

 そか、そういう用事だったんだ、うんそれは別にいいんだけど。


 ダメだどうしても変だ私普通にならない、ごめんちょっとお化粧室に!って逃げ出す私。


 なのはがバタバタとトイレに逃げ込んだ後。

 残された男二人、なんとなく顔を見合す。


「なあユーノ」

「なんだいマシュー」

「高町、あれはどう見ても」

「うん、やっと異性として意識はしてくれるようになったかな」

「良かったなあ、頑張れ、押せよ?」

「マシューたちが別れたからこういう状態になったってのが少し複雑なんだけどね」

「大丈夫だって俺は八神を嫁にすると決めてるから(月村さんの可能性からは当面目を逸らして、少なくとも)高町は無いし」

「とりあえず完治したら押し倒す権利を留保してるとか言ってたっけ?」

「おう、そうなったらもう容赦せずヤってやる。そのためにも・・・」

「僕に出来る協力はするよ。だから君も協力頼むよ?」

「ああ」



 なのはは少し平常心を回復して戻ってきた。

 ユーノは、そのなのはをとりあえず病院の入り口付近のラウンジに誘う。

 手をふって見送るマシュー。


「そういえばクロノたちの結婚祝い、俺も考えないとなぁ・・・」


 そう呟きながらマシューは診察室のドアをバタンと閉めた。










(あとがき)

 「おせっかいな企み(2)」。なのは絶賛混乱中。

 しかしもう高校生なんだからそういう意識持たないほうがおかしいという桃子さんは正しいと思う。

 原作では19でものほほんとしてたがそれは不自然だしかえって良くない状態だと思うのです。


 幼少期~中学生時代にフェイトへの接触を頑張ってて、なのはとでは無くフェイトと各種イベントを起こしていれば。

 「臨時授業参観?」のイベントが起きる可能性がありました。エリオ可愛さに暴走するフェイトと振り回されるエリオ・マシュー。

 この場合、なのはがここまで意識してない状態になるので普通に遅れず検診にも来ていた、と。


 はやてとは現状、頑張って接触を試みてもせいぜい3ヶ月に1度しか会えず。

 しかも会っても、こちらに治療イベントなどの進展が無ければ、なにも変わりません。

 ゆえにはやて狙いでも焦らずに、今は無理に接触しようとする必要はありません。

 あまり無理して会うと月村さんの話とか持ち出されて、かえってはやての傷心度アップするかも?

 もしや、すずかVSはやて、というのが本当の争いになってしまうのだろうか・・・・・・


 次回はクロノの結婚式かな。

 クロノのところの双子はsts時代に3歳くらいらしいので。

 そろそろ結婚しないと間に合わない。

 問題は、その結婚式には、すずかは来るのか?ってあたりでしょうか。

 来られたら全部持っていかれそうで怖い。はやて・なのは、二人がかりでも敵いそうも無い・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十五話   迷走日記 5  クロノ・エイミィ結婚 1
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/02/10 22:16
マシュー・バニングスの日常      第七十五話








△年○月X日



 久しぶりに八神と会い、二人でクロノ・エイミィさんの結婚式の祝い品を選ぶ。

 しかしクロノとエイミィさんは長年、既に半同棲状態であり、生活用品など日本のハラオウン家に全部揃ってて。

 夫婦茶碗とか家具の類とかそういうのを今さら贈られても余るだろう、では何が良いのか?



 二人で頭を悩ませたのだが。

 結局、真面目に役立つ日用品とか? そういう類のものは四方八方から雨あられと過剰なほど贈られるはずなので。

 よし、我々はシャレ優先で行こう! という方向性で同意。



 でも俺は、ここはおとなしく「Yes/No枕」程度にしとくべきだと主張したのに。

 八神は、いや、シャレに走るなら思い切ってやらねば、大人のおもちゃを見繕ってなどと言い出しやがる。

 おいおいせめて避妊具を大箱でとかならまだしも・・・

 なに言うとるんや! 新婚さんやねんから、それやったら精力剤を大箱で・・・

 あんまり露骨になってはいかんだろ、だったら雰囲気ある布団とかもつけて・・・

 そういう婉曲なんはイヤらしい、せやったら思い切ってローターとローションをセットで贈るべきや!ってお前なあ・・・

 なんでそんなもんの存在を知ってるんだショックだぞ俺はって少し呆れ悲しい顔をしてやったのに。

 ふん、うちのpcにそういうのの通販チェックをした履歴が残っとったでって言われて口に含んでたお茶に咽る。

 見ただけだ! 買ってないぞ! お前にそういうの使ったことは一度も無いだろ!

 使いたいとは思っとったんやろ! この変態! 普通にあちこち触りまくっとったくせにさらにあんなもん・・・

 だから未遂だろうが! だったら無罪だ!

 買おうとして調べる時点でイヤらしいんや!

 好奇心だろ! 出来心だ!



 デパートの喫茶店で、そんなことを大声で話し合っていたことに。

 その時点でやっと気付く。

 周囲から「自重しろバカップル」という冷たい目線が集中している!



 二人でコソコソと喫茶店を後にする。

 また口ゲンカしながらも、結局、Yes/No枕と精力剤のセットを贈る事にしました。

 もちろん医者である俺が選ぶものなんだから、効き目はあるけどそれほどでもなく安全性優先の。

 でも意外と効いたらしいと後から分かった。なにせすぐ子供出来たしな、クロノ・エイミィ夫妻。





 買い物が終わったあと、また別の喫茶店で、相談にのってもらった。

「中核刺激法による魔力中枢増幅」の論文についてだが・・・・・・

 医官、研究員である俺がその職務でベストを尽くすのは当然だから気にすることは無いと言ってくれました。

 特に俺の場合は「まっとうな研究員」として表の顔にすらなってる立場、そういう人間は絶対必要であるから。

 俺はあくまでそういう立場の人間として大切にされてる、そういう位置にいる。

 「まっとうじゃない」研究するような人間は、最初からどこか傷があったりするもので俺には当て嵌まらないと。

 うーむ、八神もそういう点で、あまり「まっとうじゃない」方向の仕事もせざるを得なかったりするのかな。

 正直心配である。




 話が終わって、二人静かにお茶とか飲んでなんとなく黙る。

 こういう雰囲気、俺たちには良くあった。別に話すことが無いときは話さずとも互いに平気で・・・

 やはり自然だ、一緒にいることが。


 しかしそれじゃあ今すぐに、どこぞに連れ込んで押し倒せるか、といえばもちろんそんなことはできない。

 それは彼女の意思を尊重してるからで、別に悪いことだとも思えんのだが。

 でも月村さんの言葉が思い返される。


 「それでもって、押せなかったのはどうして?」「何かが最初から足りなかったみたいに見えたよ?」


 八神とこうして会って話すと俺たちはやっぱり一番親しい人間同士。

 この距離から遠くなるってことは無いと思える。

 だが近づける気もしない。


 いや、俺が強引に近づこうって意識が無いのか? 欲望が無いのか?

 なぜ踏み込まない、もともと俺は無闇に踏み込まない性格で、でも・・・

 わからない。


 そのまま普通に、俺たち二人は明るく別れた。

 昔馴染みの仲の良い友達として・・・



 ダメだ、まだ、答えが出ていない。









△年△月○日




 クロノとエイミィさんが結婚する、そんなことは前々から知っていたわけであるが。

 するするといってなかなかしない、その理由がやっと分かった。



 リンディさんが、力、入りすぎだったのだ・・・



 息子の晴れの姿を出来る限り多くの人に見てもらいたい!

 たくさんの人に祝福して欲しい!

 それにクロノの場合は管理局内で、どこまでも上を目指して頑張ろうってのが本人の意思である以上。

 結婚式・披露宴は、仕事上の付き合いや人間関係を徹底的に考慮する必要がある!


 直属の上司、前の上司、今の部下、前の部下、協力した同僚、訓練校時代の学友。

 それもクロノの側と、エイミィさんの側と両方。学校は二人同じなのだがそれ以外では微妙に違ったり。

 これだけでも大変であるが、さらに、ハラオウン家としての付き合いが過去にあった人とか何とかも入ってきたり、いやはや。

 招待客全員のスケジュールまで調べて、出来る限り多くの人を・・・って本気で何百人分も調べたとか。

 そんなことしていたらいくら時間があっても足りないでしょう・・・

 普通は、招待状に出欠の有無を問う部分があって、そこで都合悪い人は仕方ないからってことになるもんであって。

 だが何が何でも一人でも多くの人に出て欲しいリンディさんの辞書に妥協という文字は無かった。

 招待客リストの作成、客のスケジュール把握、招待状作成、日付の調整、あれこれしてるうちに軽く半年以上もかかったとか。



 リンディさんの旦那さん、クライドさんはクロノが小さい頃に亡くなっている。

 どんなにかあの人はこの盛儀が見たかったことだろうと思うと涙が止まらない。

 だから、あの人の分も! 私が頑張らなくては! と。



 世慣れてて何時もマイペースなリンディさんには実に珍しい・・・・・・まるで姉ちゃんのような暴走っぷり。

 一人息子の結婚式ともなれば、ここまで興奮するものなのだろうか。

 いや、それにしても興奮し過ぎだろうと・・・





 喫茶店で男三人。クロノ、ユーノ、俺と。


 三人の意見はあっさり一致した。うん興奮し過ぎですね明らかにリンディさん。あの人でもあんな風になるとはねぇ。

 結婚式・披露宴の準備、暴走する母親、それへの対応で、クロノは疲れ切っている・・・・・・気の毒に。



「リンディさんの式じゃなくて、クロノの式なんだからさ、もうちょっときちんと言った方が良いんじゃないかな?」


 ユーノが理性的な意見を述べるも。


「・・・分かってる、重々分かってる。だが、母はずっと女手一つで僕を育てて来て、苦労をかけてきた、だからある程度は好きなように

やらせてやっても良いのでは、とも思うのだが・・・」


 クロノ、言いながらも表情が優れない。


「エイミィさんの方は、どんなもんなんだ? 姑が暴走して、嫁さんが置き去りにされて嫁姑関係にヒビが・・・とか、週刊誌ネタとか、

ワイドショー的な展開としてよくある話だよな。」


 俺も気になったことを質問してみた。


「・・・幸い、エイミィは笑ってるばかりでな・・・彼女は大抵のことには動じないとは思っていたが、あれほどとは・・・だが余りにも

母が暴走気味なので、すまない、やはりもっと小じんまりとした式をすることにしようかとエイミィに言ってみたのだが・・・」

「うん、そしたら?」

「『大丈夫だよ、お義母さんには悪気とか一切無いの分かってるから。それにこれも式が終わるまでだよ? 終わったらまたいつもの

お義母さんに戻るって』と、いつものように微笑みながら確信有り気に諭されてしまってな・・・」

「ほほぅ」

「だがそれでもエイミィが気を使ってるのでは無いかと心配になって、何度か同じこと聞いてみたが・・・またいつも通りの笑みで話を

流されてそれで終わり、それを繰り返した後、ふと気付いたんだがな。」

「なにを?」

「僕たち二人は、ずっとこうだったんだ。僕が真面目にムキになって、エイミィはそれをからかったり茶化したり、僕がムキになって

エイミィに突っ掛かっても、彼女は平然と笑いながら僕の懸念とか全部気軽に流してしまう。自分でも分かってる、僕は真面目になり

過ぎて余裕を失うことがある、そういう時にいつでもそばにエイミィがいてくれて、僕の肩に力が入りすぎてるときにリラックスさせて

くれていたんだ、彼女がいて初めて僕は本当の僕自身でいられるというか・・・・・・今回の件でも僕はあれこれ心配してムキになって

エイミィにしつこく問いただす、それを彼女はいつも通りに軽やかに流す、そうか、いつも通りか、じゃあそれで良いかと・・・・・・

きっと一生この調子で一緒にやってけると自然に確信してたから、結婚しようと思ったんだなと今さら気付いた・・・」

「・・・・・・」

「僕は彼女に甘えてるのかもしれない、甘えているんだろう、甘えさせてもらってるんだろう、悪いと思う、思うがしかしどうしょうも

無い、僕にはそういう彼女が必要なんだとはっきり分かったんだ、こういうふうに折々にそれを理解してしまって、やはり僕がプロポーズ

しようと決断したのは誤りでは無かったのだと・・・」


 クロノはいつの間にか一人語りに入ってしまった。

 傍観する他二名。


「なあユーノ。途中から単なるノロケ話になってるような気がするのは、俺の気のせいかな。」

「いやマシュー。間違いじゃないよ。自分には彼女が必要なんだって繰り返してるだけに聞こえるね」

「なんというか心配する必要とか無かったような気がしないか?」

「奇遇だねマシュー。僕も同感だよ。結局の所、多少なにかあっても、それでも一緒に頑張れる二人だから問題無いんだろうね。」


 クロノは、例えばあんなとき、例えばこんなとき、彼女に助けられて来た、彼女は何をするでもない、ただいてくれるだけでも良くて、

考えてみれば学校の頃から既に、はじめてあったときからきっと・・・とか。


 いい加減にしろと。


 クロノがノロケ話するなど、もう無いことかもしれんが。

 だがそもそもそういう話ではなかっただろう・・・


「おい、クロノ、今日はなんか用事があって呼び出したんじゃ無かったのか?」


 なんとか話を引き戻す。そう言われて来たのだそもそも。


 やっと目が覚めるクロノ、すまないと一言謝り。


「そうだったな、うん、それで結局、やっと、式の方の日時は決まったんだよ。」

「おお! 良かったじゃないか。」

「式の方、だけ? 披露宴は・・・」

「まず、身内や親しい人たちだけで集まって式をする、こっちの日時は人数少ないから合わせやすい。それでなんとか式だけは決まったん

だよ、式だけは・・・」

「来賓多数の披露宴のスケジュールはまだ難航中?」

「いや、そっちも目処が立ってきた。だがとにかく僕としては一刻も早くきちんと式をあげて、はっきりしたい。だから日時も僕主導で

決めて、こうして知り合い全員に言って回って、さすがの母でも後から無しにしてくれとは言えない状態にしてしまおうと・・・」

「なるほど・・・」

「それじゃあ僕達の方からリンディさんに、式の日時を了解しましたとか連絡した方が良いかな?」

「ああ・・・すまんがそうしてくれると助かる・・・」

「了解」



 クロノは疲れながらも幸せそうな顔で帰っていった。

 結婚式披露宴準備が大変でも。そこで多少問題が起こっても。

 それもこれも全部、大したことじゃ無い・・・か。



 その程度のことは、二人ならいつもの調子で乗り越えられる、そういう確信が互いにあって。

 だからもうこれまでもそうだったけど正式に、一緒に生きていこうと決める、結婚する、と。


 少し、考え込んだ。


 実はユーノも考えていたらしい。独り言みたいに呟いた。


「どうしても彼女が必要、か・・・・・・クロノも言うね。」

「まあな・・・しかしリンディさんに振り回され過ぎな観もあるが・・・」

「マザコン気味なのは事実だろうね。でもエイミィさんは当然それもコミで結婚するわけだし?」

「だよなぁ・・・つまりそんなことは二人にとって大した問題じゃ無いってわけだ。」

「マシューの場合、シスコンが障害になってるのかな? 聞いた話じゃ、そうとも思えたんだよね、正直言って。」

「・・・そうなのかなぁ・・・俺は一人で決めてるつもりでも、どっかに姉ちゃんの影響があんのかなぁ・・・」

「いや真剣に悩まないでよ。僕には肉親とかいないから分からないけどさ・・・」

「む・・・」

「でも実の母親とか、実の姉とかね、そういう疑う余地の無い完全無欠に身内って感じの人には? やっぱり特別な感情を抱いて、いつも

どこかで大事に思うなんてのは、当然の気持ちなんじゃないのかなって思うよ。」

「・・・あぁ」

「必要として自分から求める異性、配偶者ってのは、あくまで後から見つかる、見つけるものだけど・・・・・・身内ってのは最初から

ある前提みたいなものじゃないのかな。大切に思うって点では似ていても、別の気持ちなんだろうと思う。」

「・・・そういってくれると助かる」


 少し水を飲むユーノ。まだ話したいようだ。俺もなんとなく聞きたい気分。こいつは非常に分析的な優れた思考をしていて、話してると

意外な発見が多いのだ。


「さっきクロノが自分にはエイミィさんが必要なんだって言ったけどさ。」

「ああ」

「同じことはエイミィさんにも言えると思うんだよ。エイミィさんが人をからかうのが好きな明るい性格なのは元からで、彼女は基本的に

楽しく過ごせれば良いみたいな感覚があって? クロノみたいに真面目に、とことん真面目に成り切るってのは難しいんじゃないかな?

 自分には不足しがちな真面目成分を補給してくれるクロノって存在が必要なのは、彼と一緒にいて気持ちが安定するってのは、きっと

エイミィさんの方も同じなんじゃないかな? だから二人は二人とも互いを必要としてるんだ」

「多分、そうだろな」

「そう考えると僕達の道は困難だって自覚しちゃうよね」

「・・・・・・」

「特に僕はね・・・考古学が好きで本が好きで、将来は考古学者として一本立ちしたいなぁってのが僕の夢なんだけどさ、結局のところ

僕はなんというか考え込む学者タイプであって・・・そんな僕からみると、なのははいつでも眩しくて光り輝いていて、彼女の快活さと

か、まず行動に移すって行動力とかね・・・ただ一緒にいるだけでも僕のほうは気持ちも明るくなって、いつもよりも考えがまとまった

り勉強が進んだりとかもするし、もちろんそれ以前に近くにいるだけでただ嬉しい、楽しいんだけど・・・」

「いや、お前も単身ジュエルシード回収に飛び出したりとかさ、行動力はあるんでね?」

「あぁ~・・・確かにそういうこともしたけどさ、あれは自分でも分かってるけど・・・考え足らずな子供の暴走だったよね・・・

正式な渡航許可とかとってなかっただけじゃなくて、僕一人では結局二つも封印できず力尽きたり・・・本当に責任感のある行動だとは

言えない・・・いや僕は今になって反省するとそう思うし、だから今後はそういう無茶な行動とかしないと思うし、つまり僕はやはり

そういうタイプの人間なんだよ・・・芯から行動派のなのはとは違ってさ・・・」

「むぅ・・・」

「それで、最終的にはさ・・・問題は、彼女のほうだよね・・・僕にとって彼女が必要でも、彼女が僕を必要としてくれるのか・・・

そこがね、本当にそこが・・・どうしても自信が持てない・・・」

「んん・・・」

「マシューの方も似たようなもの? 仕事が大好きな彼女に、本当に必要とされてるか分からない感じなのかな」

「・・・うーん、どうだろな・・・」


 なんとなく、二人とも考え込みながら。

 そのあとも30分ばかりとりとめもない話をしたりした後。

 とりあえずユーノと別れて、宿舎に向かいながら考えた。



 前に月村さんは「熱烈な恋愛してない」云々と言ったが、しかしクロノとエイミィさんの例を見てみるに。

 あの二人も長年、友達付き合いしてきて、そのうち結婚したパターン、やはりそれもアリなんだよ普通に。

 ただあの二人の場合は、互いに互いが必要であるときちんと自覚して、だったら一緒になるしかないと同意したわけで。

 そのためには多少問題があるくらいどうってことない、重要なのは第一に、二人が一緒にいること。



 あぁ~~~・・・ここが痛い、痛い、実に痛いな。



 問題があるから距離を置こうといって同意してしまった俺と八神とは違い過ぎる。

 俺達の方の問題は深刻? とか考えるのは自惚れだろう。

 クロノとエイミィさんは長年の相棒で、二人の間には仕事上もそれ以外も様々な・・・別れの危機ってのがあったはずだと思う。

 でもそこをなんとかして二人は一緒に頑張り続けて来たんだろう。

 クロノが命の危険のある場所に飛び込んだこともあったろう、それをただ見ていなくてはならなかった時もあったろう。

 そういうのを見て一緒にいるのが疲れたとき、もう離れてしまって、不安とか心配とかしないですむ部署に移ろうかなとか。

 エイミィさんが思ってしまったこともあったろう。


 だけど二人は乗り越えた、と。


 乗り越えて、やっぱり一緒にいようと決めた、と。



 ・・・いや待て、だから、だ。

 一回や二回、別れの危機があっても、それを乗り越えてそれでもと。

 そこまで行かねば本物では無いと思うんだ。


 今は確かに離れてしまってるわけだが、そう、それでもやっぱりって・・・なれば間違いなく本物だろう。



「互いに、互いを、必要とする・・・・・・わけ、か」


 八神は5歳の頃から共に身を寄せ合うようにして生きてきて、ほとんど身内に近い感覚がある。

 そうだなつまりユーノの言い方を借りれば「後から探し出した伴侶ってわけではなく、最初からいた人、前提」みたいな感じで。

 でもそれだと姉ちゃんとかと、かぶる感覚ってわけか?

 それじゃあダメだよな。



 つまり「昔からいたから」「ずっとこれまでは一緒だったから」じゃなくて。

 今の、俺が、彼女を、必要とする、理由。

 ずっと一緒だったからこんなに顔も見ないで過ごすのは違和感がある。

 先日会ったがそれも数ヶ月ぶりとかだったしな、こういう状態ってのは・・・

 なにか日常の一部が欠落した感覚がある、それは事実だが。


 それとは別に。

 彼女が必要なわけ。

 あるよな。絶対ある、それには確信があるのだが。


 「近すぎて見えなかったものが多かった」って言ったのは八神だったが。

 なるほどその通り。

 でも大丈夫、絶対に見つかるって思える。




 ・・・・・・見つからなかったら?


 いや見つかるから大丈夫。



 ・・・・・・まずは体治そう、それからだ・・・・・・











(あとがき)

 前半部、クロノ・エイミィの結婚祝い選びに久しぶりに八神と会うも、二人の仲には進展なし。

 むしろこれは治療イベントの一環、治療イベントは一段階進みましたが、それだけ。

 ユーノの人物像については独自解釈あるかも。自覚してたか疑問な原作と異なり、明確に自覚してる本作ではこういう感じで。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十六話   迷走日記 6  クロノ・エイミィ結婚 2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/02/20 22:55
マシュー・バニングスの日常      第七十六話







△年X月X日





 クロノとエイミィさんの結婚式は、いわゆる「人前式」みたいな感じであった。

 まあミッドチルダは宗教色薄い文化だからね。ベルカの聖王「教会」とかもそういう名前でも実質、昔、ミッドと勢力を二分したベルカ

という魔法文明社会の残存勢力みたいなもんで、あれは本質的には政治的派閥の一種だろうと思う。


 それはともかく、結婚式だ。


 披露宴では無くね、それに先立って式の方。



 式の次第を言うと。



 まず朝早く、新郎新婦の身内や親しい友人たちが集まる。

 次に、みんなで役所に行って、二人が正式に婚姻届を出すのを見届ける。

 そこでおめでとー!って少し騒いだが場所が場所なので控えて、このために借りてたパーティ会場みたいな所に移る。


 リンディさんはこの日のために馴染みの高級レストランを借り切ったそうだ。



 まず乾杯、その後で。

 二人は、ここにいる全ての人を立会人として、皆に、これから何があっても二人で一緒に頑張っていくと誓った。

 さらに二人は互いに向き合い、お互いに対して、ここで改めてもう一度、そう誓い合う。

 ずっと一緒に頑張ろう、と・・・

 見つめあい、頷き合う二人。

 ウェディングドレスを纏った今日のエイミィさんはすごくきれいだったし。

 花婿の方も今では立派な一人前の大人の男だし。

 そんな二人がこれからも一緒に行こうと確認する光景・・・




 なんといいますか。


 うん、実に感動的でありました。

 エイミィさんも普段の調子じゃなくて、すごい真剣に誓い。

 クロノももちろん真剣で。



 ああ、この二人ならうまくやっていけるんだろうなあと、納得しました。



 そんな二人を見て女性陣は涙を浮かべる人、多数。

 エイミィさんも涙ぐんでるな・・・そういう姿をはじめてみた、いつも笑ってる印象が強い人だから。

 クロノの方は・・・あんなに優しい笑顔を浮かべることが出来るやつだって初めて知った。

 なるほどエイミィさんにはそういう笑顔を向けるわけね・・・



 列席してる人々、高町とか八神とかフェイトさんとかもハンカチが乾く暇も無いくらい涙を拭っている。

 しかしそういった人々とは比較にならない位・・・思い切り号泣してるリンディさん・・・

 もう尋常じゃ無い泣きっぷりです、感動もあり淋しさもあり何より嬉しいけど嬉し過ぎて感情が爆発して・・・

 こういうときは旦那さんが・・・・・・いないというのも大きいんだろな、どうしたものか。

 悩んでるうちに、新郎新婦が近づいてきて、リンディさんの肩に、それぞれが腕をかけて抱き寄せて。

 リンディさんは二人に抱きしめられて、まだしばらく・・・十数分は涙を流し続けていたと思う。


 その後で何とか立ち直ったリンディさん、それからは何とか普通に振舞ってはいたが。

 だが、ふとしたはずみにまた感動が盛り返してくるようで、すぐに涙ぐみ、目は常に新郎新婦を追い。

 ここまでリンディさんが感情的になるところなど・・・恐らくここにいる人間全員、見たこと無かったのではないかと思う。

 本当に、本当に・・・嬉しかったんだろうな。


 本日はおめでとうございます、クロノ、エイミィさん、リンディさん・・・





 さてこの結婚式は、親しい人だけ集めてしてるので。

 出席者の顔は、ほとんど知ったメンツ。

 あ、あの人知らない・・・けどエイミィさんに良く似ている、間違いなく血縁者だな。

 後はほとんど知った顔。

 ゆえに非常にリラックスした楽しい雰囲気、皆、心から二人の幸せを祝福してる。


 それは当然、俺もだが、しかし本音を言うと。


 うらやましい!


 ああ、うらやましい、うらやましい・・・・・・




 幸せそうで・・・いいなあ・・・



 あんなふうに・・・なりたいもんだ・・・



 そう、心底、思わされる二人だった。





 式は式として。


 披露宴の方の日程も決まったようだ、やはり式との間にあまり時間が空くのは良くないということで、ほんの数日後。


 しかし・・・


 披露宴は社会的な顔見せって意味もある一種のセレモニーだからなぁ。


 この式の後で、普通の披露宴やられても、こっち見ちゃうと披露宴のほうでは感動できそうも無いかも。


 ちなみに俺も含めて全員、披露宴にも出る予定である。


 友人としての祝福の挨拶とかもね・・・披露宴の方でやる予定になってしまっていて、それ考えると少し憂鬱。


 各方面からお偉いさんがたくさん来るからなあ披露宴・・・その人たちの前でスピーチ・・・ううむ・・・



「なに暗い顔してるの? せっかくのお祝いの席なのに」


 俺の横、微妙に視野に入るかどうかくらいの位置から声をかけられる。

 俺は、新婚夫婦の幸せそうな顔を、少し遠くから眺めながらぼんやりと答える。

 今、二人は学生時代の友人たちに囲まれておめでとーおめでとーと大合唱で祝われてて。

 少し喧騒が。だから話しかけてきた声とかあまり注意を払わず、誰かも確認せず。


「あぁ、披露宴でのスピーチさ、やっぱり気の利いたことか言おうとせずに無難にまとめたほうが良いのかな、とかさ・・・」

「うん、その方が良いんじゃない? たまに、ひねりすぎてわけわからない話とかする人いるしね」

「だよなぁ、あのスピーチは不味かったと後悔するようなのはしたくないし、だからって余りにも形式通りでもと・・・」

「真情がこもっていれば大丈夫だよ? マシュー君は二人を祝福する気持ちはあるんでしょう?」

「それは当然。ただ本音言うと、羨ましいぞこの野郎!って言いたくなる気持ちも多々・・・」

「ふふっ、そうなんだ。友人としての挨拶だし、そういうことも少し言っても許されると思うよ?」

「うーん、そうだなあ・・・」

「7割くらいは型通り、3割だけアレンジ、そのくらいを心がけてるかな、私がスピーチするときは」

「私がって・・・そんな披露宴とかでスピーチする機会、お前は・・・あ」



 言い訳しよう。

 俺に対して「マシュー君」と呼びかける人間は意外と少ない。

 八神の「マーくん」を除けば、あとは基本「マシュー」とだけ呼ぶ人が多い。

 そして、今この結婚式の会場は当然、ミッドである。

 ミッドで俺を「マシュー君」と呼ぶ人間となると事実上一人だけ。


 つまり高町である。



 声で分かれと? ごもっとも。

 しかし少し周囲が騒がしかったのに加えて。

 お祝いの杯を飲み干して、ちょっと酔ってたんだよ。

 基本的に飲まないからね、俺。

 実は飲めないわけでも無いようなのだが、別に飲もうとも思わず、飲みなれてなければ酔いの影響受けやすかったり。



 しかしつまり俺は、高町と、月村さんとを、途中まで誤認して話していた!


 うーん我ながら注意力散漫である。


 クロノの妹の友人ということで月村さんも来ていたのだ。もちろん姉ちゃんも来てる。

 式に来てる人は、だいたいこのくらいの範囲までって感じ。

 ぶっちゃけ月村さんは一番遠い範疇くらいだろな。




「・・・なんか月村さんにはマヌケなところばかり見られるような気がするなあ・・・」

「ふーん、なのはちゃんには、平気で『お前』とか呼べるんだ」


 俺の言葉に微笑みながらも微妙に鋭い指摘が。


「いや八神にも言うぜ?」

「私だと『月村さん』だね、いつも」

「そういやそうだね、月村さん相手だとそれが自然だなあ」

「無理に変える必要も無いけどね。」


 穏やかな自然な笑顔。


 少し酔った目で彼女を見ると、いかんやっぱり可愛い。


 スタイルはフェイトさん以上かもってレベル、顔立ちは優しい控えめな美人系、少しクールな感じもあるけどそれも姉の忍さんほどでも

なく、彼女の場合はむしろ穏やかさや淑やかさが勝っていて、ぶっちゃけ小さい頃に月村さんが一番可愛い女の子だと思ったのも本音で、

身近に姉ちゃんみたいな派手な美人がいれば、ステーキは美味いにしてもそればっかり食ってるとあっさりしたものも食いたくなるみたい

な論理もあって、いわゆる癒し系のホッとできる雰囲気を持ってる人なのであり、そういう穏やかさが俺の女性の好みにストライクなよう

な感じもして、しかも家柄釣り合ってて縁談が既に起こってるし、彼女と一緒になるのは社会的には自然、どの角度から見ても、問題が

無かったりして・・・



 祝いの席で浮かれた気分、少量だがアルコール摂取。

 なんか箍が外れたような感じで。

 俺はそのまま結婚式の間中・・・ずっと月村さんと一緒に、話し込んでしまった。



 いや、向こうで怖い目で俺を睨んでる姉ちゃんとかね・・・

 近づこうとすること自体に努力が必要で、どうにも向こうが避けようとしてる八神とかね・・・

 そういう面々と話すよりは明らかに楽しかったのだ。


 せっかくの祝いの席なんだから俺も楽しんでも問題ないよな、うん。


 月村さんとはあくまで家関係の付き合いでって程度の話で、あくまで友達だし。

 そのことは月村さん自身が認めているので。

 こうして友達として話すことにストレスを感じないのが大きい・・・

 そういうニュートラルな雰囲気を持ってるんだよなあ、月村さん。

 祝いの席だから空気を読んで、前の話を変に蒸し返したりもしない、そんなことあったっけ?って顔してくれてるのも良い。



 新郎新婦が海鳴組の方に来たときは、八神と一緒に結婚祝い選んだし、二人で手渡したのだが・・・

 その後はまた迅速に離れる八神。

 普通に側にいる月村さん。


 八神はどう見ても意図的に離れてて。

 それを追いたい気持ちはあるのだが。

 少し酔ってて精神的な・・・忍耐力とか減ってて。


 避けられてるのにそれでも敢えて追うという・・・気になれず。


 それに八神のいる方向には海鳴組が多く、俺が近づくと固まる高町とか、俺を睨んでる姉ちゃんとかいるし・・・

 あのコーナーに行って気疲れしながら話しかけるというのはちょっとね・・・

 俺を引き止めるでもなく自然に横にいるだけでリラックスした雰囲気で話せる月村さんと比べると・・・


 で、結局、ずっと月村さんと一緒のままで結婚式は終わった。



 だが、しかし、とにかく良い結婚式だった。ああいうふうになりたいと素直に思えたな・・・







△年X月XX日



 なんでも。

 結婚というのはシャレにならないくらい大変な・・・事務手続きであり、作業であるそうだ。

 結婚式と披露宴、その準備をするだけでクタクタに疲れ果てるのが普通だとか。

 そこまで大変だから、あれほど労力を払ったのを無駄にしたくないと思い知り、離婚を防止する効果があるとかないとか。

 クロノとエイミィさんの場合も大変さでは人後に落ちず。いや普通より大変だったのだろうと思う。


 なにせ、披露宴・・・

 クラナガン中央にある巨大なホテルの貸切状態だったし・・・

 一般人が披露宴開くような場所じゃねえええ!

 管理局員とは言え、まだ一介の艦隊士官であり、艦長とかにもなってない段階のクロノにはちょっと大きすぎる!

 あれだよ、政界とか財界とか芸能界とかそういう世界の大物が使うような場所をさあ・・・


 リンディさん頑張りすぎである。

 結婚式の方はクロノ仕切りで、披露宴の方はリンディさんが好きなように演出してるのか、やっぱり。

 各方面に顔が利くリンディさんがその全力を挙げてこの披露宴を仕切ったんだろな、だからシャレならん規模。


 その披露宴でのスピーチ、大変でした・・・

 将官クラス当たり前にゴロゴロいるし、政界財界からも多数の来賓。

 なんといいますかミッドチルダの「エライ人」を全員とは言わんがかなり多数集めたのでは無いかという勢いで・・・

 次のスピーチは新郎の友人でって俺の名前が紹介されると「ほう、あれが」って注目されるし。

 いやはやこういうのきついなあ。

 昔から世話になってるクロノのためで無ければ到底やる気になれんぜ。

 仕事の付き合いでこういう場でのスピーチとかよくやる姉ちゃんや月村さんを尊敬。

 なんとか無難にスピーチをこなす、ちょっとふざけてみる勇気も起きないw


 その後もそうそうたる御来賓の方々からのスピーチが。

 その他にも祝電だとかお祝いの映像メールだとかお色直しとか再登場とかその度に趣向の変わる演出とか。

 新郎新婦がテーブルごとにまわるターンがあるかと思えば、首座に着いてる二人に入れ替わり立ち代り近づいてお祝いを言いに行く人

たちのターンもあり、しばしのご歓談をって休み時間みたいのは挟まれるにしても、二人の辿ってきた道の紹介とか、それぞれの親御さん

へのお礼のシーンとか、披露宴でやれることは全部やろうって勢いでは無いかと・・・・・・イベント多すぎw



 まあとにかく「盛大な儀式」でありました。

 これほどの規模の披露宴とか普通無い、さすがハラオウン家は健在だって。

 そういう会話がそこかしこでされてたし。

 リンディさんの企画は成功だったのだろう。


 しかし披露宴終了後、親しい顔ぶれで集まって新郎新婦の控え室に行ってみると・・・

 精も根も尽き果てた・・・消耗し切って真っ白になった二人がいました。

 半日近く笑顔を浮かべて愛想良くスピーチに礼をし続けお色直しも複数、ずっと緊張しながら座ってて、さらにそれ以前に半年以上の

準備もあってあれやこれやでもう限界って感じ。

 今夜は初夜・・・とかもうそういう雰囲気では無い、くたびれはててすぐに寝そう。

 おめでとーって小声で言いながらとにかく早めに皆で退散しました。


 一人元気なのはリンディさん、やりきった表情ですごい充実してましたw



 披露宴は午後遅い時間に始まり、豪華な夕餐が饗されつつもさらに十時くらいまで続いた。

 終わって、もう時間は深夜だから、さてどうするかと。

 姉ちゃんとか月村さんについては俺たちと違って固定の宿舎とか住居とかミッドには無いので。

 そういう来賓の面々のためにリンディさんはホテルの部屋も取れるように手配してた。


 しかしこういう全員集合は実に珍しいので。

 せっかくだから皆で一緒に八神家に泊まろうという話になったのだが・・・


 むむう・・・俺とユーノ、男二人は帰る宿舎があるだろと追い出されました。

 すまんユーノ、多分、俺の巻き添えだ。

 八神関係で俺はダメだから、ここは男はダメってことにして、仕方なく二人ともって感じだろうか。


 いやいやもう俺たち、それなりの年だし、昔みたいに男女が一つ屋根の下で寝るとか普通は無しが当たり前か、うん、そうだな。

 まあとにかくそういうわけで俺たち二人は寂しくそれぞれ孤独に帰って寝ました・・・





☆     ☆     ☆




 八神家にて、パジャマに着替えて一室に集まった5人、はやて、なのは、フェイト、アリサ、すずか。

 5人分布団が敷けるほどの広さの部屋は無かったのだがそこは強引に敷いてくっつきあいながら。

 このまま夜通しでもお喋りし続ける気満満である。


「こうやってみんなでお泊まり会とかって、久しぶりだね!」


 なのはははしゃいでいる。

 中学卒業して既に一年以上が経過、みんなバラバラになってしまい、特に地球の親友である、すずかとアリサについては、たまに電話で

話すことはあるけれどこうして会うという機会も少なくなってしまった。だから純粋に嬉しい。


 そしてやはり話も弾む、中学時代の雰囲気が蘇りとっても楽しい!

