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[6790] とことんリリカルを引っ掻き回してみた・リリカルオリ主多重クロス
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:d17439a7
Date: 2009/07/18 18:33
 注意書き
 1.この話のベースは『リリカルなのは』ですが、他の作品が多数クロスしています。
 2.基本的に『原作崩壊シナリオ』です。この時点で無理!って方はお戻りください。
 3.主人公はオリジナルキャラです。無敵処理はしてませんが、結構何でもありです。TS要素あり。
 4.百合要素あります。ガチ百合嫌いな方はお戻りください。……あんまり百合っぽくないけど。
 5.途中、伏線回収シナリオ入ります。リリカル関係ないです。苦手な方はご注意を。
 6.ハーレム要素あります。苦手な方はご注意ください。
 7.設定、時系列、話の速度に変化つけてます。文句は聞きますが、全否定はご勘弁を。
 8.以上の事に注意して、楽しくお読みください。
 9.最後に一つ。ご都合主義が苦手な方はお戻りください。

  
 休んでた時間で書いてみたのを投下してみます。
 



 *指摘にありました、自閉症の表記を変更しました。ご指摘ありがとうございます。

 *タイトルに『習作』表記しました。

 *5/24 指摘されていた誤字修正。ならびに、新作投下。
 ……あと、とらハ板に移動。

 *5/25 題名変更告知をタイトルに追加。後、L25話投下。

 *6/5 以前より気になっていた美由希さんの名前を修正。全部美由紀になってました。ごめんなさい。
    後、L25.五日目おまけまで投下。

 *6/6 指摘された『お話』『お話し』の訂正。気をつけていたのに、5,6件ありました。ご指摘ありがとうございます。
    後、L26話投下。

 *6/13 指摘されていたもろもろの間違いを修正。詳しくは電波を参照のほど。
     後、L27話前後編で投下。
     追記・指摘された誤字を修正。またしてもありがとうございます。
     後、百合、ハーレムの注意はスレ頭にはっつけてありますのでご一読のほどを。

*6/20 電波の回の誤字を修正。L28話投下。
     タイトル修正。
     追記・名前間違いシリーズ『クヴォレー』→『クォヴレー』修正しました。

 *6/25 L29後半、L29EX投下。
     追記・同じ間違いをしてしまいました、ごめんなさい。
     きゅゆさん、指摘ありがとうございます。修正しました。

    
 *7/3 指摘のあった誤字『原水艦』⇒『原潜艦』、『トロメア』⇒『テロメア』に修正。ご指摘ありがとうございます。
     そして、L30話投下。


 *7/10 再度修正『原潜艦』⇒『原潜』。ご指摘ありがとうございました。
     伏線回収&多重クロス本領発揮ストーリーL31.投下します。
    
 *7/18 L31-2投下。表現間違いや誤用などの指摘ありがとうございます。リアルのほうが落ち着いたら修正を随時していきます。



[6790] 1.りーいんかーねいしょん
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/06/06 12:57
 これから話すことは、誰にも信じてほしくない、俺の、私の、戯言だ。
 まず、はじめに。

「……いきなり死に掛けてるってどういうことだよ」

 さっき、トラックが走り去った。
 高く飛んで、すぐ地面に叩きつけられた記憶もある。
 でも、いい加減しぶといな俺。

「まあ、これでもいいか……」

 正直、もう、生きる気力がなくなったところだ。
 たいしたことではない。
 親も幼いころに亡くなり、妹も死に、姉も死んだ。
 姉妹の死に方が酷かった。
 家に帰ったら強盗二人組に性的虐待&絞殺ってどんな三流小説だよ。
 思いっきり原型がなくなるまで殴り殺してやったが、椅子で。

「……まあ、地獄行きは決定かな……」

 家を飛び出し、ふらふらと歩いて、その矢先の接触事故。
 ……まあ、もう、家族と会えないのなら、

「死んだほうがましだな……」

 そんな、ただの、人間の、戯言。





 で、真っ暗闇から光が差し込む。

「……いきなり布団の上とか、なに? 夢オチ?」

 それはそれで酷い話だ。
 後、そういうのって正夢になりそうで怖い。

「だが、どこだここ」

 その部屋には見覚えがない。
 やけにピンクな壁紙とか、見たことない白い制服とか、棚を埋め尽くすぬいぐるみとか。
 あれだ、女の子の部屋だなぁ。

「えっと、まずはこの部屋の持ち主に……」

 その前に、さっきから気になってたんだが、俺の声なんか高くないか?
 後、なんか目線が低い……低い?
 背が縮んでる?

「おいおい、なんだこりゃ……」

 よく見れば、服も変だ。思いっきり女の子物。
 ピンクでふりふりで可愛らしいパジャマ。
 後、手が小さい。指が細い。腕も細い。後、なんか股に違和感。
 ズボンに手を突っ込んで確認。

「……ない」

 おいおいおいおいおい!
 か、鏡はどこだ!
 部屋を出て洗面所へ。

「……誰?」

 やたら可愛い顔立ちの、女の子がほっぺた引きつらせて映ってました。
 転生&憑依&性別転換……なんでもありかこんちくしょう。
 とりあえず。

「orz」

 伝統と実績の凹み方しておきました。



 家の中には誰もいなかった。
 家というか、アパートの一室のようだ。
 2DKの普通の部屋。
 部屋の様子を見るに、どうもこの身体の持ち主だけしか住んでない様子。
 親どこ行ったー?

「私のお父さんは、事故で死亡。お母さんは、私を生んですぐに亡くなった……のか?」

 脳から直接記憶が流れ込む。
 大体頭から情報は取り込めるらしい。

「私の名前は永遠(とわ)せつな。現在8歳。小学三年生。私立聖祥大付属小学校所属。現在、一人暮らし。生活費はお父さんの友人のグレアムおじさんが管理中。月に一度生活費用を振り込んでくれる。……今、なんか不穏なせりふ出たよな?」

 聖祥? グレアム?
 それってどっかで聞いたぞ?

「……思いだせん。……ところで今日は……月曜日か。四月の三週目? 今の時間は……はは、遅刻だなこれは」

 よし、学校は諦めよう。
 その代わり、家の探索を念入りに。
 ……あ、不穏な本発見。
 白とか、鎖に縛られた事典サイズの本とか。
 中を覗いてみる。
 鎖がきつくて中見れない。
 意味あるのかこれ?

「……はあ、仕方ない。とりあえず……」

 クローゼットから服を漁る。
 女物しかない……て、俺女の子だった……
 着方は脳から取り出す。
 ええい、八歳なんぞ、欲情せんわ。

 とにかく、ブラウスにパーカー、フレアスカート。ズボンが一つもなかった。
 髪は梳くだけ簡単ショートヘア。
 うし、外に行ってみよう。

 玄関から外へ。
 ドアの鍵を閉めたら、隣の部屋から誰か出てきた。
 赤い髪のロングのおねーさん。
 ……なんか犬っぽい。

「あれ? あんた、今日学校は?」

 と、知り合いだったのか。
 えーと、この人は……おとつい引っ越してきたアルフさんか。
 ……アルフ?

「えっと、気分が優れないので自主休校です」

「へ~? こっちの子はそんなのできるんだ」

 いや、信じるなよ。

「ちなみに嘘ですが」

「……だ、騙された……」

 騙した覚えはない。

「……この間はあまり喋らない子だと思ったら、嘘つきだったんだね?」

 ……しゃべらないと言うより、関心がなかったようだけどな、この身体は。

「そうですね。嘘つきです。……ですから、あまり、関わり合いはしないほうがいいですよ?」

 中身はそこそこの年齢生きた男だしな。
 ……享年二十歳か。
 つまらない人生だったな。

「……その割りに、ずいぶん寂しそうな顔するんだねぇ?」

「……そうでしょうか?」

 あ、顔に出てたか。

「あんた、一人で暮らしてんの? 親は?」

「どうも、二人とも旅に出たまま帰ってこないようです」

「……それも嘘かい?」

「ある意味本当です。行き先は……天国?」

 俺は行きそこなったが、地獄にも顔出せなかった。

「……そうかい。よかったら、うちに遊びに気なよ。フェイトも喜ぶし」

 フェイト!?
 え!? あ、思い出した!
 この人、フェイトの使い魔のアルフだ!?
 ……て、まてまてまてまてまて!

「……どしたの? 目が丸くなってるよ?」

「い、いえ、ちょっと、めまいが……」

「て、具合悪いのは本当だったの!? なら、ちょっと家で休んでいきなって!」

 まてーーーー!
 いきなりフェイト嬢とご対面はちょっと!

「あ、いえ、その、えっと」

「ほらほら。入った入った!」

 ほぼ無理矢理隣の部屋に押し込まれました。

「……あ、アルフ? 早かったね……あれ?」

 奥から出てきたのは、金髪ツインテールのお人形さんみたいな可愛い女の子。
 赤い瞳の少女さんでした。

「フェイト、この子奥で休ませてあげて。外で立ちくらみ起こしたんだ」

 予想外の出来事に混乱してるだけですよ~?
 ああ、そんな可哀想な者を見る目で見ないでくれ。

「うん。……大丈夫? えっと……えいえんさん?」

 どんな名前だそれは。
 
「とわ、です。永遠せつな。……おとついは自己紹介もせず、すみませんでした」

「あ、うん。気にしないで。……熱はないみたいだね。とにかく、横になろう?」

 いや、ほっといても平気ですよ?
 混乱してるだけだから……

「ほら、こっちだよ?」

「……すみません。ご迷惑をかけます……」

 ここは、お言葉に甘えよう。
 考える時間も必要だ。




 さて、フェイトさんが寝ていたと思われるベッドで横になりながら。
 今の事態を把握すると……
 どう考えても、リリカルなのはの無印だな。
 話には聞いてたが、俺、ストライカーズしか見てないんだよな~。
 しかも、飛ばし飛ばしで。設定資料しか詳しく見てないし。
 有名なシーンぐらいしか見てない。
 無印なんか、東方不敗の名のもとに……ちがった、海の上の決闘しか見てないし。
 Asに至っては闇の書の闇フルボッコシーンしか見てないっての!
 こんなんでトリップをどうにかしろって?
 無理無理無理!

「大丈夫? ……落ち着いた?」

 うん、おちつかねぇ。
 けど、フェイトさんの手を煩わせるわけには……

「だ、大丈夫です。すみません」

「……まだちょっと顔が青いね……今、アルフが食糧買ってきてくれるから、少し待ってて?」

 ……このころから面倒見がよかったのかフェイトさん。
 そりゃ、エリキャロに懐かれるわけですはい。
 ……そう言えば、無印って、どんな話だったっけ?
 えっと、えっと……駄目だ、なんつー馬鹿魔力ぐらいしか思いだせん。
 こんなことなら、ちゃんと一話から見ておけばよかった~。
 て、普通アニメの世界にこんにちわするとは思わんよな。
 うう、死んでよかったのか悪かったのか本気で分からん。
 姉ちゃん、妹よ、俺を助けて……あ、やべ、二人の死に顔思い出した。

「!? どうしたの!? どこか、痛いの?」

 あああああああ、子供の身体のせいか、女の子の身体のせいか、涙腺が弱い弱い。
 死ぬ前は出なかった涙が今更……

「ね、えさ。あす、あ、うぁあぁ」

「……大丈夫。大丈夫だから。……私がいるから、大丈夫だよ」

「えっく、えう、ああ、あああああああああああああ」

 駄目だ、一度流しちゃうともう止まらない。
 この身体も我慢してたのか、涙が止まりません。
 思考は正常なのに、感情だけ暴走中。
 多分、ヤバめなことも言ってしまいそう。
 ……いいや、吐いちゃえ。
 
「ごめん、姉さんあすか、助けられなくてごめん、ごめんな、ごめんなさいごめんうぁ、うああああああああああ!!」

「……大丈夫だよ」

「ああああああ、ひ、ぐあぁ、あああ……」

 それから、数分ぐらい泣いてました。




 ようやく止まった。
 後、やっぱりアウトな発言したな俺。

「……ごめん、フェイトさん。服、ぬらしちゃった」

「いいよ。洗えばいいし。……聞いていいかな?」

 うぐ。
 聞きたいんですか?

「あの、その……うん。多分、信じてもらえないけど」

「うん、いいよ。話せばすっきりすると思う」

 てか、フェイトさんこのころって、こんなに表現豊かだったか?
 いや、知らないけど。もう少し人形っぽいって話だったような……
 まあいいか。

「……私、いや、その、……俺は、前世の記憶があるんだ」

「……? 前世って?」

 ……それから教えなくちゃいけないのか。

「前世って言うのは……この身体、永遠せつなって言う女の子になる前の記憶だ。……わかるかな」

「……なんとなく、だけど」

「俺もよく説明できなくてごめん。えっと、その記憶が、今日の朝、いきなり思い出したんだ」

 ってことにしておく。輪廻転生さえまともに説明できないのに、憑依とかトリップとか説明できるか。

「この身体になる前、俺は都内に住む二十歳の男性……男の人だったんだ」

「……それで、そんな口調なんだ」

「ああ、それで、俺は、トラックに跳ねられて、死んだ。……はずだったんだけど、起きたら、この身体に……」

 うう、今思い出しても泣けてくる。
 せめて男の身体に転生してもいいじゃないか。

「……それで、姉さんとか、あすかって言うのは……」

「……その、前世の兄妹で、姉と妹がいて……あすかは妹の名前な? ……二人とも、強盗に殺されちゃってさ、俺の目の前で……」

 ああ、また涙が。
 涙腺弱いな~この体。

「ごめん……辛い事聞いたね……?」

「いや、いい。……そんな記憶あるから、そのときの……二人の死に顔思い出して、それと同時に、こっちの……私の、お父さんが死んじゃったときの事思い出して……」

「……ごめん。ごめんね……?」

 ああ、フェイトさんまで泣き出しちゃった。
 ……いいや、俺も泣こう。
 そのまま、二人抱き合って、アルフが帰ってくるまで泣いてました。





「ん、ごちそうさまでした」

 アルフがコンビニの弁当買ってきてくれて、みんなでご飯にした。
 ……と、いいますか。

「フェイト? もう食べないの?」

 半分以上残ってます。

「あ、うん。……あんまり、食べないんだ。私」

「もっと食べて欲しいんだけどねぇ~。体力つけないと倒れちゃうよ」

「ごめんね、アルフ。でも、もうお腹いっぱいだから」

 ……まあ、あまりコンビニ弁当は栄養学的によくないらしいし。
 えっと、俺、じゃなく、私は料理は……よし、少しはできる。

「じゃあ、夜は期待してて? 私、ご飯作りに行くよ」

「え!? わ、悪いよ……」

 ふふふふ。まあ任せなさい。
 それに。

「私も一人でご飯食べるの寂しいし、一緒に食べてくれる人がいたら、嬉しいんだけどな?」

「……あ、うん。じゃあ、お願いします」

 はい、お願いされました。
 じゃあ、もう昼も回ったことだし。

「じゃあ、私、お買い物行ってくるね。フェイト、何食べたい?」

「え? ……えっと、お任せします」

「あたし肉! 肉食べたい!」

 アルフは少し自重しよう。
 ……でも、フェイトも何食べたいかわからないみたいだから……

「よし、みんな大好き花丸ハンバーグで攻めよう。ふふふ、腕が鳴るなぁ」

「……えっと、あたしなんか地雷踏んだ?」

「わからないよ……」

 それじゃあ、買い物行きましょうか。
 ……この町を把握する必要もあるし。
 後、本気で、この後の話思い出さないと。

「じゃあ、行ってくるね、フェイト」

「あ、うん、行ってらっしゃい」

 ……えっと。

「フェイト。名前、呼んでくれないの?」

「え? ……せつな?」

「そう、じゃあ、やり直し。行ってきます、フェイト」

「……行ってらっしゃい、せつな」

 よし。
 これで、フェイトとお友達だ。
 ……あれ? ひょっとして、魔王様の役取っちゃった?





 <フェイト>

 ……せつなが出て行ってから、ジュエルシードを探す為、探査魔法を使う。
 アルフも手伝ってくれて、少しは範囲を狭めそうだ。

「ねえ、フェイト。せつななんだけど……何話してたら二人で泣くようなことになったんだい?」 

 ……やっぱり、アルフも気になるよね。

「せつな、生まれる前の記憶持ってるんだって。前世って言ってた」

「……むう、また嘘の話かい?」

 嘘?

「せつな、嘘つきだから、係わり合いにならないでって言ってたよ。実際、私騙されたし」

 じゃあ、あの話も嘘なのかな?

「どんな話だったんだい?」

 ……私自身悲しくなるけど、せつなの話を聞いたままに話した。
 ……話し終わったら、アルフも泣いてた。

「くぅ、可哀想なせつな……そりゃ、嘘つき呼ばわりされるよ。……うん! たとえ嘘でも、私はせつなを信じるよ!」

「……嘘じゃないよ。せつな、嘘つきじゃないもん」

 あの瞳は、嘘をつくような瞳じゃなかった。
 だから、信じられる。
 ……私も、母さんが死んだら、きっと泣いちゃうから。
 
 それに。

「せつな、私の名前、呼んでくれたから……」

 母さんも、私の名前を呼んでくれなくなって、アルフだけが、私を呼んでくれる。
 ……私の名前を呼んでくれる人が、一人増えた。
 これは、とても、嬉しい。

 ……せつなが、初めての友達になるのかな?
 せつなも、そう思ってくれてると、いいな。






 

 <せつな>

 記憶をたどって、まずは近場のスーパーへ。
 買い物をしながら、現状把握。
 ……まず、俺、でなく、私自身のこと。
 どんな性格でどんな生活をしてたのか……アルフが言うに、無口な子だったと思われるが……
 駄目だ。どんな性格かさっぱりわからん。
 あれか? ナンバーズのセッテみたいなものか?
 無口で無表情で……無感情?
 むう、今の俺では再現できん。
 ……いっか。いつもどおり話そう。
 一人称かえると、喋り方も自動で変わるっぽいし。
 ……まあ、問題は、この後の展開だな。
 ……そう言えば、俺、学校であの魔王と同じクラスかな?
 だったら、接触するのも手か?
 いや、それはやめとこう。
 もし、三無主義貫いてたら、いきなり接触するのは不自然だ。
 別のクラスだったら予定狂うし、明日行って確かめてみよう。
 さて、後はたまねぎか。

「「あ」」

 同じ袋に差し出される二つの手。
 一つは俺として、もう一つは……

「……」

 車椅子に乗った女の子でした。
 ……バッテン髪留めに見覚えがあるんですけど?

「えっと、それ、買うん?」

 あ、関西弁。懐かしいな。
 親父たちが上京するまで、関西にいたから、少しは喋れる。
 もう、標準語になれちまってたけど。

「ああ、ええよ。持っていって。うちは……ありゃ? 後一個か」

 ちょっとうつった。
 どうも、その一袋だけだったようだ。
 まだ昼なのに品だししとけよ。

「そんならええよ。あんたが持っていきぃ。あたしのうちに、まだたまねぎあるし」

「あ、それは……いいの?」

「ええよ~……? あれ? 今関西弁やなかった?」

 あはは、やっぱ気になるか。

「子供の……じゃなく、えっと、四年ほど前まで関西いたから……」

「あたしと同じやね。……あ、あたし、八神はやて言うんや。あんたは?」

「私は、永遠せつな。……? はやて?」

 あ、記憶に引っかかった。……二つ。
 えっと、一つは俺のほうで、たしか夜天の主。未来の部隊長さん。
 で、もう一つは……

「……思い出したで。『嘘つきせっちゃん』やな?」

 それだ。
 幼稚園の年少組で、私が言った話。
 『私が生まれる前は男の子だった』
 それを話してしばらくしたら、それは嘘という事になって、そのあだ名が定着した。
 嘘じゃないと泣き喚いた挙句、いつの間にか誰とも口を開かなくなった。
 ……その時から、無口で、無表情で、無感情。
 そんな女の子になってしまった。

「あはは。うん、そうだね。お久しぶりだね、はやてちゃん」

「久しぶりやな。……せっちゃん、急に引っ越してまうから、あの時のこと謝れへんかったやん」

 ? あの時って?

「……ごめん、あの時ってはやてちゃん私に何かしたの?」

「覚えてへんの? ……せっちゃん嘘つき呼ばわりしたん、あたしやで?」

 そうだったのか?
 ……そんなことするような子だとは思わなかったが。

「ごめんなぁ? あれからずっと謝りたいおもとったねん。けど、せっちゃん誰とも口きいてくれへんし、いきなり引越ししてまうし……本当にごめんな?」

「いいよ。……当然だから。嘘つきといわれてもしょうがないよ」

 大体、四歳の子供が、輪廻転生を理解できるわけがない。
 俺、いや、私自身もそれを上手く説明できるはずがない。
 ……嘘つきと言われて当然だ。

「それより、はやてちゃん……足、どうしたの?」

「……これはな、動かへんねん。そういう病気や」

 ……えっと、確か、なんかの影響でそうなってたんだっけ?
 確か……闇の書?

「……あたしの親、せっちゃんが引越ししてすぐに、死んでもてな? 足もこうなってしもて……こっちで、一人暮らししとるんよ」

 ? 守護騎士はまだ一緒にいないのか?
 ……ああ、まだ夜天の主になってないのか。

「私も同じだよ。お父さん死んで、一人暮らし」

「せっちゃんもか? ……奇遇やなぁ。そや、よかったら、この後、夕食一緒せえへん? 一人でご飯食べるの寂しいんや」

 あ、俺と同じこと言ってる。
 ……じゃあ、魔王様には悪いけど。

「だったら……」





「と、言うわけで、一名追加ー!」

「お邪魔します~!」

「え? ど、どういうわけ?」

 目を白黒させるフェイトが可愛いんだよ。
 
 はやてちゃんにフェイトのことを話して、二人でフェイトとアルフに夕食を作ることに。
 アパートにエレベーターあって助かった。

「はじめましてフェイトちゃん。せっちゃんの幼馴染で、八神はやてや。よろしく~」

「あ、ふぇ、フェイト・テスタロッサです。よろしく」

「フェイトちゃん日本語上手いなぁ。かわええし。……やけど、ご飯はきちんとしっかり食べなあかんよ? あたしらが美味しいご飯作ったるからな?」

「あ、えと、う、うん。お願いします……」

 おお、流石はやてちゃん。自分のペースに引き込んでそのまま押し切ってしまった。
 ……もう、将来の才媛の片鱗は見えてたのね。
 この調子であの守護騎士連中も丸め込んだのか?

「じゃあ、台所借りるね? ……て、あれ?」

 台所に調理器具が何もない……
 自炊する気ゼロか!?

「……こ、これは乙女としてあかんよ? 料理ぐらいできるようにならんと」

「あう……ごめん」

「仕方ない。私の部屋から一式持って来る。はやてちゃん、必要なものは?」

「何でもええから持ってきて。あたし、今日はグラタンの気分やねん」

「じゃあ、鍋とグラタン皿と……あ、調味料もないのか。バターもいるね。牛乳は?」

「買うてきとるよ。鍋は二つな?」

「て、オーブンがないよ? レンジでいける?」

「せっちゃんの家ある? あるなら焼くんはそっちやね。……ところで、せっちゃんはなに作るん?」

「花丸ハンバーグ~」

「ふあ!? やるな~。スープは? ないなら作ろか?」

「あ、それなら、大丈夫。オニオンペーストあるから。後フランスパンとチーズ」

「グラタンスープか!? うう、ひょっとしてせっちゃん料理スキル高い?」

「伊達や酔狂で前世の記憶持ってないよ~? て、俺、無感情で料理だけはきちんとこなしてたのか……」

 なにやってんだ私。よくよく思い出してみると、冷蔵庫の中いろいろ料理の種やだしやたれがいっぱい入ってるし……

「何や、それまだ言いよったん? ……ひょっとしてほんまに前世の記憶あるん?」

「……詳しい記憶はなかったんだけど。昨日全部思い出しちゃって……あう」

「な、なんで泣くん!? つらいこと思い出したん?」

「せ、せつな。泣かないで……私がいるから。ね?」

「うう、ごめん。涙腺脆くて……」

「……ご、ごめんなせっちゃん。信じてあげられんで、ほんまにごめんな?」

 くぅ。少女二人に慰められるなんて情けないぞ俺。
 あ、女の子だからいいのか?
 
「く、詳しいことは夕食の後! 今は、フェイトにいっぱい食べてもらうことを考えよう!」

「よっしゃ! ほな、調理道具は任せたで~?」

 さて、戦闘開始だ。




 で、午後六時。
 外に出ていたアルフも戻ってきて、はやてちゃんの紹介も済ませて、お待ち兼ねの夕食タイム。

「え~、本日のメニューは、私作成の花丸ハンバーグ。オニオングラタンスープ。はやてちゃん作成のほうれん草のマカロニグラタン。以上になりましたー」

「気合入れて作ったから、フェイトちゃんもアルフさんもいっぱい食べてや?」

 で、俺らも席に着く。
 アルフもう我慢できなさそうなので、早速。

「では、いただきます」

「「「いただきま~す」」」

 どれ、はやてちゃんのグラタンは……む、美味いし。
 やるなはやてちゃん。市販のホワイトソースでここまで迫るとは……
 フェイトの反応は?

「はむはむはむはむはむ」

 うお、食べてる食べてる。
 がっつくというか、小さな口ではむはむ食べてる姿が可愛いんだよ。
 癒されるね、これは。

「……くぅ。ええでフェイトちゃん。この反応が見たかったんや……」

「あ、はやてちゃんも思った? 私もだよ。……作ってよかったねぇ」

「フェイトがこんなに食べてくれるなんて……あんたたちありがとう!」

 あ、三人とも見てるから、顔赤くして止まっちゃった。

「え、えと、その。お、美味しいからつい……」

「美味しいってはやてちゃん」

「本望やなせっちゃん」

 いえーいと二人でハイタッチ。
 うん、この空気は好きだ。

「せやけど、せっちゃんほんま料理上手いな~。前世はコックさんやったん?」

 ……いえ、只のレジ打ちバイトでした。
 料理スキルは……

「俺の姉と妹が、料理下手でさ、親父たちいなくなってから、飯はずっと俺がやってて、半ば趣味になってたから……」

「……そうなんだ……」

 事情を知るフェイトが手を止める。
 ……アルフも手を止めて、俺を見ている。
 あ、フェイトが話したのかな?

「……あ、ほら、暗い話は後々。グラタンは、冷めるとおいしくないんだから、熱いうちに食べたほうがいいよ?」

「ハンバーグもやで? ……せっちゃん。詳しく後で教えてな?」

 ……うん。はやてちゃんには話そう。
 また嘘つき呼ばわりされても、フェイトは信じてくれるし。
 それに、まあ、あれだ。
 はやてちゃんとも、もう友達だしね?






 で、話した後、今度は泣かなかったけど、聞いていたフェイトとはやてちゃんが泣いてしまいました。

「うううううう。辛かったんやな、悲しかったんやな、悔しかったんやな? ごめんな、信じてあげられんで、ほんまごめんなぁ……」

「うう、何度聞いても悲しくなるよ……あうあう……」

 フェイトがオヤシロ様化してる。

「……決めたで! せやったらあたしが、今日からせっちゃんの姉や! で、フェイトちゃんがせっちゃんの妹や!」

「……い、いや、はやてちゃん? そういうのを二人に求めてるわけじゃなくて……」

「せつな。甘えてもいいよ?」

「て、フェイト? 普通甘えさせるのは姉の役目で、妹は甘えてくれないと……」

「じゃあ、あたしらはお互いに姉妹ということで。ええな二人とも」

 それなんて三国志?
 義兄弟ならぬ義姉妹かよ?

「……いいのかな、私も……姉妹で」

 フェイト?
 さっきノリノリだったじゃん。

「……あのね? 私……二人に隠してることがあるんだ……」

「ちょ、フェイト!?」

 え? まさか……

「だ、駄目だよフェイト、二人に迷惑かけちゃうよ?」

「なんや? フェイトちゃん、悪いことしたん?」

 これからするってことかな?
 ……けど。

「アルフ。迷惑なら、私がもうかけたし。お返しにかけられても、どんとこいだよ?」

「そうやそうや。それやったらあたしなんか、この足やで? この先迷惑かけるから、今のうちにかけときぃ?」

 大体、子供には何もできない。
 俺らは、まだ無力だ。
 けど、友達で、義姉妹なら。

「フェイト。姉妹に隠し事はなしだよ?」

「……うん。ごめんアルフ、言うね?」

「……わかった。フェイトがそういうなら、あたしは止めないよ」

 アルフの言葉に、フェイトはポケットから三角形の金属片を取り出す。
 あれが噂のバルディッシュか。

「バルディッシュ」

『yes sir』

 機械音声のあと、フェイトの身体が光に包まれ……
 真っ黒いレオタードにスカート、マントを着て、杖を持った魔法少女が現れた。

「……私、魔導師なんだ」

 そう、フェイトは言った。
 ……はやてちゃんの反応は?

「……」

 あ、びっくりしてる。
 言葉も出ないようだ。

「ま、まどうし……」

「……隠してて、ごめん」

 顔をうつむかせるフェイト。
 で、フェイトを傷つけるんなら容赦しねーな目で見てるアルフ。

「……て、なんや?」

 がくんと三人揃ってこけた。
 ……そう来るとは思わなかった。

「はやてちゃん。呼んで字のごとく魔法使いさんだよ」

「ああ、なるほどなぁ。凄いなぁ、カッコええなぁ」

 目をキラキラさせて褒めちぎるはやてちゃん。
 その意見には同意する。

「……せつなはあまり驚いてないねぇ?」

「ん? 俺前世持ちだし、魔法使いごときで驚くか」

 知ってたしね。
 それに、

「俺の記憶しかない証拠の曖昧な私と違って、変身するだけで信じてもらえるフェイトはいいなぁと思ったけどね?」

「……そ、そうだね……あ、二人とも、フェイトの事は内緒にして欲しいんだけど……」

「わかったで! 魔法少女はまわりに知られたら国に帰ってまうのがお約束や! そんなことはさせへんで!」

 それ、昭和の魔法少女のお約束だ。
 
「知らないのはやてちゃん? 最近の魔法少女は拳で友情を確かめ合うんだよ?」

「しょ、少年漫画の世界か!? 時代が流れるんは早いんやなぁ……」

「え? そうなの?」

 いや信じるなよ本物。
 でも間違いでもない。

「せつな、それは嘘だろう?」

「……それはどうかな?」

 ここはぼかしておく。
 不安げなフェイトが可愛いし。

「でも、その衣装結構きわどいなぁ……お兄さんとしてはドキドキ物だな」

「せっちゃん、よだれよだれ」

「はぁ!? ち、違うんだよ? 私はロリでもペドでもないよ? ホントだよ?」

 うう、男性意識がある俺は普通の反応もできないのか。
 おいちゃんはいろいろ汚れてるよ……

「えっと、それで、こんな私でも、姉妹でいいのかな?」

「「何を今更」」

 お、はやてちゃんとハモった。

「フェイトちゃんが魔法使いでもお姫様でも私たちは友達で姉妹や。それは変わらん。そうやろせっちゃん」

「そうそう。……そうだ、フェイト。何か簡単な魔法教えてよ。私たちにも使えそうな奴」

 この際だから、念話くらい教わっとこう。
 多分、はやてちゃんにもできると思うし。
 ……あ、このメンバーの中で使えない可能性があるの俺だけか。

「じゃ、じゃあ……(はやて、せつな、聞こえる?)」

 !? 受信できた!?
 はやてちゃんは!?

「い、今の、なんや?」

 受信できてるみたいだな。
 よかった、俺も使えるようだ。

「今のは念話って言って、喋らずに会話できるんだ。(こんな感じで)せつな、聞こえた?」

「ん、聞こえてる。……(こうですか? わかりません!)」

「(しっかりできとるやん。……こんな感じやね?)」

 俺もはやてちゃんも成功。
 大体分かりだして来た。

「……ひょっとして、二人ともリンカーコア持ってるのかもしれないねぇ」

「りんかーこあ? なんやそれ?」

「リンカーコアって言うのは、魔法を使う魔力を生み出す源。それを持ってると、訓練次第で魔導師になれる……て、お父さんが言ってた……て、あれ?」

 ……固まる俺。
 フェイトとアルフは驚いた顔してこっち見てる。
 はやてちゃんは俺の説明を聞いて納得顔。
 今、脳のほうから直接説明が出たよ?
 ……て、ことは。

「わ、私のお父さん、魔導師だったんだ……」

「知らんかったんかい」

 いや、知らんし。
 てか、私自身は!?

「……あ、そうか、私は検査でリンカーコアが極端に小さいって言われて、だから、こっちで暮らすようにお父さんに言われて……」

「……そうだったんだ……」

「と、とことん不幸だねあんた……」

 ふ、不幸キャラ?
 そんな属性要らないんだよ……





 さて、いろんなことを話したけど、今日はそのままフェイトの家にお泊りすることに。
 はやてちゃんの寝巻きや下着は私のを貸すことにした。
 足のことがあるので、みんなでお風呂も入りました。
 フェイトと二人係りではやてちゃんを洗ったり。
 逆にはやてちゃんに背中洗ってもらったり。
 フェイトの髪を洗ったり。
 ……後、フェイトがもう膨らみ始めてるのはちょっと納得いかなかったり。
 お風呂から上がれば、みんなでお話。
 はやてちゃんの一人暮らしの大変さとか、フェイトのお母さんのお話とか、私の前世の思い出話とか。
 気がつくと、みんな眠ってて……

「……フェイト?」

 物音に目が覚める。
 魔法少女の衣装をまとい、窓から飛び出そうとしているフェイトがいた。

「あ、起こしちゃったかな」

「気にしないで。……どこか行くの?」

 たぶん、この話の核である、ロストロギアを探しにいくんだろう。
 確か名前が……

「……うん。探し物が……あるんだ」

「……わかった。気をつけてね?」

「うん。……行って来ます。せつな」

「行ってらっしゃい。フェイト」

 夜の闇に、飛び出したフェイト。
 すぐに闇に溶け込んで、フェイトの姿は見えなくなった。
 ……彼女は、これから、苦しい思いをする。
 ……私は、どうやって、彼女を助けたらいいんだろう。

「……力が……あればいいのに……」

 力が欲しい。
 フェイトを、はやてちゃんを、守れる力が。
 もう、目の前で、大切な人がいなくなるのはいやだ。
 強い、力が欲しい。










【Please call me. call my name】






















[6790] 2.海鳴の街の眠れない夜
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/13 12:54
 さて、明けて翌日。
 フェイトは数時間で帰ってきたようで、朝にはちゃんと起きだしてきた。
 俺とはやてで朝食の準備。
 トーストとベーコンエッグ、フレンチサラダと簡単に。
 
「じゃあ、はやてちゃんは学校行く前に家に送るね?」

「あ、それなら私が送るよ。せつなは学校行ってきて?」

 フェイトの提案。
 ……ここは甘えることにした。
 
「ごめんなフェイトちゃん。せっちゃん。学校の話、また聞かせてな?」

 はやてちゃんに微笑まれ、こくんとうなずく俺。
 ……多分、あまり面白くもない話だろうけど。

「……それじゃ、いってきます」

「行ってらっしゃい、せつな。気をつけて」

「行ってらっしゃ~い。気ぃつけてな、せっちゃん」

 二人に見送られ、憂鬱な時間の始まりだ。

 
 自分の部屋で学校へ行く用意をして、さあ、行こう……

【Please call me. call my name】

 ? 何かに呼ばれた。

【Please call me. call my name】

 ……なんだろ?
 呼び声に耳を傾ける。
 ……あ、昨日の本。
 よく考えたら、これ、闇の書の色違い。
 剣十字なんかそのまんまじゃないか。
 ……仕方ない。連れて行くか。

 本をかばんに入れ、記憶をたどってバス停へ。
 ……数分後、バスが来た。
 定期券を見せ、バスに乗り込む。

「あ! 来たわね!」

 ? 誰かに呼ばれた。
 今日はよく呼ばれる日だ。

「昨日はどうしたの!? 学校にも連絡いれず、心配したんだからね!」

 ……えっと、この金髪ロングは……
 えっと……ありさ?
 ……ああ、アリサ・バニングス。確か、魔王の友達だったか。
 三期じゃ名前ぐらいしか出てこなかったから、よく覚えてないが、確か初代ツンデレだと記憶している。
 で、私には、よく話しかけてくるうるさい人。
 そこは気にかけてくれてると訂正しとこう。

「……」

「……うう、まあいいわよ。今日はちゃんと出てきたんだし」

 どうも、何も話さなかったり、表情を出さなかったりする私にめげないで話しかけてくれているようだ。
 なんだ、誰からも無視されているのかと思った。
 ……後、クラスメイトのようだ。
 なら、魔王と同じクラスってのも確定か。

「とにかく、休むなら、学校にも連絡入れてよね? 何かあったのか、心配するから」

「……うん。ごめん、ありがとう、アリサ」

「ええ、解れば……せつな!? あんた言葉!?」

 ……どうも、私は喋れないと思われていたらしい。
 障害持ちとでも紹介したのか? 俺の親。

「喋らなかっただけだから。……ごめん。今まで、無視して」

「む、無視って……あ、いやその、あ、あれ? 今日に限ってどうして?」

「落ち着いて、アリサ。みんな見てる」

 アリサの慌て様に、乗客がみんなこっち見てる。
 赤くなるアリサを、可愛いと思った。

「……喋れたのに、喋らなかったの?」

「心が閉じてたから、話したくなかっただけ。……もう、大丈夫」

 そういうことにした。
 あながち、間違いではないだろう。
 ……担任の先生でも、自分がどうなってたのか、聞く必要がある。

「……じゃあ、ちゃんと、あんたの言葉で、自己紹介して。……あたしからしか、自己紹介してないのよ?」

『あたし、アリサ・バニングスよ。あんたの名前は?』

『……』

 ……ああ、そうだったね。

『だあぁぁっぁぁ! いい加減何とか言いなさいよ! 済ました顔しかしないんだから!』

『あ、アリサちゃん落ち着いて……あ、私、月村すずか。よろしくね? え~と……えいえんせつなって呼ぶの?』

『とわだよ、永遠せつな。で、私、高町なのはだよ? よろしくね、せつなちゃん』

『……』

『て、こら、無視するなぁ!』

『あ、アリサちゃん……』

 そうだそうだ。
 おもいだした。
 何だ、もう知り合ってたのか。
 このお節介焼きなツンデレが、私みたいな特異な子、ほっとくわけないか。

「じゃあ、そうだね。みんなが揃ってからにするよ。一人一人来てからだと、二度手間だし」

「う、そ、そうね。私だけじゃ不公平か……」

 ほら、次のバス停で……
 黒髪のストレートを揺らしたお嬢様が、バスに乗ってきた。
 あれがすずかだろう。

「アリサちゃんおはよう。……せつなちゃんもおはよう。昨日はどうしたの?」

「少し体調が悪くて……後、小食な子と馬鹿食いする犬に餌付けしてた」

 間違いではあるまい。
 後、アリサ、その呆れた顔はやめよう。

「あんた、そんなことしてたの……」

「……あ、あれ? せつなちゃん? 喋れるようになったの!?」

「そうみたい。……ごめんね、すずか。私、今まで、みんなを無視してたから」

「……ううん。今話してくれてるから、嬉しいよ、せつなちゃん」

 うう、女神様が目の前にいるよ。
 笑顔が凄くまぶしい。

「アリサちゃん、すずかちゃん、せつなちゃんおはよう! ……? みんなどうしたの?」

 いつの間に乗ってきたのか。
 亜麻色のツインテールの魔王様降臨。

「おはよう、なのは」

「なのはちゃん、おはよう」

 二人が挨拶して、俺に目線を送る。
 ……なるほど、これは、俺にネタをしろとの合図だな?
 
「お……」

「「お?」」

「おはようございます、魔王様」

「にゃ!? わ、私魔王じゃないよ!? て、せつなちゃん、そんなキャラじゃないよね!?」

「あれ? 私駄目だった?」

「駄目じゃないけど、いまいちね。なのはのリアクションは面白かったけど」

「……そういう問題かな?」

 むぅ、じゃあ、こっちで。

「じゃあ、改めて……おはよう、なのは。今日もとてもキュートだね」

「にゃあああ!? あ、ありがとう……じゃなくて! せつなちゃんが変だよぉ!」

「む、俺のどこが変だって? 俺はいつもどおりだが?」

「いや、男言葉はやめなさい。イメージと合わないわよ?」

「でも、結構似合ってるけど」

 すずか、その感想はいろいろやばめだ。
 そろそろカオスを収めるか。
 十分楽しんだし。

「……おはよう、なのは。少しなのはで遊んでみたかったんだ」

「……せつなちゃん、そんなキャラだったんだ……」

「驚くところが違うわよなのは」

「なのはちゃん、せつなちゃん普通にしゃべってるのはスルーなの?」

 そう、そこはスルーしちゃいけないと思うよ?

「? あ! ホントだ! せつなちゃん、喋れたんだ!?」

「……あんたって子は……」

「うん。なのはは可愛いねぇ」

「せつなちゃん、実は意地悪?」

 それはどうかな?
 まあ、それはともかく。

「じゃあ、改めて。私は永遠せつな。これからよろしく」

 ここに、シュール系美少女が誕生したわけだ。
 あ、電波系とか言うのは勘弁。



 学校に着くなり、みんなと別れてまず職員室へ。
 昨日無断欠席したから、謝らないと。
 担任は……いたいた。

「あ、永遠さん。昨日はどうしたの? ……具合でも悪かったの?」

 女性の先生で、俺に心配そうな目を向けてくる。
 ……えっと、どう言ったものかな……

「すみません。体調不良でした」

「そう、なら、仕方……永遠さん!? あなた言葉……」

 ああ、なるほど。
 教師公認の病状だったか、俺の無口っぷりは。

「あの、私、今まで外がよく見えていなかったんですけど、私は何か病気だったんですか?」

「……あなたは、心因性の失語症と、感情欠落を伴うPTSDってお医者様に言われていたの。覚えてないかしら?」

 ……精神病、心的外傷後ストレス障害か。なら、この反応は当然だな。

「覚えてないというより、聞いていなかったと思います。……おとついまでの記憶が、かなり曖昧ですから……」

「そう……とにかく、一度お医者様に見てもらいましょう。今日は、どうする?」

「せっかくなので、授業に出ます。病院は昼からで大丈夫ですか?」

「ええ、主治医の方に、来てもらうよう、連絡しておくわ」

 主治医いるのか。
 ……診察券は財布の中だな。
 何だ、通院はちゃんとしてたようだ。

「じゃあ、教室に行きます。失礼しました」

「はい、またあとでね?」

 職員室から出ると、アリサが迎えに来ていた。
 腕組んで仁王立ちは無駄に似合うからやめてください。

「先生、驚いてた?」

「アリサたちと同じ反応でつまらなかった」

「……まあ、そうよね」

 せめて、なのはレベルのリアクションはとって欲しい。

「それより、せつなは学校終わったら暇? よかったら、遊びに行かない?」

 それは魅力的だが。

「ごめん。お昼から、病院にいくことになっちゃったから、今日はお昼に早退」

「……そっか。残念」

 すまないアリサ。
 精神病だったということで、病院には報告しなければならないんだよ。
 でないと後々面倒だし。


 教室に入ると、みんながこっちを向いた。
 ? 期待されている?

「……えっと、リフォームしてやってきた白鳥麗華でございます?」

「古いし。混ざってるし。解る人少ないわよ、それ?」

 うん、やってみたかっただけ。

 俺が声を出したのを皮切りに、寄ってくるクラスメイト一同。気分は転校生。
 まあ、ノリ的には同じようなものだし。ちょうどいいから記憶と顔と名前を一致させていく。
 幸い、いじめられたようなことはないらしい。
 むしろ腫れ物扱い?
 後、シュール系より、謎キャラ的存在として認知された。
 ミステリーいいよね?

「ああ、疲れた……」

「お疲れ様。今までの分、全部吐き出したんじゃない?」

 いやいや、それでもまだ十分の一ぐらいですよ?

「せつなちゃん、今日はお昼で早退するの?」

「うん。病院行くから」

「そっか……残念」

 落ち込むななのは。俺だって残念だわい。
 小学校って、結構楽しいし。
 ……社会にでると、学校の楽しさがようやくわかってくるんだよなぁ……

「あ、じゃあ、今のうちに」

「どしたのすずか?」

「うん。明日、お休みだよね? よかったら、みんなでお茶会しようと思って。いいかな?」

「あ、いいわね」

「私も、いいよ!」

「……じゃあ、私も参加するよ」

 お茶会か。楽しみだな。
 ……あ、そうだ。

「あの、三人ほど連れて行きたい子がいるんだけど、いいかな?」

 どうせだから、フェイトたちやはやてちゃんも呼んであげよう。
 みんなに紹介するのも悪くない。

「なに? ひょっとして、あなたが餌付けしたって子?」

「うん。笑顔の儚い可愛い子と、その保護者っぽい犬娘と、私の幼馴染」

 はやてちゃんの説明だけ普通だ。

「せつなちゃん、私たち以外に友達いたんだ?」

 なのは、それはきついぞ。
 否定はできんが。

「うん。昨日義姉妹の契りを交わしてきた」

「どこの三国武将か!」

 を、俺と同じツッコミを。

「いいよ? じゃあ、迎えに行くね?」

「うん。ありがとう」

 ……あれ? 話的になんかまずいような……
 まあいいか。
 無印見てないから、話の流れなんか知らないし。




 と、言うわけで、お昼になったので、病院の主治医と共に中央病院へ。
 なのはたちとお別れして、向かうことになった。

「……じゃあ、昨日、夢を見た後、話せる様になったんだね?」

「はい。……何か、おかしいですか?」

 自分で言っててあれだが、やっぱりおかしいだろう。
 
「……正直、もう少し様子を見たほうがいいと先生は思ってる。もうしばらく、通院してもらえないかな?」

「わかりました。ご面倒をおかけします」

 やれやれ、面倒なことだ。
 まあ、自分のことだから、仕方ないだろう。

 簡単な問診を終え、部屋から出ると、待合室に見覚えのある二人組。
 金髪のツインテールと車椅子のショート。

「フェイト、はやてちゃん?」

「え? せつな?」

「せっちゃん!? どうして病院に?」

「あはは。どうも、私も病気持ってたみたい」

 精神病だけどな。
 病名を言うと、やはりはやてちゃんの顔が曇った。

「……あたしの、せいやんな? それ……」

「はやてちゃんは悪くないよ。むしろ悪いといえば……俺のほうだしな」

 この、無駄な、記憶さえなければ。
 ……たぶん、たぶんだけど。
 嘘つきといわれ、嘘じゃない事を証明しようと、記憶を掘り返し……
 あの、現場を思い出したんだろう。
 幼い少女に、あの光景は、きつすぎる。
 耐えられなかったんだ。心が。
 だから、全てを拒絶した。
 そして、しばらくして、ようやく人格を再構成し終えた俺が、目を覚ました。
 ……結果的に、この少女の身体を乗っ取った事になる。
 前世からの魂の持ち越し。
 難儀な話だ。

「だから、気にするな。俺のせいだから。はやては、気にする必要はないよ」

「……うう。なんかせっちゃんがカッコええし……」

「せつな、俺って言い出すと、声低くなるんだね。聞いてて落ち着くよ」

 む? そうなのか?
 自分じゃよく解らんが……
 あ、丁度いいや。

「ところで二人とも、明日暇?」

「あたしは基本的にいつも暇やで?」

「私も……用事はないよ?」

 よしよし。

「今日学校で、お友達からお茶会の誘いを受けたから、二人も一緒にどう? 話はつけてあるから。あ、フェイト、アルフも連れてきていいよ?」

「え!? い、いいの?」

「せっちゃんの友達かぁ……あれ? せっちゃん、友達おったん?」

 はやてが酷いんだよもん。

「いたみたいだね。ぜんぜん話してなかったけど、今日話したら、みんなに驚かれた」

 病気のこともあったし。

「ん~。ほんなら、あたしも出席しよかなぁ。友達できるんはたのしみや!」

 あい、はやてちゃんは決定。

「フェイトは?」

「……私は……」

 う、ちょっと引き気味?
 ならここは、押して押して押し捲る!

「行こう、フェイト。みんないい子ばかりだし。フェイトだっていい子だから、きっと仲良くなれる」

「そやそや。フェイトちゃんかて、あたしやせっちゃん以外の友達作ったほうがええで? 学校行けん分、友達は大事や」

 おお、はやてちゃんがいいこと言った。

「……あ、あの、二人とはもう友達なの?」

 ……あれ?

「フェイト、私と友達でしょ?」

「そして姉妹やで?」

「……そ、そうだったんだ……」

 ええい、この天然さんめ。
 唖然とする顔が可愛いぞ。

「せなら、今日もお泊り会やな?」

「あ、ごめん。今日は用事があるから……」

 フェイトは用事があるらしい。
 ……多分、ロストロギアだろう。

「何や、残念。……じゃあ、明日何時に集まればええ?」

「私の家に迎えに来てくれるから、午前九時に私の家に」

「……うん。わかった。ごめん。はやて」

「ええよ、しゃぁないわ。あたしも、今日は家のお掃除せんと」

 あ、なら。

「手伝おうか? この後は暇だし」

「ええの? じゃあ、手伝ってもらうな?」

 素直に甘えてくるはやては好きだよ。

「……じゃあ、私も、まだ時間あるし」

 と、我慢できなくなったのか、フェイト参戦。

「よっしゃ! じゃあ、みんなでお掃除や!」

「「おー!」」






 みんなではやての家に向かい、夕方までお掃除に熱中しました。
 夕食をみんなで食べて、その後、解散。

「……流石に、日が落ちると暗いね」

 一人で帰り道を歩く。
 星がキラキラ輝いてキレイだ。
 ……こんな日は、上を向いて歩きたくなる。

「……? なんか、飛んだような……」

 フェイトかな?
 ……と、思った矢先。

「わ!?」

 何かに突き飛ばされました。
 なに? 何事!?

「……あれ?」

 目の前に、おっきな犬さん。
 ただ……酷く、邪悪なオーラを感じるよ?
 まさか……

「GOOOOOOOOOOSSSAAAAAAAA!!」

 ロストロギアの暴走体!?
 何でこんなところに!?

「に、逃げないと……」

 今の私じゃ、こんなの相手できない!
 襲い掛かってくる犬をかわし、一気にダッシュ!
 もちろん、追いかけてくる犬。
 ただ、凄く怖い。
 迫力が尋常じゃない。
 後、スピードも。

「うわぁ!」

 タックルされて、倒れこんだ。
 カバンから、本や筆箱が放り出される。
 じわじわ近づいて来る犬。
 目に付く白い闇の書。
 ぎらつく犬の瞳。
 ふと思い出す、強盗たちのイカレタ瞳。
 後ろに横たわる……最愛の姉と妹の……

「あ、ああ、あああああああ」








 屍。








「うわぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」

【Please call me. call my name】

 頭に響く声。
 名前? 呼べって?
 なら、俺に力を貸せ! 
 この犬を、殺せる力を!

「来い! 【パラディン】!!」

【yes master】

 白い本の鎖がはじけとび、俺の目の前に飛んでくる。
 本が開き、光があふれ……俺の身体に、白銀の鎧が装着された。
 その姿は、まるで、ゲームの中の騎士の様だ。
 ……て、鎧だけかよ!?

【Please call master's arm】

 俺の武器? 呼べばいいのか?
 なら、

「【アロンダイト】スタンバイ!」

【stand by alondite set up】

 右手に重量を感じる。
 俺の身長ほどの両手剣。
 カートリッジシステムは着いてるから、ベルカ式のアームドデバイスのようだ。
 て、俺ベルカ式なのか!? ドイツ語しらねぇ!?

「GAOOOOOOOOOO!!」

 でも、向こうは容赦なく襲い掛かってくる。
 大きく口を開けて飛び掛ってきたそれに。

「ええい、くたばれぇ!」

 剣を叩きつけた。
 魔法も何もあったもんじゃないただの物理打撃。
 が、【アロンダイト】はちゃんと魔力刃を構成。
 魔力ダメージを犬に与えられたようだ。

「GU,A,GAAAAAAOOOOO!!」

 けど、あまり効いてない様子。
 ちゃんとした魔法で攻撃しないと駄目か?
 ええい、どうしたものか。

【master.】

「ええい、英語も実は苦手だ! 日本語でおk!!」

【……これでいいですか? マスター?】

「上出来だ! 魔法の使い方を強制インプット、できるか!?」

【できます。一分ください】

「頼む。……せいぃあ!」

 再び襲い掛かる犬を蹴り飛ばす。
 これ、絶対女の子の戦い方じゃないよね?
 
【インストール終了。マスター!】

「よし!【アロンダイト】カートリッジロード!」

 剣の柄に設置されたシリンダーが回り、[ガション]と、カートリッジが起動した音が鳴り響く。
 腕から、身体に、魔力が迸るのがわかる。
 後は、体制を整え、こちらを睨みつけている犬に、最大戦速で接近!

「くたばれ! 【餓狼一閃】!」【howling bride】

 真正面から叩き切った。
 ……閃光の後、気絶したドーベルマンと……

「……これが……ロストロギア……?」

 青い宝石が、ふわふわ漂っていた。

「えっと、【パラディン】? 封印はできるか?」

【マスターの杖を。同時に、剣は格納されます】

 ? ……もしかして、一つのデバイスに、複数のアームドデバイスが格納されている?
 ……主が前に出るタイプの守護騎士システムか?
 むしろ、守護騎士に、俺がなるのか?

「まあ、ともかく、封印が先だな。……【ブレイブハート】スタンバイ」

【stand by brave-heats set up】

 剣が消え、代わりに、同じ長さの杖が姿を現した。
 杖の先に、剣十字とUの字型の装飾が施されている。
 これにもカートリッジシステムは搭載されていて、装飾のすぐ下に、シリンダーが設置されている。

「えーと……【封印術式】ロード」【sealing】

 ロストロギアを魔方陣が包む。
 ……? なんかこのベルカ式、変?
 確か、ベルカ式は三角の魔方陣だったはず。
 けど、俺の使う魔方陣はその三角をミッド式のような円が包んでる。
 ……融合型?

 まあ、とにかく。
 ロストロギアは封印終了。
 ……後は。

「……【パラディン】。事情を聞かせてもらえるか?」

【……分かりました】

 やれやれ。
 今日は長くなりそうだ。





 家に戻って、早速【パラディン】の情報を聞き出すことに。

【まず、私は総合兵装型インテリジェントデバイス・騎士王の書。夜天の書の拡張デバイスとして生み出されました】

 て、いきなり重要単語来たよ。
 夜天の? マジでか。

【夜天の書の持ち主は、基本的に魔法砲撃一辺倒になりがちですので、それを補う形として、私が追加装甲、追加武装として働くように、設計されています。本来なら、夜天の書と平行運用が理想的です】

 ……それ、本人の処理リソース足りなくないか?

【……当時の開発者もそれを失念していたらしく、私との同時運用は無理と判断され、結局、ワンオフのデバイスとして、夜天の書の主のパートナーに託されていました】

 なるほど。
 ……それが、何故俺のところに?

【わかりません。何しろ、私が最後に起動したのはかれこれ……千年以上も前かと】

 かなり古いのな。
 じゃあ、今夜天がどうなってるか知らないんじゃないか?

【? 私が目覚めたということは、どこかに夜天の書があるんじゃないですか?】

 いやぁ、それがね?

「今、夜天の書、改変に改変を重ねられて、闇の書って言うロストロギアになってる」

【なんですって!?】

 やはり知らなかったか。
 今現在、夜天の書は闇の書と呼ばれ、人の魔力を蒐集し、完了したら大破壊を撒き散らす災害の一種みたいになってる。
 守護騎士システムとか知ってる?

【……記憶にありません。私に替わる守護システムですか?】

 えっと、闇の書に格納されている騎士プログラムで、全部で四人。
 烈火の将とか紅の鉄騎、泉の騎士とか盾の守護獣とか……聞き覚えはないかな?

【……覚えています。私の生きた時代の、歴戦の勇者ヴォルケンリッター……それが、プログラムになっているなんて……】

 ……まあ、その四人が闇の書の主を守るプログラムなわけだ。
 何か、解決方法ある?

【……一つだけ。私には、夜天の書のバックアップデータがあります】

 おお!? ナイスご都合主義!

【ですが、それが今の改変された夜天に効くかどうか……】

 ……とにかく、できることはやろう。
 あと、お前の機能の説明を頼む。

【……分かりました。まず、私自身は騎士甲冑のデバイスです。私には補助魔法が組み込まれており、私だけでは盾にしかなりません。代わりに、私が管理する五つの兵装、アームドデバイスがマスターの武器になります】

 五つもあるのか。
 ……詳しい説明を頼む。

【はい、マスター。まずは近距離戦対応の騎士剣【アロンダイト】。先ほど使った剣で、斬撃、刺突、打撃魔法に優れています。カートリッジはシリンダータイプ。装填弾数六発です】

 まあ、普通のアームドデバイスだな。対レヴァンティン用か。

【続いて中距離戦対応の騎士槍【ブリューナク】。刺突や突撃が得意で、斬撃もいけます。カートリッジはシリンダー。装填弾数八発。多少重量があるので、気をつけて使ってください】

 ふむふむ。
 これはグラーフアイゼン用かな?

【白兵戦対応の騎士武具【グラディウス】。両手両足に追加装甲がつき、体術メインになります。打撃魔法特化型で、防御魔法の精度、防御力も上がります。カートリッジはマガジンタイプ。装填弾数五発。右腕に五発、右足に五発の合計十発です】

 確実にザッフィー用だな。……シューティングアーツみたいなものか?

【長距離戦対応の騎士弓【フェイルノート】。遠距離射撃、精密射撃を得意としています。砲撃もできますが、収束砲になるので、チャージに時間がかかります。カートリッジはマガジンタイプ。装填弾数二十発。一番多いです】

 これに対応するのは……クラールヴィントあたりか。
 四次元殺法はできないだろうけど。

【最後に、魔法戦対応の騎士杖【ブレイブハート】。砲撃、射撃、広域なんでもござれの魔導師仕様です。代わりに、直接打撃に弱くなります。カートリッジはシリンダータイプ。装填弾数八発。以上が、私の兵装になります】

 ……これが夜天対応と。
 なんだか、対守護騎士をイメージしたような装備だな……
 あれ? そういえば。

「形状変換はないの?」

【……一応、あるにはありますが、私の方にはそのグレードアップパッチが組み込まれていないので、使用できません】

 あれま。
 じゃあ、本当にこの五つで全ての状況に対応しなくちゃならんと。
 使いこなさないとな……

【大丈夫です。マスターなら、使いこなせます】

 ……ありがとよ。
 後、質問。
 お前の術式テンプレート。ベルカなのかミッドなのかどっちよ?

【ミッドというのは、私が生み出されたときにあったミッドチルダ郡のことですよね?】

 いや、よくは知らんが。
 ミッドチルダって正式名称だから、それであってると思うぞ?

【私の開発者が、そこの出身で、その部落で開発された新しいテンプレートらしいので、試験的にベルカテンプレートをそのテンプレートでエミュレートした結果、私の魔方陣が生み出されたそうです】

 なるほど。
 古代のエミュレート魔方陣なわけだ。
 ……うっわ、下手したら、お前もロストロギアになるんじゃ?

【……もしかしたら、そうかもしれません。古代遺失物なら、私も含まれますから】

 なんてロストロギア発生率だ海鳴市。
 絶対呪われてるぞこの土地。



 とにかく、そのエミュレート魔法を頭に叩き込み、いつでも使えるようにした。
 なお、スタンバイフォルムが本の形なのは、デフォルトなので変えようがないとのこと。
 サイズが変更できるので、手の平サイズになってもらい、持ち歩けるようにした。
 気がついたら二時回ってた。
 明日起きれるかなぁ……




[6790] 3.空飛ぶ魔法少女の不思議な毎日
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/02/25 19:15

 翌日である。
 創立記念日である。
 そして私は、

【マスター。八時です起きてください】

「む? おはよう。パラディン」

【おはようございます。マスター……? マスター。女の子だったんですね……】

 てめえ、俺を何だと……あ、この口調か。

「えっと、身体の中に二十歳の男性意識ももぐりこんでるから、多分戦闘時はそっちがメインになると思うよ? ……混乱させるけど、許してね、パラディン」

【お気になさらず。私も失礼なことを言いました】

 いや、分かってくれたなら結構だよ。
 さて、支度をしよう。
 九時にはフェイトたちも来る。
 朝食を簡単に済ませ、シャワーを浴び、余所行きの服を選んで……
 
[キンコーン]

 と、もう来たし。

「はいはい……」

 玄関ドアを開けると、車椅子のはやてとそれを押しているフェイト。
 二人とも可愛い衣装を着ている。
 はやては緑色のミニワンピ、ジャケットを羽織って、防寒対策。まだちょっと寒いしね。
 フェイトはやはり黒。セミフォーマルドレス。どこのアインツベルンかと。
 対する私は白色と黒のモノクロで着こなしてみた。シャツが黒。プリーツスカートは白。
 
「おまたせや~」

「ごめん、アルフは用事があって、これなくなっちゃった」

 ありゃ。
 ……ふむ?

「(フェイト? もしかして、こないだの探し物?)」

「(……うん。私の代わりに、探してもらってる)」

 あ、やっぱり……
 えっと、まだお迎えは来てないから……

「パラディン?」

【……? マスター? どうしました?】

「!? せつな、それ……デバイス?」

「あ、せっちゃんええな~。……あれ? それ、家で見たような……」

 うん、それは多分色違いだ。
 じゃなく、昨日のあれ、出して。

【わかりました。収納領域解放】

 パラディンがページを開き、青い宝石が姿を現す。
 それを見てフェイトが目を剥く。

「ジュエルシード!?」

「あ、そんな名前なんだ? フェイトが探してたの、これでしょ? 封印処理はしてあるから」

 それをフェイトに渡す。
 フェイトは渡した俺の手を握って、

「ありがとう、せつな……嬉しいよ……」

 おうおう、涙ぐまなくても。

「フェイトちゃん、よかったなぁ~。……ゆうか、せっちゃんも魔法少女になったんやね?」

「まあ、成り行きで……あ、私の場合は、魔導師じゃなくて騎士って言うらしいよ?」

「騎士? ……確かに、最近のせっちゃんのイメージにぴったりや」

 そうか?
 と、廊下を歩いてくる音。
 ……あ、青髪のメイドさん?

「永遠せつな様? 月村のメイドのノエルと申します。お迎えに上がりました」

 それはいいんだけど、その格好で来たの? メイド服で?
 ……恥ずかしくないんだろうか。

「あ、えっと、一人これなくなったんで、この三人で。あと、一人車椅子なんですけど、大丈夫ですか?」

「かしこまりました。車椅子は車に積みましょう」

「す、すみません、おおきに。……ちょ、せっちゃん? 何や、そのお友達ってお金持ちなんか?」

「ん? 確か、地主の娘さん?」

 だったよねたしか。
 豪邸の持ち主だってのは間違いない。
 と、言うかはやてちゃん。

「お茶会なんて響き、セレブ以外の誰が使うの?」

「……それもそうやな」

「……そういうものなんだ……」

 そういうものなんですよ。






 で、偉い高そうな黒塗りのハイヤーに乗せられ、やってきました月村邸。
 ノエルさんに案内され、一室に通される。
 そこには。

「あ、来たわねせつな」

「せつなちゃん、いらっしゃい」

「せつなちゃん。そっちの二人がお友達?」

 と、三人娘が揃ってお出迎え。
 じゃあ、こちらの御呼ばれ三人娘もご挨拶。

「お招きに預かり、光栄です。すずか嬢。今日もまた一段と可愛らしい」

 うん。青色のセミフォーマルも似合うんだなこれが。

「え、えっと、お招きされました? とにかく、はじめまして、八神はやてです~」

 途中ではしょるなよはやてちゃん。

「……招待ありがとう。フェイト・テスタロッサです」

 ? なんかフェイトが緊張……いや、もしかして警戒?

「(フェイト、どうしたの?)」

「(……あの子、魔導師だ。デバイス持ってる。……そこのフェレットも、たぶん)」

 思いっきりなのはを警戒してる。
 後、淫獣も。
 ……ところで、何で淫獣? 形が卑猥なのか?

「来てくれてありがとう、皆さん。主催の月村すずかです」

 ……せめてツッコムとか反応とかしてくれよすずかさん……

「だめよ、せつな。すずかはそういう言葉、聞きなれてるんだから。……あ、私はせつなの保護者のアリサ・バニングスよ。よろしく」

 いつの間に保護者になったんだ。
 後、黄色のドレス可愛いなこのやろう。

「えっと、せつなちゃんの友達の、高町なのはです。……よ、よろしく」

 で、フェイトに威圧され、だんだんしぼんでいくなのは。
 白を基準にした余所行き洋服が可愛いぞ?

「でや、なのはちゃん? フェイトちゃんになんかしたん? すっごい睨まれてるで?」

「あ、あう。初対面だよね? 何でそんなに睨むの?」

「うーん。やっぱりお話し合いが必要かな? なのは的意味合いで」

「なるほど。じゃあ、表出る? 庭なら暴れていいわよ?」

「あの、できれば仲良くして欲しいな?」

 てか、なのは的お話し合いで解るアリサさんは素敵だ。
 
「ん~。じゃあ、主催者の意見を汲もう。なのはとフェイトを借りていくね? 後……そこのフェレット。来い」

 とりあえず、話の中心人物同士で話し合ってもらう。
 後、淫獣に対して男言葉なのは勢い。

「せ、せつな?」「せつなちゃん?」「きゅう?」

 二人の手をとって庭に出る。
 はやてちゃんに念話を送って、残る二人の相手をしてもらう。
 で、パラディンに防音結界を張らせて、準備完了。

「さて、フェレット。なのはに何した?」

「……ぼ、僕は何もしてないよ!? と、言うか、何でそんな凄むのさ!?」

「なぜかお前は敵って気がする。……で、なのは? なのはも魔法使いなの?」

「ええ!? 何でせつなちゃんがそれを!?」

 あ、やっぱ気付かない?
 どんだけ初心者なんだ……

「えっと、フェイトも魔導師なんだ。それで、なのはも魔導師だって気付いたのもフェイト」

「フェイトちゃんも?」

「気付かなかったの?」

 そりゃ、そうだろう。

「私、まだ魔法使い始めて、二週間しか経ってないし……」

「……そうなんだ。ごめん、睨んだりして」

「ううん。私も、気付かなくてごめんなさい」

 二人して謝りあう。
 うんうん。やっぱ二人ともいい子だよ。
 で。

「なのはにデバイス渡したのはお前かフェレット」

「あ……う、うん。ジュエルシードの暴走を抑えるのに……協力してもらって……」

「ジュエルシード?」

 あ、フェイトが反応した。

「あなたは、ジュエルシードを集めてるの?」

「え? うん。ユーノ君が事故で町にジュエルシードをばら撒いちゃって、その回収のお手伝いをしてるの」

「……お前、なのはに手伝ってもらってんのかよ。自分でやれよ男の子!」

「う、で、でも、なのはは魔法の素質が……」

 あ、頭来たこいつ。

「どやかましい! 女の子に前線張らして、それを素質だどうだと言い訳すんじゃねぇ! 女の子は、おれたち男が守るべき者だろう! それをお前は~!」

「ま、まってせつなちゃん! ユーノ君、私に魔法教えてくれて、サポートもしてくれて……私の大切なお友達なんだよ? ……悪く言っちゃ、やだよ……」

 ……むぅ。
 泣き顔見せられてもな……

「……まあ、なのはがそこまで言うなら……!」

 あ、この反応。
 ジュエルシード?

「なのは!」

「うん! レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

「パラディン!」

『all right』『yes sir』【get set】

「「「セッート、アーップ!!」」」

 三者三様にバリアジャケットを身に纏う。
 ……あ、よくよく考えたら。

「しまった。封時結界張るの忘れてた」

「え?」

「ほれ、後ろ」

 なのはが後ろを向くと、窓にかぶりつきの三人の姿。

「……ば、ばれちゃった」

「こ、これ、封時結界じゃないの!?」

「ただの防音結界。まあ、彼女たちへの説明は後でしよう。それより、フェイト?」

「うん、みつけた。こっち!」

 フェイトが飛行魔法を展開。
 俺も飛行魔法を起動し、後を追う。

「あ、まってよー」

 なのはもその後を追う。
 ……しばらく飛んで、見つけたのは。
 馬鹿でかいネコさんでした。

「てぇ!? でか!!」

 暴走というより巨大化?
 ……あ、目が合った。

『にゃ』

「どわぁ!!」

 思いっきり猫パンチ。
 風圧で飛ばされそうになるとか。

「ちぃ、フェイト! 共同戦線やれるな!」

「いいよ。……あの子は?」

「手伝うよ! どうすればいい!?」

 うし。じゃあ……

「フェイトは足止め、撹乱。なのは、捕縛。俺がとどめ。ついでに封印もやるから。じゃあ、よろしく」

 三人散開して、戦闘開始。

「『フォトンランサー』!!」『Photon Lancer』

 まずはフェイト。
 非殺傷で雷の槍。猫の鼻先にヒット。これにはびびるネコ。

「レイジングハート!」『Restrict lock』

 続いてなのは。
 魔力がひも状に伸び、ネコを縛り上げる。

「じゃあ、行くぜ!【グラディウス】スタンバイ!」

【stand by gladius set up】

 両手にフルプレートのガントレットが、両足にレッグガードが装着され、手の甲の宝玉が光る。
 
「カートリッジロード! 喰らいやがれ!【竜吼一撃】!!」【dragon fang】

 右腕のカートリッジが吼え、魔力を纏った一撃がネコの腹部に突き刺さる。
 それで、ネコの身体が縮んでいき……気絶した猫の傍らに、輝きを放つジュエルシード。
 武具をしまい、杖を準備する。

「せつなちゃん。私がやろうか?」

 そう言ってなのはが降りてくる。
 もちろんフェイトも。

「いや、俺にやらせてくれ。……俺、昨日から使い始めたばかりだから、魔法に慣れておきたいんだ」

 ブレイブハートを掲げ、封印術式を起動。……封印成功。

「ご苦労様。せつなちゃん」

「ありがとう、ナイスアシスト、なのは」

「えっと、な、ないすあたっく、フェイトちゃん?」

「え? あ、その……ナイスフィニッシュ、せつな」

 互いが互いをたたえて、三人でハイタッチ。ちょっとおどおどしてるフェイトが可愛い。
 で、だな。

「じゃあ、こいつは……ほら、フェイト」

「あ、うん。……いいのかな?」

「え!? フェイトちゃんもジュエルシード集めてるの!?」

 と、予想外の声を上げるなのは。
 
「うん。……その、どうしても、必要だから……」

「だ、駄目だ! それは危険なもので、制御ができるような物じゃぁ」

 飛び込んできた淫獣をインターセプト。
 すまんブレイブハート。変なもんを叩いちまった。

「そういうことは、手伝ってから言え。役立たず」

「や、役た……」

「いいかフェレット。フェイトはなぁ、今は遠くに住んでるお母さんのためにジュエルシードを集めてるんだ。笑ってくれなくなったお母さんにまた、微笑んでもらいたいと思う娘の心……どおしてお前にはそれがわからない!? この鬼畜! 悪魔! 淫獣!」

 俺の作り話に悲しそうな顔になるなのは。
 ショックを受ける淫獣。
 固まるフェイト。
 ? なぜ固まる?

「フェイトちゃん、可哀想なの……あ、あの、これ、私が集めたジュエルシード、五つしかないんだけど、足りるかなぁ?」

「そ、そんなことが……うう、でもロストロギアをそんなぽんぽんって、なのは!? 何もう渡してるの!?」

「私、フェイトちゃんのために、ジュエルシード探すの! フェイトちゃんには幸せになってもらいたいから!」

「僕は!? 僕の幸せも少しは考えてよぉ!?」

 はっはっは。素敵カオスだな。

「ちなみに嘘だが」

「「嘘なの!?」」

「え? 大体合ってるよ?」

「「「え? 合ってるの?」」」

 ありゃ? 嘘から出た真?
 じゃあ、詳しく……?

「(お~いせっちゃ~ん!! そろそろ戻ってきてぇな~? すずかちゃんとアリサちゃんめっちゃ怖いんやけど~~~?)」

「(あ、ごめん、今戻る)えっと、はやてからのSOSだ。至急戻ろう。女帝と女王がご立腹だと」

 どっちがどっちだかは想像にお任せします。






「よし、全員戻ってきたところで……きりきり吐きなさい。特になのは!」

「にゃあああ!?」

 うん、素で怖いよ女王様。
 とにかく、俺、なのは、フェイトはそれぞれの理由で説明。
 俺はまあ、成り行きで。
 なのはは、ユーノの手伝いの為。
 で、フェイトは……

「母さん、ジュエルシードがどうしても必要だって言ってた。それで、私がこっちに探しに……」

 という話なのだが。

「フェイト? そのお母さんは、ホントにフェイトのお母さんなの?」

「……え?」

 どうも疑問点を拭い切れない。

「フェイトは私たちと違って、最初から魔法使いでしょう? なのに、フェイトのお母さんは、ジュエルシードの危険性を考えてなかった。……いや、危険な物だってのは解ってたはず。なのに、自分の娘をそんな危険な場所に送り出す……私の感性が間違ってるのかもしれないけど、普通の母親は、そんな危ないことさせないよ」

 親のぬくもりを知らない私がそれを言うのは、いろいろ違う気がするが。

「ん~。まあ、そうやな。たしかに、それはおかしいな」

「フェイトちゃんのお母さんは、フェイトちゃんより強いんだから、自分で取りに来てもいいはず……」

「なのにこないってことは……もしかして、病気で動けないとか?」

 あ、それ当たってそう。

「……母さん、もしかして、その病気を治す為に、ジュエルシードを?」

「じゃあ、なおさら、フェイトちゃんのために集めないと。……ユーノ君? ごめん。私、フェイトちゃんの力になりたいんだ」

「なのは……」

 なのはの言葉で涙ぐむフェイト。
 やはり、高町なのははいい子だ。

「……で? お前はどうする? まだ、安っぽい正義感振り回す気か?」

「……僕一人じゃ、ジュエルシードの一つも封印できない。なのはの意見に従うよ」

「上出来だ。何、悪いようにはしないよ」

 深く肩をおろすユーノ。
 そのリアクションはどういう意味か小一時間問い詰めたい。

「……ところで気になってたんだけど、何でせつな、男口調なの?」

「あ、私も気になる」

「ねえ、よかったら話して欲しいな? ……せつなちゃん。お願い」

 げ、また、あの話しなくちゃならんのか?

「せつな、諦めよう。アリサの追及は怖い」

「すずかちゃんも怖いで? 笑ってるようで額に青筋見えよるねん」

 うん、それはわかった。
 後、お前ら二人回れ右。

「「ひぃ!」」

「「だれが、こわいって?」」

 すげえ、怖いから。二人とも。

 で、おとついもフェイトとはやてに話した前世の話。
 話し終えたら……まあ、フェイトがまた涙ぐんでたり、はやてもうつむいてたりするのはまあ、わかる。
 なのは。
 ボロボロ涙こぼして抱きついてきた。
 すずか。
 悲しげな顔で、俯いて……あ、泣き出した。
 アリサ。
 ……あの~、アリサさん? 
 怒りながら涙流すのは、どういうわけなんでしょ?

「し、知らないわよ! ……なんで、どうして、男って、そんな、そんなんばっかり……酷いよぉ!」

 ああ、ああ、ほれ、俺も心は男だが、勘弁してくれ。
 ぐずぐずになってるアリサも抱き寄せ、背中をさすってあやす。
 ……後、は……

「……ちょ、どうしたのこれ?」

「わからん……」

 そこの大人二人、呆然としてないで少しはあやすの手伝ってくれい。





 お茶会はそのまま終わりになり、解散と相成った。
 はやて、なのはは送っていってもらうことになり、アリサは迎えの人が来た。
 何気にアリサもお嬢様だったか?
 ……俺と、フェイトは、一緒に歩いて帰ることにした。

「これで何個になったの? ジュエルシード」

「全部で7つ。……なのはが全部渡してくれたから」

 ……う~ん。このまま、フェイトのお母さんに渡していいものか?
 なんか嫌な予感するんだよな……
 だって、ストライカーズでは、フェイトのファミリーネームにハラオウンとかついてるし。
 ……多分、一期でフェイトのお母さんはいなくなる。
 そうすれば、この子は、きっと、泣くだろう。
 ……それは、嫌だ。

「ねえ、フェイト? ……お願いが、あるんだ」

 きっと、俺は間違ったことをいろいろしようとしてる。
 でも、アニメの流れとかしらないし、本筋なんかもわからない。
 できるかどうかもわからないけど、でも。
 もう、何もできずに、大切な者がなくなるのは嫌だから。

「フェイトの、お母さんに会わせてくれないかな?」

 これは、そのための、第一歩。













 <なのは>

 今日は、いろんなことがあった。
 せつなちゃんが連れてきた、フェイトちゃんとはやてちゃんとお友達になった。
 フェイトちゃんとせつなちゃんが私と同じ魔法使いで、ジュエルシードを集めてることを知った。
 フェイトちゃんとせつなちゃんと一緒に、ジュエルシードを封印した。
 フェイトちゃんのお母さんのために、ジュエルシードをフェイトちゃんに渡した。
 みんなに魔法のことがばれちゃった。
 せつなちゃんの前世の話を聞いた……。
 せつなちゃんが、儚げに、微笑んでくれた……。

「……お兄ちゃん」

「どうした? なのは?」

 お兄ちゃんなら、せつなちゃんの悲しみは、わかるんだろうか?

「もし、もしね? 私が強盗さんに、殺されちゃったら、お兄ちゃんはどうする?」

「……突然だな。何かの小説か?」

「……ううん。違うけど……」

 お兄ちゃんはちょっとうなった挙句。

「多分、その強盗を捕まえて、警察に突き出して、刑を受けてもらう。……模範的な回答かもしれんが、そう答えるしかないな」

 それが、普通なのかな?

「その強盗さんを……殺して、仇討とうとしないの?」

「……どうしたんだ? 本当に、何かあったのか?」

 ……信じてもらえないかもしれないけど。
 そう前置きして、せつなちゃんの話をしてみた。

「……それは……そうだな。それも、一つの答えかもしれん。だけどな、なのは。それはそのときにならないと、わからないんだ。……それにな?」

 お兄ちゃんは笑って。

「そうならないようにするのが、御神の剣だ。……大丈夫だ。お前は、なのはは、俺が守るよ」

 そう言って頭を撫でてくれました。

「でも、どうしたら、せつなちゃんに、ホントに笑ってもらえるんだろう」

「……そうだな……それは、彼女がこの時代で、守りたい事、守りたい者を守りきることができれば、多分」

 ……じゃあ、私は。

「私は、せつなちゃんが悲しい思いをしないように、せつなちゃんを守る」

 多分、それが、正解に近いと、思うから。




『(なのは? ちょっといい?)』

「(ユーノ君?)」

 ユーノ君に呼ばれて、部屋に戻った。

「どうしたの、ユーノ君?」

「ちょっと、せつなさんの事で」

 帰ってきてから、ユーノ君はせつなちゃんの魔法に不審なところを見ていた。
 何か、私たちと違うみたいだった。

「まだよくわからないけど、せつなさん、ひょっとしたら、ロストロギアを持ってるのかもしれない」

 ロストロギアって、ジュエルシードみたいな?

「それとはまた違う系統だと思う。……けど、嫌な予感がするんだ。彼女は……危険だ」

 ……危険? せつなちゃんが?

「ユーノ君……」

「せつなさんに近づくなとは言わないけど、気をつけて。彼女には、何かある」

 わかってる。
 わかってるけど……

「でも、ほっとけないよ……」

 いつか、私たちの側から消えちゃうような。
 そんな女の子だから。








[6790] 4.幸せは儚き少女の為に
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/05/24 19:22
 翌日。学校を終わらせ、すぐに帰る準備をする。
 今日は、フェイトのお母さんに会いにいく日だ。

「あ、せつな? このあと、何か予定あるの?」

「ごめん、お母さん。フェイトの実家に挨拶してくる」

「あ、そう? いってら……て、誰がお母さんよ! 後、実家って!?」

 保護者名乗ったのアリサだろ?
 後、実家といったら一つしかない。

「俺、フェイトと結婚するんだ」

「だぁぁぁぁ! 同性でしょ、同性!」

 ……? だからなに?

「へ?」

「アリサ。魔法使いになると、同性でも結婚オーケーなんだよ?」

「ちょ、マジなのなのは!?」

「知らないよ!?」

「まあ、嘘だし」

「あんたってひとはぁぁぁぁぁぁ!!」

 やあ、楽しいなぁ、アリサは。

「でも、フェイトちゃんの実家って……」

「うん、フェイトのお母さんに会ってくる……真実を確かめたいんだ」

 フェイトの笑顔のために。
 フェイトの未来のために。

「……あの、それ、私も行っていいかな?」

「なのは?」

 ……思いつめたなのはの顔。
 けど、それは……

「それは駄目」

「どうして!?」

「私とフェイトがこっちいないから、ジュエルシードの暴走止められるの、なのはだけだよ?」

 こういうことである。

「あ、そうだった……」

「……なのは、私の帰る場所、守っててくれる?」

「……わかったよ。私、頑張る!」

 ぐっと握ったその手に、俺の手を載せて。

「お願いね、なのは」

 そのほっぺたに軽く口付けた。
 あ、やわらかい。

「に、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「あんたはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「じゃあ、すずか、ネコと女王の相手は任せたよー」

 全てをすずかに投げて、教室を立ち去った。

「え!? ちょ、せつなちゃん酷いよー!!」

 すまんすずか。
 愚痴は後で聞くことにするよ。
 怪獣の叫びとネコの鳴き声と友人の悲鳴を聞きつつ、学校を後にした。



 自分の家で着替えをして、フェイトの部屋へ。
 フェイトとアルフは既にスタンバっている。

「じゃあ、行こうか。バルディッシュ」

『yes sir』

 バルディッシュを振ると、ミッドチルダ式特有の魔方陣が展開され、魔力が流れ出す。

「……せつな。あの鬼婆、怒ると怖いから、気をつけてよ?」

「アルフ……鬼婆って……酷いよ?」

 あはは。
 フェイトは本当にお母さんのことが好きなんだねぇ。

「行くよ」

 視界がひっくり返り、転移が発動したのを感じた。



 ……肉体の感覚が元に戻るのを感じる。
 側に、フェイトがいるのを確認する……?
 あれ? いない?
 てか、ここどこ?

「……お花畑?」

 の割りに、なんか暗い。
 しかも、中央付近になんか円筒形の物がある。
 近寄ってみてみると……

「フェイト?」

 似ているが、背丈が違う。
 ……ああ、胸の大きさも違う。
 ……この円筒形のポッドに入っているのは……
 たぶん。

「フェイトのオリジナル……か」

 そう言えば、あの変態博士は言ってた。
 フェイトが、プロジェクトFで生み出された、人造魔導師だって。
 じゃあ、今のフェイトのお母さんは、フェイトの製作者。
 多分、フェイトは、この子のクローン。
 フェイトのお母さんは、本当は、この子を取り戻したかったんだろう。

「……パラディン。セットアップ」

【get set. ……どうするんですか? マスター?】

「どうにかして、蘇生できないか調べよう。手伝ってくれ。【ブレイブハート】スタンバイ」

【stand by brave-heats set up. ……蘇生ですか。まあ、調べます。ブレイブハート、接続開始。目標の体組織、状況読み取り開始。蘇生式組み込み開始】

 文句いいつつ手伝ってくれるお前が好きだよ。
 ……この間の強制インプットで覚えた術式をフルに使い、彼女を蘇生させる手段を検索する。
 しばらくして。

「……そこにいるのは誰!?」

 誰か来た。
 ノイズ、うるさい黙れ。

「アリシアから離れ……何をしているの?」

 またノイズ。
 表層意識の一部を解放。

「今、この子が蘇生できる術式を、古代ベルカの聖王の魔法から検索してるから、結果が出るまで少し黙ってて」

「古代ベルカ? ……蘇生、できるの?」

「……今、キーワードが出た。少し黙ってて」

 二回言って、しばらく黙ってもらった。
 思考再開。
 聖王の魔法群の中より、蘇生魔法検索終了、該当二件……プログラム解凍。
 現在の目標と術式条件を重ね合わせ……ち、駄目か。
 ……目的修正。
 思考中断。表層意識一部解放。

「なあ、あんた、この子の母親?」

「……え、ええ、そうよ?」

「……すまん、古代ベルカの最大蘇生魔法でも、この子は蘇生できないことがわかった」

「……そう」

「で、別のアプローチをしようと思う。検索中、時間逆行の魔法があった。所謂タイムトラベルだ。それを使って、この遺体と、死ぬ直前の生きた彼女を入れ替えようと思う。……彼女の死因、死亡時間、死亡場所を教えて欲しい」

 言った直後、いきなり雷を冗談じゃなく落とされた。
 電気変換資質の魔法の雷だろう。

「……な、何をする?」

「あなたは……アリシアを、アリシアは、遺体じゃない! まだ、方法はないの!? アリシアを蘇らせる、方法は!?」

 ……そう言われても。

「魂が吹っ飛んで、どこにもいない以上、彼女を蘇生させることはできない。なら、それは遺体だ。……いかな聖王でも、冥府の門は開けられない。代わりに、時間の門は開けられる。……もしかして、病死か? 寿命か? その二つなら、時間逆行しても助けられない。教えて欲しい。彼女を助けるには、それしか方法がない」

「黙れ!」

 黙れ言われても。

「……あなたに頼らなくても……アルハザードに行けば、きっと、アリシアを蘇らせる方法がある、そのためにジュエルシードが必要なのよ!」

 ……ああ、そうなのか。
 この人は、娘の為に危険を犯せる人か。
 ……しかし、蘇生は……

【アルハザード? ……まさか、あの邪教集団の名前ですか?】

 ……まあ、お前は何でもありだと思ったよ。

「知っているの!?」

【ええ、確か、クローン技術をはじめ、超高出力魔力炉とか、魔導兵、ユニゾンデバイス、などなどといった、魔法技術のグレーゾーンを研究する狂科学者の集まりと、記憶しています】

 ずいぶんな所だな。

【私が最終稼動時期に、確か、アルハザードは質量兵器の暴発で、施設内の生物兵器プラントが大破、バイオハザードが起こり、大陸ごと虚数空間に押しやられたとか。最後のマスターがその作戦に参加していました】

「そ、それで! アルハザードにアリシアを蘇らせる技術はあったの!?」

 お母さん、近い近い。
 て、近場で見ると確かにフェイトに似てるような……
 ただ、ちょっとやつれてて怖いよ。

【アルハザードに、そんな技術ないですよ? あったら、邪教なんて呼ばれません。……あなたの言っているのは、おそらく、クローン転写技術でしょう。遺体の細胞片からクローニングして、記憶転写するだけのものです】

「……そ、そんな……」

 がっくり膝をつくお母さん。
 ……まあねぇ? そりゃ落ち込むわ。
 期待してたアルハザードが、そんなところだったとは夢にも思うまい。

【それに、今アルハザードに行っても、バイオハザードの影響で、生きてる人間はすべからく死んでしまいます。虚数空間を抜けても、すぐに死んで、どうやって娘さんを助けるつもりです?】

 うちのパラディンさんマジ容赦ない。

【ですから、マスターの言うとおり、時間逆行に望みを託してみてはいかがでしょう。今、必要魔力を計算しますね~?】

 そして、何でそんなに陽気なんだお前は。

「……あー、その、げ、元気出してください。アリシアさんは、必ず、俺らで助け出しますから」

「……時間逆行は、本当にできるの?」

「大丈夫です。ざっと見、五百年前後なら完璧に時間逆行できますから、安心【あれ?】できねえ様な発言するなお前は!? なんだ一体!」

 人がせっかく説得してるのに!?

【い、いえ、最大魔力値を計算して、何でこんなに低いんでしょう? おかしいな、こんなはずは……ああ、マスターの魔力、歴代のマスターに比べてかなり低いですねぇ。これはマスターだけじゃ時間逆行する前に魔力枯渇で倒れますね】

 てめえ、喧嘩売ってんのか!?

【……仕方ありません。こういうときこそ、ジュエルシードを使いましょう。あれの保有魔力を計算して……十個もあれば、余裕ですね。後、彼女にも声をかければ、完璧です】

 ……彼女って、まさか!?

「夜天の書か!?」

【はい。私のオリジナルとなる彼女の処理能力があれば、かなりの精度で時間逆行できます。確か、近場にあるんでしたよね?】

 だが、今は、改変受けて……

【ですから、修復するんですよ。私には、バックアップデータがあるんですよ?】

 ……そうだけども。

【フェイトさんのお母さん。……見たところ、かなり技術レベルの高い魔導師と見ますが、デバイス開発の経験はありますか?】

「……少しはできるわ」

【なら、夜天の書……今は、闇の書でしたっけ? それの修復を手伝ってください。魔法に触れてまだ三日のマスターだけでは手が足りません。……お願いできますか?】

「……わかったわ。協力する。だから、だからアリシアを……」

【わかってます。……じゃあ、マスター。闇の書とその主を連れてきましょう。で、修復中は、フェイトさんとなのはさんにジュエルシードを集めてもらって……】

「フェイトなら、好きに使って構わないわ。……アリシアが戻るんなら、あの子に用はない」

 ……あ、せっかく助けようとした気が萎えた。

「じゃあ、俺、帰りますね。フェイトはもらっていきます」

「……え?」

【マスター?】

 ふざけんなよ?

「行くぞ、パラディン。戯言は終わりだ。……たとえ自分の腹痛めて産んだ子じゃなくても、自分の娘の血を持つフェイトに優しくしない母親に、情けをかける義理はない」

「え? え? ちょ、ちょっと待ちなさい! さっきまで、あれだけ助けようとしてくれたじゃない。どうして!」

「当たり前だ阿呆」

 追いすがってくる女を突き飛ばす。
 こんな女の為に、俺は、彼女を助けようとしたのか。

「俺は、フェイトの笑顔が見たかったから、手伝っただけだ。……このままやっても、フェイトの笑顔が見れないのなら、手伝う意味がない」

 フェイトだって、この女の笑顔の為に頑張ってるのに。
 それを無碍にする人間に、手をかす義理など、ない。

「……すまんな、失礼する」

「待ちなさい!」

 俺の目の前に雷が降り注ぐ。
 ……後ろを向くと、杖を構えた彼女が、俺を睨んでいた。

「……アリシアを助けなさい。でなければ……」

「殺すか? 俺を。……二度とアリシアと会えなくなるぞ?」

 だが、彼女は、口元をゆがめて。

「ええ、殺すわ……フェイトをね」

 そう、言った。

「……じゃあ、その前に、貴様を殺す」

 彼女は俺に言ってはいけない言葉を言った。
 彼女は、フェイトを殺すと言った。
 なら、その原因は、殺さなければ。
 
「【アロンダイト】スタンバイ」

 さあ、虐殺の時間だ。




 <フェイト>

 庭園の奥から、ものすごい轟音が聞こえた。
 あれは……母さんの魔法?

「ねえ、フェイト……もしかして、せつなが……」

 私の転送ミスで、はぐれてしまったせつな。
 母さんが探してくれるといって、しばらく経つ。
 ひょっとして、せつなと母さんが喧嘩しているのだろうか?
 ……魔法を使って?
 探しに行かないと!

 アルフと二手に分かれ、私は母さんの部屋の近くへ。
 確か、私が近寄ってはいけないブロックがあったはず。
 もしかしたら、せつなはそこに飛ばされたのでは……
 せつな、無事でいて……?

「……え、かさ……」

 ……! この魔力、せつなの!?

「……死ね……な……」

 このドアの向こう!
 扉は自動で開き、中には、ボロボロの花畑。
 その中心で……

「よう、フェイト……」

 ところどころ焦げてるせつなと。

「……な、何しに……来たの……?」

 倒れた母さんがいた。
 ……これは、なに?

「フェイト、今、お前を縛っている鎖、解いてやるから。ちょっとまってろ」

 そう言って、せつなは、手の剣を、振り上げて……!

「バルディッシュ!!」『Blitz Action』

 魔法を使って、母さんの盾になった。
 ……せつなは、剣を途中で止めてくれた。

「どけ、フェイト。そいつ殺せない」

「駄目、駄目だよ……母さんを殺さないで!」

 せつなを見る。
 それは、とても苦しそうな顔で。

「どいてくれ、フェイト。そいつは、お前の母親じゃない……母親が、子供を殺すと言った以上、俺は、そいつを殺さないと……」

 せつな、男の人の口調になってる。
 ……魔法を使ってるからとか、そういうのじゃない。
 多分、前世の記憶……

「……母さんだよ。本当に私の母さんだよ……」

「そいつは、フェイトを殺すと言った。フェイトを死なせたくない」

「それでも! 母さんが死ぬのは嫌だ!」

 ……言い切った。
 涙をボロボロこぼして、泣きながら、せつなを見つめた。
 せつなも、泣いてる。

「……フェイト……」

「かあさん? しっかりして、母さん!」

 魔力ダメージが酷い。せつなと戦ったんだろう。
 ……せつなも、憔悴が激しい。

「……その男の言うとおり、私は……あなたの母親じゃないわ……あなたは……」

 母さんから、拒絶された。
 けど、そんなの関係ない。

「私が何者でも、私の母さんは、母さんだけだよ……死なないで、母さん……」

 なんとか、なんとかしないと。
 ああ、こんなことなら、リニスにちゃんと回復魔法習っておけばよかった。

「フェイト……ごめんなさい……私のフェイト……」

 どうにかならないの? 誰、誰か、母さんを助けて!
 お願い、私の母さんを、助けて……

「……たく、わかればいいんだよ、わかれば」

「……せ、つな……?」

 せつなが母さんの側に座って……手には、十字の杖。確か、魔法行使をするときの杖だ。

「これが、俺が見つけた、蘇生魔法の一つ! 【聖光蘇生】!!」【resurrection】

 せつなの銀色の魔法光が、母さんの傷を癒していく……
 凄い。傷だけでなく、消耗した魔力まで回復していく……!
 しばらくして、母さんの顔に赤みが戻り……光が消えた後、代わりに、せつなが倒れてしまった。

「……ま、魔力エンプティ……もうだめぽ」

 ……魔力切れ? 全部使っちゃったの!?

「……あなた……」

「よう、いい娘じゃないか。……あんた、まだ、フェイトを殺すとか、言い出せるかい?」

「……できるわけないじゃない……」

 母さん……泣いてる。

「じゃあ、フェイト、後は任せた……パラディン、シャットダウン。おやすみ~」

【shat down. ……えと、フェイトさん。マスターをどこか休める場所へ。おそらく、丸一日は寝てるでしょう】

「あ、うん。わかった」

 私だけじゃ無理だから、アルフに手伝ってもらおう。
 念話で呼ぼうと思ったら、母さんがせつなを抱え上げた。

「母さん?」

「……男かと思ったのに、女の子だったのね……?」

 ……まあ、バリアジャケット展開時は、男の子にしか見えないし。
 口調も、男の人のだし。
 
「せつなだったわね? この子は、空いてる部屋に私が運ぶわ……ついてらっしゃい、フェイト」

「……はい!」

 母さんが、母さんが、笑ってくれた。
 私に、笑ってくれた。
 せつなのおかげ……かな?

【本人怒り狂って殴りつけて説教しただけですけどね~?】

 ……母さん相手にそれだけできれば凄いよ……




 



[6790] 5.夜天の主は彼女なのか?
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/02 11:12

 ……はうあ。
 起きたらまたしてもどこだここ?
 
【マスター。起きられましたか?】

「パラディン? ……ここはどこ?」

 とにかく現状把握。

【覚えておられませんか? フェイトさんのお母さんを癒した後、倒れられて……】

 ……そういやそうだった。
 あの人にキレて殴り倒し、殺そうとしたところをフェイトに止められて、最大回復魔法使って、ぶっ倒れたと。
 言葉にすると何をやってるんだ俺は。

「……どれくらい寝てた?」

【二十四時間ぴったりですね。具合はどうですか?】

「……体調はいいけど、最悪。学校行きそびれちゃった」

 一日寝てたってどんだけ~?

「……あ、せつな。起きたの?」

 と、声をかけてくるのは部屋に入ってきたフェイト。
 
「フェイト……あ、あの、フェイトのお母さんは?」

 蘇生魔法は完全に決まったはず。
 あれは体組織に働きかけ、一番ピーク時の状態まで活性化させる魔法で、古代ベルカの奥義の一つ。
 魔力全て持ってかれるのは難点だが、相手のリンカーコアまで修復してしまう超回復魔法だ。
 
「……うん。元気だよ。前より、顔の艶もいいみたい」

「それはよかった……ごめん。フェイトのお母さん、傷つけちゃったね……」

 それに関しては後悔していない。
 あの人はフェイトを殺すと言った。
 なら、俺は殺してでもあの人を止めようと思った。
 ……けど、結果的にフェイトを泣かせたのは事実だ。

「……ううん。いいよ。……せつな、私のために怒ってくれたんだよね? なら、私、せつなを許すよ……」

 きゅっと抱きしめてくれるフェイトの身体。
 うう、暖かいし、いい匂いだし。
 
「フェイト……」

 我慢できないんだよもん。乙女的に。

【はーい、マスター? 欲望全快モードはやめましょうねー? 非生産的ですよー?】

 うぬれこの腐れデバイス。
 俺のどこが百合だ。
 心は男だからモウマンタイ!
 ……いや、問題あるって。

「じゃあ、そろそろ、フェイトのお母さんのところに行こう。……これからの事をどうするか決めないと……」

 アリシアを助ける為、行動を起こすか否か。
 聞くまでもないんだろうけど。




「……いいのかしら? 私に協力して」

 ……明らかに顔色がいいこの母親。
 しかし、俺の提案にちょっと渋り気味。

「えーと、フェイトを娘と認めて、ちゃんとフェイトの母親として振舞ってくれるのを約束してくれたら、私はあなたを手伝います。……親が娘に冷たくするなんて、そんなの、いやですから」

「……ええ、わかったわ。約束する。……アリシアを、お願い」

 契約完了。
 じゃあ、一度海鳴に戻るとしよう。

「……ところで、本当に女の子だったのね? あの時のあなたは別人格か何か?」

「一応、同一存在です。私の精神は基本的に……俺をベースにできている。男性意識と女性意識が混同しているようなものだ。一人称の切り替えで、男女の切り替えができるくらいだから、二重人格って言うほど異常じゃない。……まあ、特殊な性同一性障害だと思えばいい」

 主人格が男だから、何かと男っぽいけどね。

「……大人になったときに苦労しそうね。結婚とか大変でしょう?」

「あ? 男と結婚? するわけないだろ。体は女でも心は男。なら、俺の相手は嫁に決まってる!」

「……フェイトやアリシアに手は出さないでね」

「男に汚されるくらいなら、私が、私がお嫁さんに……」

「あなたにも汚されそうで怖いのよ……」

 あるぇー? なんか間違えた?


 で、フェイトやアルフと一緒に海鳴へ。
 一度、フェイトと別れ、まずははやてちゃんの家に。
 ……で、フェイトの部屋から出ると、

「あ! せつなちゃん!」

「せつなあんた!」

「よかった、せつなちゃん……」

 聖祥三人娘がいましたよ?

「あれ? みんなどうしたの?」

「あんたがまた連絡なしに休むからでしょうが! 何かあったのかと……」

「アリサちゃん、授業中ずっとせつなちゃん心配してたんだよ?」

 あれま。
 顔真っ赤にしてすずかの口を押さえにまわるアリサ。
 うん、ツンデレだ。

「連絡できなくてごめん。フェイトのお母さんと殴り合ってたから」

「殴り合いって!?」

「あ、違うか。……なのは的お話し合い」

「「ああ、なるほど」」

「どうして二人ともそれで納得するの!?」

 抗議しても無駄だなのは。
 お前のお話し合い=喧嘩した後仲直り、は否定できない定義なのですよう。

「……あ、みんな、いらっしゃい」

「フェイトちゃん。こんにちわ! ……あれ? ひょっとして、せつなちゃん、フェイトちゃんとお隣同士?」

「あれ? 言わなかった?」

「聞いてないよ!?」

 そうだっけ……ああ、言ってないわ。
 
「まあ、連絡できなかったのはごめん。……後、これからもちょくちょく学校休むかもしれないけど、それも先にごめん」

「何か、あったの?」

 うむ。いろいろ仕事ができてしまった。

「うん。……それで、なのは。お願いがあるんだけど」

「え? うん。なに?」

「私、しばらくいろいろ動くから、ジュエルシードは全部なのはとフェイトに丸投げにするから。捕獲と封印よろしく」

 正直、ジュエルシードに構ってる余裕がなくなる。
 これは、フェイトにもお願い済みだ。

「……わかったよ。せつなちゃん。私に任せて。ちゃんと、ジュエルシードは集めるから!」

「ありがとう、なのは。……じゃあ、これは先払いで……」

 と、近づいたら、アリサになのはを庇われた。

「……アリサ?」

「またなのはにき、キスするつもりでしょ! そうはさせないんだから、このキス魔!」

 キス魔ときたか。
 そんなつもりはなかったんだが。

「……別に、アリサでもいいんだよ?」

「へ?」

「アリサも可愛いからね~? ……ん」

 ひるんだところを額にチュッとね。

「え、あ、あの?」

「うん、可愛い可愛い」

 沸騰しそうなほど赤い顔のアリサを撫でて、その場から離脱。

「じゃ、ちょっと出かけてくるから、後任せました~」

「て、えええええええ!?」

「……アリサ、いいなぁ」

「フェイトちゃん!? それはいろいろ危ないよ!? 頭撫でてもらうほうだよね!?」

「あ、えっと、あ、あう……」

 相も変わらずカオスを巻き起こし、その場を立ち去る私だった。
 やあ、外道だね。

【マスター。性格悪いです……】




 さて、はやての家に到着。
 ……相変わらず無駄に大きい家だな~? バリアフリーってこんなもんなの?
 てか、こんな家にひとりで暮らさせるなんて、保護者何やってる。

「はーやーてーちゃーん。あーそーびーまーしょー」

 インターホン鳴らして、しばらくすると。

「はーい……せっちゃん? こんな時間にどうしたん?」

「はやてちゃんに魔法をかけに来ました」

「……まあ、入り」

 普通にスルーされました。
 あれ? 機嫌悪い?

「ううん、ちゃうねん。……今日病院でな……せっちゃんの病気、どうやったか聞いたねん」

 え? 私?

「ああ……えっと、どうだったの?」

「どうだったって……自分のことちゃうの?」

「……それが、フェイトやはやてちゃんに会う前日までの記憶が曖昧で……」

 正直、通院してたことすら覚えておりません。

「そうやったんか……あんな? 極度の対人恐怖症で、小学校も飛び飛びしか来てなかったんやって。お医者さんの前でも、身体触れたとたん暴れだして……手のつけられん子やったって、看護士さんゆうてた」

 ……ああ、あの記憶見たら……人間信じられなくなるよな。

「感情を表に出すのもそれだけで……それ以外やと、顔色も変えん、表情も固まったまんま、喋りもせえへん……お人形さんが動いてるようやって……」

 ……そりゃまた。
 人の評価はそんなものか。

「それで、あたしおもたんやけど、それって、やっぱり、あたしが、せっちゃん嘘つき呼ばわりしてもたからやろかって……もし、信じてあげられたら、せっちゃん、そんなんならんかったんやろかおもて……」

「それは考えすぎだよ」

 その思いを切って捨てる。
 それは思い過ごしだ。

「……あのな、はやて。俺は、せつなが不意に見てしまった俺の記憶が元で、そうなったと思ってる。……四つの少女に、あの光景は……ショックを通り越して、絶望を植え付ける。今のはやてにだって見てもらいたくない光景だ。……それを、俺の感情付きで、理解して、見てしまった。……人間嫌いになって当然だ」

 そして、俺は覚えている。
 強盗たちを、殴り殺した感覚。
 大切な者たちを殺した奴が、命乞いをする声。
 その顔に、硬い椅子を叩きつけた感触。骨が砕ける音。
 その全てを、覚えている。

「だから、はやてが気に病む必要はないよ。……それにね?」

 今度は私の感覚で。

「たとえ昔はそうだったけど、今、はやてちゃんの前にいる私は、ちゃんと笑ってられるよね?」

「……せやけど、絶対、無理しとるやん、自分……」

 ? そうなのかな?
 よくわからないけど。

「多分、無理していないよ。……私は、私の意識で、笑ってられる。だから、大丈夫だよ」

 そう言って、笑った……と思う。
 そんなに、無理してるのか、わからないけど。
 今は、これでいい。

「……しゃあないな、自分。わかったよ。あたし、せっちゃんのお姉さんやから、せっちゃんの無理、少しでも減らしたる。せっちゃんが本当に、笑えるようになるまで、側にいたる。……それくらい、やってもかまへんよな……?」

 決意した目で、私を見つめる。
 ……はやてちゃんがそれで納得してくれるなら、存分に甘えよう。
 それが多分、正しいと思うから。





【あ、それです、それ!】

 パラディンに言われ、はやてちゃんの部屋の本棚から、パラディンと同じ模様の本を取り出す。
 表紙に剣十字、鎖につながれた、黒い本。
 闇の書。

「これが、どないしたん? ……なんか、パラディンとよう似とるな」

「パラディンに似ているんじゃなくて、こっちがオリジナル。……どう?」

【……夜天……酷い姿になって……】

 いや、外見上じゃぜんぜんわからんが。
 内面は酷いのだろうか?

【起動に魔力が足りませんね……管理者権限は……はやてさんですね】

「あたし? ……じゃあ、あたしも魔法使いになれるん?」

「今は、魔力が足りてないから、起動できないんだ……叩き起こす?」

 魔力をぶち込むという意味で。

【そうですね。マスターの魔力を流しましょう。……はやてさん、いいですね?】

「ええよ。あたしにできることは、何でもするで」

【ではマスター】

「うん。パラディン、セットアップ」

【get set. リンカーコア接続完了。夜天の書、管制人格にバイパス接続。魔力供給開始】

 とたん、ガクッとひざが崩れた。

「せっちゃん!」

「大丈夫だ。……流石にきついなこりゃ」

 だんだん力抜けていく。
 献血で血を抜かれているようだ。
 必死でコアに魔力を集めているが……全部持ってかれる……!

【……! 起動規定値達成! バイパス閉鎖! 起動します!】

 闇の書が浮かび、鎖がはじけ、ページがめくられる。
 はやてが一瞬胸を押さえ、本から光があふれ……

【Anfang】

 気がつくと、はやての前に四人の人影がひざまづいていた。

「闇の書の起動を確認しました」

 ピンクのポニーテール。端正な顔の女性……その胸に破壊力を感じます。

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」

 金髪ショート。柔らかい表情の女性。やはり胸に目が行くのは男性意識のサガか?

「夜天の主の元に集いし雲」

 青髪短髪犬耳の男性。……犬耳? よく見れば犬尻尾まで……マニアックな。

「ヴォルケンリッター。何なりとご命令を」

 赤毛のおさげ。アン? でも、俺らと同じような体型。

 彼女らが守護騎士、ヴォルケンリッター。
 はやての……家族。

 これで、家族いないの俺だけになっちゃったな。て、感想は胸にしまっておいた。

【……やはり、やはりシグナム。シャマルにヴィータ……ザフィーラまで……】

「!? ……お前は……」

 パラディンの声に反応するポニーさん。
 て、俺を睨みつけ……じゃなく、なんかまぶしそう?

「ああーーーーーーー!! シルビア! シルビアじゃねぇか!」

 と、ちっこい子が俺につかみかかってくる。
 けど、シルビアって誰?

「シルビアちゃんがどうしてここに?」

 怪訝顔の金髪さん。
 だから誰だというのだ。

「……うむ、久しいな。シルビア」

 頭を撫でるな犬男。
 男に撫でられても嬉しくないわい。

【久しぶりですね皆さん。ですが、今あなた達が見ているのは、私のマスターです。……後、はやてさん気絶してますよ、マスター?】

 は、はやて!?
 向くと、車椅子に乗ったまま、くてんと俯いてるはやてちゃん。
 ……いろいろと限界だったか。

「……あーと、ザフィーラだったか? 手伝ってくれ。はやてをベッドに運ぶ」

「承知した……しかし、よく似ている……」

「シルビアって、パラディンのことだよな? ……そんなに似てるのか?」

【……えっと、似てますね……性格はともかく】

 俺はお前ほど陽気じゃないしな。


 はやてをベッドに寝かせ、黒いボディスーツの四人には居間で待ってもらう。
 台所で人数分のお茶を入れて、居間に入ると……

「「「「……」」」」

 四人して驚きの表情で見られた。

「……えっと、私に何かついてますか?」

「……い、いや、すまん。……本当にシルビアじゃないのか?」

【残念ながら、私はこっちです。私はこんなむっつりじゃありません】

「誰がむっつりか。……えっと、永遠せつなです。どうぞよろしく」

 お茶を配って自己紹介。
 パラディンはちゃぶ台に置く。

「ああ、私はシグナム。ヴォルケンリッターの将だ」

「泉の騎士、シャマルです」

「ヴィータだ。よろしくな」

「私はザフィーラ。守護獣だ」

 それぞれから紹介され、顔と名前を一致させていく……よし、一致した。

「まず最初に、闇の書を起動させたのははやて……あなた達の主ではなく、私の魔力で無理矢理起動させましたことをお詫びします」

「お前の? それはどうして?」

 シグナムに聞かれ、まずは第一目標を伝える。

「闇の書の修復が目的です。……皆さん、夜天の書に覚えはありますか?」

「……夜天? ……記憶にはないが……何か引っかかるな……」

「シグナムもか? あたしも、どっかで聞いたことあるんだけどな……」

 考え込む騎士たち。
 ……あれ?

「パラディン? 彼女たちが生きていた時代に、夜天の書は存在してたの?」

【……いえ、夜天の書が完成したのはヴォルケンリッターが全滅したあとでしたから……それに、確かに彼女たちの人格データは聖王神殿に保管されていましたから、多分夜天の書が改変していく際に、彼女たちの人格データが使われたのでしょう。……シグナム。あなたが最後に倒れた記憶は覚えてますか? バージニア前線の離脱戦です】

「……すまん。私の記憶領域に、古代ベルカの時代のものはほとんど残っていない。……だが、お前のことは、覚えている。同じ、ベルカの騎士、聖王の騎士。……肩を並べ、戦った記憶は、いまだ残っている」

【シグナム……嬉しい限りです。そして私は悔しい。もうあなたのその豊満なものを揉めないなんて……】

「……そこは相変わらずだな……」

 くおら、腐れデバイス。
 人の事言えないじゃないか。

【じゃあ、マスターはあの胸を見て、黙ってられますか!? 私なんて、二十歳を過ぎてもペッタンコのまま……ええい、羨ましい!】

「……その、わが同胞がすまん……」

「いえ、お気になさらず……おら。そろそろ本題はいるぞ」

 脱線しまくりである。

【こほん、失礼しました。それで、その闇の書はもともと夜天の書と呼ばれていたものです。私は、夜天の書の拡張デバイスとして生まれ、聖王の騎士シルビアの人格データを使って管制人格とされている騎士王の書。……それゆえ、夜天の書のバックアップデータを持っています】

「つまり、闇の書を修復して、夜天の書にリファインすると、シルビアちゃんは言うのね?」

【理解が早くて助かります。シャマル。あなた方の主には、既に了解を取ってあります】

「ちょ、ちょっと待てよ! 闇の書のままじゃ駄目なのかよ!」

 と、ヴィータが割ってはいる。

「あたしらは闇の書の守護騎士だぞ? もし、夜天の書に戻って……あたしらはどうなるんだ!?」

【……それは、調べてみないことにはわかりません。ですけど、今の闇の書の欠陥は、はやてさんにとってマイナスになります】

「それは、どういうことだ?」

【闇の書が、主の魔力を強制的に吸い続けています。このままだと、近いうちに、はやてさんは死んでしまいます】

 ……そうか、それで……

「じゃあ、闇の書を完成させれば、問題ねえだろ!」

「完成させて、はやてちゃんを破壊神にするの……?」

「……永遠?」

 そこは知っている。
 確か、闇の書が完成すると、その管制人格に取り込まれ、破壊を始める。
 そのまま止めても、はやては死ぬ。
 破壊を許しても、最終的には自滅して、はやては死ぬ。
 かといって完成させなくても……はやては死ぬ

「完成させても、させなくても、はやてが死ぬんなら、そんなシステム、俺が破壊する。そのための剣を、俺は持ってる。……俺は、闇の書を修復させ、夜天の書を復活させることを提案する。邪魔するやつは表に出ろ! はやての敵とみなし、ここで切り捨てる!」

 彼女は俺の姉だといってくれた。
 俺の姉妹だといってくれた。
 そして、俺の大切な友達だ。
 なら、やることは一つ。

「俺ははやてを守る騎士だ! はやての死を願うやつは、この俺が切る! 文句があるなら、表に出ろ!」

「……てめぇ……」

「てめえじゃない。俺はせつな。永遠せつな。古代ベルカの業を受け継ぐ、ベルカの……騎士だ!」

 それが、それだけが、今の、俺の、真実。

「……せめて、それは男の子に言ってほしかったなー」

 と、台無しにしてくれる子ダヌキ一匹。

「はやてちゃん。私が騎士じゃ駄目……?」

「う! 上目遣いに涙目なんて高等スキルを瞬時に……やっぱせっちゃんは侮れんなぁ……」

「……主」

 車椅子のはやてを押し、ヴォルケンズの前に止める。

「立ち聞きごめんな? けど、今闇の書の状態は、せっちゃんに聞いた。……病気なら、なおさなならん。私の足と同じや」

「……なら、主は……」

「闇の書、いや、夜天の書の主、八神はやてとして、私の騎士たちにお願いや。闇の書の修復に、力を貸して。そして、せっちゃんに、力を貸して? それが、あたしからのお願いや」

 ……毅然とした態度で、騎士たちに宣言する彼女は、正しく、夜天の王。
 騎士たちは再びひざまづき、

「我らヴォルケンリッター。主の御心のままに、力をお貸しします」

 と、王に従った。

 ……どうでもいいけど、はやても結構漢らしいよね?
 発言とか。







[6790] 6.オリエンタルスターフライト・前編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/06 17:21

 <なのは>

 翌日。せつなちゃんは学校に来ませんでした。
 今日はちゃんと連絡があり、『保護責任者との面会』とかで、しばらく学校にこれないと連絡したみたい。
 もちろん、フェイトちゃんに確認を取ったところ、フェイトちゃんのお母さんと一緒に、はやてちゃんのデバイスを直してるって言ってました。
 直ったら、はやてちゃんも魔法使いになるのかな?
 とにかく、その話をアリサちゃんとすずかちゃんにして、怒りを抑えてもらった。
 せつなちゃんが話せるようになってから、みんな彼女の行動に一喜一憂だ。私も含めて。
 
 その日から三日後。私とユーノ君でジュエルシードを追っていたときの事。

「なのは! バインド!」

「うん、レイジングハート!」『Restrict Lock』

 蜘蛛に取り憑いたジュエルシードを捕縛して、攻撃魔法で、弱らせる。
 いつもやってたことなんだけど。

「バインドが!」

 バインドを引きちぎって、蜘蛛の足が私に向かって振り下ろされる。

「なのは!」

 ……プロテクションが間に合わない。
 ああ、これはまずいな……そう思ったとき。

「ラケーテン、ハンマァァァァァ!!」

 何かがはじける音で、目を見開いた。
 そこには、真っ赤なゴシックロリータのドレスを着て、煙が吹き出るハンマーを携えた、

「……大丈夫かよ? ぼうっとしてんじゃねえぞ?」

 ……とっても口の悪い女の子が、空中に立ってたの。

 ……せつなちゃんを思い出したのは秘密だよ?




 <せつな>

「ナイス! ヴィータ! 後は任せろ!」

「おう! 一発かましてやれ!」

 騎士弓フェイルノートのカートリッジをロード。
 スライド音と共に、薬莢が飛び出す。

「行くぜ。【旋爪一射】!」【spiral canon】

 魔力の矢が螺旋状に回りながら飛び、対象の蜘蛛を抉った。
 同時に魔力が霧散し、ジュエルシードの暴走を止めた。

「……なるほど、シルビアの業を受け継いだか」

 後ろから声をかけてきたのはシグナム。
 ……なのはは無事みたいだな。

「まあ、ほとんど丸覚えなんで、上手く使えてるかどうか」

「いや、的確だ。自信を持っていい」

 ……褒められてしまった。
 いや、ちょっと照れる。

「とにかく、封印はなのはがしてくれたみたいだから、下に降りよう。紹介する」

「わかった」

 なのはとヴィータが待つ地上に降りる。
 
「せつなちゃん!」

「よう。危なかったな」

「……う、うん。この子のお陰で助かったよ」

 この子って……プログラムだから年齢はないにしても、その子お前より年上だからな~?

「じゃあ、紹介する。俺の友人の高町なのは。ミッドチルダ式の魔導師だ」

「あ、はじめまして、高町なのはです」

 ぺこりと頭を下げるなのは。
 そこに、

「なのは、大丈夫?」

 がさごそと近寄ってくるユーノ。

「守護獣か?」

「いや。一応彼も魔導師。ユーノ・スクライア」

「はじめまして」

 獣の姿で器用にお辞儀するユーノ。
 ……いかんいかん、プリチーだと思ってしまった。不覚。

「で、こっちははやての守護騎士、ヴィータとシグナム。ベルカ式の騎士だ」

「ヴォルケンリッターの烈火の将、シグナムだ」

「同じく、紅の鉄騎、ヴィータ。よろしくな、高町……な、な、なんとか?」

「なのはだよ! な・の・は!」

「な、なにょ、なにょは?」

「のだ、の」

「だぁぁぁ! 呼びづれぇ!」

「逆ギレ!?」

 それはやるのね君ら。

「とにかく、二人は今日からジュエルシード探索に加わってもらう。住居は俺の部屋使ってもらうから、もし、手強いのがいたら、二人に声掛けてみてくれ」

「え……うん! よろしくおねがいします!」

「ああ、力になろう。高町」

「へっ! あんなの、あたし一人で十分だ!」

「……まあ、仲良くな」

 で、もう一つの用事を済ませよう。

「それで、今日までに何個集まった?」

「えっと、私が二個、フェイトちゃんが三個だよ」

「そっか。これで予定分は上回ったな」

 俺の台詞に、ユーノが反応した。

「……せつな、ジュエルシードを使って何するつもりなの?」

「……気になるか? 大丈夫、悪いことには使うつもりはない」

 と、ぼかしてみるけど、ユーノの疑念の顔は晴れないようだ。
 ……フェレットの表情じゃよくわからんが、多分そんな感じ。

「あー、とな。具体的に言うと、時空の穴を開けて、昔と今をつなげて、生者と死者を入れ替えるんだ」

「……じ、時間逆行をしようというの!?」

「じかんぎゃっこう?」

 なのははわかってないみたいだな。
 首を傾げる姿がプリティ。

「ようは、タイムトラベルで過去に行って、死ぬ直前の人を連れてきて、死んだ後の遺体を置いてくるってことだ」

「なるほど、それならわかりやすいって、えええええええええ!?」

 叫ぶな。

「そ、そんなことができるの!?」

「使って成功した例はある。あまりの魔力使用量だから、過去一回しか使われてないが、ジュエルシードがあれば大丈夫だ」

 次元震を単体で起こす事ができる物だし。
 そういった次元系の魔法との相性もいいだろう。
 
「じゃあ、なのは、ジュエルシードを」

「う、うん。レイジングハート」

『put out』

 レイジングハートのコアからジュエルシードが二個、浮かび上がる。
 で、今、手に入れたもので、三個。

「じゃあ、俺たちは家に戻るよ。なのは、気をつけて帰れよ?」

「うん。……せつなちゃん」

 呼び止められる。
 ……なのはは、不安そうな顔だ。

「大丈夫……? 何か、無理……してない?」

 ……なのはに気付かれるほど無理してるように見えるのか、俺は。

「……あはは、実はしてる」

「ちゃんと休まないと駄目だよ? ……せつなちゃんが、倒れたら、いやだよ……」

 心配してくれてるのか。
 ……ありがたいことだ。

「ありがとう、なのは。けど、私、早く、フェイトや、フェイトのお母さん……プレシアさんって言うんだけど、二人が幸せになってもらえるように、頑張りたいんだ。それに、はやても。……連休前には、片つけるから、連休になったら、思いっきり遊ぼう?」

 なのはの手を握る。
 これは、誰にも譲れない、私の願い。
 
「……すずかちゃんがね? 連休、みんなで温泉行こうって、言ってたの。……その時に、フェイトちゃんの家族、はやてちゃんの守護騎士さん達、後、せつなちゃん。……みんなで、行けるよね?」

 ……連休までに、ホントに片つけなくてはいけなくなったか。
 
「うん。みんなで行こう。すずかに、伝言しておいて? フェイトの家族がフェイト入れて四人。はやての家族がはやて入れて六人。……後、私。全部で十一人分、部屋の用意お願いって。……私、いっぱい頑張るから」

 みんなで、温泉だ。
 楽しくなるのは、目に見えてる。

「……うん。伝えるよ。……頑張ってね! 私も、頑張る!」

「うん。任せて。……私は、頑張るよ」

 なのはの身体をきゅっと抱きしめて、その体温を確かめる。
 しばらく堪能して、魔力の翼で、空に飛ぶ。
 
「……じゃあ、また。終わったら、連絡するよ」

「うん。待ってるから! またね!」

 そのままエンディングに持って行きそうな会話をして、シグナムたちを連れ、自分の家に。
 ……後、二人に温泉について聞かれた。
 シグナムが心持ち楽しみにしていたのは、内緒だ。

 ……まず、自宅に帰還。二人に部屋の説明。
 食事は……しばらく、出前を取ってもらうことに。
 うう、すまん。流石に食事を作りに庭園往復するのは辛いんだよ……
 一通り説明し終わったところで、部屋にチャイムの音が鳴る。
 フェイトかな?

「はい?」

 玄関開けたら……

「あ、せつなちゃん。お久しぶり。元気そうね?」

 ……翡翠の髪のどっかの提督さんがいましたよ?
 あれ? あれ? あれ?
 ……私、この人、知ってる?
 ……あ、会ったことある。
 お父さんの、上司の人。
 グレアムおじさんの代理で、お父さんの死を教えてくれた人。
私の保護監督者。
 名前は……

「り、リンディ……さん?」

「……お医者様から聞いてたけど、本当に喋れる様になったのね? 嬉しいわ。ねえ、今からあが」

「あ、ちょっとごめんなさい」

 相手の言葉を遮って、玄関を閉めた。当然鍵とチェーンをかける。
 ドアの向こうで抗議の声が聞こえるが、知ったことか!
 何で今この人が来るんだよ!
 まずいだろ、確か!?

「二人とも! すぐにベランダから出て、左の部屋に! 急げ!」

 ダイニングで寛いでた二人に退避を促す。
 すぐにフェイトに念話。

「(フェイト! 今から二人そっちによこす! しばらく匿ってやってくれ!)」

「どうした!」

『(え? せつな? どうしたの? いきなり……)』

「(時空管理局だ! 俺の保護責任者、時空管理局の提督さんだったんだよ!)管理局の提督が来てる。流石に、今お前たちがばれるとやばい。なんとか誤魔化すから、隣に避難してくれ。プレシアさんの娘がいるし、今説明した」

「わかった。ヴィータ」 
 
「おう。……大丈夫だよな?」

「任せろ(今そっちに行く。ベランダからだ。誘導よろしく)」

『(わかったよ。気をつけて)』

 へ、平行思念会話、疲れるんだよもん。
 二人がベランダ出るのを確認してから、玄関にとって返す。
 深呼吸して、鍵とチェーンロックをはずし、玄関を開ける。

「……せつなちゃん?」

 さっきと比べて、額に青筋の立てたご婦人がいましたよ?

「ごめんなさい! ……さっきまで友達来てて、凄く散らかってたから、急いで片付けてて……」

「……まあ、いいわ。もう、上がっていいかしら?」

 よし、不審に思われてない……いや、油断するな。
 相手はあのリンディさんだ。
 確か聞いたことあるぞ。
 未来のエース三人を引き抜いたのは、リンディさんの手腕によるものだって。
 油断して、穴を突かれたら……やられる!

「どうぞ。……急いで片付けたから、ちょっと、汚いかもしれませんけど……」

「あ、気にしないで? ……あなたに友達ができたなんて、私嬉しいわ」

 ……うう、母親気取りしないでください。

「座っててください。お茶入れます」

 フェイトたち、大丈夫だよな……?




 <フェイト>

「ふたりとも、こっちです」

 できるだけ外に声が漏れないように、ベランダの二人に声をかける。
 二人は強化魔法も使わず、ベランダを塞ぐ衝立をかわしてこちらの部屋に入ってきた。

「すまない。……フェイト・テスタロッサだな?」

「はい。……あなたは?」

「ああ、烈火の将シグナム。主はやての守護騎士だ。こっちは仲間のヴィータ」

「紅の鉄騎、ヴィータだ。……本当は、後でせつなが紹介する予定だったんだけど……」

「ええ、聞きました……管理局ですね?」

 時空管理局。
 次元世界を飛び回り、次元犯罪者やロストロギアを取り締まる、一種の警察機構。
 ……後、私のように、管理外世界で魔法を行使する違法な魔導師も。

「すまん。私たちは事情により、管理局に見つかるわけにはいかない。しばらく匿ってほしい」

「それは、私も同じですから。……あとは、せつなですね」

「せつな、管理局の魔導師だったのか?」

 ……それはない。

「せつなの保護責任者が、管理局の人らしいです」

「……そうか。……しかし、何故あいつは今日その保護者がここに来ることを知らなかったんだ?」

 ……それは、多分。

「多分、せつな、保護者の存在も、知らなかったんだと思います。……せつな、ちょっと前まで、心を閉ざして、周りを見ず、ただ、生きてるだけの子だったそうですから」

 なのはに聞いた。
 私と出会う前は、何を話しても、何も返してくれず、笑いかけても、顔色を変えず、まるで、人形のように生きていたと。
 今せつなは、笑ってくれる。話してくれる。
 ……でもどこか、無理をしてるみたいで……

「でも、それなら逆におかしいぜ? 何であいつ、そのいるかどうか知らない保護者を、管理局だって断定できたんだ?」

「……確かに、それはおかしいな」

 あ、それなら説明ができる。

「せつなのお父さん、魔導師だったそうです。せつなも検査したって言ってましたから、それで見当をつけたんだと」

「……なるほど、それなら納得はいく」

 ……せつな、大丈夫かな……?



[6790] 6.オリエンタルスターフライト・後編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/06 17:26

 <せつな>

 は!? フェイトが心配している! ……ような気がする。
 さて、一体なんの用なのでしょうか。この人妻。

「それで、せつなちゃん。……最近、学校行ってないそうね?」

 ……そ、そうきたか……

「えっと、体の調子が悪くて……」

「嘘言ってもだめよ。あなた、保護責任者と面会するって休んでるそうじゃない? 先生から確認の電話が来たわよ?」

 おう、バレテーラ。
 ……そうだよな、普通するよな。

「……ねえ、せつなちゃん。あなた、学校で、苛められてる?」

「それはありません」

 斬艦刀一文字切り。我に断てぬ物なし。
 
「じゃあどうして? ……まさかと思うけど、悪い友達と付き合ってるとか?」

「それもありません。私の友達に、悪い人は一人としていません」

 竜王破山剣。我に敵なし。

「……せつなちゃん。訳を話して欲しいの。私は、あなたのお父さんから、あなたを預かってる。……せつなちゃんが、悪い道に走るのを止めなくちゃいけないの。どうして、学校に行かないのか、私に話して欲しいの」

 ……その台詞に、カチンと来た。
 この人は、なにを言っているのか。
 ……非常にむかついた。
 俺ではなく、私が。

「……嫌です。あなたに、話す理由がありません」

「! せ、せつなちゃん?」

 ……これは、あくまで、私の言葉だ。

「今更来て、保護者顔しないでください。私が辛い時、悲しい時、お父さんも、あなたもいなかった。私が人形同然の生き方をしてても、お父さんは私の側にいなかった。お父さんが死んでも、あなたも、叔父さんも、側にいなかった!」

 それなのに、今更来て、保護者を名乗るとは。
 子供を馬鹿にするのも、いい加減にして欲しい。

「……そう、そうね。ごめんなさい。でも、わかって欲しいの。私には、やらなければならないことがある。あなただけに構ってる事は、できなかったの……ごめんなさい」

「……うん、それは理解してます。管理局員なら、私なんかに構っていられないですから」

「!? ……知っていたの?」

「お父さんから聞いています。私は、資質がないから、ここで暮らすのが一番だって聞きました。……けど」

 でも、私は。
 幼い私は。

「世界の平和より、次元世界の災害より、私の孤独を救って欲しかった! 私の悲しみを、絶望を、救って欲しかった!」

 ……私は、一人ぼっちだから。
 私は、人形だったから。

「……これは、私の叶えられなかった我侭。……だから、私は、私の我侭は、私自身で叶える。私の道を、人にとやかく言われる筋合いはない! 特に、あなたには!」

 これは、決別。
 過去との決別。
 生きているだけだった、私の、決別。

「……わかりました。……あなたを放って置いた。それに関しては私に責任があるわ。……ここから先、あなたが決めたことに、あなたが責任を背負わなければならなくなる。……それは、理解しているの?」

「一人で生きてきた私が、理解できないと思っていたら、大間違いです」

 ……中身、これでも成人済ました男ですから。
 責任の在り処ぐらい、わかってらい。
 けど、な、一つ突っ込ませてもらうけど。

「知ってます? 保護責任者が不在で、子供を放置すると、育児監督放棄で処罰されることもあるんですよ?」

「……そうね。私も、私にも、責任は既に圧し掛かってるのね?」

 たりめーだ。
 放置した分はちゃんと背負いやがれ、自称保護者。

「……わかってくれたら、今日は帰ってください」

「……明日から、学校、ちゃんとでてくれる?」

「それは、できません」

 今日すぐに庭園戻って夜天の後詰めしなくちゃならんのだ。
 のんびり登校してられるか。
 なのはたちには悪いけど。
 ……後でアリサたちに電話しとこう。

「……わかったわ。……はあ、クロノといい、あなたといい、どうして私の子供はこうひねくれて育つのかしら?」

 うっわ、気付いてねえの?
 意外と、天然か、それとも仕事以外はポンコツか?
 
「……とりあえず、放置してて懐いてくれっていうのは、無理だと思いますよ? 後……」

 これだけは言っとかないと。
 勘違いされても困る。

「私は、あなたの子供じゃありませんから」

 突き穿つ死翔の槍。その心臓貰い受ける。

「……もう、リンディさん泣いていいかしら?」

「少なくとも、私の入れたお茶に砂糖を何杯も入れる人を母と呼びたくありません」

 もうやめて! リンディさんのLPはゼロよ! HA☆NA☆SE!

 ……流石にやりすぎたか。
 さよならと言った後、とぼとぼ帰っていくその背中には、ものすごい哀愁が漂っていた。
 ……あえて言わせてもらうなら。

「……ちょっともったいなかったかな」

 あの人に甘えるのも、よかったかもしれないけど。
 少なくとも、リンディさんとプレシアさん、選ぶのならプレシアさんを母と呼びたい今日この頃。
 フェイトもアリシアも恵まれてるなぁ。

  
 しばらく時間を置いてから、フェイトの部屋に。

「せつな! 大丈夫? 管理局の人は?」

「大丈夫、帰ってもらったよ……ごめん、迷惑かけた」

「迷惑なんかじゃないよ。……頼ってくれて、嬉しかった」

 ああ、やっぱりフェイトは癒される。
 こう、抱きしめてキューとして、そのままお持ち帰りコースで。

「せつな。目がやばいぞ?」

 そこはツッコムなヴィータ。

「……ごほん。で、紹介は済ませた?」

「ああ。……その、せつな。ご苦労」

「いえいえ……ちょっと、疲れました」

「あたしたちの事、ばれてなかったか? 後、せつなも」

 ん? そう言えば、そこはぜんぜん突っ込まなかったな。

「よゆー。……だと思う。けど、これから、家への訪問率が上がるかも」

 やばい、俺の部屋つかえなくなっちゃった。

「それなら、私の部屋つかって? 空いてる部屋が一つあるから」

「助かる、テスタロッサ」

「ありがとな、フェイト」

 うう、本当にご迷惑をかけます。

「私の部屋から布団とか持っていっていいから。……しばらく窮屈にさせるけど、ごめん」

「気にしないで。仕方ないよ。……でも、どうして今更、訪ねて来たのかな?」

 思いっきり俺のせいです。

「私、学校休む言い訳に、保護者使ったから、学校から連絡行ったみたい。……まったく、今更来て保護者面すんなよなっての」

 あ、地が出ちゃった。

「……せつな、無理してない?」

 また言われたし。

「フェイト、私、そんなにやつれてる?」

「やつれてはいないけど……心配だよ」

 ……ああ、もう、なのはもフェイトも、いい子だよ本当に。

「大丈夫だよ。私、嬉しいんだよ? 私が頑張れば、フェイトも、プレシアさんも、はやても幸せにできるんだ。だから、多少無理しても、頑張る。……これが終われば、ゆっくり休むから、心配しないで」

「……うん。本当は、せつなに無理して欲しくないんだけど、止めても駄目なんだね?」

 ……止めても、駄目だろう。
 むしろ、止まらない。止められない。

「なら、私は、せつなが頑張れるように、私自身も頑張るよ。……せつなの帰るところ、守るから。だから……頑張ってね」

「うん。……ありがとう。フェイト」

 なのはにしたように、きゅっとフェイトを抱きしめる。
 ……ああ、キス魔のほかに抱き魔の称号も追加されそうだよ。

「……名残惜しいけど、今日はこれで。シグナム、ヴィータ、なのはとフェイトをお願い」

「ああ、主を頼む。そして、闇の書も」

「いいか! はやてを幸せにしないと、ゆるさねぇからな!」

「……わかってる。あ、フェイト。ジュエルシードを」

「うん。……バルディッシュ?」

『put out』

 フェイトからジュエルシードを受け取り、これで六個。
 庭園にある七個と合わせ、全部で十三個。
 これだけあれば、充分だ。

「それじゃ、終わったら連絡するね?」

「頑張って、せつな」

 フェイトの声を背に、時空転移を開始する。
 まずは……



「……うん。そう。……もうすぐ終わるから、心配しないで? ……ありがとう。じゃあ、また。うん、じゃあね?」

 ガチャンと受話器を置く。
 現在海鳴駅前。
 アリサとすずかに電話をして、ようやく終わったところ。
 さて、庭園に飛びますか。

「……あれあれ~? お嬢ちゃん一人~?」

「子供がこんな時間にこんな場所いちゃいけないな~おにいちゃんが家に連れてってあげようか~?」

「家って誰の家だよ? まあいいや。悪いこはお仕置きされちゃうぞ?」

 ……どこにでもいるんだな。こんな馬鹿な人間。
 まさか、海鳴で見かけるとは思わなかった。

「……急いでるので失礼します」

 無視するのが吉。
 今日はパラディン持って来てないし。
 戦闘用のアームド三つしか持って来てない。
 ……流石に、スタンバイ時での身体強化はできない。

「まあまあ、逃げんなよ」

 肩をつかまれた。
 突如、襲い来る嫌悪感。
 ……これは、私の感覚だ。

「損はさせねえぇからよ。ちょっとだけ付き合えよ」

 この後の展開を想像し、湧き出る怒り。
 これは、俺の感覚。

「へへ、ふるえちゃってかわぃぃねぇ」

 ……私の、俺の、感覚が一つになり。
 生まれるのは、

「ねえ、お兄さんたち」

 明確な。

「……死にたい?」

 殺意。



「そこまでだ。……せつなちゃん。大丈夫か?」

 誰かに止められた。
 じゃなく、誰かが割って入った。
 ……なのはのお兄さんだ。

「子供に絡むとは、それでも大人のすることか?」

「……お、おい」

「ああ、わかったよ、悪かったよ」

「行こうぜ……」

 分が悪いと見たか、三人ともそそくさと立ち去っていく。
 ……たすかった。
 私も、……あの三人も。

「……こんな時間に、ここにいると危ないぞ。家まで送るか?」

「すぐに帰りますから」

 まだ、心臓が高鳴っている。
 神経が高ぶっている
 ……俺は今、何を考えていた?
 
「……せつなちゃん。君、今、あの三人を……」

 ……確か、なのはのお兄さんは、剣術をやってて、結構強いはず。
 なら、私の殺気に気付いたかも。

「……はい、殺そうとしてました……ああいう手合い、苦手なんです。昔見た夢を思い出しちゃって……」

「……君の事は、なのはから聞いている」

 ……なのは、結構おしゃべりだなぁ。
 まあ、なのは家族好きだし。
 
「なのは、私の戯言で、悲しんでませんでしたか?」

「……君はなのはに嘘を言ったのかい?」

「私の戯言は、私の真実ですけど、他人には、嘘ととられる場合が多いですから」

 その第一号が今は信じているのが、ちょっと皮肉だが。

「……正直、俺も、夢物語だと思っていたが……さっきので考えが変わったよ。あれは、本当の話だね?」

「私の真実ですから」

 やっぱり、気付いてたか。

「……だけど、今の行動は、君の本意じゃないはずだ。……被害を受ける前に、危害を加えたら、今度は君が、その強盗と同じになってしまう」

 ……私が、あいつらと?

「……そうですね。他人からの視点では、そうなってました。……反省します」

「いや、反省云々じゃない。……君は、もしこの先、なのはや、君の友達を傷つけるかもしれないという理由で、人を傷つけてしまいそうで、怖いんだ」

 ……? そんなの、当然じゃないか。

「それの、どこが悪いんです?」

「え?」

「なのはを、フェイトを、はやてを、アリサを、すずかを、その周りの人たちを。……私の大切な人を、傷つける他人は。死んじゃえばいいんです。……いいえ、そんな人は、殺してしまいます。誰でもない。この私が」

「その考えは危険だ!」

 危険?

「その考えじゃ、君が不幸になる。なのはは、その友達は……君が不幸になっても、笑ってられると思っているのか?」

 ……さあ、考えもしなかった。
 でも、

「私が不幸になって、みんなが幸せでいられるなら、私は不幸でいいです」

 みんなの幸せが、私の幸せだから。

「……せめて、これだけは、覚えておいて欲しい。君が不幸になったら、なのはは、絶対に泣くだろう。……なのはが泣いているのに、なのはが幸せだと思うのなら、俺は、君を斬る。……君が、なのはを傷つけるから」

 私が? なのはを?

「人を傷つけるのは、何も直接的なことだけじゃない。言葉だけでも、想いだけでも、人を傷つけることがあるということを、覚えておいてくれ」

 ……言葉で、想いで、人を傷つける……

「じゃあ、俺は、これで。……気をつけて帰れよ?」

「……まって、まってください。……私は、今、なのはを傷つけていますか?」

「……それは、俺が判断することじゃない。だが、俺の目の前で、なのはが泣いた時……君の事で、なのはが泣いた時に、君が、なのはを傷つけたと、判断する」

「……そのときは、私を、殺してくれますか?」

「それが、君の望みなら」

 ……ああ、この人は、本気で、なのはの事が大切な人だ。
 優しい、お兄さんだ。
 ……私にも、こんなお兄さん、いてくれたらよかった。
 ……それは、俺が、頑張るとしよう。

「……ありがとうございます。助かりました」

 危なかった。
 もう少しで、道を間違えるところだった。

「……いや、いい。気をつけて帰れよ」

「はい。では、失礼します。なのはによろしく言っておいてください」

 高町兄と別れる。
 ……さて、今度こそ庭園に転移しよう。
 やることはたくさんある。


「……私も、頑張らなくちゃ」

 つぶやきは、星の闇に消えた。





[6790] 7.スノーホワイトケージ
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/07 12:21

 検索に次ぐ検索、修正による修正、調整による調整。
 正直、ここまで酷くなってるとは思わなかった闇の書。
 バックアップデータを当てても邪魔な自衛プログラム。
 通称闇の書の闇。その正体を解明するのにまた一苦労。
 結局、その自己防衛プログラムの切り離しができたとき、それの正体が判明。

【なんとまぁ……私用のグレードアップパッチ、夜天に組み込みますか……】

 そう、それはパラディン用の追加パッチだった。それを無理矢理夜天に組み込み、自己防衛プログラムとしたらしい。
 プログラムを解体、再組み立てしてそのパッチの元の姿に戻し、パラディンにインストール。
 バージョンアップさせて処理能力の上がったパラディンとプレシアさんの協力でようやく。

「お、終わった……」

「できたわね。久々に骨のある仕事だったわ」

 夜天の書、完全復活。
 ジュエルシードを使って魔力を補填。
 二つも使った。時間逆行でつかえるのは後十一個。
 庭園で待っててもらったはやてに最終起動してもらう。

「……これが、夜天の書……」

「ああ、お前の相棒だ。魔力は充填してある……起動してみろ」

「うん。……夜天の書よ、あたしの声を聞いて」

 はやての声に反応し、うっすらと輝きを増す夜天の書。
 ページがめくられていき、光と共に……浮かびだす人影。
 そして……

「な、なんやの!?」

 噴出した闇!?
 まだ自衛プログラムのこってたのか!?
 闇に飲み込まれそうになるはやてを庇い、その闇に……俺が飲まれた。


 真っ暗になっていく目の前に。

「せっちゃん!」

 はやての声が聞こえた。



 





 目を開けるとそこは……

「……? あれ?」

 自分のベッドの上だった。
 ……永遠せつなのベッドじゃなく、永森刹那の。
 ……俺の、家?

「おにぃちゃん! バイト遅れるよ!?」

 やたらと懐かしい声が聞こえた。
 ドアを開けると、そこには。

「ちょっと、おにぃちゃん! パジャマで出てこないでよ!」

 あの日、無念の死に様を見せた、妹の姿が……

「? おにぃちゃん? どうしたの?」

 ……駄目だ、涙が……

「あすか? 刹那どうしたの!?」

 さらに声。この声も知ってる。
 姉さんだ。
 俺の、姉さんだ。

「大丈夫? ……もう、いい年して、情けないわよ?」

「ご、ごめ、……ぐぅ……」

「おにぃちゃん、悪い夢見たの?」

 悪い夢? 夢だったのか……?
 
「……ああ、夢を見たんだ。二人が死んで……俺が独りになる夢……」

「……そう、大丈夫。私はここにいるから」

「私もだよ? おにぃちゃん、見かけによらず、寂しがり屋さんだから」

 ああ、悪い夢だったんだ、あれは……
 長い、悪夢だったよ……




 <はやて>

 せっちゃんが消えてしまった。
 夜天の書を起動した矢先、その管制人格と共に噴出した闇。
 それに飲み込まれ、闇は本の中へ。

「……マスターはやて……」

 銀髪の女性が、あたしを呼ぶ。
 夜天の書の管制人格。

「申し訳ありません。闇の書の主を閉じ込める闇を発見できなかったようです」

 閉じ込める闇?

「はい。……闇の書が完成した直後、その主を一時的に本に閉じ込め、夢を見せる闇です」

「その夢は、どんなものなの?」

「……優しい夢です。その取り込んだものの記憶を検索し、一番幸せだったころの夢を見せる。夢の中では、死んだ者も、一時的に蘇り、幸せの中で……取り込んだものは、死んでいきます」

 死ぬ? せっちゃんが死んでしまう?

「そ、そんなんあかんわ! せっちゃん、あんたを直すために、いっぱいいっぱい頑張ったんで! せやのに、そのせっちゃんが死ぬんはあかんわ!」

「……申し訳ありません……」

 頭を垂れる管制人格。
 その姿に、腹が煮えた。

「謝らんでええ! あんたは夜天の書の管制人格やろ? なんとかせっちゃんを夢から解放せなあかん。方法を教えて?」

「……ですが、危険です。下手をすれば、主まで……」

「せやけど、せっちゃんが死ぬんよりかはましや。……お願いや。あたしの幼馴染で、あたしが傷つけて、……それでも、あたしを助けようとしてくれた子やねん。せっちゃんを見殺しなんかにせんといて!」

 彼女は、一瞬躊躇したが。

「……わかりました。闇に入ります。……マスター、ユニゾンを」

 あたしの言葉に、従ってくれた。
 あたしと、管制人格が重なる……。

「ユニゾン・イン」

 ……わかる。管制人格は、ユニゾンデバイス。
 あたしの足りない処理能力を補助してくれる、あたしのデバイス。

「はやてさん」

「プレシアさん」

 プレシアさんが、あたしを見つめる。

「……せつなをお願い。あの子がいないと、私の願いが……いえ、違うわね。あの子の無事が一番先ね」

「……大丈夫です。せっちゃんは、ちゃんと連れて帰ります」

「お願いね……」

 プレシアさん、最初怖い人おもたけど、ほんまは優しい人や。
 この四日、一緒にいてわかった。
 この人の願いを叶える為に、せっちゃんが頑張ったのを知ってる。
 せやから、せっちゃん。

「今行くで……!」

 待っててや……




 <せつな>

 ……日々は続く。

「おにぃちゃん。どうしたの?」

「ん? どうしたって?」

「何か、寂しそうだったよ?」

 そんな顔してただろうか?

「いや、多分気のせいだろう」

 何を馬鹿な話を。
 リリカルなのはの世界に入って、自分が女の子?
 馬鹿げた話だ。

「ちょっと散歩行ってくる」

「気をつけてね?」

 玄関を開け、外に出る。
 丁度隣の部屋の扉が開き……

「あ、刹那」

 ……? あれ?

「アルフ……?」

「おはよ。……? どうしたのさ、とぼけた顔して」

 何で、アルフがいる?
 だってあれは……夢なんだろう?

「アルフ? どうしたの……あ、刹那さん、おはようございます!」

 アルフに続いて部屋から出てきたのは……聖祥の制服に身を包んだ……フェイトだった。
 その後ろには。

「刹那? おはよー! ……どうしたの? ぼーとして?」

 フェイトがもう一人……まさか、アリシアだというのか?

「あ、二人とも、そろそろ学校の時間だよ?」

「あ、ホントだ。じゃあ、刹那、いってきまーす!」

「いってきます、刹那さん!」

「あ、ああ、いってらっしゃい……」

 ……あれ~?

「どうしたんだい? 今日は変だよ?」

「……いや、なんでもない」

 あれは……いや、この世界は……
 
「すまん、ちょっと出てくる」

「え!? ちょっと!?」

 アルフを背に、走り出す。
 街を走る……辿り着く。
 ……何故、辿り着く?

「おや、刹那君。いらっしゃい」

 翠屋の店先に、高町兄。
 だから、何故いる?

「高町兄。なのはは?」

「なのは? もう学校に行ったが?」

 やはりなのはもいるのか?
 ……なら、次の目的地は……

「すまん、ありがとう!」

「あ、おい!」

 呼び止める高町兄の声を聞き流し、今度は小学校へ。
 ……記憶をたどり、学校の校門へ。

「あれ? 刹那? 何であんたがここに?」

「刹那さん? どうしたんですか?」

「あ、刹那お兄ちゃん! おはよう!」

 後ろから声が聞こえた。
 ……アリサ、すずか、なのは。

「……おはよう。……あのさ、一つ聞きたいんだけど……」

「? どうしたのよ?」

 後はこの場にいない、もう一人。

「はやて、見なかったか?」

「はやてちゃん? 家にはいませんでしたか?」

「はやてちゃん、足の病気でしばらく学校これないはずだよ?」

 ……じゃあ、次は……八神邸か!

「ありがとう。勉強頑張れよ、お前ら」

「あ、こらーーー! なんなのよ一体!」

 アリサの怒声を聞き流し、向かうははやての家。
 走って、走って、走って……
 見つけた。
 一人で住むには、やたら大きい家。

「……? 刹那か?」

 その玄関先を掃除している、騎士シグナム。
 ……意外に似合うな、竹箒。

「シグナム、はやては中か?」

「? 主なら、散歩に向かわれたぞ? そう言えば、お前を探していたようだが、何か約束か?」

 俺を?
 ……なら、探さないと。

「ありがとう。探してみる」

「……刹那」

 呼び止められる。

「どうした?」

「……いや、私の勘違いかもしれないが……私の知っている刹那はお前のような男だったかと……いや、やはり勘違いだ」

 ……そうだ。
 その勘違いは正解だ。
 ……無理な話なんだ。
 俺の世界と、彼女の世界をつなげるには、かなり無理があるんだ。

「……はやてを探してくる」

「ああ、気をつけてな」

 はやてはどこにいるんだろう?
 ……まさかと思い、病院へ。
 海鳴の病院の裏に、高台がある。
 As最終話で、リインフォースと別れたあの高台だ。
 ……あのシーンはちゃんと見ていた。
 なら、あそこの可能性はある。
 病院へ急ぐ。



 ……そこに、彼女はいた。

「……はじめましてやな、刹那さん」

 白に、黒い縁取りのバリアジャケット。
 髪がいつもの茶色じゃなく、薄い銀色になっているのは、夜天とユニゾンしているからだろう。

「この世界の私は幸せやな。守護騎士のみんながいて、あたしの両親が生きとって……」

 ああ、それは、とてもとても幸せだ。
 それのどこがいけないのか?

「刹那さんも幸せやんな? お姉さんも、妹さんも、この世界じゃ、生きとるんやろ?」

 悲しい出来事などなかった。
 二人とも無事で、隣にはフェイトたちが暮らしてて、なのはたちも元気に暮らしてて……




 とても、とても幸せだ。







「せやけどそれは、ただの夢や」






 ……わかっている。
 こんなことはありえない。
 世界はいつだってこんなはずじゃなく……
 すぐ隣には、悲しみが満ちている。

「あたしは、こんな夢の中で眠るより、現実で幸せになりたいんよ。逃げるんはいやや。あたしは、刹那さん……いや、せっちゃんと、一緒に、現実で幸せになりたい」

 ……そうだ。
 私は、永森刹那ではなく、永遠せつなだ。
 失った過去ではなく、今の現実で生きなくてはいけない。

「せっちゃんはどうや? 作り物の幸せと、みんなで作る幸せ。どっちが大事や?」

 ……そんなことは決まっている。

「……私も、私も、みんなと一緒に、幸せに……なりたいよ」

 もう、答えなんか出ている。
 景色が砕け、夢が覚め、はやてと、私と、真っ白な闇。

「せなら、一緒に行こう。この夢から、でるんや。一緒に」

 ……もちろんだ。

「パラディン。モードリリース【アヴェンジャー】ロード」

【Avenger form ignition. ……いつもより威力が段違いです。気をつけて使用してください!】

 いつもの鎧姿。けど、銀色ではなく、闇のように黒い。
 魔力の質も、いつもより攻撃的だ。

「わかってる。……行くよ、はやて」

「よっしゃ! いくでリインフォース!」

『ええ、わが主』

 はやてが杖を構え、ベルカ式の魔方陣が足元に浮かぶ。
 私も、この世界を切り裂く、剣を選択。

「おいで。【アロンダイト】」

 手の中に浮かぶ、一組の双剣。……なるほど。これが形状変換。
 いつものアロンダイトの姿と、違った剣。
 けど、攻撃力は、こちらのほうが上!

「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ……『フレースヴェルグ』!!」

 はやての砲撃魔法が白き闇を打ち砕く。
 続けて、私の広域斬撃。

「全てを切り裂け、荒れ狂う刃!【烈空百閃】!」【Ranpeling slash】

 白き闇が崩壊を始める……視界が光に満ち……
 はじけた後、私は、プレシアさんの研究室に出た。

「! せつな! ……無事なの?」

 プレシアさんが駆け寄ってくる。
 ……どうやら、外に出られたようだ。

「ご心配をおかけしました。……はやて?」

「あたしも無事や。……せやけど……」

 はやての視線の先に、浮かぶ闇の雲。
 ……ほうっておいても、自己崩壊で崩れ去るだろう。
 ……けど。

「パラディン。できる?」

【……そうですね。あれも私の……アヴェンジャーパッチの一部です。……こちらで引き受けましょう】

 パラディンをスタンバイモードに戻し、その本に吸収させる。

【Sammlung. ……蒐集完了。しばらく、アヴェンジャーフォルムを使用できません。気をつけてください】

「わかった……」

 これでようやく、全ての準備が整った。
 後は……

「プレシアさん。明日、終わらせます」

 アリシアを助け出す。

「……ええ。お願い、アリシアを……」

 プレシアさんの願いを、叶える。
 明日、すべてが……終わる……そうしたら……
 みんなで、温泉だ……






[6790] 8.悲しみは散り、夢は幻想に
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/06/06 12:58
 薄暗い空間に、魔導師が三人。
 大いなる古代の儀式を始める。
 使うジュエルシードは十個。
 予備に一つ。
 庭園中央、アリシアの眠るポッドが安置された花畑に、パラディンの特殊な魔方陣が浮かぶ。

【ジュエルシード、全接続完了。次元連結魔力炉、術式構成終了。リインフォース?】

「こちらも準備は出来た。聖王術式、構成終了。詠唱、どうぞ」

 ……その空間に、魔力が溢れ出す。次元連結炉から魔力が生み出され、その魔力はパラディンを通じて、私へ。

「聞け、全ての門を司る精霊。時空の扉、汝が力もて開け。我が望む、栄華の過去へ」

 詠唱を。力ある言葉を紡ぐ。

 パラディンの魔方陣が回り、ジュエルシードの数だけ、魔方陣が展開する。

 私の前に、ベルカの魔方陣が現れ、扉を形成していく。

 ……これが、時空の門。
 
 過去へつなぐ扉。

【時空境界に接続。扉が閉まるまで、一分しかありません。急いでください】

「わかった。……リインフォース。術式の維持をお願い」

「任されました」

「プレシアさん。アリシアのポッドを」

「……開けるわ。……アリシアをお願い」

「……わかってます」

 ポッドから、冷たいアリシアを抱える。……扉を、開ける。

「……開け【時空の門】」【time warp】

 作戦開始。時間は一分!

 扉に入り、出た先にアリシアを探す。
 ……発見。あと五〇秒。
 研究所と思われる方向から光が漏れ出す。
 魔導炉の暴走が始まった! 後三〇秒!
 私の姿を認識して、驚いた顔のアリシア。確かにフェイトに似ている。
 アリシアを抱えあげ、アリシアの遺体を置き、門まで駆け抜ける後二〇秒!
 門に到着、体ごと入る……! て、暴れるなアリシア! お願いだから逃げないで!?
 閉まるまで後一〇秒。アリシアを門に入れ、私がその扉に手をかけ、

「あ」

 ……無情にも、扉は、私の前から、姿を消した。

 ……と、取り残され……た……

【マスター! 衝撃波、来ます!】

 あれに巻き込まれるのは厄介だ。
 空間座標を第97管理外世界海鳴市の病院裏に設定。
 空間転移式発動。




 私たちは、過去に取り残された。








 <プレシア>

 せつなが入った時空の門から、人影が転がり出る。
 すかさずフローターフィールドを発生させる。
 ……金の髪、小さな体。……その幼い顔を、忘れるはずがない。

「アリシア!」

「!? ママ!!」

 ああ、ああ、生きている!
 あのころと同じ声、同じ顔。
 他の誰でもない、アリシアだ。

「ママ……お姉ちゃん、ママのお友達だったんだね?」

「そうよ、お姉ちゃんに頼んで、アリシアを助けてもらったの」

 ああ、せつな。あなたは本当にアリシアを助けてくれた。
 こんな、こんなうれしいことはない。

「ほら、アリシア、お姉ちゃんに、せつなに、お礼を……」

 ……そして、私は見てしまった。
 硬く閉じられた門を。
 苦く、そして、絶望を湛えた、夜天の書の管制人格の顔を。
 ……アリシアを助けた少女は、戻ってこなかった。




 <はやて>

 嘘や。
 何かの間違いや。
 昨日、約束したやん。
 一緒に、一緒に幸せになるって。

「……誤差は、計算を重ねても、0.3秒前後でした……ですが、5秒早く、門が閉じ、……せつなは……」

「う、嘘やろ? せっちゃんのいつもの嘘やろ? あ、あかん子やなぁ、リインフォースまでつこおて、あたしを騙そういうて……」

 けど、リインフォースは、顔を上げない。
 ……本当に?

「じゃあ、せっちゃんは、アリシアちゃんだけ助けて……過去に取り残された言うんか!?」

「……申し訳……ありません……」

 嘘や。嘘や。
 そんなん嘘や!
 嘘や言うて、リインフォース!

「なあ、嘘やいうてぇなぁ! 嘘やって! 冗談やぁ言うてえなぁ……」

 お願いや……せっちゃん。





 <フェイト>

「……せつな……が?」

 母さんからの次元通信。
 珍しいことだと思っていた矢先に聞かされた、訃報。
 ……せつなが時間逆行の制限時間に間に合わず、過去に取り残された。
 ……しかも、その時、母さんが設計していた魔導炉『ヒュードラ』の暴走事故のあった日らしい。
 ……その事故の影響で、地表の酸素が一瞬でなくなり、アリシアは窒息死したそうだ。
 その現場に、アリシアの代わりに、せつなが、いた。
 ……アリシアが助かり、せつなが……死んだ。

「テスタロッサ? ……せつなは、どうしたんだ?」

 シグナムが、私に、話しかけてくる。
 ……もう、私に笑いかけてくれる、あの人がいない。
 私を抱きしめてくれるあの子がいない。
 せつなが……もう、いない。

「……せつなに、なにかあったのか!」

 ヴィータが、私に詰め寄る。
 その身体を抱きしめて、私は泣いた。
 私の、大好きな親友のために。





 <なのは>

「……シグナムさん、それ、本当ですか?」

 シグナムさんからの電話。
 せつなちゃんが、時間逆行に失敗。過去に取り残されたと、プレシアさんから連絡があったらしい。
 ……でも、でも、とても信じられない。
 だって、だって、せつなちゃんは……













「美由希さん、すみません。ランチセットもう一品追加で」

【マスター。久しぶりの食事でしょうけど、もう少し落ち着いて食べてください。ほら、ほっぺたにご飯粒ついてますよ?】

「あんな長い時間寝てたんだから、お腹もすくよ。……あ、ありがとうございます桃子さん」

「いいのよ。たくさん食べてね? ……なのは? お友達待たせてどうしたの?」

 ……目の前でご飯食べてるの。


 ……シグナムさんに事情を説明後、まず。

「せつなーーーーーー!!」

 フェイトちゃんが飛び込んできた。
 シグナムさんとヴィータちゃんもお店に入ってくる。

「ちょ、おま、何暢気にシュークリーム食ってやがんだ! あたしにもよこせ!」

「ああ、こんなに痩せこけて……もう、私の側離れちゃやだよ。ずっと一緒にいよ?」

「ええい、ヴィータ、突っ込みどころが違う! テスタロッサそういう問題じゃないだろう!」

 いきなり漫才を始めないで欲しい。
 その願いが叶ったのか。

「……闇に沈め」

「あ!?」「うぇ!?」「……あ、主……」

 フェイトちゃんとヴィータちゃんが足元に現れた闇に沈んでいく。
 その代わりに、はやてちゃんが白い服装で姿を現した。

「……私を泣かした挙句、こんなところで悠々とフェイトちゃんとお茶しとるやなんてええ度胸やな。……せっちゃんは私と一緒におってくれるんやろ?」

 漫才がいきなり修羅場に変わりました。
 とりあえず、店内で魔法は勘弁して欲しい。
 お母さんに頼んで店を一時的に貸切にしてもらった私は、もう少し報われてもいいと思うの。

「せつな。フェイトといちゃつくのは構わないけど、ちゃんとアリシアも構ってもらうわよ!」

 真っ黒い服を纏った黒髪の女性がまたいきなり現れた。
 ……手の中にはフェイトちゃんより幼いけれど、フェイトちゃんそっくりな女の子がいます。
 どうも、彼女がプレシアさんで、プチフェイトちゃんはアリシアちゃんのようです。

「お姉ちゃん! 大丈夫だったの?」

「……うん。平気。お姉ちゃん結構なんでもありだから」

 ……とにかく。

「そろそろ、お話聞かせて欲しいの」

 レイジングハートを準備。
 ……その一瞬で土下座をする、せつなちゃんは私をどう思っているのか。
 そっちのほうをお話しようか迷ったのは、内緒なの。





 <せつな>
 
 転移完了。……間違いなく、地球に降り立った。
 周囲を見回す。……まだ、中央病院は建設されていないようだ。
 時間は夜。
 都合よく、周りに誰もいない。
 
 ……ここは、過去の海鳴市。
 知り合いは、まだ誰もいない。
 頼れるものは……私一人。

【マスター……これから、どうしましょうか?】

 いや、もう一人いた。
 頼りになる、相棒が。

「……時間逆行の逆……時間進行の術式は?」

【残念ながら、ヒットしません。……古代ベルカにおいて、過去に行く魔法があったことが奇跡に近い。未来に行く魔法なんて……】

「そこまで都合よくないか……」

 じゃあ、諦めて、この世界で生きていくか?
 ……無理ではない、無理ではないが……あまりにも、寂しすぎる。
 どうにか、未来にいく方法はないか?
 どうにか……あれ?

「どっかであったな、このシチュエーション……」

 思い出せ、思い出すんだ。
 私の記憶じゃない。多分、俺の記憶……どこかの小説にあったはず……
 あ、未来のクロノだ。

【とにかく、この世界での生活を前提に……? マスター?】

「パラディン。昨日の闇、まだ手をつけてないよな?」

【え、ええ。今回の件が終わったら、改修しようと思ってましたが……】

「いや、設定だけ変えて、そのまま使う。……俺の考えはな?」

 話す。その、単純な仕組みの未来旅行を。

「……できるか?」

【……できます。こんな方法があったなんて……天才ですか、マスターは】

 ……ごめんなさい、思いっきりパクリです。
 ようは、自分自身に対する時間停止。
 自分の時間を止めて、肉体と精神を保存する例の闇に避難する。
 後は、俺が取り残された時間に、起き出せば……

「見事に未来旅行ができるってわけだ。……冷凍睡眠と同じ理屈だな」

【今すぐ設定します。……後、私本体はどこにいましょうか?】

「ここの地中深くに隠れててくれ。……腐らないよな?」

【バクテリアごときには負けませんよ。後、モグラにも】

 準備が出来次第、闇に取り込まれる。
 なお、寝ている時間がもったいないので、そのすきに睡眠学習を施す。
 一般知識とか、ベルカの魔法とか、戦術知識とか……
 そして……





「ついさっき起きたって訳。……いや、ざっと二十六年近く寝てたから、お腹すいてすいて……」

 ……流石に大雑把過ぎたか?
 プレシアさんはしきりに納得してる。
 守護騎士二人は唖然としてる。
 はやては……あきれてる。
 フェイトは感心して、アリシアは……ぽかんとしてる。解ってらっしゃらないご様子。
 なのはは、

「せつなちゃん。せめて、まずみんなに連絡するのが先だったと思うの」

「あはは。空腹に負けました」

 そう言ったら、仕方ないなぁ、って顔して、私を抱きしめてくれた。

「でも、よかった。……やっと、いつものせつなちゃんだね?」

「……うん。ジュエルシードの件がまだ残ってるけど、もう私が無理する必要ないから。……約束どおり、連休は温泉だよ?」

 何を隠そう、一番期待していたのは私だ。
 ……さあ、癒されに行こう……







「ところで、皆さん。さっきのは一体……」

「「「「「「「あ」」」」」」」

 やば。魔法、桃子さんに見られちまったい。
 その後、なのはと一緒になんとか説明し、黙っておいてもらうことに。
 ……後日、高町家の家族には、話し終えたとなのはが疲れながら言っていた。
 ご愁傷様です。







[6790] 9.海鳴温泉館 一つ目
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/06/05 18:32
 ……目が覚めた。
 昨日から連休に入り、一日目は寝て過ごした。
 少女として、乙女としてその過ごし方はどうだろう?と思わざるを得ないが、まあ最近ばたばたしていたので、勘弁していただきたい所存。
 そして、今日は約束の温泉だ。
 ……密かに、自分ひとりだけ一人での参加なので寂しいなぁと思わなくもないが。
 まあ、友達やその家族とはほとんど顔見知りなので、寂しいとは感じないだろう。

「……パラディン」

【おはようございますマスター。今日はいい天気ですよ】

 デバイスの癖に天気がわかるのか?
 窓を見るとカーテン閉めてなかった。
 朝の光が差し込み、空には雲ひとつない。
 確かに、気持ちいい晴天だ。
 ……さあ、とっておきを着て、出かけよう。
 きっと、今日はいい日になる。

 準備万端。
 旅行カバンに着替えをつめ、玄関で靴を履く。
 今日はお気に入りのワンピース。白のブラウスとあわせてみた。
 ……精神に男が住んでる身としては、可愛らしい服装に鏡の前で固まったのはお約束だが。
 可愛いのは事実である。
 男として可愛いことは正義である。
 少女としても、可愛い服は正義である。
 だから、これでいいのだ。きっと。

 家のチャイムが鳴る。
 多分、お隣さんだろう。
 もともと一人暮らし用のアパートだから、最近引越しを企んでいるママさんひきいるテスタロッサ家だ。
 ……庭園は次元の狭間で停泊。
 研究用に残して置くらしく、家族はこっちで暮らすことを決めたらしい。
 ……しばらくしたら、フェイトが転校してくるらしい。
 アリシアは、小学一年生としてだ。

「……それじゃ、合流しますか」

 じゃあ、そのテスタロッサ家に挨拶しよう。


 [テスタロッサ家]

「おはよう。フェイト、アリシア、プレシアさん。アルフ」

「おはよう。せつな。……昨日は眠れた? 私、ちょっと寝不足で……」

 まずはフェイト。そのゴスロリは誰の趣味だ?
 聞くまでもなく、後ろの親ばかだろう。
 黒のゴシックロリータドレス。でもフリルは少し自重。
 ある意味とってもお人形。ツインテールのリボンも今日は気合入っている。
 そのままお持ち帰り確定である。

「せつなお姉ちゃんおはよう! 今日は可愛いね!」

 じゃあいつもは可愛くないのか小一時間問いただしたいアリシア。
 こちらも黒のゴスロリ。フェイトとおそろいを狙っているのかママさん。
 ただし、こちらのフリルは自重しない。ある意味本気でお人形。
 フェイトと違って髪は梳かしただけのストレートロング。ヘッドドレス完備。
 姉妹揃えれば両手に花確定である。

「おはよう、せつな。……ちょっと地味ねぇ。私がコーディネートしてあげようかしら?」

 それは本気で勘弁していただきたいプレシアママ。
 服装はシックな黒のイブニングドレス。シンプルイズベスト。どうかその路線を娘たちにも。
 ……思わず『月影先生』と呼んでしまいそうになったのは俺だけの秘密だ。
 なお、姉妹人形を手に入れるためには、このオーナーの雷の嵐を乗り越えなければならない。

「せつなおはよー。温泉楽しみだねぇ」

 うん、楽しみだねぇ……後、はやての餌食確定な人、一人目のアルフ。
 黒一色の母子と違い、一人だけラフなジーンズパンツとTシャツ。一応、耳と尻尾は隠してます。
 実年齢では実は一番年下なのに、この一家で二番目の色気。
 ……く、男の身体なら並んで歩けたものを。実に残念である。

「……うん、みんな元気そうで何より。じゃあ、行こうか?」

「「「おー!」」」

 ノリのいい三人。ママさんは後ろでにっこり微笑むだけ。
 ……後、アリシアはフェイトの事を知らない。
 フェイトもプレシアさんも、しばらくは黙って置くそうだ。
 だから、今はフェイトがお姉さんで、アリシアが妹。
 ……アリシアが知って、フェイトを、プレシアさんを、嫌わないか、そこだけが不安ではある。
 でも、今はいい家族だ。
 ……問題は先送りにして、今を楽しもう……


 さて、テスタロッサ家と合流後、向かうは翠屋。
 集合場所にそこを選択。
 月村家から一台、バニングス家から一台、そして、高町家から一台車を出してくれる。
 高町家は乗用車五人乗り。月村家はワンボックス八人乗り。バニングス家はなんとリムジン。十二人乗りの高級車を出してくれるらしい。
 何でも、アリサの両親が出てこれないらしく、せめてもの償いにとリムジンを用意してくれたそうだ。
 人数多いからね。(高町家総出で五人+α。月村家メイドさん入れて四人。バニングス家運転手付きで二人。八神家一番多い六人。テスタロッサ家四人。永遠家……一人。合計二十二人)
 フェイトやアリシアと話しながら、見えてきた翠屋。店先には車が三台。少なくとも、アリサたちはもう来ている様だ。

 [高町家]

 まずは高町家にご挨拶。

「皆さんおはようございます。なのは、おはよう」

「おはよう! せつなちゃん、今日は飛び切り可愛いの!」

 可愛い子に可愛いと言われてしまった。だが嬉しい。ありがとうなのは。
 白いツーピースフリルつき。気合入れましたー、な服装がグッド。
 そのままデートに連れて行っても文句が出ない格好である。
 
「せつなちゃん、おはよう。……吹っ切れたみたいだな」

 その節はお世話になりました高町兄、もとい恭也さん。
 男だから服の解説はなし……まあ、ラフなジーンズジャケットと白Tシャツ、Gパン。
 なお、ジーンズの色は黒。いっつも黒着てないか? この人。
 テスタロッサ家に入っても違和感なさそうである。

「せつなちゃんおはよー。今日は元気だね?」

 こないだは栄養不足だったんで勘弁してください美由希さん。
 あまり接点がない人だが、何気にこの人も剣術屋。
 そのブラウスとスカートの中に隠された筋肉は、女性陣ではシグナムに次ぐ剣の腕。
 油断ならないメガネっ子である。

「せつなちゃんおはよう。その服可愛いわね。……今度、私に服選ばせてもらえる?」

 発想がプレシアママと同じだぞ桃子さん。
 高町家の最強の一人。この人には逆らえません。なぜか知らんが。
 落ち着いた白のサマーセーターにチェックのスカート。プレシアママ、見習え。
 後、その若さも分けてもらえ。……うを、睨まれた!?

「おはよう。せつなちゃん。今日はのんびりしなさい」

 そうさせていただきます士郎さん。
 今回のメンバーでは、プレシアママに次ぐ年長者。
 白のYシャツとジーンズパンツととってもシンプル。息子の黒好きは誰の遺伝だ?
 そう言えばこの人も無駄に若いな。三十代後半いってる筈だけど?

「ところでせつなちゃん。せつなちゃんのご家族は見えないのかい?」

「お父さん!」

 ……華麗に地雷を踏み抜いてくれるのは天然なのか? 高町父。
 なのはが抗議してくれるが、知らないなら仕方がないぞ?

「私、一人暮らしですし……家族、いませんから」

「……軽率だったな。すまない」

 いえいえ。
 慣れっこですから。


 [月村家]

 続いてすずかの所へ。

「おはようございます。皆さん。今日はお招きありがとうございます。……すずか、おはよう」

「おはよう、せつなちゃん。今日は来てくれて嬉しいよ」

 そんな百万ドルの笑顔で微笑まんでくれすずか。溶けてしまいます。
 流石お嬢様の一角、衣装にもそつがない。そのワンピースに愛を感じる。
 そう言えばこないだふと思い出したんだが、すずかの家って何か秘密あったような?
 そのありえない運動神経に関係あったりするのか?

「おはよーせつなちゃん。礼儀正しくしなくていいわよ? 今日は、のんびりしていきなさいね」

 気さくな人で助かります。忍さん。
 可愛らしいすずかと違い、こっちはどことなくカッコいい。
 服もジーパンとデニムシャツ。シャツの下は間違いなく凶器が潜んでいること間違いなし。
 なお、この人もはやての餌食確定だ。二人目。

「おはようございます、せつな様。せつな様は皆さんと一緒にリムジンのほうへお乗りください」

 あ、ありがとうございますノエルさん。
 ビークールなメイドさん。無表情系は私の専売特許……は返上したんだった。
 でも、この場まで来てメイド服ってどうよ? 身内ばかりだからいいのか?

「せつな様おはようございますぅ。今日はよろしくお願いしますね」

 とりあえず何を? と、聞き返してしまいそうなファリンさん。
 正確には、ファリンさんがすずか専属のメイドで、ノエルさんは忍さん専属のメイドだそうだ。
 そういうわけで、この人もノエルさんと同じメイド服。同型機ではないので外見で見分けはつく。
 ……機?

「せつなちゃん。……もう、危ないことしなくていいんだよね?」

 まだジュエルシードの回収が残っているが、危ないと言えるほどじゃないだろう。

「しばらくは何もないよ。だから、心配しないで?」

「……あのね、後で聞いてほしいことがあるの。……お願いね?」

 ? 月村の秘密でも話してくれるのだろうか?
 気になるけど……それは後の楽しみにしておこう。

 [バニングス家]

 ではでは、女王様の機嫌取りに行こう。

「おはよう、アリサ。鮫島さんもおはようございます」

「おはよう。せつな……よかった、あんたのことだから、男っぽい格好してくるかと心配だったのよ」

 この間のお茶会でも女の子してただろう? アリサ。
 そういうアリサは完全にお嬢様ルック。具体的に言えばフリフリ二割り増し。
 女王様と言うよりお姫様って言ったほうがしっくり来る。
 ……でてるオーラは完全に女王だが。

「……おはようございます、せつな様」

 ……渋い。挨拶だけで簡潔に終わらせるこの渋さ。わかってるね鮫島さん。
 今日は運転手メインで来ている様だが、高町家男性陣に負けず劣らずのボディーガード臭があふれ出ています。
 なお、黒スーツはいつもどおり。お約束である。
 ……じゃあ、メイド服もお約束だからいいのか。……いいのか?

「それで? もう面倒ごとは片付いたのね?」

「もちろん。フェイトの家族が来てることで察して欲しい。……しばらくはのんびりできるよ」

「そう。……もう、心配かけないでよね?」

 ……いや、いい友達を持ったよ、私は。

 さて、まだ来ていないのは八神家か。
 もうすぐ来るとは思うが……

「(はやて~? まだ時間かかりそう?)」

 念話を送ってみる。
 ……? 返事が来ない?
 ……嫌な予感が、少しした。

「(シグナム? 今どこだ?)」

 今度はシグナムに念話。

『(せつなか。助かった。……実は、ちょっと困ったことになった)』

「(困った?)」

『(ああ、外国の方が道を聞いているのだが……われわれは、外国の言葉がわからん。ベルカ語ならなんとかなるのだが……)』

 おいおい。
 ……まあ、ベルカ語はどっちかって言うとドイツ語だしな。
 仕方がない。

「アリサごめん。ちょっとはやて迎えに行って来るね?」

「? わかったわ。気をつけなさいよ?」

「うん。行ってくる」

 さてさて。
 英語なら少しはできるようになったし、それ以外なら、ソーリーで済ますか。
 シグナムに誘導してもらって……
 ん? シグナムたちに絡んでる人ってまさか……

「……リンディさん?」

「!? ……せ、せつな……さん?」

「せ、せっちゃん! 助かったで!」

 ……ああ、なるほど。
 ようは、時間稼ぎか。

「はやて、みんなと先行ってていいよ。この人の相手は私がするから」

「ありがとうな? そ、そーりー」

 はやてとヴォルケンズを翠屋に先に行かせる。
 ……と、シグナムだけ残ってくれた。

「シグナム。あなたも行っていいよ?」

「仲間を見捨てるほど、薄情にできていないのでな。……時空管理局の提督だな?」

 !? 鋭い。流石ヴォルケンの将。

「……やはり、闇の書の守護騎士……せつなさん。逃げて。この人は」

「……no,go home, get back hear!」

「……え?」

 ちなみに『お家に帰れ』と言いました。かなり汚いスラングで。

「聞こえませんでしたか? なら、なのは的に……『ミッドチルダに帰れ』」

「せ、せつなさん!?」

 今度はひぐらしより。
 なのはの中の人ネタで。
 ……私自身の声は雪野に似てるが。

「……シグナムたちは夜天の書の守護騎士です。闇の書は、もうこの世に存在しません。……それに、その主であるはやては、闇の書を使った犯罪行為は一切していません。そうする前に夜天の書に改修しましたから。……管理局的に、何か問題はありますか?」

「せ、せつなさんがどうしてそれを……」

 見せなきゃわからないか?

「……これが答えです。パラディン。セットアップ」【get set】

 瞬時に纏われる白銀の鎧。……騎士の姿の俺だ。

「古代ベルカ、聖王の騎士。永遠せつな。……騎士王の書の主だ。……悪いな、リンディさん。闇の書は、俺のパラディンのバックアップデータと、ある魔導師に協力してもらって既に攻略済みだ。……それでも、彼女たちに危害を加えるのなら、聖王の騎士の名の下に、俺は、あんたたちに戦争を仕掛ける。……俺一人だからって、舐めてかかると痛い目見るぜ?」

「その際には、我々ヴォルケンリッターもお相手しよう。……ベルカの騎士、甘く見てもらっては困る」

 いや、それは……ま、まあ、ともかく。
 まずは帰ってもらうことが先決。

「……せつなさん……まさか、操られて!?」

「なんでやねん! 飛躍しすぎや!」

「な、主と同じ言葉を!?」

 驚くとこそこかよシグさん。

「監督放棄してるあんたにゃわからねえだろうがな! 俺は、永遠せつなの前世の意識体だ! 口が悪いのは男性だったから勘弁しろよ? もともとせつなのリンカーコアが未成熟だったのは、俺の人格が構築中だったからだ。今の俺は魔力ランクAA。ある魔導師に調べてもらった結果だ! ……で? 監督放棄の保護者さんは、その事実を本人から知らされて、どんな気分よ!?」

「……そ、そんなことって……前世なんて、信じられないわ!」

「……!」

 その一言で、我慢できず、その人の顔をひっぱたいてしまった。
 ……魔力強化は行わず、浮遊魔法でわざわざその人の顔が届くところに浮いて。
 その間、わずか二秒。

「……いいことを教えてやる。俺が……私が、PTSDに陥るきっかけとなった言葉。まさしくそれだったんですよ? きっかけに過ぎませんでしたが……それでも、悲しかった」

 ……もう、この人を見るのは、辛い。
 このまま見ていると、敵として見てしまいそうで。

「パラディン。戻って」【shat down. bye】

 パラディンを戻し、背を向ける。

「……今一度言います。ロストロギア、『闇の書』は、もうこの世に存在しません。あるのは、優しい魔導書と、その守護騎士だけです。それが罪だと言うのなら、私は、あなたたちを殺す牙になる。……あなた方が私たちに向けるのは、握手の右手か、弾圧の拳銃か。……楽しみにしています」

 ……絶対に八歳児の台詞じゃないなあと思いつつ、シグナムを促して立ち去る。
 ……叩いた掌は、思った以上に痛かった。






 [八神家]

 さて、シグナムを連れて、ようやくみんなと合流。

「じゃあ、改めておはよう。朝から災難だったね、みんな」

「おはようやせっちゃん。助かったで、ありがとうな?」

 いや、無事でよかったよはやて。
 流石に一日二日で足は治るものではないらしく、今は車椅子での参加。
 それでも、ちゃんと着飾ってくるのは流石だ。今日も可愛いぞはやて。

「おう、ありがとな。……後、おはようだ。せつな」

 なんかツンデレ成分入ってないか? ヴィータ。
 後、その服可愛いぞ、新調したか?
 ヴィータにミニワンピは凄くナイスだ。はやてGJ!

「ごめんなさい、せつなちゃん。私たち、ドイツ語なら何とかできるんだけど、英語は苦手で……」

 ちなみに、ドイツ語はベルカ語、英語はミッド語に対応してます。で、何気に出番なかったシャマルさん。
 新調はしなかったのかできなかったのか疑問だが、いつもの若奥様ルック。
 本当に緑が似合う人。密かに笑顔に癒されてます。俺。
 
「……すまなかったな。感謝する」

 ……こいつも渋いな~。憮然とした表情でつぶやくザフィーラ。
 流石に二の腕筋肉むき出しはやばいと察したのか、スカジャンにサングラスが追加され、ちょっとしたライダーもどきの出来上がりである。
 当然、犬耳尻尾は隠してもらっている。

「助かった。礼を言う、せつな。……後、おはよう」

 ほぼ無表情で感謝の礼をしたのははやてのデバイス、リインフォース。
 いつの間に名前がつけられたのか知らんが、結局その名前になったか。
 白セーターにロングスカートと落ち着いた服装。
 ……どこかのあーぱー真祖を思い出したのは秘密だ。

「……すまん。世話をかけたな」

 と、私の後ろ斜め上からの発言はシグナム。
 服装はいつもどおりの春物セーターにジーンズパンツ。
 後、頭撫でるな。
 どうもヴォルケンズは私をパラディン……シルビアと混同して頭撫でる者が多い。
 シグナムもその一人。例外はリインフォースだけ。つまり。

「あ、シグナムだけずりぃぞ! あたしも頭撫でてやる!」

 いやいや待てと。
 嬉しくないわけじゃないんだが、そんな背伸びして頭撫でようとせんでも。

「その割には膝まげて撫でやすいように頭下げとるし。せっちゃんの優しさが身にしみるなぁ~」

 くそう、はやてお前もか。


 とりあえず、これで以上。二十二名。
 子供組はリムジンに乗り込むことに決まった。
 メンバーは私、なのは、すずか、アリサ、フェイト、アリシア、はやて、ヴィータ。運転手に鮫島さん。助手席にリインフォース。
 高町家乗用車は高町一家+忍さん。
 月村家のワンボックスにメイド組+プレシアさん、アルフ、シグナム、シャマル、ザフィーラ。
 さあ、出発だ。……と、思ってたのにさ。

「……はあ。何で来るかね」

「? どうしたの、せつなちゃん?」

 出発間際のリムジンの窓から見える、追ってきたと思われるリンディさんの姿。
 ……ああ、もう! 

「ごめん、鮫島さん。少し待ってて」

「……かしこまりました」

 出発を待ってもらい、車から降りてリンディさんのもとへ。

「……せつなさん……これから、お出かけだったの?」

「二泊三日の温泉旅行です。……これまで頑張ったから、のんびりするつもりなのに、何で問題ごと持ってきやがりますかあなたは」

 ただでさえ頭痛いことなのに!
 管理局関係は!

「……ごめんなさい……」

 泣きそうな顔で俯くリンディさん。
 ……ああ、もう、美人には弱いなぁ。俺。
 絶対女で失敗するぞ将来。

「リンディさん、今日から三日、休み取れます?」

「……え?」

「車にスペース空いてますし、一人ぐらいなら、ごり押しできると思います。……一緒に行きませんか? 温泉」

「……休み明けに、泣くことにするわ。ちょっと待ってて……」

 流石リンディさん。決断はええ。
 通信開いてどこかに連絡入れている間に、私は忍さんのところへ。

「……あの人、せつなちゃんのお母さん?」

「保護責任者です。……それで……」

「一緒にこれるんだね? わかった、宿のほうに一人分追加しておいてもらうよ」

「……ありがとうございます!」

「よかったね、保護者さん来てくれて」

 笑顔で頭なでてくる忍さん。
 ……いや、まあ、来る予定はなかったんですけどね?
 主催に連絡入れたから、次はヴォルケンズとプレシアさんに報告。
 ワンボックスに顔出して、その旨を話す。

「……わかったわ。ジュエルシードの件は黙っておきましょう」

「ごめん、プレシアさん。迷惑かけます」

「ふふ、あなたにかけた迷惑に比べれば、お安い御用よ」

「……いいのか? 彼女、我々を……」

「この旅行中は手出しさせない。……けど、不安要素を連れて行く、私の未熟を罵ってくれていい」

「……いや、そんなまねはしない。保護者なのだろう? 今のうちに甘えるといい」

 今まで甘えた記憶ありませんけどね~?
 さて、了解が得られたので、リンディさんを連れてくることに。

「……お休み取れました?」

「ええ。……帰ったら、クロノに思いっきり説教されそうだけど」

「……まあ、自業自得と思って諦めてください。私は、結構強引なんです」

「……わかったわ。ふふ、温泉楽しみね?」

 そりゃあもう、この日のために頑張りましたから。
 リンディさんの手を引いて、リムジンに向かう。
 乗り込んだら、早速出発だ。


 向かう温泉宿は車で二時間近く。
 海鳴市のはずれにある。
 一行にリンディさんを加え、三台の車は温泉宿への道を突き進む。
 で、そのリムジン内は……

「……ウ・ノ~! さあ、止められるもんなら止めてみなさい!」

「じゃあ、トラップカード発動。ドロツー」

「ドローツー返しです」

「返しの返しで」

「さらに返すで!」

「ごめん、返すよ」

「返しま~す」

「えっと、これで返すのか? 次、アリサだけど?」

「……な、七枚も続けなくてもいいじゃない! 十四枚追加って~!?」

「ご愁傷様。で、私がウノね?」

「むきぃ~~~!?」

 大UNO大会に発展しております。
 どこかで一番さんくしゃみ連発請け合い。
 結局そのゲームは私が一番で制しました。

「……楽しそうね、せつなさん」

 隣でニコニコ微笑んでるリンディさん。
 何がそんなに嬉しいんでしょうか?

「あなたと始めてあった時、ぜんぜん顔も変えず、顔色も変えなかったあなたが、こんなに元気になるなんて……」

「うん。みんないい子ばかりだから。……私一人、つまらない顔もできないし。させてくれないし」

「……ごめんなさい。私、いい保護者じゃないわね」

「何を今さらですよ。……この世界の諺にもあります。『親はなくとも子は育つ』」

「……深いわね……」

 あ、アリサラストで終わったか。
 悔しがってる顔が可愛い。

「リンディさんも参加しませんか!?」

 と、尋ねてくるなのは。
 他の面々は……ヴィータがちょっと渋り気味だが、ほかは同意を示しているようだ。

「……じゃあ、私も参加しましょう」

「よーし、行くよヴィータ。提督様にベルカの業を叩き込んでやりましょう!」

「……よし来た! 覚悟しろよ! ドローフォーの落ちない汚れにしてやる!」

「それは手垢って意味なんか?」

「月村製プラスチックカードに、手垢はなかなか付きにくいんだけどな?」

「……ふっふっふ。さっきはやられたけど、今度は覚悟しなさい、せつな!」

「じゃあ、私はせつなお姉ちゃんの味方で。フェイトは?」

「……そういう遊びじゃないから、アリシア……」

「それじゃあ、行くよ~?」

 結果、私のフォローを受けたヴィータがトップ。
 二番にアリシア、三番私。
 その下につくリンディさんは流石だ。
 一番ドベはいわずもなが。

「また私~!?」

「アリサちゃんよわよわや~」

「むきゃーーーーー!!」

 女王様ご乱心。
 仕方がない。

「じゃあ、今度はアリサのフォローにつこう。……姫、ご命令を」

「……さっきまであんたにしてやられてばかりだけど、いいわ! 私をトップにしなさい!」

「御意!」

「なぁ! てめぇ! はやての騎士じゃねえのか!?」

「甘いよヴィータ。私は、可愛い子の騎士だ! ……アリサは十分愛でたから、今度は別の子を凹ませて愛でてあげる!」

「せっちゃん絶好調や。……あたしの真価はまだまだ先やから、ここは地道に稼ぐで」

「じゃあ、あの鉄壁を崩すよ。フェイトちゃん、一緒にせつなちゃんを倒そう?」

「……わかった。心苦しいけど、なのはと一緒なら、大丈夫だね」

「せつなお姉ちゃん覚悟~!」

「……ウノって、こんなゲームだったかしら?」

「まあ、せつなちゃんが本気で絡むとこんなものですよ、リンディさん」

 で、激戦の結果。

「ベルカの騎士を舐めて貰っては困るんだよ?」

「なんだか知らないけど、ベルカ凄い!」

 アリサトップ。その下に私。

「褒められてるのに、褒められた気がしねぇ……せつな強すぎだぞ!?」

「あじゃぱ~や」

 三位、四位ははやてとヴィータ。

「く、届かなかった……」

「やっぱり、せつなちゃん強いの……」

「ばたんきゅうぅ~……」

 五位フェイト。六位なのは。七位アリシア。

「……みんな強いのね。感心するわ……」

「せ、せつなちゃんが酷いよ……」

 八位にリンディさんで、最後はすずか。
 見事にあおりを食らってしまったすずか。ホントごめん。

 もちろん、この後もゲームは続き、宿に着くまで白熱したゲームを楽しみました。
 ……私も何度か最下位になったが、全部計算づくだといっておく。
 ほら、あまり強すぎてもね?

「……意図的に最下位取れるあんたが凄いわよ」

 そう?






*ご指摘ありがとうございます。回線切断で文章途切れた模様。
修正しました。

*ご指摘にあった魔力ランクをAA+⇒AAに変更しました。



[6790] 9.海鳴温泉館 二つ目
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/06/05 18:35
 さて、温泉宿である。部屋割りを決め、以下の通りになった。

 士郎さんと桃子さん。恭也さんと忍さん。ノエルさんとファリンさん。美由希さんとリンディさん。
 鮫島さんとザフィーラ。シグナムとシャマル。プレシアさんとアルフ。
 子供たちは大部屋を占領。……そういえば。

「……な、なのは? ユーノはどこ行ったの? そう言えば、朝から見てないんだけど……」

「え? ……あ~~~~~!!」

 突然叫ぶと、自分のカバンに一直線。
 まさかと思い追いかける。
 ……カバンにつめたまま忘れ去られていたか。

「ユーノ君! しっかりして! ユーノ君!」

「……あ、光が……」

「ユーノ君!?」

 ……酸欠か。むごいな。
 とにかく、助かってよかったな、ユーノ。

「で、出番ない上に、こんな死にかたいやだよ……」

 サーセン。
 とりあえず見つかったから、一応警告。

「お前の身柄は、ザフィーラに預けとくから。……女風呂来たら、ディスペルかましてアイゼンの落ちない汚れにしてやる」

「行かないよ!? 僕を何だと思ってるのさ!」

「淫獣」

「ひ、酷いや!?」

 ほお~う?
 酷いときたか。
 じゃあ、確かめてやろう。

「なのは。ユーノ連れてお風呂入ったことある?」

「え? あるよ? なんで?」

「……ヴィータ! グラーフアイゼン貸してくれ! この淫獣光にしてくれる!」

「わぁぁぁぁ! 僕の意思じゃないんだってばぁぁぁ!!」

「せつなちゃん! 落ち着いて! ユーノ君が悪いことしたの?」

 ……なのは、あまりにも清純な……
 それに漬け込んでこの淫獣は……

「なのは。ユーノは男の子なんだよ?」

「? それがどうしたの?」

「……パラディン。【解呪縛鎖】」【stragur bind】

 解呪付きの鎖がユーノを縛り上げる。
 とたん。

「……え? え? えええええええええ!?」

 金髪で緑色の装束を着た幼顔の男の子一丁あがり。
 ……さて、固まってるなのはは?

「……ユーノ君。ちょっっっっっと頭冷やそうか?」

 それは十年くらい早いと思うが、まあ、今回は許そう。
 やっておしまい。


「……せつなさん!? 今、何かものすごい魔力が!?」

「気にしないでください。覗き魔が退治されただけですから」

 南無南無。
 ……でも、下手なこと言えば、俺も同じ穴の狢だってこと気付いてる人いないよな?
 ……はやてあたりは気付くかもしれない……


 荷物を置いて、一服したら、みんなで温泉に入ることになった。

「? あれ? なのは、ユーノ君は? 洗ってあげようと思ったのに」

「知りません! ……ユーノ君のエッチ」

 顔真っ赤にして可愛いぞなのは。
 でも、その意見には賛同する。

「……ふ、ふふふふふふ!」

「ちょ、怖いわよはやて!?」

 おお!? はやてが燃えている!?

「キタでキタで! これからがあたしの真価の見せ所や! さあ、揉むでぇ~、揉みまくるでぇ~。より取り見取りやぁ~」

「……はやてちゃん。少しは自重しましょう? ほら、皆さん引いてますよ?」

「反省せいよ?」

「いや、お前だよ」

 私に突っ込みさせるな。
 第一。

「どうやって、目標に近づくつもりだ。足動かないのに」

「……リイン!」

「ユニゾン使ってまでやるな! リインフォースもわざわざ来ない!」

「……主の命には、従わなくては……」

「なら、仕方ない。私は、はやてを性犯罪者にしないためにも、心を鬼にする」

「……具体的には?」

 そんなの決まってる。

「リインフォースの胸を揉む」

「リインの胸はあたしのや! 後キャラ被るからやめぇ!」

 ち、駄目か。

「……せつなさん。立派になって……」

「せつなちゃんは話し出してから性格変わりましたから……」

 ……すずか。性格変わったんじゃなく、地を出し始めたといったほうが的確だぞ?
 まあ、渋るはやてをリインフォースに任せ、露天風呂に突入。
 ……広い。
 絶景だ。

「さて、温泉始めて組……フェイトとアリシア、後ヴィータ。湯船につかる前にまず身体を洗うのが基本だから、ちゃんと洗うこと……アルフ! いきなり湯船入ろうとするな!」

「え~? 堅いこと言いっこなしだよ」

「マナーぐらい守ろう。……ほれ。同じミッド組のプレシアさんやリンディさんでさえ、先に体洗ってるのに、お前だけ見逃すわけにはいかない」

「むぅ。わかったよ」

「わかればよろしい」

 鍋将軍ならぬ風呂将軍見参。
 シグナム何も言わないからな。

「……さて、私も洗うか」

「せつなさん。洗ってあげるわ。こっちきて?」

「一人で洗えます。……けど、背中だけお願いします」

「……せつながツンデレしてる……」

「せつなお姉ちゃんツンデレ~」

 やかましいぞそこの擬似双子。
 ……リンディさんの手つきは凄く気持ちよかったです。

「はい、終わり。どうだったかしら?」

 うわ、凄く嬉しそうに溶けてはる。
 ちくしょう、なんだか悔しい。

「……リンディさん。背中流してあげるから、後ろ向いて?」

「!? あ、ありがとう!」

 そんな手放しで喜ばんでも。
 ……しかし、肌きれいだな、シミ一つないぞ。
 うう、男の身体であれば~!

「……気のせいかしら? せつなから邪なオーラが……」

「母さん、それたぶん正解……せつな、女の子大好きだし」

「せつなお姉ちゃん変態?」

「フェイト、アリシア、今のせつなに近寄るんじゃないよ? 食べられちゃうから」

 ええい、うるさいぞテスタロッサ家!
 だが、今はリンディさんの背中を愛でる……じゃなく、洗うのが先決だ!

「……い、痛く、ないですか?」

「ええ、気持ちいいわよ? うふふ~。娘って欲しかったのよ~」

「……そう思うなら、一人にしなければ甘えられたのに……」

「……そうね。ごめんなさい。……事情があってね?」

 はいはい。次元航行艦艦長は忙しいからね。
 ……しかし、この玉の肌の前では、いつものツンモードもがたがたである。
 ちくしょう、キレイだな、羨ましいな。

「……なんでキャリアウーマンなのにここまで肌の手入ればっちりなんだ……」

「あら? 女ですから、当然よ?」

 元男にはわからん。
 ……洗い終わってかけ湯。
 ……み、水を弾いて玉に!? 絶対三十代じゃねえぞこの艦長。
 魔法? 魔法なのか!?

「どうでしたか?」

「ええ、気持ちよかったわ。ありがとう」

 ……くそう、押し倒したいぞ。
 大人の女なのに可愛らしいんだよもん。
 
 ……さて、のんびり入浴タイム。
 ……さっきまで放置してたけど、シグナム。

「幸せそうだね。……やっぱり、温泉気に入った?」

「せつなか……ああ、この世の極楽だな、これは……」

 そうだろうそうだろう。
 日本の文化舐めるなよ?

「海鳴市内にも、今度クアハウス……銭湯ができるらしいから、完成したら一緒に行こうか? はやても連れて」

「ああ、それはいいな……この時代は、すばらしい」

 ふふふ。古代ベルカの騎士をうならせる、日本文化すげぇ。
 ……で、何をそんなにジト目してますかアリサにすずか。

「いや、あんた、シグナムさんと一緒に溶けてるから、あんたも温泉好きなのかと思って……」

「すっごく絵になりますよ? 二人とも……」

 題名は『少女と騎士』で決まりだろう。
 後、温泉は大好きだ。

「この日のために、無理したんだから、これぐらいの役得はあってもいいんだよもん……」

「……まあ、そうよね。で、上がったら、卓球の準備してあるから、覚悟しなさいよ?」

「卓球? なんだそれは?」

「流石にシグナムは知らんか。テーブルテニスともいって、木のラケットで球をテーブル上で打ち合う競技だ。温泉には、マージャンゲーム、カラオケに並ぶ、三大遊戯の一つだ。……覚えたら、美由希さんあたりとやるといい。強化なしなら、いい勝負になると思う」

「……そうか、楽しみだ……」

「て、いうか、何であんたマージャンとか知ってるのよ……」

「うん? 忘れたのか? これでも前世で二十まで生きたお兄さんだぞ? 大体の事は知ってる……」

「……今は、女の子だよ……ね?」

 何故引く? 今は女の子だが?

「……すずか。女の子でも、同性愛者というものがあってね?」

「はいストーップ! すずかを怪しい道に進ませない!」

 すずかを庇うアリサ。
 そのシチュエーションは二度目だ。

「こないだも言ったけど、アリサも十分射程範囲なんだよ? ……アリサ、きれいな肌だよね?」

「あ、こら! 触るな……て、すずかはそんな期待の目を向けない! 助けなさいよ!?」

「え? 喜んで前に出たんだと思った」

「すずかーーーーーー!!」

「……ふう。いい湯だ……」

 マイペースだな、シグナム。


 さて、弄れてないのは……なのは発見。
 ? どうしたなのは?

「……あそこに、きれいな人が……」

 きれいな人……?
 ああ、凄いねぇ。あのバスト、あのお尻。
 どこのグラビアモデルかと。
 隣の銀髪美少女もランク高い。
 もう一人のロングストレートの女性も堪らない。
 どきどきものです。

「せつなちゃん、邪なオーラ駄々漏れなの……」

 おっと、こりゃ失礼。

「こほん。他の宿泊客みたいだね。凄い美人ばかり……」

「ね? カッコいいよね。……私も、あんなふうになれるかなぁ?」

 ……そんなのきまってる。

「なのはは、心配しなくても、凄い美人になるよ。私が保証する」

「……えへへ。ありがとう、せつなちゃん」

 うわ、照れた顔が可愛すぎるんだよもん。
 やはりここはお持ち帰り……?
 ……視線を感じる……!

「パラディン! 【フェイルノート】スタンバイ!」

【stand by Fail naught set up】

「せつなちゃん!?」

 視線の先……いた! 
 金髪ウェーブショートの男!

「【爆裂一射】! 燃え尽きろ!」【flame shot】

 旅館の近くの木の上から、ご丁寧にライフルスコープで見ている男に炎の矢をぶち当てる。
 ……悲鳴が聞こえ、ぽとりと落ちるデバガメ男。

「……俺のなのはを邪な目で見るとは……愚かな」

「真正面から堂々と見てるせつなちゃんに言われるのは、ものすごく納得いかないの」

 ? 何か間違ってたか?
 ……フェイルノートをパラディンに戻し、髪の中にしまう。
 ……そんなところに隠してたのかって突っ込みはなしの方向で。

「……あんた凄いね~? いや、今の私らの連れなんだけど、迷惑かけたね」

 と、話しかけてくるのはさっきのグラビアモデルさん。
 ……せ、せめてバスタオルぐらいは巻いてください!

「あ、圧倒的なの……」

「なんて凶器だ……シグナム、いや、それ以上だと!?」

「? まあ、デバガメ退治にご協力感謝するよ。あいつは後でたっぷりお仕置きしとくから、勘弁してね?」

 かっこよくウインク&敬礼して、友達と思われる女性二人に合流するグラビアさん。
 ……よく見ると、筋肉の付き具合が、格闘家のそれに似ている。
 ……もしかして、軍人か?

「……かっこよかったの……」

「ああ……く、私だって、数年もすればあれくらい……」

【ふふふ、マスターは私の生前とよく似てらっしゃいますから、ペッタンコは確定ですよ~?】

 ぐは!? 貴様なんと言うことを!?

「……私は、どうなるかな……」

「なのはは大丈夫。桃子さんの遺伝子でペッタンコは免れるから……」

「なら、平気だね!」

 私の心配もして欲しいんだよ。なのは……

 後、いきなり魔法使ったことをリンディさんに怒られましたが。

「デバガメ男は死刑でFAです!」

 と力説したら納得された。
 なかなか話のわかる人である。
 

 温泉から上がってまずすることは、牛乳を飲む。
 プレーンもいいんだが、ここはあえてコーヒー牛乳で!
 フルーツ牛乳は甘ったるすぎて後に残るのがいや。
 
「せつなはお子様ね~? 牛乳は、プレーンが一番よ!」

「……白い液体を美味しそうに飲むアリサたんはぁはぁ」

「ブフゥ! せ~つ~な~!!」

「あら、こぼしたらはしたないわよ、アリサ? ほら、舐め取ってあ・げ・る」

「近寄るな変態~!!」

 ふん。人をお子様呼ばわりするからだ。

「……やっぱり、教育って必要なのかしら……」

「せつなちゃん。変態さんですから」

 すずかが酷いんだよもん。


 で。

「さあ、覚悟しなさい、せつな! 私のスマッシュの餌食にしてあげるわ!」

 卓球である。
 とりあえず初戦はアリサたっての希望により、私対アリサ。
 ちなみに隣のテーブルでは。

「ふ!」「はぁ!」「まだまだ!」「甘いぞ恭也!」「やるな、父さん!」……

 高町人外親子対決の真っ最中。
 シグナムはそれを見て勉強中。

「ほな、アリサちゃん対せっちゃん試合開始や~」

 審判にはやて。
 自力で動けないので審判に徹してくれるらしい。
 ……関係者しかいないから、後でユニゾンしてもいいぞ?

「行くわよせつな! バーニング・サーブ!」

 かっこよく言ったけど、ただの力任せのサーブだったり。

「ほいっと」

 軽く返す。

「でぇい!」

 一撃一撃気合を入れる元気なアリサ。
 一生懸命な姿が可愛いなぁ。

「よっと」

 大してこちらはあくまで軽く。
 力任せじゃいかんのよ。

「ここよ!」

 スマッシュを入れてくる。
 じゃあ、返すか。

「!」

「え!?」

 ……反応しきれず、呆然とするアリサ。
 向こうのスマッシュを捉え、スマッシュ返し。
 ……小学生の技じゃないね。

「じゃあ、行くよ?」

「く! 来なさい!」

 ……十分後。

「せっちゃんの勝ち~」

「まだまだだね」

 某王子様で決め。テーブルテニスだし。

「くやしぃ~!! 何でそんなに強いのよ!」

「ベルカの騎士舐めるなよ? これくらいできないと、シグナムと剣戟なんぞできるか」

 暇なときに付き合ってもらってます。
 7:3で負けてるけど。

「くぅ! すずか! 任せたわよ!」

「うん。……せつなちゃん。本気出すよ?」

 ……こ、怖い。
 なんか凄いオーラが出てるんだよもん。

 ……結果。

「すずかちゃんの勝ちや~」

「えへ。勝っちゃった」

 無念……運動神経のみだとすずかには勝てません。
 うぬれ、ならば!

「フェイト、ゴー! 私の仇を!」

「任せて。せつな。……すずかを倒す」

 フェイトの俊敏性なら、すずかを倒せる……かも。

 ……二十分後。

「勝者、すずかちゃん~!」

「ありがとうございました」

 うそん!?
 フェイトが負けたの!?

「む、無念だよ……すずか、魔導師でも騎士でもないのに……」

「くぅ……なら、こちらは、最終兵器ヴィータ!」

「ルールは覚えたぜ! まかせな!」

 ……いやな気配はするんだけどね?

 で、五分後。

「すずかちゃん圧勝~」

「ご、ごめんね?」

 はや!? 後、よわ!

「な、なんだあの動き……シグナム以上じゃねえか……」

 ええい、月村の妹は化け物か!?
 ならば……

「リベンジだ、すずか。勝負!」

「せつなちゃん。いいよ。はじめようか」

 ユーノ、私を導いてくれ!

『僕はまだ死んでないよ!』

 試合開始。
 ! 四連戦だって言うのに、動きはまだ鈍らないすずか。
 タフだな。だがしかし!
 私には、ユーノが力を貸してくれてる!
 ……何故ユーノかって? それはもちろん。

「浴衣から見える白い肌ハアハア」

「ふぇ!?」

 もらったぁ!

『冤罪だぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 ばっちり決まった。一点先取。

「ちょっとまてぇぇぇぇ! 言葉責めなんて卑怯よ!」

「私は、勝負の為なら鬼になると決めた女! 後、ユーノの言葉を代弁しただけだよ!」

『言いがかりだぁぁぁぁぁ!!』

「ユーノ君。もう一回頭冷やしてこようか?」

 ユーノ南無。

「さあ、行くよ、すずか!」

「ふ、ふぇぇぇぇん!」

 結果。

「せっちゃん勝利~。……やけども、納得いかんなぁ、これは」

「ん。堪能しました。……顔真っ赤にして蹲るすずかたんはぁはぁ」

「……せつなちゃんのエッチ」

 ふふふふふふ。
 真のエロスには褒め言葉にしか聞こえん!

「しゃあない、ここはあたしの出番やな。リイン!」

「はい」

「「ユニゾン・イン」」

 ! 来たなラスボス!

「ふふふふふ! エロスであたしに勝とうとは、片腹痛いでせっちゃん! 真のセクハラ地獄はここからや!」

「抜かせ、小娘。返り討ちだ!」

 今ここに、史上最強のエロス小学生の戦いが切って落とされようとしていた!

「……これが、卓球か……」

「シグナム、間違った知識は覚えないでね?」

 そうですねシャマルさん。少なくとも八歳児のやることじゃねえ。

 ちなみに。

「二人とも、エロスはほどほどに、よ?」

「「すみませんでしたぁ!!」」

 収拾は桃子さんがつけてくれました。
 流石魔王の母。迫力が違いすぎる。




[6790] 9.海鳴温泉館 三つ目
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/13 12:56
 夕方に差し掛かり、あたりが茜色に染まりだすころ。
 卓球の汗を流す為、もう一度温泉へ。
 
「……ふぅ」

 湯船につかり、思いっきり溶けてみる。
 みんなはいろいろと遊びに行ったり、シャワーだけで済まして出たり……
 俺に付き合ってくれてるのは、隣で一緒に溶けてるシグナムぐらいだ。

「……せつなさん?」

「ありゃ? リンディさん」

 リンディさんが湯船に入ってきた。
 私の隣に座って、こちらを見てる。

「さっきは白熱してたわね?」

「……まあ、せっかく遊ぶんですし、楽しんだもの勝ちってことで……」

 まさかセクハラ合戦に発展しようとは思わなかったが。

「……あのね、せつなさん。朝の話なんだけど……」

「……シグナムたちに、手出しさせませんよ~?」

「いえ、そっちじゃなくて……あなたが、前世の記憶を持ってるって……」

 ……そっちか。

「はい、持ってます。……むしろ、それが私の全てになります」

「……どういうことかしら?」

 ……まあ、話してみるか。

「私……俺は、二十歳まで生きた男性です。親を早くに亡くし、姉と妹と三人兄妹で暮らしてました」

「……そう」

「高校出て、大学はいかずに、バイトで家庭の金入れてました。妹が高校生で、姉はOL。……親がいないだけで、後はどこにでもある普通の家族だったんです」

 それなりに、退屈だったけども、幸せな毎日。

「でも、崩れるのは一瞬。……俺がバイトに行ってる間に、強盗が押し入ったみたいでしてね。家には姉と妹……結果は、二人とも、陵辱の上絞殺……とても、酷いものでした。同じ人間なのに、どうしてここまで残酷なことができるのかって……」

 リンディさんが息を呑むのがわかる。
 ……話を続ける。

「俺が帰ってきたとき、丁度、ことが全て終わった後でね? ……犯人二人が、出て行く準備をしてたところだったんです。一人は下半身丸出して、一人は手に入れた金をカバンに押し込んでて……その二人の後ろに、見えたんです。横たわる二人の体と……目を見開いて、光をなくして、こっちを見ている、妹の、顔が」

「もういい! もうやめて!」

 ……リンディさんの叫び声で、我に返った。
 ……俺自身、そのときの情景を思い出し、泣いているのに気付いた。

「……続き、聞きます?」

「……ええ、ごめんなさい。取り乱して……」

「少し、真に迫りすぎました、ごめんなさい。……そんな光景見た後だから、俺が取った行動は、一つだけ。犯人二人を殴り殺しました」

 こっちを見据えるリンディさん。
 無理もない。
 たとえ前世の話だろうとも、小さな少女の口から、殺したって言葉が出れば、誰でも驚く。

「怒声と一緒に殴りかかって、一人を打ち倒し、もう一人の下半身丸出しのほうの股間を蹴り上げ、その間に、打ち倒したほうに椅子を叩き付け……しばらく殴り続けてそいつが動かなくなったのを確認して、もう一人のほうへ。砕けた椅子でさらに殴り倒し、その顔面を砕き……気がついたら、二人とも死んでいました。……一応、奥の部屋の姉と妹を調べ、二人が死んでるのを確認して……ふらふらと、外へ。しばらく歩いて……気がついたら、トラックに跳ねられ、道路に叩きつけられ、自分が死ぬのを、ただただじっと、感じてました……」

 一気に話し終え、ため息をつく。
 ここまで詳しく話したのは初めてだ。
 はやてやなのはたちには、ここまで詳しく話せない。
 ……多分、俺の顔も、酷いものになっていると思うから。

「これが、俺の死ぬまでの話。……私は、四歳のころ、その最後を、思い出してしまった」

「!?」

「……その時には、漠然と自分が男の人の生まれ変わりだって気付いてただけだったんです。見たことのない景色、知らないけれど、優しい女の人、覚えたはずのない技術……でも、周りは、信じてくれなかった。なんとか信じるに足る証拠を挙げようと、思い出して、思い出して……それを見てしまった。四歳の、少女が。……ただ思い出すだけなら、理解ができずに、怖い夢で済んでたかもしれない。けど、そのときの俺の感情、俺の感覚、俺の知識、全てを思い出してしまった。そして、理解した。……その時から、私は、人に、触れるのが、怖くなり……口を紡ぎ、感情を殺し、心を閉ざしました」

 これが、永遠せつなに纏わる、心的外傷後ストレス障害の顛末。
 後はただ、ただ、生きているだけの4年間。
 動く、お人形……

「……その四年の間に、俺の意識が再構築されて、この四月、俺が再起動した。……驚きましたよ。目覚めたら、女の子の身体になってるし、身長縮んでるし、最初、この身体に憑依したのかと思いました……いろんな事を思い出して、いろんな人と話して、ようやく、自分が転生して、女の子になったんだって、気づいて……結局、男性意識と女性意識が混同する、きわめて不安定、だけど、絶妙のバランスで安定している人格になりました」

 これが、今の私。
 誰にも否定できない、今の永遠せつな。

「……もし、その四年間の間に、誰かいたら……誰か側にいたら、変わっていた?」

「さあ? 終わってしまったことはそう簡単には変えられない。事実は事実として受け止めるだけ。もしもなんて、ありえない。……そんなことを言い出したら、きりがない」

 もしも、あの時、早くバイトが終わっていたら、もしも、犯人を殺さず、捕まえるだけにしていたら、もしも、周りの人の誰でもいいから、信じてくれていたら、もしも……誰かが、私の側にいてくれたら。

 そんなもしもは、ありえない。

「だから、私は決めたんです。今を、精一杯、生きようと。そして、幸せをこの手に掴む! そのための障害はぶち壊す! 誰が私の幸せを邪魔するのなら……殺してでも排除する。誰にも邪魔させない。私は今、幸せなんだ!」

「……せつなさん……」

 その姿は、他人にはどう写るのか。
 愚か? 滑稽? 道化?
 そう見えるのなら見るがいい。私は、今を生きている。
 その邪魔をするのなら、容赦はしない。

「……まあ、そういうことだ。私は、私たち夜天の守護騎士は、主とは別に、この少女の守護に付く。……管理局が私たちを捕まえるというのなら、全滅を覚悟するのだな」

「……シグナム。私はそこまでお願いしてないんだけど……」

「水臭いことをいうな。お前もベルカの騎士。ならば、その仲間を助ける為なら、我らの力、いつでも貸そう」

 むぅ。相変わらずかっこいいことを……

「……せつなさん。闇の書は、もう、ないのね?」

「ええ、ありません」

「……後で、その詳細を教えて? ……はやてさんが、夜天の書を所持できるように、上層部に働きかけてみる。……私も、あなたに幸せになって欲しいから……」

 ……リンディさん……やっぱり、この人はお人よしだ。

「……本当は、放って置いて欲しいんですけどね……」

「そうも行かないわ。もし、他の部隊が彼女たちの事を知ったら……多分、問答無用で捕まえにかかると思うし」

「む、それは困る……とにかく、それはこの旅行が終わった後ですね。……旅行中は、休むことにしてますから……」

「それは、賛同するわ」

「それがいい。……お前は、年齢以上に働きすぎだ」

 そうかなぁ?
 ……いや、八歳児のやることじゃないと解ってるけどね?



 夜、夕食時、みんなで食事です。
 流石、温泉宿の食事は豪華。
 私はどうしてもここまで本格的にできません。
 家庭料理オンリーですので。

「あたしかてここまでできんで? こういうのはプロにまかすんが一番や」

「餅は餅屋ってね?」

 ……うん、お肉美味しい。

「フェイト、これ美味しいよ~」

「うん。……あ、アリシア、それは鍋に入れないと苦いよ?」

「え? うん。……えへへ。ミッドではこんな食事なかったから、楽しいね、お母さん!」

「ええ、そうね……せつなに、本当に感謝しないと……」

「? せつなさん、プレシアさんたちに、何かしたの?」

 ……そこは突っ込まないでいただきたい。
 まあ、言うとしたら。

「親子喧嘩の仲裁ですか。……後は……まあそんなところです」

「……そう。あなたがそう言うんなら、そうなんでしょうね」

 そうそう。
 ……セーフ?

「ほら、リンディさん。お肉煮えてますよ? 今が食べ時ですから」

「あ、ありがとう。……やっぱり、娘もいいわね~」

 うう、そんな嬉しそうにせんでください。

「……一緒に住んでくれとは言いませんけど、もう少し頻繁に会いに来てくれたら、今度は私の料理食べさせてあげますよ」

「本当に!? 楽しみにしてるわ♪」

 ……そこ、アリサ! ニヤニヤすんじゃない!

「ふふん。せつなのツンデレ」

 く! 本家にツンデレ言われた!

「にゃははは。せつなちゃんツンデレ~」

「なのはまで!?」

「諦めや。せっちゃんが大人限定でツンデレやってばればれや」

 な、それは違うぞ!?

「わ、私がツンデレなのは、リンディさんぐらいで……」

「あら? 私、最初は殴られたんだけど?」

 そこで口出しするなプレシアさん!

「あ、プレシアさんもですか? 私も今朝に……」

「ああ、あの子、どうも大人をわからせるためには、まず実力行使に及ぶから……」

「そこまで過激じゃない! 変な誤解を広めないでプレシアさん!」

「あらあら。暴力は駄目よ? せつなちゃん」

 暴力じゃないもん! 修正だもん!

「うう~。暴力娘じゃないのに……」

「……ツンデレと暴力娘とエロス娘と……せっちゃん称号増えまくりやな」

 うっさい。



 食事が終わって腹ごなしに散歩することに。
 相手は何故かシグナム。
 
「……つーか、仲良いな私ら」

「そうだな。……シルビアも、気がついたら私と一緒にいた」

 むぅ、私ってば、シルビアと同じ思考形態してるのかな?
 
「じゃあ、もう少し進んだら、一戦お願いできる?」

「承知……せつな」

 と、ここでよく知る反応。
 ジュエルシードだ。

「他の子が気付く前に終わらせる。シグナム」

「解った。レヴァンティン」『Gefängnis der Magie』

 ベルカ式の封鎖結界。
 反応は……山の森の中!

「パラディン、セットアップ!」【get set】

「レヴァンティン、騎士甲冑を」『ya hole』

 飛行魔法で森の上空へ。
 ……対象は……いた! て、あれぇ!?

