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[4701] 砲撃生徒異世界奮闘記(リリなの系オリ主(少々御大成分入り)→ネギま):小ネタ分多め 
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/05/26 23:11
テスト板から引っ越してみました。

初めての方は初めまして、引き続きの方は今後ともよしなに。

あと、批評や指摘、文句などは大歓迎ですので自由にどうぞ。



[4701] プロローグ「Missing In Action」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/05 19:55
新暦84年12月 
ミッドチルダ東部 時空管理局統合士官学校第一演習場



・時空管理局統合士官学校
JS事件以前のセクショナリズムを打破すべく一元的に士官教育を行い、各部署の一体化を強めるべく創設された学校。
3年間の合同教育(一部、武官・文官別課程あり)後、陸上/航空/航行士官学校にて1年間の専門教育を行う。




演習開始まで後1時間、半年に一度行われる全校生徒参加の大演習。

戦闘兵科の生徒は相棒のデバイスのチェックやウォーミングアップを行いつつ、後方兵科の生徒は機材のチェックや情報の再確認、
指揮官役や各種幕僚役の生徒は作戦の打ち合わせなどをしつつも、私語が飛び交っていた。


大演習は各学期の締めに行われるために、これが終われば長期休暇に入る。
その為に皆、この後をどう過ごすかを話題として賑わっていた。



その中の一人に僕、二年次士官候補生アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコも混じっていた。


「アンドレイは冬期休暇どうすんだ?ミッドか?」
同期生の一人が尋ねてくる。こいつはミッドチルダの実家に帰るらしい。


「実家で過ごすか、地球のどっちかだな」
生まれはミッドチルダだが、祖父さんが地球生まれ。その関係で地球にはよく行く、小さい頃は住んでいたぐらいだ。


「お前の祖父さんの少将閣下や二等陸佐の親父さんは帰ってくるのか?」


「あー、二人ともワーカホリックだかんな、任地で過ごすって。お袋と祖母さんも向こうに行こうかなとか言ってたし、地球にするか」
祖父さんは少将で、ちょっと前まで紛争してた第34管理世界の停戦監視部隊の総司令官、親父は麾下の部隊ごと其所に派遣中。


実は、そこ第34管理世界で派遣部隊所属の嘱託魔導師として仕事してたので馴染みの世界だ。
中国っぽい世界なんだな、仙人とか居てたし。


「地球ならロシア?それとも日本?」
同期生で友人の一人、陛下こと高町=スクライア・ヴィヴィオが返してくる。
陛下は母上の高町三等空佐の御実家「高町家」で過ごす予定らしい。


一年次の夏期休暇の時には班員皆で押し寄せて、お世話になった。

祖父さんの士郎さんに目を付けられて手合わせを強いられたが難点だったが。
あれはキツかった。それを偶々見た伯父さんの恭也さんと従姉妹の雫ちゃん相手の手合わせもする羽目になったのは…。

出来れば思い出したくありません、祖父さんから仕込まれた格闘戦技と銃剣術と自分の技量を恨みたくなったほどでした。



「どっちにするかねえ、日本なら嘉手納の藤堂さん家にするか…」
藤堂さんはかなり遠い親戚だ、直接のつながりはない。祖父さんが会いに行って初めて親戚付き合いする様になったぐらいだ。

しかし、お互い軍人家系の常で親戚が殆ど居ない。
ここ100年は互いに戦争続きで、互いの国が戦い合ったりもしているので更に少ない、その為に付き合いが深くなっている。

何せ、小学三年生まで近所に住んでてよく遊びに行ってたからな、余計に付き合いが深くなるよ。


ロシアにも親戚はいるが、曾々祖父さんの頃の親族で、生まれてから数えるぐらいしか会ってはいない。
偶には会わないとな…。



そんな取り留めの無い事を考えていると陛下が尋ねてくる。
「ねえ、アリョーシャ君も一緒に来ない?」と、指をモジモジさせて。


去年の夏みたいにみんなで?違うって…?


「……て、あのー、ワタクシだけにお誘いですか?」
頬を赤くしてコクンと頷いてくれたりして下さっていますよ、陛下が。


いや、そりゃあ嬉しいですよ?仲も悪くないし、一緒にいても楽しいし、ちょっと気にもなってるし…。

でも、何で、僕?Why?どうして?何故に?


そんなこんなで大絶賛混乱中の頭に陛下は直々に止めの一言を叩き付けてくれました。


「沖縄に行くのなら…、私もついて行ってもいいかな…なんてね」
顔を真っ赤にして俯き気味に言ってくれたりしています。爆弾発言を。


それを聞いた周りの連中と来たら、ニヤニヤとしながら、

「おーおー、熱いねえ。式はいつ頃?」「冬だけど陛下に春が!?」「陛下ご乱心ー、ご乱心ー」

茶化すのに夢中でした。


茶化すなあ!!只でさえ恥ずかしいのに更に煽るなあ!!
と、こちらも顔を真っ赤にしてしまう。


「えっと、それでね、どうなのかな。迷惑なのかなぁ…」
そんな事を気になっている女の子に言われて断れる男がいますか?しかも耳まで真っ赤にして。

いたのなら出てこい、半殺しにして回復魔法掛けて又半殺しにしてやる。



『で、結論は?どうなのですか?同志!ご決断を!』相棒のインテリジェントデバイス「ミーシャ」も茶化してくる。

ブルータス、お前もか。


「無論YESです、ハイ。と言う訳で了承するです」
ちょっと混乱しながらも答えてしまった。



それを聞いた周りの連中が拍手を送ってくれている。コイツらはコイツらなりに祝福してくれているのがよく分かる。

そんな祝福が嬉しいやらくすぐったいやらで二人共々真っ赤になってしまっている。


中には呪詛や殺気を送ってる奴もいるが精神衛生上悪いので無視しよう。うん、それがいい。



そんな事をしている内に開始10分前になり、皆、スイッチの切替をする。管理局というシステムの一部としての。


でも、その前に手を握ってみる。温かい手がしっかりと握り返してくれる。

それだけで安心出来た。


****


想定は簡単だ。とあるビルが赤軍が演じる大規模犯罪組織のアジトであり、青軍が演じる管理局が強襲。


青軍は赤軍の幹部役を逮捕、その後無事帰還すれば勝利。
赤軍は青軍を撤退させるか、幹部役を逃がせれば勝利。


青軍側は航空魔導師とヘリが付き、赤軍は質量兵器の使用と多数の構成員役の生徒、一年が大半だ、が付く。


ただし、我らが青軍は"政治的要因"とやらで航空支援は控えめになってしまっている。
その代わりとかでAMFジェネレータ装備のヘリが付く設定だ。


後々思えばこの"代わり"の御陰で苦戦する事となってしまうのだ。



青軍の作戦はこうだ。

まず、降下可能な人員がヘリで降下、A・B、2チームに分かれる。
突入時にAMFジェネレータを使い、敵魔導師を無力化し、Aチームが突入してアジトを制圧、幹部の確保。

敵幹部の確認と逮捕。その間、Bチームが周辺の安全確保。

Aチームはヘリで回収され、一足先に撤退

その後Bチームは地上からの脱出部隊と合流。


その間航空魔導師達が航空支援と監視を行い、赤軍部隊の動きを封じ
る。

合流を確認後、ヘリと脱出部隊を支援しつつ撤退。


計画書では問題ない作戦だった。イレギュラーが起こるまでは。



状況が開始され、早速イレギュラーが発生した。


Bチームに所属していた一年が降下に失敗。
原因はAMFの早発、一年の降下が遅れ、着地したのを確かめずに起動させてしまった。


その一年は治療が必要と想定されてしまい、コレで治療要員と護衛が取られてしまい、即興の配置見直しを行いタイムロス。


僕と陛下属するAチームは幹部の確保には成功。しかし、抵抗の激しさの為タイムロス。


そして、それは起こった。
AMFジェネレータ装備のヘリが質量兵器によって撃墜判定を受けた、AMFジェネレータが作動したままというオマケ付きで。

救出に向かったBチームは高AMF環境での対質量兵器戦を強いられ、完全に足止めされる事となった。


航空魔導師達には損害を少なくするためとはいえ、一時離脱を指示されてしまった。


Aチームの回収用ヘリも一時離脱する際に攻撃を受けて撃墜判定。脱出
部隊も多数のバリケードで大幅に遅れる模様。



結果、我々は敵中孤立という最悪の状況下におかれた。



のだが、そこで状況一時中断の指令が出た。統裁官を務める校長からだ。

何でもミッドチルダ近域で小規模だが、次元震が発生したとの事。
その影響の確認が済み次第再会するそうだ。


「総員待機、小休止だと思っておけ」
分隊長役の上級生から指示が出る。


皆、緊張が緩んでしまった様だ。周りの連中と小声で話をしている。


陛下が少し残念そうに「これからって所だったのに」と言っている。
まったく、可愛いのに物騒なお人だ。そんなのに惚れた自分も自分だけどな。



その時、大事な事を忘れていた。

戦争映画とかで出撃前に恋人が出来たりした奴には大抵フラグ、それも縁起でもないフラグが立つって事を。



弱い揺れが来た次の瞬間だった。
足下に"穴"が空いた。

反応する間もなく、落ちていきました。それはもうスッポリと。


最後に見たのはこちらに手を伸ばして僕の名前を叫んでいるヴィヴィオの顔でした。

ちょっと涙を浮かべていたな…、ごめん。



****



報告書(一部抜粋)

今回発生した事件の被害者は以下の通り

ID:X-X-XX-XXXXXXXX
アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ

以上の者をMIA認定とする

捕捉

なお、今事件で発生した次元穴は発生直後に未封処理を行い、保持中である為に早急な調査を要請する


統合士官学校校長 リンディ・ハラオウン提督



[4701] 第一話「ケ・セラ・セラ」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/06 22:52
ここは埼玉県麻帆良市、麻帆良学園都市敷地内中央付近。


暦は師走も半ば過ぎた頃、「世界樹」と称される巨木。
その近くの原っぱに穴が空いた。

その穴から少年が出てきた事からこの話は始まる。



「ケ・セラ・セラ」こんな言葉を思い出した。

スペイン語あたりで「なるようになるさ」と言う意味合いだそうだ。

さて、なるようになるとして現在の状況とそれに至る経緯を手繰ってみよう。


状況は?

今、自分は夜の原っぱの真ん中に寝転がっている、上にはえらくデカイ木が見える、ほんとにデカイなアレ。
天気は生憎の曇り空。月も見えやしねぇ。

やや離れたところに町明かりらしいモノが見える、近くに人が住んでいるみたいだな。

身体は…、うん、ケガや動かないところはなさそうだ。リンカーコアも問題なし。


私は誰?

「アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ」
コンドラチェンコ家のセルゲイの息子アンドレイ、時空管理局統合士官学校所属の二年次士官候補生。
新暦70年生まれの14歳。

ここに来る前には何処で何をしていた?

「士官学校敷地内の第一演習場で演習に参加していた」
半年に一度しかない全生徒参加の大規模演習の最中だったな、青軍の管理局側で赤軍が演じる大規模犯罪組織のアジトへの強襲作戦に参加していたと。

その最中に小規模次元震がミッド近域で発生したとの一報があり、振動が来たと思ったら足下に穴が空いて、そのまま落ちてしまったと。

その前に気になってた子から告白されてOKして…、フラグを立ててしまって…。
うわ、我ながらかなりマヌケだな。こんなお約束な展開をしてしまうとは!

天にまします我らが父よ、彼女が出来た直後だと言うのに真下に穴を開けやがった事を恨んでおきます。


「ま、それはそれとして」


で、どうなった?

「ここに落ちてきたと」

そういえば、何かくぐり抜けたような感覚に襲われたがアレがワームホールなのか?
ならば、かなり貴重な経験をしたな、うん。


で、ここはどこ?

「見たことがあるような無いようなところだな、ミーシャ?」

相棒のインテリジェントデバイス『ミーシャ』に話しかけてみる、コイツのことだ現時点で可能なことは殆ど試しているだろう。
何せ、祖父さんの代から使っているデバイスだ。30年以上は稼働しているので知識と経験豊富だ。

『生憎曇り空のために星の配置や衛星の形状等での特定、及び天測での座標の確認は現時点では難しいかと、あと季節は冬です』

「うん、それは分かっている。重力や大気組成は?」
『重力は約1G、大気組成、魔力濃度はやや高いですが第97管理外世界とほぼ一致、許容範囲内の誤差です』

「地球なら連絡も取れるはずだけど?」
『はい、先ほど試しましたが、在留職員及び現地協力者の一切と連絡が取れません』

「全滅?」
『はい、全滅です』

それは異常だ。管理外世界の中でも地球は高ランク魔導師を何人も輩出しているために(ウチの祖父さんもランクは低いが地球出身だしな)
特別扱いされていて(秘密裏にだが)時空管理局の駐在所や転送ポートなどの設備があり、在留職員や現地協力者が多くいる世界なのだが…

それらと一切連絡が取れない?どういう事だ?


と言う事は、ロシアの数少ない親戚や藤堂さん家を始めとする嘉手納の皆、高町家の人達もいないって事か?