 普段の憂さも忘れて大いにはしゃぐなのは。

 しかしそのうちどうしても・・・

 結婚式と披露宴の話になるのは自然の流れ。


 はじめのうちは、良い式だったねー披露宴もすごかったねー二人とも幸せそうだったねーとその程度だった。

 良い式だった本当にと互いに同意しあうのはフェイトとすずか。

 なのはもそこは同意。

 しかしどうもこの話になると、はやてはニコニコと笑顔になって何も言わなくなるみたいな状態になり。

 アリサはどこか微妙な・・・言いたいことがあるけど言えないみたいな表情に。


 はやてが「結婚」の話題となると微妙に逃げ腰になり何も言わなくなるのは、なのはにも何となく理解できたのだが。

 アリサの方が良く分からない。なんで複雑な表情になるのだろうか。

 なのはは疑問に思った・・・・・・








(あとがき)

 展開、結構迷ったが。次、すずかのターン再びいきます。

 これまで登場少なかった分、取り返そうとしている感じか。

 ゲーム開始して序盤はすずかが強い!って雰囲気の話ということで。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十七話   迷走日記 7  クロノ・エイミィ結婚 3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/03/08 19:41
マシュー・バニングスの日常      第七十七話









 さてこの5人は、若い娘であるくせに、箸が転げても笑い出すような年頃であるくせに。

 「自分たちの」恋愛とか結婚とかそういう話には基本的に、話題が向かうということが無い。

 お互いの近況の報告とか、つまり仕事の話とか経験談とかアドバイスとか。

 そういう話を互いにするだけで十分、話が続くのだ。



 なのはは実技を教える立場だから現場の人間の気持ちが良く分かるとか。

 フェイトも執務官として、組織の中級~下級幹部の感覚を知っているし。

 はやては官僚的立場なので、その手の人間の行動パターンとか詳しいし。

 アリサは既に社長業の一部を代行したりしており組織トップの人間の感覚があり。

 すずかはアリサほど責任が重い立場ではないが似ており、また彼女には工学的技術の視点があるなど。



 場所がミッドであろうと地球であろうと人間であることは変わらず、人間の作る組織には変わらない。

 それぞれの形で組織に所属する人間として・・・

 互いに互いの仕事上の話とかするだけで、自然に互いのためになり役に立つのだ。
 


 なのはが上の人間の指示で納得できない点などをあげると、アリサが上からみた場合の価値判断について指摘し、はやてが両者の調整

がどのようになされているか説明したり。逆にアリサがなかなか動いてくれない部下のグチを言うと、部下のモチベーションを上げるには

どういう指示をするべきかという話をフェイト、なのはが下の立場から希望を言ってみたり。


 実に色気の無い話だが、まあ彼女たちにはそれが楽しいのだ。



 しかし今夜は違った。


 今夜ばかりは違った。



 クロノとエイミィの結婚、披露宴の終わった夜となるといつもと違ってしまうのも無理はないことだったのか。



 だが、なのははもちろんそういう方向には話がいってほしくない。

 はやてもその手の話題は避けたい。

 アリサもなぜか避けたいようだ。

 フェイトは基本的に周囲に流される。


 こういう状況なら、自分たちの結婚だとか恋愛だとかの突っ込んだ話はやはり避けて通るだろうと。

 それがいつものパターンだったのだが。

 今夜ばかりはそうは行かなかった原因・・・



 きっかけは多分、なのはが軽い気持ちで言った一言。



「中学の頃みたいに楽しいね!」



 とても無邪気な一言、単なる本音、ごちゃごちゃ考えることが増えた卒業後と違って無邪気でいられたあの頃の雰囲気、それがとても

楽しい、他の雑談の流れが途切れたときに何の気なしに気軽にそう言ったとき。



 にこりと、すずかが笑顔になった。

 とてもにこやかで普段以上に上機嫌な感じ。

 しかし・・・すずかの中の何かが切れた音を・・・皆は幻聴したような気がした。


「そうだね、本当に『昔みたいに』・・・」


 言いながら話題を唐突に引き戻すすずか。


「でも今日の披露宴は本当にすごい規模だったと思わない? ねえアリサちゃん」


 いきなりアリサの方に方向転換、笑顔のすずかに対し話しかけられたアリサは表情が苦々しい感じに・・・

 にこやかに微笑みながら、すずかは爆弾を落とす。


「マシュー君が、私と、結婚した場合の披露宴も似たような規模になるかな? どう思う? アリサちゃん」


 沈黙が降りる。

 しばらく各自、すずかの発言内容を吟味。

 正直なにをいってるか分からない人が多数。

 なのはとフェイトは少なくとも完全に理解不能状態。

 はやては頭脳を回転させ、もしかして・・・という可能性に思い当たり表情を固まらせ。

 アリサは苦々しい顔。

 そのアリサの苦々しい顔をみて、他の面々は推測を確信に近いレベルにまで・・・


「だから! あんたたちは別に正式に婚約してるわけじゃないってば!」


 アリサはこういうとき我慢できない、我慢などしない、積極的に撃って出る。


 大体この話はそもそもアリサの頭越しに父が勝手に打診した話である上に、予想と違ってすずかはアリサの影響下で穏やかにマシューと

仲良くするって雰囲気を何故か全く見せず、むしろアリサをスルーして直接にマシューと連絡を取り合ったりもしてるようだし、このまま

話が進められたらすずかは完全に合法的にアリサを無力化して弟を持っていってしまいそうな感じがして、アリサ内での警戒度は実は今は

すずかがトップの状態、クリスマスの時も今回の結婚式に披露宴でもすずかは自然に弟に寄り添って弟を巧みに自家薬籠中にしようとして

いるみたいに見えたしそれが気に入らなくて睨んでみてもマシューには余計面倒がられて距離置かれるし、すずかは絶対に気付いてない

筈は無いのにどこ吹く風といった風情だし。

 怒ってみてもすずか相手では効果が無いと分かってる、でも言わずにはいられない、しかし言ってみてもやはり・・・


「そう、正式じゃない。でも内々には話が通ってるんだよね、親御さんにも。」


 すずかは冷静に、そう返す。



 すずかが一座を見回すと。

 ほえ~っと感心してるんだかなんだかよくわかってない雰囲気のフェイトを除くと。

 残り3人は微妙な顔してる。





 すずかは、アリサにも言われたが、別にマシューのことが男女として真剣に好きとかそういうことはない。

 姉の忍が、恭也義兄さんに恋焦がれたような状態には全くなっていないと自分でも分かっている。

 その点、ここにいる面々で一番、あの頃の姉に心境が近いのは、やはりまずはやて、そしてなのはだろうか。


 自分はそうなっていない、だからそんなこと言い出す権利は無いのかも知れない。

 それは分かってる、重々分かっているが。

 そろそろ・・・・・・いい加減、はっきりしてほしいのだ。





 なぜそう思うようになったのか、一言ではいえないが・・・





 まず、月村すずかは「夜の一族」とよばれる特殊な種族の末裔であるということがある。



 彼女はこのことを誰にも・・・そう、親友たちにさえ明かしていない。

 それは一族にとっての禁忌。

 夜の一族は、筋力持久力など人より強い、寿命が人より少し長いとか特徴はあるけれど・・・

 まず絶対的に人類より少数派である。

 さらに種族の特徴として、吸血衝動というものがある。

 これは別に人の血を吸わねば生きていけないというほどのものではない。そこまで不安定では種族の存続も危ういだろう。

 実際には、ごくたまに、少しだけ、血を吸わせてもらえればそれで済むという程度なのだが・・・


 昔、自分たちは優れた種族であるとプライドを肥大させて、暴走して、人類に大きな被害を与えて・・・

 通常人類から「吸血鬼=悪」というレッテルを貼られるに至らしめた迷惑なご先祖様などが・・・いたのだ。


 それは中世の話だったけど、でもそのときに貼られた「吸血鬼=悪」のレッテルは未だに無くなっていない。

 昔、その悪名高い吸血鬼が暴れた頃に作られた人類側の「吸血鬼狩り」を専門に行う組織というのも未だに現存する。

 夜の一族であるというだけで殺される危険は現代でもあるのだ。

 確かに一対一なら夜の一族が人間より強いに決まっている、決まっているが。

 数の差は、百対一どころの話ではなく一族全員集まっても人数は数千程度? 何十億もいる通常人類に最終的には勝てるわけ無いのだ。

 そもそも夜の一族は系統的に明らかに通常人類からの亜種的な変異に過ぎず・・・通常人類に寄生するような形以外では生きることが

できないのが現実、個体として強いというのは確かであるにしても例えば普通の人でも高町恭也のように鍛えぬいた戦闘技術者が相手だと

戦って負けたりもするし、自分たちが優れた種族であるなどと誤解することは・・・すずかには性格的にも全く出来なかった。



 一族は秘密の厳守を絶対とする。

 再び一族全体が、吸血鬼狩りの嵐に曝されてはたまらない、だから禁忌を破る身内は、身内で粛清する。

 実は近年にも、伯父にあたる人が暴走し、多数の通常人類を無作為無差別に一族の特殊な力により束縛、支配して、奴隷扱いするなど

好き勝手しようとしたことがあった。

 この粛清を命じられ、実際にしてのけたのは月村家の後見人もしてくれている伯母。その伯父の実妹である。

 伯父とそれに与する一党は容赦なく・・・粛清された。


 とても厳しい禁忌、だがそこには唯一、例外がある。




 それは「伴侶」を得ること。




 身内として互いに生きることを同意してくれる、特別な人を得れば、その人には話しても良いことになるのだ。

 姉の忍が、高町恭也に出会って、秘密を共有してくれる外部の人間というのをはじめて得たように・・・

 この伴侶とは、別に同じ一族に限らず、普通の人でもよいことになっている。


 夜の一族が単なる人類の亜種であるというのはこの辺の事実からも明らか、つまり普通に生殖可能なのだ。

 生まれてくる子供も必ずしも一族の血を濃く引くとは限らない。そうして数が増やせるならもっと増えてたはずだがそうは行かない。

 何人も子供を作ってもせいぜい一族の血を引いて生まれる子は一人か二人、つまり数的に言うと、親の世代が死んだときに種族の数を

現状維持する程度にしか、血の継承者は生まれず、あとは普通の人。どうも劣勢遺伝ぽく、隔世遺伝も無いことが知られている。

 一族の男女同士で子供を作っても同じことで結局、人口的には現状維持が可能な程度しか子供を作ることが出来ない。月村姉妹の両親

は両方とも一族で、生まれた子供は二人とも血を継承していたが、これはかなり珍しいケースで、そしてそういうケースの時にはまるで

自然の摂理によりそう定められているかのように、両親共に一族の寿命から考えれば信じられないほど短命で早世してしまってる。

 やはり維持する程度にしか生まれないというのは間違いない・・・



 だから、結局、一族である無しは大きな問題では無い。

 信頼できる人であるかどうか、その人間性のほうが問題になる。

 至近でもっとも大きな問題を起こした伯父などは純血主義のレイシストだったそうだ・・・




 姉も、恋人を得るまでは、いつも誰に対しても一線を引いた接し方をして、決して真に親しい友人などは作らなかった。

 姉が本当に親しい人というのを得たのは高町恭也がはじめてで、そして彼と出会って姉は劇的に変わった。

 本当は人懐っこい、甘えたい、人に近づきたいという衝動を開放しても良い相手に自分を全てさらけ出して・・・

 姉はとても明るくなった、いつも楽しそうに、実に幸せそうに・・・

 そういう人を得るというのは、一族の人間にとってこれほど大きいのかと妹の目から見ても驚いた。



 自分はある意味、姉の忍よりはめぐまれている、すでに親しい友人というのはこんなにたくさんいるからだ。

 しかしそれでも自分も、決定的な一線を、実は親友たちとの間にすら引いている。

 それがつらい、やはり寂しい、だけどすずかは禁忌の意味も理解できるので衝動的に破ろうとか思わない。





 でも、やはり・・・姉にとっての恭也のように、なにもかも話しても良い人というのが欲しい。



 そういう思いは年とともに強くなるばかり。





 そこに降って湧いたマシューとの縁談。

 実に好都合。

 結婚さえしてしまえば、あとは何とかなるだろう、彼のことは昔から良く知っている。




 そういうふうに大丈夫だろうと思えるほどの人というのはそう簡単に好都合に見つかるものでは無いのだ!

 姉の忍が高校生になってやっとたった一人だけ見つけることが出来たように!

 自分は彼を友達としてはともかく男女として好きかといえば微妙だ、それは分かってるが。

 しかし一線を越え、距離を縮めてしまえば、自然に好きになれるし良い夫婦にもなれるだろうという自信もある!

 本当の本音は、「話してしまいたい」「禁忌の例外としての伴侶となってくれる人が欲しい」というところだろう。

 そんなことは自分でも分かっているが。



 しかし、すずかも若いのだ。


 彼女にとってはそういう自分自身の全てを打ち明けたい、打ち明ける人が欲しいという衝動は、何よりも強かった。

 それ以外のことは若干、見えなくなるくらいに・・・

 友達が持っている内心の葛藤を分かっていながらも・・・無視してしまいたくなるくらいに・・・



 そんなすずかの目から友人一同を見るに。

 はやてはどんな事情があるのか知らないが一度、手を離してしまっている。彼女は強固な理性をもつ人だから、一度離してしまった

以上、誰かに持っていかれても仕方ないと自分を納得させることも出来るタイプ、問題無い。

 なのはは自覚していない、精神的に未熟だしとにかくその手の話からは逃げたがっているので論外。

 アリサのブラコンは昔からそうだったが近頃は既に病気だ。弟を取り上げられて無理やり距離を置かれた方が良いのではないか?

 フェイトは大丈夫、なのは以下の状態だし。




 自分の動機は不純かも知れないというか別件かも知れないというか本音とは別かも知れないが。

 でも彼をこの際、一気に正式に自分のものにしてしまいたいという気持ちは本物だ。そういう人が欲しいのだ。

 だから、これまでのような、仲良しの友達であることにとどまってる状態は、もうおしまいにしたい。



 女同士の友情より男を取るようなものなのだろうか。

 でもそれって悪いのかな?

 男ではなく仕事をとった、はやてが別に悪いとも思わない。逆もまたアリだろう。



 いつまでも子供の頃のように無邪気に遊んでる感覚では済まないのだ。

 特にすずかの場合・・・肉体的な衝動というのが、夜の一族であるという特殊な事情により人より多少・・・強い。

 だから出来る限り早く! はっきりさせたい!



 ダメならダメで、そうとはっきりすれば、それでよいのも本音だ。

 友情を台無しにしようとも思わない。はやてもなのはも得難い友人なのだから。

 もしも、彼が、誰かのものになるとはっきりしてくれれば。

 自分には希望は無いとはっきりしてくれれば!

 そうなれば別の候補を探すしかないと諦めもつくが。


 今の中途半端な状態はどうも我慢ならない。


 はやてがもっとはっきりきっぱり彼と切れてくれれば・・・

 自分にはすぐにでも姉の忍のように「特別な人」が手に入るかも知れないのに。

 そうなる希望があるのかないのか曖昧なままで流されているのはたまらない。


 だから踏み込む。

 まずは最強の仮想敵に。


「ねえ、はやてちゃん?」

「・・・なに?」


 はやてはまだ冷静さを保ちながらも返事の声は微妙に暗い。


「今も言ったけど、まだ正式な話じゃないんだよ? ただ家同士で、内々にそういう縁談が打診されたっていうだけ。でもこのままだと、

そうだね、マシュー君が二十歳くらいになれば、自然に結婚することになるかも知れないんだけどさ。」

「・・・・・・・・・そう」



 はやては俯いて表情を隠し、声を詰まらせながらもなんとか相槌を打つ。



「一応確認しておきたいんだけど、それでいい?」



 すずかは相変わらず、とてもにこやかに微笑んでいた・・・












(あとがき)

 夜の一族については独自設定満載です。この話ではこういう感じということで。

 迷惑な伯父さんというのは、とらハ1のあの人を想定してます。

 この話、「すずか」って題名にするべきだったかな・・・と思ったり思わなかったり。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十八話   迷走日記 8  クロノ・エイミィ結婚 4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/03/14 22:15
マシュー・バニングスの日常       第七十八話











 にこやかに微笑みつつ、はやてをじっと見つめるすずか。

 下を向いて、髪で表情が隠れて、何か言おうと唇を震わせながらも、何もいえないはやて。


 そんなはやてを見るに見かねて・・・


「ちょ、ちょっとすずかちゃん」


 なのはが咄嗟にはやてを庇う。

 すずかは黙り込むはやてを一旦無視。

 なのはに向き直る。




 今日の目的は、まず「確認」。

 いずれにせよすぐに決着のつく話だとは考えていない。

 確認し、自覚させ・・・・・・そして宣戦布告ということになるだろうか。


 だから、なのはにも容赦しない。





 大体昔から・・・

 アリサ・すずか・なのはの三人は長年の親友であるが、その中には役割分担みたいのがあった。

 アリサが積極的に動くし発言もする、なのはも意外と独自のベクトルを持ち強い意思を発揮し時としてアリサすら圧倒する。

 すずかは、そんな二人をフォローする役回り。

 別にそれがイヤだったわけではない、自分の性格に合ってるし。


 だからずっと見守ってきた。親友たちの軌跡を。

 どんなときでも一線を引いて、少し後ろから皆を見守ってフォローしてきた。

 ずっとずっと見守って、我慢をし続けてきたのだ。




 ・・・・・・そういう人が爆発すると怖い。




 はやてたちがお互い好きであるくせに別れたとか言い出したのにも腹が立った。


 何もかも打ち明けられる、伴侶になり得る人という存在が・・・どれほどかけがえの無いものか分かっていないのだろうか?

 理由がある、事情がある、それが優先、だから別れた、手を離した。理解できない。

 結構、はやてにとってはそれはつまりは重要性が低い問題だったということなのだろう。

 自分にとっては、そういう人を得たいというのは全てに優先する最大の欲求であるのに、夢であるのに。

 はやては、意図せずに、すずかのそういう夢を・・・否定するような行動をとってしまったのだ。

 もちろんそれに腹を立てるのは理不尽だと分かっている、分かっているから我慢した。

 別れたと聞いただけの段階では、まだ何も行動を起こさなかった。



 だがさらに、なのはだ。


 なのはは無茶をやって大怪我してそれを治療してもらったその日から。

 確実に、彼のことを一番意識している。

 意識しているのに意識していることすら否定し、とにかく何でも無いんだと思い込もうとしている。

 彼女の場合は、彼女のことを好きなユーノという存在もいるが。

 だが結局のところ彼女が大怪我したのも聖祥の高等部にエスカレーターで進まなかったのも。

 そうしてせっかくの楽しい高校生活、これまで通りにまだ少なくとも三年間は楽しめたはずだったのが無くなって。

 すでに社交や仕事などに駆り出されながらドイツで大学に通うはめになったのも。

 そう、全ては・・・魔法に夢中になってる彼女のせいであるのだ。

 「昔みたいに」無邪気に楽しく過ごすことを否定して無くしてしまったのは誰のせいなのか!

 我ながら実に理不尽な感情である。

 しかしそうして、なのはが魔法に夢中なのに一切雑念が無いなら、まあ良い。



 でも、そうだけど、そうじゃない!



 大怪我したことからも分かるように、なのはは魔法と仕事に依存して、そこに逃げる傾向が確かにある!

 魔法が好きで好きでたまらないのは本当、出会った日から魔法に夢中なのも本当。

 でも最初から・・・果たしてそれだけの純粋な思いだっただろうか?

 家族との間にあった微妙な隙間からの逃避という側面は皆無であったか?

 それまでの日常には無かった、自分が必要とされ重要視される立場での生活が快かったのではないか?

 別にそれが悪いとは思わない、思わないが。



 だからって全部素直に一切批判もせずに受容するというのも違わないだろうか。


 こうして友人関係にヒビが入るかもしれない発言をしてる自分が言うのもなんだけど。


 でも友人なのだから、親友であるというのが本当ならば。


 一度きちんと思い切って、言いたいことを言うべきでは無いかとずっと思ってた。


 思ってたけど! 我慢してきた。ずっと黙ってフォローしてきた!




 しかしこの期に及んでも、なのはは自分の気持ちに向き合わずに仕事に逃げてるし!

 はやては貴重な宝石を路傍に投げ捨てるような真似をするし!

 そして自分にはずっと欲しいと思っていた「特別な人」が手に入るかもって希望が出るし!

 クロノたちの結婚式披露宴が終わった夜なのに、いまだに中学時代の雰囲気でただ「昔みたいに」楽しく話せればそれで・・・みたいな

会話の流れに持っていこう持っていこうと皆、逃げてるし!



 だから、すずかは、長年の我慢をやめた。やめてしまった。



 すずかは、なのはに向き直り、とてもにこやかな笑顔を作り。


「なのはちゃん?」

「・・・な、なに?」


 すずかの笑顔が醸し出す、いつにない迫力に押されてどもるなのは。

 そんな反応を気にせず、すずかは続ける。


「なのはちゃんは、好きな人とか、いないよね?」


 確認する。


「う、うん」


 とりあえず相槌をうつなのは。


「なのはちゃんは、マシューくんのことなんて、好きじゃないよね?」

「うん当然だよ」


 そこは滑らかに答えた、そう、そういう発言を引き出しておきたかったのだ。


「だから、私とマシューくんが家同士の関係で婚約したり結婚したりしても、なのはちゃん的には問題無いよね?」


 さらに念を押す。

 動揺するなのは、なんでそんなこと言うの分からない、だってマシューくんは、はやてちゃんの・・・っていつもの逃げセリフを

言おうとしてるのか、はやての顔を伺うがはやては顔を伏せてしまってる、さらにアリサをみるとアリサは苦虫を噛み潰したような

顔で黙ってしまってて助けになるとも思えず、そうしてあちこち逃げ場を探して挙動不審に周囲をきょろきょろ見回したがどこにも

救いが無いことを知って、なのはは観念して答える。


「・・・でも、はやてちゃんが・・・」


 しかし答えの内容はまだ逃げている。容赦なく追求するすずか。


「私は、なのはちゃんの気持ちをきいてるの。なのはちゃんとしては問題無いでしょ?」

「え・・・え、でも・・・そんなの・・・」



 なぜか同意しない、同意できないなのは。


 少し方向性を変えて切り込むすずか。



「ねえなのはちゃん、これまではずっとさ、はやてちゃんとマシュー君が一緒になるものだと思ってなかった?」

「それは・・・うん、そう思ってた」

「それだったら別に良いんだよね?」

「う、うん、そうだよ、二人はずっと一緒だったんだし、だから二人がそうなるならそれは当然で・・・」

「はやてちゃんとなら、同意できると。ねえどうして私とだと同意できないの?」

「だ、だから・・・はやてちゃんとなら・・・ずっと一緒だったんだし・・・」


 堂々巡りをしていても仕方ない、言ってしまおう。



「ずっと一緒だったはやてちゃんとなら諦めがつく、最初から諦めてたし、納得もできる。でもそれまでそんな話が全く無かった私とって

ことになると、そうしていきなり横から持っていかれるような真似をされると納得できないわけね?」


「・・・え? え、いや、そんな、わたし・・・」


「だったら自分でもアリだったんじゃないか? すずかちゃんがアリなら、私もアリじゃないか? はやてちゃんが手を離してしまってる

んだから、それだったら自分が彼を欲しい、それがなのはちゃんの本音じゃないの?」


「!!!」



 五人は布団の上に車座になって座って向き合って話していたのだが。

 いきなりなのはは立ち上がった。

 立ち上がって、絶句して、何かを言おうとして口をぱくぱくさせるのだが言葉が出てこない。

 硬直して、すずかを見下ろすなのは。ショックを受けて呆然として顔も赤くなって少し涙ぐんで。

 それを見上げるすずかは冷静そのもの。ただ静かになのはの反応を見る。



 そのまま沈黙がしばらく続く。

 はやては俯いたまま。

 フェイトは混乱している。

 なのはは硬直している。

 すずかは沈黙している。


 場の雰囲気を変えようと動いたのは、アリサだった。

 実は途中から、すずかの矛先がなのはに向かい、なのはに自覚させ意識させる方向に話がいったところで静観を決め込んでたのだが。


「はいはい、もういいでしょ、すずか」

「・・・そうだね、この場では結論の出る話じゃ無さそうだし」


 意外とあっさり同意するすずか。


「・・・確かにね・・・確かに私たちはこの手の話を避けてきたわよね、それも問題あったって認めるわよ。これまでみたいに目をそら

していつまでも子供の頃みたいな感じで楽しくってのは、さすがにそろそろ無理かもね。しかし・・・すずか、あんたやり過ぎ。あんた

って普段はおとなしいくせに一度爆発すると怖いのね・・・何にしても今すぐどうこうって話じゃ無いんだし今日の所は・・・」

「うん、そうだね、ゴメンねなのはちゃん、はやてちゃん。少し言い過ぎた。ごめんなさい」


 言われてなのははまだ納得してない顔で絶句したままとりあえず座る。

 はやてはまだ顔を俯けている。

 そんな二人を見て、すずかは結論を言う。


「でもね、これだけは分かって欲しかったんだけど」


 真剣な口調、主にはやてに向かって語りかける、はやても辛うじて顔を上げてすずかの目を見る。


「これまでみたいに曖昧なままで流そうとするのは、もうやめない? 私はやめてほしい、はっきりして欲しい。」

「・・・それは」


 はやての答えは無内容、それをスルーして続ける。


「油断してると本当に貰うから。分かった? それだけ言っておきたかったの」

「・・・っ!」


 すずかの目を見つめたまま言葉も出ないはやて。

 アリサが間に割って入る。


「あのね、すずか・・・そんな簡単にどうこうできるような問題でもないと思うわよ? 大体、私が納得しなきゃ許さないん・・・」


 だからとかなんとかいおうとするアリサの言葉を遮って。


「大丈夫だよアリサちゃん。家同士で正式な話にして、アリサちゃんでは手も足も出ない状態に持ち込む自信はあるから」

「っぐ!」


 黙らされてしまうアリサ。

 そう、すずかの場合はアリサの頭越しに話を進めてアリサの動きを強制的に封殺するという手があるのだ。

 そこもアリサの気に食わない点だろう、しかしそうされるとどうしょうもないのも事実。





 結局その夜は、とても「昔みたいに」キャッキャとお喋りして楽しむ雰囲気どころでは無くなり。

 話が弾まないまま、早めに皆、就寝してしまう。

 翌朝もその雰囲気は変わらず、すずかは空気を読んで朝食後、すぐに帰宅の途に。

 はやても翌朝からすぐ仕事。

 仕事休みだったフェイト、なのは、アリサは三人揃って一旦、海鳴に帰還。



 しかしどうにも楽しくお喋りしながら休日を過ごすなんてムリで・・・アリサも結局午前中のうちに別れて帰宅。

 別れ際に、なのはに一言。


「・・・・・・このままだと、本当に・・・すずか一人勝ちになるわよ」


 そう言ってどうしたいのか、どうなってほしいのか、アリサ自身にも不分明。

 言われたなのはも分からない。

 曖昧な表情のまま立ち去るアリサ、残されたなのは、フェイト。



 住宅街の路傍に立ち尽くす二人。

 考えがまとまらない、そもそも頭が動かないなのは。

 それに対して、色々考えたらしいフェイトが。


「はやてだったら仕方ないけど、すずかだと納得できない?」


 昨晩のすずかの発言を繰り返した。


「な、なにいってるの、フェイトちゃん」

「うん、正直言うとね・・・」

「なに?」

「すずかがそう言ったとき、私もなんだか・・・もやもやした気持ちを感じたの」

「・・・」

「私もよく分からない、分からないんだけど・・・何だか、すずかの言ったことって・・・真面目に考えなくちゃいけないことだった

みたいな気が、今になってどんどんとしてきて・・・だってすずかだよ? いつも冷静で穏やかな・・・そんなすずかでも言わずには

いられないくらいに・・・私たちになにか問題が? あったみたいな気がする」

「それは・・・」

「うん、なのはも私と同じで良く分からないんだよね。分からない者同士で話してても解決しないんじゃないかな・・・私、家に帰って

リンディ母さんに相談してみる。なのはも桃子さんに相談してみたら?」

「あ・・・あぁ、うん、そうだね」


 きっと本当に無自覚なフェイトは素直に母親に相談できるのだろう。

 帰っていくフェイトを見送りながら、なのははぼんやりとそう思う。

 本当に・・・無自覚?

 じゃあ私は・・・



 めでたい披露宴に出席した翌日、友達とお喋りして楽しく過ごした休日であるはずなのに。

 混乱した暗い気持ちのまま。

 なのはは、とぼとぼと帰途についた。















(あとがき)

 すずか無双。最強。はやて、なのは、アリサ、3人まとめて一撃で薙ぎ倒す。

 やっとすずかのターンが終わった・・・今後は当分出ない予定だが存在感の重さは消えそうも無いかも・・・

 次こそ、そろそろなのはのターンかな。いやその前に一回ギンガ入れて切り替えるかな・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第七十九話   迷走日記 9  ギンガの卒業式
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/03/19 22:29
マシュー・バニングスの日常       第七十九話









 陸士訓練校は学校とは言っても、結構、殺伐としてるかも知れない。


 なんといっても実戦志向だし、模擬戦は最低でも週一は必ずあるし、そのたびごとに同期生全員の順位の書き換えがなされて、その結果

は卒業時の正式な魔導師ランク測定に反映されるし、ランクによって進路も大きく左右されるし、だから皆必死。もちろん私も。


 訓練校に来て、模擬戦を多くこなすようになって分かったことなんだけど。

 私、かなり、強いみたい。

 お母さんから習ったシューティングアーツのおかげだと思いたい。

 思いたいけど、うん、分かってる。

 私の技量はまだまだ未熟、お母さんみたいな本当の技とか持ってない、当たり前。


 だから残念だけど、今の私が同期に比べて強い理由は・・・この特殊な体のおかげということだろう。

 根本的に普通の人とは、スタミナが違う、敏捷性が違う、反応速度が違う、耐久性が違う・・・

 これで弱かったらウソだろうと私も思う。

 でもその強さは、私が努力して得たものではなくて・・・誰かが勝手に私の体を改造した結果。

 それに頼る戦い方はしたくない。

 頑張って技を磨こうとしてみるんだけど・・・

 まだまだね、道は遠い・・・・・・






 訓練校の日々はあっという間に過ぎた。




 卒業前の最終ランク測定、結果、私は陸戦ランクB+という評価を得た。

 全体の平均はせいぜいC、私は上の中というくらいの評価かな。

 恵まれた肉体的素質はあるんだけど、本当のトップの人たちとかはね・・・もとから凄い魔力とか持ってたりして。

 たとえば有名な空のエースとかね、ああいう人たちは住んでる世界が違うのだ。

 そしてそういう素質の持ち主がトップになる。

 私は体は頑丈でも・・・魔力自体はそんなに凄い大きいとか無いし・・・まあこんなものだろう。



 私は当初の予定通り、陸一本で就職先を決めた。

 実はね、陸士訓練校でも上から数えたほうが早いくらいの成績を残すと・・・海の本局に入れるって道も開けるんだけど、そして私も

ギリギリで海志望にしてもおかしくないくらいの成績ではあったんだけど・・・

 やっぱり私はお母さん、お父さんと同じ道を選びたい、故郷ミッドを守りたいのだ。


 お父さんのいる陸士108部隊は、中堅くらいの実力を持つ活動頻度も高い実動部隊で、いきなり新人は普通入れないので。

 まずはそれよりずっと番号の大きい・・・576警邏隊というところに所属することになった。

 本格的な陸士部隊で、番号100番台とかね、そういうところには中々行けない。

 将来はそういうところに進みたいなあ・・・でもそのためには与えられた持ち場でベストを尽くさなくちゃね。





 訓練校でも学校だから、卒業式というのがある。

 さらにいえば、これが学生の終わり、社会人の始まり、やっぱり特別な旅立ちなので。

 卒業パーティみたいのが開かれる慣例になってる。


 男性も礼服着て、女性もドレスアップして、立食パーティみたいな感じで。

 順番で言うと、まず制服着用での卒業式があって、それが終わった夜に、パーティがあるわけね。


 このパーティには外部の人間を一人、招待しても良いことになってる。

 大体は皆、身内とか恋人とか呼ぶ。



 私が呼ぶ人は、考えるまでもなく、お父さん。

 卒業式には当然出てくれるし、そのままの流れでパーティも。

 と、思ってたんだけど・・・


 卒業式の三日前になって!

 急に仕事が入った、卒業式に出るのも無理、パーティも行けないって!

 こんな直前になってそれはないんじゃない?!


 友達とか結構いるけど、卒業パーティのときは皆、それぞれ個人的に招待した人と主に過ごすものなのであって。

 そういう人がいなければ、パーティの間中、私、一人寂しく過ごすしかなくなるじゃない!

 もう! お母さんが亡くなってからお父さん、もともと仕事中毒気味な人だったけど、それがさらにひどくなって!

 この前もスバルとの約束をすっぽかしたでしょ! スバル怒ってたよ!

 さらに私の卒業式にも来てくれないっていうの!?


 なんだか通常の仕事以外に、調査みたいなこともしてるのは知ってる。

 だからただでも忙しいのがさらに忙しくなって、娘たちと過ごす時間が取れないのも分かってる。

 そしてその状態に問題あるって、お父さん自身も苦しんでる、それも知ってるけど・・・


 でも卒業式くらい出てくれても・・・


 本当は私、相当怒ったし、悲しかった。



 だけどね・・・



 うん、分かってる。

 きっとそれが仕事ってものなんだろう。

 とくに陸は忙しいので有名・・・

 さらに、お父さんみたいな中間管理職は本当に・・・


 それにお母さんがいなくなってから・・・私がお父さんとスバルの面倒を見なくちゃいけないんだから。

 だからお父さんのフォローも、スバルのフォローも私が頑張ってしなくちゃ・・・

 許してあげるしか、無いんだろう。



 そうして私が物分り良く、少し怒っただけで分かったからって言ったら。

 逆にかえって罪悪感に駆られたらしいお父さん。

 すまん、本当にすまん、誰か自分の代わりに呼びたい人はいないか、何とかするからって平謝りしながら言う。


 でも私は首を振って。

 いいから、もうスバルに付き合ってもらうし。

 多分、スバルのときは私が付き合うだろうから。


 それで話を終わらせた。



 スバルと一緒にパーティ会場の食事を・・・全部食べるくらいの勢いで食べまくるとしよう。

 うん、そうと決まればそれはそれで楽しそうだし。

 それで良い。





☆     ☆     ☆



 ゲンヤさんからの連絡が昼間に来るのは珍しいことだった。

 あの人も仕事忙しいみたいだし、普通の連絡なら病院窓口に言付けてくれてたし。

 デバイス直通にかけてきて、画面が開くと、なんだか深刻そうな表情のゲンヤさん。


 むむ・・・ギンガさんとスバルちゃんに何かあったのだろうか。俺も心配になる。


 ところが、話の内容をきいて拍子抜け。


 ふーん、訓練校の卒業パーティ?

 急な仕事でどうしても出られなくなった、だがギンガは少し悲しそうな顔をしただけですぐ許してくれて、クイントがいなくなってから

ずっと苦労のかけ通しだったのに我がままなんて一言も言わず、それに甘えるのは父親としてどうなのだと自分でも思うのだが、しかし

この仕事はどうしても外せなくて、だから頼む、自分の代わりに卒業パーティに出て、ギンガをエスコートしてやってくれないか・・・


 予定確認、ふむ、その日は何も無い・・・

 だったら良いかな、ほかでもないギンガさんだし。




☆     ☆     ☆



 はい?!

 はああああああ!?

 バニングス先生に頼んだぁ!?


 な、なんでそんな勝手なこと・・・

 だからもうスバルと行くからいいって言ったじゃない!

 お忙しいのにそんな私的な用事にまで・・・


 素直になりなよって、うるさいスバル。

 もう承諾してもらったって、なにを勝手に・・・もう、ほんとにお父さんは!

 だから素直になれって黙ってなさいスバル、ゴツン


 まあ・・・・・・既に承諾してもらっちゃったんなら・・・そこからまた断るとかありえないし・・・

 しょうがないなあ・・・

 はあ・・・お父さんが勝手に頼んだから仕方なくなんだからね!


 うーんスバルと行くならもう、制服でよいかなと思ってたんだけど・・・

 失礼にならないようにきちんとそれなりの格好していかなくちゃ・・・

 ねえスバル、お母さんもドレスとか持ってたよね、あれどこにしまったかな。

 ああいいから、お父さんは知らないのは分かってるから。

 よかった、体形近いし十分着れる、でも少し古いかな・・・流行遅れ?

 うちは一般庶民だし、私の普段着とか全然そういうパーティに着ていけるようなもんじゃないし・・・


 前に、バニングス先生のお姉さん見たことあるのよ、すごい美人で見るからにお嬢様で・・・

 実はバニングス先生も結構良いとこのお坊ちゃんみたいでね・・・

 ああ~もうどうしよ!

 あのお姉さん見ちゃうとどんな格好していけば良いのかぜんぜんわかんない。

 うーん、うーん・・・どうしよ、着ていく服が・・・


 なにお父さん。

 え? この際、新しいの買えって?

 そんなもったいないじゃない、パーティのためだけに新しく服買うとか。

 卒業式に出られない償いだ、頼む、新しく買ってくれ、ほらこの金を受け取ってって・・・

 そう? スバルも買ったほうが良いと思う?

 うーん・・・もったいないけど・・・仕方ないかな・・・うん、買うことにするね。


 オーダーメイドする時間は無いから、既製品で良いのを探さなくちゃ・・・

 うぅぅ~パーティはもう明後日で、時間が無い!

 急いで探しにいかなきゃ!

 ゴメン、今晩は食事作れないから適当に食べてて!

 急がなきゃ!



 ギンガは、ゲンヤから渡された軍資金を握り締めて全速力で家から飛び出した。





 そして当日・・・



 ど、どうかなスバル、変じゃない?

 お化粧、濃くないかな、ドレスも、どうなんだろ、なるべく大人しい感じのを選んだつもりなんだけど。

 うん、あのお姉さんに対抗するとか無理だから、こうね、分相応な感じのを・・・


 大丈夫、似合ってる、これまで見たことないくらいきれい?

 本当? お世辞じゃない? 本当に本当? スバル?

 大丈夫だから、自信持ってって言われても・・・


 ああ~もうどうしよ~!

 無理して着飾って似合ってないとか思われたら・・・

 いまいちだとか思われたら・・・

 気合入りすぎだとか思われたら・・・

 あああああ~・・・・・・うううう~・・・・・・


 そろそろ出ないと遅れる?

 本当だ・・・

 あああ~・・・・・・


 でも待ってやっぱり化粧濃すぎると思う!

 不慣れなのは仕方ないんだから、だったらさりげない感じにしたほうが・・・

 ちょっと待って! すぐ済むから!


 うう~ん、どうなんだろう・・・

 ねえ口紅はもう少し濃いのでも良くないかな・・・

 って? え?!


 もうこんな時間!

 遅れるじゃない!

 なんでもっと早く言ってくれなかったの!


 何度も言った?

 だって聞こえてなかったのよ!

 あああ、もういい! 急がなきゃ!




 少なくとも。

 気合入り過ぎだというのは事実じゃないかと。

 スバルは見送りながら思った。



☆     ☆     ☆



 男は楽で良い。基本、制服着とけばどこでも行けるしな。

 俺も一応管理局員、だから局員としての制服(普通の)と、礼服(制服のちょっと豪華バージョンみたいの)と、さらに医局員として

病院勤務のときに来てる制服(上に白衣を羽織るし実は一番略式の服)くらいは普通に持っている。

 卒業パーティ、礼服着とけば男はそれで良いとのことなので、しかし着るの久しぶりだな、前にメダル貰ったときとか、あとは昇進人事

での任命式だとかそういうときにしか着ないからなぁ。でも年に何回かは着るもんだし普通にいつも用意している。


 待ち合わせ時間の十分前に、待ち合わせ場所の校門付近に到着。

 うーん、あたりに似たような待ち合わせの人がたくさん、しまったこれでは見つけにくいか。


 と、思ったのだが。


 なんか遠くから・・・せっかく着飾った格好に似合わない凄い勢いで爆走してくる女性発見。

 一瞬クイントさん?! と思うほど似ていたのですぐ分かった。

 肌の露出を抑えた膝丈の青い略式のカクテルドレス?みたいのを着てるのかな。

 上着も羽織ってるけどしかしそんな格好で走ったらダメだってば。

 まあ姉ちゃんがパーティで着る本格ドレスに比べたら、装飾も少なく体に密着したシンプルなデザインだけど。


 手を振ってここにいるよってアピール、向こうもすぐ分かったらしい、こっち目掛けて再び爆走開始・・・

 結構、他にも人がいるんだけどなあ・・・誰かをはねたりしなきゃいいがと心配になってしまった。

 こちらからも駆け寄って、とりあえず挨拶しようと思った所で。


「すいません! お待たせしてしまって!」


 いきなり大声で謝りながら頭を下げるギンガさん。うーん目立ってる。


「ほらほら、いいからいいから、俺も今来たところだし、えっと会場はあっちだっけ?」


 言いながらギンガさんの肩を軽く押して歩かせる。


「え! えぇ! は、はいそうですあのでもその私・・・」


 どーも要領を得ないのでそのまま肩を抱くような体勢で連れて行く。


「いや、今来たところって本当に本当だから。うん、しかしそういう格好新鮮だなぁ」

「あ・・・あの・・・どうでしょう・・・」


 えらく不安そうな顔。

 いつも自信満々の姉ちゃんとか、ドレスアップするのも日常で当然の月村さんとか。

 そういった身近な人たちと比べると、頑張ってお洒落してるギンガさん、それに不安なギンガさんはそれだけで可愛いので正直に。


「うん、良く似合ってる、かわいいよ」

「そ・・・そうですか・・・」


 言いながら下を向いて真っ赤になるのも可愛いなあ。

 妹のスバルちゃんは下手すると今でも男の子と間違われるくらいボーイッシュだが、実は姉のギンガさんも髪長いから男と間違われる

ことは無いにしても基本体育会系でサバサバしてて性格はどちらかというと男性的、そういう子がこういう格好してるのはまた別の趣が

あって可愛いなぁ。青く見えるような鮮やかな黒髪に活動的な性格の彼女に良く似合ってるドレスだと思うのも本音だし。

 なりゆきで肩抱いたみたいな体勢のまま、パーティ会場へと俺たちはゆっくりと向かった。



☆     ☆     ☆




 そんなに高い服でも無いし。

 つるし売りの既製品で店員さんに相談して何時間も悩んで買ったんだけど。

 お化粧とかもきっと私は全然未熟で、これも昨日今日の付け焼刃で。

 あああきっと、先生のお姉さんとかと比べたらお話にならないんだろう隅から隅まで、それは分かってるけど。


 かわいいって。


 お世辞よね、うん。


 でも、かわいいって。


 だからお世辞だってば! わかってるでしょう、私!


 うん、でもかわいいんだって。



 その日のパーティは結局、何があったかもよく覚えてない。

 雲を踏むような心地で・・・

 先生が場慣れた感じでエスコートしてくれて、受け答えするだけで精一杯で。

 途中でなんか、青田買いに来たとかいうちょっとエライ人と話したとき、少し雰囲気かたくなったりしたけど。

 それをのぞけばずっとなんだか夢見心地でふわふわと・・・


 あっというまにパーティは終わり、私は先生に家まで送ってもらった。

 別れ際、先生は今日は楽しかったよ、本当に似合ってて可愛いよってまた言ってくれて。

 家に入って部屋に入って。


 私は着替えもせずベッドに突っ伏して顔を枕に押し付けて足をバタバタ。

 うううう~

 ああああ~


 ダメだ。

 やばい。


「ああああうぅぅあぁ・・・」


 言いながら枕を抱えて悶えてゴロゴロ転がってベッドから落ちたところで。

 なぜか私の部屋の中にいたスバルと目が合う。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 沈黙したまま気まずい雰囲気で見詰め合う姉妹。


「あのさ、どうだったのかなって聞きにきたんだけど・・・」

「・・・」

「聞くまでも無かった感じ? ゴメンね、うん、退散しまーす」


 素早く部屋から出て行くスバル。

 ううぅ・・・みっともないところを妹に見られてしまった・・・

 でもそんなことすぐ忘れてしまうくらい今日のパーティは楽しくて。

 先生、優しかったなぁ・・・

 二歳しか年上じゃないのに大人っぽくて・・・

 さりげなくいつでもフォローしてくれる感じで・・・

 あああ~私、先生の前なのに食べ過ぎなかったかな・・・

 緊張して何食べたかも覚えてないんだけど・・・

 でもそういう体だし分かってるから食べなよって笑顔で勧めてくれてついつい食べ過ぎたかも・・・

 そうなのよ先生は当然全部分かってて、きっと私自身よりも詳しく?