「だぁぁぁぁぁぁ!! なんでクマぁぁぁぁぁ!!」

「た、助けてぇぇぇぇぇ!!」

 現地住民!? じゃなくて、確かあの金髪は……

「昼の覗き魔……」

「……助けないほうがいいか?」

 そうしたいのは山々だけど。

「そうも言ってられない。【ブリューナク】スタンバイ!」

【stand by brionac set up】

 槍を構え、突撃準備。

「波状攻撃で一気に沈める! 先に行くぜ!」

「承知!」

 カートリッジ一発消費。猛る魔力を推進剤にして、夜を駆ける!

「はぁぁぁ!【天昇一穿】!」【impact Charge】

 魔力を槍の穂先に集中。目標に突撃して……駆け抜ける!
 腹に大穴を開け、後詰めのシグナムの一撃。

「『紫電一閃』!」

 剣閃一蹴。……クマに取り付いたジュエルシードが姿を現し、クマはとりあえず無傷。
 杖を取り出し、ジュエルシードを封印。……十四個目。

「あ、あんたたち、一体……」

「ま、魔法少女……」

 側で震えてるメガネの少年と、金髪の男を一瞥だけして、

「……覗きは犯罪だぞ? 今度覗いてたら……さっきのを股間にぶち当ててやる」

 と、口端をゆがめて言ってやった。
 抱きついておびえだす二人を尻目に、シグナムと空へ飛ぶ。

「……放って置いていいのか?」

「あいつら、あんな山奥から風呂場覗こうとしてやがった……二人の頭に掛かってたの、スターライトスコープだぞ?」

「……それは知らんが、覗きなら放って置いていいな」

 天罰覿面ってね?

 で、さっきの歩道に戻る途中。

「せつなちゃ~ん!」「せつな!」「せっちゃ~ん!」

 あれま。
 なのはにフェイト、はやてまで。

「ああ、ご苦労様。終わったよ?」

「……うう、せつなちゃん、無理しないって言ったのに!」

「そうだよせつな。こういう時は、頼って欲しい」

「せっちゃんは絶対働きすぎや! シグナムも、何で止めてくれへんの!?」

「あ、いえ、その……すみません、主」

 たはは……心配かけちまった。

「ごめん。最初に気付いたから。飛び出しちゃった。……ありがとう、心配してくれて」

「もう……絶対に、次は頼ってね? せつなちゃん一人で頑張ってるわけじゃないんだから」

「そうだよ。私も、せつなのために頑張りたいんだから」

「せやせや。……せっちゃん一人の身体やないんやで?」

 あ、あう。
 ひょっとして……

「俺、尻にしかれてるのか?」

「……ノーコメントだ」

 やれやれ……


 宿に帰ってそろそろ就寝の時間。
 そんな折、すずかに呼び出された。
 ……どうも、私一人らしい。

「ごめんね? 急に呼び出して」

「いや、いいよ。……なに?」

 誰も来ない静かな岩場。河の流れる音だけしかしない。
 夜風が涼しい。

「なのはちゃんたちには話して、せつなちゃんだけ話せなかったんだ……うまく、都合付かなくて」

「うん」

 とすると、やはり月村の秘密かな?

「……あのね。私の家……『夜の一族』って言って、吸血鬼の一族なんだ」

 ……ああ、確かそんな感じだった。
 
「人より、運動神経や腕力が強くてね? ……代わりに、血の鉄分が不足しがちな……遺伝子異常なんだって」

「うん……」

「私、この間から、人の血を……飲み始めたの」

「うん」

「……なのはちゃんたちに、迷惑かけちゃうかもしれないから、思い切って話したの」

「うん」

「なのはちゃんもアリサちゃんも、フェイトちゃんもはやてちゃんも、気にしないって言ってくれた。……それで、せつなちゃんにも、言おうと思ったの」

「……うん」

 一通り話し終えたのか、すずかはひどく、思いつめた顔で。

「せつなちゃんは、私と、友達でいてくれますか?」

「うん」

「迷惑なら、そう……え?」

 あ、驚いてる驚いてる。

「酷いな、すずか。私がそんな薄情に見える?」

「え、でも……私、吸血鬼なんだよ?」

「うん。私、魔法使いだよ?」

「……でも、私、人を傷つける……力があるよ?」

「なら私は、人を簡単に殺せる、力がある。……すずかは、私と友達じゃいや?」

「いやじゃないよ! ……せつなちゃん、私とお友達で……いいの?」

 何を今更。

「うん。すずかとなら……いいよ?」

「せつなちゃん……ありがとう」

 そう満面の笑みのすずかが、とてもキレイで……

「すずか……」

「あ……せつな……ちゃん……」

 頬に手を当てる。
 夜風に当たっても、頬は熱を帯び、とってもあったかい。
 腰に手を回し、すずかを抱き寄せる。

「……すずか、きれいだ……」

「せつなちゃん……」

 そしてそのまま、その可愛らしい唇に……

「て、こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アリサの怒声を聞きながら、吹っ飛ばされる私がいました。
 ど、ドロップキックだとお!?

「すずかを、怪しい道に引きずり込むなぁ!」

「あ、アリサちゃん……」

 ちぃ、惜しい。
 もう少しで落とせたのに。
 ……じゃなくて。

「にゃははは……残念だったね、せつなちゃん」

「せつな、その……私でよかったら」

「フェイトちゃん、ちょお、自重しよな? せっちゃん本気で落としに掛かるから」

 何だ、皆来てたのか。

「アリサ。やきもちか?」

「だ・れ・が、やきもちやくかぁぁぁぁ!!」

「え? 違ったの?」

「すずかぁぁぁぁぁぁ!!」

 あっはっは。
 やあ、やっぱりアリサは可愛いなぁ。

「せつなちゃん。女の子どうしじゃ、恋人になれないよ?」

「心は男だから問題ない」

「あるわ! ……せっちゃん、もうちょっと自重しようや? 流石に百合はあかんで百合は」

 ……そこまで言うか。

「むぅ……だが、すずかやアリサ、なのはやフェイトやはやてが男にチョメチョメされるぐらいなら……」

「いや、まだまだ先の話だから、そんなの」

「世の中には今ぐらいの女の子がいいって言う変態さんもいるんだぞ!?」

「おお、流石現役の変態さんや。言うことが違う」

 がふぅ!?
 何、そのクリティカルダメージ。
 すっごく傷ついたんだけど!?

「さ、話も終わったし、帰るわよ~?」

「「「「は~い」」」」

 ……私は無視か、そうですか……
 心の傷を塞ぎ、皆の後を追う……前に。

「お騒がせしてすみませんでした」

「いや、気にするな」

 こんな岩場の隅っこで、気配消して静かに夜釣りしていた男性にお礼を言う。
 私たちが来る前からいたようで、わざわざ私たちに遠慮して気配を消してくれたようだ。

「……釣れますか?」

「そこそこにな。……君は、俺に気付いていたな。どこかの部隊の出か?」

「いえ。ですけど、騎士ですから」

「……そうか。そろそろ戻ったほうがいい。……後、昼は同僚が世話をかけた。謝罪する」

 ……金髪覗き男の同僚だったか……

「今、森の中彷徨ってると思います。後で回収をお願いしますね?」

「了解した」

 さて、戻るとしますか。
 男の人に再度礼をし、旅館に戻る道を歩き出した。
 ……あの人も軍人かな。



 そんなこんなで、一日目が終了した。





*長かったので三つに分割投稿です。
本作はご都合主義&えぐい策略なしでお届けしています。









[6790] 10.明治十七年の温泉アリス
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/06/05 18:36
 現在午前五時。
 空がうっすらと青くなり始めたころ、パラディンの目覚ましで起き出す。
 ふっと気配を感じ、横を見ると、

「あ、せつなちゃんおはよう」

 なのはが起きてた。
 いや、まだ寝ぼけ眼だってことは、なのはも今起きたばかりか。
 他にも、

「せつな? 起こしちゃった?」

「せっちゃん、おはよう」

 ……魔法少女組、全員起きてるし。
 多分、皆考えることは同じなんだろう。
 全員、動きやすい格好で静かに外へ。
 
「せっちゃんも朝練か?」

「部活じゃないんだから……と、言うか、なのはやフェイトは解るけど、はやてまで……」

「あたしはこれくらいに起きて皆の朝ごはん作っとるから」

 なるほど、納得した。
 はやては既にリインフォースとユニゾン済み。
 騎士甲冑は着ずに、髪の色だけ変わっている。器用な。

 
 旅館の外に出てみると、

「お、なのは。せつなちゃんたちもおはよう」

「せつなちゃんおはよー。どうしたのこんな朝早くに」

 高町家の皆さんが準備運動中でした。

「にゃはは……ちょっと、魔法の練習を」

「そうか。無理はしないようにな」

 そう言ってなのはの頭をなでる恭也さん。
 ……ふむ。

「恭也さん」

「ん? どうしたせつなちゃん」

「私と、一度手合わせしてもらえませんか?」

 なんてことを言ってみた。

「ちょ、せつなちゃん!?」

「……いいだろう」

「お兄ちゃんも、なに言ってるの!?」

 なのはの抗議はあえて無視する。

「とにかく、ここじゃ駄目だから、奥に広場がある。そこまでランニングだ」

「わかりました」

 走り出す恭也さん達についていく。
 なのは、完全に置いてきぼり。

「わわ、待ってよ~!」

「行こう、なのは。……はやてはゆっくり付いてきて」

「了解や。……リイン、ゆっくり行くで」

『わかりました』

 十分ほど走った場所に、開けた広場があった。
 そこで一度身体をほぐし、パラディンを起動させる。

「パラディン、トレーニングモード。魔力負荷、及び強化はなし。【アロンダイト】スタンバイ。トレーニングモードに移行」

【Training mood. stand by alondite training set up】

 鎧は付けずに、騎士服のみ。手には剣。魔力強化がないので、いつもより少し重め。

「……それが、君の武器か」

「西洋騎士剣、アロンダイトです。……魔法はなしで行きます。刃は付いてませんから、安心してください」

「……こちらも、木刀だ。安心してくれていい。……では」

 お互いに構える。
 恭也さんは正眼八双。こちらは正眼。
 ……二刀流対大剣の場合、スピードで二刀流には負けるが、一撃が当たればそのダメージは推して知るべし。
 そして……恭也さんの先手!

「はぁ!」

 ! 速い!

「くぅ!」

 剣筋が見えない!
 スピードはシグナムより速い!
 けど、フェイトには劣る!

「せ!」

 一閃! かわされた!?

「甘い!」

 連撃を剣でガード!
 けど、ダメージがガードから抜けてくる!?

「徹か……けど!」

 体の頑丈さなら、なのはのプロテクションにも負けない!

「そ、こぉ!」

「くぅ!」

 当たった! けど浅い!

「!」

 あれ? 姿が消え……

「はぁ!」

 後ろ!?

「きゃう!!」

 背中にもろに喰らった。
 ……恭也さんの勝ちだ。

「……あ、ありがとうございました……」

「ああ、こちらこそ。……大丈夫か?」

 地面に倒れこんだ私に、手を差し伸べてくる恭也さん。
 ……強い。

「ふむ。恭也に神速を出させるとは……やるな、せつなちゃん」

 神速……なるほど、じゃあ、さっきのが。

「……まったく見えませんでした」

「一応、うちの奥義だからな。初見で見破られるわけにはいかん」

 そりゃそうだ。
 ……でも、悔しいな。

「む? ……すまん、痛かったか?」

「お兄ちゃん……せつなちゃんを泣かせた!」

「え? あれ?」

 むう、不覚。
 悔しさで泣いてしまった。

「なのは、落ち着いて。……次は負けませんから」

「あ、ああ……いつでもおいで」

 くそう、その余裕がさらに悔しい。
 そそくさと逃げる恭也さんが、カッコいいと思うなんて……

「せつなちゃん、大丈夫だった? 痛いところない?」

「平気。……練習、始めようか?」

 その後、なのははスフィアアタックと接近戦の練習。
 フェイトは戦術全般とトラップ回避。
 私は兵装二重展開の練習をして、朝の練習を終了した。
 ……はやて? はやては、地道に筋力トレーニング。
 ユニゾン状態なら足が使えるから、今のうちに足の筋力を取り戻すのが目的。
 ……闇の書の強制蒐集がなくなって、はやての足は回復に向かっている。
 けど、長い間使ってなかったから、筋力の衰えが激しく、まだリハビリもできないのが現状。
 そのために、毎朝ユニゾンして、筋力トレーニングしているらしい。
 ……はやてが歩けるようになれば、八神家の不安は管理局だけだな……


 皆が旅館に戻ってきて、丁度7時前後、寝ていた者も起き出し、皆で食事。

 今日の予定。

 昼は例の広場でバーベキュー。アルフが目を輝かせているのはできるだけ無視。
 女性陣の大人たちで食事の準備。男性陣は釣りで魚を取ってくることに。
 子供たちはそれまで自由行動。

 ……なんだけど、はやてはその料理スキルと世話好きの性格から、食事係へ。
 シャマルさんの見張り番とも言う。
 忍さんと恭也さんは早々に離脱。
 士郎さんと桃子さんもいちゃいちゃしながらだからまともに作業進まない。
 美由希さんに食事の準備をさせるのは危険なので、アルフと一緒にユーノで遊んでいる。ユーノ乙。

 結局、食事の準備は何故かできるプレシアさん。リンディさん、ノエルさん、ファリンさん。はやてとすずか。この六人が主体となった。
 ちなみに、余った子供組はアリシアとヴィータとなのはとフェイトとアリサ。アリサが主体でミッド組とヴィータに地球の遊びを教えている。鬼ごっことかかくれんぼとか。

 ……私? ザフィーラとシグナムを連れて岩場で魚釣りだ。

 ……あ、昨日のザンバラ軍人さん発見。

「釣れますか?」

「……肯定だ。君たちも釣りか?」

「はい。……ご一緒していいですか?」

「……構わん」

 軍人さんの隣に座る。その隣にシグナム、ザフィーラも準備する。
 現代の釣竿の使い方はさっき教えた。
 釣り自体は古代ベルカでもやっていたそうだ。
 ……ザフィーラのはまり方は尋常ではなかった。似合う……

「……せつな。隣の御仁は知り合いか?」

「昨日ちょっと。……後、例の金髪覗き屋さんの友達」

「……あいつは今、制裁中だ」

 彼の視線の先に、






「ちょ、姐さん!? これは無理! これは無理だってぇぇぇぇ!!」

「く、く、クマァァァァァ!!」

「おらおら! 魔法少女が倒せるんだから、傭兵が倒せない道理はない! しっかり倒してクマ鍋よ!」

「無理言うなぁぁぁぁぁ!! ちくしょぉぉぉぉぉ!」

「うぉぉぉぉぉ!!」







 ……南無南無。
 あ、空飛んだ。

「……クマ鍋……美味いのか?」

「アルフ喜びそうだよなぁ……」

「……ちょっと行って来る」

「うん……え?」

 隣を見る。
 ……ザフィーラが消えた。






「ておらぁぁぁぁぁぁ!!」

「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」」

「……あれま」







 ……ザッフィー……
 
 持って来たクマは士郎さんに頼んでさばいて貰いました。
 後、囮役を(偶然にも)こなした彼らにも、バーベキューに誘っておきました。軍人さん経由で。
 ……釣果? もちろん、私とシグナムでバケツいっぱいに鮎を釣ってきました。
 軍人さんもホクホク顔です。

 お昼。
 例の軍人さん御一行も加えてのバーベキュー大会。
 熊肉はザフィーラ提供。アルフ大喜び。
 ……ザッフィー? 心持喜んでる?
 意外な組み合わせだ……いや、ある意味順当か?

「ああ! 昨日の……むぐぅ!」

 金髪覗き魔さんとメガネ君の口にたまねぎ押し込んで、端っこに連れて行く。

「昨日の事は口外無用で。喋ったら、うちのこわーいお兄さんたちに一刀両断してもらうから」

 と、親指で指すのは恭也さんと士郎さん。
 ……腐っても軍人なのか、二人の強さをわかった金髪さん首を縦に高速運動。
 メガネ君はその前に、私に怯えてます。

「わかってくれれば重畳……私はせつな。仲良くしましょうね?」

「りょ、了解だ、嬢ちゃん。俺はクルツだ。こっちはカザマ」

「よ、よろしくぅ……」

 よしよし。素直な人は好きだよ。
 ん? 誰か近づいてきた。

「ああ、ごめんね? 今日は誘ってくれて。後、昨日はありがと。マオさんから聞いたわ。……あ、あたしはカナメ。よろしく」

 とは、昨日の風呂場にいた黒髪ロングさん。
 人懐っこい笑顔が綺麗。
 ……後、この人もスタイルいいんだよなぁ……

「……千鳥、肉が焼けたぞ。……む、クルツ。また迷惑をかけているのか?」

「ソースケよぉ。俺を何だと思ってるんだよ」

「覗き魔さん」

「ぐっはぁ!? ……せつなちゃんそりゃないぜ……」

 軍人さんの名前はソースケさんか。

「せっちゃん、意外と友達作るんうまいなぁ~。もう皆と仲良しさんか?」

「……まあ、いろいろあったから」

 特に、クルツさんとは腐れ縁かと思うほどにエンカウント激しいし。

「せつなさん。ちょっと」

 ……はぁ、そろそろ来るかと思ったが、リンディさんからの呼び出しです。

「まあ、楽しんでて」

「おう、ありがとな、せつなちゃん」

「感謝する」

「あんたはもっと嬉しそうな顔しなさい! ありがとね、せつなちゃん」

 ……思ったより、楽しい人たちでよかった。
 さて、リンディさんだ。

「……せつなさん。昨日の晩、結界張ってなにしたの?」

「……うーん。ちょっと魔法の訓練を」

 ジュエルシードは黙っておく方向で。

「……管理局法で、管理外世界での魔法の使用は禁止されているの、知ってる?」

「そのための結界ですが何か?」

 それすら駄目なら、どうやって訓練しろと?

「……第一、私たちは管理局に登録してませんし、管理局法に当てはめること自体間違いでは?」

「……それ言われると辛いわね……もう、わかったわ。でも、あまり人に迷惑は」

「かけませんし、かけた覚えもありません。……むしろ、掛かっているのはこっちなんだし」

「……それは、ごめんなさい」

 大体、管理局はうるさいんだよ。人の行動にいちいちけちつけて。
 しかも自分の世界ならまだしも、人の世界にまで出張ってうっとうしい。

「……でも、そうね。せつなさん。管理局に入らない?」

「拒否します。……私は、私の正義で動いてます。……その正義を制限する、管理局に入るつもりはありません」

 管理外世界の魔法使用禁止って、いざって時にどうすんだ?
 いちいち許可取るのか、破った後に始末書か?
 そんな面倒な組織、入ってたまるかばかばかしい。

「……せつなさん。一度言っておくわ。世の中は、あなたの我侭が通る世界じゃないのよ?」

「知ってます。……それでも、私は、私の大切な人の剣でありたいから」

 非力で、無力な者たちのための剣。
 ……私の誇り。
 それは、私の原動力の一つ。

「もう、あの光景を見るのは、いやなんです。……大切な人が、無残に殺されていくのは……私の知らないところで死んでいくのは、いやなんです」 

「……それを忘れることは、できない?」

「……それができれば、苦労しません。……それに、たとえ前世だろうけど、俺の、大切な思い出ですから」

 俺という意識がある以上、忘れることのできない記憶。
 それを忘れるということは、俺を捨てるということ。
 ……俺が消えれば、同時に。

「あれを忘れるということは、俺を捨てることになります。そうしたら、また、私は人形に戻ります。……今の私は、俺がいてこそだから」

 安定した不安定。確定した不確定。相反する物を抱えているからこそ、存在できる魂。
 それが、今の永遠せつな。

「……はぁ、しかたないわね。……でも、できれば、あなたには管理局で働いて欲しいわね?」

「あんまりしつこいと嫌われますよ? しつこい勧誘と男は嫌われると相場が決まってますから」

 いい加減揉むぞこの人妻。


 リンディさんと別れ、あまり構ってない人を探す。
 ……いや、なんで?
 答え:面白そうだから。

「と、言うわけで、楽しんでますか?」

「え? はい、楽しんでます。相良さんの言っていた、誘ってくれた人ですね?」

 相良? ……ああ、ソースケさんかな?

「ソースケさん?」

「そうです。あ、私、相良さんの上官でテレサ・テスタロッサといいます。親しい人はテッサと呼んでくれますけど」

「テッサさんですね? ……あ、フェイトと同じ苗字」

「え? 同じ家名の方がいらっしゃるのですか?」

 いらっしゃるのです。

「フェイトー。アリシアー」

 どうせだから呼んでみる。

「せつな? どうしたの?」

「せつなお姉ちゃんなーにー?」

「こちら、テレサ・テスタロッサさん。……君らの姉だ」

 と、言ってみるテスト。

「ママの隠し子!?」

「母さんの!?」

「違います! せつなさん!?」

 はっはっは。フェイトたちは騙されやすいなぁ。お兄さんちょっと心配。

「嘘だけどな?」

「え? うそなの?」

「せつなお姉ちゃんの嘘つきー」

「うー、騙された……」

 剥れるフェイトかわいー。

「でも、偶然ってあるんですね。あそこの黒髪の女性が、この子たちの母親ですよ」

「そうなんですか? ……じゃあ、今日はご家族で?」

「友人の集まりなんです。ね、フェイト」

「う、うん。……せつな、年上にも物怖じしないね? 緊張しないの?」

 ? そうかな?

「うーん。ほら、私、俺様主義だから」

「……意味わからないよ」

 うん、私もわからない。


 その後、皆でいろいろ遊んだり、釣ってきた鮎焼いて食べたり。
 楽しい午後を過ごした。
 ……なお、ソースケさん御一行にはあと一人、恭子さんというメガネさんがいることも判明。
 デジカメ装備で、いろいろ取り捲っていたので、こちらの分のデータを分けてもらうことに。
 記憶装置がなかったので、家のメールを伝えておいた。
 ……後日、これが元で大事件に巻き込まれるが、そんなことは私の知るよしもなかった。






 さて、夜です。
 二日目の夜は宴会です。
 ソースケさん御一行も巻き込んで、皆で乾杯。
 ……で、当然発生するカオス。

「……ううううううううう」

 泣き上戸だったのかプレシアさん。アリシアから離れません。

「ママお酒臭いー」

「ごめんねアリシアァァァ。お母さんが悪かったのよぉぉぉぉ! フェイトも、ごめんねぇぇぇえぇ!」

「……か、母さん……」

 あまりのギャップの激しさに、フェイトorz状態。不憫な。

「うふふふふふふふふふ」

 で、これはリンディさん。笑い上戸のようで。

「プレシアさんはいいですよね、こんな可愛い娘さんに愛されて……羨ましいわ。ほら、せつなさんも、私に甘えて~♪」

 腕広げんな。死んでも行かんぞ。
 代わりにアリサを生贄に捧げておいた。

「ちょっとせつなぁ!」

「アリサさんも可愛いわ!」

「ちょ、リンディさん苦しいぃ!」

 アリサ、南無。

「……お前さん、案外酷いな」

 クルツさん? 当然です。ああなるのは予測範囲内ですから。

「注ぎます?」

「お! 悪いな。……なんだ、手馴れてるな」

 中の人はこういうことも経験済みなので。

「じゃあお返し」

「あ、これはどうも」

 ……飲酒は二十歳になってから。
 これ? 泡の出る麦茶なのです。にぱー。

「……せつなちゃんいける口か。やるな」

「ふふ、まかせて。けど、私を酔わせても無駄ですから」

「流石にロリじゃないよ俺は。……ん~。十年後に期待ってところかな?」

 ……それは俺に喧嘩売ってるのか?
 十年後もペッタンコだってよこんちくしょう。

「こらクルツ! あんたこんな女の子まで口説くつもり!?」

「姐さん、俺そんなに飢えてねぇよ! ……なんか、男と飲んでるみたいなんだって、せつなちゃんとは」

 中の人、男でもあるからね~。

「まあ、あまり飲みませんし、今日ぐらいは多めに見てくださいな」

「……へえ? お嬢ちゃん、男は怖いのよ?」

「知ってます。でも、ほら……襲われても、返り討ちが基本ですから」

 どっちかって言うと、私が襲うほうだし。

「……そ、その、ぐしゃって手つきはなにを潰したのか聞いていいか?」

「き」

「ごめん俺が悪かった」

「うん、せつなちゃん強いわ。こんなのほっといて、私と飲みましょ」

 わーい、マオさんにお持ち帰り~。

 お持ち帰りされた一団には。

「む、せつなか」

「せつなちゃんいらっしゃ~い」

「メリッサ、せつなさん連れてきちゃったんですか?」

 ソースケさん、カナメさん、テッサさん。

「せつなちゃん、楽しんでるか?」

「見りゃわかるでしょ。楽しんでるわね」

「……せつな。大変だな」

 恭也さん、忍さん、シグナムのヤンググループでした。
 ……シャマルさん?
 向こうでプレシアさんと飲んでるよ。共に泣き上戸。
 美由希さんはユーノ君で遊んでる……ユーノ、乙。

「さて、せつなちゃん。あなたに来てもらったのは他でもないわ」

 あれ? ノリじゃなかったの?

「はいはい、なんでしょう?」

「ソースケ、テッサ、恭也と忍、後シグナムが気付いてるけど、あんた、その人格以外の人格あるでしょ?」

 ……あれ? 二重人格だと思われてる?

「せつなちゃん。もしそうなら、この場だけでもいい、話してくれないか?」

「……シグナム? 別に話してもよかったのに」

「いや、その、個人の事だからな……私が口出しすべきではないと思った」

「あれ? シグナムさん知ってたの?」

「……ああ」

 やれやれ、一応誤解は解いておくか。

「とりあえず、二重人格は否定しておきます。……男性意識である俺と、女性意識である私が一緒にいるだけですから」

「……どう、ちがうのですか?」

 あれ? テッサさんが意外に食いついてきますよ?

「どちらも性格は一緒ってことです。たとえば、マオさんのスタイルを見て、羨ましいと思う私と、押し倒したいと思う俺がいて、根源は二人とも性的欲求と判断できます。……つまり、女性的視点と男性的視点の両方ができるって言うだけで、根源の人格は同じなんです」

 ……あ、恭也さん煙吹いた。

「……では、男性意識でも、女性意識でも記憶の共有はあるんですね?」

「いや、その共有という言葉自体ないですね。両方とも永遠せつなですから」

「……そうか。では、お前は、その時その時で男性と女性を切り替えているということか」

「そうです。……意図的な意識の切り替えができる以上、それを二重人格とするのは難しい。両方とも俺だからな」

 と、言うわけで早速男性意識で会話。
 ギャップに驚くカナメさんと忍さん。

「……こ、声質まで変わるのね。……今のせつなちゃんは、男性意識?」

「ああ、二十代男性意識だな。戦闘とか荒事はもっぱらこっちだ。後、怒ったときもこっちだな」

「……せ、せつなちゃんの顔で男言葉……か、可愛いんだかカッコいいんだか……」

「まだまだ体が成長してないからな。ある程度成長したら、中性的になる……と、思う」

 お陰で胸は育ちません。
 ……女性意識が泣けてくる。

「……じゃあ、もう一つだけ聞きます。その現象になったのは……何か、きっかけがあるんですか?」

「きっかけ?」

 あるにはあるけど。

「その……誰かに誘拐されたとか、心因的ショックでとか」

「えーと……その、信じる信じないはそっちの感性でいいです。……私には、永遠せつなという人生の前、前世の記憶があります」

 ……反応を示したのは、テッサさん、マオさん、忍さん。
 ソースケさんは反応はしてるが、眉一つ動かさない。
 カナメさんは……戸惑ってる?
 恭也さんはなのはから聞いてるから、落ち着いてる。
 シグナムには昨日話した。

「名前は永森刹那。享年二十歳。死因はトラックとの衝突による全身打撲。……まあ、この記憶が、永遠せつなに引き継がれて私のベースになってます。男性意識はそのままですけど」

「……じゃあ、それがきっかけで?」

「はい。……一時期、私は心因性のPTSDに陥ってました。原因は……自分の見解ですけど、その前世の記憶の一番最後の部分を思い出したから」

「死の瞬間を?」

「いえ。……人の貪欲な欲望のありのままの姿……ですかね。……詳細を聞きますか?」

 ……シグナムは渋ってる、恭也さんも。
 けど、テッサさんは興味深げだ。
 マオさんもだな。

「もし、あなたが辛くなかったら……話してもらえますか?」

「ええ、もう何度も話しましたから」

 で、話すことにした。

 突然の悲劇、家にいた強盗たち、強姦され、殺された姉と妹、激昂した自分、人を殺す感覚、事実を受け入れ、失意の内に、己の死、それらを思い出して理解してしまった、幼い少女。

「それで、こんな人格になってしまいましたってお話です」

 話し終えた後、テッサさんに抱きしめられました……あれ?

「ごめんなさい……辛いことを思い出させてしまって……」

「……何度も話してますから、慣れちゃいました」

「……慣れてはいないだろう。泣きながら話すことじゃない」

 ……私の部分が涙腺弱いからなぁ。
 無意識に泣いてしまう。

「……それでか、君の異常性は」

「あはは。確かに、それが土台にはなってます」

「……忘れるのは、無理なんだな?」

「忘れたら、私と俺、両方が消えて、またお人形な私になってしまいますから」

 もう、心理学とか、精神学とかで救える範囲の話ではなくなっている。
 人の精神の神秘。そこに、私は立っている。
 下手に動かせば、すぐに崩れる砂礫の塔。
 その頂上にいるのが、私だ。

「ごめんなさい……あなたが、要保護対象なのかと、勘繰っていました」

「要保護?」

 何か、不穏な発言が出たぞ?

「……ここだけの、酔っ払いの戯言と聞いてください。……その、ちょっと、出ましょうか」

 ……他の人には聞かせられないと?

「俺とマオには聞く権限がない。……恭也たちにも、聞かせられる話ではない。悪いが、大佐殿と二人で話してくれ」

「……じゃあ、温泉にでも、いきましょうか?」

「……そうですね」

 恭也さんとシグナムに後を任せて、テッサさんと温泉へ。
 ……このとき、気付くべきだった。
 この場に、なのはとすずかがいないことに……




 <なのは>

 皆がしきりにお酒を飲ませに掛かるので、すずかちゃんと温泉に避難してきました。
 アリサちゃん? ……手遅れでした。
 フェイトちゃんはプレシアさんの変わり様にがっくりとして、しばらく動けないようです。
 はやてちゃんは……何故か皆に溶け込んでます。

「せつなちゃんは大丈夫かなぁ……」

 せつなちゃんはお兄ちゃん達と何か難しい話をしてました。
 ……せつなちゃんの周りでは、いつも難しい話が出てきます。
 リンディさんと話してても、プレシアさんと話してても、シグナムさんと話してても。
 ……そういう体質なんでしょうか?

「……あれ? 誰か入ってきた……?」

 学校で習いました。確か『噂をすれば影』。
 せつなちゃんと、せつなちゃんが誘った人たちの一人の、銀髪の女の人です。
 声をかけられればよかったんですが、湯船の端で二人とも座ってしまいました。
 私たちは奥の岩場の陰にいて、二人に気づかれていないようです。

「日本の温泉は二回目ですが、いつ来てもいいものですね」

 意外と親日の人みたいです。
 聞くと、アメリカの人らしいですが……日本語上手です。

「えっと、それで、その『要保護者』って言うのは何ですか?」

 ……お、お風呂場まで来て難しい話ですか。
 だんだんせつなちゃんが遠くに行ってしまいそうです。

「……そうですね。せつなさんは、『デバイス』と、言うのは御存知ですか?」

 せつなちゃんが眉だけ動かしたのがわかります。
 ……私もびっくりしました。
 
「……なのはちゃん。『デバイス』って確か……」

「うん。私やフェイトちゃんが持ってる、魔法使いの杖……せつなちゃんのパラディンや、はやてちゃんのリインフォースさんみたいなのも『デバイス』になるよ」

 レイジングハートや、フェイトちゃんのバルディッシュ。後、ちょっと変り種らしいけど、せつなちゃんのパラディンはインテリジェントデバイスといって、人工AIが入った自立支援型の高性能機だそうです。

 はやてちゃんのリインフォースさんはユニゾンデバイスと言われ、マスターのはやてちゃんと融合(ユニゾン)して、はやてちゃんの能力を上げる特殊なデバイスだってせつなちゃんが言っていました。

 ……デバイスは、この地球上のアイテムではないらしく、ミッドチルダと呼ばれる異世界の技術だそうです。
 でも、あの銀髪さんは、地球の人のはず……

「えっと、なんですか? それ」

 あ、せつなちゃん知らないふりするみたいです。

「私も、本物は一度しか見たことないのですが、人の精神エネルギー……魔力を物理エネルギーに変換し、所謂、魔法を使えるようにするアイテムです。……それで、ウェーバーさんが見たって言う、魔法少女が、あなただと思ったのですが……」

 ……せ、せつなちゃんから何か怒りのオーラが出ています!
 そのウェーバーって人と面識あるんでしょうか?

「ウェーバーって……クルツさんですか?」

「あ、はい。クルツ=ウェーバー軍曹。……あ、フルネーム聞いていなかったんですか?」

「聞いてません……つーか、あの野郎、もう喋ってやがったのか……」

 にゃぁぁぁ! せ、せつなちゃんが男の人モードになってます!
 て、じゃ、じゃあ、せつなちゃんが魔法使いだってばれたってことで……

「な、なのはちゃん。せつなちゃん……大丈夫かなぁ」

 すずかちゃんが恐る恐る聞いてきます。
 正直、自信ありません。

「……それで、まさかその要保護者って、魔法を使える人材を保護してるってわけですか?」

「いえ。……保護しているのは、その『デバイス』を作れる人を保護しています」

 ! そんな人、この世界にいるはずがない。
 だって、デバイスは……異世界の技術のはず。

「私と、カナメさん。後、私たちの保護している人たち。その人たちは『ウィスパード』と呼ばれ、『デバイス』を作る知識を唐突に手に入れた人達なんです。……そして、その知識、技術を研究し、ある組織が、それを実用化しました」

 ……実用化? それは、デバイスを……この世界の人たちでも、使えるようにしたってことでしょうか?

「……む、無茶だ! ありえない! ……リンカーコアは!? リンカーコアを解析しないと、デバイスがあっても使用できるはずがない! そうだろ、パラディン!」

 !? せ、せつなちゃん、知らん振りを完全にやめてます!

【……そうですね。テッサさん。リンカーコアの概念は知っていますか?】

「え? え、ええ。知識内にはありました。ですが、それが特定の人間にしかなく、地球上でも、発見例は一人だけ……。そのデバイスを開発した人は、そのデータを元に、擬似リンカーコアを開発して、それを使用した【一般人でも使えるデバイス】を開発したんです。……擬似リンカーコアの名称はマインドエナジー制御装置『Λドライバ』。それを組み込んだ特殊兵装。通称・魔力兵装『アームスレイブ』」

 ……へい……そう?
 それって、まさか……まさか……

「まさかそれを……戦争に使ってるのか!?」

「い、いえ、まだまだ実戦には向いていなくて、少数しか出回っていません。ですけど、これが大量生産されれば……」

【確実に各国のパワーバランスが崩れますね。……しかも、この世界では、質量兵器がまだ合法です。……そんな事態になれば、古代ベルカ戦争の二の舞になりますよ】

「あ、あの、この声は誰なんですか?」

 ……私たちの……魔法が、戦争に……?
 そ、そんなの……そんなのって……

「……とにかく、あんたたちは、そのウィスパードを保護して、その技術流出を防いでくれているんだな?」

「……それは……」

「おい、まさか、あんたたちも!?」

「……ハムラビ法典を、御存知ですか?」

「目には目をなんて言ってたら、この世界が地獄に変わるぞ!? あんたこそ、新約聖書は知ってるか!?」

「右の頬を叩かれて、左の頬を出していたら、力だけが支配する地獄になってしまいます! ……対抗するには、同じ力が必要なんです」

 ……やだ、やだよう。
 魔法は、戦争に使う道具じゃない……
 レイジングハートは、兵器なんかじゃない。
 なのに、なのに……

「! なのはちゃん!?」

「なのは!? すずかまで……」

「! 聞いて……いたんですか?」

 もう限界なの。
 
「魔法は、魔法の力は! 戦争の道具じゃないよ! どうして、それが、わからないんですか!?」

「……ですが、人は、人々は、その力を知ってしまった。……それを、無に返すことは、もうできないんです。……生まれた物を使わない人はいません。……あなたがいくら叫んだところで、変えられないものなんです」

 ……否定される。私の想いが。
 でも、でも……
 
「なのは、落ち着け。……はぁ、仕方ないか……」

 せつなちゃん……
 私の身体を抱き寄せて、頭を撫でてくれて……

「あのさ、テッサさん。……デバイスって、もともとどこの技術だと思う?」

「? いえ、流石にそこまでは……」

「……宇宙の果てのそのまた果てにはな、既に時空航行技術が確立している世界があるんだ。……デバイスは、その世界の副産物に過ぎない」

 ……せつなちゃん?
 そんな話を、どうして……

「そんな世界が、デバイスなんて危険極まりないものを、そのまま放って置くと思うか?」

「!? まさか、既にその世界では……デバイスを取り締まる管理組織があるというんですか!?」

「しかも、世界間を越えてな。……俺にもその伝がある。……もし、この辺境世界でデバイスが確立したと知られたら……」

「……異世界からの侵略もある……と?」

 そんな!?
 だけど、せつなちゃんは鼻で笑って、

「侵略? 冗談。デバイスが誕生して、その世界が何年経ってると思ってる。もはやその世界では質量兵器……この世界の主力兵器群が禁止されている。当然、それに対抗できる封印魔法もばっちり整ってる。……そんなところと、戦争なんてできるのか? あんた言ったじゃないか。まだ、この世界のデバイスは実戦には向いていないって。……戦争にすらなるか。俺らはなにもできないまま、その世界に管理されるんだよ。……まあ、知られたらの話だけどな?」

「……あ、あなたの作り話……」

「だと、思う? ……パラディン。お前の製造年、こっちの世界に換算して言ってみな?」

【……そうですね。西暦……二十年前後かと】

「!? じゃ、じゃあこの声は……」

「早く気づけ。……こいつは、古代ベルカの総合兵装型インテリジェントデバイス・騎士王の書。……二千年近く前に製造された、完成されたデバイスだ。……そして、こういったデバイスの使用者は、リンカーコアを持っている。……そっちの言う、擬似リンカーコアではなく、純正のリンカーコアだ」

「……では、あなたは……あなたたちは……」

「そういうこと。あんたたちみたいな擬似魔法使いではなく、本物の魔導師だよ。……まあ、ベルカの魔導師は、騎士と呼ばれているけどな」

 ……ぜ、全部ばらしちゃっていいんでしょうか?
 そう言うのって、黙ってたほうが……

「さて、それでどうする? 俺を捕獲する? ……現行の兵器は通用しない。対抗できるデバイスは豆鉄砲。……そんなもので、この俺を捕まえられると思うなよ?」

「……な、何が望みです!?」

「……もちろん、あんたたちが、そのウィスパードをちゃんと保護し、デバイスに関連するデータをこの世界から抹消することを希望する。……でなければ、そのデータを保有する組織、国、研究施設、軍隊の情報を、全て俺によこして欲しい。……片っ端から抹消する」

 !? そ、そんなの!?

「せつなちゃん! そんなの無理だよ!?」

「……無理でもやる。これは、ジュエルシード以上に厄介なことだ。……魔法の力を、この世界において置けない」

「でも、せつなちゃん一人でなんて!」

「……それは、私たちも協力すればいいんですか?」

 ! それって、せつなちゃんを?

「それがベストだが、拒否するのなら……一番初めに潰すのが、あんたたちになるだけだ」

「……それは、困りますね。……わかりました。あなたに協力します。……実際、異世界からの干渉なんて、ぞっとしません」

 ……いやだ。
 
「話は決まったな。あんたが戻り次第、データを俺に。……ああ、そっちで使ってる通信機器を渡して欲しいんだけど?」

 いやだ……

「そうですね、明日の早朝には、準備」

「いやだ!」

「! な、なのは?」

「どうして!? どうしてせつなちゃんがそこまで無理しなくちゃいけないの!?」

 せつなちゃんが、する必要のないことだよ!?

「……うーん。確かに、管理局に丸投げしてもいいんだけど」

「それなら!」

「でも、知っちゃったからさ。……そんな物騒な組織があるんなら、下手したらなのはたちにも、危害が及ぶかもしれないし」

「……でも、でもぉ……」

「なのは、私はそんなに頼りない?」

 そんなことはない。
 せつなちゃんはとっても強いし、頼りになる。
 けど。

「せつなちゃんが、苦しむ必要ないよう……せつなちゃんが、何で、苦しまなきゃいけないの……?」

 まだ、せつなちゃんも、私も、小学生の子供なのに……

「……なのはさん。聞き分けてください。せつなさんは子供でも……力があります。私たちは力のある人に、縋らなくてはいけないんです……」

「戦争は、大人の人だけでやってください! 子供まで、巻き込まないで……」

 だって、せつなちゃんは、こんなに、小さいのに……

「……あの、テッサさん。すまん。協力したいけど、この調子じゃ無理だわ」

 ? せつなちゃん?

「……どうしてか、聞いていいですか?」

「ん? もちろん。なのはが泣くから」

 そ、そんな理由で!?

「私は、なのはには笑って欲しい。けど、私がすることで、なのはが泣いたら、意味がなくなるから。……だから、今は、協力できません。ごめんなさい」

 ……せつなちゃん……

「……子供は気まぐれ……そういうことですか?」

「そういう理由でいいです。……私、なのはを泣かせるわけには、いかないんです……だって」

「……だって?」

「なのはを泣かすと、お兄さんに斬られますから。命は惜しいですし」

 ……ええええええええええええええ!?

「お、お兄ちゃんそんな危ない人じゃないよ!?」

「いや、あの人はやる。と、言うか、恭也さん宣言したし。『お前の事でなのはが泣いたら、お前を切る』って」

 なんてこと宣言してるんですかお兄ちゃん!?

「きょ、恭也さんが……あ、あなたでも、あの人には叶わないんですか?」

「……デバイス準備する前に近寄られて斬られますが何か?」

「……じゅ、充分距離を……」

「それ以前に気配すら読めませんよ? 死角から音もなく近寄られて、防御をぶち抜く斬撃を喰らって終わりです……デバイスを開発するより、御神の剣を研究したほうがよっぽど有効じゃないのか? もしかして……」

 お、お兄ちゃんって、もしかして人間じゃない?

「まあ、そんな人外「人外って言った!?」……相手にできませんから。世界の危機より、自分の危機をとりますよ私。後、なのはの笑顔と」

 つ、ついでみたいに言われました。
 後、お兄ちゃんはせつなちゃんの中では人間じゃないようです。

「……はあ、わかりました……もし、気が変わったら、連絡ください。……そして、その時には、全力であなたに協力します」

「……じゃあ、その時までに、あなたより上の人に、デバイスを捨てられるように働きかけといてください。……無理でしょうけど」

「……期待、しないでください。……すみません」

「元より、期待してません。……じゃあ、上がるか。……すずか?」

 ? あれ? そう言えば、すずかちゃんは?

「うう~~~~~~ん……」

 にゃぁぁぁぁぁ!? すずかちゃん真っ赤だよう!?

「だああ!? のぼせるまで待ってるなよ!? な、なのは手伝え!」

「にゃぁ! すずかちゃんしっかりして~~!?」

 ……結局、のぼせたすずかちゃんを部屋で寝かせて、私とせつなちゃんはその隣で寝ちゃいました。
 ……せつなちゃんが、私の頭をなでてくれていたのが、凄く嬉しかったです。

 あれ? ひょっとして、これがアリサちゃんの言う危ない道なのかな?














[6790] 11.管理局が見ている
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/14 09:01

 ……あの温泉旅行から数日。

 翌日の午前中には家路に付いた。
 テッサさんからはああ言ったが、協力自体はやぶさかではないので、通信機器は受け取っておいた。

「私の部隊専用の衛星通信ですから、盗聴は気にしなくて大丈夫です」

 と、言っていたけど。

 ……そう言えば、どんな部隊か聞いてなかったなぁ~。
 ……魔法少女ならぬ魔法傭兵相良ソースケ? 魔法兵隊? 強そうなんだか力抜けるんだか……
 魔法着ぐるみボン太くんでいいと思う……ボン太くん?
 ……ああ、目の前のぬいぐるみか。
 いつの間に買ったんだろう……
 まあ、それはともかく。

 この旅行を通じて、変な縁ができた。
 テッサさんは『デバイスはまだ実用段階ではない』とは言っていたが、その開発、研究をしているのは、テッサさんたちも同様だ。
 さらに、テッサさんもデバイス作成知識はあるという。
 ならば、研究が進めば、ホントにリンカーコアのない一般人でも使えるデバイスが出来上がってしまう。

 これは多分まずい。

 今は管理外のこの世界、そんなミッドチルダの……管理局の根本である高ランク魔導師重視主義に揺らぎがでてしまう。
 AAAランクの魔導師一人が、『アームスレイブ』装備の軍人部隊に負けるなんてことが発生したら……

 それはまずい。
 この世界は確実に管理局の目に留まり、よくて管理内に昇格?するだろうし、悪くて管理の名を借りた支配が始まってしまう。
 そうなると、俺はもちろん、なのはやはやてといった現地の魔導師は確実に管理局の目に留まる。
 フェイトたちも管理局に知られることになるし、下手したらプレシアさんの研究がばれてしまう。

 ……フェイトの生い立ちは、管理局法でアウトだ。
 プレシアさんはもうフェイトを完全に娘としてみているし、もし、それを咎められたら、俺はもちろんの事、プレシアさんも管理局に牙を剥く。
 ……散々リンディさんには脅しをかけているが、所詮個人の魔導師ばかり。
 組織が動けば、俺らなんかひとたまりもないだろう。
 ……主力四人が八歳児で、ちゃんと魔法教育を受けているのはフェイトだけ。
 俺は完全にシルビアの魔法戦闘技術のコピーだし、なのはとはやては魔法戦闘自体素人。
 後はヴォルケンリッターに頼るだけだが……正直、ガチで戦えるのはシグナム、ヴィータの二人だけ。

 プレシアさん自身も強力な魔導師ではあるが、基本的にあの人は技術者畑の人間だ。
 魔法戦闘に慣れているはずもない。それはこの間の喧嘩でわかった。
 AAAランク以上の接近戦重視の魔導師or騎士に弱いぞあの人。
 とにかく、できるだけ俺らは隠れ住む方向を重視。
 ……いざとなったら、俺が身売りするか……

 そう言えば、何か忘れてるような?

[キンコーン]

 ……はて? 今日は誰も来る予定はなかったんだが。
 あ、今日は日曜日。家でごろごろしてます。

 ……ジュエルシードは後七個。一応俺も探索しているんだけど、派手には探してない。
 リンディさんの目もあるのは当然の事(最近訪問率激上がり。仕事しろよ艦長)、なのは、フェイト、はやてに、

「「「せつな(せっちゃん)ちゃんは休んでて!」」」

 と、働かせてもらえない。
 しぶしぶ、シグナムやヴィータ、ザフィーラと魔法戦闘の訓練ばかり繰り返してる。
 お、女の子なのに体術スキルばかり上がって行くよ……?

 後、ミッド系の魔法もプレシアさんに教えてもらってる。
 ……例の睡眠中に脳の容量が拡大したのか、ミッド式の魔法もすいすい頭に入る。
 それをパラディン用に組み直し、先日、ようやく【アヴェンジャー】フォルムも稼動できるようになった。
 魔法スキルもうなぎ登り。

 あれか? 俺はリーサルウェポンでも目指したいのか?
 ……まあ、それくらいしないと俺の夢、なのはたちを守ることはできないんだろうけど。

[キンコーン]

 と、いかんいかん。
 お客様を待たせたままだ。
 ……一体誰だ?

「はい?」

 ドアを開けた先に、

「……こんにちは。久しぶりだね、せつな君」

 ……やたらと渋めの叔父様がいました。
 ……誰? 
 私の記憶を検索……あ、そうだ。

「グレアム叔父さん?」

「覚えててくれたか。……元気そうで何よりだ」

 ……うわーぉ。
 大物来たよ。確か、リンディさんより上の人じゃなかったか?

「お久しぶりです、グレアム叔父さん。……どうぞ? 上がってください」

「ああ、お邪魔させてもらうよ」

 ……さて、この人が動いたってことは……夜天の書がばれた?
 じゃなくて……闇の書が稼動していることが知られたか?
 でも、闇の書はもうなく、夜天の書に……あ!

 リンディさんにレポートまだ完成版渡してない。
 しまったぁぁぁぁぁぁ!?
 旅行から帰ってまだ三日しか経ってないよ?
 いや、それくらいあればばれるのか!?

 ……ひょっとして、八神家監視されてた?
 と、言うことは、グレアムさんってば、闇の書の転生先知ってたの!?
 だとしたらまずい。

「お、お茶、入れますね?」

「ありがとう」

 ……台所に向かい、パラディンにジャミングを頼む。
 そして、長距離念話。

「(シグナム! 今どこだ!?)」

『(せつなか? 今は家にいるが?)』

 返事は早く、そして、平穏。
 ……まだ、何か異変が起こっているわけではないらしい。

「(そっちで変わったことはないか?)」

『(? いや、特には。平穏な休日を過ごしているが?)』

 ……よかった……いやまだだ。

「(はやては? 家にいる?)」

『(主は部屋に。……何かあったのか?)』

 とりあえず、警戒だけしてもらうか。

「(今俺の家に、管理局の人が来てる。リンディさんより上の人だ。……もしかしたら、そっちの事が別経由でばれたかもしれない。まだなんとも言えないけど……警戒だけ、頼む)」

『(……わかった。襲撃に備える)』

「(お願い。……じゃあ、また連絡する)」

『(ああ、気をつけろ)』

 ……はやてのほうには手は行っていないか。
 まだ様子見かもしれないけど。
 用心だけはしておいて損はないだろう。
 さて、お茶を持ってグレアムさんと対談だ。
 念話しつつお茶の用意ぐらいはできる。

「お待たせしました。どうぞ?」

「ああ、ありがとう……しかし、リンディ君には聞いていたんだが……元気になったな」

「ええ。いろいろありましたから」

 ……よく考えたら、俺の人格形成し終わってまだ一ヶ月未満なんだよね。
 濃ゆいな俺の人生。

「さて、今日来たのは……まず、君の様子を見に来たんだ。リンディ君が、君の扱いに苦労しているそうだからな」

 いや、まあ、苦労するだろうね。

「すみません。特殊な人格になってしまいましたから」

「……話は聞いている。だが、人間、次元世界も含めて、たくさんの人種、人格、人生がある。君のような子も、いてもおかしくはない。……出会えるとは、思っても見なかったが」

 ……ふむ。人づてで聞いて、信じてくれたのは重畳。
 内心信じてない可能性もあるけど。

「まあ、元気なら何よりだ。……さて、本題に入ろう」

「本題……ですか?」

 さあなんだ?
 後、リンディさんはどこまで話したんだ?

「……実は、君にある本を渡しているんだが、必要になってね。返してもらいたいんだが、どこに仕舞ってあるかな?」

 !? それって、まさか!

「どんな……本ですか?」

「ああ、白色の、鎖に縛られた本だ。表紙に、先の尖った十字架が貼り付けてあるから、すぐにわかると思うが……」

 パラディンの事か!?
 てか、それしかねぇし。
 本をここにおいて行ったの、この人だったのか!?

「えっと、その本は……その……」

「? どうしたんだい? あの本は、君のリンカーコアでは、動かせないはずなんだが……」

 ? あれ? 
 おかしいな。リンディさんに情報流したはずだから、知ってるはずだけど?

「……あの、グレアム叔父さん? リンディさんに聞いてないんですか?」

「? 何をかね? ……君が、我々管理局の事を知っていること、後、前世の人格を有していること。……私が聞いたことは、これくらいだが……」

 だぁぁぁぁ!?
 魔法使えること飛ばしてはるーーー!?

 ……だけど、これはチャンス?
 それとも手遅れ?
 どっちだ、どっちに転ぶ!?
 そして、どう動けば……ええい、ままよ!
 
「……あの本は、私がオーナーになりました」

「! 君の魔力値はD-で、デバイスを起動するには魔力が不足しているはずでは……」

「……私が、前世の人格を有するに当たり、リンカーコアが正常に戻ったんです。……ひょっとしたら、活性化、あるいは拡張化かもしれません。今現在、私の魔力値は、AA+はあります」

 最近の訓練で+分上がりました。
 まだまだ伸びるようで、最終的にはS前後には届くそうです。byプレシアさん調べ。

「……では、君が『白夜の書』の主になったのだね?」 

 ……ほわっと?
 何そのどこぞの出版社の名前みたいなデバイス。
 知らない知らないそんなもの知らない。

「……それ、なんのことですか?」

「とぼけてもらっては困る。ロストロギア『白夜の書』。古代ベルカにおいて、闇の書の対になる古代遺産。
 ……曰く、白夜の書は、使用者の魔力を喰らい、闇の書を打ち砕く剣になるという。……それが目覚めたというのなら、闇の書も近々目覚めるはず……」

 ……おい。

「(……弁解、ある?)」

【(事実無根です。なんですかその中二病みたいな設定。私はそんな危険なものではありません!)】

 そうだよなぁ。
 ……一応言っとくけど、今の性能のほうがよっぽど中二病だぞ?
 お前一つで無印とAsの問題ほとんど解決したんだからな? 原作を遥かに凌ぐ最短時間で。
 とりあえず、確認だけしとくか。

「……えっと、おじさんが言っているのは、これの事……ですよね?」

 パラディンを元のサイズに戻し、グレアムさんに見せる。
 さあどうだ!?

「ああ、そうだ。……そうか、やはり、君が主に」

「なるか! そんな変なアイテムの主なんかに!」

 ああ、いきなり変わったから、グレアムさんぽかんとしてる。
 いかんいかん。少し落ち着け……

「ど、どういうことかね?」

「こほん。失礼しました。……えっと、この子は古代ベルカの総合兵装型インテリジェントデバイス・騎士王の書。名称パラディンです。……パラディン、御挨拶」

【はいマスター。はじめまして、パラディンと申します。……まかり間違っても、そんなマスターを死に追いやるような腐れデバイスではありませんのであしからず】

 ホント感情豊かだなお前。
 さすが、古代ベルカの騎士……の人格。

「この子は、闇の書の前身、夜天の書の拡張デバイスとして開発され、後に夜天の書の主を守る騎士に渡された、守護騎士システムの元になったデバイスです。
 ……まあ、性能的にロストロギアといっても過言ではないですが、使用者、及び、周りに迷惑をかけるような子じゃないです」

 ただ、ちょっと人格が陽気で、ネタ知識豊富で、無駄に高性能ってだけですが。

「……そ、そうだったのか……技術局の連中、まったく違うレポート提出したな……」

 こらこら。少女の前で仕事の愚痴言うなよ。

【まあ、調べにくいのは仕方ないですね。稼動前の休止中はどんな解析もできない仕様になってますし、かれこれ、千年近く稼動してませんでしたし。……まともな情報が残っているか怪しいですから】

 まあ、闇の書に関係するのだけはあってたけどな。

「では、闇の書の対抗手段というのは……」

「ええ、間違ってはいませんね。……パラディンには、夜天の書のバックアップデータが保存されていました。これを闇の書に当てれば、闇の書を修復可能となり、夜天の書にリファインすることが可能です」

 もうしたけどね。

「……そ、そういう意味の対抗手段か……」

 ……もうばらしちゃってもいいか。

「なお、もう修復済みです」

「……なんだと……!?」

 グレアムさん顔真っ青。

「えっと、夜天の書……闇の書の主、八神はやてとは、幼馴染なんです。
 私が元気になった日に、偶然再会して、お友達になりました。
 その数日後、はやての家に遊びに行ったときに、闇の書を見つけまして。
 パラディンとはやてと話し合いの結果、闇の書を修復することにしました。
 ……それで、今、闇の書は完全に抹消。夜天の書とその管制人格、後、守護騎士たちが残ったという結末です。
 ……何か、問題がありますか?」

 あるとかいったら、俺様降臨じゃ。
 この場で叩き斬ってやる。

「……闇の書を……ロジック面から攻略するとは……」

 おお、驚いてる驚いてる。
 ……管理局、かなり手こずったみたいだしね。闇の書に。

「あ、後、夜天の書が闇の書に改悪された元は、パラディン用のアップグレードパッチ【アヴェンジャー】を、無理矢理夜天の書に組み込んで使っていたためと判明しました。……どこの馬鹿が組み込んだか知りませんけど」

 流石にログには残ってなかった。
 ち、犯人解れば、そいつのせいにできたのに。

「……では、私のやっていたことは……やろうとしていたことは、無駄だったのだな……」

 ……そう言えば、この人何しようとしてたんだ?
 As後半で、クロノにデュランダル渡してたのは知ってるけど、具体的に何かしてたのかは知らない。
 確か、勇者王がどうとか……? 
 それって、スバルのあだ名じゃないの?

「……おじさんは、どんな計画を立てていらっしゃったんですか?」

「……とても、人間とは思えない所業だよ……私は、はやて君を、犠牲にしようとしていた……」

 ……その台詞でぶん殴ろうとしたけど、グレアムさんの話を聞くことにした。
 最後まで聞いてからぶん殴ろう。

「私が立てた計画は二つだ。
 ……一つは、はやて君が予定通り闇の書の主になり、守護騎士たちが単独で魔力の蒐集を開始し、私とその使い魔でそれを援護。最終的にはやて君を闇の書の生贄として完成させ、暴走を起こす一歩手前で、氷結魔法で封印する。
 ……大雑把に言ったが、これでも、十年の歳月をかけた。……彼女一人の犠牲で、闇の書を永久封印する計画だ」

 ……震える拳を押さえ、感情を抑え、話を、独白を聴く。

「……もう一つは?」

「もう一つは……そのロストロギア『白夜の書』を使い、闇の書を破壊する方法だ。先ほどの計画でも、狂わないという保証はない。
 もし、計画が狂ったときの、保険として、私は『白夜の書』を受け取りに来た……まさか、こんな結果になっているとは、思いもよらなかったが」

 ……まだだ。
 まだ聞きたいことはある。

「受け取りに来た……と言う事は、使える目処が立ったんですか? 『白夜の書』の」

「いや、闇の書が稼動する予定は、はやて君の誕生日だった。……もしや、それに合わせて、使い手が現れるのかと、思って、取りに来たんだ……」

 うわーい。行き当たりばったりかよ。
 
「……それで、もし、これが『白夜の書』で、私が、使い手となっていたら……どうしていましたか?」

「……君に、闇の書を破壊してもらうと、考えたよ」

 ……さて、もういいか。
 と、言いますか……我慢の限界。

「まあ、私が、はやての友達と知らなかったからの発言でしょうけど、一応、手加減しませんから」

「……何?」

「歯ぁ喰いしばれぇ!!」

 魔力ブーストありで思いっきりその右頬をぶん殴る!!
 クリーンヒット!
 椅子から転げ落ちて、倒れこむグレアムさん。

「……あんたからすれば、確かに立派なことだろうよ。
 たった一人二人の犠牲で、その何千倍もの人間が助かるんだからな! ああ、立派だ。正義の味方としては、立派な行為だよ。
 けどな、犠牲にされる人間の立場、知っててやってんのか!? はやてはな、四歳のころから両親をなくし、足の自由を失い、それでも頑張って生きてきたんだぞ!
 そんな少女の人生を踏みにじって、何が正義だ! そんな犠牲、認めねぇ! 絶対に認めねぇ!」

「……ああ、そうだ。人として恥ずべき行為だ。……君の言い分ももっともだ。だが!」

 殴った右の頬が赤く染まっている。
 だが、その瞳には、迷いはない。

「その犠牲で、救われる者がいるのも事実だ! その犠牲で、助かる者たちがいるのも……また、事実だ」

「……ち。あんたの言い分だってもっともだよ。一を切り捨て九を救う。世界ができてから、何度も何度も繰り返された選択だ。
 けど、あんた間違ってるぜ。
 ……さっきの計画で、蒐集の手伝いをするといったな? それは、見事に犯罪幇助じゃねえのか?
 完成するまでの期間で、何人の魔導師が、その犠牲になる? それの間、死者が出る確率は?
 ……挙句の果てに、使えもしない、訳の解らないロストロギアを使って保険だぁ? 穴だらけじゃないか! そんな計画の犠牲になる身にもなれってんだよ!」

 なんて行き当たりばったり。
 もし、それで、保険すら通らずに、暴走したまま止まらなかったら、どうするつもりだったのか。

「……それは……」

「……考えもしなかったか?
 それで計画が崩れ、暴走したまま、この世界が崩れ行くのを、黙って見てるしかできないじゃないか、計画が崩れたら!
 ……管理外の辺境世界だからって舐めてんなよ? その気になれば、管理局を崩壊させることだって、できるんだぜ? この世界の技術が整えばな!」

 ……あ、やべ。
 言っちゃった。

「……それは、どういう……」

 ……よし、抑止力使わせてもらおう。

「この世界の裏にはな、もうとっくの昔に次元航行技術が芽生え始めてんだよ」

「そ、そんな馬鹿な!?」

 うん、嘘だし。

「デバイスの研究も進み、今や、一般兵士がデバイスを使用できる段階まで進んでる。
 ……解るか? リンカーコアのない、一般人が魔法を使える時代が、もうすぐそこまで来てるんだぜ?
 ……地球人類全員が魔導師になって、あんたたち管理局と全面戦争になって、生き残る確率は? お互いの損害率は? その際に出る被害は!?
 ……想像付くだろう? 古代ベルカ戦争の二の舞だ」

 こっちは、いまだ核という人類最悪の兵器も残ってるしね。
 次元航行技術さえあれば、ミッドなんて軽く火の海よ。
 ……あればね?

「……あんたがやろうとしたことは、それに拍車をかける大惨事に繋がる恐れがあったんだぞ? それでも、最小限の犠牲で大勢の人間を救える、立派な計画と胸を張っていえるのか!? どうなんだ、ああ!?」

 さあ、最後の締めだ。
 ここでとちったら、今までの事は水の泡。

「……わ、私は……なんと愚かなことを……」

 よし、いい具合に信じている。
 ……テッサさんからの情報がなかったら、ここまで上手く騙せなかった。
 テッサさんサンキュウ。

「……ふぅ。じゃあ、グレアム叔父さん。ここまで聞いて、どう動けばいいか、分かってますか? ……下手をして、次元間戦争に発展させようとした罪。どう償うおつもりです?」

「……私は、何をすればいい?」

 おし、掛かった!

「まず、闇の書の完全抹消を、管理局に報告してください。そして、夜天の書の主、八神はやてと、夜天の書、及び、その守護騎士たちの身柄の保護を要請します。
 その際、ミッドチルダに連れて行くのではなく、この世界での在住の許可、並びに、夜天の書と守護騎士たちの所持も認めてください。
 ……あなたがはやてに償えるのは、はやてに、優しい世界で暮らしてもらうこと。その支援を全力ですることです」

「……そう……だな。それが、一番だろう。……あの子に、償わなければ……いけないな」

 よし、よしよしよし!
 後、ダメ押し行くか。

「もしそれを約束していただければ、この世界にある次元航行技術、闇に葬ることをお約束できます」

「!? なんと!? できるのかね!?」

「はい。……先日、その伝に確認したところ、その技術にはまだ穴があるらしく、完成にはあと一年近くは掛かると。
 ……それまでに、その穴を広げ、理論自体を破綻させれば、この世界で次元航行技術は後数百年はできなくなるかと。
 ……まあそれも、管理局がこの世界に接触しなければ、の話ですが」

 要するに、この世界に管理局は来るなってことを言いたいわけだ、俺は。

「……わかった。その件案も含めて、上に通そう。……すまない、世話をかけたな」

 ようし! 乗り切った!
 
「いえ、お友達の笑顔の為です。多少の苦労は苦労と思いませんから」

「友達思いなのだな」

「……家族と呼べるものがいませんから。代わりに、お友達を大切にするのは、当然でしょう?」

「……そう、だったな。……重ねて、すまない」

 ん。もう慣れたよ。
 
 ……後、私の父さんが残した遺産を、そっくりそのまま渡してくれるとの事。
 後日、遺産相続税でひいひい言ったのは秘密だ。
 こんな面倒な計算小学生にやらせんじゃねえ。
 後、がっつり取ってくな、こっちは子供だぞ!?
 さらに、遺産目当ての弁護士やら自称元妻やらウザイわ!
 ……全員叩き出して警察のお世話だこんちくしょう!

 しかも。

「……ジュエルシードの暴走体を、手で掴んだだぁ!?」

「え、ええっと、その……とっさの事だったから……つい」

 グレアムさんが帰った日の夜。
 ジュエルシードの封印中に、なのはとフェイトの魔法がジュエルシードに同時にぶつかり、次元震を起こす一歩手前まで行ってしまったらしい。
 それを無理矢理封印する為、フェイトは素手でそれを掴み、両手に大怪我を負って帰ってきた。

 ……自分の家ではなく、最初に俺の部屋に来たのは、プレシアさんに怒られるのを避けるためだと思ったのは、俺だけなんだろうなぁ……

「その……母さんに、心配かけたくなかったんだ……」

 ……本当に、あの人は恵まれてるなぁ。こんないい子に愛されてるんだし……
 その愛を俺にも分けて欲しい。

「はぁ。パラディン。【ブレイブハート】スタンバイ」

【stand by brave-heats set up】

「【聖光治癒】」【divine heal】

「……ありがとう。せつな」

 にっこり微笑むフェイト。
 本当にかわいいことだ。
 でも、その額に、

「でこぴんっ!」

「いた! ……痛いよ……」

「もう、私に無理するなって言っておいて、自分は無理するんだ?」

「……ごめん……」

 うう、そんなしょぼんとしなくても。
 
「フェイト、頑張ったんだね? なら、今回は許すよ。……今度は無理しないでね?」

「……うん!」

 おうおう。そんな満面の笑顔で……
 よし、今日はこのまま一緒に寝よう。
 ……誘ってほいほい付いてくるフェイトは、もう少し警戒を覚えたほうがいいと思うんだ。
 ちょっとお兄さん心配だよ?

 ……なお、今日の件が元で、さらに頭痛い奴等が来るのを、私はまだ知らないでいた。
 
 ……うん。やっぱりシリーズ全話見ておけばよかった。




 <???>

「艦長、第97管理外世界の次元震反応、調査結果が出ました」

「報告して」

「はい。場所は海鳴市上空。次元震はロストロギアによるものと思われます」

「確か、その世界に、管理局に送られるはずだったロストロギアがばら撒かれたという報告があったが……」

「確認します……次元震のあった場所と、一致します」

「……調査団、及び、回収班は?」

「人手不足を理由に、まだ向かっていないとの事です」

「……はぁ、あの子は、これを隠してたのね……」

「? 艦長?」

「なんでもないわ。……向かって頂戴」

「……最近、艦長が出向いている、被保護者と何か関係があるんですか?」

「多分。……あの子の事だから、関係どころか、着いたら終わってました~とか言いそうだけど」

「……い、一体、どんな子ですか……」

「そうね……あなた以上のひねくれ者よ」





「誰がひねくれ者だ!」

「きゃ!? ど、どうしたの?」

「あ、ごめん。なんか、そう馬鹿にされたような気が……」

「? せつな、疲れてない?」

「……かもね。と、言うことでフェイト分補充~」

「あ、くすぐったいよ」

 台詞だけだと、どこの親父かと。
 添い寝だけしかしてませんよ?







[6790] 12.星色マスターブレイカー
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:d17439a7
Date: 2009/03/16 10:55

 ジュエルシードも後六個。
 なのはとユーノ、フェイトとアルフ、はやてとヴォルケンリッターの捜索の結果、その六つが海鳴湾海中にあると判明した。
 ……そこで、一気に片をつけるべく、六つ全部に魔力を流して、発動させ、それを封印してしまおうと計画。
 ……学校が終わって、夕方、海鳴湾上空に、海鳴魔導師組、全員集合と相成った。

「じゃあ、今日の作戦だ。まずははやて」

「あたしが先発やね」

 はやての広域魔法でジュエルシードを発動させる。
 リインフォースとユニゾンしているので、狙いもばっちりだ。

「発動を確認後、暴走体の弱体化。これは、全員でやる。……サポート組はバインドで暴走体をひと塊にする。前衛は俺と、シグナム、ヴィータ」

「わかった」

「おう! まかせな!」

 ベルカ騎士が前衛担当。

「後衛はなのは、フェイト、はやて。援護砲撃よろしく」

「うん! まかせて!」

「隙を見て前に出るよ」

「あたしは少し休んだ後参加するな?」

 ミッド魔導師+はやてが後衛担当。フェイトは遊撃、はやては途中参加。

「サポート組はユーノ、アルフ、シャマルさん。ザフィーラはサポート組の護衛を」

「頑張るよ」

「腕が鳴るねぇ」

「皆さん、無茶しないでね?」

「防御は任せろ」

 結界魔導師と使い魔と守護獣がサポート。
 
「それで、一纏めにしたら、なのは、フェイト、はやてで高威力砲撃。俺が一斉封印して、作戦終了だ」

 ……できなくなった闇の書の闇戦の代わりだ。
 クロノの代わりに俺がいるだけだし。
 こっそり、手に入れた音楽データ、ブレイブ流したろ。てか、何であるんだ?

「じゃあ、はじめようか。……ユーノ! 出番だ!」

「わかった。結界構築……」

 ユーノの封鎖結界。
 なお、フェレットモードではなく、金髪の少年の姿になっている。
 ……こっちが元だけど。

「ほな、行くで~。……リイン。術式開始」

『わかりました。……目標を最大望遠で補足。ターゲット、ロック』

「……遠き地より、闇に沈め……」

『詠唱終了。発動まで後三秒……マスターはやて、発動を』

「よっしゃ! 『デアボリック・エミッション』!!」

 はやての代表的な広域魔法。
 闇の霧が海中に沈んでいき……
 ……ジュエルシードの反応!

「どうや!?」

『発動を確認。全部で六つ。浮上します!』

 はやてに下がってもらい、騎士隊は準備。
 ……で、ここに来てトラブル発生。

「! 誰か結界内に転移してくるよ!」

 ユーノからの警告。
 誰だよこんなときに!

「そこまでだ! 時空管理局のクロノ・ハラオウン執務官「あぶねぇぞ! どけぇ!」…え!?」

 俺の警告も間に合わず、発生した竜巻の一つに飲み込まれ、飛んでいく執務官。
 ……クロノ、乙。

「……と、とにかく、作戦通りに事を進める! シャマルさん! あの馬鹿回収しておいて! 行くぞ、シグナム、ヴィータ!」

「わ、分かったわ!」

「まったく、間の悪い」

「ホントだぜ。……やるぞ、アイゼン!」

『ya!』

 ベルカ騎士隊前に。
 竜巻の核、ジュエルシードを、魔力打撃で弱らせる。
 後ろから、なのはたちの援護射撃も飛ぶ。

「『アクセルシューター』!」

「『フォトンランサー』!」

「「シュート!!」」

 桃色のスフィア、金色の魔力弾が竜巻の勢いを削る。

「『チェーンバインド』!」

「『ストラグルバインド』!」

 アルフとユーノは弱った竜巻にバインドをかけ、『バインドムーブ』で一纏めに。

「……だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、すまん。……しかし、無茶をする」

「そうですか? ……あ、はい。分かりました。……すみません。ちょっと手伝ってきますね?」

「……まて。僕も手伝おう」

「じゃあ、援護射撃を。せつなちゃん! 執務官さんが援護に入ります!」

 お。それはありがたい。
 せいぜい頑張ってもらおう。

「わかった! 勢いのある奴が一体いる! 魔力射撃で削ってくれ!」

「了解だ! 『スティンガー・スナイプ』!」

 指定した一体を、その魔力刃で的確に削っていく。
 ……さすが執務官。使い方が上手い。

「『鋼の……軛』!!」

 ザフィーラのバインドで、最後の一体ごと、全ての竜巻を串刺しにする。
 ……よし、ここで決める!

「なのは! フェイト! はやて! 撃てぇ!!」

「うん! 『ディバイィィィィィィン!』」

『Divine Buster』

 なのはの主砲が。

「いくよ、バルディッシュ! 『フォトンランサー・ファランクスシフト』!」

『Photon Lancer Phalanx Shift』

 フェイトの雷撃が。

「響け、終焉の笛!」

『魔力収束終了。発動、どうぞ!』

 はやての闇が。


「『バスタァァァァァァ』!!」「ファイア!!」「『ラグナロク』!!」


 吼える。



「な、なんつー馬鹿魔力……」

 お約束、乙。


 三人の砲撃が終わった後、宙に浮かぶ六つの宝石。
 さて、俺の出番だ。

「【ブレイブハート】スタンバイ」

【stand by brave-heats set up】

 その六つのジュエルシードを、俺の魔方陣で包み、一気に封印処理を施す!

「……【多重封印】」【six sealing】

 ……封印が終わり、残っていた魔力が霧散する。
 ……残存ジュエルシード……ゼロ!

「作戦終了! お疲れ様~!」

 その場に上がる歓声。
 腕を打ち鳴らすヴィータとシグナム。アルフとザフィーラ。
 ユーノに抱きつくシャマルさん。
 傍によってきて、私となのはたち三人でハイタッチ。
 そして……

「……さて、そろそろ話を聞かせてもらおうか?」

 ……空気読まない執務官さん。
 いっせいに広がるしらけた空気。

「……な、何だその目は!?」

『……クロノ。空気は読めるようになりなさいね?』

 いきなり響くリンディさんの声。……あっはっは。
 ばれたか。

『皆さん。ロストロギアの暴走停止、及び、回収ご苦労様です。事情を説明していただきたいので、私の艦に来てもらえますか? ……せつなさん。逃げないでね?』

 うわっはぁ。怒ってる怒ってるよ? この声は。
 ……逃げたい。



 で。全員、リンディさんの次元航行艦『アースラ』に収容され、クロノに連れられて艦長室へ。
 途中、

「君。武装は解いてもらいたいんだが……」

「あ、あたしですか? えっと、どないしよ、せっちゃん」

「……えっと。クロノさん? 彼女、ユニゾンを解くと、歩けなくなるんです。車椅子もないですし、せめて椅子のある場所までこのままで構いませんか?」

「……そうなのか。……分かった。じゃあ、許可する」

 なんてこともあり、少しは話せる人だと分かった。
 ……後、俺を見て顔赤くするのはどういう訳か?

 艦長室に入ると……中は和室でした。

「ようこそ。アースラへ。……皆さん、お久しぶりです」

 中で陣取るはリンディさん。
 
「て、艦長!? 彼らと知り合いだったんですか!?」

「あら? 言ってなかったかしら? この間の温泉旅行で、皆さんと御一緒したのよ?」

「聞いてません!」

 あらあら、とか首傾げるリンディさんは絶対に確信犯です。
 驚かせて楽しむつもりだったな。

「……苦労しますね、クロノさん」

「……分かってくれるか? この人が僕の母親なんだ……」

「ええ、分かります。この人が私の保護監督者なんですね……」

 お互いに肩を叩き合うリンディさんの子供二人。
 なんか親近感。

「……せ、せつなちゃんが男の子と仲良くしてるの……」

「いや、多分あれは上げて落とす伏線や。最初に仲良うしといて、後ろからばっさり」

「外道の技だな……シルビアもそういう手腕が得意だった……」

 うるさいよ、外野。

「……それで、説明してくれるかしら? せつなさん?」

「……説明は、こちらの淫獣……もとい、ユーノから」

「その呼び方本当にやめてよ……」

 だから呼びなおしてやったろうに。
 ユーノからジュエルシードに関する説明。
 で、事前に決めていた説明文を話していく。
 つまり。

『事故で海鳴市にばら撒かれたジュエルシードを追って、回収を始めるも、魔力不足で危機的状況に。現地で魔力の強かった高町なのはに回収協力を依頼。独自に回収をしていたフェイト・テスタロッサにも協力を要請。永遠せつなと八神はやては最初無関係だったが、半ば巻き込まれる形で回収に参加。先ほどの戦闘で、全てのジュエルシードを回収し終えた』

 と、言ったことだ。

「……では、旅行中に、結界を張ったのは……」

「? あれは普通に訓練です。回収を手伝うようになったのは、旅行の後ですし」

 と、言うことにしておく。

 ……理由は、闇の書とプレシアさんだ。
 闇の書の改修に手伝ってもらったプレシアさんと、ジュエルシードの関係を絶たなければ、プレシアさんが何故海鳴にいるのかが不透明になってしまう。
 あくまで、プレシアさん一家は海鳴に移住してきた一般人だ。
 ……かなり無茶はあるが、これ以上の言い訳もできない。
 プレシアさんも結構無茶して、海鳴の移住許可書を手に入れたらしい。
 ……フェイトとジュエルシードが関連したのは、偶然を装う必要がある。
 俺たち全員が現地協力者。それを演出しなければ、ややこしいこと請け合いである。

「……とにかく、ジュエルシードは全て回収したのね?」

「はい。こちらに。……ユーノ」

 全部で二十一個。それをユーノに渡し、ユーノからリンディさんに。

「……確かに、受け取りました」

「じゃあ、もういいですね?」

「いや、まだ聞きたいことが山ほどある」

 ……ち、やっぱり喰いついてくるか。
 クロノの質問を、上手く矛盾しないようにかわさないと……

「まず、先日の次元震だ。あれはどうして発生したんだ?」

「それは……フェイト?」

「あ、はい。私となのはの魔法がジュエルシードを中心にかち合い、一時的に時限震を引き起こしてしまいました」

「その時は、フェイトちゃんが封印してくれました」

「……お陰で、フェイトの手に大怪我を負う被害だけに留まりました。……意図的ではなく、事故だということを承知してください」 

 これは事実。
 ……フェイトの手は柔らかかったんですよう。

「……わかった。それは不問にしよう」

 一問目クリア。
 
「次だ。……フェイト・テスタロッサ」

「は、はい」

「君の母親は、プレシア・テスタロッサで間違いないな?」

 !? ……ま、まさか、俺のフォローできない犯罪歴持ってるんじゃないだろうな!? プレシアさん!

「……はい」

「そうか。……いや、いい。……ただの確認だ。大魔導師プレシア・テスタロッサの名は、いろいろと有名だったが……数年前に起こした魔導炉『ヒュードラ』の暴走事故で、辺境に左遷されたと聞く。……その際、娘を亡くし、その後失踪。違法研究に携わっていたという情報が入っている。……君は本当に、プレシア・テスタロッサの娘か?」

 ……まずい。そんな情報がもう流れてたのかよ!?
 これはリカバリできない。……手詰まりか?
 
「……はい。……私は、母さんの娘です。……プレシア・テスタロッサの、娘です」

 ……フェイト……

「……そうね。フェイトさんもアリシアちゃんも、プレシアさんの娘ですものね。……クロノ? それは多分、同姓同名の別人か、プレシアさんの名前を使った偽者よ」

 !! リンディさん!?

「……しかし、艦長」

「あら? 旅行中に、プレシアさんの娘のアリシアちゃんにあったわよ? 娘を亡くされているのに、何でアリシアちゃんは生きているのかしら? ……ほら、情報に偽りがあるのか、それとも、あなたが言っている違法研究の魔導師と、別人なのか。……私は、偽者を押すけど?」

 ……り、リンディさん……助かります。

「……なら、再度情報を集めなおします。……失礼なことを言ってすまなかったな」

「いえ。……すみません」

 に、二問目クリア……
 ほっと、息をつくと、リンディさんと目が合った。

「(……後で、詳しく教えてもらうわよ?)」

「(……イエスマム)」

 ありがたいやら後が怖いやら。
 てか、いろいろ考えたのこれでパアじゃん。
 うぬれ~。

「では、次だ。……八神はやて」

「はい? なんでしょう」

 ……こっちの件は解決済みだ。
 どんときやがれ。

「君の持つ、そのデバイスは……闇の書ではないのか?」

「……最初は、そう呼ばれてました。けど、せつなちゃんが闇の書を直して、夜天の書に戻してくれたんです。この子は、闇の書やありません。夜天の書です」

「……だが、闇の書だったのなら、それに関する余罪があるはずだ。……闇の書が完成する為には、魔力蒐集を行う必要がある。……違うか? 永遠せつな?」

 ……それが、違うんだなぁ~?

「闇の書なら、必要です。……ですけど、はやての持つ夜天の書には、一人の魔導師の魔力しか蒐集してません」

「……まさか、君の?」

「しかも、私の任意です。……夜天の書の修復に、必要な魔力を分けました。……はやてと、その守護騎士には、何の余罪もありません。罪を犯す暇も与えず、私が修復しました。……この件に関しては、レポートをリンディさん、そして、グレアム叔父さんに提出済みです」

「!? グレアム提督にか!?」

 昨日送ったよ。
 ……あ、リンディさんちょっと慌ててる。

「母さん!?」

「職務中は艦長と呼びなさい……確かに、届いてるわ。……グレアム提督にも、話したのかしら?」

「ええ。訪ねてきてくれましたので、その時に。……二日前ですね」

「そういうことは早く言って頂戴……」

「そのこともそのレポートに添付してましたけど?」

「……確認不足だわ。ごめんなさい」

 い、え~い。
 この件は俺の勝ち。

「……だが、それがロストロギアだということは間違いない。……こちらで預からせてもらっても構わないか?」

 ち、それが残ってたか。

「いえ、その必要はないわ……せつなさん、考えたわね?」

「いえいえ。……グレアム叔父さんに、ちょっと説教しただけですよ?」

 拳と共に。
 そしてグレアムさん行動早いな。
 ありがたい。

「どういうことですか!?」

「はやてさんの夜天の書の所持願いをグレアム提督の名前で受理されたの。……今、その報告が届いたわ」

「……全て計算づくか……」

 はっはっは。
 ……かなりギリギリの交渉でしたけど。

「……そういうことなら仕方がない。僕達では、君の夜天の書に手出しはできない。……無茶なことを言ってすまなかった」

「あ、いえ、ええんです。……と言うか、せっちゃん? 何でグレアム叔父さんの事知っとるん?」

「私の財産管理人がグレアム叔父さんだったの。……あれ? はやても?」

「あたしの保護責任者やで? ……なんや、そっちでも繋がりあったんやなぁ」

 奇妙な縁だこと。
 ……これが、狙ったわけじゃないのが不思議。

「最後だ。……まあ、聞くまでもないんだろうが、君たち」

 へ? 全員?

「魔導師登録は済ませているのか?」

「あるわけないだろ」

 あ、やべ、素が出ちゃった。

「……そうね。なのはさんとフェイトさんは管理局の魔導師登録が必要ね。後、せつなさんとはやてさんは聖王教会で登録してもらう必要があるわ……それは、勘弁して頂戴。……では、以上です。魔導師登録の件は後でせつなさんを通じて、皆さんに連絡してもらうわね?」

 それは俺に残れって言うのか。
 ……言うんだろうなぁ……

「じゃあ、海鳴市に送ります。今回のロストロギア回収に御協力いただき、ありがとうございました。後日日を改めて、感謝状、贈りますね?」

 できればお構いなく。
 つーかもうくんな。

「あと、せつなさん? 話があります。残って置いてくださいね?」

「せつなちゃんだけですか?」

「……私、リンディさんの被保護者だから……危ないことした、お説教」

「……う、うん。がんばってね?」

 ありがとう、なのは。
 俺、頑張るよ。

「じゃあ、エイミィ。皆さんを転送ポートに」

「はい。了解です。……それじゃぁ、皆さん。お姉さんについてきてくださーい」

 ぞろぞろと艦長室から退出する皆。
 なのはとフェイト、はやては俺に視線を送ったが……

「大丈夫だから。気をつけて帰ってね?」

 と、笑顔で手を振ったから、安心して退出した……
 ドアが閉まり、さて、第二ラウンド開始だ。

「……さて、せつなさん? 詳しい事情説明をお願いね?」

 その笑顔がこええよリンディさん。

「艦長? 詳しい事情って……」

「その前に一つ。……今からの事情説明で、さっきの事を覆すというなら……」

「……そんなに怖い顔しないで? ……私は、あなたのやったことを知りたいだけ。ここにいるのは、管理局の提督、リンディ・ハラオウンじゃなくて、あなたの母親代わりの、リンディさんだから」

 ……おいおい。

「ちょっと甘すぎないか? それとも、子供だからって舐めてる?」

「あら? あなたが子供だったら、クロノは赤ちゃんよ?」

「どういう意味です!」

 うーん。人生経験の差かな?

「じゃあ、約束。もし、あなたが話してくれた件で、私とクロノが彼女たちを逮捕、または、それに順ずる行為に及んだら、……あなたの好きにすればいいわ。これでいい?」

「か、艦長!? それは、僕もですか!?」

「当然よ。それとも? クロノは妹分のお友達に手を出す人なのかしら?」

「そ、そういう問題じゃないでしょう!」

「……お兄ちゃん変態?」

「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!! 後、勝手にお兄ちゃんと呼ぶな!」

「「嬉しいくせに」」

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ふふ、クロノ君虐めたのしー。
 リンディさんと一緒にサムズアップ。

「……じゃあ、話してもらえる?」

「まだ、クロノお兄ちゃんの言質が取れてません」

「だからお兄ちゃんと言うな!」

 む、意外と落ちにくいなクロノ君。

「お・に・い・ちゃ・ん? おねがい」

「あ、が、ぐ、し、しかし……」

「……駄目?」

 ここでなのは直伝、上目遣い&いじらしい表情発動。
 恭也さんは大概これで落ちる、らしい。
 ……俺じゃ無理だったが。

「……わ、わかった! 約束する。約束するからその目をやめろ!」

「はい、よろしい。じゃあ、リンディさんが証人で、その台詞も録音したから。ね? パラディン?」

【ばっちりです。さすがマスター。腹黒さでははやてさんを超えています】

 それは褒めているのか貶しているのか?
 しかし、男性意識が少し再起不能だ。
 ……うう、ちょっと自分でキモイって思っちゃった。

「あ、悪魔め……」

「悪魔でもいいよ。悪魔らしくお話聞いてもらうんだから。ってね?」

 ば~いなのは。

「じゃあ、まず、ジュエルシードの答え合わせから行きましょうか。……正解は?」

「大体さっきと一緒。違うのは私の参加時期。後、フェイトは最初プレシアさんに命令されてって事かな」

「……では、やはりプレシア・テスタロッサは!」

「……うん。そう。フェイトは、アリシア・テスタロッサのクローン。そして、その遺伝子を作り変えられた、人造魔導師だよ」

 悲しいけど、それが真実。
 変えようのない、事実。

「プレシアさんは、どうしてジュエルシードを?」

「もちろん、アリシアの蘇生の為。……その方法を求めて、失われし都、アルハザードへ行くための手段にしようとした」

「な……アルハザードだなんて、夢物語だぞ!?」

 それにすがるほど、追い詰められていたってことかもね。
 後、他にも。

「……どこかで、知ったんだろうね。アルハザードの技術を。……実質、フェイトを生み出した技術はアルハザードの技術に通じるところがあるし」

「? ちょっとまって。それを何であなたが知っているの?」

 ……そりゃもちろん。

「パラディンが、アルハザードの詳細知ってましたから。……パラディン?」

【はいはい。御説明します。そもそもアルハザードとは……】

 長いから省略。
 まあ、プレシアさんに語った話をしたと。

【……と、そんな場所です。……今、とんでもない手抜きされたような……】

「気にしないで?」

 気にしたら負けだ。
 何に負けるかはともかく

「……で、それをプレシアさんに話したのよね? それで、プレシアさんはジュエルシードを諦めて……? 何でアリシアちゃん生きてるの?」

「……えっとですね。まず、アリシアの体調べて、古代ベルカの魔法で蘇生できないか調べました。結果は不可能。……その際、見つけちゃったんです。……時間を巻き戻し、過去に行く魔法を」

「なんだと!?」

「そんなこと……できるの!?」

 成功例が一回だけあった。死ぬ間際の自分の息子を助け、己の時間に連れてくるという方法を取った聖王がいた。
 ……今回やったことも、それと同じこと。

「そのために、私の魔力量じゃ足りないから、ジュエルシードの保存魔力を使うことにしました。……それで、プレシアさんには、別の件で手伝ってもらうことにしました。時間逆行の術式は、私一人だけでは制御が甘くなります……だから、同じベルカの術者が必要です。私の知っている中で、術式制御ができるベルカの術者……」

「……それで、闇の書を?」

「はい。丁度都合よくパラディンには夜天のバックアップデータがありましたし、はやての家に闇の書があったことも確認しました。……それで、はやての許可を得て闇の書を起動。私とパラディン、プレシアさんで闇の書の修復。代わりに、守護騎士二人が、ジュエルシードの探索を手伝ってもらうことにしました。結果。闇の書は無事に夜天の書に。そして、その管制人格、リインフォースの助力を得て、時間逆行を行い、アリシアを救出しました。……まあ、ちょっと失敗もしましたけど」

 いや、ちょっと焦ったよ。
 これまでの話で、クロノは呆然としている。
 リンディさんは頭抱えている。
 ……よっぽど非常識な行動しているのか、俺。

「……む、無茶苦茶だ……」

「そ、それで? その失敗は大丈夫だったの?」

「ええ、なんとか。……まあ、これがジュエルシードと闇の書に関する真実ですね」

 ……うん。話し忘れはないよね?

「そこまでやって置いて、よく気付かれなかったというか、それとも、我々が鈍いだけなのか……」

「鈍いだけだと思うよ? ……最初、リンディさんが尋ねてきたとき、あの部屋に守護騎士二人いたし」

「……あ、あの時!? じゃあ、その時は……まだ闇の書だったの?」

「はい。いや、焦りました。リンディさんに会うまで、自分に管理局の知り合いがいたなんて知りませんでしたし」

 あの時ばれてたら、いろいろまずかった。
 いやホントに。

「……とりあえず、後の不安はプレシアさんだけなんです。……確かに、プレシアさんはフェイトを作りました。でも、プレシアさんは、自分の罪を認め、フェイトを娘として接してます。……クロノさん。娘から母を取り上げるようなこと、しないでください。お願いします」

 ……一応、約束はとっている。
 けど、それを平気で裏切る可能性だって無きにしも非ず。
 ……頼むぜ、クロノ。
 俺の期待を裏切ってくれるなよ……

「……さて、何の話だ? 僕の調べた情報は、間違っているんだろう?」

「……ありがとう、クロノさん」

 やっぱり、この人はツンデレだ。
 ……違う、優しい人だ。

「べ、別に、礼を言われることではない。……僕の、調査不足だ」

「それでもありがとう。お兄ちゃん」

「だからお兄ちゃんと言うのはやめろと」

「あ、それそれ。……ねえ、せつなさん?」

 う、いつもの勧誘か?

「管理局には入りませんよ?」

「そっちじゃなくてね? ……せつなさん。私の娘にならない?」

 ……え?

「……ミー?」

「ユー♪」

 マジでか。

「……でも、お兄ちゃんが」

「だからお兄ちゃんはやめろ」

「って言ってますよ?」

「……クロノ。こんなに可愛い妹ができるのよ? いいじゃないの、呼び方ぐらい」

「……しかし、その……彼女に呼ばれるとその、何か寒気が」

 あ、クロノ鋭い。
 
「まあ、半分男に可愛らしく言われたらそりゃ寒気もするよな。俺も同感だ」

「……君、それはどういうわけだ? 後、その口調は……」

 ……また説明しなくちゃならんのか。

「ちょっとした精神病の後遺症でな? 男性意識と女性意識が混同してるんだ。……ああ、性別は紛れもない女だから、妹は間違いないぞ? まだ承諾していないけど」

「……性同一性障害と言うやつか?」

「似たようで違う……かな? まあ、詳しいいきさつは、リンディさんに全部話してあるから、そっちから聞いてくれ。正直、いい加減飽きた。説明するの」

 会う人会う人いちいち説明するのも面倒だしね。

「……それで? せつなさんは承諾してくれないのかしら?」

「……海鳴市を離れなくていいですか?」

 なのはたちと別れるのは……辛いし。

「ええ。構わないわ。……そうね。この件が終わったら、そちらに引っ越そうかしら?」

「か、母さん。そんないきなり……」

「あら? あそこいいところよ? 家族も増えるんだし、いい事尽くめじゃない」

「……はぁ。もういいです」

「じゃあ、決まりね?」

「……わかりました。これから、よろしくお願いします。リンディ……お母さん?」

 む? 何故かたまる?
 ……な、何故瞳をキラキラ輝かせる!?
 なんか俺変なこと言ったか!?

「も、もう一度言ってくれる!?」

「え? お、お母さん?」

「今度は男の子で!」

「あ、か、母さん?」

「……どっちも可愛いわ!」

 抱きつくなぁぁぁぁ!!

「……君も、苦労するな……」

「……目に見えてたはずなんだけどなぁ……まあ、よろしく。兄さん」

「……そっちだと抵抗がないな。それで呼んでくれていい」

 実は妹できたのが嬉しかったと見てみる。
 ……普通の妹じゃなくてすまんが。




 あれ? 今度はフェイトの役どころ取っちゃったのか? 俺。






[6790] 13.Retrospective of Mid-childa
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/06/13 04:44
「なのは、今度の日曜日デートしよう」

「……にゃ、にゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 いきなり叫ばれてしまった。
 流石に唐突だったか?

「ちょ、あんた!? 真昼間からなのは口説いてるんじゃない!」

「そうだよ! 口説くのならアリサちゃんも一緒に!」

「ちがう! て、言うかすずか? どうして私も一緒なのよ!?」

「あれ? 羨ましいんじゃ?」

「断じてちがうから!」

 断じられてしまった。ならば仕方がない。

「ごめんなアリサ。アリサともデートしたいけど、今回はなのはに譲ってあげてくれ」

「だ・か・ら、何でデートにこだわるのよ!」

 おお、凄く真っ赤だし。
 照れなくても。

「照れてない! そして、頭をなでない!」

「アリサは可愛いなぁ」

「……ほ、褒めても無駄なんだから!」

 の、割には凄く嬉しそう。
 ぷにぷにほっぺもまっかっか。
 
「こ、こら! ほっぺた触るな!」

「アリサ柔らかだね。……食べていい?」

「駄目に決まって……や、こらぁぁ!」

「せ、せつなちゃんが絶好調なの」

「せつなちゃん相変わらずエロスだね」

 ……うん、ちょっと楽しかった。
 て、アリサ弄りはこれくらいに留めといて。

「で、真面目な話。なのは、土曜から泊り込みでリンディさんに呼ばれてるから。フェイトとはやても一緒に、ミッドチルダにお泊り研修。……ユーノにも声かけておいて」

「……あ、魔導師登録?」

「どうでもいいけど、離しなさいよ」

 あ、忘れてた。アリサに抱きついたままでした。

「今週末はアリサに会えないから、しっかりアリサ分補給しないと……次はすずか分だから」

「なによその意味不明な成分は……」

「次は私なんだ?」

 抱きつくなどの身体的接触で補給できます。
 アリサ分とすずか分はなかなか補給できないので。
 今のうちに。

「この抱きつき魔。変態、エロス、えーと、えーと……」

「ふふふ。どうとでも言いたまい。アリサを愛でられたらそれで充分~」

「……あ、そうだ、レズ!」

「ちがう!」

 それは否定する!

「? どこが違うの?」

「え? ……とにかく、それは駄目だ。ガチレズとかそういう横文字は駄目だ。百合ならまだマリア様が許してくれるが、レズビアンだけは何故か駄目だ。俺的に!」

 何故かどろどろで水っぽくてそういうイメージがするからね?
 少なくとも、小学生につける称号じゃねぇ。

「……でも、同性愛はオッケーでしょ?」

「それでも、その呼ばれ方はなんかやだ。……ほら、背景に花が飛ばないし」

 代わりに汁が飛びそうなイメージだし。

「難しいわね……」

「と、言うわけで、その呼び方は禁止で。……次はすずか分~」

「結局、抱きつくんだね……吸っていい?」

「……周りにばれないんならね?」

「教室でやるな!」

 まだ休み時間でした。
 ……よく回り見ると……

『やっぱり永遠さんって……』

『前から怪しいと思ってたんだ……』

『美、美少女の絡み……はぁはぁ』

『だ、誰かカメラもってこい! これは売れる!』

『せつなおねぇ様……ポ』

 ……と、遠巻きにカオスが発生している……
 そして、近場には魔王降臨。

「せつなちゃん? ちょっと頭冷やそうか」

「……なのは分は毎日補充してるじゃないか。今日ぐらいはすずかやアリサを愛でてもいいじゃん」

「よくない! て、なのは? 毎日こんなことしてるの?」

「……こ、こんなに過激じゃないよ? そ、その……頭撫でてもらったり、ギュってしたり……む、でも、フェイトちゃんもいつもしてるし、時たま一緒に寝たりしてるそうだし……」

 あ、なんか更なるカオスの予感。
 ……アリサさん? その目は何を意味してるんでしょうか?
 凄く、怖いです。
 すずかさんは何で力入れ始めてるんでしょうかって、苦しい苦しい!
 折れるって、おもに肋骨!

「あんたわぁぁぁぁぁぁぁ! フェイトまで毒牙にかけるんじゃない!」

「そうだよ。フェイトちゃんやなのはちゃんばっかりずるいよ。……私とも一緒にねよ?」

「すずかぁぁぁぁ! 抜け駆け禁止……じゃなくて、ええと……とにかく! 私とも寝なさい!」

「……二人とも、本音でてるよ……」

 そして微妙にヤバイヨネ?
 小学生の会話じゃねー。
 
 結局、また都合を開けてお泊り会をすることで決着が付きました。
 そして、また私の称号が増えた。

『女ジゴロ』

 ……命名はクラスの男子。
 お礼にうれしはずかしフランケンシュタイナー。一ラウンドKO。
 女の子が使う技じゃないよね!
 心持ち幸せそうだったのが印象に残りました。さらば北川君……君のアンテナとネコ口は忘れないよ!
 ……後日、彼は転校して北の大地に行ってしまいました。
 あれ? なんかの伏線? これ。


 で、その土曜日。
 半ドンで学校が終わり、リンディさんに連絡入れて転送してもらって、アースラ艦橋へ。
 一緒に来たなのはとユーノを連れて行くと……艦橋には、既に魔導師組全員集合していた。

「なのは、せつな。お疲れ」

「遅かったなぁ、二人とも。先についとったでぇ~?」

 学校があったからね?
 転校を控えたフェイトと、いまだ車椅子のはやて。
 はやてはリハビリに入り、もう少しで松葉杖に切り替えるかどうかってところ。着実に治ってきているようだ。
 フェイトは6月に編入予定。アリシアもそれくらいには編入するそうだ。
 ……同時期に、テスタロッサ家は引越しも敢行するらしい。
 流石に狭いからね。あのアパート。
 ちょっと寂しい。

「ほい、お待たせ。……じゃあ、リンディさん。お願いします」

「……? なあに? せつなさん?」

 いや、なあにって……

「本局行くんでしょうが。出発してください」
 
「……お母さんって呼んでくれなきゃヤ」

 いきなり何言い出すか。

「……せつなちゃん? 何でお母さん?」

「まあ、その……リンディさんに貰われる事になって」

「! せつなちゃん、転校しちゃうの!?」

「いや、それはない。……まあ、戸籍上の事だけなんだけど……」

 とにかく、呼ばないと動いてくれなさそうなら、仕方ない。

「……お母さん、出発してください」

「はい。分かりました。……エイミィ?」

「はいはーい。目標、時空管理局本局。エンジン熾せ。加速開始」

 各機関に連絡を入れるエイミィさん。
 ……ちょっとかっこいい。

「……艦長がすまんな」

「いや、まあ、喜んでくれるなら、別にいいよ。……ご苦労様、兄さん」

「? クロノ君がお兄さんなの?」

「リンディさんの息子なんだよ、彼」

「はぁ!? リンディさん、子供おったん!?」

「……お、弟かと思った……」

 だよね~? そう見えるよね~?
 ……絶対一児の母には見えんわあの人。
 
 ……本局に着くまでに、ちょっと時間があるそうなので、アースラの武装隊&クロノを交えて合同訓練。
 とりあえず、なのはとフェイトは武装隊と戦闘訓練。

「『ディバイィィィィンバスタァァァァ』!!」

「『サンダァァァレイジ』!!」

 ……いやぁ、飛ぶ飛ぶ。
 皆空を飛ぶのが好きだね。……むしろ飛ばされてるけど。

「……あの二人の馬鹿魔力はどうなっているんだ一体……」

 暇があれば練習してるらしいから。
 特にフェイト。
 なのはは学校があるから、そんなにはしていないけど、早朝練習は欠かしていないそうだ。
 ……続いて、シグナムとヴィータ対、私。

「二対一? 少し無理があるんじゃないか?」

「よくやってるよ?」

 兵装二重展開の訓練なので、複数のほうが好ましい。

「【アロンダイト】【ブリューナク】スタンバイ!」

【stand by alondite/brionac dual set up】

「行くぞ、せつな」

「いつもどおり手加減しねぇからな! 『シュワルベフリーゲン』!」

 ヴィータの中距離射撃をかわしつつ、ブリューナクで牽制射撃。

「【弾空三穿】!」【javelin shot】

 接近してくるシグナムの剣戟を捌き、アロンダイトで広域斬撃。

「【斬空一閃】!」【wide braid】

 余裕でかわされる。ヴィータが接近。

「『ラケーテン・ハンマー』!!」

 シールドで流す。槍をしまい、グラディウスを高速起動。

「【獅哮一撃】!」【lion fang】

 ヴィータを殴り倒し、シグナムに向き直ると……

「『飛竜一閃』!!」

 連結刃の一撃で吹き飛ばされました。模擬戦終了。

 ……切り替え時と攻撃のスピードをもう少し上げないと、硬直時間が長いな……

「まだまだだな。ヴィータの対応は、ブリューナクでも充分じゃないのか?」

「攻撃力が落ちる。確実にしとめるなら、グラディウスのほうがいい」

「その代わりに私に狙われたら終わりだろうが。……その速攻気質はもう少し改めたほうがいいぞ?」

 むぅ。それも一理あるか……

「……なあ、はやて? せつなは何であんなに戦いなれているんだ?」

「え? ……あたしにも分かりませんよ? まあ、シグナムたちとよう訓練してるってのもありますけど、他にも恭也さん……なのはちゃんのお兄さんにも指導してもらってるって言ってましたし」

「……そんなに強くなってどうするんだあいつは……」

 


 そんなこんなで、本局到着。
 なのはとフェイトはここで登録を行うことに。
 で、いったんお別れ。

「登録終わったらリンディさんが聖王教会まで連れて行ってくれるから。そっちで合流しよう。私たちは先に行ってるね?」

「うん。気をつけてね?」

「頑張って、せつな。はやて」

「ほな、後でな~?」

 私とはやて、守護騎士組は本局から転送ポートでミッドチルダへ。
 なお、ガイドはクロノ。

「……しかし、奇妙な縁だな」

「? なにが?」

「……父さんを死に追いやった闇の書の守護騎士と、こうして共に歩いているという事実が……な?」

 ……そうなんだっけ?

「……そうだったのか。すまない」

「いや、父さんは暴走した闇の書を押さえ込んでアルカンシェルで蒸発した……お前たちの誰かが殺したって訳じゃないから、気にしないでほしい」

「……それでも、うちの子が、迷惑かけたんやな。……ごめんなさい」

 ……はやてが、守護騎士を代表して、頭を下げる。
 
「はやてが謝る必要なんてないよ? ……兄さんも、変なこと言い出さない」

「……そうだな。すまない。気にしないでくれ。君自身には、罪はない。……変なことを言い出して悪かった」

「それでもや。今はあたしがこの子たちの主や……この子たちの罪は、あたしの罪でもある」

「なら、なおさらだ。お前らは何の罪もない。……前の闇の書の罪は、前の主の罪だよ。……あまり、背負い込むな。はやて」

「……せっちゃん」

 はやての頭を撫でる。
 子供は頭があったかいなぁとか思いながら、罪の在り処を諭す。
 ……少なくとも、はやてに何の罪もない。
 
「マスターはやて。あなたの意思は御立派です。ですが、身に覚えのない罪まで背負うのは感心できません」

「リイン……」

「我々も、はやての迷惑にならぬよう、重々注意して行動します。……ですから、気に病まぬように」

「……うん。ありがとな、リイン」

 再度忠誠を誓うリインフォース。
 はやての車椅子を押しながらだが、この管制人格も、立派にはやての家族だ。
 ……私生活では実にドジっ子だが。

「……そうなのか?」

「このあいだ、食卓用のナプキン頼んだら、生理用品買って来てた。あと、デパートで普通に迷子になって涙目ではやて探してたし……」

「せ、せつな。言わないでくれ……」

 不覚にも萌えたのは秘密だ。
 所在なさげに売り場を歩くリインフォースは萌え萌えだぞ?


 で、聖王教会到着。
 私を含め、ベルカ騎士組はこちらで登録することに。
 監督官は……? あの金髪には見覚えが……

「はじめまして。あなた方の監督官を勤めさせていただく、カリム・グラシアと申します」

 おおう。ストライカーズキャラキターーーーー!
 お嬢様騎士降臨。もうそんなに地位高いのかあんた。
 各自の紹介を終え、登録の検査を開始する。
 魔導師登録は基本、生まれた後にすぐやるそうなんだが、はやては地球出身なんで、過去データは残っていない。
 今回がはじめてである。
 私は以前やった記録があるので、今回は書き換えになる。
 守護騎士組は新規。
 ……後、夜天のことを話したら、驚かれた。

「……そ、そうですか……闇の書をそんな方向で攻略するとは……思いもよりませんでした……」

 いやぁ。……そんなに意外だったのか?
 デバイスなんてメカメカしいもの、普通内側……プログラムから攻めるのが当然じゃあないの?
 何で皆そう物理的、魔力的に攻めたがるかなぁ……
 訳解らん。

「……? あれ? せつなさん? あなたの術式……何か変ではないですか?」

 ? どこが……って、あ、そうだった。私の複合式だ。
 パラディンの説明をして、ベルカとミッドの複合式だということを話す。

「……すみません。ちょっとそのデバイス、調べさせてもらってもよろしいですか?」

 え!? ……ま、まさか、ロストロギア認定喰らうの?

「大丈夫です。どんな結果にしろ、ちゃんとお返しいたしますから」

 そう約束してもらったので、おとなしく渡すことに。
 ……いざとなったら暴れてやる。

「あかんでせっちゃん。そんな危険思考したら。……せっちゃんが捕まったら、あたし泣くで?」

 む、そう言われても……

「もし持っていかれたら、あたしのアイゼン貸してやるから、そんなに気落ちすんなって」

 それ、アイゼン怒らないか?

 ……しばらくして、カリムさんがパラディン持って来た。ちゃんと返してもらえるようだ。

「それで、なんだったんです?」

「……その、今度は、せつなさんにも来ていただけますか?」

 ……はい?

「実は、せつなさんに聖王の血族の可能性が浮上しました」

 何その裏設定!?
 私そんなの知らないよ!?

「いえいえいえいえ。うちの父は普通の一般魔導師で!?」

「母方はどうですか?」

 俺知らんし。

「か、母さん、私生んですぐに……」

「そうでしたか……とにかく、一度検査を受けてください。……その、心苦しいかもしれませんけど、血液検査と魔力検査だけですから」

 なんかとんでもない展開に。
 ……とにかく、受けるだけ受けることにした。

「せっちゃん、がんばってな~?」

 ええい、気楽に言ってくれる!

【すみませんマスター。余計なことを言ってしまいました】

 なにを言ったんだお前は!

【聖王の魔法、マスターが使えるということを】

 ……せ、せいぜい治療魔法だけじゃん。
 
【いえ、それだけでも充分だったみたいですね。皆さん目の色が変わりましたから】

 まじかい。
 ……ぶ、無事に海鳴に帰れるだろうな……

 血液検査と魔力検査の結果。
 判定は……セーフ!

「どうやら、違ったようですね。お手数をおかけしました」

「いえいえ……」

 ほんとになんだったんだこのやり取りは……これも伏線か?

 それでだ。

「はい、これが登録証です。再発行にはお金掛かりますから、なくさない様にして下さいね?」

 受け取った登録証は、まるで免許証みたいな物でした。
 ちなみに、私の魔導師ランクはAA。魔力ランクAA+。
 はやては魔導師ランクAAA。魔力ランクS。
 二人とも、騎士の称号は取れた。
 なお……シグナムはAAA+。ヴィータはAAA。シャマルさんはAA+。リインフォースはSとなった。
 ザフィーラ? お前は何で貰ってないんだ?

「吾は守護獣だからな。魔導師ランクなど必要ない」

 そうなのか。
 一応教えてもらったところ、AAランク相当にはなるらしい。

 ……とりあえず、これでここでの用事は終了。
 後はなのはたちを待つだけとなった。……まあ、すぐに来たけど。
 リンディさんに連れられて、なのはたちと合流。
 聞いたところ、なのは、フェイト共に魔導師ランクAAA。
 この化け物共め……やはり次期魔王と死神。
 ……で、この後の予定を立てることになるんだが。

「あの、少しお願いがあるんですけど……」

 カリムさんから、守護騎士貸し出しのお願いが来た。
 何でも、教会騎士の訓練に参加して欲しいとのこと。
 最近の騎士たちは質が落ちていて、シグナムたちの力をみれば、少しは変わるんじゃないかとの提案。

「……主はやて、よければ、我々も参加してみたいのですが……」

「シグナムたちがええ言うならええよ? カリムさん。皆をお願いします」

「ええ。ありがとう、小さな夜天の主。……よかったら、せつなさんも」

「せっちゃんはあかん。……ほっとくと無理ばっかしよるし」

 え~? 俺は駄目なのか?

「そうだよ。せつなは私たちと観光。……せつな、いいよね?」

「せつなちゃん。私たちとデートの約束だよね?」

 ……むぐぅ。そう言われたら仕方ないんだよもん。
 しばらく話し合った結果、クラナガンの観光に行くことに。
 メンバーは私、なのは、フェイト、はやて、リインフォースにリンディさん。

「リインフォース。主を頼む」

「解っている。そちらは任せた。……ヴォルケンリッターの名を汚さぬようにな」

「へっ。任せとけ! そっちははやてに何かあったら、ただじゃおかねえぞ!」

「私もいるし、なのはたちもいるから、早々何かなんてないよ。任せて」

 と、言うことで、リンディさんの案内で出発。
 ……駄菓子菓子。
 ミッド中央銀行にてアクシデント発生。

「……え!? いや、今……う、でも……わ、解った。今行くわ……はぁ」

「お、お母さん? 何かあったの?」

「えっと、ごめん。すぐに本局に戻らなくちゃならなくなったの。……代わりに、エイミィが来るから、少しここで待ってて?」

 と、言うことでリンディさん離脱。
 エイミィさんが来るまで待つことに。

「……銀行って、何か起こりそうやんな?」

「何かって、何が?」

「……はやて、もしかして銀行強盗とか思ってないだろな?」

「そ、そんなに頻繁には起こらないよ……? なんだろ? 騒がしいけど……」

 カウンターで客が怒鳴り始めて……

「てめぇら手ぇ上げろぉ!!」

 ……はい、はやて正解。
 銀行強盗発生。
 カウンターで拳銃を振り回す馬鹿一人。
 
「はいはい、一般の人はこっち来てね~。怪我したい人は従わなくてもいいよん?」

 やたらと明るい口調で誘導するお姉さん一人。……手にはデバイス。魔導師かよ。

「……」

 無口にマシンガン取り出すサングラスの男一人。銃口を一般客へ。

「……ほんまに起こるとは思わんかったなぁ~」

「ど、どうしよう……」

「……せつな」

「とにかく、誘導に従おう。リインフォース。合図したらはやてとユニゾン。はやてもいいな?」

「承知」「了解や」

 デバイス持ちのお姉さんに従って、一般客の集まりに合流。
 ……そういえば。

「なのは、フェイト。ユーノとアルフはどうしたの?」

「ユーノ君、無限書庫って所で司書さんの手伝いを……」

「アルフもそれに付き合って……」

 いないと思ったら。

「おチビちゃんたち? 今の現状わかってるのん?」

 声に振り向くと、デバイスをこちらに向けてにっこり笑うお姉さん。
 そして、私にバインドをかける。

「あなた、人質ね? ……はぁ~い! 管理局武装隊はちゅうも~く!」

 そのまま私を抱え、銀行の出口へ。
 外には、武装隊がデバイスを構え、突入準備をしていた。

「この子。ここで殺されたくなかったら、道を開けなさ~い?」

 ……殺す? 俺を?

「……おい、ファティマ。金は詰め終えたぜ。さっさと逃げんぞ」

「……」

 拳銃の馬鹿と無口マシンガンがその女性に近づく。
 ……纏まってくれてありがたい。反撃開始。
 構成の甘いバインドは、魔力噴射で強引に破砕する!
 同時に、

「……【光輪捕縛】」【ring bind】

 三人まとめてバインドで縛る。
 いきなりの魔法行使にびっくりする三人。

「な、うそぉ!? あなた魔導師!?」

「……ベルカの騎士……舐めるんじゃねぇ! 【紫電一閃】!!」【plasma arm】

 電気変換した魔力を三人に叩きつける。
 ……エリオ君の魔力パンチのパクリだったり。何気に、ヴィヴィオの魔法も混ざってるし。
 まあ、それで強盗三人はノックアウト。
 武装隊が捕獲して、無事解決。
 
「せつなちゃん!」

 犯人逮捕が終わってから、駆けつけてくるなのは。
 後ろにはフェイトと車椅子のはやて。押しているのはリインフォース。

「……無茶をする。私に任せてもらってもよかったのに」

「まあ、隙だらけだったし」

「せつな、大丈夫?」

「じょぶじょぶ。平気。……心配かけた」

 まあ、あれくらいで手こずってたら、シグナムに馬鹿にされてしまう。
 そんな私たちの元に、武装隊の一人が近づいてきた。
 やたらと大きくて、ごつい槍を持った男の人だ。

「……協力、感謝する。俺は、地上本部首都警備隊ゼスト小隊隊長のゼスト・グランガイツだ。……ベルカの騎士と名乗ったな? 君のような幼い騎士は聞いたことないのだが……名前を聞いていいか?」

 ぶふぅ!?
 騎士ゼスト!?
 Stsキャラ二人目はあんたですかい!?

「えっと、永遠せつな。騎士の称号は今日拝命しました。これ、登録証です」

「預かろう……確かに、今日付けの登録証だな。同じベルカの騎士として、君の行動を誇りに思う……だが、少し軽率とも感じられる。……もっと、大人を頼りたまえ」

「あ、はい。すみません、御迷惑をおかけしました」

「……いや、説教臭くなってすまない。……後ろのは君の保護者かな?」

 後ろって……リインフォースの事かな?

「彼女は車椅子の彼女の保護者です。……? いや、違うか? あれ? どっちが保護者になるんだ、この場合?」

「リインの保護者があたしや。……えっと、はじめまして。八神はやて。せっちゃんと同じ、今日付けで騎士になった魔導師です」

「む、君もか? ……なるほど、広域型か。ベルカ式で広域型は珍しいな……すると、彼女らもか?」

 視線はなのはとフェイトに向けられる。

「あ、いえ、私たちはミッド式の魔導師です。フェイト・テスタロッサです」

「高町なのはです」

 ゼストさんに渡される登録証。微妙に、教会のと色が違う。

「……わかった。それで、君たちだけか? 保護者の方は……? と、おい、クイント。何をしている」

「え? いや、登録証の確認とコピーですけど? それより隊長ちゃんと見ました? この子たち凄いですよこんな小さくて可愛いのに、全員AAランク以上って……凄いわぁ」

 ゼストさんの手から登録証四人分を掻っ攫い、しげしげと見つめる……青い髪のポニーさん。
 ……ま、まさか、彼女がワンコの母親……!?

「せめて本人の承諾を得てからにしろ! ……すまん。登録証のコピーをさせてもらった。こいつはうちの隊員のクイント・ナカジマ。少しお調子者だが、勘弁してやってくれ」

「あ、ごめんね? 勝手にやっちゃって。はい、登録証返すわね?」

「あ、いえ、いいんですけど……」

 うわ~。軽いなこの姉さん。
 ……確かこの時期、もうワンコたち引き取ってるんだっけ?
 えっと、Sts開始時の十一年前だから……引き取って間もないのか?

「せつなちゃん!」

 と、ここでエイミィさん登場。
 
「保護者か?」

「あ、はい。本局艦隊時空航行艦『アースラ』所属、艦内補佐官エイミィ・リミエッタ。せつなちゃんたちの保護者代理です」

 ゼストさんに敬礼後、振り返って……何故額に青筋?

「せつなちゃん? 一体何したのかお姉さんに話してごらん? 怒ったりしないから」

 いや、もう怒ってます。
 てか、俺が悪者かよ!

「エイミィさん。せつなちゃん強盗捕まえたんですよ?」

「え? 嘘……て、せつなちゃんならそれくらいできるか。ごめんねせつなちゃん。エイミィさん勘違いしちゃった」

 どこをどう勘違いして、俺が何をしたと思っていたのか小一時間問い詰めたい。
 
「……まあ、強盗犯を捕らえた手際は目の前で見せてもらったから、事情聴取の手間は要らんな。保護者も管理局の人間のようだし、これ以上の手間は必要あるまい。……暇ができたらうちに遊びに来い。茶ぐらいは御馳走しよう」

 おおう。ゼストさんにナンパされてしまいました。
 ちょっとドキドキ。

「隊長……もしかしてロリコン?」

「そんなわけあるか。今日の礼だ。……では、失礼する。クイント、行くぞ」

「はいはい。じゃ、みんな、またね~?」

 ゼスト隊退場……てか、やっぱゼストさんかっこいい~。
 
「……せ、せっちゃん? せっちゃんってひょっとして渋好み?」

「え? せつなちゃんって女の子好きじゃぁ……」

「でも、この間、ソースケさんと仲良く釣りしてたけど……」

 ……そこ、こそこそ話し合うな。
 後、どちらかと言われればなのはが正解。
 仕草や立ち振る舞いは男として憧れるが、それ以上の感情は持てない。
 女の部分から見ても、やはり女性のほうが好きだ……
 これも、あの記憶のトラウマなんだよなぁ……
 
「……変身魔法、覚えようかな……」

 これで男になれば、なのはたちと付き合っても文句は……あ、正体ばれてるから出るのか。
 何で女の子に転生しちゃったんだろう……
 ちょっとだけ鬱になった。

 後は観光を続けて、聖王教会に戻り、シグナムたちを回収して、クラナガン市内のホテルで一泊。
 翌日には、海鳴市に戻りました……。
 なんか、今回伏線張りしかしてないような?

 ……まあ、ほとんどが伏線に繋がったのは、もっと先になってからの話である。







[6790] 14.サクリファイスドール
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/03/19 08:02

 六月に入り、お隣さんが引越しした。
 高町家に近い分譲マンションの一室を買い、そこに移った。
 ……私の家族の引越しはまだまだ先になるそうだ。
 まだしばらくは一人暮らしが続く。
 ……さて、メールチェックした後寝ますか……? 一件サイズがでかいのが来てる。
 あ、こないだの恭子さんだ。
 この間の写真データを送ってくれたようだ。どれどれ……
 データを確認後、すぐにUSBメモリに保存。明日写真屋に持って行き、現像してもらおう。
 ……これが、今回の事件の始まりだったとは、夢にも思いませんでした。


 さて、フェイトが転校してきました。
 自己紹介と共に歓声の上がる我がクラス。
 ……下の階からも歓声上がってる……一年のクラスだな?
 そしてフェイトに群がる人人人……ええい、うっとおしい!

「はいはい! そんなに皆で質問したら、フェイトが困るでしょ! 順番よ順番!」

 女王様降臨。見事に仕切るアリサ。
 ……途中怪しいところもあったが、なんとか質問を捌き終えたフェイト。ご苦労様。

「つ、疲れたよ」

「お疲れ。……後、転入おめでとう」

「ありがと。……えへへ。どうかな、私の制服姿」

 うん、それ三回ぐらい家で見せてもらったよね?

「可愛いよ。よく似合ってる」

「……うん。ありがとう」

 毎回同じ台詞だというのに、毎回嬉しそうにするものだから、とても可愛いんだよもん。
 思わず抱きついてしまっても罪じゃないよね?

「またあんたわ! フェイトも、嫌なら嫌って言わないと、調子に乗るわよ?」

「え? 嫌じゃないよ?」

「……く、もうフェイトは手遅れだったか……」

 何が手遅れか失礼な。

「ふふふふふ。フェイトは私の嫁だからね。既に調教済みだよ?」

「ちょ、あ、あんたって人はぁぁぁぁぁぁ!!」

「……なのはちゃんは?」

「なのはは私の恋人!」

「……何かフェイトちゃんとグレードが落ちたような気がするの……」

 呼び方の違いだが、愛情度は同じだよ?

「じゃあ、はやてちゃんは?」

「はやては私の妻!」

「「……な、何か負けた気がする」の」

 いやあ、あの気の合い方は尋常じゃないしね?

「じゃあ、私は?」

「すずかは私の……愛人で」

「……うん、いいね」

「いいんだ!?」

 いいのか? 愛人で。

「……ちなみに聞くけど、私は?」

「アリサは私の、えとお……ペット?」

「こらぁ!」

 ぺちっとはたかれた。

「じゃあ、相方?」

「漫才師か!」

 またはたかれた。

「えと、えと……じゃあ、肉ど」

「それは禁則事項!」

「みくるさん!」

 ローリングソバットが華麗に決まり、見事に吹っ飛ばされる私。
 ……なのはたちに吹っ飛ばされた、アースラ武装隊の気持ちが少しわかりました。

「あ、アリサ……ぐ、グッドクマさん」

「……! こ、このセクハラ魔神~~~!! 記憶を失えーーーー!!」

「ちょ、まって、死んじゃう、ホントに死んじゃう! あ、でも感じちゃう!?」

「死ねぇ、死んでしまえぇぇぇ!!」

 スタンピングはマジまずいと思うんだ。
 とにかく、フェイトとすずかが止めてくれなければ、そろそろまずかった。

「……せ、せつなちゃん。こうなるって解ってたのに、何でそこまでアリサちゃんをからかうの?」

「あ、愛故に……ほら、怒ったアリサも可愛いだろ……?」

「ボロボロになるまでやることじゃないと思うなぁ……」

 まあ、一種の愛情表現だよ、なのは。

 で、帰り道。
 なのは達と別れ、家路に着く。
 バス停からは一人。フェイトがまだ引越ししてなければ、一緒に帰れたんだけど……

「まあ、仕方ないか」

 そう言えば、この間の写真が今日あたりできるだろう。
 取りに行くかな……

「……」

 しかし、いくらまだ春だからって、ロングコートは暑くないか?
 いや、今そんな人が通り過ぎて……

「んぐ!?」

 !! 後ろから羽交い絞めされた!?
 口に何か押し当て……薬品のにおい? まさか!?

【barrier burst】

 パラディンの自動魔法で変質者(仮)を弾き飛ばす!
 身体に違和感……と、言うより、頭くらくらする。
 ええい、情けない!
 逃げないと……そう思って足に命令する。
 なんとか動ける……と、思ったら、足元が破裂した。
 ……え?

「……」

 男の手には鉄の塊。所謂……拳銃。
 幸い、当たらなかったが、まずいだろこれは!

「……」

 今ので完全に体が硬直した。
 ちくしょ、変なもん嗅がされてなければ……
 近寄ってくる変質者。
 手詰まりかよ……

「諦めるにはまだ早いぜ、せつなちゃん!」

 !? 聞き覚えのある軽い声。
 私を抱きとめてくれる……男の人。
 ……よりにもよって、

「あんたかよ……クルツさん」

「へ、ヒーロー登場ってな? 少し寝てな?」

 その体温を感じながら。
 ぷつんと意識が消えた。









 ……? なに? なんかうるさい?

「? お、目が覚めたか?」

 ……何この音? バリバリうるさいなぁ……

「おーい、せつなちゃん? 聞こえてるか?」

 ? クルツさん?

「あれ、何でクルツさんが……!」

 そうだ、変質者に襲われて……て、この音って、ヘリの音!?

「何でヘリ!?」

「ああ、今俺らの基地に移動中だ。……悪ぃな、巻き込んじまって」

 巻き込んだって何!?
 
「何? 俺、何で巻き込まれたの!?」

 状況がぜんぜんわからない。
 何で俺が襲われた? 
 都合よくクルツさんが助けてくれたのは?
 俺とクルツさんをつなげる線は……

「まさか、旅行のときの写真!?」

「……まあ、実はそうなんだけどよ。落ち着いて聞いてくれな?」

 クルツさんの説明に耳を傾ける。

 ……実は、恭子さんから発信されたあのメールに、ウィルスが乗っけてあったらしい。
 ウィルスは送信先の住所を割り出し、ある機関に転送される物で、どうも私の住所はそれで知られたらしい。
 ウィルスの存在に気づいたのは同じメールを受け取ったカナメさん。
 このウィルス。どうも、クルツさんたちの敵(例のデバイス作成推進派)の仕掛けたものらしく、先日、カナメさんが襲われた。
 この襲撃はソースケさんが側にいたため、未遂で終わったが、そのウィルスの特性を知り、恭子さんに聞いたところ、私にも送ったことが判明。
 急いでクルツさんが派遣されたところ、丁度襲われている私を発見。無事保護して、こうして別の場所に搬送されているそうだ。
 ……て、ことは。

「写真に移ってる、他の子たちもまずいんじゃ……」

「一応、あの町には俺の部隊の連中が散って不審者を見張ってる。……大丈夫だ」

 ……それでも、気にはなる。
 遠距離念話でまずはシグナム。

「(シグナム! 聞こえる!?)」

『(!? どうした!)』

「(さっき、私、誘拐目的の男性に襲われた。ターゲット予測は温泉旅行に同行した子達。それで、シグナムとザフィーラに非魔導師……特に、アリサの護衛にまわってほしい。後、すずかの様子も見に行って。それから、シャマルさんになのは達と連絡を取ってもらって、無事かどうかの確認。終わったら私に連絡。お願い!)」

『(……了解した。お前は大丈夫なのか?)』

「(クルツさんに保護してもらったから、大丈夫。……とにかく急いで。アリサとか、誘拐癖あるから、特にまずい!)」

『(誘拐癖? ……とにかく、バニングスと合流して、しばらく護衛に着く。それでいいな?)』

「(お願い。……あと、ごめん。本来なら、私が動くことなんだけど……)」

『(気にするな。騎士の頼みだ。……お前は自分の身を優先させろ)』

「(ありがとう。健闘を祈るよ)」

『(そっちもな)』

 ……たぶん、これでよし。
 高町家は恭也さんたちがいるから、大丈夫だろう。
 フェイトたちは……アルフがいるし、フェイト自身の戦闘能力も高い。
 はやては鉄壁の守護騎士がいるから、シグナムとザフィーラがいなくても平気だ。
 すずかは本人の運動能力はもちろん、ちょっと不安だがファリンさんがついてる。
 問題はアリサ。鮫島さんを疑うわけじゃないけど、誘拐イベント起きると必ずさらわれるのがアリサだ。
 けど、シグナムとザッフィー向かわせたから、多分大丈夫だろう……多分。

 ……まさか、自分がさらわれそうになるとは、思いもよらなかったYO!

「……おい、せつなちゃん? まだ具合悪いか? 寝ててもいいんだぜ?」

「いえ、大丈夫です。……今、シグナムに連絡入れて、みんなの護衛に回ってもらってます」

「シグナムって……あのポニーテールの? てか連絡って……どうやって?」

「私たちは念話って言って、ある程度距離が離れていても会話できるんです。……私が魔法少女だということ、忘れました?」

「……そういやそうだったな。……と。もうすぐ着くぜ?」

 クルツさんの視線の先、一見何もない無人島らしき島。
 ……よく目を凝らしてみると、所々人の手が加えられている……あ、森の中に穴が開いた。

「ここがメリダ島。俺たち『ミスリル』のアジトさ」

 ……ただの軍人さんじゃなかったんですね……むしろ、秘密結社?



 <アリサ>

「鮫島! しっかりしなさい! 鮫島!」

 ちょっと、いきなり接触事故ってなんなのよ! 完全に向こうから突っ込んできたわよ今の!
 お陰で鮫島が……血で、怪我して……く、落ち着け私!

「さめじ……え?」

 いきなりドアが開き、サングラスの男が手を伸ばしてきた。
 私を掴もうと……!?

「い、いや! 離しなさいよ!」

 手にハンカチみたいな物持って、私に組み付いてくる。
 あれを口に押さえられたらまずい。
 どこかのドラマで、似たような手段見たことある。
 これって、誘拐だ!

「やだ! やめてよ!」

 駄目だ、捕まる……!

「この……痴れ者がぁ!」

 いきなりの怒号。……聞いた事のある声。
 男が車内から引きずり出され、その人に殴り倒される。

「無事か? バニングス?」

 ……車の中を覗き込んだのは、はやての家族で、せつなの友人のシグナムさんだった。

「シグナム、残りは全て片付けた。……負傷者は?」

「鮫島が!」

「……鮫島殿? 無事……ではないな。今シャマルを呼ぶ。……大丈夫だ。バニングス。我々が来たからには、もう大丈夫」

 ザフィーラさんも来てくれた。……でも、どうして?

「どうしてシグナムさんたちが……」

「ああ、せつなに頼まれてな。……君を守って欲しいと」

 せつなが!?

「あいつ自身襲われて、今、別の者に救出されたらしい。それで、君たちも襲われていないかと、連絡が入った。……動けないせつなに代わって、我々が来たと、そういうわけだ」

 動けないって……

「せつなは無事なんですか!?」

「ああ、無事だと言っていた。……心配することはない。あいつは強いからな」

 襲われておいて何が強いというのか。
 ……ま、まあ、悪運は強そうだけど。

「しばらく、私とザフィーラが君の護衛に着く。……しばらく窮屈だろうが、我慢して欲しい」

 ……それはありがたいけど……

「はやては?」

「主はやてにはリインフォースとヴィータが就いている。……主にも頼まれている。気にするな」

 はやてにも……ああ、もう、私を何だと思っているのか、あの二人は。

「そんなに、私、か弱く見えるのかしら……?」

「……せつなは、君は誘拐癖があるといっていたが?」

 ……なるほど。
 あいつが顔見せたときには、ちゃんと話し合いが必要なようね。なのは的に!

「……ともかく、助かります。ありがとうございます」

「何、構わん」

 ……頭を押さえつけるように撫でるシグナムさん。
 彼女なりに照れてる?
 ……まあ、私を心配してくれた、二人の友人には、感謝しておこう。

 ……それと、無事でいなさいよ。せつな。



 <せつな>

『(……と、いうわけで、なのはちゃんたちは無事よ? 心配しないでくださいね?)』

「(ありがとう、シャマルさん。恩に着ます)」

『(同じベルカの騎士として、あなたの力になれて嬉しいわ……特に、私最近出番ないし)』

 それは言うな。

「(また何かあったら連絡よろしく。……流石に、この距離じゃあシャマルさんぐらいじゃないと念話届かないし)」

『(そうね。わかった。……後、なのはちゃんとフェイトちゃん、はやてちゃんが心配してたけど……何か伝えることある?)』

「(えっと、とにかく、人の心配する前に、自分の身を心配することを言っておいてください。後、心配してくれてありがとうと)」

『(……微妙に厳しいけど、わかったわ。じゃあ、頑張ってね?)』

「(ああ、ありがとう)」

 ……よかった。皆無事か。
 メリダ島に入って、基地内の一室に通されたときに、シャマルさんからの念話。
 アリサがやばかったらしいけど、なんとかシグナムたちが間に合ったそうだ。
 ……後、犯人は軒並み自害したと報告も入った。
 徹底している。どこの工作員かと。
 ……北?

「せつなさん!」

 と、部屋に入ってきたのは、旅行中に仲良くなった銀髪美少女テッサさん。

「テッサさん。援軍ありがとうございます。助かりました」

「いえ、こちらこそごめんなさい。巻き込んでしまって……後、例の組織には、誤情報を送っておきました」

「誤情報?」

 なんだそれは?

「写真に写っている者は、私たちとは無関係の一般人だと。……これで、本腰を入れて誘拐はしないと思います」

「それでも、私の友人の一人が誘拐されそうになっている。……気を抜かないほうがいい」

「そんな!? ……無事だったのですか?」

「ああ、無事だ。仲間が間に合った。……ホントに誘拐癖があるとは、アリサ、不憫な」

 冗談だったのに。
 
「……わかりました。海鳴市の隊員に、警戒を怠らないように指示します」

「お願いします。……この間、管理局で登録しちゃったから、やたらむやみに魔法使えないんで。……こっちで魔法使うと、事後報告でも罰金きついんです」

 状況次第で反省文に変わるけどね?
 管理外だから、言わなきゃばれないし。

「……ところで、その厄介な組織は壊滅の目処つきます?」

「それが、彼らの所在地は発見できたんですけど……」

「大佐。失礼します」

 入ってきたのは、渋めのおじ様。……白髭が渋さを増している。どこの将軍かと思った。
 でも、将軍というより……神父?

「カリーニン少佐? どうしましたか?」

「はい。降下部隊準備できました。いつでも発進できます。後、『アーバレスト』ですが、本当に相良でいいのですか?」

 ? あーばれすと? ……攻城弩をソースケさんに持たせるのだろうか?

「ええ、相良さんが一番相性がいいみたいですし、そのまま彼に運用してもらってください」

 ……いや、違う、となると……

「アームスレイブ?」

「!? 君? 何故それを?」

「あ、少佐。彼女です。……次元世界と縁を持つ純正魔導師」

「そうか、君が……失礼した。私は、『ミスリル』の作戦指揮官、アンドレイ・カリーニン。階級は少佐。相良やウェーバーの上司に当たる。今回はすまなかった」

 敬礼してから、握手を求めてくるおじ様。
 ……案外、はやての言ってた渋好みってあってるかもしれん。
 かっこよさすぎる。
 握手を返しながら、その仕草に見とれていた。

 いやまて。

「て、こらテッサさん? やっぱり使うんかい『アームスレイブ』」

「……仕方ないんです。向こうも、使ってきますし……それに、通常兵器が効かないんです」

 ほわっと?
 おいおい、まだ実戦に向かないんじゃ?

「……どうも、防御専用のASを準備してきたらしく、海上基地に大陸弾道弾を打ち込んでみたのですが……防がれました」

 マジですかい。
 てか、ICBM防御できるってStsなのはクラスの防壁じゃん。
 ……いや、なのはでも無理か?
 ……まずい、マジで実用段階まで目の前じゃないか。
 嘘から出た真? 
 そんなの諺だけで充分だぞ?

「……それで、『ミスリル』のASなら、その防御は貫通できるのか?」

「……分かりません。ですが、内部からなら、問題はないかと……」

 どうかなぁ……不安だなぁ……
 ……でも、ここで潰しておかないと、またアリサたちが誘拐される可能性もあるんだよな。
 ……はぁ、ばれたら身売りするか。

「テッサさん。いや、テスタロッサ大佐。……この作戦だけ、私を雇いませんか?」

「……協力をお願いしても?」

「もちろん。あ、報酬はお願いします。お金は大事ですから。……どうでしょう?」

「……少佐。彼女をメリッサ曹長の所へ。作戦概要を説明してあげてください」

「よろしいので?」

「願ってもないことです。……せつなさん。御協力、感謝します。報酬は期待して置いてください」

 よし、交渉成立。
 さてと。

「俺を敵にまわした事を、地獄で後悔させてやる。……ベルカの騎士、舐めんなよ」

 戦闘開始だ。




 作戦概要は単純だ。

「海上要塞周辺海域までヘリで飛び、そこから降下。海上から侵入する。ウルズ2、6、7。そして今回参加するベルカ1は要塞中央部防御施設を破壊。破壊確認後、離脱し、ポイント336へ移動。そこに回収班を準備しておく。離脱後、要塞にICBMを打ち込み、作戦終了だ。装備は陸戦兵装Bタイプ。そして、AS『ガーンズパック』『アーバレスト』を持っていけ。……ベルカ1。本当に陸戦兵装はいいのか?」

「ええ、いりません。……私のデバイスは、質量兵器以上の力がありますから」

 正直、オーバーキルだ。
 ……本当に、八歳児のやることじゃねぇよなぁ……

「……いいのかい? ここから先は、泣いても誰も助けてくれない地獄だよ?」

「……はい。もう、決めましたから。……友達を守る為にも、私は、剣になると」

 この世界に来て、いつも言ってたことじゃないか。
 私の平穏を脅かすものは。
 殺してでも排除すると。

「永遠。お前の背中は俺たちが守る。……安心してくれ」

「期待してます。ソースケさん。……それと、できれば名前で呼んでくれませんか?」

「……了解した、せつな」

「よっしゃ! じゃあ派手な花火を打ち上げようぜ!」

「「「おう!!」」」

 ……ちなみに。
 実は私一人で充分なんだけどな~て、意見は黙っておいた。



 輸送ヘリで、作戦ポイントへ。
 望遠鏡から例の要塞を見る。
 ……要塞?

「あれがそうなんですか? どうみても……」

 沈没しかけの戦艦にしか見えない。
 そう、タイタニックのように艦首が天を向いてて……
 
「あそこ、実は浅瀬なのよ。よっくあの周り見てみな?」

 ……うわ。戦艦の周り、よく見るといろいろとなんか人工物が……

「ね? で、ミサイル打ち込むと、あの戦艦の中央部からバリアが出て、防いじゃうって訳」

 面倒な。
 ……なのはとフェイトがいれば楽勝かな?

「降下ポイントまで、後3分です!」

 ヘリパイロットからの通達。
 パラシュートをつけ始めるソースケさんたち。

「? せつなちゃん。パラシュートつけ方分かるか?」

「あ、私要りません。空、飛べますから」

 一応空戦魔導師だ。でも、Stsのなのは達みたいに空中でジャケット着るようなあほなことはしない。

「パラディン【アヴェンジャー】セットアップ」

【get set Avenger form ignition. ……さて、暴れますか、マスター】

 漆黒の鎧を纏い、オプション装備のバイザーを展開する。
 ……顔がばれないようにね?

「降下ポイント後30! カウントいきます!」

 ソースケさんたちの準備も終わった。
 さて、まずは……

「【ブレイブハート】スタンバイ」

【stand by brave-heats set up】

 騎士杖を準備。……さて、パーティの開催だ。

「降下開始! ウルズ2、出るよ!」

 まずはマオさんが降下。

「ウルズ6、いくぜ!」

 続いてクルツさん。

「ウルズ7、出る」

 そしてソースケさん。

「……ベルカ1。いきます!」

 最後に私。……広がる青い海に、ちょっと見とれた。
 三人の降下ポイントを割り出す……割り出し完了。

「パラディン。翼を」【wild wing】

 背中から翼を具現化させ、そのポイントに降下する。
 なお、この翼、なのは達曰く。

『天使みたいなの』

 とかいわれた。……魔力光銀色だしなぁ……
 さて、何の障害もなく降下終了。
 パラシュート装備をはずしたソースケさん達と、要塞に突入。
 ……侵入口は地上のエレベーターから。
 見張りを黙らせて、エレベーターを作動させる。

「じゃあ、ここからは二手に分かれるよ。私とクルツで電装系を破壊する。ソースケとせつなで中央防御室を破壊。ソースケ。エスコートは任せたわよ?」

「了解だ。せつな。俺から離れるなよ?」

「ソースケさんこそ、ちゃんと付いて来て下さいね?」

「上等だ」

「ひゅ~。せつなちゃんかっこいい~」

 茶化さないでください、クルツさん。

「ところで一つ確認いいですか?」

「なんだい?」

「……隠密戦ですか? それとも、派手に打ち上げていいですか?」

 こっちの装備だと、派手に行った方が楽なんだけど。

「……ソースケはどっちがいい?」

「む。せつなはどっちがいいんだ?」

「できれば派手に」

「了解だ。こちらが囮になろう」

 あ、その役目も引き受けちゃうのか。
 ……でもまあ。

「ソースケさんに、弾丸一つも通しませんから。安心してください」

「……頼む」

「頼まれました。じゃあ、着いたと同時に花火撃ちますね?」

 実は、前々から使ってみたかった術式がある。
 あまりの派手さに、使うのは躊躇われたのだが……ここなら使える。

「よぅし。それじゃ、一発でかいの頼むわ。せつなちゃん」

「任せてください。ブレイブハート! ロードカートリッジ! 収束開始!」【magic charge】

 使うのは収束砲。名前が某普通の魔法使いの主砲と同じなので、使いたいけど使えなかった。
 チャージ時間長いし。カートリッジ三発も使うし。
 だけど、こういう場合なら……

「エレベーター、着くぜ!」

「皆さん、私の後ろへ!」

 全員に対ショックバリア展開。
 バレル展開。チャージ完了。
 ……扉が開き、銃口を構えている皆さんがその光に驚きの顔を浮かべ……

「【星光轟砲】……マスタァァァァァァスパァァァァァク!!!」【master spake】

 白銀の光の奔流が、一直線に打ち出される!
 ……どう見てもスターライトブレイカーのパクリです本当にあr
 うん。あれを意識して組んでみた。ただ、私自身の魔力の少なさもあって、本家よりちょっと幅が狭い。
 その代わり、空間爆砕属性を組み込み、破壊力で本家に迫っている。
 なお、非殺傷設定は……切ってある。

「……すげぇ……これが本物の力かよ……」

「た、確かに派手だわ」

 カードリッジをもう一発使って、魔力スフィアを四つ形成。術式を流し、私とソースケさんに二つずつ付ける。

「【自動防壁】【反撃雷球】」【auto shield/counter shot】

 続いて、杖をしまい、中距離装備に。

「【ブリューナク】スタンバイ」

【stand by brionac set up】

 アヴェンジャーフォルムのブリューナクは突撃槍の姿だ。エリオ君のストラーダと似たような奴。
 
「じゃあ、突撃します。ソースケさん、援護お願いします!」

「りょ、了解した!」

 さて、中央を目指しますかね?



「……ひょっとして、せつなちゃん一人で充分だったんじゃあ……」

「同感……あんた、あの子の友達に手出ししたら……死ぬんじゃない?」

「……い、命がけは必至だな……くわばらくわばら」





 ……次から次から沸いてくる兵士たちを魔力斬撃で切り倒す。
 通路なら一気にACSドライバーで駆け抜ける。
 広場に出たら広域射撃で沈黙させる。
 ……いい加減疲れてきた。

「ま、まだ着かないの……? ソースケさん? 弾数平気?」

「肯定だ。しかし、君のほうは大丈夫か?」

 魔力はまだ平気。
 ほとんどカートリッジで済ませてるから。
 ……全部で20ダースほどストックしてあるし。
 ここまでで4ダースは使った。

「……? マオか? ……ああ、わかった」

 マオさんから通信?

「ウルズ2、6、電装室の破壊が終わったそうだ。後、要塞内の地図を送ってもらった」

 ラッキー。それで、中央ブロックは?

「……ここからすぐ近くに中央ブロックの入り口がある。この部屋の……あのドアを出て、左だ」

 じゃあ、向かいますか。

「……お前は、人を殺すことに、何も躊躇しないな……慣れているのか?」

「……慣れませんよ。慣れたくないです。……本当は、非殺傷で倒したいところですけど」

 でもそれだと、後ろから撃たれる可能性もある。
 ……容赦は命取りだ。

「それに、私、これでも怒ってるんですよ? ……私の平穏、返しやがれってやつです」

 今頃、出来上がった写真見て、にんまりしたり、思い出し笑いしたり、我慢できなくなって翠屋行ったり!

「今日まで頑張って、しばらくは普通の女の子でいようと決めた矢先に……」

「……巻き込んですまなかった」

 ふふふふふふ。
 ソースケさんが謝る必要ありません。

「この恨みは、全部ここの人たちにぶつけてあげます。女の子の恨みは怖いんですから」

 さあ、戦闘再開。
 ドアを蹴破り、通路の警備兵に魔力弾を打ち付ける。

「all handed! Gun parred mace!!」

 高らかに声を上げ、詩を歌おう。
 其は戦の歌声、ガンパレード・マーチ。
 ……てね?



 中央ブロック、防衛管理室。
 最終目標のドアを蹴破る。
 ……中を見て、唖然とした。

「……なんだ、この部屋は……」

 むせ返るのは薬品の匂い。周囲に組み込まれた機械のパイプ。
 ……そしてその中央に、それはあった。

「……うそ……」

 緑色に光る溶液の中に入れられた……一つの脳。
 コードにつなげられているということは、あれもシステムの一つなんだろう。
 ……と、なると、あれは……

「まさか、リンカーコアの……」

『そのとおりだよ。ミスリルの傭兵君』

 いきなりの音声。スピーカーからの男の声……

「せつな、上だ!」

 見上げると、ガラスの向こうに、悪役然とした科学者の姿。
 その隣には、軍服を纏った恰幅のいい男の姿も見える。

「……あなたが、この要塞の主?」

『まあ、管理しているのは隣の将軍だがね。しかし驚いた。まさか君たちが実戦で使えるアームスレイブを開発できていたとは……』

 ……つまり、私のパラディンをASと誤認してくれているのだろう。
 それは助かる。

「じゃあ、あなたはAS開発専門の人ですね? 悪いことは言いません。今すぐに研究を中止し、その技術を手放してください」

『ふん。馬鹿を行っては困る』

 声が変わった。
 隣の将軍だろう。

『ASは新しい兵器の形だ。弾丸のいらない、無制限の武器。人の精神力が威力を決める、新世代の力だ。それをやすやすと捨てるわけにはいかん』

『現に、その威力は君が示してくれた。君単体でこの要塞を落とせる威力……実にすばらしい』

 ……駄目だ。
 完全にマッドと独裁者だ。
 ……最終幻想の七作目の社長と専属科学者思い出した。

『さて、君たちには、ここでサンプルとなってもらう。エレン。縛りなさい』

『はい。マスター』

 !? 見たこともない魔力テンプレートが奔り、私とソースケさんを魔力の鎖が縛り上げる。
 ……今のは、誰が……いや、目の前にいるじゃないか。

「エレンって……それのこと?」

『それとは酷いな。彼女は生きているんだよ?』

 ……あっはっは。マジかい。
 確かに、そういう技術あるとは知ってるけどさ。
 明らかにオーバーテクノロジーだろ。この世界では。

『彼女は地球で三人目のリンカーコア所持者だ。今は、私たちの可愛い娘だよ』

 娘? こんな姿にしておいて娘?

『我々の研究で、リンカーコアが一番強くなるのは、無駄な機能を全て取り払ったときと判明した。二人目は残念ながら、研究中に死亡してしまったが、エレンは違うぞ? 何せ、この姿でも、ちゃんと我々に従順に従ってくれる。……確かに、君らのASは高性能だろうが、エレンの前にはまったくの無力』

「いい加減黙りなさい。痴れ者」

 ……マジで頭キタ。
 
「一ついいことを教えます。この子の魔力ランク。A+を記録しています。……そうでしょう? パラディン?」

【そうですね。……惜しいです。ちゃんと訓練していれば、Sランクにも届くかもしれないのに】

『な、誰だ!? 他に誰かいるのか!?』

 パラディンの音声にびっくりするのか。
 ……管制人格なんて、こいつらの頭にないんだろうなぁ。

「そして、私の魔力ランクはAA+……つまり!」

 魔力放出だけでバインドブレイク。
 これなら、先日の強盗魔導師のほうが強かった。

『何だと!?』

「……あなたの研究は間違っています。リンカーコアは、ちゃんとした訓練でその保有魔力量をあげることができます。ですが、威力は別問題。威力は全て、術式の構成力で決まります。……構成の甘いバインドで、私を無力化することなどできません」

 槍をしまい、剣を呼ぶ。

「【アロンダイト】スタンバイ。1stフォルム」

【stand by alondite set up feast form】

 いつもの騎士剣で呼び出したアロンダイトを彼女に……いや、そのユニットに向ける。

『む、無駄だ! エレンの防御障壁はICBMを防げるのだぞ!』

「じゃあ、試してみてください。アロンダイト、ロードカートリッジ」

 連続で六発。
 馬鹿みたいな魔力が、体と、リンカーコアに漲る。
 ……それを、アロンダイトの魔力刃として、圧縮する!

『エレン! 防壁を!』

『はい、マスター』

 ユニットに張られる魔力障壁……話には聞いてたけど、よく見ると、なのはのより粗い。
 ……よかった。これなら、彼女を眠らせれる。

「ごめんね? 人間を恨まないでね……今度は、優しい人たちの下に生まれることを、祈ってるから」

 これは、私の、傲慢な祈り。

「……おやすみ。……【聖光一閃】……セイクリッドォ・スレイヤァァァァァァァァ!!!」【sacred slayer】

 銀光一閃。障壁を容赦なく切り裂き、そのポッドを破砕した。

『え、エレン!? そんな! ICBMを防ぐ壁を斬っただと!? そんな馬鹿な話が!』

「【フェイルノート】スタンバイ。【穿空六射】ラピッドショット」【stand by Fail naught set up. variable shot】

 そのうるさい声を出す男と、その隣の男を、魔力の矢で打ち抜いた。
 それぞれ、額、喉、心臓。寸分狂わず、ガラスを突き抜けて男たちを射抜いた。
 ……静寂が戻る。

「……さて、仕上げに移りましょうか? ソースケ……さん?」

 振り向くと、いまだバインドに縛られているソースケさん。

「……すまん、といてくれると助かる」

 ……構成が甘くても、持続力は強かったようだ。
 後、締まらなかった。




 その後、防御室はソースケさんの手持ちの爆薬をセットし、マオさんたちと合流した後、防御室の爆弾を点火。
 轟音を聞きつつ、私たちは離脱ポイントへ。

「ウルズ2、6、7。ベルカ1。作戦終了! 離脱して!」

「了解!」

 ヘリが上昇し、要塞から離れていく。
 そして、近づいてくる、爆音。

「全員、対ショック姿勢!」

 閃光。轟音。
 ……メリダ島から放たれた、ICBMだろう。
 その沈みかけの戦艦が、跡形もなくなっていった。
 立ち上るきのこ雲を見ながら、ようやく、戦闘が終わったことを確信した。

「パラディン、シャットダウン。……お疲れ様」

【shat down. ……ええ、疲れました。しばらく、お休みしたいです】

 管制人格って言うか、デバイスに疲れるとかあるのだろうか?
 まあ、疲れたというなら疲れたのだろう。
 彼女も元騎士だ。

「……ねえ、パラディン。私も、あのマッドと同じなのかな?」

 私も、パラディンを同じように扱っているのだろうか?

【まずないですね。あなたとあれの違いなど、一目瞭然です】

「……ありがと。否定して欲しかっただけだから」

 分かりきってた答えでも、聞けて満足した。

「お疲れ様。せつな。……辛かったみたいね」

「……そんなこと、ないです」

「嘘つかない。……泣きたいなら、泣きなさい。辛かったんでしょ?」

 ……辛かった。
 あんな、人を人と思わない人間が、本当にいた事実が辛かった。
 人を、いっぱい殺した、この手が辛かった。
 何も知らない、人の幸せも知らない、少女の命を絶ったのが、辛かった。

 人間として、一つ、汚れた事実が、辛かった。

「ごめんなさい……ごめん、ごめんな……う、うああああああああああああ!!」

 今日、永遠せつなとして。初めて、人を、コロシタ。









 後日の事。

「はい、永遠です」

『あ、せつなさん。こんにちわ』

「現在この電話は使われていません、以上!」

 がっちゃん。

 プルプルプル! プルプルプル!

「……なんですか?」

『いきなり切るなんて酷いです! 私が何かしましたか!?』

「勧誘がうるさいからでしょうが! 私は、軍人なんかになりません!」

『そんな!? あれだけの戦果を挙げておきながら、今更逃げられませんよ!?』

「逃げます。ではこれで」

『待ってください切らないでーーーー!?』

 報酬はかなりの額をいただいた。
 全部で三百万……ユーロで。
 しかも、銀行振り込みだから、国税局が飛びついた。
 ガッツリ税金取られました……ちくしょう。

 これで、しばらく普通の少女だ……と思いきや。
 テッサからの勧誘ラッシュ。
 もーね? リンディさんのほうがまだ可愛いくらいの猛攻。
 正直ウザイ。

「……勧誘以外の話なら聞きます」

『……うう、せつなさんが意地悪です』

 もう少ししたら私にも家族ができるんです。
 海鳴で一緒に暮らすんです。
 そんなところに傭兵になりましたーなんて言ったら、確実に捕まる。
 しかも、一緒に暮らすから、そんなに頻繁に家開けれません。
 勘弁してあげてください。

『えっと、まず、先日の件ですが、要塞の出所が割れました。……どうも、北のようですね』

 やっぱりか。
 てか、よくもまあ、あんなもん作れたな。
 本国よりかなり遠かったぞ?

『今本国に潜入している仲間が、データの洗い出しを行っています。……それらの抹消が終われば、後は小さな研究所だけです。後、私たちの上層部と』

「……そっちの上層部は、本当に大丈夫なのか? 今度はミスリルが敵~なんて事になっても、俺容赦しないよ?」

『大丈夫です。私の知識使って、デバイス理論の穴を広げますから』

 そりゃ助かる。
 理論なんてものは穴があればあるほど、信用できないものになる。
 信用できない理論を使う科学者はいない。
 ならば、開発も行われない。

「じゃあ、なおさら、私がそっちに入る必要はないですね」

『それとこれとは別問題です。マオも相良さんも、あなたの力を認めてるんですよ?』

「八歳児を紛争地帯に送らんでください! 雇用法違反で訴えますよ!? そして勝ちますよ!?」

『えっと、戦争に雇用法はありません!』

「あるよ! てか、私日本人! 日本普通に戦争しない! OK?」

『NOです!』

 NO言われた。
  
「却下であ~る! ……じゃ、切りますね? おやすみなさ~い」

『あ、ちょ、ま』

 がっちゃん。





 後、はやての誕生日に誕生石のネックレス送った。
 凄い喜ばれたが、お金の出所を聞かれて少し焦った。
 バイトってことで許してもらった。
 ちょっとやばかった。


「え!? せっかくの誕生日イベントこれだけ!? しかも、今回私台詞こんだけやん!?」

 うん、マジでごめん。
 
 後、絶対今回はリリカルなのはの話じゃなかったと思うんだ。
 ……リリカルにこんな展開あったかなぁ?


*注意・この主人公は、フルメタルパニックを読んでません。






[6790] 15.夏色脇路
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/06/13 04:45
 七月。
 とうとうこの時期がやってきた。
 耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、なのはと笑い合い、すずかと微笑み合い、アリサを弄り、フェイトで遊び、はやてのリハビリを手伝い……
 季節は夏。夏といえば!
 
「夏休み・突・入!」

 通信簿なんて忘れたね!
 と言っても宿題が多いのはこの世界でも同じらしい。

 今回は無駄に頭がいいので、夏休み初日でドリル系は全て終了させた。
 読書感想文はパラディンに知恵を借り、なんとか仕上げた。
 アサガオの観察日記は成長促進魔法で二日かけて終わらせた。
 自由研究は先日ソースケさんに送ってもらった、ミリメシ(軍用レーション。ミリタリーフード)各国版の検証でお茶を濁した。私的にはフランス軍のがお気に入り。
 自由工作は腋巫女サーセン箱を作成。賽銭を入れるとさまざまなキャラが飛び出しお礼を言う無駄に凝った仕組み。五百円玉で出るEXキャラとか本当に無駄に凝ってしまった。

 夏休み四日目までで宿題全てを終わらせ、残るは誤魔化しの効かないラジオ体操だけ!
 さぁ、遊ぶぞ!

 ……で、まずはテスタロッサ家のフェイトちゃんちに突入。

「……な、夏風邪?」

「ごほ、ご、ごめんね? せっかく遊びに、ごほ、来てくれたのに……げほ」

 どうも、この暑さで参ってしまったところで、クーラー導入。汗も拭かずに涼んでいて……そのまま風邪引いてしまったと。
 
「……フェイト? 『夏風邪は馬鹿が引く』って言葉知ってる?」

「ううううううう。せつなが意地悪だ」

 当たり前ですこのたわけ。

「フェイトお姉ちゃん貧弱~」

「アリシア、あまり責めてはいけない。文明の利器に頼った末路だよ……アリシアは、クーラーの当たりすぎには気をつけようね?」

「うん!」

「ううううううう。せつなが苛める……」

 ううん。泣いてるフェイトもプリティ。
 
「まあ、ゆっくり休んで、元気になったら遊ぼう。どうせ、あと一ヶ月はあるんだし」

「うん。ごめんね……」

「いいからいいから。……それとも、私にうつす? 風邪って人にうつすと早く治るって言うけど?」

「それは駄目! げほげほ」

 それは新しい語尾か何かか?
 あまり萌えないぞ?

「ごほ。せつなが苦しむのは、見たくないよ、げほ」

「その台詞、そっくりそのまま返すよ……そうだね……」

 フェイトのマスクを下にずらす。
 ……目元とか真っ赤になってなんか凄く、えろいです。

「粘膜感染とか、すぐにうつりそうだよね~?」

「あ、駄目だよ……」

 ぷっくりとした唇にロックお~ん。
 いただきま~す。

「ん~~~「何をやっているのかしら?」……えっと、フェイトの苦しみを分けてもらおうかと……」

「ふぅ~~~~~ん?」

 ギリギリとロボットのように首を後ろに回すと……
 ……夜叉(プレシアママ)がいました。


 ……ぺい!


 ……がちゃん。


 ……えっと、いきなり外に放り出されて玄関閉められました。
 なんか、悪戯して怒られた子猫の気分。
 ちょっと泣けてきたのは秘密だ。




 気を取り直して高町家のなのはちゃんちへ。
 フェイトの家から近いので、歩いてすぐ。
 インターホン鳴らして、な~の~は~? あ~そ~び~ま~しょ~?

「……せつなか? 今、なのはは留守だぞ?」

 出て来たのは恭也さん。
 最近指導してもらっているせいか、とうとう呼び捨てになりました。
 て、なのは留守?
 どこかに遊びに行ったとか?

「何でも、時空管理局の本局に行くと言っていたな。ユーノの手伝いをするとかなんとか……」

 なにそれ聞いてませんよ?
 てか、ユーノのやつ何フラグ立てようとしてますか私の恋人に!
 やはり淫獣か!

「まあ、あいつには後で詳しく話を聞くとして……せつな」

「はい?」

「……なのはに聞いたんだが、お前、女色の気があるらしいな?」

 ……それはなんですか? 男色の反対語ですか?
 
「なのはには、普通の恋愛をしてもらいたいと思っている。……まあ、相手はもちろん俺より強い男でないと認めないが……」

 それって普通にいませんよね!?
 て、いいますか、何で私に殺気ビシバシ当ててますか!?

「女色だけは許せん。なのはの道を誤らせないためにも、少し、話をしないか?」

「え!? 話だけですよね!? なのは的お話し合いじゃないですよね!?」

「ああ、安心しろ。……高町家的お話し合いだ!」

 それってよく美由希さんが喰らってる、御神流地獄の特訓フルコース!?
 り、離脱……て、神速使って回り込まれた!?
 やはりあんたも魔王の一族か!

「さあ、指導の時間と行こう。何、ついでにその歪んだ人格も叩きなおしてやる」

「いいいいいいやあああああああ!!」








 ちーん。







 ……じ、地獄を見たんだぜ?
 なんとかかんとか抜け出して、バニングス家のアリサちゃんちへ。
 あ、アリサ~。ヘルプミ~。

「…………あれ?」

 インターホン押しても、誰も出てこない。
 ……あれ?

「おーい、アリサさーん?」

『はい、バニングスです。アリサお嬢様は現在、旦那様と一緒にスイスに避暑旅行中です』

 スピーカーから聞こえる声は、運転手の鮫島さん。
 ……あのブルジョワ、避暑だとお?

「……い、いつごろ戻られますか?」

『さて、旦那様も気まぐれな方ですので。八月には戻ってこられるかと』

 七月中は戻らないってことかい?
 ……うぬれ。

「仕方ない、すずかの家に……」

『すずかお嬢様もアリサお嬢様についていきましたから、多分行ってもいないと思います』

 追い討ち!?
 おのれアリサ、俺の愛人を~~~!
 すずかの微笑がしばらく見られないなんて……

「あ、ありがとうございました……」

『ご期待に添えられず、申し訳ありません』

 最後まで礼儀正しく接してくれた鮫島さん。
 あんた執事を目指せばいいと思うよ。
 運転手で満足してないでさ。



 アリサとすずかまでいないとは。
 オノレ夏休み、俺の癒しを返せ。
 こうなると、残る癒しははやてだけ……はやてで癒されるって滅多にないけど。
 やってきましたのは八神家のはやてちゃんち。何度訪問してもでかい家だが、実はグレアムさん守護騎士が住むことも考えて用意したとしか思えない。
 実はいい人? それすらも計算のうち? 
 まあ、もうどうでもいいけど。

「は~や~……ザッフィー?」

 庭にザフィーラ絶賛昼寝中。もちろん犬……じゃなかった狼モード。

「む、せつなか。主はいないぞ?」

「……どこ行ったの。リハビリ?」

「いや、聖王教会から依頼でな。シグナムたちと教会騎士たちの指導だ。……一応、報酬も出るから、収入の一環としてな」

 ……ま、マジかい……て、ことは?

「ザフィーラ……だけ?」

「うむ。留守番だ」

 ザッフィー……不憫な。

「そうでもない。……来たな」

 ?

「ありゃ? せつなじゃないか。どうしたの?」

 あれ? アルフ?
 ……しかも狼モードだし。

「いや、アルフこそどうしたの? ご主人様寝込んでるのに」

「フェイトにはちゃんと許しを得て来てるよ。これからザフィーラにご飯作ってもらうから」

 ……はいぃ!?
 ザフィーラがめしぃ!?

「うむ。主に教えてもらってな。おもに肉料理を教えてもらった。……まあ、喜んで食べてもらうのは、嬉しいことだと知ってな」

「ザフィーラ結構上手いんだよ? そうだ、せつなも……あれ? どこ行くの?」

 ふふ。ザフィーラ頑張れ。
 空気の読める小学生は退散するさ。

「……すまん」

「いいさ、頑張れ、ザフィーラ。応援するよ、同じベルカの騎士として」

「感謝する」

 ……なんか、本編ユーノの気持ちがちょっとわかった気がする。
 Stsユーノって、こんな気持ちだったんだろうなぁ……
 ふふ、私一人かあ。
 寂しいなぁ。



 ……と、言うことで翠屋に。
 仕方ない。桃子さんのシュークリームで至福の時を過ごそう……とか思ってたらさ。

「……売り……切れ?」

「えっと、ごめんね? 午前中に全部売れちゃって、しかも今日店長お休みで……」

 なんですと?
 ちなみに、話してくれているのはバイトの人。
 よく見たら美由希さんもいねぇ。

「何でも、士郎さんとちょっと仕入れしてくるとかなんとか」

 それってふつーにデートじゃないか!?
 じゃあ、今日は桃子さん製スイーツ系全滅!?

「えっと、パフェならできるけど……だ、駄目?」

「……士郎さんのコーヒーがないと、パフェは駄目なんです……また来ます……」

「え、えっと、ご、ごめんね?」

 ……なに? 今日は厄日か?
 



 公園に一人。
 たまたま出ていたたい焼き屋でたい焼き買って一人で食う。
 ……こしあんが甘い。あ、尻尾まで餡入ってない。
 もう一個食べる。げ、カスタード混じってやがるあのおっちゃん。
 さらに一個食べる。……何だよこのカレーチーズって……恭也さんの好物じゃん。
 うう、ホントに泣けてきた。
 たまに平穏だと思ったらなんだよいったい。
 くそう。あ、本当に涙が……

「……大丈夫か?」

 む、誰かに声かけられた。
 ちょっとハスキーな声だが、女性っぽい。
 見上げてみると……あれれ?

「どこか、痛いところでもあるのか? 病院に行くか?」

 ……なんで? 何でこの人がいるの?
 ……い、いや、もしかしたら、他人の空似ってことも……
 ほ、ほら! アイパッチつけてないし!
 て、まだゼスト隊全滅イベント起きてないから、つけてないのは当然か?

「あ、いえ、その。す、すみません。大丈夫です」

「そうか? ……いや、こちらこそすまんな。泣いていたのが気になってな」

 ……服装こそ普通……普通か? 普通にゴスロリだけど本当に普通か?
 いや、それはいいとしても、私の隣に座った女の子は、とてもとても……
 ナンバーズの五番にしか見えない。

「……何か、悲しいことでもあったか?」

「い、いえ。親しいお友達が、軒並み遊べない状況で……今日はちょっと、いろいろついてなくて」

 おまけに、戦闘機人(未確定)っぽい人に出会ったら、本気でついてないぞ。
 えっと、どうしよう?
 パラディンに頼んでバイタルチェック? ……いや、戦闘機人は比較的新しい部門だ。
 違和感は感知できても、断言はできないだろう。
 ……でも、このお姉さん普通に私を心配してくれてるし……本当は別人?

「あ、私、永遠せつなといいます。お姉さんは?」

 ここはなのは的に自己紹介から!

「私は……チンクだ。そう呼んでくれ」

 確定キターーーーーーー!!
 偽名使う気ゼロかよ!?
 いや、使っても意味ないのかここじゃ。

「せつな……と、呼んでもいいのか?」

「え? あ、はい。どうしました?」

「ああ、その、一つ尋ねたいのだが……」

 な、なんだ?
 ひょっとして、私が魔導師だってばれたか!?
 もしかして、私狙い!?
 やっぱ今日はついてねえ!

「その……この住所を探しているのだが……迷ってしまってな?」

 ……いきなり、萌えた。
 ちょっと照れながら言って来るのがキュート。
 そうですか、迷いましたか。
 何気に広いからね、この街。

「えっと……? あれ? これって……」

 受け取ったメモには。
 テスタロッサ家の住所。
 ……プレシアさんと戦闘機人?
 あ。

「……プレシアさんに用事……ですか」

「知り合いか?」

「お友達のお母さんですから。……後、師匠でもありますし」

 ミッド式のね。
 まいったなぁ~。
 生命操作関連の繋がりかよ。迷惑な。

「……なるほど。君も魔導師か?」

「まあ、そんなところです。……その、違法研究のお誘いですか?」

「……そうなる」

 苦虫を噛み潰したように、顔をゆがめるチンクさん。
 ……彼女自身、何か思うところもあるのだろうけど。

「多分断わられるとは思いますよ? もう、プレシアさんには、必要のないことでしょうし」

「それでも、会わないといけないんだ。……案内してもらえないか?」

 ……ヤダとか言ったら、実力行使とかしてきそうだし。
 ここは連れて行ってみようか。

「いいですけど、家で暴れるようなことはしないでくださいね? ……今、お友達が風邪で寝込んでますので」

「……わかった。約束しよう。暴れにきたわけではないしな」

 案外話せる人で助かりました。
 後は、プレシアさんに期待するしかない……か。


 マンションの入り口で待つこと数十分。
 若干気落ちしたチンクさんが中から出てきた。

「……待っていたのか?」

「はい。……どうでした?」

 首を横に振る。交渉失敗のようだ。

「そうですか。……まあ、せっかく管理局の目も誤魔化せましたし、やっと彼女の願いもかないましたし。……これ以上、危険な橋を渡る必要はないでしょう」

「……まあ、そうだろうな……ドクターも、断わられたらそれでいいと言っていたし、これ以上は干渉しないさ」

 よかった。
 これで、もうテスタロッサ家に迷惑な事態は降りかからないだろう。
 やっと、彼女たちに平穏が訪れるわけだ。

「仕方がない。もう一つの任務を済ませるとしよう」

 ……もう一つ?

「永遠せつな。……ドクターが、君と面会したいと言っている。……ついて来て貰えるか?」

 ……今日は、本当に厄日だなぁ。
 今更ながらに運命を呪った八歳の夏の日でした。





 ……さて、チンクさんに連れられて、やって来たのは……なんか『秘密基地』っぽい所。
 先日の海上要塞思い出した。
 ……しかし、涙腺脆いな私。
 また涙が……

「……その、すまない。あまりその……泣かないでほしい」

「あ、すみません。涙腺脆いもので。……悲しいこと、思い出しただけですから」

「そうか……感受性が豊かなのだな」

 そういう問題か?

「これからドクターにあってもらうが、その前に、デバイスを預かっておく。……拒否しないでもらいたい」

 まあ、それは当然か。

「……分かりました。帰るときには返してください」

「……すまない。素直な対応、感謝する」

 パラディンをチンクに渡す。
 ……後でまた会おう、相棒。

「こっちだ」

 彼女が示したドアの先に、……白衣を着た、ロンゲの兄さん一人。
 ……隣のお姉さんが一番なんだろうなぁ。

「……お帰りチンク。プレシア女史の協力は得られたかい?」

 ……むう、あまり嫌悪感を感じない声。
 少なくとも、先日のマッドよりか大分マシだ。

「いえ、断わられました。……どうも、完全に隠居する構えのようです」

「そうか……それは残念。まあ、彼女が残した研究は、私が引き継ぐとしよう」

 是非そうしてくれ。
 でないと……エリオ君が生まれない。

「それで……その子が『聖王の剣』かい?」

 ……また変な単語が出たぞ?
 せいおうのつるぎ? 器じゃなく?

「はい。永遠せつな。古代ベルカ式術者。騎士の称号を先日受け取った、近年最年少の騎士です」

「……ふむ。はじめまして、せつな君。私はジェイル・スカリエッティ。……チンクの製作者で、生命研究を主としている科学者だ。……そうだね。ドクターとでも呼んでくれたまえ」

 ……ちょっと芝居がかった台詞回しだけど、あのマッドよりは気分悪くない。
 下手したら、友達になれそう?
 ……どうかなぁ?

「永遠せつなです。はじめまして、ドクター」

「ふむ。なかなか礼儀のできた子だ。……さて、君に来てもらったのは他でもない。ウーノ。あれを」

 隣のウーノさんが無言で差し出したアタッシュケース。
 それを開けるドクターの手には……赤く輝くこぶし大の宝石。
 ……レリック?

「これは、レリックと呼ばれるロストロギアだ。純魔導エネルギーが封入された、極めて高度な遺産だよ。……そして、これは、その中でも、聖王の血筋が使える、レリックコアの一つだ」

 ……ああ、ヴィヴィオに埋め込まれたのと同じってことか。
 ……あれ? でも、ちょっと待て。

「あの、一ついいですか?」

「なんだい?」

「私、聖王の血筋とまったく関係ないんですけど……」

 うん、関係なかったって、検査で……いやまて。
 そう言えば、ヴィヴィオの元になった遺伝子って、どこから持ってきてた?
 確か、確か……聖王遺物からだよな? 
 二番が司祭をたらしこんで……そうだ。
 じゃあ、あの場所に、二番がいてもおかしくないんだ。
 ……で、私が聖王の血族の疑いが出て……血液検査をして……

「いや、君は聖王の血族だよ。君の血液を私の作品がすり替えてくれてね。……君から、聖王の血族『銀の剣』の遺伝子が検出されたよ」

 そういう伏線かよ!?
 しかも、銀の剣!? そんなの知らねぇって!
 それにだな?

「まってください! 魔力検査はどうなんです!? 確か、聖王の血族なら、虹色の魔力光が普通じゃ……」

「ああ、それも嘘の結果を教会に流したそうだよ。……詳しく調べると、君の魔力光の根元はちゃんと虹色のようだ」

 マジ?
 ……なんてこった。
 じゃあ、母方のほうに聖王の血が流れてたってこと?
 それで、私は先祖がえり?
 ……マジで?

「……やはりショックかな? 自分が、そんな出自だと聞かされて」

「うん。すごく。……えっと、ちょっとだけ、落ち着いていい?」

「ああ、いいとも。ウーノ。お茶を入れてあげなさい。紅茶はいかがかな?」

「お願いします。睡眠薬は入れないでくださいね?」

 入れないよと笑いながらドクター。
 ……さて、情報整理だ。
 つまり、聖王教会で検査した聖王の血族の疑いは、実はアウトだったわけだ。
 私は聖王家の出の『銀の剣』と呼ばれる一族。
 魔力光の色が元になっているのかな? 後、魔力光の根元……芯の部分は虹色と。
 銀の光で虹色が見えなくなっているだけで、ちゃんと虹色ではあるみたいだな。
 
「どうぞ?」

「あ、ありがとうございます」

 ウーノさんから紅茶を手渡される。
 赤い紅茶を見ながら、自分の顔を見る。
 ……あ、これもあった。

「ドクター? 聖王家の人間は、オッドアイ……ヘテロクロミアになるんじゃ?」

「……確かに、聖者の証として瞳の色が違うことはあるそうだが、それは一部の王族だけらしいね。全員がそうだったわけではないようだよ?」

 そうか。
 なら、血液から遺伝子が出たことでもう決定なのだろう。
 ……さて、じゃあ、一番の疑問。
 『銀の剣』についてだな。
 チンクさんは……あ、いないし。

「ドクター。チンクさんを呼んでほしい。彼女に、パラディン渡してあるから」

「君のデバイスだね? ……わかった。僕も、聞いてもいいかい?」

「お願いします。情報が欲しい」

 あいつなら基本なんでもありだ。
 絶対知ってる。確信できる。

「失礼します。ドクター、持って来ました」

「ああ、彼女に渡してあげてくれ」

「……その、暴れないでくれよ?」

「大丈夫です。……さて? パラディン? 『銀の剣』は知ってる?」

 知らないとか言うなよ?

【おや。どこでそれを?】

 やっぱり知ってやがった!

「……解説、してくれる?」

【な、何か怖いですけど、分かりました。……『銀の剣』は聖王家から派生した分家の一つで、主に聖王本家の剣となり、第一線で戦う騎士の一族です。一族揃って剣状のデバイスを用い、その魔力光が虹を伴う銀色だったことから、その名前がつきました。……かく言う私、シルビアも『銀の剣』の出です。もしかしたら、マスターもその血を受け継いで、私と似たような姿になったのかも知れませ……マスター? 何で震えてるんです?】

 そういう大切なことは早く言えと。
 しかも、これで確定しちゃったじゃないか!

「あのね? 私、聖王家の『銀の剣』を継いでいるんだって。今、ドクターから知らされたよ?」

【……マジですか?】

「うん。マジ」

【……子孫よ!】

 ど

「やかましいわぼけぇぇぇぇぇぇ!!」

【みぁぁぁぁぁぁぁ!!】

 ピッチャー第一球投げました!
 おおっと、これはビーンボール! バッターの顔にジャストミート!

「「ドクター!?」」

「……い、痛いね、これは」

 その割には余裕だな!
 飛んでった先から高速で戻ってくる白い本。
 シュールだ。

【い、いきなり何しやがりますか!】

「うるさい! そういう大事なことは、もっと早く言えよ! てかすぐに気付けぇぇぇぇ!!」

【仕方ないでしょう! 私の血族が滅んでから、既に五百年は経ってるんですよ!? 聖王教会調べで! それなのにその血族がいるだなんて、信じられますか!?】

「じゃあ何で俺の身体にその血が流れてんだよ!」

【私に聞かないでください! ……あ、もしかして】

「心当たりあんのか!?」

【……そう言えば、千年ほど前に駆け落ちして一族の系譜から抹消された当主候補が一人いましたね。確か、ミッドチルダ軍の女性と恋愛して、丁度戦争中だったから結婚が許されず、そのまま駆け落ちしたそうですが……あ、私が最後の眠りにつく二年前ですから、比較的新しい情報ですね】

「あんだよそのご都合主義ぃぃぃぃぃ!!」

 じゃあその末裔が俺だってのかよ!?
 訳わかんねぇ!?
 畜生、道理でなんか嫌な予感すると思ったら!?

「やっぱり今日は厄日だぁぁぁぁぁぁ」

「……な、なんだか知らんが……すまん」

 うううううううう。
 恨んでやる呪ってやる祟ってやるぅぅぅ!
 主に俺の神に!

【……まあ、そういう日もありますよ】

「お前が言うな!」

「まあ落ち着きたまえ」

「お前も言うな!」

「……すまん」

「お前……チンクさんはいいか」

「チンクはいいのかね?」

 当たり前だ。
 せっかくの可愛い人を怒鳴る気にはならない。
 
「……よし、チンクさんで少し癒されることにするから。しばらく話しかけんなよドクター?」

「お、おい。癒されるとか、何をするつもりだ!?」

 あ、なんか警戒してる。

「もちろん。抱きつく」

 その警戒を抜いて真正面から。
 ……むう、ちょっと体温低い。

「こら、離さんか!」

「いや。しばらくこうしてる」

「お、お前、何か性格変わってないか?」

 ふふふふ。
 今は男性意識が主ですから。
 体温は低いけど、身長がフェイトサイズだから丁度いい。
 フェイト、なのは達より少し高めだからね。

「こ、こら、顔を擦り付けるな!」

「ふふ~。チンクさんいい匂い~」

「変態か貴様!」

 匂いフェチではありませんが、そうやって嫌がる姿がプリチー。
 さって、もっとセクハラを……あれ?

「……大丈夫か? チンク?」

 あれれ? なんか持ち上げられてますよ?
 強制的にはがされて、その行動をした人を見ると……
 あ、三番さん。
 片手で持ち上げるってずいぶん腕力ありますね?

「……むう、なんかネコになった気分」

「ずいぶんといやらしいネコだな」

 まあ、女の子大好きですから。
 ……まあ、少しは癒されたから、もういいか。

「トーレ……助かった。……せつな。落ち着いたか?」

「ええ。ごめんね? ちょっと暴走した。……トーレさん? もうなにもしないから下ろしてください」

「……いいだろう」

 普通に下ろしてもらって、宙に浮かんでたパラディンを回収。
 再びチンクさんに預ける。
 今のごたごたの間に用意したと思われる椅子に座り、入れなおされた紅茶を一口。
 ……よし、じゃあ、次だ。

「それで? 私に何の御用ですか?」

「普通に続けるのか……」

 今までの事はなかった方向で一つ。

「……いやいや、面白い子だねぇ。気に入ったよ」

「褒め言葉として受け取りますね?」

 気に入られてもね。

「それで、君にちょっと実験に参加してもらいたいんだ。……このレリックコア、君の身体に、埋め込ませてもらってもいいかな?」

 凄く、直球ストレートど真ん中!
 普通そんなふうに聞くか?
 
「……パラディン? あれ私に埋め込んで、何か効果ある?」

 試すより、まず聞いたほうが先だ。この場合。

【……えっと、聖王家のレリックコアですよね? 意味ありませんね。むしろ、害にしかなりませんよ? ……『銀の剣』の血族は聖王家ではありますが、大分本筋からは離れてますからね。パワーダウンどころか、そのまま死んでしまう可能性もあります】

「だ、そうなので却下です」

 流石に死ぬ可能性があることは勘弁。

「……まあ、結果がわかっているなら、やらないよ。……案外つまらない結果になったね」

 つまらないとか言うな。
 不満そうな顔するな。
 こっちは死にたくないわい。

【我々『銀の剣』は、レリックコアに頼らない魔法を研鑽してきました。ですから、レリック関連は我々の血族には毒にしかならないんです。お解りください、ドクター】

「なら仕方ないねぇ。……しかし、先祖の人格の入ったデバイスを使うことになった気分はどうだい?」

「まあ、最高ではないが最悪でもないですね。……そっか。本気で一族の業を継承することになったんだ」

 それなんて北斗神拳?
 別に一子相伝じゃないけど。

「じゃあ、他に何かありますか? ……犯罪的な行為意外で」

「……何か、手伝ってくれるのかい?」

 うーん、どうしよう。

「報酬次第って所です。後、私の身の回りの安全と」

「……それはどういうことだい?」

「……私、お友達がたくさんいるんです。その中でも、特に仲の良い子が五人います」

「それはいいことだね」

「ですけど、最近物騒で、皆が危ない状況になったら大変。特に、誰かに狙われたら……そう思うと、心配で」

「……友達思いだね?」

「だから、私、決めてるんです。もし、そのお友達に牙を向ける、もしくはそれに準ずる行動を起こした犯人は」

「……どう、するの、かな?」

「殺します」

 ……静寂が流れる。
 刺すような殺気。それよりひときわ強い殺気が、その場に流れる。
 ……チンクさんとトーレさんが構えるのが解る。

「……君がこの状況で、僕を殺せると?」

「別に、今殺すわけじゃないですし、ただ、そうなったらのお話です。……それで、ドクターは、私を脅して協力させるなんて下衆な事しませんよね?」

 作った笑みを浮かべる私。
 ……実際。一度それを行った身としては、一人殺すのも二人殺すのも同じだ。

「……せつな。お前は、人を殺したことが」

「ありますよ? ねえ? パラディン」

【……ええ。もともと私は、そのために作られたものですし】

 もともと戦争の道具の一つだ。デバイスは。
 今の使い方が歪であって、本来は人殺しの道具の一つ。
 ……あの将軍の言い分は、間違っていない。

「……わかった。君の周りの人間に危害は加えない。これでいいかい?」

「ええ。ありがとうドクター。話の解る人で、私は嬉しいですよ?」

 ……ちょっと口調が変だった。
 緊張したのか? 俺が?
 ……まあ、そんなこともある。

「じゃあ、また、何かあったら君に頼むとしよう。……犯罪行為以外で」

「ええ、そのときはお願いします。……ドクターには、好感が持てる」

「おや? てっきり嫌われたかと」

 嫌いって言った覚えはないけど。

「だって、ドクターは作品……娘たちに慕われているようですから。ドクターも、彼女たちを道具として……あ、これはまだ解りませんけど、ただの道具としては見てないですから」

「……せつな」

「……はは。そうだね。僕は、彼女たちを愛しいと思っているよ。僕の作品だから……娘だからね」

 その台詞が嘘ではないことを祈っておこう。

「私は、父親がいません。ですから、父親のいる彼女たちが、とても羨ましい。……ドクターは、彼女たちのいい父親であってくださいね?」

「努力しよう。……チンク。せつな君を送ってあげなさい。……また会おう」

「ええ、また。……チンクさん。おねがいします」

 手を上げて、また会う約束を。
 今度は、もう少し有意義な話し合いをしたいものだ。
 ……今回も有意義と言えば有意義だったけど。





 で、チンクさんと出合った公園で彼女と別れ、帰り道。

【そう言えば、マスターの血液。ドクターが持ったまんまなんですよね?】

「……あ」

 変な事に使わなければいいが……

 もちろん、その予感はばっちり的中した。うぬれドクター……






[6790] 16.ボーダーオブライフ
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/03/27 14:26

 はい、八月突入、夏真っ盛り!
 普通はここでプールイベントとか、皆で海! もしくは山で肝試し! 
 な~んて小学生らしいドキドキイベントを迎えるはずの今!
 私は!
 ……orz

「……どうした? いきなりそんな落ち込んで」

 ゼストさんとお茶の最中ですってなんでやねん!
 
「いえ、もう少し小学生らしいイベントこなしたいなぁとちょっと世界の理不尽に文句言ってたところですから」

「……まあ、大変だな」

 相変わらず渋い。

 ……さて、ちょっと状況整理してみようか?
 今日はリンディさんに呼ばれて、養子の手続きしに来たわけです。
 本局で書類や同意書にサインして、養子縁組の書類に判を押して。
 じゃあこれから家族なので、よろしく~とか言ってたら、

『提督、事件です』

 てな感じでリンディさんクロノ君出動。
 ……あれ? 私は?
 ……はあ、戻るかなにかしておいてくれ?
 ……ああそうですか。

『なら、ちょっとクラナガン観光してきます』

 て、ミッドに下りたその直後。

『あ、せつなちゃん久しぶり~』

 と、クイントお姉さんに捕まって、あれよあれよと首都防衛隊隊舎へ。
 んで。

『よく来たな。約束どおり茶でも出そう』

 と、ゼストさんに歓迎受けて、こうして茶をしばいております。
 ……もうちょっとさぁ、あれなイベント起こらないわけ?
 何が悲しくて男とお茶しなくちゃならんのかと。
 まあ、ゼストさん嫌いじゃないのでいいけど。

「……それで、私を拉致って来たクイントさんはどうしたんですか?」

「あいつはまだ仕事が残っていてな。それを片付けている最中だ。……すまんな、ばたばたさせて」

「あ、いえ。どうせ暇でしたし」

 いいお茶出してくれたのが幸い。
 ……ところで、うちのお母さんは今日中に帰ってこれるのでしょうか?
 無理だろうなあ……

「……それでは、ハラオウン提督の養子に?」

「はい。今日付けで永遠せつな改め、せつな・トワ・ハラオウンとなりました」

「そうか。ハラオウン提督は管理局でも有名な方だ。その娘にふさわしい行動を期待している」

 もう既に真っ黒だけどね。
 
「まあ、頑張ります」

「お前が管理局の一線に出て来るのを待っていよう」

 ……? え? 私管理局入り決定なんですか?

「あの、私管理局に入るとは一言も言ってませんよ?」

「……入らないのか?」

「将来の職場には考えますが、今すぐには決めていません」

 せめて、地球の高校卒業するまでは普通に過ごす気ですし。

「もったいないな。今から入っておけば、すぐにでも一線に出れるのに」

「私、結構我侭なんで。……自分の周りで精一杯なのに、わざわざ手を広げて、他の人まで助けられません」

「……なるほど。これは考え方の違いなんだな」

「そういうことです。……生まれの違いでもありますね。私、管理外出身なんで」

「なら、管理局にそんなに思い入れはないか。……残念だ」

 本当にごめんなさい。
 それに、法に従うのはあまり好きじゃないので。
 ……と、言うか、法に縛られて自由に行動できないのがいやなんですが。

「は~い。せつなちゃんおまたせ~」

 と、ここでクイントさん登場。
 ……ぱっと見、明るすぎるギンガさんみたい。

「仕事は?」

「ちゃ、ちゃんと終わらせましたよ。せっかくせつなちゃん連れてきたのに、楽しくお茶も飲ませてくれないんだから」

 う~ん。若い人だなぁ~。
 拗ねる顔が素敵です。

「それで? 何話してたんですか?」

「ああ、トワが管理局に入るのに消極的だという話をな」

「あら。せつなちゃん管理局入らないの?」

「入りません」

 どうしてそんなに入れたがるかね。
 
「私はただの小学三年生なんです。学生生活出るまでは、仕事は極力したくないんです」

「あらら、一応言っておくけど、ミッドの就職年齢って結構低いのよ?」

「クイント。彼女は管理外出身だ。ミッドのそれには適応しない」

「あれ? そうなの? ……ああ、うちのだんなの祖先と同じところだっけ」

 それってゲンヤのとっつあんの事ですかい?

「えっと、クイントさん結婚してるんですか?」

「あ、うん。職場結婚でね~。こないだ108部隊の隊長になったのよ~。魔導師じゃないんだけど、優しい人でね?」

 はいはい、惚気は聞きたくないです。
 ……聞きたくないけど、ホント嬉しそうに話すな。

「子供に惚気ても呆れられるだけだぞ」

「む、いいじゃないですか。……あ、そうだ! せつなちゃん今日はどこか泊まり?」

「いえ、今日はどうしようかと迷ってたところです」

「じゃあ、うちに来なさい。晩御飯御馳走してあげる!」

 あれま。
 こんなところでワンコ二人と御対面かよ。

「いいんですか?」

「いいに決まってるわよ。家に、私の子供が二人いるのよ。えっと、あなたの二つ下と四つ下の二人。両方とも可愛いわよ?」

「……トワは女子だぞ。可愛いのは関係あるのか?」

「ありますよ。せつなちゃん、可愛い子好きよね~?」

 それはどういう意味で言っているのか本当に聞きたい。

「……まあ、嫌いではないですが」

「じゃあ決まりね? ちょっと待っててね、すぐに支度するから」

 と、立ち去っていくクイントお姉さん。
 あれは台風の一種なんだろうか?

「……騒がしくしてすまんな」

「いえいえ。元気な人ですね」

「……元気すぎて困っている」

 あはははは……
 スバルとギンガさん足して二で割ったらクイントさんになるのか。
 ……あの人が死ぬことになるんだよな……
 ……せめて、自由に仕事できれば、管理局に入ってもいいんだけどな……
 やるせないなぁ……


 
 クイントさんに連れられて、彼女の家に。
 ミッドチルダ西部のエルセアって地名らしい。何でも、ゲンヤさんの持ち家だとか。
 住宅街のはずれの方にその家はあり、普通の一軒家。
 結構大きい家である。

「ただいま~! ギンガ~? スバル~? お母さんが帰ってきたぞ~?」

 クイントさんが声を上げると、中からばたばたと音がして、

「「おかあさんお」おかえり~!」

 出てきたのは青いワンコ二匹。だが、一人は途中でもう一人の影に隠れてしまった。
 ……髪の短いほうがスバルで、長いほうがギンガだな。
 なお、隠れたのは多分スバル。

「こらスバル? お帰りは言ってくれないの?」

「お、お帰りなさい……」

 ……明らかに私を警戒している模様。
 うーん。アリシアは懐いてくれたけど、よくよく考えたらアリシアより小さいんだよなスバル。

「で、こっちの子は、お母さんの友達で永遠せつなちゃん。あなた達のお姉さんよ~?」

「え? お姉さん?」

 こらこら。
 混乱するような紹介やめれ。

「えっと。君たちより年上ってことだよ。後、今日からせつな・トワ・ハラオウンって名前になったから、そっちのほうが正しい」

「あら? そうなの? ……え? ハラオウンって、本局の提督の?」

 知らんかったんかい。
 ……て、説明時にこの人いなかったんだっけ。

「そうですよ。……それで、君たちの名前は?」

「あ、はじめまして、ギンガ・ナカジマ。6歳です!」

 あ、アリシアと同い年なのか。

「……」

 で、スバルっぽいのは隠れて出てきません。

「ほら、スバル。自己紹介は?」

「スバル~? お姉ちゃんに、はじめましては?」

 クイントさんとギンガが話しかけても、なかなかギンガの後ろから出てこない。
 ……う~ん。これがあのスバルになるとは考えられん。

「……えっと、はじめまして、私はせつな。あなたのお名前は?」

 まずはなのはさん的自己紹介攻撃。

「……」

 ……ふむ。効果なし。
 役にたたねぇな、なのは。

『言いがかりなの~~~!!』

 なんか聞こえた気がしたが気にしない。
 ならば次の手だ。

「えっと、私怖いかな?」

「……」

「怖かったら、怖いって言って?」

「……こ、怖い……です……」

 え~? ホントに怖いんだ……ショックだ。

「ちょ、スバル? そんな普通に……」

「まあまあ。……私の何処が怖い?」

「……目が……」

 ……目って……

「クイントさん、私ひょっとして目つき悪い?」

「ううん? ちょっと眠そうなところが可愛いと思うんだけど」

 だよねぇ?

「じゃあ、目を瞑ってたら、怖くない?」

 ふふふふ。スバルの顔が見えなくて真っ暗ですが。

「……それで、見える?」

「君の顔が見えないけど、これで君は怖くないかな?」

「……ご、ごめんなさい。目、開けていいです」

 ……再び開けると、ギンガの後ろから出てきたスバルの姿。

「じゃあ、君の名前、聞かせてくれる?」

「あ、はい。スバル……ナカジマ……四才です。……せつなお姉ちゃん」

 ……も、もじもじしながら喋る姿が可愛すぎるんだよもん!
 
「うん。よろしい。スバルもギンガも可愛いねぇ」

 二人同時になでなでなで。

「あ、あう」

「……えへへ……」

 むはぁぁぁぁぁぁ!!
 お持ちかえりぃぃぃぃぃ!!

「ふふん。可愛いでしょぉ? 私の自慢の娘たちよ?」

「可愛すぎです。持って帰っていいですか?」

「それは駄目。二人ともお母さんのだから」

 く。クイントさんガードかてぇ。
 しかし解らんでもない。
 くっそぉ。これでおやっさんいないんなら、三人まとめてお持ち帰りで……て、今女の子だった。
 
「じゃあ、晩御飯の支度するから、三人は待っててね?」

「「はーい!!」」

「すみません。お願いします」

「うーん。そこは二人と一緒に返事してくれるとお姉さんの好感度うなぎ登りだぞ?」

 いや、中身もう子供じゃないんで勘弁してください。

 ……リビングで、二人と待つことに。
 ところで、スバルに質問。

「スバル? 私の目が怖いって、どうして怖かったの?」

 是非聞いておきたい、今後の為にも。

「……怒らない?」

「怒らないよ?」

 さあ、なんだ!?

「えっと、その……大人の人みたいで、怖かったの。あの、ゼストおじさんみたいに」

 ……ぜ、ゼストさんっスか……

「……確かに、雰囲気がゼストおじさんに似てます……」

 ……マジか、ギンガ……

「私八歳にしてあの渋さを手に入れてしまったか……女の子なのに……」

「「ご、ごめんなさい」」

 いいんだよいいんだよ。
 これまでの経歴からして、充分資格はあるから……はぁ。

「ま、まあこれはいいや。それで、二人はお母さん好き?」

「「好きーーー!!」」

 おおう。そんな嬉しそうに。
 じゃあついでに。

「お父さんは?」

「好きですよ?」「……好き」

 ……えっと、何この温度差?
 ギンガは普通に答えたし、スバルはちょっと戸惑い気味だし。
 ……そして、後ろに気配?

「……こ、こんばんわ、お邪魔してます」

「あ、ああ。……えっと、どこの子だ?」

 ゲンヤさんお帰りなさい。
 ちょっとびびった。いつの間に。

「あら、あなた。お帰りなさい。その子、前に話したベルカの騎士よ? せつなちゃん」

「ああ、例のか。はじめまして、ゲンヤ・ナカジマだ」

「はじめまして。せつな・トワ・ハラオウンです」

「ん? ハラオウンって、本局のか?」

「今日付けで養子になりまして」

「そうか。大変だな。……ん? トワ?」

 あれ? そっちにも反応するの?
 しばらくうんうんうなって、

「ひょっとして、そのトワって、永遠って書いてトワ?」

「そうですけど?」

「!? こりゃ驚いた。クイント、こいつあれだ、フォルテの娘だ」

 ……フォルテ?

「フォルテって……あの、騎士フォルテ? 陸戦で、本局のグレアム提督の部下と結婚した、フォルテ・ヴァーミリオン先輩の?」

 ……なんか凄い苗字の人出てきたな。
 しかも誰?

「あ、あの、そのフォルテって、誰なんですか?」

「ありゃ? お前さん母親の名前知らないのか?」

 はぁ!? 母親!?

「フォルテ・ヴァーミリオン。首都防衛隊のエースで、騎士の称号を取ったベルカの陸戦魔導師でな? 十年ぐらい前にグレアム提督の下で働いてた永遠リュウトって奴と結婚して、それから音沙汰なしだったんだが……ひょっとして、フォルテ、死んじまったのか?」

「……は、母は、私が生まれてすぐに、死んだと……」

「……そうか。悪いこと聞いちまったな……親父もか?」

「父さんも、四年前に……」

「……あなた……」

「……悪い」

 ……うーん。こういう繋がりだったのか。世間は狭いなぁ。
 
「せつなお姉ちゃん。お母さんもお父さんもいなかったの?」

「……うん。この四年間、一人でいたんだ。……あ、でも、今日からはお母さんと兄さんができたから、寂しくないよ?」

 スバルが悲しそうに聞いてきたから、今の現状を話してできるだけ、明るく。
 振舞えた……はず。

「……本当に? 寂しくないですか?」

 あれ? 失敗したか?
 ギンガが悲しそうに聞いてくるとは……

「今のお前さん。かなり辛そうだぞ? ……まさかとは思うが、母親のこと、ぜんぜん知らなかったのか?」

「……誰も、教えてくれませんでしたから……父さんの事も、何も、知らなかった……」

「……すまん」

 頭をなでてくれたゲンヤさんの手の温度を感じたせいか……
 父さんの顔を、少し、思い出して。
 目頭が熱くなった。
 
「お、お姉ちゃん。泣いちゃだめだよう……」

「……ご、ごめんね、スバル。私、涙腺ちょっと弱いから……泣き虫だね。私……」

「せつなさん……こうすれば、悲しくないですか?」

 と、ぎゅっとつかまってくる、ギンガ。
 同じく、ギューと抱きついてくるスバル。

「……ごめんね。ちょっと泣いちゃうね? ……二人とも、ありがとう……」

 うう。中身二十歳なのに何泣いてるんだ私。
 ええい、しっかりしろ。男だろ。
 体は女の子だけど!

「……まったく、ガキ何だからガキらしく泣いちまえ。無理に大人ぶる必要なんてねえんだから」

「あなた! もうちょっと言い方があるでしょう!?」

「う、そ、そうだな……」

「まったく。……でも、この人の言うことも一理あるから、今は泣いちゃいなさい。すぐ、美味しいご飯用意してあげるからね?」

 ……うう、迷惑かけます。
 本当に、いい人たちだよ、この家族は……


 落ち着いたところで、皆でお食事タイム。
 今日の晩御飯はカレー。
 ……なんだけど……

「ぱくぱくぱくぱくぱく」

「もぐもぐもぐもぐもぐ」

「がつがつがつがつがつ」

 以上、上から、クイントさん、ギンガ、スバル。
 ……話には聞いてたけど、本当によく食うなぁ。

「あ~。こいつらはいつもこんなだから、気にしないほうがいいぞ?」

「あ、いえ。ちょっと圧倒されちゃって……」

 て、言うか、クイントさんも大食いだったのか。
 ……遺伝?

「「お母さんおかわり!!」」

「はいはい。……せつなちゃんもおかわりする?」

「あ、いえ、お構いなく。……まだ入るんだ……」

 私は一杯で充分です。
 ここの一杯、二杯分くらいあるし。
 目の前の三人は三人前くらいあるし……ええい、胃の中にブラックホールでも飼ってんのか!?

「「「ぱくぱくぱくぱくぱく」」」

 ……見てるだけでおなか一杯になりそう。
 ま、カレーは美味しくいただきました。

 ……夜。
 パジャマはクイントさんからワイシャツ借りて羽織ってます。
 下着は……つけてるよ?
 いざって時のために、パラディンに格納している。
 流石にパジャマは入れてなかった。

「……ごめんね? もうちょっとだけ付き合ってね?」

 と、ナカジマ夫妻と夜のお話。
 ワンコ二人は既にお休み。

「……あの子達見て、何か感想あるかしら?」

 ……いや、何を期待されているのかしらん?

「いえ、可愛い娘さんですけど……うん、あの子達、体……弄ってますね?」

 と、言うか、この間のチンクさんに抱きついたときと同じ体温。
 あの年齢で、ちょっと、体温が低い。
 ……チンクさんと同じってことは、やっぱり、彼女たちも同じってこと。
 まあ、知ってたけど。

「やっぱり解っちゃうのかなぁ?」

「あ、いえ、私、……人の体温に敏感ですから」

「体温で解るのか?」

「はい。……後、骨の感触ですか。なんか、他人と違うなって」

 誤魔化す誤魔化す。
 流石に、今の時点で戦闘機人知ってるなんて言えんって。

「そっか。……あの子達ね、ある研究施設から、保護してきた子なの」

 知ってるけど、一応聞く。
 クイントさんが専門で捜査している事件の関連施設で、スバルとギンガを保護。
 よくよく調べてみると、どうも自分の遺伝子データと一致。
 一緒に暮らすことにして、最終的に本当の親子になってしまったそうだ。

「戦闘機人って言ってね? 最初からそういう機械に親和性を持たせた素体で、あの子達はその試作完成型だったみたい。……一応リンカーコアのある、人造魔導師って訳。……ここまで聞いて、感想は?」

「いえ、別に。……私も、一人、知ってますから」

 狂気に犯された母親の作品が、本当の娘になってしまった家族の話を知っている。
 ……手伝ったの私だけど。

「そう。それで、お願いがあるんだけど」

「なんですか?」

「あの子達、自分の体の事知ってるせいか、ちょっと人付き合いが苦手って言うか、友達が少ないみたいなの。……あの子達の、友達になってあげてくれないかな?」

 そんなこと、聞くまでもないですって。

「わかりました。ちょっと年上の、お友達ってことで。……大体、最初からそのつもりですよ?」

「ありがとう。やっぱり、あなたに会わせてよかったわ」

 そんな綺麗な笑顔向けないでください。
 お兄さん中は汚れまくっているんですから。

「じゃあ、次は俺の番だな」

 今まで黙っていたゲンヤさんが口を開く。
 ……なんでしょう?

「さっきお前さんの事をグレアム提督に問い合わせてみたんだが……凄いな、お前さん。あの闇の書を完全封殺したんだって?」

「……なに、それ? せつなちゃんが? ……冗談でも笑えないわよ?」

 ……口が軽いな、あのおっさん。
 できるだけ話して欲しくないんだけど。

「……え? 本当なの?」

「まあ、本当です。……詳しくは、闇の書の前身である夜天の書のバックアップデータを当てて、余計な機能取り除いて、夜天の書として修復しただけなんですけど」

「だけって、凄いことしてる自覚ある? 闇の書ってSランクロストロギアよ?」

 まあ、俺一人でやったわけじゃないし。

「他に、頼りになる魔導師がいましたから。闇の……夜天の書の主ともお友達でしたし」

「……もしかして、この間の、車椅子の子?」

「はい。同じベルカの騎士です」

「……お前さん、実は八歳じゃないだろ?」

 あはははははははは。
 ある意味正解。

「でだ。俺としては、お前さんを管理局にスカウトしたい。どうだ?」

「お断りします」

「……即答かよ」

 そりゃあねえ?
 これまでリンディさんの勧誘振っといて、ゲンヤさんの誘いについてったら、リンディさん泣くし。

「ねえ、せつなちゃん。何で駄目なのか、教えてくれないかしら? ……私も、あなたと一緒に働いてみたいんだけど?」

 ……話すか。
 俺の歪みを。てか、この説明何度目だろ?

「……そうですね。ゲンヤさん。もし、ゲンヤさんの知らないところで、クイントさんが死んだりしたら、どう思います?」

「あ? ……そりゃ、悔しいさ。どうして助けられなかったのかって思うだろうな」

「じゃあ、クイントさん。同じ条件で、ギンガ達が死んだら……」

「考えたくもないわね。……ねえ。それが、どうしたの?」

「……私には、その記憶があるんです。……信じる信じないは、そちらの勝手でいいですけど」

 話す。
 その、無様な男の生涯と、その最後を。
 そして、その記憶を鮮明に思い出した、少女の話を。

「……私は、その記憶がある限り、決めているんです。私の大切な人が、私の知らないところで、無残な死に様を晒さないように。絶対に助けるって。……その為に、管理局は、私の行動を制限する。……だから、お断りします」

 そう締め括った。

「……ふう、随分と、無茶な人生送ってるな。……じゃあ、せつなよ。お前は、これから先、ギンガ達も助けることを視野に入れるつもりだろ?」

「……はい。あの子達が泣くのは、嫌ですから」

「おいガキ。あんまり大人を舐めんなよ?」

 胸倉を掴みかかって来るゲンヤさん。
 ……こういう反応は新鮮だ。

「ちょっと、あなた!?」

「お前は黙ってろ。……お前に頑張ってもらってもな、嬉しくともなんともねえんだよ。ギンガとスバルは俺の娘だ。命をかけるのは俺ら大人の役目なんだよ! 手前みたいなガキが、生言ってんじゃねぇ!」

 ……ガキねぇ?
 それはそうだろう。
 見た目はその通り、ただの子供だ。
 
「ああ、今日はちょっと涙腺緩みすぎだからな……最近平和だったし……いや、平和か? ……適度に死線くぐってる様な……」

「ああん?」

「まあいいや。とにかくな。誰が命賭けるって言ってるよ? 俺はいやだね。命賭けてまで助けるなんて言ってねぇ! 死ぬのはしばらくこりごりなんでな!」

「あ、ああ? そ、そうだったか?」

「俺がやりたいことはな、大切な人を守ることだ。ただそれだけなんだよ! 自分の命を守るのなんか大前提に決まってるだろ!? 自分すら守れない奴が、人を守れるかよ!? それぐらい、俺でもわかってらぁ」

 いい加減苦しくなってきたから、ゲンヤさんの腕を振り払う。
 ……男性モード、セクハラ以外で久々に出したな。

「いいか? 俺は、俺の大切な人と、平穏無事に暮らしたいだけだ。なのはやフェイトやはやてにアリサとすずか、その周りの人たち、こっちだったら、リンディさんにクロノにエイミィさん。そしてギンガとスバル、もちろんあんたたちもまるっと含めて、笑って暮らしたいだけだ。……その人たちに牙を向ける馬鹿どもを、駆逐するのが俺の役目だと思ってるだけだ」

「……それは、かなり大変な仕事だぜ? お前一人で、できるわけねえ」

「かもな。……兄さんの言葉を使えば『世の中、こんなはずじゃなかったことだらけだ』ってね? 俺の手で届かない場合もあるさ」

 だけど、それでも。

「それでも。俺は、大切な人を守る、剣でありたい。……俺の知らない場所で、大切な人が泣かないように、いつでも駆けつけられる、剣でありたい。それを実践する為に、組織の歯車には、俺はなれない」

 酷く、馬鹿な話だ。
 無理、無茶、無謀。愚かこの上ない。
 自分でもわかっている。

「……その想いは、もしかしたらお前を悪とみなすぜ? 社会って奴は、管理局って奴は、お前みたいな異端を嫌う。……それで、お前が捕まったら、どうするつもりだ?」

「……さぁ? まず、捕まるつもりはないし、そんな証拠も残さないつもりだし? ……それでも俺の邪魔するってんなら……」

 簡単なこと。

「潰すさ。社会を、管理局だろうとな」

「……矛盾してるぜ? そのときは、俺がお前の敵になる。クイントもだ。……それでも、お前は剣を振るうのか?」

「さあな。それこそ、そん時にならないとわからねえよ。……それに、大切だけど、そいつら、揃いも揃って将来有望なエースの卵だからな。……下手したら、俺抜かれてるかもしれないし……」

 魔王に死神に夜天に……うう、将来が怖い。

「とにかく、今はまだ、理不尽な運命から、皆を守る為の剣だ。……それだけだ」

「……ガキの屁理屈だな。話にもならん。……クイント、俺はもう寝るぜ」

「あなた! ……もう、あの人ったら……」

 ……初めて、否定されたかもな。
 あんなにはっきり。
 ……恭也さんのときは、警告だけだったし。

「……いいんです。自分も、馬鹿なことを言ってるってわかってますから」

「……ごめんね? あの人も、悪い人じゃないんだけど……」

「わかりますよ。……だからこそ、私が気に入らなかったんだと思いますから」

 ……現実はそんなに甘くない。
 ゲンヤさんは、そう言いたかったんだろうし、私も知っている。
 それに、今のは明らかに、私の我侭だ。
 ……その我侭で、人が迷惑する時だってある。
 ……わかってはいるんだけど……

「でも、もう、あの死に顔だけは、見たくないから……」

「……貴方は……ごめんね……本当に守るべきなのは、貴方だったのに……大人を、恨まないでね……」

 ……そっか。
 本当に守りたかったのは、私自身だったのか。
 ……大人に縋れなくなった少女は、一人剣を持って、大人に突きつけていただけでした。
 大切な人を守る為。
 本当は自分を守る為。
 誰も守ってくれないから。
 自分で守るしかないから。
 ……ただ、それだけの話。





「ごめんなさい!」

 ……さて、翌日。
 ナカジマ家から送ってもらって本部から転送してもらい、本局の転送ポート。
 いきなり謝ってきたのは、私の新しいお母さん。
 ……何事ですか?

「……母さん、昨日の事件で、前線に出て、犯人しばき倒したんだ。『娘とのスキンシップ取れなかったじゃないの~』て。それの始末書作成で、引越し、三日ほどずれ込むって。それの」

「本当にごめんなさい!」

「……謝罪だ。止められなかった僕にも責任がある。……すまんな」

 ……だからってまあ、そんな頭下げなくとも。

「……前線出て、しばき倒したんですか」

「ああ。……瞬殺だった」

「ごめんなさい~!!」

 ……本当に、可愛い人だなぁ。

「お母さん」

「……せ、せつなさん?」

 にこっと笑って。

「始末書、頑張ってくださいね? もう少しぐらい待ちますから」

「……え、ええ! がんばるわ!」

 凄い笑顔で走り去るリンディさん。
 ……あ、誰かにぶつかった。

「……この勢いなら、二日程で終わるだろう。感謝する」

「あはは……単純だねぇ」

「まったくだ」

 ……ため息をつくクロノ。
 ……そうだな、兄さんに聞いておこう。

「兄さん。ちょっといいかな?」

「どうした?」

「うん……嘱託魔導師と、執務官。どっちが自由度高いかな?」

「……なに?」

 これは、自分の決意と、大人の期待の折り合いの結果。

「管理局で働くので、どっちが自由に動けるかなって。……どっち?」

 ……妥協は、してみよう。
 ほら、俺も大人だし。
 私は、子供だから。

 これが、私の、境界線。







[6790] 17.ボーダーオブライン 前編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:d17439a7
Date: 2009/07/10 19:35
 綺麗に何もなくなった部屋を見渡す。
 四年間。ずっとこの部屋にいた。
 ……その大半の記憶はないけど、こうなると、感慨深いものがある。

「せつな。……そろそろ行こうか?」

 クロノが顔を出す。
 ……よし、感傷は終わり。
 新しい環境を受け入れよう。

「はい。……じゃあね」

 部屋に挨拶をして、外に出よう。
 明日からは、この部屋には来ない。
 私は今日、旅立ちます……

 まあ、同じ町内だし。

「あ、せつな! またお隣さんだね?」

 フェイトの家の隣だし。

 リンディさんが買った家って言うかマンションの一室。
 テスタロッサ家の隣の部屋だったりする。
 間取りも隣とほぼ同じ。
 全部で五部屋。リビング、ダイニング、システムキッチン。
 バスもトイレも新品の綺麗な部屋だ。
 ……と言うか、これってマンションじゃなくて億ションだよねぇ?
 ドンだけ金もちなんだハラオウン家。そして、テスタロッサ家も。
 ……私は玄関からちょっと奥の部屋を陣取った。
 クロノはその隣。リンディさんは一番奥の部屋。
 空き部屋二つあるけど、その一つは居候……と、言うか、ほぼ家族の、

「うぅわ! 綺麗な部屋だねぇ~。エイミィさん感激だぁ」

 彼女が住むことになった。
 残り一つに、トランスポーターを設置して、いつでも跳べるようにするらしい。
 まあ、私以外全員管理局員だし。
 
「でも、どんな心境の変化なの? あれだけ管理局に入るの拒否してたのに?」

「……まあ、いろいろ」

 私も、来週には嘱託試験受けて、管理局員になるし。
 まあ、その後、すぐにミッドの訓練校に短期入学。小学校と平行して通うことになるが。
 ……また、なのは達が聞いたら怒るだろうなぁ……
 そんなこんなで、私の引越しは完了した。




 そして、お盆前の八月二週目。
 ついに、待ち望んでいた日がやってきた!
 きっかけはテッサからの電話。……引越ししたことはこちらから伝え、連絡は携帯にかけて貰う様にしたが。
 彼女の誘いは以下の通り。

『メリダ島で海水浴とキャンプでもしませんか? お友達を誘ってもかまいませんよ?』

 それはいいのか軍事部隊!?

『ふふふ。ある程度の機密さえ漏れなければ、個人所有の無人島ってことをアピールする理由で可能なのですよ?』

 ……なるほど。カモフラージュか。
 さすがだ。

 というわけで、まずは家族に。
 
「……お前、余裕だな。嘱託試験今週末だぞ?」

「あら、いいじゃない。海、楽しみだわ。クロノとエイミィも休暇中だし、ぜひ参加するわ」

「地球の海は楽しみだねぇ!」

 ハラオウン家、全員参加。

 次はお隣さんに。

「え? テッサさんの? ……行くよ。楽しみだなぁ」

「わーい! 海だぁ~!」

「楽しみだねぇフェイト。てか、あんたから誘ってくるのは珍しいねぇ?」

「……し、仕事がなければ……せつな? 私がいないからって、フェイトに悪戯したら……わかってるわね?」

 テスタロッサ家は、フェイト、アリシア、アルフが参加。
 プレシアさんお仕事で不参加。近場で、プログラムの仕事をしているらしい。
 後、もう少し信用してくれ。……無理か。

 続いて、電話ではやての家へ。

『ん? ええよ~? ……参加できる人~!? ……うん、あたしとリインとヴィータ、後ザフィーラやな。シグナムとシャマルは教会の依頼で行けへんわ。……? ああ、ちょっと待って、シグナムと代わるな~?』

『……せつなか? 私の代わりに、主を頼む。……それと、お前を信用しているが……主に不埒な真似をしたら……わかっているな?』

 八神家は以上の結果に。
 それと、シグナムさんや? もうそれ信用してないのと同意義だぞ?

 ……次はなのはに電話。

『え? 海? うん! 行く! ちょっと待ってて…………あ、もしもし? 私とユーノ君と、お母さんが参加できるって。……あれ? うん。お兄ちゃんが話しあるって』

『せつな。……なのはに手を出したら斬るからな? 以上だ』

『ちょ、おにいちゃん! ……もう。ごめんね? 何かお兄ちゃん、せつなちゃんを誤解してるよね?』

 高町家は以上の参加。
 ……それは誤解じゃなく、極めて適切な判断だと思う。
 そして高町兄の信用はゼロか……私、そんなにやばいレベル?

 ……次、アリサ。

『……え? そう……よし、行くわ! 場所は? ……テッサさんの無人島? 面白そうね。……あ、後ね、水着姿に興奮して、襲い掛かったら承知しないわよ?』

 バニングス家はアリサが参加。
 と、とうとうアリサにまで警戒されてる……や、それはいつもの事か。

 そして、すずかに。

『あ、うん、大丈夫だよ? ……え? 恭也さんは行かないの? ……はあ、うん。えっと、うちは全員参加だよ。私とお姉ちゃんとノエルとファリン。……うん、お姉ちゃんも行くって。どうして?』

『ん~? だって、せつなちゃんでしょ? 見張ってないとすずか危ないし~?』

『お、お姉ちゃん……えっと、いつもの冗談だと思うから、気にしないでね?』

 月村家は全員参加っと。
 ……危ないのはすずかが? それとも俺が? ……どっちがだ?

 ……後は……よし、聞いてみるだけ聞いてみるか?

『はい、ナカジマ……あ、せつなさん? え? お母さん? うん、いるよ? 代わるね?』

『……はいせつなちゃん。どうしたの? ……え? 管理外世界の海? 遊びに? ……ふむ。グッドタイミングよ。有給貯まってるから、消化するわ。……もちろん。二人とも連れて行くわよ。あ、だんなは仕事あるから無理だけど。……うん、楽しみにしてるわ。じゃあ、その日に、本局に行けばいいのね? わかった、じゃあね~?」

 ナカジマ家はクイントさんとスバル、ギンガが参加と。
 ……まだ性癖がばれてない為、警戒されなかった。……ちょっと寂しいってそれはまずいだろいろいろと。
 流石にドクターにまでは声かけないよ?
 あの人今の時点でもう、広域犯罪者じゃん。
 そんな危ない人連れて行けるか。

 そんなこんなで当日。

 まず朝一で本局に跳んでナカジマ家を迎える。

「「せつなさん(お姉ちゃん)おはようございます!」」

「せつなちゃんおはよう。時間ぴったりね?」

 バカンスモードのお嬢様方をエスコートして自宅転送ポートへ。
 まずはお母さんに紹介。

「あらあら。向こうのお友達って、本部の陸士さんだったの?」

「は、ハラオウン提督!? は、はじめまして! クイント・ナカジマ準陸尉です!」

「ああ、敬礼はいいわよ、クイントさん。今日はお休みだからね?」

「……えっと、何これ、せつなちゃん流の虐め?」

「そんなつもりはまったく。て、言うか、リンディさん今日はホントに子煩悩ママさんだから、気が合うと思うよ?」

「……それは類友って意味かしら?」

 否定はしない。
 そして頭抱えるな兄さん。

「……まさかと思うが、お前が管理局入り決めたの、彼女が関係してるとか?」

「正確には彼女のだんなさん。……ちょっと、いろいろあってね?」

 さらにテスタロッサ家と合流。

「よし、スバル、ギンガ。フェイトお姉ちゃんにご挨拶」

「「はじめまして!」」

「……せつな、誘拐は犯罪だよ? いくら可愛いからって、私じゃ駄目なの?」

「いや、母親後ろいるから」

「そんな! 母親まで手篭めにするなんて!?」

「ちょ、誰からそんな知識手に入れたの!?」

「え? 母さん」

「プレシアさーーーーーーん!!」

 恩を仇で返しおってあの人は!?
 
