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[5245] エヴァ、乗ってみました (最新話4-5:投稿)
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2010/12/20 03:06
この場所を一目見た瞬間から、あまり好きにはなれそうにないなと思っていた。

ここは第三新東京市、その中に幾つもある駅の内の一つ。

明らかに普段は人が沢山集まりそうな駅前の風景を見て、気分が鬱になる。

人気が多すぎる場所ってのは嫌いだ。

人ってのは多ければ多い程個性が無くなっていく気がする。

ダイヤだって何億個もあったらただの石でしょ?

まあ、今は何故か人っ子一人居ない訳だけれども。

「暑いなぁ…」

そう呟いて、僕―碇シンジは駅前の木陰の道路に寝転んだ。

普段ならこんな事は出来ない訳だけど、誰も居ないので気にする事は無い。

解放感もあるし。

「まだかなぁ…」

かれこれ一時間ほど待っているが、待ち人来たらずだ。

始まりは突然送られてきた父からの手紙だ。

来い。

ただ一言だけ書かれていた手紙を読んで、僕は物凄く好奇心を掻き立てられた。

だって、二文字だ。

住んでいた場所での平凡な日々にも飽きてきた所だったので、僕は喜んでおじさん達に別れを告げ、列車に乗り込んだ。

おじさん達もいい加減僕がうざったかったんだろう、火打ち石付きで送り出してくれた。

お国の為に戦ってきますとでも言えば良かったのかもしれないが、笑えないジョークなのでやめておいた。

ポケットから手紙に付いていた写真を取り出す。

写真の中ではスタイルの良い女の人がこちらに向かって微笑んでいる。

ここに注目と書かれた胸に関しては見る必要は無い、初日に脳内に焼き付けたし、夢に出る位なのでもう大丈夫だろう。

ホント、お世話になってます。

まぁそれはともかく。

「帰っちゃおうかなぁ…」

思わずそう呟いた。

そもそも僕はあまり気が長い方じゃない。

ここでボーとしているのにももう飽きた。

だってやる事無いし。

唯一気になるのはさっきから遠くの方でドッカンドッカンと爆発音がしている事だけど、暑すぎて確かめに行く気力も無いので、ヤンキーが花火でもしているんだろうという事にしている。

と言うか嫌な予感がするので絶対見に行かない、行かないったら行かない。

そんな事を考えていたら、突然近くからナァ~と言う動物の鳴き声がした。

思わず上半身を上げて辺りを見渡す。

向かいのホーム、路地裏の角…いた。

「…猫」

真黒い子猫がこっちを見ていた。

可愛い、物凄く可愛い。

「おいで~」

手招きすると、子猫は暫く黙ってこちらを見ていたけどやがてトコトコと寄ってきた、しかもどこから現れたのか真白い子猫も。

暇潰しにじゃれ合っていたら、今度は突然遠くの方からゴォ~と言う轟音が聞こえてきた。

ナァ~なんて可愛いもんじゃない、轟音だ、しかも段々近付いて来ている。

嫌々ながら危機感を覚えて空を見上げる。

「…飛行機」

真っ黒い煙を噴き出しながら飛んでいる飛行機がいた、戦闘機かもしれない、一つ分かるのは全然可愛くないって事だけだ。

じっと見ていて、ふと気付く。



こっち来てね?



間違いない、物凄い勢いでこっちに突っ込んでくる。

横でナァ~なんて暢気な声を上げている子猫を掴み上げて、僕は即座に走り出した。

「お…」

十歩位走った所で、子猫を守るように地面に伏せる。

「おいでなんか言ってないよ!」

叫ぶと同時に、轟音。

伏せていたにもかかわらず、僕は吹っ飛んだ。

人間って軽いんだね。

今度生まれてくる時はビッグバンベイダー並みのデブに生まれてこようと決意した。

宙に舞う砂塵、瓦礫、僕、子猫。

視界の隅に、蜃気楼の様にぼけっと立っている少女の姿が見えた気がした。

逃げもしないなんて、危機察知能力ゼロかっての。

いや、僕も似た様なもんだけどね。



川の向こうからお爺さんとお婆さんが手招きしている夢を見たけど、明らかに外人だったので僕は無視した。



誰かが顔をペロペロと舐めている。

どうやらまだ生きているらしい、気絶していたみたいだ。

目を開けると、一番最初に目に入ったのは写真の女の人だった。

…舐められた?

そんな事を考えていたら、ふと自分の顔の横に子猫が二匹居る事に気づく。

ですよねーそんな訳無いよね。

どうやら気絶している間に車に乗せられていたようで、僕が寝ているのはシートを倒した助手席だった。

上半身を起こしたら、写真の人―葛城なんたらさんが僕を見てそっと微笑む。

「目が覚めたみたいね、私が葛城ミサト、よろしくね?」

そう言ってサングラスを外す。

戦闘機の事、人が居ない事、色々言いたい事はあったけどとりあえず苦情を言う。

「よろしく、て言うかミサトさん遅いよ!」

「ごめんごめん!ところで、その猫ちゃん達は?」

ミサトさんはアハハっと笑って、明らかに話を誤魔化し始めた。

別に良いけど、本当に僕が死んでいたらこの人はどうするつもりだったんだろうか。

それは忘れる事にして、二匹の子猫を抱き上げて話しかける。

「さっき友達になったんだよね」

またナァ~と返事を返してくれた、頭の良い奴だ、可愛過ぎる。

そんな僕らを見て、ミサトさんはまた微笑んでこんな事を聞いてきた。

「あらあら、お名前は?」

そう言えば決めていない。

いや、別に飼う訳じゃないから決めなくても良いんだけど、この二匹はさっきの神風事件を乗り越えた友だ、名前位付けてあげよう。

少し考えて、とっさに思いついた単語に決めた。

「名前かぁ…じゃあニトロとマクロ、今日から君はニトロ、君はマクロだよ」

「にとろ?まくろ?」

ミサトさんが不思議そうな顔をして聞き返してくる。

「うん、ニトログリセリンのニトロとマクロファージのマクロ」

黒がニトログリセリン、白がマクロファージ。

自分のネーミングセンスの抜群っぷりに感心するね。

「そ、そう…ニトログリセリンか…」

ミサトさんは何故か引き攣った顔で僕を見ていたけど。

(…変わってるわね、この子…て言うか、何でタメ口?)

ミサトさんが少し僕から距離をとった気がするのは気の所為だと思う。










エヴァ、乗ってみました 第一話









飽きた。

「ミサトさん、ここさっきも通ったよね…」

何に飽きたって、そりゃあ同じ所を五回も六回も歩き続ければ誰でも飽きるだろう。

ニトロもマクロも、僕の足元でナァ~ナァ~と同意の声を上げる。

「…まさかっ!無限回廊!?」

ミサトさんは頭を掻きながら振り返って、通算八回目のセリフを言う。

「うるさいわねーまだ慣れてないのよ、ここ」

「放送で父さんを呼び出したら?迷子のお知らせですって」

「デパートじゃないんだから…それにアタシが怒られちゃうわよ」

我ながらナイスアイデアだと思ったんだけど、どうやら駄目らしい。

「社会人って大変なんだね、ねえニトロ」

「にゃう~ん」

「だよね~、お前はマクロだけど」

マクロはナァ~と鳴いて頭を垂れた。

自分が失敗したという事は理解できたらしい、もう一歩だ、頑張れマクロ。

(やっぱり、この子変だわ)

ミサトさんはまた引き攣った顔で僕を見ていた。

何でそんな顔をされるのか、僕が全く理解出来ずに取りあえずの笑顔を返していたら、突然ミサトさんの背後のエレベーターのドアが開いて金髪の美人な女の人が現れた。

「ミサト、どこ行くのよ」

「あ、リツコ?」

そう言ってミサトさんは助かったという感じで、そのリツコさんとやらに走り寄る。

ご主人様を待っていたハチ公って感じだ。

「時間も人手も足りないんだから…もう少し働いてよね」

「ごめ~ん、まだ慣れなくってさぁ」

怒られていた。

ミサトさんはまたもやアハハと笑いながら誤魔化そうとしている。

しかし・・・

疑問に思う事がある。

何でこのリツコさんと言う女性は…白衣の下に水着を着ているんだろうか。

何このコーディネイトって言うか、コラボレーション。

僕の知識にはこんなジャンル無いんだけど…

ミサトさんは何も気にする様子は無い。

リツコさんは堂々としている。

気にしているのは明らかに僕だけだ。

都会では普通の恰好なんだろうか…多分流行っているんだろう。

ナウいんですか、そうですか。

さすが第三新東京市、あっぱれ第三新東京市、やったぜ第三新東京市。

僕は初めて僕をここに呼んでくれた、顔も覚えていない父さんに感謝した。

常夏万歳。

「この子がサードチルドレン?」

「えぇ」

何時の間にか二人が僕を見て変な話を始めていた。

サードチルドレンと言うのがよく分らないが、おそらく僕の事だろう。




サードチルドレン。

サードチルドレン碇シンジ。

第三の子、碇シンジ

三男坊みたいで格好悪い。

でも第三の男、碇シンジと考えると格好良い。

ザ・サードマンだ。

意味は分らないけど満足した。



流行りに敏感なリツコさんは僕と目が合ったからか、そっと手を差し出してきた。

「私はE計画担当主任、赤木リツコよ、宜しくね?」

「碇シンジです、宜しくお願いします、若干厨二病の気がありますけど宜しくお願いします」

僕もそう言って握手をする。

どうやら外見の割に出来た人のようだ。

でも、一つ気になるのは…



何だか、僕はこの人を知っているような気がする。

いや、全く思いだせないんだけどね。



思考の渦に嵌る僕を尻目に、ミサトさんはリツコさんに囁く。

「…言っておくけど、この子ちょっと変わってるわよ?」

「は?」

怪訝な顔をする、流行に敏感なリツコさんであった。






あとがき的なもの

テスト板がチラシの裏になっていたので、何となく板変更してみました。
文才はないのでご容赦を。
後作者は特殊な趣味をしているので、LRSやLASになる事はないでしょう…



[5245] エヴァ、乗ってみました 2
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/04/17 03:35
暗闇の中、突如として現れたド紫のロボット。

ニトロとマクロはビビッて僕の後ろに隠れる。

出来れば僕もニトロとマクロの後ろに隠れたい位だった。

でもそんな訳にもいかないのでじっとロボットを観察する。

何処をとってもド紫。

きっと、これを作った人は精神的に不安定なんだろう。

「何なんですか?これ」

そう尋ねたら、返事を返したのはリツコさんだった。

「汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンよ」

はんよーひとがたけっせんへーきじんぞーにんげんえばんげりおん。

はんよーひとがたけっせんへーき…

はんよーひとがたけっせんへーき…

はんよーひとがたけっせんへーき…

あるぇー?

「はんよーひとがた・・・何でしたっけ?」

「あ…エヴァでもいいのよ?」

「うい!」

軽く涙目で質問したら、リツコさんは微妙な表情で答えてくれた。

しかし何でだろう、凄く聞き覚えがある。

と言うより、僕はこいつを見た事がある気がする。

ふと、思い付いて呟く。

「新造人間じゃなくて?」

「キャシャーンじゃないわね、残念ながら」

そうだよね、だってアイツこんなにでっかくないし。

「何言ってんの?アンタ達」

ミサトさんが僕らの会話に付いてこれていなかったけど、気にしない。

改めてエヴァンゲリオンとやらを見てみる。

特徴…ド紫、悪党面、角付き、キャシャーンじゃない。

これらの事から導き出されるコメントは一つ。

「これでもかって位紫ですね、悪者面だし、隊長機ですけど」

「隊長機?成程…そういう見方もあるわね」

ミサトさんはまたもやチンプンカンプンな表情だったけど、リツコさんは本当に感心したって感じで頷いていた。

この人とは気が合いそうだ。

そんな事を考えていた、その時だ。

「久しぶりだな、シンジ」

格納庫内に聞き取り辛い位の超低音でそんな声が響いた。

「何奴!?」

思わず横っ飛びに飛んだ後、辺りを見渡して声の主を探す。

「…シンジ君、何してるの?」

ミサトさんは不思議そうな顔をして僕を見ているが、僕の行動は間違っていないと思う。

だって、今の声明らかに悪党の声だし。

そしてボス発見。

一瞬その初号機と並ぶ程の悪党面な風貌に誰だか分からなかったけど、たっぷり十秒程見つめてようやく理解出来た。

「あ、父さんかぁ、分かんなかったよ、最初っからクライマックスかと思った」

すっかり忘れていたけど、思いだした。

悪党面化が昔より進行している気がしたけど、間違いなく父さんである。

一目見ただけで、僕は母さん似なんだろうなって分かる悪党面は健在のようだった。

ぼけっと父さんの顔を見ていたら、父さんの顔に物凄く違和感を感じた。

何だろう?いや、暫く会ってないから分らないんだけど…

あ、分かった。

「髭似合わないね、剃れば?」

「…しゅ、出撃」

流された。

親切心で言ったのに、父さんはまるで今の言葉が聞こえなかったかのように振る舞っている。

まぁずれてもいないサングラスを必死に直しているあたり、動揺は隠せていないけど。

何故かリツコさんが頭をぶんぶん振って頷いていたりもした。

やっぱり気が合いそうだ。

「待って下さい司令!パイロットがいません!」

ミサトさんが何の事かは分らないけど父さんに意見をする。

どうやら父さんの方が立場が上らしい。

というか司令?

…悪の組織の匂いがぷんぷんしてきたな。

そう言えばさっきのキャシャーンも物凄い悪党面だった。

よく見れば父さんは服も真っ黒で髭にサングラス、おまけに顔面兵器と悪党要素は完全に備えている。

そう言えば何で室内なのにサングラスしてるんだろう。

UVカットも糞も無いと思うんだけど。

「ねえねえ、何で室内なのにサングラスしてるの?意味無くね?」

「パイロットならそこにいるわ」

今度はリツコさんにまで流された。

どうやら僕は要らない子らしい。

一人で体育座りして落ち込んでいたら、何故かミサトさんが愕然とした顔で僕を見つめてきた。

「まさか…」

え、何??

何か皆こっち見てるんだけど…

戸惑っていたら、ミサトさんがそっと近寄ってきて、僕の両肩に手を置き、やたらと真面目な表情でこう言った。

「あなたが乗るのよ?碇シンジ君」

「何で父さんは室内なのにサングラスなんでしょうね」

「聞いてるの!?」

怒られた…

「え?何ですか?」

とりあえず聞き返したら、ミサトさんは般若みたいな顔でもう一度言う。

「あなたに!このエヴァに乗って!敵を倒してほしいのよ!」

こういうのって顔真っ赤って言うんだよね、えむきゅーえむきゅー!

まぁそれは置いといて…

とりあえず乗れと言われたキャシャーンを見てみる。

う~ん…使徒ってさっき見た巨神兵みたいなのだよね?

ホントに勝てるのかな…

いや、でもこのキャシャーン隊長機だし…

そんな事を考えていたら、ふとある事が頭に浮かんだ。

ミサトさんの方を向いてキッパリ告げる。

「いいですよ」

「シンジ君!お願いだから…え?」

ミサトさんは唖然としている。

と言うより僕以外の人は全員唖然としている。

父さんもだ。

そりゃ普通はいきなりこんなのに乗ってあんなに大きな怪獣と戦おうなんて思わないよね。

今度はリツコさんが念を押すように聞いてきた。

「シンジ君、本当にいいの?」

ここで僕は交換条件を口にした。

「うん、ただし…」

「「ただし?」」




「僕、父さんが室内でもサングラスを掛けてる理由知りたいな」




全員の視線が父さんに集中した。

父さんがたじろぐように一歩下がる。

全員の目から期待感があふれている。

期待age!

暫くして、父さんはやっと口を開いた。

「冬月…レイを呼べ」

レイって誰?

そんな事を思っていたら、父さんの隣の白髪のおじさんが激しい口調で言う。

「何を言っているんだ碇!この程度で乗ってくれるんだ!安いものだろう!」

あ、何かあのおじさん見覚えが…

おじさんがガミガミと父さんに文句を言う。

リツコさんとかミサトさんも色々文句を言っている。

「司令!」「碇!」

完全にフルボッコ状態の父さん。

やがて泣きそうな表情で、ぼそりと呟いた。

「しゅ…」








「趣味だ」

「…つまんね」

聞くんじゃなかった。

(…なーんだ)

(…悪趣味だな)

(…髭も趣味かしら)

周りも人も正直がっかりしたって感じで父さんの周りから散っていく。

とりあえずテンプレだから言っとこう。

「父さん、お前には失望した」

「出撃だ!出撃!」

ヤケクソな感じで父さんが叫んで、僕はエヴァの中に押し込められた。






「あーぁ、実は父さんはミュータントで目から常に発せられているビームを遮断する為に特別製のサングラスを…とか、そういうの期待したのになぁ…」

「それどこのマーベルヒーロー?」

何かエヴァっていきなりは動かないらしくて、色々とテストがあるらしい。

今はその真っ最中。

まぁ時間がないから簡単なものらしいけどね。

最初この…何だっけ?えんとりーぷらぐとか言うのの中に変な液体が入ってきた時は水攻めプレイ的な何かかと思ったけど、何か長ったらしい説明があったのでそういうもんかと納得した。

もうテストも終わったみたいだけど、正直全く話を聞いていなかったので分からない。

とりあえず僕は二匹の猫を抱いて幸せそうにしているリツコさんと無駄話を繰り返していた。

そうしたらミサトさんがまた大きな声で言う。

「何でも良いから起動始めて!」

モニターの向こうの指令室がやんややんやと騒がしくなる。

そして色々と言われて、全く聞いていなかったけどうんうんと頷いていたら、突然変な感覚が僕を襲った。

何だこれ?

誰かいる。

このエントリープラグの中に、僕以外の誰かが、いる。

それも二人。

一人は興味深そうに僕を見ていて、もう一人は…何だろ、あったかい感じ。

う~ん、何だろこれ。

何か覚えがあるんだよなぁ…

「エヴァンゲリオン初号機、起動しました」

不意に聞こえてきたその言葉で、僕は現実に引き戻された。

そういえばリツコさんと話している最中だった。

とりあえずこれは言っておかねばなるまい。

「ミスターファンタスティックって只の普通よりよく伸びる人じゃね?ってたまに思いません?」

「やっぱりシングが最高よね」

さすがリツコさん、分かってらっしゃる。

二人でサムズアップとかしていたら、ミサトさんの怒りが爆発した。

「下らない事ばっかり言ってないで仕事しなさいよ!!!」

「はいはい、じゃあエヴァ発進」

そんな軽い感じで、僕は戦場へと放り出されたのであった。

しかし…気になる。

「うーん…何だろ?」

ぐんぐんとエヴァは射出口内を上昇していく。

外に出れば敵がいるんだろう。

でもそんな事より、僕はこの視線の方が気になっていた。

うんうんと唸っていたら、心配そうにマヤさんが聞いてくる。

「どうしたの?シンジ君」

「いや、暖かいような、懐かしいような…」

もう一つの視線はただこちらを見ているだけだけど、もう片方は確実に僕にそんな感情を向けている。

この感じ…もう少しで思い出せそうなんだけど…

「やはり母親の存在を感じているのか?」

「そうだろう」

何か父さんと白髪のおじさんが呟いていたけど、よく聞こえなかった。

その時だ。

強烈なGと共に射出が止まる。

外に出たんだ。

そして前を見てみれば、巨神兵がいた。

でも全然危機感なんて感じない。

それどころじゃないんだ。

もう少しで…もう少しで思い出せそうな…

この懐かしさ…

この暖かさ…

こんなの、一人しか…



「あっ、そうか」



思い出した。

この感じ、懐かしいような、暖かいような。

僕にこんな接し方をした人なんて、人生で一人しかいないじゃんか。

「うわー超久しぶりだから分かんなかったや」

「シンジ君?」

ミサトさんが不思議そうに僕に呼びかける。

「いや、ミサトさん、これ中の人…」

だから答えてあげた。

「母さんじゃん」

僕の言葉と同時に中の人が歓喜の感情を露わにする。

「何だと!?」

父さんが険しい表情で立ち上がった。

僕の体を暖かい感触が包んでいく。

「シンクロ率上昇!」

そっと抱きしめられるように、僕はエヴァと一つになっていく。

「思い出した思い出した」

「80%…90%…100%!…110%!?止まりません!」

「もう十年かぁ、月日の流れって早いねー」

そんな時だ。

僕はもう一つの気配が遠ざかっていくのを感じた。

そっと、僕に背を向けて。

だから僕は思わず手を伸ばした。

そして、その子を捕まえる。

驚いたような気配。

戸惑うような気配。

だから僕はこう言った。

一緒に行こうよ、って。

歓喜の声が響いた。

「シンクロ率400%で…安定」

マヤさんが真っ青な表情で呟く。

「…理論限界値」

リツコさんも驚いているようだった。

よく分かんないんだけど、僕は何かすごい事をしたみたいだ。

何だろうって思ってたら、母さんじゃない方の気配がそっと前を指差した。

巨神兵がゆっくりと近づいてきていた。

「よし…」

何が何だか未だに理解はできてない。

何で母さんがエヴァの中にいるのかとか、もう一人の気配が誰なのかとか。

全然理解はできないけれど。

一つだけわかる事がある。

「行ってみようか?」







僕は選んで、そして選ばれたんだ。



[5245] エヴァ、乗ってみました 3
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/04/17 03:35
シンクロ率だとかハ―モニクスだとか適応者だとか理論限界値だとか。

はっきり言って何も分からないけど、とりあえず、どうやら僕とコイツは気が合うらしい。

意識を向けると、エヴァが答えるように雄叫びを上げた。

そして目の前の巨神兵を見る。

「あれ、倒しちゃっていいんですよね?」

「え、えぇ」

戸惑うようにミサトさんが答えた。

とりあえず距離をとって、エヴァの動きを確かめる。

前進、後進、ステップ、ジャンプ、体育座り、怒られる。

「何ふざけてんのよ!」

「えっと…とりあえずテンプレで…」

僕は叫んだ。

「無茶だ!こんなOSで!」

「私が作ったのよ?」

リツコさんが物凄い笑顔で答えてくれた。

「…」

「…」

「エヴァドリ「ドリルは未搭載よ、残念ながらね」

そんな!ドリルが搭載されていないなんて!

残念すぎるよリツコさん…

「…じゃあエヴァビーム?」

「無いわ」

「唸れ虚空よ!エヴァヴォイス!」

「無いわ、エヴァスパークもエヴァフィンガーもエヴァハンマーも無いわ…いや、ハンマーなら予算さえ下りれば…」

「…大エヴァおろしとか」

「それはシンジ君のここ次第よ」

そう言ってリツコさんは二の腕をポンポンと叩いた。

「こうなったら、ニトロとマクロを乗っけてファミリアとか…」

「シンクロの邪魔ね」

ですよねー。

「必殺技すら無いなんて…こんなのスーパーロボットじゃないよぅ」

「自分で編み出すしかないわねぇ…」

LCLは良いね…泣いてもばれないし…

そうしてさめざめと涙を流していたら、ミサトさんが溜息混じりに口を開く。

「あの…そういうの後にしてくれると助かるんだけど…」

「…ハッ!まさか!」

「シンジ君?どうしたの?」

「今特訓フラグ立った?」

「知るか!」

「だって!必殺技も無いんじゃ倒せませんよ!」

殴る蹴るで敵を倒すヒーローなんて聞いた事もない。

するとリツコさんが真面目な顔で口を開く、でもやっぱり猫は抱いたままだ。

「シンジ君ならいけるわ、400%なんて…波動砲も戸愚呂弟も目じゃないわよ?」

「無理ですよ!だってあいつ絶対ルカの町とか守ってるのと同じ種属でしょ!?せめて笛が無いと…」

そんな事を言っていたら、母さんじゃない方の気配が何かを告げてきた。

「え?何?」

「シンジ君?」

ミサトさんが何か言っているけど、気にならない。

何故ならその気配が告げたのは、僕が待ち望んだものの事だったからだ。

「え!そんなのあるの!?」

「シンジ君!?」

「マヤ?精神感染は?」

さすがにまずいと思ったのか、リツコさんがオペレーター席のマヤさんに尋ねる。

するとマヤさんは困った顔をして言った。

「異常ありませんけど…これは元々の異常は出ませんから…」

「貴女さりげに酷い事言うわね…」

聞こえてますよー。

まぁとりあえず、気配の提案に乗るとしよう。

「よし、じゃあいくよー」

僕と母さんと、その気配が混ざって一つになっていく感覚。

原理だとか中身の事は分からないけど、そっちの方は母さん達がやってくれる。

僕は振るうだけでいい。

その、力を。



そして、空気が変わった。



マヤさんが叫ぶ。

「ATフィールドを確認!初号機からです!」

「なんですって!?」



目の前の空間が歪んでいく、赤いのか黄色いのか、それさえも分からないような空間の断裂。

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

巨神兵がたじろぐのを感じた。

ごめんね、でも。



もう遅いかな。

「いくぜええええええ!超!時空殺法!」

僕はエヴァを巨神兵に向かって走らせた。

そして、目の前に展開されたその力場を。



力の限り、解き放つ。



「エヴァスラァアアアァァッァァアアァァァアァアッシュ!」

歪みに歪んだ空間、その中の閉ざされ暴走していたベクトルを巨神兵の方向に向かって解放する。

純粋な力の奔流。

巨神兵も慌てて同じような力場を作ったのが分かった。

でも関係ない。

僕が放ったソレは、巨神兵のソレごと飲み込んで巨神兵を襲う。

目の前が真っ白に染まっていく。

そして…





その光が消えた時には、目の前に巨神兵はいなかった。



辺りを静寂が襲う。

世界から音が消えた感じ。

指令室の人達だって、何が起こったのか分からず、唖然としていた。

そんな中、やっとリツコさんが口を開いた。

「ATフィールドを…武器に使ったというの?」

「これも次元連結システムのちょっとした応用だ!」

「無いわね」

やっぱりリツコさんは冷静だった。









Side - 冬月

初めての使徒戦、その勝利に沸き立つ指令室の中で、冬月は顔をしかめ、ゲンドウに呟いた。

「どうする碇?こんなシナリオはないぞ?」

言動は暫く無言だったが、やがてボソリと口を開く。

「問題ない…」

またこれだ。

この男の言う事は信用ならない。

面倒事を片付けるのは自分だというのに…

溜息をついてモニターを見る。

そこには初号機と、この男の息子である碇シンジが映っていた。

ふと思いを巡らせていると、ゲンドウがまたボソリと口を開く。

「いや、一つだけ問題がある」

「何だ?」

この男がこういう風な事を言うのは珍しい。

まぁ自分から見れば今起こっている事態は問題だらけな訳だが…

「奴のネーミングセンスはゼロだ」

「誰もお前に言われたくないだろう…」

まぁ確かに、エヴァスラッシュはどうかと思った。

またモニターを見る。

そこに映る、少年を見て。



そういえば彼の母親も、良い生徒ではあったが、一番扱いに困る生徒だった。

そんな事を思い出した。









あとがき

今回ちょっと短いです。
エヴァスラッシュだとか、シンジ君は偉そうに言っていますが、何の事はありません。
ATフィールドでぶっ飛ばしただけです、アスカがやったのと同じですね。
それと、少し引っかかる部分があるので、のちに丸ごと書き直すかもしれません。

あ、後…




初っ端から400%は




やり過ぎたと言わざるを得ないな!!!!!!!!!!



ホントは昔書いたのがここら辺までだったので、続きを書く上で100%にしようと思っていたんですが、今さら書き直すのもあれなのでこのままで行きます。
読んだ知り合いに「いきなり400%とか、馬鹿なの?死ぬの?」とリアルウザテーされて意地になったとかそんなんじゃないです。
断じて違います。
まぁシリアス路線も含まれてきますが、基本ギャグですし・・・
そもそもこの後の流れだと関係n(ry

ゴホンゴホン

後、勘違いされている人がいるみたいなので一応付け加えておくと。

これ、断じてスパシン物じゃないです。



[5245] エヴァ、乗ってみました 4
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/04/17 03:36
Side - シンジ

「つーかーれーたー」

えんとりーぷらぐとかいう操縦席から降りると、半端じゃない疲労が僕を襲った。

LCLの中に居るときって水の中に居るようなもんだから楽だったけど、空気中に出てみるとやたらと体が重い。

しかも肺の中に残ったLCLが気持ち悪い。

搭乗デッキの端っこで吐きまくってたら、何時の間にかデッキに人が集まり始めていた。

…え?ここで吐いちゃダメだった?フルボッコフラグ?

そんな事を考えていたら、人混みの中からリツコさんとマヤさんが出てきて口を開いた。

「お疲れ様、シンジ君」

どうやらフルボッコフラグが成立してたわけじゃなさそうだ、本当によかった。

すると、リツコさんの一言が引き金になったのか、集まっていた人達が一斉に声を張り上げ始める。

「お疲れ様だ!坊主!」

「よくやったぞー!」

「ずっと坊主のターン!」

気が付いたら僕はむさいおっさん達にもみくちゃにされていた。

ぐりぐりと頭を撫でられたり、胴上げをされたり、そのままLCLに落とされたり。

危うく溺死する所だった。

悪い気はしないがあまりにもしつこいので、とりあえず言っておく。

「はいはい!サインはだめですよー!」

リツコさんに叩かれた。

「馬鹿言ってないで来なさい」

「はい、調子に乗りました、ごめんなさい」

その後、リツコさんの一声で僕はむさいおっさん達の手によって医務室まで強制連行された。

胴上げされたまま。









何だかよく分からない検査を受けた後、僕はリツコさんの質問を受けていた。

「何か乗る前と乗った後で変化はある?」

預かってもらっていたニトロとマクロをいじりながら僕は答える。

「特には…強いて言うなら疲れました、凄く」

ホントに疲れた、それも筋肉がとかじゃなくて、衰弱した感じ。

何て言ったらいいのか分からないけど、丸一日百科事典の黙読をさせられた気分だ。

「疲労感?そんな筈ないけど…精神的なものかしら」

そう言ってリツコさんは書類に色々と書き込んでいく。

むう…

ていうか、半ばノリでこんな状況になっちゃったけど、これから僕どうなるんだろう。

そもそも何で僕がエヴァに乗らされたのかとか、巨神兵は何処から来たのかとか、色々と意味が分からない事は多い。

そんな事を考えてたら、質問も終わったらしい、リツコさんが思い出したように言った。

「あ、そうそうこの後司令室に行きなさい、司令が呼んでるわ」

「司令?」

司令って誰?

「お父さんよ、シンジ君の」

ああ、総統ね。

司令って言われたら違和感があるけど、総統って言われると全く違和感がない。

さすが僕の父親だと言わざるを得ないな。

「きっとこれからの契約の事とかあると思うから、真面目に聞くようにね」

それに対して「分かりましたー」なんて返事を返したけれど…

冷静に考えてみて気付いた。

契約?

ちょっと待って…

「契約?…乗るのって一回じゃないんですね」

てっきり一回だと思ってた。

戦うのはいいんだけど、もしかしてこれからも巨神兵みたいなのがわんさか来るの?

「騙すような形になって申し訳ないんだけど…」

そう言うリツコさんの表情はニコニコしていた。

ちっとも申し訳なさそうじゃないですね。

「乗るのは良いんですけど、僕みたいな子供より大人の軍人さんが乗った方が強いと思うんですけど、なんで僕なんですか?」

だって、大抵のアニメでロボに乗る為に訓練とかつんだりするし。

それなのにいきなり僕を乗せようとするなんて、完全に碇シンジ主人公フラグじゃないか。

「まさか…僕が主人公?」

「SS的にはそうね」

普通に言われたよ、おい。

「それにエヴァに乗るには適性が必要なのよ、本当は別のパイロットが居たんだけどそのこが出撃できなくなっちゃってね、シンジ君の適正はギリギリで判明したからこんなに急に呼び出す羽目になっちゃったのよ、それに時間がないから説明は省くけど、精神的な面で14歳という年齢も必要となってくるの」

14歳…だと?

「厨二病じゃないと乗れないって事ですか」

「そうそう…って違うわよ!」

「えーだってど真ん中だし」

前の中学では学内No1の厨二病と称えられた僕だ。

乗る資格はあると考えていいだろう。

そんなやり取りを続けていたら、背後からぼそっと声が聞こえた。

「先輩がノリツッコミ…」

マヤさん…いたんだ。

リツコさんも小声で「いたのね…」と呟いていた。

「ずっといました!」

そういえば最初からいた気もする。

空気なマヤさんも交えて色々とエヴァについての質問をした後、僕は司令室に行くことになった。

「じゃあマヤ、司令室まで案内してあげて」

「分かりました」

「それじゃマヤさん、行こ行こ」

「ちょっと、シンジ君待ってー!」

書類とかき集めているマヤさんは置いて、医務室を出て司令室に向かう。

いきなりT字路にぶつかった。

クラピカも言っていた事だし、折角だから僕は右の道を選ぶぜ!

ニトロとマクロもこちらが正解だと言わんばかりにナァナァ!と声を張り上げている。

宇宙の彼方に!さあ行くぞ!

「逆ー!」

マヤさんが涙目で僕を追いかけてきた、可愛いと言わざるを得ない。






Side - 冬月



ゲンドウが完全に丸投げした書類を片付けていると、不意に電話が鳴った。

どうやらシンジ君が到着したようだ、ゲンドウは何時も通り聞き取りにくい声で「通せ」とだけ言って電話を切る。

そして司令室のドアが開き、シンジ君の顔を見た瞬間。

彼はやはり碇ユイの息子なのだと実感した。

目元口元等と言うレベルじゃない。

碇ユイの性別が男だったらこういう顔だろう、それ程彼は母親に似ていた。

そして、シンジ君が入室した瞬間。

「碇シンジさんがログインしました」

中身まで碇ユイの息子だと言う事を実感し、私は絶望した。

薄々感づいてはいたが、突然の意味不明な発言、突拍子もない行動、悪乗りし過ぎる所、その他諸々。

完全に碇ユイの息子だ…

何だか頭が痛い。

まさかクローンじゃないだろうな…

そう思ってゲンドウを見ると、別に奴はいつも通りの無表情を貫いていた。

まあ計画がいきなり崩壊しかかっている状況だ、内心がどうなのかは知らないが。

一度深呼吸して心を落ち着ける。

そしてもう一度シンジ君を見ようとすると…

何故か目の前にいた。

口を開け、ぼけっとした表情で私を見ている。

しかも何故か両肩には白と黒の子猫が乗っている。

何だというんだ…一体。

「何だね?」そう言おうとした瞬間、シンジ君は私を指差し「あぁ!」と叫んだ。

「冬月先生だ!」

「私を知っているのかね?」

何故シンジ君が私の事を知っているのかが分からない。

「何言ってるんです?昔何度も会いましたよね?」

そう言ってシンジ君が浮かべる笑顔を見ていて、ふと思い出した。

ほんの数回だが、ユイ君がその時はまだ子供のシンジ君を連れて来た事があった。

そういえば一度食事に付き合ったような記憶もある。

「会った事がある事はあるが…君はまだ四歳かそこらだっただろう?」

「その位覚えてますよーホントは完全に忘れてましたけど」

「そ、そうかね…」

四歳の時の記憶を人は覚えているものだろうか…

案外普通に覚えているのかもしれないが、老いた自分では全く思い出せない。

年は取りたくないものだ。

この分だとシンジ君はユイ君がエヴァの中に取り込まれたあの実験の事も覚えているのだろう。

「座れ」

ゲンドウの声が静かに室内に響き渡る。

…そういえばいたな。

それに対して、シンジ君はソファーへとゆっくり歩いていくと、座る直前で突然崩れた形の敬礼をし、こう叫んだ。

「ヤルッツェ・ブラッキン!」

頭が痛い…

意味が分からん…

だが、次のゲンドウの発言は私の想像を超えていた。

「いい加減にキャシャーンから離れろ…」

分かるのか、ゲンドウよ。

「ガデッサー?」

「どうしても悪役にしたいようだな…」

「ヤックデカルチャー?」

「それは意味からして違うだろう…」

…何だこいつら。

完全にユイ君似かと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。

まあどちらに似てもロクなものじゃない。

生まれの不幸を呪うしかないようだ。

暫く意味不明なやり取りが続いた後、やっとシンジ君は席に着いた。

ようやく話が切り出せる。

そう思い、私は契約の書類を手に取った。

「で?父さん何か用?僕四時からレディス4見たいんだけど、ここテレビないの?」

と思ったらこれだよ。

「主婦向け番組等どうでもいい」

親子だ…

「えーじゃあ部下の人に録画するように言っといてよ」

「良いだろう」

そう言ってゲンドウが私に目線を送ってきた。

もう何だかどうでも良くなってきた。

電話を取り、一瞬誰に頼むべきか考えた後、そう言えば直属の部下で若いのがいたな、という事に気付く。

数回のコールの後、彼は電話に出た。

「青葉君かね、急ぎの仕事だ、レディス4を録画しておいてくれ、最悪の場合マギを使ってもかまわん」

『…は?何ですか?』

「主婦向けの生活情報番組だよ…知らんのかね!?急ぎたまえ!もう四時前だ!始まるぞ!」

そう言って電話を切ると、ゲンドウとシンジ君が何故かサムズアップでこちらを見ていた。

…無視だな。

もう契約書も書ける所を適当に書いておこう。

暫くゲンドウとシンジ君はレディス4の話題で盛り上がっていたようだったが、やがて話はエヴァの方向へ戻った。

「ユイに会ったのか?」

「会ったって言うか軽く話しただけだけどね、久しぶりに会った元近所のおばさん達程度に、何で?」

「…結構長そうだな、何と言っていた?」

ここで書類の手を止め、二人の方を見る。

当初の我々の計画では、ユイ君が目覚めるのはもっと後の予定だった。

それがシンジ君がユイ君の事に即気づいてしまった所為でこの様だ。

もうグダグダである。

それはそうとして、ユイ君が何と言っていたのか、それには大いに興味があった。

彼女が取り込まれて、もう十年になる。

あの破天荒な性格も今では懐かしい。

もっともそれは息子に遺伝というより移植に近いレベルで受け継がれたようだが。

シンジ君は暫く考えた後、口を開いた。

「んーっと、ヒス起こしてて何が言いたいのかよく分かんなかったんだけど…要約するとね…」

ヒス?

「浮気者はぶっ殺すって」

破天荒すぎる。

いきなりそれかい。

私が呆れ返っていると、ゲンドウは目に見えて焦り始めた。

「ち、違う!違うんだ!」

「碇、落ち着け」

ゲンドウがユイ君が居ないのをいい事に若い女に手を出していたのは知っている。

この男、これでも意外ともてるのである。

「権力で迫るのは犯罪とかも言ってたけど…」

「何故ユイが知っているんだ!?お前か冬月!?お前がバラしたのか!?」

「私は知らんよ…」

「うっわー本当だったんだ…」

だからエヴァの前でやるのはやめておけと言ったのに…

完全にパニックに陥ったゲンドウは、当初のシンジ君を冷たく突き放すという計画も忘れて、必死な弁解を始めた。

お前は何の為に十年もシンジ君を突き放して来たんだ…

「違う!違うんだシンジ!これにはワケが…」

「最低」

「さ、さいてい?」

「犯罪者」

「はんざいしゃ?」

「碇家の汚点」

「おてん?」

「戦国武将で言うなら浅井長政」

「あさ…浅井長政!?そ、それは誰だ!?戦国的にはどうなんだ!?冬月!?」

私に振るな…

浅井長政…

歴史の教科書に載るような人物ではない。

「…微妙?」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

ゲンドウは泣き叫びながら司令室を出て行った。

部屋に残ったのは私とシンジ君の二人。

奇妙な沈黙が辺りを包む。

シンジ君は暫くドアを見つめていたが、やがて頭をポリポリと掻きながら呟いた。

「虐めすぎたかな?」

「自業自得だよ」

奴もこれで懲りるといいんだが…

「あ、全国の浅井長政ファンの方々、微妙なんて言ってごめんなさい」

「何を言っているんだね…君は…」

その後二人で契約内容について話合ったが、その時のシンジ君の交渉っぷりは完全に碇ユイそのものだった。

気が付けばかなりの高額で契約を結んでいた事は言うまでもない。

そして、交渉も終わり、部屋を出ようとした所で、シンジ君は思い出したように言った。

いや、実際の所忘れていたのだろう。

しかしその内容は彼の気軽な口調とは裏腹にとんでもないものだった。

「そだ、母さんが外に出たいって言ってたんですけど…出していいですか?」

思わずお茶を吹いた。

慌てて出来上がったばかりの書類を拭く。

ちょっと待ってくれ。

何で今、このタイミングでそんな話をするんだ。

言った本人の顔を見ると、何と言うかぽややんとした顔をしていた。

事の重大さが分かっていない。

「…出せるのかね?」

「多分ですけど、出る準備しとくよーって言ってました」

ユイ君…

旅行に行くんじゃないんだぞ…気軽に言わないでくれ。

「困ったな…ユイ君を出すとエヴァが動かないんだが…」

「何か問題でも?」

人間はエヴァと直接シンクロすることが出来ない。

何故なら人間とエヴァ、その思考回路は大きく異なる。

エヴァの巨大すぎる思考の渦に、人間は耐えられない、結果飲み込まれた意識とエヴァの思考の間でシンクロ超過が起こるわけだが。

直接シンクロの際の搭乗者のエヴァへの吸収も、それが原因だろうとされている。

初号機で言うならば、それを防ぐための言わば通訳としてエヴァ内部に取り込まれた碇ユイが居るわけだ。

それを取り除いてしまったら次に取り込まれるのは恐らく碇シンジだろう。

「シンジ君、まだ使徒は沢山来るんだよ、ここでユイ君を外に出してしまうとエヴァが動かなくなってしまうんだ」

彼の言う通りに、すぐにユイ君を外に出せるのならば、なにも今それをやる必要はない。

もう一度ユイ君に会う、それを目的としているゲンドウが何と言うかは分からないが、この問題は簡単に結論を出していいものではない。

と言うより。



それを許してしまうと、我々が人類補完計画に参加する必要がなくなるのだ。



私一人で結論を出せる筈もない。

私が頭を抱えていると、シンジ君はまた頭を掻きながら言った。

「じゃあそこら辺どうにかならないかエレクトラに相談してみますよ」

「エレクトラ?」

誰だ?

「あ、エヴァの名前つけてあげたんです、友達になったんで、僕が一番好きな名前なんですよ、本当はハルクにしたかったんですけど母さんが反対して、まぁ確かに緑じゃないし…銀だったらシルバーサーファーにしたのにな~まぁエレクトラも赤じゃんって話ですけど」

気軽に言っているが、全く笑えない。

エヴァと、友達になった?

誰もが笑い飛ばすような話だが、彼の言っている事に嘘はないだろう。

そもそも普通ならユイ君を外に出せる等と言われても誰も信じないだろうが、ユイ君本人が外に出ると言っている。

では本当に彼はユイ君と話しをしたのか?という事になるが、嘘ならばゲンドウの女性関係の事を知っているのはおかしい。

それにそもそも。

碇ユイという人間は。



冗談は言っても、嘘は付かない女性だった。



この事が碇シンジにも適用されるのかどうかは分からないが…

何時の間にか俯いていた顔を上げ、彼を見た。

楽しそうにエレクトラエレクトラと口ずさむ少年の姿が碇ユイとダブる。

その瞬間。

冬月は自分達の計画が崩れ去る音を聞いた気がした。



何だか妙に疲れた。

「良い名前だね…」

それだけ言って、彼の退室を見送り、湯飲みを手に取る。

それを飲みながら冬月は、これから起こる事を想像して。









何だかもう、全部どうでも良くなって、一回だけため息をついた。

後で新しい胃薬を買おう。























後書き

年明けすぐに行ったスノボでした怪我の所為で更新が遅れたユスケです。

アバラ、右肩、右手首、右膝があぼーん。

てかふと気づいたんですが、エヴァ、乗ってみましたってのは第一話の題名であって、このSSの題名じゃないんですよね。

でも今更変えるのもめんどいんでもうこれでいいやっていう。

じゃあ言う必要なくね?っていう。

まあ元々の作品名も全然大した事無いので/*^ω^*\

実は話自体は虫食いのように所々抜ける形で最終話まで出来てます。

でも最後の方がやたらとシリアスなので、書き換え中。

次で第一話も終わりです。

こんなgdgdな作品ですが感想書いてくれる方に感謝を。



[5245] エヴァ、乗ってみました 5
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/04/17 03:36
SIDE-シンジ

「買おうかなぁ、ドラゴンバキューム」

録画されたレディス4を見ながら僕はそう呟いた。

ドラゴンバキュームのあのフォルム、百式を思わせる黄金色のボディーカラー、何より実演で見せられたあの吸引力。

たまらないな。

ったく…通販コーナーは相変わらず僕を狂わせる…

ドラゴンバキュームさえ手に入れば、僕は第三新東京市をクリーンシティーにしてみせるぜ!