 だから一切そこに気を使う必要なくてそれで何も気にせず優しくしてくれるから・・・


 お医者さんと、患者で。

 先生は先生なのに。

 だけどやっぱりそうなのかな私・・・もうダメかも・・・


 ああでも先生って彼女とかいるのかな・・・

 実はいるって噂も、同棲してるって噂も聞いたことあるんだけど・・・

 でも今はいない、別れたって噂も聞いたことあるよ?!

 どうしよう、やっぱりはっきりさせるには直接きくしかない?



 直接きくって・・・・・・



 むりです。

 無理絶対無理。

 直接きくってそんなそのくらいなら一人で凶悪テロリスト相手に戦うほうがマシ。




 せっかく新調したドレスがしわだらけになっても気付かずに。


 私は色々考えながらゴロゴロと悶え続けた・・・










(あとがき)

 前のギンガ話がどうも弱かったのでギンガ再臨。

 女の子を可愛く描くという絶対正義の前には、展開の都合上の問題とか些細なことであります。

 次回、自分の部隊構想のため人材探しを頑張ってる「ちょっとエライ人」との話になるかな・・・修羅場回避したいとこだが・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十話    迷走日記 10  ギンガの卒業式 2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/03/27 05:27
マシュー・バニングスの日常       第八十話








 なんというか。


 悪いときには全部、悪いほうに転がるもんなんやっていうか。

 それなりに真剣に考えて、それで別れるのが正しいって思ったんは、ほんまの話で。

 後悔もするやろう、それも覚悟してた・・・・・・つもりやったけど。


 想像以上。

 うん、考えてみたら中学までは・・・何もかも上手くいっとったんかな。

 それが一度悪いほうに転がると、もうゴロゴロとどんどんと悪い方に悪い方に・・・




 すずかちゃんの宣戦布告は死ぬほどきつかった。


 あれってつまり「本気で奪いに行くからね♪」って意味やんな、結局・・・


 そういう可能性とかも覚悟しとったつもりやったけど。


 いざ本気でそんな宣言されると・・・もうなんといいますか・・・



 つまり私は、仮想敵ってのはせいぜい、なのはちゃんしか想定してへんかったんや、ほんまは。そんで、なのはちゃんやったら多分、

こう・・・私に遠慮して・・・気持ちを抑えたままでいてくれるやろうとか・・・そんな甘い期待を・・・なのはちゃんが煮詰まって

具体的に行動を起こす前に仕事の決着つけるって目は普通にありえると・・・うん、それは100%とは言わへんけど、うまくいく確率

大体七割くらいはあるやろうと・・・


 それ以外に・・・マーくんもあれで、ええとこのボンやしミッドでは結構有名な医者でもあるし、他に女の子とか寄ってくる可能性、

それは普通にあるとしてもそれは大丈夫やろ思ってた、なんでかてマーくんは間違いなく今でも私のことを好きなはずで・・・あぁもう、

ほんま最悪やな、いまだに甘えとる、わかっとるけどとにかく、本気で行動に移ったらマーくんも押されるかも知れへんて思えてしまう、

なのはちゃん以外には・・・真剣に警戒せんとあかん女の子とか、まずおらへんて思ってて・・・



 そこにすずかちゃんからの攻撃は強烈やった。不意打ちで痛かったってだけやない。

 話をきいてみると、まず家同士の関係でってのが来て、つまりマーくんとすずかちゃんやったら社会的に釣り合うってのがあって、

ほんまにそればかりは逆立ちしても真似できへん、圧倒的なすずかちゃんのアドバンテージ。

 しかもそれだけやない、それで義務的にってだけの気持ちなんやったらこれほど痛くなかった、すずかちゃんはあくまでそういう縁談

が正式でなく軽い打診程度で少し、出てるだけだよみたいなことしか言ってへんかったけど、そんな言葉の表面だけ信じることはとても

できへんかった、なんでかわからへん、いつからやったんかもわからへん、せやけど結局あれは・・・本気やった。

 本気でマーくんと結婚するつもりや・・・それがはっきり分かってしまって・・・


 やばい、マジやばい。

 あの調子で攻められたら気付いたらマーくん、もう後戻り出来へんところに踏み込まされる可能性が大いにある。

 あくまで家同士の関係だよ、義務的な婚約だよ、私たちは友達だよってニコニコ笑いながら。

 そうしてマーくんの警戒心を奪って油断させながら。

 マーくんが隙を見せた瞬間、ガブリと一撃で決めてしまいそうな雰囲気が・・・


 やばい、マジやばい。

 なにか対策をとらんかったら絶対そうなる。


 もうこの際、マーくんに泣いて謝ってヨリを戻してもらおうかとか真剣に考えた。


 せやけどなぁ・・・

 仕事をハンパに済ましてまうことになるで、そうするとどうしても・・・

 まずは仕事を取ると、これを片付けると、そう決意して覚悟して、そう宣言したんやん、マーくんに。

 それから一年も経ってへんうちに、泣いて謝るとか・・・



 それに今すぐそうしてヨリを戻して、そんで今度こそマーくん優先の生き方に完全に切り替えられるかって言ったら・・・


 やっぱそれもムリやねん。


 私が専任で追ってる仕事もあるし、調べてることも少しずつ輪郭が見えてきたような気もするし、これまで積み重ねてきたものは

これからも積み重ねていかへんと効果は出ぇへんもんで、ここで彼の方向に切り替えるいうことはこれまでの積み重ねを事実上、ゼロに

してしまうようなもんで、そうできるんかっていったらやっぱり私にはムリ、そうなるとただマーくんと今すぐヨリ戻しても結局、前

みたいに彼に負担をかけるだけの状態にしかならんってはっきり分かってて、そんなことする権利は私には無い、彼のことをほんまに

思うんやったらむしろすずかちゃんは本気でマーくん専任みたいな状態になりそうな雰囲気やし、マーくんとすずかちゃんなら絶対に

上手く行きそうな気が私にもしてしまって、ほんまに彼のことを思うんやったら・・・


 ここは本気で諦めるというのだけが正しい選択肢・・・なんやろか・・・

 悩む、悩む、悩む・・・

 そういう風に悩んでるときは何故か仕事は完璧に片せる私。

 心は大混乱やのに頭と手は別もんなんかな。


 なんにしても・・・まずはマーくんの顔見て、それから決めよっかな・・・

 見た瞬間、やっぱり耐えられへんと分かれば・・・今度こそ・・・


 とか思いつつ・・・



 しかし仕事は尽きへんなぁ・・・



 んーと、この書類で大体、上から与えられた任務関係は片付いたか。



 次は私の裁量で許されてる範囲で、将来につながる構想を・・・


 新部隊を立ち上げて、部隊長になって、そんでさらなる功績をって中期的な目標があってな・・・


 そこの指揮官クラスは大体もう決まっとるねん、うん、昔からの友達、なのはちゃん、フェイトちゃん、あと私の守護騎士たち。


 コネだけ人事やで? それでこんだけの人材集めるんも凄いで?


 大体、成り上がろう、のし上がろうと背伸びしてる野心的な小娘に、そんなに積極的に協力してくれるような人の良い上司とかおらへん

っちゅうねん。しかも私の場合はあんま出世して欲しくないってのが上の人らの本音やしな。せやから部隊の人材は私が個人的な縁故とか

フルに使って独自に揃わせへんと話にならん。クロノ君とかリンディさん経由のコネもフルに使っとるで? 後方部隊はその筋から揃え

ようって目算立ててるしな。さらに部署新設するのに、本局は色々ときちんとしてて割り込ませる余地が少ないから、比較的組織力の

弱い陸に割り込もう、それも陸の人らかていきなり割り込まれるなんて腹立つし受け入れてくれへんやろうから、私のバックのベルカ聖

王教会からの政治的圧力を使って・・・とかもしとるしな!

 うーん、四方八方に敵作っとるなあ、私。そんで部隊作って目立った功績も挙げられへんかったら潰されるかもな。

 それも分かっとる、せやけどそういうもんなんや、リスクがあるから、リターンがある。

 高級官僚の出世レースは綱渡り。進み続ける以外に道は無く、成功し続ける以外に道が無い。一度でも失敗したら終わりで、そんな道を

選んで進み続けてきたのは私自身。



 ああ~でも、そういう道を恐れず突き進んで来れたんも・・・

 「いざとなったら一緒に逃げてやる」って言ってくれた彼が、私にとっての最後の逃げ場として確保されてたからなんかな・・・

 いや、仕事も好きやし、知りたいこともあるし、目標もあるねんけど。

 私の最後の保証、最後の安住の場所というのはやはり彼のところにしか無いような気もする・・・

 ハァ・・・ほんまどうしようかな・・・



 とりあえず仕事、新部隊の前線兵力として活躍してくれる子を探さんと・・・

 これもなかなかみつからへんねん・・・

 なにせ海のものとも山のものともつかない実験的な新設部署、望んで来てくれる子がおるなんて期待したらあかん。

 普通に優秀な子は、普通にそれぞれ志望する艦隊勤務コースとか、幹部養成コースとか、執務官コースとか目指して進むもんであって。

 私の新部隊に来ることが、その子の将来にとって確実にプラスになるか?って言ったら、そんな保証なんてゼロやで。


 そこをなんとか・・・来てくれる子を探さんことには・・・

 もちろん来てくれた子は将来にわたって私に出来る限りフォローさせてもらうつもりやねんけど・・・

 結局、なにがしか・・・「ワケあり」な子、ワケありやけど優秀なことは優秀って感じの子を探して引き抜くしか無いかなぁ



 そういうわけで。


 やってきました、ギンガ・ナカジマさんの卒業パーティ。


 面識はあるけど、マーくんに紹介した後はほとんど会ってへんしな、顔つないでおいて、こちらが頼めば来てくれるくらいの親しさを

維持しておきたい・・・いやほんま私って腹黒いなぁ・・・せっかくの卒業パーティやのに打算優先かぃ

 身内でも関係者でも無い私がパーティに参加するにあたって、またベルカからの政治的な「お願い」とか使いました。まあ近接戦闘に

強いベルカ式魔法と、その運用法とか使い手の育成ノウハウをもってる教会と、管理局の訓練学校とは持ちつ持たれつで互いに助けあっ

てる関係なんで、普通にOKしてもらえたんやけど。


 パーティに一人で行くのもアレなんで、ヒマそうやったロッサに一緒に来てもらった。

 ロッサってのは、本名ヴェロッサ・アコース、教会の有力者グラシア家の養子でもあり、ベルカ式魔法の使い手でもあり、特殊なレア

スキルとかも持ってて、管理局に出向して査察官としても働いてる、私とは同僚として働くこともあったりする人で、うん、マーくんを

のぞいたら一番親しい男の人かも知れん。私からしたら明るいちょっとダメなお兄ちゃんみたいな感じの人や。



 んで。

 ロッサと連れ立ってパーティに出た私と。

 ギンガちゃんをエスコートしてパーティに出てたマーくんが。


 鉢合わせしたわけやな。







 何を患者に手ぇ出しとるんやこのセクハラ医者、浮気者! と、叫びながら胸倉を掴んで怒って。

 そんでマーくんが、バカ違うよ、頼まれて来ただけで本当に好きなのはお前だけだよって抱きしめて。

 ウソやウソやマーくんは女好きの浮気者なんや・・・って私がマーくんの胸に顔埋めて泣いて。

 本当だってウソじゃないよってマーくんは言いながら私を暗いところに連れて行って。

 そんで色々・・・えっちなこととかして私を慰めて・・・気付いたら私も夢中になってて・・・

 いつの間にか仲直り。


 とは、行かへんかったな当然。

 そういう前まで上手くいってたパターンは、もう通用せぇへん。




 まずマーくんは、私と一緒のロッサを見て微妙に表情を硬くした。

 面識無いってわけやない、それなりに顔会わせてるはず、クロノ君の結婚式とかにも来てたしな。

 せやけど私の横で私をエスコートしてるロッサを見ると複雑なんかな・・・


 複雑なんはこっちも同じやねんけどな。

 ギンガちゃん可愛く着飾って、マーくんにエスコートされてすごく嬉しそうで楽しそうで。

 どっからどうみても恋する乙女やないかぃ!


 まぁ・・・親身になって面倒みとる言うことは知っとったから・・・そんでギンガちゃんも自然にそういう気持ちになるってことは

普通にありえる話やろうけど・・・せやけど、なのはちゃんだけやなくフェイトちゃんもどっか怪しくてアリサちゃんは最強の壁として

立ちはだかっとるし、すずかちゃんの攻撃には一撃で叩きのめされたしそんでさらにギンガちゃんまで!

 おのれえぇぇ・・・この女たらしめえぇぇ・・・・・・

 今なら怒りで会場ごとマーくんを魔法で焼き尽くせる気がする・・・

 転移魔法で逃げようとしても無駄やで・・・瞬間転移できる限界距離まで含めて焼き尽くす・・・


 黙りこんだ私をおいて、マーくんとロッサが互いの状況を確認。

 マーくんはゲンヤさんの代行で来たそうや、こっちは優秀な人材探しとロッサは説明しとった。

 本来ならギンガちゃんにお祝いを言って親しみを持ってもらってとか、せんとあかんことあったのに。

 黙りこんで挙動不審な私、ロッサもマーくんも私が変やって簡単に気付く。

 ギンガちゃんは気付いてへんな・・・私とかロッサとか、もしかしたらそもそも見えてへんかも知れん・・・


 結局まともに話すことも無く、私はロッサに連れられて座を外した・・・




 パーティ後、深夜に。

 久しぶりにマーくんからデバイス直通の通信があった。

 待ち構えていた私、速攻で画面を開く。



 互いに顔を見ると。

 なぜか言葉が出てこぉへん。

 しばらく黙ってお見合い。



 数分して、マーくんは軽く咳払い、ようやく言葉を紡ぐ。


「あ~っと・・・その、なんだ、アコースさんとは・・・仕事で、だよな?」


 その質問内容に軽く切れる。それって分かり切っとることとちゃうん?

 なんやねん自分はあちこちで女の子引っ掛けて楽しくやっといて私が少し他の男の人と親しくしてる現場を見たら。

 図々しくもそれを非難しようっちゅうわけ?!

 何様やねん大体そんなこと今さらマーくんは言う権利とかないやろ!

 もちろん言う権利無いんはお互い様や、そんなこと分かりきっとる。

 後で頭が冷えたときは無茶苦茶後悔した。

 けど後悔言うんは・・・後からしかできへんから、後悔いうわけで・・・


 前にしたケンカは、ケンカではあったけど、でもまだ互いに理性的に話し合っとった思う。

 せやけどこの夜のケンカは・・・単なる醜い感情のぶつけ合い・・・


 お前は! 私は! そんなこと言われる筋合いは! そっちこそ! こっちだってな! なんやねん! もう知るか! ほんまにな!

お互いさまだろ! もう知らん! ああせいせいするね! せやな、それじゃ! じゃあな!


 まともに話し合うことも無く。

 怒鳴りあった末に通信切った。


 怒って切れて腹立って、そのくせ泣きながら私は・・・結局、明日の仕事に備えて寝た・・・


 でも横になってもきちんと眠れず・・・ひっきりなしに寝返りを打ちながら・・・私は考え続けてた・・・



 実際ギンガちゃんのことはそれほど問題では無いんや。それより重要なんは私が本心では・・・まだ彼が私のこと好きであんだけワガ

ママ言って別れたくせにそれでもきっと私のこと待ってくれてるとか、せやから周囲の女の子が彼のことを好きになるようなことがあって

も大した問題やない、そうやどうせ彼は私のものやと・・・傲慢にもほんまの本心ではそう思っとったこと。

 別れた、距離をおいた、これまでの半同棲みたいな関係を絶った、それは事実でも。

 そうして形だけ離れても・・・じゃあ心から彼はもう自分とそういう意味で関係無い人やって私が思うようになったかと言えば。


 真剣な危険性とか多分ほとんど無い・・・ギンガちゃんとデートみたいのしてるの見ただけで逆上してこの始末や。

 まだあの子は年上の人に漠然と憧れてるだけやしマーくんもそれを優しく見守っとるだけで。

 長い付き合いのなのはちゃんとかすずかちゃんと比べたら全然問題ならんて分かってるのにそれでも・・・


 私のものであるはずのマーくんが他の女の子と楽しく過ごしてる所をみてアホみたいに切れた。


 我ながら驚くしかないあきらめの悪さや、どんだけ未練がましいねん、ほんまに・・・


 諦めたくない、せやからそれを伝えてマーくんに待っててもらう、つまりキープしとくって手も・・・思いついてもうた。

 うん、この手を使えば逆にまた私の勝率が最大に・・・多分私が勝てると確信できるほどの、いかにも私らしいせこい手。

 泣いて謝って、やっぱりそうしてって頼めば間違いなく彼はそうしてくれる、同意してくれる、うわぁほんまに私、最悪や。


 そんとき彼に抱かれる必要とかあるかもしれへんけど正直・・・全然問題無いし・・・

 むしろなんでいまだに私ら最後までしてへんのか我ながら分からんくらいやし・・・

 ふん、そうやって体を使って彼をつなぎとめておこういうわけか、いやはや私って・・・


 でもどうする? ほんまにそうする?

 それともそこまではできへん? やっぱりやめとく?

 二者択一・・・彼をほんまに諦めるんか・・・やっぱり諦めへんのか・・・


 今、私の、するべきことって・・・

 彼のことをほんまに思うんやったら・・・


 目覚ましが鳴る前に浅い眠りから覚めて寝起きに一言・・・・・・




「あきらめよう」




 言いながら涙が出た。


 いやや・・・そんなんいやや・・・あきらめるなんて・・・まだ希望あるって思ってたから・・・せやけど、なのはちゃんだけでも失敗

確率3割はある思ってたんが・・・すずかちゃん来て逆に成功確率3割もあるか疑問なくらいなって・・・今すぐに仕事を捨てて彼のため

に生きるって本気で切り替えるくらいやないと絶対ムリで・・・でもそれはできへん・・・つまりそれやったら時間の問題でまずほぼ確実

にすずかちゃんに持っていかれる・・・なんか偶然なのはちゃんが勝ついうこともあるかもしれへんけど・・・


 わたしが割り込む余地が無い。


 そうかそもそも、たった一年足らず先に知り合ったいうだけのアドバンテージ。

 私が一番、彼と親しかったいうんは、ほんまの話。

 せやけどそれも実は大した差やない。

 幼馴染いうんやったら、なのはちゃんもすずかちゃんも大して変わらへん。




 ずっと黙って見守ってた、すずかちゃんが、結局彼を持っていくわけか。

 大丈夫やろ、間違いなく・・・二人は幸せになる・・・そうに決まっとる。

 疑う余地が無いんがほんま・・・泣けてくるで・・・




 私な・・・

 ほんまマーくんのこと・・・

 好きやねん・・・


「せやからマーくんには絶対幸せになって欲しいんや、諦めるんや!」


 言いながら寝室の壁を、拳で思い切り殴った。


 皮が切れて血が出ただけやなくて・・・脱臼とかしたかもな、ゴリって骨に響く鈍い音がした。

 無茶苦茶痛い。

 けど痛くない。


 これからは。

 彼からの連絡は、明確な公用とか重要な用件とか明らかに緊急事態であると、わかるもの以外は無視する。

 基本、話さない。

 とにかく距離を置く。

 可能な限り・・・かかわらない。

 減らせるだけ接点は減らす。


 そしたらきっといつか忘れられる。



 小さい頃からずっと私を支えてくれていた人でも。

 将来は当然のように一緒になるって思ってた人でも。

 私を見ててくれる、いざとなったら一緒に逃げようって言ってくれた人でも。

 どんなときでも私に優しくて甘くて私を抱きしめて私のことを・・・無条件で肯定してくれてた人でも。


 そう、きっと、いつか。


 忘れられるはず












(あとがき)

 ギンガと浮気してるのを見た正妻はやての激怒・・・ということだったらマシュー平謝りして終わりだったんですけどねえ。

 六課成立にむけての八神さんの政治活動は、まだ色々と手こずってます、このへん独自解釈だらけであります。

 やっとこさ今度こそ次こそ、なのはのターン、いきます。ちょっと長くなるかな。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十一話   迷走日記 11  ギンガの卒業式 3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/04/03 06:40
マシュー・バニングスの日常    第八十一話








○△年○月×日



 なんで・・・

 陸士訓練校の卒業式に・・・

 特別捜査官で上級管理官でどう考えても管轄が違う、教育分野とは関係ないはずの八神三佐殿が来るのかね・・・


 だがまあ来たことは仕方ない、それは言ってもはじまらん。

 年下の可愛い女の子とデートしてて俺が微妙に浮かれてたことも認めよう。

 いや、それは普通に楽しいだろう?


 あんまり踏み込んだり私的にも何らかの関係をもったりとか、し過ぎたらそれはまずいだろうけどさ。

 俺が、ギンガさんと私的に会ったってのは・・・治療病院関係以外で会ったってのは・・・これがはじめてだぞ。

 そして今後も基本的には病院でしか会わんだろ、たった一回私的に会った、その機会によりにもよって・・・


 なんで八神と鉢合わせになるかね・・・



 しかし今日はギンガさんの晴れの日だ。

 だから彼女を優先して、彼女が楽しく卒業の日を祝えるようにしてあげなくちゃいかんだろ当然。

 八神とはまた別に会う機会もあるわけだしな。


 俺は基本、姉ちゃんによって「女の子をほめる」習慣というのが叩き込まれている。

 もう大概見慣れてる姉ちゃんのドレスアップ姿、それを見た瞬間、まず褒めろと、うん、そうしないと怒り出すし。

 ほとんど無意識に、条件反射的に、俺は女子が着飾ってたら褒めるかも知れん。

 それにやっぱり姉ちゃんで、女の子をパーティでエスコートするというのにも慣れてるし。


 結局俺は八神のことに意識をとられながらも・・・なんとかギンガさんが不愉快に思わないように、違和感を感じないように。

 彼女をエスコートし、折々に褒めて、パーティを楽しませることは出来たと思う。

 彼女が可愛いというのは単なる事実だし、性格も素直で頑張り屋で良い子だし、俺も一緒にいて普通に楽しかったし。



 なんとかパーティが終わりギンガさんを家に送って。

 すぐに八神に直通。

 やはりすぐに出る八神、こんなに速攻でつながるのは珍しいが今夜は大丈夫だと思った。



 俺は、女房に浮気現場を抑えられたみたいな心境になったのかな?

 それで言い訳・・・しようと思ったのかな。

 でもそれも変な話だよな。

 それやこれやで俺は混乱していた? 冷静さを失っていた?

 ついついアコースさんのこととか口に出してしまったり。

 そして後は・・・泥沼だ。



 互いに責めて、でも互いに責める権利無いだろってまた責めて、ただ感情をぶつけあってそのまま切って。



 イライラしたまま就寝し・・・



 次の朝の目覚めは最悪な気分だった。

 ハァ・・・

 どうしてこうなったのか、どうするべきなのか、分からない。

 仲直り・・・したければ・・・また話し合う、できれば直接会って・・・それをするべきだとも思うのだが。


 でも会って話しても・・・つまるとこ互いに「なにも言う権利ないだろ」ってそれも本当で。


 そう、あいつが他の男と幸せになるというのなら・・・俺にはそれを止める権利とか無いんだよな。



 でもそれはイヤだ。


 ん?



 ここ重要なポイントぽいぞ。




 俺は、八神が、他の男のものになるのは・・・うん、正直に、イヤだ。


 仕事の付き合いで来たって分かりきってるアコースさんが側にいるのを見ただけで若干、平常心を失ったほどに。



 独占欲、確かにある。

 ああそういえばユーノが言ってたな、俺が高町の近くにいるようになって嫉妬して、はじめて高町を好きだって分かったって。

 なるほど、こういうことか、俺は確かに・・・嫉妬した、やっぱり俺は八神が好きだな・・・



 それを確認できて、少し心は晴れた・・・のだが。


 問題はそれでどうするか、か・・・


 なにがどうあっても「今すぐに」ヨリ戻すのは・・・無理だ、それが現状。


 やはり・・・当初の予定通りに・・・「まず我が身を治す」以外に出来ることは・・・無いのかも知れん。


 その間に八神が他の男のものになる危険性は?


 いや、それは無いだろ、あいつの仕事がそう簡単に片付くわけが無い。


 俺みたいに、ほとんど会えなくても放置されてても平気で八神を待ってるという、異様に物分りの良い幼馴染であってさえ今の八神と

しては付き合うことができないくらいだし。普通の男が、特別捜査官で上級管理官で仕事に時間全て使ってて休みも不定期で、実際問題

私的にはほとんど会えないという女と、付き合うなどというのは不可能だろーどう考えても。


 それにこれは自惚れでは無いと思うのだが、異性と一緒の所をみて激怒したって、その怒りの程度では・・・八神の方がかなり上だった

ろうどう見ても。あれはマジ怒ってた、通話だから良かったが対面してたらなにされるか分からないくらいに。つまり八神は今でも俺を

好きだというのも間違いないだろう。



 だからまず治す、それしか無い!

 その後はもう容赦なく・・・あいつに仕事が残ってようが構わずにとりあえず一回押し倒す!

 うん、それで行こう!



 それしかないと再確認したところで、俺は自室の机から前に書いた「中核刺激法」の論文を取り出す。

 高町が結果的に魔力10%くらい上がったように、その程度の魔力向上を可能とする技術の論文だ。(→ 七十三話後半)

 かなり画期的なものであるはずだと自負してる、よし当初の予定通り、まずはこれを提出し上に認められより多くの情報を!


 それはそれとして八神にフォローのメールでも送っておいたほうがよいかな。


 それに気付いた俺は「昨日はゴメン、やっぱ俺お前のこと好きだ、会いたい」ってだけのメールを送った。


 返事はすぐには返ってこなかったけど、それが普通だろ、どうせ仕事してんだあいつは・・・


 俺も研究所に出勤して、新たな治療の可能性を本格的に模索するとしよう!







 その頃、八神はやては確かに仕事中だった。

 彼女はマシューからのメールだとアドレスを見て知った瞬間。

 なにか決意に満ちた表情でそのアドレスを一瞬、にらみつけたが、すぐに。

 内容の確認もせず無視し・・・仕事を続行した。


 件名なし、明らかに私用メール。

 公用とか緊急ならすぐ分かるし。

 多分昨日のことをまた色々と言おうとしてるのだろうが。


 でも、だったら、見ない、見ないと決めた。






 会えないのが普通の状態に、既に慣れてしまっていたマシューは。

 メールが読まれていないことに気付かず・・・

 フォローすることは出来ないまま・・・時が過ぎる。








○△年○月△△日




 まず俺は「中核刺激法」の論文を翌日には研究所の上司に提出。

 どういう内容か俺が説明するに連れて・・・上司は信じられない! という顔になり・・・

 無茶苦茶盛り上がってくれてしまいました。


 その日のうちに、上の上、いや下手したら一番上まで話が行ったそうで。

 同時に研究所内でも噂が飛び交い・・・

 ああ~・・・やはり最初のうちはしょうがないかなこの盛り上がり。

 魔力ランクを上げることができるかもしれないコア整形術なんてのは魔導師にとって大きすぎるからなあ・・・


 実現可能性が高いということもすぐに理解され・・・

 同時に最高度の機密として、関係者全員に絶対的緘口令が敷かれたが、まあ当然だろな。

 俺は情報漏洩なんざ興味ないので黙ってるの平気だし。むしろそういうことするやつが分からん。



 さて一般普及できるレベルにまで「中核刺激法」を標準化するには幾つかの段階を経ねばならない。



 まず従来の直接整形術により魔力増幅が起きた前例を、もう一度、徹底的に精査すること。

 精査もアフターチェックもしてなかったわけではないが今回は、俺自身が独自の探査能力により分かれば良いなどという個人に頼る

状態からの完全な脱却を目指し、機械的な調査法により万人に利用可能なデータの抽出を目指す。このための測定装置とかの技術改良も

同時に必要になるだろし、そういった特別な測定装置を設置できるような環境となるとよほどの大病院クラスでなくて無理ということにも

なるだろうが、まあそれは仕方ない。



 次に、志願実験者を募る。

 健康なコアに手を入れて、魔力を増幅するということが可能かどうかやはり実験しかない。

 もちろん俺は成功する自信はあるが一般的には・・・無理にコアをいじくるのは悪影響しかもたらさないと思われているので。

 だから不本意ではあるがこの段階では俺の名声・・・虚名も含めて大いに喧伝して利用するしかないだろな。

 リンカーコア直接整形術で有名なバニングス医師主導による、魔力増幅固定の実験! 成功率も非常に高い!ってな具合に。

 無駄に有名になるのは嫌なのだが・・・これも仕方ないことだろう。


 この実験に成功したら、後は数をこなしてデータを蓄積し続けて具体的な技術を詰めて・・・

 そこまで行けばかなり俺の手から離れるだろな。

 なにせ重要なのは「俺ならできる」状態ではなく「専門医なら誰でもできる」状態に持ってくことだから。





 まずは第一段階だが。


 直接整形術の被術者というのは、最初の高町から、今のところ最新のエリオ君まで数えて・・・実は11名しかいない。

 まあつまり高町やエリオ君なみにコアがぼろぼろになって、しかも直接整形術なら治る見込みがあると断言できる症例というのが。

 意外と少なかったということなのだが。


 そして被術者は、実は全員、魔力向上ってのがあったのだが・・・しかし個人差がある。

 標本数が少ないので有意かどうか微妙だが、若い人の方が伸び率が高い傾向があるように見える。

 しかし一番若かったエリオ君より、高町の方が伸び率高かったりするので絶対ともいえない。

 まあエリオ君の場合は、クローン体であるがゆえの体の弱さみたいのがどこかにあるってこともあるだろが。


 なんにしてもエリオ君は特殊な事情が多くて一般例として考えにくいから置いておいて。

 まず高町、あと複数の・・・できる限り多くの・・・精査段階での研究協力してくれる人を探さねば。

 拘束時間がそれなりに長くなりそうなので来るのが困難な人もいるしまずは若くて権限も小さくて来やすそうな人から・・・


 そういうわけで、候補をリストアップして上に要望を出すと。

 驚くほどに速攻で許可が下りて、過去の被術者たちへの研究協力命令も下された。

 うーん上の人たちの期待の程度が良く分かる。



 でまあなんだかんだで二週間ほどして。

 まず最初に時間の都合がついた高町が、研究所の方にやってくる。



 研究所の正面玄関まで出迎える。


「いや、すまんなわざわざ。ご協力感謝します、高町二尉殿」


 大好きな教導任務を妨げられて、渋々といった風情で研究所に初出勤してきた高町に俺は声をかけた。





☆     ☆     ☆





 彼が。

 私を振り回すというのは昨日今日に始まったことでは無い。

 多分はじめて出会ったときから、今に至るまでずっとあの時もその時も・・・

 いつでも彼のペースで彼の都合の良いように振り回して巻き込んで・・・




 すずかちゃんに・・・

 言われてしまってしばらく。

 私は・・・呆然として考えもまとまらないまま、過ごしてた。

 周囲から見れば、何をやらせても心ここにあらずで危なっかしくて。

 教導にも身が入ってるようにみえなかった、研究協力でもして気分変えて来いということであっさり決められてしまって。



 ぼんやりしたままその任務を受けて、どこに行けばよいのかだけ確認して・・・内容はよく読まず。


 なんだか中央の技術研究所の、魔法医療技術研究の中心みたいなとこに呼ばれてるらしいとは理解してたけど。

 コアがどうとかの説明文は正直流し読みしてた。



 だからいきなりその研究所の受付のところでマシュー君に出迎えられたときは・・・


 気持ち的には完全に不意打ち?



 なるほどリンカーコアに関する技術の研究だからマシュー君が出てくるのはむしろ当然で、さらに直接整形術の最初の成功例だった私の

コアを精査したいというならそれも普通に予測できる話だったはずで、だけど私は多分意図的に彼のことを考えないようにしていて、だか

らここに彼がいるって当たり前の事実にすら気付かなくて、でもそれにしても。



 なんでこうして彼の顔を見ただけで。


 涙が、出てくるんだろう。





 研究所の入り口で彼の顔を見た瞬間。


 私は目からポロポロと涙を零しながら。


 ただ彼の顔を見て呆然と立ち尽くした・・・・・・














(あとがき)

 なのはさんは自分からどうこうできないタイプなので、なにか、ひょんなことでも無くては進展しない。

 しかしそういった機会やらチャンスやらアクシデントやらに恵まれるのが主人公、と。

 基本的に治療イベントの一環の話。志願実験者に応募してくるギン・スバ・ティアあたりの扱いに悩み中・・・



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十二話   迷走日記 12  レリック
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/04/10 06:13
マシュー・バニングスの日常        第八十二話








 はやてちゃんなら納得できる。


 でも今は、はやてちゃんが明らかに一線引いてる。

 それでも彼に待っててほしいとか、お互い待とうとか思ってるのかもしれないから。

 だから、そんなことを思ったらダメなんだよ!



 なんで分からないのすずかちゃん!


 なんでそんなひどいことしようとするの!

 家同士の関係とか持ち出してそんなふうにしてマシュー君を取っていこうなんて!

 しかもそんなの口実でしょ!

 本当はただ彼が欲しいだけだというのは、すずかちゃんのことなんでしょ!


 それなら私も!

 私も?

 私「も」・・・


 違うよ。

 絶対違う。

 だから違うんだって。


 ずっと混乱してた。

 彼の顔を見たとたん泣き出すくらい、もう末期。





 彼の顔をみて、立ち尽くして、硬直して、声も出ず。

 私の目からは涙がぽろぽろとあふれてきて。

 そのうち鼻も喉もつまってきてグスグスシクシクって泣き声まで出てきて。

 そんなに大声で泣き出したわけでは無いんだけど。



 彼の顔を見るなりいきなり泣き出した私を見て・・・

 マシュー君はなんだかバタバタと慌てて。




 だって考えたらここは研究所の正面入り口の受付付近。

 まず受付のお姉さんがいた(複数)

 さらに受付席のそばに守衛さんも(複数)

 入り口付近には守衛詰め所みたいのがあって、そこからこっちを遠巻きに見てる視線が(十名以下程度?)

 さらに大きな研究所の正面の出入り口なんだから、通る人多数(少なくとも十名以上)


 この衆人環視の状況でいきなり泣かれて。

 どうしたものかと迷ったらしいマシュー君は、迷った末に・・・

 いきなり私の手をとって走り出す、そのまま彼の個人的な研究室みたいな所に飛び込んだ。




☆     ☆     ☆




 ふはははは。

 てめえ泣いてんじゃねーぞコラ。

 泣きたいのはこっちだあああああ!



 あの有名な空のエースが来るというのでだな!

 いつもより人目が多かったんだよ!

 そこで俺の顔みるなり意味ありげに泣き出すとか、高度な嫌がらせかコラ!



 俺は「知る人ぞ知る」って感じで玄人筋には知られてるって程度の有名人に過ぎんが。

 お前は一般人にも空のエースとして知名度あって、管理局広報ポスターとかにも何度も出てる有名人なんだぞ!

 マジでミッドの週刊誌ネタとかにされる可能性あるぞ!

 もうちょっと慎重な行動をとってくれえええ!




 研究室に連れ込む、椅子に座らせる、飲み物持って来る。

 なんとか落ち着かせようと話しかけるのだが。


 まだ泣いてる、泣き止まない、ただぽろぽろと目から涙を流し続けて。

 潤んだ目で俺を見上げる、不覚にも少しドキっとした。


「どうしたんだよ高町・・・」


 正直焦ってて混乱してって内心を押し殺して、なんとか優しげな声を出して問いかける。


「わかんないの・・・・・・」

「わかんないってお前・・・」


 十分もすれば涙は止まり、落ち着いてくれたのだが。

 だけどやっぱり・・・普通じゃ無い精神状態だな、まだ。



 しかし基本的に高町ってやつは俺から見れば、いつも無駄に元気で。

 それで全力全開で駆け回ってて、それを横から見ながら俺が突っ込みいれるみたいな感じで。

 つまり高町が弱ってて、はかなげな感じというのは実に珍しく対応に困るのであり。


 撃墜されて入院したときは確かに弱ってたが、あの時は・・・

 俺はせいぜい、いたずらに刺激しないように、腫れ物に触れるように接していただけで。

 高町が元気でないと調子が狂う・・・


 しかし近頃、桃子さんやら姉ちゃんやらに煽られてるということは知ってるんだが。

 それでもせいぜい俺の前に来ると固まってしまう程度だったのであり。

 いきなり泣き出すとか・・・前より状態が悪化している・・・



 なにかあったのだろうか?

 あったんだろうな・・・



 で、俺はそれを尋ねるべきか?

 そうやって高町の内心に踏み込むべきか?



 あああ~~~くそ、わからん。

 こういうときはとりあえず対応を八神に任せて・・・といういつもの手が使えないのが痛い。

 くそっ! 身近に八神がいないとやっぱり色々不便だ、不便すぎる。


 はやく八神を嫁にしなくては・・・という決意を新たにする俺だったが。

 そういう将来の話は現状、役に立たない。

 結局、おっかなびっくり・・・慎重に慎重に高町に声をかけて、なんとかなだめようと努力してみる。

 なんとか三十分ほどで・・・せめて普通くらいの状態になったように見えたので・・・


「あ~っと、研究協力の内容は聞いてるか?」

 あえて事務的な話をする、そうして何かを誤魔化してたのかもしれんが正直他に手が無い。


「うん、聞いてる、けどあんまり詳しくは・・・」

 この程度の普通の受け答えはできるように、よかった助かった。


「そかそか、それじゃあ詳しい説明を」

 そうやって俺の専門分野の話を説明することで雰囲気をニュートラルにしようとしたところで。



 急に研究室のドアを叩く、ノックの音がした。

 ん? どうしたのかなと疑問に思いながら立ち上がりドアを開けると。


 そこには当研究所の受付のお姉さんが。


「えと、どうしました?」

「すいません、バニングス先生、お取り込み中だとは思ったのですが・・・」


 なんだかすごく申し訳無さそうな顔の受付嬢。


「いえいえ別に何も無いです。それで・・・」

「はい、高町二尉の研究所への通行認証がまだ済んでいないので・・・手続き上きちんとチェックさせて頂かないと・・・」

「あ」


 研究所の入り口に来た高町、出迎えた俺、俺の顔を見るなり泣き出す高町、焦って部屋に連れ込んだ俺・・・

 一連の流れを振り返ってみて今さら気付く、確かに忘れてた。


 ここは様々な機密も扱ってる研究施設で人の出入りには厳しい、正式に呼ばれて来た高町でも通行許可の認証を受けねば勝手に入ったり

してはいけないのが当然で、それを俺がいきなり連れ込んだもので手続きが済んでない、こりゃまずい、軽犯罪モノだぞ。


「しまった! すまん高町、通行許可証は貰ってきてるよな?」

「え? うん当然、えっとこれがそのためのパスで・・・」


 レイジングハートからディスプレイを開き、その情報を引き出して提示する高町。


「はい確かに。問題無いですね。気をつけてくださいよ? 無許可の立ち入りは管理局員でも禁止されてる場所ですから・・・」


 お姉さんは端末を操作して簡単に入力して、レイジングハートと少し情報のやりとりをしてすぐにOKを出してくれた。


「えと・・・すいません、これって履歴に残ってしまったりしますかね・・・」


 恐る恐る俺が聞くと。


「当然ですね。無許可侵入はそれで何もしなかったとしても軽犯罪になりますし」

「すいません! そこは俺が連れ込んだわけですし、どうにか俺が悪いってことに出来ませんか?」

「・・・実際に見ていた私たちは当然、そうだったってことは分かってますけど・・・でも規則は規則ですので・・・」

「ああ~そうですか・・・しかしなるべく・・・主に俺の失態だったって報告で・・・お願いします」


 いいながら頭を下げる。

 そういわれて困ってしまった受付のお姉さん。


「それほど大きな問題にはならないと思いますよ? バニングス先生のことですから・・・」

「いや、俺はいいんですよ、問題は高町の方で、彼女は悪くないのにですねぇ・・・」

「あら?」


 なんか意味ありげに微笑むお姉さん。


「いきなり顔を見るなり泣き出したのは、別に法律違反では無いですけど・・・そこに問題があったのは事実だと思いますよ?」

「・・・む」

「あぅぅ・・・」


 言葉に詰まる俺。下を向いて赤面してしまう高町。

 確かに高町のその唐突な行動が無ければ互いにこういうことにはならなかったのだが・・・

 そんな俺たち二人を見て、微笑ましいわね~って顔して、お姉さんはにこやかに。


「大丈夫ですから、悪いようにはしません、安心してください」


 むむ・・・確かに元からそれほど大して悪い事ってわけでもないし、大丈夫そうな雰囲気ではあるのだが。

 なんか。

 それとは別のところで大いなる問題がおきそうな気がするのはなぜだろう・・・



 それじゃあ後は若い二人に任せて、邪魔者は退散しますね~とでも言いたそうな感じで部屋から出て行くお姉さん。

 残された俺たち二人はなんとなく顔を見合わせて・・・

 とりあえず。


 研究内容の説明を・・・再開することにした。






 これは後日談になるが。



 確かに、大した問題にならなかった、不法侵入ではなく事故的に過失で入ってしまっただけって扱いにしてくれたらしい。

 それは助かったのだが・・・

 同時期、管理局の事務職女性たちの噂のネットワークに・・・

 バニングス医師と、高町二尉が「できている」という情報が駆け巡り・・・

 ほとんど確定した話みたいに扱われるようになってしまったのは・・・勘弁して欲しい所だった・・・




 結婚引退したエイミィさんから確認のメールが来たくらいだからな!