 そして次の合流ポイントで高町、月村、八神、バニングス家と合流。
 現在、海鳴湾船着場。

「……ねえ、せつな? あの馬鹿みたいにでかい潜水艦っぽいの……何?」

「……なんだろうねぇ?」

 アリサの指差した先に、明らかに軍用の潜水艦が……
 いや、浮上してていいのか?
 あれ、先日のメリダ島のドッグで見たぞ?
 そしてそこからハッチを開けて出てくるなソースケさん!

「またせたな。案内を仰せつかった。案内する」

「……千鳥印の不思議ハリセン!!」

 パァーン!!

 本家は不思議時空から呼び出すが、俺はパラディンの格納領域から取り出して、そのザンバラ頭に振り下ろした。

「……どこから出した? と、言うか、それ千鳥の……」

「やかましい! 何で潜水艦だよ!? しかも軍用艦だなあれ!?」

「ああ、ミスリルの最新鋭原潜『トゥアハー・デ・ダナン』だ」

 スパァーン!!

 何怖いこと言ってんのこの人!

「原潜!? 原子力潜水艦!? そんなやばいの持ち出すなよ!」

「……た、大佐の指示だが……」

「テッサ中にいるの?」

「……か、艦長だからな……」

「……よし、案内頼む……あのボケ娘、折檻したる」

 ソースケさんに案内して(させて)、艦の中へ。
 後、皆さん本当にすみません。この展開だけは予想できんかった。

「潜水艦って初めて入ったよ。広いんだね」

「テッサさんて、軍人さんだったんだ~」

「ふぇ~? ごっついなぁ~」

 ……おまいら順応早いね。
 大人組は頭抱えております。

「せ、せつなさんの交友関係って……」

「こ、これが管理外の……て、これ、もしかして質量兵器じゃ?」

「こっちの世界では合法ですから……しかし、まさか旅行で使うことになるとは……」

「……操舵席見ちゃ駄目かな?」

 とりあえず、皆を客室に案内してもらって、待ってもらい、私はボケ娘のところへ。

「あ、せつなさん。お久しぶりです」

 華やかに笑うその顔に、ハリセン一閃。

 パァーン!!

「「「「艦長!?」」」」

 いい音に振り向くオペレーター&副長。

「うむ、なかなかいい振りだ」

 何感心してやがるカリーニンさん。

「……い、痛いです……カナメさんでも私に手を上げなかったのに」

「カナメさんでもこんな事されたらはたくわ。原潜で出迎えするなよ!? 何考えてやがる!?」

「ちょ、丁度航路だったので、ついでに拾えばいいかなぁ~と……だ、駄目でしたか?」

「駄目でしょ普通に! てかカリーニンさんもいるなら止める!」

 常識人だと思ってたのに!
 だが彼は顎髭を撫でながら、残念そうに言った。

「……やはり駄目だったか」

「うう、駄目でしたぁ。……あ、カリーニンさんの案だったんですが」

「よーし、そこ動くな少佐。カナメさん直伝のハリセンの餌食にしてくれる」

「……ふ。仕留められるものならな」

 逃げるカリーニンさん。……ベルカの騎士舐めるな。

【sonic move】

 高速移動魔法で回り込み、その額にハリセンを叩き込む。

 スパパーーン!!

「……我に、断てぬ物なし」

「……見事」

 自分でやっといてあれだが、何だこのコント。

「……流石せつなさんです。やはりうちにぜひとも入隊を!」

 スパコーン!

「「「「ああ、また!?」」」」

 いやあ、はたきがいがあるなぁ、このボケ娘。

「い、痛いの……」

「武士の情けだ。『美少女艦長全身微息の刑』にされないだけマシだと思え」

「ど、どんな刑ですか、それは……」

「……全身くまなく衆人環視の中で、舐めまわす」

「……せ、セクハラです……」

 セクハラ魔王舐めんな。



「はぁ!?」

「どうしたのはやてちゃん?」

「今誰かにあたしのキャラ取られた様な気がする!?」

「……きゃら?」



 一時間後、メリダ島の湾岸部に接舷。
 皆を下ろしてもらい、ついでにキャンプ用品も下ろす。
 ……キャンプ用品が全部軍用だったのはもう目を瞑ることにした。
 艦をドッグに入れるため、テッサとは一度別れて、キャンプ予定地へ。
 ……そこには、先客の三人。

「お。来たねせつな。皆さんも久しぶり~」

「せつなちゃん、お久しぶり~」

「おお! はじめましての美人さんがいるじゃないか! せつなちゃんでかした!」

 マオねえにカナメさんにクルツさん。
 そしてクルツさんに残念なお知らせ。

「その人、人妻だから。後、格闘戦の達人だから、手出すと潰されるよ?」

「……そ、そうかよ……」

 クルツさん南無。
 まずは皆でテント設営。
 ……何故か手馴れているノエルさんが凄く謎。
 
「メイドですから」

 いや、これ軍用……

「メイドですから」

 ……メイドすげぇ。

 設営が終わったらひとまずお昼。
 カナメさんたちがカレーを用意してくれたらしい。
 そして、すぐに別の鍋で次の準備を開始する俺。

「……え? ひょっとして、足りない?」

「カナメさん、ご飯後六合ほど炊いて。……三人ほど、馬鹿食いする人いるから」

 視線の先にはキングサイズ山盛りに盛るナカジマ家の姿。
 あ、リンディさんひいた。

「……すぐに準備するわ」

「ごめん。ちょっと失念してた」

「こりゃ、夜は豚の丸焼きかね?」

 メリダ島の名産らしい。何故名産?
 食事が終われば海水浴。その頃にはテッサも参加。

「お待たせしました~」

「お昼は?」

「食べましたから。お気遣いなく」

 ……ところで忍さんが先ほどからそわそわしてる。
 何事?

「え、えっと、テッサ? ちょっとお願いがあるんだけど……」

「はい? なんですか?」

「さっきの原潜、見学していい?」

「……えっと、後でよかったら」

「よっし! ふふふふふふ! 血が騒ぐわ~~!!」

 ……もしかして、月村の血ってマッドの血族?

「あれはお姉ちゃんだけだから……」

 そうなんだ。……ホントに?


 そして、男子諸君必見の水着お披露目タイム!
 ……え? お前なら着替えシーンから見れるだろって?
 それがだな。

「……えっと、何であたしらだけ別室なんやろうな?」

「……私はともかく、はやてはほら……揉むから」

「うううううう。それはあんなにええ乳があったら揉むやん。せっちゃんやったらわかるやろ?」

「や、私は恥ずかしがる表情が好きだから、胸じゃなくても別に」

「この変態ーーーー!!」

 心外な。てか、お前に言われたくない。
 なお、私は普通にワンピースの白色。はやてはグリーンセパレート。

「うううう。せっちゃんはペッタンコやから揉みがいがない~」

「じゃあ、揉むなよ。……十年後も似たようなもんなんだってさ……」

「せっちゃんが不憫や……」

 揉めば大きくなるなんて俗説なんだよ?
 ……まあ、少しは効果あるかもだけど。
 さて、ビーチに出ると、まずはお子様組。
 凹凸がないのと手入れが要らないので着替えるの早いな。

「でも、フェイトちゃんのあれは反則やとおもうんや」

 水着までも黒なのはあれか? やはりプレシアママの教育の賜物?
 セパレートだけど膨らみかけてるのがわかります。

「ふ、二人とも、目がエッチだよ?」

 ふふふふふ。羞恥に真っ赤になるフェイトは本当に可愛い。

「こらこらこら! フェイトにセクハラしない!」

 こちらはピンクのワンピース。
 ……何気にアリサも海外産。膨らみだしてる。羨ましい。

「こ、この足さえ自由に動けば~……」

 松葉杖じゃあねぇ?

「えへへ。せつなちゃん、わたしはどうかな?」

 なのははピンクのスポーツタイプ。背中開いてて可愛い。
 実にグッド。なお、まだまだペッタンコ。

「くう、あれで膨らんでたら背中から手ぇ突っ込んで後ろから……」

 それは完全に親父の発想だ。だが同感。
 
「せつなちゃんもはやてちゃんも鑑賞モードだね。楽しい?」

 すずかは藍色のワンピース。スカート状のひらひらが可愛らしい。
 
「すずかちゃんは何着ても清楚に見えるなぁ。さすが純正お嬢様や」

 同意する。さすが俺の愛人。

「「「せつなおねえちゃ~ん!!」」」

 チビども参戦。フェイトとお揃いの黒のワンピのアリシア。
 青色セパレートのギンガ、スバル。
 てか、子供はセパとワンピばかりか。例外がなのは。
 ……ありゃ? ヴィータどこ行った?

「ほんまや。どこ行ったんやろ?」

 ……あ、沖のほうに。
 ……手に持ってんの、ひょっとしてグラーフアイゼン?
 じゃなくてあれは……銛?

「獲ったどーーーーーーーー!!」

 浜口!?
 てか、何してやがるヴィータさん!?

「今、家で黄金伝説大ブレイク中やから。影響されたんやね」

 ……なんとまあ。
 やたらでかい魚ぶっ刺して、こっちに来るのは海の女ヴィータ。
 赤いスポーティタイプの水着が何故かかっこよく見える。

「はやて、これ食えるのか?」

 知らずに獲ったのかよ。てかクロマグロじゃないか!?
 何で沖の方で泳いでんのさ? こいつ。

「でかしたヴィータ! せっちゃん包丁持って来て!」

 ここで調理する気かよ!?
 せめて夜まで待てと。

「……【ブレイブハート】スタンバイ。【冷凍保存】」【ice box】

 古代ベルカの生活の知恵魔法。関係者多いから今回だけ許せ。

「うぅわ! 凄いの獲って来たね、ヴィータちゃん!?」

 上から声。ヤングチーム第一弾はエイミィさん。
 ……むぅ。美乳だ。
 クリーム色のビキニがまぶしい。誰を誘惑する気ですか?

「……と、言うか、魔法で保存するとか……いや、まあ、いいか」

「いいのか兄さん?」

「駄目とはもう言えないだろう。……今日は見逃す」

「ありがたき幸せ……と言うか、何で目を逸らしてるの?」

 必至にエイミィさんを視界に入れないようにするクロノ兄さん。
 ……何気に私も入れようとしない。

「……いや、この世界の海は綺麗だな」

「兄さん……私はいいから、せめてエイミィさんは褒めよう。綺麗だの一言でいいから」

「そ、そんなこと言えるか! ……く、目で訴えても無駄だからな!」

 ち、お堅いやつめ。
 
「駄目よせつなさん。クロノの堅物は筋金入りだから。……まったく、誰に似たのだか」

 来ましたリンディ母さん……相変わらず、経産婦とは思えないスタイル。
 あれだ、エロかっこいい。空色のビキニは鼻血ものです。
 そして、「ナイスバストや!」俺の台詞取るなはやて! 地の文に割り込むな!

「……ま、負けた……」

 何が? と、声の主を探すとクイントさん。
 いえいえ。貴方も充分魅力的。
 娘たちとお揃いの青色セパレートは本気でエロイ。
 くそ~。あの胸があの親父の所有物なんだぜ、羨ましい。

「あの親父って、あの時の渋いおっちゃんか?」

「ゼストさんとは別の人だ。う~ん、渋いってより、とっつあんタイプ」

 ゲンヤさんはまたゼストさんと違った渋さがあるけどね。
 凄い大人の人だから。

「はやて、お待たせしました」

「お、待ってたでリイン。……どおやせっちゃん? あたしプロデュースの悩殺リインは!」

「ナイスだはやてよくやった!」

 証拠にクロノが全力で目を逸らした。
 黒色のビキニをかっこよく着こなし、それを包み込みきれずに……よ、横乳が凄く犯罪です。
 
「……そ、その、あまりじろじろ見ないでくれ」

 この恥じらいがさらに素敵だ。
 ん? あれ?

「なあ、はやて? ちょっとリインフォース胸大きくなってないか?」

「設定ちょっと弄った!」

 胸張っていうな! 偽乳か!?

「え、ええやん! 大きいことはええ事やで!?」

「同意するが設定弄ってまでするな! リインフォースも抗議くらいする!」

「あ、いや、はやてが満足するなら……」

 く、手遅れだったか……

「いいか、ちびっ子共。私もそうだけど、このお姉ちゃんみたいならないようにね? 人の道は外れちゃ駄目ですよ?」

「「「はーい!!」」」

「いや、あんたが言うな」

 だから、私もって言ってるじゃないかアリサさん。

「あらあら。皆元気ねぇ」

 海鳴組のトリを勤めるのは高町母、桃子さん。月村姉、忍さん。
 桃子さんはやはりシンプル。花柄ビキニに、腰に同柄のパレオ。麦藁帽子で日差しもシャットアウト。
 忍さんは藍色ビキニにシャツを羽織り、おへそで裾を縛っている。下はジーンズのホットパンツ。
 二人とも南国仕様で登場して、その後ろに、荷物持ちのユーノ。……あ、珍しく人間型。

「ユーノ? 今日は人間なんだな?」

「……しばらく省エネモード禁止喰らって……」

 何があったんだ?

「……フェレットのときに美由希さんに捕まって、そのまま強制的にお風呂に……それがなのはにばれて……」

「自業自得だ、この淫……と、思ったが、まあ、乙」

「うん、ありがとう……」

 美由希さん、ユーノが男の子でも平気で風呂入ろうとするからな……いや、同じ男としてちょっと同情する。
 俺も男の姿だったら、女性と風呂なんか入れん。

 ……あ、そう言えば。

「フェイト、はやて。アルフとザフィーラはどうした?」

「「……二人とも森の方に行ったよ」で?」

 ……ああ、狼の血が騒いだか。
 今日は豚肉パーティかなぁ……
 て、これもデートになるのか?

「飼い主としては二人の交際はオッケーなのか?」

「……まあ、幸せなら」

「いや、アルフさんは多分あまりその気やないと思うで。あれは完全に飯に釣られとるだけや」

「そ、そうかなぁ? アルフ、最近ザフィーラの事ばかり話してるけど」

「あれま。本気やったんか? ……それなら、認めるしかないなぁ」

 飼い主公認カップル誕生。
 おめでとう、ザフィーラ。頑張った甲斐があったな!
 
「……こ、ここはパラダイスか!?」

「落ち着けクルツ。ほとんどが幼子だろう」

 さて、ミスリルトップバッターはウルズ6、7。
 後クルツさんに本当に残念なお知らせ。

「さらに大人の女性は全員お手つきだ。残念でした」

「……なに? ここは地獄か?」

 手を出したくても出せない無間のジレンマ地獄。
 ロリの称号を手に入れるか、はたまた、人妻を寝取れるか……!?

「まあ、手を出したら、せつなちゃんが裏に行って折檻開始でしょ?」

「問答無用ですね。弾幕地獄に付き合ってもら……おおう……」

 姐さん、グッド、いやグゥレイトゥ!
 リインフォースと同じ黒ビキニなのだが、筋肉の付き具合でものごっつかっこいい。
 そして、腰から伸びる太もものラインが涎もの。
 
「な、なんや!? あたしのおっぱいカウンターが振り切れとるやとぉ!?」

 自他共に認めるおっぱい魔神、はやてですら恐れ戦くその凶悪なバスト。
 歩くたびにぷるんぷるん揺れています。
 マオねえ、あんた輝いてるよ……

「……こっちじゃあ、マオさんには勝てないわね」

「ま、まあ、メリッサはかっこいいですから……」

 と、ミスリル組のラスト、カナメさんとテッサ。
 カナメさんはスポーティなセパレート水着。何気にこっちも凄い胸。本気で国産か?
 テッサは……緑を基本としたワンピース。胸元のリボンがキュート。
 彼女の肩に手を置き、

「同士!」

「失礼です!?」

 ようこそ『成長してもペッタンコ同盟』へ!

「ふふふふふ。仲良くしようよテッサ。海鳴組の女子は全員羨ましいぐらいに大きくなるんだよ? 理不尽だよねぇ?」

「わ、私だってこれから大きくなるんです! まだ未来の希望があるんです!」

 そんな希望は一刀両断。あんた十七歳だろ?
 その年齢でその胸じゃぁ……どうでしょう? おっぱい評論家の八神さん。

「う~ん。微乳がせいぜいやね」

「貧乳じゃないだけマシと。良かったね、私より上だ」

「うううううう。やっぱりせつなさんが意地悪です」

 当然です。その落ち込み顔が見たかった。
 やっぱ美少女虐めは楽しいなぁ。

「本物の変態さんやね。はーいちびっ子の皆~? こんなお姉さんみたいになったらあかんで~?」

「はーい!」

「「……?」」

「あれ? ギンガちゃん、スバルちゃん? 返事はどしたん?」

「え? 私、せつなさん好きですよ?」

「せつなお姉ちゃん好き~!!」

「な、なにぃ!? せっちゃん!? この子らに何したん!?」

「むしろ何もしてないからじゃないか?」

 ふふふ。この子らは大事に育てるのさ。
 俺好みのストライカーに!
 ……またなのはの役とっちまうなぁ~?

「む。何かいやな気配を感じたの。……せつなちゃん。ちょっとお話しようか?」

「勘がいいじゃないか、なのは。……だが断わる! さらば!」

 沖に走り去る私!

「フェイトちゃん、すずかちゃん!」

「まかせて!」「いくよ!」

 追ってくるのは運動神経人外チーム!
 ……追いつかれる!

「だが! 私を舐めるなぁ!」

 その場で振り返り、二人に突撃、その間をすり抜け……

「ひぃ!?」「きゃ!?」

 二人を戦闘不能にする。具体的に言うと、撫でた。

「ふ。敏感なのも困りものだねぇ?」

「て、どこ撫でたの今!?」

 ……そりゃあ、ねぇ?

「……胸と尻」

「この外道ぅぅぅぅぅ!!」

 一瞬ですが堪能させてもらいました。

「あーーー!! せっちゃんずっこい! あたしにも分けてぇな!」

「はやてはだまらっしゃい! ええい、私が相手よ!」

 アリサが持ち出したのは、海のお供ビーチボール。メイドイン月村。

「喰らいなさい! バーニングサーブ!!」

 それ卓球のときにもやりましたよね!?
 しかもただ叩きつけただけだし!

「甘い! ローリングレシーブ!」

 ビーチバレーに何の意味があるのか、転がりながらレシーブ。

「なのは! いったわよ!」

「まかせるの! ディバイン!」

 なにぃ!? なのはのアタックだとぉ!?

「アタァーーーーーーー……にゃぁ!?」

 スカッ!

 ……綺麗にからぶって、顔面から落ちるなのは。
 転がっていくボール、訪れる静寂……

「なのは」

「う、せ、せつなちゃん……」

 うなだれるなのはに、笑顔を向けて。

「グッジョブ」

「せつなちゃんの意地悪ぅぅぅぅぅ!!」

 爆笑が生まれました。そして私は萌えた。   

 その後は皆でビーチバレーしたり、ちびっ子共に砂山の城を作ってやったり、エイミィさんに声かけようとしたクルツさんをクロノと一緒に首だけ出して埋めたり。
 ……後、ノエルさんがスイカ持ってきてくれてスイカ割り。
 MVPはこの人。

「せぇい!」

 手刀で真っ二つとか何事だクイントさん。
 巻き起こる拍手、震え上がる男性陣。
 で、ワーストはもちろんこの人。

「ふぅ!」

 パァン!

 立ち上る硝煙。真っ赤にはじけたスイカの残骸。
 唖然とする海鳴組。真っ青になるミッド組。

「……よし」

「じゃない!!」

 振り下ろされるカナメさんのハリセン。
 吹っ飛ばされるソースケさん。

「あんたはまだスイカ割りわかってなかったの!? そのネタ二度目じゃない! ライフル持ち出すな!」

「な、なかなか痛いぞ千鳥」

「どやかましい!」

 ……二度目って、前にもやったのかよ。
 確かに割ったけど食えないよこれ。
 クルツさんの隣に埋めました。

「お、お仲間だな、ソースケ」

「……不覚……」

 そしてその真ん中にスイカを置いて。

「さあて、チビども。思う存分割ってあげなさい!」

「「「わーーー!!」」」

 手にスポーツちゃんばら用ゴム刀もたせて、アリシア、ギンガ、スバルを突撃させる。

「いて! いってて! おまいら! スイカは隣だ隣!」

「むぅ! ぐ! ご、拷問かこれは……!」

 スイカが割れるまで続けさせました。


 夕方。
 ビーチを引き上げ、キャンプ地へ。

「お、戻ってきたね。お疲れさ~ん」

「……食事の準備はしておいた。存分に食べてくれ」

 ……ざ、ザフィーラが料理人になりかかってる……!?

「はやて……どこまで仕込んだんだ!?」

「いやぁ……ちょっと暇やったから、『食王』に出てた様な訓練を施したらあんな感じに……」

 五稜郭!? 伝説の再建人!?

「次は『ザ・シェフ』あたりを攻めよか?」

 いい加減にしなさい。


 なお、ザフィーラの料理は野趣あふれる『野豚の丸焼き香草風味』、『豚串・各部位の炭焼き』と見事に焼き物ばかりでした。
 スープとご飯はノエルさんとファリンさんで用意してくれた。
 ……むう、普通に美味いし。

「「「おかわり!!」」」

 そしてナカジマ家容赦ねぇ。
 人の3倍は食ってます。
 ……あれで太らねぇんだから恐ろしい。

「……? どうした、アリシア?」

「あれくらい食べないと、私もママみたいになれない?」

 ……プレシアさんもスタイルいいからな~。

「いや、あれは特殊。……アリシアは、自分が食べられるだけ食べればいいよ?」

「うん!」

 普通にしてても美人になるのは確定してるからね、テスタロッサの遺伝子は。
 ……あ、同じテスタロッサでも、

「……な、何でこっち見るんですか?」

「いや別に?」

 こっちのテスタロッサは絶望的だが。

「また意地悪なこと考えてます~」

「べ~つ~に~?」

「ううううう」

 テッサは本当に可愛いなぁ。

「せつな。少しいいか?」

 あれ? 兄さん何事?

「ああ……ちょっとな」

 ? とにかくついていくことに。
 キャンプ地から離れて……

「ここならいいか。……さて、せつな。……彼らは何者だ?」

 彼ら……って、ああ。

「ソースケさんたち?」

「潜水艦といい、ライフルといい、このキャンプ用品といい……真っ当な人間じゃないだろう」

 隠す気ゼロですからね。
 最初の俺らの隠密具合が馬鹿みたい。

「向こうから見ても、私たちが真っ当な人間に見られてないのは、分かっての発言だよね?」

「……まあ、それはそうだが」

「彼らは、傭兵部隊。戦争屋だよ。……主に、テロ組織を相手取って戦争している、カウンターテロ特別部隊『ミスリル』。……この島は、その部隊のアジトの一つだよ」

「……じゃあ、お前は、その傭兵たちと……戦った事があるんだな? ……魔法を使って!」

 ……えっと?

「どうしてそこまで跳ぶの? ただのお友達じゃ駄目?」

「ただのお友達が、あそこまで無節操に手の内見せるか? ……お前は、この世界で魔法を使い……人を殺した。違うか?」

「証拠は? ……勘とか言ったら、怒るよ?」

「ああ、勘だ。お前は、人殺しを経験した。……その気配を、僕は知ってる。お前から、時々その気配が感じられる……それが、証拠だ!」

 ……鋭い。
 流石、アースラの切り札。敏腕執務官だけの事はある。

「じゃあ、もしそうだとして、私をどうするの? 捕まえる?」

「……僕は、お前がどんな暮らしをしていたのか、よく知らない。情状酌量の余地があるのなら、社会奉仕で勘弁してやる」

 ……でも、甘いよ、兄さん。

「そこまでだ」

 クロノの後ろに現れる影。……ソースケさんが、クロノの頭に拳銃を突きつける。

「……お前たちの言う質量兵器だ。武装を捨ててもらおう」

「……問答無用か……仕方ないな……」

 手に持ったデバイスカードを地面に捨てる。
 そしてボディーチェックはちゃんとやるソースケさん。

「せつなは我々の友人で、大切な仲間だ。……彼女を貴様らの法で縛らせるわけにはいかない」

「……じゃあやはり……」

「うん。兄さんの予想通り。私は魔法で人を殺した。……その必要があったから」

「……なぜだ!? 何故、非殺傷を使わなかった!」

 ……まあ、簡単な話。

「あのね? 戦争って怖いんだよ? こっちが非殺傷を貫いて、手加減して……もし、気絶させられなかったら、後ろから撃たれるんだ。誰だって死ぬのはいやだからね。殺される前に殺すのは、当然なんだ。……戦場では、容赦が命取りになるんだよ」

「……だが! お前が使う魔法は、確実にこの世界じゃ強すぎる! わかっているだろう!」

「うん。……相手が、魔法を使わなければ」

 オーバーキルは分かってる。
 けれど、向こうが同じものを使うのなら……

「……おい。この世界は管理外で……魔法は……ないはずだろう!?」

 その言葉に、首を振る。

「あるんだよ。誰が持ち込んだかは知らないし、どうしてあるのかも知らない。……でも、国家間で確実に注目の的になっている。リンカーコア、デバイス……そして、それらを基に作られた、非魔導師でも使える、魔導兵装『アームスレイブ』。……テッサはね? それらを排除する為に、私に協力してくれてる。この世界に、魔法は要らないから」

「……その為に、お前が手を汚すのか!? こいつらに任せれば……」

「そうすれば、『アームスレイブ』のぶつかり合いになる。知ってる? 技術の進歩は、戦争による技術向上によって発展するんだよ? より相手を多く殺すため、より相手を恐怖で竦ませるため、より相手の力を防ぐ為……研鑽を重ねて、この世界の魔法は、手がつけられなくなる。……そうなったら、ミッド古代史のベルカ戦争が、この地球上で行われるんだ。……私は、そんな未来要らない」

 その為に。

「この世界の魔法を一掃する為にも、強力な力を見せ付ける必要がある。……この間は、その第一撃。……あの時は、私だけじゃなく、私の友達にも、手を出そうとしたから。お仕置き」

「……誘拐、されかかったのか?」

「うん。私とアリサがね? 私はソースケさんたちに助けてもらって、アリサはシグナムたちが間に合った。……私は、ソースケさんに付き合って、その犯人の要塞に乗り込んで、破壊を手伝った。……この世界で破壊力のあるミサイルを防ぐ魔力障壁を破壊する必要があったから」

「ミサイルを……防ぐ魔力障壁!? 馬鹿な! そんなデバイスがあるのか!?」

 あ、やっぱりミッド人からしても驚きなんだ。

「本当は、魔力障壁発生装置。私たちのデバイスより大きくて、持ち運びなんか無理な物。……使用者は、実験体になった、リンカーコア所持者」

「……実験体……だと?」

「うん。……リンカーコアはこの世界では未知の機関だから、たとえ人に宿る機関でも、実験が必要。……その装置の使用者は……もう、脳髄だけになってた。……その姿で……生かされてた」

 そんな姿で生きているといった。
 あの科学者は、そう言った。
 あれに比べれば、スカリエッティはまだまだ優しいほうだ。

「……そんな……」

「ねえ、兄さん。人って怖いね? 自分の欲望の為に、他人を平気で犠牲にできる。……その牙を、へし折った私は……やっぱり、悪なのかな……」

「…………」

 もう、何も答えないクロノ。
 しばらく俯いていたが、
 
「……僕も、そういう事件は、何度か見てきた」

 口を開く。
 執務官だから、それくらいはあるだろう。

「たくさんの人を助けた。たくさんの人を……助けられなかった」

「……うん」

「でも、その犯人は皆、魔導師だった」

「……うん」

「……この世界に、魔導師はいないんだろう? その科学者は……ただの人間、非魔導師なんだろう!?」

「……うん」

「どうしてそんな非道ができる!? どうしてそこまで外道を行える!?」

「それが、人の業だからだ。……人の、夢の形の一つだからだ」

 ソースケさんが代弁する。
 私の思いを、人の業を。

「そんな夢、認めない! 認められない!」

「なら、貴様はその力を捨てられるか? その魔法を捨てられるか?」

「……」

「捨てられないだろう。それは、この世界の人間も同じだ。……新しい、力を、捨てたがる人間はいない」

「……この世界は、管理局法に違反する。僕は実態を調査して、管理できるように働きかける。それなら、せつなが無理する必要は」

「……なら、ここで死ね」

 トリガーに指をかける……させない!

【sonic move】

 発砲音。……私の腕の中には、クロノ。
 良かった、間に合った。

「……せつな。何故邪魔をする?」

「するよ。せっかくできた、新しい家族だもん。……殺させはしないよ」

「……お前の行動は矛盾する。こいつのやろうとすることは、戦争を肥大化するだけだといったのは、お前だろう?」

 ……それ、テッサにしか喋ってないぞ?
 テッサ、話しやがったな?

「どういうことだ?」

「兄さん。兄さんが言ったことをすれば、この世界の人たちは、確実に反抗する。……その時に、どれだけ被害が出ると思うの? この世界にも、管理局にも。……この世界は、いまだ質量兵器は合法だし、核兵器だって廃絶されていないんだよ? ……そうなったら、兄さんは責任背負えるの? この世界を戦争に巻き込んだ責任を、背負いきれる? ……私は無理だよ。撃たれた銃弾が、隣の友達に当たるような世界になった責任、背負えないよ?」

「……それは……」

「だから、私は、私とテッサたちは、この世界の魔法を根絶する。せめて、その技術が、広がらないように食い止める。……お願い兄さん。この世界に干渉しないで。私は私の世界が、炎に焼かれるのはいやなの……」

 それは誰しも思う願い。
 誰だって、戦争は嫌だ。
 殺されるのは嫌だ。殺すのも嫌だ。
 そしてその原因を、身内から出すのはもっと嫌だ。

「……僕は……」

「クロノ。そこまで」

 ……私たちの母親が、その場に姿を現した。

「……母さん」

「……ああ、もう。せつなさんは無理ばっかりしてるわね。……ソースケ君? うちの娘に悪い遊び教えちゃ駄目じゃない」

「……娘と呼ぶつもりなら、もう少し母親らしいことしたらどうだ? ……せつなには悪いが、彼女の生活を調べさせてもらったが……とても、精神障害者に対する扱いではなかった。……飼い殺しもいいとこだ」

「……そうね。それは反省するわ。……せつなさん大人っぽいから、子供だって事実、忘れちゃうのよね」

 あくまであっけらかんと、でも真面目に、私の目を見据える。

「せつなさん? ……せつなさんの魔法は、人殺しの道具?」

「いえ。大切な人を守る、剣です」

 それだけは、譲れない事実。

「……そうね。……せつなさん。こっちきなさい」

 ……叩かれる……そう思って近づいた。
 そしたら……抱きつかれた。

「……全部、大人が悪いのよね。貴方を守る人が、誰もいなかったから。……ごめんなさい」

 ……クイントさんと、同じこと言ってる。

「そうよ? クイントさんに説教されちゃった。『あんないい子を放置して、提督なんて何やってるんですかー!』てね? ……貴方が今までやったこと全て、私が責任持たなくちゃいけないのよね……」

「そ、それは、ちがいます! 私も、私が奪った命は……私が背負わないと……」

「話の、実験体にされた子?」

 ……どこから聞いていたんだろう?

「……あの子は、エレンは、大人のエゴに振り回されて……あんな姿になっても、それが非道なこととも知らず……あいつに命令されて、簡易デバイスの電子音みたいに、それなのに、生きてるって……だから、あの子の命は、私が……」

「……そうね。じゃあその子の命は、貴方が背負いなさい。それ以外の責任は、全部私が背負ってあげるわ」

「お、かあさん?」

「……クロノ執務官? せつなを逮捕するというなら、まず私を逮捕しなさい。……この子に罪はないわ」

「か、母さんそんな無茶な……」

 本当に無茶苦茶だ。
 理論を全部すっ飛ばしてる。

「無茶じゃないわよ。……娘を助けるのは、母親の仕事なんだから」

 ……なんて人だ。
 なんて、強い……

「お母さん……」

「安心して? 貴方が願うとおりに、お母さんが守ってあげるわ。……母親って、この世で一番強いのよ?」

 うん。知ってる。
 世界最強の母親候補の卵と友達だから。
 ……今は、甘えることにしよう。

「……この世界の魔法はどうする気ですか?」

「ふふん。当然、なんとかするわ。……ソースケ君。後でテッサさんとお話させてもらえる?」

「……大佐に連絡します」

「ありがと。私も向こうでは少将相当官だからそれなりの対応お願いね?」

「!? 失礼しました! 自分は『ミスリル』所属、太平洋戦隊特務隊の、相良宗介軍曹であります!」

「時空管理局時空航行艦『アースラ』艦長、リンディ・ハラオウン提督よ。じゃあ、お願いね?」

「は!」

 ……いや、本当に凄いわ。
 ぜんぜん動じない。
 もう、圧倒としか言いようがない。

「……心配しなくても、上手くやるから。ね?」

「ありがとう、ございます……」

 お手上げ。降参。
 この人には勝てません。
 ……そして、自分の無力を感じるとともに、心強い母を持ったことに感謝した。





[6790] 17.ボーダーオブライン 中編(微グロ表現あり・選択肢あり)
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/03/28 22:42

 <はやて>

 食事が終わって、皆で花火して、そのときから気付いとったんやけど。

「せっちゃん? 何か目ぇ赤いで?」

「え!? あ、ほら、海の塩にやられてね?」

 ……相変わらず、せっちゃん嘘つきや。あれは、盛大に泣いた後や。
 最近ずっと思ってたことがある。
 なのはちゃんもフェイトちゃんも、アリサちゃんやすずかちゃんも気付いとる。
 せっちゃん。また無理し始めよる。

「……うん。せつな。無理してる。前のときと同じ顔してる」

「また、何か問題起きたのかなぁ……」

「前のときはあたしらが問題やったからな。けど、今回はあたしらに何も話してくれへん」

「異常事態ねこれは。……問い詰める?」

「だめだよ。せつなちゃん、言わないときはとことん言わないから……」

 ……しゃあない。ここは、可愛い妹分の為に一肌脱ごう。

「古代ベルカの魔法の一つにな? 人の夢に入る魔法があんねん。定員は術者含めて五名。……これで、せっちゃんの夢を見て、何があったか探ったる」

「ちょ、それって……いいの?」

「ほんまはあかんし、あたしも使いとおない。……せやけど、せっちゃん何もゆうてくれへんから。……入る人は手ぇ上げて? あたしは術者やから当然入るで?」

 ……全員手を上げた。
 皆、せっちゃんが心配なんや。
 決行は深夜。
 皆が寝静まった頃に、あたしたちだけ起きて、術式を開始する。
 もちろん、リインにサポートしてもらっとる。

「……夢の雲よ、彼の者を包み、我らに、その心を映せ」

 もちろん、パラディンには承諾済み。

【……マスターの心を、見てあげてください】

 パートナーデバイスとして褒められた行為ちゃうけど、パラディンにまで心配かけてんで、せっちゃん。
 ……やけど、あたし知らんかったんや。
 人の心がどれだけ醜いかってことを。

「『心の鏡』!」

 術式が完成する。あたしら五人が次々に倒れこむ。

 ……気がついたとき、部屋におった。
 ……皆一緒や。
 部屋の中には、机に向かっている一人の男性。

「……この人、誰?」

「永森刹那。……せっちゃんの前世や」

 闇の書の閉じ込める闇の中で会った人。
 そんなにかっこいいわけではないが、せっちゃんとよく似た瞳が印象的な人や。

「確かに、せつなと同じ寝ぼけ眼ね」

「じゃあ、この部屋、せつなちゃんの部屋?」

 刹那さんの部屋やね。……せっちゃん、前世の夢見とるんか。

『おにいちゃ~ん! バイトの時間じゃないの~!?』

『あ、お~う。わかった~……たく、いいところで』

「何見とるん……は? アニメかい」

「せつなちゃん、オタクの人だったんだ……」

「……ね、ねえなのは? この画面の人、なのはに似てない?」

「あ、本当だ。……て、これ、フェイトちゃんだよね?」

「……なんでなのはちゃんとフェイトちゃんが大人になっとるアニメ見とるん?」

 分からん……他人の空似やろか? でも、画面のなのはちゃんが持っとるん、どう見てもレイジングハートそっくりなんやけど……あ、電源切りおった。
 おのれ~。もっと見せ~!

「あ、あれ? なんか、引っ張られてない?」

 刹那さんの行動にあわせて、私らの体が動いとる。
 多分、せっちゃんの夢やから、せっちゃんの行動に引きずられるんや。

『お兄ちゃん、遅刻しちゃうよ?』

『あすか。分かってるから大声出すな……姉さん、行ってくる』

『ええ、気をつけてね?』

 刹那さんに話しかける二人の女性。多分、刹那さんのお姉さんと妹さん。

「お姉さん美人だね」

「あすかさんも可愛い。……でも、確か……」

 そうや。せっちゃんの記憶なら、この二人は殺される。
 ……現実では、死んどるはずの二人や。
 刹那さんが外に出る……バイト先の店に入って、レジ打ちの仕事。
 始めたんが午後二時で……終わったんが午後十時。
 ……嫌な予感がする。

「まさか、この夢……刹那さんの死ぬ日の夢じゃ……」

 フェイトちゃん鋭い。
 あたしもそう思い、すぐに夢から出るように術式を……!?

「しもた。リインと連絡とれん」

「え!? じゃ、じゃあ、出れないの!?」

「せっちゃん起きるまで、出られへん!」

 あかん。
 せっちゃんの記憶が確かなら、この先にあるんは……
 そうこうしとるうちに、刹那さんが、家の玄関に……

「せっちゃん! そのドア開けたらあかん!」

 あたしの声は届かず、そのドアを開けて……

「「「「「!?」」」」」

 声が出んかった。
 これはなんや? これはなんや? これはなんや!?
 女の子が……妹さんが泣きながら裸で倒れとる。
 その側には、男の人が一人。

『……ち、家の奴か。悪いけど死ねや』

 強盗がよくかぶっとる目だけ開いた帽子。その目に、殺意だけがうつっとる。
 その人が包丁振り上げて……刹那さんを刺した。
 奥からもう一人、下半身丸出しで出てきた。
 ……所々に血がついとる……誰の血や?

『うわ、兄貴いきなりかよ……』

『しかたねえだろ? それより、そっちはどうしたんだ?』

『ああ、あんまりうるせえから……』

 その先を言わんといて!

『殺しちまったよ』

『けけ、お前も充分鬼だよ』

 な、なんでや!? 何でこんなひどいことするん!?

『……? あ? んだ……ぶお!』

 刹那さんを刺した人が吹っ飛んだ。
 ……刹那さんが殴り飛ばしたんや。

『……な、なんだよ!? やんのか!?』

 奥から出てきた男がナイフを構えて……
 刹那さんはそのままその男に突っ込んだ!

『こ、ギャァァ!!』

 ……股間蹴り上げよった。男の人、あれやられるとほんま痛い聞くけど……むっちゃ痛がってる。

『え、て、め……お、おい、それ、どうするつも……』

 台所の椅子を持ち上げる刹那さん。
 ふと、顔が見えた……泣いてる。

『ひ、ぎゃ!』

 椅子を振り下ろす。また振り上げる、そして振り下ろす。
 何度も何度も繰り返す……鈍い音に、水音が加わりだした……

「も、もうやめて! せつな! もうやめなさいよ!」

「せつなちゃんやめてぇ! 死んじゃうよぉ!」

 ……なのはちゃんとアリサちゃんが叫ぶ。
 すずかちゃんは何も言わん。

「止まらないよ……せつな、もう、何も見えてない……」

 フェイトちゃんのゆうとおりや。
 きっと、何も見えてへん。

『……て、めぇえ……』

 あ、後ろの男が起き上がった!
 せっちゃん危ない!

『死ねぇ!』

『………? ……!』

 背中刺されたんも構わず、今度はその椅子の残骸を後ろの男に叩きつけた。
 ……椅子には、血がべっとりとついてる。

『あお……おい、やめろよ……い、痛いよ……いてぇんだよ……』

 人を刺しといて……人を殺しといて、命乞いするんか、こいつは!?

『な、なな、やめてくれよ……俺、悪かったよぉ!』

『……』

 刹那さん、無言で椅子を振り下ろした。
 男の顔にめり込んで、男は悲鳴を上げる。
 後は……さっきと同じ。
 椅子が砕けたら、今度は拳で。
 ひたすらに殴り続ける……
 
『……死、んだ……か……』

 ようやく刹那さんが声を上げる。
 二人の男は、ピクリとも動かん。
 ……刹那さんのお腹と背中から、血が流れでよる……

『……あ、すか……生きてる……か?』

 そ、そうや! 最初、あすかさん生きとったやん!
 泣いとったんで!? 生きとったんで!?

『あすか……? おい、あすか……?』

 ……見たら、あすかさんの口から……血が……

『舌……噛み切るとか……漫画じゃねえんだからよ……』

 そんな……自分で死んでもたんか!?

「こんなことって……こんなことって……」

「……せっちゃん、こんな記憶……四歳の頃に見たんか!?」

 今のあたしらでも、これはショックや。
 しかも、せっちゃん、今も見とるってことは……たびたび見とるんか!?
 こんな悪夢を!?

『……姉さん? ……はは、悪い夢でも見てんのか、これ……』

 刹那さんの視点に引っ張られる。
 奥のベッドで、お姉さんが死んどった……
 目を見開いて、裸で……首に、真っ赤なあざ。
 体の所々に、白い液体と……刺し傷……
 猛烈に吐き気がする。
 視覚だけで、頭が痛くなる。
 
『ああ、クロノ。あんたホントにいいこと言った。人生、こんな筈じゃなかった事ばかりか……』

 え? 何で刹那さんがクロノ君の事知っとるん!?

『あ、はは、なあ、助けてくれよ……俺を、助けてくれよ……なんでこんな目に会うんだよ……』

 刹那さん、身体を引きずりながら、外に出て行きよる……夢の最後や……

『……なのはさん、フェイトさん、はやてさん、アニメの……アニメはいいなぁ、力があって……』

 刹那さんがあたしらを呼んどる。
 せやけど、それは、刹那さんにとってはアニメの話で……

『力が、あれば……姉さんも、あすかも、助け、られ、たのかな……魔法、さえ、あ、れば……』

 刹那さんに、近づく、ライトの、光……
 世界が、ぶれる。
 ……もう一度、ぶれる。

『……いきなり死に掛けてるって……どういうことだよ……』

 刹那さん? まさか今の今まで、夢うつつやったんか?
 夢やと……思ったんか?

『……まあ、これでもいいか……』

 ええんか? こんなんでええんか!?
 こんな結末、ほんまにええんか!?

『まあ、地獄行きは決定かな……』

 あかん、死んでまう。
 刹那さんが死んでしまう!

「死んだら、死んだらあかんよ!? こんな結末、あかんよ!?」

『……でもさ、もう、家族に会えないんだぜ……?」

「せやけど、せやけど……」

「……はやて、一つだけ」

 あれ? 刹那さんが、あたしを見とる……

「……これは、ただの、夢だよ……」

 瞬間。世界が砕けた。


 ……気がつくと、真っ白な空間の中にいた。
 この空間は、見覚えがある……ああ、閉じ込める闇の中や。

「……まったく、人の夢に入るとか。プライバシーの侵害って言葉、知ってるか?」

「……刹那さん……」

 夢の中で、会った、刹那さんがそこに立っとった。
 あれ? これも……夢なんか?

「夢だよ。そして、俺の深層意識……な、せつな?」

「そう、そして、私の深層意識……」

 刹那さんの隣に、せっちゃんが……立っている。

「他の面々は既に外に出したよ。……後は、お前だけ」「はやて、夢見の魔法は、マナー違反なんだよ?」

「……せやけど! せっちゃん、あたしらに何も話してくれへんやん!」

 皆、皆、せっちゃん心配して……

「迷惑なん? あたしらがせっちゃん心配したら、迷惑なんか!?」

「……ありがとう、嬉しいよ……」「悪い。お前らを守るつもりだったんだけど……逆に心配させちまったな」

 ……せっちゃんは、刹那さんと二人で一人なんや。
 ここでは、二人の意見が同時に聞こえる。
 
「私は、はやてや皆を守りたかっただけ。……心配かけたなら、謝る」「とりあえず、なんとか目処立ちそうだからさ、起きたら話すよ」

「……えっと、別々に話してくれへん? 聞き取り辛いんやけど……」

「「あ、ごめん」」

「はやて。この場で聞きたいことある?」

「……ここなら、お前の疑問に、制限なしで答えてやるぞ?」

 いきなりそんなこと……あ、そうや。

「じゃ、じゃあ刹那さん。さっきの夢は……」

「散々お前らに話した、前世の夢さ。……前話したとき、お前たちには見せたくない夢って言ったろ? ……理解できただろ?」

「……今も、ああやって見よるん?」

「ああ、時々な? 特に、起きてるときに感情が高ぶったら、必ず見てる……今日も、いろいろあったし」

「……刹那さん。夢の中で、あたしらの事知っとったんは何で?」

「う~ん。それは言っていいものかどうか……まあいいか?」

「よくない。あまりにも荒唐無稽。信じられない……私もいまだ信じられない」

「あ、そう? ……つーわけで特秘事項だ。悪いな?」

 さっき制限なしゆーたやん。
 夢の中でもせっちゃんは意地悪や。

「……せっちゃん。こうやって刹那さんと話しながら物事決めたりしとるん?」

「今日だけ特別。普段は二人一緒に思考して、最善だと思う選択をしてる。……時々裏目に出たり、話に矛盾が起こったりして、混乱する」

「まあそのときその時に修正はしてるつもりなんだが……まあ、言動不一致になる場合もある。それは許せ」

 あたしに言われても……あ、あれ?

「なんか、体が引っ張られよるんやけど……」

「ああ、目が覚めるんだろ? そろそろ朝じゃないか?」

「多分そう……はやて」

「「またあとで」」

 二人同時に同じ仕草で腕を振る。
 ……二人は一人の思考なんや。
 引っ張られながら……せっちゃんの、刹那さんの笑顔を目に焼き付けた……




 <せつな>

 ……? 誰か、泣いてる?
 ……あ、そう言えば、

「はやて、おま……うぁ」

 目を開けると、子供組全員泣いてた。
 いや、全員って、……あ、ヴィータだけおろおろしてる。はやては……ぐう、やっぱ泣いてる。

「あ、せつな? 何だよこれ……何で皆泣いて、おあ!」

「「「「せつな」」ちゃん!!」」「は、せ、ちゃ、ん……」

 なのは達同年代組が飛びついてくるとか。

「「せつなおねぇちゃ~ん」」「せつなさ~ん」

 アリシア、ギンガ、スバルとか遅れて近寄って泣いてるし……

「……な、なにがあったんだよ? せつな?」

「……はやてたちは自業自得だからいいとして、アリシアたちは何で泣いてるんだ?」

「お、起きたら、え、えいとたち、ないでで……」

「皆な、いてて……悲しく……なって……」

「おねぇちゃんたちなぁいたらめ~~~~」

 ……釣られ泣きか。

「はいはい、お前ら泣き止めって! せつなちゃん今日は元気だから!」

「「「「「嘘ついたらだめ~~~~~!!」」」」」

 いや、嘘とか……

「せつなちゃん! あんな夢、悲しいの! 悲しすぎるの! あんなゆめみたたらだめなの!」

 なのは、噛んでる噛んでる。

「せつな~~~。しんじゃやら~~~~~」

 フェイト、死なないから、死んでないから、あれ前世でもう死んだから。

「せっちゃんの嘘つき! 意地悪! すっとこどっこい! あたしに心配かけたらあかんやん!」

 はやて、お前は後でじっくり話そうな?

「せつなちゃん、せつなちゃんせつなちゃん! ずっと、一緒にいるから、あんな怖い顔しないで!」

 いや、すずか、それは……そんなに怖かったか?

「せつなの馬鹿! 私を好きにしていいから、あんな夢見ちゃだめだから!」

 相変わらず女王様だなアリサ! 後自分は大切にしろ!

「「「「「うわぁぁぁぁっぁぁあぁん」」」」」

「……はいはい。私は……俺は大丈夫だから。今は幸せだから。もう泣き止めって……な?」

 まったく。
 愛されてますことで。

「……せ、せつな? どうしたの?」

「あ、母さん……たしけて……」

 俺も泣くぞ、もう。



 ……二十分ぐらい泣いてました。こいつら。

「……さて、落ち着いたところで、はやて?」

「う!? ご、ごめん」

「……はぁ。まあ、心配かけた私も悪いから、今回は見逃すよ」

「……そ、そうよ! 大体、あんたが何も言わないから!」

「え? やっぱり私が全面的に悪い?」

「……せつな、私たちに言えない事?」

「……どっちかって言うと、言いたくないこと……かな」

 うう、またこいつら泣かせる結果になるから。

「……せつな?」

「な、なんですかお母さん?」

「まだ私に隠してる事、ある?」

 ……す、鋭い……たくさんあります。

「……あるみたいね?」

「なんでばれるの!?」

「顔に出てるわ。後、母親を舐めないでね?」

 ……た、たった数日しか暮らしてないのに……

「母親すげぇ……」

「ごめん。今のは私でも分かった」

 クイントさんまで!?

「う~ん。私も分かったって言ったら、駄目?」

 桃子さんもか……

「母親つえぇよ……」

「にゃははは、おかーさん最強だから」

 うん、将来はお前もそうなる。

「ねえ、せつなちゃん?」

「……なんですか、忍さん?」

「ここに、忍さん印の自白剤が」

「……おねえちゃん!?」

「じ、冗談よう……」

 すまん、冗談に聞こえんかった。

「まあ、忍さんの冗談はともかく。話してないことがあるなら、全部出しちゃいなさい」

「……お母さん……」

「ここには、関係者しかいないし、男の人は外に出てもらってる。小さい子達は、エイミィとアルフさんに遊んでもらってる……ね? 貴方が知ってること、全部話して?」

 ……えっと、話していいこと悪いことを整理しよう。
 まず、ドクター関連は……アウト、言えない。
 聖王系は……これもアウト、ついでにドクターの事も話さなくちゃならない。
 ミスリルの作戦参加は……セーフ、てか、リンディさん知ってる。
 管理局の参加もセーフ。リンディさんは承知済み……
 前世のアニメの話はアウト。未来の話になる……
 ……どうする!? リンディさんが知ってること以外なの、全部話せないジャン!?

「……言えないこと、多い?」

「お母さんが知ってること以外で、言えない事が二件ほど……」

「……言ったら、あなたは捕まる?」

「……捕まらないけど、私の身がやばくなるのが一件。逆に、私が保護対象になるのが一件」

「じゃあ、両方とも言って?」

 言えない言ったじゃん!?

「やはりここはじは「お姉ちゃん……噛むよ?」……す、すずかがこあい」

 うん、俺も怖い。

「ここにいるのは、貴方のお母さんだから。……ね?」

「そうそう。私は……年の離れたお姉さんで」

「私はそのまま、友達のお母さんだから」

 ……うう、お母様がたが強すぎるんだもん。
 仕方ない、話す。
 危険があっても、私が守ればいいや。……命を張っても。

「じゃあ、まず、一件目……」

 まずは、聖王関係から。

「はやて。魔導師登録の事、覚えてる?」

「ん? ああ、覚えてるで? せっちゃんが聖王の血族やないかって、大騒ぎしたときやろ?」

「え!? そんなことあったの!?」

 あ、そう言えば話してなかったか。

「はい。いろいろ検査した結果、違うって事になって、肩透かしくろて……」

「ああ、騒いでたよな? パラディン持ってかれて、せつなが暴れだそうとして……」

「せつな……それを言いたかったの?」

 いや、それは伏線。

「実は、その結果、嘘だったんです」

「「「え!?」」」

「じゃ、じゃあ、せつなちゃんはその聖王の血を引いてる人なの!?」

「正確には、聖王分家『銀の剣』と呼ばれる一族の末裔です……私の母方に、その血が流れてたそうです」

「フォルテ先輩ね?」

 あの後ちょっと調べた。
 フォルテ・ヴァーミリオン。本部の防衛隊所属。結婚後退職。最終階級二等陸尉。
 闇の書防衛戦で父さんと出会い、その後結婚。私を生んで、数日後死亡。享年二十五歳。

「クイントさん。母さんの魔力光、私と同じ銀色じゃありませんでした?」

「うん。本部でのあだ名が『白銀の戦乙女』って呼ばれて、バリアジャケットも銀色で。みんなの憧れだったのよ」

「……その『銀の剣』って一族も、虹を伴う銀色の魔力光が特長だったらしいです」

「で、でもまってえ!? あの時は違うって、騎士カリムが言うてたやん!」

 うん。カリムさんは言った。違うと。
 けど。

「その検査結果ね、別人の物が使われたんだ。私とまったく関係のない人の」

「……誰かにすり替えられた?」

 リンディさん鋭い。正解。

「はい。本当の私の血液と、魔力データは、別の人に手渡され、……私は、その人からその事実を聞きました」

 ここからが二件目。

「その人って、一体……」

「その前に……ここから先は、私の身もそうだけど、下手したら、皆さんも危険になる可能性のある話です」

 特に、管理局組には。

「……その相手、ひょっとして、犯罪者?」

「はい、広域次元犯罪者です。……私自身は、友好的に接してるんですけど」

「は、犯罪者と友好的って……」

 や、ドクター意外にいい人だし。
 チンクさんたちも基本はいい人だし。

「……それでも、聞きますか?」

「……ええ、聞きます。母親舐めないで頂戴」

 やっぱり。

「……わかりました。その人は……



1.言い切った! 原作レイプ上等!

2.撃たれた。世の中そんなに甘くない。






[6790] ↑の選択肢解説特番。もしくは、作者のお遊び。
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/05/24 20:05
 (BGMが流れ司会席に男女二人)

「十夜!」

「マナの!」

「「ゲムドラナイト~~~~!!」」


 (拍手の音。ただし、電子音)

「は~い、皆さんはじめまして~。DJの子や……もとい、更科 十夜で~す!」

「アシスタントの、マナ・グレイル・テスタロッサです」

「悪戯好きです~」

「大好きです♪」

「さて、これからの運命を紹介するこのコーナー「まてや」」

 (【銀の剣】登場。ご立腹のご様子)

「あ、コラせつなちゃん。まだ出てくるの早いって。せめて紹介するまで待機しててよ」

「……スレ違いもいいとこだろが、何しにきた?」

「いやぁ、俺達のクロスが見たいってお便りが」

「一件だけだろ! 本当に出てくるなよ!」

 (司会席を叩きつける【銀の剣】。【神様】平然)

「いやいや。前回を見てもらえばわかるとおり、選択肢ができてるからね……選択形式ドラマと言えば、これだろう?」

「合ってるけど、合ってねぇ! 大体、元ネタ知る人って何人ほどだよ、何年前のネタだと……」

「まあまあ、せつなさん。説明も大事ですよ?」

「……だからってマナさん。あなた達が出てくることないでしょう」

「本編の人たちで司会させるより、俺達でやるほうがらしいからな?」

「……自称神様のくせに」

「気にしなーい。じゃあ、マナ? 選択肢の解説よろしく」

「はい。マスター」

 (【黒聖杯】、書類を取り出し、読み上げだす)

「前回の選択肢は、これからのシナリオを二つに分ける大事な選択です。この放送が上がった時間より、約24時間後まで投票を受け付け、多かったほうを掲載していきます。投票方法はいたって簡単。このスレッドの感想掲示板にどちらがいいか、番号を振って書き込みして下さい」

「じゃあ、それぞれの選択肢の予告を流します。せつなちゃん。出番だ」

「くそ……仕方ない!」

「では、まずは、パターン1.『ライン・ロウ』」


------------------------

 話せることは全て話したせつな・トワ・ハラオウン。
 彼女は自分の幸せのため、友の幸せのため、管理局に入局する。

「原作なんか知ったことか。俺のやりたいようにやらせてもらうぜ!」

 次々に出会う、大切な人々。
 そして、新たなるイレギュラー。

「……いや、何でこいつがいるのさ?」

 変わるのは味方だけでなく、陰謀レベルも変わってくる。
 敵はドクターだけじゃない!?

「……おい、これって……原作確実に変わるぞ!?」

 次回。とことん原作をいじってみた『ライン・ロウ』。
 【スーパーリリカル大戦OG】に。

「ドラーイブイグニッション!」

------------------------

 (……直後、悶え苦しみ床を転げ回る銀の剣)

「せつなちゃん? どうした?」

「は、恥ずい……恥ずかしすぎる! なのは達は何でこんな台詞普通に言えるんだ!?」

「……どらいぶいぐにっしょん?」

「ちくしょう、作者め……こんな台本用意しやがって……」

「ほれ、次のパターンいくよ? 準備する」

「……ちきしょー!」

「下品ですよ、まさ……もとい、せつなちゃん?」

「では、パターン2.『ライン・カオス』」

------------------------

 何者かに攻撃を受けたせつな・トワ・ハラオウン。
 重傷を負い、彼女は大切な物を失う。

「……何故、私は、ここに居るの……」

 悲しみは連鎖する。
 彼女が望む、望まざるに関わらず。

「……どうして、こんなことになったんだよ!?」

 いなくなる重要人物。
 現われるイレギュラー。

「……私の……俺の名前は……」

 次回。とことん原作をいじってみた『ライン・カオス』
 【悲しみの向こう側】。

「……こんなはずじゃ、なかったんだけど、な」


------------------------

「……おい」

「なんですか、せつなちゃん?」

「予告なのか、これ? ロウはともかく、カオスのほうは……」

「ん~……実はな? ロウルートはある程度までは書きあがっているんだけど、カオスルートはプロットのみなんだよな~」

「おいおい……素直にロウルート乗せればいいじゃん」

「や。ロウルートに致命的な間違いを発見してな……修正に苦労してるんだ。作者」

「更新スピードがどちらにしろがた落ちするので、苦肉の策ですね。この選択肢は。……まあ、その間違いが発見しなかったら、そのままロウルートに移行していたそうなんですが」

「前回までに修正する予定が、間に合わなかったんだな……?」

「うん。……や、俺に怒られても困る」

 (【銀の剣】、振り上げた拳を渋々降ろす)

「まあ、そういうわけなので、皆さんの投票をお待ちしております。期限は29日の23時まで!」

「それでは、投票スタートです!」

 (腕を振り上げて合図する【神様】と【黒聖杯】。頭を抱える【銀の剣】)

「以上、お相手は、『多次元世界の日記帳』主役の更科 十夜と!」

「万能サポートヒロイン、マナ・グレイル・テスタロッサと!」

「俺もやるのか? ……本スレ主人公、せつな・トワ・ハラオウンでした……」

 (画面暗転。……しばらくして)

「……それ以前に、一つも投票こなかったらどうすんだ?」

「ん~……更新停止?」

「それは勘弁して……」

 


*皆さんの投票、お待ちしています。
なお、上記の状態になった場合は、自動的に『ライン・ロウ』になります。


*この投票は、既に終了しています。多数の投票、ありがとうございました。




[6790] 17.ボーダーオブライン 後編 ライン……
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/05/24 19:18
 結果発表!

 投票総数49票。 
 ライン・ロウ:46票 ライン・カオス:3票で、ライン・ロウに決定!!
 であ、17話後編をどうぞ!







            ****************













「その人の名前は、ジェイル・スカリエッティ。……生命操作研究の第一人者です」

 ……提督と捜査官が息を呑む。

「……その人、私が追っている戦闘機人の……」

「はい、製作者です。……私も、稼動している三人に会いました」

 チンクさんは割りと可愛い人。
 トーレさんは冷静な人。
 ウーノさんも動じない人だった。

「じゃあ、せつなはスカリエッティに会ったのね?」

「はい。……彼自身、私にちょっとした実験を施したかったみたいで」

 断わったけど。

「……それで、今、彼と連絡取れるの?」

「いえ、何かあったら向こうから連絡してくれるそうですから。……詳しいアジトの位置も知りませんし」

 転送先はいきなりアジトだったし。

「じゃ、じゃあ、もし連絡してきたら……」

「クイントさんストップ」

 止めるのはリンディさん。

「……ここでは、私たちは管理局員じゃないでしょ?」

「そ、そうでした……ごめん、せつなちゃん」

「あ、いえ、それが普通の反応だと思います」

 チャンスだからねぇ~。
 対策とっておきたいしね~。

「と、言うか、犯罪者と友達って、あんた本気で何者よ?」

「う~ん。だって、ドクター、結構面白い人だし」

「……犯罪者だよね?」

「法律的にね? 本人は悪いことしてるって自覚は……あるだろうけど、そんなには罪悪感感じてないと思うよ?」

 むしろ知りたがっている。人の神秘、生命の神秘を。

「うん、ただの科学者だよ。あの人は。ただその研究が、法律に引っかかっちゃっただけ。……本人は、子供思いのパパさんだから」

 そうだと思う。
 だって、結局あの人は、上から命じられてるだけの……悲しい人だから。

「……そういう言われ方すると、逮捕しづらくなるわねぇ……」

「容赦はしなくていいと思いますよ? それすらも自分の楽しみにしちゃう人だから」

「……わかった、彼は私が、逮捕するから」

 クイントさん頑張ってください。
 ……いざとなったら助けに行きます。

「あとは、お母さんの知ってる先日の事件ですね」

「知ってるっていっても、簡単にしか知らないけどね。……詳しく話してもらえる?」

 ……よし、こうなったらやけだ。
 もう終わったことだし。

「えっと、六月の話ですけど……」

 私が体験した事件。
 自分の誘拐未遂から始まって、アリサの誘拐未遂。ミスリルで聞いた真相。大陸弾道弾を防げる魔力障壁。
 要塞侵攻戦の参加。沢山の兵士を殺したこと。防衛室での会話。防衛ユニット『エレン』の破壊。科学者と要塞司令官の殺害。
 ……そして、要塞の最後。

「……以上です」

 皆静かに聴いていた。
 フェイトはだんだん涙ぐんでいる。
 アリサはあの時の事を思い出してうんうんうなっている。
 
「じゃあ、誕生日のネックレスは、そのときの報酬で買ったんやね……」

「……ごめん。真相を聞いたら、嫌だったかな?」

「ええよ。プレゼントに罪はあらへん。……しっかしその司令官むかつくな。魔法をなんやおもとるねん」

「そうだよ! 戦争の為の力じゃないよ!」

 なのは激怒。まあもちつけ。

「……私たちには、耳の痛い話ね。……古代史には、私たちの使う魔法は、もともと兵器だったんだから……」

「そうですね。……古代ベルカ戦争……酷い戦いだったそうですから……」

 ミッドの教科書には、必ずといっていいほど載っている事柄だ。
 
「せつなちゃん……辛かったね? 苦しかったね? ……力になれなくて、ごめんね?」

「うん。でも、いろいろ勉強にもなったから……やっぱり、私悪人にはなれないよ。人を殺した手が……こんなにも、重い」

「せつなちゃん……」

 すずかが、私の手を握ってくれる。
 愛しい物を、扱うように。

「……まあ、せつなの懸念事項は、私も力になるから、気にしないでね? 後、管理外での魔法使用、及び、殺害も、不問にします……それでいいわね?」

「ありがとうございます。お母さん」

 本当は、許されない罪。
 これだけは、背負っておこう。
 エレンの魂だけは……

「じゃあ、あとはもうないかしら?」

「そうですね。後は……なのは」

「え?」

「フェイト、はやて」

「なに?」「なんや?」

「すずか。アリサも」

「どうしたの?」

「……私たちに、隠し事?」

「うん」

 後は、管理局の事だけ。

「私、今週末、嘱託魔導師試験受ける。……管理局に、入局しようと思う」

「「「「「……えええええ!!」」」」」

「ちょ、いいの!? あれだけ拒否してたのに!?」

 クイントさん食いつき早いよ。
 後近い近い。

「はい。……ゲンヤさんとぶつかって、ちょっとだけ、考え変えました。……私一人じゃ、守れないものもあるから」

「……そっか。それで、嘱託魔導師を……」

「執務官って手もあるそうですけど、そうなると逆に自由が利かなくなるそうですから。とりあえず、それで」

 執務官になると、確実に航行艦か、部隊直属になり、自由度がなくなるそうだ。
 私の理想を実現する為には、ある程度の自由は欲しい。
 そうなると、嘱託魔導師が一番あっているそうだ。

「……せ、せつなちゃん、八歳だよ? 小学生だよ? ……もう、お仕事するの?」

「うん。そうなる……あ、でも、その前に訓練校に入るから、実際に現場に出るのは半年ぐらい先かな?」

 小学校と並行だから、スケジュール組まないとだし。

「じゃ、じゃあ、学校はどうするのよ!」

「えっと、学校行きながら、訓練校も行くよ?」

「ちょ、そんなん無理やん! つぶれてまうで!?」

「私、結構頑丈だから」

「でも、せつな無理しても平気な顔してるから、心配だよ……」

 うーん、こうなるから話したくなかったんだけど。

「……せつなちゃん」

「すずか?」

 やっぱりすずかも反対かなぁ……

「もう、決めたんだね?」

「……うん。決めたよ。後には引かない」

「……わかった。私、応援する」

「ちょ、すずか!?」

「リンディさん」

「なにかしら?」

 ……すずか?
 なんか、決めたような眼をして……

「魔法使えなくても、管理局って入れますか?」

 ゑ?

「……は、入れなくはないけど……」

「私のだんなも、魔力なしだけど管理局員だし……」

 クイントさんそれ言っちゃ駄目ーーー!!

「あの、私も、せつなちゃんのお手伝いがしたいんです。どうすれば管理局に入れますか?」

 ちょーーーーー!?

「す、すずか? ちょっと待とう。……本気?」

「本気。……せつなちゃん。せつなちゃんの無理、私に半分分けて? ……私、せつなちゃんの力になりたいから」

「ちょっとまったーーーーー!!」

 今度ははやてか!?

「それはあたしの役目や! あたしも管理局はいるで!」

 まてぇぇぇぇぇぇ!!

「そんな唐突な!? 勢いで決めちゃ駄目だよはやて!」

「せっちゃんを一人になんかせえへん! あたしなら、守護騎士もついてとってもお得! どうや!?」

「セールスじゃないんだよはやて?」

「ちょっと待つのーーーーー!」

 うは、今度はなのは?

「せつなちゃんを守るのは私の役目なの! せつなちゃんの笑顔を守るのが、私の使命なの! リンディさん! 私も局員になります!」

 いや、待とう、本気で待とう!

「なのはストップ。私、そんなに頼りないの?」

「頼れるけど、せつなちゃんの背中を守るのは私の役目なの!」

「いや、そんなパートナー宣言されても」

「えっと、私も入ります」

 そんなさらっとフェイトさん?

「私も魔力持ちだし、せつなの隣を歩けると思うんだ。……せつなは一人にしない。一緒に頑張ろう?」

「いや、そんな笑顔浮かべなくても……で、でも、四人ともちょっと待てと」

「じゃああたしは五人目ね」

 おまえもか!?

「なに? すずかは良くて、あたしは駄目ってことはないわよね?」

「いいといった覚えはない! いいからまずは俺の話を聞け!」

「あ、刹那さんや」

「いちいち呼び方変えんでいい、どっちもせつなだ」

 二重人格じゃないからね?

「……まず前線組になるであろうフェイト、なのは。前線って言うくらいだから、仕事は危険になるぞ?」

「……それでも、せつなの力になるなら」

「私、頑張るよ。せつなちゃんを守りたいから」

「……リンディさん! 魔導師ランク制限の話してあげて!」

「あら、男の子の時はその呼び方なの?」

「……母さん、お願いします」

「わかったわ」

 つ、疲れる……
 で、魔導師制限の話。
 要するに、一つの部隊に高ランク魔導師を何人も配置できないって事だ、大雑把に言えば。
 
「リミッターをかけて、ランク落として入れるって裏技もあるけど、なのはさんたちの年齢でリミッターは返って危険ね」

 だから、俺と同じ部署に配置されるなんてことはまずない。

「そ、そんなぁ……」

「せつな、なんとかならないの?」

「管理局法を変えなければそう簡単にはどうにも……」

 未来のはやてはそれに苦労しましたしね。

「次、後衛組になるはやて、アリサ、すずか。……最低でも、高校以上の学力が必要になるぞ?」

「うっ!? 学力が必要なんか!?」

「あ、はやては魔導師だからある程度は免除される。それでも、一定以上の学力はもちろん要るけど」

「……く、もう少し勉強する必要があるようね!」

「お姉ちゃん。お願いします」

「ええ、いいわよ任せなさい」

 ……ノリノリかい。
 頼むから止めてくれ忍さん。

「あとはやて? ヴォルケンズは一緒に居れないからな? 例のランク制限で」

 全員AA以上だからね!

「がーん!? あたしのセールスポイントが!?」

 まったく意味ないのである。

「……でも、確かにもったいないわね。この子たちを中心に部隊作れないかしら?」

「……考える余地はありそうですよね?」

 ……おい、そこ! 何企んでやがる!

「母さん? クイントさん? 何を唐突に……」

「はい皆さん注目!」

 何だ突然!
 パンパンと手を鳴らして、みんなの視線を集める母さん。

「とりあえず、せつなさんを思うその気持ち、充分受け取りました。……けど、残念だけど、皆まだ年齢が低いから、一般入局はできないの」

「せっちゃんはどうなんや!?」

「せつなさんは私とクロノの推薦があるから。……どういう意味かわかるかしら?」

 おいおい。

「じゃあ、リンディさんの推薦があれば……」

「入れるんですね?」

「ええ。けど、そんなに何人も推薦することはできないの。……そこで、皆に、私の元で、研修を行おうと思います」

 おいおいおいおいおい!!
 それって!

「一年を目処にして、私が提示する水準点をたたき出した子を推薦するわ。推薦人には私だけでなく、クロノも、ここにいるクイントさんもできるし、はやてさんなら、グレアム提督に頼むこともできるわ。それで……研修に参加したい人!」

「「「「「はい!」」」」」

 全員!? マジでか!?

「あ、リンディさん、うちの子らは後で聞いといてええかな?」

「ええ、かまわないわ。……あ、守護騎士なら、教会経由で入ってもいいわよ?」

「よっしゃ! シグナムたちはそっちからまわそ。それなら、先んじてせっちゃんのサポートができるわ」

 うぉーい……

「じゃあ、このキャンプ後に、詳しい説明するから、期待してまっていてね?」

「「「「「はい!!」」」」」

「……み、味方……こいつら止める味方は……」

「せつなちゃん?」

 はぁ! いた!

「桃子さん! いいんですかあんなことになってますけど!」

「あら? いいに決まってるわよ。なのはの事、お願いね?」

 ……きょ、恭也さんがいれば~~~~~!!

「よーし、燃えてきたわよ~~~!!」

「頑張ろうね、アリサちゃん」

「あたしらでせっちゃんの背中を守るんで! ええな!」

「もちろん! がんばろー!」

「せつな。私、頑張るからね?」

 ……皆が私の心を分かってくれないんです……
 うううううううう。泣くぞもう。



 ……さて、お子様どもを遊びに行かせた後、今度はリンディさんとクロノと私で、ミスリル上層部と会談することに。
 上層部って言っても、あくまで西太平洋戦隊の上層部。
 テッサとカリーニンさんである。
 メリダ島内部、客室。
 ソースケさん(正確には宗介さんが正しい)に連れられ、奥のソファーへ。
 お茶を入れてもらい、ちょっと一息……だから母さんは砂糖を探さない!

「お母さん、緑茶はそのまま飲んでください。……駄目ですか?」

「えっと、駄目かしら?」

「……スティックシュガーでよければありますよ……」

 レーション付属品である。最近持ち歩くようになった。
 なお、パラディンの格納部に、フランス軍レーションが三日分確保してあるのは内緒だ。

「……何か、僕よりも親子しているな、せつなは」

「ごめん兄さん。何かリンディさんとは他人とは思えなくて……」

「いや、僕も、あまり母さんに甘えるほうじゃないからな……僕の分まで甘えてくれ」

「あら? クロノも甘えていいのよ?」

「遠慮します」

 ……うーん。見事にひねくれてる。

「おまたせしました」

 部屋に入ってきたテッサとカリーニンさん。
 全員立ち上がり、敬礼。

「対テロ部隊『ミスリル』の西太平洋戦隊戦隊長、及び、原子力潜水艦『トゥアハー・デ・ダナン』艦長の、テレサ・テスタロッサ大佐です。本日はお越しいただきありがとうございます」

「同じく、特務隊指揮官、アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニン少佐だ。先日はせつな君のご協力感謝します」

「時空管理局本局所属、時空航行艦『アースラ』艦長のリンディ・ハラオウン提督です。こちらの階級だと、少将相当官になります。今日はよろしくお願いしますね?」

「同じく『アースラ』所属、クロノ・ハラオウン執務官です。よろしくお願いします」

 ……挨拶の応酬。
 何だこの軍人会議……て、軍人会議か。

「……せつな、君の番だぞ?」

「え? 私もやるの?」

「当然でしょ、貴方は仲介役なんだから」

 そうでしたね。

「えっと、せつな・トワ・ハラオウンです。本日は、ミスリル、管理局の仲介役を任じられました。双方、遺恨の残らない話し合いをお願いします……こんなんでいい?」

 てか、普通に八歳児の出る幕じゃないよね?

「上出来よ」

「では、はじめましょうか。お座りください」

 テッサに勧められ、着席する。向かい側のソファーに座るテッサとカリーニンさん。

「まず本日の議題の『アームスレイブ』についてご説明いたします。……少佐?」

「はい。では、資料をお配りします」

 配られた資料にざっと目を通す……凄い。
 闇の書のときにちょっとかじった程度の知識しかないけど、ほとんど穴がない。
 管理局配布のストレージに迫る勢いだが……

「……凄いわね。圧縮機能はないけど、ほとんど完成してるわ」

「これは、我が部隊で使用されているAST-6『ガーンズパック』の仕様書です。……私の部隊に、五機配備されています」

 ……ここに五機ってことは、他の戦隊にも何機かあるってことか……

「……内蔵されている魔法はどんなものがあるのかしら?」

「基本は捕縛系、強化系、そして放出系です。防御系は専門で、一機丸ごと防御用になります」

 ……なるほど。リソースの問題なわけね。
 ……なんか足りないような……あ、そうだあいつらもそうだった。

「AIが組み込まれてないのか」

「あ、それよ! なんか足りないと思ったら!」

「? AIを組み込むのは、一般的なんですか?」

 こちらのデバイスにはAIを組み込んで術式補助をしている。
 それによりリソースを減らし、魔法の種類を増やしたり、発動の高速化、威力の増加を補助できる。
 『アームスレイブ』には、その概念がない。
 だから、魔法の種類が少なくなるのだ。

「……では、『アーバレスト』の仕様書を見てもらいましょう」

 ソースケさん専用機だな。
 ……おいおい。
 
「……これは……確かにAIは入っているが、その他の構成が無茶苦茶だ」

 わかるところで言うと、擬似リンカーコアからの伝達率が『ガーンズパック』より二十%向上してる。代わりに、魔力制御率が五%ダウン。
 魔力量は増加してるけど、制御率が落ちてるせいでかなり緻密な構成が必要になる。
 これで魔力放出したら……うまくやれば一般魔導師のシールドは砕けるけど、ミスると手元で暴発するぞ。
 
「ピーキーね……クイントさんのリボルバーナックルみたい」

「クイントさんのも大概ピーキーですけど……これはそれ以上ですよ」

 これは使い手を選ぶぞ。
 そりゃ、ソースケさん専用になるわ。

「……本気で実戦向きじゃないですね。……そう言えば、先日も一回も使わなかったな……」

「いや、君がいたからじゃないのか?」

 う、それ言われると……

「しかし、この擬似リンカーコアはよくできている。……これを開発したのは?」

「……私の国の科学者で、今は亡くなっています。……そして、彼が最初の『ウィスパード』でした」

 ……それだ。一番の謎。

「その『ウィスパード』とは?」

「はい、時たま、この世界で見つかるんですが、この世界の科学ではありえない技術を知っている者がいるんです。今の技術レベルより、二十年、三十年先の技術を持つものが」

 それは、ある日突然囁かれる。
 未来の知識、ありえない技術。
 突拍子もない発明品。一歩先の科学。
 囁かれし者。
 
「この『アームスレイブ』も、その中の一つ『デバイス』作成技術の延長線で作られました」

「ばかな!? デバイスを作成できるのは、我々時空管理局の認定試験を受けたものだけだぞ!?」

「クロノ執務官、落ち着きなさい……それを知っていたものが現われ、デバイスを作って見せたと?」

「はい。しかし、それを使えるものは、誰一人おらず、研究を重ねた上で現われた新たな単語、リンカーコアが必要と分かりました」

 そう、デバイスを起動するためには、魔力生成炉リンカーコアが必要だ。そこから汲み出される魔力を使用し、デバイスを起動、魔法を運用する。

「そのときの研究チームは、そのリンカーコアが人の体内に宿ると知り、世界中の人間からサンプルを取りました。そして、最初の一人を見つけた」

「……まさか……その人を実験対象にしたのか!?」

「……そのようです。実験や研究を重ね、生まれたのが、この擬似リンカーコア。通称『Λドライバ』。……これを用いて、アームスレイブは作られました」

 ……あの科学者は言っていた。
 二人目は実験に耐えられずに死んだと。
 三人目はエレン。ある種、あいつらにとっての完成品。

「じゃあ、その人は……」

「……私たちが『アームスレイブ』を知って、研究しだした頃には、もう……」

「なんてことを……」

 ……まあ、わかりきっていたことだ。
 科学の発展に犠牲は憑き物。
 誤字にあらず。
 そしてその犠牲は……お金だったり、資源だったり、人間だったり。
 等価交換だ。

「私たちは、アームスレイブを運用することで、同じアームスレイブを運用するテロリストを倒す為の剣としました。……ですが、五月。私は、次元世界の事実を知りました……せつなさんに、あったんです」

「……引き継ぎます。最初、私はテッサから、ウィスパードの疑いをもたれていました。ウィスパードの特徴の一つに、多重人格の発現があるそうですから」

 他人からみたら、私の言動はそう見える。
 私と俺が混同した人格だから。

「そして、私はウィスパードの説明とともに、アームスレイブの説明も聞きました。……そして、それにまつわる研究の事も。なんとかして、この技術を管理局に知られる前に、排除することを、テッサに提案しました」

「……どうして、そのことを私に言ってくれなかったの?」

 いや、あんた管理局だろが。

「その頃、ジュエルシードの件も残ってましたし、極力関わらない方向で動きましたから」

 なのはに止められたし。

「せつなさん、必至で私たちに技術を捨てるように説得してくれたんです。……この技術があなた方にばれて、この世界が火の海にならないように」

「……せつなさん? 管理局が管理を決めた世界に攻め込んで管理するわけじゃないのよ? ちゃんと話し合いを……」

「……この世界に住むものとして、意見しますが、まず、その話し合いは決裂します」

 私ではなく、テッサがそう言い切った。

「それは、何故でしょう?」

「だって、そうでしょう? 『我々は昔からその技術を管理しているから、それを発見した君らも管理されるべきだ』……そう言われて、憤慨しない人間がいますか? どんな経緯があったにせよ、この世界で生まれた技術を横取りされるようなものです。……そして、決裂した組織同士が次に行うのは、力による侵略と、力による抵抗。……戦争の始まりです」

「そんな単純な!?」

「その単純なやり取りを、文明が生まれた頃から続けているんです! 四千年以上もの昔から……」

 ……人間は、愚かな行動を繰り返す。
 そう運命付けられた生物だから。
 
「せつなさんは、その連鎖を断ち切ろうとした一人目なんです。私も、その考えに賛同します。……今、この地球上で、紛争はまだまだ続いています。テロリストたちも、まだまだ活動しています。その上に、異世界からの介入者? 勘弁してください! この世界だけでも一杯一杯なのに、他所の世界の事まで考えられませんよ!」

「大佐、落ち着いてください」

 ……テッサも、感情的になるんだなぁ……
 いや、年齢を考えると当然か。

「……失礼しました」

「いえ、そうですね……私達も、この世界を火の海なんかにしたくありません……何しろ、娘の故郷ですし、私達も先日から住み始めましたし」

「ほう、そうでしたか……せつな君が散々私たちの勧誘を蹴っていた理由の一つは、貴方たちでしたか」

「……せつなさん。そうなの?」

 そうなんです。

「それで、もし、この世界の魔法技術を廃絶する為の知恵があれば、お貸しいただきたいのです。お願いします」

「……艦長」

「うーん……そうね、擬似リンカーコアの欠点を拡げようかしら。後、構成の穴も広げられるわ……そうだ!」

 またまた嫌な予感。

「テッサさん、この仕様書、持って返っていいかしら? こっちの世界に、こういうのに詳しい研究者いるから、その人に見せてみるわ。私の艦にも技術者いるから、彼女にも手伝ってもらいましょう」

「ありがとうございます!」

 ……こっちの世界の研究者ってまさか……

「プレシア女史を巻き込む気ですか?」

「ええ、ほら、テッサさんの苗字つながりだし」

 それは関係ないだろ。
 まあ、理論系は研究者たちに任せよう。

「後は、ミスリル以外の研究施設を持つ国だけど?」

「そちらは、我々で探し出して、虱潰します。……その間に、『アームスレイブ』不要論を広げれば、根絶すると思います……何年かは、掛かるかもしれませんが……」

 そっちも、テッサたちに任せよう。
 ……じゃあ、これで。

「ようやくテッサの勧誘地獄から抜けられるわけだ?」

「う、地獄とか言いますか……」

 たりめーだ。

「一日十件も掛かってきた日にゃ、ホントに足腰立たなくしてやろうかと……」

「だからセクハラはやめてください! ホントに八歳で女の子ですか!?」

 いや、どっちかというと微妙。

「つーか、足腰立たなくって、何されると思ったんだ?」

「う……そ、それは……」

「ちなみに、くすぐりの刑のつもりだったんだが……艦長さんは何を想像したのかなぁ~?」

「り、リンディさん! 絶対教育間違ってますよ、貴女の娘さん!」

「ごめんね? 私の知らないうちにこうなってたの……私も最初苦労したんだから……」

 はっはっは。
 いや、ホントごめん。

「……君は敵に回したくないな。厄介極まりない」

「味方にするのが得策だ。かなり頼りになる」

「……僕は頭痛いですよ、味方でも……」

「細かいことを無視すれば、彼女ほど頼りになるものはいないぞ? 君は少し真面目すぎる」

「……やはり、そうなんでしょうか……」

「君はまだ若い。もう少し、頭を柔らかくして、受け入れる余裕を作りたまえ。……余裕ができれば、仕事を楽しむこともできる」

「……深いですね」

 て、そこは何仲良くなってやがる。
 なんか師弟みたいになってるよ?



 そして、この懸案が解決したのは三年後。地球から、完全にアームスレイブがなくなり……代わりに、ミスリルの西太平洋戦隊主要メンバー引き抜いて管理局に入れたのは内緒だったら内緒だ!



 これが六課の代わりになるとは思わなかったんだよもん。





 
           ******************


*と、こんな感じになりました~。
たくさんの投票、ありがとうございました。
次回は……飛んで二年後。
Sts崩壊序曲、始まります。

であ、作者でした。




[6790] L18.人間と機人の境界 前編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/06/13 04:46
 あれから。

 嘱託魔導師試験をクリアし、時空管理局局員訓練校に入校。
 小学校と訓練校の二重生活。

 秋なんか会ったのか、いつの間に冬になったのか。
 怒涛のようにイベントがすぎ、クリスマス、正月、二月、三月、桜が咲いて。
 最短コースで訓練校を卒業して、四月にははやてが転入して。

 私も現場に出るようになって、まずはアースラの仕事をこなし、気がついたら春が過ぎてて。
 例の研修結果で五人とも合格してそれぞれの部署に配属になり。

 なのはは武装隊。順当な結果といえば結果。
 フェイトは嘱託魔導師から執務官を目指すらしい。
 はやては捜査官を目指して、入局。陸士部隊に配属。
 すずかは医務官を選択。血を見ても平気だからか?
 アリサは技術局に。マリエルさんの弟子に。アースラでいろいろ指導してもらったらしい。

 ヴォルケンズは教会からの出向という形で入局した。
 シグナムは本部航空隊。
 ヴィータはなのはと同じ武装隊。
 シャマルさんはすずかと同じ医務官に。
 リインフォースははやての補佐を、というかデバイス扱いではやてについていった。
 ザフィーラだが、入局はせず、地球で海鳴の警護をしている。

 アルフなんだが、フェイトについていかず、アリシアの遊び相手になるらしい。
 ユーノは無限図書館の司書になった。以前手伝ったことで重宝され、そのまま居つくことになったそうだ。

 私なんだけど、今、アースラから離れ、陸士部隊にお世話になっている。
 そう、ゼスト隊だ。
 なんだかんだ言いつつも、流れはストライカーズに移行しようとしている。
 なのはとフェイトはデバイスにカートリッジをいつの間にか仕込み、はやては指揮スキルを勉強し始めた。
 すずかとアリサが流れに加わり、楽しく騒がしく日々が過ぎていく。
 
「……はい? プラントの奇襲……ですか?」

「言葉は正しく使え。強制捜査だ」

 新暦六七年。あっという間に五年生です。
 
「我々の部隊が追っている事件の概要は分かっているだろう? その重要施設の一つが判明した。明日10:00時に突入、強制捜査を行う。そこでだ」

 ゼスト隊長の手から、一束書類が渡される。
 一番上のタイトルを読むと……はい?

「転属って……え? 私ですか!?」

 おいおいおい!
 俺だけハブかよ!

「隊長、私は参加できないというんですか?」

「……すまんな。正直に言えば、俺もお前に参加してもらいたかったが……」

 ? ゼストさんの意思じゃない?
 よくよく見るとその転属の指示者は……

「……小将?」

「ああ。レジアス小将からの命令だ。……おそらく、お前の家族からの根回しかもな?」

「……」

 それはない。
 お母さんがそんなことをするはずがない。
 だって、入局時に言ったはずだ。

『なるべく、貴方の邪魔をする行動は取らないから、安心しなさい』

 と。
 ……この部隊に転属できるようにしてくれたのも、お母さんだ。
 と、なると……あ、そうか。
 私を聖王の血族と知っている人がいた。
 ……なら、小将にも情報が行っているかもしれない。
 ……ドクター。こんな根回し要らないぞ?
 ええい。後でドゥーエ姐さんに文句言ってやる。

「……わかりました。……今日まで、お世話になりました」

 諦めて敬礼……もちろん、途中参加する気満々だけど。

「ああ、今までご苦労だった。……次の部署に行っても、しっかりな?」

 返礼を返してくれるゼスト隊長……たぶん、もうしばらくは会えなくなる。
 明日の強制捜査で、おそらく、ゼスト隊が全滅する。
 ……そんなこと、させない。

「……隊長。明日は、気をつけてください」

「わかっている。……お前も、頑張れよ」

 ぐじぐじと頭をなでる。
 入ってきた当初から、何かあれば人の頭を撫でる隊長。
 ……死なせたく、ない。

「では、失礼します」

「ああ。……またな」

 別れは簡単に。
 直に、会えるから。

 隊長室から出て、次はクイントさんの机に。
 クイントさんとメガーヌさんが話している。
 ……私に気付いた。

「あ、せつなちゃん……隊長からの話、聞いたんだ」

「はい。……すみません。こんな急な話で」

 クイントさんも知っていたようだ。
 もちろん、メガーヌさんも。

「まあ、せつなちゃんに参加させるのは、ちょっときついような仕事だからね。……私たちに任せておきなさい」

「メガーヌのいうとおり。お姉さんにお任せよ?」

 ……でも、史実は、二人を……そして、その子供まで不幸に巻き込む。
 そんなのは嫌だから。

「……わかりました。でも、気をつけてくださいね?」

「もっちろん! また、皆で遊びに行くんだから!」

「そのときは、私も連れて行ってね? 娘も紹介するわ」

 ……ああ、そのつもりだ。
 そのためにも。

「じゃあ、最終業務にうつります……今日まで、ありがとうございました」

「ええ。ご苦労様」

「次の部署でも、頑張りなさい」

「……はい!」

 今日は我慢だ……




 書類を提出後、挨拶回りを済ませ、隊舎を出る。
 ……前方に髭達磨発見。

「……くおら、達磨」

「……相変わらず失礼だな、お前は」

 無言で指を刺す。その先には自動販売機と休憩室。

「……まあ、今回は流石に不満があるだろうが、愚痴ぐらい聞こう」

「たりめーだ。ガキの愚痴ぐらい聞きやがれ」

 この達磨、実は結構上の将校なのだが、ファーストコンタクトの時にえらい恥をかかされた。
 向こうは意図してやったわけではないので、逆にそれがきっかけで、こうやってタメ口を聞くような仲になってしまった。
 達磨から紙コップを受け取り、隣に座らせる。

「……で? 何で今日いきなり転属なんて処理しやがった? 事前通達ぐらいあるだろ?」

「ああ、ゼストが、受け持ってる事件な。隊ごと任務から外れてもらおうと思っている」

 ……さいで。
 上からの圧力が来たか。

「それでまずはお前だ。……流石に、聖王の血を絶やすわけにはいかん……と、評議会から言われてな?」

「おいおい、上はもう知ってやがんのかよ……」

 ええい、ドクターめ。ちゃんと情報止めとけよ。

「正直わしも驚いている。まさかお前が聖王の……」

「わざわざ言うことでもないだろ。今更、聖王家の復活とか古臭いこと……ばかばかしい」

 ちょっと歪だが、この世はちゃんと民主主義なんだ。
 王権復古とかあほなこと言い出す連中じゃあるまい。

「……まあ、そうだな。次の部署は、108部隊。……確か、お前の知り合いがいる部隊だろう?」

「俺、あそこの親父に嫌われてるからなぁ……」

「そうか? お前の受け入れ先を募集したら、真っ先に食いついてきたぞ?」

 食いつくとか。

「……マジかよ、そんなに虐めたいかあの親父……」

「知らないところに行くよりかましだろう。……まあ、頑張れ、小僧」

「誰が小僧か。……おっさんには、このスカートが見えんのか?」

 陸士の女子制服はタイトスカートです。
 なお、若年隊員用。

「……やはり毛糸か?」

 空の紙コップをぶつけて一言。

「地獄に落ちろ、セクハラ親父!」

 背中を向けてすたすた立ち去ってやった。
 ゼスト隊入隊当時……本部内で急いでいたところ、足がもつれてすってんころりんした後、スカート脱げて毛糸のパンツもろだしして、影で必至に直してるところをあのおっさんに見られて……
 それ以降、あのおっさんに気に入られ、こうしていろいろ情報を貰っている……
 レジアス・ゲイズ少将。私の中ではただのロリコン親父である。



 ……本部から出て、家路へ。
 明日は休みで、あさってからゲンヤのとっつあんのところだ。
 空港トランスポーターで、まず本局へ。
 本局から中継点を通って、自宅へ。
 ……戻ってみると、誰もいない。

 ……なんだ、今日は一人か。
 荷物を自室に置き、シャワーを浴びる。
 明日は早めに出て、直に目標地点へ。

 ……せめて、クイントさんは助けないと……
 いや、クイントさんだけじゃない。
 メガーヌさんも、ゼスト隊長も。
 絶対に死なせない。死なせるもんか。

 シャワーを止めて、身体を拭く……
 女の子のからだ。……身長はちょっとずつだが伸び始めてるけど、胸囲は……
 うう、諦めよう。
 クロノはいいなぁ。最近身長伸び初めて、だんだん大人になっていっている。
 こっちは下手すると胸なしの大女に……でも、母さん(産みの親)はそんなに背は高くなかったそうだけど。
 いいや。今日はもう寝て、明日に備える。

 ……明日は、激戦だぁ……
















 ……起きたら一日終わってあさってって何事さこれ?
 寝……寝過ごした?
 おいおいおい! なんだこれなんだこれ!
 クイントさんは!? メガーヌさんは!? ゼスト隊長は!?
 パラディン! 状況!

【あ! マスター! やっと起きましたか!?】

 やっとって……

【マスター。今どこか気付いてますか?】

 ああ? どこって……あれ?
 俺の部屋じゃなくてここ……

「病院?」

 うん、間違いない。
 ここ、海鳴の病院だ。

【マスター、何度呼んでも起きなくて、リンディさんに頼んでここまでつれて来て貰ったんですよ? ……もう、死んだように眠っていて……】

 ……疲労がたまってた?
 いや、そんな、いくらなんでも、二十四時間以上も眠って、一度も起きないなんて……
 そんなこと、これまでに一度も……
 確かに一回あったけど、あれは魔力エンプティで倒れたときだけで。
 今回は何も……?

「一体、何があったんだ?」

 何か、何かなかったか?
 ……思いだせん。

 あ、何か、夢を見てたような……何の、夢だっけ?




 <???>

 ……あれ?
 ここは……どこだっけ?

「? カグヤ? どうした?」

 かぐや? だれ?

「……記憶野の不調か?」

 ……あれ? チンクさん?
 何でチンクさんがここに?

「……一度、ドクターにみてもらうか?」

 ……ドクター。ドクター・スカリエッティ。
 私の製作者で、父親。
 ……で、目の前のは……チンク姉さん。
 あ、そうだそうだ。

「いえ、すみません。ぼうっとしてました」

「……大丈夫なんだな?」

 そうだ。私は戦闘機人の特別試作型。名前はカグヤ。
 私の遺伝子提供者からの連想で決まった。
 
「はい、ごめんなさい」

「……まあ、いい。それより、私は奥に行く。この場は任せた」

 この場……ああ、作戦行動中だっけ。
 ドクターのプラントの一つに管理局の部隊が突入してきたから。
 チンク姉さんと私で、殲滅することになったんだ。
 私の初実戦でもある。
 ……まあ、さっきまで、ほとんどガジェットに任せっぱなしだったけど。

「AMFの濃度をあげておく。もし、こちらに局員が来たら、容赦はするな。いいな?」

「はい。姉さん……」

 チンク姉さんが奥に走っていく。
 ……えっと、私の能力を再度確認。

 インヒューレントスキル『スペルワード』。
 遺伝子提供者とは関係なく発現した攻撃型のスキル。
 力ある言葉を唱えるだけで、二〇秒から九九秒の間、無制限に弾幕を張る事ができる。
 弾幕パターンは言葉によって違い、力ある言葉は私が無意識に取り出して使っている。
 もちろん、私自身のオリジナルもある。

 ……無意識を調べて、その元を探すと、『トウホウ』という言葉が出たが、ドクターも何か分からないそうだ。
 後、リンカーコアもあるから、デバイスがあれば魔法も使える。
 ……予算の都合で、私用のデバイスはまだできてないそうだけど。
 ……? あ、聴覚センサーに反応。
 この音は……ローラー?
 
「……誰!?」

 声に振り向く……あれ?
 見覚えが……ある?

「……え? あれ? ―――ちゃん!?」

 あれ? 私を知ってる?

「なんであなたがここに!? それに、そのかっこ……―――――はどうしたの?」

 ……えっと、本当に誰だっけ?
 まあいいや。

「貴方は……管理局の人ですね?」

「そ、そうでしょ? 昨日まで一緒に働いていたじゃない!」

 肯定した。……この人と働く?
 そんな記憶……なんであるの?
 ……まあいいか。チンク姉さんの言いつけを実行しよう。

「局員は容赦せずに……抹殺が、姉さんの言いつけ」

「!? ―――ちゃん!?」

 IS発動。

「禁忌『スターボウブレイク』」

 銀色の弾幕が空間を照らす。
 いつ見ても綺麗。
 これだけの能力だけど、私はこの能力が好きだ。

「―――ちゃん! 私よ!? わからないの!?」

 ……だから、貴方なんか……知らないはずなんだけど、何で言い切れない?
 それにしても、よく避ける。
 結構難しいはずなんだけど。
 チンク姉さんもトーレ姉さんも、私のISには勝てないと言っていた。
 クア姉さんはそもそも前線に出ないから、私とは模擬戦もしてくれない。
 セイン姉さんは裏技があるから、よく負けてる……バインド覚えたら私のほうが強いけど。
 ……スペルオーバー……かすり傷が多い。でも、まだ動いてる。

「……そう、違うのね。貴方は―――ちゃんじゃないのね?」

「違う……私は、カグヤ。貴方は……誰?」

 名前なんか聞くな。
 何をやっている私。
 この人は殺さないと。いや、殺しちゃ駄目。
 なんだ? 思考にノイズが……
 いつかの、どこで? 私は……誰だっけ?

「私は、管理局の……クイント・ナカジマ」

 ……クイントさん?
 あ、知ってる。
 ……知ってる? なんで?

「……クイント……ギンガとスバルの母親?」

「……そう、そうよ? やっぱり、せ――ちゃんなの!?」

 ……やっぱり殺そう。
 この人は私を……駄目、殺しちゃだめ。
 二人が悲しむ。
 私も悲しい。
 だからなんで!?

「――なちゃん……」

「いや、来ないで……私を壊さないで……」

 私が壊される……人格データが壊れる……
 人格……そうだ。
 私になる前だ。
 そして、私は……

「!?」

 ガジェット!? クイントさんを狙って!?

「駄目! 禁忌『レーヴァンティン』!!」

 ……ガジェットを破砕する。
 何でこんな事してるの?
 この人に容赦しちゃ駄目なのに。
 ……違う。守らないと、この人を。
 そうだ。

「……クイントさん。他の人は?」

「せ―なさん。……えっと、大丈夫なの? 私の事、分かる?」

 分かるけど分からない。
 それに、なんって呼んでるのかもわからない。

「もう一度。私を呼んで? 私の名前は……」

 私は誰?
 私は誰?
 私は……

「貴方は、せつなちゃんでしょ? せつな・トワ・ハラオウン」

 ……あ? 
 あれ? あ、あれ?

「……クイントさん? 何でこんなところに?」

「せつなちゃん……もう、心配かけないでよ」

 心配って、そんな泣きそうな顔しなくとも……て、あれ?

「……わ、私なんでこんな格好……て、じゃあ、ここ、ゼスト隊長が言ってたプラント?」

「そうよ! 良かった、思い出したのね?」

 ……違う、私せつなの身体じゃない。
 ……あ、まさかドクター!?

「私の遺伝子で新しい機人作ったの!? あの変態ドクターーーー!?」

「え? 新しいって……え? せつなちゃんじゃないの?」

 間違いない。
 体の重さが段違いに重い。
 まあその分、馬力が違うからいつもどおり動けるけど……
 うわ、センサーが網膜に直接入ってくる。
 完全に機人の身体だこれ。

「と、言っても、ほぼ全部が機械ってわけでもないのか。……ああ、もう、あの変態。私の身体データ全部見たなーーー!」

 うう。何か羞恥心。
 しかも、こっちの身体だと、私のほうが主になってる。
 ……うん、男性意識が出にくい。
 あの記憶も、知識でしか出てこない。
 ……こっちは、せつな重視だ。でも、体の名前を使えば……

「とにかく、クイントさん。メガーヌさんたちと合流して、撤収を。この中じゃ、魔法、使い辛いでしょ?」

「え!? あ、うんそうなのよ! 魔力打撃がぜんぜん使えなくなって……」

「その分は私がフォローするから、とにかく、皆と……あ」

 そうだ。
 先発隊はガジェットたちが潰したんだ。
 ……じゃあ、残っているのは……

「クイントさん! メガーヌさんは!?」

「それが、はぐれちゃって、私だけなの。他の隊員ともはぐれて……」

 ……皆……メガーヌさん……くそ!
 ここからのリカバリは無理。
 ゼスト隊長は多分奥でチンク姉さんと対戦中。
 刹那の記憶だと……今からじゃ間に合わない!
 ……最善は……クイントさんを連れて脱出!

「……クイントさん。ごめん。今から、脱出します」

「でも、他の隊員を助けないと……」

 ……駄目だ。まだ泣くな。
 もう、ドクター恨むよちくしょう。

「他の隊員は、もう、手遅れです……ごめんなさい……」

「まさか……あなたが!?」

「直接じゃないけど……同じことですね。とにかく、脱出を」

「せつなちゃん!」

 違う!

「いいかげんにしてよ! 私せつなじゃない! 私はカグヤ! せつなの遺伝子で作られた、戦闘機人!」

「!? ……そう……なの?」

「記憶の共有なんて奇跡起こってるんだから、これ以上の奇跡を求めないで! ……今は、貴方をここから連れ出すのが先決なの。お願いだから……逃げることを考えて……」

 こんなところで、殺させない。
 死なせない。
 
「……わかったわ。貴方を信じる。……カグヤちゃんで、いいのね?」

「はい。……あ、ちょっと待って下さい」

 通信? 誰から?

『(……カグヤ? 無事か?)』

「(チンク姉さん? ……はい、無事です)」

『(こちらは片付いた)』

 !? ……ゼスト隊長……ごめん……

『(そちらはどうだ? 片付け終わったか? ……あと、一人いるようだが……苦戦中か?)』

 ……ええい、私はせつなであり、カグヤで、でも、クイントさんは殺したくないし、死なせたくないから。
 ドクター、姉さんたち本当にごめんなさい!

「(ごめん、チンク姉さん。この人連れて、私逃げるから)」

『(……なにぃ!?)』

「(本当にごめん! 文句はドクターと、後せつなに言って! じゃあ、元気で!)」

『(お、おい待て! 何でそこでせつなが出てくる! おい、カグ)』

 通信終了。
 よし、脱出だ。

「プラントの地図呼び出し。……こっちです!」

「ええ! わかった!」

 ……チンク姉さんのマーカーをすり抜け、プラントに穴を開けて、ショートカットに次ぐショートカット……
 そして、施設を抜ける!
 ……外だ。
 外の光。眩しい。
 クイントさんも、五体満足だ。
 ……よかった。クイントさんだけでも助けられた。
 AMFの効果範囲外に出る。

「……ここから先は、魔法が使えるようになります。……ゼスト隊長と、メガーヌさん、後、部隊の皆には……」

「……カグヤちゃん。気にしちゃ駄目。……それより、まず、せつなちゃんに会いに行くのが先決かな?」

「……そうですね。それが一番でしょう……えっと、まず……」

 どうしよう。
 下手に動くと、身元がばれる……あ、そうだ。
 こういうときは……

「教会に行きます。あそこなら、転送ポートありますから、それを使わせてもらいましょう」

「……大丈夫なの?」

 いざって時のために、いろいろ行動したかいがあった。

「ええ。あそこのシスターと、友達ですから」

 せつなとだけど。
 ……さあ、私の姉妹に会いに行こう。
 ほとんど、同一の存在だけど……
 パラドックス起きないよね?





[6790] L18.人間と機人の境界 後編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆dad217cc ID:d17439a7
Date: 2009/03/30 21:29

 <せつな>

『じゃあ、大丈夫なのね?』

「はい。……すみません。迷惑かけました」

 病院の廊下。公衆電話でリンディさんに連絡。
 ……それで、聞いた。

「……全滅……ですか……」

『……それでね? クイントさんの遺体だけ、まだ見つかってないの。……他の隊員のは、見つかったんだけど……』

 ? あれ? 確か、クイントさんは……ちゃんと遺体を返されたはず……
 でも、間に合わなかったのは、事実。

「……分かりました……」

『後、ナカジマ三佐には貴方の配属は待って貰ったわ。伝言があるけど、聞く?』

「おねがいします」

『えっと、『体治してから出て来い。待ってるから』……て。貴方の事、期待してるみたいね』

「……ありがたいことです……」

 こんな情けない俺を、待ってるって……畜生……

「じゃあ、二日ほど、休暇に入ります。……ありがとう、母さん」

『……ええ。しっかり休みなさい。じゃあね?』

 ……電話を切る……
 最悪だ……
 皆を……死なせてしまった……

「こんなはずじゃ……なかったのにな……」

 本当に、クロノはいいこと言ったよ……
 ……まあ、果たせなかったことは仕方がない。
 ゲンヤさんに殴られて、ギンガ達に嫌われて、クイントさんの冥福を……?
 ……いかんな。もう、俺を呪いに来たか?

「……せつなちゃん。こんな所に」

 足あるなんて、よっぽど恨めしかったのか……じゃなくて、

「……ゑ!?」

 本物……生きてる!? 

「え!? クイントさん!?」

「そ、そうよ? クイントお姉さんよ?」

 はぁ!? なんでどうしてどうなった!?
 夢でも見てんのか俺!?

「……えい」

 夢なら、ここで目が覚めるはず!
 ……抱きついても、目は覚めない。
 ちゃんと、体温がある。
 幽霊でもない……生きてる!?

「……せつなちゃん……」

「……心配した……ゼスト隊が、全滅したって聞いて……」

「……うん。ごめんね……」

 抱きしめ返してくれる。
 うん、この人は、本物のクイントさんだ。
 良かった……

「でも、何でクイントさんだけ……」

「……あの子が、助けてくれたの」

 あの子?
 ……はい?
 なんだあれ?

「……」

 無言で近寄ってくる。
 ……鏡?
 いやいや。
 ……俺?

「……君は……」

 俺が、全身タイツを着て、立ってた。
 全身タイツ? て、これってチンクさんが着てた奴と同じ?
 そうだよ。ナンバーズのボディースーツじゃん。
 え? てことは……

「……はじめまして、オリジナル。私は、貴方の遺伝子で作られた戦闘機人。名前はカグヤ」

 カグヤ……
 蓬莱ニート?
 永遠だから?
 ……つまり。

「俺か!?」

「私です」

 ……この子は、俺の知識を持った私?
 ……そう言えば、さっきから……いや、目覚めたときから、女性意識が出にくくなってる。
 魂の分離? 記憶の共有?
 ……それの構築で、一日寝てたのか!?
 ありえる。
 ……た、確かめる!

「イイカヨクキケ蓬莱ニート!」

「私は蓬莱人形ではない!」

 ……いきなりのやり取りで唖然とするクイントさん。
 ごめんもうちょっと付き合って。

「コイン一個じゃ命一つも買えないぜ?」

「あんたがコンテニューできないのさ!」

 ……東方系はばっちり。
 なら!

「全力全開!」

「疾風迅雷!」

「「『ブラストカラミティ』!!」」

 漫画版もいける!
 これはどうだ!

「私は、もう誰も、傷ついてほしくないから!」

「少し、頭冷やそうか?」

 ……できる!
 レスポンス早い!

「……俺、なんだな?」

「……私、だよ?」

 ……なら、ここは……

「妹よ!」

 さあ、返してみろ!

「母さん!」

「ちっくしょー! そう来たか! でも許すぞ娘よ!」

「でも母子ってシチュエーションは禁断だよね。てことで姉さん!」

 ひし!

「……えっと、一応感動の再会……なの?」

 会ったことは一度もないけどな?

「うう、やっぱり胸ない~。そこくらいは弄っとけドクタ~」

「そこを改造してから来るべきだったかも~。ごめんね姉さん~」

「クイントさん助けてくれたんなら許すぞ。……ゼスト隊長や、メガーヌさんは……」

「ごめん。間に合わなかった……ごめんね」

「いや、俺は寝こけてたから、文句は言えない……ありがとう」

 ……ちなみに、はたから見たら双子の抱擁にしか見えない。
 それに。

「ふ、二人とも……手つき怪しいわよ……特にせつなちゃん」

 俺かよ。

「姉さん、エッチ」

「お前もな……さて。ちょっと情報整理する。病室来い。今、俺疲労で入院中だ」

 二人を連れて病室へ……そこには。

「……いたな、カグヤ。……せつなも」

 五番さん降臨。
 行動早いな。

「う、チンク姉さん……」

「……チンクさん。……目は、ゼスト隊長に?」
 
 アイパッチ装備済み。
 ……そして、クイントさんは、

「……貴方が……隊長を!」

 デバイス準備……できない。

「……周囲に、AMFを張ってある。……魔法は使えないぞ」

 ……デバイス展開できないほどの濃度ってわけね。
 流石に準備は万端か。

「……チンクさん。カグヤから話は聞いた。……それで、そっちはカグヤをどうしたいんだ?」

「私が聞きたい。カグヤ。何故私の言いつけを守らなかった?」

 ……記憶の共有が起こったなら、簡単な話。

「クイントさんを殺せば、彼女の娘たちが悲しむからです。ゲンヤさんも、悲しむし、何より……せつな姉さんが一番悲しむ。……それが、一番嫌だった。それだけです」

 ……だよなぁ。
 人の悲しむ顔を嫌う俺らだから、その答えは当然だ。

「……せつな。カグヤはどういうことになっているか、お前はわかるのか?」

「俺の記憶が流れたんだろ? 記憶の共有さ。……どんな奇跡か知らないけどな。……文句はドクターに言え。俺の遺伝子なんか使うからだ」

 まあ、使わなかったら、カグヤの代わりに俺が助けにいけたはず。
 文句はあるけど、感謝もしとこう。
 とりあえずは。

「ドクターの自業自得だ。……後、カグヤを連れて行くのか?」

「……なら、この先、カグヤは私の話を聞かず、そんな理由で動く可能性はあるのか?」

 ……あるかな。

「対象が、俺の知り合いで、大切な人なら、確実にな。……もちろん、それはお前らにも適応されるし」

「……私、せつなもだけど、姉さんたち、大切だから……」

 ……うう、俺のクローンだけど、可愛いぞカグヤ。

「……せつな。しばらく、カグヤを預けておく。……ドクターに、指示を仰ぐが……もしかしたら、お前にも来てもらうかも知れんから、その時は」

「同行しよう。……カグヤの身体データとか、体じっくり見たこととか、余罪はたっぷりあるしな」

 ふふふふふ。
 ぼっこぼこにしてやる。

「……待ちなさい」

 ……クイントさん。

「……なんだ?」

「ゼスト隊長は……」

「あの御仁は、私が倒した……それが、私に託された命令だ」

 ……その言葉は、辛い。

「その件もあったか。チンクさん?」

「なんだ?」

「今日は見逃す。……次あったら、覚悟しとけ。お仕置きしてやる」

 大切だけど、大切だけど、ゼスト隊長を殺した罪は、購ってもらう。
 ……視線が交わる。
 
「……ふん。返り討ちにしてやる」

 そう言って、彼女は病室を出て行った。
 ……同時に、病室内を重い空気が流れる。

「……姉さん」

「すまん。……でも、ゼスト隊長は、俺の、尊敬する人だったんだ」

「……知ってます……知ってます……」

 俺の感覚と、私の感覚にはずれがある。
 カグヤと記憶共有したことで、せつな側に俺が強く出て、カグヤ側に私が強く出ている。
 完全とは言い難いが、住み分けが行われた。
 ……さて、これがどう影響するか……

「クイントさん」

「……うん。ごめん。そう言えば、あなたは彼女の事、知ってたのよね」

 ……クイントさんには、二年前の夏に話した。

「はい。……まさか、カグヤなんてのができてるとは知りませんでしたが」

「そう……私達が、あそこで全滅する可能性も知ってたの?」

「……させるつもりは、ありませんでした。……参戦するつもりでしたし」

「……命令違反をしてでも?」

 その通り。
 大体。いつもの事だ。

「それで始末書も覚悟の上でしたよ。……まさか、一日寝こけるなんて、思っても見ませんでしたが」

「そっか……せつなちゃんはいつもどおり、無理しようとしてたわけだ」

 ……いや、面目ない。

「……すみません」

「もう、いいわよ。……それで、これからどうしようかしら?」

 ……よし、過ぎたことは過ぎたことだ。
 まず、クイントさんだ。

「クイントさんとカグヤは、しばらくこっちで暮らしてもらいます。カグヤ。クイントさんの護衛を。……前の俺の部屋。いつでも使えるようにしてあるから、そこ使え」

「うん。わかった。……あ、姉さん。お願いがあるんだけど」

「どした?」

「私のデバイス、ストレージでいいからもらえないかな? ISじゃ、広域戦闘しかできないから」

 ……広域?

「……どんなISだよ」

「え? ……だ、弾幕」

「喰らいボム?」

「かすり」

「かすり点?」

「グレイズ」

「グレイズ!?」

 おいおい。
 スペカかよ。

「うん。IS『スペルワード』。スペルカードシステムそのまんま。喰らいボムもできる」

「できるのか……」

 ドクター……あんたホントいい仕事しすぎだよ……

「わかった。マリエルさんに頼んで、ストレージ貰ってこよう。……今日明日はここにいるから、それ以降になるけど、それは勘弁な?」

「うん。姉さん、ありがとう」

「可愛い妹の為だ。……もう一回抱いていい?」

「うん、いいよ?」

「こらこらこら! 姉妹でそういうのは……ちょ、駄目よ?」

 やっぱ駄目か。

「仕方ない。また今度に」

「今度でも、普通に駄目でしょ! ……せつなちゃん? 女の子同士でそういうことは、いけないことなのよ?」

 いや、そんな力説されても。

「俺、女の子大好きだし」

「私も、男の人嫌いだし」

 ……あれ?

「……嫌いまでいくのか? カグヤは」

「えっと、触られると……嫌。怖くて……」

「ドクターは?」

「ドクターは平気。エッチじゃないから」

 ……分からない。

「えっと、じゃあ俺は? 男性意識強いけど」

「せつな姉さんは好き。私だし。優しいし……」

 ……分からん。

「……えっと、何? 貴方たちの中で、男に興味はないの?」

「……憧れとかはありますけど、仕草とか、立ち振る舞いとか。けど、恋愛感情はないですね」

「私はまったく。だって、男って女を犯すことしか考えてないし」

 いや、それは極端だぞ……て、そうか。
 俺の記憶に引っ張られてるのか。
 あれがトラウマになってるんだな……

「……せつなちゃん。カグヤちゃんなんかあったの?」 

「俺の前世は知ってますよね? それの記憶を知ってるから、トラウマに……」

「なるほど。……せつなちゃんは、直したほうがいいと思う?」

「思いません。てか、大事な妹を男なんかにわたさねー」

 ふふふふ。
 カグヤは俺のだ。

「……せつなちゃんも大概歪んでるわね……」

 何を今更ってやつです。



 とにかく、カグヤとクイントさんは前に住んでいたアパートにうつって貰った。
 翌日、無事退院した俺は、直にミッドに飛んで、先ずは……髭達磨のところへ。

「達磨ぁ!」

「……来たか。遅かったな」

 来る事は分かってたようだ。

「ゼスト達の事は……残念だったな」

「まったくだ! ……弁明はあるのかよ?」

「あいつが、もうあそこを掴んでいるとは……知らなかった。わしの落ち度だ……すまん」

 ……達磨自身もショックだったようだ。
 まあ、親友だと言っていたしな……くそ。

「ゼスト隊。生き残りは?」

「……本部では、生き残りはなしと発表した。……お前の懇意にしていたものも、いたようだが……死亡として処理した」

 ……ち、クイントさんをこっちに連れて来れないな。
 なら、仕方ない。

「……じゃあ、あんたは、それでも戦闘機人の計画に手を貸し続けるのか?」

「……ふん。知っていたか。……ああ、そうだ。違法研究だが……これからの世代には、必要なことだ」

 ……ああ、そうかい。
 じゃあ、それはもう放置だ。
 達磨にも達磨の正義があるし、このおっさんを更迭したところで、別の奴が傀儡にされるだけ。
 なら、まだ達磨のほうが、正義を掲げてるだけマシだ。
 そこは融通するしかない。
 ……こっちも切り札切るか。

「じゃあよ。こっち……俺は俺で勝手にやらせてもらうぜ。その違法研究がかすむぐらいの、手札があるからな」

「……ほう? いいだろう。やってみせろ。……嘱託魔導師にどれだけできるか。見せてもらおうか」

 当然。度肝抜いてやる。
 辺境世界舐めんなよ?



 オーリス女史が戻ってきたので、そのまま退散した。
 あの人、俺を子ども扱いするから苦手。
 平気で頭撫でるし。
 さて、次はゲンヤのとっつあんのところへ。
 正式な配属は明日からだが、一応報告もあるし。

「お、体は治ったのか?」

「ああ。心配かけました。……で、今ちょっとはずせます?」

「……ああ、ちょっと待て。カルタス! 休憩行ってくらぁ!」

 連れ立って休憩室へ。
 とっつあんタバコ吸うんだ。

「あ? わりいな。……流石にお前は吸わんよな?」

「こっちの身体になってからは一本も。……まあ、高校出るまでは、吸わないことにしてます」

「へ、まあいいけどよ……」

 煙を吐いて……ああ、ちょっとやつれてるな。
 とっとと安心させてやるか。

「ギンガ達、元気にしてます?」

「盛大に泣いてるよ……遺体すら出てこないのに、死亡扱いだ……やるせねえよ……」

「クイントさん、生きてますよ」

「……せつなよぉ。笑えねえ冗談は……」

 見つめる。
 その視線だけでわかってくれた。

「……マジか?」

「マジです。今、俺の世界に」

「……そうか。良かった……」

 肩を落とし、どっと息を吐くゲンヤさん。
 ……辛かったんだな。
 
「けど、達磨が死亡認定しやがったから、しばらくこっちに連れて来れません」

「あ、ああ、そうだよな。……なあ、頼みがあるんだが」

「わかってます。ギンガ達を連れて行けばいいんですね?」

「話が早くて助かる。今日あたり、連れて行ってくれ。……けど、定期検査とかあるから、そっちに移住はできねえ」

 ……そうだよな。
 管理局側の戦闘機人のサンプルだ。
 そんなに簡単に、手放せるわけがない。
 ……データ取りが終わるまでは、ミッドから動かせない。
 仕方ない。

「落ち着くまでは、こっちで預かって、決心つけさせて、そっちに返しますよ。……それでいいっすか?」

「おう、頼む……て、お前さん。この間会ったときより、男っぽくなってないか?」

「……ちょっと、いろいろありましてね……」

 女性意識をカグヤに預けたせいか、女性っぽく動けなくなってきた。
 ……後で、いろいろ調整しないと、自分の意識とか。

「じゃあ、今日はこの後ギンガ達のところに行きます。そのまま連れて行きますが、いいですね?」

「ああ、二人を頼む……それと、明日はちゃんと出て来いよ?」

 仕事がたまってるんだと、愚痴を吐くゲンヤさん。
 心なしか嬉しそうなのは、クイントさんが生きてたからか、俺をこき使えるからか……
 前者だな、絶対そうだ。そうだったらそうだ!


 今日はばたばたするが。
 あいつらの笑顔の為なら、身を削る勢いで!
 ナカジマ邸の玄関を開ける。
 鍵掛けとけよ無用心な。

「ギンガーーーーー! スバルーーーーーー!」

「「せ、せつなおねぇえぇちゃあああああ」」

 飛びついてきた。
 はやいはやい。

「おかあさんが、おかあさんがぁ!」

「せ、せつなさあん……」

 うぅわ。スバル泣きすぎ。
 目が真っ赤になって兎さん状態。
 ギンガも俺が顔見せたら泣き始めた。
 我慢してたのか。

「……おら、お前ら泣きやめぇ!」

「「ひぃぐ!」」

 と、いけね。
 怒鳴っちまった。

「お母さんに会いたいか!」

「……え?」

「会いたい! 会いたいよぉ!」

 スバルは食いつき良すぎ。
 ギンガ、目を白黒させてかわいー。

「会いたかったら、今すぐに着替え持って再集合! 制限時間十分! 行けぇ!」

「「は、はいい!!」」

 ふふふふ。
 この二年間の信頼は伊達ではない。
 大切に育てた甲斐あって、今じゃほんとにお姉ちゃんとして慕ってくれている。
 ……十分経たずに準備してきた。

「よし! ギンガ、スバル。お母さんに会いたいか!?」

「は、はい!」

「会いたいです!」

「声が小さい! お母さんに会いたいか!!」

「「はい!!」」

 よし、いい声。

「じゃあ、しゅっぱ~つ! お母さんに会いに行くぞ~!」

「「おーーーーー」……せ、せつなさん、あの」

 あはは。
 流石にノリだけでついていけないか、ギンガ。

「大丈夫。クイントさん、生きてるから」

「……え!? ホントですか!?」

「お姉ちゃんは嘘つきだけど、嘘なら嘘ってちゃんと教えるだろ?」

「……はい!」

 満面の笑顔。うんうん。
 その顔が見たかった。
 ……と、その前に。

「スバル、顔を拭こう。ほら、ちーんして」

「ちーん」

 鼻水でべたべた。
 手持ちのハンカチで顔を拭いてやる。
 ……うーん。ちっこくて可愛い。

 とりあえず、堂々と空港ステーションへ。
 手続きして、本局転送ポートへ。もうとんぼ返りもいいところだな。
 で、今度は中継ポートに跳んだ所で。

「せつなちゃん!」

 なのはに遭遇。
 ……なんでそんな悲しそうな顔してるの?

「あ、ギンガちゃんたちも一緒なの?」

「おう。どうした?」

「どうしたって……聞いてるよね? クイントさんが……」

 ……あ、リンディさんたちに情報回してないや。

「なのは。耳貸して」

「え?」

 念話使えって言うのなし。
 こういうのは、様式美だから。

「ごにょごにょごにょ……(クイントさん、実は生きてるから)」

 結局使ったり。

「へ? ええええええええむぐ!」

「声が大きい」

 口を塞ぐ。振り向いてくる局員に笑いかけ、その手を離す。

「関係者各位に、情報、回しといて。それ以外には内緒でな?」

「わ、分かった……じゃあ、ギンガちゃんたちは、これから?」

「そういうこと。……後、もっと驚くこともあるから。それは後でね?」

「え? うん、わかったよ。……せつなちゃん。体大丈夫?」

 ……まあ、一日寝たしね。

「平気平気。俺って頑丈なの知ってるだろ?」

「知ってるけど、せつなちゃん、無理してでも平気そうにするから、心配だよ」

 ……なんかアニメ二話の会話してるみたい。
 しかも、なのはに言われてるのが納得いかん。

「今日は絶好調だよ。大丈夫。……じゃ、先戻ってるから」

「うん。気をつけてね?」

「わかってる。ありがとな」

 なのはと別れ、地球は海鳴市へ。
 一度自宅へ。……また誰もいないし。
 まあ、リンディさんたち大変そうだしなぁ……
 執務官ならなくて本当によかった。
 家から出て、前の自宅へ。
 ……玄関まで来て、深呼吸。
 ……ただいま。

「……おーい、クイントさ~ん?」

 玄関開けて、呼ぶと、顔を出した、青色ポニーのおねーさん。

「あら、せつなちゃん? どうしたの?」

「お届けものでオウチぁ!!」「「おかーーーさーーーん!!」」

 お姉ちゃん押しのけるとか!?
 そんな子に育てた覚えないよ!?

「あなたたち……よく来たわね?」

「お母さん、お母さん、おかあさーん……」

「お母さん、無事でよかった……」

 ……まあいいか。
 
「姉さんナイス。感動をありがとう」

「とっつあんに頼まれたからな。……これで、しばらくは頑張れる」

 妹分の笑顔の為なら、頑張れるよ、うん。

「あ、それで、チンク姉さんから通信。近日中に連絡入れてほしいって。私経由で」

「うーん。しばらくは無理って返しといて。都合が付き次第連絡すると」

「わかった。……ちゃんと姉妹できてるね、私たち」

「俺たちだからな。……てか、その服似合うな。クイントさんが選んだのか?」

 こっちの活動資金は渡したが、フリフリのアリス服って……

「……あんまり見ないで」

「いや、ナイスクイントさん。妹が可愛いぞ」

 うん、本当に頑張れる。
 後、落ち着いたギンガ達がカグヤ見て驚いていたのはお約束。
 傍目からして、ほんとに双子だからなぁ……






[6790] L19.インペリシャブルシューターガール
Name: 4CZG4OGLX+BS◆b9835591 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/20 18:30

 <カグヤ>

『はあい? 今日のゲームの説明よぉ?』

 クア姉さんからの通信。
 ここは辺境世界の荒野、ちらほらと雪が降り始めている。
 ……ちょっと寒い。

『これから、管理局員が二名通過するわ。私がそれを落とすようにガジェットたちに命令しているわ。……結構な数投入するから、気合入れなさぁい?』

 ……刹那の記憶にある、なのはの例の大怪我。その現場だ。

「……試作Ⅳ型も入れるの?」

『あら、知ってたの? ええ、入れるわ……タイミングなんか教えないわよ?』

「聞いただけ。ありがと、クア姉さん」

 いるとわかれば、それだけで充分。
 
『……しかし、分からないわねぇ? ドクターは何でわざわざこんなことをさせるのかしら?』

「ドクター、完全に私たちで遊んでるから。……クア姉さんも、ゲームっていったじゃない」

 ……あのあと、姉さんとドクターに会いに行って、事情を説明したら大笑いした。
 ……そのときの事を思い出す。記憶野解放。


***********************************

 ……姉さんの仕事が落ち着いて、最初の休暇のときに、ドクターに会いに行った。
 チンク姉さんに連れられ、ドクターの前に。

「……久しぶりだね、せつな君。……カグヤ、お帰り」

「ただいま、ドクター。……ごめんなさい」

「いやいや。簡単にチンクから話は聞いているよ」

 ドクターは怒っていなかった。
 むしろ、ワクテカ?

「詳しい説明はいるのか?」

「もちろん。……ところでせつな君。何か、怒っているのかい?」

 ……普通に怒ると思うなぁ。

「いや、まあ、怒ってるけどな。まあいいや、まず、カグヤと俺との間で、記憶の共有が行われたって話は聞いてるんだな?」

「ああ、聞いたよ。……どうしてそうなったか、説明できるかな?」

「いやさっぱり。……けど、憶測でだが、聞くか?」

「お願いするよ」

「じゃあ、科学的根拠のない話だが……」

 姉さん曰く、『永森刹那とせつな・トワ・ハラオウンの意識の拡大』が原因だそうだ。

 成長するにつれ、拡大した刹那とせつなの意識が大きくなりすぎて、一つの身体に収まりきれなくなった。
 一人の身体に二人分の意識が入っているのだから、そうなるのは当然。

 そんな折に、私が稼動し始めた。
 同じ遺伝子を持つ私が、同時代に二人いる。
 この事により、遠く離れていても、同じ遺伝子で共鳴現象が起こり、はみ出しかけていたせつなの意識が私に流れ込んだ。

 ……丁度、私が実戦を行う為の、緊張、ストレス、そういった感情が主だと思う。
 それに反応して、せつなの意識が私に流れ、刹那の記憶を持ったまま、私が確立した。
 ……同時に、記憶の共有が行われ、私にも、せつなが暮らしてきた記憶が植えつけられた。

 本当に、科学的根拠のない話だった。

「……えっと、それは、本気で言っているのかい?」

「本気だ。……つーか、こう考えるしか辻褄あわねーもん」

 あ、姉さん匙投げた。

「……」

 ……ドクターがプルプル震えて……怒ったかな?

「は、はは、はははははっははははははあーははははははははげのぐホゲラアアああはははははは!!」

 ……ど、ドクターが笑ってる……
 壊れちゃった?

「ひーひー………ふふふははあは! 面白い! 面白すぎる! なんて素晴らしい! これが、これが生命の神秘!」

「ウーノ姉さん。鎮静剤準備したほうがいいんじゃ?」

「……そうね」

「いやいやまちたまえ。僕は冷静だよ。……駄目だ、まだおかしいうひゃひゃはやひゃひゃ!!」

「キレーにつぼ入ったなー」

 うーん。
 このまま笑い死にそうだよね。
 あ、椅子から落ちた。
 ……ウーノ姉さん、頭抱えた。
 お疲れ様です。

「はぁ、はぁ、お、おなか痛い……」

「なんだろう、凄くドクターが愛しい」

「うん、ドクター可愛い」

「……貴女たち、一度脳の検査しましょうか?」

 いや、それは勘弁。

「ふ、ふう。……ああ、笑った笑った」

 椅子に座りなおし、本当に落ち着いたようだ。

「……それで、カグヤ。これからどうしたい? やはり、せつな君のように、お友達は大切にしたいかい?」

 ……それは、当然の事だけど。

「せつな姉さんのお友達だから、傷つくと、姉さんが泣くから。でも、私は、ウーノ姉さんも、チンク姉さんもトーレ姉さんも、クア姉さんもセイン姉さんも大好き。……もちろん、ドクターも。だから、私は、どちらも傷つけたくないです」

「……カグヤ。それはわがままだよ?」

「せつな姉さんもわがままだから、私もわがままですよ?」

 当たり前の事です。

「……うむ。なら、カグヤ。君には、一つ仕事を頼もう」

 ……ドクター、にっこり笑って、その仕事を言った。

「僕の邪魔をして、僕の夢を潰してくれたまえ」

 ……敵に回れと?

「僕の夢はね? 生命の神秘の解明だよ。生命操作を通じ、生命工学を極め、生命の創造主になる。その為に、たとえ違法な研究だろうと、僕はやる。……君はそれを邪魔して、見事、僕の夢を潰してくれたまえ。それが君の仕事だ」

「……いや、訳わからん。何でそんなことカグヤにさせるんだ?」

 私も分かりません。
 とても嬉しそうなドクターが、説明してくれた。

「生命の営みで、いまだ解明できない行為がある。……親殺し、子殺しだよ。特に、人間のそれは、不可解極まりない」

 ……親が、子を殺す。子が、親を殺す。
 虫や動物では、よくある風景だが、それはちゃんとした理由があるからだ。
 だが、人間のそれは、理由が見当たらない。

「君には、それを証明してもらいたい。何故、親を殺すのか、何故、子を殺すのか。君にはその実験をしてもらう……どうかね?」

 ……でも。

「私は、ドクターを殺したくないです」

「けど、僕は研究を続け、それの間に君たちの大切な人を傷つけてしまうだろう。……それでも、君は僕を許せるかい?」

 ……それは……

「だからね? 僕は君に、情報をリークする。僕がこんな実験をしようとしている。君は、その実験を止める。……一種のゲームだよ。僕の出す問題に、君が挑む。クリアした褒美は、君たちの友達の命。もちろん、クリアできなかった場合も同じだ」

 ……やっぱり、ドクターはドクターだ。

「さいっていだな。人の命をゲームの駒かよ」

「結果的にそうなっただけだよ。……それに、情報があるだけマシだろう?」

「……ち、まあそうだが……そのゲーム、当然俺が介入してもいいんだな?」

「もちろんだよ。しっかり妹を助けたまえ」

 ……ドクター。
 本当に面白い人だ。

「分かりました、ドクター。お覚悟を。私、ドクターを捕まえて、更生させますから」

「……殺してはくれないのかい?」

「多分無理です。それに、ドクター殺しても、お姉さまたちにクローン生ませるようにするでしょ?」

 確か、刹那の記憶にそういうのあった。

「……カグヤは頭がいいんだねぇ。僕の切り札を見破るとか」

「先ずは一本ですね?」

「ははは。いいとも。その切り札は使わないでおこう。では、ゲーム開始だ。ミッション内容は、ウーノかクアットロに連絡させるよ。……頑張りたまえ。僕の可愛い娘よ……」

 そこで締めてたら、かっこよいドクターだったんですけど。
 一言多かったかな?

「あ、そうなると、カグヤは僕とせつな君の子供になるんだねぇ?」

「【アロンダイト】スタンバイ……ぶっ血KILL!!」

 ああ、姉さん、そんなに暴れて……
 あ、チンク姉さん参戦。
 ……ああ、瞬殺。チンク姉さん乙。

「だぁぁぁ! 考えないようにしてたのに! ドクター! あんた最低だ!」

「ふ、ふふふ、これがドメスティックバイオレンスというやつかい? 家庭内暴りょ」

「シネェェエェ!!」

 駄目ですよ、殺しちゃ。
 チンク姉さん立ち上がって……吹っ飛ばされたーーーーー!!

「ふっふふふっふ……いいよいいよ。こうなったら、チンクさんを……汚す!」

「え、な、なにを! や、やめーーーー!」

 ああ、ここから先は十八禁。
 姉さん、エッチです。

「チンクさんにおっしおきターーーーイム!!」

「いやぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」

 ……とりあえず、カメラはしまいましょうよ、ウーノ姉さん……



**************************

 ……余計なことまで思い出してしまった。
 うん。チンク姉さん、乙。

『……カグヤちゃん? 思い出し笑いは怖いわよ?』

「……チンク姉さんの痴態」

『ブフゥ!? ……お、思い出させないで!』

「思い出し笑いはキモイですよ?」

『……いい性格してるわねホントに!』

 クア姉さんにも教育受けましたから。当然です。
 ……あ、魔力反応……登録してある、なのはとヴィータだね?
 ……彼女たちを助けるのが、今回のミッション。
 姉さんからの情報だと、本編より疲労していない。
 けど、代わりに戦闘力は五%ほどダウンしてるから、状況的には同じ。
 ……ハンデで、五分経ったら参戦できる。

『それでは、始めるわよ?』

「どうぞ」

 始まった!
 ガジェットⅠ型、Ⅱ型の群れが、二人に襲い掛かる!
 ……うわ~。凄い数。
 これは苦戦する。
 あ、魔法効かないのにシューター撃ってる。
 ……もしかして、ガジェットと初戦闘?
 参戦まで、後2分。
 ヴィータとなのはが離された。

「ちぃ! どけぇぇぇぇぇ!!」

 ヴィータ、焦りだしてる。……!?
 なのはの後ろ、何か揺らいで……

『ゲームスタートよ!』

「まったく! 意地悪なクア姉さん!」

 こんなときにⅣ型出すとか!

「レーヴァティン!」

【sonic move】

 間に合え!

「え!?」

 なのはを押しのけ、姉さん直伝の!

「【聖光防壁】!!」【divine shield】

 銀の盾が音を立てる! 防ぎきった!
 次いで、IS発動!

「撃ちぬけぇ! 禁忌『フォービドゥンフルーツ』!!」

 銀色の弾幕。光化学迷彩のⅣ型を打ち抜く!
 続いて、空のⅡ型も巻き込む!

「え? ええ!? せつなちゃん!?」

 あ、なのは、せつな姉さんと勘違いしてる。
 ……まだ会ってないから、当然か。

「このまま援護する。なのは、気を抜かないで」

「え、うん! レイジングハート!」

「あ、それと、こいつら魔法効きにくいから、撃つなら強いの撃って。フィールド貫通するくらいの」

「わかった!」

 ……それでディバインバスターぶっ放すとか。
 さすが魔王。
 ……さて、Ⅳ型はもうないかな?
 
「……ヴィータ、苦戦中だね」

 手伝おう。ターゲットセット。

「え!? ……せつなちゃん! だめぇ!」

「恋心『ダブルスパーク』」

 二本の銀光がヴィータを巻き込んで打ち抜かれる。
 一つの太さが、私の身長くらいある。
 ……始めてつかったけど、これはびっくり。

「ヴィータちゃん……ヴィータちゃん!」

 あ、言ってなかった。

「なのは、大丈夫。私の攻撃はヴィータには当たらないから」

「ええ!?」

 光線が収まった後には、傷一つないヴィータの姿。
 ……固まってるほうにもう一発。

「……せつなちゃん、そんなに魔力使って、大丈夫なの?」

「平気だよ。実は見かけほど魔力使ってない」

 ISは魔力以外のエネルギーも使ってるから。
 ……さて、残りは……あ、最後ヴィータが潰した。
 残存戦力はなし。ミッションコンプリート。

『(はぁい。私の負けね?)』

 いきなり通信しないで欲しい。

「(私の勝ちです。……後で、そっち行きます。覚悟してくださいね?)」

『(う、ま、まあいいわよ。じゃあまたねぇ)』

 ……折檻してあげます。

「せつなぁぁぁぁぁ!! てめ、驚かすんじゃねぇよ!」

 ……いつの間にか、ヴィータが目の前にいた。
 ちょっとびっくり。

「……ごめん。びっくりした?」

「死ぬかと思ったぞ!? あんな無茶苦茶な砲撃……お前はいつからなのはの弟子になったんだ!?」

「ヴィータちゃん酷い! 私でもあんな無茶しないよ!?」

 ……うーん。魔王の仲間入り?
 でも、せつな姉さんのほうがよっぽど魔王だと思うけど。

「……うん。ごめんね?」

「……おい、お前、本当にせつなか?」

 あ、ヴィータ気付いた。

「え? ヴィータちゃんなに言ってるの!?」

「なのは、こいつ、せつなじゃないぞ!」

「うん。ヴィータ正解。よくわかったね?」

「ええええええええ!?」

 ……本当になのはは可愛いなぁ。
 リアクションとか、表情とか。

「とにかく、詳しい話は飛びながら。お仕事あるでしょ?」

「え? あ、うん。……お話してくれるの?」

 うん。私は姉さんと違って、素直だから。

「じゃあ行こうか」

「……おう。……せつなじゃないならなんなんだ?」

 ヴィータはせっかちだなぁ。

「私は、カグヤ。せつなの遺伝子から作られた、戦闘機人。……戦闘機人は知ってる?」

「それって、ギンガちゃんたちと同じ?」

 ああ、それは話したんだっけ?

「うん。私はメイド・イン・スカリエッティの機体。でも、どちらかといえば、せつな姉さんの味方だから、なのはの味方でもあるよ?」

「……せ、せつなちゃん、教えてくれなかったの」

 びっくりさせる気満々だったから。

「うん。びっくりさせたかったから。……姉さん、今日仕事多くて抜けられなかったから、私が代理。……皆には、個別に驚いて欲しいから、黙っててくれる?」

「……せ、性格悪いところはせつなそっくりだな……」

 いや、私もせつなだし。正確にいえば。

「えっと、じゃあ、カグヤちゃんとも、お友達ってことでいいのかな?」

 ……うん、そうだね。

「じゃあ、改めて、よろしく、なのは」

 近づいて、

 ………

 うん、ご馳走様。

「え? あ、ににゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ちょ、おま、ええええええ!?」

 ? なんだろ?

「何か間違えた?」

「間違えたとか、そういう問題じゃないだろ!? き、きききき、キスって!?」

「ほっぺただよ? ほら、まだ姉さんが唇奪ってないはずだし」

「くちび……きゅう」

 あ、なのは落ちた。

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なのはぁぁぁぁ!!」

「……よっと」

 すぐに拾い上げた。
 ……うわ、顔真っ赤とか。

「……キスって凄いね。魔王も落とすんだ」

「せ、せつな、妹にも同じ教育してんのかよ……」

 ? 教育された覚えはないんだけどなぁ?




 なのはを無事に他の部隊との合流地点まで送って、なのはと別れた。
 引き止められたけど、私は管理局と接触しない方向で。
 姉さんの届かない場所に行くのが私の仕事。
 ……せつなの女性意識って、ホントに淡白だなぁ。
 まあいいや。ドクターのアジトへ。
 クア姉さんに文句言わないと。

「あ、いた。クア姉さん!」

 のんきに食堂でご飯食べてる。
 と、言っても、栄養ブロックだけど。

「ゲームスタートの時間、0.3秒遅らせたね!? 間に合わなかったらどうすんの!?」

 ……無言とか、目を白黒させるとか。
 むう、可愛いぞクア姉さん。
 じゃなくて、

「……弁解する気もないの? じゃあ、姉さん直伝のお仕置きで……」

 ほっぺたを掴み、その唇に集中して……? 何か言ってる?

「ちょ、やめ! やめてーーーー! 私クアねえ違うから! セインさんだよ!?」

 !? く、シルバーカーテン!?
 よく見たら、茶髪じゃなくて水色ショート!?
 セイン姉さんだった。
 幻術とか、やってくれる。

「クア姉さんはどこ?」

「ご、ごめん知らない。……うう、妹にファーストキス奪われるところだった……」

 く、おのれ、クア姉さん。……堂々とカメラ持ってこっち撮影してるし!

「あら? やめちゃうの? そのままキスしちゃえばよかったのに」

「クアねえ! 冗談でも酷いよ……え? あ、あの、カグヤ? 離してくれないかなぁ?」

 ……ふむ。
 それもいいかも。

「じゃあ、クア姉さん。撮影よろしく」

「おっけー」

「じゃないぃぃぃぃ!! セインさんぴーんち!」

 の割には余裕だね?
 いただきまーす。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ちーん。




「う、うう。お嫁にいけない……」

 ディープキスの一つや二つで何を大げさな。

「……え、えっと、カグヤちゃん? それ、誰に教わったの?」

「? せつな姉さんになるのかな?」

 刹那の記憶だけど。
 ……せつな姉さんともしたけど。

「じゃあ、次は、クア姉さんの番だね?」

「お、お断りするわ!」

「セイン姉さん、確保」

「て、あれぇ!? セインちゃんいつの間に!」

 クア姉さんの足首を掴むセイン姉さん。
 ディープダイバーは本当に便利。
 壊すだけの私とは、大違いだね。

「ふふふふふ。私だけ不幸になるのはいやだから、クアねえもあの凄いの受けてもらうよ!」

「す、凄かったの!?」

「思わずカグヤの虜になるところだったよ!」

 うーん。せつな姉さんのほうが凄いんだけどな。
 男性意識強いから、……いや、ここまで。これ以上思い出すと、行動不能になる。
 さて、ここからは。

「クア姉さんにお仕置きターイム」

「い、や、やめてこないで人でなしーーーー!」

「人じゃなくて戦闘機人だからオッケー!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ちーん。




 っちゅぱ。

「ふぅ。ご馳走様」

「わ、私のときより凄かった……」

 お仕置きだからね?
 あ、クア姉さん失神した。

「……お前たち何をさわい、ひぃぃぃぃぃ!!」

 あ、チンク姉さん。お邪魔してまーす。

「な、何だ、カグヤか……せ、せつなは来てないんだな!?」

 チンク姉さん、あれからせつな姉さんに苦手意識を植え付けられました。
 ……お仕置き、激しかったからなぁ……

「うん。私だけ。……そんなに怖がらなくても……」

「あ、姉はせつなが怖いぞ……お前も、ああなるのか?」

 ああなるって、失礼な。
 あれも私だというのに。

「……これ見て判断すれば分かるよ?」

 クア姉さん撃沈の図。
 
「……やはり、姉妹と言うことか……」

 いやは~。申し訳ないっス!

「それより、新しい妹が稼動し始めたんだって?」

「あ、ああ。……私が教育担当している、ディエチと、セインが教育担当をしているウェンディだ。……会いに来たのか?」

「うん。ほら、私情報貰ってるから、敵の姿はちゃんと教えておかないとって思って」

 とっても歪んだ敵対関係だけど。
 まあ、ドクターも楽しんでるから、お相子お相子。

「……もうすぐ来る。食事するか?」

「あ、台所借りるね? クイントさんと暮らしてると、固形ブロックじゃ物足りなくなってさ」

 皆に食べてもらおうと、食材買ってきたんだ。
 レーヴァティンの格納領域から、材料を取り出す。
 冷や飯、キムチに、卵に、ネギ。
 油と塩コショウとフライパン。
 このアジトの調理場、立派な癖して誰も使わないから、もったいないんだよね~。

「……ほう、いい匂いだな。カグヤが来ているのか?」

 あ、トーレ姉さんだ。

「トーレ姉さん食べる? 一応、みんなの分用意するけど」

「頂こう。……お前たち、姉の手料理が食えるぞ。よかったな」

「え? うちに、料理できる人っていたっスか?」

「……香ばしい匂い……美味しそうだね」

 お、あれがディエチとウェンディか。
 茶色の髪がディエチで、赤いのがウェンディ。よし覚えた。
 ……ドクターに聞いたんだけど、私の製作のせいで、ディエチの稼動が遅れたんだって。
 お陰で、セイン姉さんのすぐ後に私。ディエチとウェンディがその後に来る。
 ……悪いのは、私を割り込ませたドクターだけど、ごめんねディエチ。
 心の中で謝っておこう。

「よし、完成。は~い、おまたせ~。カグヤ特製キムチチャーハンだよ~」

「「……だ、誰?」っスか?」

 その疑問は放置して、トーレ姉さん、チンク姉さん、セイン姉さん、ディエチとウェンディの前に完成品を置いていく。
 スプーンを配り、お冷も準備。私の分も準備して。

「じゃあ、どうぞ。食べて食べて」

「うむ。いただこう」

「いただきます」

「いっただっきま~す」

「……え、えっと、頂きます」

「う、うあ! 辛いっス!」

 む、ウェンディ、ペナルティ。

「こら! 食べる前には『いただきます』だよ!?」

「え? ええ!?」

「ウェンディ。姉の言うことは聞かないと駄目だぞ? 食事の前には、いただきますだ」

 チンク姉さんナイスフォロー。

「え、い、いただきます……」

「よろしい」

 なでりこなでりこ。

「は、恥ずかしいっスよ~」

 うう。ウェンディが可愛いんだよ。

「さて、おいしいかな?」

「ああ、丁度いい辛さだ。私は好みだな」

 ふむ、トーレ姉さん辛い物好きと。

「……姉には少し辛すぎる気がするな。舌がぴりぴりする」

 む、チンク姉さんは辛すぎると駄目か。

「うん、セインさんとしては、物足りないかなぁ~?」

 あ、セイン姉さんはもっと辛くて平気か?

「……美味しい……」

 ディエチが可愛い。微笑んで食べてる。あ。フェイトに餌付けしたときの事思い出した。
 あの時と同じ気持ちがするんだよ。

「あう。やっぱり辛いっス。でも、美味いっス。んぐんぐ」

 ウェンディは辛い物は駄目。でも舌は悪くない。
 よしよし。今後の参考にさせてもらおう。
 さて、ご馳走様。
 ……観察しながら食べてたから。早いわけじゃないんだよ?

「レーヴァティン。デザート」

 またもや格納領域解放。……これって、何気に姉さんの得意分野なんだよね。
 解析と実装はマリエルさんの力だけど。
 で、取り出したるは高町家の伝家の宝刀『翠屋のシュークリーム』。一人一個だけだけど、全員分用意したから。
 それを配ってまわる。反応はどうだ!

「美味いっスーーーーー!!」

「美味しい……」

「ふむ、これはいいな……」

「……ん、おいしい……」

「カグヤでかした! 凄いおいしいよ!」

 ……今、乙女がいなかった?
 凄い可愛らしい声だした人がいたんだけど……

「……な、なんだ? 何か、姉がしたのか?」

「ううん? チンク姉さんは本当に可愛いなぁと」

 答え:チンク姉さんでした。

「う、ああ、カグヤちゃんもっと……」

 あ、クア姉さんが起きたか。

「てぇ! びっくりしたっス!」

「クアットロ姉さん……なんで床に……」

「う、うう。か、カグヤちゃん、やるわね……惚れそうよ?」

 あはははは。
 いい感じに染まってきたなぁ。

「クア姉さんはご飯食べる? 辛いけど」

「……頂くわ。カグヤちゃんのご飯美味しいから」

 実は既に餌付け済み。
 だけどあまり懐いてくれないこのツンキャラ。
 差し出したキムチチャーハンと、シュークリーム。

「!? あ、これはあれね?」

「あれですよう?」

 ……さらにばらすと、実はクア姉さんだけシュークリーム食べさせたことがある。
 これでも懐かないんだから攻略難しいんですクア姉さん。

「うふふふふ。だからカグヤちゃん大好きよ?」

「あははははは。次は加減よろしくクア姉さん」

「それは駄目」

「ちぃ! まだ好感度足りないか」

 一体、いつになったら落ちてくれるのか。
 もしかして攻略不能キャラ?

「……ところで、本気で誰なんっスか?」

「……カグヤ……お姉さん?」

 おっと、二人に紹介忘れてた。

「えっと、君たちの姉のカグヤだよ。ナンバーはなし。特別試作機だけど、戦闘機人ってことには変わりないから。後、場合によっては君らの敵になるから、その時はよろしく」

「……て、敵っスか!?」

「お姉さんで……敵?」

「うん。よろしくね?」

 おお。いい感じで混乱してる。
 うんうん、可愛い可愛い。

「じゃあ、ドクターのところに配膳してくるから、後よろしく~」

「ああ、行って来い」

 混乱している妹たちを置いて、私はドクターのところへ。
 さって、ドクターは美味しいといってくれるかな~?



*しばらく投稿してなかったら、こんな後ろに行ってました。作者です。
今日は連投します。おまけで『多次元~』の超番外編『旅行記』も新規投稿します。
……本編?そんなのもあったね?(おいおい




[6790] L20.人生遊戯 -ライフゲーム-
Name: 4CZG4OGLX+BS◆b9835591 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/24 19:19
『あーせつな~? 聞こえてるか~?』

「はいはい。休暇中になんでしょ隊長?」

『お前の近くで立て篭もりが起きてる。援護してやってくれ』

「……どこですか?」

『周り見ろ周り。ばたばたしてるビルあるだろ』

 ……言われて周り見ると、確かに管理局の隊員が集まっている一画がある。
 ビルを見ると……ああ、女の子を人質にとってるのか。

「確認しました。犯人は一人です?」

『ああ、そうだ。やれるか?』

「……まあ、なんとか。魔法使用許可お願いします」

『おう。許可する。やっちまえ』

 相変わらず軽い。二年ほどあのとっつあんについて行ったが、意外と大らかな仕事っぷり。
 ……悪く言うと大雑把。カルタスさん、ご苦労様です。

「パラディンセットアップ。【フェイルノート】スタンバイ」

【はいはーい。マーカーセット、レーザーサイトセット、額にロックオン。電気変換終了。発動どうぞ】

 流石に年の付き合いとなると、何も言わずにほとんどやってくれるパラディン。
 完全に体の一部となってしまっている。

「……【雷撃一射】スタンショット!」【plasma shot】

 電撃を纏った矢は、ありえない軌道を描いて犯人の額に吸い込まれていった。
 ……着弾。犯人は上手く昏倒した。
 突入する隊員たち。あ、空飛べる魔導師が助けに行ったな?
 人質は……うん。無事だ。

「……隊長。任務完了。休暇を続行します」

『おう、ご苦労さん』

 いい事した後は気分がいいね。

 さて、市街を抜けて、建設中の新隊舎へ。
 一度閉鎖になった隊舎を改装して使う。
 ……機動六課じゃないよ? 
 本部のレジアス中将(いつの間にか昇進してた)に打診して、新部隊立ち上げの要請を出した。
 もちろん、俺の後ろに本局のリンディさん、グレアム提督、さらにロウラン提督にも手伝ってもらった。
 教会のカリムさんにも協力を要請。
 要請書を見て、最初は渋っていた中将だが、部隊長の経歴を見て、目を見開いた。

「……本気か?」

「マジだぜ?」

 新部隊の部隊長は、本局のほうでスカウトしてもらった元軍人。今、本局で研修中だ。
 さらに、魔力なしの非魔導師。
 特にレアなスキルもない。本当の軍人だ。……あ、一応あるにはあるけど。
 そしてその下の部隊員を見てさらに唖然とする中将。

「……冗談なのか?」

「エイプリルフールはもう過ぎたな」

 ミッドに四月馬鹿の風習はないが、本部では俺が広めた。嘘つき本領発揮した
 唖然とする理由は、部隊長補佐、小隊長、小隊員が非魔導師の軍人上がり。さらに、前線部隊であるという非常識さ。
 ……勿論、質量兵器など使わせない。
 
「……どうするつもりだ?」

「ああ、実はな? 非魔導師でもつかえるデバイスがあるって言ったら驚く?」

「なんだとぉ!?」

 おおう、中将マジ怒鳴り。
 血圧高くなるぞ?

 ……勿論、『アームスレイブ』の事だが、地球で運用されていた物が玩具に見えるほどのものを、マリエル・アテンザ技師とプレシア・テスタロッサ女史が共同で開発した。してしまった。
 うちの妹が丸々ネタ能力持ってるのに触発されて、こっちもネタを投下。

 非魔導師用デバイス『アームトルーパー』略称『AT』。丁度、両技師のイニシャルでもある。
 擬似リンカーコア『Λドライバ』を改良、高性能AIも付属して生み出されたリンカーマテリアル『テスラドライブ』を標準装備。

 これにより、非魔導師が魔導師ランクA+を実現できる廃装備。
 試作一号機『ゲシュペンスト』のテストも上々の仕上がりとなった。
 ミスリルのコネでソースケさん、クルツさん、マオさんをスカウト、カリーニンさんまで参加してくれるというフルメンバー。

 さらに、北米戦隊で活躍していた曹長とそのパートナーもスカウトできた。
 ……名前見たときにはまじびびったけど。なんでいるのさ?
 とにかく、試作二号機『ヒュッケバイン』、試作三号機『グルンガスト』もロールアウト間近。後は新隊舎ができて、テッサの研修とスカウトした傭兵さんたちの研修が終われば、そのまま稼動できるという、まさに俺の切り札。

 最後まで要請書を見終わった中将は、俺の手を握り締め、

「よくやった! わしにも手伝わせてくれ!」

 うぉーい、お前自分の計画は~?

「非魔導師でも魔法が使えるんだろう!? 戦闘機人の作成より、こっちのほうがいいに決まってるじゃないか!」

 ……手の平返すのはええ。
 ま、まあとにかく。

「一応試験導入だ。もし、問題が起これば、そこで立ち止まりになるが……」

「かまわん。こちらでもバックアップさせてもらおう」

 うわぁ。ちょっとやっちまった感が否めない。
 切り札切るの早すぎたか?
 ……勿論、評議会対策として、非魔導師のミスリル出身者に全員魔導師ランクDの登録証を配布。中将公認の登録証で、ちゃんとした公式の物だ。
 そして、ATの事も伏せる。最初に渡した要請書とは別の要請書を手渡し、後者のほうで上に通してもらう。
 最初のものは、中将説得用のネタばれ資料。後者のほうは上に都合の悪いものを隠し切った隠匿資料である。
 中将はこれを二つ返事で承諾。……正直、評議会の指示に頭を悩ませていたらしい。
 ふふふ。見てろ脳髄共。ドゥーエ姐さんに殺される前に、その脳パンクさせてやる。



 ……まあ、そんなこんながありまして。
 その新隊舎の完成具合からして、来年には建設完了になるな。
 よしよし。
 当然、この部隊立ち上げのときには、俺も参加予定。
 Stsの時期には、なのは達も呼んで……あれ? 
 それじゃ、この部隊って、機動六課の代わりになっちまう?
 ……まあいいか。はやてには悪いけど、ベテラン軍人のテッサに頭張ってもらおう。
 
 なお、要請書に記載した部隊員は以下の通り。

 部隊長、テレサ・テスタロッサ三等陸佐(階級は元軍人を考慮して)。
 部隊長補佐、アンドレイ・カリーニン二等陸尉。
 前線小隊『ウルズ』小隊長、メリッサ・マオ三等陸尉。
 同上小隊員、クルツ・ウェーバー陸曹長。
 同上小隊員、相良宗介陸曹長。
 前線小隊『アサルト』小隊長、南部響介三等陸尉。
 同上小隊員、エクセレン・ブロウニング陸曹長。
 同上小隊員、せつな・トワ・ハラオウン嘱託魔導師(二等陸尉相当官)。
 前線補佐隊『ロングアーチ』隊長、未定(決まるまで、カリーニン二尉が兼任)。
 同上補佐官、ルキノ・リリエ陸曹(本局より出向)。
 同上補佐官、アリサ・バニングス技術士官(技術局より出向)。
 医務担当官、月村すずか医務官(本局より出向)
 
 主要メンバーで知り合いは以上。

 ……ツッコミどころ満載だなぁ……

 えっと、どこから補足するかな。
 まず、俺の待遇についてだけど、本当は遊撃隊でもう一チーム作りたかったんだが、人材が足らんかった。
 仕方ないので人が揃うまで、アサルトの隊員で。
 なお、響介さんとは事前打ち合わせで、自由行動権を獲得している。

 ……いや、びっくりした。何でこの二人がいるのかと。
 ミスリルの北米戦隊で、この二人が放逐されようとしてたのを、カリーニンさんが引き取ってくれた。
 何でも、AS戦闘でかなりの戦果を挙げたが、AS廃絶の憂き目にあって、戦隊縮小の折にリストラ食らったらしい。
 ほとんど俺のせいでもあるので、こっちで頑張ってもらおうとスカウト。

 ……試しにゲシュペンストで模擬戦してもらったところ、二人係りでAAランクの魔導師を三分撃破。
 あれぇ!? 確かお前、現アースラの武装隊の隊長じゃなかったか~?
 リアルRGに、マジ感動。こっちに参加してもらうことになった。

 ……小隊名は当時のコールサインが元。マオさんたちの『ウルズ』。響介さんも『アサルト』を名乗ってたからそのまま使用。
 補佐隊の名前だけ考え付かなかったから、機動六課より拝借。
 今度はやてが指揮官研修受けるそうだから、それが終わり次第スカウト交渉するつもり。

 ……で、だ。アリサとすずかは入れるつもりなかったんだが、ルキノさんのスカウトするときに、

「あんた私に挨拶なしで何やってんのよ?」

「ルキノさんにご用事ですか?」

 と、丁度交渉中に乱入。てか、艦内客室に堂々と入ってくるな。使用中の札見えんのか。
 仕方ないので新部隊の説明。するとやっぱり食いついてきたので、リンディさんと協議の結果、二人とも採用。
 アリサはオペレーター兼技術官。すずかは医務官として参加することになった。
 うう、医務官はシャマルさんスカウトしようおもとったのに~。おっとはやてがうつった。

 なおこの部隊、魔王、死神、夜天には内緒である。
 ……この部隊の名を上げる事件は想定済み。

 あの、空港大火災だ。
 原因がいまいちよくわからないから、事前に防ぐことはできないともう諦めた。
 なら、この部隊でいち早く鎮圧。
 三人のエースには驚いてもらおうという極悪極まりない作戦である。
 ……この真の目的がばれたら、関係者各位に袋叩きにされるな俺。
  
 よし。新部隊の概要はここまで。
 後は結果をご覧あれってね?



 次に向かうのはナカジマ家。
 クイントさんに頼まれて、時々様子を見に行っている。
 そして、隙あらば二人とも拉致って地球に連れて行ったり。
 今日は流石に無理だから、様子だけ。

「ギンガ~~~? スバル~~~?」

 ……あれ? 反応なし?
 庭を覗くと。

「ほら! ガード甘い!」

「あう!」

 やってるやってる。
 時々クイントさんに合わせて、シューティングアーツを教えてもらってるから、飲み込み早い早い。
 まあもっとも、完全に習得するまでに大分時間掛かるが……まあ、あと一年。
 せめて、うちの部隊が成果を挙げるまで、ちょっと待っててな?

「よう。元気そうだな?」

「あ! せつなお姉ちゃん!」

「せつなさん! いらっしゃい」

 おうおう。二人ともそんな笑顔で寄ってきて。お姉さんは嬉しいよ?

「お土産に翠屋のケーキ買ってきたから、三人で食おう。ギンガ、お茶頼む」

「はい!」

「スバルは手ぇ洗ってきな?」

「はーい!」

 あはは。
 完全に俺の妹になってるな。
 
 ……ちなみに、俺以外のみんなの現状。

 なのはは、武装隊で着々と実力を挙げている。今度、教導隊の入隊試験を受けるそうだ。
 二年前のカグヤ乱入事件で自分の弱点『運動能力の低さ』『戦闘時の心構え』に気付かされ、時たま恭也さんからいろいろ習っているそうだ。……その後は大概死にそうな顔しているが。

 フェイトは二年前、執務官試験を一発合格。この二年で敏腕執務官として活躍している。
 なのはの件がなかったのと、プレシアさんの(地獄の)特訓のお陰で、なんとか合格を果たしたらしい。後、プレシアさんの訓練は本気で泣きそうになったとかなんとか。

 はやては捜査官試験に合格後、地上部隊を転々として修行を積んでいる。
 さっきも言ったが、今度は指揮官研修を受け、自分の部隊を作るのが夢だとかなんとか。うん、流石に未成年の部隊長なんて俺がゆるさねー。Stsは修行にまわってもらうぜ。

 アリサはデバイスマイスターの免許を取り、マリエルさんの一番弟子としてATの研究を始めた。
 ……恐ろしいことに、こいつ自分のデバイスを作り、前線でも戦えるように訓練中なんだぜ? バーニングアリサ? なんですかそれ?

 すずかは医務官としてアースラ勤務。そして、今度は暇を見つけてデバイスマイスターの勉強も始めている。
 やはり月村の血はマッドの血でした。こっちの技術を忍さんに教えられん。恭也さん連れて乗り込みかねんからな。

 まあ、皆大きな怪我もなく。

「お茶はいりましたー」

「手、洗ってきたー!」

 うん。平和だ。



 ……あ、ランスターさんの件どうしよ?

「? 悩み事ですか?」

「あー、うん。ちょっとねー」

 先日、航空隊の援軍で、ティーダ・ランスターさん本人にエンカウントしまして。
 事件解決後の合同飲み会で意気投合。俺の年齢が年齢なだけに流石にベッドインなんかしないが、気がつくと彼の自宅で寝こけるとか、大恥をかいてしまいました。
 その際に、

「おにーちゃーん? そろそろ起きないと、遅刻……あれ? だれ?」

 はーい、ティアナさんと接触ー!?
 御年九歳のツンデレガンナーと知り合いになってしまいました。
 てか、その後俺の紹介も聞かず、

「お兄ちゃんのロリコン!」

 とか言い出したときには笑った笑った。
 以降、時々ティーダさんと会っては家にお邪魔して、ティアナさんと食事したり遊んだりしてる。
 ティーダさんは恭也さんとはまた違ったタイプのシスコンで、むしろオープン。
 勿論、妹の恋人は瞬殺でとか言い出す。公衆の面前で、堂々と、力説しだす。
 勘弁してください。
 そのせいもあってかよりにもよってゲンヤさん。

「お前、ちょっと航空隊に出向して来い。あれだ、ランスターのいる部隊だから、やりやすかろ?」

 とか言い出して、来週から出向です。
 来年から新部隊の編成始めるのに、あんた鬼だ。

 ……で、まあ何が言いたいかというと。
 ティーダさんに情が移っちゃったんだよねー。
 このままほっとくと、ティーダさん死んじゃうんだよねー?
 ……で、ティアナ泣かせるのは、ちょっち辛い。

 今回は、助けられるか……?
 けど、いつその事件が起こるか、詳しく知らないんだよ俺!?
 どーするー? しばらくしてから、部隊に引っ張るか?
 ……それが一番だろうから、その方向で動くか。

「……お姉ちゃん。難しい顔してる」

「あ? ああ、悪い悪い。ごめんな、ちょっと考え事」

「……せつなさん。無理したら駄目ですよ?」

 う、ギンガにまで言われるとは。
 そんなに俺無理するキャラなのか? それはなのはの役だというのに……
 まあ、なのはが無理してたら、問答無用で休ませるが。

「まあ、だいじょぶじょぶ。お姉さん結構なんでもありだから」

 さて? もう少し気張りますかね。
 この世界は、少しは優しいみたいだから。




[6790] L21.空を飛ぶ不可思議な魔女
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/22 21:08

 さて、ティーダさんのいる航空部隊に来て二週間。
 基本は訓練と書類整理。緊急時に呼び出しと。
 108部隊に比べれば比較的楽だ。来て良かったかもしれん。
 暇な時間に新部隊の編成できるし。

 後、ソースケさんからの連絡で、カナメさんが参加してくれることになった。
 カナメさんはマサチューセッツ工科大に進学したそうで、一般以上の知識と技術力を修めたらこちらに来てくれるそうだ。
 これは嬉しい。
 アリサと同じオペレーター兼技師として組み込むことにした。よきかなよきかな。

「……? なにしてんの? お嬢」

 うわっと。覗かないでくださいティーダさん。
 これ一応機密事項なんですから。

「ちょっと別件の仕事。それより、今日の訓練は終わったんですか?」

「まあな。後、お嬢に客。……57部隊のシグナムさんとグランセニック。知り合いか?」

「シグナム?」

 シグナムは確かに知り合いだけど、グランセニック? ヴァイスの兄貴に、何か共通点あったっけ?

「……元気そうだな。お前が航空隊に来てると聞いて、顔出してみたんだが」

「あ、シグナムはこっちに入ってたんだっけ。身の回りで忙しかったから、挨拶するの忘れてた。すまん」

「また無理してるなお前。……もう少し、私たちを頼れ」

 頼れるときには頼らせてもらいます……あ、そうだ。
 シグナムたちには今のうちに打診しとくか。はやてに内緒で。

「ともかく、心配してくれてありがと。……ところで、そっちは?」

 先に、ヴァイスの兄貴に挨拶を。

「ああ、私の部隊のヴァイス・グランセニック。ヘリパイロットだが、それ以外の航空機器も扱える。後、遠距離射撃を得意とする魔導師だ」

「グランセニック陸曹だ。よろしく、嬢ちゃん」

「せつな・トワ・ハラオウン嘱託魔導師です」

 握手を返す。……そして頭撫でんな。

「で、今日は顔出しただけ?」

「ああ、すこしな。……せつな、二週間ほど前、立て篭もり事件の援護に参加したか?」

 ……ああ、そう言えばやったな。

「あれか? 女の子人質にしてた奴」

「それだ。……その人質、こいつの妹なんだ」

 ……へ? あれ? ……あ、そう言えばそんなイベントあったなぁ。
 妹誤射して、武装隊から身を引くとかそんなエピソードが……

「妹が世話になった。ありがとう、嬢ちゃん。助かった」

「あ、い、いえ。その。妹さんが無事で何よりですはい」

 あっぶねぇ。見過ごすところだったそのイベント。
 これはゲンヤさんに感謝しとこう。とっつあんナイス。

「……いや~、世間は狭いな~」

「まったくだ。……それで? 今度はどんな無理をしてるんだお前は」

 あ、そうだそうだ。

「はやてに内緒にしておいてくれるんなら話すけど?」

「……それはなぜだ?」

「勿論、びっくりさせたいから」

 あいつらのリアクションの為に多少の無茶は平気だ。

「……相変わらず性格の悪い……分かった、主には内緒だな?」

「話の分かる。……そうだ。陸曹にも聞いてもらおうかな?」

「へ? 俺?」

「ああ、陸曹の魔導師ランクは?」

「ああ~、B+だけど……」

 よしよし。充分許容範囲。
 ヘリパイで射撃得意だったら、充分充分。
 もともと六課に参入予定だったし、隙を見てこっちに引き込むつもりだったし。

「……よし、今日の業務終わったら、連絡するから、そのときに話すよ」

 ついでだから、ティーダさんにも声かけよう。
 ふふふふふふ。ドリームチームまであと少しだぜ。

「……せつな。その……凄く危ない顔してるぞ」

「あ、姐さん? 嬢ちゃんって実はとんでもない人なんじゃ……」

 ほっとけ。


 通常業務を終わらせ、定時退社。
 仲間の部隊員に挨拶して、ティーダさんに声を掛ける。

「ティーダさん。この後ちょっといいですか?」

「おろ? お嬢から誘ってくるのは珍しい……惚れた?」

「抜かせ、シスコン。……俺より、もっと美人紹介するよ」

「あ、昼間のシグナム二尉? おお~、お嬢でかした」

 頭撫でんな。
 ティーダさん連れて隊舎の外へ。シグナムには連絡入れてあるから……ああ、いたいた。

「シグナム。またせた」

「いや、かまわん。言われたとおり、グランセニックを連れてきたぞ」

「あれま、ダブルデート?」

「ティーダさん、ティアナに言いつけるよ?」

「それは勘弁」

「あ、236部隊のシスコン空尉」

「……せつな。お前は本当にシスコンに縁があるな」

「……それは言わないで……」

 話しながら移動。行き先はゲンヤのとっつあんいきつけの飲み屋。
 ちなみに俺は飲みません。
 他の連中にも、話が終わるまで飲酒禁止。

「さて、ちょっと俺の話しに付き合ってもらうぞ?」

「お、なんだ? 告白か?」

「あ、馬鹿、そういう振りしたら……」

「シグナム、結婚しよう」

「馬鹿者。話を続けろ」

 く、ノリの悪い……はやてならノッてくれるのに。

「嬢ちゃん以外と軽いなぁ~」

「お嬢は女の子大好きだからな。俺のティアナはわたさねー」

「……あんたも大概だな……」

 よしよし、兄貴コンビもなかなか気が合うようで。
 さて、本題に入ろう。

「来年を目処に、新部隊を設立予定だ。で、シグナム、グランセニック陸曹、後、ティーダさん。三人を、その新部隊にスカウトしたい」

「……本気か?」

 まあ、嘱託魔導師の分際で、何を寝ぼけたことをと思うだろうが。

「一応、スカウト権限は貰ってる。部隊の後見人はハラオウン提督、グレアム提督、ロウラン提督」

「げ。海の提督ばっかじゃん」

「地上から、レジアス中将」

「うっそ。まじか!? あのタカ派が海と手を組むのか!?」

 ティーダさん驚いてるな。

「後、教会の騎士カリムもバックアップに入ってくれてる。……近々、あの三提督にもコンタクトを取って、後詰めを頼む手筈だ」

「な、何でもありだな……」

 当然。これは管理局の進退を掛けた切り札だからな。

「部隊コンセプトは『迅速、簡単、丁寧に』。陸、海、空全ての実力者のサポートを受けてるから、初動をできるだけ早くできる。そして、部隊員のほとんどが、低ランク魔導師だ。その上で、ちゃんと結果をたたき出す」

「……無茶をする。そんな部隊が通用するのか?」

「させる。……なんせ、部隊長はカウンターテロのプロだぜ? シグナムも知ってるよ」

「……? 私の知り合いに、そんなものは……!? まさか、テレサか!」

「ビンゴォ!」

 はやて、家族にテッサの正体教えたって言ってたからな。
 翌日にいろいろ聞かれたのを覚えてる。

「姐さん? その人ってどんな人なんです?」

「テレサ・テスタロッサ。対テロを中心に動く戦闘部隊の部隊長だった女性だ……しかし、彼女は非魔導師だろう?」

「それが? ゲンヤのとっつあんも、非魔導師だが、ちゃんと部隊長勤めてる。……地球の彼女の部隊が、軍縮に伴い、こっちにスカウトしたってわけだ。ベテランだから、研修さえ受ければ、部隊長権限は持てる」

 時たまそういうことあるらしい。まあ、ほとんどが魔導師だったりするんだが。

「テッサを部隊長に据え、低ランク魔導師の部隊で、エリート以上の戦果を出せる部隊……面白いと思わないか?」

「……すげぇな。各部署に、完全に喧嘩売ってる。……それで結果を出せば……」

「……その部隊に、俺たちを?」

「そ。まだまだ人が足りないんだわ。主要メンバーは決めてるんだけど、専門で動ける人がいなくてね。小隊も、隊長がいても副隊長がいないとか……でだ。まず、シグナムには、ファーストスタッフの小隊『アサルト』の副隊長を予定している」

「……ふむ。隊長は?」

「こいつも傭兵上がりの戦争屋で、北米で活躍していた曹長さんだ。こっちに配属の際三尉として昇格してもらう。……まあ、階級的にシグナムの下だけど、腕は確かだ」

 ……エクセ姐さんとアースラの武装隊隊長を三分撃破の事実も教える。

「……凄いな。……考えるに足る要請だ」

「いい返事を期待してます。……んで、グランセニック陸曹」

「あ、名前でいいぞ? こっちもそうするから」

「分かった。じゃあ、ヴァイスさんには、補佐部隊の航空支援に就いて貰いたい。……輸送ヘリパイだな。後、空戦技能者が少ないから、その援護も含まれる……どうかな?」

 まあ、六課でやってたことプラス援護射撃だな。後でアルトさんも探してスカウトしとかないと。

「……そうだな。陸戦部隊が多いんだったら、それは有効手か……わかった。前向きに考えとくよ」

 よしよし。結構乗り気だ……いや、どこにフラグ転がってるか分からんねマジで。

「ティーダさんには、もう一つの小隊『ウルズ』の副隊長をお願いしたい。あと、クロノ・ハラオウン提督に頼んで執務官試験の推薦もつけるけど?」

 実は兄さんとうとう提督になりやがった。母さんはその後ろについて、そろそろ内勤任務に就くそうだ。
 ……そして、身長もちゃんと伸びて、隙があれば俺の頭撫でてくる。おのれ。

「……それは……確かに魅力的だが、低ランクの魔導師で、本当に大丈夫なのか?」

 おっと? まさかティーダさん、高ランク魔導師主義?

「いや、そういうわけじゃないが……作るだけ作って、駄目でした~て、なったら……な?」

「まあ、その場合の対策も勿論考えてあるけど……よし、皆に恐ろしいことを教えてあげよう」

 声に出すとまずいので、限定空間念話で。

「(実は、低ランク魔導師をA+魔導師にする素敵デバイスを配布する……と、言ってみるテスト)」

 ……あ、シグナム引いた。
 ヴァイスさんは……目を見開いてる。
 
「……本気か? そんなとんでもないものが」

「こないだ、試作第二号が完成した。勿論結果は上々。それに」

 さっきのアサルト隊隊長の話の真相を教える。実は二人ともDランク魔導師で、使用デバイスがその試作一号機だと教えた瞬間。

「……おい、それって、まずくないか?」

 あ、そっちに反応した。

「そんなものがあるなんて知られたら、回りから反発が……まさか!」

「気付いたね? そのための実力者だよ」

 上のほうからサポートを貰ってるんだ。他の人間なんかに非難させない。

「勿論、この技術はうちの部隊の占有とする。他の人間には使えないようにセキュリティにも気をつけたしな。……その実力を、管理局全体に認めさせてからネタ晴らしだ……高ランク主義の官僚どもの、度肝を抜いてやる」

 本当は、一番喧嘩を売りたいのは本局の馬鹿ども。
 最初にアースラで働いているとき、本局にも高ランク主義の馬鹿が目に付いた。
 確かに、こんなんが上にいたら地上本部は人手不足になるわ。

「……無茶苦茶と言うか……度胸あるというか……お嬢。実は馬鹿だろ?」

「馬鹿で上等」

 大体、魔法なんて技術、手段でしかねえんだから、それで優劣つけようってのが間違いなんだよ。
 技術は公平に渡して、それをどう使うかが問題なんだ。
 便利なものは、弱者にも渡し、効率的に使う。
 ……勿論、それによるデメリットは勿論あるが。
 ある意味これは、神話の再現だ。

「俺の出身世界の神話でな? 神々から火を盗んで、人間に分け与えた半神がいる。俺がやろうとしてるのは、それと同じことだ」

 まあ、彼は神々から罰を与えられたが……

「どうする? 参加する? しないって言うなら、それでもいい。デメリットはない」

 この企画を黙っててもらえばいいだけだし……悪いけど、記憶を抜かせてもらう。
 それくらい非道にならないと、この企画は成功しない。
 ……できるだけしたくないので、参加して欲しいところ……

「……少し、考える時間をもらえないか? ……正直、迷っている……」

「……ああ、わかった。いい返事を待ってる」

 まあ、時間は必要だよな。

「……しかし、やはり友人だな。主も、地上部隊の初動の遅さを気にしていた。……そのための部隊を作ろうと、今必至に勉強中だ」

 ……その努力が、機動六課に繋がるんだろうけど。

「うん。でも、もうしばらく修行してもらうよ、はやてには。……いくら勤続年数長くても、未成年の子供に頭なんか張らせたくない。……自分たちは良くても、周りが納得しないからね」

 六課も、周りからの突き上げが酷かったし。
 てか、主要部隊員に三十代が一人もいないってやばすぎだろ。守護騎士は除くとしても、公的機関でベテラン……現場たたき上げの古参が一人もいないなんて、考えられない。
 就労年齢低いのは知ってるけど、年齢=経験なんだぞ? 十九なんてまだまだガキもいいとこ。そんな奴に頭張らせんじゃねえよアニメの提督ども。

 ……この世界の提督にはその辺を説得して、うちの世界からテッサを引き抜いてもらった。まあ、彼女も若い方だけど、もう二十一歳だ。さらに戦争経験者。平和な日本で暮らしてるはやてと、経験の差が抜群に違う。……まあ、その分管理局で働いてるが、それでも差は縮まらない。管理局って結構甘いし。
 一〇年管理局で働くのと、一〇年戦争してるのでは、その経験の差は計り知れないほど広い。

 それにだ。
 せっかくのエースにリミッター掛けてまで集めたら、まったく意味無いだろ。
 保有制限は分かるけどさ。隊長陣身内だけで固めたら、新人と壁できるのも見え透いた結果だ。
 どうせ身内を集めるなら、新人入れないほうがマシだよ。意味ないし。
 ……入れるにしても、充分に訓練つませないで現場に出すとか、あんたら間違ってるよ。
 
「……辛辣だな。お前はいいのか?」

「俺? その部隊内じゃ、小隊の一隊員だぜ? シグナムの下になる」

「……お前がか?」

 おいおい。一応俺まだ十二歳だぜ? もうすぐ十三だけど。
 確かに前世の記憶あわせて三十年以上生きてるけど、八年ほど真っ白だし、向こうの二十年の経験なんて、ほとんどゴミだゴミ。まったく役にたたねえ。せいぜい、アニメの記憶が頼りだって話だし。
 そんな奴が隊長格張れないし、経験も充分とはいえない。
 
「俺じゃ、人の頭に立てる器じゃないよ。せいぜい、影に隠れて陰謀を施させてもらうぜ」

「……黒いな嬢ちゃん」

 そういう立ち位置だからさ~、昔からね?

「じゃあ、難しい話はここまで。各自、色よい返事を期待してます。……飲酒解禁。どうぞ」

「よし! じゃあ、嬢ちゃんの陰謀の成功を祈って乾杯だ! ねえちゃん、生四つ!」

「て、俺は飲まんぞ! 未成年に酒飲ますな!」

 飲みたいけど飲めません。
 飲酒は二十歳になってから!

 ……大体だ。

「お嬢はなぁ! まだまだガキの癖に、いろいろ頑張りすぎなんだよぅ? わぁってんのかい?」

 この酔っ払い一号を家に届けなきゃならんのだ、俺までつぶれるわけにはいかん。
 二号はシグナムに渡した。今頃宿舎で死んでるだろう。

「はいはい。わかってます」

「いいや、わかってねぇ! 年頃の女の子なんだから、恋の一つや二つしろっての! 聞いてる?」

 勘弁してくれ、男に興味ねえし。

「じゃあ、ティアナは貰ってくことで」

「それはゆるさーん!」

 このシスコン、マジウザイ。
 いやいや。落ち着け俺。
 うう、酒臭いよう。
 どうにかこうにかランスター宅へ。ティアナ~、お届け物~。

「はーい……うわ。お兄ちゃんまた飲んでるの?」

「またって!? 三ヶ月ぶりだよ俺飲んだの?」

「そのたびにせつなさんに迷惑かけてるでしょうが! ……せつなさんごめんなさい、うちのお兄ちゃんが世話を掛けます」

 ティアナさんマジで礼儀正しい。
 うんうん、お姉ちゃんは君のような子、大好きです。

「あははは。今日は俺が誘っちゃったから、大目に見てあげて。……おら、ティーダさん! さっさと部屋で寝る! ゴーアヘッド!」

「いえっさー!」

「マムだ!」

 ノリだけで動いてやがるなティーダさん。
 ふらふらと部屋に歩いていった。

「……すまんティアナ。ちょっと難しい話した後だったからな。飲ませすぎた。すまん」

「あ、いえ、いいですよ。……お兄ちゃん、最近ずっとせつなさんの話ばっかりだったし」

 俺の? どんな話?

「せつなさん、人以上に働いて、前線には一番で駆けつけて、人の倍頭つかって……子供なのに、働き過ぎだって」

 ……そうか? 普通だと思ったんだが。
 
「うーん、うちの兄からすれば、俺なんてまだまだ仕事できてないはずなんだけどなぁ……」

「えっと、せつなさんのお兄さんって、ハラオウン執務官ですよね? 最近アースラの艦長になった」

「お、よく知ってるな」

 まあ、取材陣来てたし。史上最年少提督の誕生とかなんとか。

「あの人も、一杯一杯仕事して、勉強して、提督になったんですよね?」

 ……まあ、兄さんも大概仕事の虫だからなぁ。

「でも、ハラオウン執務官とせつなさんは……その……」

「違うって言いたいかな?」

「……せつなさんは女の人だし、私より年上だけど、子供だし……あまり無理したら、体壊したら……」

 ……未来の君に言っておこう。お前が言うなと。

「大丈夫。お姉さんは頑丈だし。それに、言うほど仕事してないから」

 人以上に働いているように見えて、実は全部別の部署の書類だったり。
 前線に一番に駆けつけるのは、さっさと終わらせて帰りたいだけだし。
 人の倍頭なんか使っていなく、ただ経験と楽な方法を模索してるだけだし。

「……それでも、心配です」

「……ありがとう。ティアナ。心配してくれて嬉しいよ」

 俯くティアナを抱きしめる。
 やっぱりこのくらいの子の体温は気持ちいいな~

「せ、せつなさん?」

「俺はさ、好きな人の笑顔の為に頑張れるから。……ティアナの笑顔の為に、まだまだ頑張れるから。お姉さんを応援してくれると、嬉しいよ?」

「……はい。せつなさんを応援してます!」

「うん。いい子いい子」

 ……未来のストライカーは、スバルもティアナもいい子だよ本当に。

「くぉら! てぃあなにてぇだすなー」

「寝てろ! シスコン!」

 ……まったく。困ったもんだ。


 あれ? 通信? ティーダさんのだ。

「ちょっと失礼。……はい、こちらランスター代理、トワ・ハラオウン」

『ハラオウンか。ランスターはどうした?』

 あれ? 隊長?

「酔いつぶれてますよ。どうしました?」

『……じゃあ、お前で構わん。先ほど、違法魔導師が航空隊の防衛網を突破して逃走した。すぐに援護に向かって欲しい』

「……了解。飛行許可をお願いします」

『わかった。相手はA+ランク魔導師だ。注意して捕縛に当たれ』

「了解。せつな・トワ・ハラオウン、出動します」

 ……本当に困ったもんだ。

「……せつなさん」

「わり。ちょっと行ってそのまま帰るわ。ティーダさんの介抱よろしく」

「……気をつけてくださいね?」

 ティアナの頭を撫でてから、にっと笑いかけ。

「ああ。お姉さんは無敵さ」

 と、かっこよく出陣と行こう。

「パラディンセットアップ! 【ブレイブハート】スタンバイ! 【飛翔天翼】発動!」

【相変わらず注文が多いです! どうぞ!】

 翼を広げ空へ。ミッドの夜はあまりネオンがない。
 海鳴市街地より、地上は暗いな。
 さて、航空隊に連絡をっと。

『はい! こちら35部隊』

「……こちら、236部隊嘱託魔導師トワ・ハラオウン。援護要請受けて出動しました。違法魔導師の行き先をお願いします」

『ご苦労様です。現在、違法魔導師は新市街地を抜け、旧市街地上空を移動中。結構早いです。注意してください』

「了解。パラディン、地図」

【はいはい。マーカー写します】

 ……よし、こっからなら近い。それでティーダさんに連絡入れたな? あの隊長。
 終わったら時間外労働で請求してやる。

「んじゃ、最大戦速! さっさと片付けて、家帰って寝るぞ!」

【了解です! 誘導します】

 旧市街地へ飛ぶ。……十分ほどで、旧市街上空。
 魔力サーチ……いた!
 郊外に抜けるつもりだな? させるかよ!

「バインド、いつでも仕掛けられるように事前詠唱。回り込むぞ」

【了解です】

 必殺、魔王様からは逃げられない発動!

「止まれ! 時空管理局だ! 大人しく縛に付きなさい!」

「くそ! 早いな!」

 こっちはこないだの試験でAAA取っちまったんだ。お前なんぞに後れを取るか。

「けど、捕まるわけにも行かないからな!」

 デバイスを構える犯人……え? 違う!

「やべ!」

 射線から回避。
 デバイスじゃなくて、あれ質量兵器!? 拳銃じゃん!

「舐めんな! 【拘束光輪】!【hoop bind】

 バインド発動! これで……え!?

【魔力結合がとかれました! AMFです!】

 マジかよ!?
 何でこいつがそんなもん張れるんだよ!?

「死ねぇ!」

 ちぃ! 容赦なく乱射する拳銃を避け、距離を取り、防壁を張る。
 ……くそ、だんだん濃度上がってきてる。防壁がもたない!
 このままじゃまずいか?
 ……仕方ない、奥の手!

「撤退!」

 三十六計逃げるが勝ちぃ!
 勝てそうにない相手と戦えるかぁ!
 
「……へ、腰抜けだったか」

 言ってろアホ。
 追いかけてこずにそのまま背中を向ける犯人。
 ちゃ~んす。

「パラディン【アヴェンジャー】フォルム」

 白から黒へ。闇に溶け込むように鎧が黒く染まる。
 
「【フェイルノート】スタンバイ」

 取り出すは弩弓状に変化した長距離戦用デバイス。
 脳内BGMは『THE GUN OF DIS』。サルファリアル男後半のテーマで。
 
「ターゲットインサイト。ロングバレルセット。ロックオン。カートリッジロード」

【バレルショット射出します】

 距離にして1㎞は離れた。その距離から、拘束バインド弾射出。
 ……ヒット! 馬鹿が、AMF切ってやがった。
 
「最終詠唱開始。Y・H・V・H・テトラクテュス・グラマトン……」

【魔力収束終了。重力変換完了。臨界突破! 発射、どうぞ!】

 ネタ魔法の餌食にしてくれる。

「【原始回帰】デッドエンドシュート!」【ain soph aur】

 重力子を伴った魔力弾が犯人に当たる。同時に、湾曲する空間。
 体の全てが押しつぶされ広げられ、その肉体構成が翻弄される。
 そして、光とともに爆砕!

 ……見た目だけは派手だが、これでも一応非殺傷。しかもネタ元と属性違うし。
 時間逆行攻撃なんか、完全に儀式魔法じゃ。使えるかー!
 まあ、しばらくは病院生活だ。諦めてもらおう。退院したらすぐ豚箱だけど。

「さって、捕縛捕縛~」

【ここまでやっても過剰防衛にならないんですよね~。……ひょっとして、管理局って軍隊より恐ろしいんじゃ……】

「……ま、まあ、言うな」

 殺してないだけましまし。
 犯人にバインド施して装備取り上げて、任務完了。
 ……このやろ、生意気にベレッタ使ってやがった。
 AMF発生コートまで持ってやがるし……気絶してるから意味無いけど。
 ……さて、ちょっと締め上げますかね?

「パラディン、記憶野の洗い出し。【記憶干渉】」【date hack.……接続完了です】

 えっと、今から十二時間の記憶を呼び出し。
 ……あ、ビンゴ。

【……こいつと話してる人……】

「隊長だな。236部隊の。……あの野郎。誰か死なせて航空隊の評価下げようとしてやがったな?」

 評価を下げていいことがあるのか?
 実のところ、航空隊の評価を下げて得をする部署があったりします。
 それ以外の部署に人を流せる口実になります。
 ……おまけで、こいつにAMF発生コートや、質量兵器もたせて、小銭も稼ぐつもりだったらしい。
 一石二鳥を狙ったようだけど、俺を上げた時点で運の尽き。
 せいぜい役に立ってもらうぜ。発言権稼ぎのな? ……てなわけで、こいつは航空隊に突き出しじゃ。

 ……さて、翌日。
 突き出した犯人は局の監獄病院に搬送。そこに乗り込んで犯人に事情聴取。
 拷問なんかしません。事実だけを突きつけて、自白を取り、刑を軽くしてやる……それでも終身刑を免れただけだが。
 質量兵器の密輸及び使用、違法行為、違法研究品の所持。自白を差し引いても禁固刑四十年だ。残念でした。せいぜいしっかり償って減刑を期待しろ。
 その調書を元に、ティーダさんと裏を取って……二日後に、

「航空隊236部隊隊長アラシム・ハイオン三等空佐。質量兵器密輸、違法研究幇助の罪で逮捕します」

 敢え無く隊長は御用。
 逮捕礼状は中将経由で取ってもらった。毎度毎度ありがとうございます。
 ……236部隊は一週間後に解散。各員は受け入れ先に行って貰い、俺は古巣の108部隊へ。
 ティーダさんは今回の件で執務官試験の切符を手に入れた。シグナムの部隊で引き取ってもらい、仕事しながら勉強中だ。
 ……この件が、死亡フラグ回避だったと気づいたのは、六十九年が終わってからである。

 ……た、棚ぼたラッキー?
 三度目はないんだろうなぁ……




[6790] L22.ブレイジングシューティングスター
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/23 04:07

 六十九年の最後のイベントはエリオ・モンディアルの救出だ。

 ミッドチルダ市局のデータを漁って(ばれたら違法捜査。そんなヘマしねー)モンディアル家のデータを見て、早速サーチャー飛ばしたところ、家にもうエリオいねー!?
 夜中に侵入して(もう犯罪です)モンディアル夫妻の記憶捜査したところ、既にエリオ連れ去られた後だった。

 やべ、後手に回った。

 仕方ないので、フェイトに打診。広域捜査でエリオ連れてった研究施設を探してもらう。
 話の出所は黙秘した。
 こちらも人手を出して、ついに、その研究施設を突き止めた。
 俺からの支援はそこでストップ。これ以上手を出すといろいろと面倒だし。
 手柄とエリオの身柄をフェイトに頼むことにして、こちらは結果待ち。
 ……で、突入が始まって一時間後。

「……はい!? 施設員全員が気絶してたぁ!?」

『そうなんだよ。奥には実験用に囚われた子たちが三人ほどいて、他の研究員たちは軒並み気絶。施設内は嵐でもあったかのようにボロボロ。天井には大穴開いてるし、何がなんだか分からないよ!?』

 まてまてまて。
 俺だって訳分からん。
 どこのセイギノミカタだ、それとも殺人貴!? 
 さらに驚愕の事実が俺を襲う。

『それで、せつなに頼まれていた『エリオ・モンディアル』なんだけど、この施設内にいないんだ』

「なにぃぃぃ!?」

 んな馬鹿な!
 ちゃんと調査してその施設に連れて行った奴検挙して、裏とって確認したんだぞ!?
 なぜいない!?

『子供たちに聞いたら、その時に丁度実験の時間だったみたいで、私達が突入する二時間前には監禁部屋から出されてたみたい。……多分、施設を襲った犯人が連れ去ったんだと思うよ?』

 ……な、なんてこった。
 そんなことができる奴なんて、あいつらしかいねぇ!
 ちっくしょう、ドクターに先越された!
 向こうの戦力強化に繋がっちまう!

『……え!? それホント!?』

 あれ? 進展あったか!?

「どうした?」

『あ、うん。シャーリーが子供たちから聞き出したんだけど、犯人と思われる女性が子供たちにあったんだって』

 やはり女性か。
 なら、ナンバーズの誰かだな?

「特徴は?」

『うん、えっと『あ、お姉ちゃんだ!』……え?』

 ……ホワット!?
 俺を指差しませんでしたか、あのちびっ子!

『え、え~と。このお姉さんなの?』

『そうだよ? お姉さん。さっきはありがとうございました!』

『……せつな? どういうこと?』

 ……あー。犯人分かった。
 これは、ドクターに感謝するべきか、あいつにちょっと文句言うべきか。
 ……まあ、とにかく、

「わりい。多分、俺の身内だそれ。……えっと、君? それ俺じゃないんだが、そのお姉さん何か言ってた?」

『? えっと、『この後来る、金髪のお姉さんに、せつなの家で待ってるって伝えて』って言ってたよ?』

 ……オッケー分かった。
 あのやろ、お仕置きフルコースだ。足腰立たなくさせてやる。

「フェイト。そこ撤収させて俺の家。ハラオウン家じゃなく、永遠の方だ」

『……最初、住んでたところだね? 分かった、すぐに行くよ』

「中継ポートで待ってるから。じゃあ、また後で」

『分かった。シャーリー。撤収するよ』

 ……まったく、先に言え、阿呆。



 <カグヤ>

 ……今日のミッションだけど、ドクターの依頼だ。
 何でも、人造魔導師研究をしている施設があるらしく、ドクターの手の掛かっていないところらしい。
 ドクター曰く『権利使用料の取立て』だそうだ。
 そして、もう一人。

「……カグヤねえ。いつでもいけるぜ?」

 今回はサポートをつけてもらった。
 戦闘機人九番ノーヴェ。クイントさんの遺伝子データを使った戦闘機人。IS『ブレイクライナー』は、ウィングロードのISバージョン。アタッカー気質なので、広域攻撃専門の私とは相性のいいパートナーだ。
 さらに、私に懐いてくれてる。チンク姉さんの次だけど。

「うん。とりあえず、屋上に飛ぶよ? つかまって」

「おう!」

 ノーヴェは今日が初実戦。
 この間はウェンディとディエチと一緒に作戦行動をしたが、二人とも砲撃、射撃仕様だから私が前に出る作戦しか取れなくて苦労した。
 クイントさんに指導してもらってなかったら、ちょっとやばかった。
 ……クイントさん。娘たちと離れているせいか、私を娘扱いしてくれる。
 流石に私がリンディさんに甘えるわけには行かないから、ちょっと嬉しい。
 ……ドクターを捕まえたら、ノーヴェもクイントさんに甘えさせてあげよう。
 屋上に到着。
 ここから、ノーヴェのエアライナーで突貫。
 研究員を気絶させて、ドクターに報告して、管理局のフェイトに連絡。
 それから撤収。
 ……よし、戦闘開始だ。

「ノーヴェ、お願い」

「へへ。じゃあ行くぜ! 『ブレイクライナー』!!」

 IS発動を確認。戦闘機人テンプレートが屋上の床を破砕しながら中に伸びる。
 ノーヴェを先頭に突入。一気に最上階を制圧。五分。ちょっと時間かかった。
 それから階段で二階へ。研究員と警備兵、弾幕で黙らせて取りこぼしをノーヴェに任せる。
 ルールの一環として、今日は非殺傷。気絶のみを科している。勿論ノーヴェにもだ。
 ノーヴェは力の加減がいまいち微妙だから、今日はいい訓練にもなるだろう。
 ……敵の強化や訓練を手伝って何をしているんだ私。
 まあ、可愛い妹だからいいか。

「カグヤねえ! 二階制圧だ!」

「じゃあ、一階行くよ。階段!」

「応!」

 ううん。まるでヴィータと組んでるみたい。錬度は勿論向こうのほうが上だけど。
 一階は流石に人が少ない。と、言うかほとんどが上に上がってきてたようだ。
 制圧は二分で終了。
 なお、この施設の奥に子供が三人いた。
 ……肘の裏、注射跡がある。
 実験体か? 酷いことをする。

「君達、これで全員?」

 聞いてみると、

「あの! エリオ君が!」

 ……え? エリオって、あのエリオ?

「それって、赤髪の? このお姉ちゃんと同じ髪の子?」

 指差すのはノーヴェ。この子も赤い髪だ。

「うん! エリオ君、実験の時間で、地下室に……」

 ……実験の時間?
 ……よし、助けないと。

「ノーヴェ、行くよ」

「お、おう」

 施設内を透過サーチ。……あった、入り口。
 地下への階段を下りる……地下実験場。
 蹴破って中へ。……なんだこれは?

「……! ……!」

「……」

 誰かが、叫んでる。
 周りの音がうるさい。
 ガラスケージの向こうで、椅子に座ってる。
 小さな男の子。

「!!! ……!!」

 椅子から流れているのは電流?
 電流を子供に?
 ……これが、実験?

「……!」

 泣いてる。
 男の子が泣いてる。
 あれは、あれは……

「!……! た……」

 あれは、私だ。
 助けを求めている私だ。
 あれは……過去の、誰にも頼れず、人形だった……

「助けて! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!!」

 私だ!

「『ブレイジングゥゥゥ!! スタァァァァァァァァァァァ!!』」

 ISフルバースト。
 ラストワード起動!
 全てをなぎ倒す、星々の弾幕!
 全てを破壊する、流星の花火!
 あの男の子を、救う、たった一つの私の力!

 ……スペルオーバー。三十五秒。

 ……最初に非殺傷リミッター掛けておいて助かった。
 でなければ、ここの人間全員殺すところだった。
 ……私が人を殺すと、姉さんに迷惑が掛かる。
 それは、駄目だ。

「……あ、ああ」

 彼が、エリオ君。
 ……呆然と、光を失いそうな目で、私を見ている。

「ごめんね?」

 男の子を抱く。
 男性嫌いの私だけど。
 この子は別だ。

「ごめんね? 人間を許してね? 馬鹿で愚かでどうしようもない生物だけど」

 それでも、私を愛してくれる人は人間だから。

「ごめん、ごめんなさい……めんねぇ……ふぇ、ひっぃく」

 ああああ、この機械の身体でも、涙腺だけは脆いのか。
 戦闘機人に涙腺つけるとか、いい仕事しすぎだドクター。
 
「ふぇええぇん、ごべんあなさぁい……ごえんんえぇぇぇぇ」

 いや、何語だそれ。
 なにを言いたいのかわからない、本当に機人なのか私。

「え、ちょ、カグヤねえ!? な、泣かないでくれよ、ちょっと……ね、ねえ!」

 ごめんノーヴェ。しばらく止まらない。
 後五分待って。

「……お姉さん……あったかい……」

「ふぇ?」

「怖かった……誰も、助けてくれなくて……こわ、怖がった……」

 ああ、エリオも泣いてしまう。
 抱く力を込め、エリオを存分に泣かせる。

「いいよ、泣いて、私も泣くから、泣くからぁ」

「いや、カグヤねえは泣かないでよ!? あたしどうしたらいいんだよ!?」

「ごえんのーヴぇ、とっとまああててぇぇぇぇ。ぶんぇえっぇぇ」

 いや、可愛くないなぁ、私。
 まあいいや。
 後一分。
 存分に泣いた。……泣ける身体を作ってくれて、ドクターさんきう。

「……よし、じゃあ、仕事終わらせる。ノーヴェ」

「う、あ、はい。……切り替え早いな~」

 まあ、感情と思考は別みたいだから。
 便利な体だこと。

「この実験場の機械類、全部破壊して。データが一切残らないように」

「おう! ……て、これ以上?」

 ……見渡すと、全部が煙と火花噴いてる。……あ、ラストワード使ったんだった。
 えっと、どうしよう?

「……こ、これ以上! やっちゃえノーヴェ!」

「よっしゃぁ! おらおらおらぁ!!」

 気を取り直して殴って蹴って破壊するノーヴェ。
 もうやけにしか見えない。
 さて、次は……

「ある程度終わったら、そのままドクターのところに戻っていいから。……私、一度家帰るね?」

「え? あ、わかった。……カグヤねえ、次はいつにアジト来るんだ?」

「うーん。また気が向いたら行くよ。気をつけて帰ってね?」

「おう! カグヤねえも気をつけろよ!」

 手を振ってノーヴェと別れる。
 腕の中には泣き疲れて眠ってしまったエリオ。
 ……ううん、可愛い。
 は、もしかして、私ってショタもありになった?
 ……うう、それは勘弁。エリオ君のパートナーはキャロだし。
 キャロの役まで取れないよ、せめて、フェイトの役を取るぐらいしか……

『私の素敵母親フラグーーー!?』

 ん? なんか電波入った? 
 まあいいや。
 この子は連れていこ。
 一階の子供たちに伝言。フェイトが来たら、せつなの家で待ってるって伝えてもらう。
 こう言っておけば、姉さん気づくだろうし、後はこの子をどうするか考えよう。
 ……研究施設を後にして、私は家路についた。
 エリオ君を連れて。


 <せつな>

 中継ポートでフェイトと合流。

「……なんか、生身のフェイトと会うの、凄い久しぶりな気がする」

「気がするんじゃなく、その通りだよ? 最近学校にぜんぜん来ないし!」

 あっはっは。実は俺まだ中学生なんだよね~。来年は二年生だ。

「来てもすぐ帰っちゃうし、たまに最後まで授業受けても、放課後はすぐ仕事行くし!」

 あ~、仕事貯まっちゃうからな~、まめに片付けないと。

「せつな、最近本当に働きすぎ! 皆心配してるんだよ?」

 ……う、うぐぅ。
 そ、そんなに働いてるのか?

「た、確かに今年は働き過ぎかもだけど……来年はゆっくりできると思う……よ?」

「……ホントに?」

「……ごめん、自信ない」

 文句はゲンヤのとっつあんに言ってくれ。
 人が一日休暇したら、次の日には三日分ぐらい仕事が貯まってたりするのざらだし。
 し、新部隊ができれば~……

「とにかく、少しは休むことも考えてね?」

「考えてるんだが、仕事多いからなぁ~」

 休めん。

「……ところで、せつな? 何で刹那さんモードなの? こないだから気になってたんだけど」

 刹那さんモードって。
 俺はデバイスか。

「最近ずっとこれだぞ? てか、お前の言うせつなモードはもうほとんど使わん」

 て、言うか、使えなくなったが正しい。
 女性意識、もう俺の身体にほとんどなくなってるし。
 そのせいもあってか、泣かなくなった。
 前はしょっちゅう泣いてたけどな~。

「……なにか、あった?」

「原因は今日見せてやる。……たく、あのやろ、事前通達ぐらいしろってのに……」

 はてなマーク浮かべてるフェイトを連れ海鳴へ。
 自宅のポートから出ると、今日は母さんがいた。

「あ、お帰りせつな。フェイトさんもお帰り」

「ただいま母さん」

「お邪魔します」

 最近は内勤任務に切り替えて、アースラから降りたリンディ母さん。
 もはやほとんど隠居状態である。

「で、早速行ってきます」

「え? どこか遊びにでも行くの?」

「ちょっとね~」

 母さんにはまだあいつの事は内緒だ。
 クイントさんをミッドで暮らせるようにしてから、その後に……かな?

「じゃ、いってきま~す」

「お邪魔しました~」

「……もう、せつなのいけず」

 いけずって、おい。
 
「……いいの?」

「よくはないんだがなぁ~。この後しっかり甘えるから」

 今はあいつに事情聴取が先だ。
 ハラオウン家から出て、歩くこと数十分。……後ろになんか気配ある。
 いいや、ほっとこ。
 いつか話すつもりだったし。
 とにかく旧永遠宅へ。
 インターホンを、二連打、さらに一回押し。俺が来るときの合図だ。
 返事を待たずに中へ。

「あら、いらっしゃい」

 出迎えてくれたのはクイントさん。

「え!? クイントさん!?」

「あら、フェイトちゃん。お久しぶり~。元気だった?」

「……こ、ここにいたんですね……びっくりした」

 流石に所在までは教えてない。
 どこでばれるか分からんからな。

「あれ? プレシアさんにはあったけど? 聞いてなかった?」

「聞いてません! もう、母さん教えてくれてもいいのに……」

 さすがプレシアさん。空気呼んでくれたんだなぁ……て、今はそれどころじゃない。

「で、カグヤは?」

「中で男の子と遊んでるわよ?」

「カグヤ?」

 フェイトの質問は無視して、中に突入。……いやがった。

「くおら、蓬莱ニート!」

「あ、姉さんやっと来た。遅いよ?」

「遅いって……おまえなぁ~」

「え、えええええええ!! せつなが二人!?」

「あ、フェイトだ。はじめまして~」

「……? お姉ちゃんが増えた?」

 ううん、いきなりカオス発生。
 冷静なカグヤ、首を振って相互に俺らを見比べるフェイト、ぽかんと口開けて俺とカグヤを見るエリオっぽい子供。
 で、それを面白そうに見てるクイントさん。

「……お茶、入れるわね?」

「お願いします。……さて、カグヤ? 先ずはフェイトにご挨拶」

「オッケー。せつなから細胞分裂したせつな二号です」

「俺を化け物にするな!」

 ネタに奔るなよ。

「……じゃあ、鼻を押すと人形に戻るせつなコピーです」

「古いな! そうじゃないだろ!」

「……姉さんのエッチ」

「なんでだよ!?」

 ええい、漫才しに来たわけじゃないんだぞ?

「えっと……?」

 ほら、フェイトがだんだん処理遅くなってきてるから。
 いい加減に真相話せと。

「あはは。えっとね? 私はカグヤ。せつなの遺伝子で作られた、戦闘機人。よろしくね、フェイト」

「……ええ!?」

 あ、処理追いついた。

「せ、せつなが作ったの?」

「俺、いつの間に犯罪者に……」

「私はメイド・イン・スカリエッティだよ。生みの親に反乱して来ました」

 比較的、平和な反乱だったな。
 今でもこいつアジトに遊びに行ってるし。

「はい、フェイトちゃん。お茶飲んで落ち着いて?」

「あ、ありがとうございます……じゃ、じゃあ、あの施設襲ったのって……」

「うん、私」

「私じゃないって。事前報告くらいしろよ。びっくりするだろ?」

 ……何故きょとんとした目を向ける?

「あ、もしかして、姉さんも動いてた?」

「数日前から動いて、今日突入したらもう終わってるって、数年前の俺じゃねえんだからさ」

「あはははは。ごみん」

 ううううう。リンディさんもこんな気持ちだったのかも。

「勘弁してよ。私だって、まさかエリオ君の関連施設だなんて知らなかったんだから。……丁度実験中だったから、怒ってラストワード使っちゃったし」

 ……ら、ラストワードって、確か……永夜抄の極悪スペカ……

「ち、ちなみに何使ったんだ?」

「ブレイジングスター」

 ……研究者の方々、乙。
 同情の余地もないけど。

「……じゃあ、この子がエリオ君だな?」

「そう。ついつい連れて帰っちゃった。……ほら、可愛いから」

 い、妹がついにショタ属性に……

「い、いかんぞ? ショタだけはいかん。痛いお姉さんになっちゃ駄目だ。そういうのはフェイトの役だぞ?」

「ええ!? わ、私ショタじゃないよ!? ……ショタってなんだっけ?」

 このポンコツ、言葉知らずに否定したのか?
 く、でも今萌えたから許す。

「ショタって言うのは、小さな男の子に萌え萌えな大きな女の子を言います。……後、私もショタはないよ?」

 ちゃんと説明する、うちの妹はちょっと歪んでます。
 ……やはり、一度教育しなおす必要があるか?

「それで、この子本当にどうしよう。私戸籍ないから、引き取りたくても引き取れないし……」

「私、向こうじゃ死んでることになってるし……」

 うーむ。やはりここは……

「エリオ君。残念だけど、君をここにおいて置けない。俺がいってる意味はわかる?」

「……はい。わかります」

「せ、せつな……?」

 そんな心配そうな顔するなって。

「だから、君に、親を選ばせてあげよう!」

「……え、ええ!?」

「俺の母さん。このお姉さん。子供になりたいなら、どっち!」

 ……自分で言っておいてなんだが、無茶苦茶だなぁ。

「……お、お姉さんのお母さんで」

「いぇーい、フェイトふられたー」

「訳わからないうちにふられた!?」

 いやぁ~。フェイトもいい感じで染まってきたな。
 ナイスリアクション。
 なのはに迫ってきたな。

「まあ、このお姉さんもお隣さんだから、いつでも遊んでもらいなさい。俺は結構家いないこと多いからさ。こっちに来て、カグヤとかクイントさんに遊んでもらうのもありだし」

 こっちなら、遊び相手にはこまらんだろ。アリシアもいるし。

「……そういうことで、お願いできるでしょうか、母さん?」

「了承」

「「「ええ?」」」

 秋子さん降臨!
 違った、リンディさんだ。てか、秋子さんって誰だ?
 幻術とか誰に習ったんだか。

「い、いつの間に……」

「私が気づかなかった……」

「……おお、生リンディさんだ~」

 生とか言うなカグヤ。

「……ふっといてなんだけど、本当にいいの?」

「ええ、いいわよ? 娘の頼みくらい聞いてあげるのが母親よ?」

 毎度毎度お世話になります。

「じゃあ、エリオ君。新しいお母さんにご挨拶」

「あ、えっと、え、エリオ・モンディアルです……よろしくおねがいします」

「ええ、よろしくね? ……うん、可愛いわ。エリオ君、こっちおいで?」

「あ、はい……あ」

 でた。子供を落とす魔性の抱擁。
 昔はあれで良く落とされたんだよなぁ~。俺。

「んふふ~。クロノもこんな時期あったんだけどな~。クロノもせつなも、すぐにひねくれちゃって」

「俺は最初っからひねくれてましたよーだ。なあカグヤ?」

「ええ、私たちツンデレですから。大人限定の」

 姉妹で拗ねてやる。いじいじ。

「それで? そっちの子は説明してくれないの?」

「最初っからいたくせに何言ってるんですか」

「「「ええええええええ!!」」」

「ふふふ。ばれてたか」

「母さん最近ストーカーだから」

「娘が酷いわ! エリオ君慰めて~」

「え、えと……よしよし?」

 五歳児に慰められて幸せそうな顔するな。

「よーしフェイト。あれがショタコンだ。お前はああなるなよ?」

「え、えっと……こ、コメントし辛いよ」

 フェイトは真面目だな。
 ここは元気にはーいと言っておくと好感度上だよ?

「カグヤ。言ってやれ」

「始めましてショタコンママさん。せつなの妹のカグヤです。よろしく」

「……せつな? 妹さんかなりひねくれてない?」

「あ~。カグヤは俺の女性意識が入ってるから。……どっちかって言えば、こっちがせつななんだよな」

 意識的にはね?
 本来なら、俺の体は今カグヤに入っているせつなが使うべきだったんだけど、共有の時に選択すらできなかった。
 これだけは、俺のちょっとした罪悪感だな。

「そう。私のほうが四年間ほっとかれたせつな。だから、リンディさんに甘えるつもりはないから……嫌いってわけじゃないけど」

「……そう。ごめんね?」

「謝るくらいなら、エリオを可愛がってあげて。……エリオに寂しい思いさせたら、許さないから」

 ……わ、我が妹ながらきっついなぁ~。
 俺、こんなきつい言い方してたんだ。

「ええ、約束するわ。……ふふ、出会った頃のせつなみたいね?」

「いや、そのまんまだから。懐かしげにこっちみないで……」

 ううう、母さんは本当に意地悪です。
 ……さて、と。
 エリオの件はこれで決着ついたな。

「それで、カグヤさんはどうするの?」

「ああ、もうすぐクイントさんミッドにいけるようにするだろ? そのときに一緒に戸籍とって、そのまま護衛を続けてもらう。カグヤ自身、仕事あるし」

「? カグヤも仕事中毒なの!?」

 フェイト、俺をそんな目で見てたのか?

「ううん? 私の仕事は不定期だから。依頼が来ないと動かないし。……姉さんに苦労掛けたくないし」

「え? なんで?」

「お前な。カグヤが頻繁に動いてたら、俺なにしてんだーて言われるだろ?」

 認知されてない双子は自由に動けないんです。

「俺のスポンサーに今戸籍準備してもらってるから、それができるまでは動けないんだ。まあ、それでいいって、カグヤも納得してるし」

「じゃ、じゃあ、今までそんなに働いてたのって……」

「まあ、その件もあるけど。……ゲンヤのとっつあんのほうが多いんだよ、ちくしょー」

 あの親父ぜってえしばく。

「ふふふふふふ。あの人ったら、せつなちゃんにそんなに働かせてるなんて……」

 あ、やべ。クイントさんいるの忘れて愚痴っちまった。
 ゲンヤさん、南無。

 翌年、クイントさんがミッドに行った際、迎えに行った男性がリンチに会ったのは言うまでもない。
 ……南無南無。

 エリオは正式にハラオウン家へ。
 エリオ・ハラオウンとして迎え入れられた。
 は? モンディアル姓? あんなくそ家族の姓なんか名乗らせるか俺の弟だぞ?
 追加調査で知らぬ存ぜぬを貫きやがった。
 ムカついたんでさらに追加で調査して、違法研究に出資してた証拠つかんで御用だ。
 ……流石にエリオには教えられんかった。
 ばれたら怒るかねぇ……

 あ、カグヤにお仕置きするの忘れた。

 まあいいか。今回は許しておこっと。サービスだ。






[6790] L23.プリズムコンチェルト ミッド編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/24 02:45

 新暦七十年。ミッドチルダ南部郊外。
 
「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」

 俺の切り札、管理局の腐った根を打ち砕く最終手段。

「地上の平和の為、プロジェクト『プロメテウス』成就のために!」

 新部隊隊舎、ここに完成。

「ミッドチルダよ! 私は帰ってきたーーーーーー!!」

 うん、いい声。ちょっと高いけど。
 
「……せつなさ~ん? こ、これでいいんですか~?」

「テッサ、ぐっじょぶ。後でマオ姐さんに見てもらおう。大爆笑されるから」

 実はテッサに仕込みました。
 地球じゃちゃんと放映してたし。

「……久しぶりに会うのに、せつなさんやっぱり意地悪です」

 うん、その凹み顔が見たかった。
 二十歳過ぎてもその小さい胸に乾杯。

「……せつなさんよりはありますよーだ」

 そっちはもう諦めた。

 ……さて、久しぶりな元ミスリルのテレサ・テスタロッサ部隊長……候補生。

 いや、実は正式稼動は来年に持ち越しになっちまった。
 理由は……人手不足と上が渋りやがった。
 流石に中将が乗り気なのに不審を抱いたみたいだと、ドゥーエ姐さん情報。
 今年は人集めと各部署からの依頼をちまちまこなすしかできん。
 くそう、やっぱりカード見せるの早すぎたか。

 まあ、来年の空港火災には間に合うし、それまでの訓練期間だ、諦めよ。
 で、隊舎が完成したので見に来た……て、外観まんま六課じゃん。
 業者同じところに頼んじゃったかなぁ~? まあ綺麗だからいいけど。
 で、お供にようやく研修の終わったテッサを連れて、先んじて見に来たわけだ。

 なお、他の隊員は今年の頭から108部隊で研修中。ゲンヤさんに頭下げた。
 研修中はスペックダウンした『量産型ゲシュペンスト』使ってもらい、実力を隠して仕事してもらっている。
 フォワード予定の五人は揃って『訓練になる』って言って、快く承諾。
 それでもゲンヤさん楽できてるらしい。ミスリルすげぇ。

 新部隊の名称なんだけど、遺失物だけじゃなく、災害救助や首都防衛、犯罪検挙も視野に入れてることもあり、上層部で意見を出し合った結果『管理局特別任務部隊【オリハルコン】』となった。
 ……いや、『ミスリル』よりも希少な鉱物としてその名前出したら、そのまま通っちまったんだよ、俺のせいじゃねぇ。
 まあ、機動六課よりもマシなネーミングだと思う……よ? はやて泣き出しそうだけど。
 密かに中二病が漂っているような気もせんでもない。
 勘弁してくれ、俺も中二だ。来月からだけど。

 あ、そろそろ漫画版のストライカーズの開始時期だな。
 合同作戦参加できるかな~。
 できなかったらカグヤ向かわせるべ。どうせミッションはいるだろうし。

「んじゃ、見学と行こうかテッサ」

「はい」

 テッサとともに中へ……うわ。中も六課と同じじゃないか。
 こりゃ、同じ業者に頼んじゃったな。おのれ。
 まあいいか、迷わなくてすむ。
 先ずは部隊長室へ。

「……ここが、テッサの城だ。どうよ?」

「綺麗ですね……私、メリダ島では地下にいましたから、地上で仕事できるの嬉しいです」

 あ、そうだったな。

 ……リンディさんにぶっちゃけてから、三年という短時間でアームスレイブ廃絶を実現したテッサ。
 その間にも小競り合いが何度か続き、プレシアさん、マリエルさん、リンディさんの援助を受けて、ようやくアームスレイブ不要論を確立できた。
 各国は次々にアームスレイブ研究を捨て、完全に地球からアームスレイブはなくなった。

 ……まあ、そのせいもあって、テッサは責任を全て背負ってミスリルから追い出されることになってしまったのだけど。
 勿論、そのテッサの再就職先に、管理局を提示したリンディさんは流石だ。
 テッサも乗り気で、特務部隊司令のカリーニンさんもついでに引き抜いてくれた。
 そうなると、マオ姐さんとクルツさん、ソースケさんもと引き抜いて、ついでにカリーニンさんが見つけてくれた響介さん、エクセ姐さんも参加してもらい、結構な人数になったので、そのまま新部隊設立に踏み切ったわけだ。

 まあ、構想は前々からあったらしく、リンディさんが最初提示したメンバー表は……まんま機動六課だった。
 おいおいおい。部隊長にはやて置いて、テッサが補佐? なのはの下にソースケさんとか置くなよ。
 初期メンバー表一通り見て、にっこり笑って破いてやった。リンディさん涙目。オレサマ大激怒。
 そんな折に届いたリンカーマテリアルの試作品と、それを積んだデバイスの試作完成品の発表が、プレシアさんの手で身内(俺、リンディさん、プレシアさん、マリエルさん)にされた時、その四人で協議して初期メンバーが決定した。

 流石にリンディさんはなのは達入れたがってたが、まだまだ経験の浅い連中入れられるか。
 リミッター使った裏技はまだはええって。
 
「じゃあ、次は……」

「訓練場見に行きましょうか? システムは積んでいるんですよね?」

「おう。マリエルさん特製の訓練施設だ。……とんでもないことになってなければいいけど」

 次に向かうは訓練場。
 六課にあったヴァーチャル発生装置を組んでくれたそうだけど、どうなっているか……あれ? 