焦る気持ちを落ち着けて話を続ける。


「通信妨害等は?」
『特殊状況用のVLF通信まで妨害を受けている可能性は限りなく低いかと』

そりゃあ、そんな特殊なモノまで妨害するヤツは早々居ないからな。潜水艦相手にぐらいだったか、使われているのは。


『それと地球ではない可能性も高いかと』
「理由は?」
『あの木です。データベースにはこのサイズの木がありませんでした』
「そりゃあんなデカイ木なんて聞いた事も…、って極めて酷似した世界の可能性が高いと?」
『肯定です』

ええい、広域捜索やらワイドエリアサーチとかを使って調査しなければならないのか。
長時間使うと疲れるからイヤなんだよな、アレ。



面倒なのでぼやいているとミーシャが警告している。

『同志、熱反応が1,5,9時の方向。魔力隠蔽を行っている模様で詳しい数は不明。包囲を狙っている模様』
と、どうやら此方は招かれざる客のようだな。


「装備は整っているな?」
『はい、カートリッジ150発、ショートカートリッジ45発、AMFクレネード10発、全力一会戦分はあります』
演習用にフル装備にしてある。終わった後にメンテしようとメンテデバイスまで持ってきてあったのは僥倖だ。



「じゃあ、投降しよう」

『はい、それが妥当かと。補給及び掩護を受けられる可能性は限りなくゼロに近く、敵対勢力の規模も不明となると…。何よりも戦う気が皆無でしょう、同志』


経験豊富で「生き残る」事が最重要な相棒を持つと決断が速いのでよい。
しかも、人の思考回路がよく分かっている。


『貴方が生まれた時からの付き合いです。分かって当然です』

投降する事をプライドが許さないで抵抗し続ける奴が犯罪者にも局員にも多いが、それがどうした。
命あっての物種だ、恥だの打たれた頬は後で3倍にして返してやればいい。


何よりも仕事でもないし、頼まれたわけでもないのに戦うなんて面倒な事やってられるか。



周りの方々達は包囲網をジリジリと狭めてきている。此方の調査と恐らくは捕獲目的の態勢だ。

出方を窺っている様子からも分かるが、殺す気なら気付く前に仕掛けてきている。
砲撃魔法や精密型射撃魔法、もしくは実弾での狙撃や砲撃でな。



さて、いい感じに殺気立ってきた周りの方々よ、寒い中御苦労ですが意表をつくことをしますよ。


****


タカミチ・T・高畑は困惑していた。

夜間警備に就いていた彼と同僚達に連絡があったのはつい先ほど。
結界担当から世界樹付近に強力な力場と歪みが観測され「空間に穴が空いた」と言うのだ。

穴自体は開いてすぐに閉じたそうだが、大きめの魔力が観測されたのだと。
更にそれは人間ぐらいの大きさのモノから出ているという。


その調査の為来たのだが、魔法の使えない彼はあくまでも「いざという時」に備えていた。


他の教師や魔法生徒達が包囲を狭めている最中にそれは見えた。


「白旗…?」

大きい白い布を銃に括り付け、白旗代わりに掲げている。


掲げているのは少年の様で、金髪のコーカソイド系とおぼしき外見、年齢は14、5歳ほど。
服装はブルー・ベレーと色がチャコールグレイのボディアーマーにアサルトベスト、カーゴパンツに編上靴。まるでロシア空挺軍だな。


「まいったな、白旗なんて出されたら手が出せないよ」

「ああ、白旗を持ち出してくる侵入者なんて初めてだよ、高畑君」
何時の間にか側に来たガンドルフィーニさんが呟いていた。


「この後はどうすれば?」
おそらくこの後にする事については僕よりも詳しいであろうので聞いてみた。

「まあ、国際戦時法だったら軍使役が白旗持って向かって、氏名と所属の名乗り合いに降伏意思の確認、武装解除と言ったところだな」

国際戦時法、ハーグ陸戦条約、ジュネーブ条約の名前をこんなところで聞く事になるとは。

「じゃあ、僕が軍使として行ってきますよ。調査の方、お願いしますね」


コレも「いざという時」の範疇だろう、あれだけあっさりと投降する少年にも興味があるしね。

****

白旗を揚げてから少ししてやっと軍使役のヤツが来た。
そりゃあ、侵入者がいきなり白旗揚げて「降参でーす」て言うなんて考えてた奴なんかまず居ないだろ。居てたら見たいぐらいだ。

更に理由が「戦うのが面倒だったから」と来れば、考えてた奴はほぼ居まい。


長身でメガネで無精ヒゲな30ぐらいのくわえタバコしたオッサンだ。
んー、なんかえらく馴染みのある雰囲気だなあ…。ああ、祖父さんや親父の部隊のベテラン下士官や陸士上がりの士官達に似てるんだ。
こりゃあ、手強いな…。


「Can you speak English?それとも、日本語分かります?」
オッサンの第一声はコレだった。


ああ、ここは日本なのか。北の某国とかソマリア辺りだったらどうしようかと思ってたから良かった。
そうだったら全力戦闘してたけどな!ペンペン草一本の生えないぐらいにな!


遠いながらも横須賀と沖縄に親戚が居て、小学三年生まで住んでいたので日本語は出来る。なので日本語で返す。
まあ、曾祖父さんの妹の旦那の弟の家系だけどな、藤堂さんちは。


「はい、日本語で大丈夫です。英語も行けますがね」
「じゃあ、ここは日本だから日本語で行こう」


少年は見事な敬礼をし、言った
「時空管理局統合士官学校所属、アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ二年次士官候補生であります」

「麻帆良学園女子中等部教員兼学園広域指導員、高畑・T・タカミチです」
タバコを口から離して一礼した教師は答えた。

「自分はあなた方に敵対する意志はなく、またあなた方の指示に従う用意があります」

「君の決断に敬意を表すると共に、悪いが拘束させて貰うよ。ああ、手荒な事はしないよアンドレイ・コンドラチェンコ君」

タカミチはそう答えた。


****


いったい何者なのだろうか彼は?
裏でも表でも聞いた事も無い時空管理局と言う組織に所属し、そこの士官候補生?何なんだ一体?


だが、見事なまでの脱力と隙の無さは只者ではない事を示している。
龍宮君に近いこの”匂い”もそうだ。実戦経験、それも生死を賭けた場所で着く性質の物だ。


それに、あっさりと投降したのも疑問だ。やはり「穴」から出てきたのかな?
右も左も分からないからかな?うん、それならある程度納得は出来る。


まあ、学園長が面白そうに『連れてこい』と言っていたから、質問とかはその時にする事にしてと。
「学園長が君に会いたがっている、着いてきて貰ってもいいかな?その前に、武装解除をさせて貰うよ」


「はい、分かりました。ミーシャ!」
そう言った後に『装備解除、待機状態に入ります』と言う声が聞こえ、輪っかが上から下に通り、後には緑2色のダブルスーツと白いパンツ姿になっていた。


なるほど、魔力で編んだ服だったのか、あの銃はアーティファクトかな?

「これをお渡しします」と珠が埋め込まれたドッグタグのような物を渡された。カードではない?


「これは?」


「はい、自分のデバイスです」
デバイス?魔道具の一種なのか?分からない、初耳だ。

色々と聞きたいところだが…、学園長のところで詳しい事を聞こう…。


****


「麻帆良学園女子中等部教員兼学園広域指導員、高畑・T・タカミチです」


うん、やっぱこのオッサンただ者じゃないわ。
ベテラン連中が持っている”匂い”がぷんぷんするし、隙がねえ。こりゃ、実戦経験もハンパではないな。


ああ、戦わなくて良かった。
天にまします我らが父よ、穴に落とした事は恨み続けますが、一応感謝する振りはいたします。


に、しても「麻帆良」ってドコ?
イントネーションが輝男小父さんと似てるから関東あたりだとアタリはつけられるが…。
念話でミーシャに聞いてみたが『聞いた事もありません』としか返ってこねえし。


「学園長が君に会いたがっている、着いてきて貰ってもいいかな?その前に、武装解除をさせて貰うよ」
え?いきなり最高責任者らしき人と会うの?

てっきり警備責任者あたりの所でカツ丼と共に尋問受けて、地下牢に投獄されて、体力気力ともに尽き欠けた頃にやっと…、と思ってたんだけどなあ。


いったい学園長が捕虜風情に何の用だろ?ま、考えるだけ無駄だな。
おとなしく従ってついて行くのが得策得策、生存が第一自尊心は二の次!


「はい、分かりました。ミーシャ!」
ミーシャに指示し、『装備解除、待機状態に入ります』バリアジャケットを解除、アブマット(突撃)モードから待機状態にして手渡す。

「これは?」

「はい、自分のデバイスです」
ああ、このオッサンはデバイスの事を知らないみたいだな。後で質問攻めにされそうだ…。


こっちも色々と聞きたいところだが…、詳しい事は学園長のところで聞けばいいか。


****


本来なら出会うはずがない世界の人間達、それが出会ったこのときから彼の奮闘が始まった。



[4701] 第二話「執務室にて」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/05 20:05
麻帆良学園学園長執務室


ヨーロッパ、それも西欧の町並みに似た市街地を通ってやって来たが…。
この日本は知っている日本とは大分違うのがよく判った。

だが、これほど明確に勝つ具体的に違いが分かるモノをこの目で見る事が出来た。



…ナニ?あの"後頭部"、一桁の頃から嘱託魔導師として色々と見てきましたよ。
しかし、"アレ"は今の今まで一切見た事がない!30年以上稼働してるミーシャでさえも『はじめてみました』と念話で言ってくるわな。



「どうしたのかね、アタマなんぞ抱えて。何か…、珍しい物を見る時の目で見られている様な気がするぞい」


あ、いけね。対応せねば、局員として恥ずかしくない対応を、ビジネスライクに行こう。
「失礼いたしました。学園長殿、自分は時空管理局統合士官学校所属、アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ士官候補生であります」


まあ、"アレ"は自前なのかとか、中身は味噌か骨かとか聞きたいし調べたいのは奥に押し込んでと。


****


「うむ、儂がこの学園の学園長しておる近衛 近右衛門じゃ。コンドラチェンコ君とやら、キミが所属しているという「時空管理局」とはどんな組織なのか、キミのその魔法などを話せる範囲でいいから教えてもらえんかのう?」



学園長殿の質問に対して一つずつ答えていく。
「はい、時空管理局というのは次元世界の維持・管理を目的とした機関です。地球で喩えるならFBIと自衛隊と軍警察と各種司法機関を足して割っていない法執行機関、ってところですか。ついでに戦略級兵器も保有してたりしますし、自然保護や文化保護もしてます」


あ、さすがに呆然としてる。こっちも地球の司法・法執行機関のことを知ってからその滅茶苦茶さに呆れたぐらいだもんな。
アンカンシェルクラスはやり過ぎの域に達してるからな。


「で、自分はそこで嘱託魔導師として8歳から働いてまして、去年ですから13歳の時に士官学校に入学して現在に至ります」



ここで学園長殿から質問が出た、
「ちょっと待ってくれ、8歳で働いておったとな?どういう事じゃ?」

「ミッドチルダ、管理局の中枢がある世界ですね。ここは就業可能年齢が低いんです。能力さえあれば構わないですから」

ほほうと、感心したような顔をしている。何か企んでいるような気がそこはかとなくするが…。まあ、よかろう。

どうせ年下の奴だろ。直接は関係ないが、冥福を祈るぞ犠牲者の少年A(仮)。

****

彼は二ヶ月後にこの時の企みの中身とその犠牲者を知る事となるがそれは後々のはなし。

****

幾つか質問に答えていき、こちらの番になった。


「今年は何年の何月ですか?」と、すると「2002年の12月じゃ」と返ってきた。
どうやらこっちの地球の時間軸は、知っている地球とズレがあるみたいだな。
後で歴史関係、それも近代史の資料を閲覧させて貰おう。

上手い事すれば流行先取りしたり、未開発のパテント類で一儲けできるかも…。



「古めの地図、出来れば十年ぐらい前の見せてもらえませんか?」
こっちの日本は南北分断されたのか。これで知っている日本とどれぐらい違うかが想像できる。

知っている日本は1944年の捷一号作戦が成功し、アメリカ軍の対日作戦スケジュールを大きく遅らせるのに成功した代わりに
ソヴィエト連邦の早期参戦と北海道侵攻を呼んだ結果、留萌-釧路線で分断国家となっていたが、1994年の統一戦争後に一つの国になった。
これが僕が知っている日本だ。

結論から言うと分断されておらず、南樺太はロシア領だった。となると政治も諜報も軍事も弱いんだなこっちの日本、多分だけど。

そして、親戚や幼なじみ達がみんな居ない事も分かった。嘉手納は米軍基地のままだった。

これは辛かった。頼れる人も、気を許せる人も、誰もいないから、独りぼっちになってしまった。


「そう言えば、あそこで僕を包囲していた人達。タカミチさん達大人に交じって、十代の人達がいましたが、あれは?」
「あれはウチの生徒で、修行中の魔法使いじゃよ、魔法生徒と呼んでおる。この世界の魔法使いはすべからくマギステル・マギを目指しておる、その一環として学園の夜間警備をさせておるのじゃよ」

「マギステル・マギ?」
「"立派な魔法使い"と言う意味での、世のため人のため陰ながらその力を使う。そう言う存在じゃ」

ボランティアな魔法使いねえ、趣旨は理解できるが、無償でするのはな。
日本の就業年齢って15歳からだろ、若い内から面倒事に首を突っ込むとは、奇特な事だ。


死んだらどうなるんだろ、保証もなさそうだし。所属する組織が遺族補償とかを出してくれるならいいんだけど。

相当明確な規約を持って無い限り、上手い事利用されそうだな…。


****

魔法の相違については白熱した。

この世界の魔法は魔力素を取り込み蓄積、呪文詠唱で変化させて触媒として使い、大気中の魔力を変化・発現させるものであり化学的な面がある。

対して、ミッド・ベルカ式魔法は大気中の魔力素をリンカーコアが魔力に変換(コンバータ)、肉体に蓄積・放出(コンデンサ)し
それを操作(プログラム)し、作用させるもの。電気工学・電子工学的な面がある。


コレを聞いたタカミチのオッサンが「僕にも使えるかな?」と聞いてきた。
何でも魔力はあるが呪文詠唱が出来ない体質だそうで、全く違うアプローチであるミッド・ベルカ式魔法ならば…、と期待したようだ。


時間と精神的余裕が出来たら…、とお茶を濁しておいたが
あんなオッサンに近代ベルカ式(一応使える)なんか教えたら洒落になりそうにないので、よっっっぽどの事がない限り教えない事にした。


いや、バレたら後が怖そうなんだけどね。バレないよね?


