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[6950] 【習作】とあるメルヘンの未元物質 (とある魔術の禁書目録転生)【完結】
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/12/29 11:23
このSSは多くのバカ成分で出来ています。
思ったよりまともな話になったので、上げさせていただきます。

本作はとある魔術の禁書目録の二次創作となっております。
内容は憑依。原作知識なしで進めていき、上条の活躍の場を取っらないように心がけますが、時々作者の中二病の病状が悪化しますと酷いことになることが予測されます。
また、話は原作に沿うと見せかけて大暴投していますので、ご注意してください。
さらに言えば、独自解釈なども多分に含まれます。もう、どうしようもないですね。

ちなみに、感想があると作者の筆が早まるという都市伝説があります。

最後になりますが、このSSを楽しく読んでいただけたら幸いです。





11/4  修正のみ



[6950] プロローグ
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/02/28 04:53

誰もが、知っているだろう。
世の中には絶対に覆すことのできないモノがあると言う事を。

ソレは、人によって様々なモノに変わっていく。
例えば、自分と相手の力関係であったり、好意を抱いた者の気持ちであったり。
正に十人十色。人の数だけ存在することだろう。
そして、どうしようもないほど、絶対的な因果はそれを認識してしまった個人を縛りつけて、その型にはめてしまう。
そこから逃げ出せない檻として。

閉じ込められた者の反応は様々だ。
初めから自分がそんな檻に閉じ込められていると気がつかない者。
それに気づきつつも見ないふりをする者。
また、それに抗おうとする者。

他でもない俺は、そこから逃げ出せなかった。
いや、逃げだす努力すらしなかった。それに気がつき直面しながらも、その事実から逃げ出したのだ。
本当は、そんな檻などぶち壊そうと思っているのに、だ。
それでも、俺は踏ん切りがつかずに燻ったまま、周りの環境を受け流すだけであった。
このまま、自分の人生が終わるのだと自分に嘘をつきながら。

しかし、俺は見てしまった。

そんなルールなどしゃらくさいとばかりに撥ね退け、自分で新たなルールを作った者を。
どうしようもなく、輝いているその瞬間を。
そして、思った。
自分も、ああなりたいと。

どうすればいいのかは、分かっている。

その為の手段も、この手にある。

一度火のついた思いは、あとは燃え上がるだけだ。


だから――――



「みーこーとーちゃん♪」


「だあああああ!! 寄るな、この変態!!」



メゴッシャ、と素晴らしいほど気持ちがいい音と共に、目標へ飛び付くためにルパンダイブで近づいた俺の顔面に彼女の蹴りが決まった。
当然ながら全ベクトルをそちらに向けて、彼女に飛びついてあわよくば押し倒そうとしていた俺は、そのベクトル分の衝撃にプラスして、彼女の健脚の威力の一撃に顔面に凄まじい負傷を負ってしまう。

うん、まあなんだ。
無茶苦茶痛い。

痛い上にベクトルを殺され、彼女に届く前に重力に引かれて自然落下した俺は、その場でビチビチと陸揚げされたばかりの魚のように悶えた。


「ぬぉぉぉぉぉぉぉ、痛い! 愛が痛い!!」


「気持ち悪いこと言ってんじゃないわよ!!」


言葉と共に繰り出される追撃。悶える俺は、当然それを回避することができずに、その攻撃の直撃を受ける。
すなわち、股間への足での容赦のない踏みつぶしを。

グシャリと自分の息子の付近で恐ろしい音がする。
だが、予想していた衝撃は股間ではなく、そこから少し外れた腿の付近で聞こえた。

どうやら、彼女が意図的に外してくれたらしい。

もっとも、それでも俺を痛みが苛むのだが、そんなものに慣れっこな俺は悶えるのを止めて、道端で犬の糞を見つけてしまったような顔で睨んでくる少女に笑顔で声をかけた。

ああ、今日もその亜麻色の絹糸のような髪に、少し意思が強そうなやや釣り目がちの眼が可愛らしい顔に、きめ細かそうな雪色の肌が堪りません、主に欲望的な意味で!!


「おはよう、美琴ちゃん!」


「死ね、変態」


俺の挨拶に少女、御坂 美琴は、これでもかと言わんばかりの愛くるしい笑顔と左手の中指を突き立てるジェスチャーを返してくれる。

うん、貴女になら犯されてもいい!! 抱いて!!

俺は美琴ちゃんが反応してくれたことが嬉しくてニコニコしていると、彼女は気持ち悪そうな目で俺を見てくる。
うん、どこかのギャグな日和の兎っ子探偵が、推理する時のような目だ。泣いていいでしょうか?

まあ、いいけどね。俺もあの犯人のクマと同じで変態と言う名の紳士だから。


「あんたさぁ、毎回毎回私にこんな人がたくさんいるところで抱きつこうとして、なんで懲りないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」


美琴ちゃんのことばの通り、俺と彼女がいる場所は下校途中の生徒たちが遊びに来ている大通りの商店街にいた。
そこには沢山の人々がいて、何事かとこちらを見ている人がチラホラと見受けられる。
しかし、その反面いつもの事と素通りしている人物の方が多かったりすることは指摘しない方がいいだろう。

俺は彼女の言葉を無視することにすると、立ちあがって本来の目的を果たすことにする。


「いいじゃん、いいじゃん。俺ってば美琴ちゃんの事が大好きだし!」


「……あんたさ、今月に入ってから何回『警備員(アンチスキル)』に連れて行かれたか覚えている?」


「んー? たしか2回かな。次に同じノリで悪ふざけするなら、第10学区の少年院にぶち込むじゃんって、地味に脅されたけど」


「そんなことを言うあんたの精神が信じられないんだけど」


美琴ちゃんはそう言うと本気で俺から距離を取る。
地味に傷ついたが、追う恋の方が萌えるもとい、燃えると思っているので逆に頑張ろうと言う気になれた。
人間、気の持ちようは大事だね!


「それよりさ、美琴ちゃん。ちょっくら俺とデートしない? 
第6学区の映画館で今流行りの映画をみた後に、第4学区でディナー。締めが第3学区のホテルの最高級の所でシッポリ…」


「っ!! あんた、中学生に何を言ってんのよ!」


俺が皆まで言おうとした瞬間、顔を真っ赤にした美琴ちゃんが鉄拳を俺のボディに捩じ込む。

グフゥ、いいパンチだ。君なら世界を狙える!!

とは言え、そんな一撃をもらった俺は情けなくもその膝を折る。
そして、美琴ちゃんはその瞬間にかけ出してしまい、自慢の俊足を活かしてあっという間に人ごみに紛れてしまう。

うーん、残念。本当に、ただ一緒に『送る人』を見ようとしただけのに。
……そのまま大人な雰囲気でXXX板な展開を期待していたのは、隠しようもない事実だが。

俺は小さくため息をつくと、その服についた埃を払って立ち上がる。
実はデートに行けるように、少しおめかしをしていたので、結構涙目。

とは言え、幾人かの通行人に不自然な視線を向けられているので、そろそろ逃げ出した方がいいかもしれない。
警備員(アンチスキル)に通報されて、こわーいお姉さんが来る前に。


「よし、なら今日はさっさと帰ることにしよう。ですから、少年院行きだけはマジで勘弁してください」


「うん、既に行動してから言う台詞じゃないじゃん。未遂で帰ってたら先生もみのがしたけど」


そう言って、俺の後ろにいつの間にか立っていたポニーテールにジャージと言うラフな格好の女性は、ポンと優しく俺の肩を叩いた。
そして、俺の手首をしっかりと掴む。
ちなみに、この女性は治安を維持する警備員(アンチスキル)の方で、俺が美琴ちゃんはと問題を起こすと大抵俺を捕まえに来る人である。


「それじゃあ、大人しく一緒に来てもらうじゃん。垣根 帝督くん」


「……はい」


「安心するじゃん。少年院送りは見逃してあげる。そのかわり、説教じゃん」


そうして、俺、垣根 帝督は実は巨乳な警備員(アンチスキル)のお姉さんに手を引かれて連れて行かれた。

気分はドナドナの仔牛の気分だ。






今日も学園都市は平和です。








[6950] 一章 一話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:10
おっぱいに貴賎はない。
俺はそう断言する。断言するが、どうしても人には好みと言うものがあるのだ。
そのため、好きな異性にその好みに合わせた者になってもらいたいと思うのは、仕方がないことと言えよう。

要するに何が言いたいかと言うと、美琴ちゃんのおっぱいはまだまだ大きくなると思うんだ!


「…なあ、それをわざわざ言うために俺を呼んだのか?」


「あったりまえだ。その他にお前が役立つ事ってなんかあるのか?」


「お前の気持はよく分かった。とりあえず、表に出ろ」


そう言ってこめかみをひくつかせたトゲトゲ頭の少年、上条 当麻はファミレスの机を軽く叩いた。
その際に出る音にビックリした俺は、僅かに身を縮こまらせてびくびくしながら彼のご機嫌を窺う。

いや、だってこいつ喧嘩強いんだもん。


「い、いやだなぁ! 冗談だよ冗談! 俺はただフラグメーカーの当麻くんに女の子のおっぱいを大きくする方法を聞きたかっただけだよ!」


「んなもん知るか!! だいたい、なんだよそのフラグメーカーって! この不幸上条さんにそんなおいしい話はないんだよ」


「あれ? お前自覚なしか?」


俺のその言葉に上条はどこか憮然として返す。俺は、ニヤニヤと笑いながら彼を見つめた。
すると、本気で気がついていないらしい鈍感野郎は、俺を血に飢えた獣のようににらみつけてくる。
しかし、その鈍感さは俺の嫉妬と負け犬根性に火をつけるだけだった。

何を隠そうこの上条 当麻はフラグ体質と言うやつなのだ。
普段は少しもそういう不運に見舞われないくせに、ここぞと言うとき、主に女の子がピンチになった時にその真価を発揮する。
具体的に言えば、女の子を助けてその際に言う臭い台詞と態度で女の子の尖ったこころを丸くしてしまうのだ。
何と言えばいいのか…セリフポ?

とにかく、そんなうらやましいことを連発しているにも関わらず、こいつはそのことに無自覚。
さらには、もてないと嘆き始める始末。

美琴ちゃんに半径50m以内に近づくなと言われている俺とは大違いだ。
まあ、美琴ちゃんのそんな頑なな態度が可愛いと思っている俺は、どうでもいいのですけどね。
それにその決まりを無視しても、美琴ちゃんは肉体言語に訴えるだけで、能力を使ってまで追い払おうとしないけどね。

アレ? もしかして、これってフラグ立ってる!? 前に「あんたなんか能力を使うまでもない」って言われた気がするけど、ツンデレですね。わかります!!


「…なあ、お前さ。顔はイケメンなのにもてないだろ」


俺が想像の世界の美琴ちゃんとの逢瀬に悶えていると、上条が突然そんなことを言った。

言われてみれば、俺は確かにイケメンなのだが女の子に騒がれたことはない。
俺は美琴ちゃん一筋なために関係ないのだが。


「あー、そうだけど。俺は美琴ちゃんひと…」


「もういい、黙れ。それはそうと、もてない理由は確実にその性格だな」


「そうか? 女の子と話すと大抵おもしろいって言われるけどな」


「…お前、それは言外に友達以上にはなれませんって言われてるんだよ」


「美琴ちゃんに至っては、一度も名前を呼んでくれたこともありません」


アレだ。会いに行く度に変態と言われています。

……まさか、名前を知らないオチじゃないよね!? 俺ってば初めて声をかけた時にちゃんと名乗ったから大丈夫だよね!?

そのことを言ったら、上条がどこか可愛そうなものを見る目で俺を見てきた。


「今日は俺が奢ってやる。だから元気出せよな」


「あ、じゃあこの新作メルヘンケーキセットを」


俺は速攻でその時ちょうど傍らにきたウェイトレスさんにそう声をかけた。
そのおっぱいの大きなウェイトレスさんはかしこまりましたーと言いながら駆けていく。

おやおや、そんなに走ったら転んでしまうよ。
ほら、やっぱり転んだ。そして、パンツが見えた。


「うーん。眼福眼福」


「は? 何がだよ」


当麻君は見えていなかったのか、俺の言葉に怪訝そうな顔になる。
ふはははははは、残念だったな。もっとも、あのウェイトレスさんが不良に絡まれでもしたら、そっこうで助けに入ったこいつが惚れられるのは間違いないのだが。


「いんや。何でもない」


「? 変な奴」


「変な奴じゃない。俺はただのどこにでもいる紳士だ」


「頭に変態と言う言葉が抜けてんぞ」


上条がそう言うと、先ほどのウェイトレスさんが俺の注文を持ってきてくれる。


「お待たせいたしましたー。メルヘンケーキセットですー」


「お、来た来た」


俺はそのホイップをふんだんに使い、その上に砂糖で作られた小人さんや妖精さんが乗ったケーキを受け取ると、上条にニヤニヤといやらしい笑顔を送る。


「…なんだよ」


「いや、悪いねって思ってさ。このセット2500円もするんだよ」


「はあ!?」


上条がそれ以上何かを言わせる前に俺はそのケーキを口に運んだ。

うん。とってもメルヘンなお味ですこと。
妖精さん的な意味で。

上条は慌てたように立ち上がると突然怒鳴り始める。


「てめえ、限度ってもを考えろや! 夏休みに入った直後の学生の財布に大打撃を与えてんじゃねぇよ!!」


「いいじゃん、別に。あんな三途の川とかいう地雷漫画を買うぐらいなんだから、今月は余裕あるんだろ?」


「アレはお前に会う前まで夏休みに入った解放感で変なテンションになっていただけだ!」


「じゃあ、問題ないじゃん」


「んな訳…」


あるかと、上条がそう叫ぼうとした直後、彼は何かに気がついたのか突然立ち上がった。
俺も釣られる様にしてそちらに視線を向けると、麗しの亜麻色の髪が見えた。ついで、嗅覚以外の4感を全て断ってあたりの匂いを探る。
すると、芳しい香りが俺の鼻腔を刺激した。

間違いない、彼女だ!!


「あー、ちょっとそこ…」


「美琴ちゃぁぁぁぁああああん!!!!」


上条が何か言っていた気がするが、気にしない。
俺は自身の全力をもってその体にルパンダイブを決行した。
そして、珍しいことに狙い過たずに俺のダイブは成功して、彼女のその柔らかい胸を後ろから掴みながら押し倒す。


「きゃあああああああああああ!」


巻き起こる美琴ちゃんの悲鳴がファミレスに響く。
うん、その可愛らしい反応に、このまだ固さが残る胸の感触がたまりません!!

後背位のような形になって倒れる俺と彼女。

しかし、ただ揉まれているだけな美琴ちゃんではありません。


「また、あんたか!!」


バキリという軽快な音と共に美琴ちゃんの肘が俺の頬に決まり、俺はそのまま力任せに美琴ちゃんから引きはがされる。
さらに素早く立ち上がった彼女は追撃のためかその足を俺の顔の上に乗せて、グリグリと踏みにじり始めた。

おおう、何かに目覚めそう。


「おい」


その時、俺と美琴ちゃんのスキンシップの時間を邪魔する声が聞こえる。
なんとも無粋な声だが、後ろにいるはずの上条の声ではない。

それに美琴ちゃんはビクリと反応し、俺の顔から足をどけると声のした方を振り返って俺が聞いたこともないような猫撫で声を出す。


「え、ええ~っと~。これは…」


「大丈夫だ。あんたならレベルアッパーなんざなくたって、その体で世界を狙える」


そんな事を言ったのは、トイレの傍らの10人用席に陣取ったガラの悪そうなお兄さんたちの一人である。
うん? もしかして美琴ちゃんはこいつらと一緒にいたのか?
なんで、何のために? …まさか


「てめえら、まさか…」


俺はそう言いながらゆらりと立ち上がった。
その俺の様子にお兄さんたちは不審そうな眼を俺に向ける。


「な、なんだよ」


「俺の美琴ちゃんと、シッポリデートコースに行こうとしていたんじゃねーだろうなあああああ!!」


「は?」


とぼけようとしても無駄だ。俺は全てを分かっている。
アレだろ? 上手いこと美琴ちゃんをさそいだしてご飯を御馳走する。そんでもって、後はXXX板の世界だ。
う、うらやましいぞ!!


「今なら俺にこの後のホテルを譲ってくれると言うのなら、許してやる。
だけどな、これ以上ごねようって言うんなら、お前らまとめてメルヘンにしてやるぞ!?」


「いや、意味分からないから!? だいたい、声を掛けてきたのはそこの女で…」


「おーけぇい! お前ら皆まとめてメルヘンの世界にご招待だ!」


俺はそう叫ぶととりあえず目の前にいる禿げに掴みかかろとその手を伸ばし、


「待てよ帝督」


横から出てきたツンツン頭に遮られた。


「加勢するぜ。寄ってたかって女の子の財布を狙う屑でもお前一人じゃきついだろ」


「当麻……」


やべぇ、ちょっとキュンときた。
お前になら、俺……。


「あんたら、二人でバラな世界を繰り広げているところで悪いんだけど」


そう言うと美琴ちゃんがその白魚のような指で自分の後ろを指さした。
そこには、いつの間に数を増やしたのか、9人ものこわーいお兄さんが立っていた。

…あっるぇ~? 今さっきは3人だったのに、これってどういう事?

上条もそのことに気がついたのか、徐々にその顔を青ざめさせる。
い、いや、たしかに上条は喧嘩が強いとは言え、こんな人数相手に勝てるのはそれこそ学園都市で230万人の頂点に立つ6人しかいないと言われている奴らだけだ。

うん、死ねる。


「ねえ上条 当麻くん」


「なんだい垣根 提督くん」


「ここは…」


「ああ」


「「逃げるが勝ちだ!!」」


俺と上条は同時に駆け出すと、我先にファミレスの玄関を通り抜けて闘争を開始する。

え? 戦えって? 無理無理。俺ってば喧嘩はめっちゃ弱いもん。


「あ、あいつら自分から出てきた癖に!」


「追いかけろ、ふんづかまえてギタギタにしてやる!」


後ろで何か汚い言葉が聞こえるけど聞こえなーい。
俺と上条はとりあえずやったらめったら適当に駆け出し、後ろから追ってくるお兄さんたちを撒くことにした。


「ふざけんなよ、帝督! また勝手に暴走しやがって!!」


「うるさい! 美琴ちゃんは俺の命なの! オアシスなの!」


「だいたい、俺が初めてあいつと出会った時もお前が俺を無理やり引きこんだんだろうが!」


「お前だって、すぐに助けに行こうとしてたじゃん!」


「ふざけんな、あいつが俺と街中で会ったときに言う言葉を知っているか? 『あ、あの変態の友達』だよ!?
正直、周りの聞いていた人たちが離れた瞬間、俺は死にたくなった!!」


「え、なにお前俺の美琴ちゃんに話しかけて貰ってんの!? 俺の場合は俺が気付かなきゃガチシカトだよ!?
死ね! 今すぐ死ね!! 『三馬鹿(デルタフォース)』のくせに生意気な!!」


「うるせえよ、この『脳内メルヘン(ダークマタ―)』! 一回、頭の中身を取り換えて来い!!」


「その名で俺を呼ぶな! メルヘンはなぁ、あるかないかもわからない物質じゃなくて…
あ、なんか電波受信した。たぶん、そうなった時の俺は学園都市第二位になってて、やられキャラとして白髪野郎に速攻で敗北するんですね、わかります」


「…お前、本気で大丈夫か?」


走りながら、息が苦しくなるのも気にせずに俺と上条は駆け続ける。
後ろの足音はまだ消えない。







今日も学園都市は平和です。






あとがき

豚もおだてりゃ木に登る。てな訳で、更新です。



[6950] 一章 二話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:10
息が切れる。
俺は上条のように長距離走に自身があるわけでもなく、ましてや肉体強化の能力を持っている訳ではない。
だから、この地獄のような長距離そうではなく、さっさと終わらせて撒く短距離走を狙っていたのだ。狙っていたのに!!

何をトチ狂ったのか、俺の横を並走する糞ったれは格好よくこう言ったのだ。


「バカ、適度に俺らって言う餌をチラつかせて、仲間呼ばせないようにするんだよ」


「はぁ!? 何言ってんのお前? 向こうより先にこっちの体力が尽きるわ!」


「いや、でもこれもあの『超能力者(レベル5)』からあの不良たちを救うためだ。我慢しろ」


何言ってんの? どう見たって美琴ちゃんが絡まれてたじゃん。
アレか? 美琴ちゃんにからんだお兄さんたちの方が、返り討に合って危ないとかそういう理屈?
だったら、てめえ一人でやれ!
俺に迷惑をかけるんじゃねえよ! 忘れてるかもしれないけど、明日は俺達は補修ですよ? 全力疾走長時間という責め苦の後に子萌ちゃんの授業を受けろって言うのかよ!!


「ばーか、かみじょうなんてしんじゃえ」


「うっさい、お前だってその為に…って、お前大丈夫か!? ヘバリすぎだろう!!」


「もう、ダメ。死ねる」


すっかり暗くなった辺りには、所々にカップルがいる。

ちなみに、今俺が走り抜けている場所は学園都市といい、東京都の三分の一ほどの面積を持つ大都市だったりします。
学園都市という名の通り周りのカップルは学生と思しき人たちであるし、後ろで「待てや、この逃げ足王!!!」と怒鳴っているお兄さんたちも学生だ。
しかし、ただの学生ではない。

彼らは皆、超能力開発と称した『頭の開発』を平然と時間割に組み込まれている『能力者』と呼ばれる者たちだ。
もっとも、全員が全員素晴らしい超能力を持っている訳ではない。
全体で見れば6割弱が、脳の血管がちぎれんばかりに力んだり、頭に電極をさしてようやくスプーンを曲げる事が出来る程度の、全く使えない『無能力(レベル0)』ばかりなのだ。
もっとも、俺は珍しい能力を引き当てているため、『無能力』ではないのだが。

ん? なら、その能力を使ってさっさと不良をボコせって?

ナマ言ってんじゃねぇよ!! お前能力制御の計算がどんだけ大変か分かってんのか!?
アレだぞ。誰もいないようなところでようやく集中できるぐらいだぞ!?
こんな騒がしく、かつ不良に追われているような状況でやったら、確実に自爆して腸をぶちまけて終わるぞ!

……あ、それもいいかもしれん。
自爆ついでにそこら中をうろついてるカップルを殺せるのなら!!


「俺だって、美琴ちゃんとエッチなことしたいわー!!」


「なあ、頼むから離れて走ってくれないか? 仲間に思われたくない」


「…なあ、上条。お前的に美琴ちゃんには、毛は生えていると思うか? 俺的には、まだだったらこの上もなく嬉しい」


「もういい、お前はここで大人しく不良に捕まれ! もしくは、アンチスキルに自首しろ!」


「ついこの前補導されたとき、『頼むから来ないでくれ。黄泉川の馬鹿にも君のことはなるべく捕まえないように頼むから!』って、マッチョイ警備員のおっさんに泣かれた」


「……悪い、俺はそのおっさんに同情するわ」


失礼な。言われた俺の方が泣きたくなったわ!
それはともかく、俺と上条は川にかかった鉄橋まで駆け抜けたことで、ようやくお兄さんたちを撒くことに成功した。

その時には、俺の心臓はかつてないほどハイペースなお仕事させられることになっていた。


「死ぬ、いやむしろ死ね。お前は美琴ちゃんや俺よりも、あのお兄さんたちが大事か。
このホモ野郎。てめえの穴と言う穴を掘りつくすぞ」


「お前はなんでそんなに息が荒いのに、しゃべれんだよ。まあ、アレだ。何にせよようやく撒けたみたい……」


そう上条が言った瞬間、俺の股間の美琴ちゃんレーダーが作動。同時に、あの聞く者の心(俺限定)を震わせるプリチ―ボイス聞こえた。



「ったく、何やってんのよアンタラ。不良守って善人気取りか、熱血教師ですかぁ?」



「はい!! 僕は教師です! だから、今から君に放課後のいけない個人授業を……」


「死ね!」


問答無用の回し蹴り。
ルパンダイブを敢行しようとした俺の側頭部に容赦のない美琴ちゃんの蹴りが炸裂する。

パンツ見えた! と思ったけど、短パンでした。
うん、その短さが余計に俺の性欲を掻きたてる!!


その不純な力を手にした俺は、倒れない。
まるで不屈の闘志を燃やす戦士のようにこらえて美琴ちゃんの足を掴むと、美琴ちゃんの短パンを凝視する。

ウホッ、これは堪りません!!


「い、いやあああああ!」


そんな可愛らしい叫び声と共に、ついに美琴ちゃんは自身の能力を解放した。
すなわち、俺が掴んだ右足から超高圧の電流を流すと言う、普通の人間なら即死の大技を。

この学園都市の能力者の例に漏れず、美琴ちゃんも『能力者』である。
それも超強力で、この学園都市に6人しか確認されていない『超能力者(レベル5)』。しかもその中での序列は『第二位』。
ぶっちゃけ、不動の第一位を覗いたら無敵の強さだ。

そんな彼女は電撃使い。
おっそろしいほどの高圧、かつ高威力の電気を扱い『超電磁砲(レールガン)』と呼ばれる38万3333分の1のスーパーエリートなのだ。

俺はそこら辺にいるただの雑魚。しかも仲間内では能力名を『脳内メルヘン(ダークマタ―)』とされている。
由来は簡単、俺の能力を発動した際の姿が余りに俺に似合っていないため、「やばいぜよ、この破壊力は未元物質(ダークマタ―)だにゃー」と言った友人のせい。
いつか見てろ金髪シスコン変態野郎が!

閑話休題。いずれにしろ、お笑い担当の俺と美琴ちゃんでは結果は火を見るより明らか。
彼女の電撃に打たれた俺は、全体的にボロクなりながらその場にどさっと倒れる。
もちろんその時も上手く計算して倒れて美琴ちゃんのスカートの中を覗くことに余念がない。

うん、やっぱり短パンもいいけど、いつかはちゃんとパンツを見たいな!


「ぜーはー、っこの馬鹿は放っておいて、そこのアンタ!」


「は、はひっ!」


美琴ちゃんの怒ったような声に上条がおびえたような声を出す。

ゴミが! 口からくそを垂れる前に言葉の頭と尻にマムとつけろ! 美琴ちゃんは女の子だから☆
やっべ、ののしられた後に心行くまで足でされたい! いつも踏まれているけど、特定の場所をもっと、こう、ね!


「あんた、この前あった時にさ、あの爆発を『打ち消してたわね』、あれ、どういうことかしら?」


「ああ、アレか?」


美琴ちゃんが言うアレとは、上条の能力に他ならない。
なんかよく知らんが右手の手首から先でふれた能力をすべて打ち消すと言うチート能力。
本人曰く色々と制約があるらしいし毎年一回の『身体検査(システムスキャン)』では測定できず、『無能力』に分類されている。
が、相当真面目にやらなければ能力を発動できない俺にしてみれば、うらやましい限りだ。
それに、いつだったか美琴ちゃんの言う爆発を消した時は、どう見ても『大能力者(レベル4)』のテロ攻撃を防いでいた。
何ぞ? それのどこらへんが『無能力』? むしろ上条無双が可能なほどの能力じゃねぇか!!
もっとも、俺は今の自分の役立たずの能力が好きになれたから、少しも構いませんが。

上条は苦笑しながら美琴ちゃんに自分の能力の説明を始める。

どうでもいいけど、こいつ俺のこと忘れてない?


「いや、これは『幻想殺し(イマジンブレーカー)』って言って……」


「ああ、ちなみにそんなことはどうでもいいの」


美琴ちゃんは自分でそう聞いた癖に、上条の説明をばっさりと切り捨てる。
うっわー。上条ざまぁ。

さっすが美琴ちゃん! そこら辺の女にはできないことを平然とやってのける! そこに興奮するし、性欲を持て余す!!


「死ね!」


アウチ! なにも言ってはいないのに蹴られた。


「お、おい、あんまり帝督を蹴り過ぎんなよ。そいつ、丈夫だからって限度があるから、死ぬぞ!?」


「大丈夫よ。今も『5秒以内に立てたら私のぱんつあげる』って言えば……」


「マジですか!?」


俺は美琴ちゃんの言葉に勢いよく立ちあがった。
起き上がれるはずがない? そんなもんどうにかすんだよ!


「……ね?」


「ああ、何と言うか、すまない」


「ねーねー、美琴ちゃん! マジで、マジでパンツくれんの!?」


「まあ、そう言う訳で少しあんたに興味があるんだけど」


「…あのさ。俺は『無能力』だぜ? お前みたいなやつを相手にしてらんねーよ」


「いいじゃない、試してみない? 私の雷をあんたの右手で防げるかどうか」


「なるほど、今脱いでくれるわけですね分かります!! ならば、早速今晩使わせていただきます!! いや、むしろ今すぐに!」


「って、さっきからうっさいのよぉぉぉぉおおおお!!」


怒鳴る美琴ちゃんは俺を引きはがすと、全身に帯電し始める。
そればかりか、雷雲を呼び寄せてしまった。


「そんなに、死にたいならお望みどおりにしてあ・げ・る」


最高に可愛い顔で俺への死刑宣告。
うわぉ。今気がついたけど、今日ってば美琴ちゃんの能力ではぢめてギタギタにされた記念日!?
これで俺も「あんたなんか能力を使うまでもないわ」というツンツンから、「ちょ、やだ、恥ずかしい」というツンに変更か!!
俺の時代が来た!!!!

その後、学園都市に凄まじい雷が落ちて一時的に停電になったのはいい思いで。

因みに、上条君の攻撃は『超能力者』の攻撃も防げたようです。
その際の上条の雄姿にちょっとときめいたのは秘密だ。

べ、別に、助けて欲しいだなんて言ってないんだからね!
…でも、その、本当はどうでもいいけど、ありがと。

まあ、今回は流石に俺も死んでいたかもしれないからねー。反省? する訳ないだろ。








今日も学園都市は平和です。








あとがき

色々と最低ですね。今回でようやく原作の序章が終わりです。
はてさて、一巻の内容がどこまで変態に染まるか、お楽しみくださいww



[6950] 一章 三話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:11
「はーい。それじゃあ先生プリント作ってきたのでまずは配るですー。それを見ながら今日は補修の授業を進めますよー?」


もうこのあり得ないぐらいのロリボイスを聞き始めるようになって一学期経つが、未だに俺はこの教師は素晴らしい教師だとは思うものの、その容姿からそこまで頼りがいがあるとは思え

なかった。
そんなおれの視線や他の奴の欲望に塗れた視線を一身に受けて教団に立っているのは、身長135cmの幼女な月詠 小萌先生だ。
彼女は一生懸命持ってきたプリントを配る。
うん、まあそんな事は関係なしに俺は携帯電話を弄って、撮りだめた美琴ちゃんの写真を流し見る。
やべぇ。やっぱ可愛いわ~! 俺の股間がエレクトしちまった!!


「おしゃべりは止めないですけど先生の話は聞いてもらわないとこまるですー。
先生気合いを入れてテストを作ってきたので、点が悪かったら罰ゲームは透け透け見る見るですー。あと垣根ちゃんはいい加減にしないと黄泉川先生を呼ぶですよー」


「ってかそれ目隠しでポーカーしろって言うアレでしょう先生! ありゃ透視能力(クレアボイアンス)専攻の時間割だし!」


俺が言われたために仕方なく携帯をしまうと、上条が勢いよく小萌先生に抗議する。
どうでもいいけど、このそそり立ったバベルの塔はどうしよう? トイレに行って色々飛ばしてくるか?


「えー、でも垣根ちゃんは見事にクリアして見せましたよー。あと、上条ちゃんは記録術(開発)の単位が足りていないので、どの道透け透け見る見るですよ?」


「先生、それはあの野郎がいかさまして…」


「だらっしゃああああああ!!」


上条が全て言い切る前に俺は上条の顔面をぶん殴って、強制的に黙らせる。
因みに、席を立ちあがった瞬間に後ろの青髪ピアスが「ぐえっ!?」と呻いていた気がするが、気にしてはいけない。
それより、今はあのくそ面倒な授業をいかさましたことがばれる事の方が問題だ。

いや、そもそもあれはいかさまではない。
ただカードを自分で切らせてもらって、自分の所に狙ったカードが来るようにしているだけだ。
因みに、結果の度に目隠しは外してもらえないので、カードに仕込みをしたのも秘密だ。

上条は俺の一撃程度では倒れずにそのまま俺を睨みつけてくる。


「なにすんだよ、このメルヘン野郎!」


「るせぇ! 余計なこと言ってんじゃねぇよ、フラグ生産機! あと、小萌先生トイレ行ってきてもいいですか!?」


「か、上条ちゃんも垣根ちゃんも喧嘩はだめなのですー! あと、おトイレはいつも言ってますけど、授業前にすませてください!」


「いえ、ぶっちゃけ美琴ちゃんへの愛が俺の股間から溢れかけて、暴発しかけているだけですから」


「な、小萌ちゃんになんてこと言ってんのや、帝督!! もっとやれ!!」


「あーもー、てめえは黙ってろ!! 本気で地面に沈めんぞ!」


いつの間にか俺の後ろの席の青髪ピアスも復活して俺にエールを送る。と言うか、大多数の補習組男子が俺の言葉に真っ赤になっているのを嬉しそうに見ている。
ただ一人上条は紳士を気取っているが、それはいつものことだ。

と言うか、そこまで恥ずかしがるようなものか? ただ俺の愛が溢れるだけだと言うのに。

小萌先生は真っ赤になりながら、大きな声で騒ぎ始めたクラスを静める。


「し、静かにするんですー! それと垣根ちゃんは何その場でズボンをおろそうとしているんですかー!!?」


「いや、結局トイレに行っていいものか悩んだので、ここですることに……」


「くたばれええええええ!!」


ゴガンというまるで敵キャラを倒す時のような凄まじい効果音と共に俺は上条に殴りつけられ、教室の隅まで机や他の生徒を巻き込んで吹き飛ばされる。

いでぇぇぇぇええええ!? それに顔に誰かの股間が付着していて気持ちが悪い!
いや、待てよ俺。これが何らかの薬の効果でフタナリ化した美琴ちゃんが生やしてしまったものだと考えれば……


「はぁはぁ、美琴ちゃん」


「ぎゃああああ! 帝督の荒い鼻息とよだれが僕の股間にぃ!? 上やん、助けてや―!!」


「はーい。それでは本当に授業を始めるですよー」


「無視っすか、小萌先生も!? でもその無視っぷりに興奮がとまらへん!!」


どうやら俺の上で騒いでいたのは青髪ピアスであったらしく、俺の上で騒いでいたので何となく蹴り飛ばしてどかす。
あんな糞ったれの股間と美琴ちゃんの股間を一緒にすんじゃねぇよ。
美琴ちゃんのは24時間耐久で舐められるが、奴のは見た瞬間に踏みつぶす自身がある。

と言うか、奴の股間の感触が消えないため、後で美琴ちゃんに踏んでもらいに行くことにしよう。
待っててね、美琴ちゃん!!


「やっべ! 今から楽しみでしょうがねえ!!」


「垣根ちゃん、そんなに警備員さんが好きですかー?」


小萌先生は何を思ったのか、指をパチンと鳴らす。
すると、教室のドアがガラガラと開けられて外から見覚えのあるジャージ巨乳なお姉さんが入ってきた。

な、何故この方がここに!?


「ふっふっふ、この人は黄泉川先生と言って小萌先生の友達なのです。あと、この学校の先生ですよ?」


「マジか!? まず名前も知らなかったし、この学校の先生だなんて知らなかった!!」


「…言っておくけど、初めて会ったときに名乗っているし、忠告の時に学校内で変態行為は控えろって言ったじゃん」


あ、やべぇ。思わず口に出しちゃった。
あと、お姉さんの顔がすごいことになってます。呆れと怒りが素晴らしいぐらいにブレンドされてます。

お姉さんこと黄泉川先生は座ったままの俺の脚を掴むと、小萌先生に気軽に声をかけた。


「じゃあ、こいつちょっと躾けてくるじゃんよ」


「あ、あの、ほどほどにしておいてくださいね。垣根ちゃんはどうしようもないクズですけど、小萌先生の生徒なのです」


「はいはい。じゃあ行くよー。これからは全て調教タイムじゃん。人生変わるよ~」


「い、いやああああ! 上条、助けて! 今ならお前が今朝拾えたらいいなと思っていた魔砲少女とのフラグの立て方を教えるから!!」


「いるか。自業自得だ、せいぜい従順な犬になって来い」


「アッーーーーーーーー!!」


要するに、しつけの良い犬になって来いと。今のように盛るだけではダメなのですね。
だが、甘いよ小萌先生も黄泉川先生も。

ズルズルと引きづられていく俺は静かにその瞳を閉じる。

この時、黄泉川先生はもう一つミスを犯す。
それは俺を隣の教室に引きずっていく際に俺に話しかけなかったことだ。
それはつまり俺に集中する時間を与えてしまったということに他ならない。


いまだぁぁぁぁぁああああ!! 目覚めろ我が能力!!!!



「『脳内メルヘン(ダークマタ―)』!!!!」



「んな!?」


「しまったのです!?」


「あいつ、こう言うときだけ本気になりやがって!」


皆の言葉の直後、俺の背中に正体不明の光がともり、俺の体に浮力を与える。
黄泉川先生の手を離れた俺はさらにそのまま開いていた廊下の窓からその身を躍らせた。
そして、この能力の効果はそれだけではない。


「あはは~待つじゃん。垣根~」


黄泉川先生はな何やら発言をメルヘンにしながらもなんとか俺を取り押さえよう手を伸ばす。しかし、その頃には極限の集中力によって作り上げられた我が能力が真価を発揮する。
すなわち、背中の一対の光が次第にその姿を翼へと変えたのだ。

雄々しく。かつ、優しい色をした純白の翼へと。

ただし、その羽は俺の180cmという巨躯に少しも合っていない、30cmぐらいの全体的に丸い感じにデフォルメされた可愛らしいものであるが。そして、俺の頭には天使の輪っか。

そうだよ、何か文句あっか!? 飛べるけど、ソレしか用途はないし、俺の脳内を投影しているかのようにメルヘンだよ!!
これがダークマタ―って呼ばれる破壊力だよ!!

だが、この能力の恐ろしさはそれだけではない。


「あは~垣根ちゃんが飛んだのです~」


小萌先生はぽへ~とメルヘンナ笑みを浮かべる。見ると、上条以外のその場にいた奴らがポヤポヤとしたメルヘンナ笑顔を浮かべていた。
そう、これぞ俺の能力『脳内メルヘン(ダークマタ―)』。なんでこうなるのかはさっぱりわからないが、能力発動中の俺の傍に寄るとみんながみんな頭の中がメルヘンになるのだ。
俺の似合わない外見と、このやばい特殊能力。
この二つでもって俺の能力は『脳内メルヘン(ダークマタ―)』と呼ばれているのだ。因みに能力レベルは『強能力(レベル3)』。この学校に限って言えば滅茶苦茶高いレベルになる。
もっとも、能力の価値でいえばもっと高いはずなのだが、俺がほとんど制御できない上、俺自身の頭がお粗末であるのでこのレベルに収まっている。

うん、今も少しでも気を抜くと下に真っ逆さまだ。まあ、俺の能力の発動中はみんな脳みそがメルヘンになっているため、俺の邪魔をする奴はいないのだが…

さらに言えば、本当は全然違う能力なんだけどね。これ以上のことをやろうとすると、俺は知恵熱で3日は寝込むことになる。


「……っぷ」


「ごらぁぁああああ!! 今笑った奴出て来い!!」


しかし、その時俺の耳に確かに誰かが俺を笑う声が聞こえた。
俺は空中からゆっくりと地面に降り立ちながら、反射的にそれに怒鳴リ返す。
と言うか、今笑った奴は誰だ? 俺の美琴ちゃんを捜すために鍛えた地獄耳では下からだったのだが……

しかし、その瞬間だ。
俺の制御の計算式をひたすら編み出していた脳は、一瞬にして集中を切らし能力の暴発を防ぐために発動その物を自動的に止める。
所謂、自己防衛本能というやつだ。

その結果俺に起きることは、大地への落下なため本末転倒だが。


因みに、俺が飛び出た場所は三階。今いる現在地は2階だ。


「いやあああああああああああああああ!!」


自分でも情けないと思いつつ、落ちもの系ヒロインのごとく俺は大地に吸い込まれる様にして落ちていく。

もう駄目、僕は死んじゃう!!

俺はそう思い次の瞬間の硬い大地の感触に備えて、その目を閉じる。

しかし、その衝撃はいつまでたっても訪れずに、代わりに柔らかい肉の感触と美琴ちゃんには負けるがそれなりの良い匂いが俺を包んだ。


「大丈夫ですか? 一応間に合いはしましたが……」


目をゆっくりと開けた俺の視界にまず映ったのは、切れ長の眼をした美しいヤマトナデシコ。
その表情はどこか焦ったように俺を見ている。

どうやら、途中で落ちてしまった俺はこのヤマトナデシコにキャッチしてもらったようだ。お姫様抱っこで。

やっば。これは惚れちゃうよ!? でも、残念でした!! 俺は美琴ちゃん一筋なんだよ!!
あ、でもおっぱい大きいな。


「あ、あの……」


「あ、すんません。おろしてもらってもいいですか?」


「え、あ、はい」


そう言うと女性はゆっくりと俺を地面におろしてくれる。
同時に、俺が飛び出したまどから脳内メルヘンから回帰した黄泉川先生と小萌先生が、身を乗り出して大声を出して怒鳴った。


「こらー!! 垣根ちゃんは能力の制御が不十分だから飛んじゃ駄目ですって、いつも言ってるでしょー!!」


「上等じゃん垣根! 今すぐそこにいくから待ってろ!!」


嫌です。俺はこれから美琴ちゃんを探しに行きます。
俺は取りあえず俺を助けてくれたらしい女性に視線をやる。
でっかい女の人だ。俺までとは言わないが上条よりも背が大いかもしれない。あと、恰好が滅茶苦茶なんですけど。
具体的には、片方だけ扇情的に股のあたりまでばっさりと切ったジーパンとか、腰から拳銃のようにぶら下げた2m以上もの日本刀とか。
うん、助けてもらってアレだけど頭のおかしい人なのかもしれない。

俺は素早くその女性に頭を下げると、自分のズボンのポケットから美琴ちゃんにあげようと思っていたイチゴ味の飴を手渡す。


「助けてくださってありがとうございます! この美琴ちゃんへの献上物を上げますんで、チャラと言う事に!」


「は、はぁ」


「かーきーねー!!!!」


ひぃ!? マジギレした黄泉川先生がもう昇降口まで来てる!?
俺はそれから逃避するために全力で駆けだした。

なんか、昨日から俺ってば走ってばっかりじゃね?






今日も学園都市は平和です。








????side

私は、その少年を見た瞬間に、天使かと我が目を疑った。
様々な能力者がいる学園都市。その中では飛べる能力などそこまで珍しいモノではないのに。

だと言うのに、私は彼が天使に見えた。
その背中に生えた翼はなんとも可愛らしく、頼りないモノでとてもではないが彼の長身には合っていない。
それでも、私にはその翼はとても誇り高く思えたのだ。

しかし、見れば見るほど少年に不似合いなメルヘンなそれに私は思わず失笑してしまう。


「……っぷ」


「ごらぁぁああああ!! 今笑った奴出て来い!!」


そして、少年は驚くべきことに瞬時に私の笑いに反応したのだ。
私は校門の前に立ってはいたものの、2階辺りの少年との距離は少なからず離れている。聞こえるはずはない。
だが、次の瞬間に少年が落ちていくのを見て、私は焦った。
まさか、自分のせいか?、と。

そして、気がついた時には自分の身体能力を活かして駆け出し、その少年を受け止めていた。

結局、私の笑い声で落ちたのかどうかは、確かめる前に彼が慌ただしく去ってしまったので分からない。
私の手には透明な包装紙に包まれたピンクの飴玉だけが残された。


「イチゴ味、ですか」


仕事中、しかも彼女を追いかけている最中だと言うのに、私はついついそれを口に含んでしまう。

それは、なんとも甘い味がした。
同時に、私は久々に大きな声を上げて笑い始めていた。



ああ、なんとも愉快な少年だった。








あとがき

今回は変態が少なめです。



[6950] 一章 四話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:11
「みーこーとーちゃん!」


お昼時の食道街。
俺は声を張り上げて視界に捕えた彼女の名前を呼ぶ。
すると、その綺麗な亜麻色の髪の毛をした彼女は振り向いてくれる。ただし、ものすごく嫌そうな顔をしながら。


「また、あんたか」


「何してんの? どこ行くの?」


「あんたには関係ないわよ」


冷たくそう言い放った彼女だが、M(俺)にそれはご褒美です。
俺はさっさと先に歩き始めた彼女を追いかけると、彼女と連れだって歩き始めた。

うん、本当はこうして側にいられるだけで良いんだ。でもね、僕も男の子なの。

俺はそっと自分の手を美琴ちゃんのお尻に伸ばす。この後どうするかって? 簡単さ、そのまま二つの尻丘を揉みしだく!!
パンツの上からじゃない、直接だ!! いや、その前にパンツがある状態で味見をしよう。

ハァハァ、美琴ちゃんのパンツ。

対象を補足! これより作戦行動を……


「お姉さまに触れるんじゃねーですの!!」


俺の手が美琴ちゃんのそれに迫りかけたその瞬間、一瞬前まで誰もいなかったはずの俺の眼前の虚空に靴の裏が現れた。
それはどうしようもないタイミングで俺は回避のしようがなく、その靴底を顔面に受ける。

メゴリ!とあまり聞きたくない音が辺りに響く。

うん、聞きたくないって言ってもそれを奏でたのは俺の顔面なんだけどね。
そう認識した直後、まるでワイヤーアクションの映画のように俺の体が後方へと弾き飛ばされた。
いや、飛んでいるのが自分だから景色が流れるように見えただけだけどね?

その瞬間、誰かが吹き飛ぶ俺を受け止めてくれる柔らかい感触と共に、鼻につく香水の香りがした。


「やれやれ、この国では人間が飛ぶのが日常茶飯事なのかい?」


次いで香るのは、俺が嫌いな煙草のにおい。
俺は俺を支えてくれていたらしいその手から素早く飛び起きると、後ろを振り向いた。
すると、そこには180cmという俺の身長を頭一つ分ぐらい超した赤毛の外国産の巨人がいた。
見たところ、神父っぽい服装をしているが、口には煙草をくわえており、なんとも柄が悪そうだ。

うん、こう言うタイプには朗らかに接しよう。喧嘩売られたら怖いしね。


「サンキュー、ブラザー!!」


「…僕は君と兄弟になった記憶はないけどね」


その外人さんは俺に綺麗に中指を立ててみせると、俺の横を通り過ぎてさっさと歩いて行ってしまう。

…なんだ、今のギャグキャラじゃない奴は!? あんな真面目キャラが許されていいのか!?
いや、良くない!!

俺は外人のそのすかした態度が気に喰わなかったので、即座に外人の背中に向かって大声を張り上げた。


「人類皆兄弟! そして、あなたが昨日抱いた女性を俺が過去に抱いてたら、僕と君は穴兄弟!!」


「あ!?」


ビキリ、と額に青筋を浮かべながらこちらを振り返った外人に、俺はニヤニヤと笑っていたのが一瞬で凍りつかせた。
アレです。とりあえずこっちに注意を向けさせたら後は簡単。であったはずなんだけど……。
この人マジギレしてない? めっちゃこっちを睨んでいるんだけど? やべえ、この人は冗談が本気で通じない人だ。
そして、ギャグにマジツッコミをする人だ!!

外人は俺の傍らまで近づくと、煙草の火を俺に押しつけんばかりに近づけて話す。


「いいか、ジャップ? 僕は今忙しいんだ。余計なことで時間を取っている暇はないんだ」


うわー、やべえ。からかう相手を間違えた!
助けて、上条君!!

最早、絶体絶命と言っても過言ではない状況で俺は冷や汗を流した。その瞬間、


「あー、悪いんだけどさ。許してやってくんない?」


天使ボイスが俺と男の間に割って入った。
男はその声の主に怪訝そうな顔で声の主である美琴ちゃんを睨んだ。


「何だい君は?」


「いや、まあそれは置いておいて、その馬鹿とは顔見知りだからね」


「……別に、どうこうしようとしてたわけじゃない」


男はそう言うと俺に興味を失くしたかのように背を向けて歩き出す。
すぐさま人波の中に消えてしまったその姿を目で追いかけながら、俺は立ち上がると俺を呆れたように見ている美琴ちゃんに話しかけた。


「いやー、助かったよ美琴ちゃん。あのままだったら、美琴ちゃんと致す前に天国の門を叩いていたよ」


「あんたは天国でも地獄でも入るのを断られそうだけどね」


まあ何にせよ無事で良かったわ。と美琴ちゃんは晴れやかに笑う。

ああ、この笑顔だ。この太陽の笑顔が俺を狂わせる。
主に性的な意味で。具体的に言えばこのまま野外ニャンニャンとしゃれこみたいです。

しかし、ここは堪えるのだ垣根 帝督。ここで変態を我慢できずに溢れさせたなら、いつもと変わらない。
美琴ちゃんの脚に踏まれるのもいいが、そろそろフラグを立ててみようじゃないか!

全ては美琴ちゃんとのめくるめく官能的で爛れた日々のために!!

俺は少しだけ顔を微笑ませて口を開く。
もちろん、心の中では必死に沸き起こる欲望を抑えていますよ?
さて、口説き時間スタート!!


「美琴ちゃんはすごいな、やっぱり」


「あんたがだらしないだけ」


「くく、でも俺はそんな美琴ちゃんも好きだけど、女の子らしい美琴ちゃんも見てみたいな」


「はぁ?」


「今度、なんかあったら俺を頼ってよ。今のお詫び」


「あのね、あんたはそんなことを気にするような奴じゃないでしょ。
それにあんた程度で解決できるような悩みなんて私は抱えていないわよ」


完全に呆れ切ったいる美琴ちゃん。まあ、その通りなのですけど。

しかし、ここはかっこつけさせてもらいましょう。


「んにゃ、好きな女の子の役に立ちたがらない野郎はいないさ」


「……また、あんたは臆面もなくそんな事をよく言えるわね」


ふはははははは、そんな事を言っても顔は正直で真っ赤ですぞ?

これは行ける。

前世の勘を頼りに俺は心の声を出さずにそっと美琴ちゃんの手を握ろうとその手を伸ばす。
しかし、美琴ちゃんはパシリとその手を叩いた。


「調子に乗るな、この変態」


むぅ。作戦失敗か。

俺がそう思っていると、美琴ちゃんの横に見覚えのあるツインテールが現れた。


「おほほほほ! 残念でしたわね、お姉さまのお相手はこの白井 黒子と相場が決まっていますの!」


あからさまなお嬢喋りが胡散臭いことこの上ないこの少女の名前は白井 黒子。こいつは美琴ちゃんのルームメイトのガキで、『空間転移(テレポート)』の使い手だ。
俺とは不倶戴天の敵としてお互い認識している。
ぶっちゃけて言うと、こいつも俺も同じ穴の狢で美琴ちゃんの初めてを狙っている。


「は、まだいたのかクソガキ。てか、お前さっき俺の顔面に蹴りをくれやがったな!?」


そう、先ほど赤毛の男にぶつかる原因を作ったのはこいつだ。
テレポートで突然目の前に現れて俺を蹴り飛ばしたのだ。因みにその一瞬で僅かに見えた彼女の下着の色は黒。しかもレース。
ガキが色気づいてんじゃねえ!


「だいたい、お前に黒レースは早い!!」


「どこを見ているんですの!! 最低、こんな変態を放っておいてさっさと行きましょう、お姉さま!」


ばちーんと俺の顔面にびんたをかましながら、白井は美琴ちゃんの手を取って歩き始める。
俺はそれを追いかけながら白井を無視して美琴ちゃんに話しかけるべく彼女と並んで歩いた。ちなみに顔はジンジンと痛むけど我慢だ。


「ねえねえ、美琴ちゃん。これからにゃんにゃんランドに行かない? この前人懐っこい野良猫のたまり場を見つけたんだ!」


「え、どこ!?」


すぐさま反応する美琴ちゃん。彼女は意外にも猫が好きなのだ。
しかし、それを妨害するかのように、白井が俺たちの会話に割って入る。


「悪いのですけど、お姉さまはこれから私と予定がありますの。
それに、お姉さまは常に発している微弱な電磁波のせいで小動物から逃げられてしまいますの。
時々、寮の野良猫に餌を上げようとして逃げられ、一人ポツンと猫缶片手に佇むお姉さまは、滅茶苦茶可愛いですわよ!?」


「だー! 余計な事は言わなくていいわ黒子!!」


ふむ、美琴ちゃんは動物に好かれないのか。だが、そんな事は障害にはならない。


「大丈夫、俺の能力を使えば美琴ちゃんもメルヘンの世界にご招待! ネコちゃんと触れあえます!」


「う、それ本当?」


美琴ちゃんはもの凄く心惹かれたように俺に問いかける。
まあ、実際は美琴ちゃんも猫も頭がメルヘンになるだけだが。それは言わないでおく。


「本当だって。俺の手にかかればみんなまとめてメルヘンだよ!」


「じゃ、じゃ…」


「お姉さま、落ち着いてください! 私たちはこれから病院に行かなければ……」


ちょうどいいところで白井の邪魔が入り、美琴ちゃんが正気に返る。
と言うか、病院?


「ねえ、美琴ちゃん……」


「そうだったわね、よし早く行くわよ黒子!」


「合点承知ですの!」


美琴ちゃんは俺が質問する前に、さっさと歩きだしてしまいその後を追って行った。

ああ! 待って僕の女神! せめて、その尻に顔を埋めさせてください!!

去り際に白井の奴があっかんべーをしてきたのがさらにムカついた。
今度あいつの部屋にゴキブリを送ってやろう。段ボールいっぱいにね。













―――――――――――――――――――――――――――――














俺は、一人で俺と上条の愉快な仲間たちが住む学生寮の前に座り込んで飲み物を飲んでいた。
因みに、飲み物と言ってもソフトドリンクなどではなく、アルコールが入ったジュースだ。
別名、チューハイと言う。

学園都市では生徒は完全に都市の管理下に置かれているため、身分の偽装はおろか年齢の詐称もできない。
従って、18歳以下の生徒に禁止されているエッチィゲームやお酒は買えないようになっている。
特に、酒は学園都市の主要研究対象である脳に影響があると言う理由から、特に厳しく年齢確認をされるのだ。

だが、それをごまかす方法もまた存在する。
それは別段難しいモノではなく、単純にその年齢に達している人に買ってきてもらうのだ。

そうすれば、何ら問題なくこうして飲むことができる。


「学園都市、か」


俺は、この街が好きになれなかった。
何故なら、俺の意思に関係なくただ『天才』と言う理由で両親にこの街に入れられたから。

俺は幼いころから読み書きができ、さらには歩けるようになったのも2歳になってすぐだった。
と言うのも、それは俺に過去の体験があったからだ。

過去の体験、それは俺が垣根 帝督として生まれるまで過ごした20年あまりの人生。
20年人生を生きてきた俺は、ある日目が覚めると赤ん坊になっていた。

まるで、それまで生きてきた人生が夢であったかのように突然に、だ。

俺が現在どのような状態にあるのかもわからない。ただ、理解できたのは俺が赤の他人の垣根 帝督になってしまった事だけ。
そうして流されるままに生きてきた俺は、当然ながら過去の知識があるため喋れる上に勉強もできた。
いつの間にか『天才』と称されるほどに。

『天才』と自分の子供が呼ばれることが嬉しかったのだろう。
両親は俺が5歳になると迷わず俺を『学園都市』に入学させた。
更なる高みを目指すために。


しかし、両親の思惑は大きく予想とは外れることとなる。


俺が、能力をほとんだ使えなかったからだ。
全力で力んでも計算式を想像しても俺の能力は発動しないばかりか、暴走の兆候を見せた。

そのことで、『学園都市』の頭の良い教授たちは詳細が分からない俺の能力を捨てて、俺に関わらなくなった。
両親は俺の伸びない成績に嫌気がさしたのか、いつしか手紙もくれなくなった。


そうなると、あとは想像するのは容易いだろう。


俺は過去の記憶でもすぐにあきらめる根性無しであった。
それは、垣根 帝督となっても同じ。

見事なまでにグレテしまった俺はそのまま不良街道まっしぐら。ろくな友達も作れず、学校にも行かずに中二になった辺りでは最低の人間となっていた。
そんなある日だ。
俺は自分の運命に出会う。

それは『低能力』から『超能力者』まで駆けあがった少女。
俺にとって眩しくて見れないような輝きを放っていた。

だが、彼女は俺に言ってくれた。


その言葉が、俺を救った。

次の日から、俺は真面目に学校に行くことにした。
さすがにすぐに楽しくなることはなかった。だが、しばらくして高校に上がった俺はそこで得難い友達を得た。
再び諦めかけていた俺をぶん殴ってでも正してくれる親友が。

だから、俺はこの都市が大好きだ。

この都市は得難いモノを俺に与えてくれたから。

ならば、俺は毎日を精いっぱい努力して過ごすことにする。
その内容は美琴ちゃんに求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求

愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求

愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求

愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛して求愛することだ。


「能力の練習? 美琴ちゃんがやれって言ったら本気出す」


それにしても、美琴ちゃんとエッチがしたい。
辺りはいつの間にか日が暮れていた。赤い日が差す中で俺はチューハイの空き缶ゴミ箱に投げ込むと、小さく伸びをする。
そろそろ上条も補習から帰ってくるだろうし、ご飯でも作ってもらいに行こうかな。






今日も学園都市は平和です。






そう俺が思った瞬間、俺たちが住む寮の一角が盛大に爆ぜた。

音で例えるのならぼかーん。みたいな?


「な、なんだぁ!?」




あとがき

うん、今回も変態が少ないです。
しかもちょっとまじめ。おお、痛い痛い。



[6950] 一章 五話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:12
ゆっくりと音がした背後の俺の寮を振り返る。

すると、そこには見るからに私は炎ですと主張する不定形のオレンジの何かが見えた。
え? 炎? つまりアレですか、放火ですか?

た、たいへんだぁぁぁぁぁぁああああああああ!! 警備員、いや、消防車!!

俺は慌てて自分の携帯を取り出して確認するも、そこには『充電切れ』という文字と電池に×マークがされている絵が表示された携帯電話が。

やっべ、今日は美琴ちゃんの画像を朝からずっと見ていたので、電池が切れてしまったのだ。
くそう!! こういうついていないのは、だいたいが上条のくそったれの役割なのに!!

いかんいかん、俺がこうしている間にも火は燃え上がるかもしれないんだ。早く通報しなくては!!

そう思い、そこら辺を歩く誰かに通報を頼もうと俺が辺りに視線を向けた瞬間、俺はあることに気がついた。


「アレ? こう言うときって自動消火装置が稼働するんじゃないのか?」


そう、ここは科学の最先端が凝縮された町『学園都市』だ。

俺や上条と愉快な仲間たちが住んでいるこのボロい学生寮も一応はその恩恵に預かっている。つまり、何が言いたいのかと言うと防火設備は整っているはずなのだ。
それこそ、この前上条が俺の部屋に料理を作りに来てくれた際に、魚を焦がしてものっそい煙を出してしまった瞬間、火災報知機が反応してスプリンクラーが室内を水浸しにするほど。
おかげで、大切に引き延ばしてあった美琴ちゃんの写真や、夜のおかず用に仕舞ってあった裏サイトで競り落とした去年の美琴ちゃんの水着写真がすべてダメになったのだ。

ああ、思い出したら上条を殴りたくなった。次に会ったら何か適当な理由をつけて殴ろ……。


「どけぇぇぇぇぇぇ、帝督ぅぅぅぅうううううう!!」


「へ?」


グシャリと、自分がつぶれる音がした。
直後に上から信じられないような衝撃が俺を襲い、直立していた俺を押しつぶすだけでは飽き足らず、周りに止めてあった自転車まで巻き込んで何かが炸裂した。
ぶっちゃけ、いつかくらった美琴ちゃんのビリビリよりはるかに痛い。
というか痛すぎる! きゅ、救急車、救急車!! 死ぬ、これは本当に俺でも死んじゃう!!

どうやら、上から何かが落ちてきたらしい。


「いたたたた~。っ、おい! 帝督大丈夫か!?」


その落ちてきた何かは、潰していた俺から素早く退くとうつ伏せに倒れる俺を助け起こした。
すると、そこには見慣れたツンツン頭が…


「死ねっ!!」


「へぶろっ!?」


ソレが何なのか理解する前に、俺の頭はそれ専用に作られた特別回路を使って、罵倒を浴びせながらそれを思いっきり殴りつけた。
奇声をあげながら吹き飛んだソレは、しばらく悶えるもすぐさま復活して立ち上がり、俺に文句を言ってくる。


「何すんだよ!!」


「てめえがなにすんだ、この糞ったれの貧乏上条!! あ、今の面白いな。今度美琴ちゃんに教えてあげよう」


俺はそう言うと立ち上がりながら、落ちもの系ヒロイン(俺的には某天空の城のヒロインを推薦したい)の如く降り立った上条を罵る。
俺の上に降ってきたいんだったら、飛行石も身につけるか全裸の美琴ちゃんになってからにしろ!!
美琴ちゃんだったら、そのままアワビにマツタケをぶっ刺してネチョコースだが。

対する上条は、頬を擦りながら何かを思い出したかのように、慌てて俺に言った。


「そうだった! 帝督、早く逃げろ!!」


「あん? 何を言ってんのお前?」


「良いから…って、もう遅いか!」


上条がそう言った瞬間、視界の上の方に赤い何かが見えた。


「え?」


そんな呆けた声と共に上を見上げると、そこには炎がいた。



いや、本当にそうとしか形容できない者がいたのだ。全身に炎を纏いその中心に重油のような黒い人の形をした何かが『いた』。




「な!?」


俺は驚いた。それはもう、これ以上ないってほどに。いや、美琴ちゃんが青姦を求めて来てもここまでは驚かないだろう。
と言うか、ぶっちゃけ俺の処理能力をはるかに超えた現象が俺の目の前にいた。

それはしばらく空中に留まるようにしていたが、やがてスルスルと建物の中に戻って行く。


「…そうか、ルーンがあるのがこの学生寮だけだから――」


「ちょ、当麻君!? アレ何、ねぇアレ何!?」


「ちくしょう、そうだよな…。地獄の底まで付いて行きたくなけりゃあ……地獄の底から、引きずりあげてやるしかねーよなぁ」


俺を無視して何やらぼそぼそと呟く上条君。
どうやら、俺に断りなくまた面倒なことに巻き込まれているらしい。
と言うか、アレはもしかしなくても能力者なんじゃないのか? そうだ、な。なんか、中心に人っぽいのがいたし…

そうなると、横で「……何だ。分かっちまえばどうって事ねーじゃねえか」とか言っている馬鹿は、また喧嘩をしているらしい。
まあ、こいつは絡まれているだけだが。


ふむ、そう考えると不思議だなあ。何で今の奴は『絶好のチャンス』に、攻撃しなかったんだ?
俺が傍で見ていようといなかろうと、先ほどの上条は隙だらけ。攻めるチャンスはあっただろうに。


「それに、あんだけ燃えておいて火災報知機も鳴らねえし」


さっぱり分からない。
それはもう、『容疑者Xの献身』ぐらいさっぱりだ。
しかし、俺がそう呟いた瞬間、上条は何やらハッとして俺の肩を掴むと大きな声を出す。


「それだ!!」


「ぎゃああああ、唾がぁぁぁぁ!?」


俺の顔面に嬉しくもない上条の汁が撒き散らされる。

うう、ごめんね美琴ちゃん。美琴ちゃんに黄金水とかぶちまけられる前に、上条のモノを浴びちゃった。
自分のガードが甘い俺を許して…。


「それだ、それだよ、帝督!」


「うう、何がだよこのレイパー」


俺の言葉を気にした風もなく上条は明るく俺に告げる。
まあ、何の話かは俺はさっぱりポンな訳ですけど。


「これだ、これであいつに一泡吹かせられる! なあ、帝督。今からお願いがあるんだけどいいか!?」


何やら真面目な顔をして俺に聞いてくる上条。
…ここでふざけて返してもいいのだが、かっこよく返すとしよう。


「何だよ、また厄介事か?」


やば、カッコ良さ半端なくない!? 美琴ちゃんも濡れるね!


「ああ、悪いけど火災報知機を作動させてくれ」


火災報知機とは万が一鳴らなかった今回のような時のために、手動で作動できるようになっている。
それこそボタンを押せば誰でも出来るように。
俺はそれに頷いて了承の意を示す。


「わかった。報酬は美琴ちゃんのパンツな」


「あいつのメールアドレスでどうだ?」


「なんでてめえが知っているんだよ!?」


なんで!? 俺が聞いても教えてくれなかったのに!?


「いや、なんか昨日の騒ぎの最中に教えてくれた」


いつの間に!? ま、まあ良い。火災報知機さえ作動させれば良いんだからな!

