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[6377] Flag of the Dead(Fate×学園黙示録 Highschool of the Dead)
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:4a65fe82
Date: 2010/08/17 18:40
 学園黙示録High School of the DeadとFate/stay nightのクロスオーバーです。
 Fateの士郎が床主市で<奴ら>と死んだり殺されたりします。


■ルール

 読者参加型として、ラストに選択肢が現れるので、感想掲示板でどちらかに投票してください。
 投稿時から24時間の投票期間を設け、もっとも得票数の多かった選択肢のルートに進みますが、士郎はすぐ死んでしまうので、死んだら直前の選択肢からやり直しに。
 2択の場合は自動的にもう一方の選択肢がチョイスされます。

 ただし士郎以外のキャラの死亡が関係する選択肢もあり。
 士郎以外の死に関しては巻き戻しありません。

 というわけで、どうぞ。

/*/

 覚書

 2009/02/06 投稿開始するも早々に更新停止。

 2010/07/08 アニメ化にあわせて更新再開するもいろいろ納得いかなくなる。
 2010/07/11 改訂版連載開始。1-1投稿。
 2010/07/11 1-14投稿。死亡1回。1-1修正。
 2010/07/12 2-1投稿。
 2010/07/12 3-2投稿。
 2010/07/12 3-14投稿。死亡2回。
 2010/07/13 4-1投稿。
 2010/07/15 5-1投稿。
 2010/07/16 1-6A投稿。学園脱出編終了。
        フローチャート公開に伴いタイトルナンバリング変更。
        チラシの裏からその他板へ移転。
 2010/07/21 2-1投稿。
 2010/07/22 2-2A投稿。死亡3回。
 2010/07/26 2-2B投稿。
 2010/07/30 2-3B投稿。
 2010/08/06 2-4A(前編)投稿。
 2010/08/11 2-4A(後編)投稿。
 2010/08/17 Extra1、フローチャート2投稿。



[6377] 1-1
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/11 17:03


 高城さんち4票vs毒島さんち3票vs南さんち1票の戦いでした。
 南さんちにちょっと惹かれたのは頂点秘密。

 17:03 微修正。

/*/







 全てが終わってしまった日の前夜───俺は夜更かしをした。






「また"内職"か? 士郎」

 顔を上げると、目の前には幼馴染の顔があった。
 誰もいない電気工作室で、そいつは机に手をついて俺の手元を覗き込んでいる。

「なんだ、孝か」

「何だとはご挨拶だな」

「む、悪い」

「いいけど。それにしても、お前ホントそういうの好きだよな」

 と、俺の手元を指差して言う。
 そこにはマットブラックの大振りなヘッドフォンが、ばらばらに解体されて部品ごとに並べられている。
 間違いなく俺が分解し、今から組み立てなおそうとしていたものだ。

「別に好きでやってるんじゃないぞ」

 そもそも俺の私物ではないのだ。
 A組の森田に修理を依頼されたものだった。何でも音の調子が悪いらしい。
 振動板辺りがやられてると手に負えないのだが、幸いにも配線の一部が接触不良を起こしているだけだったのでそう手間はかからなかった。

「だから、"そういうの"好きだよなって言ってんだよ」

 孝の視線が横にずれ……腕時計だとか、パソコンのマウスだとか、果ては灯油ストーブだとか。
 俺の机の周りにはそんな感じでモノがあふれ、そのどれもが故障している。

 なるほど、言い返せない。
 まあ困ってる人を見ると放っておけないというのは、好きというより性分なのだが。

「相変わらずお人よしだな、士郎」

「コイツはビョーキなの。もっと言ってやってよ、小室」

 呆れ顔の孝に応えたのは俺……ではもちろんなく。
 いつの間にか工作室の入り口に立っていたツインテールの美少女だった。

「沙耶」

「高城か」

 美少女こと高城沙耶は、校内屈指の天才少女であり、何を隠そう妹……いや、姉……彼女と出会って7年が経つがいまだにここは決着がついていない。
 ともかく俺の今の家族の1人だ。

「またこんなに押し付けられて……。アンタね、断るとか拒否するとかそういう言葉知らないわけ?」

「無理なものは無理って言ってるぞ」

「これだから……」

 はぁ、と盛大に息を吐き出す沙耶。っておい、なんで孝までやれやれみたいな顔してるんだ。
 さっきまで1人で静かに作業に没頭していたのに、気づいたら幼友達2人に囲まれてため息をつかれている。なんでさ。



「で、何してたわけ? あんたら2人そろってるのって珍しいんじゃない?」

 気を取り直して言う沙耶の言葉に、俺は首をかしげる。

 珍しいだろうか?

 確かに言われてみると、こうして差し向かいで話すのは久しぶりかもしれない。
 小学校の頃はしょっちゅう一緒に遊んでいたし、中学の頃もよくつるんでいた。
 高校に入ってからだろうか? 孝は井豪とよく一緒にいるようになり、話す機会も少なくなった。

 いや……俺のせいかもしれない。
 考えてみれば中学の中ごろからだ。俺が"違和感"を少しでも解消したくてあがくようになり始めたのは……。

「そういや士郎と2人でってのはこのところなかったかもな。昔はよく一緒に遊んでたのになあ」

 そうそう、孝の言葉に小さかった頃を思い出す。
 あの頃は4人でいろいろやったものだ。

「何かにつけ俺と孝でやらかしては、沙耶と宮本に……」

 孝の顔に苦いものが浮かんだところで、口を滑らせたことに気づいた。
 バカ、と沙耶が小突いてくる。

「気ぃ使うなよ。麗のことはもう整理できてるよ」

 少し目を伏せていう孝に、だったらそんな顔はしない、などといえるはずがなかった。

 そう、昔は4人一緒だった。俺と沙耶と孝と、宮本麗と。
 決定的に俺たちの間に溝が出来たのは、宮本が留年し、そして井豪と付き合いだしたあの頃だろう。

 俺も詳しい経緯を知っているわけではなく、幼い頃から2人を知っていればこそ、口を出すのは憚られた。
 あの頃から2人は本当に仲がよかった。きっとこのまま一緒に育っていくんだろうなんて、俺は無邪気にもそう考えていた。

 井豪を責めるつもりはない。むしろ俺は、何もしてやれなかった自分のふがいなさを悔やんでいた。
 俺は困ってる人を助けたいなんて思いながら、友人たちの抱えていた悩みに気づくことも出来なかったのだ。
 俺が……いや、俺じゃなくても、頭のいい沙耶とでもフォロー出来ていれば、2人の関係はまだ違ったものになっていたかもしれないのに。

 工作室の中に重い沈黙が落ちる。
 それを、沙耶が首を横に振りながら破った。

「あー、もう! ウザいったらないわ!」

「沙耶……」

「バカ2人が陰気な顔してるから余計バカに見えるじゃない! バカの癖にうじうじしてるんじゃないわよ!」

「バカバカって、ひでえなおい」

「フン、アンタがバカだって教えてやってるのよ、小室。少しは頭のいいバカなんだから、教えてやれば自分がバカだってわかるでしょ」

 これは酷い。
 バカのオンパレードに孝が飲み込まれていく。ああほら、どんどんテンションがダウンしていく。
 やがて孝はふらふらと体を反転させると、戸口に向かっておぼつかない足取りで歩き出した。

「ちょっと、どこ行くのよ」

「いや……まあ、俺はもう行くよ。あんまり根つめるなよ、士郎」

「あ、あぁ」

 そして出て行く孝……いや待て、ここで俺一人置いていかれると……ッ!

「で、士郎。アンタはもっと悪いバカよっ。自分がバカだって言ってもわからない最悪の……」

 ああほら案の定矛先が俺に───!



 結局沙耶のお説教は20分以上続いたのだった。



「私は先に戻るけど、アンタもとっととこんな埃っぽい部屋にこもってるのやめなさいよね」

 というありがたいお言葉を残して、沙耶もまた部屋を後にした。
 しかし1人で部屋にこもってるのは、集中できるというのもあるがそれなりに大きな理由があってのことだ。

 組み上げたヘッドフォンに右手をかざし意識を集中させる。

「……同調開始トレース、オン

 ──どこも問題なし、と。

 これこそ、俺がこうして1人で人目を避けるようにして作業にいそしんでいた理由だ。

 ──魔術。

 正直に言えば、俺が勝手にそう呼んでいるだけで、本当はもっと何か違う超能力のようなものなのかもしれない。
 なんていうと痛い人のようだが、出来るものはできるのだから仕方がない。

 これで何が出来るかといえば、こうしてモノを"解析"することと、出来損ないの複製品を作ること。
 それがなんという名前なのか、俺にとってどういう意味があるのか。
 おそらくこれは、俺のなくしてしまった7年以上前の記憶と何か関係があるのだろう。

 そう、高城家に引き取られるより以前……冬木という街に住んでいた頃の記憶と。

 ともかくあまり人に見せられたものではない。
 というか、傍から見たらぶつぶつと呪文を唱えるアレな人だ。俺の魔術は地味なだけに殊更。
 魔術師とはままならないものだなー、なんて人に言ったら笑われるな。
 ついでに言えばこの藤美学園の全寮制というスタイルは、魔術の鍛錬にはもってこいだったりする。

「さて、と……ふあぁ」

 いかん、森田に頼まれて一晩越しで仕上げたせいか眠くて仕方がない。
 まだ昼休みの時間は残ってる……一眠りしてしまうか。

 そう決めると、俺はそのまま机に突っ伏した。
 それが、俺の過ごした最後の"日常"だった。






 不意に、泡が水面に持ち上がるようにして目が覚めた。
 少しでも休んだからだろうか、綺麗なほど眠気は消え去っている。
 体を起こし背筋を伸ばし、時計を見る……ってなにぃ!?

「ね、寝過ごした、5限目始まっちまってる……!」

 そりゃさっぱりするはずだ、思いのほか熟睡してしまっていたらしい。
 これはまたあとで沙耶の説教を受けることになりそうだ……。

 慌てて机の上を片付け……ようとして思い直した。
 既に授業が始まってからだいぶ時間が経ってる、ここで慌てたところで大して変わらないだろう。

 ふう、と息をついて預かり物を丁寧にカバンに入れていく。
 教師に頼まれたストーブは、まあ仕方ないがここに置いておこう。放課後にでもまた作業をしにくればいいだろう。

 吹っ切れて、いっそのんびりと部屋を出て鍵をかける。
 工作室の鍵は使ったら一度返してくれといわれているから、すぐにでも行ったほうがいいかもしれない。
 ここからだと……教室棟の階段を上がって、管理棟のほうに向かうのが近いな。

「ん? …………なんだあいつ、サボりか」

 ふと廊下の窓から外を見ると、俺にヘッドフォンを押し付けた張本人である森田が中庭を歩いている。
 妙にふらふらとして足取りがおぼつかない様子だが、具合でも悪いのだろうか……?
 昇降口のほうに向かえば先回りできそうだが、どうしようか。折角だから出来上がったヘッドフォンを返してやってもいいかもしれない。

 俺は少し悩んで……。


 1.鍵を返しに行くことにした。
 2.森田を追いかけることにした。




[6377] 1-2A
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/16 00:27
 鍵を返しに行くことにした。

 森田にヘッドフォンを渡してやるのはいつでも出来るし、残り時間が少なくても授業には顔を出しておくべきだろう。
 そう決めて、俺は階段を上っていった。


 階段を上がりはじめてから俺は、どうも首筋のぴりぴりするようないやな感覚にとらわれていた。
 空気が重苦しいというか、何か別の世界への境界線を踏み越えてしまったような……俺が、じゃない。この学校そのものが。

 それに、さっきからかすかに鼻をくすぐるこのいやな臭いは…………?

 まさか、そんなことあるはずがない。
 頭を振って不吉な考えを追い出す。

 しかしどうしても、先ほど窓から見えた森田の様子が気にかかった。
 具合が悪い、というよりもまるで夢遊病患者のようにふらふらと歩いていた。
 今朝顔を合わせたときにはおかしな様子はなかったのだが……。

 あとで様子を見に行ってやることにしよう。
 そう決めたところで目的の階についた。




 この階には俺たちの教室と、それに管理棟への渡り廊下が設置されている。
 階段の踊り場からちょうど両者は反対に位置している。

「ん…………?」

 なにやら教室の方が騒がしい。
 そう思ってそちらに目をやると、見慣れた3人の姿が目に飛び込んできた。

「井豪、宮本……それに孝も。何やってるんだこんなところで」

「あ、士郎……」

「衛宮か」

 3人は揃いも揃って妙な調子だ。
 孝は金属バット、宮本は箒の柄を、井豪は拳を強く握り締めて緊張した様子を見せている。
 そういえば井豪は空手の有段者と聞いたけど……これは一体何事だ。

 ついでに言えば、先ほどのことがあるだけに若干顔色を伺いたくなってしまう取り合わせでもあるのだが……。

 その宮本の顔色に、俺はもう一度目を瞬かせた。
 携帯電話を握り締める宮本の顔からは、見事なまでに血の気が引いていた。もはや青を通り越して白くなりつつある。
 どう見ても尋常な様子ではない……!

「お、おい、何かあったのか?」

「わからない。だが"何か"があった。直接見たのは孝だけだが……」

 答えたのは井豪だった。
 要領を得ない説明に、孝が震える唇であとを継いだ。
 だが出てきた言葉は想像を遥かに超える……いや、想像など毛ほどもしていなかったものだった。

「………校門で教師が殺しあってた」

「な……ど、どういう意味だそれ!?」

「そのままの意味だよ。遠目ではあったけど、間違いなく……」

「警察に電話しても、110番がいっぱいですって言われて……!」

 彼らの物々しい雰囲気はそういうことか……。
 だがそれがどういう事態なのか、いまだに俺はイメージできない。
 教師同士が殺しあっていて、しかも110番が通じない? 一体何をどうしたらそんな物騒どころか、血なまぐさい話になるのか。

 ────血。血なまぐさい……?

 不意に先ほど感じた臭いが脳裏を赤色に染めた。
 あれは……アレは血のにおいだったんじゃないか……?
 一度そう思ってしまうと、それを振り払うのは容易ではなかった。

 だがもし本当に孝らの言うようなことが起きているなら、ただじっとしてるわけには行かないだろう。

「孝たちはどうするつもりだったんだ」

「俺たちは……逃げる。何からかわからないけど」

 "何か"から、逃げなくちゃいけない。
 孝の目はそう言っていた。

「だったら、」

 言いかけた俺の言葉を、不快なノイズがさえぎった。
 突然のことに心臓を跳ね上がらせ、俺たちはいっせいに廊下に設置されているスピーカーを振り返る。

『全校生徒・職員に連絡します! 校内で暴力事件が発生、全生徒は職員の誘導に従って避難してください! 繰り返します……!』

 それは、何かの間違いであって欲しいと願う俺の気持ちを裏切るものだった。

「ようやく気づいたか……」

 孝の言葉を裏付ける放送はしかし、ただ俺たちの不安をあおる役目しか果たそうとはしない。
 ところどころに入るノイズが殊更に…………?
 ひときわ大きなノイズが走って、突然スピーカーが沈黙した。

「……まさか」

 それは誰の声だっただろうか。
 黙りこくったスピーカーは何を言うこともなく……。



『ギャアァァァァアアアァアアァ!? あっ、止めろ、助けて、ひいぃ!! 痛い痛い痛いいいいい! 死ぬ、助けぶっ……アアァァッァァァァアッ!!』



 ただ絶望と狂気の種を撒き散らした。


 ブツンと途切れた放送とともに、俺たちの間にも静寂が満ちる。
 いや、俺たちの間だけではない。
 校舎中……学校中……否、世界中が沈黙したかのような錯覚に、俺は陥った。
 人々の声も足音も、風の音、鳥の鳴き声、木々のざわめき……何もかもが停止した永い一瞬が過ぎていく。

 そして、種が芽吹いた。



 ────ウワァァァァァァァァァァァアアァ!!!?

 ────キャアアアアアァァアァァァァアアァ!!!



 怒号、喧騒、悲鳴、人間が発せられるあらゆる騒音が衝撃波のように廊下を襲う。
 黒い塊のようになって教室から飛び出てくる生徒たち。
 その波に押しつぶされ、ひしゃげ、つぶれる誰かを、俺は確かにこの目で見た。

 スタンピード。
 そう形容するのが最も相応しいだろう。

「逃げるぞ!!!」

 井豪の声にようやく我を取り戻す。
 一瞬遅れる形になった宮本とともに、駆け出した孝たちの背中を追う。

 隣で宮本が悲鳴のように声を上げる。

「逃げるって、外じゃないの!?」

「教室棟は人で溢れかえってる! 管理棟から逃げるぞ!!」

 確かにあの混乱に巻き込まれてはひとたまりもない。
 いや、だけど……ッ!

「待ってくれ、沙耶が……!」

 彼女をおいて逃げるわけには……!!

「ここで戻っても助けられない! 今はまず逃げることが最優先だ!!」

 首だけ振り返った井豪の言葉に反論の言葉を飲み込む。
 確かにそうだ……けれど……。

「くそ、あとで絶対助けに……?」

 目の前の孝たちの背中が急に止まった。
 なんだ? 向こうから誰か来る。

 あれは……。

「現国の脇坂……邪魔するつもりか……?」

 孝の言うとおり、あれは脇坂先生だ。だけど様子がおかしい。
 妙にふらふらして、焦点の定まらない目をした脇坂は、まるで夢遊病患者のような足取りでこちらに向かってくる。
 なりも妙に乱れていて。
 ズボンに。

 血の、染み……ッ!?

「避けろ!!!!」

 俺たちを捕まえようと振るわれた腕を、間一髪で掻い潜る。
 井豪や孝も上手いこと避けて……。

「いや! 来ないで、なんなのよ!!?」

 しまった、宮本が取り残された……!!

 箒の柄を振ってけん制しているが、脇坂はまるで意に介さずに宮本との距離をつめていく。

「麗!! 突け!!!」

 井豪のとっさの言葉に、宮本が腰を落とす。

「槍術部を……舐めるなあ!!」

 宮本の鋭い一突きに、脇坂の体は後ろへ……吹き飛ばなかった。

 ブヅリ、とやわらかいものを引き裂くいやな音がする。
 箒の柄の先は、脇坂の体を貫いていた。

 先端の金具がまさにやりの穂先の役割を果たしてしまったのだろう。
 あの場所は心臓……あれは間違いなく重傷だ。
 宮本も自分のしでかしたことに顔を青くして……違う。

 彼女の顔が青いのは"そんな理由じゃない"……!

 なんで。

「なんで動けるのよォ!?」

 なんで脇坂は、心臓を貫かれてまだ宮本に襲い掛かろうとできるんだ……!!!

 もがくように暴れた脇坂に突き飛ばされ、宮本が尻餅をつく。
 そこでようやく体が動いた。

「孝、宮本を!!」

 なお宮本へ手を伸ばす脇坂に後ろから飛びついて引き剥がそうと試みる。

 けどコイツ……!

「なんて力だ……ッ!?」

 井豪も一緒に飛び掛り、2人がかりでようやく脇坂を押さえつける。
 その隙に孝が宮本を助けお越し、箒の柄を引き抜いた。

 脇坂の胸からかすかな量の血液が飛ぶ。

「よし、いいぞ士郎、永!」

 孝の合図に、井豪とタイミングを合わせて脇坂を投げ飛ばそうとして……。


 脇坂と、目が合った。


「ッ!?」

 いや、目などあっていない。
 脇坂の目はこちらに向いてはいるが、俺を見てなんかいない。
 ただ首を捻じ曲げ、生暖かい息の漏れる口を限界まで開き、


 俺の腕に、噛み付きやがった…………ッ!!


「ぐあぁぁぁぁぁ!!?」

 目の前で火花が散ったように激痛が走る。
 ブヅブヅと肉を噛み千切る不快な音が、骨を通して脳髄を刺激する。

「この、衛宮を放せ!!!」

 井豪が脇坂の体を引き剥がそうとするが、くそ、言いたくはないが余計に痛い……ッ!!
 このままじゃ食いちぎられそうだ!

「士郎!!!」

 孝が間を縫ってバットで殴りつけるが、それでもコイツはあごの力を緩める気配がない。
 まるで痛みを知らないかのように……あるいは、

「死んでる……そいつ、もう死んでるのよ。死んでるのに動いて……衛宮君を食べようとしてるのよ……ッ!」

「だったら、だったらどうしろってんだよ!!」

 ややヒステリックになっている宮本に孝が怒鳴る。
 ったく、止めてくれよ。俺はお前たちがそうやっていがみ合ってるのなんか、見たくないんだ。

 いまだに喰らいつかれたままの腕で、脇坂の顔を押し上げる。
 余計歯が食い込み激痛に力が抜けそうになるが、奥歯をかみ締めてこらえる。

 俺だって、それなりに鍛えてるんだ……!!

 やっとの思いで脇坂の顔を持ち上げる。
 井豪もその意図に気づいたのだろう、孝に向かって叫んだ。

「孝やれ!! 頭を潰すんだ、それしかない!!」

 その言葉に孝は金属バットを振り上げ、

「あ、ああぁ、ああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 脇坂の頭に、全力で振り下ろした。







 街のいたるところで上がる黒煙を見ながら、俺はようやく今まで知っていた世界が終わってしまったことを認識した。
 校舎の屋上……天文部室の前から見下ろす町の景色は、何もかも昨日までと大きくは変わらないのに、全てが違っている。

 天文部の入り口は屋上よりも1段高いところに作られており、いまは孝と井豪がその階段にバリケードを作っているはずだ。

 俺は柵に背を預け、重いまぶたをなけなしの気力で持ち上げながら、眼下に広がる異界を眺めていた。
 校庭では体育の授業中だったのだろう生徒たちが亡者の群れに食い殺され、その向こうでは同僚だったものにはらわたを引きずり出されている教師がいる。
 校門の向こうでも同様の光景が繰り広げられており、暴走した車が衝突して、フロントガラスに血の花を咲かせている。

 そこに漂うのは、圧倒的な"死"の臭い。
 だがなぜだろう……俺は、どこかでこれと同じにおいのする世界をみたことがある気がしはじめていた……。

「いづッ!」

 傷口に、天文部室で見つけたのだろう飲料水をかけられて、思わず呻いてしまう。
 治療をしてくれていた宮本が思わず手を止めた。

「ご、ごめん、大丈夫?」

「ああ、悪い……平気だ」

 正直に言えばあまり平気ではない。
 脇坂に噛み付かれた傷はひどく痛むし、一向に出血がとまる気配がない。
 血圧が低くなってきたせいか、頭痛にめまいに寒気のオンパレードだ。

「衛宮君……ごめん、私、さっき何も出来なくて……」

「いや、宮本は悪くない。大体、こんなわけのわからんことになって、冷静でいられる孝や井豪のほうが驚きだ」

「あなたも十分だと思うけど。おかげで私は助かったし」

 そうだろうか?
 さっきの俺はとても冷静ではなかった気がする。
 最初は沙耶のことで頭がいっぱいだったし、宮本が襲われた時は"助けなければ"という気持ちでいっぱいだった。
 まるで衝動のように、助けなければいけないと、そう思ったんだ。

「……ッ」

 宮本がハンカチで傷口を縛る痛みに顔をしかめるが、どうにか声はかみ殺した。

 俺は朦朧とする頭で空を見上げ、これからのことに意識を飛ばす。
 終わってしまった世界。蔓延する血と死の気配。
 増え続ける<奴ら>……井豪がそう呼び始めたあの亡者たちは、どうやら食い殺された人間が起き上がって<奴ら>となるようだ。
 それに先ほど見た自衛隊のヘリ……被害はどこまで広がっているのだろうか。この街ひとつなのか、それとも世界の全てなのだろうか……。

「衛宮君……? 顔色悪いわ、本当に大丈夫?」

「ああ……悪い、少し休む。何かあったら起こしてくれ」

「うん……」

 そう言い残して、目を閉じた。
 急速に眠気が襲ってくる。

 願わくば、これが全て、俺1人の夢でありますように……。





 士郎が眠ってからどれほど時間が経っただろうか。

 孝らは結局、この場に立て篭もることを決めていた。
 永の提案でペットボトルに水を確保し、部室から灯りになるものを拝借する。

 携帯電話は、結局麗の父と一瞬通話がつながったきり、またどこにかかることもなくなった。
 回線がパンクしているのか、それとも通信システムそのものが死んでいるのか、そこは判断がつかない。

「……どうするべきなんだろうな」

 疲れきった声で孝がつぶやく。
 孝の対面に座っていた永は、それに首を振って答えた。

「今はどうするべきでもないさ。しばらくここを動かないでいるべきだろう」

「けど食料だって大したものがあるわけじゃないぜ」

 見つかったものといえば、天文部室が泊り込みの活動用においておいた菓子類だけだ。
 4人で篭城するには3日ともたないのは明白だ。

「永の言うとおりよ。それに衛宮君もすぐには動けないわ、少しでも回復するのを待たないと」

 麗の反論に孝は顔をゆがませた。
 ことあるごとに彼女が永の肩を持つのを、孝は苦々しい気持ちで見ていた。
 進行形で付き合ってる2人だ、それも仕方ないのだろうが……どうしたっていたたまれない。

 そんな孝の内心を知ってか知らずか、永は考え込むように俯かせていた顔を上げ、麗の言葉を否定するように口を開いた。

「衛宮は……本当に回復するのか?」

「おい……どういう意味だそれ」

「もしかしたらの話だ。<奴ら>に食い殺された人間は<奴ら>になる……じゃあ、噛まれたやつも、」

「だったら、だったらなんだよ! 今のうちに士郎の頭を潰そうっていうのか!?」

 思わず立ち上がって激昂する。
 今にも永に掴みかからんばかりの勢いだったが、永も腰を上げて噛み付くように叫んだ。

「だから可能性の話だって言ってるだろう!!」

「あるわけねえだろ、そんな馬鹿げた話が……ッ!!」

「ちょっと、やめてよ2人とも!!」

 彼らが感情的になるのも無理はなかった。
 士郎は眠りについてからこちら、不気味なほどうんともすんとも言わず、身じろぎもしない。
 まるで、死んでしまったかのように。

 だが不意に、麗の後ろで士郎がゆっくりと立ち上がった。
 本当に、突然だった。

「あ、起きたのね衛宮君。ほら永、やっぱり考えすぎ……」

 がしりと、尋常ならざる握力で麗の肩を捕らえた。
 その目は、決して麗を捉えてはいなかった。

 永が気づいた時には、何もかもが手遅れだった。

「離れろ麗!!! 士郎も<奴ら>に……ッ!!」



 Dead End 1:<奴ら>











 (トラの鳴き声的なもの)

タイガ:たいがぁーどーじょー!!!

ブルマ:とくべつしゅっちょーばん!!

タイガ:というわけで、あえなく死んでしまった士郎たちを救済するタイガー同情、じゃなくて道場。さっそくその第1回がはじめられてうれしい限りだわ!

ブルマ:ちなみに本編でも登場してない毒島さんちの道場からおおくりするッス!

タイガ:さて、今回の選択肢はいきなりのトラップ。それっぽい死亡フラグをぶら下げておいて、実はそっちが正解というパターン!

ブルマ:HSOD原作と比べてみれば、「管理棟」というキーワードの先にあるイベントは予測できたかも?

タイガ:士郎の場合誰かをかばって……もっとメタに言うと、原作で死亡したキャラの身代わりになって死ぬパターンが一番多いかもねぇ。

ブルマ:というわけで、原作で人死にがあったシーンの選択肢はよーちゅーいッスね!

タイガ:まあ今回は改定前の使い回しもあってちょっと意地悪に過ぎたかもしれないけど……。

ブルマ:作者は1に集中する票をみてニヤニヤしてたッス。

タイガ:なんというドS。

ブルマ:そういえば1話目もいきなりびみょーに修正されたッスね。

タイガ:感想板を見て「士郎が過去の記憶を失ってる」という設定を復活させたらしいわ。

ブルマ:この世界は冬木市と床主市の両方が存在してるけど、基本的に士郎の周辺設定以外はFate側が絡んでくることはないらしいッス。

タイガ:三枝さんがどうなったかとか考えるのが嫌って言ってたものねえ……。

ブルマ:つまり……私らの出番ここだけってことッスよししょーーーーーーーーーーーーーー!!!

タイガ:うぉぉぉぉぉぉん! いい士郎、どんどん死んであたしらの出番を増やすのよ!

ブルマ:わーい、この上なく横暴ですてきッス! というわけで、次回もよろしくね、おにーちゃん!



タイガ:ところでアニメ版学園黙示録の<奴ら>の声優の中に某ラノベ作家がいてとらやのドラ焼き吹いたんだけど。

ブルマ:あとおにーちゃんが孝と疎遠になったのは声が関係あるとかないとか……。







[6377] 1-2B
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/16 00:27
 森田を追いかけることにした。

 どうしても先ほど窓から見えた森田の様子が気になるのだ。
 熱にうなされてるようにおぼつかない足取りに見えたのは俺の気のせいだろうか……?
 ちょうど渡すものもあることだし、俺は森田のところへ行くことに決めた。


 階段を降りながら、俺は徐々に嫌なものを感じ始めていた。
 その何かは夏の夜の熱気のようにじっとりと体にまとわりついて、酷く不快な気分にさせる。

 それに……このかすかに鼻腔をくすぐる臭いはなんだ……?
 階を降りるにつれて、だんだんと強くなってくるように感じるそれは、廊下の開いた窓から吹き込んできているようだ。
 まるで古い鉄さびのような、嫌な臭いだ。

 けれどどうしてだろうか、この臭いと気配のようなもの……俺はどこかで感じたことがある……?
 何故そう思ったのかはわからない。
 だがその不吉なイメージは、どうしても俺の脳にこびりついて離れようとしなかった。


 階段を下りきって1階につく。
 あとは昇降口を出れば、森田の進んでいったほうに先回りできるはずだ。

「あれ? 衛宮君、何してるんですか?」

 とと……?
 昇降口に向かおうとしたところで、誰かに呼び止められた。
 このちょっとほやほやとした感じの喋り方は……。

「有瀬。いや、ちょっと野暮用……かな」

 陸上部のマネージャーをしてる有瀬智江だった。
 彼女、運動神経はからっきしなのだが、よく気の利く性格とやわらかい小動物のような印象で陸上部のマスコットに鎮座している。
 普通に考えればクラスも違う俺とは接点なんてなさそうなのだが、例によって陸上部の備品の修理やら整備やら頼まれてるうちになんとなく友人になっていた。
 繊細な心配りの出来る有瀬とは、話しているとなんというかこう……すごく癒されるのである。

「あ、もしかしてサボり……? ダメだよ、ちゃんと授業は受けないと」

 メ、なんて言いそうな雰囲気でちょっと怒ってますよー、なんてアピールをする彼女は、確か家では3人兄妹のお姉さんだったはずだ。
 もしかして俺も弟扱いされてるんだろうか? そういうのは沙耶でもう十分なのだが。

「そ、そういう有瀬こそどうしたんだよ。そっちこそ抜け出してきてるんじゃないのか?」

「私は……実はさっき保健室まで男の子を連れて行ったところなんだけど……」

「保健室?」

 そういえばクラスでは保険委員をしていると聞いたことがある。

「うん、それが酷い怪我で……先生と石井君と一緒に連れて行って、すぐ救急車呼ぶことになったんだけど」

 でも、と続ける有瀬の口は重く、顔色もあまりよくはない。
 だがそれより、続いて告げられた話は、とてもではないが信じられないものだった。

「110番も119番も通じないって、先生が……」

「な、なんだそれ……どういうことだ」

「わからない」

 有瀬によれば大怪我を負って教室に転がり込んできた生徒は酷く錯乱しており、しきりに誰かに襲われたと騒いでいたらしい。
 それをどうにかなだめて保健室に連れて行ったが、とても保健室だけで対処できる傷ではなく……しかし119番はどうしてか通じなかったそうだ。
 そしてその傷を診た校医の鞠川先生によれば、

「まるで、誰かに噛み千切られたみたいな傷だ、って……」

 結局その場は先生たちが対応することになり、有瀬は教室に戻るように言われたらしい。

 ……なんだ、それは。
 有瀬の話だけを聞いているとまるで出来の悪いホラー映画の出だしのようだ。
 何者かに喰らいつかれた生徒に、回線の繋がらない公共機関。

 先ほどから感じていた不安が、まるで徐々にその頭角を現してきたような……。

「あの、それで衛宮君の野暮用って?」

「あ、そ、そうだった」

 森田を捕まえに行くところだった、もしかするともうどこかへ行ってしまっただろうか。
 そう思って慌てて昇降口へ向かおうとする。

「あ、ま、待って!」

「っと?」

 今度は腕をつかまれて引き止められた。
 引き止めた有瀬は、無理に笑おうとして顔を引きつらせている。

「あ、の、ご、ごめんね? なんだか、1人で教室に戻るの怖くて……」

 子供みたいだね、という彼女はやはり上手く笑えていなかった。

 彼女も感じているのだ。
 何か。
 何かおかしなことが起きていると。

 流石に俺もこの状態の有瀬をここに放っていく気にはなれないが、

「さっき窓から友達を見かけたんだけど、様子がおかしかった。それで今から探しに行くつもりだったんだ」

 それからでもいいか? と聞くと、有瀬は確かに頷いた。

 そうとなればさっさと用を済ませてしまったほうがいいだろう。
 俺は改めて昇降口へ足を向け、出来るだけ早く、有瀬が遅れない程度に気をつけて歩き出した。

 すぐに昇降口は見え、整然と並ぶ下駄箱の隙間から外の光が差し込んでいる。
 足早にそこに向かい……、


 またしても俺は足を止めなくてはならなかった。

 赤いペンキをぶちまけたような跡が、昇降口に見えていた。

「血の、跡……?」

 その真っ赤とはいえない、どこか粘質で、濁って黒ずんだような赤色は、有瀬の言葉に嫌な真実味を持たせていた。

 ごくり。

 喉を鳴らした音が、やたらと大きく聞こえる。
 無意識のことだろうか、有瀬がおびえるように俺の腕を掴んでいる。

 一歩、昇降口に向かって踏み出す。
 もう一歩。

 それに引っ張られた有瀬は、僅かに逡巡して、結局手を離さないまま俺につき従った。

 そっと水溜りをまたぎ、下駄箱のそばに身を潜める。
 意図せず殺していた息を吐き出す。
 袖を引っ張られる感触に視線を向けると、不安げな表情をした有瀬と眼が逢った。

 安心させるように──効果があったかは定かではないが──ひとつ頷いて、下駄箱の陰を覗き込んだ。

 下駄箱の向こうには、誰かがうずくまっていた。
 頭髪を金に染めた男子生徒だ。こちらに背を向けて何かの前にひざをついている。

「やだ……なに……?」

 ずるずるぴちゃぴちゃとすすり、咀嚼するような音が昇降口に響く。

 いや、それより……それも気になるが、あの後姿は。
 見覚えがある、おそらく間違いない。俺は、アイツの大事なヘッドフォンを預かってるんだ。

「森田……か……?」

 ぴちゃり。

 俺の声に反応したのだろうか、森田……に見える誰かの動きが止まる。
 だが次には、ブヅン、とちぎれるような音が一際大きく響く。
 そして、男子生徒の体の影から、



 なにか、


 ごとり。


 丸いものが、転がり落ちた。



「ひぃっ……ッ!?」

 有瀬が息を呑むのを聞きながら、俺もまた声を上げないことで精一杯だった。

 何だよ、あれは……。
 人間の……頭……!?

 ソレはおそらく女子生徒の頭部のようであった。
 一瞬そうと判断がつかなかったのは、その顔面の半分は肉が引きちぎられ、ところどころ白いものが露出していたからだ。
 片方だけ残った光を映さない目が、ぐるりとこちらを向いている。

「なに……してるんだ……」

 震える声は、もはや誰に向けたものでもないただのつぶやきだった。
 だがまるでそれを聞きとがめたかのように、男子生徒はのろのろと立ち上がり、こちらを向く。

 どちゃ、と。
 頭部をなくした肉体が、水溜りの中に落ちる。

 こちらに向いた彼の顔は、やはり森田のそれに間違いなかった。

「おま、え……なんだ……?」

 だが。

 だが口元を血で汚し、どこへ向けるともない視線をさまよわせ、ただ肺から押し出されたみたいな呻きをあげてこちらへ足を踏み出す姿は。


 断じて森田の……全うな人間の様子じゃない……!?


「衛宮君!!」

 有瀬の声が耳に届いたときには、既に森田は目と鼻の先まで来ていた。

 しま……ッ!?

 どう対応するべきか逡巡したのが失敗だった。
 突然腕を振り上げた森田は、勢いよく俺に掴みかかってくる──!

 とっさに両腕でその体を押しとどめようとして、思いもよらない力に足を踏み外した。

「うぉ……!!」

 背中をしたたかに打ちつける。
 だが森田はそんなことはお構いなしに、俺の肩をつかんだまま……。

 まさか、俺に噛み付こうとしてる……ッ!?

「こ、の、放せ、くそ……ッ!!」

「え、衛宮君から離れて!!」

 有瀬も森田の襟を掴んで引っ張ってはいるが、悲しいかないかんせん力の差が大きすぎる。

 大体森田ってこんな馬鹿力だったか……ッ!?

 思わず口を突いて出そうになる悪態を飲み込んで、体の間に足をねじ込む。

「有瀬、離れろ!」

 俺の声にぱっと手を放すのを確認し、ねじ込んだ足に力をこめる……!

「この、やろう……!!」

 思い切り蹴り飛ばされた森田の腕はようやく俺の肩から離れ、その体は大きく後ろへとよろめいていく。
 そのままよろよろと後ろに下がっていき……。

「あっ……!」

 足元にあった傘立てに躓き、背中から倒れこんだ。

 べきん、と金属の支柱が体重を支えきれずに折れる音が。
 ずぶり、とそのうちの一本が肉を貫いた音が。

 森田の体は背中から刺さった支柱が胸を突き破り、哀れな串刺し姿になっていた。
 だがそうなってなお、森田は痛みに悲鳴のひとつを上げることすらせず、ただ支柱から立ち上がろうともがいている。

「そん、な……」

 呟いたのはどっちだったか。

 一体何なんだ、あれは。
 森田……いや森田の格好をしたナニカは、少女の体を食い散らかし、さらには俺にまで襲い掛かってきた。

 ────なんなんだ……何が起こってるんだよ!

 どうにか怒鳴り散らさずに済んだのは、震えて俺にすがりつく有瀬がいたからだ。

「なんで、何が、なにが……ふ、う、ふぇ……」

 有瀬はすっかり消沈して、嗚咽を漏らしている。
 仕方がない。あまりにショッキングなことが続いているし、出来ることなら俺だってわめきたいところだ。

 一体何が、どうなっているのか。
 何もかもわからないことだらけだ。
 誰か、誰か教えてくれ……何が起きてるってんだよ!


 その答えは、予期せぬところからもたらされた。


『全校生徒・職員に連絡します! 校内で暴力事件が発生、全生徒は職員の誘導に従って避難してください! 繰り返します……!』

 廊下に設置されていた校内放送用のスピーカーが突如として騒ぎ立てる。
 耳障りなノイズ交じりの放送は、ただ避難を叫ぶばかりで、逆にそれが尋常でない様子を如実に物語っていた。

 だがそれが、不意に途切れる。

 そして。



『ギャアァァァァアアアァアアァ!? あっ、止めろ、助けて、ひいぃ!! 痛い痛い痛いいいいい! 死ぬ、助けぶっ……アアァァッァァァァアッ!!』



 それが、俺の、俺たちの困惑に対する答えだった。




「有瀬、有瀬しっかりしろ」

 泣きじゃくる有瀬をたしなめる俺は、自分でも意外なほど冷静だったと思う。
 何が起きているのかはわからない。
 だが何かが起きているのは確かなのだ。望むと望まざるとに関らず、それははっきりとした事実として俺たちの前にある。

 ならここでただおろおろしてるわけにはいかない。
 どうにか事態を見極める必要がある。

「ふ、うぅぅ……えみや、君……」

「とにかくここを離れよう、どこか安全な場所に移動するんだ」

 正直言えば、俺の内心は今にも折れてしまいそうだった。
 だが、この目の前にいる少女が……守らなくてはならない有瀬の存在が、かろうじて俺を俺たらしめている。
 あたかも彼女を守り通すことで、自分自身の存在を確認しているかのように。

「で、でも、どこに……」

 そうだな、行くとしたら……。

 1.校内は危険だ、外に逃げよう。
 2.鞠川先生がいるはずだ、保健室に行こう。
 3.ちょうど鍵があるし、工作室に戻ろう。
 4.いや、沙耶のことが心配だ。教室に行こう。




/*/


■有瀬智江

 改定前のオリキャラ・石田に代わるキャラ。
 学園黙示録6巻の巻末で紹介された没キャラから名前を拝借。沙耶の前身としてメガネで天才キャラだったらしい。
 けどそのままだと沙耶と被るので、性格付けはFate唯一の癒し系三枝嬢を採用。理由は作者の趣味。
 メガネもかけてません。彼女が今後どうなるかは読者の皆様次第ということで。


>このやり方は時間かかりそうだけど大丈夫?

 本編の進みが遅くなるのはご了承ください。むしろ死亡シーンを楽しむ勢いで。
 あとあんまりほいほい進めて原作に追いついちゃうのも怖いというか……アニメがオリジナルのエンディングを用意しているならそれに沿う形にしようかなあ。
 執筆的な意味で大丈夫? と聞かれると、「まんまと引っかかったぜうへへへへへ」とか思いながら死亡シーン書いてるのであんまり大丈夫じゃないです。
 主に作者の頭が。


>冴子さんと絡んで!