そんな事を考えていたら、横で一緒にモニターを眺めていたマヤさんが不思議そうに呟く。

「只の掃除機に見えたけど…」

これだから素人は…

僕は無言でコンソールを奪うと、映像を問題のシーンまで巻き戻してあげた。

今話題の掃除機、ドラゴンバキュームを使う主婦がゴミどころか自宅の子猫まで吸いそうになるシーン。

「子猫位なら吸い込むんだよ!?激熱!?」

「そこまでいくと掃除機としては欠陥な気が…」

そこがいいんじゃないか…素人め…

とりあえずモニターを見ながら購入するかどうか悩んでいたら、コンソールを取られっぱなしのマヤさんが涙目で叫んだ。

「仕事させてぇー!ていうか何でこんなのMAGIで録画してるのー!」

この叫びでロン毛の青葉さんって人がびくっとしたけど、そのまま何も言わずに作業を続けていた。

逃げたな…

とりあえず「残業は嫌、たまにはうちに帰りたい」といじけるマヤさんが本気で可哀想だったので、コンソールは返してあげた。

すると、物凄く喜ばれた…

そんなに家に帰れてないのかな…

後で父さんに仕事量減らすように言っといてあげよう…久しぶりに他人に同情した。

そんな事をしてたら、何時の間に居たのか分からないけど、突然リツコさんが後ろから話しかけてきた。

「あの程度なら前に作ったのが家にあるわよ?」

「本当ですか!?子猫いけます!?」

「群ごとね」

群ごと…だと?

その光景を想像していたら、肩のニトロとマクロがフゥー!と叫んでマヤさんの方に逃げていった。

マヤさんの膝の上で僕を警戒している。

…バレたか。

後可哀想だから仕事の邪魔するのやめてあげなさい。

とりあえず上目遣いでリツコさんを見てみる。

発動しろ!僕の目力!

いや!邪気眼よ!

目を逸らされた。

回り込んだ。

目を逸らされた。

回り込んだ。

目を逸らされた。

回り込んだ。

目を逸らされた。

回り込んだ。

「…あげるわよ」

「わーい!やったぁ!」

安西先生、諦めなくてよかったです。

掃除機の入手に喜んでいたら、プシュッとドアが開いて、疲れ果てた顔のミサトさんが姿を現した。

なんか話によると、初の使徒戦で第三新東京市の被害も大きかったらしくて、それに関する書類が全部ミサトさんの所に回ってきてるらしい。

ご苦労様です。

あと第三新東京市って第三真東京市って書くとゲッター線出そうで格好いいよね。

まあそれは置いといて、そんなお疲れのミサトさんは、僕の顔を見るとポカンとした顔でこう言った。

「ありゃ?シンジ君どうしてまだここにいんの?」

「父さんが精神崩壊しちゃった所為でまだ家が決まらないんだよね」

あのまま姿を消した父さんだったが、数分後階段下で体育座りしている所を発見され、捕獲された。

黒服のおじさん達に両脇を抱えられた姿はどう見てもロズウェルだったけど、あまり係わり合いになりたくなかったので僕はあえて無視したのだった。

「司令の家に住むんじゃないの?」

「嫌だよ、巻き添えくらいそうだし」

総帥と同居とか…ヒーロー側に何されるか分かんないじゃん。

それ以前に母さん外に出したらどうなるか…

絶対巻き添えは嫌だ。

「巻き添え?じゃあウチに住む?」

ミサトさんち…

少し悩んだけど、僕は最初に送られた写真の事を思い出した僕は、次の瞬間勝手に口が動いていた。

「別にいいよ?」

ハッハ、僕も男だからね。

己の欲望には逆らえないのさ!

てか美人のお姉さんと同居とか、これ何てエロゲ?

そんな事を考えていたら、リツコさんが凄く心配そうな顔で僕の肩に手を置いて言った。

「やめておきなさい、ミサトの家はね、第三新東京の樹海と呼ばれてるのよ?リアルにコンパスが狂うんだから」

「チェンジで」

欲望に逆らう事も大切だと思うんだ。

「あたしゃデリ嬢かっての!じゃあどうすんのよ!?」

「そうねえ…」

そう言ってリツコさんは辺りを見渡す。

視線が合うロン毛の人。

「俺の部屋汚いんだよなー!あとワンルームだしなー!無理だなー!ついでに言うとこれ独り言っす!」

慌てて僕との同居を避けようとしている。

てか僕も嫌だ、そもそも男と同居ってのが嫌だ。

視線が合う眼鏡の人。

「帰ってつよきす二学期しないとなー!子供の教育には悪そうだなー!」

やばい、ちょっと興味深い。

でもこの人自分が自爆してる事に気づいてるのかな。

周りの女性陣の視線が凄く白けてるんだけど…

こんな人との同居は嫌だ。

でも友達になっておいて損は無いと思う、それが僕のジャスティス。

そして最後に視線が合うマヤさん。

「あ、あう…私…えっと…でも命令なら…あう…」

凄く…涙目です。

リツコさん、マヤさんは可哀想だから止めてあげて下さい…

だが惜しい事をした…

リツコさんは、仕方ないとばかりにため息をつくと、苦笑いを浮かべて僕を見てこう言った。

「じゃあ決まる迄ウチの子になる?」

リツコさんの家…

何でだろう。

PCのモニターに壁が覆われているか、生活必需品以外何も無いかの二択のような気がする。

「家綺麗ですか?」

「恥ずかしくない程度にはね」

「コンパス狂いませんか?」

「恥ずかしくない程度にはね」

「それってどうよ?」

即つっこむミサトさん。

ミサトさんにはツッコミの才能があると思う。

もしかしたら元々はお笑いを目指していて挫折していた所をこの組織にスカウトされたとか、そういう昔話があるのかもしれない。

本当は悪の道に染まりたくは無かったけど、今まで収入の無い自分を援助してくれた親の為にも定職について安心させたかったとか、そんなの。

何だか感動してミサトさんを見ていたら凄く怖がられた。

今度からもうちょっと優しく触れてあげよう、そんな事を思った。

小話乙。

それはともかく、何だかんだで優良物件な気がしたのでこの話を受ける事にした。

「お世話になります」

そして完全にリツコさんちのシンジ君モードに移行しようとしていた僕に、リツコさんは条件を突きつけてきた。

ジョジョ立ちで。

「ただし!条件があるわ!」

「…何でしょう?」

ゆっくりと視線を巡らせ、口を開くリツコさん。

「一度拾っておいて捨てるなんて最低だと思うの!」

その目は完全にMAGIで爪を研いでいるニトロとマクロに向けられている。

「ハッハ、シンジのヤの字は優しさのヤですよ」

年上女性とのめくるめくエロゲライフ突入の為なら、小ぬこの一匹や二匹、いったい何の問題があるだろう。

いや、ない。

「どこからヤが出て…」

「待ちなさい、これは孔明の罠よ、下手に触れない方がいいわ、丸く収まりかけてるんだから」

下手なツッコミを入れようとした眼鏡の人がプロに止められるという一幕もあったけど、割愛。

話も纏ったところで、リツコさんが僕に鍵を投げてよこした。

「じゃあ司令には言っておくわ、駐車場に車があるから、荷物を纏めて先に行っててくれる?車は警備の人に聞けばどれか分かるから」

「分かりましたーニトロ!マクロ!ジェットストリームアタックだ!」

鍵を受け取ってそう叫ぶと、爪とぎに夢中になっていた二匹は俊敏な動きで僕の両肩に飛び乗る。

この僕らのシンクロ率、仙術でも使えそうな勢いだ。

「それじゃ逝ってきまーす、あ、誤変換じゃないよ?」

「誤変換とか言うな!」

自分でも何でこんな事を口走ったのか分からない。

でもどうにもならない神の意思を感じたんだ。

IME的な意味で。

そしていざドアを出るところになって、僕は悩んだ。

道が分からない…

でも!クラピカも言っていた事だし、折角だから僕は右の道を選ぶぜ!

「逆ー!」

叫ぶマヤさん、何というデジャヴ。






SIDE-リツコ



走り去っていくシンジを見送り、暫くその方向を眺めていると、なにやら自分に視線が向けられている事に気づいた。

気配の方に目を向けると、ミサトが眉を潜めてこちらを見ている。

「何よ?」

「いや…意外」

私からすれば今のミサトの方が意外だ。

本来彼女はこんな風に言い淀んだりするような人間ではない。

「何が?」

掘り下げて聞くと、ミサトは一瞬考えた後、精一杯言葉を選んだのだろう、言い難そうに言った。

「子供は嫌いじゃなかったの?」

「嫌いよ」

子供は嫌いだ。

大嫌いだ。

だが…

「面白そうじゃない、彼」

そう言って持っていた書類をマヤに渡すと、私は荷物を纏め始めた。

碇シンジ。

これ程面白い人間も居まい。

パイロットという観点では言わずもがな。

それよりも、誰もが彼の行動言動に騙されて気付いていない点。

私はそこに興味があった。

「そう言えば…」

渡した書類をパラパラと確認しながら、マヤが呟く。

「シンジ君って、副司令と先輩にだけ敬語ですよね」

そういえばそうかもしれない。

よく考えてみれば不思議な話だ。

彼は物怖じしないと言うか、悪く言えば礼儀を知らないとも言えるが、年の差を気にする人間とは思えない。

現にミサトやその他の職員には敬語を使っていない。

…まあミサトに使わない理由は不思議と分かるのだが。

確かにマヤの疑問は気になる。

しかし、今の私にはそれよりも優先すべき事があった。

荷物を纏めると、軽く手を振り、自分の研究室の荷物を取りに急ぐ。

廊下に出た所で、マヤの声が聞こえた。

「あ!先輩!これ先輩の仕事じゃないですか!押し付ける気ですか!?」

やばいバレた、ダッシュ。






「ごめんね、待ったかしら?」

駐車場に着くと、彼は猫達とじゃれて遊んでいた。

可愛い、うん、可愛い。

「いえいえ」

そして二人と二匹、車に乗り込むと、とりあえずここに来るまでの道中考えた事を言っておく。

「もうスーパーとかも営業再開してるから、寄って行くわよ」

「何か買うんですか?」

「シンジ君の生活道具と食材、最近帰ってなかったから冷蔵庫の中にロクな物が無いのよね」

そうなのだ。

実は今日家に帰るのは一週間ぶりで、家を出る時に中の物は片付けてきたから、ミサトではないが残っているのは酒類位だろう。

そういう意味ではシンジに感謝もしている。

彼を引き取る事にならなければ、間違いなく今日もネルフに缶詰で、家に帰るのは遠い未来の話になっていただろう。

彼からの返事が無いので、車を出しながら横目で見てみると、顎に指を当て「ん~」と唸りながら何か考えているようだった。

駐車場を出る頃になって、彼が口を開く。

「もしかしてリツコさん、あんまり自炊はしない人ですか?」

「しないわね、一人暮らしだとするのも馬鹿らしくて…あ、出来ないわけじゃないのよ?」

一人暮らしだと基本的に料理をする気にはなれない。

そもそもネルフに寝泊りした方が仕事の面で楽なので、この仕事についてからは食事はネルフ内の食堂で、家は主に疲れを癒す場所、という風に使っていた。

それを聞いて彼は人好きな印象を受ける笑みを浮かべて言った。

「よし、台所僕に預けてみません?」

思わずブレーキを踏みそうになった。

だって中学二年生の台詞じゃない。

一応確認の為に聞いてみる。

「料理できるの?」

「地元じゃ味王って呼ばれてたんですよ、居候代に家事位はします」

それは料理が上手い事にはならないと思うのだが…

「じゃあ任せてみようかしら」

少し悩んだが、任せる事にした。

無理そうだったら自分でやればいい。

そして暫く車を走らせると、目的地のスーパーに着いた。

二人で入り口をくぐると彼が辺りを見渡しながら口を開く。

「何食べたいですか?」

「…肉じゃがとか?」

肉じゃがは祖母の得意料理で久しぶりに食べてみたくなった、というのも理由の一つだったが、肉じゃがは簡単なように思われて実は奥が深い料理だ。

要は私のちょっとしたいじわる。

しかし彼は全く動じる事無く、今まで通りののほほんとした口調で言う。

「分かりました~」

そして彼が食材を選んでいくのを見て。








何となく。

あぁ…私より料理上手そうだな。

と思った。






















「リツコさん、出来ましたよ」

そう言ってテーブルに並べられた遅めの夕食を見て、私は間抜けにも口を開けたままポカンとしてしまった。

「この肉じゃがを見てくれ、こいつをどう思う?」

「凄く…美味しそうです…」

肉じゃがはどうみても美味しそうだ、小皿類も完璧。

いや、待ちなさいリツコ、問題は味よ。

料理に大切なのは、見た目でも真心でもない。

味だろう!赤木リツコ!

意を決して箸を持ち、まずは肉じゃがから口に運ぶ。


























うめえ。

脳汁出た。



ごめん、お婆ちゃん。

もうお婆ちゃんの肉じゃがを思い出す事は無いかもしれません…

あまりの美味しさに黙々と食事を進めていると、彼は心配そうな表情で私に聞いてきた。

「どうですか?」

「美味しいわ」

「そりゃ良かったです」

そう言って彼は笑う。

俺はプロだ。

どこからともなく、野田圭一声でそんな台詞が聞こえた気がした。

そして丁度食事を終えたその瞬間、ピピピッという電子音が小さく室内に響く。

あれ…この音ってまさか…

一瞬信じられないでいると、彼は食器を集めながら何事も無いように口を開いた。

「あ、お風呂沸きましたね、お先にどうぞ?」

「え、えぇ、ありがと」

彼は家に入ってからずっとキッチンに居た筈だ…

何時の間に風呂を…

疑問に思いながらもバスルームへと向かうと、ちゃんと風呂は沸いていた。

一通り掃除した雰囲気すらある。

しかもよく見ればしまっていたタオル類が全て準備してあった。

唖然としながらも、思わず呟く。

「…使える」

そして今日一日の出来事を思い出しながら入浴を済ませ、寝巻きに着替え、髪を拭きながらバスルームを出る。

「シンジ君、あがった…わよ…」

そして、目の前の光景を見て驚愕した。

「あ、はい」

何しろ一週間ぶりの帰宅だ。

正直な話、部屋は若干埃を被っていたのだ。

さっきまでは。

私の頭が計算を始める。

待って、絶対おかしい。

入浴時間は20分に満たなかったはずだ。

そんな短時間で…

ここまで部屋は綺麗になるものなのだろうか…

その位室内は綺麗になっていた。

彼はニトロとマクロの前に食事を置くと、そのままパタパタと小走りで彼に与えた部屋へと消えていった。

そして、私は改めて現状を確認する。

これは…

「いい拾い物したわ…」

そう呟かざるをえなかった。















SIDE-シンジ



なんかよく分かんないけど満足してもらったっぽい!

それが僕の感想。

正直こんな風に他人の家にお世話になるのは初めてだったから、内心少し不安だった。

先生の家では厄介払いの離れで一人暮らしだったのだ。

でも何とか上手くやっていけそう。

安心しながら入浴する為に服を脱いでいく。

そして何となく鏡を見たら、頭部にキラリと光る物が一瞬見えた気がした。

「あれ?」

何だろ…

鏡に近寄って、よく見てみる。

そして発見した。

「白髪…」

ぷつっと引き抜いてそれを眺める。

折角上手くいきそうだったのに、何か不吉だ…

溜息を吐きながら入浴しようとした、その時。

その声はリビングから聞こえた。















「美味しいでちゅかー?いい子でちゅねー」

















ハッ!?

何が…起こった。

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

『僕は入浴する為に服を脱いでいたと思ったら、いつの間にか入浴を済ませ、服を着始めていた』

な…何を言っているのかわからねーと思うが、

僕も何をされたのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、

そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

何だろう…さっき凄い何かを聞いた気がする…

一瞬思い出そうとしたけど、脳の中の人がもの凄い拒否の姿勢をみせたのでもう忘れる事にした。

忘れた事にした。

そして僕はまた服を着始めるのだった。



リビングでぼんやりとテレビを眺める。

とりとめの無い話をリツコさんとしながら、猫と戯れる。

今までの僕の人生に無かった時間。

だってずっと一人だったしね。

冷静に考えてみたら、リツコさんちに来てまだ数時間だけど、今人生で一番幸せかもしれない!

…あれ?

もしかして…僕、今まで不幸すぎた?

んな事ないか、今までも十分楽しかったし。

どんな状況でも楽しむのが僕のモットーだからね!

使徒が何かしたら人類オワタになるとか聞いたけど、僕には関係ない。

どんな状況だろうと僕なりに!

やぁってやるぜ!



こうして、僕の第三真東京市生活一日目が終了した。

明日も良い事あるといいなぁ…

そんな風に思いながら。
















この時までは僕とエレクトラなら、使徒とかいう奴らにもヨユーだし、最強モノ王道テンプレktkr。

とか思っていた。



そう。








この時、までは。



第一話 完


















【無駄に長い】あとがき

頭痛が半端じゃないので病院にいったら、原因は肩こりだと言われた。

oi

misu

おい、肩がこるような事なんてしてないぞ。

と思ったら、どうやら肩こりの原因はスロットの打ち過ぎらしい。

そういえば最近大学・店・家の無限ローテに陥っている事に気づいて反省した。

そして「強い奴に会いに行く」と言ってまたスロットを打ちに行った。

誰か俺の肩をもんでくれないか?

と言う訳で一話が終わりました。

更新が遅れた理由は決してスロットのせいじゃありません。

しいて言うならハードボイルドのせいです。

偉い人にはそれが分からんのです。

後は一人称で書くのに疲れて別の小説を書いていたかr(ry

一人称だと地の分が本当に書き難くて(´・ω・)

でもおいら三人称だとギャグ調は書きにくいっていう。

じゃあ何でこんな小説うpしたの?馬鹿なの?っていう。

第二話ですが、レイが出てきます。

あとは…

あとは…

特に無いでしゅ! ←です!と打とうとしたらでしゅ!になった、でもこのままにしておくのが俺のジャスティス。

ギャグ路線の話なんだからシリアス無しなんでしょ?とよく言われるんですが、そんな事ないです。

だってギャグ一辺倒でまともに完結させる自信がn(ry

と言うより【ギャグ小説の完結】というもののビジョンが全く見えない。

それとこれを読んだ友達に「誰にも分からないネタが多すぎる」と怒られました。

読み返してみたら、自分でも元ネタが分からなかった。

でも反省はしていない。

てか何故か三話と最終話がすでに出来上がっている現実…

最終話が日の目を見るまでおいらのおーらぢからが続けばいいな(*゚ω゚*)

なんて思ったりする今日この頃、皆様どうお過ごしでしょうか?

あとがきの意味が分からない?何だかとっても眠いんだ…

よし、寝ます。

このSSに需要ははたしてあるのか?と、疑問に思いつつ寝ます(´ω`)

最後に一言。

誰か俺の肩をm(ry





PS

Xさん(名前を出していいのか分からないので)のあとがきを読んで、俺も逆立ちに挑戦したらオモシロ現象が起きるかもしれない、あとがきに書く事なんて何もないし、よし挑戦だ!6を返せば9になる!と思い実行した。

世の中面白い事なんてそうそう起きない事を知った。

ではまた第二話で。

*質問があったので追記:元の作品名は えばとぼくとぬこ でした。

…ほら!聞く必要なかっただろう!

*文の訂正をしました。



[5245] SWITCH!あの子のハートを打ち砕け! 1
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/03/02 01:04
「やあ、ようこそ、バーボンハウスへ。この包帯はサービスだから、まずは巻いて落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ、済まない。

仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない

でも、この病室を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思ってこの病院を作ったんだ。



じゃあ、注文を聞こうか」










そこまで告げて、僕はベッドサイドに置かれた椅子へと腰を下ろした。

ベッドに寝たままの彼女は、その顔に困惑の色を浮かべて僕を見る。

「え?…注文?」

「そうさ、さあ、注文をどうぞ」

彼女は暫く考えていたようだったが、やがて答えがまとまったのか、そっと口を開く。








「金霧島を、ロックで」

「渋っ!」














エヴァ、乗ってみました 

第二話 SWITCH!あの子のハートを打ち砕け!














前回までのあらすじ。

今時IT色ゼロなエロ写真付きの短文に誘われてルカの街に来てバンゲリとかいう母さんとエレクトラのカクテルでゴーレム倒したら水着に白衣の流行最先端なお姉様と同居する事になった。

以上、碇シンジの日記より抜粋。





よく分からないけど、朝起きたらリツコさんに。

「見舞いに行くよ!40秒で準備しな!」

とか言われて、知らない子のお見舞いをする事になった。

正直僕は寝起き最悪なので、気が付いたら病室にいた感じだ。

でもリツコさん曰く「明らかに寝ぼけていたけど、家事は完璧だった」との事。

時々自分が恐ろしくなるね!

まあそれはともかく、病室には何かすっごい可愛い子がいた。

うん、すっごい可愛い。

なんか母さんに顔の感じが似てるかな。

ハッハ、クローンだったりして。

「おぉ…髪が青い」

青い髪の人なんて初めて見た…ひょっとしてヤンキー?

しかもよく見たら瞳も赤だ。

青髪に赤のカラコン、しかも包帯巻いて入院中。

…そういえば。

リツコさんも金髪だ。






オーケイ分かった。






不良姉妹だな?

もしくはネルフの女幹部は髪を染めなければならないとか、そういう規約があるんだろう。

思い出してみれば、ミサトさんの髪も若干紫がかっていた気がする。

目の前の女の子はどう見ても僕と同じ位の年齢だ。

この年から英才教育なんて…

父さん、恐ろしい男!

と、いうような事をリツコさんに伝えたら、窓の外に向けて秋山ばりの奈落式エクスプロイダーを決められるところだった。

久しぶりに真剣に謝った。

とりあえず、目の前の子に言っておく。

「ヒーローの素質ありだね!」

「…ヒーロー?」

アニメとか漫画のヒーローって大抵特殊な髪の色してるしね。

「あ、ヒロインか、僕と一緒に戦う?あと僕に足りないのは相棒だと思うんだよね!」

よく考えてみたら僕にはヒーローものにお約束の共闘してくれる相棒がいないんだ!

バットマンにおけるロビンみたいな!

でも僕の言ってる事はどうやら100%女の子に伝わってなかったみたいだ。

ちょっと表情が読み辛いけど、困惑した顔で僕を見ている。

「赤木博士…どうすれば…」

「あまり気にしないで、外国人と話してるつもりでいると良いかもしれないわね」

リツコさんはそう言いながら女の子の怪我の状態を確かめていた。

…いや、待て。

今この子何て言った?

赤木…博士…だと?

「リツコさんの事博士って呼んでるの!?そっか!ロボットモノだからそれでいいんだ…はか「シンジ君?怒るわよ?」

「本当に申し訳ございませんでした」

もし人生がネトゲだったら、僕の土下座スキルは今人類TOPだと思う。

リツコさんは僕の華麗な土下座を見て感心し、写メに残した後呆れて言った。

「自己紹介くらいしなさい」

ごもっともです。

「僕は碇シンジ、趣味は料理と体育座りとアメコミ収集、一番好きなヒーローはパニッシャー、一番好きなヒロインはエレクトラ、一番嫌いなのはデアデビル」

女の子は自己紹介する僕を目を白黒させて見ていた。

これって後で聞いたんだけど、こんなによく喋る人間を見たのが初めてで混乱してたらしい。

「あら何で?」

「いくら視覚が無いとは言えあれは無いと思うんですよね、力も地味だし」

あの全身真っ赤な衣装は無いよね。

頭の耳みたいなのもアレだし。

僕とリツコさんがアメコミ談義に花を咲かせていたら、着いていけない女の子はやっぱりぽかんとしていた。

「…であでびる?」

ちょっと言い方が可愛いと思ったのは内緒だ。

とりあえずこっちの自己紹介も済んだし…済んだよね?僕は子のこの事も聞いておく事にした。

「ところで君の名前は?」

何故か少し考えて、女の子は口を開く。

「…綾波レイ」

綾波レイ。

なんかこの子には凄く似合ってる名前だと思った。

少なくとも僕が碇シンジってのより似合ってる。

大体一人っ子なのにジっておかしいよね。

せめてイチだろう。

まあバーローって言わなきゃいけなくなるくらいならジのまんまでいいけどさ。

そういえば小学校の頃、まさか僕って死に別れた兄とかいるんじゃ…って碇シンジ次男説を考えていた時期もあった。

すぐにどうでもいいって事に気づいたけどね。

「レイって呼んでいい?」

「構わないわ」

「じゃあレイたんって呼んでいい?」

「…だめ」

「そんな!何で!酷い!」

「…なんとなく」

絶対似合うと思うんだけどなあ…

マヤさん辺りもマヤたんとか似合いそうだよね、あの人ぼけっとしてるし。

「じゃあ一時的にレイって呼ぶね、レイは趣味ってある?」

とりあえず、レイが自分からは何も話そうとしないので聞いてみたら、またまた物凄く困った顔をされた。

「趣味…無いわ」

「えぇ!?じゃあ暇な時とかは何してるの?一人ジェンガとか?」

「別に…何も」

信じられない!

こんな事言ったら厨房乙とか言われそうだけど、人間暇な時間のほうが多い筈なんだ!

きっと今僕はガラスの仮面ばりの驚き顔を浮かべているに違いない。

「人生損してるよ!どれ位損かって言うと最終的にブラックパンサーを選んだストーム位損してるよ!」

「貴方の言ってる事が…理解出来ないわ」

うおー!

この子何にも知らないのか!

ダメだ、アニメ・漫画路線が使用不可になると僕のボキャブラリーは稼働率13%まで落ち込む。

そういえば前の学校で無視されてた原因も話が通じないからだった気が…やばい、黒歴史がふつふつと。

そんな事を思い出していたら、リツコさんが新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のような爽やかな顔でレイに言った。

「あ、しなくていいわよ」

…あれ?僕の扱い悪くね?



その後、レイと話してみたら僕の予想以上に何も知らない子だった。

何と!僕より一般常識に疎いんだ!

…言ってて悲しくなってきた、やめよう。

そんな訳でレイと色々話していたら、医師に話を聞きに行っていたリツコさんが戻ってきた。

どうやらレイは退院していいみたいだ。

「明日から学校に行って貰うけど、シンジ君とレイは同じクラスだから、シンジ君、レイは怪我してるから助けてあげてね」

「ハッハ、ジェントルだから余裕です」

「レイは…諦めてね、色々と」

「どういう意味さ!」

「はい、頑張ります」

「第一印象オワタ!」

どうやらレイに変な第一印象を与えてしまったらしい。

でも…明日から学校かあ…

正直あまり良い思い出はないから行きたくないんだけど。

いじめられてた所為でほとんど行ってなかったしね。

「じゃあ昼に保安部の人たちが来るから、送ってもらって頂戴」

「分かりました」

「それじゃ、私達は行くわね」

そう言えば今日ってまたバンゲリの実験があるらしい。

リツコさんが病室を出て行ったので慌てて僕も追う。

出る間際に挨拶も忘れない。

「またね!レイたん!」

レイたんは何事も無かったように本を読んでいた。



「ま、またね、レイたん」



「…またね、レイ」

手を振ってくれた。

「諦めないからな!」

僕は涙目で病室を後にするのだった。

レイたんはとっても冷淡でした。

ハッハ、つまんね。

ちょっと首吊ってくる。

そしてリツコさんに追い着くと、ずっと思っていた事を口に出す。

「リツコさんリツコさん」

「何かしら?」

「レイって僕の母さんにすっごい似てる、リツコさんは僕の母さん見た事あります?」

「あ、あるわよ?」

…む?何かリツコさん焦ってる?

気のせいかな。

「似てると思いません?もしかしたら遠い親戚だったりして~ハハハ」

そんな訳ないよねーって笑ってたら、リツコさんが足を止めてる事に気付く。

不思議に思って振り向くと、リツコさんがじっとこっちを見ていた。

そしておっかなびっくりな感じで聞いてくる。

「もしかして…わざと言ってる?」

「何がです?」

何の話だろう。

僕が凄く困っていたら、リツコさんは溜息をついて歩き出した。

「いや、何でもないわ…」

いみふ…





まあともかく。

明日から学校ですよ。

嫌だなぁ…










あとがき

凄く…

凄く…短いです。

学校編まで入れようとしたんですが、何となく分けたらこんな短さになった、反省はしてない。

まあほら、導入ですから、第二話の。

レイたんをやっと出せました。

まあ自分レイもアスカもそこまで好きじゃないんですが、大人組みと違って無茶させやすいので書きやすくて好きです。

あとレイたんは冷淡、という言葉か妙に気に入ってしまった俺はギャグセンスゼロだと思います。

うん、ちょっと首吊ってくる。

そういえば、HDを荒らしていたら中から色々SSが出てきました。

シンジが猫逆行する話とか、ナルトでナデシコ劇場版やろうとして失敗した話とか。

もしかしたらテスト板にうpするかもしれません。

でも書き直すの面倒なんでしないかもしれません。

こんな俺はYU☆TO☆RIだと思う。



話名の意味は全く無い。

学園ものやらヒーローものアニメの題名っぽくしようとしたらこうなったなんて事は全く無い。

*何度も訂正すみません…



[5245] SWITCH!あの子のハートを打ち砕け! 2
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/03/02 01:05
「こんにちは、碇シンジです、よろしくね」

「碇君の趣味って何ですか~?」

「体育座りです」













絶対滑ってない。







第二話 SWITCH!あの子のハートを打ち砕け!その2





自己紹介で愉快な子である事をアッピルしようとした。

でもスケーターっぷりを露呈した結果に終わった。

目線で教室の窓際一番後ろ、いわゆるヤンキーの特等席に座っていたレイに助けを求めたら、手旗信号で『援軍は来ない』と言われた。

ポツダム宣言せざるをえない(人生的な意味で。

そんな感じで始まった僕の学園生活。

既に自力でやる星を見るひと並に詰みゲーな気がしないでもないけど、頑張ろうと思います。





悲しみの自己紹介が終わって、何も気にした様子が無い先生は、レイの前の席を僕の席に決めた。

決まった時のレイの。

「そう…ダメなのね、もう」

と言う言葉が印象的だった。

全然悲しくない。

とりあえず着席すると、横に座っていた女の子が声をかけてくる。

「私は洞木ヒカリ、学級委員長をやってるの、よろしくね」

「うん!よろしくね!頑張って三万人分集めてね!」

「え?よく分からないけど…分からない事あったら何でも聞いてね」

やばい。

この人、多分凄くいい人だ。

というか、同年代の女の子に笑顔で話しかけられるという事が久しぶり過ぎるって事に気付いて、僕は人生のメモリアルが始まった事を直感した。

ちゃんと伝説の木あるかなぁ。

「うん、きっと迷惑かけると思うからごめんね!」

「出来ればかけないようにしてね…」

苦笑いを浮かべて洞木さんは言う。

「僕の座右の銘、悪気は無かった、なんだよn「絶対かけないでね?」

「了解しました、大佐殿」

真顔で言われたから怖かった。

第三真東京市にきて、一番怖かった。

何だかんだで授業が始まる。

へーこっちの学校って端末使って授業やるんだね。

前の学校はノートだったよ、やっぱり都会は違う。

ていうか授業内容が出てくるページが分からない。

適当にいじるかなぁ…

総合情報センター…ここかな?

あ、あった、授業関連情報。

え?パスワード?知らないよ…適当に打ち込むかな…

うわ、正解した…って、なんか小テストの答案出てきた。

やっべ、これ誰のパスだよ。

慌ててログアウトする。

うん!分からない事は人に聞こう!

レイに端末の使い方を聞こうとしたら、端末を起動もさせずに本を読んでいたから、大人しく洞木さんに聞く事にした。

やっぱりこの子不良なんじゃ…

そして使い方を教えてもらっていざ授業。

パスワードは最初に職員室で教えてもらったでしょ?って軽く怒られた。

そういや何か紙貰ったなぁ…

ログインした瞬間、画面にぽよってウィンドウが表示された。

なんぞこれ?

フィッシング詐欺ですね、分かります。

でもどうせ学校の端末だから余裕でクリック。

そしたらただのチャット部屋からのお誘いだった。

つまんね…

その後は授業も聞かずに皆の質問に答えていた。

何処から来たの?彼女いるの?好きな食べ物は?好きなオーラバトラーは?あ、サーバインです、とかetc。

暫く質問に答え続けて、こちらからも質問するようになって来た頃だろうか。

チャット欄に変な質問が来た。



《 碇君があのロボットのパイロットって本当?yes or no 》



あるぇー?

これってもしかしてバレてる?

何でだろ?MAGIにハッキングとか、そんな気合入った人がいるとは思えないんだけど…

まさか【新パイロット】碇シンジについて語ろう【厨二過ぎ】みたいなスレ立ってるんじゃないよね?

あっても不思議じゃないから困る。

ねーよ。

とりあえずしゅひぎむとか言うのがあるらしいから、否定しとこう。

《 のー(’’; 》

それにしても、ホントこの人なんで知ってるんだろう。

「セカンドインパクトが起きた頃私は小田原市の根府川辺りに住んでましてね…」

僕が全く授業どころじゃなくても、先生は淡々と授業を進めていく。

暫く待ってたら返事が来た。



《 嘘でしょ?知ってるんだから 》



うわぁ…完全にバレてるじゃん。

うーん、困った。

よし、しらばっくれよう。

《 てかロボットってそもそも何の事ヾ(*゚ω゚*)ノ゙ 》

「その戦争を小田原一年戦争と言いまして…」

《 またぁーしら切っちゃって、知ってるんだから 》

ちょ…何この人…怖いんだけど…

MASAKAストーカー?

完全にモテ期到来ですね、分かります。

でもそろそろ僕もムカついてきた。

こいつ誰だよ?

《 てか君どなた?名を名乗れぇい!(・`ω´・)シャキーン! 》

暫くして返事が来る。

《 そんなのどうでもいいでしょ? 》

《 ほええええええええええ/*^ω^*\ 》

完全にこっちの話聞く気ないじゃんか…

こうなったら意地でも正体探ってやる!

「こちらは物量作戦で押していたのですが…」

《 本当の事教えてよ 》

誰が教えるかっての!

残念ながら、前の家で半引き篭もりだった僕には特技がある!

ヒーローらしい必殺技が!

チャットログからIDチェック!

学校のサーバーにアクセス!

~暫くお待ちください~

ID照会して…何か変な数字でた。

あ、学生番号か。

よし、足跡消してと。

生徒録は普通に公開してあるから…でた。

相田ケンスケ?どいつ?

クラスを見渡すと、写真通りの人がいた。

とりあえず目が合ったので手を振っておく。

あ、そっぽ向かれた。

だが!今更逃がさないぜ!

《 相田君って言うのかな(*'ω'*)? 》

発言した瞬間、相田君の席の方からガコンッって音が聞こえた。

椅子から落ちたみたいだ、動揺してる動揺してる。

とりあえず、こう打ち込んでおいた。



《 えむきゅーです(´゚Д゚`) 》



そしてチャット部屋を出ると、僕は授業に集中する事にした。

ふう…一仕事終わった後のこの爽快感は格別だz

「思わず言っていましたね、坊やだからさ…と」





根府川先生のこの台詞を聞いて、もっと真剣に先生の話を聞いておくんだったと後悔した。




隠れてチャットを眺めていた洞木ヒカリのコメント。

「顔文字がイチイチ可愛い…」













「レイたん」



…………。



「レイにゃん」



…………。



「レイっち」



…………。



「レイぽん」



…………。



「レイぱん」



…………。



「レイすけ」



…………。



「レイとん「それは強すぎるからダメ」

「じゃあなんて呼べば返事してくれるのさ!」

今はもう昼休みだ。

お弁当を一緒に食べようと思ってレイに話しかけたら、こうなった次第です。

涙目でそう言ったら、レイは溜息混じりに呟いた。

「…おかしな呼び方はやめて…後涙目もやめて」

「じゃあレイたんって呼ぶよ!」

「…もうそれでいいわ」

よっしゃ!レイたんって呼ぶ権利ゲット!

諦めないでよかった!

「よし!レイたん!ご飯食べよう!ご飯!」

そう言って僕はお弁当を取り出す。

「いいけど…」

「お弁当持ってきてる?」

「お弁当?」

え。

何その不思議そうな顔…

「ええ?お弁当って方言なのかな…食事をこんな風に持ってくる事だよ!」

持ってきたお弁当を見せたら、レイたんは「あぁ」と合点がいった顔をして、ポケットからプラスチックのケースを取り出した。

「お弁当…これ?」

何これ…

開けてみたら、数個の錠剤と軍隊で食べるようなレーションっぽいのが入っていた。

「どっせぇぇぇぇええぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇえぇええええええぇぇえい!」

思わず窓の外に投げ飛ばした。

それをボーっとした顔で見つめるレイたん。

「お弁当、飛んだ…」

この子間違ってる…果てしなく間違ってる…

親は一体どういう教育してるんだ!

とかまともな教育受けてない僕が言ってみたりするテスト。

「こんなのはお弁当って言わないの!と言う訳で今日は僕がレイたんにお弁当の真髄を見せてあげよう!行くぞレイたん!」

そう言って席を立ったら、レイたんは不思議そうに言った。

「どこ行くの?何で行くの?」

「いいかいレイたん、お弁当って言ったら屋上なんだよ!」

そう!学園ものでお弁当といったら屋上に決まってる!

これはもはや否定しようの無い事実!決定事項!ラブコメ黄金率!

そんな事を考えていたら、レイたんは真顔でこう言った。

「動くの、面倒」

「あ、はい、じゃあここでいいです」

というわけで、レイたんの席を挟んで向かい合わせに座った。

何かクラスメイトの「碇…アイツすげーな…」とか言う声が聞こえてくる。

イミフ。

そして僕は、こんな時の為に持ってきていたもう一つのレイたん用お弁当箱を取り出して、レイたんに渡した。

「こっちの学校って給食無いんだね、僕が行ってた学校は給食があったんだよ、こっちは無いって聞いてびっくりしちゃった、だから慌ててお弁当作ってきたんだけどリツコさんが「そういえばレイってお弁当どうしているのかしら…」とか言うからさ、もし買って食べる派だったらレイたん食べるかなって思って持ってきたんだよね、お弁当持ってきた?っていうかもう買っちゃった?買ってないよね?じゃあとりあえずこれ食べてみてよ、味は保障するからさ、それじゃいただきまーす、ほら一緒に!」

「よく喋るわね…」

「ハッハ、ありがとう!いただきまーす!」

「褒めてない…いただき…まーす」

レイたんは少し不思議そうにしていたけど、僕の行動を見て、ぎこちなく手を合わせていただきますを言う。

もしかして…いただきます知らなかったとか…そんな訳ないよね?

まさかね…

僕がもりもりとお弁当を食べているのを見て、レイたんは始めただそれを見ているだけだったけど、やがて箸を持った。

芋の煮っ転がしに箸を伸ばす。

また暫くそれを見つめ、そっと口に入れて、もぐもぐって効果音が似合いそうな感じで食べ始めた。

何となくそれを見つめる。



そして。



レイたんは物凄い勢いでお弁当を食べ始めた。

ちょっと引く位凄い。

「ど、どう?美味しい?」

「…おいしい…かも」

リスみたいに頬を膨らませてそう言うレイたんを見て。



何となく、二週目から出てくるキャラだなと思った。



しんじ は れいたん の えづけ に せいこうした。













SIDE-ミサト



「で?どうなの?新婚生活は」

食堂で注文した日替わり定食を受け取り席を探していると、リツコとマヤちゃんの二人がいたので、こう聞きつつ合席した。

ナァ~。

リツコは口の中の物を飲み込むと、不敵な笑みを浮かべて言う。

「快適ね、家事をやってくれるから助かるわ」

え?家事?

シンジ君家事出来るんだ…

やっぱウチで引き取っとけばよかった…

自宅の惨状を思い出しながら後悔していると、マヤちゃんが前に嫌いだと言っていた人参を小皿に集めながらリツコに聞く。

「家事って、料理とかですか?」

「全部よ」

リツコの不敵な笑みがムカつく。

ってちょっと待った。

全部?

「は?洗濯とかも?」

ニャウ~ン。

「料理、洗濯、掃除に買い物何でもございね」

「じゃあ下着も洗わせたりしてるの?」

「そうね」

ウニャ~。

「アンタ…それはね」

中学生の子に大人の下着洗わせるなんて…

何考えてるんだか。

まあ自分がそうしないかと言われたら、それは何とも言えない事なのだが。

少し呆れていたら、リツコは不思議そうに聞いてくる。

「何よ?」

「…何でもないわ」

全然分かってないし…

マヤちゃんはクスクスと笑っていた。

「先輩って何処かズレてるんですよね」

モニャ~ン。

…………。

そろそろつっこんで良いんだろうか。

「あと、リツコ」

「何かしら」

「気になるんだけど…」

さっきから机の下に猫が二匹いるのだ。

名前なんていったっけ?カミナとシモン?

猫二匹は机の下でナァナァと鳴きながらごろごろ転がっている。

「可愛いじゃないですか~」

そう言いながらマヤちゃんは小皿に分けた人参を二匹に食べさせてあげていた。

あー微笑ましい光景。

「って!嫌いなもの処理してんじゃないわよ!小学生か!」

とりあえず一発叩いたら、マヤちゃんは涙目になっていた。

そんな光景を眺めながらリツコは呟く。

「仕方ないじゃない、ついてくるんだもの」

「家に置いて来なさいよ」

ネルフに動物連れてくるなんて聞いた事が無いわよ、と続けようとして、アタシは地雷を踏んだ事に気付いた。

リツコが椅子を倒しながら立ち上がり、叫ぶ。

「私達が家を出てる間に何かあったらどうするのよ!貴女その時の責任は取れるの!?この子達に保安部でも付けてくれる訳!?」

「あー!ごめんなさい!アタシが悪かったから!」

そう言いながら謝りに謝る。

数分後、リツコの怒りは何とか沈静化していた。

「相変わらず猫の事になると豹変するわね…」

大学の頃からこうなのだ。

少しでも猫に関する話でミスを犯すと、リツコは大爆発する。

シンジ君…とんでもない起爆剤を拾ってきてくれたわね…

そんな起爆剤二匹は、こっちの事情はお構いなしに人参を咥えてごろごろしていた。

生まれ変わったら猫になろう…

ファ~ブルスコ。

「今違うのいた!」



何だか食事を取るはずが妙に疲れた…

そしてまた日替わり定食に箸を伸ばす。

だが。

アタシにはもう一つ聞かなければいけない事がある。

「リツコ」

「何よ?」

「もう一つ聞いていいかしら?何それ?」

そう言ってアタシはそれを指差す。

リツコが食べているもの。

そう、ここは食堂なのに、リツコは何故かどう見ても手作りのお弁当を食べているのだ。

リツコは困った顔で言う。

「あら?バレたかしら」

「見せ付けてたでしょうが!」

じゃなかったら食堂で食べずに自分の部屋で食べるはずだ。

大体は推測できる。

というより間違いない。

この女、アタシがいつも食堂で食べているのを知っていて、わざと見せ付けに来やがったのだ。

「シンジ君の手作りらしいです…」

マヤちゃんが煤けた顔で呟く。

いや、分かるわ。

マヤちゃんが煤ける理由も。

だって何て言うか…

お弁当…凄いし…

何この、女としての敗北感。

アタシ達の内心なんてお構いなしに、リツコは言う。

「そうなのよ、私はいいって言ったんだけどね」

おい、じゃあその満面の笑みは止めろ。

そしてリツコはわざと食べるところがアタシ達に見えるように食事を再開した。

「「…」」

黙ってその光景を見つめるアタシ達。

「あぁ~ホントに美味しい」

「うわっ、何か眩しい」

何かオーラみたいなのが…

暫く負け犬二人でその光景を眺めていたのだが、やがてマヤちゃんが口を開いた。

「せ、先輩!」

「何かしら?」

見ればマヤちゃんは何かを決意したような顔を…

待ってマヤちゃん!