 なんで地球住まいのエイミィさんの所までその噂が行くのかと、あの受付のお姉さんを問い詰めたい!


 エイミィさんには違う! 誤解だ! と返事しておいたのだが。


 これあげるから本当のこと教えて! と結構多数の画像データが送られてきて。

 ぶは! これは・・・! フェイトさんのギリギリお宝画像・・・! ダメだ!

 こんなものは消去せねば・・・!



 寝起きの無防備なフェイトさん、寝乱れて見えそうなフェイトさん、風呂上りの美味しそうなフェイトさん・・・!



 大丈夫だよマシュー君、18禁になるような画像は絶対無いから!

 ちょっときわどいくらいの写真を持ってても罪にはならないよ~

 気にせずに受け取ってね、気に入ったらまた送るから、それでそれはそれとして、なのはちゃんとの仲は・・・


 だから本当に違います、何も無いですってばと繰り返しやっと納得して・・・くれたのかな?



 しかし、実にけしからん画像だ、実にけしからん! すぐに消去せねば!

 本当に、すぐに消去せねば! もしもこんなもんが八神に見つかったらとか想像してみろ! 死ぬぞ!

 だが消す前に一度だけ、本当に18禁な画像が無いか確認してみる必要はあるのでは無いだろうか。

 もしもそんな写真がエイミィさんに撮られてたらフェイトさんが可哀そうだからな、うん、あくまでフェイトさんのためだ!

 仕方ないから確認しよう、うむ、仕方ない。


 湯上りのフェイトさんのパジャマ姿の胸元アップの写真など火照った肌と、わずかにのぞく鎖骨のラインが実にけしからん!

 制服姿のフェイトさんが玄関で靴を履こうとして腰をかがめてるのを後ろから撮った写真など、タイトなスカートで無理やり包まれてる

豊満なヒップとか実に実にけしからん!


 とりあえずじっくりとチェックするために、俺の病院寮の部屋の私物のPCにデータを転送しておこう。

 デバイスの中の分はきちんと消しておかねば・・・デバイス内部は人に見られる危険が万一でもあるからな・・・





 オホン、それはともかく。





 高町が研究所に通うのはわずか二週間程度の予定だった。

 その間、あれこれ精査するわけだが。


 そう二週間程度だ。

 だから普通は何も無いはずだったのに。

 それでも高町がいるということが、事件を呼び寄せることになるんだろうかなあ・・・




 研究所の別棟に運び込まれていた、とあるロストロギア。




 「レリック」絡みの事件に俺が関わったのは、それが最初であり。


 そして最後では無かった。











(あとがき)

 なのはさんのターンですので戦闘イベント付随する次回。一緒に切り抜けて、その過程で気持ち整理できるかどうか。

 切り抜け方で大いに分岐する所かな? このままスカルート一直線という選択肢もありそうな部分。

 「週刊実録!クラナガン」の今週号に「エースのお相手は幼馴染の若手医師?!」という記事が載ったかどうかは定かでは無い。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十三話   迷走日記 13  レリック 2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/04/16 22:37
マシュー・バニングスの日常      第八十三話






 話は少し変わるが。


 ロストロギアというものは大抵「すげーんだけど使えねー」ことが多い。

 ものすごい使いにくいことで有名な無限書庫。

 八神がいるから制御できてるが八神いなくなったら本当に大丈夫か実は今でも疑問な闇の書。

 純粋な願いを・・・なんか変な形で、かなえてくれるというジュエルシード。


 大体がそんな感じである、多分、昔の・・・それらが作り出された時代はそれらを補助する設備が整って・・・そういった周辺設備も

全部揃っていて、もちろん正確な知識もあって、そうしてはじめて使えるものだったのだろう。

 部分的に残ってても、その残ってるパーツが使えるかといえば微妙なのだ。



 レリックというロストロギアがある。


 膨大なエネルギーを内包してる・・・本質的にはエネルギー結晶のようなもんだ。

 ジュエルシードみたいに願いに反応するとかのベクトルももたず、ほぼ純粋なエネルギー結晶。

 なぜか番号が刻まれていて、そしてかなりの数が・・・何十という数がある。

 恐らく本来の用途は、なにがしかの特別で特殊な機械とか、そういうの専用の動力源では無いかな。

 大雑把にいえばレギュラーガソリンを精製してハイオク作るみたいな魔力の精製結晶化作業を積み重ねた末に作られたものぽいから。


 でも今では正確にはわからない、ただの高純度魔力エネルギー結晶、というだけ。

 そして、その精製凝縮の方法自体が既に失われた技術で、なんでここまで高純度な魔力結晶作れたのかも今ではわからん。

 だから当然、せっかくの高純度魔力結晶でも、うまい利用法とか分からない。

 そのくせ外部から一定の強い魔力刺激を与えたら、周囲巻き込んで大爆発起こしたりする。

 規模の制御もできない、使いにくい危ない爆弾程度の価値しか無いな。


 だったら制御できる魔力攻撃でも結果は同じで。

 航行艦とかに積んでる魔力砲でも似たような結果はもたらせるし、こっちは完全に制御できるし。

 わざわざ制御法がよくわからんものを使うこたない。


 つまりレリックとは危ない爆弾もどき、しかも使えない、そういうシロモノだということだ。



 しかしそれでもなんとか使えないかな~と試行錯誤したくなるのも人のサガ。

 ロストロギアには問答無用な最悪さで封印するしかないような物が多いのに、レリックは慎重に扱えば基本大丈夫だし。

 そういうロストロギアの有効活用法を研究する分野というのも、それなりに重要な技術研究なので。


 俺の所属する第一技研にも、ロストロギア研究部門というのが当然あるわけだ。


 もっとも、ものがものだけに危険性も考えられるので、他の研究施設とは微妙に離れた位置に建物がある。

 とはいえ同じ敷地内なんだけどね。

 でも技研自体、かなーり広い敷地なので。

 その片方の端っこに、医療技術研究所など穏やかな研究所が並び・・・

 それとは逆の端っこに、ロストロギア研究所など物騒な研究所が並んでる。

 両棟の間の行き来は少ないが皆無でも無い。しかし爆発とか起こってもこっちには被害来ないように考えられてて。

 距離もあれば、間に防壁もあるし、向こうにいくには厳しいセキュリティチェックとかもある。

 ちなみに俺は行ったことが無い、無いが・・・将来的には向こうの研究ものぞけるくらいの立場が欲しいわけだな。

 我が身を治すため、そのためにより多くの情報を得るために。





 事件が起こったのは。


 高町が研究協力にここに通ってくる予定の、最終日のことであった。


 レリック・・・・・・全くロストロギアなんてのはロクなもんじゃねーな本当に。




☆     ☆     ☆







 某所における謎の会話。




「それでは、例の研究所にレリックがあるのは間違いないと?」

「はい、しかしその研究所は・・・」

「うん、彼の勤務地だね。そこには強行で乗り込むってわけにはいかないな。運び出されるまでは待ちかな。」

「それほど長い間、そこに置かれてるわけでも無いようです。運び出される日時はすぐに分かるかと。」

「運搬先は・・・郊外の専門施設になるのかな。」

「はい。ですのである程度都市部から離れた所で仕掛ければレリックを奪うこと自体はそれほど困難では無いと思われます。」

「ならば準備期間に少し余裕があるな・・・他の作戦も同時に進行するか・・・そうなると陽動も・・・」

「どう致しましょう?」

「その時の・・・彼の勤務場所にもよるかな、今はほぼ研究所勤務だというが、偶然その日だけ本局病院の方にいられたら・・・」

「今では特別に呼ばれるとき以外は戻ってないようですが。」

「・・・よし、考えがまとまったよ。」

「はい。」

「第一に運搬中のレリックを奪取する、これにはトーレとセインを向かわせよう。

 第二に本局病院のデータバンク内の情報を奪う。こちらはクアットロとドゥーエにやってもらう。

 そして二つの目的を達成するために、大規模な陽動を行う。チンクとガジェット群がその担当かな。」

「わかりました。」

「順番としては、まず陽動だ。ガジェット群で、例の研究所などを襲うように見せてそこに目を引きつける。同時にチンクは少数精鋭の

試作飛行型ガジェット(Ⅱ型実験機)を指揮して通信関連施設などランダムに破壊、通信インフラに負荷をかけ、しかる後に研究所周辺

のガジェット群と合流して、その頃には集まってきてるだろう陸士部隊などと交戦しつつ撤退、引きつける程度に動く必要はあるが、あ

くまで陽動だ、別に勝とうとしなくてよい。敵の集結速度が速ければ無理にチンク自身は前線に立つ必要も無いかな。

 チンクが通信施設をある程度破壊して、通常の通信網に混乱が起きた時点でクアットロはそれを利用して管理局の情報網に割り込み

ハッキングを試み、また通信が混乱して錯綜するように導く。このとき特に本局病院関連の情報管制を奪い、少なくとも一時的な混乱を

与え、ドゥーエが入り込める隙を作らなくてはならない。

 クアットロの通信妨害が成功した時点でドゥーエは迅速に本局病院の独立データバンクに乗り込め。リンカーコア治療関係のデータは

外部とのアクセスが完全に遮断された場所にあるから奪取できなかった、しかし一時的にでも外部とアクセスする状態になればこちらの

ものだ、強制アクセスし無線で通信し情報を奪取する形になるだろうが・・・それでも私の技術ならせいぜい数分でダウンロード完了で

きるはず、要はほんの数分の時間さえ作れれば良いのだ、実現可能性は高いだろう。

 レリックを奪い、コア整形術のデータを奪う、この二つの目的が達成できれば勝利だな。

 そのためにはやはり最初の陽動、さらにクアットロの通信妨害がどこまで出来るか、これに懸かってるな。」

「了解しました。現地を調査し、皆と相談して細部を詰めて具体案を固めて・・・もう一度ご報告にあがります。」

「頼む。」








☆     ☆     ☆



 そもそもここはレリック輸送の経由地に過ぎなかったようだ。

 やはり爆発の危険があると分かってるものだから、都市部にあるこの研究所では本格的な研究はやめたほうがよいので。

 人里離れた郊外にある、専用の研究施設まで送って、それから本格的な研究をする予定だったと。


 しかし輸送の順番上、まず遠くの遺跡で掘り出されて、そこからミッドに送られてきて、とりあえずこの研究所の担当部門とこに

もってきて、最低限の簡単な危険度の無いチェックを行って、そこから郊外の専門施設に送るという順番だったのだな。




 その日俺が何をしてたかというと・・・


 既にここまでの日程で、高町のコアの機械的精査と俺のスキルによる精査との差の擦り合わせとか、誤差率の検討とその差を小さく

するための技術的課題の発見、など色々と実際に調べる作業は終わっており、あとは主に書類整理の段階、ここまで来ると高町に実際に

研究所に来てもらう必要性は薄いのだが・・・

 一応高町にもサインして貰わなくてはならない書類も少ないながらもあったし。

 あと、やっぱり一度きちんと高町と・・・色々と話し合わんといかんと思ってたので。

 多分午前中までに片付け終わるので、午後は少し時間をくれないかと高町に言ってあった。



 午前中に仕事を終わらせ、んで一緒に研究所の食堂でメシ食って。

 午後になって俺の研究用個室に、二人で帰って。

 机を挟んで二人とも椅子に座って、向き合って、お茶を入れようとしたところで。

 高町が、お茶だったら私がいれるからと部屋の片隅の給湯コーナーに。

 とはいってもそれほど広い部屋でもないのでこちらに背を向ける程度。


 その後姿を見ながらぼんやり考える。

 うーん、俺は何を話すつもりなのかね。

 いつものように俺は八神を嫁にするつもりだって繰り返すのかね。

 それとも今度は、桃子さんあたりにもう煽るのやめてくれと俺から言おうかとか提案でも?

 前に、八神と徹底的に話し合ったときみたいに・・・高町にも言いたいこと全部言えとでも言ってみるか?


 そうなると、俺の方の、高町に言いたいことってのも言う必要があるだろが。


 しかし俺が高町に言いたいことなんてせいぜい・・・



「所詮、砲撃娘は砲撃娘に過ぎないんだから、いつものように気楽にどっかで集束砲ぶっぱなしてろくらいしか・・・」

「ひどっ!」

「おう、茶が入ったか、ごくろう」

「なんか偉そう?! しかも平気でスルー?!」

「やはり高町に気を使うのが間違いなんだよな、こういつものようにぞんざいに扱わねばいかんということか」

「そんなことないと思うよ!」


 二週間、毎日顔をあわせて、少しは雰囲気が昔通りに近くなり。

 妙に意識して硬くなってた高町に対して、俺のほうも変に気を使ってこわごわ接していたのが悪かったのかなとか。

 接する時間が多ければ、結局自然にいつも通りみたいな感じになるんだよなあ。


 うーんこの辺は八神との間にも同じことが言えると思うのだが。


 つまり中学までは俺たちは基本、学校でいつも顔を会わせてた。

 ところが卒業後はみんなバラバラ、会おうとしなくては会えない状態になって。

 顔を毎日見てれば平気なのに、たまにしか会わないから、いろいろとすれちがう。


 実際こうして普通に話してれば・・・なんというか改めて我々二人の間に存在する問題について検討しよう! とかさ。

 そう考えること自体がそもそも的外れのような気さえしてしまって。

 ずずずと茶を啜る。


「うーん、やはり無念だが美味いな」

「なんで無念なの!」 

「そういやそろそろケーキの方は触らせてもらえるようになったのか?」          (→ 四十九話)

「・・・それは無理。頑張って家で作ってみるんだけどダメ出しの嵐・・・全然お店で出せるレベルじゃないって・・・」

「確か桃子さんはヨーロッパで修行してきた本物のプロのパティシエだもんなぁ。」

「うん、昔は私がケーキ作るとそれだけで喜んでくれたのに・・・近頃は容赦無いの・・・」

「恐らく素人にしては相当上手いってレベルではあるんだろうがな、本職の人から見ればまだまだか。」

「そうなんだよね、わかってはいるんだけど」


 また茶を一啜り。


「しかしこうしてるとだなあ・・・」

「ん?」

「いや、いろいろと考えすぎて」


 いたんだよな、お互い。こうして普通にしてれば普通なのだからとかなんとか言おうとしたところで。



 ウゥ~ウゥ~ウゥ~って五月蝿い音のサイレンが鳴り。


 それに続いて。


「緊急事態。緊急事態。当研究所の周辺にテロリストと思われる戦力を確認。第二種緊急事態を宣言します。職員の皆さんは所定の

マニュアルに従って行動してください。繰り返します、緊急・・・」


 放送が繰り返される、それを聞きながら顔を見合わせる俺たち、何か話そうとする前に。

 俺のサウロン、高町のレイジングハート、両方ともに同時に通信が入った。


「バニングス先生! いまどちらですか!? 研究室? 良かった・・・」

「なにごとですか?」

「ガジェットと呼称される兵器群が当研究所の敷地周辺に展開、まだ乗り込んでくる様子は無いのですが数は少なくとも100以上、

群れの位置は今先生のおられる研究棟からは遠いので・・・とりあえずそこに待機してください、一緒に高町二尉はおられますか?」

「ええいますよ」

「高町二尉には先生を専属で護衛するようにとの命令が下されているはずですので基本、彼女の指示に従ってとにかく安全第一で、

待機お願いします。」

「わかりました」


 警備担当の人からの通信を切る。

 んで高町の方を見ると、高町もレイジングハートでの通信を切ったところだった。


「マシュー君を守れ、傷一筋もつけるな、今はそれ以外のことは考えるな集中しろ!って指示だったの。」

「俺の方もとにかく動くなってさ。まあ無理に動く気など無いが・・・」

「それにしても・・・ガジェットがこんなところに・・・」

「ん? 知ってるのか?」

「うん何度か戦ったことがある。見た目は・・・平たい甲羅に触手がたくさんついたみたいな機械兵器で・・・中にはAMFを展開する

種類もいたりしてね、それが来ると少し厄介かな・・・」

「げ! あのAMFか! そうかそれでもしかしたら通常の索敵では発見しにくいとか? こんなふうに研究所のすぐそばにいきなり

群れて現れるとか・・・なるほど、しかしそれはかなり厄介だな・・・」

「基本、それほど極端な超長距離攻撃とか出来ないから、近づいてきたと思ったら・・・今回は逃げかな、マシュー君の護衛をしなくちゃ

いけないから・・・そうなるとAMF下に入る前にマシュー君に転移してもらったほうが早い?」

「お前だったら普通に勝てるのか?」

「それでも一体に直射砲なら直撃を一発、誘導弾なら何発か、入れなくちゃいけないから・・・数が多いと手間取るね」

「ん~しかし俺が勝手に研究所内からいなくなると警備担当の人に恥かかすことにもなるからなあ・・・よし」


 立ち上がりサウロンを展開、久しぶりにジャケットもフル展開。


「なにするの?」

「動いたらいかんとは言われたが、探査してはいかんとは言われていない。AMFというのを遠くから見るとどう見えるのか、念のために

一度きちんと見ておきたいし、もしかしたら他の人には見えないものが見えるかも知れないし。なにせあのAMFだろ、俺にはかなーり

厄介だ、確認しておきたい。」

「うーん、その程度ならいいかな・・・」


 まず大雑把な周辺把握。

 自分を中心に探査魔力波を発して、レーダーのように周囲の探知を。


「・・・なるほど変なのがいるな・・・半径せいぜい数メートル程度だが球状の・・・完全にこういう魔力探知だと『見えない』空間を

展開してるのがいるな・・・しかもその群れが・・・ああ~少なくとも百と言ってたが・・・なるほど下水道を利用して移動して来てる

のかな・・・まだ増えるぞこれは・・・ぬぬぬ、今『見た』範囲より外からもまだ来てそうだ・・・」

「そんなに?」

「ちょっと待て、もう一度確認する、今度は少し力入れて・・・」

「待って! リミッター緩めるのは!」

「いや、近頃は少しずつ体、本当に良くなって来てだなあ、これまでのB程度に出力抑えてたのをA程度まで緩めても良いだろうって

話になって来てるんだよ、大丈夫、ギルさんから保証されてるから」

「本当に本当? 確認するからね?」

「本当だってば、別に切羽詰ってるわけでもないこの状況で無理はしない」


 いや本当だし。

 長い時間をかけて少しずつ少しずつ体力をつけて、ついにその程度には健康になってきているのだ。

 ただこうして徐々に徐々にって方向性だとこの辺が限界だろうというのも同時に事実だが。


 少しだけリミッター緩める。

 さてさっきはせいぜい半径一キロ以下程度をざっと調べただけなのだが。

 今度は少し遠くまで見ますか。

 再び探査を発動。

 うーんやはり多いね、うじゃうじゃいる・・・

 しかし同時に、最寄の陸士詰め所に戦力が集まって・・・こちらに向かいつつあるのも確認。

 少なくとも30分以内にはこちらに到着しそう?


 今、集まってるだけの戦力だと・・・ガジェット群を全部撃退するには足り無そうだが・・・

 頭の中で周囲の陸士部隊の位置を思い出す、まず最寄の戦力が来て、それからさらに増援が当然来て・・・

 うん、動員速度によるが余程の障害でもなければ普通に一時間以内に撃退できるだけの戦力集まるんじゃないかな?


 と安心した所で少し違和感。

 ん? 今何かを見た? なにか気になるものがあったような・・・ガジェット群とは別の場所に・・・

 何を感じたのか分からなかったが何か気になる、もう一度そちらに探査を向ける。


 ん~研究所に出入りして物資を運搬するので良く目にする認可業者の運送車両らしきのが、こことは遠ざかる方向に・・・

 それの何が気になった? 都市部から離れて郊外に出ようとしてるそのトラックのどこが・・・

 いやトラック自体が気になったんじゃない、その目指す方向に・・・


 そうだその方向にも妙に「見えない」場所があるような。

 そしてそのシチュエーションが、前にフェイトさんと一緒にエリオ君を運んでたときの。

 俺がヒドイ目にあった、あの時の状況と良く似てる?


 全方向探査ではなく、そこに集中しての特定探査なら、もっと詳しく「見る」ことができる。

 魔力による探査の場合は、対象に魔力波をぶつけて反射して返ってくる魔力波をキャッチすることで対象の形状などを正確に認識する

わけだが、対象に魔力波をぶつけても反射して返ってこない、ゆえに見えないというこの状況。しかしより大量のサーチャーを送り込んで

見えない範囲がどこか厳密に特定して行けば分かることも増えるはず。ちなみに得られた情報は脳内に視覚的イメージで再構成されるわけ

だがもちろんそれは視覚情報そのものでは無い、どちらかといえば精密な三次元線画って感じのものである。集中すればほとんど視覚映像

と変わらないレベルにまで出来るけど大抵の場合そこまで集中する必要は無い。俯瞰できれば十分なんだよな。


 とにかくちょっと気合入れてそちらを見てみようかと思ったところで。


「マシュー君!」


 高町の声が。


「っと・・・どした?」

「今ね、念のため本局病院のギル先生に確認とろうとデバイス通信しようとしたんだけど!」

「疑い深いやつめ本当なのに・・・まあそれはともかくそれで?」

「通常通信が通じないよ! それだけなら普通の通信妨害だけど、迂回して研究所内の有線通信設備にアクセスしてそこから病院の方に

つなげてみようとしても通じないの!」

「・・・ちょっと待て、試してみる」


 有線通信設備というのは当然ある。ぶっちゃけ電話に近いもんだが。

 一応俺の研究室内にも非常用として備え付けのが。

 めったに使わないそれを使ってみるも・・・


「むむ、ツー・ツーとも言わない、完全に切れてる感じだな。」

「線が切られてる?」

「・・・この研究所からのを狙って切ったのか、どっかの中継所をぶち壊しでもしたのか分からんが・・・」

「これだと陸士部隊が集まるのが・・・かなり遅くなったりしない?」

「その可能性はあるな」

「だったら・・・見える範囲のガジェット掃討にでも手を貸したほうが良くないかな・・・私たちならここから動かずに一方的に、

ガジェット群の掃討ができると思うんだけど・・・」

「まあ確かにな。しかしさっきちょっと気になるものが見えてだな・・・だがこの念入りな通信封鎖も気になるし・・・でも目の前の

ガジェットも無視するのはどうなのか・・・さてどうするか・・・」










(あとがき)

 三つの選択肢のどれかで分岐するのかな。さて、どこを第一に優先するか。あまり無理して出すぎると捕まるのかなw

 実は大規模な囮に過ぎないガジェットシューティングをのんびりやってると色々奪われる、と。

 使うの久しぶりですけど本来マシューは、探査魔法こそが一番得意です。この設定持ってくるの本当に久しぶりだw



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十四話   迷走日記 14  レリック 3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/04/22 07:39
マシュー・バニングスの日常       第八十四話







 ガジェットは刻一刻と数を増やしている。


 うーん、こいつらの侵入経路は下水道かな・・・

 そこ狙って、高町の砲撃を俺が転送して潰せば、これ以上数が増えることは無いだろな。

 その上で、あとはコツコツと潰していくか?


 しかし今のところ、ガジェットの群れはひたすらうじゃうじゃと集まるばかりで研究所の敷地内に入ろうとするそぶりも見せん。

 敷地内の警備部隊とにらみ合い状態、でも、それに抑止されてるって感じでも無いんだよな、悪いけど。

 あの数で一気に来たら、おそらく警備部隊程度の戦力では持ちこたえられない。

 それは既に十分くらい前から? 数的にはそういう状態だった。

 なのにさらに戦力追加されるばかりで、ひたすら、にらみ合いの維持。


「分からんな・・・何が目的だ? この研究所に何かあるのか?」

「心当たりとか無いの?」

「いや・・・ロストロギア研究棟とかさ、何があるのか俺も隅々まで知ってるわけでも無いし・・・何かあるのかも知れんが・・・」

「もしかしたら『レリック』があるのかも・・・」

「レリック?」

「うん、そういう名前の結晶状のロストロギアで・・・ガジェット絡みの事件は大体、レリック絡みでもあって・・・ただ、その両者の

因果関係とかは良く分かってないんだけど・・・」

「しかしそれがあるとしてもおかしくないか? それを奪うのが目的なら・・・なんで侵入してこない?」

「それは・・・良く分からないんだけど・・・」

「うーん・・・」


 分からないときはとりあえず情報収集だな。

 もう一度探査。

 しかし先ほど見えた、当研究所から出て行ったところらしいトラックがどうも気になるのでまずはそちらから。


 集中してそちらにサーチャーを多数(俺の場合は一度に数十単位で)送り込む。

 うーん探査魔法的に「見えない」範囲に完全にトラックが入ってしまった?

 既に市街地から数百M程度離れて、野中の一本道みたいなハイウェイ部分に「見えない」領域が・・・


 ああ~これは見てても無駄かな・・・

 AMF範囲外くらいに転移して行けば視認できるので何が起こってるのか分かるんだろが。

 しかし俺が勝手に動くと、責任取らされるのがまず高町であり、またここの警備の人たちであり・・・

 そういうマネはできんわな。


 あきらめようかと思ったそのとき。


 急に、AMF範囲外、「見える」範囲に、ゴツいスーツケースみたいなのが?

 ゴロゴロとかなりの勢いで転がって出て来た。

 そのままAMF範囲外に30mほど転がり出て、そこで止まる。


 そしてそれを追ってAMF範囲内から、一人の女性がケースに駆け寄る。

 どっかで見たかな・・・って! あいつ!

 前にエリオ君搬送中に襲ってきた武闘派の女だ!


 その女がそのまま駆け寄ってケースを手にしようとしてるのを見た俺は。

 咄嗟にその周辺のサーチャーをその周囲に集中、座標の正確な特定、目標物の質量形状容積なども正確に計測!

 転送術式発動!

 遠距離でサーチャーを介した間接転送だから時間はかかるがそれでも俺の場合はほんの2秒程で可能!


 転送の魔方陣が出るのをみて焦ったらしい女が手を伸ばして今にも届きそうになったタイミングで!


 ブンっと音がして完全に転送成功、俺の研究室の机上にそのケースが現れる。

 目の前でケースを奪われた例の女は。

 周囲を見回し、どこにいったかわからず、悔しそうな顔して地団太踏んでいるww


 ふははははは。ざまぁwww


 この前、好き勝手やってくれたリベンジ成功!

 ユカイな気持ちで探査を切る。ふん、どこから見られてたかも分かるまい。

 俺のサーチは異常に魔力密度が薄いからな。


 そうと知ってて意図的に逆探知せねば見つからん、現状それはシャマルさんくらいしか不可能だ。



「このケースは!」


 高町の声に、俺も改めて机上のケースを見る。


「なんだか怪しいやつが奪おうとしてたみたいだから取りあえず持ってきた。なんだろこれ?」

「遠距離で間接の対象特定転送・・・また腕、上がってない?」

「うむ。精進してるからな。ところでこれは? 心当たりある?」

「開けてみないと断言できないけど・・・多分これレリックケースだよ」

「ほほう。噂のレリックか。うーん、さてどうするかなこれ」

「え? 普通に返すべき部署に返却すれば良いんじゃないの?」

「その際、俺が勝手に取り返したとか人に知られるとなー。色々面倒だ、とりあえず怪しいやつにさえ渡らなければ良いから・・・」

「どうする気?」

「・・・あのガジェットの群れが掃討されて残骸だらけになったタイミングで、そっとその片隅にまた転送しよう。そうすれば自然に

現場検証の人たちが見つけるだろうし、そうなれば然るべき筋に返却されるだろー」

「うーん・・・いいのかなそれで・・・」

「陸士部隊に渡れば、そっからまた陸の古代遺失物管理課とかに行くだろ、それで問題ないと思うぞ。これを奪おうとしてた怪しい連中

のいた現場は・・・少し遠いから不安だしな、まああいつらがいなくなってAMF解除されて現場の状況が分かったら、どこかその近く

に紛れ込ませてそっと置いておくという手もありかな。」

「えぇ~・・・でもさ・・・」


 とかなんとか高町が言おうとしたとき。


 再び、ウゥ~ウゥ~って五月蝿いサイレンの音が。


 今度は何だ?




☆     ☆     ☆




 都市部を抜けて、周囲に道路以外なくなり、さらに丘と藪の陰になって都市側から見えにくい場所に目標の運送車両が来た時点で。

 牽引してる後部貨物コンテナのタイヤを狙って攻撃。

 後部のタイヤを両方破壊され、後ろ半分を路上に引きずり強制的に停止させられるトラック。

 護衛も同乗してるはずだが、多くて十人程度。

 AMF下で、不意打ちなら、平均的陸士くらい何人いても、戦闘機人の中でも前線戦闘に特化してるトーレの敵では無い。

 貨物コンテナ後端の扉を破壊、中から護衛が飛び出してくるがほとんど一瞬で全員片付ける。

 別に殺すつもりは無いが死んでも構わない程度の攻撃で。さらに運転手も眠らせて。


 目標のレリックケースはすぐ分かる位置にあり、それを確保、と。

 後はこれをセインに渡して、さらに私も撤退すれば終わり、実に簡単な仕事だ。


 気を抜いたそのとき。


 いきなりトラックの魔力燃料タンクが爆発した!


 それに煽られて、レリックケースを手放してしまう、ゴロゴロと転がってAMF範囲内から出てしまった。

 私は無傷。完全に防御した。

 これはイレギュラー、燃料タンクに引火とか簡単にするものではないのに。

 しかしこういう事故に車があったとき、そういうことが絶対に起こらないかといえばやはり起こることもあるという程度の不運。

 爆発に巻き込まれて、私が叩きのめした連中のうち何人か・・・助かるはずの者が助からなくなった可能性はあるが。

 そこまで気にする必要性が、私には無い。


 転がって、止まったレリックケースに駆け寄って・・・

 え?

 これはミッド式の転送陣?! 近くに魔導師が? しまった気付かなかった! 油断・・・!!!

 焦りながらも全速でケースに手を伸ばしたが届かず・・・!


 持って行かれてしまった・・・!!


 っく! どこだ? どこから見ている? どこに転送した?

 ダメだ、私は戦闘特化タイプで・・・こういうときの索敵とかほとんど出来ない。


 だがそれほど遠くに転送できたわけが無いということだけは分かる、緊急に対応して転送しただけのはずだから・・・

 探せば近くに術者が隠れているはずなのだが・・・しかし当ても無く探して見つかるわけも無い・・・どうしたものか。


 とりあえず全体の情報を集めて指示する役も兼ねてるクアットロに緊急で連絡を入れよう・・・





 トーレ姉様からの連絡を受けて情報を分析。


 ・・・それは普通の転送魔法では無い。展開された術式自体は普通のミッド魔法の改良版程度だったけど。


 展開速度が違うし、周囲に全く術者の影も形も無い位置から見事にケースだけ特定して転送した点などから・・・


 実験して改良中とかの開発中の魔法? 何にしても普通ではなく・・・


 そういう魔法が存在し得る場所は?


 やはりレリックが先ほどまで存在していた研究所しか無い。そこから運ばれてきたレリックを奪おうとしたのだから、それに対して

逆襲して奪い返そうとする動機があるのはそこしかない。

 もちろん全然別の第三者が介入した可能性とかもあるけど・・・今の場合はそこまで考えても仕方ないだろう。

 レリックを奪い返した者達は、結構広い研究所内のどこにいるか?


 それは正確にはわからないけど・・・少なくともロストロギア研究関係の人間であることだけは間違いないのだから。

 そこを制圧すれば手がかりくらいは見つかるだろう。

 研究所周辺のガジェット群、こちらから攻め込むつもりはなかったんだけど・・・

 この際、仕方ない。


 攻撃目標、ロストロギア研究棟、制圧し情報収集しレリックを、最低でも手がかりくらいは掴む!


 クアットロは実際の任務に当たると結構視野が狭くなり、目的達成以外のことは考えなくなるタイプだった・・・





☆     ☆     ☆





 まずい!

 いきなりガジェット群が研究所敷地内への侵入を開始!?

 これは・・・もしかして、レリック奪われたことへの報復とか?


 こちらから何もしなければ向こうも何もしなさそうな、にらみ合いが続く雰囲気だったのを・・・


 その微妙な均衡を破ってしまう一石を・・・俺が投じてしまった?


 まずい、実にまずい、責任を感じる。



 俺は立ち上がり、研究室の窓を全開に、今の雰囲気に合わない快晴の空が目にまぶしい、そちらを指差しながら。


「高町! その窓から空に向かって! まずお前の最大砲撃一発派手なの撃ってくれ!」

「・・・本気で撃つと窓が壊れるかも?」

「かまわん、頼む!」

「了解」


 こういうとき高町は、任務に従って俺の安全を確保するだけでよいという考え方をしない。

 助ける力がある、助けられる方法がある、だったら助けるべきだという彼女の信念は揺るがない。

 さっきから本当は研究所の防衛部隊に援護したくてたまらなかったんだよな、だから話が早い。


 レイジングハート展開、カートリッジ装填、そこから魔力を溜めて溜めて・・・


「行くよマシュー君、うまくあわせてよ!」

「誰に言ってる、早く撃て!」


 両足をしっかり踏みしめ、姿勢を整え、複雑な意匠の紅い杖の先端に集束した魔力を一気に解き放つ!


「スターライト・ブレイカー!」

「砲撃・・・転送!」


 うぬ・・・こらーきついな、前にやったときよりも威力も速度も上がっててギリギリだった。

 高町の撃ち出した桜色の光は、窓にヒビを入れながら、何も無い空に向かって飛んで行こうとしたところで、俺の転送陣に突入して

全く別の場所に転送される。具体的には、ガジェット群の侵入経路となってる下水道の縦穴部分を上から斜めに貫く軌道にいきなり出現、

地上の数体、縦穴内部の十数体、さらに下水道内部の十数体を吹き飛ばし、さらに縦穴から下水道にかけてのかなりの部分の地盤に衝撃を

与えて崩落を起こし十数メートルにわたって土砂で埋め尽くし、通路を遮断する。

 ガジェット達が展開してるAMFなどものともしない集束砲・・・エースの名前は伊達じゃ無い。


「侵入経路の遮断に成功したが・・・念のためだ、さっきのほど強くなくて良いが3発ほど頼む。」

「うん分かった・・・・・・ディバイン・バスター!」


 3発連続で撃たれた砲撃を連続で転送し、縦穴付近を角度を変えながら掃射、周辺のガジェットを吹き飛ばしながら通路を完全に遮断。

 ここまではいい、あとはどうするべきかと探査魔法を発動。


「・・・っち! AMFで覆われてて一体一体の位置が正確には『見えない』。誘導弾を出してもらってそれを動かしてピンポイントに

倒していくのは難しいか・・・味方の警備部隊に当たらない位置と角度を計算しながら水平掃射を連続が一番効率良いかな・・・味方を

巻き込まないようにするのが難しい、慎重に行く・・・よし、まず一発撃ってくれ。」

「了解、いくよ!」


 味方の警備部隊に間違っても当たらない位置から水平にガジェット群を薙ぎ払う位置に高町の砲撃を転送。

 貫通力が並で無いので角度を間違わなければ・・・一発で十体近くに損傷を与えてるようだ・・・そのうち全損して機能停止してるのは

せいぜい数体かも知れないが、見えない位置からいきなり飛んでくる砲撃に敵は防御も回避もするヒマが無く、指揮系統が混乱しつつある

ようにも見える。もっとも味方もどこからの援護かといぶかしく思ってるようだが。


 さらにそこから慎重に一発ずつ、高町に撃ってもらい、転送しというのを繰り返し。

 十発ほど撃ち終わり、敵ガジェット群の10%ほどが機能停止、30%ほども中破程度の損傷が行ったかなというくらいに。

 なったとき、また戦況が変わる。



☆     ☆     ☆



 何がどうなっているの!

 この研究所が・・・こんなに凄い防衛能力を持ってるなんて事前情報に無かった!

 一体なんなの! あのいきなり飛んでくる砲撃は!

 術者の位置が全く見えない、ただいきなり絶妙な位置から絶妙な角度で打ち出されてきてガジェットは何も出来ずに倒される。

 陸士部隊が来る前にカタをつけるだけの戦力差があったはずなのに・・・逆にこのままではその前にこちらが全滅しかねない。



 ここは撤退するべきだろうか。


 レリックを奪い返せないのは痛いが、元々この研究所敷地内への攻撃というのも、なるべくしない方向でと事前に言われていたし、その

理由はドクターの気に入ってる研究者がいるからという理由だったはずだけど実はそれも単なる建前で・・・実際にはこういうふうにそう

簡単には攻め落とせないだけの防衛力を持っていたから? いやそれならそうと教えられていたはずだし調査した限りでも、普通程度の

警備が敷かれている以上に特徴など無かったはずなのに・・・


 考えているうちに二件の報告が連続して入ってくる。


fromチンク

【通信中継所は予定数の破壊を完了。予定通り、今から研究所周辺のガジェット群に合流する】


fromドゥーエ

【目的データを発見。通信準備完了。受信OK?】


 ドゥーエの方には速攻でOKと返事するだけで良いので問題ない。コア形成術のデータ奪取というこちらの目的は上手くいきそうだ。

 しかし問題はチンクの方。今から既に半壊しつつあるガジェット部隊に合流させても・・・意味があるだろうか?

 チンクが来れば研究所を確実に落とせるか? いやそれも困難だろう。彼女も近距離から中距離の戦闘タイプで・・・どこから撃って

来てるのか全く分からない強力な砲撃という当面の敵相手に有効だとは思えない。


 レリックを奪われて手持ち無沙汰なトーレ・セインを併せても・・・トーレは接近戦タイプだし、セインはそもそも戦闘タイプでは無く

特殊な移動スキルを持つのが取り得の補助型・・・索敵が得意なのはむしろクアットロ自身なのだが、自分はデータの確実な受信と保存、

さらに全体の情報管制と指揮、ガジェット群の統御も同時に行わねばならず・・・とても前線に出て索敵までしてるヒマが無い。


 ガジェット群の侵入経路が壊されたのも痛い。もちろんその場合の他の侵入・撤退経路の想定もしているが、そこは当然少し遠くて、

またそこを使うとバレたらピンポイントで狙われるだろう、最悪通路の全てがふさがれれば・・・チンクの退路がなくなるかも知れない、

消耗品であるガジェットと違い、強力な戦闘機人であるチンクたちは使い捨てになど出来ない、リスクが高すぎる。


 しかし迷った。こういった派手な作戦行動は久しぶりで、しかも前線部隊の指揮権を委ねられたのも初めてで、どうしても成功した

かったのだ。ここで何の成果も挙げずに撤退するわけには・・・

 迷うクアットロの元に再びメールが。

 それが彼女から迷いを消した。


from Doctor

【研究所への侵入は避けろ。重ねて『上』から命じられた】


 ・・・ならば、仕方ない。命令に従う。


 ここからは撤退作戦と行こう。


 一区画ほど離れた位置にある下水道の入り口、経路の第二候補目掛けて動くようガジェット群全体に指示。

 同時に、チンク、トーレ、セインにも撤退指示。

 身軽な3人ならすぐに撤退できるだろう、ガジェットの撤退は狭い通路を使うので手間取るだろうがそれで良い、囮だ。


 撤退指示を出してすぐに、本局病院データバンクからのデータのロードが終わる、幸先が良い。

 ロード完了をドゥーエに連絡、彼女も迅速に撤退に移る。彼女は外面偽装・潜入工作のプロ、バニングス医師が相手でもなければまず

見抜かれるということは無い。証拠隠滅も抜かりが無いだろう。


 レリックがどこに行ったのかは分からなかったけど・・・目的の半分を達成できたのだから完全な失敗でも無い、か・・・


 クアットロは軽く溜め息をついた。










(あとがき)

 トーレの好感度が下がった! クアットロの好感度が凄く下がった! でもまだ隠しパラメータの段階だし気にしないで良い。

 ミニゲーム「ガジェットシューティング」。制限時間内に一定基準をクリアするのがアリサルート開放の条件の一つだったりとかw

 これは事後処理のほうが手間取りそうですね。そもそもこれは勝ちと言えるのか?