 選択肢にはどのキャラと関るか選ぶ形になるものも含まれます。
 上手いこと選んでくださいませ。
 一応注釈しておくと全体的に冴子さんと沙耶のダブルヒロイン的な感じになると思われます。


>士郎が関ると死ぬとはなんたること。

 でも士郎ってそういうキャラだよね。
 とはいえ流石にいきなり原作の主要キャラがぽっくり死んでしまうことはないと思われます。どのキャラも好きだし。
 まあ……しばらくは。ええ、しばらくは。






[6377] 1-3C
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/16 00:27


「よし、ちょうど鍵があるんだ。工作室に行こう」

 工作室はこのすぐ上の階だ。2階からなら少しは周りの様子も見れるだろうし。

「立てるか? 有瀬」

「う、うん、大丈夫です」

 涙目だが、有瀬はしっかりとした足取りで立ち上がった。
 だがおびえている彼女をあまり遠くまで連れて行くわけにもいかない。そういう意味でも工作室はちょうどいい距離だろう。

 俺は有瀬の手を引いて来た道を戻り始めた。

 どれくらいぶりにか握った女の子の手は、とても柔らかかった。




 階段を一足飛びに駆け上がる。
 だが後ろからついてくる彼女とのコンパスの差もあって、どうしても全力で駆け上がるというわけにはいかないのがもどかしいところだ。
 いっそ抱えていってしまったほうが早い気もするが、そうもいかないだろう。
 確かにほてほてぽやぽやとした有瀬が一生懸命走ってる姿というのは微笑ましいというか、和むものがあるのだが……。

 って、いかんいかん、何を考えてるんだ俺は。

「はふぅ……?」

 ぶんぶんと頭を振る俺を不思議そうな顔で見つめてくる。
 むう、そんな眼で見られると自分が考えていたことが酷く不埒なものに思えてくる。

「いや、だからそれどころじゃないよな」

「? なにがですか?」

「な、なんでもない」

 ごまかしているうちに2階についた。

 ふと、階段の踊り場を出て上へと続く階段を見上げた。
 俺たちの教室はこの更に上の階だ。

 沙耶は……妹はどうしただろうか。

 出来れば教師や他の生徒と落ち着いて逃げ出してくれていればいい。
 だがアイツはこういうときにじっとしていられる性質じゃないのは俺が一番よく知っている。

 考えてみれば昔から俺が怪我をしていの一番に駆けつけてきたのは沙耶だった。
 そして決まって説教されるのだ。

 ────アンタはバカなんだから、私の目の届く範囲にいなさい! と、こんな調子で。

 なら今回なんて怒り心頭になっているかもしれない。
 そう思うと早く顔を見せてやりたいし、何より俺自身沙耶のことが心配だ。

「衛宮君? どうしたの?」

 足を止めた俺を不思議に思ったのか、手を引きながら顔を覗き込んでくる。

 ……有瀬を放っては置けない、でもそれは沙耶のことも同じで……。

 だが答えを出しあぐねいている俺をよそに、事態は既に次の段階へと動き始めていた。




 ────ウワァァァァァァァァァァァアアァ!!!?

 ────キャアアアアアァァアァァァァアアァ!!!




 怒号、悲鳴、それに地鳴りのように響く大量の足音。

「なんだ、上の階か?」

 音の津波が階上から押し寄せてくるかのような……!?

「衛宮君!!!!」

 それは人だった。人の群れだ。
 押し合いへし合い、恐慌状態の生徒たちが階段から押し出されるようにして溢れかえってくる……ッ!

 間一髪、俺は有瀬に手を引かれて踊り場から逃げ出し、事なきを得た。

「酷い……」

 惨状を目の当たりにした有瀬の呟きが聞こえる。
 確かに、あまりに酷い光景だった。

 そこに何も特別なものはない。人が、階段に収まり切らないほどの生徒たちがいるだけだ。
 恐怖と狂気に駆られた彼らはただ逃げ出すことに必死で、前の生徒を突き飛ばし、踏みつけていくこともいとわない。

 思わず廊下を後ずさる俺の背中には、絶えず冷たいものが流れ落ちていた。

 もし。
 もし教室まで戻ろうとしていたら……いや、それとも有瀬がいてくれなかったら、俺は、どうなっていた……?

 いや、自問するまでもない。答えは既に目の前に示されている。
 人がひしゃげていく。押し飛ばされ、踏み潰され、人としてあってはならない形になっていく。
 足を踏み外した少女が危険な勢いで転がり落ち、その体に躓いた男子が顔面を階段に強打する。
 しかし後ろから押し寄せる集団はそんなモノに意を介すこともなく、容赦なく彼らの体を踏みしめていく。
 手足がへし折れ、首が捻じ曲がり、眼球が、はらわたが飛び出す。人としての尊厳など欠片もない、ただの肉の塊に成り下がる。


 恐怖を扇動者として、彼らはもはやただ暴走し続けるだけのイキモノになっていた。


 ぐ、と強く腕を引かれる。
 そうだ、この場を離れなくては、巻き込まれかねない。
 顔面蒼白になった有瀬を連れ、工作室へときびすを返す。

 目の前にある死に、背中を向けて。





「う、うぇぇぇ……げふ、げほ……ッ」

 工作室の前まで来くると、耐え切れず有瀬は胃の中のものを吐き出した。
 廊下の床に吐しゃ物が広がるが、もう俺にもそれを気にしている余裕はない。

 えずく有瀬の背中をさすってやりながら、しかし俺は別のことで頭がいっぱいになっていた。

 あまりにも圧倒的だった。
 暴徒と化した人の群れは俺たちを飲み込みかけ、否、もっと多くの誰かを飲み込み続けている。
 だが俺の胸に去来したのは、恐怖でも、助かったことに対する安堵でもなく。

 あの走り続ける死の塊を前にして、俺は、

 俺は。


 ────何も、なにも出来なかった……ッ!


 当たり前だ。あんなもの、ただ個人の力で対処できるものではない。
 そんなことはわかりきっているのに。

 どうしてか無性に悔しくて仕方がない。

 衛宮士郎は、衛宮の名を名乗る俺は、それでもどうにかしなくてはいけなかったんじゃないのか……!?

 名前のわからない焦燥感が胸を焼く。
 いや、それはずっともやもやと胸の中にあった。沙耶の家に引き取られたあの日から、ずっと俺を苛みつづけた。


 ────教えてくれ……衛宮の名前には、どんな意味があるんだ……。


「えみや、くん……もう大丈夫だよ」

 そういう有瀬の顔色はまだ決していいとはいえないが、ひとまず持ち直してはいるようだ。
 俺もいつまでも悩んではいられない。

 まずは有瀬を守らなければ……そしてなんとしても沙耶と合流しなくては。
 沙耶にもしものことがあれば、俺を養ってくれた親父さんたちに合わせる顔がない。


 カツン。


 不意に響いた足音に、俺はとっさに有瀬を背中にかばった。
 軽い疑心暗鬼に陥っていたこともある。だがもし、廊下の向こうから来る相手が森田のようになっていたら、対処を間違えるわけにはいかない。

 かつかつと軽い足音が聞こえる。
 いや、もう1人分聞こえるか……?

 足音が近づくにつれ、心拍数が上がり、握る拳に汗がにじむ。


 そして、角から姿を現したのは……。


「沙耶……沙耶か!? 無事だったのか!!」

 つい今しがたまで考えていた相手だった。

「し、士郎、あ、アンタ何やってたのよ授業にも出ないで!?」

「い、いきなり怒鳴らなくてもいいだろ……」

 一気に肩の力が抜ける。
 くそぅ、俺は散々沙耶のことを心配していたというのに、再会して第一声が罵倒か。なんでさ。
 少しくらい心配してくれてもいいだろうに。

 沙耶の後ろには一緒に逃げてきたのか、小太りでメガネの男子生徒がいる。
 同じクラスの平野か。

「あ、あのぉ~、高城さん……?」

「ああ、コイツは大丈夫よ。人畜無害さにかけては右に出るものはいないわ」

 そしてこの言い草である。
 血の繋がりがないとはいえ兄妹に対してあんまりではないだろうか。

「え、衛宮君っ」

 と、何か慌てた様子の有瀬が沙耶たちを指差し……いや、その後ろだ!
 廊下の向こうには先ほどの森田と同じ様子でうろついている生徒や教師の姿が見える。

「士郎、後ろ!」

 沙耶の声に慌てて振り返ると、一体どこから現れたのか、俺たちの背後にも同じようなやつらがいる……!

「と、とにかく部屋に入るぞ!!」

 俺たちは慌てて工作室に駆け込んだ。




 しっかりと施錠をし、俺たちはようやく一息入れることが出来た。
 外の廊下にはうつろな様子でうろつく人影がいくつも見える。だがそのいでたちがあまりに異質だった。

 どれも服装は学生服や教師の格好をしているが、あれは断じて人間ではない。
 一体どこの世界に腕と足といわず肉をえぐられ、破れた腹から腸を引きずって歩く人間がいるというのか。

 一目見て直感した。いや、森田のときから気づいていながら、知らない振りをしていたのかもしれない。
 彼らは皆もう、死んでいる。
 死んでいるのにもかかわらず、立ち上がり、歩き回っているのだ。


 おそらくは、生きている人間を求めて。


「ほんとに……一体何が起きてるんだ」

「わからないわ。けど気づいたら校舎中にあの連中がいた。ひとつわかってるのは、今の状況はあいつらのせいってことね」

 沙耶たちの話によれば、5限の始まってしばらくした頃突然教室に孝が乗り込んできて、宮本と井豪をつれて出て行ってしまったらしい。
 逃げるぞ、とそういいながら。

 そしてあの校内放送。

 パニックが起こると踏んだ沙耶たちは一足先に教室を抜け出してきたとのことだ。
 わが妹ながら流石といわざるを得ない。その先見性には驚嘆させられるばかりだ。

「で? そっちは一体何してたのよ」

「あー、いや、沙耶が出て行った後うっかり居眠りしちまって」

 ここに至るまでの経緯をかいつまんで話す。
 窓から森田を見かけ、追いかけることにしたこと。途中で有瀬とばったり遭遇したこと。
 森田が……あの連中と同じような"何か"になってしまっていたこと。

「森田って誰よ」

「いやA組のやつだけど……」

「ふーん、知らないわね」

 いや待て、確か森田のやつ、前に3回くらい沙耶に告白したとか話してた気がするんだが。
 ……ま、まあ追求はしないでおこう。浮かばれろ、森田。

「まあ、それでここまで逃げてきたんだ」

 すると沙耶は、ふーん、と…………な、なんだ、なんでそんな視線が冷たくなるんですか沙耶さん。

「それで2人仲よく逃げてきたってワケ」

「仲良くって、そんな場合じゃ」

 と、俺はさっきからずっと何かを握ってることに気づいた。

 にぎにぎ。

 うん、やわらかい。

「え、衛宮君……」

「ぃあッ!? わ、悪い有瀬!」

 ず、ずっと手を握ったままだった!
 慌てて手を離すと、有瀬も顔を赤くして困ったように笑っている。

「~~~~~~……ッ!」

「もしかして高城さんが工具室に行こうって言ったの、衛宮がいたからですか?」

「んなっ、そんなわけないでしょ!? ここなら何か武器になるものが……!!」

 だから少しくらい心配してくれてもだな……。
 が、俺の反論より先に割ってはいる声があった。


 ────あぁぁあぁぁぁ……。

 ────うぁ……ぉぅぉおぉ……。


 バン、と扉をたたく音がして、廊下の向こうから亡者の呻き声が聞こえてくる。
 泡を食って4人でしーっ、と声をたしなめあう。

「とにかくわかってることは……あの連中は、人を襲う。多分、喰うために……」

「ええ、アタシたちも見たわ。とにかくまずは武器を探しましょう」

 沙耶の言葉に頷き、俺たちは部屋の中を捜索し始めた。





 机の上には雑然と工具が並べられている。
 ドライバー、スパナ、のこぎり、かなづち、他もろもろ。平野とかき集めたものだ。
 どれも使いようによっては武器になるが……いまひとつ決定打に欠ける気がする。

「いい武器になりそうなのはこれくらいか」

 電動ドリルを手に取りトリガーを引くと、先端が勢いよく回転する。
 しかしこれも、いかんせん有効範囲があまりに限られている。目の前にいないと効果がないと考えると、緊急時以外は使いたくない代物だ。

「確かにあまり近づきたくはないね……」

「ああ、それにやたらと力が強い。森田だけがそうだったのかはわからないけど、もし掴まれたら振りほどくのは一苦労だ」

 平野の言葉に、昇降口でのことを思い出しながら答える。
 けど何だってあんな馬鹿力だったのか不思議だ。森田がそんなに鍛えていたということはまずないだろう。

「それは一応説明がつくわ」

 首を捻っていると、いつの間にか沙耶が隣に来ていた。

「おそらく脳が正常に機能していないのよ。もしくは神経が鈍いかわからないけど、肉体にかかっているリミッターが外れてるのね」

 肉体にかかるリミッター……そういえばどこかで聞いた覚えがある。
 人間が肉体の限界以上の力を出そうとすれば、当然のごとく負荷のかかる場所が壊れてしまう。それを避けるために、脳は無意識に力を抑制していると。
 力をこめすぎれば痛覚という形で脳が警告を出す。
 だが連中のあの様子を見るに、痛覚などあるようには到底思えない。何せ死人が起き上がって動いているのだ。

「常に火事場の馬鹿力、ってわけですね」

 納得したように頷く平野に、それよりも、と沙耶は何かを差し出した。
 あれは。

「アンタ軍オタとかいう生き物でしょ? リーサルウェポン2くらい見たことあるわよね?」

「釘打ち機……ガス式か!」

「ったりまえじゃない、映画じゃないんだから」

「……高城さん、映画とか好きなんですか?」

「な、違うわよ! アタシは天才だから……」

 平野の指摘に真っ赤になって反論しているけど……。

「沙耶、リーサルウェポン好きじゃんか。昔3のまねして犬のえさ食べそうになってお袋さんに怒られてたし」

 ぴた、っと沙耶の動きが止まった。
 ぎ、ぎ、ぎ、と軋みをあげてこっちに振り返る……いかん、地雷踏んだ。

「お、俺ちょっとこれ改造してくるからっ」

 待て逃げるな平野!

「あ、ん、た、はぁぁぁぁぁっ!! そういうことをぺらぺら喋るんじゃないわよ!!」

「どわ馬鹿! 声が大きい!!」

 バンバンと扉をたたく音が増えてる!
 この調子じゃここも長くは持たないって言うか頼むからもう少しボリュームを落としてくれ!

「ふーっ、ふーっ……とにかく! アンタは何か武器見つけたの!?」

 毛を逆立てた猫みたいになってる沙耶をどうにかなだめながら、俺はいや、と首を振った。
 どうもどれもしっくり来ない。選り好みしているわけではないが……。

 そこに有瀬が、なにやら長い鉄の塊のようなものを持ってきた。

「え、衛宮君、こ、これ、どうかな……」

 結構な重量のあるらしいそれをよたよたしながら差し出してくる。
 なるほど、これは。

「ふーん、バカスパナのアンタにはぴったりじゃない?」

「バカスパナって……」

 大体これ、パイプレンチだし。
 そういうとどっちも似たようなもんでしょ、と言われた。興味のない人にはそんな物らしい。

 一抱えほどあるパイプレンチは片手で振るには少々重いが、それなりに長さもあり、鈍器として十分に使えそうである。
 ここに来て日ごろから少しでも体を鍛えていたのが幸いになりそうだ。

 だが……考えたくはないが……。

「これで、殴るのか。人を……」

「人じゃないわ、人だったものよ」

 沙耶が一歩俺に詰め寄り、指を突きつけてくる。

「いい、士郎。アンタが底抜けにバカでお人よしなのは今更、でもね、やらなきゃやられるのよ。分かってるわよね」

 それは分かってる。
 だけど……。

「覚悟決めたほうがいいよ、衛宮。俺はもう決めた、もう今までどおりの"普通"なんて何の意味もないんだ」

 戻ってきた平野の手には、T定規をストックにした、まるでライフルのような有様になった釘打ち機が握られている。
 様になっているな、とのんきな感想を抱いた。
 あるいは、平野はこれで思いのほか頼りになるのかもしれない。

「衛宮君……」

 有瀬が不安げに見つめてくる。
 彼女を安心させてやれる態度を取れない自分がもどかしい。

 窓の外に目をやる。
 中庭、正門、グラウンド────どこを見ても地獄の有様だ。
 道を行く人々に亡者が取って代わり、青空には街のいたるところから黒煙が立ち上っている。
 逃げ惑う少女に死人が群がり、喰い散らかされた少女がゆっくりと起き上がる。
 悲鳴が、窓を震わせている。

 この狂気に満ちた光景から沙耶を、有瀬を守るためとはいえ、俺は────。


 1.やれる。やってやる。
 2.出来る……とはいえない。



/*/

 更新早いけど今連休もらったからです。
 明後日ごろからは遅くなります。

 ところで教えてもらった雑談板の学園黙示録スレを拝見。色々皆さん考察してて面白かったです。
 が、とりあえずこのSSでは一個だけゴールデンルール。
 「ゾンビってそういうもんだし」の一言で片付けようと思います。
 今回ちょっと考察してみましたが、正解かどうかは謎ってことで。この理論だと足が遅い理由が説明できないし。

 あとロメロ式ゾンビは首を切られると首だけで生きてることがランド・オブ・ザ・デッドで判明してますが、うちでは首切られたら頭も体も死ぬということで。
 ……だって、首だけで生きてるゾンビがあまりにシュールだったんだもの。




[6377] 1-4A
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/16 00:28


「……ああ、やれる。やってやるさ」

 沙耶を、有瀬を守るために……そして俺たちが生き残るために、出来ないなんていってる場合じゃない。
 あいつらを殺さなければ──死人を殺せるのかはなはだ疑問だが──俺たちは生き残ることも、彼女たちを守ることも出来ない。

 沙耶の言うとおり……やらなければ、やられるんだ。

「そう、ならいいわ。確認しておくけど、狙うならまず頭ね。腹に穴開いてても気にしない相手よ、胴体じゃ効果は薄いと思うわ」

 皆で頷く。
 俺はパイプレンチ、平野は釘打ち機、沙耶と有瀬に工具類を詰め込んだ袋を任せ、工作室を出る準備を整える。

 そのとき部屋中、いや学校中にけたたましいベルの音が鳴り響いた。
 火災報知機の音だ。
 窓を見れば、まるで雨が降ってきたかのように水が滴っている。どうやら上のほうで誰かが消火ホースを使っているらしい。

 だがそれより。

 まるでその音にあわせたかのように、扉に殺到していた亡者たちが部屋になだれ込んできた────ッ!
 平野が釘打ち機で飛び込んできた奴らをつぶし、残ったものを俺がレンチで殴り飛ばす。

「よし、行くぞ!!」

 入り口にもう人影が残っていないことを確認し、俺たちは工作室を後にした。



 廊下に出た俺たちは平野の提案で職員室を目指すことにした。
 職員室にあるであろう鍵を拝借して、車で学校を出ようという結論に達したからだ。
 脱出してどこへ行くのか、そもそも学校を出たところで街中も危険なことには変わりないなど不安は大きいが、かといってここにとどまる気にもなれなかった。

 廊下にぼうとした風情で立っている死人がこちらに反応するより先に、レンチの重量を利用して連中の体を吹き飛ばす。

 最初は平野に釘打ち機で露払いをしてもらうつもりだったのだが、沙耶の"検証"により彼らが音に反応していると分かってからは戦法を変えることにした。
 釘打ち機は意外に大きな音を立てる。なので俺が先頭に立つことにしたのだ。

 出来るだけ音を立てないように進みながら、1人1人処理して安全を確保していく。
 頭を狙えるときは頭を。
 むずかしい時は壁にたたきつけてやりすぐに離れれば、相手は支えを失ってそのまま倒れこんだ。
 しかし、思ったよりも重労働だ。レンチの重みもあるが、いちいち殴りつけていくたびに精神の方が参りそうになる。

 また1人、レンチを叩き込み、ぼぐりと肉体を殴りつける嫌な感触に眉をしかめた。

「衛宮君、大丈夫ですか……?」

「ちょっと士郎、あんまり無理するんじゃないわよ」

 沙耶たちが声をかけてくるが、弱音を吐くことはできない。

「これくらい平気だ、結構鍛えてるんだ。それに、もう階段を上がればすぐ……」

 目の前の階段を上がれば、職員室はすぐその隣だ。
 歩く死人たちも、もういかほども残っていないだろう。上手くすれば職員室で休憩も取れる。

 そう思いながら職員室の前に出て、俺たちは盛大に顔を引きつらせた。



 職員室前の廊下には、これでもかというほどの亡者の群れが蠢いていたのだ。



 距離は近いが……あまり喜ばしい状況ではない。
 俺たちは顔を見合わせ、頷きあった。

 平野が手近な相手に向けて釘打ち機を打ち込む。
 パスッとガスの抜ける音ともに太い釘が連中の頭に吸い込まれていく。流石に上手い。
 続いて俺が飛び出し、釘打ち機では届かない相手にレンチをたたきつけた。

 これで職員室の前は確保……ッ!

「いまだ、行け!!」

 声を上げて合図を送る。連中がこちらに寄ってくるが、どうせもうさっきので気づかれてしまっていたのだ。
 俺は思い切りレンチを振り回しながら殿をつとめる。

 だが、

 沙耶たちが入り口から動こうとしない……何してるんだ!?
 だが沙耶の悲鳴のような声を聞き、俺は本気で頭を抱えたくなった。

「鍵、鍵がかかってる!! 開かないのよ!!」

 ちくしょう、なんでその可能性を考えなかったんだ……ッ!!

 そうこうしているうちにも連中は続々とにじり寄ってくる。
 いくらかは平野の釘打ち機が倒してくれるが、それにも限度がある。何より……、

「もうマガジンが空になる!」

「何してるのよ、入れ替えなさいよ!!」

「いや、でもっ……」

「高城さん、危ない!!」

 有瀬の声に体が動いたのは、ほとんど条件反射のようなものだ。
 階段を上がってきたのか、連中の1人が沙耶の後ろにいる────ッ。

 耳を劈く悲鳴。

 沙耶がしりもちをついて、スーツ姿の男から後ずさって逃げている。

 ────っのやろう……ッ!

 俺は迷わずそちらに走る。
 全力で振りぬいたレンチは、どぐっ、と男の胸に吸い込まれる。間違いなく肋骨を何本かへし折ったはずだ。
 その勢いのまま後ろに吹き飛ばされた男はしかし、まだのろのろと起き上がろうとしている……!

 だから俺は、もう一度そいつに向かって……今度は間違いなく頭めがけて、レンチを振り下ろした。

 ぐしゃ。

 スイカを潰したような生ぬるい感触が腕を伝う。
 そうしてやっと動かなくなった男に安堵の息をつき……、




「士郎……ッ!!!」




 もう1人、横から来ていた女生徒の姿に気づくのが決定的に遅れた……。


 腕が上がらない。
 闇雲にレンチを振り回しすぎたせいか、それとも今ので緊張の糸が切れたのか。
 ただ、少女が俺に向かって大口を開けているのを見ていることしかできなかった……。


「が、あぁぁぁぁあぁ……ッ!?」


 肩口にギチギチと歯が食い込んでいく。
 肉の中を異物が掻き分けるおぞましい痛みが脳を焼ききろうとする。

「は、なせ……この……っ!!」

 ブチン、と音がするのが確かに聞こえた。
 どこか大きな血管がやられたのだろう、一気に体中の血が足りなくなっていくのが分かる。
 それでもまだ足りないとばかりに、少女は俺の肉を食いちぎろうとしている。

 くそ、くそくそ、食い込んだ歯が熱い。
 指先が冷たい。

 こんな、気が狂っちまいそうに痛い……ッ。

「この、このこのォッ……!! 士郎を放しなさい、放せ、放せぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 沙耶が工作室から持ってきたドリルを少女の頭につきたてる。
 甲高い音を立てて回る鋼の螺旋が少女の脳髄をぐちゃぐちゃにかき回し、飛び散った血と脳漿が俺と沙耶を赤く染め上げる。
 それで少女は、やっと俺の体から剥がれ落ちた。
 同時にどくどくと熱いものが流れ出ていく。

 あーぁ、こんなに汚しちまって、またお袋さんに怒られる。
 あの人普段は優しいが、怒るときはとんでもなく怖いというのは身をもって知っているのだ。

「君たち、大丈夫か!」

 バタバタと何人もの……生きた人間の足音が聞こえる。
 俺たちの傍にしゃがみこんでこちらをのぞきこんでいるのは、確か3年の毒島先輩といったか。それに校医の鞠川先生も一緒だ。
 上の階から孝と宮本もやってきた。

 はは、なんだ、みんな考えることは一緒だったわけだ。

「士郎、士郎……大丈夫よ、すぐ血も止まる。お姉ちゃんに任せておけば平気なんだから……ッ」

 沙耶がタオルで俺の首筋を押さえているが、それより沙耶の顔をぬぐってやりたいが……どうも手が上手く動かない。
 彼女の顔は汚れと涙でぐちゃぐちゃだ。
 女の子は綺麗にしてないとだめじゃないか。これは俺の矜持のようなものだけど。

「ごほ……それ、より……早くなか、へ……」

 ここにいたらまたいつ連中がやってくるか分かったもんじゃない。
 口に血がたまって上手く喋れないが、毒島先輩はそれを汲み取ってくれたようで、俺にひとつ頷いて鞠川先生に目配せをした。
 なるほど、鞠川先生なら職員室の鍵も持ってるか。




 1人で立つこともままならなかった俺は、孝と平野の肩を借りて職員室のソファに寝かされた。
 手早く上半身を剥かれ、鞠川先生の治療を受ける。

 うーん、情けなくない程度には鍛えてあるとはいえ、上半身だけとはいえ女性に裸を晒すのはちょっと気恥ずかしい。
 まあそんなこと言ってる場合じゃないのは分かってるが。
 胸に触れる鞠川先生の手がひどく熱い。俺の体温がちょっとやばいくらいに下がっているのだろう。

「大丈夫……大丈夫よ、もう平気だから」

 枕元でしきりに大丈夫と繰り返す沙耶に、ちょっと無理して笑いうなずき返す。
 正直に言えばかなり痛い。傷口は焼けるように痛むのに、体は寒くて、そのくせ汗が止まらない。

 けど、何故だろうか。
 俺を治療する鞠川先生、それを見守る毒島先輩や孝、宮本の顔が酷く暗い。
 いや、俺がこんな様子じゃ明るくなんてなれないのはわかるが、沙耶や有瀬の顔に浮かんでいる心配の色とは、どこか違うような。

 不思議に思っていると、止血を終えた鞠川先生に代わって毒島先輩が俺の傍に屈みこんだ。
 不意に近づいた顔にどぎまぎするが、幸い血の気が引きすぎて顔が赤くなったのはばれていないはずだ。いや、そもそも赤くならなかったかな。

「衛宮君、だったな。君にひとつ伝えなければならない」

 その真剣な表情に、おそらくあまりいい話では無いだろうことは容易に想像できた。

「彼らに……あの亡者たちに噛まれた人間は、程なく死ぬ。そしてまた死霊の1人として立ち上がることになる」

 それは、あまりに突拍子もなさそうでいて……この上なく真実味を持った言葉だった。

「……どういう、意味よ」

「こういいなおそう。噛まれたものはもう助からない。そして彼らの仲間になりたくないのであれば、私はそれを手伝おう」

 ────……これは、思ってたより、きついな。

「そんなわけ……そんなわけないッ!! 士郎は、士郎は助かる……いいえ、アタシが助ける!」

「高城……けど、ホントのことなんだ」

「小室は黙って!! 私は天才なんだから、何だってできる……アタシは、」



 ああ、でも……。



「アタシはお姉ちゃんだから……士郎を守らないといけないのよ……ッ!!」



 そうやって沙耶が思ってくれるだけで、死への恐怖は和らいでいく気がするんだ。



 立ち上がって震えている沙耶の手をつかむ。
 動くかどうか不安だったが、俺の手はどうにかいうことを聞いてくれた。

「し、ろう……?」

 ああ、またそんなに泣いて。
 けど泣かしてるのは俺か、そう思うとひどく申し訳なくなるな。

「大丈、夫だ。沙耶は、いつも正しいほうを選んできた……だから今も、そうできるだろ」

「な……んで……なん、で、アンタは、アタシの弟の癖に…………そんなにバカなのよ……ッ」

 そういわれてもしょうがない、もう生まれ持ってのものとしかいえないだろう。

 視線をずらして、孝と平野に目を向けた。
 そろそろ口を開く元気もないが、2人は俺の目を見てうなずいてくれた。

「……じゃ、あ、頼みます」

「あぁ」

 これであとの決着は毒島先輩がつけてくれるだろう。

 目を閉じる前に視線をめぐらすと、鞠川先生にすがり付いて泣きじゃくる有瀬が見えた。
 それに、沙耶は……。


 沙耶は、歯を食いしばって涙をこらえていた。
 決して目をそらさず、俺を見つめている。


 ああ…………それでこそ沙耶だ。


 そして俺は目を閉じた。
 誰かを守って死ぬというのは、なぜかとても衛宮士郎らしくて……俺は少しだけ満足だった。


 Dead End 4:自己犠牲








 (トラの鳴き声的なもの)

ブルマ:第2回!!!

タイガ:たいがぁぁぁぁぁぁぁどぉぉぉおぉぉおじょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

ブルマ:またまたやってきました、タイガー道場のお時間!

タイガ:今回の原因は見栄の張りすぎ! こんな世界では特に、自分にできないことは出来ないって言わないとすぐにお陀仏よー!

ブルマ:ま、女の子の前でかっこつけたくなっちゃう気持ちはわかるけどねー。

タイガ:加えて言うなら、ここの士郎のメンタルはFate原作開始時よりも少し一般人に近いわ。そのことも加味しなくちゃいけなかったわね。

ブルマ:具体的に言うとシロウは記憶を失ってるから、魔術師という単語を無意識に使っていても、その心構え……死んだり殺されたりする覚悟は出来ていなかったってことね。

タイガ:こら弟子一号、そこは殺したり殺されたりする覚悟じゃないかしら。

ブルマ:あ、そっかー♪ ……でも間違ってないわよね。

タイガ:……間違ってないわね。そ、それはともかく!

ブルマ:ともかく?

タイガ:今回「2のほうが士郎っぽいけどここは1で」とか「1の方が死亡率上がるはず……」とか言ってる君たち! 後でちょっとお話があります。

ブルマ:でも私たちの出番増えたからぐっじょぶッスよ!

タイガ:そうだけど! そうだけどそういうことは声を大にして言っちゃいけないのよ!

ブルマ:前回思いっきり言ってたような……あいたー!

タイガ:過去は振り返らないんだっぜ。


ブルマ:ところで、今回のバッドエンド、お兄ちゃんにしては綺麗過ぎない?

タイガ:あー、私も思った。みんなに看取られて死ぬって士郎のキャラじゃないわよね。

ブルマ:まあFateではこういう遅効性の死っていうのがあんまりなかったからかしらね。シロウ、死ぬ時はいつもぽっくりだし。

タイガ:いつもぽっくり死ぬ主人公……うーん、なんともいえない響きだわ。そしてお・ま・え・が・い・う・な!

ブルマ:あたーっ!?




/*/

 ところでいくつか有名ゾンビ映画、ゲームのシーンをパロってたりしてます。
 気づいたら探してみてください。

 それから2つほどお聞きしたいのですが、どのくらいになったらその他板とかに移したもんでしょうか。
 あと「5票先取で決定」のバランスはどうでしょうか。
 「このままでいい」「上限を上げて欲しい」「投票期間を設けたほうがいい」などご意見ありましたらお願いします。


■感想レス

>平野の一人称って僕じゃね?

・最初書いたときそんな気がしたんですが、バスの中での発言とか思い出して調べてみたら最初から「俺」でした。


>選ばなかった選択肢はどうなったのか知りたい。

・学校出るあたりまで進めたら一度フローチャート公開しようかと思います。







[6377] 1-4B
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/16 00:28
 出来る、と言い切ることは出来なかった。
 確実に人ではない、だが人の姿をした何か。

 俺はまだ決めあぐねているのだ。アレに対して、どう接するべきなのか。
 逃げればいいのか、戦えばいいのか。

 衛宮士郎は■■■■■なのだという決定的な一言を見つけられないばかりに。

「……けど、沙耶たちを守るために手を抜くことはしない。これだけは約束できる」

 だから、今はこう答えるのが精一杯だった。

 沙耶は俺の答えに不満げな顔を見せていたが、やがて大きくため息をつくとやれやれと首を振った。
 や、そんな露骨に呆れた顔をしなくてもいいと思うんだ、俺は。情けないことは自覚してるけど。

「ま、アンタの場合ここでやれるって言い切られるよりはまだ信用できるわ」

「おう、そこは任せてくれていいぞ」

 こればかりは胸を張って答えられる。

「沙耶も有瀬も、俺は絶対守ってみせる」

「…………お、弟の癖に偉そうに」

「あ、え、と、よろしくね、衛宮君」

「こっちこそ。平野もよろしくな」

「はは、援護は任せてくれていいよ」

 と。

 けたたましい非常ベルが、校舎の窓という窓を振るわせたのはそのときだった。

「なんだ……火災報知機?」

 見れば窓の外は、雨でもないのに空から水が降ってきている。
 屋上で誰か消火ホースを使ったのか?

 しかしそれよりも。
 俺たちにとって重要な事案は、もっと目の前に迫っていた。

 扉がきしむ。ばしんばしんと廊下の窓をたたく手が増えていく。
 もうこの教室も、程なく安全ではなくなるだろう。

「俺が前衛になる、衛宮は控えてくれ!」

 平野が先頭に立ち、沙耶たちをカバーするように俺が周囲を固める。
 隊列を組み終わったと同時に、窓と扉とを問わず、人数に任せて強引に破ってきた連中がなだれ込んでくる────!
 そこに平野の打ち出す釘が吸い込まれるようにして連中の頭に突き立つ。

「よし、行くぞ!!」

 進路が確保できたことを確認して、俺たちは工作室を後にした。




「……どうだ、沙耶?」

「しーっ……まあ見てなさい」

 工作室を出てしばらく。
 出たはいいがそこからどうしたものかとなったのだが、今はなぜか物陰に身を潜めてうろつく連中の観察をしている。
 言いだしっぺは今俺の足元にかがんで雑巾を投げつけている沙耶だ。平野は後方の警戒に当たっている。

「そ、そんなことして大丈夫なのかな……?」

 有瀬がびびるのも致し方ないというか、さっきから沙耶は男子生徒の1人にべちんべちんと容赦なく雑巾をぶつけているのだ。
 ただ不思議なことに、雑巾をぶつけられたやつはこちらに来ることも、振り返ることすらなかった。

 ────あれは……何も感じていない、のか?

 次に沙耶は雑巾をそばにあったロッカーにぶつけた。がしゃんとロッカーが揺れ、音が響く。
 すると先ほどまで何の反応も示さなかった男子生徒が、ロッカーに向かって歩きはじめがたがたと体をぶつけている。
 そこまで見て、俺はようやく沙耶の意図を察した。

「あいつらは音に反応するのか」

「そういうこと。痛覚だけじゃなくて触覚そのもの、それに視覚も死んでるみたいね」

「なら、出来るだけ静かに進めば……」

 あたりを警戒しながら言う平野に、沙耶は首を振って返した。

「1本道の廊下を4人で、全く音を立てないのはむずかしいわ。それよりもアンタが出来るだけ数を減らして、近づいてきたやつはやり過ごしていくべきでしょうね」

 そのやり過ごす役は、もちろん俺だろう。
 当たり前の話だがパイプレンチは武器として使うことは想定されていない。柄の握りも振りかぶるには少々持ちにくい。
 だがどついて転ばせたりする分には十分使えることは、工作室を出る際に証明済みだ。
 そして俺の精神的にも……ほとほと情けない話だが幾分楽だと言うのが正直なところである。

 さて"検証"を適当なところで切り上げて移動を開始する……としたものの、どこに行くべきか実はまだ決まっていなかったりする。
 とりあえず学校を出て、出来れば家族の確認に行きたいというのが当面の目標ではあるのだが。

「無策に外に出るのはな……」

 先ほど窓から見た光景を思い出す。
 普段目に見えることのなかったはずの"死"は、今は明確な形を持って俺たちの前に立ちふさがっている。
 10や20できかない数の亡者たちが、癒えぬ飢えを満たそうと校庭を、街中を闊歩しているのだ。

「歩くのは苦手……」

「これだからデブヲタは! 文句は免許取ってから言いなさいよ!!」

 いや、流石にそういう問題でもない、だろう。
 率直な気持ちを言えば俺も今の状態で徒歩で移動するのはぜひとも遠慮したい。
 かといって足を調達するあても……。

「あのー、免許はないですけど、車なら」

 平野の言葉に全員で顔を見合わせる。
 これで次の目的地が決まった。






 職員室の前まで来たところで、またぞろ廊下に蠢く亡者たちの姿にため息が出るのを禁じえなかった。
 それも結構な数だ、下手に押し込まれるとひとたまりもないだろう。
 ひとつ幸いなのは職員室の扉は目と鼻の先ということだ、今までと同じ手順で進めばすぐにたどり着けるはずだ。

 ただ懸念があるとすれば、職員室の中に連中がいないとも限らないと言うことなんだが……。
 いや、今気にしても埒があかない。部屋に入るときに俺が殿をして、平野に中をチェックしてもらうのが最善か。

 一通りの手順を確認しあい、俺たちは階段から様子を見てタイミングを計る。


 まだ……まだ数が多い。


 まだ……いや、扉の前にいたやつが動き始めた。
 ゆっくりと扉から離れ、廊下の向こうへ歩きはじめる。


 そいつが十分に扉から離れた……いまだッ!


 ────いけっ!

 小声で合図するまでもなかった。
 平野はタイミングを完璧に心得ており、扉の前が開けた瞬間手近な2体に釘を打ち込んだ。
 それにあわせて前に飛び出し、平野の死角にいたヤツをレンチで思い切りついて転倒させる。

 これで、職員室の前は確保────ッ!

 すぐさま沙耶たちが職員室の扉に駆け寄る。
 その隙をついて群がろうとする連中をレンチでなぎ払い時間を稼ぐ。けどそんな抵抗は、長く続けられるはずがなかった。
 じりじりと押し込まれ、胸のうちに焦りが広がっていく。手ににじんだ汗でレンチを取り落としそうになる。

 早く、早く……早く部屋に逃げ込んでくれ。
 しかしそんな思いを裏切るように、沙耶たちは扉の前から動こうとしない。

 ────何してるんだ……!

 胸中の叫びに答えたのは、沙耶の悲鳴のような声だった。



「鍵、鍵がかかってる!! 開かないのよ!!」



 なんて、うかつ。
 その可能性を全く考えていなかっただなんて……ッ!!



 そうこうしているうちにも連中は続々とにじり寄ってくる。
 いくらかは平野の釘打ち機が倒してくれるが、それにも限度がある。何より……、

「もうマガジンが空になる!」

「何してるのよ、入れ替えなさいよ!!」

「いや、でもっ……」

「高城さん、危ない!!」

 有瀬の声に体が動いたのは、ほとんど条件反射のようなものだ。
 階段を上がってきたのか、連中の1人が沙耶の後ろにいる────ッ。

 耳を劈く悲鳴。

 沙耶がしりもちをついて、スーツ姿の男から後ずさって逃げている。

 ────っのやろう……ッ!

 迷わずそちらに駆け寄り、獲物をフルスイングする。
 全力で振りぬいたレンチは、どぐっ、と男の胸に吸い込まれる。今のは間違いなく肋骨を何本かへし折ったはず……。
 その勢いのまま後ろに吹き飛ばされた男はしかし、まだのろのろと起き上がろうとしている。

 とっさに男から距離を取る。
 沙耶をかばうようにして立ちながら次の攻撃に備え……。

「士郎ッ!!!」

 しま……ッ!

 横から飛び出してきた女生徒に掴みかかられ、そのままバランスを崩して背中から倒れこんだ。
 昇降口で打った背中をもう一度強打する羽目になり鈍い痛みに顔をしかめるが、襲いかかってきたやつはそんなこと気にしちゃくれない。
 レンチでどうにかさえぎってはいるが、がちがちと噛み付こうと鳴らしている歯が今にも届きそうだ。

「は、なせ……この……ッ!!」

 やっぱり、コイツもだ。
 女子とは思えないほど力が強い、このままじゃあ押し切られ……る……?