「マリエルさん。来てましたか」

「あ、せつなちゃん。テッサさんもこんにちわ」

「こんにちわ。……調整中ですか?」

「はい。後、今アリサちゃんとすずかちゃんが訓練中です」

 あいつら……
 以前言ったが、アリサは自分専用のデバイスを作り、戦闘訓練をしている。
 それに最近はすずかも加わり、響介さんに合体攻撃のコツを聞く始末。
 一体どんな訓練を……て、あれぇ!?

「いくよ、アリサちゃん! アイン!」

 何だそのハサミ! 後それ、ソード仕込んでないか!?

「ツヴァイ! そらそらそら!」

 ちょ! まてぇ! それ、オクスタン……俺がエクセ姐さん用に発注した奴? じゃないだろ?
 ライフルのほうか!?

「ドライ!」

 やっぱり!? コールドメタルソード!? いや本気まてぇ!!
 アリサはビームソード取り出すな! ウイング広げるなすずか!

「「『ツインバード、ストラーーーーイク』!!」」

 二人に切り裂かれて爆散するガジェットⅠ型。……いや、それ、俺がネタ用に発注した『ビルドビルガー』と『ビルトファルケン』……なんで二人が使ってんの?

「……いやあ、一応できたはいいんですけど、ピーキーになりすぎちゃって。で、二人に使ってもらってデータ取りです」

 ……ま、まあ、使えそうならいいけど……

「でも、大分訓練して息合わせないとあそこまでできませんよ? アリサさんとすずかさんだから使えますけど」

 ……さ、さすが親友。
 あ、こっち来た。

「先にお邪魔してるわよせつな。テッサさんもこんにちわ」

「せつなちゃん、テッサさんこんにちわ」

「……お前ら凄いな。あれ使いこなすとか……」

 だ、誰がこんな強化したんだ?
 すずかは分かるけど、アリサは……

「え? ああ、時々恭也さんに」

「もういい、皆まで言うな。……あの人は~~~」

 妹の親友を強化するな、身体的に。

「時々響介さんにも手伝ってもらってるしね? 射撃はクルツさんに教わってるし」

「……あ、アリサが、アリサがだんだん逞しく……俺のアリサがぁぁぁ!?」

「て、いつあんたのになったのよ!」

 突っ込みのキレはいつもどおりか、安心した。

「で、すずかもか?」

「あ、うん。私は接近戦主体だから、シグナムさんとかザフィーラさんに。剣の扱いはやっぱり恭也さんに」

「あの人は~~~~~」

 ドンだけ弟子増やせば気が済むんだ。
 
「あんたはどれだけ妹作れば気が済むのよ? フェイトから聞いたわよ? あんたそっくりの妹できたんだって?」

 げ、あのやろ喋りやがった。

「今度、紹介してね?」

「……わかったよ。紹介する。あれだ。まんませつなだから」

「どういう意味よ?」

「……お前らが必死に友達になりたがってたせつなだよ。四年間、ずっと殻に篭ってた……な」

 前世の人格の引継ぎである俺でなく。
 本物の永遠せつな……なんて言ったら、カグヤに怒られるけど。
 
「とうとう、ホントに俺がせつなの体奪っちまった。……せつなが別の体うつっちまうし」

「……じゃあ、あんた……刹那さんのほうなの?」

「どっちかといえばね? せつなは新しい身体に完全に定着して、もう俺は私……せつなの女性意識を使えない。まあ、パンクする前に解決してよかったって言えばよかったけど」

「……あ、あの、刹那さん……」

 ……いかん、愚痴っぽい話になっちまった。

「ああ、すまんすまん。その住み分けはもうあいつ……カグヤと話し合ってそれでいいって解決したから。俺はせつな。せつなはカグヤ。それでいいからってさ。だから、今度正式に、ちゃんと皆に紹介するから、それまで待ってな」

「……一応、勘違いされたら困るから言っとくけど」

 あん?

「私は、あんたも友達だって言うから。せつなも、そのカグヤも、両方とも、あたしの友達だから!」

「私もだよ? 今更、友達じゃないなんて……言わないよね?」

 ……あはは。そういう言い方に聞こえたか。

「わかってる。アリサもすずかも、俺の大切な友達だよ。……心配掛けてごめん」

「……わ、わかってるなら、いいわよ。……それと、ちゃんと学校でてきなさいよ!?」

「そうだよ。はやてちゃんも心配してたよ? それに、相談したいこともあるって……」

「はやてが?」

 なんだろ? ……て、一つしかないか。
 後で襲撃かけたろ。

「……まあ、この件はここまでにして、アリサ? お前のデバイスはどうなったんだ?」

「あ、うん。その……えっと」

 ? なんだ? 渋ってる?

「じ、実はね? ……デバイス、作り直してるのよ」

「どうして? 結構いい線行ってたじゃん」

 トンファー二刀流のどこの婦警さんかって奴。
 接近戦用に見せかけて、実は射撃仕様。
 こないだ模擬戦して、まじびびった。

「……アリサちゃん。せつなちゃんに話してみようよ。あの子の事」

 あの子?
 ……なんか、酷く嫌な予感。

「……せつな。ごめん! 融合騎拾っちゃったの!」

 ……なにぃ!?
 融合騎だぁ!?

「えっと、ちょっと郊外散歩中にね? 酷く衰弱したその子見つけて、今、家に……それで、話聞いたら、融合騎って聞いて、リインフォースさんみたいなものだったらしくて……」

「……まさかと思うが、お前、ユニゾンしたんじゃないだろな? できないと思うけど」

 リンカーコアないし。

「……それが、できちゃって」

「はぁ!?」

「アギトが言うには、微弱だけどリンカーコア私にもできかけてて、アギトが調整してくれたら、私もユニゾンできるって聞いて、それに、相性バッチリだったらしくて、それで……」

「ああ、ああ、落ち着けアリサ。怒ってないから……」

 後天性でリンカーコア出来るとか……おいおい。

「マリエルさん。後天性でそんなことあるの?」

「まれにですがありますよ? その代わり、強くてもBランク止まりですけど」

「あ、そうなんですか……」

「後、アリサさん? そういうことはちゃんと言ってくれないと。……ただでさえ、この部隊、機密ばかりなんだから」

「……ごめんなさい」

「まあ、まあ。……融合騎なら、教会に申請して、そのままデバイス登録すれば問題ないだろ。リインフォースもそうしたし」

 本人自体が強くて、魔導師登録もしちゃったけど。
 しかし、アリサと融合騎か。アギトとだったら、本気でバーニング……あり……あれ?

「な、なあアリサ? ……アギトっつったか?」

「え? う、うん。アギト。どこかの研究施設から、連れ出されて……そのまま捨てられたんだか放置されたんだか言ってたわよ?」

 最後まで仕事しろよゼスト隊長ーーーーーーーー!!
 あんたの切り札だぞ!?
 単独でシグナムと死合うつもりかよ!?
 何考えてんだあの人はぁぁぁぁぁぁ!!

「……アリサ。アギトは……お前の家?」

「う、うん。……どうしたの? な、なんか、いきなり疲れた顔して……」

「ちょっとね……元上司の意外ないい加減さにちょっと凹んだだけだから」

「はぁ?」

 分からなくていいんですよ。うん。
 ……シグナム、パワーアップフラグ潰されたな……南無。

「……よし。またその子には会いに行くとして、そろそろ飯の時間だな。食堂行って見るか」

 アギトの件は諦めよう。……アリサがパワーアップして危険度が下がっただけでももうけ物だ。

「そうね。……私もついて行くけどいい?」

「すずかも来るだろ? テッサ。行こうぜ?」

「あ、はい。マリエルさんは?」

「まだ調整残ってますから、もう少ししてから行きますね~?」

 お世話になります。
 ……オリハルコンのドラ○もんになりそうだなマリえもん。
 ま、まあ、正規に参加は出来ないって言ってたから、いざって時の切り札だな、あの人は。

「ところで、食堂行って誰かいるの?」

「ああ……謎の食通が」

「……はぁ?」

 さて、俺も結構仕事していくうちに、いろんなところにコネ出来てだね……響介さん達いたから、もしかしたらいるかな~て、探してみたんだよな……
 いやがった。
 しかも、なのはの教導隊に。
 一人は現役の教導員。もう一人はのんびり食堂のチーフコックなんてやってやがったから、二人ともスカウト。
 なのはにばれないようにするのは骨でした。
 
「ここですね……あら? いい匂い」

「ホントだ……」

「厨房の使い勝手見てもらうために昼食お願いしたからな。……食材もとりあえず一か月分確保したし、その人に仕入れとか全部任せたから。……まあ、少し変人だけど」

 とりあえず、フライパンに『トロンベ』とか彫るのはやめようね?
 まあ、ここまで言ったらわかるでしょう。

「来たな? ここの厨房はいい仕事している。教導隊のより使い勝手がいいぞ」

「まあ、一応いろいろ考えましたから。腹が減っては戦はできぬってね?」

 色つきゴーグルに金髪をオールバックにして、真っ黒な作業着に身を包むその方こそ。

「テッサ。紹介する。レーツェル・ファインシュメッカー食堂主任。教導隊から引っ張ってきた。……後、登録してないけど、AAランク魔導師相当の実力持ちだから」

「……た、確かに、『謎の食通』ですね……」

 レーツェルさん、その名前で登録はしてない。
 本名のほうで登録してる為、今は偽名を使っている。……こういう裏技もあったんだね。
 ちゃんとした役職には就けないけどな!

「で? 今日のお昼は?」

「まあ、軽く作ってみた。……ふむ。人数はこれだけかな?」

「後でもう一人来る。……親分は?」

「今、イルイの手続きで、今日はこれないらしい。よろしくと言っていたよ」

「じゃあ、準備手伝いますね」

「ああ、お願いしよう」

 厨房に入る。……おいおい、軽くぅ?
 軽くで既にフォンドヴォ―自作とか……うぁ、良く見たらホワイトソース固めに入ってるし。
 で、昼は……なんじゃこりゃ?

「何でマーボー豆腐……」

「? ああ、地球の中華に興味を持ってね。高町君にレシピブックを頼んでおいたんだ。君の好物と聞いていたから、作ってみた」

 なのは……ぐっじょぶ……
 しかも、ちゃんと中華スープまで用意してる。
 ……ライスまで。
 じゃあ、人数分準備して、テーブルに配膳。
 マリエルさんも到着したので、皆揃っていただきます。

「!? 何これ、美味しい!」

「ホントだ。凄く美味しい……」

「……本格的ですね。上海酒家に迫りますよこれ……」

「うう、転属願いだそうかな……」

「兄さん、ほんとに中華初めてかよ……」

「「「「初めてぇ!?」」」」

「ああ。材料集めに苦労したよ。それに、こっちの料理より洗練されてるから、作るのも一苦労だよ」

 なのはの奴、どんなレシピ渡したんだ?
 いくらなんでも本格的過ぎだろ、賄いで出す料理じゃないぞこれ。
 ……ざ、材料費聞くのこぇえ。

「凄い人見つけてきましたね。……せつなさん、スカウトマンの素質ありますよ?」

「あんまり嬉しくねぇー……」

 ネタ漁りもいいとこだい。
 いるとは思わなかったんだYO!
 この調子だと、市井の方にはロボット馬鹿とかスペサルドリンクの娘さんとか一意専心の青年とかいそうだな……
 頼むから、タイムダイバーはいないでくれよ? 必ず裏切られるから!
 なお、弟さんは航空隊にいました。中将から借り受けた交代部隊には、知ってる名前がごろごろいました。
 勘弁してくれ……
 






*意外と長かったので前後編に。
コメントは後編で。



[6790] L23.プリズムコンチェルト 海鳴編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/24 19:19
 昼食終わってからはテッサたちと別れ、海鳴に戻る。
 アリサたちはまだ少し仕事があるそうだ。俺よりもやはり量は少ないけど。
 まあ、4月末あたりには108部隊からおさらばできるし、そうしたら少しは休めるかな~。
 さて、とりあえず……

「はーやーてー! あーそーぼー!」

 はやての家である。
 自宅に誰もおらんかった。エリオすらいねえ。
 そのまま直ではやての家に。
 今日はこっちにいるらしいし。

「せっちゃん! いらっしゃい。久しぶりやね、こっち来てくれるの」

「学校か向こう(ミッドチルダ)で会うくらいだからな~」

 学校でもそんなに頻繁に話してもいないし。
 よく俺を友達扱いしてくれる。有難い事です。

「まあ、あがってぇ。話したいことがあんねん」

「うぃ」

 久しぶりにはやての家に入る。
 ……はやてが歩けるようになってもう随分経つ。
 今まで歩けなかった分、精力的にいろんなところに行って、どんどんいろんなことを吸収していっている。
 それも、すべては、彼女の夢の為。
 ……すまん、もうちょっとだけ頑張れ。

「はい、お茶や。砂糖はいるか?」

「いや、流石に母さんの真似はできん」

「……せっちゃん、何か怒っとる? 刹那さん出てきとるけど……」

 あ、そういやはやてにも言ってなかったっけ。
 ……もうばらしてもいいか。後はやてだけだし。

「いやいや。ちょっと俺分裂してな?」

「……なんや? もう一人せっちゃんができたとか言うんやないやろな?」

「何故分かった?」

「……フェイトちゃんから聞いとるで? せっちゃんそっくりの妹さんできたんやって?」

 何だ知ってるじゃん。

「そ。カグヤって言うんだけどな。そっちに女性意識と俺の記憶分けたから、俺がこっちの体、主に使うことになってな……もう、こっちで私という女性意識は使わないことになった。……と、言うより、使えなくなったが正しいかな?」

「そうなんか……ちょっと寂しいんやな、せっちゃん」

「ま、カグヤは今度紹介するから、ちょっと待っててくれ。今、クイントさんの護衛付いてるから」

「うん、待っとるよ」

 ちゃんと分かってくれるはやて。
 俺の深層意識まで潜ってきた事あったんだったな。忘れてた。
 
「それで? 話したいことって?」

「あ、うん……リンディさんにも、話したんやけど……」

 母さんに話すってことは……やっぱりあれか。
 ちょっと迷った後、はやては口を開いた。

「あたしな、いろいろ部隊回っておもたんやけど、どこの部署も縄張り意識みたいなの持ってて、事件や災害が起こったとき、初動が遅れること、結構あるんや」

 確かにな。108部隊でも、海がでしゃばって仕事できないことがあったし。

「初動が遅れれば遅れるだけ、被害は広がってまう。捜査も遅れるし、いいこと一つもあらへん。……あたし、これじゃあかん思うんや」

 ……テレビ第二話の火災後の不安そのまんまだな。

「でな? あたし、やっぱり自分の部隊持ちたいんよ。迅速に現場に駆けつけ、いち早く事件や災害を押さえられる部隊。……こないだ、指揮研修も終わって、部隊長資格もとったんや」

 もうそこまで来てたのか、早いなぁ~。
 まあ、出会った頃からその片鱗はよく見てたけど。
 ……仲間内でも、リーダーはアリサっぽいけど、全員のまとめははやてが仕切る事もあったっけ。

「それで、リンディさんにその旨話して、なんとか皆……なのはちゃんやフェイトちゃん。せっちゃんたちと一緒の部隊作れへんかなって。……あたしの夢やった、あたしの部隊もてへんかなって、相談したんや」

 ……結果は分かってるけど。

「どうだった?」

「あかんかった。……リンディさん、苦笑いして『まだまだはやてさんに任せるのは早いから、もう少し頑張って修行積みなさい』って言われてもた」

 だろうなぁ。
 ……そう言う様に仕向けたの俺だし。

「それで、今度はカリムに相談しにいったんや。そしたら今度はにっこり笑って『修行不足と判断します。精進を積みなさいね?』って……」

 はっはっは。カリムにも根回し済みだぜ。
 ……カリムまだ予言受けてないんだよなぁ~。
 もうそろそろのはずなんだけど。

「最後の頼みの綱や~思うて、グレアム叔父さんに話したら『そんなに焦らずともいい』って一刀両断や。……なんで皆、あたしを子ども扱いするんやろう」

「いや、子供だろ。……俺も、お前もな?」

 何を当たり前の事を。

「せやけどやな? せっかく作った計画書も斜め読みして却下したんで! 酷い思わん!?」

 ……ああ、やはり思惑通り作ったか。
 で、俺の想定したイメージどおりの奴なんだろうなぁ。
 ……そういう奴が提出されたら、即座に却下するよう要請したのも俺だ。
 まあ、やんわりと断わってくれたみたいだけど、それが不満だったかな?

「じゃあ、それ見せてくれるか?」

「あ、うん。ええよ。……これなんやけど」

 受け取って拝見する。
 ……部隊コンセプトは勿論『迅速な捜査、解決を主とし、どんな事態にも対応できる部隊』。
 ここの所は俺と同じ。
 それで、メンバー表は……あった。
 どれどれ?

 部隊長、八神はやて。まあ、自分の部隊だから当然だな。

 部隊長補佐、せつな・トワ・ハラオウン。いきなり俺かよ。補佐って……まあ、的確か。

 第一小隊隊長、高町なのは。……ああ、まあ、なぁ? 教導官だから、まあいいか。

 同上副隊長、ヴィータ。なのはの補佐なら、これはありかなぁ。

 同上隊員、新人から有望株をスカウト。隊長、副隊長にスカウト権を委譲。……おいおい。それでなのはに探させてたのか自分の部下候補。これはマイナス点。

 第二小隊隊長、フェイト・テスタロッサ。……執務官を隊長格ねぇ? 悪くないんだけど、ちゃんと隊長の仕事もできるのかね? アニメじゃほとんどオーバーワークもいいとこだったし。

 同上副隊長、シグナム。……シグナム……ね。俺も頼んだし、これも順当だけど……前提条件がなぁ。アニメじゃ、交代部隊の隊長もやって、新人隊員とのスキンシップも、ティアナ殴って、エリオ鍛えて……それぐらいしか覚えないぞ?

 同上隊員、新人から以下略。……エリオとか、まだ合ってないけどキャロとか、コンセプトに外れそうなの入れるなよ。まあ、この世界じゃどうなるか分からんけど。

 医務官、シャマル。これは順当。てか、うちの部隊もこれは入れたかった……いや、すずかが駄目ってわけじゃなく、メインをシャマルさん、補佐ですずかにしたかった。

 以下、構想中……おい。すずかは? アリサは? リインフォースは?
 ……しかも、ほとんどこれ機動六課そのままじゃん。まあ、俺ん所も似たような感じだけど、これはさらに酷いぞ。

 駄目だね、落第。零点。
 最初、リンディさんが提示したメンバー表のほうが、もっと充実してたぞ。
 ……裏技使わないと駄目な奴だったけど。

「……え、えっと、どうやろ?」

「……はやて。この『以下、構想中』……どこまで構想できてる?」

 それ次第によっては、評価は変わってくる。
 ちゃんと人材探してるのか、それとも……

「え? あの、あくまで計画書やから、スポンサーが付いてからって……」

 はやて。それはダウトだ。

「いやさ。それじゃ駄目だ。それだと『まだ考えてません』って言ってるようなものだぞ? そんな計画書、どこも取ってくれないぞ?」

「せ、せやから、リンディさんとか、一緒に考えてくれそうな人に……」

 ……まあ、それも手だけどさぁ。
 せめて先ずは一通りそろえようぜ。
 前線支援部隊とか、輸送隊、交代部隊、施設管理、技術主任……必要なの沢山あるだろ?
 俺のほうでも一通りそろえて、要請書は提出したんだから……まあ、スカウト蹴った人もいたし、ほとんど海の人だけど。
 しかも、リンディさんが集めてくれた人だっただけに申し訳なかった。
 俺の説得不足ですみません。
 ちょっと脱線。

「……じゃあさ。これ兄さんに見せた?」

「クロノ君……うん、それをな?」

 あ、嫌な予感。

「せっちゃんに一緒に来てもらいたいんよ。なのはちゃんたちにも声かけてな?」

 ……うーん。それが通る相手じゃないからなぁ。兄さん。
 兄さんだけ賛同得られなかったからな、今回の部隊の事。
 結果が出てから判断するって慎重案。まあ順当順当。
 兄さんまで参加して、原作見たく海生まれの陸部隊~なんて言われたら、せっかく中将参加してもらった意味がなくなっちまう。

 ……まあ、うちの部隊員の一人に、銃突きつけられたこともあるし。あんま関係ないと思うけど。
 また脱線した。
 ……ちょくちょく脱線しないと、怒鳴りつけて叱りそうになるんだよな。

「うーん……ごめん、はやて。俺も、母さんたちと同じこと言うよ。『修行不足』だ」

 もうちょっと頑張りましょう。

「……せっちゃんも同じこと言うんか? 面白いとも、良い案だとも、一言も言うてくれへんの?」

「言ってやりたいけどさ。これ、完全に保有魔導師ランク制度度外視だよね? ……それ、どう解決するつもり?」

「……なのはちゃんやあたしに、リミッターを……」

 あ、やっぱそれか。
 それしかないもんなぁ……

「せめてさ。既存の部隊の部隊長から始められないか? いくらなんでも、これを新設って無理があるぞ?」

「……な、なんやのさっきから!? なのはちゃんたちと働きとうないん!?」

 ……ええと、はやて?

「いや、働けるんなら働いてみたいけどさ。この計画書じゃぁ穴がありすぎる。誰に聞いても、こんなの通さないよ? ……ゲンヤさんだったら、また怒鳴られるか破かれてポイレベルだこれ」

「そ、そこまで言うん!? ……あ、あたし、一生懸命考えて……」

「いやいや。ただ知り合い集めただけだろこれ」

「そこもやけど、部隊コンセプトとか、対応とか、連携とか!」

 ……あ、部隊メンバーの後に確かに乗ってる……けど。

「これ、ほとんど海メインじゃん。たまに空とか陸とかと連携取れるようにしてるけど、主体はやっぱ航行隊主体なら、地上部隊は見向きもしないし、下手すると航空隊もそっぽ向くぞ。……うーん、母さんの影響ここに出たか……」

 リンディさん自身が海以外の仕事あまりしてないからな。
 あの人の経歴見てびっくりした。ほとんど航行隊にしかいねえ。
 出向も航空隊だけで、陸の仕事就いたことないし。
 やばいな。ゲンヤさんに一回はやて預けるか?

「……なんでやの? 何で賛同もしてくれんの? あたし、そんなに間違えとるん?」

「……はぁ。じゃあ、言ってやる」

 仕方ない。悪役になるか。

「今回だけは、お前が間違えてる。……俺も結構夢物語言ったりするけど、お前はさらに酷いぞ?」

 昔はねぇ~。若さにかまけて『管理局なんて潰してやる~』とか言ってたけどね。
 入ってみると、大事さは分かるわ。なかったらなかったで混乱度酷いし。
 これなら、中から徐々に変えたほうがマシだ。潰すよりね?
 そうすると、あのときにゲンヤさんに会えたのは、天啓だったかもしれん。
 はうあ、俺の師匠になるんかあの人。
 納得いかねー。

「……そっか……せっちゃんに言われるほど間違えとるんか……」

 ……あーうー。やっぱ罪悪感。
 俯いて涙流さないでー。
 身内に甘いなー俺。
 ……フォローだけはしとくか。

「大体、はやて今何歳? 俺より年上だっけ? ……違うだろ? 十三だよな? 今三月だし。こないだようやくなのはが追いついたんだぜ? まだまだ修行不足、経験不足だぜ? お前も、俺もな?」

 中学生が考えることじゃねえって。
 ……まあ、ただの中坊じゃないけど。

「……あたし、せっちゃんに迷惑なんかな……せっちゃんと一緒に働きたいん言うのは……せっちゃんには迷惑なんかな……」

 は? 何を言い出すかと思えば。

「そんなことないぞ? はやてと働くと、俺楽できるし」

 リインフォースの処理能力には、いつも助けられてます。
 はやて自信の決断力に助けられるときもある。
 ……まあ、俺一人で動くより楽だ。

「せやったらなんで!? 何で一緒に考えたりしてくれへんの!? 駄目やとか、修行足りへんとか、否定してばっかやん! なあ、一緒に考えてくれへんのん!?」

「いや、お前、そんなこと一言も言ってないだろ?」

「……そ、それは……そうやけど……」

 まあ、友達なら当然って考え方も困り者だけどな。
 ……あ、丁度良い例があった。

「なあはやて。ちょっと俺の作り話聞かないか?」

「……へ?」

 俺の知り合いの話だけど……

「まあ、二人の男がいてな? 二人は親友なんだ。一人は地上の防衛隊隊長。もう一人は、その部下。階級は違うけど、二人は夢を語り合い、同じ夢を目指した親友なんだ」

 二人とも、見る夢は同じだった。
 部下のほうは、その夢に殉じてもいいとまで言った。

「部下のほうは隊長の為、一生懸命働いた。隊長は部下の為、一生懸命働いた。……けどさ。二人の夢は同じでも、仕事が違うと、手段が違って来るんだ。その夢に届く手段がね?」

「……そういうことも、出てくるなぁ」

 ちゃんと聞いてくれてるな?
 よしよし。

「部下の方はとうとう、その夢に近づく手段を手に入れ、それを隊長に報告した。けどその手段は、隊長にとって悪手だったんだ。……隊長は焦った。その手段を使われると、部下はおろか、自分まで危険になると」

「……その隊長は、その手段を使わせんようにするんやな?」

 あ、鋭い。この鋭さははやての長所だな。

「その通り。上から圧力かけて、どうにかそれを手放すように仕向ける。けど、部下の方はそれが最善だと信じて、隊長の命令より先に、その手段を使ってしまった」

「……どうなったん?」

「部下はその手段で殉職して、隊長はその部下を泣く泣く切り捨てた。……もう少し、ちゃんと話し合っていればと、後悔しながら……ね?」

 ……まあ、それだけのお話。

「で、今の話に出てくる、隊長が俺。部下が……お前と置き換える。……言いたいこと、分かるか?」

「……分かったで。あたし、悪手を選ぼうとしとるんやな? ……あたしだけやのうて、せっちゃんすら危険になる、そんな手段を」

 そのとおり!
 やはりはやては頭いいじゃないか。
 ……これで分からん言われたらどうしようかと。

「……ちなみに、作り話と言うのは嘘だ」

「……実際にあった話なんやね……」

 まあ、髭達磨とゼスト隊長だけど。
 
「……なあ、はやて。俺と一緒に働きたい?」

「……うん。やっぱり、せっちゃんと一緒に働きたい。勿論、なのはちゃんや、フェイトちゃんたちとも」

 ……よし。そこまで言うんなら。
 一緒に働いてもらおう。……ゲンヤさん流のしごきで、俺が鍛えたる。
 もともと、指揮官研修終わったら勧誘するつもりだったし。
 
「ごほん。はやて……いや、八神捜査官」

「え? な、なんやの?」

「管理局特務部隊【オリハルコン】のスカウト員、せつな・トワ・ハラオウンです。八神捜査官に、【オリハルコン】前線支援隊『ロングアーチ』の隊長に就いて貰う事を希望します。……就いてくれれば、同僚だが?」

「……は、はいぃぃぃぃぃぃ!!?」

 うお。凄い驚き方。
 目見開くとかよっぽどだな。

「たく。だからお前は甘いんだよ。お前以上に働いてる俺が、お前と同じ不安を抱かないと思ったか? ……お前と同じコンセプトの部隊は、とっくに用意してあるんだよ」

 しかも好条件で。
 スポンサーもとっくにつけて。
 稼動も間近。

「あ、ああ、ひ、酷いわ! あたし、それじゃピエロやん!」

「ピエロ以前だ阿呆。……俺はお前が相談しに行ったリンディさん、グレアム提督、カリムの他に、ロウラン提督や、ゲイズ中将。三提督にもサポートについてもらってる。……本気で垣根を取ろうとするなら、ここまでスポンサー集めないと」

「え、えええ!! ゲイズ中将って……本局や教会嫌いのレジアス中将やろ!? そんな人どうやって……」

「もちろん、その人を引き込むに足る素材を用意したんだよ。……思いっきり食いついて、ちょっと引いたけど」

 あの食いつき方はびっくりした。
 今じゃ資金援助は任せろとか公言してやまない。
 もう少し自重してくれ。

「……せやったら、部隊長は……せっちゃん?」

「阿呆。お前が修行不足なのに、俺がなれるか。さらに嘱託だぞ?」

 嘱託魔導師の部隊長なんて聞いたことねー。
 嘱託医が院長してるような病院なんかいきたくないって。

「まあ、今日までに決まったメンバー表見せてやる。これと、お前のメンバー表見比べてみ?」

 てなわけで、【オリハルコン】ファーストメンバー現在まではこちら!

 部隊長、テレサ・テスタロッサ三等陸佐。
 部隊長補佐、アンドレイ・カリーニン二等陸尉。
 前線部隊統括官、ゼンガー・ゾンボルト一等空尉。(交代部隊隊長兼任)

 前線小隊『ウルズ』小隊長、メリッサ・マオ二等陸尉。
 同上副隊長、ティーダ・ランスター一等空尉。(執務官研修中)
 同上小隊員、クルツ・ウェーバー三等陸尉。
 同上小隊員、相良宗介三等陸尉。

 前線小隊『アサルト』小隊長、南部響介二等陸尉。
 同上副隊長、シグナム二等空尉。
 同上小隊員、エクセレン・ブロウニング三等陸尉。
 同上小隊員、せつな・トワ・ハラオウン嘱託魔導師(二等陸尉相当官)。

 前線支援隊『ロングアーチ』隊長、未定(決まるまで、カリーニン二尉が兼任)。
 同上支援官、ルキノ・リリエ陸曹(本局より出向)。
 同上支援官、アリサ・バニングス技術士官(技術局より出向。技術主任兼任)。
 同上支援官、千鳥カナメ技術士官。(研修中)

 航空支援隊指揮官、リチャード・ヘンリー・マデューカス二等陸尉(指揮官研修中)。 
 航空支援隊員、ヴァイス・グランセニック陸曹。

 医務担当官、月村すずか医務官(本局より出向)

 食堂施設統括員、レーツェル・ファインシュメッカー食堂主任。

 隊員寮寮母、シエル・エレイシア寮長。

 交代部隊・陸上防衛隊376隊。

 ……以上が今までに決まったメンバー。
 スカウト頑張りましたー!
 ここには乗せてないが、ちゃんと事務担当も数人雇ってある。
 てか、中将に使えそうな人見繕ってもらった。
 さあ、はやての反応は!?

「何でシグナムはいっとるん!? 聞いてないで!?」

「ああ。黙っててもらった」

「ど、道理で転属先教えてくれんおもたら~」

 サーセン。

「アリサちゃんとすずかちゃんまで!? 一言も教えてくれへんかったやん!」

「の、前にお前は入れようともしてないよな?」

 それでも親友か? ……俺もファーストメンバーに入れるつもりなかったけど。
 実績できたら呼ぶつもりだったのにー。

「て、テッサさんたちまで……て、あの人ら、魔導師ちゃうやん!?」

「テッサは指揮担当だ。別に魔導師じゃなくてもいいだろ? 他のメンバーには素敵アイテムを配布してある」

 地球産のチートアイテムだ。この部隊の目玉。

「せ、せっちゃんが一隊員やなんて……他の人より魔導師ランク高いやろ!?」

「あ、俺、はやてが入る言ってくれれば、リミッターかけるから」

 そうしないとはやて入れられん。AAA取っちゃったし。
 パラディンの兵装システムも一部封印する予定だし。

「……こ、交代部隊は丸々別の部隊使うんか……」

「人手不足解消にはこれしか手がなかった。中将に頭下げたぞ俺」

 余ってる部隊一つ貸してくれー言ったら貸してもらえた。
 ……隊員丸々知ってる名前ばっかりでびびったけどな!
 博打好きのお調子者とか、名門のお嬢様とか空手段もち坊ちゃんとか熱血中華娘とか紅茶王子とかサトシもどきとか!
 ……部隊長が飛龍のお嬢様艦長だったときにはもう泣きそうになった、いろんな意味で。
 現在中将に交渉して、正式にこっちの部隊に組み込めないか検討中。
 全員のランク平均B-だし。

「で? お前のメンバーと比べて、何か突っ込めるところあるか? おもに悪い点で」

「……完敗や……勝てる気がせん……」

 オレサマWIN。

「せやけど待ってぇ! ほとんどが魔力なしで、その素敵アイテム頼りなんやろ? そんなんで迅速に、手早く解決できるんか?」

「あのな。魔法なんて技術の一つだろ? 後は兵隊一人ひとりの技能と連帯力が試されるわけだ。この魔力なしって言った人ら、全員軍隊出だぞ? 知ってるだろ?」

「軍隊と管理局は違うやん!」

「ああ、違うな。軍隊のほうがよっぽど過酷だ」

「……」

 あ、黙っちまった。

「軍隊はな? 管理局がやる災害救助も、人災制圧もやるし、最終的に戦争だってやってのける。日本の自衛隊なんかより、過酷な仕事を担ってるんだ。……そいつらが管理局の仕事をできないはずがない。現に、今108部隊で研修中だけど、そこの部隊長が左団扇で楽してやがる。それで証明にならないか?」

 ああ、くそ、ゲンヤさんおいしいなぁ。
 研修部隊いなくなった後に地獄見やがれ。

「……はは。せっちゃんには、ほんまかなわんなぁ……いっつもいっつもあたしの一歩先行きよる……」

「……不満か?」

「不満や! 一緒に歩きたいのに、何で背中しか見せてくれへんの? ……せっちゃんはいっつもそうや。気が付いたら、あたしらより先に行ってもとる……あたしを置いて行きよる……」

 ……なんだかな~。
 そうなって当然だと思うし、俺の夢を考えると、当然といったら当然何だが。
 それが不満だったか。
 どうしたものかな……

「なあ、あたしら置いていかんといてぇ? せっちゃん見とると、いつかあたしら置いてどっか消えてしまいそうやねん……一緒に、歩かせてぇなぁ……お願いやぁ……」

 ……いや、泣くなよ……
 あれぇ? 俺、そんなにはやてにフラグ……立ててるよな、最初っから……
 しかも、最近放置したまんまだし。

 ああ、本気で達磨と隊長みたいになるぞこれ。
 しかも、俺達磨かよ。
 それは駄目だ。
 ……やってることほとんど同じだけどな~。

「まったく。はやて意外に泣き虫だったんだな?」

「泣かせとるんは誰や!?」

「はは、すまん。……なあ、はやて?」

 もうちょっと、俺を分かってもらおう。
 相互理解は大切だ。

「俺さ、前世で大切な人、目の前でなくしてるだろ?」

「……うん、見たから、知っとる」

 それすら不本意だったんだけどな。

「だからさ、この人生で、同じ目に会いたくないんだ。……子供の頃から……お前に再会してから、この思いだけは変わらない。それは、理解してくれてるか?」

「……そのために、無理しとるんも知っとる……」

「ならさ、もう少し、お前たちが俺の隣に並ぶまで、前を歩かせてもらえないかな?」

 一緒に歩きたくないわけじゃない。
 俺もまだまだガキだから。
 一緒に歩きたい。
 けど、こいつらの道は、地雷原だらけだから。
 どこに地雷が埋められているか分からないから。
 せめて、地雷の位置を大体把握している俺が、前に歩かないと。
 そのためにも、多少の無理は承知の上。
 へまして片足吹っ飛ぶのも、覚悟の上だ。

「お前たちの道は、俺がなんとかして整える。一緒に歩けるようになるまでは、すまんが、俺の背中を……」

 見るだけでなく。

「支えて欲しい。……絶対、置いて行かないから。見捨てたりしないから。いなくなったりしないから。俺の背中にいて、俺を見守って欲しい。……それじゃ、駄目かな?」

 欲しいのは、追いすがる泣き声じゃなく、声援だけ。
 守りたいのは、大切な、笑顔。
 
「……せっちゃんはずるいなぁ……そんなこと、言われたら……もう、泣けへんやん……」

「泣いてもらうと困るからな。お前の家族に袋叩きにあいかねん。……なのは泣かすと恭也さんに斬られるし、フェイトだとプレシアさんに黒焦げにされる。アリサは泣いて殴りつけてくるし、すずかは吸い尽くされかねん。……まったく、俺、一応女の子だぞ? 何でこんなに困難多いんだ……」

 他にも、スバルやギンガ泣かすとクイントさんにボコボコにされるし、ティアナだとティーダさんに蜂の巣だ。
 保護者が強すぎなんだよもん。
 アリサとすずかだけだぜ自分で仕返ししてくるの。

「……わかった。せっちゃんの背中、あたしらで守ったる。せっちゃんがあたしらに頼ってくれたこと、しっかり守る。……それで、いつかは、一緒に並んで歩こうな? 約束やで?」

「ああ、約束。一緒に歩こう」

 長い人生をな?



 でだな。
 そこで終わってりゃ綺麗に終わってたんだけど。

「しかし、せっちゃん、やっぱり男っぽいわ~……かっこええんやけど、ほんまに女の子なん? 身長伸びとるのに、おっぱいぜんぜん膨らまへんし」

「それは言わんで……しかも、妹に負けてるし……」

 たった三センチ差だけど、あのやろ成長しやがった。
 うぬれ~~~~。

「あの海で言ったことほんまやったんやね……不憫や……」

 おのれぇ。この血が憎い~~~~。
 
「で、やな? そんなせっちゃんに質問なんやけど」

「はいはい。なんざんしょ?」

「……えっと、せっちゃん女の子好きやん?」

 ? まあ、好きだけど?

「それでな? ……女の子同士って、どうするん?」

 ……いや、どうって……
 え? それは、あれか?

「……はやて? 興味あるのか?」

「あ、いやな? そういう小説読んだんやけど、いまいちよう解らんっちゅうか……」

 ……百合物かよ……いや、そういう文学腐女子にはなってほしくなかったなぁ。
 まあ、はやてだから素質はあったか。よくネタにされてたし。

「それで、せっちゃんやったらしっとるかな~……て、おもてな?」

 いや、まあ、知ってるけど。
 ……ぶっちゃけ、興味本位でカグヤと寝たし。
 ドクター本気でいい仕事しすぎだ、あの変態。

「せっちゃん。よかったら教えて?」

「……あーはやて? それは……優しくか? それとも激しくか?」

 蛇の人降臨。
 激しくとか言っても、絶対やらないぞ。
 それし始めたら、シグナムあたりが帰ってくるのはお約束だ!

「えっと、できれば口頭で教えて欲しいな~……じ、実地はなんか怖いし」

「まあ、それでもいいけど。……まあ、耳かせ」







 少女(の痴態)説明中。







「……まあ、こんなところか? 基本だが」

「o......rz」

 あ、真っ赤になって凹んだ。

「せ、せっちゃん……エロ過ぎ……は、鼻血でそうや……」

 えー? そんなに~?
 結構オブラートに包んだぞ?

「も、もしかして、せっちゃん経験……あるん?」

「……実はある」

「相手は誰や!?」

「カグヤだが?」

「orz」

 あ、また凹んだ。
 ……自分が二人いるって便利だよね。
 かなり高度な自家発電だし。

「や、やっぱせっちゃんはあたしらの一歩先をいっとるんやなぁ……恐ろしい子や」

 いやぁ、はっはっは。
 ……それは絶対褒めてないよね?
 てか、こんなオチいらねぇ~……




「ただいまです~」

「はやて~ただいま~」

 ……あれ? ゆかな声聞こえたぞ今!?
 リビングに入ってくる人影一人。
 ヴィータだけなんだけど……あ、頭になんかいる!?

「あ、ヴィータもツヴァイもお帰り~」

「お、せつなじゃん。……あ、お前、カグヤどうにかしろよ! この間偶然会ったとき、あたしにまでキスしようとしてきたぞ!?」

「あれ? カグヤちゃんのお姉さんですか?」

 何で、ちっちゃいリインがいるの!?
 あれ? 俺フラグ潰したはず!?
 てか、カグヤ会ったんなら教えとけ! ヴィータにまで手を出すな!

「は、はやて? このちっこいリインフォースは……」

「あれ? 知らんかった? 二年前からあたしの家族になったリインフォースⅡやよ?」

「はい! はじめましてせつなちゃん! リインフォースⅡですぅ! お姉さまから、いろいろ聞いてますです。よろしくお願いしますですぅ!」

 ですっ子キターーーーーーーー!!
 は、なんで!? どうして!? ホワイ!?

「え、本家はどうしたの!? ユニゾンできなくなったとか!? それとも解雇!? 食い扶持減らしたんかはやてーーー!?」

「お、おちつきぃ! ちゃんとリインもおるよ!」

 じゃあなんで!?
 何で二世がいるのさ!?

「……いやな? ……ユーノ君とか、アルフとか見とったら、あたしもちっこいパートナーってええなーおもてな?」

 え、ちょ、ザッフィー……ああ、子犬フォームなんて覚えそうにないよなあの旦那が。
 てか、そんな理由で融合騎作るな。

「それに、リインとツヴァイ分けて高速処理がさらにはようなるし、ツヴァイとユニゾンして、リインと連携もできるし。もしくは、あたしがリインとユニゾンして、ツヴァイをシグナムやヴィータとユニゾンさせることも可能やし。いいことだらけやで?」

「はいです。ツヴァイ頑張りますですよ?」

「……あ、ああ、まあ……い、いいか。……やっぱはやても侮れんな……」

 いくらリインフォースがいても、ツヴァイは生まれるんだな。
 これは予想つかんかった……
 あれ? て、ことはだ。

「はやて、どっちもデバイス扱い?」

「そうやけど?」

「……ツヴァイは魔導師登録してる?」

「ツヴァイはA+ランク保持者やで?」

 ……やべ。
 保有制限引っかかる。
 上の連中、はやて入れるときの制限として、リインフォースも対象にしやがったから、ツヴァイもとなると保有制限オーバーではやて入れられん。
 ……シグナムに泣いてもらおう。

「はやて」

「なんや?」

「やっぱ、実地で教えてくれる。お仕置きだこの!」

「なんでやのーーーーーー!?」

「うわ、はやてーーーー!?」

「マイスター……え、エッチです」

 勿論シグナム帰ってきやがった。
 そして斬られた。うぬれ。




*選択肢以後のサブタイトルは、スペカの名前から来ています。……誰も突っ込んでくれなかった。作者です。
アリサのリンカーコアについては突っ込み不可でヨロシク。……駄目ですか?
スパロボ物のリンクはこちらに流れてきてます。もっとも、機動兵器は出しませんが。
次回。ちょっと早めのイベントが起こる。作者でした。


 まだ、まだ俺のストックは終了してないぜ……何が?



[6790] L24.マジカルガールズウォー リリカルサイド+α
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/05 18:38
 <なのは>

 新暦七十年・四月。私たちは中学二年生になりました。
 私は戦技教導隊に入隊。階級は二等空尉です。
 忙しいけれど、充実した毎日を過ごしています。
 
 ……他の皆も、それぞれの夢に向かって頑張っています。

 フェイトちゃんは執務官として、XV級次元航行艦『ハガネ』の法務担当として働いてます。
 艦長さんがせつなちゃんの知り合いで、その口利きで引き抜かれたそうです。
 とっても厳しいですが、プライベートでは優しいおじいさんと評判らしいです。

 はやてちゃんは本部の警備隊で捜査官をしています。
 先月までは自分の部隊を作る為、東奔西走してたみたいですけど、最近は180度変わってのんびりしてます。
 曰く『あたしはまだまだ修行不足やってんやなぁ~』と、もう少し修行を続けると言ってます。
 後、六月以降に転属するそうです。転属先は教えてもらえませんでした。

 すずかちゃんは医務官として、外科、精神科と二束のわらじを履くようです。
 精神科は絶対せつなちゃんの影響だと思いますが、すずかちゃんのメンタルカウンセリングは私も時々受けています。
 ……病気じゃないんですが、あのほんわかした空気でストレス解消になるので、お茶を飲むついでに。
 後、すずかちゃんも五月以降にアースラから降り、別の部署に転属するそうです。

 アリサちゃんは技師士官。マリエルさんに就いて、デバイスマイスターとして働いています。
 後、自分用のを作ってたらしいんですが、最近作り直すそうです。保護した融合騎と一緒に使えるものにするそうです。
 完成品の予想図を見せてもらったんですが……や、槍? 紅い運命ってなに? 紅い悪魔って私に対抗する気なの?

 問題の……というか、私たちの目標のせつなちゃんですが。
 珍しく始業式に顔出してました。前の年も出席せず、心配してましたが、今年は出席してきたみたいです。
 そのときはまだ嘱託魔導師として、いろんな部署を回っていると言っていましたが。
 ……どうも、査察官の勉強を始めたそうです。
 曰く『……ヴェロッサ見てると楽そうなんだよな……俺より自由に動いてるし……やってみるか?』と、そんな理由だそうです。
 相変わらず、せつなちゃんは謎です。

 さて、今日なんですが、なんと、皆で一緒にお仕事です。

「なのは。そろそろ時間だよ?」

「先ずは荷物を取りに行くで。妨害がある可能性があるから、気い付けや?」

 本局航行隊『アースラ』からの要請で、ロストロギア『レリック』を遺跡研究員から受け取り、アースラに持ち帰るという搬送作業。ただし、妨害戦力あり。
 搬送隊は私とフェイトちゃん、はやてちゃんの三人。はやてちゃんは新しい家族のリインフォースⅡも連れています。
 後方支援のオペレーターに、フェイトちゃんの補佐官であるシャリオ・フィニーノさん(私たちはシャーリーと呼んでます)。後、アリサちゃんも来てくれて、サポートをしてくれます。
 守護騎士の皆も集まって、ヴィータちゃんとシグナムさんが別働隊で妨害戦力をひきつけてくれてます。
 シャマルさん、リインフォースさんが後方で待機。予想外の事態に備えます。
 すずかちゃんも応援に駆けつけ、ザフィーラさんとアースラで打ち上げ準備を始めてます。成功すると確信しているようです。

 ……これで、せつなちゃんが来てくれればよかったんですが、仕事でこれないと連絡が来ました。
 代わりに、指揮官のクロノ君から、せつなちゃんの伝言が伝えられました。

「妹からの伝言だ。『怪我だけはしないように。終わったら駆けつける。もし、怪我してたら……なななめ』て、言えるかぁ!!」

 多分、お得意のセクハラだと思う。
 最近激化傾向にあるし。せつなちゃん本当にエッチです。

「……じゃあ、行くよ! レイジングハート!」『all right』

「バルディッシュ」『yes sir』

「ツヴァイ、行くで!」「はいです!」


「「「セッート、アッープ!!」」」

 作戦開始!



 <ユーノ>

 ……え? 僕ですか?
 どうも、皆さん久しぶりです。無限書庫の司書長なんて大役に任命された、ユーノ・スクライアです。
 ……僕視点なんか、初めてですね。どんな風の吹き回しだろう。
 五年前のジュエルシード事件から、僕は自分の無力さを感じ、僕なりにみんなのバックアップをしようと、無限書庫で働いてます。当初はなのは達も手伝ってくれましたが、皆忙しくて、最近は時たまアルフが手伝ってくれるようになりました。

 後、司書の中にも、なのはと同じ世界の出身者もいて、結構世間は狭いんだなぁ、って思います。
 今日はクロノの頼みで、なのは達が向かっている遺跡の文献を探しています。
 『レリック』が出土されたので、聖王遺跡の一つじゃないかと睨んでいるのですが……

「ユーノさん。ありましたよ?」

「本当ですか!? ありがとう、助かります! 美汐さん!」

「……いえ。気にせずに。確認をお願いします」

 どれどれ? ……せつな風に言うと『ビンゴ!』です。大当たりですね。八百年前の聖王遺跡で間違いないです。
 ……今のが97管理外世界の出身者、天野美汐さん。物静かで上品な方で、おもに古代風俗史に精通している方です。
 何でも、妖怪変化がどうとか……後、使い魔を持っているそうです。やんちゃなので、連れてこれないそうですが。
 とにかく、彼女に礼を言い、この文献をレポートに書き写します。
 そこで、無限書庫の常連さんの登場です。

「ユーノー? いるかー?」

「いるよ、せつな。どうしたの?」

「おう。兄さんの仕事の配達人&お前をさらいに来たぞ。……そろそろ終わると思ってな」

「……ナイスタイミングだよ」

 実は彼女が訪問率一番高め。
 僕達に頼むこともあれば、自分で資料探して持っていってしまう剛の人。
 彼女曰く、僕と美汐さん以外のレポートはあまり信用できないとか。
 み、みんなも信用してあげてね? 僕や美汐さんだけで運用してるわけじゃないんだから……

「じゃあ、これ。後、僕も?」

「おう。すずかとザッフィーが料理作ってくれてるそうだ。俺の仕事も終わったから、呼びに来た。……みっしーも行くか?」

「みっしーと呼ばないでください。……まだ仕事が残ってますので」

「……アルフ! 確保!」

「あいよー!」

「ちょ、アルフさん!?」

「そこの司書五十三号! みっしーの仕事代われ! 趣味の園芸見てんじゃねえぞ!」

「僕は二十三号です!」

 ……司書を在籍番号で呼ばないで欲しい。さらに間違ってるし。
 まあ、美汐さんも放って置くと、どんどん仕事をこなしていくタイプだから。
 誰かが代わって休憩取らせないといけないし。
 今日はせつなに感謝だね。

「よっし、じゃあ行くぞー!」

「「おー!!」」

「……わ、私、他の方と面識があまりないのですが……」

 あはは。厄介な人に捕まったとおもって、諦めてください。
 さて、なのは達は大丈夫かな……?



 <フェイト>

 遺跡に到着。途中数体のガジェットが襲ってきたけど、私となのはの魔法で破壊。
 ツヴァイも逃走した2体をしとめる活躍をこなした。
 ……やっぱり、皆一緒だと、それぞれの役割を把握できているからやりやすい。
 遺跡スタッフから『レリック』を受け取り、後はアースラへ戻るだけだ。
 先ほどシグナムから通信が入り、別働隊の妨害戦力を破壊したとの連絡が入った。
 二人には先に戻ってもらい、周辺空域の防衛をしてもらうことに。

 ……遺跡スタッフには、別ルートで脱出してもらった。
 後は、私達が戻るだけだ。
 ……よかった。何事もなく終わりそうだ。
 怪我なんかしたら、せつなが怖いからね……うう。せつなだんだんおじさん化していくよ……
 今度、じっくり話し合わないと。

 ……その割には、アリシアとは普通に接してるんだよね。同い年だけ餌食になってる。
 ……アリシア、母さんから科学者としての勉強を受け続けて、とうとうデバイスマイスターや高度施設運用、管理の資格取っちゃったんだよね。そのまま管理局に入局して、ある部隊の施設管理を担当するらしい。部隊名は教えてもらえなかった。
 母さんは知ってるみたいなんだけど……最近、私となのはをのけ者にしてる、せつなが怪しいんだと思う。
 その件も話し合わないと……!? 

 なに!? 転送魔法!?

『フェイトさん! 遺跡周辺空域に大量のガジェットが!』

 シャーリーからの通信。……見たことのないのも混ざってる!
囲まれた……
 
「新型かな……多いね」

「ちょっときつそうやな……」

 ……ここは、どう攻めようか。
 せつななら……一点突破かな? もしくは、広域攻撃……いや、この量だと、よっぽどの魔法じゃないと潰しきれない。
 向こうにはAMF……アンチマギリングフィールドと言う、魔法をかき消す効果のあるフィールドを装備している。
 なら、破壊属性付加の砲撃で、一点突破!

「なのは! 合体魔法!」

「うん! レイジングハート! カートリッジロード! はやてちゃん、時間稼ぎお願い!」

「わかったで! ツヴァイ!」

『はいです! 広域魔法準備しますです!』

 私となのはで使う、コンビネーション砲撃。
 発案はせつな。使って、ユーノの結界とアースラの訓練室を中破させた大技だ。
 あの時のせつなの唖然とした顔と、その後すぐに浮かべた納得顔が忘れられない。
 あれは『お前らならできて当然だ』って言ってる様だった。

 ……せつな、時々私たちより先を見てる。

 私が執務官試験を合格したときも、当然って顔してたし。……むしろ、一発合格のほうに驚いてた。
 エリオのときもそうだ。私が攻めあぐねていた、人造魔導師研究所の情報をいち早く持ってきてくれて、その場所まで突き止めてくれた。まあ、結果は、せつなですら予想外の結果になったけど。
 ……せつなは、何か知ってる。
 私たちの予想とか、そういうのより、先の事を見つめてる。

 ……そのことも、話し合わないとね。
 そのためにも!

「いくで! 『フレースヴェルグ!』」

 はやての広域砲撃! 周囲のガジェットを次々落としていく……見えた。一番壁の薄い場所!

「フェイトちゃん! 行くよ!」

「わかった! キーコード!」

「全力全開!」「疾風迅雷!」

「「N&Fコンビネーション!『ブラストカラミティ』!」」

 なのはの砲撃と、私の雷撃が渦を巻き、ガジェット群に突き進む!
 ? 着弾先、新型が集まってきた!?

「嘘!?」

 新型の中心から知らない魔方陣が現われ、それが五体、五芒星の隊列を作り……砲撃を受け止めてしまった!
 そのまま魔力結合が解かれて……駄目だ、霧散した。
 ……ガジェットが連携をとってくるなんて……

「こ、こんなん聞いてないで!?」

『はわわ……ど、ど、どうしましょうですぅ~~』

 く、一点突破が駄目なら……

「シャーリー! シグナムたちは!」

『シグナムたちも襲撃を受けてます! そちらに合流するのに、まだ時間がかかります!』

 ……しかたない、シグナムたちが来るまで、持久戦だ。
 
「なのは、はやて、ここは……」







「ここは、私にお任せだよ」





 !? この声!


「せっちゃん!?」

「「カグヤ」ちゃん!!」

「え? この子がカグヤちゃんなん!?」

 あ、はやてはまだ会ったことないんだ。

「ハイ、なのは、フェイト……はやては久しぶりとはじめまして。私がカグヤ……後、『嘘つきせっちゃん』も私だよ」

 ? なんのことだろ?

「あ……ご、ごめんな? 信じてあげられんで……」

「いいよ。もうせつな経由で謝ってもらった。……さて。ドクター今日は大盤振る舞いだね。……私が教えた砲撃防衛コンビネーションまで組んでくるとは」

「てぇ! あれあんたの仕業かい!」

 ……あ、相変わらず破天荒な。
 せつなもそうだけど、カグヤはさらに輪をかけて厄介だ。
 犯罪者に有効手段を教えないで欲しい。

「三人とも。取りこぼしをお願い。後、私の弾幕に触れても、皆にはノーダメージだから、気にせずに攻撃して?」

 ……そう言えば、あの研究施設を襲ったのはカグヤらしい。
 カグヤの戦い方は、弾幕戦闘と聞いているけど……

「じゃあ、ミッションスタート。IS発動。四天王奥義『三歩必殺』!!」

 空気が振動する。
 カグヤの周囲に魔力弾が六列並ぶ。
 また振動。その先にまた一列ずつ並ぶ。
 今度は大きい振動! ……ガジェットの周囲に魔力弾が発生した!

「こ、広域魔法!?」

『す、すごいですぅ!』

 周囲の魔力弾が外に向けて動き出す。弾速は遅いけど、あれは避け辛い!
 ガジェットの大きさでは、必ずかすって数体が爆散する。
 しかも、AMFの影響を受けてない!

「二発目!」

「フェイトちゃん! カグヤちゃんの援護だよ!」

「わ、わかった!」

 なのはが小石を高速射出する。……なのは、カグヤの戦い方を知ってるようだ。
 カグヤの二発目は最後が変化……な、なんて大きさのスフィア!
 あれは避けられない!
 なんとか避けきってもボロボロだ。それを私たちで落としていく。
 ……結局。周囲を埋め尽くすガジェットは。

「スペルオーバー。六十秒……残存戦力は……後六体……あ、ヴィータまたラストとったね。これで終わりだ」

 ヴィータが先行してきてくれたようだ。
 ……しかし、凄い……せつなといい、カグヤといい、なんて戦い慣れしてるんだろう。
 
「……? フェイト、私に何かついてる?」

「あ、いや、その……カグヤは凄いなって」

 そういうと、カグヤは首を傾げ、

「どこが? 私より、フェイトたちのほうが凄いよ」

 と、さらっと言った。
 ……な、なんでだろう?

「私、破壊することしかできないから。リンカーコアも結局Aで打ち止めだし。……バインドとバリアと、移動魔法しか覚えられなかった。攻撃方法はこれだけ。……多彩な魔法を使えるフェイトや、中距離、長距離で活躍できるなのは、広域に古代魔法、探査とか後方でも役に立つはやてと比べたら、私ほど使い勝手の悪い魔導師はいないよ。……あ、魔導師でもないか。戦闘機人だし」

 ……カグヤは、自分の領域を把握してる。
 その上でちゃんとその役割をこなしてるんだ。
 だから……誰よりも強い。

「……やっぱり、カグヤは凄いよ」

「そうかなぁ? ……フェイトは謙遜しすぎ。もっと自分に自信持って」

 グッと私の手を握って言ってくれるカグヤ。
 ……体温低い。でも、暖かい。
 
「うん。ありがとう、カグヤ」

 そういうと、にこっと笑って……あ、ほっぺた。
 !?

「あああああああああああ!!」

 き、キスされた……
 
「? はやてうるさーい。キスしただけだよ? ほっぺに」

「あ、あんたなぁ……や、やっぱりせっちゃんの妹やなぁ……」

 ……あ、なのはも赤くなってる。
 なのはもされたことあるのかな?

「あ、はやてにもしないとね? 親愛のちゅー」

「くらぁぁぁ! はやてに手を出すなカグヤ!」

「ヴィータでもイインダヨー?」

「こっちくんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 ……うん、本当にせつなの妹だ。
 まったくシリアスが続かない。
 ……この子の事も、話し合わないといけないみたいだね。なのは的に。



 <アリサ>

「……ええ、分かった。じゃあ、そのカグヤも連行してきて。……あ、そうなの? よし、じゃあ後で。よろしく~」

 なんとか作戦終了ね。
 大量のガジェットが出てきたときには焦ったけど、せつなの妹のカグヤが来て、手伝ってくれたみたい。
 広域型って言ってたから、はやてみたいなものかしら。

「アリサ~。あたしたちの出番はないのかよ~」

「ごめんね? まだデバイス出来てないし、あたしだけじゃぜんぜん弱いし……ホントごめん」

「ちぇ! あんな機械、あたしがパパ~と、燃やしてやるのに」

 この子結構自信過剰よね。あたしの安全とか考えてくれないのかしら?
 ……この子がアギト。あたしが拾ってきた融合騎。
 どこかの研究施設で実験体にされていたところを、謎の魔導師が連れ去り、そのまま郊外の森に放置されていたところをあたしが保護した。
 どうせ連れて行くんなら、最後まで面倒見なさいよ無責任な。
 まあ、あたしとユニゾンできるし、相性はバッチリ。あたしにもリンカーコアが出来始めて、これでようやくせつなの手伝いができそう……べ、別に、それが目的ってわけじゃないけど。
 
「まあ、今回は勘弁してよ。あんたのデバイス登録もまだだしね?」

「しょうがねぇなぁ~。まあ、今回だけ許してやるよ」

 あはは。文句言いつつ、ちゃんとあたしの言うことは聞いてくれる。
 この子も大概ツンデレだ。……あたしと似てるとか言うな。

「でも、アリサさん本当にいい拾い物しましたね~。融合騎なんて、普通落ちてるものじゃないんですよ?」

「いや、この子が稀だっただけよ」

 話しかけてきたのは、フェイトの補佐官シャーリー。メガネの似合う美人で、デバイスマイスターとしての腕も高い。マリエルさんとも友人で、自称弟子二号だ。一号はあたし。
 本当はこの人にも声かけて、せつなの部隊に入れてあげたいんだけど、そうするとフェイトにも声かけなくちゃいけなくなる。……魔導師保有制限で、フェイトの参入はまだ先になるとせつな言ってた。
 はやてを入れるのが精一杯だったらしく、ツヴァイの件もあって、結構ギリギリだ。これ以上AA以上の魔導師は入れられないらしい。

 新設の、しかも陸海空の垣根を越えて動ける部隊だ。その分、制限も圧力も厳しい。
 本局からリンディさん、レティさん、グレアムさんがスポンサーになってくれているが、そのほかの提督やエリート魔導師たちには不評を買っている。 
 何しろ、せつなの兄のクロノでさえ、公に参加しなかったほどだ。
 これを聞いた時、あたしはクロノに直談判しに行った。
 どうして妹の力になってやらないのかと。……だけど、クロノは平然と。

『いや、あいつは気にしてないぞ? むしろ、それが当然だとばかりの態度だ……もう少し僕にも頼って欲しかったんだけどなぁ……』

 と、拍子抜けの返事が返ってきた。
 なんでも、クロノまで参加すると、イメージが悪いらしい。
 この部隊はハラオウン家が裏で操っていると思われそうだと。

 ……まあ、全員ほぼ身内の上、管理外世界出身者だから、そう思われても仕方ないし、さらにクロノもサポートにつくとなると、それが確信されてしまう。
 それは、せつなの首を絞めてしまう。
 リンディさんもクロノも航行隊の人間だ。
 海の作った陸上部隊なんてレッテルが貼られると、地上での活動が困難になる。
 そのために、せつなは地上のタカ派、レジアス中将に参加を要請して、見事その参加をもぎ取った。
 その努力を無にしないためにも、クロノが参入するのは、もっと後……結果を出してからだそうだ。

 ここまでせつなは考えている……いくら、早い時期に管理局に入っていたからって、あいつの思考はちょっと先を読みすぎだ。まるで……未来が見えているみたいに。
 ……それは、ちょっと考えすぎか。

『アリサ? 作戦どうなった?』

 噂をすればなんとやら。
 せつなからの通信だ。

「ええ、もう終わったわよ。あんたの妹、手伝ってくれたから」

『あ~。やっぱ行ったか。手があいてたら行ってくれって要請はしておいたけど』

「それは先に言いなさい。……ちょっとやばかったんだから」

『うぇ。簡単な仕事だったろ?』

「ガジェットの数が半端なかったわよ。遺跡周辺で大量に出てきて、カグヤ来なかったらどうなってたか……」

『……ち、あの変態。新型作ったとか言ってたから、試運転に使ったな……? 俺らで性能試すなよな……』

 ……こいつも本当に厄介よね。ガジェット製作者と友人付き合いしてるんだから。
 相手が犯罪者って自覚あるのかしら?
 しかも、こいつが言うほどの変態らしいし……

「あんた、まさかと思うけど、そいつと寝たんじゃないでしょうね?」

『……いや、冗談、勘弁して。あれと寝るくらいなら、舌噛んで死ぬ』

 そこまで言うか。
 ……そこまで言うなら捕まえればいいのに。

『まあ終わったならいいや。これから差し入れ持っていくよ。後、ユーノとその恋人と『誰が恋人ですか!』『美汐さん落ち着いて』アルフと……後、エリオも捕まえたから、そっち連れてくわ。じゃあ、また後で~』

「はいはい。待ってるわよ」

 まったく。普通にしてたら暢気な子なのに。
 ちょっと働きすぎ……は、もういつもの事なのよね。
 ……もっと、一緒に居たいなぁ……
 なーんて、絶対あいつの前で言ってやるもんですか。

「……アリサ、ツンデレか?」

 ツンデレって言うな。



 <すずか>

 何気に私視点って初めてなんですよね?
 あ、いえ、こちらの話です。
 
「月村。皆戻ってきたらしい。準備を進めよう」

「はい、ザフィーラさん。……と、言うか、もう完全にコックさんですね?」

「……まあ、主の意向だ。気にしないでほしい」

 何か諦めたようなザフィーラさん。はやてちゃんの教育の結果、料理人としての道を極めつつあるザフィーラさんです。
 この話を聞くとせつなちゃんは頭を抱えます。
 なんででしょう?

 でも、ザフィーラさんにレーツェルさんの手伝いをさせようかとも企んでいます。
 ……局員以外にも戦力集めてどうするつもりでしょうか?
 寮母さんも、実は魔導師……と、言うかクイントさんなんですけど。
 過去の強制捜査で、クイントさんのいる部隊は全滅と報告され、かろうじて脱出したクイントさんも死亡扱いになってしまい、正規の手段ではミッドチルダに入国できなくなってしまいました。
 しばらくはせつなちゃんが匿っていましたが、なんとかして偽造の戸籍を確保。
 長かった髪もばっさり切り、伊達メガネで変装して、【オリハルコン】職員寮寮長、シエル・エレイシアさんの出来上がりです。

 名前はせつなちゃんが決めたそうですが、由来は教えてくれませんでした。
 何か、『青い髪・伊達メガネ・お姉さん気質・カレー・サマーソルト』などのキーワードが関係しているそうで。
 わかりませんでした。
 お姉ちゃんは分かったそうです。

「月村、お疲れ。手伝おう」

「あ、リインフォースさん、お疲れ様です。……シャマルさんもお疲れ様」

「はい、お疲れ様です、すずかちゃん。……どれから手伝おうかしら、ザフィーラ?」

「お前は皿を準備してくれ。後、箸とな……それ以外するな」

「ひ、酷いです……」

 周辺警戒も解かれ、守備に付いていたリインフォースさん、シャマルさんが戻ってきました。
 リインフォースさんはいいんですが、シャマルさんは……その、料理の腕がちょっとあれです。
 美由希さんと比べたら、まだマシなんですが。

『すずかちゃんまでそんなこと言う~~~~』

 さて? 何のことでしょう? 後、今何か聞こえたような……気のせいですね。
 ……シャマルさんと言えば、せつなちゃんは本当は私のほかに、シャマルさんも部隊に入れたかったそうです。
 と、言うより、まずシャマルさんを入れる予定だと聞いて、ちょっと悲しくなりました。
 私も、せつなちゃんの力になりたいと、必死でお願いして、なんとか入れてもらえたけど……あんまり、せつなちゃんに望まれていないのかと、落ち込んだときもあります。
 でも、せつなちゃんは、いつもと変わらない態度で。

『まあ、すずかにも声かける予定だったしな。……早いか、遅いかの違いだ。うん。変な所ですずかを失うより、傍で守った方がいいし……そうなると、アリサとすずか先に入れたのはよかったのか。うんうん』

 とか、言い出して……私は、せつなちゃんがちゃんと私の事も考えてくれてることを知りました。
 ……よかった。私は、重荷になってない……
 なら、せつなちゃんを、応援して、彼女の背中を守らないと……彼女の傷を癒さないといけませんしね。
 ちゃんと、治療用のデバイスを、アリサちゃんに発注してますし。
 そうしたら、もっと、せつなちゃんの力になれるかな……

「皆お疲れ~! 差し入れだよ~ん!」

 あれ?
 ……噂をすれば影、ですね。
 せつなちゃん登場です。
 あ、ユーノ君やエリオ君も連れてきてます。
 ……後、知らない女の子も。
 ……また浮気かな? いい加減彼女を増やすのは勘弁して欲しいんだけど。



 <はやて>

 アースラに戻り、会議室で打ち上げ~と、行ってみたら。

「お、お疲れ様。大変だったそうだな?」

 せっちゃんが来とった。
 ユーノ君やよく一緒におる司書さん、エリオ君も来とる。

「せつな!」「せつなちゃん!?」

「仕事は終わったん?」

「おう。引継ぎがスムースに済んでな。予定以上に早く済んだから、差し入れだ」

 ……ほんまや。料理の数が半端ない。
 エリオ君結構食べるし、人数も結構おるから、丁度いいんやろなぁ~。
 ……しばらくして、皆揃い、クロノ君から挨拶がある。

「皆、作戦成功ご苦労様。せつなも来てくれたから、これより打ち上げ「兼、兄さんの婚約発表会をはじめま~す!」て、お、おい!」

 なにぃぃぃぃぃぃぃ!!
 クロノ君結婚するんか!?

「せつな、おまえなぁ!」

「いいじゃん、こないだようやくプロポーズに踏み切ったんだから。皆にも幸せおすそ分けしないと。……つーわけで相手登場。母さんお願いします!」

「はいはーい! 婚約者のエイミィよ~~」

「あ、あう……は、恥ずかしいですよ、リンディさん……」

 なぁ!? ウェディングドレス!?
 リンディさんに連れられて、エイミィさん純白のドレスで登場。
 ……こ、婚約発表会ちゃうんか!?

「え、エイミィ……そ、その……綺麗だ……」

「く、クロノ君……うう、うれしぃよぉ……」

 エイミィさんうれし泣き。はぁ~、幸せそうやなぁ~。

「せっちゃんやるやん。ナイスや」

「ま、ここまでしないと相手褒めない兄さんが堅物すぎなんだけど?」

 ああ、それは言えてる。
 てか、それでようプロポーズできたな。

「結婚式は六月予定だから、皆にも招待状送るよ。是非出席してあげて欲しい。以上、お節介な妹からの通達でした!」

 これは、ちゃんと予定空けとかんとな。
 ……取材陣や有名人多く来るやろし。
 そして、相変わらず謀好きやなせっちゃん。
 
「じゃあ、皆、お仕事ご苦労様です。今日は無礼講で一つ。で、乾杯の音頭を幸せ一杯のクロノ提督から」

 皆がグラスを持つ。……流石に仕事中やから、ノンアルコールやけど。

「まったく、お前は……ん、ん。じゃあ、みんなのこれからの幸せを願って、乾杯!」

「「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」」

 周囲でグラスの当たる心地よい響き。
 あたしらもなのはちゃん、フェイトちゃん、せっちゃん、すずかちゃん、アリサちゃんでグラスを鳴らす。
 ……料理はザフィーラとすずかちゃん、後、せっちゃんの差し入れや。
 皆がそれぞれに話してる隙に、カグヤちゃんを紹介してもらうことになった。

「で、すずかとアリサはまだ会ってなかったな。俺の妹……て、言うか、ほぼ分身のカグヤだ」

「皆お久しぶり、そしてはじめまして。カグヤ・トワ。……せつなの遺伝子で作られた、戦闘機人。……後、三年前まで、皆と一緒にいた、女性意識のせつな。……これからも、よろしく」

 ……うん。たしかに、せっちゃんや。
 二人とも、難儀やな……いろいろ、葛藤もあったんやな……
 それすら乗り越えて、二人で笑い会えとる。
 ほんまに凄い二人や。

「……カグヤ。ようやくあんたから、自己紹介してもらったわね……遅すぎよ、まったく」

「アリサちゃん……仲良くしようね? カグヤちゃん」

「……ありがとう。私の言葉で、やっと、アリサたちと友達になれた……」

 うんうん。ほんまに、よかったなぁ、アリサちゃん。

「……だけど、せつなちゃん? カグヤちゃんの教育はちゃんとするべきだと思うよ?」

「そ、そうだよ。せつなと同じ性癖って……駄目だと思うよ?」

「おまえら。まだ分かってないようだな……あれも、俺なんだぞ?」

 ……分身て話やからな。
 その通りやんな。……致したらしいし。

「……て、ことはまさか……」

「カグヤちゃんも……?」

 あ、アリサちゃんたちも気づいたな?

「むしろ、俺以上に女の子大好きだ。……男嫌いだしな」

「ふふふふふ。そう、二人とも大好き」

 あ、アリサちゃんのほっぺにキスした。
 すかさず、すずかちゃんにも。
 おおお~。二人とも真っ赤や。

「あ、あんたわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……せ、せつなちゃんより大胆……」

 せやな~。
 せっちゃんも激しいけど、最近は人の目気にしよるからな~。
 ……まあ下手に手を出すと、周りに制裁されるからやけど。

「……こうなるから、あまり紹介したくなかったんだが……まあ、諦めれ」

「せっちゃん辛辣やな~……」

 意地悪なところは相変わらずや。
 ……うん、こないだのは、やっぱりあたしの気の迷いやな。
 せっちゃんがあたしらを捨てるようなことはせぇへん。
 ……せやから、せっちゃん。

「せっちゃんは、あたしと一緒におってな?」

「……まあ、頑張ります」

 大好きや。せっちゃん。





 <カグヤ>

 うう、アリサってば相変わらず激しい。
 女の子の顔叩くなんて……まあ、すぐ治るけど。
 後、アギトをけしかけないで欲しい。耐熱処理はしてあるけど、服がもたない。
 こんなところですっぽんぽんは勘弁して欲しい。

「か、カグヤおねーちゃん大丈夫?」

 あ、エリオ。平気平気。
 
「お姉さんはかなり頑丈だから。平気だよ、エリオ」

 小さいエリオの頭を撫でる。
 ふふ。ほんとに可愛い。……いや、小さい子は好きだよ?
 ショタじゃないんだってホントに……女の子は好きだけど。

「……カグヤ……だったか?」

 誰か近づいてきた……と、クロノ君か。

「えっと、はじめまして……かな? カグヤです。私的には、三年前までは一緒にいたんだけど……」

「母さんから聞いている。……本当に君は、いや、君たちは波乱万丈な人生を過ごしているな」

 あはははは。恨むよ神様。
 
「それで……戦闘機人と言うのは……」

「うん、本当。ジェイル・スカリエッティが製作者。……今は、ドクターからの依頼と、姉さんの仕事の手伝いをしてる」

「いや、そんなあっさり話さなくても……お前がしていることは、犯罪に繋がるんだぞ?」

 ……うん、知ってる。
 私がしていることは、下手したら犯罪だ。

「……でも、私は、姉さんの役に立ちたいから。……最終的に、私が姉さんの足を引っ張るようなことになったら、自爆するし」

「……お、お前……」

「あ、これは皆に言わないで? ……姉さんにも言ってないから」

 今の私があるのは、せつな姉さんのお陰だ。
 ……後、ドクターと。
 だから、もし、私の存在が姉さんの足を引っ張るなら。
 自爆することもいとわない。
 ……流石にドクターに頼んだら、意味がないから、自力で爆破するけど。

「……最近、あいつが無理をあまりしないようになったと思ったら……お前のほうに流れてたのか」

「あははは。うん、実はそう。……まあ、なのは達から見たら、まだまだ姉さん無理してるけど」

 年齢以上に働きすぎだと思う。
 私ですら、そう思うんだし。

「クロノ君の感性ではせつな結構楽してるけど、なのは達同年代から見たら、やっぱり無理してるように見えるよ?」

「……そうだろうな……僕があれくらいのころは、普通だったんだが……」

 よし、誘導成功。
 自爆云々の話をそらせた。……かな?

「せっかく出来た妹を、貴方の感性で潰さないでね? 姉さんが潰れて、一番苦労するのは、なのは達だから」

「……そんなこと、絶対にしないさ。……だから、君も無理するなよ」

「……うん、ありがと、兄さん」

 ……あはは、クロノ君やさしー。
 こんなに丸くなったんだ。年月って凄いね。

「と、あれ? エリオ眠い?」

「んあ……ちょっと、眠いよ?」

 静かだと思ったら。
 エリオを抱えて、そのまま奥に移動。
 クロノ君と別れ、奥の椅子で一休み。
 ……エリオ、あったかい。

「……カグヤさん。お疲れ様。代わりましょうか?」

 あ、リンディさん。

「……もうちょっと抱かせてください。エリオ、あったかいから」

「うん、そうよね。……この頃の子供って、体温高いから」

 私の隣に座って、優しい目を向けてくるリンディさん。
 ……うう、気まずい。

「……カグヤさん。貴方は、この後どうするの?」

 ……この後の予定だろうか?

「また、クイントさんの護衛に戻ります。いくらミッドで戸籍手に入ったといっても、いつばれるか分かりませんから」

 まだ、クイントさんの存在を表に出すわけにはいかない。
 あの事件で、ゼスト隊は全滅になっている。
 そうなったのは、上の思惑通りなんだ。
 私はあの時、ゼスト隊が侵入してくるのを、知った上で、チンク姉さんと防衛に当たった。
 ……あの時、記憶の共有が起こらなかったら、クイントさんを私が殺していた。
 と、いうことは、ゼスト隊全滅は、予定通りなんだ。
 だから、遺体が出てこなくても、全て死亡扱いにされた。
 ……最高評議会のシナリオどおりに。

「……えっと、じゃあ、せつなさんの味方っていうのは分かったんだけど……表立っては手伝ってくれないと?」

「ええ。私の存在はジョーカーですから。……姉さんの、最大の切り札。そして、姉さんの最大のアキレス腱。……私は、姉さんの影に隠れないと、存在できないですから」

 切り札という点では、姉さんの手の届かない、自由の利かないところからの援護を。
 アキレス腱という点では、私の仕事、そして、この戦闘機人という体自体。
 正直に言うと。
 私がしていることは、管理局法で犯罪幇助だ。そして、忌むべきデザインヒューマン。
 ……私が外にばれると、姉さんの立場がやばくなる。
 
「……本当は、この場にいることさえ、まずいんですから、これ以上を求めないでください」

「……わかったわ。無理言ってごめんなさい」

「いえ、分かってくれれば結構です」

 ……リンディさんは優しいから。
 私も娘に迎えたいんだろう。……けど、それは駄目だ。
 私の存在を表に出すことになる。
 第一、私が許せない。
 四年も放って置かれて、今更母親面とは何事だ……五年前のその怒りは、私の中ではまだ続いている。
 姉さん……刹那がリンディさんを母として認めても、私自身は認められなかった。
 けど、あの時はもう、刹那の意識のほうが強かったから……何しろ、私より知恵者の刹那が解決できない事態を救ってくれたのがリンディさんだ。認めるほかない。
 けど、それでも、私は彼女を母と認められない。
 ……我侭、なんだろう。私は。

「……エリオを、よろしくお願いしますね? ……私、そろそろ行かないと」

「……分かったわ。皆には、挨拶してから行きなさいね?」

「ええ。分かってます。……お友達ですから」

 エリオをリンディさんに渡し、席を立つ。
 ……さて、私の仕事を再開しよう。
 姉さんの影で働くのが、私の願いだから。
 




[6790] L24.マジカルガールズウォー オリジナルサイド
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Date: 2009/05/24 20:07
 <せつな>

 ……さて、一年ほど早い合同任務が無事終了し、カグヤが帰って、宴もお開き。
 俺も帰ろうかと思ってたら……なのはとフェイトに拉致られた。

「……せつなちゃん。ちょっとお話に付き合ってもらうの」

「せつな、無駄な抵抗はしないでね?」

 うわはーい、二人とも物騒ですよ?
 はやて……は、もう守護騎士連れて帰還した。
 すずか……は、打ち上げの後始末。
 アリサ……は、今日はミッドのほうにお泊り。アギトのデバイス登録があるらしい。
 ……ユーノもみっしーと帰っちゃったし、母さんエリオ連れて帰った。
 兄さん……今日の報告書作成か、く、もう防衛線がねぇ。

「……はいはい。しょうがない。とりあえず、ここにいてもあれだから、場所変えようぜ?」

 流石に、アースラに居座るわけにもいくまい。
 二人を連れて、クラナガン中央の秘密の士官バーへ。
 ……まあ、よく情報とか集めたり、裏取引とかに使う店だから顔パスだ。
 マスターは……まあ、元管理局の人。
 
「……せ、せつな? 私たち未成年……」

「大丈夫。酒は出さないように頼んであるから」

 マスターは元執務官なので、そこはかなり厳しいのです。
 お酒は二十歳になってから。
 俺の指定席の奥のテーブルに陣取る。
 結界魔法の応用が仕掛けてあって、防音&隠蔽の結界が敷かれる。
 ……一応、これは認可済みだ。

「……どうぞ」

 マスターが結界を越えて、飲み物を置いてくれる。
 三つともカルーアミルク、ノンアルコール。

「さて……何から聞きたい?」

 最近二人とちゃんと話してないからな。
 聞きたいこと沢山あるだろう。
 最初に口を開いたのは、フェイト。

「……せつな。私たちに隠してること、どれくらいあるの?」

 ……あれ、とあれと……あれもか。
 真剣に聞いてくるフェイトには悪いが、

「沢山」
 
 としか言えん。
 ばらすとヤバげなことばかりあるんだもん。
 話せることも沢山あるけど。

「まあ、二人に隠してることは、二つ三つぐらいかな? ……はやては知ってたり、アリサやすずかが知ってることもあるし」

 うーん、二人には悪いけど、この二人結構おしゃべり。
 二人にばらすと、いつの間にかいろんな人に伝わってる場合がある。
 そこらへんは少し自重して欲しい。

「……私たち、せつなちゃんの重荷になってるのかな……」

「いや、それは……ないぞ? ただ、話せないだけで」

 周り……特に、リンディさんあたりにばれるとヤバげなこともあるんだ、勘弁してくれ。
 ……地上で少し動きすぎたかな? やばいネタが増えてしまった。
 しばらく自重しよう。

「じゃあ、もう少し、私たちにも頼って欲しい……私も、できる限りの力になる。……ミナセ提督に口利いてくれたのも、せつなだって聞いて、私、せつなにしてもらってばかりだから……何か、お返しがしたいよ」

「そうだよ。せつなちゃん、私たちにいろいろしてくれるけど、お返し、全然できてない……そんなの、やだよ?」

 ……まあ、昔からの付き合いだしなぁ……
 
「うーん。フェイトは結構頼ってると思うけど? こないだのエリオの件とか」

「あれは、ほとんどせつなの後詰めだよ。……私一人じゃ、あんなに早く突き止められなかったし……」

 あれま。フェイトも前から動いてたのか。
 ……うーん、なのはは武装隊だから、俺から頼むってのないし……
 結局は。

「仕事で二人に頼める接点が少ないんだよなぁ。俺の仕事。……見事に陰謀ばっかりだし」

「せつな? もしかして、犯罪犯してるんじゃ!?」

「ないない。それはない」

 すれすれだけど。

「……そだな。ネタ晴らしは必要かな?」

 もう少し粘りたかったけど、まあいいや。

「……話してくれるの?」

「話せることだけな? ……二人とも、最近はやてがいろいろ動いてたのは知ってるだろ?」

 自分の部隊設立の根回し……俺から見たら、もどきにしか見えんけど。

「うん。はやてちゃん、自分の部隊持ちたいって、いろいろ調べたり、相談したりしてたから」

「私も、相談に乗ったりしてたし……最近、のんびりしてるけど、目処立ったのかな?」

 いんや、しばらく諦めさせてるだけです。

「目処立つどころか、しばらく修行しろってこき下ろしたからな。……俺が」

「……せつなちゃん。それ酷い。はやてちゃん、せつなちゃんと一緒に仕事したいって、それで」

「ああ、分かってる。……まあ、落ち着いて聞け」

 ふふふ、防音結界張っててよかった。
 ぜってぇ叫ぶから、この二人。

「実はな? ……その部隊、もう用意してある」

「……え?」

「……用意って……」

 ? あれ? 理解できてない?

「うん、はやての理想の部隊。俺が既に準備済みだ」

「「ええええええええええええええええ!!」」

 うは。やっぱり。

「ほれ、メンバー表……て、紙持ってきてないな。パラディン。データ表示」

【はい。マスター……最近こんな役ばっかりです】

 勘弁しろ、現場出てないんだから。
 で、今日までの組織図を映す。既に了解取ったので、はやてとリインズも組み込み済み。

「……うわ~。凄いメンバー……あ、アリサちゃんにすずかちゃんも入ってる」

「これ、全部決定済みなの?」

「おう。こないだはやて勧誘して、了解も貰った。……まあ、しばらくここで修行してもらうつもり」

 まだまだ部隊の頭は張らせられね。しばらく支援隊の隊長で我慢して欲しい。

「ああ!! ぜ、ゼンガーさん入ってる! レーツェルさんまで!」

「なのは? 知り合い?」

「教導隊の人だよ! 私、近接戦闘講義でお世話になったし、レーツェルさんに頼まれて、レシピ買って来たりしたから覚えてるもん!」

「おお、そういや、そんなことも言ってたな。いや、お前にばれずにスカウトするのは骨だったぞ?」

「せつなちゃん酷い! レーツェルさんのご飯おいしかったのに!」

「いや、そっちかよ」

 せめて、親分のほうを惜しがってくれ。泣くぞ親分……想像できんけど。

「まあ、お前らに黙っててすまないな。今年はほとんど人集めや練兵。連携訓練とか、各部署からの依頼だけしかこなせない準備期間だから、正式稼動してから教えたかったんだ」

 結果が出ないと、保有枠も広がらないしね。
 今年中に二人を入れることは無理だわ。
 勘弁してくれ。

「……う、うん。それはわかったよ。……でもね、せつな?」

 あ、気づいたな? 
 ……気づくよなぁ。この人達とも付き合い長いし。

「前線部隊、ほとんど非魔導師だよ? ……どうするの?」

 ……話してもいいけど……よし、話すか。
 こいつら経由でばれたら、俺の首飛ばせばいいだけだし。
 そうなったらはやてに後任せよ。
 テッサもサポートしてくれるから、大丈夫だよな?

「……まあ、特秘事項として聞いてくれ。……あ、一応聞いておくけど、特秘研修は受けてるよな? 当然だろうけど」

 管理局に入って、すぐに教わる必須研修だ。
 どこの会社でも行われる項目だから、受けてないなんて言わないだろう。
 ……そう言えば、アニメのほうのスバル、ロストロギア知らんかったな……いやいや、こいつらに限ってそれは

「……なんだっけ?」

「な、なのは? 訓練校の初日に受けたの忘れたの?」

「……あ、うん、受けたよ?」

 信用できねぇぇぇぇぇぇ!!
 寝てたな!? 寝てたんだな!?

「……よーし、なのはは回れ右してゴーホーム」

「う、ううううう、せつなちゃん意地悪ぅ……」

「いや、今のはなのはが悪いよ……」

 まったく。

「まあ、簡単に言うとだ、絶対他の人間に喋るな。関係者以外の人間にはな? ……この関係者って言うのも、管理局の事じゃないぞ? ここの部隊の人間の事を言ってるからな? ……理解したか?」

「分かった」

「……う、うん」

 ……やっぱり、なのは信用しきれん。

「よし、テストしよう。なのはだけじゃ可哀想だから、フェイトもな?」

「うん」

「わ、わかった」

 よしよし。じゃあまず。

「恭也さん」

「「駄目」」

 まあ、これは当然。次。

「自分の部隊の隊長」

「「駄目」」

 ふむ。なら個別に。

「フェイト、リンディさん」

「……OK?」

「よろしい」

 スポンサーだからな。知らないと俺が怒られちまう。

「なのは、シャーリー」

「えっと……だ、駄目」

 よーしよし。

「じゃあ、ちょっと難しいぞ。ユーノ」

「え、ユーノ君? ……駄目」

「うん駄目だね」

「……まあ、いいだろ。分かってるようだし」

 あ、そうだ。

「じゃあ、プレシアさん」

「「駄目」」

「残念。彼女も関係者だ」

「「ええええええええええ!!」」

 あっはっは。これは知らんかったろう。

「か、母さん知ってたの!?」

「ちなみにアリシアも知ってる。……てか、管理局入局試験受かって訓練校でたら、速攻うちで引き取るし」

 でないとアリシアの入局許可しねえよあのママさん。

「母さんまで巻き込んでるなんて……」

「せ、せつなちゃん鬼なの……」

「どうとでも言え。……まあ最後のは情報与えてなかったし、不問にする。……じゃあ、種明かしとしよう」

 なのは怒るかも……まあ、いいや。

「この部隊の非魔導師、及び、低ランク魔導師に、チートデバイスを配布する。……非魔導師が、A+ランク魔導師に早変わりできるデバイスだ」

「……せ、せつなちゃん、それって!」

「アーム……スレイブ……? だって、あれ、もう、地球にはない……まさか!?」

「そ。プレシアさんとマリエルさんに頼んで、もっとグレードの高いのを作ってもらった……まあ、あの二人が勝手に作っちゃったんだが。一応、俺からの依頼ってことにしてある」

 そうしないと、あの二人が捕まっちゃうしね。ばれて、上が違法指定したらの話だけど。

「リンカーマテリアル『テスラドライブ』内臓デバイス『アームトルーパー』。通称ATデバイス。試作段階は完了して、今個別機を生産中だ」

 この間古鉄と白騎士出来上がって、今日あたりから使い始めてるしな、響介さんたち。
 交替部隊の連中にも専用デバイスを配布予定。

「……せつなちゃん……だって、アームスレイブ廃絶するって……それで、終わったって……どうして!?」

「あ、いや。これは、この部隊だけで使うんだ。……非魔導師でも、これがあれば、魔導師と同じ働きが出来るだろ? ……魔導師が、魔導師だけが危険な任務を負うんじゃ不公平だ。それに伴う技能を持っていても、魔法使いじゃないってだけで、後ろに追いやられる人もいる。その人のための盾、そして剣……アームトルーパーは、そういうコンセプトで運用する」

 同僚を、魔導師の同僚を助ける、新しい力。
 非魔導師でも戦場を、災害地を、駆け抜けられる、最上の切り札。
 それが、アームトルーパー。
 ……まあ、コンセプトは全部後付けだけど~?
 あの二人がノリで作った奴だし。これだからマッドはぁぁぁぁぁ!!
 今回だけは助けられたけど。

「……アリサちゃんがデバイス作って、どうして使えるか、わからなかったけど……そういうことだったんだ……」

「あれは本当は止めさせるつもりだったんだよ。そしたら、お前と同じ理由で噛み付かれたぞ?『あたしも、あんたの力になりたいのよ! 守られてばかりじゃいやなんだから!』……てな? 止められるか?」

「アリサらしいね。……でも、これ、違法になるんじゃ?」

「ばれたらな? 後、上……最高評議会の連中が違法認定を出せば、違法になる。……今の段階じゃ、違法じゃないんだ」

 法自体ないからね。当初のインターネットみたいなものさ。
 ネット犯罪取締法なんて、インターネットが出来てから数年後にできたんだし。
 
「せつなちゃん……私、せつなちゃんが……怖いよ……」

 ……なのは?

「せつなちゃん! やだよ、私やだよ! こんなの、間違ってるよ!」

 え、あ、あれ?
 ……な、なのは的にアウトなのか?

「間違って……いるのか?」

「だって、これじゃ……他の人にも、危ない事させるってことだよね? 下手したら、他の、魔法を使えない人を危ないところに送るって、そういうことだよね!? そんなの、そんなのやだよ!」

 ……うぁ。そういう意見か……
 うーん、なのはとは少し話さないと。

「なのは。一度落ち着け。……落ち着いて、俺の話を聞け」

「……せつなちゃん……」

 肩に手を置いて、なのはを落ち着かせる。……マスターにハーブティーを頼む。
 ……フェイトは、冷静だな。

「フェイトも反対意見か?」

「ううん。私は、悪くないと思う。けど、犯罪すれすれだから、立場的には中立をとらせてもらうよ」

 ……意外と、考えてるな。
 よし、じゃあ、なのはとの相互理解に重点を置こう。
 ……なのはが解ってもらえなければ……覚悟しろ、俺。
 仕事の面で、なのはを切り捨てる覚悟を。
 ……うう、いやだなぁ。
 それだけは本当にいやだなぁ……

「……せつな……ちゃん……? あ、あれ? せつなちゃん?」

 ……あ、やべ。
 涙出てきた。
 ええい、久々に感情が昂ぶってるな。落ち着け、俺。
 
「あ、いや、ごめん。……なのはに、解ってもらえないと、俺、なのはと一緒に働けなくなるから、……それはいやだなぁって考えたら……ごめん。ちょっと、涙ぐんだ」

「う、泣き落としは卑怯だよ……」

「そんなつもりない。なのはには、ちゃんと話し合って解ってもらいたいから」

 砲撃なしでな。
 喧嘩もなしの方向で。
 ……あ、この説得失敗したら、今度は恭也さんに切られるのか俺。
 高町家のお話し合い再びかぁ……それはなんとしてでも食い止めないと!

「……どうぞ」

 マスターがハーブティーを三人分運んできてくれた。
 それぞれに渡して、一息……よし、説得開始。

「まずは……そうだな。なのはは、魔法の力を何の為の力だって思ってる?」

「私は……人を守る、素敵な力だと、そう思ってるよ。大切な人を、泣いてる人を助ける力だと……」

 ……うん。ここは、やはりなのはだろう。
 俺がアニメで見た、高町なのはの根本だ。

「フェイトは?」

「……私は、なのはと同じ考えだけど……うん、人を守る、手段の一つだと思う。正直言うと、魔法だけで解決できることって少ないから。私の仕事だと……ね?」

 うん。執務官をしているフェイトならではの言葉だろう。
 人を本当に救うには、魔法だけじゃ駄目だ。
 それは手段の一つ。そう考えないと、本当に人は救えない。

「俺は……魔法は、大切な人を守る剣だと思っている……これは、管理局に入った今でも、変わってない。……魔法を使い出してから、一度も変えていない、俺の信念だ」

 ……あの頃の誓いは、いまだ色あせず。
 ただただひたすらに、前に剣を突き出して……
 
「それでだ。俺がこのATデバイス運用に踏み切ったわけは、その剣を、他の人にも分けるためだ。……人を、守る為の剣を。その剣を、もてない人のために」

「……でも、剣は、人を傷つけることも出来るよ?」

 刃物だからな。
 その懸念はもっともだ。

「……そうだな。なのはの言うことももっともだ。……けどさ、ミッドチルダっていう、魔法が社会の歯車として運用されている世界では、その剣がなかったら、何も出来ないことのほうが多いんだ」
 
 要は資格だ。
 たとえ、A級ライセンスレベルの腕を持つドライバーでも、運転免許証がなければ、車は動かせない。
 たとえ、英語、フランス語、ドイツ語が喋れても、パスポートがなければ、その本国にはいけない。
 ……それらと同じだ。
 災害救助、人災制圧のプロフェッショナルでも……このミッドチルダに置いて、魔法が使えなければ、前線に出してもらえない。

「俺が渡すその剣は、その資格を持つものを後押しする力だ。資格を持たないものに、剣は渡さない。……だから、俺の部隊でも、前線部隊の非魔導師は、皆戦争経験者……軍隊出だ。軍隊はさ、戦争はもちろんだけど、災害救助、人災制圧、後、警察の真似事だってする。……やっていることは、管理局と同じなんだよ」

 さらに、彼らは長い間、紛争制圧に尽力したものたちだ。
 力の使いどころを、誰よりも把握している。
 
「それ以外のものを、決して現場には出さない。……まあ、アリサやすずかは別としても、基本はそれを遵守する。そのことは、各スポンサーにも説明済みだ」

 ATは非魔導師に力を与える。だけど、その力を悪用させない為にも、使用者選別には一番力を入れた。
 ……まあ、もっとも、危険思想の持ち主を、俺の部隊にいれるつもりはないけど。

「……もし、もしだよ? それが成功して、じゃあ、他の部隊にもってなったときは……」

「そのときまでに、免許試験の法律を確定させる。AT所持免許だ。……これは、三提督と、ロウラン提督、あと、ゲイズ中将に根回しして、すぐに発動できるように準備中だ」

「ゲイズって……レジアス・ゲイズ中将!? あの人が!?」

 あ、やっぱ驚くか。
 黒い噂絶えないからな、相変わらず。

「今回の件に一番関心をもってくれたのが、ほかならぬ中将でさ。なのはが懸念した事項も、いち早く指摘して、その所持免許の発案に協力してくれたんだ」

 あの人の正義を貫く、その一番の近道を提示できたんだ。彼は、その近道の舗装を手伝ってくれた……こんなガキのために。

「……い、一番危険だと思ったんだけど……そんな人だったんだ……」

「あの人、案外いい人でさ。交代部隊、中将が貸してくれたんだ。もう少し選別を続けて、その部隊を吸収してこっちに組み込む予定。……なあ、なのは。ここまで俺考えたんだけど、これでも、まだ間違ってるって思うかな?」

 これが、俺の表の考え……裏の考えまで、できれば話したくない。
 それは、俺のエゴだから。

「……ごめん。でも、まだ、納得できない……理解は出来るよ? 宗介さんたち、悪いことするような人じゃないし、せつなちゃんが選んで、決めた人だから、信じられる……でも、もし、他の人の手に渡ったらって……」

「あ、勿論、セキュリティも万全にしてある。……そりゃあ、絶対なんてないから、不安もある。……うん、そうだな。その不安は付きまとうよ。俺だって怖い。セキュリティはずされて、これの技術が他に渡ったらって……でも、俺は、もう、嫌だから……」

 これは、俺のエゴ。

「もう、力のない人が、理不尽な力に泣くのは……嫌だから……理不尽な、暴力に、大切な、人が、奪われるのが……嫌だから……」

「せつな……まさか、まだ、あの夢……」

 夢に見るのは、最愛の人の、無残な……

「あはは。うん。まだ見てる。……あれを、他の人に味合わせたくないから。……これは、俺のエゴ……我侭だよ……」

 だから。

「なのは。納得できないなら、それでいい。その代わり、この件、誰にも喋らないでほしい……お前に、迷惑かけないようにするから」

「……フェイトちゃんは、どう、思うの?」

「……私は、賛成。……確かに、せつなの想いは、間違いじゃない。……そして、それは、きっと、誰かがやらなくちゃいけないことだと思う……それが、せつなだったってだけだよ。……せつな。私は、協力するよ」

 ……フェイトは解ってくれた。多分、最初の段階で、わかってくれると思った。
 けど、なのはは……

「……まだ、考えさせて……ほしい。ごめん、せつなちゃん……」

 ……うん、解ってた……
 なのはには、納得できないって。
 優しい……子だから。

「なのは……もし、解らなかったら、恭也さん……士郎さんに、聞くといい。多分、二人の答えが、俺の答えに似てると思うから」

 御神の剣が、なのはを、救ってくれるって、託すしかない。
 それで駄目なら……大人しく、斬られよう。

「……ごめん、せつなちゃん。帰るね?」

「ああ……気をつけてな?」

「……うん」

 席を立って、なのはが結界から出て行く……
 直後、我慢が出来なくなった。

「……せつな。……もう、いいよ。泣いても」

「すまん……泣かないつもり……だったんだけどな……」

 できれば、俺の言葉で、なのはに解ってもらいたかった……

「ごめん、ごめんな、ごめん……」

 後悔は、しない。
 振り返りもしない。
 ただ、一言、謝罪だけ。



 ごめんなさい。





 <なのは> 

 私の懸念……幼い頃から、ずっと思ってた。
 せつなちゃんは、どこか、遠くに行っちゃう人だって。
 だから、私は、せつなちゃんを守る力になろうと、そう、追いかけて行った。
 管理局にだって、せつなちゃんが入るって言ったから、私も追いかけて入った。
 ……でも、せつなちゃんに追いつけなくて……せつなちゃんの想いが、わからなく……て。


 気がついたら、知らない場所に出ていた。
 ……あう、いけないいけない。
 しっかりしろ、私。
 せめて大通りに……

「今日の獲物はっけーん!」

 !? 後ろ!?
 口を押さえられた! 声が出せない!
 物陰から二人……後ろの一人だね。バリアバーストで吹き飛ばす!
 レイジングハート!

「……!?」

 ま、魔法が発動しない!
 なんで!?

「あら、魔導師だったみたいね? でもざんねーん! AMFって知ってるかしらん?」

 嘘、どうして?
 ガジェットもいないのに、何でそんなものが!?

「んふふ~。AMF発生コートよん。数年前にこれがあったら、あのお子様にしてやられることなかったんだけど……」

 お子様?
 私の前に現われた女の人の服……あのコートが……?
 これは……まずい。

「ん! んん~~~!!」

「あ、こら、暴れんじゃねぇ。おいファティマ! 早く縛れ、おら」

「はいはい。……まったく、せっかく脱獄したのに、最初の仕事が人攫いなんてね~。ま、一人頭50万はおいしいけど」

 人攫いって……あ、クラナガンで起きてる、人攫い事件?
 まさか、この人達が犯人?

「あいおしまい。……よっく見ると美人ねこの子。この子のクローンが流れたら……売れそうねぇ」

 しかも、違法研究の!?
 く、この……駄目、縛られて……
 
「ダッドマ! 車回せ! ずらかんぞ!」

「……」

 サングラスの男の人が、その場から立ち去る……
 念話を……駄目だ、これもできない!
 なんとかして……脱出を……

「あらあら~……」

 !! う、嘘……む、胸触って……太腿も!?
 ええええええええ!?
 この女の人、せつなちゃんと同じ人種!?

「やぁん。可愛い。……売るのもったいなぁい。ちょっとだけ味見して良い?」

「……いいけど、壊すなよ? こないだの、売る前に使い物にならなかったじゃん」

「えへへ~あたしのおっきいから」

 ……な、なんでしょう? 何が大きいんですか!?
 ひぃ!? ぞ、ぞうさん!
 こ、この人オカマ!?
 
「んふふ~……いっただきま~す」

 思い浮かぶのは、せつなちゃんの悪夢。
 そこで行われた、凶行。
 ……その結末が、脳裏をよぎり、私に何が起こるのか、わかってしまった。
 それは、嫌だ。……いやだ!
 せつなちゃんが泣き叫ぶのは嫌だ……
 い、いや、こないで、助けて、助けてぇ!







 せつなちゃん!









「はぁい! そこまでぇ!」

 衝撃が私を襲った。
 ……あれ? 私、飛んでる?

「大丈夫? おねぇさんが来たから、もう安心よん♪」

 ……金髪のポニーテールの女の人。
 白い鎧状のバリアジャケット……魔導師だ。
 ……この顔どこかで……あれ? この人、魔法使えてる!?

「オカマの癖に、女の子に手を出すなんてぇ……お仕置きよん!『オクスタンバレット』!」

 右手に持った異様に長いライフルデバイスから、魔力弾が打ち出される。
 ……AMFの影響を受けてない! オカマの人の周囲を撃ち抜いた!

「と、わ、あぶないわね! て、何でAMF効かないのよ!」

「あらん? 不思議よねぇ~? 対策はもうバッチリよん! 響ちゃんお願い!」

「誰が響ちゃんか!」

 私を押さえつけていた男をふっ飛ばしながら現われたのは、黒髪の……真っ赤な鎧を付けた男の人。
 大きな肩のパーツと、右手のシリンダーが印象的。
 ……あれも、デバイスなんだろうか?

「さて、お前らが、最近の誘拐犯だな? 管理局陸上警備隊108部隊の南部響介だ。抵抗せずに、大人しくすることを推奨する」

 108って……せつなちゃんがいたところ!?

「また監獄送りは嫌なのよん! 『スティンガー・ブレイド』!」

 魔法を使った!? あのオカマの人も魔導師!?

「ふん! 狙いが甘いな!」

 魔力の剣を避け、肩のパーツを開いた。
 ……まさか、質量兵器!?

「ちょ、管理局でしょそれ質量兵器!?」

「残念ながらデバイスだ! せつな特製の貫通破砕魔法『スクエアクレイモア』、その身に受けてみろ!」

 確かに魔力弾だ。それがショットガンのように周囲にばら撒かれる。
 あんな魔力運用初めて見た! あれじゃあ、避けられない……
 あれ? 今、せつなって言った?

「あきゃぁぁぁぁぁ!!」

 あ、魔力弾ほとんど受けて倒れちゃった。
 ……あ! 後ろに車が迫って、危ない!

「ふん……エクセレン!」

「はいは~い! ここは通せんぼ! 『オクスタンビーーーーム』……何気にかっこ悪いかしらん?」

 収束砲!? それが向かってきていた車に直撃!
 ……凄い、ディバインバスターと同じ出力……

「犯人無力化せいこ~う! みなさ~ん! ふんじばってくださ~い!」

「せめて、確保と言え。……と、この子は被害者か?」

 周りから局員が押し寄せて、犯人たちは連れて行かれた。……あの人達もどこかで見たことある?
 私を抱えていた人が地上に降り、私の拘束を解いてくれた。
 ……よく見ると、男の……南部さんもどこかで見覚えがある。
 それも、つい最近……

「はい、苦しかったでしょ?」

 口を縛っていた布を解かれる。
 あ、お礼言わないと。

「あ、ありがとうございます。管理局戦技教導隊の高町なのは二等空尉です」

 敬礼と共に挨拶すると、デバイスを収納した二人が驚いた顔していた。

「え!? なのはちゃんって言うと、せつなちゃんの友達の!?」

「……そうか、よかった。せつなには世話になっている」

 あ、やっぱり。知り合いだったんだ、せつなちゃん。
 でも、何で私も見たことあるんだろう……
 南部さんの前髪のメッシュとか、忘れそうにないのに……あ、ああ!

「あ、私、管理局特務部隊【オリハルコン】の~「それはまだ先だ。いまは108」……ちょ、ちょっとした練習よん。とにかく、エクセレン・ブロウニングよん。よろしくね?」

 そうだ、この二人、せつなちゃんの部隊の前線隊『アサルト』の隊長と、隊員さん……じゃあ、今のデバイスは!?

「あ、あの! 今のデバイスはもしかして……」

「ああ、せつなから聞いたか。AT『アルトアイゼン』先日ロールアウトしたばかりの俺専用デバイスだ」

「で、私のがAT『ヴァイスリッター』。遠距離射撃の凄い奴ぅ。鎧の色はせつなちゃんとお揃いね?」

「あいつのは白銀。お前は白だろう」

「似たようなものじゃないの」

 ……これが、アームトルーパー……私たちを、助けてくれる、非魔導師に与えられた、新しい剣……
 こういう、ことだったんだ……

「まあ、今日は試運転だから、できるだけ内密に頼む。稼動前にばれて、部隊がつぶれたら、俺らの新しい職場がなくなるからな」

「あらん? せつなちゃんの親友よん? そんなことしないわよ。ねぇ、なのはちゃん?」

 ……せつなちゃん、私のこと、二人に話してたの?
 な、なんて言われてるか、凄く気になる!

「あの、せつなちゃん、私の事、なんて言ってたんですか?」

「ん? えっとね~『とっても優しい子で、俺の……恋人』?」

「親友だろ。まあ、いろいろ言っていたが、守るべき大切な人だといっていたな。だが『たぶん、俺のやってること、一番に否定するかも』とか……な?」

 ……せつなちゃん。私が納得しないこと、わかってたんだ。
 それでも、解ってもらおうと、必至で説得してたんだ。
 ……それなのに、私……

「……高町。お前が否定するのは、このATデバイスの事だろう?」

 !? ……なんで?

「何で、解るんですか?」

「ああ、アームスレイブ廃絶を推奨したせつなに理由を聞いてな。『いろいろあるけど、一番の目的はなのはの笑顔を守る為……』だと、言っていた」

 ……南部さんたちには、解らなかったそうだけど、せつなちゃんは語った。
 私が、魔法の力を戦争に使わないでと、その叫びを、世界中に轟かせる為に。
 人を守る剣を、傷つける為に使わないでと、それを教えるために。
 
「……確かに、アームスレイブは、地球では歪な力だ。使うべきではない。……俺はここに来て、ようやく解った。魔法を使ったテロ、犯罪……それが、地球にまであふれるのを、防ぐ為だと確信した。……だが、ここでは、俺たちは魔法を使えない。俺たちの技術が、役に立たない」

「で、せつなちゃんがアームトルーパーを渡してくれたわけ。渡してくれるときに、せつなちゃん言ってたの。『これは、神から盗み取った、炎。人を傷つける為でなく、人を助ける為の剣。……どうか、その意味だけは、忘れずに使って欲しい』ってね? 私、せつなちゃんみたいな子、大好き。あの子、大切な人のために体張れる子だから。……でも、それって、私たちの役目なのよね」

 ……大人が子供を守る。
 当たり前の事だけど、とても難しいことだ。

「そのための力をくれたせつなには、感謝している。この力で、お前を助けられた。……お前は、せつなの意志に助けられたわけだ」

 せつなちゃんに……そうだ、私、せつなちゃんに助けを求めて……
 お兄ちゃん、言ってたじゃないか。
 せつなちゃんが本当に笑ってくれる為に必要なこと。

『この時代で、守りたい事、守りたい者を守りきることができれば、多分』

 笑って、くれるって……

「せつな……ちゃん……」

 そうだ。せつなちゃんは、守りたかったんだ。
 理不尽な暴力で殺されたお姉さんを、妹を。
 魔法で、その力で、助けたかったんだ。
 ……だから、この世界では。
 この時代では、守りきる。そのための、せつなちゃんの力……
 私は、せつなちゃんの想いに、助けられたんだ。

「ん? どうやら、騎士の到着のようだな」

「じゃあ、後は騎士様にお任せねん?」

「ああ! 響介さん、エクセ姐さんありがとう! なのは! 無事か!?」

 せつなちゃん、せつなちゃんだ!

「せ、つな……ちゃん、わ、私……」

「無事だな!? よかった……今度は守りきった……」

 ……せつなちゃん……私、解ったよ。
 せつなちゃんの想いは、こういうことだったんだ。
 
「守ったのは、わた「黙れ」……響ちゃんのいけず~」

「いや、でも助かった。ありがとう! 本当にありがとう!」

「せつなちゃんなんか、保護者みたいよ?」

「たりめーだ、なのはは俺の恋人だぞ!? ちっくしょ~、あいつオカマだったのか。6年前に潰して置けばよかった」

「……犯人、知っているのか?」

「以前銀行強盗で、俺を人質に取った奴だよ。たく、P---潰しておけば~~~」

「せつなちゃん下品よん?」

 ……もう、せつなちゃんは、相変わらずだなぁ。

「せつなちゃん」

「む? な、なのは?」

 昔のように、せつなちゃんを抱きしめる。
 せつなちゃんは、ここにいる。
 いなくなるなんてことはない。
 私を、私たちをずっと、見てくれてる。

「ずっと、一緒にいてくれるよね?」

「……当たり前だ。たく、お前もはやても、俺を何だと……」

 うん。意地悪だけど、せつなちゃん。

 大好きだから。





*次回。オリジナルストーリー展開を予定。作者です。
あと、この事件(合同作戦のほう)が若干早くに発生したのは仕様です。
……選択肢の掲載時に言ってた問題はこの話。当時、この事件の翌年に空港火災だと信じ込んでいて、調べてみたら……え? 翌月!?
苦肉の策としてイベント発生を早めました。
……まあ、次の話の絡みもあったため、こうするしかなかったわけですが。
以上。どうでもいい作者の言い訳でした。





[6790] L25.新難題ロストロギア 出発編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/25 19:58

 <テレサ>

 ……退屈です。

 いえ、仕事がないわけじゃないんですけどね?
 せつなさんの尽力やリンディさんの手腕のお陰で、ミスリルから追い出される形で手持ち無沙汰になった私は、こうやって部隊長の地位にいます。しかも異世界の。

 ……人生、いろいろ起こるものですね。まさか私が異世界の組織に入り、その部隊長になるなんて……しかも、新設部隊の。
 せつなさんは、私が部隊長になるためにいろいろ手回ししてくれて、相良さんたちの就職先もここに設定してくれて……本当に感謝してます。

 まあ、アームスレイブを改良して、こっちの世界で使うって聞いた時は、唖然としましたけど。
 それって、技術盗まれたんですよね、私たち。
 しかも、私たちの世界ではもう使われなくなった技術……うう、お父様や各国の代表たちが聞いたら、攻め込んできそうですね……。

 でもそれも、私たちの世界の事を考えての事ですから、仕方ないといえば仕方ないと納得せざるを得ません。
 その代わり、私もこうして外の、お日様の当たるデスクでお仕事が出来ると思えば……

 ……でも、正式稼動は来年からですから、今は書類作成とか、人員整備、業務スケジュール作成、各部署への礼状、挨拶状……うう、やってることはメリダ島に待機してた時と変わりません。
 むしろ、机に向かっている時間が増えてます。

 はぁ……あの海が懐かしいです。

「艦長」

「ここでは部隊長ですよ、カリーニンさん」

「……そうでしたな。それより、通信です。カリム理事から」

 教会のカリム理事ですか。
 まだ二、三回しかお会いしたことありませんが、この部隊のスポンサーになっていただいています。

「つないでください」

「はい……と、これでしたな」

 まだ、こちらの機械操作には慣れてませんね、私達。
 向こうと勝手が違いますから……

『こんにちは、テスタロッサ部隊長。仕事の調子はどうですか?』

 いつも笑顔を絶やさないカリム理事。私より数年年上ですが、あったときからいろいろアドバイスしてもらってます。
 ……お姉さんみたいなものでしょうね。
 私の姉分は……豪快な人ですから。

「はい。書類仕事ばかりですが、順調ですよ」

『それはよかった。退屈しているものと思いましたが……』

 図星です。……顔に出てたでしょうか?

『正式稼動までは、しばらく退屈かもしれませんが、頑張ってください。私どもの方でも、仕事をそちらにまわすようにしますから』

「ありがとうございます。ご協力、感謝します」

『それで、早速なんですけど……仕事の依頼をお願いしたいんです』

 正式稼動していない私たちの部隊は、こうした依頼をこなすしかできません。
 4月末に108部隊に研修に出ていたマオたちが戻り、『ウルズ』『アサルト』両チームは普段は訓練、依頼時に仕事という業務をこなしてもらっています。
 ですから、仕事の依頼はありがたいです。

「はい、かまいませんよ? 今日は両チーム手が空いてますから」

『わかりました。それで、今日の仕事ですけど、ロストロギアの探索になります。場所は、あなた方の出身世界ですね』

 ……こちらの世界で一番興味を持ったのが、ロストロギア。古代遺失物と呼ばれるそれは、オーバーテクノロジーだったり、超魔法文明の道具だったりして、いずれも危険なものばかりです。
 はやてさんの夜天の書、せつなさんの騎士王の書も、一応ロストロギアに分類されますが、安全を確認されたので、通常運用されているそうです。
 ……そのロストロギアが、地球にあるんですか……

「では、『ウルズ』のチームに出てもらいますね?」

『あ、いえ、せつなさんにお願いしたいんです。丁度、海鳴市なので……』

 ……まずいです。
 せつなさん、今一週間の休暇中なんです。
 理由が……

「あ、あの、聞いてませんでしたか? せつなさん、今日から修学旅行で、お休みなんですけど……」

『……あらまあ』

 あ、笑顔が引きつった。
 ううう、何でこんなときにいないんですかせつなさん。
 絶対あの子は私に恨みがあると思います。

 ……せめて、スポンサーには話し通しておいてください……



 <せつな>

「知ったことかー!」

「え!? なにが!?」

「……あ、いや、なんかつっこまなきゃいけなかったような……?」

 まあ、いいか。
 で。今日から五日間。聖祥大付属中学校二年生は修学旅行。三年生じゃないんだな……
 来年忙しくなるから助かる。
 仕事は全てキャンセル。アンド、終わらせた。
 行き先は京都・奈良。……まあ、昔住んでた所は回るまい。何も名産なかったし。
 今回は、仕事も絡まないし、平穏に過ごすとしよう。

「しかし京都か~。ちょっと懐かしいかな、せっちゃん」

「つってもな、俺あんまり向こうの記憶ないしな」

「あ、せやったな……」

「ああ、気にすんなって。……むぅ、まあ、懐かしいって言えば懐かしいけど」

「どして?」

「……前世の修学旅行も京都だった……」

「……不憫や……」

 ええい、マジで不幸キャラだな俺! 
 よし、気にしない方向で! 気にしたら負けだ……ところではやて?

「……ツヴァイ、連れて来てんのか……」

「……ばれたか」

『え、えっと、駄目ですか?』

 はやてのシュベルトクロイツから聞こえるツヴァイの声。……いや、便利だな。
 そっちに入れるって。

「まあ、俺もパラディン持って来てるし、いいんでない? ……アリサも、アギト連れてきてるしな!」

「いきなり当てるな!」

『けち臭いこというんじゃねーよ!』

 アリサが持っているのはAT『ヒュッケバインR』。試作改修機で、アギト収納用。
 ちなみにすずかもAT『ビルトシュバイン』を持ってきている。こちらは回復魔法専用。
 ……あの後、なのはがATの存在を理解してくれて、全面的に協力することを約束してくれた。
 きっかけが、誘拐未遂ってのが気に食わんが、まあ、解ってくれて嬉しい。
 今回持ってきたのは、いざって時の装備と、アギトのためだから……まあ、目をつぶる。

「まあまあ、せつなちゃん」

「わかってる。今回は目をつぶることにするよ。……何も起きないと思うし」

 そんなしょっちゅうなんか起こってたら、身がもたねー。
 俺に平穏をください。

「? なんだこれ?」

 と、足元になんかあった。

 本?
 ……誰か落としたか?

「せつな、何それ?」

 アリサたちが近寄ってくる。
 構わず、本を開けてみる……?
 何でベルカ語? えっと、何々……?

「え、た、げえ? Ge…h、……『Gedächtnisverlust』?」

 瞬間。
 周囲の照明が落ちた。
 一気にあたりが暗くなり、なのは達の姿しか見えない。
 それすらもうっすらと消えてゆき……

「せっちゃん!」「「せつな!!」」

「「せつなちゃん!!」」

 ブツンと、意識が途切れた。

 この感覚、どっかで感じたな~?




[6790] L25.新難題ロストロギア 一日目前半
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/25 20:07

 <せつな>

 ……? あれ?

「……いや、夢オチとか」

 目が覚める。ベッドの上だ。
 周りを見渡すと……ああ、『俺』の部屋だ。
 ……えっと、今日は……? なんかあった様な?

「なんだったかな~? なんかあったかな~?」

 ベッドの上で頭をひねる。……駄目だ、思い出せない。
 まあいいや。
 立ち上がって服を着替える……違和感。
 なにが? いつもどおり『男』の体じゃないか。
 違和感なんてどこにもない。

 ……ないはずなのに、何故違和感があるんだろう?

 まあいいや。
 今日は夢見が悪かったんだ。どんな夢かは知らないけど。
 部屋を出て、台所に向かうと、いつもどおり母さんが食事の準備していた。

「あら、せつな。おはよう。……今日から『連休』ね?」

 ……あれ? そうだったっけ?
 黄金週間はもう終わったような……テーブルについている兄さんが読んでいる、新聞の日付を見る。
 ……『五月一日』……ああ、何だ、本当に連休初日か。
 寝ぼけていたんだろう、俺。

「どうしたせつな? お前らしくないな」

「ああ……夢見が酷かったんだろ? ……おはよ、兄さん、母さん」

「……おはよう」

「ふふ、はい、おはよう。もう直ぐご飯できるから、『エリオ』起こしてきて?」

 ……えっと、エリオ? ……ああ、弟だっけ。
 母さんの仕事で養子にしたんだっけ。
 
「へーい」

 エリオの部屋は母さんと一緒だ。
 まだ小さいから、母さんと寝ている。
 ……もう直ぐ、『エイミィ』さんと兄さんが結婚するから、そうなったらエイミィさんの部屋にエリオが移る。
 ……? 何でいちいち忘れてるんだろう。エイミィさんは兄さんや母さんと同じ職場の人で、家族同然にしてるから、じゃあ、一緒に住みましょうって、俺が養子になったときから暮らしてるんじゃないか。
 ……ああ、俺も養子なんだっけ。
 俺の保護をしてくれていた『リンディ』さんが、俺を養子にするって言って、『クロノ』もそれに賛成してくれて……
 だから、何でいちいち反応するんだ俺。
 二人とも、五年の付き合いだぞ?
 何も、おかしいことなんてない。

「エリオ~~~?」

「起きた~~~」

 あ、本当に起きてるな。

「お姉ちゃんおはよ~~」

 ……訂正。まだ寝てる。

「残念ながらお兄ちゃんだ! さっさと起きれ!」

「わわ! ……あ、本当だ。おはよう。せつなお兄ちゃん」

「よ~し。じゃあ、朝飯だ。着替えて台所!」

「はーい!」

 よしよし。
 今日から休日らしいし。
 飯食って、どこかにでも遊びに行くか……



 <なのは>

 ……えっと、何を忘れているんだろう?
 何か大切なことを忘れているような……うーん?
 朝起きて、今日から連休だってお兄ちゃんに聞いて、でも、今の日にちに違和感があって……
 なんだっけ?
 まあ、頭を覚ます為にも、散歩に出かけて……
 なんだったかな~?
 忘れちゃいけないことだったんだけど……

「なんだったかな? レイジングハート?」

『……まあ、いいんじゃないでしょうか?』

 ……そうだね。
 あまり考えても意味ないよね。
 あれだ。―――ちゃん的に言えば、『馬鹿の考え休むに似たり』……私馬鹿じゃないもん。

 ……? あれ、今、何か言ったような……?

 まあ、いいよね。
 海鳴の町を歩く。
 春の日差しがぽかぽかして暖かい。

 ……連休なら、ピクニックに行くのもいいだろう。
 『せつな』さんを誘って、二人で……?
 あれ? 私、せつなさんって……ああ、何で忘れてたんだろう。
 同じクラスの『男の子』。……? 何で違和感?

 まあいいか。せつなさんだ。
 ちょっと大人っぽくて、みんなの人気者で……でも、彼自身は孤独で。
 私が傍にいないと、どこかに行ってしまいそうだから。
 ……だから、探しに行かないと。
 家にいるかな?

「ああああああああああ!! なのはいたぁ!」

 ? わたし?
 ……えっと、誰だろう。金髪のロングで、両端だけまとめた……
 見たことあるんだけど、どこであったかなぁ……?

「なのは! あんた、この世界なんか変なの気づいてるわよね!?」

 ……え、えっと?
 世界が変? 私が気づく?
 なにを言ってるんだろう、この子?

「え、ええっと……ご、ごめんなさい。人違いじゃ?」

「はぁ? そのサイドポニーはあたしたちの中じゃ、なのはしかいないでしょうが! 何寝ぼけてるのよ!」

 う。た、確かに、この髪型にしてもう3年近く経ちますが。
 何で貴方が知っているんでしょうか?
 後、何を怒ってるの?

「……ごめんなさい。やっぱり人違いだと思いますよ? 私、貴方の事『知りません』し」

「!? え? ……な、何それ、冗談でしょ!? あたしよ! ――――――――よ!」

 ……やっぱり、聞いたことのない名前だ。
 私の知り合いに、こんな子いない。

「すみません。私、急ぎますから!」

「ええ!? ちょ、なのは!!」

 係わり合いにならないほうがいいよね。
 ちょっと可哀想だけど、さよなら~~。

「ちょっと! まってよ、なのは~~~~~!!」

 にゃぁぁぁ…… 本当に知らないのに~~~
 ダッシュ! 
 ……本当にごめんなさ~い。





 <アリサ>

 ……じょ、冗談でしょ?
 何であの子、あたしの事知らないのよ! 
 これも、この世界の影響?
 ……目が覚めたら、自分の家で、今日の日付を見てびっくりした。
 今日は五月十三日で、修学旅行の日だと言うのに、鮫島は今日から連休だという。
 新聞は五月一日を記し、もう終わったはずのゴールデンウィークに突入したと報じていた。
 ……これは、世界が歪んでいる。
 早速、すずかに連絡とって、会うことにした。
 で、向かっている途中に……あの子がいたんだけど……

「お嬢様? 月村様のところに向かわれないのですか?」

 鮫島が駆け寄ってくる。
 ……仕方ない。これも情報として、すずかと話し合わないと。
 すずかはあたしの事を覚えてて、この世界の異変にも気づいてる。
 ……ここは奥の手だ。

「ちょっと待ってて。……アギト!」

「おう!」

 森で拾った『妖精』アギト……あれ? 妖精だったかしら?
 まあいいか。
 彼女になのはを追って貰おう。
 アギトとあたしの間で、テレパシーみたいなことができるし、後でなのはを捕まえればいい。

「さっきの子、追いかけて、見張ってて! 報酬はプリン・ア・ラ・モードよ!」

「よっしゃぁ!! 行ってくるぜ!」

 凄いスピードで空を飛ぶアギト……報酬のグレードによって気合が違う。
 塩せんべいだった時には、ものすごくやる気ないけど……
 まあ、今日は最優先事項だ。報酬も最高級のを出してあげよう。
 さて、すずかの元に向かわないと。

「鮫島。行くわよ!」

「はい、お嬢様」

 絶対、この世界の歪み、見つけてやるんだから!


 ところで、あたしも何か忘れてる気がするのよね……?



 <はやて>

 ……はぁ、退屈やぁ……

「……その、主? 遊びに行かないのですか?」

 膝枕してくれとるシグナムが、声をかけてくる。
 今日から連休で、しばらく『せつな』さんの顔見れへん……
 あれ? ……こらこら。自分の嫁の顔忘れたらあかんやん。
 せつな・トワ・ハラオウン。あたしの嫁や。
 ツンデレで、ちょっとエッチやけど、あたしの事をしっかり見てくれとる。
 ……せやけど、ライバルも多い。
 知らん間に、いろんな人と知り合いになっとるし……
 そして、今日から連休や。
 学校休みやから、せつなさんの顔見れへんねん……

「せつなさんに会いたいなぁ~~」

「……私は、賛同しませんが……」

「む!? そういうシグナムは、いつの間にかせつなさんとよく一緒におるやん!」

 気が付くと、縁側でお茶しとったり、河原で一緒に剣ふっとったり……
 正直羨ましいで?

「……その、私とあいつは、友人ではありますが、主が思っているようなことは……」

「シグナムがせつなとどうこうなるわけねぇってはやて。……せつながもう少し真剣だったら、はやてとお似合いなんだけどなぁ……」

 むぅ。ヴィータまでそんなこと言う!

「せつなさんあたしの事ちゃんと考えてくれてんで? 将来の事とか、『進学先』とか! ……あれ?」

「? どうしたんだよ?」

「あ、ううん、なんでもあらへん」

 おかしいなぁ。何で忘れとったんやろ。
 こないだせつなさんと話したやん。私の進学先。
 同じ高校に進むって話になったやん。……ふふふ。せつなさんはあたしの嫁やからなぁ~……

「……主、その、よだれは拭いて下さい」

「おお、つい……」

 男の子なのに、可愛らしい顔つきやけど、目つきが鋭いんや。
 その上、ふと浮かべる目元の優しいこと……く、あの目は反則や。
 いつもの鋭さが演技やってわかったんは、付き合わんと分からんことやね。
 本人、実は凄い目元優しいて、その目で微笑まれたら……ああああああ!?

「もう我慢ならんで! せつなさんに会いに行くわ! お昼は適当に食べとってな? ツヴァイ! 行くで!」

「は、はいです~!」

 『妖精』リインフォースⅡ……あれ? 妖精やったっけ?
 まあええ。リインによう似とるから二号。ツヴァイや。
 彼女を頭にしがみつかせ、治った足を使って、外へ!
 待っててな、せつなさん!
 八神はやてが今行くで~~~~~!




 で、あたしなんか忘れとる気がするんやけど、なんやったやろ?




 <すずか>

 ……アリサちゃんと会って、最初に聞いた話はびっくりしました。
 なのはちゃんが、アリサちゃんを知らないと言ったそうです。

「……冗談とか、そういうのじゃないんだね?」

「ええ。あれは完全に初対面の態度だったわ。……まったく、友人を忘れるなんて、なんて子なの!?」

 ……多分、それもこの世界の歪みなんだろう。
 私は、全員の事を覚えてますし……そうだ。

「アリサちゃんは、私達の名前、全部覚えてる?」

「ええ、覚えてるわよ? 高町なのはでしょ?」

 なのはちゃん。私とアリサちゃんが友達になるきっかけを与えてくれた子。

「フェイト・テスタロッサでしょ?」

 フェイトちゃん。お母さんの件で、悲しい顔してたけど、あの子のお陰で、今は笑っている、心の綺麗な子。

「八神はやてでしょ?」

 はやてちゃん。両親の代わりに、守護騎士と呼ばれる家族に支えられ、足の病気も治った、人を思いやれる子。

「月村すずか……あんたでしょ?」

 私。最初は、アリサちゃんに虐められてたっけ。それを止めて、お友達にしてくれたのが、なのはちゃんだ。
 そして、

「後、あたし。ほら、全部覚えてるじゃない」

 ……あれ?

「あ、あの、アリサちゃん? ……せつなちゃんは? せつな・トワ・ハラオウン」

 せつなちゃん。私たちを、優しい目で見守りながら、私たちの前を歩いて、危険から守ってくれる、素敵な女の子。

「……えっと、誰だっけ。それ」

 ……アリサちゃん。せつなちゃんの事忘れてるんだ!

「覚えてない? せつなちゃんだよ? 黒髪で、ショートで……いつも眠そうな眼をしてて……ほら、私たちにキスして来たり、前世に酷い目にあって、よく泣いてた……忘れちゃったの?」

「……そんな特殊な子、いたら絶対覚えてるけどなぁ……ごめん。知らないわ」

 ……そんな……
 アリサちゃん、そんなことって……

「……あ、そうね。なのはがあたしの事忘れてるなら、あたしがそのせつなって子、忘れてる可能性もあるのね?」

「うん。絶対そうだよ。……この世界は、何かを忘れさせる効果があるんだよ……私も、何か忘れているような気がするし」

「あ。そうそう。あたしも何か忘れてるのよね~? なんだったかしら?」

 ……まず、皆を集めて、それぞれの意見を集めたほうがいいかもしれない。
 誰が、誰を忘れているのか。
 何を忘れているのか。
 ……せつなちゃんも言ってたじゃないか。『困ったときは、情報を集めればなんとかなる』って……
 言ってたかな? まあ間違ってないよね?

「とにかく、私は、はやてちゃんを探してみるよ。アリサちゃんは」

「なのはにはアギトつけてるから、先にフェイト探すわね?」

「うん。お願い」

 目的を決めたら、早速行動だ。
 ……はやてちゃん、私の事覚えているかな……



 後、私は何を忘れているのだろう。





 <フェイト>

 私は何か忘れている。
 ……うん。それは絶対だ。
 そして、幾つもの違和感。
 朝、ベッドから起きだしたのが始め。続いて今日の日付。今日から連休という事実。
 母さんに、アリシアに、アルフ。……そして、目の前にいる、『せつな』だ。
 ……あ、今日は凄く目が開いてる。
 同じクラスのせつな。昔は良く、私を慰めてくれて、ギュって抱きしめてくれた。
 けど、最近はあまりギュってしてくれないし、話しても、すぐ別の女の子と話してたり。
 プレイボーイって言うのかな?
 でも、その割には、いつも他の人と壁を作ってるような気がする。
 ……えっと、デートにでも誘ってみようかな?

「せつな、おはよ……あれ?」

 ……どうしたんだろう?
 出てきたはずなのに、また部屋に戻ってしまった……
 もしかして、私……避けられてる?
 あ、またドア開いた。

「せつな? おはよう」

「お、おは……よう?」

 ……どうして首を傾げるんだろう。
 目を擦ってみたり……どうしたんだろう。

「どうしたの?」

「……え、えっとだな? ……フェイトさん……だよな?」 

 え? いつもみたいに呼び捨てにしない?
 それに、確認するように……私がいるのが不思議みたいな眼をしてる。

「そ、そうだよ? フェイト・テスタロッサ……わ、忘れたの……?」

 だったら酷い。昨日までよく一緒に登校してたじゃないか。
 一日で私の事忘れてしまうなんて、そんなの酷い。

「……あ、いや、大丈夫。『知ってる』……え? でもなんで……」

 ……覚えてる、でも、忘れてない、でもなく、知ってるっていった。
 ……私の事、忘れてるんだ。

「……ひ、酷いよ……」

「え、ええ!?」

 うう、凄く悲しくなってきた。
 せつなが私を忘れているなんて……酷いよ……

「わ、私、こんないきなり……」

「ええっと、ちょっと待ってフェイトさん!? 泣かないでください、いやマジで!? なんか知らないけど泣かれるのはまずい気がする!」

 う、うう、もう止まらないよう。
 だって、酷いんだもん。

「あ、ああ、と、ちょっと待て。……よし、フェイトさん。相互理解は必要だ。お兄さんとお話しないかい!」

「え、ふぇ?」

 お話……?
 
「ああ。正直、俺も混乱している。……えっと、フェイトさんさえよかったらなんだが、ちょっと、一緒に歩こうか」

 ……うん。そうだね。
 ここで泣いてるより、お話して、理解を深めるほうが建設的だ。

「……うん」

「よし。……じゃあ、そうだな。『翠屋』まで行くか……て、何で俺、翠屋の場所まで知ってるんだ……?」

 ? 翠屋は私たちがよく通う喫茶店だ。
 あそこのシュークリームをほおばる、せつなの幸せそうな顔を見るのは、私の習慣だ。
 ……それすらも、忘れてしまったのだろうか……

「まあ、いいか。行こうか、ふぇい……ん、フェイト」

 !? あ、呼び捨てに……
 でも、思い出したわけじゃないみたい。
 まだ、戸惑ってる。

「あ~……嫌だったか?」

「え? う、ううん? その……思い出してくれたのかと思って……」

「むぅ。フェイトは俺の事を知ってるんだな……なんでかな~? 何で俺、ここにいるのかな~?」

 ? あれ?
 私がいることが不思議なんじゃなく、せつな自身がいることに不思議がってる。
 ……ひょっとして、せつなじゃ……ない?

「まあ、とにかく、翠屋でゆっくり話そうか。……この時間なら開いてるだろ」

「うん。開いてるよ? ……行こうか?」

「おう。……むう、実物フェイトさんむっちゃ、かわええ」

 ええ!? ……こ、小声でも聞こえてるよせつな……
 可愛いって……あう。
 ……性格は、せつなそのままなんだけどな……


 けど、私も何か忘れているんだよね?


 



[6790] L25.新難題ロストロギア 一日目中盤『アリサ』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/05 18:39
 <せつな>

 ……さてとだ。
 この世界の違和感が大体分かってきたぞ。
 この世界は、俺の世界の『リリカルなのは』がベースになってるんだな?
 で、何でかしらないけど、俺はハラオウン家の養子になってる。
 かわりに、フェイトは自分の家族……プレシアさんやアリシアと一緒に暮らしてるわけだ。
 ……むう、この世界の俺はどうやってフェイトの役を取ったんだ?
 別段魔法が使えるわけでもないのに……あ、それだ。

「な、なあ、フェイト? お前、バルディッシュ持ってる?」

「え? 持ってるよ? ……ほら」

『ごきげんよう、せつな。……私の事は覚えてますか?』

「あ、すまんバルディッシュ。知識として知ってるんだが……すまん」

「そうなんだ……」

『残念です』

「二人とも、すまん……」

 あちゃあ、余計悲しませてしまった。
 て、それだけで終わらせたら駄目だ俺。
 魔法の事と、管理局の事とか聞かないと。

「それでさ、フェイト、管理局はいいのか? 仕事とか」

「……? えっと、何のこと?」

 ……あれ? 
 なんだって?

「……フェイト、魔導師……だよな?」

「……えっと、私、ただの中学生だけど……せつなと一緒だよ?」

 なにーーーーーーー!?
 じゃ、じゃあ、ここは、管理局の手が届いてない……わけねぇ!
 リンディさんとクロノがいるじゃねえか、後エイミィさんも!
 大体、エリオだっているのに、管理局がないなんてことがない!
 ……後で、リンディさんに聞いてみるべきだなこれ。
 よし、まずはフェイトだ……信じてもらえない可能性は高いが、俺の知ってることを全部話す!

「……と、着いたな。……入るか」

「……うん」

 ううううう。ごめんフェイト、なっさけない俺を許してくれ。
 意を決して翠屋へ入店。出迎えのウェイトレスは、

「いらっしゃい、せつな君、フェイトちゃん。……デート?」

 確か、高町美由希さんだな。
 てかデートって……あ、フェイト真っ赤。

「まあ、そんなとこです。……えっと、ちょっと奥のテーブルお願いできますか?」

「あ、うんいいよ~? 好きなところ座って~?」

 ちゃんと接客しろよ。
 ……美由希さんの事も知ってるだけだからな~。
 確か、魔王の姉だよな……
 !? まさかと思うが、俺、魔王ともフラグ立ててないだろな!?
 ありえそうで、マジで怖い……
 
「じゃあ、ご注文どうぞ」

「あ、私、ミルクティーを」

「えっと、コーヒーと、シュークリームで」

 どんなトリップだろうと、翠屋でシュークリームこれ鉄板。
 ……フェイト? 何でそんな目で俺を見る?

「あ、うん。その……記憶なくなってても、頼むのは同じだなぁ……て」

「俺同じの頼んでたのか……」

 よし、昨日までの俺と、今日の俺はほぼ同一人物だと仮定しよう。
 ……平行世界って奴かな?

「さて、フェイト。今まで話して分かっているように、俺には昨日までの記憶が曖昧だ。……まず、謝る。ごめん」

「あ、ううん。仕方ないよ……? でも、リンディさんたちには話さなかったの?」

 そこだ。

「……何故か知らんが、リンディさんたちは家族として、すんなり……とは行かないまでも、一応受け入れられた。この人たちは、俺の家族だってな?」

 これは、体がそう覚えているからだと思う。
 ……そのくせ、フェイトの事は覚えていないんだから、難儀なことだ。

「それで、ここからの話は、かなり荒唐無稽で、フェイトは信じられないかもしれない……もしかしたら、怒るかもしれない。けど、俺にとっては真実だということだけ、頭において聞いて欲しい」

 正直、これが受け入れられるかどうかは不安だ。
 もう、昨日の俺の信頼度にかけるしか……て、さっきのやり取りでがた落ちしたんじゃ?

「……分かった。聞くよ。……最初に、私に頼ってくれて、嬉しい」

 むぅ……そんな儚げに微笑まないで欲しい。
 話そっちのけで抱きしめたくなってくる。
 ……ああ、もう、何でこんな美人と知り合いなんだ俺。羨ましい!

「よし、じゃあ……」

 俺が覚えている、『リリカルなのは』の話を、端的に話した。
 俺の元の世界で、それがアニメだったこと。その登場人物に、自分の家族や、フェイトがいたこと。
 管理局や、魔法の話。
 フェイトの友達の話。……そいつらを、知らないって言ったことには驚いたけど。
 そして、その話の中に、俺の存在がないこと。
 ……ストライカーズの話はしなかった。
 そして、フェイトの母親、プレシアさんと、フェイトのオリジナル、アリシアが、いなくなってたって話に、フェイトは、激昂し、俺のほっぺたを張り倒した。
 ……うん、まあ、そうだよな。

「……あ、ごめんなさい……」

「うん。こうなることは予測できた……ごめんな?」

 この世界では、フェイトたち家族は、とても仲のよい家族のようだ。
 それで原作を話したら、そりゃ怒る。……と、言っても、俺自身無印見てないし、ほとんど推測だ。
 一期でプレシアさんはいなくなる。アニメでは、それは事実だが、この世界のフェイトには、酷い話としか受け取れない。
 だから、叩かれるのは、予想済みだ。
 ……いい、張り手だったな~。パァッンっていい音したぞ。

「……えっと、ごめん、痛かった?」

「あ、えっと、大丈夫。お兄さん、結構頑丈だから」

 むっちゃ痛いです。
 腫れるかな、こりゃ?
 む? フェイトさん? 俺に近寄って……隣?
 ……おしぼりで、ほっぺた冷やし始めましたよ?

「……腫れるかもしれないから、しばらくこのままだね」

「あ、うん……む、本気で惚れそうだぞ、フェイト……」

 あ、やべ、口に出ちゃった。
 ……そして、また顔真っ赤に。
 肌白いから、顔赤くすると可愛いんだよな~。

「……ま、まあ、俺が知ってることは以上だ……で、フェイト。俺はどんな人間だったか、教えてくれるか?」

「え? あ、うん。えっとね?」

 今度はフェイトの話。
 何でも、昔は俺一人で暮らしてて、フェイトとは隣同士だったらしい。別のアパートで。
 そのときはフェイトはアルフと暮らしていて、プレシアさんとは離れて暮らしていたらしい。
 ……そのとき、俺と会って、俺がご飯作ってやったりして、二人(+アルフ)で生活していたと。
 で、なんか、俺がいろいろ走り回り、裏工作の挙句、アリシアを元気にさせて、プレシアさんとフェイトの仲を取り持ったと。
 その後、俺もリンディさんに引き取られ、別のマンションでまたお隣さんになって、今は同じ中学に通う、幼馴染だと……

 ……てか、昔の俺なにしてやがる。
 一緒にお風呂入ったとか、抱きしめて慰めたとか、一緒に寝てたとか。
 それどこのギャルゲー? 羨ましすぎる。
 さらに、最近はそういうこともしなくなって、他の女の子といちゃついてるだぁ!?
 許せん。……ほかの子が、魔王、もしくは夜天の可能性も否めないが。
 でも、普通、そこまでフラグ立てたら、もう、フェイトが嫁だろう!
 ほら、もう、話し終わったフェイトが涙ぐんで……涙?

「それ、なのに、わ、私、忘れて、ひ、酷い……よう……ひぃぐ」

 ひぃぁああああああ!?
 めっちゃ泣いてはるーーーーー!?

「あ、あの、その、えっと……」

 こ、こうなったらやけだ、丁度隣にいるし、前科持ちだしな!
 と、言うことで、抱き。

「え!? あ、せつな……」

「……ごめん。泣き止んでくれると……嬉しい」

 えええい、落ち着け俺! 小さい子を慰めるようなものだ。
 ほれ、頭撫でて、泣き止め~泣き止め~……
 ふぁあ! そんな力入れて抱きしめ返さないで! 当たってる当たってる!
 てかホントにあんた中学生かーーーー!?
 ば、バインバインなんだよもん?
 
「せつな……」

 あ、く、顔染めて、無理に笑おうとしないでまだ瞳に涙残ってて凄く可愛らしいから!
 だ、駄目だ! でも、ここで離れたら、また泣きそうだし……
 す、据え膳食わぬは男の恥か!?
 
「……フェイト……」

 ほら、唇とか、凄く、柔らかそうで、その……ごめん、もう我慢できません。
 いただきます。

「……?」

 あれ? なんか、大地を揺らすような音がするよ?
 こう、だだだだだーーーーーー! て、走りこんでくる金髪娘!?

「フェイトに手ぇ出してんじゃないわよこの変態ーーーーーーーー!!」

「あぷろぱぁ!!」

 顔面に飛び蹴り喰らって、吹っ飛ぶ俺。
 吹っ飛ぶ最中はなんか凄く冷静でした。
 
 ……前にも同じことあったな~? どこでだっけ?


 



 <なのは>

 ……むぅ。せつなさん酷いの。
 あの金髪の女の子から逃げ出して、お父さんのお店で一休みしてたら、物凄く美人の女の子と入店してきたの。
 ……か、彼女なのかな? だったら、悲しい……あ、こっち来た。
 ばれたら気まずいので、髪を解いて、他人のふり……気づかずに後ろの席へ。
 お姉ちゃんが注文を取りにいった……あ、せつなさん、またシュークリーム頼んでる。
 好きなのかな……? 

「あれ? どうしたのな」

 私に話しかけてくるお姉ちゃんを『黙らせて』二人の会話に耳を傾ける。
 床とお友達になったお姉ちゃんのうめき声は聞きたくないの。

「わ、私にも愛が欲しいよ、なのは……?」

 直ぐにせつなさんのためにシュークリーム持ってくるの。

「さて、――――。今まで話して分かっているように、俺には昨日までの記憶が曖昧だ。……まず、謝る。ごめん」

 ……ええ!? それって、記憶喪失?
 あ、でも、家族の事は覚えてる……少しは違和感を感じているようだ。
 せつなさんのお母さん、凄く美人だったし……養子ってことらしいから、それでかな?
 そのまま聞いてると、何か、お話をするみたい。

 ……私に頼らずに、その金髪美人さんに頼るのは、ちょっと許せないかな?
 せつなさん、私にも頼ってよ……?

 あれ? 今、私の名前言った……けど、なんか頭についてたよ?
 『リリカルなのは』って、なに? 私、魔法少女にでもなるんですか?

 ……せつなさんの話は、まさしくその通り。
 私が魔法少女になって、二つの事件を通じて成長していくお話。
 せ、せつなさん。小説家にでもなるのかな? でも、ちょっと恥ずかしいな、私が主人公なんて。

 ……じゃない? え? アニメになってた?
 ……ここにいるせつなさんは、本物のせつなさんじゃなく、別の世界のせつなさんで、その世界で私やその金髪さんたちが出演していたらしい。
 ……ええ~~?
 私が、アニメのキャラクター……えっと、冗談だよね?
 ……でも、せつなさん。冗談言ってる顔じゃない。
 真剣に話してる……ああ!

 あの子、せつなさんを叩いた!

 ……少し、頭冷やしてもらう必要がありそうなの!
 え? せつなさん、苦笑いして許して……むう!
 何でそんなにその子に優しいの!?

 ……私、悲しいのに……せつなさんが傷つけられて、悲しいのに……!?
 な、何で、せつなさんの隣にいくの貴女!?
 せ、せつなさんのほっぺたに、おしぼり当てて……じ、自分で叩いたのに!
 そのための伏線!? 恐ろしい子!?

 あ、今度は金髪さんが話し始めた。せつなさんの話だ……
 せつなさん、自分の事、あまり話してくれないから……
 ……うう、せつなさんと金髪さんに、そんな過去が……でもね?

 一緒にお風呂だとか、抱きしめて慰めるとか、い、一緒に寝るとか!
 羨ましすぎるの! わ、私、一つもしてもらったことないよ!? 
 ……せつなさん、私を助けてくれたのは、あの時、守るって言ってくれたのは、嘘だったの?

 て、泣き出した金髪さん抱きしめたよせつなさん!
 泣き落とし!? く、いや、せつなさんは悪くないの。
 悪いのはあの女狐ぇぇぇぇ!!
 はぁ!? せつなさん落ちかけてる! 大変、止めないと!

 ? 何か近づいて……ああ! さっきの金髪の子!

「――――に手ぇ出してんじゃないわよこの変態ーーーーーーーー!!」

「あぷろぱぁ!!」

 せつなさん吹っ飛んだーーーーーー!!
 ナイスセービングだけど、蹴り飛ばすのはレッドカードなの!

「せつなさん!」

「え!? なのは!?」

 直ぐにせつなさんの下に駆け寄る。
 ……あ、大丈夫、生きてる。
 ううう。せつなさんの顔に靴跡がぁぁぁ……

「む、むぅ。な、ナイスパンチ……」

「キックされたんだよ、せつなさん! 大丈夫?」

 頭を振りながら起き上がるせつなさん。
 早速あの金髪……えっと?

「ちょ、――――? え? 何でそんな怖い顔するの?」

「……せつなを傷つけた……なんでこんな酷いことするの……?」

 あ、二人とも、にらみ合ってる。
 ……むぅ、気に食わないけど、あの――――って子、せつなさんのために怒ってくれてるんだ。
 ……悪い子じゃなさそうだね……

「……あ、あれ? なのはさん?」

 なのは『さん』? ……あ、そうか、記憶が、曖昧だって言ってた……

「えっと、うん、なのはだよ?」

「……もしかしなくても、もうなのはさんとも知り合いなんだな、俺……」

 にゃははは……えっと、ごめんなさい?

「うん。あとごめんなさい。二人の話、聞いてて……」

「ああ、そうか。すまん。君の知ってるせつなじゃなくて」

「あ、いえ、その……」

 にゃぁぁ。せつなさんの目が優しい。
 いつも鋭いって言うか、真面目な目じゃなくて……
 えっと、二人はにらみ合ってるから、このままお持ち帰りしてもいいよね?

「せつなさん、とりあえず、外に行きましょう」

「え? いや、――――……あれ? もしかしてあれ、―――さんか?」

 ……じ、自分を蹴り倒したほうも知ってるんですか?
 どれだけ交友関係広……じゃなくて、このせつなさんからしたら、あの人も私と同じ、アニメのキャラって事になるのかな?
 むぅ。それはそれでちょっと寂しい。

「て、今度はなのはに手ぇ出すつもりかあんた!」

「!? せつな? ……あなた、誰?」

「むぅ! そっちこそ誰なんですか! せつなさんを誘惑して!」

「……俺、誘惑されてたの?」

 な!? せつなさんもしかして、にぶちん?
 お兄ちゃんと一緒?

「ええ~い、――――どころかなのはまで! ―――!」

「はいよ!」

「「な!?」」「何で―――がいるんだよ!?」

 !? せつなさん、あの小さいのも知ってるの!?

「あの変態、焼いちゃいなさい!」

「よしきたぁ! 『ブレネン・クリューガー』!!」

 小さい子が、炎を打ち出して……危ない!

「せつなさん!」

「てぇ! 覆いかぶさるな危ない……ああ、もう! レイハ姐さん『プロテクション』!!」

『Protection』

 ……あ、あれ? 
 レイジングハートの電子音声の後に……あれ?
 三角形の……バリア……魔法?

「う、嘘……なんであんたが魔法使えるのよ!?」

「せつな……?」

「……まあ、なんとかなったか……レイハ姐さんサンクス。……と、なると、このなのはもただの中学生か?」

 あ、せつなさん……怒ってる。
 私の頭を撫でて……
 あの、小さい子をけしかけてきた、金髪の子の所に。

「な、あんた、なに」

「まあ、女の子だし、友達の危険を助ける為だって分かってるから……とにかく、ごめん」

 あうぅ!? い、痛そうな音……
 金髪の子をビンタした。

「……もう少しで、なのはが傷つくところだったんだが?」

「あ、あんたがそばにいるからでしょ!」

「だったら、もう少し手はあるだろ? ……『魔法の力は、人を助ける為にあるんだぞ』?」

 !? あ、その言葉……聞いたことある。
 どこかで……どこで?

「う、ううううううう」

「ま、叩いてすまんかった。……えっと、――――、なのは、俺先に帰るわ」
  
 あ、せつなさん行っちゃう。
 ……でも……止められない……
 ……その場には、止められなかった私と、立ち竦む、――――さんと、泣きじゃくる金髪さんだけが残されていた……

「……なのは? 何があったんだい?」

 私が聞きたいの、お父さん……






 <アリサ>

 ……今日は最低だ。
 危うくなのはを傷つけかけた。
 あの変態、なのはにも手を出そうとしてたから、アギトの炎でお仕置きしてやろうとしたのに……
 なのはが変態を庇って、変態が魔法を使って炎を止めて、変態にビンタされて、説教されて……
 しかも、なのはは相変わらずあたしの事知らないって言うし、フェイトもあたしの事覚えてないし……
 一体どうなってるのよ!?
 ……ううううう、もう泣きたい。泣いたけど。

「……アリサ? 大丈夫?」

 ? 誰よ……あれ? せつな?

「……何よ、随分小さいわね」

 昔の、小学生のせつなが、そこにいた。

「あはは。うん、せつなの中には、これくらいしか残ってないから、私。……ちょっと、話そうか?」

 指を指すのは小さな公園。
 ……せつなの誘いに乗って、公園のベンチに座る。
 せつなが隣に座って、あたしに話しかけてくる。

「アリサ、ごめんね? 痛かったよね?」

「……あいつの言うことももっともだし、仕方ないわよ」

 もう少しで、なのはが傷つくところだった。
 叩かれて当然だ。

「……アリサは、魔法を使って何がしたいの?」

「……あたしが、魔法を使いたいのは、あんたを……みんなの力になりたいから。置いてきぼりにされるのは、嫌なの」

 そのために、ATを勉強して、自分用のデバイスまで作って……アギトと訓練して、せつなや、みんなと一緒に、戦えるようにって……

「……うん。アリサらしいね。けどね? 私は、アリサを守れて、それで充分なんだよ?」

「それでも! あたしは、あんたを守りたいのよ! ……守られてばかりじゃ、嫌よぉ……」

 子供の頃からの、思い。
 せつなに守られている、大人たちに守られている自分じゃ嫌だから。
 いつか、せめて、せつなだけでも、守りたくて。
 人の知らないところで、泣いてるあの子を、守りたくて。

「……その想いがあるなら、アリサは大丈夫だね? ……管理者権限発動」


―――――アリサ・バニングス。封印解除―――――


 ? ……え? あれ?
 ……あれぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

「へ? ここ……海鳴の……あ、もしかして、あの時せつなが持ってた本!?」

「そうだよ。この世界はその本の中。……ロストロギア『忘却の箱庭』の中。アリサは、自分の大切なことを思い出したから、忘却の魔法が解けたんだよ」

 忘却の魔法……じゃあ、皆があたしの事を覚えてないのは!?

「うん。魔法の係り具合は、使用者と、その使用者への依存度で変わって来る。……アリサは比較的、使用者に依存してないほうだから、ほとんど覚えてたし、抜け出すのも早かった。……けど、今回は使用者が特殊だから」

 特殊?
 ……あの時、本を持っていたのはせつなだ。
 で、目の前にいるのは、小学生の頃のせつな。
 ……このせつなは、使用者じゃない。
 本物のせつなは? 

「……あの男の人!? あ、確かにせつなって呼ばれてた!?」

「そうだよ。……意外とアリサ、薄情だよね?」

「そ、そんなこと言われても!」

「まあ、冗談だけど。……私は、この世界のバグプログラム。この世界に飲み込まれた人を助ける救済措置」

 ……それで、子供のせつななわけだ。
 ……じゃあ、個人個人の『大切なこと』を思い出させれば、あたしのように、全部思い出すわけだ。

「でも、それは結構大変。アリサは意外と楽だった。……大切なことにせつなが入っているけど、それでも依存まではしていない。……次は、すずかあたり攻めると楽」

「……なるほどね。じゃあ、一番大変なのが、使用者のせつななわけね?」

 子供せつなはこくんとうなずくと、私に背を向けて駆け出した。

「あ、ちょっと!」

「頑張って、アリサ。せつなの前に、魔王と死神、夜天は大変だよ~」

 ……それは、なのは達の事を言っているのか。
 まあ、大変そうだなぁ……あの三人、依存度酷いし。
 ……よし、まずはすずかね?

「アギト!」

「おう……あ、あの、ごめん」

「? ……さっきのはあたしの指示ミス。あなたは悪くないから。それより、一度すずかと合流するわよ!」

「お、おう!」

 さあ、頑張りましょうか!
 こんな世界、飛び出して、修学旅行に行くんだから!



 [アリサ・バニングス、封印解除]





[6790] L25.新難題ロストロギア 一日目中盤『すずか』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/26 01:03

 <はやて>

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
 せつなさん、家におらへんかったぁ。
 クロノ君に聞いたら、散歩に行ったらしいし……
 さっきから町を歩いとるのに、その姿がまったく見えへん。
 運命は、あたしらを引き離そうとしとるんか?

「ううううう。せつなさぁーん」

「はやてちゃん! せつなさん発見です!」

「でかしたでツヴァイ!」

 ツヴァイが指差した方向に、ふらふら歩くせつなさんの後ろ姿!
 ……なんか疲れとる?
 なら、あたしが行って癒したる!

「せつなさ~ん!」

「……うわ、はやてさんも知り合いかよ……」

 ? せつなさんがなんか変や。
 あたしの顔見て、凄く凹んだ。
 ……な、何やろ、あたしどっかおかしいんやろか。

「せつなさん、あたしどっか変なんか?」

 そう聞くと、せつなさん苦笑い。

「いや、変なのは俺だから、気にしないでほしい」

「……確かに、なんかせつなさん変ですねぇ」

「うぉ! リイン?」

 ? あれ?

「せつなさん、この子はツヴァイやで? リインは今仕事や」

 リインはうちの稼ぎ頭やからな。あんまり無理して欲しくないんやけど。
 でも、せつなさんほんま変や。
 今の台詞聞いて、頭をひねってはる。

「……なに? もしかして、はやてさんの家に、リインフォースと、このツヴァイがいると?」

「……そ、そうやで? あたし、話さんかった?」

 ツヴァイ紹介したときに、話したはずや。
 リインフォースに似てるから、リインフォースⅡ。

「……すまんはやてさん。怒るかもしれんが、ちょっと聞いてくれ」

「さっきからどうしたん? 他人行儀な呼びかたして」

 むう。ぜんぜん苦笑いを止めてくれん。
 いつもの優しい笑顔見せてー?

「ああ、じゃあはやて。……今の俺は、昨日までの俺じゃない」

 ……えっとそれは、

「生まれ変わったってことやろか?」

「むしろ、他人が憑依したってことかな……」

 ……他人? 憑依?
 そんな漫画じゃないんやから……
 ……う、嘘やろ?

「ほ、ほんまなん? いつもみたいに『ちなみに嘘だが』……とか、言わんの?」

「……こっちでも同じ言い回ししてるのか俺……残念だが、本当だ。昨日までの記憶が曖昧なんだ」

「そ、そんなーーー!?」

 き、記憶喪失!?
 そんな、あほな!?

「あ、そ、それじゃ、あたしをお嫁さんにしてくれるって、言うたんは、嘘なん?」

「……いやぁ、俺の性格からして、まずそんなこと言わないと思うんだが……」

 く、引っかからんか!
 ならば!

「せやったら、先月貸した三千円も、忘れてもたん?」

「え? そうなのか? ……ああ、よかった手持ちあった」

「ごめん、嘘や」

 ……ほんまに忘れてもとるんやね。
 せつなさん、どっか頭ぶつけたんやろか?

「ほんまに大丈夫なん? 頭痛いとかないか?」

「頭は痛くないんだが、さっき思いっきり蹴られた顔がなぁ~」

 ……ああ! ほんまや! 顔なんか腫れとる!
 え、えらいこっちゃ。

「ツヴァイ!」

「はいです~。少しじっとしててくださいです」

 ツヴァイの治療魔法で、せつなさんの顔を癒す。
 ついでに記憶も戻ってくれへんかな~?

「おお、きもちいいぞ。ありがとな、ツヴァイ」

「えへへ。お役に立てて、ツヴァイ嬉しいです」

 ……く、私かて、魔法使えれば~。

「……はぁ、はやても魔法使えないのか?」

 あ、声に出てもた?

「あたし声に出してもたやろか?」

「いや、凄く羨ましそうな顔してたから……むぅ。流石にベルカ式は俺あんま知らないからなぁ~」

 ……あれ?

「せつなさん? 結構詳しい?」

「そんなことはないぞ? ……設定資料ちょっと読んだだけだし」

 設定資料?
 ……やっぱせつなさん変や。
 しかも、結構重症っぽい。

「せつなさん。あたしの家いこ。シャマルに見てもらおうや。ひょっとしたら、何かの糸口に」

 と、そこに、大きな黒塗りの高級車が停車した。
 ……車から出てきたんは、黒髪の……お嬢様。

「……八神、はやてちゃん……ですね?」

 へ? あたし?

「うぁ、――の―――さん……」

 ? せつなさん、この子しっとるん?

「!? 私を知ってるんですか?」

「あ、ああ、あれだろ? たしか、―――の友人の。……あ、まさかはやて? お前この子知らないのか?」

 ……な、なんでなん?

「何であたしが知らんのに、せつなさんがしっとるん!?」

「ええ!? せつなさん!?」

「て、あんたはせつなさん知らんかったんかい!!」

 なんやなんや!?
 あたしばっかツッコンどるやん!
 訳わからんわー!!

「はやてちゃん落ち着いてです!」

 う、うん、落ちつこ……

「……はやてちゃん、私を覚えてないんですね? ……で、せつなさんは、私を覚えてますか?」

「……その口ぶりだと……俺の顔は知らないけど、俺を、せつな・トワ・ハラオウンを知ってるってことだよな? ……ちなみに、俺は君を知ってるだけだ」

 なんかの言葉遊びやろか?
 せつなさんの目に、真剣さが増しとる。
 ……うう、シリアス苦手や。

「ええ、私の知っているせつなちゃんは、女の子でしたから……でも、あなたの口調は、覚えてます。せつなちゃんと同じ話し方。……えっと、もしよかったら、二人とも私と一緒に来てもらえますか?」

「はぁ!? なんであたしがあんたに」

「ああ、わかった」

「せつなさん!?」

 な、なんでやの!?
 物凄く怪しいで、この子!?

「……はやて、君は来ないのか? ……俺は、ちょっと聞きたいことが沢山ある」

 それはちょっとやない思うんやけど……
 せやけど……

「……ご、ごめん、せつなさん。あたし、買い物の途中やから!」

 そう言って、その場を逃げ出してもた。
 ……あたし、何しとるんやろ。

「! ……!」

 ? せつなさんが、なんか言うとる。

「ま……! ……!!」

 ……また、話に行く?
 ……うう、こんな臆病者のあたしに、そんな優しい言葉を……
 ごめんな。
 ほんまごめん。せやけど、あたしは、今は逃げの一手やぁぁぁぁぁ!!

 ところで、なんか頭軽いなぁ~。


 


 <すずか>

「……あ~。で、どうしようか? ツヴァイ?」

「は、はやてちゃんの薄情者です~」

 ……逃げるのに必死で、ツヴァイちゃん置いていっちゃった……
 どうしよう?

「……まあ、一緒に来いよ。後で、はやての家に送っていくから」

「うう、ありがとうです。せつなさんは本当に優しいです~」

 嬉しそうにせつなさんに懐くツヴァイちゃん。
 ……あ、せつなちゃんに、似てる。

「……? どうした?」

「あ、いえ、どうぞ? 私の家に……あ、ごめんなさい」

 携帯電話が音を立てた。
 これは……アリサちゃん?

「はい、すずかです」

『あたしよ? 今、全部思い出したわ』

 !? 全部? じゃあ、せつなちゃんのことも?

『詳しいことはあって話すわ。今どこ?』

「えっと、じゃあ私の家に来て? 実は、せつなさんが話しに応じて……あ、せつなさんっていうのは」

『ええ!? せつな、そこにいるの!? いいわ、連れて行って。直ぐに行くわ!』

「あ、ちょっと、アリサちゃん!?」

 ……き、切れちゃいました。
 何事なんでしょう……

「アリサから?」

「え!? せつなさん、アリサちゃんに会ったんですか?」

「……出会い頭に飛び蹴りされた。……むぅ、俺行ったら、また蹴られるんじゃ……」

 ……アリサちゃんってば……
 もう、やきもち焼くのは、時と場合を考えて欲しいよ。
 て、そうじゃなく。

「大丈夫です。私が、せつなさんを守りますから。……どうぞ?」

「あ~。まあ、そのときは頼む」

 ふふ。台詞回しも、やっぱりせつなちゃんです。
 ……でも、この人は、永森刹那じゃなく、せつな・トワ・ハラオウンと名乗った。
 ……もしかして、このせつなさんは。
 せつなちゃんの理想の姿?

「……ファリン。出して?」

「はい、お嬢様」

 まあ、今は、いろいろお話を聞こう。






 家に着く間に、今のせつなさんの状況を教えてもらいましたが……
 私が、二次元のキャラですか……不思議なものです。
 試しに、私の血族について話したら、

『ああ、そうそう、そういう設定だっけ。……まあ、魔法使いもいるし、今更今更。ああ、献血する? 女の子に吸ってもらうって萌えね?』

 ……なんでしょう。本当にせつなちゃんです。
 ……お付き合いしたら、毎日が楽しそう。
 あ、アリサちゃんはもうついてるみたい。
 
「……むぅ、来たわね?」

「アリサちゃん……」

「あ~……さっきはごめん」

 え? いきなり謝るんですか?

「いいわよ。あたしが悪かったんだし……? 何でツヴァイがいるのよ?」

「ええ!? 何でツヴァイの事知ってるですか!?」

「ああ!! 青チビじゃねえか!」

「む!? 誰が青チビですか! えっと……あ、赤チビです!」

「誰が赤チビだぁぁ!?」

「人の頭の上で騒ぐなやかましぃ!!」

 ……うう、どこからどう見てもせつなちゃんです……男の人ですけど。

「てめぇら、これ以上騒ぐと、服はいで綿棒で犯すぞ!」

「直接的卑猥発言禁止!」

「おうち!!」

 ……そして、アリサちゃんも絶好調の突っ込み。
 やっぱり、この人はせつなちゃんなんですね?
 でも、そろそろお話聞かせて欲しいです……



 リビングで……せつなさんの現状説明の後、アリサちゃんは凄く納得してます。

「なるほどね……じゃあ、本来なら、あたしは普通の中学生だったってわけだ」

「おう、すずかさんと一緒にな? で、なのは達だけは、仕事と中学校の二重生活をしてたってわけだ。……しかし、何でなのは達が管理局知らないのに、アリサさんが管理局入ってんだ?」

 ……その、管理局って言うのも、いまいち分かりません。
 魔法ですか。……分かりませんね……

「ああ、じゃあ、この世界について分かったことね。……せつな、ロストロギアは知ってる?」

 アリサちゃんの話によると、この世界はロストロギア『忘却の庭園』の中らしくて、私たちは『大切なこと』と、それにつながることを忘れるようにされたらしいです。
 確かに、私も忘れていることがあります。
 ……それで、その使用者が、

「俺か」

「あんたよ。……あたしは、あんたが小学校のときのあんたに会ったの。そいつが言うには、あんたに依存しているほど、魔法の掛かりが深いって言ってたわね」

「……その点ですと私、そんなにせつなちゃんに依存してないってこと……なのかな?」

 結構、せつなちゃんには依存してるはず。
 だって、私が管理局に……あれ?

「アリサちゃん、私も、管理局に、入ってたんだっけ?」

「……そっか、あんたも忘れてるのよね。……ええ。入ってたわ。すずかが、最初にせつなについていくって言い出したのよ?」

 ……なんだっけ、どうして、そうなったのかな……
 せつなちゃんを守りたくて、癒したくて……その悲しみを、忘れて……忘れて?

「せ、せつなさん?」

「おう、なんだ?」






「―――――――――――――――」






「……はぁ? ……お、おい、それは、何の冗談だよ……」

 ……やっぱり。
 この人は、永森刹那さんの意識。
 でも、刹那さんはその悲しみを忘れてる。

「俺が? 死んで……輪廻転生? ……その前に、……あすかと姉さんが殺された?」

「……す、すずか……」

「はい。せつなちゃんは、そう言っていました。……そして、その事実は、夢で……貴方の夢で、確認しています」

「おいおい。夢かよ……ただの悪夢だろ? 何で、そんなこと……」

 でも、あれは、ただの夢でない。
 あれは、記憶の再生。

「……すずかさん? ……マジで言ってるのか?」

「……はい。本当の事です」

 ……せつなちゃんの根源たる記憶。
 多分、せつなちゃんの忘れてる、大切なことは……

「はぁ……マジかよ、勘弁してくれよ……」

 せつなさんは、そう言うと……私を、押し倒しました。

「ちょ、せつな!?」

「……なぁ、それがマジならさ。……あんた、その体、賭けられるか?」

「……」

 その目は……とても信じられないくらい……でも、酷く辛そうな、怒りの瞳。
 あの夢で見た、せつなさんの、怒りの目。

「……どうなんだ?」

「……はい。賭けます」

「すずか!?」

 そうだ。私の忘れていた、『大切なこと』は。
 せつなちゃんの……せつなさんの悲しみを、癒すこと。
 そのために、私は。



――――― 月村すずか、封印解除 ―――――



 管理局に入って、せつなちゃんの傷を、悲しみを癒す為に。

「それで、貴方の悲しみが癒えるなら、私の体を、好きにしてください」

 ……それが、私の全て。

「……馬鹿やろ。いくら俺でも。そこまでするか」

 せつなさんは顔を私の顔に近づけて。
 ……

「あ、え、なぁ!?」

「たく、これくらいは勘弁しろよ? あんたの言ったこと、信じるさ」

 ……えっと、キスですよね?
 ……キス、されちゃいました。

「……しっかし、そうか~。無茶苦茶だな、俺。……ツヴァイ~俺、一度死んでるんだってさ~?」

「うう、せつなさん可哀想です~」

「し、信じてないわね?」

「いやいや。すずかが体張ったんだから、信用するよ。……唇、美味しかったしな?」

 はぅ。
 か、顔が、凄く、あ、熱いです。

「うわ、すずか顔真っ赤」

「ふふふ~。すずかマジかわええ~。これは萌えますな~」

「……せ、せつなさん、意地悪です」

 あ、あう……
 わ、わ、私……

「わ」

「わ?」

「……わ、ワンモア!」

「……はい?」

 さっきのじゃ分かりませんでしたので、もっと分かりやすいのを要求します!

「ワンモア!」

「す、すずかが壊れ……」

「えっと……」





 少女(を)吸引中




「……ええと、これでいい?」

 ……はぅ……

「な、なんつぅ……あんた鬼か!」

「え、エロエロです~~はぁぁぁぁ!?」

「てぇ! ツヴァイまで!?」

「見てるだけでオーバーヒート起こすとは……恐ろしい子!?」

「あんたでしょうが! ちょ、ファリンさーーーーーん!!」

 あ、え、っと、せつなちゃん……
 元の世界に戻ったら……もっとお願いしますね……?




[月村すずか、封印解除]





[6790] L25.新難題ロストロギア 一日目後半
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/06 12:59
 <フェイト>

 ……えっと、せつな、

「お、おかえりなさい、せつな」

「……」

 ……ま、またドア閉められた……

「フェイトちゃん。大丈夫、あの子照れてるだけだから」

「そ、そうでしょうか? な、なんか、凄く、あれな顔してましたけど……」

 まるで、何故お前がここにいるー……とか、その格好(メイド服)は引くわぁ……みたいな。

「ふふふー。じゃあ、次は私の番だね?」

 ……ふ、私でドア閉められたのに、貴女で反応なんかしない。せつなは、私の姿に照れただけだ。

「あ、お帰りなさ……えええええええ!?」

 ほら、やっぱり貴女じゃ駄目だ。
 同じようにドアを閉めてしまった。

「もう、あの子も大概照れ屋ね。クロノみたい……だけど、クロノより甲斐性あるのよね~」

「ほっといてくれ」

「ううう、せつなさーん……どうしてー……」

 きっと、あなたが見るに耐えなかったからに違いない。
 今度こそ、私を見て綺麗だねって。

「……ふぅ。た、ただいま、母さん」

「あら、お帰り。……どうやってベランダから侵入できるのよ?」

「……あ、そういやすまん、ツヴァイ。飛行魔法ご苦労様。―――の家に送らなきゃいけないんだっけ?」

「むぅ。念話もシャットアウト状態なので、しばらく家出ですぅ! ぷんぷんです!」

「あら、可愛い。……せつなってば本当にモテモテね?」

「……あのメイド二人は母さんの差し金だな? おら、二人とも、さっさと着替えて帰れ」

 へ、あ、あの?
 せつな?

「せ、せつなさん? 今なんて……」

「……帰れ」

「せつなさんが意地悪だぁあぁぁぁぁ!!」

 ……うう。そんなぁ。

「て、フェイトは何故泣く!?」

「だ、だって、わ、私、こ、こんなかっこ、して、待ってたのに、酷い……よぅ……」

「てぇ! フェイトちゃん泣き落とし禁止ぃ! それ卑怯だよ!」

「だぁぁでぇえっぇぇ」

 本当に悲しいんだよぉぉぉぉ。
 せつなが、せつなが私に冷たくするなんて……悲しいんだよぉぉ。

「……せつな?」

「へいへい。……あれか? ―――と同じ事すればいいのか?」

「あれは止めたほうが……と言うかですね? せつなさんはキス魔じゃなかったですよ?」

「むぅ。……どうせ、俺、ここの世界の人間じゃねえしな~。……まあ、さっきと同じで」

 ……あ、せつなが、また、抱いてくれてる。

「にゃにゃにゃぁぁぁぁぁぁぁ!! フェイトちゃんずるい!」

「叫ぶななのは! ……じゃあ、なのはは、これでいいか?」

 ……ああ!? 頭撫でてもらってる!!
 なんて幸せそうな……

「にゃぁぁぁ……せつなさん、気持ちいい……」

 き、気持ちいいの!?

「ぬことワンコだなこれ……あ? どうしたフェイト?」

 え、えっと。

「わ、私も、撫でて?」

「……母さんか!?」

「私何もしてないわよ~?」

「く……エリオ? 俺みたいな情けない男にはなるなよ……必ず、女で失敗するからな!」

 何の話だろ?
 あ、撫でてくれてる。
 ……うう、確かに気持ちいい。
 はぅああああああ。

「……お兄ちゃん。かっこいい」

「いや、エリオ。本気で待て。あれの兄として忠告するが、お前はああなるな」

「今回はクロノ兄さんが正しい……くそう、何でこんなフラグ乱立してそのままなんだ俺……」

 はぁぁぁぁぁぁぁ……





 あ、溶けてた。
 えっと、何でこんな事態になったかというと。

「……私、高町なのは。あなたは?」

 あの喫茶店でなのはと名乗る女の子に、絡まれまして。
 どうも、なのはもせつなに気がある……いえ、これは気があるどころじゃなく、好感度マックスというやつです。せつな的に。
 
「私は、フェイト・テスタロッサ。……せつなの幼馴染だよ」

 まずは牽制。
 アリシア曰く、幼馴染はどの属性よりも、強い。
 ……らしい。

「むぅ! な、なるほど……私は、せつなさんに助けてもらったことあるよ!」

「それなら私もある。……貴女とは、付き合ってきた年月が違う」

 そして母さん曰く、敵とみなしたら、即座に黒焦げ……もとい、切り倒せと。

「……わ、私、せつなさんにセミヌード見られたことあるもん!」

「私は、せつなに、ぜぜぜ全部みらられたよ?」

 子供のときだけど。

「子供のときでしょ!? 私最近だもん!」

 な、なにぃ!? ……あれ? カウンターの奥でお皿の割れる音が?

「で、でも、貴女が誘惑しただけじゃないの?」

「え? ……あ、あなたがいうの? わざとらしく泣きまねなんかして!」

 な、あ、さっきの!?

「あれは、本当に悲しくなって……それで……」

「えええ!? ちょ、本当に泣かないで……えっと、ごめん」

「あ、うん、ごめん。……せつな、私の事、覚えてないって……」

「……うん。私の事も、あまり覚えてないみたいだね……」

 ……せつな、どうしちゃったのかな?
 私の事も、この子の事も、みんな忘れちゃったのかな……
 どうして、こんなことに……

「……よし、フェイトちゃん!」

 ? 何か、決心した目で、私を見つめてる。

「せつなさんに、思い出してもらおう! 私達の事!」

「……でも、どうやって……」

「勿論、一緒に居て、私達の事を思い出してもらうの! 丁度今日から連休だから、一緒に居られるよね?」

 ……あ、そうだ。
 その手があった。
 ……この子、凄い。なんて前向きなんだろう……
 泣いてばかりの私とは、大違いだ。
 
「それで……最初に思い出してもらったほうが、せつなさんの恋人ってことで勝負だよ!」

 勝負? ……そう、そうだね。
 勝負なら……負けられない!

「その勝負、乗ったよ……後悔しないよね?」

「勿論なの……お母さん! しばらく帰らないから!」

「な、なのは! お父さんははん「はい、いってらっしゃい。二人とも、頑張ってね?」も、桃子さん!?」

 よし! そうと決まれば!

「じゃあ、お先に」

「ぬけがけ!? く、じゃあ、お母さん、あとお願い!」

「待てなのは! 兄はゆ「はい、頑張って~」た、高町母! それでも親か!」

 誰かを踏みつけたような音がしたけど、気にしないで置こう。
 まずは、せつなの家で待って居れば!



 ……と、言うことがありまして。

「……せつなの記憶を取り戻す為に、女の子二人の熱いご奉仕合戦! ……なら、戦闘服は、メイド服で決まりでしょ?」

「……クロノ兄さん。この母は埋めたほうがいいのか、それとも調教か?」

「……どっちでもいいが、後者はせめて家の外でやれ」

「野外プレイか。兄は鬼畜だな……エイミィさんとやったの?」

「よし、じゃあお前を埋めることにしよう」

「……エリオ~~~。息子二人が虐める~~~~」

「えっと、その……どう答えていいのか分かりません」

 齢五歳にしてそのスルースキル。
 この子、できる……!
 まあ、とにかく。

「せつなさん! お母さんにするなら、まず私が!」

「せつな? 私なら、何されても平気だから」

 絶対に負けない!

「……まず、プレシアさん呼んだ方が早いか……兄さん。高町家調べて電話。恭也さん呼び出して」

「そうだな」

「「見捨てないで~~~~!!」」

 そして本当にせつなは記憶失っているの?
 やり取りは、いつもどおりなのに……


 


 <せつな>

 ……え? これなんてエロゲ?
 帰ったら恋人候補二人?
 メイド姿でお出迎え?
 聞くと、俺の無くした記憶を思い出してもらうために、四六時中一緒に居るらしい。
 で、最初に思い出してもらったほうの恋人と……
 おいおい。
 その恋人候補その壱。

「えっと、あーんしてください?」

 高町なのは。通称『エースオブエース』『管理局の白い悪魔』『魔王』
 ……だが、この世界では、俺のクラスメイトで、数年前からずっと同じクラス。
 先日、彼女の貞操の危機を俺が救ったことで、徐々に上がってた好感度がいきなりマックス。
 今回の件に乗り出したという……必殺技。無垢な笑顔。

 恋人候補その弐。

「あ、ご飯粒ついてるよ? ……ふふ、もう、しょうがないなぁ」

 フェイト・テスタロッサ。通称『エリート執務官』『死神』『露出狂』
 ……だが、この世界では、俺の幼馴染。クラスも同じらしい。
 彼女の幼少時に、俺が尽力して、彼女の家庭を整えたのに好感度が急上昇。
 今回の件に尽力する模様……必殺技。泣き落とし。

「……ふぇ~。せつな君やるねぇ~? エイミィさんびっくりだ」

「はっはっは。俺自身びっくりデスよ義姉さん……悪いけど、二人ともそっち送っていい? 寝る場所」

「「駄目」」

 お前らが駄目言うな。

「……母さん?」

「あら? 私はいいわよ? 久々に甘える?」

 俺が母親の部屋に行けと?
 そして嬉しそうにするな、母。

「エリオ、母さんの胸揉み倒してやれ。俺が許す」

「弟を性犯罪者にするな!」

「え、えっと、遠慮します」

「母さん振られた~」

「うううう。息子たちが酷い!」

 ……みんなノリいいな~。俺じゃなくてフェイトの入ったハラオウン家じゃ、こんな会話しねえんだろうな~。

「あ、せつなさん?」

 あいあい、なんざんしょ、なのはさん?

「後で一緒にお風呂入ろうね?」

 ……はい?
 いや、そんな、頬赤らめて言わんでも、さらに直球で。

「……なのは? 勿論、私も一緒に入るんだよ?」

 フェイトさん?
 何でそんな対抗するんですか?

「そうだね、二人で一緒に入ろうか」

「うん、二人でね」

 ……ああ、なるほど。

「じゃあ、俺はその後で「「せつな(さん)も、一緒だから」」……ハラオウン家の良識様。判定どうぞ」

 クロノ兄さん、良識ある教育的指導を。

「……ふ、ノットギルティ。女に溺れて溺死しろ」

「何であんたがその言い回し知ってやがる……くそう。エイミィさん。後で兄さんの隅々まで洗ってやれ! 搾り取るほどに!」

「あいあいさー! ふふふ、クロノ君覚悟してよん?」

「く、貴様……」

「ふふふ。孫の顔は早く見られそうねー?」

「……」

「エリオー? 言いたいことがあったら言ってやれー? ……ね? リンディおば」

 !? さ、殺気!?

「……せつな? ちょっと、お話する?」

「……申し訳有りませんサー」

「マムよ」

 こ、殺されるかと思ったんだよもん。

「駄目だよ、せつな。女の人にそんな失礼なこと言っちゃあ」

「そうそう。『義母さん』は大切にしないとだよ?」

 ……何ちゃっかり嫁の立場に立ってやがるこの栗毛ぬこ……
 
「……せつなさん。大変ですね~?」

「……お前だけだよ、俺の苦労わかってくれるの……」

 うう、ツヴァイに癒される、俺って一体……




 食事の後は風呂。
 ……そして。

「ツヴァイ! 『凍てつく足枷』! ドア固めろ!」

「はいです! ……どうでもいいですけど、ツヴァイはいいですか?」

「あんな凶悪なボデー二人も見てたら、俺、三分持たずに犯罪者確定だよ……あ、俺ロリコンじゃないから、ツヴァイは平気」

「……なんか納得いかないです」

 ちょっと氷でヒンヤリするが、性犯罪者になるよりかましだ。……明日、はやてに頼み込んで、しばらくツヴァイ貸してもらうか……

「……せつなさん、綺麗な体ですね?」

「そうか? ……筋肉付きにくいんだよな~」

 この頃の俺って、こんなに細かったんだ。
 ……うん、そうだな。
 すずかの言ってた、俺がもともと二十歳男性説は少し納得。
 で、あれか……

「……やっぱり、ショックですか? せつなさんの本当の家族が……その」

「まあね? ……んで、記憶が無いのがさらにショックだ……」

 アリサ曰く、俺が一番記憶の欠落が酷いらしい。
 二人が言うに、俺がみんなの中心で、八歳の頃から魔法を使いだし、夏には管理局に入局。さまざまなイベントをこなして、自分の部隊まで準備したという。
 ……で、修学旅行初日に、ロストロギアを起動させてしまい、ここに放り込まれたそうだ……
 二重トリップとは、やってくれるじゃないか。

「じゃあ、俺のデバイスって、どこにあるんだろ?」

「……せつなさん。ツヴァイとユニゾンしてみるですか?」

 ……はい?
 て、唐突だな。

「多分できると思うです。……危なかったら、直ぐに離れるです」

 ……ほむ。面白そうだな。

「よし、やってみるか」

「じゃあ、いくですよ?」

 裸のツヴァイが俺の胸元に飛んでくる。
 ……ちょっとドキドキ。
 
「いくですよ~? ユニゾン・イン!」

 ……ツヴァイが俺の中に溶け込んでいく……あ、あったかい。
 ふむ? 今のところ、危険は無いな……

「どうだ?」

『……び、びっくりです。せつなさん、ユニゾン一発成功の上、私との相性バッチリですよ?』

 ほう。それは凄い。
 ……おお、髪と瞳の色まで変わっている。
 蒼銀か。こりゃ、かっこいい。

『……し、しばらくこのままでいいですか? せつなさんの中、暖かいです』

「そ、それは構わんが……台詞がエロいぞツヴァイ……」

 意図して言ったわけじゃないだろうが。しかも、俺、女側~。
 後、さっきからどんどんうるさいな。
 すりガラスの向こうに、明らかに分かる栗毛と金髪。
 ……しかも、バスタオル装備。
 そんなロマン。もったいないけど、俺が許さん!

「そろそろ上がるか?」

『はいです~』

 すげえ溶けてるなツヴァイ。
 さて、と。
 ツヴァイとユニゾンしてるから、術式の構成は分かる……よし。
 
「氷結破砕!」

 ドアにへばりついてた氷が、次々に砕けていく。
 ……よしよし。
 ドアを開くと……お、おう。
 フェイト肌白いな~。そ、そしてその凶悪なバスト……
 なのはもその、とっても谷間が……酷くエロイです。 

「あ、せつなさん酷い~~~~。締め出しす、る、ななな?」

「せつな……髪、どうしたの?」

 ……ほむ。

「ああん? 染めたんだけどどうよ? イカしてね?」

 どこの不良だ。
 言ってて恥ずかしくないんだろうかこの不良言葉。

「「せ、せつな(さん)がグレた!」」

「へ。俺の気持ちなんか誰もわかっちゃくれね~んだよ~」

 二人をスルーして、さっさと部屋へ。
 ……あいつらの目の前で着替えられるか。
 恥ずかしい。

『ちゃんと、羞恥心はあるんですね? ……すずかちゃんにはあんな凄いのしたのにです』

「言うな。……てか、あそこでワンモアとか言われるとは思わんかった……」

 それでやっちゃう俺はド外道。
 


 寝巻きに着替えて、ベッドイン。
 ……と、言うか。

「……ツヴァイ~? ユニゾンしたままだけど、このまま寝て大丈夫か? 起きたら融合してましたとか、死んでましたとかは嫌だぞ?」

『それはないですが、確かにちょっと怖いですね。じゃあ、ユニゾン・アウト!』

 離れていく感覚。
 ……うん、元の俺だ。
 て、ツヴァイさんや?

「……服、なかったのか?」

「は!? はわわわわわ。……せ、せつなさんのエッチです」

「俺のせいか……ちょっと待ってろ」

 ハンカチ二枚でツヴァイを包み、ちょいちょいちょいっと。

「これで寒くないか?」

「……ふあ、可愛いです~」

 布二枚でできる簡易ドレス。あまり激しく動くとチラリズムの極致。
 大きいお友達に大絶賛間違いなしである。

「……むう、ツヴァイも可愛いな……元の記憶戻ったら、ユニゾンユニットの研究でもしてみるか……」

 どこまで知ってるか分からないけどね!
 マリエル・アテンザ技師と知り合いらしいから、そっち方面から攻めていこう。

「せ、せつなさん、ツヴァイ可愛いですか?」

「ん? おう。可愛いぞ?」

「え、えへへ~。せつなさん大好きです~」

 むう、飛びつかれてほっぺたすりすりされてる。
 ……ひょっとして、俺こんな風に無意識にフラグ立ててたのか?
 ……それ、なんて北の国の奇跡持ち。
 ヒロインも丁度五人だしね! そして、何の話か?

「じゃあ、寝るぞ~?」

「は~いです~」

 さて、寝るか~~~。

 ん? ぬことワンコ?
 そう言えばこないな。まだ風呂入ってんのかな?
 ……むぅ。ちょっと気になる。
 が、気にしたらつけ上がる。
 ここは心を鬼にして、無視を決め込む。
 おやすみなさー…………
 ……

「……」

「……」

 ……あー、ツヴァイ? あのベランダにいる二人は何だと思う?

「多分、ベランダから侵入しようとしたところ、鍵が掛かってて入れなくて、戻るに戻れないネコさんといぬさんです」

 だよなぁ。
 ……なあ、ツヴァイ?

「俺がもし、暴走したら、氷付けにしておいてくれ」

「……分かりましたです」

 やれやれ。

「うら、お前ら。風邪引くから中入れ」

「「せつな(さ~~ん)……」」

 仲いいんじゃないか? お前ら……
 二人を部屋に入れ、窓を閉める。

「……お前らの目的は、添い寝か?」

 二人して首を縦に振る。
 ……二人とも、風呂上りで直ぐに外に出たようで、とっても寒そうにがたがた震えてる。
 しかもパジャマ一枚。……フェイトは家から持ってきたんだろうけど、なのははそれ義姉さんの?
 ……はぁ。

「一応聞いておくが、貞操を失う覚悟できてるんだろうな?」

 あ、固まった。
 ……が、同時に解凍。
 二人して顔を真っ赤にし、首を縦に高速で振る。
 ……ドンだけフラグ立てればこんなに懐かれるんだ俺……

「はあ……ほれ。寒かろ? 先、フェイト」

 掛け布団を上げると、飛び込んでくる金髪ワンコ。
 その隣に入り、

「ほれ、なのは」

 呼ぶと俺を挟む形で栗毛のぬこが入る。

 ……で、最後に。

「ツヴァイ、消灯。……おやすみ」

「「「おやすみ」」なさ~いです……やっぱり、せつなさん鬼畜です」

 どやかましい。





 ……もちろん、右腕にフェイト、左腕になのはが絡んで、暴走寸前。
 どうせ、俺を好いてるアニメキャラ、やっちゃえやっちゃえ~……できるかーーーー!!
 俺が立てたフラグならまだしも、いつの間にか立ってたフラグなんか回収する気にもならんわ!
 後、よく考えれ?
 こいつら、まだ十四歳!
 軽く淫行罪で捕まってしまう。流石にそれはまずい。
 この世界では、クロノ兄は警察官だそうだ。
 身内に手錠かけられるわけにはいかない!
 ……ふふふふふ。あすか~姉さん~……俺を助けて~。





 [一日目終了]




 <???>

 ……あはは。物凄いフラグ乱立だよね?
 でも、ここはロストロギアの中。そのフラグは、彼女たちが勝手に立てたもの。
 今までの記憶を代償に、代換えの記憶を作り、その記憶を頼りに動いている。
 ……それは、依存率が高ければ高いほど強くなる……
 この二人は、よっぽど強かったんだね?

 ……けど、おかしいな。
 彼の記憶を穿り返したら、普通、フェイトとはやてになるはず……
 何で、なのはは彼に依存しているんだろう?
 変なの……
 もう一度、調べてみよう。
 彼女の記憶も一緒に調べれば、何か分かるかな……?



*導入部はともかく、一話が長すぎる件について。作者です。
最近はネットカフェにて投稿しているので、家で書いたストックを大量放出しているわけです。
この話は三期開始一年前までのストーリーは出来てます。
多次元・ゼロ魔の方は夏休み(トリスタニアの休日)に入ってます。
多次元本編にストックはありません。
……一気に放出しない、作者のチキンをどうか許してください。

さて。キャラ崩壊の激しいこの話ですが。
受け付けられなかった人はごめんなさい。
主人公の人格も、少しだけ変わっていますが、理由はあるんです。
もう少し待ってくれたら、皆様の知ってるせつなが戻ってくる……はず。
言い訳しすぎですね、はい。
作者でした。



[6790] L25.新難題ロストロギア 二日目朝~昼
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/26 19:43

 <せつな>

 二人を起こさないように、ベッドから這い出す。
 物音立てずに着替え、携帯と財布とツヴァイを所持。
 ……部屋から出て、台所へ。
 あ、さすが母さん、もう起きてるし。

「あらせつな? 夕べはさぞかしお楽しみ?」

「だからなんでそんなネタ知ってんのさ異世界人……おはよう、母さん」

「はいおはよう」

「おはよう……フェイトに手はつけてないのね?」

 ……うぁっとぅ!!
 いたのかプレシアママ!?

「つけてません。……つか、持って帰ってくれ。流石にあんなんに絡まれたら、俺本気でどうにかなるぞ?」

「……相変わらず淡白と言うか、つれないというか、ツンデレというか」

「誰がツンデレか」

「「あなた」」

 な!? リンディさんまで!
 
「リンディさんから聞いたわよ? 貴方、記憶が曖昧らしいわね?」

「まあ、ちょっとボケてますね……いや、かなりか?」

 何をどうやったらあんなにフラグ立てられるのか、本気で分かりません。
 何やったんだ俺。いや、本当に。

「……貴方、フェイトのために、私を殴り飛ばしたのよ?」

 ……いや、何やってんの俺?

「子供の癖にね?『フェイトもあんたの娘だろ! 母親なら、娘を泣かせるなぁ!』ってね? ……そこにフェイトが飛び出してきて、お母さんを殴らないでって……うう、私のフェイト……」

 ……おいおい。
 泣き癖はあんたの遺伝かよ。
 ……つうかな~~? アニメの知識じゃ、この人こんなに娘想いじゃなかったような……むしろ鬼婆?
 !? また殺気!?

「……せつな? 話し合いが必要?」

「……いや、何も考えてないですYO?」

 考えることもできんのか!?
 まあ、今の彼女はかなり綺麗だけど……
 いや、余計なこと考えるな。
 リリカルの主要女性キャラは、年取っても綺麗なんだ。
 恐るべしは都築の遺伝子!

「……じゃあ、母さん。ちょっと出てくる」

「あら? もう?」

「ちょっと、ツヴァイを返しにいかないとな?」

 ちなみに、まだ寝ておりますこのちびっ子。
 胸ポケットで幸せそうに。

「せつなさ~~~ん。もう食べられないです~~。むにゃむにゃ」

 ……ベタ寝言はいいんだけど、何で俺に言うんだよ?



 <はやて>

「ご馳走様……やぁ~~~~~」

「……はやて、その、ツヴァイは……」

「結局帰ってこんかったなぁ~~~~」

 ううううう、あたしなにやっとんやろ。
 あの後、家まで帰って、不貞寝して、気が付いたらツヴァイ落としたことに気づいて。
 いつまでたっても帰ってこん……
 まさか!? 大きいお友達に拾われて、あんなことやこんなことの十八禁!?
 そ、そんなんは駄目や!
 ツヴァイの大きなトラウマになってまう!

「ツヴァイ~~~~~!! あたしが悪かった~~~~~~! 帰ってきて~~~~「ただいまーーーです!」きたーーー!!」

 玄関先から聞こえる声に、あたしは全力で駆ける!
 そこには、元気に手を振るツヴァイと……

「ああ、悪いな、はやて。ツヴァイこっちで泊まらせた」

 せつなさんやぁぁぁぁ!!

「ああええでええで? ツヴァイ、お帰り。でかしたで? ……後でちょっとお話しよな?」

「な、何かはやてちゃんが怖いです!?」

「はぁ、こらはやて?」

 え? せ、せつなさんがなんか怒ってはる?
 あた! あ、でこピンされた。

「お前、あの時ツヴァイ置いて行ったんだぞ? 呼び止めてるのに、振り向きもしないで……それでツヴァイにお話とは何事だ?」

 そ、そんな! あたしの聞き間違いやったんか!?

「あ、あの時のって……そうやったんか……ごめんな? ツヴァイ、馬鹿な主を許してな……」

「はやてちゃん……許しますです。ツヴァイは、はやてちゃんを許しますですよ」

「ツヴァイ~~~~!!」

 なんてええ子なんや、ツヴァイ!
 ああ、こんな子と家族のあたしは、誇らしさで一杯や!
 今日はツヴァイの好きな、オムライスで決定やね!

「それに、せつなさんとお食事できたですし」

 ……へ?

「一緒にお風呂も入ったですし」

 ……は、はい!?

「せつなさんの胸で眠れたですし、いいことばっかりでしたです~~~」

 ……ほう? そうなんか……

「……はやて、その……うん、俺、縁側にいるから。終わったら声かけてな?」

「気遣い感謝や。……じゃあツヴァイ?」

「……は、はい?」

「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉと、頭、冷やそか?」

「で、ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」







「はあ、ツヴァイは地雷踏みか……南無南無」






 さて、縁側にいこか~。

「……よ、汚されちゃったですぅ……」

 あんたみたいな子、あたし知らん。
 さって、せつなさ~ん……あう。

「ふぅ!」

「ぜ!」

 ……庭先で、シグナムと模擬戦しよる……
 ほんま、仲ええんやな~~~……あれ? なんかせつなさん……いつもより……動き鈍い?

「はぁ!」

「でぇぇぇ!?」

 あ、綺麗に一本入った。
 ……せつなさんの負けや。

「……ふむ、本当に記憶が曖昧なのだな」

「そうだって言ってるだろ、ニート侍……本気で殴りやがって……」

 ああ、痛そうや。ほんま脳天に一撃したからな~。

「せつなさん、お疲れ様や」

「ああ、ありがとな……本当にシグナムだよなぁ……」

 ? 何言うとるの?

「せつなさんには、シグナムがヴィータに見えるん?」

「それは無理があるだろ、驚異(胸囲)的に」

「うまい!」

 せつなさん絶好調や。
 ……せやけど、な?

「やっぱり、いつものせつなさんちゃうな~」

「記憶ないから、当然だろ? ……あ、そうだ」

 ん? なんや?

「しばらく、ツヴァイ貸してくれないか?」

 !? え、な、なんで!?
 ま、まさか! せつなさんが人形フェチに!

「せ、せつなさん!? あかんよ!? 2.5次元は真っ当な恋愛できんのよ!?」

「誰がフィギュアマニアか! ……犬避け猫避け、後、いざって時の自爆装置だ」

 いぬ? ねこ?
 自爆装置?

「どういうことや?」

「……実はな?」




 少女(に)説明中



「……と、言うわけ。さすがに、俺犯罪者になりたくないし、ツヴァイいると、俺がいろいろと癒され……あ、あの? はやてさん?」

 ……あ、あたしのせつなさんに、恋人争奪御奉仕合戦~~~~~~!?
 ありえんで!
 せつなさんは、せつなさんは……

「せつなさんはあたしの嫁やで! そんな犬猫に奪わせへん!」

「いや、嫁って……シグナム? あれ、どうにかできんか?」

「……記憶がないと言うのも、困り者だな。……私が言えることは一つだ。諦めろ」

 ふふふふふ~~~~。そうやな、家に帰ったらそういう状況なら……

「せつなさん? 今日はうちにおり。いつまでも泊めたるから」

「……はやて? その、もう少し、欲望は隠そう。涎でてるから」

 おおう。この後の素敵展開を考えたら……あかん、ここで押し倒してもてええやろ?

「……シグナム、お前にしばかれて意識刈り取られるほうが、俺にとっては幸せなのかな? ……もう逃げられんような気がしてきた」

「……まあ、逃げられんだろうが……お前の好きなようにしてみろ。私はもう知らん」

 ふふふ。せつなさんと、食べさしあい、一緒にお風呂、そのまま同衾や~♪
 
「ええい、しっかりしろ部隊長。ほれ、お前の好物を揉んで落ち着け!」

「な! お、おい!」

 おお!? これはシグナムの胸やな?
 相変わらずええ揉み心地や~~~

「せつな貴様!」

「許可したのはお前だからな? まあ、見ててやるから。……しっかり自爆しろ」

「ふふふ~。シグナム覚悟~!!」

「いぃぃ!」




 世にも珍しいシグナムの嬌声が流れております。
 しばらくお待ちください。




「……我に揉めぬ物なし」

「とりあえず親分に全力で謝罪しろ。後、シグナム。乙」

「……ふふ、もう嫁にいけん……」

 大丈夫や、せつなさんを貰ったら、少しは分けたるからな?
 一蓮托生やで?

「……使いどころ違う思うな~?」

 せつなさん結構きっついな。
 地の文に突っ込まんといて。


 




 <せつな>

 さて、はやてに俺の状況説明。後、アリサたちから仕入れた情報も公開。
 ……はやての反応は?

「……せやな。せつなさんのお得意の嘘やな?」

 ……まあ、信用しないよな。

「まあ、信じられんって言うなら、それでいいさ。……じゃあ、ツヴァイ借りてくからな?」

 アリサたちと合流して、もう少し話の整理をしないと。

「ちょい待ち。……せつなさんは今日はここおって」

「……な、なぜに?」

 また目が危ないぞ?

「シャマル~? 久々の出番やで~~?」

「は~~~い。……後一言余計です」

「なんやて?」

「いえ、なんでもありませんよ?」

 ……と、奥から出てきたのは、金髪若奥様、泉の騎士シャマル。
 おお~本物だ~。

「じゃあ、今から、催眠術で」

「いや、本気かよ!? クラールヴィント! そんな使われ方でいいのか!?」

 五円玉代わりにされるクラールヴィント。
 彼の心中は?

『……主のためならば。致し方ない』

 ……耐えて忍はまさに侍……!
 いや待て、騎士だろあんた!?

「じゃあ、心を落ち着けて……貴方はだんだん眠くなる……」

 ふふ。まあいいや。一寸だけつきあお……

 あ、ホントに眠く……


「……おお、ほんまにきいとるな……」


「シャマル特製睡眠導入剤ですから……」

 なんか不穏な発言聞こえたぞー?


「じゃあ、聞きます。貴方のお名前は」




 ん~~~? 永森刹那~~~



「……ご職業は?」



 フリーター?




「……リリカルなのははご存知ですか?」




 大好きです~~~




「……はやてちゃんは好きですか?「ちょ、何聞いとるんや!?」




 はやては俺の妻~~~~



「……せ、せつなさん! いますぐけっこ「まあまあ。えっと、それで」







 ―――――――――――検閲、削除





「……? せつなさん? えっと、貴方の最後は、どんなかんじでしたか?」







 最後? ……俺の、最後は……―――――――検閲、削除





 ……最後は……――――――――リミットオーバー。










 ブレイク。












「……あ、れ?」


 ……な、あんだ?


「……せ、せつな……さん?」

 何で、俺、はやてを、押し倒してんだ?

「くぅ……あ、主……」

 ? シグナム? 何でそんなボロボロ?

「……き、気がつきやがったか……」

 うゎ。ヴィータまで。ええ?

「……わ、私、なんてことを……」

 でぇ!? シャマルさん、服着て服!
 半裸ですよ!?

「はぁはぁ……はやて……無事だな……」

 リインフォースまで……何がって……おいおい。
 居間、かなり散乱して……嵐でもあったのか?

「せ、せつなさぁん……」

 ツヴァイ……俺、なにしたんだ?

「お前は、いきなり凶暴化して、主に襲い掛かったんだ」

 ザフィーラか……えっと、守護騎士全員、俺を止めようとして、それで……今の状況?

「……す、すみません、せつなさん……どうも、意識の奥に、かなりのプロテクトが掛かってまして……」

 そこを刺激されて……暴走? はは、マジか?
 どこの防衛ユニットだよ。俺自身が闇の書か?

「せ、せつなさぁん……こ、こわかってぇん……」

「はやて……すまん……あ、今どく」

「せつなさん!」

 いや、襲われてたのに抱きつくとか。

「よかった……元に戻って、よかったぁ……」

 ……はぁ。
 おいおい、俺よ。
 どうしてこんな子置いて、いきなりいなくなるかね。
 俺に押し付けていくなよな……
 で、プロテクト……か。




 さて、台風一過の部屋を片付け(ほとんど俺がやらされた)再度、皆でお話。
 結局のところ、俺の記憶は戻らず、その、永森刹那……まあ、前世の俺だな。それの情報もぜんぜん得られないと。

「……すみません。お役に立つどころか、皆に迷惑を」

「や、迷惑かけたの俺だから、シャマルさんは気にしなくていいと思うよ?」

「……しかし、暴走時のお前は……強いな」

「強すぎだ! 何だあのチート!? デバイスなしで魔法使うなよな!」

「しかも、我々と同じベルカ式……いくら聖王の血筋でも、お前の術式は……」

「あ、ひょっとして、ツヴァイがユニゾンしたからですか?」

「「「「「はぁぁ!?」」」」」

 ああ、確かに、そのとき、ベルカ式使えたけど……

「今の状態じゃ、使えないんだけどな~」

「いや、リンカーコアのほうに使い方が記憶されたんだろう。……ツヴァイとユニゾンしたことによってな?」

「うううう~~~~あたしでさえまだユニゾンしたことないのに~~~~~」

 あやや。そりゃすまんかった。
 と、なるとだ?

「リインともユニゾンできるのかな?」

「……そうだな、そちらから調べてみよう」

 リインとユニゾンして、意識下からではなく、精神内部から調べてもらう。
 ……勿論、守護騎士には、はやての守護についてもらう。

「……よし、行くぞ? ユニゾン・イン」

 リインと重なる……ふむ。意識が拡張された感覚。
 何でもできそうな万能感。
 ツヴァイとユニゾンするより、やはり力の流れ具合が違う。

 ……何しろ、―――――のオリジナル。俺との親和性も、バッチリだ。

 ……まて? 一寸待て?
 今、何を思い出した?

『……ふむ。大体分かった』

「そうか?」

『ああ、ユニゾン・アウト』

 ふっと、意識が元に戻る……今のは?
 ……駄目だ、もう、思い出せない。

「……結論的に言うと、お前が記憶をなくしているのは、他者からの魔法の効果だな……その、すずか嬢の話は、間違いじゃないわけだ」

 まあ、そうだろうな。

「解除方法は?」

「……まず、お前にかけられた鍵をはずすのが先決だ。五つあるうちの、二つがはずされていた」

 すずかと、アリサの分だな。
 じゃあ、後三つ。

「その上で、お前の『大切なこと』を思い出せば……」

 ……この世界から抜け出せるってわけか……
 やれやれ、面倒な。
 


 




 <なのは>

 ……せつなさんが戻ってこなぁい……
 起きたらもういませんでした……探しに行きたいけど……

「……」

 すれ違いになって、フェイトちゃんに先を越されるのを考えると、下手に動けません。
 さっきから、せつなさんの部屋で、にらみ合いが続いてます。

「……はぁ」

 さっき、フェイトちゃんのお母さんが来て、お話してました。
 ……せつなさんとの仲を、正式に認めるとか何とか……
 そっちが勝手に認めても、私が許さないなの。

「……そう言えば……」

 せつなさんの部屋のパソコン。
 ……ちょっとだけなら、いいかな?

「? なのは?」

「えへへ……ちょっとだけ……」

 いつもせつなさん、どんなことしてるのかな~?
 電源を入れて、立ち上げる……
 ……あれ?

「……この壁紙……」

 よくよく見たら、私がアニメ絵で描かれている。
 私と、その隣にフェイトちゃんっぽいのと、後知らない女の子。
 ……えっと。

「これ、私? せつな、こんな趣味が……」

 いや、せつなさんに限ってそんな……
 ……えっと、Dドライブの中身は……
 ? ……『魔法少女・リリカルなのは・海の上の決闘(東方不敗)』?
 な、なに? もしかして、せつなさんの言ってた事は……本当?
 その動画ファイルを再生してみる。

「……あ、私小さい」

 小学生の頃かな? アニメ絵の私と、フェイトちゃんが、海の上で睨みあってる。
 ……普通の人じゃ、このアニメは作れないよね……じゃあ、やっぱり、せつなさん、本当に……
 あ! 戦いだした!
 私たちが魔法を使って戦ってる。
 ……ああ! 私捕まっちゃった! 魔法のリングで、動けない!

【フォトンランサー・ファランクスシフト!】

 ふぇ、フェイトちゃん酷い! 捕まった上に、あんな一杯攻撃を……
 思わず本人を睨んでしまいます。
 ……フェイトちゃん自身は、唖然として見てますが……あ、攻撃終わって……私、無傷?
 あ、私の攻撃……て、あれぇ?
 今度はフェイトちゃんが身動き取れなくなっちゃった……私の反撃だ。

【これが私の、全力全開! スターライト! ブレイカーーーーーーー!!】

 ……こ、これは酷い。
 私のほうが、かなり酷い。……あう、後ろから刺すような視線がちくちくと……
 ああ、フェイトちゃん墜ちて行っちゃった……

「……なのは、酷いね」

「にゃ、にゃぁぁぁ……」

 反論の余地ないけど……でも、これでわかった。
 
「え、えっと、せつなさんの言ってた事は……」

「本当だったってこと……だね……なのは、他のはあるの?」

 えっと……あ、あった。
 ……『リリカルなのは・H』……画像ファイル?
 えっと……にゃにゃにゃ!!

「……わぁ……」

「……」

 フェイトちゃんが大変です。
 え、えっと……こ、今度は私!?
 せ、せつなさん以外の人に……え、えと……
 あうぅ。

「……べ、別の、探そうか……」

「……せつな、酷い……」

 ……後ろで泣かないで欲しいなぁ~~~。
 私も泣きたい。
 えっとぉ……

「あ、これかな……『リリカルなのはストライカーズ・第一話』?」

 連作かな? とにかく、これを見てみることに。
 ……あれ?

「……ファイル、壊れてる……」

 何度やっても、再生できません。
 ……他のファイルも、『ストライカーズ』のタイトルの物は、全部壊れてました。
 ……むぅ。

「……人の居ぬ間に、パソコン弄るとは……いい度胸じゃないか? なのは、フェイト?」

 !? せ、せつなさん!?
 ……声に振り向くと、何か疲れた顔をした、せつなさんがいました。
 にゃ、にゃぁぁあ……ば、ばれちゃった……

「……せつな……酷い……私、あんなこと……」

「あ~……まさかと思うが、俺の……ああ、いや、あれはただの妄想だ。……いや、えっと……」

 ……むぅ。せつなさん、男らしくないです。
 フェイトちゃんの言うことはもっともです。

「せつなさん。酷いです」

「うぐ!? ……ま、まあ、その……ごめんなさい」

 あ、土下座。
 ……そ、そこまでされると、逆に罪悪感が……

「……せつな? その、こんな絵なんかじゃなくて……」

 ? フェイトちゃん?

「わ、私で……私自身を、見て欲しい……」

「ふぇ、フェイト?」

 フェイトちゃん!? 脱ぎ始めた!?
 ……あ、ずっこい! そのまま誘惑する気だ!

「せつなさん! 私も見て!」

 負けないなの!

「て、お前も脱ぎだすな!」

「だって、私たちで、あんな……え、エッチなこと……したいんでしょ? なら、その、が、画像じゃなくて……」

 とっても、恥ずかしいけど……

「私達、本人で……して?」

 大好きだから。

「……気持ちは、ありがたいんだが」

 ……

「俺は、お前らの知ってる俺じゃない。……それなのに、俺がお前らに……そういうことするのは、なんか、違う」

 ……せつなさんは、本当に、優しいなぁ……
 せつなさん自身も顔を赤らめて、そっぽ向いてる。

「……だ、だから、今は……」

 ? あ、フェイトちゃんのあごに手を当てて……あ!?
 ……き、きききききき! キス!?

「あ、え、あ……」

「……ひひひど……え?」

 こ、今度は私に、近寄って……あ、

「せめて、目、瞑れ」

 は、はい……!?
 ふ、はぁぁぁぁぁぁぁ!?
 キスってこんな……幸せなんだぁ……

「……せつなさぁん……」

 ……凄く、幸せ……
 フェイトちゃんも、真っ赤になって……

「今は、これで勘弁。……ふ、服、着なおしてくれると、嬉しい」

 ……にゃぁぁっぁ!
 せつなさぁん!
 せつなさんに飛びついて、抱きつく。
 フェイトちゃんも、考えることは同じみたい。
 二人して、せつなさんに抱きつく。

「……はぁ。本気で、猫と犬だな、お前ら……」

 文句言いながら、頭撫でてくれる。
 せつなさんは本当に、優しい……
 ずっと、このままで居られたらなぁ……
 
 悲しいことなんて、いらないよ……



「……はぁ。どうやって、こいつらの記憶、戻せばいいんだ……?」




[6790] L25.新難題ロストロギア 二日目昼~夕方『刹那』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/27 00:10
 
 <アリサ>

 ……さて、せつなから今現在の状況を聞いて、あたしの一言。

「どこのギャルゲーよそれ」

「むしろエロゲだよなぁ……てか、アリサがギャルゲー知ってる事実にびっくりだ」

 お昼過ぎてから、こいつはあたしと合流。
 はやての家で午前中過ごし、お昼を食べに帰って帰宅、なのはとフェイトに少し構った後、こちらに来たそうだ。
 まるで、フラグを強化しに行ってるとしか思えない行動。
 ……男なだけに腹が立つ。

「でだ、正直、あいつらの記憶をどう呼び戻したもんだかと思ってな……俺じゃ、さっぱり分からんというか、泥沼になってるというか」

「……むしろ、あの子たちのそのベタ惚れぶりが奇妙よねぇ……話は聞けたの?」

 せつなには、三人が何故せつなに惚れているのかの聞き出しを頼んでおいた。
 フェイトは幼少時のイベント……つまり、プレシアさんとの仲を取り持ったお陰だと思われる。
 これは、あたしたちの世界と同じだ。
 なのはは、先日に暴漢に襲われていたところを、せつなが助け出したのがきっかけ。
 たぶん、四月の仕事の後に起こった、誘拐未遂の事件を、そのまま入れ替えたようだ。
 響介さん達が助けたという事実を、せつなに置き換えて。
 問題ははやて。はやてとはこの世界では同じクラス……三人とも同じクラスの癖に、お互いの事を知らないってどうゆう事よ?
 大して印象に残ったイベントは起こっていないようで、一緒に居るうちに、いつの間にか好きになってしまったというパターンだという。
 ……と、なるとだ。

「はやてから攻めていったほうがよさそうね。はやての大切なことか……」

 あの子の根源って、なんだったかしら……
 ? あれ?

「確か、はやてって、闇の書をせつなに直してもらったっていうイベントがあったはずなんだけど……」

「俺、ホントにどんな化け物なんだ……闇の書直すとか」

「えっと、せつな……あたしたちの世界のせつなの話だと」

 闇の書は、主を喰らい、暴走する性質を持っている。
 その暴走するまでに魔力が必要で、守護騎士たちを使い、リンカーコアから魔力を蒐集する必要があるらしい。
 魔力が集まり、闇の書が完成すれば、その主を取り込み、暴走を始める。
 最終的に、自らも自壊し、周囲に破壊と破滅を撒き散らす。
 そして、新しい主の下に転生し、それを繰り返すS級ロストロギア。

 ……管理局のデータベースにはそう乗ってあったんだけど、それを断ち切ったのは当時八歳の少女。

 彼女は、転生した闇の書の主に協力を依頼し、闇の書を強制的に起動。
 自らのデバイスに残されていた闇の書の前身、夜天の書のバックアップデータを闇の書に当て、さる大魔導師とそのデバイスの協力の下、闇の書を夜天の書に修復した。
 夜天の書を闇の書たらしめたバグウィルスはそのデバイスの追加パッチで、それを修復し、己の力とした。

 ……これが、闇の書攻略の概要である。

 ……それをなした少女が、永遠せつな。後の、せつな・トワ・ハラオウン……なんだけど。

「……なるほど。凄いご都合主義。てか、その魔導師とデバイスが問題なのか?」

「そのとき手伝ってくれた魔導師は、プレシアさんなんだって。デバイスはあんたのデバイスで、名前が……? あれ?」

 ……なんだったかしら?
 まだ忘れていることがある……?
 
「もしかしたら、そのデバイスもキーパーソンの一つかもしれないわね。名前が思い出せないし」

「……ふーむ……」

 考え込むせつな……こうやって真剣にしてると、確かにかっこいいんだけど……
 て、何考えてるあたし。この子はもともと女の子……あ、中身はもともと男だから、こっちが正しいの……かな?
 むー。元の世界でこっちの体だったら、いろいろ変わってたのかしら?
 たとえば……あたしたちとの関係とか……

 あ、そうか。
 それの体現が、この世界なのかも。
 ……まあ、考えても仕方ないか。
 まずははやてだ。
 闇の書の件は、こっちにフィードバックされていない。
 はやてが魔法使えないことも考えると、もしかしたら……この世界を構成しているロストロギアは、夜天の書に関係がある?

 ……そうだ!?

「そうよ! 魔法よ!」

「は?」

「アギトとツヴァイ、後、守護騎士は魔法使えるのよね? でも、なのはとフェイトは魔法使えない。この世界は、ベルカ式が基本なのよ!」

 証拠に、あたしのATはミッド式だ。
 だけど。

「見てて……『ヒュッケバインR』イグニッション!」

 ……やっぱり。ミッド式で構築されている、あたしのデバイスは、うんともすんとも言わない。
 
「……この世界では、ミッド式が使えないのよ。だから、このロストロギアは、ベルカの……それも、古代ベルカのロストロギアになる。そして、夜天の書、あんたのデバイスに関係のある代物と見て間違いないわ」

「……いや、まて。俺、レイハ姐さん……レイジングハート使って魔法使ったぞ?」

「でも、魔方陣はベルカ式だったわよ? 剣十字の三角形」

 ……せつなも、ベルカ式だった……? 確か、ミッドとの複合式とか言ってたような……
 でも、せつなは騎士だった。ベルカの騎士。
 ことあるごとに、それを誇示していたから、間違いない。
 ならば……

「……待て、アリサ。話がずれてる。この世界の考察より先に、はやての記憶を取り戻すのが先じゃないか?」

 ……あ、そうだった。
 ううう。技術職のサガってやつね。
 ついつい未知の物への考察に入っちゃったわ。
 ……でも、だとしたら……

「ねえ、せつな? ほかに、はやての件で何かイベントとかなかった?」

「そしてさらに待て。俺、お前たちの世界の記憶すら戻ってないってわかってるか?」

 ……むぅ……いつもどおりだったから、ついつい忘れてた。
 こいつはこの世界だけでなく、あたしたちの世界の記憶もなく、あの悲しい出来事すら忘れた、永森刹那なんだっけ。
 ……じゃあ、手詰まりかなぁ……

「とにかく、あんたは今日はやてのところ行きなさい。あまりなのは達のところには行かないほうがいいわ。無駄にフラグ強化されて、ミイラ取りがミイラって事になったら目も当てられないし」

「まあ、周りが常識人だから、はやてのほうが安心だな……息子犯罪者になっても笑ってられる母親とか、全てスルーするつもりの兄とか……ハラオウン家、本当に恐るべし……」

 あんた限定だろうけどねー?
 あと。

「それと、あんたのデバイスも探しておきなさい。たしか、夜天の書の色違いだったはずだから」

「わかった。……いろいろありがとな、アリサ」

 ……く、こいつ、笑顔だけはあたしたちのせつなと同じなんだから……いや、もう、男って事以外は、全部せつななのよね……
 ……もう。

「感謝するなら、それ相応のことして貰いたいわね?」

「……むぅ」

 ふふ。まあ、こんなこといっちゃったりして。
 まあ、頭撫でるくらいが、関の……え?
 ちょ、近いって……!?
 く、くちび……

「……あ、あんた……?」

「? ……えっと、違ったか?」

 う、奪われたぁぁぁぁぁぁ!?
 そ、そんなさらっと!?
 あたしの始めてがぁぁぁぁぁ!?