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十五話   迷走日記 15  レリック 4
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/04/26 07:12
マシュー・バニングスの日常      第八十五話







 状況がまた変わる。


 ガジェット群が研究所内への侵入を諦め、別方向に向かってまとまって動き出す。

 どこに向かうのか最初は分からなかったが、下水道地下通路に入っていくのを見て撤退かと理解。


 この段階になると陸士部隊も現場に到着し始め、逃げ腰のガジェット群に対する攻撃が始まり・・・


 うん、普通に優勢だ。もう勝てるね間違いない。



「敵は退却しつつあるな・・・味方の増援も来たし、これ以上、余計な手出しはしない方が良いかな?」

「うーん・・・できれば援護したいけど・・・でもマシュー君に前線についてきてもらうわけにはいかないし・・・」

「そだな、まあ一応念のためにもう一度、あちこち探査してみるよ。不慮の事態が無いかどうか・・・」



 再び探査発動。


 ガジェット群と陸士部隊の戦いは一方的に陸士側が優勢だな、これ。問題無し。

 敵が逃げ腰なのと、倒さずとも刻一刻と敵は撤退して数が減ってくのと。




 あとはレリックを運んでいたトラックの方の現場はどうかな・・・


 おや既にAMFが解除されてる。トラックは後ろを引きずって停止して・・・炎上してる!

 しかも! 周囲に怪我人がバラバラと倒れてる! 意識のある人もいるようで頑張って怪我人を運んでる様子も!

 しかし意識不明の重態ぽい人も5人くらいいる! これは・・・


「あちゃー・・・すまん高町」

「ん? なに? どうしたの?」

「今から救急隊を呼んで行ってもらうのでは間に合わないぽい負傷者が・・・俺が行かねば・・・」

「すぐに行かなきゃ!」


 何の迷いも無くそう返事して俺に詰め寄る高町。


「いや、俺が勝手に動いて危険かもしれない場所に行けば多分、実際に責任取らされるのは護衛のお前・・・」

「それがどうしたの! 助けなきゃいけない人がいるんでしょ! ほら私ごと転送して! できるんでしょ急いで!」


 彼女の目は全く曇り無く純粋で。

 なんだこいつは全然変わってないんだ、魔法を使って人を助けたいと決めた幼い日、あの頃のまま。

 それがなんだか嬉しくて微笑みながら。


 俺は高町ごと運送車両襲撃現場に転移した。






 治療ってのは何よりも、早くしなくてはならない。

 ほんの数分の差で助かるかダメかが決まる。

 心臓が止まっても呼吸が止まっても、心肺蘇生を迅速に行えば助かる。

 だがそこでためらってほんの一分無駄にしただけで死ぬか重度の障害が残るか。



 転移、突然の出現に驚く現場の人たちに医者だ! と怒鳴って怪我人チェック、現場の怪我人は護衛・運転手併せて12名全員。

 そのうち意識不明者5名、かろうじて呼吸してるの3名、本当にヤバイのが2名!


 外傷多数、火傷もひどい、だがそれよりもまず心肺蘇生、これは物理的にも行えるがこういうときのための治癒魔法!

 素人が使えば単に漠然と体力回復くらいしかしないもんだがこちとらプロだ!

 狙いを絞り極度の刺激を与えず精妙に治癒すべきポイントだけに・・・絶対に助ける!


 よし・・・最低限回復・・・他の意識不明者も・・・


 テキパキと処置、よし、これで大丈夫だな、現場で出来ることは限界、急患だし転送許可もらえるだろ、連絡しよう。



 と、思ったら。軽傷の人が既に通報してたそうだ。

 既に救急ヘリがこちらに向かってる、5分も経たずに着くと。



「それなら・・・大丈夫かな・・・救急設備の整ったヘリで運んだ方が・・・強引に転移して連れていっても受け入れ態勢をそれから

整えなくてはいけないから、どっちが良いか微妙だし・・・」

「本当にありがとうございました、先生! って・・・あれ? もしかして」

「はい?」

「バニングス先生ですか?! うわ・・・本当にすいませんわざわざ!」

「いえ、偶然私が最初に発見しただけですので。それにこちらの2名は本当に・・・危なかったですし」

「マシュー君、ちょっといい?」

「ん? なんだ高町?」

「うわ! そちらは高町二尉?! 凄い人たちが・・・あ、すいませんお話邪魔して」

「いえ・・・マシュー君、ここ来てから周囲の探査した?」

「あ、してないな、治療優先で」

「うんそれでいいと思うけど・・・念のため周囲をざっと見てくれない? 何か違和感があるの」

「了解っと・・・・・・ん?」

「なにかあった?」

「いや・・・なんだろあれ・・・わからん・・・ちょっと見てくれ、そっちにデータと座標送る」

「うん、って・・・ほんとだなんだろこれ・・・何かが埋まってるの?」

「こっちからリアルタイムでつなぐぞ・・・ほら見てみ」

「んん? 地面の下で・・・動いてる? 本当になんだろう?」

「なんか埋まってるだけかと思えば・・・動いてるのがわけわからんな・・・あやしい・・・」

「あやしいね・・・」

「良くわからんけど襲撃犯の一味?」

「うーん・・・軽く一発撃ってみる、座標だけ最新の更新し続けといて」

「了解」


 高町は溜めの無い、軽い砲撃を当該座標に向けて発射。それでも並の砲撃ではないのだが。


「当たった? ・・・かと思えば沈んだ? 遠ざかってく・・・地面の下だから見えにくいな・・・」

「見えなくなった? なんだったんだろう?」

「うーん・・・分からんとしか言えん・・・」


 どっかで見たような気がするのだがこのときは思い出せず・・・

 二人で首をかしげてると救急ヘリが到着。

 救急隊の人に容態説明と引継ぎして、どうやら重態の人たちも助かりそうだと確認したところで。


「考えてても仕方ない、か。とりあえず帰るか」

「そうだね・・・本当になんだったんだろう」

「しかし・・・一連の事態をどう報告したら良いのか・・・頭が痛いな・・・」

「あう・・・それを今、思い出させないでよ・・・」


 二人は来たときと同じように迅速に転移して帰っていった。







 無機物の中を泳ぐように潜行し移動する特殊なスキル「ディープダイバー」を持つ戦闘機人セインは。

 なんとか直撃を避けることには成功したものの、潜行中を見抜かれてしかも撃たれるという事態に肝を冷やしながら。

 現場で起こったことを報告するために、そのまま帰還の途についた。










○○年△月□○日




 あれからの経緯を軽く説明すると。

 まずレリックは無事に、気付かれないうちにそっと返すのに成功した。

 あとは知らんよ興味無い、俺の管轄では無いだろう。



 俺と高町の独断行動については・・・ああやっぱりって感じだったのだが・・・


 今、重要な研究を進めてて大いに上から期待されてる俺の方は「頼むから危険なことしないでくれ」と上司とか警備の人たちとかから

泣いて頼まれて、俺も「本当にすいませんでした」と謝罪して軽く譴責食らう程度で許されたのだが。


 高町は・・・護衛に徹しろと命じられていたのに勝手な援護攻撃に、護衛対象が危険性があるかもしれない場所に出るのを止めなかった

ことにと、その両者についての責任を・・・ほぼ全て取らされて・・・ギリギリ降格までは行かなかったのだが・・・まず厳重な譴責を

食らって、さらに減給六ヶ月に、おまけにしばらく謹慎してろってことで停職三ヶ月まで。これまで高町が受けた処分の中で、一番重い

処罰だったそうなのだが・・・



 しかし高町は平気で笑っている。

 自分は間違ったことはしていない!って信念は揺るがない。

 だけど俺は微妙に責任を感じざるを得ない。





 さらに・・・俺がショックを受けたことがあり・・・


 事件が起こった時に、なんと本局病院リンカーコア障害治療部の専用独立データ倉庫に侵入者が来た形跡があったというのだ。

 それしか分からない、つまり侵入者が・・・「いたかも知れない」程度しか分からない。

 証拠の隠滅が完璧で、データを不正にコピーしたのでは無いかとかそれをどこかに勝手に転送したのでは無いかとか。


 疑われるのだが分からない、ただ状況証拠として・・・その日は休みだったはずの一人の職員が来ていたこと、その職員はデータ倉庫に

入る権限を持っていたのだが特に用も無かったはずだったのに入ったらしいこと、ただそれも曖昧な目撃証言しか無く確実では無いこと、

その職員専用のキーの位置がいつも置いてある場所から微妙にずれて置かれていたらしいことなどしか分からない。


 データ倉庫の扉の開閉記録とか、キーに自動で残るはずの使用履歴記録とか・・・加工され消されたような跡がある・・・ような気が

すると専門の調査官の人が自信無さげに言っていた。既知のデータ改竄技術とは明らかにレベルが違う・・・知られていないような高度

の技術によって加工されたような感じはするのだが・・・しかし正確には分からないとのことだ。


 それほど高度な技術を持つ犯罪者とかいるのかも疑問であるし・・・


 分からない、分からないのだが。


 嫌な予感しかしない。


 多分・・・盗まれてる。外部に流出したことの無いリンカーコア直接整形の詳細な記録データが・・・

 やられたな、こっちが本命だったのか?

 それともそれぞれ別だったのか? レリックを奪う方と・・・いやそれにしてはタイミングが・・・


 分からないけど多分最悪の直感が当たってる気がする。




 ハァ・・・




 高町はかなりの処罰を食らうし。

 悪用することしか考えて無さそうな悪人に、治療のための貴重なデータは盗まれたぽいし。


 あああ・・・


「参るなぁ・・・本当にたまらんわ・・・」


 俺が病院寮の私室でデータの確認チェックとかしながら呟くと。


「でも分からないじゃない? 本当に盗まれたのか・・・」


 キッチンの方から料理の音に混じって高町が返事してくる。


「いやお前は正直言ってどう思う? あんだけ怪しい状況証拠揃ってて何も無かったとか思うか?」

「それは・・・私も正直に言うと・・・」

「だろ」


 停職中の高町との会話であるが。

 なんでこういう状況に至ったのかというと・・・



 高町が研究所に出勤する義務のあった期間は終わったのだが、そのあとで・・・

 事態の収拾をつけるため報告とか処理とか一緒にしなくてはいけないことが多くて。

 あれからさらに十日ほど、常に無いほど高町と共に行動してた。


 で、一段落して、なんとか事後処理終わったところで。

 俺の方は連続して、今度は他の被術者の検査とかあったのだが。

 高町の方は停職食らったのでしばらくヒマで。



 ヒマだからってんでなぜか遊びに来る高町。

 研究所に来るたびにどんどん悪化していく周囲の誤解!



 用が終わったはずなのに会いに来てる!

 バニングス先生のファーストネームを呼ぶような仲だしね・・・

 やっぱり噂通りなのかな? これってスクープ?

 スキャンダル・・・ってことは無いわね、普通にお似合いだし。

 昔からバニングス先生が担当だったらしいし、だったらなんだ別に驚くほどのことでも無いね。

 いいなあ私も彼氏欲しい。

 などなど無責任な周囲の皆さんの囁き声が嫌でも聞こえてくる!




 本局病院のギルさんの方からも。

 なんだ八神さんとは別れたのか? それで高町さんの方に? それならそれも分かるけどなぁとか言われてしまって。


 しかしだな、今回の一連の事件では、結果的に高町にかなり負担かけて責任取らせてしまって負い目があって。

 それに今の高町にとっては身近に気軽に遊びにいける友達ってのがね・・・姉ちゃんはアメリカ、月村さんはドイツ、八神とフェイト

さんはミッドでどちらも忙しい、ユーノも無限書庫勤務はかなり忙しい。

 その点、俺は、基本的に時間の余裕の多い大学生でもあり、ミッドでの研究も無理せず余裕見ながらやってるので・・・

 一番、会いにきやすいという環境ではあるのだ。



 こうしてよく顔をあわせて話をしてると。

 前も思ったとおり、やっぱり普通にしてれば普通だ。

 高町は高町で、そのキャラが変わってるわけでもない、むしろ愚直なほど昔と同じ。

 気楽に軽口を叩けるし、俺も全然気を使わずリラックスして一緒にいれるし、つまり正直言えば普通に楽しいわけだ。


 ここでいきなり「八神に誤解されるのイヤだから来るな」とか?

 改まって言うのもおかしい雰囲気なのだな。




 でまあ俺の方も、コア整形術のデータが盗まれたっぽくて落ち込んだりしてだなあ・・・

 へこんでる俺を見て、純粋な好意で、じゃあ今度、ご飯作りに行ってあげる! とか言われると。

 それやこれや、あれやこれや、つまるとこ無碍に断る理由が思いつかず。



 病院寮で、高町の作ってくれた夕食を食いながら二人で話しているという現状に至ったわけだ。





☆     ☆     ☆




 研究協力のため研究所に来た日から、一ヶ月近く。

 これまでに無いほどに一緒の時間をマシュー君と過ごしてた。

 最初はまたギクシャクしてた。

 お母さんに言われたこととか思い出して変に意識してしまったり。


 でもね。

 一緒にいる時間が増えれば自然に昔通りになってきて。

 うん、やっぱりそうじゃない。


 無理することは無いんだ、私たちは友達。

 そうであって別に全然問題無い。

 それも間違いなく本当なんだけど。



 でもね・・・



 一回、極端に意識して。

 そこからまた冷静になって。

 普通に親しく過ごす時間を持ってみると。


 いつの間にか。

 前は無理に認めないように意地を張っていた気持ちが。

 認められるようになっていた。


 だから今日は、それを言う日なの。


 それでどうなるのか分からないんだけど。






 ご飯を食べ終わって、食後のお茶を入れる。

 マシュー君の好きな軽い焼き菓子も持ってきたの。


 そして私は彼と卓を挟んで向かい側に座って、改めて笑顔で彼に話しかける。


「ねえマシュー君、ちょっといいかな」

「なんだよ?」

「聞いて欲しいことがあるんだけど」

「なにを改まって・・・」

「私ね・・・・・・










(あとがき)

 セインの好感度も下がった! スカさんに情報がかなり流れた! スカさんルート突入確率が上がった!

 レリック輸送車両襲撃現場の方は置いといて、通信妨害の方に注意してれば本局病院の方に行けたのかな。

 その場合はドゥーエの好感度がダダ下がりしたんでしょうが。次回で、なのはのターンは一段落する予定。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十六話   迷走日記 16  レリック 5
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/04/30 00:11
マシュー・バニングスの日常     第八十六話







「私ね、マシュー君のこと・・・好き」



 言った瞬間、固まるマシュー君。

 うーん面白い、完全に硬直して目を見開いて。

 動揺してるね。でも続きがあるの。



「かも」



 聞いた瞬間、ずっこけるマシュー君。



「はい?」

「だから、好きかも。好きなのかな? どうなんだろ?」



 立ち直って、かぶりを振りながら後ろ頭をガリガリ掻いてこっちを呆れた目で見て。



「ああ~~~ビビったぞコラ。結局そうくるか。ふぅ・・・所詮は高町か」

「ひどーい。でもね、これが正直な気持ちなの。良く分からないんだよね」

「で、それを言ってどうしようと言うのだ」

「良く分からない、だから相談してるの。どうしたらいいんだろ?」

「あのな・・・俺本人に相談するのは何か間違ってるのではないかと思うぞ・・・」


 私もそう思わないことは無いんだけど事情があるの。


「お母さんがね」

「ん? 桃子さんが?」

「お母さんがひどいんだよ、近頃ずっと。ユーノ君は私を好きで、私はマシュー君を好きな疑いがあって、これまでは、はやてちゃんに

遠慮して自分の気持ちを抑えていただけだって言うんだよ」

「・・・で、お前はどう思ってるんだ?」

「わかんないの」

「むむ・・・」

「それで・・・こういうこと・・・きっと本当は、本当に他人事だったら・・・はやてちゃんに相談するのが良いような気がするんだけど

なにせ問題になってるのがマシュー君のことだし、相談なんてできなくて、だからアリサちゃんも相談相手にできないし、フェイトちゃ

んはこういうことではあんまり頼りにならないし・・・ほら、もうマシュー君に相談するくらいしか無いじゃない?」


 これは私なりに考え抜いた意見なの。

 でもそれに対するマシュー君の答えは・・・


「いや、それだったら月村さんに相談すればいいんでね? あの人が一番冷静で客観的な・・・」


 彼の表情を確認すると、うん、真剣だ。ふざけていない、他意無く真面目に言ってる・・・あきれた・・・


「・・・へぇ」

「なんだその冷たい返事は」

「ふぅん、なるほどね・・・」

「な、なんだよ!」


 本当に、あきれた!

 マシュー君ならとか思って過大評価してたんだ、私。

 男の子というのはこんなに・・・バカなんだ。マシュー君でも。


 なにを見事にすずかちゃんに・・・騙されてるわけ?

 家同士でそんな話が出てるだけだから・・・私たちは実際には単なる友達だし・・・意識することないよ、これまで通りでとか。

 そういいながら確実に距離を詰めてきてるすずかちゃんの、手のひらの上で踊らされて、気付いてないの?


 ああ本当にバカ。


 バカ過ぎて。


「だから分かんないんだよね。本当に私、マシュー君のこと、好きなのかどうか・・・」

「だから、がどこに係ってるのか良く分からんのだが」

「マシュー君が、そうだから、そんなマシュー君を私は本当に好きなのか? わかんないの」

「いやすまん、やっぱりわからんのだが」

「ううん、いいの!」

「いやお前だけ納得されても」

「私は!」


 言いながら、姿勢を正し、マシュー君の目をまっすぐ見た。

 こんなふうに正面から彼を見るのは久しぶりだ。


「私は、マシュー君を、好きかもしれない!」

「む」

「でも分かんない!」

「いや、だから」

「そういう現状だってこと、はっきり分かった、うん、これなら大丈夫!」

「・・・お前って本当にいざとなると人の話聞かずに自分の道を突っ走るよな・・・」


 今はここが限界。でもそうとはっきりすればそれはそれで心が晴れて。

 そんな私を呆れたような目でみるマシュー君に。

 改めて聞きたかったことを聞いてみた。


「マシュー君は、はやてちゃんが好きなんだよね?」

「ああそうだよ、それもこの前、さらにはっきりとそれが分かることがあってだな」

「へえ、なにがあったの」

「八神が、仕事で親しい同僚の男と、連れ立って歩いてるのを見て」

「見て?」

「嫉妬した。そのあと八神と連絡とったら・・・互いに嫉妬心全開で醜い罵り合いの大喧嘩になった・・・」

「ん? ってことはマシュー君も女連れだったの?」

「あー・・・まあ、そうだ」

「なるほどお互い様だったんだ、それで怒るなんてマシュー君もちょっとアレじゃない?」

「俺もそう思う、だけど気持ちが止まらず、そういうふうになってしまうってことがやっぱり」

「本当に好きだって証拠・・・なのかもしれないね」

「それ考えると、お前はやっぱり別に俺のこと好きじゃないんじゃないかと思うんだけどな」

「うーんどうなんだろ・・・」

「俺と八神がずっと一緒なのを一番近くで見てたお前はそれでも別に嫉妬心とか持たず・・・だからやはり違うんでね?」

「うん、私もそう思ってたんだけどね」

「だけど?」

「・・・教えない」

「おいおいここまで互いに腹割って話してるんだから・・・」

「女の子の秘密だよ、ぜった~い、教えない~♪」

「ぬぬぬ・・・」


 すずかちゃんを変に意識してもらってはたまらない。

 マシュー君が意識したらしたで、すずかちゃんなら・・・抜かりなくまた一歩近づくための策略を実行しそうで・・・

 そしてきっと、おバカなマシュー君はコロリと騙されて・・・言い訳の余地が無いような状態にされてしまうに違いない!


 なんでそんなふうに思うのかな? でもそれも素直な気持ち。

 別に無理せずに、正直に言って・・・私今でもマシュー君とはやてちゃんなら心から祝福できると思う。

 でもすずかちゃんだと何か釈然としない! それも本音みたい。




 結局私は彼が好きなのかな?

 良くわからないし、どうやったら、はっきりわかるのかもわからない。

 ただ「かもしれない」ってわかっただけで。


 でも・・・これまでの私はきっと、そういう可能性すら否定してた。

 今はそういう可能性はありえるんだって、それを認めることはできた。

 それだけですごく気持ちが楽になって。


 とっても楽しくなって、さらに色々ときいてしまう。


「ねえ、どうしても不思議だったんだけど・・・なんではやてちゃんと別れたとか言い出したの?」

「む・・・」

「私でも分かるよ二人は両思いだって。明日やっぱり結婚するって言い出しても納得、誰も驚かない。そんな二人なのに・・・」

「ええい! 色々あるんだよ、とことん話し合ってこうなったわけでだな・・・簡単に説明できることでは・・・」

「うーん・・・やっぱりよくわからないの。そういえば・・・あ! そうだ!」

「なんだ?」

「ユーノ君が私を好きって言うのは・・・本当なのかな?」

「うわ・・・ユーノ哀れ・・・あんだけ見え見えで・・・」

「そうなの?」

「あ~・・・そういうことは本人に聞くべきだろう、俺の口から言うべきことではない。」

「マシュー君から見て、どう思うのかって意見が聞きたいんだけど」

「お前ちょっと前まで俺の近く来ると無闇にテンパってただろ、あの状態の時、俺がお前に『俺のこと好きなのか』とかきいたら、お前、

どんな状態になってたと思う? まともに対応できたか?」

「え? でもそれとは違わない? ユーノ君は私の近くに来てもいつも・・・普通だよ?」

「いやとにかく・・・うんやはり本人の口からきくべきだろう・・・ううむ難しい・・・」

「はやてちゃんもどうせマシュー君のこと好きなくせに何か意地張ってるし? 本当に分からないよね? 今度きいてみようかな」

「とにかく微妙な問題だから他者が簡単に口出しできるようなことじゃないんだと思うぞ」


 マシュー君が難しい顔をするのを見て、私は思わず言ってしまう。


「はぁ・・・やだねぇ」

「何がだよ」

「私たち普通に友達であるってことは変わらないし、それはそれでこんなふうに楽しくお喋りできるのに何でそれ以上に色々と・・・考え

なくちゃいけないんだろ。うんやっぱりマシュー君のことを迷い無く好きだ! とか思うようになったら・・・本当に大変そう、とっても

面倒なことになりそう・・・それだけでそうなりたくないと思えるくらい・・・」

「俺と八神の場合は互いにそう断言できるはずなんだけど・・・なんか面倒なことになってるしな」

「本当にね。私・・・やっぱり二人を応援したい! 二人が幸せになるのが正しいって思うの!」

「それはありがたいがお前があれこれしてもどうにもなるもんでもないと正直思うのだが」

「そうして二人の近くにいれば、私の本当の気持ちとか? はっきりするような気もするし!」

「まあお前の場合はまずユーノのことが・・・」



☆     ☆     ☆



 なんか妙に話が盛り上がってしまった。


 高町と恋愛談義で盛り上がるとは実に意外だ。

 しかし現状の自分の気持ちを整理することに成功したらしい高町は昔通りに明るく快活になり。

 さらに実は昔と違って? 俺に押されるばかりでいつも負けてるみたいな、いつでも俺が精神的に優位に立っていたような。

 そういう状態では無くなり、成長して心が強くなったのか、俺と心理的に対等に・・・自然になってるみたいな。


 で、そうして色々話をしてるうちに。

 気付いたら午後9時をまわっていた!



 さて確認しよう。


 高町は今、仕事が無い、停職中だと家に知られている。

 そして今日は俺のところに遊びに行く、夕飯を作るつもりだとかも恐らく言っている。

 その状態でこの時間!


 士郎さんと恭也さんに殺される!

 お二人は基本俺に対して好意的だが程度ってもんがある!


 それに気付いた俺は焦って高町に帰宅を促す。

 近頃、友達と気楽にお喋りする機会が少ない高町はまだまだ喋りたそうなのだがそんな意見は無視!

 ほら急げよ、後片付けとかはいいからと、とにかく急いで・・・


 俺の部屋備え付けの転送設備から。

 まず日本のバニングス家に転移して。

 そっから車出してもらって、高町家に送り届ける、時間は9時半過ぎ・・・どうだろ、ギリセーフかな・・・


 しかし高町家の門の前に並び立つ二つの影!

 ただいま~と気楽に言う高町の横で。

 俺は冷や汗をかきながら、すいません遅くなってと謝る。


 で、そのまま逃げ帰ろうとした俺なのだが。

 士郎さんと恭也さんにいつの間にかガシっと肩を掴まれて。

 まあ待ちなさい、少し話していこうとか言われつつ高町家の中に連行される・・・


 若い娘を午後9時過ぎまで引き止めるのはどうなのか?

 しかも二人きりで部屋の中で?

 夕食まで作らせて?


 などなどリビングで詰問されてたのだが。

 そこに救いの手が!

 桃子さんと高町が笑いながらやって来て二人を止めてくれる。


 で、明日も仕事なのですいません失礼しまーす、と逃げに成功、ふぅ・・・怖かった・・・




 マシュー逃亡後の高町家リビングで。


「あのね! 私、マシュー君のこと、好きかもしれないの!」

「かも?」

「うん、好きかも知れないってそれだけは分かった。でもそれ以上は分からないの!」

「・・・そう」

「だからそれがはっきりするまでは・・・色々試してみようと思うの!」

「・・・どんなことを試すの?」

「う~ん・・・それも分からないの。でもね、お父さん、お兄ちゃん。邪魔しないでね!」

「なのは・・・」

「ちゃんと節度は保ちなさいね。あといざとなったら責任とってもらうこと」

「も、もう! 急にそんなことにはならないと思うの!」


 まだまだだけど少なくとも自分の気持ちから逃げずに向き合って・・・そして明るくなったことだけは確かであるようだ。

 それを確認した桃子は、少しだけ成長した娘の笑顔につられて、穏やかに微笑んだ。






☆     ☆     ☆




(裏舞台における謎の会話)



「ははは、今回は勝ったな。それも大勝利と言って良いだろう。」

「そうですか?」

「うん確かにレリックは取れなかった、それだけ見れば達成率50%と思えるかも知れないがね」

「はい」

「だがレリックも今は取れなかっただけで既に追跡して保管場所も分かっているし、再奪取も時間の問題だよ。」

「はい、それはそうでしょうが・・・」

「本局病院から奪ったリンカーコア直接整形術のデータの方は・・・素晴らしい! の一言だ! 生まれつきリンカーコアに障害があった

人間にしか分からないのだろう繊細で高度でしかも大胆な干渉・・・もはや芸術だねこれは、彼のスキルは期待以上だ! もちろん私の

研究にも役立つデータだし、これで皆のIS出力も全体的に増幅できるだろうが・・・それ以前にこれほど見事なテクニックというのは

見ているだけで気持ち良いね! こればかりは恐らく私も及ばない技術だよ! 参考にして模倣して近付く事は可能だろうが、決して彼と

同レベルのコア整形は出来ないのだろう、そういう技術がこの現代にも存在するとは実に素晴らしい!」

「ですがそれも恐らく彼の場合は・・・」

「うん、明らかに肉体の障害を代償にした特殊能力だね。だが素晴らしいことは変わらない。それにだね・・・」

「はい」

「ククク・・・それ以外にも得られた情報は実に大きかった。まだ確定ではないが恐らく彼は『目』だ」

「目? なんのことでしょう?」

「過去に二例だけ表に出て噂となった『魔王の目』または『冥王の目』と呼ばれる存在だよ」

「・・・・・・照合しました。エース高町の手助けをしたとされる正体不明の魔導師・・・異常な索敵能力や特殊な転送魔法などを使用

したという噂もあるが不確定・・・管理局の暗部に存在する闇の特殊部隊という都市伝説なども・・・しかし噂通りの力を持つならば、

もっと運用された実績があるはずで二例だけというのが不自然・・・やはり信頼できない噂というレベルの話で、検討に値しないと我々は

考えていたようです・・・しかし・・・」

「辻褄が合うんだよ。エース高町、優れた探査魔法に転送魔法、さらに普通は表に出ないという事実。それは上の連中に隠されていたから

というわけではなかったのだな。いやそれも少しはあるのだろうがそれ以上に・・・そんな前線での戦闘などということに使うには勿体

なかったということなのだろう。それ以外の能力の方が有用過ぎて。だから偶然以外の理由では表に出なかったのだ」

「・・・可能性は高いです、しかしまだ確定は出来ません」

「そうだね。しかし面白い。さらに新たな研究も始めているというし。彼は実に私を楽しませてくれるよ!」

「とりあえず推測される能力などを検討し・・・皆と情報を共有しておきます・・・」

「ああ任せた。」


 しかし彼の技術は本当に見事なものだ・・・

 是非、彼にも私の「レリックウェポン」の調整に、一度だけでも手を貸して欲しいものだが・・・

 なんとか上手くやる方法は無いものだろうか・・・










 スカさんからの励ましのメールは事件が解決した頃に届いた。


【全く、世の中には悪い人がいるものだね。だが管理局もバカじゃない、きっとすぐに犯人は見つかるさ。なによりも、君に怪我が無く

て本当に良かったよ。君の研究の発展と完成を心から祈っている】


 うーん、本当に俺のことを心配してくれてるな~、やっぱりスカさんは良い人だ。











(あとがき)

 なのはルートクリアのための重要な分岐「好き・・・かも?」を無事に通過。でもまだ友達ですw

 なのはの場合はVSはやて、というイベントが一番の山場になるのかも知れません。はやて相手でも!って気持ちになるかどうか。

 スカさんと本格的に研究協力するには・・・今はまだ動機が弱いかな・・・期限が差し迫ってきて焦った頃が危ない?



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十七話   迷走日記 17
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/05/03 10:32
マシュー・バニングスの日常      第八十七話







○○年×月△日




 ユーノから連絡が来る。


 「私はマシュー君が好きかもしれないの! ユーノ君はどう思う?」って正面から相談されたそうだ。

 そう俺に伝えてきたユーノの声は・・・冥界の底から響いて来るかのような鬱々とした実に・・・暗い声であった。


 ダメだ、やっぱり高町、分かってねー、鈍い所は変わってねー

 それとも、猛獣である高町には、草食系であるユーノの繊細な感情とか分からないのだろうか?

 天性の強者ゆえの無自覚な無神経さみたいのがあるのかな・・・それは同時に天真爛漫で明るいということでもあるのだが。


 で、ユーノに、それに対してどう答えたのかを聞いてみると・・・

 「そうなのかな? どうなんだろうね?」とか無内容な答えをするのが精一杯だったとか。

 そして俺のほうはどうなってんだと温厚なユーノには珍しい半キレ声できかれたので正直に言う。


 俺も「私はマシュー君が好きかもしれないの? どうなんだろう、本当にそうなのかな?」と正面から相談されたと・・・


 それをきいたユーノ、深く深く溜め息をつき・・・

 「なにかが・・・違う・・・どこかが・・・ずれている・・・」

 と呟く。


 そして俺の方は、同時に、「でもはやてちゃんとの仲を応援するよ!」とも言われたことも伝えると。

 「本当に分からない、なのはの気持ちってどうなってるんだろう・・・」と。

 再び溜め息をつくしかなくなるユーノ。


 ユーノは、管理局に流れた「俺と高町ができてる」説の噂話は、耳に入ってもカケラも気にしなかったそうなのだが。

 そういう噂話が出て当然みたいな距離感だったから。でもそれは無いことは知っていたから。

 だがこうして正面から高町に高町自身の気持ちの相談とかされるとさすがにへこむと。


 再び「はっきりと告白するべきなのか・・・それしかないのか・・・だがそれをしても通じるのか?」と悩みだすユーノ。


 うーん俺も良く分からんよ。高町はどこか・・・常人離れしていて掴めない部分があるんだよなぁ・・・

 だが安心してくれ、俺は八神を嫁にする気だし、それは高町も知ってて応援するといってるし。

 別に状況が悪化したということもないと思うのだがどうだろう?



 ユーノの苦悶の時はまだまだ続きそうであった・・・








○○年×月△○日




 エイミィさん妊娠のニュースが入る。めでたいめでたい。



 それが分かった日、軽くお祝いみたいのをするので来れる人は来てくれと連絡網が廻ってきた。


 こういう臨時の話になると・・・ほぼ百発百中で八神は来れない。

 ドイツ在住の月村さんも無理。

 姉ちゃんも仕事とかぶって無理。

 ユーノも同様。


 そういうわけで海鳴のハラオウン家に顔を出せたのは、高町と俺だけ。フェイトさんも今日は帰って来れたけど。

 エイミィさんを囲んでキャッキャとはしゃぎ、お腹を触らせてもらったりしてる高町やフェイトさん。

 そして初孫に実は一番興奮してるリンディさん。


 俺とクロノはそれを見ながらボソボソとダベる。


「順調に行けば、来年にはお前も父親か・・・」

「正直実感無いんだがな。」

「だろうなぁ・・・しかしガキの頃から知ってるクロノが父親になるとか・・・時の流れを感じるなぁ」

「なに、お前もすぐだろう。・・・相手が誰になるかは知らんが・・・」


 夕食はちょっと豪華なのをリンディさんが腕を振るって作ってくれた。

 エイミィさんは幸い今の所は悪阻など余り無いそうで。

 食事の準備が出来たからとエイミィさんのそばにいって気遣いながら彼女を連れてくるクロノは既に父親の風格が・・・

 結婚して、妻が妊娠、そしてそれを本当に喜んでいて関係者みんな幸せそう・・・

 うーん、いいなぁ・・・


 暖かな気持ちでこの光景を眺めていたのだが夕食中。



 エイミィさんから爆弾発言が。



「マシュー君、前に送った画像、気に入った?」


 口の中のものを噴出しそうになった。なんとかこらえる。平静を取り繕い・・・


「ありがとうございました。助かりました、ハイ」


 とか、あたかも仕事上のデータを廻してもらったみたいな方向に誤魔化せないかと・・・


「画像ってなんだ?」


 クロノが尋ねる。むむ、本当に全然知らない雰囲気。

 その質問を待っていた! とエイミィさんはニヤリと笑い。


「マシュー君がね~フェイトちゃんの可愛い写真が欲しいっていうから送ってあげたんだよ~♪」

「ちょ! ちょっと待ってくださいそれは少しちが」


 否定しようとして詰まる。

 前にもらったフェイトさん画像集・・・なぜか、まったくなぜだか俺にも不明な理由によって・・・

 まだ消去されていない! 俺の部屋のPCの奥深くに残存している・・・!


 画像をもらってから既に数ヶ月経過している、消去してないのを見られたら言い訳の余地が無い!

 しかしあれは三重のプロテクトをかけてあり他者が見るのは不可能のはず・・・

 いくら情報処理が専門のエイミィさんでも俺が今でも持ってるとか分かるわけが無い!


 よしシラを切ろう。


「確かにそういうのをいきなり送られたことはありますけど・・・正直何のためだか良く分からなかったので消しちゃいましたよ」

「へ~、本当に?」

「本当です。」

「それじゃあデバイスのメール履歴とか見せてもらって良いかな?」

「どうぞ。何も無いですよ?」

「ふふ~ん♪」


 デバイス内部の画像については念入りに消去してる、プログラム再生ソフトとか使っても絶対復活しない、大丈夫!



 しかしエイミィさんがちょちょっとサウロンから出てるディスプレイを操作すると・・・



 なんと満面の笑みを浮かべたフェイトさんのアップの画像が!

 何か本当に嬉しいことがあったのだろう、無垢で純粋でそれを見た男は誰もが一目で恋に落ちてしまいそうな。

 優しく微笑むくらいの表情は良く見せるフェイトさんだが、こういう全開の笑顔とかめったに無いその瞬間を捉えた貴重な一枚!


 しかしだ。

 送られた、けしからん画像集の中にはこんな一枚は無かった!

 不本意だが何度も全部チェックしたのだ・・・確かに無かったと断言できる!


「ほらあった~♪ ほらほら見てごらんフェイトちゃん、こんな笑顔のフェイトちゃんの写真をマシュー君てば大切に保存して~」


 な・・・なぜだ・・・メールはすぐにデータごと転送したはずなのに・・・

 メモリー保存領域に・・・どうやったのか分からないが直接送り込んでいた? しかも俺が気付かないような場所に・・・!

 なんて高度な・・・無駄に高度なテクニック・・・! 元凄腕情報士官エイミィさん恐るべし・・・!


 俺がフェイトさんの満面の笑顔の写真を保存して隠していたと皆さんに思われてしまい。

 フェイトさん真っ赤。うつむいてチラチラこちらを見たりして、いかんやばいそんな萌え120%の視線で見ないでくれー!

 クロノは「そうだったのか、うんうん、祝福するとも」と、とぼけたセリフを・・・

 リンディさんも、あらあらそういうことになってたの? とにこやかな笑顔でこちらを見るし・・・



 だが高町からの冷え切った視線にぶつかってこっちも冷静になれた。


 とにかく誤解だ誤解だと繰り返し続け、食事が終わり、すると高町、速攻で帰宅するのでと言い出し。

 俺も帰りますね本日は本当におめでとうございました、でもエイミィさん覚えてろよ!っと捨て台詞を残して後を追う。

 あ~なんかフェイトさんにフォローしとかなきゃ不味い気もするがそれはまた今度にしとこう・・・

 今はまず高町を・・・


 ずんずんと無言で先を歩く高町、ついていって話しかけようとする俺。

 だが無言のまま・・・歩いて来たにしてはかなりの速さで高町家に到着してしまい。

 そのまま俺を無視して家の中に入ろうとした高町だったが。


「ちょっと待ってくれ。とにかくなにか誤解が・・・」


 という俺からの言葉を聞いた途端、凄い勢いでこちらを振り向いて。


「はやてちゃんが好きなんじゃなかったの!? なのにどうしてフェイトちゃんの写真を欲しがったりするの!」

「だからそれは誤解、本当はエイミィさんが何を考えたか悪戯みたいな感じで送ってきた写真なんであって」

「でも消去もせずに残してたんでしょう? その事実は変わらないんじゃない?」

「あ~・・・うぅ・・・」

「はやてちゃん一筋みたいなこと何度も言っておいて本当は・・・浮気者!」

「待てよ、ただ写真を持ってただけでなんで浮気者? ほら例えばアイドル写真集みたいの買ったとしてもそれとこれとは別で・・・」

「好きなアイドルの写真とかじゃなくて、身近なフェイトちゃんの写真じゃない! 全然違うよ!」

「いやフェイトさんは下手なアイドルより可愛いだろう・・・あくまでそれで消せなかったわけで他意は・・・」

「可愛い女の子の写真であれば誰でも良いわけ? なんなのマシュー君ってそんな節操なしだったんだ!」

「だから写真はあくまで写真であって、そこに深い意味とかは無いのであって」

「でも結局は、たまにあのフェイトちゃんの笑顔の写真を見てニヤニヤしたりしてたんでしょう!」

「それは違う、だからだなぁ・・・」

「なんなの!」


 白熱した言い合いは延々と続きそうな雰囲気だったのだが。


「あの~・・・お二人さん?」


 いきなり高町家の門が開いて、美由希さん登場。


「母屋まで普通に聞こえてきたよ? 多分ご近所さんにも響き渡ってる・・・ここで大声のケンカはやめたほうが良いよ?」


 言われて真っ赤になる高町、踵を返して家に向かって小走りに。

 引きとめようと声をかける俺。


「おいちょっと待ってくれ、とにかく・・・」

「知らない! 帰って!」


 言いながら家に駆け込んでしまう。

 ダメだ話にならん・・・俺は軽く溜め息をつき。


「ああ~~・・・すいません、お騒がせしました・・・帰りますね・・・」


 美由希さんに挨拶して、仕方なく帰ることにした。


「うんうん、今はちょっとお互い頭冷やしたほうが良いね。それじゃマシュー君、またね~」





☆     ☆     ☆




 マシューが帰った後の高町家リビングで。


「それで母さん、何があったのか、なのはから聞き出せた?」

「それがね美由希・・・マシュー君がフェイトちゃんの可愛い笑顔の写真を持ってたことが判明したんだって」

「へ~それで?」

「それだけ」

「え? それでマシュー君が実はフェイトちゃんを好きかもって話が出たとかは?」

「なし」

「実際に既にフェイトちゃんとデートしてたとかの浮気的実績は?」

「なし」

「本当にただ単に写真持ってただけ?」

「そうみたいね~そしてそれだけであんなに怒って・・・」

「意外と・・・なのはって嫉妬深いのかな?」

「そうなのかしらね・・・サッパリした子だと思ってたんだけど意外と・・・」


 そんな会話をしていた所に、風呂上がりのなのはが通りすがり二人の会話を聞きつけ吠える。


「違うの! だってあの写真のフェイトちゃん凄く良い笑顔で・・・本当に華みたいな満面の・・・そんな写真を隠し持って、きっと

たまに眺めてはニヤニヤしてたんだろうマシュー君の変態性が許せないだけなの! いい写真だったからとか、好きなアイドルの写真を

持ってても悪くないだろう似たようなもんだとか! 聞き苦しい言い訳するのも許せないの!」


 言うだけ言って自分の部屋に戻るなのは。

 バタン! と大きな音をたてて、なのはの部屋のドアが閉まる音を聞いた後。


「写真一枚も許せないんだ・・・母さんもそうだった?」

「う~ん、私にはそういう経験無いわね。誰に似たのかしら・・・」


 などと言いつつ二人は顔を見合わせ肩を竦めた。







 自室でしばらく枕をボスボス殴って腹立ちを宥めつつ、なのはは思った。



 本当にマシュー君はダメダメなの!

 そんなふうに浮気者だから、はやてちゃんに逃げられたに違いないの!