 なにか、耳元で甲高い音を立てて尖ったものが回転していた。

「この、このこのォッ……!! 士郎を放しなさい、放せ、放せぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 沙耶が工作室から持ってきたドリルを少女の頭につきたてる。
 甲高い音を立てて回る鋼の螺旋が少女の脳髄をぐちゃぐちゃにかき回し、飛び散った血と脳漿が俺と沙耶を赤く染め上げる。
 それで少女は、やっと俺の体から剥がれ落ちた。

「はぁ……はぁ……」

「はぁ……う、ぅ……」

「君たち、大丈夫か!?」

 バタバタと複数の……生きた人間の足音が聞こえる。
 そして硬いスイカをかち割るような音。

 上の階から孝が金属バットを、宮本がモップの柄らしきものを振り回しながら。
 廊下の向こうからは鞠川先生と、それにあれはたしか……3年の毒島先輩だっただろうか、道中にいる連中の頭を打ち砕きながらこちらにやってくる。

「士郎、無事か?」

「高城さんっ」

 孝と宮本が駆け寄ってくるが、沙耶はそれに目をくれずしきりに俺の顔をぬぐっている。
 沙耶の細い指が頬をなでるたびに赤く染まっていくのは、おそらく俺が血まみれだからだろう。
 これが俺自身の血じゃないと言うのが幸いだ。

「士郎、士郎……こんなに汚して、またママに言ってクリーニングに出してもらわなきゃ……」

 軽く錯乱しているのだろうか、いつもの彼女らしくない様子を見て不謹慎ながら逆に安堵の息をついた。
 いくら沙耶が自他共に認める天才だからといっても、まだ成人もしていない少女なのだ。むしろこれが正常な反応だろう。

 沙耶の頭に軽く手を乗せ、宥めるように撫で……ようとして止めた。髪の毛まで血が飛んでる、このきれいな髪に血しぶきを塗り広げるようなことはしたくなかった。

「ああ、もう大丈夫だから、沙耶」

「ふ、うぅ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 肩にすがり付いて泣きじゃくる沙耶の背中を撫でてやる。
 どうやらひとつの窮地を切り抜けたらしい事実に、俺は堅くレンチを握り締めていたこぶしからようやく力を抜いたのだった。






 鞠川先生が持っていた鍵で職員室の扉を開け中の安全を確認すると、流石に皆疲れが出たのだろう、揃って机や床に突っ伏してしまう。
 孝と平野が室内に会ったものでバリケードを築いている中、悪いと思いながら俺は沙耶と一緒に顔を洗うのを優先させてもらった。
 いつまでも顔に血脂や肉片を貼り付けておきたくはなかったし、そんな顔を皆に見せているのも申し訳ない。

 ぱしゃぱしゃと洗面台で顔をゆすぐ。しかしこうして並んで顔を洗うのなんて何年ぶりだろうか。
 沙耶の実家──あの高台のお屋敷で暮らしていた頃は、広い洗面所で毎朝2人で並んで顔を洗っていた。
 起きるのは俺のほうが早かったからいつも沙耶は俺を起こしたがって……そういえば、うっかりホラー映画なんて見た日には一緒に寝たりもしたっけ。
 いつも俺を弟扱いする沙耶に、そういう時ばかりは兄貴面してやれたんだった。

 こんな時なのに、いやこんなときだからか、そんなしょうもないことを思い出して吹きだしてしまった。

「? なによ」

「いや、なんでも……ん?」

 睨まれて視線を上げると、


 沙耶がメガネをかけていた。


 うーん……ダサいダサいといって最近はコンタクトにしてたけど、うん。

「な、なによ……っ」

「いや、メガネかけてるの見るのも久しぶりだなって」

「コンタクトがやたらずれるのよ、なんか文句ある?」

「ないない、むしろ悪くないと思うぞ」

 メガネの沙耶ってのもかわいいと思うんだ。

「~~~~~~~ッるさい!」

 しみじみ見てたら怒られた。なんでさ。



 全員が人心地ついたところで、お互いの情報を交換しこれからの方針を決めることになった。

 皆の共通の認識としてあの亡者たちは人を襲いその肉を喰らい、食い殺された人間はまた亡者たちの仲間になる。
 力は強いものの足は遅い、そして聴覚を頼りに獲物を探しているらしいのは沙耶の検証したとおりだ。
 だが更に恐ろしい情報として、食い殺されるまでいかなくとも噛まれただけで確実に死に至りそしてまた立ち上がるという。

「ワンミスでアウトってことですか……」

 平野の表現は不謹慎かもしれないが、まさしくそのとおりだ。たったひとつのミスで全てが終わる。
 そのワンミスを避けることがどれほど難しいかはここにいる全員が身を持って体験していた。皆あわやと言うところで傷を避けてここまできたのだ。

 そして孝と宮本は、あの亡者たちのことを決まって<奴ら>と呼んでいた。

「<奴ら>?」

「ああ永が…………そう、呼んでてな」

 そう言った口ぶりと表情から、井豪がどうなったのかは想像に難くない。
 一様に暗い沈黙が降りる。

 ────<奴ら>……か。

 その中で俺は、なぜかその呼び方が酷くしっくりと胸にはまり込んだような気がしていた。


「やだ……なに、なんなのよこれ……」


 震える宮本の声に皆がそちらを向く。
 彼女の視線の先には職員室に設置されたテレビがあった。毒島先輩がリモコンで音量を操作する。

『……です。この各地で起きた暴動に対し政府は緊急対策の検討に入りました。しかし自衛隊の治安維持出動については与野党ともに慎重論が強く、』

『……域での被害者は1000名に達する見方が強まる一方、各医療機関はパンク状態にありまた出動した救急車との連絡が……』

『……国政府はこれを世界同時多発テロではないかという可能性も視野にいれ対策を……』


 それは、世界の終わりを予感させるものだった。


 ニュースは避難場所を示すでもなく、対抗策が打たれたことを伝えるでもなく、ただ世界各地の凄惨な状況を繰り返すばかり。
 どのチャンネルも血と、火と、そして<奴ら>に溢れた街の地獄絵図を写すか、さもなくばそもそも放送が断絶している。
 スタジオのキャスターはまるで現状を理解していないかのような紙に書かれただけの注意勧告を読み上げている。


 世界が、死に向かっている。


 常に身近にあったテレビという情報発信者がその役目を果たさなくなり始めた今、俺たちはいやでもその事実を目の当たりにしなければならなかった。


「朝ネットを覗いたときにはなんともなかったのに……」

「うそ……信じない、信じられない! 絶対どこか安全な場所があるわ! すぐにみんな元通りに……」

「なるワケないし。パンデミックなのよ、どうにもならないわ」

 ヒステリックに叫ぶ宮本に、沙耶は冷酷なまでに冷静に返す。
 スペイン風邪、インフルエンザ、黒死病……まるで希望をくじこうとするかのように、かつて全世界で爆発的に流行した病を挙げ連ねる。

 いや……。

「沙耶、よせ」

「何よ!? 事実でしょ!!」

 沙耶も冷静などではない。彼女が饒舌になるのは常に自らの手に負えない何かが目の前に現れたときだった。
 こうして自らの言葉で最悪の想定を組み上げていくのは、やわな希望を抱かないようにという彼女なりの防御策だ。

 だから俺は、そんなときにいつもそうしていたように言う。

「大丈夫だ、きっとなんとかなるだろ」

「あ、んたは……どうしてそう能天気でいられるのよ、もう!」

 まあこういうといつも怒鳴られるのだが、

「~~~……っ……悪かったわよ」

 こうやって謝ってくれるところまでいつもどおりだった。




「さて、そろそろ現状の確認はいいかな?」

 なぜか俺たちの様子を微笑ましく見ていた毒島先輩が、仕切りなおすように口を開いた。
 そうだ、いつまでも現状に悲観している場合ではない。
 重要なのはこれからどうするのかだ。

「私たちは皆車のキーを求めてきたわけだが……鞠川校医?」

「あ、バッグのなかに……」

「全員乗れるのか?」

「う……コペン、です……」

 そりゃ無理だ、と皆で苦笑する。
 こちらは4人で、先生たちは2人で行動していたわけだが、孝らも加わっていまや8人の大所帯だ。
 もっと大人数を収容できる車が必要になる。

「部活遠征用のマイクロバスが残ってますよ」

「名案だ平野君。キーは……壁の鍵入れにあるな」

「あ、いえ、そんな、たまたま目に入っただけで」

 平野は毒島先輩に微笑まれてどぎまぎしている。

 バスを入手したあとは各自の家を周って家族の無事を確認、そして安全な場所を目指す方針で一致した。
 目下の問題はバスにつくまでだが……、

「好き勝手に動き回っていては生き残れない、常にチームで行動するんだ。そして、決して<奴ら>の相手をまともにしてはいけない」

 皆で頷く。

「隊列は小室君、平野君、そして私がトップを。高城君、有瀬君、鞠川校医をセンターに、衛宮君は宮本君と後方の警戒に当たってくれ」

 頷く……って待て。

「な、ちょっと待ってくれ。それなら俺が前にでる!」

 女の子を前に出して自分が後ろに下がるなんてことは出来ない。
 だが毒島先輩は首を横に振って、諭すように言う。

「それには及ばない。見たところ君の武器はいささか取り回しに難があるようだし、今別の武器を調達している余裕はない」

「衛宮君、毒島先輩は剣道で全国大会優勝してるのよ。接近戦じゃ衛宮君より強いんじゃない?」

 それは……どちらにも反論できない。
 いくら俺が鍛えているといっても片手間のことだし、親父さんに習っていた剣道も1年以上ブランクがある。
 それでも頷きがたい……が、答えあぐねいていると毒島先輩は俺に向かって微笑みかける。

「君に後ろを任せるのは信頼していないからじゃないよ、衛宮君。それに、君の気持ちはとてもうれしい」

 だがここは、私を信頼してくれないだろうか?

 毒島先輩はそう続けた。
 そんな風に言われては、納得するほかなかった。


 しかし毒島先輩、きつめの顔をしているが、ああやって微笑む顔は驚くほどやわらかい。
 なるほどさっきの平野の気持ちも分かるぃでででででででで!?
 なんで頬をつねるんですか沙耶さん!?

「ぁにふんだよひゃや!」

「フン! なによ、みんなデレデレしちゃって……」

「な、何言ってるんだこんなときに……」

「こんなときに鼻の下伸ばしてるのは誰だってのよ。小室といい平野といい……なに、あ、アンタもああいう年上系が好みなわけ?」

 鼻の下を伸ばしていたというのは全力で反論したいところだが……。

 好み、俺の好みか。


 1.そうだな、毒島先輩みたいな人はタイプだ。
 2.いや、どっちかというと有瀬のほうが。
 3.むしろ沙耶のほうが好みかもしれない。


(今回は試験的に投票期間を設けてみます。14日(水)の23時までの得票数で決定します)




/*/


 選択肢投票のバランスについては票が割れてるので引き続き意見を求めたいと思います。今回は暫定的なテストということで。
 板移動は、アドバイスにしたがって学校を脱出したあたりで移動しようかと。


>なんというドSの巣窟www

 ・むしろドMの巣窟という説も。


>体が剣になる。

 ・あれは作者がいまだにどういう現象なのか理解できないためとりあえず保留で。
  ただ、常に士郎の皮膚の下に剣が潜んでいたり、意識して制御できるようなものではないだろうとは思います。
  擬似神経である魔術回路にセットした設計図が暴走して肉体内に剣を投影してしまった、とかそういうものではないかと推測。


>タイガー道場のナンバリングを変えて欲しい。

 ・タイガー道場はバッドエンドじゃなくて皆さんの投票の結果に応じて内容を作ってるので、す、すみません、死亡回数にあわせてカウントします。
  バッドエンドのタイトルのほうにナンバリングしてありますので、そちらを参考にバッドエンドの数を推測してみてください。


>詰み選択肢マダー?

 ・だから何でそうマゾいのかと。
  まあ、そのうち出てくる……かもしれ……ない?


>弓の腕前はいかほど?

 ・そのうち言及しますが大体Fate通りかと。
  一応原作と同じく弓道部でした。
  剣の毒島、槍の宮本、弓の衛宮と呼ばれていたとか何とか……あ、なんかそれちょっとおいしいぞ。


>ヒラコーの一人称は俺?

 ・む、僕といってるところもありましたか。ちょっとチェック不足でした。
  おっしゃるとおり孝との差別化の意味もこめて「俺」で通そうかと思います。
  あと沙耶の一人称は「私」じゃなくて「あたし、アタシ」だったので修正しておきました。


>Fateクロスじゃなくてよくない?

 ・衛宮士郎をセンターに添えてる以上Fateというタイトルとは不可分だと思うのですが……。
  ただ言われてちょっと考えてみました。
  確かに現状衛宮士郎というキャラクター以外はFate成分さっぱりです。というか今後も基本的にこんな感じです。
  ただ士郎が今魔術をさっぱり使わない件に関しては再考の余地があったやもしれません。

  士郎の魔術は性質上「魔術回路が出来上がっていて、自分の性質を理解している」だけでこの世界では相当なチートになる恐れがありました。
  なのでFate初期状態より更に少し弱体化させて開始したのですが……これは流石にビビり過ぎで士郎がクロスする面白みを削ってしまっていたかもしれません。







(ここからちょっと今後のネタバレ注意)







  士郎の能力、また心構えに関しても、士郎自身の記憶とともに今後少しずつバージョンアップさせていく予定であります。
  特に学園黙示録のメンバーの装備が大幅に改善される「南リカの部屋」と「高城家」の2箇所がターニングポイントになるかと思われます。
  ただ無尽蔵に投影したり強化したり出来るようにはならない、というか魔術回路を整備してくれる人がいないので出来ません。
  基本的には自分の体と、道中で手に入るものを武器にがんばって(死んだりして)もらう予定です。
  その点ご了承いただき長い目で見ていただけると幸いです。











[6377] 1-5
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/16 00:28
 うーん……俺の好みで言うなら、

「そうだな、毒島先輩は美人だと思うぞ」

「んなっ!?」

 すらっとした体躯はピンと一本線が入っているように伸びていて、モデルばりのスタイルを更にカッコよく見せている。
 たなびく黒髪も綺麗だがやはり印象的なのはその眼差しだろうか。
 眦のきゅっと釣りあがった瞳は一見して鋭い印象を強く植え付けるが、それは決して冷淡なばかりのものではない。
 先ほどの笑った顔もそうだが、その奥にもっと人を惹きつける強い意志のようなものを感じる。
 赤く燃え盛る炎ではない。もっと静かに青く燃える火だ。
 あるいはそう……まさに剣の切っ先のように、うかつに手の触れることの出来ない……、

「そうじっと見つめられると、流石に恥ずかしいな」

「あ"、いや、すみませんつい……」

「構わないが……存外フェミニストのようだな、君は」

 なんていって満更でもないような顔をする毒島先輩だが……。
 いや待て、なんかよく考えずにとんでもないことを口走ってしまった気がする……!?

「士郎……お前すごいな」

「流石衛宮、僕たちには出来ないことをやってのける」

 なんで孝と平野はしみじみしてるんだ!

「いやっ、ちがっ、今のはそうじゃなくて……!」

「なんだ、女性を褒めておいて撤回するとは男らしくないし、失礼じゃないか」

「あらぁ~、ダメよ衛宮君。女の子に恥じかかせちゃ」

「うぐっ」

 鞠川先生まで敵に回った!?
 助けを求めて宮本や有瀬を見るも……目を逸らされた、がっでむ。味方はいないらしい。
 そしてこうしている間にもお隣の沙耶さんから伝わる気配が氷点下を下回っていくのが肌で感じ取れるわーにんぐ!!

 じとっと俺をねめつける毒島先輩と、プルプルし始めてる沙耶の間でうろたえていると、ややもして毒島先輩はぷっと吹きだした。

「くすくす……本当に衛宮君は実直と言うか、嘘がつけないらしい。短所になりうるが、君の美徳だな」

「や、からかわないでください……ホントに」

 命に関るので。
 毒島先輩にそんな風に微笑まれると真剣に寿命が縮みかねない気がするのだ、人生の幸運度的な意味で。

「士郎…………」

「はっ、殺気」

「この、この……こンのバカ士郎がああああぁぁぁぁ!!!」

「テンプル!?」

 命の危機っていうのは2重3重に潜んでるんだなあ、と薄れ行く意識の中でぼんやりと考えた。


 Dead End 4.5:三角関係のココロ







 (トラの鳴き声的なもの)

タイガ:はいやってまいりましたー、恒例のタイガー道場のお時間です!

ブルマ:でーす!

タイガ:今回は早かったわねー、流石のお姉さんもオドロキ。

ブルマ:ま、女心の分かってないお兄ちゃんじゃ仕方ないわね。朴念仁、とうへんぼくの代名詞なんだから、下手に口説き文句なんていえばこうなるのは目に見えてるのに。

タイガ:弟子一号の言うとおり、たらしやジゴロなんてそういうのはどこかの絶倫眼鏡に任せておけばいいのよーーー!!

ブルマ:そうだそうだー!!

タイガ:更にこともあろうに年上お姉さん系キャラなんてダメよ、ダメダメ!! 士郎に相応しいお姉さんは、天真爛漫で、ちょっと野生的なー……。

ブルマ:分かってないわねタイガ、シロウに相応しいのはおしゃまで少し不思議な……。



「や、そもそも誰ですかあんたたち」



タイガ:……。

ブルマ:……。

タイガ:そう……ここは所詮二次創作の別世界……。

ブルマ:私たちにはヒロイン枠はおろか、出番さえこうしてお兄ちゃんが死んだときにしかもらえないッスね……。

タイガ:にもかかわらず士郎は女の子とイチャイチャ……。

ブルマ:うぅぅぅぅ、こんな暴挙が許されていいのかー!

タイガ:否! 否よ弟子一号!! 今こそ私たちはこの不条理を打ち破るべく立ち上がるときなのよ!!

ブルマ:押ッ忍、必ずや私たちのヒロイン枠を勝ち取ってみせるッスー!

タイガ:(ま、どうせ最後には)

ブルマ:(私の単独ヒロインは決まってるんだけどねー)

タイガ:よーし、まずそのためには……。

ブルマ:諸悪の根源のお兄ちゃんをボッコボコだー!

タイガ:私の虎竹刀が真っ赤に燃えるわー!!

ブルマ:やっちゃえ、バーサーCar!!

 (爆発オチ)









「完全に八つ当たりだこれ!?」

 勢いあまって叫びながら飛び起きた。

「あ、起きた。衛宮君、大丈夫?」

 ここは……職員室のソファか。

「あ、あぁ、有瀬……剣道場で虎と巨人に襲われる夢を見た……」

「ず、ずいぶん具体的にシュールな夢だね……」

 確かに。
 あの空間はシュールと言うかこの世の特異点の集合体のようなものなのではないかと思う。

 のだが、急な目覚めによくあるようにあの生きた人間の進入しちゃいけない異次元の夢の記憶にはすぐに霞がかかっていく。

 代わりにとことこと決まり悪げな沙耶がやってくる。

「……その、悪かったわ、ちょっとやりすぎた」

「いや、こっちこそのんきに気を失ってる場合じゃないよな。どれくらい経った?」

「5分くらい。みんな休憩できたからちょうどよかったけどね」

 宮本が時計を見ながら答える。
 そんなものか。俺には長いとも短いともつかなかったが、皆が一息入れられたならば十分な時間だったのだろう。

「毒島先輩も、余計な時間取らせました」

「い、いや、君が平気ならいいんだ。私も少し悪乗りが過ぎたようだ」

 発端は状況をわきまえなかった俺なので非はこちらにあると思うのだが、そう言って2度3度と謝りあったところでキリがないのでお互い気にしないということで決着した。
 しかし困惑気味の毒島先輩も珍しいというか、俺が気絶している間に何があったんだか。

 と、いけない、だから今はそんな場合じゃないんだったな。


 こほんとひとつ咳払いをして、毒島先輩は場を仕切りなおす。


「さぁ、そろそろ休憩は終わりだ。皆、覚悟はいいな?」





 扉に作ったバリケードをどかし外の様子を見る。
 毒島先輩や孝らがここについたときに一掃しただけあり、職員室の前に<奴ら>の姿は見られない。

「最後にもう一度だけ確認する。決してまともに<奴ら>を相手しない、陣形を崩さない、可能な限り静かにすばやく移動する」

 毒島先輩の言葉を聴きながら共に後方を固める宮本と頷きあう。
 まず移動し続ける限り<奴ら>の足で追いついてくることはないだろうが、こちらは人数が多いしいかんせん何が起こるかわからない。
 万一足を止めなければならなくなったとき下手を打てば一網打尽もありうる。そうなった時は俺たちが砦だ。

「でも……ふふ」

「ん?」

 パイプレンチの具合を確かめていると、急に宮本がおかしそうに……どこか懐かしそうに笑い出す。

「ごめん、こうやってみんなで何かするのって久しぶりだなと思って。衛宮君や、高城さんと……それに孝と」

 今はもっと仲間がいるけど、と付け足して、沈痛な面持ちを浮かべる。

 宮本が何を考えているのかは分からない。
 いつの間にか疎遠になっていた俺たちのことか……ここにいない井豪のことか。
 いずれにせよ宮本の言葉は確かに頷ける。
 ああ、そうだ。こんなときでさえなければ、こうして皆で集まれるのはきっとすばらしいことなのに。

「……生き残らないとね、絶対に」

「ああ」

「みんな、行くぞ!!」

 先陣を切る孝の合図に、俺たちは職員室を飛び出した。






 幸いにも校舎に残っている<奴ら>はそう多くはなく、先頭が転ばせたそいつらを踏まないようにして一気に昇降口への道を進んでいく。
 足音を聞きつけて後ろからやってくるヤツもいるがこのペースなら追いつかれる心配はない。

 だがひと休みして気が落ち着いたからだろうか、先ほどよりも校舎内の様子が目に付くようになっていた。

 血に濡れた廊下。壊れた教室の扉。割れた窓ガラス。

 ────散乱する死体。

 手足も首も無残にへし折れているのは最初の暴走の犠牲者だろう。
 彼らは級友に押しつぶされて死んでいった。

 もはや人の形をとどめないまでに肉を、臓物を散乱させているのは、<奴ら>の犠牲者だ。
 <奴ら>に噛まれたものは<奴ら>になる……だがソレはもう<奴ら>として蘇ることすらできない、ただの"食べ残し"だ。
 彼らは級友だったものに食い殺されていった。

 沙耶も有瀬も、皆出来るだけそれを視界に入れないようにしているにもかかわらず、俺はそのひとつひとつを目に焼き付けていく。
 なぜかは分からない。
 ただ彼らの向かえた末路を……<奴ら>がもたらす死を刻み付けるように。


 ────キャァァァアアァァァァ!!


 前方から聞こえた悲鳴にハッと顔を上げる。

「階段のほうだ!!」

 足音を気にするのをやめ全力で足を動かす。
 階段に飛び込むと、踊り場で3人の生徒が<奴ら>に襲われている!

「おらぁッ!!」

 孝が躍り出て平野がそれを援護。
 俺もそれに続き、3人に手を伸ばす<奴ら>の体に両手で構えたレンチを叩き込んだ。






 道中<奴ら>から逃げ惑っていた生存者と合流していくうち、昇降口へたどり着く頃には俺たちは12人の大所帯になっていた。
 もう隠密行動の出来る人数ではないだろう。

 にもかかわらず、昇降口には強引に突破するには多すぎる数の<奴ら>が蠢いている。

「やたらいやがるな……」

 とっさに皆で下駄箱に身を隠し、その陰から様子を伺った孝がうんざりしたようにつぶやく。

「見えてないんだから隠れることなんてないのに」

「じゃあ高城が証明してくれよ」

「え、い、いやよっ」

 そりゃそうだ、いくら見えてないといってもあれの前に立つなんてごめんこうむりたい。
 だが現状はそうも言っていられない。

 選択肢としては全員で一気に通り抜けるか、1人ずつ息を潜めて進むか……。
 ダメだ、どちらもリスクが大きすぎる。

 あるいは平野の釘打ち機であればここから数を減らすことも可能かもしれないが、おそらくガスの抜ける音で感づかれる。
 昇降口はコンクリート壁で囲まれているだけに音がどれほど響くかも分かったものではない。

 ……そうなると。

「誰かが<奴ら>をひきつけるしかない、か」

 俺の考えを毒島先輩が引き継いだ。

 皆が押し黙る。
 誰か1人、あの中に歩み出て連中の気を引かなければならない……考えるだけでも血の気が引く仕事だ。行きたがるヤツなんていない。
 まして女の子連中に任せるわけにもいかない、となれば俺たち誰かが行くしかない。

 なら答えは決まってる。

「俺が、」

「僕が行く」

 な!?

 俺を遮ったのは孝だった。

「ちょっと、なんで孝が……!」

 すぐさま宮本が食って掛かるが気持ちは俺も同じだ。
 それに孝に危険な橋を渡らせて自分は見ているだけなんてとてもじゃないが耐えられない。

「それなら俺も、」

「2人で行ってどうするんだよ、士郎は毒島先輩とみなを頼む」

「けど」

「士郎、出番を取り合ってても埒がないぜ」

 そういって一歩踏み出す孝を、しかし俺は止める言葉を持っていなかった。
 確かにここでどちらが行くと言いあっててもキリがない、けど……!

「孝、なんで……? 全部面倒になったんじゃないの?」

「なんでかな」

 孝は下駄箱の陰から一歩踏み出しこちらに背を向ける。



「今も面倒だよ」



 そして顔だけ振り返った顔は、困り果てたような、泣き笑いのような、そんな表情をしていた。




 1歩、1歩と慎重に、布ずれさえ殺すようにして孝は<奴ら>の傍へと歩み寄っていく。
 見ているこっちの息まで詰まってくる。そのくせ静かにしたいという気持ちに反発するように心臓は高鳴っている。

 ひとつ脈打つごとにその音が<奴ら>の耳に届きやしないかと不安になるが、今その恐怖の只中にいるのは孝だ。
 それを見ていることしか出来ないのはもどかしいが、下手に動けばそれこそ全てが水の泡になる。それだけはなんとしても起こしてはいけない。

 この危険なギャンブルの賭け金は俺たち全員の命なのだ。

 <奴ら>の目の前まで歩みだした孝はどうにか<奴ら>のセンサーに捕らえられずにすんだらしい。ひとまずそのことに安堵の息をつく。
 それから孝は、足元に落ちていた靴を拾い上げ遠くへと放り投げる。俺たちとは反対のほうに飛んでいった靴は奥の下駄箱にぶつかって大きな音を立てた。
 ついその音に肩が跳ね上がりそうになったが、どうもそれは俺だけじゃなかったらしい。鞠川先生と目があってお互いに苦笑する。

 やがてぞろぞろと<奴ら>がそちらへ移動したのを確認し、孝が合図を出す。
 有瀬や沙耶、それに先ほど合流した女子たちを先に行かせ、俺や毒島先輩は最後尾につく。

 ふと、壊れた傘たてが目に入る。
 森田はあそこに串刺しになっていたはず……だが今その姿はどこにもなかった。
 やはり<奴ら>はあれしきのことでは死ぬことはなく……そして森田は、既に<奴ら>だったのだろう。
 ようやくそれを認識できたような気がしていた。

 ともあれこれでどうにか校舎は脱した。
 あとはバスに向かうだけだ。道中の<奴ら>も少なくはないだろうが、屋内と違って広い場所さえあれば、



 だがまるで、神か運命か、そんなものがまるで俺たちが逃げ出すことは許さないと申し渡すかのように、獲物はそこだと<奴ら>に向けて打ち鳴らされた鐘のように。
 その音は昇降口に長く長く響き渡った。



「!?」

「あっ……」

 金属同士を打ち鳴らす不快な音に振り返ると、防犯用の刺又を持った少年が顔を真っ青にしている。おそらくそれがどこかにぶつかったんだろう。

 何十、何百という目がこちらを向いた気がした。

「走れ!!!」

 孝の怒声に弾かれるように、皆がいっせいに駐車場へ向けて走り出す。

 先ほどの音に気づいた<奴ら>が、次は孝の声と俺たちの足音に標的を定めのろのろと歩き出す。

「なんで声出したのよ!! 黙ってれば手近なヤツだけで……」

「あんなに音が響くんだから無理よ!!」

 沙耶と宮本が言い争っているが、それどころじゃない!

「とにかく走れ!! 早く!!」

 思わず怒鳴り声を上げ、またその声に<奴ら>が釣られるのを見て悪態をつきそうになる。

 くそ、なんて数だ……ッ!!

 おそらく生徒ばかりではなく、外から侵入したヤツもいるのだろうが、それにしても数が多い。
 あるいはそこらにいたやつらがこぞってここっちに押しかけているものだからそう見えるのかもしれない。

 いずれにしろ一度つかまったら終わりなことには変わりがない。
 群がる<奴ら>を突き、払い、打ち倒しながら俺たちは走り続ける。

 やがて不気味に揺れ動く人垣の向こうにバスが姿を現す。
 距離はもう……いや、最初からそれほど長い距離ではないのだ。だが<奴ら>の存在が、その道のりを倍にも3倍にも感じさせる。

 けどそれももうすぐ……、

「うわぁ!?」

「!?」

「卓造!!」

 声に振り返ると、卓造と呼ばれたバットを持った少年が首からかけたタオルを<奴ら>に掴まれている。
 畜生ッ。
 内心叫びを上げすぐさま戻ろうとするが。


「ぐ、ぎゃぁぁあああぁぁああ!!?」


 噛まれた。
 腕の肉を抉り取るように噛み千切られた。




 ────<奴ら>に噛まれたものは<奴ら>になる。




 職員室で聞いた恐ろしい言葉がリフレインする。

 少年の名を叫ぶ女子生徒が、彼の元に駆けつけようとして沙耶に止められる。

「あきらめて、噛まれたら逃げても無駄よ……!!」

「……ッ!!」

 だが彼女は、戻った。
 沙耶の制止を振り切り、今まさに犠牲になっている少年とその体に群がる<奴ら>の元へ。

「なんで、なんでよ!! ちゃんと教えてあげたのに……信じらんない!!」

 ありえない、と叫ぶ沙耶に、しかし答えた鞠川先生の言葉はひどく絶望的なものだった。

「私、分かるわ」

「ッ!!」

「もし世界中がこんなになってしまったなら、死んだほうがましだもの」

 ……死んでしまったほうがまし?

 だから、彼女は戻ったのだろうか。
 それともただ彼の元にいたかっただけなのだろうか。一度かまれてしまえば、もう彼でも彼女でもいられなくなるのに。

 噛まれたら、もう無駄なのに。


 だから、



 無駄だから、見捨てていく?



 1.「そんな馬鹿な話が、あるか」助けに戻る。
 2.「諦めるしか……ないか」助けに戻らない。

(ヒロイン人気であんまり参考にならなかった気がするけど、今回はまた5票先取に戻してみます)








/*/




「ヒロイン投票だし20人くらい釣れるんじゃね?wwwww」



 感想数105→158



( ゚д゚) ……
 
(つд⊂)ゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚)……!?




 5票先取であれば毒島先輩に即決していたところですが、開けてみればかなりのデッドヒートに。
 スタートダッシュを決めたのは毒島先輩でしたが沙耶も負けじと追い上げ、一時は同点どころか抜きつ抜かれつの激しい攻防。
 しかし後半、元祖お姉さま系の底力を見せ付けたか、怒涛の走りを見せ結果沙耶に8票の差をつけ勝利。
 総票数50票、毒島先輩26pt、沙耶18ptという結果に終わりました。

 え、有瀬? 地味に6票ほど頂いていました。よかったね。

 結論:お前ら食いつきすぎである。


■感想レス

>士郎の剣化現象は固有結界の暴走。

 ・あ、はい、一応その辺の認識は持ってました。
  ただそれがどういう過程で起こっているのかなとか思って……ちょっと……お願いもう突っ込まないで! 深く考えて言ったわけじゃないの!


>さて、どれが死亡フラグだ?

 ・いい感じに疑心暗鬼になってきてますNe。
  流石の私もヒロインチョイスの選択肢に死亡フラグは仕込み…………マセンヨ?
  これホント、インディアンウソつかない。


>剣、槍、弓……三騎士みたいだ。

 ・それ聞いて本編で採用すること決定。


>エミヤがまた磨り減るwww

 ・お疲れ様です抑止力さん。
  まあ、ワールド的に学園黙示録メインなので抑止とかは単語すら出ないかと。
  よかったねエミヤ!


>誤字報告。

 ・多謝です! 直します!




 さて、次回で学園編終了。
 それに伴いフローチャートの公開とタイトルナンバリングの整備を予定しちょります。
 ではまた。





[6377] 1-6A
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/21 09:26


「そんな……そんな馬鹿な話があるか……ッ!!」

「士郎!?」

「衛宮君!?」

 俺は駆け出す。来た道を戻るように。
 沙耶たちの制止の声が聞こえるが、それに従うことはなかった。



 世界が変わってしまったから、だから死んだほうがいいなんて、そんなのは絶対におかしい。
 だってそれは、昨日まで彼らが過ごして、生きてきた日々すら否定してしまうことだ。

 確かに分かる。
 もうこの世界は俺たちの知っていた昨日までじゃない。
 生きていることが当たり前だったあの日々はなく、死が形を持って襲い来る狂った世界だ。
 ただ1秒を生き抜くことが死ぬことに比べてバカみたいに難しい。

 でもそれで死んでしまったら。
 彼らが築いてきたものも、これから築くはずのものも、それを自分から否定するなんてあまりに馬鹿げてる。


 そして何より。


 俺は、


 衛宮士郎は、




 血と、炎と、そして死だけが渦巻く世界に取り残されることの絶望を、誰よりも知っているのだから────!!!




 走る。
 あらん限りの力を足に込め、<奴ら>に取り囲まれている2人に向かって全力で走る。
 ともすれば汗で滑り落ちそうなパイプレンチを両手でしっかりと握り締め、これでもかと振りかぶる。

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 両腕の筋が伸びきるかというほどの勢いで振りぬいたレンチは、女生徒の体を貪る男の頭部を捕らえ吹き飛ばす。
 男はそのまま男子生徒に喰らいついている1人を巻き込んで崩れ落ちた。
 そのままもう一撃、上段に振り上げ体操服姿の少年だったものの頭を打ち砕く。
 その間にこちらに寄ってこようとした男を蹴りで弾き飛ばすと、それでやっと襲われていた二人の姿が見えた。



「…………ッ!」



 分かっていた。
 どれだけ急ごうと2人が手遅れなことは、とっくにわかっていた。

 女生徒は首筋を食いちぎられ、そこから溢れた自分の血でできた池にうつぶせに倒れている。
 もう意識はないだろう。ただ電気的な反応によって体がびくびくと痙攣しているだけだ。

 男子生徒のほうはもっと酷い有様だった。
 体中傷がないところを探すほうが難しいほどに歯を突き立てられ、破れた腹から内臓が半ば引きずり出されている。
 だが彼の最も悲惨だったことは、そんな状態でいてなお、意識を保ってしまっていたことだろう。

 その場に膝をついて、すがりつくように伸ばされた手を掴む。

「あ、ば……だず、け……」

 ごぼごぼと口から溢れる血に混じって、



 ────助けて。



 ────助けてくれ。



 ────おいていかないで。



 俺は、確かに聞いた。
 まるで呪いのように響くその声を。

 弱弱しく握られた手を強く握り返す。


「……ああ、助けに来た。だからもう大丈夫だ」


 それが聞こえたのかどうかは分からない。
 彼はそのまま目を閉じ、ピクリとも動くことはなくなった。


 ────安心したように微笑んだように見えたのは、俺の気のせいだったのだろうか。


 のろのろと力の入らない膝を持ち上げる。
 もう、行かないと。
 だがせめてこの2人が起き上がらないように……。

 そう思い持ち上げかけた腕を掴む手があった。

「!?」

 しまった、いつの間に……ッ!!

「待て、私だ!!」

 反射的に振り上げかけた手を下ろす。
 毒島先輩だった。

 ひゅっと木刀が走り、俺の後ろにいた<奴ら>の頭を叩き割る。

「何を考えてるんだ君は!! ここまで来て死ぬつもりか!!」

「ッ!」

 違う。

 死にたいだなんて思っていない。

 ただ……。

「…………話はあとで聞かせてもらう。今後ろから来た紫藤先生の一団が乗り込もうとして出発が遅れているようだ、私たちも乗り遅れないうちに行くぞ」

 バスのほうを見ると確かに見覚えのない──といってもほとんどが生徒だが──連中がバスに乗ろうとしているところだった。

 俺の手を引いて毒島先輩は歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 思わず足を止め、振り返る。
 ついさっきまで俺たちと逃げていたあの2人は、幸いまだ起き上がってくる気配はない。

 俺の意図を察してくれたのか、毒島先輩も歩みを止め2人の亡骸に向き直った。
 無言のまままっすぐに木刀を振り上げる。
 俺も親父さんに習っていたから、少しは剣のこともわかる。こんなときでさえなければ、見惚れてしまいそうなほどに綺麗な構えだった。

「せめて、安らかに」

 二度。
 目で捉えきれぬほどの速さで木刀が振られ、2人はもう二度と起き上がってくることはなくなった。
 その姿を決して忘れないように、胸の奥底に焼き付けた。

「……すみません、毒島先輩」

「構わない。それよりもそろそろ行かないと本当に、」

「士郎ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」

「っ!」

 沙耶の声。
 そして……バスのエンジン音!?

「士郎、毒島先輩、早く!!!」

「急いで衛宮くん!!!」

 ぼぼぼぼぼぼ、と大型車特有の低く断続的に響くエンジン音を立て、バスは駐車場を離れだしている……ッ。
 俺たちの周りにいた<奴ら>はその音に引かれているが、この状況じゃ何の慰めにもならない!

「く、どうやら短気なのが乗ってるらしい。急ぐぞ衛宮君!」

「ああ……ッ!」

 重くて邪魔になるパイプレンチを捨て、バスに向けて力の限り足を動かす。
 毒島先輩は木刀を捨てていないが、膝下まで覆う長いプリーツスカート──本当のところは沙耶たちが短すぎるのだ──を引き裂いて、モデル顔負けの長い足を大きく振って走り出す。
 風に瞬くスカートの陰に下着まで見えそうになるが、残念ながらそんなことを気にしている余裕はなかった。

 バスはゆっくりと駐車場を出ようとする。そうなったらあとは校門に向かって一直線だ。

 間に合え……ッ!

 前に立つ<奴ら>を障害物競争のようにかわしながら、ひたすらに足を動かし続ける。
 
 走れ、走れ。

 早く……もっと早く!!

「士郎! 早く、急いでぇ!!」

 タラップに立つ沙耶の声がする。
 その向こうに、運転席から泣きそうな顔でこちらを見る鞠川先生と……俺たちに目もくれていない紫藤の姿が見えた。

 バスはもう校門へ向かってスピードを上げ始めている。

 先にバスに追いついたのは毒島先輩だった。
 タラップで振り返り、こちらに向かって手を差し伸べる。

「つかまれ!!」

「ぐ……ッ」

 走りながら力いっぱい手を伸ばす。
 あと一歩が届かない……!
 指先がわずかにかするばかりで…………ッ!

 届け、届け……。

 届け……ッッ!!

 とどい………………たっ!!!

「よし!! 掴んだ、飛べ!!」

 毒島先輩と繋がった手を手繰り寄せるようにして思い切り足を踏み切る。
 そして伸ばした足は、どうにか危ないところでタラップを踏みしめることに成功した。

 一気に全身から力が抜ける。
 危なくそのまま崩れ落ちそうになったところを毒島先輩に支えられてしまった。いくらなんでも男として情けないぞ、俺。

 バスは既に全速に近く、校門が飛ぶように迫ってくる。

「た、助かった……ありがとう、先輩……」

「いや……まったく、君のおかげでずいぶん冷や冷やさせられた」

 面目次第もない。

 運転席の鞠川先生もほとんど本泣きでハンドルを握っている。

「よかったぁ~2人とも間に合って……あのままじゃ私たちも囲まれ…………危ないッ!!」






 え?






 という暇もなかった。

 体が浮く。
 俺と毒島先輩の……いや、車内にいる全員の体が一瞬浮いた。

 その時は何が起きたのかわからなかった。
 だがおそらくは車の前に来ていた<奴ら>の体を跳ねたか、あるいは死体か何かをタイヤで踏みつけてしまったのだろう。

 ただ致命的だったのは、俺たちがまだタラップに立っていたことと、扉が開いたままだったことで。


 一瞬の浮遊感。


 次の刹那には俺の体は背中から地面に叩きつけられていた。

「が、は……ッ!?」

 あまりに突然のことに混乱したまま、俺たちはごろごろと地面を転がっていく。
 ひとつだけ意識していたのは、腕の中にある毒島先輩の柔らかな体を、絶対に傷つけてはならないということだけだった。

 じわじわと俺たちを取り囲む<奴ら>の姿が、視界の端に映っていた。












 ─Interlude─



「士郎! 士郎ーーーッ!!」

「鞠川先生、止めて!! 早く!!」

「あ、え、えぇっ!?」

 車が大きく揺れたと思ったら、2人の姿が消えていた。
 あまりのことに孝は、一瞬何が起きたのか理解することが出来なかった。麗が何故必死に車を止めようとしているのか。

 落ちた……?
 士郎と毒島先輩が、車の外に放り出された?