上条は俺に背中を向けるとさっさと駆け出していく。


「それじゃあ、頼んだぜ!」


あっという間にエレベーターに乗り込む上条。
俺はそれを見送りながら寮に入り、すぐに設置されている火災報知機を作動させた。

途端に辺りに鳴り響く火災報知機のベル。
さらに追い打ちのようにスプリンクラーが作動して、辺りに台風のように水をまき散らす。

因みに俺は何も用意とかしていなかったので、ずぶ濡れです。


「…いやーん、まいっちんぐ」


なんだか上で激闘が繰り広げられているかのように、大きな声や破砕音が聞こえているが俺には関係ない。

え? お前も戦いに行けって?
いや、無理ですから。上条くんはなんか何でも消せる『幻想殺し』があるから良いけど、俺ってばさっきの炎の魔人と戦えって言われたら、間違いなく『にげる』を選ぶよ?
…だって、俺は能力もまともに発動できないしー。

……
…………
………………
……………………今度、小萌先生に相談してみようかな。俺の能力開発について。
あの先生なら落ちこぼれの俺にだって正面から対峙してくれ、さらには地道な能力開発もしてくれるだろう。
それこそ、『脳内メルヘン』がどんな能力か解明することから、だ。

か、勘違いしないでよね! べ、別に上条のことを手伝えるだけの力が無いから悔しいとか、上条が俺を頼ってくれなくて寂しいとか思っている訳じゃないんだからね!
ただ純粋に美琴ちゃんが俺に股を開いてくれれば良いと思っているだけなんだから! でも、その、『超能力者』になったら上条が頼ってくれるかなーって……


っは!? いったい俺は何を考えていたんだ!?
い、いかんぞ。俺は美琴ちゃんが好きなんだからね! 勘違いしないでよね!
で、でも上条は親友って言うか…


「…うん、ずぶ濡れになったせいだ。そうに決まっている」


俺は自分の脳内に浮かんだツンデレな考えを否定しながら頭を抱える。
すると、しばらくすると続いていた戦いの音が止み、ガコンという音と共にエレベーターが下に向かって動き始めた。

恐らくは上条だろう。火災報知機がどんな役割をしたかは知らないが、あいつは喧嘩に勝っているはずだ。
ヒーロー体質と言うか、上条 当麻はそういう生き物なのだ。
どうでも良い時は負けることもある。しかし、絶対に決めねばならぬ所では絶対に決める。そう言う主人公なのだ。


「ああ、羨ましい」


俺がそう呟いた瞬間、エレベーターが電子音と共に到着を知らせ、中から俺が予想していた通りに上条が姿を現す。
ただし、その腕に血まみれのシスターを抱えて。


……えっと、これはどういう状況ですか?


上条が抱えた少女はロリロリな銀髪外人シスターさんで、上条が抱えている腰のあたりから出血している。



「れ、霊柩車ぁぁあああああ!!」


「うるせえ、帝督! いいからこっから一先ず逃げるぞ!!」


上条はそう言うと、何も理解できていない俺を置いてさっさと学生寮の外へと駆け出していく。
俺は咄嗟に着いていくべきかどうか迷うが、遠くから聞こえてきたサイレンの音に咄嗟にかけ出した。

実は、俺は美琴ちゃんを追いかけているせいで黄泉川先生によくパトカーで追いかけられたりしている。そのため、サイレンの音を聞くと咄嗟に駆け出してしまうのだ。

駆けだした俺が上条の後を追いかけながら辺りを見回すと、先ほどまで血のように赤かった空はいつの間にか暗くなっいた。
それこそ全てを飲み込むかのように、黒く。




今日の学園都市はちょっと危険です。






あとがき

少し心の洗濯をしに山に籠ってきました。
綺麗な川、寒いながらもどこか早春の命の芽吹きを感じさせる森。
そして、電波なんて入らない携帯。
申し訳ありません、そのせいで色々と対応が遅れてしまいました。これからすぐにでも対応させていただきます。
詳しい謝辞は感想にて。
それではここまで読んで頂きありがとうございました。



[6950] 一章 六話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:12
上条の馬鹿に着いていくこと数十分。名前を聞いたところ、上条に背負われた銀髪の女の子の名前はインデックスと言うらしい。
彼女の容体は最悪の一言で、背中に鋭利な刃物でばっさりと切られた跡があった。
恐らく、そこからあふれ出た血が彼女の白い修道服を真っ赤に染めたのだろう。

俺はそれを見て迷わず上条に救急車を呼ぶことを進言した。

だが、少女には特殊な理由があるらしく、俺の申し出はあえなく却下。
そればかりか、命の危機に瀕しているためか突然機械のように声と表情から抑揚を失った少女の指示の下、能力が使えない人間。
つまるところ、学園の大人たちに会いに行くことになった。

うん、その時になんか色々理由があって、上条と少女がなんか色々話していたけど俺は知りません。
ええ、知りませんとも。
魔術とか、儀式とか知りませ~ん。

そして、信用できる学園の大人と言う事で、合法ロリの小萌先生の所にお邪魔することになった俺たちだが、そこで見てはいけない物を見てしまう。
具体的に言えば、山と積まれた灰皿の上の煙草の吸殻だとか、無造作にゴミ袋に入れられたアルコール飲料の空き缶だ。
何と言うか、青髪ピアスが見たら二度と立ち上がれなくなるほど三次元的(げんじつ)であった。


「ないわー。その顔で熟年離婚したオヤジばりの喫煙量とかドン引きします」


「ひ、ひどいです~! 先生だって大人の女なんですよ!?」


「どうでもいいです。大人だろうがなんだろうが、美琴ちゃんにぶち込むことしか考えていない俺には」


「……ほんと、死ねばいいと先生は思うですよー? 垣根ちゃんは女の子をなんだと思っているんですかー?」


「恋愛対象ですね。まあ、俺の中で女の子にカテゴリーしてあるのは美琴ちゃんだけですけど」


こんなやり取りをする前になんだか小萌先生が積み木をして遊んだり、上条が少女に対してフラグを立てていた気がするけど知らない。
さらに、今目の前で重症だった少女が元気に起き上がったりしているのは夢だ、夢に違いない!!


「…たいがいお前もしつこいな。ここまで来たら事実を認めろよ」


「うるせえよ上条。科学を信じて生きてきたんだ。今さら魔術なんて認められるかよ」


俺はそう言って横を歩いていた上条にそう言った。
俺たちからそう離れてはいない所では少女が「おっふろ♪ おっふろ♪」と元気良くはしゃいでいる。
……美琴ちゃんには及ばないものの、なかなか愛らしいではないか。

現在、俺と上条と少女ことインデックスは銭湯に向かっていた。

なんでも、体の匂いが少し気になると言う事だ。
そもそも外人は日本人と比べて体臭がきつい。それをごまかすために、香水と言うものを開発したほどだ。
まあ、そんな風呂に入る文化もないしね。彼らは温泉に入るのではなく飲むと言った文化の持ち主だ。

まあ、最近の若い外人の子までそうだとは思わないけどね。

それにしても、このお風呂に入りたがっているのが美琴ちゃんだったら……。


『あ、その…お風呂行きたいんだけど…』


『? なんで?』


『えっと、その…ちょっと匂いが気になって…』


『大丈夫、良い匂いだよ。俺が大好きな美琴ちゃんの匂いだ』


『あ。やあ、そ、そんな所の匂い、嗅いじゃ…』


『嗅いじゃ?』


『そ、その恥ずか、しいよ』



「み な ぎ っ て き た ! !」



「ねーねー、とうま。ていとくは変態さんなの?」


「…見たら分かんだろ」


「は、言ってくれんじゃねーか『青髪ピアスと同類(ロリコン)』が」


何やら酷いことを言われた気がしたので、俺がそう言い返したところ、上条はおろかインデックスちゃんまで怒り出した。


「んな、あいつと同類だけはごめんだ! あと、そういうお前もロリコンだろ!」


「と言うか、レディを幼女扱いとは失礼かも!」


「何言ってんの? 美琴ちゃんはたぶん第二次性徴が始めってますー。あと、俺としては第二次性徴前は全てロリだから。
そもそも、俺が女として見てんのは美琴ちゃんだけだから」


俺がそう言うと、目の前でインデックスちゃんが青筋を浮かべて、拳をプルプルと震わせた。


「ねーとうま。こいつ殴って良い?」


「むしろ殴ってやれ」


「ああ、ちなみに反撃するからね。俺はそこのロリコンでお人好しの馬鹿とは違うから。
君とのフラグとかにも興味もないし」


「フラグ?」


インデックスちゃんは聞き覚えがないのかそう言って首をかしげた。
やっぱりフラグは普通は知らないよね。
そして、それと対照的に顔を赤くしたのは上条であった。


「あのなぁ! 俺がこいつにラヴコメいた素敵イベントなんざ期待していると思ってんのか!?」


「…………」


ふーん。そっかそっか。でも、インデックスちゃんは違うみたいだねー。
上目づかいで睨んじゃって、まあ。

俺に遅れること数秒。上条もインデックスちゃんのそんな様子に気がついたのか、不思議そうに首をかしげた。
いや、アレは焦っているな。


「あ、あの、姫? なんで上目づかいで睨んでいらっしゃるんですか?」


「…とうま」


「はい」


「だいっきらい」


直後、上条は襲いかかってきたインデックスちゃんにより、頭のてっぺんを丸かじりすると言うコアなプレイにいそしみ始めた。
俺は上条を助けるでもなく、それを見つめながら呆れて溜息をついた。

他でもない、こいつのお人好しっぷりにだ。

俺は基本的に不干渉を決め込もうと思っていたので、小萌先生の家に着いてからはほとんど上条たちと関わっていない。
ただ、頼まれて小萌先生と一緒に買い物に行ったりはしたが、それだけだ。
その結果、上で回想したように彼らに関することがおぼろげになったわけだが。

俺としては上条に命の危機が及ばない限り、インデックスちゃんのことは『どうでも良い』。
それなりに上条のフォローはするつもりだけどね。
だから、話を聞くと記憶がなかったりしているらしいが、俺はそんな彼女を助ける気はあまりない。
そもそもこの目の前で幼女に頭を噛まれている馬鹿が行きすぎないように監視することが目的なのだから。

まあ、なんか相手の組織も巨大っぽいから、そろそろ手を引かせようとは思っているんだけどね。

そんなことを考えている内に、処女を奪われた生娘のようにさめざめと泣く上条を残して、プンスカと怒ったインデックスちゃんは一人で銭湯へと向かってしまった。
あれ? 道分かるのかな?

そうこうしている内に、上条がゆっくりと起きあがって恨めしそうに俺を睨んだ。


「何だよ」


「いや、まず助けろよこの糞ったれと言いたいところを我慢して上条さんは言いますが、お前なんでここの所ずっと怒ってんの?」


俺は上条のその図星な言葉に思わず二の句が告げなくなる。
と言うか、なんだかんだで普段の上条の奴は周りが見えているんだよな。
だから、俺のちょっとした反応とかでも敏感に感じ取ってくるわけで…


「いや、俺の勘違いなら良いけどさ」


そう言って少し不満そうに頭を掻いた上条に俺はいらだたしげに肩をすくめた。


「…いや、勘違いじゃないさ。まあ、理由はお前がインデックスちゃんのことにめっちゃ深入りしていることかな」


「言っとくけど、止めねえからな」


そして、上条(バカ)は真正面から俺を睨みつける。
いつか、俺がこいつと親友になった日に見せたような真っ直ぐな視線で。

こいつのこう言った誰でも助けるために動ける事は確かに他の何かに変えようがない美徳だ。だけど、


「あのなあ、相手がどんだけ大きな組織だと……」


「そんなこと関係ねえよ。俺はただあいつを地獄から引き揚げてみせる」


その強情な言葉に俺は呆れながら頭をかく。
上条のこんな反応は予想の範囲内だ。とは言え、そろそろ本当に『深入り』しすぎている気がする。
俺は上条に親が子に言い聞かせるように優しく説く。


「俺の時とかとは、『違うんだ』。相手もプロだろうし、組織も世界規模。そんな相手にただの喧嘩早い落ちこぼれ高校生が勝てると思ってんのかよ?」



「勝てるさ。あいつが手を差し出してくれたんだから、俺はあいつを地獄から連れ出す。それにな、」



上条はそこで言葉を切って俺を真正面から見つめた。


「お前も手伝ってくれれば、絶対に大丈夫だ!」


どきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううん!!!!

そんな擬音と共に俺に電流が流れる。
え、やだ。顔が熱くなるのが止まらない!? そ、そんな、そんなこと言われたら協力しない訳にはいかないじゃないか!!

って、まてぇぇぇぇぇぇ!! ダメ、そういうの良くない!!
ここでごまかされちゃダメだ、帝督!


「っ、この馬鹿! 俺はなぁ、『強能力』だぞ!? しかも能力もまともに発動できないような! 俺が『超能力者』だったら、どんな敵が来てもお前を守っていやれる自信があるけど…

違うんだ!!」


「は、良く言うぜ。お前の能力の凶悪さを俺は知っているぜ? たぶん、あの能力が効かないのは俺だけ。つまり、あのメルヘン空間で動けるのは俺だけ」


上条が言ったその言葉に、俺は顔をしかめた。
上条が言いたいことは分かる。
俺のメルヘン空間で動けるのは上条だけ。つまり、敵が来ても俺がいれば殴りたい放題だと言う事だ。
それでも…


「それにな、帝督」


しかし、上条は俺が口を開く前に言葉を切ることなく続けた。


「お前って言う親友となら、負ける気がしないんだ」


「う、うがあああああああああああ!!」


ら、らめええええええええええ! 俺の心にこれ以上踏み込んじゃ、BL展開になっちゃぅぅぅううう!!

俺は上条の言葉に叫びながら駆け出した。
とりあえずここいらを一周してから戻ってくることにしよう。その間にこの胸の高鳴りも治まっているはず。
うん、ものすごく嬉しくて胸がドキドキするのや、親友と言われて少し胸がチクッとしたの気のせい、気のせいだよ!!










上条side

帝督は突然叫び出すと駆け出してしまった。
ソレを苦笑しながら俺は頭を掻いた。
少し言葉が臭かったからあいつは照れてしまったのだろう。やっぱり、あいつは純情だ。

それにしても、俺以外の誰が知っているだろうか。
いつもは平然と変態行動をしているあいつが、こんなにも仲間思いで良い奴だと。

あいつには心配をかけているが、インデックスを救うまでもう少し心配してもらうしかないようだ。

そう考えると、上条は苦笑しながら頭を掻いた。


「悪いね、親友。俺はあいつを助けたい」



「――貴方が、上条 当麻ですか?」


その時、俺はその声を聞いた。
慌てて振り向いた先には奇抜な服装の女。

俺はそいつを見た瞬間に確信した。


こいつは、敵だと。







あとがき

祝、理想郷復活!
今回は少し話が飛んでます。だって、インデックスのけがが治ったりする所は、帝督はハッキリ言って邪魔ですからね。
ですから、神裂戦直前まで飛ばしてみました。
今回も変態の見せどころが少ないのは、シリアスだからではなく帝督のレベルが低いからです。
戦力的にも変態的にも。

これからも変態の性長を見守ってやってくだされば、幸いです。



[6950] 一章 七話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:12
『諸君 私は美琴ちゃんが好きだ
 諸君 私は美琴ちゃんが好きだ
 諸君 私は美琴ちゃんが好きだ

 あの髪が好きだ
 あの眼が好きだ
 あの鼻が好きだ
 あの顔が好きだ
 あの体形が好きだ
 あの性格が好きだ
 あの強さが好きだ
 あの弱さが好きだ
 あのおっぱいが好きだ

 平原で 街道で
 塹壕で 草原で
 凍土で 砂漠で
 海上で 空中で
 泥中で 湿原で

 この地上のありとあらゆる場所でにゃんにゃんを彼女としたいぐらいに好きだ


 一週間貯められた我が分身の一斉発射が 轟音と共に大事なところを白濁で汚す様を見てみたい
 空中高く放り上げられた敵兵が 彼女に掛ったのを想像する時など心がおどる

 (ry


 諸君 私は美琴ちゃんをBLではなく彼女を望んでいる
 諸君 私に付き従う大隊戦友諸君
 君達は一体 何を望んでいる?

 更なる美琴ちゃんを望むか?
 情け容赦のない 糞に対する様な罵倒を望むか?
 鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な蹴りを望むか?』


 『美琴ちゃん!! 美琴ちゃん!! 美琴ちゃん!! 』


 『よろしい、ならば美琴ちゃんだ。だから、上条フラグなんかぶちおるぞぉぉぉぉおおおお!!』


「そう、そうだよ。これこそが俺、垣根 帝督。雄豚の中の雄豚として、美琴ちゃんを愛そうという変態紳士。
だ、だから上条とは何でもないんだ。あ、いや、確かにあいつを好ましいとは思っているけど、それは親友としてで……」


「あ、もしもし警備員ですか!? 気持ちの悪いことを言っている不審者が……。
ええ、いつものあの少年です!」


辺りを少佐になり切り演説しながら走っていたら、何故だか夕方の散歩に出ていたらしいいつものお腹の大きな若奥様に通報された。
運良く警備員が来る前に逃げ切ったから良かったものの、捕まっていたら今日一日が台無しになる所だった。
だいたい、あの若奥様はなんのつもりだ! いつもいつも俺が美琴ちゃんへの妄想を垂れ流すと警備員に通報して。
旦那とのその幸せそうな家庭をぶち壊すぞ!!


おっと、いけないいけない。


今目の前を歩いていた小学生が泣きながら逃げ出してしまった。はっはっは、こう言う時は待ち受けの美琴ちゃんで気分を静めねば。
んっと、その前にもうそろそろさっき上条と分かれた所につくけど……

髪型は…走ったからちょっと崩れているけど、OK!
化粧は…って、まてぇい!!!!

もう、良いから! 少佐も俺が好きなのは美琴ちゃんって言ってたから!!

ちくせう! 俺の中の漢女心よ静まれ!!

そう冗談交じりに歩いていた俺だが、ふとあることに気がついた。
それは、何かを叫んだ後にいつか見た奇抜な格好をした女性を殴り飛ばした上条。

ただ、その右手は殴った瞬間にトマトのように赤い血液を噴き出していた。

俺は半ば茫然とその光景を見ながら駈け出した。
目指すは倒れ伏しながら少しずつ体を起こす女ではない、倒れたまま動かなくなってしまった上条だ。


「上条!!」


その言葉と共にスライディング。
さらには上条を抱き起こすが、反応はない。
それもそのはず、上条の周りには右手と全身の切り傷から噴き出したおびただしい量の血がぶちまけられていたのだから。

頭に熱した鉄をぶち込まれたような感覚。
一瞬にして頭が沸騰し何も考えられなくなる。

っつ、待て。その前に上条の馬鹿を病院にぶち込むのが先だ。
怪我の具合は分からないが、これだけ出血してるとなると確実に縫わなきゃいけない筈だ!
恐らく、相手のあの女はインデックスちゃんを狙ったプロの暗殺者かなんか。
ついでに警備員も呼ばなければ……
俺はそのまま携帯を出して耳に当てようとするが、


「それは止めてください」


その言葉と共に携帯電話が切断されてしまう。

ぎゃーす!! 俺の美琴ちゃんコレクションが! あと、ついでに上条への救急車が呼べなくなる!!

俺は涙目になりながら声の聞こえた方向、即に立ちあがっていた奇抜な格好をした女を睨みつけた。
畜生、恐いけどなんか腹が立ってきやがった!!
因みにその女性は俺を見るなり「…貴方は」と言ったが、俺は我慢の限界であったために続く女の言葉を遮って、口を開いた。


「お前、俺らに何の恨みがあんだよ!!」


「なっ!?」


「しかも、救急車を呼ぼうとしたら『それは止めてください』?
人の友達の手をぐちゃぐちゃにしておいて、それはねえだろうがよ!!」


「は、話を……」


女が困ったように俺を見るが、ブチギレた俺にはもう関係ない!


「るせえよ!! いいから、代わりの携帯を寄こすか医者を呼んで来い今すぐにだ!!」


「いい加減に……」


「すんのはお前だろうが!! あ!? 人の親友傷つけておいて、挙句の果てに逆切れかよ!?」


「わ、私は警告として……」


「警告、警告ねえ? あのインデックスとか言う奴のためか? だとしたら、お角違いも良いところだ。さっさと連れて行きゃ良いじゃねーかよ!!
上条をここに惹きつけている間にな! それこそ時間稼ぎをすれば良い! だけどてめえは何をした!?
俺の親友を怪我させた! これでもかってばかりに、威嚇だけでも十分時間稼ぎは出来たにも関わらず、だ!
さらには治療もさせねえ!!」


俺はそこで一端言葉を切って立ち上がる。女を睨みつけながら、上条を地面に寝かせる。


「まさか、病院に行くのは止めねえよな? もちろん、アンチスキルにも通報させてもらう。あのインデックスとかいう子を突きだすついでにな」


「な!? インデックスは関係ないでしょう!!」


ここにきて、女は突然焦ったような声を出した。その顔もどこか焦っている。
ん? なんか見たことがある気がしたが、どうでも良いか。


「関係ない? 知らないね、俺は善良な一学生として不法入国者を突きだすだけだ。
褒められこそすれ、けなされることじゃねえ」


「あなた…………」


「もし、今お前がそこをどいてさらに上条を怪我させた下手人として自首すんなら、あの子を突きだすのは止めてやる。どうよ?」


俺は尊大に言い放った。
やはり、この女はインデックスちゃん繋がりらしい。おそらく、話しに聞いた彼女を狙っている赤髪の変態神父の仲間。
だったら、標的を公的機関に渡されることを嫌がるという読みは当たっていた。
まあ、公的機関にも影響する組織だったら、インデックスちゃんを見捨ててたけどね。
それはともかく、なんかこの女の人のエロい格好は、見たことがあるなあ。

俺が黙って嘗めるように女性の局部を見つめていると、彼女はおもむろに口を開いた。


「……その少年を傷つけたことは、謝れません。それに、貴方がたを救急車や病院、警備員など他の公的機関と接触されるのも許容できません」


「…じゃあ、インデックスちゃんは警備員に」


「それをさせないために私が次にとる行動は分かっていますか?」


おんなはそう言って、唐突に全身から殺気を迸らせた。
その密度たるや、俺の金玉が縮みあがってなくなるのではと一瞬怯えかけた。あと、萎縮したジュニアがひきこもりになるかとも心配した。

しかし、落ち着くんだ。
ここで、『俺』が生きてくる。


「おいおい、アンタ俺の能力を知ってんのかよ?」


そう、こいつは上条の能力を仲間からの情報で知っているかもしれないが、その時にいなかった俺の事は知らない筈だ。
その為、俺がどういう能力を持っているか知らないはず。
もし、仮に知っていても俺の能力『脳内メルヘン』は解明されていない能力。
防ぎようはない。上条を止血でもした後に能力を発動すれば、後は上条の体力を信じて誰かにこの不審人物を見つけてもらうまで耐えればいい。
上手くいけばラリッた彼女の自滅すらあるだろう。

女は、そう考えていた俺の考えに平然と肩を竦める。


「…たしか、貴方の名は垣根 帝督。『強能力』で『脳内メルヘン』と言う能力でした、か?」


「…………」


ばれてーら。いや、そうだとしても能力の効果は…………


「確か、私が見た時は翼を出して空を飛んでいましたね」


うぇぇぇぇええええ!? なんで、なんで知ってるのさ!? ま、待てそれでもいける……


「ちなみに、能力を発動しようとしても無駄ですよ? その計算する一瞬の隙に貴女の胴と首は離ればなれになります」


いつの間にか俺の首筋には馬鹿長い刀が突き付けられていた。ただし、鞘付きで。
とは言え、これで側頭部を殴打されれば一瞬で気絶はおろか、死んだおじいちゃんとおばあちゃんに会いに行けることは確実である。

女は恐怖のおかげで震える俺に冷たい視線を向ける。


「……さて、どうしますか?」


どうしますかとは、どういうことか?
簡単だ。ここで大人しく先ほどの条件を撤回してすごすごと逃げ帰るか、それともあらがってボコボコにされるか。


――そんなこと、選ぶまでもない


「すみませんでしたぁぁぁぁああああ!!」


ジャンピング土下座。
それは許されしヘタレしか使えない、最低最弱の謝り方。
まあ、相手の足元にジャンプしながら土下座をするだけな訳だけど。


「へ?」


女性はまさか俺が謝るとは思っていなかったらしく、眼を皿のようにして唖然としている。
俺はそれを僅かに上を向いて確かめると、すぐさま頭を垂らして土下座を続行する。


「本当に、なめたマネしてすんませんした! どうか、このまま病院に行かないので上条と俺を見逃してください!!」


「あ、あなたには、プライドと言うものがないのですか!?」


女性は何やら怒ったように俺を睨みつけると同時にどなり声を上げる。
どうやら、俺が土下座をしたのが気に食わなかったようだ。
だけど、な。こちとら手段なんか選んでる場合じゃねーんだよ。


「プライドなんて犬に食わせてもうないです。それに、俺は上条を助けるためならなんでもする。ただ、それだけだ」


そう。今は俺の怒りで上条を危機にさらすわけにはいかない。
病院での治療は出来ないが、早く消毒して応急処置をとらなければ大変なことになる。
特にあの鋭利な刃物で切り裂かれた右手は、早くしないと二度と動かせなくなってしまうかも知れない。


「だから、お願いです。見逃してください」


先ほどまで相手をののしっていたとは思えないほどの自分の変わり身の早さに女性は殺気を引っ込め、変わりに凄まじい怒気を発しながら俺に背を向ける。


「…行きなさい。貴方など斬る価値もない」


へーへー、ありがとうございます。
俺はその言葉を聞くや否や上条を抱え上げて立ち上がる。
べ、別に悔しくなんかないんだからね! そ、それに敵に何を言われても心なんか抉られないんだから。
グスッ、な、泣いてなんかないよ!

俺はそのまま女性の傍らを通って歩き続ける。
すると、とどめを刺すかのように女性が一言口にした。


「……その少年は立派でした。叶わない私に勇敢に立ち向かい、私に自分の思いを突きつけた。
逃げ出した貴方と違い、本当にその点は賞賛できた」


ブチリ、と俺の中で何かが切れた。
一刻も早く上条を治療しなければいけないのにも関わらず、俺はわざわざ足を止めて女を振り返っていた。
女は無表情に俺を睨みつけた。


「偉そうな言葉を言って私を責めておいて、自分の立場が悪くなったら逃げ出す。貴方は本当に最低ですね」


「黙れよ。これが俺のやり方だ。大切なものを守るためなら、自分がどれほど無様でも醜くてもそれを守り切る。
守りきったら、俺の勝ち」


「それこそ、力ない者の言い訳ですね」


「言ってろ。ないものねだりして特攻するよりは、かなりマシだ」


俺はそれだけ告げると、女に背を向けて歩き出す。
もはや、あいつとは何も語るべきことはない。あいつと俺は決定的なまでに意見が違う。
あいつの意見は俺とは決して相容れない。強者の考えは弱者には理解できないのだから。








????side

その少年の後ろ姿を見送りながら、私は自己嫌悪のために自らの顔を片手で覆った。
ようするに、私は彼に自分が想像していた彼を勝手に押し付けて、それと現実との差に勝手に幻滅しただけだ。

あの時空に浮遊していた彼はその羽も相まって、ほんの少しだけ、本当に少しだけだが私たちの信仰対象の一つである『天使』に見えた。
だから、私は彼にも上条 当麻のような性格を勝手に望んでいた。
いくら叩き折ってもその翼は決して折れず、いくらそれを穢してもその輝きは決して失われない。

そんな、おとぎ話だけに登場するような理想の天使像。

そう考えると、上条 当麻はそれにまさに当てはまる。
彼の言葉は私の胸に確かに届いたのだから。


『…テメェらがウソを貫き通せるほどの偽善使い(フォックスワード)だったら! 一年の記憶を失うのが怖かったら、次の一年にもっと幸せな記憶を与えてやれば! 記憶を失うのが怖くないぐらいの幸せが待ってるって分かれば、もう逃げ出す必要なんざねぇんだから! たったそれだけの事だろうが!』


肩も砕け、右手も潰れ満身創痍の人間の言葉とは思えないそれに、私は心を打たれた。
その通りだと、心の底から思えた。
ようするに、耐えきれなかったのは私たちの方だ。彼女のその記憶のない姿に耐えきれなくなったのは、私たちなのだ。

だけど、私は彼女を救うためにまた彼女の記憶を消そう。
今の彼女を救うために全力であの少年を打ち砕こう。

そう、心に決めて私は口を開く。


「あの少年の言葉は、心に届く。そうは思いませんか?」


自分の後ろに現れたその気配に語りかけるために。


「土御門」


私が振り返ったその先には金髪の少年の姿があった。彼はラフな私服に包まれたその体で、思いっきり肩をすくめて見せる。


「まあ、カミやんはそういう奴なんですたい」


彼はそのままとことこと歩いて私の隣に立つと真面目な顔になる。


「それはさておき、ステイルからインデックスを『見逃した』と言う報告が入った。…ここまでは予定通りだなねーちん」


「…そう、ですね。それでは、私たちも最後の仕上げに移るとしましょうか」


私はそう言って静かに歩きだした。が、土御門は動こうとせずに、私に言葉を投げかけた。


「なあ、ねーちん。帝督のこと、どう思う?」


その言葉に、私は自分の顔がゆがむのが分かった。
あの少年は結局、ただの腐った人間。ただ、それだけだ。
土御門が何故そのことを私に聞くのか理解できなかったが、取りあえずは答えることにする。


「どうもこうもありません。私は彼とは相いれない。
彼の自分の大切な人に本当に必要なことをするという行動も理解できなくはない。ですが、私にはあの卑屈な態度が気に食わない」


「…ねーちん。一つ言っておくとな。帝督は弱い。それこそねーちんは当然として、ステイルや俺、カミやんにですら勝てないぐらいに」


「それはそうでしょう。ただの『強能力』では……」


「でもな、あいつは多分俺たちの中で一番強い。それこそ、自分の望む結果を最終的に得るという観点からは、な」


「それこそあり得ないでしょう。力ない者は、自分の望む世界すら見えない。この世はそういう場所です」


「…じゃあ、あいつは何で神裂 火織を前にして傷一つついていないんだ? それこそ赤子と巨人ほどの力の差があるのにも拘らず、あいつは『上条 当麻』を連れ出すという自分の目標を達成している」


「それは、最初から私が見逃すつもりで……」


「そうだろうにゃー。全く、あいつは本当に運が良い。まるで、神様に愛されているみたいだにゃー」


「は?」


「ねーちん、つまりはそう言う事だぜい。あいつはアレイスターですら『手に負えない』と投げ出した変態だ。
俺らで測れるような『強さ』じゃないんだ。だから、心の底から忠告しとく。あの『未元物質(ダークマタ―)』にだけはこれ以上敵対するな。
アレを御せるのはそれこそ、アレが惚れた女だけだ」


それも、あいつは手に入れるんだろうけどなと嘯きながら土御門は歩きだす。
私はただその後ろ姿を見つめていた。

彼の言葉を心の中で否定しながら。


(…馬鹿らしい。弱者を救うために『救われぬ者に救いの手を(Salvere000)』を名乗ったのですから)





[6950] 一章 八話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:12
その少女は、少年が傷ついたと知って涙を流した。
ただし、それは心の中だけ。

実際の彼女は唇をかみしめて何かを思いつめるかのように、ただギュッとその瞳を閉じていた。
だから、俺はその頭を優しく一撫でし、


「なあ、俺が知っている最高の女の話をしてやるよ」


彼女の話をしてやった。

俺が愛している世界で最高の女の話を。





上条があの女によって傷つけられてから3日がたった夜、上条の馬鹿がようやく目を覚ました。
その前、眠っている馬鹿に飯をやったり水を与えたり、さらにはトイレの世話は俺が引き受けていたので、これでようやく一安心と言ったところだ。

今はあの少女が看病イベントを今さらのように発生させて、上条のポイントを稼いでいる。
畜生! 今まで看病していたのは俺だったのに! あの泥棒猫が!!
お前にあのエグイ一物を触ることができんのか、あ!? しかもあれから小便を絞り取るのがどれほどの苦痛か……


ともあれ、俺は上条が気絶してから久しぶりの休息として、小萌先生の煙草臭いアパートの一室を出てその前にベンチに座っていた。

疲れた。

冗談抜きで、意識がない人間の介護はつらかった。
昼は寝がえりを手伝うことはもちろん、小萌先生の指導の下関節を曲げたりなどしていたし、右手の怪我のせいか発熱したので、その治療に追われていたのだ。
従って、俺はこの3日間不眠不休であの馬鹿の面倒を見てやったのだ。
途中、小萌先生やインデックスちゃんに頼んで仮眠は取ったものの、その合計は6時間にも満たない。


「あー、今度なんかおごらせてやる」


それぐらいのご褒美があってもいいはずだ。
そう言えば、あいつの携帯から勝手にコピーした美琴ちゃんの携帯番号があるのだった。
俺は自分の携帯を取り出して、操作する。

うん? 勝手に番号を取るのは犯罪じゃないかって?
そんなもん、俺と美琴ちゃんの間には治外法権に決まってんだろうが。

うん? お前の携帯はこの前ぶったぎられただろって?
安心してくれ、アレは数ある俺の携帯の中の一つだ。言っておくが俺の携帯は百八式まである。

まあ、それはどうでもいいが、そろそろ俺も本気でしんどくなってきた。いい加減に美琴ちゃんが出てこない回が続き過ぎている。

彼女の番号を探しだした俺は、そのまま通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。
数回のコールの後、ピッと言う携帯を取る音と共にコール音が途切れ、変わりに恐る恐ると言ったあの子の声がする。


「……もしもし?」


ああ、この声が聞きたかった。
俺は口元に満面の笑顔を浮かべると、自分も口を開いた。


「もしもし、美琴ちゃん? 俺、あなたの垣根 帝督」


「っ、なんであんたが私の携帯番号を……って、あんたの連れの上条君か。絶対に教えるなって言っておいたのに!!」


え、何その上条君って、いつの間に親しくなりやがったあの馬鹿は!!
まずい、このままだと美琴ちゃんとの間に確実にフラグが立つ!! 何とかしなくては……

俺はそう考えながら、苦笑し口を開く。


「そう、邪険にしないでよ。…今日は、本当に少し話してくれるだけでいいからさ」


「……なんかあったの?」


ああ、この子は本当に優しいなあ。


「ちょっと、ね」


「…ちょっとであんたがそんな声を出すか」


こうやってすぐに俺の心を暴いて、癒そうとしてくれる。
俺は、そんな君だから大好きなんだ。


「うん、実は滅茶苦茶なことがあったんだ。…今は詳しくは言えないけど、落ち着いたらもう一回連絡する」


「…できれば、あんたと携帯で会話するのはこれっきりにしたいんだけど」


「そんなこと言わないで。でさ、その時に都合が良ければ一緒にデートに行ってくれない?」


「あんたね、自分が弱っているのを利用しようとしてない?」


「当たり前っすよ。こんな時じゃなきゃ美琴ちゃんはそんな約束してくれないよ」


「あんたは…! はぁ、分かったわよ。でも、その一回きりだからね?」


美琴ちゃんは疲れたような声を出しながらも最後にはそう言ってくれた。
ふふふ、計画通り。

うん? 美琴ちゃんの優しさを利用した最低行為? 犯したら官軍だ。好きに言え。


「ありがとう。俺はそんな美琴ちゃんが大好きです! むしろ今すぐ押し倒したいね」


「っ! 死ね!!」


「あっはははは、じゃあ日時はもう一回電話したときにでも」


「あんたの電話なんて誰が出るか!」


「場所は行ってからのお楽しみ。夜のホテルは無理強いしないから」


「ほ、ほて!?」


「それじゃあ、もう切るね~」


「ちょ、あんた待ちなさい!!」


「今日は話せて楽しかった。ありがとうね、美琴ちゃん」


俺はそう言って電話を切った。因みに、美琴ちゃんが何か言いたそうだったけどスルー。
時間にして1分もない会話だったが、実に実りの多い会話でした。

…あ、やべえ。久々に愛しの美琴ちゃんヴォイスを聞いたせいか、股間がエレクトした。

そう言えば、上条の看病をしている間、小萌先生の家と言う事もあって一回も抜いていない。


「……一回抜いとくか」


そうと決まれば欲即射!!
俺は左右を確認する。……敵影はなし。

次いで、正面。そこにはなんか見たことがある赤髪の神父と、この前の女が立っていた。
しかも、眼があったせいか気まずい。

…見なかったことにしよう。

俺は彼らから視線をそらすと携帯を開いて美琴ちゃんの画像を取り出す。
因みに、それは美琴ちゃんが自販機にとび蹴りをしている際のモノで、中の短パン代わりのスパッツがもろ見えの貴重なワンショットだ。

俺はこれをおかずにすることにすると、いそいそとズボンを脱ごうとし、


「あ、あなたは何をやっているのですか!!」


顔を真っ赤にした女に鞘で思いっきり殴られた。


「ばぐら!?」


俺はその直撃と共に座っていたベンチから投げ出され地面を転がる。
畜生、見逃してくれるんじゃなかったのかよ!!


「いってぇな! 何すんだよ!!」


俺は即座に立ち上がると女に中指を突き立てた。
すると、女も顔を真っ赤にして何やらまくしたて始める。


「それはこちらの台詞です! 私たちが見ていながら、とつぜんズボンを脱ぎ出すなど何を考えているんですか!?」


「んなもん、美琴ちゃんの画像で一発抜こうとしただけだろうがよ!」


「ぬ、抜く?」


「オナニーですよ、オナニー! 和風に言えば手淫!! どっかの誰かさんが上条の馬鹿をのしたせいで、面倒を見ていたから3日間溜まってんだよ!」


「おな!? しゅ!? たま!?」


「てめえだって、あの赤髪神父みたく俺を無視してさっさと中に入ればいいだろ! 俺の至福の時間を邪魔すんな!!」


女はそれっきり真っ赤になって口をパクパクさせる。
……ふむ、この反応からしてこの女は未経験者と見た。
と言うか、普通の女性だったら道端で糞の匂いを必死で嗅ぐ野良犬を見るような眼で見るから間違いない。

どれ、少しからかってやるとしようか。


「それとも何か? お前が俺の相手をしてくれんの?」


「な!?」


「俺は別にいいぜ? あ、でも俺の心は美琴ちゃんのモノだからね! 体は自由に出来ても心までは自由に出来ない!!」


「ふ、ふざけないでください! それ以上の侮辱は許しません!!」


「侮辱、そいつは違うさ」


俺はそう言って真顔になって女に一歩近づく。


「こんなに美人で、スタイルも良い女なんだ。男がいたら放っておく訳がないだろ?」


「っっっっ!! 死ね!!!!」


俺がそう言った瞬間、女は本気でその腰に下げた2m余りもある長剣を抜刀し、斬りかかってきた。
って、待てぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!


「のわああああああああ!?」


叫び声と共に思わず地に伏せた俺。運良く初撃を回避できたが、それは追い詰められたと同義であった。
そして、俺の目の前の地面にその刀が尽きたてられる。
俺は迷わず謝罪の言葉を口にした。


「す、すんませんした」


「…次に私をからかったら、その粗末なものを斬りおとします」


ひぃ!? こいつはなんと恐ろしいことを言うのだ。
まだ美琴ちゃんの未使用の穴にぶち込んでいない俺のモノを斬りおとすなんて、美琴ちゃんが悲しむわ!!


「…なんだか、今すぐ斬り落とすべきだという電波が」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ

いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ

いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ

いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ

いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ

いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


俺は眼からハイライトを消し去ってひたすらに謝り続けた。
男の尊厳が無くなりそうなんだ! 親友を失いそうになった時より必死になってしまうのは仕方がないだろう。
俺のその無様な姿を見てようやく落ち着いたのか、女はため息をつくとその長い刀身を鞘に納めた。


「はぁ、無駄な時間を使ってしまいました」


そして、すでにアパートの中へと消えてしまっていた赤髪の神父を追いかけるように歩きだしかけ、ふとその歩みを止めて俺を振り返る。
その視線はまるで俺を探るように、全身をなめまわすかのように移動する。

ま、まさか、この俺を視姦するつもりか!? くそ、なんて鬼畜な女なんだ!
こっちは美琴ちゃんの電話で高ぶっているのを利用するというのか!?

く、来るなら来い!


………………く、悔しい! でも感じちゃう!!


俺がビクリビクリと身体を動かし始めると、女は気持ち悪いモノを見るかのような目で俺を見る。
っぐぅ!? その蔑んだ眼で俺を見て俺のM心を刺激するつもりか!?

俺が悶え続けていると、女は呆れたように溜息をついた。


「はぁ、あのアレイスターが見捨てたというのは本当のようですね」


「?」


アレイスターと言う名はどこかで聞いた気がするが、生憎と心当たりはない。
まあ、大かた『見捨てた』という言葉からして俺を研究していた奴らの一人だろう。そんな話を引っ張ってくるとはね、どうやらこいつは本気で俺に喧嘩を売っているらしい。


「……『情報』しか知らない奴が語るんじゃねえよ」


「貴方の事など、それだけ知っていれば充分です」


張りつめた空気が俺と女の間で流れだす。とは言え、俺はこの化け物女に勝てるわけがないので、ほぼ諦めモードな訳ですけど。
すると、その雰囲気が分かったのか女は明らかに俺を馬鹿にしたように口をゆがめて口を開いた。


「…貴方など私たちの『敵』ですらないですが、一応教えておきましょう。あの子はもう持ちません」


あの子と言うのは、インデックスちゃんのことだろうな。
持たないってのは、どういう意味だ?


「そうですね…タイムリミットは残り十二時間と三十八分。今夜午前零時にあの子の記憶を消せるように、準備を進めています。
そうでなければ、脳の要領を使いきった彼女は持たない」


そう真剣に言ってくる女の言いたいことはよく分からないが、要するにインデックスちゃんは午前零時に上条の手から離れる。
あいつと笑い合っていた記憶すら消え去る。
そう言うことなのだろう。
だから、俺は真面目な表情を作り女を真っ向から見据え、口を開いた。


「ばっかじゃねーの」


「んな!?」


驚愕する女。
ああ、馬鹿だなこいつは。それもどうしようもないほど馬鹿だ。
わざわざそんなことを言うこいつらも、こいつらをインデックスちゃんの件に使っている組織も、そしてこの程度のやつらと真正面から向き合っている上条も。

みんなみんな大馬鹿野郎だ!


「やり方がまだるっこしいんだよ。良く分からんが、お前らはインデックスちゃんの記憶を消すんだろう?
なら、俺らなんか相手にせずにさっさとそれを実行するべきなんだ」


「っ、私たちはあの子のために執行猶予を……」


「それが馬鹿だって言っているんだよ。執行猶予? あの子のためとかほざくなら、そんなくだんねえもんを設けるなら、さっさとあの子の記憶を消してやれ。それが最善の道だ。
まあ、お前たちは悪役みたいだし? あの馬鹿の心に傷を負わせたいんだろうけどな」


俺は口を噤んだ女を睨んだ。


「結局甘いんだよ、お前らは。結局は周りに被害しか撒き散らさない無能と言う名の害悪。最低だな」


「うるっせぇんだよ! 何も知らない癖に偉そうに!」


「うるさいのはお前だよ。知らないことを非難するなら教えて見せろよ」


「っ、あの子は、あの子は記憶を一年しか持たせられないのです!! そうしなければ、あの子が死んでしまうから!! その為に私たちはあの子の記憶を消すんだ!!」


女は血を吐きだすかのようにそう言った。
俺はその内容に正直ついていけなかったが、取りあえずはすました顔で「で?」と続きを促した。


「私は、友達だったあの子の記憶を消したくなどなかった!! あの子もそれを望まなかった!! あなたに私たちのその気持ちがわかりますか!?」


「…分からんが想像はできる。それは死にたい気分だろうな」


「だったら……」


「それでも!!」


俺は声を張り上げて女の言葉を遮った。ビクリと身体を震わせて女は俺の次の言葉を待つ。


「お前が選んだ道だろうが! お前があの子に生きてて欲しかったから、あの子の記憶を消し続けているんだろうが!!
そんなことで苦しみを前面に出して喚き散らすぐらいなら、さっさと殺してやればよかったんだよ!!」


「てめええええええ!!」


女は激昂して声を張り上げると俺に掴みかかった。
その動きは俺には視認できず、体が浮いたと思った瞬間に身体を衝撃が駆け抜け、俺は自分が大地に叩きつけられたと知った。
目の前には必死の形相で涙を浮かべた女の顔。


「もう一度言ってみろ! あの子の『記憶を消したくない』とうなされながら涙するところを見ても、もう一度同じことを言えるのか!!」


「っごふ、げほっ、何度だって言ってやるさ! お前らが耐えきれないんなら、始めからそんな選択をするんじゃねえよ!!
俺の言葉ぐらいで取り乱すほど弱い心を持ってるんじゃねえよ!!」


「私たちは、私は…!!」


「俺は、上条のためだったらあの子を見捨てる!! それで例え上条に恨まれることになったって、俺がそうしたいからそうするんだよ!!」


俺は女の腹を蹴ってその体をどかすと、立ちあがった。


「覚悟を決めろよ糞ったれ! やるんだったら徹底しろ! 俺は決めたぞ、上条の傷をこれ以上深くしねえために、あの子と上条を引き離す!」


「な!?」


俺はその言葉と共にアパートの中へと駆けこむ。
ちょうど、小萌先生の部屋から赤髪神父が出てきたところのようだった。


「お前は…………」


そいつが何かを言う前に俺はその脇を駆け抜け、室内に入る。
中には気を再び失った上条と涙を流しているインデックスちゃん。俺は彼女の腕を掴むと無理やり立ち上がらせた。


「きゃ、て、てーとく!?」


彼女が驚き俺の名前を呼ぶが、それらを一切無視して俺はドアの所で呆然としている赤髪神父と、俺を追いかけてきたらしい女に彼女を突きだした。


「連れてけよ! やるんなら、徹底しやがれ!!」


その言葉にインデックスちゃんは泣きそうに眼を見開き、男は呆れたように口を開く。


「っ、そこの寝ている馬鹿に執行猶予を与えてやったんだ。どうせ、彼女は逃げられないから……」


「ふざけんな!! なら、上条を人質にするなりなんなりして、さっさとこの子に自主的についてくるようにすりゃ良かったじゃねーか!!
それを執行猶予? 冗談じゃない! これ以上上条の心をズタボロにすんじゃねえよ!!」


「だったら、てめえがまずその口を閉じやがれ!! 僕たちは伊達や酔狂で…」


「この子は上条と一緒にいるだけで、あいつを傷つける!!」


「だから、それ以上さえずるな!!」


神父はどうやら、俺の言葉に傷つくインデックスちゃんを見ていられないらしい。
やはり、こいつもあの女と同じインデックスちゃんのことが好きな奴らしい。なら、話は簡単だ。

俺は腕を掴んでいるインデックスちゃんに視線を向ける。
彼女は、俺の視線の冷たさに気がついたのか、その身をさらに硬くした。


「悪いけど、ここまでだ。君はさっさとあいつらに着いていくべきだ。そして、記憶でもなんでも消されてくると良い」


「……てーとく、それはとうまの為?」


俺が容赦のない言葉を投げかけたにも関わらず、インデックスちゃんは何かを見通すかのように俺を見た。
まるで、俺の心の中を見通すかのように。

俺はそんな彼女と視線を合わせられず、俯きながら頷いた。


「そうだ。俺は君よりあいつを優先する。あの馬鹿を壊さないためにも、君とあいつをこれ以上一緒にいさせない」


「…てーとくは、とうまのこと、大好きなんだね」


「…あいつは、俺の親友だからな」


「そして、とっても優しい」


「っ! 俺は、君をこいつらに引き渡す。謝らないぞ」


「良いよ。心の声が聞こえたから」


そう言うとインデックスちゃんは俺の手から逃れて神父の前に立った。


「良いよ。私を連れて行って」


「ぼ、僕たちは……」


神父は一瞬何かを言おうとして口を開く。その目には横の女と同様に何か、良く分からない感情が渦巻いていた。
しかし、その感情は一瞬にして凍りつ。そして、インデックスちゃんにゆっくりと手がのばされ……


「帝督、この馬鹿野郎が!!」


いつの間にか起きたのか、俺に駆け寄ってきた上条の左手が俺の顔面に突き刺さった。


「サバンナ!!?」


俺は奇声をあげながら吹き飛んだ。
そして、床に倒れ伏す俺に上条は声を荒げた。


「俺がいつお前にそんなことをしてくれって頼んだよ!? それにな、俺のやりたいことは俺が決める!」


その言葉に、顎に綺麗に貰ってしまった俺は薄れゆく意識の中でこの大馬鹿を心の中で罵った。


(この、バカたれが。いつもそうやって苦しむのは、お、ま……)


そして、俺は意識を手放した。




[6950] 一章 九話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:13
上条side

ぐったりとした彼女は、ふと目が覚めたのかゆっくりとその目をあけ、ぼうっとした表情を俺に向けた。
俺はたったそれだけのことなのに、胸が締め付けられるように疼くのを感じた。


「とう、ま?」


安心したかのように口から洩れるのは、彼女の熱を帯びたため息。
もはや、俺と彼女の間には10分しか残されていない。10分後にはインデックスは上条 当麻の目の前からいなくなる。

いや、全ての記憶を忘れてまっさらになるのだ。

…そもそも、その記憶ですら俺は良いものを残してやれなかった。
それに、俺の後ろで気絶している帝督が酷いことを言って彼女を傷つけた。
そんな状態で彼女に俺は何を言えるのだろう?

いや、一言だけ言わなくてはいけないことがある。


「ごめん」


君を守れなくて、ごめん。
帝督が酷いことを言って、ごめん。
怖い思いをさせて、ごめん。
その苦しさから救ってやれなくて、ごめん。

様々な感情が渦巻いて、俺の中は滅茶苦茶にされていく。
ソレは俺に一つの感情の発露として、涙を流させようとする。しかし、それはいけない。
泣くことさえ、今の上条 当麻にとっては卑怯なのだから。

だから、俺は代わりにもう一度だけ謝った。


「ごめん。俺、強くなるから。もう二度と、負けねえから。お前をこんな風に扱う奴らをまとめてぶっ飛ばせるように強くなるから」


俺は熱でうるんだ彼女の瞳を真っ向から見据え、ともすれば震えてしまいそうになる声を奮い立たせて、かすみかけた視界に彼女を捉えて言う。


「…待ってろよ。今度は絶対に、完全に救い出してやるから」


今さらだ。
次などと言っているのなら今すぐ彼女を助けるべきだ。
しかし、今の俺には力がない。だから、彼女を救うなんてことも出来ないんだ。

インデックスはその俺のみじめな言い訳にふっと柔らかく微笑んだ。


「うん、待ってる。とうまとてーとくなら絶対に出来るんでしょ?」


その彼女の言葉に俺は目を見張る。こいつは、あんな風に自分を傷つけた帝督も信用してくれるのか、と。
あいつは、俺のためにあんな事をした。言ってはいけないことをインデックスに言った。
それでも、彼女はあいつも信頼してくれるのか。

俺がそう感動していると、彼女は再び口を開いた。


「ねえ、とうま。ある所に太陽みたいにかわいい女の子がいたんだって」


「? ……なんだそりゃ?」


俺はその言葉にどこか拍子ぬけになりながらもそう彼女に言い聞かした。
すると、彼女は分かっていないなと笑みを深くしながら口を開く。


「その太陽に惚れちゃった馬鹿な男はね、その手が焼けただれようとその手を伸ばす。そういうお話を聞かせてもらったの」


誰に、とは彼女は言わないが、俺はすぐさまそれが誰か分かった。
皆まで言うまでもない。それは、後ろで伸びている馬鹿が話したのだろう。たぶん、俺が気絶していた間にでも。
インデックスは苦しそうに息も絶え絶えになるが、それでも続きを口にする。


「その馬鹿な男には、最高の親友が居てね? 足を止めそうになった彼を殴り飛ばして前に進ませてくれる。そして、男以上に馬鹿で、最高の英雄なんだって」


太陽に惚れた男がだれで、その親友が誰なのかわかり俺は自分の眼から何かがこぼれてくるのを感じた。
だめだ、それだけはダメなのに。俺はその熱い何かを拭おうともせずに彼女の話に聞き入った。


「英雄はね、傷ついても立ち上がり、助けられない誰かを救う存在なんだって。
それでも、その隣に男がいれば英雄はさらに力を増して、もはや敵はいなくなるって」


だから、と彼女は言葉を続ける。
ふわりと彼女の顔に浮かぶ、俺を包み込むように優しい聖母の笑み。
それは宗教画に描かれる奇跡の聖人の生誕を心の底から喜んだ聖母が浮かべるにふさわしいものだった。


「待ってるよ。英雄が来てくれるその時まで」


「ああ、ああ! 必ずそこに行くから、だから……」


待っていてくれ。俺は君に向けて手を差し出し続けるから。


「ねえ、とうま。てーとくに続きを聞かせてって、言っておいて。男の話は終わらずに、まだ続いているらしいから。それとね、とうまに言いたい殺し文句があるんだ」


おそらくは、その殺し文句と言うものも帝督に教わったのだろう。
そして、彼女は本来ならピクリとも動かせないはずのその手を差し出して、布団の外に伸ばして俺の手にそっと触れる。
その手は異常な熱が出ているため、とても熱い。


「インデックスは、とうまのことが大好きだから、いくらでも待ってていられるんだ」


「インデックス!」


それだけ言いきると彼女は先ほどまで話せていたのが奇跡であるかのように、それが当り前であるかのように意識を失った。
俺の手に触れた手すら力を失って、畳に落ちる。
俺は、それをただ見ていることしかできなかった。


「……ちくしょう」


悔しい。この少女を、自分のことを好きだと言ってくれた彼女を救えない力に自分が悔しい。


「畜生!!」


俺は感情のままにそう叫び、


「なーにキレてんだよ。この中二病患者」


親友の声を聞いた。





上条side out








俺が目を覚ますと、もうすっかり夜のようで辺りは暗くなっていた。
そして、あいつが心底悔しそうに『諦めていた』。


「……ちくしょう」


この世の終わりみたいな顔をして、力なく布団で眠る少女の上で涙を流していた。

……このバカたれは、何をやっているんだ?


「畜生!!」


叫んでる場合じゃねーだろうが。


「なーにキレてんだよ。この中二病患者」


俺はその言葉と共に立ち上がった。
すると、ボロボロになった上条は俺をハッとしたように見上げた。その表情が可笑しくて俺は苦笑しながら、馬鹿の隣に立つ。


「あ、それと人に看病してもらっておいて殴りやがったからに、おごりは覚悟しとけよ?」


「帝、督」


まるで人形のように俺を見る馬鹿に、俺は呆れたように溜息を吐きだしながらその隣に腰をおろした。


「それで? お前はもう諦めてあいつらに尻尾を振るのかよ? 俺を殴っておいて?」


「…俺だって、俺だってこんな最悪な終わりはないって思うよ」


その言葉を聞いた瞬間、俺はとっさに横にいるそいつを全力で殴った。
完全な不意打ち。それこそ防御も回避も間に合わない神速の一撃だ。

そいつは俺が不十分な態勢で放ったために吹き飛びはしなかったものの、痛そうに顔をしかめた。
次いで、何をすると敵意に満ち溢れた目で俺を睨んだ。

しかし、俺はひるまない。今のこいつなんかにひるんでやらない。


「お前、誰だよ?」


「……え?」


すると、上条の姿をしたそいつは呆然とするように俺を見上げた。


「俺が知っている上条 当麻は、こんな程度じゃ止まらねえ。助けられない現実に直面してただ涙を流すだけじゃない。
それこそタイムリミット1秒前まで必死に食い下がって、その子を助けるために駆け回る。違うか?」


「あ……」


その瞬間、上条は元の上条に戻った。
その瞳には不屈の闘志を宿して、その顔には獰猛な笑みが浮かぶ。

そう、それで良い。
上条 当麻という人間は英雄だ。それこそ、誰も叶わないぐらいに。
そして、諦めない。最後のその瞬間まで。


「なあ、帝督。一つ教えてくれ」


「なんだよ?」


何かを思いついたのか、その瞳に確かな希望の光を宿して上条は俺に聞いた。


「完全記憶能力者って、一年間の記憶で脳みその15%も使うのかよ? その場合の計算は、そいつらの寿命は6、7歳で終わることになるんだけど…」


それがインデックスちゃんとどういう風に関わるのかは分からないが、俺は答えてやる。
こう見えても俺は『強能力』。その分だけ上条たち『無能力』と比べて記録しやすいように頭を開発してある。
つまり、勉強ができるという事だ。


「んな訳ねえだろ。人間の脳ってのは140年分の記憶が可能だ。パンクしようがない」


「でも、もし記憶力にまかせて図書館の本を全部暗記したりとかしたら、どうよ?」


「ばーか。これだから『三馬鹿(デルタフォース)』は…。そもそも人の記憶は一種類じゃねーんだよ。
言葉や知識をつかさどる『意味記憶』、あと思い出なんかをつかさどる『エピソード記憶』とかいろいろあるんだ。
因みに、それらはそれぞれ別の容器に入ると言えば分かりやすいかな。だから、別の容器に水を入れても水はこぼれないんだ。
ようするに図書館の本を覚えて『意味記憶』を増やしても、『エピソード記憶』が圧迫されることなんてあり得ないんだよ」


まるで雷にでも打たれたかのように上条は表情を固める。
直後、何かを思いついたのか目を見張り、



「―――――は、はは」



笑った。
どうやら、起死回生の一手を思いついたようだ。
上条はすぐさま苦しそうに眠るインデックスちゃんを振り向くと、おもむろにその頭に手を乗せる。

俺は何かが起きるのかと咄嗟にその身を縮めるが、触れただけで音もしなければ何も起こらない。
それは上条としても意外であったようで、首をかしげておもむろにおれに問いかけた。


「なあ、帝督」


「なんだよ? てか、お前は何かするつもりなら先に言え」


「俺がインデックスの体で触ってない部分ってどこだろう?」


「ぶっほぅ!!?」


ななななな、何をいっとるニダ!! 理解不能ニダ!
アレか、こいつはインデックスちゃんとそこまで深い仲になっていたニダか!?
まさか、もうやったってことは……


「あ、そうか口の中か」


「って、まてぇえええええ!!」


く、口の中ですと!? それはあれですか!?
笛螺遅尾というやつですか!? う、うらやましす!! じゃなくて、上条のあんなにえげつないモノを入れられたら、インデックスちゃんの顎が外れてしまう!
それに、第一病気か何か知らないが、苦しそうに眠っている病人になんてことをしようとしているんですか!!


「な、なんだよ。止めるんじゃねえよ、帝督」


今は一刻を争うんだと、上条はとっさに足にすがりついて愚行を止めた俺を睨んだ。
ぶっちゃけ、その瞳は血走り興奮のためか息も荒い。

アレだ。君は今冷静な判断が出来ていないんだ。だから、落ち着きたまえ。
てか、お願い! それ以上踏み込むと完全に『青髪ピアスの同類(ロリコン)』に落ちてしまうぞ!?

あ、インデックスちゃんを抱いている時点で、もはや同類か。


「いーや、止めなきゃだめだ。お前は疲れているんだよ上条」


「は?」


「そんな少女にぶち込むより、オナホールを使いなさい。フェラは俺も美琴ちゃんにやらせたいことNo.1だけど、出会ってまだ一週間もたっていないのに、それは厳しいよ?」


「…なあ、お前はこのシリアスな場面で何を言ってるんだ?」


「てかさー、美琴ちゃんってSっぽいけど、確実にMだよな。フェラしているときに必死になって顔を真っ赤にしているのを想像すると……。
辛抱堪らん!!!!」


「主人公(ヒーロー)気取りじゃねえ――――主人公になるんだ」


俺の言葉をそのままさっくり無視して、その右手をインデックスちゃんの口の中へと押し入れる。

…あ、なんだ右手の話だったのかよ!?


俺がそう思った瞬間、バギンという何かが砕ける音がした。

同時に吹き飛んでくる上条の体。


「へ?」


俺は当然そんなモノを受け止められるはずがなく、上条と一緒に床を転がった。


「ぐばあ!?」


「わ、悪い帝督」


同時に、上条が上に乗っかったおかげで俺はみしみしと潰された。
慌てて上条は俺の上からどいたが、時すでに遅し。俺は大ダメージを負ってしまった。


「帝督は瀕死となった。と言わけで上条さんは頑張ってください」


「手伝うぐらいしやがれよ!?」


「いやいやいや、無理ですって」


俺はそう言って自分の目の前に広がる悪夢のような光景を指さした。
そこにはぐったりと倒れていたはずのインデックスちゃん。しかし、その両の眼球には真っ赤な血のような魔法陣が浮かんでいる。


「―――――禁書目録の『首輪』、第一から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状一0万三千冊の『書庫』の保護のため、侵入者の撃退

を優先します」


ノロリと、まるで某生物災害のゾンビの如く不気味な動きで立ち上がった彼女は、あの少なくとも俺が三日間世話をしてやった彼女とは似ても似つかない。
まるで、人形のように不気味な存在であった。


「ねえ、上条君や。君は何をしちゃったんだ? と言うか、これはどんな状況なんですか?」


「そういやあ、一つだけ聞いてなかったな。超能力者でもないお前が、なんで魔術を使えないのかってことを」


わーい、上条君が僕を無視する―。
上条はそのまま真っ直ぐインデックスちゃんを睨みつけ、傷が開いたのか血を流す右手を構えている。
俺は、今何がどうなっているのかなんてさっぱり分からない。

でも、こいつが必死に『幻想殺し』を振りかざすってことは、これがインデックスちゃんを救うための最後の戦いなんだろう。

ようがす。この漢、垣根 提督。親友に助太刀いたす!

その瞬間、今まで何事かをぶつぶつと呟いていたインデックスちゃんが、コテンと人形のように首を傾げて言った。


「――侵入者に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」


バギン! という凄まじい音共にインデックスちゃんの両眼にあった魔法陣が拡大。彼女の眼前に直径二メートルばかりの魔法陣が広がる。
そして、彼女は歌った。

いや、正確には何か声を出した。それは、これから何かを起こすのに必要なことなのかもしれないが、俺にはただ歌っているように見えた。


――――それこそ、神様の無慈悲な性格を。


バキリ! と再び何かが割れる音がした。それは、目の前のインデックスちゃんの眼前、二つの魔法陣が重なり合った中心に突如として出来上がった黒いスキマから発されていた。
そのスキマには黒い雷のようなものがチロチロとまるで蛇のように時折顔を出す。
しまいには、その穴はどんどん広がっていき、威圧感が増していく。

そんな中で俺は恐怖で顔を引き攣らせていた。

正直に言おう。こんなものは人間の相手に出来るものではない。
と言うか、できるのなら今すぐ上条の首根っこを掴んで逃げ出したい。もっとも、もう手遅れだろうが。


「なあ、帝督」


俺がちびりそうになっているのを我慢していると、不意に上条が口を開いた。
俺はこの真面目な事態の中で俺を無視し続けていた馬鹿に、応えてやることにした。俺ってば大人♪


「何だよ? 今さら逃げるのは無理っぽいぞ」


「誰が逃げるか。俺は嬉しいんだよ。ようするに今目の前で出てこようとしているアレをぶちのめしちまえば、俺はインデックスを救える。違うか?」


「違わないさ」


「だろう? だからさ、俺は行くぜ」


「…止めたいところだけどな。ここまで来たんだ、行って来い」


「おう!」


そう上条が声を張り上げた瞬間、上条はそのままインデックスちゃんとの四メートルばかりの距離を埋めるために駆け出した。
そのズタボロの右手を固く握り締めながら。


しかし、いつの間にかスキマは亀裂へと昇華されており、走りインデックスちゃんとの距離を詰めようとする上条に牙を向いた。



それは暴れ狂う光の奔流。
まるで上条をこの世から削除せんばかりの勢いをもった光の柱だった。
上条はとっさにかざした右手でその光の柱を受け止めた。


「んな、馬鹿な」


バカみたいな攻撃を出す方も出す方だが、その攻撃を止めている上条も上条だ。
正直に言ってチートすぎる。
たしか、あいつの右手の能力は『全ての異能を打ち消す』というもの。理屈はよくわからんが、とりあえず今は目の前の光の柱を防いでくれている。

だけど、勢いに押されているのか徐々に上条が押され始める。


「…アレ? これってまずくないか?」


こんな化け物みたいな光の柱を食らったら死ぬことはおろか、魂ごと消滅させられそうである。
なんとかしなくては……

俺がそう一人で焦っていると、外で待機していたのか赤髪神父とあの女が駆け込んできた。


「また無駄なあがきを…って何だこれは!?」


「ど、『竜の殺息(ドラゴンブレス)』って、そんな。そもそもなんであの子が魔法を使えるんですか!」


何やら慌てているお二人さん。
そんな二人に上条は満面の笑みで言葉を投げかけた。


「おい、光の柱(こいつ)のことを知ってんのか? これの正体は? 弱点は? 俺はどうすればいいか片っぱしから答えやがれ!!」


「いや、しかし……」


上条の言葉に二人はどこか戸惑ったように視線を彷徨わせる。
その間も光の柱は上条を押していっている。もっとも、上条は獰猛な笑みを浮かべたままであるが。


「ああ、もう! 『インデックスが魔法を使えない』っていうのは教会の大嘘だ! ついでに、一年間ごとに記憶を消さなければならないって言うのもな!
だから、解んだろ!? こいつをどうにかしちまえばインデックスを助けられるんだ!!」


「――あ」


「冷静になれよ。教会のおえらいさんたちがテメェら下っ端に本当のことなんか話すわけねえだろ!!」


二人は茫然と亀裂の向こうにいるはずのインデックスちゃんを見つめたようだ。
それにしても、こいつらは行動が遅い。遅いにもほどがあるぞ、この馬鹿野郎!!