プライドを捨てちゃダm

「ひ、一口下さい…」

捨てた…

軽々と…

「…仕方ないわね」

リツコは余裕たっぷりの笑みでそう言うと、面倒臭そうにマヤちゃんのお皿に何かを一つ乗せた。

二人で、お皿に乗った何かを見つめる。

…………。

マヤちゃんが堪らず聞いた。

「…何ですか?これ」

「ゴマ」

「うわあぁぁぁあぁぁぁぁあああぁぁああぁぁぁあぁぁん!」

あ、泣いた。

ネルフには虐めがあります。










SIDE-シンジ



食事も終わって、昼休みも中盤に差し掛かった頃。

暇だから端末にゲームを落としてレイたんに色々教えていたら、突然関西弁で声を掛けられた。

「転校生、ちょっとええか?」

振り向いてみると、ジャージを着た変な人がいた。

何でこの人制服着てないんだろう。

とりあえずあまり係わり合いになりたくない。

「あ、サインはダメです」

「ちゃうわボケ!」

「握手もダメです」

「厳しいやないか…って、ええから来い!」

ジャージ君はそう言うと僕の首根っこを掴んでぐいぐいと引きずっていく。

レイたんに目線で助けを求めると、手旗信号で『健闘を祈る』って言われた。

何という冷淡…






滑ってないもんね。





そのまま引きずられていると、校舎裏で僕は放り出された。

う~ん…

僕の長年のいじめられっ漢人生で培われた危険センサーがメギャーンメギャーンって反応してる。

「何の用さ?僕アマラ経絡にヒジリ助けに行かなきゃならないんだけど」

「家でやれ!」

ごもっとも。

すると何時の間に居たのか、m9の相田君が苦笑いで呟いた。

「何かトウジがそういう事言うと全然説得力無いな」

うん、パッと見でもそんな感じ。

ジャージ君は一発相田君の頭を叩くと、こちらを向いた。

あぁ…ジャイアンとスネ夫の関係なのかな。

そしてジャージ君が口を開く。

「悪いけどな、ワイはお前を殴らなあかん」

「てか中学生の喧嘩にメリケン持ち出す時点でなんとも」

「なっ…!」

僕の指摘に、ジャージ君はあからさまに動揺した。

「お前の次のセリフは『なんでメリケンのことわかったんだ、この野郎!』と言う!」

「そんなもん持っとる訳あるか!…あ」

「あ…」

静寂が場を包む。

何か気まずい…

うん。

まぁ、持ってる訳ないよね。

とりあえず言っておく。

「カット」

そして僕は咳払いを一つすると、改めて言った。

「お前の次のセリフは『なんでメリケンのことわかったんだ、この野郎!』と言う!」

「な、なんでメリケンのことわかったんだ、この野郎!」

「ふふん、君程度の人間の言う事なら簡単に分かるさ」

この人ノリいいなぁ…

僕が少し感動していたら、ジャージ君は拳を握ってこちらに近づいてきた。

「ええい!持ってへんけど!いくで!」

あ、やばい、何か逆に火をつけちゃった…

まぁ喧嘩したいってんなら構わないさ。

「あ、一つだけ言っとくと」

でも、僕は一つだけ忠告しておく。

「僕、手加減とか出来ないから」

ジャージ君の顔が真っ赤に染まる。

ちょっと怒らせたっぽい。

「上等じゃ!」

そう言って、ジャージ君は拳を振り上げた。





































「弱っ!」

ジャージ君は驚愕しているようだった。



僕のあまりの弱さに。



という訳で、一撃で僕は吹っ飛ばされた。

立ち上がって叫ぶ。

「喧嘩には自信が無くてね!」

「ただお前…みょーに殴られ慣れとるの…」

そう言ってジャージ君は首をひねると、何だかやり辛そうな顔をしていた。

僕は喧嘩は弱いけど威力を殺すのだけは得意なのさ!

殴られ慣れてるからね!年季が違うぜ!

「ハッハ、君程度のパンチで僕を涙目にしようなんて甘いと言わざるを得ない!」

「後2~30発殴っとくかの」

そう言ってジャージ君はケンシロウ的に拳を鳴らす。

「二桁って!酷い!」

以下、フルボッコ。







「ちょ!痛い痛い!」







「痛いってば!てかホントに2~30発殴る気じゃん!」







「もっと熱くなれよ!」







「ずっと君のターン!」







「あと、いつになったら無駄無駄って言い出すの?」







暫く時がたつと、そこにいたのは疲れ果てたジャージ君と、目を回す僕と、呆れている相田君だった。

ジャージ君が息も絶え絶えに呟く。

「ホ…ホンマに…頑丈な…やっちゃの!」

「運動神経はダメダメでも殴られるのにはもう慣れてるのさ!」

僕はその道のプロだからね。

てか、気付いた。

ふと思ったんだけど…

「あれ?何で僕殴られてんの?」

「今更かい!」

ジャージ君は渾身のツッコミを入れて地に倒れる。

関西人のど根性を見た。

この人底力Lv9位ありそうだ。

「殴られても全然疑問に思わなかったよ…慣れって怖いね…」

前の学校で意味も無くフルボッコされてたからなぁ…

全然疑問に思わなかった。

「お前…可哀想なやっちゃの」

「あ、やっぱり?僕も最近気付いたんだけど、もしかしたら僕ってすっごい不幸な気がするんだよね」

気のせいだといいんだけどな。

そんな感じで、何故か殴ってきた人に同情されるっていう変な状況にいたら、ずっと黙っていた相田君が面倒臭そうに口を開いた。

「あー話が続かないから言うけどさ、こいつの妹、この前の戦闘でロボットが派手に動いたせいでシェルターが揺れてさ、その時に足挫いちゃったんだよね」

「え」

妹さんが足挫いた?

「それだけ?」

「うん、それだけ」

…それって僕の所為じゃなくね?

倒れているジャージ君を見ると、何か恥ずかしそうにしていた。

いや、恥ずかしがられても…

「なんというシスコン…シスタープリンセス貸してあげようか?」

「だまっとれ!でも貸してくれ!」

「じゃあ妹さんへお詫びに包帯でも送っとくよ、シスプリと一緒に」

するとジャージ君はふらふらしながらも立ち上がり、僕を指差して言う。



「筋を通すならそこはまず湿布やろ!」




「花とか果物とかだろ…」

何だか面倒臭そうに呟く相田君が印象的だった。

平和な学校だなぁ…










あとがき

頭脳派で運動神経ゼロのシンジ君。

今回のお気に入りはレイたんの

「お弁当、飛んだ…」

です。

うん、変態乙。

てか今回はゲームネタがやたらと多かった気がする…



*括弧の区別がつき難かったので訂正

*華麗に綴りを間違っていたので訂正



[5245] SWITCH!あの子のハートを打ち砕け! 3
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/03/02 01:02
「っぐわ!…くそ!…また暴れだしやがった…」

「が…あ…離れろレイたん!…死にたくなかったら早く俺から離れろ!!」

「っは…し、静まれ…俺の腕よ…怒りを静めろ!!」

実験前の休憩室、一しきり騒いだ所で、無表情に僕を眺めていたレイたんは口を開く。

「…何してるの?」

「え?邪気眼ごっこ」

暫しの沈黙の後、レイたんは少しだけ腰を浮かせ、僕から少し離れた場所に座り直すと、困った表情で言った。

「…ごめんなさい。こういうときどんな顔をすればいいかわからないの。」

「無視すれば…いいと思うよ」










第二話 SWITCH!あの子のハートを打ち砕け!その3






「シンジ君、今エヴァと話せる?」

バンゲリの実験中に、突然ミサトさんがこんな事を言い出した。

「話せますよ?てかさっきからずっと話してます」

「…一応聞くけど、何の話してるの?」

「ラサラとサラサの見分け方の話してたよー」

「あ、そ…」

ミサトさんはこめかみをぐりぐりやりながら、溜息をついている。

何か疲れてるみたいだね、どうしたんだろ?

僕に出来る事なら相談に乗るからいつでもどうぞ!

そんな事を考えてたら、リツコさんが拍子抜けした様な顔でミサトさんに言った。

「あら?つっこまないの?」

「あたしはツッコミ担当じゃない!」

「どうどう」

そう言ってミサトさんを宥めるリツコさん。

実は今僕達、ジオフロントの端の方、草しか生えてないような場所にいる。

何でこんな所に居るのかと言うと、テストプラグが動かなかったからだ。

バンゲリのテストって、テストプラグとかいうのでやるらしいんだけど、それがちっとも動かなかった。

リツコさんは僕がシンクロ出来なくなったって焦ってエレクトラ本体に乗せなおしてみたんだけど、不思議な事にこっちだと動く。

何度か試したけど、どうやら僕はテストプラグじゃシンクロ出来ないみたいだ。

リツコさんが言うには、おそらく僕が中の人とコンタクト出来ていることが原因との事。

詳しくは分からないみたいだ、まあ前例がないだろうしね。

…そういえば母さんを出す件ってどうなったんだろうね?

まぁ、いいや。

そんな訳で、エレクトラに実際に乗らないと実験が出来ない僕は、こうしてジオフロントの端まできて実験をしているわけだ。

リツコさんは一回の実験費用が多くなる事を嘆いていたけれど、割愛。



そんな感じで色々と言われた通りに実験していたら、ミサトさんのこの一言だ。

「はぁ…シンジ君?ちょっとエヴァに聞いてほしい事があるんだけど」

「なになに?」

「ATフィールドを展開する方法について聞いてほしいんだけど…」

そういえば僕以外にも二人パイロットがいるらしいんだけど、起動できなかったりATフィールド張れなかったりで、実戦には使えないレベルらしい。

…あれ?

もしかして僕ってエース?

同じエースでもZにならないようにしよっと。

前にもミサトさんにATフィールドをどうやって張っているのかって聞かれたんだけど、僕ってどぅわっ!って勢いで張っちゃってるから方法なんて聞かれても分からないんだよね。

そっか、僕が分からないならエレクトラに聞けばいいのか。

僕がちょっと感心していたら、リツコさんもそんな表情でミサトさんを見て口を開く。

「なるほど、珍しく頭を使ったわね…本当に珍しいわ」

「うるさいわね…」

あ、苦虫を噛み潰した顔ってこういうのを言うのかな。

ミサトさんを見て僕は何となくそう思った。

「じゃあ聞いてみるねー」

そしてエレクトラに聞いてみる僕。

よく勘違いされるんだけど、僕は正確にはエレクトラと会話してるわけじゃない。

僕が思っている事をエレクトラに伝えようとすると、それに対するエレクトラの返事が何となく分かる。

そう、自分でも何で分かるのか分からないのだ。

例えるなら「アムロ!…何?アムロだと!?」って感じ。

僕がどうやって張るの?ってさーという感じで伝えると、数秒の沈黙の後エレクトラから返事が帰ってきた。

ほへー。

「…えっとね」

「どうだった!?」

ミサトさんが物凄い表情で食いついて来る。

ATフィールドってそんなに重要なのかな…

「話を要約しますと」







「ググれカス、だそうです」

「ちょっと表出なさい、ぶっこr「ミサト、どうどう」







「まあ冗談は置いといてだね」

バンゲリに乗っていなかったら死んでいた。

そう感じる程のミサトさんの暴れっぷりだった。

「このクソガキ…」

ミサトさんは今も狂犬のような目でこっちを見ている。

今のミサトさんに真実を告げるのはきつい…

でもそんな事言ってたって仕方ないので、僕は観念して口を開いた。

「なんか知らないみたいです」

「はぁ?自分が出してるんだから分かるでしょ?」

だよねーそう思うよね。

「お前は今までに食べたパンの枚数を…じゃない、呼吸のやり方を教えろと聞かれて説明できるのか?みたいな事を…」

エレクトラにとっては、ATフィールドを張るなんて事は出来て当たり前の事で、一々細かく考えたりはしない、僕らからしたら「足を動かすには、まず大腿筋を~」ってなものみたいだ。

リツコさんやマヤさんは僕の言葉を聞いて納得していたみたいだけど、ミサトさんは理解できなかったみたいだ。

眉を顰めて言い返してきた。

「そんなの息を吸って吐いてで終わりじゃないの」

とりあえずミサトさんの言い分をエレクトラに伝えてみる。

するとこんな返事がきた。

「ATフィールドを出して消してで終わりじゃないの、だそうです」

「ぐっ…」

完封である。

ミサトさんが悔しそうに歯を食いしばっていると、その肩をリツコさんがそっと叩いた。

「ミサト…」

泣きながら。

「な!なんで泣いてんのよ!?」

リツコさんは溢れる涙をハンカチで拭いながら、ミサトさんの頭をよしよしと撫でる。

「エヴァにまで論破されるなんて…親友として…悲しい…」

「うるさーい!」

気が付けばマヤさんや他のスタッフも涙ぐんでいた。





…何だこいつら。






そんな感じで実験を進めていたら、僕はふとある事に気付いた。

「ねね、リツコさん」

モニターを見つめていたリツコさんは、そこから目を離さずに僕に返事をした。

「どうしたの?」

「思うんですけどね、きっとATフィールドってシステム的な問題じゃないと思うんですよね」

リツコさんはATフィールドをどうにかして制御出来ないかって試行錯誤してるみたいなんだけど、僕はそれって根本から間違ってると思う。

何ていうか、心臓の鼓動をコントロールするのとかはペースメーカーがあるけれど、正常な人には使う必要がないでしょ?

自分でも何言ってるのか分かんないな。

「と言うと?」

「エレクトラの話聞いてて思ったんですけど、使っている本人にも詳しい説明が出来ないって事は、極論さっきの呼吸の例えもあながち間違いじゃ無いんじゃないかって思うんです。」

リツコさんはモニターから目を離し、虚空を見つめると、暫し思考にふけるような仕草をして口を開く。

「本能的…違うわね、感覚的に起きる現象だって言いたいの?」

「そうそう、だって息をする時に、今日は横隔膜を今までの1.5倍収縮させて~とか考える人いないでしょ?いや、いるかもしれないけど」

やっぱりリツコさんって頭いいんだね。

僕が説明に困ってる事理解して言葉にしちゃうんだもん。

「でもそれはエレクトラにとっての感覚的現象でしょう?私たち人間はエヴァとシンクロ出来たとしてもその感覚にはリンク出来ない、しかもそれが他のエヴァにも適用されるかしら?」

「んとね、そこでシンクロ率が関係するんじゃないかなーって思うんだけど…」

「その発想はなかったわ…そうよね、考えてみれば当然よね、ソフトに拘り過ぎたわ」

結局この会話って考察を述べてるだけで、本題にはまだまだ遠いんだけど、僕はまだその本題を何て説明すればいいのか分からない。

でも途中経過で挫折しちゃった人もいるみたいだ。

突然ミサトさんが右手を挙げたかと思うと、引き攣った顔でこう言った。

「えっと…ごめーん、全然話に着いていけないんだけど」

暫く黙ってそれを見つめていたリツコさんだったが、徐にポケットに手を入れると、挙げられたミサトさんの手を掴み、その掌に何かを載せた。

「はい、あげる」

「…何これ?」

ミサトさんが掌の物を引き攣った顔を更に引き攣らせて摘み上げる。

対してリツコさんは爽やかな笑みを浮かべて言った。

「飴よ、イチゴ味、それあげるからいい子にして待っててね?」

「あたしゃ子供か!」

すっかり拗ねてしまったミサトさんをマヤさんが慰めていた。

何だこれ?萌え?…無いな。

改めてリツコさんはこちらに向き直る。

「話を戻しましょう、それで?」

あ、切り替え早いですね。

思ったんだけど、大学時代からの友達ってミサトさんは言ってたんだけど、この二人って本当に友達なんだろうか…

と言うより、友達って思ってるのはもしかしてミサトさんだけなんj(ry

話を戻そう。

「例え乗っている人間に無理だとしても、そこにはATフィールドを発生させる事ができるエヴァという存在との、最大400%のシンクロがある訳じゃないですかー人間は時速100kmで走る事は出来ないけど、車に乗れば出来る、運転が上手ければどんな道でも出来るかも」

「シンクロ率が上がれば人間とエヴァの感覚の差異は解消されるって言いたいの?」

「それそれ!」

リツコさんSUGEEEEEEEEEEEEEEE!

僕だって途中何が言いたいのか分からないのに!

「ふむ…」

また考え込むリツコさん。

頑張れリツコさん!ATフィールドの発生方法も僕が何を言いたいか僕が理解するのも!全部リツコさんの頭脳に掛かっている!









三三七拍子で応援していたら、LCLの酸素濃度を下げられた。

死ぬかと思った。









そんなやり取りをしている中で、拗ね切っているミサトさんがマヤさんに尋ねる。

「何でリツコはシンジ君が言ってる事分かるのかしら…マヤちゃん、分かる?」

「え?はい、7割くらいは」

「そう…」

その答えに絶望したのか、ミサトさんはそっと飴の包みを解き、それを口に放り込んだ。

そして呟く。

「…リンゴじゃん」

ミサトさんの目に光る物は、涙だったのかもしれない。

やがてリツコさんも考えが纏ったのか、頭をかきながらこちらを見る。

「続けて」

「いや、だからですね、ほんと、感覚的なものなんじゃないかなーって思うんですよ、怒ってる時に勝手に手が出るみたいな」

「攻撃本能、防衛本能が切っ掛けで発生出来るって事かしら?」

「ですです、だってこの前のエヴァスラッシュだって、出したのはエレクトラですけど、僕の中はあの時攻撃本能一色だったと思うんですよね、やぁってやるぜっ!って断空的な」

そう言えば某○ボット大戦であのパイロット全員超強気だったよね、あ、どうでもいいですか、はい。

「言いたい事は分かるけど…」

そうなんだよね。

僕が言ってる事って、結局なんていうか、根性論に近いんだよね。

するとリツコさんがふと思いついたように僕に尋ねた。

「ところで、何でそんな事思いついたのかしら?」

「えーだってエヴァと使徒って似たようなものじゃないですか」

僕のこの返事で、リツコさんの表情が一瞬強張る。

「…どうしてそう思うの?」

あれ?僕なんか拙い事言った?

「僕が乗ってる事と電池切れで動かなくなる事抜かせばほとんど一緒な気がするんですけど、似てないかなぁ?」

暫くリツコさんは無言で僕を見つめていたけど、やがて溜息をつくと視線を外した。

何か呆れられた気がする…気のせい?

「…まあいいわ、物は試しね、シンジ君、今から…そうね、防衛本能全開でGOよ!」

「ガデッサー!」

GO!ATフィールドGO!

心を集中させろ!

要は気持ちの問題だ!防ぐという気持ちが切欠でATフィールドは出現するはず!

そこで諦めるな!絶対に頑張れ!積極的に!ポジティブに頑張れ!頑張れ!NERVだって頑張ってるんだから!

防衛本能うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「…むりぽ」

いきなり防衛本能全開にしろとか言われても無理です。

「ですよねー」

リツコさんも大して期待してなかったみたいだ。

方法に問題があると思います。

「うーん」

リツコさんはまた頭をかきながら周囲を見渡した。

すると、視線の先に体育座りで飴玉を舐めているミサトさんがとまる。

「ミサト」

突然呼ばれたミサトさんは胡散臭そうな目でこちらを見て口を開く。

「にゅ?にゃに?」

「こんな時に飴なんて舐めてるんじゃないわよ!」

「え…あ、はい」

凄く…理不尽です…

多分誰もがそう思っただろうけど、それを口に出さないのは大人の証拠。

リツコさんは半ば悟りを開きかけているような表情のミサトさんをエヴァの正面まで呼ぶと尋ねた。

「銃持ってるでしょ?」

「持ってるけど?」

そう言ってミサトさんは銃を取り出す。

…え、そんな普通に持ってて良いものなの?

そして次にリツコさんが言った一言で僕は凍りついた。

「シンジ君に向かって撃ってちょうだい」

「いいけど…いいの?」

「よくないよっ!」

「いいわよ、まぁハンドガン程度じゃ傷一つ付かないし、物は試しだわ、ダメモトよダメモト」

僕の意見は無視ですね、分かります。

まあエレクトラに乗ってるんだから僕に怪我なんてまず出来ないんだけど。

それでも銃向けられるとか嫌なんですけど…

ミサトさんは何で僕に銃を向けなきゃいけないのかさっぱり分からなかったらしく、リツコさんに声を掛ける。

「説明うp!」

「あー簡単に言うとね…」

「そうそう、簡単にお願い」

「ATフィールドって気合で何とかなんじゃね?っていう」

何故かサムズアップのリツコさん。

「すっごい分かり易い」

そしてサムズアップを返すミサトさん。

あぁ、貴女達大親友なんですね。

今分かりました。

ミサトさんは銃のセーフティーを外すと、何故か天使のような微笑で僕に言った。

「じゃあ行くわよー?」

そう言って銃口がこちらに向けられる。

やだなぁ…と思っていたら、モニターが勝手に銃口を拡大し始めた。

ちょ、何で?僕いじってないよ?

モニターいっぱいに映る銃口。

ぎゃああああああああああああああああああああああ!当たらないって分かってても怖い!

サブモニターにはリツコさんが端末を弄っている所が表示されていた。

お ま え か !

それでもこの話の言いだしっぺは僕だ。

覚悟を決めねばなるまい。

そして僕が「どうぞ」と言おうとした時だった。

僕はミサトさんの目が獲物に襲い掛かる虎の目になるのを見た。


「クソガキがぁあああああああ!!!!!!!!」

ドゥーン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!

響き渡る銃声。

「いやああああああああああああああああああ!」

響き渡る僕の声。

舞い上がる土煙。





そして土煙が晴れた時、そこにあったのは清清しい笑みで銃を構えるミサトさんと、僕がびっくりし過ぎた所為でぶっ倒れたバンゲリだった。





ミサトさんに向かって僕は叫ぶ。

「いきなりかよ!」

せめてカウントダウンとかくれ!

「ごみんごみん、何か体が勝手に連射しちゃった、ウフフ…」

ウフフって…

これからはあまりミサトさんをからかわないようにしよう…

「つ、次は気をつけてね!」

ここで怒れない僕はきっと長生きすると思う。

そして改めてミサトさんが銃を構える。

さっきので気が済んだのか、今はいつも通りの表情だ。

「カウントお願いしますー」

僕の声でミサトさんがカウントを取り始める。

「んじゃ、5」

拡大されるモニター。

「4」

さっきの件があった所為か、妙に銃が怖い。

「3」

そしてその時。

「2」

うっすらと。

「1」

視界がぼやけたように見えた。

「ゼ「こっち来んな!!!!!!!!!!!!!」



































SIDE-冬月



ジオフロント。

その端。

草も生えずに荒れていた場所だったが、今は以前よりも荒れていた。

軽くクレーターのようなものまで出来ている。

その光景をジープから眺めながら私は呟いた。

「それでこの有様かね?」

「はい」

私の問いに答えたのは赤木博士だ。

その頭には氷嚢が置かれている。

簡単に言うとこうだ。

碇の息子がATフィールドを発生させた。

素晴らしい。

発生方法が分からず、実戦でしか確認できなかったATフィールドを発生させたのだ。

実に素晴らしい。

しかし。

そのATフィールドで辺りは吹き飛んだ。

今も辺りには使用した機材の残骸などが転がっている。

碇の息子が来てから妙に金が掛かる気がする…

何だか胃が痛くなってきた。

まあ怪我人がいなかったのだから良いとしよう。

「まったく…ギャグ調でなかったら死者が出ていたぞ…」

「はい?」

「何でもないよ」

彼らは親子揃って自分を困らせる。

これでもしユイ君のサルベージが成功するような事があったら…

何となくそう考えたが、怖くなってやめた。

ジオフロントに吹く風は、老人には優しくない。
















あとがき

リアルの都合でうpが遅れました。

後、この話の設定ではアスカはATフィールドをまだ展開できていません。

他に あれ?ここ違うくね? という所があったら。

そういう設定なんだな と誤魔化して下さい。

*誤字訂正
*見てて恥ずかしくなるような文があったので訂正(*'ω'*)
*何度も訂正が入るのは仕様です(最初から確認しとk



[5245] SWITCH!あの子のハートを打ち砕け! 4
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/03/06 19:56
SIDE-リツコ

「それにしても、シンジ君お手柄ですね」

自分に割り当てられた執務室。

そこでマヤと仕事をこなしていると、マヤが思い出したように言った。

苦い記憶が蘇る。

あの時、爆発するように発生したATフィールドで外に持ち出していた設備の大半は大破、私自身も吹き飛ばされた際に頭を打ち、今も頭の上に氷嚢を乗せている状態だ。

NERV内では、またサードチルドレンか…という雰囲気である。

事務の人間は「彼が来てから資金が…」と嘆いていた。

しかしだ。

彼の発見は、実はEVAの分野で言えばノーベル賞クラスの功績である。

これまでにエヴァの安定起動に成功した人間は二人。

セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。

そしてサードチルドレン、碇シンジ。

NERVドイツの秘蔵っ子、惣流・アスカ・ラングレーでさえも、ATフィールドの展開に成功する事は出来なかった。

大勢の科学者がそれの解明に取り組み、それを成し得なかった。

無論、私もだ。

それを彼は、エヴァとのパーフェクトシンクロというアドバンテージを持っていたのは確かだが、その場の思いつきで解明してしまったのである。

彼はこんな事実を知る訳がないだろうが、科学者として嫉妬してしまうのも確か。

…まぁ、ほんのちょっとだけだけども。

「そうね、頭の回転が早い子だし、勘も良い、私達技術側としては助かるわね」

彼と話していて気付いた事だが、彼の長所は、発想力と理解力である。

そしてそれをさらに伸ばしているのは、彼はNERVの常識に囚われていない、という事だ。

NERVでは常識と思われている事でも、彼は全く知らない。

そして教えても彼は「何で?」と答えるだろう。

そこがポイントだ。

彼は思考において一番大切である前提というものを、自分でしか選ばない。

まぁ知識が足りないという取り方も出来るのだが。

私は彼と二人で生活している。

彼の事に関してはNERV内で一番理解しているつもりだ。

だから、マヤの次の一言には少し驚いてしまった。

「私てっきりシンジ君ちょっとお馬鹿な子だと思ってたから、反省しなきゃ、見直しました~」

あはは、と笑いながらキーボードを打ち続けるマヤ。

思わず作業の手を止め、呟いていた。

「そんな訳ないじゃない」

「え?」

よく考えてみればそうだ。

彼は家では意外な事に、外でのふざけた雰囲気を余り出さない。

思うに外でのあれは、彼が無意識に行っている、他人と距離を保つ為の処世術なのだと思うのだが。

まぁそれはいい。

彼は外ではあの態度だ。

NERV職員達が馬鹿な子と思っていても仕方がない事である。

だから私は、マヤの勘違いを正す為に口を開いた。

「あの子はね、NERVの中でも最高権力を握る、日本支部の司令である碇ゲンドウと、東洋の三賢者とまで呼ばれた碇ユイ博士の息子なのよ?」

「あ…」

マヤがポカンと口を開ける。

彼自身は興味がないようだが、実際の所、彼の両親は業界では知らない人が居ない程の有名人である。

世界中のNERVに勤めている人間、政治に関わっている人間で碇ゲンドウの名前を知らない者は居ない。

世界中の科学に関わっている人間で碇ユイの名を知らない者は居ない。

彼の両親はそれ程の能力と才能を持った人物なのだ。

「IQは幼少時代の生活で上がりもすれば下がりもするものだけど、シンジ君はその幼少時代を父に棄てられ、放任というより放棄に近い保護者の手の中で、たった一人で生きてきた」

基本的に興味が無い事は全く記憶しようとしない彼だが、少しでもその食指を動かしたものへの観察力は異常な程高い。

恐らく孤立無援の幼少時代で、人間を観察し判断する内に身についた力だろう。

IQというものは元々の素養もあるが、幼少時代に大きな成長を見せる。

教育法によっては、幼少時代にIQをいくらか上げる事も出来る。

それに大切なのが、観察と思考である。

自分で見て、考える。

ステレオタイプにしない事が大事だ。

そして彼には、両者共に高スペックの両親から受け継いだ血筋もある。

「そんな子供のIQが、低いとは思えないわ…思うに、シンジ君のあの性格は処世術として身に着けたものね、無論あれが地だろうけど」

そう告げると、マヤは「確かに…」と呟き、少し考えていたようだったが、やがて戸惑った表情でこう言った。

「でも、過去のデータ見ましたけど、シンジ君の成績はいたって普通で…」

確かにそうなのだ。

彼の小学校・中学校での成績は至って平凡。

小学校時代は5段階評価で3の嵐、中学校でも似たようなものだ。

だから騙される。

「そうね、なんでそんな事をしたのかは分からないわ」

「そんな事を…した?」

「中学校一年三学期の期末テスト…数学だったかしらね、彼の得点は100点中67点」

正直な話、私は彼と会う以前から彼に興味を抱いていた。

何と言ってもあの二人の息子である。

案外漫画のように地元では神童扱いされているかもしれない、等と内心笑いながら興味本位でデータを集めた。

「そのテストの平均点は66.7点」

「凄く普通ですね…」

しかし出てきたのはこの結果だ。

成績表の教師からの一言の欄にはこんな事が書いてあった。

もう少し友人を作る努力をするべきです、成績に関しては問題ありませんが、授業中の居眠りが多いようです、奇行が目立ちます。

どう見ても良評価ではない。

むしろ悪い。

私も最初は騙された。

だが、そこから先を調べるにつれて少しずつ違和感を感じていった。

「でもここからが重要なの、他のテスト結果を見ても全てのテストにおいて、その得点は平均点の±6点、これは小学校2年生の時からずっとよ、明らかに狙ってるわね」

小学校2年生で何があったかは分からない。

そしてこんな事をする必要性も全く分からない。

おそらくだが、全く意味は無く、唯のお遊びの可能性が一番高い。

何故こんな結論に至ったのかと言えば、理由は簡単である。

「三学期の期末テストの彼の答案、間違った問題には全部同じ答えが書いてあったそうよ?」

「何と?」

これを口にするのは少々馬鹿らしい。

「ジム」

「…は?」

マヤがまたポカンと口を開ける。

まあ、意味が分からないだろう。

「もう一回言ってもらえますか?」

「ジムよ、ジム」

どう考えてもふざけているだろう。

彼は答案に答えと、ジムという言葉を書き、ジム以外の箇所は全問正解。

結果が平均点である。

始め数値を見ているだけの時は偶然平均点ばかりなのかと思ったが、偶然手に入った答案の写しを見て確信した。

確実に狙っている。

「ジム、ジムスナイパーとか、バリエーションもあったらしいわ」

「ジムって…私よく知らないんですけど、ガンダムでしたっけ?」

「ええ、素敵機体ね、ザクには劣るけど」

「1+1=ジム…って感じですか?」

「ええ、ただ一問だけジムで正解な問題があったらしいけど、どんな問題だったのかしら…」

実はこれが一番気になっていたりもする。

「でも…何でそんな事を?」

マヤは困惑しながらも、少々呆れているようだった。

気持ちは凄く分かる。

「さあ?分からないわ、目立ちたくなかったのか…それとも面白半分か…私は面白半分だと思うけどね」

そこまで話すと、マヤが押し黙ってしまったので私は仕事に集中する事にした。

まあ、彼が本当は頭脳明晰な少年だったとしても、特に何かが変わるわけではないのだ。

何故隠していたその才能を彼が先日見せたのかと言う事に関しては、私はこう考えている。

今まで彼には、その存在に対しての需要が全く存在しなかった。

だが、それがNERVに来て変わった。

サードチルドレンという需要が発生したのである。

自分という存在の価値を示しても、得はあっても損は発生しない。

そう考えたのではないだろうか。

無論推測である。

当たっていても本人にとっては無意識の行動だろうし、全く的外れかもしれない。

少なくとも私はそうだと考えている。

それだけの話だ。

そして、暫く時が経って、マヤが躊躇いがちに口を開く。

「あの…」

「何?」

「ふと思ったんですけど、もしかしてシンジ君って」

マヤの表情が微妙なものに変わる。

そして続きを言った。







「お馬鹿さんなんじゃ…」

「否定する要素が無いわね」







まぁ…ジムだし…

と言っても、少し前までマヤが言っていた馬鹿と、今言っている馬鹿とでは意味合いが違う。

頭が良い事と馬鹿な事とは関係が無い、という訳である。

そして本格的に仕事に戻ろうとしたところで、私は何となくある事を口にした。

「あぁ、そうそう、知能テストも何もやっていないから分からないけど」

「何です?」

「彼、きっと私や貴女よりIQは高いわよ?」







一瞬マヤは意味が分かっていないようだったが、やがてぼーっとした表情で言った。

「凄いですねー」

「そうね」







「って、えええええええええええええええええええ!?」

マヤがその意味を理解できたのは、たっぷり一分経ってからだった。














第二話 SWITCH!あの子のハートを打ち砕け! その4













SIDE-シンジ

NERVの食堂。

その調理場へと向かって僕は叫んだ。

「ヘイ!シェフ!すうぃーとでふぁんしーなパフェを頼む!」

やがて調理場の奥から海賊モノの悪役で出てきそうないかつい顔をしたおっさんが出てきて、めんどくさそうに口を開く。

「ねーよ」

なん…だと?

パフェが、ない?

しまった、計画が崩れた。

何でこんな事をしているかというと、原因は今日の昼休みにあった。

レイたんのお弁当に今日もゼリーを付けてあげたのだが、レイたんはそのゼリーを何故か箸で食べていた。

「何で箸で食べてるの?」と聞くと、不思議そうな顔で「スプーンがないもの」と言った。

レイたんはゼリー容器の底に付いている、折りたたみ式のプラスチック製の物体がスプーンである事を知らなかったのだ。

そして、おそらくレイたんはあまりこういう物を食べないのだろうと思い、僕はこう聞いた。

「レイたんって甘い物嫌いなの?」

「嫌いと言うか…そもそも最近までアレばっかりだったから」

驚愕した。

ここで言うレイたんのアレとは一つしかない。

僕がデッドリースルーをぶちかましたあの軍用レーションっぽいのだ。

分からなかったら第二話その…その…そのいくらかを参照!

まあ、そこから話が進展してレイたんにパフェを食べさせよう!という事になった訳である。

だがいきなりの計画崩壊を受けて、僕は思わず叫んでいた。

「パフェが無いならサンデーを作ればいいじゃない!レイたん生まれてこの方甘い物食べた事無いらしいからさ!美少女が喜ぶ所見たいと思わないの!?」

海賊面のおっさんは、いぶかしむように辺りを見渡したが、食堂の隅にレイたんが座っているのを見て眼を細めた。

レイたんが小さくお辞儀をする。

僕の教育の賜物である。

そしておっさんは僕を見ると、カッと目を見開いて言った。

「美少女の為なら満願全席だろうが作ってみせるぜ、でも飛行機だけは勘弁な?」





カウンターでストロベリーDXサンデーポセイドン(シェフ命名)を受け取ると、僕はレイたんの方へと持って行った。

そしてどどんとレイたんの前に置く。

「糖分は正義!さあ!レイたんどうぞ!」

そのあまりの豪華さに、レイたんは目をぱちくりさせてそれを見つめていた。

急場でここまでのものを作り上げるなんて…さすがNERV、やってくれるぜ。

思わず僕は厨房…なんか嫌だから調理場って呼ぼう、調理場の方を振り返り、海賊面のおっさんへと向かってサムズアップをした。

おっさんは背を向けていたが、こちらを振り返る事もせずに、ただ無言でサムズアップを返した。

そしてレイたんは恐る恐ると言った感じでパフェを口に運ぶ。

「…甘い」

「甘くて?」

「おいしい…かも」

そう言ってレイたんは少しだけ頬を緩めた。

「糖分は正義!」

その後はひたすら無言でパフェを食べ続けた。

本当に美味しそうに食べている。



……

………

「…ねえ、僕にも頂戴?」

「…らめ」

この日からネルフ食堂にパフェが追加され。

時々、青い髪の少女がパフェを頬張る姿が目撃されるようになった。







そしてレイたんもパフェを食べ終わり、そのまま談笑。

まあ僕が一方的に喋ってるだけだけど…

でも最近気付いたんだけど、レイたんは話を聞いてないように見えて、実はばっちり覚えている。

アニメや漫画は見た事が無いと言うからそういう話をしていたら、次の日とかに話してもしっかり登場人物の名前等を覚えているのだ。

実は何冊か漫画を貸してあげた。

そしたら「少し常識とかも知った方がいいと思う」とか言われて、逆に超難しい小説貸されちゃった、てへっ。

そんな感じでだらだらと話していたら、何時の間にか食堂から人気も減ってきた。

今は午後8時、オーダーストップは九時だ。

こんな時間まで残っているのには理由がある。

「シンジく~ん?やっほー」

「あ、きたきた」

目的はこの人達だ。

事情を聞かされていないレイたんは、そのメンバーを見て首をかしげた。

「…発令所の?」

来たのはミサトさん、リツコさん、マヤさん、冬月先生、あとロン毛の人と眼鏡の人。

僕はみんなと訝しがるレイたんを連れて、普通に食事するお客さんの邪魔にならないように窓際の席へと向かった。

このメンバーの中で事情を知っているのは僕、リツコさん、マヤさん、冬月先生だ。

何故こんな所に連れて来られたのかと、事情を知らない三人は不思議そうに僕を見、レイたんはキョトンとしたまま辺りを見回していた。

僕は全員を席に座らせると、食堂に来た時から席の下に隠しておいた重箱を机の上に置いた。

そして高らかに告げる。

「夕食ターイム!」

「わーぱちぱち」

全員が机の上に置かれた重箱を見つめる中、ミサトさんだけが気の抜けたような拍手を送ってくれた。

何も事情知らないのにノリ良いね。

そして拍手したまま口を開く。

「で?どゆ事?」

「えー何かよく知らないけど!僕のご飯って美味しいらしいんだよね!」

僕は知らなかったんだけど、食べた人皆そう言ってくれるんだから間違いないと思う。

でもミサトさんは笑いながら聞いてきた。

「らしいって、何で自分で分からないのよ」

「えーだって僕自炊以外でご飯って給食くらいしか食べた事無いもん」

それに誰かに僕のご飯食べさせたのも、実はリツコさんが初めてなんだよね。

おじさんの所で暮らしてる時もずっと一人暮らしみたいなもので、離れで自炊もしてたし。

そしたら何故かマヤさんがミサトさんの方を見て、怒ったような顔で声を掛けた。

「葛城さん…」

「…ごみん」

謝るミサトさん。

よく見れば他のレイたん以外の皆が気まずそうな顔をしている。

え?なになに?

レイたんの方を見たら口パクで何か言われた。

え?…ここでボケて?

絶対違うな、何て言ったんだろ…まあいいや。

どうせ援軍は来ないとかそういうのだし!

とりあえず話を進める事にする。

「よく分かんないけども!マヤさんの要望により!今日は発令所メンバーの分も作ってきたのさ!」

そうなのだ。

実は昨日マヤさんに「明日私にもお弁当作ってきてくれないかしら…」と頼まれた。

気軽にOKしたんだけど、それを聞いていた冬月先生が。

「シンジ君は料理が出来るのかね?ユイ君は…何と言うか、独創的だったからな…」

と言ったのを切っ掛けに、何故か何時の間にやら発令所のメンバーに食べさせる事になっていたのだ。

それを聞いてミサトさんがあぁと掌を打つ。

「あ、だから今日夕食食べないようにって言ってたのね、マヤちゃんそんな事頼んでたの?」

その言葉に皆がマヤさんに視線を向けると、マヤさんは恥ずかしそうに俯いて言った。

「だって…先輩が見せびらかしてくるんです…でも食べさせてくれなくて…」

マヤさん可愛えええええええええええええええええええええええええええ!

これで成人女性だなんて信じられない可愛さだ!

ここは敢えてマヤさんではなくマヤたんと呼んでおこう。

「マヤたんっていじめたくなるもんね!まあ御託はいいから御開帳!」

おぉー!!!!!!!!!!!!

僕が言葉と同時に重箱を開けると、中身を見た全員がどよめいた。

くくくっ…

驚け!

これが僕が今朝5時に起きた成果だ!

中身のイメージはお花見をする時の重箱!

甘辛牛肉の桜おにぎり!ピリ辛韓国風肉じゃが!桜麩の牛肉巻き焼き!ミニハンバーグ風照焼!その他もろもろ!

そして最後のスイーツとして桜餅!

我ながら完璧だぜ…

おっと、全員分のお茶とお絞りを持って来るとするかな、サポートまで出来てこそのプロフェッショナルだ!

そしてそれらを配り終えると、全員が緊張した面持ちで料理を眺めた。

年長の冬月先生が音頭を取る。

「そ、それでは…」

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

そして全員が料理に手を伸ばした。

最初の一口でザ・ワールド、時が止まる。














七秒経過!

ロードローラーだっ!

そして時は動き出した。

全員が一斉に口を開く。

「「「「「「ウンまああ~い!」」」」」」

そう言って全員が物凄い勢いで貪り始めた。

レイたんだけは始めから無言で、凄まじいスピードで食べてたけどね。

ミサトさんが突然叫び声をあげる。

「こっこれは~っ!この味わあぁ~っ!サッパリとしたチーズにトマトのジューシー部分がからみつくうまさ!チーズがトマトを!トマトがチーズを引き立てるッ!ハーモニーっつーんですかあ~、味の調和っつーんですか~っ!例えるならサイモンとガーファンクルのデュエット!ウッチャンに対するナンチャン!高森朝雄の原作に対するちばてつやのあしたのジョー!」

「…トマトもチーズも入れてないけど」

「ったく、何巻か忘れてたから探すのに苦労したわよ…よく考えてみればググればよかったのね」

「まったくだね」

探してたら途中から面白くなっちゃって一巻から全部読んじゃったよ…

ん?何の話かって?それは聞いちゃいけない。

僕とミサトさんのやり取りを見て、マヤたんが恐る恐る呟いた。

「二人とも一体何の話を…」

「しっ、見ちゃいけません」

そう言ってマヤたんの視界を防ぐ冬月先生。

…酷くね?










SIDE-リツコ

「ねえ、シンジ君」

「はいはい?」

食事も進み雑談に花が咲き始めた頃、私はマヤに如何にロム・ストールが素晴らしいか語っていたシンジ君に話しかけた。

今日話題に挙がった疑問を、この機会に聞いておこうと思ったのだ。

「過去のデータを見たんだけど、何でこれまでのテスト…本気でやらなかったの?」

彼は一瞬表情を固めた後、暢気な声で答えた。

「やだなー本気でしたよ!もっともっとがモットーですから!」

「いいから」

「え、だからホントに本気…」

「いいから」

「あ、はい…」

少し渋い顔で頭を掻き、彼はぼそぼそと語り出す。

「えっとですね」

何故か小声なので、彼に顔を寄せる私とマヤ、そしてさり気なく話を聞いていたらしいミサト。

あまり聞かれたくない事なのだろうか。

「えー実はむこうの学校では結構いじめられてたって言うか、敬遠されてまして…下手にいい点とか取ったりするとですね、色々と後が面倒なんですよ、特に僕を養ってくれてたとこの息子さんがアレでして…」

それは聞いている。

彼を養った人物の息子はあまり出来の良い少年ではなく。

立場的に弱いシンジ君をいじめていたらしい。

それを知っていながら止めなかった親に一番の問題があるのだが。

「それで目立ちたくなかった?」

「ですです」

目立ちたくないなら奇行は慎むべきだと思うのだが…

馬鹿なふりでもしていたのかもしれないが、逆効果だ。

いや…地か?

まぁどちらにせよ、彼が天然である事には変わりないだろう。

どう考えても手段がおかしい。

まぁ…

昔から紙一重だと言うし…

「やり返そうとかは思わなかったの?」

「いや、それがお恥ずかしい話なんですけど…」

かなり言い辛そうに彼が口を噤める。

気が付けばレイまでもがこちらに顔を寄せていた。

薄々気付いていたのだが、レイは出会ってそれほど経っていないにも拘わらずシンジ君に懐き始めているようだ。

もしかしたら食事の所為だろうか。

何にせよレイが他人に興味を抱くというのはとても珍しい事である。

そして数秒の沈黙の後、シンジ君が口を開く。

「喧嘩とかてんでダメなんですよね、僕…そもそも運動神経ゼロなんで」

「え?そうなの?」

思わずと言った感じでマヤが聞き返した。

私もミサトの方を見る。

確かパイロットに義務付けられた基礎体力訓練にミサトは立ち会っていた筈である。

するとミサトは苦笑いで答える。

「確かにね…」

レイまでもがコクコクと首を振り頷いている。

そういえば体育の授業があるか。

「僕泳げないし、自転車乗れないし、逆上がり出来ないし、気を抜いてたら何も無い所で転ぶし…」

「あらまあ…」

彼の運動音痴は筋金入りのようだ。

すると話を聞いていたらしい副司令が呟いた。

「そんな所までユイ君似か…」

どうやら遺伝のようである。

しかし、運動音痴でありながら彼が操るエヴァ初号機の機動は素晴らしい。

シンクロによるコントロールは思考に左右される。

体が出来る動きならばイメージも行いやすく、その為の肉体訓練なのだが、どうやら彼のイメージ能力は優れているようだ。

妄想能力とも言うのだけれども。

生暖かい視線で見つめていた周囲に、シンジ君は顔を赤らめて言った。

「あ、あんまり人に言わないでくださいよ!恥ずかしいから!」

「はいはい、分かったわ」

そう言って軽く手を振るミサト。

明日には全職員の知る所となるだろう。

その前に私がNERV内のシンジスレに書き込む訳だが。

まあいい。

しかし、頭が良いが運動音痴とは。

漫画のようなキャラクターだ。

思わずクスリと笑ってしまって、それを見たシンジ君が更に顔を赤らめて言う。

「今笑ったでしょ!?」

「笑ってないわ」

「ならいいですけど…」

そして彼がお茶を注ごうと席を立ち、歩き出した時だ。

「あ痛っ」

躓いた。

一斉に顔を逸らす周囲。

全員が笑いを堪えている。

彼は素早く立ち上がると、さっと辺りを確認し、誰にも見られていないと判断したのか、安堵の溜息を零した。












萌えた。

































あとがき

生まれて初めてフルーチェを食べた。

美味い。

美味い!美味いよフルーチェ!

堪らないよフルーチェ!

もしかしたら俺は…フルーチェと出会う為に生まれてきたのかもしれないな…

そんな事を思った、冬の終わりであった…



あ、SSですか?