 かなりのスピードに乗り始めていたバスはあっという間に落ちた2人を置き去りにしていく。
 鞠川はまだ混乱しているらしくアクセルを緩めようとしない。

「先生、ブレー……」

「いけません!!」

「なっ」

 紫藤だった。
 神経質な、どこか人を見下す蛇のような目を鞠川に向け、声音だけは優しく語り掛ける。

「今バスを止めれば私たち全員が犠牲者になりかねません。鞠川先生もわかっているはずだ、このバスは止まってしまえば只の棺おけだと」

「でも、でもそんな……ッ」

 何を言ってるのか、孝に理解できなかったわけではない。
 確かにバスを止めてしまえば全員が危険に晒されることになる。このマイクロバスでは一度囲まれたら<奴ら>を跳ね飛ばして進むのは困難だ。

 それに。
 
 自分たちは既に一度、あの逃げる途中で噛まれた生徒を、取り残された誰かを見捨てることを選択したのだ。
 士郎だけがそれに逆らった。そして、落ちた。連れ戻しに行った毒島先輩と共に。
 それが現実だ。
 少しでも判断を誤れば自分はおろか、仲間の命も奪う結果になるのだ。

 その判断のラインを、彼らが仲間だからと……士郎が幼馴染で、今ここにいる少女の弟だからと曲げてもいいのか。
 今の孝にはまだ判断をすることが出来なかった。

 バスはなお走り続け、もう士郎たちの姿を見ることも出来ない。
 有瀬は窓に張り付いて泣き続けているし、平野は無表情に釘打ち機を弄繰り回している。
 タラップに立ち尽くす沙耶を麗が中へと連れてきて、孝の座る席と通路を挟んだところに腰を下ろした。極力紫藤を視界に入れないようにしながら。

「あなたは間違っていません、正しい判断をしたんですよ鞠川先生。彼らは運と……あと少々分別にかけていたようです」

 そんな中でも紫藤は、いっそ得意げに演説を続けている。

「それにしても、毒島さんのような方がいなくなってしまったのは非常に残念です。集団にはリーダーが必要ですからね……目的と秩序をはっきりさせるリーダーが」

 ────ああ……やっとお前の言葉の意味が分かったよ、麗。

 紫藤を乗せたら後悔する。
 孝は今まさにそれを実感していた。

 拳を握り締め席を立つ。
 どうしても紫藤に一発拳を入れてやらなければ気がすみそうになかった。

「小室、やめて」

 だがそれを止めたのは、麗と共に席についていた沙耶だった。

「高城……?」

「高城さん……」

「車を止めてたら私たちが危なかったのは事実よ」

「けどだからって……ッ」

 紫藤は彼ら……いや士郎のことを"無分別だ"といった。
 確かにそうかもしれない。誰かを助けるために自分たちを犠牲にするなんて愚の骨頂かもしれない。

 けど士郎は、ただ純粋にあの2人を助けたかっただけなのだ。
 常日頃彼がそうだったように、この狂った世界で、士郎はただ今までの自分を貫き通そうとしただけだ。

 それを馬鹿にされて黙っていられるほど、孝は大人ではなかった。

「言わせておけばいいわ……それに2人は生きてる」

 だがその沙耶の言葉に、孝は目を丸くせざるを得なかった。

 ついに自分を保てなくなったか?
 沙耶はこんなときに真っ先に安っぽい希望を打ち消し、常に最悪を考えて行動する少女だった。
 その沙耶が2人は生きているという……孝にはとてもではないがそうは思えなかった。

「高城さん……たとえバスから落ちて無事だったとしても……」

 平野もその希望はまやかしだと言うかのように口を挟む。
 言葉と内容にデリカシーはかけるかもしれないが、平野なりに沙耶の身を案じてのことだろう。
 麗も沙耶の体を支えるように肩に手を添えている。

「何よ、デブヲタの癖に反論するわけ? ま、確かにあの状況なら死んだと考えるのが普通だけどね」

 だが孝たちの思いに反して、沙耶の様子は正気に、普段どおりの彼女に見えた。

「けど士郎は、いつもはトウヘンボクのアンポンタンだけど、いつも本当にヤバいときは自分の判断で何とかしてきたわ。だから今回も……いいえ」

 まるで自分は天才だと当たり前に称するときのように……いやむしろそれよりも自信と……信頼に満ちているように。


「そうであってもらわないと困るわ。このアタシの弟なんだから……!」


 それは沙耶が弟に対して捧げる絶対の信頼。
 自分が姉である以上、いつだって弟を正しいほうに引っ張って……けど彼が決めた最後の一線は、絶対にそれを信じる。
 それが彼女の、たとえ血が繋がっていなくても姉たるものの矜持だった。


「あの、わ、私も信じます。さっきチラっと衛宮君たちが立ちあがるのが見えたから。囲まれて、学校のほうに逃げてたけど……」

 おずおずと手を挙げたのは有瀬だった。
 確かに彼女は最後まで窓からはなれず2人の様子を見ようと躍起になっていた。

「それに、毒島先輩はその、すごく頼りになりそうだし」

「ちょっと、それじゃ士郎が頼りない……のは事実ね。ま、あの人、毒島先輩が使えるっていうのは認めるわ」

「あ、そ、そういう意味じゃなくて……!」

 ここで素直に頼れると言わないのが彼女らしさか。
 そして士郎への評価が低いのはデフォルトだ。

 孝は士郎が、沙耶がうらやましくなった。
 信じる……というのは、この世界では生きることについで難しいことだろう。
 生きた人間だっておかしくなるのは、職員室で観た略奪に走る住人たちの映像や、今ここにいる紫藤のおかげでなんとなく分かる。

 それでも、そんな世界でも信じられる相手は決して多くない。

「そう、だな……士郎はあれで結構しぶといやつだよな」

 だから自分も信じることにした。
 きっとまたどこかで会える。

 今はまだ、一方的な……それこそ置き去りにしたことへの罪悪感から来る想いかもしれない。
 だがそれをいずれ本当の信頼にしていきたいと、確かに思ったのだ。

(そのためにも……絶対に死なないでくれ。士郎、先輩……!)



 ─Interlude out─









 先に起き上がったのは毒島先輩だった。

「く、つ……衛宮君、無事か?」

「ぐぅ……毒島先輩は……?」

「私は君のおかげで無傷だ。だが君はもろに地面に落ちたんだぞ」

 確かに、背中がめちゃめちゃ痛い。
 何せ背中を強打するのは本日3度目だ、もう痣だらけになってるだろう。手足も転げたときにあちこちすりむいてひりひりしている。
 だが動けない傷じゃない。耐えられない痛みではない。
 ならば、大丈夫だ。

 それに俺の傷より毒島先輩が無傷でいてくれたことのほうが重畳というものだ。

「俺は平気です……。それより、」

 先輩の手を借り痛みを喉の奥に押し込めながら立ち上がる。
 道の先を見ると、遠ざかっていくバスの後姿が見えた。

 同時に俺たちの前に立ちはだかる<奴ら>の姿も。

「どうやら完全に置いていかれたらしいな」

「悪い……俺のせいで先輩まで巻き込んじまって」

「その話は後にしよう。それよりどうする? 私の木刀もどこかに行ってしまった……ここで諦めるか?」

 諦める?

 確かにもうこのままバスに追いつくのは難しいだろう。
 街に出る道も<奴ら>に塞がれつつある。素手で通るのは自殺行為だ。

 だけど、諦めるという選択肢を選ぶわけにはいかない。
 ここで諦めるということは、つまり毒島先輩の命を諦めることだ。そんなこと許せるはずがない。

 考えろ、考えるんだ。

 徒歩で抜けるのは難しい。
 せめて車両があれば……いや、だが今からキーを捜すのはあまりに……。


 待てよ?


 じっと手のひらを見つめる。
 出来るかどうかはわからない。今まできちんと成功したためしはないのだ。

 だが"この方法"なら、仮に失敗したとしても何とかなるかもしれない。


 後ろを振り返り道を確認する。
 前はふさがれているが、バスの通ってきた駐車場までさかのぼる道はどうにか戻れないことはなさそうだ。

「諦めない。先輩の命を諦めるようなことは絶対にしない」

「……君は本当に、」

「きてくれ、駐車場にまだ車が残っているはずだ!」

 毒島先輩を伴ってきた道を引き返す。
 正直もう足はくたくたで気を抜けばすぐに崩れ落ちそうになるが、そこにどうにか渇を入れてひたすら前へ前へと動かしていく。

 どうにか<奴ら>の手を避けながら駐車場に駆け込み、ざっと辺りを確認する。

 出来れば車が安心なのだが、正直きちんと運転できる自信がない。
 大雑把なイメージは出来るのだがそれではいざと言うときが不安だ。

 なので探すのはバイクの類だ。
 そちらなら以前高城家でバギーを運転させてもらった経験もあるし、何とかなるだろう。

 目に付いたのは黒塗りの大型スクーターだった。
 確か以前、スピードと取り回しに難があるが安定感があり初心者も乗るのは簡単だと聞いた覚えがある。
 バイク乗りからすれば酷く取り回しづらいというが大型で重量がある分には非常にありがたい。
 あれなら毒島先輩とタンデムする分にも問題ないし、多少であれば<奴ら>の囲いを突破することも出来るだろう。

「あれにしよう」

 毒島先輩の手を引いてスクーターに駆け寄る。
 案の定キーはついていない……当たり前か。

「しかしどうするつもりだ? 今からキーを捜すというわけにもいくまい」

「先輩は辺りを警戒しててくれ、俺が何とかする」

「? あぁ……」

 平野辺りならこういうときにキーがなくてもエンジンをかける方法を知っているのかもしれないが、あいにくそんな芸当は出来ない。

 そこで俺は俺に出来ること……俺の使える"反則技"を使うのだ。
 
 見張りを先輩に任せ、俺はスクーターにまたがり意識を集中させる。
 深く、深く自らの裡に埋没していく。
 そして回路を……俺の体にもうひとつの"神経"を張り巡らせる。


 これが俺の魔術の難所だった。
 ゲームや漫画の魔法使いのようにぱっと出したいものが出せればどれほどか簡単なのだが、あいにく現実にそうはいかない。
 魔術を使う時はまずこうして"神経"を造りださなければいけない。
 しかもそれは強い意識の集中を要する上に、ひとつ間違えれば全身を激痛が襲い……おそらくは、死に至る。

 それでも俺は、魔術を使うことを止めようとは思わなかった。
 これはきっと俺にとって大切な何か……心のどこかでそんな確信があったからだ。


 極限状態だったせいだろうか、神経の構築は今までになくスムーズに出来上がった。
 これなら行ける。
 今まで魔術を使ってきた中で感じなかった手ごたえを感じる。
 やはり人は追い詰められると底力を発揮するものなのだろうか。

同調開始トレース・オン

 己を律するワードを唱え、スクーターの鍵穴に手をかざす。


 俺が■■から教わった魔術は『■■』と『■■』。だがそれが何かを思い出すことはまだ出来ない。
 出来ることは、その過程を利用して物の構造を解析することと、その品の模造品を作ることだけ。
 今までは修理を要する箇所を覗くばかりだったが、今回はそれを応用する。


 このスクーターの鍵を"見たこと"はない。だが俺は鍵がどんなものかは知っている。
 後は受け皿となる側の形状さえわかれば……。


「衛宮君、そろそろまずい。まだ出来ないか!?」


 スクーターの構造が脳裏に展開していく。
 車体の詳細なデータ、フレームの構成、エンジンのスペック、だが今はそれらを即座に破棄。
 俺の脳が理解しきれない電子制御部分の情報も全て捨てる。
 重要なのは鍵穴だ。

 キーシリンダーのピンの位置、形状を全て頭に叩き込んでいく。
 そして手に入れた情報を元にもうひとつの魔術を構築。
 シリンダーの形状から組み立てた設計図を回路に流し込んでいく。

■■開始トレース・オン……ッ!」

 全ての神経を集中させ、一気に解放する。

 そして開いた手のひらには……。

「出来、た……」

 間違いなく、このスクーターを動かすためのキーが完成していた。

「……? その鍵はどこに……」

「あとで説明する、それより今は……!」

 シリンダーにキーを差込み捻る。
 あっけないほどすんなりとはまり込み、キーはこの物言わぬ鉄の馬の目覚めを促した。

「乗って!」

「よし……安全運転で頼むぞ」

「<奴ら>に飛び出してこないように言ってくれ!」

 アクセルを捻り上げエンジンに火を入れる。
 スクーターは徐々にスピードを上げ、勢いをつけるために駐車場を一周、校門に差し掛かる頃には時速50km以上に達した。

 校門をふさぐ様にひしめく<奴ら>めがけ、大振りな車体を突っ込ませる。

「しっかりつかまって!!」

「大丈夫だ、いつでもいいぞ!」

 背中に当たる暖かくやわらかい感触と、耳元で聞こえる声に毒島先輩の存在を確かに感じながら、俺は一層アクセルを捻りこむ。






 そして俺たちは、俺たちの日常の象徴であった……そしてこの地獄の入り口となった藤美学園を、ようやく脱出したのだった。










/*/



 学園脱出編終了。
 次回からチャプター2に入ります。

 さて、投票ルールなのですが、今日チェックしてみたところ投稿からわずか1,2時間で5表に達するという事態に。
 これではあんまりだろうと思うので、次回からは『投稿時から24時間の投票期間を設ける』と言う形でやっていきたいと思います。

 というわけで投稿場所もチラ裏を脱出し、その他板に移動しました。
 チラ裏を出るのは初めてなので超ビビッてます。生暖かい目で見ていただけると幸いです。


 追記
 ・自分で書いておいてなんですが現物を見ていない鍵の投影は無理なんじゃねえかな……とか思ってたり思ってなかったり。
  が、出来たら面白いなーってことでやってみました。
  投影できるのはシリンダー錠や南京錠などの単純なもののみ、電子キーとかの類は一切無理と言うことで。




[6377] フローチャート:学校脱出まで
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/16 00:30

 ○見方
  ■:ルートナンバー、概要
  ◆:分岐ポイント
  ◎:選択肢
  ◇:フラグ
  ☆:好感度?

 ■1-1:工作室:プロローグ。小室、沙耶と会話。
 └◆『鍵を返しに行くか森田を追いかけるか』
  │
  ├◎[鍵を返しに行く]─■1-2A:管理棟:逃げる最中の小室、宮本、井豪と遭遇。脇坂に噛まれ<奴ら>に。(Dead End 1)
  └◎[森田を追いかける]
   │
   └■1-2B:昇降口:有瀬と遭遇、<奴ら>になった森田に襲われ撃退。
    └◆『どこに逃げる?』
     │
     ├◎[外に逃げる]─■1-3A:中庭:逃げる途中有瀬が<奴ら>に噛まれる。その後<奴ら>になった有瀬に襲われ死亡。(Dead End 2)
     ├◎[教室に向かう]─■1-3D:階段:教室に向かう途中上の階から来る生徒の波に飲み込まれ死亡。(Dead End 3)
     ├◎[保健室に向かう]
     ││
     │└■1-3B:保健室:鞠川、冴子と遭遇。☆冴子+1。職員室へ向かうことに。
     │ └◆共通分岐『この先の覚悟を聞かれる』へ。
     │
     └◎[工作室へ向かう]
      │
      └■1-3C:工作室:高城、平野と遭遇。☆高城+1。職員室へ向かうことに。
       └◆共通分岐『この先の覚悟を聞かれる』
        │
        ├◎[覚悟できる]─■1-4A:職員室前:沙耶が襲われているところに身代わりになって噛まれ、冴子に介錯される。(Dead End 4)
        └◎[覚悟できない]
         │
         └■1-4B:職員室:小室、宮本、平野、鞠川、沙耶、冴子らと合流。バスで逃げる方針決定。
          └◆『誰が好み?』
           │
           ├◎[冴子]
           │└◇冴子:ON。☆冴子+1。■1-5へ。
           │
           ├◎[有瀬]
           │└◇有瀬:ON。☆有瀬+1。■1-5へ。
           │
           └◎[沙耶]
            └◇沙耶:ON。☆沙耶+1。■1-5へ。

 ■1-5:職員室~中庭:誰が好みか答えひと悶着。その後バスへ向かう途中男子が噛まれる。
 └◆『戻るか否か』
  │
  ├◎[戻る]
  ││
  │└■1-6A:中庭:◇フラグチェック。
  │ │
  │ ├◇冴子ON─■救出に失敗し、冴子と共にバスに乗りそこね大型スクーターで脱出。◇冴子:OFF。■2-1へ。
  │ │
  │ ├◇有瀬ON─■救出に失敗し、有瀬と共にバスに乗りそこね大型スクーターで脱出。◇有瀬:OFF。■2-1へ。
  │ │
  │ └◇沙耶ON─■救出に失敗し、沙耶と共にバスに乗りそこね大型スクーターで脱出。◇沙耶:OFF。■2-1へ。
  │
  └◎[戻らない]
   │
   └■1-6B:中庭:結局戻ろうとするが有瀬に止められる。有瀬とともにバスに乗りそこね大型スクーターで脱出。◇有瀬2:ON、冴子・有瀬・沙耶:OFF。■2-1へ。




[6377] 2-1
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/21 09:25




 ■Chapter 2...



 惨劇の坩堝と化した学園を脱出した俺と毒島先輩は結局それが地獄への門をくぐったに過ぎないことを徐々に感じ始めていた。

 藤美学園はどちらかと言えば郊外に位置し、校門を出てしばらくは開けた景色の中にスクーターを走らせることになる。
 広い土地には民家よりも田畑が多く、強引な土地再開発で築かれたマンションが点在する以外は道も広く閑散としている地区だ。
 <奴ら>の姿もほとんど見えずのどかな風情さえ感じてしまうほどだ。

 だが、確かに俺たちの知っている街とは違っている。

 遠くに見える市街地からはいく筋も黒煙が立ち上り、道のところどころでは車同士が衝突して大破している。
 時折道端におびただしい量の血痕を見かけることもあった。

 そしてなによりも。


 あまりに人の気配がなさ過ぎた。


 常であれば畑仕事をする人々ぐらい目にするものだが、人影はおろか対向車とすれ違うことさえない。
 ここまでで見かけた動くものと言えば大破した車の中でもがく人影くらいだが、それは既に<奴ら>となっていた運転手だった。

 ここはそんな、よく見慣れた異界だった。

 その中をひたすらスクーターで飛ばしていく。
 学園から市街地まではほぼ一本道だ。バスを追いかける以上この道を走り続けざるを得ない。





 得ないのだが。





 正直、俺はすごく困っていた。



「あの……毒島先輩、そんなにくっつかなくても……っ」

 当たってるのだ。色々とこう、やわらかくてあったかいものとか、ぴっとり、いや、みっとりと。

「何か言ったか? エンジンと風の音でよく聞こえないんだ」

 だからって肩ごしに顔を耳に寄せてささやかないで欲しい。
 確かにそのほうがよく聞こえるが吐息が、吐息が……ッ!

 俺の腰に手を回し隙間ないほど体を密着させているせいで先輩の熱が、存在がダイレクトに伝わってきて気を抜けば運転から意識がそれてしまいそうだ。


 ────体は剣、体は剣、体は剣。でも心は硝子。


 どこかで聞いたような聞いてないようなフレーズを繰り返し刻んでどうにか運転に集中する。
 しかしスクーターを転がすのなど初めてなのにもかかわらずこの状況は正直ハードルが高すぎる。もしかして何かの罰か。

「しかし拍子抜けするほど静かだな。このまま何事もなく追いつければ幸いなのだが」

「ど、どうかな。確かにそれが一番だけど」

 ただし俺限定で現在エマージェンシー発動中ですが!

 吹き付ける風にぱたぱたと布のはためく音がする。

「ん……やはりスカートでバイクに跨るものではないな」

 なんかさらっと聞き捨てならないことをおっしゃるうさぎさん。
 いや待て、考えてみるとさっき毒島先輩は走るときにスカートを引き裂いていたような……。

 いやいやいやいやいや待て待て考えるな考えるな見るな俺!

「衛宮君」

「うぁい!?」

 またぽそりと耳元で名を呼ばれ思わず変な声が出てしまう。
 すわ不埒な考えに気づかれたかと思ったがそうではなく、その声音に真剣なものが含まれていることには続いた言葉を聞いてやっと気づいた。

「2つ聞きたいことがある。構わないか」

「…………俺に答えられることなら」

「君にしか答えられないことだ。まずはこのスクーターの鍵……それはどこから取り出した?」

 予想はしていたことだが……やっぱり聞かれるよな。
 毒島先輩はハンドルの下に差さったキーを指差している。

「それは……カウルのポケットに、」

「言えない、ということか?」

 あらかじめ用意していた答えも言い切る前に斬って捨てられる。
 彼女も薄々気づいてはいるのだろう。
 この鍵が真っ当な手段でもって手に入れたものではないことに。

 毒島先輩はそれ以上口を開くことはしなかった。追求しようともせず、ただ俺の答えを待っている。

 話しておいたほうがいいのだろうか。
 あまり口外すべきことでも、進んで話そうと思う内容ではないのは確かだ。
 だが、こう思うのは自惚れかもしれないが、俺と彼女は今互いに命を預けあっている。2人とも武器はなく、辛うじて足を確保できているに過ぎない。
 状況が状況だ、相手のことを信頼できなければすぐに破滅が訪れるだろう。

 "魔術"のことを口にすることで、彼女の信頼を得られるか失うことになるかはわからない。


 ────ただ、


 スクーターのアクセルを緩め徐々にスピードを落としていく。
 若干ふらつきながら足を外に出し、車体を完全に停止させた。

「……衛宮君?」

「少し込み入った話になるから、運転しながらだと話しにくいんだ」

 あまり上手い手ではないが、このあたりは見晴らしも良いし周囲に<奴ら>もいない。奇襲を喰らう心配はまずないだろう。
 バスに追いつけるかどうかだけがネックだが……毒島先輩はひとつ頷くとひらりとスクーターのタンデムシートを飛び降りた。

「わかった、それなら歩きながらにしよう」

 続いてシートを降りスクーターを押しながら毒島先輩と並び歩き始める。
 そして、どこから話したものか考えながら口を開いた。





「説明、っていっても俺もこれが何なのか分かっているわけじゃないんだ」

「……どういうことだ?」

 ごろごろとタイヤが転がる音を聞きながら、かいつまんで俺の"能力"について、自分でも改めて整理しながら説明していく。

 まずものの構造を読み取ることができ、それを複製することが出来ること。ただし出来上がるもののほとんどは出来損ないのガラクタになってしまうこと。
 力を行使するには強く意識を集中させ擬似的な神経のようなものを作る必要があり、それには多大な労力と命の危険が伴うこと。
 スクーターのキーはそれらを応用して作った"コピー"であること。

 そしてそれらを、俺は"魔術"と呼んでいること。

 毒島先輩は口を挟むことなく最後まで聞き終えると、目頭を押さえて軽く俯いてしまう。

「…………真っ当にいけば、君がごまかそうとしているか私をおちょくろうとして適当な話をしていると思うところだが」

 まあ、信じろというほうが無茶な話だろう。

「ウソだと思うならそれでいい。ただ少なくとも俺にとってはこれが真実なんだ」

「……いや、そうだな。すまない、君がそんな嘘で他人を貶めようとする人間でないことは知っていたのに」

 予想を上回る荒唐無稽さで少し動転してしまった、と先輩は謝ってくる。
 いやその辺は全然これっぽっちも気にしていないので構わないが、むしろ妙に高く評価されている気がしてこそばゆいものを感じる。
 だが知っていたというのはどういうことだろう?
 こっちとしては先輩の噂は色々と耳にしているものの、こうして直接話すのは今日が始めてのはずだ。そして異変が起きてからの半日、彼女の信を得るほどのことをした覚えがない。

「しかし、生まれつきなのか? その……まじゅつ、というのは」

「いや、4年くらい前かな……思いっきり頭をぶん殴られたことがあってさ」

 正直あのときのことはこっ恥ずかしいばかりであまり思い出したくはないのだが。
 4年前、本当にたまたま引ったくりの現場を目撃した俺は、とっさに犯人を追いかけ……結果見事に返り討ちにされた。
 曲がり角で待ち伏せていた犯人に棒切れで一撃喰らってそのまま昏倒してしまうという情けないオチだ。

「けどそのときに"思い出しかけた"んだ。俺はこれを……魔術を誰かに習ったことがあるって」

「? 思い出しかけた?」

「俺には、10歳以前の……沙耶のところに引き取られた7年前より以前の記憶がないんだ」

 さらっと言ってしまったが他人の口から聞くには少々ショッキングというか、唐突な話だったかもしれない。
 ほら、あの毒島先輩が目を丸くして口を開きっぱなしにしてしまっている。ちょっとこれはレア過ぎる、森田が生きてここにいれば大騒ぎだったろうに。

 そもそも俺は高城家に引き取られる以前、隣県の冬木市という街に住んでいたらしい。
 だがある日、家も家族も、何もかもが焼け落ち、父の知り合いだった高城宗一郎……親父さんのところに引き取られたということだ。

「焼け……まさか、冬木の大火災か?」

「そう聞いてる」

 市の一角をまるまる飲み込んだ炎は、市民会館を含む家屋134棟を焼き払い、死者500余名を出す未曾有の大災害を生み出した。
 その大火災の数少ない生存者の1人が、俺らしい。

「あの火事のことは私も覚えている、祖父の知人も巻き込まれ……いや待て、あれは10年前じゃなかったか? さっき7年前に引き取られたと、」

「ずっと不思議には思ってた。火事より前のことはともかく、そのあとの空白の3年間。けど4年前、俺は少しだけど思い出したんだ」

 記憶からすっぽりと抜け落ちてしまった3年間。

 俺はその間、誰かと暮らしていたような気がしている。
 誰かに魔術を習い……そして何か、とても大切な約束をしたような。

「……では君が命の危険を犯してまで、得体の知れない力を使うのは」

「ああ、知りたい……いや、思い出したいんだ。俺が誰と、どんな約束をしていたのか」




 しばらくの間お互い無言で道を歩いていく。
 そろそろスクーターを動かし始めないとどんどんバスと距離が開いてしまう気がするのだが、どうもそんな雰囲気ではなった。
 先輩が俺の言葉を聞いてどう思ったのか、何を考えているのかはよくわからない。ただ何か吟味するように黙考している。
 だがどれほど歩いた頃か、毒島先輩はふっと顔を上げると、

「この件は口外しないと約束しよう」

 やにわにそんなことを言った。

「それは、助かるけど……信じるのか?」

「事実なのだろう? 少なくとも君にとってそうなら、私はそれを信じよう。だが君の姉や養父母は知っているのか?」

「……どうしようかと思ったこともあるけど、話してない。引き取られる前のことも聞いてみたことはないんだ」

 知りたいと思う気持ちは確かにあるが、俺にとって沙耶も親父さん、お袋さんも間違いなく家族なのだ。
 ならばこそ聞いてしまうべきなのか、それともただ知らぬフリを通すべきなのか、まだ自分の中で決着がついていなかった。

「そうか、配慮しよう。しかし君もずいぶんと波乱に満ちた人生を送っているようだ」

「そうか? 記憶がないってこと以外は普通だと思うけど……」

 魔術にしたって、単に他人が知らない力を知っているというだけの話だ。これまで大した役に立ったことはなかった。
 それよりは毒島先輩の剣の腕や宮本の槍……あるいは沙耶の知性の方がよっぽど凄いし自慢できると思うものだ。せめて俺にその半分あればまだ役に立てると思うのに。

「君にとってはそうかもしれないが、私を含め他人にとってその力は異質なのだ。そしてこの状況も」

 何が言いたいかわかるか、と先輩は真剣な表情でまっすぐにこちらを見つめている。

「もし君の力が人々に露見すれば君がこの異常を引き起こした犯人にされかねないといっているんだ」

「な、まさか……!」

 いくらなんでも話が大げさではないだろうか。
 大体、そんなことが出来る能力ではない。

 だが毒島先輩の顔から鋭すぎるほどの視線を決して緩めようとはしない。

「この狂った状況の中、人々はどこかに"原因"を求めたがる。そして常識では説明できない大きな異常の中で、君という異常が発覚すれば……どうなるかは自明の理だ」

「………………」

 異常呼ばわりは反論したい部分であるものの、大筋で納得できない話ではなかった。
 ただ、したくはなかった。

 何もかもが捻れ狂った世界で。
 人間まで狂ってしまうなんてことは。

「私に話したこともそうだが、いささか君の行動は軽率に過ぎるところがある」

「いや、それは毒島先輩を信じてたからだ。流石に誰彼構わず話すつもりはないぞ」

「そ、そういうことを言っているのではない。そうだ、もうひとつの質問もそうだが君に言いたいのは、」

 やばい、この空気、沙耶のお説教スタートのときと同じ気配をセンサーが感知している……ッ!
 折角だから埋まってる地雷の場所も探知してくれたらどれほど良いか……?

「あ」

「ん?」

 前方に、人影が見えた。











「どこもかしこもこんな状態ってわけか。まあ店のものは好きに持っていっていいから」

「感謝します」

「助かります、ええと……才門さん」

 であった相手は<奴ら>ではなかった。
 道中に店を構えるこのコンビニは、周辺の人口密度の薄さもあってか幸いにも<奴ら>の攻撃は受けず、店長の才門氏と共にいまだ健全な様子を保っていた。
 まあなぜか店内にクリケットのバットが転がっているあたり全く無事というわけではなかったようだが。

「シャツ、真っ赤ですよ」

「ん、ああ……」

 彼の話では少し前に店の前をバスが通り過ぎたのを見たそうだ。
 そうとわかった時点で早く追いかけたいところだったのだが、この先何があるか分からないためここで少し物資を補給しようという運びになった。
 言い出したのは俺でも毒島先輩でもなく、才門氏だった。彼の好意には感謝だ。

「しかし貴方は逃げないのか? もし何か起きればここではひとたまりもないと思うが」

 確かに、食糧の類は豊富かもしれないがなんせ前面がガラス張りなのだ。
 <奴ら>に気づかれればすぐさま押し破られてしまうだろう。

「<奴ら>?」

「ああ、えーと……だからあの、ゾン」

「ああわかったわかった、ゾのつく言葉は言わないでくれ。<奴ら>だな、<奴ら>……いざとなったら倉庫に逃げ込むか……パブだな」

「は、パブ?」

「ああ、行きつけの店があるんだ。あそこなら壁も頑丈だし、ニックの話じゃマスターは元マタギで猟銃を隠し持ってるらしい」

 それはまたなんとも胡散臭い話だ。
 ビールでも飲みながら救助を待つさ、という店長はどことなく無気力に見える。

 しかし銃か。
 ゲームや映画じゃ定番だが、いかんせんここは日本だ。とても現実的ではない。
 もし手に入るとしたら警察か自衛隊か、猟師か……俺の貧困な発想ではこんなものだが、いや……親父さんが持ってた、か……?

 まあ考えても仕方がないだろう。
 手ぶらの今、武器になるものは欲しいが銃は流石に想定外だ。手に入れても逆に困ってしまうだろう。
 何か棒状のものがあればいいが……店内にはあまり見当たらない。
 あとでモップでも借りられないか聞いてみようか。

「……?」

 不意に物音がして振り返った。店の奥のほうからだ。

「どうした、衛宮君」

「いや……今何か聞こえたような気がして」

「ああ、多分ニックのヤツだ」

 さっきも話に出てきた名前だった。

「二階堂つってガキの頃からのダチなんだが、どうしようもないヤツでな。人の店にゲーム機持ち込むわ……あいつは俺が面倒見てやってるようなもんだ」

 店長は困ったように肩をすくめている。
 だが親友……なのだろう。
 ニートで麻薬を売って小遣い稼ぎしてたとか、サルの真似が上手いとか、話を聞くだにろくでもない人物像が浮かぶが、彼の言葉の端々には親しみが感じられた。
 そして最後にこう付け加えた。

「まあ、悪いヤツじゃないんだ。何だったら紹介するけど?」

 ……どう答えるべきだろうか。


 1.挨拶くらいはしておいたほうが良いだろう。
 2.いや、時間が惜しい。遠慮しておこう。




/*/


 これ書くためにショーン・オブ・ザ・デッド見直した。


>フローチャートSugeeeee!

・ありがとうございます! ありがとうございます!
 でも実はあんまり凄くないです!
 章が進むにつれ生存者の顔ぶれもルートによって変わることがありますが、例えば前の章で死んだキャラAが生き残ってたパターン……とかは書かないつもりです。
 プロットは先まで考えてますがチャートは章ごとに書いてますので。
 ちなみにBLOOD THE LAST VAMPIREを参考にしました。


>選択肢多くない? 全部書けるの?

・私を殺す気か!
 流石に全部は書きません。チャートも選ばれなかった選択肢の先がどうなってるか知りたいとの声にあわせて公開したものなので……。
 ただ、一通り進めてから「ここのバッドエンドはどんなのだったの?」という声が多いところくらいは書いてもいいかなと思ってますが。 


>誤字報告。

・直します!


>更新停止か!?

・ごめんなさい色々うっちゃってたりしてマジごめんなさい。
 ここまで更新が早かったのは休日だからで、ぴたっと止まったのは休日がなかったからです……。
 次回からはもそっと早めに更新できるようがんばります。








[6377] 2-2A
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/26 06:56
 長居するつもりはないとはいえ、だいぶ世話になることは事実だ。
 それに……この状況の中、少しでも生きている人の顔を見ておきたいという気持ちもあったかもしれない。

「じゃあ、挨拶だけでも」

「衛宮君」

「え?」

 また不意に毒島先輩が顔を寄せてくる。
 だだだだだから耳に吐息が……!

「君は少し軽率だ、といったはずだ。もう少し警戒するべきじゃないか?」

「警戒って、」

 誰に、と聞く必要はない。この店長らのことを指しているのだろう。
 だがその意味するところが一瞬つながらなかった。

 彼女は俺に、"生きている人間に警戒しろ"と言っているということに。

「この人が何か企んでる……てことか?」

「そこまでは言っていない。だがこの状況で理由もなく無償の善意を施せる人間ほど信用ならないと言っているんだ」

 人の善意を信用できない。

 それは酷く悲しい言葉だった。
 だが同時に、どうしてか胸の奥にトゲのように突き刺さる。

「よう、どうするんだ?」

 店長の言葉にはっとする。
 まずい、目の前で内緒話なんてされて気を悪くしない人なんていないだろう。

「あ、いやすみません。じゃあちょっと顔を出すだけでも」

「OK、ついてきてくれ。君はどうする?」

「…………私も行こう」

 水を向けられ、結局毒島先輩も同行することになった。
 多分俺を心配してのことだろう。そう思うと申し訳ない。

 ふう、と息をついて先輩は首を振る。

「構わないよ。君だけ行かせて身包みはがされました、では私も収まりが悪いからな」

「悪い、何かあったら先輩だけ逃げてくれていい」

「……全く、君はどうしてそう……」

 空調の音にかき消されて先輩の声はよく聞こえなかった。





 冷房の効いた店内を店長の後に続いて横切り、バックヤードへ続く扉に向かう。

 先ほどから思っていたことだが、<奴ら>が現れてから初めて荒らされていない場所にたどり着いた気がする。
 店の中は異変が起こる前とさして変わった様子もなく整然とした様子を保っている。
 ほっと気持ちが緩むのを自覚する。
 ここは学園を出て唯一、俺たちが知っているままの姿をとどめていたのだ。

 無性に店内においてあるもののひとつひとつが懐かしく感じられる。
 彩りに溢れたお菓子、ガラス戸の向こうのドリンク、ラックに差された雑誌や新聞。レジカウンターの上にはホットプレートがウィンナーに焼き目をつけている。
 俺自身はそれほどコンビニを利用するほうではなかったにもかかわらず、どうしてかそれらが心を落ち着けてくれる。

 まだまともな場所がある。
 ここは単に空白地帯になっているに過ぎないだろうが、そう思うだけで張り詰めていたものが和らいでいく。

「他にもこういう場所があればいいんだけどな……」

「………………」

「……? 毒島先輩?」

「ん、いや、なんでもないよ」

 店長が足を止め、奥へ続く扉を開ける。

「この奥にいる。どうせゲームでもしてるはずだ……っと」

 ふと何かを思い出したように振り返る店長。

「2秒くれ。酒とつまみを頼まれてたんだった、先に中に入っててくれ」

 そういうと彼はフロアに取って返して、あれこれとつまみ類の吟味を始めている。
 ジャーキーにナッツにプレッツェルにポークビッツに……ずいぶん種類が豊富なのは彼の趣味だろうか。
 なんにしてもこうなると酒飲みは時間がかかる、というのは経験則だ。

「仕方ない、行くか」

 毒島先輩もそれを感じたのか、やれやれといった風で扉を開けた。



 扉の奥には狭く短い通路があり、その向こうに事務所兼倉庫と思われる空間が広がっている。
 窓がついていないのか部屋の中は薄暗く、奥から激しい銃声や爆音のようなものが聞こえてくる。多分ゲームの音だろう。

 ぱたりと扉が閉まる。

 俺も毒島先輩も、一歩踏み込んだ瞬間に動きを止めていた。



 臭う。
 酷い臭いだ。



 腐臭とも汚物のものともつかない鼻を突き刺すような臭いがぷんぷんと漂っている。
 生ごみに芳香剤をぶちまけて炎天下に放置したらこんな臭いになるかもしれない。思わずせり上がってきた胃液を吐き出しそうになるのをどうにかこらえる。

 一体この奥で何をしているのか、正直考えたくない。
 なおもやかましい電子音は鳴り響いている。

「………………」

「………………」

 2人で目を合わせ、意を決して1歩踏み出した。

 通路は狭い上に清掃中の看板やら工具箱やら台車やらとものが散乱していて歩きにくいことこの上ない。
 それらに足をとられないようにしながら慎重に──奥から漂う嫌な気配に足が鈍っていただけかもしれない──進む。

 1歩進むにつれ悪臭とゲームの効果音が大きくなっていく。
 もしこれが常時ならば即刻営業停止ものだろう。
 それほどの惨状がこの奥に広がっているように思えてならない。

 やがて……いや、距離にしてみればほんの5,6歩だったのだろう、だがやけに長く感じた通路の陰から部屋を覗き込む。

 やはり暗い部屋の中には小さなテレビが唯一の光源として狭い範囲を照らし、その画面にはシューティングゲームらしき戦場の光景が映し出されている。
 その戦場を駆け巡っているはずの主人公の動きはやたらとぎこちない。まるで酷く緩慢に、適当にボタンを押しているだけのように。

 モニターの前には太った男がこちらに背を向けて座っている。逆光でその姿はよく見えないが、彼が件のニックだろう。

 彼の周りには店の在庫と思しきスナック類が食い散らかされて、



「…………違う」



 毒島先輩のつぶやきが耳に届き、それがどういう意味かと考え……気づいた。

 スナックは食い散らかされてなんかいない。ただ辺りにぶちまけられているだけだ。
 本当に食い散らかされているのは。


 そのもっと奥の。


 かすかな光にちらちらと赤く照らされる。


 肉の、塊。


 ようやく俺たちの存在に気づいたのか、ニックと呼ばれていたはずの男がのろのろと緩慢な動きで振り返る。
 ごとん、とその手からゲームのコントローラが落ちる音が妙に大きく響いた。

「…………話に聞いたお得意の物真似、ではなさそうだな」

 振り返った男の目は白濁し、そこに知性の光は一片も見られない。
 口周りも身にまとう薄汚れたシャツも赤く染まり、太い腕にも首筋にも……深い噛み傷がついている。


 ────悪いヤツじゃないんだ。


 彼は、何を言っていたんだ。
 何度言っても働かず家でごろごろして、しょぼいドラッグで小遣いかを稼ぎ、サルの真似がうまい?
 もうそんな人間はどこにもいない。



 あれは、あれはもう、



「逃げろ、<奴ら>だ!!」

 

 毒島先輩の声に反応し、ニックが大口を開けて襲い掛かってくる。
 とっさに後ろに下がろうとして、

 ────しま……ッ!?

「ぐっ……!」

 転がっていた工具箱に足をとられ転倒してしまう。
 思い切り尻餅をついてしまったその間にもニックはこちらに狙いを定めてやってくる。

「この!!」

 中身が散らばって軽くなった工具箱をぶつけるが、そんな物では<奴ら>と化したニックはびくともしなかった。

 先輩が立てかけてあった看板をとっさに構えニックに体をぶつけていく。
 だが体格があまりに違いすぎる。
 じりじりとニックは彼女の体を押し始める。

「衛宮君、逃げろ!!」

「な、できるかそんな、」

「私は平気だ、それに君がそこにいては逃げられない!!」

 切羽詰った先輩の声にやっと自分の失態を自覚し、慌てて立ち上がった。
 弾かれたようにきびすを返し足をもつれさせそうになりながら来た道を駆け戻る。

 ほんの数歩で通り過ぎるはずの短い通路は、行きよりも更に長く感じられる。


 ────なんで、なんでだ?!


 人間ではなかった。
 ニックと呼ばれていた男は既に<奴ら>の仲間入りを果たしていた。

 店長は……才門は気づいていなかったのだろうか。
 噛まれながらもここにやってきた親友をそれと知らずに匿っていたのだろうか。

 いや……それとも……。


 やっとの思いで扉に飛びつき取っ手を捻る。
 そして勢いよく戸を押し開け………………られない!?

「なんで……ッ!?」

 悲鳴のような声が口から漏れるがそれをこらえる余裕さえなかった。
 鍵がかかっているのか向こうから押さえつけられているのか、押しても引いても戸が口を開ける気配がない。

 閉じ込められたのか。
 誰に。何故。
 わかっているはずの答えを探す自分は、もし傍から見ているものがあればそれは滑稽だったことだろう。

「くそ、どうして、」





「ぁぁぁああぁぁあああぁぁああぁ!!!」





「!?」

 振り返って、愕然とした。

 なんで。

 なんで俺は、



 毒島先輩を1人になんかしちまったんだ………………ッ!!



 いくら彼女が剣の達人といえど、この狭い空間で、しかも丸腰では普通の女の子となんら変わりないというのに。
 あの大柄な男を相手にして、押し勝てるわけがないことなんて分かりきっていたのに……!!