****

その後も質問攻めにされつつも答えていった。いい加減疲れてきたところで、学園長殿もとい妖怪ジジイ(コレで十分だ)から提案があった。


「コンドラチェンコ君、キミ、ウチの生徒にならんか?」と、


妖怪ジジイ曰く、身分証明、衣食住、必要経費等々を提供するという。その代わり魔法生徒になれと。

まあ、本業が法執行機関の構成員兼士官学校の生徒なのだからやむなく警備への参加と男子中等部への編入については了承した。



だが、易々と利用されそうな魔法生徒になるのは断り、代わりに取引を持ちかけた。
こちらからの要求は4つ、

1.こちらの魔法を詳しく教えろ、ついでに資料も読ませろ。見返りとしてミッドチルダ式の情報を提供する。
未知の魔法だ。基礎や非殺傷設定だけでも十分釣り合うだろう。


2.施設、各種機材、諸経費を寄越せ。見返りとしてカートリッジ現物とデバイスの情報を提供する。
未知でありながら確立された技術。技術者連中からすれば涎物だ、上手く行けばカートリッジの心配が無くなる。


3.ミッド・ベルカ式魔法と戦闘法を学びたいという奴が出てきたら連れてこい。親切丁寧に教えてやる。
対立した時の備えとしてシンパを作る機会は多い方がよい。ある程度の規模になれば簡単には潰せまい。

が、タカミチのオッサンが早速来そうなのがな。下手すると最強の敵を作る羽目になりそうだし…。
上手い事後回しにしていこう。


4.本業が本業だけに警備には積極的に参加する。代わりに給料寄越せ。

いや、自由に使えるお金も必要なんですよ。経費ってのは領収書貰って帳簿付けてちゃんと申告しなきゃなりませんから…。



この取引について妖怪ジジイは
1.元々、知りたいのならいくらでも教えるつもりだった。資料については、高レベル図書閲覧権限を提供する(図書館島最深部まで)

くそう、資料請求だけにしとけばよかった。相当な物まで閲覧出来そうだから良しとする。


2.麻帆良大学工学部の施設と機材と貸与する。経費は申請を出して承認できたら払う。

承認する時に渋らされやしないかとか必要書類を大量に用意されないかが心配だがまあ、よかろう。


3.希望者が出たら審査の上、お願いする。早速高畑先生が希望している。

あー、やっぱ教えなきゃ駄目?まあ、評判が評判を呼ぶと言うからご祝儀代わりにやりますか。


4.まあ、月15万ぐらいでどうじゃ?授業料他の諸経費は免除する。

手取りで15万か…、一人で行動するには十分か。


とまあ、概ね納得できる範囲内だったので妖怪ジジイもとい学園長殿と妥結、めでたく取引成立。



「では、三日後から留学生と言う事で二年生に編入してもらうぞい」

ここに麻帆良学園男子中等部二年生徒、留学生アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコが誕生した瞬間だった!




[4701] 第三話「モスクワは涙を信じない」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/05 20:11

あの夜から瞬く間に一週間が過ぎた。

それまであった事をふと、思い出す。

****

異世界の魔導師であることは基本的に機密事項として扱い、ロシアの魔法協会からの留学生とする事となった。
魔法生徒ではないのも「向こうの魔法協会の都合ではあるが、警備には任意で参加してくれる」としてある。本物にバレたらなんて誤魔化すんだろ?

穴から出てきたのは「転送魔法の実験中の事故であり、世界樹の魔力と干渉し合った結果である」とでっち上げる事になった。
疑う奴が多そうだが、妖怪ジジイはそれで押し通すつもりだ。トップがそうするのなら追求する奴もそうはいないだろう。



部屋は次の日には用意してもらえた。
「家では壁まで助けてくれる」という諺があるぐらい家は大事だからな。


男子寮の空き部屋が自室になった、一人部屋だったりする。

通常は魔法生徒の類は同業の生徒と組むのだが、すでにペアは決まっていて、割り込めるところがないから
と説明を受けたが、異分子が与える影響を減らしたいと言うのもあるんだろうな。


あちらの切り札的存在であるタカミチのオッサンを生徒にしてるからな。

裏切りそうにないので心配してはいないだろうが、魔法生徒だったらこちらのシンパになってしまうかもと心配するのも分かる。


何せ、思想犯がシンパを増やしていく様を昔見た事があるからな。伝染病みたいなもんだぞアレは。

気がついたらかなりの数になる、1人見たら(シンパが)30人はいると思った方がいい、と教えられたぐらいだ。


まあ、対策も教えられているので逆に応用して増やしてやる。



****



「ほほう、コイツが例のモグラ小僧か、私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、真祖の吸血鬼だ」
タカミチのオッサンに連れられて警備の責任者にも会った。


自称600歳の幼女だった、幼女に小僧扱いされるのは人生で初めてだった。

穴から出てきたのでモグラだそうだが、安直だなと言ったら怒られた。理不尽だ。


相方はロボ、きちんと丁重な扱いをしてくれる。こっちの方が珍しい。

ミッドではほぼ廃れた技術の一つだからな、機械式アンドロイドは。


幼女そっちのけで色々聞いてたら怒りはじめた。とはいえ「10歳の魔導師なんぞ珍しくも何ともない」

とか言ってたら「私は600歳だー」とか言って投げられた。合気道の類だな。更に理不尽だ。


人をぶん投げた後に「闇の福音」だの「人形使い」だのの二つ名を叫んでいたが、そんなもん知らん。

と言ったらマウントポジションで殴られた。もっと理不尽だ。


それを見ていた人形が「ケケケ、御主人イイ様ニ言ワレテルジャネーカ。ソイツハ殺シチマッテイイノカ?」
物騒な事をほざいておられました。おお、こちらはもっと珍しい。

使い魔の類やユニゾンデバイスとかの似た様なのは見たことあるが、
こんなも作れるのか、こっちの魔法は。

人が感心していると幼女が「ああ、別に殺しても構わんぞ」と言っていた。とっても理不尽だ。


全く理不尽な幼女だと思っていると「ほう、キサマは本格的に死にたい様だな」と、「ゴゴゴ」とかの重そうな効果音付けたほうがいい

雰囲気の幼女が試験管持って立っていた。どうやら口に出ていた様だ。


わー、殺す気満々ですよ、この人。
まあ、その場はタカミチのオッサンが間に入って事なきを得た。



自己紹介をしたが、雰囲気は最悪。何を言っても生返事しか返ってこない。

しかし、こちらが異世界の魔導師であり、別のアプローチと進化を遂げた魔法を使うと分かると態度が一変した。


15年前に「サウザンドマスター」という魔法使いにテキトーな術式で力任せな呪いを賭けられたそうで、
ずっと中学生を続けているのだと、なんちゅうツッコミどころ満載な呪いだ。

外見が幼女のままだからいいが、普通の男に賭けた場合、現在は30近くのオッサンと…、ぞっとする呪いだ。


ミーシャにチェックさせたが『局の高ランク逆アセンブル魔導師と対艦魔法並みの魔力でなんとか…』
と言っている。つまりは、現在は無理ですってことか。


やや落胆はしてはいたが、多少の希望が出てきたらしく最初よりテンションが上がっていたのを憶えている。



その後は彼女の「別荘」を紹介して貰ったり、それぞれの魔法についての相互支援協定を締結(書面で)したり、
お土産に「魔法薬代わりに使え」とカートリッジ5発ほどプレゼントしたりした。後でもっと寄越せと脅されたのだがな。



あの別荘は便利だ。使用料として血を吸われるのがちょっと嫌だが、
「お前の血は魔力が中々多いぞ、異世界人なせいか少し癖があるが旨い血だ」と、嬉しくも何ともない褒め言葉をいただいた。


そりゃあ、魔力容量だけはAAA+もらうぐらい有りますし。


血を吸われなくする為にも可能な限り解析してコピーしてやる。


****


「初めまして、明石と申します」
工学部の施設を見せてもらいに行った時に案内役兼ミッド式の解析・研究担当として明石教授を紹介された。

実にだらしなさそうなオッサンだ。僕と同じ歳の娘さんがいるそうだが、苦労してそうだな。


機材とカタログを見せて貰ったが、この時代にしてはなかなかいい物がそろっている。
微妙に技術水準が高いのかな?ならばうれしい誤算だ。


施設も見せて貰ったのだが…、なんであちこち爆発の後とか修理した後とかあるんだ?

提供される部屋も、なんで対爆処理が施してあるんだ?
教授に聞いてみたが、苦笑いをしつつも「学生がねぇ…」と呟いていた。


過激なんだな、ここの学生。
いや、もしかして技術者全体がそのケがある世界なのでは?ならば技術水準が高いのも納得出来る!


それとなく教授に聞いてみたが困った様な笑みを浮かべて煙に巻こうとしていた。
否定はせんのだな。


****


図書館島は凄かった。

さすがに無限書庫と比べると可哀想だが、一つの惑星でこれだけの蔵書を持つとは…。
恐るべし、この世界!

だが、ここの設計者の頭の中を見たくなった。高すぎる本棚はあるは防水処理はしてあるのだろうが、滝はあるは
トラップは仕掛けてあるは、しかも殺す気満々だぞ?あのトラップは。


まあ、ここの資料のお陰で知っている地球との違いがよく分かった。

捷一号は失敗してるし、長門じゃなくて武蔵が沈んでるし、大和が沈んでしまって「やまと」もないし、
ソ連は精々樺太止まりだし、嘉手納は米軍基地のままで、宇宙往還機もないし、宇宙開発は停滞してるし、
知ってる方は宇宙往還機が実用化していて高軌道ステーションがあって月に恒久基地作っていて火星に人類送り込んでる最中なんだぞ。

低軌道ステーションが関の山だとは…、内向きの発展しかしてないのか?


それに日本の軍備!CVBGやSSGNは別格として、外征能力の無い陸、護衛艦とその他とディーゼル潜しか無い海、長距離打撃能力の無い空と
本土周辺の国防しか考えてないのがよく分かる。


諜報も公安調査情報庁が無いのが分かった。となると不破・御神は大変なんだろうな、
SRI経由で護衛や北日本への濡れ仕事を政府から請け負う代わりに保護を受けていたからな。


そして、悲しい事も分かった。
藤堂家自体がないのだと、コンドラチェンコ家もなく、本当に独りぼっちなのが明確に分かった。


****


まあ、あんなこんなで一週間経ち、落ち着いてきたところで
弟子一号こと、タカミチのオッサンにエヴァの別荘で魔法の指導をする事となったのだった…。


****

ロシアのことわざに「モスクワは涙を信じない」と言う一節がある

泣いてもどうにもならない、と言う意味だ。


今、泣きそうな事になっている。
理由はタカミチのオッサンに祝儀代わりだと行って魔法、それもミッドチルダ式を教える事を了承してしまったからだ。


オッサンの希望が中遠距離を中心に教えてほしい、と言っているのでミッドチルダ式を教えることにし、
総合的なレベルを見るために模擬戦をする事にしたまでは良かった。



……するんじゃなかった。



何なの?この強さ!?

ミッド式戦闘法を教えたくても、強すぎて教えようがない!それどころか自分(陸戦AA+)より強い奴相手にどうすればいいの!?


あの"居合い拳"ってなんなの?腕の振りと魔力だけであれだけの衝撃波を発生させるって、滅茶苦茶だ!


あの"咸卦法"って何!?バリアジャケットと身体強化魔法とフィールド系防御魔法を足して割ってない技法は!


そもそも、そんなモノを使いこなしているオッサンに魔法が必要なのか?いらんだろお前!



何度か模擬戦をしてみたが悉く瞬殺。

一回勝ったが連続ブリッツアクションで遠くに逃げて12連HEシュートシェル(炸裂型)斉射。
という相手に出来ない事で押し切っただけであって、マトモに戦ったらもう…。


管理局の対AMF環境戦の教官として教導隊に入れるんじゃねーの?と思っているぐらい強いのだ。タカミチのオッサンは。



演習の時のBチームにこのオッサンが居てたら何の問題もなく戦えたんだろな、と死んだこの年を数えるようなことを考えてみる。

…寂しいからじゃないぞ?



座学はミーシャに任せている。ベテランデバイスなだけあって新人教育の経験もあり、適任だ。


祖父さんの頃の経験や親父の頃の経験を中心に魔法戦闘と戦術の組み合わせを教えている。
この時のオッサンは良き生徒であり、ミーシャは良き教官の関係になっている。

…ちょっと悔しいと思っているのは秘密だぞ。



現在、教える立場でありながら教わる側に圧倒的に負けている状況にある。

ただし、これは"戦闘法"の方であって、"魔法"の方はそうでもなかったりする。
何せこっちの魔法はあっちの魔法とは違って、高い理数系能力が要求されるのだ!


学園への編入が決まった次の日に受けた学力テストにおいて、理数系では院生クラスの学力があると判定されたのだ。

まあ、ウチ(コンドラチェンコ家)は瞬間最大出力が低め(B+が限界)の家系で、それを補うべく複雑なプログラムを組んだ魔法を多用する。
そのせいで物心着いた頃から英才教育を受けてきたお陰なんだな。


それに対し、タカミチのオッサンは文系人間であり、理数系は多少分かるが高度になってくるとサッパリ。
なのでプログラムの組み方はワザと難しく教えているのだ!


まあ、ただの憂さ晴らしなんだけどね。ミーシャ!器が小さいとか言わないの!!