俺はずかずかと二人との距離を詰め、あの女の襟首を掴んで引き寄せた。


「ああ、もうウジウジウジウジうざってぇな!! あの子を助けたいんなら、さっさと手伝いやがれ!」


「あ、う」


女は俺の視線からのがれるように目を背ける。
しかし、その俺の一瞬のすきをついて赤髪神父の方は何やら呟くと、大量のカードを辺りにばらまき、そのうちの一枚を上条の首筋に突きつけた。


「あ、てめっ!」


「僕はあいまいな可能性なんていらない! 今ここであの子の記憶を消せば取りあえずはあの子は助か…」


「とりあえず、だぁ!? ふざけんじゃねえよ!!」


しかし、その赤髪神父の叫びも上条によって遮られる。
上条は自分を圧してくる光に真正面から立ち向かいながら、大きく吠えた。


「てめえは、インデックスを助けたいんじゃねーのかよ!?」


二人が雷に打たれたように背筋を伸ばした。


「テメェらはずっと待っていたんだろ!? インデックスの記憶を奪わなくて良い方法を! 
インデックスの記憶を消さないで済む、インデックスの敵に回らないで済む、そんな誰もが望んでいた最高に最高な幸福な結末(ハッピーエンド)って奴を!!」


直後、勢いを増した光の本流に上条の手が押される。
しかし、上条の口は止まらない。そのような状況であっても少しも止まらなかった。
俺は、そんな上条を見ていることしかできない。


「さあ、始めるぞ魔術師!! 主人公はてめえらで、場面は少しばかり長かったプロローグの終わり!
手を伸ばせば届くんだ!! くだらねえ矜持も理念も捨てて手を伸ばせ!!」



「助けたい子(インデックス)はそこにいるぞ!!!!」



上条がここまで言った瞬間、ついに均衡が破れて上条の右手が跳ね上がる。
そして、恐ろしい速さで光の本流は上条へと殺到し、


「Salvare000!!」


その英語ではない不思議な言葉を名乗った瞬間、女はその長い二メートルばかりの刀を抜いて、光に向けて真っ向から打ち合った。
同時に、どんなトリックかは知らないがインデックスちゃんの足もとの畳が切断され、彼女は転倒して仰向けになる。
同時に、彼女の眼前にあった魔法陣と亀裂も動き、アパートの屋根もろとも、いやその上空の空気もろとも、さらにはその上にあったかもしれない人工衛星もろとも全てを貫いた。

やっぱり、あんなものを食らったらただでは済みそうにない。


「――――アレと、まともにやりあおうなどとは思わないでください!」


そう女が叫ぶと同時に上条が距離を詰めようと駈け出した。だが、インデックスちゃんは即座に体勢を立て直すと視線を再び上条に向ける。
その動きに伝道するかのように光の柱が上条目がけて振り下ろされた。
が、それは横合いから駆け込んできたいつの日か見た炎の魔人によって防がれる。

どうやら、あの炎の魔人と言うのは赤髪神父が操っているらしい。


「行け、能力者!!」

彼は上条に何かを叫んで、上条はそれに頷いた。

そして、俺はこの人間の限界を軽く六段ぐらいとばした戦いに何の介入も出来なかった。
能力を発動するにしても、周りの騒音がうるさくて集中できない上に俺の能力はこの場では役に立たないだろう。

むしろ、二人の脳内をメルヘンにしてしまったら、上条も俺も助からないだろう。

せめて、せめて俺の翼がもっと巨大で上条の防御に仕えたのなら――


「ダメです――――上!!」


上条がインデックスちゃんに迫ったその瞬間、まるで上条を上から押しつぶそうと言わんばかりの羽根が上空から出現した。
その凄まじい数からして、『後ろに引かねば回避できない』攻撃だと判断できる。

だが、上条は止まらない。
その中心にいる女の子に手が届くのだからと、止まらずに駆け抜けようとしている。

駄目だ、アレに触れたら――ダメなんだ!!

それは、ただの直感。
いや、俺はただ自分も何かの役に立ちたいと思っただけかもしれない。


「があああああああああああああああああ!!!!」


計算式なんて考えない。
ただ、イメージするのはいつもの可愛らしい羽根ではなく、天を覆い尽くさんばかりの雄々しい翼。
風圧で全てを吹き飛ばせる翼だ。

ゾクリ、と頭に電極をぶっ刺されるような、そんな感覚。
分かっている。これは能力の暴走の兆候だ。制御できない能力の行使に俺の脳が拒絶反応を起こしているのだ。

だが、そんなものは関係ない!!

『自分だけの領域(パーソナルリアル』)に命令する。

――翼を寄こせ

瞬間、全てを吹き飛ばす風と共に俺の背中に片翼四メートルばかりの巨大な羽が一瞬だけ出現する。
その風は上条の上空にあった全ての羽根だけを綺麗に吹き飛ばし、上条に道を作る。
あいつが欲しかった結末へと続く道を。


「決めて来い、親友!!」


俺は叫びながら、上条が右手を振り上げるのを見た。同時に、俺の鼻から一筋の赤い雫が垂れる。
それは一瞬とは言え能力を無理に使った代償。ひょっとすると、脳の血管が切れているかも知れない。

それでも俺は立ち上がって最後の結末を見届ける。
上条はインデックスちゃんにその手を振り下ろすと同時に、あの太い光の柱が消滅。
彼女の体からも力が抜ける。上条はそれを抱きしめるように抱え、愛しげにその名を呼んだ。
それは、全てが終わったことを証明していた。


「インデックス――」


だが、同時に俺は声の限りに叫んでいた。


「上条、まだ羽が残っている!!!!」


そう、インデックスちゃんを抱きとめた上条に俺が吹き飛ばし損ねた羽根が一枚だけ、落ちてきていたのだ。
上条がゆっくりと、まるでスローモーションのように上を見上げる。

その視界には避けようがないほど自分に接近した羽根が見えたことだろう。

俺は駆けだし、その手を伸ばす。

今なら、今ならまだ間に合うと必死で手を伸ばす。

しかし、四メートルの距離は絶望的で、羽根は上条へと舞い降り――





「―――――――とうま」




上条の腕の中から抜け出し覆いかぶさった『白い何か』に直撃した。


「――あ」


その声は、はたして誰のものだったのか?
白い何か、インデックスちゃんは雷に打たれたかのように体を硬直させ、やがてその力を失い再び上条の腕の中に納まる。


その顔には最高に嬉しそうな笑顔があった。





[6950] 一章 十話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:14





夏の一日と言うのは、何故こうも暑いのだろうか?
ジーワジーワと泣き声を上げる蝉がうざったくてしょうがない。


「だーもー!! おせえええええええええ!!」


今、俺は人を待っていた。
これから一緒にある場所に行こうと約束していたのだが、約束の時間を一時間オーバーしても、姿も形も見えない。
俺はいらいらと腹立たしげに指の爪を噛んだ。
すると、かなりはなれた所に待ち人の姿を見つけた。


「わりー、遅れた!!」


そう言って、俺に駆け寄り荒い息をつく人物の名は上条 当麻。俺の最高で最馬鹿な親友だ。
俺はため息をつきながら遅刻してきた馬鹿を睨んで頭を掻く。その際に手に持っていた花束がプンと香った。
俺と同様に上条の手には、何やらお菓子が入っていそうな大きな箱があり、俺は思わず顔をしかめる。


「おいおい、またお菓子かよ。たまには俺みたく花束とかで決めてみろよ」


「良いじゃねえか。お前が花束担当で、俺がお菓子担当。ソレにこれは一時間並んでようやく買えたんだぞ!?」


「てめえ、遅くなったのはそれが原因か!」


俺たちはそう互いにののしり合って目の前の建物、病院へと入っていく。
彼女がいるその場所に。











ある病室の前、俺は迷わずその中に入ろうとしたが、上条は突然その歩みを止めた。


「? どうしたよ?」


俺が振り返ると、上条は辛そうな、今にも泣きそうな笑みを浮かべて口を開いた。


「なあ、俺変なところないよな?」


「…ああ、大丈夫だよ」


俺がそう告げると、何かを決意したかのように上条は正面を見据えて病室のドアを開け放った。
その病室の中、個室に置かれたたった一つのベッドの上には銀の髪の少女がいた。
彼女は入ってきたこちらを見ると、どこか嬉しそうに俺達に笑顔を向ける。

その笑みはとても透明であった。


「また、来てくれたんだ?」


「あ――」


上条は何かを言いかけたが、その口はそれ以上言葉を紡ぐことが出来ない。
少女はいつものように不思議そうに上条の事を見上げて、彼の名前を呼ぶ。その声は、あの日から少しも変わっていない。


「とうま?」


「っ!!」


ビクリと、まるで親に叱られるように上条はその身を震わせる。
俺はそれを戸惑ったように見つめる彼女と、その視線でさらに怯えたようになる上条の二人に溜息をつきながら、二人の間に割って入るように彼女に挨拶をした。


「おはよう、インデックスちゃん! 気分はどんなもんだい?」


「おはよう、てーとく。気分は悪くないよ?」


彼女はそう言って微笑みを浮かべてくれる。その笑顔に俺は手にしていた花束を見せた。


「それでは、お姫様に花束をプレゼント」


「わー、ありがとう! でも、前も言ったけど次からはお菓子で良いからね?」


「ははは、こやつめ。お見舞いは持ってこいと言う訳か」


彼女、インデックスちゃんは小悪魔めいた笑顔を浮かべると、素直にうんと頷いた。
次いで、上条が持つお菓子の箱に気がつくと、嬉しそうに眼を輝かせる。


「あ、とうま! それってお菓子だよね!? 早く開けてよ♪」


「あ、ああ。良し、ちょっと待ってろ!」


上条は少女の笑顔にどこか気押されるかのようにその手にした箱の中身をベッドに座るインデックスちゃんに見せる。
その途端、彼女の笑顔は先ほどのものよりも数倍輝く。
どうやら、今回も上条の方に軍配が上がったようだ。

そして、上条に早く食べさせてくれとねだるインデックスちゃん。

誰が、気がつくだろうか?


――この少女の記憶がないことに


あの後、羽根の直撃を受けたインデックスちゃんを病院へ運びこんだ俺達に突きつけられた事実は、現実の苦さを俺達に刻みつけた。
それは、脳細胞ごとの記憶の破壊。
取り除きたかった一〇万三千冊の『意味記憶』ではなく、『エピソード記憶』をこれでもかと破壊したのだ。
その為、起きたばかりの彼女は全てを忘れていた。


『あなた、誰?』


そのあまりにも透明で、無垢なその言葉に上条は言葉を失い、あの魔術師たちと同じ苦しみを味わったのだ。


『守るって、約束してやったのに……』


それからしばらくの間、上条は壊れた人形のように部屋にこもり、うわごとのようにそう口にしていた。
俺は、わざと何も言わずに傍にいるだけだった。
何故なら、それは上条が自分の責任でもって手を出した事の結末だから。

その物語の主人公は俺ではなく、上条だ。

その痛みさえ、『脇役(オレ)』には奪う権利がないのだ。
その上条の痛みに酔う時間は、ある日の午後に本部に戻るという事で顔を見せた魔術師たちと話すまで続いた。

しかし、魔術師たちが帰ったあとの上条の眼には炎が宿っていた。おそらくは、何か発破を掛けられたのだろう。
それから、毎日と言うように彼女の元に通い続ける上条。俺はそれに付き合って、この病院に訪れてインデックスちゃんと話をしていた。

それは、時折彼女の笑顔を見て固まる上条と、まるで必死にその笑顔の人格を模倣しようとするインデックスちゃんの渡し役となること。

そんな二人の馬鹿の、ぎくしゃくとした関係に俺はそろそろ苛立ちが募っていた。
だから、今日はそんな二人におせっかいを焼いてみようと思う。


「おい、上条」


「? どうした帝督?」


「俺、今日デートだから」


「は?」


俺の言葉に、こいつは何を言っているんだという目を向けてくる上条。
俺はそれに悪戯っ子な笑みを浮かべて花束を花瓶に生けながら口にした。


「約束の時間がもうそろそろだから、もう行くな。ごめんねーインデックスちゃん。本当は一時間前にこれてたっぷりと話が出来たんだけどねー。
どっかの馬鹿が必死になってお菓子を選んでたせいで、無理だわ」


「は、はぁ!? ちょ、待てよ……」


「あはは、じゃあ相手の女の子を待たせちゃダメだよ?」


「おーう。それでは、後は若いお二人で」


俺はそのまま本当に病室から出て行った。
後ろで何やら焦ったような上条の声が聞こえるが、振り返ってなんかやらない。
いつまでも俺の後ろに隠れてしか、インデックスちゃんと話せないようでは駄目だ。
少し荒良治だが、こうでもしないとこの馬鹿は永遠にそのままだ。

だから、俺はその背中を少しだけ押してやるのだ。


「…がんばれ、英雄」


そう、何度でも傷つき立ち上がって見せろ。
お前は、お前なら必ずそれに手がと届くから――










…………終わりだと思ったか? ところがどっこい、これからが本番なんだよ!!


俺は再び人を待っていた。
今度の人は遅れた訳ではない。ただ、俺が早く来すぎただけだ。
もう少しインデックスちゃんの所で時間をつぶしても良かったが、俺は先に行って待つことを選択していた。
何故なら、


「あれ? 待ち合わせの時間はまだよね?」


彼女を待たせる訳にはいかないのだから。

亜麻色の髪に、不思議そうに眉根を寄せる顔。
そして、いつも制服に身を包んでいた肢体を覆う、夏らしく可愛らしい白のワンピース。

そんな私服姿の御坂 美琴がそこにいた。


そう、何を隠そう今日は俺と美琴ちゃんのデートの日。
彼女との約束を果たしに行く日だったのだ。


「うん、まだ10分ぐらい余裕はあるかな」


「呆れた。あんたどれぐらい前からここにいたのよ」


「……一時間ぐらい?」


「…呆れた」


俺の返答に美琴ちゃんは顔を赤くしながらそう言ったものの、ちらりと俺を顧みておずおずと声を出す。


「あの、さ。それって、私との、その……」


あー、やばい! 照れている姿がたまらなく可愛い!!
今すぐ抱きしめて路地裏で事に及びたいが、ここは我慢だ。長期的な目で計画の達成のため、ここは堪えるんだ!!

俺は内心の苦しいばかりの想いをかくして、美琴ちゃんの言葉の後を引き継ぐ。


「そう、美琴ちゃんとのデートが楽しみでしょうがなかったから。その服、滅茶苦茶似合っているよ」


「っ!!」


ボンと音を立てて、さらに赤くなる美琴ちゃん。
俺はそんな彼女の背中に手をまわしてエスコートを始める。


「それじゃあ、行こうか?」


「あ、う…それで、結局どこに行くのよ!?」


あああああああああああああああああ、可愛い、可愛いよう!!
もう抱きしめるだけじゃ足りない! むしろ、今すぐ押し倒したい…って、待て待て。このままじゃ『光源氏計画(プロジェクトヒカルゲンジ)』が破綻してしまう!
落ち着け、Be kool。


「…前に約束したでしょ?」


「?」


どうやら彼女は覚えていないらしい…って、なんですかその愛くるしい小首の傾げ方は!!
もう、ダメ。これ以上は耐えられそうにない。


「まあ、いいや。行ってからのお楽しみってことで」


そうごまかして、俺はある場所に向かった。
彼女の笑顔を見るために。











「うわー、うわー! 本当だ、私が近づいても逃げない!!」


「ははは、これぞ進化した『脳内メルヘン』の真骨頂!! と言うか、猫と戯れる美琴ちゃんがプリチーすぎる!!
もう、辛抱堪らん!!!!」


「うっさい!」


「ひぎゃ!? み、美琴ちゃん。いきなり電撃は厳しいです」


「フン、あんたが悪いのよ。私とこの子たちとの至福の時間を邪魔するから、ねー?」


「ああ、猫に語りかける美琴ちゃんも可愛い!! くそう、触れないならせめて写メに残しておいてやる!!」








そんな、夏の一日。

図上では長い飛行機雲が青空を横切っていた。







???


「まったく、何度となく邪魔してくれるな『未元物質』」


「やはり、アレは私の手に負えん」

















あとがき

これにて一巻の内容が終了です。ここまでお付き合いしてくださった皆様に感謝の言葉がつきません。
正直、これは禁書SSにおいて、中々ないエンドだと自負しています。
インデックスの記憶が消え、上条の記憶は残る。

私は、これがあるべき姿だったのではないかと思います。

そも、彼女の記憶は元々消えるべき運命でしたし、『幻想殺し』の少年はそれを守れず涙を流すしかなかったのです。
原作では、本作のような帝督と言う上条の『ストッパー』的役割の人物がいなかったため、上条が暴走しきって大切な人をだまし続けるという事態に進展したのでしょう。
それはある意味では正しいのでしょうが、私は少し納得ができませんでした。
上条は神裂に偉そうに自分が体験していない感情を論破しました。しかし、彼はそれを有言実行できるのかな、と思ったり思わなかったり。
ですから、今回はこう言うエンドを選択させてもらいました。

いかがでしょうか?

私は、この続きとして彼が神裂やステイルに言った最高の幸せを有言実行で彼女にプレゼントしようとする姿を書きたいです。

もちろん、帝督はその姿をみて応援するでしょう。また、帝督も美琴というヒロインに対して幸せをプレゼントしていくことになります。

帝督については、この一巻の内容では彼は主人公とは言えない人物です。
そう、まるで主人公を支える親友役。
主人公の見せ場を取らずに、フォローするだけ。ですから、視点が帝督なだけであり結局はこの一巻の主人公は上条でした。
次話から、正真正銘に帝督が主人公の作品を書かせていただきます。

それでは、このあたりで今回は筆を置かせていただきます。

最後になりますが、皆さまの沢山の感想には何度となく背中を押していただきました。本当にありがとうございます。
そして、これからもどうかよろしくお願いします。







[6950] 二章 一話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:15

「なんで、なんで分かってくれねえんだよ上条!!」


「どけよ、帝督。俺は決めたんだ」


俺の叫びに目の前の男、上条 当麻は冷酷な言葉でもって打ち消す。
俺は、その表情が気に食わない。なぜなら、あの馬鹿の表情はまるでたった1人で異教徒の軍勢に立ち向かう殉教者のソレ。
他者の幸せに至上の喜びを感じてしまう、哀れな人格破綻者の表情だ。
俺はギリリと歯を噛みしめてその馬鹿に吠える。
目を覚まさせるために、今目覚めさせなければ間に合わなくなると感じたから。


「それが、その選択が俺には許せない!! なんでだ、なんでいつもお前は誰かの為に……」


「…分かんねえ」


そう答えた上条は虚ろだった。そう、虚ろであるはずたった。
しかし、上条が俺の眼を見据えた瞬間に奴の瞳にある一つの感情が満ち溢れていく。
その感情には俺もとても身に覚えがある。

それは、たった少しで世界が変わる奇跡。

上条は俺に微笑んで見せた。その笑顔は何か大切なものへとほほ笑みかけるもの。
目の前にいる俺ではなく、別の誰かに向けられたもの。


「…でもさ、俺は見つけたんだ。たった一つの欲しいモノを」


「上条…」


「あの子の笑顔。それさえあれば、俺は――――」


「上条!!」


「帝督、お前だってぶちのめして前に進める」


語りかける言葉など初めからなかったのだ。
なぜなら、あいつと俺は既に正反対の方向を向いていたのだから。
いつからだ。いつから、俺たちは別の方向に歩き出してしまったんだろう。
俺は、いつまでもお前の横を歩けると思っていたのに。

――――それは、きっとあの日に彼を止められなかったから。


「そうかよ。そうかよ!」


俺は言葉をまき散らす。怒気と共に少しでも上条の中に自分を残せたらと、そんな下らないことを考えながら。
俺は拳を握り締める。そこに、この馬鹿を目覚めさせることが出来る筈だという儚い願いを握りしめて。

俺と上条はにらみ合う。

気のせいか、空気がまるで俺と上条の間の空気を恐れるかのようにピリピリと鳴動する。

腰が沈む。

それは、駆けだす瞬間のために力を貯めこむ動作。

そして、次の瞬間に俺は身体を前に投げ出した。

それはまさに大地すれすれに滑空する隼の如く、高速で目標へと迫り握りしめた左の拳を顔面に向けて繰り出す。


「お、ああああああああああああ!!」


烈拍の気合い。
それは俺の体の内に貯めこまれた力を出し切るためのひと押し。
だが、それは同時に上条に俺の攻撃のタイミングを教えていた。


「テレフォンなんて当たる訳がねぇ!」


上条はそう叫び、まるで俺の拳の上からかぶせるようにして自身の右の拳を繰り出す。

その技の名を『クロスカウンター』と言う。

上条は右利き。
その威力たるや路地裏の喧嘩で一撃で不良たちを倒すほどのものだ。
当然、俺も当たったらしばらくは立てなくなるだろう。

ソレに対して俺の拳の威力は数段劣る。
俺の繰り出す拳が左だからと言う事もあるが、上条と俺の拳がこのまま互いに相手の顔面に当たった場合、確実に倒れるのは俺の方だろう。
そもそも、クロスカウンターとは相手が拳を出した衝撃により2倍のダメージを相手に与える技。
元の拳の威力も鑑みれば、俺の方のダメージが多いことが圧倒的だと分かるだろう。

だから、だからそれだけは食らう訳にはいかない。
そして、俺は上条が『クロスカウンター』を繰り出すことを読んでいた。
わざわざのテレフォンパンチはこの為の布石。

上条にわざとタイミングを計らせて、カウンターを繰り出させる。

クロスカウンターを繰り出す可能性は低かったが、上条の性格上一発は俺にやり返させてくれるだろうと読みが当たったのだ。

だから、俺の勝利は目前。


――上条、お前の敗因はその友達思いな性格だ!!


俺はそのまま上条とクロス仕掛けた腕を大きく外に払う。
自然、上条の腕も俺の手の動きに従い弾かれる。さらには、体が流れてしまい、反撃を打とうにも体勢が整わない。

俺はここで握り締めていた右の拳を上条目がけて繰り出した。


これぞ『トリプルカウンター』。『クロスカウンター』の返し技として某有名ボクシング漫画に登場した技だ。
その威力たるや凄まじく、さしもの上条もこの俺の一撃をくらって立っていられない。


だから、終わりだ!!


一撃を振り抜く。
同時に、俺の手には肉を殴る確かな感触が伝わった。
しかし、


「!?」


その瞬間に俺の頬に衝撃が走った。
瞬時に頭まで駆けあがったそれにより俺の脳みそが揺さぶられる。
俺はそのまま地に膝をつけることになる。


「なん、だと?」


そして、俺は目の前でたったままの上条を見上げる。
上条の『左腕』は未だ俺を殴った時のまま姿勢を保っている。その姿を見て、俺はようやく俺は理解した。


(この馬鹿、まさか――!?)


なんのことはない、上条は俺の『トリプルカウンター』に再び『クロスカウンター』を合わせただけ。
上条は読んでいたのだ。俺が『トリプルカウンター』を使うという事を。


「…俺の、負けか」


「…帝、督」


「行けよ」


心配そうに俺に駆け寄ろうとした馬鹿に俺はそう告げた。
俺たちの道はすでに分かれ、俺は上条に敗れたのだ。敗者は、このまま去るのみ。
だから、


「泣いてんじゃねぇよ」


「っ、泣いてなんか…」


「なあ、上条よ。俺は、お前の為にお前が望むモノを差し出そうとした。だけど、お前は自分の幸せよりもあの子の笑顔をとったんだ」


「ああ、そうだな」


「俺は、誇らしいよ。お前にただ一つの譲れない者が出来たんだからな」


「…………」


「だから、行けよ。あの子にそいつを渡してやれ」


俺がそう告げると上条は無言で俺に背を向けた。
その手にそれを握り締めながら。

俺は体から力が抜けるのを感じ、ゆっくりとそばにあった壁に寄り掛かった。
ここで煙草の一本でも燻らせれば様になるのだろうが、生憎だが俺は煙草は吸わない主義であったりする。


「はは、様にならねぇ」


そう笑って俺は上条の姿を目で追った。
俺の視線の先にはふわりと天使の笑顔を浮かべる少女に可愛らしい服を手渡す上条。

俺の手には明らかに丈が短いスカートのメイド服だけが残る。


「信じられるか? 今までの下りは上条とインデックスちゃんの服を決めるためだけだったんだぜ?」


上条の欲望通りに超ミニスカートなメイド服を着せたかった俺。
あえてその欲望を無視して清楚系を望んだ上条。

そんな、紳士な二人の戦い。

だが、その戦いはどうやら室内で行ってはいけないものであったようだ。
その証拠に俺の目の前には怒りに燃える美人な店員さんと、見慣れたジャージに身を包んだ黄泉川先生。


「お客様、他のお客様の邪魔になるのでとっとと失せやがってください」


「…お前は一日足りと私に休日を堪能させないつもり? 私もいい加減にマジでシメるじゃん」


店員と黄泉川先生。容姿は少しも似ていない二人だが、たった一つ共通している点があった。
それは二人とも笑顔なのに目が少しも笑っていないことだ。
むしろ背後にスタンドっぽい何かが見える。

スタンド使いはスタンド使いでなければ倒せないですね、わかります。


「さて、覚悟はいいじゃん」


そう言って黄泉川先生が一歩前に出た時、その後ろでいちゃつくインデックスちゃんと上条が見えた。
良いんだ良いんだ。この前、僕は美琴ちゃんとイチャイチャを堪能したから。

でもさ、でもさぁ!


「助けてくれたっていいじゃんか!!」


「さて、黙るじゃん」


「アッーーーーー!」


「? とうま、てーとくが叫んでるけど…」


「いつものことだろう?」












??? Sound only









「アレを使えば良い。魔術側(君たち)にとって最大の天敵となりうる最高の素材だ。
加えて、アレは『無能力』であり貴重な情報など何一つ持っていない。そのため、君たちに科学側(我々)の情報を漏らすことはない。
また、アレに君たちの情報を理解できる頭などないのだからな」


「…………」


「さて、双方納得できたところで一つだけ忠告しておこう。アレのそばにいつもいる存在について、だ」


「? それは、一〇万三〇〇〇冊についてですか?」


「違う。そう言えば、そんな者もあったな。確か、記憶をなくしたと聞いたが?」


「…それについては現在私たちで回復方法を探していますが、そもそも回復するための手段を記憶してあったのが彼女です。
回復は、厳しいかと」


「そうか。だが、そんな事はどうでも良い。今はアレの傍らに常にいる『未元物質(ダークマタ―)』のことだ」


「『脳内メルヘン(ダークマタ―)』では、なくてですか?」


「いや、『未元物質』だ。アレだけには今回の件を関わらせるな」


「何故、ですか? 彼にはそこまで力がない。あの子を助ける時ですら、彼は脇役でしかなかった。それこそ、アレに一瞬のお膳立てをしただけでした」


「…『未元物質』。この意味が分からない君たちには話しても意味がないが、一つだけ教えておこう。
アレは『神』に匹敵する化け物だ。私の手に負えない、私に触らせることすら躊躇わせるほどの、な」


「っ!?」


「『吸血殺し(ディープブラッド)』はカインの末裔の存在を証明する。
ならば、『未元物質』は人間の辿り着く可能性を証明するのだよ」


「人間の、たどり着く可能性…」


「忘れるな。アレは私たちの予想をはるかに超える、真の『変態』だ」


「は?」


「ああ、思い出しただけで胃に穴が開きそうだ」


「彼が邪魔ならば消せば……」


「ああ、なら君に頼めるか? 何、魔術側が科学側のモノを殺すことになるが、我々は一向に構わない。むしろ、率先して証拠隠滅をさせてもらおう」


「あの――」


「我々はもう二度とアレに関わらないと決めている。後は君の好きにしたまえ」


「ちょ――」





あとがき

更新が遅くて申し訳ない。
リアルが忙しすぎて小説を書く隙もないです。月姫やリボーン、東方の方の小説も更新したいのですが、本当に余裕がない。
ですから、これからも更新が不定期になること間違いなしです。本当に申し訳ありません<(_ _)>
また、今回は閑話と言いますか二章のプロローグみたいなものですので悪しからず。



[6950] 二章 二話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/04/12 18:16
インデックスちゃんが記憶を失い入院してから数日。
八月八日となった晴れた日、上条はインデックスちゃんや俺を誘って学園都市の駅前への買い物に出た。
その目的はズバリインデックスちゃんの服などを含めた日常品の購入だ。
とは言え、俺は一時警備員の黄泉川先生に引っ張られていき、ありがたいお説教されたので、途中から上条たちと合流したのだが、


「なんでお前がいやがる青髪ピアス」


「ええやん、僕もたまたまそこでカミやんに会ったから一緒にいるだけや」


そこには何故か青髪ピアスが共にいた。
しかし、そろそろ上条たちと別れるらしく、「ばーいばーい」と小学生のような言葉をかけながらすぐに夕焼け色の街に消えていった。
俺はその後ろ姿を見送った後に上条たちに向き合うと、満面の笑みを浮かべる。


「よし、じゃあ遊びに行くとしようか!」


「いや、もうさんざん遊び倒したから。今日はもう帰る」


「ええ!?」


そんな! 俺はお説教を受けていたせいで少しも遊んでいないというのに、上条はそんな酷いことを言うのか!?
いや、待て。これは俺をからかうために上条がふざけているだけじゃないか?
うん、きっとそうだ!


「またまた~。これからが本番でしょう上条さん~。カラオケとか行きましょうよ~」


「だー! うざい! くっ付いてくるんじゃねぇよ。暑苦しいな」


「酷い! インデックスちゃんからも何とか言ってやってくれ! まだ遊び足りないとか!」


俺は上条に抱きついたが冷たくあしらわれた為、その傍らで何が面白いのかニコニコとしているインデックスちゃんに援護を求める。
彼女はその笑顔のまま口を開いた。


「私も疲れたなー」


「Holy shit!!」


糞っ! こんな所にユダがいるとは!!

インデックスちゃんは俺が失望した顔をしているのにも拘らず、嬉しそうに今日あったことを語り始める。


「あのね、あのね。てーとくがいなくなった後にファーストフード店に行ったら、巫女さんがいたの」


「は?」


この子は何を言っているんでしょうか? アレか、記憶を失ったら頭の螺子も緩くなるのか?
あ、美琴ちゃんと付き合えることになったら巫女さんプレイをやってもらおう。アレだ、『らめぇ、私はきれいでいなくちゃいけないのに~』的な展開で熱く燃えよう。

俺が疑っていると分かったのだろう、インデックスちゃんは不機嫌そうに頬を膨らませると俺の腹部に容赦のない一撃をぶち込む。


「ぐばぁ!?」


「本当だもん! 嘘じゃないもん!」


「そうだぞ帝督。インデックスは嘘をついていない」


怒るインデックスちゃんをドウドウと押さえながら上条がフォローするようにそう言った。
アレか? これは彼女が出来た途端に友人の態度が変わるというやつか!?


「はいはい、そーですか。それで、巫女さんを見たのは良いけど目当ての日用品はちゃんと買えたのか?」


「む、なんだか軽くあしらわれている気がする」


「ん? ああ、まあ何とかな。女の子の下着とかを買いに行った時は流石に死にたくなったけど」


上条はそう言ってどこか照れたように頬を掻く。

あれ? なんでだろう? 上条がすっごく憎らしいのですが?

俺はそう思った瞬間、上条の左ほほを殴りつけていた。


「ぐっは!? 何しやがる、この変態!」


「…この気持ちは、嫉妬?」


「上等だ。ボコボコにしてやる」


俺が自分の気持ちに正直になっただけなのに上条は怒り狂い、俺に向かって拳を振り上げてきた。
俺はその拳を後ろに飛ぶことによって回避すると、すぐさま能力を解放する。
即座に俺の意思によって展開される二つの小さな羽根。

それは光り輝きながら俺の身体を空中に浮かべる。


「ふははははは! 成長した俺は以前よりも随分マシに能力を使えるようになったのだ! メルヘンの範囲指定はもちろん、下手な集中もいらねぇ!」


「てめぇ、汚いぞ!!」


「くくく、戦いとは非常なものなのだよ! と言うか、さっきは良くも見捨ててくれやがったな!!」


俺は本音を漏らしながら大空にはばたき、羽根を撒き散らしながら上条に相対する。
さーて、それでは攻撃に移らせてもらおうか。

俺はそう考えた所で、ある決定的な事実に気がつく。


(…俺、遠距離攻撃できなくね?)


インデックスちゃんの時は何やら必死になってすごい風とかを起こしたが、後になってやろうとしたら翼が小さすぎて飛ぶのが精いっぱいだったのだ。
したがって、風圧攻撃は出来ないし、無駄に撒き散らしている羽根で攻撃できるかと言えばそうでもない。
加えて、上条にはメルヘン空間が効かない。


「あれ? あれー!?」


「…帝督、まさかお前……」


俺の不審な態度に上条も気がついたらしく、俺の頭はパニックに陥る。


(やばい、やばい、やばいぃーーー!!)


その瞬間、俺の脳みそは容易く処理能力限界を超えてしまったらしく、翼が消えてしまう。


「「「あ」」」


重なりし三重奏。
直後、俺は地面へと自然落下し始める。
幸いと言って良いのか、まだ3mばかりしか浮かんでいなかったので、死ぬことはないだろう。
だが、そこで俺は気が付いてしまった。何故か俺の下にはインデックスちゃんが三毛の子猫を抱えて立っているのを。


「っ、インデックス!!」


上条が焦ったように声を張り上げ、同時に駆け出す。
また、俺も必死に能力を再発動しようとする。

だが、いずれも遅い。

俺はそのままインデックスちゃん目がけて落下し、



「Are you ready the die?(ぶっ殺すぞ?)」



そんな意味も分からないネイティブな発音の英語が聞こえた瞬間、俺の体は横合いからの爆風によって『吹き飛ばされた』。


「ぐう!?」


吹き飛ばされた俺は体勢を崩しながら、大地に軟着陸。
ゴロゴロと転がりながら、ある程度の場所でピタリとその動きを止めた。

痛えぇぇぇぇぇぇ!!!!

死ぬ、死んじゃう!!

俺は大地に伸びながら、次の瞬間にはビチビチと陸に上がってしまった魚よろしくに身体をくねらせて、全身で痛みを表現する。

しかし、上条はおろかインデックスちゃんも茫然と別の方向を見るばかりで、俺の方を気にもしない。

何これ!? 新手のいじめか何かですか!!?


「おま、え」


上条はあくまで俺を無視してその視線の先に立つ人物に声をかけた。
俺も体の痛みをおしてそちらの方を見ると、そこにはいつか見た赤髪の神父が立っていた。

たしか、名前をステイル・アナルヌスと言っただろうか?

ちゃんと名乗り合った訳ではないので、うろ覚えだがそんな感じだったはず。
俺はガバリと立ち上がると足をドスドスと踏み鳴らして近づき、奴の胸倉を掴む。


「てめえええええ! 何してくれやがる!? あ、インデックスちゃんを助けてくれたのはありがとう、でも俺を傷つけたのは死ね! 今すぐ死ね!!」


「…相変わらず変態だな、垣根 帝督。(…………あの人がこれを恐れる意味が分からないな)」


「変態だと!? それならク●吉の方が数倍変態だ!! それと、俺は変態じゃない! 変態と言う名の紳士だ!!」


「んな!? 英国紳士と君を同列にするな! 侮辱するにもほどがある!」


俺の紳士発言にアナルヌスは激怒の表情を見せ、逆に俺の胸倉を掴む。

殴られる!?

そう思って目をギュッとつぶった俺であったが、その直前にそこに上条が割って入った。


「待て待て! 落ち着けお前ら!!」


「離せ、上条 当麻! こいつを一発ぶん殴らなくては僕の苛立ちは治まらない!!」


「きゃー!! 誰か助けて、犯される!!」


「お前も黙ってろ帝督!」


俺はそう言われて上条から拳骨をもらう。
仕方がないので、すごすごとアナルヌスの胸倉を離し、距離をとった。
上条はアナルヌスと向き合うと、どこか真剣な声を出す。


「…『説得』の方はどうなった?」


ソレに対して、アナルヌスは顔を伏せて目を閉じた。


「…治療法は、見つからない。クロウリーの書(ムーンチャイルド)を参照した記憶を殺しつくす魔術だと思われるが…。治療法は、それこそ一〇万三〇〇〇冊の中だ」


「…じゃあ、連れ戻しに来るんだな?」


「…再記録、をさせるつもりだ」


「そうか」


俺にはもちろん、俺の傍らにやってきたインデックスちゃんも何の話か理解できないでいる。
しかし、俺はインデックスちゃんと違って一つだけ分かっていた。

これは、インデックスちゃんについて語っているのだと。

俺はそれを察すると、彼女の背中を押してその場を離れるようにして歩きだす。
ソレを見咎めたアナルヌスは、俺にいらだった声を出した。


「待て、どこに行く?」


「先に帰っている。もう、5時だからな。鴉が鳴くから帰りましょう、だ。分かったか、アナルヌス?」


「…僕の名はステイル・マグヌスだ!」


「はいはい。アナルヌスな」


「このっ!?」


「じゃあ、先に帰っているけど別に良いよな、上条?」


俺はアナルヌスの言葉を無視して上条に声をかける。
すると、上条は酷く真剣な顔をしたまま「頼む」と小さく呟いた。


「とうま?」


インデックスちゃんは、その表情に何を見つけたのか、か細い捨てられた子猫と同じような声を出す。
しかし、上条は振り向かずに、声だけを彼女にかけた。


「帝督と先に帰っていてくれ」


「…うん、わかった」


俺はそう言って肩を落とした彼女の背中を押しながら歩き始める。

もう、この場に俺たちはいるべきではないのだ。
俺は浮かない顔をする彼女を励まそうとある提案をする。


「そうだ、インデックスちゃん。アイスとか食べたくない?」


「…もう、しぇいくを飲んだからいらない」


インデックスちゃんは表情を無くしながら、俺にされるがまま歩き始める。
そして、一度だけ上条がいる場所を振り向いた。
その目には、拳を固く握りしめた上条の背中だけが写っていた。






[6950] 二章 三話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/05/02 03:18


上条と俺は同じ学生寮に住んでいる。
しかも、隣の隣。
まあ、お互いの間にはサングラスのシスコン野郎がいるが、そんなことは関係なく良く遊びに行ったりする。
それはインデックスちゃんが来てからも変わることなかったが、実は彼女は俺の部屋に上がるのは今日が初めてであった。

だから、だから、誘拐とかじゃないから!
俺は美琴ちゃん一筋だから! インデックスちゃんのろりぼでいには何の反応もしないから!
あ、美琴ちゃんの青い果実なぼでいには限界まで反応しますよ? もちろん。


『お帰りなさいませ、ご主人様』


「ひゃ!? 人形が喋った!?」


「ああ、それは俺の108式美琴ちゃんコレクションの一つ『メイドな美琴ちゃん人形~コミュニケーション用~』だ。
あとは、『オナペット用』とか『抱き枕用』とかがあるんだ。可愛いだろう?」


「オナペット? なにそれ?『スフィンクス』みたいなペットのこと?」


「あはは、ちょっと違うなー。あと、その猫は上条の家に置いてきなさい」


インデックスはいつの間にか抱えていた子猫を持ちながら、ぷくりと可愛らしく頬を膨らませる。
因みに、子猫の毛並みは三毛だったりする。
……オスだったら学園都市の実験室に売り払おう。


「ぶー、スフィンクスと私は一心同体だもん」


「拾ってきたばっかりの癖に名前をつけるんじゃありません」


「いいの、飼うって決めたの!」


「そう言うのは上条に言いなさい。お兄さんは美琴ちゃんの頼みじゃなきゃ、飼う気はさらさらありません」


因みに美琴ちゃんが頼んで来ても対価は要求するつもりだ。
具体的に言えば、こう、手で俺の息子に挨拶してもらったり?

うん。取りあえずC快とかを上げていけば大丈夫な気がする。

俺がそんな事を考えてニヤニヤしていると、不意にインデックスちゃんの表情が曇った。
そして、先ほどまでの『いつもの』彼女らしい表情が消え、どこか不安そうな迷子になった子供のような表情となった。

俺はその表情を知っている。

これは、彼女が『インデックス』を演じきれなかった時の表情だ。上条の前では決して見せることのない、彼女の素顔だ。
そして、彼女はしゃべりだす。まるで、これから説教を食らう小学生のようにびくびくと怯えながら。


「ねえ、てーとく。とうまは、なんで私と一緒に居てくれているの?」


それは、恐らく彼女が自分の中で貯めこんでいた言葉なのだろう。
そう呟くと彼女はポロポロと涙を流しながら、胸元に抱いた猫をそっと抱きしめた。


「私ね、記憶がないでしょ? っ、それで、それでぇ」


そう言いながら彼女は肩を震わせて、嗚咽を漏らし始める。
彼女の言いたいことは分かる。記憶が無くなって目覚めてみれば、自分にとても優しくしてくれ共に暮らす少年がいた。
そして、その少年は昔から自分のことを知っているようだ。

ここで、彼女が疑うのは上条が『以前のインデックスちゃん』を『今のインデックスちゃん』に重ねているのではないかと言う事だ。

事実、そんな感じはしている。

インデックスちゃんは常に上条の顔色を窺い続け、馬鹿は彼女のそんな様子を気がつかずに今までどおりに彼女に接している。

それが悪いとは言わないが、事実こうしてインデックスちゃんに負担がかかっているのだから、対策を考えた方が良いな。
と言っても、俺はインデックスちゃんを慰める気なんてさらさら無いのだが。

いや、もうインデックスちゃんは俺の大切な人の一人よ? でもさ、こういう悩めるヒロインを助けるのもヒーローの役目だろ?

だから、俺は慰めるようなことはせずにただ、語るべく口を開く。
『俺の人生(モノガタリ)』に介入してきた、最高の馬鹿の俺から見た人物像を教えるべく。


「…インデックスちゃん。少し、面白い話をしてやるよ」


「え?」


「ある所にいた、とても不思議な体験をした男の話。その男が見つけた、最高の光の話」


「ひか、り?」


「最高の女と、生涯最高の親友さ」


いつだっただろうか、俺は彼女にこの話をしたことがある。
もちろん、彼女はこの話を覚えていないだろうし、前回と同じように楽しんでくれるとも限らない。
それでも、俺は話そうと思う。
最高の俺の光の話を。










―――――――――――――――――――――――――――――――――











産まれ落ちた瞬間から特殊な事情で天才と呼ばれる運命にあった男がいた。
1歳のころから舌っ足らずながらも言葉を話し、計算まで容易く成し遂げたのだ。
その男の親は狂喜乱舞し、自分たちの息子を褒めそやした。

そんな親たちは、周りから勧められるままに幼い彼を天才の都市に送り込んだ。

その天才の都市においても少年はその特殊ぶりを明らかにする。
彼はわずか幼稚園の時にその能力を開花させたのだ。

そんな男が転落を開始するのが小学生の時。

甘い顔をして近づいてきた科学者たち。「君の能力は、全ての人類の可能性だ!」という言葉をささやいたのだ。

まんまと乗せられた男は、その言葉に乗せられて科学者たちにどのような能力か分からない自分を調べさせた。
投薬や脳髄に走らされる電流に歯を食いしばりながら耐えた。
「人類の先駆けになれる」という言葉を信じて。

しかし、科学者たちはしばらくの後にあっさりと男を切り捨てた。
能力が不明な男よりももっと研究しやすく、価値があるというガキに研究対象を乗り換えたのだ。

中途半端な開発は、かつて天才だった男を凡人へと叩き落とし、男はその命すら奪われかけた。
その瞬間、男の能力は暴走する。
男を『処分』しようと周りにいた黒い服の男たちはもちろん、ゴミを見るような眼で自分を見送った科学者たち。
その全てを巻き込んで、暴走した。

そのしばらくの後、男は普通の学生として学校に戻された。

その命を取られなかった理由は知らない。
それでも、生きて日のあたる世界に返された男は、全てを斜に構えて過ごすようになる。
差しのべられていたはずの手を踏みつけて、一人茨の道を歩いていたのだ。


「…要するに、グレたの?」


「身も蓋もない。でも、その通りかな。それで、路地裏とかで慣れない喧嘩ばっかしてた。言っておくけど、強くはないよ?
ただ、喧嘩を売ってボコボコにされるだけ。そんな無意味な毎日を過ごしていた時に、ようやく見つけるんだ。
眩しくて、手が絶対に届かない光を」












―――――――――――――――――――――――――――――――――









「おーい、帝督。いるかー?」


上条が帰ってきたのは、俺が話の合間にインデックスちゃんにカルピスを出してやった時だった。
因みに、自分のバベルの塔から迸る白濁液じゃないよ? ちゃんとした製品の方ね。
この手のまともな飲料はあまり学園都市内では流行していない。
代わりに訳の分からない実験段階の飲み物が出てきたりする。

ソレはさておき、インデックスちゃんは現在その白濁液をストローで啜っていた所だ。

上条は勝手知ったる他人の部屋な俺の部屋に堂々と上がりこむと、俺を見つけて苦笑した。


「悪いな、預かってもらっちゃって」


「気にすんな。それよりも意外と早かったな? アレか? インデックスちゃんにそんなに早く会いたかったと」


「っば、だれもそんなこと言ってねーだろ!!」


上条は俺がからかうと、そう言って赤くなりながら後ずさる。
俺はそれをみながらにやつき、インデックスちゃんは額に青筋を浮かべながら頬を膨らませた。


「とうまは、私に会いたくなかったの? 私、ずっと待っていたのに」


「え、あ、いや」


上条は焦りながら必死にフォローしようとするが、咄嗟に言葉が出てこないらしく、しどろもどろになる。
だが、即座にインデックスちゃんから視線を逸らし、俺に向かって早口にまくしたてるように言った。


「いやー、悪いな帝督。実は、この後少し野暮用ができちまってな! 今晩だけ、インデックスの事を頼む」


「俺は構わんが、お姫様はどうだろうな?」


「むーーーー」


インデックスちゃんは今度は泣きそうになりながら、上条を睨みつける。
上条は一瞬たじろぐが、俺に一瞬辛そうな顔を見せるとすぐに踵を返した。


「…日が変わる前には、必ず帰ってくる」


「はいはい」


俺が何でもないことのように手をひらひらとさせて見送ると、上条は困ったように苦笑しながら再び外へと出て行った。
俺はその後ろ姿を見送りながらため息を吐く。
椅子に座っていたインデックスちゃんは、その瞳に溜めた涙を拭っていた。

俺はそんな彼女の前に置かれた空になったカルピスのグラスを手に取りながら、口を開く。


「おかわりは?」


「いる」


はいはい。お姫様の言う通りにしましょうねー。

俺はインデックスちゃんの為に居間から少し離れた所にあるキッチンの冷蔵庫からカルピスの原液を取り出した。

……思ったんだけど、この原液をそのまま飲ませて咽させたとしよう。
すると、その口からは当然ながらカルピスの原液が出てくる。
想像してみろよ、大好きなあの子が口から白濁液を垂れ流すんだぜ?
まるで事後のようだ!!
マーべラス!!
やっべ、今度ぜひ美琴ちゃんに試してみよう!

俺が歴史的発見に身を震わせたその時、



パタン



と、玄関のドアが『閉まる』音がした。


「?」


何かが変だとは思いながら、俺はそのままカルピスを正確に測りながら作り、のんびりと居間に戻る。
そして、居間を覗き込んだ瞬間、絶句した。

そこに、三毛猫を抱えた銀髪の少女がいなかったから。


「まさか!?」


カルピスを取りあえず机に置いて、俺はそのまま真っ先にキッチンすぐ横のトイレの中を確認する。
しかし、その中にも彼女はいない。と言うか、電気もついていないので、彼女がここを使ったとは考えにくい。

残る可能性は…

慌てて俺が玄関まで駆け戻ると、そこには綺麗に整えられていたはずのインデックスちゃんの靴がどこにもなかった。


「嘘だろ!?」


俺が慌てて玄関を飛び出すも、廊下のどこにも彼女の姿は見えない。
もしかしら、上条の部屋に戻ったのかもしれないと、2つ横の部屋のインターホンを押してみるが反応はない。


「まさか、上条を追いかけて行ったのか?」


そうとしか考えられない。
しかも、上条が出て行ったのはほんの少し前だ。考えられないことではない。

俺はそのまま手摺から顔を出して辺りを見回す。
すると、ちょうど上条と赤毛の神父が大通りへの角を曲がったところであった。

その少し後ろには、茂みに隠れた銀髪が見える。


「あんの、馬鹿!」


俺は全速力で階段へと駆けよった。

――後にして思えば、ここで俺が手摺から能力を使ってでも飛び降りていたら、インデックスちゃんたちに追いつけたかもしれない。
そして、あいつに出会う事もなかっただろう。












????side

1万とんで19人。

そう言われて何の数字か分かる人間なんていないだろう。
すっかりと暗くなった中で、私はフラフラと路地裏を歩いていた。
途中、何度かうざったいゴミ虫どもに集られたりもしたが、私はただ『歩いていた』。
それだけでゴミ虫どもは弾き飛ばされ、私の進路から消え失せる。

だが、私の心は晴れない。

心の底の汚泥で何かが蠢く。
いや、その正体は何か分かっている。

あの少女たちだ。
自分に殺されるためだけに存在している少女たち。
彼女たちは死した後にまるで呪いのように、泥となって私の心の中で溜まっているのだ。
いや、これはまさしく呪だろう。

私に殺されていき、恨みだけを残すしかなかった彼女たちの。


「――馬鹿馬鹿しい」


私は自分の考えにそう結論をだした。
何故なら、彼女たちはそんな事を考えられる自由意志など存在しないのだ。
むしろ、自分たちを実験動物と同列に考え、その殺しを許容している。


「本当に――」


だから、そんな呪などと言うものは私の感傷に過ぎないのだ。


私には、そんなモノを感じることさえ許されないというのに。


「馬鹿野郎、が」


私は傍らのコンクリートの壁に手をついて、ズルズルと身体ごと寄り掛かっていく。
そして、眼を閉じて瞼の裏に浮かんできたのは、今日、それもたった今殺した少女の死体であった。

うずくまった私は、そのままその場で体育座をする。
そうすると、路地裏の影に私の体は全て収まりきってしまう。

まるで、闇と一体化したかのような感覚。
そこが、私がいるべき場所なのだと、そう改めて認識させられる。


「―このまま、」


闇に溶けられたら良いのに――


私がそう思っていると、不意に頭上から声を掛けられた。


「ごめん、ここどこだか分かる?」


迷っちゃてさーという声と共に私はゆっくりと瞼を開けて、その声を掛けてきた人物を見上げる。
その人物は軽薄そうな、まるでホストような男であった。

その瞳に路上でうずくまっている私への心配だの、下心など存在しない。
ただ、純粋に道を聞いてきただけ。

いや、そもそも私に対して完璧なまでに興味がないのだろう。


――なんだ、これは?


私は疑問に思ってしまう。
目の前の人間は、今までに私が見たこともない『変人』だった。








あとがき

言い訳はしません。少しオリジナル色を出したかのです。今は少し後悔している。



[6950] 二章 四話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/05/04 01:18

???? side



私は、まじまじとそいつの顔を見つめた。
少し見た目が良いかもしれないというだけで、別段変った点はない。ただ、一つを除いて。

その変人の眼は恐ろしく空虚であった。
私に自分から声をかけておきながら、少しも私に関心を払っていないのだ。
これを変人と言わずしてなんと言おう。

私は、その変人の登場に思わず身を固くし、彼を睨みつけた。


「なんだ、てめえは」


「てかさ、この変でツンツン頭の高校生と赤髪のノッポの神父の後をつけた銀髪の女の子を見なかった?
その子も目立つし、手に子猫を抱えていたからすぐ分かると思うんだけど…」


「…そんな変態知らねえ」


「あー、やっぱりかぁ。あそこの角が右だったな、多分。
くっそー、時間が遅くなってきたせいか人とも会わなくなってきたし…」


別段、私に話しかけているのではなく、独り言をつぶやいているような感覚でそう嘯く。
だが、私は何故だが彼の言葉に律義に反応してしまう。


「バカか、てめえ。ここは路地裏の奥の奥。それこそ、スキルアウトやゴロツキどもがゴロゴロしているような場所だ」


「ああ、なるほど。道理でいろんな奴らに絡まれるはずだ」


私の脅すような事実の報告に変人は少し驚いたようにした後、納得したのかあっけらかんとそう言った。
ここで私は目を見張ることとなる。
何故なら、彼の服には汚れはおろか揉み合ってついた皺もないのだ。

その事が示す事実が教えることは一つ。


(まさか、無傷で相手を追い払った?)


正直に言って、この辺りにいる輩は私のような『化け物』には遥かに劣るものの、それなりに実力があるものたちだ。
そんなゴミ虫を無傷で追い払ったとなると、この目の前のホスト然とした変人は少なくとも『大能力』クラスの実力があるという事だ。

とても、そうは見えないこの優男が。

だとしたら、こいつはなんてチグハグなんだろうか。
いや、恐らくは自身の内に矛盾を抱えているのかもしれない。
まるで、人を『後悔』もために自分から率先して殺しておいて、さらに激しく後悔する私のようだ。

そういう意味では、私たちは似ているのかもしれない。いや、似ていると断ずる事が出来る。

私がそんなことを思っていると、変人は思い出したかのように私を振り向く。


「ねーねー。もしかして、この辺りに詳しかったりする?」


「…一通りは」


私は素直にそんな言葉を呟いていた。
もし、普段の私を知る者がいたのなら、凄まじく驚いていただろう。

……もっとも、そんな者は存在しないが。

そして、変人は至極あっさり、それが当然であるかのように私に命令をする。


「じゃあ、俺を大通りまで連れて行ってくれない? 流石に大通りまで出れば、俺でも帰り道が分かるからさ」


私は、この学園都市で最も恐れられている存在だ。
そんな私にこうもあっさりと命令するとは、こいつの頭はイカレテいるのだろうか?

いや、こいつにはそんなことは関係ないのだろう。

何故なら、こいつは全くと言って良いほど私に意識を割いていない。
『この私』をなめ切っている。

その事実に無性に腹が立った。

こいつに私を認めさせたい。

そんな、普段の私では辿り着くはずがない考えに至ってしまったのは、きっと私が疲れているからなのかもしれない。
きっと、そうに決まっている。


「てめえ、好い加減にしろよ?」


私は、しゃがんだまま目の前に立つ変人の脚に向けて蹴りを繰り出す。
それは、本来なら大の男を倒すほどの威力など存在しない。
しかし、そこに私の能力が加わった瞬間に話は変わる。


「!?」


突然驚いたような顔になり、その場で仰向けに盛大に転がる変人。
私はそのまま立ち上がろうともがく男に馬乗りになり、その首に手をかけて締め上げる。
これも本来なら男の顔を苦痛に歪ませるには足りていないだろうが、私の能力を使えば、ほら。


「がっ、このっ…」


男はなんとか私の手を振り払おうとするが、私は自身の手に触れようとする男の手を『弾く』。
そして、驚愕に男が目を見開くと同時に、その耳に囁きかける。


「誰に物を言ってやがる? 連れて行ってくれないだぁ? ふざけろ」


「こんのっ――」


その瞬間、男は目を閉じて自分の内側に語りかけるかのように眉根を寄せる。
恐らくは、自分の能力を発動しようとしているのだろう。

だが、そんなものも私の能力の前では無駄だ。
私の能力はたとえどんな力であったとしても、その全てを拒絶する。

恐らくは、私の肌に傷一つつかないだろう。

さあ、自分の攻撃で自分を傷つけると良い!!

ふと、その瞬間に私は何故こんなに怒っているのだろうかと、今さらのように思った。



???? side out







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――








インデックスちゃんの後を追って家を出たのは良い物の、気がつけばどこか良く分からない場所に出ていた。
仕方がないので、そばでうずくまっていた人物に声をかける。

すると、その人物は顔を上げる。

闇の中にキラリと光る紅い双眸。
アレ? これって、なんてナルガ○ルガ?

俺はそう思ったのもつかの間、その子の髪の毛の色が白だと気が付き少しだけガッカリに思った。

一瞬、擬人化したのかと思ったのに。まあ、俺は美琴ちゃん一筋だから擬人化してきてもその思いにこたえて上げられない訳だが。

俺はなおもインデックスちゃんの容姿を伝えたりして、なんとか情報を引き出そうとするが返ってくるのはにべもない答え。
脈なしだと判断した俺は、そのまま独り言をつぶやきながらその場から去ろうとする。
すると、その人物が不意に口を開いた。


「バカか、てめえ。ここは路地裏の奥の奥。それこそ、スキルアウトやゴロツキどもがゴロゴロしているような場所だ」


「ああ、なるほど。道理でいろんな奴らに絡まれるはずだ」


その言葉に俺は今さらのように、ここまで来るまでにやたらと絡まれた理由に気がつく。
もちろん、俺は喧嘩なんて全く強くないので全力で逃げてきたのだが。
そうか。ここはいわゆる彼らの縄張りだったのだ。
縄張りに入ってきたよそ者を襲おうとするのは当たり前だろう。いや、俺が女じゃなくてよかった。
女だったら、これから「ひぎぃ!」な展開が待っていたことだろう。

そう考えると、目の前の少女は何なのだろうかと言う疑問が浮かび上がってくる。
見た感じ髪と同様に肌とかも滅茶苦茶白く、顔の形も整っている美少女なのでそういう輩に真っ先に狙われそうな顔をしている。
と言うか、服装はシャツにデニムとボーイッシュだが、体系的にも少し少年のような感じはしている。

…男であっても、男に襲われそうな顔だな。

いや、待て。もしかしたら、この子がとても強いという可能性がある。
むしろ、その可能性が高いだろう。
だとしたら、これから道をこの子に聞いて帰るよりも、このままこの子に連れて行ってもらった方が安全なのではなかろうか?

いや、むしろそうだろう。

うん。ウホッな変態がいる可能性もあるのだ。そういう変態からもこの子に守ってもらえば良いな。
俺の後ろの初めてをもらうのは、ペニスバンドをつけた美琴ちゃんと決まっているのだ。
そうと決まれば、早くこの子を丸めこんでしまおう。

まあ、断られたら能力を使って無理やり案内してもらえば良いし。


「ねーねー。もしかして、この辺りに詳しかったりする?」


「…一通りは」


ビンゴ。
くっく、ならばお願いしましょうか?


「じゃあ、俺を大通りまで連れて行ってくれない? 流石に大通りまで出れば、俺でも帰り道が分かるからさ」


うん。大通りまで出れば安心だ。
ああ、これでおれの処女は守り切ることができた。
美琴ちゃんとのキャッキャクチュクチュな展開を望むことができた。
まあ、美琴ちゃんとする時もペニスバンドなんて使うつもりは毛頭ないけどね。基本的に美琴ちゃんはMだと思うし。

俺がそんなしょうもないことを考えていた時、不意に少女から殺気が飛んできた。


「てめえ、好い加減にしろよ?」


ゾクリと背中に氷柱を差し込まれたような感覚。
その感覚に俺が身体を震わせた瞬間に、女の子は俺の脚めがけて蹴りを放ってきた。
その速度は別段早いわけではないが、身がすくんだ俺はその蹴りを正面から受けてしまう。


「!?」


明らかに俺よりも体重が軽いはずの少女の攻撃は、まるで滅茶苦茶マッチョなおっさんの攻撃を受けたかのような衝撃が走る。
まさか、この子の能力は怪力か肉体活性。もしくは何かの効果で馬鹿力を発揮するようなものか!?

俺はそのまま衝撃を受け流すべく仰向けに綺麗に倒る。
その為、ダメージはなかったがすぐに動き出せることができなかった。

そして、気がつけば俺は少女に馬乗りになられて首を絞められていた。


「っが、このっ…」


息が上手く出来ない。本当に少女の力は万力のようで洒落になっていない。
このままだとガチで殺される!


「誰に物を言ってやがる? 連れて行ってくれないだぁ? ふざけろ」


その間に少女が何事か俺に囁くが、俺には何も聞こえない。
むしろ聞く余裕なんて存在しない。リアルで迫る命の危機に脳みそは反射的に能力の演算に全力を注ぐ。


「こんのっ――」


そんな言葉を口にしたと思う。
俺はその瞬間に己の中へと埋没し、ただ自分だけの領域へと語りかけ、能力を解放する。

同時に、俺の背中からは小さな輝く光の翼が出現する。



『脳内メルヘン』!!



能力は一瞬しか持たず、すぐさま翼は霧散してしまうが、一時的にせよ能力の発動に成功する。
その効力により、少女はすぐにトロンとした目になり、俺の首を絞める手の力を弱める。
俺はその一瞬のすきを見逃さずに、少女の腹部を蹴り上げる。

すると少女は先ほどまでの怪力はどこへやら、あっさりと吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。


「きゃっ!?」


「げっほ、げっほ!!」


俺はそのすきにせき込み、酸素を肺の中に送り込む。
すると、少女は心の底から驚いたという表情で俺を見てくる。


「貴方、何?」


先ほどまでのどこか汚い言葉遣いとは違う、どこか彼女の素の部分から出てきたと思われる言葉に俺は一瞬ビックリさせられるが、今さっき殺されかけた身としては、取るべき選択肢は一

つしかない。

即ち、背中を見せて、全力での逃走。

どんなに無様でも構わない。
とりあえず、生き残るための選択。

俺はそのまま路地裏を滅茶苦茶に疾走し始める。


後ろで少女が何かを叫んだ気がしたが、振り返ってなんてやらない。
てか、このまま正面からぶつかったらガチで殺される!!
俺はそのまま路地裏の更なる奥へと走って行った。

そう言えば、上条やインデックスちゃんは無事だろうか?

俺は、ふとそんな事を考えた。










[6950] 二章 五話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/05/11 00:18
俺は走った。
後ろからゆっくりと俺の後を追いかけてくる女の足音が聞こえていたから。
ちらりと後ろを振り向くと、それほど急いで歩いている訳ではないのに凄まじい速度で追いかけてくるナルガ○ルガ亜種娘が見えた。


「ち、畜生!」


アレか。ブレード攻撃か!? くっそ、音爆弾を持ってくれば良かった!!
俺はそんな現実逃避を試みながら、背後の少女の気配を必死に振り切ろうとする。
だが、少女はなおも信じられない速度で俺に肉薄してくる。


(くそが!! これ、なんてホラーゲーム!?)


複雑に入り組んだ路地裏。俺はそこを滅茶苦茶に走っていると言うのに、少女は俺を見失うどころか正確に追尾し、ジリジリとその距離を縮めている。
ぶっちゃけ、捕まった瞬間にデッドエンドだ。
ちくせう、上条だったら絶対なんか良い感じになってラブフラグが立ったことだろうが、俺だと死亡フラグしか立たねえのかよ!?

良いもん、良いもん!!
俺には美琴ちゃんがいるもん!

最近会えてないけど、毎日メールしているんだから!
でも、美琴ちゃんの返信メールがいつも携帯会社からの『メールアドレスが正しくありません』なのはどうしてだろう?

あ、なんか心が折れそう。

待て待て! ここで心が折れたら速攻で追いつかれて、死ぬんだぞ!?
アレだ、美琴ちゃんとの輝かしい思い出で心を補強しろ!

思い出せ、想像するのは『美琴ちゃんと手をつないだあの日の自分(最強の自分)』だ。


――I have born of my desire(体は、欲望で出来ている)


あ、なんか股間が勃った。
って、ヤヴェエエエエ。股間の布の面積が変わったことにより、足が動かしにくくなりやがった!?
くそう、いつも元気なジュニアがこんな時だが恨めしいZE! まあ、普段なら大歓迎だけど、流石に今はまずいだろ!?