 またも通路を駆け、目に飛び込んだのはまるで。


「毒島先輩……ッ!!」




 まるで噴水のように吹き上がる彼女の鮮血。




 がくりと毒島先輩が膝をつきその場に崩れ落ちる。その首筋からはおびただしい量の血があふれ出ている。
 なおもその体に喰らいつこうとする男の姿に────頭が沸騰した。

「やめろおおおぉぉぉおぉぉぉ!!!」

 全力で男に体当たりをかまし、そのでかい図体を先輩の上から弾き飛ばす。
 同時に俺の体も跳ね返されてしまうがすぐさま起き上がり、手がついた重たい箱のようなものを両手で振りかぶった。

 ぶちぶちと何かが抜けるような音。


 そして振り下ろす。


 何度も。


 何度も。


 赤いしぶきが飛ぶ。
 堅いものを打ち砕く感触が腕を伝う。
 ぐしゃぐしゃと音がして、飛び出てはいけないものが顔に降りかかる。

 男の顔の形がもはや見る影もなくなった頃、俺はようやく手にしていた箱を床に落とした。
 重い音を立てて転がったそれは、テレビの脇にあった据え置き型のゲーム機だったらしい。もはや元の色が分からないほどに血に染まっている。
 途中で砕けたのはニックの頭だけではなかったようで、ゲーム機のほうも見る影もなく壊れてしまっている。

 それを放り出し、血溜りの中に横たわる毒島先輩の下へ向かう。

「先輩……しっかりしてくれ、毒島先輩……!」

 もう無駄なのはわかりきっていた。
 <奴ら>に噛まれたこともそうだが、とにかく出血が多すぎた。

 上体を抱え起こしても彼女はごぼごぼと血の泡を吐き出すばかりでこちらに目を向けることもない。

 傷口が深すぎた。いくら手で押さえても一向に血の止まる気配がしない。
 だんだんと、致命的な速度で体から熱が失われていく。陶磁器のように滑らかだった肌は生者の色をなくし、死の色に染まりつつある。
 ビクビクと痙攣を繰り返す肉体から力が抜け落ちる。

「頼む、死なないでくれ先輩……ッ!」




 やがて、彼女は動かなくなった。








 死んだ。

 たった今まで一緒にいた彼女が、死んだ。
 ほんの短い時間だったにせよ、俺は何度も彼女に助けられてここまで来た。
 その彼女が……毒島先輩が死んだ。


 ────いや、違う。


「……俺の、せいか。俺が殺したんだ」

 彼女は警告していた。俺の行動は軽率すぎると。
 にもかかわらずそれにきちんと耳を貸さなかった。ギリギリまで警戒をしていた彼女に対し、俺はあっさりと緊張を解いてしまっていた。
 その結果が、これだ。

 こんなどうしようもないところで命を落として良いような人ではなかった。
 もっと生き延びるべき人だった。
 文武を両立し、女性であることを誇り、自らの矜持スタイルを貫く、そんな人だった。

 もっともっと先へと進んで、何かを成すべき……そんな、人だったのに。

「ちくしょう……ッ」

 ふらふらと立ち上がり、店内へと続く扉に向かう。
 体中を濡らす毒島先輩の血が、べっとりと重く冷たい。

 今の俺を他人が見れば<奴ら>と勘違いするかもしれない。おそらく酷い有様だろう。

 だが毒島先輩は、もう幾ばくもせずに真実<奴ら>の1人として起き上がってくる。
 きっと彼女はそれを望まない。ならばせめてもう決して動かないようにしてやるのが、彼女を死なせてしまった俺の責任だったのかもしれない。
 しかし手元にそれが可能な道具はない。
 あるいは先ほど散らばった工具箱の中身からドライバーの一本と金槌でも見繕えば可能だったかもしれないが、いずれにせよ俺にそんな気力は残っていなかった。

 おぼつかない足取りで扉にたどり着く。
 ドアノブをまわすが、やはり開く気配はない。

「………………ッ」

 怒りが湧き上がってきた。
 開かない扉へか、先輩を食い殺した男へか、ここに閉じ込めた男へか、それともどこまでも情けない自分へか。
 その衝動のままに扉に体当たりする。安普請の扉はただの一撃で大きく軋んだ。
 もう一度、二度と体をぶつけるとウソのようにあっさりと扉は壊れ、俺は勢い余って床に倒れこんだ。

 こんなにもろい扉だったのに。
 とっととぶち破って先輩を呼べば、あるいは助かっていたかもしれないのに。

 そう思いながら立ち上がりかけ、俺はとっさに前へと転がった。

 ガンッと堅いものが床をたたく音が響く。


 ────才門が、クリケットバットを手に俺を見下ろしていた。


「アンタ……ッ!!」

 才門は無言のままバットを振り下ろしてくる……!
 紙一重でそれをかわし、店内を転がるように逃げを打つ。

 丸腰じゃ勝てない。

 だが外に出ようとした俺の目論見はあっさりと崩されることになった。


 ────店の入り口は、取っ手にビニールテープがぐるぐるに巻きつけられ、とてもじゃないがこのまま開けるのは不可能な状態だった。


 すぐ後ろに才門が迫る。
 大きく振りかぶって叩きつけられたバットは寸でのところで俺を捕らえそこね、ガラス張りの出入り口につき刺さった。
 盛大な音を立ててガラスが飛び散る。

 避けそこね体勢を崩し倒れこんだ俺に、才門がぐるりと首を向ける。

 その目を見て、息を呑んだ。

 一見してその目には表情というものが浮かんでいない。
 だがそうではない。
 死んでいるのだ。


 間違いなく彼は生きた人間であるはずなのに、その目が、<奴ら>と同じ死者のそれだった。


「狂ってるのか、アンタ……ッ!」

 確信した。
 ニックは人知れず<奴ら>になっていたんじゃない。
 才門は"そう"と知っていて、彼をあそこに閉じ込めていたのだ。ゲームの音で興味をそちらにひきつけておきながら。
 バックヤードの隅に転がっていた肉の塊は、才門が彼に与えた"食事"だったのだ。

「あいつはいつも食ってばかりなんだ、俺が面倒見てやらなけりゃどうしようもないやつなんだ……」

 俺たちは……。


 毒島先輩は、この男によって"食事"として差し出されたんだ……ッ!!


 もうどこからも湧き上がらないと思っていた力が、一気に全身を駆け巡る。両腕を振り上げた才門に飛び掛りその手からバットを奪い取ろうと格闘する。
 だが相手もそれまで見せていた様子とは打って変わって、バットを取られまいと必死で抵抗してくる。
 腹部に膝を食らい戻しそうになるが、それを飲み込んで才門の腕を押さえこんだ。

「この!!」

 バットを持つ手をレジカウンターに叩きつけると、才門はついにそれを手離した。バットはそのままカウンターの向こうに転がり落ちる。
 しかし才門はそれでもあきらめる気配を見せず体重に任せて俺の体をカウンターに押し付ける。

「ぐ、ぇ…………ッ」

 首を、絞められる。
 狂気を湛えた才門が俺に圧し掛かるようにしてのどを握りつぶそうとしてくる……ッ。

 のどに食い込む指を引き剥がそうとするが、才門の力はまるで<奴ら>のように強力だ。

 息ができない。
 目の前が白く、赤く染まり始めた。



 死ぬのか、俺も。


 毒島先輩を死なせてしまった償いも出来ず。


 彼女の死を誰かに伝えることもできず。


 無責任に殺されるのか。


 こんなところで。


「…………まるか……」


 こんなところで。


「……んで、たまるか……」


 こんな、ところで……ッ!


「死んで……たまるか……ッ!!」


 無意識にカウンターの上をまさぐっていた手が何かに触れる。
 熱い。
 熱されたままになっていたホットプレートだ。

 俺は迷わずそれを掴み上げ、才門の顔に押し付けた────!!!


「っぎゃあああああああぁぁあああぁあぁぁあぁぁぁぁ!?」

「ッッ……!!」

 才門が恐ろしい悲鳴を上げる。のどに食い込んだ指が離れていく。
 だがプレートを掴んでいた俺の手も限界だった。
 我慢しきれずに取り落とすと、才門の顔面は真っ赤に焼け爛れている。
 代わりに俺の手も酷いことになっているだろうが、今はそんなことを気にしてはいられなかった。

 顔面を押さえ悶える才門に全体重を乗せた蹴りを食らわせる。
 目の見えぬ状態で食らった一撃にバランスを崩し、


 そのまま、割れたガラス戸に頭から突っ込んでいった。


 肉を引き裂く音がして、見る間にガラス戸が鮮血に染まっていく。
 才門はびくびく痙攣するばかりで、もうそれ以上動き出す様子は見られない。

 俺はたまらずその場にへたり込んだ。



 また、死んだ。



 また、俺が殺した。



 火傷を負った手がじくじくと痛む。
 そしてそれ以上に、耐え難いほどココロが痛んだ。

 途方にくれてしまうほど。

 悔しかった。

 俺が。俺が助けなきゃいけなかったのに。

 壊れてしまいそうなほど、痛かった。




「…………いつまでも、こうしてられないよな」

 抜けそうになる腰をどうにか支えて立ち上がる。

 1人きりになってしまって、これからどうすればいいのかもわからない。
 いや、行かなきゃいけないところは分かっている。バスを追いかけて孝たちと合流しないとけない。
 そのためにはまず入り口を縛るテープを切って……。

「お、と……」

 ふらりとよろけて転びそうになった。

 けどそうはならなかった。

 誰かが倒れそうになった体を抱きしめ、支えてくれたから。

 覚えのある腕に頬が緩んだ。




「ああ………………ありがとう、先輩」





 Dead End 5:温もり




 (トラの鳴き声的なもの)


タイガー:はいみんなお久しぶりー。デッドエンドの数は開いてないのになぜか出番がなかったタイガー道場のお時間でーす。

ブルマ:今回は大方の予想通り、シロウはもうちょっと人を疑いなさいってことね。

タイガー:基本的には士郎よりも毒島さんや沙耶ちゃんのほうが冷静! 彼女たちの言うことは聞いておくのが無難よ。

ブルマ:けどおにいちゃんもそろそろ成長してもらわないとねー。

タイガー:そこはここを乗り越えた頃に期待ね。さあ士郎、己の屍を超えて往け……ッ。

ブルマ:シャレにならないわね、シロウの場合。

タイガー:それはそれとして分かってるのにこっちを選ぶ貴方たちに漢気を感じ……。

ブルマ:ないッスね。ただの変態の集まりッス。

タイガー:しゃらーっぷ!

ブルマ:あがーっ!

タイガー:さて、途中まで読んでて「あれ、これ毒島さん死んだまま進んじゃうんじゃね?」って思った人もいたのではないでしょうか。
     実は作者も一瞬そのまま進めちゃおうかと思ったとか。

ブルマ:でもまああまりに理不尽だしそれやるとファンからブーイングの嵐になりそうで止めたチキンなんだけどねー。

タイガー:っていうか、これあれよね、映画ネタやりたかっただけよね。

ブルマ:どんだけ狭いストライクゾーンなのよ……。


◆分からん人向けの解説。

*ショーン・オブ・ザ・デッド(2004年/イギリス)

 ジョージ・A・ロメロの傑作『ゾンビ(原題:ドーン・オブ・ザ・デッド)』のパロディとして作られたホラーコメディ。
 コメディなのでほとんど怖くはないが、きちんとお約束を踏襲しグロシーンも完備されたれっきとしたゾンビ映画。
 主演はサイモン・ペグ、ニック・フロスト。
 サイモン・ペグは脚本も努めており、その後監督のエドガー・ライトと共に大ファンであるロメロのランド・オブ・ザ・デッドにゲスト出演を果たしている。ゾンビ役で。
 ロメロ自身この映画を気に入っているらしい。
 ゾンビ映画が好きならぜひとも見て損はしない一本。
 ちなみに学園黙示録の中にコンビニの店員としてサイモンが描かれているのは承知のことと思うが、作者はゾンビのことを<奴ら>と呼ぶのもこの映画が元ネタではないかと思っている。(劇中でゾンビと呼ぶのを嫌がるシーンがある)


ブルマ:ところで<奴ら>ってゲームするのかしら。

タイガー:あー、多分無理よね。目見えないし。映画のオマージュってことで許して!
     それじゃあ、また次回のタイガー道場でお会いしましょー!

ブルマ:あ、ちなみに映画はレンタルビデオで借りられるから、興味が出たら観てみてね!





/*/


 大した量にならないだろうなー、と思ってた死亡ルートが本筋並みの長さになってしまった件。


 学園黙示録アニメ化のあおりか理想郷でもSSが増えたりスレが立ったりとにぎわっていてうれしい限りであります。

 ところでゾンビものに特殊能力はありか、の話題ですが作者は「ねーよwwww」派。
 あ、やめて、石投げないで……!! 説得力ないのは分かってるから……ッ!
 でもやっぱりゾンビを相手にしたときの醍醐味はその絶望感や危機感。あくまで普通の人間が相手にするのが前提だと思います。
 サバイバルとかね。

 ということでこの先魔術師無双があったり<奴ら>うっちゃって士郎vs魔術師なんて展開にはならないのでご了承ください。
 士郎が死んだり殺されたりするのをお楽しみください。

 ……まあ学園黙示録の主人公たちは総じてチート気味だとは思いますが。


追記:AAが超ずれる……誰か助けて……。



[6377] 2-2B
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/26 06:55



 いや、止めておこう。あまりここでぐずぐずしていては孝たちと距離が開くばかりだ。

「えっと、俺たち先を急ぐんで……」

「そうか、まあそれが良いだろうな」

 角が立たないかだけ不安だったが、店長は特に気にするそぶりもない。
 とりあえずはこれでよかったのだろう。

「じゃあ適当に店の中を見ててくれ。荷物を入れるものがいるだろう、使ってないバッグがあるから君たちにやるよ」

「それは貴方にも必要なものなのでは?」

「俺は平気だ、家も近いしな」

 そう言って店長は奥へと引っ込んでいく。

 店長がいなくなりさてどうしようかと思ったところで、不意に毒島先輩が口を開いた。

「意外だな、君なら挨拶くらいしていくものかと思ったが」

 そういう彼女の視線は、気に入らないものをにらみつけるように店の奥へと向かっている。

 そうだろうか?
 確かに場合が場合でなければ顔を見せておいたほうが良いくらいには思ったかもしれない。
 ただ物資補給のため立ち寄ったとはいえ、一刻も早くバスに追いつきたいのは事実だ。沙耶たちだって心配しているに決まってる。

 それに……。

「なにか、妙な感じがしないか?」

「…………確かに、な」

 先ほどから思っていたことだが、<奴ら>が現れてから初めて荒らされていない場所にたどり着いた気がする。
 店の中は異変が起こる前とさして変わった様子もなく整然とした様子を保っている。
 ここは学園を出て唯一、俺たちが知っているままの姿をとどめていたのだ。

 彩りに溢れたお菓子、ガラス戸の向こうのドリンク、ラックに差された雑誌や新聞。レジカウンターの上にはホットプレートがウィンナーに焼き目をつけている。

 それがどうしてなのか、やけに目に付くのだ。

 あるいはこの異常が始まって半日足らずで感覚が麻痺してしまっているのかもしれない。
 しかし、上手く言葉に出来ないが……静寂が、不気味なのだ。

 俺も先輩も黙ってしまうと、空調の音だけが周囲を支配する。
 いや、よく耳を澄ませてみると店の奥のほうからかすかに銃声や爆音のようなものが聞こえる。ゲームの音だろうか……?

 そこで初めて、俺は違和感に気づいた。

「そうか、BGMを流してないんだな」

「BGM?」

「こういう店って店内放送でBGMや……CMとか流してるもんじゃないか?」

「なるほど……言われてみるとそうだな」

 違和感の正体が分かると、少しばかり緊張が解けた。
 恐らく<奴ら>が近寄らないように放送を切ってあるのだろう。それなら納得できる。

 しかしそうして自分を納得させても、のどに小骨が刺さったような不快感だけがどうしてもぬぐいきれなかった。





 毒島先輩と2人、あれこれと店の中を物色して持っていけそうなものを吟味する。
 飲み物に500mlから1000ml程度のサイズの水、あとは補給効率のいいスポーツドリンクをピックアップ。
 水のメーカーをどれにするかで揉めかけたが非常時なのでどっちでもいいという結論に落ち着いた。

 問題は食料だ。
 これは飲み物も同じだが、実際必要になるのか、どれほどあれば大丈夫なのか難しいところだ。
 あればあるだけ困ることはないだろうが持ち運べる量には限りがある。
 そしてものは非常食なので、当然のことながら生ものは却下。この時点でだいぶ選択肢が狭くなる。

「おにぎりや……パンもダメか。カップ麺は……」

「熱湯が確保できなければ食べられないものは避けたほうが良いだろう」

「だな。ってことはやっぱり缶詰か……」

 鯖や鰯、焼き鳥の缶詰をかごに入れていく。乾パンは見当たらなかったが、消費期限の長いスナック類でカバーすることにした。
 それに確かチョコレートはあるといざというときに助かると聞いた覚えがある。

「む、カロリークッキーか。これは……美味いのか?」

「あー、なんか沙耶が一時期ダイエットだって言ってそればっかり食べてたな」

 そのときに貰ったことがあるが、お菓子として味付けされていて食べやすくはあった。
 そう言うと先輩はふむ、と頷いて纏めてかごに放り込む。確かにブロッククッキーはこういうときには便利かもしれない。

 まあ正直食に一家言ある身としてはこんなコンビニ食品ばかりで過ごすというのは噴飯ものなのだが、そればかりは状況ゆえに文句も言えない。
 食に不満を言えるのは肉体的、精神的、そして経済的に余裕のあるときだけなのだ。

 買い物籠ひとつをいっぱいにしたところで一度手を止める。
 あの店長さんが用意してくれるものがどれくらいの大きさのカバンかは分からないが、どんなに大きくてもこれ以上入れるのは無理だろう。
 缶詰や飲み物があるので重量もそれなりだ。
 あとは懐中電灯に乾電池、100円ライターをいくつか見繕ってやれば良いだろうか。

「携帯電話の充電器か……毒島先輩、携帯電話は?」

「あいにく持っていない。そういう君は?」

「寮におきっぱなしだな……」

 何かのときのために、と親父さんたちに渡されたものだったが、ついつい部屋に置きっぱなしにしてしまうのだった。
 最も学園内では携帯禁止だったので普段から持っていっていなかったのだが。

「…………役に立たなければいいんだけどな、こんなもの」

 かご一杯になった非常食(として見繕ったもの)を見てつぶやく。
 警察か消防か、あるいは自衛隊がどこかに避難所でも築いていて、<奴ら>に対する対策を進めていれば。
 もちろんそれが希望的観測……それも先ほどのニュースのことを思うに可能性の低い話だということはわかっている。

「そうだな。だがいざという時はこれが私たちの命綱だ」

「分かってる」

「そして同時に私たちの命を危険に晒す可能性もあることを忘れてはいけない」

「……っていうと?」

「仮にこれをもってバスに合流できたとしよう。だがこれだけの量で全員に行き渡るか? 恐らく2日ともつまい」

 あるいは奪い合いになるかもしれない。あるいは暴徒と化した人間に食料を狙って襲われるかもしれない。
 毒島先輩はそう続ける。

「時と場合によっては躊躇せず捨てる必要があることを理解してくれ」

 すぐには、頷けなかった。
 毒島先輩の言いたいことが嫌というほどにわかってしまったからだ。

 彼女は、"生きた人間にも警戒しろ"といっているのだ。

 ニュースで見た略奪を繰り広げる人間たちを思い出す。
 毒島先輩の言葉は決して的外れなどではない。既に人々は、秩序を失いかけているのだ。

 だがそれは、酷く悲しい言葉だった。
 生きているもの同士協力し合えるはずじゃないのか。そんな思いが胸を占める。

 俺の表情に何かを読み取ったのか、毒島先輩は穏やかにしかし厳しい言葉を連ねていく。

「衛宮君、君はとても優しい。だからこそ分かって欲しい。もはや敵は<奴ら>だけではないかもしれないんだ」

「………………敵」

「もちろんこれは悲観的な予測だ。あるいは状況はもっとマシかもしれない。だがそうでないかもしれないことを考えなければ、生き残ることは出来ないよ」

 それは、その通りだ。
 事態を楽観視して判断を誤れば即座に破滅に繋がるだろう。

 けど。

 けどそれでも俺は……。

「……すぐに答えなくていい。けれど、いつか覚悟しなければいけなくなることは覚えておくんだ」

 あるいはそれは、すぐそこまで迫っているかもしれない。
 先輩は最後にそう付け加えた。





 それからしばらくは2人とも無言だった。
 気分の優れない俺に気を使ってくれたのか、毒島先輩の差し出してくれたコーラのプルタブを切ってあおる。炭酸が喉を通り抜け、幾分か気分が楽になる。
 店内で棚から取った商品をそのまま飲むのは妙な気分だった。

 そういえばあの店長、金は要らないから好きなだけ持っていっていい、そう言っていた。
 彼はもうあきらめたのだろうか。
 <奴ら>の出現から一瞬で日常は崩壊した。彼はもう、それが戻らないものだと分かってしまったのだろうか。

 俺は……どうなのだろう。
 学園で何人もの死を目の当たりにした。
 その度に憤りや無力感を覚えている。
 俺は、取り戻したいのだろうか……これまでの日々を。それとも……。

「買い放題は憧れるものがあるが、コンビニではたかが知れているな」

「え?」

 突然何を言い出すのか、先輩はお茶のボトルを開けながら笑っている。

 買い放題?
 それはそうかもしれないが流石に不謹慎じゃないだろうか。
 ……いや、先輩の表情。今のは先輩流の冗談か。
 どうやら変に気を使わせてしまったようで申し訳なくなる。けどその思いを無碍にも出来ないし、ここは感謝もこめて乗っておくことにする。

「はは、確かに。けど先輩でもそういうのあるんだな」

 毒島先輩はもっとストイックな印象だった。物欲なさそうというか。

「私も一介の女子高生だよ、欲しいものは色々ある。そういう君こそ何かないのか?」

 欲しいものねえ……。
 昔からあまりアレが欲しいこれが欲しいと思うことはなかった。
 恵まれていた、というわけではない。高城家は確かに裕福だったが、何でもかんでも買い与えるような甘やかすばかりの親ではなかった。
 ただ本当に必要なものは何でも揃えてくれていたし、俺としてはそれだけでも十分すぎるくらいだった。
 沙耶にはもっとわがままを言ったらどうだなんて言われていたが。

 音楽を聴くわけでも読書家なわけでも服にこだわるわけでもないので、その辺に金をかけたことはない。
 けど人に言われるほど無欲でもないと思う。
 例えば……あー、ちょっと前に見た新しい包丁が欲しかったかもしれない。
 後はそうだ、この状況でも沙耶たちを守れるだけの腕っ節とか……。

「…………身長、かな」

「は…………ぷ、くくくくっ。しんちょう、そうか、身長か。それは難しい……ふふふふ!」

「な、そんなに笑うことないだろ……っ」

 これでも気にしてるのだ。
 すらっとした毒島先輩と並ぶとほとんど見た目に差がない。もう10……いやせめて5cmは欲しい。

「いやすまない、私はどちらかというと背丈がありすぎてな。剣をやるには不足ないが、女子としての可愛らしさには事欠く次第だ」

 く、当て付けか!
 どうせ俺は高くも低くもなく中途半端ですよ。
 そしてこれ以上この話題は恥を上塗るばかりになりそうな予感がするので、何か逃げ道はないかと周りを見る。
 と新聞が目に付いたので誤魔化すように広げてみる。いや、情報が欲しいんですよ、ホントホント。

 紙面には政治関係、ビジネス関係の話題が目立つばかりでどこにもおかしな記事は載っていない。
 気になるトピックとしては人工衛星の再突入や欧米での暴動、アフリカで疫病が発生したことなどが載っているが、大して役に立つ情報ではない。
 いや、あるいはその中のどれかは<奴ら>と関係があるのかもしれないが今それが分かったところでどうしようもないのだ。そういった話は混乱が落ち着いたあとで専門家に任せるべきだろう。

 たたみなおしてラックに差し込むと、先輩が顔を出した。

「何か気になることは書いてあったか?」

「少なくとも今朝の時点では誰もこの事態を予測してなかったってことくらいかな」

「そうか……ッ!? 衛宮君、どうしたんだそれは!」

「は?」

 なんだ、突然先輩は俺の手を取って、うわ真っ赤だ!?
 いつの間にそうなったのか、手のひらは血で赤く染まっている。気づかないうちにどこか怪我をしていたのか?
 だが体にはどこも痛むところはない。

「これ、俺の血じゃない……」

「なに……?」

 俺は出血していないのだから必然的にそうなる。
 しかし学園で浴びた返り血は職員室で洗い流したかあるいはとっくに乾いているし、それから血のつくようなものに触った覚えはない。
 ついさっきまでそんなに汚れていなかったのだ、あとは食料品を集めて先輩からもらったコーラを飲んで……。
 その可能性に思い当たり先輩と2人、視線をラックに差さった新聞に向け、恐る恐るそのうちのひと束をどかしてみる。

 あった。

 先ほど手に取った経済新聞の裏側、スポーツ新聞との間にべっとりと赤い血の跡が。

「…………ッ」

 背筋に冷たい針を刺されたかのような感覚が通り過ぎる。

 あったのだ。
 ここでも何かが、いや恐らくは<奴ら>がいたのだ。
 街を、いや世界を巻き込むほどの異変だ。このコンビニだけが何事もなかったなんてことはないだろう、そのくらいには考えていた。
 だが何より恐ろしいその事実。

 ここで惨劇があったことではない。

 さも何事もなかったかのようにその事実を覆い隠し、平然と振舞っていたあの店長が。
 何か酷く恐ろしいもののように感じられた。

 そういえばその店長はどこに行った?
 カバンを取りにいくといってからもう5分か10分は経っているはずだ。
 いくらなんでも、


「避けろ!!!」


 叫んだのは毒島先輩だったが、とっさに横に転がったのはその声に反応したからではなかった。

 映っていた。
 ガラス窓にうっすらと、クリケットバットを振り上げる才門の姿が。

 殺人的な勢いで振り下ろされたバットは金属製の新聞ラックに突き刺さりその支柱をいびつにへし曲げた。
 それだけでは飽き足りないのか、バットを引き抜くと今度は毒島先輩を狙って二度三度とスウィングを繰り返す。
 先輩も持ち前の反射神経で回避を続けるが、いかんせん彼女は今手ぶらなのだ。更に通路は狭く、相手の懐に入るにもリーチに差がありすぎる。

「止めろ、何考えてるんだあんた!!」

 すると今度はこちらの声に反応し、バットを叩きつけようとしてくる。
 危ういところで屈み込み、右に左にと体を動かしてかわすとその度に棚に陳列されていた商品が哀れにもバットの直撃を受け吹き飛んでいく。

 刹那。
 取り付かれたようにバットを振り回す才門と目が合った。

 背筋が冷たくなる。


 ────こいつ…………本当に生きてるのか?


 才門は間違いなく生きている。
 <奴ら>には感じられない生気を感じるし、目には知性の光が宿っている。

 だがその表情は。
 生きた人間にあってしかるべきの"色"がすっぽりと抜け落ちていた。
 無表情なんて生易しいものではない。まるで能面を被ったように感情の色が見られないのだ。
 まるで……<奴ら>と同じように。

「…………なんだ、おれが……」

「なに?」

 ぶつぶつと何かをつぶやく才門の言葉に一瞬気をとられる。
 だがそれがまずかった。

 才門はその隙をついて肩からこちらに突っ込んでくる────ッ!

「がッ…………!!」

 もろに体当たりを食らい背中から商品棚に激突する。
 その衝撃で棚が壊れたのか頭からおにぎりが降り注ぐがそれを気にしている余裕はなかった。

 目の前に、バットを振り上げた才門が────。

「ニックは駄目なヤツなんだ、俺が面倒を見てやらないと……。あいつは腹をすかせてるんだ」

「………………ッ」

 だがバットが振り下ろされるよりも一瞬早く、俺と才門の間に黒い影が躍りこむ。

「はぁッ!!」

 今度は才門が吹き飛ばされる番だった。
 毒島先輩が体重を乗せた掌底をあごに叩き込みよろめいたところでボディをえぐる。
 惚れ惚れするようなコンボだ。

 才門は流れるような攻撃を受け、足をもつれさせながら一枚の扉に倒れこむ。店の奥に続く扉だ。
 立て付けが悪かったのか元々安普請だったのか、木製の扉は勢いよく突っ込んできた才門を支えきれずに破れ落ちた。
 足元に才門の手から落ちたバットが転がっている。

「無事か、衛宮君」

「ああ……先輩こそ?」

「平気だ。それにしても……」

 手を借りて立ち上がると、彼女は落ちていたバットを拾い上げる。
 よく見ると先端が赤黒く汚れている。
 <奴ら>の血なのだろうか……あるいは。

「あい、つは……どうしようもない……俺が食わせて、やらないと……」

 才門は苦しげにもがきながらうわ言のように同じ言葉を繰り返している。

「アンタ、一体何を……」

「無駄だ衛宮君。彼はもう壊れてしまったんだ」

「壊れて……?」

「精神がもたなかったのだろう。彼の話していたニックというのは恐らく、」

 のっそりと扉の奥、倒れた才門の向こうに人影が現れたのはその時だった。

 太った体に薄汚いシャツを纏った男はしかし、もうすでに人間ではなかった。
 シャツも口周りも赤黒く染まり腕や首筋には大きな傷跡がついている。

 ニック、とその姿を呆然と見上げ才門がつぶやく。

 彼がニック?
 引きこもりでお調子者でサルの真似が上手い?

「閉じ込めていたようだな……<奴ら>になった親友を」

「…………あ、」

 一瞬だった。
 あまりのことに思考を停止させてしまったその一瞬で、


 ニックだったものは、死してなお彼を守り続けようとした親友の体に食らいついた。


「ぎゃああああああああああぁああぁぁあぁあぁああぁぁ……ッ!!」


 狭い店を震わせる悲鳴と、肉を噛み千切る生ぬるい音が響く。
 壊れた戸の奥から聞こえるゲームの音、回り続ける空調。

 取り繕った日常が、血の色に染め上げられていく。
 才門が諦めきれなかった平穏が、ぐちゃぐちゃと音を立てて消えていく。

 その光景がまるで俺に叫び続けているようだった。
 もう決してかつての日々が戻ることはない、と。

「…………せめて共に逝かせてやろう」

 毒島先輩が1歩踏み出す。
 その手に握られたバットを掴んで、俺は彼女を引きとめた。

「俺に、やらせてくれないか」

「……………………分かった。だが無理はするな」

「ああ……大丈夫だ」

 バットを受け取り両手でしっかりと握る。

 ニックは才門の体を貪ることに夢中でこちらには目もくれない。
 もう悲鳴は聞こえない。才門は事切れていた。

 バットを上段に振りかぶる。

「………………ッ!!」

 そして振り下ろした。

 初めて<奴ら>と、そして人を殺したこの感触を、俺はきっとこの先忘れることはないだろう。


 ────たとえ、世界が元通りになったとしても。







 店の前に止めていたスクーターに腰掛け視線を宙に漂わせる。
 遠くでは相変わらず黒い煙が立ち上っているが、見上げた空は間抜けなほどに青く、視線をおろしていくと緩やかに色が変わっていく。
 もう夕方だ。
 これから徐々に空は赤く色づき、2時間もしないうちに日が沈むことだろう。
 せめてそれまでには孝たちに追いつきたい。そう先輩と相談していた。

 荷物は店の奥にあったカバンに詰めスクーターにくくりつけてある。
 あとは武器になりそうなものを物色している先輩が来れば出発できるが……と、ちょうど戻ってきた。
 手には鉄パイプらしきものを持っている。

「少々重いが、長さはちょうどいい。しばらくはこれで事足りるだろう」

 ちなみに才門の持っていたバットは俺が預かることになった。
 学園で使っていた重すぎるレンチよりよほど使いやすい。

「じゃあそろそろ行くか」

「そうだな。だがその前に、君に聞きそびれていたことがある」

「ん?」

 俺の前に歩み寄った先輩は、真剣な眼差しでこちらの顔を覗き込んでいる。
 動悸が早くなったりしなかったのは単にそんな気分ではなかったからだ。

「君はあの時……学園で逃げそびれた男子が噛まれたとき、助けに戻った。もう無駄なことは分かっていたはずなのに、何故だ?」

「それは……」

 彼女の目に非難の色はない。ただ突き刺すように鋭い眼差しがあるだけだ。

 助けに戻ったところで無駄なことは分かっていた。
 それでも引き返したのは。
 諦められなかった……違う。

「"諦めちゃいけなかった"から」

「どういう意味だ?」

「俺は、約束をしたんだ」

「約束……」


 それは俺を、衛宮士郎を形作る最も大切なもののひとつ。
 交わした相手の顔も名前も、それどころかその内容すら思い出せないけれど、違えてはならない"衛宮士郎の根幹"。
 だから戻った。


 彼らの命を、たとえ結末が分かりきっていたとしても最後まで諦めてはいけなかったのだ。



 俺が"衛宮士郎"でいるために。



「……そうか、それが」

 先輩は何事か口の中でつぶやくと、大きくかぶりを振った。
 そして厳しい口調のまま続ける。

「今度のことでわかったと思うが、これからもそんな振る舞いを続けていては決して生き残れない。<奴ら>はもとより、君の心につけこもうとする輩も現れるだろう」

 人ではありえなくなった<奴ら>も。
 そして<奴ら>によって気を違えた人間もまた、愛すべき隣人ではなくなる。

「それでももし、またあのような場面に出くわしたとき……君は同じように行動するのか?」

「ああ、多分そうすると思う」

 おそらく俺のこの生き方を変えることは出来ない。
 内容を思い出せないはずのそれは、ずっと俺の中心にあるのだ。それを崩すことは出来ないだろう。

 だがそれだけでは生き残れないし沙耶たちを守ることも出来ないこともまた道理だ。

「けど、ひとつ勘違いしていたことがあったんだ」

 俺はずっと、<奴ら>は何がしかの病気のようなもので、事が落ち着けば元に戻せるんじゃないか。そんな風に思っていた。
 だから彼らを攻撃することに躊躇いを覚えていた。

 しかしそれが間違いだと初めてそう感じたのは孝たちから"<奴ら>"という単語が出てからだ。

 それは名前を持つことでついに人間とは違う存在だと、俺の中で確固とした形を得た。
 <奴ら>に名前を与えた井豪も、いち早くそのことに気づいていた沙耶たちも、本当に頭がいい。

 <奴ら>は人を殺し、食らい、そして狂わせる。
 ようやく俺は<奴ら>を確かな"敵"だと認識したのだ。

「覚悟を決めたよ、先輩。俺はもう<奴ら>と戦うこと……いや、殺すことから逃げたりしない」

 本当に、今更だけど。

 そう告げると先輩は呆れたように笑みを浮かべた。

「やれやれ……君の人柄は信頼に値するが、その行いは全く信用できそうにない」

 そしてその笑顔でそんなどぎついことを言われるとぐうの音も出ないのである。

「安心しろ、君が道を踏みたがえそうになった時は私が殴り倒してでも修正してやる」



 だから君は君の生き様スタイルを貫くがいい。



 毒島先輩はそう言って、いつものように不敵に唇を釣り上げた。
 どうやら一筋縄ではいかないどこかの姉のような人がもう一人増えてしまったらしい。






 2人でスクーターに乗り込みいざエンジンをかけようと思ったところで、唐突に先輩が聞いてきた。

「ところで衛宮君のご実家はどこなんだ?」

「え? えーと、御別橋の向こうです。沙耶の家族と一緒に」

「では小室君たちの家は知っているか?」

「孝や宮本は俺たちと同じほうだけど……それが?」

「バスの行き先だよ。私たちはそれぞれの家族の安否を確認する方向で一致していた。だとすると近い順に家を周っている可能性もある」

 なるほど、と相槌を入れる。
 道なりに御別橋のほうへ向かうことしか考えていなかったが、確かに川のこちら側に住んでいるものがいたら話は変わってくる。
 この道沿いでありうるのは下沢町の住宅街のほうか。

 バスに乗った面子を思い浮かべる。
 鞠川先生や平野の家のことは聞いたことがないし、紫藤らと乗り込んでいたメンバーは正直誰が誰だかさっぱりだ。
 だとするとあとは……。

「そういえば有瀬の家がこっちのほうだったかもしれないな……」

「確かか?」

「いや、はっきりと聞いたことがあるわけじゃないんだけど」

「ふむ……決断は任せよう」

 頭の中に地図を呼び出ししばし黙考する。
 どっちにいくにしろ進行方向は同じだ。
 住宅街のほうを通ると少しばかり遠回りにはなるが、上手くすればバスに追いつける可能性もある。
 もしくは真っ直ぐ御別橋のほうに向かうかだが……。


 1.真っ直ぐ御別橋に向かおう。
 2.住宅街のほうを周ってみよう。






/*/



 まだ告白じゃないよ?


 昨日中に上げるつもりだったのに、思いのほか押してしまいまして申し訳ない。
 ここはどちらに進むかでちょっと展開が変わります。真のヒロインが登場したりしなかったり。



>ショーン・オブ・ザ・デッドはゾンビーノオチが微妙。

・ゾンビーノ観てるとかなかなかコアですね。もしくはゴアですね。
 私も観たけど! あの古い未来観が如何ともしがたいです。いや、面白かったかって言われると答えに窮しますが。
 あとヘルゾンビはゾンビじゃねえ、もっと別の何かだ。


>AA止めたほうが。

・オウフ。マジですか。
 消しておきますね。


>話進まない。

・マジ申し訳ありません。
 死亡ルート選んだ時はなるべく急いで次の話をあげていくようにしますのでなにとぞご了承ください……。


>L4Dは……。

・あ、好きですよL4D。といっても仲間内でやろうと思ったけど面子集まらなかったので体験版しかやってませんが。
 デッドライジングもバイオハザードも好きです。バイオはどんどんキャラゲーになってしまいましたが。

 前回はああ言いましたが基本的には面白くて1つの作品としてまとまってるなら何でもありだと思います。
 ただ個人的にゾンビものはロメロの描いた一種のシチュエーションホラーのようなものと、あるいはモンスターパニックのような作品に分けられると思っています。
 そんで私はどっちかというと前者が好きで、ゾンビがいるという世界そのものに対する絶望や虚無感、寂寥感を楽しみたいのに超能力は無粋だろう、という次第です。
 タイラントの類もやはりモンスターパニック向けの素材ですね。
 ゾンビを恐怖の存在とするか、脅威の敵とするかが分け目ではないでしょうか。

 ちなみに毎度物議をかもす走るゾンビも嫌いではないです。モンスターパニック寄りにはなりますが。
 ナイト・オブ・ザ・リビングデッドから42年、いい加減観客の目も慣れきってしまいただのゾンビで恐怖を描くのは難しくなってしまったのではないでしょうか。
 ゾンビも進化しなければやってられんのでしょう。ロメロはその進化を知能のほうに求めてたようですけど。
 賛否ある作品ですが走るゾンビの中でも28日後は割とロメロの描いたイメージを踏襲してるんじゃないかなーと思っております。 
 緊張感だけでなく全体に漂う寂寥感や垣間見える倦怠感のようなものがイイです。

 まあその感覚で行くと学園黙示録はどっちかというとモンスターパニックの気が強いかなーという感じもするんですけど。
 この辺は登場するキャラクターの気質ですかね。

 つまり何が言いたいかというと。
 ゾンビ好きなんですよ! ゾンビ! でもリアルに出てくるのはかんべんな!!
 理想郷のゾンビSSもっと増えろ! 作者を食らって増えろ! 主人公がネメシスとか楽しみすぎるんですけど!


>毒島先輩死んでざまぁwwww

・えー、まあ先の話じゃないですけど、この作品も「士郎がゾンビ相手に頑張る」というシチュエーションを楽しんでいただきたいなと。
 そして士郎とデッドエンドは不可分なわけで……(酷。
 あんまり進まないようでしたら死亡ルート多少減らします。なので喧嘩せずに仲良くお願いね!



>2秒で何が出来るんだよ!

・すみません映画ネタです。
 あるキャラの口癖なのでした。


>これ死徒化じゃね?

・死徒とか出ないよ! 超関係ないよ!
 ゾンビのお決まりとして原因は不明でございます。原作のほうで言及されたらその次第ではないですが。




 ちなみに折角の日曜、朝からゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド/米国劇場公開版)観てたのは秘密な。






[6377] 2-3B
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/07/31 17:54



 住宅街のほうを周ってみるか。
 うろ覚えの記憶だし本当に合流できるかも分からないが、試してみる価値はあるだろう。いずれにしろ橋のほうへ向かうことは可能だ。

「じゃあ下沢のほうに行ってみよう。もしかしたらみんなもそっちに行ってるかもしれない」

「ん、承知した。ではまた運転は任せるが、構わないか?」

「了解、っと」

 エンジンを回しアクセルを捻る。
 断続的な低い唸りは長く尾を引く咆哮へと変わり、スクーターは俺たちを乗せてコンビニを後にする。



 夕暮れが迫りつつあった。



 死者の支配する夕暮れトワイライト・オブ・ザ・デッドが……。








 普段であれば学校帰りの生徒や遊びまわる子供たち、買い物帰りの主婦や帰宅途中のサラリーマン。
 立ち並ぶそれぞれの家を満たす家族たちがいるはずの道は、まるでゴーストタウンのように静まり返っていた。

 人影がないわけではない。

 だが視界に映る影は、住宅街に入ってからというもの例外なく<奴ら>のものだった。

 台所から漂ってくるはずの夕餉の香りは死霊たちの食事の臭いに取って代わられている。
 公園には遊んでいる子供たちの代わりに、嵌って抜け出せなくなってしまったらしい<奴ら>の1人がジャングルジムでもがいている。
 アスファルトにチョークで書かれた落書きは、ぶちまけたような血痕で台無しにされてしまっていた。

「ここも酷い有様だ……」

 緩めのスピードで進みながら住宅街の惨状に眉をしかめる。

 ただ幸いにも<奴ら>の数は決して多くはなく、学園でみたまさに犇くような状態からすればむしろ閑散とさえしている。
 学園のように閉塞した空間ではないため惨劇を脱した人も多く、同時に<奴ら>自体が広範囲に散らばっているのだろう。

「やはりというべきか、どこも同じ状態なのだろう。ニュースを見た限りは世界規模でな」

 生きた人間の気配もちらほらと伺える。
 いくつかの建物には灯りがともり、中にはどうやら真っ当な人間がいるらしい。時折窓からこちらを見る視線を感じることもあった。
 彼らは逃げ遅れたのかあるいは逃げることを諦めたのか……いずれにせよ家々に立て篭もることを決めたのだろう。

 そんな人々に対して出来ることは……何もない。

 生きた人間が、おそらくは恐怖におびえているだろう人々がいるのに、手を差し伸べることさえ許されない。それが酷くもどかしい。

 いまやどこにいても安全とは言い切れない。それは自宅にいても同じことだ。
 彼らはこの後どうなるのだろう。たとえ<奴ら>の侵入を防げたとしても、一般家庭にいつまでも篭城できる備蓄があるはずがないし、そもそもこの事態が収束するとも限らない。
 このまま真綿で首を絞められるようにして死んでいくしかないのだろうか。

「衛宮君、運転に集中するんだ」

「…………っ」

 耳元で聞こえる毒島先輩の声。
 ぼうっとしていたことがばれたのか、あるいは自分の考えを見透かされたのか。

 分かっているのだ。
 彼ら全員を助けられるはずなんかない。それどころか自分の命でさえ危うい現状なのだ。
 どこにいたって安全ではないのは俺たちも同じなのだ。
 けれども……。

「…………逃げた人たちはどこに向かったのかな」

 憤りとも焦燥感ともつかない感情に支配されそうになる胸を落ち着けようと、どうにか希望の見出せそうな話題を探す。

 明かりも落ち人気のない家には車などの移動手段もなくなっているものが多い。
 中には玄関が開け放たれたままになっているところさえある。

 住んでいたものは恐らく異変を察知し大慌てで逃げ出したのだろう。

「どうだろうな。車両で市外に出たものもいるかもしれないが、テレビを見ていればどこも似たような状況なのは察しがつくだろう」

 運転しながらのつぶやきだったので返事は期待していなかったが、先輩の耳にはしっかり届いていたらしい。
 またも耳元で彼女の声が聞こえるがどうにかハンドルを切り損ねることだけは避けられた。
 やはりこのポジションは慣れないどころか心臓に悪い……ッ。
 さっきまでは暗い考えに囚われていたからか気にならなかったが、改めて意識してしまうといろいろとこう……!