[4701] 第四話「初仕事」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/05 20:19

初仕事:新しい職場で初めてする仕事。 三○堂 ○辞林第二版より



警備の仕事が回ってきた。
魔法教師と魔法生徒のコンビで一つのチームとする形式だ。生徒もしくは教師のみで行う場合もある。

「取り敢えずは一通りのチームと組んで貰うぞい。相性を見て決めるからの。ふぉっふぉっふぉっ」
とバルタン星……もとい学園長殿は言っていたが、一番感化されなかった連中と組ますんだろうなー。
保証寄越せだの、給料寄越せだの、俗っぽい事を抜かしてる奴と組んで、"立派な魔法使い"目指してる生徒が悪影響を受けたら困るんだろうな。



今回は、教師と生徒のコンビに編入される事になった。


教師の方はガンドルフィーニ先生。アフリカ系で、タカミチのオッサン曰く、ナイフと拳銃を得物としたCQCの使い手。

生徒の方は高音・D・グッドマン、操影術とか言う魔法の使い手。とその従者の佐倉愛衣、火系統魔法を使うらしい。の二人。


仕事前に顔合わせのために会う事になり、会議室の一つに行く事となった。


****


「これから会うのが、この前の穴騒ぎの張本人なのですか?」

「ああ、これから何組かと仕事をして貰い、編入先を決める予定だ」
椅子に座ったままそう答えたガンドルフィーニに、高音・D・グッドマンは頷く。

彼女も穴騒ぎ(空いた穴から出てきた時の騒ぎの通称)時の包囲陣に参加しており、
早々白旗を揚げた彼の事は気にはなっていた。


「何でもロシア式の魔法、それも旧ソ連時代に開発された魔法の使い手だそうだよ」

ソヴィエトの旗ぐらい真っ赤な嘘である。異世界の魔導師としての彼の存在を知られない為に学園長以下が考えた嘘である。
学園長、タカミチ、明石教授他一部の関係者しか真実は知らせられてはいない。


「興味が湧いてきますね、お姉さま。でも…」

「愛衣、貴方の心配は分かるわ。彼の魔法に興味があるのは同じ、でもどんな人物か分からないのはね」
自分の後輩にして従者である佐倉愛衣の心配そうな声に、高音は応じる。


「今まで彼に付いていた高畑先生は信用に足ると言っていた。彼の言う事に嘘はない」

こうは言ってはいるがコンドラチェンコの事はまったく信用していなかった。
突然現れ、白旗を揚げ、学園側に協力を申し出る。これらの行動を胡散臭く思っていた。

とはいえ、魔法使いとしても教員としても上司である近衛近右衛門の決定に不服を申し立てる気はない。


「まあ、高畑先生がそうおっしゃるのなら大丈夫でしょう。どの様な方でもしっかりとお相手させて貰いますわ」

立派な魔法使いを目指す彼女は堂々とした態度で返し、継いで従者に微笑んだ。
「はい!頑張りましょう、お姉さま!」


「む、そろそろ時間だな。まもなく来るよ、彼が」
掛け時計を眺めた、そう言った時だった。
とある職業特有の規則的な足音が聞こえてきたのは。


「アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコです。今回チームを組ませていただきます。よろしくお願いいたします」
直立不動の姿勢から敬礼をしながら彼は言った。


中の三人をざっと見回してみる。


ふむ、ガンドルフィーニ先生は雰囲気的に堅物で、瞬発力重視な感じだな。
ナイフ使いとかは瞬時に急所を極めるからな。

拳銃で牽制、一気に間合いを詰めてナイフで一撃、と言う所か。



高音・D・グッドマンは、生真面目で信念持ってるタイプの人間だな。
普通の学校から局に入った奴に多いんだこれが。

操影術とやらがよく分からんが結構出来るらしい。
影から使い魔を出してどうのこうのするらしいのだが、完全自立型では無いらしい、本体からの魔力供給が途絶えるとおしまいと。

本体やられた時とかに役に立つのかそれ?


佐倉愛衣はこちらに対して、少し警戒しているがそれが子犬チックでよろしい。
まだまだ経験が足りないのがよく分かるな。警戒は警戒を呼ぶ。

警戒していない様に見せかけるのは結構重要だぞ。

機会が有れば教えてやりたいが、素直そうな子がひねた子になるのは嫌だしなあ…。


****


顔合わせは終了し、巡回しながら話をしていた。
「ご実家は魔法使いの家系で?」
「いえ、帝政時代からの軍人家系です」

「どんな魔法なんですか?」
「ロシアらしい、火力重視の魔法です」

「旧ソ連時代に作られたと聞きましたが?」
「魔法使い達に「シベリアで木を数えるのとどっちがいい?」とか言って作らせたそうです。スターリンが」

「日本語上手ですね」
「小学三年まで日本に住んでたんです」

等々のとりとめのない 会話が続いていた。


それをガンドルフィーニはやや後ろから苦々しく見ていた
「よくもまあ、虚実織り交ぜての会話をあそこまで滑らかに出来るモノだ」と思いながら。


そんな会話が打ち切ったのは、一本の電話だった。
「―――はい、了解しました。神多羅木のチームが増援に、はい、それでは後ほど」


ガンドルフィーニの携帯に管制担当からの指示が入った。


「侵入者だ。数は約30、魔法使いとその従者の様だ」


警備が実戦へと変化した瞬間だった。


****


指示されたポイントまで向かう最中にガンドルフィーニのオッサンに質問をしてみる。
「何者なんですか?」


正体については殆ど分かっているが、念のために聞いてみる。


「ここ(麻帆良)は霊的に重要な所でね、それをどうこうしたい奴らや、我々魔法協会に恨みを持っている連中が時々来るのさ」
要は八つ当たりや利益目的でテロを行っているのか。どこも変わらんなあ、犯罪者連中って。


にしても、なんでこんな夜中にひっそりとテロを行うんだか、真っ昼間に町中でやった方が効果的なんだけどな。


そう考えていると、「魔法は秘匿されるべき物なのです。彼らもそれを守っているのですわ」
と高音の姉ちゃんが教えてくれた。律儀なテロリストだな。


法を破っているというのにそういう所だけは守って…、全部守ってくれ、楽に過ごせる。



指定地点は丘の上、まだ距離はあるが、事前に飛ばしたサーチャーの映像で初めて見る「敵」の姿を見た。

如何にも、なローブを着てとんがり帽子を被っている魔法使いと「戦士です」と言わんばかりの剣やら槍とかを持った連中だった。

様式美か?様式美なのか!?何でそんな所にこだわりを見せる?
ひょっとして道中ずっとその格好なのか?

と、少し混乱しているとガンドルフィーニのオッサンから指示が飛ぶ。
「コンドラチェンコ君と佐倉君は牽制!私と高音君は接近戦を挑む!」


ガンドルフィーニのオッサンはナイフと拳銃を手に持ち、
高音の姉ちゃんは身体に影を纏わしてバリアジャケットの様にした上に、カーニバルのカサノバみたいなのを何体か出した。
アレが操影術と言う奴か、屋内戦とかでは便利そうだ。


お仕事お仕事っと、頭を切り換えていきましょう。
「戦闘準備開始」『了解いたしました同志』

ニセの仮契約カードを出してからククーシュカ(砲狙撃)モードで起動させる。隠蔽工作の一環とはいえめんどくせえ。


水色と白の横縞ボーダーシャツにチェストリグ、カーゴパンツと軽装だ。逃げ足重視だから軽い方がいいのだ。
ミーシャはSVDに似た形に1PN-51に似た照準器が付いた形になる。


「銃型のアーティファクトですか…」
珍しいのか愛衣の嬢ちゃんが覗き込んでくる。
そういう嬢ちゃんが持ってるのはホウキ、こちらの世界の魔法使いは様式美好きなのか?


「そそ、まだ新しいからめずらしいの」
適当な事を言って誤魔化しておく。ミーシャはどちらかというとオーパーツと言った方がいいけどな。
技術水準から言うと作るのは不可能で、ここにあるのが場違いだし。


「挨拶代わりに派手なの行きます。佐倉さんもお願い!」

「は、はいです!」


方位確認、測距良し、コリオリ力補正良し。
弾数4、弾種HEI、クラスターモードに設定、内1発はAPLモードに設定。 

『クラスターシェル』「撃てえーっ!!」

4発のスフィアが飛んでいく、4発とも頭上でばらまくクラスターモードにしてある。
しかも、地上50cmで作動するおまけ付きだ。


雨降りの様な様相を見せつつ、3発のスフィアから次々と打ち出されていく子弾。

その網の中に取り込まれた哀れな連中は、次々と爆風と火に包まれていく。

直撃を受けた者、障壁で身を守る者、横合いからの衝撃で吹っ飛ばされる者
それぞれが様々な事となっていたが共通する事があった、その網の中にいた者は皆平等に暴力の嵐に曝されている事だ。


「し、死んじゃわないんです?火に包まれたりしてますけど!?」
愛衣の嬢ちゃんは心配そうに聞いてくる。見た目は派手だからな。


「あー、大丈夫。魔力ダメージだけしか与えない『非殺傷設定』で撃ってるから、直接的には死なないよ」

「そ、そんなのあるんですか!?」


おー、驚いてる驚いてる。こっちの魔法は物理作用中心だからね。
…間接的に死ぬ事もあるんだけどね。ショック死とか墜落してそのままとかで。

「暴徒鎮圧用途とかで使うの、便利よ。後で教えてあげようか?」

「はい!教えて貰ってもいいんですか?」

「いいって事よ」


素直な子はいいねえ、非殺傷設定以外も教えてあげようかな?
『同志、イヤらしい事も教えようとか考えてるんでしょうが。おすすめ致しかねます』


ミーシャが念話でツッコミを入れてくる。くそう、釘を刺されてはやりにくくなるではないか。

「失礼な、僕は紳士だよ」

『さいですか』

…見透かされてんな。



網の範囲から逃げようとする奴も中にはいる。だが、それを見逃すほど甘くはない。
外縁部まで走ってきた奴らにそれは起きた。

足元から起こる爆発、地雷だ。それを見て咄嗟に足を止める。
だが、その合間にも子弾は降る。結局、逃げ切れずに一方的な暴力に曝される事となった。


4発の内1発はAPL(Anti-personnel mine:対人地雷)としてそのまま落ちる様にした。
網の外縁部に丸く沿う様に。


全弾着弾した後には
多数の気を失い倒れている者、唸りつつ倒れている者。
少数のどこかしら押さえつつも立っている者、檄を飛ばしている者
の四つに分かれていた。

多少の魔法障壁は貫通出来るみたいだな僕の魔法は。



後は掃討戦に移行すればいい、昔から戦闘の最後は銃剣持った歩兵の突撃と決まっている。
そのためにシトゥイーク(銃剣)モードへ移行し、僕も向かう事にした。


「佐倉さん、僕も向こうへ行くから掩護お願い」

「あ、はい。でも、その必要はほとんど無いんじゃあ…。」


そう言われて見てみると、半分以上が倒れていて、立ってる連中も向かってくる二人の迎撃に気を取られていた。
味方が近くにいるから撃ってこないだろう、と読んでるんだろう。
残念だが、1発2発程度だったらピンポイントで攻撃出来るけどな。しないけど。


そう思いつつ飛行魔法で向かっていった。遅いけどな。


****


接敵すべく移動していた私の前で繰り広げられた光景は「戦争」だった。


彼の放った魔法は敵の頭上で分裂し、雨の様に降り注いでいた。

気付いた敵は障壁を張ってはいたが、直撃弾は弱い障壁なら貫通し、外れた弾も50cmほどの高さで炸裂して炎混じりの風を叩き付ける。

逃げようとした魔法使いや従者は地雷の様になった魔力弾によって吹き飛ばされるか、足を止めた次の瞬間に残りの雨によって倒れていく。


「せ、先生、アレを見て下さい」
隣にいた高音君が指さす、よくよく見ないと気付く事は出来なかったが、息をしている!?


驚愕してしまった。あれほどの暴力を受けた後だというのに敵は皆「生きている」のだ!
これが、「非殺傷設定」という物の効果なのか!?

震える声で高音君が言う「これが彼の魔法なのですか!?」と、
私は「あれだけの暴力を叩き付けておいて、誰も殺さない。全く無慈悲な魔法だよ」としか返せなかった。

「死」という救いは一切与えず、苦痛と生だけを与える。恐ろしい魔法だ。


敵の方を見てみる、総てがまだ戦意を失ったわけではない。
彼に対する恐れを内側にしまって自分の仕事をする、それが一番の逃避法なのだから。


****


着いた頃にはほぼ倒されていたが、一組だけ残っていた。
コイツが首謀者とその従者の様だ。


「貴様か!あの魔法を使い我々に苦痛を与えたのは!!」
如何にもな格好をしたオッサン魔法使いが怖い顔して怒鳴ってる。


いや、危害を加えに来たお前が言うな。「苦痛を与えに来たのは貴方の方でしょう!盗人猛々しい!!」
ほら、高音の姉ちゃんもそう言ってるし。


「うるさい!貴様ら麻帆良の軟弱者共に鉄槌を下しにここまで来たというのに、ええい仲間の仇、取らせて貰うぞ!」
うわー、逆ギレ起こしてるよ。歳の割にみっともないったらありゃしない。


よし、ここは一発かましてみますか、火に油の様な気もするが。
「貴方方がいかに崇高な理念を持っていようと、暴力を使った瞬間に打破すべきテロリズムと化す。暴力に訴えたあなた達は立派なテロリストだ!罪を贖いなさい!」


「分かった様な口を効くな糞餓鬼がぁ!おい!行くぞ!!」
うん、油じゃなくてナパーム突っ込んじゃったみたい。『似合わない事するからです。兎も角さっさと殺りましょう』

一部怖い表現だった様な気もするが、同意見だ。ヒステリー中年と暑苦しい相方にはさっさと眠って貰おう。



ヒステリー中年は二人に任して、剣が得物の従者を狙う。
「ぬはははは、小僧!食らうが良い!」

暑苦しいオッサンの剣を受け・・・れない!?