俺は擦れてしまう分身のせいで速度落ちると、それをチャンスと見たのか少女は一気に速度を上げる。


「お、おい、待てよ!」


「だ、誰が待つか、くそったれ!」


畜生、こうなったら能力を使って上空に……。

俺がそんあ死亡フラグっぽいことを考えて角曲がった瞬間、俺は柔らかい何かにぶつかった。


「ぐぼぁ!?」


「きゃっ!?」


思わず俺は足を止め、吹き飛ばしてしまったものを見る。
すると、そこには天使様がおられた。


「あ、いたたたたぁ~。もう、何よいきなり……」


「みことちゃああああああああああああああん!!」


「って、きゃああああああ!? また、あんたか! 抱きつくな!」


天使様、こと我らがグレートプリチープリンセス御坂 美琴様は、ぶつかったことにより、地面に尻もちをついていたが、俺はそんな事関係なしに美琴ちゃんに抱きついた。
美琴ちゃんは叫びながらなんとか俺を引きはがそうとするが、俺はがっしりと彼女の背中に手をまわし、その薄くも確かに自己主張するその胸に頭をグリグリと押しつける。

この感触! この感触が懐かしかった!!

だって、最近の美琴ちゃんってば忙しそうでエンカウント率が低かったんだもん!
っはー、もう今なら死んでも良い! 死んでも後悔はない!!


「だーかーらー、離れろっつってんのよ!!」


「いやじゃー!!」


ゴスリとついに俺のこめかみを抉る美琴ちゃんの肘。しかし、それを食らってもなお俺は倒れず、一層強く美琴ちゃんに抱きつく。
はっはっは、子泣き爺と呼んでくれても構わんよ。

そうこうしている内に、俺の背後から声がかかった。


「で? 俺はいつまでその茶番に付き合えばいいんだ?」


俺はその声を耳に受け流しながら、無言で美琴ちゃんを抱きしめる手から力を緩めると、そいつを振り向いた。

闇夜に光る紅い瞳。

そして、その姿を闇から浮かび上がらせるかのような白い髪と肌。

普段の俺が見ればお漏らしもののその姿も、後ろに美琴ちゃんがいてくれるだけで少しも怖くなくなる。
ああ、これでようやく勇気が出せる!


「それで、何の用だよストーカー。わざわざ俺を追いかけて来たんだ。絶対に外せない用事(イベント)があるんだろ?」


「…………」


俺が尊大にそう言い放つと、彼女は複雑そうな顔で自分の腹部、先ほど俺が蹴り飛ばしたところを撫でる。


「お前、さっき…」


「一方通行(アクセラレータ)!!」


しかし、その言葉は皆まで言う前に突然俺の前に現れた美琴ちゃんによって邪魔された。
アセックスレータ?? な、何と言うギリギリな名前なんだ!?
と言うか、名前か? 確実にインデックスちゃんと同じギリギリな名前って感じがするぜ。


「あん? …っ、お前は!?」


アセックスレータは、美琴ちゃんを視界に収めると、一瞬だけ驚いたような顔つきになる。
しかし、すぐさまその驚きを表情から追いやって、酷薄な笑みを浮かべた。


「おいおい、オリジナルの登場かよ? なんだ、てめえも『実験』に混ざりに来たか?」


「黙んなさい。それより、この変態を追いかけてたみたいだけど、どういう理由かしら?」


「てめえには、関係ねぇ」


「あっそ。でもね、あんたになくても、私とこいつは一応知り合いだからね。見捨てる訳にはいかないのよ」


…………あっるぇ~? 普通はここで美琴ちゃんパワーを注入し終えた俺が、このナルガ○ルガを討伐して話が終わるんじゃないの?

世界は、こんなはずじゃないことばかりだ。

美琴ちゃんとアセックスレータはにらみ合い、ピクリとも動かない。
いや、美琴ちゃんの体からは絶えず電撃が迸り、空気がパチパチと乾いた音を立てている。

正にヤル気、いや殺る気充分だ。

ソレに対し、アセックスレータはつまらなそうに美琴ちゃんを見ている。
と言うか、両手をデニムのポケットに突っ込んで、やる気の無さをアピールしていたりする。

オイオイ、いくらなんでも『超能力』をなめすぎだろ?
けっ、せいぜい地獄に行ってから後悔するんだな、ひゃっはー!!

その瞬間、美琴ちゃんが動いた。

まずその手に電力で集めたのだろう、一瞬にして黒々とした砂鉄が集まり、激しく流動しながらまるで鎌首をもたげた蛇のようにアセックスレータに殺到する!
だが、それは吸い込まれるように地面に叩きつけられる。


「!?」


「逃げるわよ!」


美琴ちゃんはそう叫ぶと濛々と土煙りが上がる中、俺の手を取って駆けだした。

え? また走るの? と言うか、美琴ちゃんが、学園都市第二位が逃げなきゃいけない相手ってなんだよ!?
俺は彼女と共に駈け出しながらふとそんな事を思った。
そして、思いあたるのはただ一人。

名前は忘れたが、この学園都市の『最強』の第一位だ。

じょ、冗談じゃねぞ!?
俺は駆けだしながら、背中に冷や汗が伝うのを感じた。

前をかける美琴ちゃんの顔も、土煙りのせいで見えにくいが、心なしかひきつっている。
これは、本物だ。


俺がそう思った瞬間、あの声が聞こえた。


「おいおい、まさか逃げるんじゃねえだろうな?」


その直後、土煙りから飛び出してきたゴミ箱が俺たちの進路にあった壁に激突。ガラガラと瓦礫が崩れて俺たちの行く手を塞いだ。
とは言え、そこまで破片は落ちていないので、抜けようと思えば抜けられるのだが、美琴ちゃんは何を思ったのかその場で俺の手を離し、振り向いた。


「ちょっ、美琴ちゃん!?」


「あんたは、先に逃げなさい」


「いや、無理だから! 惚れた女を見捨てるほど俺は腐っていないよ!?」


「良いから! あんたじゃ、あいつと向かい合った瞬間に殺されるわよ!?」


いや、さっき一応蹴り飛ばしたから! あいつも油断してたのかもだけど、そこまで鬼性能じゃないから!
それでも、美琴ちゃんは俺をを突き飛ばすと、そのまま未だ晴れない土煙りの中に駆け込んでいく。

いやん、美琴ちゃんってばせっかちさん。そんなに僕のホットカルピスが欲しいの?

って、ふざけている場合じゃねえええええええええ!!

やばいよ! 今、美琴ちゃんが突っ込んだら…

美琴ちゃん突貫→アセックスレータと戦闘→敗北→俺の嫁消滅

させるかあああああああああああああああああ!

アレだよ? まだ美琴ちゃんとはめっこ(フランス書院風)もしてねえのに、バッドエンドなんてごめんなんだよ!
俺は魂の叫びと共に土煙りの中に突貫。
同時に股間の美琴ちゃんレーダーを最大出力!

美琴ちゃんは俺の1m前か! よし、このまま肩に担いでホテルまで直行! じゃなくて、離脱だ!

俺はそのまま美琴ちゃんめがけて手を伸ばす、とその瞬間美琴ちゃんとアセックスレータの声が聞こえた。


「敵わなくても!!」


「ハッ、馬鹿が! 死に急ぎやがったな!!」


直後、鋭く美琴ちゃんの能力が炸裂する音が聞こえ、俺の右手は空を切った。


――え?


あれ? どこだ、美琴ちゃんは? い、嫌だなぁ。俺のセンサーも錆びついたか? もしかして、その内無機物とかにも反応しちゃうの?

俺がふとそんな事を思っていると、不意にセンサーが美琴ちゃんの位置を教えてくれる。
即ち、目の前にいると。


「?」


次第に土煙りが晴れていく中、俺は何の気なしにしゃがみ、手を伸ばす。
すると、そこには何かがいた。


「? 美琴ちゃん?」


俺はそう呼びかけてその物体を揺する。と、何かヌルリとした感触が俺の手に伝わる。


「うわ、なんだ?」


そして、土煙りが晴れ――


「美琴、ちゃん?」


俺の目の前には額から血を流した美琴ちゃんが倒れていた。

その体はぴくりとも動かず、痛そうに顔を歪めながら荒い息を吐いている。


「バカな奴だ。てめぇの能力で自滅してりゃあ、世話ないぜ」


そう、呟く馬鹿の言葉など気にしない。
俺は、フラフラと彼女を抱え上げてその名を呼ぶ。
俺の中の、絶対の太陽の名を。


「美琴ちゃん?」


「……っ、……ぅ」


しかし、返ってくるのは苦悶の声ですらない苦しげな呼吸音。

こんな、こんなことをしやがったのは、どこのどいつだ?

決まっている。そんなのは、俺の前にいる――


「アセックスレータァアアアアア!!」


「んなっ!!? あ、一方通行(アクセラレータ)よ、一方通行!!」


「あ、わりっ。アクセラレータァァアアアアアア!!」


「……貴方、とことんしまらないね」


「黙らっしゃい! てめえ、俺の美琴ちゃんに手を上げてただで済むと思ってんのか!?」


「へぇ? じゃあ、どうしてくれんだ?」


俺はギロリとバカ女を睨みつけて、右手の中指を天を突かんばかりにおっ立てる。


「決まってんだろ!」


――――ぶち殺す!!


俺はそう言った瞬間、美琴ちゃんをお姫様だっこで抱え直し、能力を発動。
翼を広げながら、大空へと舞い上がる。
それを見て俺が攻撃してくると思ったらしい一方通行は、思わず身構える。


くくく、馬鹿が。誰も今すぐとは言ってないだろ?


「今度会ったら、『い、いぐぅぅぅぅぅううううう!』な目に合わせてやるからな!? 覚えていやがれ!!」


「は、はぁ!?」


俺はそう言うが早いか、一目散に空を駆け上って退散した。
とは言え、すぐに推進力が落ちてしまうので、しばらく飛翔した後に俺は手ごろな場所に降り、走り出す。
背後から一方通行が追ってくる気配はしない。
よっしゃ! 撒いたぞ!!

って、やべえ。俺は道に迷っているんだった。


――どうしよう。


俺の手の中では、美琴ちゃんが苦しそうに身をよじっていた。





[6950] 二章 六話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/05/10 23:03

一方通行から逃げ切った俺は、取りあえず頭から血を流している美琴ちゃんの治療をすることにした。
ちなみに、まだ路地裏にいます。だって、もうここがどこだかさっぱり分からないんですもの。
取りあえず、意識がないのであまり頭を揺らさないようにして俺の膝を枕に横になってもらう。


うへへへへ~、お医者さんごっこのじかんですぞ~。


そっと彼女の額にかかった髪を分け、俺はその額の傷を露出させる。すると、そこには出血の量の割には小さな傷痕があった。
しかも、どうやら倒れた時に石か何かで切ったのだろうか? 少し傷跡が汚い。

俺は取りあえず、そこにハンカチを当てて強く押さえる。
本当ならすぐに病院に連れて行ってあげられたなら、せめて傷を水道の水で洗ってあげられたなら良いのだが。
雑に治療するともしかしたら、この怪我は痕が残ってしまうかもしれない。

まあ、俺的には痕が残っても全然モウマンタイなんですがね?

だけど、美琴ちゃんの気分的に嫌だろうさ。美琴ちゃんは女の子だ。
自分の容姿を大切に、それこそあまり傷を作りたいとは思わないだろう。仮に、今思っていなくても今後、高校性、いや高校生になった時にでも後悔するだろう。
俺としては美琴ちゃんが悲しむのはNGなので、なんとかしてやりたいのだが。いかんせんどうしようもない。
せいぜいが、今やっている止血だ。

ごめんよ、役立たずで。

俺は自分の無力さに歯噛みしながら、美琴ちゃんの頭を撫でる。
すると、ふとあることに気がついた。

それは、倒れる美琴ちゃんの右手の指先。
まるで、まるでそこだけ焼き鏝を押しつけられたかのような電流斑、俺は呆然とそれを見る。

間違いない。これは、感電した際の症状だ。
一般的に、局所的に電流を受けるとこのようになり、皮膚が裂けたり、硬質化することもある危険な症状の一つだ。
この場合は、皮がめくれてしまっている。と言う事は、美琴ちゃんは感電したことになる。
しかし、『超電磁砲』の異名をとるほどの『超能力者』たる美琴ちゃんが、自分の領分である『電気』で感電なんてするのか?

俺はそこで美琴ちゃんがやられた際の情景を思い出す。
土煙りで姿は見えなかったが、あの時の美琴ちゃんは一方通行に電撃を放ったはずだ。

空気が破裂したような音がしたから、間違いはないはずだ。

が、実際に倒れたのは美琴ちゃん。
一方通行は、あの時『バカな奴だ。てめぇの能力で自滅してりゃあ、世話ないぜ』とかなんとか言っていた。
すると、美琴ちゃんはあの時の攻撃で自滅し、そのまま倒れて意識を失う際に頭を打ち、額を切ったのだろう。

だが、それこそまさかだ。

美琴ちゃんは『超能力者』だぞ?
自分の能力の制御にそう簡単に失敗するとは思えない。


何かが、結果を導き出すための要因の何かが足りていない。


俺はそこまで思考したが、これ以上は何も思いつかない。
ああ、やめやめ! こんなことを考えても、どうしようもない!!

取りあえず、一方通行のやつは泣いて許しをこうまで殴るのをやめない! 美琴ちゃんはなんとか路地裏から出て救急車に来てもらう!

うん、そのためにはまずこの路地裏を考えねばならんな!
そうと決まれば、話しは早い! とりあえず、美琴ちゃんのおっぱいを揉んでみよう!
そうすれば、美琴ちゃんのおっぱいも大きくなるし、道が分かるかもしれない!

俺はいそいそと美琴ちゃんの胸に手を伸し、


「……っ、はっ」


苦しそうに歪む美琴ちゃんの顔を見てしまう。


「――――バカか、俺は」


自重しろ、大好きな子が苦しんでいる時になんてことをしようとしているんだ、俺は。
違うだろう、ふざけたいわけじゃないだろうが!

俺は拳を固く握りしめると、思いっきり自分の頬へと振り抜いた。

バキリ、と鈍い音が路地裏に響く。
鈍い痛みが俺を襲うが、これで良い。いい具合に気合いが入った。


「さて、少し歩くとしますか」


美琴ちゃんの額の傷は、すでに血が止まっており、動かすのは怖いが移動しないことには何も変わらない。
むしろ、早く病院に届けて精密検査を受けさせなければ。
感電は怖い。
身体に残る傷痕もそうだし、運動機関への障害がおこることもあるのだ。
いや、心臓に近い左手に電流を浴び、」心室細動を起こさなかっただけでも幸運だったといえるのだろうか?

俺は美琴ちゃんをそっと背中に背負う。

完全に力が抜けてしまっているためか、その体はそれなりに重い。
だけど、俺は思った。


――なんて、軽いんだろう、と。


守ろう、この子を苦しめるもの全てから。
そう、心に決めた。

てか、アレ? 俺ってばなんか格好よくね?
これって美琴ちゃんとのいちゃつきフラグじゃね?
むしろ、美琴ちゃんが俺に惚れるんじゃね?


み な ぎ っ て き た !!


よーし、おぢさんがんばってみことちゃんをおんぶするぞ~。

俺はそのまま路地裏から出るべく歩き出す。
道は分からないが、なんとかなる気がした。
うん、たぶんこっちで正解だろ。こう言う時の主人公ってのは、だいたい正解を引くんだよね。
ウハッ、俺ってばマジで主人公っぽくない?


「――そちらに行くと、さらに路地裏を彷徨う事となります、とミサカはいたいけな中学生を背負う変質者に嫌々ながら助言します」


「!?」


突然、横合いから掛けられた声。
その声は、本来なら聞けるはずがないモノであった。
何故なら、今その声の持ち主は気を失って俺の背中にいるのだから。

ギギッ、とまるで油が切れた扉のように振り向く俺。

その視線の先にいたのは――――――


「大通りに出るにはこちらです、とミサカは親切にも先導して案内をします」


俺の背中にいるはずの美琴ちゃんと全く同じ声、同じ顔をもった少女であった。


「君、は……」


上手く言葉が出てこない。
そんな無様な俺に対して、少女は無表情に口を開く。


「ミサカはミサカです、とミサカは無駄な質問にイライラしながら答えます。
それはそうと、早くお姉さまに治療を受けていただきたいので、黙ってついて来てください、とミサカは少しきつめに言ってみます」


お姉さま、だと? つまり、彼女は美琴ちゃんの妹と言うことか?
いや、それにしては『似過ぎている』。そもそも、俺の美琴ちゃんレーダーの全てが目の前にいる少女が『美琴ちゃん』であると訴えている。

違うのは、その瞳だけだ。

美琴ちゃんのそれには、確かな理性という太陽の輝きがあるが、彼女のそれにはソレがない。

例えるのなら、素晴らしく精巧に作られた人形だ。


美琴ちゃんに似ているが、決定的に違う無機的な存在。


正直に言って怪しすぎる。
そんな奴の言う事など信用できるか。
もしかしたら、一方通行の仲間だと言う可能性も……いや、それはないか。仮にそうだとしても、その場合は一方通行が来るまでの時間稼ぎをするだろうからな。
だとしても、変身能力を有している者もいると聞いているから、そいつが何らかの理由で美琴ちゃんを狙っているのかもしれない…。

いや、そんなものは俺の勝手な理由づけだ。

認めよう、垣根 帝督はこの少女が気に食わないのだ。
それは――



―――彼女が、『美琴ちゃんのくせに、太陽ではないから』


「…っ!」


「? どうしましたか? 顔色が悪いようですが、とミサカは面倒だと思いながらも問いかけます」


少女が不思議そうに俺を見つめる。
だが、俺はそんなものを無視して自分の中で芽生えたその思いに背筋を震わせた。

それは、まるで汚泥のような自己嫌悪。


(俺は、俺はなんてクズなんだ)


まるで、自分の理想を押し付ける狂信者。
心の中では、俺が唾棄しているはずの感情が俺の中にも存在していることを知り、俺は思わず胸をかきむしりたいような感覚に陥る。

違うだろう、垣根 帝督。
お前の、お前の御坂 美琴への想いの原点は、その遥かな頂への憧れだ。
その領域にまで辿り着き、彼女と並び立つことが本来の目的であったはずだ。
それは、それだけは、忘れてはいけないことなのに…。


「…俺は、馬鹿だ」


「は? とミサカは突然の呟きにドン引きしつつ応えます。むしろ、もう逃げても良いですか? とネットワークに問いかけます」


俺は取りあえず顔を上げて少女を正面から見据える。すると、少女は無表情のまま素早く俺から距離を取る。

……美琴ちゃんと同じ顔でそんな事をされると、こうムラムラと追いかけたくなるのでやめて欲しいのだが。

まあ、それよりも今は――


「なあ、君。本当にそっちに行けば本当に、大通りに出られるのかい?」


「はい、とミサカは先ほどの奇行を見なかったことにして変態に頷いてやります」


…だから、そんな事を美琴ちゃんと同じ声で言われるとゾクゾクしちゃうからやめて欲しい。

まあ、それよりも今は美琴ちゃんを病院に連れていくことが先決だ。
俺の中から沸き出た気持が何であれ、今は気にするべきではない。
そして、この少女がどんな立ち位置の子であるかは分からないが、少なくとも今の俺が思考している隙だらけの時に攻撃しなかった事から、すぐに俺たちをどうこうするつもりは無いよう

だ。

良いだろう。

なら、今は美琴ちゃんを病院へ届けることに全力を尽くそう。

俺は、そのまま自然な笑みを浮かべて少女に話しかける。
浮かび上がった汚い気持ちは、心の片隅に押し込めた。


「そっか、それなら案内してくれると嬉しい」


「…本当に、切り替えが早いのですね」


「ん? なんか言った?」


「いえ、こちらです、とミサカは素早く反転して先陣を切ります」


そう言って彼女は再び踵を返し、俺の先を歩き始める。
俺は美琴ちゃんを背負い直し、その後に続きながらふと思いついたので、少女へと問いかける。


「ねえ、そう言えば君って何て名前? 美琴ちゃんの妹なんでしょ?」


「…ミサカは、ミサカです、と手短に答えます」


「? 御坂 ミサカって言うの? 変わっているね」


「…………」


それっきり、ダンマリを決め込むミサカちゃん。
そう言えば、彼女は何故ここにいるのだろうか?

俺はそう疑問に思いつつ、何故だかそのことを彼女に聞けなかった。

理由は簡単だ。

なんの表情も浮かべていない彼女が、これ以上何も聞くなという雰囲気を発したから。











あとがき

異常なまでのシリアス回。とてもじゃないが、真面目に変態をやる余地がありませんでした。
自分で書いていて、まじめすぎて、正直悩みます。もしかしたら改稿するかもです。

さて、改稿にならなければ、次回からは閑話という形で上条君にスポットライトを当てていきます。
ようするに二巻の『本編』ですね。
恐らくは、話の大筋は似た感じになりますが、結末も含めて大きく変わっていくかもしれません。



[6950] 二章 閑話 一
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/05/18 03:06
side 上条



「…『説得』の方はどうなった?」


「…治療法は、見つからない。クロウリーの書(ムーンチャイルド)を参照した記憶を殺しつくす魔術だと思われるが…。治療法は、それこそ一〇万三〇〇〇冊の中だ」


「…じゃあ、連れ戻しに来るんだな?」


「…再記録、をさせるつもりだ」


「そうか」










帝督とインデックスが家に帰った後、しばらく俺とステイルの間に重たい沈黙が流れた。
いや、正確にはステイルがインデックスが去って行った方をぼうっとしながら見ていたため、会話ができなかったのだ。
そして、俺もそれを止めるようなことはしなかった。

何故なら、俺にもその気持ちが痛いほど分かるから。

記憶をなくした彼女は、自分たちの事を覚えているはずがない。
だが、こちらとしては思ってしまうのだ。彼女が、今幸せなのかと。


「…彼女は、僕が来るまで笑っていたな」


その時、まるで心が零れ落ちてしまった子のように、ステイルがぽつりと言葉を漏らす。
いや、事実それはステイルの心だ。普段は押し隠しているこいつの、嘘偽りのない。
それは、とても俺の心と似ている。


「ああ、ほとんど帝督のおかげだけどな。俺の前だと、まだ無理しているよ。あいつは」


「……」


ステイルはまるで何かを振り払うかのように頭を振ると、懐から煙草を取り出してジッポで火をつける。
吸い込まれた紫煙は、すぐにステイルの口から再び大気中へと吐き出された。
ガシガシと頭をかいたステイルは、「あーーーー」と気の抜けたような声と共に、分厚い封筒を取り出し、何事か呟く。

それは、ハッキリ言って俺には何のことか理解できなかったが、何らかの魔術の言葉なのだろう。
その証拠に封筒はまるでフリスビーのように回転しながら俺の手に収まり、同時にステイルが再び何事か呟くと封がしてあった口が裂ける。

俺は無言でそれを拾うと、中にあった分厚い資料を読み進める。

それは、三沢塾という予備校を語った科学的カルト教団の資料の数々であった。

電気の使用量や、中に入った人間のチェック、さらにはゴミ箱の中身まで書かれている。

しかし、俺には、突然このような資料を渡されても、何の理解にも繋がらない。
それはステイルも分かっているはずなのだが……


そして、俺は最後の一枚までめくって、ピタリとその手を止めた。


「こいつ――」


それは、一人の少女の顔写真とともに書かれた今回の事件のあらまし。


曰く、『吸血殺し(ディープブラッド)』の誘拐について。


なんでも、今の三沢塾では1人の少女の監禁が行われているらしい。
少女の名前は姫神 秋沙。上条が先ほど帰るまでの電車賃を貸してくれと言われた、巫女の格好をした不思議な少女。

少女は言っていた。

『――――私、魔法使い』

俺が固まったのを不審に思ったのか、ステイルが訝しげにこちらを見てくる。


「どうかしたかい?」


「…いや」


「? まあ、説明させてもらうけど、そこの三沢塾にはある少女が監禁されているんだ。見ただろう? 最後の資料の子さ」


「なん、だと?」


俺は思わずそう聞き返していた。
この少女が、あの訳の分からない巫女さんが誘拐されている!?
ふと、そう考えた時に俺は心当たりがあるのを思い至った。


突然、彼女の前に現れた黒服の男たち。
彼女は塾の先生と言っていた。すなわち、この三沢塾の先生だと。
そう考えると、俺は目の前にいた少女を救えなかったとい事になる。
理由?

そんなの、俺がその少女の話をまともに聞こうとしなかったからだ。

ビギリ、と額に青筋が走るのが分かる。
ステイルの説明は、まだ続いた。


「監禁だよ、監禁。途中の資料に、生徒たちが大量の食糧を持ち込んだり、それが食べられていないことはゴミからも判明。
ここから導き出される答えは簡単だ。中で、誰かを養っているからだよ」


「……」


言葉も出ない。それほど俺はムカついていた。
もちろん、少女を監禁しているくそ野郎どもにもだし、何よりその少女の心の助けに応えてやれなかった自分自身に。


「続けるよ? さて、その少女なんだけどね面白い能力の持ち主なんだ。さしずめ、君みたいなね」


「俺みたいな、能力?」


「そう、本当にユニークで他に類を見ない能力だ。『吸血殺し』、そう呼ばれている能力なんだけどね」


「もったいぶってんじゃねーよ。その『吸血殺し』って、どんな能力なんだ?」


「…簡単さ。その能力はいたって簡単。あるモノを呼び寄せ殺すための撒餌だよ」


「撒餌だって?」


撒餌って言うのは、釣りなんかで獲物をおびき寄せるために使う餌の事だけど…どういう事だ?


「そう、僕たちは所謂『吸血鬼』ってやつをね」


「は?」


俺は思わずぽかんと口を開いて、ステイルを見つめる。
こいつは、何を言っているんだ?
すると、おれのそんな視線に気がついたのか、ステイルは苦々しげに俺を睨んだ。


「そんな目で見ないでくれ。僕としては、科学側の君にそんな事を言うのは、馬鹿馬鹿しいと思うんだ。
だけどね、吸血鬼は実在するらしいよ? 少なくとも、魔術側(僕たち)はそう認識している」


「いや、でも吸血鬼だろ?」


そう、吸血鬼。
あの映画とかで有名な人の血をすする化け物だ。
そんなものが実在するなんて、とてもではないが考えられない。


「…証拠ならあるさ。その『吸血殺し』がその証明だ」


「は?」


「『吸血殺し』なんてものが存在しているんだ。それが殺すべき吸血鬼がいなければ話にならない」


「?? それは、そうだけど……だとしたら、今までに吸血鬼を見た奴は…」


「いない。何故なら、その吸血鬼を見た者は死ぬからさ、例外なく、確実にね」


「いや、待てよ。だったらおかしくねぇか? そもそも誰も見たことが無いモノなんて、存在証明には…」


「昔、とある京都の山村で救援を求める電話が夜遅くに隣町の警察に入ったらしい」


俺がそこまで言いかけた時、ステイルは話を遮るように話し始めた。

俺はいったい何のまねだと思ったが、とりあえずそのまま聞くことにする。


「そして、連絡を受けた警察は翌日、村に入った。そこで彼らが見たものは、まるで雪のように辺り一帯に敷き詰められた『白い灰』さ。
そして、その灰の中で一人佇む少女、姫神 秋沙を見つけたんだ」


「白い、灰?」


「君も吸血鬼の伝説ぐらい聞いたことがあるだろう? 簡単なことだよ吸血鬼が死んでできた『吸血鬼の死体(灰)』だよ」


「な!?」


「言っただろう? 吸血鬼を呼び寄せて、殺す能力だって。 
『吸血殺し』という能力は、その時に姫神 秋沙本人が『吸血鬼』を見たという証言から推測を元に名付けられたんだ」


「ッ―――」


驚くしか、できない。
話しの真相を理解できていない俺には、ただ驚くことしか許されなかった。

ステイルは、俺の反応に満足そうに唇を歪める。


「くく、そういう顔こそもったいぶって説明したかいがある。
まあ、それはさておき、この『吸血殺し』なんだけど三沢塾に攫われて監禁されているらしいと言うのは、もう言ったね?」


「ああ」


「その三沢塾なんだけど、数日前にある魔術側の男に乗っ取られたんだ」


「また、話がややこしくなってきたな……」


「まあ、そう言わないでくれ。その男はチューリッヒ学派の錬金術師、アウレオルス=イザードと言うんだ。
ちなみに、そいつは僕と宗派こそ違うが、同じ教会の人間だ。しかも、その宗教を抜ける、いわゆる『背信』をしているんだ。
そんな男が『吸血殺し』を求めているなんて、穏やかじゃないだろ?」


「? そいつが『吸血殺し』を持っているとなんか問題なのか?」


「……さて、ね。それより、僕の仕事はこれからそいつに喧嘩を売って、『吸血殺し』を奪還しなければいけないんだ」


「ふーん」


俺はそう言って適当に相槌を打つと、ステイルは苦笑して俺に言った。



「おいおい、これから君も行くんだぜ? そんな適当に頷いてもらっちゃ困るな」



「は?」


思わずそう呆けてしまった俺を誰が責められるだろうか?
だって、今まで訳の分からん話しを聞かせられて、頭がぼうっとしている時に、「はい、実は君も今から一緒に行きますよ」なんて言われても反応できる人間はそんなにいないと思う。
むしろ、無能力者にそんな頭の働きを求めんな!


「ちなみに、断ったら?」


「すぐにインデックスを回収する。記憶が消えてしまったとはいえ、彼女の完全記憶能力が無くなったわけではない。もう一度記憶させ直すだけだよ」


自然と、手が拳を作り、ギシギシと音が鳴るまで強く握りしめていた。

ステイルの言う事は当然だ。
俺は結局インデックスから『首輪』を外したものの、彼女をイギリス清教会という檻の中から助け出せてやれたわけではない。
そして、イギリス清教会は記憶が消えて、十万三〇〇〇冊の魔道書の全てを忘れた彼女に取る行動は、当然その全てを覚えなおさせることだ。
もちろん、その際に今度こそインデックスの精神が崩壊してしまおうと関係なしに。

そんなの、そんなの認められるわけがねぇだろうが!!

俺はステイルを睨みつけて口を開いた。


「てめえ、本気でそんな事言ってのか?」


「…良いか、偽善者? 今回の話を受ければインデックスの回収は見送られる。
まあ、ただ回収されるのが遅くなるって言うだけなんだけどね。でも、その間に『余裕』が出来るんだ」


「それが……」


「僕は、その『余裕』の間に駆け上がる。

イギリス清教の最高権力者である最大主教(アークビショップ)目指して、権力を手にしてやる。

そうすれば、僕が最大主教になりさえすれば、彼女を救えるんだ!」


ステイルはそう叫ぶと、凄まじい視線で俺を睨みつけた。
その瞳には、様々な感情が浮かんでは暴れてなんとかして外へ出ようとしている。


「『彼女にこれでもかと言うほど幸せな毎日をくれてやる』。前にお前が言った事だ。
僕は、僕なりのやり方で彼女にそれを与えてみせる。だから、協力ぐらいして見せろよ『偽善者』」



「…………」


俺も、ステイルも何も変わらない。
結果としてインデックスに幸せを与えてやりたいだけ。

ただ、違うのは、俺が彼女のそばに居て一緒に幸せになれるのに対して、ステイルは彼女が幸せになったことを見ているしかできないことだ。

たった、それだけだが、決定的に違う。
そんなこいつを、俺は尊敬する。


「ああ、良いぜ魔術師。テメエがてっぺんまで行けるように、追い風を吹かしてやるよ」


そして、俺はこいつに協力しよう。
何故なら、俺も心の底からインデックスの幸せを願っているのだから。









あとがき

やっぱり上条は主人公キャラですねwwそれも、かなり王道を歩むタイプw

こうまで変態とは違うとは……

しばらく、このまま上条視点で行きます。
だいたい、あと二話ぐらいでまとめようと思いますが……出来るかな^^;



[6950] 二章 閑話 二
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/06/14 01:55
「なあ、君に一つ質問があるのだが、構わないかい?」


俺が一度寮に戻り、帝督にインデックスのことを頼んでから戻ってきた後、俺とステイルは早速三沢塾へと向かった。
しばらくは無言で歩いていた俺とステイルだが、ある時ステイルが不意にそんな事を言った。


「何だよ?」


俺はそっけなく返したが、それでも少しだけ驚いていた。
ステイルは俺の事を仕事上の仲間だとしか認識していないだろうから、無駄な話など一切せずに三沢塾に行くと思っていた。
だが、ステイルはどことなく鎮痛な面持ちになると、意を決したように口を開く。


「なんで君は、あの変態と友達でいられるんだい?」


「はぁ?」


俺はそんなステイルらしからぬ質問に呆れて、気の抜けた声を出してしまう。
突然、こいつは何を言っているんだという思いも含めて。
ステイルは自分でもそんな質問の異質さに気が付いているのか、顔を若干赤くしながら照れ隠しのように新たに取り出した煙草に火をつけた。


「……別に、深い意味がある訳じゃない。ただ、あんな人形を玄関先に置いている変態が気持ち悪かっただけさ」


「ああ、アレか。帝督の美琴ちゃん人形。すげえよな、アレ帝督が入ってきたときだけ『お帰りなさい、ご主人さま』って言うんだぜ?」


「なんだ、その変態は!? どう考えてもおかしいだろう!? 普通なら通報されるレベルだぞ!?」


「ちなみにオナペット用とかもあるって言っていた」


「通報しろ! もはや、性犯罪者のレベルだぞ!?」


「いやー、でもあいつも良く警備員にお世話になっているんだぜ? 
最近では、いつも帝督を捕まえる警備員の上司が『もう、頼むから来ないでくれ!』って言っているぐらいに。
その上司さんの顔を見たら、その、何も言えなくなっちまって……」


「僕は心底その上司に同情するよ。
それで、最初の質問に戻りたいんだが、そんな明らかに周りから変態認定されているあの男と君は何故、友達なんだ?」


ステイルの質問に俺は苦笑する。
だって、そんな事を真顔で質問されたら困るに決まっているから。


「あのなぁ、普通はそんなこと考えねぇよ。それに、あいつは変態だけど、良い奴なんだ。
それだけで友達でいる理由にはなるさ」


「…理解に苦しむね。いや、もしかしたら君も十分変態なのかもね。『ロリコン』という名の」



「ぶ、ぶふぅぅぅぅうううう!?」


こ、こいつは突然なんてことを言いやがる!?
お、俺が、この上条 当麻さまがロリコンだと!?


「ふざけんな! 人に濡れ衣を着せんじゃねぇよ!?」


「はっ、インデックスにぞっこんな君がロリコン以外の何だと言うんだい?」


「んなっ、な、なら、お前だってそうだろうがよ!!」


「ふ、生憎と僕と彼女は年の頃は同じぐらい。君とは違うんだよ、君とは.
それに、僕はあの子に恋愛感情があるわけじゃないからね」


「グッ」


畜生! 認めちまって良いのか、上条 当麻!?
お前のストライクは年上のお姉さん、ちなみに寮の管理人だ! それが、それが、青髪ピアス(ロリコン)と同類だと!?


「ふざけんな!! そんな、てめえの幻想はぶち殺す!」


「ふん、その拳を振るう相手は違うだろう? ほら、見なよ。アレが戦場さ」


そう言って顎でステイルが指した場所には夕日で赤く染まった三沢塾があった。
それを見て俺は騒ぐことを止めた。

ここに、あの姫神 秋沙とかいう少女が捕まっているのかと、睨みつけた。

それは、一見すればなんでもないビルだ。
だが、あそこに女の子が監禁されているという事実が、どうしようもない嫌悪感と共に俺を苛む。


「……待ってろよ、魔法使い」


「魔法使いじゃなくて、錬金術師だ。そんなおとぎ話に出てくるような化け物じゃないから安心したまえ」


俺がぽつりとつぶやいた言葉に、ステイルが呆れたように言う。
そういう意味で言った訳ではなかったのだが、ステイルの反応なんて関係ない。

俺は、ただあの少女を救うだけだ。





上条side out







インデックスside


「あ! 入って行った!」


私は、とうまと赤い髪の毛の神父さんの後を追いかけていた。
それは、私が知らないとうまを見ていたいという気持ちもあったし、何故だかとうまが危ないことをしていないか不安であったから。

私は、記憶喪失で、とうまがどんな人なのか知らない。
だから、本当ならとうまが危ないことをしているという事も、知らない。

多分、この気持ちは私が知らない『私』の気持ちなのだろう。

そう、『本当』のインデックスという少女のもの。

私には、記憶がない。
所謂、記憶喪失というもの、『らしい』。

と言うのも、私自身それは他の人に教えてもらったものなのだ。
ある日、眼が覚めた私はそれまでの記憶がなかった。

その目覚めた場所が何処なのかはおろか、自分自身の名前、年齢すらも覚えていなかった。

更には、目覚めて初めて会った少年を傷つけた。


『あなた、誰?』


もっと、他に言い方があったかもしれない。
でも、あの時の私にはそんな余裕なんてなく、その瞬間に少年、とうまは表情を歪ませた。

その後、何日かした後にまた病室に来てくれたけど、その時の緊張しきった顔を見て、私は初めて自分のしでかしたことを知った。

私は、この少年の心にここまで深く傷を作ってしまったのだと。

でも、その病室に久しぶりに来た少年は「よう、インデックス」と私の名前(らしい、これはとうまと一緒にいたもう一人の少年、てーとくに教えてもらった)を呼んだ。
その顔は、何か辛い何かを押し殺しているような、そんな顔だった。

だから、私は決心した。彼の前では、なるべく『以前』の自分を演じようと。


以前の私のことを知る鍵は、簡単にとうまの反応だ。
彼が、どこか嬉しそうな顔になれば、私は以前の私と同じように出来ているのだ。

幸い、私の記憶力はかなり良い方らしく、一度覚えたことは忘れない。

だから、同じ失敗は絶対にしなかった。
そう、これからも失敗しない。もう、とうまに悲しい顔はさせない。
何故なら、とうまの悲しい顔を見ると、私は言いようのない不安を感じるから。


「にゃ~?」


ふと、そんなことを考えてぼうっとしていたら、腕の中のスフィンクスに不思議そうに鳴かれてしまった。
その鳴き声は、さながら早くいかないのか? と私に問いかけているかのようだ。


「分かってるよ、追いかけよう」


私はそう答えてとうまと赤髪の神父さんが入った建物を見上げた。
その大きい建物は、たしか『ビル』とか言ったと思う。
私は、記憶が消えたせいで、時折このような日常的な知識でさえ思い出せないことがある。
これには、少しだけ困っているというのは、とうまには秘密だ。また、心配をかけてしまう。

私は、意を決してその『ビル』の中にこっそりと入っていく。

いや、本当は堂々と、とうまたちの後をつけていけば良かったのだが、この前やっていた『金曜サスペンスムービー』でスパイ役の男の人がこそこそと潜入していたのを真似しただけだ。
我ながら、しっかりとスパイ出来ている気がする。

ビルの入口たった私の前で、自動ドアが開く。私は何のためらいもなく一歩を踏み出したその瞬間、


「ひぃっ!?」


世界が、反転した。
正確には、熱い外から冷えた室内に入ったような差異であったけど、私にはそれが嫌に恐ろしく感じられた。
同時に、私の眼前にはひしゃげた鎧が一つ。

その隙間からは赤い液体が垂れている。


「あ、ああ…」


映画の中でしか見たことのないものが、そこにあった。

以前の私なら、そんなものは見慣れていたのかもしれないが、今の私にとってはどれも初めての体験。
ましてや、『死体』を見ることなど予想もしていなかった。


「っ!?」


慌てて眼をそらして、見なかったことにするが、私の憎たらしいほど記憶力の良い頭脳はそれを許さなかった。
脳裏にこびりつく、ひしゃげた鎧。
逃げようのない、現実に私は胸の奥から何かが込み上げてくるような感覚がして、慌てて口を押さえる。

ひゅーひゅーと自分のモノらしからぬ呼吸音を立てながら、私はガクガクと震えた。


怖い、こんなもの、私は知らない。


正直に言って、今すぐにでも逃げ出したい。
だけど、ここにはとうまがいる。
もしかしたら、彼もこの死体を見たかもしれない。
いや、もしかしたら彼がこの死体を――――。


「――違う!!」


私は大声を出して自分の考えを打ち消した。
しかし、一度抱いてしまった疑念はムクムクと私の中で成長していく。

もしかしたら、『とうまがこの人を殺したのかもしれない』。


私は、記憶がない。
そのため、とうまという人間を少しも知らないのだ。
もちろん、ここ数日一緒に居て彼がとても良い人だとは知っている。

だけど、それが彼の『一面』でしかなかったら?

実は、平気で人を殺せるような人間だったら?

やくたいのない妄想だって、わかってる。
でも、私は何も知らないから答えを出せない。


「――――――怖い」


ギュッと、胸に抱きしめたスフィンクスをより強く抱く。
そうでもしないと、私の心が折れてしまいそうだから。

何も知らないこと、それはとてつもない恐怖。
世界の全てが私に牙を向けている感覚。


――――そう、全てが私の敵なんだ。


「ヤダ、やだぁ! 怖い、怖いよぉ!?」


私は錯乱しながら顔を手で蔽い隠し、小さく縮こまった。
いつの間にか、壁際まで来てしまったのか背中にとんと硬い感触を得る。
私は、それにしなだれかかるように体重を乗せた。
その瞬間、私を支えていたはずの壁が、唐突に『消えた』。


「え?」


自分でも間抜けな声。
そんな声と共に私は後ろに倒れ、



「ふむ、相変わらず軽いな」



緑色という奇抜な髪の色の男の人に背中を支えられた。
私は一瞬その人の顔をまじまじと見たが、思考が正常に戻り次第大慌てでその人から離れる。
その人は、まるで何か悲しいモノを見たかのような顔をチラつかせたが、能面のような笑みを浮かべると、私に対して両の手を広げた。


「久しいな、インデックス。…とは言え、君は覚えていないか。必然、アウレオルス=イザードという名に聞き覚えはあるまい」


「や、いや、来ないで!!」


「ふむ、拒絶とは心に突き刺さる言葉だ。いや、それでも言わせてもらおう。久しいな、禁書目録(インデックス)。
相も変わらず全てを忘れてくれているようで、私としては変わらぬ君の姿がとても嬉しい。
改めて名乗らせてもらうと私はアウレオルス=イザード。チューリッヒ派の……」


男の人は柔らかい笑みを浮かべると、私に一歩近づいてくる。
私は男の人が近づいた分だけそこから離れた。が、自分のすぐ後ろにある死体のことを思い出し、私はその歩みを止めた。

その時、私の顔が青かったのだろうか?
男の人は不思議そうに首を傾げた。


「憮然、何故お前はそのように驚いている? ここは、私の要塞だ。ならば、どのような事が起きても不思議ではあるまい」


「や、来ないで――」


「?」


「来ないでぇ!!」


私はそう叫ぶと、出口めがけて駆け出した。
もう、限界だった。
人の死体はあるし、壁が消えて男の人が出てくるし、ハッキリ言って我慢の限界だ。

私はそのまま自動ドアに向かい、


「なんで、なんで開かないの!?」


開かない自動ドアに衝突した。
とうまに教えられていた知識が間違っていた!? いや、でも入る時は普通だったのに…。


「必然、私のクフカ王の墓の再現した要塞だ。一度中に入れば私の許可なく外には出られない――この程度、君ならばすぐに見分けられるはずだが…」


「知らない、知らない、知らない!! 助けて、誰か、とうま!!」


私は、混乱してパニックに陥っていた。
なんで、なんで外に出られないの!? 助けて、とうま!
と、先ほどまで疑いかけていた彼に救いを求めた。
しかし、自動ドアは開かないし、とうまも助けに来てくれない。

私の中で絶望が生まれた。


「とうまぁ」


ズルズルと自動ドアに手をついたまま膝を折る。
いつの間にか眼から透明な雫が流れていた。


「不明、どういうことだ? 魔術を、知らない、だと?」


男の人が何かを言っていた気がしたが、私にはもう関係ない。
私はただ、とうまが来てくれないことを悟り、泣いた。


そして、私は意識を暗闇へと手放した。




――――助けて、とうま






[6950] 二章 閑話 三
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/06/14 01:54
「おああああああああああああ!!」


「ひ、ひぃ!? くるなぁぁぁぁああああ!!」


叫び、俺に向けて金の鏃を投擲してこようとするアウレオルス。
だが、俺は一切の迷いなく前に、ただ怒りにまかせて奴めがけて突貫した。

顔のすぐ横を黄金の鏃が通過する。

だけど、そんなものは当たることなどないと俺は知っている。
いや、こんな奴の攻撃なんて当たってやるもんか。
こんな覚悟も何もない一撃なんて、俺に届くはずがない。

俺は距離を詰め切り、引き攣った笑顔を浮かべた錬金術師に全力の拳を叩き込んだ。


「るぁあああああああああ!!」


ゴガンと、骨と骨がぶつかった鈍い音がする。
同時にアウレオルスの首が振りきれた振り子のようにのけぞり、小さな放物線を描いた。


「ぐっ、が!?」


そして、背中から床にぶつかった上に、ゴロゴロと勢いもそのままに転がった。
しばらくして、ようやく転がるのを止めた錬金術師だったが、もう一度立ち上がることはなかった。

俺はアウレオルスが完全に無力化したと察すると、止めていた息を吐き出す。


「っぷはーーーーー!!」


いや、危なかった。
正直に言ってアウレオルスが投げてきた黄金の鏃は、触れたもの全てを黄金に変えてしまうというなんとも科学の法則を無視しきったものだった。
まあ、魔術で作った物のようなので、俺の『幻想殺し』で触れてしまえば簡単に破壊することはできただろう。
だが、問題はその鏃が研ぎ澄まされた刃であることだ。
俺の『幻想殺し』はどんな異能でも打ち消すが、単純な物理攻撃には無力だ。
要するに、俺の右手もカッターで切られれば簡単に切れてしまうのだ。
つまり、鏃を消そうと右手で鏃を掴んだのなら、いとも簡単に俺の右手の指はバラバラになるだろう。

そうすればどっかの変態は怒り狂うだろう。
それよりなにより、俺を待ってくれているインデックスが悲しむ。
…まあ、自意識過剰と言われればそれまでだが、『インデックス』はそういう奴である、はずだ。

ああ、帝督については言うまでもない。
あいつは、俺をいつでも心配してくれているからな。

まあ、そのおかげでなるべく怪我をしないようには気をつけているけどな。

何にせよ、これでアウレオルスは無力化した。
俺は背後でボロボロの少女を抱いていた姫神を振り向く。


「もう、帰ろう」


俺の声に姫神は不思議そうに小首をかしげた。
その際に彼女の長い黒髪がサラリと流れ、俺はそのどことなく色っぽい仕草にドギマギしてしまう。
だが、俺はこの少女をこの三沢塾から連れ出すためにここまで来たんだ。今さら尻込みするつもりなんて、ない。


「アウレオルスなら、見ての通りに俺が倒した。見ただろう? こいつは目が覚めても、たぶんこれ以上は戦えない。
だから、お前はもといた場所に帰って良いんだ」


「…それは、違う」


「え?」


頷くと思っていた姫神は、しかしあっさりと首を横に振った。
俺はその答え余りに意外であったために、思わず目を見開いてしまう。
そんな俺に姫神はまるで聞き分けのない子供に言い聞かせる母親のように滔々と語りかけた。


「今、貴方が倒したアウレオルスはたぶん偽物。私は本物に会ったことがあるけど、もっと理性的で雰囲気がある人物だった」


「は、はぁ? アレが偽物!? …だったら、本物を探し出して……」


「それでも、私はここから出ることはない」


「な!?」


姫神は俺の提案に再び首を横に振った。


「だって、私は自分から望んでここにいるから…。アウレオルスに目的があるように、私にもアウレオルスと組む目的がある」


「目的?」


俺がそう聞き返すと、彼女は自嘲的な笑みを浮かべた。


「そう、あの人の目的は私の能力を使っておびき出した吸血鬼を捕まえること。そして、私の目的は、この忌まわしい能力を封印すること」


「能力を、封印!?」


そんな事が出来るのか!?
そもそも姫神の能力が具体的にどんなものか俺は知らない。それでも、これだけは分かる。

科学と魔術は根本から相容れない。

魔術で科学の能力を制御できるのか?


「だから、貴方はもう帰って。私は、私の目的を果たす」


「いや、でも!」


「良いから」


そう言って背を向けた姫神に俺は追いすがるように手を伸ばす、が彼女を掴むことはできなかった。
その小さな背中はすぐそこにあるのに、手が届かない。

このまま、彼女を行かせてはダメだ。
俺は、そう思っているのに体は動かず言葉を紡ぐことしかできない。


「待てよ、お前は本当にそれで……」


「あなたに!」


俺の言葉を大きな声で遮る姫神。
その表情を窺う事は出来ないが、その声の調子から激昂している事だけは伝わった。
それに、震える肩が何より全てを物語る。


「あなたに、分かる? 
母親が、父親が、友達が、知り合いが泣きながら、自分に謝りながら首筋に噛みつき、血を啜った瞬間に灰に帰っていく時の恐怖が!!」


そして、姫神は俺を振り返った。
その顔の影になっている部分に夕日が反射し、まるで頬を血の涙が伝っているかのように見える。


「私は、もう吸血鬼を殺さない。あんな悲しみを二度と味わいたくない。
だから、私は今はまだ帰らない」


「――――っ」


俺は、何も彼女に言い返してやれない。
今すぐ彼女を日の光のあたる場所へと連れ出したいのに、俺には彼女の手を取る理由すらないのだ。

そんな自分が、情けない。

姫神は無言で俯いた俺に、優しく語りかける。
まるで、先ほどまでの激情が幻であったかのように、初めてファーストフード店内で会った時のように掴みどころのないぼんやりとした顔になった。


「あなたは優しい。ただ、あそこであっただけの私にも、手を差し出してくれた。
でも、今度会った時には100円、貸してね」


「姫神!」


姫神は今度こそ俺に背中を向けて歩き出した。
俺は足も動かせないくせにその背中に声をかける。


「他に、他に方法はないのかよ!? みんなが笑って終われるような、そんな最後は!」


「…もう、泣きながら消えた人がいる時点で、私の物語は終わってる。
ばいばい。名前も知らない優しい男の子」


俺は、また動けないのか?
あの時と同じように、守りたかったものがこの手から滑り落ちるのか!?

確かに、俺と姫神はほんの一瞬出会っただけで、赤の他人も良いところだ。
だけど、ここで彼女を見捨ててしまって良いのか?
上条 当麻は、見て見ぬふりが出来るのか?


「できる訳、ねぇだろうが」


そうだ。
これは、あいつを助けに来たことは、『上条 当麻のわがまま』だ。
それなら、最後まで貫きとおすってのが、筋だ。


「待てよ!」


俺の足は動いた。
歩き去ろうとする姫神の肩に手をかける。
その瞬間、姫神は驚いたように目を見張った。
俺は、そんな彼女を睨みつけた。


「おかしいだろうが。ギブアンドテイクな関係なら、なんでお前はここから外に出してもらえないんだよ?」


「…離して」


「アウレオルスに、先にその能力を封印してもらえばいいだろうが! そんでもって、時々あいつに協力しにここに通えばいい!!」


「彼の目的が果たされるのと、私の目的が果たされるのは同時。それに、私は別に外に行きたいわけじゃ…」


「じゃあ、なんであの時外にいた!! なんで俺に会った!!」


「っ!?」


「外に出たかったんだろ!? 当たり前だ、交換条件だからってお前がずっとここに監禁されている言い訳にはならねぇんだよ!!
だいたい、俺は気にくわねぇ!! 自分の目的のためだって言うお前が笑顔じゃないのが!!」


姫神は苦しそうに俺から視線をそらした。
俺んはずっと掴んでいた姫神の肩から手を離すと、自分の心を落ち着けるために深呼吸をすると、静かに口を開く。


「俺が、本物のアウレオルスに言ってやる。お前を、外に出してやれって。
俺は別にお前らの目的を邪魔する訳じゃねぇ、ただお前に『自由(あるべきもの)』がないのが気に食わないだけだ。
俺が、お前を外に出してやる、だから教えてくれ、アウレオルスの本物がいる場所を――」



「――蒙昧が」



「!?」


その瞬間、まるで電撃が走ったかのように俺の背中がのけぞる。
圧倒的なまでの存在感。どこか全体的に怜悧な雰囲気を漂わせる声。

カツリと革靴が床を踏み鳴らす音と共に、不意にその気配は後ろに現れた。
俺がゆっくりと振り向くと、そこには何かをその腕に抱いたアウレオルス・イザードがいた。

間違いない。今度こそ本物だろう。

だが、俺はその腕に抱かれていたものを見て、眼を見開いた。

それは、帝督に任せたはずの彼女。

俺が守りたい、女の子。


「インデックス!?」


「…ほう、この子を知っているか。まさか、貴様が『とうま』か?」


次いで、アウレオルスの口から出てきた俺自身の名前に、俺は愕然としてしまう。


「なんで、俺の名前を……」


「ふん、彼女が言っていた。調度良い、私は貴様に話があった所だ。
まずは『跪け』」


アウレオルスが何でもないことのようにそう呟くと同時に、俺の脚にあり得ない負荷がかかる。


「!?」


そして、俺の意思に反して俺は跪く形でアウレオルスと相対することになる。


「ぎっ、がっ!?」


立ち上がろうにも、重たい何かで抑えつけられており、不可能だ。
ただ、右手だけ自由に動かせる事から何らかの魔術であるようだ。だが、右手で他の部分に触ろうにも手首から先以外動かないので、どうしようもない。
俺は奴が命じたまま跪いたままだ。


「おまえっ、何を…」


「黙れ、お前はただ私の質問に答えれば良い。素直に答えれば生かしておいてやる」


アウレオルスは片手でインデックスを抱き上げながら、もう片方の手で自分の首筋から何やら銀に光る物を抜き取った。
それはとてつもなく長い鍼。
所謂、鍼士が用いる医療用の鍼だ。

アウレオルスはその鍼をその場に捨てると、いらだたしげに俺を睨んだ。


「インデックスの身に何があった?」


「それは…」


俺は思わず答えに困る。
俺はインデックスの記憶がなくなった直接の原因だ。だが、こいつは何故そんな事を知りたがる?


「良いから答えろ! 彼女は、何故一〇万三〇〇〇冊の内容すら忘れているのだ! どれほど記憶を消されても、必ず残っていたその忌まわしい記憶を!!」


「簡単さ、『骨董屋(キユリオデイラ―)』」


アウレオルスの激情に答えたのは、そのさらに奥から歩いてきた赤神の神父だった。
上条は先ほどアウレオルスの罠から逃げるために彼に囮にされたため、その姿を見た瞬間喚いた。


「あ! ステイル、てめえさっきは良くも俺を囮に…」


「御苦労さま『幻想殺し』。君のおかげで『本物』を引きずりだせた」


ステイルは怒る上条を嘲るような笑みを浮かべると、アウレオルスに視線を向けた。
その顔には相変わらずの嘲りがあった。


「久しぶりだね、『先生役』。息災そうで残念だ」


「……憮然、貴様もな、『友達役』。それで、簡単なこととはどういうことだ?」


ステイルの挑発に顔を歪めながらも、アウレオルスはそう聞き返した。
ステイルは何が楽しいのか、ニヤニヤしながら言葉を紡いだ。


「くく、『それ』を見てまだ気がつかないのか? 簡単だよ、僕たちが救おうと躍起になっていた彼女はここで跪いている『こいつ(とうま)』に救われたんだ。
彼女の中にはもう一〇万三〇〇〇冊は存在しないし、一年ごとに記憶を消す必要もない」


「なん、だと?」


「おい、ステイル!?」


俺はそんなことをこいつに教えて良いものかとステイルに声をかけるが、ステイルは俺を無視して何やら呆然としているアウレオルスはになおも追い打ちのように言葉を紡いだ。


「君、ローマ正教を裏切ってから三年間も地下に潜っていたらしいけど、その間に世界は変わっていったんだ。
『今代のパートナー』の彼は、彼女と共に過ごした記憶を代償に彼女を救ったんだ。ほら、その証拠に」


そう言ってステイルはアウレオルスが腕に抱いたインデックスを指さした。



「記憶をなくしても、彼女は彼を求めてる」



その言葉と共に、錬金術師の腕の中で少女はゆっくりと目を開けた。
そして、眠たげな視線を辺りに向けながらも俺の事を見つけると、突然目を見開きアウレオルスの腕の中で暴れる。


「とうま!!」


そして、錬金術師の腕から飛び降りると彼やステイルに視線をくれてやることなく、まっすぐ俺の腕の中に駆け込んだ。


「怖かった! 怖かったよぉ!!」


「いんでっくす…」


「人が、人が死んでて、恐くて! 血が、血が!! 助けて、助けてよとうま!!」


インデックスはそう叫ぶと俺の腕の中で声を上げて泣き始めた。
何のことを言っているかは分からないが、俺は取りあえずいつの間にか動くようになっていた腕でインデックスを抱き返しながら、俺はアウレオルスに視線を向けた。

アウレオルスは、まるで毒に満たされた杯を飲み干したかのような表情で、俺とインデックスの行動を見ていたが、やがてゆっくりと膝を折った。


「…悄然、私は、ただ彼女を救おうと思っただけだ。そんな彼女が救われたと言うのなら、それは望外の出来事だ」


アウレオルスは歌うようにそう口にした。
俺やステイルはもちろんのこと、泣き続けるインデックスや驚いたように目を見張っている姫神も、だれもその独白に口を挟もうとはしなかった。
やがて、呆けたようにアウレオルスは姫神を見つめた。


「…私が姫神 秋沙を求めたのは、他でもない。カインの末裔を捕獲するためだ。
そして、インデックスを『それ』に噛ませ、『永遠』という時間を記憶するそれらの脳を彼女に提供すれば、彼女はもう記憶をなくす必要はないと、そう思っていた。
その為になら、いくらでも自分の手を汚しても構わないと思っていたし、実際にそうしてきた」


そして、アウレオルスは俺を見た。
その瞬間、奴の瞳には嫉妬という名の炎が膨れ上がり、まるで視線で俺を焼き殺そうとしているかのよう。


「だが、それを貴様が邪魔をした!!」


その途端、俺は全身に殺気を浴びたように感じた。
まるで、全身に針を突き刺されるかのような、そんな錯覚。
腕に抱いていたインデックスがその殺気を受けて、再び気絶してしまったのも無理はない。


「インデックス!?」


「なぶり殺しだ、少年!! 貴様は、この私が……」


しかし、その瞬間だ。
轟音と共に、光の柱が天井を吹き飛ばしながら俺たちめがけて降り注いだ。


「「「「な!?」」」」


驚きの声は、四重奏。
俺は、とっさに自分の頭上に右手をかざしてその光の柱を『受け止めた』。

同時にその光の進行は止まったものの、俺はいつかのインデックスの『竜王の殺息』の時のような圧力を受けた。
受け止めているのが、次第にきつくなっていく。


「ぎ、あがっ!? なん、だ、これっ!?」


「まさか、『グレゴリウスの聖歌隊』の聖呪爆撃か!?」


ステイルの驚きと共に発される言葉。
俺は、その言葉に聞き覚えがある気がしたが、今はそんな事はどうでも良い。
取りあえず、この右手を押しつぶさんばかりの圧力を加えてくる光を何とかしなければいけない。


「ぐ、おっ!? すている、どうすりゃ、いい?」


「…終わりだ。いくら君でもローマ正教の切り札ばっかりは防げない」


「ぎ、っぎぎぎ」


ステイルは絶望したかのように、呆然と今まさに落ちようとして自分の顔を照らす光を呆然と眺めた。
俺はそれでもなんとか右手を上にして耐えるが、次第に腕がじりじりと下に下がっていく。

やばい。こればっかりは、もう防ぎようがない。

右手の皮が圧力に耐えきれなかったのか、音を立てて激痛と共に引きちぎれる。

これは、無理だ。もう、死……



「私は、私は……」


俺が死を覚悟しそうになったその瞬間、俺は虚ろに光を見つめるアウレオルスを視界に入れた。
アウレオルスは、先ほどまでの殺意はどこへやら、無様に尻もちをつき呆然と医療用の針を手にしているだけだった。

――――此処で諦めたら、こいつと同じになる。

不意に、俺はそんなことを思った。
同時に、俺は自分の足元で気絶するインデックスを見た。



「ふん、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



俺は腕を肩に担ぐようにしながら、なんとか支えると身体を支えるべく足を大地にしっかりと踏ん張らせ、体中から息を吐き出すかのように大声を上げた。

ここで諦めてたまるかよ。
ここには、俺が守ってやらなきゃいけないインデックスがいるんだ!!

ビシリ、と右手の小指がおかしな方向にねじれる。
だが、アドレナリンのせいか痛みは感じない。

しのぎ切ってやる!!

俺がそう思った瞬間、呆けるアウレオルスが呆然と言葉を紡いだ。


「何故だ、何故貴様はそうまでして耐えるのだ」


なんで、だぁ?
決まってんだろ!!


「死なねえためだよ!!」


俺は死なない。
インデックスと共に帝督が待つ我が家に帰るんだ。だから、こんな光なんて、屁でもねえ!!


「あ、ぐぅぅぅぅうううううう」


不意に、光の勢いが増して俺の片足から変な音がした。
少しずつ、足に力が入らなくなってくる。
だが、その時今まですっと口を閉ざしていた姫神が口を開いた。
ただし、それは俺に語りかけるものではなく、アウレオルスに語りかけるモノ。


「アウレオルス・イザード」


「あ…」


「貴方は、何をしているの?」


「私は…」


「私は、貴方の思いなんてしらないし、この状況で何もできない。だけど、貴方は違うでしょう?」


「わたし、は…」


「そこの彼女を救うために、何かできるんじゃないの!?」




「わたしはぁぁぁぁあああああああ!!!!」




姫神のその言葉がまるで引き金のようだった。
アウレオルスは自身の首に鍼を突き刺すと、声高に叫んだ。
俺には意味なんて微塵も理解できない、魔法の言葉を。



「Testimonium674!!」



そして、アウレオルスは魔法を使った。
それこそ、おとぎ話の魔法使いのように、立った一言でもって。



「『呪よ反射せよ』!!」






――――そして、それは起こった。








あとがき

チート(笑)
正直、3話でまとめるのには無理がありました。
一応、これにて閑話は終了。次回はエピローグですね



[6950] 二章 七話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/08/20 00:53
「上条、俺は目覚めたぜ。おっぱいも素晴らしいが、おにゃのこは太腿も素晴らしいんだ!!」


「なあ、帝督。お前は見舞いに来てくれたんじゃないのか?」


そう言って、上条は頭痛を覚えたかのように頭を抱えた。

俺は、現在上条かかりつけの病院の上条の病室に来ていた。
というのは他でもない、この馬鹿がまたまた何やらやらかして大怪我を負ったからだ。
ちなみに、今回の怪我は足の大腿骨の単純骨折に右手の小指の疲労骨折、同じく右手の裂傷だ。

よくよく考えてみると、以前上条が倒れた時から考えるとまだ一月も経っていない。
こいつは、よほど怪我の神様に愛されているらしい。

因みにこの上条、フラグの神様にも愛されているらしい。

その証拠に、病院のベッドに横になり足と手を吊っている上条の傍らには二人の少女と一人の男性がいた。

少女の片割れは、言わずもがな銀の髪を持つインデックスちゃん。
あの大脱走から何か素敵イベントがあったのか、彼女は上条に素直に自分の気持ちを口にするようになっていた。
ちなみに、依存度もアップしたらしく今も上条の傍らを離れようとしない。

彼女は不意に上条の入院着の袖を引っ張った。


「ねーねー、とうまー。アイス食べたい」


「お前はさっきおにぎりを食べてたばかりだろうが、この万年欠食少女!!」


「ぶー、とうまのイジワル!」


「…貴女がすぐにお腹がすくのは、たぶんしっかりと噛んでいないから。
噛まないと、脳は自分がどれほどの量を食べているか認識できない」


膨れるインデックスちゃんをそう言って撫でたのは、上条の傍らにいるもう一人の少女だった。
長い黒髪に、純日本風な美人フェイス。

その名を姫神 秋沙。
今回は、何やら彼女のために動いていたとか、いないとか。
まあ、興味ないからどうでも良いけど、あんまり上条にべたべたするんじゃねぇ!
それは俺の男だ!! じゃなかった、俺の親友だ!