「……ふぇ……」

「いい!?」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん、えええええええええええええん!!」

「お、あ、ええ!? ちょ、アリサさん! そんな、わ、悪かった! 俺が悪かったから、泣き止んで~~~!?」

「ひどぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! あたしのは、始めて……だった、のにぃぃぃぃぃぃ!」

 こんな、あっさり……酷いぃぃ。
 うう、力入らないけど、両手で、叩く。
 ポカポカポカポカ。

「……あ~。ひょっとして、俺……なんか壊れてんのか? 今普通にキスしたけど……普通だめだよなぁ?」

 あたりまえよ! 乙女のキスを何だと思ってんのよ!
 あたしのファーストキス……せつなに奪われ……て、いいんだっけ?
 
「……? あれ? あたし……何で嬉しがってんのよ!?」

「て、自分にキレてる!?」

 何で嬉しいとか思うのよあたし!?
 さっき酷いって……あ、あっさりやったから?
 もっと、ムードとか、そういうの考えてくれたらオッケー?
 いやいや待てあたし!?
 本気で待って! ……く、これは、確かめないと!

「せつなぁぁ!!」

「うぁい! ごめんなさい!」

「ワンモア!」

「お前もか! 今酷いって……」

「ワ~ン~モ~ア~~~!!」

 あ、勢い余ってソファーに押し倒しちゃった。
 ……わ、私からしても、確かめられるわよね?

「むぅ!」

「え? むぅう!?」

 ……ふふ、唇、ちょっと硬い。
 あ、こんな感じか……うん、悪くない。
 ……でも、唇合わせるだけじゃ、味ってわかんないわよね?
 舌で唇舐めたら解るのかしら……

「!? んん~~!?」

 あ、ふふ、なんか慌てて、可愛い。
 ん~? よくわかんない……わ!?
 ええ!? し、舌入れてきた!? 口の中に……
 あ、あたしの、舌、絡んで……

「んん、ん、ちゅ……」

 なんか……頭、ポーーーと、して……
 幸せな……
 あ、離れちゃう……

「……せつなぁ……」

「……!? あ、その、だな……えっと、こ、これ以上は、その……俺の記憶が戻った後……な?」

 ……それも、そうね……
 それに……

「それに、ほら、ここ、XXX板じゃないから、これ以上は掲載禁止……」

「何の話よ!?」

「はぐぅ! ……な、ナイス突っ込み……」

 まったく! 少しはムードの維持しようとしてよね!
 このトーヘンボク!
 ……記憶戻ったら、一杯してもらうんだから!

 ……あれ? とすると、そのときには女の子同士になるんじゃ……
 ……まあ、いいか。せつなだし。




 <せつな>

 ……なんか俺変だよな……
 さっきといい、昼といい……そんなにキス好きだったか?
 えらいキス魔になってないか? 酔っ払ってる?
 ……アリサの家から離れて、今は、はやての家に向かう途中。
 てか、よっく考えろ、俺?
 まず、俺の名前は?

 ――――――永森刹那―――せつな・トワ・ハラオウン

 ……二つとも、俺の名前なんだよな。
 で、俺は……

 ――――――フリーター―――中学生

 ……年齢。

 ――――――二十歳―――十五歳

 ……うーん……じゃあ、魔王、死神、夜天。付き合うなら誰?

 ――――――魔王―――全員

 欲張りだな! 外の俺!
 じゃあ、嫁にするなら?

 ――――――死神―――全員

 ……ホント欲張りだな!
 なら、妻ならどうだ!?

 ――――――夜天―――全員

 節操なし? 最低だな。
 ……性別は?

 ――――――男―――女

 ……女って言ったな? せつな・トワ・ハラオウンは女なんだな?
 じゃあ、今の俺が、間違いなんだな?

 ――――――間違ってない―――ある意味間違ってない

 ……どうして?

 ――――――元々男―――前世の生まれ変わりの男性意識を内包してるから

 ……前世が、元男。生まれ変わったけど、記憶を持ったまま女の体に生まれたと……
 うーん……じゃあ、死因は?

 ―――――― ――― ―――まだ死んでない

 ち、読みとれん……なら、別方向から……
 家族構成は?

 ――――――姉・俺・妹―――義母・義兄・義姉(予定)・俺・義弟

 まあ、養子だからなぁ……
 じゃあ、俺の死んだときの家族構成は?

 ――――――死・俺・死―――まだ死んでない

「んだとぉ!?」

 ……俺の死んだときには、姉さんもあすかも死んでる!?
 ……なら、その……死因は!

 ―――――― ――――――――――――――――

 ちぃ! 思い出せ! 何が死因だ!
 何で姉さんたちは死んだ!?
 死因は? 姉さんたちの死因は!?

 ―――――― ――死・自―

 く……もう一度聞く……
 死因は!?

 ―――――― 絞殺死・自殺

 ……絞殺? 自殺!?
 なんで? 原因は何だ!?
 
 ―――――― ―――――――――――――検閲、削除

 検閲すんな! 削除するな!
 教えろ……

「教えろ……俺は……なんで覚えてない……答えろ!」

 姉さんたちは、何で死んだ!?
 誰かに殺されたのか……?
 
 ―――――― ―――――――――――――検閲、削除

 もう一度……

『駄目だよ。思い出したら駄目』

 ……あれ? なのは?
 ……むぅ。見つかったか?
 
『悲しいことは、忘れよ? 私たちと一緒に居よう?』

 げ、フェイトまで。
 しかしだな。俺はここで朽ちるわけにも……いや、なんで?
 別に、ここに居てもいいんだっけ……?

『ええよ。あたしらが許したる。せつなは、ここにおったらええ』

 むぐぅ。はやてまで……
 お前がそんなこと言うのは意外……?
 あれ?

「はやて? 俺、ここに居て、幸せなんだな?」

 なんか違う。
 変な違和感。
 漂う既視感。
 そうだ、この状況は……

『ここにおって、あたしらと幸せになろ? あたしらが、せつなと一緒におったるから……』

 は、はは……そうだよな?
 そういうことだよな?
 新世紀と闇の書の相の子ってわけだ。
 なるほどな。よくできてる。
 予備知識のない他の人間なら、確実に今ので墜ちる。
 けど、こんな展開。オタクの俺に通用しねぇ!
 使い古されてるんだよ! こんな展開!
 なら、キーワードはこれしかない!
 こんな、くだらねえ罠を打ち砕く、力ある言葉!
 これは、この世界は……








「だけども、それは、ただの夢だ!」






 開いたドア・見知らぬ男・泣いてる妹・刺された・殺した男・俺が殺す・背中刺される・さらに殺す・自害した妹・死んでる姉・冷たい外・飛ばされる衝撃・ブレる世界・冷たくなる俺……目覚める朝。


 !? ……ああ、もう!
 何度見ても嫌な夢だなちきしょう! 人間の醜さなんざ、アニメや小説だけで充分なんだよ!
 でも、その悲しみ、辛さ、理不尽は、直ぐ隣に転がって、いつぶつかるかなんて、わかりっこねえから、必死に、生きなきゃ、いけないんだって、いい加減、二次元からでもいいから、教わりやがれ!

 そのための、俺の力!




【Please call me. call my name】





「【パラディン】!! セットアップ!」【get set】



 ……うし、思い出したが。

「……ち、さっきの気配消えてやがる……」

【逃げましたね。マスターが墜ちなかったので、慌てて逃げ出したんでしょう……思い出してくれて、ありがとうございます、マスター】

 ……パラディン。俺のデバイス……なんだよな?

【マスター?】

「ああ、いや……前世までは……死んだところまでは思い出したんだけど、それ以降……生まれ変わってからのところが、思い出せない」

【……そうですか。……分かりました】

 パラディンはほとんど覚えているっぽいな?

【ええ。私自身は覚えているんですが、マスターが覚えていないのなら、同じことかと】

 だよな。
 ……まあ、まだ鍵が揃ってないからな。仕方ないか。

「パラディン。状況」

【はい、マスター。現在、兵装システムの一部を除いて、封印状態にあります。後、【アヴェンジャー】フォルムの変換ができません。使える兵装は【ブレイブハート】のみになります】

 魔法戦オンリーか。……まあ、ないよりかマシだし……
 特に、魔法戦なんかしないと思うが。

【そうですね。……しかし、気をつけてください。この世界がどう動くか分かりませんから】

「分かってる……まあ、さっきみたいに、精神に訴える攻撃しかしないと思うがね」

 まったく。
 丁度三人だしな。誰がシンジ君か。新生の依り代になる気はさらさらねえって。
 さらに、あれ、闇の書の闇だろどう見ても。
 妄想に溺れて溺死? 勘弁しろよ。
 クロノ兄が言ったように、女に溺れてできちゃった婚のほうが、まだマシ~て、そんなこと言ってないか。

 とにかく。

 他人の立てたフラグなんて、絶対回収してやらね。
 さらに、それが本人の意志でないならなおさらだ。
 ……俺が壊れてるんじゃなく、意識誘導の賜物だったってわけか。
 幸せなら、ここに居られる。
 ここに居れば、幸せ。
 それを与える行為が、キスだったってわけか。
 ……あぶねあぶね。だれかれ構わずキスするキス魔かと思ったぜ俺。
 
【マスター鬼畜です】

「どやかましい。……うし。まずははやてを元に戻そう」

 それが先決。
 ……女のせつなの記憶は、その後だな……



 [永森刹那、封印解除]






[6790] L25.新難題ロストロギア 二日目夕方~夜『はやて』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆b9835591 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/29 19:34

 <はやて>

 今日は幸せや~!
 せつなさんがお泊りや~!
 みんなから白い目で見られても、気にせえへん!

「せ、せつなさん。あ~ん?」

「……お前もか……」

 ほらほら、あーんせえへんと、食べさせたげんよ~?
 
「あーん?」

「……はぁ、大概甘いな、俺も……あーん」

「ふふふふ。な? 美味しいやろ? あたしが食べさせてあげるんやから、美味しさ倍増やで?」

 まるで新婚さん見たいやな~。照れてまうわ~。
 嬉しいなぁ~。幸せやな~。

「……シグナム、ヴィータ……食後に俺を殴りつけてくれ……俺は、甘い……」

「……容赦はしないぞ?」

「ああ、アイゼンの頑固な汚れにしてやる」

 ふふふふ~。家族仲も最高や~このまま、せつなさんはあたしの嫁や~!
 
「……せつなさん、強く、あってくださいです……」






 ……シグナムたちとの模擬戦の後に、せつなさんはお風呂や。
 なら、背中洗うんは、奥さんの務め!
 突撃や~
 ……? リイン? 何でそこにおるん?

「……せつなに頼まれて、はやてが入ってこないように、見張りです」

 ……ほほう? あたしに逆らうつもりなんか?

「そのようなことはありませんが……騎士として、友の頼みを聞かないわけには……」

 友と主と、どっちが大事や?

「少なくとも、そういう言い方をされるのは、はやてらしくありません」

 ……リインは、せつなさんとあたしが付きあうんは反対なん?
 それで、そんな意地悪するん?

「……そういうわけでは……」

 お願いやリイン。
 ここは、引いてくれへんか……?

「……せつな、すまん……」





「てなわけで! 背中洗いに来たでーーー!」

「期待してなかったけど、せめて出るまでは粘れよリインフォース! ああああああ、ザッフィーに頼めばよかったぁぁぁぁ!!」

 ふふふ~。リインはあたしの騎士やからな~?
 あたしのお願いはちゃんと聞いてくれるんやで?
 さあ、おとなしく体洗わ……れ……あれ?

「……あ、あう……」

 ……つ、ツヴァイ? 何でせつなさんと一緒にお風呂はいっとるん?

「ああ、俺が頼んだ」

 なんやてぇ!?

「せ、せつなさんが、その、治療魔法掛けて欲しいと……それで、ツヴァイ、その、ですぅ……」

「俺、治療魔法使うと疲れるからな~。ツヴァイと風呂入ると癒されるし」

 ……せ、せつなさんが、せつなさんがロリコンになってもたぁぁぁぁ!!

「なんか酷く不名誉なこと考えてやがるな! 人形サイズに欲情するか!」

「物凄く酷いですぅ!」

 ……あ、あたしや不満なんか? 
 ほ、ほら、あたし、そこそこ胸あんねんで?
 !? ま、まさか……

「せつなさんペッタン好きなんか!?」

「いや、俺は女の子の恥ずかしがる顔が好きだから大きさとかは別に」

「せつなさんの変態いいいいいいいい!」

「不名誉極まりないな! ……そこまで言うなら、変態極めたろうやないか!」

 はう!? 何で関西弁!
 あ、あれ? 何であたし座らされとるん?
 あ、バスタオル脱がされ……

「て、水着着用とか……おまえね」

「だ、だって、恥ずかしい……」

 ま、まだ、綺麗な体でいたいし……その、あんまり、人様に見せるような体やないし……
 
「その割には俺の体は見たいのか?」

「お、乙女の心は複雑やねん!」

「それ自分で言うことか? ……ち、なら、頭だけで勘弁してやろう」

 ええ? あ、せつなさん、頭……洗ってくれよる……
 あう、なんか、上手やなぁ……

「目は開けるなよ? 沁みると痛い」

「うん~~~」

「痒い所あるか?」

「ない~~~気持ちええよ~~~」

 頭皮とか、マッサージでもされとるようや……
 ほんまに気持ちええ~~

「せつなさん、なんか慣れとるん~~?」

「ああ、妹の髪とか、洗ってやったことあるからな……」

 ? 妹? せつなさんに、妹って……あ、もしかして……
 昼間に言っとった、前世の妹? あれ、ほんまの話やったん?
 弟にやるような洗い方やないし……

「ほれ、流すぞ~?」

「……うん……」

 ……昼間の話やと、前世で死ぬ前に、妹さんは死んでもたらしい。
 せやけど、せつなさんはそれを覚えてなくて……

「せつなさん……? 前世の記憶って……まだ、思い出してないんやろ……」

 ? 湯気の向こうに見える、せつなさんの顔は……酷く、悲しそうで……

「思い出したよ。……前世の記憶は、全部」

 ……そっか……思い出してもうたんか……
 
「はやて。ほれ、せめて、湯船だけでも入れ……体、冷えるぞ?」

「……一緒に、入ってええの?」

「おう。……水着姿に欲情するほど、飢えてないよ」

 ……エッチやなぁ……せやけど。
 辛そうに、笑うなぁ……





 ……お風呂から上がって、ずっと、せつなさんの顔見よる。
 いつも見とる、鋭さも、目元の優しさも見えず……
 ただ、とても悲しそうな目……どっかで見たんや。
 どこで見たんやろ……

「……? どうした? なんか俺についてるか?」

「……目」

「いや、ついてなくちゃおかしいだろ」

 ……苦笑い……けど、でも、全然、楽しそうやない。
 せつなさんは、あたしとおっても、幸せやないんかな……

「せつなさん……そろそろ寝よか……?」

「ああ……お前も添い寝したいとか言いださんだろな?」

 うぅ! ……た、確かに添い寝はしたい、したいけど……

「せ、せつなさんの迷惑になるんなら……我侭言わんわ……」

 せつなさんの迷惑に、なりとうないし……

「むぅ……それもそれで寂しいな。……じゃあ、一緒に寝てくれ」

 じゃ、じゃあってなんや!?

「おう、俺から頼めば、お前の迷惑になるだろ? 俺はお前の迷惑は考えないからな!」

「最低やね、自分……しゃあないなぁ。せつなさんと寝たるわ」

 ……これも、せつなさんの優しさなんやなぁ……
 居間から出て、客間へ。
 ……せつなさん用に引いた布団。が、一組……は、はう……
 お、落ち着け八神はやて! ただの添い寝や!
 致す訳やない。添い寝だけやぁ!

「ふ、不束者ですが……」

「いや、寝るだけだから……ほれ」

 さっさと布団に入るせつなさん。
 ……その隣に、体を埋める……せ、せつなさんの体温……
 暖かい……

「電気消すぞ~?」

「は、はい……」

 あたりが暗くなる……せつなさんと同じ布団で寝とる……
 あたしは、あたしは幸せや思う。
 せやけど……

「せつなさん、今、幸せか……?」

 それだけが、あたしの、願い。
 せつなには、幸せであって欲しい。
 この子は、あたしが、傷つけ……何の記憶や?

「はやてみたいに、可愛い女の子に引っ付かれて、幸せなんだけどな……俺の幸せは、ここにはないんだよな……」

 ……うん。
 あたしも、そう、思う。

「なあ? はやては幸せか? ただ、みんなと、仲良く笑いあう、この、箱庭に、いるのは、幸せか……?」

 ……箱庭か……
 そうなんやね? あたしは、あたしたちは、箱庭におるんやね?
 自分の、本当の世界にはおらんで、人の作った箱庭に、人に与えられた幸せを、享受しとる。
 それだけなんやね?

「……そうやな……それは、幸せなんやろうなぁ……」

 好きな人たちと、皆で、暮らす。
 ただ、何も、変わらない、与えられた、幸せ。
 けど、でも。


「せやけど、せやけど……」





「「せやけど、それは、ただの夢や」」








――――― 八神はやて、封印解除 ―――――





 ……うん、そうや。そうやね。
 あたしが忘れてたこと、やっと思い出した。

「あたし、せっちゃんと、現実で幸せにならなあかんのや。こんな箱庭に、潰されとるわけにはあかんのや。……そうやろ? せっちゃん?」

 そのせつなさんは、にっこり笑って、

「よくできました」

 頭を撫でてくれた。
 ……て、あれ?

「せっちゃん!? 男の人になっとるやん!?」

「今更かーい。……記憶、連続してないのか? さっきから男だぞ?」

 うわーーーー。
 すっごいローテンションやーー。

「せ、せっちゃん、ぜんぜんかわらんなー……そっちのほうがええんちゃう?」

「まあ、性別的にはこっちのほうがいいんだが……さすがに、この格好でスカートはくわけにもいくまい……」

 あ、外の戸籍は女の子やったね。
 むぅ。もったいない。
 男の体のせっちゃんや……

「ここはどうなっとるん? ……!?」

「ば、馬鹿やろ、お前……ぬ」

 ……な、なんやの? これ……
 こ、こんなん……あれれ?
 せやかて、だって、こんなん、あたし、入れられたら……
 こ、壊れてまう。

「せ、せっちゃん……あ、あたし、こ、こんなん、いれら、れ」

「まてまてまて。今日は添い寝だけ。……な? それに、ここは箱庭。……外に出たら、俺はまた女の体だよ……覚えてないけど」

 へぇ?
 覚えてないって……

「どういうことなん?」

「……風呂場で言ったろ? 前世の記憶しか戻ってないんだよ。元の……女の俺の記憶がないんだわ、まだ」

「あ、そうやったね……」

 言いよった言いよった。
 ……お風呂場で、一緒に、お風呂入ったんやね……
 男のせっちゃんと?
 はぅ……

「せ、せっちゃん……え、えとな? あ、あたし……せっちゃんの事好きやで? で、でも、もう少し、待ってな? その、結婚は早いと思うんや?」

「いい感じで暴走してるとこ悪いが……まだ、俺のほうのフラグが立ってないからな? 結婚もできんからな? 外の世界じゃ」

「……せ、せっちゃんの意地悪……」

 ええもん。今日だけは、せっちゃんのぬくもりに包まれて寝たる。
 はうぁぁぁぁぁ。
 せっちゃんむっちゃ温いぃぃぃぃ

「せっちゃん大好きぃぃぃ」

「はいはい……うーむ。ツヴァイはある意味、主と同じだな……」

 ふふん。あたしの娘やからな!
 似てて当然や!
 て、わけで、おやすみなさいや。

「はいはい、おやすみ、はやて……」

 



 [八神はやて、封印解除]


 [二日目終了]



 <???>

 ……そっか。はやては、自分で生き抜いていける強さを持ってたんだね。
 自分の闇を打ち抜く力を、既に持っている。
 それなら、こんな偽りに、騙されるほど馬鹿じゃない。
 なんだ。それなら、はやては楽勝だったわけだ。
 ……問題は、あと二つ。
 なのはとフェイト……
 フェイトは、まだ、いいとして、なのはだよね……
 せつなの過去からしても、確かに大切な友達だけど、なのはは……
 うん、大変だね……

 さて、いざとなったら、私の出番だけど……上手く、乗り切ってよ?
 せつな?




 少なくとも、手を出したら、アウトだからね?





*TS後悔してのギャルゲー編……言いえて妙かもしれない。作者です。
だが、あえてノゥ! この25話は伏線張りです。
それ以上は言うのははばかれます。
ついでなので三日目の序盤も投下。この後すぐ。作者ですた。



[6790] L25.新難題ロストロギア 三日目前編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆b9835591 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/29 19:44
 <せつな>

 ……さて。

「しっかし! 記憶なくても! 体は! 正直だな!」

「ふん! だが! まだまだ! 鈍い!」

 シグナムと朝の模擬戦です。
 剣筋早いです。動き鈍いです、俺。
 よくこんなのと訓練できてたな、俺!

「だからって! そうそうに!」

「鈍いと、言ったぁぁぁっぁあぁ!」

「甘いのは、どっちだぁぁ!」

 一閃!
 ……シグナムの木刀が右肩に。
 俺の左掌底が……彼女の胸に。むにゅむにゅ。

「……肉を切らせて骨を断つ……と、言ったところか?」

「ふん、見事……だが、女性にやることではないだろう! この不埒者!」

「えうろぱ!」

 いや、柔らかかったです、はい。
 動くたびに揺れるんだもん、触りたくもなるよね~?
 はやての気持ちもわかる。

「ふん! ……も、もう少し、ムードというものを考えろ、愚か者」

「あっはっは。そりゃすまん。……さて、じゃあ、俺行くわ」

 次はなのはとフェイトの記憶を戻さなくちゃならんしな。
 あの二人がかなり大変だぁ……
 あ、そうだ。

「はやてに、すずかの家に行くように言っておいてくれ。後で向かうってな?」

「わかった、伝えよう。……で、主に手は出してないんだな?」

「ざっけんな? 自分の欲望くらい、コントロールしてこその魔導師……後、騎士もか? 大体、手を出すには、まだはええよ」

 はやて一人で堕ちるくらいなら、もう、既に一日目で堕ちてます。
 あれを乗り切ったなら、はやて一人恐れるに足らん!
 ……息子に触った程度で、あれだけ怯えられたら、逆に萎えるし。

「ふん、ならいい。……もう少し、精進すれば、認めてやらんこともないぞ?」

「その頃にゃ、俺は元の体だよ」

 女同士になっちゃうからね~?
 ……やり方知ってるが、実践したことない……よな?
 いかん、あんま自信ない。
 さて、まずは家に帰るか……




 で、玄関開けたら。

「じーーーーーーーーーー」

「じーーーーーーーーーー」

「あら、お帰りせつな。朝帰りとはやるわね?」

 ワンコとぬこが睨みつけてはる。
 後、朝帰りでにっこり笑うな母。

「昨日、友達のところに泊まるって言わなかったか?」

「こんな早くに帰ってくるとは思わなかったし。まだ八時よ?」

 まあ、朝帰りではあるが。
 で、だ、な……

「「じーーーーーーーーー」」

 ……じと目は止めれ~~。
 俺が悪いんか? そうなのか?
 そうなんだろうなあ……

「「じーーーーーー「睨んでも謝らんぞ? 泊まるって言ったからな?」……意地悪」」

 ふん。それが俺くおりてぃ。
 女の子を虐めて喜ぶ変態です。

「ああ、二人とも? 外に出れる服用意しとけ? 昼からお茶会だから……メイド服のままだったら連れて行かんからな?」

「「!? よ、用意してくる!!」」

 おうおう、早い早い……て、

「二人して外って……フェイトは隣だからいいとして、なのは、家まであれで帰るつもりか?」

「あらあら……貴方の為に、周りは気にしないのね? せつなは愛されてるわね」

「愛されてるのは俺じゃねーー」

 俺の知らない俺だし。
 知らない間に立ったフラグなんぞ興味あるか。

「……せつな。貴方はこの世界……嫌い?」

「……俺一人で朽ちるんなら、ここに居てもいいんだけどな。あいつらもってなれば、話は別だ。……早々に、外に出てってやるからな?」

「あ、そう……あの子たちまで巻き込んだの、失敗だったかなぁ……?」

 ……やっぱりか。
 振り向くと、リンディさんの姿はなく、その姿によく似た、ツヴァイサイズのリンディさん。
 ……いや、

「何でリンディさんだよ?」

「さっきまでの名残。……始めまして、わが主。私は箱庭の管理人。……名前はないわ。たった五日の人格だし?」

 五日限定で現出できる人格って訳か。
 なるほど。

「たった二日で三人の記憶戻すとはね。一人目はバグが戻したとしても、ちょっとハイペースね。そんなにここはお気に召さない?」

「だから言ってるだろ? 俺だけじゃなく、あいつらまで潰されるんなら、是が非でもここから出なくちゃな? ……先に、お前の敗因を言っておいてやる」

 宣戦布告だ。
 もしくは、俺の勝利宣言。
 プチリンディさんに指差して、

「お前は俺を怒らせた……と、言いたいところだが、そうじゃなく、俺みたいなイレギュラーを主として起動してしまったことだ」

 元々、俺は『リリカルなのは』の世界の人間じゃない。
 だとしたら、ロストロギアなんてもの、俺の世界にはないし、リリカル世界で、俺がいないんだから、普通なら、別の奴が起動するところだったんだろう。
 だが、こいつは俺を主として起動した。
 俺の知識は、こいつにとって致命傷。
 伊達や酔狂でアニメオタクなんてやってない。
 大概の誘惑手段なんて、既に知識として掌握してる。
 なら後は、それに対抗する精神と根性。
 俺にはそれが、あっただけ。

 大体、俺の大切なものを、その手段で壊されてるんだ。
 俺がその手段に嫌悪を持ってるなんて、こいつにはわかるまい。
 ……まあ、できてキスまで。
 それ以上になると、俺の心の傷が痛む。

 ……ある意味、女の体でよかったのか、俺は。
 覚えてないけど。

「心の壊れた人間に、通常の誘惑が効くと思うなよ?」

「……あはははは。でも、貴方は最後までここに居るよ。そして、ここで幸せに暮らすんだ。……それまでは」

 光って、リンディさんの姿に戻るそれ。

「貴方の母親になっておいてあげる。嬉しい?」

「へ、嬉しくって反吐がでらぁ」

 さて、敵は身内にいるとわかったし。
 後は、姫様二人を籠から救い出すのが、俺のお仕事っと……
 やれやれ。本当に俺ってば、運が悪いねぇ?



 で、最初に戻ってきたのはやはりフェイト。
 だが。

「そのドレスで表出るつもりか?」

 真っ黒のゴシックドレス。フリルまで黒。確かに、綺麗なんだが……
 それじゃ、お茶会じゃなくて舞踏会だ。

「リテイク」

「……せつなの意地悪……」

 泣いても駄目。
 今日の俺は鬼畜で行くぜ。

「ところで、クロノ兄さんらは?」

「ん~? 居たらなんか貴方誘惑に耐えそうだし、ちょっとエリオ連れて旅行に行ってもらったわ。……わかってるでしょ? それぞれの家族は、その本人たちの、心の中に居る形だって」

「まあ、でないとおかしいもんな……異世界人の癖に、日本のネタに詳しすぎだ」

 クロノがあれ言った時は、本当にびっくりしたし。
 リリカル世界にきのこの作品あったら引くわ。
 ……なかったらクロスしてましたとかだったらさらに引くけど。

「だから、今日からここは、貴方のハーレムだから。好きなだけやっていいわよ?」

「絶対リンディさんの台詞じゃないからやめれ。……いや、本人言いそうなんだけどなぁ……」

 敵とも仲良く喋ってしまうのも、俺くおりてぃ?


 
 で、今度はなのは。
 ……おい。

「お前は結婚するつもりか?」

「うん。せつなさんと」

 純白のウェディングドレス。確かに綺麗だけどさ。

「リテイ……いやまて。お前、そのかっこでここまで来たのか?」

「? そうだけど?」

「……リンディさん……いや、母さん。服、用意したげて……」

「……流石にこれは、考えなかったわぁ……ええ、準備するわ」

 リンディさん唖然。俺様呆然。なのはは天然。
 改めて。

「リテイク。母さんの指示に従うこと。拒否はゆるさん」

「……綺麗とも言ってくれないなんて~~~~。せつなさんの意地悪」

 天然なのか、本気で。
 ……それとも、桃子さんの入れ知恵? ありえる。
 リンディさんに連れられて、なのは退場。
 その直後。

「せつな? これならどうかな?」

 ……いやぁ……引くわぁ……
 ボンテージとか……舞踏会が一気にSMクラブに早変わり。
 後言っておくとすれば。

「この露出狂、ドM、天然。リテイク」

「……くすん」

「泣いても駄目……ちょいまち」

 まさかと思うが。

「……プレシアさんプロデュース?」

「え? うん。これならイチコロだって」

 俺の倫理観と常識がイチコロです。

「リテイク。正し、母さんの指示に従うこと。母さ~ん、一名追加~」

 そのままリンディさんに引き渡し。
 ぬこの悲鳴と罵声が聞こえた気がしたが、気にしないことに。
 さて、すずかに連絡っと。

『……はい、すずかです』

「あ、すずか? 予定通り、なのは達連れて行くから。はやてはついた?」

『ええ。待ってますよ。……後はなのはちゃんたちだけだね?』

「まあな。……後、いつもの二、三倍天然入ってるから、アリサに注意しといて」

『……わかったよ。……後、その……アリサちゃんに、した?』

 ……やっぱキスのことかなぁ~?

「すまん」

『……そのことを、はやてちゃんに言っちゃって……その、はやてちゃんご立腹』

 夜天降臨!?
 ……まあ、なぁ?
 
『後、添い寝の件は、私たちもご立腹だからね?』

 女王、女帝降臨!?
 ふ、ふふ……おかしいなぁ……お前ら、記憶戻ったんじゃなかったかな~……
 戻ったからこそ?
 だったら、女のせつなとは、一度じっくり話し合いが……て、まさか。

「一つ聞く。女の俺は、男と同じような立ち振る舞いしてたのか?」

『……うん。その、女の子大好きだったから』

 ……何やってんの俺。
 地雷原敷くだけ敷いて、人に手渡すな?
 踏み抜きまくったやんけ!

「まあ、また昼に」

『わかった。お話しようね? なのはちゃん的に』

 ぶっつりきれる、電話の音……
 それは、俺に死ねというんだろうか?
 ……ふふふ。
 昼まではワンコとぬこで癒されてよう。
 絶対悪手だと思うが、これぐらいの報酬は、あってもいいはずだよね?
 リンディさんが着飾らせたなのは達を過剰に褒めちぎって、真っ赤にして愛でていたのは内緒の方向で。



 お昼を食べて、自宅を出発。
 右翼になのは。

「お茶会って、せつなさんの知り合いの? 他にも、誰か来るの?」

「ああ。主催者入れて三人ほど……てか、月村って知ってるか?」

「あ、ひょっとして、お兄ちゃんの恋人の? 確か、私と同い年の妹が居るって聞いたけど……まだ会ったことないんだ」

 そういう設定かよ。
 で、左翼にフェイト。

「どういう知り合い? ……恋人とか言わないよね?」

「いちいち涙ぐむな。少なくとも、今の俺とは付き合わねーよ」

「……まだ、記憶、戻らない?」

 戻ったのは、刹那の記憶。
 けっして、せつなの記憶じゃない。
 ……終わった、記憶。

「……せつなさん! 泣かないで? 泣いちゃ駄目だよ? ……悲しい顔、しないで……」

 え?

「あ、顔に出てたか? ……すまん。気にするな。思い出したのは……俺の記憶じゃないから」

「……そう、なんだ」

 フェイトは安心してくれたようだけど……
 なのはがなんか不安顔だな……
 むぅ。やっぱクルなぁ。この記憶だけは。

「大丈夫だから。そんな顔するな」

 頭を撫でると、元に戻るか……?

「にゃ、にゃ~~~~」

 よしよし。戻った戻った。

「……なのはずるい」

「お前もかよ……ほら」

 よくできましたーよくできましたーよくできましたーよくでk

「はぅぅぅぅ」

 あっはっは……はぁ。
 頭撫でるだけで顔真っ赤とか……幸せそうにするとか……
 単純だなぁ。
 最後まで行ったら死ぬんじゃないか?
 幸福死? 笑えねー。

「……ふふふ、ここに居たか……」

 ? あれ? 背後に緑川ボイス?
 あ、高町兄……て、げ!

「何で真剣装備!?」

 あれって小太刀?
 確か、この人、小太刀二刀流……御神の剣だっけ?
 そこの師範代だか師範だかだっけか?
 ……そして、極度の……

「勿論、なのはにつく虫を……斬るためだ!」

 シスコン!
 て、斬るっつった!
 おいおい。なのはとフェイトに怪我でもされたら、死んでも死に切れん!
 ならば、まず、

「二人とも、離れてろ」

「せつな……」

 いや、離れろって言ってるのに、何で腕抱きしめるかな? フェイトさん?

「お兄ちゃん! 私はせつなさんと結婚するの! 邪魔しちゃ駄目なの!」

 そして煽らないでなのは! 後離れる! くっつくな!

「……ああ、それは祝福してやる。ただし!」

 抜いたぁ!?

「俺を倒したらな!」

 き、きたぁ!
 こなくそ!

「【半球障壁】!」【circle protection】

 物理攻撃防御を強めに、バリアを張る。
 ……おし、耐えてるな?

「二人とも、ここから出るなよ? パラディン!」【get set】

 騎士甲冑を展開。兵装は使えないし、騎士杖では防御力が落ちる!
 なら、このまま!

「【高速疾駆】!」【blitz action】

 速度×質量=破壊力!
 全体重を乗っけた蹴りを高町兄にぶちかます!

「くぅぅぅぅ!」

 ……受け止めるってどんな化け物だよ!?
 やべ!

「はぁ!」

「だぁぁ!」

 ひぃぃ! 前髪かすった! 
 かすり点なんかはいんねえんだぞ!?
 シグナムより早いって何だそれ!?

「くらえ!」

「いやだね!」

 防御障壁で連撃をガード!
 て、魔法を物理攻撃で削るなぁぁぁ!
 駄目か!?
 なら!

「【障壁爆破】!!」【barrier burst】

 障壁を外側に爆破する。吹っ飛びながらも、体制を整える高町兄。
 けど、それはさせない!

「【拘束光輪】!」【hoop bind】

 魔力の輪が、高町兄を縛り上げ……消えた!?

「はぁ!」

「が!?」

 背中に衝撃? あの距離を一瞬で詰めたのか?
 ……くそ、化け物……
 ち、足にクルとか……どんな攻撃だよ、立てねえ!

「ふん。そこまでか。……なのは。帰るぞ」

 ……なのは、連れていかれる?

「嫌! お兄ちゃん嫌い!」

 て、おいおい。こっちくるなよ。
 フェイトまで……

「大丈夫……? 立てる?」

「ちょっと無理……まあ、生きてるだけマシ……」

 ……骨までは逝ってない。
 一時的な痺れか。

「……なのは、そいつは俺に負けた。なら、そいつに、お前を渡すわけにはいかない」

「せつなさんは承諾してない! お兄ちゃん、横暴だよ!」

 まあ、切りかかってきたのは向こうだしなぁ……
 あ、近づいて……あ。

「我侭を言うな。……帰るぞ」

 あいつ、今何した?

「……酷い」

 なのはに……手を上げた?
 ビンタ? なのはの顔に?

「いや! お兄ちゃん、離して、せつなさん!」

 その上……連れて行くだとぉ!?

「……おい、マテや暴漢」

「……それは、俺の事か?」

 実の兄が、妹に、手を上げただと?
 しかも、妹に、何の非がないのに?
 それが兄のすることか?

「お前以外に何がいるってんだ? ……妹に手を上げる兄なんて、存在しちゃいけねえ。だから、あんたは……暴漢以外の何者でもない!」

 リンカーコア接続、フルドライブ!
 麻痺領域を修復、肉体強化、筋力倍加。
 
「……【ブリッツ】!」【action!】

 接近! 

「なに!?」

 接触……運動エネルギー解放!

「【止水……一撃】!!」【one inch】

 踏み込み、腰のひねり、筋肉の収縮。
 全ての運動エネルギーと、わずかな魔力を拳に乗せて、打ち抜く。
 ただ、それだけの魔力打撃。
 だが、それだけの一撃が、成人男性一人を吹っ飛ばす!

「……せつな……さん……」

 ……まあ、一般人相手に、魔法使用は犯罪のはずだけど。

「人外相手に、容赦なんかしてられっか」

「……あはは……うん、まあ、お兄ちゃん、強いから……」

 強いなんてレベルじゃねー。
 !? あ、あたたた……
 強化切ったら、腰にキタ……がっくり膝が折れ、見事なorz
 
「せつな!?」

「せつなさん!?」

「ああ、だいじょぶじょぶ……少し休めば治る……筋肉がびっくりしてるだけだから……」

 この年でぎっくり腰は勘弁。
 そういや、高町兄は……うわ、伸びてるし。

「……綺麗な寸打だったね。発頚も少し入ったかな? ……やるね、せつな君」

 と、物陰から現れるのは、高町父。

「お父さん!?」

「……だ、第二ラウンドか?」

「せ、せつな駄目だよ! まだ立てないのに!」

 だけど、向こうは何も持ってない……丸腰だ。

「いやいや……止めるつもりで来たんだけど、あまりの白熱振りに、声をかけるタイミングを逃してね? ついつい観戦してしまったよ」

 おいおい。
 そんなすっげえ笑顔で笑ってんなムカつく。

「だけど、君は恭也を倒した。……あいつの言い分を借りれば、君は見事、なのはを嫁にする権利を得たわけだ」

 こっちの世界で貰ってもな~。
 元の世界でも女だし。

「……お父さん……じゃぁ!」

「ああ、僕も君たちを祝福するつもりだ……だけどね?」

 ……殺気!?

「娘を泣かしたらコロスよ?」

「……できれば泣かしたくないけどな……」

 こっちにはまだフラグすら立ってないんじゃ!
 ? よくよく考えたら、俺、本気で斬られ損?
 そんな!?

「せつなさぁん! これで、私達許嫁だね!」

「な!? なのは! 私にも権利はあるからね!?」

「はっはっは。せつな君はモテるんだね~?」

 ……もう泣いていい?





[6790] L25.新難題ロストロギア 三日目後編『なのは』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆b9835591 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/29 23:01
 <せつな>

 ふらつく体を引きずって、どうにかこうにか月村邸に到着。
 なのは達が肩を貸そうといってきたけど、全力で拒否。
 これ以上死亡フラグ増やしてたまるか。
 ただでさえ、恭也さん襲撃で遅刻じゃ。
 正門から玄関へ向かい、玄関開ければ。

「遅かったですね?」

 はい、女帝降臨。
 笑顔の裏に隠された、真っ黒いオーラがすっごくこあい。
 あ、なのは達引いた。

「……言い訳を聞いてくれるか?」

「どうぞ? よっぽどの事じゃないと、納得しませんよ?」

 ……大概、この理由なら納得してくれると思う。

「シスコンモードの恭也さんに襲われた」

「……納得しました。……えっと、体のほうは大丈夫ですか?」

 ……女神に戻ったよ。
 恭也さん。あんたいろんな意味ですげぇ。

「ちょっときつい。が、そうも言ってられん……なのは、フェイト。こっち、今回の主催者の月村すずか」

「……いらっしゃい。二人とも。月村すずかです」

「あ、えと、高町なのはです」

「……フェイト・テスタロッサ」

 ……まあ、警戒はするわな?
 特に、フェイトの警戒具合がひでえ。

「じゃあ、こちらに。……せつなさん。肩を貸しましょうか?」

「遠慮する……一人で歩ける」

「無理しないでください。さあ」

「いいから。……二人の申し出を断わっといて、すずかの肩借りるのは不公平だ」

 くっそう。
 この三人の好感度は、みんな俺が上げたわけじゃないんだぜ?
 なのに、それに甘えられるか。
 ただでさえ、意識誘導で妙なことばっかりしてたのに。
 まあ、まだ痛いのは事実だが。
 早くゆっくり座りたい。
 で、苦い顔のすずかに連れられて、一室にたどり着いた俺たち。
 その中には当然。

「やっと来たわね?」

「待っとったで?」

 女王、夜天降臨。
 すっごく殺気を纏ってます。
 すずかは平気そうにしてるが、なのは達はまた引いてる。
 いやぁ。勿論俺も怖いです。
 まあ、とりあえず言い訳。

「すまんな。シスコンモードの恭也さんに襲われてな?」

「……お疲れ様。ソファーで休んでていいわよ?」

「大変やったなぁ。……生きとる?」

 ふふふふふ。この言い訳すげぇ。
 てか、三人ともこれで通じるところがさらにすげぇ。
 恭也さん。いろんな意味であんたすげえよ……そこに痺れたり憧れたりしないがな!

「あああああああ! あの時せつなさんに飛び蹴りした!」

「! あの時の……」

 あ、それがあったんだっけ?
 俺はアリサの勧めでソファーに座って修復開始。
 あ、そうだ。

「はやて~? ツヴァイ来てる~?」

「ん? おるよ?」

「どうしたですか?」

 お、いたいた。

「治療魔法よろしく~~……背中な? 砕けてないけど、痛みが引かん」

「ちょ、自分大丈夫なんか?」

「痛いだけだ。……あ、なのは、フェイト。飛び蹴りの件は俺が許したから、突っ込み禁止。後、ちゃんと自己紹介はしろよ?」

 渋りながらだが、俺の顔を立ててくれて、自己紹介をするなのはとフェイト。
 それを受けて、アリサとはやても自己紹介をする。
 さて、メインヒロイン三人と、サブヒロイン二人が邂逅したわけだが……
 ……包む空気は、どちらかといえば険悪。
 ああ、もう、うざ。

「ほれ、すずか。お茶。お茶のないお茶会なんて、ただの睨み合いだぜ?」

「……そうですね。ファリン?」

「かしこまりました」

 それぞれの前に配られるお茶。
 俺がソファーから動けないので、その前のテーブルに配られる。
 それを囲うように、全員が着席する。

「さって? まあ、こうやって集まってもらったのは、だ。気が付いた人も気が付いてない人もまとめて、現状把握に付き合ってもらおうってことだ」

「……せつなさん。現状把握って?」

「いいか、なのは。この世界は、俺らの居るべき場所じゃないんだ。……この六人。ここに居る六人が、あるアイテムによって、この世界に取り込まれているってわけだ。……自分本来の記憶を消されてな?」

 ロストロギア『忘却の箱庭』。
 使用者と、その周囲の人間に作用する古代遺失物。
 使用者と、その周りに居た友人の記憶を消し去り、幸せな箱庭に押し込める、アーティファクト。
 期限は五日。
 その期限が過ぎれば……

「まあ、わかってることはここまで。で、今日は三日目。後二日と半分って訳よ」

 俺に引き継いで喋ってもらったアリサ。
 ……見事になのは達は信用してないようだ。

「せつなは、その言葉を信じるの?」

「ああ、本当に俺の記憶飛んでたしな。今も、まだ飛んでる」

「!? せつなさん、思い出したこともあるの!?」

「……ま、俺の過去……前世なんだけどな?」

 続いて、俺の前世を話す事に。
 突然奪われた大切な人と、人間を壊し、自分が死ぬ、そんな記憶。
 言葉にして、約三十分近く。
 話し終わって、直後。

「……夢だよ……ただの、夢だよ。そんなの」

 なのはが否定。
 絶対に信じませんな眼をしてはります。
 ……フェイトは……

「……せつな……それは、せつなにとって、本当の事……そうなんだね?」

 ……もちろん。

「ああ。俺の真実だ」

 夢と、否定できない。
 俺の、たった一つの、真実。
 おそらく、俺の、根源。

「……なら、信じるよ。せつなは意地悪で、嘘つきだけど……嘘なら、嘘って、ちゃんと言ってくれるから」

 ……こっちでも同じ言い方してるのか、俺。
 フェイトは、信じてくれた。
 ……ああ、うん。信じてくれると、思ってた。

「じゃあ、次や。二人の失っとる記憶について、あたしらの視点で……」

「そんな記憶、いらない!!」

 ……なのは、完全否定。

「ちょ、なのは! 落ち着いて聞いて!? あたしたち、ここから抜け出さないと……」

「しらない! そんな記憶いらない! どうして? どうしてそんな悲しいこと思い出さなきゃいけないの!?」

 ……あ、あるぇ~?
 この子、本当になのはさん?
 え? あれ? あれぇぇ?
 涙ボロボロこぼして、友人の言葉すら聞かず……
 あ、今のなのはからすれば、友人ですらないのか。
 それで、聞く話は、悲しいこと……
 ……いや、ちょっと待て。
 確か、すずかとアリサの話聞くと……

『闇の書が発動する前に封殺』

『ジュエルシードを使って、プレシアさんとアリシアを助け、フェイトを救った』

 ……あ、もしかして、なのは……子供の頃からの、精神的成長をしてない?
 ……そうだ。よくよく考えたら、一期ではプレシアさんとアリシア、二期ではリインフォースと、悲しい別れを体験しなくちゃいけないんだっけ。
 このなのはは、その悲しみを知らずに、そのまま成長してる?

 ……いや、俺の前世を聞いたことあって、その夢まで、見せてもらったと聞いてるけど……
 あ、夢だからか。現実感がないんだ。

 ……おいおいおいおいおい!
 トリップの一番の落とし穴に落ちてるじゃん!
 主役以外が無駄に活躍すると、主役が成長しなくなるんだぞ!?
 それのフォローしてないのか俺!?

 ……よく、それで、教導隊なんて入れたな……あ、管理局って、そこそこに甘いから、それでもいけるのか?
 ……まあ、今は……

「私はこの世界が好きなの! 私に構わないでぇ!」

 ……逃げたぬこを追わないとな……
 直ぐに動けん。ち、まだ回復には至らないか。

「なのは! まちなさい、なのは!」

「な、なんでや!? 何で信じてくれんのや!「はやて、ツヴァイ借りとくぞ」ええ!?」

 ツヴァイ!

「ユニゾン!」

「は、はいです!「ユニゾン・イン!!」」

 ツヴァイの意識分拡張する。
 魔力を背骨に流し、修復速度を速める。
 そのまま痛みだけ抑制……成功。

【マスター!? ユニゾンできるんですか!?】

「あ、言ってなかったか? まあいい。はやて、この場は任せた。……フェイト、すまん。あのぬこ捕まえてくる」

「……うん。家で、待ってるから」

 ……あ、泣きそう。……はあ。

「本気でキス魔になるな、俺……」

「あ……」

「「「ああああああああ!!」」あたしまだしてもらってへんのに!?」

 うるさいぞはやて! 

「じゃあ、行って来る。ツヴァイ、ブースト!」

『はいです!』

 足に魔力を流し、強化。逃げたなのはを追うため、外へ。
 ……て、確かこの森って、前ジュエルシードがあった森なんだよな~……
 いや、何故知ってる、俺。
 一期はほとんど見てないだろ!?
 ええい、ツヴァイとユニゾンしてるせいか、無駄に記憶が出てきてる……
 
「なのはーーーーー!」

 本気でどこ行った?
 くそ!

「パラディン! ワイドエリアサーチ!」

『サーチャー展開しますです!』

【て、私の仕事とらないでツヴァイ!?】

 ええい、人の中で仕事の取り合いするな!
 て、魔力二倍取ってくな~!
 ……く、リソース足りないってこのことかよ!?
 二機分の魔力を持ってかれる、処理が追いつかない、ああ、くそ、頭痛い!
 マルチタスクが習得情報を捌ききれん!
 なのははどこだ……見つけた!

「ツヴァイ! ブースト!」

【sonic】『moveです!』

 マテやゴラァ! ダブルスペルはまず……!
 おおう、これが人間のげんか、

「!? ……!」

 べちん!

 情けない音と情けない格好で樹木に激突した。
 ……森の中で制御不能のスピード出せば、おのずとこうなるよねぇ~……
 なのは追い抜いて、その先で木に突っ込んで、もれなくorz
 ふふふ、鼻いてぇ。

『せ、せつなさん? 大丈夫ですか?』

【ほ、ほら! 私の仕事とるからですよ!?】

『さ、さっきはツヴァイに言ったです! そっちこそ、人の仕事取らないでくださいです!』

【元はといえば貴方が……】

「人の体内で喧嘩すんな……」

 頭いてぇ。

「せ、せつなさん……大丈夫ですか?」

 あ、なのは追いついてきた。
 心配そうに声をかけてくれる。

「……なのは、俺、もう泣いていいよね?」

「泣かないでください……泣いちゃ、駄目です……」

 ですよね~? でも、本気で泣きたい……
 


 なのはと一緒に森を歩く……が。

「……迷った」

 ここがどこかわかりません。
 サーチャー展開しようにも、魔力足りません。
 ユニゾンはもう切りました。パラディンも、展開しません。
 どこだここー?

「……はぁ、ちょっと、休憩していいか?」

「あ、はい」

 木の根元に腰を下ろす。
 ……あたりが暗くなってきた。
 もうそんな時間か……恭也さん襲撃で時間食ったしな。

「少し、休んだら、空から、脱出するから……」

 魔力回復するまで、休むしかないかぁ……

「……せつなさん」

 ? なのは?

「もう、ここで一緒に居よう?」

「……それができりゃぁ、いんだけどな……」

 それは駄目。元の世界に帰らないと。

「二人で一緒に居よう? 私、せつなさんのためなら、なんでもするから。せつなさんが悲しくないように、何だってするから……」

 ……うう。こんなのなのはさんじゃない。
 ちくしょー、俺のバカー、フォローぐらいしていきやがれー。

「……却下だ馬鹿たれ。俺だけならともかく、お前まで巻き込めるか。主人公不在なんて認めねえぞ?」

 非常にもったいないが、こんなの俺の好きななのはさんじゃない。
 男に追いすがる、情けない女じゃない。
 高町なのはは、そんな、かっこ悪い女じゃない!

「……どうして? 悲しいことなんて、ないほうがいいよ? 皆で楽しく、暮らせれば、それでいいよ……それじゃ、駄目なの?」

「駄目。……少なくとも、俺は嫌だね。悲しみはそこらに転がってる。それに抗って生きていくのが、人生じゃないのか? どこぞの人形だって言ってたぞ? 生きるということは、戦うことだと……」

 二次元の世界の、人でない、人形だってそんなまともなこと言えるのに、生を受けている人間のこの俺が、そんな甘えたこと、言ってたまるか。
 だから……どんなに悲しくても。

「泣きながらだって、前に進まなくちゃ、生きてる証にはならないんだぞ? ……いい加減に、それくらいの事、分かれよ、俺も、お前も……」

 生きてるんだから。

「……せつなさんは……強いね……私は……せつなさんを幸せに、したいだけなのに……」

 そんなの、誰だって思ってる。
 誰だって、大切な人を、幸せにしたいと思ってる。
 たとえ、俺にとっての高町なのはが、英雄だろうと、目の前のなのはには、笑ってもらいたいから。

「だったら、笑ってろ。お前の悲しみは、俺が全部引き受けてやるから、俺の隣で、馬鹿みたいに、笑ってろよ」

 何の力もないけど、それこそ、壊すことしかできないけど。
 その剣で、俺の心の剣で、なのはの悲しみは、全部切り裂いてやる。
 口先だけかもしれないけど、せめて、盾にでもなれるから。

「……じゃあ、私は、守るよ。……せつなさんの、背中を守るよ……」

 触れる、細い指。
 俺の顔と、首筋、俺に覆いかぶさり、なのはの唇が、俺の唇と、重なる。

「せつなさんの、笑顔を守れるように、なるから、せつなさんみたいに、魔法、使えないけど、私の、全力全開でせつなさんを、悲しみから、守れるように、なるから!」





――――― 高町なのは、封印解除 ―――――





 だから、

「傍に居てもいいよね? せつなちゃん……」

「……いいけどさ。男にちゃん付けはないなぁ……」

 ちびっ子ならいいけどね。

「? せつなちゃんは女の子だよね?」

「今の俺は男だ……て! お前、記憶!?」

「!? あ、ああああああああああ!! そうだよ! 修学旅行にいく最中だったのに、何でこんなところに居るの!?」

「叫ぶな、うるせぇ! ……今のがお前の大切なことだったわけね……」

 泣いている誰かを守るじゃなく、泣いてる俺を守るのが、このなのはの原点だったのか。
 そりゃ、依存するわな。俺がいなくちゃ、意味のないことだし。
 てか、完全に本編のなのはとかけ離れてないか~?
 こんなんでストライカーズまともに……行かないか。
 なんか、俺が作った部隊とかあるらしいし。
 原作レイプもいいとこじゃないか、やりたい放題だな、外の俺。

「えっと、せつなちゃん……じゃ、駄目だね? せつなさん。魔力もう駄目?」

「駄目っつうか、かつかつ。青いのと白いのが馬鹿食いしやがったから」

「青いの!?」

【白いの!?】

「あ、ツヴァイとパラディン? 駄目だよ? せつなさんに無理させたら」

「お前のせいだ」「なのはちゃんのせいです」【なのはさんのせいですから】

「皆が意地悪だ!?」

 お前がふらふら森に入るからだろうが!
 何が意地悪か!

「そして~動けない俺に~あっつぃチュウ~? ……ふ、暴漢の妹は、痴女ですか。外に出たら覚えとけ。……足腰立たなくしてやる」

「え? あ。にゃ、にゃぁぁぁ……。せ、せつなさんが鬼畜だぁ……」

 すっごい顔赤らめてもじもじすんな可愛いから!
 ぐおおお、押し倒してぇぇぇ!

「と、とにかく! 家に戻らないとね? ……レイジングハート!」

『All right. set up』

 光とともに、なのはの服装が純白のバリアジャケットに換装される。
 ……アニメで見た服装とはちょっと違う。……いや、まだStsのジャケットになってないだけか。
 セイクリッドモード……だっけか?
 ……むう。

「実物凄い綺麗だな……うん、かっこいい」

「……え、えっと、照れるよ……」

 むぅ、そっぽ向いてしまった。
 その仕草も可愛いぞ!
 ちっくしょう、このなのはも外の俺のかよ、マジ羨ましい。
 
「じゃ、じゃあ、飛ぶね? ツヴァイ、捕まって?」

「はいです~」

「うお、なのは力持ち?」

「強化してるだけだよ! 飛ぶよ!」

 なのはに抱え上げられ空に飛ぶ。
 ……うわはーい、オレサマお姫様扱い。
 やはり漢か、高町なのは! 
 ほとんど俺の自爆です、ほんとうにありg
 ……空飛ぶなのはも綺麗だな~。

「……ぐぅ、俺、凄くかっこ悪い」

「? せつなさんは、無理しすぎなんだよ。……記憶なくても、せつなさんはせつなさんだね」

「そんなに無理してるのか、俺? ……よりにもよって、なのはに言われるとは……納得できん」

「酷いよ~? ……あ、そうだ」

 ん? なんだ?
 ……? 何故顔を赤くする!?

「え、えとね? パソコンのDドライブの中にあった、画像……」

 はうあ!! 俺のお宝見たの覚えてるのかあんた!?
 その記憶は忘れとけーーー!
 な、なのはとフェイト中心で集めたから、バッチリ見られたわけだから……
 は、はずい、これは恥ずかしい! 
 隠し撮り持ってるのばれたのと同じくらいに恥ずかしい! ばれたことないけど!

「……そ、外に出たら、その……してみよっか?」

「……外に出たら女の子じゃちくしょー……」

 酷く残念です。
 ものごっつ残念です。



 [高町なのは、封印解除]


 <フェイト>

 ……せつなの部屋。
 何度も来た筈なのに、取れない違和感。
 ……ここは、せつなの部屋じゃない。わかってる。もしくは、わかってた。
 覚えてる、いや、知ってる。

 ここは、せつなの部屋じゃない。

 幸せだった、刹那さんの部屋だ。
 ……でも、刹那さんは、悲しみに一杯のまま、死んでしまった。
 だからこそ、この部屋は、刹那さんの心のまま。
 せつながこの部屋を使うのは、当然の事。

 ……せつな。
 私は、せつなの、何を忘れているんだろう。
 
「……せつな……会いたいな……」

 現実を否定して、逃げたなのはを追っていった。
 せつなは、なのはの事が好きなのかな?

 ……ちがうね。なのはの事も好きなんだ。
 みんな、せつなが好きなように、せつなも皆が好きなんだ。
 そうじゃなかったら、みんな、せつなのために一生懸命になったりしない。
 でも、私は、せつなに何もしてあげられない。

 昔から、してもらってばっかりだ。
 母さんとの事もそう。本当なら、私が頑張るべきだったのに、せつなが無理して、母さんとの仲を良くして貰った。
 アリシアの病気も……違う。この記憶は違う。アリシアは私のオリジナル。
 死んだアリシアを、凄い裏技を使って助けたのはせつなだ。
 私の家族は、せつなに救われた。せつなが、私を救ってくれた。

 ……なのに私は、何もせつなにできない。
 ……知ってる、覚えてる。
 けど、忘れてる。
 私は、せつなの何を忘れているんだろう。

「あ、フェイトちゃん」

 ? 部屋になのはが入ってきた。
 せつなを抱えて……お、お姫様抱っこ?
 は、配役逆じゃないかな?

「……そ、そんな目で俺を見るな……」

 あ、そっぽ向いてる。恥ずかしいのかな?
 
「ベッドに寝かせるね? フェイトちゃん、手伝ってくれる?」

「あ、うん。……せつな、どうしたの?」

「魔力切れと……後、ちょっと疲れてるだけだから。直ぐに治るよ」

 ベッドに寝かされながら、せつなは私に微笑んでくれる……
 ……やっぱり、私は、せつなに何もしてあげられないのかな?

「……じゃあ、私、家に帰るね?」

「ええ!? ……な、なのは? だってあの……」

 いいんだろうか? 
 私が、せつなを見ててもいいのだろうか。

「……後は、フェイトちゃんだけだから。……せつなさん? フェイトちゃんに手を出したら駄目だよ?」

「わかってるよ……俺を何だと……」

 ……そっか、なのはも記憶戻ったんだ。
 後は、私だけなんだ。

「じゃあ、また、ね?」

 なのははそのまま、部屋を出て行ってしまった。
 ……せつなと、二人っきり。
 
「……せつな……なのは、記憶戻ったんだね?」

「おう。……まったく、世話かけさせやがって……俺の記憶もまだ戻ってないのに……」

 ふふ。自分の事は後回しなんだ。
 やっぱりせつなは優しい。
 ……でも、その優しさに、甘えちゃ、駄目なんだよね?

「せつな。私も、帰るよ……私だけ、まだ記憶、戻ってないから」

 せめて、自分で戻るように頑張らないと。

「……いや、ここに居てほしいんだが」

 ……え?

「……まだ、俺、動けないから……手伝ってもらえると、嬉しい」

 ……あ、そうだね。
 いろいろ……あるよね……え、えっと。

「お、おトイレとか、あ、あるよね?」

「……い、ま、まあ、それもか……今はいいからな? その、傍にいてくれると、助かる」

 ……いて、いいのかな?
 私は、せつなの傍に、いてもいいのかな?

「……じゃあ、いるよ、ここに……傍に、いるから」

「ああ……て、もしもし?」

 よいしょっと。

「……えっと、フェイトさん? 何故布団に入ってくる?」

 あれ?
 何か、変だったかな?

「駄目だった……かな?」

「……まあいいか。……寝るか」

「うん」

 せつなの体温……暖かい。
 
「いや、抱きつくとか……誘惑継続中とか……畜生」

 なにをぶつぶつ言ってるんだろう?
 ……えっと、

「その、せつながどうしてもって言うなら……その、いいよ?」

「言わないから、そのままでいいから。……ううう、拷問かこれ……」

 むう。せつなの意地悪。
 ……でも、傍にいても、いいよね?




 [三日目終了]



 <???>

 ……おお~。頑張ったね。なのはを先に戻すとか。
 あそこでなのはほっといたら、まあ、多分出ることは無理だっただろうから、正しい選択はできたね。
 まあ、ちょっと無理したけど、その分、フェイトで癒されて……無理か。
 これは、最後まで私の出番ないかな~。
 


 ……? あれ? せつな、うなされてる?



*前編の恭也さんはロストロギア使用者の心の中にある人物像を映し出したもので、現実の恭也さんはもっと常識人です。作者です。
……と、箱庭の管理人も言ってます。前回。
正直、更新しすぎ? でも我慢が出来ません。
こ、今度こそ自制を……作者でした。



[6790] L25.新難題ロストロギア 四日目朝の風景
Name: 4CZG4OGLX+BS◆b9835591 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/30 17:49

 これは。
 これはゆめだ。
 
「せつなさぁん……もっとぉ」

 足に裸体を絡みつける。甘い声でねだる。

「せつな……きもちいい……?」

 腰に絡みつく。舌を這わせる。

「せっちゃぁん……あたしも見てぇなぁ……」

 背中を抱く。柔らかい物が押しつぶされる。

「せつなぁ……してぇ……?」

 右腕から唇に。何度も口付ける。

「せつなさん……おいしぃ……」

 左腕を挟み込む。指を舐め取る。

 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、その全てが、甘く犯される。
 五人の少女に、何度も、何度も。
 裸体が、声が、唇が、汗が、肌が、この体を侵していく。
 とても、とても、甘い、夢。
 
 瞳に写るは、快楽に溺れた、怪しい光。
 その目を見つめながら……
 甘い、夢を……

「……そのまま、溺れちゃえ……貴方も……」

「……いや、どうでもいいけどさ。夢の中まで来るなよお前」

 ええ!? 主!?
 うっそ、どうして!?
 
「え? あれ? なんで!? だって、あなたあそこに!」

「まあ、あれも確かに俺だろうけどさ。……欲望と理性って、別々なんだぞ? 知らなかったのか?」

 いやいやいや、そんな冷静に言われても……
 私が見せている淫夢に、犯されている主と、私の目の前で呆れた瞳を飛ばしている主。
 普通、そんな簡単に意識を分離させるなんて……

「まあ、信じられないのも当然だろうけどな~? これが夢だってわかった時点で、理性の切り離しは楽だったぞ? 残念でした」

 ……確かに、理性を潰さないと、誘惑は通用しない。
 今犯されているのは、人間に巣食う欲望の意識。
 欲望だからこそ、いくら誘惑しても同じことだ。
 その潰すべき理性が、独立で行動できている……私の淫夢を抜け出している!
 これは予想外。……くぅ。こんなに精神構造複雑かつ、単純な人間だったとは!

「……はいはい。私の負けね? せっかく、久々の挑戦者だと思ったのに」

「まだ終わってないだろ? 後一人残ってるし、俺もまだ記憶が戻ってない」

「同じことよ。……私の最終手あっさりかわされたんだから、目が覚めた後も、誘惑が通用しない。……さっさと試練終わらせて、外に出ちゃえ。馬鹿」

 つまんないの。最近の騎士は張り合いがなかったし、昔の騎士は張り合いあっても、最後の最後で潰れてくれた。
 こんな早い時期に、早々にクリアしちゃうなんて、つまらない。

「と、言うか、試練だったのか、これ」

「ベルカの精神修養極悪版。甘い誘惑に打ち勝ち、五日間までに外に出られたら、私が報酬に得られる。打ち勝てなかったら、この本の運用魔力になってもらう。……まあ、打ち勝てる人なんて、よっぽどの聖者くらいしかいなかったのに、こんな少年に……」

 クリアできても、せいぜいが欲を捨てた世捨て人とか、欲望を生めなくなった老人とか。
 せっかくの新しい力、使えずに死んじゃいそうな人だったし。向こうも拒否するとかだったし。
 そんな試練を、高々十四年生きた人間に~~~。

「……まあ、前世の分入れて三十四年だしな~? 人間の欲望で大切なもの壊されたしな~? おまけに、出演者全員、俺の中では二次元のキャラだしな~? ……まあ、俺を取り込んだのは、間違いだったってことさね」

 ……むぅ。すっごく悔しい。
 ここの管理始めて一五〇〇年以上たつけど、こんな屈辱は初めてだ。
 ……ええい、ムカつく。
 ならば、悪戯してやる。
 外に出たとき、びっくりさせてやる!
 
「はいはい。じゃあ、お帰りはそちら。……それに、早く起きないと、やばいんじゃないかしら? お・と・こ・の・こ?」

「ああ? 何のこ……!? こ、この破廉恥母さん! そういうこと言うんじゃねえ!」

「あっはっは。せいぜい必死に言い訳しなさい? このけだもの」

「ちくしょー!!」

 あわてて夢の外に出る主。
 ふふ。さて、私も夢から覚めて、息子をからかいに行ってやろう。
 ……きっと、それだけでも楽しめるはずだから。



 <せつな>

 はぁうぁ! 飛び起きて、隣をかくに……

「せ、せつな……その、おっきぃ……こ、こんなのはいんない……」

 手遅れ……でした……
 てか、触ってんじゃない!!

「こ、これは、その、男の、生理現象で!? て、弄らないでくれますくぁフェイトさん!?」

「あ、ああう……ご、ごめん」

 収まるのも収まりません。
 落ち着けー落ち着けー。えっと、レジアス中将のスカート姿、ゲンヤのおっさんの裸エプロン、ドクターの褌姿、兄さんのメイドスタイルって何で似合うんだあんた! ヴェロッサのセーラー服、グリフィス君のスクール水着、ヴァイス兄貴のミニスカポリス……
 よし、収納完了!

「お、おはよう、フェイト」

「……おはよう……せつな……」

 あう。まだ顔赤い。
 ……くそー。誘惑継続中~。
 正直、あんな直球な夢より、こういった仕草のほうがよっぽど堕ち易いんだぞちきしょー。
 リアルフェイトさん、マジかわええ。
 ……押し倒してえ。

「じゃ、じゃあ、着替えたら、呼んでくれ。そ、外でてるから!」

 だが! あくまで俺のフェイトさんじゃないので、欲望カット!
 逃げるように部屋の外へ。
 ……あ、危なかった……
 さすが俺の嫁。可愛らしさが半端ねえ。
 萌え萌えです。

「……あら。なにしてるの?」

 ……あんたこそ何してやがる。
 その手のビデオカメラは何だコラ?

「息子の性交……あ、いや、成長記録を……」

「また古臭いネタを……OVA版なんて最近の人はわからんぞ……」

 ちなみに、ネタ元は第二巻。タイトルはよくダンボールで見かけます。
 ちみっ子マッドが好きだった。いやいや。何の話だ?

「駄目じゃない。そこはこっそり覗かないと」

「ふん、女の子の裸が見たいわけじゃなく、覗かれたことを認識してもらい、羞恥に戸惑う表情を浮かべた女の子を愛でるのがが好きなんだ……て、どこの幽霊神父か! ええい、さっさと朝飯作りに行ってくれ、母さん」

「ふふ、この変態。……じゃなく、できたから呼びに来ただけじゃない」

 何だこのネタの応酬は。
 後、ちゃんとリンディさんを演じて欲しい。
 俺的には、リンディさんもストライクゾーンなんだから!

「俺もフェイトも起きてるから、さっさと戻る!」

「はいはい……もう、硬いところはクロノと一緒ね?」

「兄さんよりかはマシ……て、今、漢字違わなかったか?」

 倫理観のかたいは堅いです。……あってるよね?
 鼻歌歌いながら台所に戻る母の背を見ながら、どっと疲れを感じる朝でした。


 朝の嘱託……もとい食卓。
 テーブルを囲むは母、フェイト、俺。
 ……むう、どことなく気まずい。
 トーストに塗るジャムに手を伸ばす。なお、うちの朝食は洋食風だ。

「あ……」

 ……む、フェイトと手が触れる。……どうも、同じことを考え、行動したようだ。
 ジャムのビンの前で、手がぶつかってしまった。
 そこの母、ニヨニヨすんな。
 先に、ビンを掴む。ふたを開け、フェイトのほうに手を出して。

「……塗るから、渡せ」

「……あ、ありがと……」

 く、どこのラブコメか! コメディ分が足りんぞ!
 渡されたフェイトのトーストに、ジャムを塗り塗り……
 できた。……今日の俺はどこかおかしいのか?
 悪戯心に火が付き捲りである。

「ほれ、あーん」

「へ? ふぇ!?」

「あーん」

 こないだの仕返しとばかりに口を開けさせる。
 ……母を見ると……あ、笑顔のまま固まった。

「あ、あーん……」

 小さい口にトーストを入れる。
 ハムハムと食べるその姿に癒される……顔真っ赤だけど。
 
「ら、ラブラブねぇ……」

 声震えてんぞ、あんた。
 動揺丸わかり。さっきの仕返しじゃ。

「……ふふん。羨ましいだろう」

「……そうね。……ところで、ここに、新しい邪夢があるのだけど」

 そのビンを開け、俺のトーストに塗りたくる母。
 ……マーマレードか? なんかさっきの語感も違ったが……
 早速食べてみることに。

「……!?」

 おう、世界が歪む……味覚に嫌な刺激。
 これはまさか……うちの母が友人から貰ったとか言っていた、甘くないジャム!?
 てか、そんな記憶は覚えてるな俺!
 後、その友人の名前は思い出すな!
 ホームステイさせるならクロノ兄さんにしろ、by京アニ版!
 て、何の話だ?

「せ、せつな? 大丈夫?」

 はうぁ! インテークの少女が蛙の縫ぐるみを食む白昼夢を見たんだよもん。
 こんなところでデッドエンドになるかと思った……

「あ、ああ。大丈夫だ……ちょっと北国が思い浮かんだだけだ……」

「きたぐに?」

 ほたるは関係ない。えなりも関係ない。
 大物演歌歌手も関係ないったらない。

「ご、ご馳走様……フェイト、いこうか?」

「あ、うん。ご馳走様でした」

「はい、行ってらっしゃい」

 フェイトを伴って外へ。
 出る準備はできている。この伏魔殿から一刻も早く出なければ!
 玄関から出ると、外は快晴。
 ……いい天気だ。

「……さて、ちょっと歩くか?」

「……うん」

 特に決まったことはない。
 ただの散歩だ。
 ……昨日のダメージは残っていない。
 健康そのもの。
 ないのは記憶だけ。

「……フェイトはこの世界に居たいか?」

 記憶をなくしていたなのはは、この世界に居たいと言った。
 フェイトはどうなんだろう?

「……私は、せつなの隣に居ればいいから……」

 ……いじらしいことを言ってくれる。
 しかし、外の俺は女の子だろう?
 ……あ、いや、それすらも覚えてないのか。
 むう。複雑……

「せつなは、私が隣にいたら……迷惑かな?」

「それはない」

 即座に否定。
 
「記憶がなくても、お前に傍にいてもらえるなら、それでいい。……まあ、思い出してもらえれば、一番いいけど」

「……ありがと……せつなは優しいね……」

 腕を組んでくる……むぅ、プニプニが……
 いやいや、落ち着け俺。
 ……さて、どこ行くか……
 


 <なのは>

「こちらミッド1。ターゲットは商店街のほうに移動中。追尾続行する……なの」

『アーム1了解……て、『アームトルーパー』だからアームって……ちょっと安直過ぎない? ベルカ1?』

『ええやん。使えるようになったんやから……なのはちゃんが魔法使えるようになったら、この世界でもミッド式が使えるようになったんは、ちょっとびっくりやったけど』

『まあまあ……それより、なのはちゃん。せつなさんたちの様子は?』

 ……ま、まるで恋人同士……もしくは、新婚夫婦……
 羨ましいなの。

「と、とっても熱々カップルで……お話してきていい?」

『気持ちはわかるけど、まだ駄目よ……フェイトの記憶が戻ったら存分にヤるわよ』

 同感なの。
 ……でも、せつなさん、フェイトちゃんの傍でも、あまり楽しそうじゃない……
 悲しそうな顔してる……

「出会った時の……始めて、お話した時のせつなちゃんの顔と同じだ……」

 あの時のせつなちゃんも、意地悪して、ふざけて……でも、どこか、悲しそうな瞳で……
 心の底から、笑えていない。
 最近は、そんな顔しなくなったのに。

「……せつなちゃん……いつものせつなちゃんに、会いたいよ……」

 不敵に、大胆に、楽しげに……笑う、せつなちゃんに会いたいな……
 




[6790] L25.新難題ロストロギア 四日目昼の風景『フェイト』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆b9835591 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/05 18:40
 <フェイト>

 このままじゃ駄目だって、わかってる。
 私も、記憶を戻して、この世界から抜け出さないとって、わかっているんだけど……

「ほら、フェイト! 右! 左! 正面!」

「ふ、は、と、えい!」

 暢気にモグラ叩きしてます。
 うう、結構難しい。
 なのはと訓練してるときのほうが、まだ楽……あう、また逃がした。

「……56点……いや、まあ、初めてだっけ?」

「あ、あんまりやらない……から……」

 ゲームセンターに付き合うことはあったけど、なのはとアリサの独壇場だったから。
 ダンスゲームや音楽ゲームはすずかと―――の領域だったし……? 誰だっけ、今の顔……

「……おーし、俺がお手本を……? どした?」

 ……せつなの腕を引っ張って、ダンスゲームの前に。

「……えっと、これ、やろ?」

「む、ダンレボ……最近やってないが、まあいいだろ。んじゃ、ステージ乗れよ、二人プレイな?」

 コインを入れ、曲を選択。
 私はせつなの右に。

「まあ、最初は簡単に……よっと!」

 曲が始まる。
 ……せつな、一度もミスしない。
 私のパート……三度ミス。せつなの番に。

「……! ……ふ、ほ!」

 ……うん、真剣な表情。そして……楽しそう。

「? フェイト? お前のパート来てるぞ?」

「え? わわ!」

 あわわ。うう、ぜんぜん踏めなかった……
 私のミスの分、せつながカバー。なんとか一曲終わった。

「……よし、フェイト、降りて見てろ? 面白いことしてやる」

『フェイト、見てて? 面白いことしてあげる』

 !? 今、あの子と被った。
 あの子は……誰?

「さって……できるかなっと!」

 あ、凄い。
 一人で二人プレイ。右へ左へ……手まで使って。
 凄い、ミスがぜんぜんない。
 ……綺麗。

「よ、はぁ! って、ち、の、この! せ、は! よいしょ! と、フィニッシュ!」

 ……パーフェクト……じゃ、ないんだ。
 それでも、ミスが十二個。
 ……でも、凄くきれいだった。

「どうだった?」『どうだった?』

 !? まただ。また被った。
 ……せつなと同じ表情の、女の子の顔……
 誰なんだろう……

「……うん、綺麗だった」

「……凄いとか通り越して綺麗かよ……いや、嬉しいけど」

 あ、せつな照れてる。
 ……可愛い。

「あ、ほれ。ガンシューやろうぜ、ガンシュー」

 拳銃で的を撃つゲーム。なのはが得意なんだけど……
 いいや、今は、せつなと一緒だから。

「……うん!」

 目一杯遊ぼう。



 <アリサ>

「ああ! そこは先に回復アイテムとらないと! あ、フェイト、ちゃんとリロードしなさ、こら、せつな! 引っ付きすぎよ!」

『アリサちゃ~ん? ちゃんと見張ってて~?』

 ちゃんと見てるわよ! しかし、見てれば見てるほど……ただのデートじゃない!
 くぅ……あたしとは、こんなイベントなかったのにぃ~。
 く、悔しくなんかないんだからね!

『アリサちゃん、ツンデレモードやね』

「ツンデレ言うな!」

 まったく……そういえば。

「なのは? 本当にその、あんたとフェイトがアニメになってた動画見たのね?」

『え? う、うん。その、フェイトちゃんと決闘してる動画と……その……』

『え、エッチな画像だね……? せ、せつなさん、そ、その、お、男の人だし……』

 ま、まあ、それは、仕方ないわよ。

 ともかく、あたしたちが、せつなの……刹那の世界では、アニメーションのキャラクターだって事実は本当だったってこと。
 ……せつな、それを元に、私たちの前を歩いて、私たちの問題を解決して行っていたんだ。
 その、恩恵を最も多く受けたのが、フェイトと、はやて。

 詳しく聞くと、フェイトは第一期……その中で、なのはと出会い、戦い合い、最後には、母親とアリシアを失ってしまう。
 はやては第二期、シグナムさんたちがなのはやフェイトを襲い、戦い、闇の書を完成させてしまい、その暴走する闇の書を、なのはやフェイト、アースラのクロノや、暴走から抜け出したはやてと守護騎士で、全力攻撃で破壊。……最後に、リインフォースさんが闇の書と共に消えてしまう。

 両方とも、悲しい別れが待っている話。
 それでも、最後には、みんな笑って、暮らしているお話。

 ……せつなは、その悲しい別れを、自分の知識と裏技で回避してしまった。
 プレシアさんとアリシアを救い、フェイトの家族を助け、闇の書を修復し、はやての家族を助け……
 本当なら、あたしたち……あたしとすずかは、その話の日常の象徴として、描かれるだけのサブキャラだったそうだ。
 けど、あたしたちが管理局に入ったのも、せつなが居たから。

 せつなは……あたしたちの世界からしたら、イレギュラー。居なかった存在。
 でも、せつなはあたしの記憶に、ちゃんと居る。
 ……もしかしたら、なのはが見れなかった『ストライカーズ』は、第三期……つまり、まだ起こっていない未来の話?
 だから、見れなかった?
 ……そして、これまでのせつなの行動は、全部その未来への布石?
 ……せつなは、一期と二期、あまり見ていなかったそうだ。
 そして、せつなのパソコンのDドライブにあった『ストライカーズ』は全部で二十六話。
 未来はすべて見ているって事?
 ……この世界から抜け出したら、しっかり話し合わないといけないわね。
 ……そ、その、エッチなファイルの事も! あたしの画像もあったそうじゃない!
 
「あ、アーム1。ターゲットが外に出るわ。……そろそろお昼の時間ね?」

 手をつないでゲームセンターから出る二人を、追いかける……
 て、フェイトくっつきすぎ! 離れなさいよ、ばかぁ!


 <せつな>

 さっきから、なんか見られてるなぁ~。なんか殺気も混じってるけど。
 まあ、

「? どうしたの? せつな?」

「いや? フェイトは美人だなと」

「は、恥ずかしいよ……せつなの意地悪」

 こんな美人と一緒に歩いてたら、そら見られるわな。
 春物セーターとミニスカート。さっきのダンレボこれでやってたんだよな。
 く、ゲームに夢中で鑑賞し忘れ……いや、待て、俺。
 煩悩退散。渇!
 さて、そろそろ昼だな。

「どこで飯食うかな……」

「……えっと、いつもどおりに、ここじゃ……駄目?」

 指差す先には……翠屋。
 いつもここなのか、俺。
 しかも、昨日の件があるからより辛いが……他の店も知らないし、まあ、いいか。
 
「いらっしゃいませ~……て、せつな君。フェイトちゃんも一緒か~」

 ……えっと、たしか、月村姉か?
 ここのウェイトレスなんかやってたのか。

「じゃあ、二名様ご案内~。好きな席座って~?」

 知り合いにぞんざいなのはテンプレなのか?
 窓に面したテーブルに向かい合って座る。
 ……さて、今日のランチは……

「……水だ」

 ……出たな、凶暴兄貴。

「……なのはとは一緒じゃないのか?」

「今日は違うな。……今度は客に斬りかかる気か?」

 昨日の件があるのでちょっと警戒&険悪モード。
 ……フェイトが心配そうな顔してるので、直ぐに止めるが。

「ふん。昨日は悪かった。……今日の食事代は奢りにしておいてやる」

 ラッキー。
 納得のいかない謝り方だが、奢りは大好きだ。
 思わず高いものを注文してしまいそうになるが……

「じゃあ、カルボナーラ、ランチセット、デザートにシュークリーム、食後のコーヒー付きで」

「えっと、同じものをお願いします」

「……了解した……次は負けん」

 最後、何ボソッと言ってやがる。また襲い掛かられんのか俺?
 ……次が来る前に、ここ抜け出してやる。

「……せつな。喧嘩は駄目だよ?」

「向こうが襲い掛かってくるんだよ……俺のせいじゃないやい」

 魔力強化しても互角以上に競り合えるって本当に化け物だな。
 実に恐ろしきはシスコンなり……

「でも、魔法まで使って……クロノに見つかったら、また始末書書かされるよ?」

「かと言って使わなかったら俺が切られ……え?」

 始末書って、あーた?

「……それ、ひょっとして……外の俺?」

「……多分、そうだと思う」

 あれま。
 いつの間に記憶戻ってたのさ?

「でも、まだ、その……せつなの……せつなが女の子って事を、思い出せないんだ……」

 あ、なるほど。
 外の俺とここの俺がごっちゃになってるのか?
 ……案外簡単に思い出せそうだな。

「お待たせしました~カルボナーラセットだよ~?」

 食事を持ってきたのは美由希さん。
 てか、入れ代わり立ち代わりなんなんだあんたら。
 よく見たら、ウェイトレスとウェイターと店長とパティシエみんなちらちらこっち見てるし……
 おいおい。仕事しろ。

「それで? せつな君はうちのなのはとフェイトちゃん、どっちが本命なの?」

 それが聞きたかったんかい!
 ……両方外の俺のじゃ、ちきしょー!
 でも下手なこと言ってフェイト泣かせたくないし、シスコンに斬られてもかなわんから。

「俺に構ってないで、自分の恋人探したらどうですか~? 高町家のコッペパン候補」

「売れ残ったりしないもん~! せつな君の意地悪~!」

 撃退成功。
 俺をからかおうとは、一万年と二千年はええ。
 八千年後に出直しなってな?

「? コッペパン、美味しいよね?」

「……えっと、フェイトは心が綺麗だねぇ……どうか、そのまま成長してくれると、お兄さん大喜びだよ?」

 皮肉が通じないどころか、そういう直球な台詞……
 本当に、外の俺は幸せ者だな……




 <はやて>

 ……さて。

「二人は翠屋で楽しくランチ~。あたしらは外で虚しくハンバーガー~。……この扱いの差は何やろ?」

「作者の好感度の差でしょ? フェイト萌らしいし」

「えっと、そういうネタは危険だと思うな……」

「うううううう、羨ましいの……せつなさんとデートー……」

 なのはちゃん、本当に記憶もどっとるん?
 あんま変わってないような……

「なのははいいじゃない、添い寝も、きききききキスもしてもらったんだから。あ、あたしキスだけだし」

「私もキスだけ……いいな~? なのはちゃん」

「ちなみにあたしは添い寝だけや……三人ともええな~?」

「しゅ、集中攻撃は止めてよ……」

 みんなそこそこにせっちゃんに依存しとるからな。
 今だけせっちゃん男の人やから、まるで彼氏に飢えとる女学生そのまんまの会話やね。
 それより。

「ほんまにせっちゃん、フェイトちゃんの記憶戻す気あるんかいな?」

「フェイトの大切なことよね? えっと……管理局に入った動機は……」

「せつなちゃんと一緒に居たいから……隣を、歩きたいからだって言ってたと思うよ?」

 ……じゃあ、今の状況そのままやん。
 ほんなら、今、記憶もどっとる?

「……えっと、先月、皆と仕事した後なんだけど……」

 なのはちゃん?

「あんたが誘拐されかかったってやつ?」

「それの前に、せつなちゃんとお話したの。フェイトちゃんと一緒に」

 ああ、そうなんか。
 道理でなのはちゃん、ATデバイス見てもなんも反応せんかったと思えば。
 
「そのときに、フェイトちゃん言ってた。自分は、せつなちゃんにいろいろしてもらってばかりだから、何かお返ししたいって。私もだけど」

 ……そうやんな。私も、せっちゃんにお世話になりっぱなしや。
 何も返せてない。
 ……むしろ、迷惑かけそうになったし……ツヴァイの件でかけてもたし。

「……あたしは、早い時期にせつなの計画に乗れたから、ATの件でフォローに回れたけどなぁ……」

「私も、せつなちゃんのお陰で、計画に乗れたから……でも、そんなにお返しできてないかなぁ……」

 皆、せっちゃんのお世話になっとる。
 けど、せっちゃん自身は、それを笑って気にしとらへん。
 それが当然だとでも言わんばかりや。

「……もしかして、フェイトちゃんの大切なことは、そこらへんにあるんかも知れへんな……」

 期限まで、あと一日と半分。
 もう、時間も迫ってきとる。
 ……頼むで、せっちゃん。あんまり、あたしらを待たさんといて……?



 <フェイト>

 食事を終えて店の外へ。
 相変わらず、シュークリームを食べてるときは、幸せそうな顔をする。
 そのことを指摘したら。

「いや、お前には負ける」

 と、返されてしまった。
 ……し、しっかり見られてたんだね。恥ずかしい……
 この後は商店街へ。
 海鳴の町を、のんびりと歩く。
 ……おかしいね?
 いつも歩いている道なのに、いつも、隣に、せつなが居たのに……
 今日は、いつもと違うみたい。

「……あ、ほら、あの服。お前に似合いそうだな?」

 指差した先には……あ、あう。

「う、ウェディングドレス……せ、せつな?」

「ふむ、貸衣装屋だったか。……写真撮影ありとか、どこの文化祭かと……」

 そ、そういう出し物もあるよね……
 ? あ、あれ? なんかせつなの顔……
 あの顔は知ってる。
 悪戯を思いついたときの顔だ。

「えっと、せつな? つ、次見にい「よし、入るぞ~?」え、えええ!?」

 私の腕を掴んで、強引に店に入る。
 ま、まさか、あのウェディングドレス着せられるの!?
 そ、それは嬉しいけど、その。

「いらっしゃいませ」

「えっと、表のウェディングドレス、この子に着せてあげてもらえます? 後、写真撮影と」

 ほ、本気だ~~~!!
 女の店員さんに、まったく躊躇しないで言い切った。

「……じゃあ、彼氏さんはタキシードですね? ご用意いたします」

 た、タキシード!? え、それって、もしかして……

「……ほむ。元の体に戻ったら、着られないし……いや男装はオーケーか? まあいいや。フェイト、ふぁいとー」

 店員さんに腕を掴まれ、連れて行かれる。
 うう、店員さんまで強引だぁ。
 待つこと数分。持ってきてくれたドレスはフリーサイズらしく、ちょっとした調整で誰でも着られるらしい。
 普通はオーダーメイドだもんね? もしくは貸衣装だって母さんが言ってた。
 ……母さんも着たのかな?
 
「でも、お客さんスタイルいいですから、着せ甲斐がありますよ」

 えっと、そ、そうなのかな?
 せつな、そこのところ、あまり褒めてくれないし……

「ああいう人は、照れているだけです。大丈夫、自信を持ってください」

 照れているだけ……か。
 ……着替え終わって、鏡を見せてもらう。
 ……黒い服ばかり着てたから、白なんて似合わないと思ったけど……
 その、本当にこれが私なんだろうか?

「とても、お綺麗ですよ? さあ、花婿様のところに行きましょうか?」

 は、花婿? そ、それって、もしかして……
 店の奥の撮影スペースに、彼はいた。

「……思ったとおり、よく似合ってる」

 真っ白なタキシード。せつなのバリアジャケットと同じ色……
 髪も整えたせつなが、私に微笑みかけてくれた。
 ……たとえ、ままごとのような遊びでも、本当に、迎えに来てくれたみたいで……

「せつな……私……」

「綺麗だよ。フェイト……」

 どうしよう……凄く、嬉しい……

「じゃあ、こっち向いてくださーい……」

 あふれた涙を、せつなが優しくふき取ってくれる。
 ……これが、本当に、結婚式だったらいいのに……

「ほら、フェイト。写真とって貰おう」

「はい、せつな……」

 このまま、時が止まれば、いいのに。



 <すずか>

 ……あ、出て来た……?

「フェイトちゃん……泣いてる?」

 えっと、貸衣装屋で泣くようなことあるんですか?
 ……嬉し泣き?

「い、一体、あいつどんな格好させたのよ! ま、まさか……泣きそうになるほどエロチックなやつ!?」

「あかーん!! それはあかんで! フェイトちゃん素でエロエロなんやから、そんな格好したら……ホテルまでお持ち帰り確定や!」

「そ、その前に入り口で止められそうな……でもなんか、フェイトちゃん嬉しそう……」

 なのはちゃんの言うとおり、とても嬉しそうに笑ってる。
 あ、せつなさんも、凄くやさしい顔してる……
 ……悲しい目じゃ、なくなってる……

「む、むう……あ、あいつ、あんな顔もできるんじゃない……ちょ、ちょっとかっこいいかも」

「はぁううううう、あたしの前ではあんな顔……あ、布団の中で見たわ」

「はやてちゃん? ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっと頭冷やそっか? 私使った事ない術式あるから、練習台になる?」

「ごめんなさい」

 外で土下座は止めてーーー!
 みんな変な目で見てるから!

「あ、移動するわよ? 尾行尾行!」

 そ、そうだね。追いかけないと……
 尾行して一時間後……あ、あれ?
 ちょっと人込みに混ざった瞬間に、二人を見失った。

「……く、手分けして探すわよ! 私右! なのはは左! はやては前! すずか! あんたはこの周辺を探して! 見つけたら全員に報告!」

「「「了解!」」」

「ゴー!!」

 ……え、えっと。アリサちゃん、こういう時張り切るなぁ……
 魔法の力が強かったら、アリサちゃんも武装隊合いそうだね?
 ……まあ、でも。

「……行ったか。まだまだ甘いな、あいつら」

「え、えっと、せつな? その……」

「……やっぱり、直ぐ近くにいましたね?」

 もう少し、周りを見るべきかな?
 直ぐ近くで、魔力反応が出てたから、幻術を使ったんだね?

「うぉぁ! すずかさん!? ……お、俺の幻術がばれただとお!?」

「……せつなさん。デート、楽しんでるみたいだね?」

 私の言葉にあわてるせつなさん……デートしてる自覚はあるんですね?

「す、すずか……その……」

「……フェイトちゃん、今、幸せ?」

 この世界の幸せは、偽りの物だと言うのに。
 それでも、彼女は幸せを享受したいというのか?

「……わからない。嬉しいこと、多すぎて、でも、これが、夢だって、わかってるのに……」

 ……せっかくの笑顔を、私が壊してしまう。
 その事実に、傷つく、けど。
 私は、こんな偽りの世界で、笑うのは、嫌だから。

「でも、ここは……この世界は」

「はい、そこまで」

 ? せつなさん?

「まあ、もう少し待とうや。……今日が終わるまで、まだ数時間残ってる。魔法が解けるまで、まだ時間はあるぜ?」

「……私たちは、随分待たされてるんですよ?」

「わかってる。……けど、ま、奴さん、もう諦めムードだしな」

 奴さん?
 
「と、言うわけなんで、見逃してくれると、嬉しい」

 ぽんぽんと頭を撫でて、顔を上げたら……逃げられました。
 遠ざかっていく二人の背中……あ、追いかけないと……あ。

「ば、バインド!?」

 ……や、やられた……
 もう、酷い人です。ベルカ式だから、はやてちゃんを呼んだ方が早いですね……

「もう……ちゃんと、フェイトちゃんをお願いしますね?」

 フェイトちゃんも、大切なお友達なんですから。




 <せつな>

 四人を撒いて、公園へ。
 ……都市部の、中央公園。店仕舞いし始めているたい焼き屋から、つぶ餡とこし餡を二個ずつ。
 お茶缶を購入して、噴水前のベンチに移動、二人して、腰を下ろす。

「ほい。二匹ずつな?」

 缶とたい焼きを渡す。

「ありがとう……あ、おいしい」

 どらどら……? げ!?

「あ、あのおっさん、またカスタード入れやがった……」

 これで通算六回目だぞ……? 何でこんなくだらない記憶はあるんかね?

「? カスタードって美味しいの?」

「凄く、甘い。……あ」

 ひ、人の手のものをパクって……か、間接き……ええい、どこの純情少女か俺は!

「……私、結構好きかも。交換しよ?」

「あ、ああ……い、言わないと気づかないな、こいつ……」

「?」

 おいしそうにハムハム食ってる。おのれ。
 俺だけが恥ずかしいとか……
 ……まあ、いいけど。

「今日は、楽しかった?」

 時間は既に夕刻。夕日で、真っ赤に染まった空が、酷く、感傷的。
 
「……うん。楽しかった。……ごめんね? 結局、何も思い出せなくて」

 せつな。俺じゃなくて、五年間付き合ってきた、友人のせつなだけが、彼女の中から消失してる。
 そのぽっかり開いた穴に、無理矢理俺を入れてるようだ。
 ……ちゃんと、塞がる筈がないのに。

「違うって、わかってる。せつなと、思い出せないそのせつなは、違うってわかってる……」

 俺も、わかってる。
 この世界は、ただの夢だ。
 夢が覚めれば、きっと、俺も、元の女の子に戻るはずだ。
 ……自覚ないけど。

「でも……私は、せつなも失いたくないよ……貴方も、失いたくない……」

 ……一時の夢。
 その場に、借り出された、男の姿の俺。
 ……そうだな。俺も、できれば、この姿を、失いたくない。
 俺が女の子だって、信じたくない。
 でも。

「フェイト。写真、持ってるよな?」

「……うん。持ってる……」

 偽りの、ままごとの、結婚写真。
 この世界に、生きた、証。

「じゃあ、大丈夫。俺は、そこにもいる。……それに、元に戻るだけさ。俺が消えるわけじゃない。……だろ?」

「……うん、そうだね……せつなは、ここにも、いるんだね……?」

 偽りの新郎、本物の新婦。
 しかし、その写真の二人は、幸せそうに笑って。

「ああ……俺は、幸せだよ。お前みたいな、綺麗な嫁をもらえた。……なに、傍にいてもらえるだけで、外の俺も、頑張れるからさ」

 外の、女の子の俺と。

「一緒に歩こう。長い人生を」

「うん、傍にいるよ。貴方とも、せつなとも」

 ずっと、一緒に。




――――― フェイト・テスタロッサ、封印解放 ―――――




 さって。時間かな?

「……せつなは、ずっと、私たちと一緒だよね?」

「……ああ、外で、また」

 意識が、落ちる。薄れていく、自分の存在。

「せつな!」

 ああ、大丈夫。迎えが来ただけだから。
 そんな泣きそうな顔するな、フェイト。
 ……最後の、試練が、来ただけ。
 終わらせて、修学旅行に行くんだ。
 ……昔も、似たようなこと思ったっけ?

 あの時は確か、温泉だったな。

 周りの気配が、全て消えていく。
 フェイトも声も、もう届かない。
 白い、闇が、広がる。














「はぁい? 最終試練へようこそ。我が主候補様?」





[6790] L25.新難題ロストロギア 四日目夜の風景『最終試練・せつな』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/30 20:35

 <せつな>









「はぁい? 最終試練へようこそ。我が主候補様?」














 聞き覚えのある声。
 ……目を開けると。

「まだリンディさんのかっこしてやがるし……」

「あはは~。気に入っちゃったこの姿。気持ち十台後半をイメージしてるんだ~♪」

 本人聞いたら潰されるぞお前。
 さって、どっかで見たことあるような、真っ白い空間。
 あの時は。

 はやてが迎えに来てくれたんだっけ。

 その世界に、俺とプチリンディさん。
 さらに。

【やれやれ。どこかで聞き覚えがある声だと思ったら。クラウンですか、貴女】

「そういう貴女は泣き虫シルビア。まさかあんたが迷い込んでくるとはね?」

 て、知り合いかよ。
 本気で何でもありだなお前!

【私が生きていた頃の相棒ですよ。破廉恥クラウン。騎士の癖に、若い従騎士を誑かし、食い漁った放蕩娘】

「あはは~? そんなこともあったわね~? ……最後に食ったのが、聖王の息子で、罰としてこんな箱庭の管理人にされたときは痛かったわ~」

 おいおい。
 そんなやつ相棒にするなよ。

【誘惑癖がなかったら、気の合う友人だったんですよ。……男好きの癖に、ヴィータを誑かして殴られてましたし】

「そういうあんたはシグナムの胸揉んで斬られかかってたわよね? この女好き」

【私は女の子の胸が好きなだけです! あなたと一緒にしないでください!】

「いや、それもどうかと。……てか、はやてとキャラ被ってるから、それ」

 古代ベルカの騎士はエロばっかりか。……保身の為、守護騎士は除いとくが!

「まあいいわ。さって、最終試練よん?」

 指を鳴らせば、現われる気配。
 ……あんれま。

「あ! せつな!」

「せつなさん!」

「せっちゃん!」

「せつな……」

「せつなさん」

 五人とも、聖祥中の制服姿でプチリンディさん……もとい、クラウンの後ろに。
 そして、

「はいはーい。皆注目。……これから、私の質問に答えてもらうわ」

 クラウンさん、どこからその指示棒を取り出したんですか。
 そして何故にスーツ姿! 女教師か!?
 
「じゃあ、まず……アリサさん?」

[な、何よこのリンディさんもどき!]

 うぁ、なんじゃこりゃ?
 アリサの念話? いや、違う……まさか、こいつ、アリサの思念を俺に流してんのか?

「貴女にとっての、せつな・トワ・ハラオウンは、どんな存在?」

[ど、どんなって……えっと。そりゃぁ]

「泣き虫の癖に、人の前に立って、わざわざ盾になる、私たちの大切な、友人[大馬鹿者]よ!」

 お、大馬鹿者って……それは褒め言葉なのか貶してるのかどっちなんだアリサさん?
 あ、思念のほうはまだ続いてる?

[それに、私の大好きな……嫁なんだから! 絶対に、一緒に外に帰るんだから!]

 おう……ナイスツンデレ……
 て、クラウンさん? 何で引いてるのん?
 ……あ、こいつもさっきの聞いてるのか。

「……じゃ、じゃあ、すずかさん?」

[……女教師……刹那さんの趣味の一つかな?]

 いーーーーやーーーー!?
 そんな考察は止めてーーーー!?
 確かに、リンディさん個人授業っぽい同人誌は買ったけどさ!?
 
「同じ質問よ? せつな・トワ・ハラオウンは、どんな存在?」

「私のせつなちゃんは……とても、優しくて[悲しそうで]、面白い人で[辛そうで]……そして強い[弱い]、私の、大切なお友達[お嫁さん]です![後、もう少し、私にも構ってほしいなー……そ、その、虐めて欲しいというか、弄ってほしいというか……あ、いえその、今考えることじゃないね]」

 まったくだよすずかさん!
 思考駄々漏れってーかー欲望丸出しってーかー……
 後、あんたも俺が嫁か。
 
[後、せつなちゃんの血液も、凄く美味しいし……駄目駄目。我慢我慢……我慢しただけ、あの味が凄く美味しくなるんだから……]

 のぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?
 酷くこあいこと考えてらっしゃるぅぅぅぅぅぅ!!
 そ、外の俺頑張れ! 
 ……あ、クラウンどん引き。

「つ、次は、はやてさん?」

「同じ質問やね?[……ツヴァイサイズで、あの胸もええな~。マシュマロみたいな触感やろか? 弄ってみたいな~?」

 途中から声に漏れとるぞはやて。
 
「……そ、そうよ? 答えてくれる? ……シルビアと同じ発想とは……最近のベルカの騎士おかしいのかしら?」

 いや、あんたが言うな。

「……そやね。せっちゃんは、あたしの嫁や」

 直球!?
 胸張って言うんかそれ!?

「あたしと一緒に、現実で幸せになる。勿論、皆と一緒にな? その為にも、あたしには、せっちゃんが必要や。やから、あたしの嫁や[あたしが傷つけたんやから、あたしが貰わんとな。……他の子には負けへんで~?]」

 き、傷つけられたんか、俺……
 既に傷物? そして、ほとんど欲望隠そうとしてないし……嫁って……
 外の俺、本当に愛されてるなぁ……
 
[ふふふふふふ。外に出たら、シグナム、シャマル、ヴィータにリイン、ツヴァイもつこうて、快楽漬けにしてあたしのペットにしたる。そうすれば、ずっと一緒や~♪]

 なんか黒いぞこのはやて!?
 てか、嫁じゃないのかよ!?
 調教される!?
 逃げてーーーー外の俺逃げてーーーーーー!!
 
「……な、なんなのこの子たち……え、ええい、次! フェイトさん?」

「……はい」

 き、君だけは、君だけは清純な答えを!
 これ以上黒い思考は見たくない……
 ただでさえ、後魔王が残ってるのに!?

「せつな・トワ・ハラオウンは、貴女にとってどんな存在?」

[……せつなは、私の、お婿さん。そして、せつなは……]

「せつなは、私のお嫁さんです。……一生、一緒にいる、大切な、パートナーです」

 ……やっぱり嫁は譲れないのか……ま、まあ、お婿さんは少し癒された……

[……後、せつなは私のご主人様……]

 はぅ!? なんか、変な電波が!?
 ……? き、気のせい……?

「……そ、そう。ひ、比較的普通の答えで助かったわ……M発言はびっくりだけど」

 気のせいじゃなかった!
 余計なこと言わんでええわクラウン!
 清純な俺のフェイトを返せーーーーーー!!

「じゃ、じゃあ、最後。なのはさん?」

「……お嫁さん」

 ……?
 はい?

「え、えっと?」

「同じ質問ですよね? せつなちゃんは、私の……私たちの嫁なの!」

 言い切った!?

「女の子とか、聖王の血筋とか、イレギュラーだとか、そんなことはどうでもいいの! せつなちゃんは、私たちの嫁なの! それ以外の、何者でもないの!」

 ……漢だ。女の中の漢だよ、あんた……
 だから魔王とか言われるんだ!
 そこに痺れる憧れるぅ!!
 ……記憶失ってるときのほうが可愛らしくてよかったなぁ……

[あ、後、その、私の、王子様なの]

 ……ボソッと萌える言葉を吐かないでください。
 すげぇ癒された。ああ、クラウンまで癒されてる。
 
「……貴女たちの想い、確かに聞き取ったわ……一部、酷く邪まなものもあったけど……よっぽどせつなさんが大切なのね」

 にっこり笑うクラウン。
 そして、小悪魔の笑みを浮かべ。

「じゃあ、貴女たちに質問。貴女たちに巨万の富を与えるから、せつなさんは諦めて?」

「「「「「嫌」」」」」

 即答……はええ。

「じゃ、じゃあ、名誉はどお? 英雄とか、聖女とか?」

「「「「「嫌」」」」」

 シークエンス0.1秒。脊髄反射で答えたね?

「なら、地位ならどうかしら? 女王とか、皇帝とか~」

「「「「「嫌!」」」」」

 もう一個何か言いたげだったのに、封殺しやがった。
 だんだん焦るクラウン。
 迫るなのは達。

「そ、それな「「「「「嫌!!」」」」」最後まで言わせなさいよ!」

 あっはっは。
 いや、凄いわ。
 どうやったらこんな完璧なフラグ立てられるんだ外の俺。
 後、気迫で負けてるぞクラウン。

「そんな地位とか名誉とかよりもねぇ! せつなのほうが百万倍得難いのよ!」

 アリサ……

「どんなものよりも、換えられるものじゃないんです。せつなちゃんは」

 すずか……

「ごちゃごちゃ言わんでええねん! さっさとせっちゃん返しい!」

 はやて……

「せつなさえいれば、後は何も要らない。私は、せつなと共に生きるんだ!」

 フェイト……

「せつなちゃんを返して! でないと、頭冷やしてもらうんだから!」

 なのは……それはただの脅迫だぞー……
 クラウンたじたじ。
 あはは~おもしれ~。

「……こ、ここまで愛されてるのね、貴方……」

「惜しむらくは、それが俺じゃないってことだな」

 まったく。
 よく頑張ったな、外の俺。
 
「……いいわよ、返してあげるわよ……ただし!」

 む? さらに奥の手があるのか?

「貴女たちの誰か一人、ここに残ってもらうわ。それが条件」

 ……うーわー。
 そうきますか。
 でも、無駄だと思うなー。

「「「「「それも嫌!」」」」」

「こればっかりは仕方ないわよ? そういうシステムなんだもの」

「あークラウン? そういうの、なんって言うか知ってるか?」

 その言葉は命取り。

「アギト! ユニゾン!」「あいよぉ!」

「『ビルトシュバイン』イグニッション!」『ignition』

「ツヴァイ!」「はいです!」

「バルディッシュ!」『yes sir』

「レイジングハート!」『set up』

 それは、『火に油』だ。

「それなら」「力づくで」「返してもらうで」「……せつなを」「取り戻すの!」

「「「「「全力全開で!!」」」」」

 ……これは、クラウンの負けかな?
 もしくは、

「や、やめなさい! そんなことしたら、貴女たちまで出られなくなるわよ! ……貴方も笑ってないで、なんとか説得しなさい!」

「……まあ、それもそうだな……じゃあ、そのシステムの生贄は、俺がなろうか」

 俺の一人負け。

「せっちゃん!? そんなんあかんで!?」

「まあまあ……それに、忘れるなよ? 俺はお前らの知るせつなの前身であって、せつな自身じゃない」

 あくまで、この世界だけのかりそめの姿。
 男性というペルソナ。
 偽りの、せつな・トワ・ハラオウン。
 なら、本物はどこにいる?
 ……そんなの、決まってる。
 一度だけしか姿を見せていない、たった一つのファクター。







「そうだろ? 【せつな】」


「そうだよ。 【刹那】」






 小さい少女。小学生サイズの、せつな・トワ・ハラオウン。
 ……本物の、せつなその人。

「せつなちゃん……?」

 どこからともなく現われたその子が、本物のせつな。

「……記憶と意識の交換を。生贄には、俺がなろう」

「意識と肉体の交換を。……生贄には、貴方がなって」

 少女と青年が重なり合い、中学生サイズのせつなと、少年の刹那に。
 ……これでいい。

「……それじゃ、貴女たちは外に行きなさい。この少年は、生贄ね?」

 入ったのは六人。出るのも六人。
 ただ、一人が二人分抱えてただけ。
 ……何、何のことはない。
 ようやく、成仏できるだけだ。

「ま、待ってください! 刹那さん! 貴方がいないと、せつなちゃんは!」

「二人で一人なんでしょ!? あんたも来ないと、せつな、また人形になっちゃうじゃない!」

 あ、そんなことも言ったっけ。
 でも。

「昔はそうでも、今はもう違う。……成長しない人間はいない。成長できたなら、勿論、意識も成長する……もう、俺がいなくても、大丈夫だよ……そうだろ?」

「……そうね。貴方と別れるのは辛いけど。でも、これは、仕方ないこと」

 そう、『仕方ないこと』
 ……なに、リリカルシリーズの悲しみのお題目だ。
 それを、俺がやるだけ。

「嘘だよ! そんなの嘘だ! 一緒にいるって、そう言ったよね、せつなぁ!」

「嫌や! せっちゃん! あんたら二人でせつななんやで!? 一緒に来てくれんと嫌やぁ!」

「せつなさん! 一緒に帰ろう! それでまた、皆で遊ぶんだよぉ!」

 あははは。それは無理だ。
 なに、さっきも言ったとおり、俺はそこにいる。
 皆の記憶の中にいる。
 それは、せつなの中にも。

「クラウン。最後の儀式を。皆を外へ」

「わかったわ……じゃあね? 縁が会ったら、また会いましょう」

 消える。
 なのはが、フェイトが、すずかが、アリサが、はやてが。
 そして……。

「じゃあ、な。せつな」

「じゃあ、ね。刹那」

 せつなが、消える。
 ……後は、俺と、クラウンだけ。

「……試練終了。お疲れ様ね?」

「まったく、後味の悪い終わり方……結局泣かせちまったじゃないか」

 笑って欲しかったんだが……まあ、仕方ないか。
 後は、せつながなんとかしてくれるだろう。
 俺の知識も持っていってもらったし。
 パラディンも預けた。
 
「やれやれ。ようやく、御役御免か……俺の意識はどうなるんだか……」

 今度は、俺が管理人?
 いやいや、運用魔力になるって言うんだから、意識ごと消えるんだろう。
 ……ようやく、地獄にご案内ってわけだ。
 人、結構殺してるからなぁ~。
 閻魔に裁かれに行くか。

「……そうだ、言い忘れてたことが二つ」

 ? おいおい、消え去る俺になにを言い忘れるんだ?

「まず一つは、さっきの子は、ただの案内人。……それで、主の記憶を預かってるだけの、この世界の本当の管理者。……言わなかった? 試練を終了させたものには、私を託されるって」

 ……そ、そう言えば、あの夢の中で、そんな事言ってたような……
 
「そして、もう一つ……試練の結果。おめでとう。合格よ?」

 ……て、まてぃ!

「俺に言ってどうする! これから消えるのに!」

「あはは~♪ 実はね~このロストロギアって、実際に取り込むのは、使用者だけなのよね~」

 楽しそうにぶっちゃけるクラウン……いや、まて。
 てことは、今のなのは達は……

「あ、あの子たちはある意味本物よ? 使用者の周りにいる、友人の魂の一部を取り込んで、この中で人格として活動してもらったから……まあ、本人といっても過言じゃないわね。そろそろここの記憶が再生される頃かしら?」

 戻った魂からダウンロードされて、記憶に後付されるってことか。
 ……いや、それじゃ!

「……い、生贄が必要ってのは……」

「ああ、あれ?」

 その子悪魔は、にっこり笑って。



















「嘘よ?」
















 なん、







「だとコラぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」

 ……あ、あれ!?

「せ、せつな……?」

 え!? リンディ……母さん?

「よかった、起きたのね……よかった……」

 わ、わわ! え、あれ? あれぇ?
 ここ……うわ、また中央病院……て、ことは。
 俺また寝てたとか?
 マジかい。

「あなた、修学旅行に行く最中に、ロストロギアを発動させちゃって、そのまま昏睡していたのよ? 海鳴駅で拾った本……覚えてる?」

 ……あ、ああ、あの文庫本ね……
 ベルカ語で書かれてたのに、何でもっと注意しないんだ、俺。
 普通に発動させちゃったYO!
 ……それで、試練終了させて、表……外に出てきたわけか。
 ……? そういや。

「なのは達は?」

 あいつが言うには、魂の一部を取り込んだだけって言ってたな。
 じゃあ……

「今、京都にいるわよ? 貴方を心配してたけど、せっかくの修学旅行ですもの。心配せずに楽しんできなさいって、私が送って行ったわ。……ああ、お土産は頼んであるから」

 ……オウ、ゴッド……て、ことは、今日は……

「四日……目?」

「もう、夜の十時よ?」

 ……お、お、お、

「俺の修学旅行がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……えっと、ご、ご愁傷様?」

 せっかくの、せっかくの京都旅行が!? 
 今回の為にスケジュール切り詰めて、一生懸命仕事して、楽しみに……本当に楽しみにしてたのに!?
 あ、あんな夢で、京都旅行が……パア?
 ふ、ふふ、ふははははははっはっははっは!

「母さん……そのロストロギア、どこ?」

「え、えっと、今、聖王教会に……そ、そこから、持ち去られたものでね?」

 古代ベルカの精神修養アイテムだから、当然か……
 よし。

「行って燃やしてくる」

「え、ちょ、待ちなさい! 燃やすって、ロストロギアを?」

「あのくそ女! 微塵切りの上風呂焚きの燃料にしたる! 止めるな母さん!」

「せつな! ストップストップ! あなた、四日間」

 ベッドから出て、足をつけると、そのまますっころんだ。
 ……ち、力入らないだと!?

「……寝続けてたんだから、そうなるの当たり前じゃない……」

 呆れ帰った、母さんの声……
 床が冷たいんだよもん……
 俺の修学旅行~~~~~~……

「まあまあ、せっかく私が力なってあげるんだから、骨折り損にはならないでしょ?」

 ……この声は!?

「プチリンディ! いやさ! クラウンか!」

「せいか~い! ……ほんとに女の子なのね、びっくりだわ」

 人の目の前で、ふわふわ漂う、こぶし大サイズのリンディさん。
 服装が、ちょっぴり大胆なビキニです。アギトみたい。
 て、ここであったが百年目!

「これでくたびれ儲けだったら、本気で犯すぞゴラァ!」

「あら、こわ~い。助けてオリジナル~」

「え? わ、私!?」

 うぬれ、母さんの陰に隠れるとわ!

「ええ、貴女。あなたの姿を使わせてもらってるわね? 十七歳のイメージで」

 あ、馬鹿。

「え?」

 瞬時に捕まるクラウン。
 ……か、母さんがこあい。
 
「……せつな? この羽虫は潰していいのかしら?」

 いやはぁ~。同じ姿でも容赦しねぇ。
 さすがリリカル最強ママさん。
 その強さはいまだ健在……て、潰されてももったいない。

「後で個人的に修正しますから、潰しちゃ駄目です……おら、クラウン。こっち来い」

 パラディンにリンクさせないと。
 ……箱庭の中でやったみたいに、ダブルスペルで魔力不足とか、指示系統を混乱させて、リソース不足になっても困る。
 昔の相棒だって言ってたから、連携はできるだろ。

「うううう。オリジナルリンディさん怖い……」

 当たり前だ、俺の母親だぞ?

「パラディン。融合騎クラウンとリンク接続。リソースの分担と、ユニゾン後の指示系統の振り分け。融合騎として、騎士王の書に登録」

【はいはい。リンク接続……また、よろしくお願いしますね? クラウン】

「ええ、お願いするわシルビア……そして、今後ともよろしく。マイマスター」

 やれやれ……気苦労の種が、また増えた……
 畜生。

「綿棒でおもいっきり鳴かせたる」

「て、私の姿でされるとその……お母さん恥ずかしいなぁ~」

 それは、えと、その……うぐぅ。
 今日の締めは、母親の赤らめた顔に萌えました。
 ……いや、いろいろまずいだろそれ。


  [試練終了。合格]




  [四日目終了]




*ようやく夢から覚めました。長い、長いよ。作者です。
次回は今回の件のリザルトと、後始末。
……実は、この夢が別物になっていた可能性もあったり……選択肢も用意してたり……まあ、それはまた機会のあるときに。
作者でした。


子供先生のいる世界とリンクさせようとしたなんて、口が裂けても言えないよ……



[6790] L25.新難題ロストロギア 五日目リザルト
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/05/30 23:24

 さて、普通に朝が来ましたよっと。
 ……母さんも家に戻り、病室には俺一人……いや。

「むにゃむにゃ……」

 新しく、俺の相棒となったクラウン。
 幸せそうに寝てる……リンディさんの顔で。かわいー……ておい。
 ……く、寝顔に萌えてどうする俺!?
 ちくしょー、朝日がまぶしー……

「……あん?」

 不意に感じる、体の違和感。
 ……えっと、えっと……

 腰に……いや、股間になんかある。

 ……まてまてまて!
 こ、この感覚は……もぞもぞ。
 つ、ついとるーーーーーー!?
 ……となると原因は。

「起きろ!」

「ぱぎゅ!?」

 クラウンの腹におもいっきりでこピン。布団から転がり落ちる。
 あ、ベシャっていった。

「い、いきなり何よぉ~? 赤ちゃん生めなくなったらどうすんのよ~」

 生めるのか融合騎。
 でなくてだな。

「これは一体どういうことだ」

 見せるのは腰に張られたテント。
 パジャマが女の子のものだけに酷くシュール。

「あら、立派」

「……よーし、パラディン。アロンダイト出せ。ぶった切ってやる」

「嬉しくないの~? ちょっと遺伝子弄って両性具有にしてあげたのに」

 ……ホワイ?

「ふ、ふた○り?」

「切り替え自由の便利なものよ? 男性体と、女性体。……男性体は、筋肉の増加による運動能力の倍増。女性体は、リンカーコアの蓄積魔力量増加と処理能力の倍加による、魔法能力の倍増。……しかも、男女切り替えによる、副作用なし! 頑張りました!」

 胸張って、堂々と説明するクラウン。
 その笑顔がむっちゃムカつく……が!
 正直、その素敵性能はありがたい……無理かと思ってた、あの計画が使える!
 じゃあ、誰か来る前に。

「えっと、どうやって切り替えるんだ?」

「女性のイメージを体に映すのよ。女性のふくよかさ、しなやかさ、後、柔らかさ。男性体はその逆ね。男性の硬さ、力強さ、そして、筋肉の質感……やってみなさい?」

 えっと、前の体は充分見てるから……ふぅ!

 ……!

 と、どうかな?

「……よし、ない」

 ようやく元の体だ……うん、胸も……ペッタンだけど、女の子の胸だ。
 しかし、寝てる間に男に変わると、いろいろ怖いな……あ、そうだ。

「男性体は顔も変わるのか?」

「まあ、少し彫りが深くなる程度で、基本は同じよ。あなた、中性的な顔立ちだし」

 それなら、いっか。
 一応、無意識下で変わらないように練習しないと。

「で? どうかしら? 男の体を手に入れた感想は?」

 うん。

「余計なことすんな♪」

 真っ向唐竹割り。手刀がクラウンの脳天にヒット。
 悶えるクラウン。自業自得じゃ。
 
「ま、マスター横暴……このドS」

「何を今更。ああ、そうだ」

 修学旅行潰された恨みもあったな。
 両腕を摘まんでがっちりホールド。そのまま頭の上に。

「え!? あれ!?」

「……十七歳リンディさんはぁはぁ」

「犯される!?」

「弄り倒したる」

 足腰立たなくしてやるわ!
 おおう、これは見事な造形。ちゃんとやらかい。
 マシュマロみたい。

「いや~!! 助けて~!! シルビア~!!」

【まあ、自業自得ですし】

 さすが相棒、分かってくれてる。
 さって今度は下のほうに……

「せつなさ~ん? お体の具合はいかがですか~?」

 ドアを開け、入ってくるのは銀髪ちみっこ部隊長。
 ノックぐらいしろよ、取り込み中だぞ……て、まてい。今の俺って……
 どこから見ても、人形弄りの変態少女です。本当にありがとうございました。

「せつなさんが本物の変態に!?」

「誰がか!」

 そう見えても文句言えません。
 はっはっは……はぁ~。

【……まあ、自業自得ですし?】

 どやかましいわ。



 朝一で見舞いに来てくれたのはうちの部隊長、テレサ・テスタロッサ。
 通称テッサ。
 なお、今回のロストロギア『忘却の箱庭』は、教会からうちの部隊に探索依頼されたものらしく。

「一応、せつなさんの手柄ってことになりました。それで、昏睡中の四日間に関しては、ロストロギア被害申請してありますから、追加で四日間の休暇が取れますよ?」

「それは、あさって中将との打ち合わせがある俺に対するあてつけか?」

 明日も一回部隊に顔出して、今回の件の報告書と、ロストロギアの性能レポート、後、教会に顔出して、無事な顔見せないと……ふふふ、もうしばらく休めねぇ~。

「ま、まあ、あまり重要じゃないことは私たちに任せて、休むことも考えてくださいね? 一応、有給にまわしておきます」

「お願いしまーす……あ、そうだ」

 「私汚されちゃった」みたいなポーズで不貞腐れてる、性悪融合騎を出して、

「こいつ、デバイス登録するから、必要書類を教会から取り寄せといてくれ。後、ロストロギア所持申請書も」

「はい、分かりました……何か、どんどんロストロギア化が進んでいきますね、せつなさん……」

 それは元々はやての称号じゃ~。
 レアスキル『蒐集』持ってないから、そう呼ばれやしねえ、うちのはやてさん。

「後、一度身体検査しないとな……」

「? どうかしたんですか?」

 ふふふふふ。それはですね?

「この性悪のせいで、切り替え式両性具有体になっちまった……ロストロギアどころか、だんだん化け物になっていく~……」

「……えっと、それは……ご愁傷様です……」

 大きなお世話じゃこんちくしょう。


 簡単な報告と申し送りをして、テッサ退場。お見舞いのバナナは美味しくいただきました。もむもむ。
 後、両性具有の事は黙っててもらう方向で。
 検査があるから、すずかには話さないとな~。
 ……す、すずかと言えば……

「……おいクラウン? なのは達の魂の一部は、ちゃんと本人たちに戻ったんだな?」

「ええ、そうなるわね」

「……て、ことはあいつら、箱庭の記憶を……」

「持ってるわよ? ……一気に思い出して、今頃泣きながら帰ってくるかも」

 と、いうことはだ。

「俺、生贄免れたわけだから……やばい、もう女性の演技できないぞ俺」

「おとなしく泣かれたら? この幸せ者」

 く、泣かれるだけならまだしも。

「全力全開でなのは的お話し合いとなると……体が持たんかもしれん」

「……が、頑張って?」

 ちっくしょう……あ、なんだ。

「……えい」

 再びクラウンをホールド。
 逃げられないように、お見舞いのバナナについてたリボンで手足を縛る。

「ま、まさか……」

「お前生贄にすればいいだけだな。多少は俺にも来るかもしれんが……まあ頑張れ」

「い、いやぁぁぁっぁぁぁ!!」

 あっはっは。
 一蓮托生じゃ、相棒。
 一緒に地獄に落ちようぜ。


 昼食を食べて、リハビリステーションで体を慣らす。
 昨日みたいな間抜けな真似はできません……まあ、一時間もすれば、普通に戻ったけど。

「ちょっと筋力落ちたか?」

 全体的に。
 まあ、訓練始めれば、元に戻るだろう。
 もう一回リハビリメニュー一通りこなして、担当医から退院の了承を貰う。
 一応、経過を見るため、退院は明日の午前中に。
 で、病室に戻ると。

「……せ、せつな……これはどういうこと?」

 顔を引きつらせた母さんが、縛り付けられてもじもじしているクラウンを指差して固まってました。
 そして、その隣には、エリオ。

「……お、お姉ちゃん……あ、危ない人になっちゃったの?」

 いいいいやあああああ!!
 俺をそんな可哀想な人を見る目で見ないでぇえぇぇぇぇぇ!!
 
「……マスターの変態」

「うっさい! 性悪人形!」

 それは緑色の三番です。こいつの髪は翡翠色だが!

「そいつは生贄です。……逃げられないように固定してるので、放置の方向で」

「えっと、同じ姿の私としては、勘弁して欲しいわね……」

「なのは達の全力全開を、病み上がりで受けるわけにはいかないんです!」

 それこそ『らめぇぇぇぇぇぇ! こわれちゃぅぅぅぅぅ!!』てなっちゃうから!
 
「とにかく、はずしなさい」

「……へぇ~い」

 ち、仕方ない。
 顔赤らめて恥ずかしがるリンディさんで我慢しとこう。
 エリオの情操教育的にも悪いし。
 拘束をはずすと、リンディさんに擦り寄るクラウン。

「ありがとうリンディさん! あなたは私の女神よ!」

「ああ、あなたは、なのはさんたちが来るまで逃げないように……逃げたら潰すわね♪」

「……はい」

 馬鹿め、リンディさんに逆らえるものなどいないわ……いても、うちの妹ぐらいか。

「お母さん強いね」

「俺らの母は最強だからな。……エリオ、嫁にするなら、こういう女性を選びなさい」

「うん!」

 まあ、方向性は違うが、将来有望なお嬢様が二人……一人は最初敵だけど。
 君に懐いてくれるさ、うんうん。

 ……そろそろ放逐されるはずだから、探しに行って、フェイトに預けないと。
 未来を知ってるって、便利は便利なんだけど、いろいろデメリットがあるからな~……
 今回の事でよくわかった。

 何も、成長しないのは力だけじゃなく、精神まで作用するのか。
 フェイトやはやては精神的に、元が元だっただけに強めに設定されてたけど、なのははよく考えたら、幸せな家庭出身なんだよな~。
 ちゃんとイベントこなさなかったから、精神未熟になるはそりゃ。
 ううう、でもな、無理矢理きつい仕事こなさせるわけにも行かないし……
 これは、後五年間でどれだけ成長するかに期待するしかないか。

 まあ、これは仕方ない。
 いざとなったら 、俺が盾になろう。……でも、それして泣かれるのも嫌だな。
 できるだけ、俺に依存しない方向で……駄目か、リカバリできんなそれに関しちゃ。
 くっそ~下手打った~頑張りすぎじゃ、当時の俺~。
 でも、フェイトやはやての事考えると、あれが一番だったんだよな~。
 なのはすまん。

 て、まてよ?

 ……俺、箱庭で、ぶっちゃけちゃいけないことぶっちゃけなかったか?

「……お姉ちゃん? 顔真っ青だよ?」

 それはね?
 血の気が引いてヘモグロビンが足りなくなっているからです。
 さぁーーーーって血が下がっていくのが分かる。
 やべ。
 インチキばらしちゃった。
 ……こりゃ、俺も覚悟しなくちゃだな……

「母さん。なのは達が帰ってきたら、いろいろ話したいことがあるから……先に、エリオ家で待たせといてくれる?」

「……エリオには、まだ話せないこと?」

「うん。……御免な、エリオ。お姉ちゃんのわがままを許せな?」

「……うん。お姉ちゃん、直ぐに元気になってね?」

「おう! お姉ちゃんは結構無敵だ」

 怖い人は沢山いるけどね。ぶるぶる。

「じゃあ、エリオ。家に帰ろっか?」

「うん!」

 手を振って、エリオとはいったんお別れ。
 明日にはまた会えるし。

「エリオ君可愛いわね~。……食べていい?」

「そのサイズでどうやって食べる気だ……」

 フルサイズができるんならまだし……あ、できるのか?

「できなくはないけど? このまま大きくなるんだし」

「エリオに手ぇ出したら、漏れなく母さんに潰されますが?」

「……い、命がけは止めとくわ」

 それがいいでしょう。
 それに。

「リンディさんの姿で男誘惑したら、母さんの迷惑になるから止めろ。……やったら、本気で壊す」

「……わかった。ごめん」

 流石に、男漁りする艦隊提督なんて汚名、母さんの経歴につけられん。
 ただでさえ、管理局はゴシップにうるさいからな。
 ……家では暢気なほんわか奥さんでも、管理局では敏腕エリート提督様だ。
 こいつのくだらない欲望で、それが崩されたら……こいつだけでなく、それを制御できなかった俺自身も許せない。

「マスターで我慢するわ……あなた以外の男は見ない。騎士の誓約よ? これでいいかしら?」

「……まあ、それは、了承しよう」

 リンディさんは好きだしね?
 母さんだって好きだし。
 ……むぅ、ちょっとどきどき。
 これって、プロポーズだよね?
 相手が融合騎なのがあれだけど。




 時間的にそろそろか。

 クラウンとパラディンで連携の相談。
 リミッター解除時は兵装システム運用はパラディン、肉体強化系はクラウンで。
 リミッターつけてるときは、パラディンで防御、強化系。クラウンはバインドなどの補助系を担当してもらうことに。

 なお、クラウンは魔導師ランクでいうとAA+。
 保有制限があるから、魔導師登録申請しないけどな!
 さらに、こいつの能力資質は、幻影、幻惑などの幻術系が得意らしい。
 戦術の幅が広がる! これは嬉しい。

 後、ユニゾン効果として、処理能力の倍加もある。試したら、ツヴァイの約二倍。リインに勝らないまでも、その次くらいに位置する処理能力。
 くたびれ儲けにならずにすんだな。
 京都旅行の代換えにはなる。……休暇と旅行はやっぱ惜しいが!

 ……そして、運命の時間がやってくる。
 多人数が近づく気配……来たか!

「せつなちゃん!」

 第一声はなのは。
 続いて、フェイト、はやて、アリサ、すずか。
 最後に、リンディ母さん。

「(……ちょっとだけ悪戯するから、防音結界だけよろしくおねがいします)」

「(ほどほどにね? ……さっきまで本当に泣きそうだったんだから)」

「(あざーす)」

 さてと。

「なのは、みんなも、おかえり。……迷惑かけて、ごめんね?」

 久々の女言葉。顔引きつらないように我慢我慢……

「せっちゃん……ただいま……」

 はやての泣きそうな顔……まったく、そんなに悲しそうな顔しなくてもいいのに。

「せつな。あの、あのね? ……やっぱり、刹那さんは……」

「……ごめん」

 フェイト、マジごめん。
 実はここにおる。

「……せつなちゃん、刹那さんの分まで、私たちが一緒に居るから。寂しい思いさせないから……」

「すずか……ありがとう」

 あ、あかん。
 ぼろが出ないように一言一言喋るしかできん。
 ぐぅぅぅぅぅ!
 いつもどおり喋りてぇぇぇぇ!

「……せつな。もう無理しなくていいから……あたしたちが、あんたの分まで頑張るから! だから……だから……」

「泣かないで、アリサ……私は大丈夫だから……ね?」

「せつなぁ……」

 くっそっぉ!
 アリサマジかわええ!
 抱きしめたい~押し倒したい~!

「せつなちゃん、せつなちゃん……いつもどおりに、笑ってようぅ、男の子っぽく、笑ってよぅ……こんなお別れ、嫌だよう……」

「なのは……ごめんね……私で、ごめんね……」

「……ごめん……わがまま言って、ごめん……でも、でもぉ!」

 いやぁぁぁぁぁ。
 もう限界。
 いいや、そろそろネタばれを……

「せっちゃん? ちょっとええか?」

 ? あれ? はやて?
 真面目な顔に戻って何事?

「……なに?」

「……えっとな、せっちゃん。……あたし、おもたんやけど」

「うん」

「せっちゃんの女性意識……ほとんどカグヤちゃんに渡したって言ってへんかったっけ?」

 ……言いましたねぇ。

「それで、アリサちゃんがおうた子供のせっちゃんは言うたんやったな?『せつなの中に、女性意識はこれだけしか残ってない』って……小学生分の意識で、今のせっちゃんを運用するには、ちょっと無理があるんちゃうか?」

 ……相変わらず鋭い!
 そうですよね? リソースぜんぜん足りなくなって、ほとんど人形化するのは目に見えてますよね?
 なのに、普通に受け答えするってのは無理がありますよね!

「そして……最後に。女性意識のせっちゃんはな? 声が一オクターブほど高いんや……せっちゃん、男性意識の時の声で女言葉喋ってるやろ? ……それらの事をあわせると……」

 どこぞの名探偵張りに、ずびし!っと指を突きつけて。

「せっちゃんはいつものせっちゃんや! 何も無くなっとらん、何も失っとらん、本物の、本当のせっちゃんや!」

 ……ちぃ、さすがはやて。
 捜査官の名は伊達じゃないか。

「……よくわかったな」

「何年あんたの背中見とるおもとるん? ……あたしはあんたの妻やで? ……せっちゃんの事なら、そっくり全部まるっとお見通しや!」

 わぁお。トリックかよ。
 そっちで来たか。

「え? じゃ、あ……」

 唖然と俺を見る残りの四人……その顔を一通り見て、はやてを見る。
 強気の笑顔。
 さらに奥のリンディさん。
 ……優しげな目を向けないでください。
 ため息一つついて。

「……まあ、そういうわけだ。……恥ずかしげもなく、帰ってきました~!」

 お手上げ!

「せつなちゃん!」

「ちょ、脅かせるなバカーーーー!」

「せつな……よかった、せつなぁ……」

「よかった……本当に、よかったよぅ……」

 はぁうぁ。結局泣かせてしまった。
 そこは全員で突っ込んで欲しかったなぁ……
 まったく。
 ほんとに愛されてるよ、俺は。



*多大な爆弾だけ置いてここまでとします。作者です。
古代ベルカの技術は化け物か!? 設定しといてなんだけど、やり過ぎた感が否めない。
BINさんには勝てませんよ。うん。明日から仕事だし。
以上、作者でした。

次回は説明編。



[6790] L25.新難題ロストロギア 五日目説明・表
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/06 13:01
 さて、皆が一通り落ち着いたところで。

「で! 一体どういうことなのよ!」

 女王降臨。がおーーーーーって、ライオンかあんた。

「まあ、文句があるなら、こいつにどうぞ」

 ここで生贄投入。

「「「「「ああ! プチリンディさん!!」」」」」

「あはは~皆さんお元気~?」

 もう諦めたのか、酷く陽気な声で挨拶するクラウン。
 で、頭抱えるオリジナル。

「どうして、彼女が?」

「おう、実はあのロストロギア、こいつを運用するための精神を鍛え、試す為の訓練場みたいなものだったわけだ」

 ユニゾンデバイスは、基本的に危険なものだ。

 自分以外の意識を取り込み、二重になる意識を運用し、魔法能力の倍加、もしくは、多重運用をこなす。
 誰にでもユニゾンできるわけではなく、適性が低いと、融合事故を起こしてしまい、人格の破損、崩壊を招く重大事故を起こしてしまう。
 また、暴走の危険性もあるため、融合騎の運用には慎重に対応することが望ましい。

 ……まあ、どこぞのツンデレはやっちゃったらできちゃったとかふざけたこと抜かして、融合騎を手に入れてしまったが?

「あたしのことか!」

「それでだ。「スルーするなぁ!」あの箱庭での出来事自体が全部試練の一環だったわけだ。ゲームオーバーは、タイムアップか、俺がクラウン……まあ、こいつのことだが、クラウンの誘惑に負けたらアウト。そういうルールだったわけだ」

 取り込まれた使用者……挑戦者の友人たちに、忘却の魔法をかけ、それぞれの絆を壊し、また、改変して、その歪みを直させる。
 失敗してこじれたり、友人たちにかけられた意識誘導に引っかかったりして、時間をかければ、タイムアップに繋がる。 

 今回のように、なのは達の誘惑に負けて、手をつけてしまってもアウト。
 彼女の最終手段である、理性の破壊を受けてしまってもアウト。
 あの世界を享受して、幸せを続けてしまってもアウト。
 幻影と幻惑を行使する、彼女ならではの試練内容である。

「で、マスターは見事その試練を全てクリアーして、私の主になったわけ。改めて自己紹介。ベルカの騎士『幻惑の騎士クラウン』。今は、騎士王の書に新しく付随した、マスターせつなの融合騎。今後ともよろしく~」

 あくまで陽気に、楽しげに話すそのさまに、みんな唖然とした表情。
 まあ、そうだよねぇ?
 うちのパラディンも大概陽気だけど、こいつはそれ以上だもん……

「じゃ、じゃあ! 最後の生贄って言うのは!? そうするしかないって言ってたのは?」

「え? 嘘に決まってるじゃない」

「そんなあっさり!?」

 ふふふふ。それがクラウンくおりてぃ。
 そのあっさりさに、とてもはらわた煮えくり返ります。

「あの最後の設問は、使用者の覚悟の程を試す質問。あそこで、私の納得できる答えを出せば合格。……まあ、今回みたいなケースは初めてだったわね。使用者の意識が二人分あったなんて……」

 あっはっは。そりゃすまんかった。
 ちなみに、過去の回答は?

「そうね、システムを把握して、取り込んだ友人全員を殺して見せたのが一人。私を生贄にしたのが一人ね。……後は、最後まで選べなくて脱落しちゃったり、最終設問前の質問で、気に入らない回答をした者を生贄に捧げ、私の不評をかったり……ああ、そのときの設問で、全員に否定されて、富を選ばれて脱落した騎士もいたわね」

 いろんな奴がいたんだな。
 てか、最初ひでぇ。

「友人全て殺しても、正解なんですか……?」

「……ええ、そうね。非情になれるって事は、自身の精神を自制できるって証でしょ? 私を運用するのに、ふさわしい答えよ……本人、世捨て人だったから、私いらないって捨てられちゃったけど」

 もったいない。
 まあ、それほど、精神達観してないと、誘惑に負けるってことか。

「まあ、今回の主は、私にとって一番相性のいいマスターに出会えたから、負けてよかったわ」

 あっけらかんと、楽しげに笑ってるけどもだ……
 それで許してもらえると思うなよ?
 なんせ相手は……

「……ねえ? せつな? ちょっとそいつ貸してもらえる?」

 女王に。

「そうだね……すぐに終わるから、借りていくね?」

 女帝に。

「すこぉぉぉぉぉぉぉし、お話するだけやからな?」

 夜天に。

「……ちょっと、折檻が必要だから」

 死神に。

「頭冷やしてもらうだけだから。全力全壊で!」

 魔王だから……って! 漢字違うんじゃないのかなのは!?
 即座に捕獲され、外に連れ出されるクラウン。
 悲鳴は聞かない方向で。
 かき消す為に、売られていく子牛のテーマを歌う俺とパラディン。

「……いいのかしら?」

「いんですよ。箱庭でえらい目に会いましたからね、俺も、あいつらも……」

【自業自得です】

 まあ、本当に壊されないように祈っとこう。
 南無南無。
 まあ、戻ってくるまで、母さんとお話。

「それで、何で私の姿なの?」

「あいつ、箱庭で母さんの位置にいましたからね。最初はその影響だったんですけど、気に入っちゃったらしくて」

 母さん本当に美人だから。うん。

「喜んでいいのか悲しんでいいのか……変更はできない?」

「できますかね? パラディン?」

【もうあれで固定しちゃってますから、無理でしょうね。……まあ、マスター、リンディさん好きですから、いいんじゃないでしょうか?】

 ちょ、おま。
 そんなさらっと……
 ああ、ほら、リンディさん顔溶けてるじゃんか!
 
「うふふ~。せつなってば、可愛いとこあるじゃない♪」

「だ、抱きつかないでください……」

 大体、好きの意味が違うんじゃー!

【おもに性的な意味でですね?】

 そこでぶっちゃけんなーーーー!!

「せ、せつな……えっと、ね? じょ、女性同士はその……それに、親子だし……だ、駄目よ?」

 うぉあ。いきなり真っ赤になって説教し始めるとか……
 いかん、本当に萌え萌えです。うちのお母さん。
 
「母さん、落ち着いて……流石に、母親に特攻するほど鬼畜じゃないですから……」

「……本当に?」

「……ホントウデスヨ?」

 睨み付けてるんでしょうけど、少し不安も混じって可愛いんです、その困り顔。
 押し倒してえ。
 ……箱庭で我慢した影響か、欲望噴出しまくっとるな。
 落ち着け、俺。


 なのは達が戻ってきた。
 えらいすっきりした表情は隠してください怖いから。
 返却されたクラウンは……

「あ、う、あ……そ、そこわ駄目ぇ……壊れちゃぅ……」

 見事に壊れかけてました。
 ……衣服ズレまくって、酷くエロイです。

「せつな、お願いだからそんなまじまじ見ないで……」

 そして、何故あなたが真っ赤なんですか母さん?
 
「ちょっと擽っただけなのに、案外脆いのね?」

「ええ触り心地やったわ~。マシュマロ弄っとるみたいでな?」

 アリサもはやても絶好調だな!
 後、触感を報告すんな。もう知ってるから。
 まあ、クラウン、乙。

「じゃあ、次は、せつなちゃんの番なの!」

 はあ、まあ覚悟はしてたけどね。

「よし、どんと来い! 大概の事なら我慢して聞いてやる!」

 その覚悟で、前半弄ったからね!
 はやてに見破られたけど。

「お、大きく出たわね……じゃあ、そうね……はやて? なんかある?」

「せやな……あたし、向こうで一回もチューしてもらってないなぁ?」

 げ。そうだったな。
 はやてだけ一回も無かったな。
 他は二回ずつはしてるけど。

「せつな!? あなた、本当にそんなことしたの!? ああ……うちの子が、同性愛者になっちゃうなんて……」

 泣き崩れんな母さん。
 中身男だって知ってるだろ。
 
「ホモよりかマシでしょ。……正直、男性と付き合いたくないし」

「駄目よ? あなたは、ちゃんと、男の人と付き合わないと」

「絶対に嫌だ。断固拒否する」

 男と付き合うくらいなら、それこそ箱庭で幸せに暮らすね。
 ただでさえ、最近中将からお見合い話持ちかけられて、えらい迷惑してるのに……

「むぅ、航行隊のエリートとのお見合い話も来てるのに……」

「母さんまで!? 本気で止めてよ? 俺、心は男なんだよ?」

「でも、やっぱり、イメージ的に悪いわよ? レズビアンなんて」

「あ、リンディさん! それ言っちゃ駄目で「レズって言うなぁぁ!!」ああ、遅かった」

 レズじゃない、レズビアンじゃないんだぁぁぁぁ!

「で、でも、そういうことじゃない? 女の子同士は、レズでしょ?」

「そういう問題じゃない! せめて百合って言え百合って!」

「て、それ同じ言葉じゃない」

「違う! 百合はいいんだマリア様が許してくれるから! だが、レズは完全に幻想と現実がごっちゃになってとってもエログロになって汁っぽいから駄目だ! デブのホモと同じくらい美しくない!」

 本物はやっぱり汁っぽいけどね~。経験者は語る。

「いいか? 女の子同士が笑いあって抱きあってるのはもちろん許せる、微笑ましいからな。女の子同士のキスもだ。見てて美しい。後、ちょっと甘美で禁断具合がさらにいい。はやてみたいに胸を揉むくらいも、女の子同士のスキンシップでまだ許せる。ふざけあうのも女の子の特権だ! 駄菓子菓子! 女同士の絡みは背景に飛ぶもので違うんだ! 華が飛べばそれは百合、禁断で背徳的だけど、その姿は美しいんだ。百合と呼べばな? だが! それをレズビアンと呼んでしまうと華がいきなり汁になって、グチョグチョとかネチョネチョとか擬音が付く下品極まりない行為にまで陥ってしまうんだ! これはいかん。……どうでもいいが知ってるか? 日本人が外人ポルノなんて結構手を出す奴がいるが、レズポルノなんて見れたもんじゃないぞ? とっても汁っぽくて声も萌えない! そう、萌えだ! 見てて萌えるのが正義だ! 萌えない百合こそがレズ! だから俺は、百合であってもレズじゃない! 大体、俺の意識が男性である以上、同性愛じゃないからな! わかったか!」

「……む、娘が虐める……」

 アイムウィン。
 リンディさんを凹ませた。
 そして、何で全員そんな目で俺を見るかね?

「あ、相変わらずね……ま、まあ、あたしたちも、気にしないことにするし」

「些細なことだよ。ねえ? なのはちゃん」

「そうだよ。せつなちゃんは、私たちの嫁なんだから」

 ぐはぁ。
 ……そんな無垢な笑顔で、歪んだこといわないでください。
 なんか俺が間違ってるような気がするから。

「はぁ、はっぁ……少女こあい……うう、地獄を見たわ」

 あ、クラウン復活した。
 意外に早かったな?

「こ、これでも、拷問訓練は一番の出来だったのよ……あんまり、自慢できないけど」

 確かに自慢にならんな。
 後、衣服直せ。目の保養……ああ、いや、見苦しいから。

「……よし、復活。……まあ、女同士は確かに、まずいわよね?」

「そうよね! 駄目よね! 分かってくれる人がいたぁ!」

 うぉ。リンディさん復活。
 でも、そいつに縋るのはダウトだ。

「駄目とは言わないけどね~? 些細なことだし。まあ、世間体からして、まずいってだけで」

「む……せ、精神的に、歪んでるわよ!」

 精神的には正常なんだけどね?
 俺、精神は男だし。

「まったく堅いわねぇ。なら、マスターが男なら問題ないんでしょ?」

 あ、それにつなげたいんだな?
 まあ、話すつもりだったし。
 ナイス誘導。

「……ど、どうするつもり? 変身魔法なんて、見た目だけよ?」

「そんなちゃちなことするはず無いじゃない。私の仕事は完璧なのよ。……ねぇ? マスター?」

「いや、ホント完璧でした……じゃあ、今回の件で得た物二つ目だ」

 イメージする。
 男性の力強さ、硬さ、包容力……

 ……ん!

 ……と、成功。
 ……確かに、女性の時と感じが違うな。
 重心も少し腰よりか?
 ……胸ないからあまり変わらんけど。

「? あ、れ? せ、せっちゃん? 今、感じ変わったで……?」

 お、はやては外見だけで気づいたな?
 
「……よく見ると違うわね。鋭さって言うのが増したような……」

「うん。……まさかせつな?」

「おう。本当に男だよ。この体はね?」

「「「「「「えええええええええ!!」」」」」」

 リンディさんも加わって、驚愕の叫び。
 すげぇうるさい。
 防音結界張っててよかった。

「だ、代表で確認するわね!?」

 リンディさん近い近い!
 まず胸に手を当てる。

「……か、硬い……」

 胸板の脂肪が筋肉に変わるからね。
 硬くて当然。
 おもむろに、寝巻きのズボンの中を見る。
 いやん、エッチ。……すまん、自分で言っててキモかった。

「……ぞ、ぞうさん……」

 あっはっは。卑猥だなぁ。
 後、顔赤いぞ母さん。

「ほ、本当に、男の子に……!」

「ふふん。これなら文句ないでしょう? 今のマスターは、正真正銘、男なんだから。……あ、勿論、女の子にも戻れるから、安心してね?」

 この格好でスカートはないなぁ。
 それは変態さんだ。

「あ、あう……む、娘が息子に……」

 そして、凄い勢いで混乱してるリンディさん。
 南無南無……
 さて?

「んで? はやてはチューがご希望か?」

「ふぇ!? あ、その……えっと……」

 おお、うろたえてるうろたえてる。
 かわええぞはやて、花丸をやろう。

「ほれ、おいで。……まあ、箱庭の俺とは、ちょっと違うが……似たようなもんだし」

 顔の形が違うだけで、中身は一緒だからね~?
 素直にベッドに近寄るはやて。友人連中は遠巻きに見ております。
 うーん。現実で男だと、普通にドキドキするな。

「せっちゃん……とうとう人間止めてもたんやな?」

「いや、いきなり化け物扱いかよ……泣くぞ、もう」

 しょっちゅう泣いてる様な気もするけど。

「化け物でもええよ。せっちゃん、大好きやから。……うーん、確かに男の子っぽいなぁ。ほっぺたのプニプニがなくなっとる」

 いや、つつくな。
 後そんなに肉ついてねえ。
 女性体でもスレンダーだ俺は!

「んじゃま、お望みどおり……」

「あ、あう……」

 うーん、はやていい匂い~。
 まあ、初めてだろうから、軽くね?

「……はぅ……なんか、ぽかぽかするわぁ……溶けてまいそうやぁ……」

 甘えた声出さないで……こっちも赤面ものだこれ。
 ……そして、羨ましそうな顔でこっち見てるなよ友人ども!
 あ、そうだ。

「ところではやて?」

「なんやぁ~?」

 いい感じで溶けてるとこ悪いが。

「守護騎士まで使って俺をペットにできると思うなよ? ……返り討ちにしてやる」

「はぁう!? な、なんでそれを!?」

 そういや、あれなんだったんだろ?

「解説お願いします、わざわざ俺の周りに防音結界張ってるクラウン姐さん」

 ムード作りか? それとも、プライバシー保護?

「もっと激しいキスでも大丈夫なようによ? ……あれはね? 回答者の本心を主に教えて、主の心を乱すためにいつもやってることなんだけど……まさか、あそこまで愛されてるとわねぇ……あ、五人の中で、あなたが一番邪悪だったから」

 ですよね~?
 快楽漬けとか、どこで覚えた?
 守護騎士全投入とか……反乱されるぞいい加減。

「あ、あれは……せ、せやかて、自分、もてるし……本当は、私だけ見てもらいたいし……」

「まあ、基本、お前らだけしか見てないから……後は、妹扱い? もしくは姉か」

 そんなにもてるなんて思ってないしな~。

「そ、その姿やったら、誰かてイチコロやで?」

「この姿はそんなに使わんぞ? せいぜい、お前らを悦ばすときぐらいか?」

「……よ、喜ばすの漢字違うかったで……」

 ふはははは。
 真っ赤にして可愛いぞ。
 よきかなよきかな。
 さて、はやては終了、返却~。





「……ど、どうだったの! 凄く赤いわよ、あんた!?」

「し、幸せやけど……み、みんな気いつけえよ? あの時個人個人に聞かれたときの本心、せっちゃんにばれとるで?」

「ええ!? ……そ、そうなの?」

「……じゃ、じゃあ、次誰がいくの?」

「……じゃあ、公平に、じゃんけんで」





 さて、次は誰かな~?
 じゃんけん始めるとか……あ、すずか来た。

「……はい、いらっしゃい」

「……せつなさん。……おかえりなさい」

「ああ、ただいま。……まあ、なんとかなったよ」

 まさか、最後で嘘とか言われるおもわんかったけど。

「でも、もう、これっきりにしてください……あなたを犠牲に、生きていくのは……嫌です……」

 ……まあ、そうだよな。
 俺も、誰かを犠牲にするのは嫌だ。
 それが、知り合いならなおさら……

「それでも、もしものときは、俺がお前らの盾になるよ。これだけは、変えれない」

 大切な人が傷つくのは、嫌だからな。

「じゃあ、その傷は、私が癒しますから……必ず、生きて帰ってきてくださいね……死んだりしたら、許さないんですから……」

 そのまま、触れるように。
 ……終わってから、その華奢な体を抱きしめる。

「……これが、本当の初めてのキスですね……幸せです……」

「そりゃ、よかった」

「他の方に、キスされるより、最初はせつなちゃんと決めてましたから」

 うわっぁはぁい。
 そりゃ光栄だなぁ……ますます死ねなくなったなこりゃ。
 まあ、それはともかく。

「これからはもう少し構うように心がけよう。……弄ったり弄ぶ感覚で?」

「あ、は、はい……お、お手柔らかにお願いします……せつなさん意地悪です……」

 ……何気にM発言だよね、これも。
 それともう一つ。

「後、献血は月に一回でお願いします。……すまん」

「あ、はうぅ……ご、ご馳走になります……」

 そのたびに弄ってくれる。
 それくらいの報酬はあっていいよね~?





「すずかちゃん! しっかりしい! 傷は浅いで!」

「だ、駄目です……せつなさん、とっても幸せです……」

「すずかちゃーん! しっかりーー!」

「て、手強いね、せつな……二連勝か……」

「く、ならあたしが行くわよ! 見てなさい!」






 なんか、戦場の風景だな向こう……
 次はアリサか……はりきっちゃってまあ。

「……来たわよ!」

「おう。……てか、お前もキスが目的か?」

「もちろんよ! ……こ、今度こそ、あんたに負けないんだから!」

 いや、キスに勝つも負けるもあるんか?
 ……潰したもの勝ち?

「それに……もう、どこにも行かないでよ? あんたがいないと、調子でないじゃない! 私が、頼んでるんだから、少しは、言うこと聞きなさい! いいわね!?」

 うわはーい。どこの女王様かお前は。
 とってもツンデレです。

「はいはい。俺はお前らの嫁ですからね~? ……この格好だと、性別逆だけどな?」

「うっさい!」

 ふふ、かわいー。
 立ち上がって、ふんぞり返っているお嬢様に近づく。
 あ、俺のほうが背高い。
 ……髪に手を触れる。さらさらだな~。

「……ん」

「……ふふ、好きだよ、アリサ」

 目を瞑った隙に、さっと……
 む? 頭掴まれた……むぅ、また食いついてくるとか……
 まあ、まだまだ技術不足……
 一生懸命なのは認めるけどね?
 食いつくだけじゃ駄目なんだということを、ちょっと教えてやるか。

「ふぅ! んん……!」

「ん……」

「わぉ、マスター大胆……て、何でそんなに慣れてんのよ」

 中身二十プラス十四歳の上、カグヤと何度かやってたしね~……何やってんだか俺。
 あ、膝から崩れた。
 倒れないように支える。
 ……な、なんか、煙でそうなほど真っ赤だぞ? アリサ?

「あ、はぁ……く、くやしぃ……また負けた……」

 だからその基準はなんなんだ?
 ようわからん。

「大丈夫か? 立てる?」

「うう、ちょっと手、貸して……ぜ、全部持っていかれるかとおもったぁ……」

 いや、何がよ?
 まだちょっと震えてるかな?
 
「もう少しだけ、このままでいて……せつな……だいすき……」

 はいはい……お姫様……
 小声で愛を囁かないでください。
 このままベッドに放り込みそうになるから!





「あ、アリサちゃんでも駄目やったか……しかも、ファーストキスであんな激しいの……」

「え、あ、ああ! ……はぅ」

「……ひょ、ひょっとして、自覚なかったのかなぁ……向こうは夢に近かったのに……」

「はやてちゃん、とどめ刺しちゃ駄目だよ……」

「……次は私が。……母さん、アリシア、私に力を!」




 あ、アリサ潰れた。
 ……どうも、ファーストキスだってこと、指摘されたな?
 南無南無……
 次はフェイトか。
 気合入れてるようだけど……

「……せつな……」

 目の前で顔歪んでるぞ。泣きそうになるなよ。

「よ。……まあ、座れ」

 俺の横に座らせる。ベッドの上だが。
 そのまま、俺にしがみついてくる。

「……私、弱いよ……せつながいなくなったって思ったら……ずっと、泣いてた……」

「……どっちにしても、せつなは残るだろう?」

「駄目だよ……私にとってのせつなは、意地悪で、強引で、優しいあなたしかいないんだ……もう、置いて行かないで……」

 ……馬鹿だな、本当に。

「置いて行かないよ……もう、誰も、置いて行かない。……約束しようか? フェイトの傍に、ずっといるって……」

「うん……うん! もう、離さないで……」

 そうだな。
 なんせ、俺は。

「お前のご主人様だもんな~?」

「……あ、あ、あ、ああああ、そ、それ、わ……はぅぅ……」

「て、おいおい。何もしてないのに潰れるな~? ……耐性ないのに、変なこと考えるから……」

「だ、だって……あ」

 胸に縋ったところで、奪う。
 ……髪を梳いて、頭を撫でながら。
 離れたところで、見つめる。

「あの時の写真、どうなった?」

「……バルディッシュの中に入ってた……これ……」

 手渡された写真には、幸せな新婦と、寄り添う(もう、いるはずのない)新郎。
 ……これが、俺の最後の記録になっちまったな。
 そしてそれは、フェイトの物だ。
 ……もう、悲しくない。

「これは、お前がずっと持ってろ。……永森刹那は、お前のだんなさんだからな?」

「……うん、そうだね……ありがとう、刹那……」

 もう一度、かわす、口付け。
 これが、約束の、証。






「ふぇ、フェイトずっこい……二回も……」

「せつな……大好き……」

「えらい溶けとるなぁ~? これが管理局のエリートかほんまに……」

「せつなちゃん四連勝……後はなのはちゃんに託すよ?」

「まかせるの! 絶対に、負けを認めさせるの!」






 ……さて、ラストだな?
 て、俺、ホント鬼畜……男になったとたん、友人全員順番にキスしていくとか……

「やっぱり、私のお陰ね?」

「うん、余計なお世話だ♪」

 縦一文字切り(手刀)。脳天に綺麗に入った。
 ふん。我に断てぬ物なし。

「……せつなちゃん」

 最後はなのはだな。
 ……うん、なのはだ。

「よう。なのは……」

「せつなちゃんだ」

「……ああ、せつなだよ。……ただいま」

「せつなちゃん!」

 感極まったのか、正面から抱きついてくる。
 とと、衝撃止め切れんかった。
 ベッドに押し倒される。

「……やっと会えた……本当の、せつなちゃんだ……」

「だから、男にちゃん付けはないなぁ」

「いいんだよ。せつなちゃんは、せつなちゃんなんだから……」

 ああ、おまえはそうなんだよな。
 俺がなんであろうが、お前の嫁なんだから……
 
「向こうではごめんね? 迷惑、かけちゃったね?」

「馬鹿いうなよ。お前にかけられる迷惑なら、喜んで受けるよ。……まあ、向こうのお前も可愛かったし」

 本来のなのはからはかけ離れているけど、あれはあれでいいものです。
 堪能しました~ぬこなのは。

「にゃぁ……でも、こっちでは、もう大丈夫だよ? ……今度は、せつなちゃんの背中、しっかり守るから」

 ……さらに、アホだなぁ。

「ふぅ~ん? じゃあ、なのはの王子様じゃなくていいのかなぁ~?」

「それは駄目! ……にゃ、にゃぁ……せつなちゃんの意地悪……」

 まったく。

「お前の言う迷惑なんかな、なんともないんだよ、俺にとってな。……お前はもっと、俺に甘えろ。そんなかで、ちょっとずつ成長しろよ。……それまでは、俺がお前を守るから。……無理に、強くなくったっていいからさ」

「……せつなちゃんに、甘えて……いいのかな……」

 うーん。俺は甘えて欲しいんだがなぁ。

「その代わり、俺もお前に甘えるさ。お前の笑顔で、俺が頑張れるんだから、俺が擦り寄ってきたときに、しっかり笑ってくれ。……その分、お前の困難は、全部引き受けてやるよ」

「せつなちゃんはそういうとこずるいよ……そうやって、自分の無理を正当化するんだから……」

 む、そんなつもりはないんだが。
 ……て、あ、む、むぅ……
 先にされてしまった……

「でも、それなら、せつなちゃん、私に甘えていいよ。私も、せつなちゃんに一杯甘える……いいよね?」

 ああ、その笑顔が見たかったんだ。
 純粋で、無垢な笑顔。
 なのはは、笑顔でないと。

「ああ、それでいいよ。……俺が嫁で、王子様なら、お前は旦那様で、お姫様だからな?」

「えへへ……そ、そうだね……あう」

 二回目のキスは、ちょっと長めに。
 早々に負けたりしません。
 ……基準は分からんが。

「……せ、せつなちゃんのキス魔……大好き」

「とうとうキス魔確定かよ……」

 見事に甘甘な時間でした。
 ふふふふ、ぬこには負けんよ。




「ぜ、全滅……くぅ! せつなのキスは化け物か!」

「えへへ~せつなちゃ~ん……にゃぁぁ……」

「なのはちゃん、幸せそうだね~」

「せつな……本当に強いね……がんばらないと」

「頑張る方向性を完全に間違えとる気がするんはあたしだけやろか……」





【マスター鬼畜です】

「うっさい。……ところで、リンディさんは復活した?」

「まだそこで悶えてるわよ?」

「む、娘が息子でお友達全員とキスだなんて……く、クライドさん、私どうすれば……」

 とりあえず、クライドさんは俺に関係ないと思うなぁ~。
 さて、女性イメージ……何かキーワードとかにするか。

 ……【せつな】

 ……うし、これで行くか。
 男性体は刹那だな。
 ……まあ、個別お話し合いは、以上かな?

「マスターの全勝でね? ……ホント、いいマスターに出会えたわ。退屈しないですむわ~」

「その分、忙しいからな? 覚悟しとけ~」

 絶対、嘱託魔導師の仕事量じゃないよね?
 自業自得だけど。




[6790] L25.新難題ロストロギア 五日目説明・裏
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/06 13:02
「さて、聞きたい事はもうないな?」

 今日はこれでおしまいに。

「ちょーーーーーーと、待ったなの」

 ……なんですかなのはさん。

「……実は、あの箱庭の刹那さんのパソコンの中身……全部レイジングハートに移してきたんだ」

 ……はぃぃぃ!?
 ええ!? んなことできたのか!?

「ちゃんと、確認もできたよ? ……お話、しようか?」

 ……そうですね。
 だがその前に。

「お前ら各自の家に連絡……今日遅くなること伝えとけ。もしくは泊まるとか……でないと、話しないからな」

「「「「「はーい!」」」」」

 く、どこの小学校か……揃って出て行くなのは達。
 そして、やっぱりネタばれせなならんか……
 はぁ。

「……それで? 何の話をするの?」

「……実はですね? あの海で、話せない……絶対に話せないことが、一つだけあったんですよ」

 ドクターの件と、聖王の件は話した。
 要塞攻略の件と、管理局入局の件も話した。
 最後の五番目だけ。
 絶対に話せないこと。

「……それを、話してくれるの? ……あなたが、私たちを巻き込んで、いろんな準備をしていることに、関係があるのね?」

「あい。……あいつらにぶっちゃけちゃったから、母さんにも話とかないとって……せめて、全部終わるまでは言わないつもりだったんですがねぇ」

 記憶なくなってたのが痛い。
 
「……わかったわ。聞かせてもらうわね?」

「まあ、あいつら揃うまで待ちましょ……」

 さて。ここからは、ちょっと長めのお話……
 そして、ここまでのダイジェストってところか。
 どうでもいいけど、これって話数稼ぎとか、行数稼ぎって分類に当てはまるんだよね~。

【そういうことは考えないほうがいいかと】

「まあ、整理も必要だよ。うん」




 一応夕食も済まし、全員揃ったところで、まずは最初から。

「さて、まずはじめに言っておくが……俺は前世を持ってるって散々言ってるよな?」

「せっちゃんの前身……永森刹那さんやね?」

「そう、都内に住む、二十歳男性だ……けど、その都内って言うのは、この世界の都内じゃない。こことは似て異なる世界の東京都内だ」

 幾つもの世界にも、もしもの世界がある。
 ちょっとした変化で、万華鏡のように変わる世界。
 誰かがいて、誰かがいない世界。
 平行世界。とても遠い隣、とても近い異世界。

「……やはりそうだったのね? ……おかしいと思ったの。あなたに起こった事件を、せつなさんが生まれる前から探してみたんだけど……どこにも、そんな事件はなかった。そして、永森刹那という男性の存在も」

 ちゃっかり調べてるところがリンディさんらしい。

「でも、調べたなら、どうして聞かなかったんですか?」

「……娘の言ってることですもの。どんな結果であれ、信用しないと」

 うむぅ。正しい母の姿だな。
 ご面倒おかけしてます。

「で、その世界では、こちらの世界……なのは達の世界が、二次元メディア……アニメーションとして放映されてたんだ」

「……アニメ? それって、あれ? ガン○ムとか……それと同じような?」

「ええ。タイトルは『魔法少女リリカルなのは』……なのはが主役の、魔法少女ものです……前半は」

 後半や第二期からは、もう完全にバトルアニメだよね、あれ。
 CCさくらや歴代魔女っ子プリンセス達を見習いやがれ! 首尾一貫して魔法少女ものだぞあれ!

「なのはちゃんが主役なんだね……えっと、もう一回、詳しく聞かせて欲しいな」

「母さんがいるから、ちゃんと詳しく話すよ」

 じゃあ、最初に物語の導入部。

「まあ、きっかけは、願いを叶える石、ジュエルシードが、海鳴の町に散らばるところから始まります。それを回収しに来たユーノが、自分の力じゃ回収しきれないのを感じて、助けを求めます。その助けを求める声に反応したのが」

「私……だね?」

「そう、魔法少女、始めました。ばりに活躍が始まるんだ」

「いや、そんな冷やし中華みたいな言い方しなくても……」

 前半部分は、俺が介入してないから物語どおり進んだと思う。
 ユーノの声を聞き、魔導師の杖、レイジングハートを起動させ、ジュエルシードを封印する。
 魔法の力を使い、ジュエルシードを集める生活を、なのははそれが、自分の使命かのようにすごしていく。
 だが。

「……多分、ここが、俺の世界のアニメのストーリーと、この世界の実際の出来事との分かれ目だと思う。……なのは、あの時のお茶会覚えてるか? 四月の後半に、すずかの家でやったあれ」

「あ、うん。覚えてるよ。フェイトちゃんとはやてちゃんがせつなちゃんに連れられてきて……お友達になったんだよね?」

「よくよく考えれば、あたしたちその頃からの付き合いなのね……それが、どうしたの?」

 それは、俺がいたからこそ。
 俺が最初に介入した、ストーリー崩壊の第一手。

「アニメでは……まあ、実際に見たわけじゃないが、そのお茶会に、俺とはやては来なかった。……俺がいないんだ、はやてがこれるはずがない」

「え!? ちょっと待って! ……せつながいないって……」

「母さん。俺は、この世界で存在してるけど、本来のアニメストーリーの中に『永遠せつな』というキャラクターは、一切存在しないんだ」

 つまり、この世界のイレギュラー。
 本来いない存在。
 それが、永遠せつな。

「……あなたは、この世界だけの存在……そういうことなのね?」

「ええ。話を続けます。俺とはやては来なかったけど、月村邸にはジュエルシードがあった……あの巨大ぬこのあれだ」

「……うん、大きかったあれだね? 私となのはとせつなで封印した」

「けど、俺がいないから、なのは単独だ……でだ、確か、そのときに、フェイトもその現場に現われる……フェイト自身も、独自でジュエルシードを集めてたからな」

 プレシアさんの命令に従って。
 それだけが生きがいの、可哀想な人形。

「で、なのはとぶつかり合い……まあ、多分、なのはの負けだろう。そのときの錬度から考えてもな?」

「うん……フェイトちゃん、魔法使うの上手だったし……」

「元々、なのはちゃんとフェイトちゃんは、敵同士になる予定だったんだね?」

「まあね。敵っつうか、目的が同じだから、ぶつかり合うしかない……争奪戦だな」

 なのは&ユーノ対フェイト&アルフの、ジュエルシード争奪戦。
 
「で、それを続けていくうちに、ジュエルシードの暴発が起こる……ほら、フェイトが両手に怪我した事あったろ?」

「うん……せつなが、治してくれたんだよね」

「あれで起こった次元震で、管理局を呼び込んでしまう。つまり……」

「私たちアースラスタッフね? ……じゃあ、あのタイミングで私たちの介入は決まってたのね?」

「まあ、タイミング的にはほぼ同じ期間だと思いますよ? ……アースラがここを通るのは、ストーリーどおりでしたし」

 実際にクロノが介入してきたときは、もう最後だったけど、アニメではまだ少し残ってたはずだしね。
 管理局がジュエルシード回収に介入してきたとき、なのはは管理局に協力する。
 一方、フェイトは管理局に隠れながらジュエルシードを探し、ついに、強硬手段にでる。
 それが、海の中にある、六個のジュエルシード。
 あの竜巻連鎖のイベントである。

「ストーリーだと、フェイトとアルフだけであの竜巻に挑むところだったんだ。で、それを」

「クロノとなのはが助けに行くのね?」

 たしか、アリサの言うことは起こらず。

「いや、アースラは、これを静観。フェイトの魔力切れを狙ったんだと思う」

「「「えええええ!!」」」

「……そうね。それが一番効率的だわ」

「リンディさん酷いです!」

「あ、あう……私そんなに追い込まれるんだ……」

「まあ結局、なのはとユーノが命令無視で助けに行ったと思うけどね?」

「当たり前だよ! フェイトちゃんを放っておけないもん!」

「なのは……ありがとう」

 で、見事封印されるジュエルシード。
 けど、それはちゃんと回収されず、プレシアさんの広域雷撃魔法で、管理局側の不意をつかれる。

「て、ちょちょちょちょ!」

 いや、何だアリサ。
 可愛い鳴き声だな。

「え? なんで? 何でプレシアさんが!?」

「ああ、フェイトにジュエルシード探索を命じているのが、プレシアさんだからな。もはや、なりふり構ってられなくなったんだろう」

「……母さん……」

 フェイトには可哀想だけど、ストーリー上では、この流れだったと思う。
 で、その後に起こるのが。

「なのは、『海の上の決戦』のファイル」

「あ、うん。レイジングハート?」『fail load』

 手持ちのジュエルシード全てをかけた、なのはとフェイトの一騎打ち。

「あらあら……二人とも、凄いわね……本当に八歳の戦い?」

「まあ、アニメでの脚色も含まれますが、順当に行けばこれくらいはできますよ」

「ああ! なのは捕まった!」

「……フェイトちゃん容赦ないなぁ……で? せっちゃんはなにニヤニヤしとるん?」

「ん? もう直ぐ魔王降臨シーンだからな。な~? なのは~?」

「にゃ、にゃぁぁぁ……」

 映像は進む。フェイトの攻撃を防ぎきり、反撃に移るなのは。バインドに捕まるフェイト。MADなので、BGMは明鏡止水のあのテーマ。

【受けてみて! ディバインバスターのバリエーション! これが私の、全力全開!! スターライト・ブレイカァァァァァァァァ!!】

「「「「ま、魔王……」」」」

「みんな酷いよ!」

「ほ、本来なら、私があれ受けるんだよね……」

 フラグ潰したから、イベント来なかったけどね~。
 で、堕ちるフェイト。そして、映像終了。

「まあ、これでフェイトは保護され、今度は時空庭園の攻防に移るわけだけど、その前にネタ晴らし」

 フェイトは、アリシアのクローンであり、今回の事件の首謀者が、プレシア・テスタロッサだと知らされることになる。

「てぇ! 待ちなさいよ! じゃあ、何? それがアニメで……ここにいるフェイトは!」

「……うん、間違いないよ。私は、アリシアのクローン……母さんが手がけた、プロジェクトF……人造魔導師計画の最初の作品。……最初の、人造魔導師だよ」

「そ、そんな……フェイトちゃん……」

 まあ、普通に違法研究で犯罪なんだが。
 注がれる視線は、母さんに向けられる。

「……? えっと、何かしら?」

「ああ、母さん知ってるから」

「「「「ええええええええええええええ!!」」」」

「そ、そうなの?」

「おう。みんなの説明の後、裏事情は全部ぶっちゃけた。……まあ、その上で、母さんスルーしてくれてるから」

「本当は、駄目なんだけど……せつなの初めてのお願いだからね?」

「……あ、ありがとう……ございます……」

「ほら泣くなー? 泣いて欲しくて、俺頑張ったんじゃないんだぞー?」

「うん……でも、嬉しくて……」

 まあ、これは、少し置いとくとしよう。
 話は本編に戻る。
 ジュエルシードを使って次元の壁を越えようとするプレシアさんと、止めようとする管理局で攻防が起こる。

「まあ、そのシーンぜんぜん見てないんだが」

「ちゃんとチェックしなさいよ!」

「仕方ないだろ。俺は放映終了後から入った人間だぞ?」

 バイトで時間合わなかったんだよ。
 もっと言えば、三期のほうが好きだったし。

「で、最終的に、プレシアさんは虚数空間の穴に落ちて、アルハザードに向かうことになる……辿り着くかもわからない、無間の闇の中に、アリシアの遺体を連れて……ね?」

「無茶するわね~。行ける筈ないじゃん。行けたとしても、アルハザードに死者蘇生技術なんてないのにねぇ?」

 やっぱりお前も知ってるのかクラウン。
 後、その情報はパラディンに聞いてるから知ってる。

「残されたフェイトは、首謀者に利用されていたってことで、アースラで保護され、軽い刑になるように裁判に向かう。で、なのは。『二人の約束』ってファイル開けてみ?」

「あ、うん」

 映されるのは、幼いなのはとフェイト。
 一時のお別れのシーン。

【分かったことがある……友達が悲しいと、自分も悲しいんだ……】

【フェイトちゃん……また、会おうね……】

「……うう、二人とも、よかったねぇ……」

「でも、こんなシーンだけ流されても、前後がないと分かり辛いわよ」

「悪かったな。でも、綺麗なシーンだろ?」

「……それは認めるけど」

 で、何故か恥ずかしがってるぬことワンコ。

「あ、あう……じ、自分じゃないのに、凄く恥ずかしいよ……」

「あ、あれだね? 学芸会の演劇、自分の出番をビデオで見せられてるみたい……」
 
 むう、的確だな。

「これが、ジュエルシード事件における話の顛末……本来の、ストーリーだ。結構いろいろはしょったけどね?」

「ちょいまち! あたし出てないやん!」

 当たり前だたわけ。

「お前の出番は第二期。『リリカルなのはA's』からだ。第一期に、お前の出番はない!」

「がーーーーん!?」

 そんな、オーバーリアクションとらんでも。
 ……まあ、とりあえずは一期の解説終了。
 
「じゃあ、まず、ここまでで質問は?」

「はい! あたしとすずかの出番は!?」

 残念!

「日常シーンしかありません。……本当は、第一期中に、なのはが魔法少女だってばれるイベントは起こらないんだ。だから、アリサとすずかは、思い悩むなのはの後押しをするって役柄で、ストーリーラインにはほとんど絡まない」

「ほんとにサブキャラだったんだね……」

 さーせん。

「ちなみに、この後の二期でも同じ扱いだぞ? 最後のほうにちょっと出るだけで」

「むきぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 いやぁ、マジすいません。
 文句はアニメスタッフに言ってくれ。

「他に質問がないようなら、二期の解説に行くぞ?」

「あたしの出番やね?」

「でも、どちらかといえば、出演回数ははやてより守護騎士のほうが多い」

「がぁぁぁぁぁぁぁん! うちの子らに出番とられるなんてぇぇ!」

 さて、第二期『A's』の解説に行こう。

「まあ、確か時節は十二月前後だな。ほとんど公式ホームページのストーリーダイジェストからの知識だが」

 まず、なのはがヴィータに襲われる。
 闇の書に魔力を蓄える為、守護騎士が魔導師を襲っているからだ。

「てぇ! ちょいまち! 何でうちの子らがいきなりそんなことしよるん!」

「ああ、お前の為だよ。闇の書の概要は、最初に話しただろ?」

 ……闇の書。S級ロストロギアで、破滅と転生を繰り返す、古代ベルカの遺産。
 主になったものには、その手足として働く守護騎士が与えられ、闇の書の完成のため、魔力を蒐集する。

「……そ、そうやったな……ほとんど忘れかけよった……魔力蒐集せずに放っておくと、主の魔力を吸い上げて、死に至らせるんやったな?」

「忘れんなよ……まあ、それを防ぐ為に、主に内緒で、魔力蒐集を始めた結果、なのはが狙われたってわけだ。海鳴市内で、一番の魔力持ちって言ったら、なのはしかいないしな?」

「か、必ず襲われるんだね、私」

 勿論、闇の書は管理局が追っているロストロギアのひとつ。
 丁度、裁判もほぼ終わり、なのはに会いに来ていたフェイトが戦闘に参加、闇の書探索の任に、アースラスタッフが就くことになる。

「確か、最初の接触で、レイハ姐さんとバルディッシュが破損して、そのときにカートリッジシステムを組み込むことになるんだ。……こっちの世界では、結構遅めに組み込んだけどね?」

「その事件がなかったから、組み込む必要がなかったもんね?」

「まあ? 俺の知らないうちに組み込んじまったみたいだけど?」

「「あはははは」」

 本当にいつの間に組み込んだんだか……まあともかく。
 臨時司令部を海鳴のマンションに移し、そこに住む事になったハラオウン家とフェイト。
 ついでに、フェイトは聖祥小学校に転校を果たす。

「……えっと、じゃあ、私、リンディさんの……養子になってたんだ?」

「二期が終わった後にね? それまでは、正式には養子になってなかったよ。まあ、保護観察の担当官が、リンディさんだったって訳」

 俺がその位置に今いるのが、いろいろ動き回った結果なんだろうけどね~。

「で、闇の書の守護騎士と管理局の攻防は続くんだけど、その中で、別の要素が入り込む。守護騎士に味方する勢力が現われるんだ」

 ここからは、グレアムさんの話を聞いたことによる、脳内保管。もしくは、考察。
 多分、この時期あたりに、グレアムさんの手勢が介入するはず。

「……その勢力は、何の目的で? 闇の書が完成されても、破壊を撒き散らすしかできないのに」

「そのまんまです。闇の書の完成を目標に動くんですよ。……管理局の邪魔をしながらね?」

 そして、とうとう、闇の書の主がばれる。
 主の名は、八神はやて。足に障害を持つ、なのは達と同年代の少女。

「ばれるきっかけって言うか、元々、はやてが一番最初に友達になるのが、すずかなんだ」

「私?」

「すずかは図書館よく使うだろ? はやても、暇があったら図書館通って、本読んでるよな? ……俺がいなかったら、その図書館で、二人が友達になるわけだ。で、それをアリサに聞かせ、そして、なのは、フェイトにも教えて……」

 はやてが入院したと聞いて、見舞いに行く。
 最初は予告済みだから、ニアミスせずにすんだけど。

「丁度クリスマスのときに、予告なしで見舞いに行ってしまうんだわ。……で、その病室に、いるわけだ。守護騎士たちが」

 主を守る為、なのはとフェイトに襲い掛かる守護騎士。

「なのはー? 『あくまちなのは』ってファイル開けてみー?」

「す、すっごく嫌な予感がするの……」

 なのに開けてしまう君が好きだよ。
 場所はビルの屋上。守護騎士を説得しようとするなのは達。
 それを、強襲するヴィータ。

【もうすぐ……もうちょっとで、終わるんだ! だから、だから……てめぇら! 邪魔すんなぁぁぁぁぁぁぁ!!】

「……ヴィータ……」

 燃える屋上……しかし、なのはは無傷。後ろに流れるは、東方不敗のテーマ曲。

【あ、悪魔め……】

【悪魔でもいいよ。悪魔らしく、話を聞いてもらうんだから!】

「「「「……やっぱり魔王」」」」

「せつなちゃぁぁぁぁぁん! みんながひどいよぉぉ!」

「よしよし……みんな酷いねぇ。こんなに可愛らしい魔王なのに」

「うわぁぁぁぁぁぁぁん! せつなちゃんの意地悪ぅぅぅぅぅ!」

 ぬこをなだめながら、話を続ける。
 守護騎士たちとの決戦最中に、突如割り込む第三勢力。守護騎士を闇の書に吸収させ、はやてをその現場に召喚する。
 主に、家族たる守護騎士が消えるところを見せ付け、闇の書を意図的に暴走させる。

「そんなことを……何の為に!?」

「首謀者は、闇の書の完全封印を目的にしてたみたいですね。自壊が始まる一歩手前まで暴走させて、強力な氷結魔法で永久凍結。そのまま、誰の目も届かないところに、封印しようと企んでたそうです」

「……せ、せっちゃん? そんなこと企んどった人に、あったことあるんか?」

「お前も何度もあってる。……母さんは、分かります?」

「……!? まさか! グレアム提督!?」

「ビンゴ」

 本人から確認は取った。
 そのために、はやての生活支援を名乗り出て、闇の書が発動するまで、その生活を支えていた。
 ……そのときに、はやてを生贄にするために……せめてもの、罪滅ぼしをするかのように。

「……そんな……嘘や! そんなん嘘や!」

「本人から、計画の概要は全部聞いた。……完全に、管理局法違反だけど、そうしてまで、闇の書を憎んでいたんだ……」

 聞くと、母さんの夫である、クライド・ハラオウンの乗った船を、闇の書ごとアルカンシェルで消滅するように指示したのが、グレアム提督だったらしい。
 その時から、この計画を立てていたそうだ。

「ああ、グレアムさんには、もう制裁済みだから、許してやってくれ」

「せ、制裁済みって……あんた何やったの?」

 決まってる。

「全力でぶん殴った」

「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」

「魔力ブーストありで全力の右フック。……しばらく顔が腫れて、外に出れなかったといっていたな」

「せ、せつな……本当に無茶するね……」

「たりめーだ。あんな穴だらけの計画聞かされて、はやてを生贄? ざっけんな。俺の妻になにしてくれとんねんって話だ」

「せっちゃん……」

「おまけに、保険としてロストロギアを用意したはいいが、使い方も分からないただの伝承だけのもので。ふたを開けてみたらまったく違うものだったしな。……まあ、パラディンの事だが?」

【彼は、私を闇の書を封殺する手段として使おうとしていました。さらに、その手段で、使用者を死に至らしめることを知っておきながらです……まあ、そのレポート、思いっきりでたらめだったんですけどね?】

「せつなちゃんまで生贄にしようとしてたんだね、グレアム提督……」

「優しそうな人なのに……」

 まあ、優しいからこそ、闇の書の被害が広がるのを防ぎたかったってことだろうけどな?

「まあ、そういうわけだから。できれば、グレアムさんを恨むな。……ぶん殴った後、説教かまして、罪滅ぼしのために夜天の書の所持に協力してもらったから」

「せっちゃんなにしとん!? そこまで手ぇ出しとったんか!?」

「ど、通りで対応が早いと……しかも、グレアム提督に説教……無茶するわ……」

 あっはっは。さらに大嘘こいて、脅しもかけたしね?
 ……まあ、部隊設立の協力仰いでそれの言質とったあと、嘘だって教えたけど。

 ……うっかり教えちゃったんだよね。
 次元航行技術の件は、どうなったかね? とか聞かれて、普通に「ああ、あれ? 嘘ですよ?」とか言っちゃったし。
 言った後、「あ、やべ」とか思ったのは内緒。
 あの時の間抜け顔は、本当に忘れられない。
 俺の言葉の理解に数分掛かり、理解したと同時に大笑い。
 殴られるか、協力拒否されるかと思ったが、その大胆さと豪胆さを評価され、全面的に協力してもらうことを約束した。

「と、じゃあ、話を戻して。それで、暴走した闇の書を止める為、なのはとフェイトが挑みかかります。その間、グレアム提督の企みは、クロノ兄さんが暴いて、計画を中止させるんですけどね?」

 一番気づく可能性の高いのが兄さん。
 だからこそ、兄さんにデュランダルが手渡されるんだろう。

「ああ、ここでようやくすずかとアリサがストーリーラインに乗る。……つっても、結界内に取り残されて、救助しに来たのがなのはとフェイトってだけだが」

「よ、要救助者のチョイ役!?」

「それで、二人が魔導師だって分かるんだね?」

 そして、結界外に出されて出番終了。

「なによそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 だから俺に文句を言うなと。

「それで、あたしはどうなるん!?」

「ああ、そこで、あの閉じ込める闇の中のシーンだ。……お前は、自力で抜け出せるんだよ。夢の中にいても、幸せにはなれないと、知ってるからな。お前は」

「……ああ、そうなんか……『せやけど、それは、ただの夢や』……せっちゃんは、それを、知っとったんやな……」

 闇の書からリインフォースと共に抜け出すはやて。
 再召喚される守護騎士。
 自壊を始める、闇の書の、闇。

「で、その闇の書の闇を消滅させる為、今まで戦ってきたものが力を合わせ、それに全力攻撃を仕掛けるわけだ……なのはー? 『闇の書の闇戦(ブレイブ)』流してー?」

 ……? なのはー?

「ま、また、私魔王って言われない?」

「ああ、だいじょぶだいじょぶ。……むしろ、闇の書の闇が可哀想になってくるから」

 警戒するとか……怯えた顔も可愛いぞなのは。
 再生すると、まずは姿を現す闇の書の闇。

「まあ、これに掛かっている四重のバリアを破壊し、動かないように縛り付け、本体コアがでてくるまで全力攻撃。宇宙空間に本体コアを強制転送して、アルカンシェルで止めって作戦だ」

 まずはヴィータとなのは。

【轟天爆砕! ギガント! シュラァァァァァァァク!】

【エクセリオンバスターー! ブ・レ・イ・ク・シューーーーーーート!】

「ヴィ、ヴィータ凄いわね……てか、質量保存はどうなってるのよ!」

「そこは突っ込んじゃいけないところだと思うよ……」

 続いて、シグナム、フェイト。

【駆けよ! 隼!】

【轟け! 雷神!】

「二人とも、かっこええなぁ~」

「うんうん! ……でも、この曲どこかで……?」

 さらに、ザフィーラが援護。
 そして、はやて。

【石化の槍! ミストルティン!】

「こんな術式もあるんだね……知らなかった」

「広域石化なんて、普通に使わんからな」

 再生を繰り返す闇の書の闇。
 詠唱を終了させ、構えるはクロノ。

【凍てつけぇ!】【Eternal Coffin】

「「「「「おお! クロノ君が活躍してる!!」」」」」

「兄さんの活躍フラグ、全部潰したからなぁ……」

「クロノ、不憫な子……」

 そしてとどめはやはりこの三人。

【全力全開! スターライトぉーーーー!】

【雷光一閃! プラズマザンバぁーーーー!】

【ごめんな……おやすみな……響け! 終焉の笛! ラグナロク!】

【【【ブレイカーーーーーーーーーー!!】】】

「……こ、これは酷い……」

「ああ! わかった! この曲、あの竜巻のときに流れてた曲だよ!」

「そうやね。まあ、流したんは……」

「せつなだね……?」

「うるせーな、楽曲データあったんだよ。闇の書戦をつぶしちまったから、代わりだ代わり」

 さーせん。
 で、本体コアが露出し、ユーノ、アルフ、シャマルさんが宇宙空間に転送。
 アルカンシェルを準備するアースラスタッフ。
 発射キーをまわす、リンディさん。

「あら、私ね? ……えっと、なんか三割増し可愛いような……」

「自分で言うんすか……まあ、アニメ効果で一つ。……実物もえらい可愛いけどな~?」

「何か言ったかしら?」

「いーえ、別に?」

 膨大なエネルギーを受けて、消滅する本体コア。
 作戦終了を告げるエイミィさん。
 そして、三人のハイタッチで、映像終了。

「……まあ、こんな戦闘があってね? 闇の書の闇は消滅。はやての体の問題は、解決したって訳だ……けど」

「けど……なによ? このままハッピーエンドでいいじゃない!」

「そうも行かないんだ。……今の、防衛プログラムでね? 闇の書が存在する以上、また、修復する可能性がある」

 十年以上先か。それとも、すぐにでもか。
 その危険があるため、闇の書は、消滅させなくてはならない。
 ……そのために、

「リインフォースが闇の書の全システムを背負って、消滅するんだ。守護騎士プログラムを切り離し、はやてに、レアスキル『蒐集』を授けてね?」

「……そんな……」

「これはね? 仕方のない別れなんだよ……このストーリー上では。仕方のない、悲しい別れ」

 雪の町に、リインが光に解け、残ったのは、シュベルトクロイツのストレージだけ……

「で、時間は飛んで六年後……まあ、今時分……来年当たりだな? なのは、フェイト、はやては、管理局に入局。今も、魔法少女、続けてます……ってことで、第二期は終了となるわけだ」

 第二期解説終了。
 つかれた~。

「……何か、両方とも悲しい別れがあるね? ……どうしてだろう」

「ああ、そんなの決まってる。『世の中は、こんなはずじゃなかったことだらけだ』」

「……せっちゃんが、刹那さんが死ぬ間際に言った台詞やね……」

「本来は、クロノ兄さんの台詞なんだ。こんな筈じゃなかったのに、どうしてこうなったんだと……そんなことが、俺らの人生のすぐ隣に転がってる。それに躓くか、上手く避けられるかは、そのときになって見ないと分からない」

 悲しい別れは、それに躓いた結果だ。
 こんな、はずじゃなかったと。

「でも人は、それに押しつぶされずに、前に歩いていかなきゃいけない。そこで転んだままだと、何もできない……それを教えるための、アニメーションを作ったんだろうよ。スタッフさんはね?」

 まさか平行世界に、その世界があるとは思いませんでしたけどね!
 ホントにこんなはずじゃなかったよ、まったく!

「せやったら、せっちゃんは躓いた先のこの世界で、前に歩いた結果……あたしらを救ってくれたんやね?」

「……ま、ね? 正直、ノーロープバンジーもいいとこな賭けだらけだったけど」

 アリシアを救う方法があるとは、思いもよらなかった。
 闇の書を、完璧に直せる保証なんてなかった。
 時間逆行を試す、勇気なんて、本当はなかった。
 取り残されたときは、本気で絶望した。
 ジュエルシードを全て集め終え、リンディさんたちに、分かってもらうときには、凄く緊張した……

「まあ、この二つの話分、なんとか、悲しい別れを体験させずに、終わらせて、よかったと思うよ」

「せつな……」

「せっちゃん……」

 俺が頑張ったお陰で、恩恵を受けたのは、フェイトとはやてだろう。
 恩を売るつもりはなかった。泣いてほしくないだけだった。
 ……でだ。

「一番割りを食わせてしまったのが、なのはだな。……すまん」

「ええ!? な、何で謝るの?」

「ああ、俺が走り回ったせいで、お前の成長を妨げる結果になってしまった……本来のルートなら、この二つの事件を通して、今頃は『エースオブエース』と呼ばれるほどの、魔導師になってたはずなんだ。……けど、その成長を、俺が阻害した。……さらに、お前だから大丈夫と、そのフォローを怠った。これは、俺のわがままの弊害だ……すまん」

 後悔はしていない。
 振り返りもしない。
 ただ、謝罪だけ。

 そして。

「その分、お前を守るから。なのはが成長する、糧になるから。これからも、俺を頼って欲しい。……なのはを、お前達を守らせて欲しい」

 さらに重ねる、俺のわがまま。

「……うん! お願いね? 私も、もっと頑張る! 一緒に、歩いていこう?」

「その隣には、勿論私も一緒に居るから……そうだよね? せつな」

「あたしらもおること、忘れたらあかんで~?」

「本来のルートがなによ! 今は私たちも居るんだから。頼りにしなさいよ?」

「そうだよ、せつなちゃん。みんな、一緒だよ?」

「……ああ、そうだな。皆で、歩いていこう……」

 長い人生を。
 笑いながらね?





 ……ところで。

「何をジト目で見てやがりますか、母さん?」

「ん~? まあ、その、第二期までの本来の事情と、あなたがやってきたことはわかったんだけど……」

 はい?

「……ねえ? テッサさんたちは、出てこないの?」

 ……おお。忘れてた。

「じゃあ、つづいて、この世界と俺の世界で放映されていた、リリカルシリーズの相違点だ。……まあ、言ってしまえば」

 びっくりな話だけど。

「『リリカルなのは』に、ミスリルなんて組織、出てきません」

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

「おそらく、テッサたちもイレギュラーだと思う。何しろ、アームスレイブの存在すら、アニメや設定資料にも載ってなかったからな。……ちなみに、響介さんやゼンガーさんたちもな? リリカル世界に、そういった人材や、名前は出てこなかった……ひょっとしたら、ストーリーラインに乗らなかっただけかもしれないけど。俺は知らないなぁ」

 つーか、ゼンガーさんたちは別の世界のパイロットで、魔導師じゃありませんでした。
 
「じゃ、じゃあ、この世界は、あなたの世界のアニメストーリーと、大きくかけ離れてる……?」

「俺が介入して離した事もあれば、いつの間にか離れてたこともあります。さらに言えば、追加ファクターもありますね……」

 言えば、もう、大きくかけ離れてる。
 でもま、ドクターは予定通り動くんだろうなぁ……

「そして、あんたは、未来に繋ぐさまざまな仕掛けを施してる……違う?」

 む、アリサが気付いたか。

「こないだからずっと思ってたんだけど、あんたは私たちの一歩先……いや、二歩、三歩、下手したら、十歩ほど先まで見て行動してる。そして、それらは確実にあんたの追い風になってる。……そんな芸当、未来を知らないと無理。つまり」

 コホンと、一息つけてから、にっと笑って問い詰める。

「『リリカルなのはストライカーズ』……第三期。これは、今より先の話ね?」

 ……おや。ばれましたか。
 てか、Dドライブ見たならばればれだよね~?

「オーケーアリサ、大正解だ。……それは、今から五年後に起きる事件を題材にした第三期。コンセプトは『魔法少女、育てます』。舞台は海鳴から離れ……ミッドチルダだ」

「じゃあ、ミッドで大きな事件が起きる……? せつな。話してくれる?」

 期待の目を向ける母さん。でも。

「残念だけど、ノーです。……なのは。そのファイル、開けるか?」

「……無理だよ。全部、壊れて見れなくなってる」

 だろうな。これは、パラドックスだから。

「未来を知るってのは、メリットとデメリットが激しいんだ。それに対する対策が取れることがメリット。それが、対策によって変化し、通常の未来を大きく変えてしまうのがデメリット。……さっき言った、なのはの件なんかがそのデメリットに当たるよな?」

 ふふふ、早めに気付けてよかった。
 なんかあってから気付いたら、俺自身を許せないからな。

「じゃあ、あなたの口から話すのも、駄目?」

「駄目ですね。……人の口を通すと、細部が歪んで伝わる。一つの言葉で、六人分個人個人の捉え方がある……」

「あたしらの行動を制限してまう可能性もあるわけやね?」

「そうだ。……それに、俺が結構動いたせいもあって、もう、俺の知ってるような話になる自信がない」

 事件自体は起こるけどな、確実に。

「……分かった、それじゃあ、あなたが変えたこと……そして、追加ファクターというのも、教えてくれる?」

 まあ、それくらいなら。

「今日までの分なら、教えてもいいです。……明日の事からは、ちょっと言えませんが」

 さあて、時系列順にいくか。
 まずは。

「俺の存在は当然として、最初はゼスト隊全滅の件ですね」

「……せつなちゃん、クイントさんも死んでた可能性も?」

 そこは可能性じゃなく。

「んにゃ? ストライカーズ第一話の時点で、クイントさんはもう死んでた……可能性じゃなく、本筋では確定なんだ」

「嘘……じゃ、じゃあ、それを助けたカグヤも!?」

「つうか、俺がいなかったらカグヤもいないだろ? ……まあ、カグヤの件はびっくりしたな。本当なら、俺が直接行くつもりだったのに」

 もう、あれは奇跡だね。
 あんな状況で、かなり離れているのに記憶の共有とか……ありえねー。

「まあ、カグヤとリンクできたお陰で、クイントさんだけでも助けられた。……本当に、儲け物だったよ……」

 代わりに、隊長とメガーヌさん、部隊の皆は助けられなかった……
 ええい、終わったことにいちいち悲観するな!
 次だ次!

「せつなちゃん」

「大丈夫だよ、なのは。……間に合わないことだってあるんだから」

 それに、隊長とメガーヌさんに関しては、まだチャンスはある。

「その後干渉したのは……ああ、丁度なのはだな」

「ええ? 私?」

 そう、お前。
 
「お前がカグヤと会ったとき、かなりのガジェット投入されてただろ?」

「あ、うん。仕事内容に反して、多かったね」

 まあ、新型実験もあったしな。

「で、本来なら……お前、そこで墜ちてたんだ……光学迷彩ステルス機能付きのガジェットに腹貫かれてな?」

 背中からざっくり。
 青くなるなのは。他の子も、息を呑む。

「本当は、俺が行きたかったんだけど、仕事に追われてな……ちょうど、カグヤが向かってくれるってことになったから、あいつに任せた。……なんか、お前のピンチにぜんぜん駆けつけてやれてないな」

 それで守るとか、何様だ俺。

「……ううん。私、せつなちゃんに守られてるよ? カグヤちゃんが来てくれたのも、先日の響介さんも、せつなちゃんの想いを背負ってる。……私は二回も、せつなちゃんの意志に守られてる。……せつなちゃんは、やっぱり私の王子様だよ」

 が、ぐ、い、今言うべきことじゃないだろう……
 ほ、ほれ、みんなニヤニヤするな!

「へーほーふーん? そうか~なのはちゃんはロマンチストやなぁ~。……どう思いますか、すずかちゃん?」

「え? うん、いいよね、王子様。せつなちゃんが王子様……なのはちゃんいいな~?」

「く……な、何よ、なのは、結構恵まれてるじゃないのよ……」

「そうだね……なんか、なのはだけずるいよね……」

 なんか黒いオーラが漂ってきております。
 はっはっは……母さん引いてる引いてる。

「あーげふんげふん。……まあ、こっちじゃ助けられたけど、本編では見事に大怪我おってな? 下手したら、二度と空飛べない……魔導師生命が終わりそうな大怪我だったんだ。……まあ、結局は半年のリハビリで、無事現場に復帰したけど」

 こういうと、ホントなのはって凄いよな~。
 不屈のエースは伊達じゃない。

「……あ、それで、さっきのなのはの弱体化の話に戻るんだ」

 お、今度はフェイトか。
 鋭いぞ?

「そう、本編は結構強めの設定のなのはだけど、こっちのなのはは全体的に弱めだ。まあ、アニメみたく無理ばかりして疲労溜めてるってことはなかったけど、その状態で、同じ大怪我を負ったら……」

 たぶん、おそらく。
 きっと、なのはの翼は、もぎ取られ、空は飛べないだろう。

「そう思うと、俺、自分がしたこと、間違えたんじゃないかって、いつも考えるよ……もっと、やり方があったんじゃないかってな? ……まあ、後悔はしないつもりだけど、こればっかりはな……」

 これも、先を知ってるものの苦悩だ。
 知らなくても、後悔はするだろう。
 何であのときに、上手くできなかったんだろうと。
 ……考えても仕方ないけど。

「……せつな、本当にみんなの事を見てるのね……なのはさんの事も、はやてさんの事も。フェイトさんや、すずかさん、アリサさんの事も、しっかり見てる。……本当に、『友達』思いなのね?」

 何故友達に力を入れる?

「当然ですよ。俺の『嫁』達ですから」

 彼女たちからすれば、旦那様でも可。
 後、いちいち睨まんでください。女の子の方が好きなんじゃー。

「えっと次は……部隊立ち上げの件か。まあ、俺がいないからこれはなかったはずだよな~」

 当然、ミスリルがないから、テッサたちも参加できません。

「え!? てことは、オリハルコンは追加ファクターって訳?」

「むしろ、これは六……いや、はやてが立ち上げる予定だった部隊の代わり」

「はえ!? ……あ、せやな。せっちゃんおらんのやったら、部隊立ち上げるんあたししかおらんな」

 あぶね、六課言いかけた。
 
「しかも、立ち上げ時期かなり早めだしな。二年前から準備し始めてんだから」

 本編では、準備は来年からである。
 しかも、カリムの予言あってこその機動六課だから、予言なしではやてのコンセプトで作ろうと思えば、これくらいから準備しないと本編第一話に間に合わねえ。
 結構無茶しました。やばい橋も渡っております。
 ……裏事情全部ばらすと、なのは達に泣かれること請け合い。

「なお、はやてが部隊立ち上げとなったら、はやてが考えたメンバーどおりの部隊になってたけどな……流石に、平均年齢三〇歳以下の部隊なんて俺が認めねー」

「……確かに、若すぎるわね、それ……」

「え、えっと……ほ、ほら! ヴィータたちおるやん! 結構長生きやねんで?」

「アホかい! プログラムに年齢が適用されるか! ……現場たたき上げの、実力者がいない、新人だらけの部隊、よっぽどの事がないと立ち上げなんか無理だっつーの……」

「……じゃあ、ひょっとしてその部隊、試験運用が目的……?」

「え!? リンディさん、それって……試験運用だけしかしないってことですか!?」

 うぉう。ばれた。
 
「そうでないと、せつなの言ったとおり、上に通すことは難しいわ。……長期継続運用を見越さずに、試験運用のみに重点を置いた、育成オンリー……その、第三期コンセプト『魔法少女、育てます』にふさわしい部隊ってことね?」

「ビンゴ! 実質、その部隊は一年で解散します。……もったいない」

 そのために使われる運用資金の事も考えてやってください。
 予言対策のみに立ち上げられる部隊って、すげぇ金の無駄遣い~~。
 さらに、襲撃で部隊舎大破するわ、スタッフも怪我するは……うう、機動六課の台所事情見るのが怖い。
 アニメ本編事務員さん、乙です。

「まあ、そんな部隊をはやてが無理して立ち上げなくとも、早めの段階で核となるものを立ち上げて、それに随時好きな人材を組み込んでいくほうが、やりやすいって思いましたしね? ……まあ、ATなかったら、もっと遅くなりましたけど」

 ATデバイスも追加ファクターの一つ。
 あれなかったら、中将の協力もぎ取るのは難しかった。
 プレシアさんがいなかったらできなかったアイテムでもあるから、俺のやってきたことは、間違いではなかっただろう。
 うむうむ……まあ、ちょっと殺しかけたなんて、言えんよなぁ……接触当時。

「……せっちゃん、ほんまありがとな? あたし、まだまだ修行不足なんやなぁ……」

「かといって、俺もまだまだだしな? 高々十三、四年しか生きてないんだから、修行不足は当たり前……ベテラン様には勝てませんってね? ね? 母さん?」

「……そ、そうね……みんな、まだまだなんだから、これからも頑張りなさいね?」

「「「「「はい!」」」」」

「ち、うまくスルーしたか……」

 最初、予定していたメンバー表ははやてとほぼ同じだったリンディ母さんの激励でした。マル。

「後は、ちょっとしたフラグ回収か。未来に会う人で、トラウマ持ちや、過去に家族死んでるって人を助ける為にちょっと動いたくらいっスね」

「たとえば?」

 聞くなよすずか……まあいいけど。

「まずヴァイス兄貴。立て篭もり事件で妹人質とられて」

「あ、シグナム言いよったで? せっちゃんが犯人気絶させて無事救出された……ほんまは、無事やなかったんやな?」

「そう。ヴァイスさんが誤射して、妹さんの目を失明させてしまうんだ。それで、ヴァイスさんは武装隊から身を引くってイベントだったんだけど」

「あんたそんな細かいことまで手を出してるのね……」

 いや、

「兄貴には悪いけど、あれホントは棚ぼたなんだよな」

「ええ!? じゃ、じゃあ! 助ける気なかったの!?」

「いや、忘れてた。……そんな目で見んじゃない! 膨大なストーリー量とバックボーン全部覚えてられるか!」

 証拠に、ルールー取りこぼした。
 クイントさん生存に気をとられて、気がついたときにはルールーいないんでやんの。
 やっちまったー!

「次はティーダさんだな。……ティーダさんも本編開始時には、既に故人だった」

「確か、妹さんがいるのよね? じゃあ、その子のトラウマに?」

「そ。ティアナって言うんだけど、死んだ兄の意志を継ぐ為、管理局に入局……んで、はやての部隊に入隊って流れになる」

 これ以上は蛇足になるが、そのトラウマが、兄の魔法は役立たずじゃないってことを証明する事。
 ティーダさんも幻術使いだし、確かにうまく使えば一級の魔法だけど……幻術って、あくまでサポート魔法なんだよね。
 自分が決定的な一撃を生み出せるのならともかく、そうでないなら、仲間を連れて行くのが普通。
 だのに、一人で犯人追って、返り討ち喰らうのは当然っちゃ当然の結果なんだよなぁ。
 まあ、死んだ人間に悪く言う馬鹿も馬鹿だけど。

「……じゃあ、せつなちゃんは、その子とも合ったんだね? ……可愛いの?」

 何で黒オーラ発してますかすずかさん?
 触発して他の子も!?

「あ、ああ、まあ、可愛いぞ? ……そっだな。未来のツンデレ要員」

「「「「なるほど」」」」

「なんで納得すんのよ! そしてあたしを見るな!」

 おお、初代がお怒りじゃ。
 
「まあまあ、妹みたいなものだから、そんなに怒るな……実質、俺にはツン入らないし」

「あたしの頭を撫でながら言うな!」

「うーんナイスツンデレ。やっぱりアリサは可愛いなぁ」

「が! ぐ、ぐぅぅ……ふ、ふんだ!」

 ふふふふ。そっぽ向くその仕草がよいのだよ。
 やはりアリサはよいツンデレ。
 うちのアリサは世界一ぃぃぃぃぃぃ!!

「ふふ、アリサちゃん嬉しそう」

「さて、じゃあ次だ。ラストになるかな。エリオの件も変えた事になるな」

「エリオも……?」

 こっちではカグヤが救出して、母さんの息子になったエリオだが。

「本来なら、最初から最後までフェイトが全部やって、フェイトが保護監督者になるんだ。……だから、あの時お前と母さんでエリオに選択させたろ? ……まあ振られたけど」

「うう、私の弟になる予定だったんだね……せつなの意地悪」

「むしろ息子だ」

「未婚の母!? さらに未成年なのに!?」

「いやぁ~本編のあれは、さすがリンディさんの教育受けたほどはあるってくらいの溺愛っぷりだったが」

「あ、せつながいなかったら、フェイトさんが私の娘になるのよね……フェイトさんの方がよかったかも」

「泣くぞ! 泣いて押し倒すぞ!」

「押し倒さない! ほんとに鬼畜になって……まったく……」

 諦めろ、中身は男じゃ。
 話を元に戻して。

「まあ、俺のフォローもないから、実験は結構なところまで進んじゃって、エリオ一時期人間不信になるんだわ。それをなんとかするのがアニメのフェイトの役目。……そこを取っ払ってスムーズにフェイトに懐いてもらおうと動いたんだが……まさか、カグヤが動くとは思わんかった」

 しかも、ドクターの差し金。
 利権料の取り立てとはよく言う。
 要するに、嫌がらせじゃねぇか。
 『何、人の研究をつかっとんじゃゴラァ!』ばりに。
 
「で、エリオは無事に母さんの息子、俺の弟になりました、と。すまんフェイト。お前の母親フラグ一つ潰した」

「……い、いいよ。エリオが無事に助けられて、今、幸せに暮らせてるんだから……せつなのお陰だよ」

「や、しかし、こんなインチキ知識使って、フェイトの裏をかくような真似を……」

「気にしちゃ駄目。……エリオの事を思って、してくれたことだよね? なら、せつなは間違ってないよ」

 ……そ、か。間違ってないか……
 力強く、微笑みながらそう言ってくれたフェイトに、本当に感謝。
 くぅ。キャロちゃんはお前に預けるからなぁ……プレシアさんに影響されて、マッドになったらどうしよう。
 いやいや、キャロに限ってそんなことは……でもアリシア、プチマッドなんだよなぁ……

「……しかし、ホントあんた色んなことしてるわね。今後の予定で話せる事あるの?」

「ん~? ……まあ、大雑把な忠告だけ。来年前半は注意しといて。特にオリハルコン関係者。……ちょっとした災害一件起こるから、それを早期制圧したい。なのはとフェイトも、できればその時期は気をつけといて? もしかしたら頼むかもしれない」

「わかった。頑張るよ!」

「まかせて。……でも、その時期は、もう少し限定できないの?」

「すまん、前半だってことは分かるんだけど、詳しい日時まではちょっと……」

 本当はできる。
 おそらく、五月の連休時期。
 はやてのところに遊びに来るときだから……て、そのときはもうオリハルコンの部隊にいるのか、はやて。
 ……まあ、確実にその日ってわけじゃないから、出せる情報はここまでだな。

「……後はないかしら?」

「ないですね。俺が話せることは以上。……すまんな、みんな。俺のわがままで、お前らの運命、大分捻じ曲げた」

「いいよ。それで、せつなちゃんの力になれるんだから。ね? アリサちゃん」

「そうよ。本来なら、あたしたちはただの大学生でしょ? ……こっちの生活のほうが、よっぽど面白いわ」

「せっちゃんのおらん人生なんて、今のあたしには考えられんわ。……今更、謝らんといてぇな」

「私やはやてはせつなのお陰で、大切な人を失わずにすんだ……もう一度言うよ。せつなは間違ってない」

「うん。せつなちゃん。もう、せつなちゃんはこの世界に大切な一人だよ。……そして、私たちにも」

 ……はは。有り難いことで……
 この世界で頑張ってきて、本当によかった……
 ……まあ、感傷するには、まだ早いけどな。

「ありがとな、みんな」

 みんなに会えて、本当に、よかった。



[6790] L25.新難題ロストロギア 五日目おまけ
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/05 19:35

 で、終わってたらよかったんだが、パートⅡ。

「じゃあ、皆、今日は私の家に泊まりなさいな。もう時間も時間だし」

「あ、いえ、ここでいいです」

「て、おいおい。個室だぞここ。床なんかに眠らせられるか」

 女の子なんだから。
 布団持ってくるわけにもいくまい。ここ病院。

「……寝かすわけ、ないじゃない」

 ……アリサさん? なんか怖いっスよ?

「なのは? あんた、せつなのDドライブ、全部移したって言ってたわよね? ……て、ことは、あの、え、エッチな画像も……」

 ぎぃっくうぅ!!
 ま、まさかそんな!!
 嘘だと言ってよなのはさん!

「えっと……レイジングハート? 『リリカルなのは・H』のフォルダ。開いて表示」

『……yes master』

 いやぁぁぁぁぁぁぁ!!
 や~~~め~~~て~~~!!

「うわぁ~~~~。これ、なのはちゃん? ……え、えっちぃなぁ」

「絵柄はばらばらね……あ、これフェイト? ……うわ、エグ」

「あ、アリサちゃんだ……ちょっと、酷いね、これ……」

「わ、私と、なのはの多い……あ、あう……」

「せつなちゃん? ちょぉぉぉぉぉぉぉと! 砲撃しようか?」

 砲撃って言った!?
 まてまてまて!

「し、仕方ないだろう! 向こうでお前らが実際にいるなんて知らなかったんだから! こ、これぐらい、お、男なら、ふ、普通だと思うんだよもん……」

 健全な男の子だからね!
 ……あ、あれ? あのフォルダは!?

「どれどれ~? 『リンディさんドキドキ個人授業』?」

 く、クラウン! それをあけるな後生だから!

「せっかくだからこの怪しいフォルダをあけるわよ!」

 開けんな! 後、シャドウゲイト自重!
 ああああああああああ!!

「……同人誌やんなぁ、これ。……しかも、リンディさんオンリー十八禁」

「わあ、リンディさん……凄い……」

 鑑賞会すんなぁぁぁぁ!

「……せつな……?」

 ひ、ひぃぃぃぃ!? や、夜叉が降臨なさっていらっしゃる!?

「……あなたたち? 今日は帰ってくれる……?」

「「「「「い、いえっさー!!」」」」」

 え!? 嘘!? 
 皆俺を見捨てる気かよ!?
 クラウンまで出て行くな!
 うわ、はや! せ、せめて援護くらい~~~!!

「……せつな……」

「うわぁはい!」

 顔を上げると……あ、あう、泣いてるし……

「私はね? クライドさんが死んでから、仕事と子育てに一生懸命生活して、誠心誠意、清廉潔白に生きてきたのよ? それなのに、あんな破廉恥な真似、私がすると思ってるの!?」

「だ、だから、あれはフィクションであり、実在の人物にまったく関係は」

「言い訳しない!」

「ごめんなさい!」

 泣きながら説教とか、原因がエロ同人誌だとか、前世の記録を何でこっちに持ってこれるんじゃとかは、言い訳にならないんだろうなぁ、この人には!
 俺が泣きたいわちきしょう!

「大体、あなたは女の子でしょ?」

「あの、心っつーか精神は男なんで、それを突っ込まれるのは、心苦しいんですが……」

「女の子なら、男の人と恋愛して、結婚するのは、当たり前で普通の事よね?」

「俺自身普通じゃないので、それは当てはまらないと思いますが……」

「だというのに、あなたときたら、女の子に手を出すなんて……おまけに、母親の破廉恥な妄想まで!」

「あれの作者は俺じゃないわ! ええい、だんだんムカついてきたぞ……実は俺の話、ぜんぜん信じてないだろあんた!」

「信じてるわよ! でも、それとこれは別よ!」

「一緒じゃぁぁぁぁぁ!!」

 わぁぁぁん! この世で女でも、心は男なんです~~~!
 前世の業を持ち越してるんです~~~~!
 後、平行世界のエロ同人誌を咎められても困るんです~~~~!!
 ええい、この恨みはやはり実行犯のなのはにぶつけるのが筋か!?

「確かに前世は男の人かもしれないけど、この世じゃ女の子なのよ? 同性愛なんて、非生産的よ? あなたの思考や考えに、背いているんじゃないの?」

「えっと、確かに、非生産的は認めるけど、愛情はそれすらも凌駕すると、せつなは力強く進言します」

 愛さえあれば性別の差など!

「世の中が否定するわ。あなたは、あなたの性癖は、間違ってる。お願いだから、母さんのお願い聞いて?」

「く、ならば仕方ない!」

 ……【刹那】

 性別転換して男の姿へ。

「……ふふふ、こっちの姿なら文句ないだろ? こっちで残りの人生暮らしたる。文句ある?」

「ちょ、待ってせつな! そしたら、あなた、この姿でスカートはくつもり!?」

「男と付き合うくらいなら、女装も覚悟の上じゃぁぁぁ!!」

「それはそれで変態さんだからやめてぇぇえっぇぇ!!」

 俺だって止めたいわい。

「じゃあ、どうしろと!? 本当なら、こっちのほうが俺にとっては自然なんですけど!?」

「……うう、お母さんを虐めないでぇ……」

 いや、そんなぼろぼろ泣かれても……

「虐めてるつもりはないから、泣かないで、母さん……」

「うぅぅぅ……」

 とりあえず、ベッドに座らせる。
 ちゃんと、相互理解は必要だから、説得する方向で……

「母さんは俺をどうしたいの? 俺、本当に男の人とは、付き合えないんだけど……」

「……どうしてなの?」

 そりゃ。ねぇ?
 
「男性意識をまだ持っている身としてはね? それこそ、同性愛の範疇になるんだ。男の肉質、汗の匂い、逞しい筋肉、そして、そそり立つ……それを、受け入れろと? 男の意識、人格を持つ俺が? 言うだけで吐きそうだよ、俺」

 今の俺は性同一性障害そのまんまだからな。
 女性の体に疑問は持たんが、男性を好きになる概念自体が違うと認識できる。

「反対に、女性には普通に恋愛感情は持てる。柔らかい肌、女性特有の匂い、ふくよかな胸に、その仕草、表情……まあ、男として、普通に反応するね。ドキドキする」

 ふふふ。自制しないと息子が反応してしまう。
 クラウンいい仕事しすぎだ。貴様はドクターか。

「……わ、私にも、ドキドキする?」

「する。……あ、やべ、言っちゃった」

 リンディさん好きなんですよ~~~!!
 前世では、ストライカーズ版なのはの次に好きでした。
 の、割には子供時代酷くツンデレだったが。

「……こ、子供のときは、私にその、冷たかったけど?」

「あれは、俺だけじゃなく、せつなの女性意識もあったから……女性意識のほうは、リンディさん苦手だったし」

 今でも苦手らしい。
 あの意地っ張り。

「カグヤさんね……カグヤさんは、ちゃんと男の人を?」

「いや、あいつは男嫌い。……前世の俺の記憶見ちゃって、トラウマ持ちに……それに、十一年間俺と一緒だったせいか、思考が男っぽく……」

 一番好きな人はと聞いて、悩みまくった挙句『せつな姉さん』とつぶやいた剛の人。
 それって擬似ナルシストちゃうんかーーーー!!
 まあ、可愛かったから許すけど。

「……どっちにしろ、普通の性癖にはならないのね……」

「本人普通じゃないからね~? ……こんな能力も手に入れて、だんだん化け物に……」

 恭也さんクラスの戦闘能力手に入れたら、本気で人外確定です。
 今でも充分人外だが!

「……せつな? その……私も、頭堅かったわね……ごめんなさい」

 おお!? 分かってくれた!

「でもね? あなたはよくても、他の子の迷惑は考えて? ……あの子たちまで、その、同性愛者って言われたら……」

「あぐ、それがあったか……それの対策は、この体で……やるしかないんだろうなぁ……」

 ユニゾンして、髪の色変えるか?
 目の色も変わるし、外にデートするときは、これしかないだろう……
 クラウン同伴ってのが、あれだけど。

「まあ、そういう性的接触は、人目のあるところではやらないよ。……てか、女性意識なくなってからは、人がいるところではしなくなったし」

 小学生のときのような、あんな無茶、もうできません。
 は、恥ずかしいんだよ!
 悪いか!

「……後、それと、私に、性的な目を向けない……て、無理かしら」

 おい。何故断定する?

「……」

 無言で指差すその先に……うは。
 テント出現。
 いつの間に。

「お、男の体だからな、その、えっと、あう……」

「……せつなのスケベ」

「おふぅ!? ……そ、それは勘弁……凄く可愛かった……」

 真っ赤な顔して上目遣いで言うんだぞ、この母親。
 養子とはいえ、母親に萌えたら終わりだよね人として!
 ……義母はありなんだっけ?
 どっちにしても禁断だよね~。
 もう手遅れだけど(←カグヤと絡み済)

「く、クロノは、こんなことなかったのに……あなただけなのかしら?」

「いや、実の母親に反応したら人としておしまいですぜ。……大体、俺は八歳の頃から、既に成人男性と同じ論理感持ってたからな。……いまだに、母さんを母親と認めてるけど、女性として見ない事はできん」

「胸張って言わない。……じゃあ、ずっと私で、その、……してたの?」

 何をかな?
 後、聞くなよそういうこと!

「してません。……女性の体と、男性の体じゃ、感覚違うから……その、してません」

「……これからはするの?」

「しません! 元々女の体! こっちはその、き、緊急時の攻撃力増加とか、もしくは、その、なのは達と付き合うときの姿ってことで……通常は、女性体で暮らしますから!」

「……なんか……可愛い」

 て、おいおい。
 リンディさん? 誰が可愛いって?

「んふふ~♪ 若いツバメ囲う人の気持ち、ちょっとわかるわ~」

「ちょ、母さん、抱きつかないで! 今、男~~~~!!」

「……嬉しいくせに」

「いや、嬉しいけどさ!? 今、母親でエロイこと考えんなっつったばっかじゃん! 貴女!」

「ふふふ。……なんか、クロノとはまた違った息子みたい。……子供ばかり増えるわね、私」

 そーだね。
 エリオも成長すれば、また兄さんとも、俺とも違う反応が見られますよ。
 
「まあ、リンディさん。最強の母親だからね~……性格も容姿もスタイルも」

「あら? 嬉しいことをいってくれるわね? ……て、名前で呼ばない!」

「ん? ああ、つい」

 て、何故顔赤らめる?
 ……えっと?

「リンディさん?」

「だ、だから、止めなさいって……」

 ? 何故うろたえ……あれ?
 そう言えば、俺の声、さらに低くなったな……
 この声誰の声だ?
 