軌道が変化する?
何だ!?あの慣性の法則無視した太刀筋は?


「ははは!小僧、驚いておるな!これが我がアーティファクトの威力よ!恐ろしかろう!!」

なるほど、これがこちらの魔法の特徴の一つって奴か。話には聞いていたし、文献で目にはしたが、これほどとは…。


「さあ、かかってくるが良い!!我が剣の曇りとしてくれるわ!!ぬははははは!!」


あー暑苦しい、こんなのは瞬殺するに限るな。『同意します。こんな事も有ろうかとFAEバレットが待機状態で用意してあります』
流石だな、ミーシャ。大威力の魔法プログラムを待機させておくとは。

『FAEバレット』「撃てぇー!!」

真っ直ぐに、やや遅めの魔力スフィアが飛んでいく。

「こんなもんがどうした!」剣を振り下ろすが、当たる直前で霧散する。

だが、それこそがこの魔法の最大の特徴。
霧散させた魔力を均等に拡散させ、一斉に爆発させる。ただそれだけの魔法。


しかし、周辺の残滓魔力がその爆発によって二次爆発を起こし、元となった魔力弾単体とは比べ物のならない威力を生む
スターライトブレイカーを代表とする集束魔法の真逆。ばらまかれた魔力を"集める"のではなく"巻き込む"のだ。


二次爆発の次の瞬間。火球が出来、猛烈な上昇気流が発生し、上昇した火球とつながる雲の柱が出来る。所謂キノコ雲である。

爆心地には、黒コゲ状態の従者が転がっていた。生きているのが不思議なぐらいの惨状である。


****


ふう、余波の風とか土埃が大変なのだが、一撃必殺なのでよい。

あちらの方も片が付いた様だ。愛衣の嬢ちゃんもこちらに来たのが見える。


後は不発弾を起爆してと…。


「やりすぎなのでは無いのですか!?」
「お姉さま…」

高音の姉ちゃんに注意された。愛衣の嬢ちゃんが心配そうな、不安そうな顔で傍らにいる。


「あなたの戦い方は一方的すぎます。いくら死なないとはいえ、あんなのは…」
イジメに近いからな、あの戦い方は。

この姉ちゃんは高潔なところが多々見受けられる人だ。そんな人からするとイジメみたいな戦い方は性に合わないのだろう。


だが、こっちにも譲れない物はある

「戦闘に慈悲はいらない。無慈悲で強力であればあるほど抑止効果は高くなり、結果として戦いは少なくなる」

軍備の基本の基本だ。痛い目に遭うと分かっていて手を出すのは馬鹿か、出すしか無い状況になった奴だけだ。


「う・・・、それは確かに…、ですが!ものには加減という物が!」

「突き抜けるとMAD(相互確証破壊)になっちまうけどな。そこら辺は良心の匙加減で決めればいい」
さすがに言い返せなくなったのか、踵を返して歩いていく。


「あ、そっちはまだ行かない方が…」
え、と振り返った所で爆発、処理前の地雷を踏んでしまった様だ。非殺傷で弱めに設定してあるから大丈夫…?!

爆煙の晴れた後、そこには全裸の高音・D・グッドマン嬢が。

どうやら魔力ダメージが纏ってた影を払ってしまった模様。
うむ、ええチチとカラダしとる。


「眼福、眼福。後、お尻にもう少しお肉が付いていた方が好みですが、いい体をしています」

「き、きゃああああああああ☆§□■◆◎▽▲!??」
「お、お姉さまっ?お、落ち着いてぇ~!?」


巨大な影の使い魔にボコられた。そりゃあもう、容赦ないほどに。


ミーシャ、なぜ自動防御を作動させない『自業自得です。偶にはいい薬になるかと思い、作動させていません』

だが、褒めて個人的な好みと感想を言っただけだぞ?『それが悪いんです。危なくなったら作動させますから、このまま殴られておいて下さい』



「お姉さま!?さすがにこれ以上は…!?」
愛衣の嬢ちゃんはが止めようとはしてくれてはいるものの、高音の姉ちゃんは大絶賛暴走中。


ガンドルフィーニのオッサンは、こめかみ押さえつつため息付いてる。止めろやコラ。


それをやっと来た(遅い)増援のヒゲグラサンのオッサン、神多羅木とか言ったな。
が「一体何なんだ?」と聞いている。



知るか、こっちが聞きたいわい。



そんな事をボコられながら考えつつ、初仕事の夜は更けていくのだった…。




[4701] 第五話「変に律儀」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/06 06:08
オッサンと永遠の幼女とロボと物騒な人形と過ごした年末と新年を経て、季節は1月。


ここのところに有ったことを記してみる。



****

1/8学園長室にて


「ふぉっふぉっふぉ、夜間警備では大活躍のようじゃな。アンドレイ君」

「いえ、それほどでもありません。バルタン星じ…学園長殿」
しまった、あの笑い方からつい…。


「いや、ワシ地球人じゃし。手もハサミじゃないし、…と言うかドコで見たんじゃ、ウルトラ〇ンネタ」

「CSの特撮専門チャンネルで」


それなりに知ってはいたが、ちゃんと見るとコレが又面白いんだな。
着ぐるみの造りとかにはフィルター掛けてみた方がいいけどな。


「男子寮に引いた憶えはないぞい?」

「アンテナとチューナーぐらいなら自作出来ますし、契約は学園長名義でしてます」

ミーシャとメンテデバイスを使えば簡単にできるのだ。この時代のスパコン以上の性能持ちだからね。

作るのも貰った研究室と機材で作れるし。


「ワシ、契約した憶えないぞ?」

「偽造しました。我々の技術を持ってすれば容易いことです」

『学園長殿の筆跡、加速度、筆圧、インクの成分は完全に再現可能です。ハンコも同じく。魔力パターンも再現出来ます』


「…それ以上の悪用は許さんよ?」

「じゃあ、必要経費で認めて下さい。さもなくば、タカミチの特製ラーメン屋の営業許可証に本物にしか見えない偽装サインと偽ハンコ入れますよ?」

アレは強烈だった、サバイバル訓練の一環で泥水でも飲めるが、アレだけはダメだった。

謝れ!原材料に謝れ!!と言いたくなったね、アレは。


「それだけはやめてくれい、実力行使させたいのか?」

「じゃあ、経費として認めると」

「まあ、いいじゃろう。経費として認めよう。名義はおぬしに書き換えるんじゃぞ?」


実は他にも入ってるんだけどね、言質は取った、纏めて請求してやる。


****


退出して少しした頃、二人の男が室内にいる。
一人は部屋の主である近衛近右衛門、もう一人は教師の高畑・T・タカミチ。


「で、彼はどうかね。ミッド式の弟子としても接している君の目から見て」
学園長はタカミチに尋ねている。信用出来るのかそうでないかを。


「はい、仕事と見なした事と頼まれ事はキッチリとこなしています。どうやら頼み事を断り切れない様で、面倒がりながらも最後まで付き合ってますよ」


模擬戦で何回も負けて悔しそうにしているというのに、律儀に教え続けている所からも分かる。

面倒見がいいのだ彼は、憂さ晴らしなのか術式を難しく教えてくるのは勘弁してほしい、とは思ってはいるが。


「ふむ、性格か職業柄か。どちらにしても依頼はこなすと。そう言う事じゃな?」

「ええ、面倒がりの癖に律儀で面倒見がいい。難儀な性格持ちですよ。僕は信用していますがね」

あれだけ律儀な性格だ、こちらが裏切らない限り反旗を翻すことはないだろう。


「うむ、分かった。わしも信用することにしよう。で、話は変わるんじゃが、他の生徒や教師は彼をどう見ているか。キミはどう聞いている?」


学園長に入ってくるのは、ガンドルフィーニを筆頭とする脅威論が大半だ。
"質量兵器の代替品として成長した魔法"の威力とそれを躊躇いなく使うことが出来る"非殺傷設定"を驚異と見ている関係者が多く、
タカミチの様な肯定論者は少数派である。


「僕が聞いたところ、「いくらやっても死なないから便利だ、教えてほしい」「遠距離から大火力で支援してくれるから楽になった」と頼りにしている生徒が多かったですね。他の先生方もあの火力は認めているようですよ?」

「まあ、神多羅木君が「仕事が楽になった」と言っておったしのう」


他の者も心の奥ではそう思ってはいる。
だが、人の心理として疑っている者や嫌いな者にはどうしても否定的なフィルターを掛けてしまう。


神多羅木の話はマイペースで沈着冷静な性格のため、フィルターが掛からないから出る意見であり、

脅威論者たちは心の隅では彼の魔法を頼り強く思っていても、否定してしまう。


そうして学園長に入ってくるのは驚異とする否定的意見ばかりになる、と言うことである。


「マキャベリズムで行きましょう。学園の平和という目的のために彼という手段を使うべきかと」
まるで本心とは違う、詭弁を持って擁護をする自分に嫌気がさしている。

ああ、アンドレイ君。こんな事でしか擁護することが出来ない僕を許してほしい。

まあ、キミはそんなことを気にもしないことは分かっているがね。


****


1/9研究室にて


ここでは解析担当の明石教授とよく会う、何時にも増してだらしないオッサンだ。

どうしても気になってしまう人だ。


…変な意味ではないぞ。


何がって、あのヨレヨレのワイシャツ!変な横ジワ入りのパンツ!
アイロン当てろって!それがダメならクリーニングに出せって!


大事な時はキッチリとしていたのでとっておきは管理してある様だが、他のもしろって!
こちらとら、士官学校で衣服管理とベッドメーキングに整理整頓を骨の髄までたたき込まれてるっての!


そうして悶々としていてつい、カッとなってやった。


高級アイロン(29,800円で買った)と立体アイロン台を持って突撃してやった。

ついでに整理整頓もしてやった、反省はしていない。


後日、教授経由で娘さんから感謝された。ひょっとしてフラグが立った?

****

仕事が終わり、家で過ごしていると呼び鈴が鳴った。

ゆーなかな?と思い、ドアを開けてみるとそこには大きな荷物を持ったアンドレイ君が立っていた。

一瞬、反旗を翻したのか!?と身構えたが、彼の一言で木っ端微塵に打ち砕かれた。


「アイロン掛けに来ました。拒否は許しません。拒否すればFAEシェル殺傷設定で撃ちます」と


アイロン?アイロン掛け?!
会うたびにシャツやパンツを気にするなと思ってはいたが、家にまで掛けに来るとは…。

しかも、拒否すれば殺すとまで…、相当気になっていたんだね。


こちらの返答を待たずにずかずかと上がってくる彼。部屋を見て呆れている。

まあ、娘に毎度呆れられるんだけども、他人に呆れられるとちょっとショックだな。


無言で部屋の整理を始めている。本の分類方法を尋ねてきたぐらいで、後は黙々としている。

「僕も何か…」と言えば、「そこに座っていて下さい」とまで言われるぐらいに邪険に扱われている。


手際は見事なもので、身体に染みついているという表現が似合うほどだ。

そう言えば、士官候補生だと言っていたな。士官には品格が求められるという、その教育の賜物なんだろう。


見る間に片づけられ、シャツとパンツは丁寧にアイロン掛けがされ、汚れ物はクリーニングに出された。

そうして、すっきりとした顔で「お邪魔しました」と帰って行った。
本当にアイロン掛け(整理整頓もして貰ったが)しに来ただけだったんだね。

少し前に高畑君から聞いた「面倒がりの癖に律儀で面倒見がいい。難儀な性格」の意味がよく分かった日だった。


翌日、ゆーながやって来て驚いていた。

最初は僕がしたのかと驚いていたが、アンドレイ君がしてくれたことを言うと、ガッカリした顔をしてから

「そのうち直接言うけど、お父さんからありがとうって伝えておいて」と、いい笑顔で頼まれた。


二人とも面倒見がいいから仲良くなるかもな。とその時は思っていた。


****


1/11近郊の山中にて

せっかくの土日なので背嚢背負って冬山行軍としゃれ込んだ。


誰も聞いちゃいないだろと結界も張らずに射撃訓練を行いまくった。

ついでに飛び回ったのは良かったが、それを見られてしまった。それも忍者に。


へー、忍者がいるんだこの世界。知ってる方ではSRIが技術保有者を抱え込んでるのは知ってるけど、
まさか"The・忍者"って感じのが居るとは…。


魔法使い連中は隠匿しろとうるさいが、管理局員にそんな義務はないので放置しておくことにした。



「おや、さっきの御仁ではござらんか」

夕方近く、宿営ポイントを探していると、さっきの忍者と出会した。180cmぐらいあるくのいちだった。

何でも修行の一環で土日はここで過ごしているとか。

更に、何と、同じ中学2年だという!『信じられないほどの体格ですね』

こらミーシャ、しゃべるな。『いいじゃないですか、飛んでいるところを見られているんですから。アクセサリーが喋っても問題有りません』

開き直った!ミーシャが開き直った!

ここのところ隠蔽工作の一環として、念話以外でしゃべれなかった憂さを晴らす気なのか?