「うー、でも今アイスを食べたいよー」


インデックスちゃんは姫神さんの頭撫で攻撃に気持ち良さそうに目を細めながらも、尚の事口を開いた。
どうでも良いけど、この子なんか我が儘になってませんか?
…まあ、誤魔化すためなんだろうけど。

俺がそんな事を思っていると、上条のベッドの傍らで本を読んでいた男性がスッと立ち上がった。
その慎重は俺よりも高く、完璧に外人の容姿だ。
だと言うのに、彼の口から洩れたのは流暢な日本語であった。


「優越、インデックスよアイスは私が買って来てやろう」


「え!? 良いの、先生?」


「無論、私はそこな貧乏学生とは違うからな」


そう言って嘲笑するかのように病室の外に向かう『先生』。
彼の事は紹介されていないが、今回の上条が怪我をした理由に深くかかわった一人らしい。

因みに、髪の毛はまるで染めたかのような茶色で、その顔には大きな火傷の痕がある。

うん、あれって間違いなく敵キャラの顔だ。

でも、彼はインデックスちゃんや姫神さんのような女の子には優しいので、根は優しい人なのかもしれない。
まあ、俺は話しかけてももらえないんだけどね。


いつか覚えていろ。


「ちっ、あの野郎、すかしやがって」


上条もいらだたしげにそう吐き捨てると、顔をしかめる。
だが、インデックスの頭から手を離した姫神さんはボソリと呟くと、その顔はさらに顰められる。


「…甲斐性なし」


「ぐはっ!?」


「? かいしょーなし? えっと、それってどういう意味だっけ?」


「インデックスちゃんはまだ知らなくて良いよ」


俺はそう言うと手に持っていた紙袋を、小首をかしげたインデックスちゃんい渡してやる。
彼女はその見覚えのある袋に目を輝かせ、勢いよく中身を取り出す。

そう、何を隠そうインデックスちゃんに渡した袋は、黒蜜堂の紙袋。
彼女の記憶力をもってすれば、それを判断するのは簡単だったようだ。

そして、勢いよく彼女が取り出したのは、お菓子の箱ではなく、カラープリントが施された一冊の雑誌。



『週刊 遊んで、お兄ちゃん! ~夏休み特集~』



「ちょっとまてぇぇぇぇええええええええええええええええええ!!!?」


「? 何これ?」


「…最低」


「あ、間違えた。本当のお見舞いはこっちだった」


上条が絶叫を上げ、インデックスちゃんが小首をかしげ、姫神さんが侮蔑に顔を歪める。
そんな中、俺はそう呟くとインデックスちゃんにもうひとつ手にしていた紙袋を渡し、素早く『週刊 遊んで、お兄ちゃん! ~夏休み特集~』を取り上げる。

ちなみにこの雑誌の表紙には、まだあどけない二次元の幼女が肩を大きく露出させ、頬を赤く染めてこちらを見ている。

うん、大きなお友達はこの顔に劣情を催すのかな?

どちらにしろ、俺はロリ属性もないし、美琴ちゃん一筋なのでこんな物に用はない。
だから、俺はそのままそれを上条に手渡した。


「それ、土御門からのお見舞い。んでもって、こっちが青髪ピアス」

更にもう一冊、今度は『突撃! 隣の美人管理人!』という銘打たれたこちらも裸にエプロンをつけた二次元の女性がほほ笑んでいる雑誌であった。

ああ、そう言えば上条の昔の好みは『寮の管理人のお姉さん』だったな。
ふっ、最近ロリに走っている上条にあえて原点を思い出させるとは……やるではないか青髪ピアス!!

伊達にロリ『も』大丈夫なだけはある。
いや、まさかこれを契機に上条にロリ『も』大丈夫にさせ、真の自分と同等の存在にしようとしているのか!?

青髪ピアス、恐ろしい子!!


「って、待たんかいこのボケ!!」


絶叫と共に顔を真っ赤にした上条は、折れた脚を気にすることなく立ち上がった。
なん……だと!?


「立った! 上条が勃った!!」


「くたばりやがれ!!」


「ばはま!?」


さらには包帯塗れの右手で俺の顔面を殴りつけた。
俺は無様に転がりながらも、すぐに起き上がり上条に怒鳴り返す。


「なにしやがる!?」


「お前って奴は、入院に何を持て来てやがる!?」


「え? 土御門と青髪ピアスからのお見舞いだけど?」


「だからって、エロ本はねえだろうが!? しかも、どれもこれも二次元のやつばっかり!?」


「うるせえ! 文句を言うんなら、土御門と青髪ピアスに電話でもしろ! ちなみに、これが俺からのお見舞いです!!」


俺は上条と怒鳴りあいながらも、止めとばかりに紙袋に残った最後の一冊を取り出した。
食らいやがれ、俺のとどめの一撃!!


「『先生とのいけない授業 ver.薔薇』だあああああああああああああ!!」


「ぎゃああああああああああああああああああ!!」


俺が取り出したるは、表紙で眼鏡をかけた教員と思しき男性に服を脱がされている高校生らしき少年が映ったもの。
あ、ちなみに二次元じゃないから。

上条はその表紙を見た瞬間に、真っ白に燃え尽きていく。

ふははは、圧倒的じゃないか我が軍は!!


「さあ、どうぞ上条君! 君の夜のお供に!!」


「殺す! もう、お前がこの世で生きていけないように殺しつくす!!」


上条は今度は羞恥ではなく、怒りで顔を真っ赤にすると再び折れている足で立ち上がり、俺めがけて殴りかかってくる。

その一撃は疾風の如く。

だが、甘いぞ上条 当麻!!


「? なんで、この女の子たちは服を着てないの?」


俺の作戦は二段式さ!

上条はその声が聞こえた瞬間、ビシリと音を立てて固まった。
同時に、ギギギと油が切れたドアのように鈍く後ろを振り返る。

そこには、侮蔑しきった表情を浮かべる姫神さんと、不思議そうにだが心なしか頬を染めるインデックスちゃんが。


「…それは、馬鹿な男どもに劣情を覚えさせ、この本の売り上げを上げるため」


「? そうなの? でも、裸で恥ずかしくないのかなぁ?」


「…………ごめん、そこら辺は流石に私も答えられない」


姫神さんは無垢なインデックスちゃんの言葉に顔を赤くしながら、上条を睨みつけた。
上条も同様に顔を赤くしながら、その視線を受けた瞬間に土下座の体制に入る。



「申し訳ありませんでしたああああああああああああ!!」



「上条よ。どうでも良いけど、お前ってば大腿骨折れてんじゃないの?」


「ギャース!? 滅茶苦茶痛い!!」


俺の突っ込みで我に返ったのか、上条は土下座のまま悲鳴を上げる。
それを見たインデックスちゃんが慌てて備え付けのナースコールに手を伸ばした。

あ。


「とうま、だいじょうぶ!? 今、看護婦さんを呼んだから!」


上条の馬鹿はまだ現在の状態に気がついていないのか、土下座を解除できぬままボロボロと生理的涙をこぼしつつその言葉に頷いた。

あーあ、俺は知らねえ。

俺がこの場を離れる決心をつけた時、姫神さんもその事実に気がついたのかボソリと呟く。


「……このままだと、そのエロ本が看護婦さんの目に留まる」


「げっ、いだだだだだ、ちょ、姫神、それ、しまっ、いだだだだだだだ!?」


上条は姫神さんにそう言うが、姫神さんはとてもどSな微笑みを浮かべると朗らかに上条に死刑宣告をした。



「い・や!」



「だいじょうぶ、とうま!? お願いだから、死なないで!?」


さらさらと灰になっていく上条になおも泣きそうになりながら縋りつくインデックスちゃん。
姫神さんは彼女の頭を撫でながら、フンといらだたしげに顔をそらした。

ちなみに、まだ土下座体制なので、必然的に上条が彼女に怒られているようにも見える。

さて、そろそろ潮時かな?


「じゃあ、俺は美琴ちゃんの病室に突撃してきます」


「ちょ、帝、と…助け……」


「それじゃあ、後はごゆっくり」


俺はそのまま上条の個室のドアを閉めた。

いやはや、これで上条とインデックスちゃんの溝が少しでも埋まれば良いが……

なんか、決定的に上条の社会的価値が下がった気がするけど、なんくるないさ!!











美琴side


それは、夢の中での出来事だった。

私は一人で暗い空間の中に立っていて、しきりに何かを探していた。

早く、早くしなければ間に合わなくなる!
何を探しているのかも知らないのに、夢の中の私の焦りは積もっていく。

だから、私は必死に何かを探した。


「どこ!? どこにあるの!?」


『ここさ』


不意に、暗い空間に白い声が聞こえた。
本来、色に声が宿るはずがない。だと言うのに、私はその『声』が空間を白く塗りつぶしてくのだと感じていた。


「!?」


私は振り向く。
その色の方へと。


『よお、遅かったなぁ?』


そこには、爛れた白色がいた。
私は知っている。その白色の名を。

その名は――


「一方、通行」


学園都市最強の序列一位。
私が、唯一敗北した相手。

一方通行は、私が彼女の名前を呟くと、引き裂いたかのような不気味な笑みを浮かべる。
元々がとても整えられた顔なので、とてつもなく様になっているのが腹が立った。

一方通行は、私の気を知ってか、知らずにか、その笑みを一瞬で引っこめると、ただ私に何かを投げて寄こした。


『ほらよ』


「え? きゃあああああああああああああああ!?」


私は思わずそれを受け取るが、次の瞬間に絶叫と共にそれを投げ捨てた。

何故なら、それは人の生首であったから。
他でもない、この私の。

いや、違う。

これは、私の妹たちの――――


「いやああああああああああああああああああ!!!!」


『くかか、良い声で泣くじゃねえか』


一方通行はおもむろに私に近づき、泣き叫ぶ私の襟首を掴んだ。
そして、自分の顔をゆっくりと近づけてくる。


「いや! やだ、来ないで!!」


『良く見ろよ、これはお前がやったんだ』


そして、いつの間にか一方通行の顔は『あいつ』の顔へと変貌した。


「!?」


『君のせいなんだよ、美琴ちゃん』


そして、いつか囁いた愛の言葉のように私を断罪する。


『俺が、死ぬことになったのは』





「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああ!!!!!!」





そして、私の目は覚めた。







美琴side out





「美琴ちゃん!?」


突然聞こえてきた悲鳴に、俺は驚いて慌てて病室のドアを開け放った。
すると、そこには目を見開き天井を見つめながら涙を流す彼女の姿があった。

そのいつも輝いている姿とはあまりにかけ離れたその姿に一瞬あぜんとしてしまったが、俺は急いで彼女の枕元に駆け寄るともう一度大きな声で彼女の名前を呼んだ。


「美琴ちゃん!? どうしたの、美琴ちゃん!!」


「あ…………」


美琴ちゃんは俺の声で正気に返ったのか、荒い息を吐きながら俺を見た。
俺は彼女の手を握りながら、なるべく落ち着かせるように微笑んだ。


「どうしたの? 怖い夢でも見た?」


「あ、あはは…。そっか、夢よね」


そう言うと、美琴ちゃんは頭を一度二度振る。
美琴ちゃんは、その次の瞬間には、いつもの笑顔に似た表情を浮かべた。
ただ、その笑顔は未だひきつり、笑顔の体をなしていない。


「そ、それで、ここ、病院よね?」


「う、うん」


「…たしか、私は一方通行にやられて……って、あんたも私もなんで生きてるの!?」


「え? そりゃあ、俺が全力で逃げたからに決まってんじゃん」


俺はどこか動揺した美琴ちゃんに冷静にそう返す。
おかしい。いつもの美琴ちゃんなら、そんなこと聞かなくても予想はつくはずだ。


「ねえ、美琴ちゃ……」


「あ、あはははは! そりゃあそうよね、あんたじゃあいつは倒せるはずがないからね!
いやー、それにしてもお互い命を拾ったわね!!」


無理やり明るくそう言うと、美琴ちゃんは上半身を起こそうとする。
だが、そこで彼女は未だに俺と自分が手をつないでいるのを見て、一瞬で顔を真っ赤にした。


「んなっ!? あんた、人が眠ってた間に何を…!」


「え、いや、これは美琴ちゃんが握ってるんだよ!?」


俺はそう言うと、慌ててその手を離す。
そして、俺の言葉通りに美琴ちゃんの手は俺の手を握ったままだ。


「え!? 嘘!?」


美琴ちゃんは慌ててその手を放そうとする、が離せない。
そればかりか、そのつないだ手がブルブルとまるで俺の手が離れたことに怯えるかのように震え始めた。


「や、これは、ちがっ…この、離れなさい!」


美琴ちゃんは慌ててそう否定すると、震える手を俺の手から反対側の手を使って無理やり引き剥がそうとする。


「……美琴ちゃん」


俺は、その手をそっと押しとどめた。
そして、彼女の顔を覗き込んだ。


美琴ちゃん、君は何に怯えているんだい? そう思って覗きこんだだけなのに、彼女の反応は余りに苛烈であった。


「いやっ!!?」


同時に俺は突き飛ばされ、自然と美琴ちゃんの手も俺から離れる。
俺はその場で尻もちをつきながら、しばし呆然と彼女を見つめた。
美琴ちゃんは顔面を蒼白にしながら、辛そうに俺から視線を逸らす。
そして、唐突に怒声を上げた。


「気持ち悪いのよ! もう二度と私に近づかないで!!」


「美琴、ちゃん?」


俺は、決して視線を合わせようとしない美琴ちゃんを見つめた。

美琴ちゃんの個室である病室に重たい沈黙が流れる。

美琴ちゃんはそれ以降、一言も喋らなかった。

糞が! 美琴ちゃんの寝顔を見ていた白井のくそったれはどこだ!?
それに、アレだけの大声を上げたのに何で看護師が一人も来ない!?

…まさか、上条の方にかかりっきりだからか!?
畜生! なんて間の悪い!!

誰か、誰か入って来てくれれば、いつものようにふざけられるのに!

誰か、誰か―――――


美琴ちゃんはもう一度俺に視線を向けると、静かに呟いた。
何故だか、その顔は俺には泣き顔に見えた。



「もう一度言うわ。私に、二度と近づかないで」









病室の外では、命を燃やしながら蝉が鳴いていた。




ああ、うるせえな。ちくしょうめ。




お前らがそんなに五月蠅いから、俺の視界がぼやけちまうじゃないか。




美琴ちゃんが、どんな表情をしているのか分からないじゃないか。




くそったれが。








あとがき

うわっ、暗い! 原作では基本的にエピローグはスッキリしているので、あえてギトギトにしてみましたw

さーて、次から第三章です!
全体的にヤンデレが多い二章でしたが、三章は熱くイキたいものです(変態的な意味で)。


それでは、次章でも変態の活躍にご期待ください(嘘)



[6950] 三章 一話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/06/28 21:47


鬱だ。


死のう。


俺は現在自分の置かれた状況に絶望しながら、常に心の片隅にあった思いを明確な形にした。

いや、だってしょうがないだろ!? 美琴ちゃんに二度と近づくなって言われたんだよ!? マジ拒絶よ!?

もう、それだけで死にたくなってんのに、なにこの状況?
アレか? 神様はよっぽど俺の事が嫌いなんだな?

うん、俺もお前なんか大嫌いだからどうでも良いもん!!

あ、ごめん。ちょっと嘘ついた。出来れば他の人並みに愛してもらえたらな~って思ってます。
うん、だから俺に愛をくれ。

いや、そもそも俺は美琴ちゃんに対する愛だけで生きていけたのよ?
愛はいらないから、愛させてくれ! ってね。うん、俺ってば尽くす男。

でも、それすらも許されないからね? うん? いや、心で思うのは自由かな。
そうだ! 俺はこれからも美琴ちゃんに対する思いは持っていて良いんだ!

なんだ、会えないだけで俺の美琴ちゃんに対する思いは不変にして不朽。思っていられれば、何の問題もない!!


…………なんて思えるかああああああああああああ!!
無理だよぅ、美琴ちゃんの柔肌に触れたいよぅ。あの股間に顔をうずめてクンカクンカしたいよおおおおおおお!!
いや、股間はだめでもせめていつものようにあの慎ましやかな胸に顔を埋めたい!!

ちくしょおおおおおおおおおおお!! こんな事になるって分かってたら、昨日の内にもっと感触を確かめておくんだった!


「……おい」


いや、もういっそ眠ってる美琴ちゃんに襲いかかっておけば良かったんだ!
そうすりゃ既成事実もできて、なおかつ美琴ちゃんとのメモリーが増えたんだ!!
んー、まあ犯罪行為でそのまま学園都市の闇へと葬り去られそうだけど。
それに、俺ってばなんだかんだ言っても美琴ちゃんが大好きすぎるから、何だかんだ言っても絶対に『美琴ちゃんの望まないこと(そんな事)』は出来ないんだよね。

まあ、これ以上学園都市の闇に関わったら一生日のあたる所は歩けない人生になりそうだし。
そもそも、俺は若いころにはっちゃけ過ぎて、今こうして生きていられるのが不思議なレベルな訳だけど。

アレか? 失敗作ぐらい放っておくって偉そうなことを考えているのか、あの屑どもは。
まあ、『アイツラ』に限ってはそんな事も考えられくなっている訳だけど…


「てめえ、無視してんじゃねえよ!」


俺がそんなやくたいもない事をツラツラと考えていると、ついに俺の目の前に座る人物は無視攻撃に耐えきれなくなったのか、大声を上げて椅子を蹴飛ばし立ち上がった。
俺はこのまま無視を続けても良かったのだが、生憎と今は気が立っている。

売り言葉に買い言葉とばかりに目の前の人物を睨みつけて、口を開いた。


「うるせえ。ぎゃーぎゃー喚くんじゃねーよ若白髪」


「んなっ!? 若白髪だぁ? てめえさっきから喧嘩売ってんのか!?」


「そりゃ、こっちの台詞だ! 人の思考を邪魔してからに! こちとら、今はお前に構ってやる心の余裕が無いんだよ!!」


俺はそう叫び返しながら、ガタリと席を立ち、目の前の若白髪こと学園都市序列第1位の一方通行に中指をおっ立ててみせる。

まったくもって最悪なことだが、俺は現在こいつとファミレスで合い席していた。

いや、初めは俺が美琴ちゃんに拒絶されたショックのあまりファミレスで食い倒れツアーを開催したのだ。
うん、参加者は初めは上条とかを誘おうと思っていたのだが、あいつが入院していることやインデックスちゃんの食事量を思いだして、止めておいた。
あの子は人より記憶力が良すぎるために、頭のエネルギー消費が半端ないっぽくてね。食欲が人一倍、いや人二十倍ぐらいあるんだわ。

それに、俺の財布は美琴ちゃんに貢ぐためにあるのさ――。

それはさておき、俺が一人寂しくファミレスに入ってしばらくすると、注文を取りに来た巨乳のウェイトレスのお姉さんが「合い席でもかまいませんか?」と上下たゆんたゆんさせて言ってき

た。ちなみに、制服のエプロンっぽいので胸が強調されていたため、破壊力は推して測るべし。

うん、俺はすべからく美琴ちゃんの体を愛しているが、男だから巨乳も悪くはないと思っている。
いや、むしろ本来の好みはこちらなのかもしれない。
だから、一も二もなく歯を光らせて許可を出した。

その結果、現れたのがこの若白髪だったと言うわけだ。

え? てか、ありえなくね? 何このあり得ない確率の最悪イベント。

もう、本当に神様は俺を嫌っているね。


「あー、もう、お前どっか別の場所に行けよ若白髪」


「出るならお前が出て行け。俺は飯を食いに来ただけだ」


俺と一方通行は互いに悪態をつきながら、椅子に坐りなおした。
いや、なんか店の奥から紐パンいっちょのマッチョが睨んでいるんだもん。
ありゃあ無理だわ。掘られちまう。


「だから、俺はここに座り直してご飯を食べるだけなんだからね! お前に愚痴を聞いてもらうんじゃないから、勘違いしないでよね!!」


「はぁ? 愚痴なんざ聞く気はさらさらねぇよ」


そう言うと一方通行は自分に出された料理を食べ始める。
熱々の鉄板に乗せられたこのファミレスで最高級の和牛サーロインステーキ。
たしかお値段はファミレスの癖に単品で2000円を下らないはずだ。

うう、このブルジョワめ。なんだその霜降りは。
明らかにファミレスのメニューじゃないだろ。

俺はホコホコと湯気を上げるそのステーキに視線をくぎ付けにされてしまい、思わず唾を飲み込んだ。

一方通行はその視線に気が付き、意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「ああん? 何だテメェ。こいつが気になるのかよ?」


「う、うう」


「言っておくが、少しもくれてやるつもりはねぇからな?」


大人しくそこで指をくわえて見ていろと一方通行は嘲りの笑みを浮かべて、ステーキへとナイフを伸ばした。

ああ、切っ先がその熱い肉に触れ、そのまま切られる――


「あれ?」


と思ったら、どうやら鉄板の座りが悪いらしく、一方通行がナイフで肉を切ろうとしたらガタガタと揺れてそれを阻んだ。
何が起こったのか分からなかったのか、一方通行はキョトンと不思議そうに首をかしげる。
そして、再びナイフを肉に当てるが、やはり鉄板がガタついて上手く切れない。


「ぷっぷー! おら、どうした。食べないのかよ」


俺は遠慮なく笑いながら一方通行を指さした。
すると、苛立たしげな顔になった一方通行は、何を思ったのかそのまま素手で鉄板を掴んだ。


「な!?」


これに驚いたのは俺の方だ。
いくらなんでも熱々の鉄板を素手で触るなんて、子供だってやろうとは思わないだろう。


「この馬鹿!!」


俺はガタリと立ち上がると、そのまま一方通行の手を鉄板から引きはがそうと手を伸ばす。
しかし、


「!?」


バチリ、と何かに弾かれるかのように俺の手は一方通行に触れることさえ叶わなかった。
一方通行の手に触れようとしたはずなのに、まるで硬い鉄板に思いっきり指を叩きつけてしまったような感覚。

熱を持ったようなその感覚は、突き指に似ていた。

俺はそのまま思わず手を引いて自分の指を押さえる。
その間も一方通行は鉄板を掴んで押さえており、さらにはあり得ないことにナイフを使って切り始めた。

そして、肉を全て一口大にすると俺の方に向きなおり、訝しげな顔をする。


「…お前、俺の能力が効かねえんじゃねぇのかよ?」


「は? 能力?」


「この前お前の蹴りは反射できなかったし……。どういう事だ?」


「いや、だから何の話だよ。ってか、お前今鉄板に素手で触ってたけど、火傷してねえのか?」


俺のその言葉に一方通行は本当に訳が分からないと言った様子で首をかしげた。


「はあ? んなもん、俺のベクトルを操る能力で必要量以上の熱を『反射』しているだけだ」


「いやいやいやいやいや! おかしいから! なにそのチート能力!」


「その言葉、そのまま返すぜ。俺の『反射』を無視するなんて、お前はいったい何なんだよ」


「はあ? 何の話?」


俺の問いかけに一方通行は呆れたような顔になり、口を開く。
だが、その瞬間割って入った声により、その言葉は俺には聞こえなかった。


「あの時、俺の腹を……」


「おい、ガキども。さっきからうるせえんだよ」


その声をかけてきたのは、いつの間にか俺たちの席を取り囲むようにして現れた三人の男たち。
どうやら、俺たちに隣接した席に座っていたようで、その顔にはハッキリといらだちが浮かんでいる。


「こちとら、オールしてねむてぇんだ。ガチャガチャ騒いでっと、マジでぶっ殺すぞ?」


「はい、すんませんでした!」


俺は一も二もなく取りあえずリーダーっぽい人に頭を下げる。
いや、だってこのお兄さん絶対に強いよ。
だって、もう筋肉の付き方とかテレビで見るプロレスラーなみなんですもん。

勝てるわけがねえ。

だと言うのに――


「はっ! てめえこそ、そのむさくるしい顔を俺の視界に入れんな」


「んだと? こちとらTPOを考えろって優しく言ってやれば、つけ上がりやがって」


「うるせえ、ブ男。さっさと消えろ」


若白髪の糞ったれが正面から喧嘩を売りやがりました。


ばかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


勝てる訳ないだろ! あ、そう言えばこいつは美琴ちゃんよりも強いんだっけ?
なら、こいつは無事かもしれないけど、俺は確実に死んだね! 

畜生! こいつは美琴ちゃんを傷つけやがったから、仕返しに後でエロビデオを見させて『らめえええええええええええ!』させるはずだったのに!
俺は、俺はこんな所で終わっちまうのか!?

いや、まだだ! まだ終わらんよ!

能力の優劣が勝敗を分けるわけではないことを教えてやろう!!


「あ、すみません。ちょっとトイレに……」


「まてや、兄ちゃん」


俺はなんとか普通の流れでそのままトイレへの逃走を試みたが、それは横から伸びてきて俺の肩を掴んだお兄さんによって阻まれる。

ちぃ、ならば作戦その二だ!


「あー! あんな所に全裸の美琴ちゃんが!!」


「はあ? 何言ってんのお前? なんにしても、自分の彼女を呪うんだな」


なん……だと?
俺だったら100%引っかかるこの言葉に対して、なんでこんなにクールな反応を返せるんだ!?
このお兄さんはタダモノじゃない。
股間の枯れ具合的な意味で。
なんにしても、万策尽きてしまった俺は絶望的な気分で、ボキリと腕の骨を鳴らしているお兄さんたちを見る。

あれだろ? この後一方通行が無双している間に、俺はお兄さんたちに無双されるんでしょ?
もういいよ! 殺せばいいじゃない!! 殺しなさいよ!!

そう思った瞬間、


「やる気ねぇなら、どいてろ」


俺の目の前を白い風が駆け抜けた。


「ぐっ!?」


リーダー格のお兄さんの腹部に突き刺さる拳。
同時に、崩れ落ちたその体を踏み台に更なる加速を得、二人目の顔面にとび蹴りを繰り出し、足をめり込ませる。


「こ、こいつ!」


「はっ、遅ぇ!」


何とか反応しようとした三人目はいつの間にか手にしていたアルミの灰皿を顔面に受けて沈黙した。

この間、僅かに5秒。

白い風こと、一方通行の圧倒的なまでの実力であった。
一方通行は茫然とする俺に凶悪極まりない笑みを向けると、口を開く。


「さて、スッキリとしたところで場所を変えるか。さっきの話の続きをしたい」


遅れて悲鳴が上がり始めたファミレス店内。
一方通行は凄まじい力で俺の手を掴んでその外を目指す。

俺は、ただ彼女にされるがままになっていた。




いや、こうも桁違いに強いと反抗する気さえ失せますがな。






[6950] 三章 二話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/08/05 21:54

「さぁて、白状してもらおうか?」


そう言って一方通行は、獰猛に笑った。
まるで肉食獣。
自身の優位は絶対に揺らがないと知っている自身に溢れた、それでいて嗜虐心がもろ見えな笑顔。

その素敵な笑顔を見た瞬間、俺の背筋をゾクリと悪寒が走った。
それでも俺はその強烈な殺気に押されずに丹田に力を込めて、特殊な呼吸をする。
コオオオオオオオオオ、高まれ仙道パワー!!

一方通行は急に高まったであろう俺の威圧感に怪訝そうにしながら口を開く。


「あの日、テメェと初めて会った日。俺は確かにお前に馬乗りになりながら首を絞めていたはずだ。
だってのに、意識を一瞬失った時、俺はお前に蹴り飛ばされていた」


俺は一方通行の言葉に、初めて会った時の事を想起する。
そう言えば、首を絞められて死にかけたから必死で能力を発動し、蹴り飛ばしたんだった。


「あー、そういやそんな事あったなぁ」


「思いだしたんなら、キリキリ答えろ。寝ている時だって常時発動している俺の『反射』をどうやって防いだのかな」


「やだね」


速答。
俺はもはや条件反射のレベルで、そう答えていた。
こんな奴にわざわざ俺様の能力を教えてやる気なんてさらさらない。
何故なら、こいつは俺の美琴ちゃんに怪我を負わせた。
不意打ちでボコボコにするために能力を使いこそすれ、教えてやる義理なんてさらさらない。
さて、ご丁寧にこいつは自分の能力を『ベクトルの向きを操る程度の能力』と教え、さらにはそれが俺のメルヘンには無意味だと教えてくれた。

俺は怒りで顔をゆがませた一方通行が何かを言う前に、一方通行の眼前に手を翳す。


「『脳内メルヘン』」


悪戯が過ぎる馬鹿には、お仕置きが必要だろう?







なんて、出来たらよかったのになぁ。


「あ、えっとですね。自分の能力は『脳内メルヘン』って言って、相手の頭をメルヘンにする能力なんです」


「ああん!? んだそりゃあ?」


「ひぃ!?」


現在、俺は一方通行に連れてこられた路地裏で襟首掴まれて吊るしあげられています。
殺気にビビって能力を使う使わないの騒ぎじゃない。
いや、だって尋常じゃないくらい怖いんだもんこの人。確実に人を一万単位で殺している目をしてるよ!
俺のようなヘタレはこうして嵐が過ぎるのを待つしか許されない。

一方通行は、俺を吊るしあげながらその整った顔を苛立たしげにしかめた。


「いや、待て。もしかして催眠系の能力か? 規定量の内の光や音を用いた能力なら、一応俺にも効く、のか?」


こっちに聞かれても知らねぇよ。

今さらのようだが、俺自身も自分の能力がなんなのか正確には分かっていない。
実を言うと、以前俺を研究していた施設でも判明されていないのだ。
それなりの設備があり、優秀な科学者たちがいた施設だったのだが、どれほど俺の能力を検査しても、分かるのは俺の能力が対象の意識を一時的に混濁させることだ。
しかも、何で能力を発動すると翼のような光の粒子が出るのかも不明。
ちなみに光の翼の粒子を集めようにも、俺の能力が安定していないどころか、反暴走状態であったので粒子を測定するための室内の計器が原因不明の故障を起こす始末。
それ故、全くの理解できないもの、存在しているにもかかわらず視認できないもの。

『未元物質(ダークマタ―)』と呼称された。

…まあ、カッコよく言ったけど、要するに「わけわからんわ」と科学者どもに匙を投げられたしょうもない能力なのだ。

最近、幾分マシになったとは言え、同じ原因不明の能力でも上条の『幻想殺し』のように使い勝手も良くない。
と言うか、あいつはなんで研究施設に叩き込まれないんだ?
科学者からしてみれば、あの能力は喉から手が出るほど研究したいモノのはずだ。
それこそ、本物の催眠系能力者の方がはるかに汎用性も性能も優れている俺の能力なんて、歯牙にもかけられないはずなのだ。
そもそも、俺の能力とは何なのだろうか?
生まれ変わって十数年。自然と体に引きずられた精神並の性能しかないおつむで必死になって考えてみる。それでも…


「…どうにも、分からないんだよなぁ」


「? なんか言ったかよ?」


俺の呟きに今まで指向に耽っていた一方通行が反応する。

アレ? もしかしなくても、今逃げる最後のチャンスだったりした?

俺は適当にごまかすべく、言葉を濁す。


「あ、いや」


「何が、わかんねぇんだ? もう一度言え」


だが、有無を言わせない強い語調。及び、今にも襲いかかってきそうな鋭い眼光によってあっけなくその抵抗は無駄になる。
俺は、所詮一般人。
本物の殺気なんて当てられたら、即座にリタイアしますがな。


「えっと、自分でも自分の能力が良く分からないなーって、思って……」


「はぁ? 何言ってやがんだ、てめぇ? 普通に能力を使っておいて、どの口がそんな馬鹿みてぇなことを言うんだ?」


「え? いや、この口?」


「…あのなぁ? 能力者は能力を発動する際に、『その能力を発動する』って意思があれば発動に成功する。けどな、その傍ら制御のために計算式を思い描く必要がある。
つまり、自分の能力を良く知らなきゃ、制御もままならねえ。
こんなの、『能力者(俺達)』には当たり前だろ?」


言われてみれば、その通り。
実際、つい最近までは俺はその制御の計算式が上手く練れず、能力が安定していなかった。
と言うか、自分で言っておいてアレだが、俺はいつも何を計算しているのだろうか?
一応、座標指定の為に常に位置計算や三次元的空間把握は計算しているが……ぶっちゃけ、それって相手をメルヘンにするのとか関係なくね?


「あれ? あれ? あっるぇ~?」


「…まさか、本気で理解してねぇのか? だとしたら、お前は無意識で……」


その時、ピリリリリリリとその言葉を遮るかのように電子音が鳴り響いた。
一度だけではなく、二度三度と続けて路地裏に響くその音の発生源は、生憎と俺のポケットに眠っている携帯電話ではない。
一方通行は俺を吊るしあげていた手を離すと、自分のポケットから小型の携帯電話を取り出す。
すると、着て欲しくない電話の番号からだったのか、ディスプレイを見た一方通行の顔がいらだたしげに歪められた。
一方通行は俺から視線を外すことなかったが、そのまま携帯電話を耳に当てる。


「俺だ。――――ちっ、もうそんな時間か」


何のことかは分からないが、どうやら一方通行はこれから予定があるようだ。
それも、俺にかまっている場合ではないほど重要な。
一方通行は、俺から視線を外すと電話先の相手に吐き捨てるように口を開いた。


「分かってる。今度から一々連絡してくるんじゃねぇ。てめぇは、黙って自分の首でも洗ってやがれ。
――――――あん? うるせぇよ、本気で首を飛ばすぞ?
良いから、お前は黙ってそこで待ってりゃいいんだ」


一方通行はそのまま通話を切り、俺に再び視線を向ける。


「ラッキーだな、お前。今回は見逃してやるから、さっさと失せな」


「え? マジで?」


「…ただし、テメェの携帯の電話番号とアドレスはよこしな」


一方通行はそう言うと、俺に向けて手を差し出す。
俺はその無言の催促に、黙ってポケットの中の携帯をその手の上に置いた。

ここで反抗しても、どうせ力づくでこられたら叶わないから、大人しくしておくべきだろう。

すると、待っていましたとばかりに一方通行は素早く携帯電話を操作し、自分の携帯に俺の携帯の情報を送信する。
それが終了すると、一方通行は俺の携帯に興味が失せたかのように俺に投げ返した。


「さてと、今度連絡するけど、番号とかを変えてやがったら見つけ次第殺すからな」


「えっと…」


「お前だけじゃなく、その待ち受けの『超電磁砲』もな」


そう告げると、一方通行は路地裏の出口へと歩いていく。
俺はソレを見送ることなく、自分の手の中に残された携帯電話に視線を送る。

その携帯のディスプレイでは、美琴ちゃんがムスッとした表情で中指を立てていた。


「またな」


耳に届く一方通行の声。
その声に反応して俺は、ゆっくりとその声のした方を見た瞬間、視線が紅と交わった。

息が止まる。

時間にして病にも満たない刹那。その瞬間に見た紅は一方通行の瞳の色。
そこに宿っていた光を俺は確かに知っていた。


「……美琴ちゃん」


その声が届いたのか、届いていないのか。
一方通行はもう振り向かずに路地裏を後にした。
後に残された俺は、ただ自分の呟いてしまった言葉に茫然とする。

俺は、今何を言った?

美琴ちゃん?

誰が?

あの、俺たちを殺そうとし、美琴ちゃんを傷つけたあの女が?


「なに、言ってるんだ、俺は」


あんな日蔭者の男女が、美琴ちゃんと同じ目をしていたなんてこと、あるはずがない。

第一、俺はあいつに欲情したりしない!
俺が欲情するのは、美琴ちゃん(と、脳内変換で美琴ちゃんの顔になったAV女優)だけだ!!
それか、そうだ。それに、あいつがスカートなんて履いてるからそう思えただけなんだ!!

そうだ。そのはずだ。
だから、今日はもう帰ろう。

俺はそう考えていつの間にかへたり込んでしまったコンクリートの上から立ち上がろうとする。
だが、俺の脚はまるで痺れてしまったかのように動かず、立ちあがることは叶わなかった。

見上げた夜空は、今にも泣きだしそうなほど雲に覆われていた。

なんだか、無性に美琴ちゃんに会いたい。
このままでは、彼女への思いも忘れてしまいそうだ。









美琴 side

息は、荒い。

体は、油がさされていない扉のように軋んでいる。
それでも私は体を動かした。


何故なら、ついに妹達(シスターズ)の殺害人数が一万に達したから。


私の体から取り出されたDNAマップを元に、作り上げられた私のクローン。
彼女たちは皮肉にも名前は与えられず、『妹達』という通称と、『ミサカXXXX』という個体識別番号、そして『欠陥電気(レディオノイズ)』と言う蔑称が与えられた。

私は、始めそれらのクローンが作られるとは聞いていなかった。
ただ、筋ジストロフィーという難病にかかった人たちを救うために協力してくれと言われたのだ。

しかし、蓋を開けてみればいつの間にかクローンが作られ、そのクローンたちは軍事目的に使われるものであった。
いや、正確には軍事目的ですらない。
彼女たちは投薬による成長促進、学習装置(テスタメント)を用いた基本情報の強制入力によって、その姿は短期間の内にオリジナルである私と全く同じに成長する。
それでも、成長を無理やり促進させたことへの影響なのか、彼女たちの能力レベルは私の『超能力』と異なり、高く見積もっても『強能力』。
その軍事的価値はあまりない。
そのため、彼女たちは軍事運用されることなく、そのまま使い潰すかのように、いや事実使い潰すために『実験』へと『研究素材』として投入されることとなった。

その『実験』の名は、『絶対能力新化計画(レベル6シフト)』。

『超能力』を超える『絶対能力(レベル6)』を生み出すために、一方通行と呼ばれる学園都市序列第一位に『妹達』を虐殺させるというものだ。

そのことを初めて知った時、絶望した。
抗えないほど大きな力のうねりを感じ取り、学園都市の闇の部分に心の底から怯えた。

それでも、彼女たちに初めて会った瞬間、そんなものは吹き飛んだ。

無表情に並ぶ自分と全く同じ顔をした少女たち。
その瞳はまるでガラス玉のようで、本当に生きているのかと疑いたくなるようなものだった。

同時に、思った。

――この子たちをこのままにしてはいけないと。

この子たちが生み出されたのは、私が安易にDNAマップを提供したからだ。
ならば、その咎は私が負わなくてはいけないのだと。

その日から、私の孤独な戦いが始まった。
私を騙してDNAマップを手に入れた研究施設にハッキングし、『妹達』に関わる全てのデータをクラッキング。
だが、すでにそのデータは他の研究施設に移された後だった。
そこからは、私とデータのイタチごっこ。
私がデータを壊していく端から、データは他の研究施設に送られる。

また、私は一方通行と妹達の実験場を事前に調べ、その妨害を行ったりした。

そして、気がついたら当初2万人製造された妹たちの人数は、半分にまで減っていた。

休んでいる暇なんかない。
早く、一刻でも早くデータを消さなきゃ、実験の邪魔をしなきゃ。

じゃないと、またあの子達が失われる。

足がもつれ掛ける。
だけど、足は止めない。

医者には、あと3日は安静にしてもらうと言われたが、無視して来てしまった。
だから、止まれない。

例え、あの時対峙した一方通行の顔が脳裏にチラついても恐怖でなんか体を竦ませない。
ただ、前に進む。

実験場までもう少し。
今回は廃ビル付近であったはずだから、そのビルの基礎を吹き飛ばしてしまえば、そのフィールドを使った実験は中止になるはずだ。
この体でどこまでできるかは分からないが、レールガンの一発や二発なら耐えられそうだから問題はないだろう。

さあ、行こう。

……そう言えば、私がこんなことをしていると知ったら、あいつはどんな顔をするんだろう?

そんなどうでも良いことが、少しだけ気になった。









??? side


人間は思考する。
今回、彼が指示した『実験』。だが、それに彼にとっての『最大の敵』、『脳内メルヘン』の影が忍び寄っていた。


「…三沢塾では上手く行ったのだが、ままならぬものだな」


三沢塾の際、彼はその『脳内メルヘン』から『幻想殺し』を一時的に引き離して、自身の計画通りに事を運ぶことに成功した。
それは確かな成果ではあるが、いつもいつも成功するとは言えないものだ。
その具体例が今回の『実験』だ。
何故なら、『実験』の中心とも言える人物たちに『脳内メルヘン』が関わり始めてしまっているから。


(『超電磁砲』ではなく、『原子崩し(メルトダウナー)』を使うべきだったか? いや、それでは意味がない。
アレは能力が不安定極まりない上、性格的にも『超電磁砲』ほどこちらの思う通りには動かない。
だが、それでも、『脳内メルヘン』、いや『未元物質(ダークマタ―)』を関わらせるよりは遥かにマシであったか?
いや、しかし『妹達』をアレの殺意から守るには、『超電磁砲』の容姿であった方が有利だ)


人間は黙考する。
すでに動き始めてしまった計画で、それが最善であると言う事は彼も理解していたが、それでもぼやかずにはいられない。

『脳内メルヘン』はそれほど彼にとって厄介な存在だった。


「あの果実は、本来であれば私の楽園(がくえんとし)には似合いと言えば似合いなのだがな…どうにも毒が強すぎる」


もし、その毒が『実験』に浸透してしまったら?
考えられる最悪のパターンは、『妹達』の全滅だ。それこそ、AIM拡散力場を『界』を世界に広める以前の話になってしまう。
単価が安い物とはいえ、流石に何の理由もなしに海外にばら撒くと他勢力からいらぬ勘ぐりを受けることになる。


(…今はまだ、水面下にあるべき時期。大々的に動けるようになるのは、第二段階を過ぎてからだ)


それこそ世界を敵に回すつもりの人間だが、叶わないと知って立ち向かうほど愚かではない。
今しばらく、他勢力の眼を他に向けさせておく必要があるのだ。
その為の『禁書目録』であり、『幻想殺し』。
『幻想殺し』の本来の用途は別にあるが、矢面に立たせるのは好都合でもあるから、問題はない。

とは言え、それすらも『脳内メルヘン』がいる限り、危ういのではあるが。

そうまで思考して、人間は薄い嘲るような笑みを浮かべる以外動かすことのなかったその顔を、初めて別な表情に変える。
それは、苦虫を10匹わまとめて噛んだかのような表情。

人間をこのような表情に変える『脳内メルヘン』。
人間は当然ながら何度も何度もその存在を抹消しようと試みた。
だが、すでに覚醒した存在である『脳内メルヘン』へのそれは、一度として成功することはなかった。

一度、狙撃で暗殺を試みた時。標的に発砲せずに帰ってきた狙撃手、なんでもそれまで100%の仕事の達成率を誇っていたらしいその男は、こう自供したという。


「ダメだった。あいつを見た瞬間にコーヒーの味を思い出しちまったんだ。あのなんとも言えない苦みを…。
だって、あいつは股間を蹴られていたんだ!! 一度だけじゃない、二度だ!! ありゃあ苦い、いや、痛いってレベルじゃねーぞ!?」


その狙撃手は速攻で始末した。
途中、「引き金を引くのは簡単だ。コーヒーの味を忘れれば良い」などと言っていたらしいが、知ったことではない。

そして、そんな馬鹿な狙撃手よりも恐ろしいのは、『脳内メルヘン』だ。
どのように作用するか、また作用しているもの自体が何なのか、すべてが不明、故に『未だ元を理解できない存在』、『未元物質(ダークマタ―)』なのだ。
アレには、まだ人間にすら理解できていない秘密が山のように詰まっている。
常ならば、研究意欲を刺激されているところだが、アレの相手にはそうも言ってられない。
何故なら、アレの研究を過去に行っていた者は――

人間はそこまで考えてその思考を打ち切った。

今考えるべきはそのようなことではない。
今考えなければならないのは、いかにしてあの『変態』を上手く動かすか、だ。
もはや、関わり合いを持ちたくないなどと言っている場合ではなくなった。

ならば、そのもっとも効率の良い運用の仕方を探さねばならない。


「『心理定規(メジャーハート)』。いまだ完成しているとは言い切れないが、仕方がない。使うとしよう」


人間、アレイスター・クロウリーは決断する。
明日から、胃の保護を最優先にしようと。







あとがき
一か月振りの更新。おそくなってしまい、申し訳ありません。
少し、リアルの方が立て込んでいるもので……。
その関係の諸事情により、感想返しはなしです。すみません^_^;
次も少し遅くなってしまう可能性があるので、ご了承いただければと思います。

それでは、次の更新で



[6950] 三章 三話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/08/22 18:00
離れてみれば、良く分かる。
如何に俺が美琴ちゃんに対して付きっきりであったのか。
俺は彼女に依存しきっていたのだろう。

いや、まあ、何が言いたいかといえば。


「性欲を持て余す!!!!」


「…………」


俺の言葉がむなしく病室に響いた。

あれ? なんかリアクションしてもらえないと凄まじく恥ずかしいぞ?

俺はちらりと病室のベッドに眠っていた上条に視線をやる。
上条は何やらじと目で俺を睨んでいたが、決してその口を開こうとはしなかった。

ありゃ? なんか機嫌が悪いな。もしかして、あの日か?
そう言えば、いつもそばにいるインデックスちゃんも今日はいないみたいだ。どうかしたんだろうか?


「なあ、上条。インデックスちゃんは? 今日はまだ来てないのか?」


「…………たわ」


「え?」


俺の問いかけに上条は何やらもごもごと口にしたが、生憎俺の耳にはその声が届かない。
俺はもっとよく聞き取ろうと上条の方へ頭を傾けた、その瞬間。


「お前のせいで、とっくに帰ったわああああああああ!!」


「げふぁあああああああああ!?」


どなり声を上げた上条によって、俺の右の頬が痛打される。
まさか、ここで殴られるとは思っていなかったので、俺はガードすることもできずに素直に体ごと吹き飛び、壁に叩きつけられる。
その際、しこたま頭を打ち付けてしまい、目の前に星が舞った。


「いだだだだだだ!! 死ぬ! ナースコールぅ!!」


俺は激痛に耐えながら、必死に上条の枕元にあったナースコールを押すが…。



「あれ? これってコード切れてんじゃん」


「ははは! それもこれもてめえのせいだ!! この前、お前が勝手に置いてったエロ本の山のせいでおれがどれほど辛い目にあったか分かるか!?」


上条は目を血走らせて枕元にいた俺の頭を掴み、そのまま万力のように締め上げる。
所謂アイアン・クローもしくはタイガー・ブロー。
いきなりのフィニッシュブローにおじさんビックリしちゃう!!


「あだだだだだだだだだ!! 身が出る! 身が出るぅ!!」


「お前に俺の気持ちが分かるか!? 真っ赤にうるんだ目で看護婦さんたちに『さっき見舞いに来てくれてた男の子って、恋人?』とか、担当医の蛙顔の医者に穴を隠され『悪いけど、僕

はそっちの趣味はないからね』って言われた時の気持ちが!!
挙句の果てに、姫神にはまるで道端で電柱に盛る犬を見るような目で見られて、インデックスには純粋な目で『なんでみんな騒いでいるの?』て聞かれて、アウレオ…『先生』には『男子

は甲斐性があってこそ!』とか言われたしよおおおおおおおおおおおおお!!」


「ごめんなさい、ごめんなさい!! もうしません!! 二度とインデックスちゃんの前とかでBLネタをやりません!」


「だまれぇぇぇええええええ! もうお前なんて信用するか!! よくも僕の気持を裏切ったな!!」


そのうち暴走して食い殺しにきそうな感じで、上条は一気にまくしたてる。
俺はただそのげきどの嵐をひたすら小さくなってやり過ごすしか手がなかった。
結局、上条は騒ぎを聞きつけた巨乳美人なナースさんが、その外見に似合わない腕力で上条の手首を掴み、うっ血させるまで騒ぎ続けていた。
その間、俺はずっと頭を握られていたわけだから、正直に言って泣きそうであった。

くそう、美琴ちゃんと言い上条と言い、最近は友好関係に罅が入りそうな事件が多発している気がする。

……あれ、もしかして、自業自得じゃね?

いずれにせよ、怒り終わった上条は俺に今度飯をおごらせることを確約した上で、ようやくいつもの上条に戻ってくれた。


「はぁ、お前はもう好い加減にしろよな」


「分かったっての」


俺は呆れたような上条の言葉に適当に返事をし、小萌先生辺りのお見舞いなのか山となって置いてあったフルーツ盛り合わせの林檎を手に取る。
そのままハンカチで拭いてから齧り付くと、シャクリと言う瑞々しい音の後にほど良い酸味と甘さが伝わってきた。


「お、上手いなこの林檎」


「ああ、それ小萌先生のお見舞いで、学園都市の人工培養で育ったフルーツらしい」


「なるほど、夏に林檎があったのはそう言う訳か」


俺はシャクリシャクリと林檎を咀嚼しながら、嘯いた。

しばらく、上条の病室に俺が林檎を咀嚼する音だけが響く。その静寂の中、ただ上条はぽつりと呟いた。


「…なんか、あったのか?」


どうやら、上条さんはなんでもお見通しでいらっしゃるようだ。
思えば、こいつは俺とそこまで付き合いが長いわけではないが、いつの間にかお互いの事はたいてい分かるようになってしまっている。
まあ、何れにせよ隠しだては無意味なのだから、俺は正直にゲロっちまうことにした。
いや、正直なところ話したかったんだ。誰かに話したかったから、俺はわざわざこの前行ったばかりの見舞いにまた来たんだ。

それでも、俺は上条に依存しきりたくないから、たった一言だけ答えた。


「ふられた」









黒子side


「だ、大丈夫ですの? お姉さま?」


「…気にしないで、あんたは寝てなさい」


「ですが……」


私はそう言ってお姉様に良い募ったものの、お姉様はご自身の枕に突っ伏したまま私の方をご覧になってくれません。

私はその後ろ姿に何も言う事が思いつかず、そのままお姉様との愛の巣を後にし、学生寮のロビーなで足を運んだ。

真夏の夕方。まだ、外で遊び歩いていた学生が帰ってくるには少し早い時間。
その誰もいない空間で、私は大きくため息をつきました。

…これほどまでにお姉様が消耗することは、絶対に何かあったことは間違いありませんわ。
ですが、私は、私ではお姉様に「何かあったのですか?」などとは、とてもではありませんが、聞けません。

なぜなら、お姉様が私を巻き込まないようにしているのは明白ですから。
その庇う対照でしかない私は、お姉様の気遣いを潰してまで自分から関われる立場にないのです。


(こんな時、『あいつ』なら……)


あのデリカシーゼロの変態ならば、お姉様が落ち込んでいれば、それこそ自分が庇われる立場にあることを自覚しながら、うるさいぐらいに絡んだことでしょう。

それが、私には出来ない。

お姉様の気遣いを無駄に出来ない理性が働いてしまう私と、色欲のみで行動できる『変態』。
その差はとてつもなく大きい。
それこそ、『出来ること』が天と地ほども違う。


だと言うのに、


「あの変態は何をやっていますの?」


今こそがその無神経ぶりを発揮する時、アレ風に言いかえれば高感度を稼ぐ絶好の機会であるのに、あの変態はここ2、3日お姉様を付け回すことはおろか、連絡を取ることさえしていな

い。
正直に言えば、あの変態にお姉様をお任せすることなど、言語道断。
むしろ、金輪際関わらせたくない人間だ。


「…それでも」


お姉様と最も近しい人間が誰かと聞かれれば、私は迷わずあの変態の名を上げてしまう自分がいること知っていますの。

お姉様には、一応私という最高のルームメイトかつ最愛の妹がおりますが、それでも本来のルームメイトという存在と比べれば、多少見劣りしてしまうことは否めません。
それは、私が本来のお姉様のルームメイトを追い出したから。

そのことについては一切の後悔はしておりません。なぜなら、お姉様の敵をお姉様自身に一番近いポジションに置いておく訳にはいかなかったから。

それでも、私がお姉様から近しい親友を奪った事には違いありません。
そして、その代わりを果たせるのが、私ではなく、あの変態であるということもまた、然りですの。

常にお姉様の心の内側に潜り込んで、お姉様を怒らせる、いや、アレは照れているだけでしょう。
何故なら、お姉さまは好きでもない相手には自身の体を触らせることなどしないはずですから。
『超電磁砲』たるお姉様は、常に体に微弱な電磁波を帯びていて、それをソナーの如く使うことにより、自分の体に近づく存在を近く出来るのですわ。
それは、相手に投げつけられたものを即座に回避できるほどの精度を持っており、絶対的でないものの不意打ちはお姉様には効果がないのです。

それでも、あの変態は幾度となくお姉様に奇襲をかけ、その体に触れることに成功している。
因みに、その時の変態の接近速度はやや常人より早いものの、お姉様の電磁波ならば察知可能のはず。


――ここまで言えば、みなまで言わずとも分かるでしょう。


「まず間違いなく、お姉さまはアレに惹かれている」


さらに、アレは狡猾なことにお姉様に逃げ場を用意している。
即ち、照れ隠しに、セクハラされたから殴る蹴るなどの暴行を働けると言う、お姉様が確実にはまるであろう逃げ場を。

だいたい、初心で直情的なお姉様があんなに毎回毎回ストレートに告白されて揺らがないはずがありませんの。


(ああ、畜生。いつものからみ方を思い出しただけで、イライラが止まりませんの!
だいたい、美琴ちゃんとは何事ですか!! せめて御坂様とお呼び御坂様と!!)


それでも、私は取り出した携帯でアレの番号を探し出す。
いや、携帯にアドレスがあったのはたまたまですのよ!?
あいつが私のお姉様の隠し撮りコレクションと、自分の盗撮コレクションを交換したいなんて言うから!!

登録名は『垣根 帝督』。
私は通話ボタンを押し、コール音を聞きながらそれが出るのを待ちました。

そして――


『あん? 白井かよ! ビビらせんじゃねーよ!!』


あの私の心をかき乱す耳障りな声がスピーカーから聞こましたの。


――――良かった、出てくれた。


あ、ち、違いますのよ!?
これは、お姉様を元気づけられるかもしれないと言う事であって、私がどうのということではありませんの!!
違うと言ったら、違いますのよ!?

私はなんだかいたたまれなくなり、即座に怒鳴り返すことにしました。


「うるさいですわよ、この変態!! ちょっと話したいことがあるから、顔を貸しやがれですの!!」


私のいつも通りの罵声。
それに、変態、垣根 帝督はこう返しましたの。


『ああ、ちょうど良かった。今、常盤台中学の学生寮の前にいるから』


「へ?」


『ちょっと、美琴ちゃんに用があってね。お前の話とやらは、その後で良いか?』


私は即座に携帯の電源ボタンを押して通話を切ると、即座に外へ向けてワープをするために自身を三次元から十一次元へと置き換える計算式を頭に思い描いた。




side out




目の前に突然、黒レースのパンツが出現した。
いや、正確に言えば黒レースのパンツを履いた人物が突然何の前触れもなく目の前に現れたということなのだが。
しかも、本来なら服で隠れるはずの下着が何故俺に見えているかと言うと、その現れた人物が俺めがけてとび蹴りを放っていたからだ。

ここまでの判断、僅か0.2秒。

そして、遅れること0.1秒。俺の体は全力で回避を開始した。


「う、うおおおおおおおおおおおおお!?」


まるでシリアスな場面で敵の攻撃を回避する主人公のように声を上げ、俺は顔面をけり飛ばそうとするその足から逃れるべく、体を横に投げ出した。
直後、俺の逃げ切れなかった髪の毛を幾本か切断しながら、足が通過する。
同時に、「ちっ!」という舌打ちが聞こえた。
どうやら、黒レースのパンツこと、襲撃者は本気で俺のことを殺しにかかって来ていたようだ。

って、待てコラアアアアアア!!

俺は無様に転がっていた体勢を立て直すと、目の前で俺を睥睨するツインテールの糞ったれな襲撃者に中指を立ててみせる。


「いきなりとび蹴りとは御挨拶だなぁ、白井! ぶち犯すぞ、コラ!!」


「完全な不意打ちを回避するとは、やりますわね、垣根(へんたい)」


俺の剣幕に白井はまるで暖簾に股間を押し付けたかのように冷静に皮肉ってくる。
いつものこいつなら、もう少しけんか腰で来るのだが…いや、いきなり蹴りかかってきただけでも十二分に好戦的か。


「それで? どういう了見でいきなり蹴りかかってきやがった? 俺は今から美琴ちゃんに会って、言わなきゃいけないことがあるんでな。
出来れば手短に頼む」


俺はなんとか怒りを抑えつつそう口にすると、白井の顔に嘲るかのような笑みが浮かぶ。


「あら? 今さら何の用ですの? お姉様は生憎、病院から早めの退院をなさって、私との愛の巣で休憩中ですの。
邪魔ですから、早々に尻尾を巻いて逃げ帰ることをお勧めしますわ。できれば、もう二度とお姉様に付きまとわないで頂けると助かるのですが……」


その言葉で、美琴ちゃんが俺に言った言葉が喚起される。
同時に、先ほど上条が俺に言ってくれた言葉も。


「いやだね。俺は美琴ちゃんが大好きだ。だから、何度拒絶されようとその度に近づいてやる」


「…本当にストーカーという人種は厄介ですわね」


「何とでも言え。ただ、今日は絶対に美琴ちゃんと話さなきゃいけない。だから、そこをどけ、白井」


俺はゆっくりと集中を開始して、『脳内メルヘン』を発動する。
同時に、背中に純白の天使の羽が出現した。

未だに理解が及ばないこの能力。
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。だから、俺は脳裏にチラつく白い影を無理やりに振り切った。

そんな俺の様子に、白井は何かを堪えるかのように震えながら口を開いた。


「なんで……ですの?」


「?」


洩れでたその言葉に俺は眉を顰める。

白井は、いつの間にか声すらも震わせてその続きを口にした。


「なんで、もっと早くに来てくれなかったんですの? なんで、お姉様があんなにボロボロになるのを止めてくれなかったんですの!? なんで!!」


「……………」


「なんで、私よりもお姉様の傍にいるくせに……お姉様を守ってくれない――――」


「ガキが」


俺は白井のバカたれがソレ以上何かを言う前に、そう断じた。
俺の突き放すような言葉に白井は瞬時に顔を真っ赤にして、その瞳に怒りと失望の色を宿す。


「私は、真面目に言って――」


「たかが中学生の分際で、小難しいこと考えてんじゃねぇよ」


そう、俺にとっては真実『たかが中学生』だ。
こちとら、一度転生している身。精神年齢が体に引きずられているうえ、もとからあまり高くないので前世+今世=精神年齢という訳ではないが、中学生よりは確実に上だと言える。
…まあ、上条クラス(こうこうせい)だと、もしかしたら同じくらいかもだけど。

とにかく、俺はこいつみたいなガキは、友達との生活に一喜一憂していれば良いと思うのだ。
難しいことを考えるのなんて、高校に入ってからで十分なんだよ。


「お前と俺のどっちが美琴ちゃんに近いかなんて、比べられるわけがねえだろ。
だいたい、関係のベクトルが俺は『恋人』で、お前は『友達』なんだ。比べること自体が間違ってる」


「っ、私は――――」


「OK、じゃあお前お得意の小難しいことを前提としよう。その上で言ってやる。

――――――関係ないね。

俺は美琴ちゃんとの距離がお前より近かろうと遠かろうと、関係ない。ただ美琴ちゃんが好きだ! 何度振られようが、彼女を掴もうとこの手を伸ばす!!
だから、もし、俺とお前との間で差があるとするのなら、それは『性欲』だけだ!!!!」


「は、はあ!?」


「俺はぶっちゃけ、美琴ちゃんとエッチがしたい! いや、もういっそのこと放置プレイでも構わない!!」


「何を言って……」


「俺がやりたい事だよ。ぶっちゃけ、ただの高校生の性欲だ。でも、煩悩はこの世で一番強い感情だ。
違うか?」


「……悪役の台詞ですわね。主人公なら、理性で煩悩を押さえるぐらいしたらどうですの?」


白井は、そう苦笑すると徐にその右手を振り上げる。


「本当に最低で、私の質問の答えにすらなっていませんけど、やっぱりお姉様には貴方が必要ですわ」


そして、そんな言葉と共にその右手は平手でもって、俺の頬を豪快に叩いた。

その次の瞬間、俺は見たこともない部屋の中にいた。

頬に奔る痛みに顔をしかめながら、僅かに視線をめぐらせると同時に俺の時が止まる。

巡らせた視線。
その先には、常盤台中学校指定の制服のブラウスのボタンを全開にし、スカートをひざ下まで脱いだままの美琴ちゃんがいたからだ。


「「………………」」


あ、やべっ。完璧にジュニアがエレクトした。

俺の履いていたジーパンの股間部分が盛り上がっていく様を目の前で見せつけられた美琴ちゃんは、呆然としていた顔を次第に赤くしたかと思うと、バッチバッチと物騒な音と共にその体

の周囲に紫電を纏っていく。

……取りあえず、これだけは言っておこう。


「や ら な い か ?」


「死ね!!」


返答は周りに効果がないように計算しつくされたビリビリだった。



[6950] 三章 四話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/09/04 21:20
美琴ちゃんの自室の床が近い。
額を床にこすりつけて擦り下ろさんばかりに押しつけているので、一歩間違えれば床とディープキスをすることになる体勢。
即ち、土下座。
俺は現在、真っ赤な顔の雷神と化した美琴ちゃんの怒りを鎮めるためにひたすら土下座を行っていたのだ。
もう何度謝ったことだろうか? 気の遠くなるほど謝っている気がする。
いや、普段着らしいスカートから美しいおみ足を覗けているから、全く辛くないのだけど。


「いや、だから、白井が全部悪いんだって! あいつが俺を無理やりテレポートさせたから……」


「うっさい! それでもあんたが見た事には変わりないでしょ、謝りなさい!!」


「ごめんなさい! って、さっきから何回も謝っているのに―」


「なんか言った?」


ギロリと言う俺を射殺しそうなほど鋭いその視線。
ゾクゾクと股間がうずくのを感じながら、俺は息を荒げつつ首を振る。

ハァハァ。その視線、たまんねぇっす!!


「……あんた、何息を荒げてんのよ?」


「い、いや、なんでも、なっ」


侮蔑しきった美琴ちゃんの声にビクビクと体が反応してしまう。
く、悔しい! でも感じちゃ……


「ちぇいさーーーー!!」


「ごぶぅ!?」


俺の思考に割って入るかのような強烈な蹴り。
土下座している奴に容赦なく蹴りを喰らわせるなんて、流石美琴ちゃんだぜ!!

俺はMの世界(むこうがわ)から回帰しつつ、痛みに悶えながら床を転がる。
アレ? そう言えばここって美琴ちゃんの部屋だから、もしかしたら美琴ちゃんの髪の毛とか落ちてるんじゃね?

うっしゃあ! 今のうちにこの体に擦りつけてやる!!

俺は5割増加速して床を転がり、美琴ちゃんの髪の毛を採集し始めるが、途中であることに気がつく。
もしかしたら、ここって白井も同室だから白井の毛も落ちてるんじゃね?

ゾクリと背筋を駆け抜ける悪寒。

お、俺は何と言う恐ろしい間違いをしたんだ! くそう、眼先の欲望に目がくらんだ!!

俺は即座に立ちあがると、若干慌てて体についたほこりを払う。
すると、俺の不振すぎる挙動を見ていた美琴ちゃんが呆れたように口を開いた。


「…全く、なんなのよあんたは。人の部屋で急に転がったり――」


「いや、それは美琴ちゃんが蹴ったからで…」


俺の言葉を美琴ちゃんは黙殺しつつ、どこか寂しそうな微笑を浮かべていた。
俺はその表情に何の言葉も出てこなくなり、つい黙ってしまう。
美琴ちゃんは訪れた沈黙の中で、表情をそのままにクスクスと鈴を鳴らすような笑い声を上げた。


「あれだけ拒絶されたのに、人の着替え中に乱入してくるなんて」


「…………そのことで、話があって来たんだ」


さて、珍しくまじめになることにしようか。

俺は美琴ちゃんと真っ向から対峙した。
ではでは、垣根 帝督の一世一代のがんばり物語、はっじまるよー!