今回は話のつなぎ兼仕込みみたいなものなのでギャグもほぼ無いです。

ギャグを期待してた方、すみません。

あ、次使徒来ます。

ぬるりと来ます。

次回、最後のシ者。

お楽しみに。

嘘です。

*華麗に、そして優雅に誤字訂正。



[5245] SWITCH!あの子のハートを打ち砕け! 5
Name: ユスケ◆f1c78a6f ID:85176eb0
Date: 2009/04/17 03:36
「目標をセンターに入れて…スイッチ!」

「目標をセンターに入れて…スイッチ!」

「目標をセンターに入れて…スイッティ!」

あ…

そっとモニターを見たら、ミサトさんが僕をガン見していた。

そのまま口を開く。

「噛んだ?」

「噛んでないです」

「噛んだでしょ」

「噛んでないです、スイッティって言ったんです」

「そう、じゃあこの後もそれでお願いね」

そしてミサトさんは手元の書類へと視線を戻す。



ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

ドSめ…

恨みがましく見ていたら、ミサトさんは顔を上げて、ニコリと笑ってこう言った。

「何してるの、続けて」

あ、はい…

「目標をセンターに入れて…スイッティ」

「目標をセンターに入れて…スイッティ」

「目標をセンターに入れて…スイッティ」

「ごめんなさい、噛みました、だから勘弁してください」

僕はLCL内で土下座をするという高等技術を手に入れた。

「よろしい」

そう言って僕を見るミサトさんの目は、負け犬を見る勝者の目だった。

「大人なんて嫌いだあああ!」

そう叫びながら、モニターに浮かぶ巨神兵を撃ちまくる。



「あ、命中率上がりました」

マヤさんの呟きがシミュレーションルームに響いた。



そして、1分ほど前からシンジにユイのサルベージ事で相談があると告げようと来ていたゲンドウは、シミュレーションルームの微妙な空気に、扉の前でこう思ったという。





(・・・入りづれえ)













第二話 SWITCH!あの子のハートを打ち砕け!その5










SIDE-冬月



普段私とゲンドウしかおらず、静寂に包まれている筈の司令室に今日は来客があった。

シンジ君である。

ユイ君のサルベージの話しを聞く為にゲンドウが呼び出したのだ。

二人は来客用のソファーに座り、何故かピスタチオの殻を割りながら淡々と話していた。

「ユイのサルベージ…本当に出来るのか?」

確かにそれが一番の疑問点だ。

碇ユイのサルベージ計画は、過去何度か作られ、そして失敗してきた。

その成果の内の一つが綾波レイである。

科学者が総出で出来なかった事を、この少年は気軽に出来ると言う。

信じられぬのも無理はあるまい。

そして私とゲンドウが緊張して返事を待つ中、彼はこう言った。

「さるべーじってなんぞ?宝探しでもするの?」

おいゲンドウ、説明ゼロか。

この男は相手が理解しているのを前提に話を進める悪癖がある。

とりあえずフォローしておくか。

「ユイ君をエヴァの中から出す事だよ、シンジ君」

教えると、彼は「あぁ!」と掌を打って口を開いた。

「なるほど、それでサルベージね、すぐ出来るよ?今からする?メギャンって出せるよ?あ、ちょっと出して来るね」

そう言って彼は司令室を出て行こうとする。

ゲンドウが慌てて低空タックルでそれを阻止した。

バタービーン対美濃輪戦を彷彿とさせる鋭いタックルである。

「い、いや、ちょっと待て、落ち着け…こちらも準備が要るんだ、社会的にも精神的にも…」

「えー?早い方がいいじゃんか」

シンジ君はそう言うが、精神的にと言うのはともかく、社会的には少し拙い。

ユイ君が復活する事で、我々が人類補完計画に参加している必要性がなくなる以上、その場合ゼーレは敵になってしまうのだ。

しかし、今の我々にゼーレと敵対する程の戦力は無い。

その為にもユイ君の復活は内密にし、力が整うまで人類補完計画に参加しているフリをする必要があるのだ。

新しい戸籍も用意せねばならんだろうし、他にもやる事は山程ある。

だがそれが本当に分かっているのかいないのか、ゲンドウは暫し考えてシンジ君にこう告げた。

「明日だ、明日までには準備しておく」

おい…

一日程度で終わると思っているのか…

全部お前がやるんだろうな、私は知らんぞ。

いや、コイツならやりかねないな。

ユイ君絡みとなれば、碇ゲンドウという男は異常な能力を発揮するのだ。

そしてそれを聞いたシンジ君はシンジ君で、軽く返事をしてみせる。

「おkおk、じゃあ帰っていい?リツコさん待ってるし」

おkおkじゃねえよバーロー。

この少年は、きっと自分がどれだけ異常で途轍もない事を言っているのか分かっていないのだろう。

いや、あのユイ君の息子だ。

案外分かっていてこう振舞っている可能性もある。

「あぁ…言い忘れていたが、一応ユイは死んだ事になっている、それが生きていると知れると色々と拙い事になるのだ、くれぐれも内密にしろ…いいな?」

「ガデッサー!」

「よろしい、ではな」

「ではな!」

元気に返事をして、シンジ君は扉の向こうへと消えていった。

もう嫌だ…この親子。

後でネルふたばの司令スレで、ゲンドウのデマでも流しておかないと気が済まない。

そんな事を考えていると、じっとシンジ君が出て行った扉を眺めていたゲンドウがボソリと聞いてきた。

「冬月、本当に出来ると思うか?」

知らん。






















SIDE-シンジ


昼休みが始まって、レイたんにお弁当を渡そうとした所で突然携帯が鳴り出した。

でも着信音が僕の設定してる音じゃなくて、ピーピーピーピーってデジタル音だ。

おかしいなぁ、オーラロードが開かれる筈なんだけど。

ていうかそもそも学校だからマナーモードにしてたんだけどな。

そう思いつつ携帯を取り出したら、そこには見た事も無い番号が通知されていた。



知らない人からの電話は取りませんっ!

とりあえず料金が発生するように、一瞬だけ電話を取って即座に切っておいた。

今日もまた悪の根を少し潰してしまった…

気持ちがいいね!

そんな事を思っていたら、誰かが僕のシャツの裾をくいくいと引いている。

振り返るとそこにいたのはレイたんだった。

「非常召集」

「んゆ?何?」

てっきりお弁当の催促かと思っていたら、突然意味の分からない事を言い出した。

「え…だから…非常召集」

こっちが困惑していたら、何故かレイたんも困惑した表情で言う。

え?何これ?状況が全く掴めない。

とりあえず聞いておこう。

「非情消臭って何?」

するとレイたんは更に表情を困惑させて答える。

「簡単に言うと、ネルフに来い、って事だけど…」

「そうなんだ!了解!」

そうならそうって最初から言ってくれればいいのに。

その後はレイたんの言う通りに荷物を纏めて、校門の前に保安部の車が来るらしいので二人で待つ事にした。

待つ間暇なので、レイたんに聞いてみる。

「でもなんで急に呼ばれたんだろ?レイたん分かる?」

「え…」

この時のレイたんの表情を分かり易く言うと。



お前何言ってんの?



って感じだ。

もしかして、非常召集の事はNERVの常識?

まあ仕方ないよね、僕まだペーペーだし、そんな話聞いた覚えも無い。

レイたんは驚いた顔で僕を見ていたけど、暫くしてぼそりと呟いた。

「使徒、来たから…」

あ、なるほど。

そりゃ非常召集も掛かるか、僕パイロットだもんね。

そっか、またあの巨神兵みたいなのが来るんだ。

「ふーん、じゃあ今日も頑張るぞー!」

「貴方…絶対に反応がおかしい…」

また微妙な表情をレイたんが浮かべた所で、角を黒塗りの車が曲がってくるのが見えた。

絶対アレだ!

悪の組織過ぎる!

そしてふと思い出した。

あ、お弁当食べなきゃ。

「あ、レイたんお弁当、車の中で食べようよ」

そう言ってレイたんにお弁当を渡すと、レイたんはじっとそれを見つめて小さく僕に聞いた。

「…おいも入ってる?」

「入ってる入ってる、好きなの?」

そう言えばいつも芋の煮物を入れてたら真っ先にそれを食べていた気がする。

「…うん」

レイたんは頬を赤らめて呟いた。

よし、可愛いから今度から必ず入れちゃうぞ!













SIDE-リツコ



薄暗い発令所。

巨大スクリーンに映る、奇天烈な姿をした使徒を見つめながらミサトが呟いた。

「今回は一週間か…早いわね、リツコ、エヴァの準備は?」

「大丈夫よ、中の状況は分からないけどね」

エヴァの状態は完璧である。

元々初号機は前回の使徒戦で全く損傷を受けていない。

そして日々のコンディションを管理するのは私の仕事だ、抜かりは無い。

しかし見た目やデータによる状態が完璧でも、初号機は違う。

エレクトラ、碇ユイ。

この二人を内包するエヴァンゲリオン初号機、シンクロすら出来ない私には彼ら…いや、彼女達の状態等分かる筈もない。

シンジ君にしか分からないのである。

まあシンジ君の日頃の話振りからすると全く問題はないと思うが。

とりあえず、そのシンジ君が居ないと話は始まらないだろう。

「それで、肝心なシンジ君達は?」

マヤに聞くと、コンソールを操作し、モニターに現在の居場所が表示された。

シンジ君やレイの持つ携帯には発信機が内蔵されている、それにより居場所を特定しているのだ。

自分の持つ携帯に発信機が付いているとなれば良い気はしないだろう。



普通は。



何となく彼にそれを伝えたら、彼は目を輝かせて。

「じゃあマヤさんが僕の居場所を調べたら、エロい店に居てマヤさん赤面、何ていう羞恥プレイも可能なわけですね?」

「早く死ねよ」

というような事もあった。

現在の場所からすると、シンジ君達がこちらに付くまで10分と言った所か…

エヴァの発信準備は進行中だ、シンジ君が搭乗準備を終える頃には完了しているだろう。

後は作戦部長のミサト次第という訳だ。

…あのチート的な強さなら、作戦なんて必要ない気もするが。

そんな事を考えていたら、マヤが口を開く。

「こちらに向かって…あ…」

「どうしたの?」

何か問題があったのだろうか?

シンジ君が来れないという事はNERVの敗北に直結する事態なので、内心穏やかではない。

いくら彼がシンクロ率400%の最狂のエヴァンゲリオン初号機パイロットであっても、生身では運動神経の悪いただの少年なのだ。

心配しながら身を乗り出しモニターを見ると、マヤが見ていたのはメールフォルダだった。

どういう事かとマヤを見ると、本人も戸惑った表情でこちらを見る。

「何かメールでシンジ君から音楽ファイルが…」

「は?」

音楽ファイル?

この緊急事態に一体何を…

マヤが徐にファイルを開封する。

ファイルの題名はこのような物だった。

碇シンジ出陣のテーマ(発進の時に流してね!)

「どうしましょう…」

「ウィルス付きで送り返してやりなさい」











SIDE-シンジ






NERVに到着した僕は、ミサトさんから簡単に説明を受けるとエレクトラへと向けて走った。

やばい、今の僕、異常な程テンションが高い。

現れた敵!出撃する主人公!

何だこの夢シチュエーション!

あとはヒロインの存在だけだ、出来れば昼下がりの団地妻がいい。

現在エヴァ乗ってみましたではヒロインを募集しています!

超スピードで格納庫に到着すると、整備のおじさん達が声を掛けてくる。

「頑張れよ坊主!」

「怪我すんなよー!」

「風邪引くなよー!」

「歯磨いて寝ろよー!」

「やっちまえー!」

やってやるぜえええええええええええええええええええ!

おじさん達に軽く手を振って声援に応えると、僕はエントリープラグへと向かって走り、叫ぶ。

「チャージ三回!フリーエントリー!ノーオプションバトル!うぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおぉぉ!」

行くぜ!

「チャアアァァァアァァアァアアァアァァァジ!イイィィィィイィイィイィイィイイイィィイン!」

そしていざエントリープラグに乗り込もうとした所で、整備長のおじさんが何かを手にこちらに駆け寄ってきた。

「坊主ー!プラグスーツー!」

そういえば制服のままだった。

だけどここは冷静に、僕のポリシーに従って応えておく。

「私はバンゲリに乗っても必ず帰ってくる主義だ、死にたくない一心でな、だから戦闘服だのプラグスーツだのは着ないのだよ」

そう言って、僕は物陰でプラグスーツへと着替え始めた。

「着るのかよ!」

「死にたくない一心でな…」

何でか知らないけど、整備班全員にフルボッコにされた。

あの…僕今から出撃なんですけど…












シンクロスタート。

全身が何かに包み込まれるような感覚。

エントリープラグの中に、世界の中に、確かにエレクトラと母さんの存在が浮かび上がってくる。

全身に電気が走るような感覚。

最初は弱く、徐々に強く。

みなぎってきたあぁあああぁぁぁぁああぁああぁぁあぁあああ!

この感覚!

高シンクロ状態って奴だ!

「エヴァンゲリオン初号機起動、相変わらずシンクロ率400%!行けます!」

最近シンクロしてる状態っていうのが肌で分かるようになってきた。

母さんは包み込むように、エレクトラは突き刺さるように。

僕と一つになる。

いつでも行けるぜべいびー!

「シンジ君、出すわよ!」

「うおおおおおお!俺TUEEEEEタイム!」

使徒でも何でもかかって来い!ぴっ殺してやる!

「シ、シンジ君?射出するけど…」

「俺は男だ!男だぞぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおぉぉ!」

「聞いてよ~!」

ん?マヤさんの声が聞こえたような…

「あ、出しちゃって出しちゃってー」

「エヴァンゲリオン初号機、射出!」

「アッー!」

テンションが上がり過ぎてプラグの中で雄叫びをあげていたら、いきなり射出の衝撃が襲ってきて僕はひっくり返った。

射出するならするって言ってくれ!

僕の意思とは無関係に、バンゲリはぐんぐん地上へと向かって上昇していく。

そして、僕のトラップが発動した。

突然バンゲリの中に、NERV発令所内に、軽快な音楽が流れ始める。

ミサトさんはそれを聞いて困惑しているようだった。

「これは…何?」

というよりNERV全体が困惑ムードだ。

無理もあるまい。

だが必要なんだ!

ヒーローの出撃にはこれが必要なんだ!

先ほどのファイルを聞いたらしいマヤさんが叫ぶ。

「これは!碇シンジ発進のテーマっ!」

「タイガーマスクじゃないか…懐かしい」

冬月先生はそもそも聞いた事があったらしい、懐かしくも呆れたような表情で宙を見つめていた。

リツコさんは少し焦って問いただしてくる。

「ちょっと…シンジ君何時の間にこんな設定入れたのよ!?」

「流してくれないのは予想済みっ!この前の実験の時に先手を打っておいたのさ!」

マヤさん、機密の端末を付けっぱなしでトイレに行っちゃいけないな。

前日の実験の時にMAGIに入力しておいたのだ。

初号機の射出シークエンスに入ったらこのファイルを展開するようにな!

リツコさんは溜息をつくと、呆れたように言った。

「何という才能の無駄遣い…」

そしてエヴァが地上に出ると同時に曲が鳴り終わる。

前方1km程の場所に使徒がいるのが見えた。

マヤさんが射出台の固定具の解除を始める。

束縛から解放された自由に、エレクトラが唸る。

行くぞ!エレクトラ!

「エレクトラ!ショウタイム!」

…あれ、続きなんだっけ。

まあいいや、適当で。

「なんたらかんたら…ゆーのっとぎるてぃー!」

「なんと言ううろ覚え」

そう呟くリツコさんの顔は苦々しいものだった。

「後でググります…」

そうだよね…びごーに失礼だよね…

まあ気を取り直して!行くぜ!

エヴァの横の兵装ビルが開き、そこからパレットガンが現れる。

同時にミサトさんが言った。

「シンジ君!敵の鞭の速度はかなりのものよ!最初は距離をとって訓練通りパレットガンで応戦して!」

「オーケイ!使徒だろうが大統領だろうが殴って見せるぜ!でも飛行機だけは勘弁な!」

「パレットガンって言ってるでしょ!殴んな!」

はいごめんなさい、スレに書くのはやめてください。



兵装ビルから出てきたパレットガンを受け取ると、訓練通りに構え、ATフィールドを中和し、何かセンス爆発してる使徒へと撃ちまくる。

「使徒爆発しろぉぉぉおおぉぉぉぉおおお!」

射出された劣化ウランの弾丸が使徒に突き刺さる。

見える、見えるぞ!私にも! 敵の動きが!

そして着弾した弾が爆砕して、辺りに粉塵と弾煙が立ち込め…あれ?







何で砕けてんの?



思わずミサトさんに聞いた。

「ミサトさん!これ効いて無くない!?てか見えづらいんだけどっておわあああああああああああ!」

と、話しかけている途中で煙の中から使徒の鞭が現れた。

間一髪で避ける僕、格好悪いけどそのまま這い蹲って兵装ビルの陰に隠れる。

ったく…褌がなかったら死んでいた。

発令所では眉間に皺を寄せたミサトさんがリツコさんを睨んでいた。

「リツコ?」

溜息をつくリツコさん。

そりゃそうだろう、だってテスト時は劣化ウラン弾に完全に耐えてみせる装甲を持った使徒なんて想定していなかったんだから。

でもリツコさん、パレットガンはイデオンガン並の威力があるって得意気に言ったじゃないですか!嘘吐き!

「敵の強度が想像以上ね…硬度を重視して劣化ウラン弾にしたのも裏目に出たわ、砕けてる、効果は無いと思っていいわよ」

また作り直しよ…とリツコさんがぼやく。

命がけの僕の身にもなってください。

ミサトさんは暫し考えると、新たに作戦を提示した。

「シンジ君、危険度は上がるけど接近戦に切り替えて、コアを狙うわよ、こちらからも兵装ビルで援護するわ」

え…

接近戦?

思わずビルの陰から使徒を見る。

その瞬間鞭が飛んできて、咄嗟に頭を引っ込めた初号機の角を攫って行った。

エレクトラとか母さんが非難の声を上げる。

戦闘用ロボットだから仕方ないでしょ!

…これと接近戦しろと?

「帰っていいっすか?」

「さっさと逝け」

そんなご無体な…

それでも僕はビルの陰を這い回りながら徐々に使徒に近づいていく。

主人公の鏡だな、僕は。

そして地面から現れた装甲板の裏に隠れながら息を整えた。

あと少し、あと少しだ。

エヴァスラッシュの射程内まで、あと少し。

よし、10カウントだ、0で飛び出そう。

10、9,8,7,6,5…

「何じっとしてんのよ!」

「カウントとってるんですよ!アイツの鞭の動きにも慣れてきたんで、もうすぐエヴァスラッシュの射程内です」

「さっさとしなさいよ」

「僕には僕のタイミングがあるんですよ!いいか!?押すなよ!?絶対押すなよ!?」

「了解」

次の瞬間、背後の兵装ビルから突き出てきた謎の装甲板に押し出される形で、僕は使徒の目前に放り出された。

「アッー!」

使徒の目がキラリと輝いたように見えた。

そして僕に向けて一直線に二本の鞭が迫る。

う…

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

「主人公補正舐めんなあああああああああああ!」

エェェェエエエエヴァ!スラアアアアァァアァァアッシュ!

渾身のエヴァスラッシュが使徒の鞭を唐竹割にし、更に使徒の胴体を切り裂いた。







…ように見えた。

当たっていない。

使徒の胴体は小さな傷を付けただけで、コアには傷一つ入っていなかった。

「そんな!エヴァスラッシュが効かない!?」

「…外したんでしょ」

ウィンドウが開いて、ミサトさんがジト目で僕を見てくる。

「ハズシテナイ」

「何で急に半角カナになんのよ!」

怒っているミサトさんの横で、マヤたんが感心したように呟いた。

「SSならではですね」

「いや…マヤちゃん…」

まあ何ていうか、胴体にギリギリ届きませんでした、ご苦労様です。

でも大丈夫。

敵の鞭は無効化出来た。

他に攻撃手段があるのかい?

そして、僕は使徒の前に仁王立ちになる。







そんな僕の目の前で。

「え?」

唐竹割にされた使徒の鞭がビキビキと裂けていき。

「いや、ちょっと…」

やがて胴体までもが裂け始め。

「おい…」

その裂けた跡が塞がり。

「増えた?」

使徒の鞭は四本に増えていた。

何となく、使徒がどや顔で僕を見ている気がした。

そしてすぐさま二倍に増えた鞭が僕に襲い掛かってくる。

「おま!ふざけんな!」

追いすがってくる敵の鞭を、避ける避ける避ける避ける。

やばい、自分がこんなに動けるなんて思いもしなかった。

エヴァのスペックが高いからだろうけど…

でも全然捕まる気がしないぜ!

そう思った瞬間、僕はずっこけた。

え?こんな時に天然要素丸出しですか?とか思って足元を見たら、華麗に敵の鞭の一本が僕の足首を掴んでいる。

あ、調子乗ってすいませんでした。

でも使徒は僕の謝罪なんて受け入れる気無いらしい。

そのまま僕は宙吊りにされる。

「ええい!HA☆NA☆SE!」

「ふざけてる場合か!」

そして僕は葱みたいに地面に叩きつけられた。

プラグ内はまるでシェイカーのようにぐわんぐわんと揺れる。

一回、二回、三回、四回…





おい。





あんまり調子に乗るなよ?

僕は大揺れの中、足首に巻きついている敵の鞭を掴むと、一気にぐいっと引き寄せた。

作用反作用で、空中の僕は使徒に肉薄する。

そしてボディーアタックの要領で使徒を地面に薙ぎ倒した。

即座にマウントポジションを取る。

さてと。

「四回だぞ?」

肩口からエヴァドスを取り出して構える。

毎度毎度、言っているようだけど。









ずっと僕のターン!







てめえは俺を怒らせた。

丸出しのボディーに向け、エヴァドスを。

振り下ろす!

「うぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた…アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!」

「ジョジョに言い直してる暇があったらさっさとコアを潰す!」

怒られました。

「あぁぁあぁぁぁあぁ!唸れ!エヴァドス!」

叫びながら、何度も何度もコアへと向けてエヴァドスを振り下ろす。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

コアの欠片が散っていく。

使徒の断末魔のような声が聞こえる。

みなぎってきたぜええええええええ!

「この次も、その次の次のも、その次の次の次のも…その次の次の次の次のも…次の!次も!グロリアのぶんだあああーッ!これも!これも!これも!これも!これも!これも!これも!これも!これも!」

そして、エヴァドスが深くコアに突き刺さる。

使徒の声が止む。

それでも僕は振り下ろすのをやめない。

「パターン青!消滅を確認!」

マヤさんが何か言っているようだったけど、テンションが上がり過ぎて正直僕には聞こえちゃいなかった。

「よっしゃぁ!シンジ君、指示するルートから帰還…」

「そしてこれは…折られたモップの分!」

なんか動かなくなったけど!僕の怒りはこんなもんじゃない!

「…シンジ君?」

「もっとだ!もっと輝けえええええええええ!」

「…マヤちゃん?」

「精神汚染ありません、素です」

「…リツコ、お願い」

そして突然、呆れたようなリツコさんの声が聞こえた。

「シンジ君」

「うにゅ?何ですか?」

何だろうと思って聞いてみたら、何故か発令所の人達は尊敬のまなざしでリツコさんを見ていた。

どうしたんだろ?

リツコさんはそんな事気にもせずに僕に言う。

「ネタが色々混ざりすぎてるから落ち着きなさい、それと終わったわよ、帰ってきなさい」

「は~い」

なんか途中からテンションが上がり過ぎて記憶がないんだけど…

まあとりあえず。





完全撃破!
















今日も二人にまたねと言って、エントリープラグを降りる。

そしてその瞬間、凄まじい疲労が僕を襲った。

やばい…これ立ってらんない。

テストの時はそうでもないんだけどなぁ、何でだろう。

あまりの疲労感に座り込んでいたら、誰かが無言で肩にタオルを掛けてくれた。

誰だろうと思って顔を上げると、そこにいたのはレイたんだ。

思わず立ち上がる。

バテてる所を女の子に見せるなんて!ヒーロー的じゃないしね!

「レイたん!勝ったよ!」

笑顔100%で勝利報告をしたら、喜んでくれると思ったレイたんの反応は違っていた。

「そう…」

そう言って何だか切なそうな表情で俯いたのだ。

何かあったのかな?

「テンション低い!どうしたのさ!」

「私は…役に立てないから…」

そう言ってレイたんは初号機を見つめる。

ん?

役に立てない?

「ごめん、意味わかんない、どゆこと?」

全く意味が分からないので問いかけると…

レイたんの答えは、僕の想像を超えたものだった。



「私は、まだエヴァとシンクロ出来ないから…」































「えぇええええぇぇぇぇぇえぇぇえぇえええぇぇえええ!」


























驚いた。

死ぬほど驚いた。

いや、何でって。



「レイたんってパイロットだったの!?」



「最初に言った気が…」

呆れるように言うレイたん。

だって誰も教えてくれなかったじゃんか!










そして今日もリツコさんと駐車場に向かう道すがら、父さんと冬月先生がいたので僕はとある事を思い出して聞いてみた。

「あ、父さ~ん、さるべーじどうするの~?」

「「わー!わー!わー!」」

二人に凄い勢いで口を塞がれて死にそうになった。

あ、そう言えば秘密なんだっけ…











第二話、完








あとがき

追撃のエヴァ5・最後のシ者により、更にユスケのエヴァ熱は加速した。

6に続くとか言ってたくせに、短すぎたので5に追加してしまいました(*'ω'*)

さてはて。

さてはて。

そろそろあの人出てきます。

そしてシンジ君が調子に乗っていられるのもそろそろ終わりのご様子。

三話でお会いしましょう。





そして僕は気付いた。

もう10話もやってるのにまだシャムシエル\(^o^)/

*ユスケさんいい加減誤字自重して下さい、サーセン



[5245] ハハキタク、スグカエレ 1
Name: ユスケ◆f1c78a6f ID:85176eb0
Date: 2009/04/18 02:22
「僕ってエヴァンゲリオン初号機パイロットとかたいそうな肩書きのわりにキャラ薄いと思うんですよね」

「銀河万丈並に濃いっつうの」

ミサトさんの即ツッコミが入った。

そうかなぁ、キャラ的にもう一押し足りない気がするんだけど。

でも僕はそれの打開案を昨日の夜思いついてしまったんだ。

「だからちょっと考えてみたんですよ」

「無視かい…一応聞きましょうか」

呆れ顔で先を促すミサトさん。

その、聞かねえとコイツ黙んねえしな…っていう感じの対応やめてください。

それはともかく。

僕が昨夜一晩をかけて思いついた究極の打開案。

これを用いればジュンコ・ジュンコもカテジナさん並の濃さになる事請け合い!

時代は温故知新!先人の知恵にあやかったその方法とは!







「ズバリ、語尾ですよ!」










…あれ?

何この空気。

絶対いい案だと思ったんだけど。

頭をかきながらしぶしぶといった感じでミサトさんが呟く。

「あー…にゃんとか、なのらとか?」

最初に思いつくのにゃんかよ…

にゃん…

「…ミサトさん、ちょっと言ってみてほしいにゃん」

「嫌よ!」

断固拒否の構えでした。

でもこういうのって普段言いそうにない人が言うのが一番萌えると思うんだ!

趣旨が変わってきた気がするけどまあいい。

諦めてターゲットを、我関せずって感じでコンソールを叩いていたリツコさんに移す。

「じゃあリツコさん!」

辺りの人間がゴクリと息を呑む音が聞こえた、主に男性陣。

そりゃそうだろう。

リツコさんに頬を赤らめながらにゃんとか言ってもらえたら、僕はN2片手に夜空のお星さまになってもいい。

顔を上げ、周りの視線が集まっている事に気付いたリツコさんはにこやかにこう言った。

「マヤ、お願いね」

華麗なスルー流石です。

可哀想なのはふられたマヤたん。

「えぇ!私ですか!?」

オロオロと辺りを見渡しながら、顔を赤らめている。














これは…







これは聞きたい!

「ゴー!マヤたん!」

「ゴーゴー!マヤさん!」

ミサトさんまでもが悪乗りしてマヤたんを促しはじめる。

既に涙目であうあう言っていたマヤたんは最後の願いをこめてリツコさんの方を見た。

そして、リツコさんは爽やかな笑みでこう告げる。

「上司命令よ」

権力ってこういう時の為にあるんだね!

全員の視線が集中する中、マヤたんは顔面を炎上させて俯くと、暫しの沈黙を挟み、小さな声でこう言った。







「…は」







「…恥ずかしいにゃん」

「お婿にしなさい!」

「えぇ!?」

ハッ!?

思わず叫んでいた…欲というものは恐ろしいな…

「本気にしなさんな…」

オロオロし始めるマヤたんの頭を、呆れたミサトさんが丸めた書類で叩く。

そしてふと思った。

なんてこった!

録画しとけばよかった!

くそ…時既に時間切れ…もう後悔しても遅いんだ。

その時、打ちひしがれている僕の肩を誰かが叩いた。

不思議に思って振り返ると、そこにいたのはオペレーターのロン毛の人だ。

一体どうしたんだろう?

ロン毛の人は徐に拳を振り上げると、はち切れんばかりの笑みと共に魂の籠もったサムズアップを決めて見せた。

…まさか!

そしてロン毛の人が口を開く。

「シンジ君…MAGIをなめるなよ?」

こいつ…あの突発的な事態を録画したというのか!

さすが録画係の人!

出来る男は違うぜ…

二人でおもわずピシガシグッグッしていたら、マヤたんが不思議そうにこちらを見ている事に気付いた。

おっと、バレたら面倒だ。

逸らす意味をこめて、話題を元に戻す。

「まぁそれはともかく!完全に新しく!エヴァパイロットである事を生かした語尾を僕は考え出したんですよ!」

そして、僕の一晩が詰まった新語尾を発表しようとした瞬間。

ミサトさんが面倒臭そうに口を開いた。







「~だエヴァ、とか言ったらジョッキでLCL飲ませるわよ」







「ミサトさん」

「何よ」

「訓練中ですよ、私語は慎んでください」

業務中に何を言ってるんだこの人は、ったく。

「正解かよ…」

そう言ってミサトさんが崩れ落ちるのが見えた。







結構格好いいと思うんだけどなぁ…



















エヴァ、乗ってみました

第三話 ハハキタク、スグカエレ
















前回までのあらすじ

不思議幹部候補少女レイたんと学校に行くようになってイカを食べた。








「ねえねえシンジ君」

母さんのサルベージ実験準備中の休み時間、突然マヤたんが僕に話しかけてきた。

まあ準備とかしなくてもすぐにでも出来るんだけど、色々計測しなきゃいけないのがあるらしくて、その為の機械の設置に時間を使っている感じだ。

「なになにマヤたん?」

「この前話題になったんだけど、シンジ君って副司令と先輩にだけ敬語使うでしょう?」

「うん、そだね」

「副司令とは会った事あるんでしょ?」

全然子供の頃だけどね。

「うん、結構何回も会ってるよ、キャッチボールした事あるし」

他にも色々遊んでもらったり、怒られた事もあった気がする。

そういえば、この子位はまともな子に…とかなんとか言ってた気がするけど…

気のせいか。

「へえ、副司令がねえ…」

その言葉と共に、後ろから僕の頬に冷たいものが当てられる。

振り返ればミサトさんがピーチジュースを僕の頬に当てていた。

わーい、ミサトさん気前がいいから好きさ。

僕がまんまと餌付けされていたら、マヤさんが「本題なんだけど」と切り出した。

「もしかして、先輩にも会った事あるのかしら?」

あーマヤたんが知らないって事は、やっぱりリツコさん忘れてるのかあ。

「あるよ?」

「やっぱり!?」

「だって僕、何回かナオちゃん家に預けられた事あるし」

「ナオちゃん?」

ミサトさんとマヤたんの顔が疑問符でいっぱいになる。

「リツコさんのお母さん」

「と、東洋の三賢者の!?」

ミサトさんはなるほどって感じだったけど、マヤたんの反応は違った。

目を見開いて、驚愕って感じの表情で僕を見ている。

とうようのさんけんじゃ?

父さんも母さんも忙しかったから、子供の頃僕は色んな所に預けられた。

その中にナオちゃんの所があった。

ナオちゃんは凄い優しかった記憶がある。

家にもよく来ていたから、僕はかなり懐いていた。

「預けられた時…えっと二回位だったっけな、会ったよ、リツコお姉ちゃんって呼んでたけど、ところでズッコケ三賢者だっけ?何それ?」

「え?知らないの?」

「全然」

「シンジ君のお母さんの碇ユイさん、先輩のお母さんの赤木ナオコさん、セカンドチルドレンのお母さんの惣流・キョウコ・ツェッペリン、この三人の女性科学者を総称して東洋の三賢者って呼ぶのよ」

ん?

あれ?今また聞いたことがある名前があったような…

惣流・キョウコ・ツェッペリン…

キョウコキョウコキョウコキョウコ…

あ、きょーちゃん!

「きょーちゃんもなんだ?」

「知ってるの!?」

またマヤたんが驚いた顔で言う。

そりゃ母さんの友達だったから何回か会ったけど、そんなにびっくりする事なのかな?

「何回か会ったよ、おばちゃんって呼んだらアイアンクローくらったけど」

きょーちゃんって言うのは母さんがしていた呼び方で、確か本人はやめろやめろと言っていた気がする。

普段からきょーちゃんが母さんにぎゃーぎゃー言うんだけど、ぽややんとしていた母さんは嫌味とか文句とか全く気付いていなかった記憶が…

あれ?もしかして仲悪かった?

まあいいや。

うーん…ていうか。

「もしかして僕…凄い人達と知り合い?」

マヤたんが首が折れそうな勢いで頷いた。



後で聞いたんだけど、東洋の三賢者っていったら今でも科学者の憧れの存在らしい。

三人とも普通の人だった気がするけどなぁ。







Side-リツコ







サルベージ実験の準備も終わり、帰宅の準備をしていると部屋にミサトとマヤが訪ねてきた。

「あら、珍しい組み合わせね、どうしたの?」

問いかけると、ミサトはお構いなしにこちらに寄ってくると、顔を限界まで近づけて聞いてきた。

「シンちゃんがさ、子供の頃何回かリツコさんに遊んでもらったって言ってたんだけど、ホント?」

「…は?」

私がシンジ君と遊んだ?

やばい、久しぶりに混乱した。

頭の中を電気信号が駆け巡る。

記憶という箪笥の引き出しを片っ端からひっくり返して回る。

「ちょっと待って…記憶に無いわ…」

ダメだ、全く記憶に無い。

あんな特徴的な子、しかもユイさんの息子となれば覚えていても良さそうなものなのだが…

シンジ君の記憶違いではないだろうか?

だが、恐らく私の記憶よりも彼の記憶のほうが100倍正確だろう。

その時だ。

マヤが思い出したように言った。

「あ、ガンダムキャンディーってのを買ってもらったって言ってました」

「…ガンダムキャンディー?」

ちょっと待て…

凄く覚えが…何だろう…












『りつこおねーちゃん!』












「あぁ!」

「思い出した!?」

そうだ、確かにそうだ。

私は彼と会った事がある。

「シャアザクの子よ!」

「「シャアザク?」」







その子と出会ったのは、大学の頃、母が非番の日の事だった。

私は普段家に帰るのが遅く、その日は珍しく昼時に家に帰ったのだ。

玄関を開けた時、いつも出迎えてくれるのは飼っていた黒猫のメーテル。

だが、その日はもう一人いた。

「おかえりなさぁーい」

第一印象は、猫に懐かれる子、だった。

メーテルは私と母以外誰にも懐く事は無く、私達も餌をくれるからという理由があったように思える。

まあ私は猫のそんな気高い所も好きなのだが。

そんなメーテルが少年には懐いていた。

餌をあげるわけでもないのに、自分から座っている少年の膝の上に乗りに行くメーテルの姿を見た時は驚愕したものだ。

そして母から知り合いの子を預かっていると聞かされた。

どうやら私が偶然会っていなかっただけで、これまでにも数回預かった事があるらしい。

この頃は母も適度に休日が取れていた。

子供嫌いの母が折角の休日に預かるのだ、母はかなりこの少年を気に入っているらしく色んな事を教えていた。

「いかりしんじ!さんさいです!」

三歳の子供に数学を教えるのはどうかと思ったが…

まあ接し方が分からない母なりのコミュニケーションなのだろうと思っていた。

この頃は、私はまさか少年が母の教えている事を理解しているだなんて思いもしなかった。

私は子供が苦手、と言うよりも嫌いなのであまり接しないようにしていた。

しかし、二回目の遭遇の時、それは起こった。

母が急用で呼び出され、私がシンジ君を預かる事になったのである。

子供との接し方なんて全く分からない。

どうすればいいのか分からず佇んでいる私を、シンジ君は無邪気に見つめて言った。



「りつこおねーちゃん、おなかすいたー」



…面倒臭え。



当時は全く料理が出来なかった私は、シンジ君を連れて近くのレストランにでも行く事にした。

それが失敗だった。

何しろこの少年、よく動く。

そして何よりも、よく転ぶ。

結果、やたらと泣く。

今思えば別人としか思えないのだが…当時シンジ君はよく泣く子だった。

泣きやまそうにも私がそんな方法を知る訳が無い。

そこで私が取った方法が、目の前にあったコンビニに走る事だった。

適当に商品を取って買うと、急いでシンジ君のところに戻る。

何でガンダムキャンディーなんてフィギュア付きの訳の分からない商品を何故買ったのかは覚えていないが、恐らくおもちゃでも与えておけば動き回る事も無くなるだろうと当時の私は考えたんだと思う。

そして箱を開けると、付いていた飴玉をシンジ君の口へ放り込む。

シンジ君は急に訪れた甘い刺激に驚いたのか、すぐに泣き止んだ。

直前まで痛くて泣いていた事も忘れてしまったのか、その目は既に私が持っているフィギュアに移っている。

改めて見てみると、シャアザクだった。

個人的にはジムが良かった。

まあいい。

そして、何故そんな流れになったのかは全く覚えていないのだが、確かこんな話をしたと思う。

「ヒーローってのはね、絶対泣かないし、諦めないし、強いの」

「ぼく、けんかよわいよ?」

確かにシンジ君は顔立ちからして中性的で優しそうだし、体も大きな方ではない。

でも私が言っているのはそんな事じゃなかった。

「強いってのは喧嘩とかじゃなくてね、心が強いのよ」

「こころ?」

「ええ、何をされても、例え喧嘩で負けちゃっても、心が折れないって言うのかな」

「…むずかしい」

さすがに三歳児にするには難しすぎる話だったかもしれない。

私も母の事は言えないようだ。

「まあ、そんなに泣き虫じゃヒーローになんてなれないわね、何があっても、いつもどかーんと笑ってる位じゃなきゃ」

とりあえずそう言って、私は手に持っていたフィギュアをシンジ君の目の前に掲げて見せた。

そして苦手な笑顔を浮かべて言う。

「泣き止んだら、これあげるわよ?」

シンジ君は向日葵の様な笑顔で笑って言った。

「じゃあなかない!」








「と言うような事を言った気が…」

確かこんな事があった気がする…

よく考えてみればあの時餌付けした私が、今では餌付けされているというのは不思議な話である。

しかし、あの時シンジ君は三歳、会ったと言っても確か2~3回だ。

よく覚えている…

まああの泣き虫がよく直ったものだ。

私が暫し過去の感傷に浸っていると、ミサトが微妙な表情を浮かべて口を開いた。

「えっと…ちょっと待って…」

「何よ?」

何故かミサトだけでなく、マヤまでもが微妙な表情で私を見ている。

「気付いてる?」

「何を?」

何の話だろうか。

暫く考えたが、全く分からない。

私が先を促すと、ミサトはとても言い辛そうに言った。





「リツコ、あんたのその一言…シンジ君が今の性格になるにあたってかなり影響与えてるんじゃないの?」





は?






「そんな訳無いじゃない」

三歳の子供にその場の思いつきで適当に言った言葉にそんな効力がある筈が…

いや、待て。

そういえばあの頃のシンジ君はアニメやヒーロー等にはそれほど興味を示さなかった気が…

あ、あれ?

「先輩」

そしてマヤがとどめの一言を言う。

「私もそう思います…」

え?私の所為?

別に悪い性格じゃないのだからいいと思うのだが…

しかし、ネルフ内でシンジ君が【歩く天災児】と呼ばれているのも事実である。

この前も開発部から、ドリルを強要されているので助けて下さいとSOSが来たばかりである。

それにしても疑問が残る。

「おかしいわね」

「何よ」

シンジ君の一番の被害者であるミサトがジト目で聞いてくる。

いや、だっておかしいだろう。









「私のあの一言で、どうやったらあそこまで極まった性格になるのかしら…」

「「確かに!」」



絶対おかしいだろう、成長過程。






















その日の夕食後。

「じゃあ僕がファミリア!って言ったら…」

シンジ君はニトロとマクロの相手をしているようだ。

その姿を見ながら考える。

華奢な子だったが、大きくなったものだ。

まあ今でも華奢ではあるのだが、一応男の体になってきている。

あの頃はまさかこうして一緒に暮らす事になるだなんて考えてもいなかった。

しかも子供嫌いな私がだ。

あれほど仕事人間だった私が、最近では残業中に(早く帰りたい…)と考えるようになってきているのも事実である。

そしてそれは家に猫がいるからというのが理由ではない。

そんな事を考えていたら、いても立ってもいられなくなった。

過去に会っていた事を何故言わなかったのか?

何か理由があるのだろうし、聞くまいと思っていたのだが…

「シンジ君」

「何ですか~?」

二匹とじゃれ付きながらシンジ君がこちらを向く。

その顔を見たら急に言葉が出てこなくなり…

「シャアザク、まだ持ってるの?」

私にはこの位が限界だった。

シンジ君は無言で私を見つめてきた。

暫し時が過ぎる。

そしてシンジ君はまた猫の方に顔を向けると、背中越しにこう応えた。

「持ってます、宝物です」

「そう…」

「はい」

少し、シンジ君の耳が赤くなっているのが分かった。

何となくだが、嬉しかった。





夜が更けていく。

明日、サルベージが行われる。

ユイさんが帰ってくるかもしれない。

シンジ君はその事に関しては何も言わないが…

ユイさんが帰ってきたらシンジ君は一体どこに住むんだろうか。



その事を考えると少しだけ憂鬱になるのは何故だろう?


































あとがき

今回はギャグ少な目です。

何かシリアスムードでサーセン/(^o^)\

さて、3-2であの人が帰ってきます。

アノヒトッテダレナンデショウネー(棒読み

次から更新時、修正の時は(更新無し)って書く事にしますた。

エヴァの新台が面白すぎる件について。

集結の園・・・いいよね。

*華麗に誤字訂正(キリッ



[5245] ハハキタク、スグカエレ 2
Name: ユスケ◆f1c78a6f ID:85176eb0
Date: 2009/04/20 19:10
麦藁帽にジーンズ、赤のロンTに白のポロシャツと完全にサルベージ専用服に着替えた僕は、上の計測室に向けて声を掛けた。

「んじゃ、さるべーじいきまーす」

僕の軽やかな美声でサルベージ実験はスタート、あ、はい、全然普通の声でしたね、ごめんなさい。

「サルベージ実験、開始します」

マヤさんのアナウンスが流れる中、僕は徐に剥き出しにされたコアへと手を伸ばす。

触れた瞬間、エレクトラと母さんの意識が流れ込んできて僕を誘導し始めた。

そのまま手をズブズブとコアの中へと突っ込んで行く。

その瞬間計測室でその光景を眺めていた一同がどよめいた。

まあこんな硬そうな物にずぶずぶ手突っ込んでたらそりゃ驚くよね。

一同の中にはもちろん父さんや冬月先生も含まれていて、きっと母さんが本当に帰ってくるのかってどきどきしている事だろう。

でも母さん父さんにかなり怒り心頭みたいだから、会わない方がいいと思うけどなぁ…

そして計測室ではマヤたんとミサトさんによるこんな会話も繰り広げられていたりした。

「何…あの服装…」

「分かりません…映画化するし、必要なものって言われたから用意したんですけど…」

「え!あれ経費なの!?」

はい、経費です。

肩まで手を突っ込んだ所で、エレクトラが声を上げる。

「これかな?え?違うの?もっと手前?」

言われた通りに探っていくと、何かに手がぶつかったのでそれを掴んで引っ張り出す。

「そいやっ!…何だ、違うじゃん」

長靴だった、外れ。

上でミサトさんが疑問の声を上げる。

「長靴…何で?」

それに対してリツコさんは眉を顰めてこう言った。

「これも不法投棄に入るのかしら」

「え?いや、ちょ…そう言う問題…何でもないわ…」

何かを諦めて口を噤むミサトさん。

ポイ捨てとかエコじゃないよね。

そのまま1分ほど言われた通りに探っていたら、僕の手が柔らかい何かを掴んだ。

「おぉ!?」

エレクトラの声の色が変わる。

これは…

「フィーッシュ!」

大当たりだ!