「逆に市内に向かえば洋上空港があるだろう。そこからどこか遠くへ向かうことを考えているものも多いかもしれないな」

「く、空港か。じゃあ大橋方面は今頃大渋滞かもしれないな……」

 考えてみるとバスはそっちでつかまっている可能性も高い。
 住宅街のほうに道をそれて既に10分ほど経過しているが、結局孝たちの乗るバスには遭遇できていない。
 青と赤のグラデーションを描いていた空は徐々に赤から濃紺へと色合いを変えつつある。

「せめて有瀬の家がどこか分かってればよかったんだけどな」

 ちょっと行き当たりばったりだったかもしれない。住宅街といっても一本道ではないのだ、大きな道は大体覗いたとは思うがそれでも一本通りを間違えればすれ違ってしまっていた可能性もある。

「まあどちらに行こうと5分の賭けだったんだ。最終的に君たちの家か、宮本のお父上がいるという警察署を目指せばいいだろう」

「もしくは御別小かな。孝のおばさんがいるはず……」

 どうするにせよそろそろ行動し始めたほうがいいだろう。
 <奴ら>の数はまばらだがエンジン音に引かれて徐々に集まっているし、一斉に襲ってこられてはひとたまりもない。

「移動するなら一度大きく迂回しよう。<奴ら>を引き離してから……ん?」

 不意に毒島先輩は言葉を区切り後ろを振り返る。

 バックミラーで確認すると、道の向こうに車が一台見えた。スクーターのエンジン音で気づかなかったがどうやら俺たちの後ろから走ってきたらしい。
 スクーターを止めて同じように振り返った。

 徐行運転でこちらに近づいてくるのはごく一般的なセダンの乗用車だった。運転席に見える男性は……こちらに気づいて手を振っている。
 生きた人間のようだ。助手席には少女らしき姿も見えるし、恐らくは親子だろう。

「どうやら生存者らしいな……だが先ほどのこともある。簡単に気を許してはいけないぞ」

「……分かってる」

 とは言うものの正直どう対応したものか困るのが本音だ。
 車内にいるのではっきり見えるわけではないが、一見すればごく善良そうな男性だ。だがそれは才門も同じだった。
 娘を連れた父親が凶行に走るなんて信じたくはない。
 しかし娘のために他人に危害を加えることも厭わないとすれば……疑い出せばきりがない。

 距離は20mほど。
 セダンはゆっくりと俺たちに近づき。






 突如俺たちの視界から姿を消した。






「な…………ッ!?」

 声を上げたのは果たしてどちらだったのか。

 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
 気づけば視線の先では、俺たちに近づいてきていたセダンではなく、見知らぬワンボックスカーが横向きに停車している。
 セダンは……ワンボックスとブロック塀の間に。


 より正確には。


 横合いから突然飛び出したワンボックスが、セダンを巻き込み塀に突き刺さっていた。


 処理の遅れた脳が今更になって耳に届いた轟音の意味を知らせてくる。

「……ッ!!」

「ま、待て! 衛宮君!!」

 スクーターを飛び降り大破した2台の車へ向かって走る。
 ノーブレーキで衝突したワンボックスは、セダンの運転席側から突っ込み鋼鉄の車体を見る影もなくひしゃげさせていた。
 だが不幸中の幸いか被害を受けたのは後ろ半分のようで、運転席も助手席も比較的無事に済んでいる。しかしエアバッグに阻まれて乗っていた2人の安否はまだわからない。

 ガソリンがもれているのか、つんと鼻を突く臭いがする。
 とにかくこのままにしておくわけにはいかない。

 激突の衝撃で半開きになっていたドアをこじ開け男性の体を引きずり出そうとするが、エアバッグが邪魔でシートベルトをはずすことすら出来ない。

「くそ、邪魔だ……!」

 指先に何か硬いものが触れる。男性の胸ポケットに入っていたボールペンだった。
 とっさにそれを引き抜きエアバッグに突き立てる。
 ボスン、と埃っぽい空気を吐き出しながらエアバッグがしぼんでいく。

「ぐ、う……」

 意識がある!
 シートベルトをはずしてやると、男性は脳震盪を起こしているのか若干ふらつきながらも自分の足で車を降りた。

「大丈夫ですか、どこか怪我は」

「わ、私はいいんだ、それより娘を……!」

 そうだ、まだこれで終わりじゃない。

 もう一度車内に頭を突っ込み、先ほどと同じ要領でエアバッグとシートベルトを取り除いていく。

 エアバッグの向こうから姿を見せたのは、赤みがかった明るい茶髪にヘアバンドをした快活な印象の少女だった。左の目元に泣き黒子が見える。
 気絶しているものの、息はあるし目立った外傷は見られない。
 父にしても娘にしてもあれだけの速度で衝突されて見た目ほぼ無傷と言うのはとんでもない幸運だ。

「今助けるからな……ッ」

 ぐったりとしている少女を引きずり出し両腕で抱える。
 意識のない人間の体は重いと言うが、それでも少女の体は酷く軽く感じられた。
 そして思い知った。
 <奴ら>の狂気は、こんな幼い少女にまで容赦なく魔の手を伸ばしているのだということを。

 来たほうを向くと毒島先輩が男性の体を支えている。支えられている彼も足取りはしっかりしている。

「衛宮君!」

 先輩に呼ばれ、そちらに駆け出そうとし。



 ドサリ。



 何か重いものが落ちる音に振り返った。

 それはワンボックスの運転席から零れ落ちた、いや、"這い出して"きた。
 <奴ら>だ。運転手だったらしいガタイのいい男だった。

 運転中に"なった"のかは分からないが、正面から突っ込んだこちらの容態はひどいものだった。
 両足は曲がってはいけない方向に向いていて立つこともままならず、エアバッグでさえ衝撃を殺しきれなかったのか肋骨が胸を突き破って露出している。
 その有様でいてなお、そいつはこちらに向かって這いずりよってきた。
 決して獲物を諦めまいと言うように。

 ずる、と引きずるような足音に視線を周囲に向ける。
 恐らく事故の轟音を聞きつけてきたのだろう、あちらこちらから<奴ら>が姿を現し始めていた。

「とにかくここを離れよう。あれだけの音を立てたんだ、ぞくぞく集まってくるぞ」

 先輩に頷き、少女を抱えたまま走り出す。
 後ろから聞こえる<奴ら>の呻き声が、いつまでも俺たちを追い立てていた。











 事故現場から逃げ出しどれほど走ったころか、住宅街の一角で<奴ら>の姿がなくなったのを確認し俺たちはようやく一息ついた。
 流石に子供1人を抱えて走り続けるのは骨だった。
 いくら独学で体作りをしていたとはいえスポーツマンほど体力に秀でているわけではないのだ。すっかり息が上がってしまっている。
 その傍らで毒島先輩が涼しい顔をしていると言うのは、まあ抱えてきたものに差があるとはいえ男として情けない限りだ。

 走ってる間に立ち直った父親に少女を渡すと、俺はどっかりとブロック塀に背を預けアスファルトにへたり込んだ。
 そんな俺に毒島先輩がペットボトルを差し出す。
 コンビニから持ってきたミネラルウォーターだった。スクーターに乗せていた荷物もそれぞれの武器もしっかり持ってきていたようだ。なおさら頭が上がらない。

「君はどこまで行っても向こう見ずというか、後先を考えないらしい」

 まったく返す言葉もない。
 事故を目撃した瞬間2人を助けること以外すっぽりと頭から抜け落ちていた。
 流石に先輩のことまで忘れたつもりはなかったが、荷物のことなど欠片も考えていなかった。

「だがそのおかげで小事で済んだこともある。あの場でとっさに行動できたのは立派だった」

 いや、まあほんとに何も考えていなかったと言うべきか、体が勝手に動いたと言うべきか。

 優しく微笑む先輩にたじたじになって、ペットボトルの水をあおってごまかす。
 すると、着ていた上着を枕にして俺の横に少女を横に寝かせていた男性がこちらに向き直る。

「君たちのおかげで助かった。本当に感謝している」

「あー、ええと……」

 本当にそこまでのことをしたつもりはない。
 男性は驚くほどぴんぴんしているし、そもそも俺たちを見かけて減速したりしなければワンボックスに突っ込まれることもなかったかもしれない。
 そう思うと面と向かって礼を言われるのは少々面映いものがあった。

 そんな俺に助け舟を出すように、先輩が男性に容態を確認している。
 受け答えもしっかりしているしどこかを強く打ったということもないようで、割れたガラスで少々怪我をしたらしいものの基本的には無傷のようだ。
 毒島先輩の見立てでは気を失っている少女も同じようなものらしい。剣道部の練習中に倒れた部員よりよほど健康的な顔色をしている、とのこと。
 あとは意識が戻れば大丈夫だと言うことだが……。

「う、ん……」

「あ、気がついたか?」

 隣で身じろぎをした少女がうっすらと目を開ける。
 無事目を覚まして何よりだ。父親の男性も安心したのか、目にうっすらと涙を浮かべている。
 一方少女はのんきなもので眠たげに目をこすりながら体を起こす様子は、気がついたと言うよりほとんど寝起きのそれだ。

「あれ、パパ……あたしどうしたの……? お兄ちゃんたち誰?」

「よかったありす、どこも痛くはないか? 怪我はしてないな?」

「ふゃ? くすぐったいよパパぁ」

 突然父親に抱きしめられ困惑する姿がまた微笑ましい。
 そっと体を離した父親が頭を撫でてやると、はにかんだように笑みを浮かべる。

 ああ。

 純粋な"笑顔"を見ることがもうずっとなかったようにさえ感じられる。
 先輩も決して笑わないわけではない。だがその奥には常に一抹の緊張感を纏っていたことも確かだ。
 <奴ら>が現れてからというものこれほど屈託のない笑顔を浮かべられることがどれほど貴重なことか。
 そしてこの笑顔が失われなかっただけでも、俺の行動に意味があったと思えるのだ。

「私は希里といいます。こっちは娘のありす。ほらありす、ご挨拶なさい」

「希里ありすです。小学2年生です!」

「あ、俺は藤美学園2年の衛宮士郎です」

「同じく3年の毒島冴子だ。よろしく」

 先輩も膝を下ろし、少女──ありすに視線を合わせて頭を撫でる。

「再三になるが痛いところはないか? 頭痛がしたり気分が悪かったりしたらすぐに言うんだ」

「ううん、平気だよ。ねえパパ、何があったの?」

 気がついたら知らない人がいて、さらに口をそろえて怪我はないかと聞かれれば不安にもなるだろう。
 ぺたぺたと自分の体をまさぐりながらありすは首をかしげる。

「事故に巻き込まれたんだよ。でもこのお兄ちゃんが助けてくれたんだ」

「そうなの? あ、ありがとうございます!」

 ぺこりと頭を下げるありすだが、やっぱり俺としてはどうも居心地が悪い。

「あの恐ろしい連中が現れてから目も覆いたくなるものばかり見てきた。人も、そうでないものも……だが君たちのような子がいると思うとまだ希望が持てるよ」

「その賛辞は彼に送ってあげてください。貴方たちを助けたのも、<奴ら>が現れてなお……いや、一層そのスタイルを貫いているのも彼ですから」

 私はその真逆にいる、となぜか毒島先輩は自嘲気味につぶやいた。

 その意味するところはわからないが、俺としてもそんなに褒め称えられるようなことをしているつもりはない。
 半分は自分の奥に潜むよく分からない衝動に任せているようなものだし、それに大体、

「困っている人がいたら助けるのは普通じゃないか?」

 って、なんでそこで呆れた顔をするんですか毒島先輩。あ、ため息ついたよこの人。
 希里さんは希里さんでなぜか感心しているし、ありすは……。

「ふぁー……」

 な、なんだろう、この何か期待に満ちたような満面の笑みは。
 そしてその笑顔のまま、背筋のあわ立つような恥ずかしいセリフを、




「なんだかお兄ちゃん、■■■■■みたい!」




 ────僕はね、士郎。



 何か大切な言葉を、言った。



「……今、なんて?」

「ん? どうした、衛宮君」

「あ、いや、なんでもない」

 今のは何だったのだろう。
 どうしたって聞き覚えのない、だが絶対に忘れられない言葉だった気がする。
 だがそれはなぜか俺の記憶の中には残っていない。まるでその言葉だけが削除されてしまっているようだ。

「ところで希里さんたちはどちらに向かうご予定で?」

 俺の様子に怪訝そうな顔をしたものの、毒島先輩らは話し込み始める。
 俺も首を振ってそちらに耳を向けることにした。

 ────そもそも"あんななんでもない言葉"を隠そうとする理由が分からないのだ。

「自宅に向かう途中だったんだ。私は勤め先から娘を迎えに行ったんだが、家内がまだ家に残っているはずで……」

 希里さんが最初に異変を察知したのは会社でのことだったらしい。
 営業に出ていた同僚が何者かに襲われて病院にいると言う連絡を立て続けに受け、何かがおかしいと思った彼は会社を抜け出し車で学校までありすを迎えに行ったそうだ。
 そして車中のラジオや町の様子で何が起こっているのかを悟ったという。
 だが家に連絡しようとしても携帯の回線がパンクしていて繋がらない。そこで直接家に向かう途中だったのだ。

「家内を拾って、そのまま洋上空港へ向かうつもりだったんだが……そういう君たちは?」

「俺たちは仲間の乗ってるバスとはぐれてしまって。みんなと合流した後、やっぱり家族の安否を確認に行くつもりです」

 こうしてみるとどちらも行動方針は大体同じだ。
 だが揃って移動の足をなくしてしまった今、下手に身動きをとることさえ憚られる。

 のだが……。

「希里さんちは近いんですか?」

「ああ、歩いて5分もすればつけると思うが……」

「それなら、」

「衛宮君」

 毒島先輩の声。
 分かっている、それが利口な選択じゃないことくらいは。
 今までだって助け出すことなんて出来ないと家にこもる人々のことを見て見ぬ振りをしてきた。今回も同じだ、この世界で生き残るためには無用な善意は命取りになる。
 あるいは移動手段があればまだよかったかもしれないが、結局スクーターはあの場に放置してきてしまっている。今から取りに戻るのはそれこそ自殺行為だ。

 だが俺は一度彼らを少なからず手助けしてしまったし、そんな人たちをこのまま放って置く気にはどうしてもなれない。
 それに、こんな幼い少女が母親を亡くしてしまうような様子は絶対に見たくなかった。

「毒島先輩、やっぱり俺、」

「バイクの音だ」

「え?」

 彼女の口から出た予想外の言葉に思わず首をかしげる。
 だが耳をすませてみると、確かに<奴ら>の呻きや遠くから聞こえる喧騒に混じってバイクのエンジン音が聞こえてくる。
 それも徐々に大きくなっている……つまりこちらに近づいてきているということだ。

 思わず立ち上がってバットを手に取った。
 先ほどのこともある。流石に<奴ら>にバイクを運転できるほどのバランス感覚はありそうにないが、乗ってるのがまともな人間とは限らないのだ。
 希里さんも身構え、ありすは俺たちの物々しい様子におびえたのか彼の後ろに隠れている。

 出来るならそのまま通り過ぎて欲しい。
 あるいは希里さんたちのようにただ逃げ場所を求めているだけであって欲しい。

 だがもし先輩や、あるいはこの小さな少女を傷つけようとするなら……。

 腰を落としバットを構える。
 男であれ女であれ相手が生きた人間だとして、俺に攻撃が出来るかはわからない。いや、だが覚悟は出来ている。
 ひとつ思うとすれば、せめて怪我をさせずに追い払いたいところだが。

 通りの向こうにオフロードバイクが姿を現す。
 やがてバイクの運転手もこちらに気づいたのか、徐々に速度を落とし……って。

 まさか。

 ハンドルを握る男と、その後ろにまたがる女の姿。
 いや確かにそう望んでいた。けれども本当にそれが叶うなんて。




 あれは、間違いなく。




「孝、それに有瀬も!!」

「士郎、毒島先輩、よかった無事だったか!」

 孝がサドルから降りバイクを押しながら歩いてくる。
 有瀬はその後部から飛び降りると、転びそうになりながらも一目散に駆け寄ってきた。
 そのまま俺の手をとってぶんぶんと上下にシェイク。

「衛宮君、ほんとに衛宮君だよね! よかったよぉ、もう凄く心配で……っ」

 時間にしてほんの1,2時間と経っていないだろうにもかかわらず、まるで数日振りに顔を見たような気分だ。
 有瀬などこみ上げる涙をこらえきれず毒島先輩の胸を借りて宥められている。「ふぇぇぇ……毒島せんぱぁい……」「よしよし、君たちこそ無事でよかった」なんて次第だ。

「けど2人だけか? 宮本や……それに沙耶は?」

「安心しろ、高城も静香先生もみんな無事だ。そっちこそ、よく生きてたよ……いや、死んだと思ってたわけじゃないけど」

 いやまあ確かにバスから転がり落ちて<奴ら>の中に取り残されたのを見ていたのだ。むしろ生きていると思うほうが非合理だ。

「高城がね、士郎は本当にやばいときこそ自力でどうにかするって言ってたよ。そういわれると確かにそうだったかもしれないって思ってさ」

 川流れ事件とかカツアゲ事件とか、と孝は懐かしい言葉を持ち出してくる。
 どちらも昔あった騒動の名前……って失敗談ばっかりだ! あと川流れ事件は孝も当事者だ!

「と、とにかく、バスはどうしたんだ?」

 そう、彼らはバスで先行してたはずだ。
 にもかかわらずバイクで2人、こんなところをうろついていた理由を突き止めなければならない。

 決して興味深そうにしている先輩や有瀬の目を逃れるためではないのだ。

 なんて言い訳しつつ有瀬が落ち着くのを待ち、俺たちがはぐれてからの顛末が2人の口から語られる。

 あの後バスは道なりに御別橋方面へ向かっていたが、途中孝と宮本が俺たちと同じようにバスからはぐれてしまったらしい。
 孝らはそこで今乗っているバイクを調達し別ルートで大橋へ向かう。
 そしてちょうど橋の交通制限で足止めを食らっていたところでバスを降りた沙耶や有瀬たちと合流したそうだ。

 …………まあ、こういうことを俺が聞くのもあれなのだが。

「なんでまたそんなややこしい事になってるんだ?」

「まあ色々とな……こういっちゃ何だが、それもこれも紫藤が乗ってたからだ」

「紫藤教諭か。確かに一緒に乗り込んでたと思うが」

「アイツ……突然バスの中を仕切り始めたんだ。資格がどうとかリーダーがどうとか」

 その末に親の仇の如く紫藤を嫌っていた宮本がバスを飛び出し、それを追って孝が降りたところで事故がおき分断されてしまったという。

「小室くんたちが降りてからも紫藤先生、なんだかいやな感じだったな……。高城さんは"紫藤教の始まりだ"って言ってたけど」

 普段人の悪口など言うほうではない有瀬にしてこう言わせるのだから、相当なものだったのだろう。
 俺たちの中で統一されていた家族の安否を確認しに行くと言う意見を棄却した紫藤は、藤美学園生による極めて閉塞的なコミュニティの形成に乗り出し始めたらしい。
 それを本人が自覚していたかはともかくとして、だ。
 最終的に沙耶や有瀬たちはそれに反発する形でバスを離脱。ドライバーを努めていた鞠川先生が残留を迫られるも、平野の援護によって共に降りることが出来た。

「そもそも、士郎たちを見捨ててバスを発進させたのは紫藤なんだ。さすがに僕はそんなヤツと一緒にいる気にはなれなかった」

 なるほど、あの時バスが走り出したのはそういうわけだったか。
 鞠川先生や一緒に乗っていたメンバーの性格からして不自然だとは思っていたが、そういうことなら納得できる。

 けれどそれを聞いたところで紫藤を恨んだり憎んだりする気持ちにはならなかった。

「カルネアデスの板だな。あの時バスの発進が遅れていたら全員が被害にあっていた可能性もある。そう考えれば紫藤教諭の判断は決して間違いとはいえないだろう」

 毒島先輩が俺の考えを代弁してくれた。

 カルネアデスの板。
 今にも溺れそうな2人が1枚の板にしがみついたとき、一方がもう一方を突き飛ばして水死させても後の裁判で罪に問われなかったという話だ。
 現代においてもこれは刑法でいう『緊急避難』が適応される。
 その判断の元で俺たちを切り捨てたのであれば、紫藤が下した判断は非情ながら理解できないものではない。

 ただ俺が逆の立場に立ったときその決断を決して受け入れられないだろうとしても、それとこれとはとりあえず別の問題だ。
 俺を切ってみんなが助かるんだとしたら、まあしょうがないと思えた。

 無論のことあっさり死ぬつもりはない。板から手を話した後も毒島先輩に助けられつつ必死こいて泳いできたから今ここにいるわけだし。

「加えてこの非常時にリーダーシップを発揮し生徒をまとめる手腕も評価に値する部分はあるだろう」

 そう続ける先輩に孝は露骨に苦い顔をしている。
 先輩はただし、と苦笑しながら付け加えた。

「そのやり方が私の好みかというと別だがね。それはそれとしてだ、君たちは2人だけで何をしてるんだ?」

「あ、ああ、そうそう。俺たち静香先生の友達の部屋を借りることになったんです。まあ勝手に、だけど」

「鞠川校医の?」

「警官とか言ってたかな。川沿いのメゾネットで、塀も高くて門も頑丈だから<奴ら>は入ってこれそうにないんだ」

「こーんな大きな車もありました。えっと、なんだっけ、はんびー? って言ってたような」

「平野の見立てじゃ銃もありそうだって……」

「な、なんかそれ凄いな……どんな友達なんだ」

 さあ、と首をかしげる2人。
 いくら警察官だからといって自宅に銃やらハンヴィーやら置いてあるっていうのは過激に過ぎる。
 っていうかそもそも警察官って銃を自宅においておいたりするようなものなのだろうか? なんだか話を聞いているともっとヤバげなものな気がしてくる。

「ま、まあ敷地内には<奴ら>もいたけど全部倒して部屋を確保したんだ。そしたら、」

「私が無理言っちゃったんです。私の家、この近くだから様子を見に行きたくて……」

「それで君たち2人だけで出てきたのか? いくらなんでも無謀にもほどがあるぞ」

「う……それは、そうですけど……バイクでさっと行ってきちゃうつもりだったんですよ。みんなでぞろぞろ行くと余計時間かかるし」

「はぁ…………どうやら君も若干似たような節があるらしいな」

 ちらりと俺を見る先輩。
 あ、待て、今なんか嫌な引き合いに出された気がする。

「……僕と士郎が似てる……」

「なんでちょっとショック受けてるんだよ!」

 顔を逸らすな顔を!
 そりゃ俺だって少しくらい無鉄砲なことは自覚してるけどそこまで言われるほどじゃない……はず、だよな?

 激しく追及したいところだが、したらしたで巨大なブーメランを食らいそうなのでぐっとこらえる。
 鈍い俺でも流石にここはまずいと踏んだのだ。先輩の目がめちゃくちゃ冷たかったから。
 いや、はい、迷惑かけ通しで申し訳ありません。

 どうにか逃げ道を探していると先ほどからちらちらと希里さんたちを気にしていた有瀬があ、と声を上げた。

「もしかして、希里さん……ですか?」

「うん……? もしかして、有瀬さんとこのお嬢さんか!」

「はい! ありすちゃん、久しぶり。私のこと覚えてるかな?」

「えっと……あ、智江おねえちゃん!」

 ぴょんと跳ねてありすが腰に飛びついた。有瀬は笑ってそれを受け止める。

 知り合いかと尋ねると、なんとはす向かいのご近所だったそうだ。下3人の弟を持つ有瀬がありすの世話を任されることもあったとか。
 彼女が学園に入ってからはなかなか会えなかったようだが、2人は姉妹のように再会を喜んでいる。

 けどやっぱり有瀬の家もこの近所だったのか。だとしたらやはり様子を見に行くべきだろう。
 その提案に毒島先輩はしぶしぶながらも頷いてくれた。

「だがせめてこの子をそのメゾネットとやらに送り届けるべきだろう。子供を連れて徒歩で移動するのはいざというときに危険だ」

 それは、確かにそうだ。
 有瀬家も希里家もここからすぐそこらしいが、メゾネットへは歩きで10分弱は見たほうがいいらしい。
 10分。普段ならたいしたことのない距離だが状況が状況だし、そろそろ日も落ちきって夜になりそうだ。
 どうも感覚的に時間が経つに連れて<奴ら>の数も増えているように感じる。

 全員でメゾネットに行ってまた出てくるのはかえって危険だろう……と思ったところで孝らの乗ってきたバイクが目に入った。

「ならバイクで先に連れて行ったらいいんじゃないか?」

 それならありすを安全に送れるし、メゾネットにいるという沙耶たちに現状を知らせることも出来る。

 とするとあとは誰がいくことになるかだが……。候補は俺か孝、あるいは毒島先輩の3人だろう。
 さて、ここは……。


 1.孝に戻ってもらうか。
 2.毒島先輩なら安心して任せられる。
 3.俺が行こう。




/*/


 と言うわけでみんなのヒロインありすでした(菜々子的なポジションで)。

 このタイミングでありすを出すことは前々から決めていたのですが、直前になって孝やヒラコーの見せ場を奪いたくないとギリギリまで悩みました。
 結局本筋は変更しませんでしたが、2人にはこのチャプターのクライマックスで存分に頑張ってもらうつもりですのでよろしくお願いします。

 しかし孝と士郎って組ませるの難しいな……。




>士郎弱い、足手まとい、何やってんのこの子!

・それが士郎クオリティ。
 何でかよく分かりませんが私は士郎が大好きです。ゾンビと同じくらい好きです。


>死亡ルート

・やはり多すぎても話が進まないと言うことで少し調整していくことにします。
 まあでも死亡ルートも書いてて楽しかったりするのでここぞと言うときにはさんでいきたいと思いますが……。


>士郎のチート

・確かにそういう点では爽快感のあるシーンがあってもいいやも……。
 ラストのほうとかどこかで組み込めないか考えてみますか。




 余談ですが、原作時の希里親子は「車で御別橋を渡ろうとする→渋滞や混乱を目の当たりにして車を捨てて隠れ場所を探していた」という仮定で書いていたり。
 あと距離的にありすの小学校は御別小学校ではなさそうだな、とみてます。そんだけ。



 追記:誤字修正しました。登場人物の名前間違って覚えてるとかマジ恥ずかしい限りであります……。orz



[6377] 2-4A(前編)
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/08/06 19:54



 孝に戻ってもらおう。孝なら道も分かってるし、こっちも毒島先輩がいればいざというときに心強い。

「じゃあ俺と毒島先輩で希里さんや有瀬の家族を探して、孝に……あー、この子を送ってもらうってことでどうかな」

「この子じゃないもん、ありすだよ!」

「悪い、えっと、ありすを」

 そう提案すると毒島先輩は少し考える様子を見せ、「まあ妥当だな」と頷いた。
 孝もそれに続いて同意した。

「分かった。じゃあ毒島先輩、士郎を頼みます」

「ああ、任せておけ」

 待て。

「なんでそこで俺なんだ!」

「そりゃ……士郎だからだよ」

 当然とばかりに言い切る孝にさもありなんと頷く毒島先輩。よく見ると有瀬まで首を縦に振っている。
 なんて扱いだ。流石に納得でき……あ、いや、心当たりはないわけではないというか、自分がへっぽこな自覚くらいはちょっと、ある、けど……。

 追い討ちをかけるように、

「扱いに不満があるなら自分の行動を改めることだ」

 なんていわれる始末。
 自業自得なのは分かってるけど……ッ、くそう……ッ!

「あの、えっとその、大丈夫だよ! 衛宮君良いところいっぱいあるから!」

「お兄ちゃん、泣いてるの? 大丈夫?」

 2人のフォロー(?)がざくざくと胸をえぐる。
 いっそこのまま走って逃げ出したくなるが流石にそれをやると本当に取り返しのつかないことになるので針のムシロで我慢。凄く、痛いです。



 若干一名(俺)心に傷を負いながらも方針は決定したので、あとは行動するだけだ。
 既に空も暗くなり始めている。
 これ以上無為に時間を浪費するのは避けるべきだろう。

「では可能な限り急いで戻る。小室君、その子を頼んだよ」

「沙耶たちにも、俺たちが無事だって伝えておいてくれ」

「ああ、そっちこそ無理するなよ」

 隣では希里さんたちが一時の別れを済ませている。お兄さんの言うことをよく聞くんだよ、という父親の声が耳に届いた。

 ────この子のためにも、必ず母親の無事を確認しないと。

 ぐ、とバットの握りを確認。毒島先輩も横で鉄パイプを軽く振っている。
 出来れば有瀬や希里さんにも獲物があればいいのだが、孝の金属バットを取り上げるわけにもいかないだろう。

「あ、私も宮本さんから武器を借りてきたんです」

 と思ったら有瀬は宮本からどこで手に入れたのやら、警棒を預かってきていたらしい。
 うーむ、おっとりした有瀬に警棒というのは……似合わないというか、むしろシュールだ。

「これ、良かったら希里さんが使ってください」

「それは……ありがたいけど、いいのかい?」

「私が持っててもあまり役に立たないだろうし……」

 有瀬は警棒を希里さんに渡す。
 俺はそれを複雑な気持ちで見ていた。

 確かに有瀬を戦力に数えるのは難しいし、彼女に武器は似合わない。
 だがいずれそうも言っていられなくなるときが来るかもしれない。いや、あるいはもう既にそうなっているのかもしれない。
 けれど出来ることなら彼女や、あるいはありすのような子に武器を持たせるなんてことはしたくない。甘い考えだといわれたとしても。
 本音を言えば毒島先輩や宮本もだが、女の子が武器を持って<奴ら>を倒すような姿なんてあまり見たくはないのだ。
 けど正直彼女たちは俺よりも強い。実際問題俺のほうが守られていることが多いのが現状だ。

 ならばせめて。
 俺よりもか弱い有瀬たちや……それに沙耶たちだけでも守れるようにならなければ。

 彼女たちが武器を持つ必要がないくらいに。

「っと、そうだ士郎。これもそっちが持ってたほうがいいだろ」

「これ……拳銃? どこで……」

 孝に手渡されたのは、丸いレンコンのような弾倉のついたリボルバー型のピストルだ。弾は5発入っており撃鉄を起こし引き金を引くだけで簡単に撃てる。
 握ってみると少々小さいが、大きさの割にはずっしりと重い。

「まあ、ちょっとね……。念のため持ってろよ」

「……わかった、ありがとな」

 戻って来いよ、と右手を突き出した孝に、こちらも軽く拳をあわせて応える。

「よし、それじゃあ行くぞ」

 毒島先輩が号令を出す。

 それに頷いて、俺たちは住宅街に

向け走り出した。










 ─Interlude─



 士郎たちが角を曲がって見えなくなったところで、孝はもう一度安堵のため息をついた。

 ────生きていた、2人とも無事で。

 彼らが放り出されてからというもの麗は紫藤のこともあって酷く荒んでいたし、智江はずっと不安げで落ち着きがなかった。
 唯一沙耶は冷静を装っていたが、内心不安を押し殺していたに違いない。

 そしてそれは孝も同じだった。
 沙耶の言葉もあり士郎たちの生存を信じて……いや、むしろ極力考えないようにしていたものの、その実最も心穏やかではなかったかもしれない。
 その日のうちに親友を2人も亡くすことになるのではないかという恐怖が常に頭の隅にあった。
 バスを降りてからは自分たちが生き残ることに必死でそれどころではなかったが、当座の宿を確保したところでまたその不安はぶり返してきた。
 反対する麗たちを押し切って智江の家に向かおうとしたのは、それを振り切りたい思いもあったのだろう。

 それが吉と出た。出来すぎたほどの幸運が重なってどちらも欠けることなく再会を果たせた。
 いや、むしろ増えてたけどな。と、ありすに顔を向けるとあどけない表情で首をかしげている。

 ともかくまた別行動を取ることになったが、それでも安否が全く分からなかったときよりは断然マシというものだ。

 早く戻ってみんなに知らせてやろう。孝はバイクに向き直ると後部にくくりつけられたバッグを再度調整した。
 冴子たちが持ってきた荷物はこちらで引き取ることになった。全員両手が使えるのが望ましいし、徒歩で余計な荷物は命取りだと言う判断からだ。救命物資に足元をすくわれては笑い話にもならない。
 あとはここにありすを乗せれば完了、すぐに発進できる。お菓子や飲料水のボトルで座りは悪いだろうが体の小さな彼女なら問題ないだろう。

「お……お兄ちゃん……」

 服のすそを引っ張ったのはそのありすだった。なにやらもじもじと顔を赤くして膝頭をすり合わせている。

「ん? どうした?」

「お、おしっこしたい……」

「うぇ!? が、我慢は!?」

「ちょっとなら……っ」

 そういう間にも限界が近づいているのか、せわしなく足踏みをはじめている。
 慌ててありすを荷台に乗せ、自分も飛び乗るようにしてサドルにまたがった。

「ちょ、ちょっとだけ耐えてくれ! ゆれるけどしっかりつかまってろよ!」

「ゆれると出ちゃうよぉ~~~……っ!」

 エンジン音と幼い悲鳴の混ざった尾を引きながらバイクは急発進する。
 <奴ら>がその音に引かれて近寄ってきたが、唸りを上げる鉄の馬に追いつくことはなかった。









 徐々に近づいてくるバイクの音に最初に気づいたのは麗だった。
 平野たちと行っていた武器探し……という名の家捜しを放り出して慌ててベランダに飛び出る。期待に違わず通りの向こうから近づいてくるのは先ほどここを発ったバイクだ。

「孝たちが帰ってきたわ!」

 中にいた沙耶や鞠川にともすればややおざなりに声をかけ、玄関を出て門の前に待ち構える。
 頑丈な鉄柵で出来た門の外には<奴ら>がうろついてはいるが、幸いバイクに気を取られてこちらには気づいていない。

 震えるようなエンジン音が大きくなっていき、麗はタイミングを見計らう。
 そして、

「いまだ、開けろ!!」

 バイクの音に負けじと張り上げられた声に合わせて勢いよく門戸を開け放つ。
 そして孝たちが飛び込んだのを確認し即座に閉じる。上手いことに<奴ら>は一匹も入っていない。打ち合わせもしていないにしては神がかった息の合い方だった。

 玄関前に飛び込んだバイクは後輪を滑らせながら停車。
 そのサドルには出て行ったときと同じ少年と少女が……、

「孝……って、え!?」

 乗っていなかった。
 孝は間違いなく孝だ。だが後ろに乗っている少女は、一緒に出て行った有瀬智江ではない見覚えのない幼い女の子に姿を変えている。
 しかもよく見るとその少女が座っていたところには出掛けにはなかったバッグが積まれているではないか。

 最悪の想像が麗の脳裏に浮かぶ。

「ちょっと孝、有瀬さんは……まさか!?」

「今それどころじゃないんだ、玄関開けてくれ!!」

 だが孝はそんな麗に目もくれず、何かに急かされるように大慌てで少女を抱きかかえる。

「ちょっともう、1人で行かないでよ! 何かあったら、ってきゃ!」

「み、宮本さん、小室、大丈夫………っととうわぁ!?」

 ちょうどそこに沙耶や平野が玄関を開けて出てくると、それを孝は押しのけるようにして部屋に飛び込んで行く。

「何なのよもう!」

 悪態をつく沙耶にこっちが聞きたい、と肩をすくめると同時、奥から情けない叫びが聞こえてきた。

「鞠川先生ーーーーっ! トイレってどっちですかあああぁぁぁ!?」

「もうもれちゃう~~~~~~~っ!!」

「………………なんなのよ、ホントに」



 あわやというところでありすをトイレに放り込み事なきを得た孝は、リビングで全員を集め事のあらましを説明した。
 途中で士郎たちと出会ったこと。そこに一緒にありすとその父親がいたこと。彼らはそのまま智江とありすの家を捜索しに行ったこと。

 その報せを聞いた瞬間5人で囲んでいたテーブルに身を乗り出したのは鞠川だった。

「ホントに!? ホントに衛宮君も毒島さんも無事だったのね!?」

「ああ、2人ともぴんぴんしてたよ」

「よかったぁ~~~~……私のせいで2人ともって思ったら私、もう……」

 鞠川もまたずっと2人の身を案じていた。
 殊更に士郎たちが投げ出された瞬間ハンドルを握っていたこともあり、自らのせいで彼らに何かあってはあまりに申し訳ないと罪悪感に押しつぶされかけてさえいた。
 その不安や落胆を露骨に表に出すのは年長者として相応しくない態度だったが、そこで"大人"になるには彼女はまだ若すぎたし、また冷静でもなかった。

 対していの一番に食いつくかと思われた沙耶は、むしろ淡々とどこか冷めた顔をしている。

「ふぅん……で、そのまま行っちゃったわけね。こっちに顔を見せもしないで」

 神経質そうに眼鏡を直しながら話す口調はやはり冷たい。

「いやまあ、だから僕が報せに戻ったっていうのもあるんだけど」

「どっちでも同じよ全く。ホントにあのバカは死んでも治らないみたいね」

 切って捨てるように言うと、沙耶は席を立ちそのまま2階に続く階段に向かう。

「あの、高城さん、どこに……」

「なんだっていいでしょ! こっち来ないでよ!!」

 心配そうに声をかける平野をすげなく振り払い、どすどすと重い足音を響かせながら上に引っ込んでしまう。
 弟の無事を聞いてもまるで嬉しそうな様子を見せない沙耶をコータは訝しんでいたが、孝と麗は握った拳が震え、目の端が眼鏡のレンズ以外のもので歪んでいたことに気づいていた。あえて追求することはしなかったが。

 どうにも素直でない沙耶にため息をつき孝は話題を変える。

「そっちはどうだった? 何か見つかったか?」

「そうだ!! すごいよ、見てくれ小室!!」

 興奮した様子で平野が取り出したのは、長身の二丁の銃。
 そのマットブラックの塗装や、複雑ながらも洗練されたデザイン、各所に取り付けられたオプションを見るにライフル……いや"軍用"ライフルと形容するのが最も相応しいだろう。

 全体的に細長い印象を与えるのはスプリングフィールドM1A。第二次大戦期に製造され現在に至るも改良を重ね一線で活躍を続けるロングセラーライフル、M14シリーズのコマーシャルモデルだ。
 基本的にはM14からフルオート機能を排除したモデルだが、その射撃精度や造形の美しさから米国においてはライフルマニアの間で絶大な人気を誇っている。
 平野が持つ鞠川の親友……彼女の話では警官だという南リカのものはバリエーションのひとつであるスーパーマッチを元にカスタマイズされており、ぱっと見ただけでもダットサイト、増設されたレイルシステムにフォアグリップ、フラッシュライトとオプションが惜しげもなく取り付けられている。

 もう一方は孝にもどことなく見覚えのある銃だった。
 米軍制式採用銃であるM16の前身となったAR-10を徹底的に改造し、SR-25狙撃銃風に仕立て上げている……とは平野の説明だが、孝には何がなにやらさっぱりだ。
 こちらは銃身下部に二脚バイポッドが取り付けられており、上部には光学スコープが鎮座している。

 ギャグでも玩具でもない、どちらも実銃だ。
 いずれも中~長距離射撃に適した仕様になっている。

 さらに平野の話ではこの他にもポンプアクションのショットガンとクロスボウを一丁ずつ発見したらしい。
 ごとりとテーブルに並べられたライフルを前に、孝は盛大にため息をついた。

「……一体何者なんですか、静香先生の友達って」

「えぇ? 普通のおまわりさんだと思うけど~……」

「どこがですか……けど見つけたのはいいけど、使えるのか?」

「弾薬もあったし整備状態は良好。むしろやばいくらいだね、こんな即撃てるような状態で置いておくなんて完璧違法だよ」

 うふふふふ、と笑う平野は陰を背負ってる割に妙に生き生きとしている。

「僕はこのくらいなら余裕だし、小室たちも少し慣らせばすぐ使えるようになると思うよ。ただ……」

「ただ?」

「使いどころは難しいね。下手な距離で銃声を響かせればたちどころに<奴ら>の餌食だ。十分距離をとって使うのが理想だけど、そうするとあえて撃つ必要もないってこともある」

 伊達にガンマニアをやっていない平野は銃を手にして興奮してはいたが、その運用に関してはむしろ最も冷静だ。
 先の2丁はいずれもあくまで狙撃銃だし、手に入れた銃の中では唯一ショットガンが中~近距離での制圧力に長けているもののやはり銃声がネックとなる。強いて真価を発揮する状況があるとすれば、<奴ら>に囲まれているときだろうが……、

「そんな状況には陥らないのが一番……ね」

「そういうこと」

 げんなりした様子の麗に平野は頷く。

 孝はそれを聞くと険しい顔で立ち上がり、カーテンの引かれた窓に寄ってそっと外を覗いた。

「もしかしたらすぐ必要になるかもしれないぜ」

「どういうこと、孝?」

 麗も傍によって来て並んで外を覗くと、すっと通った細い眉をハの字にしかめた。

 通りには<奴ら>がうろついている。ぱっと見ただけでも5,6体。少し見回せばもっとだ。
 幸いにもこちらには気づかずメゾネットの前は素通りしているものの、孝らがここに来たときよりも確実にその数を増やしていた。
 低い呻き声が部屋の中まで届いてくる。怨嗟の唸りのようなその声に麗は背筋を震わせた。

「<奴ら>、どんどん増えてる。士郎たちが戻ってくるときに援護が必要かもしれない」

「…………何とかならないか考えてみるよ」

「頼む」

 言うが早いか、平野はああでもないこうでもないと銃を弄繰り回し始める。既に周りのことは目に入っていないほどの集中力だ。

 それを呆れるべきか頼もしいと思うべきか複雑な心境で眺めていると、腕に暖かいものを感じた。
 麗が寄り添ってきている。その顔は酷く不安げだった。

「……みんな大丈夫だよね、衛宮君も毒島先輩も有瀬さんも。それに私や孝の家族も……私たちも」

「………………わからない」

 正直な答えだった。
 希望、なんて言葉が今ほど遠いと感じたこともない。離れた場所にいる誰かはおろか、自分たちの安全でさえ確固としたものではないのだ。
 孝には誰が無事とも、自分たちがどうなるとも答えることは出来ない。単純に分からないからではなく、それを深く考えれば考えるほど、最悪の結末しか思い浮かばないからだ。