「……リンディ」

「あ、う、く、クライドさん……」

 !? ああ!? そうか、勇者王か!
 声質似てるわ、うんうん。

「ふふふ、リンディさんすげぇ可愛い……」

「そ、そんな……せつな、怒るわよ……」

 ……駄目、もう限界。
 大体、試練中ずっと我慢してたんじゃ!
 添い寝とか添い寝とか添い寝とか!
 
「……て、ホントに待て、俺……せめて、愛でるだけにしろ。特攻かましたら、ただの馬鹿じゃん。リンディさんに嫌われたくないんじゃ。ええい、マジでおちつ……て、女性体に戻ればいいだけか!」

 性別転換! 【せつな】

「せ、せつな……?」

「あ、危なかった……くそ、男性体だと、欲望が暴走しやすいな……注意しないと……」

 えっと、精神は肉体に引っ張られるだっけ?
 丁度、二次成長期で、男性の体だったら……うわ、お猿さんじゃん。
 こ、これは、なのは達の前でも、あまり男性体使えんな……
 我慢できません。

「……えっと、本当に、せつなは苦労するわね……不憫な……」

「ふふ、もう、不幸としか言いようがないですよね~……母さんごめん。嫌な思いさせた」

「いいわよ、もう。……私に嫌われたくないって、ホント?」

 うぐ、聞こえてたか。

「本当です……打算的な事も勿論ですけど、やっぱり、母さんとしても、リンディさんとしても、好きですから……」

「……もう、可愛いわね、ホントに」

 だから、抱きつかないでください。
 


 くそう、こうなったのもなのはのせいじゃ。
 後で苛めちゃる。


『せつなちゃんの意地悪~~~~!!』

 電波なんぞ知らん!




*連投失礼。作者です。
出先のネカフェ、この作品の投稿中に落ちやがった。うぬれ。
……とりあえず、五日目を最後まで終わらせておきます。
後、せつなの二重TS。受け入れられたようでほっとしております。
絶対やりすぎたと思ったし。

次回は後日談。それが終わればようやく次のイベントです……

深夜にもう一回更新かもしれない。作者でした。



[6790] L25.新難題ロストロギア 六日目後日談ミッド編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/07/10 19:36
 病院は午前中……つーか、朝食食って、一息ついてから退院した。
 後、看護師の人に聞いたんだが、俺に『眠り姫』の称号がついてるらしい。
 いやいや、俺インテークついてないし。髪黒色だし、ショートだし!
 なお、俺をおいていったクラウンは部屋の外で寝てた。
 朝食もって来た看護師に、踏まれて起きた事実は素直に笑った。

 一度、自宅に戻る。

 オリハルコンの制服に着替えて、転送ポートからミッドへ。
 再来年から、オリハルコンの寮に移ることにしているから、ここにいるのは、あと二年未満だな。

 ……高校は、行けない事が判明した。
 と、言いますか、出席率悪い為、高校はレベル低いところしかいけず、成績も意図的に落としているため、担任諦め顔。
 まあ、来年から忙しくなる為、大検だけとって中学卒業後向こうで暮らすことに。担任には留学と言い訳しておいた。
 また、なのは達を説得してくれと泣きつかれた。
 あいつら今年の進路相談で、五人揃って高校行かないと言い張ったそうだ。
 理由は俺と同じ留学。だが、担任からすれば、ぜひともレベル高い高校に進学してもらいたいそうだ。
 ……まあ、ミッドの事も考えると、高校行ってられないよな。
 後で大検だけはとるように進言しとこ。母さんの講習で、あいつらの頭ん中大学レベル以上だし。

 隊舎到着。まずは退院報告をテッサに。
 部隊長室に向かう途中、携帯に着信。相手はなのは。

「はいはい。どした?」

『あ、せつなちゃん? 昨日はごめんね? ……大丈夫だった?』

「……頑張って説得しました……てか、後でお前泣かす。余計なもんまで入れてくるな!」

『ご、ごめ~~ん』

 まったく。

「それで?」

『あ、うん。お土産あるんだけど、今どこかな?』

「ああ、ミッド。ちょっと仕事だけ片付けないと……」

『……もう、今日ぐらい休んだらいいのに……』

「そうも言ってられん。それに、昨日一日休んだ。……まあ、比較的、楽な仕事だから。書類仕事だけだし」

 現場出るわけじゃないからね~。
 出させてもらえないし。退院後だから。

「今月はもう休めないからな。来月に期待ってことで。……お土産だったな。後で家行くよ」

『うん、わかった。……無理しないでね?』

「しないしない。じゃあ後で」

 うう、心配性め。俺限定だけど。
 
 テッサに報告後、書類作成。
 クラウンのデバイス登録しないと。後、ロストロギア所持申請も。
 後でカリムに頭下げないとなぁ~。
 ここでの書類終わったら、すぐさま教会行きだな。

「あ、せつなちゃん、お疲れ様~」

 と、ルキノさん?

「お疲れ様です。今日はオペさんいいの?」

「両部隊とも今日は訓練だから。事務の手伝い。……て、せつなちゃんは入院してたのに、もう出てきていいの?」

「寝てただけですからね~~。……せっかくの旅行が~~~……」

「ご苦労様。……不憫だね」

 ちくしょう。
 ところで、このルキノさん。
 アースラから出向できてくれているので、来年まではアースラとこっちを行ったり来たり……
 ご面倒をかけます。
 正式稼動したら楽してください。

「ところで、聞きたいんだけど、せつなちゃんこの部隊のスカウトマンだよね?」

「うぃ? そうですけど?」

 まあ、あくまでスカウト権限を持ってるってだけだが……
 の、割には、主力を引っ張ってるのは全部俺。
 ティーダさんはいい拾い物だった……今執務官研修中。来月には正式に入隊してくれる。
 ティアナいるから通いだけど。

「えっとね、通信士研修の同期に、ヘリパイの資格取った子がいて、通信事務の資格も持ってるから、よかったら検討してくれないかな~……と、思って。これ、その子の資料」

 ……それってまさか!
 資料の名を見る。うほ! アルトさんじゃん!
 あれ? この頃にヘリパイ資格取ってたっけ? もうちょっと先の話じゃ……
 まあいいか、B級ヘリパイロットライセンスに、二級通信士、整備資格もあるな。
 今はどこの所属だ?
 ……と、航空隊か。輸送班なら、ヴァイスさんの下につけれるな。もしくは、航空支援隊のオペさんもいける!
 
「……この子に打診しといてください。後でスカウト行きます」

「え!? 即決なの!?」

 いい人材を見つけたら、即座にスカウトしてくださいとテッサからも言われてるし、その際の権限とか、その隊員の上司と話しつけられるように中将や、ロウラン提督からも支援をしてもらってる。
 ふふふ。なんだかんだ言っても、六課の人間はライトスタッフだからな。
 隙があったら即座に入れさせてもらうぜ!

 ……なお、グリフィス君にも既に交渉済み。
 てか、ロウラン提督が入るように言ったらしい。
 ……それっていいの? まあ、本人とあって、会計管理士資格取った後に入隊ってことにしてる。
 見積もっても、今年の後半には参加してもらえるな。よきよき。

「まあ、今月で空きが……あ、明日中将と会う約束ありますから、午後に会いに行きますと言っといてください」

「あ、うん。いいけど……せつなちゃん凄いねぇ……中将と直接会うとか」

「まあ、実質、俺もここの設立関係者の一人ですし。……かなり走り回ったからな……」

 絶対、嘱託魔導師の仕事じゃねえよこれ。
 自業自得だけど。

「けど、こんなに人集めてどうするの? 新規部隊だから、まだ人足りないのはわかるけど……」

 ん?

「ん~。まあ、部隊コンセプトの『迅速、簡単、丁寧に』に合わせて集めてるけど、将来有望そうな隊員も青田買いするのも考えかな? ……俺はさ。ここを地上の教導隊にしたいのよ」

「……ええええええ!?」

 一応、三期コンセプトを無視しない形を取りたい。
 八歳児の時? それは無視しろ、仕方なかったんじゃ。
 で、六課みたいに短期で若い奴育てるなんてことせずに、長期でじっくり育てたい。
 その為に、戦技教導隊からゼンガーさん引き抜いたし、部隊長はカウンターテロのベテランのテッサを置き、その補佐に指揮のプロフェッショナルであるカリーニンさんを入れた。
 地球の海で指揮をこなしたマデューカスさん(テッサの原潜の副長だった人)まで引き入れたんだ。
 これでいろいろ教えられるし、教わることができる。
 教官役も、生徒役もまだまだ足りないけど。

「まあ、将来的にって話で、今は依頼しかこなせないけどね? ……ルキノさんは、訓練校はでてる?」

「え? う、うん。事務科だけど」

「そこの陸士科の教官でキタムラ教官っているんだけど」

「あ! 知ってる! 鬼のキタムラって、皆怖がってた教官!」

「あの人にも打診してる。まあ、来年からになるけどね」

「ええええええええ!! どういうつながりなのそれ!?」

 あははははは! 言えねえ! 
 訓練校での恩師はともかく、実は飲み友達なんて絶対言えねえ!
 コラード校長に見つかって、三人でいろいろ語り明かしたなんてさらに言えねえ! てか止めろよ校長!

「ま、まあ、ほら、俺って顔広いし?」

「広すぎだよ……じゃあ、本当にこの部隊、教導隊に近くなっていくんだ」

「そうだな。……保有枠広がれば、なのはも入れられるし」

「あ、せつなちゃんの恋人の?」

 いやまてい。

「……一応親友なんだけど、誰? それ広めてるの……」

「え? エクセレンさん」

 やっぱりか!

「後、マオさんもそんなこと言ってたなぁ……昔から、あの子達はラブラブで、こっちが妬けちゃうって」

 マオねえまで!?
 勘弁してください。否定はしないが。

「……もしかして、せつなちゃん……レズ?」

「レズって言うなぁ!! 百合って言ってくれ頼むから!」

「同性愛は認めるんだね……」

「どうせ、精神特殊だよちくしょー」

 うう、性転換手術したことにして、本気で性転換申請しようかな……
 と、着信?

「あ、ごめん、ちょっと失礼」

「ううん、じゃあ、仕事に戻るね?」

「あい、頑張って……もしもし?」

 えっと、誰だ?

『あ、せつなちゃん? すずかです』

「ああ、お疲れ。……どうしたの?」

『……せつなちゃん、もしかしてミッドに? お仕事?』

「あ、うん。各種申請書と、ロストロギア事件のレポート」

『退院直後だよ? ちゃんと休まないと』

「ああ、昨日ゆっくり休んだから。……すずか分たっぷり補給できたし?」

『せつなちゃん! ……もう、無理しないでね?』

 君もか。そんなに無理してるように見えるのか?
 ……前年度に比べたら、大分楽だけどな~。

「わかってる。無理はしてないよ……それで?」

『あ、うん。旅行のお土産があるんだけど……』

「あ、じゃあ、後で行くよ。なのはからもあるらしいし」

『そうなんだ? じゃあ、アリサちゃんやはやてちゃんもだね? フェイトちゃんも選んでたし』

「そうか。……うう、いいなぁ……楽しかった?」

『えっと、やっぱり、せつなちゃんと一緒に行きたかったよ。……四日目、夜中から泣いてばっかりだったし』

 う、そりゃすまんかった。
 
「文句はクラウンに。いつでも貸し出すから」「ちょ!? マスターそれ酷い!」

『うん、また借りるね? ……じゃあ、お仕事頑張ってね?』

「おう、あとでな?」

 うう~修学旅行~。

「マスター、まだ恨んでる?」

「修学旅行はな~人生に三度しかないんだぞ~? 小学校の頃は旅行中に呼び出されたし、高校行かないから自動的に潰れたし……」

「……ごみん。ほ、ほら! 今度、女教師プレイしてあげるから!」

「余計なお世話じゃこんちくしょう!」



 隊舎での業務終了!
 昼を食べてから教会へ。
 食堂で飯~……て、あれ?
 エプロンつけてお仕事手伝ってるあの子は。

「イルイ? どしたの?」

「あ、せつなさん、お疲れ様です……おじ様が出張任務なので、昨日からこちらのお世話に」

 あれま、ゼンガーさん出張か。
 ……て、そういやそんなこと言ってたな。
 で、イルイはこっちの寮に住まわせてもらって、レーツェルさんの手伝いか。

 ちゃんとイルイもいるってホント凄いなこの世界。
 なお、保護責任者はゼンガー親分。イルイはその、人造魔導師研究の実験体だったのを親分が引き取ったのだと。
 ……いろいろ繋がってるなぁ。辻褄合わせ乙。
 ん? よくよく考えたら、イルイとヴィヴィオ、境遇が似てるなぁ……てことは、なのはは親分?
 ……いかん、違和感ぜんぜんない。

「お疲れ、せつな君。大変だったそうだね」

「あ、レーツェルさんお疲れです。Aランチでお願いします」

「わかったよ。イルイ、お冷をお願いする」

「はい、レーツェルおじ様」

 お、おじ……ま、まあ、レーツェルさんももう二十代後半だから、イルイから見たらおじ様だよなぁ……
 なお、イルイは今、九歳。管理局には入るつもりだそうだが、ゼンガーさんがちょっと渋ってるそうだ。
 せめて、基本ができてからとか。
 むむむ、訓練校でたら、うちで引き取るか……

「あれ? せつな?」

 おや?



 <アリサ> 

 あ、こいつまた仕事しに来たわね?
 今日退院したばかりじゃなかったっけ?

「何でいるのよ? 退院直後じゃない」

「むぅ、仕事があるんだよもん」

「ちゃんと休まないと駄目よ? ……あ、レーツェルさん! あたしAランチね?」

「了解した」

 注文して、テーブルを指差す。
 一つうなずいたせつなと共に、そのテーブルへ。

「今日はもう帰って休んだら?」

「そうもいかん。これから教会だ……こいつの報告しないとだし」

 ……クラウンねぇ。
 こいつには、散々世話になったしねぇ……悪い意味で。
 まったく。

「う、貴女までまだ私に恨みがあるの?」

「当然よ。あんたのせいでせつなと旅行できなかったじゃない。空気読みなさい」

「ううう、マスター。みんながいじめるぅ~」

「はっはっは。……まあ、勘弁しろ。また貸してやるから」「だからそれ酷いんだけどマスター!?」

 ……微妙に仲良しね、こいつら。
 波長が合うのかしら?
 ……まあ、あたしとアギトみたいなものね。
 と、そうだ。

「まあ、丁度よかったわ。はいこれ」

「ん? ……ああ、お土産か」

「そうよ。清水寺で買った奴」

「おう、ありがとな? ……むぅ、ご当地Kの字猫ぐるみ……」

 舞妓姿の猫キャラクターのキーホルダーを見て顔をしかめる。
 持ってるのかしら?

「ひょっとして、持ってた?」

「あ、いや。……こっちの世界にもあったんだなと……」

 ……そっか、こいつ、異世界の記憶もちゃんと持ってるんだっけ……
 あたしたちがアニメの世界か……ぞっとしないわね。
 あたしたちの生活が、他人に見られて、それで、あ、あんな妄想に耽ってるなんて……
 
「Aランチ、お待たせです」

「お、ありがとな、イルイ」

「ありがと、イルイちゃん」

 小さいのに、二つ持ってくるなんて、意外と力持ちね。
 ……あ、強化魔法か。
 
「あんたもAランチ頼んでたのね」

「おう。ちょっと、急ぎで食って教会行かないとな」

 ……まったく、働きすぎよ、こいつ。
 ……異世界の事のに、何でそんなに働くのかしら?

「ねえ? 聞いていい?」

「む? なに?」

「何でそんなに働くの? あなたのいた世界じゃないのに」

「……むぅ。本当は働きたくない。もっとのんびり生活したい」

 おいおい。

「じゃあ、なんで?」

「うーん、まあ、いろいろ試したい事もあるし、それに」

 じっとこっちを見つめて、

「お前らを守る為にも、いろいろやっとかないとな」

 と、さらっと言い放った。
 ……あたしたちのため?

「俺一人で、お前ら五人守るのって、限界があるんだわ。四六時中見張ってるわけにもいかんだろ? それに、過度に過保護だと、逆に嫌われたら嫌だし。一緒に歩くって道を整えたり、同じ仕事できるようにって部隊作ったり……いろいろ考えて、そのために顔や恩売って、走り回ったら守らなきゃいけないものがどんどん増えていって……気がついたら仕事が増えてた」

 ……えっと、それって。

「本末転倒……て、言うか馬鹿?」

「言うな。……大体、お前らが……いや、これは言わないほうがいいか」

 ? あたしたちが? 何か隠してるの?
 ……いや、違う。

「もしかして、あたし達、あんたに迷惑なことした?」

「……してないよ。迷惑だなんて思ってない」

「じゃあ言いなさいよ。……黙ってるのは卑怯よ?」

 なんか渋ってるわね。
 まるで、怒られるのを隠して……言ったら怒られる……あたしが怒る?
 と、言うか……

「……本当に言わなきゃ駄目?」

「……駄目。怒らないから、言いなさい」

 何か、まだ後ろ暗いものがあるんだろうか。
 ある程度は昨日話してもらったはずだ。
 ……一度水を口に含み、せつなが口を開く。

「あー……ホントはさ、お前らに管理局に入ってもらいたくなかったんだ」

「……な、なんでよ?」

 何でそんな事言い出すの?

「管理局に入ったらさ、自動的に危険な場所に送られるだろ? ある意味、ここは警察と自衛隊がごっちゃになった場所だ。凶悪な犯罪者と対峙しなくちゃならないし、災害現場で活動しなくちゃいけない。……総じて、命を危険に晒さなくちゃならない。自分の意思でね?」

 ……それはそうだ。
 管理局はそういう場所だって、リンディさんにも散々教わった。
 何で今更、そんな事……

「だから、みんなには、せめて高校出るまでは、地球で暮らして欲しかったんだ。……俺も、そのつもりだったし」

 ……じゃあ、なんで?

「じゃあ、何であんた、管理局に入ろうとしたのよ!」

 あのメリダ島で、こいつは言った。
 管理局に入ると。
 だから、あたしたちも入るって言い出し……
 まて。こいつ、確か、それを隠してたのよね?
 ……でも、それを話して、それで……

「……まあ、こっちにも知り合いできてさ。その知り合いが……まあ、クイントさんだな。彼女の先を、俺は知ってる。……せっかく仲良くなったのに、残念な結果になるのは、忍びない。……で、迷った挙句、一番自由度の高い嘱託魔導師ってことで入る事にしたんだ」

 ……あたし、間違えたんだ。
 せつなの応援だけしてれば、せつなはこんなに働かなくても……無理しなくてもすんだんだ!
 あたしたちは、選択を間違えたんだ!

「クイントさんたち助ければ、後はシラネーで通してやろうと思ったんだが、多分、そうも行かなくなるんだろうなぁ……まあ、ここから先は愚痴……て、アリサ?」

「あ、あたし……せつなに迷惑を……かけちゃったんだ……」

「はぁ? お、おいおい。そんなこと言ってないだろ?」

 せつなを追っかけて、管理局に入って……だから、こいつはあたしたちを守る為の準備に駆けずり回って……自分だけ無理して。

「あたしたちが、管理局に入るって言い出さなかったら、あんたは、無理しなくて、良かったのに……あ、あたし……」

「い、いや、別に、お前らのせいじゃないって。……それに、俺がこっちでコネ持っとけば、高校卒業した後、俺の就職先にもなるし、お前らが入るって言い出したときの架け橋になるし……だから、結局は走り回ってる結果になるから、お前らの……アリサのせいじゃないよ」

「でも」

「大丈夫。……俺、嬉しいんだぞ?」

 嬉しい? あたしたちのせいで、仕事増えて、無理してるのに?

「俺の力で、お前らを、大切な人たちを守れる。当然、届かない人もいるけど、でも、お前たちを守ってる自覚はできる。……俺はさ、お前らを守れていると、そう自覚できているだけでも幸せだよ。勿論、実際に守るしな?」

 こいつは……人の盾になることを、喜びとするのか?
 だとしたら、ただの馬鹿じゃない。

「……だから、泣きやめって。俺は、泣いてもらう為に、頑張ってるわけじゃないんだぞ?」

「……泣いてないわよ、馬鹿」

 苦笑いで人の頭を撫でる。
 前世で守れなかったから、この世界では必ず守る。
 それが、こいつの大切なこと。
 ……くそ、じゃあ、こいつに、あたしたちが守られないと、こいつの幸せは来ないじゃないか。
 せつなにだって、傷ついて欲しくないのに……
 それなら、あたしは。

「じゃあ、しっかり守りなさいよ? あんたがあたしたちを守りきったら、その度に、あんたの為に笑ってあげるわ。……あんたの為に、いろいろしてあげる。……でも、無理はしないで。いい?」

「……相変わらず、女王様だな……わかったよ。任せな。……俺は、割と無敵だ」

 その割には、いろんな人に負けてるくせに。
 恭也さんとか、リンディさんとか。
 もう、ホントに、馬鹿なんだから……



 だから、好き。





 <せつな>

「いきなり泣き出すから、またなんか怒らせたのかと思ったぞ?」

「うっさい、泣いてないわよ」

 く、相変わらずツンデレな。
 ……まあ、確かに、こいつらが入らなければ、楽だったといえば楽なんだが……
 逆を言えば、入ってくれたからこそ、俺が本気になって仕事できたんだよな。
 ……大体、元凶は、リンディさんが……アースラがこっちにこずに、ジュエルシード事件を終わらせていたらベストだったんだよな~。
 そうすれば、魔導師登録することなく、地球でのほほんと暮らしてたのに……まあ、アームスレイブの件で少し動かなくちゃいけなかったけど。
 まあ、終わった事をぐちぐち言っても仕方ないか。

「で? 俺これから教会だけど、そっちは?」

「あたしは『グングニル』の後詰め。もう少しでできるから、出来たら、模擬戦付き合ってね?」

「ういうい。……魔法少女バーニングアリサだな。本家は日本刀だそうだが」

「何の話か!」

 さぁね~?
 さて、行ってくるか。

「んじゃ、またな~?」

「気をつけて行ってらっしゃいよ? 最近物騒なんだから」

「わかってる。そっちも気をつけてな~?」

 アリサと別れ、聖王教会行きのバス停へ。
 許可がないと空飛べないんだよな~面倒な。
 お、バス来た。

「……あら?」

「げ」

 何であんたがバスに乗ってやがる。
 ……丁度隣が空いてるので、座る事に。
 ……珍しく、管理局の制服着てない。私服だ。

「……今日はどしたんですか?」

「お休みよ? 後、トーレと接触して、報告書渡さないと」

 さいでって、普通俺に言うかそれ?

「それより、あんたはどうしたの? 教会に用事?」

「用事。……旅行直前にロストロギア事件に巻き込まれて、それが教会のものだったらしく……」

「あはは。そりゃご愁傷様。……その報告か。大変ね~?」

「まね」

 大口開けて笑うな姐さん。
 ……むぅ、相変わらず、普通にしてれば美人なんだけどな~。

「なによ? 残念だけど、今日は渡せる情報ないわよ? 依頼もしてないでしょ?」

「気にするな、目の保養だ。姐さんは美人だからな~」

「相変わらずね……あ、そうだ、カグヤだっけ、あんたの妹」

 あんたの妹でもあるがな。
 あいつがどうした?

「トーレがね? 面白い子だって言ってたから、是非会いたいなぁ~って。なんとか、都合つけられない?」

「むぅ。難しいな……あ、そうだ。うちの部隊に査察で来る? 明日その打ち合わせやるから、それになんとか潜り込んで。査察の日に、あいつ呼んどくから」

「む、いいのそれ?」

「何、査察の最中に、姐さんとカグヤを空き部屋に放り込んどきゃオッケーオッケー」

「後は煮るなり焼くなり?」

「好きにしなー。でも叩きは嫌よん……ってな? まあ、面白いは面白いが、俺以上の女好きだから、情事には移行せんでな?」

「貴女以上ねぇ……ふふ、面白いわねぇ。受けて立つわよ?」

「受けるなよ」

 人の部隊でエロエロやってんじゃねー。
 俺ですら自粛してんのに。
 と、ボタン押した。

「じゃ、あたしこの先だから。なにかある?」

「ああ、じゃあ、明日の午前中そっち行くから、その時にな?」

「わかった。待ってるわ」

 む。……おいおい。
 止まる寸前に口付けするとか。

「この痴女。人目があるだろ」

「あら? 嬉しくないの?」

「いや、嬉しい。……これも浮気になんのかな~?」

「ふふ、じゃあね?」

 止まったバスを降りていく、茶色の髪のお姐さん。
 彼女こそ、戦闘機人の二番さん。なお、変装中。
 後、俺のはじめてを奪った方はあいつだ。
 ……うぬれ。小学生に色事教えて喜んでんじゃない!
 ……あ、まだ、チェリーだからね? 女性もそれでよかったんだっけ?
 

 聖王教会到着。
 くそ長い階段を上って、教会受付へ。
 内部をうろついて……到着。カリムの事務所。

「こんちわ~」

「あら、せつなさん。いらっしゃい」

 だだっ広い空間に、ぽつんと大きな机が一つ。
 それに向かっているのは、教会騎士のカリム理事。
 数年前に管理局の理事官の一人となり、うちの部隊の後援者の一人として手伝ってもらっている。
 何気に、中将や母さんの次に面倒見てもらってる人である。

「申請書持ってきました。後、ロストロギア所持申請と、今回の奴のレポート。後は……クラウン?」

「はぁ~い? 始めまして、この時代の騎士。ベルカの騎士『幻惑のクラウン』。以後よろしく」

「あら、よろしくお願いしますね? 私はカリム・グラシアと申します」

 こいつ、うちのスポンサー様に、なんつー口の利き方を……
 人の事言えないけど。

「まあ、今度から、こいつも俺の相棒になるから、よろしく頼む。あと、容姿については突っ込まんでくれ」

「マスターの趣味だからね~?」

「お前が勝手に設定したんだろうが! て、騎士カリム? 頼むから引くな引くな」

「あらあら……その、こほん。それより、今回はすみませんでした。旅行の最中だったのですね?」

 ……そう聞いてるのか……そうか……

「直前でした」

「……えと、直前ですか?」

「後数分後に電車に乗って、出発といく寸前でした……実質、地元から一歩もでていません」

「……す、すみませんでした……」

 深々と頭を下げる騎士カリム。
 ……なぜだろう。この人に頭下げられると、俺のほうが罪悪感を感じる。
 ……ちょっと優越感も感じるけど。ゾクゾク。

「まあ、旅行の代換えにはなりましたよ。融合騎を手に入れられて、俺との相性もいいみたいですし」

「えっと、古代の精神修養場という話でしたね? ……今も使えるんですか?」

「使えなくはないけど、止めといたほうがいいわよ~? 私こっちに来てるから報酬は出ないし、最初の失敗者が次の管理人兼ユニゾンデバイスになるし」

 そりゃ厄介……て、ことは?

「お前も失敗者だったってわけか?」

「聖王の息子に手を出した罰で入れられて……より取り見取りだったもんでついつい……えへへ」

 おいおい。
 それでいいのか古代の騎士。
 ……シグナムたちはこんなのと一緒に戦ってたのか。

「……じゃあ、このまま封印しておきますね? 危なくて使えません」

「ああ、犯罪者の刑罰用に使えるわよ? 甘い夢を見ながら、死んでいけるんだから。優しいでしょ?」

「基本的にこっちは死刑なしだ。重大犯罪者ならまだしも」

 さすが古代の騎士、考えが危険だ。

「……でも、本当に貴方やはやてはロストロギアに縁がありますね? しかも古代ベルカの……」

「『銀の剣』なら、仕方ないんじゃない? あたしもシルビアの相棒だったし~?」

「……『銀の剣』?」

「いや、こっちの話です……そうだよな? クラウン?(その話はタブーだ。ばれたら面倒なの!)」

「そうね、忘れて?(マスターごめ~ん! 聖王家もうないんだっけ?)」

「は、はあ……どこかで聞いたような……」

 ご、誤魔化せたか……?
 いや、なんか記憶にありそうな顔。
 思い出す前に次の……? こんな時に着信?
 相手は……はやてか。

「あ、ちょっと失礼しますね?」

「はい、いいですよ?」

「では……どした?」

『せっちゃんか? どしたやあらへんやん、いまどこにおんのん? 今日退院やろ? なのに仕事しとるゆうやん。すずかちゃんから聞いたで?』

 おいおい。
 お前らどんだけ……あ、いや、まあ、心配してくれてるのはありがたい。
 けど、ほっとくと溜まるんじゃ~!

「安心しろ。今日の仕事はもうねえ。……心配してくれるのは有難う。迷惑かけるな?」

『へぇ!? あ、いや、迷惑やないんやけど……あたしかてごめん。……今どこにおるん?』

「あ? ……どうぞ」

「ええ、有難う……はやて? こんにちわ。お元気そうね?」

 広域モードにして、どこにいるのか彼女の声で分かってもらおう。

『ふぇ!!? カリム!? せっちゃん教会におるん!?』

「おうよ。今回の出所ここだぞ? 退院したからこそ、無事な顔見せとかないと駄目だろ?」

『せ、せやけど……あ、ごめんなカリム。仕事中に』

「いえいえ。旅行は楽しかった?」

『……せっちゃん抜きやったからな~。ちょっと、皆暗かったわ。今回のあれのせいで、おとつい泣き続けとったし』

「……はやての方にもロストロギアの影響が?」

「後でレポート読んどいてくれ。で? 忠告だけが目的か?」

『あ、ちゃうねん。お土産買うて来とるから、うち来れんかな~って。あ、カリムたちの分も買うて来とるよ~?』

「あらあら。楽しみにしてるわね?」

「はいはい。後で家に行くよ。ここでの用事終わったら戻る」

『了解や。じゃあカリムごめんな~? せっちゃん後でな~?』

「あいよ~……はあ、元気な奴」

「ふふ……貴女が無事で、安心しているんですよ」

 そうですね。
 心配し過ぎって思いますけどね。
 
「失礼します。騎士カリム?」

 と、入ってきたのは教会シスター。
 友人のシスターシャッハ。

「あら、どうしたのシャッハ?」

「邪魔してるぞー?」

「ああ、お久しぶりですせつな。……それで、昨日の報告書と、先日の騎士団演習の報告書です」

 数冊の書類をカリムに渡し……?
 何で俺を睨むのん?

「せつな。カグヤに言っておいてください……わ、私にまで、き、キスをしないでくださいと」

 ぶぅ!? あ、あいつシャッハにまで要求したのか!?
 お、俺以上のキス魔だな……
 てか、シャッハにねぇ……命知らずな。

「てか、いやなら鉄拳制裁くらいしてもいいぞ? そこそこ頑丈だし」

「……ゆ、友人の顔を、叩けません」

 律儀だなー。ヴェロッサばしばし叩いてるくせに。

「で? カグヤ、唇狙い? それともほっぺた? ……どちらかによって注意度が変わるが?」

「ほ、ほっぺです。……なんで苦笑いなんです?」

 いやぁ、それはあれだ。

「唇なら模擬戦による教育的指導できるけどな?」

「へ? ……な、なぁ!」

「あら大胆」

 ふむ、手入れは完璧。
 すべすべだな。

「せ、せ、せつな! あなたまで!?」

「まあ聞け。あいつのこういうのは、親愛の情だよ。うちの世界の挨拶の一つさ。……俺の国の風習じゃないんだけどな~?」

「し、親愛ですか……」

 あいつ、ナンバーズに対しては唇まで奪っちゃうが、俺の関係者には、ほっぺたまでと制限してるみたいだからな。
 シャッハみたいに堅い子は、抵抗あると思うが。

「あいつなりに、シャッハに懐いてるから、ほっぺたくらいは許してやってくれ」

「……ま、まあ、その、それならいいですけど」

「ふふ、私も今度からやってみようかしら?」

「騎士カリム!?」

 はっはっは。
 そんなことしてると、俺らが百合百合に見えて仕方ないぞ~?
 ……聖王様が見てる? なんつって。

 なお、一年後に、その風習がベルカ自治領で広まるのは、俺のせいじゃないはずだ。
 



[6790] L25.新難題ロストロギア 六日目後日談海鳴編
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/05 23:44

 教会から帰って、テッサに帰宅の挨拶して、自宅へ。
 ……五時か。これから、なのはとすずかとはやてと……まわりきれるかな?
 私服に着替えて、とにかく移動。
 まずは近場のなのはから。


 <なのは>

「お疲れ様、せつなちゃん」

「おう、お疲れ。……えと?」

 ? あれ?

「上がらないの?」

「あ、いや、お土産渡すだけかと思ってたから」

 むぅ、それだけで呼ぶのは失礼だよね?

「お茶でも出すから、上がって行って?」

「……んじゃ、失礼します」

 せつなちゃんを連れて台所へ……あ、お兄ちゃん降りてきてた。

「む、せつな……何故引く?」

「あ、いや、その、ちょっとね……あれは夢、あれは夢……」

 にゃははは……箱庭でお兄ちゃんと喧嘩したんだよね。
 こっちのお兄ちゃんとは関係ないけど。

「えっと、お邪魔してます」

「ああ……入院していたそうだな。体は平気か?」

「まあ、寝てただけなんで」

 ……よかった、箱庭の時みたいに、険悪じゃないね。
 お茶入れよう。

「じゃあ、ちょっと待っててね?」

「ああ、ありがと」

 さてと、せつなちゃん緑茶だよね。
 ……えっと、湯飲みは~。

「……ところで、今度結婚することになった」

 あ、忍さんとの事話すんだ。

「え? 忍さんとですか? そりゃおめでとうございます」

「ああ、それで、よければお前も式に出席して欲しいんだが」

「ええ、祝福させてもらいますよ……あ、代わりに、うちの兄の式に出てあげてください」

「む? クロノ君もか? ……若い結婚になるな」

 にゃはは。それでも、クロノ君結構お金持ちなんだよね~。
 ……私たちも、そこそこお金持ってるけど。
 給料はいいんだよね。管理局。使う暇がないけど……

「それでも、五年以上の付き合いですからね~? まあ、うちの大黒柱候補ですし」

 ん? そう言えば……

「せつなちゃん? クロノ君の式って、どこでやるの?」

「ああ、勿論聖王教か……げ!?」

「……むぅ、俺たちは入国できるのか?」

 にゃはははは……無理だね。

「……し、失念してました……」

「まあ、代わりになのははでるんだろう? ご祝儀は渡しておこう」

「すんませ~ん。……くそー、管理世界だったらパスポート取れるのにー」

 管理外だと、特殊な事情がないと、パスポートとれないんだよね。
 私たちみたいに、通いの魔導師だったり、エリオ君みたいに定期検査があったりしないと。

「はい、お茶」

「あ、サンキュー」

 ついでに、お兄ちゃんにも渡し、私も席につく。
 それで、お土産だ。

「これ。練習に使えるかなって」

「木刀……どうやって持って帰ったんだ?」

「え? レイジングハートの格納領域に」

「……レイハ姐さん、乙」

『thank you』

 黒塗りの木刀。丁度、アロンダイトと同じサイズだから、素振りにはいいかなって思ったんだけど。

「嬉しくなかったかな?」

「んにゃ。嬉しいよ。……ただ、惜しむらくは……」

「なのは。せつなの獲物は西洋剣だから、バランスが違うんだ。木刀だと、いざ本来の獲物を持つと、使い辛くなる」

「にゃぁ! そうだったんだ!? ごめーーーん!」

 し、知らなかった~~!

「シグナムのレヴァンティンなら木刀でいいんだけどな。でも、嬉しいよ。ありがと、なのは」

「……えへへ」

 優しいなぁ。ちゃんと、笑顔で喜んでくれた。

「……ふむ。ちょうどいい。少しやらないか?」

「ぶ! ちょ、恭也さんたんま。せっかくなのはが買ってきたやつ、初日に折りたくないぞ!」

「……ちゃんとうちの奴だ。そんなことはせん」

 あはは……私もちょっとびっくりした。
 でも、せつなちゃん、付き合うのかな?

「せっかくだけど、遠慮しますよ。この後、すずかやはやての家もまわらないと」

 あ、そうなんだ。
 ……そうだよね。みんなもお土産選んでたし。

「そうか、残念だ。お前がどれだけ成長したのか、確かめたかったんだが」

「……魔法ありならそこそこいけるんですけどね。生身だと、ちょっと」

 せつなちゃんの中では、お兄ちゃん人間じゃないから。
 ……そういえば、私……お兄ちゃんに叩かれたんだよね……箱庭の中で。
 
「ねえ、お兄ちゃん」

「ん? なんだ?」

「もし、私に好きな人が出来て、その人と一緒に歩いてたのをお兄ちゃんが見たら、どうする?」

「……絶対ぶった切るって言うと思うが」

 せつなちゃんは静かに……同感だけど。

「……お前が好きになった男だろう? なら、認めるさ」

「あれ? 自分より弱い男に妹はやらん~とか言わないの?」

「言うか馬鹿者。……まあ、なのはを泣かせたら容赦はしないがな」

 あはは。そこは確定なんだ。
 ……じゃあ、

「好きになった人が、女の子だったら?」

「ちょ、おま!」

 え? 何でせつなちゃんがあわてるの?

「……せつな、貴様、なのはに手を!」

「出してない! ……ま、まだ、キスだけだ!」

 にゃぁ! 言っちゃった……

「……貴様……」

「やっぱり、斬るの? 私の好きな人なのに?」

 ……どうなんだろう?
 やっぱり、駄目なのかな……

「……本気か?」

「本気で好きになった場合だよ? ……せつなちゃんも、好きだけど」

 にゃ、にゃあ……自分で言ってて、恥ずかしくなっちゃった。

「……世間様に後ろ指を指されるぞ? それでも、いいというのか?」

「好きになったら、周りなんて関係ないと思うよ?」

 うん、私は、多分そうだと思う。
 好きになったら、相手が同性だろうと、関係ない。

「……そのときは、同性でも祝福してやる」

 お兄ちゃん……よかった。
 これで、せつなちゃんと……

「……だが、せつなだった場合は、まず俺を倒してもらおう」

 あらら。

「だって、せつなちゃん?」

「……そこで俺に振るのかお前……実は俺の事嫌いだろ?」

 む、ひどい。
 頭抱えてそんなこと言うなんて。

「せつなちゃんは、私のお嫁さんなんだよ? 好きに決まってるよ」

「……お前が嫁か」

「なんだって。……この場合も、俺が斬られるの?」

「……すまん、理解できん……」

「そりゃどういう意味だ! ……っく、俺にウェディングドレスは似合わんと言いたいのかあんた!」

 せつなちゃんのウェディングドレス……うん。

「可愛いかも……」

「恭也さん! あんたの妹ちょっと変じゃないか!?」

「お前に言われたくないが、今のは同感だ。なのは、病院行くか?」

「むーーーー!! 二人ともひどーい! ……あれ? せつなちゃんはドレス似合わないって思ってるの?」

 可愛いと思うのに。
 こう、パラディンみたいな白銀のレース一杯のドレス。
 それで、にこっと微笑んでくれたら……

「にゃぁぁ」

「いや、俺のドレス姿妄想してそんな溶けんでくれ! なんか恥ずい!」

「せ、せつなだけかと思っていたら、なのはにも女色の気が……く、俺はどうしたら!」

 えへへ。
 幸せになろうね、せつなちゃん。


 大好き。



 <せつな>

「……にゃぁぁぁ……」

「いや、まだ妄想止まらんとか……すまん、恭也さん。なのはを頼む……」

「ああ、その……妹が、すまん」

「いいんだけど……やっぱ、俺が嫁かぁ……」

 うーん、やはり漢だな、なのはは。
 溶けてるなのはは恭也さんに丸投げして、高町家を後にする。
 ……妄想にトリップするのは、フェイトの役どころだと思ったんだが……
 やはり甘やかしすぎたか?
 ……いや、そんなことないよなぁ?

 しかし、俺のドレス姿……駄目だ、考え付かん。
 カグヤなら、似合うと思うんだが……て、容姿は俺と一緒だから、そういうことか。
 ……しかし、ナルシーじゃないからな、俺。
 さて、距離的に近いのは……はやてかな?



 <はやて>

「主、せつなが来ましたが?」

「あ、うん、上がってもらってー?」

 さって、お土産お土産~……と、ゆうか、あたしなんでこんなもん選んでもたんやろ。
 せっちゃん呆れへんかな~?

「はやてー、来たよー?」

「あ、せっちゃん。いらっしゃい」

 部屋に入ってくるせっちゃん……ふふ、二人っきりやね。
 ……きょろきょろ。

「? ど、どした? なんか失くし物か?」

「ううん……せっちゃん、ちょっと来て?」

 不思議な顔して近づくせっちゃん。
 ……うん、その表情は可愛いわ。

「どうし……む」

「……えへへ~」

 えへへ~。男の子の時と感じ違うな~。
 ちょっと、柔らかやな、唇。

「お前ね……気に入ったとか?」

「えっと、せっちゃんとキスすると、なんか幸せになるんや。ぽかぽかして、気持ちええんや~」

 あたし、せっちゃん好きやからな~。
 抱きつき~。

「ちょ、おいおい……まあ、いいけど、シグナムとか来たら、俺が斬られるんだぞ?」

「そんときは、あたしが守ったる~。せっちゃんはあたしの嫁やからな~」

「……まだ箱庭の影響残ってるのか?」

「……違うよ。それは違う。ほんまに、せっちゃんの事が好きや。……あかんことやって、わかっとる」

 同性同士やと、世間はいい顔せん。
 そんなん、わかっとる。
 せやけど、あたしは、せっちゃん好きやから。

「……はやて。その、えっとな? ……ちょっと、聞いてくれ」

「? ……まさか、他に恋人おるとか?」

「いやちがくて……」

 ? ほな、なんやろ?

「……単刀直入に言う。女の俺のときに、そういう行為は、人目のある場所ではやめてほしい」

「……え? な、なんでやの?」

 リンディさんに、なんか言われたんやろか?

「その、俺はいいんだけど、お前までその……同性愛者だって言われるのは……辛くて……」

「せ、せっちゃん……」

 ……リンディさんに、それ指摘されたんやな……それに、せっちゃん自身もわかっとるんや。
 カグヤちゃんが現れだした時期から、せっちゃん、あたしらにそういうこと、してくれへんようになった。
 人目を気にしとるんやと思ったら、そういう事もあったんやね……

「……うん、ええよ。せっちゃんがそう言うなら、そうするわ。……せやけど、あたしは、せっちゃんの事、大好きやで?」

 それだけは、分かってもらいたいから。

「……あ、ありがとう。そ、それでだな? 外や人目のある場所だったら、男性体でいようと思うんだ」

「!? あ、その手があるんやね! それで、ツヴァイかクラウンとユニゾンすれば!」

「お、鋭い。はやてだったら、ツヴァイのほうがいいか? ツヴァイとも相性いいし」

 あ、そうなんか。
 ……そう言えば、箱庭で、えらいツヴァイとようおったな~。
 ツヴァイも、せっちゃんに懐いとるし。

「て、まちなさ~~~い!! 私がいるのに、他の融合騎に浮気!? マスター酷い!」

 あ、クラウン。……ゆ、融合騎に嫉妬ってあるんやなぁ。

「高々二歳の赤ん坊に、私のマスターは渡さないわ!」

 ……何や、激しいなぁ。
 姿がリンディさんなだけあって、なんか息子取られそうな母親みたいや。

「ちょっと待つです!」

 うぉわ! ツヴァイ!?
 押入れからってあんたはドラ○もんかい!?
 てかおったんか!? 気付かんかった……

「せつなちゃんと一番相性がいいのは、このツヴァイです! 一五〇〇歳の年増は引っ込んでるです!」

 い、言うなぁ、ツヴァイ……
 年増とか……あたし教えた覚えないで?

「と、年……いいわよ、白黒つけようじゃない。勝負よ小娘!」

「望むところですぅ! 勝負方法を言うです!」

 な、なんか変な展開に……
 せっちゃん頭抱えてるし。

「勿論、どっちがマスターと相性がいいか、ユニゾンで勝負よ!」

「わかりましたです! じゃあ、せつなちゃん、行きますですよぉ!」

 あ、嫌な予感。
 止めたほうがええかな?
 せっちゃんも予感感じとる。顔真っ青や。

「ちょっと、待ちなさい! 最初は私よ!」

「早い者勝ちです!」

「くぅ! 生意気な!「ユニゾン・イン!!」」

「ああ、やっぱり……て、ふあぁ!!」

「せっちゃん!?」

 む、無茶や! 融合騎二人も入れたら、せっちゃん壊れてまう!
 
「ツヴァイ! 出てきぃ! せっちゃん壊れるから!」

「……お、おおう……むぅ……」

 ああ、せっちゃん……?
 こ、これは……せ、せっちゃんの、せっちゃんの……

「うお、これは……谷間?」

「む、胸成長したぁぁぁぁぁぁ!!」「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 な、なんやの!?
 そ、それは……フェイトちゃん以上あるで!?
 ……あ、あかん、胸揉み師の血が騒いでまう。
 これは揉まんと……

「うあ、でか……てか、重い……」
 
 重いんか!?
 ふ、ふふふふふふふ!

「せっちゃん……ちょっと動かんといてな……?」

「え? はやて……? ちょ、おま。目がやばいって! さっきまでの可愛らしいお前はどこ行ったーーーー!!」

「目の前に乳がある。やったら、揉むしかないじゃないかーーーーーー!」

「種死ネタ自重ーーーーーー!!」

 いただきまーす。




 ふぉう、これは至福やね……やっぱ、せっちゃん好きやわ




 <せつな>

 も、もうお婿にいけない……は、はやて、マジ上手すぎる……

「ふ、ふふ。百合もええな~。せっちゃんの表情、凄いエロかったで?」

「く、くそぉ、はやてにセクハラ喰らうなんて……てか、ツヴァイ~? クラウン~? 無事か~?」

 頭ん中で喘がないでください二人とも。
 マジでその……ええい。考えるな俺!
 胸だけで臨界突破するかと……

『はぁ、はぁ、はやてちゃん、匠の技ですぅ……』

『や、やるわね……昨日もそうだったけど、やっぱり怖いわこの子……』

「いいから早く出て行けお前ら。……ん? そう言えば、融合事故起こらんな……」

 普通だ。
 ……む。

「……? せっちゃんどしたん?」

「……ほむ。ちょっとな……」

 この状態で、処理速度どんなんだ? 
 えっと……『スティンガーブレイド・エクスキューションシフト』

「ちょ! せっちゃん!?」

「……で、このまま……」

 『フォトンランサー・ファランクスシフト』っと……
 うお、すげえ。
 二つともかなりのリソース食う魔法術式なのに、デバイスなしで制御できとる。
 しかも同時起動。
 ……これは、俺の切り札になるな。

「せ、せっちゃん! あかんよ! 耳から血が出てきよる! すぐに止めてぇ!!」

 げ!?
 じゅ、術式消去!
 ……で、まず。

「ツヴァイ、ユニゾン・アウト」

『は、はい! ユニゾン・アウト』

 ツヴァイを外に……うぅ……ちょっと倦怠感。
 それから……

「クラウン? 体内データ」

『……ちょ、これ……やっぱり。デュアルユニゾンはやばいわね。処理速度は馬鹿みたいに上がるけど、マスターの脳に酷い影響が出るわ。……禁じ手よこれ。絶対使わないで』

「……そ、そうしよう。無理なことはしない……」

 こええ。
 流石に、死ぬ可能性のあるような選択は止めるぜ。
 切り札じゃなくて、自爆技じゃん。
 つかえねー。

「クラウン、体内修復を」

『了解。……【リジェネーション】』

 終わるまで、このままだな。
 あ、はやて、耳にハンカチ……ああ、血が出てたんだっけ?

「せっちゃん……ごめんな? ツヴァイが……」

「ああ、いや、変なこと試した俺も悪い。……心配かけた。止めてくれてありがと」

「ええんや……ツヴァイ! せっちゃんに謝り!」

「は、はいですぅ……せ、せつなちゃん、ごめんなさいですぅ……」

 頭下げるツヴァイの頭を指で撫でながら、はやての頭もぐりぐりなでる。

「そんなに怒るな。……けしかけたのはうちのクラウンだし」

『ちょ、私!? マスター酷い!?』

「何も、お前が悪いって言ってないだろ? 悪いのは、変な事考えて、実行した俺だよ」

 いや、今のは無理したな。
 ……これは俺が悪い。
 こんなところでデッドエンドなんてしたくねー。

「せっちゃん……せっちゃんは、優しすぎや……もうちょっと、あたしらに怒ってええんで?」

「そうか? お前らが変な事したら、怒ってるけどな……こないだもそうだし」

「あれは、あたしの為に言うてくれたんやろ? ……そうやのうて、自分の為に怒るんや」

 俺のために?
 ……うーん、それは。

「融合事故を放っておいて、人の胸弄くり回ったことを怒ればいいのか?」

「はうぁ! そ、それは……え、えと、ごめんなさい」

「おお、謝った。……だから許してやろう。よしよし」

 ぐーりぐーり。

「や、ちょ、せっちゃん、く、首痛い! 実は根にもっとるやろ!」

「ふはははは……じゃあ、目には目を、歯には歯を、胸には?」

「む、胸? ……え、せやけどあたし、そんな、大きくないし……」

 はっはっは。馬鹿だなぁ、はやては。
 もう忘れたのか?

「俺はね? 恥ずかしがって真っ赤になる少女の表情が見たいんであって、大きさは関係ない!」

「うう、相変わらずの変態発言や……」

 と、いうわけで。

「いただきまーす「主、食事の用意が……」げ」

「……えっと、し、シグナム?」

 シグナム視点からすると、完全に押し倒して悪戯しようとする百合の変態さんに見えるんだろうなぁ……
 無言でレヴァンティン展開しないで欲しい。
 マジで怖いから。

「貴様……主に何を!」

「揉まれたから揉み返すだけだ!」

 見ろ、この、この……あれ?
 ……ペッタン、ペッタンツルペッタン……
 なぁい……

「……ふん、どこに揉める物があると?」

 な!? 自分の胸強調して見せつけながら鼻で笑いやがった!
 おのれ、高等技術を!
 
「いや、あるでぇ! これや!」

 な! またデュアルユニゾンさせる気……あ、あれぇ?
 それ、黄色い看板のペンギンマスコットの量販店で見たことあるよ?
 特に、バラエティコーナーで。

「は、はやて? それは一体?」

「ん? シリコン使用のヌーブラや。せっちゃんにも、魅惑の谷間を!」

 ……はぁ。

「シグナム。ヴィータ呼べ。同じ事をヴィータに言えるかどうか試してやる」

「わかった。……主、すみません。今のは主が悪いと進言します」

「ええ!? あ、あかんかった!? せっかくの京都土産やのに!!」

 うぁ。引くわぁ……
 マジで?

「ちなみに、ネタだよな? 別に、何かあるんだよな?」

 俺は、旅行にすら行けなかったんだぞ?
 せめて、ほら、なんか、あるだろう!

「……ごめん」

「はやて、早速怒らせて貰おう。……なんって言うか知ってるか?」

「な、なんて言うん?」

 それはな?

「『百年の恋も冷める』って言うんだこのボケ娘ぇぇぇぇ!!」

 久々登場千鳥印の不思議ハリセン!!
 パァン!!


「見事な振り抜きだ……やるな」

「どやかましい」

「あ、愛が痛いわぁ……」




 <すずか>

「て、ことがさっきあってな……その、すずか? 笑いすぎだ」

「ご、ごめん……で、でも、はやてちゃん本気だったんだ……」

 京都でそれを見て、『これはウケるでーーー!!』って気合を入れて買ったのに……
 き、聞くほうは面白いけど、本人には災難だよね?

「てか、見てたなら止めてくれ……もらったけど」

「貰ったんだ……」

 やっぱり、羨ましいのかな?

「いや、せっかく買ってきてくれたものを、無碍にするのもどうかなっと思ってな? ……あ、カリムに同じこと言えるかどうか、試させるのもよかったな」

「そ、それは、カリムさんに悪いよ」

 そ、その、カリムさん、怒るよ、絶対。

「いや、あの温厚なカリムの怒る顔が見てみたい。……スポンサー切られると嫌だからやらないけど、はやてなら……」

「駄目だって。……せつなちゃん、他の人にも意地悪するんだ?」

 私たちだけかと思った。

「ん? まあ、弄って楽しい人はやってるな」

「……じゃあ、私は?」

 みんなの中で、私だけ、せつなちゃんから意地悪されてない。
 ……私は、楽しくないのかな?

「すずかは、俺の癒しだからな~……困った顔より、笑顔が見たい。にっこり微笑んでもらいたい。……まあ、ちょっとはセクハラじみたことはするが」

「セクハラはするんだ……」

 はやてちゃんみたい。
 はやてちゃんも、いつもは優しいのに、胸だけは揉むんだよね……旅行中も揉まれたし。

「それに、ちゃんとした土産も買ってきてくれたし。ネタに走ったはやてとは大違いだ。さすが、俺の愛人」

「え、えへへ……」

 まだそれ言ってたんだね。
 ……でも。

「なのはちゃんたちみたいに、お嫁さんのほうがいいなぁ~?」

「え? あ、それは、あ、あう」

 あれ? せつなちゃんが赤くなっちゃった。

「す、すずか、その、えっと、今の顔、凄く、可愛かった」

「え、ええ!? あ、そ、そうなんだ……」

 あ、あう、私も顔熱い……キスされたときみたい。
 あうう……立ち上がって、せつなちゃんのソファーに……

「え? す、すずか?」

 隣に座って、えと、その、せつなちゃんのほうを向いて。

「え、え~と?」

 目を瞑る。
 ……こ、これでいいんだっけ?
 き、きす、してくれるかな?

「ど、どこでこんな知識を……まあ、いいけど……」

 !? あ、近づいてくる!
 頬を触られて……息が、近くに。

「……ふぅ~~~~ん? あんたたちそうだったんだ?」

 !?!? お、お、お、お、お、お、

「お姉ちゃん!? は、入ってこないでください!」

「す、すずか、落ち着け……」

 せ、せっかくいい所だったのに!

「はいはい、ごめんなさいね? ……あんたそろそろだと思ってね? ……せつなちゃんに嫌われてもいいの?」

 !? あ、そ、そうだった……

「? どうした? そろそろって?」

「……すずか? せつなちゃんに、私達の事は話したの?」

 ……それは。

「話しました。……せつなちゃんは、それでも、お友達でいてくれるって……」

「ただのお友達ならそれでいいんだけど、発情期の事は教えてないでしょ?」

 !? あ、や、やだ……
 それは……

「? な、なんだそれ? 凄くその、エロチックな響きが」

「茶化さない。……せつなちゃん。よく聞きなさい? 発情期って言うのは」

 それは、私たちの種の保存の本能。
 女に近づくほど酷くなって、性的欲求が激しくなる期間。
 ……旅行中は、上手く避けれたけど。
 確か、終わったのが二ヶ月前……うん、今日、明日からだ。
 できるだけ、せつなちゃんやみんなには、教えたくなかったのに……

「まあ、そういうのが、私たちにはある。……せつなちゃん。それでも、あなたは、すずかと友達でいれる?」
 
「はい」

「無理そうなら、そう……え?」

 ……まあ、せつなちゃんだし。

「……ワ、ワンモアプリズ」

「イエス、ザッツライト!」

「……せつなちゃん……ノリノリだね……」

 私、結構悩んだのになー……いつも、せつなちゃんが相手だから。
 その、……妄想で。

「い、いいの? すずかよ? 女の子よ? 貴女も女の子でしょ?」

「いいんです。心は男だからオールオッケー(男の体にもなれるしね~?)」

「……はぅぅ!!」

 ね、念話でそんなこと言わないで、せつなちゃん!
 そ、そんなこと言われたら……あ、あうぅ……

「? ……ほ、本気?」

「俺はマジだぜ! ……まあ、献血もしてる身ですし。今更今更。すずか好きだし」

「え、ま、マジなの? すずか?」

「……は、はぃ……」

 うぅぅぅ。せ、せつなちゃんが私の事好きって、言ってくれた……
 で、でも、みんなにもそう言ってるけど……
 せつなちゃんのことだから、全部本気なんだろうなぁ……
 うぅ、顔熱いよぅ。

「……はぁ。恭也の言ってたこと本当だったとわ……せつなちゃんがレズだったとは……」

「あ、お姉ちゃんそれは言っちゃ「レズとか言うな! 百合って言え!」ああ、遅かった」

「……違い、あるの?」

「あるよ! 百合はキレイで萌えるんだ! レズは汁っぽくて下品なんだ! 大体、俺自身の心が男だから、同性愛にはならん!」

 ……ああ、せつなちゃんの力説が始まっちゃった……
 お願いだから、お姉ちゃんは反論しないで……

「……それもそうね。うん、納得した」

 納得しちゃった!
 
「さすが忍さん。分かってくれましたか」

「そうね、うちのすずかとせつなちゃんなら、確かにキレイね。……撮影していい?」

「は、配布は駄目ですよ? ……あ、それと、結婚確定おめでとうございます」

「恭也から聞いたの? うん、ありがと。結婚式には来てね~? 七月予定だから」

「はい、是非」

 ……な、なにか、友情みたいなのが芽生えてます。
 さらに何か、不穏な取引がされたような……?

「じゃあ、お邪魔虫は退場するわ。二人とも、仲良くやんなさいよ?」

「お、お姉ちゃん!」

 手を振って部屋を出ていくお姉ちゃん。
 ……もう、勝手なんだから。

「しかし、発情期か。……これまではどうしてたんだ?」

「え? あ、え、と……へ、部屋でずっと閉じこもって、その……せ、せつなちゃんのエッチ」

「にゃるほど。……今日は帰ったほうがいい? それとも」

 ……引き止めたら、多分、いてくれると思う。
 でも、それは、ルール違反だと思うから。

「大丈夫。……今日は、帰って? その、嫌ってわけじゃなくて……みんなに、話してないから」

「……わかった。じゃあ、今日は……」

 あ、近づいて……あ、え?
 あう!? あ、やぁ……舌、痺れるぅ……
 は、うぅあ……はぁ……

「ん……これだけね?」

「せ、せつなちゃんの意地悪……」

 うう、本当に弄られるとは思いませんでした……
 本当に意地悪だ。


 だから、大好き。




 <せつな>

 ……すずかの家から出る際、泊まって行かないのかと聞かれ、

「いや、すずかの覚悟が決まってからですから」

 と、さわやかに言えたまではよかったんだが。
 玄関から出て、ドアを閉めた途端にorz。

「や、やばかったんだよもん……」

 襲い掛かりそうだった。
 最後のキスはやりすぎた。
 あんなエロイ表情できるとは……すずか恐ろしい子!
 くそう、明日の打ち合わせなければ~。


 さて、家に戻るか。
 ……もう、真っ暗だな……八時半なら当然か。
 ……夜の道って、嫌な予感するよね~。
 変なイベント起きそうで。

「離してぇ! やだぁ!」

「こ、コラ、騒ぐんじゃねぇ!」

 ……おいおい。
 声の方向へ。
 今の声は聞き覚えある。
 ……車、金髪の女の子。捕まえてる男!
 誘拐! しかも、被害者、アリシア!?

「クラウン!」「はいな!「ユニゾン・イン!」」

 身体強化、性別転換【刹那】、格納領域より、木刀装備!
 ブースト!

「ぜぇ!」

 車のトランクにまず一撃。
 誘拐犯の注意を逸らし、

『sonic move』

 犯人からアリシアを取り上げ、駆け抜ける!
 距離を置いて、アリシアを物陰へ。

「な、なんだぁ!?」

「ふぅ!」

 再度接近。
 速攻!

「が!?」

「な、げ!?」

 ……二人だけか。
 格納領域より、縄を取り出す。
 気絶させた二人を縛り、脳内捜査。
 ……ふむ。ただの身代金誘拐か。
 衣服を剥ぎ取り、恥ずかしいかっこで縛り固める……醜い。
 『私はロリコン変態誘拐犯です』と張り紙をして、放置。
 アリシアの元へ。

「平気か?」

「あ、あの、あ、有難うございます……」

 ? 何故他人行儀……あ、ユニゾン切ってねえや。

「俺だよ、アリシア。ユニゾン・アウト」

 クラウンと離れ、性別転換【せつな】。元の姿に戻ると、気付いてくれた。

「せ、せつなお姉ちゃん!」

「おう、大丈夫か? 変なことされてないな?」

 衣服の乱れはなし。
 怪我もなし。
 ……まったく、ああいう輩は無くならんな。

「お、おねえちゃ~ん……」

「うぉ……と、大丈夫、お姉ちゃんがいるから、大丈夫」

 ……よかった、守れた……
 しがみ付くアリシアの背を撫でながら、その体温を感じる。
 俺はまだ、人を守れる。
 ……たとえ、化け物になろうとも。

「じゃあ、家に帰ろうか? プレシアさんも心配してる」

「……ヤダ」

 ……? え?

「家に帰りたくない……」

「どうして? ……お姉ちゃんに言ってみな?」

 ……まさか……

「わ、私、ママの本当の娘じゃないもん……私、本当は、死んでるはずだったのに……」

 ? あ、あれれ?
 話したわけじゃないのか?

「ま、待て。お前は、ちゃんと、プレシアさんの娘だ。俺が保障する。……誰がそんなこと言ったんだ?」

 誰だそんな曖昧な情報をアリシアに与えたのは。
 ……いや、間違ってはいないけど。

「だって、変だもん。私の生年月日と、私の年齢と、今の年代調べたら……私、フェイトより、年上じゃないとおかしいもん!」

 ……うぁ、そこはちゃんと誤魔化しとけ~。
 てか、ちゃんと生誕年を覚えてたのか。六歳だから忘れてると思ってた?
 ……あ、もしかして。
 戸籍と自分の記憶と、すり合わせて違うって事に気付いたか?
 と、なると……あ、そうか、管理局の入局願書か。
 
「……そうか、おかしいと気付いたか」

「お姉ちゃん……やっぱり、私、ママの子じゃないの? クローンなの?」

 ……まあ、話は聞いてるんだろうな。
 そっちにこじつけたか。
 ……仕方ない、俺が嫌われるか。

「ちょっと待ってな? ……」

 フェイトに連絡。

『せつな! アリシア見なかった!?』

「こっちで保護した。プレシアさんは?」

『よかったぁ……あ、母さん? 代わるね?』

「すまんな、アリシア。ちょっと大声出すから、耳塞いどけ」

「え、う、うん」

『せつな! アリシアは!?』

「無事。……誘拐されかかってたけどな。……何があったか、そっちで説明できる?」

『誘拐って、大丈夫「にきまってんでしょ。それより、なにがあったんだ?」……そ、それが、私にも何がなんだか……い、いきなり、私はママの子じゃないって、飛び出して……』

 うぁ、やっぱり気付いてない。
 本当に、このママさんは~~。

「この、たわけ!! 教育するなら、ちゃんと自分の罪を教えとけ!! 後、自分の娘の知識を舐めてたな? アリシア、自分の生誕年覚えてるぞ?」

『……あ、う、嘘でしょ!? だって、六歳……そ、そうよね、五年で私の知識は吸収したんだから、覚えてて当然ね……じゃあ、今の年とすり合わせて、おかしいことを気付いたのね……迂闊だったわ。ごめんなさい』

「いいよ。俺に謝る前に、アリシアに謝れ。……後、ばらすからな。……いいな?」

『……そうね。フェイトにも確認とってもらえる? 私は、駄目……』

「分かってる。代わってくれ」

 うう、プレシアさん泣きそうな声してたし……ええい、悪役を貫くんだから、こんなところで戸惑ってたまるか。

『あ、あの、母さんに何言ったの? 母さん泣き出しちゃって……』

「すまん、フェイト、憎んでくれていい。……アリシアに、話すから」

『!? ……そっか、知られちゃったんだ……』

 あ、勘違いしてる。

「いや、アリシア、自分の年齢差に気付いた。……お前より年上でないといけない事実に気付いちまった」

『あ、そ、そうなんだ……そうだね。もう、教えないと駄目なんだね……』

「なに、憎まれ役は俺が買うよ。……お前も、俺を憎んでくれていい」

『……ううん、憎んだりしない。せつな、アリシアを……お願い』

「わかった。後でまた電話する」

『うん。……お願いね?』

 ……さて、と。
 律儀に耳を塞いでるアリシアに合図。

「……お母さん、なんて言ってた?」

「ん~? ああ、言わせる前に怒鳴りつけたから聞いてない」

「ええ!?」

「ふふふ~。アリシア知らないだろ~? 俺は昔、プレシアさんを殴り飛ばして説教したことがあるんだぜ?」

「ええええええええええ!? お姉ちゃんすご~い!」

 殴り飛ばしたじゃなくて殺しかけたが正解だけど……まあ同じか。
 アリシアの手を引いて、家……は、まずいか、エリオもいるし。
 と、なると……あそこか。
 途中コンビニにより、食料を購入。
 アリシアの好きなものも買った。アイスクリームとか。
 で、向かうは永遠宅。

「……? 姉さん。いらっしゃい」

「ええ!? せつなお姉ちゃんが……二人?」

「ああ、アリシアは会った事なかったな。俺の妹のカグヤ。……つっても、クローン培養の戦闘機人だが」

「始めまして、アリシア。カグヤ・トワ。……姉さん? 話すの?」

「いや、鋭いな。……入っても大丈夫か?」

「あ、その、今……ノーヴェ来てるけど……」

 て、おいおい。
 確か九番? なんでいるかな?

「何故いる?」

「私の住んでるところ、見てみたいって。ドクターが許可出したから連れてきた」

 あの人は~~~。
 ち、まあいいか。

「すまん、他に、いい場所が思いつかん。家にはエリオとエイミィ義姉さんいるし、フェイトの家の隣だし」

「分かった。……私たちも聞いていいよね?」

「……そうだな。じゃあ上がろうか、アリシア?」

「えっと、お、お邪魔します」

 玄関上がって、奥のリビング。
 ……うあ、色違いスバル……

「カグヤねえ、誰だったん……ええ!? カグヤねえが二人!?」

「え? ……スバル……ちゃん?」

「うーん、なんかデジャヴ感じるな」

「ナイスカオスだね」

 クローン二体とオリジナル二体。シュールだ。
 食料(お菓子含む)をテーブルにばら撒き、それぞれにジュースを配る。
 どっかり座って、まずは自己紹介。

「さて、俺はせつな・トワ・ハラオウン。そこのカグヤの遺伝子提供者だ。後、管理局の人間でもある。次、アリシア」

「あ、はい、アリシア・テスタロッサです。……えっと、次、カグヤさん」

「うん。カグヤ・トワ。せつな姉さんの遺伝子から生まれた、クローン培養の戦闘機人だよ。最後、ノーヴェ?」

「え、えと、ノーヴェ。……あ、後、戦闘機人だ」

 簡潔だなぁ……さすが四代目ツンデレ。
 ちなみに、三代目はアギトだと信じて疑わない俺がいる。
 二代目? ティアナのほかに誰がいる?

「まあ、ちょっとした昔話をアリシアにしたいだけだから、ノーヴェとカグヤは楽にしててくれ」

 間接的には関係あるけど、直接はないからね~?

「……ちょ、ちょっと待てよ! あんた管理局員だろ? あたしら見て、捕まえようとか思わないのかよ!」

「? あれ? カグヤ言ってないのか? 俺がドクターと友好的に付き合ってること」

「あ、言ってないかも」

「へ? お、おいおい! あたしが言うのもあれだけど、ドクター犯罪者だぞ!? いいのかよ!」

「今はいい。……まだ時期じゃないし。俺の知り合い傷つけたわけじゃないし。……まあ、カグヤの親だしな。で、お前はカグヤの妹。……なら、別に捕まえるつもりはない」

 今も言ったが時期じゃないし。
 後五年後……? まてよ?
 ノーヴェ稼動するの、こんなに早かったの?
 なんかえらい早いような……
 ……バタフライ現象起こってる?

「……姉さん?」

「あ、いや、なんでもない。……さて、アリシア。今から話すことを、聞いて、一つだけ約束して欲しい」

「……うん」

「もしかしたら、プレシアさんを憎いと思うかもしれない。ひょっとしたら、フェイトが嫌いになるかもしれない。俺の話を聞いてな?」

「……うん」

「もしそう思ったら、俺を憎め」

「え?」

 悪役は俺。フェイトたちは、何も悪く……な、ないよね?
 まあ、ちょっと失敗もしただろうけど、悪くないはずだ。うん。

「嫌いになるなら、俺を嫌え。お姉ちゃん、アリシアとプレシアさんとフェイトの仲が壊れるのはいやだから、憎むなら俺を憎め。……いいな?」

「……お姉ちゃんを、嫌いになれないよ……」

「でもな? 俺も、お前をこの場に引き寄せた要因でもある。……だから、家族は憎むな。俺を憎め」

「おお。タイムダイバーがいる」

「茶化すなたわけ」

 確かに、よく言ってるけどさあの人。
 俺も時間逆行したけどさ。
 
「……うん、約束する」

「ありがとな。……じゃあ、最初に……」

 話す。
 まずは、アリシアが死んだ事実。死んだ時間と年。
 ……その数年後、生まれたアリシアのクローン。フェイトの存在。
 そして、フェイトとアリシアの違い。
 プレシアさんの凶行。
 さらに。

「で、俺とお前が出会った時の事は、覚えてるか?」

「あ、うん。私が研究所の外で遊んでて、お姉ちゃんがいきなり私を掴んで、変な形の門に押し込んで……そこを通ったら、お母さん……が……あれ?」

 ふん、やっと気付いたか。

「私……もしかして……死んでないアリシア?」

「そうだ。ヒュードラの暴走直前に連れ出したアリシアだ。死んだお前の肉体をお前と入れ替えてな?」

「ちょ、まてよ! それって過去の話なんだろ? どうやってそれを成したんだよ!」

「? 時間を遡る、時間旅行の魔法を使ってだが?」

「「「ええええええええええ!?」」マスターあの魔法使ったの!? あんな欠陥魔法を!?」

 一人増えたと思ったらクラウン?
 欠陥って、おいおい。

「別段、術式に穴はなかったけど?」

【そうですよ、クラウン。どんな欠陥があるというのです】

「あ、あの魔法はね! 人一人が入って、一人が出るとすぐに閉じちゃう一人用の奴なのよ!?」

「【はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?】」

 おいおいおいおいおい!!
 そんな説明どこにもなかったぞ!?

「だ、だって、それ使って聖王が息子助けたって、な、なぁ? パラディン?」

【そ、そうですよ! そう言ってたじゃないですか!】

「息子は助かったんでしょ? ……じゃあ、そこに向かった人は? 聖王本人はどうなったの?」

「【……あ】」

 そう言えば、何も載ってなかったような……
 パラディンも知らないようだ。

「ちなみに、その聖王は過去に取り残されて、十年の歳月をかけて、王宮に戻ったはいいけど、年を取って老けて帰ってきちゃったから、偽者扱いされて、その場で処刑されちゃったのよね……南無南無」

 いや、なんじゃそりゃぁ……
 じゃあ、あの時は、タイムオーバーじゃなくて……

「アリシア入れたから、条件揃って閉まっただけか……ほ、ほんとノーロープバンジーな賭けだったな……」

 閉じ込める闇回収しといてよかったーーーー!!
 でも時間的にもギリギリだったから、あんま意味ないかも、その情報。

「お、お姉ちゃん、わ、私を助ける為に、そんなこと……あ、それじゃ、あの時言ってた二十六年眠って過ごしたって、この事!?」

 おお、それすら覚えてるとは。
 結構IQ高い? 
 まあ、プレシアさんの実子だからなぁ。

「そうだよ? あの時も言ったよね? お姉ちゃん、結構何でもありだから」

「何でもありすぎよ……眠って過ごすって、もしかして時間凍結? 自分の体に? 誰かに見つかったらどうすんの!?」

「ああ、パラディンの中に入ってたから」

【アヴェンジャーパッチを改悪した馬鹿がいましてね? その副産物でできた『閉じこもる闇』を使ったんですよ】

「……む、無茶苦茶だわ……」

「予備知識のないあたしでも、それ無茶だって分かるぜ……か、カグヤねえ? こいつ馬鹿だろ?」

「……それは、私も馬鹿にしてると判断するよ?」

「ええ!? な、なんで!?」

 いや、その話すると長いから後で存分にやってくれ。
 さて。

「まあそういうわけで、お前の年齢の謎はこれで判明したな? お前は、俺が、二十六年後の未来に連れてきた、正真正銘、本物のアリシア・テスタロッサ。……ちゃんとした、プレシアさんの娘だよ。安心したか?」

「……じゃあ、その、連れて行かれて、いなくなった後の二十六年前のお母さんは……?」

「? さあ?」

「え、えええ!?」

 だって……ねえぇ?

「まあ、一応お前の遺体は置いてきたけど、もしそのプレシアさんの前に俺が現われたら、同じことするだろうし、現われなかったとしても、俺らには関係ないな……てか、そっちのフォローまで出来ん。……これは、パラドックスだからな」

「パラドックス?」

「そう、タイムパラドックス。時間相違……なんだっけ? まあいいや。つまり、お前が死んだという事実を、生きているお前を過去から連れてきたことで上塗りした。そのため、過去のお前は死んだことになり、お前自身は未来で生きることになる。じゃあ、その、過去のプレシアさんはどうするか? ……結局は、お前は死んだことになってるから、同じことをするんだ。この世界とな? そして、また俺とあって、同じことをする……その繰り返しなんだわ。もしかしたら、俺がいない世界もあって、この連鎖が断ち切られる場合もあるしな?」

 その場合は本編どおりに進むだろう。
 ……俺みたいにトリップしちゃって、別の方法で助けようとする奴も出てくるかもしれないし。
 所詮この世は万華鏡。
 たった一つの異物で、全部が変わって見えるもの。
 ……変わりすぎは否めないが。

「だから、俺は、今目の前にいるお前のフォローしか出来ん。……これが、お前に隠してた、テスタロッサ家の真実だ」

 せめて、中学まで隠しとくと言ってたプレシアママ。
 だったら、余計な知識叩き込むなよ。
 ばれるだろ、ふつーに。
 教えとけー!!

「……じゃあ、フェイトが、私のクローンなんだ……」

「ああ、お前の遺伝子を使った、人造魔導師。……プレシアさんの最高傑作で、最後の作品。……そして、お前の姉であり、お前の妹だ。後、プレシアさんの最愛の娘。……どうかな? やっぱり、プレシアさんや、フェイトが憎い?」

「……うん、憎いよ。すっごく憎い……どうして、隠してたの? 私、家族なのに……どうして隠してたの!?」

 まあ、そりゃあ、ねえ?

「お前が子供だったからな。言わないように俺が進言した。……話すなら、もう少し大きくなってからにしろってな?」

 嘘だが。
 
「……お姉ちゃんが……」

「だから言ったろ? 俺を憎めって」

 悪役だし。
 嫌われ役だし。
 覚悟は、してたし。

「……でも、私、お母さんに抗議して来る! 何で、お母さんの口で話してくれなかったのって、抗議して来る!」

「その前に、ちゃんとプレシアママに確認取らなかったお前にも非があることは忘れるなよ?」

「あう……お姉ちゃんの意地悪……」

 む、むう。さすがフェイトのオリジナル。いじける表情がフェイトそっくり。

「アリシアかわいー。いい子いい子」

「あ、か、カグヤさん……くすぐったい……」

 ふふ、アリシアを撫でる妹に癒される。
 ……な、ナルシーじゃないよね、これ。
 ……遠巻きに見て、羨ましそうなノーヴェも萌えるな。
 妹の代わりに撫でてやろう。

「なぁ!? な、撫でんな!」

「む……撫でてほしかったんじゃなかったのか?」

「お、男に撫でられたくねぇ!!」

 ……お、男ですか……
 そ、そうですか……
 あ、ある意味あってるけど、実際に指摘されるとキクわぁ……

「……ノーヴェ? 姉さん女性。……貴女は、私やアリシアが『姉さん』と女性扱いしてたの聞いてなかったの?」

「え? へ? だ、だって胸……ペッタンコじゃん」

 ぐっさぁ!
 か、か、か……

「カグヤだって似たようなもんじゃんか! 確かに俺より多少大きいかもしれんが!」

「五㎝差だけどね」

「さらに差が広がっただとう!?」

 う、うわーーーーん!!
 どうせ、どうせ貧乳ですよ!
 丘の上の屋敷のブラコン妹当主と同じくらいしかありませんよ!
 下手したらそれ以下ですよ! 
 どうせ成長しませんよ!

「ちくしょー……ぐれてやるー……」

「……ノーヴェお姉ちゃん? め!」

「う、わ、悪かったよぅ……カグヤねえと同じ顔で泣かないでくれよう……」

「姉さん、不憫な……」

「いや、とどめさしたの貴女でしょ?」

 るーるるーー……


 
 さて。
 アリシアを連れてテスタロッサ家へ。
 カグヤには俺の体の事とシャッハの件とドゥーエ姐さんの件を伝え、

「じゃあ、帰るよ。邪魔したな?」

「ううん。気にしないで。……これからまたノーヴェとラブラブするから」

 おいおい……
 ノーヴェの純潔の無事を祈りつつ家を後にした。
 我が妹ながら、末恐ろしい……未来はナンバーズ全員食われてるかもしれん。
 後、今度見せてねとか言われたけど……何をかな?
 お前男嫌いじゃなかったんか? 俺は別? ……やはり末恐ろしい。

 で、家について、アリシアが気合を入れて、玄関のドアを開ける。

「ただいまーーーーー!!」

 ドアを閉める。
 ……うぉう、プレシアママの泣き声……アリシアの怒声とか……あ、泣き声に変わった。
 ……まあ、もう大丈夫だろう。
 転進して、家に……?
 ドアが開いた音?

「……せつな?」

「……よ、フェイト」



 <フェイト>

 ……せつなの部屋に通される。
 今日はエイミィさんとエリオしかいないみたい。
 ……なんか、久々に入ったな……せつなの部屋。
 箱庭の部屋は、刹那さんの部屋だったから、まるっきり違う。
 ……いや、そうでもないかな。家具とか、パソコンとか、刹那さんの好みを反映している。

「まあ、冷たくなくなってるが」

 コンビニの袋から、ジュースを渡してくれる。
 あ、これ、アリシアの好きなジュース……
 ……せつな、アリシアに全部話したみたい。
 アリシア、怒ってた。
 どうして、話してくれなかったのか、どうして、黙っていたのか……
 家族なのにと。
 アリシアの中で、お母さんはお母さんで、私は、お姉ちゃんと、もう決まってしまっているようだ。
 ……嫌われると思った。
 気持ち悪がられると、思った。

「たく、昨日に今日に……暴露イベント多すぎだ」

「ごめんね、せつな。嫌な役、押し付けちゃって……」

 また、せつなに助けてもらった……
 借りばかり、増えていくなぁ……私の家族。

「まあ、あいつも管理局入るんだし、そろそろ教えないと駄目かな~とは思ってたんだが」

「……うん……」

 本当は、私や、お母さんの口から言わなくちゃいけないのに……
 
「ま、アリシアが優しい子でよかった。どうしてクローンなんか作ったのかとか、私のクローンなんて嫌とか言い出さず、本当によかった……。言ったら叩く気満々だったし」

「……うん」

 怒られたのは、黙っていたことだけ。
 アリシアは、本当に私たちの家族だ。
 
「……ほら、フェイト。おいで?」

「……ごめん……」

 せつなに抱きしめられて、我慢してた涙があふれる。

「本当は、話したくなかった。ずっと、ずっと黙ったままでいたかった……アリシアが、私を否定するのが、怖かった。お母さんが、私を捨てなくちゃならなくなるのが、こわ、かった……」

 本当の子供じゃないのは私のほうだ。
 私のほうが、アリシアのクローン。
 だから、捨てられるなら、私のほうだ。
 ずっと、ずっとその事に怯えていた。
 捨てられたくなくて、嫌われたくなくて。

「……まあ、俺が特殊なのかもしれないけどさ。俺がカグヤに会ったとき、一番最初にしたのが、お互いの知識の確認だったな」

 ……カグヤも、せつなのクローンだ。
 でも、お互いの知識の確認? 珍しいことをする。

「で、大体俺と同じ知識持ってると把握したら、今度は抱擁だ。俺があいつを『妹よ』って呼んだら、あのやろ、『母さん』って呼ぶんだぜ? さすが俺の妹。俺の好みを把握している」

 ……ど、どうコメントしたらいいんだろう。
 ちょっと分からないよその邂逅は。

「ああ、後ギンガやスバルも、クイントさんの遺伝子から生まれたクローンなんだぜ?」

「……うん、聞いてる」

 それは、クイントさんに教えてもらった。
 プラントで保護して、そのまま引き取って……そして、本当の親子になった。
 オリジナルと、クローンの親子……

「なら、俺らやクイントさんたちみたいに、お前とアリシアも、ちゃんと姉妹になる。ちゃんと、家族になる。……大丈夫。俺が保障する。お前らは、立派な家族だよ」

 ……せつな……いつも、いつも、私たちを助けてくれる。
 そして、いつも抱きしめて、慰めて……
 せつな……

「あ、りが、とう……せつな……」

「おう。……まったく、泣き虫は変わってないなぁ」

 そうだね、変わってないね……
 でも、泣くのは、せつなの前だけだから。
 だから……せつな。



「大好き」




 <せつな>

 ……いや、告白されても……まあ、嬉しいけど。
 しがみ付くフェイトの髪を撫でる。
 ……女の子……だな。
 いや、自分も女なんだが。

「まあ、今日は、家族で話しな? 一杯話して、一杯泣いて……それで、明日からまたいつもどおり。それでいいと思うぜ?」

「うん。ありがと。せつながいてくれてよかった」

 ……まあ、いなかったらありえなかった家族だしなぁ……
 いやいや。
 向こうの世界のアニメはアニメ。こっちの世界の現実は現実。
 俺の行動でいろいろ変えたり、変わらなかったり、増えたり減ったりして、この世界独特の話はつむがれる。
 なら、今は、フェイトの笑顔に満足しよう。うん。

「じゃあ、また……」

「ああ、またな?」

 部屋を出るフェイト……あれ?
 戻ってきた。

「……忘れてた。お土産」

「……あ、ああ、有難う」

 そして、顔赤くして……むぅ。キスされた。
 一回許したら、皆容赦しなくなったなぁ……

「じゃ、じゃあね?」

「お、おおう。またな」

 今度こそ出て行く。
 ……はぁ。
 やっと一日終わったぁ。

「……お疲れ様。貴女、結構いろいろ動いてるのね~」

「これでもまだ楽なほうだ」

 明日はさらに忙しい。
 隊舎行って、本部行って、中将と話し合いのち、航空隊行って、アルトさんスカウトして、戻って、訓練して、それから……
 やることは、やっておかないと。
 お嬢さんたちと明るく楽しく過ごす為。
 仕事は一杯だぁ……





「あ~~~~~。南国でなのは達と肉欲に溺れた生活してぇ」

「……女の子の台詞じゃないわ、それ」

 知ってる。






*以上。L25話終了となります。作者です。
なげぇよ。
……まず、前回の声質の件。確認しました。近いうちに修正なり変更なりします。
切り替え式よりふた○りのほうがよかったと思う方。風呂ネタが使えなくなるので却下でお願いします。
次回、とうとう一大イベント。あの災害現場よりお届け。
作者でした。

 



[6790] L26.百万鬼夜行 夜の行軍
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/06 13:18

 ……炎のイメージは、基本的に破壊。
 けど、俺の盗み出した炎は。
 人を助ける力になった。

 ……新暦七一年。空港火災発生。

「『ウルズ』1、3、4。要救助者救助終了! 南東ブロックの要救助者はこれで終わりです!」

「『アサルト』1から報告! 北部ブロック消化終了! そのまま北東ブロックに向かってもらいます!」

「航空隊は!? 本部からの応援は!?」

「まだです!」

 ち、やっぱり遅いな。
 しかし助かった。今日出てきといて。
 なのは達、今日から休みだからこっちに見学したいとか言って、来てたみたいだから、先回りしてたのがよかったぜ本当に。

「マスター! 108陸士部隊の応援が来たわよ! ゲンヤおじ様が見えてるわ!」

「了解だ、クラウン。ゼンガー隊長! ここお願いします!」

「分かった。ナカジマ三佐によろしく言っておいてくれ」
 
 現場指揮をゼンガー隊長に委譲。
 今後の為と、火災発生から現場指揮研修をやらされた。実地で。
 ……さすが教導隊出身。教え方も上手い。
 てか、正規の指揮官研修受けてねんだぞ俺。やらせんなよ。
 指揮車から外に出ると、まだ鎮火しそうにない空港が見える。
 ……それでも、火災発生からもう二時間。
 なのはとフェイトが手伝ってくれたお陰で、救助者も残りわずかだろう。

「せつな! またせた!」

「とっつあん。ご苦労様です。そちらの部隊は、外枠からの鎮火をお願いします。救助が終わり次第、俺も空に上がります」

「わかった。後、スバルたちはいなかったか? その、今日遊びにくる予定だったんだが……」

 予定通りか。えっと、

『本局01よりフォックスリーダー。スバルちゃんを救助終了! 今、避難場所のスタッフに預けたよ!』

 なのはからの報告。俺の下として動いてもらったが、ナイスタイミングだ。
 胸をなでおろすとっつあん。

「怪我とかなかったか?」

『大丈夫。私もスバルちゃんも平気。後は?』

「じゃあ、ワイドエリアサーチで、救助者を探してくれ。もし、見落としがあったら、そこを頼む」

『了解!』

 ふぅ。後は、ギンガだな。
 
「すまんな。迷惑をかける」

「あいつらも俺の妹分ですからね。迷惑なんて思ってませんよ」

 むしろ、知ってるのに、教えなかった俺のほうに非はある。
 ……感謝される筋合いは……いや、素直に受け取っとこう。
 
『本局02よりフォックスリーダー。ギンガを救助。今、脱出してる』

 と、アニメどおりフェイトが助けたか。
 よしよし。

『それで、スバルも来てるらしいよ。救助者の確認を』

「大丈夫だ。そちらはなのはが助けた。ギンガに安心しろって言っといて」

『聞いたとおりだよ、ギンガ』『あ、ありがとう! せつなさん!』

「おう。無事にでて来い。フェイト、ギンガを頼む」

『了解』

 よっしゃ!
 そろそろ上がるか。
 
「じゃあとっつあん。後頼みます。クラウン! 上がるぞ!」

「ほいきた!」「こちらはまかせておけ。気をつけてな!」

 クラウンを伴い、パラディンを起動。
 ユニゾン後、空へ!

『ロングアーチ1より、フォックスリーダー! 火の勢いはいまだ止まずや! あたしの魔法でも、ちょう追いつかへんかも!』

『ロングアーチ4よ。一番激しいところ、南東ブロック東より! まずそこを消して!』

「フォックスリーダー了解だ! アリサの指示のところに、大魔法ぶちかます! はやてはあんま無理すんな! 少しずつでいいから確実に消していけ!」

『『了解!!』』

 ……空から見ると、確かに南東、結構炎の勢い強いな。
 ……燃料タンクか。厄介な。
 氷結? 風圧系? ……ここはアニメにならって氷結系だな。

「フォックスリーダーより、本局01! 南東は救助者及び、救助隊員いるか!?」

『南東ブロック?』

「その周辺全部!」

『……大丈夫! 誰もいないよ!』

 よし、ならば!

「クラウン! 【永久凍土】術式起動開始! 【ブレイブハート】スタンバイ」【stand by brave-heats set up】

 カートリッジロード六発。指揮車と接続して、ターゲットを固定。

「フォックスリーダーより各員! 南東ブロックに広域行くぞ! 近づくなよ!」

 うちの部隊全員に通達。ちょっと威力高めだから、怪我されると怖い。
 各員からの返事。……よし、いける。
 炎吹き上げてる燃料タンクに狙いを定め、最終詠唱。

【魔力収束完了。氷結変換終了。クラウン!】

『術式とターゲットサイト準備完了! 詠唱どうぞ!』

「おし……吹けよ吹雪、天には氷雪、地には氷塊。我が望むは白き凍土!」

 気温が急激に下がる。
 ブレイブハートに収束した魔力が、次々に銀雪に変わる。
 着弾地より、効果範囲をもう一度確認。
 ……生命反応はゼロ。なのに、炎だけが止まらず。

「凍てつけぇ! 【永久凍土】!!」【eternal frieze】

 クロノ兄さんのパクリです、本当にありがt
 しかし、闇の書の闇すら凍らせる氷結魔法の広域版。
 はやての『氷結の息吹』よりも強力なのは試験済み。
 ……リミッター掛かってる為、カートリッジ全部使わないと使えないけど。
 しかも、これのために、兵装システム解除権使っちゃったし。
 一年に三回しか使えないが、まあよかろ。
 ……見事に南東ブロック周辺は鎮火。
 白銀に凍った建物が、指揮車やヘリの光を反射して、キラキラ光っている。
 ……本当に、A+まで落ちてるんだろうな俺。
 クラウンユニゾン+カートリッジ全部だけでも、かなりの威力はあるな……
 普通の戦闘じゃ、絶対使えん。

「フォックスリーダーより、ハルコン。南東ブロックの鎮火終了」

『確認した。次は、北西ブロックを頼む……あと、航空隊の増援だ』

「了解。……おせえんだよ。ばーろー」

 航空隊特有のバリアジャケットを纏った一団が、ようやく本部から出動してきた。
 航空隊の現場隊長に鎮火指示。
 俺はそのまま北西ブロックへ。



 空港全部の鎮火を確認したのは、日付変更線を過ぎる一時間前だった。




 ……テレビの音で目が覚める。
 昨日の空港火災のレポートだ。

「……しっかし、相変わらず他の部隊は初動が遅いな」

 火災発生から、二時間でようやく航空隊が到着。
 救助支援隊が到着したのはさらに一時間後。
 その頃には、うちの女神様達がほとんど救助者の怪我捌ききった後であった。
 おせー。遅すぎ。
 まあ、こちらも、火災発生から三〇分で指揮車到着。
 なのは達と連携とって救助開始。
 ……まさか、その日のうちに寮に帰れるとは思わなかった。
 電気つけたとたんに翌日になりやがったが。
 とりあえず鎮火したから、現場検証や報告等は明日に繰り越し。
 魔導師部隊は一時帰還。
 で、俺の泊り用の部屋に、なのはとフェイトが泊まってます。

「……そうだね。あんなに遅れるとは思わなかったな」

 帰ってシャワーも浴びずに服脱いでダウン。
 皆シャツと下着姿。本編第二話のあのシーンそのままである。
 はやての代わりに俺がいるだけ。
 ……はやてとすずかとアリサは、それぞれの部屋に戻った。
 はやては来年からの移住用に家を買ったが、寮にも彼女専用の部屋がある。
 泊まり用だ。時たま、シグナムも使っている。
 すずかとアリサも同じ様に専用の部屋がある。
 すずかの体の事で、俺と同じにしようかという意見も出したが、何故か他の四人から却下された。
 ……俺、そんなに危ない?
 
「でも、せつなちゃんの部隊がいて、本当に助かったよ。スバルちゃんもギンガちゃんも助けられたし」

 ……ま、これのために早めに部隊用意したんだ。
 これで助けられなかったら首吊るぜ俺。
 一番大切な場面だからなぁ~。

 なお、スバル救出時、やはり壁抜きをした我らがなのは様。
 こないだちょっと模擬戦した時に調べたら……戦闘力、魔法能力共に結構強くなってた。
 ……あの時の誘拐事件で不覚を取ったの、実は根に持ってたようだ。
 レイハ姐さんなしの魔力運用にも手をつけ始め、運動神経もそこそこよくなってきている。
 ……ビーチバレーのアタックはずしたあのなのはがねぇ……

 フェイトのほうは順風満帆。
 ミナセ提督に鍛えられ、順調に様々な事件を解決していっている。
 アリシアとの仲も順調。

 ……後、少し悲しいこともあった。
 プレシアさん、喉に病気があったらしく、それが再発。
 今、ミッドの中央病院に入院中だ。
 ……治る見込みは、あまりない。寿命が近いことを、俺だけに教えてくれた。

「で? 今日はどうする? 部隊見てくか?」

「あ、うん。どうせせつなちゃんは出勤するでしょ?」

「まあな~。昨日の報告もあるし、指揮官研修のレポート出さなきゃだし……後、来週査察官試験だし」

 そうなのだ。
 とうとう俺も嘱託魔導師というアルバイト魔導師から、査察官という嫌われ者の役職につくことになった。
 推薦人はヴェロッサ。サボり癖はあるものの、いろんなところにコネがある凄いやつである。
 まあきっかけは、いろいろスカウトにまわっているうちに、でるわでるわ、各部隊の埃。
 部隊長の横領から、部隊内不倫の概要まで無駄に知っちゃって、知らん振りしようにも出来ないやつも多く、ヴェロッサに相談していくうちに、

『君、査察官になるといいよ。海は僕がいるからいいけど、地上にはあまり優秀なのいないんだよね。君がなってくれると、僕も楽できるんだけど?』

 てな理由で推薦してくれた。
 奴のサボりを手伝ってる気もしないでもないが、どちらかといえば確かに俺向きの仕事だ。
 いろんなところに顔が利くほか、荒事にも慣れている。
 オリハルコン付きの査察官ということで、テッサからも依頼されたし、試験に向けて勉強し、来週に試験と相成った。
 ……俺も、管理局に本格的に就職するわけだ。

「じゃあ、そろそろ行くか。朝は食堂で食えばいいだろ……クラウン! いい加減起きろ!」

「ふぉぁぁぁい……」

 母さんの顔で寝ぼけてるんじゃない。
 可愛いだろこんちくしょう。



*あい、空港火災の回でした。作者です。
まあ、この辺はテンプレどおりってことで軽く流します。
なお、せつなが受けてるリミッターの一つ、兵装限定処置は、アロンダイト以外の四種が封印状態となってます。
作中で語る機会があったら詳しく語らせます。

次回。六課の代わりのトンでも部隊を、原作主役にレポートしてもらいます。

作者でした。



[6790] L26.百万鬼夜行 午前の任務
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/13 01:04
 <なのは>

 えっと、その。
 ほ、本当にこの子が案内をしてくれるのかな?

「ん? あれ? なのははイルイ知らなかったか?」

 ……だ、誰だっけ……
 名前は聞いたことあるんだけど……

「えっと、せつな、紹介して欲しいんだけど」

 そうそう。フルネーム聞けば思い出すかも。

 ……えっと、せつなちゃんに付き合って、管理局特務部隊【オリハルコン】の隊舎に来てます。
 まず案内されたのが食堂。
 二百人が座れる大きな食堂で、メニューは食券で購入。

 食堂主任はレーツェル・ファインシュメッカーさん。以前教導隊の食堂を切り盛りしてた人で、せつなちゃんがスカウトしたそうです。……そこだけはちょっと恨めしいかな?
 副主任に、何故かいるのはザフィーラさん。
 以前からはやてちゃんに師事されていたのは知ってたけど、とうとう職として就く気になったそうです。

 なお、推薦人ははやてちゃん……しかも、はやてちゃんが言い出さなければ、せつなちゃんじきじきにスカウトする予定だったそうです。
 ……二人とも、AAランク相当の実力者なのは秘密だそうです。

 朝食が終わった後、仕事があるせつなちゃんの変わりに、部隊を案内してくれることになったのが、フェイトちゃんと同じ金髪で、ショートツインの女の子。

「んじゃ、イルイ?」

「あ、はい。イルイ・ガンエデン・ゾンボルト。ゼンガーおじ様の、養子になりました。よろしくお願いしますね?」

「ええ!? あ、そういえば!」

 そうだった。ゼンガーさんがある事件で保護した女の子だ。
 人造魔導師の研究対象になってた子で、その強制捜査に、私も参加させてもらったんだった。
 あの時の子か……

「大きくなったねぇ。分からなかったよ」

「なのはさんとは、遠目に見ただけですから。わからないのも無理ないですよ。……じゃあ、お二人は私が案内しますね?」

「すまんイルイ。……イルイは去年からここで魔導師の勉強してるからな。分からないところはまずない。俺は第三小隊事務室にいるから、案内終わったら教えてくれ。じゃあ、また後でな?」

「うん、ありがとうせつな」

「お仕事頑張ってね?」

「おう」

 手を上げて去っていくせつなちゃん。
 子供の頃からずっと働きづめで、査察官試験受かれば、ようやく楽になるといってました。
 ……去年もそんなこと言ってなかったかな?
 後、この部隊では、『フォックス』小隊の小隊長になったらしく、隊員募集中とよく言ってます。
 ……隊長だけの小隊だから、仕事が凄く多いらしいです。

「じゃあ、まずは、どこに行きましょうか?」

「……じゃあ、はやてちゃんの所かな?」

「そうだね。イルイ、お願いするよ」

「分かりました」

 イルイちゃん、凄く礼儀正しい。
 ……ゼンガーさんの教育の賜物だなぁ……
 仕事で留守のときは、レーツェルさんが見てたらしいし。
 とても可愛い女の子になるね……せつなちゃん好みの。

「あの、イルイちゃんは、せつなちゃんと仲いいのかな?」

「はい。せつなさんには、妹みたいに接してもらってます。それに、せつなさんは皆の人気者ですから」

 ……やっぱり妹か。
 せつなちゃん妹増やしすぎだよ……
 後、人気者はひょっとして仕事の……?
 ありえるね。

 まず向かったのが前線支援隊『ロングアーチ』の事務室。
 この部隊の事務も兼ねていて、事務長はロウラン提督の息子さんのグリフィス・ロウラン準陸尉。
 キャリア組のエリートさんで、ロウラン提督の後押しで部隊に参加。
 去年末から部隊の事務を任されているそうです。

「お、なのはちゃんにフェイトちゃん。いらっしゃい。よう来たなぁ~」

「はやてちゃん、お邪魔するね?」

「お疲れ様、はやて」

 『ロングアーチ』の隊長ははやてちゃん。リインフォースさんが隊長補佐、ツヴァイちゃんが補佐官と固めています。
 二人ともデバイス扱いにもかかわらず、普通の業務もこなせるので、せつなちゃんが重宝しているみたいです。
 ……頼りにされている二人が、ちょっと、羨ましい。
 はやてちゃん自身も、指揮スキルを発揮し、前線支援と援護砲撃と事務管理と八面六臂の活躍。
 せつなちゃん曰く、『……俺、それに加えて前線に出されたり、捜査任務もあった……』と、108部隊の修行時代を思い出していました。
 ……うん、それは働きすぎだよ……

「昨日はごめんな~? 手伝うてもろて。お陰で、早期鎮火できたわ。部隊長名義で感謝状でるから、後で受け取ってな~」

「そんな……大げさだよはやて。感謝状なんて」

「そうだよ。その場にいたから、当然の事をしただけだよ」

 感謝状が欲しくてやったわけじゃないのに。

「それでもや。信賞必罰は組織の原則の一つやで? それに、その当然の事ができん人もおる。……救助された人の中に、管理局魔導師が二人おったけど、休暇中やからってデバイス持ってきとらんかった。それならそれでええんやけど、いの一番に逃げ出して、救助も手伝おうとせんかったそうや。……せやから、なのはちゃんたちに感謝状を送って、その二人にはペナルティや。……これも、テッサ部隊長の方針やから、素直に受け取り」

 ……そんな人もいたんだね……
 せっかくの魔法なのに、自分の事しか考えない人もいる。
 分かってたはずなんだけど……実際に聞くと、辛いね……

「わかったよ。ありがとう、はやてちゃん」

「ええんや。……友達に説教するん、なんか恥ずかしいなぁ~。せっちゃん、ようできるわ」

 せつなちゃん、説教癖あるから……
 と、あんまり長居しても邪魔だね。

「それじゃ、はやて。仕事頑張って。次見に行くよ」

「ええよ~。あ! お昼は一緒に食べよな~?」

「うん! じゃあ、あとでね?」

 はやてちゃんと別れて、次を見に行くことに。
 ところで……

「去年から使ってる割に、綺麗だね、隊舎内」

「あ、月に一度部隊員全員で大掃除しますから。交代部隊の方も来て、にぎやかなんですよ?」

 そうなんだ?
 聞くと、大掃除中に事件発生して、部隊員全員で出張り、一時間で制圧。
 戻って掃除を再会したという逸話があるらしい。
 ……皆仲良し?
 
「まあ、部屋与えられて、一週間で資料で一杯にした人もいます。……せつなさんですけど」

 あははははは……
 せつなちゃんのデスクの汚さは、どこに行っても同じらしいから……

「次はどこを見に行きますか?」

「あ、じゃあ、アリシアのところに行ってもいいかな?」

 プレシアさんの娘で弟子、アリシアちゃん。
 去年に入局して、訓練校技術科を最短で卒業。その後、この部隊の施設管理を担当しているみたい。
 一応、技術部の所属になってるから、アリサちゃんと一緒だね?
 隊舎の端の方に技術部室。近くに訓練場があるみたいだね。

「失礼します。アリサさん、アリシアさん。お客様です」

「あら? 来たわね二人とも。アリシアー? フェイト来たわよー?」

「今行きまーす!」

 ふふ、二人とも仲よさそう。
 て、あれ?

「カナメさん! お久しぶりです!」

「あれ? なのはちゃん! フェイトちゃんも、大きくなったねぇ。活躍は聞いてるわよ?」

 最後に会ったのは小学四年生の時のクリスマス。
 あの時、アメリカの大学に行くって言ってたのに……
 いつの間にかこっちに来てるし。

「ふふん。びっくりしたでしょ? カナメさんはマサチューセッツで修士とって、そのままうちに来てくれたのよ? 宗介さんの伝でね?」

「まあ、貴女たちの事も知ってたし。せつなちゃんやテッサの手伝いもできるから、ソースケにお願いしたの。こっちの技術も面白いしね?」

 と、笑顔で話してくれました。
 ……す、凄い、身内ばかりですこの部隊。

「おまたせー。フェイト、なのはさんお疲れ。いろいろあるところだけど、ゆっくりして行って~?」

 そ、そこは何もないって言うところじゃ……まあ、いろいろあるけど。

「ちなみに、ここ、機密ばかりだから、撮影禁止ね? ……私が言うのもなんだけど、せつなってばやばい橋渡りすぎ。フェイトがいるのにこんなこと言うとあれだけど、準ロストロギアまがいのものから、質量兵器ギリギリのものまであるから」

 ぶぅ!? な、何をしてるのせつなちゃん、アリサちゃん!
 ……ぱっと見は、使い方の分からないデバイスとか、何の変哲もなさそうで凄い邪悪なオーラが見え隠れしてるアイテムとか一杯あるけど……

「一応、管理局法には触れてないわよ? ……すれすれだけど」

 にゃ、にゃははははは……
 駄目だ。アリサちゃんがマッドに見える。
 アリシアちゃんもそれに似たオーラが……

「まあ、本当にやばいもの作っちゃったら、私が止めてるから、大丈夫よ」

 カナメさんがここの良心のようだ。
 ……そこまで見越してスカウトしたのかな?

「でも、フェイトが入隊したら、シャーリーさんも来るでしょ? ……カナメさん一人じゃ、止められないかも」

 いや、怖いこと言わないでアリシアちゃん……


 アリサちゃんとアリシアちゃんの仕事が終わったそうなので、みんなでお昼。
 カナメさんはまだ仕事があるらしい。『ロングアーチ』の通信士も兼ねてるそうだ。
 食堂には、はやてちゃんとツヴァイちゃん、後、すずかちゃんもいた。

「なのはちゃん、フェイトちゃんいらっしゃい。……どうかな? この部隊」

「えっと、今技術部覗いて来たんだけど……」

「……知らんかったんや。アリサちゃんにマッドの気があったやなんて……」

「う、うるさいわね。楽しいんだからしょうがないじゃない!」

 うん、私も知らなかった。
 そして、アリシアちゃんが馴染んでる事も信じられない。
 その……マッドの方向に。
 ……すずかちゃんはこの部隊の医務担当。
 魔導師保有枠が広がれば、シャマルさんも参加予定だそうだ。
 ……すずかちゃん、治療中凄く真剣な顔するんだよね。
 昨日の災害で、怪我人の治療してるすずかちゃんは、凄く頑張ってた。
 ……アリサちゃんもすずかちゃんも、この部隊で頑張ってるんだなぁ……

「うぉ、皆もう来てるし……クラウン。俺ペペロンBセット。……皆お疲れ」

 と、せつなちゃん。
 ……そう言えば思ったんだけど。

「せつなちゃん。その制服、男性用だよね?」

「……ああ、そうだけど?」

「女性用着ないの?」

 ……あ、あれ? 
 温度が下がったような……

「……代表して教えたるわ。……去年の査察日の事や」

 去年のロストロギア事件から二ヵ月後。
 地上本部から部隊の査察団が来訪。
 レジアス中将たちの案内を買って出たせつなちゃんだったけど、査察官の一人が一言。

『? 君には、女装の気があるのかね? それは、女性用制服だろう?』

 と、言ってしまったらしく、傍にいたレジアス中将大爆笑。
 二十分ほど笑いが止まらなかったらしく、せつなちゃんは顔真っ赤にしながら、案内を務め、次の日から男性用制服を着用することになったそうだ。
 ……なお、その発言をした査察官。その一ヵ月後に横領と賄賂強請がばれて御用となった。
 ……せつなちゃんの査察官就任を推薦したヴェロッサさん曰く。

『あの査察官、なかなか尻尾見せなかったのに、よく捕まえられたね? ……よっぽど、頭に来たんだろうねぇ~。あの男が捕まるまで、近くにいけなかったし』

 ……せつなちゃんは怒らせてはいけないと言う逸話。

「……そういうわけで、なのはちゃん? スルーの方向でお願いするわ」

「……りょ、了解……」

 く、くわばらくわばら……

 ザフィーラさんが食事を持ってきてくれて、みんなでお昼開始。
 ……話を聞いてると、去年一年だけで、かなりの事件解決に貢献してるらしい。
 正式稼動の設立式には、リンディさんやグレアム提督、ロウラン提督の本局スポンサー陣。
 レジアス中将やその取り巻きの本部スポンサー。
 カリム理事たち教会スポンサーなど、部隊設立の後ろ盾になってくれた人たちや、航空隊の隊長代表や教導隊の隊長代表も来て、ちょっとした賑わいを見せていたそうだ。
 取材陣も多く来てたらしく、次の日の新聞に、『管理外世界出身の美人部隊長誕生』『管理局の未来の先駆け』『初の試み・管理局の注目部隊』などと一面に載っていた。

 ……勿論、やっかみ、妬み等も多い。
 一番不満を漏らしているのが、航行部隊のエリート官僚。
 『地上部隊は地上の仕事をすればいい』『低ランク魔導師に何ができる』『管理外世界の野蛮人が部隊長か』などと、取材で漏らしているらしい。
 続いて多いのが、意外にも一般の人たち。
 『初動が早くても、低ランク魔導師じゃ不安』『管理外世界の人が部隊長で大丈夫か?』と、おもに不安を述べている。

 ……地上本部は、基本的に静観を決め込んでいるが、中将が陰から多大な支援をしてくれているお陰か、陸士たちには友好的。航空隊は全面的に協力を約束しているらしい。
 さらに、せつなちゃんは私やフェイトちゃんをびっくりさせる発言をしてくれた。

「ここはな? 将来的に、地上の教導隊にするつもりなんだ」

 ……ほ、本局の教導隊の私に対する挑戦状かな?
 まあ、それは冗談としても、確かに、ベテランと経験者で固めてある。
 隊長陣は本当にベテラン。けど、実動隊は新人を含む経験者。
 まったくの新人は、ほとんどいない。
 ……アリシアちゃんはまあ例外としてもだ。

「今年から、前線訓練隊を設立して、若い魔導師を随時受け入れ、みっちり訓練させて別の部署に出すって言うシステムを作るつもりだ。……で、だ。なのは?」

「え? ……もしかして……」

「そ。その訓練隊隊長に、お前を予定している」

「え、ええええええええ!!」

 さ、さらにびっくり。
 私を?

「まあ、補佐にもベテランをつけるし、若い奴の中で、ここで働きたいって奴はそのまま働いてもらう。……その見極めを、お前にやってもらいたいんだ。……まあ、これは、保有枠が広がったらの話し。早くて来年。遅くても、再来年にはスカウトに行くよ……どうかな?」

「……い、今すぐってわけじゃないんだね?」

「まあね? まだシステムの概要が決まったばかりだし、それが上手く働くかどうかも分からないから、訓練校から教官一人ひっぱって来てる。今はその人に隊長代理を勤めてもらう。……キタムラ教官だ。知ってるだろ?」

「ええ!? キタムラ教官を!?」

 知ってる。訓練校の集団行動指導でお世話になった人だ。
 私やフェイトちゃんは既に単独行動に慣れてたから、集団演習で時々ミスしてた。
 それに対するアドバイスを貰ったのがキタムラ教官。
 皆鬼とか言ってるけど、本人は凄く優しい人で、丁寧に解るまで教えてくれた。
 そのキタムラ教官まで巻き込むとは……

「ど、どういう知り合いなの?」

「……お、恩師だよ?」

 あ、後ろ暗いことあるんだ。

「せっちゃん? 何隠しとるん?」

「……じ、実は飲み友達」

 て、ちょっと!
 私達まだ未成年!

「しかも、現場にコラード校長来て、そのまま今回の件話したら、あっさり決まって……」

 校長ーーーーーーーー!!
 止めてください、本当に!

「せつな? まさか、あのときのバー……キタムラ教官と?」

「いや、あそこは別の人。教官とは……て、言うと思ったか!」

 むーーーー! お酒は二十歳になってから!

「駄目だよ、せつなちゃん! お酒なんて飲んじゃ!」

「……いや、酒飲んだなんて一言も言ってないんだが?」

 あれぇ?
 ……だって飲み友達……

「勧められても基本的に飲まんし、あの教官だぞ? 勧めると思うか?」

 ……そういえばそうだね。

「もう、紛らわしい言い方しないでよ。……じゃあ、何? キタムラ教官のお酒に付き合ってるだけ?」

「まあね~? 最近の魔導師、七光り多いから苦労するんだと。愚痴に付き合ってんだよ」

 ……七光り、か。
 私の所属する教導隊にも、確かにいる。
 親の役職をカサに、言うこと聞かない隊員が。
 ……そっか、皆、苦労してるんだね。

「まあ、お前が来てくれたら、そのキタムラ教官がお前の補佐に就く。心強かろ?」

 確かに。
 教官がついてくれるんなら、私もやりやすい。

「……ちなみに、フェイト? お前は俺の下な?」

「……え?」

 せつなちゃんの小隊?
 ……あ、そっか、せつなちゃん査察官とるんだっけ。

「お前が調べて、俺が裏とって、二人で捕まえる。……どうよ? 兄さんとヴェロッサ見てて、執務官と査察官のセットって楽だな~と思ってさ? ……俺の右腕になってくれると助かるんだけど?」

 ……わぁ。
 せつなちゃん、本当に考えてるなぁ……
 それなら、フェイトちゃんの夢だった、せつなちゃんと一緒に歩くことができるね。

「……まあ、迎え入れる準備が整ったら、二人とも迎えに行くから。それまで待っててくれ」

 と、にっこり笑ったせつなちゃんが、とても印象的なお昼でした。
 

 さて。
 ご飯が済んで、みんなが散らばり……またイルイちゃんの案内で、今度は訓練場を見せてもらうことに。
 今日は訓練予定で、見知った顔がちらほら……
 イルイちゃんの説明によると、この訓練場は陸戦シミュレーターを設置してあって、それを使って訓練に励んでいるそうです。

 設置を監修したのはマリエル・アテンザ技師。通称マリーさん。
 オリハルコン設立メンバーの四人のうち一人で、アームトルーパーの開発者。
 地球で作られたアームスレイブの欠陥等を広げて、不要論を確立させた人でもあるんだけど、趣味が高じて、プレシアさんと共同でATを開発してしまったそうだ。
 ……まあ、それがなかったら、この部隊はできていないと豪語するのはせつなちゃんだけど。
 あ、マオさん達戻ってきた。休憩かな?

「あれま。なのはちゃんにフェイトちゃん。お久しぶり。元気してた?」

「はい。マオさんたちも元気そうで何よりです」

 相変わらずのナイスボデー(せつなちゃん語)のマオさん。
 前線部隊『ウルズ』の隊長をしています。

「おお~!! やはり思ったとおり、二人とも美人に成長したな。お兄さんは嬉しいよ」

「黙れクルツ。……久しいな、二人とも。先日は助かった、礼を言う」

「いえ、ソースケさんもお変わりなく」

 クルツさんの軽口や、ソースケさんの淡白なところも相変わらず。
 地球でもマオさんの部下だったらしく、この部隊でもチームを組んでいるそうです。

「……? あれ? 確か、もう一人いるんじゃ……」

「ああ、ティーダは今空港。昨日の件で現場検証してるわ」

 もう一人の隊員、ティーダ・ランスター執務官。
 部隊の法務も担当してもらっているらしく、事件が起こるたびに走り回ってるそうです。
 後、妹がいるとか。せつなちゃんの妹分だとか。

「貴女たちお昼は? 良かったら、私たちと一緒しない?」

「あ、すみません、済ましちゃったんです、せつなちゃんたちと」

「そっか。……そりゃそうよねぇ? 恋人だし」

 にゃぁぁ!?
 こ、こいび、とって、へ?

「マオさん? どういうことです?」

 て、なんかフェイトちゃんが怖いよ!?
 嫉妬のオーラがビシバシ……

「え? だって、あの子、よく言ってるわよ?『なのはは俺の恋人だ!』って」

 せ、せつなちゃん……

「うーん、よくって言っても、先日の誘拐未遂事件のときだけだと思うぞ? しかも、エクセ姐さんからの又聞きだし」

「だな。……まあ、部隊員はあいつの精神障害の事は認知している。お前たちを変な目で見る輩はいまい」

 あ、あの時の……
 エクセレンさん、あの時の事話しちゃったんだ……

「じゃあ、私たち、食事行ってくるわね~? 行くわよ、二人とも?」

「へーい。じゃあな二人とも」

「また会おう」

 ……た、多大な爆弾を置いて『ウルズ』小隊退場です……
 ふぇ、フェイトちゃんの目つきが怖い……

「えっと、フェイトさん」

「? なに? イルイ」

 い、イルイちゃん? 今フェイトちゃんに近寄ったら危ないよ~?

「せつなさんは、『フェイトは俺の嫁だ~』と言っていた事があります。……気落ちする必要はないですよ?」

「そうなんだ? そっか~私お嫁さんか~」

 あ、殺気が消えた。
 イルイちゃんナイスフォロー。
 助かりました。
 ……でも、恋人と嫁って、恋人の方がグレード低いような……?
 昔も同じ事言ってたような……



[6790] L26.百万鬼夜行 午後の策謀
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/07/10 19:36
 <なのは>

「ああ、いたな二人とも」

 あ。ゼンガーさん。
 ……銀髪で彫りの深い顔立ちのゼンガーさん。
 教導隊からせつなちゃんがスカウトした、前線部隊の総責任者です。
 ……お兄ちゃんと同じ、侍のオーラがにじみ出ています。渋い。

「どうしたんですか? おじ様」

「ああ、二人とも、部隊長室に来て欲しい。昨日の件で、二人に感謝状がでている。……是非受け取ってくれ」

「あ、はい。わかりました」

「今向かいます」

「案内しよう。……イルイ。そろそろ時間だ」

「はい。……なのはさん、フェイトさん。私そろそろ訓練の時間なので、ここで失礼しますね?」

 え? 訓練?

「あの、ゼンガーさん。訓練って……」

「まあ、基本的な魔力運用を、キタムラ教官に習っているんだ。……本当は、管理局に入ってもらいたくないんだが……」

 ……ゼンガーさんは、イルイちゃんの入局に否定的なんだ。

「おじ様、まだ言ってる。私、おじ様の力になりたい。……そのために訓練して、おじ様のお仕事を手伝いたい。そう何度も言ってるのに」

「……分かっている。しっかり学んで来い。半端者を入れるほど、局は甘くないからな?」

「はい、おじ様。ではお二人とも、失礼しますね?」

「あ、うん、頑張ってね?」

「応援してる。頑張って」

 ……そっか。この部隊の最初の生徒は、イルイちゃんなんだ。
 ……いいなぁ。こういうの。

「すまんな。俺は古い人間のせいか、子供が現場に出るのは否定的でな……と、高町には、以前話したな」

「あ、はい。……私が現場に出るのも、いい顔しませんでしたね?」

「あれ? えっと、なのは、お知り合い?」

 あ、フェイトちゃん知らないんだっけ。

「む、失礼した。オリハルコン前線部隊統括官の、ゼンガー・ゾンボルト一等空尉だ。高町とは教導隊で一緒だった。せつなの懇意で、こちらに身を寄せている」

「はい、本局航行隊『ハガネ』の法務担当、フェイト・テスタロッサ執務官です。今日は見学に来させてもらってます」

 ……ふ、二人とも律儀というか、真面目というか……
 気が合いそうだね。

「ハガネというと、ミナセ提督か。提督には、一時期お世話になったことがある。厳しい方だが、教わることは多いだろう」

「はい、とても親切に教えてもらっています。……ミナセ提督ともお知り合いなんですね」

「ああ、数年前に、武装隊でお世話になった。……そうか、せつなが口利きを頼んだ執務官は君か。俺経由で、せつなはミナセ提督にお前の身柄を引き取ってくれと頼んだはずだ。聞いていないか?」

「一尉を通されたんですか? それは聞きませんでした。ありがとうございます」

「何、構わん。どうせあいつのことだ。お前が聞くまで話さなかったんだろう? 暗躍が好きな奴だからな。俺やレーツェルをスカウトした時も、高町の驚く顔が見ものだと漏らしていた」

「そ、そうなんですか!? せ、せつなちゃんってば……」

 もしかして、そのためだけに二人を引き抜いたんだろうか?
 さ、流石にそれはないか……ないよね?
 
「ところで、ゾンボルト一尉?」

「どうした?」

「さっきから思ってたんですが、皆せつなの事を名前で呼んでますよね? ゾンボルト一尉も」

 あ、そういえば。
 ……私も、ゼンガーさんからは苗字で呼ばれているのに。

「ああ。この部隊が最初に稼動し始めた去年の簡易式の事だ。なんだかんだ言っても、この部隊の立役者はあいつだからな。部隊員の前に立たせて、スピーチをやらせた」

 あはは。照れながら話すせつなちゃんの顔が浮かぶなぁ。
 みんなの前に出るの、苦手だから。

「最初は普通に話して、最後まで普通。あいつらしくないなとレーツェルと話していたら、締めの挨拶の時に」

『あ、後お前ら。俺の事は名前で呼ぶように。苗字で呼んだら問答無用で訓練場行きだから』

「と言い出してな」

 ……せ、せつなちゃんらしいなぁ……
 
「訳を聞いたら、その場で演説初めてな」

『一つは俺はハラオウンの名で動いてるわけじゃない。せつなという一人の人間のわがままでこの部隊を設立した。その事だけは理解して欲しい。もう一つはほとんどの隊員は俺を知ってると思う。もし、知らないと言う奴は前に出ろ。俺がじきじきに自己紹介してやる……いないな? なら、この部隊は一つの家族だ。このメンバーが、最初の家族だ。この後も家族は増えるし、逆に減ったりもする。だからこそ、その采配の一手を担っている、俺はお前らの姉であり妹だ。お母さんとか娘だったりするかもしれん。そして、お前らの友人だ。そこまでの絆があるなら名前で呼べ。苗字なんて堅苦しいことはなし。少なくとも、この部隊内では、そうしろ。返事は、はいかイエスしか認めんからな! 以上!』

「と声高々に宣言してな。あいつに反論する奴は一人としていなかったな」

 ……せつなちゃん、そんなに……
 そうだよね。せつなちゃんが本当に欲しかったものは、支えあえる、家族だったんだ。
 そして、その家族を守る為の第一陣として、前に出て……
 大切な人たちを守る為の剣。
 せつなちゃんの誓い。
 それが、その宣言に含まれてることを私は知ってる。
 ……直に、聞きたかったな。その演説。

 ゼンガーさんの話を聞きながら、部隊長室へ。
 隊舎の最上階。周りを見渡せる一室だ。

「部隊長。高町なのは教導官、フェイト・テスタロッサ執務官をお連れしました」

「ご苦労様です、ゼンガーさん。……お二人とも、お久しぶりですね?」

「テッサさん! お久しぶりです!」

「元気そうで何よりです」

 今日は懐かしい人ばかりにあう。
 ……身内ばかりだから、当たり前かな?

「昨日は協力ありがとうございます。お陰で早期鎮火を実現できました。お二人の協力に、敬意を表して、感謝状という形を取らせてもらいます。……せつなさんだったら、現金よこせーとか言いそうですけど」

 そ、そんなこと言うかなぁ?

「言わないと思いますけど……」

「え? 以前、地球で動いてもらった時は素直に報酬ねだって来ましたよ?」

 せ、せつなちゃん……意外とお金好き?

「あー部隊長。話がずれてますが?」

「あ、そうですね。コホン」

 隣の初老の人に咎められ、一つ咳払いをして、テッサさんが私たちに向き直る。

「本局戦技教導隊所属、高町なのは二等空尉」

「はい!」

「本局航行隊『ハガネ』所属、フェイト・テスタロッサ執務官」

「はい」

「お二人の尽力を心より感謝いたします。特務部隊【オリハルコン】部隊長、テレサ・テスタロッサ三等陸佐……どうぞ、受け取ってください」

 テッサさんから、感謝状が手渡される。
 ……うん。また、人を救えた……せつなちゃんの力になれた……
 これは、その証の一つだ。
 証は、いろんな形を取るけど、やっぱり、一番の証は、せつなちゃんの笑顔だと、私は思う。
 それが、私の願いだから。
 子供の頃からの、夢だから。

「さて、難しいお話はここまで。お二人の武勇伝を聞かせてくださいな。カリーニンさん? 後お願いしますね?」

 笑顔で近づいてくるテッサさん。
 あ、休憩まだだったのかな?

「そうは問屋がおろさない。昨日の報告書、各部署上がったぞ」

 と、部隊長室に入り込んできたのは、書類を抱えたせつなちゃん。
 ……えっと、顔が見えないほどあるって……

「さらに、昨日の活動費、使用機材、消費機材、補充機材の費用請求書。ティーダ執務官からの現場報告書。検証報告書。救助者の見舞い状のリスト……俺の方で捌ける物は捌いた。後はテッサのサイン待ち。これ、全部今日の分だから、死んでもやれ。カリーニンさん、逃げないように見張りお願いします。……まったく、お前の好みで紙媒体に書き起こす俺の身になりやがれ」

 ……お、鬼だ。
 仕事の鬼がいる……

「そ、そんなぁぁ! さ、さっき私の分が終わったのに!」

「はーい、終業まであと三時間! きりきりやれば残業せずにすむぞ! さっさと掛かる!」

 ……うーん、どっちが年上だか、どっちが上官だかわかりません。

「さて、俺の分はもう終わったから、なのは達は貰っていく。部隊長頑張って~? あ、ゼンガーさんもお茶付き合いません?」

「いや、このまま部隊長を手伝うとしよう」

「だ、そうだ。よかったなテッサ。人手が増えた。……すみません、うちのボケ娘に手を貸してやってください」

「誰がボケ娘ですか!」

「身内の旅行に原子力潜水艦乗りつける奴に決まってるだろう! 反論してる暇があったら手を動かせ! ……じゃあ、なのは、フェイト、行こうか?」

「ふぇぇぇぇぇん! せつなさんのいじめっ子~~~~~~!!」

 テッサさんの泣き声を背に、せつなちゃんと部隊長室を後にする……い、いいのかな?
 あ、感謝状、レイジングハートの格納領域に入れとこう。

「あの、せつな? ……よかったの?」

「テッサ? 勿論。ここの部隊長の仕事はおもに書類仕事だからな。……何の為にゼンガーさん入れたと思ってる? 部隊長に楽してもらう為だ……大体、あれくらいの仕事、テッサが本気になれば一時間で終わる。ゼンガーさんも手伝ってるんだから、それより早く終わるな。……? なのは? 何だその目は」

「あ、うん、ゼンガーさん、私を驚かせるためだけに入れたのかと」

「……前から思ってたけど、お前親分になんか恨みある? そんな理由で入れたりしない……あの人の魔法戦闘も、ロマンだしな」

 ど、どんなロマンが……
 わかんない。

「ゾンボルト一尉はどんな戦い方を?」

「ああ、シグナムにかなり似てる。けど、気迫が違いすぎる。最初の一撃で終わらせる気満々で切りかかってくるからな。最初から全力で行かないと、次の瞬間には真っ二つだ」

 ……うん。そんな戦闘の仕方だったね。
 えっと、薩摩示現流だっけ。二の太刀いらず。
 初撃の一の太刀に全力を注ぎ、それのみで倒してしまう剣術。
 ゼンガーさんが師と仰ぐ人から教わった、必殺の剣。
 ……ただ。

「威力がありすぎて、犯人が必ず病院送りになるから、教導隊でも使い辛いと評判の人だったから、うちでスカウトした。AT『グルンガスト参式』渡して、戦術幅広げたから、かなり使い安くなった最強ユニットの一人だぞ?」

 うんうん。
 私は近接戦闘のお世話になったから、嫌いじゃなかったし、同じ仕事もさせてもらったから、悪い人じゃないって分かってる。……この部隊は、ゼンガーさんにとって、いい職場みたいだ。表情が柔らかになってたし。

「せつなも、ゾンボルト一尉には勝てない?」

「あの人はなー、シグナムがリミットブレイクしても勝てなかった人だぞー? ……禁じ手使わんと勝てんわ」

「「ええええええ!!」」

「お前らハモって叫ぶの好きだな」

 いやでもまって!
 シグナムさんが? リミットブレイクして?
 だって、その……

「ゼンガーさん、魔導師ランクA+だよ!? それで、シグナムさんに勝つなんて……」

「まあ、前のデバイスじゃ勝てなかったな。……参式なぁ~……親分いなかったら、俺使いたかった……」

「ど、どんなデバイスなの!?」

 ぎ、技術部で言ってた、違反すれすれの武装?

「まあ、バリアジャケットの代わりになるアーマージャケットと、マテリアルエネルギーを使ったエネルギードリル発生装置。牽制用の魔力射撃機構等の中、近距離仕様でな? 最大の目玉が参式斬艦刀。魔力を流すと日本刀型から特大グレートソードに早変わりする素敵剣。……ロールアウト後の運用試験で、シグナムとやった時にそれ使われて、シグナムが競り負けたんだ。じゃあ、リミッター解除してってことで、それでやったら……親分、参式の武装と斬艦刀完全に使いこなしてな? 結局、一文字切りを防御できずにシグナムダウン。部隊内最強の座を獲得してしまったと……」

 ……す、凄いなぁ……
 と、いいますか。

「そんな凄いデバイス、作っちゃっていいの?」

「……いや、その、あんなん、親分かシグナムか俺じゃないと使えない。……一撃屋専用のピーキー仕様になってる……やっちゃった感が否めない……」

「せ、せつなも使えるんだ……」

「俺のアロンダイトも、コンセプトは一撃必殺だからな。使えないことはない」

 あはははは……
 う、裏を知れば知るほど、この部隊が怖くなってきたよ?
 参加するのやめようかな~?


 ところで。

「せつなちゃん仕事終わったって言ってたけど、もういいの?」

「後は部隊長のサイン待ちとも言ったがな? ……さっきはああいったが、実は全部明日の昼までに各部署に回せばいいやつだから、ホントは死ぬ気でやらなくてもいい」

 あらら。
 お得意の嘘ですか。

「ど、どうしてそんな嘘を?」

「早めに終わらせてくれたら、俺が楽できるから。……お前ら、俺が無理してるって思ってるだろうけど、最近は以前に比べてずっと楽なんだぞ? ……に、二年前のゲンヤさんの部隊にいたときなんかなぁ……」

 曰く、

『せつな~? これやっとけ~』て、あんたの仕事やんけー! 嘱託にやらせんなー!

『せつなー! 調書取りにいけー!』俺の仕事じゃねーだろそれ! 執務官にやらせれー!

『せつな? 先日の件の報告書、ありゃ駄目だ、やり直し』嘘だろ!? 五時間掛けたんだぞあれに!? 鬼ー!

『せつなよぅ。カルタスとお前でホシあげて来い。絶対捕まえろ』て、カルタスさん魔導師ちゃうやんけー! 俺一人!?

『あ、せつな? 休暇中悪いんだけど、すぐ来い。急ぎの仕事だー』や、休んだの一ヶ月前なんですが!?

『せつなか? 仕事だ戻って来い。……修学旅行? そんなもんは後だ』ひでぇよとっつあん……

 ……げ、ゲンヤさん、酷い……

「ふふ……修学旅行中に呼び出されたときが一番殺意わいたね。呼び出すだけ呼び出しといて、ほとんど終わったヤマの後始末でやんの……二日目の朝なんぞに呼び出しやがってーーーー……」

 あ、あの時のってそんな理由だったんだ……
 通りで戻ってきた後、黒いオーラが流れてると……

「まあ、今となったらいい経験になったし、全部応用が利くから、今楽できるのはあれがあったからこそかな?」

 ……せつなちゃんにとっての、師匠なんだね、ゲンヤさんは。
 そう言えば、ゲンヤさんと会って、管理局に入る決意したって言ってたし……
 いい師匠に出会えたんだね。せつなちゃん。

「それに、俺の恨みは全部クイントさんが晴らしてくれたし。……三六連エリアルコンボなんて始めて見たー。やっぱあの姉さん凄いわ」

 そ、そんなオチはいらないと思うよ?



「さって、お茶お茶~」

 三度食堂へ。
 休憩時には、喫茶も受け付けているらしい。
 コーヒーブレイクメニュー? あ、いろいろあ……あれ?

「せ、せつなちゃん? こ、この、『技術提供・翠屋』って……」

「ん? 桃子さんと士郎さんに頭下げて翠屋のレシピ分けてもらった」

 聞いてないよ!?
 そんなの、一言も聞いてないよ!?

「だって、俺活動拠点来年からこっちになるだろ? 翠屋のシュークリームが食えないなんて我慢できん。……レーツェルさん、菓子類得意じゃないけど、できないことはないって言ったからレシピだけ頭下げてもらってきた。……残念ながら、グレードは下がるが、かなり迫っていると思うぞ?」

「しゅ、シュークリームの為にそこまでやるなんて……」

 うう、そう言えば、翠屋来たら、必ず注文してたし。中毒になってたんだね……
 
「本当は桃子さん自身を雇いたかったんだが、士郎さん真剣持ち出してきてな? 仕方ないからレシピだけになったんだ」

「わ、私より先にお母さんに声かけたの!? せつなちゃん酷い!」

「それより先に真剣持ち出した士郎さんはスルーなの? なのは?」

 うわぁぁぁぁぁん!
 せつなちゃんにとって、私はシュークリームより下なんだぁぁぁぁ!!
 ううううううううう。

「まあ、なのはが作れるんなら、はやてより先にお前を入れたんだけどな。いや残念だ」

「うわっぁぁあぁぁぁぁん!!」

 せつなちゃんの意地悪ぅぅぅぅぅぅ!!




 うう、しかも、美味しいし……
 レーツェルさん、お菓子もできるんだなぁ……お母さんに教えてもらおうかな……

「……ま、まあ、さっきのはその……すまんなのは。少し苛めすぎた」

「いーですよーだ。私は、シュークリームより価値のない女の子ですよーだ」

 ふーんだ。せつなちゃん嫌い。
 ふーーーーんだ。

「あらら~? せつなちゃん喧嘩?」

「……苛めすぎか? ほどほどにしないと、愛想をつかされるぞ?」

 あ、響介さんとエクセレンさんだ。
 ……? 知らない人もいる。金髪で短髪の男の人。
 
「う、響介さんに恋愛指導喰らうとは……な、なのはー! 本当に悪かったー! 許してー!」

「おお! 見なさいブリット君? あれがジャパニーズDO・GE・ZAよ? なんて見事な米搗きバッタ!」

「せ、せつなさんが……じゃ、じゃあ、彼女がせつなさんの恋人の高町二等空尉!?」

「て、せつなちゃん! そ、そんな謝り方しないで頭上げてー!?」

 しかも知らない人にまで広まってるー!?
 うわーーーん、せつなちゃんやーめーてー!!

「せつな……ちょっとかっこ悪いよ……」

「や、ブリット君に正しい謝り方を伝授しとこうかと。恋人と喧嘩した時、これをやれば大概許してくれる」

「べ、勉強になります!」

「偽知識教えちゃだめええ!!」

 ああああ、突っ込み、突っ込み役プリーズ!
 私、アリサちゃんみたいに上手くできないよぉぉぉぉ!

「……あーお前ら。食堂で騒ぐのは感心しないな?」

「と、すまんシグナム。ちょっとはしゃぎすぎた」

 ああ、静かな突っ込み役が来た!
 これで助かるよぅ。
 ……事態は沈静化。
 前線小隊『アサルト』のメンバーとお茶をすることに。

「で、フェイトはまだ会ったことなかったな? 『アサルト』の小隊長、南部響介二尉。隊員のエクセレン・ブロウニング三尉。で、こないだ陸上防衛隊からスカウトしたばかりのブルックリン・ラックフィールド陸曹」

「よろしく頼む」

「よろしくねぇん?」

「よろしくお願いします! 自分の事は、ブリットと呼んでください!」

 にゃはは。ブリット君真面目な子だなぁ。
 礼儀もきちんとしてるし。

「ああ、ラックフィールドは、ゾンボルト一尉の師匠と同じ道場の出でな? 示現流は修めてはいないが、その気骨は彼に迫るものがある。まだまだ経験不足は否めないがな……」

「ああ、さらに言うと、俺らの同い年だ。……だから、さん付けはいらないんだよ?」

「いえ! それでも、上官ですから!」

 へぇ~……納得。
 でも、同い年か……私の周りの同い年の男の子で、魔導師って少ないから、ちょっと新鮮。
 ……その分はせつなちゃんが担当してるけど。

「ブリットでいいの? 君は、何かやりたい役職とかあるの?」

「はい! 自分は、教導隊を目指してます! 高町さんみたいな!」

「わ、私!?」

 わ、私が目標?

「自分と同い年なのに、教導隊のエースで、幼い頃には、ロストロギア事件の解決にも尽力したと聞いています! だから自分も、高町さんみたいになりたいと思い、日々、努力してます!」

「え、あの、その、あ、ありがとう。……応援してるよ、頑張って?」

「はい! ありがとうございます!」

 にゃはははは、うん、ちょっと照れちゃうな。
 私も、目標にされるようになったんだなぁ……

「まあでも、しばらくここにいたら、私もこっち来るし。……そしたら、いろいろ教えてあげるね?」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 うんうん。元気があって、いい人だね。
 せつなちゃん、本当にいい人を見つけるの上手いなぁ~。
 天性のスカウトマン?

「んふふ~? せつなちゃんにライバル出現? あまり冷たくしてると、ブリット君に持ってかれちゃうぞ~?」

 ……ど、どうだろう?
 せ、せつなちゃん、焼き餅やいてくれるかな?

「……ブリット。一つ聞く」

「な、なんでしょうか?」

 ? な、なんだろう?

「魔法戦闘なしでシグナムと互角以上の鬼がいるんだが、それを倒せたらなのはと付き合う権利をやろう。当然権利だけで、その後の付き合いは俺を倒してもらわなければならないが……それでもいいか?」

 そ、それって、お兄ちゃんですか……?

「ふ、副隊長? そ、そんな人いるんですか!?」

「……ああ、確かに存在する。……高町の兄だ」

「……すみません、自分はまだまだ役者不足です……」

「ふ、勝った」

 せつなちゃんが威張ってどうするのかな~?
 なんか納得いかないの。

「せつなちゃん? 久々にお話する?」

「いやすんません。だが、男になのはやフェイトを渡すつもりはない!」

 にゃははは。それは確実なんだ。
 よかった。

「何、安心しろ。お前に似合いの嫁くらい、俺がスカウトしてきてやる。それまで精進を続けるんだな」

「はい! ありがとうございます!」

「……よ、嫁ってスカウトできるの?」

「わかんにゃい……」

 どんどんスカウトマンから離れていってるような気がするよ、せつなちゃん……
 で、

「響介さんはぜんぜん喋りませんね?」

「……まあ、性分でな。許せ」

 お兄ちゃんみたいです。



 お茶が終わって『アサルト』隊とも別れて、今度は部隊の駐機場へ。
 大半が陸戦戦力なので、航空支援隊が存在するそうです。
 昨日も部隊の輸送ヘリが消化剤撒きながら飛んでました。

「で、そのパイロットのヴァイス陸曹と、アシスタントのアルト二士だ」

「昨日は助かったぜ、ありがとな?」

「始めまして、よろしくお願いします」

 えっと、せつなちゃんが助けた女の子のお兄さんと、その……

「えっと、妹ですか?」

「いや、こんな生意気な妹いらねー」

「失礼ですよ! あの、この人とは血のつながりはないですから!」

 あれ? 違った?

「妹さんは魔力なしの六歳だからな。普通の学校行ってるよ。……まあ確かに、兄妹に見えなくもないな」

「せつなさんまで!?」

 あはははは。皆仲いいなー。
 
「航空支援は二人だけ? 他にもパイロットはいるんでしょ?」

「……まあいるにはいるんだが、このコンビで運用した方が早いから、あんまり入れてないなぁ。他のパイロットは出向組だし」

 あらら。じゃあ、この部隊専門のパイロットは二人だけなんだ?

「後は、航空指揮官の人だけだが「コラァ! 整備班! 使い終わったら片付けろ!」……あの人」

「うわ、整備の連中、マーさん怒らせんなよ。面倒なんだから」

 マーさん?

「ああ、指揮官のマデューカスさん。階級は二等陸尉。テッサの副官を勤めてた人」

「あの人も私たちの世界の人なんだ……」

 マデューカスだからマーさんか……なにか、いきなり可愛くなったかも。
 あ、あの人かな?
 ドスドスと、歩いて、来て?

「おまえら! いつまで油売っとるか! 終業まであと一時間はあるぞ!」

「「さーいえっさー!!」」

 あらら……ヴァイスさんたち行っちゃった。

「……せつな君も、あまりあいつらを遊ばさせんでくれんか?」

「まあまあ。昨日も忙しかったんですから。……あ、すまん二人とも。こちらがリチャード・ヘンリー・マデューカス一等陸尉。海兵隊出身だから、怒鳴り声はきついが、間違ったことは言わないから、あまり怯えないでほしい」

「君は私を何だと……」

「で、副長? こっちが昨日の火災で協力してもらった本局の高町教導官とテスタロッサ執務官」

「と、失礼しました。お見苦しいところを」

 びしっと敬礼する姿は、やはり軍隊出だ。
 思わずこちらも返してしまう。
 ……こんな人が部隊にいたら、きびきび仕事できそうだね。
 
「? せつな? 何で副長?」

「ああ、いつぞやの潜水艦覚えてるか? それの副艦長だったんだよ。で、テッサがその役職をずっと言い続けてるから、そのまま固定しちゃって」

「あの時は子供が艦長の額にハリセン打ち付けるわ、特務隊指揮官をハリセンで打ち倒すわ……とんでもない子供だと思ったら、それ以上にとんでもない子だったとは……世界は広い」

 あ、あはははは……あの時いなくなったと思ったら、そんなことしてたんだ。

「てか、副長も本気で止めようよ。潜水艦、街の港に横付けする艦長とか、それを提案する指揮官とか」

「止めたんですが聞いてくれなかったんですよ!」

 く、苦労人だなぁ、この人……
 本当に、いろんな人がこの部隊に集まってる。
 これがせつなちゃんの職場かぁ……
 ……ここに、私やフェイトちゃん、シャマルさんとヴィータちゃんが入れば、全員集合だね?
 ……うん、楽しい仕事場になる。

 私も早く、ここで仕事してみたいなぁ……



 夕食も皆で取って、はやてちゃん達は家に、すずかちゃんとアリサちゃんも自分の部屋に戻り、

「で、紹介するところのラスト。隊員寮の寮長お二人のお部屋です」

 ……えっと、こんな時間に行って大丈夫なんでしょうか?

「この時間が一番平穏だからな。シエルさーん。入るよー?」

「はーい。いいわよー?」

 あれ? この声聞き覚えある。
 部屋に入ると、中にはショートヘアの二人の女性。一人はふくよかなイメージ(太ってるとかそう意味じゃなくて、なんかお母さんみたいな)の女性と、メガネの女性……メガネの人、見覚えある?

「あら。なのはちゃんにフェイトちゃん。いらっしゃい。元気そうね?」

「え、ええ?」

「えと?」

 ど、どこであったのかなー?
 どこかで見たはずなんだけど……

「おいおい。メガネと髪型だけでわからんとか……いや、勧めた俺が言うのもなんだけど、すぐわかるけどなぁ?」

「しばらく一緒にいたあなたと一緒にしちゃ駄目よ。……これでわかる?」

 メガネをはずすと……ああ!!

「「クイントさん!!」」

「あったりー! お久しぶりー!」

 こ、こんな所に……変装までして!?

「あ、後、スバルとギンガ助けてくれたの、こいつらだから」

「二人ともありがとー!!」

「わわ!」

 にゃにゃ……フェイトちゃんと一緒に抱きつかれちゃった。
 もう一人の人もニコニコ微笑んでる。

「ふふ、二人とも、凄いのね?」

「ええ、俺の自慢の友人たちですから。……ほれ、クイントさん。ちゃんと自己紹介、偽名の方な?」

「あ、うん、オッケー」

 あはは……クイントさん、ぜんぜん変わってない。
 もう一度メガネをかけて、私たちに向き直る。
 め、メガネ一つでここまで変わるんだ。

「私が男子寮担当の、クイント・ナカジマ改めシエル・エレイシアよ。よろしくね?」

「私は女子寮担当の、アイナ・トライトン。二人ともよろしく」

「この二人が隊員寮の名物寮母。仏のアイナと仁王のシエル」

「ちょ、私のそれは今でも納得行かないんだけど!?」

 な、何をやったらそんなあだ名付くんだろう?

「……二ヶ月前の研修生撲殺事件」

「……な、なんのことかな?」

 ぼ、撲殺?

「……三ヶ月前の痴漢撃退作戦」

「し、知らないなぁ~?」

 作戦って……

「なら一ヶ月前の飲酒暴走事変は! あれ揉み消すの大変だったんだぞ! いくつ切り札使ったと思ってる!」

「ご、ごめ~ん!!」

 も、揉み消すとか……
 本当に何をしたんだろう?
 簡単に概要だけ教えてもらった。

 三ヶ月前の事。
 女子寮浴室に覗きがでたらしく、シエル(クイント)さんとマオさんでトラップを仕掛け見事捕獲。
 犯人は前線隊員一名と交代部隊員二名(一人は巻き添え)。捕獲後顔の原型がなくなるほど殴打。見せしめで翌日一日部隊内清掃。巻き添えの一人は情状酌量の余地ありの上、日頃の行いの良さで許してもらったとか……これが痴漢撃退作戦。

 なお、そのとき使われたトラップは、魔法技術と戦争知識の融合品で、時たま訓練メニューに出されるらしい。

 二ヶ月前の事。
 訓練校より研修生二名が入隊。キタムラ教官が頭を悩ませている『親の七光り』魔導師で、部隊員を悉く軽視。
 その日の夜。男子寮客間にて飲酒。注意しに来たシエルさんを押し倒し、暴行を加えようとした。
 が。
 シエルさんは元々魔導師の上、シューティングアーツと呼ばれる魔法格闘の達人。
 数分で返り討ち&全治三ヶ月の大怪我(魔力ダメージ)を加えた。当然、顔は原型留めず。
 二人はその日に脱隊処分の上、婦女暴行未遂&局内法規違反で書類送検。さらに入院。
 シエルさん本人は減給一ヶ月で許された……これが研修生撲殺事件。確かに撲殺(社会的な意味で)。

 なお、その一ヶ月の生活費は女性隊員のカンパで乗り切ったとか。

 一ヶ月前の事。
 部隊内の飲み会の時に、寮母の二人も参加。二次会に突入し、その店で部隊に反感を持っている本局将校と大論戦になり、その一人を殴りつけてしまったシエルさん。さらに、その将校との模擬戦になってしまい、店の一部を破壊する騒動に発展してしまった。
 本当なら大スキャンダルで、部隊存続の危機なんだけど、なんとせつなちゃん、翌日の本局で、その将校に土下座して許しを買ったらしい。
 リンディさんの娘であり、クロノ君の妹であるせつなちゃんに、そんなことをさせたとあっては、彼の威厳や尊厳、評判に傷が付くと、その将校はすぐさま先日の件を水に流してしまったらしい。本人も大分酔っていたそうだし。
 ……これが、飲酒暴走事変。

 なお、現場となった店に謝罪金や見舞金を送って許しを得たり、その時にいた他のお客に謝りまくったのは全てせつなちゃんだという。

 これでもまだ氷山の一角らしく、様々な事件を拳で解決?していく様はまさに仁王。
 で、そのシエルさんに笑顔で付いていく、アイナさんが仏に見えたという理由で付いたあだ名だそうだ。

「……さて? それで? 弁解はありますかね? シエルさん?」

「まったく持ってございません」

 シエルさん土下座。アイナさんは引きつった笑みを浮かべている。
 でも、その仁王を土下座させている、せつなちゃんは何者でしょうか?
 ……シエルさん。結構お茶目な人だったんだね……


 部隊内を見終え、せつなちゃんの部屋に戻る。
 今日はいろんな人に出会えた。
 ……そして、思ったこと。

「皆、せつなちゃんと仲いいんだよね。びっくりしちゃった」

「うーん。ほとんど俺がスカウトした人だからなぁ~。母さん連れてくる人って能力はいいんだけど、いまいち使い勝手が悪い器用貧乏型だったり、性格が俺と合わなかったり、玉の輿目当てのプレイボーイだったりで、ほとんど蹴ってるし」

 ……ありゃりゃ。
 と、いいますか。

「それって、せつな目当ての?」

「ん? ……なんだかんだ言っても、ハラオウンはビッグネームだからな。唾つけて損はないだろ。……まあ、最近はなくなったな。母さん、俺の性癖に目を瞑ってくれたし」

 あ、そうなんだ?
 ……せつなちゃん、男の人より、女の子のほうが好きだから、リンディさん頭抱えてたけど、認めちゃったんだ。
 
「て、話がそれたな。……まあ、皆、俺とよく話すし、身内ばかりだし、別の部隊で仕事した人だったりで、俺との繋がりがある人ばっかりなんだ。仲良くて当然。……やっぱ、楽しく仕事しないとな?」

 ……そうだよね。
 それが一番だよね。
 利権争いとか、縄張り意識、出世競争でギスギスするよりも、みんなで笑いあって仕事したい。
 そして、大切な人、泣いてる人、助けを求めている人を、救いたい。
 ……私の、私たちの理想の部隊に、一番近いんだ。ここは。
 それを集めたのは、せつなちゃんの想い。

「……せつなちゃん。私、せつなちゃんの要請受けるよ。……この部隊の訓練隊隊長。私、引き受ける」

「私もだよ。……せつなの部下に、力になるよ。呼んでくれるまで、待ってるから」

 だから、私たちも、その想いに集いたい。
 大好きな、せつなちゃんだから。

「……おう。ありがとな?」

 にっこり笑ったせつなちゃんには、もう、悲しみは見えなかった。






「せつなさーん! 交代部隊の連中! 博打始めてますーーー!!」

「て、またタスクか! イルムの兄さん何やってる!」

「混ざってやってるみたいで……」

「あのたらしーーーーーー!! アルトさん、報告ありがと! リオ、案内しろ! じきじきに折檻してくれる!」

「はい!」

 ……えっと、うん、皆仲良し……なのかな?






*チラ裏で遊んでいるのでこちらではまじめに。作者です。
ようやく六課の代わりの部隊の紹介ができました。
ちなみに、部隊編成はこんな感じ。


 部隊長、テレサ・テスタロッサ三等陸佐。非魔導師。
 部隊長補佐、アンドレイ・カリーニン二等陸尉。非魔導師。

 前線部隊統括官、ゼンガー・ゾンボルト一等空尉。近代ベルカA+。

 前線小隊『ウルズ』小隊長、メリッサ・マオ二等陸尉。非魔導師(ミッドD)
 同上副隊長、ティーダ・ランスター執務官(一等空尉相当官)。ミッドA。
 同上小隊員、クルツ・ウェーバー三等陸尉。非魔導師(ミッドD)
 同上小隊員、相良宗介三等陸尉。非魔導師(ミッドD)

 前線小隊『アサルト』小隊長、南武京介二等陸尉。非魔導師(ミッドD)
 同上副隊長、シグナム一等空尉。古代ベルカAA(リミブレ:S)
 同上小隊員、エクセレン・ブロウニング三等陸尉。非魔導師?(ミッドD)
 同上小隊員、ブルックリン・ラックフィールド陸曹。近代ベルカB

遊撃小隊『フォックス』小隊長、せつな・トワ・ハラオウン査察官(一等陸尉相当官)。古代ベルカ(融合型)A+(リミブレ:AAA)

 前線訓練隊『ウィングス』副隊長、カイ・キタムラ陸戦教官(二等陸尉相当官。隊長が決まるまで隊長代理)。ミッドA。

 前線支援隊『ロングアーチ』隊長、八神はやて一等陸尉。古代ベルカAA(リミブレ:S)
 同上副隊長、リインフォース一等陸尉。古代ベルカAA(リミブレ:S)
 同上補佐官、リインフォースⅡ空曹。古代ベルカA+。
 同上支援官、ルキノ・リリエ陸曹。非魔導師。
 同上支援官、千鳥カナメ技術士官。(技術部副主任兼任)非魔導師。
 部隊事務長、グリフィス・ロウラン準陸尉。非魔導師。

 航空支援隊指揮官、リチャード・ヘンリー・マデューカス二等陸尉。非魔導師。 
 航空支援隊員、ヴァイス・グランセニック陸曹。ミッドA。
 同上隊員、アルト・クラエッタ二等陸士。非魔導師。

 医務担当主任代理、月村すずか医務官。非魔導師。
 
 技術部主任、アリサ・バニングス技術士官。ミッドC。
 隊舎施設管理員、アリシア・テスタロッサ技術士官。非魔導師。

 食堂施設統括員、レーツェル・ファインシュメッカー食堂主任。非魔導師扱い(ミッドAA)。
 食堂施設員、ザフィーラ食堂副主任。守護獣(古代ベルカAA)

 隊員寮男子寮長、シエル・エレイシア寮長。非魔導師扱い(近代ベルカAA)
 隊員寮女子寮長、アイナ・トライトン寮長。非魔導師。

 交代部隊・『ファルコン』隊。
 
 隊長、レフィーナ・エンフィールド一等陸尉。ミッドA+。
 隊長補佐、ショーン・ウェブリー二等陸尉。非魔導師。
 隊員指揮、イルムガルト・カザハラ二等陸尉。ミッドA。
 隊員、タスク・シングウジ三等陸尉。近代ベルカB-。
 隊員、レオナ・ガーシュタイン三等陸尉。ミッドB。
 隊員、リョウト・ヒカワ三等陸尉。ミッドA-。
 隊員、リオ・メイロン三等陸尉。近代ベルカB-。
 隊員、ユウキ・ジェグナン三等陸尉。ミッドB+
 隊員、リルカーラ・ボーグナイン三等陸尉。ミッドC。


名前の後のミッドやベルカは使用魔法の種類と、そのランクです。
これが今現在のメンバー表。
編成がんばりましたー。

次回は漫画版に噛んでくるな。それと……ちょっとだけ、悲しいお話。
作者でした。




[6790] 現在、更新が乱れております(謝罪と説明という名の言い訳)
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:f6b928c8
Date: 2009/06/20 19:14
*現在、予定を変更して、電波を発信中。
 


 【永遠の狂姫】、薄暗い個室ブースに登場。
 ブース内には陰鬱な表情の【銀の剣】。

「……アニラジネタってのはわかるんだけど、せつな姉さん? わざわざ暗くしてどうしたの?」

「いや……前回分の感想でね?」

「別スレ外伝のようにNGワード踏まれたとか?」

「こっちではそんなトラップ張ってない。……見ろよ、これ。誤字、表現間違い、名前表記間違い、挙句の果てに……」

「……うん、論理的な質問かぁ……確かに、生物学、物理学的に、チートだもんね。私たち」

「そう。誤字や表現間違いは謝ろう。名前間違いも記憶のみで書いてる作者が悪い。し、しかしだなぁ……」

 【銀の剣】、デスクにこぶしを打ちつけ。

「不可思議な現象とエンターテイメントと、フィクションに説明求めんなーー!! 言い訳考えるのに一週間かかったやんけー!!」

「そういうわけで、今回は、突込みに対する謝罪と説明をメインでお送りします。高卒出の作者の戯言ですので、今回の説明で納得できない、もしくは、理解しがたいと思われたら、それ以上の突っ込みは勘弁してあげてください。そもそも、姉さんが言ったとおり、フィクションに具体的かつ現実的な解析は、ナンセンスですから。……ところで姉さん? 今回のタイトルコールネタは?」

「……突っ込みがきついと掛けまして」

「ほうほう」

「発情期の馬と説く」

「……その心は?」

「常人には受け入れられないでしょう。大きさ的に」

「……これ分かる人本気で何人いるのかな? ネタ的にも、問答的にも。とにかく……くだらーーーーーーーん!!」

「あう……」


『arcadiaシアター!』『せつカグの!』

『のわぁんちゃって SEY YOU!!』


 ブース明るくなる。BGM『鋼の救世主』

「……まあ、スポンサー契約してないけどね。こちらで一方的に乗せていただいているわけだし。管理人さん、ご苦労様です。いつもお世話になってます」

「さて、今回は向こうのほうが忙しいそうだから、クロスはなしだ。俺たちオリキャラだけで話を進めるぞ。……まずは、誤字系の謝罪から」


 【255・ココンさん】

「よく間違えるよね。シミュレーション。ちなみに作者。この間違いを解ってます」

「わかってて間違えたってことは、ちゃんと推敲しなかったってことか?」

「した上で見逃したんだよ。……直しておきます。指摘、ありがとうございました」


 【254・レイドリックさん、257・璃音さん】

「作者の覚え間違いシリーズだね。前回、突っ込まれる前に『美由希』さんの名前直せたっていうのに……」

「あれも、別のスレで話題に上がってて気づいたって話だからな。……ブリット、リョウト、ユウキ。本当にごめん。直しておくから馬鹿な上司と作者を許してくれ」

「お二人とも、ご指摘ありがとうございました」


 【250・262・2さん、261・鱸さん】

「このお二人からの指摘は表現間違いだね。2さんにはよく突っ込まれてます。特に、今回は二つも……」

「とりあえず、修正します。250『師事してもらう』を『師事されていた』。262『~打ち付けるは~打ち倒すは』を『~打ち付けるわ~打ち倒すわ』」

「261『役不足』を『役者不足』に変更しておきます。ご指摘、ありがとうございます。……ところで、作者って本当に文系なのか? いくらなんでも表現の指摘が多いような……」

「姉さん。作者は『文系÷2+理系÷2+体育会系÷2-社交性』の式で表せるんだよ?」

「……それって一般的に『駄目人間』って言わないか?」


「修正項目は以上。次に、質疑応答に移るぞ。質問の早かった順番から」


 【249・大さん】

「前回のあとがきに乗せたとおり、キタムラ教官はダンディ髭のカイ・キタムラ教官のことです。管理局本部局員訓練校の陸士科の教官を引っ張ってきました」

「使用術式ミッドチルダ、ランクはA。使用デバイスはアームドデバイス『ゲシュペンストS』。……ATデバイスの試作機を魔導師用に改修した特別機を贈られています」

「あと、教導隊にいたことあって、ゼンガー親分と同じ班だった事もあるらしい。……なのに、彼、レーツェルさんの正体を気づいていません」

「めがね恐るべし……あ、あの人はゴーグルか」


 【253・星天さん】

「……突っ込まれる覚悟はしてたさ。うん。……リミッターの件ね」

「姉さんが作中で言ってるけど、やっぱり保有魔導師枠の壁は厚かったんです。……前線部隊のランクの低さで何とか姉さんとシグナムを入れられたけど、はやての入隊時にリインズにも規制かかっちゃったらしくて。……姉さん一人のリミッターで済むはずが、シグナムにもリミッター仕掛けないといけなくなってしまったんです」

「で、そのはやてとリインフォースにもリミッターかかっているのは……次に入れる、なのは、フェイトのためだな。シャマルさんやヴィータも控えてるし、部隊の評価を上げて、保有枠を広げている最中だ。……それと、間違えてはいけないんだが、俺たちは軍隊じゃない」

「作者の認識では『管理局=自衛隊+警察+法廷』と考えてます。……姉さん、戦争がしたくて戦力を集めているわけではないので、そこはご了承ください」

「こんな場で言うべきことじゃないけど、俺はあくまでなのはたちの守護を主としている。そのために必要なことを模索した結果、こんな形になっただけで、次元世界の平和維持や管理には興味ねーです。俺の嫁どもは俺が守る!」

「その割にはピンチに駆けつけて上げられないこと多いけどね」

「ざっくぅ!?」


 【259・閲覧者な紅き人さん】

「ヴィータ……彼女は、遠い遠いお星様に」

「なってねぇよ。……原作と同じように本局武装隊に在籍してます。ただ、オリハルコンの参入は一番最後になる予定」

「ヴィータファンの皆さん、しばらく我慢してあげてください。作者、ヴィータもお気に入りの一人なんで」


 【264・senさん】

「はい、とうとうやってきました、一番の難関……ぶっちゃけ、スルーしたい」

「でも、ここまでやってこの突っ込みをスルーしたらブーイングの嵐だよ? ……まず、私のIS『スペルワード』の件についてだね。

 まず、忘れないでほしいのが私は『戦闘機人』であって『魔導師』ではないってこと。戦闘機人のIS……インヒューレントスキルはリンカーコアから生成される魔力とは別のエネルギーを使っているってこと。……オットーの『レイストーム』が、私のISに一番近いのかな? 詳しい説明を作中でしてないからsenさんのような質問が来たから、ここで解説させてもらうね?

 IS『スペルワード』

 エネルギーを数種の弾に変換し、30秒~99秒間、パターンを組んでエネルギー弾を射出する固有技能。遺伝子提供者『永遠せつな』からの遺伝技能ではなく、突然変異系。エネルギー弾の種類、パターンは発動する『言葉』によって代わり、【永森刹那】がやりこんでいた弾幕シューティングゲームからの引用。
 彼女自身もオリジナルで弾幕パターンを試作している。
 IS(弾幕)発動中は基本的にほかの行動は取れない。殺傷、非殺傷の切り替えができる。本体にダメージが通れば、発動中の弾幕は中断する。一日に発動できる弾幕パターンはレベルEXで2回。ルナティックで4回。ハードで8回。ノーマルで16回。イージーで32回。などの制約、ルールがある。


 ……私に関しては以上かな。あと、『機人のISが別のエネルギー云々』の件は作者のオリジナルなので、そこはご了承のほど」


「正確には、ちゃんとした確認が取れなかったって理由がある。……確か、そんな発言があったような、なかったような? それに、AMFばら撒きまくったフィールドで、あいつら普通にIS使えてるから、魔力運用じゃないだろ」

「だね。……じゃあ、次は姉さんに関する質問。生物学的にいえば、本気でありえないんだよね。……あ、カタツムリって例外もあったっけ」

「カタツムリ……俺、カタツムリと同レベル……」

「まあ、ここでゲストに登場してもらうことにするよ? ……姉さんを改造した張本人。古代ベルカの騎士、クラウンさんでーす」

 電子音拍手の後、現れる手のひらサイズのリンディさん……もとい、【幻惑の騎士】。
 なお、服装はなぜか白衣。……白衣の下はビキニ風の革製ボディースーツ。普通にエロい。

「呼ばれたわよ。……もう、駄目じゃないの、マスター。こんな話題は、笑って『知るか馬鹿』って言ってあげないと」

「できるか! 痛いところに突っ込まれたが、読んでくれた上での質問だぞ!?」

「もう、仕方ないわね……さて、マスターの男女変換機能についてね? 例題として出されたとおり、妊娠中に男性体に変わったら……て、話なんだけど、まず、まだ作中に出してない設定を公開するわ。……もともと、公開する予定もなかった設定だけど」

「……それって、どんな?」

「そりゃ、もちろん……マスター、子供産めない体よ?」

「「……はぁ!?」」

「証拠に、マスター。……TS系最大の難関、生理の話題……一度も引っかかってないでしょ? マスターは卵巣に異常があって、子供を作れない体なのよ」

「……た、確かに、15にもなるのにそのイベントがないなーとは思ってたけど……」

「い、一応、私のほうには生理来てるよ? 姉さん、まだ来てないの?」

「……来てない……」

「おまけに、あっちの毛もつるつるだしね」

「それは言うな!」

「まあ、とにかく。これは質問されたこととは関係のない話ね。で、問題の変換機能の詳しい説明だけど……実はこれ、デバイスの形状変換の応用なのよ」

「デバイスの形状変換って……レイハ姐さんの『シューティングモード』や『エクセリオンモード』とか、アイゼンの『ラケーテンフォルム』や『ギガントフォルム』みたいな?」

「そうそう。あれも大概物理法則無視しまくってるでしょ? ……あれはデバイスのコアユニットにそれぞれのパーツを圧縮保存しておいて、解凍コマンドによって形状変換させているんだけど、マスターに施した変換機能もそれと同じ。マスターのコア……リンカーコアに男性体のパーツ(骨格、筋肉、性器)を圧縮保存して、マスターの意思ひとつで女性体のパーツと交換しているわけ。古代ベルカの……あ、これはちがうわね。これは『アルハザード』の技術の一つだったわ」

「ちょいまち! 今、とんでもなく不穏な言葉吐かなかったか!?」

「これも公開する予定のない裏設定でね? 私、ベルカの騎士と兼業で、アルハザードの研究者でもあったの。主に、生物学、人体学、魔法力学が専攻で、人体改造とか得意中の得意よ?」

「じゃ、じゃあ、俺の胸を大きくすることも……」

「あ、それは無理。こないだのデュアルユニゾンならともかく、そんなことしたら抑止力が働くわ」

「抑止力レベル!? そんなぁ……」

「今のマスターは本当の意味で『女の体をもった男』よ。……生理通のない便利な体で、よかったじゃない」

「……そ、それは喜んでいいのか悲しんでいいのか……」
 
「不憫な姉さん……」


 【267・バミューダさん】

「? これは質問でも疑問でもなく、読者の意見だよね? スルーすれば?」

「……そうも行かない。作者代理の言葉で勘弁してほしいが、一応な? ……この作品は『魔法少女リリカルなのは』をベースに作っている以上、とらハ板に乗せるために作った作品です。作者がチキンなため、最初はチラシの裏に置いてましたが、作者の独自ルール『感想数が100件突破したら板移動』が作動しましたので、こちらの板に移動させていただきました。……実際に移動したのはもっと後でしたが。つまり、何が言いたいかといいますと……絶対にチラ裏に帰ってやらんぞと」

「またそんな上から目線な……」

「向こう側の遊びすぎはともかく、こっちはこっちで真面目にやってるんだ。もうすぐ大仕掛けも動くし……だいたい、今回の話に5日間と2時間掛けてんだぞ! 全部スルーして次の話に行けばいいのに! あのマゾ作者ーー!!」

「……ネカフェ通いの苦労を人に分かって貰うのは、至難の業だよ、姉さん……」




「以上を持ちまして、誤字、表現間違いの謝罪&質疑応答を終了させてもらいます。本日はご清聴(読?)ありがとうございました。お相手は【銀の剣】せつなと」

「【永遠の狂姫】カグヤ。そして、ゲストの」

「【幻惑の騎士】クラウンでした~」




「……ところで、前に言われてたんだけど、何でシグナムたち、お前スルーしてるの?」

「ん? ……私、以前ヴィータに悪戯してから、ヴォルケンズに嫌われてるのよね~」

「悪戯って……なにしたの?」

「ヴィータを大人にして、シグナムとシャマルを子供にして、ザフィーラを猫にしただけよ?」

「……ヴィータには大絶賛なんじゃないのか?」

「あ、大人にしても、あの胸はぺったんこのままだったからかしら?」

「「それは酷い」」





*以上、電波が通過しました。再び、本編をお楽しみください。作者でした。





[6790] L27.大魔導師の死 史実の死
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:f6b928c8
Date: 2009/06/13 01:15

 新暦72年、管理局陸士訓練校。
 エリオの願いで、見学に来る事になった。

 ……本編では、スバルとティアナがここで頑張り始める時期だな。
 まあ、この世界でも、それは一緒みたいだけど。
 ……後、イルイも訓練校に入校した。

 今年の三月に行われた、ゼンガーさんとの一騎打ちで、一撃を当てるという快挙を成し遂げたイルイ。
 当然、親分には訓練用アームドデバイスを使ってもらった。でねーと勝ち目ねーもん。
 ……その結果で、親分もとうとう折れ、イルイの入校許可が下りた。
 ……と、いいますか、イルイ? その戦術、完全に俺のモーションデータ……アロンダイト2ndフォルム使ってる時の俺のじゃん。
 いつの間に……使ってるデバイスも双剣状だし。

 ま、まあ、ガンエデンユニットは使えんよな。あれ完全にアウトだし。カナメさん止めたし。ティーダさんに怒られたし。
 ……ネタで作って貰ったが、アリサもアリシアも調子に乗りすぎたようだ。さーせん。

「……で、この子が俺の弟のエリオです。エリオ? 校長に自己紹介」

「はい! エリオ・ハラオウン、七歳です!」

 俺たちの目の前にいるのは、訓練校の校長で俺の恩師、ファーン・コラード校長。
 ぱっと見優しいおばあちゃんで、実際に優しい人……だが。
 俺、模擬戦でこの人に勝てたこと一度も無い。
 ……上手すぎるんだよな、魔力運用技術。
 俺の戦術の穴という穴にピンポイントで攻めてきて、体制を崩してあれよあれよと防御してると、いつの間にか一撃喰らって負けてる。
 ……ユニゾン状態でやったことないから、今度お願いしてみるか……

「元気な子ね? せつなちゃんとは、また違ったタイプの騎士になりそうね?」

「俺のほうが特殊ですからね。エリオには、正統派の騎士を目指してもらいたいです」

 普通、俺みたいにデバイス何個も持って運用する騎士は珍しい。
 てかいません。よくて形状変換のみじゃ。

 ……俺は結構強く見られがちだが、相手の苦手なポジションを確保できるからであって、相手の得意分野で勝とうと思えば大分苦労する。
 言って見れば、某剣製の人と同じだ。
 だから、全能力を使ってシグナムには勝てるけど、アロンダイトだけだと、ほぼ負けてる。

 ……最初、アロンダイトをレヴァンティン対応とか抜かしたけど、まったくの勘違いだった。
 とほほ。

「今日は今年入校した子の初訓練日ですから、ゆっくり見て行ってね?」

 お。そうなると、スバルたちもいるかも。
 よーし、冷やかしにいくべ。




 <スバル>

 ……とうとう、ここから私の夢が始まる。
 今日から初訓練。最初は、魔力運用の講義で、それが終わって今からパートナーとの模擬戦だ。
 私のパートナーは同じ部屋のティアナ・ランスターさん。
 濃いオレンジ色のツインテールが印象的。子供の頃のフェイトさんみたい。
 私と同じ持ち込みデバイスで、お姉さんともいえる人から入校祝いに貰ったものだそうだ。
 明るい人だが、少々きつい。

「じゃあ、始めるわよ? ……さっきも言ったけど、私中距離や長距離専門だから、手加減はしてよね?」

「わかってるよ。でも、容赦はしないからね?」

「はいはい。……行くわよ!」

 て、中距離なのに突っ込んできた!?
 なんで!?
 
「『シュートバレット!』」

 て、えええええ!!
 近づいてきてるティアナさんの後ろから魔力弾が飛んでくる!?
 ええい!

「と、ええ!?」

 魔力弾を回避して、よく見ると……
 ティアナさんが二人!?

「ほら、ちゃんとかかってきなさい!」

 もう一人も魔力弾を撃って来た!
 え!? 分身の術!?
 せつなお姉ちゃんが言ってた、ジャパニーズニンジャ!?
 く、とにかく、反撃しないと!

「はぁ!」

 突っ込んできた方のティアナさんの魔力弾を掻い潜り、魔力打撃!
 ……え? 消えた?

「そっち、偽者だから」

 う、後ろ取られちゃった……
 なら!

「こうだよ!」

 ギンねえ直伝、後ろ回し蹴り!
 って、すり抜けた!?

「『ヴァリアブルバレット』!」

 へ?
 アウ!
 ……横から飛んできた魔力弾頭を頭に受けて、すっころんでしまった。
 ま、負けた~……

「……そっちも偽者……残念だったわね?」

「く、くやしぃ~~~!!」

 分身の術なんてずるい!
 
「ずるくないわよ? これも、魔法よ? 幻術魔法。知らない?」

「……うう、使える人知ってる……」

 せつなお姉ちゃんがよくフェイントで使ってた。
 こんな使い方もあるなんて……

「そうなの? 私の周りでも、二人くらいしか知らないけど……結構いるのね」

「そうですか? 私も知ってますけど。……一人はランスターさんのお兄さんですけどね?」

 うわぁ!! 誰!?
 金髪で、ショートの女の子。両側に髪留めを一つずつ……私たちより、年下だ。
 て、

「え? お兄ちゃん知ってるの!?」「ティアナさんお兄さんいるの? あと、あなた誰?」

「はい。私の保護者と同じ部隊の人ですよ? ティーダ・ランスター執務官。……後、私はイルイ・ガンエデン・ゾンボルト。よろしくお願いしますね?」

 ……わ、私たちの質問、全部答えちゃった。
 礼儀正しくて、可愛い子だな~。

「あ、そうなんだ? 私はティアナ・ランスター。こっちはスバル・ナカジマ」

「よろしく、イルイちゃん!」

「……えと、ひょっとして、スバルさん覚えてませんね……?」

 ? えと、何を?

「……まさか、こいつにあったことあるの?」

「二年前に一度だけですけど。……シエルさんの娘さんですよね?」

 ええ!! お母さんの事も知ってるの!?
 ……ああ!! そうだそうだ!
 思い出した!

「あの、お侍さんの傍にいた子!」

「侍ってあんたね……」

「……た、確かに、侍のような人ですけど……」

 いや、世間って狭いな~。
 
「それより、スバルさん。今度は私と試合ってもらえませんか? 私だけあぶれてしまって……」

「あ、うん! いいよ~!」

 持ってるデバイスから見るに、近距離戦闘だね。
 二刀流……お姉ちゃんから聞いた、なのはさんのお兄さんみたい。

「じゃあ、私見てるわね? ……スバル? イルイに負けたら笑うわね?」

「か、簡単に負けないよ!」

「ふふ。じゃあ、お願いしますね?」

 いっくぞ~!!




「……あんた、弱すぎ」

「え、えと、ごめんなさい……」

「ううううううう、イルイちゃんつおい……」

 五回やって五回とも負けちゃった……
 近距離かと思ったら、広域斬撃が来て、避けられず、被弾したところを詰められて一本。
 防御で広域斬撃を防いだら、今度は連撃に耐え切れずバリア破られて一本。
 後の三回もあの手この手で、隙を突かれて……うう、私のシューティングアーツがぁ……

「えと、シエルさんからも手ほどきを受けたので、その、錬度の甘いスバルさんの隙は突きやすかったです……ご、ごめんなさい」

「謝ることないわよ、イルイ。……良かったら、私と組まない?」

「ちょ、捨てないでティアナさーーーーん!!」

 あうううう……いきなりコンビ解消のピンチーーーー!

「あ! せつなお姉ちゃん! スバルさんいたよーーー!!」

 え? この声、エリオ君?
 それに、せつなお姉ちゃんって!?
 来てるの!?

「お、いたいた……て、お前らもう知り合いか?」

「せつなお姉ちゃん! エリオ君!」「せつなさん!?」「こんにちは、せつなさん、エリオ」

「「て、せつなさん(お姉ちゃん)知ってるの!?」」

「……二人とも鈍すぎです」

 ええええ!?
 二人とも、お姉ちゃん知ってるなんて!
 せつなお姉ちゃんはニコニコ笑いで近づいてきて、

「ふふふふ。頑張っているようだな妹ども。お姉さんはうれしいよ」

 と、私の頭を撫でてくれた。
 あ、あう。

「……皆さん、せつなさんの妹分なんですよ? ティアナさんもスバルさんも私も」

「……いや、世間は狭いわね~」

 本当にね?
 
「お前らこれから飯だろ? 今日はお姉さんが奢ってやろう。食堂行くぞ~?」

「「は~い!!」」

「ちょ、せつなさん? こいつの馬鹿食い知らないんですか!?」

 ば、馬鹿って、酷いよ~。
 あれくらい普通だよ?

「……ティア? 俺はね? こいつと、こいつの姉さんと、こいつの母親の食事を奢って母さんに借金した女だ。知らないはずないじゃないか」

「……ご、ご愁傷様です……」

 て、あの時泣いてたのって、そうだったんだ……
 うう、わ、悪いことしたかも。

「それに、エリオも結構食うしな? 今日は金おろして来てるし、ここの飯安いから、じょぶじょぶ。お姉さんに任せなさい」

 と、胸を叩くせつなお姉ちゃん。
 ……相変わらず、かっこいいなぁ~。

「……じゃあ。ご馳走になります、せつなさん」

「すみません。ご馳走になりますね?」

「おう。……スバルも、いつもどおり食っていいからな?」

「うん! お姉ちゃん大好き!」

 えへへ。嬉しいな。みんなでお昼だ。


 ……せつなお姉ちゃんは私が小さい頃からのお友達だ。

 お母さんが連れてきて、最初、私はお姉ちゃんが怖かった。
 その目に圧倒されて、ギンねえの後ろで隠れてた。
 ……けど、いろいろ話しかけてくれて、怖いと言っても怒らず、目が怖いといえば、目を瞑ってくれた。
 私の顔が見えなくても、私が怖がらずにすむならこれでいいと言ってくれて、面白くて優しい人だとわかった。

 ……私の秘密を知っても、怖がったりせずに、接してくれた。

 一緒に海にも行った。お姉ちゃんのお友達にも、遊んでもらった。その中には、幼いなのはさんの姿もあった。
 お姉ちゃんが管理局に入って、お母さんと同じ部隊に配属になってからは、よく家に遊びに来てくれた。

 ギンねえも、お姉ちゃんが大好きで、お母さんの次に大好きな人になった。

 ……五年前、お母さんの部隊が全滅したと、お父さんから聞かされた。
 お母さんも死んじゃったって聞いて、ギンねえにすがり付いて泣いていた。
 その時に、お姉ちゃんが会いに来てくれて、泣いてる私たちに言った。

『お母さんに会いに行くぞ~!』

 その言葉について行き、お姉ちゃんの家から飛び出して、あるアパートに辿り着き、その玄関を開けると。

『あら、せつなちゃん、どうしたの?』

 お母さんが、いつもの調子で出てきた。
 ……お母さんが生きてた! 
 ギンねえと一緒に飛びついたのは、しっかり覚えてる。
 後、お母さんを助けてくれたと言う、せつなお姉ちゃんそっくりのカグヤお姉ちゃんにはびっくりした。

 ……それから、年に三、四回、お母さんに会いに連れて行ってくれた。
 二年前に、せつなお姉ちゃんの部隊にいるお母さんを見てびっくりした。
 長かった髪をばっさり切って、メガネをかけて、一瞬誰かと思った。

 ……お母さん自身、ミッドでは死んでいることになっているので、別人としてここにいるそうだ。
 シエル・エレイシア。お母さんの新しい名前。
 でも、名前が変わっても、髪形が変わっても、私たちの好きなお母さんだった。
 時々お姉ちゃんに連れて行ってもらい、シューティングアーツを教えてもらった。
 ギンねえが管理局に入ってからは、私も魔法の勉強をし始めて、それの手伝いをお姉ちゃんがしてくれた。

 ……去年。お父さんのところに、ギンねえと遊びに行く途中、空港で火災があった。
 ギンねえとはぐれ、炎の中、さまよい歩いているところに、倒れてきた石柱。
 それを押さえ、助けてくれたのが、昔会った、せつなお姉ちゃんの親友のなのはさん。
 なのはさんも私の事を覚えててくれたそうで、

『大丈夫。安全なところまで一直線だから』

 と、空港の壁に大穴を空ける砲撃を撃ち放った。
 ……その、強さ、そして、私を連れ出したときに感じた、優しさ。
 せつなお姉ちゃんの親友のなのはさんに、私は憧れた。
 ……その日にはお姉ちゃんに会えなかったけど、二日後に、なのはさんとフェイトさんを連れて、会いにきてくれた。

『……怪我、ないな? ……ほれ? なのはにお礼!』

『あ、え? その……なのはさん! ありがとう!』

『にゃはは……無事でよかったよ、スバルちゃん』

 ……空港で見た強さのかけらもなく、照れて頭を撫でてくれたなのはさん。
 後に知ったなのはさんの実力。
 『教導隊の不屈のエース』『空のエースオブエース』
 でも、本当のなのはさんは、とても優しくて、可愛い女性だと、お姉ちゃんは教えてくれた。
 ……そして、私は管理局を目指し、今、ここに居る。
 せつなお姉ちゃんと、なのはさんを目指して。



 <せつな>

「……ふふふふふ。そうか、スバル。イルイに五連敗か……ティアにも負けてるとは……これは、シエルさんに報告だな?」

「うぁぁあぁん! それはやめてーーーー!!」

 てか、イルイに負けるのは仕方ないにしても、ティアにすら負けるとは……
 あ、そうか。

「ティア。『シャドウミラー』使ったな? あれ、普通に反則……」

「う。……だ、大丈夫ですよ。ちゃんと使いこなせましたし」

 おいおい。確かに入校祝いで送ったけどさ……

 ミッド式の幻術はまだまだプログラムが雑で、あまり使う人もいないので発展しない魔法だ。
 俺の知り合いでも、ティーダさんくらいしか使ってない。
 俺もいろいろと試し、使用リソース削ったり、プログラムを詰めて使いやすいようにと試行錯誤してみたが、なかなか上手く行かない。
 お手上げかな~と、思ってたところに現れたのが、うちのクラウン。

 古代ベルカの幻術魔法をミッド式にコンバート。見事にはまり、リソースも食わず、精巧な幻を生む術式プログラムが完成した。
 その時に作られたのが、幻術用拳銃型デバイス『シャドウミラー』。
 しばらく試験用に使っていたが、ティアの入校を聞き、新しく作ってそれを送った。
 つまり、ティアが持ってるのは改修型二号機である。

「まあ、幻術使いならではの戦い方だからな。スバル。相手が悪かったな?」

「うううう。じゃあ、イルイちゃんの強さも、デバイスの?」

「んにゃ。こいつは俺の部隊の連中が総出で鍛えた。……そりゃ、強くもなるよなぁ……うちの最強ユニットに、一撃当てるとか……」

 基本的な魔力運用と戦術理論をキタムラ教官から。
 戦略理論と策謀術をテッサから。
 体術、射撃術、戦闘理論はマオねえ達ウルズチームや響介さん達アサルトチームが。
 格闘術はシエルさん、ザフィーラが。
 剣術はシグナム、アリサ、後、俺が。
 魔法理論と術式指導はレーツェルさんが。ついでに料理も仕込んだそうだが。

 ……気が付くと、ゼンガーさんが目をむくほどの魔法剣士になってしまった。
 ……やべ、やりすぎた。

 なお、イルイのデバイスはATではなく、普通のアームドデバイスで『アグニ&ルドラ』。
 カートリッジシステム付きの双剣型。一応リミッターつけてある。
 訓練校出るまでは、リミッターつけてやってもらうことに……だって、強すぎるんだもん。
 うん、簡易試験で魔導師ランクAA+って何だよそれ。
 強化しすぎじゃ。

「つーわけで、シエルさんに報告は勘弁してやろう。……これからも精進するように」

「ははーー!!」

「いや、何よその返事?」

「えっと、時代劇で将軍やお殿様からお言葉を頂いた時に返す返事ですよ……ゼンガーおじ様がよく見てました」

「……せつなお姉ちゃん?」

「ああ、俺が教えた」

「……せつなさん、もう少し真面目なイメージがあったのに……」

 すまん、ティア。それこそ幻覚だと思うぞ?
 俺いっつもこんなんだし。
 と、いかんいかん。

「で、だ、スバル」

「? なに?」

「ほい。入校祝い。……完成が遅れたんで入校式に間に合わずすまんな?」

「え!? あ、ありがとう! ……これ、デバイス?」

 渡したのはひし形のコアクリスタル。
 アリサに頼んで作ってもらった、リボルバーナックルの後継機……もどき。
 シエルさんがリボルバーナックルの右手をスバルに、左手をギンガに渡したので、その対の腕を作ってもらったのだ。
 
「リボルバーナックルだしてみ?」

「あ、うん」

 スバルが展開したリボルバーナックルのコアユニットに、渡したそれを一度返してもらい、指定の場所に組み込む。
 スタンバイモードに戻し、スバルに手渡す。

「ほれ、展開してみな? びっくりするから」

「……うん。リボルバーナックル!」『set up』

 展開されるリボルバーナックル。
 右腕はいつもどおりタービンつきのガントレット。そして、左腕には。

「……こ、これ、左腕の……盾?」

 こぶし大の丸盾が手首の外側に付いたガントレット。大きさはリボルバーナックルとほぼ同じ。タービンは付いてない。
 カートリッジシステムもつけていないが、その丸盾は伊達じゃない。

「リボルバーナックル追加ユニット『バスターナックル』。右腕だけじゃシューティングアーツの真価は発揮できないだろ? リボルバーと同じ魔法が使えるだけでなく、防御魔法の強化もできるように作ってもらった。後、中距離射程の魔法『リープリッパー』『リングスラッシャー』も組んである。さらに、その丸盾の周囲に魔力を円環加速運動させて砲撃魔法用の魔力の練り上げを加速させる効果もある。……なのはのバスター。使いたいだろ?」

「!? で、ディバインバスターを……使えますか!? 私!?」

 スバルが本編中に使っていた、ディバインバスターはなのはのとは別物だ。
 近代ベルカ式もやはり砲撃系は苦手。
 それを独自解析し、使えるようにしたのはスバルの努力の賜物だ。

 ……こいつは、それの後押し。
 両手で練り上げる魔力を、左手だけで行えるようにし、魔力弾の錬成を加速&強化できるようにした。
 その運用方法は、バスターナックルに組み込んである。
 ……実質、こいつだけでディバインバスター撃てるし。

「ああ。術式はお前が考えろ。……それを使えば、近距離だけでなく、中距離制圧も可能になるから、戦術幅も広がるだろ? 使い方はバスターにマニュアル入れてあるから、後でよく読んで置くように。……改めて、三人とも。入校おめでとう」

「「ありがとうございます!!」」「あ、ありがとう、ござぁいますぅぅぅぅ……」

 て、スバル泣き始めちゃったよ!?
 相変わらず感受性多感なやつだな。

「ほれ、泣いてるなよ。……俺やなのは、それに、クイントさんを目指すんだろ? なら、こんなところで泣いてる暇ないぞ?」

 なにせ。

「……そうですね。お昼終わってしまいます」

「ちょ、マジ!? ほらスバル! 午後の訓練遅れるわよ!」

「う……うん! せつなお姉ちゃん! 本当にありがとう!」

「おう、頑張れな?」

「三人とも、頑張ってください!」

「「「はい!!」」」

 ばたばたと走り去る新入生三人組。
 ……うん。あいつらが、俺の部隊に来るのが楽しみだ。

「……ところでお姉ちゃん?」

「ん? どしたエリオ?」

「……浮気はいけないと思うよ?」

 ちょ、おま。
 まてや。

「お前の入校式にはプレゼントやらん」

「わぁぁあ! ご、ごめんお姉ちゃん! 黙ってるから!」

「て、そういう意味でなく。……妹に手を出すほど飢えてない」

 俺を何だと思ってやがる、この弟。
 ……ちなみに、こいつも最近強化中。
 来年、本局の短期訓練校に入校予定……ううむ、フォワード陣の早期強化が進んでいくなぁ……


 訓練校の見学終わって、帰り道。
 
「……そっか、エリオもやっぱり局に入りたいか」

「うん。……お姉ちゃんたちに助けてもらったみたいに、僕も、苦しんでる子を助けてあげたいから」

 ……そっか。

 俺たちの意志が、こうやって助けた子等に引き継がれていく。
 これは、ある種の呪い。
 前の世代の成し遂げた成果を引き継ぐこと、成し遂げられなかった無念も引き継ぐこと。
 助けた子に、その子が助けた子に、延々と続く、想いの呪縛。
 ……けど、それを悪しと呼ぶか、善しと呼ぶかはその子の判断に任せられる。

 ……やるせないな。
 子供にも、その呪縛を押し付けなくてはならないとは。
 リンディ母さんや、ゲンヤさんもこんな気持ちだったのだろうか。
 ……来月にはなのはが訓練隊の隊長に就任してくれる。
 この訓練隊が成功し、力ある魔導師がたくさん生まれれば、子供にその呪縛を押し付けなくても済む。
 ……その為にも、俺ももっと頑張らないと。

「と、すいません」

「いや、気にするな」

 ……思考にはまってたな。誰かにぶつかってしまった。
 周りが見……え、ええ?
 今のは……

「ぜ、ゼストさん!?」

「おまえは……せつな……か。……大きくなったな」

 び、びっくりした。
 何でこんな街中にふらついてんのこの人。
 しかも、

「……」

 ルールー連れて。

「……えっと、その……生きてたんですね。隊長」

 知ってたけど。

「……死にぞこなっただけだ。……隣は?」

「あ、俺の弟のエリオです。……エリオ、こっち、昔世話になったゼストさん」

「はじめまして。エリオ・ハラオウンです!」

「……ゼスト・グランガイツだ。こっちはルーテシア。……メガーヌの娘だ」

 うん、知ってる。
 ぼろのローブを目深に被った女の子。
 ……髪の色とか、目元とか、メガーヌさんそっくりだ。

「……少し、付き合いませんか? 穴場、ありますから」

「……わかった」

 ゼストさんたちを連れて、裏取引用のバーへ。
 いくつも準備している中でも、もっとも人気のない場所だ。
 ほとんど誰も寄り付かない。
 ……だからこそ、こういう、グレーな人との話し合いに使っている。
 
「マスター。奥の部屋、使うぞ」

 入って一言目に部屋を指定。
 これは裏の意味『貸切』も含まれている。
 一つ頷いて、貸切の札を掛けに行くマスター。
 実際に奥の部屋でなく、カウンターに腰掛ける俺とゼストさん。
 後ろのボックス席にエリオとルーテシアを座らせる。

「エリオ、好きなもの頼んでいいぞ。……ルーテシアもな?」

「あ、うん」

「……」

 やっぱり無口だな、ルールー。

「ルーテシア、お礼を言いなさい」

「……ありがとう、お兄さん」

 ざくぅ。……い、椅子からこけかけた。
 ま、まあねぇ? これ男性職員服だから、仕方ねぇけど……

「あ、あの、ルーテシア? せつなお姉ちゃん、女の人だから……」

「……ごめんなさい。お姉さん」

「あ、うん、いいよいいよ……見えないってわかってるさ~」

「……すまんな。俺だけだと、教育が足りなくてな」

 あなたも大概無口ですからね。
 父親役は大変だ。

「……マスター。俺エル。ロックで」

「……適当に頼む。アルコールの薄いやつを」

 頷くマスター。

「お前はもう酒が飲めたか」

「ああ、今のは符号。誰にも喋るなってね? ……酒は飲みませんよ」

 いつ出動要請掛かるかわからんし。
 飲酒飛行は罰金の上、飛行免許停止じゃ。

「……お前も、裏の世界を知るようになったか……」

 マスターから薄めに割ったウィスキー(予想)を受け取りながら、悲しげにつぶやくゼストさん。
 ……あはは。

「知り合った当初から、俺真っ黒ですよ? ……魔導師に、騎士になったころから、ずっと危ない橋渡ってます」

 管理局法に触れる事も何度もやった。
 人だって、何人も殺した。
 ……管理局に入ってからも、直接触れることはなくとも、そのすれすれを歩いている。
 全部話せば、フェイトとはやてに泣いて説教喰らうこと確定だ。

「……だが、あの時、俺と最後に別れたときよりも、ずっと立派な顔をするようになったな。……見違えたぞ」

「五年もあれば、いろいろあります。……俺、新しい部隊作ったんですよ? そこの遊撃隊の隊長です。……まあ、俺一人ですけど」

 フェイト以外の人材が見つからん。誰かおらんかな~?

「……そうか。数年後が楽しみだ……その数年後に、俺がいるかどうかはわからんがな」

 ……だな。
 けど、最後くらいは看取ってやりたいな。

「……レジアス中将とは、仲良くやっているか? あいつ、お前の事を『近年まれに見る気骨のある少女だ』と気に入っていたが」

 どうせそこ、少年とか言ってたんだろ。あの髭達磨。
 
「今の部隊の後見人の一人になってくれましたよ。……よく、世話になってます」

「ほう? ……そうか、あいつがな……」

「俺の部隊、海や教会とも繋がってますから、中将の参加はありがたいですよ」

「……そう……か。……力になってやれなくて、すまん」

 それはこっちの台詞だ。

「俺こそ、すみません。……あの時、助けに行けなかった……」

 カグヤの件があったにしろ、俺もその場にいたら……いや、これは考えまい。
 もしもなんてありえない。

「何、気にするな。……ただ、クイントの事は……残念だったな……」

 ……ああ、そうだよな。
 ドクターも知らん振りしてるみたいだし。
 ゼスト隊長、話しても言いふらすような人じゃないから、言っても大丈夫だろ。

「そっちこそ気にしないでください。……クイントさん、生きてますし」

「……なんだと?」

 おっと、目の色変わった?
 
「生きてますよ。……今、名前を変えて俺の部隊に。……内緒ですよ?」

 元気に暴れまわっておりますあの人妻。
 ……シエル対策費が部隊帳簿に載るって何事よ?
 グリフィス君、乙。

「……そうか……あいつめ、黙っていたな……?」

 あいつは多分ドクター。
 意地が悪いからな。

「まあ、娘の反乱に遭いましたからね? 言いたくもないでしょう」

「……その娘ごと匿ったという訳か」

「まあ、俺の妹でもありますから。……俺の遺伝子で作られた、戦闘機人なんです、あいつ」

「……そうか……お前は、それを憎んだりはしないのか?」

 えっと、憎めって、誰を?

「それは製作者をですか? それとも、その妹をですか?」

「……両方だ」

「ああ、なら、どっちも憎みませんよ。……あいつがいなかったら、クイントさん死んでましたし、そのあいつを作ったのはドクタースカリエッティです……憎めませんよ。両方とも」

「……強いな、お前は」

 ぽふっと、頭に手を置くゼスト隊長。
 あの頃みたいに、そのまま乱雑に頭を撫でる。
 ……むぅ。ちょっち恥ずかしい。

「……ゼスト、嬉しそう」

「お姉ちゃんもだ。……初恋の人なのかな?」

「……むぅ」

 ふふふ……エリオ、後で泣かす。後、なんで剥れているのかルールー。

「……あ、そうだ隊長。二、三年前、郊外で融合騎捨てませんでした?」

 これは聞いておかないと。
 何でそうしたのか聞いておきたい。

「いや、捨てたつもりはないがな……ある研究施設から連れ出したんだが、衰弱していてな。水を汲んでくる間、木陰に隠していたんだが……金髪の少女が来て、連れて行ってしまった。……知り合いか?」

 ……あ、アリサ……お前それ、拾ったんじゃなくて誘拐まがい……
 あ、ああ、まあ、拾ったも同然か? それとも、ばれる位置に置いたこのおっさんが悪いのか?
 ……聞くんじゃなかった。

「え、ええ。俺の友人です。……今、そいつのデバイスとして元気にしてますよ」

「そうか。良きロードに出会えたのだな……」

 出会うって言うのかな~? まあ、相性は本当にいいけどあのダブルツンデレ。
 ……グングニル完成して、本気で紅い悪魔になりやがった。
 ユニゾン状態の髪の色は虚無のツンデレだが。
 カグヤのスペカ解析して、弾幕魔法なんて作んなよ……協力したけど。
 どこまで俺を魅了すれば気が済むんだあのツンデレ!

「……なにも、聞かないのか?」

「聞いて欲しいんですか?」

 それは、今まで何をしていたのか。
 今は何をしているのか。
 ……そして、これからどうするのか。

「……俺は、ほとんど犯罪者だ。そして、お前は管理局員だ」

「……そうですね」

「……捕まえようとは……更正させようとは、しないのか?」

「ふふ、隊長? あんたほどの騎士が、情けないことを言う」

 少し、失望したよ。
 ……いやまあ、知ってたけど。

「捕まえて欲しかったら、それなりの事してください。ぶん殴って捕まえてやります。……更生したいんなら、言ってください。いい調教師知ってますよ? 隊長専門の、拳と共に泣いて説教してくれる人妻が」

「……それはクイントの事を言っているのか? ……いや、確かにやりそうだが」

 やりそうじゃなく、あの人はやる。絶対。

「けど、それを言い出さないってことは、やるべきことがあるんでしょ? ……なら、それをやったらどうです? ……止めてくれと言わない限り、俺は止めませんよ」

 基本的に、俺は酷い人間だから。
 身内以外に冷たい人間だから。

「……酷い女になったな、お前は」

「まあ、そこは男に置き換えてもいいですよ? ……中将も言ってただろうし」

「い、いや、言っていたが」

 やっぱりか。
 後ではたいとこう、あの達磨。

「……それが、そのやるべきことが、あんたの怨恨じゃなく、誰かの笑顔の為なら、俺は止めませんよ」

「……すまないな。見逃してもらって」

 ……不器用な人だ。
 助けが必要なら、言ってくれれば手伝うのに。
 本当に、不器用な人だ。

「じゃあ、そろそろさよならです。……あんまり遅くエリオ連れてると、母さんに怒られますから」

「……良き、姉なのだな」

「はは、駄目な姉ちゃんですよ。……あんな子供に、俺らの業を背負わせようとしてる。……あんたや、母さんが俺に背負わせたように」

「……そうだな。俺も、お前にとって、駄目な兄になるんだろうな」

 ……ははは。そうだろうなぁ。
 いやいや、こんな高町兄レベルの兄貴は、一人で充分ですはい。
 
「エリオ、そろそろ行こうか?」

「あ、うん! じゃあ、ルーテシア。また会おうね?」

「……うん。エリオ。またね?」

 ……さすが我が弟。あの無垢な笑顔で早速一人の少女を虜にするとか……
 やるね。エリオ。

「じゃあ、隊長。また、どこかで」

 マスターに勘定払って入り口へ。当然、ゼストさんたちの分も支払う。
 お釣りはチップ。後口止め料。

「ルーテシア、またね?」

「うん。また」

「また会おう。せつな。……ありがとう」

 ルーテシアのほころんだ笑顔と、ゼストさんの安堵の声が、やけに印象に残った。
 次会うときは、街中ですれ違うか、または、戦場か……
 まあ、まだわかんねえよな?

「……また、会えるよね? ルーテシアや、ゼストさんに」

「……ああ、会えるよ、きっと」

 その時は、笑って会いたいものだ。



 無理、だけど、な……




[6790] L27.大魔導師の死 希望のための死
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:f6b928c8
Date: 2009/06/13 04:41
 繁華街の空気を吸いながら、街を歩く。
 ミッドの街は綺麗ながらも、裏は酷く穢れている。
 それは、汚いとかそういう意味でなく、犯罪に満ちているということだ。
 そしてまあ、そういうところだと、

「お、俺の財布~~~!! まてえぇぇぇ!!」

「まあ、こんな阿呆でてくるんだよ……なっと!」

「げほぉ!?」

「うわ、一撃……」

 スリか強請りか強盗か知らんが、犯人確保。
 常備しているロープで縛り上げる。
 駆け寄ってきた中年のサラリーマンに、財布を返す。

「あ、ありがとうございます! 助かりました!」

「ああ、いいですよ。お気になさらず」

 被害者に手を振って別れ、犯人を近場の局の詰め所に連れて行く。
 ……管理局は、警察業務も請け負っている。
 こういった手合いも、交番に持っていけば、普通に処理してもらえる。
 まあ、被害者に簡単に聞いたところ、どうもスリらしい。
 ……おいおい、俺は早く帰りたいんじゃ、エリオ連れてるし。

「すんませーん。スリいっちょ上がりー。豚箱放り込んどいてー」

 詰め所の局員に管理局員証を見せ、事情を話す。
 あい、終了。

「じゃ、今度こそ帰るか……」

「今日はいろいろあるね?」

 俺の人生、年に二、三回はこう、立て続けになんか起こる日があるよな。
 つき合わせてすまんなエリオ。
 もう今日は何もおこら……ないで欲しかったなぁ……
 あれ、フェイトだよな?
 何で男と一緒に居るの?
 その方向はホテル街だよ?
 ……はぁ、やれやれ。

「(フェイト! それは捜査か? それともやけか? 後者なら叩く)」

 びくんと跳ねて、周りを見回すフェイト。
 念話を送ってみたが……捜査だったら怒られよう。
 あ、こっち気づいた。

 ……なんで、泣いてんだよ!
 あの馬鹿! 後者か!

「悪いエリオ! しばらくそこ動くな!」

 走ってフェイトの所へ。
 
「フェイト! おまえ……酔ってるな? おい!」

「ちょ、兄ちゃん、なんのようだよ!? 邪魔すんじゃ」

 ……誰が。

「俺は女だよ、これでもな? ……半殺しの上豚箱行きと、全殺しでミンチのどっちがいい?」

「ひぃぃぃぃ!! ご、ごめんなさぁぁぁぁい!!」

 ……ふふ、殺気の扱い方ばかり上手くなって行くなぁ。
 慌てて逃げやがりましたあのチンピラ。
 で? このお嬢さんは……

「フェイト? ……お前、どうした?」

「せ……つ、な……私……」

「……何か、遭ったのか?」

 この悲しみ方は、異常だ。
 ……まさかと思うが、強姦されたんじゃ……
 ……いや、衣服の乱れはないし、男の匂いも付いてない。
 ただ、かなり酒は飲んでるな? お前執務官だろ、しかも未成年!
 俺ですら自重してるのに……
 ……て、まさか……

「プレシアさんに、何かあったのか?」

 その名前で目を見開く。
 体の震えがいっそう激しくなる。
 ……容態が悪くなったなら、俺に連絡が来るはずだから……知ったのか。
 もう、長くないこと。

「かあ、さんが……もう、ひと……つき、もつか、どうかだって、き、いて……」

 泣きながら、ポツリポツリと、話すフェイト。
 ……くそ、あの医者喋りやがったな?
 もしくは、立ち聞きされたか……ともかく、ここじゃあれだ。

「来い。俺の部屋で話聞くから。……エリオもいるし、な?」

「……うん……」

 詰め所によってエリオ回収。
 オリハルコンの隊員寮へ……行きたいん、だけど……なぁ?

「よう、こいつか? せっかくの上物、取ってったやつは」

「あ、はい、そうですぜ!」

 香ばしい匂いを放つチンピラ集団。
 ……えっと、数は? 四人か。
 ……まいったな~。今日はパラディンとクラウン、メンテに出してATしか持って来てないのにな~。
 しかも、潰れかけのフェイトとエリオ連れてるし。
 
「あんたも女なんだって? なら、俺らで調べてやるよ」

「……はぁ、一応言っとく。俺、管理局員なんだけど?」

 大抵、こう言えば散ってくれるんだけど。

「酔っ払いとガキ連れて、魔法使えんのかよ?」

 ……使えなくはない、が、クラウンかパラディンいないから、たいしたことできない。
 うわ~まいったな~。

「と、おんや? 困りごとかい?」

 ……おうわ、ナイスタイミング。

「いいところに来てくれたな。イルム兄さん。……つーか、あんた交代部隊……」

「今日は非番なんだけど? なあ、リン?」

「私に言うな。……こいつが世話になっている。リン・M・カザハラ。一応、こいつの妻だ」

 ……さ、妻帯者だったのか兄さん。……相手はやっぱりその人か。
 
「て、あんだおまえら!」

「管理局だよ。非番だがな?」

「そして私は任務中だ。……『フープバインド』!」

 と、バインド四つ。綺麗に決まった。
 ……ほむ、強いな~。

「こちらリン。例の誘拐グループの一味を捕縛した。引き取りに来てくれ」

『了解。すぐ向かいます』

「ち、ちくしょう! 離ししむぅ!」
 
「うっさいだまれ。……ありがとうございます。助かりました」

 吠えた男の口にさらにリングバインド。
 ……その目はなんですかイルム兄さん。

「あ~いや、やっぱ嬢ちゃんおっかないねぇ」

「いや、たいした子だ。……早く行って、その子を介抱してやるといい。この場は任せろ」

「ありがとうございます。……イルム兄さん? リンさんの邪魔、しないようにな?」

「まかせろって。ほら行きな?」

 イルム兄さんとリンさんに別れを告げ、その場を後に。
 てか、今の奴等も誘拐団だったのか……最近多いな。

「……今の人凄いね。あの距離で全員にバインド掛けちゃった」

 うん、かなり距離あったのにな?
 ……それで一人も残さず捕縛とか、結構スキル高めだぞあれ。

「く、兄さんあんないい人材知ってるなら教えろよ……」

 と、こんなところで仕事虫出さなくていい。
 早くフェイトを休ませないとな……



「あれ? 姐さん何やってんの?」

「あ、せつなさん。お疲れ様です……? どうしたんですか?」

「そりゃこっちの台詞だ。こんなところで何してる、タスク、リョウト」

 交代部隊の男性陣、博打好きのタスクと空手家坊ちゃんリョウト。
 こんなところってのは、女子寮の入り口である。

「いや、下着ドロが出たんすよ。で、俺らが見張りで駆り出されて」

 ……はぁ、またシエルさんの独壇場だな、これ。
 また騒動起きる……いや、起こすのかあの人。

「まあ、あまり近所迷惑にならないようにな? ……後、できるだけ俺に迷惑の掛からない方向でな?」

「ど、努力はします」

「任せな姐さん!」

 うん、お前は信用できん。
 ……前科あるしな。風呂覗きの。

「じゃあ、俺は部屋行くから。……エリオ、行こうか?」

「うん。……フェイトお姉ちゃん、大丈夫?」

「……うん、ありがと、エリオ……」

 ……大分まいってるな、フェイト。
 ……? まてよ?
 フェイトを連れて行こうとしてたあいつ、誘拐団で……
 いや、まさか……なぁ?



 薬、盛られてないよな?


 
 ……予感的中。
 一応検査紙持っててよかった。唾液に反応……媚薬かよ。
 うぬれ。あの男、やはりあの場で殺して置けばよかった……とと、いかんいかん。
 昔の感覚は忘れるべきだ、うん。
 フェイトを俺の部屋に寝かせ、エリオは……すまんが、アイナさんの部屋へ。

「……シエルさんがいないのは、突っ込んじゃいけないんだろうなぁ……」

「ご、ごめんね? またあの人迷惑を……」

「そろそろくると思いましたけどね。最近静かでしたし」

「シエルさん、また……お姉ちゃん、頑張って」

 ふふふふふ。その応援が何よりの励みだよ、エリオ。
 後、エリオをアイナさんに任せ、取って返す。
 ……フェイト、その、あのさ。

「せ、つなぁ……私、からだぁ、熱いよぉ……」

 ……下着姿とか……その、手を中に入れるとか……
 まったく、完全に薬キマってんな?
 さって、解毒剤は~……と?

「せつなぁ……お願い……忘れ、させて……」

 はぁ。

「先に、謝っとくな? ごめん」

 その後、引っ叩く。その頬を。
 ……泣き出すフェイト。

「今、解毒剤出すから、少し待ってろ」

 ……流石に、薬で酔ってるやつ抱くほど腐ってない。
 それが、大切な人ならなおさら。
 さらに、悲しいことを忘れる為のやけに付き合ってやらない。
 ……そんなことしたら、今までの俺の努力が、パアじゃないか。
 ……と、みっけ。
 検査紙の反応からして、こいつでいいはずだ。
 ……シャマルさんに感謝しとかないとだな。

「ほら、フェイト。口開けて。……開けろ」

 泣き続けるその口に薬を押し込む。
 水を差し出すが……反応しない。
 ……古典的だが、こうするしかないか。
 口に水を含み、口付けでフェイトの口内に流し込む。
 喉のなる音。舌で薬がないか確認……よし、飲んだな。

「……せつな、なんで? 何で、叩くの……? せつな、私と、したく、ないの? 私の悲しみ、忘れさせて、くれないの?」

 ……涙を流しながら、尋ねるフェイト……
 はぁ、それしたら、俺の信念が根本から崩れるだろが。

「プレシアさんな? 一年前倒れた時から、自分が長くないって知ってたよ」

「……え?」

 喉の病気……まあ、癌の一種で、俺ら魔導師の掛かる厄介な病気だ。
 実は、俺と出会ったときには、その病気に既にかかってたらしい。
 ……俺にずたぼろに負けたときに、俺が使った聖王魔法。あれで、病気の進行が止まってたそうだ。
 ……けど、治ったわけじゃない。
 それが進行し、とうとう、一年前に倒れてしまった。
 もう一度、蘇生魔法を使おうとした俺を止めたのは、プレシアさん本人。

 ……もう、無駄なんだそうだ。
 どんな人間も、寿命には勝てない。
 ……プレシアさんは、アリシア復活の為、フェイトを作った。そのための無茶で、病気にかかり……
 俺に、出会った。

 ……彼女は言う。この、七年間は、俺が作った奇跡だと。
 冗談を言わないでほしい。俺は、彼女を、救えない。治せない。
 だが、彼女は、笑って言った。

『フェイトやアリシアと、笑ってさよならしたいから、しばらく、黙っててもらいたいの。……死期を教えて、悲しい顔されるよりも、笑って、欲しいから』

 ……その笑顔が、綺麗だと、感じた。

「だから、俺は黙ってることにしたよ。それを……お前は、何やってんだよ!」

 怒鳴る。
 
「なあ? プレシアさん、お前やアリシアと、笑ってお別れしたいって言ってんだぞ? 最後の最後まで、笑っていて欲しいって! その、笑顔見ながら、さよならしたいって、言うのに……悲しみを忘れたい? それで、酒飲んで、男についてって、挙句の果てには、俺に縋りつくのかよ? お前、そんなことされ、て、俺が……プレシアさんが、喜ぶと思ってんのかよ……」

 俺も、泣いてしまう。
 こんな、こんな弱いフェイト見るのは、嫌だから……違う。
 今のフェイトは弱いんじゃない……逃げてるだけだ。
 悲しみから……現実から。
 
「なあ、フェイト、教えてくれよ……悲しみを、忘れて、やけになって、喜んでくれる人が、お前の回りにいるのか? そんな人でなしが、お前の周りにいるのかよ!」

「……せつなは、せつなは! 悲しくないの!? お母さんにいろいろ教わったよね? お母さんに、いろいろ助けられてたよね!? 悲しいよね? そうだよね!? 忘れたいと、思わないの!?」

 ……馬鹿だな、こいつ。
 もう、忘れてやがる。

「悲しくないわけ、ないだろ? 俺は、目の前で姉と、妹の死を見てるんだぞ……それを、ずっと引きずってんだぞ? プレシアさんも、俺のもう一人の母親だぞ!? 悲しくないわけないだろ!?」

「!? せ、せつな……嘘でしょ? あれ……あの夢、もう、見てないって、言ってたよね……」

 そんなもん。

「嘘に決まってるだろ? ……俺はまだ、お前らを守りきってないんだぜ? 今も、お前を泣かせてる……こんなんで、忘れられるわけ、ないだろ」

「……せつなの嘘つき! どうして、そんな悲しみ、ずっと持っておくの!? 忘れないと、前に進めないじゃない!」

「違う!」

 それは、絶対に違う。
 この悲しみがあったからこそ、今の俺がある。

「忘れても、忘れられないんだ。悲しみは……大切な人を失う悲しみは、決して忘れられない。……そしてね? その大切な人の笑顔も、忘れられないんだよ……」

 ……今でも、覚えてる。
 最後に別れた時の姉と、妹の笑顔を。
 平穏な、姿を。明るい、声を。
 全部、覚えてる。

「悲しみを忘れるって事はね? その笑顔も、楽しかった思い出も、全部忘れることなんだよ……? フェイトに、そんなことできる? プレシアさんから教えてもらったこと、厳しく叱られた事、冷たくされた事、また、お前を娘と呼んでくれた、あの笑顔。アリシアとプレシアさんと過ごした日々を、全部忘れられる!?」

 それだけを覚えてはいられない。
 必ず、最後の時を思い出してしまうから。
 
「大切な人の笑顔を思い出すとね? 止まらなくなるんだよ。嬉しかったこと、辛かったこと、喧嘩した事……そして、最後に行き着いてしまう。……悲しい最後にね? それだけを忘れる事なんてできない。忘れたかったら……その思い出全部、捨てないと、忘れられないんだよ。それが、フェイトにできる? ……俺には、できなかったよ? お前はそれができるほど、冷たい子なのかよ!?」

「……できないよ。そんなの、できっこないよ! 母さんの笑顔、忘れたくないよぅ……」

「じゃあ! 忘れんなよ! 思い出も、悲しみも、プレシアさんの笑顔も、プレシアさんの最後も! ……受け入れて、やろうぜ? 俺ら娘の使命だろ? プレシアさんが生きてきた、証だろ? アリシアも、お前も!」

「……せつなぁ……」

 その震える体を、抱く。
 子供の時のように、ただ、しがみ付くフェイトを、抱きしめる。
 
「……笑って、さよならしてやろうぜ。その後に、一杯泣けば、いいからさ……俺の胸でよかったら、ちゃんと貸すから……」

「……うん……うん!」

 そう言えば、最初に出会ったときも、こうやって一緒に泣いたっけ。

「大丈夫だよ。俺が、傍にいるから……」

 今度は、俺が、傍にいるから……
 





 二週間後、ミッドチルダ中央病院。
 大魔導師、プレシア・テスタロッサ死去。
 ……その死に顔は、とても、安らかだった。
 ……死を看取ったのは、彼女の家族、フェイト、アリシア、アルフ。
 そして、彼女のもうひとりの娘とも呼べる……俺。
 ……フェイトも、アリシアも、アルフでさえも、笑って、彼女を見送った。
 勿論、俺も。

『……私は、幸せね……幸せの中で旅立てる……ねえ? せつな? フェイトたちを、お願い。フェイト、アリシア? せつなを、離さないようにね? ……アルフ。みんなを見ていてあげて。私の代わりに、見守っていてあげて? ……貴女に会えた。貴女たちに会えた私は、本当に、幸せな母親だったわ。最後の、最後……まで』

 ……葬式も、告別式も、彼女の第二の故郷、海鳴の地で行われた……
 この七年間の思い出が、詰まった土地で。
 
「……彼女は、行ってしまったんだねぇ……」

 みんなが帰った墓の前で、俺と、もう一人。

「ああ、幸せな最後だったよ」

「そうかい……羨ましいね。僕も、そんな最後を迎えたいものだ」

 ……そうだな。
 俺もそう思うよ。

「人間、誰しも思うことさね。幸せになりたいと、幸せなまま、最後を迎えたいと」

「けど、それができる人間はわずか一握り……違うかね? せつな君?」

「違わないさ。……けど、それを目指して、生きてくんだよ。一生懸命、這い蹲ってでもな?」

 それが、人間のサガ。

「……本当に、生命と言うものは……人間というものは、面白いね」

「そして、悲しい生き物だよ。……どうでもいいけど、こんな所に来ていいのかよ? あんた」

「何、古い友人の別れさ。……彼女に、お世話になったこともあるからね?」

「……じゃあ、比較的新しい友人から忠告だ。気をつけて帰れ? 今日は、管理局員で一杯だぞ? ここ」

「……君もそうだったと記憶してるけどね?」

「は、そんなに無粋じゃねえよ。……またな? ドクター」

「ああ、また。……本当に、君は面白いよ。せつな君」


 ……さて、お嬢様方を、慰めに行きましょうかね。
 俺も、慰めてもらいたいから……な。




 さよなら。プレシア母さん。





 *今回のあとがきはパスします。ちょっと電波に疲れました、作者でした。



[6790] L28.トリップパラノイア アジトにて
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/20 22:46
 <カグヤ>

 あ、久々に私の出番だ。
 ども、カグヤっス……ウェンディ、こんな語尾、よく使えるね?
 せつな姉さんから聞いた。プレシアさんが死んだって。……葬式は出なかった。
 代わりに、ドクターがお別れに行ってくれた。私の分もお願いした。
 ……ドクターは私の頭を撫でて、

『君にまで惜しまれるとはね……彼女は本当に、幸せだね』

 と、笑って出て行った……ところでウーノ姉さん?

「あの人、ここから出れたんだ?」

「……ほ、本当は駄目なんだけどね? ……はぁ、こんなことで切り札を使うなんて、ドクターは……」

 ご苦労様です。
 
「それより、今日はどうしたの? 特に予定はなかったはずだけど」

 ……ちょっとね?

「私も感傷的になってるから。……プレシアさん、私がせつなの中にいるときに、優しくしてくれたから」

 あの、優しい笑顔は覚えてる。
 ……安らかな死に顔も、記憶共有で見せてもらった。
 ……プレシアさん、幸せだったんだね?
 よかった。姉さんは、間違ったことしてなかったんだ。

「……私には、まだわからないわね。生命活動が終わるだけなのに」

「うん、それだけなんだけどね? ……わからないほうが幸せな事もあるよ。……わからないと、幸せになれない人もいるけど」

 多分、それは、私たちだろう。
 死を、生命活動の停止と割り切れてしまう、私たちには。



 そういうわけなので、トーレ姉さん。

「ちょっと、甘えにきました」

「……私にか? ……珍しいな?」

 そんなときもあるんです。……ところで。

「セッテ……? その、何でそんな警戒するの?」

 最近、稼動し始めた後発組セッテ。
 トーレ姉さんにラブラブです。
 ……間違ってないよね? 表現。

「……あなたが言った。あなたは、敵だと」

「姉でもあるよ?」

「でも、敵……む、お姉さまの隣に座らないで」

「こらセッテ。……カグヤも私の妹だ。珍しく私に甘えてくれたんだ。今日ぐらい我慢しろ」

 おおう、トーレ姉さんが庇ってくれた。
 凄く嬉しい。
 すりすり。

「!? だ、抱きつくとか……やっぱり敵ですね。排除を……お、お姉さま? どうしてその人の頭を撫でるんですか?」

「ん? こうすると気持ちいいのだそうだ。……お前も最近よく付いてきてくれるからな、ご褒美というやつだ」

「あ……き、気持ちいいです、お姉さま」

 あはははは。
 見事に百合百合だね私ら。
 そしてひょっとして私よりやばいんじゃないの? セッテ。
 ……溶けてる顔は可愛いんだけど。
 ? 私を見る目つきが柔らくなった?

「きょ、今日は、トーレお姉さまの隣に座るのを、許しますね、カグヤ……お姉さま」

 ……ふふふっふ。誰だセッテが機械っぽいなんて言った奴。
 私たちのセッテは凄く可愛いんだぞこの野郎!
 トーレ姉さんに撫でられて、赤くなるセッテブラボー!! おおブラボー!!
 しばらく癒されてました。



 まあ、その後、模擬戦闘訓練に突入したこの二人は完全に体育会系だ。
 相変わらず、トーレ姉さん早い早い。
 で、それについていくセッテも凄いな~。

「……カグヤお姉さまはやらないのですか?」

「あ、いや、そのだな? ……カグヤは、少々特殊な戦い方をするからな。我々のようにスピード型だと、戦い辛い相手なんだ」

 ふふふ。私、スピード狂殺しだからね。
 時速二百kmでカーブ曲がってみて?

 地獄を見るから。

「……お手合わせを、願えますか?」

「ちょ、セッテ……カグヤ、手加減を頼む」

「うん、わかった。初月で行こうか?」

 イージーモードです。小学生レベルです……絶対嘘だと進言します。

「……わかりました、お覚悟を」

 わぁい、機械っぽいって言うより、なんかどこぞの半妖剣士みたいだよ?
 ほら、白い翼の、慌てると京都弁。姉さんと同じ名前のって、早いねほんとに!

「く、よく避けますね!」

「防御薄いからね? じゃあ、行くよ~! 氷符『アイシクルフォール』」

 ……もうサービス弾幕だよね? これ……て、あれぇ?