僕の一言に上がざわめく。

「かかったの!?」

「こいつは大物だぜ!」

リツコさんまで興奮して声を上げる中、ミサトさんだけは反応が違った。

「…釣り?」

やだな、サルベージですよ。

出来る限りの力で母さんを引っ張り上げる。

でもなんか凄く重い。

「おがぁっ!おっ…重い、でもジェントルな僕はあえてここで軽いと言っておく!」

僕肉体派じゃないからこういう重労働はちょっと…

そんな事を考えてたら、とうとうコアから母さんの手が出てきた。

正直もう放り出したい位疲れてたんだけど、これで顔が出た時に全然知らないおっさんとかだったら面白いよねって考えたら何だか和んだのでもうちょっと頑張る事にした。

やがて肘が出て、茶色がかった黒髪が見えて…

とうとう顔が出てきた。

間違いない、母さんだ。

「アパーム!網持ってこーい!」

「釣り?」

サルベージです。

ふと振り返れば、上の計測室に父さんや冬月先生の姿はなかった。

こっちへ走ってきてるんだろう。

僕は最後の力を振り絞って母さんを引っ張り上げる。

そして、とうとうコアの中から母さんを引っ張り出す事に成功した。

母さんは意識がないみたいだけど、ちゃんと息はしてるみたいだ。

思わずガッツポーズと共に声を上げる。

「デカルチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

計測室からも歓声が聞こえた。

そして、実験室の入り口からも。

「ユイ!」

よかったじゃん、父さん。






















第三話 ハハキタク、スグカエレ その2



















Side-リツコ



実験室に降りると、そこでは医療班がユイさんの状態を確認しており、司令と副司令はそれを黙って見ている。

周囲を見渡すと、私が心配していた当の本人は少し離れた所で暢気に床に体育座りをし、光景を眺めながらジュースを飲んでいた。

何となく傍によると、彼がこう呟く。

「160センチってとこか…大物だな」

「大物って、シンジ君…もっと何か無いの?」

10年ぶりに会う自分の母親なのだ。

いくらこの少年でも少し位ナーバスになるかもしれない、そう思っていたのだが余計な心配だったらしい。

そもそもあんなサルベージ方法…

前日に、どうやってサルベージするのかと聞いて「引っこ抜きます、手で」と言われた時は卒倒しそうになったのだが…

こちらの心境を他所に、シンジ君は暢気に言う。

「魚拓でも取りますか?女拓?」

「そういうプレイも有るらしいわね…と言うか自分の母親でしょう?感動とか無いのかしら?」

「特に無いですね、元々嫌いじゃないけど好きでもないって言うか…」

そしてシンジ君はぽりぽりと頭を掻くと、彼の人生を表しているかのような言葉を言った。



「居なかった人ってこんなもんですよ」



そう言ってシンジ君はハハハと笑っていた。

何故だか知らないが、この言葉を私は生涯忘れる事が出来なかった。









ユイさんが病室に移動して、暫くして目を覚ました。

それを聞いた私は、普通に帰宅しようとしていたシンジ君を捕まえると病室へ連行した。

シンジ君は「明日で良くないですか?」と本当に不思議そうな顔をしていたが、それはさすがにダメだ。

これを本気で言っているのだから笑える。

この少年は自分がどれだけ不幸なのか1ミリどころか1フェムトたりとも理解していないのだ。

病室に着くと、一足先に連絡をくれたマヤとミサトが待っていた。

ドアを開けると、シンジ君を放り込む。

そして、部屋を出…いや、この子は何を言い出すか分からない。

という訳で、折角の親子の対面に水を挿すようでアレだが、同席する事にした。

気になるのか、ちゃっかりマヤも同席していたりする。

ドタバタと入室した三人にポカンとしていたユイさんだったが、やがてシンジ君を見ると柔らかな笑顔を浮かべて言った。

「シンジ?」

その笑顔を見た瞬間、やはりシンジ君はユイさん似なのだと確信した。

父方に似なくて良かったわね…ゴホン。

そして、10年ぶりの親子対面で感動的な場面が生まれるものと一瞬だけ期待したのだが、シンジ君は格が違った。

「お久し振り~いぇ~い」

そう言ってシンジ君はユイさんに手を伸ばす。

イェーイはねえよ…

しかし、ユイさんは更に斜め上をいった。

「いぇ~い、ほんと久しぶりね~大きくなって…」

パチッといつ音が鳴り響いて、100点満点をあげてもいいハイタッチが完成する。

ただしそれは10年ぶりの再会という状況でなければの話だ。

全く状況についていけない…

マヤとミサトを見ると、既に悟りを開いたような顔でこの光景を眺めていた。

そう言えばこの二人はシンジ君の被害者ランキングぶっちぎりの一位二位なんだった…

私とは経験値が違う…

「そりゃそうだよ、母さんがエヴァに入ってからもう十年以上経ってるんだから、僕がクマだったら下手したら3メートルクラスだよ、大物だね!魚拓は取らないでね!」

「熊も魚拓っていうのかしらねえ?」

心底不思議そうな顔のユイさん。

…何だ?この会話。

この後もカオスな親子会話は続いた。

勉強とか頑張ってる?と聞けば、富国強兵をモットーに頑張ってる、と答え。

エヴァの中ってどうなの?と聞けば、岩盤浴かしら~?と答える。

私が想像していた修羅場なんて全く無かった。

と言うよりも、やはり母親が居なかったという事実を本人が全く問題としていないのだからそうなる筈も無いのだ。

少しイライラした。

そして話は続き、やがて面会時間の終わりが近づいてきた事に気付いた私はシンジ君に声を掛けた。

「時間もあるし、そろそろ帰りましょうか?」

「あ、はーい、じゃあね母さん」

シンジ君は席を立つと、荷物を纏めてそのまま帰ろうとする。

その時だった。

「あっ、シンちゃん…」

「ん?何?」

ユイさんが、その一言を発した。



「良かったら…一緒に暮らさない?」



心臓が止まるかと思った。

シンジ君のは何と答えるのだろうか。

本人の顔を見ようにも体が硬直して動かない。

しまった。

自覚してしまった。

まだ一月も経っていないのに、ここまで仮初めの家族という枠組みに私は囚われてしまっていたのだ。

視界がグルグルと回る。

何も考えられない。

過ぎ去る時間はまるで無限のようだった。

そして、唐突にシンジ君が口を開く。











「やだ」











硬直が解けた。

振り向いてシンジ君の顔を見ると、さも当然という感じの顔をしていた。

「大体今僕リツコさんちの子だし」

ったく…

思わず軽口が飛び出す。

「あら、私は構わないけど?」

「酷い…」

「ウソよ、ウソ」

嘘に決まっている。

こんな優良物件、まだまだ家に居てもらわないと困るのだ。

気分が良かった。

しかし。

少し残念そうな顔をしているユイさんを見て。

私が抱いていた苛立ちは限度を超えた。

「シンジ君…先に行っておいて?」

そう言ってシンジ君に車のキーを放り投げる。

シンジ君は暫し疑問符を浮かべて私を見ていたが、やがて荷物を掴むと言った。

「んじゃ車回しときま~す」

シンジ君が病室を出て行く。

その光景を黙って見ていたミサトがマヤに呟いた。

「ねえ、マヤちゃん…今の発言に何で誰もつっこまないのかしら?」

「え?葛城さんの仕事じゃなかったんですか?」

「…ネルフ辞めようかな」

少し同情した。

ユイさんが溜息混じりに口を開く。

「私シンジに嫌われてるのかしら…やっぱりそうよね、十年以上経ってるんだから…」

「そんな事はないと思いますが」

「本当に?」

「シンジ君は…そもそも誰かを嫌いになる事すら一生ないと思いますわ、自分を捨てた父親ですら凄く分かり易い悪役面で好きって言ってましたから」

確かにそう言っていた。

シンジがゲンドウにプレゼントを作る為に、整備班に頭を下げに行ったという事をリツコは知っている。

そのプレゼントの題名が『失敗した者には死を』だった事から、詳しい事を聞くのは止めておいたが。

整備班の部屋の中から落とし穴について熱弁するシンジの声が聞こえた事は忘れられない。

どうやら未だに父親の職業を少し勘違いしているようだ。

「捨てた?」

そうか、その辺りの事情はこの人は知らないんだった。

「その辺りは後でマヤに聞いて下さい」

そしてシンジ君がわざわざユイさんに言う訳もない。

「ただ…」

今までの会話で理解した事がある。

「どうでもいいとは思っているかもしれませんが」

シンジ君は母親が消えた事、父親に捨てられた事を気にしていないのではない。

彼の中では、全ては【過ぎた事】なのだ。

彼はヒーローやアニメに憧れを抱く少年ではない。

徹底的なリアリストという側面を持っている。

父が居ない、母が居ない。

だが盤面から零れ落ちた駒に悲しみを抱いていても生きてはいけない。

彼の中では持ち駒による戦闘スタイルが確立されている。

例え過去の駒が急に戻ってきたとしても、彼の10年間で確立された戦術にそう簡単に割り入ることは出来ないのだ。

「嫌い以下ね…それって」

またユイさんが悲しそうな顔を浮かべる。

苛立ちがつのる。

この人は分かっているのだろうか?



自分にそんな顔をする権利が無い事を。



いや、待て、落ち着け赤木リツコ。

この人だってエヴァの被害者なのだ。

10年間という空白の意味を突然理解できるわけが無い。

分かっている。

私はあまり自分に愛情を注いでくれなかった母と、今のシンジ君の状況を勝手に重ねているだけだ。

本人が望まないのに怒っている、完全なお節介。

分かっている。

でも。



「シンジ君が全く気にしていませんし、私も言える立場じゃないんですが…」



それでも。



「ちょっと、リツコ…」



空気を察したのか、ミサトが眉間に皺を寄せて口を挟む。



だが、止まらない。



女の口というものは、理性だけでは動いてくれないのだ。







「事情がどうであれ、十年放ったらかしにしておいて今更母親面なんて、反吐が出るわ」







言ってしまった。

ユイさんは呆気にとられたような顔をしている。

そんな事は考えもしなかったのだろう。

ミサトは手で顔を覆って「言っちゃった…」とでも言わんばかりの表情だ。

マヤは私と似たような事を考えていたのかもしれない、少しスッキリしたような顔をしていた。

それにしても、少し感情的になり過ぎた。

「言い過ぎました」

でも、絶対に謝らない。

ユイさんは悪くない。

でも私は納得する事は出来なかった。

病室を出て、思わず壁に背を預ける。

後から出てきたミサトが、溜息をつきながら私の肩を叩いて口を開く。

「ばーか」

少し笑った。

ミサトも少し笑って、背中越しに手を振りながら歩いていく。

病室の中から聞こえるマヤの声を聞きながら、私は無性にタバコが吸いたくなった。

あぁ…

今日はもう、仕事はいい。

早く家に帰ろう。


























Side-冬月




とうとう…

とうとう来てしまった…

あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

入りたくねええええええええええええええええええええええええ!

目の前にはユイ君の病室のドアがあり、ノブに手をかけたゲンドウが深呼吸をしている。

おい、ゲンドウ。

お前…本当に分かっているのか?

確かにユイ君が帰ってきた事はめでたい。

おめでとう、私も嬉しいよ。

しかしな。

浮気の事は何故か知っているみたいだし、お前のシンジ君に対する仕打ちまでバレたらどうなるか分かっているのか?

あぁ、そうだ。

ユイ君の事だ、外に出たがるだろう。

戸籍も偽造しなければならないし、ユイ君の為に出来る事は沢山あるじゃないか。

そうだ、私は忙しい。

せめてそういった所でポイントを稼いでから面会を…

「よし」

そう言ってゲンドウがドアを開ける。

ちょ、ま…おい、まだ心の準備が…

人の気配に気付いたユイ君がこちらを向く。

変わっていない。

10年の時を閉ざされていた彼女の肉体は、あの頃のまま老化していない。

相変わらずの美人だ。

「ユイ…」

感極まったのか、ゲンドウが涙声で彼女を呼ぶ。

ユイ君は暫し呆然とゲンドウを見つめていたが、自分の夫だと気付いたらしい。

「あら」

仕方ない、こちらは10年の時を経て老化してしまっているのだから。

そして彼女は天使のような笑顔で微笑み、夫の名を…







「六分儀さんじゃありませんか」







呼ん…あれ?

六…分儀?

冷静に見てみると。

天使のような笑顔は、美しすぎて恐ろしささえ感じた。

「え…ちょ…」

狼狽したゲンドウが挙動不審になる。

それでもユイ君は微笑を絶やさずにゲンドウを見つめていた。

そしてゆっくりとベッドから立ち上がると、その笑顔を張り付かせたままゲンドウに近づいている。

私は驚愕した。

あ…ありのまま今起こった事を話そう。

『私は彼女の前で病室に入ったと思っていたら、いつの間にか出ていた』

な…何を言っているのか分からないと思うが、私も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものでは断じてない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わった…

私の後退に気付いたゲンドウがこちらを振り向き、必死の形相で声を掛ける。

「せ、先生っ!」

そのゲンドウの襟を、ユイ君の手が掴んだ。

私は自然とノブに手を掛け…

「この年になると…」

こちらに手を伸ばすゲンドウを尻目に。

「トイレが近くていかんな」

その扉を、閉めた。

私は静かに歩き出す。

さて、仕事だ。

頑張るかな。





「ふユツきいいぃィィいイいぃっイィぃぃイいいィぃいイ!」





幻聴だ。














翌日、朝礼が行われた。

朝礼と言っても簡単なものだ。

発令所の司令席に立つと、全員が見つめる中、私は口を開く。

「えー六分儀ゲンドウ司令は事故による大怪我により、一週間ほど入院する事になった」

時が止まった。

葛城君が唖然とした表情で呟く。

「は?六分儀?碇じゃなくて?」

「碇?シンジ君の事かね?」

「は?いえ、だから碇司令の…」

「司令は六分儀だろう、何を言っているのかね?」

何を言ってるんだ葛城君は?

ちょっと分からないな…

「あ、はい」

空気を察したのか、葛城君は悟りを開いたような顔で答える。

さて、今日も仕事を始めるとしようか。

仕事最高だな。
















Side-ゲンドウ






風が心地よい。

病室の窓から眺める景色。

ジオフロント内のものだが、なかなか良いものじゃないか。

そっと窓枠に手を掛けると、そのまま身を乗り出し、大空に体を…

「六分儀さん!やめてください!自殺なんてしても何も解決しませんよ!」

看護婦に阻まれた。

「違う!俺は碇ゲンドウだ!碇だぞおおおおおおおおおおおおおおお!」

やがて人が集まってきて、窓から引き剥がされると、そのままベッドに固定される。

「少し錯乱しているようですね、よっぽど恐ろしい目にあったんでしょう…」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!










「殺せよー!俺の事が嫌いなんだろー!神様よぉー!俺もお前が大っ嫌いだー!」













あとがき

ワーアノヒトッテユイノコトダッタノネー!

何かユイが不遇な扱いを受けてますが、全然アンチとかじゃないのでお気になさらず。

そしてこの更新ペース…

ユスケさん頑張ればできるんですね!

('A`)



[5245] ハハキタク、スグカエレ 3
Name: ユスケ◆f1c78a6f ID:85176eb0
Date: 2009/07/05 23:09
母さんが帰ってきてから一週間ほど経ったある日、見舞いに着た僕に母さんが突然こんな事を呟いた。

「シンちゃん」

「ん?何?」

「ごめんね」

突然の謝罪に驚いた僕が母さんの方を振り向くと、母さんは泣きそうな顔で俯き、シーツを握っていた。

そういえば最近母さんはよくこんな顔を浮かべていた気がする。

全然気にしてなかったけど。

「何が?」

「私…親なのに、全然考えてなかった…シンちゃんの気持ちとか」

「んー」

思わず唸ってしまった。

返すべき言葉が見つからない。

でも、とりあえず可哀想なので、僕はベッドに腰掛けると母さんの頭を撫でて言った。

「まあ過ぎた事グチグチ言っても仕方ないじゃん!」

何でこんな事しか言えないのかというと。

「父さんも母さんもいなかったけど、僕は大丈夫だったよ」

だって僕には、皆がなんでここまで色々と気にするのか分からない。

「親からすれば立場ねえよ!ってなるのかもしれないけどさ、でも本人が気にするなってんだから」

実は母さんが何で謝ってるのかもよく分からない。

「気にせず楽しくやるのがよいでしょう!」

皆過ぎた事なのにやたらと気にするよね。

先の事考えた方が楽しいと思うんだけどなぁ。

そんな事を思いながら母さんの顔を見たら、何だか遠いものを見るような表情を浮かべていた。

最近やたらとこんな感じでみられるなぁ…

そして母さんは寂しそうに笑って呟いた。

「シンちゃん…大人になっちゃったのねえ」

「そうかなあ?14歳ど真ん中だと思うけど」

やっぱり母親だからなのか。

さすがにそういう表情を見ると、なんだかなあって気持ちになった。

正直な所僕は誰がどうなってもそれに対して何かを思う事なんて無い。

リツコさんは大好きだけど、もしも突然「出て行きなさい」と家を追い出されたとしても僕は一言はいと言って家を出て、次の住処を探すだろう。

でもこの人は違う。

DNAに刻み込まれたものなのか。

どうも僕の琴線に触れる何かがあるんだ。

何時の間にか僕は口を開いていた。

「あ、母さん」

まあ、完全な同情からなのだけど。

「僕はね、今までの人生で誰かを恨んだり嫌ったりした事なんてない」

思ってもいない事を言ってみる。

「母さんも恨んでないよ」

恨んでるも何もあるものか。

無い物ねだりが無意味なように。

無い者を恨む事など出来はしない。

だが、母さんはどうやら僕の予想を超える人だったらしい。

「シンちゃん」

呟いた母さんの、その目を見た瞬間、ビクッっとした。

優しい目。

生まれて初めてこんな目で見られた。

何だか怖い。

そして母さんは溜息のような深呼吸のような、そんな吐息を吐き出して改めて口を開いた。

「私の事を母さんって呼ぶの、やめて」

「え?」

「多分だけど、シンちゃんから見たら今の私は【血が繋がってるらしい女の人】とかその程度でしょ?」

怖いね。

僕にとって母親っていうのは未知の生物なんだけど、全ての母親がこうなのか…それとも碇ユイという人間特有のステータスなのか…

何でそんな事を思うのかって、今まで生きてきた中で、此処まで的確に僕の考えを言い当てた人は初めてだったからだ。

思わず素で呟いていた。

「よく分かるね」

それを聞いて母さんはニコッと笑う。

「だから私の事を本当に母親だって思えるまで、母さんって呼ぶのはやめて」

そんな事を言われたって…

「ぶっちゃけさ、一生思わないかもよ」

本当の意味で貴女の事を母親だと思う日が、僕が誰かの事を心の底から信用するなんて日が来るとでも?

すると母さんはグッと拳を握って答えた。

「うん!」







「頑張るねっ!」







その時の母さんの生気に溢れた笑顔を見て。

何となく何だけど。

女の人ってのは強いなぁって、そう思った。

ちょっとかっこいいよね。





そして、また考えなきゃいけない事が増えてしまった。





「ユイたんだと被るしなぁ…ぽん?」

「…え?」





初めて未知の生物に出会った、そんな昼下がり。






















第三話 ハハキタク、スグカエレ その3















「んん~」

ユイぽん(仮)が悩んでいる。

ミサトさんの顔を超至近距離でまじまじと見つめながら、悩んでいる。

対するミサトさんとそれに着いて来たマヤさんは悟りを開いたような表情で…なんか最近この表情よく見るな…

よし、この表情を今日から悟り顔と命名する。

ともかく悟り顔で虚空を見つめていた。

まぁそりゃそうだろう、珍しく仕事をしに来たのに、仕事相手と開幕で行ったやりとりが。

「あ!なんか見た事ある!」

「あ、お久しぶりですユイさん、私かt「ちょっと待ったァー!」

という訳で名前当てゲーム。

既に10分経過。

さすがにユイぽんも諦めたのか、ミサトさんに一本指を突きつけると悔しそうにこう言った。

「第1ひんと!」

「え…じゃあ…南極?」

完全にミサトさんはお疲れムードだ。

全く、変人の相手ばっかり、ミサトさんも大変ですね。

そして、南極という単語を聞いたユイぽんはハッと目を見開いて叫ぶ。



「みさにゃん!」



「「「は?」」」



思わず僕もミサトさんもマヤさんも、大口を空けて呆けてしまった。

…みさにゃん?

え?

みさにゃん?

冗談だろ?

やっと意味を理解して当の本人に目を向けると、みさにゃんは床に崩れ落ちていた。

「そう言えばそんな呼び名だった…」

へぇ…










葛城ミサト。

幼少期のあだ名。

みさにゃん。










クスッ。

「笑うなぁー!」

涙目の29歳に殴られました。

そんな中でもユイぽんはマイペースで、懐かしそうに口を開く。

まぁ、気分は浦島太郎だろうしね。

「みさにゃんももう私より年上なのねえ」

よーし、僕も真似してみよう。

「みさにゃんももうすぐ三十路だしねぇ」

「にこ」

笑顔の29歳に銃を向けられました。

「マジすいませんでした」

パワハラってレベルじゃねえぞksg。

でも考えるより先に土下座することが出来る僕は正直格好良いと思う。

格好悪い?

そう思った君はまだ坊やなのさ…

そんなやり取りの中、凄く投げやりな感じでマヤさんが呟く。

「あだ名のセンスが…親子ですよね」

「…そう?」

苦笑いを浮かべるミサトさん。

そうだよ。

僕はみさにゃんなんて謎過ぎるあだ名を付けたりはしない!

でもマヤさんは確信を持った表情で断言した。

「いえ、確実です」

「何で?」

そしてミサトさんが聞き返したその瞬間、ユイぽんが口を開く。

「あ、私の新しい戸籍ってどうなったのかしら?マヤたん何か聞いてる?」

「…ほらね」

アッー。













SIDE-リツコ



何事にも揺らいだ事がないであろう少年。

その彼をしても。

血の繋がり、母と子の繋がりだけは断ち切る事が出来ない。

それが私は、悔しい。

母親の車椅子を押してきたシンジ君を見て、私はそう思った。

確かに見舞いに行くよう言ったのはこの私だ。

だがしかしだ。

何だろう。

うーん…

結局もやもやと考えていたまま、実験は始まった。

今回の実験はエヴァンゲリオン初号機とシンジ君によるシンクロ実験である。

なぜ安定してシンクロ率400%を誇る彼に対して特別実験を行うのかと言えば理由は簡単だ。

本来エヴァとチルドレンをA10神経で繋ぐ役となる碇ユイ。

彼女をエヴァからサルベージしてしまったからである。

サルベージ前から碇ユイのサルベージによるシンクロの不能は指摘されていたが、それでもそれを決行したのはシンジ君のこの一言があったからだ。

「エレクトラがよゆーよゆーってさー」

私達にはエレクトラの声は聞こえない。

と言うより、シンジ君にも聞こえていない。

彼が感じ取っているのは言うなれば私達には想像も出来ない程高レベルのアイコンタクトのようなもので、厳密な語感までが伝わるわけではないのだ。

つまり彼女の言葉を彼が感じ取り、それを私達に向けて翻訳する。

そう、彼の言葉で、だ。

だからなのだが。

どうも信頼度に欠ける…

本来ならば、今日この場所でレイの零号機起動実験が行われるはずだった。

起動実験を先送りにしてまでこの特別実験を行ったのは、やはり初号機とシンジ君の組み合わせによる戦闘能力が圧倒的だからである。

データを確認するまでもなく、現在世界でエヴァを起動できる人間、ドイツのセカンドチルドレンとは比べ物にならない程の能力を彼らは持っているのだ。

起動できるか分からない零号機よりも…と言う訳である。

尚、この実験は極秘実験だ。

何故ならば碇ユイをサルベージした、という記録すらNERVには存在しないからである。

だからこの実験に参加しているのは副司令・私・マヤ・ミサト・シンジ君・ユイさん。

その他に信頼が置ける作業員が数名。

それだけである。

本来ならユイさんも参加出来ない、と言うよりもまだ新しい戸籍も出来ていないこの状況で外に出すのは危険過ぎたのだが、それでもここにいるのはエヴァの中にいた彼女なりの責任なのか。

簡単に言えばトップ二人が逆らえなかっただけなのだが…

まあそれはともかく、実験の準備は着々と進んでいった。

シンジ君はテストプラグに乗り込み、ユイさんや私達は観測室でそれを見守る。

正直な話。

…本当に起動するのだろうか。

そんな不安の中、特別起動実験は始まった。

いつも通りのシークエンスが進み、次々とシンクロまでの手順が完了していく。

「シンクロスタート」

そして、マヤの合図でシンクロが始まった。

始まった瞬間、モニターに映るシンジ君の眉間が一瞬歪む。

おいおい…

まさかね。

その場にいた全員の視線がシンクログラフに移る。

そして次の瞬間。

シンクロ率は0から跳ね上がり…

100%のラインを超えた。

観測室にいたメンバーが歓声を上げる。

思わず私も溜息を吐いた。

あんな表情をするから何かと思えば、きちんと出来ているじゃないか。

シンジ君がシンクロ出来ず、\使徒戦詰んだ!/となったらどうしようと事情を知る誰もがそう思っていただけに、皆の安堵は大きい。

それなのに当の本人は未だテストプラグの中で首を傾げていた。

「あれ?変だなぁ」

一体何がおかしいと言うのだろうか。

「どうしたの?」

「いや、何て言うんだろ」

そしてまたシンジ君はう~んと首を傾げながら腕を組み、口を開いた。

「なんかこう、いつもと違うんですけど…」

対して、ユイさんが首を傾げながら答える。

「それはやっぱり私が居ないから、微妙に感覚も違うんじゃないかしら~?」

まあ十中八九そうだろう。

シンクロ率に影響が出なかったのは行幸、むしろ何も影響が出ないはずがないのである。

それが感覚の差異程度ならば儲けだとしか言いようがない。

そんな事を考えていたら、だ。

「あのー…」

マヤが申し訳なさそうに口を開いた。

全員の視線がマヤに集まる。

何やらとても言いづらそうに私を見て、ちょいちょいと手元のコンソールを指差した。

不思議に思いつつ、近づいてそれを眺める。

「シンクロ率…100%です…」

「え?凄いじゃないの、と言うよりもはやいつもの事よね」

400%なんて冷静に考えてみれば科学的におかしい数値なのだが、エヴァとの対話すら可能なこの少年の前に、私の今までの価値観や常識などとうに吹き飛んでしまっている。

周りの面子もうんうんと首を縦に振っている、碇司令でさえもだ。

唯一ユイさんだけが話には聞いていたものの、実際にその数値を目にすると驚くのか、あら~と声を洩らしながらコンソールを眺めていた。

しかし、それでもマヤは態度を変えずに口を開く。

「えっと…あの…」

「どうしたって言うのマヤ、400%だと何か悪い事でもあるの?」

「いや、だから」

そして、言いづらそうにまた呟く。







「四百じゃなくて、唯の百です…四分の一…」







…え?

改めてモニターを見る。

いや、どう見てもMAX・・・あ。

この予備実験室、シンクログラフは100%までの表示なんだった。



改めて皆集まってマヤの手元のコンソールモニタを見てみる。

あ…

100%…

「「「「「…」」」」」

全員が押し黙り、なんだか微妙な空気が場を支配する。

まあ100%でも異常な数値なのだが…でも今までが理論値だったし…

…オワタ?

そう思っていたら、どうやら他にもそう思っている人間はいたらしい。

どこからか悲鳴が上がる。

「もうだめだぁー!!!!!」

何だか、白髪の老人が叫んでいたような気がしたが気のせいだろう。

ユイさんが苦笑いを浮かべて呟く。

「これって…やっぱり私が出ちゃった所為かしら?…あ、あはは」

いや、正しくその通りだと思うのだが…

全員の視線が答えをものがたっていた。

「も、戻ったほうがいいの~?」

「あぁー!ユイさん泣かないで!」

マヤに慰められるユイさん。

うーん…正直な所ユイさんが戻るのが一番手っ取り早いと思うのだが…

シンジ君ならいつでもユイさんをサルベージ出来るのだろうし。

しかしまあ、折角出てきたというのにそれはあまりにも外道だろう。

司令も認めないだろうし。

そんな事を考えていたら、徐にシンジ君が呟いた。

「よし」

全員の視線が集まる。

そしてシンジ君はユイさんを指差し、にこりと笑ってこう言った。



「戻れば解決」



まさに外道。

「うぅ~」

もはやユイさんは涙目で唸る事しか出来ない。

「さあ!」

「追い詰めんな!」

ミサトがツッコミ気味に制止しているが、思うにこの二人も正直な所混乱気味のようだ。

まあ単純計算で戦力四分の一とも言えるわけだし、実戦に関わるこの二人からすれば堪らないのだろう。

とりあえずフォローしておく。

「大丈夫よ、100%でも十分チートだわ」

「お、俺TUEEEE出来ます?」

「ええ、通報されたらBANだけどね」

「オワタ!」

シンジ君が両手を振り上げると共に、\(^o^)/の顔文字が移った大量のウィンドウがプラグ内で乱舞する。

妙な小技を覚えたわね…



そして、次の瞬間。



乱舞するウィンドウ、マヤのコンソール、予備実験室のモニター、全てが真っ赤に染まった。



「え?」

思わず間抜けな言葉が口から洩れる。

赤く染まったモニター、そこに映っていた文字。

警報。

素早くミサトさんが発令所へと回線を繋ぐ。

「青葉君、この警報は何?」

そしてその声は、プラグ内の僕にでも簡単に聞き取れるほど、絶望的な言葉だった。

「パターン青出ました!使徒です!」







おーけーおーけー。

一言だけ言わせて。



「このタイミングでかよ!」












あとがき

あばばばばばばばばばばばばばばっばばばば!

MASAKAKONNNANIOKURERUNANNTE!

本当に申し訳ないです。

まあ卒論と発表の準備も一区切りついたのでまた更新はし直せるかと思います。

まったり急いで?がんばります。



[5245] ハハキタク、スグカエレ 4
Name: ユスケ◆f1c78a6f ID:85176eb0
Date: 2009/08/29 13:53
出撃準備は完了、いつでも出れる。

エントリープラグの中でふう、と一つ深呼吸をしてモニターを見つめれば、そこには新たな使徒の姿が映っている。

その姿はどう小難しく言っても巨大な八面体で、今までの奇抜で尚且つ生物的なフォルムとは全く違う、まあこれも奇抜と言えば奇抜なんだけど。

でもはっきり言ってでかいだけで凄く弱そうだ、そもそもアイツどうやって攻撃するんだよ、ワロス。

これは勝つる。

まあシンクロ率が100%まで落ち込んだ僕達には良い相手かもしれない。

とりあえず見たままの感想。

「なんて巨大なブルーウォーター…」

「言われてみれば…」

リツコさんもモニターを見ながら納得する。

…ん?

ハッ!?

とっさに冬月先生に向けて叫ぶ。

「冬月先生!塩の柱にされないようにね!」

危ない危ない、気付いた僕マジGJ。

すると冬月先生は爽やかに笑って言った。

「ハハハ、気をつけるよ」

うん、本当に気を付けた方が良い。

あの死に方は酷かったもんなあ…

そして冬月先生が、包帯グルグル巻きで何だかシュールな父さんに話し掛けるのが見えた。

「…どういう意味だ?」

「冬月」

「何だ?」

「…世の中には知らない方が良い事もある」

「そうか…」

ついでに言うと父さんは本来ならば入院しておかなければいけない所を、使徒襲来の為無理をして一時退院して来ている。

加害者の方は本来居てはいけない人なので関係者しか知らない病棟に戻ってもらっている

早く偽の戸籍作ってあげないと自由に出歩きもできないわけです。

て言うか父さん達焦ってて気付いてなかったのかもしれないけど。

母さんを表に出すために偽の戸籍を作ってあげなきゃーって、それはつまり母さんがサルベージされたのを知られたら困る人達がいるって事で。

それはつまり母さんがコアに入っていたって事を知っている人達だからNERVもしくはNERVの上の人達で。

いや、やめた。

僕バカだから分かんない。

ていうかこれ以上面倒臭い事に巻き込まれたくない。

目の前の使徒に集中集中!

色々と考えていたら出撃準備は整ったようで、いざ出撃。

エレクトラにそっと意識を向けると、なんだか違和感を感じた。

…なんだろ。

そわそわしてる?

僕がエレクトラに問いかけようとしたその瞬間、ミサトさんの声がプラグ内に響いた。

「シンジ君、準備はいい?」

「あ、おっけーおっけー!」

ま、いいや。

目の前の敵に集中集中っと。

そんなこんなで出撃でございます。

ミサトさんの合図でエヴァ初号機射出までのカウントが始まる。

そして射出の瞬間僕は叫んだ。

「僕、この戦いが終わったら…マヤさんと料理の練習するんだ…初号機、出ます!」

「何でわざわざ死亡フラグ立てていくのよ!」

即初号機が射出され、指令部にマヤさんの絶叫が響き渡る。

「内緒にするって言ったのにー!」

そう言って涙目になるマヤさんに、リツコさんが微妙な表情で問いかけた。

「料理?」

「教えてもらおうと思って…」

「えっと…頑張ってね…」

何か同情されてるし。

そういえば最近知らない職員の人にも料理の事で色々聞かれるな…何なんだろ。

そんな事を考えていたらだ。

涙目になっていたマヤさんが突如声を張り上げる。

「使徒内部に高エネルギー反応!」

え?

僕地上に出てもいないのに?

そして、エントリープラグ内に声が響く。









「「避けて!」」

「は?」





あれ。

今の声。

ミサトさんと…





もう一人誰だ?



でもそんな疑問は圧倒的なまでの熱量と衝撃の前に吹き飛んだ。

地上に出た瞬間網膜に焼き付いた光景は完全な純白。

そして訪れる熱量と衝撃。

使徒の攻撃だった。

超長距離からの砲撃。

はっきり言って、ひとたまりも無い。

「シンジ君!」

熱い!痛い!

「ッハァー!」

あまりの激痛に叫んでいた。

咄嗟にATフィールドを張ったけど、心の準備ゼロだったから一瞬で破られてしまった。

もう何て言うか、熱過ぎて痛過ぎて訳が分からない。

「マジで!?これ!ちょ!ハッハ!ありえね!」

でも、ただ一つだけ分かる事がある。

「戻して!爆砕ボルト!急ぐ!」

遠退く意識の中、エヴァが落ちていくのが分かった。

ミサトさんが咄嗟に表層都市から区画ごと切り離し、僕を回収したのだ。

初号機が回収されると同時に、エントリープラグが強制排出される。

そして救護班の手によって救出された僕に、リツコさんが呼びかけた。

「シンジ君!大丈夫!?シンジ君!」

あー。

こんな焦ってるリツコさん、初めて見たかも。

まあ大丈夫。

死にやしないって。

そして、呟く。

「…全然違う」

「何?どうしたの?」

「400も…100も…関係ないよ」

そうだ。

400%とか100%とか関係なかった。

きっと400%でも同じ目にあっていただろう。

それほどに…

「巨神兵とも、イカとも…違う」

今までの使徒達が。

「何が違うの?」

子供に見えるほどに。

「格」

今回の使徒は格が違った。

「すげームカついたよ」

くそっ。

「絶対、負けて…やんない…かんね…」





SIDE-ミサト





「シンジ君!?シンジ君!?」

リツコの呼び掛けに対し、シンジはぼそぼそと何かを呟いた後、意識を失った。

そして何故か呆れたような表情を浮かべるリツコに、私は問いかけた。

「何て言ったの?」

「エヴァがジャイアントロボタイプの乗り方じゃなくて良かった、だそうよ」

「あっそ…」

「まぁ、命に別状はないわね、シンジ君のATフィールドが強固で助かったわ」

それだけ言えるなら大丈夫だろう。

ATフィールド自体も一瞬で破られた訳だが、無意識なのか意識的なのか、その後も微弱なATフィールドの反応が検出されている。

しかし…

世界最高出力のATフィールドを持つシンジ君をもってしてもこの様である。

残ったのは起動実験すらできていない零号機と傷だらけの初号機、そして初黒星の世界最強パイロット。

頭が痛い。

レイは心配そうにシンジ君の横に立っていたが、やがて搬送されていくのを見届けると、そのままの表情でぼそっと呟いた。





「…茹で碇くん」

「レイ、笑えないわ」



…冗談よね?
















第三話 ハハキタク、スグカエレ その4
















薄暗い室内に映し出された使徒の映像を睨みながら、リツコが呟く。

「敵はおそらく、遠距離攻撃と防御だけに特化したタイプよ、その為に機動力、汎用性等は切り捨てたのね」

場所はNERV本部内にあるブリーフィングルーム。

淡々と説明を続けるリツコ以外は完全に口を閉ざしている。

まあ無理もない。

絶対的だと信じていたエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジが不意打ちとは言え敗れ去ったのだから。

それほど時間は経っていないが、NERV内はお通夜ムードである。

しかし、分かっている。

あの敗北は私の責任だ。

作戦部長である私、葛城ミサトの責任である。

と言うより、使徒戦での敗北は他にどんな原因があったとしても私の責任なのだ。

今回の敗因は一つ。

シンジ君を信用し過ぎた事だ。

別にシンジ君が信用できないと言っているわけではない。

信用し過ぎた為に、油断し、基本中の基本である事前の戦力調査が不十分だった。

使徒があれ程強力な遠距離兵器を所持しているという情報を持っていなかったのである。

自分の愚かさに声も出なかった。

もしかするとここまで雰囲気がお通夜気味なのは、私が空気を悪くしている所為もあるかもしれない…

「計算によると敵のATフィールドの強度では、現段階で用意出来る兵器での物理的な突破は無理よ」

リツコがそう言って私へと視線を向ける。

いい加減喋れと言いたいのだろう。

まだ考えも纏まっていないのだが…

「ATフィールドにはATフィールド…しかないか」

だが答えなんて一つしかなかった。

現段階で用意できる最大火力は戦自研の荷電粒子砲だが、その最大出力をもってしても使徒のATフィールドを貫けない事が分かっている。

つまりこうだ。

「敵の舞台は遠距離、そこで戦ってやる道理はないわね、近距離戦でいくわよ」

そう言った瞬間、ブリーフィングルームの扉がバァン!と音を立てて開き、彼が姿を現した。

「だが断る!」

全員の視線が入口に集まる。

そこにいたのはユイさんに付き添われたシンジ君だった。

病院から連絡が来ていない事を考えると、起きて即こちらに来たようだ。

しかし、それにしても…

シンジ君が来ただけで場の空気が軽くなったのを感じる。

私の心もだ。

先ほどの戦闘に関して謝りたい事は山ほどあるが、それは後回しにして声をかける。

「シンジ君、もう大丈夫なの?」

「ふんどしがなければ死んでいた…」

こいつ一度殺してやろうか。

「危うく茹で死とか言う新しいジャンル作るとこだったよ!」

開拓出来なかった事を非常に遺憾に思う。

それはともかく、時間はない。

レイの隣の席についたシンジ君に問いかける。

「シンジ君、断る理由が聞きたいんだけど」

すると、シンジ君は100点満点をあげていい位のサムズアップを決めながらこう言った。

「あ、一度言ってみたかっただけなんだよね、続けて」

「ミサト、銃はダメ」

葛城ミサトの人生の中で最速で抜いた拳銃を、リツコは冷静に制してみせた。






「シンジ君、敵のATフィールドの強度はこれまでの使徒とは比べ物にならないわ」

「接近戦の使徒ばっかりだと思ってたら、今度は遠距離ですか…しかもATフィールドも段違い、無理じゃね?」

そう、最大の問題はあのATフィールドにある。

「そうね…エヴァの本領は近距離戦中距離戦にあるから、ある意味相性は最悪だわ」

近距離戦に持ち込んだところで、問題はシンジ君が使徒のATフィールドを中和できるのか、それに尽きるのである。

モニターに移る使徒の様子を見ていると、要塞なんて言葉が浮かんでくる。

それ程に今回の使徒は手強い。

しかし、これ程まで今迄とは違う一極型の使徒とは…

思わず呟いていた。

「近距離で勝てなかったから次は遠距離なんて、嫌な性格してるわねえ」

その時だ。

「「「え?」」」

私の言葉に反応したのはシンジ君、ユイさん、そしてリツコだった。

三人とも驚いたような表情でこちらを見ている。

「な、何よ?」

何となく距離を取っていたら、ユイさんが口を開く。

「ミサにゃん、今のもっかい良い?」

と言うかこの人普通にここにいて良いのだろうか…

とりあえず、もう一度繰り返す。

「え、近距離で勝てなかったから次は遠距離で来るなんて…性格悪いって…」

この言葉のどこにそんなに反応する点が…

聞いたまま押し黙ってしまったユイさんに、リツコが声を掛ける。

「ユイさん、まだ仮説よ」

「まあ考えとしてはぶっ飛んでるよね、ていうかそうだとしてもでっていう!」

「でもその仮説が当たっているとしたら…」

そのままシンジ君、ユイさん、リツコの三人でブツブツと何かを話し合い始める。

完全に置いてきぼりを食らった他の職員達と私を尻目に、三人だけの会議は進んでいく。

ふと脇を見れば、恐らくシンジ君に借りたのか、レイがよく分からない漫画を読み始めていた。

それをちらちらとマヤちゃんが盗み見ている。

そしてそのまま五分ほど経過し、ブリーフィングルームが帰りの会前の教室の様相を呈してきたところで、私は三人に声をかけた。

「えっと…何の話?」

私の問いかけに、リツコがうーんと唸りながら答える。

「いい?貴方言ったわよね?近距離で勝てなかったから次は遠距離って」

「ええ」

「確かに変なのよ、第三使徒、第四使徒と来て、第五使徒のこの形状と戦闘法、生物は独自の進化を遂げるものだけど、これ程の差別化を行う理由がある筈がないわ」

使徒に限ってはそこまで違和感のある話ではないと思うのだが…

確かに考えてみれば今回の使徒は今までの二体とは全く戦闘スタイルが違う。

「つまり、この使徒が誕生する上で、この形状になる為の何らかの介入があったという可能性は高い」

…介入?

「えっと…結論は?」

ちょっと良く意味が分からない。

すかさずシンジ君が横から口を挟む。

「使徒はどーやってんのか知らないけど、見た事とか共有してんじゃね?って事ですよ、僕達は使徒をそれぞれ別々の生き物だと思っていたけど、ここまでぽんぽん全くの別物で来るとなるともしかしたらそれぞれに関係があるのかも」

「…つまり?」

なんだかシンジ君の雑な説明が妙に分かりやすいのが逆に腹立たしい。

「もし知識の共有が行われているとしたら、第五使徒のこの形状も納得できるわ、第三使徒はビームは持っていたものの完全な近距離戦タイプ、第四使徒は身体能力で劣ると見て高速の鞭を備えた中距離戦タイプ、そして貴方が言った通り、近中距離で駄目だったから遠距離で来たのよ、推測ではね、よく考えてみれば目的が同じなのだから何らかの共有部分を持っていても不思議ではないのよね」

そして、ユイさんが呟く。

「しかも、シンクロ率400%のエヴァに対抗する為に」

「え…それって…」

それはつまり…

使徒はこちらに勝つ為に戦略を練って来ているという事か?

それも…





シンジ君の、シンクロ率400%のエヴァンゲリオンに勝つ為の戦略を…





それを迎え撃つのは、シンクロ率100%のエヴァンゲリオン。

あるぇ。

ブリーフィングルーム内にいる人間の内何名が今の説明で理解できたのかは分からないが、少なくとも理解できた人間は謙虚に行動に出ていた。

特にマヤちゃん。

「一度くらい彼氏とか作ってみたかった…うぅ…」

「いや、まだ負けてないから…」

そう言って崩れ落ちたマヤちゃんの肩を叩くが、どうやら精神が閉鎖モードに移行したようだ。

そんな空気の中、シンジ君がゴホンと咳払いをする。

「まあ、あくまで仮説だけど、もしこれが当たっているとしたら…簡単に言うとこうです」

ブリーフィングルーム内の視線が集まる。

そしてシンジ君はこう言ってのけた。

「あっちだけドラゴンボールの法則!」

「ぬあんてインチキ!」

「微妙に例えが違う気がするけど…」

そう言ったリツコを筆頭に、私以外の全員が微妙な表情をしていた。

あれ…分かりやすかったの私だけ…?



まあそうこう言ったところで私達は戦うしかないわけで。

そのまま作戦会議は続き、最後に私は言った。

「今回の使徒は完全な遠距離タイプ、デューク東郷とスナイプ対決しようなんて馬鹿げてるわ。作戦はさっきも言った通りの至ってシンプル、敵の不得意とは言わなくとも得意ではない分野」

一瞬深呼吸をして周りを見渡す。

最後に、シンジ君に目を向け告げる。

「正面突破、近距離戦で行くわよ」

「いえっさー」

ウインク混じりに、彼はそう言ってみせた。




NERV内がリベンジマッチへと動き出し、準備が進む中、私は格納庫でエヴァを見上げるシンジ君に語りかけた。

「シンジ君」

「んにゃ?」

「ごめんなさい」

突然の謝罪に彼は首を傾げてみせる。

「何が?」

「使徒の情報が不十分だった、私の所為で怪我を…」

いくら作戦部長で、全責任が私にあると言っても、実際に戦うのは私ではない。

一番の危険を背負って戦うのは、シンジ君やレイ、子ども達なのだ。

荷が重すぎる。

そう言った意味も込めて謝罪をした。

私のような立場の人間がそう簡単に頭を下げてはいけないのかもしれないが…

私が悪かった、そう謝った。

それに対し、シンジ君は満面の笑みでこう言った。

「うん!」

いや、うんって…

まさかここまで直球で肯定されるとは思っていなかったので、思わず顔を上げて彼を見ると、彼は笑顔のまま続けて言った。

「次は絶対あいつぶっ飛ばそうね!」

そして整備班の職員達に声を掛け、掛けられながらエヴァに乗り込んでいく。

ったくこの子は…

さてと。

仕事に戻りますか。

























あとがき

相対的に使徒の方が強くなる、そういう意味でのスパシンじゃない話。

のつもりでしたけど100%もあるならやっぱスパシンか…と思い始めた今日この頃。

修正:そういえば歌詞ダメでしたね、修正。

誤字訂正



[5245] ハハキタク、スグカエレ 5
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/08/28 19:09
エヴァが発進し、射出口をレールにそって上昇していく。

目指すは使徒の真下。

使徒に一番近い射出口だ。

作戦は至って簡単。

使徒の最大火力である砲撃を行えない地点である、使徒の真下にエヴァを射出。

そのままATフィールドを中和し、敵を倒す。

さてと。

リベンジマッチだ!