「けど、何とかするしかないだろ」

「…………そう、ね」

 麗の暗い顔は晴れなかったが、先ほどよりも強く孝の腕を抱きしめる。

「そうだ、あのカバンってどうしたの?」

「ああ、なんか士郎たちが途中のコンビニで……」

 少なくとも今はただ、待つことしか出来なかった。



 ─Interlude out─







 有瀬家は通りに面した何の変哲もない戸建ての民家だった。
 外門から入ってすぐに猫の額のほどの庭と駐車場があり、見たところ車は停まっていない。庭にある申し訳程度のガーデニングプランターは無残にひっくり返っている。
 外から様子を見て真っ先に目に入ったのは庭に繋がる割れた窓ガラスだった。風にカーテンがたなびき、何者かがそこから侵入したことを物語っている。

 俺と毒島先輩、有瀬、そして希里さんは玄関前に身を潜めて中の様子を伺うが、だがやはりここからでは屋内がどうなっているかはよく分からない。

「連絡は取ってみたのか?」

「さっき小室君に携帯電話借りて……一回だけ繋がったんだけど、誰も出なくて……」

 有瀬の顔は青い。
 自宅に<奴ら>が侵入したかもしれないと言うのは、どう軽く見積もっても愉快な想像ではなかった。
 車がないと言うことは出かけたかあるいは既に逃げたあとかもしれないが、こればかりは中の様子を見て見ない限りなんともいえない。

「とにかく、中に入ってみよう」

 ドアに手をかけ皆に合図を出す。
 毒島先輩がすぐ横で鉄パイプを構え、希里さんは有瀬を挟んで後方の警戒をしている。

「開けるぞ」

 俺は戸板に身を隠すようにしながら出来るだけ音を立てないようにドアを開け、何が飛び出してきても対応できるように毒島先輩が鉄パイプを構えて中の様子を伺う。

 入ってすぐのところには何もいなかった。玄関には靴がたくさん並べられていたが、どれも雨靴やサンダルなどこの時期頻繁に履くものではない。ただやはり子沢山の家らしく圧倒的に子供用の靴が多いのが印象に残った。
 軋む床板に気をつけながら1歩1歩奥に進んで行く。
 玄関から伸びる廊下は真っ直ぐで突き当たりに洗面所が見える。その途中にリビング、2階へ続く階段、物置と思われる扉があるが今のところそのどこにも<奴ら>の姿はない。

 先頭を進む毒島先輩がリビングにつながるガラス戸に顔を寄せる。そのままこちらに振り返らずにそっと口を開いた。

「有瀬、君の家族構成は? 今の時間家にいるとしたら誰だ?」

「え? えっと、両親と私たち兄妹4人の6人で……今の時間なら、お母さんと弟たちの4人だと思います」

「ならばあれは不法侵入者ということになるな」

 毒島先輩がその場を譲り、俺と有瀬も室内を確認してみる。
 そこにいたのは大学生くらいの男……男だったものだ。正体なくぼうっとした様子で立ち尽くしている。ちらちらと見えるシャツのシミやあちこちについた噛み傷、それに光のない白濁した眼をを見るに間違いなく<奴ら>だ。
 アイツが窓ガラスを破った張本人だろう。その証拠によく見ると服といわず肌といわずあちこち裂けて、ガラス片が刺さったりしている。
 念のために確認するが有瀬は見覚えがないと首を振る。

 もう一度中を見回すが、室内にいるのはどうやらそいつだけのようだった。

「よし、俺が行ってくる」

「……分かった。見えないところにまだいる可能性もある、十分注意するんだ」

「衛宮君、気をつけてね……」

 有瀬たちに見送られながらそっとドアを開き、バットをぶつけないように注意しながら体を滑り込ませる。ドアは閉じずに念のため有瀬に開けたまま押さえておいてもらう。
 なるべくすり足のようにして足音を殺しながら男に近づいて行く。
 テーブルを回り込み背後を取る。ちょうど窓から差し込む夕日を背にする形になり、男の姿を見誤ることもない。

 残り2mとない距離を慎重に、息を殺しながらゆっくりと近づく。
 もう手を伸ばせば届く距離に来て、俺はバットを振り上げた。

 かたん。

 バットの柄がテーブルにぶつかり軽い音を立て、俺の心臓もひとつ脈を飛ばして打った。
 のろりと振り返る男の脳天に全力でバットを振り下ろす。

 硬いものを叩き割った感触を手に残して男はあっけないほど簡単に床に崩れ落ち、それきり動かなくなった。

 ひとつ息をついて辺りをもう一度確認する。
 もう<奴ら>の気配はしない。台所の陰や居間のほうにも誰の姿も見られない。

「よし、もう大丈夫だ」

 安全を確認して廊下で待機していた3人を呼ぶ。
 毒島先輩の後について入ってきた有瀬はびくびくと落ち着きがなく、まるで他人の家に預けられた臆病者のリスのようだ。

「有瀬、平気か?」

「衛宮君……うん、だいじょうぶ。でもなんだか自分の家じゃないみたいで……変だよね、こんなの」

 そういって笑う有瀬の頬は引きつっていていつもの朗らかさはうかがえない。

 自宅は、誰にとっても最も落ち着きや安らぎを得る空間であるはずだ。誰に気兼ねすることなく寝起きし、食事をとることができ、自らを形作る多くのものが息づき、そして家族の待つ場所。
 人によって違いはあるかもしれないが少なくとも寮生である学生たち……そして有瀬にとって間違いなくここは最後に帰ってくる場所だったのだ。

 そこに見知らぬ他人が、招かれざる<奴ら>が侵入した今、彼女は帰る家を失ってしまったに近い。

 ここはもう、有瀬にとって安息を与えてくれる我が家ではなくなってしまったのだ。
 俺に今の彼女の気持ちを推し量ることは、きっと出来ない。

「あ、でもホントに大丈夫だよ! それより早くお母さんたちのこと確かめて、みんなのところに戻らないと」

「……ああ、そうだな。そういえば希里さんは?」

「えっと、さっき2階の様子を見てくるって」

「2人ともちょっといいか?」

 毒島先輩の声に振り返ると、彼女は台所のほうからお皿に並んだおにぎりを持って来た。
 おにぎりにはラップがかけられており、その上からメモ書きのようなものが貼り付けられている。

「台所に置いてあった。君の弟宛てではないか?」

 ────浩太へ、聡が熱を出してしまったので美雪と一緒に病院にいってきます。遅くなりそうだったら冷蔵庫のカレーを温めて食べてね。母より。

 メモにはそう書かれている。ごく普通の、何の異常も感じさせないメッセージだ。

「あ、これ……多分川の向こうの総合病院だと思います。聡、一番下の小学生の弟なんですけど、たまに熱が出ることがあって」

 どうやらしばしばあることらしい。
 つまるところ彼女の母と下の弟妹はこの異変が起こる前に家を出ていたのだろう。

 加えて浩太というのは第一中学校に通う上の弟で、よく部活で遅くなることもありまだ帰宅していないだろうという。

 決して安否が確認できたわけではないが、それでも彼女の顔には安堵の色が伺えた。
 少なくともこの家で何かがあったわけではなくまだ別の場所で生きている可能性があると言うのは、多少なりとも有瀬の希望になったといえるだろう。
 それに第一中学校といえばやはり川の向こう側。孝の母親が働く小学校にも近いし、今後立ち寄ることは可能なはずだ。

「じゃああとは希里さんちか……」

 仕事で県外にいるという父親にはまた別に連絡を試みるほかない以上、もうここに留まる理由はない。

「何か持ち出したいものがあればかさばらない程度に、」

『うわぁ!?』

「!?」

 がたがたとものをひっくり返したような音と共に聞こえた声。
 今の声は……希里さん!?

「二階だ!!」

 まさか。
 まさかまさか。


 ────他にもいたのか!?


 毒島先輩と弾かれたようにリビングを飛び出し階段を駆け上がる。だが先輩は階段の途中で不意に足を止めた。
 つられて上を見ると、当の希里さんが泡を食った様子で上から降りてこようとしていた。

「び、びっくりしたよ、まさか上の階にもいただなんて」

 そういう希里さんは右手に警棒を持ち、そのYシャツには……べったりと血がついている……ッ。

「希里さん、まさか……」

「ああいや! 私は大丈夫だ、これは襲ってきたやつの血だから」

 うめくような俺の声に乱れた服を直し、巻くってていた袖を伸ばしながら答える彼は大きな怪我を負った様子もない。
 本人の言うとおり返り血がついているだけなのだろう。

 よかった……けれど入り込んでいたのが一体だけだと思っていたのは完全に油断だった。

「そいつはどうしました?」

「倒したよ……多分有瀬さんの家族じゃないとは思うんだが……」

 襲ってきたのは女だったらしいが、やはり有瀬の知っている顔ではなかった。下の階の男と一緒に入ってきたのだろう。

 毒島先輩は大きくため息をついて首を振る。
 その顔には苦いものが浮かび、恐らく自責の念に駆られているのだろう。

「申し訳ない、貴方を一人で行かせたのはうかつでした。今後はどんな場所でも決して単独で行動しないようにしよう」

「私も軽率だったよ。これからは気をつけよう。うん、これからは……」






 ひとまず有瀬家の捜索はこれで終了となった。
 有瀬は下着を含めたかさばらない程度の着替えと救急箱、それに役に立つかもしれないということで魔法瓶型の水筒をカバンに詰め、万一<奴ら>に捕まってもすぐ手放せるよう肩から下げる形にして家を出る。

 玄関を出るとき、有瀬はもう一度かつて我が家だった場所を振り返った。
 その表情に浮かんでいる色を表すのは難しい。不安、悲しみ、あるいは郷愁か離別か。

「私……ここで生まれて、ずっとここで暮らしてきた。また、戻ってこれるかな」

 その希望が叶う見込みが薄いことは俺にも、そして有瀬にも分かっているのだろう。
 当面この家には、少なくともこの異変が続く限り戻ってくることはない。そして<奴ら>の脅威はいつ消えてなくなるともしれない。

 これが例えば震災のようなものであれば、全てが通り過ぎたあとにまた戻ってきてやり直すことはできる。辛く苦しい時は続くかもしれないが終わらないものではない。

 だが<奴ら>は違う。<奴ら>は動き続け、歩き続け、そして人を襲い続ける。
 あるいはそのうち腐り落ちていく可能性もないではない。だがそれがいつになるとも全く分からないのだ。

 ────<奴ら>が動き続ける限り、恐怖も悲しみも絶望も、永遠に続いていくのだ。

「きっとまた戻ってこれるさ」

 しかしそれを正面から受け止めてしまえば俺たちはきっともう先へ進むことは出来なくなる。
 だから俺は、ハリボテの希望を口にすることしか出来なかった。

「そうだね……きっとそうだよね」

 その声は弱弱しかったが、それでも笑顔を……日ごろ回りのみんなを暖めていたあの笑顔を浮かべられる有瀬は、きっと凄く強いんだなとぼんやり思った。





 希里さんの家までは2分とかからない距離だったが、家の前についた頃にはもうすっかり日が沈んでしまっていた。
 幸いまだ電気系統が生きているらしく街灯やいくつかの家々には明かりがともっている。だがもうこれ以上時間をかけることはできないだろう。

 時間が経過するにつれ目に見えて<奴ら>の数が増えている。
 まだ俺たちの移動を阻害するほどではないが、いずれ徒歩での移動は困難になるに違いない。

 どこからこれほどの数がやってきているのかはわからないが、どこに向かっているのかだけは一目瞭然だ。
 ここでも一際光と大音量を放っている場所が分かる。
 御別橋だ。有瀬の話では渡河制限がかかって酷い混雑に陥っていたらしい。

 増設されてるらしいライトの明かりと拡声器を通した声が聞こえてくる。距離もあり内容は分からないが、<奴ら>がそれを標的に動いているのは確かだ。

 皆がそこでバスを降りたのは正解だったかもしれない。
 恐らく御別橋は時をおかず地獄絵図と化すだろう。いや、あるいはもう既に。

 その様を想像し、あまりにやりきれない思いが胸に沸き起こる。
 だが今はそちらに気を揉んでいる場合ではない。


 俺は振り返り、目の前にある希里さんの家を眺めた。


 基本的には有瀬の家とそれほど変わらない一戸建てだが、こちらのほうがやや小奇麗な印象を受ける。
 モダンな洋風建築でそれほど広くは見えないが家族3人で暮らすには十分だろう。やや建ててから時間がたっていると見えた有瀬家もそうだったが、それぞれの家柄をそのまま表しているように見える。
 こちらの家にも小さなガーデニングプラントが置いてあり、有瀬の家よりもいくらか手が込んでいる。奥さんの趣味だろうか。

 しかし。

 もう日も暮れたというのに、その家には明かりが灯っていなかった。どの窓も暗く沈黙し、中に人の気配を感じさせないでいる。
 外部から荒らされたり侵入されている様子が見られないだけに、静まり返った家はむしろもの寂しさを助長している。

「………………」

 緊張を隠しきれない様子で希里さんが玄関の戸を開ける。ゆっくりと、慎重に。
 そして恐る恐る声をかける。

「………………君子?」

 奥さんの名前であろうか、小声で二度三度と呼んでいるが返事はない。
 希里さんの向こうに見える玄関はやはり暗く、人の気配がしない。

 彼はこちらに振り向き目で合図すると、玄関のうちに入り手探りで室内灯を灯した。

 玄関とその奥に続く廊下にはやはり誰もいない。
 だが玄関には女性ものの靴が一足、ちょっと乱れて置かれているし、それに。

「………………ッ!!」

 それに、廊下に。


 ────血のあと、が。


 ぽたぽたとたらしながら移動したような跡は、玄関から廊下を通り、奥の居間に繋がる扉に続いている。

「君子ぉッ!!」

「待て、気をつけろ!!」

 毒島先輩の制止も虚しく希里さんは弾かれたように走り出し居間へと駆け込んで行ってしまう。
 先輩がひとつ舌打ちし、俺たちもすぐにそのあとを追いかける。

 居間の中はやはり暗い。
 だが外から差し込むわずかな明かりに、ぼんやりとソファに誰かが横になっているのだけが見て取れた。

「君子、しっかりしろ君子!!」

 希里さんはその傍らに膝をつき、必死に体を揺さぶっている。

 ぱちん、と。
 毒島先輩が戸口の横にあったスイッチを入れると、蛍光灯の明かりに室内の様子が浮かび上がる。
 
 居間は洋風の調度品で揃えられた落ち着いた空間で、よく整頓、掃除されおり家事をしている人間の几帳面さが伺える。
 サイドボードには写真立てが並び、そのどれもありすを中心として家族で写っているものばかりだ。ひとつだけ両親だけが写っていて少しピントがぼけているのはありすが撮ったものかもしれない。
 部屋のすみの観葉植物も青々と茂っており、よく丁寧に手入れされていたことが分かる。

 まるで絵に描いたような幸せな家庭の、ここはその中心部だ。

 そしてそこにいま、1人の女性が……写真にも写っているありすの母親が、憔悴した様子で横たわっていた。

「……あな、た……おかえりなさい。今帰ってきたの……?」

「ああ、ああ。僕だよ、今帰ったよ!」

 彼女は綺麗な人だった。
 おっとりと穏やかな印象を与え、肉体を描くラインも緩やかな女性らしさを持っている。
 ありすと同じ色をした髪、全体的な顔の造形から間違いなく彼女たちが親子であることや、きっとありすも成長すれば母親に似た美人になるだろうこともわかる。

 だが彼女の腕にあるあの傷は。

 大きさはそれほどでもない。だが今までに何度となく見て来た以上見間違えたりはしない。
 あれは間違いなく<奴ら>に噛まれた傷だ。

 まだ辛うじて人間として生きているものの、息は荒く、口の端から血液混じりの唾液がこぼれている。

 嫌でも理解できてしまう。


 ────もう彼女に、ありすの母に未来はない。


「あなた……さっきから、街の様子が変なの……。お隣の奥さんが襲ってきて……すごく頭がいたいわ……」

「大丈夫だ、もう何も心配要らない。僕がいるから、安心するんだ」

「ん……ねえ、あの子は? ありすはどこ、一緒じゃないの……?」

「ありすは無事だよ、今は安全な場所にいる。彼らの仲間が匿ってくれてるんだ」

 希里さんが1歩脇に退き俺たちを指し示し、それで初めて彼女はこちらの存在に気づいたらしい。
 「まあ、いらっしゃい」と場違いな挨拶をすると、やつれた頬に笑みを浮かべる。俺たちもつられて頭を下げた。

「よかっ……た、ありすは無事なのね。ふふ、きっと心配、してるわ……はやく顔を見せてあげないと」

「そうだね、大丈夫、すぐに会えるさ」

 それが叶わないということは、もう誰の目にも明らかだ。
 いつ噛まれたのかは分からない。だがもう間もなく彼女は息絶えるだろう。

 ありすに再会することなく。

 娘の成長を見届けることも出来ず。


 そして、変貌するのだ。
 たとえ相手が娘であろうと、容赦なく喰らい殺す化け物へと。


 ぎり、と音が聞こえる。
 見ると毒島先輩が固く歯を噛み締めていた。鉄パイプを握る手は力が入りすぎて真っ白になっている。

 有瀬が耐え切れず、俺の腕にしがみついて嗚咽を漏らし始めた。
 俺はそれを慰めるでもなく、ただ呆然と目の前で起きていることを眺めていた。

 眺めていることしか、出来なかった。
 俺には、


 彼女を救うことは……出来ない。
 死に至りつつある女性を前にして、俺は、


 ────ただ見ていることしか、出来ないのかよ…………ッ!!


「ごめん、なさ……少し疲れたわ。ちょっと休んだら……お夕飯を、」

「君子? 駄目だ君子、しっかりするんだ! 君子!!」

「今、夜……は、あの子の好きな……こほ」

 小さく咳き込んだ拍子に、形のいい唇からどろどろと黒ずんだ血があふれ出す。
 まるで何かおぞましいものに支配されていくように、こぼれでた血はありすの母の体を汚していく。




「そんな……ああ、ウソだ……君子、君子…………ああぁぁあぁぁあああぁぁぁぁあぁ……!!!」




 それきり、彼女の体はぐったりと弛緩し、二度と人として動くことはなくなった。
 希里さんの悲痛な慟哭だけが部屋の中を満たし続ける。

 何の罪もない、ささやかで平凡で、だけど幸せだったであろう希里家は…………今ここで崩壊した。
 もう彼らの愛した女性は、永遠に失われてしまった。

「なんで、君子…………ああぁぁ、ごめんよ、僕がもっと早く帰ってれば……ッ」

 奥さんの亡骸にすがってうなだれる希里さんに、毒島先輩がそっと寄り添いその肩を叩いた。

「…………酷なようですが、もう行かないと。それにこのままでは、奥方も」

 そうだ。
 <奴ら>のもたらす死は彼女を安らかに眠らせてはおかない。
 それを防ぐためには…………もう一度彼女を殺さなければならないのだ。

 この上なく残酷な決断を迫られ、希里さんは重い沈黙を背負う。
 <奴ら>はこうして2度3度と愛おしい人間を奪っていく。形のない敵に耐え難い怒りが沸き起こる。

 希里さんは彼女の亡骸を汚すことを拒むかもしれない。あるいはその時は俺たちがそれを代わるべきなのだろうか。
 いずれにしろ彼の出す結論次第だ。

 だというのに、彼は。



「すまない……君たちだけで行ってくれないか。僕は、妻とここに残るよ」



 なん、で…………ッ!!

「何言ってるんだよ! それじゃああの子は、ありすはどうなるんだ!!」

 奥さんを喪って絶望する彼の気持ちが全く分からないとは言わない。
 だけどそれで死を選ぶだなんてあまりにも馬鹿げてる!

 第一そんなことをすれば、ありすはたった一人この世界に取り残されることになるんだ。実の父親がそんな選択をして良いはずがない!

 けれど希里さんは、泣きはらした赤い目で、なぜか顔に笑みを浮かべて首を振った。

 ────違う、笑みなんかじゃない。


 あれは、単に何もかもを諦めた、そんな顔だ。


「まさか、貴方は……」

 何かに気づいた毒島先輩がハッと息を呑むと、希里さんはそれを肯定するように頷いた。

「僕も、もうありすに会うことは出来ないんだ」

 そう言いながら彼はYシャツの袖をめくる。
 あらわになった腕に刻まれた赤い傷跡に、俺も有瀬も、毒島先輩も言葉を失うしかなかった。

 ────なんでだよ……どうしてそんな……。

「有瀬さんの家でね……油断したよ。いや、ありすを君たちに預けて安心してしまってたのかもしれない」

 自嘲気味な希里さんには覇気……あるいは生気が感じられない。

「……それは、その……」

「いいんだ、あの時1人で行動したのは僕の責任だよ。早くこっちに来たくて焦っていたんだ」

「っ…………」

 珍しく押し黙る毒島先輩に彼は弱弱しい笑顔を向ける。
 その顔が、逆に胸をえぐる。

 あまりにも致命的な失敗だ。このままではありすは本当に家族全員を失うことになる。

 なにか。
 何か手はないのか? どうにかして<奴ら>にならずに済む方法はないのか!?

 無意味な言葉の羅列だけがぐるぐると脳裏を駆け巡り、何一つ実りのある案は浮かんでこない。

「衛宮君」

「あ、え……?」

「ひとつ、いやふたつだけお願いしてもいいかな?」

 なんと答えるべきだったのだろう。
 俺は結局何も言えずに彼の次の言葉を待った。

「ありすを、娘を頼む。会ったばかりの君たちにこんなこと言うのはおかしいけれど、君たちなら任せられる気がするんだ」

「………………」

 少し悩んで、ひとつだけ頷いた。

「ありがとう。それから、君のそのピストルをもらえないかな」

「ッ!!」

 思わず腰のベルトに手が伸びる。
 そこには孝から受け取った拳銃が差してある。黒光りするシリンダーに装填された5発の弾丸は、まだ一発も使っていない。
 どうしてもなくてはならないものではない。
 むしろ<奴ら>の特性を考えれば下手に使ったところで自分を窮地に追い込みかねない代物だ。孝から預かったものではあるが、ここで手放すこと自体に抵抗はない。
 
 だが希里さんが何を思ってそれを必要としているのか考えればこそ、ここで素直に手渡すのは憚られた。

 返答を渋っているうちに希里さんは立ち上がり、さっと俺の腰から拳銃を引き抜いた。
 結局、俺は抵抗するともなくそれを受け入れた。

「すまない、君たちには本当に感謝している。けど……最後だけは、妻と2人で過ごさせて欲しいんだ」

 もうそれしかないのだろうか。

 ただ黙って彼らの死を見過ごすしかないのだろうか。
 希里さんの死は彼1人の問題じゃない。この人が死んでしまえばありすはたった一人だ。

 この狂った世界で。

 死と破滅が支配する中で。


 "あの時"の俺と同じように。


 だから俺は────。




















 ぐ、と腕を引かれた。しがみついていた有瀬が俺の手をとって外へと促している。
 毒島先輩も被りを振って踵を返した。

 思いのほか強く腕を引く有瀬に連れられるようにして、俺も希里家を後にする。

「あの子に謝っておいてほしい」

 背中にそんな言葉を投げかけられる。




 玄関の戸を出てすぐ、住宅街に乾いた銃声が2度響いた。









/*/


 長くなってきたので泣く泣く分割。
 オリジナル展開してると構成の悪さに皮が剥けてくる思いです。もっとまりっとしたい。

 もう2話ほどでチャプター2も終了。
 一区切りしたところでちょっとお休みさせてもらい、別所で更新停滞していたほうのSSの執筆をしたいと思います。
 出来れば交互に進められる位にはしたいんですが……ちょっとペース落ちるかもしれません。で、でも頑張る。

 あと9月半ば頃からはまた別に更新が滞る可能性があります。
 理由? い、忙しいからに決まってるじゃない!
 余談ですがHALO:Reachが楽しみでなりません。買ったら誰か一緒に遊びませんか。


 これも余談ですが希里母の名前について。

 希里夫妻の名前が不明だったため君子は捏造です。
 実はちょっとだけ君子という地味な名前を気にしており、娘には可愛らしい名前をつけたがったという妄想。
 女の子らしく裁縫とかガーデニングとか教えようと思っていたのだが、親父さんの仕込んだマウンテンバイクとか思いのほか活発に育ちつつありあらあらどうしましょうとか思いながらも幸せに暮らしてました、とかそんな設定。

 奥さああああああああああああぁああああああああああ(ry


■関係ないゾンビ話 

 なんか最近ツイッターとかでもとみにゾンビトークが盛り上がって楽しい日々。みんななんか感染してるんじゃないだろうか……。
 そしてサバイバル・オブ・ザ・デッドが観たい。
 
 ま た 知 能 派 ゾ ン ビ か !!

 バイオハザードIVはWOWOWかなにかでやるまで放置でいいや……完全にゲームとは別物になったと思ったらウェスカーだけ原作再現ってどういうことなの。
 あとレオン出演キャンセルとか。4まで音沙汰なかったと思ったらディジェネレーションやダークサイド・クロニクルズで頑張りすぎたんだろうか。レオン好きなのに。

 なんか面白そうなゾンビものの話題とかあったら是非教えてくだされ。




■レス返し

>孝と先輩を行かせたら孝がフラグ立てちゃいそうだし。

・かといって士郎とフラグが立つわけでもないんだぜ……ッ。いやまあ、ヒロイン枠ってことで読者諸兄の『毒島先輩とちゅっちゅしたいお!』という欲望に突き動かされてる感はないでもないですが。
 こういうこと言うとホントかよ、って思われそうですが私は麗が好きです。なので彼女には素直に孝とくっついて幸せになってもらいたい。
 べ、別に沙耶や毒島先輩をヒロイン枠に入れてる言い訳じゃないんだからね!


>毒島先輩も子守役が板についたなあ。

・っていうか士郎と絡むと大体みんな子守ポジションに。
 衛宮君マジ聞かん坊。桜くらいではないでしょうか、彼を下から支える人間というのは。


>士郎と孝がノンストップで暴走は必然。

・作者的には孝が割とブレーキ役なんじゃないかなーと思ってたり。原作読む限り結構冷静と言うか、醒めてるキャラだったようですし。でもいざとなったら突っ走るのかな、やっぱり。
 幼少時、普段は2人とも常識的に遊んでるくせにいざとなると士郎が暴走、孝はそれにツッコミながらも結局引きずられて悲惨な目に、みたいな?


>個人的には沙耶ルートも見たい。

・私もそろそろ沙耶さん書きたい。


>士郎って弓だけでも出鱈目よね。

・普通にチートだと思います。


>ありすと親父さんの行動。

・はい、おおむねそんな感じを想定してました。


>詰み選択肢=どれを選んでも色恋の修羅場回避不能な選択肢だらけ!

・Nice boat.
 だから何故そんなにマゾい方向に持って行きたがるのかと小一時間。


>士郎はロリコンだからな。

・HAHAHA、そんなわけないだろう。
 さてと、ありすを妹化する計画はと……。






[6377] 2-4A(後編)
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/08/11 22:21




 家々の隙間から見える空に尾を引くように消えていった銃声のあと、有瀬はその場にへたりこんだ。
 それを支えられなかったのは俺自身からも気力が失われかけていたからだ。

 今日の午後、学園からここまであまりにも多くの死を目の当たりにし続けてきた。どれをとってもあまりに理不尽で、唐突で、惨たらしいばかりの死を。
 それに比べれば希里さんはまだ"綺麗に"死ねた方だといえるだろう。少なくとも彼は人間として最期を迎えることが出来た。愛した人と共に最期を迎えられた。

 だけど。

 だけどそれがなんだっていうんだ。

 彼の最後の言伝はありすへの謝罪だった。
 俺だってわかっている。希里さんがそうしたくて死を選んだわけではないことくらい。
 ありすの傍にいたかったに決まっているはずなのに、それをすれば自分自身があの子を傷つけてしまいかねないと分かってしまったから。
 だから奥さんと逝くことを、その引き鉄を引くことを選んだ。

 ただ1人残された娘を俺たちに託して。

 彼の選択が正しかったのかどうかなんて分からない。もしかしたら最後まで抗って、自分の口でありすに何かを伝えるべきだったのかもしれない。


 けど、これだけはいえる。

 
 今までは俺たちの手の届かないところで起こったことばかりだった。その死をただ傍観することしかできなかった。
 でも今回は違う。

 希里さんが噛まれたのは、間違いなく俺たちのミスが原因だ……。

 有瀬の嗚咽がまるで俺を苛んでいるように聞こえる。町中に響く<奴ら>の声はまるで怨嗟の唸りだ。
 なぜ。俺は彼を助けられなかった。なのになぜ。

 なぜ。



 ────なぜお前だけ…………。



「立つんだ、行くぞ」

 固い声にはっと顔を上げると、毒島先輩が有瀬の手を引いて立ち上がらせようとしていた。
 だが有瀬は足に力をこめようとする様子を見せず、先輩はそれを強引に引き上げている。

「立て!!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ先輩」

 思わず制止に入るが、彼女はそんな俺をぎろりとねめつける。

「待つ? 待つのは構わないが、それで何か事態が好転するのか?」

「それは……」

「待ったところで彼らの死は覆せないし、私たちはより窮地に立たされることになるんだ。そのことを認識しろ」

 言われるまでもない。

 希里さんの死はもとより、望外に時間が経過する一方で<奴ら>は着々と数を増やしている。下手をすれば俺たちは<奴ら>の群れの中で孤立無援にもなりかねないのだ。いや、実際にそうなりつつある。
 まだかろうじて<奴ら>が道を塞ぐまでには至っていない今がメゾネットへ向かう最後のチャンスだろう。

 もちろんそれが分からないわけではないけれど。

「彼らを悼むことはあとでも出来る。だが今は、」

「………………ないんですか」

「なに?」

 へたり込んだままだった有瀬は突然つかまれていた手を勢いよく振り払い、そのまま先輩を睨み上げる。
 温厚な彼女が今まで見せたことのない眼だった。
 目端に涙を湛えながらも、彼女の眼は強い怒りに彩られている。

「あなたは、希里さんのこと、何も感じないんですか!? 優しい人だったのに……ありすちゃんはもう1人ぼっちなのに!」

 激昂はもはや悲鳴に近い。
 普段聞くことのない有瀬の怒鳴り声は、俺の胸のうちにある何かを容赦なく突き刺していく。

 助けられたはずなのに。
 俺たちがもう少し慎重になっていれば彼は死なずに済んだはずなのに。
 有瀬はむしろ自分を責めさいなんでいるようにも見えるが、その言葉はそのまま俺に返ってくるものだった。

「希里さんは、希里さんは私たちのせいで…………ッ!?」


 だがその悲痛な叫びに答えたのは誰の声でもなく、頬を張る一発の乾いた音だった。


 先ほどの銃声よりも幾分軽い音だったがそれでも俺には同じくらい目の覚める光景だ。
 今度こそ強引に立ち上がらされた有瀬も何が起こったのかわからず、張られた右の頬をおさえて目を白黒させている。

「あ……」

「…………ここで私たちが死ねばその真実を伝える人間もいなくなる。ならばこそ私たちは生き残るべきだ」

「………………」

「あるいは家族を失った彼女の傍に寄り添ってやることのほうが、ここでただ嘆き悲しむよりもよほど建設的だと私は思う。それに君は君自身の家族のこともあるはずだ」

 諭すように紡がれる毒島先輩の言葉は、だがどこか淡々とさえ感じられる。表情らしい表情を浮かべずただ事実をそのまま読み上げるような淡白さだ。
 そして事実それは残酷なほどに"ただの正論"で、あまり先輩らしい言葉とは思えない。

 有瀬の絞り出したような声が聞こえた。

「……冷静ですね、先輩は」

「でなければ生き残れないよ」

 けど気のせいだろうか?
 微かに顔を伏せた毒島先輩に、ほんの少し憂いの表情が見えた気がしたのは……。


 唐突に。
 がしゃんと門をたたく音がした。
 見れば2,3体の<奴ら>が家の門に群がってきている。銃声か、あるいは俺たちの声を聞きつけてきたのだろう。
 ついでにあまりがしゃがしゃと鳴らすものだから更にその音に集まってきそうな勢いだ。

 もうここにはいられない。有瀬も顔色はよくないが、平手の一撃が効いたのか幸い自分の足でしっかりと立てるほどには持ち直している。

「行こう。これ以上は本当に戻れなくなる」

「ああ……有瀬、平気か?」

「……うん。ごめんね、もう大丈夫だから」

 そう言って無理をしているのがあからさまな笑顔を作る有瀬は、それでもどうにか普段どおりの彼女に見える。
 
「ここからメゾネットまではノンストップで行くぞ。道幅はあるが油断はするな、<奴ら>を避けるにしろ倒すにしろ無理がないほうを選ぶんだ」

 先輩の言葉に頷きバットを握りなおす。
 あとどれだけこんなことを繰り返すのだろうか。そんな益体もないことを頭の隅で考えながら。

「行くぞ!!」

 門を開け放った瞬間なだれ込んできた2体にそれぞれ獲物を振り下ろし、俺たちは走り出した。
 まるで背後に迫る死の影を振り払うようにしながら。






 走る。
 走る、走る。

 もつれそうになる足を叱責し、腹に力をこめて走り続ける。
 日の落ちた住宅街で<奴ら>の間をすり抜け、時にバットを振るいながら駆け続けるのはかなりの重労働だ。
 隣を走る有瀬に至ってはもともとの体力のなさも相まって息も絶え絶え、途中からはほとんど俺が抱えるようにして走っている。

 来た道を戻り、孝らと別れた場所を通り過ぎ、そこからは有瀬の案内だ。
 といってもそういくつも道を曲がる必要がなかったのは幸いだった。特にうっかり舌を噛みそうになっていた有瀬にとっては。

 角をひとつ曲がり、<奴ら>に気取られないようにして通りを渡る。

 横目で<奴ら>を見る。
 まさに地上に溢れた地獄さながらだ。

 この辺りは市の郊外にあたり、昼間市街地やあるいは県外に出ていた人々が安らぎを得に帰ってくる場所だ。
 そこが今、生者に成り代わり決して眠ることのない死者たちが闊歩している。有瀬の家のときもそうだったが、まるで最初に人々から帰る家を奪っていったかのようだ。
 人々は家を失い逃げ惑う。そして<奴ら>は炙り出された獲物を狙い行進し続ける。
 後ろに地獄を携えて。

「止まれ」

 通りを渡りきったところで毒島先輩が足を止め、塀の陰に身を隠して通りの向こうを覗き込んでいる。
 ここを曲がればあとはメゾネットまで一直線のはずだ。

「どうしたんだ、先輩……?」

「はぁ……はぁ……ふぇ……?」

「見てみろ。そっとだぞ」

 先輩と場所を代わり角の先を覗く。

「げ……」

 思わず呻きがもれる。

 目的のメゾネットはすぐそこに見えていた。直線で50m強といったところだろう、常なら10秒とかからず走り抜けられる距離だ。
 だがその間。
 まるでここまでそう苦労せずに走り抜けてきたことへのツケだとでもいうように、数十にのぼる<奴ら>が犇いていた。
 道を埋める<奴ら>は、獲物がいないからかぼうっと立ち尽くしているか、あるいはその家に人間がいるのか執拗に門戸を揺らしているもの、今まさに"食事"にいそしんでいるものもいる。
 サラリーマンや学生、主婦、中にはどんな状況で"なった"のか服を着ていないものすらいるが、とにかく言えることはひとつ。
 生身でここを通るにはいささか数が多すぎた。

 くそっ、あともうちょっとだって言うのに……。

 一緒に覗く有瀬も声を震わせている。

「どうしてこんなに……さっきはいなかったのに」

「さあ……たまたまか、あるいは小室君たちのことを嗅ぎつけているのか。いずれにしろ問題はどう切り抜けるかだ」

 先輩の言うとおり今は何故かを考えても仕方がない。
 かといって先ほどまでのように強引に進むにはあまりに数が多すぎる。それに音を立てずに進むというのも分の悪い賭けだ。
 せめて俺と先輩であれば強行突破も出来たかもしれないが、有瀬がいるだけに無理は出来ない。

「どうにかして数が減らせれば……ん?」

「衛宮君、あそこ……」

 有瀬の指の先を見ると、メゾネットの二階のベランダから誰かが双眼鏡らしきものでこちらを見ている。
 あれは……孝だ。どうやら俺たちが来たのに気づいたらしく、宮本もベランダに顔を出した。
 <奴ら>に気取られないように軽く手を振ると、向こうも手を振り替えしてきた。

 何とか向こうと連絡がとりたいが……見ていると少し様子がおかしい。どうも孝と宮本が何か口論しているように見える。
 ややあって孝が引っ込んだ、と思ったら代わりに平野が顔を出す。そして、



 何の前触れもなく俺たちの前方にいたサラリーマン風の男の頭がはじけた。



 なんだ!?

 よく見ると平野はこちらに向けて何かを構えている。更に1人、2人と<奴ら>の頭部を何かが貫いていく。

「どうやら援護のようだな」

 脇から様子を見ていた毒島先輩がささやき、俺は孝の言葉を思い出す。
 そういえば銃があるかもしれないという話だった。ということはさっきから<奴ら>を倒しているのは銃撃?