「ひ、きゃぁぁ!」

 ……か、可愛い悲鳴だね……
 てか、アイシクルフォールのイージーだよ? ⑨だよ?
 ……セッテ、弾幕の氷にぶつかって気絶。
 ……えっと。

「あ、アイムウィン?」

「ユーウィン。……で、合ってたな? ……はぁ。セッテは、もう少し考えることをしような? ……聞いてないだろうが」

「きゅぅ……」

 うん、可愛いよセッテ。
 セッテ可愛いよ、うん。

「では、次は私の番だ。……ノーマルで頼む」

「はいはーい。三日月行きまーす。メイド秘技『操りドール』!」

 メイドじゃないけどね? じゃあ使うな?
 ……だが断わる。

 当然、私の勝ち。
 ふふふ。私つおーい。



 と、あれ?

「あら、カグヤちゃん? 来てたのね?」

「あ、カグヤお姉さん……いらっしゃい」

 食堂にいるのはクア姉さんとディエチ……あ、あれ?
 いい匂いがするよ? 

「……あ、固形ブロックじゃない」

 二人が食べてるのは、ハンバーグだ。
 ……だ、誰が作ったの?

「……カグヤお姉さんも食べる? 私が作ってみたんだ」

 ディエチが!?
 た、食べてみたい! ディエチの手料理!

「今、準備するね?」

「ふふふ、ディエチ、そこそこ器用だから、結構美味しいわよ~? ……カグヤちゃんはもう、お払い箱かしら?」

 が、がーーーーん!!
 そ、そんなぁ……あ、いけない、また涙腺が。

「えええ!? ちょ、か、カグヤちゃん!? な、泣いちゃ駄目よ!? ほ、ほら、私が悪かったから!」

「わ、私、お、お払い、箱ぉ……?」

「お、お願いだから泣きやんでぇ!! でないと、ノーヴェが!「カグヤねえを泣かすなぁ!!」はうぅ!!」

 あ、クアねえ錐揉み回転で飛んでった。……着弾。
 ……ノーヴェ、どこから出て来たの?

「……ノーヴェ? 食堂で暴れちゃ、め! だよ?」

「う、ご、ごめんカグヤねえ。でも、クアねえが!」

「うん、ありがと、ノーヴェ。いい子だね」

 なでりこなでりこ……ふふふ、顔真っ赤。
 本当にノーヴェは可愛いなぁ。

「……二人とも? ご飯できたよ?」

「あ、うん。みんなで食べよう?」

「お、おう……で、ディエチ、あ、ありがとな? ……いただきます」

「……う、うん。一杯食べてね?」

 ふふふふ。なんて可愛い妹たち。
 ドクターはいい仕事をするね。
 皆いい子たちばかりだ。

「……わ、私にも、愛をちょうだぁい……かく」

 あ、クア姉さん忘れてた……まあいいか。


 洗浄室へ。……普通にお風呂と言えと。
 で、そこには。

「あ、カグヤ。これから洗浄? 一緒に入る?」

「一緒に入るっスよね? カグヤ姉さん?」

「うん、入ろう入ろう」

 わーい。セイン姉さんとウェンディとお風呂~!!
 ふふふふ。スレンダーなセイン姉さんとボインなウェンディ。二人ともナイスボデー(姉さん語)だからたっぷり観賞を。
 勿論、記録するのも忘れない。
 ……盗撮? いいええ、基本仕様です。

「しかし、カグヤ姉さん稼動年数長いのに、背だけは伸びて、胸はぜんぜんっスねぇ? ペッタンコっス」

「あ、これウェンディさんや? それはセイン姉さんの二の舞を踏みたいのかな? かな?」

 ふふふ。揉み倒してくれる。

「ちょ、カグヤ! ウェンディまで!? ウェンディ逃げてーーー!!」

「は、へぇ!?」

「いただきまーーーす! ……む、やらかい」

 むむぅ……肌しろーい、むにむにむに、ふふふ、かあいい。

「ど、どうして、胸揉むっスかぁ? な、なんか、は、恥ずかしぃっス……」

 ふふふ。とろける声が魅力的だよウェンディ。
 このまま姉さん直伝の快楽地獄へ……

「はいそこまで! 教育的指導!」

「けろよん!?」

 ふ、風呂桶で殴られた!?
 それどこから持ってきたの、かえるのプラスチック風呂桶。

「ん? 気づいたらあった……じゃなくて! 妹の胸揉まない! せ、セインさんだけじゃ不満かい!?」

 ……おやおや。

「セイン姉さん嫉妬?」

「え、ば、ちが! あ、こらぁ!!」

 顔を真っ赤にするセイン姉さんを羽交い絞め。
 で、後ろからむにむに。
 むぅ、小さいけれども手の平サイズでよい感触。相変わらず、いい仕事をしてますなぁ。

「……た、楽しそうっス……あ、あたしも混ざっていいっスか?」

「ちょーーー!! う、ウェンディ? そ、それはやめ「よーしこーい。正面から揉み倒したれー!」カグヤァァァァ!!」

 あはは~。ナイスウェンディ!
 前から後ろから二人でむにむにぷにぷに。
 ……十分後。

「は、はぁ……あ、頭、壊れちゃぅ……」

 セイン姉さん撃沈。
 ふふふ、堪能しますた。


 そう言えばだね。

「残り二人も稼動入ったの? えっと、八番と十二番」

「え? オットーとディード? 一応ね。……ただ、ちょっと無表情というか、無感情というか」

「反応がないっスよね~? あたしあいつら苦手っス」

 む、その反応はよくないな。

「せっかくできた妹を、邪険にするようじゃお姉さん失格だよ? 愛でに愛でて、メロメロにするくらいじゃないと」

「……いや、それは姉としてあってるのかい? ……ま、まあ、ノーヴェの懐きようは尋常じゃないけど」

 あはははは。あれでも、頭撫でるくらいしかやってないんだよねぇ。
 ……今じゃ、チンク姉さんと並んで懐かれちゃった。
 嬉しいんだけど……敵になったら辛いなぁ。

「あ、そうだ。カグヤ知ってる? 私達以外の戦闘機人」

 ……? ナカジマ姉妹のことかな?

「それは、タイプ・ゼロ?」

「いやいや違くて。私達以外にも、戦闘機人が作られてるんだって。ドクターが言ってたよ?」

 !? 戦闘機人の量産がもう始まってる!?
 ちょ、それ早いって言うか、史実のさらに先!?

「確か言ってたっスねぇ~。私たちに比べて、作りが雑だったり、ISがヘボかったり。敵じゃないっスよ」

「……それ、結構多いの?」

「えっと、確認できてるところで、セトメラボの『スクール』。ゴッツォ研究所の『バルシェム』。……『クレイドル』はもう潰れたんだっけ?」

「管理局が潰したはずっスよ? 確か、研究所員が管理局に情報流して、教導隊が動いたってクアットロ姉さんが言ってたっス。二、三年前っスね」

 ……おいおい。アラドとクォヴレーのところそのままじゃない。
 スクールはまだいいとしても、バルシェム? あそこ、外道の総本山だよ?
 研究所名がゴッツォとか……うう、ナンバーズの方がまだマシなのに~。
 ……て、タイムダイバーが来る可能性もある?
 じょ、

「冗談じゃない!」

「うわ!?」

「な、なんスか!?」

 ここまでだましだましやってきてるのに、さらにタイムダイバー!?
 てか、ゴッツォ!? ユーゼス!? シヴァー!? それも私だとか言われた日には、ラストワードメドレーに付き合ってもらうしかないじゃないか。
 せめてこっちの流儀に乗っ取って欲しい……あ、だから戦闘機人なのか。
 と、言うか、姉さん、ちゃんと調べて欲しい。
 せっかく司法にいるんだから、仕事しろ査察官!
 ……あれ? 二人とも目を丸くしてこっち見てる?

「……? どうしたの?」

「いや、あんたこそどうしたの? ……いきなり叫びだして」

「び、びっくりしたっスよ?」

 おお、いけないいけない。
 声に出しちゃったか。

「……二人とも?」

「な、何?」「なんスか?」

 とにかく、情報を集めて、姉さんに報告、その後……

「そこ、どこにあるか知ってる?」

 潰さないとね。



 洗浄後、早速情報収集。
 アジト内の情報端末から、スクールとバルシェムの所在地を確認。
 あの二人、知らないんでやんの。
 ……スクールは結構所々にある。
 数が多いね。管理局の将校が手を出してる?
 バルシェムの位置は現在調査中。
 名前だけが先行してるのかと思いきや、接触データあり。
 ……戦闘データもある。接触したのは……チンク姉さん? 
 
「何を調べているんだ?」

 と、丁度よかった。

「チンク姉さん。バルシェムの戦闘機人に会ったの?」

「……あいつらか。確かに会った。目的物がかち合ってな? 戦闘になったが……戦い辛い相手だった」

 ちょ、姉さんが戦い辛いって!?

「向こうは質量兵器を平気で使ってくるからな。……流石に、ミサイルとかバズーカの類はなかったが、マシンガンやハンドガンを平気で持ち出す。……我々は対魔導師を念頭においているからな、やり辛かった」

 ……最悪だ。
 質量兵器を使う戦闘機人?
 しかも、口ぶりからして、違法生産してるみたいだね。
 ……数を用意されたら、管理局でもやりづら……まてまて。
 AMF技術だって流出してる可能性があるから……

 ……まずい。

 本格的に、対策とらないと、姉さんの部隊でも太刀打ちできなくなっちゃう。
 姉さんの部隊、基本的に魔法重視だ。
 高ランク主義なんてものじゃなく、低ランクの底上げとか、非魔導師の魔導師化とか、そっちを念頭においてるから、AMF揃えられたら、途端に壊滅しちゃう。
 ……これはまずい。
 ……くそ、プレシアさんがいなくなったのは、少し痛い。
 魔法技術に強い人は……マリエルさん? アリサ? アリシア……は、ちょっとまだ経験不足か?
 くそ、完全に後手にまわった。
 ……ドクターに頭下げるか、身売りするしかないかな……

「……随分思い悩んでいるな? そんなに心配か?」

「……心配。私たちはいいとしても、もし、姉さんたちが危険に晒されると思うと……」

「せつなか。……大切なものが両方にいると、苦労するな」

「うん……」

 まさか、戦闘機人の量産がもう始まってるとは思わなかった。
 姉さんが言ってたじゃないか。
 ノーヴェの稼動時期が早いような気がするって。
 ……気がするんじゃなく、早いんだ。
 ノーヴェ、稼動時期確か本編開始から一、二年前のはず。下手したらそれより短い。こっちじゃ、もう三年前から稼動してる。早すぎる。

 ……バタフライ効果だっけ? 姉さん動きすぎたんだ。
 まあ、私も動きすぎな面もあるかもしれないけど……
 そして、今年にもう後発組が稼動してる。

 ……まずい、まずいよこれ!?
 よっぽどの戦力と対策を集めないと、ハッピーエンドに繋がらない!
 ……くそ! どうすればいいのよ姉さん!

「……はぁ。お前も、不器用だな」

「え?」

 不器用? 私が?

「……もう少し、姉を頼れ。……手ぐらいは貸してやる」

「……でも、これは、私の……我侭だから」

「……お前もよく言っているだろう? 妹の我侭ぐらい、叶えてやるのが姉の仕事だと。……私も、それに従うだけだ」

 あ、あう……い、いいのかな?
 我侭言って、いいのかな?

「でも、私、やってること、ドクターやみんなに迷惑かけちゃうかも」

「何、そのときは、私も一緒に謝ってやろう。……私も、お前の姉だ」

 ……うう、チンク姉さん。
 凄くかっこいい。
 
「……じゃあ、我侭言っていい?」

「……ああ、構わん」

 凄く、我侭で、みんなに迷惑かけちゃうけど。

「現行のAMF技術の対策が欲しい。……スクール、バルシェム共に、数を量産するタイプの戦闘機人だから、それにAMF加えられたら、今の管理局じゃ対抗できない。……せめて、姉さんの部隊や、それに関連する部隊にその対策を流したい」

「……ふむ。確かにな。……私たちの計画を、他の奴に先を越されるのも業腹だな」

 それに、計画は後三年先。
 三年もあれば、スクール、バルシェム共に数は揃えられる。
 そうなってからじゃ遅い。

「そして、両プラントの破壊も今からやっておきたい。……今、私が考え付く対策は、これだけ」

 刹那みたいにいろいろ考え付かない。
 私こそ、十六年位しか生きていない小娘だ。知恵、知識共に足りない。
 それを補うには……他の知恵者の力を借りないと駄目。

「……前者の方だが、私たちから直接流すことはできないな。一応、私たちの手札でもあるからな」

 う。そうですよね……
 やっぱり、駄目ですよね……

「ところで、私のコートを預かっておいてくれないか?」

「……え?」

 チンク姉さんのコートって、確かAMF発生コート……!?
 
「何、ほんの一年の間だ。……預かっておいてくれ。姉には、予備があるからな?」

 !? なるほど……向こうで研究させろというのか。
 ……でも、待った。

「姉さん、AMFコートじゃ、管理局でも研究されて……」

「何だ、知らなかったのか? 管理局の上がな、それを回収したら、研究する前に他の組織や我々に流してしまうんだよ。……研究中を傘に着てな?」

 ぶぅ!? なにそれ!?
 それ、横流し……て、何で誰も気づかないんだ……
 鈍過ぎるぞ管理局&姉さんも!

「それに、私のは現行の最新式に何度も更新している。……AMF技術は我々の十八番だ。その最新版だぞ?」

 ……これを、アリサたちに解析させれば、常に最新の対策が取れる!
 
「……わかった。預かっとくね? ……チンク姉さん、ありがと」

「しっかり、預かっておいてくれ。失くすなよ?」

「うん!」

 AMFの対策は、これでなんとかなりそうだ。後は、アリサたちに任せるしかない。

「後、後者の方だが。……既に、我々でも動いている」

「え!? ……そ、そんな感じには見えないけど」

 皆のんびり訓練してるような……

「直接ではないがな。……今日も、一件潰しに行ってもらっている。……そうだ。お前も行って来い」

 私も?

「ああ。……スクールのプラントだ」

 ……よし。行ってみよう。

「場所は?」

 チンク姉さんがそう言うなら、何かあるんだろう。
 姉さんの、せつな姉さんの力になるための、フラグが。





[6790] L28.トリップパラノイア 外にて
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/06/20 22:47
 ……ベルカ自治領の奥に。
 燃え始めたプラントがあった……というか、もう岩にしか見えないよねあれ。
 上手く偽装したな~。くりぬいたのかな?
 とにかく接近。……と、誰かいる?

「……ふ、あ……」

 プラントから這い出てきたと思われる、女の子。
 実験体か、戦闘機人か?
 濃い紫色の髪、小さな体。……どこかで見たような?

「……誰だ?」

 後ろを取られた!?
 慌てて振り向くと……あれれ?

「ゼスト……さん?」

「な!? せつな! ……何故ここに?」

 それはこちらの台詞です。
 ……ああ、いや、まて。
 と、言うことは、チンク姉さんが頼んだのは、この方なのか。
 確か、お世話したのがチンク姉さんだったはず。
 ……なら、この人がいるのはおかしくない。

「それより、この子は?」

「……あのプラントから連れ出した。……後は、潰した」

 ちょっと遅かったか。
 でも、潰れたんなら、それでいい。
 女の子に近づく。……衰弱してる。ちゃんと栄養も与えなかったの?
 ……それとも、廃棄寸前の子だったか?

「……ここにいると見つかる。奥へ行こう」

「……そうですね」

 少女を担ぎ、ゼストさんに付いていく。
 岩陰に潜み、少女を座らせる。
 ……えっと、レーヴァテインから緊急救護パックを取り出す。
 ドクター製の戦闘機人用だからこの子に合うかどうか……
 ……く、プラグどこ? ……まさか、外部入力装置つけてないの!?
 衣服を脱がし、背中を……あった! 私たちより下の方、首と肩の間に差し込み端子。
 私のプラグと接続……ん?

「……せつなでは、ないのか?」

「あ、はい。カグヤと言います。……姉さんの遺伝子から作られた、戦闘機人です」

「……そうか。お前が。……どうしてここに?」

 て、まさか、姉さんと接触済みなんだろうか?
 
「えっと、チンク姉さんから聞いて、来て見ました。……姉さんとはあいましたか?」

「……ああ。……しかし、君はスカリエッティから造反したと聞いているが?」

「まあ、敵対はしていますけど、友好的に接してます。……いろいろあるんですよ」

「いろいろ……か」

 細かく説明するのも、長いし……と、バイタルはなんとか。
 それよりも栄養の方が足りてないね? と、固形……じゃ食べれないか。
 ゼリーパックを取り出し、ふたを開けて女の子の口に。
 ……ちょっとは意識あるから、飲んでくれてる。

「……手馴れているな」

「訓練しましたし、よく、こういう子、保護したりしますから」

 ドクターの依頼で人造魔導師プラント破壊した時に、一人か、二人は救出してしまう。
 ほとんど管理局任せになってしまうが、救出直後の応急処置は私がやっている。
 ……慣れもする。

「うん、全部飲んだね? ……しかし」

 これがスクール製の戦闘機人……確かに雑だ。
 この子は後方支援用だけど、それのみに特化されて、戦闘技術系モーションがまったく入ってない。
 そして、内部装甲もかなり薄い。
 狙われたらどうするつもりだったんだろう?
 使い捨て? 技術試験機? 先行量産試作機?
 これで完成品とか抜かしたら、ドクター怒るよ、これ。
 ……あ、気がついた。

「あ……ひぃ!?」

 て、ちょ、何この子?
 ゼストさんに怯えて……私にも?
 あ、コラ、プラグはずれるから逃げない!

「ほら、落ち着いて? ……痛い事、しないから」

「や、やだ……触らないで……」

 む、この反応は……玩具にでもされたかな?
 ……記憶野に潜入。……むぅ。過度な実験が続いてるね。
 人間嫌いかな? 

「ほら、これ見て?」

 私の紹介データを網膜ディスプレイに流す。

「……カグヤ・トワ? 私と同じ……戦闘機人……ブランド?」

 ブランド……なにかなそれ?
 
「ドクターセトメが言っていた……ドクタースカリエッティの作ったブランドに負けないように教育すると……」

 ……なるほど。
 ナンバーズの皆はブランド品なわけだ。
 
「じゃあ、君の紹介データ教えてくれる?」

「……はい」

 転送受理……て、おいおい。
 この子、ラトちゃんか。
 道理で見たことあるような容姿だと。
 ……ラトゥーニ11。クラスラトゥーニ。情報戦仕様機人。インヒューレントスキル『コマンド・データ』。
 ……うあ、この子、ウーノ姉さんの劣化バージョンだ。
 フローレンスセクタリーとほぼ同じだけど、ステルス面でちょっとランク落ちしてる。
 後……思考が情報についていけていない? 
 薬も使ってるから、脳の方に負担が出て、情報整理ができてないんだ。
 ……技術試験機だったみたいだね。

「……わかった。ラトって呼ぶね?」

「……はい、カグヤさん」

 ふふ、よかった、懐いてくれた。
 けど、

「……大丈夫なのか?」

「……」

 うーん。私以外の人間は駄目か。
 
「まあ、大丈夫です。消耗は激しいですけど、ゆっくり休ませれば」

「そうか。……俺はそろそろ行かねばならない」

 あ、そうだね。
 こんな所にいてもしょうがないか。

「この子は私がつれて帰っても?」

「……頼めるか?」

 まあ、放っておけないし。

「ここからなら、教会も近いですから」

「……教会に知り合いがいるのか?」

「お友達です。……それじゃ、行きますね?」

 ラトを抱え、教会の位置をロック。

「……ああ、また会おう」

「ええ。またです」

 どうせ、ドクターのラボで会えるだろう。
 ……この五年間ぜんぜん会えなかったけどね~?
 他所のラボにでもいたのかな?
 とにかく、ラトを休ませないと。




 教会到着、秘密の通路を通って友人の部屋へ。

「……カグヤですか?」

 部屋主が声をかけてくれる。
 ……シスターシャッハ。姉さんと私の友人だ。

「うん……その、一人、消耗してる子がいるんだけど、休ませてあげてくれる?」

「……どうぞ。お入りなさい」

 じゃあ、お邪魔しまーす。
 部屋に入り、早速ベッドにラトを寝かせる。
 既にスリープモードに入ってるらしく、寝息も安定している。

「……どこのプラントから?」

「戦闘機人のプラント。……私達以外にも、量産されてるみたい」

「!? き、聞いていません! せつなは何も!」

「……シャッハ、聞いて? 多分、せつな姉さんにも把握できない事態になってる。……私も、今日始めて聞いた」

 ……シャッハは、私たちのグレーな部分を知った上で、協力してくれている。
 カリム以上の理解者だ。
 私達の事は全部教えてある……前世の事や、この世界の本編まで。
 流石に未来までは教えてないけど。

「……計画の変更もあり、と、言うことですか?」

「私たちの計画はそのまま続ける。……けど、対策とらないと」

 後三年後のドクターの計画。
 それに乗じた計画を、私と姉さんで考えている。
 ……現、管理局上層部の一斉洗浄。
 当然、評議会の実態すら、公表し、溜まった膿を追い出す計画だ。
 それまでの影の実行者が私、協力者はシャッハや、オーリスさん、ドゥーエ姉さん。
 ……表の部隊が姉さんなら、裏の部隊だ、私は。
 けど、もし、管理局上層部が、スクールやバルシェムを使って、強化を考えていたら……
 そして、それを逆手に取られたら?
 ……むぅ、どう動くか、もうわからなくなってきた。

「とにかく、今はまだ静観……けど、取れる対策はとるから」

「わかりました。……それより、この子は?」

 ……私が連れて歩くには、少し衰弱しすぎだね……

「しばらく、預かっておいてくれないかな? この子、衰弱が激しいのと、後、人間嫌いの傾向がある。……過度な実験を施されたみたい」

「……わかりました。……すぐに行きますか?」

「あ、ちょっと待って……」

 ラトに伝言しておかないと。

「ラト、起きて?」

「……カグヤ……さん?」

 スリープモードから復帰。
 ……まだ、顔色はよくないね。

「うん。……私、すぐに行かなくちゃいけないの。それで、ラトのお世話を、こっちのシスターにお願いしたから」

「え!? ……や、やだ……行かないで……傍にいて……カグヤさん……」

 お、おおう……い、いてあげたいのは山々なのですが。
 すぐに姉さんに接触しないと……

「えっとね? シスターシャッハは、優しい人だから。……絶対貴女を傷つけたりしない。私が保証する」

「……えっと、ラト、ですね? カグヤの友人の、シャッハといいます。……貴女の身柄は私が引き受けました。しばらく窮屈させるかもしれないけど、酷いことはしませんよ?」

 ……まだ戸惑ってるか。
 けど、シャッハは優しいから、この子も懐いてくれるだろう。
 姉さんは、こういう子得意なんだけどなぁ……

「私も、用事が済んだらすぐに戻ってくるから。……ね?」

「……うん」

 ……聞き分けのいい子だね。

「じゃあ、もうちょっと寝てようね? ……お休み、ラト」

「……おやすみ」

 ……目を閉じる。ふふ、寝顔可愛い。

「……じゃあシャッハ。この子お願い。……ごめん。迷惑ばかりかけて」

「友人の頼みですから。……気をつけて、カグヤ」

 え? ……わお。
 シャッハがほっぺにキスしてくれた。

「……? えっと、違いましたか? 親愛の情というのでしょう?」

 ……あはは。そう言えば、姉さんが教えたんだった。

「うん。あってる。ありがと、シャッハ」

 返礼にほっぺにキスを返す。
 さて、次は……姉さんに会わないとね。




 <せつな>

 ……葬式終わって、二日目。
 喪に服すってことで、今日は休み貰った。
 ……フェイトたちも、今は自宅にいる。
 ……いなくなって、初めてわかる大切さ……か。
 俺も酒飲んで忘れたいけどね。そうもいかないか。
 仕事の処理の方はテッサたちに任せてるし、もう少し不貞寝しとこうかな……

『(姉さん? 今どこ?)』

 ? カグヤ?

「(今、自宅。……どうした?)」

『(緊急事態発生。……今からそっち行くから、転送ポート開けて?)』

 緊急? 何があったんだ?
 ともかく、自宅の転送ポートに電源を入れる。
 ……数分で転送終了。
 カグヤが出て来た……あれ?
 手に持ってるのって……チンクさんのAMF発生コート?

「姉さん、ちょっと。部屋の方に」

「お、おう……何があったんだ?」

 これ以上のトラブルはごめんだぞ?
 ただでさえ、プレシアさんの事があってブルー入ってんのに。
 俺の部屋に入って、鍵を閉める。
 ……俺とカグヤの会話は、時々やばいネタもある。
 母さんにも、まだ話せないことだってある。
 
「……まず、一つだけ文句言わせて」

「……わ、わかった」

 文句ときましたか。
 俺、なんかやったか?

「ちゃんと仕事して! 裏のほう、とんでもないことになったよ!」

「とんでもないって……いや、何のことだよ?」

 何があったと。

「戦闘機人の量産化、始まっちゃったよ!?」

「……ナニィィィィィィィ!!」

 んなあほな!? 早すぎんぞなんじゃそれ!
 ありえねえ!!

「ちょ、おま、マジか!? なんで!?」

「私が知るわけないじゃない! とにかく、わかってるだけで二件。アラドのところと、クォヴレーのところ。わかるでしょ?」

 アラド!? てことはスクール?
 て、ちょい待ち、クォヴレー!?

「それって、バルシェムシリーズの事言ってんのか!? ……おいおい。冗談だろ?」

「冗談じゃないよ。チンク姉さんが接触してる……レーヴァテイン?」

 空間ディスプレイが展開される。
 ……うわ、マジでバルシェム……同じ顔が……三体。
 しかも、持ってるの拳銃……デバイスじゃなくて質量兵器かよ。

「……スクールの方は?」

「今日、ゼストさんが一件潰したけど、各地に結構あるよ。……見て?」

 ……映し出された地図データに点在する、マーカー……全部で十四件。
 多いな。……ち、こんなにあるなんて。
 
「それで、そこから技術試験機の一体確保した。名前はラトゥーニ11」

「ラトか。……その、性能は?」

 これでドクターと同じ性能だったら、マジでまずいぞ?

「私たちに比べると、大分雑。……まだまだ完成までは至ってないね。……けど、もし私が知らなかったら……」

 計画まで、あと三年……時間的には充分だな。

「その子は今どこに?」

「今、シャッハに預けてある。……後、バルシェムのプラントまでは、まだわからない」

 ……所在のわからないバルシェムよりも、先にスクール潰した方が楽か……
 しかし、バルシェム……ん?
 待てよ……なのはの時といい、フェイトの時といい……あ!?

「そ、っか、誘拐事件か! バルシェムっつーかバルマー系の常套手段じゃん! 何で気付かねえんだ俺!?」

 そうだそうだ。
 ゲーム内でもよくやってたじゃん、テンザンとか! あれは死体かっぱらっただけだけど!
 うわ、そうだよな? スパロボ系いるんなら、その可能性もあったんだよな?
 しまったーーー!!

「じゃあ、その誘拐事件を追っていけば……」

「バルシェム系列に辿り着けるはず……スクール系に辿り着く可能性もあるけど」

「……うん、そうだね。……そっちの捜査は任せるよ。私は、スクールプラントを叩く方向で」

 だな。カグヤにはそっちを動いてもらおう。
 一応データは貰っておいて、動ける時にこっちでも動くとしよう。
 ……フェイトの参入が来年だから、今年中に動くのは厳しいが、誘拐事件の事はこっちでも動くか……
 しかし、本当にとんでもないことになったな。

「やっぱ、動きすぎたのかな、俺」

「おそらくね? ……バタフライだと思うよ? もう、こっちも全員稼動した」

 なにぃ!?

「全員って、……後発組もか!?」

「うん。……計画が、早まる可能性も視野に入れたほうがいい。……一応、ドクターは何も言ってないけど」

 ち、最悪だな。
 斜め上もいいとこだ。
 展開速すぎる……

「後、これ。チンク姉さんのAMF発生コート。……預かってきた」

「……俺らのほうで解析を?」

 ……そういや、結構俺ら手に入れてるはずだけど、対抗策はまだできてないんだよな。管理局。
 俺らは独自に対抗策作ってるけど。

「うん。最新版だって。……その、技術局に回された方、横流しされてるみたいだから……対策研究されてないみたい」

「うあ、マジか……」

 なんだそりゃーー!!
 これも、計画を見越してか?
 それとも、他に思惑が?
 ……管理局上層部、一体何を考えてるんだ?
 ……ま、まさか……

「質量兵器運用の復活……? アインへリアルの件もあるし、それしか考えられん……」

 わざわざ、保有の魔導師潰してか!?
 無茶苦茶だ!
 ありえねぇ!

「……AMFで魔導師の優位性を消して、一度、管理局を崩壊させる。その後、アインへリアル等の質量兵器禁止を解除し、魔法と兵器を両立運用して、管理局の地位を強固にする……? いや、しかし……裏切られたら、元も子もない作戦だぞ、これ。そのための戦闘機人か? 開発者が反旗を翻したらどうする……いや、作戦立案者が開発者だった場合は? ……ドクターはこんなこと提案したりせず、黙ってる人だから、後は……」

 一人しかいないじゃん。

「「それも私だ」」

「……しか、ないよなぁ?」「ないね」

 ユーゼス……あいつかよ……
 くそーーー。完全に後手に回った!
 
「ちなみに、バルシェムの開発元はゴッツォ研究所だって」

「先に言え!! それしかねえじゃん!! 確定したーーー!?」

 タイムダイバーいないのに、そいつがいるなんて反則だーーー!!
 くそ、仕方ない!

「とにかく、こいつはこっちで預かる。対策用意しないと……こんなところで、プレシアさんいなくなるなんて……て、考えちゃ駄目だな、これは」

 プレシアさんの弟子、アリシアや、アリサに任せるしかない。
 AMF対抗策が万全になれば、この後の展開が有利になる。
 少なくとも、俺の部隊が全滅なんて憂き目に会わなくて済むし、危険度も下がる。
 ……だが、他の部隊に、技術提供できない……下手に流して、手入れ喰らったらアウトだ。
 一度、技術部のアウト作品、封印処理かまさないと…… 
 俺が言えた義理じゃないけど、あいつらやばいもん作りすぎじゃ!

「私が流せる情報はこれだけ。……ちゃんと、仕事してよ? フラグばかり立ててないで」

「うぐ……す、すまん。最近調子こいた……」

 ううう。イルイの強化とか次期フォワードの強化とか、エリオの教育とか、そんなのに力入れすぎた。
 間違ってはいないはずなんだけど、力入れる方向ずれたな……
 とほほ~。執務官いないと仕事し辛いんじゃ査察官。
 フェイト~早く来て~……
 なのはより先にフェイト入れるべきだったーーー!!



 三年後、この二人だけの会議をしておいて、よかったと本当に思う。
 でないとあんな事態俺一人じゃ収拾付かんわ畜生!





[6790] L29.ミス・フォーチュンズホイール 曰く『地上本部の人攫い』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:9ee4ff7a
Date: 2009/07/03 22:51
 新暦七三年。Sts開始まで、あと、二年。
 ……季節は秋。
 結構忙しくなった身辺をなんとかしながら、俺の仕事は続く。

「……以上が、連続誘拐事件のあらましです。……未然に防げたものもありますし、防げなかったものもあります」

「……その、誘拐された被害者は、総じてまだ発見されてないんだな?」

「発見されても、既に死亡していたり……人として、機能していなかったりですね」

 ……酷いもんだ。
 せっかく見つけた被害者が、精神がイカレていたり、内臓のほとんどがとられ、ただ生きているだけの状態だったり。
 ……報告書を見るだけでも辛い。

「……せつなさん。私……悔しいです。こんな、人を人と思わない事件が起こってるなんて……それを止められない、自分が……」

「……気にするな。としか言えん。……とっつあんも、そう言うだろ?」

「……はい」

 クラナガン都市部で起こっている誘拐事件の報告をしてくれているのは、108部隊で捜査官をしているギンガ・ナカジマ。
 俺の妹分二号である。
 本来の専門は、母クイントさんと同じ戦闘機人関連だが、俺の頼みで調べてもらった。
 ……最初の事件は、三年前。
 丁度、なのはの誘拐未遂が起こる四ヶ月前から起こっている。

 ……被害者の名前はマイ・コバヤシ……び、ビンゴ……
 被害者リストの中には、某悪役ゲーマーや、教導隊の嵐の人の名前もあった。
 ……つまり、スパロボのディバインクルセイダーズ&バルマー系の敵キャラがそのままでてくる可能性が上昇したわけだ。
 最悪だな、マジで。

「ありがとな、俺の仕事に付き合ってもらって。……明日からは、自分の仕事に戻ってくれ」

「……あ、あの。他に何かありますか? ……私でよければ、手伝います」

 ……申し出はありがたいんだけどさ。

「わり。ちょっとこれ、首突っ込みすぎると、そのまま首持ってかれちゃう事件なんだ……あんまり、お前を危険に晒したくない」

 とっつあんだけでなく、うちの仁王様にも怒られてしまう。
 ……下手に人を使うと、その人が危険な目にあって喪うってのもテンプレだしな。

「まあ、何か気付いた点があったら教えて欲しい。……悪い。情けないお姉さんだな、俺」

「……そんなことないです。私やスバルは、せつなさんが大好きですから。……せつなさんの、力になりたいですし」

 ……ありがたいことだ。
 大きくなった妹の、頭を撫でる。
 ……自分も、結構大きくなってしまった。
 身長170cmを越し、その割には胸ペッタン。
 ……制服が男性用だから、初見の人は完全に男として接してくる。
 ……ふふ、虚しいなぁ。
 別にいいけど。

「また、頼ることになったら連絡する。……じゃあな?」

「はい、せつなさん」

 108隊を後にし、今度は本部へ。
 受付で中将のスケジュールを聞き、空いてる時間を教えてもらう。
 ……むぅ、時間が空いた。
 今のうちに、食事とるか……ん?

「……!? ……!!」

「…! ……!!」

 ……あのもみ上げメッシュの子、誰かに似てるな……制服は航空隊の予備生か。
 で、追いすがってるのは、編み上げウェーブのメガネの子? 航空隊の通信官じゃん。
 ……ふぅん。どうも、メッシュの子が入隊試験に落ちて、出て行くのを、メガネの子が引き止めてるのか。
 ……む、あの負け犬感。……まさか、アルタイルの子?
 メッシュの子が俺の前をつかつかと通り過ぎる。
 で、追うメガネの子。

「待って! アイビス!」

 はい確定!
 拾う。
 メッシュの子の腕を掴んで止める。

「……!? え!?」

「君、ちょっと俺とお茶しない?」

「はぁ!? ……な、ナンパ? 本部で?」

 ……に、見えるよね。うん。

「うん、ナンパ。さらに人攫い」

「はぁぁ!?」

「え? あ! トワ・ハラオウン査察官!?」

 と、メガネっ子俺の事知ってたか。
 即座に敬礼を取るメガネっ子。

「え? ツグミ、知ってるの?」

「特務部隊の査察官よ! よくここ来るのよ? 知らないの?」

「……あたしには、もう関係ないね」

 わお。
 見事に負け犬オーラ放っております。
 ……うん、ますます拾いたい。
 そのままなのはに預けたる。

「関係あるよ~? ……ね? ツグミさん?」

「え? ……ま、まさか!? アイビスをスカウトに!?」

「は、はぁ!?」

 ふふふふ。俺が声をかけた子は、大概スカウトされるという噂話が本部に流れているのは承知済み。
 実質その通りだったり。

「え、な、なんで? あたし、今日、試験落ちて……それで、もう、やめるつもりなのに……」

「うーんとね。勘」

「勘!?」

「うん。今の今まで君の事知らなかったし。調査もしなかったし」

 そういやしなかったな。この子の関連。
 俺アイビス好きなんだけどな~。使い勝手いいし。覚醒後だけど。
 ニルファじゃ一番好き。……OG? アステリオンは認めん。

「え、えと、勘でいいんですか? その、アイビス、ランクCですし、本人言ったとおり、入隊試験も落ちましたし……」

「なら、なおさら、うちに来なさい。……空、飛びたいだろ?」

「……でも、あたしが特務隊なんかに……」

「ああ、君が入ってもらうのは前線隊じゃなく、訓練隊。……まあ、未来の前線隊だけどね?」

 各部署からの評価は上々。
 訓練隊出の魔導師は、普通のエリートよりも仕事できると評判です。
 ……まあ、なのはとキタムラ教官に鍛えられたら、誰でもそうなるし。
 たまに前線部隊も一緒に訓練するから、自分の得意分野も伸ばせるし。
 後方スタッフも、実力者揃いだから、支援系の魔法もバッチリだし。
 
「アイビス、チャンスよこれ! 査察官のいる部隊の訓練隊、あの高町一尉のいる隊よ!?」

「!? え、きょ、教導隊……の……?」

 あうち。この子もなのは信者か。
 ……最近多いんだよな、なのは信者。
 ブリットもそうだったし、やっと見つけたクスハもそうだったし。
 ……訓練隊入隊募集かけたら、その中の半数以上がなのは信者なんだよな~。
 ……あれ、もうカリスマだよね。うちのなのは、ジュエルシードの件ぐらいしか有名なのないのに。
 闇の書攻略したの俺なのにな~。知ってる人少ないけど。

「……や、やっぱり、いい。私なんかが、高町一尉についていくなんて、できないよ」

「アイビス!」

 ほむ。強情だな。

「じゃあ、これからどうすんの? コンビニの店員にでもなるか? 空も忘れて? ……寂しいぞ?」

「うう!? ……な、何でコンビニ……」

「や、それが頭に浮かんだ……てか、そんな無愛想なら、コンビニ店員も無理か?」

「ほ、ほっといてよ!」

 ふふふ。弄りがいあるなぁ。
 適度に真面目、適度に根暗、そして、覚醒後は有望株……
 絶対に貰っていく。

「とにかく。まだ管理局自体は辞めてないんだろ? 辞表提出した?」

「う……」

「そういえば、まだよね。……失格告げられて、そのままでてきたから」

「ツグミ!」

 ふふふ。ならば好都合。

「予備隊だったな? なら、そこの隊長に話しつけて、異動辞令出すから。名前は?」

「ちょ、強引だ「アイビス・ダグラス予備生です。在籍ナンバーは……」ちょっと、ツグミ!? あんたまで!」

 ふむふむ……
 よし。メモ終了。

「よーし。異動命令だ、ダグラス予備生。来週頭より、特務部隊【オリハルコン】訓練隊『ウィングス』の配属を命じる。……身辺の整理、きちんとしとけよ?」

「い、行かないよ!? あたし、承諾してない!」

「……空、飛びたいだろ?」

「う、……それは……」

 ……よしよし。
 こっちのアイビスも、空を飛ぶことに執着してる。
 ……あいつも、空好きだしな。

「うちのなのはもな? 空飛ぶの好きなんだ。……暇があったら、前線隊についていって空飛んでる。……そんな奴が、お前みたいに空に憧れてる奴見たら、ほっとくと思うか? ……大丈夫。お前は飛べるよ。俺が保障してやる」

 ふふふ。空戦ユニットは貴重だからな。
 絶対逃がさねえ。

「……ほ、本当に? あ、あたし、空、飛べるように……なるかな……」

 うし、あと一息!

「なる。……大丈夫。なのはに憧れてるなら、なのはを信じろ。ついででいいから、俺も信じとけ。……絶対に飛べるようにしてやる」

「……わかった。あんたを信じるよ……」

 よし、かかったぁ!
 釣れた釣れた。未来の大物~♪
 
「……ああ、君はどうする? この子が心配なら、君も一緒に引き抜くが?」

「ええ!? い、いいんですか?」

「おう。……まあ、来たいと言うなら、手配するが……えっと、名前と所属先は?」

「あ、はい。ツグミ・タカクラ通信官。所属は航空隊の予備生訓練隊通信官です。在籍ナンバー……」

 ほむほむ……非魔導師か。
 シャーリーの補佐にぴったりだね。
 フェイトも入隊したし、後はヴィータさえ引っ張れば、俺の部隊はドリームチーム間違いなし~。
 
「タカクラ通信官は、早くて来週中、遅くても、再来週には来てもらうから、辞令をお楽しみに。……ダグラス予備生? そっちは今日中に辞令出すから、必要書類受け取って、いつでも隊の方に来てくれ。入寮手続きもあるからな」

「「はい!」」

 よきよき。
 ……ふふふ。見てろユーゼスだかシヴァーだか知らないが。
 めっためたにしてやる。


 ……訓練隊隊長にその旨を話すと、驚かれた。特にアイビス。
 才能がないと断言しましたよ、この人。
 ふふふ。それを判断するのは俺じゃ。あんたじゃない。
 ……まあ、上手く育ってくれなくても、捨てるつもりはさらさらないし。
 まずは飛行用AT与えて、空に慣れてもらうかね~?
 と、ここで怒鳴り込んできた女性一名。

「失礼します!」

 ……その黒髪とカチューシャには見覚えあるぞ。
 
「……来客中だ、プレスティ予備生」

「納得できません! どうして試験に落ちたダグラス予備生に特務隊から声が掛かって、私には声が掛からないんですか!」

 ……落ちたからじゃね?
 受かってたら、出会わなかったし。

「……だ、そうだが? トワ・ハラオウン査察官?」

「え?」

「ごめんね~? あんまりにも可哀想だから、拾っちゃった」

 嘘ではない。
 本当に拾った。

「……し、失礼しました。スレイ・プレスティ予備生です」

「あいあい。……せつな・トワ・ハラオウン査察官だ。で? ダグラス予備生を俺が拾ったのに、文句があると?」

「そういうわけではありませんが……しかし、彼女はランクCですよ? 特務隊の仕事に、ついていけるとは思えません」

 おいおい。
 俺だって予備生に仕事させるほど腐ってねえぞ。

「彼女は、訓練隊に入れる予定だから、実際には仕事しないぞ? 訓練オンリー。……で?」

「……それでも、特務隊のエリートに、あんな落ちこぼれを……」

 あれ?
 ……いかんな、広報が上手く働いてないのか?
 それとも、情報管制の誤報か?
 今でこそ賞賛浴びてるけど、元々うちら、低ランクの吹き溜まりだぞ~?

「……俺の部隊。交代部隊の平均ランク知ってるか?」

「交代部隊の……ですか? ……い、いえ、聞いたことはありませんが……特務隊なんですから、A+はあるんじゃないでしょうか」

 いやいや。そんなんなってたら、余裕で保有枠オーバーだって。
 
「……B」

「……は?」

「聞こえなかった? 平均、Bだ」

「そ、そんな!?」

 設立三年(正式稼動からなら二年)立つけど、あいつらぜんぜん魔導師ランク上がりゃしねえ。
 一応年に一度試験受けさせてるけど、一人二人上がるくらいで、他はぜんぜん。
 サボり過ぎとは言わないんだけど、スキルばかり上がって、肝心の魔力上がらねぇんだよな~。
 調べてみたら、一人二人はもう打ち止めでやんの。リンカーコアの成長。
 お陰で、いまだに平均B。やるせないなぁ。

「ちなみに、前線部隊でも、最低ランクはCだ」

「……あ、ありえません! そんなこと!?」

 あっはっは。いや本当。
 一応、一ランクあげたけど、ほとんど非魔導師だからね! ブリットは魔導師だけど。
 純正魔導師が副隊長二人とブリットしかいなく、後の隊長&隊員は非魔導師だからな。
 ……公には言えないけど。

「それで? 君は、今日の試験で合格した?」

「プレスティ予備生は合格済みですな……取り消すかね? 拾ってくれるかもしれんよ?」

「……結構です! 失礼します!」

 踵を返して立ち去ってしまった。
 閉めたドアの音に悪意を感じる。
 ……まあ、もうちょっと待ってね。
 その気迫は認めるさ。

「すみませんな。うちの隊員が」

「いえいえ。俺のやり方に文句があるなら、それでいいです。……納得しろなんて、言った覚えありませんしねぇ~?」

「……とにかく、ダグラス予備生、タカクラ通信官の件は承諾します。……また、おいでください。有望そうなのがいたら、そちらで鍛えてもらっても構いませんから」

「はい。そのときはまたよろしく。……空戦魔導師は貴重ですからね。大切に育てないと」

「……まったくですな」

 ランク高いのは全部海が引っ張っちゃうからな~。
 今でもその風潮はある。
 俺はその逆手をついて、低いのを集めてる。

 ……半年俺の部隊で訓練した魔導師と、半年海で働いた魔導師が模擬戦した結果、訓練隊出の方が勝っちゃった時あって、マジでびびった。あ、やべ、また強化しすぎた。みたいに。
 それから評価は鰻上り。保有枠も広がってホクホクだぜ、フェイト&シャマルさんゲットーーー!!
 来年もう一段階上げてもらえるから、ヴィータ入れて高ランク魔導師は打ち止め。
 後は本編開始前に妹どもやエリオ、キャロを迎えて対ドクター+αに備えないと。

 バルシェム関連施設まだ見つからないし、スクール系も完全に潰れてない。
 ……アサルト隊がバルシェムに遭遇したんだよな一回。ノーマル仕様の奴。
 一体捕獲したんだけど、連れてくる前に自爆された。徹底してやがる。
 破片と肉片集めてマリエルさん込みで調べてもらったところ(アリシア泣かせちゃった、すまん)どうも、クローン培養みたい。テロメアDNAの劣化が確認された。
 内部フレームもナカジマテクノロジの劣化流用品。
 ISとかはわからなかった。むぅ……

 スクール系はこの一年で五、六件は潰したそうだ。実行者はゼストさんとカグヤ。たまにナンバーズも手伝ってくれてるらしい。
 けど、ラト以外の救出者は……ゼロ。
 ほとんど、廃棄されたものばかりで、実験中の者も、ただ生かされているだけ。
 楽にしてあげた方がマシな者ばかり……
 けったくそ悪いぜ、マジで。


 訓練隊を後にして。
 ようやく中将と打ち合わせ。
 
「……じゃあ、とうとう手をつけるんですか。アインヘリアル」

「上がせっつき始めたからな。……仕方あるまい」

 地上の防衛兵器アインへリアル。一応魔力エネルギーを使うらしいんだけど、誰でも使えるって点で、質量兵器に入るんだよね。
 本編ではこれの設立、運用に強行的だったレジアス中将。
 こっちの世界ではあんま乗り気でないらしい。

 ……と、言うか、評議会の正体、もう中将にばらしちゃったんだよね、俺。
 大体気付いていたようだけど、ドゥーエさん撮影の証拠写真で確信を得たらしく、最初はこれを暴露しようとした。
 けど、それに待ったをかけさせてもらった。

 ……予言の存在だ。

 カリムさん、とうとうあの予言受け取って、管理局に注意を呼びかけた。
 ……勿論、俺も聞かせてもらったんだけど……なんか、本編のとは微妙に違うんだよな~。
 管理局システムの崩壊とか、ゆりかごの出現とかはわかるんだけど、虫篭の実験開始って何それ?
 どう解読してもそうとしか読めず、首をひねる解析陣。思いついてしまったオレサマ。
 ……ネビーイーム? インセクトケージ? 勘弁してくれよいやマジで。

 そういうわけもあって、暴露は一時凍結。
 時期は俺が見計らってと説得して、なんとか知らん振りを決め込んでもらってる。
 評議会をなくし、局の膿さえ追い出せば、少しは働きやすくなるだろう。
 ……中将には、もう少しだけ、評議会の傀儡になってもらうしかない。

「それで? お前の部隊はもう保有枠はいいのか? 来年の一段階上げて終わりと聞いているが」

「ああ。守護騎士ラストの子入れて高ランクは終わり。……あとは新人教育や魔導師育成に力注ぐぜ。そっちから候補あったら教えて。こっちでしごく」

「わかった。……ところで」

「他、なんかあったっけ?」

「いや、……狭いな」

「言わんでくれ。俺だって我慢してんだから」

 ……いや、実は二人とも、部屋の隅っこで話してます。
 最近、中将の部屋に監視カメラ仕掛けてあるのをクラウンが見つけて、そのまま調べると盗聴器も発見。
 これはやばいと中将に筆談会話。
 達磨のヤロー、非魔導師だから、念話使えねえんでやんの。
 しょうがないから、次の会合からは幻術で偽者作って普通に会話させて、本人たちはカメラの死角に隠蔽結界と防音結界しかけて、その中で話してます。
 達磨と大女がかがんでるもんだから、マジで狭いです。
 
「じゃあ、いつもの通り、幻術に被ってから、俺帰るわ。……あ、一つ忘れてた」

 ゼストさんにあったこと話しといたろ。

「……生きていたのか……」

「てか、改造されてんじゃないか? レリックウェポン……知ってるだろ?」

「……た、確かに聞いたことはあるが……あれは失敗したと聞いている」

 うーん。予定の効果がでなけりゃ失敗だろうなぁ。
 カグヤに聞いたところ、ゼストさん生きてた頃より、魔力レベル落ちてんでやんの。
 さらに、長く生きられない事も判明。
 ……せっかく、再会したのになぁ……

「ゼストさんから、よろしく言われてる……あの人の期待を裏切らないようにね? 中将」

「……言われずとも」

 それでいいよ、あんたは。
 ……あと。

「で? 誰が少年だって?」

「それまで話したのかあいつ……ふん、もう完全に男だろうが」

「はは、違いねえ。……昼間にさー。予備生スカウトしたんだけどさー?」

「ああ、そうらしいな。異動申請書が来ていた」

「仕事速いなあの隊長……で、その予備生、あれ完全に俺が男だって思ってるぜ。女子寮で会うのが楽しみだ、これ」

「性悪女め。……まあ、それくらいの陽気さがないと、この世界では生き残れないのだろうな」

 かもね。




 本部の仕事はこれで終わり~。
 さて、帰るべ。




*中途半端ですが今日はこれだけ。
 続きはまた後日。
 



[6790] L29.ミス・フォーチュンズホイール 曰く『特務隊の銀狐』
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:f6b928c8
Date: 2009/06/25 23:07
 帰って書類作成。
 アイビスたちの受け入れ書類やギンガからもらったデータ整理。
 スカウト報告をテッサに渡し、後はなのはにその旨伝えて……
 伝えたら戻って、資料の作成。
 の、途中でフェイト帰還。

「おかえり~。どうだった?」

「当たりだよ。逮捕礼状、受理してもらった。……さっきウルズ隊に検挙に行って貰ったよ」

「はい? 前線出したの?」

「うん。……部隊ぐるみだった……」

「……あんれまぁ」

 横領容疑で捜査してた陸士部隊が一つあったんだけど、フェイトにその後詰め調査を任せてた。
 で、見事にビンゴ。
 ……けど、部隊員丸々共犯者。
 ウルズ隊と応援部隊で一斉検挙に踏み切ったそうだ。
 ……仕事はえ~。

「それで、おかしいところが一件。……部隊員、名簿より少ないんだよね。……いない人がいるみたいで、行方がわからないんだ」

「……おいおい」

 いない人は全部で四人。
 それぞれの寮に行ってみるも不在。
 ……四人全員外で遊んでる?
 ならよかったんだけど、どうも違うらしく、今調査中との事。
 ……全員前線要員だし、嫌な予感するな~。

『こちら、ウルズ1。フォックス、いる?』

「ほいほい、二人ともいるよ?」

『制圧終了。……全員検挙して、そのまま調書取り始めるよ~?』

「はい。お願いします。……早かったね?」

「さっき出てったんだよな……」

「えっと……所要時間四〇分……」

「早すぎだろ」

 応援部隊がいるとしても、よくもまあ、部隊一つ一時間以内で制圧するな……
 いかん、強化しすぎたか、こいつら。
 まあ、いいけど。
 調書が上がるまで、しばらくは二人で報告の応酬。
 後、雑談。

「……へえ? じゃあ、キャロは環境保護で頑張ってるって?」

「うん……でも、やっぱり、一緒に働きたいって言ってる。……危険な仕事なのに……」

 去年の中旬、フェイトが引き取ったキャロを見て、思ったこと。
 ……やべ、忘れてた。
 プレシアさんの死去とか、量産型戦闘機人の件で、キャロの事思いっきり忘れてた。
 ま、まあ、ちゃんと保護できてよかったねぇ。
 ……すまんキャロ。影薄いとか思っちゃった。
 
「まあ、あのくらいの子なら、身内と暮らしたいってのもあるよ。……どうせなら、クラナガンか隊の近くに家買ったら? はやてみたいに」

「……でも、私まだ未成年……はやてはグレアム提督が保証人してくれたからいいけど、私は……」

「……母さんに頼むのも手だぞ? あの人なら、喜んで力になってくれるよ」

 まだ、ちょっと引きずってるかな……
 あの後、俺とフェイトで一緒に泣いて、アリシアを交えて泣いて、みんなで泣いて……
 葬式から一週間後、見事に復帰したフェイトの姿があった。
 まあ、まだ引きずってるところはあるけど、その分、俺やなのは達、母さんやシエルさんもフェイトとアリシアの事を気にかけている。
 でもまあ、あの夜みたいにやけになることはない。
 ……やっぱり、プレシアさんの安らかな死に顔が、フェイトを支えてるんだろう。
 幸せな最後が。

「……うん。アリシアと考えてみるよ」

「そうしなって。……まあ、俺みたいに、隊に家立てるのはやめたほうがいいな……いつでも呼び出されるから」

 寮の部屋じゃいろいろ置くに困って家を買うことを決意したはいいが、いい物件がなく、唸ってる所に見えた寮の近くの空きスペース。空けときゃ何かに使えるだろと空けといたんだけど、何を思ったのかそこに家を建ててしまった。二階建て。
 ……お陰で、交代部隊の奴らが泊まりに来るわ、正規部隊の飲み会場になるわ、寮母の説教部屋になるわ。
 非番の日には何度も呼び出され休めなかったり、夜中に呼び出されたり……
 ろくな事にならなかった。

「……ふ、普通いないよ……寮の隣とはいえ、部隊内に家建てるなんて……」

「魔がさした。……今は後悔している……」

 とほほだよ~。

『こちらウルズ1。おまたせ~。調書の最新版きたよ~?』

 と、来たか。

『依頼の四人だけど、なんか、辞令が来て、出向に出てるんだって。けど、一度も連絡来ないみたいだね』

「……それって、いつから?」

『二ヶ月前。……二ヶ月間の間、その四人見た人いないって』

「その、出向場所は?」

『……それが、その部隊、もう、ないんだよ。……236航空隊』

 げ。そこ俺が潰したとこじゃん。
 ……そして、いなくなって二ヶ月……

「……ち、やられたか」

「やられたって……襲われた?」

「違う……誘拐だよ……くそ! この手もあったか!」

 もう、こっちにもあいつら手を入れてやがるのか!
 なんてことを……くそ、気付けなかった。
 
「フェイト! ロッサ呼び出せ! 後兄さんにも、通信! 特秘回線!」

「わかった!」

 地上の洗い出しは俺とフェイトでやるとして、海は兄さんたちに任せるしかない。
 陸と空は手を出せるけど、海は出し辛いんだよ、うちまだ嫌われてるから、海に。
 くそ~……ユーゼス(仮)のヤローやりたい放題しやがってー。
 見つけた暁には、GONG流してフルボッコじゃ。
 作品違うけど!

『どうした? せつな』

『呼ばれたよ、せつな君』

「ごめん兄さん、ロッサ。調べてもらいたいことがある」

 今の件を説明し、行方不明の隊員がいないかどうかの確認。さらに、実在していない部隊への出向依頼がないかの確認をしてもらう。
 
「……おそらくなんだけど、これ、誘拐事件に発展してると思う……行きつく先は違法研究だ。……お願いできるかな?」

『……なるほどな。上手い手だ。僕達は辞令には基本的に従うものだからな。……わかった、調べよう』

『僕の方でも調べてみるよ。……しかし、よく気付いたね』

「……ちょっと、ね。同じ手口で兵士を集めて、自分の手駒にする敵キャラの出るゲームを知ってるだけだよ」

『げ、ゲーム……なら、杞憂に終わる可能性もあるのか』

「けど、同じ手口が今起こった……多分、杞憂じゃない」

『……ふむ。そうだね。本格的に調べるよ』

「後、二人とも充分気をつけて。……二人が狙われる可能性もあるから」

 だからあまり頼りたくないんだけどね~。
 まあ、二人とも強いから、早々なんかあるとは思わないけど。

『なら、お前も気をつけろ。……慎重にな?』

「ありがと、兄さん。ロッサも、ごめんね? サボり中に」

『はっはっは。……い、言わないでくれよ? シャッハには』

 ロッサはシャッハに頭上がりません。
 ……俺、シャッハからお目付け役命じられてるんだけどな~?

「じゃあ、海のほうはお願い。俺たちは地上の方を攻めるから」

『わかった』『気をつけて』

 通信を終え、一息つく。
 ……つーことはだ。
 管理局内部に、バルシェム関係者がいるわけだ……
 うし、イングラムで調べたろ。後、ヴィレッタでも。
 一応、キャリコとスペクトラでも調べとくか。
 後はアインかな~?

「……あの、せつな? ……何を知ってるの?」

「? 何をって?」

「だって、今の件をいきなり誘拐事件に結びつけた……勘にしても、即決過ぎない?」

 ……ああ、そうか、これ話してなかったか。

「……さっき言ってたゲーム。俺の世界のゲームなんだ」

「? 私たちの?」

「いや……『俺』の」

 なのは達の地球なら、『俺たち』の世界と言う。
 俺単体で言うのは、一つしかない。

「……ま、まさか、その、敵キャラが?」

「うん。こっちで同じことしたってことは、俺と同じイレギュラーでいるんだと思う……まいったな。響介さん達がいるんだから、その可能性も考えときゃよかった」

 去年聞いて、やっと気付いたんだが、全部が全部把握できてない。
 この件のデータも、例のDドライブには残ってないしな~。
 やられたぜ、ホントに。

「……フェイト。……わりぃ。本気で俺の知る未来じゃなくなる。……ここから先は、本気で地雷原だ。俺も地雷の場所がわからん」

 せっかくみんなの前歩いてたのに、並ぶ前に俺も地雷場所わからなくなっちまった。
 ……覚悟をしないとな。

「……じゃあ、これからは、どうするの?」

「勿論。前に進むさ。……力を貸して欲しい。みんなの力を」

 もう、この先は、俺が前にでて回避することは不可能。
 なら、後は、みんなで進むしかない。

「……そっか。ようやく追いついたんだ。私達」

「えらい早かったけどな? ……後一年は前にいれると思ったんだが」

「一年も待てないよ。……これからは、みんなでせつなを守るよ」

「……俺も、みんなを守るよ。これからも」

 さて、少し早いけど、総力戦だ。
 できるだけ早くに、問題片付けないとな……




 終業時間までに書類終わらせて帰宅。
 ? クラウンはどこだって?

「あ、おかえり~。ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?」

「を、キャメルクラッチにすればいいのか?」

「……シュールよね。それ」

 フルサイズの裸エプロンでキャメルはシュールだよね~。
 ……クラウン、今現在フリーで動いてもらってる。
 魔導師ランクとってないお陰で、デバイスではあるんだが、仕事できないんだよな~。
 まあ、呼べば来るし。
 部隊の見張り番みたいにあっちこっちふらついてる。
 外には出さんが。

「まあ、食事はできてるわよ? 食べるでしょ?」

「ああ」

 ほとんど夫婦の会話である。
 後、フルサイズやめれ。
 台所に向かうと。

「お邪魔してるわよ」

「おかえり、せつなちゃん」

「おかえりや~」

「せつなちゃんおかえり」

 ……うわお。
 なのは、はやて、アリサ、すずか。
 何故いる?

「ごめん。お邪魔してる」

 ……フェイトまで。

「とにかく座ったら? ……皆、貴女の心配してたのよ?」

 げげ、またかよ。
 ……まあ、あれの件でまた走り回ってたからなぁ……
 首突っ込んで欲しくないんだけど……いや、今更か。

「悪いな。また心配かけた」

「いつもの事だけどね。……今度は、どんな問題抱えてんのよ?」

 えらいでかい件抱えてしまいました。
 ……今回は、総出でかからないとな。

「今回のはみんなの力を借りたい。……まあ、まず食事して、寝る準備だけして、その時話そうか」

「お? 今日は素直やな。じゃあいただきますや。あたしが作ったから、遠慮せずに食べてな~?」

 はやて作か。
 期待できるな……最近忙しくて、俺自身料理作れてないからな~。
 いつも食堂だよ。レーツェルさんお世話になります。


 難しい話は後回し。
 食事中は雑談に花を咲かせる。
 部隊内の噂話とか、恋愛騒動とか。
 女の子ってこういう話好きだよね。俺も嫌いじゃないけど。
 
「それで、せつなちゃん。アイビスってどんな子?」

「ん~? ……負け犬?」

「負け!? ……そ、そんな子入れて大丈夫なの?」

 ちなみに俺らよりいっこ上だからな? 年齢。

「うん、大丈夫。きっと大成するよ。……なのはと一緒で、空が好きみたいだからな。まだ翼が生えかかってるだけだから飛べないけど」

「……じゃあ、その翼を育ててあげればいいんだね?」

「ああ。よろしく頼む」

 加速に魂、ひらめき持ちの彼女はいいオールラウンダーになるよ。
 アルテリオン発注しとかないとな~。

 最近入ったクスハ嬢の話とか。

「で、ブリット君、よくクスハさんと一緒に居るんだよ。なんか気が会うみたいで」

「ほほ~? これは恋の予感やな~?」

「……シグナムから聞いたけど、彼、クスハの健康ドリンク飲みきったらしいよ?」

 別名クスハ汁。死ぬほどまずいと評判です。……興味本位で飲んでみたら、マジで死ねた。
 ……あれだ、リンディ茶を超えたね、あれ。

「あれを!? ……愛ね。絶対」

「……ね、ねえせつなちゃん? ホントにお嫁さんをスカウトしちゃったんだ?」

「……結果的にはそうなったな」

 完全に確信犯です本当にあr
 なお、あの胸は既にはやてに揉まれ済み。
 入隊一日目に揉むとか……いきなり泣かしてどうするよお前。

「いや、あの胸は芸術やで? 動くたびにプルプル揺れる胸は凄いとしか言いようが」

「はいはいわかったから……はやて最近本当に親父ね」

 特務隊のセクハラ魔神ですから~。
 女性隊員全員揉まれ済みとか。当然、シャーリーは揉み返したらしい。
 はやてに揉み返したのは、シャーリー、エクセ姉さん、マオねえの三人のみ。
 剛の人求む……ん? 俺? 
 ……やると揉むだけじゃすまなくなるからな……

「で? そのダグラス予備生の(胸の)実力はどないや?」

「……俺の同士」

「……しょぼーんやね」

「いいかげんにしなさい!」

 さーせん。

 後、簡単な申し送り。

「AMF対策プログラム。なんとか目処がたちそうよ? ただ、ちょっと問題が……」

「問題?」

「……その、AMFを打ち消すフィールド発生装置の概要はできたんだけど、……よ、予算が足りなくて……」

 作れないと。……マジで?

「全員分作るとなると、完全に予算オーバー……融通効く?」

「効かないな……やはり、浴場施設建設は遊びすぎたか……誰だ、ミッドに温泉欲しいって言った馬鹿は……」

「あんたとシグナムさんでしょうが! テッサさんもノリノリで企画書通すし!」

 部隊内クアハウス『天使湯』。絶賛好評稼働中。これ入りたいがために査察に来る中将秘書さんとか二番さんとか。
 外部の方には気持ちで料金払ってもらってます。隊員は無料。
 ……中将が入りにきたときはマジで頭痛くなった。仕事しろ、おっさん。

「まあ、隊長分作ってもらえばいいから……少なくとも六つ。……できる?」

「それならなんとか。……代わりに、今年はもう新型作れないから、覚えといてね?」

「了解。……また、依頼貰ってくるか~」

 教会からの仕事は、別で報酬金が出ます。
 勿論それは部隊運用費に回させてもらってる。おもに開発費。
 テッサ曰く、

『地球で戦争するより安上がりで済みますね、ここ』

 だそうだ。
 ……弾代要らないからな~。上手く動けば、死傷見舞金も要らない。
 今のところ、うちの部隊の死者はゼロだぜ。重傷者もいない。
 ……慣れだした今頃がやばいんだけど、隊長が軍隊経験者だからな。
 そこらへんの指導もきっちりやってくれます。カリーニンさん、マデューカスさんご苦労様です。

 その代わり、開発費と予備費でかつかつだけど。
 予備費は勿論『シエル対策費』。とうとう、一度折檻したぞ俺。
 ……はやてと二人掛かりで揉み倒した。
 ……流石に懲りたのか、一ヶ月に一回のペースが二ヶ月に一回の騒動に収まった。
 うーん、ゼスト隊のころは半年に一回のペースだったのにな~? ゼスト隊長のカリスマが欲しい。
 
 食事が終わってお風呂。
 一度に二人まで入れるように設計したので、ペアで入ることに。
 アリサとすずか、なのはとフェイト、はやてと俺。
 ……何故かって?

「隙あらば揉むからな、お前」

「うううううう。せっちゃん揉みがいないんやもんなぁ~」

 ほっとけ。
 大体、あいつらが成長しすぎなんじゃ。
 海外産やテスタロッサ因子の持ち主はともかく。

「すずかはその……国産なのにあの大きさはどうよ? 癒されるけど」

「ちょっと揉み過ぎたかな~? 中学とかしょっちゅう揉んどったし」

 おいおい。
 ホント自重しないなこいつ。

「なのはちゃんの美乳もええ感じやしな~? ……せっちゃんは期待しとらへんけど」

「てめえ……ならばこうじゃ!」

 後ろから鷲掴み。こいつも結構な美乳です。
 むぅ。やらかい……むにむに。

「や、こら、せっちゃん……せっちゃん手付きいやらしぃ……」

「ふふん。お前が他の連中を育ててるように、お前の胸は俺が育ててるからな。……お仕置きじゃ」

「やぁぁぁん!」


 ……


『こらぁぁぁぁぁ!! 風呂場で盛ってんじゃないわよ!!』

「はぁ!? ……いかん、トリップしてた」

「せっちゃんもっとぉ」

 ここはXXX板じゃないんだよ!?
 これ以上できるか阿呆!

「むぅ。アリサちゃん邪魔したらあかんやん」

『いいから早く出てきなさい!!』

「「はーい」」

 

 布団しいて、さて、就寝。
 布団に潜り込んでお休みなさ~い。

「違うでしょ?」

「わかってるからそう睨むなよ。いつもの冗談じゃんか」

 後、足もどけてくれると助かります。
 うちのアリサさん、容赦しねえ。

 ……月に二、三回はこうやってお泊り会実施してる。
 ほとんど俺から呼ぶことはなく、アリサやなのはが率先して呼んでる様だ。
 てか、ここ俺の家……
 まあ、楽しいからいいけど。
 しかし、今日は楽しくない話題。

「じゃあ、始めるか。まずはこのリストを見てくれ」

 会議用ストレージデバイスに入れたリストを、空間ディスプレイに表示。
 
「? うちの部隊員じゃない」

「響介さんにエクセレンさんに……」

「ゼンガーさん、レーツェルさん……イルイも入ってる」

「交代部隊からも入ってるね? なんの関連があるの?」

 では、ネタ晴らし。

「実はこのリストメンバー。異世界でロボットのパイロットしてる軍人さんです」

「「「「「はぁ!?」」」」」

 普通に驚くよね、こんなこと言い出したら。
 俺だって最初響介さんの名前と、あのメッシュ見たときびびったわい。

「と、言っても、俺……永森刹那がやってたゲーム内の話だけどな? ……同じ名前、同じ容姿のキャラクターが出演しているゲームがあった」

「ゲームって……私たちみたいに、創作の話だったって事? あんたの世界じゃ」

「うん。戦略シュミレーション系のゲームだ」

 出演作品はばらばらだったり一緒だったりするけど。
 そういや、方向音痴いないな。
 超能力者もいないし。

「前世でそうだったとかそういう設定はないみたいだけど、確実に本人だな。性格や口調、戦い方はほぼ同じだ」

 響介さんは完全にフロントアタッカー気質だし、分の悪い賭けも大好きな人。
 エクセ姐さんもガンナータイプのお天気姐さんだし。
 交代部隊の連中もそのまんまだった。

「じゃあ、ゼンガー三佐やレーツェルさんもそのままだったの?」

「そのまんまだな。侍気質の渋い兄さんだったし、レーツェルさんも料理好きだったし」

 まさか教導隊の食堂のコックしてるとは思わんかったが。
 
「ちなみに、ミナセ提督もだぞ? 戦艦の艦長さんだった」

「ミナセ提督も……結構いるんだ?」

「集めきってないだけで、まだまだいる。……今日入れたアイビスやツグミさんもそうだし」

「……それじゃ、せつなちゃんがスカウトしてきてる人って……それの知識で?」

 そのとおり。
 名前と顔と一致させて、本人だったらスカウトしてる。
 勿論、見事に大当たりの人材だしね~?

「そりゃ、スカウト上手くいくはずやね。誰が使えるか知っとるんやもんな~? ずっこいなぁ~?」

「最初はネタとノリだったんだがな。探せばいるんだから、仕方ないだろう。使える人だって知ってるんだから」

 しかし、主役級はともかく、準主役級はやっぱり使い辛い。
 交代部隊の連中はまさにそれ。
 ATで底上げしてやらんと、本当に落ちこぼれだからな~。
 この二年で大分成長してくれたけど。

「それで? スカウトの種はわかったけど、あんたの問題はそれじゃないんでしょ?」

「いや、関係してる。……ちょっと話をそらすけど、最近誘拐事件多いだろ?」

 クラナガン市内で起こった誘拐事件は一ヶ月で約二〇件前後。
 うち、四割は営利目的の誘拐だが、残り六割はそのまま犯行声明なしで被害者は行方不明になってしまう。
 被害者が見つかってようやく誘拐だったと気付くパターンもある。

「……確かに、よう聞くな? あたしが居った部隊からも、協力要請が結構来とるわ」

「今日俺とフェイトで捜査してた部隊内でも、行方不明者が四人いた。存在しない部隊に出向したまま、姿を消した前線魔導師がな?」

「……存在しない部隊……そんなところに出向命令出るって、おかしいね?」

 記載ミスなら、まだわかる。
 行ったその場でないって解るからな。
 だが、行ってそのまま行方不明となると。

「命令出してる奴の中に、誘拐を指示してる奴がいるんだろうな。……違法研究目的で」

「……まさか、人体実験? 局の魔導師を使って?」

「ああ、おそらくな。……証拠に、いなくなった四人。全員ランクA以上の魔導師だ」

 おまけに、全員のタイプはばらばら。
 空戦とか陸戦とか支援魔導師とか結界魔導師とか。
 全種類コンプする気だとしか思えない。

「……待って? その事件とあんたの言ったスカウトの種……繋げるとしたら……」

「ゲームには必ず、敵キャラが必要や。……分かったで。その敵キャラ自体がこの世界に存在するんやな?」

「ビンゴ。……ゲームの中でも、同じ手口を使ってる。軍隊から優秀な者や使えそうな者を誘拐して、自分の手駒にする。勿論、市井の中からもな? ……多分、今回も同じ手段だと思う」

 本当に使える者は戦力に。
 使えなかった者は実験体に。
 人を人と思わない、外道の仕業。
 みんなの顔から血の気が失せていく。

「……その敵の正体は分かってるの?」

「目星はついてる。……アリサたちに一度調べてもらった、戦闘機人の遺体、覚えてるよな?」

「忘れられるわけないじゃない……あんなの、人間のやることじゃないわ」

 クローン体に機械強化して、量産機人として運用する。
 行動不能、捕縛されれば、即座に自爆を選ぶ。
 ……徹底してやがるなホント。

「あいつはバルシェムシリーズと呼ばれる先行量産タイプ。ゲーム内じゃ、一般兵士扱いのクローン兵だ。……こっちじゃ、戦闘機人になってるけどな」

 ただのクローンより、機械強化したほうがやりやすいからな。
 なんせ相手は魔導師だ。生身で勝てる相手じゃない。

「……ちょい待ちぃ……量産型? ……戦闘機人が量産されとる言うん?」

「同じ顔が三体もいりゃ、確定だろ。……しかも、スバルたちみたいに精巧な作りじゃなく、かなり雑だ」

 調べた結果、スクール製のラトよりも雑だった。
 魔力防御機構の組み込みと間接部分の機械強化。
 筋力倍加処理ぐらいで、機人の枠組みにギリギリ入るぐらい。
 ドクター曰く『あれはただの強化クローンだよ。戦闘機人じゃない』と断言したそうだ。

「ゲームではそのバルシェムを操っていた外宇宙の国家がそれを生産していた。誘拐事件を起こしていたのもそいつら。……地球一個を虫篭と考えて、その虫を研究し、改造して、自分の国の兵士としてふさわしいかを調べる為にそういうことしてたが……」

 つまり、バルシェムのクローン兵はメギロート代わりなんだろう。
 後、誘拐実行犯は現地の人間を使う。悪人やチンピラはどこにでもいるし。

「それなら、今回の事件は、クラナガンを虫篭に見立てて、実験を?」

「……!? そうや!! カリムの予言や! 『虫篭の実験が開始され、機械の蟲が飛び回る』。このことやな!?」

「おそらくな。……本編から大分離れちまった。もう修正なんかできんぞこれ」

 今保有してる部隊なら、ガジェットは敵じゃない。
 けど、それにバルシェムが加わると話は別だ。
 ガジェットとバルシェムの編隊なんて、考えるだけでも頭痛い。

「誘拐された被害者で、優秀な個体は指揮官ユニットとして改造されて出て来ると思う。そして、手駒は量産型の戦闘機人……戦争起こす気としか思えんな、マジで」

「……ミッドチルダで、戦争が……そんなの、そんなの嫌だよ!」

「わかってる。……それに、そことは別系統の戦闘機人も確認されてる」

「まだあるの!?」

 こっちは実験オンリーで、戦争云々とかは関係ないが。
 ……いや、似たり寄ったりかも。

「ドクターセトメ率いる、戦闘機人『スクール』……こっちは純粋培養で機人の素体を生み出し、一から教育させる、その名の通り戦闘機人の学校だ。……カグヤが一人連れてるけど、バルシェムの量産型よりは精巧だ。……まあ、ドクターの作品よりもランクは落ちるけどな?」

 ちゃんとISも確認できている。
 けど、稼動数は少なく、ほとんどが実験中に使い物にならなくなり、破棄されている。
 
「バルシェムと違って、こっちはドクターも把握してるみたいでな。カグヤがプラント潰しに回ってくれてるけど……数が多い。どうも、管理局の将校が手を回してるみたいなんだ」

「そんな!? どうして!?」

「……魔導師の代わりだよ。高ランク魔導師はほとんど海に引っ張られちまう。地上はいつも人手不足。その穴を埋めるのが」

「戦闘機人……そして、人造魔導師だね?」

 フェイトの言うとおり。
 プレシアさんの遺産の一つ、プロジェクトFはスカリエッティから、評議会の手で裏の研究者に出回った。
 各地で研究され、人造魔導師はかなりの数が作られている。
 勿論、戦闘機人と同じように、ほとんどが研究中に破棄されているが。

「スクールはまだいいんだ。それでも、平和利用目的だからな。誰が支持してるかまでは把握できてないけど。……問題はバルシェム。正直、バルシェムの本当の目的がよくわからん」

 戦争を起こしたいのか、ドクターやスクールのように魔導師の代わりなのか。
 もしかしたら、紛争地域に売り飛ばして、利益目的なのか……これはないか。コストが馬鹿にならんし。

「バルシェムを作っている、研究者の名前すら分からないの?」

「……研究所の名前は分かっている。ゴッツォ研究所。……思いっきり、同じ苗字の敵さんいたよ、ゲーム内にね?」

 ユーゼスなんだかシヴァーなんだか知らないが。
 バルシェムならシヴァーなんだけど、誘拐関連はユーゼスだからなぁ……

「……どこかで聞いたことある……!? そうだ! 第三十八管理世界のエルピス事件!」

 !? おいおい! あの事件かよ!?

「フェイトちゃん、知ってるの?」

「ミナセ提督から聞いたことある。あの事件で使われた、猛毒性ガスの出所が、そのゴッツォ研究所なんだよ。……まだ、それがどこにあるのかわからないんだけど、調査書に載ってたよ……バルディッシュ? レポート入れてたよね?」

『yes sir』

 映し出される報告書と調査書。

 エルピス事件。

 事の発端は反管理局テロ組織の暴動がきっかけ。
 町一つを使った立て篭もり事件に発展し、交渉は難航していた。
 その町に、毒ガスを撒き散らし、鎮圧を謀った部隊がいた。
 確かにテロ組織のメンバーは死亡し、鎮圧はできたが、その町の人質も巻き込む大惨事になった。
 その実行部隊に粛清の砲撃を放ったのが、L級航行艦の艦長、マイヤー・V・ブランシュタイン。
 砲撃を指示したブランシュタイン提督は、その場で自害。
 その長男であり、艦の専属執務官であったエルザム・V・ブランシュタインは行方不明になり、誰に罪を着せて、誰に罰を与えればよいのか混乱する事件になった。

 ……一応。ブランシュタイン提督の自害、そして、毒ガス使用者の死亡と言う形で事件は決着。
 部隊の生き残りからの調書で、毒ガスの出所はわかったが、所在は不明。
 現在もなお調査続行中との事。

 ……ちなみに。
 その町の被害者の中に、エルザム執務官の妻がいたらしい。
 当時の僚艦だったミナセ提督は言う。
 
『エルザムは、妻の仇の為、その研究所を追っているのだろう』と。

 ……真相は、いまだ闇の中である。

「……局員が毒ガス? 何でそんなこと……」

「威力試験か、ただの嫌がらせか……それとも、騙されたかのどれかだろうな。……うう、魔法少女物からどんどん離れていく……」

 魔法少女っぽかったの最初だけじゃん。
 いつの間に、こんな宇宙世紀みたいな事件だらけな話になったんだここ。
 メルヘンが遠のいていく~。

「しかし、エルザム兄さんそんなこと調べてたのかよ……後で話聞かないと」

「ええ!? せつな、居所知ってるの!?」

「……あ、やべ」

 しまった、口に出しちゃった。
 エルピス事件自体は知ってたし、彼がまだ行方不明なら、確実にあの兄さんだろうな。
 ゴッツォ研究所が絡んでるとは知らんかった。
 早めにフェイトに相談しとけば……て、出来ない状況だったんだよな。あの年は。

「でだな。そのゴッツォ研究所を見つけて、すぐに「せつな! 話を逸らさないで? エルザム執務官、どこにいるのか知ってるの?」……知ってる」

 ち、駄目だったか。
 本人から確認取ったわけじゃないから、断言できないんだが……
 でも、そうなんだろうなぁ……

「教えて? ……どこにいるの?」

「まだ確認は取れてないけど、おそらくあの人かと……」

「? あの人?」

 みんながいつもお世話になってる人です。
 おもに朝昼晩。

「……うちの食堂主任」

「「「「「レーツェルさん!?」」」」」

「ゲームでもそうだったから、おそらく。……大体、レーツェルって偽名だし。別の名前で魔導師登録してるって言ってたし」

 いろいろあるんだろうなと思って、ほっといたのが仇になった。
 分かってたはずなんだけどな~?
 
「……と、灯台下暗しってこの事ね……クイントさんと同じってわけだ」

「あの人のやり方を真似てみた。……いまだ誰も気付かんとはな~」

 娘共でも、メガネはずさんと分からなかったからな。
 恐るべし、メガネ。

「レーツェルさんがどこまで知ってるかを確認して、居場所を知ってるようなら、即座に叩くぞ。ドクターだけでも面倒なのに、さらに面倒なバルシェム関係なんかほっとけるか。……まあ、ひょっとしたら、俺らを利用してる可能性もあるけど」

「利用って……まだ、掴めてないってこと?」

「うん。……ドクターでさえ掴めてないんだ。レーツェルさん単体で突き止められるとも思えん」

 個人で出来ることなんてたかが知れてるし。
 ……あの人なら、裏ネットワークぐらい持ってそうだけど。

「……ほな、まとめよか。せっちゃんの最大の問題は、そのゴッツォ研究所とバルシェム。誘拐事件を追っていけば、辿り着く可能性はあるんやな?」

「ああ。俺もそのつもりで動いてる。……一年使っても、まだ尻尾見えないけどな」

 やり口が巧妙すぎだ。
 とうとう局内からも動き始めやがったし。

「スクールはスカリエッティとカグヤちゃんが動いとるそうやから、そっちに任せる。……なら、あたしらは、バルシェム関連を中心に調べよ。せっちゃん。振り分けよろしく」

「了解だ。俺とフェイトでまず局内の行方不明者の洗い出し。その後、出向命令を出したと思われる局員を探すぞ」

「わかった。今日打ち合わせたとおりだね?」

「二人で局内全部調べるの? 多すぎると思うよ?」

「俺らが調べるのは地上だけ。海や他の世界に行ってる局員は、兄さんとロッサに任せてある」

 流石に多すぎるもんね。管理局員。

「はやては情報収集だ。誘拐関係は勿論、行方不明のリストも作成しといてくれ。……かなりの数になると思うけど、頼む」

「了解や。リインたちにも手伝わせるな?」

 ロングアーチの情報捜査官が本気出せば、いろんな情報が集まるだろう。
 今の段階で完全に後手に回ったからな。
 力貸してもらわないと、俺一人じゃ無理だ。

「アリサとすずかは、AMF中和フィールド発生装置の作成を頼む。……これがあるかないかで戦況が変わるからな」

「わかったわ。とりあえず各隊長分用意しておく」

「私も頑張るよ。……無理はしないでね? 皆も」

 大量のバルシェムにAMF付きガジェットなんか目も当てられねー。
 ……なお、やはり月村の血はマッドの血でした。
 すずかもデバイスマイスター取った上に、メカニックマイスターも取りやがった。
 AT戦闘技術も上がり、最強の医務官目指すつもりですこの子。

「で、なのは」

「……うん。私が出来ることは、隊員達の技術向上、対戦闘機人の戦術作成。後、新人の育成だね?」

「……すまん。直接的な参加にはならないけど、きっと大切なことだから」

 なのはには捜査スキルはない。
 さらに、機械技術もそんなにない(AV・PC関係は強いけど)。
 魔法プログラムと、魔法戦闘、そして、実戦での戦力としてしか動けない。
 彼女に任せられるのは、戦術研究と、隊員育成しかないのだ。
 ……その代わり。

「あいつらのアジト突き止めたときには期待してるぞ。……リミッター全解除の上、BGM流してフルボッコじゃ」

「魔王降臨やね? 楽しみやな~?」

「ま、魔王じゃないもん!! はやてちゃん酷いよ~!」

 まあ、こっちじゃ、何も魔王っぽいことしてないしなぁ~。
 ……だが、彼女は知らない。
 訓練隊途中脱隊組が彼女をなんと呼んでるか。

『特務隊の白い悪魔教官』

 ……どこまで行っても悪魔なんだな、お前。南無南無。

「じゃあ、各自、身辺に充分注意して、捜査、作業に移って欲しい。……奴さん、既に局内に入ってると断言できるからな。みんなが狙われる可能性もある。……気をつけてくれ。特に」

「? 特に?」

「なのは、フェイト。……お前ら、一度誘拐されかかってるからな? 本当に気をつけてくれよ?」

「「う、うん……」」

 ほとんど外に出ないなのははともかく、フェイトは俺と同じ捜査隊だ。
 ……分かれるときは、クラウンつけとくか……

「話は以上だ。……なんか最近、年に一度は暴露話してるような気がしてきた」

 去年はプレシアさんだろ? その前は部隊の真の目標だろ? その前はリリカルなのは本編だろ?

「それだけ隠し事が多いのも考え物よ。大体、あんたまだあるでしょ。隠し事」

 うん。ある。

「今日はこれだけで勘弁してくれ。流石に疲れた……」

「そうだね。もう寝ようか?」

「そやね~」

「電気、消すね?」

「おやすみ~」

「みんな、おやすみ」

 おやすみな……

『せつなさぁん!! 大変ですぅ! タスクとユウキが喧嘩始めちゃいましたぁ!』

「俺に言うなたわけぇ!! イルム兄さんどうしたぁ!?」

『それが、奥さん怒らせたからって、帰っちゃったんですよ! タスクたち、AT持ち出して模擬戦に発展して!』

「……そうかぁ。あいつら、実は俺の事嫌いだな……? リオ! そいつら二人、そのままやらせてろ! 今行って弾幕訓練してくれる!」

『りょ、了解!』

「……先、寝てて? ちょぉぉぉぉぉぉと、頭、冷やしてもらってくるから」

「「「「……いってらっしゃい」」」」

「せつなちゃん。付き合うよ。……弾幕、五割り増しだね?」

 なのはは交代部隊の訓練も見てくれています。
 ……あいつらにも、悪魔と呼ばれています。
 なお、俺は鬼畜だとよ。あいつらブットバース。



 現場戦闘より、お仕置き、折檻の方が負傷率高い部隊ってここだけだよね!



「おらおらおら!! 泣け! 叫べ! そのまま死ねぇ! 俺の大好物はお前らの泣き叫ぶ悲鳴だゴラァ!!」

「アクセルシューター! ショートバスター! エクセリオンバスター! ディバインバスター! まだまだ行くよぉ!」

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」







 翌日。

「……さ、早速来てみたけどさ、ツグミ?」

「な、なに?」

「……この人たち、何で磔にされてるの?」

「さ、さぁ?」

 首に掛かった札には、『この者達は鬼と悪魔の睡眠を妨げし者。餌与えるな』と書かれてたとか。



 どっとはらい。






[6790] L29EX.シューティングスターレヴァリエ
Name: 4CZG4OGLX+BS◆7c404254 ID:f6b928c8
Date: 2009/06/25 23:05
 <アイビス>

 最初は、隣のお兄さんの誘いだった。
 フィリオ・プレスティ。管理局技術部の研究者。
 あたしも、魔導師になれると聞いて、あたしより年下の子が教導隊にいると聞いて。
 雑誌に載ってた高町教導官の姿に、憧れた。

 二年前、フィリオに連れられて、本部に遊びに行った時に、それを見た。
 三人の魔導師を、一本の剣で切り伏せる、白銀の騎士。
 その剣筋に、その翼に、その鎧に。
 流星のような銀の輝きに、高町教導官以上の憧れを持った。
 その騎士の名前は聞けなかったけど、あの輝きは、今でもなお、瞳に焼き付いている。

 一年前に航空隊の予備生として入隊した。
 入隊直後に起きた、フィリオの死。
 ツグミから手渡された、彼の遺産。アームドデバイス『アルテリオン』。
 あの騎士と同じ銀の剣。
 フィリオの思い出と共に、あたしの宝物になった。

 航空隊の試験に落ちて、その直後に出会った軽い男。
 特務隊の査察官で、通り掛かったあたしを特務隊内の訓練隊にスカウトしてきた。
 突然の誘い。訓練隊には、高町教導官もいるという。
 ……最初は乗り気じゃなかった。
 けど、あいつは言った。

『大丈夫、お前は飛べる』

 フィリオと同じことを言う彼を、信じてみたくなった。
 そして、彼の誘いに乗った。

 あれから、一週間。
 
「今日はここまでー! 皆、お疲れさまー!」

「「「「「お疲れ様でしたぁーー!!」」」」」

 あたしは、訓練隊の生徒になった。
 訓練隊隊長の高町教官(本人は名前で呼んで欲しいといっているけど、ちょっと無理)に、魔法技術と空戦技術を。
 副隊長のキタムラ教官に魔力運用と陸戦技術を学び、予備隊では教えてもらえなかったいろんなことを教わっている。
 ……それと、この部隊ならではのデバイス技術があるらしく、それを使った空戦訓練は凄く楽しい。
 『リオン』と呼ばれるデバイスで、これを使えば、空戦技能の低い者でも、空を自由に飛べる。
 ……ただし、使用期間は入隊から一ヶ月間。
 その後の試験で落ちれば、適性なしとみなされ、陸戦重視の訓練になるらしい。
 ……絶対に落ちないようにしないと……

「アイビス? お疲れ様。……隊には慣れたかな?」

「え? あ、はい。なんとか……」

 高町教官は、入隊の時から気さくに話し掛けてくれる。
 何でも、査察官に面倒見てやって欲しいと頼まれているそうだ。
 ……幼馴染だと言っていた。

「うん。リオンとの相性もいいし、後は、リオンなしで空を飛べるようになれば、バッチリだね?」

「……その、このまま使い続けるってことは、駄目なんですか?」

 相性がいいなら、このまま使いたんだけどな。

「……えっとね? これ、ほとんどインチキなんだ。……借り物の翼なんだよ。これは」

「借り物の……」

「そう。だから、よっぽどの事がない限り、これを使い続けることは出来ないんだよ。……それに、借り物の翼で、自分の翼が育たなくなっちゃう危険性もある。……だから、あまり使って欲しくないんだ、私」

 教官が、否定的なんだ。このデバイスは。

「でもね? はじめから空を飛ぶっていうのは、なかなか出来ない。できる人は極僅か。……出来るようになるまで、空に慣れてもらおうってことで、使ってもらってるんだ。そのためだけの、デバイス」

 ……そうなんだ。
 完全に訓練用なんだな。
 ……航空隊に、こんなものなかった。
 これさえあれば、試験に受かってたのかな……

「……アイビス? あなたを拾ってくれた人は、あなたの翼に期待してる。……どうか、自分の翼を捨てずに、自分の翼で、空を飛ぼう。……きっと、飛べるから」

 ……本当に、飛べるんだろうか?
 自分の翼で……あの、白銀の騎士のように。

「……頑張ります」

「うん! じゃあ、汗流して、食事して、明日の英気を養ってね?」

「はい」

 立ち去る高町教官の背にも、翼はある。
 ……桜色の、きれいな翼。
 ……今度、聞いて見ようか。あの騎士を知っているかを。


 食堂でツグミと食事。
 ツグミの配属もすぐに決まり、ほぼ同時期に入隊できた。
 あの男、実は凄い人なんだろうか?

「……ツグミ? トワ・ハラオウン査察官って、どんな人なの?」

「え? ……えっと、私もよくは知らないんだけど、それでもいい?」

 ツグミの話によると。

 高町教官の幼馴染で、恋人(部隊内で聞いた)。
 他にも部下の執務官や、支援隊隊長、技術部主任、医務室副主任とも関係を持っているとか。
 ……プレイボーイなんだね。

 本部ではよく中将と話しているのを見かけるらしい。
 ……あのレジアス中将に、タメ口で話すのを聞いた者もいるとか。
 ……怖い物知らず?

 そして、管理局の人攫い。
 彼の目に留まった人は、高確率で連れて行かれるらしい。
 勿論、配属先はここ。訓練隊だったり、事務室だったり、支援隊だったり、食堂だったり。
 ……スカウトマンなんだよね?

 この部隊で聞いた話だと。
 曰く、『ある意味大物』『勇者』『ロマンの体現者』『ベルカの変態騎士』『特務隊の鬼畜狐』
 ……よくわかんない。
 
「後、これは噂なんだけど」

「うん?」

「S級ロストロギア『闇の書』を、一人で攻略したって」

 !? あの悪名高き闇の書を!?

「正確には、トワ・ハラオウン査察官と、テスタロッサ執務官の母親の二人で攻略して、闇の書の主に手渡したとか……噂なんだけどね?」

 ……ほ、本当に凄い人なんだ……

「でも、あまりに荒唐無稽だから、誰も信じないの。それに、証拠がないし……」

「証拠なら、あるよ~?」

 !? び、びっくりした!
 あたしの隣に座ったのは、支援隊『ロングアーチ』の八神隊長。
 ……部隊案内の時に紹介され、私の胸を見てがっかりな目をしてたのはちょっと頭にキタ。
 ……女性隊員の胸を揉むのが趣味らしい。
 レズ?

「証拠って、あるんですか?」

「ふふん。これは内緒……いうか、せっちゃんが言いふらさんだけでな? れっきとした証拠はあるんや」

 せっちゃん……せつなだからせっちゃんか。
 なんか、女の子みたいな呼び名だね。

「何を隠そう、その闇の書の主な? ……あたしやねん」

「「ええ!?」」

 こ、こんなところに!?

「あたしのデバイス、夜天の書が元々の姿でな? 改変と改悪を重ねてできたんが闇の書や。……せっちゃん、その事実をしっとってな? フェイトちゃんのお母さんと一緒に修復して、あたしに返してくれたんや……せっちゃんは、あたしと夜天の書の恩人やねん」

 ……す、凄い……そんなこと、あるんだ……

「で、でも!? 守護騎士はどうしたんですか!? 闇の書に付き従う守護騎士は!?」

「ああ、あたしが説得したよ。せっちゃんと一緒にな? せっちゃん凄いねんで? みんなの前で『邪魔する奴ははやての敵とみなし、この場でたたっ斬る』ゆうてな? 当時、八歳の子がやで? 度胸あるわ~」

 ……は、八歳……
 もしかして、あいつ、高町教官より凄いんじゃ……

「まあ、そんなこと誰も信じへんし、せっちゃん自身なんも言わんから、噂話にとどまっとるからな~」

「……け、謙虚なんですね……」

「いや、せっちゃんは目立つん嫌いやねん。取材とかもよっぽどの事がないと蹴っとるしな?」

 ……そんな、凄い人だったんだ……
 そんな人に、あたし拾われるなんて、信じられない……

「どうして、そんな人が、あたしなんかを……」

「? ……せっちゃんがあんたを拾った理由か?」

「知ってるんですか!?」

 是非、教えてもらいたい。
 あの時は勘だって言ってたけど、他に理由があるのなら……

「んー。……せっちゃんな。人を見る目があるねん。せっちゃんが連れてきた人は、必ず大成しとる。……あんたも、その器がある言うとった。……せっちゃんの勘は、結構あたるんやで?」

 ……か、勘なんだ……やっぱり……
 謎な人だ……


「あ! いた! アイビス!」

 食事が終わって寮に向かう途中、あいつに呼び止められた。
 ……せつな・トワ・ハラオウン査察官。
 今日聞いたいろんなことで、さらに謎になった、あたしをスカウトしてくれた人。

「お、お疲れ様です、トワ・ハラオウン査察官……」

「……いや、おまえね。名前で呼べって言わなかったかい?」

 入隊当初、『俺の事は名前で呼べ!』といった彼。
 ……どうも、これ、本気だったようだ。

「次、苗字で呼んだら、本当に俺の地獄特訓行きだからな? 海のエリートが泣いて帰ったスペサルコースだ。今のお前じゃ、三十分も持たない奴。……魔導師辞めたくないだろ?」

 そ、それってただのいじめじゃ……
 後、脅迫だよ、これ。

「まあいいや。それより! お前、デバイス持ってるんだよな?」

「え? ……アルテリオンの事ですか?」

 この子がどうしたんだろう。

「……一日だけ、俺に預けてくれないか? てか、技術部のほうでメンテさせてくれ。……頼む!!」

「え、ええ!?」

 頼むって……あ、頭下げてまで?

「そ、その、こいつは、ツグミがメンテしてくれてるから、技術部のほうでやってもらわなくとも……」

「く、そうか、やはりツグミさんか……なら、データだけでもコピーさせてくれ! 頼む! このとおり!」

「……な、なにか、あるんですか?」

 ここまで必死になるなんて、裏がありそうで怖いんだけど……

「……いや、それの製作者がプレスティ技術官と聞いてな? ……絶対、なんかあるって確信してる」

「な、なんかって……」

「例えば、高出力魔導炉のパーツとか」

 !? ……こ、こいつ!
 フィリオの研究を知ってる!?

「いや、待て、警戒するな。……研究内容を横取りするつもりじゃなくな? もしあったら、ベガリオンの存在も確信できるって思っただけだから」

「ベガリオンも知ってるの!?」

「て、本当にあるのかよ!?」

 えええええ?
 な、なんなんだこいつ!?
 
「なら、やはりハイペリオンもか……まあ、こっちで作らなくて済んだな。くそぉ、フィリオさん探して協力しとけばよかったぁ~! 下手うった!」

「え、えと?」

「ま、まあ、とにかく、一度技術部に預けてくれ。……ツグミさんにも、話し通しておくから」

 ……そこまで言うなら、預けてみてもいいかな……

「そう言えば、そのアルテリオン、どんなデバイスなんだ? ストレージ? インテリ?」

「あ、アームドです。……銀の剣のアームドデバイス」

 あの騎士と、同じ剣。

「……展開してもらってもいいかな? 見てみたい」

「あ、はい。……アルテリオン、セット」『set up』

 三角形の緑の水晶。
 それをコアに、銀の刀身をもつ剣が姿を現す。
 白銀の騎士が持ってた剣はもう少し大きかったけど、形は同じに作ったそうだ。
 わざわざ、その騎士に頼んでくれたらしい。

「アロンダイト!? ……い、いや、少し小さいな……び、びっくりした……」

「え?」

 これのオリジナルを、知ってる?

「……まさかと思うけど……アロンダイトのデータ貸し出し依頼があったな……あれか? なあ、これ、いつ作られたか知ってる?」

「……詳しくは知らないけど……一年前に……フィリオの、遺品なんだ。これ」

「……そっか。やっぱりアロンダイトか」

 やっぱり!
 この人、あの白銀の騎士知ってるんだ!

「あ、あの! トワ……せつなさんは、知ってるんですか!? これのオリジナルを持ってる人!?」
 
「……えと、聞いてどうするんだ?」

 ……どうするかなんて、考えてない。
 けど、もう一度、もう一度、あの姿を見たい!

「会いたいです、あ、あたし、あの騎士に、憧れて、空を飛ぼうって、それで!」

「……そっか。……なのは信者じゃないのかー……むーなんか照れるな、面と向かって言われると……」

 ? な、何の話だろう?

「……パラディン。セットアップ。【アロンダイト】スタンバイ」【get set. stand by arondait set up】

 電子音声よりも流暢な声と共に、彼の姿が白に包まれた。
 ……右手には、あの銀の剣。
 ……体に纏う、白銀の鎧。
 あたしの見た、空を舞う騎士……

「多分、お前が言ってる騎士は俺のことだと思う。……失望したかな? こんな軽い奴で」

「……あ、い、いえ! あ、あたし、二年前、航空隊の模擬戦見て、それで、管理局に……」

「む? ……あ、あれかぁ……むー、真相聞くと、がっくりするけど、聞く?」

 何か苦笑いを浮かべて、話しづらそうにしているけど……
 是非聞きたい。

「聞きたいです!」

「……あれな? 俺が入隊蹴った奴等なんだよ。隊にふさわしくないってね? そしたら怒って、模擬戦に突入して、仕方ないから、返り討ち。……ただの喧嘩だったって話」

 け、喧嘩で……
 でも、酷く真剣で、とても、

「……とてもキレイでした」

「き、キレイとか……その、うん、ありがと……」

 あ、俯いて、頬かいてる……
 なんか、可愛い。

「も、もういいかな? 結構目立つんだ、こいつ」

「あ、はい、ありがとうございました」

 デバイスを戻して、元の姿に戻る。
 ……スタンバイモードが本型だ。
 それを小さくして、髪の中へ。
 ……ど、どうやって止めてるんだろう?

「じゃあ、俺のアロンダイトの子供に当たるんだな、そいつ。……なら、しっかり使いこなさないとな?」

 ぽんぽんと、頭を撫でてくれる。
 ……一瞬、彼の顔とフィリオの顔がダブった。
 ……性格なんかぜんぜん似てないのに。
 同じことを、あたしに言ってくれる。

「……はい!」

 ようやく見つけた。憧れの騎士。
 その人に拾われて、同じ部隊にいる。
 あたしは、この人や、高町教官から、いろいろ学べる!
 ……きっと、空も飛べるはず!
 フィリオ、あたし、きっと空を飛ぶよ……



 ……その。
 憧れの騎士だったのに。

「……せ、せつなさん……? こ、こっち、女湯ですよ?」

「ん? そうだが?」

 寮に戻って、入浴の準備。
 この隊にある大浴場『天使湯』の女子更衣室。
 ……なんでこんな施設あるんだろうと思いながらも、大きいし気持ちいいから毎日使ってるんだけど。
 下着を脱いだ直後、せつなさんが入ってきた。堂々と。

「そ、そんなあっさり……」

「……ち、タスクの勝ちか。まさか教えないと分からないとは……」

 絶望した。
 憧れの人が実はただの変態だった事実に絶望した。
 く、こうなったら、こいつを殺して私も……フィリオ、今行く……?
 あ、あれ?

「あ、あの、な、何でブラ……」

「どうせ必要ないんだがな……なかったら擦れて痛いしな……」

 それをはずすと……男の胸板じゃなく、なんか、凄く、小さいけど……お、女の胸?
 ショーツを脱ぐと……な、ない!?

「お、女の人!?」

「……今の今まで男だと思ってやがったな本気で……一週間も気付かない奴は流石に初めてだな」

 だ、だって、口調とか、仕草とか。
 そ、それに、高町教官と恋人って……

「ほれ、裸でいると風邪引くぞ? さっさと入る」

「は、はい……」

 ……さ、詐欺だ……
 そう言えば、誰も騒がなかったし……あ、皆笑ってる。
 ……もしかして、いつもの事?

「え!? ちょ、査察官!? ここ女湯……て、女の人ーーーー!?」

「ええい! あんたもか! 後、役職で呼ぶな名前で呼べぇ! シャーリー笑うなちくしょう!」

 つ、ツグミも知らなかったんだ……
 謎な人だ……ホントに。

 改めて、体を洗う。
 聞くと、この施設を発案したのが、せつなさんらしく。

「いや、俺の出身世界に、温泉ってのがあってな? 地熱やマグマで沸騰した地下水に入浴するって物で、俺やシグナム、後、テッサ……部隊長がお気に入りでな。シグナムと企画書作って部隊長に渡したらノリノリで許可出して、即座に建設開始。今年の夏に出来上がった新築だぞ?」

 そ、そうなんだ……
 他の部隊じゃ、考えられない……

「え、えっと、査察官「名前で呼べ。次呼ばなかったら揉む」……せつなさんが、闇の書攻略したって本当ですか?」

 ……つ、ツグミだと揉むんだ……
 ……せつなさん、あたしより小さい……不憫だ……

「ああ、一応本当。……つっても、バックアップデータ当てて、基本のところだけ初期化して、無理矢理組み込まれてた俺のデバイス用のグレードアップパッチ外しただけなんだけどな?」

「……だけって……す、凄いことですよ? それ……」

 やっぱり、そうなんだ?

「いや、主がはやてで助かった。もし別の、それこそ力が全てとか考えてる奴とか、マッド科学者が主だったら、こうは行かないだろな~」

「……そ、そうですか……そんなあっさり……」

 飾らない人なんだな。
 ……かっこいいかも。

「じゃあ、そのことを何でもっと広報しないんですか?」

 そうそう。
 広報したほうが、イメージアップになるのに。

「……闇の書に迷惑した人、結構いるだろ? それこそ、家族を殺された人だっている。……それなのに、その元主がはやてだって広報してみ? ……一杯の非難が、はやてに行くんだぜ? はやて自身は無関係なのにさ」

「!? ……む、無関係って……」

「あれ、一回暴走したら、次の主の元に転生して復元される機能付いててさ、その転生先、完全にランダムなんだ。……前の所有者と、次の所有者に、接点まったくないんだ。……一応、技術局のデータベースに載ってるぜ、これ」

 ……し、知らなかった……

「な? 管理局にいるお前らが知らないんだ。一般の人なんて、さらに知らない。……それで、はやての元デバイスの事を言いふらしたら……」

「非難と、下手したら、復讐に来る人も出てくる……」

「そうだ。……だからまあ、あまり言いふらさないでな? 噂は噂のままでいい事もあるさね」

 ……八神隊長のためだったんだ……
 人の、友人の為に、自分の功績を隠せる人なんだ……
 うん、かっこいい。
 やっぱり、あたしの憧れの人は、凄い人なんだ。
 
「さって……しかし、ツグミさんは着やせする人なんだな。……羨ましいなぁ」

「ええ? ……せ、せつなさんは、その、アイビスより、ありませんね……」

「そうなんだよな~。……部隊内で一番小さいんだと、俺。……泣くぞもう……」

 ……凄い人、なんだけど、なぁ……
 いいや、湯につかろう。
 ……せつなさんもお湯に浸かって……うわ。
 凄く幸せそうな顔してる……

「……? どした~?」

「あ、いえ、その……お風呂、好きなんですか?」

「好きだぞ~? 一番癒されるね。……まあ、本当は、地球の露天風呂が一番なんだけどな……」

 露天? なんだろ?

「ああ、外にある風呂でな? 岩場に囲まれて、昼なら青空の下、夜なら満天の星の下でゆっくりとお湯に浸かれる……大自然を満喫できる風呂オブ風呂だ」

「……なんでそれは作らなかったんですか?」

 そうそう。あたしも入ってみたい、それ。

「……企画書には載ってたんだけどな……その、こっちだとな……」

「? こっちだと?」

「……空飛んで覗く馬鹿がいるかもって話がでてな?」

 !? な、なるほど……

「で、でも、空を飛ぶには、航空許可が……」

「市街じゃな? ……部隊内だったら、訓練で通るだろ?」

「……なるほど……」

 うう、飛行魔法を覗き目的で……
 なんて人だ。

「ただでさえ覗く馬鹿がいるのに、露天風呂ならなおさらだってことで却下になった。俺もそれだけは同感だし」

 ……と、いうことは。

「……い、いるんですか、この部隊に……覗き魔」

「……ああ、いる。……裸覗きたいがために暗視望遠鏡用意する元軍人とか、鏡面屈折魔法なんて高度技術使って覗きを決行した交代部隊員とか」

 む、無駄な努力する人もいるんだなぁ……

「その人は、クビにしたんですか?」

「いや、それがな。無駄にスキル高いからクビに出来ん……代わりに、拳と共にお説教&減給二ヵ月&隊内清掃で勘弁してやった」

 きびしっ! て、こぶし!?

「……も、もしかして、入寮手続きした日のあの磔にあってた二人が……?」

「ああ、あれ見たのか? ……一人はそうだが、あの時のは別件だ。……人の睡眠時間削りやがったから、お仕置き」

 ……こ、怖いところだ……特務隊……


 お風呂から上がって、再び脱衣所。

「……その、女性用制服は着ないんですか?」

 だから男に間違えられるんだと……ひぃ!?
 凄い陰鬱な目でツグミを見てる!?

「……昔はな、ちっこくってまだ女の子だって認識されてたんだ……十三歳あたりから急激に背が伸びて、さらにこの胸だろ? ……一度中将の前で『女装が趣味なのかね?』って聞かれた事あってな……あの髭達磨、二十分ぐらい大笑いしやがって……次の日から、女性用はくずかご行きだ」

 ……ふ、不憫だ……
 なんだか涙が止まらないよ……

「ふふふ、胸ペッタンの大女は普通に男にしか見えん……口調も男そのままだしな……別にいいんだ、どうせ、男と付き合う気ねーし。女の子大好きだし」

 ……い、今、不穏な台詞言ったような……
 そ、そう言えば、高町教官の恋人だって噂で……
 ほ、本物!?

「じゃあ、その、せつなさんは……れむぅ!?」

 ツグミの口を塞ぐ手。
 ……あ、医務官の月村副主任だ。

「……タカクラ陸曹? その台詞をせつなちゃんの前で言っちゃ駄目だよ? ……言うなら百合だよ?」

 や、それ同じ……
 て、同性愛は認めるんだ……

「すずか? そんなに俺の力説は聞きたくないのか?」

「わざわざ被害を増やすことないよ? ……また、妹増やすつもり?」

「こいつら俺より年上だっつーの」

 へ? ……あ、ああ、そうだよね。
 高町教官が私のいっこ下なんだから、せつなさんもそうなんだよね……

「……でも、何で妹なんですか?」

「……せつなちゃんの妹には、二種類あるの。一つは、せつなちゃんが気に入って、妹分として接しているタイプ。今現在で六、七人ぐらいいるよ」

 ……せつなさんかっこいいからなぁ……
 こんなお兄さん居たらいいかも……て、お姉さんか。

「もう一つは、せつなちゃんの百合談義にやられて、自分を彼女の妹だと誤認識しちゃうタイプ。別名、なんちゃってスール」

 百合談義……やられるって……

「前者はまだいいとしても、後者はそのまま同性愛に目覚めちゃうから、私たちは被害者って呼んでるの……だから、ね?」

「「は、はい?」」

「百合の事を横文字、英語で呼ばないように。……わかった?」

「「はい!!」」

 い、いま!? さ、殺気が!?
 この人医務官だよね!? 
 何で教官より怖いオーラを感じるの!?

「おーい、すずかー? 黒いの漏れてるから。新人にそのオーラはまだ早い」

「……むぅ。大体、せつなちゃんがいけないんだよ? 次々に妹増やしていくんだから……」

「前者はともかく、後者は俺のせいじゃねー」

 あ、あはは……特務隊、恐ろしいところだ……

「だ、誰よ特務隊が厳しくて真面目な職場だって言った人……」

「た、楽しい職場……だね?」

 ……カルチャーショックだ……
 こんな凄い部隊があるなんて……
 いろんな意味で。



 せつなさんと別れて、寮へ。
 ……今日は、いろいろ分かったことが一杯だ。
 高町教官の想い、指導。
 せつなさんの功績。
 憧れの騎士がせつなさんだったこと。
 せつなさんが女の人だって事。
 ……知らなくてもいいことも教えてもらったけど。

「? アイビス? なんか、嬉しそうね? ……いいことあったの?」

「ん? ……あたし、この隊に来て、よかったなって」

 きっと、あの人に出会えたのが、一番嬉しかったこと。
 軽くて、謎で、優しくて、かっこいい。
 ……せつなさんに出会えたこと。
 あたし、あの人の背中を見て、いろいろ覚えて。
 一緒に、空を飛びたい。
 ……あの、星空の下を。






「てめこらタスクーーーー!! フェイトの生写真売ってるってどういうことだーーーー!! フェイトは俺の嫁だぞ、ネガごとボッシュゥーーーーーート!」

「姐さんすんませ……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」





 ……は、早まったかなぁ……











*ども、作者です。
EXはおまけシナリオとしてお楽しみください。
アイビスらしさが出てれば幸い……『こんなんアイビスじゃねぇ!』とか思われたらごめんなさい。

さて、感想返しを二、三件ほど。

まずはsenさん。前半の『性別切り替え時の感覚』についてですが、『一瞬の違和感の後、平常通りに戻る』といった感覚。
変身プロセスもあったもんじゃありません。BJ展開時(変身シーンなし)と同じようなもの?
後半の考察に関してですが、非常に残念ですが、負けを認めざるを得ません。
……諦め早いと思われるかもしれませんが、その考察に沿って設定すると、今まで公開したストーリーラインが崩れる可能性があり、前回の電波で言ったとおり、あれ以上の設定は考えていませんでした。
ですので、後半の考察にお答えできません。
……作者の頭じゃこれが限界です、申し訳ありません。

続いて、ジョーカー&WSさん。お久しぶりです。
設定の使用に関してですが、本スレ分、ちら裏『多次元世界』『多次元世界・旅行記』に関しては使っていただいてもかまいません。
ただ、文章の丸写しはご勘弁。盗作扱いになっちゃいますから。
あと、ちら裏『多次元世界・異聞録』の設定は使用不可でお願いします。
商業作品ではなく、Web小説ではありますが、オリジナル作品なので。

後、残念なお知らせ。バイトの達人は出ません(予定)。
予定なので、ひょっとしたらどこかに出るかもしれませんが、あまり期待はしないようにお願いします。

以上、感想返しですた。

そう言えば、前々回L27のお話ですが、あれは予定通りです。
ちょっと鬱な話でしたが、分岐後の鬱ルート(ライン・カオス)は『こんなもんじゃない』と、言っておきます。

で、次回。ちょっとした伏線張りの後、ちょっと地雷を踏み抜いたシナリオを挟みます。
一応、伏線は出てるんですけどね、そのシナリオ用の。
前書きの5番に関連することですので、どうか、お付き合いのほどを。
作者でした。





[6790] L30.奇跡降臨の道しるべ
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:f6b928c8
Date: 2009/07/03 23:12

 新暦七十四年一月一週目年明けそうそう。
 ……捜査の結果。結構な数の行方不明者が判明した。
 海の方はそうでもないんだが、ミッドチルダ本部の方は結構いなくなってる。
 さらに、出向命令を出した者を捜査。
 ……すると、あっさり見つかり、事情を聞いたところ、そんな指示は出してないと言い張った。
 脳内思考捜査でもそんな事実は浮かばず、思いっきり空振ってしまった。
 やばい、手詰まった。
 とにかく、各部署、各部隊の隊長に注意を呼びかけるに留まった。
 ……これで、少しは減ってくれるといいんだけど。



 レーツェルさんに確認を取り、エルザム執務官として対話。

「……ふふ、ばれるとは思わなかったよ。さすが、せつな君だね」

「いや、ゴーグルだけじゃん変装……ばれない方がどうかしてると思うよ?」

 登録証の写真にゴーグル書くとレーツェルさんの出来上がり。
 ……この世の理不尽を垣間見た。
 さて、エルザム兄さん曰く、まだまだ調査不足との事。

「必ずどこかで一度切れるんだよ、走査線がね? その先がどこに繋がるのか、分からないんだ」

「……くっそ~、そっちでも駄目か~」

 とにかく、そのまま独自で捜査してもらうことを依頼。
 俺の視点以外でわかることもあるかもだし。

「そう言えば、何で俺のスカウト乗ったんです?」

「ああ、地上の方に拠点があるような気がしてね。本部近くの拠点を探す前に君からスカウト来たから、そのまま乗らせて貰ったよ」

 むう、渡り舟出しちゃったか。
 でもまあ、優秀なコックと裏ネットワークは儲け物だ。
 このままこの部隊にいてくれるそうだし、これからもお願いします。

「……それで、頼みがあるんだが」

「はいはい?」

「……私の弟が航空隊にいる。……よかったら、こっちにスカウトしてくれないかな?」

 すまん。それ既に接触済み。
 さらに。

「……すんません。蹴られました」

「……あいつは……どうしてだい?」

「……航空隊で、探したいんですって。義姉の仇と、実の兄を」

「……馬鹿者が……」

 流石に、俺が言い出すわけにもいかず、残念ですがと蹴られてしまいました。
 くそー、惜しすぎるー……?
 R-2って陸戦兵器だよな? 何で航空隊なんだろう……わからん。
 まあいいや。

「では、後一つ。……これは、見つけたらでいいんだが、私とゼンガーのデバイスを、あるマイスターに渡してあるんだ。……ただ、その人がどこにいるか分からなくなってしまってね。もし、見つけたら、受け取ってきて欲しい」

 おいおい。
 そんなん見つけるの、かなり骨だぞ。

「名前とか、分からないんですか?」

「私もあったことがなくてな。父が懇意にしていたマイスターで、女性の方だそうだ……辺境世界の出身者だといっていたが……まあ見つけたらでいい。デバイスの名前は『ダイゼンガー』と『アウセンザイター』だ。よろしく頼む」

 ダイナミックゼネラルガーディアンキターーーーーーー!!
 &作らなくてよかったーーーーー!!
 ……ど、道理でゼンガー親分の初期デバイスがヘボかったと思ったら!
 くそ、これで仕事が増えちまった。
 なんとしてでも探し出さないと!


 カグヤからの連絡。
 スクールプラントを一件潰してくれたそうだ。
 これで八件目。……ただ。

『クレイドルで作られたクローンがいたみたい。……ほら、石田声』

「アンサズ? スリサズ? ウルズ? ……おいおい。聞いてねえぞ」

 プラント防御に、その三体が襲い掛かってきたらしい。
 当然、ゼスト隊長とカグヤとノーヴェの三人で撃破。
 ……調べた結果、クレイドル製と判断。
 ……クレイドルって言えば、イーグレット・フェフだよな。
 後、仮面親分。
 ……ま、まさかねぇ?
 気になって、親分に聞いたところ。

「……クレイドルプラントか? ……俺が教導隊にいたときに、破壊した。……責任者のソフィア・ネート博士が情報をリークしてくれてな」

 クレイドルプラントの防衛手段に、ナノマシンを注入し、機械化処理をした戦闘機人を配置する計画がでていたらしい。
 防衛主任はイーグレット・フェフ博士。まんまかよ。
 クレイドルプラント責任者、ソフィア・ネート博士がその事実を管理局の教導隊に内部告発。
 ゼンガー親分率いる教導隊強制捜査部隊が突入し、これを制圧した。
 ……なお、この作戦で助け出されたのがイルイであり、なのはもこの作戦に参加していたとの事。
 以前言ってた、一緒に仕事したってこれの事か。
 で、問題のイーグレット博士。
 いまだ捕まってないらしい……ち、スクールに拾われたか。
 そういや、アラドとイーグレットシリーズって似てるよな。
 ……くそ、そういう繋がりかよ。

 ネート博士は今技術局で保護観察中だそうなので、会いに行くことに。
 
「イーグレット博士ですか?」

「はい。どんな人だったんですか?」

 聞けば、ナノマシンを専門に研究している人で、性格は冷酷。
 密かに人体実験もしていたようだ。
 防衛手段の戦闘機人はセトメラボの戦闘機人の遺伝子から作られたクローンを使うつもりだったらしい。
 おいおい。

「……あの、ゼンガー一尉に、これを渡してもらえますか?」

「今は三佐ですが……これは?」

「……彼の、剣。斬艦刀ユニットです」

 ……も、もう作ったとは言えん。
 とにかく預かり、ゼンガー親分に渡す。
 ……びっくり。
 俺らが作った参式斬艦刀より、かなり魔力圧縮率いいんでやんの。
 コンセプトはまったく同じ。日本刀型と大剣型。
 後、親分の魔力に合わせて作ってあるため、多少の形状変更も出来る。大車輪とか。
 データ取りだけして、参式と真打(ネート作)を交換。
 ……羨ましそうな目で参式斬艦刀見ているシグナムは、全力で無視した。
 てか、レヴァンティン泣くぞ。
 協議の結果、ブリットが持つことに。
 『ヒュッケバインMk-2』に組み込んであげた。
 ……どっかに竜と虎落ちてないかな? ……落ちてるとしたら、ロストロギアだろうなぁ……


 行方不明者の捜査で浮上した、一人の不穏すぎる名前。

『イングラム・プリスケン』

 ……来やがったなタイムダイバー。
 陸士実験部隊『SRX』隊長。……そのまんまだ。
 なんでも、新しい魔導師の実験研究を主として活動する部隊で、メンバーは本気でネタだろと思った。
 フィンファンネル姉さんにシスコン弟にロボット馬鹿。
 部隊専属技術者にロボット馬鹿博士と無口な博士。
 担当研究者は禿モノクルとまさしく極東基地そのまんま。

 ……発足は、二ヶ月前。下準備等は本局で秘密裏に行われていたらしい。
 そりゃ気付かねーよ馬鹿野郎。
 早速打診して見学依頼。なのはとフェイト連れて見学に行った。

「ようこそ。SRX部隊へ。隊長の、イングラム・プリスケン一等空尉だ」

 ……う、胡散くせえ……裏切る事確定な人だこいつ。
 とにかく見学……

「ああ!! 高町教導官に、テスタロッサ執務官!? うお、初めて見た……」

「こら、リュウ! ちゃんと敬礼する!」

「……ふん、うるさい奴だ」

「何だと、ライ!」

 ……まんまだ……おもわずorz
 
「せ、せつなちゃん? どうしたの?」

「ごめん……聞かないで……」

「もしかして……この人達も?」

「うん。そのまんまだ……」

 ダテ三尉がなのはとフェイトのファンってことなので、二人を前線部隊の囮にして、イングラム一尉に接触。

「……実験部隊と聞いてますけど、具体的にどんなことを?(くおら、タイムダイバー。今度はなに企んでやがる)」

「!? ……ええ、魔法の他に、レアスキルの可能性を伸ばすことを主題にしています(……何故それを?)」

 食いついたな? このまま思考捜査開始じゃ。
 パラディン&クラウンと繋いで嘘発見器プラス思考を探ってもらう。

「(聞きたいことがあるだけだ。聞きたいことは二つ。あんたは敵か?)レアスキルですか? 例えば?」

「念動力というのはご存知ですか?(……味方だよ、今はな)」

(【マスター。嘘は言ってません】『代わりに、裏切るつもり満々ね』)

 だろうな。
 捜査続行。

「ええ、知ってます。サイコキネシスと呼ばれるものですね(二つ目だ。ユーゼスの手駒か?)」

「……彼らは、その素質があります。詳しいことは、奥で(……人目の付かないところへ。普通に話そう)」

(【……襲うつもりはないようですね】『こっちも同じよ。普通に話したいみたい』)

 おーし、交渉開始だ。
 リリカル世界にああいう外道関係はいらないんだよ面倒な。
 ただでさえ評議会が面倒だってのに、こいつらまで相手にしてられるか。
 フェイトに警戒をしてもらいつつ、隊員を見て置くように指示。
 イングラム一尉に連れられ、隊舎の物陰へ。
 防音結界を張って、密談開始。

「……どこまで知っている?」

「最近の誘拐事件がゴッツォ研究所の手の物だってこと。管理局内部からも結構な数誘拐していること。誘拐された被害者を使って、違法研究していること。バルシェムシリーズの製作元がゴッツォ研究所だってこと……あと、あんたが裏切るつもりであいつらの上官をしてること」

「……お手上げだ。確かに、俺はスパイだよ。……バルシェムシリーズは、俺がオリジナルになっている。……よくここまでかぎつけたな?」

「特務隊の銀狐を舐めんなよ? ……二つ目の答えは?」

 銀狐。
 まあ、俺の鎧と魔力光、後、小隊名の組み合わせでこんなあだ名になってしまった。
 誰が広めたのか知らないが、地上の監視人として恐れられているらしい……
 本人ただの男女だけど。

「……ユーゼス・ゴッツォ。俺の上司で、ゴッツォ研究所の代表責任者だ。……彼から言われて、ある素質を持つものを探している」

 えっと、α基準だから……

「サイコドライバー? ……なんとまぁ、けったいなもんを……」

「そこまで知っているのか!? ……はは、君は凄いな」

 ん? あれ?
 こいつ、感じが……

(『マスター? この人、今まで演技してたみたい。……思考捜査を騙すほどの演技って、凄いわね。ああ、敵じゃないわよ? この人』)

 ……まさかこいつ、スパイはスパイでも……
 二重スパイか?

「そのとおり。俺は、ユーゼスが提唱するサイコドライバー資質の持ち主を探している。だがそれはユーゼスの計画を成就させるわけではなく、あの悪魔を倒す為だ」

「悪魔と来たかい。……詳細を教えてくれ」

 話によると。
 ユーゼスがバルシェムシリーズに限界を感じ、新しい戦闘機人を作るため、そのサンプルを数人誘拐した。
 その中の一人に、レアスキル『サイコキネシス』を持つものがいて、このレアスキルを伸ばせば、戦闘機人をより強いものにすることができるのではないかと画策。
 さまざまなサンプルを集め、誘拐事件を巻き起こした。

 市内から直接誘拐する場合は、チンピラや犯罪者に誘拐した被害者一人に付き、一般局員の三か月分の給料と同じ額を払って買い取り、非合法の郵便組織を使って中継地点に配達。
 その後、中継地点『虫篭』から研究所に送られ、実験体にされるらしい。

 管理局からは、正規局員の名前で偽の出向依頼を出し、のこのこ出てきた局員を拉致。そのまま、『虫篭』に送っているらしい。

 『虫篭』内部は随時AMFが張り巡らされ、魔導師はただの人間と化す。
 そして研究所内では、戦闘機人の研究は勿論、後付けのハイブリットヒューマンの研究も行っているらしい。
 機械と人間の融合品だ。改造人間と言っても過言じゃない。
 
「俺は、そこで生まれた純粋培養の戦闘機人だ。……そして、君の言うとおり、タイムダイバーでもある」

「……勘弁してくれよ。そういうのは外宇宙の発展が終わってる世界でやってくれ」

「ははは……すまんな。迷惑をかける」

 とにかく、彼は自分の計画通り、SRX部隊の隊員を育て、サイコドライバーを目指してもらうらしい。
 そして、彼自身が裏切り、後はユーゼスの情報をこっちに流しながら、敵としてSRX隊員を成長させる計画だそうだ。
 ……αとOGそのまんまやね……本気で……

「……あのさ。そいつって、サイコドライバーでないと勝てないの?」

「……魔力無効化体質というのを知っているか?」

「うわ、キャンセラーかよ……」

 あれだあれ。
 子供魔法先生のツンデレパートナーだ。
 魔法が一切効かない奴。

「じゃあ、物理攻撃は?」

「……サトリのレアスキルも持っている」

「……何その反則性能……」

 ……ホントに人間か? そいつ……
 て、サトリ?

「……あんた、裏切って戻った後、速攻で脳改造されるんじゃね?」

「……それはどういう意味だ?」

「あんたの計画、もろばれじゃないのかってこと」

「……その可能性も考えた。だが、この手段でないと、サイコドライバーは……」

 育たないと。
 ……サトリ持ちの、魔法無効化体質……
 ふむ。
 厄介極まりないな。
 仕方ない。替え玉使うか。

「あんたの血液、採取させてもらっても構わないか?」

「? どうする気だ?」

「俺の知り合いに、クローンと戦闘機人に強い人がいる。……あんたの替え玉作って裏切る時に記憶転写して、研究所に替え玉を送る」

 で、本人は陰から援護してもらう。
 ……なりふりなんて構ってられるか。
 ドクターに貸しはあるんだ、こういうときに返してもらうぜ?

「……君、本当に局員かね?」

「は、俺は身内を幸せにするなら、鬼になるよ……あいつら、俺の嫁に手をつけようとしやがったんだから、それなりの報いは受けてもらわないと」

 向こうはそんなつもりないだろうけどな~?
 後呆れた顔すんな。あんただって同じ穴の狢だろう。
 とにかく、そのつもりで血液を採集。
 彼自身のスペックも調べ、ストレージに記憶。
 ……むぅ、彼自身ナンバーズと遜色ない……これの路線で行ったほうがよかったんじゃないか?
 ……ああ、それじゃナンバーズと同じだから、別の路線を模索したかったのか。
 
「……最後に二つだけ。ユーゼスの奴、何が目的なの?」

「ああ、あいつの目的は、特異点の操作だよ。クロスゲートパラダイムシステムといって」

「因果律の完全操作? だからそういうのは宇宙の果てでやってくれよ、本当に迷惑な……? 何だよその目は」

「い、いや……君のほうが凄いなと思ってね……」

 俺はチートだからいいの。
 でも待てよ?

「パラダイムにはラプラスデモンタイプコンピューターいるだろ? 目処あるの?」

「……まあ、一応な。辺境世界のロストロギアに、風の精霊王を封印したデバイスがあって」

「サイバスター、ロストロギア扱いかよ……ち、やっぱり龍と虎もその方向だな」

「一体何者だ君は? 何故俺の説明一部だけで把握できるんだ?」

 おいおい、何でそんな涙目なんだよ?
 いやイメージだけど。

「はん。あんたがタイムダイバーなら、こっちは天下無敵のチートトリッパー様だぜ? ……観測者とも言うがな?」

「!? ……あ、アカシックレコードを紐解いたというのか! 君は!」

「一部だけな? ……それに、情報量が膨大だから、時々飛んでる部分もある。……だから、簡単な説明で大体分かるよ」

「……し、信じられん……」

 俺のほうが信じられんわい。
 魔法少女物にグログロ陰謀物入れるんじゃない。
 夢が穢れるだろうが、メルヘンが!
 まあ、実際にはアカシックレコードのアの字も触れていないけど、向こうにはそう考えてもらった方が便利だな。

「どうせ、サイバスターの操者はもう決まったかそろそろ決まるだろうし、後は特異点を持ってるあいつだけだな……」

「シュウ・シラカワ博士だな?」

「……どこにいる?」

「その辺境世界に行っている。……作戦の開始は、七五年の四月からだそうだ」

 は、そうかい。
 三期本編に合わせてくれるつもりか。
 ……面白い。

「乗ってやろーじゃんユーゼスのシナリオに。……途中でメッタメタに掻き回した上で、アロンダイトでぶった切ってやる……ベルカの騎士、舐めんじゃねえぞ」

 どうも、俺がゾルダーク博士の代わりになっちまったみたいだな。
 望むところだ。
 
「二つ目の質問は?」

「もういいや。……あ、こっちから忠告。……俺の身内に手ぇ出したら、計画前に殺してやるって馬鹿に伝えといて? ……それまでは、直接攻め込んでやらないよ」

 居場所聞こうと思ったんだけど、目処ついたし。
 まだ五分だけど、多分、あそこだ。

「……君は、怖いな……鬼神だな、まるで」

「は、鬼は嘘が嫌いなんだけどな……」

 俺は嘘つきだからね?



 ……定期的に話し合うってことで話を終わらせ、フェイトたちのところに戻ったら、

「ほら! 回避甘いよ! アクセルシューター!」

「でぇえぇぇぇぇ!?」

 ……おやまあ。
 教導魂に火が付いたか、ダテ三尉に稽古つけてるなのは様。

「……どうしてこうなったのさ?」

「うん……その、私たちのようになりたいって言ってたから、じゃあ、少し訓練しようかって事になって」

「はぁ……なのはの琴線に触れたか……まあ、ちょっとした底上げにはなるかな……」

 たまに出張訓練か出稽古させるか、こいつら。

「トワ・ハラオウン査察官」

「……なんですか、ブランシュタイン三尉?」

 ライディース・F・ブランシュタイン三等空尉。
 エルザム兄さんの弟である。
 
「すみません。査察官の勧誘を蹴っておきながら、実験隊の隊員になってしまって……」

 あれま、気にしてたんだ。
 律儀なことで。

「……ブラ……呼びにくいからライ君でいい?」

「え!? は、はぁ」

「お兄さんから伝言受け取ってる」

「!?」

 を、凄く目を見開いた。

「『馬鹿者』……以上だ」

「……そうですか……兄は、今、どこに?」

「教えるなといわれてるんでな。黙秘させてもらう……が、俺から言わせてもらうとだ」

「……」

 経験者からの訓辞と受け取れ。青二才。
 ……まあ、この人俺より年上だけど。

「お前一人で何でもできると思うな、たわけ! ……経験者の言葉だ。説得力はあるぞ?」

「……ハラオウン査察官も、同じようなことが?」

「俺はいっつもだよ。……一人で問題抱えて、しばらくやってみて、出来そうならやるし、出来なかったら仲間を頼る……俺の師匠がさ、最初に怒鳴ってくれたんだよ。お前一人でできることは、一掴み分しかねえってな?」

 ゲンヤのとっつあんと仕事して、最初に怒鳴られたんだっけか。
 一人で突っ走って、犯人もろもろ逃がして、最初に担当させてもらった事件だったな。

「あんたも同じだよ。……下手な意地張ってないで、仲間を頼れ。いなけりゃ作れ。……あそこで走り回ってる阿呆でも、何かの役には立つはずだ。お前らのリーダーも、お前を見てくれてるはずだし、隊長……は、胡散臭いからいいか」

「……は、はぁ……」

「ま、俺からの説教だ。……多分、あんたの兄さんも同じ気持ちだと思うぜ?」

 一言で済ましてるけど、ここまで言わないとわかんないよな、普通。
 ……わかんなかったらシラネ。俺の部隊じゃないし。

「……ハラオウン査察か「名前で呼んでくれ。長かろ?」……せつなさん、ありがとうございます」

「あんたの方が年上なんだから、呼び捨てでいいのに」

「……仕事中、ですから」

「律儀なことで……」

 査察官だからって、給料減らしたりする権限ないんだよ~?
 ボーナス査定もやらないし。

「よかったら、フェイトに稽古つけてもらえ。……技術の底上げにはなるだろう」

「はい!」

 つーわけでライ君はフェイトに預け、ラストのお嬢様のところへ。

「はじめまして、トワ・ハラオ「も、名前で呼んで。長い」……えっと、いいんですか?」

「いいよいいよ。……格好つけて二重姓なんかにするんじゃなかったな~。自分も言いにくいとか……」

 最初、舌噛みまくって練習したのは秘密である。

「じゃあ、改めて……アヤ・コバヤシ二等空尉です。せつなさんの活躍は耳にしてます」

 え?

「俺の活躍って? ……たいしたことしてないけど」

「謙遜しないでください。低ランク魔導師の部隊をエリートに押し上げた、最大の功労者と聞いています」

 ……ああ、そっちね。

「あれは完全に部隊の連中の努力のお陰だよ。俺はそのサポートにまわっただけさね……俺は、もっとのんびりゆったり仕事したいんだがなぁ……」

 どこぞの馬鹿のせいでまた仕事増えたやんけ。
 とりあえず、関係者に殺気送っとく。
 ……あ、周り見てる。
 こっちじゃたわけ。

「……その、せつなさん。……一つだけ、お願いしてもいいですか?」

「ん? なに?」

「……もし、手が空いていたらでいいので、私の妹を探してほしいんです……行方不明になって、もう三年たちます」

 ……だとよ、このエロ兄貴。殺気を多方向からビシバシ。
 ……ふふふ、慌ててる慌ててる。
 本当に殺気の使い方だけ上手くなってくなぁ……

「マイ・コバヤシ……で、合ってる?」

「!? ご、ご存知なんですか!?」

 第一被害者だからな。
 よく覚えてるよ。生贄の巫女。

「今、絶賛捜査中。……つっても、まだ尻尾すらつかんでないが、期待しないで待っててくれ……被害者も犯人も必ず捕まえるつもりだ」

「……ありがとうございます……」

 礼はいらんよ。
 知ってて知らん振りしてるようなものだし。
 ……はあ、やるせないなぁ、マジで。

「んじゃ、あぶれ物同士、仲良く訓練しますか?」

「……はい! お願いします!」

 はい、お願いされました。
 ……兵装使わずにパラディンのみでファンネルの誘導講座。
 もとい、空間把握の概要を指導。
 本当は、これこそなのはの本領発揮なんだけど。

「ほらほら! ちゃんと飛ぶ! ふらふら飛んでたら、いい的だよ!」

「ひぃぃぃぃぃ!!」

 ……南無南無。




 見学(出稽古)終わって隊舎に戻る。
 お、アイビスだ。

「お疲れ、アイビス。調子はどうだ?」

「……ほっといてください」

 あれ? ……ひ、久々に負け犬オーラ見たよ?

「どしたの? ……はじめて会った時以上の負け犬オーラ出てるけど?」

「!? ま、負け犬……」

「違うというなら、何があったか話してみろ……」

 ……聞けば。
 人のいない間に、航空隊の部隊が来て、訓練隊との模擬戦を頼んだらしく、留守番のキタムラ教官はこれを受理。
 その部隊にあのプレスティ女史がいて、一対一の模擬戦で負けたらしい。
 ……ふむ。
 なるほどな。

「……まあ、お前は長期コースで訓練頼んでるしな。まだまだ、彼女には勝てんさ」

「そんな……」

「ちなみに、うちのなのはだが」

 面白いことを教えとこう。

「教導隊に入るまで、フェイトに模擬戦で勝てなかったんだが、知ってるか?」

「……ええ!?」

 これは実話。
 魔法使い始めたときから、リンディ母さんの講習中も、管理局に入った後も、フェイトに勝てなかった。
 まあ、フェイトのバックには大魔導師が付いてて、なのはの後ろには結界魔導師。
 結果は歴然としている。
 勝てるようになったのは、大怪我未遂のあの事件の後。
 特に、教導隊に入った後は、6:4でなのはの勝ち。
 今もこの数字は揺らがない。
 ……原因は全部俺にあるんだけどね?

「誰しも、最初からエースじゃないって話さ。俺なんか、今でさえ、シグナムに剣で勝てないし、魔法じゃなのはに勝てない。……まあ、何でもありにすれば勝てるけど」

 俺の戦い方は姑息な上、卑怯なんじゃ。
 勘弁してくれ。

「……まあ、空も飛べるようになっただろ? 魔力値も上がり始めてる……自分は大器晩成型って考えて、芽が出るまで耐えてみな? ……納得できないんなら、俺の胸を貸してやる。……一戦、やるか?」

「……はい! お願いします!」

 よしよし、立ち直った。
 ……しっかし、キタさんよぉ。
 勝手に模擬戦受けんなよ。こういうまだまだの奴だっているんだから。
 後で文句言っとこ。

「パラディン、セットアップ! 【アロンダイト】トレーニングモード! ……来い! アイビス! ベルカの業を、叩き込んでやる!」

「はい! せつなさん!」

 まあ、先に、ちょっと熱血指導しますかね。
 柄じゃないけど。



 二時間指導して、やっと第三事務室へ。
 先に戻ってたフェイトと今後の打ち合わせを……あれ?

『あ、戻ってきたわね、せつな』

「せつな、お帰り……アイビス、元気になった?」

 あれま、知ってるのか?
 そして通信ディスプレイに母さん?

「おお、さっきすっきりした顔でシャワー浴びに行ったよ。……で? 母さんはどしたの?」

 こっちに通信してくるなんて珍しい。

『仕事の依頼よ……と、言っても、ちょっと行って貰いたい所があるだけなんだけどね?』

「お使いみたいな物?」

 そういうのは自分の部下にやらせてください。

『……そうとってもらっても構わないわ。期間は一ヶ月前後。……場所は、九七管理外世界。日本の北の都市よ』

 ……北? さらに、期間長くない?

「あのさ、母さん。俺、一ヶ月も部隊空けられないんだけど?」

『あら? あなた一人が抜けたくらいで、部隊運営が滞るような、そんな柔な部隊なのかしら? あなたのドリームチームとやらは』

 カッチーン……と、来たい所だが。

「挑発は効かないぞ? 部隊は抜けても、仕事が無駄にあるんだから」

「それは私たちがやるよ。……えっとね、せつな? 約束覚えてる?」

 ? 約束?

「む、無理はしてないはずだぞ? みんなを頼ってはいるし……」

「……覚えてないね? 『有給が三〇〇日溜まったら、一ヶ月間分消化する』……覚えはある?」

「……ま、ましゃか……」

『先月の時点で、あなたの有給、三〇四日、溜まったから、その報告をフェイトさんに』

 そ、そんなに……うう、忙しくて計算するの忘れてた……
 じゃあ、その約束を果たさないと……

「覚えてるよね? 休まないと、強制的に部隊から降りて、女子学生に戻ってもらうって」

「……うう、何でそんな約束しちまったんだ俺……」

 何もこんな忙しい時に……ええい、しょうがない。
 一回休むか、長めに。

『まあ、この依頼でリフレッシュしてきなさい。ちょっと気温の低い町だけど、いいところよ?』

「へいへい。……フェイト? 連絡だけは欠かさないでな? 後、緊急事態には必ず呼び出せ。……頼むな?」

「……本当に、仕事の虫だね、せつなは……そんなに、私たちは頼りない?」

 いやぁ、頼りがいはありますよ?
 ただね?

「……バルシェム系の奴ら、何やってくるか本気で読めない時があるからな。高ランク魔導師が使い物にならない事態だって、充分考えられる……充分気をつけて仕事してくれ。頼む」

「……わかった。何かあったら、連絡する。……せつなを泣かせたり、しないから……ね?」

 む、むう……抱きしめられてしまった。
 後、頭撫でないでくれ、恥ずい。

『あー、ごほんごほん。おかーさんの前でラブシーンは勘弁して欲しいなー?』

 むぅ、無粋だぞ母。
 もう少し堪能させろ、久々の抱擁なんだから。

「……んで? 向こう行って何すりゃいいんだ? ただ休んでればいいのか?」

『ああ、それだけで済むなら、それでいいわ』

 はぁ?
 ……意味がわからんなぁ。

「何か起こるのか?」

『何も起きないかもしれないけどね? ……とにかく、あなたは行って、学生生活してくればいいだけだから』

 はあ、学生……なにぃ!?

『短期間だけの転校よ? 久しぶりの学生生活だから、ちょっと抵抗あるかもだけど、あなたなら大丈夫よ』

「……い、今更俺にスカートを履けとおっしゃる気か、かあ様は!?」

『いえす、ざっつらいと』

「……マジでか……」

 ま、また女装呼ばわりされにゃならんのか……

『後、クラウン連れて行っちゃ駄目よ? デバイスもパラディンだけ。ATは不可。兵装は杖のみ。……まあ、これで充分だと思うわ』

 何があるかもわからんのに、パラディンとブレイブハートだけ!?
 ……な、何をさせたいんだこの母は……
 よ、読めない……

『ちなみに、今週末から行って貰うから、関係者各位に連絡しといてね?』

「て、あさってやんけ!? 早く言ってくれそういうことは!」

『じゃあ、詳しくは後でね? 行く前に家寄りなさいね~?』

 ぶつ切りされる通信ディスプレイ……お、おのれ、お天気母さんめ……

「本気で揉み倒してやろうかあの人は……」

「だ、駄目だよせつな?」

 はぁうう、連絡回さないと……


 まあ、戦力増加に繋がったから、悪くはない休暇になったけど、ね?



 *おお、久々に一話にまとまった。作者です。
  次回から思いっきり道が外れ、別の作品に紛れ込みます。
  複線を集めると、どこの作品に行くかはわかりますが……ばればれ?
  以上、作者でした。



[6790] L31-1.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなと祐一と雪の街
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:f6b928c8
Date: 2009/07/10 19:43

 一日で全部の部署に謝りまくったぞこんちくしょう。
 ああいや何がって、お母様からの依頼の為、ミッドを一ヶ月ほど離れる事態に。
 中将から、カリムから、とっつあんから、各部隊の懇意にしてもらってる人や、後イングラムにまで!
 全員に頭下げて一ヶ月間の休暇&出張を許してもらった。
 部隊のほうはテッサとゼンガーさんとはやてに任せることに。
 俺がいなくても、この三人がいれば普通に稼動するからな。
 影の護衛として、レーツェルさんとシエルさんにも頼み、万が一の事態に備えてもらう。
 ……後詰めとして兄さんにも頭下げた。

『……お前は本当に心配性だな』

 とか言われても気にしない。
 だってあいつら本気で怖いし。
 帰って来たら一人二人いなくなってましたとか聞いたら、俺理性抑える自信ないよ?
 特にそれが嫁たちだったら……イングラム脅して単独で研究所落としてやる。
 カグヤにも連絡を取り、イングラムの血液とスペックデータを渡し、ドクターに依頼。
 後、カグヤにも部隊やなのは達の護衛も頼もうとしたら、流石に怒られた。

『姉さん、みんなを信頼してあげて』

 ……うう、でも心配なんだよう……
 最後にみんなに挨拶して、クラウンに留守番任せて、母さんの家に出発。
 依頼の概要を聞く。
 ……本当に、学生生活してくるだけでいいらしい。
 何の意味があるのかわからん……
 文句も不満も受け付けてくれないらしい。
 住む場所は母さんの友人の家にホームステイさせてもらうことになった。
 名前は水瀬秋子さん。
 母さんに甘くない邪夢(誤字にあらず)を送りつけた剛の人。
 何でも、その人からの依頼らしい。
 ……渡された制服を見て引いたわ。

「……み、ミニスカート……て、え? これ上着じゃないの? この上にスカート履くんだろ?」
 
「いいえ? これだけよ?」

「……何この羞恥プレイ……」

 着てみてびっくり似合わねえ……義姉さん笑うな!
 うう、蹴りが使えない……パンツ見える……す、ストッキングの着用を!
 ……不可らしい。
 おのれぇ……母さん写真取るな!

 
 とにかく出発。
 新幹線と電車で3時間。
 私服はズボンとジャンパーと……
 駅から出るとびっくりするほど寒い!
 しまった、コートも着てくりゃよかった。
 マフラーが欲しい。
 待ち合わせの時間は午後一時。場所は駅前の時計のベンチ。
 水瀬女史の娘さんが迎えに来てくれるらしい。
 カイロ代わりの缶コーヒーを買ってベンチに腰掛ける。
 ……さみぃ。

「うぉ! さむ!」

 ん? 駅から出てきた少年の第一声。
 誰かの声に似てるな……
 ざくざくと近寄ってきて……

「あ、すみません、隣いいですか?」

「あ、いいですよ?」

 俺の隣に腰掛ける。
 ……見たところ、顔立ちは悪くない。むしろよい。
 おのれ~、防寒結界張ろうとしたのに、張れなくなっちまったい。
 ……しばらく待っても待ち人はこず。
 現在二時。
 うぬれ。時間は貴重なんだぞ?

「……遅いな、あいつ……」

 お隣さんも迎え待ちらしい。
 こんな寒い中で待たされる身にもなって欲しい。
 カイロのコーヒーはもう切れた。
 ……荷物だけ置いて、再び購入。二缶。

「どぞ。……待ち合わせですか?」

 一つを少年に渡す。……あ、少年と言っても、高校生ぐらい。
 背は俺と同じ……ちょっと向こうの方が高いか?

「あ、すみません。……ええ、もう一時間待ちです」

 俺と同じか。
 
「俺もですよ……うう、仕事やってりゃよかった」

「? お仕事なさってるんですか?」

「ええ。……有給二〇〇日溜まったから消化してこいって、母と、友人達が……」

「にひゃ!? ……働きすぎは、体に毒ですよ?」

「分かってはいるんだがな~? やること一杯あって……」

 暇は出来るものじゃなく作るものらしいんだけど、言ったやつ出て来い。
 作った暇に仕事叩き込まれる俺の身になりやがれ。
 少年としばらく雑談。
 何でも、親の海外出張で彼一人取り残される形になり、一人暮らしは流石に駄目だからと、従姉妹の家に預けられることになったらしい。
 そのついでに転校もするそうだ。
 ……むう、奇遇だな。

「俺も、その高校に短期転入することに……」

「へ? ……仕事なさってるんじゃ?」

「休暇の間だけ、学生生活しろって母が……高校通えなかった俺に対する罪滅ぼしか、それともただの嫌がらせか……」

「た、大変ですねそりゃ……てか、いいのか、それ?」

 どんな裏技を使ったのかは知らない。
 ただ、あの制服は屈辱以外の何者でもない。
 転入はあさってになるそうだ。彼も一緒。

「じゃあ、下手したら同級生だ。……ああ、俺、せつな・トワ・ハラオウン。……一応日本人だ」

「俺は、相沢祐一です。よろしく」

 ほむほむ。なかなかの好青年。
 普通の女子なら胸キュン物の笑顔。
 ……普通ならな?

「む、降って来たな……雪……」

 ……で、さらに一時間経過。
 遅すぎる。
 これは新手のいじめか嫌がらせか……
 あと一時間待ってこなかったら、水瀬さんちに抗議の電話入れてやる。

「……雪、積もってるよ?」

 む? ……インテークつきのロングの少女。
 着ている服はあの変に意識しているとしか思えないミニスカ一体型制服。
 眠たげな瞳が印象的だ。可愛い。

「二時間も待たされてるからな」

「……あれ? 今何時?」

「三時」

「……わ、びっくり。まだ二時くらいだと思ってたよ」

 それでも一時間の遅刻だろそれ。天然?

「それでも一時間の遅刻だ」

 む、俺と同じツッコミを。
 お隣さんは迎えが来たようだ。
 俺の迎えはまだか~?

「ねえ、わたしの名前覚えてる?」

「……」

「わたし、覚えてるよ?」

 ……久々の再会かな?
 さっきコーヒー渡されて、七年ぶりの再会がどうこう言ってるから、確認かな?

「ゆーいち」

「花子」

「ちがうよ~」

 おいおい。少年健忘症?
 じゃ、なくて、あれは……
 からかう気満々の目だ。同類は知る。

「じゃ、太郎」

「わたし女の子~……」

 ふふ、困った顔が可愛い。
 わかってるね、祐一君。

「うう、流石にここにいるのは限界だな」

「名前~……」

 くくく。鬼だね、祐一君。
 そして決めの一言だ。

「行こうぜ? 名雪」

「……うん!」

 ふふ、その笑顔が見たかったんだねえ?
 わかるよその気持ち。
 なかなか気の合いそうな少年だ。
 ……ところで、俺の迎えはまだか?

「あ、祐一待って?」

「あ? 俺もう本気で寒いんだが?」

「うん……あれ? いないなぁ……」

 きょろきょろと周りを見渡す女の子。
 ……まさか……

「? 俺以外に、誰か探し人か?」

「うん。お母さんが、一緒に連れてきてって……女の子らしいんだけど……」

 ……どーせ、どーせ見えませんよ……

「女の子なんて待ってなかったぞ? 特徴とか名前は?」

「えっと、黒髪のショートの子で、名前が、せつな・トワ・ハラウオン」

 ……ハラオウンな? オとウは逆だからな?
 よく間違えられるけど! てか、俺も間違えたことあるけど!

「……そ、それって……」

「うぃ、俺だな」

 しゅたっと手を上げる。
 ……あ、女の子のほうびっくりしてる……ように見える。

「……びっくり。男の人かと思ったよ……」

「いや、女の人だったのかあんた」

「男だと言った覚えはないなぁ……」

 まあ、間違えられる格好と喋り方してる俺にも問題はあるが。
 今更、直せん。
 ……一度女言葉に直そうとして、なのは達に止められたしな。

「改めて。せつな・トワ・ハラ『オウ』ンだ。水瀬女史のお迎えであってるのかな?」

 間違え箇所を強調する。
 言わんと気付いてくれんし、これ。

「あ、はい。娘の名雪です。よろしく~」

 にこ~と微笑む女の子。
 ……いかん、本当に可愛い。
 あれだ、すずかに似たほんわか空気を持ってるぞこの子。
 ついつい、顔がほころぶ。

「よしよし。その笑顔に免じて、二時間の遅刻は許してあげよう」

「……あ、ごめんなさい……」

「つーか、俺はともかく、客まで待たせんなよお前……」

「うー……祐一の意地悪」

「「いや、なんでだよ」」

 ぬぉ! ハモった。
 ……やはり、気が合うな、少年。

「とにかく、移動しようぜ。流石に限界だ」

「同感だ。……名雪ちゃん、案内よろしく」

「あ、うん。いこっか?」

 名雪ちゃんの案内で、一路水瀬家へ。
 ……町並みを歩くとわかるんだが、この街、海鳴と同じくらいにキレイだ。
 その、景色や風景が。ビルや店の並び方とか、雪の積もり加減とか。
 ……なるほど。母さんの言った『いい所』ってこれのことか。
 ……流石に温泉はないらしい。うぬれ。

「祐一は、この通り覚えてる?」

「七年も前だぞ? 覚えてるわけないだろ」

 ……そうかなぁ?
 詳しくは無理でも、面影くらいは覚えてられるはずだが。

「……みんな、忘れちゃったんだね?」

「……さあな」

 ……ああ、そういうことか。

「悲しいことがあったのかな?」

「「!?」」

 二人して振り向く。
 ……忘れるってそういうことだ。

「悲しいことがあると、受け止めて乗り越える人と、全てを忘れてなかったことにしようとする人。二種類に分けられるんだ。……祐一君は後者だな」

「……たぶん、そうだな。……七年前の記憶が、曖昧なんだ。俺」

「ああ、解るよ。……俺も、八歳以前の記憶が曖昧だ」

「……二人とも、悲しいことがあったんだね……」

 でも。

「俺は一応、乗り越えようとしてる最中だ。……そっちは、どうするんだ?」

「……さて、何があったのかすら覚えてないからな……」

 まあ、そんなもんだろう。

「……悲しいことなんて、ないほうがいいよ。……笑えなくなっちゃうから」

 うん、それも分かる。
 
「でも……あ、いや、やめとくか。初対面に説教癖発揮しても仕方ないし、嫌われたりするのもあれだし」

「説教癖って……意外と老成してるのか?」

「……俺の人生濃いからな~……」

 ふふ。八歳から大人顔負けの仕事してる人間、俺らぐらいしかいねえ。
 就労年齢低すぎんだよ管理局!
 子供に面倒事押し付けんじゃない!
 ……俺の場合は自業自得だけど。
 ……それより。
 
「……俺もあさってから、その制服着なくちゃならんのだよな……欝だ……」

「あ、そうなんだ? ……似合いそうだよ?」

 それは幻覚だ。
 そうでなければ、目の検査をすることをお勧めする。

「……家族に大爆笑された……」

「……不憫な……」

 ふーんだ。
 どうせ可愛い服の似合わない、胸ペタ大女ですよーだ。


 ……さて、水瀬家に到着。
 名雪ちゃんに連れられて、家の中へ。

「おかーさーん。ただいまー。祐一とせつなさん連れてきたよー?」

「はい、おかえり名雪。……遅かったわね?」

 奥から現れたのは、インテークつきの三つ編み女性……流行ってるのか、インテーク。
 後、凄く落ち着いた声で、名雪ちゃん以上の癒しオーラが……
 すずかが成長したら、こんな感じになるのかな?
 ……今でも成長してるけど。特に胸。

「うん、遅刻しちゃった」

 せめて理由とか……いや、いいけど。

「お久しぶりです、秋子さん」

「ええ、お久しぶり。大きくなったわねぇ……」

「もう十七ですから」

 同い年か。
 じゃあ、本当に同級生になるな。
 同い年の知り合いって男じゃあまりいないから、ちょっと新鮮。
 いても、部下とかだからなぁ~……

「それで……えと、女の子と聞いていたんですけど……」

「女なんです……一応……せつな・トワ・ハラオウンです……」

「……ご、ごめんなさいね? その、ええと……」

 ああ、困らせてしまった、笑顔のまま困るとか。
 ……確かに、名雪ちゃんに似てるな、この母。
 後、纏ってる空気で分かる。
 この人は確かに、母さんの友人だ。
 タイプは違うけど。

「祐一さんの荷物は明日届くそうだけど、せつなさんのはもう届いてますよ?」

「あれ? ……母さんいつの間に……」

 さては、俺が承諾する前に手配してたな?
 もしくは、俺が謝りまくってる最中に準備したか……どっちにしても確信犯か。くそう。

「そう言えば、荷物は少ないんですね?」

「タメ口でいいぞ、祐一君……まあ、そんなに持って来る物ないし」

 必要なものはほとんどパラディンと格納用ストレージの中だし。
 ……全部出すと、ダンボール二箱分はある。

「じゃあ、名前も呼び捨てでいいぞ? 俺もそうするし」

「む。了解だ祐一。仲良くしよう」

「ああ、よろしくな、せつな」

 がっちり握手。
 ……ふむ、この頃の男の手ってこんなもんだよな……
 こっちの男、みんなデバイスだこあって、ほとんど戦士の手だからな……魔導師の癖に。

「それじゃあ、二人とも。荷物置いてきなさい。名雪? お部屋に案内してあげて?」

「はーい。こっちだよ~?」

 名雪ちゃんに連れられ、二階へ。
 彼女の右隣に祐一の部屋、反対隣が俺の部屋。
 早速入ってみると、ダンボール三つ。

「……荷物、少ないね?」

「ま、まあな……」

 女の子だから、もっと多くてもいいけど。
 ……ちなみに俺、基本的に化粧しないから化粧品その他は持ってない。
 あっても乳液とリップくらい。
 ……メンテナンスフリーの体のようで、徹夜しても肌荒れはほぼ起きない。
 アリサに羨ましがられた。
 ちょっと優越感。
 ダンボールの中を確認……あ、実家に置いてた服だこれ。
 ……スカートは無視する。しばらく私服で履きたくない。
 後、防寒装備を取り出しとこう。マフラーと手袋。後コート……て、おいおい。

「これ、AMF発生コート……レプリカで作ってもらった奴じゃん……」

 こんなもん送ってどうする気だ母……まあ、他のコート見当たらんし、これ使うか……
 サイズは俺用に大きくしてある。チンクさんのサイズだと着れん。
 後は……むむ。

「学生かばんか? 後、これは教科書?」

 内容からして、高校のものと把握。
 新品だから……転入先のか。手回しのいいことで。
 後、例の制服の予備が二着。
 ……ダンボールの中身は以上だな。……?
 底になんかある。

「……く、クラナガン名物管理局せんべい……教会直販の聖王饅頭まで……」

 お土産に大人気の二品。
 後、地球っつーか日本を馬鹿にしてんのかこれ?
 秋子さんに渡せってことかな……
 
「おし、渡しにいくか」

 お土産二つをもって一階台所へ。
 夕食の準備なのか、キッチン前に立っている秋子さんを発見。

「秋子さん? 母からの土産が入ってましたから、よかったらどうぞ」

「あら? ありがとう……リンディったら、こんな直球な物を……」

 ですよねぇ?
 隠す気ないな、あの人。
 いや、むしろ直球だからこそばれないとか?

「今、お茶入れますね? お砂糖は何杯入れましょうか?」

「……緑茶なら、砂糖いりませんから……やっぱり知ってるのか、リンディ茶……」

 あの人の特殊味覚知ってる人なら、俺もそうだと思われてしまうようだ。
 ……兄さんも苦労したらしい。

「はいどうぞ」

「あ、ども」

 お茶を受け取ってすする……あ、美味しい。
 やっとひとごこちつけた……

「……リンディから話は聞いてますよ? 若いのに、査察官なんですってね?」

 む。やはり関係者か。

「まあ、成り行きで……えと、母とはどんな友人なんですか?」

「リンディとは訓練校の同期なんですよ。私の方が年下なんですけど、私は技術科だったので」

 技術科と航行科って接点あるの?

「彼女のデバイス、私が作ったものなんです。……デバイスマイスターとメカニックマイスター持ってますから」

「あ、なるほど、それで……じゃあ、技術局の非常勤とかですか?」

「今は局を辞めてフリーです。……ああ、そうだわ。一つお願いがあるんですけど」

 ? なんだろ?
 立ち上がって奥の部屋へ。
 ……すぐに戻ってきて、着席しながら、赤と青の宝石二つをテーブルに置いた……て、これ、

「デバイス……ですか?」

「はい。……これは、航行隊の執務官とその友人の物なんですけど、最終調整を頼まれたまま、辞めてしまって、返せなくなってしまったんです。もし、その人に会ったら、返してあげて欲しいんです」

 ? どこかで、聞いたぞ?
 似た様なこと。

「えっと、その執務官の名前は?」

「……それが、これ、その執務官のお父様からの預かり物なんです。だから、その人本人の名前は知りません。お父様のほうは、もう故人ですけど、マイヤー・V・ブランシュタイン提督。……ご存知ですか?」

 !? えええ!? 
 じゃ、じゃあ、これって!?

「『ダイゼンガー』と『アウセンザイター』!?」

「あら。知ってるのね?」

「……ふ、二人とも、うちの部隊にいますよ……秋子さんだったんですね。行方の分からなくなってるマイスターって……」

 うはぁ。
 こんなに早く見つかるなんて、ぬぁんてらっきぃ。
 これは母さんに感謝しないと……
 ……知ってて俺よこしたんなら揉み倒すけど。

「もしかして、向こうも私を探してたのかしら? ……悪いことしてしまいましたね……」

「あ、いえいえ。見つかったらって話だったので……喜びますよ、兄さんに親分」

 ふ、ふはははははは!!
 これなら勝てる!
 ユーゼス恐るるに足らず!
 ……でも、ロボットじゃないから、逸騎刀閃は使えないよなぁ……
 ……いかんいかん。親分肩車した兄さん想像してしまった。
 いくらなんでも間抜けすぎる。

「じゃあ、これは預かっておきますね?」

「ええ、おねがいします。……それとなんですけど……」

 ? まだなにかあるんだろうか?

「私が管理局にいたことを、娘に話さないで欲しいんです。……できれば、祐一さんにも」

「……ミッドの事は、内緒。で、いいんですね?」

「はい。お願いできますか?」

 もちろん。

「わかりました。……知らなければ、それでいい事もありますよ」

「……あなたは、知らなければよかったですか?」

 ……本当は。

「管理局に入らずに、こっちでのんびり暮らしたかったんですけどね……知っちゃったし、出会っちゃいましたから」

 大切な人に。
 地球だけでなく、ミッドチルダにも。
 なら、せめて、その人だけでも守れるように。

「……せつなさんは、強いんですね」

「心配性な上、臆病なだけですよ……今でさえ、あいつらが無事でいるかどうか心配で……」

「……大丈夫。きっと、大丈夫ですよ」

 だと、いいんだけど……


 その日は夕食をみんなで食べて終了。
 明日一日フリーで過ごし、あさってから学校だ。
 ……諦めてた学生生活……しかも、俺一人だけ……
 ……まあ、切り替えるか。気持ち。
 
 寝る前にフェイトに連絡。
 
『とりあえず、今日は何もなかったけど……その、もしかして、毎日連絡するつもり?』

「……迷惑かな? 泣きながら連絡するけど」

『……せつなって、結構心配性なんだね? ……ちょっと意外』

「てか、心配性じゃなかったら、ここまでいろいろやってないと思うぞ? 普通に」

『それもそうだね。……そっちの街はどう? いい所?』

「ああ、少し寒いのは難点だが……景色はいいな。友達も出来たし」

『……昔から、友達作るの上手いよね……女の子?』

「下宿先の娘さんと、同じ居候の従兄弟。男だよ、そっちは」

『……えっと、問題ないとは思うけど、浮気は駄目だよ?』

「浮気っておま……大丈夫だよ。俺の性癖知ってるだろ?」

 男にはなびきません。
 ……まあ、いい親友にはなれるけど。

『そっちじゃなくて、その娘さんの方』

「てめえ。信用してないな? ……大体、その子、その従兄弟に夢中だよ」

 あれは完全に恋する乙女の目だ……
 もしくは、傍にいて当然な人を見る目。
 ……それが、いなくなったら、辛いだろうなぁ……

『じゃあ、安心だね。……こっちは任せて、ゆっくり休んでね?』

「わかった。おやすみ、フェイト」

『おやすみ、せつな』

 通信を切る。
 ……まあ、一日二日で何か起こるはずもないか。
 はぁ……いい加減、嫁離れしなきゃならんのかねぇ……
 て、それ離婚じゃん。
 
「……寝るか」

 布団にもぐって電気を消す。
 久々に仕事しなかったな……一つも。
 何年振りだろ……





[6790] L31-2.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなと祐一と新しい生活
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:9ee4ff7a
Date: 2009/07/18 18:37

 ――――― ゆめ ―――――

 ――――― 夢を見ている ―――――

 ――――― まっしろなゆめ。あかいゆめ ―――――

 ――――― 悔しくて ―――――

 ――――― 悲しくて ―――――

 ――――― ただ、泣いている、おとこのこ ―――――

 ――――― あれは、だれ? ―――――

 ――――― あれは……




 いや、誰よ本当に……?
 む、朝か……

「む、うう~~~~~~ん」

 ベッドの上で伸び。
 ……窓から日が差してる。
 いい天気だ。

「あれ~~~~……ないよ~~~~」

 ? なんか廊下が騒がしいな、ぺたぺた。
 パジャマ姿のまま部屋の外へ。
 あ、祐一も出てきた。

「何だ朝から、騒々しい」

「どうしたの、名雪ちゃん?」

「あ、二人とも、おはよう」

 ……あ、うん。

「おはよう」「どうしたんだ?」

「ゆーいち? 朝は、おはよう、だよ?」

 ……いかん。普通に萌えてしまった今。
 うん、名雪ちゃんが正しい。

「あ、ああ。おはよう。……で? どうしたんだ?」

「あ、うん、制服がないんだよ。時間ないのに~~」

 ……焦ってるつもりなんだけど、焦ってるようには見えん。
 
「制服って、あの変なのか?」

 その意見には同感だ! 激しく!

「変じゃないよ、可愛いよ」

 ……似合わない人の事も考えてくれ、頼むから!

「……ゆーいち、知らない?」

「俺が知るか」

 知ってたら、ちょっと付き合い方を考えなくちゃいけない。
 つーか。

「洗濯にでも出したんじゃないか? 秋子さんにも聞いて見た?」

「……あ」

 パタパタと下に降りる……
 仕草がいちいち可愛い……
 ……あ、戻ってきた。

「あったよ~~~!」

 いちいち見せんでよろしい。

「急いでるんじゃないのか? 早く着替えろよ」

「そうなんだよ~……時間ないよ~~……」

 自分の部屋に入って、着替え……
 く、布ズレの音聞こえるとか……強化しすぎだ俺の感覚!

「まだ冷たいよ~~」

「我慢しろ」

「うー。肌に張り付く~……」

 ……可愛いんだけど、いい加減うざくなってきた。
 すずかよりものんびりやさんだから、ちょっとね……

「おまたせ~」

 着替えて出てきたのはいいが、俺らは別に待ってない。
 
「じゃあ下行くか」

 朝御飯用意してくれてるみたいだし……匂いでわかる。
 三人で下に降りると、台所に秋子さん。

「あら? みんなおはよう。祐一さんもせつなさんも、まだ休んでてもいいのに」

「「いや、こいつに起こされました」」

「二人して言わなくてもいいよ~……」

 ……気が合いすぎるな。
 まさか、生き別れの双子?
 ……な、わけないか。

「それより、急ぐんじゃなかったのか?」

「そうだよ~。時間ないんだよ~」

「じゃあ、早く行け」

「う~。朝御飯……」

「諦めろ。……ああ、そうだ、名雪。帰ってきたらでいいから、街の案内頼む」

「……うん! いいよ~」

 そういえば。

「今日まで休みなのに、何で学校?」

「……部活なんだよ。陸上部。……わたし、部長さんだから」

「名雪が部長ねぇ……」

「走るの好きだから」

 ……だからインテークなのか?
 いやそれはないか……

「それじゃ、行ってくるね~?」

「おう、気をつけてな」

「頑張ってな~」

 ……うーん。最後までのんびりしてたな彼女。
 冬休みなのに部活ねぇ……

「もったいない」

「なにがだ?」

「せっかくの休みに部活なんて……こっちは休めなくても休めないのに……今月休まされたけど……しかも、学校行かなくちゃならなくなったし……」

「……本当に不憫な……」

 どうせ休むなら、温泉巡りに行かせて欲しい。
 もしくはなのは達と旅行がいいな。
 ……無理か。

「二人とも? 朝御飯は食べますか?」

「「食べます」」

「じゃあ準備しますね?」

 ……えっと。

「さっきから思ってたんだが。祐一?」

「ああ、俺も思ったぞ、せつな」

 せーの。

「「もしかして俺ら双子か?」」

「……気の合い方が尋常じゃないなこれ……はやて以上とか……」

「まったくだ……そのはやてって人は知らないが……」

 よい友達になるかもしれんよ。俺ら。
 ……朝食は美味しくいただきました。

 ……昼までのんびりくつろぐ事に。
 祐一と雑談。

「じゃあ、中学でてすぐに仕事か……高校は行ってなかったのか?」

「ああ。母さんの仕事の手伝いだからな。……まあ、大検はとったから、大学生レベルの頭はあるんだわ、俺」

 中学卒業式の翌日に試験。
 その後合格、六人とも。
 ……中学の担任、最後まで皆の進学を惜しがってたな。

「じゃあ、もし分からないところがあったら教えてくれ。俺、あんまり成績よくないからさ」

「おう、構わんぞ~? ……女教師と年上の先輩とどっちがいい?」

「……せつなじゃどっちも微妙じゃね?」

「……すまん、俺もそう思った……」

 谷間が~……あ、そういえば。

「ちょっと待ってな?」

 居間から二階へ、そして部屋に。
 服を着替え、ブラに仕込み、制服に着替えて……
 再び居間へ。

「どうだ!」

「……お前、それ……に、偽乳?」

 はやての京都土産を詰めてみました。
 ……カリムに渡したら流石に泣かれて、シャッハに怒られた。
 ……真相話したら、はやて呼び出しの上、俺共々説教喰らった。
 何故、俺まで……
 教会内で『騎士カリムに偽乳を渡して泣かせた騎士』と有名になったのは自慢にならない逸話。

「うん。……どうよ? 色っぽい?」

「……すまん、やはり微妙だ」

「……そっか」

 orz

「くそー。中学の修学旅行の土産なんだけどな、これ」

「ああ、先輩の?」

「んにゃ、同級の。……俺、病気でいけなかったし(と、言う設定)」

「ああ、そうなん……設定?」

「小学は親の病気で二日目に連れ戻されたし(てことにしとく。くそー、あの親父めー)」

「……そ、そうなのか……? 親父?」

「高校行かなかったから、修学旅行なんて概念ないし!(ちくしょー!! 何が悲しくて剣振りまわさにゃならんのだ!)」

「……お、おーい?」

「青い空なんて、だいっきらいだーーー!!(俺の青春を返せーーー!!)」

「……なんだこれ?」

 くそう、ついつい叫んじまった。
 修学旅行関連全部おじゃんだからな……
 なのは達に苦笑いされること請け合い。
 中学の件はいまだカリムに謝られるんだぞ、これ。

「(……? えっと、これか?)」

 え?
 ……ふと、祐一を見る。
 向こうも不思議な顔をしてる……

「(……せつな?)」

 !? え、ええ!?

「……え、えと?」

「あ、ああ……さっきから、言葉の裏になんか聞こえてるから、何かなー……て」

 やば、台詞に隠した思考読まれ……まさか?
 祐一って魔導師?
 ……じゃ、ないよな。秋子さん隠してくれって言ってたし。
 てことは……リンカーコア持ちか。
 
「……えっと。(これ、聞こえる?)」

 口に人差し指を当てて、念話を送る。
 あ、反応した。

「……(聞こえた。……なにこれ? テレパシーかなんかか?)」

「……(似たようなもんだ。思念会話。通称念話。……まあ、何で俺らに通用するかは、聞かないで)」

「……理由がある……とか?」

「口止めされてる……まあ、使えれば便利ってだけにしといてくれ」

 わざわざ教える必要もないだろ。
 魔導師なんて因果な職業。

「……まあ、話せないって言うなら、聞かないさ」

「悪いな。あれだ。双子のテレパスでもいいぞ?」

「似たようなもんか? ……まあ、それでいいか」

 すまんね。
 ……君は平和な世界で生きればいいよ。
 危険な世界に、わざわざ首突っ込むことはない。
 そういうのは。
 既に突っ込んだ人間の仕事なんだから。

 昼前には名雪ちゃん帰ってきた。
 昼食後、祐一と名雪ちゃんは買い物ついでにお出かけ。
 誘われたけど、確認があるので辞退。

「……秋子さん。ちょっといいですか?」

「はい? どうしました?」

 祐一が念話を使えることを話す。
 ……顔色からするに、どうも知ってたようだ。

「……そう、ですか……」

「すんません。俺の不注意で。……一応、誤魔化してはおきました」

「ありがとうございます……祐一さん、魔力持ちだって知ってたんですけど……」

 秋子さんは語る。
 彼女の旦那が魔導師で、秋子さんとは幼馴染だったそうだ。
 旦那についていく形で管理局に入局。
 しばらくして、結婚し、名雪ちゃんを生み、その後、旦那が死亡する。
 局から離れ、この地に住み、姉が生んだ甥の祐一と出会う。
 その時には、彼はもう魔力持ちだったそうだ。
 秋子さんは非魔導師だが、魔力持ちを見分けることが出来るらしい。
 デバイスマイスターはよくそういうスキルを持つという。
 ……そう言えば、アリサやすずかも最近そんなこと言ってたような……

「祐一さん、七年前に、悲しいことがあって、実家に戻った後も、しばらく塞ぎこんでいたそうです。……今は、吹っ切れたように思えますが……」

「……吹っ切れてませんよ、あれは」

 あれは、忘れていると思い込んでいるだけだ。
 悲しいことを押さえつけ、忘れていると、信じ込んでいるだけ。

「……あなたも、同じようなことが?」

「……俺の場合は特殊ですよ。……でも、四年間、生きた人形でしたよ。見るものも見ず、喋る事もせず。……動くだけのお人形」

 それでも、乗り越えようと努力して、いる。
 そう信じたい。
 悲しいだけじゃ、辛いから。
 忘れるだけじゃ、足りないから。

「……もし、あいつが気付くようなら、俺の力を貸します。……そうでないなら、あいつは、平和なこの世界で暮らさせてやってください」

「……そうですね。……もし、その時が来たら、祐一さんの力になってあげてください」

「ええ。友達になりましたしね?」

 友人には、悲しい思いはしてもらいたくないし。
 まあ、力くらいならいつでも貸してやるさ。
 ……求めれば、な?

 夕方に二人戻ってきた。
 が。

「あら、大きなおでん種」

「あ、秋子さん?」

 別の意味で食べるとか?
 祐一君、誘拐はいけないよ?

「まさか祐一がロリペドだったなんて……」

「誰がロリだ! ……てか、これロリか?」

 担いでいる女の子を手渡される。
 ……? あれ?

「真琴? ……みっしーのところの真琴か」

「? せつなさん、知り合い?」

「あ、ああ……」

 無限書庫のお局……いやいや。
 美少女司書長補佐、天野美汐の使い魔だ。
 幼い頃、大怪我をしたこの子を見つけ、同じ魔導師の母に使い魔処理をしてもらい、自分の使い魔にしたと話している。
 狐ベースで、炎熱変換資質持ち。
 そのせいか、無限書庫には入れてもらえず、受付で本を読んでいた覚えがある。
 ……主に漫画本だったので、俺も持ってきて貸したら懐かれた。
 ……なお、主はユーノと恋仲である……本人否定するけど、傍から見たらあれ夫婦だって絶対。
 で、何で真琴がここに?

「ああ、なんか、帰り道で襲われた」

「はぁ!? ……人襲うような子じゃないんだぞ、こいつ」

「でも、いきなり殴りかかってきたぞ? ……頭抑えたらリーチ足りなくて、当たらなかったけど」

 ……ああ、うん。想像にたやすいな……

「で、そのまま倒れて、意識不明」

 ……はぁ。仕方ないな。

「俺の部屋で休ませるよ。友人の……友達だし」

 あぶね、使い魔言いかけた。
 部屋に戻り、ベッドに真琴を寝かせてパラディンに体調を調べてもらう。
 結果。

「……主とのラインが薄れてる?」

【はい。酷くラインが細くなってます……それで、供給魔力が足りなくなったのかと】

「仕方ない。俺のを分けようか」

 魔力バイパスをパラディン経由で繋げ、供給開始。
 ……真琴の顔に、赤みが差し、

「……? ふぇ?」

「と、起きたな? 俺が分かるか? 真琴?」

「……!? ええ!? せつな!?」

 よっし、起きた起きた。

「どうしてここに!?」

「それは俺の台詞。……お前、祐一に襲い掛かって倒れたって聞いたぞ? 祐一に恨みでもあるのか?」

「……祐一って?」
 
 知らんのかい。

「倒れる前、誰かに殴りかかったのは覚えてるか?」

「……うん。覚えてる」

「そいつの名前。相沢祐一って言うんだ。……人襲うなんて、お前やらないだろ? 何があったんだ?」

 むしろ、知らない人間が来たら隠れるしな、こいつ。
 餌は漫画か肉まんで釣れる。
 与え続けると懐く。
 あまり続けると保護者が出てきて怒り出すが。

「……わかんない。でも、許せなかったの」

「許せないって……憎いってことか?」

「うん……あいつ、許せないの」

 ……確かに、憎しみは感じられるんだけど……
 どっちかと言えば、構ってもらえなくて、拗ねてる子供の顔だ、これ。
 
「……とにかく、美汐のところに帰るか? この近くなんだろ?」

 主とのラインが細まってるって言うんなら、なんとかしないと。

「……やだ。帰らない!」

「……へ?」

「あいつにふくしうするまで、帰らない!」

「……真琴? ふくしゅうな? 復讐」

「あう?」

 ……舌っ足らずなんだよな、こいつ。時々噛む。
 
「……じゃあ、その、まず、連絡だけするけど、それは構わないな? ……美汐を心配させるな?」

「……うん。せつな、ごめん……」

「構わんよ。友達だからな」

「……えへへー。せつな好きー」

 ううむ。使い魔に好かれてもな……
 とにかく通信を……

「せつなー? 飯できたって……あ、起きたのか?」

 と、でたな祐一。

「む! てぇりゃぁー!!」

「て、まてい!」

「むぎゅ!」

 飛び蹴りモーションに入った真琴を掴んで落とす。
 人の部屋で喧嘩は困ります。

「せつな! 離して! こいつ懲らしめてやるんだからー!」

「な、なんなんだ? 俺、何かしたのか?」

「……弄んだ上に捨てたとか? 祐一意外と鬼畜?」

「してねぇ! てか、こいつでどうやって欲情するんだ?」

 うわぁ。
 あんた結構セメントですね。
 可愛いのに。

「真琴、懐くと可愛いとこあるんだがな。……この反応は始めてみた」

「うぁ、そうなのか……なあ、俺になんか恨みでもあるのか?」

 しゃがみこんで聞いてみる祐一。

「……わかんないわよ! でも、許せないの! あんただけは!」

「……俺がわけわからん」

「俺もだ。……と、とにかく、飯だって? ……秋子さんに頼んで、あと一人分用意してもらえるよう言ってもらえないかな?」

 真琴にも食べさせないと。
 一応魔力供給したけど、食事させて自力で魔力生成させないと。
 
「……分かった、言ってくるよ」

「すまん。……ほれ、真琴。祐一にお礼」

「な、何で私がこいつにお礼言わなくちゃなんないのよ!」

「……いきなりのお客さんのご飯を頼むんだ。それで、その役目を俺の代わりに、祐一に頼む。……お礼を言う人物は誰だ?」

 元が野生なものだから、こういう礼儀とかは逐一教えないといけないって美汐言ってたからな。
 俺も、現場に出くわしたらこうやって教えてる。

「……あ、ありがとう……」

 そして、俺の言葉は美汐とユーノの次に正しいという認識を与えることに成功した。
 ……こいつ、ユーノの言う事もちゃんと聞く、いい子なんだけどな……
 言ったとおりに、祐一にお礼を言う真琴。ただし視線は向けない。

「あ、ああ……じゃあ、言ってくるな?」

「ありがとな? ……さて、今の内に」

 連絡……て、あんまり待たせるのもあれか。
 どうせあの二人の事だ。
 遅くまで仕事してるに違いない。
 なら、今の内に……

「真琴、手と顔、洗おうな?」

「あう?」

 よく見たらドロだらけである。


 今日のご飯はおでんだった……
 秋子さん、いくら狐ベースでも、使い魔煮ちゃ駄目ですよ……
 美汐の教育がいいので、真琴は食事のマナーは完璧。
 頂きますからご馳走様まではきちんとできる。
 ……幼児を躾けてる様だとこぼしていたのは秘密。

「……それじゃあ、保護者の方に?」

「あ、はい。俺のほうから連絡入れて……もし、よかったら、俺の部屋に泊めたいんですけど」

「了承」

 ……返答時間0.1秒?
 これが母さんのあれの本家か……

「だって。真琴?」

「あ、ありがとう! 秋子さん!」

「……それで、俺が懲らしめられなきゃならんのか?」

 ……あれだ。

「運命という奴だな。真琴の自由攻撃にやられるまで逃げ続けないとだ」

「……じゃあ俺は正義を出せば何とかなるのか?」

「? 何の話?」

 種死は名雪ちゃんには通じないようです。
 
「ふふん! 覚悟しなさい! ゆーいちは私が成敗してやるんだから!」

「……せつな。保護者に送り返せないのか?」

「すまんな祐一。俺は基本的に可愛い女の子の味方だ」

 準妹分だからな。……その、使い魔を妹扱いしないでくれって保護者に言われて……
 その保護者は妹分五号だが。
 賑やかな食事になりました。

 お風呂から上がって(ついでに真琴も入れた)、無限書庫に連絡。
 一発でユーノが出た。実は暇か?

『あれ? 休暇してるって聞いたんだけど?』

「休暇中に拾っちまったんだから仕方ないだろう、問題を。……奥さんいるか?」

 みっしーの事なのだが、もうこの言葉じゃ動揺しないから、つまんないよユーノ。
 本人悪い気はしてないみたいだし。

『美汐さんなら、家のほうに帰ったはずだけど? 家は、そっちの方にあるよ?』

「て、ことは……真琴? みっしーの家の電話番号は?」

「……わかんない」

 おいおい。
 一度服を漁らせて貰い、何かないか調べる……ないだとう?
 持たせといてくれよ、こういう時困るから!

『あ、あったよ? 通信機、家においてるみたいだから、番号言うね?』

「ナイスだユーノ」

 その気遣いに感謝します。
 無限書庫との通信を終え、すぐにみっしーの回線へ。
 ……でない。

「……くそー。でないぞー?」

「あう……」

 もうしばらく待ってみる……

『……はい』

「美汐か? せつなだけど」

『せつなさん! あの、真琴見ませんでしたか!?』

 やっぱり、外探し回ってたな?

「安心しろ、俺のほうで保護した」

『よかった……』

「ほら真琴! ご主人様、凄く心配してるぞ!?」

「ご、ごめんなさい……美汐、ごめんなさい」

『……無事でよかった……真琴……』

 ……みっしーは優しい子だからな。
 使い魔のために泣いてあげられる子だ。
 ……フェイトも、同じだろうけど。

「それで、お前とのラインが細くなってるみたいなんだが、心当たりあるか?」

『……いえ、私のほうは分かりません……真琴? 私の念話、届かなかったの?』

「……うん。美汐の念話、届かないよ……」

「お前の方から送ってみな?」

 ちょっとまずいか、これ?

「……どうだ?」

『……駄目です、届きません……』

「あうぅ……」

 長距離念話は無理か……美汐自身、あまりランクの高い魔導師じゃないしな。
 ……よし。

「とにかく、しばらくはこっちで預かるよ。お前は明日は仕事?」

『あ、いえ、その……学校が始まってしまうので、しばらくはこっちにいます』

 ……学校?
 ああ、そう言えば、通学しながら書庫の方に通ってるって話だったな……
 ……げ。

「それって、まさか、あの、赤い制服の? 誘惑してるとしか思えないあの制服の?」

『……ど、独特なデザインの制服ですよね? ……まさかせつなさん、そこに……』

「……明日から通う……お前と同じ制服で……」

『……そんな酷な事はないでしょう……』

 可哀想なものを見る目で言うな。
 すげー泣きたくなる。

「じゃあ、明日、会うことにしようか。……笑いたかったら笑って構わん」

『そ、そこまで不出来に出来てません! ……そ、その、私も、あまり似合っているとは思えませんし』

「いや、それは嘘だろう。……ユーノが見たら淫獣モード確定だ」

『ユーノさんは関係ありません!』

 ふはは。やはりこの子は弄りがいあるから好きだわ。
 真っ赤にしてかわいー。

「じゃあ、また明日」

『……では、明日に』

 通信終了。……はぁ。

「どうしたものかな……? 真琴?」

 ……静かだと思ったら、寝てやがる……
 ベッドに入れて、俺はその隣で、布団をかける。
 体温高いなー……お子様みたい。

 ……あ。

 まずいまずい。
 フェイトに連絡入れるの忘れてた。

『あ、せつなちゃん』

「あれ? 番号間違えたか?」

 何故になのは?

『ううん? ちゃんと第三事務室だよ?』

「あれ? 何でなのはが?」

『フェイトちゃんから話聞いて、それならみんなでローテーションで連絡しようって。……これなら、安心だよね?』

 ……そうだな。
 いやはや。

「すまん、迷惑かける」

『いいよ。……えっと、今日の連絡事項だけど……』

 特に目立った動きはなし。
 災害救助で出動が一件。
 被害者に怪我はなし。よしよし。
 あと、

『アイビスがね? せつなちゃんに聞きたいことがあるんだって。えっと、魔力圧縮系の質問みたい』

「うあ、今そっち戻るとお前ら怒るしな……えっと、圧縮系ならゼンガー隊長の得意分野だからそっちに直接聞くように言ってくれ。もし、それでも俺の意見が聞きたいって言うなら、質問文と自分なりの回答を添えて次の連絡係に渡すように言ってくれ。頼む」

『うん、わかった。……それと、聞いたよ? アイビス、せつなちゃんに憧れてるんだって?』

「あ、う、そ、そうらしい……二年前のほら、航空隊の隊員蹴ったやつあるだろ? あの時の喧嘩まがいの模擬戦、見られてた……」

『そうなんだ? 凄くキレイだって言ってたんだけど……せつなちゃん、局で模擬戦しないから、珍しいなって。せつなちゃんに憧れる人』

「……あいつのデバイスな? 俺のアロンダイトをベースにしてるらしい。……わざわざ俺にデータ借りて作った、あいつの兄貴分の遺品なんだと」

『……じゃあ、せつなちゃんの弟子になるんだね? ふふ、大切に育てないとね?』

「……そうだな」

 奇特な子だよ。
 俺なんかに憧れるなんて……
 まあ、

「本来の俺の戦闘スタイル見てないからかもしれんがな~?」

『……せつなちゃんは、基本的に卑怯だもんね。……挑発や言葉責めや人の苦手な位置からちくちくやるの大好きだし』

「文句はパラディンに言え。あいつの生前も、同じ事やってたらしい……敵兵士が女だったら、必ず揉んでたって話だし……」

『古代にもはやてちゃんいたんだね……』

 古代ベルカの騎士は変態か、マジで。
 守護騎士の前では言えないけど。
 ……そう言えば、あいつら、クラウンスルーしてるけど……もしかして気付いてないのか?
 分からん……

『それじゃあ、明日ははやてちゃんだから』

「わかった。おやすみ~」

『おやすみ、せつなちゃん』

 ……よし、寝る……

「……」

「……い、今の、何?」

 ゆ、祐一君……?
 俺の部屋のドア開けたまま固まっている。
 いつの間に……

「……ノックはした?」

「……何度も……」

 き、気付かんかった……
 知らない土地の上、仕事休みだからって気が抜けてるのか?
 い、いかん、早朝訓練ちゃんとやらないと……

「……あ、あれだ! テレビ電話!」

「おお、テレビ電話!」

「そうそう! テレビ電話……」

「……まあ、そういうことにしとけばいいんだな?」

「……お願いします……」

 誤魔化しきってないけど誤魔化せたか。
 祐一君の広い心に感謝。

「……ああ、それで、目覚まし時計余ってないかな?」

 普通余るもんじゃないが……パラディンに起こして貰うことにして。

「じゃあ、一日だけ貸すよ。明日には返してくれ」

「む、いいのか?」

「まかせろ。元々早起きだし、もう寝るし」

 小学の頃は五時起きが普通でした。
 今でも、意識すればそれくらいに起きれます。

「……分かった、じゃあ借りるな?」

「おう。……じゃ、おやすみ」

「おやすみ~……せぇふ?」

 お情けでセーフ。
 ……祐一君は話せる人だなぁ……


 ……ん?
 あれ? 真琴がいない……時間……て、目覚まし、祐一が持ってったんだっけ?
 真琴はトイレか……て、場所知ってるのか?
 音を立てないように部屋の外へ。
 ……? いたにはいたけど、どこに入ろうとしてる?
 あれ、祐一の部屋だよな……
 ……入ってっちゃった……おいおい。
 寝てるすきに、首絞めようって……ないか、真琴だし。
 後は、簡単な悪戯あたりか?
 とにかく、フォローにまわるか。

「……!? ……!!」

 はぁ、なにやった?
 今の悲鳴は祐一のだな。
 音を立てずに接近。
 祐一の部屋へ。

「お~ま~え~な~!!」

「あ、あうぅ!?」

 真琴が頭に手をやって痛がっている。
 拳を握った祐一。
 ……えっと、制裁した後か。

「真琴? 何やったの?」

「あ、せつな」

 声に気付いて近づいてくる。
 その手には……こんにゃく?

「祐一が酷いの! 頭ゴツンって!」

「お前の方が酷いわ! 寝てる顔にこんにゃくぶつけやがって!」

 ……低レベルな喧嘩だなぁ……
 なんか、癒される……

「……おいせつな? 何でそんな微笑ましい顔になってんだ?」

「ううん? 気にしないで? ……人の安眠妨害で起こされて、部下の喧嘩制圧して、理由聞いたら『市販の紅茶は何処がいいかを話し合ってたら言い合いになった』なぁんて言って来る部下に比べたら、可愛いもんだなぁ……と」

 まあ、タスクとユウキの事だが。
 当然弾幕訓練の的にしてやった。

「……真琴? 夜中の悪戯は住人迷惑になるから、やめなさい。……今度やったら、美汐のところに強制送還な?」

「あ、あう……ごめんなさい」

「それって、昼間ならやっていいって言ってないか?」

 ち、鋭いじゃないか。

「すまんな祐一。真琴の代わりに謝っておくよ」

「俺は本人から謝って欲しいが……まあいいけど」

「べーだ」

 こらこら。
 あっかんベーは顔が醜くなるからやめなさい。

「じゃあ、おやすみ」

「おう……真琴? 今度やったら、容赦しないからな?」

「ふんっだ!」

 祐一の部屋から出て、真琴を連れて自分の部屋へ。
 布団に入れて、自分も入る。

「……真琴? 夜中の悪戯はやめること。その代わり、明日は肉まんを買ってきてあげよう」

「ホント!? ありがとせつな!」

 布団の中で抱き付かれる……うーん。
 本当に犬猫に懐かれてるようなもんなんだよなぁ……
 欲情もしねぇ。
 ……密かに胸あるのはみっしーの趣味か……?
 ……そんな酷な事はないでしょう。





[6790] L31-3.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなと祐一と初登校の再会 前
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:f6b928c8
Date: 2009/07/21 12:04
 ――――― ゆめ。―――――

 ――――― 夢を見ている ―――――

 て、まてコラそこの羽娘。

「う、うぐぅ!? 捕まえられた!?」

 ……なんじゃこいつ?
 なのはよりも明るい亜麻色の髪、肩まであるロングで、カチューシャつけてる。
 茶色のコート着て、手にはミトン。
 ……羽付きのカバン? アニメグッズか?
 そして、全体的に……

「ちっこい」

「うぐぅ!? ちっこくないよう! ……そ、そりゃぁ、あんまりないけど……」

「いや、ちっこい、背丈とか、容姿とか……小学生?」

「ぼく、十七だもん!」

 おいおい。
 俺とタメかい。
 見えない。

「で? お前さん名前は?」

「え? ぼく?」

「そう、無断で人の夢に乗り込んできてる不法侵入者の名前」

「……うぐぅ……」

 それは新手の萌え発言なのだろうか?
 かなり使い古されてるような気もするけど。
 まあ、可愛いけど。鳴き声。
 
「ぼく、月宮あゆ」

「ほう、あゆちゃんか。……塩ふって焼いたら美味いかな?」

「さかなじゃないよ!」

 ふむ、この子は虐めると楽しい子だな。
 ……なのはみたい。

「で、どうして俺の夢に? 今名前聞いたぐらいだから、初対面だよな?」

「……わからないよ。……どうして貴方の夢にいるのかなんて、分からない……」

 ……浮浪意識体か?
 レポートでそういう件名はあったはずだが……
 むぅ、ちゃんと見てないんだよな。
 ……まあいいか。

「まあ、あまり俺の夢にはこない方がいい。……時たま、怖い夢見てるからな」

「……そうなの? ……どんな?」

 ……端的に言えば。

「お子様に見せられる夢じゃないさ」

「ぼく、お子様じゃないよ!」

 どこから見てもお子様です。
 ついつい頭撫でてしまう。
 ぐりぐり……

「うぐぅ……お子様じゃないのに~……」

「はっはっは……と、そろそろ時間か」

 意識が薄れて(浮かび上がって)くる。
 パラディンの呼び声が聞こえる。

「え? あ、夢……起きるんだね?」

「そういうことだ。縁が会ったらまたな?」

「あ! お兄さんの名前!」






 ぴし。





「絶対に教えてやらん!」

 ……あれ? ……夢?
 ……変な夢見た……



 住人を起こさないように外へ。
 道なりにロードワーク。
 いい広場がないか探しながらランニングを続ける。
 ……方向音痴ではないので、迷うことはない。
 ……が、いい広場がない。
 おのれ……明日は別のルートを通ることに決め、転進。
 午前六時過ぎに水瀬家に帰還。
 ……家に入ると、秋子さんは起きてました。

「あら? ……訓練ですか?」

「あ、いえ、ランニングだけ……広場が見当たらなかったので」

「そうですか……あ、朝御飯の準備はすぐ出来ますよ?」

「その前にシャワーだけ借りますね?」

「はいどうぞ。六時半前後には名雪も降りてくる……はずですから」

 はず?
 ……お寝坊さん?
 まあいいか。
 十分で汗を流し、部屋に戻って制服に着替え。
 真琴はまだ寝てる。
 カバンに教材を……あ、時間割しらねえ。
 ……いいや、裏技。ストレージに教材全部詰める。
 それをカバンの中に。
 これで取り出せば、普通に見えるだろう……たぶん。
 よし、そろそろ……

『ジィ』

 ん?

『ジィッィィィイィィィィィィィ!!』

『リンリンリンリンリンリンリンリンリ!!』

『サイショカラクライマックスダゼ!! オンドゥルラギッタンディスカー!!』

『ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャン!!』

『オッキローオッキローオッキローオッキロー!!』

 うわぁ!?
 な、なんだなんだぁ!?

「あうぅぅぅ!? なになになにぃ!?」

 うわ、真琴も起きちまった。
 そうですよね起きますよね、なんだこの騒音公害!
 部屋から飛び出ると、祐一も出てきた。
 ……音の発生源は名雪ちゃんの部屋。

「……正直聞くに堪えん」

「同感だ。行くぞ、せつな」

「おうよ!」

 二人して突入。うわ、なんじゃこの目覚まし博物館!?
 全てのスイッチを切って回る!
 ……よし、全部止まった。

「……くー……」

 ……部屋主まだ寝てるとか……
 おいおい。

「眠り姫かこいつ……王子様、出番だ」

「よし……おい、名雪! 朝だぞ起きろ!」

 あ、普通だ。
 そこはキスでもしてもらわないと。

「ん~? あさ~?」

「そうだ、朝だ。早く起きろ」

「んにゅ~……あ、祐一、おはよ~……」

 ……起きてるのか? これ。
 
「……はぁ、祐一、後任せた」

「おう。ほら、起きろ!」

 はぁ……まさか、毎朝これやらされるのか?
 部屋に戻って……

「あうぅ……」

 あ、耳塞いで震えてる真琴発見。
 ……やれやれ……

 パジャマのままの真琴を連れて一階へ。

「あら? 名雪起きました?」

「今祐一に任せてます……毎朝これなんですか?」

「ええ。毎朝です。……あら、真琴ちゃんも起きたのね?」

「あう……耳がじんじんする……秋子さん、おはよう……あう……」

「あらあら……ごめんなさいね?」

 ……は、いかんいかん。
 あの笑顔に何でも許してしまいそうになるな……
 ええい、相手は人妻相手は人妻……しかも俺今女だから!
 テーブルに着く。真琴も隣に座らせる。

「おかーさん、おはよ~」

「おはようございます……」

 二人も降りてきた。
 ……朝から憔悴してるな、祐一君。

「お勉めご苦労」

「ありがとよ……」

 ついつい敬礼。

「あ、せつなさん制服似合うよ~」

「そうですね。よくお似合いですよ?」

 ……水瀬家は感性が独特なのだろうか……
 
「……真琴はどう思う?」

「あう? ……女の人みたい」

「……うん、その反応が普通なんだよね……」

「……マジで不憫な……」

 ふふふ。なんか男呼ばわりされないと不安になってきましたよ?
 おのれ、この胸が憎い……胸さえあれば~……
 
「それじゃ、いただきます」

「切り替え早いな……」

 ええい、いつまでも落ち込んでられるか。
 今日から学校じゃ。
 と、そうだ。

「秋子さんすみません、真琴見てあげてもらえませんか? 連れて行くわけにも行きませんし」

「ええ、いいですよ? 真琴ちゃんもそれでいい?」

「ええ!? 真琴置いてきぼり?」

 流石に学校は入れられないなぁ。

「すまん。肉まん買って来てやるから」

「あう~……わかった……」

「ありがとな、真琴」

 頭に手を置きぐーりぐーり。
 ……む?

「何故そんなに優しい目を向けてやがる祐一」

「いや、まるで姉妹だなと」

「……準妹分だからな」

 本当に妹ばかり増えていくよ……
 そういえば。

「祐一はジャム使わない派か?」

「ん? ああ、甘いの苦手なんだよ」

「ええ~? イチゴジャム美味しいよ~?」

 いや、君は塗りすぎそれ。

「あら? じゃあ、甘くないのもありますよ?」

 がた!
 手のトーストを押し込み、コーヒーを飲み込む。

「じゃあ真琴、秋子さんの言うことよく聞いてな? 祐一、玄関で待ってるぞ?」

「わたしも、玄関で待ってるから。お母さんご馳走様。行ってきます」

 む、名雪ちゃんも同類と見た。
 唖然とする真琴と祐一を置いて、玄関に。
 靴を履いて(指定の革靴だそうだ。動きにくい)外へ離脱。

「……すまん祐一。生贄に捧げる友を許せ……」

 南無南無。

「せつなさんも、あれ知ってるんだ?」

「ああ……母さんに一ダースほど送られてきてな……兄と義姉と弟と一緒に悶え苦しんでた……」

 そして恐ろしいことに。

「母さん、あれお気に入りなんだぜ?」

「……お母さんの友達だね……いるんだ、お母さん以外で食べられる人……」

 なお、一瓶桃子さんに送って、母さんとの間で大喧嘩した逸話もある。
 ……あれは、緑茶に砂糖を入れたときと同じレベルの喧嘩だった……

「……あ、名雪ちゃん。俺の事は呼び捨てでいいぞ?」

「え? ……じゃあ、私の事も呼び捨てでいいよ?」

 ほむ。

「じゃあ、改めてよろしく、名雪」

「よろしくね? せつな」

 よしよし。友達二号ゲット。
 がっちり握手した後、玄関が開き……

「うう、まだ舌が……」

 生贄にされた羊登場。

「……お前ら、知ってやがったな……」

「一度は通る道だ、諦めろ」

「あはは……ごめんね? 祐一」

 さーせん。


 通学路を三人で歩く。
 昨日も晴れてたと言うのに、まだ雪が積もってるとか……後、寒い。
 俺と祐一はコート装備。
 なのに、名雪は制服のみ……

「名雪は寒くないのか?」

「え? 今日は暖かい方だよ?」

「「マジでか?」」

 冗談じゃない。こんな日が続いたら……
 あ、よく考えたら、もっと気温低い時に俺走り回ってたじゃん、今日。
 ……まあ、防寒結界張ってたし。

「うう……学校に行くのが鬱になりそうだ」

「祐一は寒いの苦手か?」

「嫌いだ」

 さいで。
 俺は苦手レベルだな……
 クラナガンは比較的温暖地域だからな~。

「二人とも、この街慣れた?」

「……一日二日で、慣れるものじゃないぞ?」

「俺は街にすら出てないからな。今日が初めてだ」

 の割にはいろいろあったな。

「直に慣れるよ。二人とも、しばらくここに居るんだし」

「まあ、な?」

「俺は一ヶ月だけだがな~?」

「あれ? そうなの?」

「そうなんです。……戻って仕事がな~……」

 うう、休み明けは地獄を見そうだ。

「それって、昨日のあれ?」

「……あれだ(出来るだけ内密に頼む。企業秘密も扱ってるから)」

「? あれって?」「(うわ、そうなのか? すまん、黙っとく)」

「「気にするな」」

「……二人とも、息合うんだね?」

 いや、今のは合わせた。
 ……しばらく歩いて。
 大きな白い校舎。
 ここが俺の通う高校らしい……結構でかいな。
 しかもキレイだし。

「な~ゆき!」

 と、名雪の後ろから飛びつく少女。
 ……あ、美人さんだ。
 濃茶系のウェーブロング、あとインテーク。
 ……やはり流行ってるのか?
 背丈は名雪より少し高め。

「香里……おはよう」

「おはよう、名雪。ひさしぶり」

「三日前に会ったばかりだよ?」

「三日前でも充分ひさしぶりよ」

 ……ああ、うん、普通だ。
 普通の女子学生の会話だ……

「? 何感動してんの?」

「いや、俺はこの平穏が欲しかった……」

 少なくとも、魔法でアンドロイドを倒すような世界にはいたくなかったんだよもん。
 切実に思う。
 俺の平穏を返せ。

「で? あなたの従兄弟様は……そっち?」

 指を指すのは祐一君の方向。

「当たりだ。相沢祐一。名前で呼んでいいぞ?」

「遠慮するわ。私は美坂香里。名前で呼んでくれていいわよ? あと、そっちは?」

「居候二号だ。せつな・トワ・ハラオウン。……短期転入で短い期間になるが、よろしく」

「ええ、よろしく……女の人……よね?」

 ……一応。

「そう言えば、何で男の喋り方なんだ?」

「……実は男」

「「「ええ?」」」

「嘘だが。……いや、一名そこ。納得顔するな」

「あ、わり」

 まったく。

「……まあ、精神病の後遺症と考えてくれ。病気自体は治ったんだが、口調が戻らなくなってな」

「そうなんだ……ごめん」

「香里は謝らなくてもいいぞ? ……なぁ? 祐一君?」

「うぐ、すまん」

 ん?
 その鳴き声どっかで聞いたような……

「え、ああ! そろそろ予鈴!」

「あ、ほんとだ。……祐一達は、先に職員室だね?」

「おう。また後でな?」

「うん。同じクラスになれるといいね?」

「「いいか?」」

「いいに決まってるよ~……また二人して言うし……」

 いやぁ、この気の合い方は尋常じゃないね。二回目。

「なーゆーきー!!」

「あ、うん! じゃあね~」

 香里と名雪が校舎に入り、さて俺たちも……

「ところでゆうちゃん?」

「なんだいせっちゃん?」

 ……

「職員室どこ?」

「さぁ?」

 ……せめて案内くらいしていけボケ娘……
 近場にいた生徒に案内してもらいました。

 二人とも同じクラスに編入。
 紹介を受けて教室の中へ。
 ……あれま。

「(名雪と同じか)」

「(香里もいるな)」

 小さく手を振る名雪。視線で挨拶する香里。
 自己紹介をして、それぞれの席に着席。
 祐一は名雪の隣。俺は香里の後ろ。
 なお、香里の前に名雪。
 ……うう、ほとんどが奇異の視線……
 どうせねー?
 ホームルームが終わってすぐ授業。
 ……うは。この空気は久しぶりだ。
 まともに授業受けたの何年振りだろ……
 さらに、ほぼわかってる内容。
 うう、時間の無駄~……
 仕方ないので、マルチタスク発動。
 空きタスクで仮想訓練したる。
 ……
 あっという間に一時間経過。
 これが後半日以上……

「? ハラオウンさんはいきなり疲れてるわね?」

「を? あ、名前でいいって言わなかったか、俺?」

「言ってないわね」

「じゃあ名前でよろしく」

「……まあ、女の子だし、いいか」

 男だと駄目なのか、かおりん。
 祐一は……後ろの男子と話してるな。
 ? あのアンテナは……

「? なに? 俺の顔になんか……ああ!」

 なんだ?

「『聖祥の女ジゴロ』!」

 ブフォァ!!
 な、懐かしい称号きたなおい!

「き、北川君? 何それ?」

「あ、ああ。齢八歳でクラスの美少女三人をたらしこみ、教室内でいちゃいちゃしていた伝説の女! 何でこんな所に!?」

 き、きたがわ……?
 ああ、いたなぁ! 確か!

「そしてその称号をつけたのは貴様だったな北川君。……もう一度、フランケンシュタイナー喰らいたい?」

「うぉぉ!? い、痛い! 頭が割れるように痛い!」

 がっちりとその頭にアイアンクロー。
 ギリギリ締め付けます。

「……物凄い八歳だったんだな、お前」

「若気の至りだ……称号と共に忘れろ」

 頭を離して席に戻る。
 あ、北川君潰れた。

「く、あ、頭……」

「……せつな、本当に女の子?」

「確かめても構わんぞ? ……ああ、胸じゃわかり辛いからスカートの中な?」

「……いや、その発言は女としてどうなんだ?」

「……うちの仕事場に、一週間くらい男と思ってた奴がいて、風呂で裸見てようやく女だってわかった部下いるぞ……」

「……もういい……涙が止まらなくなりそうだ……」

 ふふふ。こんな自虐ネタばかり増えていくよ。
 そして、本気で泣きそうな目をしないでくれ名雪。

「可哀想だよ。せつな、可愛いのに」

「……えっと、香里? お前の友人変じゃないか?」

「あなたと同じレベルね」

「どういう意味だ」

「言葉通りよ……と、休み時間終わりよ?」

 ち、なかなかやるな、この子。
 なお、北川君はしばらく潰れてました。


 ようやく昼……つ、疲れた……
 内容がもう知ってることばかりだからつまんない……
 仮想訓練も三時間以上やると飽きる……
 仕事したい……

「だぁうぁ……」

「うわ、潰れてるな、せつな」

 祐一君?

「帰って仕事したい……部下の面倒みたい……上司と打ち合わせしたい……」

「重症だな……」

 完全なワーカーホリックですよここまで来ると。
 おのれ、実は母さん俺の事嫌いだな?

「ほら、潰れてないで、食堂行くわよ?」

「……そだな」

 飯は貴重なんです。
 香里達に連れられて食堂へ……
 の、前に誰かにぶつかった。

「あ、ごめん」

「いえいえ。だいじょう……!」

「え? あ、あら?」

 ……確かこの人、航行隊で見たぞ?
 あれは……確か、アースラにいた時に……

「し、失礼しますね?」

「え? ちょ……悪い、祐一。先行って食っててくれ」

「お、おい!」

 逃げる彼女を追いかける。
 ……結構早い。
 が、俺よりは遅い。

「捕まえた。……確か、佐祐理さんであってたか?」

「ふええ……せつなさん……」

 そんな涙目にならんでも。
 ……アースラで仕事してた時、本局の航行隊に俺と年の近い魔導師がいたから、模擬戦を依頼。
 ……なのはばりの砲撃魔法を使ったのを覚えてる。
 なのはは感覚で魔法を組むが、彼女は理論で魔法を組んでたから、なのはよりやりやすかった。
 ……あいつ突発で魔法組んだり、組み替えたりするからな……
 俺の勝ちで勝負が付き、握手を求めて友達になろうとしたら。

『次は、負けません』

 ……と、冷静に返されて握手をスルーされた。
 ……フルネームは倉田佐祐理。俺と同じ出身世界。
 その後、局を辞めたって聞いたけど……

「こんな所に……えと、久しぶり?」

「あ、はい、お久しぶりです……よく覚えてましたね?」

「いや、まあ、あの別れの言葉は印象に残ってるから……」

「あ、あははー……」

 力なく笑う彼女。
 ……? なんか、以前の彼女と違うな……
 こう、丸くなった? 性格。
 容姿はぜんぜん変わってないのに。
 明るい亜麻色の髪とか、さらさらのストレートとか、あと、おっきなリボンとか。
 後、幼いよな、顔立ち。
 ……うう、俺好みの美人に育って……

「えっと……これからお昼だろ? よかったら、話さないか?」

「あ、その……お友達待たせてるんです」

「あ……そっか」

 むう、なんか拒絶の雰囲気。
 なら、仕方ないか。

「わかった。また暇な時に話そうか?」

「……管理局には、戻りませんよ?」

 ……?

「えっと、自分から辞めたんでしょ?」

「え? あ、はい……」

 むう、悲しげな目。
 ……もったいない。
 美人なのに。

「なら、俺はわざわざ勧誘することしないよ。……あんなところ、いないほうがいい」

「!? ……あの、あなたはまだ……」

「……あれからずっとだよ。今、地上で査察官やってる。……まあ、今月一杯休暇取らされたけど」

 ウヌレ、向こうで仕事してる方がよっぽど有意義じゃ。
 ……辞めた人を、連れ戻す必要ない。
 平穏が一番だ。

「じゃあ、また。世間話程度は、付き合ってくれな~?」

「……はい。また……」

 佐祐理さんを背に食堂へ向かう。
 ……転進。

「? どうしました?」

「……食堂どこ?」

「……あははー」

 あ、笑った。
 笑顔の可愛い人だ。

 佐祐理さんに道を教えてもらって食堂へ。
 食券買って受付。
 メニュー少ない……カレーを選択した。
 ……量少ない……大盛りにすればよかった……
 ……あ、アンテナ発見。

「またせた」

「もう食べてるわよ?」

 む、皆ほとんど食い終わるな。
 香里の隣に座り、一口……

「……うう、ランク落ち……」

 レーツェルさんやザフィーラのカレーの方が数倍美味い……
 学食のカレーなんてこんなもんか……

「……いや、そんな悲しそうに食べんでも」

「口に合わないとか?」

「……職場のカレーの方が美味かった……量もこの1.5倍はあった……福神漬け自作だった……」

 覚悟を決めてがつがつ食う。
 みんなと同時に食べ終わる……足りない……

「うう、夜までもたん……買い食い決定だな、これ……」

「……その、職場って?」

 む? 気になるか、香里さん。

「元々高校通ってなくてさー、仕事してたんだわ、俺。……有給二〇〇日溜まったから、消化して来いって母が……」

「うわ。働きすぎじゃない? それ」

「しかし、仕事が一杯ある……休みたい時に休めないのに、一番抜けたくない時に抜けさせられた……」

「……休まないと駄目だよ……体、壊しちゃうよ?」

 うう、そこらへんのメンテナンスはバッチリです。
 だが、みんなには無理してるように見えるんだよな……

「うう、兄はこれ以上の仕事してたのに……理不尽だ……」

「……ほとんど仕事の虫だな、これ」

「うちの親でもこうはないぞ……」

 ちきしょう……
 誰も分かってくれない……


 戻って、後半戦。
 暇だ。
 ……? 祐一君、外見てる?

「(何か、面白いものある?)」

「(ん? んにゃ、空が青いなって……)」

 教師の説明と、黒板にチョークを当てる音だけ響く。

「(……あー。なのはと空飛びてー……)」

「(はぁ?)」

 とと、思考と念話ごっちゃになった。

「(……すまん、内緒だ)」

「(……この念話に関係してるとか?)」

 ……意外に鋭いな、祐一君。

「(……信じる信じないは別で頼む……なんなら、俺の作り話でもいいぞ? 授業つまんないし)」

「(ああ、大学生と同じレベルだっけか?)」

 正確にはさらに上。
 修士レベルはある。

「(俺、実は魔法使いなんだわ)」

「!? ……(えらいもんが出てきたな)」

 驚いたようだな。
 体傾いて、こっち見てる。

「(さらに、職場は異世界)」

「(……じゃあ、お前異世界人?)」

「(残念ながら出身は地球だ。海鳴って知ってる?)」

「(あ、聞いたことあるぞ? 確か……)」

 海に近い都市として記憶にあるそうだ。
 む?

「次、相沢」

「え? あ、はい! えと……」

「(67ページの右から3行目)」

「!? えっと『その時、ぼくは……』」

 実は現国の授業。
 社会に出て四番目ぐらいに使わない教科。
 一番? 古文だろ?

「よしそこまで」

 朗読が終わって、席に着く祐一。

「(サンキュ。助かった。……てか、授業は聞いてるんだな?)」

「(一応な? 今みたいなことがあるし)」

 よく授業中に使ってました。
 なのはとか平気で仮想訓練に没頭してるから、時々フォローもした。
 全部の思考使うなよ……

「(と、どこまで話したっけ?)」

「(職場が異世界だろ? どんな仕事だ?)」

 ああ、そうだっけ。

「(……警察と自衛隊の相の子。相手は犯罪者……)」

「(……魔法少女から遠ざかったな……)」

 言うな。
 今はさらに遠ざかってるし。

「(まあ、その関係で、八歳から仕事してるんだわ。……今までずっと)」

「(……十年か? 長いな……)」

「(正確にはまだ九年ぐらいだよ)」

 それでも、随分長いよな……
 もうそんなに経つんだ……

「(……空って、魔法で飛べるのか?)」

「(おう。空はいいぞー? つまらないことを全部忘れさせてくれる。さっき言ったなのはって奴が、特に空が好きでさ。暇があったらよく部隊の上飛んでるんだわ。……俺の部下にも、空が好きな奴がいて、今度三人で編隊組むかって話もしてたな)」

 その話をフェイトに話したら拗ねられた。
 うう、ごめんって……

「(凄いリアルな話だな……本当に、作り話か?)」

「(……そういうことにしておいてくれ。……知らない方が幸せってこともあるさ)」

 知ったものには、それ相応の物がのしかかる。
 それを、わざわざ他人に押し付ける必要はない。
 ……また、それを捨てた者に、無理矢理押し付けようとする必要も。
 ……はぁ、空飛びたい。








[6790] L31-3.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなと祐一と初登校の再会 後
Name: 4CZG4OGLX+BS◆2f25cb4b ID:f6b928c8
Date: 2009/07/21 12:16

 全授業終了。
 ……これが一ヶ月続くとなると、本当に鬱になる。
 おのれ、リンディ母さん。
 戻ったら絶対揉み倒してくれる。

「……はぁ……」

 ため息しか出てこん。
 ……なのは達に会いたいなぁ……

「休暇なのに疲れてるわね?」

「まぁなぁ? ……てか、せっかくの休暇なんだから、温泉行きたかった……」

「まあ、しばらくのんびりしなさい。……あたし、部活あるから、行くわね?」

「頑張って~」

 ……香里は部活か。北川はもういない。
 祐一は……

「私、部活あるから。先帰ってていいよ?」

「ん? わかった。……レコード屋にでも寄ってこようかな……」

 お前はいつの生まれだ。
 CD屋だろう普通。

「……? と、きたきた」

 目当ての人物が通り過ぎたので、席を立つ。
 
「お? 帰るのか?」

「ちょっと用事。先帰ってて?」

「おーう」

「せつな、気をつけてねー?」

 二人に別れを告げ、赤みがかった髪の持ち主に接近。
 テンパなのか猫っ毛なのか、少しソバージュ掛かったようになってる。
 むむ、頭一つ分ほど背が低いんだな。

「……人の背後に立ってじろじろ見るのは失礼ですよ?」

「すまんな。……やっぱり、みっしーだと似合うな、ここの制服」

 うん、可愛い。
 ユーノにはもったいないね。
 立ち止まって、振り向くみっしー……

「……意外に似合いますね? かっこいいです」

「……すまん、結婚してくれんか、美汐」

 凄く感動した、今。

「ちなみに嘘ですが」

「orz」

「……冗談です。かっこいいですよ?」

「ふ、やるようになったじゃないかみっしー……お姉さんは感激だよ」

 俺の芸風を盗るとは。
 やってくれる。

「んじゃま、どっか行くか? ……ここの学食、量少ないから夕飯までもたん」

「……魔導師の運動量からしたら、少ないですよね。……私には丁度いいんですが」

 まあ、司書じゃね。
 ……天野美汐。五年ほど前に入った司書で、一応魔導師だ。
 ただ、ランクが低い上、使える魔法も戦闘向きでない為、本人の希望もあって無限書庫に配属になった。
 専攻は古代風俗史と老古学。後、妖怪などの東洋幻想生物系も得意。
 真琴は元々、妖狐と呼ばれる妖怪狐だったそうで、その関係で調べてたら詳しくなったとか。
 後、老古学は絶対ユーノの影響だと思う。
 現在司書長補佐。ユーノの奥さんと言えば、誰でも気付く。
 本人否定しているけど。

 ……その彼女と、学校を出て、街の方向へ。
 ……市街地には駅から水瀬家に行く最中に通っただけで、どこに何があるのかさっぱりわからん。
 また暇を見て散策するか……て、暇だらけだが。

「お仕事の方は順調ですか?」

「まあ、そこそこにね……大きなヤマ抱えてるのに、一ヶ月休みとらされてまいってる」

「……せつなさん、働きすぎですから。はやてさんもぼやいてましたよ?」

 うわ、マジでか?
 最近無限書庫に顔出してないので、六人の中で使用率ナンバーワンははやてになった。次点はすずか。
 
「……あいつら守るだけでなく、ほっといたらろくなことしそうにない奴が相手だからなー……」

「……その、せつなさんは、まだ、悲しい夢を?」

 俺の事はユーノ経由で聞いたらしく、真相を話してある。
 もっとも、前世の記憶があるってだけだが。

「見てるよ……月に一回のペースにまで落ちた」

「……そうですか……」

 きっと、そのうち見なくなる。
 その時には、なのは達と笑い会える自分になってるだろう。
 ……けど、もし、その最中になのは達の誰かを喪えば。
 その夢が上書きされるはず。
 その、誰かの悪夢に。

「……悲しいことを忘れられる人に、なれてればよかったんだがな……大概、俺も不器用だ」

「……私も、不器用ですよ……」

 美汐の顔にも、影がある。
 ……暗い話しても、仕方ないか。

「あ、ここです。百花屋。……結構人気の喫茶店なんですよ?」

「ほう? どら、翠屋マスターの俺が味比べしてやるとするか」

「……えっと、あそこと比べるのは酷な気が……」

 今のところ、翠屋以上の喫茶店に出会えていない。
 ……まあ、海鳴とミッド以外の街に行かないけど。
 入って奥のボックス席に。
 みっしーは甘味。俺はチョコパフェ。

「……ここのイチゴサンデーも美味しいそうですよ?」

「むぅ。居候先の娘さんが好きそうだな……」

 朝のジャムの塗り方は異常だった。
 昼もイチゴが付いてるというだけでAランチを頼んだそうだ。
 ……イチゴ馬鹿?