さて、まずは何から話そうか?
うん、決めた。


「俺は、君が好きだ」


「…………」


「君は覚えていないだろうけど、俺が初めて君を見たのは君がまだ『低能力者(レベル1)』だった頃だ」


それは、すでに俺が研究所に捨てられたばかり時。
ぶっちゃけ、あの頃は俺は最低な奴だった。本当に俺って中学生? みたいな。


「当時に擦れていた俺は、適当にゴロツキの能力者に喧嘩を売っていた。
君と会った時なんて、流行の能力者犯罪の集団に喧嘩を売って、んでもってボコボコにされてた」


「……覚えて、ないわ」


美琴ちゃんは眉を顰めるようにしてそっぽを向く。
まあ、そうだろうね。逆に覚えていられたら、俺は悶死していることだろう。
いや、「俺はお前らより年上なんだ! だから、大人だ偉いだろう」的な意味で痛い奴だったから。
俺ってば、ほら、転生者だったりするからねー。
昔はそんな風に考えていたわけですよ。


「でも、想像はつくでしょ? ボコボコにされていた姫様な俺。それを助けに来たのは王子様な美琴ちゃんなんだ」


そう、あの時能力を暴走させて、その場にいた奴ら全員はおろか、その辺り一帯にいるやつらを攻撃しようとしていたのだが、そうなる前に現れたのは当時『低能力者』で何の特別でもな

かった美琴ちゃんだ。

いや、彼女は、当時から特別だった。

何故なら、リンチが行われている場所に颯爽と入ってきたのだから。

それでも、彼女はそれだけだったのなら、逆に糞ったれどもに返り討となっていただろう。
彼女がそうならなかったのは、彼女が力に目覚めて返り討にするなど、少年漫画的な展開があった訳ではなく、非常に現実的なものだった。
そう、単に警備員も一緒に連れてきたのだ。
それも、現在も俺を捕まえるのにご執心な黄泉川先生を。


「美琴ちゃんは、一緒に連れてきた警備員にそのゴロツキどもを戦わせながら、ボコボコにされてぶっ倒れていた俺に近づいてきた。
そして、ボコボコにされてほとんど動けなくなっていた俺の襟首を掴んで、無理やり引き起こしたんだ」


「ぶっ!? 待ちなさい! いくら私でも、流石に怪我人にそこまでは……」


美琴ちゃんはどこか焦りつつ、そう口にしたが俺はその言葉に静かに頷いた。
その俺の動作に美琴ちゃんはどこかほっとしたように胸をなでおろし、次いで「ふざけんじゃないわよ」と睨んできた。
いや、ふざけてないよ。だって当時は……


「もちろん、そんな事だけじゃない。美琴ちゃんは、俺の襟首を掴んでそのまま思いっきりビンタをかましたんだ」


「え、う、嘘よ!」


「んでもって、こう言ってた『自殺願望でもあるんなら、余所でやんなさい。さっきから見てたけど、わざわざ喧嘩を売りに行ってボコボコにされる奴なんて見ていて胸糞悪いだけだわ』




「ぎゃあああああああああああああ!?」


思いだしてしまったのか、美琴ちゃんは顔を真っ赤にして絶叫した。
そんなに恥ずかしいかな? 俺としては、滅茶苦茶かっこよく感じたんだけどなー。


「まあ、何にせよそれで俺の胸倉から手を離して、そのまま背を向けた。
そして、言ってくれたんだ。それから、俺の中心となる言葉を」


「ま、待ちなさい、思い出したから! もう、それ以上……」


「『私は『低能力者』だけど、諦めないわ。それであんたはどうすんの? 何を燻ってんのか知らないけど、そのまま立ち止まってたらいつまでも前に進めないわよ?』ってね」


「きゃああああああああああ!! もうやだぁ!!」


美琴ちゃんは悲鳴を上げて膝をついた。
俺はその傍らに歩み寄ると、静かに告げる。


「その時、俺は君を好きになった」


「――――――っ」


「前に行く時は、君と共に在りたいと、そう思ったんだ」


俺は彼女を起こすべく、そっと手を伸ばす。
しかし、その手はあっけなく美琴ちゃんによって払われる。


「悪いけど、前には一人で行ってくれない?
私はあんたに付き合っている暇なんてないの」


明確な拒絶。

覚悟していたとは言え、それなりに応えるね。
でも、そんな事の覚悟はできているんだ。


「当り前だろう?」


「は?」


唖然とした表情になる美琴ちゃん。
俺は言葉を止めなかった。

前へ。ただ、前へ。

今、俺は彼女の隣に立つ。


「俺は君の足を引っ張りたいわけじゃない。
君はどんどん俺なんか気にしないで先に進んでいくと良い。
今まで、俺は、その後を、君の可愛らしいお尻が揺れている様を見ながら、はぁはぁしながらついていってただけなんだから。

でもね、これからは君の隣で進んでいこうと思う」


「――何も、知らない癖に」


「へぇ? 美琴ちゃんのスリーサイズや月経周期を知っていると言う事は、何か知っていることに入らないのかな?」


「ぶっ!? あんた、なんでそんなこと知ってんのよ!? てか、そう言う話じゃなくて……」


「じゃあ、どんな話? 俺が、知らない話って何?」


俺は彼女を真っ直ぐに見詰めて、そう問いかける。
すると、美琴ちゃんは顔を真っ赤にしたまま、ふいと俺から視線を逸らす。

ようやく、確信した。

あの時、病院で美琴ちゃんが俺を拒絶したのは何か理由があるんだ。それこそ、俺に知らせられないような。
おそらく、美琴ちゃんの性格からすると俺に危険が及んでしまうようなこと。

記憶を掘り返すと、俺の脳裏にあの紅い瞳が蘇った。


「一方、通行?」


ぽつりとつぶやいた言葉に、美琴ちゃんはビクリとその体を震わせた。
ああ、これは決定だわ。


ゾワリ、と心が粟立つ。
それは、果たして恐怖のためか


「あ、あんた、知ってて――」


「いや、何も知らないよ。でも、教えて欲しいかな」


俺は、苦笑しながらうずくまったままの美琴ちゃんの手にそっと自分の手を重ねる。
美琴ちゃんはそれを拒むようなことはしなかったものの、どこか怯えたように瞳を震わせた。

ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

ああ、もう、何この可愛い生き物!!!!
今、一瞬昇天しかけましたよ!!!!????
もう、ゴールしてもいいよね!? 男女関係的な意味で!!

俺は自分の心に芽生えた獣めいた感情に従い、そっと美琴ちゃんの顎に手を添えてそっと上を見させる。
その瞬間、


「……!? なんだ、この熱は!?」


彼女の体がとても熱いことに気がついた。
37度なんてもんじゃない、40度、それこそ人が出せる熱の最高レベルまで達するかのような熱。
彼女の顔が赤いのは、照れているんじゃなくて――


「早く医者に――!!」


「待って!!」


俺が彼女をお姫様だっこをして、そのまま部屋の外へ連れ出そうとすると、どこか切羽詰まった声で美琴ちゃんは俺を押しとどめた。
だけど、聞いてあげない。
俺はそのまま彼女を抱き、彼女たちの寮の自室の窓を開け放つ。

イメージするのは、翼だ。


『…あのなぁ? 能力者は能力を発動する際に、『その能力を発動する』って意思があれば発動に成功する。けどな、その傍ら制御のために計算式を思い描く必要がある。
つまり、自分の能力を良く知らなきゃ、制御もままならねえ。』


どこぞの女の言葉が俺の中で再生される。

ああ、その通りだな。
俺は俺自身が飛ぶための制御計算式しか考えていない。
それ以外は、自分の能力だって言うのに何も知らねぇし、誰かを守れるような能力じゃないのは俺が一番知っている。

でも、この訳わかんねぇ、役に立たない能力はとても便利だ。

何故なら、大好きな人を病院に運ぶのに、とても役に立つ。


「掴まってて!」


俺は直後、自分の背中に翼が展開したことを悟ると、そのまま窓からその身を青い空へと躍らせた。








一方通行side


無音の世界。
この世に、そんなものなんて存在しない。

ドクンドクン。

キシキシ。

ギュルルルル。

心臓が鼓動を奏でる音。

骨や筋肉がきしむ音。

そして、内臓が動く音。

全ての音を反射してもなお、私の中で聞こえ続ける音。
それは、無音の世界ではより一層明確に聞こえてくる私が生きているという証。

思いだしたのは、昨晩また命を落としたいつもの顔の少女。


(彼女は一〇〇二八番だったっけ?)


同時に、胃がな捻じれてしまったかのように悲鳴を上げる。
閉じていた目をさらにギュッとつぶり、その不快な痛みに耐える。

これは、私が耐えなければいけない当然の債務なのだ。

私が『最強』ではなく『絶対』となって、完璧な秩序を学園都市に築くための。

それから逃れたいなどと思うのは、あってはならないことだ。


(こんな、痛み程度で!!)


私は、繰り返し繰り返し彼女の死に顔を思い出す。
思いだし続ける。

いや、彼女だけではない。

今まで殺してきた同じ顔の彼女たちの死に顔を思い出し続ける。
絶対に、忘れないために。

何のために、そんな意味のないことをするのか? と私の理性は私に語りかけ続ける。

私は、彼女たちを殺し続ける『実験』に参加する以前も幾人かの人間を殺し続けてきた。
それは、そいつへの怒りで能力が暴走したせいだったり、誰かを失ったことへの悲しみだったり、色々だ。
だが、その統一性のない殺しには、たった一つの法則があった。

それは、私が感情的になったため。

私は、誰にも『感情』を向けてはいけないのだ。
そうすれば、直接的、間接的を問わずに誰かを傷つけずにすむから。

でも、同時にそれは他人がどうなっても構わなくなると言う事。
その、はずだった。


『実験』は、『感情』を誰かに向けなくなって久しい私に絶望(キボウ)を齎した。


無関心になるなど、嘘だ。現に、私の良心は痛み続けている。
もし、本当に誰にも感情を向けることがなくなっていたとしたのなら私は、今苦しんでいるはずがないのだから。

それでも、私は『実験』をやめない。

そして、少女たちの死に顔を思いだし続ける。

何度も。

何度も、何度も。

何度も何度も何度も何度も。

魂に刻みつけるために、忘れないように。
自分がいかに暗い場所にいるのかと言う事を、自覚し続けるために。


記憶の中の少女たちは、みな同じ顔であるにも関わらず、全員違う顔で死んでいた。





[6950] 三章 五話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/09/05 16:17
――――夜。

すっかり暗闇に呑み込まれた病室で、俺はただ美琴ちゃんの寝顔を見ていた。
医者の診断によると、疲労からくる風邪と言うことで、しばらく安静にしていればすぐに良くなるらしい。
今は、注射を受けて点滴をしながら眠っている。

そんな、彼女を見つめながら、俺は行動に移ることにした。

取り出したるは、携帯電話。
最新型で、超高性能デジタルカメラを内蔵していて、いつぞやどっかのでか乳侍に切断されたモノの補充として買ったモノだ。
因みに、これは以前どっかの若白髪に無理やりアドレスを取られたのとは別モノだ。

また、アドレスとられた奴は、いつ電話がかかってきても良いように持ち歩いてはいる。
…早く、電話掛けてこないかな。

俺はそんな事を考えながら携帯電話の機能でデジタルカメラを選択。
同時にウィーンという機械音と共に画面が真っ暗に切り替わる。
それもそのはず、もう夜で部屋の電気は消しているのだから、フラッシュでも焚かない限り、ただのデジタルカメラでは何も映らないだろう。
そう、ただのデジタルカメラなら。

しかし、学園都市という規格外の場所は普通なんてものは存在しない。

『夜でもくっきり写るんです!』と言うお題目のもと、この携帯のデジタルカメラは赤外線撮影も可能なのだ!


「ふはははははは! 見える! 見えるぞ!!」


俺は赤外線カメラモードの切り換えると、すぐさま連射ボタンを押し続け、やや眉をひそめながら眠る美琴ちゃんを激写する。

上から、下から、前から、後ろから!!

連続して病室に響くシャッター音。
次いで、訪れる静寂。

俺は余すことなく美琴ちゃんを取り終えて、見事にデータフォルダが満杯になったことを確認すると、納刀する侍のように自分のポケットに納める。

これで、『ご褒美』の準備は整った。
頑張ることにしましょうか!

俺はそのまま静かに病室を出る。
病院の夜の廊下は静謐を保っていたが、どこか無気味な印象を俺に与えた。


「お化けでも出てきそうな雰囲気だな」


まあ、今からお化けよりも怖いのに会いに行くつもりなんだけど。
そう、俺はこれから奴に会いに行く。
美琴ちゃんを傷つけ、その体がボロボロになるまで追い詰めたと思われるあの女に。
本当は美琴ちゃんが回復するのを待ってから行こうと思っていた。
だけど、美琴ちゃんが体調を崩してしまうほど無理をしているのは明白、ならばこれ以上彼女に無理をさせるわけにはいかない。
だから、俺は考えた。

一方通行に直接美琴ちゃんに何をしたかを聞きに行けば、早いのではないかと。

うん、我ながら素晴らしい考えだ。
これなら美琴ちゃんの手を煩わせることもないし、スマートだ。
一方通行の野郎が何も言わなかったら、直接メルヘンをかけて自供させれば良いしね。

さて、そうなるとどうやって一方通行のあん畜生をおびきよせるか、だがここで先ほどのご褒美が活きてくるのだ。

俺はそのまま医者や看護婦に見つからないために、病院の二回の窓から能力を使って飛び降りる。
そして、着地と同時に携帯電話を開き、ある番号を呼び出す。


「あー、もしもし? 俺の性奴隷の白井さん?」


『誰が性奴隷ですの!? その節操なしのマッシュルーム切り取りますわよ!?』


「ば、俺はポークピッツだよ! あんなにカリが太くない!!」


『おい、てめえ。今どこだ、マジで命狩りに行きますわ』


「やってみろ、この百合百合娘…っと、お前で遊んでる場合じゃなかった。美琴ちゃんの事なんだけど…」


『そう! それですわ! こちとら、取りたくもねぇ貴方の電話を取ったのは、そのためですのよ!!
さあ、キリキリ吐きなさい!!』


「まあ、結論から言うとただの風邪。今日は一日念のために入院するけど、明日には帰れるってさ。
今は注射と点滴してもらって眠ってる。さっき、ちょっと額に触ったら熱は引いてた」


『そう…本当に良かった』


電話先の相手、白井黒子はそう言うと安心したのか、ゆっくりと息を吐きだした。
うん、こいつはなんだかんだで美琴ちゃんの事を本気で心配しているからなぁ。

…実は美琴ちゃんには、こいつみたいな友達があまりいない。

憧れをもっているやつなんかは大勢いるけど、『友達』というポジションの奴が少ないのだ。
まあ、大かた理由は予想がつくけどね。
ともあれ、取りあえずはこいつにも美琴ちゃんの安否は伝えられた。
そろそろ本題に入ろうか。


「…なあ、白井。風紀委員って学園都市の裏情報って知ってるか?」


『? 何ですの、突然? それは、もちろんいくつか知っていますけど…正直、信憑性は低いですしあまり好ましい情報だけではありませんわよ?』


「…一方通行って、知ってるか?」


『そんなもの、裏情報でもなんでもありませんわ。学園都市序列第一位、最強の能力者ですわね』


「じゃあ、一方通行の住み家は?」


『……あなた、何考えてますの?』


俺が質問を口にすると、白井の声が突然鋭くなった。
当然だ、普段の俺ならそんなこと間違っても聞かないし、聞く意味もない。
第一、学園都市の最強、いや最凶の存在に俺程度の能力者が何の用なのか、なんて想像もつかないだろう。

白井 黒子は大能力者だ。その分、とても頭の回転が速い上、論理立てた思考を得意とする。
そんな彼女をもってしても、俺と一方通行の繋がりなんて想像も出来ないだろう。

俺は、低く笑い声を上げる。


『なんですの? 何を笑っていますの! さっさと答え…』


「いいから教えろよ、白井。知ってんのか、知らねぇのか」


『だから、理由もなく個人の情報を教えるわけにはいきませんわ!
第一、そんなことを知って貴方は何をするつもり…』





「いいから教えろってんだよ!!!!」





ビリビリと、自分の鼓膜までぶちぎれそうな音が響いた。
ああ、やぱり病室を出ていて正解だった。
もし、いたままだったら確実に美琴ちゃんを起こしていたわ。

そして、一拍遅れた後で、白井のどこか震えた声が聞こえる。


『……怒鳴られたって、教えませんわ』


「…分かった、ならこうしよう。実は、今美琴ちゃんの入院着で睡眠しているベリープリチーな写真が限界まで入っている携帯がある。
これをてめえにくれてやるから…」


『怒鳴って、鞭を与えた後に飴を提示する。なめるんじゃありませんわ、その程度の交渉で私が陥落すると思いまして?』


「おいおい、ただの写真じゃねぇぞ? 美琴ちゃんがよだれを…」






『ふざけるんじゃありませんわ!!!!』






キーンと、携帯が鳴る。
俺は、始め何を言われたのか理解できなかった。
それでも、時間と共に何を言われたのかが分かる。


「…交渉、決裂か?」


『違いますわね、私はまだ交渉の席にも着いていません。決裂以前にこんなもの、成立していないのですわ』


「そうか、ならもういい」


『…っ!? かき――――』


俺はブチリと携帯の通話を切り、そのまま電源も落とす。
正直、あいつに教えてもらえれば一番良かったのだが、他に手がないわけでもない。

そう、第六学区に行くのだ。
あそこは、アミューズメント施設が多数存在し、その分スキルアウトのような存在も数多く集まっている。
蛇の道は蛇。
一方通行と言う非合法の存在には非合法な奴らから話を聞くに限る。

俺は、そのまま第六学区へと歩き出す。

あの女の電話を待ってるのは性に合わない。
叩き潰すのなら、こちらから行ってやる。









―――――――――――――――――――――――――――――――――








「ねーねー、お兄さん。今暇なの~?」


「消えろ、雌豚」


第六学区の裏路地。
そこは、学園都市の肥溜と言っても過言ではない場所だ。
かく言う俺も一時期お世話になっていたこともある場所なのだが、取りあえずろくでもない場所だ。
喧嘩やナンパなんて日常茶飯事。
そして、現在俺の前にも全身が焦げているかのように真黒な肌に老人のような白髪の少女たちが、この場所のろくでもなさを表していた。


「えー、いいじゃんいいじゃん。遊んでってよー」


「そーそー、お兄さん程のイケメンってここらじゃあんまりいないんだもん」


う、うぜぇ。
なんなのこいつら、アレか? パンダか、いやパンダのリバーシブルタイプか?
取りあえず、その黒い肌はなんなんだ。確実に皮膚ガンにかかっているだろう。
あと、なんか香水でごまかしているようだが、体から微妙な匂いがする。

結論=『追っ払う』


「うぜぇ、男漁りならそこら辺の股間の大きそうなお兄さんがたに相手してもらいなさい」


「えー、ぶさいくとはヤリ飽きちゃったー。だからー、ねー?」


いや、だからなんだ。
人の手を勝手に握るな、股間にもっていこうとするな。
あ、誰だ今股間触りやがった奴は!?

ってか、俺の財布はどこに行った!?


いつの間にか、俺の周りには不自然な人だかりができていた。
どうやら、こいつらは俺のような善人を餌にするような糞ったれのようだ。

うん、ならばもう遠慮はいらないね?


「てめえら、良い加減にどきやがれ!!!!」


俺の言葉と共に背中に生える純白の翼。効果範囲は指定しない。
同時に、先ほどまでやたらとうるさかった一団が静まり返り、全員どこか虚ろな表情になる。
俺は取りあえず俺の財布を手にしてボーっとしているやつから財布を奪い返すと、その一団から抜け出すために空へと飛ぶ。
そして、少し離れた所に着地すると能力の解放を止めた。

途端にザワザワと再び慌ただしくなる雑踏。
だが、その中心にいた俺がいなくなっているのが分かると、そのざわめきも大きくなった。


「え、嘘!? いなくなってる!?」


「な、なんだなんだ! テレポーターだったの!?」


「え、嘘! やばいじゃん、そんな人にちょっかい出したら私らただじゃ…」


「に、逃げろ!」


その一言で蜘蛛の子を散らすかのように四方八方に逃げ出すアホども。
俺はそれを尻目にドンドン路地裏の奥へと進んでいく。

そう、俺はこんな所に用はない。

もっと深い場所。
それこそ、学園都市の眼が届かない死角とも言える場所に用がある。
ただ、それらはこの第六学区には存在しない。
なぜなら、こんなあからさまな場所に存在しているはずがないのだ。

ここは、その死角に辿り着くための鍵が手に入る場所。

学園都市の闇の初歩的な部分だ。

そう、それこそ混沌だ。

俺が歩いていくと、少しだけ景色が変わった。
と言っても、道にたむろしている者の顔つきが変わった、と言う程度だが。

複数固まって座っている、死んだ魚のような眼をした『子供たち』。
先ほど俺に近づいてきた雌豚とは比べ物にならないほど美しい客待ちの女たち。
そして、こちらを睨む明らかに素人ではない眼光の男たち。

うん、段々らしくなってきたじゃないか。

俺がそう思いながら歩いていると、一人の少女が俺へと近づいてきた。


「ねーねー、お兄さん。ここの辺りじゃ見ない顔ね」


「いや、久しぶりに来たって感じかな」


俺は、あえてその少女を邪険に追い払わずに自然体で答える。
これは、言わばこの場所に来たものをチェックすると言う、最初のチェック。
その証拠に周りの連中も俺に無遠慮な視線を向けて、まるで品定めをするかのようだ。
少女もその視線に気が付いているのか、どこかあざ笑うかのように俺を見つめる。


「へぇ? 久しぶりってことは前に来てたことあるんだ? んー、でも私は覚えてないなぁ」


「…俺も、君みたいにかわいい子、初めて見たね」


「あはははは、何それ? 口説いてるの?」


「いんや、ただ、本当にそう思っただけ」


そう、少女は美しかった。
水商売の女性のように濃い化粧をして、派手な服を着ているもののどこかその瞳は澄んでいた。その瞳は、まるで美琴ちゃんのようで…


――――――いや、待て。


いくらなんでも、いきなりそんな事を思うはずがない。
この娘の内面なんて知りもしない、それこそ初めてあったばかりだと言うのに、俺にはもうこの少女が美琴ちゃんと全く同じレベルまで愛おしいのではないかという感覚すら得ていた


なんだ、これは!?
混乱する俺。
そんな俺に少女はまるで睦言を囁くかのように耳元に顔を近づける。


「やっぱり、『強能力者(レベル3)』程度じゃこの程度の強制力、か」


「!? お前…」


「うふふ、動かないでね」


言葉と共にガチャリと俺の胸に硬い金属が押しつけられる。


「…おいおい、冗談キツイわー」


「試してみる?」


「いんや、全裸で土下座するから許してほしい。ってか、現在進行形で足の震えが止まらず、失禁しそうなんで勘弁してください」


「じゃあ、お願いを聞いてね」


語尾にハートマークをつけるような声と満面の笑み。
その顔は、何故だか美琴ちゃんとかぶる。


「ぐっ、『念話能力(テレパス)』の応用か? なんにせよ、嫌らしい能力だ」


「ふふ、私の能力は人の心の距離を調節できるの。あなたが知り合いの一人一人に設定しているのと同じ心理距離も保てるの」


「まさ、か……」


「そう、貴方が大好きな『超電磁砲(レールガン)』。彼女の心理距離と同じ距離を取っているの。
でも、まだまだレベルが低いから人によっては効果がいまいちなんだけど」


「は、はは。俺には効果絶大だわ」


何故だか、俺は全身から脂汗が出てくるのを感じた。
俺の目の前にいるのは美琴ちゃんじゃない。そのはずなのに、俺には美琴ちゃんが俺に銃を向けられていると感じてしまう。
だから、メルヘンも発動できない。

出来るはずが、ない。


「貴方に、一つだけお願い」


「…脅迫だろう?」


「あら、『お願い』よ。そして、忠告でもあるわ」


「忠、告?」


「そう、一方通行を追いかけるのはやめた方が良いわ」


「…あ?」


「アレはヤバすぎる。いくら、あの時100人以上の人間を『壊しつくした』貴方でも、きっと負ける」


「――――――っ!!??」


ドクリ、と俺の心臓が跳ね上がる。
こいつは、あの時のことを知っているのか!?



「じゃあね、バイバイ帝督」



言葉と共に、僅かに湿った感触が俺の頬に当たる。
それが、彼女の唇の感覚だと気がついた時には、すでに彼女はもっと深い路地裏の闇の中に紛れてしまっていた。

彼女が消えてしまった場所を見つめながら、俺は思う。


(――ちょっとだけ、ちびった)


取りあえず、コンビニにパンツを買いに行こう。



[6950] 三章 六話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/09/06 21:44

取りあえず、俺はまずは汚れたパンツをどうにかする事から始めることにした。

ん? 第六学区? 無理無理、あそこにはコンビニはないからね。
またの機会に行くことにしよう。


「ありがとうございましたー」


店員のお姉さんの言葉に押し出される形で店内を後にする。
うん、取りあえずはどこかの物陰でパンツを換えることにしよう。
俺はこそこそと建物の物陰に隠れてまだ包装用のビニールに包まれているパンツを開ける。
そして、取り出したるは真っ白なブリーフ。

…いや、アレだ。ブリーフしかなかったんだからしょうがない。
いくら、普段の俺がトランクス派であっても、こればっかりは仕方がないと言えるだろう。

俺は自分にそう言い訳しながらも誰かに見られる前にパンツを交換する。

そのさなか、俺はさらりと俺の暗い過去を暴露してくれちゃった彼女を思い出す。

濃い化粧。
染められた髪の毛は金髪だった。

……ハッキリ言って覚えがない。だが、同時に予測がついている自分がいる。
もしかしなくとも、彼女は俺と同じ研究所にいた実験体(モルモット)なのだろう。

まあ、俺が当時いた場所は人体の精神に影響が与えられることから、『念話能力(テレパス)』系の部署であった。
先ほどの少女も恐らくは『念話能力者』であることから、ほぼ間違いがないだろう。

と、なるとあの全然旨くない病人食のようなペースト状の飯を一緒に食べた子供たちの中に彼女はいたのだろう。


「…懐かしいなー」


いや、本当に。
もしかしたら、彼女は俺があの場所を壊滅させた後でどこか別の研究所に引き取られたのかもしれない。
あー、そりゃあ可愛そうに。うん、あんだけ可愛けりゃどこのうちの学校だったら滅茶苦茶チヤホヤされたことだろうに。

と、そんな事を考えている内に着替えが完了。
あの子には『忠告』されたけど、そんなもの聞く訳ないから。

俺は、一に美琴ちゃんと上条、二に美琴ちゃんと上条、三に美琴ちゃんと上条だから!

俺は自分の着替え終わったパンツをそっと傍らの植え込みの地面に埋めながら、思考する。
第六学区は今回は諦めるとして、次の候補としては…


ガシャン!!


突然背後から聞こえた物音。
それにビックリした俺は慌てて後ろを振り向いた。
すると、そこには黒猫が一匹。


「にゃー」


「なんだ、猫か。ビビらせるなよなー」


そうは言いつつも、心臓がバクバクと鳴っている俺は、そのままズルズルと壁伝いに腰を落とす。
なんだか、出鼻をくじかれた気分だ。

腹いせに、このぬこを弄ることにしよう。
俺はこちらを不思議そうに見上げる猫にそっと手を伸ばす。


「おい、お前。ちょっとこっちに来るにゃ」


ちなみに、俺はぬこに語りかけるときに猫語になる。
気持ち悪いって言った奴、ちょっと前に出ろ。


「ふしゃー!!(気持ち悪い!!)」


ザシュリと言う擬音がぴったりな爪での一撃。
俺が伸ばした手は、ぬこに触る前にぬこのぬこパンチとは言い難い威力を持った攻撃によって防がれた。
なんだか、叫び声に副音声が混じっていた気がするが、気のせいだろう。

それは、ともかく引っ掻かれた部分は切れこそしないものの、真っ赤に腫れあがりだした。


「て、てめぇ。可愛い顔して、意外と猛獣じゃねーか」


「にゃーご(堕落した人間とは違うのだよ)」


こ、このぬこ。やりやがる!?
だけど、そうこられたらこっちも負けてられないね!


「意地があるんだよ、男の子にはー!!」


「フニャーッ!!(見える、見えるぞ!!)」


俺がかけ出した途端、猫もそれに呼応するかのように駆け出した。

俺はその猫を追いかけて走りだす。
すると、猫は小癪にも塀の上に登り華麗に駆け出した。

くそっ! 速い、新型か!?

俺はその後に続きながらも、徐々にその距離を離される。
いや、徐々になんてものじゃない。
すぐに猫は脇道にそれてしまい見えなくなってしまう。


「ちっ、逃がしたか――」


俺は荒い気を吐きながらも、辺りを見回す。
すると、


パンッ!


何かが、弾ける音がした。






side out






地べたにうつぶせで倒れる少女。
乾いた音と共に、彼女が最後の力で放った銃弾は標的へと吸い込まれるように空気と言う壁を割っていく。
だが、同時に彼女は知っていた。

銃弾(そんなもの)で、相手が倒れるはずがないと。


「効かねぇよ」


その声と共に、銃弾が当たったはずの彼女の敵はゆっくりとこちらへと歩みよって来る。
彼女はその体から力が抜けていくのを感じながら、ただぼんやりとその足が自分の傍らに立つのを見る。
別に、これが初めてと言う訳ではない。

もちろん、彼女本人が体験したわけではないが、体験した記憶があるのだから、それは体験したことになると彼女は考えていた。
だから、この次に何があるかも彼女は知っている。

ゆっくりと体が仰向けにされる感覚。
同時に彼女はその敵の腕の中にいた。


「バカ野郎が。オマエは何回殺されてェンだっつのっ」


「ぐ、ガフッ」


苦しい息の中、彼女は自分を抱き上げた敵を、いや少女を見る。

月光を反射し銀に輝くその姿。
彼女は、不覚にもそれを見て美しい、と出来そこないの感情で思った。
本来の彼女なら、そんなことを思うはずがないのに。
そんな中、少女は泣きそうな声で罵詈雑言を吐き出す。


「よェえくせに、なんで毎回毎回逃げねェンだよ。いい加減に、別のこともしてみろってんだよ!」


「すいま、っせ」


「うるせェ。もう楽になっちまえ」


彼女は、謝った。
自分が何に対して謝っているのかも理解できずに、ただその心の奥底から沸き上がる何かを元にして。
だが、少女はその苦しそうな彼女の言葉に、さらに泣きそうな表情になりながらその手を振り上げる。


「ハッ! その顔だけは原型をとどめておいてやるよ。感謝しろ」


そして、少女は彼女がそれ以上何も見なくてもすむように、その目を片手で閉じさせてからもう片方の手を彼女の首筋に宛がう。
その次の瞬間、彼女の首筋がまるで内側から爆発したかのように膨れ上がり、次の瞬間には硬い皮膚すら突き破って真っ赤な血糊を辺りにまき散らした。

少女は知っている。
その殺し方は、本当に一瞬で彼女を殺せると言う事を。

噴き出す血糊は少女へと次々に降りかかるが、その肌や衣服を汚すことは一切なくただ辺りに噴水のように散らばる。

少女はその間、食い入るように血で濡れていく彼女の顔を見つめた。
ただ、その顔を忘れないようにするために。

やがて、血糊の勢いがなくなったころ、少女は静かに立ち上がった。

ソレが意味することは、実験の『終わり』だ。

やがて、この彼女を回収するために彼女が来ることになる。
その前に少女はここを立ち去ろうと考え、それを実行しようとした。

だが、


「美琴、ちゃん?」


一人の少年が、ビルの隙間からあらわれたことによって、それは中止させられる。

その少年を彼女は知っていた。
目つきの悪い顔に派手な髪形。
一見すると、ただの不良のようだが、少女は彼がタダモノではないことを知っていた。

何故なら彼は銃弾すら容易く弾く少女を蹴り飛ばし、久しぶりに痛みを思い起こさせた人物なのだ。

同時に、とても気になる人物でもあった。

だから、少女は彼には、彼だけにはこんな場所を見られたくはなかった。
それでも、彼がその場所で呆然とこちらを見ているのは変わりはない。

少女は諦めるような気分で彼と彼女の延長直線状から下がった。

その途端、彼はもつれそうになりながらも駆け出して、血の池を作った彼女に向っていく。
フラフラと、まるで幽鬼のような足取りで。

少女は知っている。

彼が恐らくはとてつもない勘違いをしていることに。
それでも、少女はその間違いは正さない。

何故なら、少女は知らないから。

彼以外に自分を断罪してくれる存在を。



彼は遂に辿り着く。
血にまみれた彼女の元へ。

そして、その血の池の真ん中で彼は膝をつき、そっと彼女を抱き上げた。


「美琴ちゃん、美琴ちゃん――」


それは彼女の名前ではない。
だが、彼は勘違いしたまま、その名前で彼女を呼ぶ。



「美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美

琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ち

ゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん

美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴

ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃ

ん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美

琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ち

ゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん

美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴

ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃ

ん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美

琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ち

ゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん美琴ちゃん」



何度も、何度も。

やがて、その声は小さくなって震え始める。
その震えが、嗚咽に変わるのに長い時間はかからなかった。


「うっ、くっ」


少女はただ、断罪の時を待つ。
彼が、怒りの刃を自分自身へと向けるその時を。


「ひっ、ぐすっ、うぁぁぁぁ」


次第に大きくなっていく彼の鳴き声をBGMに。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」




彼が、叫び始めたその瞬間、彼の背中から音もなく翼が生えた。

可愛らしい、天使の翼が。

いつだったか、少女が彼の能力を見た時にも見せたその翼。
それは、次第に形を保てなくなってきたとでも言うように蜃気楼のように揺れた。

それが、前兆であったのだろう。

直後、彼の背に生えたその翼は次第にその大きさを変えていく。
大きく、大きく。
空を覆い尽くさんばかりに大きく。

ただ、その形は変わらない。

その大きさが変わっただけの巨大な天使の羽。

ふと気がつけば、彼のその頭には天使の輪っかができている。


「――――まるで、天使」


ぽつりとつぶやいた彼女の言葉を聞く者は誰もいない。
いや、正確には一人だけ、いる。
そう、学園都市の中枢に文字通り位置している存在が。

しかし、今この場所で目の前で起こっている事象を直視したのは、少女だけであった。
従って、その音を聞いたのも彼女のみ。




――――Benedictus, qui venit in nomine Domini.




いつの間にか空を半分に割る勢いで巨大化した彼の翼が、一度震えるように羽ばたく。
それと共に、無数の光が地上へと降り注ぎ始める。

光は、彼の翼の羽根。

まるで、雪のように世界に降り注ぐ。



「真夏の雪、か」


ふわりふわりと、まるで実体があるかのように降り注ぐ羽根で自分の目の前に降りてきたものに少女はそっと手を伸ばす。
そして、彼女の手に羽根が舞い降りた時、彼女の頭にたった一つの言葉が浮かんだ。










――――――――悲しい










ポツリ、と雨が降る。
一滴の雫が少女の頬を滑り落ちて大地へと落ちた。

学園都市の天気予報は一日中晴れのはず。

少女は空を仰ぎ見た。

けれども、空は幾つもの羽根が舞っているだけで、その向こうには星空が広がっているだけだ。
どこにも雲など存在しない。

ポツリ、とまた雨が降る。
地面に雫を落とす。

そこで、彼女は初めて気がついた。

これは、雨ではなく、自分の涙なのだと。







風に乗った羽根はいつしか学園都市中に降り注ぎ始める。

建物の中にいる者、外にいる者。

眠っている者、起きている者。

その全てに関係なく降り注ぐ。
そして、学園都市中の人間に強制的に伝えた。



悲しい、と。



それは、窓のないビルにいる『人間』も例外ではなく。



「ぐっ、おおおおおおおおおおお! やめろ、止めろ!! 私の計画(想い)を暴くんじゃない!!!!」



また、病院で眠っていた彼女も例外ではない。






「泣いてんの? 馬鹿」





――――――――主の名によって来る者は、祝福される。


――――――――祝福あれ、同胞(はらから)よ。



その日、空から涙が降ってきた。





[6950] 三章 七話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/10/30 23:16

学園都市に悲しみが降り注ぐ。
その悲しみは『羽根』という形をしており、それに触れてしまえば誰しもが例外なく悲しい気持ちへとなった。
そんな異常事態の中、降りしきる羽根で身体を白くしながらも無言で立ち尽くす男たちがいた。

第七学区の『不良(スキルアウト)』たち。

彼らは学園都市において『無能力』という烙印を押されたものの、それをよしとせずに体を鍛え、他の能力者たちに対抗しようとしている者たちだ。
そんな彼らは当然ながらメンバーのほとんどのガタイが良い。
特にリーダーである駒場 利徳に至っては他のものよりも頭一つ分以上大きい、まさしく巨漢と称するにふさわしい人物だった。

その彼の周りには浜面 仕上や半蔵など彼のスキルアウトのメンバーたちがいた。
ただし、彼らの表情は一様に唇を噛み、眼を見開いている鬼瓦のような者であった。

そして、その中の一人が突如として膝をつく。


「ぐっ、がっ、ちくしょう! すまない、みんな…」


彼はそのまま地面に這いつくばるかのように倒れこみながら、嗚咽を殺して男泣きを始める。
泣き始めてしまった彼を見ながら、スキルアウトのメンバーは思う。

次は、自分かもしれない、と。

彼らは自分たちが、男臭いことを知っていた。
もっとも、それはつっぱって不良なんてものをやっている彼らからすれば当たり前のことだ。
だが、今はその当たり前のことが彼らを追い詰めている。

想像してみて欲しい。

男臭い男たちがたむろして男泣きしている姿を。
その光景は、果たしてに正視出来るだろうか、いや、出来ない。

彼らは、そのことを誰よりも明確に理解していたのだ。

そして、この一連の現象の元凶は他でもなく空から次々と舞い降りてくる羽根。
羽根自身ははるか遠くに見える巨大な翼から発生しているかのように見えるが、彼らにはそんな事を検証している余裕はなかった。

ともあれ、空から降る羽根は『誰か』の感情を彼らにダイレクトに伝えてきた。
誰かの感情は、ただ悲しいと彼らに訴えかけ感染させる。
まるで、本当に自分自身が悲しんでいるのだと錯覚させられるのだ。

それは涙を流させるほどの感情の嵐。

しかし、その感情の波にさらされながらも、彼らは耐える。
時折、倒れて泣きだす者もいて次第にその数を減らしていくが、それでも彼らは耐えた。

彼らの心にあるのはたった一つの信念。


――――俺らが泣いたら、キモクね?


悲しいかな。それは真実であった。
それ故、彼らは泣くことは許されず。
また、羽根の感染を防ぐことも出来なかった。
彼らに許されるのは、ただ押し寄せる悲しみに耐えることだけ。
だが、それもやがて限界を迎える。


「!?」


羽根を伝わってもたらされるものに、別の者が含まれたのだ。
それは、彼の普段の光景。

どれほど拒絶されても、相手にされずとも愚直なまでに『彼女』に思いを伝え続けるその姿。
遥か高みにいる彼女の隣にあり続けようとするその姿勢。

そこで、彼らはようやく気がついた。

この振り続ける羽根は悲しみなんかではない、と。

降りしきる羽根は『哀(あい)』。

行き場をなくした『愛』が、そのまま昇華されてしまった感情なのだと。


「こ、こんなの……」


スキルアウトの一人、浜面は思わずそう口にする。
その続きが何なのかは分からない。ただ、消えてしまった言葉は彼だけが知っている。

それでも、彼が涙を流し始めたという事実が、答えを教えてくれていた。

気がつけば、周りのスキルアウトたちも、それこそ彼らを率いる首魁の駒場 利徳さえも涙を流している。
浜面はそんな彼らを見つめながら、たった一つだけ言葉を漏らした。


「ああ、気持ち悪いなぁ」


それは、男臭い地獄の蓋が開かれた瞬間。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――









「とうま、帝督を助けてあげて」


その言葉と共に銀髪の少女は、涙を流しながら倒れた。
上条は、ただ彼女を優しく抱きしめると、自分の病室のベッドの上に横たえる。
壊れモノを扱うかのように優しく、その腕に万感の想いを込めて。
そのベッドには、天井から次から次へと純白の羽根が舞い降りている。

上条は、その羽が誰のものなのか知っている。

そう、それは彼の親友であり、最低の変態の柄にもないメルヘンな翼。

それは、『幻想殺し』をもつ上条が触れてしまえば、瞬時に消えてしまうものだ。
インデックスは、その翼が帝督の感情を伝えているという。
どうしようもない悲しみを。

上条にも、それは分かっていた。
そのあまりに純粋な思いは、垣根 帝督のものなのだと。
上条は、唇を噛み、右手を握りしめた。


(あの馬鹿。人に一人で背負いこむなって言っておいて、自分が一人で背負いこんでんじゃねぇか)


折れてしまった彼の足。
全治には3ヵ月もかかると言われていたその足は、『先生』もとい、アウレオルス曰く骨がすでに繋がっている状態であるという。
それは、ハッキリ言って上条自身もあり得ないことだと思う。

何故なら、彼はただの人間だ。
右手であらゆる異能を打ち消すだけの、傷を負えば死ぬこともある普通の人間だ。

だから、これは上条の力ではない。

原因なんてものは、上条は知らない。

ただ、上条はそのことに獰猛な笑みを浮かべる。


これで、何者も彼を遮ることはなくなった。


彼の右手は、便利だ。
異能を打ち消すことしか能がなく、自分自身に不幸を背負わせる右手。
それでも、彼の右手はとても便利だ。

何故なら、




「待ってろ、変態」





彼の親友を救えるのだから。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――









悲しい。
いや、哀しい。

俺は、失意のどん底でそんなことを思った。

大好きだった彼女。
彼女が、もう二度とクルクルとよく変わる表情を見せてくれないことが、とてつもない虚脱感を俺にもたらした。
あ、あと彼女で童貞を捨てられなかったことも。
いや、大好きな人とエッチしたいと思う事は悪くないはずだ。

ソレはともかく、しばらく我を忘れて泣いていたのだが、気がつけば俺の背中には異様な大きさの翼が生え、辺りに羽根を振らせていた。

正直に言おう。


「なんじゃ、こりゃあ?」


こんなこと、俺は知らない。
俺の能力は、『脳内メルヘン』はこんな凄まじいことができるはずがない。

そして、腕の中にいる血まみれの美琴ちゃん。
彼女を見るたびに涙があふれてくるが、その肌はすでに地を失ったため真っ白に変色している。

そこで、ようやく実感する。
彼女が本当に死んでしまったのだと。

俺は、彼女が熱を出して病院にいるものだとばかり思っていた。
しかし、おそらく彼女は病院を抜け出してまで此処まで来て、一方通行と戦った。

俺は彼女の死体を抱きしめながら、目の前にいる白い悪魔に視線を向ける。

一方通行は、俯いておりこちらを見ていないがその頬には幾筋かの涙の痕が見える。
恐らくは、泣いたのであろう。

何故、泣いているのかは分からない。

ともあれ、もし俺があの時に調査を優先せず美琴ちゃんと共にいることを選択していたら、彼女は死ぬことはなかった。
俺がいたら、こんな所に来させるはずがなかったから。

だから、


「美琴、ちゃん」


俺は彼女の肩に顔を埋める。
すると、いつもの柑橘類系の良い香りの代わりに、鉄臭い据えた血臭がした。


「お前、本当になんなんだよ?」


俺が、しばらくそのまま動かないでいると、不意に一方通行が呟いた。
俺はノロノロと顔を上げる。
すると、一方通行が泣きながら俺に向かって歩みよってきていた。
俺はと言えば、美琴ちゃんを放り投げて逃げるわけにもいかず、ただ彼女を見つめるだけに留まる。


「これが、私の罪を自覚させられることだけ、それだけが、私に対する罰だとでも言いたいの?
一生、罪の意識に苛まされることが!」


同時に、俺は襟首を掴まれて引き上げられる。
美琴ちゃんも俺の手から離れ、大地に倒れることになった。


「あ…………」


俺が無意識のうちに彼女に手を伸ばそうとすると、その手が払われた。


「ふざけないで! 私は、私は理解している! これが罪なんだって、これがいけないことなんだって!
だけど、今さらどうしろって言うのよ!? 初めに一人殺して、自覚したのに止められなくて……」


俺に叩きつけられる言葉の刃。だけど、俺にはその半分も理解できない。
ただ、彼女が何かに苦しんでいるのだろうと言うことしか分からない。

そんなこと、彼女だって分かっているだろう。だと言うのに。彼女は言葉を吐き出し続ける。


「1人の時点で止められなかったことを責めているの!? だったら、貴方がやれば良かったのよ!
私は、私は、所詮は貴方の『代替計画(ニュープラン)』だったんだから!!」


「は?」


「止められるはずがない、私の反論はおろか性格、次の行動まで全てが完璧に予測されている!
逃げ道なんて無かった!! あの魔人の掌の上から逃げだせたのは貴方だけ!!」


「ま、じん?」


「知らないなんて言わせない! だって、私の前の『第一計画』は――――」



――――貴方だったんだから。



なんだ、それは? なんの話だ?
俺は理解なんてできない。俺の頭は所詮『強能力(レベル3)』程度の開発しか行われていない。
暗記はもちろん、思考の速度、発想など、とてもではないが『超能力者(レベル5)』の目の前の存在には及ばない。
だから、俺はこいつが何を言いたいかも分からない。

それでも、たった一つ分かってしまったことがある。


こいつは、逃げようとしているのだと。


美琴ちゃんを殺しておいて、それがあたかも本当の自分が望んだことではないと言っている。
それじゃあ、美琴ちゃんは何のために殺されたんだ?
こんな、こんな奴の為か!!??


「ふざ、けんな」


「?」


気がついたら、俺は口を開いていた。
悲しみに隠されていた別な感情が、剥がれた瘡蓋から顔を覗かせる。


「グダグダほざいてんじゃねぇよ。今、たった今、ここで美琴ちゃんを殺しやがったのは、テメエだろうが!!」


「!? ち、ちがっ、私は、私は!!」


「魔人だか、魔人ブゥだか知らねぇが、俺は今心底お前にイライラしてんだよ!!
よくも、よくも美琴ちゃんを殺しやがったな! 俺の、俺が大好きだった彼女を!!」


脳の中を熱い、煮えたぎるような血液が駆け巡る。
そして、俺はそのまま一方通行の俺の襟首を掴んでいるその右手を掴んだ。


ボキリ


「え?」


直後、嫌な音がした。
俺はその音の音源。正確には俺の襟首を掴んでいた一方通行の手首を握ろうとした自分の左手を見る。

プラーンという音が似合いそうなほど脱力して、感覚がなくなっている。
気のせいか、次第にその部分の肌の色が紫色に変色していく。


い、いやいやいやいやいやいやいや!!
さ、流石にこれはないって! いくらなんでも、一撃も与えられずにこちらは致命傷とか、そんなダサい展開!!

アレレ? ナンダカ腫レテキタ手ガ痛イゾ?

しかも、手首とか曲がって構わない部分ではなく、そのちょっと下。明らかに曲がってはまずい部分が曲がっている。
まるで、間接がもう一つ増えてしまったかのようなソレは明らかに視覚的に異常だと判断できる。


「え、あ、その…」


一方通行も何故だか非常に申し訳なさそうな顔をして、俺の襟首から手を離した。
しかも、その瞳にはどこか憐憫の情が混じっている。


「…待て待て待て待て。いや、違うから。これは、骨折とかそう言うのじゃないからね?」


「……」


「ほ、ほら、これはプラプラしてるけど、たぶん逆に曲げれば治るから!」


「……」


「……」


いつしか俺も言うべき言葉が無くなり、無言になる。
気まずい、あまりにも気まずすぎる沈黙が流れた。

いやはや、とりあえず攻撃しようにも痛みのあまり能力発動に集中できない。

痛みは、次第に熱を持って俺を苛む。

目の前には、最強の『超能力者(レベル5)』。


あれ? 俺ってばこれ死んだんじゃね?





[6950] 三章 八話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/10/30 23:17

「覚悟、できたよね?」


一方通行は、一歩足を前に踏み出して酷薄な笑みを浮かべた。
まるでとろけるチーズが融解した時のようなそのつり上がった笑みを見て、俺は数歩後ずさった。

こ、こえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
これは勝てないって、流石に瞬殺されるから! てか、しゃべり方がなんか変わってません?

歩み寄る一方通行に、その分だけ後ろに下がる俺。
状況は綱渡りをするかのようにギリギリ。
いや、正確には一方通行の気分次第だ。
あいつの能力は全てのベクトルを操るとかいう意味の分からないものである上、たしかこの前美琴ちゃんと戦おうとした時にはゴミ箱を蹴って建物の外壁を破壊していた。
真正面から逃げに徹しても逃げ切れる相手じゃない。

よし、ここは口でなんとか煙に撒くか。
それで、いつかのようになんとか脱出して、荒事専門の警備員を呼ぼう。他人任せだが、それが確実にこいつを撃退する方法だ。
なんだか喋り方が変わってからのこいつは、何かヤバイ。
言うなれば、背中から絶えず冷や汗が噴き出るような感じがする。
こいつとは戦うなと、理性も本能も悲鳴を上げている。

俺は、いつの間にか口の中に溜まってしまっていた唾液を呑み込んだ。
ゴクリと言う喉が上下する音が嫌に鮮明に聞こえた。


「なあ、お前…」


「ああ、口でごまかすつもりなら止めておいてね。今、そんな事されたら自分を抑えきれなくなりそう」


そう言った瞬間、一方通行は爛れた笑みを浮かべる。
俺の股間のジュニアはそれを見た瞬間、怯えて縮上がってしまった。

え? ナニソレ、どういうことなの?

俺が目に見えて動揺したのが分かったのか、一方通行は爛れた笑みに嘲りの色を多分に含ませる。


「貴方、さっき言ったよね? 私が貴方の大切な人を殺したって?
はっ! 笑わせないでよ! 『自分の好きな人の区別も出来ないくせに』!!」


「!? は、はあ!? 何を言って……」


こいつは何を言っている!? 俺が美琴ちゃんを間違えるとか、そんな訳…。
俺は俺より少し離れた所に転がるようにして放置してしまっている彼女の死体を見る。

亜麻色の髪の毛に、常盤台中学校の制服。

うん、間違いない。いつもの彼女だ。こいつ、出まかせを言ってやがるのか?

俺は何かを確かめるかのように一方通行を睨んだ。すると、彼女はさらに俺を馬鹿にしたかのように嗤う。


「ねぇ、まだ気がつかないの? そこら辺のスキルアウトならともかく、そんな『有名人』殺すと面倒でしょう?」


その瞬間、俺は頭をハンマーで殴られたかのような電撃が走ったのを感じた。
そうだ。こいつの言うとおりだ。
美琴ちゃんが通っているのはかの有名な常盤台中学。
そして、彼女はその庶民的な行動が目立つため、忘れがちとなってしまうがれっきとした『お嬢様』だ。
つまり、彼女が死んでしまうと学園都市はその看板に傷を負う。
少なくとも、彼女を進歩している白井 黒子を筆頭とした常盤台中学校の面々は不審に思うだろう。
たとえ、学園側が『事故』と片付けても人の口に戸は立てられないと言うように噂は尾ひれをついて広がるだろう。
学園都市のスポンサーでもある『金持ちたち』に。
そうすると、学園都市には圧倒的不利とは言わないが、他の化学機関に付け込まれる隙にはなってしまう。

そんな無益なことを、たとえ狂った科学者たちが賛成しても学園都市側は許すだろうか?

答えは否。
学園都市は、子供たちの学校であると同時に『実験場』だ。そして、実験や研究は無駄に金がかかる。
いくら学園都市の株や製品が売れても、『信用』無くなってしまえば元も子もないのだ。

それに、折角『超能力者(レベル5)』まで育て上げた逸材だ。
彼女たちは、それほど研究に金を注いでいる存在であり、そうそう無碍には出来ない筈。

そう考えると、美琴ちゃんは殺されるはずがない。

しかし、現実に彼女はそこに死体となって転がっている。
もし、彼女が殺されないとしたらそこに転がっているのは、どこの誰なのだろうか?

その時、俺の脳裏をある一人の少女が過った。


『? どうしましたか? 顔色が悪いようですが、とミサカは面倒だと思いながらも問いかけます』


美琴ちゃんと同じ顔をした無表情な少女。
確か、御坂 ミサカちゃん。

まさか、いや、でも彼女も常盤台中学のようだったし、美琴ちゃんと同じ理由で殺されは――

俺が、未だに結論を出せないでいると、待ちきれなくなったのか、一方通行が口を開いた。


「教えてあげる。貴方がさっきまで無様に縋って泣いていたのは、御坂 美琴のクローン。その名も『欠陥電気(レディオノイズ)』」


クローン、だって?
俺は茫然と口を開けて一方通行を見た。

そう考えれば辻褄が合う。

恐らく彼女のクローンは優秀であるだろうし、クローンならば死体を秘密裏に処理すればなんら問題はない。
そして、美琴ちゃん本人が殺されるわけではないのだから、社会的に問題にもならない。

いやはや、学園都市の糞ったれな科学者どもが考えそうなことだ。
完全に信用する訳ではないが、本当であったと考えると虫唾が走る。

何にせよ、どうやら俺が先ほどまで泣いてすがっていたのは、美琴ちゃんのクローンである可能性が高いようだ。

俺の推察を余所に一方通行は、そのまま俺の反応を見ることなく言葉を続けた。まるで、自嘲するかのような笑みを浮かべて。


「私はその『実験』で、クローンたちを殺し続けているの」


「その子で一〇〇三二人目。後、九九六八人の彼女たちを殺した後、私は絶対の秩序『絶対能力(レベル6)』となる」


おいおい、なんだよその中二病極まりない実験は?

RPGかよ? 敵をたくさん倒すとレベルアップ! ってか? 馬鹿なの? 死ぬの?

そんなドラクエ紛いの実験の為に美琴ちゃんのクローンが殺されてるって言うのか?

そんな事に使うぐらいなら、俺に提供してくれた方が何万倍も素晴らしい使い方をしてやると言うのに!!
じゃなくて、アレか。最近美琴ちゃんが何やら裏でこそこそ活躍してたのは、そのクローンを救うとか彼女が考えたからか?

…ありそう、じゃなくて彼女ならそんな事を必ず考えるな。
恐らくは、「私が遺伝子マップを提供しなければこの子たちは生まれなかった。実験道具にされることもなかった!」的に。
どう考えても科学者側が悪いだろうに。ぶっちゃけ、美琴ちゃんが知らない間にDNA情報を手に入れることなんて容易い。
それに、自分の遺伝子が使われても所詮は他人だ。
そんなに気にすることないのに、やっぱり美琴ちゃんは可愛いなぁ。

さて、どうやら一方通行の話も本当であるようだし、病院に美琴ちゃんがいるかどうか確認に行こう。

そうすれば、俺の気持も落ち着くことだろう。


「どこに行くの?」


俺が戻ろうと背中を向けると、一方通行はどこか焦ったように口を開いた。
俺は、歩み出しこそしなかったものの、背中を向けたまま口を開く。


「病院だ。美琴ちゃんの寝顔を見に行く。それと、折れた腕の治療だな」


「……なんで?」


「?」


「なんで、貴方はそんなに普通なの!? 私が、私が何をしてきたか知ったでしょう!?
ソレなのに、何の感慨も浮かばないと言うの!? 私に対する義憤すらないと言うの!? 貴方が好きな子のクローンを殺したのよ!?」


「別に、美琴ちゃんが殺されたわけじゃないだろ? クローンなら、どうでも良い。同じ顔をした人間が何万人殺されようが、俺には美琴ちゃんがいれば良い」


俺はそう言うと、とりあえず大通りを目指して歩き始めた。
そう言えば、猫を追いかけてここまで辿り着いたので、ここがどこだか分からないのだ。
取りあえず、大通りに出なければ話にならない。


「っ! 彼女たちの殺人を肯定するの!? 『実験』を止めようとも思わないの!?」


そんな俺に追いすがるかのように一方通行の声が届く。

俺は、仕方なしに彼女を振り向いた。



「あのなぁ、今まで一万人殺してきた人間の台詞じゃないだろ、それ」



「――――――あ」


「自分が殺しておいて、それはないんじゃないか? 殺人を肯定してないなら、なんでお前はその子を殺したんだ?」


「私、は――」


「悪いけど、俺はお前みたいな異常者を相手にしている暇はないんだ」


「あ、いやっ、待って…」


いつの間にか、一方通行は膝をつき、呆けたように虚空を見つめ、俺に手を差しのばす。
俺はそんな彼女から視線を外して再び歩きだしながら、最後に止めとなる言葉を投げつける。



「じゃあな、殺人鬼。お前は、一生『闇(そこ)』で悶えてろ」



俺は、ふと自分がいつも以上に感情的になっているのに気がついた。
どうやら、俺は思った以上に一方通行に鬱屈とした感情が溜まっていたようだ。
あいつと俺は少しだけ似ている。恐らくは、あいつも優秀であったがために学園都市の闇に浸されたのだろう。
俺は、生憎とさっさと抜け出せたから良かったモノの、あいつは抜け出せなかった。
要するに、あいつは俺がなっていたかもしれない姿なのだ。それこそ、あいつが先ほど言っていたように『第一計画』とやらを俺が実行していたかもしれないのだ。

だから、見ているとイライラする。

俺が、今手に入れた美琴ちゃんや上条と共にいられるこの温かい場所。それを否定され、俺の本来いるべき場所が、あいつがいる薄汚い泥の中であるかのように錯覚させられるのだ。


「……………くせに」


ふと、小さな声が聞こえた。
余りにか細く、風に消えてしまったほどの小さな声。
そして、それは聞き返すまでもなく、次の瞬間には辺り一帯に響き渡った。



「貴方だって、人殺しの癖に!!」



「!?」


「知らないとでも思った!? 貴方の罪!!」


「て、めえ」


なんで、こいつが知ってやがる?
それこそ、あの事件の生き残りのあのケバイ少女ならまだしも、よりによってこいつがなんで知っているんだ!?
上条にすら話したことのない俺の秘密を!!


「貴方が壊した科学者たちは、今ではもう――――」


「黙れぇぇぇぇええええええ!!」


ソレ以上、聞きたくなかった。
俺は怒りのままに能力を発動させる。
その俺の思いに応えてか、怒りと折れた腕から絶え間なく伝わる痛覚により少しも集中できていないにもかかわらず、能力は発動した。
背中に顕現したのは一対にも満たない翼。
いや、それは翼と呼ぶのもおこがましい、歪な形をした光の粒の集合体であった。

だが、それでもこいつを、目の前の障害を消せるのであれば何でも構わない。
俺は、そのまま一方通行めがけて駆け出した。
彼我の距離は、およそ9m。
駆け抜ければ1秒かかるか否かだ。

その短い距離を全力で駆け抜ける。

どうやら、『脳内メルヘン』の効果範囲が狭まっているらしく、普段なら既に効果が及んでもおかしくない位置であったが、一方通行は平然とこちらを見つめていた。
あえて構える様子もないし、どうするつもりだろうか?
そんな疑問が頭によぎると同時に、あいつの能力『ベクトル操作』でおられた腕が痛みを発する。

そうだ。あいつは無意識でベクトル操作を行っているんだ。
恐らくは自分への力のベクトルを全て攻撃した相手に返すと言う、自動防御。
うん、すげぇなぁ。
だけど、俺の『脳内メルヘン』の効果範囲に入れば、その無意識も『メルヘン』に変わる。
そして、『メルヘン』状態ではその防御が出来ない。
これが、俺が一方通行に時々攻撃を当てられていた理由。
そして、どうやら一方通行はいまでにそのことに気がついていないらしい。

馬鹿が!

俺は残り3mになろうかと言う時に力いっぱい地面を蹴った。
次いで足を折りたたむようにして空中を飛ぶ。
一方通行は未だに動こうとしない。

お前は、恐らく俺の過去について調べたんだろうが、藪蛇だったな。

俺は彼我の距離が限りなく〇に近づいて行くその瞬間を狙って、とび蹴りを繰り出した。

足に、重たい肉を蹴り飛ばす感触が伝わる。
同時に、無防備のまま俺の蹴りを体の中心に受けた一方通行の体が面白いように吹き飛び、地面を転がっていった。
俺は着地すると同時に足の踏ん張りを利かせて、勢いを殺す。

足の感触からすると、どうやら一方通行に攻撃は当たったようだ。

それにしても、良く飛んだ。
俺は路地裏の喧嘩などでとび蹴りをかましても、大抵は相手がたたらを踏む程度の威力しか出せないのだが、一方通行の体が軽いのかその吹っ飛び方は『異常』であった。

一方通行はそのままゴロゴロと地面を転がり、やがて俺から30mは離れた場所で一時停止する。

…おかしい。いくらなんでも、『飛び過ぎだ』。
俺は腕の骨折のせいで全力を出せないはずなのに、この飛距離は明らかにおかしい。
まるで、一方通行が自分から距離を取ったよう――って、まさか能力が不完全で効いてなかったのか!?

俺は嫌な予感と共に、一時停止したままの一方通行を眺める。
すると、奴はまるで何も答えていないかのようにあっさりと、白い髪で表情を隠しながら立ち上がった。
同時に、くぐもった笑い声が辺りに響き始める。その発生源はもちろん一方通行。


「くすくすくすくす。残念でした、黙りません。貴方が壊した科学者は全員もう死亡済み。
それも、精神が壊れた果ての狂死。

――――ぜぇんぶ、あなたがころしたんだよ」


ギリリと、何かを噛みしめる音が鳴る。
いや、これは俺が歯を噛みしめた音か。知らず知らずのうちに体に力が入ってしまった。

それは、俺の罪を改めて思い出させられたからだろう。
そう、俺はかつて自分の研究所の科学者たちを壊しつくした、らしい。

と言うのも、俺は感情を昂ぶらせすぎて暴走しただけであったから、具体的に自分がどんなことをしたか覚えていない。
ただ、カッとなって意識が途切れ、次に目が覚めた時には周りが狂人だけの世界に変わっていたのだ。
だから、俺はあまり自分の罪が自覚できていない。

いや、したくないのだ。

壁に『萌タン』と名づけて穴をあけてひたすらに自分の逸物を突き入れていた男の研究員や、四つん這いとなって犬の真似を続ける女の研究員。
あんなおぞましいモノを自分が作り上げたなどとは、信じたくなかったのだ。
それは、今も変わらない。

それに、アレはあいつらが悪いんだ!
俺を『廃棄処分』しようとしたあいつらが!!
だから!!


「黙ってろってんだよ! アレはあいつらが悪いんだよ!!」


俺は再び一方通行との距離を詰めるべく、肉薄を開始する。
しかし、一方通行は少しも慌てない態度を崩さなかった。


「あいつらが悪いって…彼らは『上』の命令で研究していただけよ? 家族の為に、自分が生きたいから、貴方で実験して、使えなくなったから捨てようとしただけ」


「うるさい! 俺も自分の為にあいつらを殺したんだ!! 自分の自由を獲得するために!!」


だいたい、俺は前世の記憶とやらで『自由』の味を知っていた。だから、それを求める気持ちが人より大きかったんだよ!!

その時、距離を詰める俺に一方通行が徐に手を振り上げる。


「自分のため――なら、私も自分が死にたくないから、あの子たちを殺したんだ!!」


その手が振り下ろされた瞬間、俺めがけて凄まじい突風が吹き荒れた。
とても、走り続けることができない様な、猛烈な突風。
俺はそれに足を強制的に止められてしまう。
それでも、俺は叫ぶことを止めなかった。


「知るか! それなら、お前が勝手に殺し続ければ良いだろう!? これ以上俺をそっちに引き戻そうとするんじゃねぇ!!」


「なんでそんな事言うの!? 言ったでしょう! もう嫌なの!! 殺したくないの!!」


こいつ、頭大丈夫か!? さっきから言っていることが滅茶苦茶だ!
これ以上俺に何をさせようと言うのか、俺には全く分からない。
だから、そんな縋りつくような眼で俺を見るな!


「勝手にやってろ! これ以上俺に、そのおぞましい姿を見せるんじゃねぇ!! 正直、吐き気がするほど醜悪なんだよ!!」


「あ、う、わたし、私は――」


「消え失せろよ悪夢! お前なんて、誰も触れようとしない!!」


常の俺ならば例えどんな相手であろうと、こんな言葉はぶつけない。
でも、こいつだけは、こいつだけは俺にとって許容できる存在ではなかった。
どこまでも、どこまでも俺を乱し続ける質の悪い麻薬のようで、とても怖かったのだ。

そして、俺のその言葉の刃を受けた一方通行は、俯き小さく何かを呟いた。


「イヤ、だ」


それは、とても小さな言葉。
だが、それは彼女の心のダムの水門を容赦なく開くモノであった。




「もうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤ

ダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤ

ダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤ

ダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダ!!!!
痛いのも辛いのも悲しいのも全部ヤダでもやらなきゃ私が殺されるいやだいやだいやだしにたくないけどもうぜんぶヤダもうがんばれないがんばりたくないどうすればらくになれるのあな

たみたいにぜんぶころせばいいのでもわたしはもうころしたくないそれぐらいならじぶんがしんでやるでもじぶんがしぬのはこわいこわいのはやだなんでわたしばっかりそんなおもいをし

なきゃいけないのわたしだってひのあたるところにいたいあなたはズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ

ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ

ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイなんであなたばっかりわたしだってたすけてほしいでもあなたがみているのはあのおんなだけなんでわたしもみてくれないのわたしを

みてよたすけてよわたしをいけにえにじぶんだけたすかろうとおもわないでゆるしてゆるしてもうしないからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか

らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか

らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか

らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか

らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだから!!!!!!!!!!!