「ほほう、さっきの飛んでいる所といい、その話す首飾りといい、常人ではござらんな」
『初めまして、私はインテリジェントデバイス、名称「ミーシャ」と申します』

「此はご丁寧に、申し遅れました。拙者は甲賀中忍・長瀬楓でござる。ミーシャ殿」

『いえいえ、長瀬殿。こちらが我が同志にしてマスターである、アンドレイ・コンドラチェンコであります』
「それではアンドレイ殿とお呼びするでござる」

『親しい者にはアリョーシャと呼ばせています。そちらの方がよいかと』
「およ、それではアリョーシャ殿でよろしいか?」


主人を放っておいて話を進めんじゃねえ。まあ、結構美人だし胸デカイからいいけど。



そんなこんなで自己紹介が終わり、隣に天幕を張らせて貰い、食料を分ける代わりに風呂を貸して貰えることとなった。


風呂はいい、ロシア系なのでサウナも好きだが、アレは真冬にやって氷が張るほど冷たい水に飛び込むのがいいのであってここでは出来ない。


その日の夕食は、そこらで採った天然榎茸と川魚の鍋とミリタリーショップで手に入れたフランス軍の戦闘糧食だった。


缶詰類ばっかだけど旨いのよ、流石フランス人向け。
楓ちゃんも「おお!コレは中々美味な物ばかりでござるな。アリョーシャ殿」と大絶賛だ。


鍋も中々旨い、材料がいいのでそれほど味付けはいらない。
日本の料理は食材がいいから味付けを最低限に出来るんだなあ、と実感した。


夜間射撃訓練をしてお風呂をいただいてその日は就寝。


…覗いたり、夜這い掛けたりはしてませんよ?忍者だけに、さくっと殺られそうなのでしなかった訳ではありませんよ?



「ところで、どうやって飛んでいたのでござるか?」
「高度に発達した科学みたいな物の力です」


嘘は言ってはいませんよ、「高度に発達した科学は魔法と見分けが付かない」とアーサー・C・クラーク先生も仰っています。
ならば魔法が高度に発達した科学と見分けが付かなくても変じゃない!

思い切り詭弁だがな。

****

拙者がいつもの様に修行をしていた時のことでござる。銃声が聞こえてきたのは。


ここいらは拙者以外の人気が無く、真名の銃とも違う音が響いていたのでどんな人かと見物に行った先で見たのでござる


金髪の少年、見たところ同じ年頃の御仁。AKとか申す銃を持って人型の的に次々と当てている、腕はなかなかの物でござるな。


様子を窺っていると突如、ふわりと浮いて飛んでいたのは驚いたナリよ。
その時に驚きで気配を消すのを忘れてしまい、目が合ってしまったのは未熟でござったなあ、ニンニン。


夕御飯の材料を集めて戻ってきた時にその御仁と出会した時も驚いたナリよ、思わず「おや、さっきの御仁ではござらんか」と言ったぐらいに。


聞くところに依ると同じ麻帆良の中学二年で留学生との事。
山には行軍に来たと、変わった御仁でござるなあ。その格好と言い、まるで軍人ではござらんか。


矢張りというか、拙者の歳を聞いて驚いた顔をしていると思っていたら、意外な所から声が聞こえてきたのでこちらも驚いたでござるよ。
何せ、首飾りが『信じられないほどの体格ですね』と喋ってきたのでござるから。

その御仁が慌てた表情で首飾りに話しかけると
『いいじゃないですか、飛んでいるところを見られているんですから。アクセサリーが喋っても問題有りません』

と、開き直ったことを言っているではござらんか。


「ほほう、さっきの飛んでいる所といい、その話す首飾りといい、常人ではござらんな」
『初めまして、私はインテリジェントデバイス、名称「ミーシャ」と申します』


まあ、コレが拙者とアリョーシャ殿とミーシャ殿との付き合いの始まりでござるよ。



空を飛べる理由は誤魔化されて教えてもらえなかったでござるが。


****


1/20図書館島にて


図書館島に来る事が多くなった。
一つは資料探し、陛下の親父さんの司書長に教えて貰った検索魔法がとっても役に立っている。3冊が限界だが。


もう一つは、図書館探検部の仮部員にされているからだ。
……何故に?と言うか、入部した覚えがないんだが?


初めてあの連中に会った日の事を思い出してみる。



あのとき、地下4階に行こうとしていた時だった。


「待ちなさい。中学生が入っていいのは地下三階までです」と声を掛けられた。
前髪サイドの先の方を三つ編みにして後ろ髪を二本に纏めたデコ娘だった。


その手には「ルルドのおいしい水」と書かれた
理解にかなり、相当、とっても苦しむと言うか、そんな気軽な形で飲んでいいのか奇跡の水、なパックが握られている。


そして、デコ娘は続ける「興味があるのは分かりますが、規則は規則です。諦めるです」

「そやなあ、悪いこといわへんから行くのは諦めとき」と横にいた京風おっとり娘が維ぐ。


ふっふっふ、何度か止められた事はあるが、必殺兵器を保有しているのだ!
「ご忠告感謝します。自分は男子中等部2年、アンドレイ・コンドラチェンコと申します。お嬢さん方」


「私は図書館探検部所属の綾瀬夕映、こっちが近衛木乃香です」
「初めましてな、アンドレイ君。ウチは木乃香でええよ」


デコは淡々としてるが、おっとりはやわっこくて好印象だ。
ん?「近衛」か…、まさかな。


「どういたしまして。さて、お二方、これを見ていただけますか」
と、バルタン星じ…もとい学園長から貰った"あるもの"を見せる。


「…これは伝説の「第一級閲覧権証明書」!?」
「何やそれ、ゆえ?」

「司書や大学部の教授方でも中々発行して貰えず、これを持っていれば見られない本は無く、行けない所も無いという伝説の証明書…」
「へー、おじいちゃんよう発行したなあ」


チョットマテ、今聞き捨てならんことが聞こえたぞ?
「おじいちゃん」だと!?えっと、まさか、あの。

「ん?学園長の近衛近右衛門はウチのおじいちゃんよ?どないしたん?」


思わず叫んでいたね、「『嘘だー!!??』」と。ついでにミーシャも。



あ…ありのまま今聞いた事を話すぜ!
「学園長もといバルタン星人と目の前の京風おっとり娘が、祖父と孫娘の血縁関係だった」

な…何を言ってるのか分からねえと思うが、僕もどういう遺伝子の奇跡なのかが分からなかった…
頭がどうにかなりそうだった…

母親似だとか父親似だとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…、と軽い混乱はここまでにして。


「ほんとに孫なの?似ている所が皆無だけど」
「似ている所が皆無という所は同意するです」

ほら、デコ娘も同意してる。

似てない…、いや、似て無くて良かったね。お父さんかお母さんのどっちかは知らないけども
美人の遺伝子が勝利を収めた結果なんだね。実に良かった、良かった。

と内心ほほえましく思っていると


「いややわ、ウチはほんまにおじいちゃんの孫やで」
と、完全に肯定してくれましたよ。


「それよりも、本物か見せてほしいです」
わー空気読まねー、このデコ娘は。まあ別に構わないので渡してみる。


なにやら裏面を見て呟いている。
「ここ、ここ見て下さい、このかさん」
「何やて、……おお。コレは」
「コレは使えます。我々図書館探検部に大いに役立つです」


なにやら蚊帳の外におかれているワタクシ、しょうがないので普通に本を読んでいますと、

「コンドラチェンコさん!我々に協力をお願いするです!」
デコ娘が迫ってきた。

「私達をアナタの助手としてほしいのです」
デコ娘曰く、備考として「権限保有者とその助手に対し有効である」と記載がある、付いては図書館探検部の目的遂行のために


この「第一級閲覧権」を使ってくれないかと。


それよりも、図書館探検部についての説明を受けてないんですけど。

「あれ、知らへんの?」「知らないのですか?」


うん、先月から編入した留学生だもん。

「それは仕方有りませんね。いいですか、図書館探検部というのは…」



ああ、説明受けている内に仮入部でいいからと頼まれて、断り切れずに…。
で、身体能力の高さを見込まれて図書館島の彼方此方に行く羽目に…。


ああ、変に律儀な自分にちょっと自己嫌悪した瞬間でした。






『貴方はそう言う性格ですから諦めなさい』

うっせい、言われなくても分かってるわい。



[4701] 第六話「学園長直轄砲兵」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/05 20:32

1月後半のある日、今夜は警備の日、装具点検をしながら尋ねる。
「ミーシャ、返信は?」『現在、皆無です』

こっちに来たあの日から、次元間通信の全チャンネルで救難信号を発している。
現用のコードだけではなく、こっちの時間軸に合わせた古いコードも使ってだ。

だが、返答は一切無く、只ひたすらに発信し続けている。
無いと分かっているが、有るかと聞き続ける日々を繰り返している。

一縷の希望と言うが、それは只の未練ではないのか。こっちの世界でお前は終わるのだ、諦めろ。
心の奥から聞こえてくる声に押しつぶされそうな日々だ。

しかし、自分が来られたのだから仲間が来られない訳がない。
そう自分に言い聞かせている。

さて、この心の蟠りを全力を出すことで晴らそうではないか。



でも面倒なんだけどな、もっと手軽に晴らす方法はないのかしら。
『女でも囲っては?』

ああ、それはいいアイデ……「浮気したら殺すよ」
『どうかしましたか?』
なんか陛下の怖い声が聞こえた様な…。


それはそれとして、浮気がバレたら陛下に殺されるわい、歌舞伎町にでも行こうかな。
バレてもまだマシだろうし、給料出たし。


****


結局、特定のチームには編入されなかった。魔法先生達の反対意見が多かったからだ。


だが「それではワシの直属で働いてもらうが、それで良いか?」と言う学園長の提案には誰も反対しなかった。
彼の魔法に恐れを持っている者達は、それを失うことにも恐れを持っていた。

だから、距離を置きつつ戦力に組み込める「学園長直轄」と言う立場に妥協点を見いだしていた。


現在はシフトの日は様々なチームと組み、それ以外の日は「学園長直轄砲兵」と言う火消し屋として連絡次第がつき支援する形を取っていた。


その日はチームを組む日だった。


****


今回の夜間警備は龍宮真名と桜咲刹那と組む事となっていた。

何回か仕事をした組み合わせ。
だが、アンドレイに対する両者の認識は両極端だった。


龍宮真名は彼のことを「面白い奴」と思い、桜咲刹那は「軟弱で怪しい男」と思っていた。

「刹那は彼のことが嫌いな様だね、何回か助けてもらっただろう?」
待ち合わせ時間までまだ間がある。それを利用して真名は刹那に疑問をぶつけてみる

「ええ、危ない所を何度か助けてもらいました。ですが、彼の戦い方は好きにはなれません」
「ほう、何故だい?」
「何故って、あの火力に物を言わせた魔法が気に入らないのです」

初めて組んだ日、鬼達に囲まれた時に彼の魔法によって助かったのは確かだ。
そのことについては感謝もしている。

だが、遠く離れた所から過剰なまでの威力で吹き飛ばされ、還されていく鬼達を見ていて「あれがもし自分だったら」と言う恐怖と、
神鳴流剣士として遙か遠くからの攻撃が気に入らない気持ちの二つが入り交じった結果、彼とその魔法を嫌う様になっていた。


「まあ、あの火力は卑怯だと私も思うよ。アレの前では私の経験も刹那の神鳴流剣士としての技術も意味が無くなる。だが、頼もしくていいとは思わないか?」

戦場を渡り歩いたからこそ砲撃の、砲弾神経症と呼ばれる心的外傷を引き起こし、屈強な男達がヒステリー状態になってしまうほどの恐ろしさも、
何人もの戦友の血を吸っていた敵陣地を只一度の効力射で吹き飛ばしていき、跡地にしてしまう頼もしさも分かっている。

だから味方が卑怯なまでの火力を持っていることに龍宮真名は頼もしさを憶えていた。


「確かにそれは認めます。あれだけ叩いてくれれば戦いが楽になります」

それは夜間警備関係者、否定派も肯定派も関係なく、一同の共通認識だった。
一度でも共闘した人間は心の底では頼りにしている。

しかし、完全な異物である彼の魔法と自分たちの魔法を比べてしまい、自分たちが築き上げた物を否定してしまうことを恐れ、
彼の魔法を否定してしまった者達。特に魔法の研鑽を積み、一生の仕事と決めた魔法先生達の過半。
それが否定派となった。

ガンドルフィーニや高音・D・グッドマンは此に該当する。


逆に、詠唱が出来ない故に魔法以外の力で強くなったタカミチや現代兵器の力を知っており、今は魔法が使えない龍宮真名は純粋にその力を認めた。
彼の魔法を肯定した者達、まだ研鑽が不十分な魔法生徒や純粋に力を認めた少数の魔法先生達。それが肯定派である。

半分以上の魔法生徒、マイペースで気にしていない神多羅木、先に述べた二人は此に該当する


桜咲刹那は先に述べた理由で否定派に属していた。


「ですが、白旗を早々に挙げる、軟弱で怪しい男に頼るのは私は嫌です」
「そうかい?私は勇気のある男だと思うがね」

二人とも穴騒ぎには参加していない。人伝に聞いただけだ。


それを聞いた刹那は戦おうともせず降参し、協力者となっているアンドレイを怪しいと思う様になった。
彼が戦って力尽きかけるまで戦い、結果として白旗を挙げたのならそうは思ってはいなかっただろう。

だが、面倒がり屋のアンドレイは間違っても決してその様なことはしないであろう。
だから、そのことを知った刹那にとっては軟弱で怪しい男と認識する様になった。


真名は勇気のある男と思った。


プライドを捨て去り、何を言われようと生き残ることは実に勇気がいる。戦場で生き残るのは大抵そう言う人間だ。


初めてあった時にそのことを聞くと
「命あっての物種だ、恥だの打たれた頬は後で3倍にして返してやればいい。何よりも仕事でもないし、頼まれたわけでもないのに戦うなんて面倒な事やってられるか」