その時である。



マヤさんが声高に叫んだ。

「使徒内部に高エネルギー反応!」

「え…冗談だろ?」

なんかデジャヴなんだけど。

高エネルギー反応って…

ここ真下だよ?

波動砲…撃てない…よね?

ミサトさんも叫ぶ。

「ちょっと…戦力調査の時は下になんて撃たなかったじゃないの!」

その通りだ。

戦力調査を改めて行った際、どこから攻撃しても敵の波動砲で一撃粉砕だったんだけど、唯一攻撃が行われなかった場所。

それが真下なのだ。

て言うかあの形状で真下にも撃てるとか有り得ないだろ!

ぐんぐんと上昇していくエヴァ初号機と使徒のエネルギー反応の間に挟まれながら、なんだか僕の脳内に使徒の声が響いた気がした。



質問だ…どこに撃つのか…当ててみな。



「真っ直ぐだよね?」

撃てないもんね?下。



NO!



「う、上かな?」

撃てない…よね?



NO!NO!



ちょっと…まさか…

「し、下?」



YES!



「全方向いけちゃう感じですかぁー!?」

じょ、じょ…



YES!YES!YES!




冗談だろ!




「OH!MY!GOD!」

地上に出た瞬間、僕の視界は真っ白に染まった。

















ハハキタク、スグカエレ その5
















「チートだろ!こんなの!」

咄嗟にATフィールドを全力展開したけど、使徒の波動砲は使徒の体の外周、つまりいつも撃っている場所から体に沿うようにして訳の分からない角度で飛んできた。

こんなのありかよ!

おかげでATフィールドで真正面から受け止められなかった僕はその衝撃に吹き飛ばされる。

体感で大体300M位吹き飛ばされたところでやっと止まった。

何て威力だよ…

直撃ではない今の一撃で、既に僕もエレクトラも満身創痍だ。

「シンジ君!」

ミサトさんが呼びかけてくるけど、返事をしてる余裕なんてない。

「う…ぐぅ…」

熱い、ともかく熱い。

LCLの温度が急上昇した所為だ。

やっば、このままだとホントに茹で死開拓しちゃうかも…

変なおじさんが「☆☆五右衛門状態☆☆」だとか騒いでる幻覚まで見えてきた。

回線からもオペレーターの人達が騒いでるのが聞こえる。

「ケーブル破損!初号機内部電源に切り替わります!」

「シンクロ率54.3%に低下!」

「プラグ内LCL温度上昇!」

「こちらからも放熱急いで!維持装置だけじゃ間に合わないわよ!」

うへ、54%か。

こりゃ本格的にヤバいかも。

100%のATフィールドで受け止めてこれだもんな。

まあでも吹き飛ばされて正解だったかもしれない。

パニくってATフィールドを張ったけど、正面から受け止めていたら死んでたかも…しれない…し…


















んぁ?













僕は…



アホか。



「…フハハッ」

思わず笑った。

「シンジ君?」

ミサトさんが戸惑ったような声で通信してくる。

でもごめん。

「クックックッ」

笑いが止まらない。

「シンジ君!返事しなさい!」

「ヒヒヒヒヒケケケケケ、ノォホホノォホ、ヘラヘラヘラヘラ、アヘアヘアヘ」

「今回は冗談で済ます余裕無いわよ!シンジ君!」

いや、だってさ。

ちょっとアメコミ読み過ぎたのかも。

ここまでアメリカンでダイナミックな戦い方する必要なかったんだ。

使徒の内部にまた高エネルギー反応。

「…避けれない」

でもさ。

「かといって、受け止めれない」

わざわざ真正面から力比べするような文化じゃないよね!日本って!

「じゃあ受け止めなきゃいいんだよねえ!?」

そう言って僕はATフィールドを全力で展開する。

視界が歪む。

強力な空間歪曲。

マヤさんが叫ぶ。

「第二射!来ます!」

さあ来いよ。

「その攻撃…」

この勝負。

「覚えたぞっ!」

僕の勝ちだね!

そして波動砲が放たれる。

視界が真白に染まる。

計器系が悲鳴を上げる。

「シンジ君!」

それでも、思わず僕は叫んでいた。

「ATフィールド!どうも不可思議なもんかと思ってたら、入射角!反射角!ベクトル!サイン!コサイン!タンジェント!ちゃんと物理してるじゃんか!きてるぜ!きてるぜぇー!碇シンジ始まったなぁー!」

LCLの温度上昇を感じない。

関節は相変わらず軋んでいるけど、耐えられる。

視界は真白で何も見えないけど、それでも使徒の波動砲を食らいながら、僕は前へと進んでいった。

通信でミサトさんが叫ぶ。

「どうなってるの!?」

「光度調整中です!」

そうか、これだけ波動砲に包まれてたら外からのモニターじゃ何が何だか分からないか。

でもやってる事は超簡単。

「認めてやる!出力じゃそっちの方が上さ!防ぎきれる気しねーし!でも!勝てないのに真正面から相手してやるほど僕は熱血アニメしてないっつうの!」

どうもムキになって真正面から受け止めてたのがいけなかった。

そう。

「気付くのが遅すぎたよ」

受けれないなら。

「こんな方法!小学生でも思いつくエヴァ!」

受け流せばいい!

僕がやっているのは、使徒の波動砲に対して出来る限り水平にATフィールドを張り、そのベクトルをやや上方向に逸らす。

ただそれだけだ。

その分押さえつけられる力がかかるけど、直撃に比べりゃ全然大した事ないね!

そして、テンションが上がりきった僕に、冷静にミサトさんが言う。

「いや、それ流行らないってば」

ヴァーヴァー、聞こえない。

「どうだ!この咄嗟の閃き!まさに主人公!まさにスパシンテンプレ!上級ボーガーの前じゃその程度の攻撃無意味なんだよ!」

使徒がムキになって出力を上げていっているのを感じる。

でも、効かない。

撃たれた波動砲は、ATフィールドに受け流され後方に吹っ飛んでいく。

「イイぞっ!とてもイイッ!実になじむぞ!」

て言うかそんなに全力で撃っちゃって。

次すぐに撃てるのかな?

そう思った瞬間、使徒の砲撃が止んだ。

同時に全力で使徒へと走り出す。

「最高にハイッって奴だ!」

飛び上って使徒の上空へと舞いあがる。

予想通り堅固なATフィールドが僕を防ぐけど、何となく分かった。

そこまで硬くない。

あくまで予想だけど。

こいつは攻撃と防御、同時に最高出力には出来ない。

全力で波動砲を撃ったばかりの今はATフィールドの出力も弱まってるんだ。

だから全力でATフィールドを叩きつける。

「この一撃は…オーバースキルによるもの!」

「ATフィールドでしょ?」

「…」

無視だ!

「うおおぉぉおおおぉおぉおおぉおおぉお!」

「あ、シンクロ率100%に上昇」

テンションって大事だよね!

僕とエレクトラのATフィールドと使徒のATフィールドがぶつかり合って、世界が歪んでいく。

空中で僕の拳がメリメリとATフィールドに食い込み、破っていき。



そして、数秒後。



勝ったのは僕達だった。

使徒のATフィールドが砕け散って、僕は使徒の頂上へと落下していく。

「お前にはテンプレコースがお似合いだ!エレクトラ!あれを使うよ!」

上下逆さの状態からクルリと回り、全力で、全力で右足へとATフィールドを集める。

「震えるぞハート!燃え尽きるほど以下略!」

行くぞ!テンプレ!

「スゥゥゥゥゥウウゥゥウゥゥゥウパァァァァァァアアァァァア!フィールドキィィィイイイイィィィィィイィィィイック!」

そして僕は落下の勢いのまま極限までATフィールドを纏った右足を、使徒へと叩き込んだ。

ATフィールドが使徒の体を砕き、破壊し。

初号機が使徒の体を貫通し、大地へと着地する。

そして、崩れ落ちる使徒に背を向け僕は言った。

「悪いけど、僕って打たれ強く出来てんだよね!」

「決め台詞が泣ける…」

ヴァーヴァー全然聞こえない。

あ、そう言えば「うわああああああああ!」って言い忘れた。

僕とした事が…

そんな事を考えながら撤収しようとしていたら、エレクトラがビクンと何かに反応した。

「エレクトラ?」

どうしたって言うんだろ。

そして、次の瞬間通信からレイたんの声が響く。

「…まだ」

「え?」

「パターン青…健在です!シンジ君!まだ終わってない!」

「んあ?」

思わず後ろを振り向く。

僕は間違いなく使徒のど真ん中をぶち抜いた。

現に使徒はガラガラと音を立てながらその体を崩壊させ…て…



いや…



浮いてる。

巨大だった使徒の体は見る影もないけど、崩れ落ちた破片の中、一つだけ宙に浮いている物体がある。

それは赤い直径3m程の小さな球体。

まさか…コア?

気がつけば粉々になった破片が宙へと浮かび上がっている。

一瞬また結合して元の姿に戻るのかと思ったけど、違った。

まるで粉雪のようにさらさらと舞いながら、広大な空間をその破片が埋め尽くした。

気分的には使徒の体内にいるみたいだ。

「何か…嫌な予感…」

次の瞬間、丸くなった使徒の体からまたもや高エネルギー反応が出た。

僕のセンサーがメギャンメギャンと警戒音を立てる。

先手必勝!

「うらぁぁあぁあああぁあぁぁあぁああぁ!」

叫び声とともにエヴァスラッシュを撃とうとしたその時だった。

使徒の体が輝く。

とっさに攻撃に回そうとしていたATフィールドを全力で前方に展開した。

しかし。

使徒の波動砲は来なかった。

代わりに丸い使徒の体から四方八方に細い光線が伸びたかと思うと、それぞれがピンボ-ルのように跳ね返り跳ね回り、前後左右上下全ての方向から僕を襲ったのだ。

「冗談だろ!」

それを見た瞬間、僕は走り出していた。

フィールドを張って前方からくる光線をかき消しながら、高速で使徒の足元を逃げ回る。

しかし、当然その程度で避けられる量じゃない。

光線の太さが極端に細くなったせいか、威力も格段に落ちている。

だからと言って100本以上ありそうな光線の雨の中、それほど長時間は生きられない。

しかも使徒はその細い光線を継続的に放出し続けているから手に負えない。

どういう原理か知らないが、使徒は放った光線をそれぞれ破片となった己の体で反射させ、自由自在な方向から攻撃を仕掛けているのである。

もしかしてこいつ…

僕がATフィールドで波動砲を反射させて受け流していたのを見て学習した…?

いや、そんな事どうでもいい。

というかそんな事を考えてる暇はない。

「お!ま!え!は!フリーザかっつうの!」

私はあと2つ変身を残している。

「うわ!ダメ!今のフラグ無し!」

その光景に唖然となっていた指令室の中で、リツコさんが真っ先に口を開く。

「変形?…進化かもしれないわね」

窮地に進化って!どこの熱血アニメだよ!

「ミ、ミサトさん!どうすんの!?」

自分で考えようにも本当にそんな暇はない。

数秒、ミサトさんは黙っていたけど、やがて意を決したように口を開いた。

「このまま逃げ回ってたってジリ貧よ!折角敵さんが弱点絞ってくれたんだから、攻めるしかないわ!」

それもそうだ!

「了解っ!」

そう言って進行方向を反転すると、僕は一直線に使徒へと走り出す。

鬼のような数の光線が僕へと降り注ぐ。

でも、正面から来る光線は全てATフィールドで掻き消えている。

やっぱり光線の威力自体は相当下がっているんだ。

…だったら。

物は試し!やった事ないけど!

敵が全方向で来るなら!こっちも全方向だ!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!マッガーレ!

前面に展開していたATフィールドを引き延ばす。

出来るかどうかも分からないし、やった事も無かったけど。

僕はATフィールドを自分の身体から放出するイメージで球形に張り巡らせた。

よっしゃあ!ぶっつけ本番オッケイ!

面積が広くなってその分強度の落ちたATフィールドじゃ使徒の光線を完全には防げないし、集中力もいるから長持もしないけど…

その間に僕の手は使徒に届く。

「当てれるようになったって、威力落ちてりゃ世話ないね!不思議な飴レベルアップは能力値上昇少ないんだよ!」

ポケモン赤青からやり直して来い!

またもや全力で跳躍。

そして僕の手が球体の使徒を鷲掴みにする。

「喰らえ!零距離!」

防御用のATフィールドが切れて光線が体を貫くのも構わずに、僕は掴んだその手に全力でATフィールドを集めて。



解き放った。



「エヴァスラァァアアァァアァァァァアアァァァァアアァァッシュ!」



溢れ出す光と共に使徒の身体にヒビが入り。

そして、爆散した。

同時に宙に浮いていた破片もパシャンという音と共に赤い血のような液体へと姿を変える。

僕の着地と同時に、それは雨みたいに第三真東京市へと降り注いだ。

ありがと、青水君。

なんか器用になれたよ、お陰でさ。

よっしゃ、とりあえずは。



完全撃破!





























使徒戦終了後、撤収した僕は暫くエレクトラと雑談した後、エントリープラグから外に出た。

今回はエレクトラにいっぱい怪我させちゃったからちょっと申し訳ない。

「またね、エレクトラ」

そう言ってエヴァの傍を離れる。

そして、数歩歩いた時だ。

「んにゃ?」

視界がぐにゃりと歪んだ。

こちらに走ってくるレイたんが見えるけど、その姿が二重三重に、しかも斜めに見える。

「ちょ…っと…何だ…これ」

あ、違った。

レイたんが斜めなんじゃないや。

これ、斜めなの僕じゃんか。

こいつはどう考えても失神フラグ!

そして予想通り急激に視界がぼやけて。

「あ、やば、乙る」

僕はそのまま意識を失った。






第三話、完















あとがき

んーむ…

何ていうか…足りない…



↓以下、作品とはあまり関係ない個人的なお話。

僕は基本的にエヴァという作品自体が好きで、大好きじゃないキャラはいても嫌いなキャラというものがいません。

というより僕が好きな全てのアニメで、嫌いなキャラというのがいた事がないです。

むしろ全部好きです。

目の前にキールローレンツが現れたら僕はきっと盛大なハグを行うことでしょう。

だからこの先アンチ気味に動いたり等は無いのでご安心を??

この作品のゲンドウのようにネタの上でいじったりはあると思いますがw

まあそもそもこのSSのシンジ君がアンチ系に動くキャラではないですしね。

何でこんな事を言ったかと言うと、とある人に

「ゲンドウいじめてるけど、嫌いなの?」

と言われたのと、エヴァSS氷河期である昨今、過去の様々なSSを拝見していた時に

(ミサトやゲンドウのアンチ系って多いんだなぁ…)

と思ったからです。

実はあまりSSって読んだ事ないのです。

まあそんなこんなでこういう話をした訳ですが。

結論から言うと…



でっていうwww



更に蛇足:僕が改行を多めに使うのは紙媒体の文と違って、行間を開けた方が読みやすいかなぁという考えの下です。

でも最近明らかに開けすぎているので反省しています(*'ω'*)



*更にでっていうwwwな話。
本当にどうでもいいんですが、ニューカマーって新人ってだけで別にエース的な意味(凄さとか)は含まれてないんですね。



[5245] 人の創りしうんたらかんたら 1
Name: ユスケ◆6e34495b ID:85176eb0
Date: 2009/09/03 18:30
目が覚めると、真っ白い天井があった。

ここは…病室?

あーそういえば倒れたんだっけ、僕。

何か体中がだるいんだけど…ハッ!

待て!碇シンジ!状況判断なんてしてる場合じゃない!僕にはやらなければいけない事があるはずだ!

やっと言えるぞ!

「知らない天井だ!」

最近僕、北斗七星の横にもう一個星が見えるんだよね…













エヴァ、乗ってみました

第四話 人の創りしうんたらかんたら その1












前回までのあらすじ

母さんが帰ってきておめでとう!おめでとう!でエンドロールかと思ったらシンクロ率下がったうえに底力機能搭載の青水君が冬月先生を塩の柱に変えに来た。










病室の中、異様にピリピリとした空気が漂っていた。

室内に居るのは僕、母さん、ミサトさん、マヤさん、リツコさんの5人。

そして、僕を除く女子4人がう~んと唸りながら一枚の紙を睨んでいる。

時計を見れば、時刻は午前10時半。

眠いよう…



青水戦から一週間が経った。

僕は入院していたものの、5日で退院した。

まあ戦闘後は衰弱状態だったらしいんだけど、4日寝て起きたら治っていたみたいだ。

一週間も経って戦後処理もほぼ終わったようで、NERV、及び第三真東京市は平穏を取り戻している。

退院したものの、本調子でない僕はのんべんだらりな生活を送っている。

学校は昼から行って、NERVでも訓練とかは無し。

ちゃんと上の許可もでてるからサボりじゃないよ!

ただでさえ無い体力が衰弱して落ちちゃった所為で、なんかもうやたらと眠い。

だからこの時間って全然頭回らないんだよね、ただでさえ低血圧で朝弱いし。

ふわぁ…

帰りたいなぁ。

その時、カッと目を見開いたミサトさんが声高く叫んだ。

「山口コズエ!」

それに対し、リツコさん、マヤさんも口を開く。

「大鳥居ツバメは?」

「ナナミ・シンプソンとか」

はぁ…

ずっとこの調子だ。

実はこれ、名前を決めているのである。

名前と言っても、母さんの名前だ。

なんか僕が入院している間に母さんの体調も戻ってきたらしくて、退院の目どがついたらしい。

そうなると今度は戸籍が必要になってくる。

碇ユイのままでは色々とまずいので、新しい戸籍を作るらしいんだけど…

僕とリツコさんが母さんのお見舞いに向かっていたら、それを聞き付けたミサトさんがサボりの口実に自分もついて行くと言い出した。

そこでマヤさんが戸籍の件を持ち出して、今では病室でこの有様である。

もう一時間半経ってるんだけど…

眠いよう、でも寝たら真面目に考えろって怒られるし…

でも頭回らなくて考えられないし…

もう…疲れたよ…

て言うか名前ってそんなに重要な事なの?

呆れられるのはいつもの事だけど、他人に呆れたのなんて生まれて初めてだ。

僕を呆れさせるとか、女の人って凄い…

そんな事を考えてたら、母さんがニコニコ微笑みながら僕の方を向いて言う。

「私早乙女ランマがいいわ~」

…え。

何だろ。

コメント求められてるのかな。

眠くてあんまり聞いて無かったなんて言えないし…

えっと、えっと…

「ハッハ、基本的に皆古い人間だよね」

「面白い奴だな、殺すのは最後にしてやる」

そう言ってミサトさんが僕に微笑む。

「それどこのメイトリクス…」

母さんと違って、何て悪意のある笑顔だ。

「じゃあシンちゃんは何があるのよ~」

追い打ちの母さんの一言で、全員の視線が僕に集まる。

えぇ…

眠いんだってば…

全然働かない頭で必死に考える。

「小山内レオ」

「人ですらない!」

「王ドラでいいじゃん、王ドラで」

「生物ですらない!」

「ガイ・ナックス」

「物ですらない!」

なんて面倒な…

えっと、う~んと。



思考中。



…思考中。



……思考中。



………思考中。



…………zzz。



物理的に起こされた。

「じゃあ普通に…春日エリ」

何となく、思い付きでそう言うと…

「シンちゃんが言うならそれにするわ~」

信じられない位あっさりと、母さんは頷いた。

それも、とても嬉しそうに。

う~ん…

こうしてると…

普通の…

…zzz。

「時々シンジ君が14歳とは思えないんだけど…」

半分寝ぼけた耳に、ミサトさんの呟きが聞こえた気がした。







「帰る前にお散歩!お散歩行こっ!」

後日、母さんの病室を訪れ適当に話をして帰ろうとすると、こんな事を言い出した。

…めんど。

ついでに言うと、三日に一回のお見舞いはリツコさんに義務付けられているのである。

「ぐっ…全身が…足にマメも沢山出来て…」

そう言って蹲ってみせたけど、母さんは騙せなかったようだ。

「死ぬ死ぬ詐欺いくない!」

溜息をついて母さんの顔を見上げてみると、いつも通りニコニコと微笑んでいた。

う~ん…何と言うか…

僕やっぱり母さん苦手だ。

嫌いとかじゃなくて、ペースに巻き込まれるって感じ。

そもそも母さん数本ネジが飛んでる気が…

この事をリツコさんに言ったら「他人のふり見て我がふり直せってことわざ知ってるかしら?」って言われたんだけど、何であんな事言われたんだろ?

暫く断る口実を考えていたけれど、僕はすぐに諦めた。

「仕方ないなぁ…」

だって何も思いつかないし。

「わ~い、行きましょ行きましょ」

母さんはそう言って寝巻の上にカーディガンを羽織ると、ベッドから起きて僕の腕を抱いた。

「ごーごー!」

駄目だ…勝てそうにない。

そのまま病院の外に出て、適当な話をしながら散歩をする。

たまに母さんと散歩をするけど、散歩中は二人ともあまり喋らない。

お喋りの僕としてはだんまりの時間ってのはウズウズするものなんだけど、やはりこれも血のなせる業なのか、母さんとだと別に平気なのだ。

あとはリツコさんとか、綾波とかも平気かな。

そんな事を考えていたらだ。

噂をすれば影と言うか何と言うか、ジオフロントの中にも湖があるんだけど、その畔のベンチに座って本を読んでいる綾波を見つけた。

反射的に声を掛ける。

「あ、レイた~ん!」

声を掛けた瞬間、レイたんの頭の上に耳みたいなのがぴょこんっ!と起ったのが見えた気がした。

幻かな…それとも質量のある残像かな…

レイたんはこっちを振り向いて僕を確認するとふわっと笑って本を閉じた。

そして。

「碇く…ん…」

開こうとした口を、上げようとした腰を途中で止めて、その顔色が真っ青に変わる。

え?

よく見ればその時レイたんは僕を見ていなかった。



見ているのは…母さん?



そしてそのまま踵を反すと、本部の建物の中へと走って消えてしまった。

「ありゃ?」

一体どうしたんだろ。

お昼のお弁当にお芋入れなかったのまだ怒ってるのかなぁ。

お芋の煮物が入っていないと知った時のレイたんの絶望っぷりと言ったらそりゃなかった。

絶望した、日本の食糧事情に絶望した。

そう言って首を吊ろうとしたくらいだ。

…最近思ったんだけど、ちょっとレイたんに漫画読ませすぎたかな。

僕が悩んでいたら、母さんが僕の腕をくいくいと引いて言った。

「ねえシンちゃん」

「ん?」

「あの子、お名前は?」

「綾波レイたん」

そう言えば母さん知らなかったっけ。

二人とも顔がそっくりだから知り合いでもおかしくないと思ったけど、どうやら違うみたいだ。

と言うか、改めて見てみるとホントに似てるなあ、クローンみたいだ。

液体の方かな、個体の方かな…まあいいや。

母さんは僕の説明を聞いてレイたんが消えた方向をじっと眺めていたけど、やがて困った様な顔で呟いた。

「…聞いて無いわよ?六分儀さん」

あ。

よく分かんないけど、これ多分怒ってるな。

何て言うか…



父さん乙。



翌日、六分儀司令の入院期間が一週間延びた事が発表された。

何があったのかは誰も知らない。

これに関する冬月先生のコメント。

「仕事に出ていてよかった…」










SIDE-レイ

最近、碇君はあの人と居る事が多い。

話によると、赤木博士の命令で三日に一度は御見舞に往く様に義務付けられているらしい。

碇ユイ…碇君の母親。

そして…



私のオリジナル。



私はあの人の混じり物のクローンに過ぎない。

ずっと、ずっと不安だった。

ゼーレの人類補完計画、その裏で司令達が画策している事。

それが成就された時、碇ユイが現れる筈だった。

しかし、碇君の登場で予想よりも早く彼女は現世に復活を遂げた。

そう、ずっと不安だったのだ。

本物が帰ってきた時、代用品に居場所はあるのか。

代用品なのが嫌で、努力をした。

でも私は未だにエヴァとシンクロする事すら出来ない。

この世に生まれて。

私はまだ何も成し遂げていない。

だからこそ耐えられない。

彼女があそこに居るという事実。

碇シンジの横に居るという事実だけは、絶対に耐えられない。

何でこんな事を思うのかは全く分からないけど…

碇君の傍は居心地がいい。

あそこだけが。

私が代用品で無くなる場所になる。

そんな予感がしているのだ。



人の気配を感じて顔を上げると、目の前に私がいた。

「こんばんは」

私が柔らかな笑顔で口を開く。

いや、違う。

私じゃない。

私にはこんな顔は出来ない。

碇、ユイ。

本当に私によく似ている。

いや…

私が、よく似ている。

そんな彼女の笑顔を見ていたら、勝手に身体が震えだした。

(人に会ったらまずは挨拶!)

そんな碇君の言葉を思い出したけど、出来る訳ない。

歯の根も噛み合わず、生まれたての小鹿のようにブルブルと震える足を引き摺って。

気がつけば私は逃げ出していた。

でも、一瞬でそれも終わる。

「あ…」

動かない右手。

振り向いてみれば、彼女に捕まっていた。

思わず、呟く。

「…離して…下さい」

「いや」

触れ合う右手と右手、その接点から。

少しづつ何かが彼女に奪われていく、そんな気がして怖かった。

「お…がい……す」

「え?」

「お願いします…離して…下さい」

自分の惨めさに、何だか目頭が熱くなった。

それでも彼女は首を振る。

「いや」

そして屈むと、俯いた私の真っ青な顔を覗き込んでこう言った。

「怖がる必要なんてないわ」

ふざけるな。

そんなの無理だ。

「一目で分かったわ」

お前に。

「私は…」

お前に私の何が分かる。

気がつけば叫んでいた。

「私は貴女じゃない!」

力の限り腕を振って、彼女の手を払う。

そして精一杯の虚勢で彼女の顔を睨みつけると。

何と言うか…

彼女は泣きそうな顔をしていた。

「ちょっと意味が分からないんだけど、怒らないで~」

そう言ってぺこぺこと頭を下げる。

泣きたいのはこっちだ…

意味が分からない。

彼女の態度の意味する所が分からない。

ともかく、恐怖も嫌悪も何だか一瞬で馬鹿らしくなってしまって、私はその場に座り込んでしまった。

そして呟く。

「何で…貴女が慌てるの」

「だっていきなり怒るから」

「怒って、ない」

何だろう…この感じ。

この恐る恐るとこちらを窺っている感じ。

凄く見覚えがあるのだが…

とりあえず言っておく。

「ただ、私が貴女から生まれたのは事実だけど…私は貴女じゃない」

そう、私は私だ。

「そう言いたかっただけ」

私だけの場所がある。

絶対に、渡さない。

しかし、どうやら世間知らずな私の脳では理解不可能な事なんて沢山有るらしい。

次の瞬間。

「そうそう!」

「え?」

彼女は私の目の前に座り込むと。

「だから私ね!貴女の事」



私の手を握って笑顔でこう言った。



「娘みたいなものなんじゃないかって思って!」



「…え?」



ちょっと待って。

全く状況が理解出来ない。

どういう事だ?

私がこの人の娘みたいなもの?

えっと、私はこの人を元に生まれたクローンみたいな物で。

遺伝子的にも酷似していて…

あれ?

じゃあ、あながち間違いじゃない?

いや、違うだろう。

駄目だ、全く分からない。

理解不能。

理解不能。

混乱している私に、駄目押しのように彼女は言った。

「レイちゃんって呼んでいいかしら~?」

「え?」

そう言って覗き込んできた彼女の顔。

不安そうな顔。

私の手を握る彼女の手。

若干震えている手。

あぁ、私と変わらないんだな。

何となくそう思った。

そして。

あぁ、私とは違うんだな。

何となくそう思った。

気がつけば勝手に口が喋っていた。

「別に…構いません」

次の瞬間、花のような笑顔で彼女が笑う。

あぁ…

どこかこの感じに覚えがあると思ったら…

この人、碇君に似ているんだ。

そう、この人は私のオリジナルである前に碇ユイであって、碇君の生みの親で。



私は綾波レイなんだ。



娘?

それは家族?

家族?

それは…絆?

別に彼女に対する嫌悪感が消え去った訳じゃない。

彼女の事が好きになった訳でもない。

私がこの人のクローンであるという事実も変わらない。

でも。

私は、碇君によく似たこの人の事を、何も知らない。

この人は、自分によく似た私の事を、何も知らない。

だから、少し興味が湧いただけだ。

私と全く違う、表情がころころ変わるこの人に、少し興味が湧いてしまった。

ただそれだけなのだ。

「仲良くしてね~」

冷たい廊下の上に、二人座り込んだまま。

握手をしながらのこの言葉を聞いて、やはり彼女は彼の母親なのだと実感した。

この親子は…まるで無邪気な子猫のように、いとも簡単に人の内側に入り込んでくるのである。

そして、それは不思議と不快ではない。












あと、基本的に人の話聞いてない。





殻に小さなヒビが入った、そんなある日の事。















あとがき

ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

全然話繋がってねええええええええええええええええええええ!

ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

もう何というかアレですね。

難しいですね…

その2は日曜位にあげれる…はず。

もうタイトルなんてどうにでもな~れっ



[5245] 人の創りしうんたらかんたら 2
Name: ユスケ◆69accdd0 ID:85176eb0
Date: 2009/11/08 04:53
「大事なのはスタイルだ」

「ほむ」

エリちゃん(母さんにこう呼ぶように言われた)もとい母さんをお見舞いに行ったついでに父さんのお見舞いに来てみた。

話の流れをフローチャートで表すと。

父さんって何で母さんの事好きになったの?

惚気話。

母さんみたいなのが好みなんだ?

総合的な外見で言うとそうでもない。

え、じゃあどんなのが好みなの? ←いまここ。

と言った感じ。

と言う訳で僕の目の前では白昼の残月状態の父さんが女の子について語っている。

「ヒロインたるからにはボンキュッボン、たわわに実った果実、でもそれでいて決してデブではない、それを目撃したその瞬間から、顔なんか記憶に残らなくていい、野郎共のスケベな視線は、右に揺れても左に揺れても、縦でも斜めでも常にそこに釘付けになれ、それがヒロイン、ヒロインの持つべきボイン、もとい…」

そして、父さんは徐に窓の外へと遠い眼を向けると、黄昏るように呟いた。

「スタイルと言うやつだ、出るとこ出て締まるとこ締まった、エロい体が良い…」

「そのまんまエリちゃんに言ってくる」

「待て、まず座れ」

病室を出ようとする僕を、父さんは石田並の弾丸タックルで止めてみせた。

動けるならさっさと退院しろと言った僕に対して、父さんはさも当然のようにこう答える。

「病院なら安全だろうが」

それに対するエリちゃんのコメント。

「あら、お医者様の傍にいるなんて、準備がいいのね~」



六分儀ゲンドウに平和が訪れる日は来るのだろうか…





ねえな。




















エヴァ、乗ってみました

第四話 人の創りしうんたらかんたら その2














SIDE-リツコ



とりあえず仕事が一段落ついたので、シンジ君お手製のお弁当を食べながらNERV内のネットを巡回する。

あれ、今日は芋の煮っ転がしが入っていない。

…結構好きなのに。

帰ったらリクエストしておこう。

そんな事を考えながらネルふたばを開くと、新スレが立っていた。



【おまいら】NERV職員晒しスレ Part37【仕事スレ←上手い】

【奇人変人】碇シンジヲチスレ Part25【だから何?】

【一家に一台】しんちゃんを愛でるスレ Part106【万能家事職人】



愛でスレ伸びすぎだろ。

Part1出来たの二週間前なのに…

少しNERVの将来が心配になった。

とりあえずヲチスレから開いていく。



12:インド人を右に:ID:?
 俺整備班なんだが、さっきシンジ君が真面目な顔で初号機を眺めてたからどうしたのか聞いたら。
 「エレクトラ傷だらけにしちゃって申し訳ないなーって思って」
 みたいな事言ってたんだが、結局の所シンジ君って本当に初号機と会話出来るのか?未だに気になってる。

17:N2先輩:ID:?
 >>12
 AT発破事件があるし、ほぼ赤木博士や上層部公認だしな、信憑性があるのは確か
 どうでもいいけど、俺もエヴァスラアアアアッシュ!って言ってみたい。

18:陰陽弾:ID:?
 >>17
 AT発破事件kwsk
 
19:レイたんは俺の嫁:ID:?
 AT発破知らないとか新規さんか?
 17が一人でエヴァスラアアアアアッシュ!と叫んだ所を彼女に見られるという絵が目に浮かんだ。

22:N2先輩:ID:?
 >>18
 ATF展開実験中にシンジ君が突然エヴァと語り始め、最終的に発動したATFにより実験参加者も含め全てを吹き飛ばしたNERVの黒歴史。
 と言って分かるか?って黒歴史ではないか、結果としてATFの糸口がつかめたんだしな。
 >>19目撃してくれる彼女がいねえよksg
 あとレイたんは俺の嫁だし。

26:陰陽弾:ID:?
 ああ、把握。
 >>22ありがとう。
 あとレイたんは俺の嫁だし。

27:いんぱくと!:ID:?
 レイたんはシンジ君とセットが一番(*>ω<)
 あの二人のセットは見てて癒される(*´Д`*)

28:インド人を右に:ID:?
 愛でスレでやれ。



何というカオス…。

職員晒しスレはいつも通り司令の悪口だろうし…愛でスレでも見るか…

そう思って愛でスレを見て…

私はシンジ君の護衛を増やすように進言しようと決めた。

やだ…女って怖い…

まあそんな事は置いておいて。

前回の使徒戦から2週間が経った。

使徒殲滅後突如として倒れたシンジ君も目覚め、今では療養の為エヴァに関する仕事を一切停止している。

今までもエヴァ搭乗後の疲労感等の訴えはあり検査が進められてきたのだが、原因は依然として不明である。

ドイツのセカンドチルドレン、惣流アスカラングレーの場合はエヴァに乗ったところで疲労感の訴えはないらしく、これは碇シンジとエヴァンゲリオン初号機特有の症状だ。

当初はセカンドチルドレンとの違いであるATフィールドに原因があると思われたのだが、ATフィールドをともわない長時間搭乗実験において関係性の無い事が証明されている。

つまりは、原因不明という事だ。

個人的にはシンクロの仕方に問題があるのでは無いかと思っているが…仮説はあまり好きではない。

なにしろ初号機は少々特殊な機体だ、色々な意味で。

という訳でこの後の訓練は原因が判明するまでエヴァへの搭乗を最低限にして進める方向で決定している。

シンジ君はエレクトラと会う機会が少なくなるからと拒否する姿勢を見せたのだが、長時間の説得により渋々ながら納得した。

なんとこの説得を行ったのは意外にもミサトである。

作戦部長であり、パイロットの総監督と言う立場ではあるが、性格と今後の戦闘を考え搭乗時間を少しでも延ばそうとすると思っていたのでこれは少々意外だった。

登場時間の短縮に完全合意の姿勢を見せ、説得の際も命令調でなく真摯に対応していた。

どうやら短期間の内に連続した使徒戦の中で何か思う所があったようだが…

まあ私の意見としては、あまり言いたくないのだが、はっきり言ってシンジ君のエヴァ登場訓練は現段階においてそれ程意味がある事ではない。

ユイさんのサルベージによってシンクロ率が100%へと低下してしまったものの、100%なのである。

400%が理論限界値とされているが、実際の限界値は100%なのだ。

100%の時点でエヴァとのA10神経を介した同調の中に差異が無くなる。

つまりこれ以上の伸びしろが無いという事だ。

では100%を超えるという事はどういう事なのかと言うと、それはつまり同調を通り越して融合の領域に入る。

悪く言えば、侵食。

100%を超えた瞬間、エヴァからの精神汚染が始まり身体的にはLCLとの融和が始まる。

最終的にはパイロットはエヴァに取り込まれてしまう。

分かり易い例が過去実験でエヴァに取り込まれてしまった碇ユイ博士だ。

それを防ぐ為、シンクロ率100%をリミッターとする為のシステムが現段階で採用されているのだが…

シンジ君はこの何百回という実験の末に生れた理論を完全に無視し、エヴァとコア融合者の助力という意味不明な方法によって100%の壁を超えてしまった訳だ。

少し話がずれたが、現実的な観点でのシンクロ率限界値は100%。

つまりシンジ君のシンクロ率での伸びしろはない。

エヴァ搭乗訓練の最大の目的であるシンクロ率の向上が望めない以上、搭乗訓練にそこまで大きな意味はないと言うのが私の考えだ。

戦略的に見てどうなのかはミサトにでも聞かないと専門家でない私には分からないが、元々実験と計測という目的が強かったという訳だ。

まあそんなこんなでお休み中のシンジ君。

普段実験をする度に忙しいの嫌ーと文句を言っているのに、いざ完全に暇になるとやる事が無くて困っているようで、私が面白半分で渡した形而学の本を、以前は拒否していたのだが、先日つまらなそうに眺めていた。

最近では学校からNERVでの訓練までシンジ君と共に行動していたレイが訓練の休憩中に暇そう、と言うよりも寂しそうにしているのが目撃されているらしい(某作戦部長談)。

まあシンジ君がこないので仕方なくはあるのだが、レイも変わったものである。

更に意外なのは、最近のレイの行動だ。

よほど暇なのか、最近NERV開発部所属になった碇はか…おっと、春日博士と一緒にパフェを頬張る光景が目撃されている(某葛城ミサト談)らしく、徐々に交遊関係を拡げているようだ。

まあ一方的に春日博士が喋り続けていたとの事だが、まるでシンジ君とレイを見ているようだったらしい。

…もしシンジ君と春日博士を同時に相手にする事になったらレイは捌ききれるのか?

余談だが、以前マヤが「レ、レイちゃんが自分からこんにちはって挨拶してくれたんですっ!」と言いながら私の部屋に飛び込んで来た事があったが、あれはシンジ君の教育の賜物だ。

しかし…



NERVを代表する非常識が教える常識ってどうよ。



まあいい。

食べ終わった弁当箱を片付けると、仕事を再開する。

最近私は完全に餌付けされてしまったようで、食堂や外食をするという選択肢が一切頭に浮かんで来ない。

そう言えばこの前食堂に行き、日替わりランチを食べる春日博士の前でシンジ君お手製のお弁当を食べた時は気持ちが良かった、生きてて良かった。

一口要求された際、何となくお手をするよう要求した時に伸びてきたNERV女性職員の手の数には若干の恐怖を感じたが…まあいい。

さて、私には山積みになった仕事を終わらせる作業が残っている、それも7時までに。

大丈夫、私の仕事効率は通常の赤木リツコに比べて3倍は早い。

何故急ぐのかと言われれば、それに対する答えはたった一つ。



夕飯に間に合わない。













SIDE-冬月



目を通した書類の内容に思わず米噛を押さえる。

見間違いだろうか。

改めて書類に目を通す。

何時かはこの日が来ると思っていたが、これ程決断が早いとは思わなかった。

「本気かね?」

「あぁ」

私の問いに対してゲンドウは全く動じる事無く言葉を返す。

「ユイが戻ってきた以上、人類補完計画への協力の意味は無い、寧ろ計画自体が邪魔でしかない」

「…はぁ」

「どうした」

「胃が痛くてな」

お前ら親子の所為でな。

「そうか、当面は今迄通りの計画協力の姿勢を進める」

それはつまり、人類補完計画に関するプロジェクトから抜けるという事だ。

「裏で、か」

「あぁ、その為にもセカンドチルドレン徴収に合わせ、彼を呼び戻す」

ドイツのセカンドチルドレン、惣流アスカラングレーといったか。

キョウコ君の娘。

赤木リツコ、碇シンジ、惣流アスカラングレー。

これで日本に東洋の三賢者に連なる者が全て揃う事になる。

そして、碇ユイ。

現世に蘇った魔女すらも。

問題はその全員に若干の…若干の?性格的な欠陥がある点だが…

まあいい。

まだ見ぬセカンドチルドレンはまともな人間だといいな…

しかし、最大の問題はゲンドウの言う彼だ。

加持リョウジ。

諜報員としての腕は確かなものがある。

あから様に怪しく動き回るが、その実本当の目的は悟らせない。

だからこそ、手駒としては最も扱い辛い。

「ゼーレの狗でもあるが?」

「真実を教えてやるさ」

あぁ…胃が痛い…

確かに多少強引な方法を取らなければ計画に立ち向かう事など出来ないのは分かる。

しかし、この男は計画的に見えて根本的に慎重さとは縁のない男なのだ。

「春日、赤木両博士には既に話をしてある」

「その他のメンバーは?」

そうゲンドウに尋ねると、私が持ったままの書類を顎で指してみせた。

ペラペラとページを捲っていくと、メンバーらしき人物の写真と詳細が書かれた項目に行き当たった。

そこには信用のおける保安部メンバーや、先にも名の挙がった加持、赤木博士直属の伊吹・阿賀野等のオペレーター陣。

葛城作戦部長の写真を見た時は驚いた。

しかし当然と言えば当然である。

彼女はある意味使徒に最も近い人物なのだから。

それから先も確保しておきたい人材が名を連ねる。

どうやら興味がないように見えて、ゲンドウはゲンドウなりにNERV職員を観察していたようだ。

「ふむ、妥当だな」

そう納得しかけながら捲ったページ、そこに今までよりも詳細に書かれた人物2人の項目があった。

その2人が誰なのか理解した瞬間、我が目を疑った。

「おい、この二人…ファーストチルドレンは兎も角…本気か?」

「あぁ」

「しかしだな…」

ファーストチルドレン綾波レイ。

我々の計画への参入は当然と言える。

しかしここに書かれているのは計画中枢への参加だ。

あの綾波レイに計画の全貌を説明し、自分の意志で参加の意思を問うと書いてあるのである。

綾波レイに、自分の意志で?

あの綾波レイに?

てっきり強制的に参加させるものだと思っていた。

「彼女に…判断できるか?」

「出来る」

私は正直な所レイの事は分からない。

最近はシンジ君と一緒にいる光景をよく目にする、彼女は変わったという話も耳にする。

だからといって、あの綾波レイに自分で判断させる…

可能とは思えないな。

「どちらにせよ彼女は必要だろう、下手に意思を尊重するよりも命令した方が…」

「レイは…もう私の手を離れた」

そう言ってゲンドウは自嘲気味に笑った。

「いや、元々私の手の内になどいなかったのだがな」

雛鳥はいつか必ず巣立つという訳か。

まあいい。

しかし…

私はもう一人の人物についても問おうかと思ったが、考え直した。

彼が必要だという事は分かりきっている。

完全に理解している。

ただ何というか…

面倒だ…

彼、碇シンジと組むという事が。

「人類補完計画の最重要人物二人だ、計画に反旗を翻す以上、協力無くしてどうして成就できる」

「尤もな話だがね…不安だ」

あぁ…頭が痛い。

今気付いた。

人格破綻者ばかりじゃないか…

「問題ない」

この男は本当にこれから我々が行う事の意味を理解しているのだろうか。

思わず書類を丸め、ゲンドウの頭を叩きながら怒鳴りつける。

「一度でいいから問題児を問題視してみろ馬鹿者!」

計画を叩き潰す、それはゼーレの敵に回るという事。

世界の中核に座し、その全てを操るゼーレを敵に回すという事。

それはつまり。



私達はたった数枚の書類に記されたメンバーと共に。







世界の敵になるという事なのだ。














SIDE-シンジ



卵を落としたらそのまま目玉焼きが出来そうなアスファルトの上を、僕は死人のようにぐにゃぐにゃと歩く。

周りには誰もいない。

まあ平日昼間の住宅街なんてこんなもんだよね。

みんな今頃授業中で、早く帰りたいなーなんて思ってるんだろうか。

レイたんは僕がいない間ちゃんとあいさつとか出来てるかな。

またお昼ご飯に変な薬飲んでたりして…

この時間ならリツコさんはお弁当食べて仕事再開した頃かな。

基本的に平日はニトロとマクロをリツコさんがNERVまで連れていっている。

何かその方が仕事効率が段違いらしい。

そんな事を考えながら、ぼーっと空を見る。

あ、やめやめ。

また戦闘機でも降ってこられたらたまんないや。

「あぁ…暇だなあ…」

思わず呟いて俯く。

怪我による自宅療養で僕が思い知った事。

それは意外と僕って趣味とか無いんだなって事だ。

アニメや漫画を見ようにも大抵の物は見つくしているし。

ゲームはずっとやってたら流石にやり疲れた。

「あついよぉー」

あーもう歩きたくない。

気分転換に外に散歩に出てみたけど、よく考えたら超インドア系男子の僕に日の光を当てるとか刀魔の血刀紋に破魔鎚を打ちこむようなものだ。

死んじゃうよ~。

思わず僕は座り込んで声を上げた。

「飯沼さ~ん、どこ~?乗せてって~暑くて死んじゃうよ~」

一分程何も起きなかったけど、あっちも僕が動くつもりがないと諦めたのか、僕の背後から突然声を発する。

「本来私らは接触しちゃいかんのですが…」

振り向くと、中肉中背のいかにも何処にでもいるサラリーマンのような姿をした男がしかめっ面を浮かべて立っていた。

この人はNERV保安部で僕の護衛を担当してる人の内の一人、飯沼さん。

色々あって存在を知ったので、ある日の夜中に差し入れを渡しにいったら大層驚かれた。

「このまま放っといたら僕死んじゃうでしょ!きんきゅーそちだよ!」

そう言って立つと僕は男の顔を見てにこにこと微笑んだ。

あっちも暫く睨んでいたけど、やがて諦めたのか溜息をついて胸元の通信機にボソボソと呟く。

そして僕の顔を見ると、もう一度溜息をついた。

「…内緒ですよ」

「やったー!」

その言葉と共に曲がり角から現れた車の後部座席に僕は乗り込んだ。

あぁ~冷房が効いてて涼しい。

フヒヒ、温室育ちでサーセン。

僕は、運転席に座っていたもう一人の保安部員、佐竹君に向かって話しかける。

「あ、佐竹君、マルヨシってスーパー分かる?そこ寄ってって、買い物も済ませちゃうから」

「碇さん…あのですね…」

僕の言葉に、また飯沼さんが渋い顔でこちらを見る。

お腹でも減ったのかな。

「今日の差し入れ?何がいいかな?」

「はぁ…」

飯沼さんはまた溜息をついて前を向き直した。

何だったんだろ。

やがて車は動き出して、佐竹君がぼそりと飯沼さんに呟く。

「前から思ってたんすけど、何で僕らの名前知ってるんですかね…」

「知るか」

MAGIって物知りだよね!