瀑布のように次から次へと吐き出される陰鬱な感情。
その様子はただ事ではなく、先ほどまでの彼女の雰囲気から一転してまるで幼い子供のような印象を受ける。

彼女はそこで言葉を一度切ると、ゆらりと顔を上げて俺を真正面から睨みつけた。
その赤い瞳には、かつて俺が勝手に勘違いした美琴ちゃんと同じ輝きが在ったはずだが、今は片鱗すら見えないほど暗く濁っている。

例えるのなら、赤い空洞。
空虚でどこも見ておらず、ただそこに肉として存在するだけ。

そして、彼女は空洞と化したかのようなその両眼から、涙を流した。



「たすけてよ」



その瞬間、一方通行の姿がブレた。
刹那の後、一方通行は俺の目の前に現れる。
それは、30cmも離れていないギリギリの位置。

いくらなんでも、その場所は俺の『脳内メルヘン』の効果範囲内だ。
だと言うのに、一方通行はメルヘン特有の恍惚とした表情ではなく、狂った者特有のイカレタ笑みを浮かべていた。
ようするに、俺の能力が効いてない。

なんでだ、なんで俺のメルヘンが効かない?
在りえない、警備員の防護服の上からでも効果がある代物だぞ? いくら、集中できずにその効果の10分の1も発揮できていないとは言え、そんなことが――

理性では理解できない異常事態。
それでも、本能が俺に教えてくれた。


――曰く、こいつはメルヘンを無効化した。


「やっべ、勝てないわ」


諦めると同時に自棄に世界がスローモーションで見えるようになった。そんな中、彼女は最後に一つだけ俺に願った。


「貴方を(私を)、殺させて(殺して)」


ゆっくりと、それこそ逃げようと思えば逃げられる速度で、俺に差し出される手。
それが俺に触れた瞬間、俺の心臓は停止した。


あ、俺ってばまだどうて――――










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










「帝、督?」


上条は、まるで世界が音を立てて凍りついたように感じた。
息を切らせて辿り着いた場所。途中、同じ病院にいた御坂 美琴と行動を共にしながら、全ての事情を聞いた。

美琴のクローンが軍事目的で生み出されたこと。
それは、美琴ほどの力を持つには至らず、結局廃止されることになったこと。
だが、それをただ廃棄するのではなく、有効活用するために実験が行われたこと。
その実験は、一方通行と呼ばれる学園都市最強のベクトルを操る『超能力者(レベル5)』をさらに上の『絶対能力者(レベル6)』に強化するために『戦闘訓練』と称し、彼女のクロー

ンが殺され続けたこと。
美琴がその実験を止めたいと願っているが、その唯一の方法が何故だか美琴が死ぬことだということ。

そして、なにより、帝督がそれに気が付きかけて、危険な真似をしているかもしれないということ。

その全てを、だ。
上条は悔しさで唇を噛んでいた。
帝督が自信を頼ってくれなかったこともそうだし、自分が無駄に怪我をしてしまったことが悔しかった。

だから、彼は美琴と共に夜の街を駆け、帝督がいるかもしれないと言う『実験場』に向かった。
その結果は、今上条の視界に広がっている。

ピクリとも動かずに大地に倒れ伏す帝督の体。
そして、その体の上に足を乗せて夜空に哄笑を上げる白髪の少女。

全てが非現実的であり、また上条に容赦のない物語の結末を見せた。

恐らく、笑っているのは一方通行。
そして、地面に倒れているのはそんな最強な相手に挑んで敗れた垣根 帝督。
上条 当麻の大事な親友だ。

共に笑った。
共にふざけた。
時に喧嘩し、殴りあった。

常に自分の傍らに居てくれた最高の友。

そんな存在が、糞ったれの足元で恐らくは、もう二度と立つことはないのだろう。


「一方通行ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!」


上条は血を吐くような絶叫と共に一方通行に駆け寄り、壊れたように笑う彼女の顔面に右の拳を振り下ろした。
呆気なくその一撃は一方通行の端正な顔立ちをした頬に突き刺さると、彼のいつもの威力でもって彼女を吹き飛ばした。


「!?」


一方通行も、まさか自分が殴られるとは思っていなかったのか、吹き飛ばされ倒れ伏してからすぐさま起きあがろうとしたものの、頭が揺れて立てないのか目を白黒させていた。
上条はそんな彼女を睥睨しながら、力なくうつ伏せに倒れた帝督を抱き上げる。
グニャリとまるで人形のように力ないその感触に絶望しながら、そっとその首筋で脈を測った。


「……」


ない。
聞こえない。
本来聞こえるはずの帝督の鼓動を打つ音が。


「っ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


上条は悔しそうに声を張り上げると帝督の動くことのなくなった体をそっと横たえて、絶叫する。
その瞳は怒りに曇り、ようやく起きあがった眼前の一方通行(敵)を捉えた。



そして、上条が怒りを爆発させようとする一方で、美琴はただ茫然と倒れ伏した帝督を見ていた。
彼女は、ただ彼が泣いているかもしれないと思い、ここまでやってきた。
しかし、眼前の存在はすでに事切れていた。


「あ――――」


美琴は糸が切れたマリオネットのように、腰が砕けてしまう。
その瞳からは、次から次へと涙が溢れている。

――――また、守れなかった。

だが、呆けたのも一瞬。
美琴はすぐに何かを決意したかのような表情になると動かなくなった帝督を抱きよせ、すでに事切れた彼の気道を確保すべく顎に手を当て、引いた。





――歯車は回っていく。

――ただ、彼が望む結末に向けて。






あとがき

え、何このシリアル? 作品を間違えていませんか?
しかも、これで更新が遅いとか救いようがない。
ご迷惑をおかけしました。



[6950] 三章 九話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/11/08 01:43

――Amicus,amicus,bellius amicus.

――友よ、同胞よ、愛しきものよ。

――reminiscor ominse juramentum.

――思い出せ、全ての誓いを。

――divina gratia.

――神の恩寵を。

――Memento Creatoris tui in diebus iuventutis tuae

――貴方の創造主を記憶し直せ。

――Cur

――何故なら

――Nos Cherubim.

――私たちは智天使なのだから


歌うような何かの声。
ソレにいざなわれて、俺はゆっくりと目を開ける。

その声を俺は知っていた。

それは、とても優しいモノ。

俺と同じもの。

そっと、静かに視界が開けていく。

いつの間にか、俺は光溢れる緑の丘に立っていた。
風が優しく吹き、そっと辺りの草を撫でていく。
そのさまはまるで、母親が子を慈しむかのようでとても温かいモノであった。

そして、俺の目の前には俺と同じぐらいの背丈の小さな木が立っている。
赤い木の実をたわわに実らせ、まるで早く食べろとこちらを誘っているかのよう。

俺は、そっとその木から一つだけ真っ赤な実を捥いだ。
まるで、林檎のような形をしたそれを見ながら、俺はそっと顔を寄せる。
それからは、どこか甘い匂いと共に鉄錆に似た匂いがした。

悩んだのは、僅かな時間であった。

俺はその木の実にそっと歯を立てると、ガシリと齧りついた。
同時に口腔内に広がる甘い味と、鉄の風味。

ぼたぼたと口の端からこぼれる果汁は真っ赤で、血の色をしていた。

ああ、なんてまずい木の実なんだ。

だが、それでいてどこか懐かしい味がするそれを、俺は知っていた。
いや、性格には思い出した。
その実を口にすることで、思い出したのだ。


sapientif arbro


知恵の木


それは、旧暦よりもはるか昔。
人間が出来た瞬間に神が人へと与えるのを拒み、蛇(悪魔)が与えた原罪だ。
何故、そんなものが俺の目の前にあるのか? そう考えるよりも早く、俺の頭は記憶の底から答えを引っ張り出してきた。


――これは、俺だ。


俺はこいつで、こいつは俺。

人の精神を侵し、狂わせる魔性の果実。

元々の聖書では、知恵を与える聖なる木であったようだが、俺にはそうは思えない。
この木はもっと禍々しいモノだ。

逃れられないように人を誘い、自身を食させ、堕落させる。
まるで、麻薬だ。
最低で、最悪の精神汚染。
それは、俺にとってメルヘンと言う形で現れるのだ。

これこそが俺の『脳内メルヘン(ダークマタ―)』。

俺は唐突に全てを知った。この木を、俺自身の存在(パーソナルリアリティ)を。


それは、『汚染』。


この世全てのモノを汚染しつくすのが俺の存在理由(レゾンテール)
でも、何故汚染しなくてはいけないのか、そもそも何故俺なのか?

その答えは、未だ俺が手にしていた果肉まで真っ赤な木の実に隠されている。

俺は意を決し、もう一度実を口に含み咀嚼する。
ゴクリと飲み込むと、様々な知識が浮かび上がってきた。

曰く、俺の本来の能力は全ての物質を基にして精神汚染物質である『知恵の木の実』を作ること。
その作用も、ただ狂わせることだけではないようだ。

例えば、悲しみなどの感情を相手に無理やり伝え、共感させること。

例えば、誰かの感情を無理やり変換し、悪意と好意とを入れ替えること。

例えば、誰かの感情を無理やり増幅させ、その感情に囚われるようにすること。


自分でその例を思いついておいてなんだが、胸糞の悪くなるような完全なる『対人能力』だ。
おそらく、精神破壊や汚染にかけて俺の右手に出るものはいないな。

ともあれ、知りたいことはまだあるのだ。
何故、俺が天使の格好になるのか? また、それに何の意味があるのか?


さあ、もう一口。

俺は、今度は残った果肉を芯ごと口に含み、一気に噛み砕く。
バキバキと言う音と共に少しづつ俺の喉を通っていく果実。
その中に潜んでいた答えに、俺はついに堪え切れなくなり爆笑した。


「くっくく、くはーっははははははははははははははははははは!!」


俺は、腹を抱えて笑いだす。
それは、自分がつい先ほど一方通行に負けてしまったから。

なんと情けない話だろうか? 
あいつは、どれほどの力を有していようが所詮は個人の力。
対して、俺は明らかに個を超えた力を有していたのにも関わらず、負けたのだ。
そう、完膚なきまでに殺された。
能力を思い出せなかったというチャチな理由ではなく、こいつには勝てないと勝手に自分で解釈し、敗れたのだ。

なんという滑稽なことだろうか?
対人間戦最強の俺が『人間』に負けた? 本当に腹が螺子きれそうだ!!

ああ、認めよう。一方通行は強かった。
人間としての俺ではとても届かない高みに存在している。
それこそ、美琴ちゃんと比べてもそん色がないような存在。

美琴ちゃんを太陽と例えるのなら、彼女は夜に輝く月だ。

狂おしいまでの狂気を内包した至高の存在の一。

俺は彼女を否定できない、同じように闇の中を這いつくばりながら途中で逃げ出し、中途半端なぬるま湯の中でのうのうと暮らしていた俺には。


「情けない」


俺は笑みを引っこめると、自分のあまりの不甲斐なさに臍を噛む。
そして、俺の感情に合わせるかのように次第にゴロゴロと雷が鳴る音と共に真黒な暗雲が辺りに立ち込めた。
途端、激しい雨と共に雷鳴が轟く。

そう、何もかもが情けない。
俺は世界から『加護』を得ているのに負けたのだ。

この世には偶像崇拝と言うものが存在する。
それは一度は神に『十戒』の一つとして禁止されていた。
何故か?
それは、その偶像にとても微弱とは言え、『神』の力が宿ってしまうから。
物体は形と役割が似ていれば何%という値とは言え、その力が宿るのだ。

そして、それは何もモノだけに宿るのではない。

『天使』の形をした人間には、当然ながら『天使』の力が宿る。

さらに、俺は俺の魂は『転生』を経験している。
そのため、他の人間よりもその魂の『格』が上回っているのだ。
流石に『天使』と同レベルという訳ではないが、それに非常に近い『格』を持っているのだ。
そうなると、俺はより『天使』に近い模造品という事になる。

つまり、より多くの『天使』の力を発揮できると言う事になる。

もともと、俺は運がついているのには、そう言った理由があるのかもしれない。
一方通行が逃げ出せなかった学園都市の闇、それから俺だけが逃げだせたのは単なる強運では説明がつかないのだから。

そうそう、一方通行で思い出したが、リターンマッチだ。

さっさと生き返って、彼女にもう一度挑もう。
そうでなければ、俺と言う人間の器の何と小さいことか。

せめて、彼女達に恥じない戦いをしたい。

俺はそう心に決める、が。
ふとあることに気がついた。


「あれ? 俺って、どうやったら生き返れるんだ?」


そう、それが問題だ。
俺個人としては、今なお生き返る気満々なのだが肝心の生き返り方を俺は知らない。
と言うか、俺は生き返れるのか?

その事実に思い至り、俺は顔を青くする。

冗談じゃない。俺は美琴ちゃんたちと並ぶ、いや超える凄まじい絶大なまでの力を手に入れたんだ。
だと言うのに、生き返れないのならそんなもの何の意味もないじゃないか!

嫌だ、嫌だ! 俺はまだ死にたくない!!

気がつけば、辺りは嵐に呑み込まれていた。
風が吹き荒れ、全てのものを拒絶するかのように吹き飛ばしていく。

俺は、俺自身その嵐に吹き飛ばされそうになりながら、背中に悪寒が走るのを感じた。

死ぬのが、怖い。
もう生き返ることが出来ないのが怖い。
今さらのようだが、思い知る。

ここは、ゲームの世界でも何でもないのだ。
殺されて、死んだら終わりの世界なのだ。生き返ることなんて、出来はしない。


「いやだ、嫌だ! まだ死にたくない! まだ、上条と馬鹿をやり切っていない! 美琴ちゃんとエッチしてない!」


言いようのない恐怖が俺を襲う。
このまま自分が死んでいくのではないかと言う感覚が俺を襲う。

そして、それを如実に表すかのように俺の体に変調が訪れる。


「うっぐ、ぐぇぇぇぇえええええええ!!」


突然の嘔吐。
その吐瀉物の中にあの赤い実こそ存在しなかったが、俺は感じた。
自分の胃の中で、一度咀嚼したはずの赤い実が、また一つになろうと蠕動を開始したのを。

突然の吐き気は、これを吐き出そうとする体の、いやおそらく今は意識体であろうから、魂の防衛機能であるのか。

ともあれ、俺の魂は本来『俺自身』であるはずの『知恵の木の実』を拒絶していた。
いや、違う。

濃すぎるのだ。

密度が、俺の魂が受け入れられるレベルではないほどの濃さとなっているのだ。

ヤバイ。調子に乗り過ぎた。

俺は悶え苦しみながら、辺りをのたうちまわる。
木の実は、もはや完全に俺の中で形を戻し、今度は俺の体内を移動し始める。

凄まじい激痛。

声にならない悲鳴が俺の口から洩れ、俺の股間から温かい何かが吹き出し辺りに酸味のある不快なにおいをまき散らしていく。
それでも、痛みは治まらない。


「あ、ぎっ!? がっ!?」


ビクリと体が跳ねる。
移動を始めた木の実は、いつしか俺の心臓で止まりその部分に集中した痛みをもたらす。


止めろ、止めてくれ!!


こんなに痛いなら、もう死んだままで構わない。
生き返りたいなんて、分不相応なことは願わない。

だから、止めてくれ! もう、殺してくれ!!

俺が、心のそこからそう願った時、不意に俺の唇に温かい何かが押しつけられる。


「!?」


ソレは、不可視のモノであったが柔らかく、とても熱のあるモノであった。
そして、それが押しつけられた直後、そこを通して温かい何かが俺の中へと送りこまれていく。



『帰って………い!』



ふと、その時誰かが俺を呼んだような気がした。


その瞬間、先ほどまで俺の体を苛んでいた木の実の激痛が嘘のように消え去り、代わりに温かいものが俺の体を包み込む。

俺はゆっくりと、仰向けになり空を見上げた。
そこには、雲の切れ間から輝かしい太陽が顔をのぞかせている。


『帰ってきなさい!』



そして、またしても何か語りかけられるような感覚に、俺はそっと顔を綻ばせた。

ああ、全く。君ってやつは。

俺は、その太陽に向けてそっと手を伸ばす。

彼女が呼んでいる。ならば、帰らなくてはいけない。









side out








――――――――――――――――――――――――――――――――――







「あいつは、良い奴だった!!」


上条の拳が振るわれ、無抵抗な一方通行の顔面に突き刺さる。
それは『左』の拳。
本来の一方通行なら『反射』をするだけで防げるどころか反撃も出来る、その程度の攻撃。
しかし、一方通行はもはや何もする気にはなれなかった。
目標であった垣根 帝督に拒絶され、否定されつくした彼女はもはや生きることも死ぬことも面倒になったのだ。
だから、彼女は怒りと共にふるわれた上条の拳をただ受けた。その細い体でもって。
同時に頭がぐらりとかしいだが、一方通行は倒れない。
そして、上条はそんな彼女の襟首を掴んでほぼ零距離に近い位置で彼女を睨み据えた。


「バカで、変態で、最低だったけど、殺されていい奴じゃなかった!! それも、お前みたいに進んで誰かを殺すような奴にだけは、殺されていい奴じゃなかったんだ!!」


「……で?」


一方通行は上条の言葉が少しだけうるさくなったが、ここまで真っ直ぐな罵倒は久方ぶりなので、少しだけ興味を引かれて続きを促す。
一方、上条はその言葉を挑発と捕えたのか、襟首をさらにきつく握りしめるとドスの利いた低い声で脅しかけるように言った。


「あいつは、いつも俺の事を思って行動してくれた。迷っている俺に手を差し出してくれた。
俺は、俺は、あいつだけは失いたくなかったんだ!!!!」


「それで? 怒った貴方は、私を撲殺したいということ?」


「違うわ馬鹿!! 俺は、てめえが帝督を殺した罪を償わせる。いや、帝督だけじゃねぇな。お前が今まで殺してきた御坂さんのクローンたちを殺した罪もだ。
てめえは、このまま警備員に引き渡してやるからな!!覚悟しとけ!!」


「…………」


その言葉に一瞬一方通行は目を見張る。
この少年は、どこまで真っ直ぐなのかと、どれだけ汚いモノを見てこのような言葉を吐き出しているのか。
だが、一方通行は思ってしまう。

この少年が垣間見た闇など、浅い、と。

それこそ、彼女が知る闇と同程度のものを幼少のころから体験しているのは、もうこの世にいない垣根 帝督ぐらいであった。
だから、彼女にとって上条の言葉は、安全圏にいる人間の言葉としか聞こえない。
そんな言葉は彼女には響かない。
第一、彼女を先に殴り出したのは上条の方だ。
いくら殴られるようなことを自分がしていても、殴った人間に良い感情など持てる筈もない。

一方通行は、ここにきて初めて目の前の存在を憎悪した。

何も、知らないくせにと。


「!?」


ガシリと、上条の手を掴んだ一方通行。
上条は、突然の一方通行の行動に僅かに驚愕する。
今までの一方通行は殴られるままに殴られていた。そのことを考えると、彼女にはもう反撃する力がないモノだと思っていたのだ。
もっとも、彼の手に触れた一方通行の力は『とても弱い力』であったが。

もちろん、一方通行は『能力』を発動した上で上条の手を握っていた。
そして、違和感に気がついたのだ。


(!? 何、なんで能力が発動しないの!?)


そう、一方通行が触れていたのは上条の『右手』。
神様の祝福ですら殺してしまう『幻想殺し』であったのだ。
そんな事とはつゆも知らない一方通行は、とりあえず絞められた手から逃げ出そうと、必死になって足をジタバタさせる。
上条はそれを無視して左手で一撃を放とうとするが、それおり早く一方通行の脚が上条の腹部に当たり、彼を吹き飛ばした。


「がっ!?」


「っ!?」


一方通行はそのまま自由落下で地面に足がついた瞬間、上条から大きく距離を開けて着地する。
次いで、顔をしかめんがら起き上がる彼を射殺さんばかりに睨みつけた。


「あなた、なに? なんで、私の能力が効かないの?」


「能力って…、ん、あー、なるほどな」


上条は一方通行の言葉に何やら納得したかと思うと、表情を消して彼女を見た。


「教えるわけ、ねえだろ」


ゾクリと一方通行の背中に悪寒が走る。
今まで彼女に攻撃できたのは垣根 帝督の能力だけであった。
周囲を再検索した彼女だけが気がついたこと、それこそ、垣根 帝督本人も気がついていなかったことだが、垣根 帝督の能力は空気中に見たこともない新しい『物質』を散布し、相手の

思考を制御するものであった。
だから、彼女は新たにフィルターを作成してこの能力を防ぐに至った。

それは、その新たな物質を弾くように設定するのではなく、自分の生存に必要なもの以外全て除外すると言う最終手段。
もし、仮に垣根 帝督が別な物質を持っていても彼女であれば、その全てを反射できると言うわけだ。
だが、この目の前の男は違った。

こいつは、全てを反射し、拒絶するはずの自分の能力をモノともせずに、襟首を掴んでいた。
正直に言って、理解が追い付かない。


――――怖い。


それは、彼女にとっては未知の体験。
垣根 帝督の時は、彼女は自分と同程度の存在としてしか彼を見ていなかったため、『恐怖』などしなかった。
しかし、目の前の存在は何なのか?
まるで、何でもないように自分の能力を無効化したのだ。
それこそ、全てを拒絶するまでに至った自分の能力を。


「い、や……」


がたがたと足が震え、少しづつ上条から距離を取ろうと動き出す。
上条はそれを見つけると、一歩彼女に近づいた。


「逃げんなよ? 言っただろう、警備員に突き出すって。せいぜい、牢屋の中で反省してな!!」


「や、いや、来ないで」


彼女は確実に上条に距離を詰められながら、探した。
この絶対的恐怖から自分を守ってくれる存在を、自分を無条件で包んでくれる存在を。

だが、そんなものは彼女には存在しない。
全てを拒絶し、自分と同位の存在すら殺してしまった彼女は、この世界でヒトリボッチであった。


「く、くるなぁぁあああああ!!」


一方通行は叫び声をあげ、足元を思いっきり蹴飛ばした。
すると、彼女のベクトル制御により、辺りの石つぶてが一斉に上条目がけて殺到する。
上条はそれを横に飛び込むようにして回避。
だが、一方通行もその程度の動きは読んでいる。
彼女は次いで、そちらの方につぶてを飛ばそうとして、首を巡らせた。

その時、ふと、視界に垣根 帝督の死体とその死体に触れている超電磁砲が入った。



「帰ってきなさい!!」




超電磁砲の手がバチバチと紫電を鳴らしながら垣根 帝督の左胸に触れている。
どうやら、止まった心臓を動かそうとしているようだ。一方通行は、心臓の動きと血流を一瞬にして停止させただけなので、特に帝督の体を傷つけていないから、蘇生は容易かもしれない


超電磁砲は、しばらく紫電の放出を繰り返し、やがて心臓が動き出したのか彼の胸に一度耳をつけると、顔を上げる。


そして、一方通行は見た。


超電磁砲、御坂 美琴が何のためらいもなく垣根 帝督の唇に自分の唇を重ねるその姿を。


もちろん、一方通行もそれは『人工呼吸』なのだと理解している。
だが、理性とは別の本能の部分がそれを見た瞬間、悲鳴を上げた。


「あ、ああ」


「眠ってろ」


その言葉の直後、完全に彼女の虚を突くタイミングで上条が彼女に迫った。
ソレを見て、回避も迎撃も不可能だと感じた彼女は、眼を閉じてたった一つのことを思った。


(――誰か、助けて)


それは、無垢な、本当の彼女の心の底からの願い。
幾千、幾万と果てることなく祈り続けた想いの欠片。

余りにも強い人の祈りは、時として奇跡を呼ぶ。





「み ・ こ ・ と ・ ち ・ ゃ ・ ー ・ ん !!」





「きゃああああああああああああああああああああ!!??」





「んなっ!? 帝督!? 生き返りやがったのか!?」


余りにも頭の悪い叫び声。それに聞き覚えがあり過ぎる上条は、驚きとともに声のした方を見る。
当然、一方通行に振り下ろされるはずであった拳は、もう彼女に向いていない。
それどころか、上条はすでに彼女を見ていなかった。

そして、それは彼女も同じ。

一方通行ももはや上条を眼中に居れておらず、ただ視線の先で奇声を上げて超電磁砲に抱きついている存在を、ただ茫然と見た。


それは垣根 帝督。


完全に息の根を止めたにも関わらず、恐らくは超電磁砲の蘇生で息を吹き返した存在。
普通、蘇生されたばかりの人間は、大声をあげたり出来ないはずなのだが、どうやら、彼は相も変わらずの規格外のようだ。
彼は、そのまま超電磁砲の胸に顔を埋めると、超高速で顔をグリグリと動かしている。
そして、一気に近づいた上条に景気よく頭をはたかれ、直後超電磁砲の電気ショックをその身に受けた。

訳の分からない、馬鹿騒ぎだがどうやら完全に復活したようだ。


「美琴ちゃん、美琴ちゃん、美琴ちゃん!!!!」


「だー! こっち来るな変態!!」


「おい、てめぇ!! 人にさんざん心配かけといて、いきなりそれかよ!?」


「あれ? 上条じゃん、なんでいんの?」


「お前の幻想をぶち殺す!!」


上条と追いかけっこをし始めた変態に、一方通行は安堵の表情となる。
しかし、彼女はそのことに若干の嬉しさを感じる反面、彼に拒絶された事実を思い出し、身を縮こまらせる。

もはや、彼女の心は限界。
いや、すでに狂いかけている。本当に指一本で残っている状態で、どんなに些細な言葉の一つでも狂ってしまうだろう。

そうなれば、もはや彼女は止まらない。
破壊の限りを尽くすことだろう。

そんな彼女の心を救えるのはただ一人、彼女自身が同位存在と認めた垣根 帝督だけ。

そして、生き返った彼はいとも簡単に立ち上がると、駆けよって来た上条や今まで抱きついていた超電磁砲からその身を離す。


「悪い、二人とも。ちょいと、どいてて。これは俺の戦いだから」


「あのねぇ、一応一番の被害者と言うか関係者は私なんだけど? って、その顔は勝手に覚悟完了しちゃってるわよねぇ」


「…まあ、危なくなったら助けるからな」


「私が焼き入れる分は残しておきなさいね」


「はいはい」


その離れた体が向かうのは、一方通行。

真っ直ぐに彼女を見つめ、彼は凄惨にほほ笑んだ。


「再戦(リベンジ)だ、若白髪。今度は前みたいにいかねぇぞ?」


一方通行はその言葉を聞き、自嘲する。
結局、自分は暴力を振るわねばいけないのだと悟った。
しかし、変態の言葉はそれだけでは、終わらない。

彼は一歩前へ踏み出しながら、彼は笑った。


「俺はお前を肯定しよう、一方通行。お前は強い。この勝負の間だけは、俺はお前のことだけを見ている」


一方通行を帝督の真っ直ぐな視線が射抜く。
一方通行は、そのあまりにも真っ直ぐな視線にたじろぎながらも、その瞳を僅かに潤ませながら微笑んだ。

ただ、帝督に自分だけを見てもらいたかった。

その願いが叶ったのだ。


「知ってると思うけど、私は強いよ?」


しかし、口から出るのは挑発の言葉。
この場では、睦言のような甘い言葉は無粋。必要なのは、その力のみ。
だから、彼女は不敵にほほ笑んで帝督を見遣る。
その眼には、いつか見たあの輝きが戻っていた。


「名乗れよ、一方通行」


その言葉に、その輝きはさらに強くなる。
そして、彼女は初めて誇るものが出来たかのように自身の名を口にした。


「学園都市序列第一位 『一方通行(アクセラレータ)』 鈴科 百合子(すずしな ゆりこ)」


そして、帝督は開戦の合図となる名乗りを返す。
戦闘までのボルテージは止まることなく上がっていく。


「学園都市序列外 『脳内メルヘン』 垣根 帝督」


瞬間、両者ともに全力で能力を解放させる。
一方通行はベクトル操作により竜巻を発生させ、さながら翼のように背後に纏う。
帝督も彼の能力により発動させた翼を背中に背負った。

同時に、両者の能力の余波がぶつかり合い、空気が震える。


「言っておくけど、今の俺は自分が考えた最強の主人公並に強いぜ?」


「ふふ、それは楽しみ」


直後、二人の姿がぶれる。
両者とも、羽根を使った高速移動を行ったのだ。
そして、次の瞬間唐突に表れた両者は同時に拳を繰り出し、拳と拳をぶつかり合わせた。
だが、即座に帝督は距離を取ると、その右腕を押さえた。


「ぎゃああああああああ!? ちょ、手がゴキって鳴った!? タンマ! 右手が折れてるの忘れてた!!」


響き渡る帝督の悲鳴。

一方通行はそれをバックに満面の笑みを浮かべ、


「だぁめ」


頼みを一刀両断に切り捨てた。







あとがき

どうも、地雷です。
変態の正体について、結局そっちかよ! と怒った貴方がた、その気持ちは正しいw
そして、アレだけ毛嫌いしていた一方通行をあっさりと認めた事は、反省していない。いい加減こっちに持ってこなきゃ話しが進まないww

次の話では美琴ちゃんのターンだと思います。



[6950] 三章 十話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/11/29 00:53

知恵の木の実(自分自身)を食べて、俺は覚醒した。

急激に良くなった動体視力。
見た目こそ変わらないものの、より強靭となった筋肉。
そして、力を強めた俺の『能力』。

これだけあれば十二分に十分。

俺は今、間違いなく学園都市最強の存在。


「そう思ってた時期が、俺にもありましたぁぁぁぁああああああ!!!!」


「無駄口叩いてる暇なんてないよ!」


ゴメシャッという凄まじい音と共に、俺が自分の前面に盾のように展開した羽根に衝撃が駆け抜ける。
同時に、頑強な筋肉に固められているはずの俺の体が浮かび上がり、後方へのベクトルで吹き飛ばされた。


「ぐっ!?」


「まだまだ!」


苦悶の声を上げる俺に追いすがる声と共に、俺の眼前に白い影が過る。
俺はとっさに羽を展開し、強制的にベクトルを殺す。同時に、俺の腹腔にベクトルを殺したことにより生じるGが掛る。
足の先から血液が逆流しそうになり、頭から意識が遠のきかけるような感覚。
俺は、その感覚を砕けきった右手を握りしめることによって生じる痛みで相殺した。
しかし、相手の攻撃はまだまだ終わることはない。


「残念でしたぁ」


重力に引かれるように足から着地するために体勢を整えていた俺の眼前に、白いカーテンがかかる。
そこはかとなく柑橘類系の良い匂いが俺の鼻腔をくすぐったが、俺にとって今その匂いは決して甘美なモノではない。
むしろ、大鎌を振り上げた死神の腐臭に匹敵するほどの恐怖を俺にもたらした。

ゾクリと、背中に悪寒が走る。

白いカーテンの途切れ眼からそっと差し伸ばされる骨のように白い手。
それこそ、まさに振り下ろされようとしている鎌だ。

幸か不幸か、俺の上がった動体視力は、高速で振り下ろされたその軌跡を正確に見きっていた。


「う、うおおおおおおおおおお!?」


意味のない叫び。
だが、それは死神に魅入られたがために動きを止めてしまっていた俺の体を動かす切っ掛けとなる。
背中の翼が羽ばたきを再開し、俺の体を僅かだが後方へと押しやった。

その刹那の後、俺の眼前を風が切り裂かれる音と共に白い死神の鎌が通過する。
俺はそのまま後退しながら、それを振るった張本人、空中で逆さまになりながら落下する一方通行を畏怖の気持をこめて見つめる。
まったくもって、俺は勘違い甚だしかった。

何が、自分が考えた最強の主人公だ。

――そんなもの、この最強(おんなのこ)の足元にも及ばないじゃないか。

何が、『汚染』だ。

――こんな、立った1人の最強(おんなのこ)も穢せないじゃないか。

何が、何が、何が、何が、対等だ!!!!

――俺はこんなにも無様じゃやないか!!!!


「ぐっ!?」


一方通行の攻撃を躱わすために後ろに下がった勢いを殺しきれず、俺は着地すると同時に無様に大地を転がった。
そう、俺は能力で飛べるにも関わらず、大地に足をつけさせられたのだ。
俺の本来の戦略は相手の攻撃が当たりにくい空中で、一方的に相手に向けて『脳内メルヘン』を行使することだ。
だが、一方通行にはその何れもが意味をなさない。

まず、空中に飛んでもそれは彼女の為に遮蔽物の全くない場所に移動し的になることを意味する。
ベクトル操作という能力により、空中を俺より高速で自在に『移動』できる彼女にとっては、空中までの何も障害物の存在しない場所は、もっとも適した加速車線なのだ。

次に、俺のメルヘンは現在は辺りに散布して、それを吸い込んだ者の意識を操るように設定しているのだが、一方通行は現在自分の生命維持に必要なもの以外全て反射している。
そのため、俺のメルヘンですら弾かれてしまっているのだ。

回避は不可能、攻撃は無効化。
防御に至っては、触れた瞬間に弾き飛ばされるか、血液を逆流されてデッドエンド。
もう、本当に無理ゲーです。

俺は加護によって強化されたにも関わらず、ダメージの蓄積でガクガクと震える体を叱咤して立ち上がる。
そんな俺に、少し離れた背後から声がかかった。


「おい、帝督! お前、本当に大丈夫なんだろうな!? なんだったら、助太刀を…」


「うるせー! お前は引っこんでろ上条! 帝督さまの俺TUEEEEEEEEEEEはこれからが本番だ!!」


心配そうにしている上条に、わざと強がるような言葉を返すと俺は全身に力を込めて立ち上がった。
そう、俺はまだまだ戦える。
本当は、もう怖くて恐くて背中を見せて逃げ出してしまいたい。

――だけど。

俺は、眼前にゆっくりと着地して再びこちらを攻撃しようとする気配を見せている一方通行に向けて静かにほほ笑んだ。


「さて、遊びはここまでだ(俺がやられる的な意味で)」


――もう一人の自分(一方通行)を、終わらせてやりたいと思うから、止まれない。

一方通行は、今全てを反射している。だから、俺の『脳内メルヘン』も効かないのだ。
体からの直接的な汚染は出来ない。
ならば、どうすれば良いのか?

俺は、ふとその時あの化粧の濃い少女の能力を思い出した。
彼女は、人間の精神に直接影響を与える念話能力を応用した能力者だ。
そして、俺自身も元々念話能力系の研究機関で実験されていた者。

ならば、精神を直接汚染してやれば俺の能力も効果があるのではないか?

俺は、ソレを信じて一方通行へと反撃を開始する。
傍らに植えてあった気を力まかせに引き抜くと同時に、根元近くで折れたために先端が尖ったそれを一方通行目がけて思いっきり投げつけた。


「今さら、そんな攻撃を!?」


一方通行がいらだたしげに何か叫んだが、俺は気にしない。
何故なら、今の攻撃もどうせ反射されるだろうが、俺にとってはその一瞬の間の思考時間が欲しいのだ。

直接精神を汚染するとは言え、精神は目に見えない上に触れもしない。
そのため、俺は何に干渉すれば良いのかも分からない。

……いや、待てよ? 俺たち能力者は常にAIM拡散力場という特殊かつ微弱な力のフィールドを無意識に発生させている。
そして、千差万別の力や種類を持つ現実に対する無意識の干渉であるこの力場を探ることで、 能力者の心や『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を調査することもできると言われて

いる。

これだ! これを汚染すれば…


「…この程度なら、もう終わらせちゃうよ?」


不意に聞こえた俺の思考に割り込むかのような言葉。
そして、俺は遅れること数瞬で一方通行が、俺が投げ飛ばした気を反射したのだと察知した。
俺が投げた時以上の速度で反射された木は、思考に没頭しかけていた俺の僅かに遅れた対応をあざ笑うかのように殺到する。

咄嗟の判断で俺は自分の能力に頼った。
翼をいっぱいに広げて、星が瞬く夜空へと飛び立つ。

俺の体を捉える事がなかった木は、そのまましばらく水平に飛び続けたが、やがて轟音と共に地面にぶち当たる。
もし、俺の立ち位置が少しでもずれていたら、観戦している美琴ちゃんや上条にぶち当たったかもしれない。
なんて、危ない…
俺は、若干の怒りを込めて一方通行を睨みつけようと、彼女がいる場所を睨んだ。
すると、彼女は何を思ったのかしばらく考えるように顎に手を当てると、呟いた。


「空を飛ばれると厄介ね。堕ちろ」


直後、彼女が自身の足元を思いっきり蹴飛ばした。
瞬間、ゴバァという轟音と共に足もとの大地が丸ごとめくり上がる。


「!?」


「帝督!!」


それは、さながら土の大津波。
俺を呑み込まんとする巨大な化け物の顎。
上条の何かを呼び掛けるような声を耳にしながら、俺は背中にもう何度目かも分からない悪寒が走るのを感じた。

あんなもの、くらってられるか! 回避を…
俺は素早く辺りを見回して回避可能な場所を探す。

左右。
論外だ。迫りくる土の壁が到達する前に逃れられない。

後ろ。
これも、上条と美琴ちゃんがいるから却下。

ならば、少年漫画的に前!
ふ ざ け ん な !死ねってか!? あんなんに突っ込んだら普通に死ぬわ!

残された選択肢は上か下。
そして、下は俺としては遠慮願いたい。
そうと決まれば、上昇あるのみ。

俺は、翼を羽ばたかせて更なる上昇を行う。
幸い、噴き出た土の壁の背はそこまで高くない。
この分なら、少し上昇するだけで――

上昇を続けながら、俺はその発想に一瞬呆然とする。


(マテ、残サレタ選択肢ガ一ツシカナイ?)


それは、つまり――


「誘導、成功」


目の前に突如として現れる人影。
それが、土の津波の上を掛けてきた一方通行だと気がついた時には、すでに手遅れであった。


「私の――」


引き絞られる拳。
それは、おそらく彼女最大の威力が込められた一撃。
彼女の攻撃に『かすり』はない。
そのベクトル操作で、少しでも攻撃に触れたのなら威力がそのまま浸透する。

出来るのは、防御。

自身の『脳内メルヘン』によって構成された翼を上昇するのに使うのではなく、咄嗟に自分の眼前に展開して急ごしらえの盾とする。
もっとも、先ほどの何でもない一撃で破られたその盾は、


「勝ち!!」


耐え切れずに崩壊して全力のベクトルを俺の体にぶつけた。



「ぐぇっ――――――」



苦悶の声が、一瞬上がる。
だが、次の瞬間には俺は叩きつけられ、捲れ上がっていた土の上へと墜落した。

同時に、背中に凄まじいまでの衝撃が駆け抜けて、息が詰まると同時に俺は喉の奥から込み上げてくるものを感じた。


「お、おげぇ!?」


醜い、蛙を引きつぶしたかのような声と共に、俺は体を横に倒して口の中から迸るパトスを吐きだした。
とてもではないが、表現したくない刺激臭に塗れた物体。
それには、うっすらと桃色の何かが混じっている。

くそ、胃が損傷したのか?

だが、俺の体を襲う痛みは凄まじいながら、どこかまだ余裕がある。
その証拠に、全てを吐き出し終わった俺はゆっくりと起きあがる余力すらあった。
だから、演算を始める。


「うそ…。アレを食らって起きあがるなんて…」


いつの間にか、俺の正面に現れた一方通行。
彼女は、心底驚いたのか目を見張って起きあがろうともがく俺を見つめた。
俺は彼女を睨み返すと、ズリズリと這って移動する。

余りにも、無様で滑稽な逃走。

この時点で普段の俺ならば、諦めて抵抗を止めていただろう。
だけど、今は違った。

どんなに負けそうになっても、勝てる瞬間まで頑張りたいとそう思った。

痛いし、恐いし、もう嫌だ。
だけど、諦めて俺の居場所に帰れないことや一方通行に負けるのは、もっと嫌だ!!

俺はズリズリと体を這わせて一方通行から少しでも距離を取った。
ただ、演算の時間を稼ぐために。


「君は……」


一方通行が、ポロリと言葉を零す。
俺はそのまま這いながらめくり上がった土の上から移動し、砂利道を進む。
目指す場所は、先ほどから視界に入っていたコンテナ群。
取りあえずは、あそこまで逃げるのだ。


「はぁ、はぁっ」


ズリズリと、まるで芋虫のように進む。
くそっ、これじゃあ何時までたっても辿り着かない!
生まれたての小鹿のように震える足に力を込める。
体が、見えない何かに抑えつけられるかのような感覚がするが、なんとか立ち上がると俺は酔っぱらいのような千鳥足でコンテナの一つに辿り着いた。
俺はそれに手を触れながら、荒い息を整えようとする。

よし、後はこれを…


「もう、諦めなよ」


その声は、俺の真上から降ってきた。


「!?」


声に反応する形で俺は上を向き、そして見た。
月を背に立ち、悲しそうな瞳で俺を見つめる一方通行の姿を。
一方通行はまるで何かに耐えるかのような表情で口を開いた。


「私は、殺したいわけじゃない。ただ、理解してもらいたいだけ。
もう、分かったから。だから、もう諦めてよ」


どうやら、彼女の中でもう勝負がついてしまったようだ。
まだ、俺は立っているし叩かる力は僅かだが残っているのに。

俺は、吐き捨てるように呟く。


「ヤダ」


まるで、子供の我儘。
そんな言葉が次々と俺の口から聞こえてくる。


「嘗めるんじゃねぇよ。言っただろうが、俺の反撃はここからだって」


「でも、もう…」


俺は、一方通行が何かを口にしようとした瞬間、自分が手を添えていたコンテナを思いっきり押した。
体に残っている力の大半を注ぎこんだその一押しは、常ならば決して動かせそうにないそのコンテナを周りのコンテナを巻き込むような形で盛大に倒れる。


「!?」


驚いたような一方通行の顔が、次々に倒れていくコンテナの向こう側に消えていく。
次の瞬間、コンテナが倒れた轟音が辺り一帯に響き渡った。
同時に、土煙があがったが、それだけではなくコンテナの内容物であった『小麦粉』が空気中に散乱する。
また、今日は都合の良いことに無風状態で風が吹いておらず、小麦粉を含めた『粉塵』は濛々とその場を漂う。
俺はそれを確認すると、コンテナを固定していた金属の留め金を、体に残された全力でもって粉塵の中へとスピンを効かせて投げ込んだ。
投げ込まれた金属は凄まじい速度で中へと殺到し、一つの音を響かせる。
即ち、コンテナ(金属)と金具(金属)がぶつかり合った音を。

次の瞬間、俺の視界で赤が弾けた。

音が吹き飛ばされ、光が辺りに散乱する。


「――――ぁっ、――――」


耳に強烈なまでの振動を浴びせられ、また凄まじい爆風の余波を受けて体が吹き飛ばされた。
耳鳴りと共に世界から音が消える。さらに、それだけではなく三半器官がいかれてしまったのかどちらが上で、どちらが下なのかが分からなくなってしまう。
だが、頭の一部分で行われる演算は未だに健在で、俺自身がどれほど集中を切らしてしまおうが、関係なく演算は続く。
そして、その演算が終了すると同時に耳に次第に音が戻ってくる。


「―は―――――――はは、はは――――――!!」


誰かが、笑っている。


「―督!! ―事か!?」


誰かが、俺を心配してくれている。
そんな中、彼女の声だけはいやにハッキリと聞こえた。



「…………信じてる」




それは、周りのどの音よりも小さな声。
本来なら、決して聞こえることはなく、笑い声や心配する声にかき消されるべき声。
だが、確かにその声だけがハッキリと俺の耳に聞こえた。
言ったのは誰かなんて、確かめるまでもない。


「美琴、ちゃん」


ギシリと、歯を噛みしめる。
俺が、今戦っているのはほぼ自分の為だ。
だけど、最初に動き出したのは彼女を助けたいと思ったからだ。

彼女が、止めたいと願っているであろう彼女のクローンを使った実験。
それの中心人物である学園都市序列第一位の一方通行。
本来の俺ならば何れも止めることなど出来はしない。

しかし、俺はもうまともに考えられなくなった脳ではなく、本能の部分で感じていた。
目の前の不可能(一方通行)を可能にすれば、実験も止まると。

そして、止められたならば美琴ちゃんは間違いなく俺に惚れると!!


「お、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


本当は、滅茶苦茶怖い。

本当は、痛いのも大嫌い。

本当は、居場所も守れないかもって、諦めてる。

でも、彼女が信じてくれているのなら、俺は意地でもカッコいいところを見せてやらなきゃいけないんだ!

俺は、体中から声を上げて立ち上がると、炎の中を大声で笑いながら歩いている影に不敵な笑みを浮かべた。


「おいおい、少しは、効いてて、くれても、いいんじゃないか?」


言葉は、息が切れていたために途切れ途切れになってしまったが、一方通行には伝わったらしく、彼女は炎の中からゆっくりと歩み出てくると愉快そうに笑い声を上げる。


「ふふふ、本当に死ぬかと思った。酸素が一気に燃え尽きたせいでとっても苦しかった。
こんな時の対策として、小型の酸素ボンベでも携帯しようかな? ねぇ、アレってどこで売ってるか分かる?」


彼女は歌うようにそう告げるとゆっくりと足取りで、俺の目の前まで歩み寄った。
俺は、ただ彼女を至近距離で見つめ、呆れたように呟く。


「…お前、いったいどうやったら死ぬんだよ?」


「さあ? でも、今のぐらいじゃ『死ねない』みたいだね」


「……」


「さて、それじゃあ本当にチェックメイトかな?」


一方通行は、そうおどけたように言うと、ゆっくりと俺に向けて手を差し伸ばす。
それは非常にゆっくりとした動作で、まるで愛おしむようなその動作に俺は一度目を閉じ――



「お前がな」



先ほどまでために貯めていた演算を解放する。
それは、一方通行の微弱なAIM拡散力場を発見し、『汚染』するための演算。
そして、俺が一方通行に勝つためのたった一つの方法。

その演算は一瞬にして『脳内メルヘン』に適用されると、一方通行が何か反応を返す前にその能力を解放する。


「ぁ――――――――」


途端、トロンと虚ろになる一方通行の瞳。
俺はその彼女めがけて背中の翼を振り下ろした。

メルヘン状態となっている一方通行は、その思考すらもメルヘンに汚染されて反射も出来ない。
成すすべなく俺の攻撃を喰らった彼女は景気よく横に吹き飛んだ。

ゴロゴロと、まるで投げ捨てられた空き缶のように転がる彼女。やがて、俺のメルヘンの効果範囲から抜けた辺りで彼女はその動きを止めた。
俺はそれはどこか冷めた目で見ながら、一度能力を消すとゆっくりと彼女に近づいて行く。


「ぐっ、うっ…」


苦しそうに苦悶の声を上げる一方通行に、今度は俺から語りかけた。


「俺の、勝ちだ」


「ぜっ、ひゅっ」


どうやら、彼女は息が詰まっているようで苦しそうに喘いでいるだけで、返事はしない。
だが、俺は彼女の瞳が苦しそうな光を宿しながら、俺に何かを期待しているまなざしを向けていることに気がついた。
俺は、しばらくその瞳を見つめながら彼女の意思を読み取ろうとする。
その時、苦しそうな彼女の口元が動いた。


(お)


(わ)


(り)


(に)


(し)


(て)


俺は、しばらく彼女を見下ろして一言、彼女に問いかける。


「…疲れちゃったのか?」


一方通行は、苦しそうな息の中で一度だけコクリと頷いた。


「…そっか。じゃあ、さよならだ」


俺は、再び能力を展開して背中に翼を生やす。
もうそろそろ、俺も限界なのか翼は片側しか現れない、だが、今はその片翼で十分であった。
俺は意識を研ぎ澄まして、翼の形状を少しずつ変えていく。
より鋭く、より堅牢に。

そうして、出来上がったのはまるで刃のように尖り、硬くなった俺の翼。

俺はゆっくりとそれの狙いを一方通行の胸に定める。
気がつけば、眼にゴミでも入ったのか視界が滲み世界が歪んでいた。


「ば…い、ばい」


一方通行が、ぽつりと呟く。
俺は、それに静かに答えた。


「ああ、ばいばい」


その瞬間、俺は一方通行の心臓めがけて翼を振り下ろした。







――――これでもって、俺と一方通行の死闘は幕を閉じた。







――――ただ、俺はこの時すっかり忘れていたんだ。







――――俺の親友は、『英雄』だってことを。







俺の翼が一方通行目がけて振り下ろされる直前、誰かが俺の翼を横合いからそっと掴んだ。
それだけで、翼はボロボロと形を失い、一方通行の胸を貫くことなくその姿を消す。

こんな、理不尽な現象を俺は知っている。

ギシギシと油が切れた人形のように首を巡らせて、手が伸びてきた方を見るとそこには上条がいた。

上条は俺と一方通行を呆れたように眺めると、次の瞬間凄まじい怒声を上げた。




「この、馬鹿野郎どもが!!!!」




「上条……」


「俺は、お前たちの事情なんて全く知らない! でもなぁ、これだけは言える。これ以上傷つかなくて良いはずの自分を傷つけているお前たちは、馬鹿だ!!」


「…にも………いくせに」


俺は、熱く吠える上条を見つめながら、自分の心が冷えて行く感覚を覚えた。


「こんな結末、誰も救われない! そんなこと、認められるかよ!!」


「何も知らないくせに、ほざいてんじゃねぇぞ部外者!!」


「悲劇に浸ってんじゃねぇよ当事者!!」


いつしか、俺は上条に対してそう噛みつくように叫んでいた。
同時に、上条も負けじと怒鳴り返す。その途端、俺は普段の自分からは考えられないほど低い沸点であったが、ブチギレた。
何故だか、上条に言われた言葉が無性に癪に障る。


「なら、お前はこのまま這い上がれない泥の中に、こいつが一生いれば良いって言うのか!? 死しか救いのないこいつに!!」


「誰が決めたんだよそんな事!! お前はいつもそうやって決めつけて、自分がとれる選択肢を狭めてる!
そんなんじゃ、救える存在も救えねぇよ!!」


「お前が言うのか、あの子を救えなかったお前が!!」


「ああ、そうだ!! あの時、俺は一瞬だけど諦めていた! だから、お前はそうさせない!」


「お前のその言葉は理想論だ! 学園都市の闇も知らずに育った甘ったれが吐きだしている夢物語なんだよ!! なんで気がつかない!!」


「気がついていないのはお前だ! ありもしない幻想(現実)に囚われて、一番大切なことに気がついていない!」


「俺が何に気がついてないって言うんだ!!」


激しい舌戦の中で、俺は上条がまぶしくて目を細める。
こいつが言っていることは、本当は俺が言いたかったことだ。
優しい誰もが助かる夢物語。俺は、そんなものは存在しないと知っているのに、それに憧れてしまう。
さながら、太陽に魅せられて天へと上ったイカロスのように。

そして、上条は俺に言った。
必死そうな表情で。
ただ、喉も枯れよとばかりの声量で。




「お前自身が一番その夢物語に憧れていることにだよ!」






その瞬間、俺の中で全てが停止した。
そう、何のことはない。
理想論だと嘲笑い、尊い思いを踏みにじっている俺自身が、それに一番憧れていたのだ。

真実、光に憧れているのは一方通行ではなく俺だったのだ。


「助けてぇんだろ!? お前が言う学園都市の闇にどっぷりと浸かっている一方通行を!
自分のクローンを『実験』なんかで殺されて傷ついている御坂さんを!」


「俺は……」


そうだ。
そうだよ、上条。
俺は、彼女たちを救いたいんだ。
光のある所で笑わせたいんだ。

でもな、俺は英雄(お前)じゃないんだよ。

脇役には、そんな話を都合よく進める力なんてないんだ。
だから、何が一番大切かを考える。本当に一番大切なものを失わないようにするために、それ自身が傷つけても無くさない。

そんな歪んだ信念しか持てない卑屈な悪役(俺)に、英雄(上条)はまるで自分のことのように、泣きだしそうな顔を歪めた。


「憧れているなら、なんで立ち止まる!? なんで、試す前から無理だって決めつける!?
そんなことをしている暇があるなら、一秒でも早く理想を実現するために行動しろ!
そうしなけりゃ、どんな現実に近い理想だって現実になれるわけがねぇんだよ!!」


「『もってる奴』の言い分だろ、そんなものは! 俺の現実は、そんな言葉じゃ揺るがねぇよ!」


「だったら、俺が今からお前のその現実(幻想)をぶっ壊す! ちったぁ、頭を冷やしやがれこのメルヘン野郎が!!」


「もう、それ以上囀るんじゃねぇよ!」


「帝督ぅぅぅうううううう!!!!」


「上条ぉぉぉぉおおおおお!!!!」


そして、俺たちは同時に持てる最大の攻撃を行った。
俺は、翼での上からの振り下ろし。
上条は、その右手での一撃。

互いに相手の顔を至近距離で捕らえられる位置での攻撃。

苦し紛れに放たれた一撃と、在りえないほど尊い意思と共に放たれた一撃。

どちらが、勝つかなど初めから分かっていた。









あとがき
スーパー美琴ちゃんタイム、次回に持ち越しです。すみません^^;
私の忙しさの関係で更新が大幅に遅れてしまったことを謝罪させていただきます。ちなみに、感想返しはまた次回に持ち越しとさせていただきます。重ねて申し訳ありません(T_T)

なお、前回行わせていただいたアンケートの結果はBとなりましたが……
予想以上にDが少ないことに絶望しましたww
ともあれ、AやCも僅差でしたので私としては救済策として全て混ぜてやんよという結論に至りましたwwww

忙しい中、自分で自分の首を絞める行為。
それでも、やらなくてはいけないことがあるんだ!!

因みに、次回の更新は2週間以内には行いたいと思います。
それでは、また次回ノシ



[6950] 三章 十一話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/12/06 23:41

翼が散る。

白い純白の翼が、羽根をまき散らしながら散っていく。
それは、神にもっとも近い場所に侍る神の道具が持つ象徴。

本来ならば何物にも汚されない、至高の存在だ。

しかし、上条 当麻がその右手に宿した『幻想殺し』の前では、それは紙切れ同然の耐久力しか発揮しえない。
刹那にも満たない一瞬で、上条の幻想殺しに触れた部分から翼が散らされていく。
その様子を、帝督が認識する前に上条はその拳を振り抜いた。

ゴガンという鈍い音と共に帝督の顎に上条の一撃が突き刺さる。
グラリ帝督の体が傾いだ。
そのまま彼は踏みとどまることも出来ずに、ゆっくりと地面に倒れ伏す。
上条は彼を助け起こすことはせずに、ただ上から見下ろして一言悲しげに呟いた。


「俺は、お前を知らない」


帝督は、上条の一撃により真実体を動かすことができなくなっていた。
そのため、彼は続けられた上条の言葉をただ聞く。
聞くことしかできない。


「お前がどんな地獄を歩いてきたのか、お前がどれほど傷ついているのか知らないんだ。

でも、だからこそ、俺はお前にこれ以上地獄を歩いて欲しくない、これ以上傷ついて欲しくないんだ!!」


帝督はその言葉を耳にしながら、自分の目から熱い雫が零れ落ちるのを感じた。
そして、今さらのように思う。

自分は、本当にこの親友とは正反対の存在なのだと。
上条は例えるのなら光の中を突き進む英雄、物語の主人公。
対して、帝督自身は浅い闇の中を立ち止まっている小悪党、物語のやられ役だ。

とてもではないが、対等な存在ではない。

上条の言葉は嬉しかった。
しかし、それは遥かなる高みからかけられているような声でしかない。
本人にそのつもりがなくても、卑屈な帝督の心にはそう感じられた。
何故なら、帝督はすくい上げてもらいたい訳ではないからだ。
彼としては、自身の力でそこまで登り並び立ちたかったのだ。

だから、彼はその背中に翼を生やす。
歪で、形もまともに形成出来ていないボロボロの片翼を。


「なっ!?」


上条の驚きの声と同時に、帝督の中で天使の力が再び産声を上げる。
四肢に仮初の力が戻り、垣根 帝督は立ち上がった。


「うるせぇ」


帝督は淀んだ瞳で上条を睨みつける。
今の彼にとって上条はたまらなく眩しかった。直視すれば、即座に目を焼かれてしまうほどに。
だから、彼は上条を睨みつけることでその姿から全力で目を逸らした。
睨んでいる間は、上条を友ではなく敵として認識出来る気がしたから。


「うるせぇうるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ!!
余計な御世話なんだよ! いつもいつも上から目線で語りやがって、てめぇはそんなに偉いのかよ上条!?」


「上から目線なんかじゃねぇ! そう感じてんのはテメェの卑屈な心だろうが!!」


「ああ、そうかい! 光の中を歩いていらっしゃる方はさぞかし偉いんだろうなぁ! 意識せずに上から目線の同情をくれるんだからな!!」


「こんの、好い加減にしろ! 人の話をちょっとは聞きやがれ!!」


「人を全力でボコってるやつが話だなんて笑わせんじゃねぇよ!!」


どこまでも平行線な二人の意見。
上条の瞳に苛立ちの炎が宿る。
帝督の必要なまでの挑発に、彼は普段の彼の思考を放棄して自分の意見を聞き入れない帝督に怒りを覚えていた。
そして、怒りはこの場でもっともしてはいけない行動へと上条を駆り立てた。


「この、大馬鹿野郎!!」


拳を再び握りしめ、上条は立ち上がったばかりの帝督へと肉薄した。
怒りに任せたその行為は、何を隠そう帝督が狙った行動であった。
今度こそ上条を叩き伏せるためにその歪な翼を刃のように尖らせる。

もちろん、それは防御に使うものではなく、上条への迎撃に使うものだ。

帝督が狙うのは、上条が拳を使う間無防備になった背中。
取りあえず、しばらく立てないようにするのが目的であるから、内臓がありそうな場所は外すつもりであった。

もとから二人の間の距離はあってないようなモノ。
即座に上条の拳は帝督へ迫り、帝督はその無防備になった背中へとサソリの尻尾のように構えた刃状の翼を振り下ろした。





「そこまで」





瞬間、帝督と上条の頭上を轟音共に何かが通過した。


「「!?」」


上条はその音に驚いて拳を止め、帝督は『何か』が発した衝撃波に翼を撃ち抜かれたことにより攻撃を中断する。
二人して驚いたように声が聞こえた方を振り向くと、そこには今まで黙り成り行きを見つめていたはずの御坂 美琴があきれ顔で立っていた。


「御坂さん…」


ポツリと上条が呟いたその名前に帝督はビクリと体を震わせた。
彼は、今の今まで少女のことを失念していた。本来ならば誰よりも気にかけているはずの存在を、そして絶対に今の自分を見られたくなかった存在を。
彼女は、そのまま怯える帝督の傍らまで歩み寄ると、母親にしかられた子供のような表情になっている彼に声をかける。


「帝督」


それは、彼の名。
未だ呼ばれたことがなかった、彼が呼ばれることを切望していた名前だ。
しかし、今はその名すらも彼には威圧以外には成りえない。
それを理解しているのか、いないのか、美琴はもう一度その名を呼んだ。


「帝督」


そっと差し伸ばされる手。
それは怯え竦む彼の頬に触れると優しく愛撫する。
いつの間にか信じられないほど体温が上がっていたらしい帝督の頬には、その手の冷たさと優しい感触が気持ち良かった。
それ故、彼は恐怖する。
まるで、自分の譲れない怒りを宥められているような気がしたから。


「……やめてくれ、美琴ちゃん」


「…………」


美琴はその言葉を聞くと、彼の頬を愛撫していたその手をそっと下ろす。
次いで、彼との距離を一気に縮めた。


「!?」


月に照らされる二人の影が、まるで抱き合っているかのように一つになる。
しかし、美琴は帝督には触れてはいなかった。
彼女は、ただ至近距離で彼の眼を見つめ続ける。
その瞳の中には、責めるような光も彼を憐れむような光も存在していなかった。
そこにあるのは、ただ彼を見つめることだけを考えている瞳だ。


「あ――――――――」


帝督の口から溜息のような声が漏れる。
そして、彼は彼女から逃げるように視線をそらした。
いつの間にか、帝督の膝は取り戻していた仮初の力を忘れてしまったかのように折れ、地面についている。

美琴もそれに合わせるかのように膝をつき、彼が視線をそらすことを許さなかった。


「う、あ――――」


逃げることのできない視線。
帝督が追い詰めれていく自分を感じたその時、彼女は再び口を開く。


「帝督、あんた言ったわよね? 私は先に歩いていて良いって。あんたが追い付くからって」


いつか、彼女の前で大見えを切った啖呵。
破れぬ誓い。

しかし、彼にとってそれは今では重荷でしかなかった。


「……無理だ。もう、無理だよ美琴ちゃん。俺は、そんな所まで行けない。
もう、痛くて辛くて恐くて悲しくて、一歩も歩きたくないんだ」


いつしか、帝督は四つん這いになって血を吐くように叫んでいた。
最早、彼は一方通行を殺す為の余力も上条を打ち倒す為の気力もなかった。
精根尽き果ててしまったのだ。

美琴はそっとそんな彼を胸に抱きしめる。
今度は帝督もそれを受け入れて、彼女の胸の中でまるで幼子のように涙を流し始めた。


「俺は、強くなんか、ない。一方通行を、助けてやれないし、上条には自分の意見を押し通せない。
何もできないんだ。何も……」


「私も、そうね」


帝督の嗚咽に美琴は、ポツリと呟いた。
それは、感情が全くと言っていいほど込められていないただの事実を指摘するための言葉。


「私の遺伝子から生み出された『妹たち(シスターズ)』が一方通行に虐殺されていくのを止めたかった。けど出来なかった。
その『実験』を止めるために、私自身に全く価値がないとして一方通行相手に自殺するつもりだった。けど出来なかった。
初めはうざったかったあんたを遠ざけようとした。けど、出来なかった。
一方通行に関わろうとしたあんたを止めようとした。けど、出来なかった。

そして、何よりあんたを好きにならないようにした。

けど――」


美琴は、そう言うと僅かに目を見張って彼女を見る帝督に微笑んだ。
女神もかくやと言うほど、慈愛に溢れた柔らかな笑み。
魂が抜けたようにそれを見つめる帝督の頬に両手をそっと添えると、美琴はゆっくりと唇を近づけ、


「出来なかった」


刹那の間だけ彼のそれに重ねた。
啄ばむ様な、触れるだけの稚拙な触れ合い。
彼女は、直後帝督の頬から手を離して立ち上がった。

まるで上から見下ろすかのような彼女の瞳に、帝督は彼が大好きな輝きを見つけた。

太陽の如くギラギラと輝く不屈の輝きを。


「でもね、こんな何も出来ていない私にも、出来ることはあるみたいよ?
例えば、あんたと上条君の喧嘩を止めたりだとか、そこで伸びてる一方通行に軽いお説教だとか」


美琴はそう言うと、いつの間にか上体を起こしていた一方通行に声をかけた。


「ねえ、一方通行。私は、あんたを赦さないわ。どんな理由があったにしろ、私の『妹たち』を殺したことは赦されないことよ」


「…………知ってる」


一方通行は、ぽつりと美琴から視線をそらしながらも、返答した。
美琴はそんな彼女を見つめながら、中指を立ててみせる。


「当然、『死んで逃げる』ことも許さないわ。さっさと『実験』を止めて、せいぜい長生きして償っていきなさい」


「…厳しいのね。私だって、もう無理よ。これ以上、背負えない」


「そうでしょうよ、人の命ってのは重たいの。一人なら一人分の命しか背負えないんだから。
でも、あんたは背負うしかないの一万人分の命を。
だから、必死に生きなさい!
闇の中を這いずりまわって、苦しみながら、痛みにのたうち回りながら!
いつか、あの子達の前でも胸を張っていられるように!!」


「ほんと、やんなっちゃうぐらい厳しいなぁ」


一方通行は、泣きそうな顔でうなだれた。
美琴はそれを見て鼻を鳴らす。


「悪いけど、私は死んで終わりになんてさせないからね。
だいたい、人の者にこれ以上重荷を背負わせないでくれない? 意外とナイーブなんだから」


「………………………………略奪愛って、知ってる?」


「させないから」


美琴はそう言い切ると、次いでバツが悪そうに立つ上条に視線を向けた。


「上条君…いや、上条は頭に血を上らせすぎ。男の子って、殴り合いで通じるものあるのかもしれないけど、いくらなんでもやり過ぎ。
ああ、帝督、あんたもよ」


美琴はそう言うと、二人をジト目で見渡す。


「…私より年上のくせして、恥ずかしいと思いなさい」


「…なんつーか、迷惑かけた。それと、ごめんな帝督」


上条はポリポリと頭を掻きつつ、素直に謝罪をする。
一方、帝督はそれに対する返答もできずに唇を噛みながら地面を睨んでいた。
美琴は、彼を見下ろしながら呆れたように溜息をつく。


「…あんたが出来たこと、一つだけ教えてあげるわ。

それはね、私を救ったこと。

『実験』を止めさせるために、体を壊すまで無理をして勝手に追い詰められていた私をあんたは助けてくれた。
一度ふった私に、もう一度真剣に告白してくれた!
たった、それだけ。たったそれだけで、私は救われたのよ!!」


美琴はそこで一度言葉を切ると、帝督の手を取って引っ張ると無理やり彼を立ち上がらせた。
そして、握った手にもう片方の手を添えると自分の胸に抱きしめるように抱える。


「いつか、私が言った言葉を少し変えるわね。
『私は『超能力者』だけど、何も出来ない。それでも、諦めないわ。それであんたはどうすんの? 私としては、一緒に歩いて欲しいんだけど?』」


「俺は、俺は――――」


帝督は、何かを悩むように口を開き、遂にその心のそこにある思いを口にした。
大声で。
学園都市中に響き渡らせるかのように。


「俺は、美琴ちゃんと一緒にいたい! 俺は、俺は君の事が好きなんだ!!」


「じゃあ、考えましょう。何をどうすれば、ハッピーエンドに辿り着けるのか」


美琴は、そう言うと不敵に笑った。
まるで、見えない何かに挑戦状を叩きつけるように荒々しく。
帝督はそんな彼女を見ているだけで心の底から力が沸いてくるのを感じた。
彼女とならばどんなことでも出来る。
何の根拠もない、それこそ物語によくある都合の良い力。