それを聞いた時、彼女は笑ってしまった、腹を抱えてしまうほどに。
そうして真名はアンドレイのことを「面白い奴」と認識する様になった。



話している合間に時間はすすみ、待ち合わせの時間が近づいていた。

「さて、もうそろそろだな。彼は時間に正確だからもう来るだろう…、ほら来た」

「ええ、それでは見回りに行きますか。今日は大学部の方でしたか」

「お待たせしました。さあ、仕事を始めましょう」

今日の仕事が始まる。平穏に終わるかどうかは神のみぞ知る。



****



今夜は真名(名前でいいと言われた)とせっちゃん(真っ赤になって怒るのが可愛らしいのでそう呼んでいる)と大学部方面を見回りをしていた。


最近、研究室が荒らされることが何度か有り、重点警備地区に指定されていた。
ついさっきも不振人物を捕縛、引き渡してきた所だった。


おなじみというか、毎度の事というか工学部キャンパス近くまで来た時にその音が聞こえてきたのは。


機械の駆動音、重量のあるモノが動く時の音、モノが潰される時の音、様々な要素が入り交じった音が聞こえてきた。
"ソレ"はある程度の速さでこちらに近づいてくる。


「またか」『またですね』
「全く、懲りないね。彼らは」「ええ、同感です」


工学部の連中特製の多脚戦車モドキが暴走している時の音だ。


今回のは四脚型、前回は二脚逆間接型、よくもまあ作り続けられるなあ。
で、全種類に台形に五つの穴が付いているのはトレードマーク代わりらしい


今回のはT-34/85似の砲塔まで付いているからますますどっかで見たことあるデザイン。
しかも胴体横に「ファシストに死を!!」とかの共産主義的スローガンとか書いてあるし、誰だよキリル教えたのは…、って僕か。



「対戦車戦闘のセオリーと言えばなんだい?」
真名が聞いてくる。いつもの様に答える。

「誘いこんで、足止めして、観測装置類壊して、止め」
順番は入れ替わったり、省いたりするが、歩兵だけで戦車と戦う時は大抵これかその応用。

チェチェンではビルの合間で足止めされた戦車に屋上からのRPGで結構な数がやられた。


「と、言う訳で誘い込みお願い。刹那」
「何でいつも私が誘い込み担当なんですか…」
前回もその前もせっちゃんが誘い込みを担当している。


「「いや、一番向いてそうだから」」

思わずハモった。だって斬岩剣とかの対装甲戦技持ってるじゃない。
「誘い込みは重要だよ。僕や真名は距離有っても戦えるけどせっちゃんは近接戦闘型だし、近づかないとダメでしょ?」

こう言えば、毎度の事ながら渋々引き受けてくれる。


地図を見て近くの交差点をキルゾーンに設定、真名が近くのビル屋上に向かい、僕は交差点で待機、途中で回り込まれない様に沿道にはトラップ代わりの遠隔操作型魔力弾を設置、せっちゃんがオトリとして前に出て、上空に監視用サーチャーを飛ばして準備完了。


後はセオリー通り、多脚戦車の脚と夕凪が鍔迫り合いをし、砲塔の動きを見てビームを回避、回り込もうとすればトラップを作動させて行動を制限し、捕まらない様にしつつキルゾーンに指定したポイントまで誘導。


到着次第APバレット(徹甲型)で脚を打ち抜き、止まった所で狙撃担当がセンサー類を破壊、後は神鳴流や魔力弾で解体処分をするだけ。


この日もセオリー通りに片が付いた。
機体を弄るのに夢中で、AIを弄っていない様だ。



願わくばこのまま気付かずにいてます様に、気付かれて茶々丸クラスのAI積まれたら大変だからな。



****



あけて次の日、自分の研究室へと向かう。その前に工学部の連中に文句を言いに行く。


謝りはしているが、交戦時の過程を聞いてくるのでまったく懲りていない模様。パワーアップさせる気だな。
今度見たら壊してやろう。それか自爆装置を取り付けてやる。



自分の研究室で行っているのはデバイスの制作だ。それもストレージデバイス。


弟子一号ことタカミチのオッサンが、ミッド式魔法が使える様になってきたので作ってやる事となった。
こんな短期間で使える様になったのもエヴァの別荘の御陰だ。毎度血を吸われるがな。


初めて射撃魔法が使えた時なんか、子供みたいに喜んでいた。
使えて当然な魔法世界生まれで魔法が使えない、って言ってたからな。子供の頃からの夢が叶った瞬間だったんだな。

努力家なのでコツを覚えられれば、成長が早い。
弟子の成長は師匠としては嬉しいものだ、弟子にまったく勝てない師匠ってもの何だけどな!

だって、遠距離攻撃はラウンドシールドで防御されるし、飛行瞬動で間合いに飛び込まれるし、逃げようとしたらバインド掛けてくるわで。
こっちの勝ち目がほとんど無くなったのだ、見せていない手を使えば勝てるが、それはいざという時の最後の手。


因みに、弟子二号も出来た。
初仕事の時に非殺傷設定を教えると約束した佐倉愛衣だ。

直後から申請はしていたそうだが、学園長直々の面接や心理テストやらを嫌というほどやらされたそうだ。

バルタ○星人め、審査をきつくしてやがったか、通りで弟子希望者が来ないと思った。


まあ、きつい審査に耐えた弟子二号こと、愛衣ちゃんは秀才型なので憶えるのが早い早い。

応用力が少し足りないのが難点だが、ミーシャにそこら辺を要点として教育させている。

近いうちにデバイス作ってやらなくちゃな。


さて、こっちの世界でのデバイス製造に辺り、最大のボトルネックとなるのが演算系だ。
一般的な演算装置では魔法プログラミングの処理が追いつかず、煮えてしまうのだ。

スパコンクラスなら大丈夫だったが、そんなもん持ち歩けるか。


****


直轄砲兵扱いされる様になってから忙しくなってしまった。
深夜にしょっちゅう要請が掛かるし、警備に出ると高確率で事件がある。

この前なんて夜中の2時に要請が掛かってきた。

即応出来る身体を作ってはいるが、昨日は多脚戦車を相手し、弟子達の為のデバイス研究で忙しく、クラスメイトとの馬鹿騒ぎが重なり疲れていた。
そうして安眠していた所にこの電話だ。

流石にカチンと来たので方位と距離を聞き、着弾観測用のサーチャーを飛ばし、
外には出ずに部屋の窓からFAEバレット12連を発射、一応「全力で逃げろ、逃げ遅れても知らん」と通達を送っておいた。

多少威力は落としたとはいえ、派手に炸裂。弾着後に大きめのキノコ雲が出来たが気にしない、反省はしていない。
それよりも寝ることが優先だ。


翌日、高音の姉ちゃんに怒られた。余波を食らって脱がされたらしい。
弟子二号の愛衣ちゃんが庇ってくれたので殴られずに済んだが、よく脱げる人だ。

そう言う星の元に生まれてきたのか?強く生きてほしいものだ。


ついでに「やり過ぎじゃ、隠すのにどれだけ苦労したことか」隠蔽工作が大変だったとバルタン星人からも怒られた。
何でも小さい地震が起きたほどらしい。着弾点近くの森もツングースカ状態だとか。


いや、そんな状態を誤魔化せるあんた達の方が凄いよ。



[4701] 第七話「ゴールデンクラッシャー」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/09 23:33
不名誉な二つ名が付いた。と言うか付けられた。


ある天気のいい日の放課後、校内掲示板をふと見てみると、其所には


「謎のロシア人転校生は特殊部隊出身!?」とデカデカとした見出しが付いた校内新聞が張ってあり、
僕の写真がど真ん中に載っていた。黒線はしてあるものの、知ってる奴が見たら一発で判る程度にしか施されていない。


まあ、原因は分かっている。先日、若さ故に血気盛んな連中が女の子にちょっかいを出していた。

それはよいが、お痛が過ぎたのでドクロベー様曰くおしおきだべぇ、とママより恐いおしおきタイムに突入した時の事だ。


その下に「ゴールデンクラッシャー」なる二つ名が掲げられていたのだ。

どうやら、この前の喧嘩の時の"アレ"と自前のハニーブロンドの髪色を合わせた様だ。


何処の阿呆だ、こんな二つ名を考えたのは。


****


ここの街は活気がある。

学園都市という性質上、平均年齢が若くて、若い者向きの街になるのは必然だ。


しかし、その反面"馬鹿"も多くなってしまう。
そんな馬鹿を見かけたのは、偶々出会った散歩部の面々と歩いている時だった。


にしても、両極端だな、この面子。
片や長身巨乳、片や幼女体格、コレで歳が同じってんだから、おにーさんびっくりだ。


視界に写った先には二人の女の子と、五人ほどの若さ故に血気盛んそうな男共がいた。


「ナンパしてるなあ」
若いねえ、男共の見た目がチンピラっぽいのが難だが。


それを見た楓ちゃん、「およ、まき絵殿と裕奈殿でござるな」

「知り合い?」
「クラスメイトでござるよ」

女の子の方は年相応な見た目だな、隣の三人と比べて。


「あ、でも、なんか二人とも嫌がってるです」
「あー、まきえとゆーな、嫌がってるけど、男は気付いてないねー」

双子が気付く、確かに二人とも少しおびえた感じだな。
チンピラっぽいし、5人で囲めばなあ。


「お、強めに出た。どうなるか…、逆ギレ起こしてる」

最初の方から嫌がっている雰囲気だったんだから気付けよ。
ナンパは気安くついて行ってもいいかと思わすのが重要なんだから。


「大人げないでござるな、あれでは失敗して当然でござる」
まあ、まだ人生経験が浅いからな。トライアンドエラーは最適解出す為の基本よ?


「あわ、二人ともおびえてますです」
「それでは拙者が助けに…」
向こうに行こうとするのを手で止める。


「いや、こういう時は男の仕事。お姫様を助けるのが騎士の役目でしょ?」
そう、格好を付けて向かう、少し似合わない台詞だったなと思いながら。


****


アリョーシャ殿がそう言って向かうのを見て、ふと「似合わない台詞でござるなあ」と言ってしまったナリよ。


「うんうん、アリョーシャ君には似合わないねー」
「お姉ちゃん、それはちょっと…。でもかっこはいいです、アリョーシャ君」


所謂二枚目半でござるからなあ。
見た目はよいが、性格は軽くて面倒がり屋。もう一寸しっかりした性格なら二枚目なんでござるがなあ。


「向こうについて…、気を引いてるねー。お、まきえ達逃げた」
「あわ、あの人達怒ってるです。大丈夫でしょうか、アリョーシャ君」
「大丈夫だろ、自信ないと行かないよ」

「そうでござろ、上手い事怒らせているでござるよ、先に手を出させるつもりでござろ」
先に手を出した方が大抵負けるでござるからな、中々策士でござるなアリョーシャ殿。


と言っていると、男達の一人が殴りかかってきたのでござるが、
何か、こう、ぬめっとした動きで忽ち三人を伸してしまった上に、二人は止めに金的を蹴られるという容赦のない目にあっていたでござる。

拙者は女ゆえ解らないが、相当痛いそうでござるな。悶絶しておるし。


「あわわ、白目剥いてるです。痛そうです」
「うわー、えぐいねー。残りに何か言ってる。かえで姉何て言ってるかわかる?」

ここからはよく聞こえぬが、唇の動きを読んでみると…
「ええと、「今度見たら潰すよ、去勢したいなら別だけど」と言ってるでござるな」


両極端な反応を示している双子を横目に、実に物騒な事でござるな。
と思っていると、「あのヒト、出来るネ」

何時の間にやら横にいた古が呟いていたのが聞こえたのでござる。

「ほほう、判るのでござるか?」

確かにかなり出来ないとあそこまであっさりとはいかんでござる。
アリョーシャ殿は只者ではないと常々思っていたのが、実証されたのでござった。


それに、拙者の目は捉えていたでござるよ。当たる瞬間に勢いを殺していたのを。
殺さずにそのまま行っておれば、間違いなく玉が潰れておったでござろうな。


「動きに無駄がないアルね、急所を容赦なく突いている所とあのぐにゃっとした動きからして…」
「して?」


「システマとか言う格闘術アルな。何でもロシアの格闘技トカ」
「ロシアの格闘技でござるか、あまり聞いた事がないでござるなあ」
「何でも軍の特殊部隊で使われていると言う話アルね」

なるほど、あの容赦のなさは軍隊向けであるからでござるか、別に殺してしまっても構わない所で使うのでござるからな。


「いやー、いい記事になりそうだねー」

またしても、何時の間にやら隣に来た朝倉殿が呟いていたでござる。
この御仁は熱心なのはよいが、ヒトの迷惑をまったく考えないでござるからな。


「見出しは「謎のロシア人転校生は特殊部隊出身!?」ってとこで…」
やれやれ、当分つき纏われる事確定でござるな。無事を祈るでござるよ、アリョーシャ殿。


****


何処の阿呆かはすぐさま判別した。と言うかソイツしかいないだろうと、聞いてみた人全員が答えた。


「朝倉だろ」と、なんでも「パパラッチ」と言われており、スクープの為なら身体も張るし、他人の迷惑など何処吹く風、な性格の女らしい。
なんか厄介なのに目を付けられてしまったなあ。


そして、ソレとのファーストコンタクトを果たしたのは間も無くの事だった。

探索部に付き合わされての図書館島からの帰り、脇を通り過ぎた自転車が反転して前に止まった。


「おおっと、そこにいるのは謎のロシア人転校生ことアンドレイ・コンドラチェンコ君!」

名付け親が言うな、あの見出し考えたのお前だろ?


「私は学園報道部突撃斑所属の朝倉和美。よろしくねー」

経験上、突撃とか言ってる奴はロクなのがいない率が高いんだが、どうなんだか?


「いやー、この前の記事が好評でさー。ついてはインタビューとか含めて取材させてほしいんだけど」

うん、やっぱ駄目だコイツ、人の話を聞く気が皆無なオーラが出てやがる。

あんな二つ名を考えたのもよーく解る。ギャフンと言わせてやりたいが…。


そこで名案が閃く、『また、悪巧みしてますね。いつもの事ですが』ミーシャの念話ツッコミは華麗にスルーして早速実行に移すのだ!