「……それで、真琴はどうしてますか?」

 ようやく本題へ。

「今のところ元気にしてる。そっちからの魔力供給が滞ってたらしくて、一回倒れたけど、俺が魔力分けた」

「!? 倒れたんですか!?」

 ? ちょっと、その反応は食いつきすぎ。

「魔力不足だよ。……俺が魔力流したら、すぐに起きたよ」

「……そ、そうですか……」

 うーん。真琴にもなんかあるのかな?
 ウェイトレスが来たので、一度口を紡ぐ。
 立ち去った後、聞いてみる。

「真琴に、何かあるのか?」

「……真琴が妖狐だって事は話しましたよね? ……あの子、この街の特殊な狐なんです」

 聞くところによると。
 曰く、その狐は呪いを振りまくという。
 人の姿に化け、人に懐き、そして、人として死んでいく。
 呪いの名は悲しみ。
 だからこそ忌み嫌われる妖怪狐。
 ものみの丘の妖狐。

「……じゃあ、真琴は、祐一を呪いに来た狐だってことか……? あれ? でも、真琴、使い魔だよな? お前の」

「……もしかしたら、真琴は私と会う前に、その祐一さんに会っていたのかも知れません。そして、その時に……」

 祐一に酷いことをされた……
 ……いや、もしかしたら。

「捨てられた……か?」

「……推測に過ぎませんが。そして、祐一さんがこの地に現われたことによって、妖狐の血、もしくは、その力が発現して、祐一さんの元に行ってしまったと、考えられます」

 ……と、なると……
 
「……おいおい。じゃあなにか? 真琴、最終的には死んでしまうってことじゃ……」

「……」

 俯く美汐。
 ……その表情には、いままで見たことないような悲しみがある。

「……とにかく、今は真琴のしたいようにさせればいいのか? ……その、呪いを掛け終るまで」

「……そうして、あげてください。……たとえ、どんな結果になっても……」

 そういった美汐の声は、震えて、今にも泣きそうで……
 ……推測だが。
 美汐は別の狐に、既に呪いを掛けられた後だったんだろう。
 その悲しみを忘れる為に、傷ついた真琴を拾い、使い魔とした。
 その狐の変り身にするために……
 ……真琴自身も、別の人物に復讐しなくてはいけないという事実を知らずに。
 ……なんて、悲しみの連鎖。
 一番苦しみ、悲しむのは、祐一ではなく、美汐かもしれないと、漠然と思った。
 ……やるせないな……



 店を出て、美汐と別れる事に。
 最後に聞いた。一度、熱を出して倒れたら知らせて欲しいと。
 ……それが、合図だと。
 ……彼女の背中を、呆然と見送るしかなかった。
 
「まったく、勘弁してくれよ……」

 真琴も、俺の大切な友人だというのに。
 ……それが死んでしまう。
 それも、仕方のないこと。仕方のない別れになってしまう。
 ……今はまだ、考えないことにするか。
 合図があるまで。
 ……と? 
 誰かが背中にぶつかった。

「?」

 振り向いてみると、幼い女の子?

「あ、ごめんなさい……」

 買い物袋を両手で抱えた女の子が、ぺこりと謝った。
 ……髪の色に、見覚えがある。
 最近見たような?
 ……髪質は違うが。

「ああ、気にしないでくれ。ぼぅっとしてた俺も悪い」

 全体を見ると……寒そうな格好。
 肩にかけたチェックのストール。防寒具はそれだけで、セーターとエプロンスカート。
 ……寒く、ないのか?
 地元の人間は。

「……その格好は寒くないか?」

「? いえ、ストールありますから」

 ……わからん。
 けど、分かることはある。

「じゃあ、どっか痛いところでもあるのか?」

「え?」

「……いや、泣きながら歩いてると、危ないぞ?」

 泣いているということだ。
 ……本人気付いてないのか、瞳からボロボロ涙こぼしている。

「……あ……」

「病院行くか? 教えてくれれば連れて行くぞ?」

 どこにあるのかわからんからな。

「……ごめんなさい……気に、しないでください」

「いや、無理」

「え?」

 泣いてる子を放って置くほど、薄情にできてない。
 彼女の手から荷物を奪い取り、片手で持つ。
 空いた片手で彼女の手をとって。

「せめて家まで送らせろ。……荷物持ちぐらいはしてやる」

「……強引です」

「それが持ち味だからな」

 ニカッと笑ってやる。
 彼女はその顔に……笑ってくれた。

「……それじゃ、お願いします」

「おう。お姉さんに任せなさい」

 彼女の手を引いて歩き出す。
 が、彼女は動かない。

「? どした?」

「……家、こっちです」

 指差す先は反対方向。
 ……台無しである。

 彼女の案内に従い、歩きながら話す。

「じゃあ、一ヶ月の間だけここにいるんですか?」

「ああ。お姉さん意外と働き者でな? ……そして、仕事が一杯あるんだ」

 休み明けのデスクが怖い。
 
「……その、お姉さんって呼んでいいですか? 名前知らないので」

「? 教えて欲しい?」

「……いいんですか?」

 ……名前を聞くのを遠慮する子は初めてかもしれない。
 もう泣いてはいないが、何か遠慮しがちな子だ。

「ああ、いいよ。俺の名前はせつな・トワ・ハラオウン。十七歳だ」

「……えっと、私は、美坂栞です」

 美坂?
 ……まさか。

「香里の妹?」

「……お姉ちゃんを知ってるんですか?」

「奇遇なことにクラスメイトだ」

 本人の次に妹に会うとは。
 本当に奇遇なことだな。

「……お姉ちゃん、元気ですか?」

「? 元気にしてはいるが、別々に暮らしているのか?」

「……一緒に暮らしてます。けど、私、嫌われてますから」

 ……そりゃ、いけない。

「明日、香里に説教しなくちゃだな……」

「え!?」

「俺にも妹がいるんだがな? そいつが言うに『姉は妹を嫌ったりせず、愛でに愛でてメロメロにしなくちゃいけない』らしい。……そいつも俺にメロメロなんだと」

 やりすぎな感はあるが、姉が妹を嫌うのは間違ってる。
 どんな理由があるにしろ。

「だから、香里に栞を可愛がるように言って置くぞ? なんなら、洗脳するか?」

「……あの、洗脳はやり過ぎだと……」

 やっぱり?

「……それに、お姉ちゃんは頑固だから……言っても無駄です」

「……お姉ちゃん、嫌いか?」

「……じゃあ、嫌いってことにしてください」

 じゃあって……はぁ。
 香里と栞の間にも、何かあるんだろうな。

「あ、ここです」

 立ち止まった家には、美坂の表札。
 荷物を手渡し、家を仰ぎ見る。
 ……ひょっとしたら、俺のお節介なのかもしれない。

「……まあ、困ったことがあったら言ってくれ。力になるよ」

「……そのときは、お願いします」

 あまり信用してない様子。
 表情は暗いままだ。
 ……もったいない。可愛いのに。

「じゃあ、これで」

「……ああ。またね?」

 返事は返ってこず、さっさと中に入ってしまった。
 ……うーん。お姉ちゃん力が弱まってきたか?
 こっちも結構まいってるからなぁ……

「……帰るか」

 来た道を取って返す。
 できれば、彼女にも笑ってもらいたいところ。
 何かできることはないのかなぁ……

 
 ……コンビニで肉まんを買い、帰宅。
 夕食の時間もすぐなので、真琴には食事後に食べてもらうことに。
 ……おいしそうに食べるその顔に。

 少し、悲しくなった。



『……せっかく休んどるのに、えらい景気の悪い顔しとるな?』

「……むしろ拷問だ……」

 今日の連絡ははやて。
 アイビスの質問レポートがあるくらいで、他には特に連絡はないそうだ。

「知ってる知識を延々話されても、つまらないだけだぞ? 夜しっかり寝てるから、眠くもならない……時間の無駄だよ~」

『……まあ、中学の最後の方はそんな感じやったな。休み時間のお喋りだけが楽しみやったなぁ……』

 その頃には、俺もはやても高校以上の頭あったしな。
 
『まあ、一週間も続けたら慣れるやろ。ゆっくり休み』

「そうする……じゃあ、今日はここまでだな」

『うん。明日はアリサちゃんやからな~?』

「うぃ。おやすみ~」

 通信を切る。
 真琴は既にお休みだ。
 ……俺も寝るとしよう……






 ――――― ゆめ ―――――

 ――――― 夢を見て

「だから来るなと言っているだろう羽娘」

「うぐぅ!? ぼくだって来たくて来てる訳じゃないよ!?」

 堂々と人の夢の中に入ってきといて何を言う。
 なお、首根っこ掴んで目線まで上げている。
 この娘、俺の頭一つ分ほど小さい。

「ならばさっさと成仏するなり、自分の夢に帰るなりしろよ」

「うう~~。お兄さん意地悪だよ~~!!」

「だから、誰がお兄さんか!」

 服装は男物だが、れっきとした女である。
 ……体に引っ張られているせいか、夢の中でも、きちんと女だ。

「? え? ちがうの?」

「違う。俺は、女だ。お姉さん」

「うぐぅ。見えない……」

 ほほう?
 そんな直球なことを言う子には……

「擽り倒してくれる!」

「え? や! わき腹はダメェ~~~~~!!」

 うははははははは!!
 泣け、叫べ、笑い死ねぇ!

「……で? 俺が何に見えるって?」

「お、女の、ひ、と……うぐぅ」

「分かればよろしい」

 アイムウィン。
 むしろいじめだこれ。
 夢なのにリアルだな。

「うぐぅ~~~。お姉さんいじめっ子だよ~~」

「自業自得という言葉を知ってるか? 生意気なお子様にはこれぐらいの制裁は必要だ」

「ぼくお子様じゃないもん!」

 いやぁ、どこから見てもお子様です。
 頬を膨らませて怒るさまがプリチー。

「……まあ、とにかく、早く出て行くことを推奨する」

「……出方分からないもん」

 ……おいおい。

「俺が起きるまでここにいるつもりか?」

「……駄目……かな?」

 むぅ。そんな上目遣いで見られても……
 ……うーん、まあ。

「いいか。少し、お話でもしようか」

「ありがとう!」

 お、笑った。
 ……ニコニコ笑う顔は可愛いな。

「じゃあ、まずは……」

 それから、俺が起きるまで雑談が続き、起きる前にはお別れした。
 ……あれは、一体、何のつもりだろうか?
 俺の夢に来るなんて、酔狂な……


 怖い思いしても知らないぞ?





 *今更だけど、主役の容姿イメージは天王星の戦士の人……ではなく、竜之介な人と言ってみる作者です。どこの竜之介かは……『俺は女だーー!!』で分かるかなぁ?
  なお、声のイメージは中学入学前までは薗崎の姉っぽく(カグヤの方は妹の方)、現在までは今度こそ天王星の人。カグヤはそのまま。
  さらに、パラディンはアンバーな人で、クラウンはゴットゥーザ様でイメージしてます。
  こんなんでどうでしょうか? 作者でした。

  ……寝てないせいか、ぐだぐだなあとがきになってしまいました。
 
 



[6790] L31-4.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなと祐一と夜の学校
Name: 4CZG4OGLX+BS◆45a3a780 ID:f6b928c8
Date: 2009/07/23 14:35

 流石に二日も同じことを繰り返すとなれるもので。
 放課後まで普通に終わってしまった。
 昼休みに祐一がふらふらとどっか行ったくらいで、後は代わり映えのしない一日。
 帰り道に肉まん買って、すぐに帰宅。
 真琴を喜ばせるのが日課になってきた。
 食事と、入浴を済ませ、部隊に連絡。
 
『……休んでのよね? なんか疲れた顔してるのは何で?』

「休み疲れ。もしくは、知ってる知識をひけらかされる拷問疲れ」

 今日の連絡係はアリサ。

 陸士隊との合同訓練の申し出があったらしい。
 その中に、SRX隊の名前もあったらしいので、ATを使わない方向で許可。
 訓練隊との合同にしてもらうことに。
 今の訓練隊メンバーは全員魔導師だから、ばれることはないだろう。

 後、部隊長から言伝。
 出向命令が来たらしい。
 出向隊員はランスター執務官。出向場所は航空隊。
 ……の、236部隊。だからそこねえって。
 出向命令を出した局員に確認を取ったところ、出した覚えすらないそうだ。
 命令の出所をフェイトに探ってもらうことに。
 とうとうこっちにも手を出してきたかあいつら。
 
「くそー。休みでなければ、俺がやるのにー」

『あんたね……フェイトやあたしたちが信頼できないって言うの?』

「いや、むしろ俺が仕事したい。……時間の無駄なんだもん、学校生活」

 友人がいるから、楽しくないわけではないのだが。
 休み時間と昼休み、放課後しか楽しみがないってどうよ?
 
「後、アイビスにこれ渡しといて」

 昨日のレポートデータを送信。
 なかなかいい点をついていた。圧縮効率の上がりそうな術式だったが、一歩惜しい。
 ので、その惜しいところを教えて、再提出。
 
『……じゃあ、渡しとくわね? まったく、本当に仕事の虫なんだから……』

「悪い。えっと、あとは「せつな~? いる~?」と、ちょっとまって! ……家人が入ってくるから、これで終わるか」

『了解。……今の女の子?』

「居候先の娘さん。……すずかの三倍のんびりさん」

 今日の朝も寝坊してくれました。
 転入二日目で遅刻しかけるとか。早朝からダッシュさせるとか。
 陸上部なだけあって結構早かった。

「じゃあ、また明日」

『明日はそのすずかだから。また五日後にね?』

「おう。お休み、アリサ」

 本当にローテーションするつもりか。
 通信を切って廊下の名雪を迎える。

「誰と話してたの? 電話?」

「ああ、職場の同僚とな? ……それで、どうしたんだ?」

「それがね? 祐一が酷いんだよ~?」

 困り顔(あんまり見えないが)の名雪曰く、明日の小テスト対策でノートを名雪から借りた祐一氏。
 その名雪のノートを学校に置いて来てしまったらしい。
 その件について問い詰めると。

『寒いから明日にしろ』

 との事。
 ……と、言うことは?

「名雪は俺に取りに行ってくれというつもりかな?」

「あ、ううん? そんなつもりはないよ。ただ、祐一が酷いって」

 愚痴か。
 ……なお、真琴は祐一の嫌がらせに行っている。
 夜中に悪戯を咎めたせいで、夕食後や入浴後、寝る寸前を狙って行っている様だ。
 ……途中から、祐一の持ってる漫画を読むことに没頭しているようだが。

「……ふむ。ちょっと行ってみるか」

「え?」

「祐一の机から、ノート取ってくる」

 暇だし。

「え、でも、危ないよ? ……せつな、女の子なんだし」

 ……うわ、普通に女の子扱いしてくれた。
 ちょっと嬉しい。
 ……が。

「大丈夫。俺はそこらの男の数倍強いから」

 強化なしでも負ける気はしません。
 ……魔法なしの戦闘訓練で、鬼教官は伊達ではない。
 うちの部隊では、上から数えた方が速いほどの実力者だ。
 ……一番目は親分。二番目はシグナムと剣術家が並んでるが。

「……じゃあ、気をつけてね?」

「おう、まかせろ」

 私服にジャンパー。コートを羽織ると、もう女には見えない。
 どこから見ても青年男性である。
 ……顔しっかり見ると女だってばれるけど。

「すぐに戻るよ」

 玄関で見送ってくれる名雪に告げて、外に出た。
 ……寒い。
 通学路を歩くと、意外と光が少ないことに気付く。
 住宅街の光はそんなに明るくない。

「……ふむ。飛ぶか」

 飛翔魔法を展開。
 夜中だから、誰にも見られないだろう。
 ……久々の空は気持ちいい……ごめん、嘘。凄く寒い。
 防寒結界を張る。……凍え落ちるところだった。
 ……ゆっくり飛んでも、十分程度で到着。
 夜の学校へ侵入する。

「……せ、セキュリティ甘いな、ここ……」

 一階の教室の窓開いてるとか。
 ちゃんと泥棒対策しているんだろうか?
 ……学校だからって、盗る物ないわけじゃないんだぞ?
 まあ、助かったけど。
 自分の教室へ。
 ……祐一の机の中から、名雪のノートを取り出す。

「ミッションコンプリート。これより帰還する」

 なんてスネーク。ダンボール未使用の方向で。
 教室から出ると……

「……」

「? ……え?」

 その、彼女がいた。
 ……黒髪をリボンで一纏めにして、そのまま流している。
 きりりとした顔立ち。この学校の制服。
 制服のリボンの色から、一学年上と判断できる……
 そして、その手には……一本の剣。
 て、剣?

「……!」

 背後に気配。
 そして、明確な敵意。
 
「なろ!」

 大して確認もせず、後ろ回し蹴り。
 足裏に当たった感触。
 反動で女性の方向にバックステップ。
 その俺の横を通り過ぎ、彼女が剣を振り上げ、

「……!!」

 一閃。
 ……ちゃんとした剣術を習っているような動きではないが、とても洗練された一振り。
 実戦で覚えていった剣だ。
 ……その一振りで、気配は霧散。
 どうも、逃げ出したらしい。

「……パラディン。ワイドエリアサーチ。探して」

【いいのですか?】

「あんなもんほっとけるか。見つけ出して捕獲を」

「……今日は、もう出ない」

 え?
 彼女がこちらを向いて、呟いた。

「……いい蹴りだった。けど、逃がした」

 えーと……俺、責められてる?

「よ、余計なことしたかな?」

「いい。……私の踏み込みが甘かった」

 剣を逆手に持ち、さっさとその場を立ち去ろうとする彼女。
 その背中を呼び止める。

「ちょ、待った。……今のは?」

「……」

 返答はなし。
 続けて、質問を投げかける。

「君は、何者だ?」

「……私は、魔を狩る者だから……」

 そう返して、立ち去ってしまった。
 ……えっと……
 つまり……

「ゴーストハンターとかモンスターバスターとかそんな感じか?」

【さ、さあ……】

 ……謎だ……


 校舎の外には、既に何の気配はなく、彼女の姿もなかった。
 代わりに、校門に人影。

「せつな!」

 と、あれ?

「祐一? ……どうしたの」

「……あ、いや、名雪がお前がノート取りに行ったって言うから、外に出てみたら、その、お前、空飛んで……」

 げ。
 ……見られてたのか。
 気付かないなんて……どんだけ気が抜けてるんだ俺は。

「……本当だったのか、あの話」

「……その、内緒……な?」

 うあ、ばれたか。
 どうしようかな……
 脳内洗浄するか?

「……まあ、いいか。久々に空飛べて、気が抜けてたのかねぇ」

「いや、普通の反応だな」

 あわてたって仕方ないだろ。
 
「まあ、本物の魔法使いってことで。……ブツは回収したから、戻ろうぜ?」

「お、おう……」

 まあ、初日にばれるなんてことはなかったから、子供先生には勝った。
 いや、何が?
 ……祐一と校舎を後にする。
 ばれたから遠慮せずに防寒結界展開。

「あ、寒くない」

「寒さ避けの結界。俺の周りだけな? ……冬の寒さに負けて組んでみた」

 魔法覚えたての冬の事でした。
 勿論、避暑結界なんてものもある。あんま使わないけど。

「魔法便利だな……」

「てか、こんな魔法作るの俺くらいなんだけどな~……」

 ユーノに見せたら、魔力の無駄使いとか言われた。
 おのれ。

「俺も使えるようになるかな?」

「勉強むずいよ? 俺の使う魔法って、プログラムみたいなものだから」

「げ。……遠慮しとこ」

 ふふふ。魔法言語で一から組むのってめんどくせえんだから。
 やめた方が無難だ。

「と、言っても、ほとんどデバイス……魔法の杖が代わりに組んでくれるんだけどな~? デバイスなしだと、魔力食うし」

「魔法の杖ねぇ……? お前、そんなの持ってないじゃん」

「杖と言っても、必ずしも杖という形をしているわけじゃないんだ。……俺の杖はこいつ」

 髪の中に仕舞ってあるパラディンを大きくして見せる。
 厚い本のデバイス。

「……本だな。これがデバイスって奴か?」

「ああ。俺の相棒。……喋るぞ?」

【はじめまして、祐一。パラディンと申します】

「うぉぉ! すご!」

 おお、いいリアクション。
 魔法に慣れてない人にこれを見せると反応が楽しいんだよな~。
 怒られるからやらないけど、普通は。

「これがスタンバイフォルム。……待機状態だ。この中に入ってるアイテムを取り出し、本格的な魔法を使うんだ。……まあ、あんまりやると上に怒られるからやらないけどな」

 元に戻して、髪の中へ。
 ……最初は服のポケットの中に入れてたんだが、一緒に洗濯してしまった事があり、パラディンに泣かれてからは、最小限に縮んでもらい、髪に挟んで携帯することにした。
 てか、デバイスが泣くな。
 しかも、可愛い声で。

「……ま、魔法使いっていろいろあるんだな……」

「まあな。……念話は比較的簡単な部類の魔法なんだ」

「あれも魔法なのか!?」

 魔法なんです。
 だから、非魔導師には通じない。
 不便だ。

「魔法使いが最初に覚える魔法は、大概念話だな。……最初っから何でもできるわけじゃないし、勉強しないと使える魔法増えないし」

 俺はパラディンがチート性能だったから、いろいろ出来たけど。
 卑怯だよね、ある意味……
 レイハ姐さんもある意味チートだが。
 祈願型は楽なんだよ。魔法組むの。
 おまけに、なのは自身も魔法に対する親和性が常人以上だったし。
 
「……聞けば聞くほど、魔法少女から離れていくな……」

「言うな。やってる俺が一番がっくりしてるんだから……」

 今切実に思う。
 栗毛ぬこだった俺のなのはを返せ。
 今じゃ立派な魔王様だよ……

「まあ、覚えたいって言うなら、教えてやらん事もない。……けど、使えても、こっちじゃあんまり役に立たんしな」

「遠慮しとく。……ろくなことになりそうにないしな」

 それがいい。
 平穏でつまらない毎日が一番だよ……一般人にはな。


 帰宅したら、名雪がコーヒー入れて待っててくれた。
 三人で少し話して、解散後、就寝。
 また、あの羽根娘来るかな……

 ……来やがった。

「既に日課だな。そんなに気に入ったか、ここ」

「……だから、来たくて来てるんじゃないんだよ……」

 引っ張られているのか、既に固定しているのか。
 わからん。

「まあ、いいか。今日はどんな話をしようか」

「……居てもいいの?」

「構わんよ。……昔は、もう一人いたんだがな」

 この身体の本来の持ち主。
 カグヤに預けてしまったが。

「……じゃあ、一人ぼっちなんだね?」

「阿呆。夢の中じゃ、誰だって一人だよ。……二人いることがおかしいんだ」

 今の状態が正常。
 ……女性の中に、男性意識体が入っていても。
 これが、正常。

「んじゃ、昔の記憶から楽しい奴を……」

 海に行った時の事とか、映像付きで見せてやった。

「……皆キレイな人だよね」

「うむ。……ああ、幼き日のなのは……今じゃ、立派に悪魔になって」

「うぐぅ……こんなに可愛いのに……」

 うちの訓練隊の連中は、空飛べるようになったのか、空飛ばされやすくなったのかいまだに分からん。
 アイビスも時々飛ばされてるし。
 時たまクルツさん飛ばされてるし。何やった、あの人。



 目が覚める。
 ……むぅ。ちゃんと朝だな。
 ところで、あの羽娘は何しにやってくるんだろうか。
 わからん。

 いつものように名雪を起こし、

「ええい! いい加減に起きろ!」

「うにゅ~~~」

「仕方ない……名雪、起きないとキスするぞ……祐一に!」

「俺かよ!」

「それは駄目!」

「「うお、起きた!?」」

 みんなで朝食。

「甘くないジャムもありますよ?」

「「「遠慮します!!」」」

「あう?」

 真琴を秋子さんに預けて、出発。

「今日も寒いな」

「明日も寒いんだろうな」

「普通だよ~」

「「それはお前だけ……じゃ、ないのか」」

「……二人とも、息ぴったりだよ……」

 で、通学途中に、彼女を見つけた。
 あのリボンは見覚えある。

「……わり、先行ってて?」

「あ、おう」

 二人と別れて、ゴーストハンター(仮)に接近。
 ……俺より少し低い。てか、やはり俺のほうが大女か!?
 しかも、胸……ある……しょぼーん。

「……!? ……き、のうの?」

 ……何故、顔を引きつらせる?
 いや、わかってるけど。

「言っとくけど、俺は女だからな? 女装趣味の変態じゃないからな? ……俺だって制服似合わん事ぐらいわかってる」

「……びっくりした」

 ちきしょう。本当に男として生活してやろうか……
 それとも、こんな特殊な制服の高校に転入させた、うちの母を恨むべきか……
 
「で? 昨日のあれはなんだったんだ?」

「……魔物」

 ……一言で終わらせた。
 魔物と来たか……

「しゅ、種類とか、分かってるのか? ほら、妖魔だとか、悪魔の類とか……あるだろう?」

「……わからない。でも、魔物」

 ……そうか……
 後、無表情で反応薄い。
 ……つまんない……

「じゃ、じゃあ、毎晩戦っているのか?」

「……出てきた時だけ」

 て、わかる物なの?
 ……無口な上、説明ぜんぜんしてくれない。
 ……ええい! 負けるか!

「た、戦いなれてたけど、何時から剣振ってるんだ?」

「……ずっと」

 ……さ、三文字……
 くぅ、こういうタイプは初めてだ……
 も、もっと何か有効な手は!?
 あ、そ、そうだ!
 こんな時こそ、なのは的手法で!

「俺、せつな・トワ・ハラオウン。君は?」

「……」

 ……も、黙殺……
 ち、役に立たねえな、なのは。

『言いがかりなのーーーー!! しかも二回目ーーー!!』

 ええい、電波なんぞ知らんというのに!
 ほ、他には!?

「舞ーーーーーー!! おはよーーーー!」

 と、聞き覚えのある声……あれ?

「え? 佐祐理さん?」

「あ、せ、せつなさん……?」

「……佐祐理、知り合い?」

 ……こないだ言ってた友達って、この子の事だったのか。
 後、あからさまに警戒しないでください。

「え? あ、うん。えっと、せつなさん。昔、知り合った人だよ」

 あ、彼女に対しては敬語じゃない。
 ……いいなー。

「……川澄舞」

 え?

「私の名前。……佐祐理の知り合いなら、信用できる」

 さ、佐祐理さん基準……
 てことは、今まで信用されてなかったというか、不審に思われてたのか……

「せつなさん? 舞と何時知り合ったんですか?」

「……き、昨日ちょっとね……うう」

 俺不審者扱い……いかん、本気で泣けてきた。

「……ごめんなさい」

「え?」「ふぇ?」

「……不審に思って、ごめんなさい。……泣かないで、欲しい」

 ……この子、ええ子や……
 お、お姉さんちょっと感動したよ。

「あ、うん! 大丈夫! お姉さん元気元気!」

「……え、えと、せつなさん、年下じゃ……」

 あ、そうだった。

「……せつな、面白い」

「お、そ、そう? ……えと、ありがと」

 そこは礼を言うべきかどうか迷うが、まあ、この子なりの感想なんだろう。
 うんうん。

「……あははー。せつなさん、以前と感じ変わりましたね?」

 いや、あなたには負けます。

「いろいろ吹っ切れたからさー。……女装扱いにもなれたよ、うん」

「……ごめん」

「あははー……その、背が伸びたから仕方ないですよ。喋り方も男の人っぽくなりましたし」

「まあ、それも吹っ切れた一つかな。……いろいろあったよ、うん」

 本当に、いろいろ。

「こっちでは仲良くしてくれると助かる。……短い期間だけどさ?」

「……よろしく」

「はい! よろしくお願いしますね?」

 よしよし。
 二人と友好的な関係まで持っていけた。
 ……無口な舞と、明るく笑う佐祐理さん。
 新しい、俺の友達になった。

「あ、よろしかったら、今日一緒にお昼食べませんか? 佐祐理、お弁当持ってきてるんですよ」

「え? いいの? よかった、俺も今日弁当なんだよ。……学食、口に合わなくて……」

「あ、そうなんですか? ……その、おうちの方が作られたんですか?」

「いや、自分で」

「……佐祐理も自分で作ってる……二人とも、凄い」

 いやいや、舞さんや。
 凄いことなんてないですよ?

「あははー。舞だって、やれば出来るよー?」

「そうそう。やろうと思えば、何でも作れるさ。うんうん」

 久々に作ってベーコン焦がしすぎたのは秘密だ、うん。
 

 学校について、二人と別れる。
 お昼に迎えに来てくれるそうだ。
 自分の教室を教えて、また後でと別れた。
 その教室だが。

「げ、せつなってレズだったのか!?」

 おう、しっと、いきなりなんやねん祐一君。

「ああ。当時のクラスに高町って子がいてな? その子にキスして、バニングスに怒鳴られてたり」

 ……あ、ありましたねぇ……

「そのバニングスに抱きついて、頭撫でたり、ほっぺたスリスリしたり……」

 確かに、やりましたねぇ……

「もう一人、月村って子がいて、その子に抱きついて首筋甘噛みしたり、愛を囁いたりしてな?」

「せつな大胆……」

「小学生なのに……やるわね」

「で、付いたあだ名が『女ジゴロ』って訳だ。いや、あれは凄かった……」

 ……やれやれ。
 困った人だ。

「そしてつけたのは君だったような気がするな。北川君?」

 がっしりとその頭を掴む。
 ……祐一達の顔が、恐怖に歪むのはなんでかなぁ?

「……そ、そうだった……かな?」

「そうだよ? ……その後の展開も、覚えているよ……ね?」

 思い出したのか、がたがた震える彼の身体。
 トラウマ?
 だが、俺は容赦しねー。

「……振り向け。せめてもの情けだ、少し幸せにしてやろう」

「え? ……し、しまぱ!?」

 全部言わせずに一回転。
 教室に響く轟音。
 戦慄する祐一たち。
 静寂が教室に広がる。
 ……あの時も、こんな状態だったな。

「……ヘェ~イ」

 両手を挙げてアピール。
 某グラサン軍人さんで決め!
 
「……キレイなフランケンシュタイナーね……ちゃんと空中で一回転するとは……」

「せつな強いよ……勝てる気がしないよ……」

「てか、ホントに女か? ……いや、すまん悪かったからこっち睨むな!?」

 余計なこと言った子にはお仕置きなんだよもん。
 美少女のスカートの中身見れて幸せだろう?

「び、美少女?「なんか言ったか祐一君?」……なんでもありません!」

 男性意識でも、自分が女だと自覚している以上、容姿に関する誹謗中傷は鉄拳制裁でファイナルアンサーなんだよもん。男のみ!
 ……女性に指摘されると凄く傷つくが。
 ……なお、北川君は昼まで起きませんでした。


 あっという間に昼休み。いや、脳内で魔法の試作してました。
 佐祐理さんが迎えに来てくれるといっていたが……

「せつな? 学食いこ~?」

「あ、わり、今日は別の友達と食べる約束が「せつなさ~ん! 迎えに来ましたよ~?」……本当に変わったな、あの人」

 えらい変わり様である。
 実は別人なんだろうか。
 後、大声で名前を呼ばないで欲しい。

「……やっぱり、れ「祐一君はそんなに昼休みを寝て過ごしたいのかな?」……いや、なんでもない」

「キレイな人ね? 知り合い?」

「友人に格上げしてもらった。……じゃあ、そういうことで」

 入り口から呼ぶお嬢様の元に、弁当を持って向かう。
 向かう最中に聞こえた囁き声は無視することに。
 うう、恨むぞ北川君。

「お待たせ様です。行きましょうか?」

「はい。舞はもう待ってますよ?」

 聞けば、屋上の入り口前にレジャーシート引いて食べてるらしい。
 ……ピクニック?
 誰も来ないのは凄いな……

「冬以外なら、屋上で皆食べてるんですよ。今の時期は外で食べるには寒いですから」

 寒風吹きすさぶ中で昼食は勘弁していただきたい所存。
 魔法使いだってばれてもいいから、防寒結界張ってしまうぞ、それだったら。
 それと。

「……舞の前では、魔法の話は禁止でいいですか?」

「あ、分かった。……仕事関連は全部アウトだな……」

「ごめんなさい。……せつなさん、中学出てすぐにミッドに?」

「ああ。……まあ、うまく誤魔化すよ」

 佐祐理さんを悲しい顔させるわけにもいくまい。
 ……舞が待っている階段の踊り場には。

「……」

「舞~? おまたせ~?」

「すまん、待たせた」

「……いい」

 レジャーシートにちょこんと座る舞の姿。
 ……なんか、可愛い。

「それじゃあ、どうぞ?」

 次々に手に持った重箱を空けていく佐祐理さん……て、あんたそれ……

「(佐祐理さん? 今デバイスから……)」

「(え? 便利ですよ?)」

 魔法関連禁止じゃなかったんかい……
 ひょっとして、舞の奴気にしてない?

「?」

「……いや、いい。じゃあ、俺のも食べてみてくれ」

 気にしてないようだ。
 取り皿持って、重箱突いてる。
 ……大物だな……

「わあ、せつなさん、お料理上手なんですね~」

「……卵焼き、凄く嫌いじゃない」

 お、舞は卵焼きを気に入ってくれたか。
 作り慣れてるからな~。

「むぅ、佐祐理さんもなかなかの腕前……美味しい」

 これははやてと並ぶか?
 あいつも最近隊の食堂ばかりらしいし。
 ……忙しいとどうしてもね~?

「? でも、せつなさん、ハラオウンてい……リンディさんの養子になったんですよね? どうしてこんなにお料理できるんですか?」

「あ、うん。……その前は、ずっと一人だったから」

「……いつから?」

「……その、四歳から……」

 ……い、いかん。空気が重い。

「お陰で、ここまで料理スキルは高くなりましたよ? 母さんに食べさせて、思いっきり凹ませたから」

 約束通りに食べさせて、綺麗にorz
 八歳児に負けた!?って、がっくり来てたから。

「あははー……」

「……せつな、凄い」

 よし、持ち直した!
 過去の話は全部暗いものばかりだからな。
 慎重に話しないと……

「佐祐理さんこそ、凄く上手いけど、趣味か何か?」

「あ、はい。最近からですけど、凝ってしまって……」

 いやいや、最近はじめたにしても、かなりのレベル。
 たこさんウィンナーに愛を感じ……あれ?

「……」

「……」

 舞の箸と、俺の箸がぶつかる。
 むう、見合い箸……
 ……ここは、引くことに。

「……いいの?」

「ああ。……佐祐理さんのたこさんウィンナー。欲しいんだろ?」

「……ありがとう」

 ……あ、目元緩んだ……
 可愛いぞ、この子!
 
「うむ、可愛いので、俺のミニハンバーグもあげよう。うんうん」

「あははー。舞、可愛いですよね?」

「ああ、凄く可愛い。……なんだろう、こう……癒される感じが」

「……みまみま」

 なんでかなー?
 自分が無表情系だったせいか、こういう子が顔を緩ませると凄く嬉しい。
 うう、お姉さん、なんでもしてあげたくなるよ、ホントに。

「よかったね、舞? せつなさん、舞の事分かってくれたよ?」

「……みまみま」

 ……俯いたまま食べるのをやめない舞。
 ……まさか……

「照れてる?」

 びしってチョップが頭に刺さった。俺に。
 ……照れ隠しか?
 いかん、マジで可愛い。

「お姉さん君のような子大好きだ。明日は君の好きなものを作ってきてあげよう! 何がいい!?」

「あ! それは佐祐理の役目ですよ? 舞~? 何がいい~?」

「……佐祐理は、たこさんウィンナー。せつなは、卵焼き……いい?」

「「もちろん!」」

 ふふふ! なんか萌えてきた! もとい、燃えてきた!

「流石に家の食材使うわけにもいかんな。帰りに買ってこないと……」

「あはは~? せつなさんには負けませんよ~? ……いつぞやの雪辱は、ここで晴らしてあげますよ~?」

 ……実は根に持ってた?
 だが、面白い。

「じゃあ、審判は舞だな? 舞に気に入ってもらった方の勝ちという事で」

「はい。受けて立ちますよ? 舞もいいよね?」

「……喧嘩は駄目」

 こんなに楽しそうにしてるのに、喧嘩に見えるのか、舞は。

「舞? 料理の競い合いは喧嘩じゃないんだぞ? 俺も昔は幼馴染と料理の競い合いをして研鑽したものだ」

「それに、舞に喜んでもらいたいんだよ? 審判お願いできるよね?」

「……ならいい。楽しみにしてる」

 よーし。
 その無表情が溶けるほどの卵焼きを作ってきてくれる!
 覚悟しろよと。
 ……後、三段もあった重箱と、俺の弁当はほとんど舞が食べつくしてしまったのはスルーすることにした。
 ……俺、あんまり食ってないのに……

 放課後、スーパーに買い物により、卵と料理の種を買う。
 水瀬家の食材とごっちゃにならないように、後でストレージに入れとこう。
 後は真琴用の肉まんと、俺のカレーまん&ピザまん。
 ……この街のコンビニ、中華まん系統は絶対切らさないよな……
 まあ、こんだけ寒かったら売れるか。
 ……? あれ? あそこにいるのは……

「祐一?」

「あ、せつな? ……買い物か?」

 それ以外の何に見えると?
 
「て、秋子さんのお使いか?」

「いや、明日の弁当用。……学食、やっぱり口に合わんから、今日から作ってる」

「作れるのか……やっぱ女の子なんだな……」

 いや、それは……前世で俺作ってたし。

「必要に迫られれば、誰でも作れるよ。……俺、今の親に引き取られるまで、一人だったし」

「……一人って……その、実の親は?」

「死んじゃったよ。母親は俺を生んだ直後に。父親は……四歳の頃に」

 それから、八歳になるまで、ずっと一人。

「……悪いこと、聞いたな」

「気にするな。もう慣れたよ」

 さて、暗い話はこれまでにして、家に帰るか。
 ……? 何か近づいて?

「うぐぅ~~~~~!! ゆーいち君どいて~~~!!」

「げ! あゆ!」

「あ! 羽娘!」

 祐一にタックルかます羽娘。
 一緒に倒れる祐一と羽娘。……えっと、なにこれ?
 
「おまえ! また食い逃げか!?」

「食い逃げじゃないよ! お金忘れたんだよ!」

「商品もって逃げれば同じだ同じ!」

 そうだよね。同じだよね?
 てことは、あの追って来ている人が……あれ?

「最近見ないと思ったら……こっちにいたのか、あの親父」

「あ? 知り合いか?」

「俺の地元でたい焼き売ってた人だ……計八回こし餡の中にカスタード入れた人でもある」

 いつぞやのカレーチーズは三回入れられた。
 肉まんならまだしも、たい焼きにカレーは合わんというのに!

「……まあ、今回は貸しとこう。親父! 知り合いがすまん!」

 久々に合う顔に気をよくしてくれたのか、まけて貰った。
 で、だ。

「あゆ? せつなに礼を言えよ? お前の代金、払ってくれたんだからな?」

「あ、うん。えっと、ありがとう、お姉さん!」

「あいあい。……ところで羽娘。俺の事は覚えてるか?」

 夢で会っているって知っているけど、目の前の本人が……?
 あ、あれ? こいつ……

「え? あ! 夢に出てくるお姉さん! ……本当に女の人だったんだ……」

 こ、このちびっ子。
 信じてなかったな?

「あゆ~~~? 今お前は迂闊なことを言ったぞ?」

「え? うぐぅ!!」

 脇に手を入れてタカーイタカーイ。
 俺の頭より上に上げてみる。

「ふははははっは! このまま街を練り歩いてくれる。お前が食い逃げ犯だと宣伝しながらな! 街の皆さんに顔を覚えられるといい!」

「う、うぐぅ~~~~~~!! やめてよ~~~~!! 降ろしてぇ~~~~~!!」

「あーーーはははははははははは!!」

 まるで悪魔ですね、俺。

「まあ、制裁はこれくらいにしてやろう。慌てる様が可愛かったから」

「いや、そんなんでいいのか?」

 いいのだ。
 可愛いのは正義だから。

「うぐぅ……祐一君が二人いるみたいだよぅ……」

「「失礼な。俺はこんなに性格悪く……」」

 お互いを指差しながら、その台詞に唖然として、互いに頷き合う。

「「嬉しいだろう?」」

「嬉しくないよ!! 二人して虐めるんだから!」

 いやあ、反論も虐め方も同じだと、本当に怖いな。
 カグヤでもこうはいかんぞ。

「魂の双子説はある意味間違ってないのかもな」

「いや、まったく。よかったな、あゆ?」

「よくないよ……」

 むぅ、剥れてしまった。
 まあ、とにかく。

「たい焼き代は俺が払ったんだから、一匹貰うぞ?」

 彼女がしっかり持ってる袋から、たい焼きを掠め取る。

「ああ! ぼくのたい焼き!」

「払ってもらっといて、なにがぼくのか! 所有権はせつなにあるんだぞ?」

「あの親父、低価格で売ってくれるからな。しかも、まけて貰って十二個千円だ。……一個千円のたい焼きだが、これで勘弁してやろう」

 管理局の給料あまり使わないから、こっちの金に換金して貰って、結構な額持ってきたからな。
 もちろん、親の遺産もたんまりある。
 金には困らないのです。
 であ、いただきます……

「orz」

「うお! なんだいきなり!?」

「うぐぅ?」

「……ま、またカスタード……」

 無造作に取った一匹がはずれだとは……どれだけ運が悪いんだ……

「うわ、ホントだ。……昨日は全部こし餡だったよな?」

「うん。……お姉さん運悪いね?」

 悪すぎなんだよもん。


 羽娘と別れ、家路に。
 祐一とは幼馴染らしく、七年前にも一緒に遊んでいたらしい。
 おとついあたりにその事実が判明したそうだ。
 ……結構忘れてること多いんだな、祐一。
 
 けど、あの羽娘、なんで、守護騎士と同じような気配がするんだ?
 こう、なんと言うか、実体じゃないような……
 でも、ちゃんと触れられたしなぁ……
 ……まあ、いいか。

「ところで、そんなに買ってどうすんだ? 一人分にしては多いような……」

「ふふふ。久しぶりに餌付けしがいのある子がいてね? ちょっと本気を出そうかと」

 ただの卵焼きを基本として、出汁巻き卵にうな卵焼きにかにかま卵、ベーコン入りに、ウィンナ巻き。
 五目卵焼きだって作ってしまおう。
 ご飯もチャーハン風味にして、おにぎりに。海苔の代わりに薄焼き卵で巻いて、食べやすく。
 茶碗蒸しだって作ってやる。

「……ふふふ、燃えてきたよ?」

「……スゲェな……なんか、炎が見えるよ、お前の後ろ」

 ふあははははは! 俺の人生はフェイトの餌付けから始まったからな。
 舞もメロメロにしてくれる。


 夕食後に台所を借りて弁当の仕込み。
 朝のトレーニングもあるから、種だけ作っとこう。
 ……名雪と祐一の分も作ることに。
 
「あら? それなら、私が作りましょうか?」

「あ、いえ。明日だけってことなんで。……あれですよ、ライバルには負けられないので」

「……餌付けにライバルってあるのか?」

 なにを言うか。

「向こうは少なくとも、一年以上は餌付けしてるからな。それ以上の物を出さないと、食べなれた方に軍配が上がってしまう。……負けられないんだよもん」

「あらあら……」

 料理の種は冷蔵庫に、余った食材はストレージに入れ、入浴。
 真琴と入ることに。
 ……うう、俺より胸あるとか……
 美汐が設定したんなら、願望なのか、それとも、はやてみたいに揉んでたのか……
 どっちもないな。みっしー真面目だし。

「あう?」

「いや、気にすんな。頭流すぞ?」

「うん」

 二人分も湯船に入れないので、真琴に先に入らせる。
 俺も体を洗って……

 がらっ。

「よし、真琴! 裸の付き合いといこ……う……じゃ……あ、あれ?」

 ……振り向くと、祐一君。
 腰にタオルを巻いて、入ってきた。
 ……空気が固まる。

「……その、祐一? ……それは普通に犯罪だと思うよ?」

「……す、すまん……ほら、真琴がな? あんまりにも懐いてくれないから、裸の付き合いすれば少しは仲良くしてくれるかな~……て」

 弁解はいい。

「……真琴。言ってあげなさい」

「祐一の変態」

「ぐはぁっぁ!!」

 おお、見事なクリティカルダメージ。
 胸にでっかい槍が突き刺さった……気がする。
 さらに追い討ち。

「こんな大女で欲情できるなら、背中ぐらい洗ってやるが? この変態」

「ぐぅおおお!? ……お、俺が悪かった……あ、後一つだけ言わせてくれ……」

 む? もはや死に体になっている祐一君、何か反撃でもあるのか?

「今のお前、凄く色っぽいぞ?」

 !?

「で、で、出てけ! バカァ!」

「ぴこはん!?」

 どう見ても風呂桶だろう。
 顔面に直撃させてドアを閉める。
 ……か、顔真っ赤になってるな、これ。
 顔が熱い~~……

「……せ、せつな、大丈夫?」

「あ、ああ……び、びっくりした……」

 俺に欲情できる人間がいたとは……ええい、祐一恐ろしい子!?
 思わず、ツンデレっぽく怒鳴ってしまった。
 ……ああいうのはアリサの役どころだよ、ふつー。

 風呂から上がって、第三事務室に通信。
 真琴には祐一の嫌がらせに行ってもらった。
 ……いつもの二割り増しでやってこいと指示して。

「……え?」

『……いや、その反応はなんなんだ?』

 びっくりした。
 すずかだと思って待ってたら、画面の顔はティーダさん。
 普通にびっくりした。

「なぜ、そこに?」

『ああ、俺のほうから連絡があってな。……ほれ、昨日の出向命令の件だ』

 ティーダさんあての出向命令が出てたが、実は偽物と判明。
 フェイトに調べてもらっていたはずだが?

『あの後、今度は中将秘書……オーリスさんの名前で同じ命令が来てな? 当然向こうは知らないと言っていた。……でだ』

「囮捜査は認めませんよ?」

『……駄目か』

 当たり前です。
 そんな危ないことさせられるか。

『お嬢は嫁たちだけでなく、俺に対しても過保護なんだな?』

「あんたに何かあったら、ティアに嫌われる。……そして、泣かれるんだぞ? ティアに泣いて欲しいのか?」

『わかった。無理はしないで置こう』

 手の平返すのはええな!

『一応、幻術の俺をサーチャーに被せて、出向先に送ってみた。……これでなんか分かればいいんだが』

 いや、どうだろう?

「今の反応は?」

『む、そうだな調べてみよう……あれ?』

 駄目か。
 魔法だからな。
 AMFでかき消されるだろう。

「……駄目でしたね?」

『だったな。……うわ、映像記録すら潰されてやがる。徹底してるな~』 

 奴さんも必死だな。
 ……仕方ない。

「ティーダさん。部隊長に『最警戒指令』の発動を伝えてください。……多分、これで同じ手口は使いづらくなるはずですから」

 以前にも各部隊長や各部署の責任者に打診してた、出向命令の注意だが、これはあくまで口頭注意だった。
 それを、レジアス中将の名で公式に警戒を呼びかけてもらう。
 ……向こうさんの手口を気付いた人間がいることを、向こうの実行犯に教えることをするのだ。
 その代わり、出向命令を探る捜査線を潰すことになるが、ちょっかい掛けられるよりかはマシだろう。

『わかった。じゃあ、お前の嫁さんに変わるとするよ。ゆっくり愛を語らってくれ』

「……ええ、そうさせてもらうよ。……ティーダさん。無理はしないでくれよ?」

『お嬢が言うな。……じゃあな?』

 席から離れ、今度はすずかの姿。

『お疲れ様、せつなちゃん』

「お疲れ、すずか。今日の連絡をお願いできる?」

『うん。えっとね?』

 ティーダさんの件以外で、特に進展はなし。

 災害救助でウルズ隊が出動。
 災害の原因が、ロストロギア『レリック』であるらしく、それを封印。
 遺失物管理課へ。

 ……後、中将とロウラン提督から打診。
 訓練依頼の局員のリストを送ってもらった。
 なのは曰く、俺の意見も聞きたいらしい。
 全部で五人。明日の授業中にでも見ておくか。
 
『今日は以上だよ? ……せつなちゃん、ちゃんと休めてる?』

「ああ、のんびりはしてるけどね……授業が辛い」

『? ついていけない……はずはないよね。つまらないとか?』

「うん。時間の無駄……うう、仕事したい」

『もう……でも、気持ちはわかるよ。中学の時って、私もつまらなかったから。授業中に、医学書読んでたし』

 ……よくばれなかったな、それ。

『だからね? みんなに相談して、楽な仕事をせつなちゃんに回そうって。確認書類とか、報告書類とか。……ばれないように、気をつけてね?』

「……えっと、いいのか?」

『うん。みんなも同じ気持ちだったみたい。休んでるはずなのに、日に日にやつれてる気がする~って』

 あははは~? そんなレベルだったのか、俺。
 まあ、拷問チックだからな、学校の授業。
 その知識は既に知ってる&俺の仕事の役に立たんのじゃ~みたいな。
 ミッドで日本の古文なんぞ、役に立ちません。

「気を遣わせて、ごめんな、すずか」

『ううん。……えっと、こっちこそごめんね? せつなちゃん、今一番抜けたくなかったのに、昔の約束で休ませちゃって……』

 あれ?
 すずかは否定的だったのか?
 ……約束取り付けた時はノリノリで賛成してたのに。

『……あの時は、こんなことになるなんて考えなかったから……ごめんね?』

「……いや、いいよ。俺を思っての事だったんだし。約束したんだから、守らないと」

 ただでさえみんなに隠し事してる身分だ。
 ……言えないよなぁ。
 既にゴッツォ研究所の目星は付いてるなんて。
 ……今動くのは絶対悪手の上、証拠がないからなぁ……

「まあ、一ヶ月休んで、それからまた頑張るさ。……その間は、みんなに任せるぞ?」

『……うん! 任せておいて? 私も、頑張るから』

 笑顔でそう告げるすずか。
 ……うう、抱きしめたい~……

「おう。……じゃあ、今日は、おやすみだな?」

『うん。……おやすみ、せつなちゃん』

「おやすみ、すずか」

 おやすみの挨拶で通信を切る。
 ……うう、すずか分を補給したい……

 ……さて。

「あれ? せつな出かけるのか? もう九時だぞ?」

 玄関先で祐一に遭遇。
 ち、見られたか。

「ああ、ちょっと気になることがあって」

「? ……もしかして、仕事?」

 んにゃ、まったく関係……ないとはまだ言い切れないよな。

「まあ、気にするな? 俺が気にしているだけだから」

「むぅ。よくわからんが、気をつけてな?」

「ああ、ありがとな」

 祐一に見送られ、家の外へ。
 ……物陰に隠れて、防寒結界と認識障害魔法を展開。
 空を飛んで学校へ。
 ……屋上に降り立って、校内に侵入。
 さっそく、ワイドエリアサーチ。
 
「最近、補助系魔法ばかり上手くなるよな、俺」

【訓練以外で戦闘しませんしね。……まあ、騎士らしくはないですね~】

 捜査ばかり上手い騎士ってどうよ?
 ……はやてがいたか、俺以外には。
 と、サーチャーに反応。
 ……二階の廊下に、誰かいる。
 反応に従って向かってみると……

「よう」

「……せつな」

 やはりいた。
 剣を持った舞が、俺を見つめている。

「今日は出そうか?」

「……まだ、わからない」

 ひょっとしたら、いつもこうやって出てくるのを待っているのかもしれない。
 ……これって、不法侵入だよね?
 俺が言うのもあれだが。

「まあ、付き合うさ……あ、そうだ」

 パラディンの格納領域より、軍用クラッカー缶を取り出す。
 ソースケさんの伝で、大量に購入したのがまだ残ってる。自宅に。
 チョコレートクリームも取り出し、廊下に座る。

「クラッカー。食うだろ? ……ハラが減ってはなんとやらって言うぞ?」

「……ありがとう」

 俺の隣に座り、缶からクラッカーを取って、クリームをつけて食べる。
 ……む? ちょっと固まった?

「……クラッカー……?」

「クラッカー。……あ、すまん、日本のそれじゃなくて、外国のだからな。どっちかってーと固焼きのビスケットに近いんだわ」

 でも、パッケージにはちゃんとクラッカーと表記してある。
 まあ、これは、文化の違いだろう。
 不味くはないので最初の食感に驚くが、

「……びっくりした」

「不味くはないだろ?」

「……堅いけど、嫌いじゃない」

 ……舞の嫌いじゃないは、好きと言う意味か。
 照れているのか、ひねくれてるのか。
 後、剣は絶対に手放さない。
 ……しばらく無言で食べ続ける。

【マスター。いました。……こちらに接近中!】

「オーケー。舞?」

「ん」

 サーチャーが反応したらしく、魔力強化を体に施す。
 ……舞がいるから、魔法は使えんな。
 
「……来る」

 前方の闇に違和感。
 ……何かが来た!
 実体が見えない!

「ち……はぁ!」

 襲ってくるそれに向かって正拳突き。
 手ごたえはあった……けど、決定的なダメージにはならない!
 けど、勢いは止めた!

「しぃ!」

 サイドステップで『それ』の横に回りこむ。
 それまで俺がいた位置に、舞が突きを入れる。
 ……避けた? ……上!?

「逃すかよ!」

 廊下の壁を蹴って三角跳び。
 反動を使って蹴り落とす。……て、避けられた!?
 くそ、シューター使いたい~!
 ……そのまま『それ』は逃げていってしまい……

【……反応、消えました。……駄目ですね。足取りつかめません】

「くそ。……巣がわかれば襲撃掛けるのに」

 ヴェロッサの犬があれば便利なんだけどな~。
 流石にあれは真似できんかった。

「……せつな。戦い慣れている。……位置取りも上手い」

「え? ……ああ。その、えっと……騎士、だから」

 まあ、騎士と言ってれば、魔法使いと思わないだろう。
 
「……剣を持ってないのに?」

「ああ。……今は、剣を使っちゃ駄目なんだ」

「……持ってたら、強い。……お願いがある」

 え? お願い?

「……私に、剣を教えて欲しい。……せつな、私より強い」

 ……そ、それは……
 うう、ごめん舞。非常に残念だけど。

「ごめん。俺、インチキを使ってるから」

「インチキ?」

「うん。……使わないと、舞よりも弱いよ」

 魔力強化なしだと、地力が弱いんだよな~。
 筋肉が発達しにくい体質らしい。
 代わりに、魔力強化しやすく、最大出力で擬似神速出せるけど。

「……でも、技術は私より上……駄目?」

 う……そんな、不安げに見つめられると……
 ……はぁ。

「わかった。俺の剣でよかったら、教えるよ」

「……ありがとう」

 うう、こんなところで弟子が出来るとは……
 まあ、暇だし、いいか。

「えっと、何時にしようか?」

「……放課後。……いい?」

「よし。じゃあ、明日の放課後からだな?」

 こくんと頷く舞。
 心なしか嬉しそうだ。
 さて、彼女の剣筋からなら……シグナムあたりの戦い方を教えるか。
 多分はまるだろう。

「じゃあ、また明日。……あ、お昼は覚悟しとけ? 久々に本気出してやる」

「……楽しみにしてる」

 あ、笑った。
 ……さっさと帰ってしまったが、その笑みは……キレイだった。
 ……うう、浮気しそうなんだよもん。




 *ちょっと長いですが、半分にぶった切れる場所がありませんでした、作者です。
  皆さんお待ちかねの舞登場。昼にあゆとも出会ったし、これでKANONヒロインズは全員出ました。
  次はちょっとした一日を書いて、話が動くのがその次あたりかと思いますよ?
  竜之介わかってくれた人が多くてありがたいです。作者でした。




[6790] L31-5.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなと祐一と迷子の子狐
Name: 4CZG4OGLX+BS◆45a3a780 ID:f6b928c8
Date: 2009/07/25 10:28

「と、そろそろ時間か」

「うぐぅ……そうだね」

 ここまでくると、取り憑かれてるとしか思えない状況。
 毎日来てます、この羽娘。

「明日は来ないことを祈ってるよ」

「うぐぅ~。お姉さんの意地悪」

 手を振ってさよならする。
 せめて、来る来ないの制御くらいはしてもらわないと。
 いつぞやのはやて達みたいになってしまう。
 ……この子に、あの夢は辛すぎる。

「じゃあな?」

「またね~」

 いや、または駄目だろ。


 起きてからトレーニングのため、外へ。
 丁度いい広場を見つけたので、そこまでダッシュ。
 着いてから封鎖結界張って、魔法訓練。
 ……兵装、杖以外全部封印されてるから、高町家謹製鉄芯入り木剣(製作依頼品)使うぐらいしかないけど。
 全方位スフィアアタックを斬り捌く訓練だけして、家に。
 ……今日は舞のために本気を出して弁当作らないと。

 戻ると、既に秋子さんは起床していた。
 台所の一部を借り、弁当を作る。
 卵焼きスペシャル弁当だ、これで勝てる!
 今日は名雪を起こすのは祐一のみに任せ、弁当作りに全力を注ぐぜ。
 ……秋子さん? その、温かい目で見るのはやめて下さい。

「いえ、とても真剣に作っているものですから」

「……お、お友達の喜ぶ顔って、嬉しいですよね?」

「ええ、そうですね」

 真剣にもなるって物です。
 ついでで祐一達の弁当も作成。
 余熱を取ってから、ふたをして、完成。
 一人分二つと重箱二段一つ。
 ……佐祐理さん、昨日三段のやつ持ってきてたから、量は少ないかもしれないが……
 こっちは質と種類で勝負!
 で、例の爆音後、しばらくしてから三人が降りてきた。
 ……て、おい。

「……その、名雪が持ってるの……」

 突っ込む暇を与えず、席に座る名雪。
 そしてその隣、俺の席にそれを置く。

「けろぴーは、ここ」

 ……えっと。
 それは俺に朝飯を食わせんと、そういうことなんだな?

「秋子さん。甘くない邪夢もらえますか?」

「はい♪」

 手渡されるおれんぢ色の邪夢。
 トーストに薄く塗って、その上にイチゴジャムを塗りたくる。
 祐一、真琴、その顔はなんだ?
 朝から顔色悪いぞ?

「ほら、名雪。イチゴ邪夢塗ってやったぞ、存分に食え」

「うん!」

 そして、迷いなく口の中にトーストを咥える名雪。
 ……逝ってこい。

「? ……!?!?!?!?!?!」

 名雪は目が覚めた!
 名雪は混乱している。
 名雪は毒に犯された。
 名雪は麻痺してしまった。

 ……名雪は死んでしまった!

「……おお、しんでしまうとはなさけない」

「お、鬼がいる……」

「あ、あう~~~~……」

 愚か者め。
 そして、食べ物を粗末にした自戒の為。
 自分のトーストにもそれを塗る。

「……逝きます」

 ……一口でバッドステータスマックス。
 二口で瀕死。
 三口でDEAD。
 一気に全部食べ切ってASH。

「……ご馳走様。オイシカッタDEATH」

「はい、お粗末さまです」

 ……真っ白に燃え尽きても、生命活動は終わってません。
 ぼくの心臓は、まだ、動いている!!

「……漢だ」

「せつな……かっこいい……」

 もちろん。遅刻ギリギリでした。


 さて、授業中に内職発動。
 すずかから送ってもらった訓練隊入隊希望者のリストを拝見。
 ……空間ディスプレイなんてオーバーテクノロジーもいいとこだから、モバイルパソコンにデータ入れてこっそりと。
 さて、一人目~。

「……没」

 魔導師ランクはA。親が艦隊提督。執務官希望。空戦適性……なし。駄目じゃん。
 後、訓練校で問題起こしてる奴だから、そこで確定。これは没。
 将来希望部署に航行隊とか書いてるし。
 空戦なしで航行隊は厳しいんだぞ? 執務官とくればなおさらだ。
 ……本編ティアナはそこらへん、どう考えていたんだろうか……

 二人目。

「……むぅ。内勤じゃんこいつ」

 事務員を訓練隊に入れてどうするのか?
 ……あ、魔導師ランクB+だ。
 武装隊の経験はあるのか……ほむ。一次審査通過。

 三人目。

「没」

 てか、こいつ以前に俺にこなかけてきた奴じゃん。
 『君にそんな言葉は似合わないよ? もっと女らしく喋ると可愛らしいよ?』
 とか抜かしやがったから、その場で懇々と罵倒してやった。女言葉で。
 『ぼくは諦めないからね!』とか言ってたけど、こういうアプローチは困る。没。
 ……レティさん、もう少し人を選ぼうぜ?

 次は本部組だな。
 四人目。

「……あ、あれ? あれ?」

 こ、こっちから見つかったよ。
 ほら、あれだよ。フラッパーガールのお嬢。
 マッドの娘、円月殺法。
 ……地上訓練校をそろそろ卒業するのか。そのままこっちに持って来たいらしい。
 と、言うか、親御さんから中将に打診があったようだ。
 使用デバイスは持ち込み。……ちゃんと決戦機動兵器二号機……
 博士いるのかよ!? 後で連絡しとこ。
 ……あ、そうか。異星人侵略ネタじゃないから、出るの遅れたな?
 とにかく、この子は採用。

 五人目。

「……え~?」

 なんと、スレイさんからの入隊志願。
 うーん、まだ早いかな~?
 ……ああ、先日の模擬戦で勝ちを取ったから、今度は声が掛かると思っているな?
 そんな傲慢は許さん。没。
 ……入れてもいいんだけどね。
 まだアイビス覚醒してないし。
 下手に入れて、アイビスへそ曲げたら嫌だし。
 ……大体、今いる部隊だってエリートだろ?
 わざわざうちで引き取る必要はねー。
 もう少し修行しやがれ。一年も働いてないだろ。

「ま、こんなところか」

 事務員魔導師と博士の娘さんの二人を採用することに。
 海と地上から一人ずつで、両方の体面は守れたぞと。
 てか、レティさんはもう少し人を選んで持ってきてくれ。
 訓練校で問題起こすのとか、逆玉狙いとか連れてこられても迷惑なんじゃ~!
 ……まあ、今回は入隊志願だったし、その没った二人とも、大物提督の息子さんだし。
 こっちで断われってことだったのかな?
 ……面倒な。


 昼。勝負の時間だ。
 祐一に弁当を渡す。ついでに名雪のも。

「じゃあ、これ。……で、名雪はまだ駄目か?」

「だお~~~……」

 ……うぐぅ、あうーに次ぐ鳴き声だな。
 流行ってんのか? 自作鳴き声。

「いやあ、躊躇せずに食ったからな……てか、お前はもう平気なのか?」

「当然。何度母さん特製リンディ茶を飲まされたと思ってる。向こうは善意だから、断わりきれんのじゃ」

 おまけに、何度も助けられてるから、嫌とも言えん。
 性癖膝詰め対談でも出されたが、こっちの要求を通すため、お茶は飲みきったわ。

「……それはどんなお茶なんだ?」

「秋子さんのジャムがまったく甘くないように……母さんのお茶は死ぬほど甘い。……緑色だがな?」

 赤色ならまだ許せる。
 緑茶なんだよ……さらに煎茶。

「……毒物耐性が出来てるのか……」

「……どこの忍者よ……それともスパイ?」

「ふふふ……じゃあ、しっかり味わって食ってくれ。俺は勝負に行ってくる」

「「「行ってらっしゃい」」」

「だお~~~……」

 眠り姫の鳴き声を背に、いざ、戦場へ!

 ……既に二人とも、その場にいた。

「待ってましたよ、せつなさん。……覚悟してくださいね?」

「それはこちらの台詞だ。……さあ、舞。しっかり食してくれ」

 俺のターン。 
 重箱を開くと、見事に輝く黄金の弁当。
 卵の色だけど。
 一の段には薄焼き卵のおにぎり。卵炒飯で作りました。
 二の段には各種卵焼きの博覧会。
 基本の卵焼きから出し巻き卵、うなぎやかにかまを巻いたもの。ベーコンやハムを混ぜたもの。
 五目卵焼きもちゃんと作ったし、オムレツも入れてみた。
 さらに、茶碗蒸しも準備。……パラディンに頼んで加熱中。

「……凄い」

「やりますね……では、こちらの番ですよ~?」

 佐祐理さんのターン。
 佐祐理さんは昨日と同じ三段の重箱。
 一の段には真っ白いおにぎり。海苔を巻いて……だが、玄人にはわかる。
 あの中には具が詰まっていると。
 二の段を開くと、

「な、なにぃ!? ウィンナーの動物園だとぉ!?」

「……佐祐理凄い」

 やられた。タコさんだけでなく、カニさんウサギさんカメさんライオンさんまで!?
 そのゾウさんはどうやって作ったのか本当に知りたいところ。
 本当にあんた最近料理始めたんか!?
 絶対プロの業だぞ!?
 残りの三の段は、ウィンナーやハム、ベーコンなどを一緒に炒めた野菜炒め。
 後、マヨネーズ和えサラダなどといった野菜を加えている。
 ……く、できる!? できておるぞ、この娘!

「……じゃあ、舞。食べてみてくれ」

「どちらからでもいいですよ~?」

「……じゃあ、佐祐理から」

 真っ先に箸を伸ばすのは、当然タコさんウィンナー。
 ……舞の反応は!?

「……とても嫌いじゃない」

 むぅ。顔がほころんではる。
 佐祐理さんも満足顔だ。
 
「……次はせつなの……」

 箸を伸ばすのは、普通の卵焼き。
 ……舞の奴、分かってるな。
 あれこれ手を加えたものより、通常のものが一番判断しやすいことを……
 ……何も考えてない気もするが。

「……物凄く嫌いじゃない」

 うし。浮かべた笑顔が全てを物語る。
 思わずガッツポーズ。ハンカチ咥えて悔しがる佐祐理さんって、芸細かいな。

「……二人とも、おいしかった。……でも」

「「? でも」」

 あれ? 
 何か不満が?

「……私は、タコさんウィンナーと卵焼きしか頼んでない……」

「「……あ」」

「……だから、引き分け」

 ……あはは、引き分けか~。
 そうだよな~? いろいろ作るのは、違うよな~?

「……あははー。ごめんね、舞。佐祐理、張り切りすぎちゃった」

「だな。俺も張り切りすぎた。……じゃあ、引き分けということで」

「はい。じゃあ、みんなで食べましょうか?」

「みまみま」

 それぞれの作品を評価しあい、舞は黙々と食べ続ける。
 ああ、友情の形が今ここに!
 ……依頼されたものだけを作ってればよかったのか、とか考えるのはなしの方向で。
 なお、茶碗蒸しは卵焼きじゃないとか言われた……くすん。

 
 明日からは普通に作って欲しいとの依頼なので、普通の食材を買うことにする。
 祐一達からは絶賛された。……香里と北川君、つまんだね?
 で、午後の授業はささっと終わらせて。
 放課後。

「……じゃあ、ちょっと模擬戦してみるか?」

「……お願いします」

 おお、舞が敬語使ってる。
 昨日言ってたとおり、舞に剣を教えることに。
 素手だとあれなので、木剣を装備。
 常に二本は格納しているので、一本を舞に。

「……重い」

「中に鉄芯が入ってるからな。当たるとそこそこ痛いぞ? ……じゃあ、始めようか?」

「……始める」

 正眼に構える両者。
 ……舞の構えを見るに、剣道がベースになっているようだ。
 先手は舞。
 ……振り抜き、剣筋を見るに、技を使わない力任せ。
 だが、鋭い。
 二、三回打ち合う。……重心が前よりだな。
 踏み込みの反動を乗せて叩き切ってる感じ。
 今度はこっちから攻めてみる。
 ……見切りができてる。
 こちらの剣筋を読む事はもちろん、フェイントにも反応してる。
 ……ありゃ。これは俺じゃ駄目だ。教えることが少ない。
 技量はほぼ俺と同じレベル。
 後は。

「実戦の差……かな!?」

 あれ? はずした?
 ……あ、そうだった。俺魔力強化してない。

「ふぅ!」

「と、あぶね!」

 かすった! ……距離を空ける。
 ……駄目だこれ。

「……あのさ、舞。気付いてると思うけど……」

「……インチキしてないと、私と同じ強さ……」

 ……うん、そうなんだよね……
 何故か、乾いた風が二人の間を吹き抜ける。
 ……そして俺はorz

「? ……どうしたの?」

「ひ、非魔導師と同レベルなんて……てか、騎士に追いつける舞が凄いのか!?」

 どんな戦闘をこなせばそこまでレベル上がるんだ!?

「……あのさ。舞の戦ってる魔物って、これまでどんな奴がいたの?」

「……いつもどおり」

 ……あいつだけ!?
 あれだけと戦って!?
 ……あの魔物が強すぎるのか、舞が凄すぎるのかわからなくなった時間だった……

 ……まあ、残りの時間は全て模擬戦に使った。
 結局勝負はつかず。
 ……こっちの技をスピードでかわすが、向こうは力押しなので余裕でかわせる。
 回避特訓と舞の攻撃パターンを把握できるだけの時間だったが、

「……また、お願いする」

 と、明日以降の訓練も依頼された。
 ……まあ、いいか。
 俺も訓練になるし。
 舞は剣よりも刀を使ったほうがいいかもしれな……駄目だ。
 舞に示現流を教えたら駄目だ……
 うん、今までどおり剣を使う方向で。

 ……自分が負けるかもって思ったからじゃないよ? ホントだよ?



 買い物して家に。
 真琴に肉まんを買っていくのが日課になってしまっている。
 保護者に怒られるかも……
 ……あれ?

「……真琴、どうしたの?」

 家に真琴がいなかった。
 祐一に聞いてみる。

「……さあ? ほっときゃ戻ってくるだろ」

 ……む、なんか冷たい反応。
 真琴と喧嘩でもしたか?

「……あのさ、せつな? あんまりあいつ甘やかすの、よくないと思うぞ?」

「え? ……なんかあったのか?」

 何か致命的なことやったのか、あいつ?
 教科書で折り紙したとか?
 それとも、衣服にハサミ入れてボロボロに?
 ……まさか、祐一を燃やしたとか……だったら無事なわけないか。

「あいつ……歩道橋の上から、猫落としやがった」

「……え?」

 猫? 落とした?
 ……詳しく聞くと。
 祐一を迎えに来た真琴。
 どこで仲良くなったのか、猫を頭に乗せていたらしい。
 帰りがけに、猫をだしに肉まんを要求。
 仕方なしに買ってやると、その帰り道。
 歩道橋の上で、

『じゃあ、あんたはもう用なしね?』

 ……気付いた時には、猫を手放していた。
 猫はトラックの荷台に着地し、そのままどこかへ走り去ってしまう。
 悪びれもしない真琴の頬を引っ叩き、叱り付け……
 泣き出した真琴を放置して帰ってきたらしい。

「……そっか。あいつ、そんなこと……」

「ああ、いくらなんでも、あれはやっちゃいけないことだ。……用が済んだら、捨てるなんて……」

 ……確かに、それは、正しい。
 だが。
 ……祐一に、それを言う資格があるのだろうか?
 ……いや、祐一も覚えてないだろう。
 真琴も、祐一を憎いとしか、覚えていないはずだ。
 ……ここで、教えてしまっても、多分、意味は、ない。
 ……だから。

「……真琴、探してくるよ……」

 俺が、ちゃんと教えてやらないと……



 ……いない。真琴がいない。
 どこに行った?
 日が暮れて、既に二時間経つ。
 今は七時。
 ……もう、家に帰っているのか?
 ……いったん水瀬家に戻ることに。

「え? 真琴? ……戻ってきてないよ?」

 もうすぐご飯できるそうだ。
 ……けど、真琴がいない。戻ってきてない。

「……そう。……もう一度出る」

「え!? でも……」

「せつな? あいつの保護者、この街にいるんだろ? そっちに戻ったんじゃないのか?」

 ……それはない。
 真琴はお前を呪いに来ているんだ。
 簡単に戻ったりしないはず……
 まさ、か、最初の合図が……

「……さ、探さないと……」

 祐一の呼び声を無視して、真琴を探す。
 商店街、住宅街、街のはずれに、山の中、その先……
 いない。
 ……一応、学校にも顔を出してみる。

「? ……せつな?」

 舞がいた。
 ……けど、真琴の気配はない。

「……すまん、舞。女の子見なかったか? こう、ツインテールで、明るい焦げ茶の髪色で、ジーンズのジャンパー着た……」

「……見てない」

「……そう……か」

 次を探しに行かないと……?
 ……来る。
 こんな時に。

「……せつな」

 構える舞。
 近づいてくる気配。
 ……貴様に構っている暇はない!

「どけぇ!!」

 ……その気合の一声で、気配が消えた。

「……せ、つ、な?」

「……悪い、俺、行くわ」

 舞に手を振って、その場を後に……?
 ……舞が、俺の手を掴んでいる。

「……せつな。……怖い目をしてる……」

「……ああ、すまん。……真琴を、探さないといけないから……」

 つい、カッとなった。
 また、俺の知らないところで、大切な誰かが消えてしまいそうで……

「……せつな、明日も、学校、来る?」

 途切れ途切れに、でも、力強く。
 彼女の問いに、答える。

「ああ。ちゃんと来るよ。……大丈夫」

 俺は、普通に笑えていただろうか……


 もう一度、家に戻ることに。
 ……その、手前で。

「あ」

「……祐一……真琴も……」

 真琴を背負っている祐一と遭遇。
 ……祐一も、探してくれたようだ。

「真琴は……?」

「ああ、丘の方で猫と一緒に寝てたよ。……たく、心配かけやがって……」

 幸せそうに眠る真琴。
 ……こっちの心配も考えて欲しい。
 
「……まあ、無事でよかった」

 骨折り損もいいとこだ。
 舞にも心配かけてしまった。

「じゃあ、戻ろうぜ? せつな、飯食ってないだろ?」

「……ああ、そうだな」

 ……駆けずり回った後のご飯は、とても美味しかった。



『……せつな? 何で休んでるのに、そんなげっそりしてるの!?』

「……俺が聞きたい……」

 毎日毎日イベント多すぎなんだよもん。
 さっきまで走り回ってたし。

 ……とにかく、申し送りを開始。
 授業中に選出した二名を採用の方向で、なのはに連絡してもらう。
 残り三名は没と伝えた。

 で、部隊の動き。
 例の警戒態勢はちゃんと発動し、これからの動きに期待。
 しばらくは本部内誘拐は起こらないだろう。
 それ以外の動きはなし。
 で、フェイトからの宿題……と、言うか、簡単な仕事。

『……これ、はやてからの依頼で、部隊内の決算報告の見直し。今年度の予想決算案だから、目を通しといてって』

「あいあい……て、データ多いな」

『決算分だからね。予備資料も多いんだよ……平気?』

「平気平気。……悪いな。気を遣わせて」

『それ、すずかにも言ったよね? ……気にしないで。無理に休ませたのは、こっちだから』

 ……いやいや。
 実に充実した毎日を送っておりますよ。
 ……今日もいろいろありましたが。

「じゃあ、今日はこれで」

『うん……せつな、本当に大丈夫?』

「ああ、平気平気。……ちゃんと休むから」

 明日行ったら休みだし。
 フェイトからの通信を終え、真琴の寝てるベッドに潜り込む。

「……まったく、無邪気にもほどがあるぞ……」

 ……そう言えば。
 ここに来て出会った少女たちは、どことなく俺の嫁たちに似てるな。

 名雪のほんわかぶりはすずかみたいだし。
 舞の鋭さや餌付け時の可愛らしさはフェイトみたいだし。
 最近会ってないけど、栞の儚さははやてみたいだ。……いや、違うかも。
 真琴の我侭っぷりはアリサを連想させる。……髪の色とかも。
 で、あの羽娘は……幼い頃のなのはだな。

 ……ほとんどこじ付けっぽいなぁ。特に栞。
 ……なのは達に会いたいなぁ……



 ……で。

「……まあ、いいけどね?」

「うぐぅ……」

 やはり来てしまった羽娘を、虐めて遊ぶのもいつもの事かもしれない。







 *作者です。普段凛々しい人がいきなり見せる女らしさって萌えますよね?
  さて、次回、水瀬家にお母様襲来の巻。お楽しみに。

  で、ちょっと感想板での質問にお答えしますが、この作品に出てくるフルメタの設定は、フルメタルパニック本編に準拠していません。
  キャラクター背景や設定にも手を加えてますので、フルメタwikiどおりというわけではないのでご了承ください(リリカルの世界なので)。
  具体的に言いますが、こちらのアームスレイブはロボットではなくデバイスもどき。ウィスパードが囁かれたのは科学知識だけではなく、魔法技術(主にミッドチルダ式)も含まれる。デ・ダナンは名前だけ同じで中は別物(AS格納する意味がないから)。地球上にアマルガムという組織は存在しない。ガウルンの出番がない? と、言った感じです。後半は深読み可。

  後、レバ剣名称。はい、全部『ベースになる神剣の名前が同じ』というのは知っています。発音が違うということも。
  が、この作品内において、発音が違うものは形状、中身、性能等は別物です。
  シグナムの『レヴァンティン』は剣。カグヤの『レーヴァティン』は特異な形状の杖(東方のフランドールが持ってるあの杖。なお、アレが『レーヴァティン』と呼ばれているかどうかは不明)。宗助の『レーバテイン』は……内緒ですが、剣型ではないと言っておきます。

  それと、シンの名台詞。……いつ使いましたっけ? さっきざっと探してみましたが、それらしき発言がないんですが……

  せつなの容貌。一言で言えばハンサム系の女性。もしくは宝塚の男役すっぴんver.
  うる星やつら知らない方にはそのようにイメージしてもらえると助かります。

  以上ですが、ご理解いただけたでしょうか?

  ながながと解説伏線張り失礼しました。作者でした。



  え? 伏線張り?





[6790] L31-6.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなと舞と素敵なお母さん
Name: 4CZG4OGLX+BS◆571e1fd0 ID:0269cd8e
Date: 2010/05/05 13:20

 朝、早めに起きてトレーニング。
 戻って昼用の弁当を作る。重箱で。
 名雪を起こして先に降りてきた祐一。
 いつものように寝ぼけて起きてきた名雪。

「……今日は休みだったか?」

「うにゅう……」

「パジャマって……着替えて来い」

 学校休む気か、あいつは。
 で、その間に。

「ええーーーーーーー!! ここどこーーーーーー!?」

 真琴の声。
 そりゃあ、びっくりもします、はい。
 眠った場所と、起きた場所が違えば。経験者は語る。
 てか、今日は爆音しなかったな? 目覚ましの。

「ああ、鳴る前に止めた」

「グッジョブ祐一。被害は少ない方がいい」

 部屋から飛び出して階段を駆け降りる音。
 食卓に姿を現す狐娘。

「……あ」

「「おはよう」」

「……おはよう……どうして?」

 不思議な顔をする真琴。
 祐一に返事を任せることにする。

「あー……まあ、お前の帰る場所はここだろ?」

「……うん!」

 正確には美汐の所ですけどねー?
 今は祐一に懐いているようなので、ここはスルーする。
 で、ぺたぺたと降りてくる……

「着替えたよー?」

 私服姿の名雪。
 ……秋子さん?

「甘くない邪夢を」

「いらないよ!? ……あれ? 祐一、せつな、おはよう」

 やっと起きたか。

「学校、それで行く気か?」

「わ。……き、着替えてくるよ」

 慌てて上に上がる名雪。甘くない邪夢効果恐るべし。
 ……そして、にっこりとそれを準備している秋子さんがさらに恐るべし。

「……いただきます」

「どうぞ♪」

 あの笑顔には逆らえないんだよもん。


 真っ白になりながらダッシュとか。
 走らないと遅刻だよ。

「まったく、お前は~」

「ごめんー」

「ご、ゴールはまだ~?」

 うう、まだ舌が変。
 毒物耐性ができても、きついことには変わりないんだよもん。

「つーか、何で食うんだお前は」

「あ、秋子さんのあの微笑には勝てん……友人の母親と同じオーラが出てるんだから……」

 桃子さんと同等なんです。勝てるはずがない。
 なお、リンディ母さんには逆らえます。

 予鈴ギリギリで到着。
 着席したと同時に突っ伏する。

「……相変わらず心臓に悪い登校の仕方ね?」

「「こいつのせいだ」」

「二人とも酷いよ~」

 ええい。元凶がなにを言う。
 可愛い顔しても、もう誤魔化せんぞ?

「二人とも息ぴったりだな。……まさか、できてるとか?」

「北川君? ……絞められたい?」

「いや、なんでもないです、はい」

 男と付き合う気はないというのだ。本気で!


 昼までに決算報告見積書を確認。
 ……前年度より、シエル対策費が上がってる……
 おかしいな。ペースは落ちたはずなのに……来年に期待。

 後、技術部の開発費用も上がってる。
 AMF対抗策に費やしたからな……

 ……対抗策にアリサたちが提示したのは、アンチマギリングフィールドを中和するフィールドを発生させる装置を作ること。
 デバイスの追加装備として組み込み、半径一km前後に中和フィールドを張る。
 原理として、AMFって言うのは、魔力結合を分離させる波なんだそうだ。
 その波を受けると、組み上げられた魔法が分解され、ただの魔力素になって、効果を失う。
 中和フィールドはその波を打ち消す違うリズムの波。
 波長の違う波同士をぶつけ、AMFを打ち消して魔法を通すことができる。
 ……これまでは、その波にぶつかっても、突き抜けられるように貫通属性を付属させて使ってたが、これで、自由に魔法を使えるようになったわけだ。

 ……飛行魔法にすら貫通属性つけないと駄目だったから、よっぽどの人じゃないと、制御できずに激突しちゃってたんだよな。
 それを制御できたエクセ姐さんは凄すぎ。
 とにかく、その中和フィールド発生装置を、前線部隊隊長陣四人と、はやて、なのはのデバイスに組み込んだ。
 来年度はもう少し作ってもらって、交代部隊にも回すつもりだ。
 ……それまでは、ゼンガーさんに頑張ってもらうしかないな。


 昼はみんなと別れ、舞たちと食事。
 と、言っても、今日は土曜日。
 お昼を食べたら、下校だ。

「……みまみま」

「舞ー? 美味しい?」

「……とても嫌いじゃない」

 この会話にもなれたよ、うん。
 二人を見てるのも和むしね。

「それじゃ、俺はこれで」

 食事が終わって、二人と別れる。
 舞との訓練は、今日はおやすみだそうだ。
 用事があるらしい。
 校門玄関へ向かう途中、階段の踊り場で知り合いの姿を……

「あれ?」

 祐一と……美汐?
 いつの間に知り合ったんだか……二人の視線の先に。

「……真琴か?」

 校門前で待ってる真琴。
 下校中の生徒が、横目で見てるのがわかる。
 ……そういや、昼で終わるって伝えといたよな……
 祐一を迎えに着たのか?
 ……祐一がその場を離れ、美汐だけが残される。

「……よ」

「せつなさん……」

 浮かない表情……
 この間別れた時と、同じ顔だ。

「祐一に、話したのか?」

「いえ……ただ、真琴に、優しくしてあげてくださいと」

 昨日、甘やかすなって言われたんだが、俺。
 ……甘やかすのと優しくするのは違うか?

「せつなさんも、真琴を……お願いしますね?」

「言われるまでもないよ」

 最後まで、見ているつもりだ。
 あの子が幸せに、旅立つまで……
 視線の先で、真琴が嬉しそうに祐一に飛びついた。


 今日は寄り道せずに家に帰る。
 リビングに立ち寄ると。

「あら? 今日は早かったのね?」

 ……おかしいなぁ? 何故、この人がいるのか。

「……はぁ。今日は疲れてるな。幻覚が見える」

「む。おかーさんに対して、その物言いは失礼でしょ?」

 はっはっは。幻覚の癖に、なにをおっしゃる。
 俺に戯言は聞こえません。

「じゃあ、秋子さん。夕食まで部屋にいますかr「秋子~~~、娘が苛める~~~」「せつなさん? 駄目ですよ、せっかく来てくれたのに」……何の用ですか、母さん」

 ち、認めちまった。
 暢気にお茶してたのは、我が母リンディ母さん。
 いい大人が秋子さんに泣きつくな。

「休暇取れたから遊びに。秋子に会うのも久しぶりだから」

「そうですか。じゃあ、お帰りはあちらです」

 玄関を指差す。
 あ、また秋子さんに泣きついてる。

「……せつなさん?」

「……く、秋子さんを味方につけるのは、卑怯なんだよもん」

「私と秋子は友達だから、当然よ? ……でも、何で秋子には逆らえないのよ?」

「桃子さんと同じオーラ持ってるから……こういうタイプの母親には逆らえません」

 最強属性持ちだからね、二人とも。
 リンディさん? まあ、一応持ってるけど……娘なら対抗できるんだよ?
 それに、弱点もわかったし。

「むぅ、おかーさんにも、優しくして欲しいんだけど?」

 下手に甘えると、こっちも考えがありますよ?
 性別転換【刹那】。
 その弱点を突いてあげよう。

「じゃあ、優しくしてあげようか? リンディ?」

「なぁ!? そ、それは止めてと言ってるでしょ!?」

 ぜってぇ止めない。
 そのまま頭を両手でホールド。
 耳元まで顔を近づけて、優しく囁く。

「この格好で学校行って、知ってる知識ひけらかされて、退屈すぎる授業受けてるこっちの身にもなってください。まるで拷問なんだぞ? ……帰ったら覚えてろ? 揉み倒してそのまま食ってやる」

「!? あ、あなたわ~~~~!? は、母親よ! 私は!」

「知らんな。……俺はリンディの事が大好きなのに、あなたは俺の事が嫌いなようだし? ……これまで受けた屈辱、倍にして返してやる」

 本気で鬼畜です。
 リンディさん相手に容赦しません。
 ……あんまりやると泣き出すけど。

「……せつなさん。それぐらいにしてください。……私にも責任はあるんですから」

 ……そう言えば、秋子さんからの依頼だったっけ。
 ち、なら仕方ない。性別転換【せつな】。

「……なら、ここまでにします」

 頭を離すと、瞬時に秋子さんの後ろに隠れる母さん。
 ……本当に可愛い人だなぁ。
 警戒モードに入ってるし。

「うう~。せつなのいじめっ子~~……」

「なんとでもどうぞ。……で? 本当に遊びに来ただけなのか?」

 カバンを置いてソファーに座る。
 おいてあったお茶を啜り……あ、リンディ茶か、これ。甘い。

「そうよ? せつながちゃんとやってるかどうか不安で。……なんか、なのはさんたちが言うに、休んでるのにやつれていってるみたいって言ってたから」

「そうなんですか? せつなさん、いつも楽しそうですよ?」

 うん、そこそこ楽しい。
 授業以外は。
 それはともかく。

「一ヶ月の休みはいいんだけど、何で学校? 今更未練ないんだけど?」

「それは……えっとね?」

 何か言いづらそうにしている。
 ……どういう理由だ?

「それは私から話します。……リンディ? 話してなかったのね?」

「だって、言ったら断わりそうだし……」

 どうも、指示したのは秋子さんらしい。
 後、いい加減秋子さん盾にするのはやめい。

「実は、この街にロストロギアによく似た反応があるんです」

「ロストロギア……」

 始めに反応があったのは、七年前の冬。
 丁度、祐一が最後に訪れた時だそうだ。
 その時は勘違いかと思ったそうなんだが、つい最近、同じ反応が観測された。
 それも、二回。
 けど、秋子さんは管理局から離れて久しく、頼れるものはリンディ母さんだけ。
 それで、俺が派遣されることになったそうなんだが、何しろ、七年も潜伏していたものだけに、どのようなことが起こるかわからない。
 さらに、反応はあるが、どこにあるかまではっきりしない。
 だから、俺に学校生活を送ってもらい、いろんな場所を探索してもらうつもりだったと。
 ……ただの休みなら、俺、あんまり外でないしね?
 てか。

「それならそれでちゃんと言えば、外出て探すのに……」

「それじゃ休みの意味なくなるでしょ? ……あなた、仕事となると無理するんだから」

 いやぁ……そうか?
 母さんにまで指摘されるレベル?

「……と、言いますか、ロストロギア事件なら、普通に仕事でしょうが。……のんびりしてていいんですか?」

「ええ。次元震がおこったり、災害が起こるとかいった危険なものではないと思います。……ただ、なにが起こるかわからないだけですから」

 ……いやいや。それが一番怖いんですって。
 
「秋子がこう言ってるんだから、大丈夫よ。秋子の勘は当たるのよ?」

 ……まあ、否定できる要素が見当たらないのは確かだけど。
 
「……とにかく、これも仕事というなら、我慢しますよ」

「だから、仕事じゃなく、休みのついで。……あなたが最近無理してたのも、知ってるんですからね?」

 うげぇ。あれは仕方ないんじゃー!
 その後、祐一達が帰ってくるまで、懇々と休むことの大切さを説教された。
 ……うう、俺だって休みたいんだけどなぁ……


 帰ってきた祐一達に母を紹介。
 ……何故か納得されたのは何故だろう。
 血は繋がってないはずなんだがなぁ……
 で、みんなで夕食。
 ところで真琴?

「その鈴はなんなんだ?」

「祐一に買ってもらったの! いいでしょ~?」

 ……明らかに安物の鈴のついた髪留め。
 けど、それを鳴らして嬉しそうにする真琴……

「よかったな、真琴」

「うん!」

 けど、髪留めは髪にするものであって、腕につけるものではないと思うのだが……
 まあ、いいか。
 真琴嬉しそうだし。

「ふふ。祐一君優しいのね?」

「え!? あ、いえその……妹みたいなものですし」

「真琴いいなー?」

 名雪はそんなもの欲しそうな顔するな。
 そして、祐一は顔真っ赤にするな。人の母親に。

「(だってこんな美人に微笑まれたら、我慢できるか!)」

「(その意見には同感だが、少しは落ち着け)……で? 母さん今日は泊まっていくの?」

「え? ええ、そのつもり。せつなの部屋でいいわよね?」

「……だ、そうだ、真琴。……今日は母さんと寝てくれ」

「あう? ……せつなは?」

 あのベッドに三人は多い。
 
「床に布団でも敷く。……布団あります?」

「ええ、ありますよ?」

「て、せつな? 真琴ちゃんと一緒に寝てるの? ……むぅ、たまには一緒に寝ようかと思ったのに」

「勘弁してください」
 
 我慢できません。

「あ、なら、真琴が祐一の部屋で寝ようか?」

「「「却下」」」

「あう~……」

 却下したのは俺、祐一、リンディ母さん。
 名雪は困り顔で静かに反対意見。
 ……秋子さん? 何故ニコニコ顔で?

「了承しちゃ駄目ですよ?」

「……残念です」

 なにが?
 とにかく、俺が床で寝ることで決着はついた。


 お風呂に入って一息ついてから、外に出る準備。

「……今から出かけるの?」

「ああ。……ちょっとね」

 真琴を母さんに預け、家を出る。
 ……また、着いてきそうだけど……
 今日はコンビニによってフランクフルトを四本購入。
 缶コーヒーは三本。
 保温処理施して、学校へ。
 ……校門についてから、一応確認。

「……母さん? いる?」

「……やっぱりばれた?」

 いや、勘ですが。
 幻術で姿を隠してた母が、姿を現す。
 真琴は祐一に預けてきたらしい。……そのまま寝るな、あいつ。

「戦闘になることがあるから、気をつけて」

「戦闘って……」

 母さんの言葉を遮って、サーチャーを校内に飛ばす。
 ……!? 始まってる!

「ちぃ!」

「ちょ、せつな!?」

 母さんを置いて走り出す。もちろん追いかけてくるが……
 リンディさん、魔法なしだと実は運動音痴。けど、今は舞のほうが先!
 戦闘現場の裏庭に行くと、

「!? せつな! 上!」

 舞の声に反応して、前に転がり込む。
 後ろに振動。……降って来たのか。
 デバイスから木剣を取り出し、『それ』に切りかかる。

「はぁ!」

 手ごたえはない。避けられた?
 空気が動く……飛び掛ってきた!?

「『チェーンバインド』!」

 声と共に、『それ』に絡みつく魔力の鎖。
 て! 魔法使うなよ母さん!
 ええい、ままよ!

「でぇえぇぇっぇぇい!!」「せぃ!」

 俺と舞とで同時に切り裂く。
 ……打撃と斬撃が通ったようだ。気配がその場で霧散していく……
 ? ……何かの姿が見えた?

「せつな! 無事!?」

 駆け込んでくる母さん……それにむかって。

「アホかい!」

 スパーンとハリセンですっぱたく。
 蹲るリンディ母さん、呆然とする舞。

「いたぁい……何するの!」

「……」

 無言で舞を指差す。……事態を把握し、青くなる母さん。
 ……舞の反応を恐る恐るうかがう……

「……一体、倒した……ありがとう、せつな」

「あ、ああ。……あーそれでな?」

「……?」

 ……まさかと思うが、この娘……気にしてない? つか、気付いてない?

「……いや、いい。それより、夜食買って来たんだが、食うか?」

「……」

 こくんと首を縦に振る。
 ……聞いてこないところをみると、マジで気づいてない様子。
 ……大物なのか、天然なのか気になるところだが、もう、気にしないことにした。
 缶コーヒーとフランクフルトを一本ずつ渡し、校舎を背にして座る。
 頭を押さえながら、母さんにも渡し、一息入れることに。

「……今の鎖は、何?」

「て、反応おそ! 気付いてたのかよ!」

 首を傾げる仕草が可愛い。
 ウヌレ、天然だったのか、こいつ。
 
「……あー、今のは……母さんパス」

「ええ!? あ、え、っと、ね? ……魔法って知ってる?」

 おいおい、話すのかよ。
 俺らの魔法の基礎的なことを教えて、俺と母さんがその魔法使いだということを話してしまった。
 ……佐祐理さんに怒られる……うう、全部母さんのせいにしたれ。

「……じゃあ、せつなのインチキは、魔法。……そう?」

「ああ。……その、黙ってて、すまん」

「……いい。……佐祐理には、内緒?」

「そ、そうしてくれると……ありがたいよ?」

 また悲しい顔されたら溜まらん。
 
「……そう。……佐祐理に、内緒……」

 ……うう、何でそんな悲しそうな顔するかね?
 あれか? 親友に隠し事するのは心苦しい人なのか、お前も。
 ……うちではなのはやフェイトがその部類に入ります。
 
「……ねえ、せつな? その佐祐理さんって、倉田佐祐理さん?」

「げ!?」

「……? 佐祐理を知ってるの?」

「だって、その子も魔導師よ?」

 ぴんと人差し指を立ててぶっちゃけやがるその母の額に、容赦なくハリセンを叩き込む。
 
「……佐祐理が?」

「舞~? この人の言うこと信じちゃだめだぞ~? ちょっとした酔っ払いだからな~?」

「よ、酔っ払い扱いは酷いわよ! 後、母親をそんなにパシパシ叩かない!」

「てか、魔導師の秘匿性はどこいったぁ!!」

 さっきから聞いてればぺらぺら喋りやがって!
 魔法は秘匿するものじゃないのか、管理外では!

「……知らなかった……」

「舞~。この人のは冗談だからな? 嘘だぞ、嘘」

「せつな……佐祐理は、魔法使い?」

「じゃ、ない。……ことにしといてくれ」

 すっごい切実に聞いてくるから、誤魔化しようが……
 うう、そんなチワワみたいな目で見つめないでくれ。
 
「……せつな、本当の事を話して。……佐祐理、どうして内緒にしてたの?」

「……理由は解らん。けど、黙っててくれと言われた。……悲しそうな顔で」

「……そう。……佐祐理が悲しくなるなら、聞かない」

 ……よ、よかった……助かった……
 もう、思いっきりアウトだけど。

「……今日はもう帰る……」

 すっと立ち上がり、振り向きもしないで、校門に向かう舞。
 ……むぅ~。明日あたりに佐祐理さんに土下座しに行かなくては……
 こうなったら、嫌われても仕方ないよなぁ……

「せつな? ……その、私、やっちゃった?」

「……帰りましょうか?」

「う……で、でも! 仕方ないじゃない! 舞さんにも、リンカーコアあったんだし、知ってるものと「なんだって!?」……せつな、気付いてなかったの?」

 ……いやいやいやいやいや!
 今日の昼の段階じゃ、舞にそんなもんなかったぞ!?
 佐祐理さんだってそんなことは一つも……

「……母さん? ……本当に、舞に魔力が?」

「え、ええ。微弱だけど、確かに感じられたわよ?」

 ……どういうことだ?
 俺だって魔法使い始めて、結構経つから、魔力のあるなしわかるけど、今の今まで、舞から魔力を感じたことなかったはず……
 変わった事と、言えば……あ。

「魔物……倒したんだよな……」

 ……魔物を倒して、舞の魔力が戻ったのであれば。
 あの魔物に、魔力を取られている?
 取り戻す為に戦って……いいや、違う。
 それなら、舞が魔法を知らないのはおかしい。
 ……無意識で舞が魔物を作り出しているのなら?
 ……なら、他にも、舞の魔力で生まれた魔物がいる?
 何のために? ……魔物と戦っているのは舞一人で……

「……遠回りの、自殺?」

 ……な、わけないな。
 でも、舞は、魔物を狩る。
 ……駄目だ。情報が足りない。

「……帰るか」

「あのー……おかーさん置いてきぼりにしないでほしいなー? ……なんて……」

「……俺に母さんなんて人はいません」

「がぁん!!」

 激しく落ち込む母を尻目に、舞が消えた方向を見つめていた。


 ……家に戻り、祐一の部屋へ……

「……ありゃりゃ……」

 やはり寝てる。
 部屋主はおらず、そのベッドで真琴が寝てる。
 母はショボーンとした顔で俺の部屋に入っていった。
 ……流石に苛め過ぎたか?
 いや、甘やかすとつけ上がるから、あれでいいはず。
 てか、一般人に魔法をぺらぺら喋るなよ。何考えてやがる。
 ……いつもの勧誘癖が出たか?
 
「あ。せつな、戻ってきたのか?」

「ああ、祐一。……真琴、どうしようか?」

 階段を上ってきた祐一に、眠っている真琴の処遇を聞く。

「……お前の部屋に置いた布団。こっちにくれ」

「了解。……悪いな、祐一」

「いいよ、別に。……あ、それと」

 祐一が腕を上げると、

「にゃぁ」

「? ……猫?」

 白地に茶色のぶちのついた猫を持っていた。
 まだ子猫のようで、人懐っこそう。

「名雪に見つからないように、お前のところで匿ってやってくれ。……名雪、猫アレルギーなんだ」

 そ、そんな愉快なアレルギーが……

「おまけに、無類の猫好きだから……」

 ……不憫な。猫好きでアレルギーだなんて……
 あ、またすずかとの共通点が……
 すずかにアレルギーないけど。

「しかし、どこの子だこれ」

「ああ、そいつだよ。真琴が落とした奴。……庭にいたから、回収してきた」

 ……トラックに運ばれたって奴?
 祐一から猫を受け取って、まじまじと見つめる。

「……女の子か。じゃあ俺が保護しておこう」

「女なら猫でもいいのか。お前は」

 そういうわけでもないんだが。猫好きだし。
 俺の部屋に戻り、準備してた布団をたたみ、祐一に渡して、おやすみの挨拶。
 ……さて、と。

「あ~……と、言うわけで、一緒に寝ましょうか、母さん」

 俺のベッドの上で丸まっている母さんに声をかける。
 ……なんでいちいち行動が子供っぽいんだこの人は。

「……苛めない?」

 そして、そんな可愛いことを言うな。
 苛めたくなってくるだろうが。

「苛めません。……反省してくださいね?」

 はーい、と、返事して、寝巻きの準備するお母様。
 ……とりあえず、部隊に連絡するか……
 今日はなのはだっけ?

『……あ、せっちゃん?』

「あれ? はやて? ……なのはは?」

『今日は先帰ったで? ゼンガー隊長とレーツェルさんとキタムラ教官と教導隊の飲み会に誘われた言うて』

 飲み会って……おいおい。
 あいつまだ未成年……まあ、その面子なら、酒なんて飲ませんか。

『それで、あたしとなのはちゃん交代や。嬉しい?』

「……ちょっとびっくりしたけどな。じゃあ、今日の連絡事項を頼む」

『むぅ、つれへんの』

 下手に返事して、なのはの機嫌を損ねるのは勘弁したい。
 もちろん、目の前のはやてにも。
 ……で、今日の出来事。
 先日に約束してた陸士部隊との合同訓練が行われ、成果は順調。
 ただ、SRX部隊のメンバーが連携ミスする場面もあったとか。

『あれやね。ダテ三尉。……お調子者気質のせいか、チーム内で浮いてるみたいやね。……ブランシュタイン三尉とも仲悪そうやったし、あれじゃあかんな』

 まあ、それは後々に期待。

『それと、せっちゃんに伝言預かってるで。プリスケン一尉から』

「? なんだって?」

『えっとな。『風が決まった』と、言えばわかるゆうて。……なんかの暗号?』

「ああ、そんな感じだ」

 そっか、サイバスター操者が決まったか。
 シラカワ博士とは連絡取ってるようなこと言ってたから、それ経由だろうな。
 他の進展はなし。
 後、こちらで確認した決算報告書について。

「シエル対策費、なんか多くないか?」

『……決算前に、後一回ぐらいやるかもと多く見積もっとる。……グリフィス君、この関係でほんま頭悩ましとるからなぁ~』

 俺も頭痛の種だよ、まったく。

『それで……後ろにおるんはリンディさん? 何で一緒におるん?』

「ああ、遊びに来たんだと。……迷惑な」

「酷い!? もう苛めないって言ったのに!?」

『……せっちゃん? あんま、リンディさん苛めたらあかんよ? ……援助切られたら、元も子もないで?』

「いや、別に? 切られたら兄さんに泣きつけばいいだけだし。……大体、今日のは自業自得だ」

『きょ、今日は随分強気やね……』

 当たり前だ。今回ばかりは母さんが悪い。
 人の人間関係引っ掻き回しやがって。
 
「じゃあ、今日はゆっくり休んでくれ。俺も明日はゆっくりできるし」

『そっちは日曜やもんね? ……ゆっくり休みな?』

「あいあい。じゃあ、はやて。おやすみ」

『おやすみ~』

 通信終了。
 ……振り向くと、壁に『の』の字かいていじけてるお母様。
 ……本当に、可愛い人だこと。

 寝巻きに着替え、猫を空いたダンボールに入れ、布団に入る。
 母さんもおずおずと布団に入る……

「……」

 微妙に俺と距離を開けてるのは、警戒してか、それとも何か思惑が?
 ……おそらく警戒。俺揉むし。

「……せつな、最近私に容赦しなくなったわね? ……私の事、嫌いになったの?」

 ……いや、そういう台詞はいろんな意味でアウトです。

「むしろ、俺が嫌われてるのかと思ってるんですが? ……初登校時、何人に奇異の目で見られたか……」

「ご、ごめんなさい……」

 登校時や教室で、いちいち俺を見ないでください。一般生徒の方々。
似合ってないの分かってるから。

「さっきの舞だって、最初会った時が私服だったから、制服着て話しかけたら凄く警戒されたし……」

「……スカート履けばいいじゃない」

「絶対拒否します」

 いざって時に行動し辛いんです、スカート。
 そんなに簡単に、スカートの中身は見せません。
 
「……まあ、もういいけど。慣れたし」

「……ごめんなさい。……せつな、高校までは出たいって言ってたから、悪いことしちゃったなって……それで、今回気分だけでも味わってもらおうと思ったんだけど……」

 罪滅ぼし? 何を今更。

「なのは達と一緒に高校行きたかったってのはありますけどね? 俺一人じゃ、意味ねーです。……あいつらと離れるのが、一番辛いのに」

「……そんなに、あの子たちと離れるのが不満?」

 不満、じゃない。

「不安だ。……こうして、離れてる間に、もしもって事が起こったら……」

 奪われるのは、消えてしまうのは、何時だって、唐突で。

「……せつな。……あなたの夢は、まだ癒えないのね……」

「ペースは落ちたんだけどね……」

 あの、屍は、いまだ俺を見つめている。
 ……それがいつか、なのは達に代わったらと思うと。
 ……一度、その悪夢を見た。
 ……気が、狂いそうだった。

「……今日は、甘えていいわよ? ……お母さんが、傍にいてあげるから」

 俺を抱きしめてくれる母の腕。
 身長差から、母さんの顔が凄く近くて……
 ……何時まで経っても老けないよな。もう四十いった筈なののののののの!?

「せ・つ・な?」

「か、母さん苦しい苦しい! 魔力強化して抱きしめない!」

「……女性の年齢をどうこう言うのは、マナー違反よ?」

「言ってないし……てか、それって普通男に言わないか?」

 一応女だよ、俺?
 男性意識強いけど。

「あなたは息子でもあるでしょ? ……は、母親の体に欲情するなんて……」

「……だってー。この胸は私のだも―ん」

 と、カグヤ風味に言ってみるテスト。
 もちろん、揉むのは忘れない。

「あ、コラ! せつな!」

「……甘えていいんでしょー? うりうり」

「そ、そういうことじゃ……せつな? お母さん怒るわよ?」

 とと、あぶないあぶない。
 調子に乗って、こないだみたいに泣かれてもな。
 ……一度調子に乗りすぎて、風呂場で揉み倒したら、旦那の名前呼びながら泣かれたからな。
 家に誰もいなかったからよかったものの、兄さんがいたら……串刺しものです。

「……ごめん。母さん、何時まで経ってもキレイだから、ちょっと嫉妬した」

「……褒めてる?」

「もちろん。……母さん大好きだから」

 これは本当。
 ……ほ、ほら、好きな子ほど、苛めたくなってくるよね?

「……馬鹿」

 あはは~? 馬鹿を極めるつもりだからね~?
 母さんの腕に抱かれながら、眠りに着く。
 今日はいい夢見れそうだ。











※皆さんお久しぶりです。作者です。
リアルホームレス生活から何とか脱却し、復活のための準備中です。
とりあえず、続きだけ上げときますね。

テスト板に題名と名前が一緒の私がいますが、それ、私じゃないのでお間違えなく。

ちゃんとした復活はまだまだ先になりそうなので、気長に、本当に気長に待っててください。

……あ、それと、多次元のほうですが。
リアルが落ち着いてマシンを手に入れたら、全面改訂後再投稿します。
つーか、まるっきり違う話になるかもかも。
本編とゼロ魔編はしばらく置いておきますね。

以上、作者でした。



[6790] L31-6EX.彷徨える命題
Name: 4CZG4OGLX+BS◆571e1fd0 ID:0269cd8e
Date: 2010/05/12 18:04
 <なのは>

 朝の日差しが部屋に差し込んでる。
 今の時間は午前5時半。
 子供の頃からの習慣で、結構早く起きてしまう。
 ……それに、最近は徹夜もしてないし。

「……? あ、なのは? おはよう」

「おはよう、フェイトちゃん……起こしちゃった?」

 フェイトちゃんとはルームメイトだ。
 最初はせつなちゃんと同じ部屋だったんだけど、フェイトちゃんが入隊したと同時に、せつなちゃんが家を建ててしまい、そっちに移ってしまった。
 代わりにフェイトちゃんがこの部屋に入った。
 ……この部屋は、元々せつなちゃんの部屋だ。
 
「ううん? 自分で起きたから平気……」

 ……あはは……寝起きのフェイトちゃん、凄いかっこ。
 パジャマの隙間から、白い肌やブラが見えてる。
 ……せつなちゃんだったら、押し倒しちゃうよね、絶対。

 隊舎に出勤する準備をする。朝御飯は食堂でとってるから、朝には余裕がある。
 ……今日は、陸士部隊との合同訓練があるから、早めに行って準備しないと。
 フェイトちゃんも参加してくれるそうだ。

「今日の合同訓練、こないだの実験隊の人達もくるんだって?」

「うん。……ATデバイスは使わないようにって、せつなちゃんから言われてるけど……」

 ひょっとして、あそこの隊長さんには、何かあるのかも知れない。
 この間も、私たち置いて二人で話してたし。
 
「……プリスケン一尉、調べてみたんだけど……教導隊出身なんだよね。なのは、知ってる?」

 ……聞いたことない。
 班が違っただけかもしれないけど、私は見覚えないなぁ……
 後でゼンガーさんに聞いて見ようかな?

「レーツェルさんにも聞いて見ようか? ……後、キタムラ教官にも」

「そうだね。……フェイトちゃんも、プリスケン一尉に何かあるって思うの?」

「……うん。せつなね? あの人を見る目が……いつもと違った」

 ……と、言うことは。
 彼も、せつな……刹那さんの世界のゲームキャラなのかもしれない。
 リュウセイ君たちもそうだって言ってたし。
 そして、彼はいつか……私たちの敵になる。
 ……憶測に過ぎないけど。

「せつなちゃん、全部教えてくれればいいのに」

「……せつな、そういうところがずるいよね? 全部自分で背負おうとするから」

 うん。
 ……私たちにも、もっと頼って欲しいなぁ……

 出勤して、まずは食堂へ。
 今日はザフィーラさんの朝食メニュー。
 ……この、食券販売機の隅っこにある、ドッグフードのボタンは何の冗談なんでしょうか?
 ……クラブサンドで朝食を済ますことに。
 焼いたトーストに、ジューシーな牛肉をレタスやトマトとはさんだサンドイッチ。
 焼き物料理は、レーツェルさんも脱帽する腕前になってしまったザフィーラさん。
 アルフさんとの仲も順調だそうだ。
 ……で、レーツェルさんが暇そうにしてたので、プリスケン一尉の事を聞くことに。

「……ああ、確かにそうだ。私とゼンガーが教導隊に入って間もない頃、同じ班だった。……キタムラ教官も同じ班だったから、後で聞いてみるといいが……」

 レーツェルさん曰く、とても謎な男の人だったらしい。
 仕事は真面目にこなし、任務もとても真剣に取り組んでいた。
 けれど、人付き合いが悪く、同じ班の人間にも、あまりより付かなかったそうだ。
 その割には、上の階級の人間とよく話していたそうで、実は内部査察官だったんじゃないかとの噂もあるらしい。
 プライベートでは誰一人としてその行動を目撃したことのない、本当に謎な人。
 イングラム・プリスケンという人は、そういう人らしい。

「……気になるかい?」

「……せつなちゃんが、そのプリスケン一尉に接触してたみたいなので……ちょっと、気になって」

「……なら、あまり気にしないほうがいい。せつな君に任せておくのも、手だと思う……彼女は多分、彼の正体を知っているのかもしれないしね?」

 ……レーツェルさんの言うとおりかも。
 レーツェルさんの正体も知ってたんだから、せつなちゃんはきっと知ってる……と、言いますか。

「せつなちゃん以外にばれなかったんですか? ……レーツェルさんの正体」

「不思議なことにね? ……確かに、ばれない私が異常なのかもな……」

 うーん。不思議。

 なお、ゼンガーさんは初めから知っていたそうです。

 合同訓練の受付テントを、訓練隊の生徒と準備する。
 ……あ、本当は訓練生って呼び方なんだけど、私は生徒って呼んでるんだ。
 特に、今一番力を入れてる子が、

「なのはさん! 陸士隊のリスト持って来ました!」

「ありがと、アイビス。机の上に隊ごとに並べておいて?」

「はい!」

 明るい茶色に色違いのメッシュを入れた髪の女の子。
 アイビス・ダグラス訓練生。せつなちゃんの弟子……に、なるのかな?
 私と訓練するより、せつなちゃんと訓練してる時が、一番嬉しそうにしてるんだよね。
 ……うーん。憧れって凄いなぁ……
 せつなちゃん、本当はかなり卑怯なのに。
 ああいう戦い方はして欲しくないなぁ、アイビスには。
 まあ、せつなちゃんもそこは分かってるみたいで、正統派の空戦技術を教えてるけど。
 ……ヴィータちゃんがいたら、もっと楽に教えてあげられるんだけど。

「あ、高町教官? 今日の訓練スケジュールですけど」

 私の後ろから声をかけてきたのは、ツグミさん。
 ロングアーチの通信官だけど、訓練隊の管制官も担当してくれてる。
 ……アイビスの友達なんだって。

「どうしたの?」

「えっと、この『広域魔法回避訓練』なんですが……えと、何でバニングス技術士が教官になってるんですか?」

 ……それは聞いてほしくなかったなぁ……
 広域魔法なら、はやてちゃんの領域なんだけど、今日はちょっと教会に行く用事があるので、急遽、アリサちゃんが担当することに。
 ……なお、アリサちゃんが魔法戦闘できることは、特務隊内でもあまり知られていない事実です。

「それに『近接戦闘講座』にも、月村副主任の名前が……どういうことです?」

 ……ATデバイス禁止じゃなかったのかな? かな?
 アリサちゃんはぎりぎりセーフとしても、すずかちゃんはアウトだよね?

「……ちょっと、すずかちゃんにお話聞いてくるね?」

「はぁ……バニングス技術士はいいんですか?」

「アリサちゃんはいいの」

 一応魔導師登録はしたそうだから。
 さて、医務室にいるかな~?

「あ、高町。月村の嬢ちゃんはそのままでいいぞ?」

 て、え?

「キタムラ教官? ……どうしてですか?」

 私の副官をしてくれている、ダンディーなお髭のキタムラ教官。
 ……陸戦の担当教官で、生徒の体調管理も引き受けている人が、非魔導師のすずかちゃんをどう使う気なのか?

「……高町よぉ。自分の友人の実力ぐらい把握しとこうや? 嬢ちゃん。こないだAランク陸士を生身で倒してたぞ?」

「「へ!?」」

 ……なんでも。
 先日の航空隊との模擬戦で、看護官を担当していたすずかちゃんにナンパをした陸士がいたらしく、その誘いに乗らなかったすずかちゃんに激昂して、殴りかかってしまったらしい。
 当然懲罰ものだが、すずかちゃんはその陸士を滅多打ちにしてしまったらしい……生身で。
 模擬戦に来た47航空隊の隊長は語る。

『特務隊は、看護官でも優秀な戦士だ』

 と。
 ……えっと、すずかちゃんだけ……じゃ、ないか。
 シャマルさんも強い方だし、クスハちゃんも合気道習ってて、そこそこの腕らしいし。
 
「で、月村の嬢ちゃんには、女性隊員に護身術を教えるように頼んである。……だから、そのままでいいぞ?」

 ……な、納得しました……
 ATデバイスなくても、すずかちゃんなら、魔法の使用タイミングも教えれるだろうし……
 
「……わ、私も聞いておこうかな……」

 ツグミさん、そうした方がいいと思いますよ?
 ……私も一緒に聞いておこうかな……


 合同訓練に参加する陸士部隊は全部で五つ。
 その中に、先日の実験隊も含まれている。
 ……あ、リュウセイ君だ。

「げ、高町教導官……」

 ……目を合わせてそんなに嫌な顔しなくても……
 こないだのがよっぽど後に引いちゃったかな?
 一応笑顔で手を振ってみる。

「お、お久しぶりです、高町教導官」

「うん、お久しぶり……後、ここでは教官だよ?」

「あ、はい……普通にしてたら綺麗なんだけどなぁ……」

 小声、聞こえてるよ?
 まあ、褒めてくれるのは嬉しいけど。

「今日の合同訓練、期待してるよ? 頑張ってね?」

「はい! 期待に添えられるよう、頑張ります!」

 あはは。元気だね、リュウセイ君。
 でも……逃げるように隊列に戻るのは、どういうつもりかな……私、そんなに怖い?

「訓練中のあんたが怖いんじゃない?」

「む、そんなことないと思うよ?」

 真っ赤な槍を携えて現われたのはアリサちゃん。
 ……肩にはアギトちゃんが乗ってる。

「今日ははやてちゃんの代わり、お願いね?」

「ええ。任せなさい? ……ひよっこどもに弾幕の何たるかを叩き込んであげるわ」

「おうよ! ぼっこぼっこにしてやる」

 えっと、されたら困るよアギトちゃん。
 あくまで訓練なんだから。

「……ところで、せつなは何でATデバイス禁止なんか言ったのよ? なのは聞いてる?」

「……なんにも。けど、ひょっとしたら……知られちゃいけない相手がいるのかも」

 例えば……プリスケン一尉とか。

「ふーん……まあ、今の訓練生にATデバイス使用者いないし、いいんじゃない?」

「そうだね。……じゃあ、始めようか?」

 訓練開始だ。

 


 <アリサ>

 さて、あたしの出番ね?
 あたしの担当する広域魔法回避訓練に参加したのは、陸士部隊の二チームと、実験部隊のチーム。
 後、訓練生からアイビス含む三名。
 三名一組になって、あたしの弾幕魔法、二種類を制限時間一杯まで避け続けてもらう。
 もちろん、防御魔法なし。回避が目的だからね?
 ……と、言うか、これはやてじゃ無理じゃない?
 はやての広域、自動追尾ありよ? 
 最強広域魔法だと、範囲外に逃げるか、なのはクラスの防御魔法使わないと防ぎきれないし。
 ……キタムラ教官の提案訓練らしいけど、そこらへん考えたのかしら?
 まあいいか。
 まずはお手本を訓練生にやってもらう。

「いーい? なのはの教え子なら、これくらいノーミスで避けてみなさい! 三回以上被弾した子は、なのはに報告するからね!」

「「「はい!」」」

 うん、いい返事。
 全員空戦なので、あたしも空に上がる……飛行魔法、苦手だけど。
 ユニゾンしたアギトに、魔力練成を頼み、まずは一つ目。

「行くわよ! 『全世界ナイトメア』!」

 蝙蝠の形をした魔力の塊が紅い弾に変わり、その群れが訓練生たちに襲い掛かる。
 ……カグヤに頼み込んでデータを取らせてもらった弾幕を元に、せつなとアギトに組んでもらった術式で放つ炎熱弾幕魔法。
 ……実はカグヤの弾幕も、刹那の世界のシューティングゲームが元になっているらしい。
 あたし用に組んでもらったのは、その中のキャラクター、吸血鬼の姉妹の物を元にしているそうだ。
 この紅い槍状デバイス『グングニル』も、吸血鬼の姉が使う弾幕の名前らしい。
 北欧の神様も持ってなかったっけ?
 ……ちなみに、その吸血鬼の姉の性格もツンデレなんだそうだ。
 ……せつなめ、あたしと同じと言いたいのかしら?

「ほら! 後一分!」

 弾幕魔法には制限時間がある。
 その時間内にあたしの集中が途切れるか、制限時間が経過するまで弾幕は止まらない。
 これはカグヤも同じらしい。
 何でそんなものがあるのかと聞いたところ。

『様式美だ! ……後、時間無制限にしたら、魔力枯渇しちゃうし、パターン覚えられちゃっていいことないし』

 ……様式美を思いっきり強調してたのはなんでかしら?
 まあ、あたし自身の魔力も少ないし、アギトとユニゾンしないと使えないから、丁度いいけど。
 あ、一人当たった。
 ……アイビスはまだ大丈夫ね?

「スペルオーバー九〇秒。……次、行くわよ?」

 グングニルのカートリッジに火を入れる。
 次は難しい奴だ。

「『ブラッディマジックスクエア』!!」

 紅い魔力弾が次々に生み出され、アイビスたちを包む。
 パターンさえ読めれば、楽に避けられるんだけど、読むまでが大変。
 せつなでさえ、弾幕魔法は苦手らしい。
 ……一番楽なのは、範囲外に逃げてしまえばいいんだけど、この弾幕魔法の恐ろしいところは何も魔力弾の多さだけではない。
 あ、一人捕まった。

「え!? 逃げられない!?」

「あ、言ってなかったかしら? あたしの魔法の効果範囲内に、遮断結界張られるから、それ以上外に逃げられないわよ?」

「き、聞いてませ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 あちゃ~。集中で喰らっちゃったわね、あの子。
 えっと……航行隊から送られてきた子よね、たしか。
 三回被弾っと……

「アリサさん! 覚悟!」

 げ、アイビスに接近許しちゃった。
 彼女の剣を槍で受け止め、反動で後ろへ。
 ……弾幕魔法発動中は、他の魔法が使えないのがネック。
 簡単な捕縛魔法や移動魔法なら使えるんだけど……
 と、時間切れか。

「スペルオーバー。九〇秒。……一人が脱落ね? 報告しておくから」

「はいぃ……」

 ま、まあ、なのはだって鬼じゃないし、そんなに気落ちすることはないと思うわよ……多分。

「アイビスは動きよくなったんじゃない? あたしの弾幕かわして接近できるなんて、なかなかできないわよ?」

「は、はい……ありがとうございます」

 ……むぅ。あたしが褒めてるんだから、もう少し喜んでも……て、それどころじゃないか。
 肩で息してるから、結構無茶したのね、この子。

「じゃあ、訓練生は休憩しなさい。……じゃあ、次」

 地上に降りて、陸戦部隊の相手をする。
 ……何気に、地上の方が辛いのよね、弾幕回避。
 私の前に出てきた陸士たちは、余裕の表情してるけど……ああ、外から見たら、弾速が凄く遅く見えるのよね。
 『避けられない方がおかしい』とか言ってる。
 ……じゃあ、試してみましょうか?

「始めるわね? 『全世界ナイトメア』」

 さっきと同じ弾幕。一度見たからパターンは分かるでしょ?
 ……けど。

「え!? なんでこっちに! うあ!」

「あれ!? 囲まれ……ぎゃぁぁ!!」

「ちょ、逃げられ、あぐぅ!」

 ……ふふふ、馬鹿ねぇ。
 飛ぶのと走るのじゃ、運動量が違うから、思い通りに動けるわけないじゃない。
 あっという間に打ち倒される陸士たち。
 ……む、もう一チームの方顔真っ青。
 実験部隊の隊員も、顔に縦線入ってる。

「……まったく、まだ三〇秒も残ってるのよ? 情けないわね……次! 前に出なさい!」

 倒れてる陸士を訓練生に片付けさせ、残った方の陸士たちを相手にする。
 あら? ……実験隊の隊長の傍にいるの、はやて? 
 戻ってきたのかしら?


 <はやて>

 あちゃ~。始まってもうたか。
 結構急いだんやけどな~。

「残念でしたですぅ」

 まあ、しゃあないな。ここはアリサちゃんに譲ろか~。
 ……正直、あたしの広域を避けられる人ってうちの部隊でも少ないからな~。
 
「訓練生の模範訓練からですね。……結構頑張ってるです」

 そやね。最初、負け犬とか言われてたアイビスもよく動いてる。
 ……て、なんか動きがせっちゃんとヴィータに似とるな。
 あ、ヴィータの戦い方を教習しとるんやね? せっちゃんなりに。
 おお! バレルロールまで!
 あれはなのはちゃんの訓練の賜物やな。

「……む? 今は訓練中だ。何をしている?」

 はい?
 ……何や、ロンゲの目つき鋭い兄さんに咎められてもうた。
 ……と、思ったら、実験部隊の隊長さんやん。

「えーと、特務隊の八神はやて一等陸尉です。はじめまして、プリスケン一尉」

「そうか。すまない。SRX隊隊長のイングラム・プリスケンだ。……訓練には参加されないのか?」

 したかったんやけどね?

「朝から教会に外回りやって、参加できへんかったんですよ。今戻ってきたところなので」

「そうか……」

 あたしに興味をなくしたように、訓練風景に視線を向ける。
 あたしもそれに倣うと……お、アイビス、アリサちゃんに切りかかった。
 
「今の凄かったですね。なのはちゃんでもあの軌道は難しいですぅ」

「……うーん、フェイトちゃんに迫っとるな。回避はなのはちゃんより、フェイトちゃんのほうが得意やし」

 なのはちゃんは基本的に、防御重視や。一応回避訓練もそこそこできるけど、防御して、砲撃がなのはちゃんの持ち味。
 回避→接近→斬撃の組み合わせは、フェイトちゃんの得意分野やから、せっちゃんが仕込んだんやろな。あれ。
 
「……凄いな。この部隊は、訓練生でもあれだけの実力を……」

「ええ。あの子は特に育成に力入れてる子ですから。……せっちゃんのお気に入りやし」

 暇ができたら訓練に参加してアイビス強化しとるからな、せっちゃん。
 妬くで? ほんまに。

「せっちゃん?」

「あ、トワ・ハラオウン査察官の事です。彼女と幼馴染なんですよ、あたし」

「ああ、彼女か」

 む? プリスケン一尉、せっちゃんの事知っとるん?

「トワ・ハラオウン査察官の事、知ってはるんですか?」

「この間、俺の部隊の見学に来ていた。その時にな」

 ああ~。なるほど。
 せっちゃん友達や知り合い作るん上手いから、もうプリスケン一尉と仲良しさんなんやね。
 
「彼女は今長期休暇中だったな……」

 そんなことまで知っとるとは……
 
「じゃあ、八神一尉。彼女へ伝言を伝えて欲しいんだが」

「? 伝言ですか?」

 む。まさかせっちゃん、この人と深い仲……な、分けないか。
 せっちゃん男に興味ないし。
 せやったら、なんかの取引相手やろか?

「ああ。『風が決まった』と伝えてくれればいい。……それで分かるはずだ」

「……暗号、ですか?」

「いや。彼女なら、この一言で分かるはずだ」

 ……怪しい!
 むっちゃ怪しいで、この人! それに、せっちゃんも。
 何や、この、全てお見通しだって顔は!
 胡散臭い人やな~。

「それより、一つ聞かせてもらいたいんだが」

「……なんでしょうか?」

「……あの教官は本当にただの技術士官なのか? ……資料では魔導師ランクCのはずなのに、あの広域魔法は異常だ」

 ぎっくぅ。
 ……き、聞かんといて欲しいなぁ~それ。
 
「あ、アリサちゃん……バニングス技術士は、融合騎をパートナーに持ってますから。それの底上げもあるんですよ~」

 ……実はそれだけでも足りんけど。
 
「……それでも、まだ足りない。先ほどから、AAランクの広域魔法を連続して使っている。……カートリッジがあるとしても、魔力量が足りなくなるはずだ……」

「ま、まあ、そこは部隊機密ってことなんで~……」

 鋭い人やな~。
 アリサちゃんのデバイス『グングニル』は一応アームドデバイスの範疇に入る。
 カグヤちゃんの持っとる『レーヴァテイン』の改修型で、弾幕魔法用に作ったアリサちゃん専用デバイスやけど……
 実は、あれに『テスラドライブ』が組み込まれとる。
 ATデバイスの技術を応用し、アリサちゃん自身の魔力量を底上げしとる、インチキ仕様や。
 今のアリサちゃんは、本人の努力の甲斐もあって、AAランク魔導師と同じ力を発揮できる。
 ……正直、やり過ぎな気もするんやけど、アリサちゃんこれでもまだ足りんとか言いよるからな~。

「あ!」

 ん? どしたん、ツヴァイ?
 ……いつの間にか、アリサちゃん空に上がり、実験部隊の子らを相手にしとるけど……
 あのトリコロールのバリアジャケットの子、何や、飛行軌道危なっかしいな~。
 あれは、アイビスの真似でもしたいんか?

「……リュウセイめ、何をやっている……」

 おっと、プリスケン一尉もご立腹や。
 て、あのまま行ったら……

「だぁぁぁぁぁ!! どけぇぇぇぇぇ!!」

「貴様! 隊列を乱すな!」

「リュウ! ライ! ペース乱しちゃ駄目よ!」

 あ~あ。無茶苦茶やね。
 リュウセイと呼ばれた子、青いバリアジャケットの子にぶつかってもうた。
 あ、集中砲火。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぉぉ!?」

「……あ~、もう!」

 規定の五回被弾して、リュウセイ君とライ君は墜落。
 赤色のバリアジャケットの女性だけが残ってもうた。
 ……あの子、位置取り上手いな。

「……うちの部隊の者が、見苦しいところを見せたな」

「いえいえ~。バニングス技術士の魔法が凶悪すぎるだけですから」

 ……あ、リュウセイ君とライ君。喧嘩始めよった。
 あれ、ほんまにチームとしてやっていけるんかいな……
 プリスケン一尉。乙やね。


 午前中の訓練が終わって、訓練参加者に昼食が振舞われる。
 結構な人数やから、食堂の職員だけやのうて、あたしも手伝うことに。
 ……こういうんも楽しいなぁ。せっちゃんがおらんのは寂しいけど。

「あれ? あそこにいるの、さっきの実験部隊の隊員じゃないですか?」

 あ、ほんまや。確かライ君やったな。
 あそこ、うちの部隊員用の詰め所やで?
 近寄ったらあかんよ~。そこの金髪さん。

「……何故、貴様がここにいる!」

 へ?
 ……よう見たら、レーツェルさんと一緒におる。
 けど、何や、険悪な雰囲気やね。

「……私は、私のやり方をしているだけだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」

「特務隊の食堂主任が、何をできるというんだ、エルザム!」

 !? え、ひょっとして、ライ君って、レーツェルさんの身内!?
 て、これ、まさか修羅場か?

「それでも、お前よりも前にいるという自覚はある。……たった一人であがいている、お前とは違う」

「!? ……せつなさんを利用しているのか、貴様は!」

 ……いや、多分逆やで、それ。
 
「そうだな。せつな君には、お世話になっている。……彼女の手を払ったお前と、私の差がそこに出る。……もっと大局を見ろ。今、何をするべきか、よく考えるんだ」

「貴様の言うことに、賛同なんかできるか!」

 意固地やね、ライ君。
 ……うーん、どうしようかな~。
 こんなところで喧嘩して欲しくないし、レーツェルさんにはお世話になっとるしな。

「二人とも、そこまでにしい」

「……はやて君」

「? ……あなたは?」

 二人の前に出て、水を差させてもらう。
 特に、ライ君には落ち着いてもらわんとな。

「特務隊支援『ロングアーチ』隊長の八神はやてや。実験部隊の子やね?」

「し、失礼しました。自分は、SRX部隊のライディース・F・ブランシュタイン三等空尉です」

 ああ、それでライ君なんやね。
 ……ミドルネーム、レーツェルさんと違うんはなんでやろ?
 まあ、ええわ。

「二人とも、なんかいろいろあるんは見とってわかるけどやね、こんなところで喧嘩しとったらあかんよ? レーツェルさんも、大人気ないで?」

「む……私は喧嘩しているつもりもなかったんだがな。この馬鹿者に振るう拳は持ち合わせていない」

「く、俺は眼中にないと言いたいのか!」

「やめぇ! ……ブランシュタイン三尉? 先人にいちいち噛みつくんは、自分が馬鹿者やて認めてるようなものやで? ……レーツェルさんも、言葉選びぃ。わざわざ怒らせても、分かってくれへんよ?」

 難儀やなぁ~この二人。
 あたしらの知ってる兄弟姉妹は、比較的仲ええ人らばかりやからな……
 こういうんは初めてや。

「……八神さん、貴女たちはこの男の正体を知ってるんですか? こいつは」

「知っとるよ? ……エルザム・V・ブランシュタイン。エルピス事件の真相を知っとる、数少ない人や」

「知っているなら、何故!? この男は、あなた方の部隊や、せつなさんを利用しようとしているんですよ!?」

 ……ちょっと、せっちゃんの気持ちわかったわ。
 裏側知っとると、知らない人の反応が凄くおもろいわ。
 うん、これは癖になる。

「……一つ、教えといたる。ブランシュ……長いからライ君でええ?」

 噛みそうになるわ。その名前。

「は、はぁ……せつなさんと同じ反応を……」

 せっちゃんも同じこと言うたんかい。

「ええか、ライ君。……逆や」

「……は?」

「せっちゃんが、レーツェルさんを利用しとるんや。……うちのせっちゃんはな? あんたの思ってる以上のコネクションとネットワークを持ってる。その一つにレーツェルさんを組み込んだだけに過ぎん。……特務隊の銀狐の名は、伊達やないんやで?」

 せっちゃんが人に利用されるなんてこと、あるはずがない。
 嘘八百で人に協力を取り付け、時効になってからその嘘をばらすような子やし。
 
「レーツェルさんの正体知っとるあたしらが、黙ってるんは何でや思とる? エルザム執務官として動いてもらうよりも、レーツェル食堂主任として動いてもらうほうが、別視点での情報が得られるからや。うちの部隊に執務官二人もおるねんで? これ以上執務官いらんわ。……情報いうんは、ひとつの見方だけやあかん。多方向から見て、その真意、真実を見抜かなあかんねん。そういう理由で、レーツェルさんには手伝うてもろとる。……レーツェルさんの料理も美味しいしな?」

「……」

 ライ君、黙ってもうたな。
 後、レーツェルさん? そのやれやれってポーズはなんやの?

「さっきの訓練、見させてもろたけど、あんた、リュウセイ君と仲悪いな?」

「……あれは、あいつが」

「ああ、そうや。あの子も一人で突っ走ってみんなに迷惑かけとる。あれは、あかん。……せやけど、あんたも何やあれ? 罵倒するだけ罵倒して、何が悪かったか一つも言うてへんやん。……さっきのレーツェルさんと何処が違うん?」

 レーツェルさんごめんな~? 出汁に使わせてもらうで~?
 
「そのくせ、先人に噛み付いて、意見を聞こうともせん。……聞くで、ライ君。あんたは一人で何ができるん?」

「!? ……それは……」

 これは、せっちゃんの受け売りや。
 ……言うか、せっちゃん自身が言われたことやそうやけど。

「あんた一人でできることなんて、高が知れてるで? せっちゃんかて、いろんな人に頭下げて、協力してもらったり、人に協力したりして、この部隊を立ち上げたんよ? せっちゃん一人でやったことやないんで?」

 あたしよりも先にそれを成したんや。
 ……そして、あたしにも協力を頼んでくれた。
 まだ、未熟なあたしにも。
 ……と、言うか、きっと見るに見かねてって感じやろうけど。
 情けないな~。当時のあたし。

「……せつなさんも、同じことを言っていました」

「せやろ? なら、少しは言うこと聞いてみ? 自分に余裕を持って、周りを見て、話を聞いて……あたしにもできたことや。あんたにかて、きっとできる。……せっちゃん知っとるってことは、あんたもスカウト受けた口やろ?」

「はい……その時は、断わりましたが……」

「せっちゃんが声かける人はな、大概成功する人や。あんたにもその素質がある。……それを潰すんも芽吹かせるんも、あんた次第や。偉そうな事言うけど、もっと精進しぃ。あんたもまだまだなんやから」

 ……これは、あれやね?
 せっちゃんの説教癖が、あたしにもうつってもたんやね……
 レーツェルさん、そんな微笑ましい顔で見つめんでください。
 
「……はい。……心に、留めておきます」

「うん。そうしい。……ほら、もう午後の訓練始まってまうよ? さっさと戻り」

「はい! 失礼します!」

 綺麗に敬礼して、実験隊の詰め所に戻るライ君。
 ……せっかく、ここに来たんやから、いろいろ覚えて帰って欲しいなぁ……
 
「……すまないな、はやて君。弟が、迷惑を」

「ええですよ。あたしこそすみません。偉そうな口叩いてもて」

 レーツェルさんにまで注意してもたね、あたし。
 完全にせっちゃんがうつったわ。

「いや、確かに、君の言うことにも一理ある……どうも、私は弟に厳しく当たりすぎるきらいがあってね……伝えたいことの十分の一も伝えられない」

「男兄弟いうんは、そんなもんなんですかねぇ? ……あたしらの回り、姉妹とか姉弟とかしかいませんでしたから、よう分かりませんが……」

 そして、みんな仲がいい。
 しかも、無制限に妹作る姉が一名おるし。
 作りすぎやっちゅうねん。
 
「……それより、私はせつな君に利用されているのかね?」

「え? ……あれ? 違いましたん? せっちゃん、そのつもりで置いとる思たんやけど……主に食堂で」

「……そ、それはちょっと寂しいね……いや、せつな君には、私の情報も有効活用してもらえたらそれでいいんだが」

「それも、大丈夫ですよ。せっちゃん、きっと何か尻尾掴み始めよる思いますし……せやなかったら、休暇なんかとりませんて」

 ……おそらく、せっちゃん目処が立ったんやと思う。
 その、研究所の在り処に。
 せやないと、休暇しとるふりして動いとるはずや。……今はその気配ない。
 でも、それを言わないということは、まだ時期やないということ。
 ……しゃあない。せっちゃんが話してくれるまで、待つしかないやろ。
 一番敵に回したらあかんのは、何を隠そうせっちゃん本人やし。

「とにかく、レーツェルさんは、弟さんと仲良くせなあきませんよ?」

「……善処しよう。……昔は良く懐いてくれてたんだがなぁ……」

 あ、背中に哀愁漂うとる……
 実は寂しかったんやね、レーツェルさん……

 ん? あれ? 
 何で、すずかちゃん、リュウセイ君慰めてるん?
 ……浮気はあかんよ? せっちゃん泣くで?



 <すずか>

 ……えっと、弱りましたね……

「……」

「……」

 アリサちゃんの訓練中に、墜落して足首を捻挫してしまったリュウセイ・ダテ三等空尉さん。
 医務用テントに運ばれたはいいんですけど……クスハちゃんと睨み合いを続けてます。

「……あの、リュウセイ君、どうして、ここに?」

「……俺、実験隊の隊員にスカウトされたんだよ。……クスハこそ、どうして特務隊にいるんだよ? お前、看護師になるんじゃなかったのか?」

 ひょっとして、幼馴染かな?
 で、久々に再会して……両方とも、意外な立場にいた……と。

「ここで、私、看護官させてもらってるの。……せつなさんの厚意で」

「けど、特務隊じゃなくてもいいだろ!? 本部の病院施設でだって、いいはずだろ? ……特務隊だと、前線支援に出されることもあるんだぞ!?」

 ……うーん。私やシャマルさんもいるから、危ないってことはないんだけど……

「でも、私、ここで頑張るって、決めたから。……リュウセイ君こそ、航空隊に入るって言ってたよね? 実験隊なんて、どうして?」

「……仕方ねーよ。そういう辞令なんだから……」

 ……その、こんなところで喧嘩はやめて欲しいな……

「えっと、クスハちゃん? 悪いんだけど、消毒液の補充お願いできるかしら?」

「え? シャマルさん?」

「そうだね、お願いできるかな? クスハちゃん」

「……はい。行ってきます」

 とにかく、まずはクスハちゃんを退避。
 後に残ったリュウセイ君の治療だね。

「ダテ三尉? 治療するから、足出してもらえる?」

「……あの、聞いていいっスか?」

 ……クスハちゃんの事かな?

「クスハはどうして、ここに……」

「クスハちゃんはね。せつなちゃんにスカウトされてきたんだよ? 知ってる? トワ・ハラオウン査察官」

「……この間、高町教官やテスタロッサ執務官と部隊見学に来てました」

 ああ、言ってたね。
 厄介ごとが増えたとも。

「せつなちゃん、自分がこれって決めた人、必ず連れてきちゃうから……クスハちゃんにも、何か光るものがあったんだと思うよ?」

「か、看護官に光るものって……あるんすか?」

「……ど、どうだろ?」

 うーん。今でも実は分からないんだよね、クスハちゃんを入れた意味が。
 ブリット君のお嫁さん候補だから?
 ……いやいや。それだけじゃないと思うけど……なんで否定できないんだろう。

「でも、治療魔法の覚えは早いわね。効果も的確に出るし」

「それに、通常治療も覚え早いですね。……二年前の火災の時にいてくれたら、もっと早くに治療終えてたんだけど……」

「その分、今活躍してもらってるけどね? ……ダテ三尉は、クスハちゃんがみんなの役に立ってるのが不満?」

「……でも、クスハ自身が危ない目に会うのは……」

 ……も、もしかして、リュウセイ君、クスハちゃんの事が……?
 だとしたら、まずいかも。
 クスハちゃんとブリット君、本当に付き合う寸前だし……
 さ、三角関係?

「あらあら? ダテ三尉、クスハちゃんにほの字ですか?」

「しゃ、シャマルさん!」

 そんな直球に!?

「そ、そんなんじゃなくて……友達が傷つくの、見るのが嫌なんです……」

 ……ああ、そっか。
 せつなちゃんの同類だね、彼は。

「(シャマルさん。ここは私に任せてもらってもいいですか?)」

「(? いいけど……浮気したらせつなちゃんが泣きますよ?)」

「(そんなことしません!)」

 ……もう、私はせつなちゃん一筋なのに……
 
「じゃあ、すずかちゃん、彼の治療はお願いしますね?」

「はい。……ダテ三尉? 痛かったら言って下さいね?」

「あ、はい……」

 AT『ビルトシュバイン』で、治療魔法を使う。
 リンカーコアのない私にとって、この子がいないと足手まといだ。

「……友達が傷つくのを見るのは、私も嫌です」

「……えっと、あんたも?」

「ええ。せつなちゃんが私のお友達なんですけど……私たちを守る為に、いつも前に出て、盾になろうとしてくれるんです。私たちが傷つかないように……でも、せつなちゃんにも、傷ついて欲しくないんです。私は」

 でも、彼女は、それでも前に、私たちの前に出て、剣を振る。
 私たちが傷つかないように……

「ハラオウン査察官は、強いんじゃないんですか?」

「ええ、強いです。……でも、とても、泣き虫なんですよ? 昔は、良く泣いてました……」

 悲しいことを背負ったまま、二度とそれを起こすまいと、泣きながら前に。

「ダテ三尉は、何か目標があって管理局に?」

「あ、いや、その……お袋が、病気がちで、今入院してるんすよ。俺のところ、母子家庭で、俺が働いて金作らないと入院費も馬鹿にならなくて……」

「……それで、管理局に」

「実験隊に入れば、お袋の入院費、全額出してくれるって、隊長言ってくれたから、俺、航空隊から実験隊に……」

 ……うーん。それっていいのかな?
 ちょっと調べてもらった方がいいのかも。
 ……でも、大体分かった。

「じゃあ、ダテ三尉は、お母様を守る為に戦っているんですね?」

「え!? あ、いえ、そんな大層な事じゃないんすけど……」

「同じことですよ。せつなちゃんだって、最初は、一人の女性を救うためだけに管理局に入りましたから」

「へ?」

 アリサちゃんがせつなちゃんから聞いた話だけど。
 本当は、クイントさんを助ける為だけに管理局に入ろうとしたらしい。
 なのに、私たちが入るって言い出して、なら、私たちも守ろうと、東奔西走して……
 その目的を果たせる部隊を作り上げてしまった。
 その事実を、彼に話す。

「……す、凄いっスね……」

「でしょ? ……クスハちゃんも、その部隊にいる。絶対、危ないなんてことはないですよ……せつなちゃんが守ってくれますから」

 それに、クスハちゃん自身結構強いし。
 ……魔法戦闘も教え始めちゃったから、もう後に引けないしなぁ……
 
「……そっか、じゃあ、安心か……あーあ。なんか俺情けないな~」

「? どうしてですか?」

「だって、俺一人空回りして、高町教官にはいいとこ見せられないし、ライには馬鹿にされるし、アヤには口うるさく言われるし、隊長にも叱られるし……」

 あらら。いいとこなしですね。
 ……でも、

「でも、一生懸命に頑張れば、きっといいことがありますよ。……私も、頑張って、好きな人と一緒にいられるようになりましたから」

「え? そうなんすか? ……あ、査察官と?」

 え、あ、その。
 あうう、顔熱くなってきちゃった。
 
「へ~? あの人やるなぁ。……ん? こないだ来た時は、高町教官ともテスタロッサ執務官とも仲良さげだったような……?」

「えっと、あの二人とも、幼馴染だから、せつなちゃん」

「あ、そうなんすか。……まさか、四角関係? いやまさかハーレム!? そんな羨ましいことが!?」

 ……あ、もしかして、リュウセイ君。
 せつなちゃんが女の子だって知らない……?

「くそー、男の敵めー」

「……えっと、ダテ三尉? ……せつなちゃん、女の子だからね?」

「……え? ……嘘ですよね?」

「……本当なんだけどな……」

「なにーーーーーーー!? あれで女ーーーーー!?」

 ……うう、やっぱり。
 そんなに女の子に見えないのかな……
 結構美人だと思うのになぁ……せつなちゃん。

 
 お昼の食事はクスハちゃんが持ってきてくれた。
 いろいろ話したお陰か、リュウセイ君とも仲直りした。
 よかった。……けど、ここでハプニング発生。
 
「クスハちゃ~ん? 愛しのブリット君が、怪我しちゃったから、ちょっと来て……あれ?」

 エクセレンさん……その、爆弾抱えてこないでください……

「え!? ブリット君が?」

「あ、うん。……えっと、そちらは?」

「あ、幼馴染のリュウセイ君です。て、ブリット君は医務室ですか?」

「そうだけど……」

「はい、すぐ行きますね?」

 ……その、目が点になってるリュウセイ君をおいて、クスハちゃん医務室に向かっちゃいました。

「……ひょっとして、私、やっちゃったかしらん?」

「はい。凄く」

 ……く、空気が重い……!

「あ、あの、すずかさん? ブリットって……クスハの……」

「え、えっと、ね?「ん? 恋人よん?」エクセレンさん!?」

 ああああああ……そんなにあっさり……

「あ、そ、っスか……はは……今日は厄日か……」

 え、え~と……なんだか凄く可哀想になってきました。

「ま、まあまあ! 女の子はクスハちゃんだけじゃないのよ? いい女の子は見つかるって! ねぇ、すずかちゃん?」

「え、ええ! そうですよ! 元気出してください。リュウセイ君」

「……そ、そっすね。あ、いえ、大丈夫です。……ちょっとびっくりしただけですから」

 でも、凄く落ち込んでるように見えるんだけど……
 えっと……

「じゃ、じゃあ、せつなちゃんにお願いして、リュウセイ君のお嫁さんスカウトしてきてもらおうか?」

「はぁ!?」

 ……て、何言ってるんですか、エクセレンさん?
 でも、せつなちゃん、ブリット君のお嫁さんスカウトするって言って、クスハちゃん連れてきたから……
 できないはずはない……ちょっと無理かな?

「クスハちゃん連れてきたのもせつなちゃんだから、できるかもよん? ……自分の嫁までスカウトするくらいなんだから。ねぇ? すずかちゃん?」

「え、と、その……あう」

 そこで私に振らないでください……

「……え? は? ええ? ……ハラオウン査察官の嫁が、すずかさん?」

「他にもー、なのはちゃんとか、フェイトちゃんとか、はやてちゃんとか、アリサちゃんとか。……ふふん。羨ましいでしょ、少年」

「……ま、まさか、あの人真性!? それでハーレム!? ……神は死んだーーーーーー!?」

 ああああ、とうとうせつなちゃんの性癖までばれちゃった……
 そして、リュウセイ君の落ち込み具合がさらに酷く……

「エクセレン? 一体何をしている」

「あら。響介? ……ちょっと青少年に世の中の理不尽を教えてたところよん?」

 ああ、響介さん!
 エクセレンさん連れて行ってください。
 このままだと、リュウセイ君自殺しかねない勢いで沈んでいってしまいます。

「……まあ、いい。それより、書類仕事が溜まってるんだ。早く来い」

「はぁ~い。じゃあ、すずかちゃん、リュウセイ君、またね~?」

 ……はぁ。ようやく嵐が去ってくれました。
 ……被害は甚大ですけど。

「……りゅ、リュウセイ君?」

「……あの、すずかさん?」

「え? 何、かな?」

「……俺、何を信じていいのかわからなくなりました……」

 それは、鬱病患者の台詞だよ……
 顔色も青いし……

「えっとね? ……また、いいことありますよ。きっと」

「……はい」

 もう、これしか言えませんでした……



 <フェイト>

 合同訓練午後の部も大体終わり、機材の片付けを訓練生と始める。
 ……午後は私も参加して、実験隊のメンバーを見たけど……ダテ三尉は何かあったんだろうか?
 物凄く陰鬱なオーラで私を見てたけど……まあ、ブランシュタイン三尉が何か話しかけてたから、大丈夫だとは思うけど。
 私、何かしたかな?
 
「あ、テスタロッサ執務官、手伝います」

「コバヤシ二尉……えっと、そちらの隊はいいんですか?」

「はい。リュウとライ、なんか仲良くなっちゃって」

 ? どうしたんだろう。この間は、凄く仲悪そうだったし、お昼前にも喧嘩してたけど……
 まあ、仲良いことは悪いことじゃないからいいか。
 コバヤシ二尉にも手伝ってもらって、片付けはすぐに終わった。

「ありがとう、助かったよ」

「いえ。……あの、それで、今日せつなさんは……?」

 ? せつなに用事かな?

「せつなは長期休暇に入ってるんだ。……何か、用事?」

「あ、いえ……その、妹の事で、何か進展がなかったか、聞きたかったものですから……」

 妹? 進展?
 ……ああ、もしかして。

「マイ・コバヤシのお姉さんなんですね? コバヤシ二尉は」

「……はい。せつなさんが、担当していると言っていましたから……」

 担当じゃないんだけどな……
 まあ、ほとんどの情報はせつなに流れてるけど。

「今はまだ、何も進展してない状況です。……お力になれず、すみません」

「あ、いえ……もう、三年も経ってますから、父も、諦め気味で……」

 ……そんなに経ってるんなら、もう、彼女は……?
 え? なのにせつなが諦めてない?

「あの、せつな、諦め気味に言ってはいませんでしたか?」

「え? ……いえ。必ず被害者も、犯人も捕まえるとは言ってましたけど……」

 ……おかしい。
 せつな、あれでいて結構他人には冷たい人だ。
 なのに、『必ず』なんて言葉を使っている……
 まさか、せつな、マイ・コバヤシがまだ無事なことを知ってる……?
 ……あの時みんなに話した時、言ってたよね。
 利用できる者は自分の手駒にして、それ以外は実験体になるって……
 じゃあ、マイ・コバヤシは、手駒になっている可能性がある?
 それも、助けられるレベルで?
 ……せつなに聞いてみなくちゃ。

「……せつなが捕まえるというなら、必ず捕まえられると思うよ。だから、諦めずにまっていて欲しい」

「……はい。お願いします。私も、実験隊で頑張ります……妹を見つけられるように」

 ……どこの姉も、強い人ばかりだ。
 アリシアも、せつなも。
 ……私も、見習わないとね?

「……あ、それで、テスタロッサ執務官?」

「はい?」

「……リュウが言ってたんですけど……せつなさんがレズって本当ですか?」

「!? え、えと?」

 ついつい周りを見渡してしまう。
 ……せつながいなくて良かった。

「それで、テスタロッサ執務官も、その、せつなさんの恋人だとか……ど、どうなんです?」

「え、あ、その、間違っては、ない、けどね?」

 まさかあの目はそれで!?
 うう、まさか知られたとは……

「……せつな、かっこいいし、その、……私の、恩人なんだ。……あまり、外には言いふらさないでもらえると、嬉しい」

「あ、はい。……その、せつなさんが女性ってこともびっくりしましたけど」

「……やっぱり男の人に見られてたんだね……」

 女性用制服着ないし……髪も短いし。
 よく見たら女性ってわかるんだけどな……
 喋り方も男だから、はじめて見る人には男性にしか見えないのかも。

「でも、噂は本当だったんですね……」

「え?」

 噂って……ひ、酷く嫌な予感するんだけど……

「そ、その噂って?」

「えっと、本部で流れてる噂なんですけど……『特務隊の査察官は、自分のハーレムを作るためにスカウトをしてる』って……」

「ええええ!?」

 そ、それは酷いよ!
 誰がそんなことを!?

「その噂は嘘だからね! せつな、ちゃんと男の人も入れてるし! 私たち以外に浮気はしないって言ってくれたし!」

「は、はい! ……私たち?」

「あ」

 し、しまった……
 ええい、みんなごめん。
 でも、さっきの噂よりも、まだマシだから。

「……私と、後四人……高町教官と、八神一尉、月村副主任、バニングス技術士……せつなの恋人は、これだけだから。それ以上、恋人作らないって、せつな言ってるから、だから、その噂は、否定して。……いいかな?」

「……わ、分かりました……その、本当に、せつなさん女の人なんですよね?」

「……一応」

 お、男の人でもあるけど……
 うう、なんか恥ずかしい……

「……それで、その、せつなさんとはどこまで……?」

「き、キス……だけ……」

「他の人もですか?」

「う、うん……その、せつな、優しいから……」

 しても、胸を揉むぐらいだし……どちらかと言えば、はやてに揉まれる回数が多いけど。
 
「……せつなさん、意外とプラトニックなんですね……驚きです……」

「な、内緒だよ? ……その、ダテ三尉にも喋らないようにお願いしてもらっていいかな?」

「は、はい」

 よ、よし。これで不名誉な烙印はせつなに押されない……手遅れかもだけど。
 噂って、怖いなぁ……

「……せつなさんの気持ちもわかるかも……テスタロッサ執務官、凄く可愛い……」

 こ、小声聞こえてるよ……


 <なのは>

 えっと?

「飲み会、ですか?」

「おう。せっかくイングラムの奴がいたからな。教導隊一五班のメンバーで飲みに行こうと思ってな? ……で、高町もどうだ?」

 ……わ、私、未成年なんだけどな……
 せつなちゃんも、こうやってキタムラ教官に誘われたんだね。

「ああ、安心していいぞ? お前さんには酒は飲ません。……まあ、うちのメンバーで、絡み癖のある奴はいないしな」

 えっと、キタムラ教官に、ゼンガーさんにレーツェルさん……そして、プリスケン一尉。
 ……確かに、絡みそうにないね。
 でも、静かな飲み会になりそう。
 もしくは、キタムラ教官の独壇場。

「と、言うか来い。命令な? 上官命令」

「……上官私なんですが……」

 うう、強引だぁ……
 仕方ない……今日の連絡役、はやてちゃんに代わってもらおう。
 せつなちゃん、びっくりするかも。

 ……はやてちゃんに連絡役を任せて、キタムラ教官たちについて行く。
 最近、繁華街って来てないから、息抜きついでになるかな……

「悪いな、高町。カイが無理を言った」

「あ、いえ。息抜きのつもりでお付き合いします」

「せつな君がいれば、彼女も誘うんだけどね? ……いや、残念だ」

「ほう? エルザムは彼女がお気に入りか?」

 あれ? プリスケン一尉、普通に話しに乗ってる……
 軽口とか言わない人かと思ったのに。

「いやいや。彼女ほど面白い子はいないよ。私の変装を一発で見破ったしね?」

「……それは本当に変装になるのか?」

「言わないと気付かなかった奴がそこにいるぞ?」

「ほっとけ! お前はもっと真面目ぶってただろ! 食堂で鍋振ってるなんて、気付くか!」

 にゃはは……うん、そうだよね。
 こないだせつなちゃんがレーツェルさんに話聞いた後で、キタムラ教官にも話したそうだ。
 ……あの時の驚き方は、面白かった……内緒だけど。

「と、ここだここだ」

 ついたのは、繁華街を抜けた場所にある地下の酒場。
 せつなちゃんと飲む時も、ここを使っているらしい。
 ……中はちょっと薄暗く、こじんまりとした店内。
 お客さんは一人もいない。

「よう、マスター? 『奥の部屋使うぞ』?」

 ? 奥の部屋があるのかな?
 バーテンダーさんが一つ頷いて、入り口へ札を持っていく。
 ……チラッと札の文字が見えた。

『貸切中』

 ……もしかして今の、暗号?

「どした? 高町?」

「き、キタムラ教官、今のは……」

 あ、してやったりな笑顔。

「ああ、この周辺の暗号でな? 入って一言目にそれ言ったら、貸切にしてくれるんだ。……秘密会議とかに良く使われる。覚えて置いて損はないぞ?」

「おいおい、カイ? なのは君に悪い知識を教えるなよ? また保護者に怒鳴られるぞ?」

「……それは、せつな君の事を言ってるのか?」

「ああ、そうだ。……彼女は、せつなの親友だからな」

 あ、あう。
 ……それ以上とはとても言えません……
 レーツェルさんはニヤニヤしないでください。
 店内の隅っこのお座敷に上がり、全員が着席する。
 ……えっと、メニューが……ない。

「? おお、高町。好きなものを頼んでいいぞ、アルコール以外ならな? 大抵のドリンクは置いてあるから、今飲みたい奴を言えばいい」

「今日は我々のおごりだ。カイが無理を言ったからな」

「あ、はい。ありがとうございます……」

 と、言われても、何を頼んでいいのか……あ、前にせつなちゃんに頼んでもらったやつ……えっと、名前は……

「じゃ、じゃあ、か、カレーミルク?」

「……高町君。カルーアミルクか?」

「そ、それをお願いします……」

 プリスケン一尉に突っ込まれてしまった……
 皆さん、苦笑しないでください!

「じゃあ、俺はブランデーだな。後『エルのロック』と」

「……梅昆布茶を頼む」

「相変わらず下戸だな、ゼンガー……私は赤ワインにしよう。グラスは?」

「一つでいい。俺はカイと同じにする」

 ……皆さん飲む気満々です……ゼンガーさんは飲まないんですね。
 後、エルのロックってなんだろ?
 テーブルに運ばれるお酒と、ゼンガーさんのお茶、私の頼んだドリンク……あれ?

「あの、キタムラ教官? 一つ足りないような……」

「ん? ……ああ、まさか、エルのロックか? ……お前さん、せつなと付き合ってるくせに何も知らないんだな」

「ええ?」

 もしかして、今のも暗号?

「そうだ。エルのロックも暗号だ。『ここで見聞きしたことは口外するな』という意味のな? ……まあ、上に行けば分かることだが、もう少し勉強しようや、高町」

 ……し、知りませんでした……

「カイ。その知識、全部せつな君の受け売りだろう? ……あまり偉そうに言わない方がいいぞ?」

「げ!? ばらすなよエルザム!」

「え? せつなちゃんの……ですか?」

「ああ。せつな君は結構顔が広くてね。佐官や将校クラスにも知れ渡っている。……付き合いで飲みに行く時に覚えたそうだ。その知識をカイに教えた。……それだけだよ。こいつがそんなに暗号を知ってるはずないだろう? 訓練校の教官が」

「ち、うるせーよ」

 ……せ、せつなちゃん、本当に何やってるのかな~?
 じっくりお話聞かせてもらった方がいいのかな?

「……では、そろそろ乾杯と行こうか。音頭は?」

「発案者だろう。カイ」

「おっしゃ! じゃあ、合同訓練の成功と、銀狐の恋人にぃ! 乾杯!」

 グラスを上げる皆さん。それに倣う。
 ……音を鳴らしたりはしないんだ。
 ……後、銀狐の恋人って、私の事?

「はは。銀狐の恋人は君の事だよ。なのは君。銀狐はせつな君だからね?」

「……まあ、個人の好みに、とやかく言わん」

「……同意しよう。……それに、彼女ならそれもありと思える」

 ぷ、プリスケン一尉が認めるほどですか……
 せつなちゃん、かなり一尉と仲良しなのかな……

「なんだ、イングラム。随分せつなを買ってるな? ……あいつと知り合ったの、最近だって言ってなかったか?」

「ああ……まさかお前たち、彼女の力を知らないのか?」

 ? 力?

「……彼女が先を読みすぎていることは知っている。我々以上のな?」

「ああ、ギリアムの再来かと思うほどにな」

 ……ギリアムって、誰の事なんでしょう?

「まさか、せつなも予知能力者だって言いたいのか、イングラムは」

 ……えっと、それは……
 せつなちゃん曰く、ただのチートだと……
 私たちや皆さんの未来知ってますしね。

「……彼女は、アカシックレコードを紐解いたと言った。……おそらく、この先何が起こるかを、大体把握できているだろう」

「……その、アカシックレコードってのは、なんなんだ?」

 ……プリスケン一尉には、そう言ったんだ。
 私も、その単語は知らない。何のことだろ?

「アカシックレコードというのは、世界の記憶が刻まれる歴史盤だ。過去、現在、未来が絶えず更新されている……それに触れたものは、過去の知識を操り、今を自分の思い通りに動かし、未来を正確に把握できる。……もっとも、彼女は膨大な情報量を捌ききれず、大まかにしかわからなかったそうだが」

 ……あ、はい。
 その通りですね。
 ……上手い言い回しだね……
 
「では、我々はせつな君の未来の為に集められた……と?」

「……おいおい。冗談だろ? じゃあ、お前の本来の任務も、あいつは知ってるって言うのか?」

 プリスケン一尉の、本来の任務?
 
「ああ。俺が名乗った次の瞬間に、俺がタイムダイバーだと見抜いた……ただの査察官が、俺の任務を知っているはずがないからな」

「……やはり、せつなは只者ではなかったか」

 ……な、何か、いきなり置いてきぼりです。
 タイムダイバーってなんですか?

「……ふむ。高町君は俺の任務については聞いてないようだな。……せつな君の力は知っているのに」

「「「なに!?」」」

「……え、えと……アカシックレコードというのは初耳ですけど、大体の未来を知っているって言うのは、聞いてます」

 ……うう、プリスケン一尉、私の表情を見てたんだ……
 
「では、この先何が起こるか、なのは君は聞いているのかい?」

「……いえ。せつなちゃん、未来を知るのは、いけないことだと言って教えてくれませんでしたから……それに」

「それに?」

 ……ど、どうしよう……
 言っちゃっていいのかな……
 せつなちゃんの知っている未来と、別の方向に進んでるってこと……

「……」

「高町。せつなに口止めでもされてるのか?」

「あ、いえ、そういうわけじゃないんですが……」

「よかったら、言いたまえ。……なんなら、全て俺のせいにしてもいい」

「イングラム?」

 プリスケン一尉のせいに?
 どういうことだろう。

「なに、俺は彼女に嫌われているからな。……俺が無理矢理聞きだしたことにすればいい」

「……えっと、せつなちゃん、そんなに嫌ってないと思いますけど……」

「? そうかね? この間、君たちが見学に来たときに、原因不明の殺気を浴びせられたのだが……」

 せつなちゃん……お兄ちゃんとの訓練で、殺気の操り方を練習してたし……
 使えると便利なんだって。
 でも、それだけなら、嫌いって事にはならない。
 
「せつなちゃん、嫌いな人は問答無用で自分の周囲から遠ざけますから……」

「……ああ、そうだったな。彼女を女装呼ばわりした査察官も、一ヵ月後には更迭されたんだったな」

「うむ。あれほど殺気立ったせつなを見たのは初めてだったな……俺が気合入れないと近づけなかった」

 ゼンガーさんがですか……それは知らなかったなぁ。

「それじゃ、話しますね?」

 皆さん、せつなちゃんを信頼してくれてるみたいだし……
 明日、せつなちゃんに怒られよう。

「……今、せつなちゃんの知る未来とは、まったく別の方向に進んでいるみたいなんです」

 ……? あれ?
 プリスケン一尉、反応薄い?

「そうなのか? ……その割には、堂々としたものだがな……」

 え?
 ……まさか、せつなちゃん、私に嘘を……
 あ、違う! あの時、せつなちゃん、プリスケン一尉に出会ってなかった!
 一尉に出会ったことで、せつなちゃん未来の方向性に見当をつけたんだ!

「……えっと、せつなちゃん、一尉の存在知ったから、未来の見当をつけれたんだと思います。……さっきの話を聞いた時は、一尉に会ってなかったから……」

「……なるほど。やはり彼女はアカシックレコードに触れたのだな。……俺の存在で、未来の方向性を見出したか……」

「ふふ。せつな君は凄い女性だな。……思わず求婚しそうだよ」

「やめとけ。嫁さんたちにボコボコにされるぞ? ……いや、高町、冗談だから睨むな」

 むぅ、私たちそんなに凶暴じゃないです。
 と、言いますか、せつなちゃん本人が先に暴れますから。

「あの、それで、タイムダイバーってなんなんですか?」

 せつなちゃん教えてくれなかったし……
 あ、聞く前に休暇入っちゃったんだっけ。

「……そうだな。次元先行者……あらゆる次元に現われて、ある、一人の悪魔を倒す為に行動する者をそう呼んでいる。この次元のタイムダイバーが、俺だ」

 ……悪魔……ですか……
 私じゃないよね?

「それで、われわれはそのタイムダイバーを支援する為に、集った仲間というわけだ……この場にはいないが、あと一人いる」

 それがさっきのギリアムさんなのかな?

「その悪魔って……誰なんですか?」

「……残念だが、君には聞く資格がない。……エルザムたちにも話していないしな」

 ……でも、多分。
 せつなちゃんは知ってる。
 
「せつなちゃんには、話したんですね?」

「……ああ。彼女には話した」

「な!? ……まさか、彼女もタイムダイバーだと言うのか、お前は!」

 ……似てるけど、違うんじゃないかな~?
 せつなちゃん、あくまで私たちの守護が目的だし。

「いや。彼女はただ知っているだけだ。俺の目的をな? ……そして、彼女は俺やその悪魔の存在を、忌み嫌っている……迷惑なんだそうだ。俺やその悪魔がいると」

 うん、多分そうなんじゃないかな?
 本来の流れと変わったからって、凄く頭抱えてたし。
 それまでは楽勝風味だったし……
 誘拐事件の件に関わってからだね……せつなちゃんが焦り出したの。
 ? あ、じゃあ、プリスケン一尉の敵って……

「(ゴッツォ研究所……)」

「なに!?」

 あ、反応した。
 凄い目でこっち見てます。

「? どうした?」

「あ、いや、なんでもない(どうしてそれを?)」

「おいおい、驚かせるなよ……」「(えっと、せつなちゃんが急いで潰したいって言ってた研究所なので……じゃあ、一尉の敵って、そこなんですか?)」

「しかし、タイムダイバーすら知っている、せつな君には脱帽だな……」「(……そうだ。その研究所の責任者、ユーゼス・ゴッツォが俺の言う悪魔だ)」

 やっぱり……せつなちゃん、目処が立ってるんだね。
 そして、おそらく、その研究所の場所まで。
 ……でも、それならどうしてすぐに潰しに……あ。

「くそぅ。おい高町! せつな呼び出せ! あいつにいろいろゲロさせてやる!」

「え、えと、ちょっと無理かと……休暇と一緒に、任務もしてますから……」

 あの後すぐに休暇入っちゃったから、行動できなかったのかも。
 ……うう、今頃恨んでるなぁ……せつなちゃん。

「とにかく、俺は彼女の動きやすいように支援するつもりだ。……お前たちも、彼女の支援をしてやって欲しい。それが、最善手だと思う(高町君。先ほどの話は、口外しないように頼む。……詳しくは、せつな君に聞けばいい)」

「ああ。是非もない。……あいつのスカウトを受けたのは、渡りに船だったようだな」「(はい。……一つだけ聞かせてください。せつなちゃん、研究所の場所を知ってるんですか?)」

「そうだな。私も、陰ながら支援させてもらおう」「(……目処は立っているはずだ。俺ですら、分からないが、おそらくな)」

「ち、しょうがねえ。高町! お前も頼むぞ? 期待してるぜ!」

「(……ありがとうございます)はい。せつなちゃんとは、友達ですから」

 ……明日、せつなちゃんに会いに行こう。
 ……直接会って、話さないと。


 皆さんと解散して、フェイトちゃんに連絡。

『え? 明日休むの?』

「うん。急なんだけど、テッサさんに報告いいかな?」

『いいけど……どうしたの?』

 えっと、どういう理由にしようか……
 あ、そうだ。

「ちょっと、プリスケン一尉とデートに」

 ごめんなさい、一尉。
 名前使わせてもらいます。

『……えっと……その、だ、駄目だよなのは? あの人、結構怪しいのに……それに! せつなが泣いちゃうよ!?』

 そのせつなちゃんに会いに行くの~!
 でも、そんなこと言ったら、後でみんなにも話さなくちゃいけないし……

「……えと、その、決まっちゃったから、キャンセルできないし……せ、せつなちゃんにも、話しとおすから」

『……なのは、本気なの? ……せつなを、見捨てるの?』

 にゃあぁぁ!? 変な方向に勘違いしてる!?

「違うよ! そうじゃなくて……実験隊の育成方針の事で相談があるって言われて、それで」

『あ、そうなの? ……デートなんて言い出すから、びっくりしたよ』

 ……よかった、誤魔化せた……
 うう、後で一尉に口裏合わせをお願いしよう……

「それで、今日はちょっと帰らないと思うから、明日、報告お願いね?」

『え? ……どうして?』

「そ、それは……」

 えっと、えっと……うう、せつなちゃんの二枚舌が今欲しいよ、切実に……
 
「えっと、ゼンガーさんのお家で、二次会するらしくて……」

 こ、これなら大丈夫だよね?
 ゼンガーさんにも口裏合わせをお願いしないと……

『うーん……わかった。そういうことにしとくよ』

「ありがと……え?」

『せつなに会いに行くんだよね?』

「え!? なんでわかったの!?」

『やっぱり……なのは? ばればれの嘘は駄目だよ?』

 ……しまった。
 誘導尋問に引っかかってしまいました……

「う~……フェイトちゃん、何で分かったの?」

『嘘をつくなら、事前準備ちゃんとしないと。今、ゼンガーさんに念話で問い合わせて、確認取ったんだから』

「むーーーー! フェイトちゃんの意地悪~~~~!!」

 フェイトちゃんがせつなちゃんに見えるよ……
 なんて子に育っちゃったんだろう。
 昔はもっと純粋だったのに。
 ……せつなちゃんの影響だよね、絶対。

『……なのは? ……私たちに、言えない事?』

「……うん。……せつなちゃんに、確かめたい事があるんだ」

 ひょっとして、私たちの勝手な約束で、せつなちゃんの行動を阻害しちゃったんじゃないかって。
 リンディさんの依頼もあったらしいけど、でも、せつなちゃんも、あの研究所は目の上のたんこぶだと思ってるはずだ。
 すぐにでも対処したかったと思ってるなら……私、謝らないと。

『……わかった。じゃあ、聞かない。……なのは、せつなに似てきたね? 秘密にするところ』

「む! フェイトちゃんも似てきてるよ? 意地悪なところ」

『うん。いっつも意地悪されてるから……皆、せつなに影響されてるね』

 ……うん。皆、せつなちゃんと一緒だったから。
 皆、せつなちゃんが大好きだから。

『それじゃ、こっちは任せて? 明日は私予定空いてるから、訓練隊の面倒、私も見るよ』

「ありがとう。……じゃあ、中継ポートの時間あるから、行くね?」

『うん。おやすみ、なのは。……せつなによろしく』

「おやすみ、フェイトちゃん」

 ……ありがとう、フェイトちゃん。
 分かってくれて……
 せつなちゃんも、同じ気持ちなのかな?
 みんなに秘密にしなくちゃいけないってこと、こんなに辛いこと……知ってて、それでも、秘密にしてるんだね。
 本当に、ずるいなぁ。

「よし、まずは、家に行こう」

 今日は実家に帰って、すぐに飛べば……向こうのホテルに泊まれるよね?
 よし、中継ポートへ……?
 あれ、この気配……人の気配が消えていく……あ、封鎖結界!?
 閉じ込められた!

「レイジングハート!」『set up』

 バリアジャケットを纏い、襲撃に備える。
 ……魔導師まで誘拐犯になっちゃったのかな。

「へへ……ブランドを追って来てみれば、激レア魔導師じゃん!」

 ……げ、激レア?
 私はどこかのカードですか?
 ……姿を現したのは、その、ちょっと小太りの男性。
 顎がしゃくれて特徴的。
 ……? デバイスを持ってない?

「高町教導官だろ、あんた? ……へへ。あんたを連れて帰れば、俺様の格も上がるってもんよ」

 やっぱり、誘拐犯だね。
 しかも、違法魔導師。

「一応聞くけど、大人しく捕まる気はあるかな?」

「ねえな! ……バルシェム! 激レアゲットだ!」

 それはあなたのキャラじゃないような気がするよ!
 ……彼の後ろから、同じ顔の少年が三人。
 せつなちゃんの言っていたバルシェム量産型……と、いうことはまさか!

「君は、誘拐された子なの!?」

「おうともよ! けどな、俺は力を手に入れたんだ! 魔法の力を! もう、魔導師なんぞ怖くねえぞ!」

 非魔導師だったんだね。
 ……まさか、研究所で、ATデバイスのような研究を?
 ……被害者の中には、魔導師もいるはず。なら、その可能性もある!

「かかれ!」

 襲ってきた! ……よし。

「飛ぶよ! レイジングハート!」『all right』

 飛行魔法で空へ。
 バルシェム量産型に飛行機能はない。
 空から撃ち落す!

「飛ばせねぇ! そして、撃たせねぇ!」

 ? ……あ、魔力が霧散してる……AMF!?
 なら!

「同じ手は食わない! 中和フィールド!」『展開します』

 アリサちゃん特製のAMF中和フィールドを展開。
 ……よし! 上手く効いてる!

「『アクセルシューター』! マルチショット!」『Axel Shooter』

 数は十五。五発ずつバルシェム・アインに撃ち込む!

「なにぃ!? AMFが効いてない!?」

「対抗策はできてるよ! ブレイク!」

 一人にヒット。続けて、二人目、三人目と撃ち落す。
 ……動きが止まった。バインドで固めておこう。

「『チェーンバインド』!」『Chain Bind』

 後は、彼だけだね。
 ? な、なにあれ? 肩に大きな物体を担ぎ上げた。
形状から見るに……大砲?

「ホ! なら、撃ち落してやるっての! 『ヴァリアブルレールガン』!」

 !? 速い!
 ……あ、危なかった。
 弾速が早くて……見えない!

「へへ、ほらほら墜ちやがれ!」

「く!」

 連続で撃って来た!
 シールドを張る暇が……
 ええい!

「『ショートバスター』!」『Short Buster』

 あの大砲を打ち抜く!

「無駄だっての!」

 え!? 私の砲撃をバリアで止めた!? 
 彼、結構固い!
 ……わ、私の戦術とられたみたいで悔しいの!

「そらぁ!」

「きゃぁ!」

 かすった!? 足に……飛行制御し辛い!

「激レアゲットォ!」

 !? やられる!

「させるかよ! 『ディスカッター』!」

 え!? お兄ちゃん!?
 ……あ、ちがう。
 緑色の髪の……白銀の鎧を纏った青年……せつなちゃんのより、鋭角的だ。
 彼の魔力斬撃で、弾道をずらしたみたい。
 魔力弾はあさっての方向へ。

「ホ! なんだ、てめ!」

「へ! 悪党に名乗る名前はねえ!」

 ……えっと、助けに来てくれたのかな?
 じゃあ、連携取らないと。

「ありがとうございます! 前衛お願いします!」

「え? ……あ、おう!」

 ? ひょっとして、この人も……違法魔導師?
 と、とにかく、彼を捕獲するのが先!

「『アクセルシューター』!」『Axel Shooter』

 牽制に魔力弾を撃ち込む。……うん。彼、動き鈍い!

「ち、この! こんな豆鉄砲! 屁でもねえよ!」

「くそ、堅てえんだよ、この! 『ディスカッター』!」

 それに、彼、近距離用魔法持ってないの? 
 防御魔法は常に展開してるけど、鎧の彼には攻撃しない。
 ……なら!

「(そのまま、囮お願いします!)」

「(!? え! なんだこれ!?)(マサキ! これテレパスにゃ! あにょ子からの!)」

 てれぱす? 念話知らない!? それに、もう一人の意識があるの!?
 
「(と、とにかく、攻撃続ければいいんだな!?)」

「(はい! 合図で下がってください!)レイジングハート! モードリリース!」『Exceed Mode』

 バリアジャケットとレイジングハートを戦闘用に切り替える。
 スカートが長くなったり、ジャケットの形状が変わったりと、ちょっとずつ変化があるけど、変わるのは見た目だけじゃない。これは、私とせつなちゃんで考えた、完全な戦闘用のバリアジャケット。
 いつものセイクリッドモードよりも防御力が上がり、砲撃用の収束率にも変化がある。
 レイジングハートも砲撃用に切り替え、杖の先が鋭角的に変化する。

 ……あのバリアを打ち抜く! 

「ホ!? やばいっての!」

 あ、背中向けた。逃げる気だ!

「逃がすかよ! クロ! シロ!」『お任せだにゃん!』『逃がさにゃいにゃ!』

 マサキって呼ばれた彼の背中から、二つの物体が飛び出して、犯人の行く手を阻む。
 そして、魔力射撃……自立誘導の補助兵装?
 とにかく、チャンス!
 念のため、カートリッジを一回使って、魔力補強。標準を定める。
 ……今!

「(下がって!)『エクセリオーーーーンバスターーーーー』!!」『Excellion Buster』

 マサキさんが着弾点から離れ、砲撃が犯人に直撃!
 ……それでも、まだ砲撃を防御できてる!

「くそぉ……ここは逃げの一手だっての! 『離脱』!」

 !? 転移魔法!? そのタイミングで!?
 ……嘘。
 本当に転移しちゃった……AAランク魔法を防ぐ防御魔法と平行して、転移魔法を行使するなんて……それに、バルシェムも消えてる。
 ……結界も消えたね。

「ちぃ! 逃げられたか!」

 あ、彼は残ってる。
 お話聞かないと……

「あの、手伝ってくれてありがとうございます。私、管理局特務隊の高町なのは。あなたは?」

 ……えっと、どうして後ずさるんでしょうか?

「え、えっと……俺、管理局に登録してなくて、だな?」

 ……違法魔導師なんだね。
 うう、せつなちゃんのところに行きたかったのに……

「お話、聞かせてもらえますか?」

「……は、はい……」

 よかった。大人しくしてくれて。
 ……逃げられたら、追っかけないと駄目だしね?

「じゃあ、どこかお店で聞かせてもらえるかな? ここにいて、また襲われてもあれだし」

「え? 店って……どっかの詰め所に放り込まれるんじゃ……」

「むぅ。そこまでしないよ。……えっと、マサキ君でよかったかな?」

「え!? 何で俺の名前!?」

 あれ?

「えっと、あなたのほかにも、意識体あるよね? クロとか、シロとか。その子がそう呼んでたから」

「あ、あの時ね。……と、じゃあ、ちょっと待ってな。クロ?」『はいはい。サイバスターシャットダウン』

 クロと呼ばれた声がすると、白銀の鎧が消え、彼は空色のジャケットとジーンズという普通の服に変わった。
 ……まさか、彼のも、ATデバイスと同じ?
 鎧の代わりに彼の体から現われたのは、二匹の猫。黒色と、白色の……だから、クロとシロ?

「俺はマサキ。マサキ・アンドー。……クラナガンでは、一般市民で……非魔導師だ」

 ……やっぱり。
 
「あたしはクロだにゃ。マサキのファミリアだにゃ」「僕はシロ。クロとおにゃじファミリアだにゃ」

 ……ファミリアって言うのは初耳。
 そして、やはり黒猫がクロ、白猫がシロ。……安易だね?

「じゃあ、今のは……」

「えっと、辺境世界の八七管理世界『ラ・ギアス』のロストロギアで、名前が『サイバスター』。……俺は、サイバスターに選ばれた、操者なんだと」

 ろ、ロストロギア……
 うう、絶対にせつなちゃんのところにいけない……
 
「じゃ、じゃあ、詳しい話を」

 しよう……と、思ったのに。

「ん? なんだこれ?」「イブン様の転送法陣にゃ!」「ご、ごめんなさいにゃ、にゃにょはさん! 僕たち行かにゃくちゃ!」

 転送法陣!? 後、にゃにょはじゃなくてなのは!
 魔方陣が消え去るとともに……ああ、マサキ君たちも消えちゃった……
 ……よ、よし。

「うん、これも、せつなちゃんに相談しよう!」

 絶対知ってるはずだから!
 ……魔法使った報告も無視することにして、私は転送ポートに逃げ出した。
 うう、局員にあるまじき行為だよ……

 この話をして、せつなちゃんが頭を抱えたのは予想に容易かった。




※外伝的意味合いのEXをお届けします。作者です。
待っててくれた方、応援してくれた方、感謝です。そして、待たせている事実が心苦しく……ストック分放出します。

タイムダイバーの解釈や、イングラムの行動指針の違い等は作者の勝手な変更なので、詳しい突っ込みはご容赦ください。
……大体、あの人作品ごとにスタンス違うよね。大まかなところは同じだけど。

ところで、外伝ではなく番外(ギャグだったり、ネタ晴らしだったり、メタネタだったり)って、需要あるのでしょうか?
休んでる(仮死状態的な意味)間に思いついたネタがいくつかあるんですが、読みたいですか? まあ、今の状況では簡単に出せるかどうかって話ですが。
ちょっとだけ意見が聞きたいです。
手元にあるネタは「八神はやての憂鬱(声優ネタ)」「ある日の訓練風景(声優ネタ)」「笑ってはいけない特務部隊24時(ギャグ)」「出番と台詞のないキャラクターの救済コーナー(メタネタ)」と、こんなところです。


それよりまず、安定した生活と、専用のマシンだよね。わかってます。
以上、作者でした。






[6790] L31-7.風を喚ぶ奇跡の儀式 せつなとなのはと休日のデート 前
Name: 4CZG4OGLX+BS◆571e1fd0 ID:0269cd8e
Date: 2010/05/12 18:13
 ……ん? おお、今日は羽娘来なかったな。
 気持ちのいい朝だ。
 ……隣には母さん。まだ寝てる。
 ……さて、今日は休みだし……
 佐祐理さんに、頭下げに行かないと……

「……よし」

 私服に着替えて、部屋を出る。
 母さんは放置で。
 台所に降りると……

「あら、せつなさん、おはようございます」

「あ! お姉さんおはよう!」

「おはようございます、秋子さん。……え?」

 ……俺の席に、なんかいる。
 クリーム色のセーターを着た、カチューシャ娘。
 ……こ、こいつ! 羽娘か!?

「お、せつなおはよう……」

 あ、祐一も降りてきた。

「祐一さん、おはようございます」

「祐一君おはよう!」

「あ~……秋子さん、おはようございます。せつな、どした?」

「あ、いや、おはよう。……そうか、幻覚か」

 祐一も反応しないってことは、幻覚なんだな、この羽娘は。
 いかんな、本気で疲れてるのか、俺。

「二人とも、朝御飯食べますか?」

「「頂きます」」

「わぁ。二人とも息ぴったりだよ」

 幻覚の声は無視して、その隣へ。
 名雪の席だが……どうせ起きてこないだろう、あの眠り姫。

「せつな、今日はなんかあるのか? もう出る準備してるみたいだけど」

「あ~……ちょっとな? 友人の家に行かないと……」

「秋子さん! ご飯おかわり!」

「はいはい」

 ……幻覚の癖におかわり要求するとは、生意気な奴だな。

「祐一君はどこか行かないの?」

「祐一はどうするんだ?」

「うーん。家で寝てようかな……」

「あ、だったら、僕と、で、デートとか、どうかな?」

 幻覚の癖に色気づくな。
 本当に生意気な。

「……やはり寝ていよう。どうも、さっきから幻覚がうるさい」

「そうした方がいい。俺も幻覚がうるさい」

「……うぐぅ……二人とも酷いよ……」

 ……うーむ、苛め過ぎたか?

「「おお、あゆ(羽娘)いつの間に?」」

「さっきから居たよ!! 二人して無視するなんて酷いよ!!」

「「いや、今気付いたんだ」」

「絶対嘘だよ! しかも、声合わせて言わなくていいよ!」

 はっはっは。
 ……申し合わせてもいないんだが。
 気が合うにもほどがあるな。

「まあ、落ち着け羽娘。血圧上がるぞ?」

「そうだぞ? 朝から叫ぶな。うるさいし」

「うぐぅ~。ホントに祐一君が二人いるみたいだよ……」

 む、失礼な。
 こいつほど性格悪く……同じ事考えたんだろな。
 指を指そうと腕上げてる。もちろん俺も。
 そして、視線が祐一と合う。……うん。
 
「やはり双子か、俺ら」

「だな。ここまで一緒だと怖いくらいだ」

 まったくだ。

「……そうですね。お二人とも、よく似てます」

「秋子さんもそう思います?」

「ええ。その、雰囲気……でしょうか。纏っている空気が、お二人とも似てますよ?」

 ……人に指摘されるレベルって……
 うーん。世の中広いな。

「ともかく、俺はご飯食べたら出るから。……秋子さん、母さん起きたら伝えといてください」

「はいはい……あら? リンディ?」

 む? 母さんが降りてきた。

「せつな? なのはさんからお電話よ?」

 え? なのはから?
 ……しかも、通信機じゃなく、携帯の方に?
 既に通話状態なので、そのまま電話を受け取る。

「ありがと、母さん。……あと、おはよ」

「ええ、おはよう。……秋子~? 朝御飯~お願い~」

「はいはい」

 ……母さんの方が年上のはずだが……何故だろう、秋子さんの方が年上に見えますよ?
 ……まあいいか。

「もしもし?」

『あ、せつなちゃん? おはよう。……今、下宿先だよね? リンディさん来てるんだ?』

「おう。遊びに来たんだと……それよりお前、こっちに連絡するってことは、海鳴に戻ってるのか?」

 ミッドからは通信機ないと連絡付かないからな。
 携帯電話を使うってことは、地球に下りてきてるってことだ。
 ? あれ? こいつ仕事じゃなかったか?

『え、えっとね? ……今、そっちの駅にいるんだ』

「……はい?」

 そっち?
 ……こっち?

『せつなちゃんの下宿先がある街の駅。……迎えに来て欲しいな?』

「マジか!? お、おう。今行く!」

 なのはがこっち来てるだと?
 ……仕事休んで? なにかあったか?
 ええい、ご飯食べる時間がもったいない!

「母さん! ちょっと出てくる! 俺のご飯食べていいから!」

「は~い。いってらっしゃ~い。……秋子~? 甘くないジャムちょうだ~い?」

「はいはい♪ せつなさん、行ってらっしゃい」

「げぇ!? ……ほ、本当に食うのか、この人……」

「うぐぅ?」

 えっと、とりあえず突っ込むべきところは……祐一君? その化け物を見るような目で母さんを見ないでね?
 気持ちはよく分かるけど。
 まあ、発生してるカオスは放って置こう。
 まずはなのはだ。


 ……駅までダッシュ。学校と同じ距離走ったよ、俺。
 駅前の時計の前に、栗毛の横馬発見。

「なのは?」

「あ! せつなちゃん! おはよう!」

 ……うわ、本当になのはだ。
 ……たった六日離れてただけなのにな。何か久々に思える。

「お前、仕事は?」

「えへへ……休んじゃった」

 ……む、悪戯っぽく笑う仕草がキュート。
 けど、珍しいな。なのはが仕事休んでまで俺に会いに来るなんて……

「……何か、あったのか?」

「ん? ……せつなちゃんに、会って確かめたいこと、一杯できちゃったから。……我慢できなくなっちゃった」

 確かめたいこと?
 ……そう言えば、昨日、教導隊の飲み会に参加したとか言ってたな。
 ……む、レーツェルさんあたりから、なんか聞いたか?

「あー……とにかく、下宿先行くか? 母さんもいるけど」

「……駄目だよ。リンディさんに話せないよ」

 ? え?
 母さんに話せないことなのか?
 ……ま、まさか……抱かれたいとか!?
 ……あるわけないか。

「えっと、母さんに話せないことって、何かあるのか?」

「……せつなちゃんが、聞かれたくないでしょ? ……タイムダイバーとか」

 !?
 ……い、イングラムから何か聞いたのか!?

「どこか、二人で話せる場所ないかな? ……聞きたいこと、一杯あるんだ」

「……わかった。何処がいいかな……」

 ……百花屋は、この時間なら……開いてるな。
 なのはを伴って、百花屋へ。
 入って、一番奥の席へ。
 ……モーニングセットを二つ頼んで、来るまでに、ちょっと雑談。

「……昨日の合同訓練、どうだった?」

「うん、結構楽しかったよ。あ、リュウセイ君酷いんだよ? 朝、私の顔見て、表情引きつらせて怖がってた」

「……ま、まあ、あんだけやればなぁ……」

 先日の出稽古、ちょっとした特訓だったし。
 なのは信者によくある病状です。
 最初の訓練で苦手意識持ったり。
 鬼教官だからな、こいつ。

「それに、帰り際には、不審な目を向けるし」

「不審? ……その反応は初めて聞くな」

 なのはの何を知ったのだろうか……あ、もしかして。

「誰かから、俺らの関係聞いたな……?」

「あ。……確か、リュウセイ君、怪我してすずかちゃんに治療受けてたみたいだから、その時に聞いたのかも……」

「すずか、言いふらすような子じゃないだろ?」

「ううん? エクセレンさん来てたし、お昼に」

「……なるほど。あの姐さんか」

 うん、ばれたね。
 ……頼むから噂広げないでくれよ~?
 ただでさえ、俺、ハーレム作るためにスカウトしてるなんて噂立ってんだから。
 
 ウェイトレスがセットをテーブルに置いて、立ち去ったと同時に防音&意識逸らしの結界を張る。
 ……さて。

「で、なのは? ……誰からそれ聞いた?」

「……プリスケン一尉から」

 やっぱり……?
 あれ? そんな簡単にばらしていいのか、あいつ。
 いくらなのはが俺の近くの人間だからって……

「あのね、せつなちゃん。……昨日、教導隊出身の人たちの飲み会があったの」

「あ、ああ。聞いてる。レーツェルさんやゼンガーさんに、キタムラ教官と飲みに行ったんだろ?」

 そこに何故イングラムが出てくる?

「……プリスケン一尉も、ゼンガーさん達の同期で、教導隊で同じ班だったんだよ」

「な……そうなのか?」

 げげ。それは未確認情報だった。
 ……それで、一緒に行ったのか、あの人。

「その時に、せつなちゃんの話になって、プリスケン一尉が、アカシックレコードって話を皆にしたんだ」

「……あの野郎。余計なことをぺらぺらと……くそ、ゼンガーさん達には内緒にしとく予定だったのに……」

 ち、やはりとっとと潰しとくべきだったか……

「……それで、一尉がタイムダイバーだって話をして」

「はぁ!? ちょ、待てなのは? それ、親分達にも話したのか、あいつ!?」

「えっと、ゼンガーさん達、一尉の仲間だって言ってた。タイムダイバーを支援する為の仲間だって」

 ……うわ、それ、俺の世界の設定と違う。
 だって、タイムダイバーは常に一人で行動して、その正体は極力明かさないことにしてるはず。
 ……これも、世界が違うから起こったパラドクスか?

「それで? なのははタイムダイバーの事を聞きたいのか?」

「ううん? その事は一尉に聞いたよ。ある悪魔を倒す為に行動してるって」

 ユーゼスの事だな。

「でも、ゼンガーさん達にも悪魔の名前は話せないって言ってた。資格がないからって」

 ……俺には話したよな?
 もしかして、あいつの行動を阻害する可能性があると話せないとか?
 ……思いっきり、エルザム兄さんの目的だもんな、あの研究所。

「……でね? 私、念話で聞いて見たの。……ゴッツォ研究所がそうなのかって」

「!?」

 ……そ、そんな直球な……
 し、心臓止まるかと思った……

「それで、一尉、教えてくれたよ……その悪魔の名前。ユーゼス・ゴッツォの事」

「……聞きたいのは、それか?」

 あの男……殺したほうがいいか?
 いや、まだ早いか? しかし、このままだと……
 いやいや。まだ待て、俺。
 あいつは二重スパイで、まだターニングポイントは来てない。
 ……それに、まだ、なのはに危険が迫っているわけじゃない。

「それもあるんだけど……せつなちゃん」

 俺の目をじっと見つめ、息を吸って、なのはがその口を開く。

「せつなちゃん、研究所の場所、知ってるね?」

「……いや、知らないな」

 目処はついてるが、確証できない。
 ……そして、それがどこにあるのかも、俺はまだ知らない。

「せつなちゃん。私も、そして、プリスケン一尉も、せつなちゃんが研究所の場所に目処をつけてるって思ってる。……どうなの?」

「……目処だけはな? けど、明確な場所が分からないんだ」

 うう、なのはつええ……
 何で今日はこんなずばずば聞いてくるんだよ……

「そう、なんだ……」

「う、そ、そんなに暴れたかったとか?」

「そうじゃないよ。……私……私たち、せつなちゃんの邪魔したんじゃないかって」

 え? 邪魔?

「せつなちゃん、研究所を早く見つけて、潰したいって言ってたのに、私たちの勝手な約束で、その邪魔したんじゃないかって思って……もしそうなら、謝りたいなって……それで、私……」

 ……あ~! もう! 情けないのは俺かよ!
 しかも、なのはに心配かけて……くそ!
 何やってんだ、俺!

「……謝るのは俺のほうだよ。ごめん。……心配かけた」

「え?」

「……いろんなこと秘密にして、なのはを心配させて……ごめんな、なのは」

 話せないことが、たくさんある。
 言えない事も、たくさんある。
 ……それは、未来の事でもあり、今までにやってきたことでもある。
 その一部が俺以外の口から聞かされたら、そりゃ、不安にもなるだろう。
 ……これは、俺のミスだな。
 なのはに、裏の情報が流れないなんて高をくくってた、俺の慢心が生み出したミスだ。
 ……もう、過保護なこと、出来ないな……

「……うん。せつなちゃんの気持ち、分かったから。……今日、ここに来ることね? フェイトちゃんだけしか知らないんだ」

「そうなのか?」

 なのはが、皆に秘密にしたのか?

「きっと、この事は皆にまだ話したくないだろうなって思って。……秘密にするって、辛いね? 皆に言えないのは……凄く、辛い」

「……あはは。そうだな。全部言ってやろうかって事もあるよ。……けど、言ったら、みんなにも迷惑掛かる」

「うん。分かっちゃった。……せつなちゃん。辛かったんだね? ずっと、この辛さ、一人で抱えてたんだね?」

 ……そう、だな。
 うん、凄く、辛かった……
 先を知ってるのに、話せない事実が辛かった。
 大声で告白したい事実を、押さえ込むのが辛かった。
 ……けど、それすらも、楽しみに変えないと、俺自身がやってられない。

「だから、せつなちゃん。……少しずつでいいから、私に話して欲しいな? みんなには内緒だけど、私に言える事があるなら、話して欲しい。……せつなちゃんの辛さを、少しでもいいから、分けて欲しい。……私だけじゃなく、みんなも、多分そう思ってると思うけど」

「……そうだな。はやてやすずかがよく言ってるもんな……」

 まったく。俺はライ君に大きな口叩けないな。
 何時まで経っても、みんなを信頼しないで……
 ……よし、今日は話しちまおう。
 なのはだけに。聞かれたことは全部。
 ……それで、なのはの肩を借りるとしよう。

「よし! じゃあ、何でも聞け! 無制限で答えちゃる!」

「えっと、開き直ってるね……」

 もちろん、やばい話は無理だけどな!

「じゃあ……せつなちゃん。……私の事、好き?」

「……いきなり脈絡もなくそんなことを聞くお前が大好きだぞ?」

 席を立ち上がり、彼女の隣へ。
 ボックス席なのに二人寄り添う。
かわいいよなのは、なのはかわいいよ。

「……えへへ。なんか、恋人同士みたい」

「む? なら、男になろうか?」

「そ、そこまでしなくていいよ……じゃ、じゃあ、ちゃんとお話聞かせてね?」
 
 よ、よし……軽くなのは分を補給したところで、今度こそ質疑応答へ。

「じゃあ、まず、研究所の目処立ってるって言うけど、具体的には?」

「……いったい所聞いてくるなぁ……」

 一番話し辛い所を……まあ、いいか。

「……古代ベルカのロストロギアにな、『聖王のゆりかご』って言う、戦艦クラスの巨大遺失物があるんだが……おそらく、そこを根城にしてると思う」

 明らかにあれ、ネビーイームやヘルモーズに似てるからね!
 無限のように出てくるガジェットとか! ヴィヴィオの扱いとか!
 
「……戦艦クラスの……それを発動するのが、ユーゼスの目的なの?」

「いや、確かに戦力として使うかもしれないけど、目的はそれじゃない。……因果律って知ってるか?」

「え? ……聞いたことないよ」

 まあ、そうだろな。
 ……因果律というのは、簡単に言って運命の別名だ。

「例えば、お前が魔法使いになったのは、ユーノと出会ったからだよな?」

「え? うん。そうだよ?」

「これを解析すると、なのは+ユーノ(レイジングハート)=魔法少女なのは。という式が成り立つ。この式が因果律の基本だ」

「……えと、つまり、私がユーノ君に出会って、レイジングハートを受け取ったから、魔法使いになった。……誰が、如何して、そうなったから、こうなった。……みたいな感じかな?」

 そんなところでいいと思う。
 上手く説明できないが、要は今の状況が起こった原因だな。
 その原因を解析し、式としたのが因果律と考えてもらえばいい。

「で、ユーゼスの目的は、その因果律を操作することにある。……つまり、今を自由に操ることが目的だ」

「……今を自由に操るって……?」

「そうだな。さっきの話を例題にして、なのはが魔法使いになれない方法を作り出すには?」

「……ユーノ君を消してしまえばいい?」

「その通り。そうすれば、なのはは何時までたっても魔法使いになれず、ただの小学生でいられたわけだ」

 これが因果律の操作。
 ユーゼスの最終目標。
 自分の都合の悪いものを消して、何時までも自分の天下を保持できる、最悪の手段。
 ……俺も同じようなことしてるってのは、内緒。

「それって、せつなちゃんが今までやってたことと……同じ?」

「……いや、まあ、ぶっちゃけるとそうなんだけど、ね? ……けど、今の段階から過去を変えるのはできないだろ? ……因果律を操作できる様になれば、それが可能になるんだ」

 今の段階から、過去のユーノを消せば、今、俺の目の前にいるなのはが消えるという現象を引き起こすことができる。
 ……そんな恐ろしい真似、許すわけにはいかない。

「確かに、悪魔だね……じゃあ、そのゆりかご見つけないと」

「まあ、そうなんだが、それの居場所を探すより、まず、それをできないようにしたい。……因果律の操作を可能にするシステム『クロスゲートパラダイムシステム』には、二つの要素が必要なんだ」

「二つの要素?」

「一つはサイコドライバーと呼ばれる、強力な念動力者。もう一つは、ラプラスデモンタイプコンピューターと呼ばれる未来を予知する演算装置」

 サイコドライバーの力でパラダイムシステムを操り、ラプラスコンピューターで未来を見る。
 ……この二つがないと、パラダイムシステムは上手く使えない。

「じゃあ、それを確保することが、私たちの仕事だね?」

「だな。……ゆりかごはその後でもいい。……ユーゼス自身、結構チート性能らしいし」

「チートって……せつなちゃん以上の?」

「ああ。……魔法無効化体質の上、サトリ持ちだとよ」

 魔法はノーダメージ。物理攻撃は避けれます。
 なんだその反則性能。
 
「それを打ち倒せる戦力が欲しい。……頼むぞ、なのは?」

「うん! 任せといて!」

 最終戦には、SRX部隊にも力借りると思うし。
 ……多分、俺だけじゃ勝てないだろうな……

「他に何か聞きたいことあるか?」

「……えっとね。一尉関係の事は、今はこれだけでいいんだけど」

「ん?」

 別の話かな?

「……せつなちゃん、サイバスターって知ってる?」

「何でお前がそれ知ってるの!?」

 びっくりしたぁ!
 何故それを知ってる!

「え、えっとね? ……それを使う人にあったの。マサキ・アンドーって男の人」

 わ、わーぉ。マジですか?
 ……聞くと。
 また誘拐に遭いそうになったなのは。今度はちゃんと対応できて、その違法魔導師と対峙。
 しかも、誘拐事件の被害者が、魔法の力と引き換えに誘拐犯になってしまったらしい。
 一応特徴を聞いて……うわ。悪徳ゲーマー……あいつかよ……

「私、激レア魔導師なんだって。……レアかな?」

「いや、まあ、その年齢でSランク魔導師はレアだよな」

 うん、納得。
 まあ、そいつが仕向けたバルシェム量産型を捕縛したがいいが、そいつの魔法に意外と苦戦したそうだ。
 弾速が見えないほどの射撃魔法か……レールガンかな?
 で、ピンチになった時に、それが援護攻撃してくれたと。

「お兄ちゃんかと思っちゃった。声、よく似てるから」

「……ああ、そうですね。グリーンリバーですもんね、二人とも」

「にゃ?」

 そのマサキ君と連携を取り、砲撃で打ち抜こうとしたが、転移魔法で逃げられたと。
 しかも、防御中に転移魔法多重起動。捕縛してたバルシェムにも逃げられたらしい。

「……ふーん」

「あれ!? 反応薄い? ……まさかせつなちゃん、同じことできるの?」

「ああ、パラディンで防御しながら、クラウンに転移魔法使わせれば出来る。……つまり、転移魔法専門のデバイス持ってたんだろ、そいつ」

 それで、マサキ君に事情聴取をしようとした所、誰かが彼らを召喚してしまい、どこに行ったか解らなくなってしまったと。

「えっと、クロちゃんは『イブン様の転送法陣』って言ってたけど……」

「なるほど。イブン様ねぇ……うん、いたわ、そんな人」

 マサキたち魔装機操者を呼び出す人だ。
 後、修行場の管理人。

「レイジングハート? 彼の言ってた辺境世界、なんて言ってたっけ? えっと……ラティアス?」

『マスター。ラ・ギアスです。第八七管理世界の』

 ほうほう、辺境世界扱いなのな。
 ……後、なのは? それはポケ○ンだぞ?
 まあ、似てるけど。

「それで、マサキ君なんだけど、非魔導師なんだ。……そのロストロギア、ATデバイスみたいな物かな?」

「……話を聞くと、ユニゾンデバイスも混ざってるみたいだな……ファミリアとのユニゾンと精霊機のデバイスか……」

 そりゃ、ロストロギアだよ完全に。
 ……後で、無限書庫に問い合わせておこう。

「じゃあ、そのマサキ君も、サイバスターも、刹那さんの世界のゲームに?」

「お前を襲った犯人もって付け加えてやる……あったこいつだ」

 パラディンに入れてた行方不明者リストで、比較的古い時期に被害にあった少年。
 名前はテンザン・ナカジマ。……苗字が俺の懇意の人と同じなのがムカつく。

「あ! そうだよこの人! ……よし、次は捕まえるよ」

「……な、なんか燃えてないか? 何があったんだ?」

 いつぞやみたいに胸でも揉まれたか?

「この人、私と同じ戦い方してたんだよ!? 動きは鈍かったけど、防御は硬いし、遠距離射撃だし!」

 ……あーバレリオンね?
 でも、確かあれって。

「近距離攻撃できんかったろ、あれ」

「あ、うん。マサキ君に攻撃しなかったよ?」

「やっぱり」

 全部の武装遠距離から中距離で、隣に行ったら攻撃できない機体だからな……
 そんなところを忠実に再現するな。
 
「なのは、次があったら、バインドで縛ってゼロ距離砲撃かましたれ。……それが一番速い」

「あ、そうだね」

 ディバインバスターなら抜けるかな?
 エクセリオンACSでも可。
 まあ、サイバスターについては、今は保留だな。
 休暇開けにその辺境世界に出張いったれ。

「……うん。私の聞きたかったことはこれだけだよ。……ごめんね? 無理言って」

「いや、構わないよ。……けど、とうとう動き出したか」

 研究所の所有の手駒が動き出した。
 ……彼の性格上、独断先行ってことも考えられるが、向こうの手札が多少把握できた。
 非魔導師を魔導師に変える研究。
 ……ATデバイスとはまた毛色の違う方向だろう。
 頭痛いな~……
 しかも、実用化されてるとなると、本編に追いついたころには、結構な数揃えてくるはず。
 ……Sts通りには絶対に行かないな。

 結界を消して、コーヒーを追加注文。なのはは紅茶。
 
「そういえば、せつなちゃん結構スパイみたいな真似してるんだね?」

「は? スパイって?」

「えっとね……エルのロックとか」

 ……おうしっと。

「誰から聞いた?」

「キタムラ教官から」

「あの親父ーーーー!!」

 なのはに悪いこと教えんなーー!
 
「暗号とかかっこいいね。他にも貸切の暗号とか」

「あー……それ、通用するところって決められてるからな? 変な所で使ったら、大恥かくから気をつけろよ?」

「あ、そうなんだ?」

 しかも、その暗号使ったらチップを払うのが暗黙の了解。
 払うの忘れたり、無視すると、顔や名前が裏に出回ります。
 結構厳しい。

「まあ、使えるところって、大体、犯罪まがいや犯罪すれすれの取引場になってるから、あんまり多用しないでくれ。……お前とフェイト連れて行ったところは覚えてるか?」

「あ、うん」

「あそこは管理局に友好的なマスターだから出来るだけあそこ使え。……キタムラ教官に連れて行ってもらった場所はお前一人で使うな。……その、厳しいこと言うようだけど」

「わかったよ。……まあ、せつなちゃんじゃないから、裏取引なんて私できないし」

「それもそうか……」

 大体、秘密の話するなら、俺の家使う方が早いしな~?
 マオねえやエクセ姉さんが酒盛りに使いやがるから、酒の種類が多い多い。
 もっとも? 未成年者には飲ませませんが?
 
「……昨日の事でよく解ったよ。せつなちゃんがどんな世界にいるのかってこと。……私たちと同じってわけじゃないんだね?」

「……まあ、な? ……本当に全部話したら、余罪だけで俺、フェイトに捕まっちまうよ」

 クローン作成依頼も出しちまったし。
 これまでにも、犯罪幇助くらいは軽くやってる。
 違法捜査も何度もやってる。
 ……達磨やイングラムを馬鹿にできないな、俺。

「……それでも、せつなちゃんは止まったりしないよね? ……私たちを守る為に」

「ああ。それは絶対だ」

「……なら。もう止めたりしない。……けど、せつなちゃんの背中だけは、私に、私たちに守らせてね? いつも言ってることだけど」

「……ああ。お願いするよ」

 本当に、いつも言われてるよな。俺。
 ウェイトレスがメニューを置き、立ち去る。
 ……二人並んでゆったりする。
 ふと、視線を感じて、横を向くと、なのはがじっと俺を見ている。

「……どした?」

「……えっとね? ……せつなちゃん分の補充」

 と、頭を肩に乗せる。
 ……うわ、マジで恋人同士みたい。
 
「一週間近く離れてただけなのに、凄く久しぶりに感じたよ」

「俺もだ。……お前を隊に呼んでからは、一日一回は会ってたからな」

 みんなと一緒に仕事したいがために……違うな。
 みんなと離れたくなかったから、この部隊を作った。
 俺の知らない場所で、みんなが傷ついてしまわないように。

「……我侭だよなぁ、俺。自分の秘密も全部話せないのに、みんなに離れて欲しくない。……話さなくちゃ、理解もしてくれるはずもないのに」

「……大丈夫だよ。私も、みんなも、せつなちゃんを分かってる。……せつなちゃん、こんなに暖かくて、優しいんだから」

 俺の首に腕を回す。
 ……顔を見て、目を閉じるなんて……誰に教わったんだか。
 背中に手を当てて、そのまま……

「……」

「……?」

 ? あれ? 視線を感じる?

「……はえ~……」

「!? さ、佐祐理しゃん!?」

「わ!? だ、誰!?」

 け、気配がしなかっただとう!?
 俺らの向かいの席に座って、こちらを見ている佐祐理さん。
 思わずなのはと離れちまったい。

「あ、佐祐理に構わずどうぞどうぞ」

「構う! てか、いつの間に!?」

「えっと、『一週間近く~』って所からですね。……お二人とも、ラブラブでドキドキです~」

 う、うぬれこの人は!
 本当に性格変わったな!

「え、と、せつなちゃん? 彼女は?」

 そして、なのはは何故ジト目で俺を見る?
 
「ああ、俺の通ってる学校の先輩で、倉田佐祐理さん。……佐祐理さん、こっち、俺の幼馴染の高町なのは」

「はじめましてなのはさん。活躍は聞いてます」

「あ、はじめまして……活躍?」

 ああ。

「佐祐理さん、魔導師だから……あれ? なのはの活躍って?」

 管理局辞めてるのに、何で知ってるんだ?

「……ええとですね。送られてくるんですよ、管理局の会報が。……それで、教導隊のエースと銘打って乗ってましたから」

「なるほど……」

 会報ね……ああ、あったなぁ、そんなの。
 結構嘘記事載せてたり、プロパガンダに近い内容だったりするから、斜め読みしかしてないけど。

「お二人はデートですか?」

「え!? ……そ、そうなるのかな?」

「ま、まあな? ……佐祐理さんは?」

「……舞と遊ぶ約束してたんですけど、朝に断わりの連絡入っちゃいまして……お散歩してたら、せつなさんを見かけたので、お話しようと」

 ……そ、それってやっぱり……
 気にしてるのか、舞の奴。
 よし。丁度いい。

「えと、佐祐理さん……ごめん!」

「はえ?」

 テーブルに手をつけて頭下げる。

「舞に話しちまった! すまん!」

「!? ……せ、せつなさん……そんな……」

 ほんわかした声が一変。
 詰まりそうな声に変わる。
 
「……その、どうしてですか?」

「それは……」

 問い詰める佐祐理さんの声。
 か、顔上げ辛い……? 
 何だ、このコンコンって音?
 道路沿いの窓を見る……あ。

「……あの人のせいです」

 指を指す。窓の外で手を振ってるお天気お姉さん。

「リンディさん!?」「ハラオウン提督!?」

 おのれ……嬉しそうに笑いやがって!
 唖然とする佐祐理さんとなのは。
 入店した母さんが、俺らのテーブルに来て。

「佐祐理さんお久しぶり。……なのはちゃん、こっち来てたのね? せつな、それならそうと言ってもいいじゃない」

「舞に魔法ばれた原因です、この人」

「……あ、あはは~……」

 遠慮なく指を指してやる。
 力なく笑う佐祐理さんが凄く可哀想だった。

 佐祐理さんの隣に座った母さんを交えて、昨日の謝罪。

「……そうですか。舞、毎晩そんなことしてたんですね……」

「え、えっと……と、咄嗟だったから、その……ご、ごめんなさい……」

 流石に捕縛魔法はまずいよなぁ……
 お陰で一体倒せたけど。

「……それで、佐祐理さん。……舞、魔力持ちだったこと、知ってましたか?」

「ええ!? 知らないです! 舞とずっと一緒ですけど、魔力持ってるなんて、信じられません!」

 ……じゃあ、やはりあの魔物が関係してるのか。

「多分、舞は自分の魔力を切り離して、それを魔物と称して戦ってる。……ずっとって言ってたから、一年や二年どころじゃないと思う」

 そうじゃないと、あの身体能力は不自然だ。
 魔力なしの俺と互角なんて信じられねー。
 これでも、美由希さんからは勝ち拾えるんだぞ、俺!

「……えっと、よく分からないんだけど、その舞さんは……元々魔導師だったの?」

「いや、多分違う。……魔法の事は知らなかったから、魔力持ちだっただけだと思う」

「舞……」

 おそらく、過去に何かあったんだろう。
 舞が魔力を捨てざるを得なかった事が。
 捨てた魔力が、舞を狙っているのは、帰ろうとする本能か、もしくは……舞自身を傷つけたいのか。
 
「とにかく、俺は舞を手伝う。……あの魔物、舞を狙っているのは確かだから、助けないと」

「……はい。お願いします。……それと、佐祐理も、舞と話してみます。……親友に隠し事は、辛いですから」

 は、はい、そうですね。
 すっごく辛いですね、はい。
 ……なのはー? こっち見て微笑むなー?

「……それで、佐祐理さん?」

「あ、はい、何でしょう?」

 母さん? ……あ、ハリセン準備しとこ。
 嫌な予感する。

「管理局に復帰する予定あ「勧誘禁止!」りゅぅ!?」

 おし、いい音。
 おお、佐祐理さんが呆然としてはる。

「せちゅな! 舌きゃんだ!」

 何語だそれ。
 涙目で凄く可愛いぞかあ様。

「だまらっしゃい。……佐祐理さん? あなたから復帰すると言い出さない限り、勧誘はしないし、させない。……安心して欲しい」

「……あははー。せつなさん、ありがとうございます」

 にっこり笑う佐祐理さん。
 悲しい顔は彼女には似合わない、絶対に。
 ……舞だって、佐祐理さんの笑顔は守りたいはずだ。
 
「にゃのはしゃ~ん……せちゅなが苛める~……」

「えっと……その、泣きつかないでください……」

 ふん。自業自得だ。

「でも、スカウト狂のせつなちゃんが珍しいね? 佐祐理さん、結構魔力あると思うけど?」

 む……まあ、確かにな。
 戦力強化に入れたい、是非。
 ……けど。

「魔法を捨てて、平穏を望む人を強引に入れるような真似はしたくない。……その分、俺達が前に出ればいいだけだ」

「……せつなさん」

「……そうだね。私たちが、佐祐理さんの代わりに頑張ればいいんだよね?」

 そのための剣だから。
 俺達の魔法は。

「うう~……で、でも、気が変わったらいつでも言ってね? 門は開けて待って「母さん? もう一撃逝く?」……せつなの意地悪~……」

 この娘は母親に容赦しません。
 我に断てぬ物なし。


 佐祐理さんは舞のところに行くため、百花屋を退場。
 また明日笑顔で会う事を約束して、舞の家に向かって行った。
 で。

「なのはさんは今日仕事どうしたの?」

「う……せ、せつなちゃんに会うため休みました!」

「ちょ、おま、そんな直球な……嬉しいぞ?」

 そういえば、フェイト以外知らないんだよな、なのはがここに来てる事。
 口止めしとくか?

「……ふ~ん? 二人ともラブラブね~? ……他の子に教えてしまおうかしら?」

「……そうか、母さんはそんなに近親相姦プレイがお望みか」

 性別転換……

「う、わ、分かったわよ。内緒ね? ……最近せつな質悪いわよ?」

「ほとんど母さんの自業自得でしょうが。……後、なのは? ジト目はやめれ?」

「だって、リンディさんにまでエッチなことしちゃ駄目だよ……」

 いやあ、これが一番効果的なんで。
 
「リンディさんも、せつなちゃん誘惑しちゃ駄目ですよ?」

「し、してないわよ! せつなが私を変な目で見るから!」

「いやぁ~。母さん可愛いから、いろいろと」

 涙目なところとか、顔赤らめたり、脅えて不安げな表情とか。
 苛めたり、からかったりすると凄く可愛いです。

「……せつなちゃんの鬼畜。変態。……泣くよ?」

「あ、はい。ごめんなさい」

「……ひょっとして、母親より、嫁に弱いの? せつなは」

 いや、泣かれたら弱い。
 ……母さんにだって、泣き出したら謝ってるじゃん。
 よっぽどの事やらないと泣かないけど。

「まあ、二人とも仲良くやんなさい。母さん、今日はもう帰るわね?」

「帰るって、海鳴に?」

「ええ。休暇、今日までだから。……エリオ、エイミィに任せてるから、戻ってエリオとデートしてくるわ」

 ……えっと、俺とどう違うんだ、それ?

「あら? せつなより可愛いわよエリオ。……ちゃんと私を母親として尊敬してくれるし」

「……あのな、前世分入れて俺もう三十七年生きてんですけど? ……今更、エリオのような純粋さ出せるか」

 正確には、二十九年だけどね。
 生誕から八年間はほとんど記憶ないし。

「……せつな、結構オジサンなのね、そういうと」

「うん。……なんだその目は、二人とも」

 一応自覚はしとるわい。
 けど、俺に渋い仕草や立ち振る舞いは似合わん。
 練習してその似合わなさに愕然としたわ。

「あ、ううん、そうじゃなくて。……オジサンって言うなーーー! とか言い出すかと」

「うんうん。……せつなちゃん、オジサンでいいの?」

「俺以上のオッサンいるだろ……うちの嫁の中に」

「「ああ」」

 あれ以上と言われるまでは大丈夫。
 ……誰とは言わんが?

「せつなちゃん、私たち以外には手を出さないもんね? 制裁ならともかく」

「まーな? ……お前達で精一杯だ、これ以上増やせるか。……妹ならともかく」

「それもどうなのよ……」

 さぁ?
 妹は可愛がる者ですよ。うんうん。






※今日はここまで。後編はまた次回に。作者でした。


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