そんなありもしない力を、今だけは信じてみる気になった。

そして、彼は立ち上がる。
他でもない自分の力で。

次いでゆっくりと口を開いた。


「ねぇ、美琴ちゃん」


「ん?」


「実はさっきから言いたいことがあったんだ」


「何よ?」


帝督は満面の笑顔を作り上げると、


「実は、俺の右手って粉砕骨折してるっぽいんだ」


笑顔のまま痛みの為に滝のような涙を流した。
美琴は、自分が帝督の手を気軽に持っていたことに気が付き、慌てて手を離す。


「えっ、ちょっ!? 嘘でしょ!?」


「しかも、一方通行のせいで肋が折れて胃とか損傷してるっぽいし、上条に殴られたせいで首が軽くむち打ちっぽい」


「いやーっ! 重症じゃない!? あんた何やってんの!? 救急車、救急車!!」


「ちょ、落ち着け御坂さん! こっからなら、歩いて行った方が早い! てか、帝督本当にすまん!!」


「と言うか、救急車はまずいでしょ? ほとんど私がやったから言い辛いけど、コンテナが倒れてたり、『妹達』の一人の死体が土砂で埋まってるんだよ?
流石に怪我の度合いも酷いから、警備員も来るだろうし。そう考えると、『実験』を運営している『科学者ども』が私たちを消そうとするわね」


「え゛!? 何やってくれてんのよあんた! って言うか、不吉なことを言うなー!!」


「しかし、的を得ている適格な意見だとミサカは判断して頷きます」


「「「「!?」」」」


不意に聞こえた、第三者の声。
帝督たちは騒ぐのをやめ、一斉に声のした方を見る。

すると、そこには美琴にそっくりな少女、ただしその顔にスコープを装着した『妹達』のうちの一人が佇んでいた。
その手には、ギラリと輝く銃がある。

一方通行は、そんな彼女を嘲笑するように声をかけた。


「おいおい、何の用だァ? まさか、本当に研究者ども(糞ったれども)は俺たちを消すことにしたのかよ?」


「…その返答には取りあえず『いいえ』と返しておきますと、ミサカは今さらキャラ作ってんじゃねーよコイツと馬鹿にしながら答えます」


一方通行の額にビキリという音と共に青筋が浮かぶ。
次いで、怒りのためかギリギリと歯ぎしりの音が聞こえた。
これに慌てて美琴が質問を繋げて誤魔化す。


「ど、どういう事?」


「実験は凍結です。先ほど、学園都市の『統括理事会』が通達してきましたと、ミサカはお姉様の質問に答えます。
そのため、研究者たちは実験の凍結の準備のために貴方がたを気にする余裕がないのですと、ミサカはついでに付け足します」


美琴は、この返答に眉をしかめる。
実験の凍結は正直に言って喜ばしい。しかし、その終わり方が『統括理事会』直接と言うのが解せない。
いや、待てと美琴はそこで自身にストップをかける。同時に思い出されるのは、自分がこの実験場に辿り着く前に上条と共に見た光景だ。

辺り一面に降り注ぐ純白の羽根。
そして、それから悲しみを共有してしまい一歩も動けなくなっていた人々。
美琴自身は、上条に肩を貸してもらって移動していたのだが、それからほとんど影響を受けなかったそれは帝督が引き起こしたものだ。
それも、一方通行が実験に参加している時に、だ。

そのため、帝督が警備員に捕まるようなことがあれば、そのまま実験は世間の知るところとなり『統括理事会』が非難の対象に上がるだろう。
そうなる前の尻尾切り。
凍結することにより、初めから実験を『存在しなかったこと』にしようとしているのだ。

その事実に気が付き、美琴は悔しげに歯を噛みしめる。


「どこまで腐ってるのかしらね、この都市は」


「さあ? とりあえず一番上まで腐ってるのは確実だね」


一方通行は口調を戻し、肩を竦める。
帝督は上条に背負ってもらいながら、ふと疑問に思ったことを口にする。


「…なあ、少し君に聞きたいんだけど?」


「何でしょうか? とミサカは変態に対して優しくも回答する誠意を見せてやります」


「……突っ込まないからな。良く分からんが『実験』とやらが凍結になったのは構わない。

でも、それを伝えにきた君はなんで銃(物騒なもの)を持っているのかな?」


その瞬間、ピシリと空気が固まった。
それは他でもない御坂妹から発せられる殺気によるものだ。
御坂妹は、その素顔をゴーグルで隠したままであったが、無表情のはずの口元をかすかに歪めて彼女にしては吐き捨てるように囁いた。


「あなたが、よりにもよって貴方がそう言いますかと、ミサカは怒りと共に言葉を吐き出します」


その直後、いつの間に現れたのか膨大な数の御坂妹が帝督たちを包囲する。


「…何のつもりかしら?」


「生憎と、お姉様には用がないので黙っていてくださいと、ミサカはクールに言い捨てます」


どこか剣呑な響きを伴った美琴の質問をばっさりと切り捨てると最初からいた御坂妹は、銃を上条と帝督へと構える。
正確には、上条に背負われた帝督の頭を狙っている。
同時に、辺りを囲っていた全ての御坂妹が銃を構えて帝督へと狙いをつけた。


「おいおいおいおいおいおい、何のつもりだ?」


焦って口を開く帝督。
同時に、美琴や一方通行は臨戦態勢に入り上条たちを庇うかのように立つ。
ちなみに、上条は異能ではないものについてはその右手『幻想殺し』では打ち消すことができないため、この場合は役立たずであった。
ともあれ構えられた銃により、場を緊張が支配し誰も一言も話さなくなる。
だが、初めの御坂妹は。その空気の中であえて口を開いた。


「端的に言えばミサカたちは貴方、垣根 帝督を殺そうとしていますと、ミサカは殺す相手にわざわざ説明してやります」


「俺を!? なんで!? むしろ、この場合は殺すのは一方通行じゃないのかよ!?」


「…今は彼女なんかが問題ではありませんと、ミサカは前提条件を提示します。
しかし、貴方は貴方だけは許せないと、ミサカは怒りを込めて呟きます」


「俺を?」


帝督は、突然のことに何も言えなくなり、呆然と背負ってもらっている上条の頭を痛くない左手で掻き毟る。


「イダダダダダダ! 振り落とすぞ、てめぇ!?」


「…止まらないのですと、ミサカは心中を吐露します」


不意に、御坂妹は自身のゴーグルに手をかける。
そして、それを額まで押し上げた所で彼女の素顔、無表情な美琴と同じ顔が出てくる。
だが、それはとてもではないが無表情とは言えないモノであった。
何故なら、


「貴方が出した羽根に触れてから、涙が止まらないのですと、ミサカは正直に言います」


彼女のその顔には、本来なら生理的要因いがいでは流れるはずがない涙が絶え間なく流れていたからだ。
そして、それは彼女だけではなかった。
帝督たちを囲んでいた妹達が一斉にゴーグルを外して、外気にその素顔をさらす。
その何れもが瞳から光る雫を垂れ流していた。


「泣いて、る?」


一方通行は、その悲惨な光景を見つめながら茫然とつぶやいた。
彼女が呆然としてしまうのも仕方がない。何故なら、彼女が今まで殺してきた彼女たちは一様に無表情で、感情などない、それこそ兵器のような存在であったから。
そんな彼女に、御坂妹は首を振る。


「涙だけではありません、胸も張り裂けそうで、居ても立ってもいられないのですと、ミサカは苦悶します!」


それは、帝督の能力によって強制的に心を『悲しみ』で汚染された彼女たちの悲鳴。
彼女たちは、無理やり『悲しみ』を自覚させられたため、感情の制御ができなくなっていた。


「これが、これが『悲しい』ということなのですか!? こんなに辛く、苦しいものが!! とミサカは絶叫します」


絶叫した御坂妹は、そのまま涙を溢れさせながら絶叫すると銃を構えなおす。


「こんな、こんな恐ろしいものが『感情』だと言うのなら、ミサカはこんな物はいらないとミサカは主張します!」


そのまま、彼女は、いや彼女たちは銃の引き金に指をかける。


「戻せ! 『ミサカ(わたしたち)』を『欠陥電気(にんぎょう)』に、戻せぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!!」


次の瞬間、一斉に引かれた引き金と共にマルズフラッシュが辺りを照らし、銃弾という全てを食いちぎる顎が帝督目がけて吐き出された。
それに遅れて響くタイプライターのような銃声。
しかし、その銃弾のいずれも垣根 帝督には届かない。

ギンギンという金属同士が激しくぶつかり合う音と共に帝督の眼前に展開された鉄の壁。
それは、他でもない美琴が瞬時に磁力でもって引き寄せたコンテナの破片だ。
帝督を守るように展開されたそれは、背後以外の全ての弾丸を阻み、弾き飛ばした。
また、彼の背後から迫っていた弾丸は、一方通行によってベクトルを停止させられる。


「……『感情』なんていらない、ですって?」


美琴は自身が作り出した絶対の盾で縦断の雨を防ぎながら、歯を食いしばった。
彼女にとって、その言葉が妹達の口から吐き出されたことに怒りを感じた。
彼女は、彼女たちを『実験動物(にんぎょう)』から救ってやるのだと息巻いていた。
だと言うのに、彼女たち自身が『実験動物』であり続けることを望むなど、彼女には許容できなかった。

未だ、『実験動物』以外の生き方をしたこともないくせに、それが良いなどと駄々をこねる妹達が哀れであった。
もっとも、それは彼女のただのエゴであり、偽善であることは彼女は理解している。
だが、それでも彼女はその怒りを押せる術を持たなかった。

バチリとはじけるような音と共に辺り一面に電撃が走る。
それは正確に妹達の持つ銃に命中したかと思うと、たちどころに強力な磁力を発して彼女たちの手から離れて空中でひと塊りとなった。


「くっ…!? これは、お姉様の――」


「『悲しい』ってことは、苦しいわ」


美琴は上条と帝督に伏せているとジェスチャーを送り、彼らが無言でそれに従ったのを横目で確認すると、ゆっくりと口を開きながら妹達へと歩み寄る。
その体からは抑えきれない怒りが具現化したかのように青い電撃が纏わりついていた。


「それだけじゃない、『怒り』や『憎しみ』、『嫉妬』とか感情には嫌な苦しいものが多い」


そのまま、御坂妹たちに近づいた美琴は彼女たちの中心で咆声を上げた。


「でもね、感情には『嬉しい』とか『愛しい』とか綺麗なものもあるの!! それも知らずに、『変態(こいつ)』を否定するんじゃない!!!!」


途端に先ほどまでとは比べ物にならない電撃が美琴から迸る。
地面を穿ち、磁力でひとまとまりにされていた銃たちに当たると、それらをバラバラにしてしまう。
まるで、自然災害。
御坂妹たちは、それを身を竦めて過ぎ去るの待つしか出来なかった。

しばらくすると、それらの全てが唐突にかき消えた。

突然の静けさに御坂妹達はどこか焦ったように美琴の様子を窺う。
それは、彼女たちに芽生えてしまった『恐怖』が実行させたことなのだが、彼女たちはそれすら気がつかずに必死に次に怒ることに備えるために身構えた。
圧倒的に数の上で有利なはずの彼女たち。しかし、彼女たちはそれでも美琴が怖かった。


「世界は、感情は、こんなにも綺麗なもので溢れてる

だから――」


美琴は知っている。世界には綺麗なものだけではなく、汚いものも多いことを。

だが、彼女は知っている。世界には綺麗なものが溢れていることを。

だから、美琴は体を回転させて彼女たちを人取り見渡すと、全てを飲み込んだような笑顔を浮かべる。
その笑顔こそ、帝督が彼女に惚れた太陽のような笑顔であった。



「私が教えてあげる」



瞬間、美琴の体から電撃が迸る。
正確無比の狙いで放たれるそれは、何人いるのか確認できないほど大量に存在する御坂妹達に次々と命中していく。

『超能力者』の本気。

それは、御坂妹達の意識を奪いこそすれ命まで奪わない優しい攻撃であった。
だが、その優しい攻撃は逆らう事を許さない絶対の攻撃でもあった。

帝督は、上条に庇われるように伏せながら見つめる。

彼だけの太陽を。


「ああ、綺麗だ」


彼はそう呟いた。













あとがき

長々と続いた第三章、おそらく次話で終わります。
その次話投稿と同時に、前回から予告していた番外編も投稿したいと考えていますが、馬鹿みたいに長くなりそうですww

誰だ、全部混ぜてやるとか調子に乗った奴は

ともあれ、次の更新もまた2週間以内に行いたいです、と言うか年内に終了させたいですね。

そして、前回行わなかった感想返しですが、まさか気がつかないうちに60件近く溜まってしまっていました^^;
嬉しくもあるのですが、流石にこれら全てに返信するのは仕事が忙しいこともあり、大変厳しいです。
ですので、今回も感想返しはお休みさせていただきます。
本当に申し訳ありませんm(__)m
皆さまの貴重なご意見や、いつも励みにさせていただいている感想に返信できないなどお恥ずかしい限りですが、次回の分から暇を見て返信していきますので平にご容赦ください。
重ねて申し訳ありませんでした。



[6950] 最終話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/12/29 03:45


入院と言うものは、得てして退屈なものだ。

一方通行と上条との戦いを経て大きく損傷した俺の体は、1週間の入院を余儀なくさせた。
いや、一方通行の攻撃を受けて死なずに一週間の入院で済んだのは僥倖と言うべきか。
そもそも、天使としての力を受けていなければ入院などでは済まず、今頃初七日の法事を済ませて骨壺に収まっていたことだろう。


「右腕の複雑骨折に肝臓、小腸の損傷、果ては首の鞭打ち。君の友達が一回に負う傷よりも重症だね?」


君はいっぺんにつけが回ってくるタイプだね? と蛙顔の医者はまるでからかう様に言っていた。
それほど重症であったのかと驚く反面、あっさりとその重症を治してしまえるあの医者は何なのか? と疑問に思った。
そして、最初の意見に戻るのだが、することがないと言うのは本当に退屈だ。
携帯はもちろん、ネットが出来る環境でもないので本を読んだりするしか退屈を紛らわせる手段がない。

もう、こうなったら自分の持てる妄想力でもってオナニーするしかない。


「いや、流石にそれはひくぜよ。と言うか、せめてトイレの個室でやってくることをお勧めするぜぃ」


「黙れ、シスコン。てめえの意見は聞いてねぇ」


俺は不意に聞こえてきた不快な声に眉を顰めると共に、思わずそう吐き捨てた。
すると、傷ついたにゃーなどと言いながら、金髪の軽薄そうな顔をした奴が俺のベッドの傍らに現れる。
その男の名は土御門 元春。一応、俺の部屋の隣に住む住人で義妹に欲情している変態だ。

もちろん、友達だけど俺的には大嫌いだ。

だから、俺は突き刺さりそうなほど剣呑な視線を土御門に向けながら口を開く。


「なんの用だ糞ったれ。さっさとそれを済ませて帰れ。むしろ、今すぐ帰れ。オナニーの邪魔だ」


「…いつもながら、本当に邪険にしてくれるぜぃ。せっかく親友が見舞いに来たってのに」


「知ってるか? いつか必ず裏切る奴って言うのは、親友とは呼べないんだぜ?」


俺がそう言うと、土御門はどこかバツの悪そうな顔になりながら頭を掻く。
俺がこいつを友とカウントしていないのは、何を隠そうこの糞野郎が自分の目的のためならば何でも使うと言う精神であるからだ。
それこそ、親友と呼べる存在さえも自分の最も大切なモノの為なら容易く切り捨てる。
そんな最低な野郎なのだ、こいつは。

もっとも、俺も自分の大切な人のためならば誰でも切り捨てるので人のことは言えない。
この嫌悪感は、ただの同族嫌悪と言う奴なんだろう。

ともあれ、俺はこの歓迎すべきではない見舞客に早々に退散を願う。


「良いから、はやく要件を言え」


「……少し調子に乗り過ぎたな『未元物質(ダークマター)』。ネットで今話題になってるぜ? お前と上やんが『一方通行(学園都市最強)』を倒したってな」


その言葉を聞いて、俺は表情をさらに険しくした。
流石に楽観的な俺とは言え、その情報が流れているということの本当の意味に気が付いている。

あの事件は『統括理事会』が直々に収めたはずで、どのような経緯であろうとその情報が外部にもたらされるはずがない。
考えられるとすれば、それは『統括理事会』がわざともらしたか、『実験』の研究員で学園都市に反感を持っている奴が情報をリークしたかだ。

『統括理事会』が漏らしたとしたら、俺と上条は確実に学園都市の闇へと消し去られる。
それは、俺もその可能性を考慮してあるので、そこまでの驚きはない。
しかし、『実験』から裏切り者が出ているとしたら、それは……


学園都市が破綻し始めているということだ。


ゾクリと悪寒が俺を襲う。
俺達能力者は、本来学園都市と言う籠の中でしか存在できない『人間』だ。
と言うのも、俺たち学園都市の生徒は能力レベルに関係なく特殊な投薬や時間割(カリキュラム)を行う事で脳を開発している。
もし、仮に何の処置もしないで外に出たとしたら、一瞬の内にどこかの研究室にさらわれて解剖されて貴重なサンプルとして保管されることになる。

また、一般社会においても『能力者』というのは普通の人間よりも力を持っている存在、言葉は汚くなるが『化け物』だ。
強すぎる力を持つ存在は社会において排斥される。それは、俺達能力者にも当てはまるのだ。
力を持つがゆえに恐れられ、攻撃される。
悲しいかな、それは学園都市の卒業生が『一人も』外の企業に入社出来ないことからも容易く想像できてしまう。

だから、俺は学園都市の闇なんかよりも学園都市の崩壊を恐れる。

この街は、正しく俺達『能力者』200万人にとっての楽園なのだから。

俺の反応に満足したのか、土御門は酷薄に笑いながら背中を向けた。


「………………」


「真のハッピーエンドを得られるのは、『主人公』だけなんだよ。RPGしかり、エロゲしかり」


「…うるせぇ、さっさと帰っちまえ」


俺はその背中に枕を投げつけて退出を促すと、土御門は声を上げながら去って行った。
それを見送りながら、俺はギリリと唇を噛んで目を閉じる。

現在の状況はほぼ積んでいると言っても過言ではない。

そもそも、学園都市と言う俺達が決して失ってはいけない場所の最も暴力的な力を持つ闇の部分が、現在俺達に目をつけているのだ。
それに加えて、学園都市もほころびを見せ始めている。
まあ、今は一研究員が裏切った程度だが、それでも裏切りを許してしまったということは後々決定的な打撃となって帰ってくるだろう。

どこを見ても絶望。
そもそも、こんな問題は俺なんかが考えても仕方がないことなのだ。

だから、今は扉の向こうから漂ってきたフレーバーな香りに飛びつくことだけを考えよう。

その瞬間、がらりという音と共に開けられたドアに向けて俺は突貫を開始する。
え? 別の人が入ってきたらどうするんだって?
大丈夫! 俺の鼻で美琴ちゃんの柑橘類系の匂いをキャッチしたから、間違いがない!!

そして、俺はルパンダイブを敢行しながら思いっきり叫んだ。


「美琴ちゃん!! 愛している!!」


「きゃっ!?」


俺の体がちょうど扉を開けた『美琴ちゃん』にぶつかり、彼女を押し倒すようにして地面に着地をする。
俺はそのまま胸に体を埋めようとして、真っ赤になっているであろう『美琴ちゃん』を見て固まった。

何故なら、そこには真っ白い彼女がいたのだから。


「……え、なんで一方通行がここに?」


そう、俺の腕の下で顔を真っ赤にして固まっていたのは他でもない一方通行こと、鈴科 百合子であった。
どうやら、以前とシャンプーを変えたようだ。そのため、俺の美琴ちゃんレーダーが誤認してしまったようだ。

俺は、何となく嫌な汗をかきながら謝りながら、ノロノロと体を起こそうとする。


「あ、あははは、ごめんねー。僕ちゃん間違えっちった……」


「ううん、計画通りだから」


しかし、俺が体を起こしきる前に一方通行は『ありえない動き』で俺との体勢を入れ替えると、馬乗りの姿勢になる。


「なっ!?」


「クスクス、馬鹿だね。自分から食べられに来てくれるなんて」


そう言いながら、彼女は妖艶に笑いながら俺の顔に自身の顔を近づけていく。


「ちょっ!? 一方通行さん!?」


「百合子って呼んで」


「え、いや、百合子さん? と、とりあえず退いていただけませんか? 起き上がれな…」


い、と俺が言う前に彼女の唇が俺のそれと重なった。

効果音としては、ずきゅーーん!! だろうか?
とりあえず、何が起こったのか理解できなかった俺の思考は停止し、何も考えられずに真っ白に塗りつぶされていく。
次いで、俺の口腔内を何かが蠢くように侵入し、俺の舌をからめ取っていく。

いやらしい音と共に、何かと俺の舌は激しく絡み合った。

俺はここにきて、ようやく一方通行にキスされているのだと気がついた。
同時に何とかその腕の中から逃げ出そうともがき、何故か反射を使っていない一方通行を押しのける。


「ぷはっ!?」


「げほっ、げほっ!? な、何しやがる!?」


こ、この野郎、俺の美琴ちゃん専用の唇を貪りやがって!
し、しかも舌を入れてきやがりましたよ!? 美琴ちゃんとさえディープキスはまだなのに!?

一方通行は上気した頬を赤く染めて、どこか照れくさそうに口を開いた。


「何って…べろちゅー?」


「ふざけんな! なんてことしやがる!?」


「あれ? もしかして、ディープなのは初めて?」


意外そうな一方通行の言葉に、俺はブチリと脳みその血管がはちきれそうになる。


「ふざけんな! いつも妄想の中で美琴ちゃんとしてるわ!!」


「…本当にまだだったんだ。…………これなら、まだチャンスはあるかな」


俺の怒りをよそに一方通行はそう呟くと、起き上りかけていた俺に再びベクトル操作をして押し倒す。
今度は、逃がさないように俺の両手を片手で持ってがっしりと押さえつけた。


「ちょっ!?」


「大丈夫、すごく気持ちいいから。あなたの生体電流の全ベクトルを快楽に固定するだけ。
気持ち良すぎて気絶しちゃうかもだけど、良いよね?」


「おまっ、ふざけ…」


俺がなんとか逃げ出そうともがいても、ベクトルを固定されてしまっているので逃げられない。
そうこうしている間に一方通行の顔は少しづつ近づいて行き…




「あんたら、何してんのよー!!!!」



横から繰り出されたソバットによって俺が蹴り飛ばされ、引き離される。


「うぐぉぉぉぉおおおお」


俺は突然の衝撃によって再びボキリと嫌な音が鳴った体を縮めながら、その声の主を見る。
それは言うまでもなく、俺の最愛の美琴ちゃんで彼女は何やら怒って一方通行に捲し立てていた。


「あんたねぇ!? 人の男を堂々と寝とろうとしないでくれない!?」


「隙を見せる方が悪いのよ」


「私が遅れたのは、あんたが私の目の前で小さな子供の足をひっかけて泣かせたから、慰めてたからでしょうが!!」


「あら? 言いがかりも良いところだわ。あの子は、たまたま私の足にぶつかって、たまたま転んでしまっただけ。
私は別に何もしてないわ」


「こんの、屁理屈を……」


「それと、病院内であまりビリビリしない方が良いんじゃない? 一応、ここは重症患者の部屋よ?」


「その重症患者を押し倒していたのは、どこのどいつよ!!??」


俺は、美琴ちゃんと一方通行の言い争いを半ば茫然としながら聞いていた。

なんだ、この二人はいつからこんなに仲が良くなった?
と言うか、一方通行となんで普通に会話してんの美琴ちゃん?

俺がそう思っていると、不意に頭の後ろでガチャリと言う音がした。
次いで、ごつりと俺の後頭部に何か硬いモノが充てられる感触がする。
俺は恐る恐る振り返ると、そこには無表情な美琴ちゃんと同じ顔をした妹ちゃんがいた。


「は、はぁい」


「とりあえず、死ねとミサカはお姉様見てないうちに計画を実行します」


「…ちなみに、どんな計画?」


「引き金を引いて貴方を殺し、悲しむあの人慰めて恋人関係になると言う壮大な計画です、とミサカは全ミサカを代表して胸を張って答えます」


彼女はその手に無骨な大型拳銃を手にしていながら、それを俺へと向けていた。
ちなみに、その指は今にも引き金を引きそうである。


「ちょっ、おちついて…」


「じゃあ、死んでくださいとミサカは微笑みながら引き金を引きます」


そして、彼女は呼吸をするかのように自然と引き金を引いた。
かのように見えたが、その直前横合いから伸びてきた美琴ちゃんの手によってそれを阻害された。


「はい、ストップ。とりあえず見舞いに来たんだから、あんたら大人しくしてなさい」


「…その見舞い相手を蹴り飛ばしたのは、どこの誰だったかとミサカは御姉様に白い眼をむけます」


「私は良いの。アレは私のだから」


美琴ちゃんはそう言うと、倒れている俺にそっと微笑みかけた。


「で、あんたは元気だった?」









―――――――――――――――――――――――――――――――








取りあえず美琴ちゃんがお見舞いに持って来てくれたケーキを食べながら、俺はなんとも気まずい思いをしていた。
その原因は、俺のベッドの傍らに座る三人の女性が発する空気。
妹ちゃんなんてあからさまに敵意に満ちた目で俺を見ているし、美琴ちゃんと一方通行も無言で殺気を飛ばし合っている。

あれ? おかしいな。なんで、こんなことになったんだろう?

あの後、とりあえず妹ちゃんたちを全員ぶっ飛ばした美琴ちゃんは、いつの間にか気絶していた俺を病院に連れて行ってくれた。
俺はそこで重傷と告げられてしばらくの入院を余儀なくされたのだが、美琴ちゃんはその翌日から見舞いに来てくれた。
ふてくされた妹ちゃんの一人を伴いながら。

そこで、始めに行われたのは妹ちゃんの全く誠意のこもっていない謝罪からだった。


『とりあえず、ごめんなさいとミサカは形だけ謝ります』


そう言った彼女は、俺が悲しいという感情を植え付けたのがよっぽど気に入らなかったのか、それから会うたびに俺を殺そうとしている。
しかも、途中で上条と何かあったのか、いつの間にかあの馬鹿に懐いていた。
次に一方通行だが、こいつは何を考えているのかよく分からない。
いや、正確には理解したくないだけだ。

と言うのも、アレからこいつは事あるごとに俺を性的な意味で襲おうとしている。
なんでも、既成事実を作ろうとしているらしいのだが、取りあえずは本人を前にして言う言葉じゃないと思う。

そして、俺を連れてきた美琴ちゃんは毎日見舞いに来て甲斐甲斐しく世話をやいてくれている。
まあ、何と言うか。


好きな者同士ですから、自分たち!!!!


いやぁ、悪いね。全世界の男性諸君!
僕は晴れて最高の彼女を手に入れることになりました!!

……なんて、現実は甘くない。
美琴ちゃんは世話を焼いてくれるのだが、その都度一方通行が邪魔をし、妹ちゃんが俺を殺そうとするからアレからなんの進展もない。
ちくしょう、こんなことならキスされたあの時に押し倒しておけば良かった。

まあ、要するに何が言いたいのかと言うと、今見たいな針のむしろ状態が続くのはつらいと言う事さ。

俺は死にそうなぐらい張りつめた空気を緩和させるために取りあえずケーキを食べ終えると、美琴ちゃんに微笑みかけた。


「ごちそうさま、おいしかったよ。ありがとう、美琴ちゃん」


「別に、これぐらい当然よ」


「いやいや、流石気遣いの美琴ちゃんだ。彼氏として、鼻が高いですよ」


俺がそう口にした瞬間、美琴ちゃんの隣の一方通行から濃密な殺気が放たれる。
一方、美琴ちゃんは照れているのか顔を真っ赤にさせていた。


「あ、う…あんたは、臆面もなくそう言う事を……」


「とりあえず、お世辞をチャラ男は死ねとミサカは心の中で呪詛を吐きます」


「…………」


何やら、先ほどより空気が悪くなった気がする。
と言うか、一方通行の凄まじい視線がさりげなく顔を赤くしつつも見下すような視線を送った美琴ちゃんに注がれている。

あー、まあ、俺は上条ほど鈍感ではないから分かるけど、これはアレかな? 修羅場と言う奴かな?

額からだらだらと嫌な冷や汗が流れおちるのを感じながら、俺はそろそろこの空気に耐えきれなくなってきたのを感じた。
と言うか、病人の前で修羅場を形成しないでください、お願いだから!!


「あ、あはははー、ごめん、ちょっとトイレ!」


俺はそう大声で言うと、そのままベッドから逃げるように立ち上がり美琴ちゃんの制止を振り切って病室を出る。

そして、病室を出た瞬間に俺は駆け出して一気に屋上を目指す。
兎にも角にも、屋上で新鮮な空気を吸って気分をリフレッシュしたかった。


息を切らせて走っていると、途中で看護婦さんに怒鳴られた。


「ごらぁぁぁぁああああああ!! 廊下を走ってんじゃねぇぇええええ!!」


「すんませーん!!」


ゴリラのようにたくましい腕を持った白衣の天使は、怒鳴りこそすれ、俺を追いかけて走って追いかけて来るようなことはしなかった。
そうこうしている内に、俺は屋上への階段に辿り着き、勢いよくその扉を開け放った。

同時に一気に開ける視界。

待ち望んでいた新鮮な風が、額に残っていた冷や汗を乾かしていく。
その風は、同時に屋上中に干してあった真っ白なシーツを押しのけるように、俺に屋上の手すりまでの道を開いた。
だが、俺は歩きだすこともできずにその手すりへの道の最奥に佇む人影を見つめる。

抜けるような夏の青空。
それを背景に佇んでいたのは、俺の親友であった。


「よう、そんなに慌ててどうかしたか?」


そう、そこに立っていたのは他でもない上条 当麻で、俺はそのあまりに気軽な様子に言葉を失う。
毎日のように見舞いに来てくれた美琴ちゃんとは対照的に、上条は俺が入院してから一度も見舞いに来てくれなかった。

ソレを薄情だとは言うつもりはない。

何故なら、俺は必死に救おうとしてくれた上条に向って沢山酷いことを言った。
俺たちの友情に泥を塗りつけた。

だから、本当は俺は上条には合う資格なんてないのだ。

だと言うのに、上条はいつものように笑っていた。
それが当たり前なのだとでも言うかのように、俺に笑いかけてくれていたのだ。

俺はフラフラとした足取りで、上条の傍らまで歩いて行く。

上条は、手すりに寄りかかりながらそんな俺を見つめていた。


「……具合は、もう良いのか?」


「…まあ、走れるぐらいには回復してる」


俺を気遣うような表情に、心が鋭い悲鳴を上げるのを感じながら、俺は取りあえずそう返した。
上条は、そうかと笑うと俺を見つめながらぽつりと呟いた。


「なあ、帝督。俺って、ダメなやつだな」


そう告げる声は、少しだけ悲しみに彩られていて、俺の心に深く突き刺さる。


「俺は、お前を助けようとした。でも、結局お前を助けたのは御坂さんで、俺はお前を傷つけただけだった」


「そんな事…!!」


俺は否定の言葉を紡いで、上条の言葉を遮った。
だって、俺は上条のそんな言葉なんて聞きたくなかったから。


「そんな事、ない。お前だって、俺に手を差し出してくれたじゃないか! それを、それを拒絶したのは、俺の弱さだ!!」


「…俺はな、帝督。あんな、お前ばっかりが苦しまなきゃいけない終わりなんて、嫌だったんだ。ただ、それだけだったんだ。

だから、ごめんな。お前の気持も考えないで、勝手な真似して」


その謝罪に、俺は言葉に詰まり熱い雫が目から零れ落ちるのを感じた。


「俺も、俺も、ごめん。酷いこと言って、お前を傷つけて、ごめんなさい」


それから、俺は泣いた。
ひたすらに、上条に謝りながら。

上条は、ただそれに頷きながら傍に居てくれた。







こうして、長かった夏休みは終わりに向かう。



嵐のように激しく、日常を変えたこの夏を俺は忘れることはないだろう。



そう、傍らに彼らが居てくれる限り、俺は忘れることはないのだ。







「…どうかしたの?」


「え?」


「なんか、嬉しそうだけど?」


「…秘密。それより、一方通行と妹ちゃんは?」


「帰らせたわ。流石に、これ以上騒ぐ訳にはいかないからね」


「そっか、ならさ俺は君に伝えたいことがあるんだ」


「何よ?」




「愛してるよ、美琴ちゃん」








――――――――――――――――――――――――








窓のないビル。
その中の巨大なビーカーのような生命維持装置の中でアレイスター・クロウリーは、誰とも知れぬ誰かに語りかけていた。


「そうだ。『この中』にもアレの能力は届いていた」


「……ああ、間違いない。予定外ではあるが、好都合だ。欠陥電気たちも定数通り残った。計画に問題はない。
もちろん、問題も残ってはいる。アレの登場による幻想殺しの成長不足や、アレ自身の制御などな」


「………言っただろう、計画に問題はないと。幻想殺しの成長は、まだまだ修正可能ではあるし、アレの制御には『心理定規』を使えば良いだけだ。
ただ、『心理定規』は完成間近とはいえ、もう少し時間が欲しい。そこで、だ。幻想殺しもろとも、アレを外に一時的に追い出す。
その間に『心理定規』を完成させる。

…………ああ、分かっているとも。久方ぶりに思い出した感情だ。流されてみるのも悪くはない」


そう言ったアレイスターは、低い笑い声を発する。
それは、誰も存在しない窓のないビルの中で響くことなく、壁に音を吸収されて消えた。




















あとがき

どうも、地雷です。まずは、更新が遅くなってしまったことを深くお詫びさせていただきます。
申し訳ありませんでした。
とりあえず、今話で持って『とあるメルヘンの未元物質』の第三章を終わらせていただきます。
第二章から続いていた一方通行編が一応の解決となり、私が改悪した垣根 帝督という存在のネタばらしも終了しました。
とは言え、自分では練ったプロトが原作の設定を時々大きく離れてしまうわ、中二病が暴走するわで反省するべき点が多かったと考えています。
自分の物書きとしての未熟さが露呈したとも言えます。実にお恥ずかしい限りでした。
第二章、第三章は一応完全に垣根 帝督を主人公、いわゆるオリ主というポジションに持って来てみました。
正直に言いまして、主人公とは強くなってしかるべき存在であり、どれほど強い敵であっても乗り越えていく存在です。
それに伴い、私の作品の垣根 帝督は一般的にチートオリ主と呼ばれるものに含まれる感じになってしまいました。
私としては、そうなってしまうのも仕方がないのかなとも思いましたが、恐らくは大多数の読者様が考えていた常に変態でいる垣根 帝督とはかけ離れた存在だなとも思います。
本来は帝督と言う存在が弱いまま、その変態性で一方通行を圧倒出来ることがこの作品の正しい筋道であったのではとも考えますが、如何せん私に才能がないためにそれを実現することが

できませんでした。数ある心残りで、それが最も大きいです。

さて、続く第四章なのですが以上のようなことを踏まえまして、これ以上手を出すべきではないとも考えましたが、取りあえず少し時間を置かせていただくために、休載しようと考えてお

ります。
ですので、誠に勝手ながら今話を持ちまして最終回とさせていただきます。
今までご愛読くださった皆様、本当にありがとうございました。
恐らくは自身の執筆技術向上の為に別作品を投稿することと思いますので、見かけたら覗いてやってください。
そして、私が再び自身を持って皆様にお見せできるような『とあるメルヘンの未元物質』が出来たのなら、更新させていただきますのでそちらの方もどうかよろしくお願いします。
最後まで図々しくもお願いばかりになってしまいましたが、ここまで未熟な私がやってこれたのは一重に読者の皆様のお陰です。
重ねてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。




[6950] 予告  ~御使堕し編~
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2010/02/27 16:09

「うっく、ひっく、ぐすっ、みごどぢゃーん、ひぐっ」


「あー、もういい加減に泣きやめよ。たかだか1週間ぐらいの話だろうが」


「うっさい! なにが悲しくて、この付き合ったばかりでイチャコラする蜜月に彼女と離れなけりゃいけないんじゃい!?」


「…仕方ねぇだろ。なんでかネットで俺らが有名になっちまったんだから。その熱を冷ますために一回学園都市を出なきゃいけねぇのは仕方がない」


「そりゃあ、おまえはインデックスちゃんと常に一緒だから良いだろうけどよぉ!!」


「なっ!? 何を!?」


「? とうまの顔まっか~」


学園都市を離れる幻想殺しと変態。


「てか、家にも帰れねぇってのに……どこ行きゃいいんだって話だよ」


「……俺と、一緒に海に来るか? 俺は別にかまわないぞ、どっちにしろインデックスは一緒だしな」


「んー、じゃあお邪魔しようかな」


二人はとある海に赴くことになる。


「君が垣根 帝督くんかい? 息子から話は良く聞いているよ」


「ども、お父さんすか? なんかロリコンの匂いがしますね。いや、血は争えない」


「「それ、どういう意味!?」」


「まあまあ、刀夜さんも当麻さんも落ち着いてー。それより、帝督さんもインデックスちゃんも一緒に海を楽しみましょうね~」


「お母さんっすよね? ええ、よろしくお願いします。それにしても、お若いですね」


両親との巡り合いに、幻想殺したちはふだんの喧騒から離れる。


そして――――


「ほーら、いつまで寝てんのよう、おにーちゃーん! 起きろ起きろ起きろ起きろ!」


――――天使が堕ちる。


「え? なに? なんで御坂さんがここに!? てか、帝督を追いかけてきたの!? ってか、なんでいきなり俺にボディプレス!? え、てかお兄ちゃんって何さ!!??」


「? 何言ってのお兄ちゃん。まだ寝ぼけてんの?」


始まる異変。


「ちょっと、インデックス? お前ナニ着てんの?」


「当麻。母さんが自分の服を着ているのがそんなに不思議なのか?」


深まる混乱。
その異変の脅威は、ついに変態をも汚染する。


「さっきから五月蠅いけど、なんかあったの上条?」


「えっと、どちら様ですか?」


「はぁ? 何寝ぼけてんのお前? 頭の中メルヘンで染めてやろうか?」


「ま、まさか、帝、督か?」


「そうだけど…見りゃ分かるだろうが、このボケ」


「な」


「な?」


「なんで黒髪ワンレングスボブの清純派美少女になってるんだー!!?? しかも、好み!」


「は、はぁ?」


現実からの逃走を図る上条。そこで上条は彼女と再開する。


「見つけました、上条当麻……ッ!」


「はっはっは、ねーちんはカミやんが大好きだにゃー」


「あれ? アナルヌスじゃん何やってんの? つーことは、そっちのお兄さんもそっち関連の人?」


ギアをローからセカンドへ、セカンドからサードへ。
物語は加速を始める。


「エンゼルさま、エンゼルさま、それではイケニエはあの少年でどうでしょう?」


「問一。『御使堕し』を引き起こしたのは貴方か?」


「おい、昨日からずっと気になってたけど何があったんだ? いい加減に教えろよ」


そして、物語は終局へ。


「――――上条刀夜は、俺が救ってみせるんだ!!」


「待、て。――――ミーシャ、……話を!」


「そこから離れなさい、上条当麻!!」


「下がってろ、カミやん。後(バトル)は俺たちの仕事だぜぃ」


「おいおい、お仲間かよ。初めて見たぜ」


夕闇から夜闇へと切り替わる世界。


「その名は『神の力』。常に神の左手に侍る双翼の大天使」


堕ちた天使が産声を上げ、


「――――――q愚劣rw」


「――――――救われぬ者に救いの手を(salvere000)」


「えー、ちょ、ないわー。惑星操るとか、マジどんだけー。と言うか、俺とのスペック差が信じられないことになってるんですけど」


「ああ、もう!! いいから黙っていなさい!!」


「……うぷっ、中身があのおっぱいだときいても、きもち悪っ!! ちょっ、こっちくんな! マジキモイから!?」


やがて、全ての決着がつく。
宵闇に紛れて、全ては元に戻る。




「なあ。貴方は、寂しくないのか? 私は……帰りたい。あの人の元に帰らなければいけないんだ」




「さて、ね。少なくとも、助けてもくれない『■■(アイツ)』の所にだけは帰りたくないな」




「……それでも、私たちは――」



ただ、一つを除いて。



「殺してやる! お前なんて、お前なんて死んでしまえ!!!!」



それでも、物語は『めでたしめでたし(ハッピーエンド)』を迎える。








とあるメルヘンの未元物質  ~御使堕し編~  









プロトを切り張りしただけの予告。
未だにPVがのびて23万まで逝ってしまったので、こっそりと投稿します。
本編は、今書いてる別作品が終わり次第公開します。

なお、皆様の感想は全て読ませていただきました。
エイワスに殺されれば良いなど厳しい意見などもありましたが、その意見全てを真摯に受け止めてメルヘンをもっと良くしていきたいと思います。
応援してくださる皆様、未だにお恥ずかしながら禁書の設定を完璧に理解したとは言えない地雷作品ですが、時折この作品を思い出していただけると幸いです。
それでは、女々しい言い訳が続いてしまったことをお詫びしつつ、今回は失礼させて頂きます。



[6950] 番外 一話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/05/10 23:05

とある学園都市のとある一日。
俺こと垣根 提督はいつものごとく街中で出会った美琴ちゃんに出会いがしらに俺の気持をぶつけた。


「美琴ちゃんの手料理が食べたい!」


「は? 何よいきなり」


始まりは、上条との何気ない会話であった。
いや、正確には上条の部屋でインデックスちゃんと上条に夕飯(餌)を御馳走になった時のこと。
話題は自然と今晩のおかずになったのだが……


「肉じゃが、か」


「? 何だよ。帝督も好きだろう、肉じゃが?」


「いや、まあそうなんだけどね?」


俺は何となく口ごもりながらも、その本日のメインデイッシュである肉じゃがを口に含んだ。

うん、醤油ベースのこの味がたまらなく日本人としての俺を刺激する。実に美味しい。

俺の様子を不思議そうに見る上条に続いて、口いっぱいに肉じゃがを詰め込んだインデックスちゃんは小首を傾げた。


「ふぉおまのひょうひは……」


「インデックスちゃん、先ずはその口の中いっぱいの食べ物をどうにかしなさい」


俺は取りあえずそう注意して、彼女の口元をテイッシュで拭う。
すると、彼女は俺の言葉に従って口の中のモノを飲み込む。
こう言ったことは、上条が以外と甘いので俺がいっつも注意をしたりしている。

と言うか、女の子がそんなんじゃ嫁の貰い手が…いや、上条がいるか。
いや、でも子供を産んだ後に子供をしつけるときに困るからね。


「とうまの料理はいっつも美味しいよ? 私は大好き! いらないなら、私が食べる!」


そう言って即座に俺の肉じゃがへと箸を伸ばすインデックスちゃん。
因みに俺がスパルタで教育したため、箸はしっかりと持てていたりする。

しかし、俺はその猛攻を片手でおさえると、もう一口肉じゃがを食べる。

因みに、その間もインデックスちゃんの手を自分の持てる握力の限りに握り締める。
ん? 子供に本気になるなって?
知るか、俺の食い物を取ろうとしたのが悪い。


「い、痛い痛い! やめてよてーとく!?」


「お、おい帝督! 離してやれよ!」


はいはい、馬鹿っぷる乙。
俺はインデックスちゃんの手を離すと、彼女はすぐさま半泣きになりながら上条に抱きつく。
上条は顔を赤くしながらも彼女を自分の後ろに庇う。

俺はそのやり取りの一切を無視して、溜息を吐く。


「それにしても、肉じゃがって家庭的な女の子の典型だよね? …好きな娘に作ってもらいたいなーなんて帝督さんは思う訳ですよ」


「知るか! てか、文句があるなら食うんじゃねえよ!?」


「いや、でも美味しいからね…っは!? そうだ、上条が今から美琴ちゃんになれば良いんじゃね!?」


やっべ! 俺ってば最高なことを思いついちゃった!?


「死ね!」


だが、その最高の幻想は繰り出された『幻想殺し』によって文字通り殺される。主に、俺の顔面の細胞もろとも。
上条は肩を怒らせながら俺に中指をおっ立てた。


「だったら、端から御坂さんに作ってもらえ!!」


「そ、それだぁぁぁああああああああああ!!」



その瞬間天啓が閃いた。
そんなこんなで現在、俺は美琴ちゃんに土下座を敢行しているのです。
因みにここは大通り。周りの人たちはジロジロとこちらをガン見してます。


「お願いします~。一度だけで良いから~」


「あのね、肉じゃがなんて私が作っても上条君よりもおいしくは……」


「別に良いのです! 美琴ちゃんが作ってくれたという事実に意味があるんです!! むしろ、それだけで俺は天国へと旅立てますから!!」


「てか、こんな人の目がある往来での土下座はいい加減にしなさい! これじゃあ、私があんたらにそんな事を強制させているみたいでしょ!?」


「じゃあ、作ってくれますか?」


「ああ、もう! 作る! 作るから今すぐ止めなさい!」


くくく、計画通り!
美琴ちゃんは基本的にツンデレ。だから、俺に料理を作ってあげたくても、簡単には素直になれない。
ただお願いするだけでは、断られることは必至だ。

ならば、どうすれば良いか?

簡単だ。『OK』と言える状況を、言うなれば逃げ道を用意してしまえば良い。
「べ、別にあんたのためだからじゃないんだからね? 仕方なくよ、仕方なく!」と誤魔化せれば美琴ちゃんの素直になれない心もチョッピリ大胆になっちゃうんだから♪

この場合は、往来のど真ん中でこれ以上恥をかきたくないというのが、それ該当する。

ふふふ、全ては僕の掌の上!


俺は立ち上がりながら、真黒な笑みを浮かべる。すると、どことなく疲れたような表情の美琴ちゃんが俺をじと目で睨んだ。


「あんた、時と場所を選びなさいよ」


「えー、だってー。美琴ちゃんを見つけたのが、たまたまここだったから……(嘘だけど)」


「あのねぇ、私だって鬼じゃないのよ? わざわざこんな往来で頼まれなくたって、その、料理ぐらい作ってあげるわよ…」


え? アレ?
美琴ちゃんのお顔がなんか赤いですよ? え? 何これ?

俺は美琴ちゃんに言われた台詞をもう一度かみしめながら、次第に自分の顔が熱くなっていくのを感じた。


「そ、それって……」


「ああ、もう! アンタのマンションの部屋で作れば良いの!?」


「え、えっと、そうだけど」


俺は最早自分の思考能力を超えた精神攻撃に耐えきれず、半ば茫然としながらそう答えた。
美琴ちゃんは、すぐに踵を返すとそのまま歩きだす。

何故だろう、周りからの視線がすごく生温くて居心地が悪い。

俺は慌ててその後に着いて行く。


「あ、あの美琴ちゃ…」


「材料はあるんでしょうね?」


「あ、無いかも…」


「なら、買い物からね」


そう言った彼女の顔には、俺が大好きなあの笑顔が浮かんでいた。

そして、彼女はその笑顔に心打たれ立ち止まった俺を不思議そうに見つめる。


「? どうかした?」


「え、あ、いや。な、なんでもない……」


「ぷっ、何緊張してんのよ? 料理を作りに来いって言ったのはあんたでしょう?」


「あ、あぅ。そうですが……」


何だこれ、何だこれ何だこれぇぇええええ!!?
み、美琴ちゃんは何でこんなに余裕があるの!?

はっ!? ま、まさかこれは偽物か!?


「ね、ねえ、本当に美琴ちゃん?」


「…………」


え、アレ? なんで黙る……

俺がそう疑問に思った瞬間、美琴ちゃんはその顔に手を掛けた。


「まさか、見破られるなんて……」


直後、そのまま剥がされる美琴ちゃんの顔。
その下から現れた顔に俺は驚愕する。

お、お前はぁぁぁぁああああああ!?








「と言う夢を見たんだ」


「……それは、料理を作りに来いという催促かしら?」


「うん! ぼく、みことちゃんのりょうりがたべたい!」


「…そうね、一方通行を指一本で倒せたら考えて上げる」


「無理ゲーすぐる!?」













あとがき

もう、無理です。
そもそも甘いってなんでしたっけ?
出直してきますねwwww



[6950] 番外 二話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a
Date: 2009/12/29 03:45

今回はいきなり15禁的な描写があります。
不快感を感じる方が大多数だと思うので、最初の方を飛ばすことを強くお勧めします。






















俺の火照り切った肌に、そっとあいつの指が触れる。
それだけで、はしたなくなってしまった俺の体はビクリと反応を返してしまう。
その反応に満足したのか、指は積極的になり俺の肌の上を這いずりまわる。


「あッ……」


今度は、声まで漏らしてしまう。
本当は嫌なのに、嫌なはずなのに俺の開発され切った体は嫌悪など関係ないとばかりに自己主張を始める。
鎌首をもたげ始める蛇。
それは、確かに俺が感じ始めてしまっているという証明であった。


「ははっ。なんだよ、随分と素直な体じゃねぇか」


嘲るあいつの声。
それすらも、俺の体は火照りを増すための一因に過ぎないのだと過敏な反応をするだけだ。
気がつけば、俺の手は蛇の胴体をしっかりと掴んでいた。


「おいおい、ソロプレイかよ。これじゃあ俺が幻想をぶち殺す必要ないな」


「あっ、ちがっ……」


俺は、その言葉に慌てて自分の手を蛇から引きはがそうとする。
しかし、おれの右手はまるで接着剤でくっつけたかのように蛇から離れようとしない。
それどころか、上下にスライドを開始し始めてしまう。

待て、待ってくれ。

これじゃあ、あいつの『幻想殺し』を受け入れられない。
俺は必死になってその手を止めようとするが、体は反応しない。


「本当、淫乱だな。お前は」


あいつは、呆れたように笑いながらも手を止められない俺をそのまま組み伏せた。


「これじゃあ、お仕置きが必要だな?」


「あ、う……」


俺は脈打ち始めた激情を抑えきれずに、その言葉にコクコクと必死に頷いた。
それを見たあいつは、ニヤリと邪悪に笑うと俺の耳許に息を吐きかけながら呟く。


「歯を食いしばれ。俺の最弱(さいきょう)はちっとばっか響くぞ」


そして、灼熱の熱さを持つ『幻想殺し』が俺の『自分だけの現実(パーソナルリアル)』にそっと宛がわれ、一拍置いた後に一息に――――
























「って、まてぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!!!!」


俺はそんな絶叫と共に勢いよく布団を跳ね飛ばす。
同時に、俺は辺りを見回して自分の部屋であることを確認すると、今までの事が夢であったことを悟りほうっとため息を吐いた。
横には、昨日酒を無理やり飲ませて潰した半裸の上条。
何を隠そう、俺が脱がした後に無理やり布団に一緒に寝たのだが、どうやらこの悪ふざけのせいで先ほどのような悪夢を見てしまったらしい。

俺はバクバクと悲鳴を上げ続ける胸を押さえて、ベッドから起き上がると伸びを行う。
取りあえず、体のどことは言わないが一部分が痛むこともない。
本当に夢であったようだ。


「ああ、やべぇ。流石にないわ、コレ」


口に出しながら、俺は絶望した。
いくら俺が欲求不満であったとしても、流石に上条くんはないわ。
普通に美琴ちゃんで良いじゃん、だいたい、Dがあった時になんで美琴×帝督を主張したやつがいなかったんだ!!
ああ、俺の心は穢されちゃったよ美琴ちゃん。
俺がそうやって一人で泣き真似をしていても、上条はぐっすりと眠っていて起きる気配はない。

糞が!! 俺をあんなに(夢の中で)苦しめておいて寝てやがるとは!!

俺は八つ当たりとして油性マジックを手に取ると、そっと上条の顔にある文字を書き込んだ。

よし、これで少しは気分が晴れた。
俺はニヤリと邪悪に笑ってマジックをそこら辺に放り投げると、続いて充電してあった108式の携帯の内で最近使用頻度が高いモノを手に取る。
そして、素早くボタンを操作するとデジカメモードに切り替え、涎を垂らして熟睡している馬鹿を激写した。
次いで、最近携帯を購入したばかりのインデックスちゃんに電話をする。
ちなみに、その携帯は俺が機種代を払ってやったものだ。使い方も、上条が土下座して「もう、やめてやってくれ」というほどスパルタに教えてある。

かかること数コール。
どうやら既に起きていたらしいインデックスちゃんの元気な声が電話の向こう側から聞こえた。


『もしもーし、てーとく? おはよー、朝早くにどうかしたー?』


「いや、ちょっとインデックスちゃんの声を聞きたくてね」


『? ふーん、そうなの?』


「そうなの、インデックスちゃんは今何をしてるのかな?」


電話越しで小首を傾げているであろう彼女を想像して顔を綻ばせながら、俺はそう問いかける。
すると、インデックスちゃんは元気な声で答えてくれた。


『秋沙とお料理! 秋沙がオムレツの作り方を教えてくれるって! それでね、その後にお買い物に行くの!』


「おお、そいつは凄いな。きっちりとできたら写メして送ってくれ」


俺の気分は孫と電話しているお爺ちゃん。
いや、本当にこの子はいい子だわ。しばらく、過去に自分を模倣しようと大変だったみたいだけど最近は安定してきている。
それは、過去の自分を全く知らない友達(姫神 秋沙)の存在が大きいだろう。
現に、今日も彼女が最近家の学校に転校することが決まったため移った寮に泊まりに行っている。
俺としては、更に友達を増やすためにインデックスちゃんにも学校に通わせてあげたいのだが、そうもいかないらしい。
確か、上条がネトリウスとか言う寝取り系専門の協会がどーのとか言っていた気がするが、今はどうでも良いか。

ともあれ、俺の言葉にこれまた元気よくお返事をしてくれるインデックスちゃんに、俺はつい嬉しくなってご褒美を上げることにした。


「じゃあ、元気の良いインデックスちゃんにはご褒美をあげよう。写メ画像なんだけど、マジプレミアムだから一旦切るね」


『えー、ご褒美ならお菓子がいいー』


「わがまま言わない。それに、後悔はさせません。
あと、姫神さんと仲良く遊んでくること」


『はーい』


「よろしい、それじゃあ良い一日を」


俺はそう言って電話を切ると、そのまま先ほど撮った上条の画像を添付して送信する。
何を隠そうこの写真、上条の上半身裸のインパクトに加えてその顔に書かれた『帝督様の肉奴隷』という大きな文字がアートな雰囲気を作り出している。
まあ、上条に対する夢での仕返しでもあるんだけどね。
俺はそのままインデックスちゃんの反応を見るために、ボーっと待っていると何故かインデックスちゃんではなく姫神さんからメールが送られてくる。

訝しく思いながらメールを開くと、簡潔に一言だけ言葉が綴られていた。


『もげろ』


ゾクリと背中を駆け抜ける悪寒。ダラダラと噴き出る脂汗。
そう言えば、姫神さんはインデックスちゃんに下ネタを教えると、マジで俺を殺しにかかってくる。
主に包丁とか、良く分からん投げ技とかで。
これはいかん。もしかしなくても、死亡フラグを立ててしまった。

俺がそう絶望していると、不意に再び携帯がバイブを鳴らす。

ディスプレイに表示されるのは電話の呼び出し画面、そして『御坂 美琴』という名前だ。


な、なん…………だと?


俺は、美琴ちゃんの携帯には毎晩電話をかけてはいるが、彼女から掛って来たことはない。
むしろ、かかってくるはずがないと思っていた。
しかし、現実として今俺は美琴ちゃんから電話を受けている。
くくくくくくくくくく、俺に時代がついに訪れたのか!?
俺は、ほくそ笑みながら素早く携帯電話を通話状態にした。


「もしもし、美琴ちゃん?」


『うん、私よ』


携帯から聞こえてくる美琴ちゃんの声。俺はそれに笑みを一層深くしながら、意図的に軽い声を出す。


「なになに、どうしたの? もしかして、デェトのお誘い?」


『……ば、馬鹿! 違うわよ!! べ、別に、私はそんなこと…』


「えー、違うの? だったら、俺から誘っちゃおうかな」


『…あ、あんたが言うなら構わないわ。それに、私は今日黒子と買い物に行こうとしたんだけど、生憎黒子が用事があるみたいでいないから、荷物持ちにあんたを……』


『お姉様? どなたとお話していらっしゃるんですの?』


美琴ちゃんの言い訳のような言葉に重なるようにして聞こえた声。
…何と言うか、タイミングが悪いな。
俺は笑みを苦笑に変えながら、わざと聞こえなかったふりをする。


「え? 美琴ちゃん、何か言った?」


『な、何も言ってないわよ! ちょっと、こっちの学生寮まで来なさい! 良いわね!?』


『お姉様…もしかして、あの変態に……』


『だーっ!? うっさい、黙んなさい黒子!!』


「えっと、今10時だから、30分後に迎えに行くね」


取りあえず、聞こえてきたビリビリという電撃音と、「あぁ~ん」という妙に艶やかな声をスルーして俺はそう告げると、美琴ちゃんの「わかったわよ」という怒鳴り声を耳に通話を切る


さて、取りあえずは着替えかな。
俺はそのまま素早く着替えを済ませると、財布を装備。
次いで、上条に書置きを置くと学生寮近くのコンビニに全速で向かう。

ついたコンビニでやる気のない女性店員の「っしゃいませ~」と言う言葉を聞きながし、俺は窓側の薬品コーナーからコンドームをあるだけ手に抱えるとレジに突貫した。
その時、立っていた店員が驚いたような声を上げる。


「あら、帝督じゃない。コンドームばかり買って、デートか何か?」


「ぶっ!?」


店員は、他でもない例の派手目な女の子だった。
俺は思わず吹き出してしまい、彼女は嫌そうに顔をしかめる。


「汚いわね。あ、一万五千八百円になります」


「お、お前、何して……」


「バイトよ、バイト。それより、早く払ってくれない? 後ろがつかえているから」


彼女の言葉に従って後ろを振り返ると、いらだたしげな顔をした巨漢がこちらを睨んでいた。
俺は、その視線に怯えて慌てて金を彼女に押し付けると、おつりも受け取らずに逃げ出す。

ともあれ、デートだ。

俺はコンドームが入ったビニール袋を片手に、待ち合わせ場所である常盤台中学の寮へと向かう。
すると、その寮の門の所には私服姿の美琴ちゃんがいた。
俺はすぐさま笑顔になり、子犬のように彼女に駆け寄った。


「みーこーとーちゃーん!!」


「あ、来た来た! 意外と早かったわね」


美琴ちゃんはそう言うと、ほんのりと頬を染めて俺にニコリと微笑みかける。
俺はそれだけで天にも昇るような気分になり、とりあえず美琴ちゃんへとルパンダイブを敢行した。
俺は、それを避けられてしまうのではないかと思っていたのだが、意外なことに美琴ちゃんは特に抵抗することなく俺に抱きつかれた。


「あー、もう、ちょっと! 苦しいって!!」


「え、あ、うん。ごめん」


俺は少しだけ嫌がる美琴ちゃんに少しだけ拍子抜けしながら、彼女を離した。
ぶっちゃけると、今まで野生動物のように警戒心を顕わにしていた『ツン』だったのに、ここまで警戒を解かれると正直違和感を感じてしまう。
美琴ちゃんは俺が抱きついてしまったことにより服に寄った皺を伸ばすと、上目づかいに俺を見た。


「あんまりこう言う事するんじゃないわよ。……その、恥ずかしいじゃない」


はい、俺死んだーーーーーーーーー!!
何この可愛い生物!? 正直、未だかつてないほど俺の心は萌えてます。
だって、抵抗しないくせに恥ずかしがっているんですよ!?
もう、こう、くるね!!

俺は美琴ちゃんのそのあまりにも愛らしい姿を堪能していると、不意に股間がエレクトしてくるのを感じた。
そして、俺の手には先ほどコンビニで買ったコンドーム。

…………今なら、イケるんじゃね?

俺は取りあえず、もう一度美琴ちゃんをそっと抱き寄せると彼女耳許でそっと囁いた。


「や ら な い か ?」


その瞬間、美琴ちゃんの顔がボンッという音と共に茹でられたかのように真っ赤になり、あわあわと口を震わせる。


「あ、あんた、こ、こんな昼間から、何言って…」


「ふふ、美琴ちゃんが悪いんだよ? もう、俺の股間はエレクト済みさ」


「うぅ~~~~~~っ」


美琴ちゃんは俺の言葉にさらに赤くなりながらも、ボソボソと何かを囁いた。


「……………っ」


「え? なんて言ったの?」


「こ、こんなムードじゃ嫌だって言ったの!」


ドムリという音と共に、俺は膝をついた。
正直、その言葉は反則過ぎる。
先ほど、ツンでなくなった美琴ちゃんに対してほんの少しだけ物足りない気がしたけど、気のせいだった!!
美琴ちゃんはデレても破壊力抜群の一撃を持ってやがった!!
俺はよろめくこと数歩。
やがて、アスファルトの地面に膝をつくと美琴ちゃんを拝んだ。

もう、なんて言うかこれは神だ。
乳神だの、尻神だの、そんな肉体的なモノではないが、とりあえず俺の心を絶え間なく萌死させる『萌神(ぜったいしん)』だ!!

ああ、正直もう死んでも良い。
俺はそう思いながら、再び慌てる美琴ちゃんを眺めながら鼻血という名の信仰心を垂れ流した。

と、その時俺は不意に自分が背後から抱きしめられるのを感じた。


「おはよー、帝督」


「んなっ!? お前は――」


俺は振り返りながら、現れたその人物に愕然とした。
そこには、太陽の光を反射する白い髪を持ち俺の背中に抱きついている一方通行こと鈴科 百合子の姿があったからだ。
彼女は、俺の背中から離れるとニコニコと笑いながら口を開いた。


「百合子か!?」


「すっごい偶然だね。邪魔な超電磁砲を再起不能(リタイア)させるつもりで常盤台中学の寮まで来たら、帝督と会えるなんて!」


「いや、そりゃ美琴ちゃんに会いに来たからなぁ。ってか、お前今何て言った!?」


「え? 御坂 美琴を女として破滅させるだけど?」


「余計酷くなってる!?」


俺は、とりあえず美琴ちゃんを庇うように立つと、一方通行はそれでも笑顔のまま首を傾げた。
その様子は、どことなく可愛げがあり、美琴ちゃんという萌神を知っている俺ですら、僅かに揺らいでしまう愛らしさがあった。

い、いやいやいやいや! 違う、違うんだからね! そんなこと思ってないんだから!

一方通行は、とりあえずにこりと可愛らしく笑って美琴ちゃんを挑発するかのように、中指を立てた。


「それより、超電磁砲。いつまで帝督の後ろに隠れてんの? ちょっと顔を貸してほしいんだけど?」


「…………うっさいわね。泥棒猫の相手をしてる暇は無いのよ。これから、帝督とデートだからね」


「……それを聞いたら、余計に顔を貸してもらわなきゃいけなくなったわ」


一方通行はそう言うと、ゴキリと拳の骨を鳴らして美琴ちゃんへと歩み寄る。
対して、美琴ちゃんは俺を押しのけるかのように前へ出ると、獰猛な笑みを浮かべた。


「さっさと帰ったら? 泥棒猫、いえ負け犬かしら?」


「そうやって上でふんぞり返っていると良いわ勝ち豚。すぐに、奪い去ってあげるから」


俺は、そんな二人の様子をだらだらと汗を垂れ流して見つめることしかできなかった。
と言うか、一方通行は何を考えているのだろうか?

あの時、俺はあいつを殺そうとした。
ただ、上条と美琴ちゃんに止められたから殺すことは出来なかったが、あの時の選択を今もう一度迫られたとしても俺は同じ選択、つまりは一方通行を殺すと言う選択肢を選んだだろう。
従って、俺はこいつに好かれる要因は一切ないはずなのだが、何故だか一方通行は俺を好いているようだ。
まあ、俺としてはこいつは一応数少ない同類であり、嫌いではないから少しだけ始末に負えない。
ともあれ、俺は額を突き合わせるかのようににらみ合う二人の仲裁に入ることにする。


「お、おーい、お二人とも? 喧嘩はその辺にして……」


「「うっさい、帝督は黙ってて!!」」


君たち、本当は仲が良いだろうと疑いたくなるほど息の合った返答をした二人は、その返答にさらに怒りのボルテージを上げたのか更なる殺気を発し、俺の胃へとダメージを負わせる。
ああ、美琴ちゃんってばさっきはあんなに可愛かったのに、今はどこぞの羅刹女のような顔に――一方通行も普通にしていれば絶世の美形なのに、今は鬼子母神もかくやという顔だ。
何と言うか、色々ぶち壊しだ。
女の子って言うのは、なんでこうメンドクサイのだろうか?

俺がそう思った時、不意に辺りが暗くなった。


「え?」


俺が突然の変化に驚き、呆然と口を開くと目の前にいたはずの美琴ちゃんと一方通行が闇に溶けてしまったかのようにその姿を消した。


「え? え?」


辺りを見回す俺、不意にそんな俺を背後から抱きしめる熱い胸板。
俺は、ゆっくりと後ろを振り向くと、そこに朝の悪夢そのままの格好をしたツンツン頭の幻想殺しを見つけた。見つけてしまった。

そして、いつの間にか火照った俺の肌へとそっと手を伸ばし――――――――





「アッ――――――――――――――――!!!!!!」












あとがき

いろいろとすみません。



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