内緒だけど。

そのまま車は走り続けて、スーパーマルヨシの通りへと入っていく。

今日は特売のお肉を買って、ハンバーグでも作って…

でも夕飯まで全然時間あるし、う~ん。

下拵えでも凝ってみる?

それしか無いかなぁ。



「あ~」



思わず窓の外を見ながら呟いた。



「暇だなぁ」



普段は一人でも余裕だぜ!って思ってるのに、都合のいい時だけ誰かと居たくなるんだよね、人間って。



あー暇だ。







「何か面白く、且つ僕に全く危険性が無い単発モノのSSみたい事起こらないかなぁ」







思えばこれがフラグだった。




















~あとがき~

よし



にちように こうしん できたぞ




本当に申し訳ありませんでした嗚呼嗚呼嗚呼ああ!

忙しかったのもあったんですが、SSを書くくらいの時間は余裕でアリマシタ。

でも全く話が思い浮かばなくて・・・

今話完全に繋ぎの話なので面白みも何もありません。

たぶん後々この回も書き直しになると思われます。

最後に待ってくださった方々、お待たせしたのにこの程度で申し訳ないです。

う~ん・・・

あ、2chネタはモロに元ネタのアニメがあります。

分かったら神を超えた存在だと思いますが。



[5245] 人の創りしうんたらかんたら 3
Name: ユスケ◆3c37f4d8 ID:41e4cd5d
Date: 2010/02/11 03:32
SIDE-ユイ

「レイちゃん」

「レイちゃん?」

返事がない、ただの屍のようだ。

目の前でフルーツパフェを見つめたまま、全く動かないレイちゃん。

実験が終わった後、二人で食事をするのが最近は恒例行事になっている。

シンちゃんが休養に入ってもう10日程になるが、その間もレイちゃんはいつも通りの日程だ。

いつものように学校に行き、その足でNERVへ、そして実験や訓練をこなし帰宅。

シンちゃんが居ても居なくても、レイちゃんの毎日は変わらない。

筈なのだが、日に日に元気が無くなってきているのはどういう事なのか。

まあ、分かり切っているのだが…

つい三日ほど前に赤木博士からレイちゃんに関する実験や調整の全権を委任された。

その内容を見た時、かなり衝撃を受けたのだが、一番驚いたのは私への全権委任を決めたのが赤木博士本人だという事だ。

てっきり、嫌われているのだから自分の仕事を私に投げたりは絶対にしないと思っていたのだが。

もしかしたらそんなに嫌われてないかも!

そんな風に浮かれていたら、冷静に考えて絶望した。

つまりこうだ。

シンジ君の事はお任せください、と。

担当を完全に分ける事によって、私のシンちゃんへの発言権を限りなく減らした訳だ。

はぁ…

まあ文句は言えない。

少しずつ改善していけば良いのである。

まずはレイちゃんと仲良くなりたい!

そう思って、こうして二人でご飯を食べたりしている訳だが…

最近気付いてしまった。

目の前で別の世界に行っているレイちゃんの中で、シンちゃんが占める割合はかなり大きいという事だ。

本人は全く気付いていないだろうが。

「食べないならさくらんぼ貰うわよ~」

そう言っても反応がないのでパフェの天辺にのったさくらんぼを摘まんで口に入れる。

「ん~美味し」

ちらりとレイちゃんを見るが、全く気付いていない。

これ、そろそろシンちゃんの休養を解かないとレイちゃん消えてなくなるんじゃないだろうか。

「レイちゃ~ん」

最後の足掻きとばかりに手をぶんぶんと振ってアピール。

失敗に終わった。

「う~」

八つ当たりにカウンターへ言ってフルーツパフェを5個注文した。

そして、そろそろ4個目のパフェを制覇しようかとしている時、ふと顔を上げるとレイちゃんがこっちを見ていた。

「あ、瞑想終わった?」

「すいません、ぼーっとしていました」

そう言って、レイちゃんもパフェに手をつけ始める。

う~ん。

言おうか言うまいか。

迷うくらいなら言ってしまおう、という訳で単刀直入に聞いてみる。

「シンちゃんに会えなくて寂しいんでしょ~」

てっきり否定されるものだと思っていたのだが、そんな事はなかった。

「よく分かりません」

「あらら」

最近気付いたのだが、レイちゃんは基本的に嘘をつくだとか、遠まわしに言うだとか、そういった事を一切しない。

自分に素直なのだと思っていたのだが、そういう訳でもない。

何というか…そういう選択肢をまだ知らないのだ。

そこが可愛いのだけれど。

「シンちゃんといると楽しい?」

「分からないですけど…退屈はしません」

これも最近気付いたのだが、レイちゃんが抱いているのは恋愛感情じゃない。

純粋に好きか嫌いかどうでもいいかなのである。

つまりシンちゃんの事がすっごい好き、LOVEじゃなくてLIKEの方で。

恋愛感情などまだ無いのだろう。

今までの人生の事を考えれば情緒面で成長が遅れていても仕方がない。

「仲良いのねえ」

私としてはそこら辺はあまり干渉せずにいこうと思っている。

自分で何でも感じてほしいし、内心シンちゃんに会いたいのだろうが、自分から行動してほしいからだ。

そう思ってパフェを食べていたら、レイちゃんがぼそりと言った。

「…なんです」

「え?」

「初めてなんです、友達って言われたの」

そう言って、レイちゃんもまたパフェを食べ始める。

「そっかぁ…」

どうやら、シンちゃんがいれば何とかなりそうだ。

まあそのシンちゃんに会えないのが問題なわけだが、どうしたものやら…

考えながら5個目のパフェに手を伸ばすと、掴もうとしたそれは目で追えぬ速さでレイちゃんに奪い取られた。

そして、レイちゃんはそのまま私のパフェを食べ始める。

「レ、レイちゃんなんで~?」

なんとか返してもらおうと手を伸ばすと、レイちゃんは冷たい目でこう言った。

「さくらんぼ泥棒」




そして、二人の女性が計7個ものパフェを食べつくすその光景を見ていた少数の職員が胸焼けを起こし、食事を取らずに帰宅した事を二人は知らない。












エヴァ、乗ってみました

第四話 人の創りしうんたらかんたら その3












SIDE-シンジ


ゴムボールを投げる。

壁にぶつかって返ってくる。

キャッチする。

また投げる。

壁にぶつかって返ってくる。

キャッチする。

その度にニトロとマクロが宙のボールを追い駆けるけど、僕のナックルボールに触る事も出来ないようだ。

そうやって走り回る二匹を見続けて、早2時間。

お分かり頂けただろうか?



「暇だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



そう言って床に寝ころんでボールを放り投げると、ボールを拾ってきたマクロが投げて投げてと言わんばかりに僕の方を見つめてきた。

どうでもいいけど…犬かお前は。

拾い損ねたニトロがお腹の上でごろごろと転がり始める。

はいはい…投げますよ。

仕方ないのでボールを投げようと体を起こすと。



部屋の入口にリツコさんが立っていた。



「…何してるの?」

その顔には憐みの表情が浮かんでいた。

「ど、どこから見てました?」

「ナックルボールを習得したあたりから」

「1時間位前じゃないですかああああああああああああああああああああああ!恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいい!」

っていうか見てる方も暇だなおい。

ごろごろと床を転がって、恥ずかしさを解消したところで改めて話しかける。

「あれ?リツコさん仕事は?」

今はまだ午前11時。

本来ならまだ仕事の時間の筈だし、今日は実験があるから帰ってくるのは真夜中だって言ってた気が…

「この天気でしょ、肝心のパーツが到着してなくてね、どうせなら久し振りに休みを取ったらってマヤが」

そう言いながらリツコさんは自分の部屋へと入って行った。

そして五分ほど経って着替えてきたリツコさんは、あらためて僕に口を開く。

「で、何してたの?」

「聞きますか」

貴女は鬼か。

「暇なのね…」

「最近NEETも楽じゃないなって思うようになりました」

「また一つ大人になったわね、おめでとう」

そう言いながらリツコさんは新聞を片手にソファーに座る。

それを見て僕はとりあえずコーヒーでも入れてあげる事にした。

リツコさんみたいな人って、コーヒー片手に新聞読みながら眼鏡を掛け直すとか、そういうの似合ってカッコイイよね!

「いいんです、小学校の卒業文集に将来の夢は働かずに暮らしたいって書いたんです、夢が叶いました」

「重症ね…」

僕がいれたコーヒーをありがとうと言って飲み始めるリツコさん。

んーこんなのが似合う大人になりたい…

でもそもそもコーヒーが苦くて嫌いな僕であった。

甘党だしなあ…

そんな事を考えていたらニトロとマクロがまた足元にじゃれついてくる。

正確にはマクロがじゃれついてくる。

それを一歩離れた場所でニトロが見ているのだ。

最近気付いたけど、マクロは超無邪気でニトロはちょっとおすましさんな感じだ。

でも遊び始めたらダッシュで来るあたり、大人ぶってるだけみたいだ。

むう、遊んでやりたいけどごめんな…僕ガラスの肘だからこれ以上ナックルボールは投げられないよ…

もう2~3巻で藪医者だって判明するから、それまで待機ね。

仕方ない、ゲームでもしよう。

タケミナカタ倒してオザワのとどめでも刺して来ようかな…

そう言ってゲームの準備を始めると、ニトロとマクロが横から覗き込んでくる。

この二匹はメガテンシリーズに高確率で食いついてくる不思議な生き物だ。

最近実は猫じゃないんじゃないかって思い始めた。

起動画面を見たリツコさんが暫くして聞いてくる。

「主人公が喋るゲームの方が好きなんじゃなかった?」

「ですよ?」

「昨日もドラクエやってたじゃない」

「へへっ、小さなメダル見付けたら「あっ」って言うんです」

「末期乙」

同情の眼で見られた、鬱だ、死のう。

そのまま人生において約10年ぶりの鬱状態でゲームをしていたら、やがてリツコさんが話しかけてきた。

「シンジ君」

「はいっ」

振り向くと、さっき家での服に着替えたばかりだというのに、何時の間にか外出用の服に着替え直していた。

しかも仕事用でも買い物とかの用事用でもない。

何ていうか、オサレ着?

ジーンズ履いてるの初めて見たなぁ。

どっかいくのかなって思っていたら、リツコさんはにまーっとミサトさんみたいな笑みを浮かべてこう言った。

「暇なら買い物ついでにお姉さんとデートにでも行く?」

「いくます!」

突然部屋に入ってきた母親からエロ本を隠す反応を超えた速度で僕は返事を返していた。

ゲームを片付け、服を着替え、ニトロとマクロを肩に乗せて仙人モードに突入する。

所要時間1分48秒。

大人になって…帰ってくるぜ…



















みんなも分かってたと思うけど、人間そうそう大人になんてなれないんだぜ…

「あ、これ可愛い」

そう言って黒い猫用首輪を手に取ったリツコさんに、逆にその白バージョンを取って見せてみる。

「こっちの方が良くないです?」

「甲乙つけがたいわね…」

結局どっちも買うリツコさん。

よく考えたら色違いの二匹が居るんだからそれぞれに付けさせればいいんだよね。

「キャー!このお皿すっごい可愛い!」

そう言って丸みが付いた中々可愛いペット用のお皿を手に取ったリツコさん。

「ホントだ!買いますか!?」

「遅い!もう買った!」

「早っ」

既にもう買っていた。

「あ!このブラシ!…」

以下略。



分かるとは思うけど、今僕たちはペットショップにいる。

ニトロとマクロの色々な用品を買いに来たんだよね、実はこのペットショップは日頃からお世話になってて、たまに食べさせる栄養補助用のキャットフードなんかもここで揃えてるんだ。

リツコさんはペット用のエステというものに興味があったみたいで、それに預けている間に色々物色してるってわけ。

実はミサトさんが家に来た時にやっていたテレビでそういう特集があって、ミサトさんとかは。

「ペットのくせにエステなんて…生意気な…」

何て言っていて、リツコさんも。

「そこまでしなくてもねえ…」

と苦笑していたんだけど、実は興味があったみたいだ。

まあペットに関しては出来る限り自分で世話したい人だから、ほんとに一度やってみたかっただけだろうけど。

意外と時間がかかるみたいで、ペットショップを物色した後も二人で近所の店をちらほら周ったりしていた。

まあまあ時間がたって引き取りに行くと、戻ってきた二匹の毛艶が目に見えて変わっている事に気付いたリツコさんは、何故かとても悔しそうにしていた。

そういえばよく一緒にお風呂入ってるもんね…

そして、店を出てみてから気付く。

「買い過ぎたと言わざるを得ないわね…」

デスヨネ。

ていうか二人で5袋も持ってて、内3袋がペット用品っておかしいよね。

時計を見てみればもう1時だ。

「あ、ご飯どうします?どこかで食べますか?店の中じゃ食べれないけど」

ニトロとマクロが居るから店の中は今日は無理だね。

そう言うと、リツコさんは辺りを見渡して唸った。

「うーん…」

「どうしたんです?」

「いや、へたな物食べるより家に帰ってシンジ君の料理食べた方が美味しいのよね」

感謝のキワミ!

でも今から帰って作ったら変な時間になっちゃうよ。

それにせっかく外に出てきてるのに家に帰って食べるってのもね。

僕は頭脳をフル回転してここら辺のお店の情報を思い出す。

検索を始めよう。

少し考えてたら、前に学校で洞木さんが教えてくれたお店の事を思い出した。

「そう言えば学校の近くに、美味しいワッフルとかサンドウィッチとかのお店あるってクラスの子が言ってた気が」

それなら天気もいいから外で食べれるよね。

リツコさんも頷いて、僕の方からニトロを抱き上げて車へと歩き始める。

「じゃあそれ買って公園にでも行って食べちゃいましょうか」

「了解であります!」

空を見上げてみれば、いつも通りの激しい日光。

でも気分がいいと意外と気にならないもんだね。
















頬にざらっとした感触を感じて、覚醒する。

頬の方を見てみれば、肩の乗ったマクロがうにゃ~と鳴きながら僕を見ていた。

辺りを見渡すと、ここはどうやら公園のようだった。

そういえば芝生の上で昼食をとってたんだっけ。

途中から記憶がない。

「…寝てたのか」

どうやら座ったまま寝ちゃったらしい。

リツコさんはどこだろうと思って立ち上がろうとしたところで、膝の上の重みに気付く。

ふと見れば、リツコさんがそこに頭を載せて寝ていた。

俗に言う膝枕ってやつだ。

おーこれは役得ですな。

あれ…普通逆じゃね…

まあいいけどね。

十分嬉しいけどね!

とりあえずリツコさんのお腹の上で寝ているニトロを抱き上げて、ついでに時計を見る。

現在午後5時。

うわー結構経ってるなあ。

こりゃ起こさないとまずそうだ。

ニトロを頭の上に乗っけて、リツコさんの頭を撫でながら声をかける。

「リツコさん」

全然起きる気配がない。

暫くそんな事をしていたら対抗心を燃やしたのかマクロまで頭の上に乗ろうとしてきたので、僕は二匹とも首根っこをつかんで地面に下ろした。

その後もリツコさんに声をかけるけど、全く起きる気配はない。

どうしよう…

そういえば昔もこんな事あったな。

あの時は逆だったけど。

…あれ?

昔の僕、リツコさんに膝枕されてんじゃん。

うおー!何であの時に堪能しておかなかったんだ…

昔の自分を殺したい…

考えてみれば、リツコさんといいナオコさんといいお世話になったなあ。

色んな人に預けられたけど、僕が先生の家に預けられる前に最後に預けられた相手はリツコさんだった。

男の子が簡単に泣くなって言われて、それから色々あったけど、僕はあれから一度も泣いてない。

もう一度、全然起きる気配がないリツコさんに声をかける。

「りっこおねーちゃん」

昔はこう呼んだなぁ。

言い付け、守ってますよ。

「あーあ」

思わず溜息をつく。

先生の家に預けられて、全然楽しい事なんてなかった。

ずーっと笑っていたけど、楽しい事なんて何もなかった。

第三真東京市に来てからだ。

こんなに人生楽しくなってきたのは。

リツコさんちに預けられてからなんだ。

僕の家庭事情なんて、あの年の子供からしたら苛めの対象にしかならなかった。

都市部なら親が居ないなんて珍しくもないんだけど、インパクトの影響が少ない田舎じゃ珍しい。

それに誰が言い出したのか、碇は父親に捨てられたんだって噂、まあ間違っちゃいないんだけどさ。

まあ、あっちじゃ面白い事なんて何一つなかったから、ヘラヘラ笑って楽しんでるふりをした。

何時の間にか笑顔も顔にこびり付いちゃったけど、こっちに来てからは割と本気で笑ってる。

何も知らないレイたんはすっごい面白い子だし、初めての友達だし。

洞木さんやトウジ君、名前忘れたけど眼鏡の極まってる子も含めて、学校もいい人ばっかり。

NERVでも、ミサトさんは今までの人生で最高のツッコミだし。

マヤたんは可愛いし。

日向さんとはゲームの貸し借りする仲だし。

青葉さんもすっごい話面白い。

冬月先生にも色々と我儘聞いてもらってる。

父さんや母さんも、昔はちょっと恨んだけど、この年になって改めて見てみるとぶっ飛んでて面白い人達だ。

そして、リツコさん。

こっちに来る時、真っ先に思ったのはリツコさんに会えるかなって事だった。

それが今じゃ居候させてもらってて、一番近い人になってる。

僕は今一番幸せだ。

だから思わずにはいられないんだよね。

『今日から離れて暮らす事になる』

父さんがそう言った時。

「本当に母さんとか、お姉ちゃんとか、血の繋がりが無くても、一緒に居ておかしくない関係だったらな」

僕がもうちょっと遠慮なしなアホの子だったら。

『この街には親戚もいない、お前にも当て等あるまい』

勇気を出して言えたのに。

「あの時、りっこおねーちゃん家って言えたのに」

思わずにはいられないんだ。

あの時リツコさんちに預けられていたらなぁ…って。

まあ、今更だけどさ。

「ずーっと、使徒来ないかな」

そうすればずっと今の生活が続くんじゃないかな。

「流石に不謹慎か」

そんな事を考えていたら、5分程して膝の上のリツコさんが身じろぎした。

視線を落とすと、リツコさんがうっすらと目をあけている。

「あ、起きました?」

「久し振りに熟睡したわ」

そう言ってリツコさんは体を起こす。

そこにマクロが走り寄って、リツコさんはそっと抱きあげて頬を擦り寄せた。

「忙しいですもんね、ほんと熟睡でしたよ」

「んー膝枕効果かしらね、ふぁ~ねむ」

「そろそろ帰ります?」

時間も時間だしね。

リツコさんも時計を見て軽く呆けた後、ぽりぽりと頭をかいて呟いた。

「そうねえ」

そのまま車へと乗り込んで、家路についた。

帰りの車の中で、さっき考えていた事を思い出してぼーっとリツコさんを見ていたら、視線に気づいたのかリツコさんが口を開いた。

「どうかした?」

「いえいえ、何でもないです」

そう言って僕は膝の上の二匹の相手をし始める。

その時だった。

リツコさんがぼそりと呟く。

「別に」

「はい?」

何だろうと思ってリツコさんを見たら、意地の悪そうな顔でニヤニヤと笑っていた。

じわっと嫌な汗が背筋を伝った瞬間、リツコさんは続けてこう言った。








「りっこおねーちゃんでもいいのよ?」








…え?








「お」

「お?」

「お」

「お?」



「起きてたんですかあああぁあぁぁああぁあああああ!」



「あら、寝てるなんて言わなかったわよ?」

しれっとした顔でリツコさんはそう述べる。

そりゃ言わねえだろ!

ぎゃああああああああああああああああああああああ!恥ずかしいいいいいいいいいい!

あんな独白聞かれてたのか!

「ていうか普通そういうの聞いてても心の中にしまっときませんか!?」

「現実って非情よねぇ…」

非情ってレベルじゃねえぞ!

「穴があったら入りたい…」

そう言って崩れ落ちると、二匹が同情するような声でうなーと鳴いた。

ごめんな、君らに励まされると逆効果なんだ…

そのまま一人でゲシュタルト崩壊していたら、リツコさんがクスクス笑いながら口を開いた。

「シンジ君」

「何ですか、きっと今の赤っ恥を起点に脅され続けて肉奴隷化して、僕は人生を棒に振るんだああぁぁああぁぁあぁあぁああぁあぁあぁあれ…悪くない気も…」

「確実に頭は悪そうね、モチツケ」

「はい」

落ち着け僕、さすがにそれはねーよ。

正直顔真っ赤状態の僕の頭をぽんぽんと撫でて、リツコさんはこう言った。



「使徒が来なくなっても、出ていって欲しくなったら言うから、その時まで安心して私の家政婦さんしてなさい」



うん。

やっぱあれだ。

僕は今が一番幸せだ。

だからもしもなんて、IFの話は考えるのはやめよう。



「はい!」



だから、僕は自分でもわかるくらいの笑顔で返事をした。






















~あとがき~

久しぶりの投稿です、申し訳ない。

そしてこのまま大学行ってきます…

卒研は無事通りました。

来年は院生です。

ちょっと書く時間少なくなってますが、携帯でポツポツ書いたりしております。

とりあえず書き上げた分はPCで書き直した後上げていきたいと思います。

まあユスケの更新速度には全く期待せずに、ふとした時に、例えば戦線に出る前とかに「そういえば昔こんなSSがあってよ…」程度に思い出してもらえたら光栄でs(ry

新学期始まるまでは今までほどは忙しくないので、次投稿が遅れたらネトゲ帰参者御用達の、入院してたって言い訳をする事にしますね!( ^ω^)

次の更新はきっと恒例の誤字訂s(ry

いや…今回は無い筈だ…



[5245] 人の創りしうんたらかんたら 4
Name: ユスケ◆6e34495b ID:41e4cd5d
Date: 2010/03/02 22:05
SIDE-レイ

最近いつも春日博士と一緒にいる。

それというのも、私のチルドレンとしての管理担当者が赤木博士から春日博士に変わったからだ。

今まで住んでいた部屋も引き払い、NERV内で春日博士と一緒に暮らしている。

最初は自分のオリジナルといっても過言ではない人間という事もあり、拒絶に近い態度をとっていたのだが、最近はそうでもない。

やはり雰囲気が碇君と似ているせいだろうか、話しやすいというのもあるし、むしろ放っておいてもあちらから話しかけてくるのである。

そういう所は碇君と同じだ。

そんな訳で、最近は春日博士と一緒にいる事が多い。

少し前まで学校とNERVではほぼ碇君と一緒にいたのだが、現在強制休養をとらされている碇君とは最近話してすらいない。

となると、当然の事ながら食事もNERVの食堂の物ばかりになってくるわけである。



…誰にも言っていないのだが。



碇君の作ったご飯が食べたい。



そんな事を思いながら今日も実験が終わり、春日博士と食堂で共に食事をとる。

いつも通り山菜定食を頼み、春日博士は日替わりランチを頼んで二人でテーブルについて食事を始める。

何でいつも山菜定食を頼むのかと言うと、料理名は知らないが、お芋を煮たのが入ってるのがこれだけだからだ。

お芋は美味しい。

特に煮たのは美味しい。

多分使徒が日本のお芋を全滅させる為にやって来る生き物だったら、即シンクロも出来てしまうだろう、その位美味しい。

日本のお芋は私が守る。

他に理由があるとすれば山菜定食にはお肉が入っていないからだ。

碇君にはお肉も食べるように言われているけど、元々苦手だったものである。

何というか、血の匂いがして嫌なのだ。

碇君にそれを言ったら、次の日作ってきてくれたお弁当にはお肉が入っていて、とても美味しかった。

何とか食べられるようになったけど、それはやはり碇君の料理だからだ。

食堂のお肉は依然として血の匂いがして嫌いである。

量の少ないお芋を煮たやつを大事に大事にちびちびと食べながら食事を進めていたら、春日博士が話しかけてきた。

「レイちゃんって、朝ご飯はどうしてるの?」

朝ご飯…

食べた記憶がない。

むしろ生まれてこの方食べた事がない。

前に碇君に教えてもらうまで、人間は朝昼晩の一日三食サイクルで食事をとる事を知らなかった位だ。

ゆっくりと首を横に振ると、春日博士は何故か釣られて一緒に首を振りながら答える。

「食べないの?」

「はい」

多分春日博士も碇君と同じタイプなんだろう。

ゲームすると体が動くタイプ。

そんな事を考えていたら、春日博士は困ったような顔でこう言った。

「だめよ~ちょっとでいいから口に入れなきゃ~」

そんな事を言われても、今更朝からご飯を食べるだなんて胃が受け付けるだろうか…

「昼ご飯は?」

「碇くんが…」

「シンちゃん?」

「お弁当作ってきてくれてたので」

昼ご飯も以前はあまり食べてはいなかった。

食事と言えるような物をとっていたのは晩御飯だけだったし、それ以外は錠剤や軽いレーションで済ませていたのである。

今では昼晩と食事をとるようになったが、完全に碇君の影響である。

と言うより、碇君がお昼にお弁当を作ってきてくれるのでそれ以外食べる気がしない。

「へえ~美味しいの?」

「はい」

そう言えば春日博士は碇君の作った料理を食べた事がないんだったか。

人生を損してる。

「煮物」

「ん?」

「美味しいです、お芋とか」

お芋は神様です。

碇君の作る料理はこれが美味しいあれが美味しいと、そんな話をしていたら春日博士がパッと閃いて言った。

「あ、山菜定食しか頼まないのって、レイちゃん野菜好きなのね~」

野菜…お芋は好きだけど。

「多分…好きです」

「多分?」

「あまり色々食べたことが無いので」

碇君の料理を食べるのもお昼のお弁当だけなので、お弁当の中に入れるものとなるとそこまで豊富にバリエーションがある訳ではない。

碇君はもっと色々と食べさせてあげると言っていたが、私にはよく分からないけど早起きして作るとなるとどうしても色々は無理らしい。

なので、一時期どうやったら赤木博士の家で夕ご飯を食べる事が出来るか考えていた事がある。

と言うより、今も考えている。

「じゃあ他のも注文してみたら良いのに」

「碇君がよく頼むんです、よく分からないから、真似して」

最初に一緒に食堂に来た時、私は元々よく分からなくてAランチというのを頼んでいたのだけど、碇君が「山菜定食がレイたん一番好きだと思うよ!」と言うので頼み、それからずっとそのままと言うだけである。

肉が入っていないメニューとなるとAランチか山菜定食位しかなく、碇君曰くここの魚料理は酷いらしいので、これしか頼む気になれないのだ。

「なるほど~」

春日博士もそう言って納得したのか、再び食事を始める。

しかし、暫くしてふと何かに気付いたような顔で口を開いた。

「…あれ?」

頬をぽりぽりと掻いて考え込んでいる。

どうしたんだろう。

やがて春日博士は首を傾げて聞いてきた。

「今もシンちゃんのお弁当なの?」

「いえ」

碇君が休養中なのにお弁当を持ってきてもらえる筈がない。

「だよね、休養中なのにおかしいな~って…えっと…」

分かってるのに何で聞いてきたんだろうか。

不思議に思っていると、春日博士は小声で「まさかね…」と呟き、引き攣った顔でまた聞いてくる。

「じゃあ…何食べてるの?」

「特には」

更に春日博士の顔が引き攣る。

「それってつまり…食べてないって事?お昼ご飯」

「はい」

学校で碇君のお弁当以外の物を食べるとなると、当然売店のパンだとかおにぎりだとかになる。

碇君が休養に入った初日、何となく食べてみたのだが、酷いものだった…

何だろう、変な薬品のような味が微かにして、まるでレーションを食べているような気がしたのだ。

それからというもの、全く手をつけていない。

そういえば一度、名前は忘れたけどクラスの委員長が私にお昼を食べないのか聞いてきた事がある。

正直その頃碇君のお弁当を無性に食べたくてイライラしていたので無言で首を振っておいたのだが、やたらと心配そうな顔でチラチラとこちらを見てくるので、何だか悪い事をしたかもしれない。

「あ、宗教的な問題?らまだーんとか」

「いえ、特に宗教には…断食とかもありません」

一体どうしたんだろう…

「えっと…えっと…」

そう言いながら何かを必死に考えている春日博士の目に何故か涙が浮かんできた時、春日博士は突然叫んだ。

「ばかー!」

怒られた。

何でだろう…













エヴァ、乗ってみました

第四話 人の創りしうんたらかんたら その4













SIDE-シンジ



ヒャッハァー!学校だぁー!



別に頭がおかしくなった訳じゃない。

何でこんなにテンションが高いのかと言うと!

強制休養解けました!

まさか僕が学校に行くのを楽しみにする日が来るなんて…

世も末だぜ…

そんな事を考えていたら、通学路の途中でレイたんと鉢合わせた。

聞くと母さんから今日から僕が登校すると聞いてここでずっと待っていたらしい。

あまりのときメモ的な展開に、ついに僕の春ハジマタ!とか思ったりしたけど、僕が今日は学校が午前中しかないのでご飯はNERV食堂で食べるという話をすると、まるで世界そのものに絶望したかのように地面に崩れ落ちていた。

ごめん…今度お弁当作ってきてあげるから…

そんなこんなで登校していると、レイたんも僕のテンションが異常に高い事に気付いたのかこう言ってきた。

「今日、元気いいのね」

「久しぶりに学校行けるって思ったらテンション上がり切っちゃって!別に頭はおかしくなってないよ!」

「うん、頭はいつもと変わらない」



…あれ?



登校前に精神的ダメージを食らうというアクシデントがあった訳だけど、気にしない!

そうこうしている内に学校につき、クラスへと入ると真っ先にジャージの人が声を掛けてきた。

「おー!碇!綾波が怪我したゆうとったけど、もう出てきてええんか?」

「もう絶好調だよ!今ならオープニングでムドー倒せるよ!」

「頭の方は相変わらずやな」

ジャージ君のその一言に、クラスのみんなはうんうんと頷きながら。

「いやーよかったよかった、相変わらずで」

「相変わらずでよかった」

「よくはない気もするけどよかった」

と、それぞれ納得していた。

…えっと。

明日から不登校になるかもしれない。



まあ、洞木さん曰く、今日のレイたんは楽しそうだったらしいからいいや。














「ど、どうかな!?」

夕方、NERV内の食堂で食事をとる僕とレイたん、それにリツコさんにマヤさんの姿があった。

食堂でといっても僕が食べているのは定食とかじゃない。

マヤさんのお弁当である。

これだけ聞くと僕に春が来たように聞こえるかもしれないけど、全然そんな事はない。

マヤさんが頑張って作ってきたお弁当の味見をしているだけだ。

目ぼしいのを何個か食べて感想を言う。

「うーん、率直に言うと味薄過ぎ」

「だよねえ…」

マヤさんが苦笑いでそう返す、何でかと言えば毎度毎度マヤさんの料理は味が薄いからだ。

色々とアドバイスしていると、横に座って隙を窺っていたレイたんが徐に口を開く。

「このにものをつくったのはだれだー」

「は、はい!私です!」

レイたんが一度言ってみたかっただけの台詞に、律義に反応するマヤさん。

何となくだけど、一生弄られたり、巻き込まれたりしながら生きていくんだろうな…ってそんな事を見ていて思った。

その後も色々と下らない話や訓練の話、これから先どんな使徒が来るのか、誰がカイザーソセなのかなんて事を話していたら、リツコさんがふと思い出したように口を開いた。

「そう言えばマヤ、明後日休みよね?」

「え?そうですけど、どうしたんです?」

何の話だろうと首をかしげながら聞き返すマヤさん。

社会人でその動作が似合うだと!?

24歳でこのスペック…NERVのオペレーターは化け物か…

そんな感じでマヤさんのスペックに脅威を感じていると、リツコさんは小声で「…いけるっ!」と呟いてこう言った。

「暇でしょ、シンジ君とレイに付き合ってくれないかしら?」

「えぇー!」

明らかに嫌そうな声で叫ぶマヤさん。

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃん!」

「だってその日は溜まってる本を…」

そういえばマヤさんも物凄い休み少ないんだっけね…

まあリツコさんに至っては丸一日休日なんて日は月一回あるかどうかだし、やっぱり科学者ってのは忙しいんだろうね。

他人事でサーセン、フヒヒ。

とりあえずぼそぼそと言い訳しているマヤさんに、お説教をしておく。

「漫画ばっかり読んでると馬鹿になるよ!」

「何で漫画って分かっ…あ」

マヤさんが反射的に返したその言葉で、周りが若干微妙な空気になる。

「ホントに漫画なんだ…」

リツコさんは盛大に溜息をついているし、レイたんは生温かい目で僕とマヤさんを交互に見比べている。

話が聞こえていた他の職員に至ってはあからさまにヒソヒソと何かを話し始めた。

残念だったねマヤさん…

今のNERV内において!漫画を読む人間の地位はここまで低いのさ…

まるで異常者のような扱いを受ける、全く…誰の所為なんだか…

漫画を読んでいる事をカミングアウトした本人は、今ではテーブルの上にうつ伏せになってさめざめと泣いていた。

こうやっていじけてしまうと正直相手にするのがしんどい人なので、僕とレイたんは無言でリツコさんをじーっと見つめた。

やがて、視線に気付いたリツコさんがこれ以上ない位面倒臭そうに声をかける。

「マヤ、貴女ね…この前シンジ君に漫画ばっかりじゃなくて文庫をって言ってたわよね」

「だって~!」

あ、ダメだ、リツコさん別にフォローするつもりないや。

むしろ叩くつもりだ。

僕はリツコさんが二の句を継ぐ前に、とっさに口を開く。

「マヤさんも僕の事言えないんじゃん!」

リツコさんに撃沈される前に僕の方でどうにかしておこうというこのフォロー。

「ち、違うわよ!私は読むだけだもの!シンジ君は根っこのところまで浸食されてるでしょ」

なんか酷い事言ってんぞこのアマ。

頬を引き攣らせながらも、レイたんが横でどうどうと僕を諌めるので、極めて冷静にマヤさんに質問する。

「どんなの読んでるの?」

この質問に、マヤさんは頬を真っ赤に染めると完全に俯いてしまった。

「えっと…色々…」

「例えば?」

マヤさんが何読んでるかなんて全く想像つかない。

「うーん…」

凄く恥ずかしそうに考え込んでしまっている。

…まさかBLじゃないよな。

しまった、あり得そうで困る。

もしここでマヤさんがBL系の本を読んでいた場合、レイたんが後に「BLって何?」という質問をしてくる事は最早必然。

僕はどんな漫画でも大好きだが…BLは無理だ。

あの日…上機嫌でゲットしたレアものの漫画のZIPファイルの中身が、実はくそみそな内容の漫画で、何も知らずに読んでしまった僕は暫く立ち直れなかったのだ。

うん、仕方ないね。

とりあえず漫画の種類の話から、具体的に何かに質問を変える。

これならレイたんが気にしてもいくらでも誤魔化せるだろう。

「一番最近読んだ漫画は?」

ちなみに僕が休養明け一発目にレイたんに貸した漫画はとある少女漫画だ。

僕は別に現実でそんな夢のような展開あり得ないんだから、少女漫画位は別に大人の女の人でも読んでいていいんじゃないかと思っているのだ。

そんな事を考えていたら、マヤさんは恥ずかしそうに顔を赤らめてこう言った。

「む…むこうぶち」

「…御無礼」

まさかのガチである。

その後も色々と話したけれど、分かったのはマヤさんはベルセルクの初期の方が好きだという事ぐらいだった。

知らなきゃよかった…

数日後レイたんが「むこうぶちって何?」と聞いてくる事になるんだけど、その時は丸一日教えていいものか悩んだ。

まあそんな感じでマヤさんも弄り終わって、リツコさんが時計を気にしながらマヤさんに言う。

「じゃあ…マヤ、お願いね」

あ、そういや元はそんな話だったっけ。

マヤさんは仕方ないとばかりに、諦めた表情で頷いた。

「いいですよ~あ、ところで何すればいいんです?」

「シンジ君の三者面談よ」

何でもないようにさらっと告げるリツコさんはさすがである。

数日前、三者面談がある事を告げると僕やレイたん以外の子供がわらわら居るような場所に行くのは必要な限り嫌だと、半分酔っ払いながら駄々をこね続けた人間には見えない。

どうやらリツコさんは子供、しかも五月蠅いのがお嫌いなようだ。

あれ?このSSのシンジ十分五月蠅くね?そう思った貴方は夜道に気をつけた方がいい…

何だかよく分からない事を呟いてしまった…話を元に戻そう。

マヤさんは三者面談ですかーと納得して、話が終わろうとする。

「なるほど~分かり…まし…」

が、終わる訳がなかった。

マヤさんが途中でビシッと固まり、リツコさんを見つめ、確かめるようにオウム返しに聞き返した。

「さんしゃめんだん?」

「うん」

何故か僕が頼んだメロンソーダを飲みながら頷くリツコさん。

どうでもいいけど、うんって…もう完全に人事になっている。

そんなに行きたくなかったのか…

暫く考えていたようだったが、数分後やっと意味を理解したマヤさんは席を立ち上がり叫んだ。

「って、ええぇぇぇええぇぇえぇぇぇえぇぇええぇえ!な、何で私が!?春日博士とか!先輩とか!司令とか!」

「司令は当然無理、エリさんは論外、私は明日時田重工のアレがあるでしょ、明後日はそれの書類整理で手一杯」

必死になって回避しようとするマヤさんだが、残念ながらその日がフリーなNERVメンバーで僕とレイたんに一番近い人間となるとマヤさんになってしまうのだ。

というより僕とレイたんどちらとも喋れる人類という時点で10名居ないのだが…

マヤさんは自覚がないようだが、レイたんは当然の事として、比べて話しやすいと認知されている僕でもNERV内でまともに話しかけてくる人間は稀である。

何も考えていないようなのほほんとした笑顔で「シンジく~ん、レイちゃ~ん」と大声で声を掛けるような真似ははっきり言ってマヤさんにしか出来ないだろう。

前にレイたんがこう聞いてきた事がある。

「もしかして…伊吹二尉は碇君の親戚なの?」

未だにどういう意味の質問だったのか全く分からないのだが、とりあえずその時は血縁関係は全くない事を説明しておいた。

まあそんな事よりもだ。

今、聞き捨てならない単語を耳にしたような気がする。

今、リツコさん、時田重工って言わなかったか?

「そんなぁ…どんな顔していけば…」

「姉代わりとでも言っとけばいいでしょ」

マヤさんはまた半泣きになってぶつぶつ言っているが、それに答えるリツコさんは本当にどうでもよさそうだ。

そんなリツコさんを見て、尋ねる。

「何なんです?時田重工の…アレって」

その質問をすると、リツコさんは数秒だけしまったといった感じの表情を浮かべていたが、やがて何か閃いたのか…

ニヤッと笑みを浮かべてこう言った。

「シンジ君…ロボット好きよね?」




















その日の夜の事である。

僕がそろそろ寝ようかと思っていると、珍しい事に僕の携帯が鳴っている事に気付いた。

誰からかと思って見てみると、なんとレイたんからである。

実は、僕の電話の履歴ってリツコさん・母さん・レイたんがその大半を占めるんだけど、レイたんから掛って来るというのは中々珍しい事なのである。

基本的にレイたんからかかって来る時は前もって何時に電話するという事を告げられる。

実は大分前から、それって携帯の意味ないよね…と思っている事は内緒だ。

とりあえず電話をとってレイたんに声を掛ける。

「レイたん?どしたの?」

そう言ってみたものの、返事がない。

やだ…これっていたずら電話かしら…

「レイた~ん?」

ちょっと心配になって呼び掛けると、今度は返事が返ってきた。

『うん』

うんと言われても困る訳だが…

「どうしたの?」

とりあえずレイたんからこんな感じで電話があるのは珍しいので、聞いてみると素っ頓狂な返事が返ってきた。

『どうもしない』

…え?

電話しておきながら…どうもしない?

何だか混乱してきた。

「え?何これ、新手の嫌がらせ…?」

『そういう訳じゃないけど』

そう言うレイたんも何故か困惑気味である。

まあ別に用がないと電話するなって訳じゃないけど、レイたんがまさか特に用も無いのに電話してくるとは思わなかった。

「えっと、別に特別に用があるってわけじゃないんだよね?」

『ええ』

「…暇だった?」

『暇?』

「何かしてた事とか、する事とかあった?」

まあ聞いといてなんだけど、レイたんが家で何かやる事があるとは絶対に思えないねっ!

当然のごとくこんな返事が返ってくる。

『特には』

「それそれ、それが暇って事」

『そう…私、暇なのね』

「てかレイたんって基本暇そうだよね」

『よく分からないけど碇君だけには言われたくない、絶対に、言われたくない、大事な事だから二回言いました』

「あ、はい…」

…どう言う事だろう。

何だかショックだったので、話題を変える事にした。

「そう言えば、レイたん明日起動実験でそ」

『ええ』

何かレイたんって自分の話とか殆どしないから知らなかったんだけど、長々と延期になっていた零号機の起動実験、明日行われるらしい。

明日はリツコさんが居ないから、母さん主導で行われるって聞いて大丈夫なんだろうかと不安になったけど、話によるとエヴァって母さんの時代からシステム的には大きな変化がないらしく、そう言った意味で言うと母さんはむしろリツコさんよりもエヴァに詳しいのだとか。

うん、よく分からん。

とりあえず零号機がシンクロに成功すれば、戦闘の際出撃できるエヴァが二機に増えるって訳だ。

「じゃあ明後日から一緒に出撃できるね!」

単純に嬉しくてそう言うと、レイたんは珍しく沈んだ口調でこう返した。

『…成功すればだけど』

ああ、そういえば今まで10回以上失敗してるんだっけ。

そりゃ成功するとは思える筈ないか。

まあでも、僕はこう思う。

「え、するでしょ」

『…何で断定するの』

だってレイたんが一人でエヴァを動かそうとしていた時とは違う。

今じゃ中の人が居る事が分かってるんだから、そっちとコンタクトをとれば簡単だと思うんだよね。

「中の人に動かすの手伝ってもらえばいいじゃん」

『中の人なんていない』

「えー絶対レイたんのにもいるって!じゃないとロボットとシンクロ何て出来る筈ないじゃん」

て言うか中の人が居ないと、意識が存在しないものとシンクロとか訳わかんないよね。

零号機は過去に暴走した経歴があるらしい。

それはつまりシンクロに失敗しているという事だが、逆に言うとやり方を間違えただけでシンクロは可能だということの証明でもある。

僕の理論では中の人が居ないエヴァは動かないのだから、つまり零号機の中にも中の人が居る、と。

そういえば零号機が暴走した時の事故が原因で、父さんの両手の火傷があるらしいんだけど、今の技術なら傷跡まで完治できるんだからさっさと直せばいいのにね。

それをしないのはやはり、トップとしての貫録をつける為何じゃないかと密かに思っていたりする。

そんな事を考えていたら、暫く無言で何かを考えていたレイたんは徐に僕に尋ねてきた。

『…どうやるの?』

「何て言うかねーシンクロしようとするんじゃなくて、ぼーっと探してたらあからさまにおかしい奴居るからさ!そいつに話しかけてみる感じ!零号機を探せ!みたいな!」

『よく分からない』

うん、実は僕もよく分からない!

「レイたんなら出来るよ!」

『何でそう思うの?』

「だってレイたんヒーローの素質全開だもん!絶対出来るよ!今まではシンクロ出来ないー!って、自分の中でいっぱいいっぱいだったからダメだったんだよ」

根拠何てないけど!

「落ち着いて、エヴァをよく見て、感じて」

完全に何となくなんだけど!