 唖然としてメゾネットに視線を戻すと、同じくベランダに出てきた沙耶がが俺たちを手招きするように腕を振っている。
 どうやら狙撃で出来た隙間をぬってこちらに来いということのようだ。

「……学園のときから思ってたけど、平野って結構計り知れないところあるよな」

「だが今はそれが頼もしい。行こう」










「いた……! 士郎たちだ、戻ってきたぞ!!」

「ホントに!?」

 孝の声を聞きつけ、麗がベランダに出る。
 双眼鏡を受け取って孝の指差すほうを見てみると、確かに横道の角に見慣れた赤焼けの髪が顔を覗かせている。位置が悪くよく見えないが、智江や冴子らしき姿もある。
 彼らもこちらに気づいているらしく小さく手を振っている。麗は通りに向かって大手を振って応えた。

 だが士郎たちはそれきりその場を動く気配を見せない。
 それも致し方ない、メゾネットの前にうごめく<奴ら>が多すぎるのだ。ここに来て彼らは完全に立ち往生してしまっている。

「どうしよう……これじゃ衛宮君たちこっちに来れないわ」

 徒歩で移動している3人にはこのたかだか数十mの距離があまりに遠い。
 不用意に動けばたちまち<奴ら>の餌食になってしまうだろうことは一目瞭然だ。

「……なんとかして助けないと」

「なんとかって……何か考えがあるの?」

「ないよ。けど武器はある」

 そう言った孝が握っているのはイサカM37、やはりこの部屋で見つけたポンプアクション・ショットガンだ。鉄パイプを縦に並べたような銃身のフォルムは、その手のことに疎い孝や麗でも見覚えがある。
 ダットサイトが取り付けられているものの重量は最も軽く、コッキングして引き金を引けばいいという手軽さゆえに当面孝が持つことになっていた。

 平野に教わったとおりに弾を込めスライドを引く。最初の1発を薬室に送ればあとは撃つだけだ。
 問題は本物のショットガンなど撃つのはおろか、見たことさえなかったという点だが。

「ちょっと、孝……どうするつもり?」

 本当は麗にも分かっていた。孝がどうするつもりかなど。

「どうするもこうするも、僕が出て行って<奴ら>を引きつける」

「無茶よそんなの!! そんなことして、じゃあ孝はどうするのよ!」

「適当に逃げ回って<奴ら>を撒く。あいつらのろまだから何とかなるだろ」

 もちろんそれが言うほど易くないことなど承知の上だ。
 よしんば上手く逃げられたとしても、ここに戻ってこれる可能性は低い。橋のほうも相当な騒ぎになっているし、この周辺もどうなるか分からないのだ。

 だがそれが分かっていてなお、孝は出て行くのを辞めるつもりはなかった。

「孝、お願い止めて」

「じゃあ士郎たちを見捨てろって言うのかよ!!」

「ッ、そんなこと言ってない!! でも……」

 なんで、孝が。
 麗のかすれる声に孝は顔を伏せた。

 何故?
 なぜかって……理由はひとつしかない。

「アイツと僕は……親友だ」

 思い出すのは、バスでの紫藤の言葉。紫藤はあの時男子生徒たちを助けようと踵を返した士郎のことを無分別だと謗った。
 孝とてあのときの士郎を賢いとは到底思えないし、むしろ常々直情型のどうしようもないヤツだと思っているくらいだ。

 幼い頃、士郎が沙耶の家に引き取られてから彼ら4人は常に一緒だった。
 それまで幼馴染といえば麗や沙耶と女の子ばかりだった反動もあってか、孝は殊更に士郎と遊ぶことが多かった。何かと士郎に構いたがった沙耶からはよく文句を言われたものだ。
 それだけに、士郎の直情径行な性格に一番振り回されていたのも自分だと思っている。

 時に帽子を落とした子供のために増水した川に飛び込んだり、時に公園を牛耳る近所のガキ大将に挑んでいったり。
 昔からそうだった。士郎は困っている誰かを見ていられず、自分から火の中に飛び込んで行くような人間だ。
 そして孝は何度も止めようとしながら結局最後には巻き込まれて酷い目にあってきた。

 だけどどうしてか、今思うとそれがどうしようもなく楽しかった気がするのだ。
 何が相手でも真っ直ぐに自分を曲げない士郎がどうしようもなく羨ましくて、けどそんな彼を見ているのが好きだったのだ。

「士郎の無茶の尻拭いは僕の役目だった。麗だって知ってるだろ?」

 ここで彼らを見捨てることは出来ない。
 それではあの時士郎たちを貶めた紫藤と同じだから。

「けど……」

 なおも食い下がろうとする麗を振り払い、孝は踵を返す。
 そして、








「それには及ばないよ、小室」









 AR-10狙撃ライフルを携えた平野が孝を止めた。
 無骨な銃を腕に下げた彼は今までになく……いや、孝は知らないが、彼らがバスを降りるときに見せたような獰猛な顔をしている。

「平野……けど、」

「俺に任せてって言ってるのさ。ちょっとどいて」

 渋る孝を押しのけるようにしてベランダに出ると、あろうことか平野はライフルを構え狙いをつけ始めた。
 だが今ここで撃てばどうなるか、孝も先ほどの会話を忘れたわけではない。

「ちょっと待て平野! そんなことすれば銃声が、」

 止める暇もなかった。平野は躊躇うことなく引き金を絞る。
 次の瞬間には耳を劈くような銃声が、


 しなかった。


「…………え?」

 ばすん、とくぐもった音が響くばかりで、身構えていたような破裂音が響くことはない。

「うーん、試射もしてない他人の銃でいきなりヘッドショット決められるなんて、やっぱこういうことは天才だなあ俺」

 ま、距離は100もないけど、と楽しげにつぶやく平野の姿はまるで今までとは別人のように見える。

 豹変した平野の姿に唖然とし思わず麗と顔を見合わせる。彼女も突然の展開についていけない様子だった。
 そうするうちにも平野は1人、また1人と<奴ら>の頭を吹き飛ばしていく。やはり銃声はしない。

「ど、どういうことだ? 何で音が……」

「サプレッサー……消音機を作ったのさ。ほら」

 言われて見ると、確かに銃口の先に何か太い筒のようなものが取り付けられている。
 よく見るとそれはペットボトルを組み合わせて作られているらしかった。

「消音機って……そんなの作れるのか?!」

「ボブ・リー・スワガーの真似さ。といっても彼がこれを作ったのは映画のときだけだけど……」

「なーに自分の手柄みたいに語っちゃってるわけ?」

 後ろからかけられた声に振り向くと、いつからいたのか沙耶が仁王立ちしている。その傍らにはありすも一緒だ。

「思いついたのはアタシでしょうが」

「ありすも手伝ったよ!!」

 沙耶はベランダに出ると麗から双眼鏡をもぎ取るようにして外を覗く。
 平野の狙撃によって、士郎たちの前には微かにだが道が出来ていた。

「ふーん、デブヲタのクセになかなかやるじゃない」

「え、えへへ……一応訓練したことがあって」

「ありすも、ありすも見るー!」

 ベランダの塀に背が届かずぴょんぴょんと跳ねるありすを「アンタにはまだ早い」と頭を押さえつけてなだめる。
 頃合を見計らって士郎たちに合図を出すと、向こうもその意図を汲んで少しずつ前進を始めた。

「けどよく知ってたな、消音機の作り方なんて……」

「構造自体は簡単よ。ようは銃口から一気に膨張するガスを段階的に拡散させる空気室バッフルを作ってやればいいの」

 思いついたのは士郎や冴子がコンビニで集めてきた物資を確認してたときだ。バッグの中にはペットボトル入りの飲料がいくつも入っていた。
 すぐに平野にメゾネット中にあるペットボトルをかき集めさせると、作業を開始。
 実際工程そのものはそう難しいものではなく、カットした飲み口を筒の中に三重から四重にして取り付け、あとは物は試しと食器洗い用のスポンジを貼り付けて完成だ。途中からはありすも工作気分で参加していた。

「昔士郎と作ったのはパパの猟銃で実験しようとしたのがバレて没収されたけど……」

「沙耶ちゃんってえいがすきなの?」

「んなッ、ち、違うわよ! 私は天才だから……!!」

 ありすの指摘に顔を赤くする沙耶を、孝は微妙な気分で見つめていた。
 突然手に入れた銃をさも当たり前のように使いこなす平野に、とっさの思いつきで消音機を作り出す沙耶。そしてそれ以前にほぼ違法にライフルを所持しているとんでもない友人を持つ鞠川。

 ────もしかして、僕はとんでもない連中を仲間にしてるんじゃないだろうか……。

「あ、ヤベ」

「っておい平野、なんだよヤベって!?」

「な、なんでもないなんでもない!」

「ねえ、それよりだんだん音大きくなってきてない?」

 麗に言われ耳をすませると、確かに援護を続ける平野のライフルから聞こえる銃声が大きくなっている。
 それどころか銃口の先につけられたペットボトルがだんだん歪んできているようにも見えた。

「流石にペットボトルじゃ高熱の発射ガスにはそう長く耐えられないわ。材料がなくてあと一本しか作れなかったけど、この分なら何とかなりそうね」

「はい、コータちゃん」

「サンキューありすちゃん」

 平野はそれまで装着していたものをはずすと、次の手製サプレッサーをありすから受け取り付け替える。
 その姿を横目に外を見てみると、士郎たちはもう半分ほどのところまで進んでいる。


 だが……。


「ちょっと待った、なんか様子がおかしい」

 気づいたのはスコープで覗いていた平野だった。
 その声につられてベランダから身を乗り出すようにして目を凝らす。

「……なにやってんのよ、あいつら!」

 双眼鏡を覗く沙耶が苛立ったような声を出す。


 ここに来て士郎たちは突然進行をやめ、完全に足を止めてしまっていた。









 ────あぁぁ……あぁうぁぁ……。


 ────おおぉあぁぁぁ……うぅぁぁぁぁ。


 身の毛もよだつような呻きはその実もう声などではなく、ただ<奴ら>が1歩動くたびに肺の中の空気が押し出されて声帯を震わせているだけなのだろう。
 かといってそれがすぐ傍を通り過ぎるのはおぞましいということに変わりはない。

 平野の援護を受け俺たちは慎重に、だが音を立てない程度に足早に<奴ら>の間をすり抜けて進む。
 毒島先輩を先頭に、有瀬をはさみ俺が殿だ。
 下手に手を出せないだけ精神的な重圧は先ほどと段違いだが、それでも今のところ<奴ら>に気取られる様子もなく順調に進んでいるといえるだろう。

 しかし平野にはとにかく感心するばかりだ。
 先ほどから的確に俺たちの行く手にいる奴に標的を絞り、確実に一撃で仕留めている。狙撃の腕前もさることながら時々の判断が非常に速くて正確だ。
 おかげで一列で歩くのが精一杯とはいえ、<奴ら>を相手にしなくても進めるルートをどうにか確保できている。
 ただ唯一、無音で突然<奴ら>の頭が弾け血と脳漿を飛び散らせる光景は心臓に悪いことこの上ないのだが。一度真横にいた奴を狙撃された有瀬がまともに返り血を浴びて悲惨なことになっている。アレで悲鳴を上げなかったのは快挙だ。

「……ストップだ」

 毒島先輩が頭の横で拳を作って俺たちを制止する。
 見ると平野がこちらに待つように合図しており、そのままいったん顔を引っ込めた。恐らく弾倉かなにかの交換だろう。
 しかし言える立場ではないが出来れば早くして欲しい。<奴ら>のど真ん中で立ち尽くさなければならないのは気が気ではない。


 ────ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……。


 <奴ら>のうちの1人がふいっと気まぐれのように向きを変え、慌てて俺は1歩後ろに下がる。目と鼻の先をふらふらと通り過ぎ、不快な刺激臭が鼻につく。血か、それとも臓物のにおいか。
 音を立てない限り気づかれないとはいえそれで安心できるはずもない。心臓はバクバクとうるさいくらいだし、さっきから犬のように息を荒げている奴もいる。


 ────ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……。


 ……って待て、犬のように?
 
 装填が終わったのかまた前方にいた<奴ら>の一体が倒れ、毒島先輩が小走りに進もうとする。
 だが妙な違和感を感じた俺は思わずそれを引き止めた。

(ちょっと待ってくれ)

 先輩の細い腕を引いて無声音で話しかけると、向こうも怪訝そうな顔を寄せてくる。間に挟まれた有瀬も何事かと不安げな顔だ。

(今度はなんだ?)

(し、聞いてくれ……)

 俺も毒島先輩も先ほどから心の音も止まれとばかりに息を殺しているし、ここに来るまで息を切らしていた有瀬も今はむしろ緊張に息を詰まらせている。


 ────ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!


 じゃあ先ほどから聞こえる、この荒い息は誰のものだ……?
 先輩も有瀬もそれに気づいたのか、険しい顔をして周囲を見回している。

 耳に集中してみるとその荒い息の持ち主は、<奴ら>とは違う軽快な足音ともにこちらに近づいてきているようだった。
 だが周囲にそれらしい人物は見当たらないしそもそもこの数の<奴ら>の間を駆け抜けてくるというのはあまり現実的ではない。

 いや、けれど。

 聞こえる足音は非常に軽い。例えば小さな子犬のように……?



 ひょっこりと、本当に突然に、<奴ら>の足の間から片手で抱きかかえられそうなほどの子犬が顔を出した。
 ビーグル犬か何かの子供だろうか、首には首輪がはまっており、その顔は子犬のクセにやたら凛々しく見える。



 チビすけは足元まで来ると確かめるように鼻をひくつかせながらぐるぐると俺たちの周りを回りだした。

(……この子も飼い主とはぐれちゃったのかな)

 そんな子犬に何を感じたのか、有瀬が悲しげな表情を見せる。
 確かにその様子は、どこか人懐っこいくせに人間を信用できなくなってしまったかのような印象を受ける。
 はぐれたのか、それとも飼い主も<奴ら>になってしまったのか……。

(それはともかく……)

 一通りにおいを嗅いで満足したのかフンと小さく鼻を鳴らすと、子犬は俺たちと<奴ら>の間に立ち塞がるようにして低く唸り始めた。
 まるで俺たちを守ろうとするかのように。
 いや、でも、何故だろうか。

(非常にいやな予感がするのは私だけだろうか)

(あ、私もちょっと……)

(っていうかこのパターンは……)

 一瞬、子犬が唸るのを止めた。

 ────刹那。




 ────ワンワンッ!! ワンッワンワンワンッ!!





 やりやがったこのチビすけ…………ッ!!

 夜空に響く子犬の鳴き声を<奴ら>が聞き逃すはずもなかった。目が見えていないはずの<奴ら>は、まるでその鳴き声をきっかけに開眼したかのごとくいっせいに腕を伸ばしてくる。

「行け行け行け!! 突っ走れ!!」

 毒島先輩が鉄パイプを横なぎに振るい隙間を作る。そこに俺がバットをフルスウィングしながら踊りこんで強引に道を開けた。
 平野は先ほどまでのように標的を選ぶことなく俺たちの周りにいる<奴ら>に手当たり次第に鉛弾を食らわせていく。
 そうしてどうにか出来た道に有瀬を放り込んだ。

「衛宮君、君も行け!!」

「先に行ってくれ先輩!!」

 俺は────ッ。

「お前も来い、チビすけ!」

 群がる<奴ら>にバットに蹴りにと叩き込み、とにかく近づけまいと暴れまくる。後ろ手に突き出したバットの柄が男の歯を砕き、タックルを食らわせた少女が後ろの奴らを巻き込んで倒れる。
 その隙に、まだ足りないとばかりに<奴ら>にほえ続ける子犬の襟首を掴んで強引に抱き上げた。子犬はまだ唸っているものの、暴れる素振りを見せないのは頭が良いのかそれともどこかぬけているのか。

「要救確保ってな…………!」

 体を反転させ、俺を捕らえようと<奴ら>の伸ばす腕をかいくぐりながらとにかく走る。
 まるで<奴ら>が作るアーチを潜り抜けている気分だ。だが一瞬でも遅れればそのいびつなロンドン橋は瞬く間に俺を閉じ込め、その先はお察しだ。

 人垣の向こうに先輩と有瀬がメゾネットの門をくぐるのが見えた。
 幸か不幸か俺が囮になったらしいが、つまり残ってる連中はこぞって俺を獲物にしようとしているわけだ。

「グレード高すぎる……けど!!」

「わん!!」

 腕に抱えたチビすけの鳴き声が俺の背中をぐんと押す。その勢いに任せて<奴ら>に体当たりをかますと、それで周りを取り囲んでいた最後の壁に穴があいた。
 転がるようにして群れの中から飛び出るとそこはメゾネットの目の前だった。目と鼻の先に外門が見えている。

 ────ここまでくればもう…………ッ!?

 ぐんと体を後ろに引っ張られ、俺はしりもちをついた。
 そのまま仰向けにひっくり返された俺の上にさかさまに見えているのは、



 今にも肉を貪ろうと大口を開いた<奴ら>の……、



 その口に、ぬっと伸びてきた鉄パイプのようなものが突っ込まれた。

「この距離なら……外さない……ッ!!」

 ボガンッと破裂音が轟き、<奴ら>が後頭部から中身を撒き散らして後ろに倒れる。
 鉄パイプ……ではなく、ショットガンを構えるのは孝だ。

「衛宮君、大丈夫!?」

 一緒に出てきた宮本に引きずられるようにして門の中に入る。
 孝はがしょんとスライドを引き、群がる<奴ら>に向けてショットガンを撃ちまくっている。

「って全然当たらないぞ!?」

「下手なんだよ小室!! いいから中に引っ込んで!!」

 2階のベランダから平野の叱責が飛び、渋々孝が戻ってくる。
 同時にたたきつけるようにして門を閉じると、待機していた毒島先輩と鞠川先生が椅子やらテーブルやらを積み上げてバリケードを作る。

 門を揺らす金属のこすれる音が響く。
 誰かの息を呑む音が聞こえた。

 がしゃがしゃと門を揺さぶる音は絶え間なく続き…………しかしバリケードが破られる気配はしなかった。

「た…………助かった……」

 肩から力が抜ける。
 いつからか無意識に止めていた息を吐き出すと、腕の中にいたチビすけが労わるように俺の頬をなめるのだった。










 元々頑丈な門とはいえ、念には念を入れるということで住人のいない部屋から更にサイドボードなどを引っ張り出してバリケードを補強し終え、俺たちはようやく再会を喜ぶことが出来た。

「助かった、じゃないわよまったく!! アンタはどうしてそう無茶で無鉄砲で考えなしなわけ!?」

 もとい、顔をあわせた途端に沙耶の説教が始まったのだった。
 場所を鞠川先生の友人の部屋に移したところで、俺はまさかの正座である。しかもフローリングで。

「学園の時といい今しがたといい、ホンッとにいっぺん死なないと分からないの!? っていうかむしろ死にたいわけ!?」

「いや、別に死にたいわけじゃ……」

「どこがよ! アンタ絶対今日だけで5回は死んでるわ!」

 流石にそんなことはないと思うのだが……待て、何でみんなそろって頷くんだ。特に孝と毒島先輩が大きく頷きすぎである。
 というか気づけばまるで俺が取り囲まれているような有様だ。
 正直<奴ら>に囲まれるよりも心臓に悪い。

「はぁ……いい、士郎? アンタがそういう無茶なところがあるってことはもう今更よ。けど今は状況が違うの、下手をすればアタシ達も巻き込まれかねないのよ」

 沙耶はトーンを落とし諭すように言ってくるが、絶対零度の眼差しは健在だ。

 もちろん沙耶の言ってることだって分かるし理解できる。毒島先輩にも散々言われたことでもあるし、それが正しいとも思う。
 だがどうしても納得できないのだ。
 何の罪もない人が理不尽に命を落とすようなことが。これはもう習性のようなものだろう。


 あるいは…………誰かからかけられた願い呪いか。


 そんな孤立無援の俺に援護を出したのは、意外なことに毒島先輩だった。

「まあその位にしてあげてはどうだ。彼の行いも決して無駄ではない、だろう?」

「わん!」

 ソファに腰を下ろしたありすに抱きかかえられながら、子犬が賛同するようにひとつ鳴く。
 その1人と1匹の姿に沙耶もぐっと矛先を鈍らせる。もしかしなくても犬に助けられたらしい。

 だがその中で、不安げに顔を俯かせたありすがぽつりとつぶやいた。

「ねえ……パパとママは?」

「あ…………」

 思わず言葉に詰まる。
 有瀬と先輩も沈痛な面持ちで顔を伏せ、沙耶や孝たちは俺達の様子でおおよそのことを察したらしい。

 本当のことを言うべきだろうか?
 だがこの狂った世界で両親を一度に亡くしたというのは、小さな少女にとってあまりに重過ぎる事実ではないだろうか。そう考えるとどうしても口が鈍る。
 それに伝えるにしろなんと言うべきなのか……。

 俺が迷ってるうちに有瀬が動いた。ありすの横にそっと腰をおろし、優しく声をかける。

「パパは、あとからママと来るから……大丈夫だよ」

「…………ホントに?」

「うん……それに、私達がいるから。ありすちゃんを1人にはしないから」

 有瀬が少女の小さな体に腕を回しぎゅっと抱きしめる。ありすもまたその背中に強くしがみついた。

 俺の傍らでありすに聞こえないよう沙耶と毒島先輩が小さな声でささやきあっている。

「……あんなウソついてなんになるんだか」

「だが真実は残酷だ」

「ウソは優しく聞こえるだけよ。どっちにしろいつかは真実に向き合う必要があるんだから…………まぁ、」

「なんだ?」

「あの娘はただホントのことを言う辛さから逃げただけでしょうけど」

 なら俺はもっと卑怯なのだろう。
 結局、ウソをつく泥さえも有瀬に被らせてしまったのだから。

 胸のうちでひそかに決める。ありすに真実を告げるときは俺の口からであるべきだろう、と。


「ね、今日はもう疲れたし、お風呂にしない?」

 暗く沈んだ空気を打ち払うためだろうか、宮本がパンパンと手をたたいて殊更に明るい声で言った。
 鞠川先生もそれに同調する。

「そうねぇ、もうみんなどろどろだものね」

 確かに全員汗やら血しぶきやらで酷い有様だ。洗い流してさっぱり出来るならありがたい限りだ。

「ならば時間の節約のためにも皆で入るのはどうだ」

「み、皆で!?」

「男子は別に決まってるでしょ!!」

 毒島先輩の言葉に興奮する平野に、それを蹴飛ばしながらつっこむ沙耶。
 ありすは子犬も一緒に入れたいとはしゃいでおり、有瀬はちょっと恥ずかしそうにしながらも笑っている。



 こうして世界が壊れてしまったその日の、最初の一夜が更けていく。
 それが明日からも続く地獄に歩みだす前のほんのひと時の休息であることは、この場にいる誰もが感じている。


 だが、この現実が醒めることのない悪夢なのならばせめて、夢の中でだけでも幸せだったと知ったあのなんでもない日常を描けることを願って………………。




 Chapter 2 END. Good night sleep tight...










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 ペットボトルサプレッサーですが、本編で言及してるように出展は『ザ・シューター ~極大射程~』。
 詳しい記述が見つからなかったのですがどうやら最初の1発程度であれば消音できるらしいということでした。なんで今回みたいに数発撃てるというのはウソですのでご了承ください。

 とりあえずはこれで原作2巻まで終わりですが……前回の通りちょっとお休みを頂くつもりですが、全く書かないわけじゃなくてなんか外伝的なものでもあげられればいいなと思っております。
 平和だった頃の士郎たちとか、南リカの弟設定(これはちょっとオリ主でやってみたい)とか、凛とかも出てくるパラレルなのとか。
 もしなんかこんなの見てみたいというのがあれば教えてください。書くかもしれません。決して書くとは言いません。書くかもね……?

 ところでアニメ版とコミックスとで<奴ら>の能力が違っていて物議をかもしているようですが、このSSでは基本的にご都合主義です。
 なんか音に反応するらしいけどなぜか優先的に人間を襲ってきます。なんでだ。ゾンビとはそういうものってことで。
 聴覚のみでは<奴ら>が発生させる音同士で尻尾くわえた犬みたいになりそうだし……。

 ではまた次回。


 余談:箱○壊れた。


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! Extraシーンが解禁されました !


 夜もだいぶ更けてきた。今夜はどうしようかな……。

 1.夜食でも作るか。
 2.風呂を浴びさせてもらおう。
 3.明日の準備を整えたほうがいいな。
 4.外の様子はどうだろう。
 5.酒の匂いがする……。






[6377] Extra 1
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/08/17 18:41

 午後から何も食べてないし、夜食でも作ってくるか。

 夜もだいぶ深まってきた。
 女子組みも風呂から上がり、皆この仮宿での一晩を思い思いに過ごしている。
 この非常時──それとも異常時だろうか──だというのにどことなく合宿をしているような賑やかさを感じるのは、そうすることで不安や恐怖を紛らわせているからだろう。
 鞠川先生に至っては風呂を上がった直後に酒に走っていたし……。いや、やめよう、風呂上りのみんなを思い出すのは心臓に悪すぎる。

 孝らに見張りを頼み、部屋を出る。
 外の<奴ら>は一向に減る様子は見せないが、バリケードを破られる心配はなさそうだ。
 しばらくはしつこく門に組み付いていた連中も、やがて諦めたのかそれとも飽きたのか、俺たちよりも派手に音を立てている大橋のほうへと向かっていった。
 外に響く不気味な呻き声こそ絶えることはないが一晩くらいであれば寝泊りしても問題ないだろう。

 階下に降りながら、さて何を作ろうかと思案する。
 話を聞く限りこの部屋の主は仕事柄もありあまり長居はしないほうだったのだろう。鞠川先生に掃除をお願いするくらいだ。
 ということは食材も限られているはず。どうしてもと言うのであればコンビニで確保してきた缶詰を使う手もあるが、そちらにはあまり手をつけたくない。
 ついでに言えば明日以降にも食べられるものにしたいから、持ち運びが出来て日持ちのするもの……ここは料理人の腕の見せ所だ。

 ってちがう。俺は別に料理人じゃないし。

 考えが変な方向にそれ始めて思わず苦笑する。
 こんな時になっても「食べられればなんでもいい」と割り切れない自分はどうなのかと思いながら階段を下りると、どうやら先客がいたらしい。

「おや、衛宮君か。ちょうど今食事を作ろうと思っていたところなんだが」

 その声は毒島先輩…………って、マテ?
 先輩の後姿がなんかこう、やたらと全体的に白っぽいというか肌色っぽいというか……!?

「な、なぬ、なんだその格好!?」

「? これか? 洗濯に出した服が乾くまで借りているのだが、サイズが合うのがなくてな。少々はしたないとは思うが」

 などとのんきに言う先輩が着ているのは黒いパンティに純白のエプロン、のみ。自慢の長い黒髪をポニーテールに結っているおかげで、背面は背中から腰まで白い肌が剥き出しになっているし脇からはふっくらとした乳房が覗いている。
 下着は下着でTバックが危険なラインを描いており、色の対比でより白く見える引き締まったおしりは意外なくらい小さく丸い。
 ついでにエプロンにやたらフリルが多いのは鞠川先生の趣味だろうか?

 何かまずいか? と首をかしげる先輩はきょとんとしており、とんでもない格好のクセにやたらと可愛く───っていやいやいやいやいや!

「はしたないっていうかむしろ通り過ぎて通報レベルっていうか目の毒っていうか──ッ!!」

「前は隠れているし問題ないと思ったのだが……見苦しいものを見せてしまったようだな、すまない」

「い、いや、見苦しいってことはぜんぜんなくてむしろ綺麗過ぎるくらいだけどそれが逆に問題で、」

 ああもう目の前にある光景があまりにショッキングすぎて自分で何を言っているのかわからない。
 それくらいに毒島先輩の格好はきわどく、<奴ら>と出会った衝撃よりも数段正気度を削ってくる勢いだ。

 何より目を引く肌は白いといっても決して病的な色ではなく、むしろところどころ淡く桃色に染まっているのが血色のよさを表している。男の硬い肌とは違い、新雪のように繊細でいながら儚いだけではないハリの強さがある。
 女性は肌の手入れに苦労すると聞くが、彼女のそれはまさに手間を惜しまずに丹念にケアされた一級品。いや、けど毒島先輩が肌の具合に腐心する姿と言うのも想像できないので、あるいは天然なのかもしれない。だとしたらそれはそれで世の女性の垂涎の的だろう。

 それを惜しげもなく晒した姿を間近で見せ付けられて狼狽するなと言うほうが無理な相談である。

「それで、何かあったのか?」

「え、あ、いや……俺もなにか夜食とか弁当でも作ろうかと思ったんだけど」

「ほう、君は料理をするのか。男子では少々珍しいかもしれないな」

「やっぱりそうかな……?」

 そもそも別に料理が好き、というわけではなかったのだ。高城家は流石のお屋敷の広さもあってお手伝いさんがいたし、学園の寮には食堂もあった。
 けどなぜか俺は台所に立たないと気がすまなかった。
 親父さんたちにお世話になりっぱなしなのが落ち着かないというのもあったのだろうが、まるで染み付いた習性みたいに夕食時になると調理場に押しかけたものだ。
 幸いにも俺の作った料理は沙耶たちにも好評で、ちょくちょく料理を手伝わせてもらったりしたのだが…………どうもこの非常時でもその気性は抜けないらしい。

「けど毒島先輩も料理できるんだな」

「ふふ、ずっと父と二人暮らしだったからね。せざるを得なかったというのが大きいよ」

「へえ、そうなのか。俺も、」



 ────……が全然家事ができないどうしようもない人で……?



「……や君? 衛宮君、大丈夫か?」

「っ……あ、ああ、なんでもない。ちょっと意外だなって思っただけだ」

 正直なところ毒島先輩はもうちょっと無骨な印象があったのが本音だ。もちろんあんまり話したことはなかったので勝手なイメージだというのは分かってるけども。

「あー、えーと、それで先輩は何を作るつもりだったんだ?」

「ん、そうだな……アパート中から集めたがやはりそれほど材料が豊富というわけでもないからな。とりあえず間に合わせのものでカレーにでもしようかと思っていたところだ」

 やっぱりどの部屋も基本的に1人暮らしをしている住人がほとんどのようで、食材のバリエーション微妙なところだ。
 並べられた材料を見てみると間の悪いことに根菜がほとんどなく、鶏肉があるとはいえカレーには少々物足りない気がする。葉物の野菜はカレーにあわないわけではないが……いや、待てよ。見つけたのはカレールーじゃなくてカレー粉か。

「それならいっそ炒め物にしたらどうかな。カレー粉で濃い目に味付けすれば少しは日持ちもするだろうし」

「なるほど、カレー味の肉野菜炒めか。確かに弁当にしてもそちらの方が持ち運びやすいな」

 そうと決まれば早速調理開始。
 2人並んで台所に立ち、俺が適当な大きさに切った肉に火を通している間に毒島先輩が野菜を切り分ける。肉に焼き色がついたところで野菜を投入、あとは味を見ながら調味料を加えるだけだ。
 大した手間のかかるものでもないので2人で手際よく調理を進める。
 ただし隣の先輩のことは極力視界に入れないように……うっかり直視してしまうと手元が狂ってとんでもないことになりかねない。

 先輩の手つきはスムーズなもので、どうやら料理はそれなりに慣れているらしい。
 そうなると自然と俺のほうも気合が入る。高々野菜炒めと言うなかれ、この一食でも無様なところを見せるわけにはいかないのだ。

 手首のスナップを利かせながらフライパンを振るい、塩コショウで味付け。更にそこに普段なら少し辛めかなと思うくらいにカレー粉をまぶして、また材料をひっくり返す。
 うん、悪くない。

「味はこんなもんでいいかな。先輩、ちょっと味見してもらっていいかな」

「ん、どれ……」

 と、口を開ける先輩。
 はて、なんだろうかその餌を待つひな鳥みたいな構えは……。

「えーと……先輩……?」

「菜箸を持ってるのは君だろう、食べさせてもらわないと味は分からないよ」

「え"ッ!? あ、いや、そうだけど!?」

 待て落ち着けこれは罠だ!
 ここでうっかりあーん、なんてしようものならきっとまたあのトラ道場送りになるに決まってる。きっと何処かで沙耶か誰かが覗いて────ッ!?

 バッと振り返り周囲を改める。が、1階には俺たち以外の姿は見当たらない。
 考えすぎだろうか。というかまだ錯乱してるのだろうか俺は。

「どうした? 冷めてしまうよ」

「あー、えー……じゃあ、えっと、口開けて、」

 目を瞑りあーん、と大きく開いた先輩の口に炒めたお肉とキャベツを一つまみ、そっと入れる……だけだというのに手が震えてしょうがない……ッ。
 危うく取りこぼしそうになるのをどうにかこらえて、箸を口へ運ぶ。
 薄桃の唇、白い歯、そしてその奥に見える赤くてらりと光る舌が妙になまめかしく、ただ味見をしてもらうだけのはずなのにどうしようもなくいかがわしいことをしている気分になる。
 っていうか先輩の格好が格好なだけにどう考えてもいかがわしいことにしか見えない気が……!?

 半ば放り込むようにして野菜炒めを食べさせると、先輩はもぐもぐとそれを咀嚼してひとつ頷く。

「うん、少し辛いが……ふふふ」

「な、なんか変な味するか……?」

「いや、とても美味しいよ。ただ君は本当に素直というか鈍いというか……私に菜箸を渡してくれればよかっただろうに」

「あ!?」

 しまったその手があったか……ってやっぱりからかわれてたんじゃないか!

「なんなら今度は私が食べさせてあげようか?」

「か、勘弁してくれホントに……」

「くっくっ、私も女だからな。こんなシチュエーションに憧れることもある……」

 ?

 そう言う先輩の顔はなぜだろうか、どこか陰っていて、先ほどまでの芯の強さが感じられない。
 何処か体の中心を通る線が揺らいでいるような、そんな感じだ。

「……私も女、か…………君はどう思う?」

「どう、って?」

「夕方私が言われたことだ。希里氏の死に何も感じていない、とね」

 ありすの父が死んだときのことだ。脳裏には瞬時にあのときの有瀬の慟哭が甦ってくる。
 知人の死を悲しむ叫びと、先輩に向けた瞳。そこには普段決して見せることのない怒りや、いっそ憎しみとさえ呼べそうな暗い感情が宿っていたのを覚えている。

 だが俺には同じくらい、そのあと先輩が見せた憂いの表情も記憶に焼きついて離れないのだ。

「君もそう思うか? 私は人の死に何も感じない冷酷な女だと」

「……いや、俺は……」

 そうは思わない。そこまでは思わない。
 けれどあの時……いや、学園のときからずっと、毒島先輩の冷静さにどこか畏怖のようなものを感じていたことは紛れもない事実だった。
 そのことが俺の口を鈍らせる。

「…………衛宮君、少し聞いてもらっても良いかな」

「え? いや、えーと……?」

「こういう時は素直にYesと言うべきだ。女は時にか弱く振舞いたいものなのだから」

 毒島先輩も? という問いはすんでのところで喉の奥に戻っていった。
 なぜか自嘲気味に微笑む彼女の姿は酷く弱々しく、いくら鈍い俺とはいえ今がその「か弱く振舞いたいとき」なのだと言うことはすぐに分かった。
 同時に俺に対してそんな顔を見せたことに驚愕と疑問を抱かなくもなかったが、ここは毒島先輩の求める役割に徹するべきなのだろう。

「分かった。俺でよければ」

「ああ、君がいいんだ」

 コンロの火を止めフライパンを置く。
 話に集中するため、ではなく単にもう炒め終わったからだ。毒島先輩自身盛り付けるための皿を用意しながらだったし、つまり作業の片手間に聞いて欲しいということなのだろう。
 やがて先輩の口からぽつりと言葉がこぼれる。

「私はね、衛宮君。周りが思っているほど冷静でも落ち着いているわけでもないよ」

「…………?」

「皆この半日、いやと言うほどに<奴ら>の脅威に見舞われてきた。そして私はその中で、生まれて初めて人を殺めた。<奴ら>ではない、生きた人間だ」

「それは……」

「私は学園で一人の男子生徒の介錯を引き受けた。たとえ<奴ら>になりかけていたとしても、あれが私の初めての殺人であることに変わりはない」

 まだそのときの感触が手に残っている。
 先輩は皿を運ぶのを止め、手のひらをじっと見つめている。瞳に浮かぶ感情は読み取れない。あまりに、複雑で。恐怖とも悔恨とも慙愧とも取れない色は、刹那に色を変えていくようにさえ見える。

「けどそれは……誰だって怖いと思うけど、」

「違う、そうじゃない。私は彼を殺めてしまったことを恐れているわけじゃない。そう……恐れてはいないんだ」

「…………」

「あの時はそうする他に手がなかった。私が恐れているのは、そう自分に言い聞かせながら、結局のところ"ついにやってしまったんだ"という達観しか浮かばなかった私自身だ」

 …………ついにやってしまった?
 その言葉の意味を問うより、彼女が話を続けるほうが早かった。

「<奴ら>が現れてもう半日になるか……小室君や宮本たちは徐々に変わりつつある。彼らは今までの自分を棄てることはしないが、それでも少しずつこの異常な世界に順応する形で自分を変えつつある」

「自分を、変える……」

 その言葉は荒唐無稽ではあるが、どうしてか納得できる響きがあった。
 聞いた話に過ぎないが、このメゾネットを確保する時孝たちは中にいた<奴ら>を排除していったらしい。その程度には<奴ら>と相対することに対して忌避感を抱かなくなっているのだろう。
 俺たちにとって<奴ら>は恐怖の対象だったが、恐らくそのときの孝たちにとって<奴ら>は単なる障害に過ぎなかったのだと、話を聞いたときにぼんやりと思ったのを覚えている。

 そして孝らとは違う形で変わってしまった人間。先輩の言う自分を棄ててしまった人間を、俺は見た。

 先輩の言うとおりなのだろう。
 皆徐々に変移しつつある。それは個々人のモラルや思考というレベルの話ではなく、<奴ら>の出現により世界そのものが変わっていっているのだ。
 ただの半日でそれが実感できるほどに、<奴ら>の侵食は驚異的な速度を持っている。


「けれど君だけだ、衛宮君」


「え?」

「君だけが、<奴ら>の出現にも関らず決して己を変質させていない。君はこの狂気の中にあって唯一、君自身であることを貫き続けているんだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、それって……」

 俺だけが、俺であり続けている?
 違う……と思う。俺はそんなたいそれた器じゃあないだろうし、<奴ら>に対する認識だって揺らいでばかりだ。
 第一。



 第一、"俺自身"だなんて、それを一番知りたいのは俺だっていうのに。



「確かに君は<奴ら>に対するスタンスを変えはしたが、それはあくまで切り替えただけだ。スイッチを入れるように。小室君たちのようにただがむしゃらに戦い、手探りに新しい自分を作り出しているわけではない」

 ────そしてそれこそが君の異常性でもある。

 いつの間にか毒島先輩は手を止め、まるで熱に浮かされたような眼で強く俺を見つめている。
 その瞳に縫いとめられたように、俺は彼女から目をそらすことが出来ない。

「衛宮君の中には既に<奴ら>……いや、己の"敵"に対するスタンスが既に出来上がっているんだ。普通の学生ではありえないことだが」

 そして確信する。
 彼女は何か知っている。俺の知らない俺自身の何かを……きっと本当に些細な、そして"衛宮士郎"を形成する重要な何かを、毒島先輩は知っているんだろう、と。

 1歩。
 先輩は俺のほうへ踏み出す。そして右手をそっと、なにかとても大事な、愛おしいものに触れるかのように俺の胸へ添えた。



「君と私は酷く似ていて、そして大きく違う。だからもし、もし私を止められるとすればそれは…………」





 がたん、と思わず後ずさった拍子に後ろにあったテーブルの脚を蹴ってしまう。
 その音にびくりと肩を跳ね上げさせ、先輩は慌てて俺から距離をとった。

「あ、す、すまない、つい熱が入りすぎてしまった……」

「いや、ぜ、全然良いけど……」

 俺の胸に当てていた手をかばうように胸の前であわせもじもじとする先輩は、首筋まで真っ赤に染まっている。
 あ、っていうか忘れてたけどそんな格好でそんな顔してそんな態度とられるのはちょっと危険すぎる……ッ!

 思わず先輩に背を向け、テーブルの上の食器を意味もなくがちゃがちゃと弄繰り回す。

 ────静まれー、静まれ俺……。よし、大丈夫、深呼吸……。

 大きく息を吐いて動悸を抑える。

 それにしても、最期に先輩は何を言いかけたんだろうか。
 俺だけが変わっていないといいながら、先輩の言う"変わっていった人たち"の中に先輩自身は入っていなかったように感じられた。
 それが何を意味しているのか……。






 だが先輩に尋ねようとした言葉は、ぱたぱたと階段を降りてくる足音に言葉になる前にかき消された。

「ん、ん……お、おー、晩飯か? 美味そうだなあ!」

「もう、孝ってば……あ、衛宮君が作ったの? 久しぶりに食べるなあ」

 一体階段で何をしていたのか、こちらも負けず劣らず顔を赤くした孝と宮本がやってきた。
 そんでもって宮本の格好はほとんど下着姿だが、もうそれにツッコむ気力も残っていやしない。

 程なくして全員がそろい(平野だけは2階で見張りだった。あとで持っていってやろう)、ささやかな晩餐と相成った。
 白米がコンビニのレトルトだったのは少々不本意だが、そこまで贅沢を言っていられる場合でもないので我慢。

 そして明日からも続くであろう地獄に備え、俺たちは体を休める。
 <奴ら>の呻きを子守唄にしながら……。












/*/


 私は料理ほとんどしないのでその辺は適当です。ご了承ください。
 でも自炊できるようになりたいなあ……。

 というわけでこれにてチャプター2終了です。今後のことは前回までの通りなのであまり書くこともなし……。
 けど個人的にはそろそろ沙耶ルートが書きたいであります……。毒島先輩好きの団結力がマジぱねぇっす。

 今回もフローチャートを公開しますので、ルート分岐がどうなっていたかはそちらを参照のこと。
 ってかこのチャプター、死亡ルートが1個しかなかったり。
 話は進むんですがちょっと物足りない気がしなくもしたりしなかったり……うーん、悩ましい限りです。



■レス返し

>Last Night on Earth知ってますか?

・それは私が生粋の卓ゲ者だと知っての質問でしょうか。
 知ってるっていうかむしろ持ってます。えーゲームさんにはお世話になりました。あんまりやる機会がないのが悩みですが。
 ニコニコ動画に関しても……多分卓m@sですよね? さらっとですが見ております。つかむしろ私もプロd(ry。
 LNoE動画を先にやられたのはちょっと悔しかったり……し、しないよ? ……た、対抗するならゾンビーズかなぁ……(何。


>Longのほう。

・お待たせしてマジすみません……とだけ……。
 もうちょっとだけ時間をください。


>警官の銃って孝が使ってなかったっけ?

・麗が予備の弾も確保しているのでリロードした、ということで。
 そして回収しなさいとの意見は絵的に美しくないからー!! ってことでひとつ!


>料理をしない士郎など士郎ではない!

・すっかりグルメキャラだな士郎……。
 いやまあ、原作からしてそういう扱いだからしょうがないネ!


>台所には冴子がいたはず。

・なぜそう変に鋭いのか……いや、これはわかるかさすがに。


>ヘリを真正面から撃ち落したりするんだっけ?

・なんかそんなシーンもあったようななかったような……。
 けど今そのシチュエーション聞くとむしろCoD MW2が思い浮かびます。大尉マジぱねぇ。


>Red Ring of the Deadとは災難な。

・誰が上手いこと言えと。
 っていうかもう新型にでも買い換えようかと思ってます。そして買い換えたらHarmony of Despairやろうと思います。
 ふぉるくは"月下の狂想曲"を応援しています。


>ifものアイデア。

・やっぱり士郎たちの子供時代か……。
 ありすの兄というのは初期のアイデアにあったりするのでそれはそれで書いてみたいところではあります。
 うーん、どうしようかな。


>あれ、桜は?

・皆の心の中にいるんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





[6377] フローチャート:南リカの部屋まで
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da
Date: 2010/08/17 18:39

 ■2-1:市街地~コンビニ:◇フラグチェック。
 │
 ├◇有瀬2:ON─■コンビニに立ち寄る。サイモンと遭遇。目を放した隙に有瀬がニックに噛まれる。有瀬死亡。◇ありす父:ON。
 │        └◆共通分岐『どちらへ向かう?』へ。
 │
 └◇有瀬2:OFF─■コンビニに立ち寄る。サイモンと遭遇。
           └◆『ニックに会って行く?』
            │
            ├◎[会う]─■2-2A:サイモンに嵌められ<奴ら>になっていたニックに食い殺される。(Dead End 5)
            └◎[会わない]
             │
             └■2-2B:サイモンに襲われかけるが撃退。士郎、覚悟を新たにする。
              └◆共通分岐『どちらへ向かう?』
               │
               ├◎[御別橋方面へ向かう]
               ││
               │└■2-3A:床主城前:孝らと合流。南リカの部屋を確保することに。◇フラグチェック。
               │ │
               │ ├◇ありす父:ON─■原作どおり夜を向かえ、ありすを救出後部屋を脱出。◇ありす父OFF。■3-1Aへ。
               │ │
               │ └◇ありす父:OFF─■有瀬の家が近所にあるため様子を見に行くことに。帰り道で原作と同じ状況のありすを発見、ハンヴィーで脱出。■3-1Aへ。
               │
               └◎[住宅街方面へ向かう]
                │
                └■2-3B:住宅街:希里親子と遭遇。◇フラグチェック。
                 │
                 ├◇ありす父:ON─■希里家を捜索。その後ありすらと共に宿を探す途中、南リカの部屋前で孝らと合流。部屋で一泊する。■3-1Aへ。
                 │
                 └◇ありす父:OFF─■有瀬家を見に行く途中だった小室らと合流。
                            └◆『どちらについていく?』
                             │
                             ├◎[有瀬家、希里家に向かう](冴子が同行していた場合、ありすを送らせると☆冴子、有瀬+1)
                             ││
                             │└■2-4A:住宅街:有瀬家、希里家を捜索。ありす父、<奴ら>になっていた妻に噛まれる。その後南リカの部屋へ。◇フラグチェック。
                             │ │
                             │ ├◇ありす父:ON─■部屋で一泊する。◇ありす父OFF。■3-1Bへ。
                             │ │
                             │ └◇ありす父:OFF─■Extra1:夜のお楽しみ。部屋で一泊する。■3-1Bへ。
                             │            └◆『何をする?』
                             │             │
                             │             ├◎[夜食を作る]─■冴子と会話。☆冴子+1。
                             │             ├◎[風呂に入る]─■沙耶と会話。☆沙耶+1。
                             │             ├◎[明日の準備]─■孝、コータと会話。★+1。
                             │             ├◎[様子を見る]─■ありすと会話。
                             │             └◎[酒のにおい]─■有瀬と会話。☆有瀬+1。
                             │
                             │
                             └◎[ありすを南リカの部屋へ送る]
                              │
                              └■2-4B:南リカの部屋:沙耶、平野らと合流。小室らを待つ間魔術の修練。☆沙耶+1。★+1。部屋で一泊する。■3-1Bへ。





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