 あんなに可愛く写ってるフェイトちゃんの画像を隠し持ってるなんて・・・


 はやてちゃんにバレたらまたきっとややこしいことになるの!

 そんなことにならないように私が手伝ってあげなきゃダメかも?

 どうしたらいいんだろう・・・


 そうだ!

 木を隠すなら森の中ということわざがあった。

 私の笑顔の写真とかも持ってれば、紛れてセーフになるかもしれないの!


 本当にマシュー君は仕方ないんだから・・・

 私が可愛く笑ってる写真も送ってあげるとするの。

 消したら撃つって書いとけばきっと大丈夫!


 全く、どうせ見てニヤニヤするんだったら、知られたら危なそうなフェイトちゃんじゃなくて・・・

 純然たる友達である私の写真を見とけばいいの。

 うん、わたし、まちがってない!




 怒りながらニマニマ笑うという不思議な表情で、なのははレイジングハートによるセルフ撮影会を始めた。


 ちなみに今の彼女の姿は、風呂上り、薄いパジャマ姿、少し湿り気が残ってる髪は下ろしてる状態。

 そんな自分自身を、あらゆるアングルから、重要なことなので繰り返すが、あらゆるアングルから撮影した画像を・・・

 撮った端からマシューのデバイス宛てに送信しまくるなのは。


 しかもそれはその夜だけの話では無く・・・

 その後も折々に自分が可愛く写ってる画像を送りまくるなのは。

 基本、男性に対して無防備である傾向は直ってないので、様々な・・・実に様々な写真を送ってしまうなのは。



 送られて、ついつい出来心で編集保存してしまったマシュー。

 勢いで、我ながら「ちょっと危ないかも」と後になって思うような写真を大量に送ってしまったなのは。



 後年、思い切り後悔することとなったのが、どちらであったのかは謎である。












(あとがき)

 フェイトの「最高の一枚」ゲット。フェイト好感度、クロノ友好度による。フェイトの次イベント発生するだけの好感度はある状態。

 なのは写真集をゲット。前回の「好き・・・かも?」を見てれば強制。写真全削除したら後でランダムで強制入院イベントが来るw

 少し、幕間的な話をして、それからキャロ保護に進む予定。フェイトさんのフォローはそこですることになるのかな。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十八話   迷走日記 18
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/05/06 23:05
マシュー・バニングスの日常      第八十八話





○○年△月□日



 リンカーコア直接整形術の被術者のコアの機械的精査法とその結果については、半年近くかけてやっとまとまって来た。

 次の段階に移る。


 志願実験者の公募だな。


 まずは健康なリンカーコアに手を入れて、保有魔力の増幅固定が出来るという実績を作らねばならないので、この段階においては、まだ

機械的精査の技術はそれほど使われない。というかほとんど全て俺の個人的な特殊スキルにより「魔力中枢中核刺激による魔力出力増幅

固定術」=「中核刺激法」が可能であるということを証明するわけだな。そして実際にできるってことを証明した上で、また多くのデータ

を取って機械的なコア精査の方法のレベルを上げていって・・・と繋がっていく予定だ。


 繰り返すがこれは、まずは俺個人のスキルによって実施される。


 で、俺には体力の限界ってもんがある。


 一例、一例と数をこなしていくごとに、最初の測定段階や、実際の刺激段階、また実施後の調整、アフターフォローなど多くの局面に

おいて、他の研究者が協力してくれる割合や、機械的な方法の割合は増えていく予定ではあるのだが。


 俺への負担は軽減されてく、とは言うものの、やはり俺でなくてはダメなプロセスというのもあるので・・・



 あれやこれや検討した結果、志願実験者の枠は、上限10名と定められた。

 年齢も、高い効果が期待できる20歳以下で。

 また、比較対照が容易であるように魔力ランクにしてB程度という条件も。

 ランクだけでなくて似たような年齢・傾向の人を揃えるってのも。

 失敗する可能性もあるのであまり高いランクの人はダメ、かといって低すぎるランクの人もダメってことで。


 あくまで実験、危険性はありますよってリスクをくどいくらい説明して。

 成功してもそんなに画期的に変わるわけではありませんよってことも繰り返し説明して。



 でもそれでも公募に対し・・・来た応募者数は凄まじいものとなり。

 倍率、軽く三百倍近く?

 送られてきたエントリー書類・・・多すぎる! これ一枚一枚きちんとチェックするとか不可能だ!


 ううむ、俺の名前と、研究所の名前だけじゃなくて・・・このプロジェクト、なぜかめったに表に出てこない最高評議会の、評議員さん

とかいう人の公認推薦ってのがついてきたんだよね・・・で、そういうことなんて前例が無いってほどのレベルでして・・・

 しばらくの間、管理局中の話題をさらってしまった・・・



 しかしどうやって人数を絞り十人にまで削るか悩みどころだったのだが。

 うーん、そこでだなぁ、実はエライさんから政治的な「お願い」とか来てる人が結構いましてね。

 あまりにも条件から外れてる人だと、容赦なくダメだといえるのだけど・・・


 年齢も15~19くらいで、ランクも間違いなくBで、別にその本人自身は真っ当なルートから書類を提出して来てて。

 多分、この本人はそんなつもりは無いのだろうが。

 恐らく、縁者であるエライさんが勝手にそこで縁故利用して「お願い」してきて、ねじ込もうとかしてるんだろが。


 そういう人たちが結構いたのよ。


 ここでギルさんなら絶対にコネとか許さん! と断るのだろうが。

 不肖の弟子である俺は実はそれほど清廉潔白な精神を持っていない。


 俺の目的は我が身を癒す方法の発見であり。

 そのために利用できるものはなんでも利用するつもりだ。

 ガチで犯罪といった行為をする気は、さすがに無いけど?


 エライさんとの間にコネを作って利用できるようにしておくという程度なら・・・

 そのコネから何か有用な情報が見つかる可能性はあるし、何にしてもそういう人に貸しを作っておくのは悪くないので。


 だからコネ枠をまず5人だけ設定して、そこは遠慮なく、エライ人にコネある人からって順番で決めてった。

 あとはランダムで決めようと思ったのだが。


 ぬぬぬ・・・

 志願者書類の中に見知った人を見つけて悩んでしまう俺。


 ギンガ・ナカジマさんから、スバル・ナカジマさんからも。


 むむ~どうするべきか。


 純粋に研究上の課題を考えれば・・・

 ギンガ・スバル姉妹は非常に肉体的に似ており、比較対照して経過観察するのに好都合。

 そういう点ではむしろ積極的に採用するべき二人ではあるのだが。


 しかし二人とも特殊な半分機械の体だったりして、だから一般例として敷衍できないのでは無いかと言う疑いもあるのだな。

 だけどこれまで調べたところでは、リンカーコア自体には別に異常は無いのよ。

 だから実際、その点ではダメだと断言できるほどの問題も無く・・・


 いや、建前言ってても仕方ないな。

 俺は、あの二人なら正直に言って優先してやりたいと、ただでもハンデを背負ってるあの二人が、せめて魔力的に多少でも恵まれて、

その将来が少しは過ごしやすい方向に行くように手助けしたいと、そう思ってしまったのだな。


 うん、俺も個人的な知り合い優先してしまってるな。よくないねえ、うん。

 でも気にしな~い。世の中というのは不公平なものなのだ。

 そうなるとあと3人は、もう純粋にランダムに決めよう。


 残った選考書類を、こうバサーっと机の上にバラバラに広げて・・・

 目をつぶって、えいっとまず一枚取る。


 ティアナ・ランスターさんね、ふむふむ年齢もランクも問題無し、今は某陸士訓練校在学中、もしかしてスバルちゃんと同じとこかな?

意外とスバルちゃんと知り合いだったりして・・・まさかねw

 でもなんか聞いたことあるな、ランスター・・・


 よしちょっと調べてみよう。データベースでランスターを検索してみると・・・

 ああ、あのランスターか、一時期少し有名になった「管理局の汚点」。

 任務失敗して殉職、しかし彼一人がミスしたがゆえにそうなったらしく、殉職後もほめる人がおらず・・・


 執務官コースに進んで近い将来は執務官にもなれそうだったというエリートの派手な大失敗というので有名だったんだよな。

 そのランスターさんの・・・ふむ、実妹か・・・



 よし!


 不採用!


 見なかったことにしよう。



 ほら、なんか縁起悪いじゃないか。今から大きな実験しようとしてるのに。

 ケチがつきそうだ。失敗しそうだ、こういうゲンの悪い人を採用してしまうと。

 それにこの子は俺みたく先天異常による肉体の障害とか、八神みたく死にかけるほどの不幸な境遇とか、そういうの無いのよね。

 ちょっと可哀そうな境遇だとは思ったが俺が贔屓したくなるラインにはギリギリ届かなかった感じと言いますか。



 この実験に成功すれば、後は少しずつ一般普及されていくはずなので。

 どうしても受けたいという人は、その段階になってから受けてね。

 今回の公募に受かればタダ、後で一般普及した時は凄い高価な手術になるんだろうけど・・・



 ごめんねランスターさん、今回は諦めといてください。なに、どうせ一生会わないだろうけど~



 さて残り3人、ランダムに選ぶとしますか・・・







○○年□月□日



 今度の実験の世間における評判が気になったので。

 心臓に悪いと分かりながらも、ミッドのネット世界に存在する巨大掲示板「Xちゃんねる」を覗いてしまった。

 ドキドキである。


 でも実際に見てみると・・・うーん予想の範疇だなぁ


 つまり「胡散臭い」「いくらなんでも無理だろ」「無謀な実験だ」って否定意見は当然頻出してるが。

 同時に「成功の可能性は高い」「コア治療の実績」「評議会の公認」などの肯定意見もたくさんあって。

 そこのところでは評価が真っ二つに割れてる程度だな~


 余り目を引く書き込みは無かったので・・・

 ちょっと好奇心でスレタイ検索。

 ワードは「空のエース」と・・・


 するとトップに出てきたスレタイは!



【幼馴染】管理局の空のエース総合スレ No.59【婚約済み?】



 ぬぬ・・・総合スレであることはともかく・・・この煽り文句は何だ?

 大体こういうのは、今スレ内で話題になってる語句を持ってくるもんだから・・・

 悪い予感を覚えつつ怖いもの見たさで中を見ると。



☆     ☆     ☆



9 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 嫌だーーー!!!

 白い天使さまは俺の永遠のアイドルなんだーーー!!!

 例の医者、もげろ、まじでもげろ!!!


12 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 ゴメン、久しぶりに来たら話題が全然分からなくなってるんだけど?

 ここは例のエース様の撃墜記録を検証して、すげーって皆で感心するスレじゃ無かったのか?


15 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

>>12
 お前、局の事務関係の女の子に知り合いとかいないんだろwwwミジメwwwwww


18 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 まあそう言ってやるな。普通に民間人の可能性もあるだろが。

 マジレスすると、エース様に男が出来た・・・いや、実は男がいたって話が出ただけだよ。


20 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 ウソだろあの悪魔に?!

 適当な噂話とかじゃなくて?


24 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 幼馴染の担当医だってよ。魔王様と同い年らしい。

 泣いてる魔王様を抱きしめて部屋に連れ込んで~とか。

 いつも休日は会ってる~とか。

 ファーストネームで呼び合う仲だ~とか。

 知ってる人は全員知ってて、当たり前みたいに既に認めてる~とか。


 ここ10スレくらいはその話題でもちきりだったけど、結論としては既に決まってるも同然らしいよ。


27 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 補足すると、局の事務職女性たちなら誰でも知ってる噂話らしい。

 それっぽい人が何スレか前に書き込んでてさ。

 あの人、大丈夫だったかな。内部情報公開しちゃったぽくてマジで心配ww


34 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 ウソだーーー!!!

 彼女は天使だから人のものになんてならないんだーーー!!!

 永遠のアイドルなんだーーー!!!


38 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 過去スレをざっと見てきた。なるほどもう決まった話みたいだな。

 いや、だったらだったで正直どうでもいいというか。

 男がいても別に不思議じゃないだろ。

 それよりこのスレ本来の話をだなぁ・・・


 ほら、前の某研究所への襲撃事件とか、現場に魔王様いたんだろ?


43 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

>>9 >>34
 とりあえずお前は落ち着け。ていうか諦めろって。

>>38
 いたらしいけど、援護攻撃を少しした程度で、後は普通に現場の陸士部隊が片付けたって言うし。

 魔王様いたわりには、パっとしない事件だった罠


48 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 その現場に彼氏いたらしいよ。彼氏の護衛が魔王様の仕事だったみたい。

 彼を守ることだけに専念して、だから敵の撃破とかあんまりしなかったんだべ。そう思うと可愛いよな、意外と普通に女の子だ。


56 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 しかし空のエースにつりあうくらいの男なんて普通いないだろ。本当に本当なのかね?


62 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 それは誰もが疑問に思う点だが調べてみれば意外とね・・・男の方も医療関係ではすごいらしい。

 そっち関係の専門板とか行けば賛否両論轟々とうずまいてる話題の人で・・・ほら魔力増幅手術の人だよ。

 実は昔から専門板では結構な有名人だったみたいだよ。知る人ぞ知るって感じの。


70 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

 だからあの二人ならもう出来てるから普通に。それでどうでもいいでしょ。

 それよりこの前の研究所襲撃事件、もっとkwsk


76 名前 名も無き一般人   ××/△△/○○  ID:xxxxxxx

>>70
 断言してるけどなんか知ってんの? kwsk!!





 うぬぅ・・・言いたい放題だな・・・しかし変に否定意見を書くわけにもいかんし・・・


 この後も、前の研究所襲撃事件の話題とかは、ごくたまに思い出したように出る程度で。

 後は、どの程度深い仲なのかの推測とか・・・

 熱狂的な魔王ファンの絶叫とか・・・

 そういう話題ばかり。


 まあ結果的に、研究所襲撃の話はほとんどどうでもいいみたいな扱いなのは助かるんだけどね。





☆     ☆     ☆



(某所における謎の姉妹の会話)


「ダメみたいね・・・全然、『目』の話題とか出ないわ・・・これっぽっちも・・・」

「しょうがないのでは無いか? 実際、それほど彼女が活躍していたわけでは無かったのだし」

「ああ~こんなことならもう少し粘れば・・・『目』が彼かどうか確証を得られたかも知れないのに・・・撤退が早かった・・・」

「いやそれも仕方ない。あの時点での撤退という決断は正しかっただろう」

「もう! 下らない色恋沙汰の話ばかり! どうでもいいのよそんな話は!」

「・・・確かに見始めてから既に10スレ以上、その話題ばかりだな」

「なんかムカつくから、もうこの際、それは決まった話だからどうでもいいって方向に誘導して・・・それで何とか別の話題に・・・」

「・・・それも結構前からやってるよな。だけど話題が変わらない、と」

「あ~~もうムカつくわね! 肉体関係もあるし婚約してるし結婚も秒読みだって書き込んでやる!」

「・・・そうしてまた話題が再燃する、と・・・懲りないな・・・」


 元々、性格は悪い。猜疑心が強く意地も悪く、しかも情報工作を得意とする彼女なのに。

 経験の少なさ、人間心理への理解の浅さだけはどうしようも無かった。

 真摯に努力するのに報われず、どうしても望んだ方向への議論誘導が出来ない!


 彼女は己が未熟さ、経験不足に涙した。

 そして誓った。

 必ずやいつか・・・どんなスレでも自分の望む方向に誘導できるほどの技量を身に付けてみせる!

 自分の好まない方向への議論は片端から潰せるだけの「荒らし」のテクを身に付けてみせる!


 ネット世界の伝説となる荒らし屋、荒らしの中の荒らし、荒らしの女王と呼ばれた、"NO.4"

 その名にふさわしい存在となるための長い道はこれからだ、彼女の戦いは始まったばかりだ!

 頑張れクアットロ!!








(あとがき)

 四号さんの趣味はXちゃんねる。マジメに議論してるとこに乗り込んで荒らして煽って全部台無しにするのが大好き。

 ランスターさんは頭脳で勝負するタイプだから魔力は必要無いと思うのです。どうせ会わないと油断したのが将来どうなるかは未知数。

 「治療」ではなく「魔力増幅術」だからシビアに利害優先。赤の他人相手だしこんなもんだろと。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第八十九話   迷走日記 19
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/05/10 08:03
マシュー・バニングスの日常   第八十九話





○○年△月○日



 魔力中枢中核刺激の志願実験者への実施が始まった。

 大体、一週間に一人で、十週間で何とかするという予定だ。

 これは実はかなりのハードスケジュールである。主に俺の体力的に。


 しかし俺にも色んな意味で時間制限があるのでなるべく早くしたいのでこのスケジュールとした。

 多分大丈夫だと思うんだよな・・・ギリギリかもだけど。

 そこで何とか頑張ってこなして・・・


 んでまぁ、もったいぶっても始まらんので結論だけ言うと。


 全員成功。

 魔力出力にして5%~10%程度の向上が実現された。

 全員の、魔力が、確かに、上がったわけだ。


 大成功と言って良いだろ。

 実際もの凄い評判になったし。

 あっさり言ってるが実際には相当苦労もしたし疲労もたまりました。


 しかし俺としては残念だったのだが、ギンガ・スバル姉妹については5%少し程度の向上しか見られず・・・

 ぶっちゃけ向上率は一番低い二人ということになってしまった。

 あ~やっぱりなんか柔軟性に欠けるみたいな? そういうのがあったのかな・・・



 とにかく成功は成功、上の人からも凄く褒められたし。

 地位階級とか、肝心の情報アクセス権限とかも向上の見込みである。


 だが少し問題も。


 ほぼ二ヵ月半の連続の実験。それに先立ち並行して実施してたコア精査。

 さらに余りにも話題沸騰したので、取材の申し込みとか殺到して。

 それへの対応も・・・やはり俺が顔出さなくては納得しないというマスコミ多くて。


 実験だけなら・・・ギリギリ体力持ったと思うんだけどな・・・

 取材攻勢のがきつかった・・・それが計算外で・・・

 久しぶりに倒れました。体力の限界。



 別に吐血したとかそういうのは無かったのだが。

 食欲が減って、微熱が出て、体がふらついて、慢性的にだるくなり。

 つまり風邪みたいな症状で、それが治らず収まらずって状態が続いたのだな。


 過労による一時的な症状だろってのが俺の診断でもあり、ギルさんも同意してくれたが。

 でも俺の場合は、大事をとったほうが良いということで。

 一週間ばかりの入院に、一ヶ月ばかりの完全休養を申し渡されました。


 助かった、なによりもマスコミを強制的に遮断してくれたのが何よりも助かった。



 姉ちゃんには連絡したが、今回は単なる風邪みたいなもんだって何とか納得してもらえて・・・

 前みたいに付きっ切りで俺の病室に入り浸るということは無かった。

 まあ姉ちゃんも近頃忙しくなってきたしね。



 こうして一人静かに病室でゆっくり休むのも悪くない・・・慣れてるしな・・・zzz・・・

 でもこういうときに、そばにいる人として夢見るのは・・・



☆     ☆     ☆



 倒れたとは言っても大したこと無いという連絡網がまわってきたの。

 どちらかといえばマスコミを完全に遮断するために少し大げさにしたらしいという話も。

 でもしばらく仕事の方は完全休養するとのことなので、私はお見舞いに行くつもりだった。


 アリサちゃんから、アメリカでの仕事があれこれ忙しくなってきたので病院に余り顔を出せないという連絡も来た。


 アリサちゃんの意図は分かりやすい、つまり私に面倒みてほしいってことだと思う。


 うん、それはいいよ?

 そのために有給休暇とるくらい今の私は・・・平気でしてしまうみたい。

 それはいいとして、でもそれだけでいいのかな? 何か忘れてるような・・・何かがすっきりしない。


 すっきりしないと思いながらも・・・

 アリサちゃんからのメールが連続して来て、その内容は。


【不公平になってはいけないと思ったので、すずかにも伝えた】


 うん了解。

 すぐ行こう、今すぐ行こう早く行こう。

 有給取りますね、明日から。承認お願いします。突然すぎる? いつも有給取れって言ってるじゃないですか!

 それを取るって言ってるんです! いいですね? それでは失礼します!



 一番乗り~♪



 うふふ・・・すずかちゃんも連絡見てすぐこっちに向かってる可能性はあるけど。

 地の利が私にはある! ミッドにいる以上、私が圧倒的有利なの!

 余裕~って気持ちでマシュー君の病室を訪ねると・・・


 ユーノ君とクロノ君が先に来てた!

 偶然、時間が空いたし、一度、今評判の魔力増幅手術=中核刺激法について聞きたかったからとか言ってる・・・

 仕方なく私は3人のお茶とか入れたりするんだけど・・・


 こうして男性3人の話を横から聞いてて新しく知った事実。なんでも普段からユーノ君とマシュー君は私的に連絡とりあうことも多くて

だから中核刺激法についてもある程度は知っているんだけど、クロノ君の方はそれほど連絡とりあってないとか。そして将来的には管理局

全体を背負って立つくらいの気概を持ってるクロノ君としては、この新たな技術が管理局全体に与えるインパクトはどの程度なのか、一度

きちんと話を聞いておきたかったとか。熱心に質問するクロノ君、詳細に答えるマシュー君、二人ともデバイスから画面出して、互いに

資料やデータを交換したりしながら凄く真剣に議論を続け・・・続け・・・続け・・・・・・


 気付けば既に夕食の時間に・・・

 一般のお見舞いの方はもうご遠慮してくださいと看護士さんが・・・

 アリサちゃんみたいに本当の身内で無くては、これ以上残るのはダメだそうで・・・


 仕方なくその日は帰宅。


 翌日また朝一でお見舞いに。

 そして病室前で、すずかちゃんを発見。

 すずかちゃんも同時に私を発見、にこりと笑って、一緒にお見舞いしましょうって。

 何か複雑な気持ちでマシュー君の病室に入る。


 久しぶりだね、倒れたって聞いて心配したよ?ってすずかちゃんはいつものペースでマシュー君に話しかける。

 大したこと無いよって答えるマシュー君、そしてそのまま二人は午前中一杯・・・談笑を続けて・・・

 二人の間に漂う雰囲気はとても穏やか、うーん・・・昔は気にしてなかったんだけど・・・

 実はこの二人・・・自然に気が合ってる、性格が上手く噛みあうみたいなところがあるのかな・・・

 マシュー君はゆったりとくつろいで、すずかちゃんは上手くそういう空気を作って・・・

 私が会話に入り込みにくいような・・・


 結局午前中は私は・・・ほとんど置物みたいな感じで・・・


 昼、マシュー君は病室で食事するとのことで、私とすずかちゃんは病院の近くのお店に入った。

 すずかちゃんは余裕の表情で。


「ふーん。少しは素直になったのかな? でもまだはっきりしてない感じ? それじゃあ勝負にならないかも?」


 いつものような穏やかな笑顔でそう言う。

 私も今の心境を正直に言う、好きかもしれないとは認めたけど分からないって。

 それを聞いて少し呆れた感じのすずかちゃんは・・・


「今はまだそれでよいかもしれないけど・・・私も、近い将来・・・機会をとらえて本格的に攻めるかもしれないよ? はやてちゃんが

やっぱり・・・って思い直したら一瞬だろうし・・・もう少しきちんと気持ちをまとめておいたほうが良いよ。とりあえず私は、今日の

ところは無理せず帰るけど・・・なのはちゃんも後悔しないようにね・・・」


 言葉通りにあっさり帰るすずかちゃん、なんだか肩透かしされたみたいに感じた私。


 どこか複雑な気持ちでマシュー君の病室に再び入って見ると・・・

 昨日に引き続き、ユーノ君とクロノ君が!


 そして再び始まる、中核刺激法についての説明検討会議・・・


 クロノ君はそれからも3日も通ってきて同じことを繰り返した・・・


 空気読んでよクロノ君! その話ってまた後でも出来る話じゃないの?!


 魔導師平均ランクの上方修正がもたらす、陸士部隊充実の可能性、海が人材引き抜くのが容易になる可能性、いやそれをさらにやって

しまうと対立が・・・だが折角余裕ができるのなら・・・お前が海の立場を優先するのは分かるがそれを続けていては・・・分かっている

つもりなのだがそんなに陸は・・・やはり実際に病院勤務した経験から言わせてもらうと・・・云々

 だんだん中核刺激法とは関係ない幅広い議論になってきてユーノ君が資料提出したりそれを元に3人が意見を交換したり。




 もちろんアリサちゃんも何日かに一回は必ず顔を見せるし。

 その他にもお見舞いに来る人、結構いるのに・・・

 ほとんどの時間を占有したのはクロノ君だった・・・



 あっという間に退院の日が来る。もともと形だけみたいな入院だったし・・・最後に少し健康診断して帰るんだって。

 帰って休養、ただし問題はその場所、日本のバニングス邸か、アメリカの方か、どちらかは決めてないって・・・

 日本の方にしたら?って言おうかな、言うとしてどのタイミングで・・・とか私は暢気に考えてたんだけど。


 ギルさんが顔を顰めて病室に入ってきて言う。


「熱は下がってる、他の異常も見られないが・・・マシュー、体重が半年前より4キロも落ちてるぞ?」

「あ~・・・やっぱりそうですか。近頃忙しかったですしね・・・」

「お前は元々痩せ型だ、前から少し気にしてたんだが・・・この一週間の入院でも依然、減少傾向にある。良くないな」

「病気では無いし、コア異常がぶり返したわけでもないと思いますけど?」

「それはそうだ。しかしな・・・お前の場合は慎重に、いつも余裕を作っておいた方が良いから・・・」

「家に帰ってからたくさん食べるようにしますよ」

「ううむ・・・」


 この会話を聞きながら、私は結構ショックを受けてた。

 うん、言われてみたら気付く。改めてマシュー君の顔をまじまじと見ると確かに・・・前より少し痩せてる。

 それに私・・・気付いてなかった。


 そこで咄嗟に口を出してしまう。


「私が注意して見ておきます! ご飯とかも作りますから!」

 せっかく私がこう言ってるのに。


「いや、高町にそこまでしてもらう理由とか無いし・・・」

 マシュー君の返事は冷たい。正直少し傷ついた。


「あ~・・・そうか今は高町さんが・・・・・・(八神さんなら安心なんだが)」

 ギル先生の発言はもっとひどかった。後半部、小声で呟いてたけど聞こえたよ!



 うふふ・・・そこまで言われたら私も引き下がれないの!

 これでもお菓子とかお茶だけじゃなくて、料理全般について、お母さんから相当厳しく仕込まれてるんだよ!

 昔はともかく今では、料理の腕前、技術的な面だけで言えば、はやてちゃんにも勝ってる自信はあるの。



 とりあえず一緒に海鳴に帰ってきた私たち。

 これから一ヶ月は、夕食は私が作りに行く!ってマシュー君に宣言。

 マシュー君は、あぁ~いや~しかしだなぁ~とかうじゃうじゃ言ってたけど聞こえない!




☆     ☆     ☆




 マーくんがマスコミ対策で入院したそうや、それは知っとった。

 そしてそれ以外のことも実は知っとった。


 つまりな・・・マーくんは毎日サウロンで自動で健康チェックしてデータを私の方に送るってシステムを・・・忘れてたんか、故意にか

知らんけど、今でも継続中やったんや。もうそれやめたほうがええやろって言うにしてもそれもちゃんと連絡して話し合いせんとあかん

やん、それに送られてきても私が・・・見ぃへんようにしとけばええって思っとったんやけど。


 かなりの強行スケジュールで中核刺激法の実験をこなしたいうこと。

 数ヶ月間は、新たな魔力増幅手術の実用化に成功!って話がミッド全体で一番ホットなニュースになって。

 マーくんはマスコミの取材に対応して相当忙しそうで・・・そしてテレビで顔見ると・・・なんか痩せて来たみたいに見えて。


 一度、なんか痩せたみたいやって気付いてしまうと。

 もう無理やった。

 一度だけ、一度だけやから、サウロンから送られてくる体調データ見てみようって思ってもうて。


 あかん、私と一緒やった時代は・・・なんだかんだで体重も身長も微増傾向が続いとったのに。

 私と別れたときから体重は微減傾向に転じていて・・・

 ここ半年、相当忙しかった時期になってかなりのペースで体重落ちてて。


 これはなんとかせんとあかん、でもどうしようどうしようって。

 心配で心配で。

 折角、私が長年頑張って少しずつマーくんの体重増やしてきたのにこれでは・・・

 またマーくんが昔みたいに病的に痩せ細って倒れたらどうしよう・・・

 マーくんが倒れる悪夢とかみて泣きそうになって目覚めたりとかした。


 なのはちゃんがなんとか対応してくれへんかなって少し思ったんやけど。

 でもそれも私には・・・分かってしまっとる。

 多分、今の段階ではまだなのはちゃんには無理やろう。


 実際、なのはちゃんと、かなり接近したっていう、研究所襲撃事件以降なんやな・・・

 マーくんの体重減少傾向が加速したんは。

 もちろん同時期にハードな実験とかしとったわけやけど。

 でもそれを近くで見とったはずの、なのはちゃんは何の対応も出来てへんかったわけや。

 それもしゃあないんやろう、なのはちゃんは昔からマーくんに「面倒みられる」側やったんや。

 私みたいに最初から「面倒見る」意識とか、多分全然無い。


 そこの所から無理あんねん。



 それでもどうしたらええんか迷っとった優柔不断な私やったんやけど。

 最後の後押しになったんは、見ぃへんようにしとったマーくんからの私信のメール。

 サウロンからの自動定期通信をな、昔に遡って一個ずつチェックしとったら偶然間違って開いてもうたんやけどな。


【やっぱり好きだ、会いたい】


 ってだけのシンプルな内容で、一瞬で読めてしまって、なんというか・・・直撃されてしまったいうか・・・


 気付いたら私は、既にアリサちゃんに連絡取って。

 マーくんの体重減少傾向について説明して。

 時間あるときに、ご飯を作りにいってええかってきいとった。


 もちろんずっと一緒にいるとかは無理やけど。

 料理作れるときに作って、それを宅配するくらいやったら。

 なんとかなる思うから・・・



 アリサちゃんは、しばらくは渋っとったんやけど。

 マーくんの健康状態についての長期観測データを示されると納得してくれた。

 特に・・・なのはちゃんと接近して以降に体重が減ってきたいうデータが・・・相当きいたらしい。


「あ~・・・なるほどね・・・そっか、なのはだと・・・はぁ・・・そうなっちゃうわけか・・・ごめんなさいね、はやて。今さらこんな

こといえた義理じゃ無いのかもしれないけど、私からお願いするわ、出来る限りでいいからそうしてくれる?」


 アリサちゃんにとっての優先順位は明確。

 マーくんが可能な限り健康であるようにする以上に重要なことなんて無い。

 せやから私からの提案に結局は、そう答えてくれた。



 私はそれから家におれる時間は出来る限りたくさんマーくんの好きな料理を作っておいて。

 無理やりひねり出した20分とかの時間を使ってバニングス邸に配達して、配膳とかも注意して。

 会う時間は無かったけど、とにかく可能な限り、彼に私の料理食べてもらって。


 バニングス邸には、もちろん料理人さんがおるんやけど。

 そしてその人らも昔から「若」の体調を考えた料理を作っとったそうやけど。

 少しその人らの作った料理とか味見させてもらったら・・・なんというかレベル違って、ほんまにプロやったんやけど・・・


 それでもなぜか。

 マーくんは。

 私の作った料理だけは絶対に残さず全部、食べてくれとったそうや。


 料理人の人らも呆れとった。

 「なんであんなに正確に分かるんでしょうね? 八神さんの味付けとか私たちも真似してみたりしてるんですが・・・」

 って不思議がるくらいに。彼は私の作った品は完食、他は微妙に残したりしとったって。


 アリサちゃんもその報告を聞いて・・・

 「あぁ~・・・やっぱりそういうことなのかな・・・そういうレベルで既に完全に・・・掌握されちゃってたわけね・・・」

 諦めたみたいな口調でそう言っとった。


 そうこうしてるうちにマーくんの体重も少しずつ戻って来たみたいや。

 良かった・・・


 せやけど・・・

 ほんまマーくんは手ぇかかるわなぁ・・・やっぱり私がおらんとあかんのやろか・・・

 他の人の作った料理やとダメで、私が作ったらんとちゃんと食べへんとか・・・

 もう、そんなことではあかんでマーくん・・・





☆     ☆     ☆





 バニングス邸には専属のコックさんたちがいるの。

 だから私が料理作りに行くって言うのも、実際にはせいぜい週二くらいだったの。

 コックさんたちとも話し合ってそのくらいに落ち着いたの。


 でも私が頑張って作っても・・・マシュー君、ちゃんと全部食べてくれることは少なくて。

 どうしても食べきれず残してしまうことが多くて。

 コックさんたちに聞いたらそれが普通だって。

 そして「若」に無理に食べさせようとしてもいけない、それでも倒れたことがあるって言ってた。


 だから私は、今度こそマシュー君がペロリと全部食べてしまうような料理を作ろうって。

 毎週、頑張ってたんだけど・・・



 ある日、バニングス邸の大きな厨房の冷蔵庫の中に、なんだか家庭的な花柄の可愛いお鍋があるのを見つけた。

 ここには場違いな感じ? 中身を見てみると、普通の素朴なお味噌汁。

 なんだろうなって不思議に思って味見、うーん、これは本当に普通だ。

 微妙に特徴はあるような気もするけど、とにかく普通。ここのコックさんが作った味じゃ無い・・・

 でもどこかでこの味、知ってるような気がする・・・どこで食べたんだろう・・・


 そのお味噌汁は私が次の日にまた確認すると完全に無くなってた。


 そしてそれからも、実は結構・・・バニングス邸の厨房には似合わない庶民的なお鍋とかお皿とかタッパーとかに入れられた、素朴な

家庭料理みたいのが・・・冷蔵庫の中にあることが多いって気付いて・・・

 見つけるたびに少しずつ味見して、そしてそのうち気付いてしまった。



 そうだこれは、はやてちゃんの料理だ。私も昔は結構、食べたことがある。



 そしてそれが今もここに配達されてきてる?

 そしてその料理は全部、あっという間に無くなってる。

 二日と残っていたことが無い。


 私が作ったのは結構、残されてしまったりするのに。

 はやてちゃんの作った料理はすぐに無くなる。


 いや、それはそれで・・・別に問題無くない?

 そうだよ、重要なのはマシュー君が元気になることなんだから。

 はやてちゃんの料理で元気になるならそれで良いんだよ、うん、間違いない。



 でもなぜか。

 すっきりしないものを。

 私は感じていた・・・かも知れない。










(あとがき)

 「はやて・なのは」方面に進んだ場合の固定イベント、「過労で入院」。

 はやての作った料理なら全部食べられる、小さい頃からの積み重ねの圧倒的な強さ。胃袋を完全に支配してるはやて。

 ちょっと近づいただけで絆の強さが明確になる・・・うーん、なのはが不利というよりは、はやてが強いということかな。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第九十話    迷走日記 20 二年目のクリスマス
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/05/16 22:35
マシュー・バニングスの日常     第九十話





○×年△月○日



 八神と距離置くことになったのは去年の8月か。

 もうすぐ、あれから二回目のクリスマス、去年は一緒に過ごせなかったな、ほとんど・・・


 今年のクリスマスも高町家でパーティをすることになった。

 この日ばかりは全員集まる予定。



 その日。

 俺は、ちょっと反則だが得意の探査魔法を使って、彼女の位置を確認。

 移動する方向から、どこに行くつもりかすぐに理解して先回り。


 八神家のお墓の前で彼女を待った。                                   (→ 七十三話)


 俺がいるのを見て少し驚いた彼女だが場所が場所だ。

 軽く挨拶した後は、毎年のようにご両親のお墓参りを始める。

 掃除とか俺も手伝う、これは小4以来、去年を除いてずっと一緒にやって来たので協力体制もスムースだ。

 しばしご両親に黙祷を捧げる。

 そのあと、初代リインが亡くなったという場所に向かう。


 花束を捧げて、そこでもしばらく黙祷した後。


 守護騎士たちとリインは先に高町家に向かった。

 八神も向かおうとしたのを俺が引き止めるそぶりを見せる、それだけで以心伝心、皆は理解して気を使ってくれて。

 八神も仕方ないなって顔で残ってくれた。


 冬の曇り空の下、それぞれ適当に別の方向を見ながら立ち。

 しばらく静かな時間が流れた。

 沈黙を破ったのは俺から。


「去年はすまんな、一緒に来れなくて」


 八神は何も答えない。

 そういう態度をとるだろうなとは分かってたが。

 だが今は言っておきたいことがある。

 八神が確実に来る時と場所といえばここしか無いし。

 さらにはこうして二人だけで話せる状況というのも今しか無いので。

 多少強引にでも今ここで言っておかねば・・・


「しかし・・・助かったよ八神、ありがとな。」

「・・・なんのこと?」


 俺に背を向けたまま八神は小声で白々しい返事をした。


「分からないわけがないだろう? 何年お前の料理食ってると思ってんだ」


 八神は黙ってる。


 あのな、分からんわけないだろう。

 作りに来たのかと思って厨房に確認に行ったりしたんだぞ。

 どうやら宅配してくれただけらしいとは分かったけどさ。

 そもそも転送魔法の発動に俺が気付かないとか、ありえんだろうが?

 鍋だけ置いて急いで帰るシャマルさんの姿を見たこともあるし。


「ハァ・・・たまに会うだけでも維持できるって俺が言ったの覚えてるか?」


 八神は答えない。

 一分くらい沈黙が続いたかも知れない。


 八神のほうを見ると、八神はまだ俺に背を向けていた。

 ほんの数歩の距離、俺は近づく。

 逃げるかなと思ったのだが、八神は動かず。


 俺は背を向ける八神をそのまま抱きしめた。

 八神は抵抗せず・・・抱きしめる俺の腕にそっと手を添えた。

 俺は昔から何度も、何十度も? 繰り返してきた質問をもう一度繰り返す。


「・・・まだ、頑張る気なのか?」


 八神は少し震える声で。


「もうちょっとだけ・・・」

「ああ」

「もうちょっとだけ頑張りたいねん・・・」

「どうしても?」

「・・・どうしてもや」


 八神は少し涙声になってる感じがするのだがそれには気付かない振りをして。


「近くからじゃなくて、遠くからになるかもしれないけど」

「・・・」

「それでも見ててやるよ、お前の頑張るところをな・・・」


 言いながら俺は、八神を抱きしめる腕に力を込めた。


「・・・・・・」


 八神は口に出しては何も答えなかったし。

 頷くそぶりも見せなかった。

 肯定を表す態度をみせないように意地張って固まってるとしか思えんのだが。


 だがそのまま。


 頑なに俺に背を向けて俯いて、顔を見せないようにしながら。

 肩が震えている彼女を。

 俺はそれからしばらく・・・ただ抱きしめていた。




☆     ☆     ☆




 背中を向けてるから耐えられた。

 もしも正面向いて彼の胸に顔を埋めてしまえば。

 もう無理やったろう。


 この際、全部どうでもええってほんまに思ってしまいそうで。


 大体、既に一年半くらい経っとるのに。

 それでもまだこんな風に私を抱き締めてくれるとか。


 色んな噂があった。

 なのはちゃんとの噂は管理局公認みたいな感じやし。

 フェイトちゃんとも距離が微妙に近くなった言う話も聞いたし。

 ギンガちゃんとデートしとるとこは見たし。

 すずかちゃんからは思い切り言われたし。


 せやのにそれでも。

 なんか全部関係ないみたいな感じで。

 まだマーくんは私をこうして抱き締めてくれていて。


 それがあんまり暖かくて。

 心地よくて。

 やっぱりこうしてるんが正しいって感じてしまって。


 必死にこらえても涙が出そうになって。

 泣きそうになって肩が震えてきて。

 それを言わんでも分かってくれてギュってしてくれる彼の腕の温かさにすがって気持ちを何とか宥めて・・・


 やっと落ち着いた頃にマーくんが言う。


「お前の作ってくれたメシは全部残さず平らげた」

「うん」

「ところが平らげた後でいつも思ってたんだが・・・」

「・・・なにを?」

「純粋に美味かどうかの基準で言えば、多分今では既に高町のが上だな」

「っな!」

「桃子さんの指導をビシバシ受けてるわけだし、そこはしょうがないんでね? うん、向こうは既に準プロ級だ」

「せ、せやかて!」

「そうだ、それなのに何故か、お前の作るメシなら全部食ってしまうんだなぁ」

「・・・」

「擦り込まれてしまってるんだろな・・・もう手遅れなレベルで・・・おい八神」

「・・・なに?」

「そういうことだから、そろそろ諦めてくれない?」

「・・・さっきも言ったやろ」

「まだ頑張る?」

「そうや」

「・・・・・・ハァ・・・わかったよ」

「そろそろ時間・・・」

「あ、パーティに遅れるな、行くか」

「うん」


 なのはちゃんの家に向かって二人で並んで歩く。

 ゆっくりと一緒に道を行く。

 こうして二人で一緒に進めるんやったらきっと何も怖くない・・・って何を思っとるんや私は。


「そだ、そろそろ俺、休養明けになるから・・・メシ、もういいぞ」

「ほんまに大丈夫なん? 体重戻ってきたみたいやけど・・・」

「心配なんだったらとっとと諦めろ」

「うぅ・・・それは・・・」

「ただ、これからはあんまり海鳴のバニングス邸には帰らないかも知れん。基本、ミッドとアメリカの往復だな。」

「そっか」

「だからアメリカの方に少し保存効くようなの送ってくれれば俺は食えると思われる」

「・・・それは催促しとるん?」

「さあね。あと、ミッドの方の病院寮の俺の部屋だが、実はお前、入れるぞ。シャマルさんに鍵、預けてるから」

「え! いつの間に・・・」

「そっちに来たいならいつでも来い。ただしもしも泊まるようなことがあった場合は覚悟しとけよ」

「覚悟って・・・」

「お前が俺の部屋を訪問して来て宿泊するという状況になれば自重しないということだ」

「・・・そんなこと言われたら行きにくいやんか」

「別に無理に来いとは言わん」

「・・・無理に引き止めて泊まらせたりせぇへん?」

「引き止めれば泊まるのか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 せやな、どうするんやろな私、どうしたいんやろな私。


 そうなってしまっても別に構わへんってどっかで思っとるけど。

 そうなってしまうと、もう意地張る気も失せてまうようにも思える。

 そしてそうなってしまうときっと仕事が・・・


 仕事もしたいねん、これも本音やねん。

 特に今は・・・しばらくは専念したい、せやから・・・

 両立できるように努力するのも無理やって判断、やっぱり今でも間違ってない思う。


 せやかて無理に突き放そうとか不自然に距離置こうとかそれもやっぱ無理?