「大抵の漫画じゃ、レイたんみたいな子が一番格好いい事したりするんだからさ」

レイたんからは仄かに主人公臭がするのだ…

「頑張れ!頑張れ!出来る!出来る!絶対出来る!頑張れ!もっとやれるって!やれる!気持ちの問題だ!頑張れ!頑張れ!そこだ!そこで諦めるな!絶対に頑張れ!積極的にポジティブに頑張れ!頑張れ!使徒だって頑張って
るんだから!」

僕の熱過ぎる応援に、レイたんは暫しの沈黙の後、ぼそりと答えた。

『じゃあ頑張る』

その後レイたんが遠回しに起動実験の前に僕のお弁当が食べたいみたいな事を言ってきたので、明日は保安の人にレイたんに届くようにお弁当を渡しておこうと思った。
















翌日。

時田重工の新開発二足歩行ロボット、ジェットアローンの完成披露記念会へと向かう車内。

運転を務めるのは飯沼さんと佐竹君。

つまり、サードチルドレンである僕の護衛の人だ。

要するに、そこに僕も居るという事である。

車内で顔を合わせてからずーっと僕が見えないを振りしていたミサトさんだったが、とうとう溜息をつくとぼそっと口を開いた。

「えっと…一つ聞いていい?」

何だろうと僕とリツコさんはミサトさんの顔を見る。

「なになに?」

「何よ?」

リツコさんは車内でもノートPC片手に仕事をしており、完全に邪魔しないでよムード丸出しである。

そんな事にも怯まず、ミサトさんはビッと僕を指さすと自分の胃の辺りを押さえながら呟いた。

「…なんでシンジ君がいるのかしら」

「僕も行くからだよ?」

他に居る理由ないじゃん。

「…何しに?」

「出席しに、むしろ見学しに」

他に行く理由ないじゃん。

「…何で?」

「だってロボットだよ!?ロボット!もうモゲラかメカゴジラかってワクワクしてるんだよね!」

ロボットを見ずにはいられ無いじゃん!

僕の熱い叫びを聞いて、ミサトさんはリツコさんの胸倉を掴むと半分涙を流しながら言った。

「何で一番のトラブルメーカーを連れて来るのよ!」

「んー、だって言ったら行くって聞かないし…」

昨日色んなものと引き換えに同行を許可してもらったのさ…

等価交換の法則なんて現実世界では通用しない事を証明するような取引だった。

さめざめと泣くミサトさんの肩にそっと手を置き、呟く。

「ミサトさん」

「何よ」

振り向いたミサトさんは完全に目が据わっていた。

そんなミサトさんに僕は全力全開のサムズアップをきめると同時にこう告げる。



「まかせとけって」










数秒の硬直の後、ミサトさんは泣きながら叫んだ。



「何をよ!」



さあ…見せてもらおうか、時田重工の新型の性能とやらを!













あとがき

今回の第四話はつなぎの話なので書いていてものすごくつまらないです。

使徒も出てこないし、ネタも載せづらいし。

次で第四話も終わりなのでガンバルガン。

どうでもいい話なんですが、沖海2のラブ☆ダッシュのラウンドのアニメがエロゲーのOPにしか見えなくてテンション上がってきた。

時代はワリンちゃんですね。

マリオ→ワリオ

マリン→ワリン

ルイージ→ワルイージ

と来たのだから次は

サム→????

のハズです。

みんなで名前を考えて編集部におくr(ry

*3/2 誤字?ただのカカシですな。



[5245] 人の創りしうんたらかんたら 5
Name: ユスケ◆0e1a11c2 ID:41e4cd5d
Date: 2010/12/20 15:58
SIDE-シンジ



完成披露記念会の会場へと到着してすぐ、ミサトさんはちょっとキョロキョロと辺りを見渡したかと思うと、人の流れに逆らってどこかへ行こうとしたので声を掛けた。

「どこいくのー?」

するとミサトさんは、可愛くウインクをして手をひらひらさせながら言う。

「メイク直し」

ああ。

トイレね!

分かっててもジェントルな僕は言わない。

さすがに言いません。

でもとりあえず言っておく。

「心をリメイクした方がいいんじゃないかな!」

すると、ミサトさんはニコッと笑ってこう言った。

「人生リテイクさせてあげましょうか?」

「誠に申し訳ございませんでした」

怖いわー大人怖いわー…













エヴァ、乗ってみました

第四話 人の造りしうんたらかんたら その5













いざ会場へと到着し辺りを見渡すと、数多く設置されたテーブルの上にプレートが置かれ、招待された団体ごとに席が指定されているようだった。

案内に従い進むと、やがてNERV様御一行と書かれたプレートが見えてくる。

その机の上を見てみると。



何もなかった。



他のテーブルの上には数々の食事が用意されているのに対して、僕たちのテーブルの上にだけ何も用意されていない。

どういう事なんだろうと思ってリツコさんの顔を見ると、天井を仰ぎ見るようにして深いため息をついていた。

ミサトさんが苦笑いを浮かべながら呟く。

「なんつうあからさまな…」

え?何?NERVって嫌われてるの?

仕方ないといった様子で席に着こうとするリツコさんだったが、他の席を見ると今までの人生で見た事もないような豪華な料理が用意されている。

…………。

僕はそっと机の上からNERVのプレートを持ち上げると、それを隣の席に置いてあったプレートと入れ替えた。

「ちょっと…シンジ君」

リツコさんがちょっと焦って制止するけど、そんなの気にしない。

ここで引いたらこの料理が食べられなくなるかもしれないんだぞ!

交換したプレートに内閣うんたらって書いてあった気がするけど気にしない。

その様子を見てニヤニヤしていたミサトさんが、徐に呟く。

「あら、こっちの席だったみたいね」

うんうん、僕ミサトさんのこういうとこ大好きさ。

「貴方達…」

頭を抱えていたリツコさんだったけど、暫くテーブルの上の料理を見つめて、誘惑に負けたのかそっと席に着いた。

人間は三大欲求には勝てないように出来ているのさ…

そして、いざ料理に手を付けようとしたところでミサトさんが声を上げる、

「こ、これは!」

不思議に思ってミサトさんをみると、テーブル上の一皿指差して顔を蒼白にしていた。

その視線の先に目を向けると、そこには見た事もない料理が乗った皿がある。

そんなに珍しい料理なのかな。

リツコさんもリツコさんで、その料理を見てちょっと前のめりになっている。

ミサトさんがその皿を指さして言葉を震えさせる。

「ふぉっふぉっふぉふぉ!」

「あ、すげー、バルタン星人の物真似だよね?ここまで似てないの初めて見た」

よく分かっていなかった僕だったが、ミサトさんの次の言葉を聞いてMMR並に驚愕した。

「フォアグラ!?」

「ナンダッテー!?」

フォ、フォアグラァ!?

セカンドインパクト前では高級食材、インパクト後は幻の食材とも言われるあの伝説がここにあるというのか!?この世界観における価値の説明文乙!

そんな感じで大はしゃぎして料理に手を付ける僕達を眺めながら、リツコさんが遠い目をしてこう呟いた。

「別の席行きたい…」



一応言っておくと、最終的に一番料理を食べたのはリツコさんだ。












その後、ジェットアローン、通称JAの開発責任者だとかいうおっちゃんが現れて説明が始まったのだが…

いや、何て言うかね。

酷かった。

こいつはスーパーロボットってぇ物が何なのか全く分かっていない!

イライラして説明を聞いていたら、僕を連れてきた当の本人であるリツコさんは時折ニヤニヤと笑みを浮かべながらイラつく僕を眺めており、説明なんて殆ど聞いていないようだった。

そしてその手は淀みないスピードで料理を口へと運び続けている。

ミサトさんはというと、全然興味がない様子で机の上に置いたパンフレットを眺めて…

違う。

まるで授業中の高校生みたいな感じで机の下で携帯をいじっていた。

時折凄く嫌そうな表情を浮かべているけれど、誰かとメールでもしているんだろうか。

ふと思ったけどNERV態度わっる!

途中で僕も聞くのが嫌になってレイたんとメールでもしようと思ったんだけど、よく考えたらレイたんは今零号機の機動実験中なのだ。

うわあああああああああああああああ!結果が気になってさらにイライラする!

とりあえずレイたんに終わったら結果を教えてとメールしておいた。

レイたん成功するといいなあ。

それはさておき、こんな感じで僕一人がストレスマッハな状態で時間は過ぎていったのだけど、やがて説明の時間が終わると、責任者のおっちゃんが質問はないかと辺りを見渡し始めた。

そして視線をある一点で止めると、見下すような色を浮かべてこう言ったのだ。

「質問はありませんか?例えばNERVよりお越しの、高名な赤木リツコ博士」



…あぁん?



何だこいつ。

すっごいムカつくんだけど。

当のリツコさんは面倒臭そうな顔でフォークとナイフを下ろすと…ってまだ食ってたんですか。

リツコさんは数秒何か考えていたようだったが、ふと僕の方を見て。

一瞬、凄く意地の悪そうな笑みを浮かべてこう言った。

「いいえ、私からの質問はありませんわ」

そして、口を開こうとしたおっちゃんを遮るようにして、続けてこう告げる。

「ただ、彼がどうしても聞きたい事があるらしいのでよろしいでしょうか?」

…ん?

辺りがざわざわとざわめき出す。

なんぞ?

何でみんな騒いでるんだろう?そう思ってさっきのリツコさんの言葉を思い出す。

え?

ふとリツコさんの方を見ると、満面の笑みで指したその指先が僕へと突きつけられていた。

え…えぇ…?

おっちゃんも戸惑った顔でリツコさんに尋ねる。

「構いませんが…その子ですか?」

「ええ、彼ですわ」

赤木リツコ博士に指名されるなんて、あの子供は何者だとさらに辺りがざわつき始めた所で、ミサトさんが顔を寄せて小声で呟く。

「ちょっとリツコ!何考えてるの!?」

「あら、聞きたい事あるわよね?シンジ君」

その表情を見て、僕はふと気づいてしまった。

いや、よく知らないんだけど、多分リツコさんとあのおっちゃんは元々犬猿の仲なのではないだろうか?

表情は笑みで固まってるけど、リツコさんの顔は見方によっては般若にも見える。

ミサトさんも何かを察したのか、「ま、まあいいけど」と呟いて引いてしまった。

そしてリツコさんが小声で僕に言う。

「シンジ君」

「ハ、ハヒ!」

「どんな事聞いてもいいのよ?…どんな事でもね、今日は許すわ」

こえー…大人こえー…。

まあいいんだけどね…。

完全アウェーの中、おっちゃんが渋々といった様子で僕に「ではどうぞ」と声を掛ける。

予想外の展開だったけど、僕も僕でイライラしてたんだ。

この展開、私は一向に構わん!

ただリツコさん…僕が立ち上がった瞬間にぼそっと。



「…くらえ」



とか呟くのやめてください。

そんな訳で立ち上がると、係りの人がマイクを持ってきて僕に渡す。

あーテステス。

感度良好。

本日は晴天なりーとか言ってたら、テーブルの下でミサトさんに武田幸三ばりの下段を打ち込まれた。

早くも崩れ落ちそうになりながら口を開く。

「えっと…デザインだとか原子力だなんて不退転の決意どころじゃないとかそんなツッコミは置いとくとして、対使徒戦を想定した場合の話なんですが、ATフィールドとかどうするんですか?今までの使徒の中には16万メガワットの荷電粒子砲でも貫けない強度のATフィールドを持った使徒もいました、エヴァンゲリオンの場合はATフィールドを放つ事による中和によってその問題を解決しているんですが、お話によるとこの木偶の坊にはATフィールドの発生機構は搭載されていませんよね?それにどうも特殊な武装も搭載していないようですし、僕の脳味噌じゃこいつに出来る攻撃方法なんて原子力エネルギーを生かしたカミカゼアタックしか思いつかないんですが、そこのところ聞かせて下さい」

とりあえずここら辺からかなと思って尋ねてみると、おっちゃんは僕の質問にかなり驚いたようだった。

周りの人も何だかざわざわしている。

…僕そんなに馬鹿そうに見える?

そして、僕の質問に対しておっちゃんは少々時間をおいてこう答えた。

「それもすぐに解明出来ますよ」

「は?」

てっきりその後解明できる理由が告げられるのかと思ったけど、おっちゃんは他に質問はって顔をしている。

えっと…

おい、子供騙しってレベルじゃねえぞ。

質問の答えになっていない。

使徒はATフィールドの解析が終わるのを待ってくれたりなんかしないんだから。

あまりの能天気っぷりに思わず僕は口を滑らせてしまった。

「へー凄いなー解明出来たら教えてくださいね」

「ん?」

「なんせ実際ATフィールド張ったり消したりしてるこっちも、原理とか全く分からないままなんで、ノリで出してるだけなんですよね、あ、これ言わない方が良かったかな、ハハハ」

言ってからしまったと思った。

ちょっと冷や汗をかきながら横を見ると、リツコさんは素知らぬ顔をしているが、ミサトさんは明らかなジト目で僕を見て、声には出さずにこう言った。

「ホッチキスで縫い合わせんぞ」

うん、僕読唇術とかできないし、読み間違えたみたいだね。

「で、でへへ、あ、後外部操縦でしたっけ?」

「ええ」

「ジャイアントロボ見た事あります?」

「は?い、いえ、ありません」

は?

こ、こいつ!

ねえのかよ!

ここで僕の怒りが有頂天になった。

「間接操縦の反応の鈍さなめんなよ!」

僕が突然大きな声を出したのでリツコさんもミサトさんも、会場にいた人達も皆ビクッと見を強張らせた。

でもそんな事お構いなしに僕は叫ぶ。

「ロボにはそれに耐えられるだけの装甲があんだよ!ロボしかり!鉄人しかり!どうでもいいけどミカヅキは乗り込まない方が僕好みだったな!だから大作君も避けろロボなんて言わないんだ!あ、言ったかも…そもそもあんな細い手足で外部操縦だぁ!?大作君も転げ落ちるわヴォケ!スーパーロボット舐めんなよ!大体あんなモンキーパンチも真っ青なしょぼくれたボディーでどうやって近接戦闘こなすんですか!格闘戦とは言わずとも人型最大の魅力は状況への高い対応能力と高いフットワーク性能ですよ!あんなメタルマリオ並みの機動性しかなさそうなボディーで何するって言うんです!?うちが言うのも何ですけどよほどのメリットがなければロボットが人型である必要性なんてないんですよ!頑丈だ頑丈だって言いますけど僕には猫の尻尾踏んだだけで自壊しそうなギネスロボにしか見えません!そもそもあのロボットの攻撃手段って何なんですか?あの蛇腹みたいな手足伸ばして僕を笑わせてくれるんですか?いけー!ロボー!でどうにかなると思うなよコラァ!「シンジ君、落ち着きなさい」あ、はい」

リツコさんにシャツの裾を引っ張られて僕は正気に戻った。

見渡せば、辺りの人達は皆口をあんぐりと開けて僕を見ている。

しまった…。

自分でも何言ったのか覚えてない。

とりあえず微妙な空気だったので、体裁を整える為にも慌てて口を開いた。

「結論から言うと…そいつはただのでかいゼンマイ人形です、以上」

この一言でリツコさんが耐えられないとばかりに爆笑し始めた。

反対にミサトさんは泣きそうな顔でこめかみを押さえてぐりぐりやっている。

何だっていうんだいったい…。

ぼ、僕の所為じゃないからな!

明らかに騒ぎ過ぎたので慌てて着席し、マイクを係りの人に返そうとすると、呆然としていたおっちゃんがぼそっと僕に言う。

「き、君は一体…」

そう言えば来る時に言われたんだけど、僕が碇シンジだってのは言っちゃいけないらしい。

何かただのNERV関係者って事になってるらしい。

いや、どう考えてもバレバr(ry

「ふん、気にするな」

まあとりあえず言う訳にはいかないので、再びマイクを取り適当に答えておく。

「通りすがりの、サードチルドレンだ」

マイクを返し、ざわつく会場を尻目に僕は席に着く。

そんな僕のこめかみに、ミサトさんは銃口を突き付けてこう言った。

「ねえ、守秘義務って知ってる?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

ていうかミサトさんどうやってそんなもん持ちこんだんですか…。











説明が終わり、実演の為参加者達が管制塔へと移動している最中、レイたんからメールが届いた。

レイたんから僕に送ってくる事ってそんなに多くないので、まさかと思って急いでメールを開封する。

すると、そこにはこう書かれていた。

《 起動成功しました 》

やった!やったやった!

ほらね!やっぱりレイたんは出来る子!

純粋に嬉しかったので、そのメールをはしゃぎながら隣にいたリツコさんとミサトさんに見せる。

メールを見たリツコさんは何も言わずに笑顔を浮かべて頷き、ミサトさんは溢れんばかりの笑顔を浮かべて僕とハイタッチした。

レイたんは自分がエヴァを起動できない事を気にしている様子だったから、動かせるようになって本当によかった。

ひとしきり喜んだ後、レイたんに祝福のメールを返す。

《 GJ(*'ω'*)b 女の子らしく顔文字もつけれたらもっとGJ(’’ 》

女の子なんだからメールだって可愛いのが見たいよね!

まあレイたんが顔文字やら絵文字やら使ってる所は逆に想像できない訳だけれど。

そして、5分後。

レイたんから返ってきたメールがこれだ。



《 起動成功しました\(^o^)/ 》



おい、誰だレイたんにオワタとか教えたの。









…僕?









閑話休題。

そして、いざJAの起動実験が始まり、その巨体ががっしょんがっしょんと明らかにポンコツ色満載の音を立てて動き出す。

それに対してお偉方が「おぉー」と歓声を上げているけれど、あんたらあんなもんで本当に勝てると思ってんの?って言いたい。

何となくパンフレットを見ていると、JAの実演内容が簡単に書いてあった。

えっと、まずは管制塔前の広場まで歩いて簡単な運動性能を披露…

チラッと前を見て、ふと気付く。

…あれ?

同時にスタッフの人達がざわざわと騒ぎ出した。

んー…

僕の気のせいだろうか。

地面に明らかに線が引いてあるんだけど、パンフを見る限りあれって停止線だよね。



…通り過ぎてね?



僕の気のせいかと思って、ミサトさんの袖をくいくいと引っ張り、声を掛ける。

「ねね」

「あん?」

暇そうにしていたミサトさんは凄く柄の悪い返事をしてくれた。

ついでにリツコさんや後ろに控えていた飯沼さん達もこちらを見る。

皆に僕はJAを指差して言ってあげた。

「あれ、のーきょーちゃん、こっち来てね?」

全員ぼけーっとした感じでがっしょんがっしょんと音を立てるJAを見ていたけれど、僕がパンフを広げて見せると、JAとそれを見比べて段々と顔を青ざめさせていった。

だってあれ、このまま来たら絶対管制塔に突っ込んでくるよね?

その時である。

上のフロアのコントロール部分に座っていたスタッフの声が、真下にいた僕らの耳に届く。

「ダメです!止まりません!」

やったー!かっこいい!

やがて管制塔にいた人達全員がざわめき出す。

ざわ…ざわ…

リツコさんは引き攣った笑みを浮かべ、ミサトさんは僕の襟を掴んでゆさゆさと揺らしながら叫ぶ。

「ナンであんたと炒るとToLOVEるばっか怒るのよ!」

「ミサトさん落ち着いて、誤字誤字」

「メタ言ってんじゃないわよ!」

そんなミサトさんの大声に触発されたのか、一気に管制塔内は騒がしくなる。

「逃げろー!逃げろおおおおお!どうなっても知らんぞおおおおお!」

「こ、こんな暴走ロボットが来る部屋に居られるか!私は自分の部屋に帰るぞ!」

「絶対に…生きて帰る!」

「俺、この式典が終わったら結婚するんだ」

「退路が分からんな、見てこいカルロ」

皆が騒ぎながら一斉に出口へと押し掛ける。

なんか皆が皆死亡フラグを立てまくってた気がするけど気のせいだろう。

スタッフの人達が皆に落ち着くように声を掛ける中、時田とかいうおじさんは床に膝をついて虚ろな目で呟いている。

「何故だ…暴走などするはずがないのに…何故だ…」

「坊やだからさ…」

「言ってる場合か!」

ミサトさんにお尻を蹴り飛ばされた。

最近段々とミサトさんの僕への対応が荒くなってきてる気が…

とりあえず別の世界に行きかけている時田の頬を叩いて声を掛ける。

「おい!ビッグダン!あのガラクタ早く止めろよ!」

「声だけで変なあだ名をつけるんじゃない!」

「言い返してる暇あったら何とかしろっての!」

「言われなくても!」

そう言って時田はスタッフ全員に声を掛け、指示を出し始めた。

そんな中でリツコさんがぼそっと呟く。

「シンジ君、えらく時田に冷たいわね…何でかしら」

「そんな事いいから早く逃げるわよ!」

ミサトさんの言う事が正論過ぎた、きっと明日はサードインパクトが起こる。

まあ確かにさっさと逃げないと僕らの命が危ない。

リツコさんがボソっと僕に耳打ちする。

「あとシンジ君、ビッグダンよりとっつぁんの方がみんなは分かりやすいと思うわ」

「おいたん!」

「それは主人公の方でしょう」

あれ、そうだっけ…

よく覚えてないな。

そんな僕らに、堪忍袋の緒が切れたのか、ミサトさんが据わった目を向けて言った。

「さ!っ!さ!と!逃!げ!る!わ!よ!」

「「あ、はい 」」

二人同時に返事を返す。

でもここから逃げようにも出入り口周辺には人が押し掛けちゃっててもう近づく事すら出来ないんだよね。

どうしたもんかと考えていると、ミサトさんが徐に拳銃を構える。

ミサトさん!それはダメだって!それだけはダメだって!

全員で止めた。

そんな感じでごたごたしていると、スタッフの悲痛な叫びが僕らの耳に届いた。

「駄目です!止まらない!」

うーん…

「19XX年…」

即ミサトさんに頭をはたかれる。

「フラグ立ててんじゃないわよ!階段で行くわよ!」

「まぁ冷静に考えて今から階段下ってても間に合わないわけですよ、エレベーターとか問題外なわけで、つまりですね」

「何よ」

「オワタ!」

そう言って両腕を天へと向けると、ミサトさんはとうとう精神的に限界を迎えたらしく、頭を抱えて叫んだ。

「もういやああああああああああああああ!」

そんなミサトさんの肩をリツコさんがぽんぽんと叩く。

「ミサト、落ち着いて、そう言えば一度でいいから「08よりは掛ってない」って言ってみたいわよね」

「リツコ…あんたさっきから妙に挙動不審だと思ったら…」

ミサトさんがガシッとリツコさんの顔を掴んで自分の方を向かせる。

僕も覗き込んで見た。

どことなく虚ろな目でにこにこと笑っている。

これは…

「しっかりパニくってんじゃないの!」

流石のリツコさんでも計算外の自体には弱いか…

「てへっ」

「てへっじゃねえええええぇぇえええぇえぇええぇえぇえぇええええぇええぇええええええぇえ!」

漫才を繰り広げている二人を尻目に、僕はある事に気付いた。

二人の肩をぽんぽんと叩いて、正面の窓を指さす。

そこに見えるのは、窓いっぱいに移るJAの姿だった。


「「「ぎ」」」



「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」







DEADEND





こんてぬ~?







おぉっと、それで、だれがこの碇シンジのかわりをつとめるんだ?

身体の上にのしかかる瓦礫を飯沼さんがどけていく。

管制塔が崩壊した時、僕はとっさにリツコさんに覆いかぶさるようにして崩れ落ちてくる瓦礫からリツコさんを守ったのであった。

なんといういけめん。

まあ本当はその上に飯沼さん達SPの人達がいて、守ってくれたおかげで助かったんだけども。

ぶっちゃけ、とっさに皆で思いっきり端の方に退避したのでそこまで僕達に被害はない。

管制塔中央に位置するエレベーターに殺到してた人達がどうなったのかは知らないけどね。

完全に瓦礫をどけてもらって、視界を確保。

開口一番に叫ぶ。

「だが…人類は生きていた!」

「やめんか!」

ぶっちゃけ生きるか死ぬかの瀬戸際だったというのに、その直後でもミサトさんのつっこみに歪みはない。

辺りを見渡せば、まあまあ大きな建物であった管制塔施設が、ど真ん中をぶち抜かれて二つに分裂している。

これからは渡り廊下でも設置して西棟東棟で分けるのがよいでしょう。

大穴から見てみれば、当のJAは変わらずに明後日の方向へと向かってがっしょんがっしょんと歩き続けているようだった。

う~ん…まるで海へと帰るゴジラを眺めている気分だ…

所詮人には過ぎた力だったんだ…山へお帰り…

一人で勝手に感傷に浸っていたら、リツコさんが僕の方を見ながらぼそっと呟いた。

「大丈夫かしら」

「頭は大丈夫です」

「そんな馬鹿な、いやそうじゃなくて、JAの事よ」

うん、さらっと酷い事言われた。

でもJAの事って、なにか心配事でもあるんだろうか?

正直な所ほっとけば転びでもして勝手に止まりそうなものなのだが。

「さっきちらっと聞こえたのだけど、出力過多とか…」

「それがどうかしたんです?」

「え?だって…JAが何で動いてるか忘れたの?」

そう言ってリツコさんは頭をかきながら煙草に火を付ける。

これは結構本気で困っている時の仕草だ。

はてさて…JAが何で動いているかって言われたら…えーっと…

少し考えて思い出す。

そしてそれはミサトさんも同じだったらしい、同時に呟いた。

「「…あ」」

アトムとかとお友達な力だった気がする。

それが暴走って…やばくね?

二人で若干青ざめながらリツコさんの顔を見ると、リツコさんは困った顔で煙草の煙を吐いた。

「私が作った訳じゃないのよねえ…」

余談になるが、この時リツコさんは僕を見て何となくこう思ったらしい。

(シンジ君がいるんだから…きっと爆発するわね…)

僕どんだけトラブルメーカー扱いなんですか。

そんなこんなでこれからどうするかを考えていたら、ふとミサトさんが思いついたように呟いた。

「リツコ…アンタね?」

「え?」

名を挙げられたリツコさんもきょとんとして首を傾げている。

どうでもいいんだけど、こういう細かい動作って絶対レイたんに影響出てるよね。

たまに二人とも似たような動きするもん。

それはともかく、ミサトさんが引き攣った笑みを浮かべてリツコさんに詰め寄る。

「どう考えてもおかしいでしょ、このタイミングでの暴走だなんて、アニメじゃないのよ」

あー…なるほど。

確かに。

言われてみりゃそうだ。

いくら僕がトラブルメーカーのような扱いを受けていたとしても、流石に通常の機動では100%に近い確率で暴走など起こりえず、万が一起きたとしてもそれへの対処法が確立されているシステムにおいて、こうも都合よく説明会のタイミングで完全な暴走を起こすというのはおかしい事である。

偶然と言われるぐらいだったら、NERVの関与がありましたと言われた方が納得も出来るというものだ。

ライバルは潰しとくに越した事はないしね。

僕も若干リツコさん犯人説を疑い始めたところで、慌ててリツコさんが反論する。

「ちょ、ちょっと待って…確かにこういう計画はあったんだけど…中止になったのよ」

その様子を見て、僕はリツコさんの関与は無かったと判断した。

リツコさんは虚を突かれると、意外と嘘を付けないタイプの人間なのである。

何と言うか、態度に出る。

そもそも吃音なんてリツコさん滅多にしないしね。

ミサトさんも長い付き合いでそれが分かっているのだろう、リツコさんは違うと判断したようだった。

う~ん…じゃあ誰が犯人なんだろう。

そう思っていたところで、リツコさんが予想だにしていなかった事を口にした。



「私はてっきり春日博士かシンジ君辺りかと思ってたんだけど…」



…ん?

春日博士か…シンジ君?

母さんか僕?

え!?僕!?

いやいやいやいやいやいやいやいや!

何言ってんのリツコさん!

「僕がそんなの出来るわけないじゃないですか!」

とっさに反論すると、リツコさんはジト目で僕を睨みながら続けた。

「携帯からMAGIのデータいじっといてよく言うわよ」

あらやだ、何でバレてるのかしら…

それにしてもマジで僕そんなの出来ないから!皆の中での僕どんだけだよ!

ふとミサトさんの方を見れば、ミサトさんまでもが僕をジト目で睨み始めている。

「ほんと違うから!買被り過ぎだから!」

その後の必死の説得によって、どうやら二人とも納得してくれたようだった。

どうやら普段の行いの所為か、色々と勘違いされているようだ。

と、言うよりもどちらかと言うとリツコさんは僕をからかっていた節が…つっこむと怖いからやめとこう…

そうなると考えられる可能性は後二つだけだ。

「えーっと…ちょ、ちょっと待ってね!」

慌てて携帯を開いて、メモリから母さんを呼び出す。

ホントは電話したくないんだけど…

そんな事を考えていたら数回どころか、コール一回にも満たない一瞬、プルルのプの字で繋がった。

「どうしたのシンちゃん!?お母さんに何かお話かしら~!?ご飯!?お出かけ!?何時でも大丈夫よ~!時間ならすぐ取っちゃうから!なになに!?シンちゃんから電話してきてくれるだなんて私何か目が潤んで…ハッ!?そんな都合のいい話ある訳ないわよね…私また何かしちゃったかしら?レイちゃんがパソコンに興味持ったからとりあえず2chの巡回とMAGIでも気付かない違法ファイルの落とし方から教えてみたんだけどそれが気に障ったのかしら…謝るから怒らないでぇ~!あ!レイちゃんと言えばね!零号機起動成功したのよ!だからね、調査も終わったし今からお祝いも兼ねて二人でご飯食べるの!えへへ~羨ましいでしょ!ここだけの話なんだけど…レイちゃん全然表情に出さなかったんだけど起動できてよっぽど嬉しかったみたいでね、ちょっとだけスキップしてたのよ!?もうホント可愛いの~!あと次から碇君と一緒に闘えますか?だって!ホントいい子よねぇ~そう言えばシンちゃん今日はどこに行ってるんだったっけ?あの企業影薄くてイマイチ覚える気にならないのよねえ…あ!シンちゃんあとねあとね!今日レイちゃんとお昼一緒に食堂で食べたんだけどレイちゃんがなんかしょんぼりしてたのね!どうしたの?って聞いたらいつもお昼ご飯はシンちゃんのお弁当食べれるから一日で一番楽しみなんだって!もうほんっと可愛いのぉ~!あ、このお話には若干の脚色がされています!」

あー面倒臭え。

これがあまり電話したくない理由だ。

だって母さん直接話すとそうでもないのに、電話だと僕がわざわざ掛けてきたのがうれしいみたいで僕より喋るんだもん…

いや、直接でも大分喋るか…

近頃は必死に気を引こうとしているのが丸分かりで、面倒を通り越して可愛く見えてきた。

最初は遠慮してたのかどうかしらないが、大分僕と距離を置いていたし申し訳なさそうにしていたんだけど、どこで間違ったのかこうなった原因は主にレイたんにある。

どうやらレイたんが母さんの前で僕の話ばっかりしているらしく、母さんも僕の話を聞きたがる。

僕に対して非を感じていた母さんだけど、どう頑張ったところで所詮は僕の母親である。

何時までもウジウジしてられる性格ではないのだろう。

多分基本的に細かい事考えるの好きじゃないんだよね、僕も母さんも。

以前ケンスケに、「碇って超廃スペックPCで電卓打ってるようなもんだよな」って言われた事がある。

つまりは僕の話ばっかり聞いていたら羨ましくなって。

「私もシンちゃんとお話したいしたいしたい!」(レイたんから聞いた原文ママ)

結果、今に至る。

いやまあね。

僕も多分母さんと同じ立場になったら、あんな鬱モードになったとしても長くは続かない自信あるけどね…

はぁ…もういいや。

て言うか今気付いたけどオワタとか原因お前か。

電話の向こうから小さい声で「うっさいのよ!黙るか黙らされるか選びなさい!」という声と共に、どこかで聞いた事のある中年男性二人のうめき声が聞こえた気がするけど多分空耳である。

まあいい、長々と電話をしている暇はない。

喋り続ける母さんに割り込むようにして僕は話を切り出した。

「あーえっとさ、その事で電話したんだけど…のーきょーちゃんが暴走してるんだけど、細工したのって母さん?ていうかもしかしてそういう計画ってあった?」

『のーきょーちゃん?…ああ、じぇっとにんじんみたいな名前のロボットの事?JRだっけJTだっけJKだっけ?あ、JAか』

リツコさんとミサトさんも、母さんのマシンガントークが終わったのを察したのか、携帯に耳を近づけて聞き耳を立てている。

余談だけど、リツコさんと母さんは何故か無茶苦茶仲が悪い。

と言うよりリツコさんが母さんを嫌っている。

最初はそうでもなかったんだけど、母さんが吹っ切れてからはあからさまにイライラするようになった。

基本的に天才肌でその場のノリで適当に決めてしまう事が多い母さんをリツコさんが説教するのは、最近NERVでは日常の風景である。

あと家で母さんと電話するとやたらとリツコさんの機嫌が悪くなるんだけど、アレばかりは未だに理由が分からない。

今みたいに家以外だと特に何とも無さそうなんだけどね。

ついでに言うと怒られている母さんの巻き添えを食らって、よくミサトさんも怒られている。

どうやらミサトさんは碇家には悪い縁で結ばれているようだ。

まあいいや、かんわきゅーDIE。

「そそ、てかじぇっとにんじんとか…母さんほんとに昔の人なんだね」

何かで見たぞ、すっごい昔のそんな動画。

そんな事を思っていたら聞き耳を立てていた二人に太股を抓られた。

痛い痛い痛い!何なの!?

二人を見ると怖い位の笑顔を浮かべていた。

えっと…なんか僕が悪いみたいですね…ごめんなさい…

泣き寝入りして電話に向き直る、人生とは基本的に理不尽なものなのだ。

『誰も訓練室のバーベルに二世なんて名前つけるシンちゃんに言われたくないと思うけど…あと細工はしてないわよ?そんな話もあったけどもう特に意味ないしね、あの計画って止めたんじゃなかったっけ?』

僕の小粋なジョークの話は置いておいて、母さんの言葉を聞いて僕らは顔を見合わせた。

ちょっと奥さん、あの計画って止めたんじゃなかったっけ?ですってよ。

リツコさんを見る。

遠くを見ながら「そう言えば子どもの頃ってペットボトルでお茶を買うのは勿体無いような気がしてたわ」と、良く意味が分からない事を呟いていた。

ミサトさんを見る。

あ、最近あまり見なかったけど出た、悟り顔だ。

とりあえず、皆暫く無言で考えてみた。

「「「…」」」

母さんがこっちの空気に気付いたのか、心配そうに声を掛けてくる。

『どうしたの~?』

何て言うか…うーん…

よし、率直に言ってみる。

「暴走…してるんだけど…」

母さんは「ふーん」と言って数秒黙っていたかと思うと、若干上擦った声で呟いた。

『…まぢ?』

「まじ」

電話越しなのに、母さんが冷や汗を浮かべているのが見えた気がした。

『むぅ~…ウチ以外に得する所がいるとも思えないし…エリちゃんの推理が正しいとするならば!』

「ちゃんとか、可愛い子ぶってんじゃねーよ」

薄々分かってんだよ!今それどころじゃねーんだよ!

そうなんだよ、この程度のロボット、と言うより戦略兵器としてのロボットなんて妨害したところで得するのはウチだけなんだ。

なんか胡散臭い兵器開発してるらしい戦自はあちらさんのバックに付いてるみたいだからから論外。

ウチが違うって事は僕らが心の隅でほのかに抱いていた淡い希望も消える事になる。

身内の仕業だったら、職員がいる場所で爆発なんかさせないだろうから勝手に停止するんだろう…という淡い希望。

何かさっき「安全装置が…」とか絶望的な報告も聞こえた気がするし、これ爆発するだろ。

あたまのなかがかーにばる!

落ちつけ落ちつけ。

残る可能性として考えられるのは二つ。

まず一つ、お偉いさんアホ程集まるんでそれを狙ったどっかのテロ。

だったらこんな暴走とかさせずにさっさと爆発させるわっていう。

即効でこの可能性が潰れる。

残る一つはホント信じたくない可能性だ。



安全基準の面から言って何万分の一だか何億分の一だか、それ以上なのか知らないけれど。



確率的には絶対にゼロではない可能性。



『普通に暴走しちゃってる感じ?』

「「「アッー!」」」

口に出したくなかったのに母さんがもろに言ってしまったので、正直三人とも半狂乱状態だった。

耳が拒否したのか、指が勝手に通話を切る。

いや、あり得ないって。

何で今このタイミングで?

もしかしたらどこかの工作なのかもしれない。

ぶっちゃけその方が可能性は数倍高い。

ただそんな事して得をする集団を、MAGIを有する僕達は一つとして知らないってだけだ。

正直どこかの工作であってほしい!

最近ちょっとだけ思ってたんだけど、自分が実は超絶運が悪いんじゃないかって、そんな事はないんだと信じていたい。

僕が一人でゲシュタルトだか作画だか崩壊している間に、ミサトさんとリツコさんも壊れていたみたいだった。

「あんたら落ち着きなさい!深呼吸すんのよ!まずは一秒間に十回呼吸して…」

「ミサト!落ち着きなさい!ツッコミがボケるのはルール違反よ!」

「ああー!どうしよう!」

そんな事をしていたら、携帯がブルブルと震えた。

ぬ、この震え方は…

若干落ち付いてメールを開いた。

やっぱりレイたんである。

なになになんだって?



《 エリさんが起動のお祝いに食堂のおじさんに頼んで巨大パフェを作ってくれていました、凄く美味しいです、あげません 》

《なにそれ!僕も食べたい!》

《だまれ こぞう おまえには まだ はやい》




…。




「僕もパフェ食べに帰りてええええええええええええええええええええ!」

レイたんばっかりずるい!

僕ロボットに乗ってヒーロータイムするだけの簡単なお仕事ですって感じでパイロットになったのにどうしてこんな事…に…



ん?



何か僕今凄い重要な事を言ったような…

何だ?

えっと…

ヒーロータイムするだけの…違うな。

うんと…

パフェ食べに…



「あぁ!」

僕の突然の叫びを聞いて、二人もこちらを見た。

「どうしたの?」

どうしたのもこうしたのもない。

気付いてしまったのだ。



この問題に対する解決策と言う物に。



「ふと思ったんですよ」



いやいや、よく考えてみれば当然の事だった。



「これって…」



だってさ。



「僕ら関係ないんだから…さっさと帰りませんか?戦自辺りがどうにかするんじゃ…」



そう、これ別に僕ら関係ないんだからぶっ壊れてる暇あったらお偉いさんの真似してダッシュで逃げりゃいいんだ。

なんか同じロボットの事ってのもあって、何で暴走したのかとかその先の事も考えてたけど、よく考えたら僕らの責任ゼロだよね。

パニックになり過ぎて気付かなかった。

それに最近突発的なトラブルにばっか対処してたしなあ…

身体が勝手に対処しようとしてしまった…

リツコさん達も冷静になって気付いたようだ。

「「…それもそうね」」



僕達は先に降りた筈の人達すらも追い越し、誰よりも先に会場から逃亡したのだった。














「…えっ?」

「「「えっ?」」」

NERV司令室、報告に訪れたその場所で、報告内容を傍で聞いていた母さんが思わず疑問の声を上げるのを聞いて、僕達三人もオウム返しに聞き返した。

今の報告で何が分からなかったというのか…。

そんな事を思いながら母さんの顔を見つめていると、母さんは頬を掻きながら困ったような声でこう言った。

「えっ…終わり?」

「うん」

「はい」

「ええ」

僕、ミサトさん、リツコさんの順に単刀直入に答える。

「えっ?それで帰ってきたの?」

「うん」

そう答えると同時に、冬月先生が深く溜息を吐いて腹部を押さえる。

何してんだろ、アレか、コーラス部とかがやってる腹式呼吸のアレか、なるほど分からん。

ぶっちゃけあの後時間が余ったから三人で超有名な老舗のうなぎの店でご飯食べて帰った。

あの時はあえて言わなかったんだけど、僕うなぎとかハモとかあそこら辺の魚を食べて「う、美味いぞおおおおおおお!」って思った事ないんだけど…。

あれってアレなんじゃないだろうか、一定以上の年齢の人のビフテキ・スシ=ご馳走と言った感じで、鰻・ハモ=美味いっていう刷り込みなんじゃなかろうか。

まあこれを言うとリツコさん達に怒られそうだったので敢えて何も言わなかったけれども。

そんな事を考えていたら、ミサトさんが笑いながら僕に言う。

「だってまだ死にたくないし…ねえ?」

一瞬心の中を読まれたのかと思った…JAの話ね。

誤魔化すようにして僕も言う。

「結局戦自が中に乗り込んで無理やり止めたらしいし、いやー何事もなくてよかったですなあ」

「…問題ない」

「他に変わった事と言えば倒壊した時にビビったミサトさんがちょっと漏らし「負けて死ね!」ぐふっ!」

そんな…能力じゃな…

「シンちゃんったら急に蹲ってどうしたのかしら、大丈夫?お腹さすってあげましょうか?グーでよければな」

「い、いえ…結構です…」

リツコさんがまったく…って感じで溜息をついていた。

そんな呆れた振りなんかしちゃって…僕知ってるんですよ!

あの時ホントはリツコさんも少し漏らし…っ!?

何だろう…今生まれてこの方味わった事がない位の悪寒が…

気の所為と言う事にしよう。

まあそんな感じで今回の内容を報告し終え、JAについての報告も終える。

その横でずっと冬月先生が膨大な量の書類を片付けながら「あー農業とか始めてえー毎日誰にも会わずに野菜とお話するんだ、へへっ」とよく分からない愚痴を呟いていた。

先生こんなキャラだったっけ…

ちょっとだけ先生に同情していたら、母さんが同じく書類に目を通しながら僕に尋ねる。

「あ、そだ、シンちゃんじぇっとにんじんどうだった~?」

じぇっと…ああ、JAか、お前それ野菜の話で思い出しただろ。

「お話にならない感じ」

「えぇ~そうなの!?」

そう言って母さんは残念そうに溜息を吐く。

ぼそぼそと「純日本製のロボットは強いって相場が決まってるのに」と、呟いている。

気持ちは分かる。

でも母さん、あれはロボットじゃなくてただのオモチャなんだ。

「足は遅い、脆い、攻撃手段無い、オワタ」

ていうかよくあんなの公式で発表出来たよね、僕だったら恥ずかしくて外に出せないけど。

母さんが心底残念そうに頬杖をついて言う。

「足速そうなのにねぇ」

「何でさ?」

「だってじぇっとだし?」

「イメージかい!何そのあの人ケンシロウって名前だから強そうみたいな!違うよ全然違うよ!世の中大抵のものは名前負けなんだよ!」

「待ってシンジ君、でもグレートマジンガーは実際グレートな性能だったわよ?」

「毎回生身の人間に助けられる鉄の王を知らないのかよ」

「誰も分からないでしょそれ」

「ナスカハイパークラッシュとかウルトラマンコスモススケルトンコロナモードとか」

「ふと思い出したけどアバレンジャーって何時暴れるのかと思ってたら結局最終回まで暴れなかったわね」

「おっと、その流れでアバレキラーは暴れても殺せてもいない件について弄ろうなんてそうはさせないぜ」

そんな感じで母さんとリツコさんと三人でわいわい騒いでいると、数分後に冬月先生が突然血を吐いて倒れた。

どうも胃潰瘍だったらしい。

これでNERVの仕事効率が30%は低下するな…

でも何で胃潰瘍何だろうか、ストレスの溜まる事でもあったんだろうか。

まあよく分からないけども。









きょうもにほんはへいわでした、まる。


















そして同時刻、太平洋上で一人の男が声をあげた。

「うおおおおおおおおおおおおお!もうすぐ帰るぞ!日本!」

男の視線の先にはただただ水平線がある。

彼の名は加持リョウジ。

加持は再び大きく息を吸い込むと、第三新東京市へと向かって声高に叫んだ。

「葛城ぃぃぃぃぃぃぃぃ!俺だー!結婚してくれー!」

本来太平洋上で合流する筈だったNERVからの使者に、葛城ミサトその人も含まれる筈だったのだが、どうやら獣染みた勘で何かを回避したようだ。

そしてその叫びへの彼女からの返答は当然の如く返ってこない訳だが、代わりに彼が立つ戦艦オーバー・ザ・レインボウのデッキの上からは返ってきた。

「またあいつか!うるせーぞジャップ!」

「そんなに早く帰りてえなら艦砲に詰めて打ち出すぞ糞ジャップ!」

「鮫の餌になりてえのかジャップ!」

彼一人の所為でオーバー・ザ・レインボウ内での日本人の評価はだだ下がりである。

そしてこれだけ言われても叫ぶ事を止めない彼を引き殺そうと艦上機が動き始めた。

そんな光景を一段上の足場で頭を抱えて眺めながら、少女が呟いた。

「これさえ無いなら格好いい人なのに…」

そして溜息を吐きながら顔を上げた彼女の瞳に、遥か遠くまだ見えない日本の大地が映る。

「憧れの日本…」

金色の髪に青い瞳、そしてモデルのようなスタイルと非の打ち所が無い容姿である。

そして少女は男子なら一撃で撃墜されそうな憂いを含んだ儚い目で日本があるであろう方向を見つめ、大きな声で叫んだ。



「スシ!テンプラ!スキヤキ!待ってて!」



台無しだった、色々と。

少女の名は惣流アスカラングレー。

一説ではオーバー・ザ・レインボウの日本到着が遅れたのは、彼女が食糧庫を空にしたからだと言われている。















あとがき

久々の更新。
りあるで忙しかったのともちべの低下とパス忘れたのと次の2話が何も思いつかなかったのが原因です。

*誤字訂正 式波?最初から惣流でしたよ( ^ω^)


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