 マーくんが体調悪くしたらそれを適切にケアできるのは今でも実は私だけ?

 そこで私以外の誰かが上手くケアできるようになるまで待つとか・・・心配過ぎて不可能?


 友達以下扱いくらいまで距離置くのはやっぱり不自然で無理やから。

 せめて普通に親しい友達くらいの距離に抑えられるように・・・

 しとくくらいが妥当なんかな・・・


 ほんまのところはやっぱり私もいまだによくわからへんのかもしれへんねんけど・・・



 いつの間にか高町家に到着しとった。


 その日のクリスマスパーティはなんか妙に楽しかった。

 別にマーくんと私、ベタベタとしてたとか、そういうことは無いで? 無いけど・・・

 ほんの少しだけ彼が近くにいてくれるいうだけで離れていたときの不安な気持ちが消え失せて。


 ただ・・・なのはちゃんが変な雰囲気やったかな?ってのは気になったんやけど。

 アリサちゃんとかは、しょうがないなって諦めてる感じやったかな。

 すずかちゃんはいつもの笑顔で、まだまだ油断できへんように見えたけど・・・


 それもこれも彼と少し言葉を交わすだけで全部、気にならへんようになるんやな・・・


 あかんなあ・・・

 こんなんでは・・・

 ほんまにマーくんは・・・






☆     ☆     ☆





 ヴィータちゃんたちが先にうちに到着したの。

 はやてちゃんどうしたのって聞いたら、まだ初代リインさんの亡くなったところにいるって。

 少し一人になりたいから先に行けって言われたって聞いて。


 はやてちゃんのことが心配になったの。

 もしも寂しく一人で泣いてるなら・・・慰めてあげたいって思って。

 皆の目をかすめて私、ひそかにはやてちゃんを迎えに行った。


 そこで見たのは。

 抱きしめてるマシュー君。

 おとなしく抱きしめられてる、はやてちゃん。

 すごいしっくりくる二人の姿。

 なにか話してる、それもとても自然、ああ、あの二人にとってあの距離は当然なんだって分かってしまって。


 ううん、そんなこと私には分かっていたはずなの。

 だからどうしてそれを見た瞬間、ガツンと凄い衝撃を感じて。

 そのままふらふらと家に帰ってからパーティの間中、上の空で。

 自分がどう振舞ったのか記憶もほとんど無かったみたいな状態になったのか、分からない。


 あっという間にパーティーは終わって私は部屋に帰って横になる、眠れない。


 皆が寝静まった夜中。

 私は喉が渇いて台所に向かい、冷やしてある無糖紅茶をコップに注いで一口飲んで。

 そしてぼんやりとあの光景を思い出す。


 抱きしめているマシュー君、安心して抱きしめられているはやてちゃん・・・

 二人の姿はとても自然で・・・


 なぜだか分からないけど悲しいみたいな気持ちになって来て。

 泣きたいみたいに思えてきて。

 涙が出てきたような気がする。


 私は夜中の暗い台所の片隅で。

 力なく床に座り込んで、しばらく俯いて肩を震わせていた。

 どうして涙が出てくるのか分からない。

 止まらないのか分からない。

 こんなに悲しい・・・みたいな気持ちになるのか分からない。


「なのは、どうしたの?」


 いつの間にか、お母さんがそばにいて、私の肩を抱いてくれていた。


「・・・ひどいの」

「なにかあったの?」


 分からない、分からないんだけど。

 勝手に感情だけが動いて口から支離滅裂な言葉が溢れてきて。

 つっかえつっかえ涙声で私はお母さんに訴える・・・


「だ、だって・・・ひどいの・・・別れたって言ってたのに・・・二人ともそうだって認めてたのに・・・なんで平気で抱き合ってたりするの・・・

ほとんどまともに会ってなかったのに・・・それなのに久しぶりに会ったらまた当たり前みたいに・・・私も頑張ってご飯作ったのに

・・・でも全部食べたのははやてちゃんのだけで・・・顔も出さなかったのに・・・作り置きのを送ってきただけなのに、頑張って私が

作ったのは残したくせに・・・どうしてはやてちゃんだけ・・・お見舞いにも来ないで、それ以外にも顔も見にこないで。ひどいの・・・

ずるいの・・・二人ともひどいの・・・だったら別れたなんてウソつかなくても良いじゃない! そんなウソをつくから、私、わたし・・・

バカみたい・・・なんだか勝手に舞い上がって、でも全部、空回りで・・・」


「どうしてそんなふうに思うの?」

「え? どうしてって・・・」

「マシュー君と、はやてちゃんが幸せになるなら応援するって言ってなかった?」


「で、でも・・・マシュー君が研究で大変で、結構疲れたりしてるのに・・・近くにいて面倒見ようともせず、はやてちゃんは仕事仕事で

それに二人は別れたって言ってたし・・・仕方ないから私が友達として面倒みてあげようとしてたのに・・・でも実はきっと・・・全然、

彼の助けになんてなってなかった・・・いつものように彼に負担をかけるだけだったんじゃないのかな・・・それは薄々分かってたけど、

でも私も頑張ってたんだよ! それなのに全部無駄だったの? 無意味だったの? 近くにいようともせず放っておいたくせに・・・

引きとめようともせず遠くにいたくせに・・・でも会えばやっぱりそうなるの? なにもせずともただ会うだけで自然に・・・どうしてなの、

どうしてそれなら離れたり・・・納得いかないの、それならどうして・・・」

「うん、それで、なのははどうしたいの?」

「・・・わ、わからないの・・・」


 お母さんは私の背中を撫でて優しく言い聞かせる。


「納得行かない、どうして納得行かないのか。考えたほうがいいわよ? なのは、後悔だけはしないように、変に遠慮したりせずに・・・

自分の気持ちに素直になってごらんなさい・・・」

「わかんないよ・・・お母さん・・・」


 私は小さな子供みたいにお母さんの胸に抱きしめられて。

 なぜだか理由の分からないまま止まらない涙にしばらく耐えていた。


 本当にマシュー君はひどい・・・

 でもそれはいつものこと?

 それよりも。


 これまで思ったこと無かったけど。

 はやてちゃんも・・・ひどい?

 私は納得が・・・いかない?


 分からない。




☆     ☆     ☆




 クリスマスパーティが終わった夜、そのままなのはちゃんの家に泊めてもらっていた。

 夜中になのはちゃんが起き出して、キッチンの方に向かって、そこから啜り泣き混じりの声が聞こえてきた。

 実は「夜の一族」は、視覚聴覚も常人並では無いので、聞こえちゃったんだよね。


 なのはちゃんが桃子さんに相談してる内容も大体聞こえたけど・・・


 本当になのはちゃんて頑固だね、この期に及んでもまだ認めていない、素直になっていない。

 そのくせ明らかにこの件に関しては、普通の判断力も失ってしまっている。

 夢中になって、盲目的になってる自分に気付いてないのかな?


 でもね。


 冷静に今日のマシュー君、はやてちゃんを見れば私には分かる。


 マシュー君が少し体調を悪くしたので、はやてちゃんが少しだけ戻って来て手助けしたりしたんだろう。

 そして、はやてちゃんが少し近づいただけで、なにせあの二人のことだから、またすぐ特別に仲良しな雰囲気を出す。

 でもこれはまだ一時的な・・・一過性の出来事に過ぎないよ、どう見ても。


 はやてちゃんは本気で戻る気が無いし。

 マシュー君も本気で捕まえておく気が無いし。

 なにも変わっていない、見れば分かる。


 「昔みたいな」雰囲気に一時的に戻ってるってだけの今日の二人の光景、別に見て焦りは感じなかった。

 それじゃ無理だね。

 それじゃ続かなかったってもう証明されてるじゃない。


 うーん、マシュー君も、はやてちゃんも、なのはちゃんも。

 どこかに隙がある、まだまだ甘い、本当に詰めていない。

 まだ皆17歳、そのくらいが普通、焦ることは無いんだろうけどね。


 来年、マシュー君は18になる、そこが一つの山場、勝負の時かな・・・


 はやてちゃんは自分から動く気は無いくせに希望的観測にすがってるようにしか見えない。

 なのはちゃんは臆病だ、ほんの少し素直になってもまだまだ意地を張ってるし逃げている。

 私はね・・・いつまでもそれに付き合う気は無いよ?


 既に結構待った。

 塩を送るようなマネもした。

 友人としての義理は、もう果たした・・・かな?








(あとがき)

 機動六課が設立した年の6月に八神は19になる設定です。マシューは八神より数ヶ月後が誕生日の設定。

 機動六課作るから来てとはやてが正式になのはを誘う当たりが山場? はやてVSなのは。納得行くまで「話し合い」。

 すずかの再攻勢とどっちを先にするかな。現時点から数えて、再来年の四月に機動六課成立の予定。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第九十一話   迷走日記 21  U.D.
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/05/23 20:05
マシュー・バニングスの日常        第九十一話







××年○月○日




 今の俺は絶好調、実に機嫌が良い!



 その理由はいくつもあるのだが。


 そのうちの一つは八神ね。まだ意地張ってるし仕事片付くまで意地を張り続けそうな雰囲気ではあったが・・・

 同時にぶっちゃけ「これは大丈夫だ」と実感できた。

 最悪、俺が二十歳になるまでに同意が得られなくても、そこでギリギリのところで「今結婚しないと永久にサヨナラだぞ」とこちらの

事情を正直に言ってしまえば絶対押し切れるね。もちろんそれは最後の手段で、そうなると我ながら情けないと思うので、その前に完治

した上で、さらに正面から説得してモノにしなくてはいかんだろが。でもいけるね、間違いなく。


 前に月村さんに出された課題、「本当に好きなのか?」って話にも少し解答が見つかった気がする。

 俺は、明らかに、既に、手遅れなレベルで!

 八神に餌付けされている!


 八神の手料理じゃなくてはきちんと食べないとか、うん明らかに手遅れだろうこれは。

 嫁だ嫁だと思ってたけど、あらためて実感、やっぱり既に嫁に等しい。

 形式が実質に伴ってないだけで、んなこた問題ないとしか思えん。


 俺は昔からあいつを嫁にする気だったし、その意思が変わったことは一度も無かった、こうして多少離れてても何の問題も無く、今でも

確かにそう思ってる、こういうふうに思い続けてるってこと自体が、証明になると思うんだよな。

 八神は俺にとって特別だと、今なら月村さんにも断言できる気がする。



 これが俺の機嫌がいい理由の第一、次に・・・



 例の実験が、やっと無事に一段落ついたことも大きい。



 魔力中枢中核刺激による魔力出力増幅固定術=中核刺激法は、俺がやれば実用可能であることは証明され・・・


 次の段階、これが一番重要なのだが。


 誰でも・・・とは言わんが、せめて専門知識を持つ医師が専門の設備を使えば、同様のことが出来るか?

 一般への普及が可能であるか、これがなにより重要だ。


 コアの形状の把握、中核の存在確率の高い位置の特定、魔力刺激の方法、及びその程度などなど・・・

 少しずつデータは蓄積されてきてるがまだまだだろな。


 しかしだ。


 年明けてしばらくして、ついに、全く俺の手を介さずに、俺以外の専門医の人(ずっとこのプロジェクトに参加してた熟練医)が、各種

専門装置を上手く利用しながら、中核刺激法を実施し、成功するという、第一例がついに実現した!

 魔力増幅率は3.5%程度だったがとにかく間違いなく成功は成功。


 一応念のために、全部終わった後で俺もチェックしたところ問題なく成功してる。


 一例が成功すれば次は早い。すぐに別の医師も成功し、数ヶ月で既に5名の医師が成功した。

 ただし、俺がやる場合は5~10%程度の増幅に成功したわけだが。

 俺以外の医師がやった場合は、3~5%の増幅しか成功しなかった。

 安全性優先しつつするからその程度が現状の技術の限界。

 しかし今後もノウハウを蓄積していけばこの率は高まっていくと思われる。


 多くて5%、これは大したこと無いように思えるかも知れないが・・・

 そもそも魔力保有量というのは、人の身長に似ていて。

 一定まで自然に伸びても、それ以上、人為的に伸ばすのは非常に困難なものなのだ。


 160センチの身長の人の5%といえば8センチになるわけだが。

 ちょちょっと手術すれば、後遺症無く、いきなり168センチに身長伸ばせるみたいなもんだと考えれば。

 この技術はかなり凄いのである。




 中核刺激法の理論を認められ、実験も成功し、さらに俺以外の医師による実験も成功。これで一段落。

 後は専門のコア精査の機器等の普及、実施可能な医師の増加などが出来れば・・・

 管理局全体の魔導師の魔力平均を確実に上方修正できる見込み、ただしそれまでには本当に十年かそれ以上かかるだろが。


 このプロジェクトの立案者であり中心者であった俺は、この年の管理局の表彰式で・・・

 他の前線勤務などで功績を挙げた局員たちなどを問題にせず蹴散らし、最高の殊勲者であると認定されてしまった。

 最高評議会から、海から、なぜか陸からも、各種の勲章とかメダルとか特別ナントカ賞とか大量に貰ってしまって。

 さらに景気良く階級まで上げてもらってしまった。

 今の俺は三佐待遇医務官ということになる。おっしゃー! はじめて八神に並んだ。次は抜いてやる。


 とはいっても医務官なので別に部隊指揮権とか無いんだけどね。ただ待遇がよくなるだけで。

 実際には俺はほぼ研究所勤務、たまに病院に出張みたいな感じだし~

 あまり階級に伴う実権とかは無い。あってもいらんけど。




 しかしまあ、去年一年は・・・ほとんど管理局の仕事やってたなあ。

 大学のほうは、それでもなんとか取れる単位は取ったが・・・とうてい姉ちゃんのように飛び級できるもんでは無い。

 今のペースだと飛び級どころか、学部卒業に5~6年かかりそうだ、これは良くない。


 そこで今年は少し大学のほうに身を入れる予定、管理局の方は・・・よほどの問題が起こったときだけ仕事することに。


 既に中核刺激法は、多くの部分が俺の手から離れて、評議会主導の巨大プロジェクトとして動き始めているので。

 それでも技術監修とか色々としなくてはならんことはあるけど、俺でなくてはダメというような部分は減少する一方だし。


 上の人らの本音は、この際、管理局専業でいって欲しいって所なのは確かだろうが。

 でも俺も去年は相当働いたわけで、だから今年は休みますと言われれば渋々ながらも受け入れてくれた。

 中央の官僚組織とか、実働部隊の中でとかで、階級権限が上がればそれに比例して仕事も増えて抜けるとか無理だろうけど?

 もとより俺は医者であり、今は主に研究者であり、階級は待遇の向上程度の意味しか持たず権限も「使っても良いよ」程度だし。

 まあだからといって例えば八神ならさらに組織の中に食い込むために仕事バリバリするって選択になるんだろうな。それが普通。

 ここでちょっと休むとか言い出せば管理局の中での出世とか将来とかに響くかも知れんが。


 しかし俺は、俺自身の治療法さえ見つかればぶっちゃけ管理局の中央官僚組織内での出世とかどうでも良い。

 その後は普通に医者に戻るのだ、海の病院にも陸の病院にも今でも一応籍はあるし。



 だがそれやこれやは全て小さい。


 俺の機嫌が最高に良い最大の理由・・・それは!


 なんと我が身の治療法について進展があったことだ!



 階級とか権限とかより遥かに俺が嬉しかった上からのご褒美。

 かなーり上から直々に「彼になら見せても良い」と許可が下りたらしい、特殊な資料。

 それは、とあるアンダーグラウンドな研究成果のまとめであった。

 その研究者の名前だけは伏せられていて、全部、“U.D.”となっている。                 (Unlimited Desire)

 イニシャルなのかな? それも良く分からんが、まあそれはどうでもいい。


 重要なことはこのUD氏は・・・違法研究者ながら信じられんほどの天才だってことだ。

 彼の書いた論文はいずれも圧倒的な完成度と、最先端の研究のさらに先を行く先見性を持っており・・・

 俺の専門分野と関係ない論文でも、いちいち感心させられる、その度に新たな発想を得られる。


 もしかしたらこの人ならば、俺の先天性リンカーコア形成異常に対しても何か解決策を出せるのではないか? と。

 期待したくなるほどの優れた研究論文の数々。そういうのは本気ではじめて見た!

 とはいえ、今の俺は、まだこの人が生きてるのか? それとも過去の人なのか?

 あるいは個人ではなく違法研究者集団とかの名前がUDということなのか? といったこともよく分からんのだが。


 今はまず、とりあえず・・・UDの名前が冠せられている膨大な論文集を・・・片端から調べてる段階である。


 だがきっとこの中には、俺の治療に役立つ技術なり、発想なりが・・・埋まっているような気がする!









××年○月×日



 昔々、ミッドチルダがまだ一地方勢力程度の存在だった頃。

 次元世界の覇者は、ベルカ聖王国でした。

 実はそれに先立ってアルハザードの時代というのもあったそうだが、これは伝説の域なので省く。



 次元航行艦を大量に作って、多くの次元世界に派遣し、管理し、支配し。

 古代ベルカの繁栄はとどまるところを知りませんでした。

 残念ながらミッドチルダは、これを正面から叩きのめしたわけでは無いようです。


 繁栄を極めたベルカが衰退に転じたのは、聖王家内部での内紛が原因でした。

 君主制国家独特の・・・時として致命的になる問題、後継者争いですね。

 それで弱体化して、そのくせ他の世界への支配は強引に続けようとして、そのため無理が出て。


 ベルカの覇権に対抗し、その支配から逃れようとした勢力の中心、それがミッドチルダでした。


 しかしベルカも弱体化したとは言っても、そこが独裁的君主制国家の強み、いざとなればまとまりは強く純軍事的な力はまだ強大で。


 両勢力は泥沼の大戦を続け、続け・・・ついには大量破壊兵器の打ち合いによる、事実上の相打ちとなりました。



 そしてですね、ここが肝心なんですが。

 ベルカは君主制国家で、その君主である聖王家というのは・・・他で代替の利かない本当に特別な血筋だったのですな。

 初代以来多くの肉体改造などを経てしかも代を重ねて洗練しどんどん強力な存在となって行き・・・

 なんでも聖王となったものは例外なく「対魔法・物理絶対防御」のレアスキルを持ってたとか、万能の応用力を示しているのか七色に

輝くレインボーカラーの魔力光を発していたとか、どんな魔法でも一瞬で覚えて使いこなしたとか、魔力保有量は最低でもSランクから

だったとか、さらにDNA照合でしか使えない王家専用の特別な武装が大量にあったとか・・・色々とデタラメな話も聞きます。

 しかし・・・王家内部の後継者争いに、ミッドとの泥沼の戦争、大量破壊兵器の打ち合いで、王家の血筋が絶えてしまったのです。


 一方のミッドチルダも大量破壊兵器の打ち合いで、当時の指導層が全滅しましたが。

 しかしこちらはそういった特別な血筋に頼った制度は持っていませんでした。魔導師優先の社会システムではあったけど、逆に言えば、

ただ偶然の素質によって魔導師でさえあれば、後は頑張って勉強とかすれば支配階級に登れるような仕組みだったのです。

 上の人間が全滅しても、ミッドチルダという社会システムは滅びなかった。


 ここが決定的な差となり、王家を失ったベルカが衰退した一方、どこの世界出身でもただ魔導師でさえあればミッドの管理局に参加して

頑張ればそこでも上に登れるという、限定的とは言え、ある程度開かれた枠組みを持っていたミッドチルダが次元世界の管理者になったと

いうわけです。この伝統は今でも守られており、例えば実は、最高評議会の三人のうち一人はミッドチルダの出身者では無いとか、伝説の

三提督といわれる管理局の英雄のうち二人はミッド出身では無い、しかも一人は管理世界出身でさえ無いそうです。



 しかしこのミッドの魔導師優先主義というのも、問題点の多いシステムであります。


 戦争が終わった混乱の時期に秩序を回復するため、強い指導力を発揮するには良い仕組みだったのかも知れませんが。


 しかし管理局体制が確立して既に長いのに、未だに魔導師優先主義だと各地に問題が出てきます。


 なにより不公平ですしね。偶然魔導師に生まれたかどうかだけで最初に決定的な区別がされるというのは。



 まあ実際にはそれほど単純でも無く、魔導師としての能力と、人望とか指導力とか事務処理能力とかとは必ずしも関係無いものではあり

ますので、非魔導師でも頑張れば管理局の上にいけるもんではあるのですが。

 スタートラインに差があるのは事実でしょうね。


 それに魔導師は数が少ない! 広大な次元世界全体を管理するのにはどうしても足りない!



 ではどうするか、どうすれば良いのか?



 普通なら、魔導師でなくても使える純物理兵器の数々を使えば良いという話になるのでしょうが。

 ミッドチルダには特殊な事情がありまして・・・つまり昔の戦争で大量破壊兵器の打ち合いでエライ事になったという反省から。

 魔法を介さない兵器、これを質量兵器といいますが、これを嫌う風潮・・・質量兵器アレルギーみたいな感性があるのです。

 魔法と違って手加減きかないのは事実ですからね、確かに。


 とはいってもね~そういう感性持ってるのは今ではその戦争の頃の話を身近に知ってるような人だけでないのかな。

 今では時代が違うし、少しずつ変えていくのが自然だろと若い連中は思ってるような気がするのだが。

 しかしま、現状は、まだそんな感じ、質量兵器は良くないよって言うのが公式論の良識論。



 特にね。

 特に、魔導師優先というか魔導師至上主義、魔導師による支配こそが正しいしそうあらねばならん!ってさ。

 強烈に思い込んでるとしか思えんのが、最高評議会。


 とか言いつつ、そういった彼らの思い込みに上手く媚びて異常な出世をしてるみたいな側面が俺にはあるのだけどね。

 魔導師全体のレベルアップを図る技術の開発とかしたりして。

 うん、別に悪いとは思ってないけどw

 我が身の治療のためのあらゆる情報を得るために手段を選ぶ気は無いので。



 だけど自然に生まれる魔導師だけでは広い次元世界全体の管理とかとうてい無理!

 ベルカだって軍事力に大規模に質量兵器を取り入れてそれで覇権を保っていたのに。

 ミッドも昔はそれに対抗するために同様の軍備を持っていたのに。


 失敗した過去を過剰に反省し・・・

 質量兵器の力を可能な限り取り除き、思い切り魔法兵器のみに軍事力のバランスを偏らせているミッド管理局体制は。

 ベルカのような強烈な支配力とか持てず、つまるところは「戦力派遣して管理」程度しか出来ないのが現実。

 ベルカは次元世界の覇者であり支配者だったが、ミッドは比較的第一位の力しか持たない盟主、調整役、「管理者」程度かな。


 どう考えても本来は、両者は組み合わせて運用するべき技術体系であり、どちらかだけでは不自然だな~

 でもそれはそれで悪くない、要は軍事力増強に枷が嵌まってるわけで、だから余裕無くて次元世界全体を支配するとか無理で。

 下手に軍備増強とかして地球まで侵略してやるとか言い出されても困るっしょ。


 だが魔導師不足が原因で、お膝元のクラナガンでさえ犯罪率上昇とか聞くと、おいおいもう少し融通利かせろよと言いたくなる。


 しかし管理外世界からの人材も積極的に受け入れてる次元航行艦隊、海の方は、思想的には開明的なのだが、高レベル魔導師の所属が

多く、どちらかといえば魔導師偏重になりがちな傾向を持ってしまっていたり。

 ミッドの地場に密着した地上本部、陸の方は、ミッドの国粋的保守主義傾向みたいなの持ってて、頭固いのだけれども、多くの魔導師を

海に取られてしまうために質量兵器の導入も仕方ないのではって意見が結構強かったり。

 そして海の本局の方が陸の本部よりも権力強かったりとか色々あってなかなか質量兵器導入は上手く行かないのだな。


 それに何よりも誰よりも、魔法第一で行きたいのがミッドのトップ、最高評議会。


 彼らは魔導師を強くするための技術には無茶苦茶に食いつく、俺はその恩恵を大いに受けている。


 その類の技術で・・・


 例の“U.D.”の研究成果の中に・・・明らかに、俺の技術と併せればより改良が進むと思われるような技術があった。


 それは違法スレスレか・・・いや下手したらガチで違法かという内容だったのだが・・・


 しかし同時に、俺のコア異常の治療にも応用できる可能性を持った技術だったのだ!



【魔力中枢への人造魔力結晶接合による魔力増幅術】



 俺が提唱した中核刺激法のような、せいぜい10%以下の穏やかな魔力増幅術では無い!

 人工的に作られた魔力結晶の調整を行い、人体の魔力中枢と融和するように加工し、実際に接合することによる飛躍的な増幅!

 実験例が・・・記載されてる! こりゃーやべー、違法な人体実験ぽい雰囲気・・・


 軍事機密レベルだな明らかに。

 アメリカとかだとね、軍事機密を扱ってる研究所とかは、間違って迷って入っても問答無用で銃殺されるんだよ。

 地球でもそういう研究所の内部では何やってるか知れたもんでは無い。

 まともな研究所なら違法であるような行為をやりまくってても誰も驚かん。

 そういうレベルの研究成果だな・・・うん本当にこれはマジやばい。


 だが。


 人工的な魔力結晶を、人体の魔力中枢、リンカーコアに接合するというこの技術で・・・


 生まれつきの欠損と機能の異常を持つ俺のリンカーコアを、うまく補填するように魔力結晶を接合できれば・・・


 本当に治るのでは無いか?


 もちろんそんな都合良く魔力結晶を加工できるかとか、正常なコアではなく生まれつき異常な俺のコアと接合できるかとか技術的な問題

は幾らでも思いつく、しかし可能性はある! 俺は先天的異常を持つ自身のコアを何とか手術とかして正常化する方法を考えて考えて、

そして何年経っても思いつかなかったわけだが、これはいわばリンカーコアを一種の臓器と考えれば、人工臓器を作って補うという方法論

で俺が考え付かなかったアプローチ。そうだよ生来の欠落が存在するのは事実でそのままではどうにもならんのだから、もともと無いもの

は無いのでありその枠組みの中でどうこうしようとしても無駄な努力、無いなら外から補えば良いのだ!


 これに気付いたときの俺の興奮具合は凄かった、しばらく部屋で一人で歌いながら踊ってしまった程だ!

 人に見られなくて良かった・・・




 そして、この技術についてもっと詳しく知りたいのなら。

 実際に、その処置が施された人の診察をしてみないか? と上のほうから提案が来た。

 まずは診るだけ、その研究に関わるかどうかは後から決めて良いからとも言われた。




 診ます! と即答してしまったのは軽率のきらいがあるとは思うが後悔はしていない!

 生まれてはじめての本気の我が身の根治の可能性なのだ!





 人造魔力結晶をレリックと言い。

 それを魔力中枢に接合して強化された魔導師をレリックウェポンと言い、まるきり兵器扱いだとか。

 そういうことを全部正確に知ったのは数年後、この時点では知らなかったし正直どうでも良かった。











(あとがき)

治療イベント。UD論文の閲覧許可。問題は誰を診るかかな。スカさんの工作なのかは不明。

この件に絡むとしたら・・・意外とスカ博士を追ってるフェイトさんが絡むのが妥当だろうか。

はやてが来ても不思議は無いし。悩み中。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第九十二話   迷走日記 22  U.D. 2
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/06/01 06:26
マシュー・バニングスの日常      第九十二話






××年○月△日





 当日までどこの研究所に行くのかは機密。質問もダメ。

 患者は覆面してて顔は見えない、身元を詮索したらもちろんダメ。

 口をきくのもダメ、問診したければ、立会人も傍聴可能な広範囲念話を使用すること、また使用前に定められた合図をすること。

 診察後、治療が必要だと判断しても、すぐにしないこと。許可を得てから。

 そしてこの件については全ての事実関係の情報の流出を絶対に禁じる。


 そこまで注意されても。

 そのために分厚い誓約書類の束にサインしなくてはいけなくても。

 それでも俺は知りたかった。


 我が身の治療の可能性を、だから後悔してないどころか大喜びだったな。





 目隠ししてデバイスも一時的に取り上げられて絶対に場所が分からないように転移を何度か繰り返して。

 ミッドなんだか管理世界なんだか管理外世界なんだかも分からない場所の殺風景な荒野の中の寂れた小さな建物に入る。

 その中の一応、医務室っぽい少しは掃除されてる部屋で30分ばかり待つと・・・



 すげえ怪しい人が入ってきた。

 まずゴツイ。身長少なくとも190ありそうだな。

 しかも全身鍛え上げられて筋肉質で、そうでありながら足音は静かで只者じゃない。

 似た雰囲気の人といえば・・・そうだな恭也さんとか士郎さんみたいな本物の実践的武道家みたいな。

 もしこの人に襲われたら迷わず逃げるね。

 一応こちらの人数、立会いの人含めて5人くらいいるんだけど多分全員総掛かりで彼はデバイスなしでも5秒で全滅させられそうな。

 そんな見るからに歴戦の戦士風の男性で、しかも顔が分からないように目だけ少し出した覆面姿。

 うーん怪しい、怖い、子供が見たら泣きそうだ。


 しかし同時に気付く。

 これは・・・昔、重傷を負って、しかもきちんと治さずにだましだまし無理して戦ってる状態?

 洗練された滑らかな動きが基本の人なのに、ぎこちなく強張った部分が各所に見られるような。



 ふむ、ならば患者だ。


 患者は治さねば。


 全方位向けの念話の許可を取り、話しかける。



(どうも、はじめまして。私は・・・っと、名前は言ったらダメか、とにかく私は医者です。まずは座ってください)

(・・・)


 覆面男性は返事せず無造作に座る。


(で、まずは・・・見たところ、怪我してますね? しかもきちんと治っていない。いつごろですか?)

(先生! 余分な質問は!)

(っと・・・この質問もダメですか・・・しかしそうなると診察するしか)

(そうして下さい! なるべく余分な念話は慎んで!)

(・・・分かりました。それじゃあすいません早速ですが、ここに横になってもらえますか)


 男性は一切返事せず、ただ言われるままに横になる。


(痛みはないですからね、しばらくじっとしてて下さい)


 サウロンを展開して、胸の上にかざし、探査発動、人体精査・・・


 少し見ただけで・・・絶句。


(こりゃ・・・ひどい・・・ていうか・・・なんで生きてるのかってレベルで・・・)


 俺の途切れ途切れの念話を聞いて、男性は薄く笑ったような雰囲気だ。覆面してるから見えないけど。


 一回、瀕死になった? それも意識を失ったとかそういうレベルじゃない。全身に殺傷設定の強力な攻撃を何度も何度も食らって、

しかしそれには全部耐えて、でもダメージは蓄積されて弱ったところでさらにドカンと爆発物みたいのを食らったのか? 魔法的爆発か

物理的爆発かは分からんが、それで動けなくなったところにトドメとしてザクリブスリと容赦なくやられて・・・うわぁ・・・これまで

見た重傷患者の中で一番ひどい・・・撃墜されたときの高町よりひどいな、高町は意図的にトドメを刺されるまではされてなかった、どこ

からどう見てもつまりこの人は、まあ見たとおり元々凄い強い人で、だから戦って戦って相当ダメージ食らってもそれでも負けずに戦い

続けようとしたところで奇襲食らって動けなくされてしかも明確な殺意をもって意図的に殺されようと・・・したのだとしか思えん。


 そこで、どうせ放っておいても死ぬし~試してみるかって程度の気軽なノリで・・・


 人工的魔力結晶と、魔力中枢との接合による増幅術を、施されたのだな・・・


 多分、心肺停止に近いくらいの状態にまでなったのだろう、そこでいきなり強烈なリンカーコアの増幅、肉体が死につつあるのに伴って

自然にコアも機能停止しようとしてたのに無理やり起こされて、そしてそのコアの強烈な魔力に引きずられる形で肉体全体も瀕死から回復

はしたのだが、それも所詮は無理やりで一応、強引にコアと魔力結晶を接合した後は、おざなりに肉体への治療も行われたが、その処置が

終わったらもう本格的な治療とかはせずに・・・ただ対症療法的に、無理が出た所は治療するというだけしかしていない。


 実験体、それも偶発的な実験体、だな。


 魔力中枢と、魔力結晶の接合が出来るかな♪ 出来たら儲け☆ みたいなノリでやったとしか思えん。


 そして出来た後は、それ確認したかっただけだから~ あとはしらね~ってロクに事後処置もしていない・・・!



 だがこうして精査してみると・・・

 どーもコア自体への処置は、あんまされてない雰囲気だな。

 重要なのは、人造魔力結晶の方か、その加工技術。

 その人のコアに適合するように、魔力結晶の方を調整し加工する技術だな、そこがポイントになる。
 

 この患者さんの場合は、それを適当にやったとしか思えん。

 一応、適合するように大雑把な調整はされていたものの調整が甘いというか。

 うーん、俺に適用する場合は・・・本当に徹底的に精密に繊細に、人造魔力結晶の加工調整をする必要があるな・・・

 それを可能とする技術・・・例の謎のUD氏ならそれを持っているのだろうか?

 それにしてもこの患者さんは・・・


(しかし・・・これは治せるか?・・・魔力結晶の摘出・・・いやそれも危険だ、既にコアと融合している・・・無理に摘出すると再び、

瀕死状態に戻りかねない・・・だが肉体への負担が大きすぎる、根治するには摘出しか・・・しかし摘出手術となると、逆に接合方法の

技術をもっと詳しく知らねば・・・俺では無理だ知識が足りない・・・専門知識を持つ人と協力すればあるいは出来るか?・・・だがそ

れも実験的な・・・かなりきつい手術に・・・だがそれ以外には・・・)

(気にするな)


 無意識に流してしまってた俺の念話の呟きに。

 これまで一切返事しなかった男性が念話で返事をした。


(既に一度は死んだ身だ。長生きしようとは思わん。気にするな)

(いや・・・しかし治療法は無いことは無いと・・・)


 目の前にこんな重症患者がいては治療法を考えずにはいられない。そんな俺の態度を見て男性はまた少し笑った雰囲気だ。

 ただしさっきみたいに冷笑的な感じではない、少し暖かい感じで・・・


(・・・なるほど、今度はどんな実験をされるのかと警戒してたが・・・お前は本当に医者のようだな)

(そうですよ、なんだと思ってたんです?)

(なに、ドクターという単語には悪い印象しか無くてな)

(・・・そうですか)

(ふむ、信用できそうな医者相手なら・・・一度、尋ねてみたかったことがある)

(なんでしょう?)

(俺は、あと、何年くらい、生きられそうだ?)

(まず一年程度の入院、手術、さらに年単位のアフターケアで・・・まだあと10年以上はもたせる自信があります)

(それは凄い。だがそれは完全に治療のみに専念すればという話か)

(しかしそうしないことには・・・)

(そうしなければどの程度、もちそうだ?)

(魔法行使禁止してずっとベッドに寝ていても治療しなければ・・・長くて5年、短ければ・・・下手すれば・・・)

(なるほど、無理をすればすぐに死んでもおかしくないか?)

(・・・・・・)

(気にするな。それが分かっただけでも来た甲斐はあった、無駄な時間を取られるかと思っていたが予想以上の収穫だ)

(・・・もしも摘出手術に成功すれば治療にかける時間はもっと短く、しかもさらに完全な治療が出来るかも・・・)

(ほほう、摘出手術無しでも10年もたせる自信があったと? それは本当に凄い、何者だ・・・っと、これは聞いてはならんな)

(リンカーコアの直接整形、一度では無理でも何度も繰り返せば適合率は上がり肉体にかかる負担は少なくなるはず・・・)

(ふむ・・・だがそんな高度な治療を要求できるような身分では無いのでな、厚意には感謝するが、ここまでだ)

(待ってください!)


 起き上がり立ち去りそうな様子を見せた彼をとりあえずとめる。

 立会いの人たちを別室に連れて行って緊急協議。

 この場で直接整形術を施してよいかどうかの検討。


 意外とあっさり認められた。

 ううむ、説得に手間取るかと思ったが拍子抜けだ。

 後から知ったことだが、俺が彼の容態の診断とかについて念話するのを止めなかったことなども含めて、俺がどのように診断し、どう

いう治療をすると判断するか、そして適合性を高めるようなケアが俺に出来るのか、その辺を正確に知りたかった上の人たちが、可能な

限り俺の自由にやらせるようにとの指示を下していたようだが。


 まあそれは今はどうでもいい。

 急いで部屋に戻る。


(今、この場で出来る限りの治療をします、また横になってください)

(いや私は別に治療を必要とは・・・)

(貴方くらいの重傷者を見たことがありません! 大人しく医者の言うことを聞いてください!)

(・・・わかった)


 なんとか大人しく横になってもらって、今度はさっきよりも気合を入れてコアを精査。


 もともとコア自体が、形を失いそうになるほどの状態であったところに・・・外から人造魔力結晶を継ぎ足して補い、不完全な形でコア

と結晶が融合し・・・もはや元々の自然な形のリンカーコアを回復することは望み薄・・・強引に本来あるべき正しい形に整えようとか

しないほうが良い・・・接合技術を理解し摘出手術が可能になるまでは・・・やはり方針としては「とりあえずもつ」程度にあちこちの

大きな綻びを治しておく程度か・・・瀕死の重傷に至ったときのコア損傷率は恐らく80%を超えていた、生きていたのが不思議な状態、

ほとんど死んでた80%の代わりを人造魔力結晶で強引に補って・・・それでも生来のリンカーコア部分も少しは自然回復したようだが、

コアを維持するために魔力供給を結晶に大きく頼る歪な形に半分固まってしまっている・・・ほころびを全て取り繕うことは現状不可能、

だからコアの構造に大きく入ってるヒビみたいな部分だけでも何とか整形して・・・ぬぬぬ・・・全身切り刻まれてあちこちから出血し

まくった状態の患者が、圧迫止血だけで何とかもたせていたみたいな状態だったので、とりあえず傷が深い部分については強引に縫い

あわせて何とか傷を塞ぐという程度しか・・・



 しかしなんなんだこの人造魔力結晶は、強烈過ぎる・・・安定した状態であるにしても恐ろしく膨大な魔力を内包しているようだ・・・

だがこれに依存した偏った構造のままではいかん、コアが自然な形に少しでも近づくように・・・元々損傷率80%、そこからジリジリと

自然回復して何とか40%程度までは自然なコアの機能が回復はしていたようだ、その部分に干渉して・・・できれば理想的には、この

人造魔力結晶に頼らずコアが自律できるように導ければ或いは・・・


 リミッターを軽く緩める、俺の体から膨大な魔力が噴出す、制御、制御、全てをコアの整形に・・・!


 ぐぐぐしかしきつい。治しても治しても治しきれないほどの傷があちこちに走ってる、コアの構造自体も脆くなってしまっているのか、

あちらを治せばこちらが綻び、こちらを治せばあちらが綻ぶみたいな状態の部分が各所に出てそれを取り繕うためにまた無駄に魔力を消費

せざるを得なくなり、仕方なく最小限だけにとどめて整形し・・・


 生来の自然なコアの部分が、せめて50%近くは・・・回復したか・・・くそっ! 今はこの辺が限界か・・・!

 ダメだこれは一朝一夕では無理だ、なにがなんでも長期治療が必要、年単位の入院が必要だ!



 15分ばかり集中してたが明確な限界を感じた。リンカーコアについては今すぐはこれ以上は無理だ。

 そこで全身の他の部分も診るとこれもひどい、過労の蓄積によりあちこちガタが来てる、たとえ健康な人間でもこんな状態を続けていた

ら十年ともたないだろう、指先から爪先まで疲労していないところが無い、これではこの人の本来もってる力が・・・半分も出せないので

は無いか? そんな状態の肉体各所に微細な治癒をかけてまわり、しかしこっちもキリが無いほどにあちこちガタガタで・・・


 ぐ、ぐぐ、ぐぐぐぐ・・・!

 いつの間にかギリギリと歯軋りしてた、かたく目を瞑って探査治癒に集中してたのになんだか視界が赤くなってくる、こめかみから汗が

噴出してきて、息が荒く途切れてきて体がふらついてきて・・・!


「ぐあっ! ガハッ! ゲホゲホ・・・」


 力尽きた・・・ぐぬぬ・・・きっつ・・・

 膝をつき、息継ぎしながら、口元を袖で拭ってみると少し血がついた。


「ハァ、ハァ・・・ゼェ・・・ヒュー・・・」


(先生! 大丈夫ですか!)


 監視役の人から念話がくるも答える余裕がしばらく無く。

 息を整えてから改めて。


(無茶苦茶だ! なんでここまで放っておいたんです! ダメだどうしてもすぐには治せない、対症療法で現状問題ある部分を治すだけ

でさえ追いつかないほど全身ボロボロだ! まずは長期入院せねば本当に命の保証ができない!)


 俺の必死の念話に対して。

 患者の男性は冷静に起き上がり、拳を握ったり開いたりして体の確認を少ししてから念話を返す。


(・・・これは・・・凄い・・・噂には聞いていたが見事な治癒術・・・痺れが無くなった・・・ベストの頃には届かないにしても、これ

ならまだまだ戦える・・・胸の違和感も激減した・・・いや凄い、これがあの有名な・・・さすが・・・)


 なんか俺が誰か薄々分かったようだがそれはどうでもいい。


(元がひどすぎただけです! そしてまだ全然治ってない! コアの直接整形だけでも少なくともこれから半年程度かけて3回以上必要、

全身の疲労を抜き負傷を完全に癒すのにも一年は欲しい、魔力行使してる場合じゃない、戦うなんて論外・・・!)


 そんな俺の念話に男性は少し苦笑したようだった。

 だが俺の言うことなど聞きそうも無く・・・立ち上がり、床に膝をついてる俺の前に同様に膝をつき。


(感謝する。本当に感謝する。だが感謝するからこそ・・・)            君はこんな世界に関わるべき人間では無い。



 それ以上何も言わず、彼は背を向けて部屋から出て行こうとした。



(コア付近にある人造魔力結晶に頼らないように意識してみてください! なるべく自然に昔通りの魔力の運用を心がけて! 恐らく、

その魔力結晶による魔力増幅を使うたびに・・・寿命が縮む!)


 俺の最後の注意に、彼は背を向けたまま軽く手をあげて肯定の意を示し。

 そしてそのまま部屋から出て行った。


 それを見送った俺の方は気が抜けて力も抜けて。

 周囲の監視の人たちに。


(すいません寝ます。しばらく動けない・・・)

(先生?!)


 返事は聞き流して、近くの長椅子にゴロンと横たわり、眠った・・・というよりは正確には、意識を失った。





 収穫はあった、彼は強引な試作実験の犠牲にされたようだが、あの方法自体は・・・

 俺の治療への応用可能性がある・・・

 次はあの人造魔力結晶加工技術について調べねばな・・・


 しかしまぁ全ての患者を治せるというほどに自惚れてはいけないとは常々思っていたが。

 やはりこうして実際にきちんと治せない患者に直面するとなぁ・・・

 なんとかまた彼を診ることができないものだろうか・・・


 俺自身を治す技術を知る手がかりでもあり。

 医者としてもあの人をきちんと治したい。

 利害と願望が噛みあってる。


 もしも再び機会が与えられれば迷わず受けよう。治せる可能性があるのに治さないというのは気分が悪い・・・




☆     ☆     ☆




(謎の歴戦騎士とお供の妖精)


 旦那! 大丈夫だったか! なにか変なことされなかったか!?

 あれ? 妙に顔色が良くないか? 魔力も安定してる?

 うわぁ力強い! どうしたんだ妙に元気に?

 え? 本当に医者だった? かなり治してもらった?

 本当かよ? 連中がそんなことするのか? でもその動き見たら本当っぽいな・・・

 でも絶対何か企んでるんだよ! あいつらを信用しちゃダメだぜ旦那!









(舞台裏の謎の博士と秘書)


「どうして騎士ゼストなのですか? 分析して得られた、彼の治療方針からすれば・・・」

「それだよ、彼としては子供を治す方が本気を出すだろうね」

「ですから・・・」

「だからダメだ。ゼストならあの負傷、命を保つための緊急避難だと言い訳できるかもしれないが、彼女では無理だな」

「・・・心底から敵に回ってしまうと?」

「ああ、それは避けたい、これも本音さ。」


 彼はそこそこ切れる頭脳の持ち主のようだが、ずっと表街道を歩いてきた人間だし、育ちは良いし、専門知識に偏る傾向があるし、

私から見ればまだまださ。今後も上手く付き合って行くには情報を上手く操作する必要があるが難しいことでは無い。さて、今度は

どの研究に協力してもらうとするかな・・・














(あとがき)

 ゼスト氏関係・レリック関係については独自解釈だらけです。いくらスカさんでも死者を蘇らせるのは無理だろう・・・

 この辺までは治療イベントの流れで普通に来れる位置かな。さらに深い所に行くかどうかはこれからの選択肢次第。

 UD氏との直接の接触をするかどうかが大きな分岐になりそうですね。希望すれば叶ってしまうレベルに既にいる?



[7000] マシュー・バニングスの日常  第九十三話   迷走日記 23  U.D. 3
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:742a67ba
Date: 2010/06/07 05:40
マシュー・バニングスの日常       第九十三話







××年○月□日



 先日治療した謎の覆面魔導師男性についてのレポートを作成、上に提出。


 UD論文が目指していた、魔力の飛躍的な増幅が実現されているかどうかについては厳しい評価を下さざるを得ない、あの技術は本来、

健康なコアの持ち主に件の魔力結晶を接合して飛躍的な増幅を目指すものなのに、瀕死の人間で試すとか実験の趣旨と違う。


 ただしそれはつまり本来は魔力増幅を目的とした技術を、治療目的に転用したとも言えるのだ。そういう点で言えば見事なものだ。多分

8割がた死んでいた人を強引に復活させることに成功してる、俺に同じことが出来るかといえば難しい、傷ついたコアを治すのは得意分野

だが既に死に掛かってるコアを蘇らせるとか、実際問題ああして強力な魔力結晶接合というショックを与える以外の方法で実現できたとは

思えない。UD論文の実行者は結果的にだが確かに、彼の命を救ったのだ、他では真似できない技術によって。



 リンカーコア直接整形により適合率を高めるのは可能であると思われる。今、普及しようとしてる中核刺激法のための設備の転用により

十分、ある程度の調整は可能、そこの所については問題無い。


 UD論文による魔力増幅が一般に普及できるかどうか、最大の問題点は間違いなく、あの人造魔力結晶のコストによる。

 もしもあの人造魔力結晶が現代の技術で量産可能なものならば、また万人向けに加工することが可能ならば出来るかも知れない。

 しかし魔力結晶の素材自体非常に高価なのではないかと思われたし、それを加工する技術というのもきいたことが無い。


 結論として、UD論文の「人造魔力結晶のコアへの接合による魔力増幅」は、一般向けの技術ではなく、特定の・・・非常に数少ない

高位の魔導師の力をさらに増幅するための、いわばエリート向けの技術にしか、なりえないのではないかと思われる。

 ただし正確な評価は、人造魔力結晶のコスト、その加工技術について詳しく知らねば下せない、と。




 うん、下手したらあの技術は、最大で一時的に魔力倍増とか? そのくらい無茶ができる技術であるかも知れない。

 しかしそんなことしたら肉体への負担は尋常では無い・・・

 もしもその方法を本気で使う気ならば、最初から肉体の方もそれ専門に調整するくらいの勢いがいるだろう。


 これはカンだが・・・なんだかベルカくさいなぁ、この技術。

 短時間に強烈に増幅する・・・カートリッジシステムと似てるような。

 古代ベルカの王族や高位の貴族、騎士とかは遺伝子レベルの肉体の調整を代々行っていたというが・・・



 だがそういう本来の使い方をしても、元から強い極少数の魔導師をさらに強くするくらいが限界か。

 それよりその技術を劣化させて一般向けに変え、治療に転用するほうが多大の効果が見込めるのではないかと思われる。

 安くて軽い人造魔力結晶を製造・加工して、壊れたコアを補填するという方法がもしも実現できれば、直接整形では治せないレベルの

コア負傷をも治療できるようになる可能性がある。


 そだな~実際にコアに埋め込み接合してしまう、というのには技術的な障害が多そうだから・・・

 着脱可能な義肢や義歯みたいな感じで、胸部のコア前に専用のベルトみたいので結晶をくっつけて魔力的なラインをコアとの間に引いて

いわば外部魔力タンクみたいに利用とか出来ないものだろうか・・・直接に接合するのは難しい、ならば敢えて遠回りして間接的に補う

状態にすれば・・・しかしそうするとリミッターつけてるのと大して変わらんか・・・いやリミッターはゼロからマイナス方向に抑えて

いるのに対して、外付け魔力結晶による補填が成功すればこれはゼロからプラス方向に行くのであり・・・いやしかしそれもまた我が身を

常人並にきちんと治すという目的とは合致しないか・・・



 さて、どうしたものか。とにかく人造魔力結晶についてより詳しく知らねば始まらないかな。






××年○月□△日



 ナカジマ姉妹の健康診断をする前日、上から通達が来る。


 実は医療的な側面から彼女たちを見てる俺とは別に・・・機械的な側面から定期メンテみたいのを行ってる担当者がいたそうで、今度

からその人と協力してナカジマ姉妹を診るようにとのこと。


 その担当者、マリエル・アテンザ女史と会う。

 はじめましてと挨拶したらなぜか怒られた。

 俺は全く記憶に無かったのだが実はず~~~っと前に、アースラに乗ってたことがあるそうで、そこで俺と何回か会ったと。

 うわぁ100%忘れてた。


 もうっ! 私はあの痩せた小さな子供だったマシュー君が、成長して活躍してるのを聞いていつも遠くから応援していたのに! 

今使ってるデバイスのサウロンの調整も私がやったのよ! なんで覚えてないの! って言われても。


 彼女は少しマッド気味な程の技術担当官で、アースラにいた頃もほとんど技術室に籠もっていて、降りた後も出歩かずに、とある研究所

に詰めて好きな研究をやっていたそうなので、それでは忘れても仕方ないのでは無かろうか。接点無いじゃねーか。

 しかしそういう研究一途な人だけに、機密情報とかに触れる権限については実は俺よりもずっと先行してて、今度やっと俺がそのレベル

に追いついたので協力できるようになったそうだ。



 二人で話し合いながらナカジマ姉妹の健康チェック。

 大きな意見の違いも無く、まあ問題無いということで一致。

 しかしアテンザ技官をもってしても、姉妹の肉体改造技術には良く分からない部分があるそうだ。


 もしかしてこれもUD氏の研究成果の一種なのだろうか。

 だがUD論文については他者と気軽に話してよい話では無いし。

 また機械的人体改造技術に関連するUD論文は・・・どーも俺には与えられてないらしく見つからず・・・

 むしろマリエルさんのが詳しかった。戦闘機人という単語もこのときはじめて知った。


 分からないことを考えてもしょうがない。

 二人で分担して姉妹の健康状態をチェックして、終わったところで問診。

 なにか気になってることとか無いかな? もちろん質問の意図は姉妹の健康上の問題なのだが。


「あの・・・それだったら一つ、いいですか?」


 スバルちゃんがおずおずと手をあげる。


「うん、何かな?」

「あの・・・魔力増幅手術のことなんですけど・・・」

「ん? コアに異常は無いと思ったのだが・・・何か違和感とか痛みとかある?」

「いえそうではなくてですね、あの・・・その・・・」

「うん?」


 俺が直接に実施した中核刺激法の被験者に何か異常があれば大問題だ。これはしっかりと聞かねば。

 自然に俺は真剣な顔になってスバルちゃんを正面から見つめて彼女の言葉を待つのだが。

 言いにくいことのようでなかなか話を続けられないスバルちゃん。

 見かねてギンガさんが。


「ほらスバル、ちゃんと言わなきゃ、先生に変な心配かけるよ? すいません先生、本当に体とかコアの話ではないんですが」

「うん、何かな?」

「えっとですね・・・あたしの友達で、一緒に・・・そのですねティアって言うんですけど、それでその・・・」

「ああもうはっきりしなさい! すいません先生、中核刺激法の志願実験者の選抜の基準とかの話になっちゃうんですけど・・・」

「あ~・・・もしかして知り合いで一緒に応募したのに、その友達の子だけが落ちたとか?」

「そ、そうなんです! それでどうしてそうなったんだろうって・・・」

「いやそういわれても・・・凄い倍率だったし定員は十人だけだったし偶然としか言えないなぁ」

「そう、ですよね、やっぱり・・・」

「選考基準とかもね、そこは一般公開できない情報だから」

「でも! 私たち姉妹は二人揃って受かったのに、ティアだけはダメで、ティアが落ちたのは偶然だから仕方ないとしても、私たち姉妹が

二人で受かったというのはなにか特別扱いでもされたんじゃないかって! もちろんティアはそんなこと言わなかったけどきっと思ってて

だから私も不安で!」

「なるほどね。」



 ん~そういうこともあるか。難しいなあ。

 なんとかスバルちゃんとその友達が・・・仲直りできるようにしてあげたいが。

 偶然二人が揃って受かっただけというのは確かに無理がある。実際偶然では無いしな。



「えっと、逆にきくけど・・・その友達は、君たち姉妹の特殊な肉体的事情については知ってるのかな?」

「あ・・・いえ、その・・・」

「戦闘機人だって特殊な事情、しかも比較対照が容易な年の近い姉妹、さらに昔から俺が見てたからその他の情報も非常に多く持ってて、

それやこれやが絡まって、二人を意図的に選んだ、それは事実だよ」

「やっぱり・・・」

「その辺の事情をなぁ・・・全部話せれば納得してもらえると思うんだが・・・全部は無理でも話せる範囲だけでも・・・」

「・・・そうですね、うん、そうです! 話してみます色々と!」


 スバルちゃん少しは表情明るくなったかな。姉妹は帰っていった。



 まさか隅から隅まで全部? 特に戦闘機人であるってことまで話すことは無いだろう・・・とか思ってた俺だったが。

 甘かった。スバルちゃんの真っ直ぐさを甘く見ていた。


 なんとスバルちゃんはその友達に、自分が普通の人間では無い、違法な肉体改造により半分機械の体にされた特殊な改造人間なんだって

話を全部洗いざらいぶちまけてしまったそうで・・・

 だが幸いその友人は物分りの良い子で、それをきいて納得してくれて。

 さらにそうして踏み込んだ話をすることで、これまでは普通の友人だったのが、無二の親友と言っても良い存在になったそうなのだが。


 いやしかし無茶するなあスバルちゃん・・・

 機会があったら、その親友の子にも会って、その情報は他に漏らさないように注意しとく必要があるかな・・・

 そこまで話せる親友という存在は非常に貴重なんだろうけど。






「バニングス医務官、本当は贔屓したんでしょ」

「誤解ですよ、アテンザ技官。あくまで諸般の事情により必然的にそうなっただけです」

「ふふっ。まあそういうことにしておいてあげるわ、マシュー君」

「・・・助かりますマリエルさん」






××年△月□△日



 高町、フェイトさん、エリオ君の健康診断の日。


 なんだか高町が微妙に元気無いような気はしたが特に異常なし。なんかあったのかときいてみるも普通・・・かな?

 エリオ君も異常なし。


 フェイトさん・・・過労気味。


 また働き過ぎですねフェイトさん、少しは仕事減らしたほうがといったところ。

 今だけは、お願いだから今だけはと、凄い剣幕で頼まれる。


 なんでも違法な人造魔導師研究をこれまでずっと追ってきたのだが、その研究や技術の元締め、卸問屋みたいな存在がやっと見えてきて

それが誰なのかもう少しで特定できるかも知れない! という山場なのだそうだ。

 もしかしたら、とある広域次元犯罪者こそがその黒幕なのかも知れない、しかしまだ証拠が足りない、向こうの証拠隠滅のスピードと

こちらの捜査のスピードのギリギリの競争、今だけは仕事に専念しないわけにはいかない! と。


 ことが違法な人造魔導師、違法なクローン等に関わるだけにフェイトさんの迫力は凄い、この件だけは誰に止められても絶対にやりとげ

るという覚悟のようだ。うむむ・・・ことがことだけに止められないな、フェイトさんの一番深い所に根差した問題だから・・・

 俺だって自分の治療についての話になれば形振り構わなくなるからな。

 誰にでもそういう逆鱗はあるもんだ。


 そういうことなら仕方ないですけど一段落したら言ってくださいよ、一回徹底精査しますのでとそこは約束してもらった。


 それじゃあ今日のところはそういうことでという雰囲気になったとき。

 エリオ君が急に発言、珍しい。


「あの~先生」

「ん? なに?」

「エイミィさんから伝言があるんですが」

「伝言?」


 なぜわざわざ伝言。しかもエイミィさん。嫌な予感しかしないぜ。


 しかしその内容は。


「もしも時間があったら協力してやって欲しい、ということです」

「ん? それだけ?」

「はい」

「・・・わけわからんが・・・フェイトさんの調査とかに協力する権限は俺には無いんだが」

「ですよね」

「それを知らないエイミィさんで無し・・・ほかに何か言ってなかった?」

「僕も詳しくは・・・ただ『多分マシュー君なら選択肢に入るだろうから・・・』とか呟いてたんですが・・・」

「うーんよく分からんな・・・なんの話なんだろう?」

「ですよね?」


 俺とエリオ君だけでなく、そばで聞いてたフェイトさんと高町も分からないと首をひねる。

 とりあえずその日はわけわからんままで皆は帰っていったが。


 なんだか気になるな・・・

 フェイトさんに協力しろって話じゃあ無いよな・・・そうなると・・・

 クロノかな? なんかあんのかな? それとも何かある予定なのかな?


 分かるまでは、まぁ、待つしか無いか・・・




☆     ☆     ☆




(裏舞台の謎の博士と秘書)


「ふむ、聖王のクローン、レリックウェポンについては目処が立ったな」

「はい、当初の予定よりも順調です。後は素体の成長待ちとなります」

「そうなると・・・やはり念のために実験しておきたいかな・・・」

「何をでしょう?」

「聖王の遺伝子を持つ者だけが利用できる古代ベルカの兵器、最終的には『揺り籠』を起動する予定であるわけだが、他にも無いわけでは

無い、使い潰しても問題ないものを使って起動実験をしておきたいな」

「聖王自身が抜きでは・・・」

「『揺り籠』なら聖王の全身が必要になるがね。聖王が血を振り掛けることで、起動の認証となるタイプの、揺り籠ほどには強力でない

兵器もあるだろう、そちらを使って、今培養中の聖王が確かに聖王として認証されるのか試しておきたいね」

「・・・ただの起動実験だけで聖王の遺産を一つ使い潰してしまうのはコストパフォーマンスが・・・」

「分かっている。だから起動実験に伴い、証拠隠滅、さらに戦力評価も並行して行う。近頃捜査も厳しくなってきたからね」

「認証後は、任意に機能停止も出来ないタイプの、使いにくい兵器を使い潰す・・・という方向でよろしいでしょうか?」

「そうだな。あとは出来る限り派手に暴れて最後は大爆発でもして証拠を完全に消し飛ばすというのも条件に・・・」





☆     ☆     ☆




××年□月□△日




 ミッドチルダは次元世界全体の管理者ではあるが、お世辞にも絶対者とは言えない。

 盟主であり、比較的第一位であり、調整者であり管理者、そしてそれ止まり。

 支配者でも無ければ絶対者でも無い、と。


 だから管理世界でも昔からミッドと仲が悪いとかでミッドの影響が及びにくい世界とか普通にある。

 特に旧ベルカ系の支配地とかね。なにせ古代ベルカは次元世界の支配者であり覇者だったので範囲も広くて。

 ミッドと相打ちになった後に生き残った古代ベルカ勢力のうち「穏健派」とでも言うべき勢力は、その後、ミッドにまとまって移住して

きてクラナガンからかなり北の方にベルカ自治領というのを作ってる。彼らはあくまで穏健派、ベルカだって一枚岩じゃあ無かった、戦争

してる場合じゃねーだろまずは落ち着けと言ってた人たちも多かった、その子孫にあたる人たち、そして今でも彼らは穏健派であり、基本

ミッドと仲良くしましょうねって態度で、それにミッドも協力していて、次元世界の中の「旧ベルカ」系勢力の大部分はこの秩序に従って

いる。ちなみにこのベルカ穏健派首脳陣のミッドへの移住と、ミッド・ベルカの正式な和平締結というのは必ずテストに出るほど重要な

年号だから覚えて置くように。


 まあとにかく今ではこの秩序に旧ベルカ勢力も従ってる。

 そう、従ってはいるのだ、大部分は。

 当然、従っていない少数というのもいる。


 戦後に穏健派主導でミッドとの和平にまとまった旧ベルカ勢力なのだが、それから既に時間も経って・・・

 そうなるとやっぱりミッドは気に食わんという昔のベルカ強硬派勢力みたいな人たちも、やっぱりいるわけで。


 管理外世界なんだけど、実は薄々とミッドの存在を知ってて、そして潜在的だが友好的な世界というのもある一方で。

 非常に歴史が古く昔からの、それこそ管理局体制設立以前くらいからの付き合いがある管理世界なのに、逆にそうであるからこそ昔から

の因縁が縺れて絡まって抜き差しならず、どうしょうもなく仲が悪い管理世界というのもあるわけだ。


 うん、例えばイギリスと日本なら互いに縁もゆかりも無いから意外と仲良く出来たりするが。

 イギリスとアイルランドとなると昔から古い付き合いがあるがゆえにもう仲良くするとか不可能みたいなもんだな。


 第四管理世界「バドブルグ」は旧ベルカ強硬派の強い世界で、ミッドとの仲はもう何百年も最悪。


 ミッドとの貿易も交流もあるくせに一方で小競り合いも紛争も絶えない世界で・・・



 またまた国境紛争が起こったそうな。


 それを聞いたとき多くのミッド人は「またか」としか思わなかったし正直俺も同感。


 ベルカ自治領からは「遺憾に思う」といういつもの声明が出され、管理局からも同様の声明が・・・

 うん、実際それを聞いても皆が皆「はいはい」と聞き流すようなもはや年中行事。


 だからその小競り合いに次元航行艦アースラが参加してたとか。艦長はクロノだったとか。

 なぜかフェイトさんもその世界に用があったそうで同行してたとか。


 それでも俺には基本的に関係ない話であろうと、ニュースを見たときは思っていた。










(あとがき)

 「バドブルグ」実際の地名。どこにあるか調べないでね。ベルカ系なのでドイツ語系だが今後他の設定とかぶれば速攻変更しますw

 スカさん念のために実験。それに振り回される周囲。久しぶりに全員集合できるかな?

 クロノが将官に出世するのに該当する事件の予定。あいつも若くして出世しすぎだろうと。



[7000] マシュー・バニングスの日常  第九十四話   
Name: ごう◆478e8178 ID:325eaf15
Date: 2011/03/17 20:20
マシュー・バニングスの日常  第九十四話





 マーくん、三佐待遇になったそうや。

 それも鳴り物入りで表彰つきで彼がそうなるのは当然!って勢いで。

 反対者ゼロ。関係者はもちろん上から下まで管理局中全員で大賛成して、そうしたって感じやったな。


 医者は・・・トクやなあ・・・そらま分かるけどさ・・・医者を敵に回したい人なんておらへんし・・・


 例えばなのはちゃんとかって強力な魔導師、生来の天才であることは誰もが認めるけど、同時に、そうであることに隔意を持つ非魔導

師系職員とかやっぱり一定おるねんな。


 マーくんかて実は強力な魔導師なんやけど・・・そんなこと意識しとる人なんてほとんどおらへんわな、やっぱり医者やって皆、思っと

るんや、同じ魔導師でも、敵を打ち倒す強力な砲撃が持ち味のなのはちゃん相手やったら普通の人はどっかでちょっと引いてまうやん、

ところが治療専門の医者としての魔導師となると逆にそういう隔意は全然もたれへん、人間現金なもんやで。魔法はずるい魔力あるから

有利なんは不公平やっていうんが本音の人でもやな、実際に怪我してそれを上手い治癒魔導師に治されればやっぱり魔法は素晴らしいって

言い出すもんなんや。



 私が佐官になるためにどんだけ苦労したか、そらもう無茶苦茶やで? 大体、私は古代ベルカ系の術式を使うベルカの騎士やし、それ

だけでも凄い少数派、近頃流行ってる近接戦重視型の近代ベルカ式魔法なんかとはほんまは全然違うからなぁ・・・

 管理局では当たり前やけどミッド式魔法の方が主流なんや、ベルカ式を使うってだけで微妙にマイナス修正食らったりするんやで?

 今でもベルカ系の勢力は聖王教会中心に結構生き残っとるわけやしな、いやほんまんとこ次元世界全体の3割くらいは支配しとる勢い

やから、そっちで生きろやってのが普通の意見なんやろけど、せやけど私はどうしても管理局でって事情が・・・

 しかも闇の書の主やしな、それがバレたら本気で洒落ならん、せやからどっかコソコソせんとあかん部分があるんや。

 私は元々、まずベルカ式魔法を教会である程度磨きながら、海の本局で特別捜査官として働いとった。そんでそれだけやと何も分からん

と思ったから、上級キャリア試験を受けて、評議会直属の中央管理部に入れる上級管理官資格いうんも取った。せやけどなー・・・

 そうやって上を目指してバリバリと頑張って頑張って頑張った末に、やっと得た今の階級まで。


 あっというまに上がってきおったマーくん。少し本気出しただけで。

 多分、彼のことやからこれ以上は簡単に上に行かへんかも知れへん、出世欲とかもともと大してないやろ。

 でもそれは・・・彼がそうせえへんだけやな。マイナス補正だらけの私とは違う。



 それだけでも微妙に複雑やったけどそれ以上に。



 なんかな、実際問題、この前、マーくんが閲覧できる機密情報とかどのレベルになっとるんか少し調べようとしたんやけど。


 管理局内のデータベースで、彼の個人的経歴とか、少し前まではある程度は見れてたのが。

 全部、見れへんようになっとった。

 彼に関する情報は全部機密みたいな扱い?


 例えば私でもやな、闇の書の主やっていう情報とかプロテクトかけられてて一般局員が調べて知るのは無理やけど。

 私個人の公的な経歴とかやったらある程度、見ることはできるもんなんや。

 一定以上の階級の局員に義務付けられる情報公開いうんがあって。


 それが彼の場合、いつの間にか全部機密に。


 これは、あれやな、うん、はっきりいって。


 私よりも既に上のレベルの待遇を、ほんまはされとる。特別扱いやな。



 頑張って上に食い込もうとしとった私よりも。

 彼の方が実は既に上に認められてる?

 もちろん彼は医務官、技官の一種なわけやから階級は待遇を表すだけで実際の指揮権命令権等は持ってへんわけやし、健康上の問題も

あるから就いてる役職も名目上はどこでも誰かの部下って感じの地位なんやけど。

 そういう形式的な問題とは別に、管理局という組織の中で実質的にどれだけ大切に・・・貴重品みたいな扱いされとるんかって程度で

言えば明らかに・・・ほんまのところは「いつでもやめていいよ」的な扱いされとる私と比べたら・・・





 まあそれは考えてもしゃあない。

 実はマーくんて、どっかやっぱりアリサちゃんに似とるとこがあってナチュラルに偉そうやったりするし。

 小柄であんまり迫力無い小娘の私と違って、上に行ったら行ったで平気な顔して周囲の人にも認められやすい押し出しがあって。

 いや身長とか男性平均より少し高いくらいやし体は痩せ気味やけどな、普通に男性的やし基本冷静やし。

 私も年相応とは言えへん出世をしとるし階級も高い、せやけど私が初対面の人に、簡単に階級相応の扱いをきちんと心からしてもらえる

かと言うたら難しい、やっぱ最初は「なんだこんな小娘が」的な偏見もたれる、後から実力で黙らせる自信はあるしこれまでもそうしてき

たけど・・・マーくんはそういうところで損せえへんねん、最初からバニングス家特有の堂々たる雰囲気を出せて・・・年上の人相手でも

なめられへん、クロノ君より偉そうやと思う、しかも医者、研究者としての実力が伴っとるのもほんまやからそのままいける、つまるとこ

私よりも自然に偉くなれるタイプなんやな。年功序列とか実は本気で気にしてへんみたい、感覚がどっかやっぱりアメリカ人?

 しかも最高評議会に気に入られるような研究をして上手く取り入ってるフシがある、そういうとこは妥協せえへんねんな、さらにミッド

にも医師会みたいな組織あって、当然やけどマーくんもそれに所属しとる、医師会の政治力は凄い強い、当たり前やな海とか陸とか関係

なく医者を敵にまわしたいアホはおらん、バックがベルカの私よりも、医師会の寵児であり医師会の政治力を背景にできるマーくんの方が

あらゆる意味で無茶苦茶有利やねん。医師会の中でも、海派、陸派、少数やけどベルカ派もおるらしいけど、マーくんは普通に主流派与党

勢力の海派中央寄り、近頃コア治療技術の発展を武器にして一番勢いあるとこなんや、それもマーくんの影響大きいわけやけど!


 それやこれやで結局。

 そうやな・・・今は私も中央管理部におるわけやけど所詮は外様で傍流扱い? ベルカの紐付き小娘やからな。

 せやけどマーくんはちゃう、いきなり中央に来れるししかも特別扱いで本流に自然に入れる立場。


 あ~ほんま、複雑や。




 なにより複雑なんは、これは多分無理やって状態になってもうたから。

 私の新部隊に・・・彼を呼ぶとかな。

 うん絶対無理や。





 古代遺失物管理部に、新たに特定のロストロギアの追跡確保を主な任務とする課を、実験部隊扱いで設立するって方針は。

 既に大体固まっとるねん、これでなんとか設立まで持っていける思う。

 そこに皆を呼ぶ予定、なのはちゃんにフェイトちゃんに私の騎士たちに。

 そこの指揮官は私で、私は今は三佐、正式な設立までにもう少し・・・上げられるかな階級、難しいけど。


 まあつまり新部隊の部隊長である私で、良くて二佐、このままなら三佐、そのレベルの部署なわけやから。

 既に三佐待遇持っとって、さらにどちらかといえば純粋な医者、研究者に近くて。

 しかも下手したらほんまは上から見たら、向こうの方がエライみたいな扱いちゃうんかという疑いのあるマーくんを。



 私の部下として呼ぶとか?

 うんそれ無理、絶対無理。

 そんな要望とか出したら「ふざけんな」て一蹴されて、さらに折角固まりかけてる新部隊の設立自体、怪しくなるかもしれへんわ。


 元々、研究者に近い、高度な専門医って感じやからなあ、マーくん。

 前線部隊に所属する軍医とか、向いてへんねん、それは分かっとったけど。


 やっぱりマーくん呼ぶのは無理・・・か。

 うんそれは分かっとったし、うんそれはそれでええやん。

 下手に私の仕事に巻き込んだりとかしたくないしな。


 あれ?

 巻き込みたくない巻き込んだらあかんってあんなに自分に言い聞かせたはずやのになんで私はまたそんな思考を・・・

 いつか一緒に仕事できたらとか思ったこともあるのもほんまやけどせやけどそんなこと考えたらあかんって!


 あかんなあ、ほんまに私ダメやなあ・・・

 理性で自分に言い聞かせてたつもりでも、感情がそれを裏切って勝手にまたマーくんをそばに引き寄せようとか・・・

 あかん! 絶対あかん! マーくんとは一定の距離を置かんとあかんのや!!



 うんそれはええ、せやからそれは置いて・・・まずは、なのはちゃん、フェイトちゃんに・・・話を通しておかんとな。

 前にも一回ざっと話したことはあったし同意もしてもらったけど細かい所を詰めてへんからな。

 公的な通達の前に、プライベートで二人とじっくり話する時間を作らんと・・・

 二人の予定を確認、とかしとったら。



 第四管理世界で紛争勃発。

 しかも今度はなんや結構手こずっとるらしい。

 妙な新兵器みたいな、もしくは逆に古代兵器みたいな? そんなもんを持ち出して結構な被害を管理局側に与えたとか。


 ああ゛~~~勘弁してや、旧ベルカ強硬派が暴れたら、またミッドでベルカ系の人間が肩身狭くなるやんか・・・



 今回の紛争は少し大きい、多分裏がある、せやからお前、調べて来い、旧ベルカ系だからって贔屓とかしないよな? とか上司に嫌味

まじりに呼びつけられて命令された。しかも並行して現場全体の査察もお前がやれ、つまり現場の艦隊の人達への目付けみたいな役もやれ

ということやから・・・ふん、そういう目付け役は、見張られる方からしたら半分敵、艦隊所属の局員の協力を得られる可能性もすごい

低いっちゅうことやな。


 ・・・このくらいで私がへこむと思ったら大間違いやで。


 この際ズバっと調べてビシっと決めて、また功績挙げたろうやないかい!





☆     ☆     ☆






 人権を無視した、違法クローンによる人造魔導師計画。


 私はそれだけは絶対に・・・許せない。私自身がそういう生まれで苦しんだからだろう、それは分かってる、でもきっとそれは私という

人間の原体験、性格全てを形作ってる根源的なトラウマ、一生治らないと思うし、またそうであることが悪いとも思わない、私がその生ま

れゆえに苦しんだように、そういう生まれゆえに苦しみ死ぬ人たちも多い、そんな人たちを救うことこそ、私が救われたように、私も救う

ことこそが私の生きてる意味だと思うから。



 だからその種の事件は何度も何度も、自分から志願して担当にしてもらって、解決してきた。



 そうしているうちに少しずつ分かってきた事実。

 人造魔導師の育成に使用されている技術は・・・少なくともその基礎となる部分は・・・

 ある一人の違法研究者によって生み出されたらしい。



 広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。



 彼の違法な研究施設や、それに協力している組織、利用されてる工場などは管理世界、管理外世界に幅広く点在していて。

 そして見つかったと思って行ってみてももう全ての証拠は隠滅済みで何も手がかりが無いという状態が続いてた。


 彼につながる手掛かりがあるはずだと・・・実はかなり前から目星をつけていたのが第四管理世界「バドブルグ」。


 でもそこはミッドと昔から仲が悪くて・・・政治的な理由で、管理局が捜査に入ることが出来なかった。

 それを利用して隠れ蓑にして違法な研究等をしてるはずなのに!

 お願いします、捜査させて下さい! と頼んでも執務官統括部の上司は苦い顔。


 海の執務官など向こうの人たちからすれば仇敵、命の保証は無いし、しかも捜査してることがバレたらそれが口実になってまた紛争が

起きる、それで多くの人命が失われる可能性がある、お前はそれで失われる命に対して責任が取れるのか? といわれると・・・

 私としても反論出来なかった。



 ところが!



 私の捜査とは全く関係なく、いきなり紛争が起きた!


 うん、定期的に小競り合いを起こしてる場所だから、それも不思議は無いんだけど。


 そこで私は再び上司に頼む。



 既に紛争が起きてますよね? しかもなんだか今回は手こずってる、長引きそう!


 この機会に潜入捜査したいんです! 認めてもらえませんか!



 上司はやっぱり苦い顔。

 平時であればまだ捕虜にしてもらえるかも知れないが戦時となれば、見つかれば問答無用で殺される可能性が高い。

 普段よりもむしろ危険、そんな任務をさせるわけには行かない・・・



 言ってることは分かるけど!

 でも平時もダメで、戦時もダメなら、つまり捜査は出来ないってこと?

 イヤだ、納得できない、違法クローン研究、違法な人造魔導師研究、それにつながる手掛かりがある場所なのに!


 その捜査が出来ないというのなら、フェイト・T・ハラオウンが執務官である意味が無い!




 仕方ない。


 使いたくない手だったけど・・・


 今でも管理局の裏表に強い政治力を持つ、後方勤務本部の総務統括官、リンディ母さんに泣きついた。

 リンディ母さんも私の頼みに最初は苦い顔をしたけど・・・

 必死にお願いしたらなんとか分かってくれた。裏から手を回してくれると。


 でも絶対に無茶はしないこと、必ず生きて帰ってくること、現場ではクロノと常に相談すること。

 クロノに相談せず独断専行するようなら強制的に帰らせること。

 色々約束させられたけど、でも!

 私はついに念願の捜査が出来ることになった!


 ありがとうリンディ母さん!

 ごめんね・・・

 でも私はどうしても。



 違法な人造魔導師計画だけは・・・必ずこの手で・・・








××年○月○△日




「長引いてるらしいなぁ」

「だね。でも前例を調べてみたら、第四世界での紛争、最長で半年くらい続いた例もあるみたいだよ」

「平均では?」

「2~3ヶ月くらいかな」

「まだ2ヶ月・・・それならまだまだって可能性もあるか」

「そうだね」


 病院近くの喫茶店。平静に話し合うユーノと俺の男二人に対して。


「でも心配だよ・・・フェイトちゃん、クロノ君・・・大丈夫かな」


 高町の表情は暗い。

 この一ヶ月、全く連絡とれないそうで、こんなことはじめてだと。

 しかし任務なら仕方ないだろうと思いつつ。


「クロノは大丈夫だろう。あいつが考えなしに無理をするとは思えん」

「同感。それに過去の例でもクロノみたいな艦長クラスの高級士官が戦死したことは無いみたいだよ」

「・・・でも、フェイトちゃんが・・・」


 そこを突かれると俺たちの表情も暗くなる。

 そうなんだよなフェイトさんは・・・正直心配だ。

 長年追っていた違法クローン研究の手掛かりが第四世界にあるというしそれを求めて・・・

 場合によってはクロノの静止も聞かずに無茶をするのでは無いかと。

 昔から彼女を知ってるがゆえにこそ心配になってしまう。そこは彼女の逆鱗なのだ。


「まあ、でも・・・確実に第四世界にその証拠があるって保証があるわけでも無いし・・・」



 俺のその場しのぎ的慰めに対して。


「確かにね、それに今回の紛争は少しこれまでとは様相が違ってて、フェイトも無茶できないんじゃないかな?」


 ユーノも同意する。それにさらにかぶせる。


「そうだよな、そういえばなんだか珍しい兵器を向こうが持ち出してきたって?」

「うん、基本的には一種の砲台みたいなものに過ぎないんだけどね。半分質量兵器入ってるのかな、今の管理世界では使用されてない

強力な砲撃で、しかも射程も威力も凄いらしくてね。空からも陸からもまとまった戦力では近づけないらしいんだ。しかも大威力砲撃

だけでなくて、個人の魔導師に対する狙撃システムも完備で手を焼いてるとか。つまり強力な複数主砲とそれを援護する砲群がセットに

なった防空網がね、いつの間にか出来ていて。射程は宇宙空間から地表まで自在で対処が実に難しいらしい。古代の総合防空システムが

なんらかの理由でそれだけ蘇った感じ・・・なのかな?」

「射程距離外の宇宙空間からアルカンシェルぶちこめば・・・」

「旧ベルカ強硬派の住む星にアルカンシェル打ち込むのは無理だね。政治的に問題あり過ぎる」

「あ~・・・なるほどな。手加減抜きの攻撃はできず、手加減しながらだと決着をつけられず、と」

「そんな感じで膠着してるね。僕の所に調査依頼も来てね、少し調べたら分かったんだけど、古代ベルカの兵器らしい」

「それは珍しい。これまでは見つかってなかったのか?」

「いや発見自体は何十年も前の話なんだけどね、見つかった時から何をやってもウンともスンと言わず、そのまま錆付いて風化して埋も

れてくとしか思えなかった代物で、どうして急に復活して稼動してるのかも謎なんだ。かなり古代のベルカの兵器なのは間違いないんだ

けど、ただロストロギアという程に強力なものでは無い・・・次元航行艦隊と打ち合いして膠着状態に持ち込めるほどのものだけど、そ

れだけというか・・・射程外からアルカンシェル打ち込めれば実際にはすぐに終わりそうだし、まあそれは禁じ手だけど、そう強くも無

いのは確かでね。兵器の技術進歩の観点から言って一世代か二世代前の最新兵器?って感じのものかなぁ」

「アルカンシェルの発明実用化普及よりも前の時代のシロモノか・・・なのに意外と強いと」

「ベルカだしねぇ。軍事的には昔から向こうのほうがミッドより上だったし」

「うーん、どうなるのかなぁ」

「大丈夫かなフェイトちゃんたち・・・」



 心配そうな高町、それを見ながら俺たちは顔を見合わせて溜め息を付くしか出来なかった。












(あとがき)

・強制イベント。フェイトの危機。

・必ずしもフェイトのフラグが強化されるとは限りません。

・生きてたのでストック分だけでも出そうかなとか。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
2.0630569458008