ふっふっふ、見てなさいパパラッチさん。近づく気を無くしてあげましょう。


「インタビュー?いいですよ。これから行く所まで一緒に来てもらえば」
まずは、獲物を捕らえるべく、ワナを張るのだ!


「おおっ!気前いーねー、判ってるね、旦那。で、どこまで?」

それに引っ掛かった獲物をば、「はい、僕の部屋のベッドの上で」一気に捕らえると。

あ、流石に固まってる。


「ベッドの上…?」


やっとこさ理解した所を「そうそう、ピロートークで答えますよー」叩き落とすと。

「いやいやいや?!ソレはないって!ソレよりもこ、こうゆうのは合意の上であって!?」

見てて判るぐらいパニック起こしてるなー。だが、ここで緩めてはいけません。


「大丈夫、大丈夫、こう見えてもそれなりの経験が有りますからねー。痛いのは最初の方だけですよー」

「いや、そう言うことじゃなくて!?」

うん、更に酷くなってる。因みに経験云々はホントだぞ。
祖父さんに「ハニートラップ対策だ」とか言われてな…。


「スクープの為なら身体を張るって聞きましたよー、貞操の一つや二ついいじゃない。減るもんでもないし」

「あたしの貞操はそんなに軽いのかー!てゆうか、減るわー!!」
うむー、弄り慣れてはいるが、弄られ慣れてない感じ?更に弄ってやろう。


「まあまあ、キミみたいに可愛い子なら5年以内に無くすだろうから、その先取りってことで」

「何が先取りだー!私は好きな人にあげるんだー!」
おー女の子だねえ、もっと弄ってやろ。

「明るい家族計画はちゃんと使いますから、もしもの時にはちゃんと認知するし名前も考えてあります。だから心配ありません!」

「って、どこまでいってんだーっ!あんたの頭の中ーッ!何で生まなきゃなんないんだ!?」


ま、これぐらいにしてあげましょうか、釘を刺しておくのを忘れずに。

「と、今までのは冗談です」
「なっ・・・なぁにぃーーっ!?じょ、じょ、冗談!?アレが?な、なな、な…、あんたはどんだけエロいんだー!このドスケベ!!」

「はい、冗談です。それに、人類皆滅びない程度にエロいんだから、多少エロくてもいいじゃん」

「ひ、開き直るなーっ!まあ、それは一理あるけど…って!納得するなーっ、私!!」

まだまだ混乱してるな、拍車を掛けてやれ。


「とは言え、しようと思ったら出来るんですよね。最近溜まってるし」

あ、フリーズした。なんか変な汗かいてるし。


「出来て、溜まっているって…?」
「はい、久しくおっぱい揉んだりしてないし、願わくばその胸を堪能したいかと…」

中学生にしてはおっきいおっぱいを凝視する。胸を手で隠して後ずさりをするパパラッチ。


自転車のある方へ追い込み、辿り着いた瞬間にわざと気をそらす。
さすれば、大急ぎで自転車に乗り込み、脱兎のごとく逃げ出すパパラッチ。


「おぼえてろよー!!」の定番捨て台詞付きで。
コレで当分近づかないだろう。



後日、「私が受けたセクハラ発言」の見出しの校内新聞が貼ってあった。
転んではタダでは起き上がらない女だ、良き戦友となれるかも。



****




研究室に来ると毎回している事がある。所謂"クリーニング"だ。


ミーシャのセンサーを使い、電波発生源が増えてはいないかを調べ、あらかじめ計測しておいた質量と現在の誤差を調べる。

変化があれば検査し、発見時は入り口前に置いた段ボール箱に入れておく。箱には「ご苦労様です。ご自由にお持ち帰り下さい」の張り紙が貼ってある。


毎日出てくる為に、他の学生からは「盗聴関係品が欲しければあそこに行け」と噂されるほどだ。
まったく、無駄な事はやめておけばいいのに。


ついでに窓には特殊吸震材が貼ってあるのでレーザーによる盗聴は出来ず、電波暗室に近い状態にしてあるので電磁波盗聴も出来ない。


そうして仕上げとして、AMFグレネード改造の簡易ジェネレータを使っての魔術的クリーニング。
AMFがこちらの魔法にも効果があるのは別荘で確認済みだ。協力者がいると助かる。

こちらでAMFの存在を知っているのは僕とエヴァ一家だけだ。魔術的盗聴を試みてる奴はいつも不思議がっていることだろう。
「何故、いつも魔法が消えてしまうのか?」と。


そうしてやっと、作業を始める事が出来る。

とはいえ、資料との格闘や資材と機材の相手、必要経費の計算と申請などの見られても構わない作業から始まる。
それが済んだ後、そこからが重要だ。


「ミーシャ、電源の充電度合いは?」
『最大で3時間使用可能です』
「封時結界発動、2時間50分設定。終了十分前には警告を」
『了解、展開時間2時間50分、2時間40分に警告音を鳴らします』

強々度機密を扱う時には封時結界を張る。コレなら押し込もうったって不可能だ。

ただし、電気も来なくなるので機材を使う時は電源装置が必要なのが玉に瑕。

そうして、機密は守られた状態で弟子用のデバイスを組み上げる。


最大の難点だった演算装置は茶々丸系列の量子コンピュータを使用した。
2000年代に実用化しているとは…、やっぱ侮り難し、こちらの世界!


提供してくれたのは、工学部に半分住み着いていて、女の子を半分捨ててる女。葉加瀬聡美だ。
報酬代わりとして「ナビエ-ストークス方程式」の一般解を渡してみた。

知っている方の地球ではすでに解かれているが、こっちでは解かれてはいない数学上の難問だ。


ジェット推進研究会に所属していると聞いたので食い付くかなと思ったら、
馬に人参ってこういう状態を指すのね、と言いたくなった。それほど興奮していたのだ。

この一般解を公表すれば100万ドル貰えるが、研究者としてのプライドが許さないので公表はしないだろう、よって何の問題もないのだ。
だって、「他人に教えて貰った」んだよ?自分の頭では解けませんでした。と言ってる様な物だもん。


因みにインテリジェントデバイスも作れるかな?と思ったが、サイズと処理速度の関係上無理だった。
二つ積めば可能だが、サイズがでかくなって携帯に不便になる。

茶々丸があのサイズなのも理由と必要性の関係なのだ!と熱弁を振るいつつも、
その横で幼女型ボディを作ってるのは無視する事にしよう、うんそれがいい。



そうやって出来た弟子一号用の腕時計型ストレージデバイス、名前はまだ無い。

これは秘密だが、一寸したブービー・トラップを仕込んである。


ブービー・トラップはこれだけではない、提供したカートリッジにも仕込んである。

それは「緊急停止プログラム」と「自爆プログラム」の二つだ。

僕が提供した技術は、後々普及する事だろう。提灯を使っていた所に懐中電灯持ってきた様なもんだ。
こちらの魔法にブレイクスルーをもたらす事間違い無しの技術だ。

その後、僕の排除や(接触出来たとして)管理局との対立が発生した時にこれが必殺の武器となる。


そのような事が起きない事を祈りつつ、それを想定し、我が身可愛さとは言え準備している自分に嫌気がさす。

畜生、いくら管理局員とは言え、何でこんな糞ったれじみた事を考えられる様になっちまったんだ?

更にだ、こちらの魔法を学んでミッド式の発展に生かそうと思う自分にも嫌気がさす。


ミッドチルダ式魔法は多くの血と魔法を吸って発展した魔法だってのに。

****

閑話:ミッドチルダ式魔法について


ミッドチルダ式が多くの世界で普及している理由として、時空管理局発祥の地の魔法である事と、その汎用性が挙げられる。
だが、それだけが理由ではない。その発展の影には消えていった魔法が多々存在するのだ。


過去には次元世界それぞれには独自の魔法が存在していた。

ミッドチルダが中心となり時空管理局が設立された際に、地の利を生かして主力魔法となったミッドチルダ式。

徐々に構築されていく管理局システム、それと同時に発展していくミッドチルダ式。

各世界に存在した"魔法"をエミュレートして再現し、その要素を吸収・発展していくミッドチルダ式。

その汎用性故に他の世界で受け入れられていくミッドチルダ式。

そして、その世界独自の"魔法"を駆逐していくミッドチルダ式と衰退していく独自の魔法。


現在、管理世界ではミッドチルダ式と近代ベルカ式の二種が主流だ。
だが、近代ベルカ式は「ミッドチルダ式をベースに、古代ベルカ式をエミュレートして再現した魔法体系」であり、何年後かは判らないが、
純粋な近代ベルカ式は後々駆逐され"ミッドチルダ式の一魔法"となる事だろう。


そうして、アンドレイ・コンドラチェンコはこの世界独自の"魔法"を学習・吸収しミッドチルダ式魔法の発展に貢献していくだろう。


果たして、"未来のミッドチルダ式魔法"と本格的に対峙した後に"魔法"は生き残れるのか?
それは未来だけが知っている。

****





あとがき:最近仕事が忙しく、筆が中々進みませんでした。
今回もオリジナル設定が多いので嫌いな人、ゴメンナサイ。
書き間違いを指摘して下さった方々、有り難う御座います。


余談
アリョーシャ君は本来はStSアフターストーリー用に作ったキャラです。
プロローグにその名残がたっぷりと有りますが、力量不足故に一時棚上げしてます。

後々腕を上げて書くつもりですので。全く期待せずにお待ち下さい。


追申:セクハラトークの部分は書いていて楽しかったです。






[4701] 第八話「ライオンの皮を被った驢馬」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/13 21:28

間もなく2月の週末、エヴァ宅でまったりと焙じ茶啜りながらミカンを食べていた時だった。

こちらに来て協定を結んで以来、時々遊び来ている。


「そう言えば、小僧の世界とこの世界では時間軸がズレている、と前々言っていたな。どれぐらいズレているんだ?」

エヴァがこんな事を聞いていたのだった。


呼び方が小僧で定着しているのは何とかして欲しいが、それはさておき。


「んー、僕が生まれたのが西暦2010年、こっちに来る直前で2024年。二十年以上ズレてる事になるな」

そう、なのでゲームやインターネットの回線速度が最大のカルチャーギャップだった。
SO〇YはSE〇Aみたいな事になったし、光回線で100MBがやっととは…遅いなあ、1TBぐらい出ないのか?


「ふむ、それなら下に見てしまってもしょうがないな。私だって二十年前と今を比べるとな…」

「でも、幾つかは同じ水準かそれ以上まで達している所があるのがね…。工学部の連中が弄ってるのもあっちにはない物が多かったし」

小型量子コンピュータや茶々丸なんか、ミッドでも無いと作れない気がするからな…。流石異世界。


「まあ、それは超の技術が大きいな。あいつの知識は百年は先に行っていると言っても過言ではない」

超鈴音か…、無料盗聴器のお得意様で「超包子」に食べに行った時に世間話するぐらいの関係止まりだな。
今度、ちゃんとした話をしてみよう。


「話は変わるが、小僧は割と気軽に情報提示するな。このカートリッジだってそうだ、取引のつもりなのか?」

そのエヴァの手には学園で製造したカートリッジがある。魔法を使う時に欠かせなくなっているみたいだ。


「取引材料兼ブービー・トラップって所だね。それにウチの祖父さんの教えで、生き残る事を最優先にする考え方になってるんだよ、僕は」

ブービー・トラップの事を知っているのは僕とエヴァンジェリン一家の面々だけだ。
潜在的に対立しているこの一家ならバラしても言いふらすまいと思っている。


それに、管理局ならば"呪い"を解ける可能性がある。後々接触出来た際に、協力者として便宜を図ることも締結済みだ。


「祖父さんの教え?旧ソ連時代の軍人だとか行ってたな。どの様な教えだ?」

祖父さんはGRU(参謀本部情報総局)傘下のスペツナズ要員としてアフガニスタンで従事中、事件に巻き込まれてしまい、公式には戦死扱い。
帰ろうにも、乗っていたヘリは木っ端微塵で部下共々生きているはずがない状態に、その間に世話になった局員の薦めで入局した人だ。


「第一に生き残る事が最優先、多少の規則を守って死ぬぐらいなら破ってでも生きろ。第二に使える物は何でも使え、必要ならライオンの皮でも被っておけ。他にもあるが、こんなもんか」

「ライオンの皮?ああ、イソップ寓話にあったな「ライオンの皮を被った驢馬」の話が。小僧にとってのライオンの皮が時空管理局という訳か」


「そう、最初の名乗りの時に管理局を知らない世界だと分かったから、
どれだけ恐ろしく巨大な組織であるか、僕の魔法が全く違う進化を遂げた物であり研究対象としては極上だという事を教えた訳ね」

救いようのない馬鹿でもない限り、アンカンシェルクラスの兵器を保有する組織と対立したくはないだろうし、研究対象を処分する気にはならないだろう。


「だが、いいのか?帰れたとして、情報漏洩の廉で処分されるかもしれんぞ?」

それは覚悟している事だ。だが、只では済まさない為にもこちらも努力している。


「だから、こっちの魔法を教わっているんじゃないか。局側も調査するだろうけど「ミッド式術者視点による異世界の魔法」は貴重だぞ?」

何年かすれば局の調査チームが調べ上げるだろうが、その取っ掛かりとしては価値がある。

喩えれば、ロゼッタストーンに書かれていた固有名詞を解読したトマス・ヤングみたいな感じだ。

ヤングのアプローチを元にシャンポリオンが完全解読した様に、調査チーム達には重宝されると思う。


「なるほど、関東魔法協会とのパイプとその調査成果を使って上層部と取引をして、無罪放免を目論んでいると。そう言う事だな?」


「そそ、こっちも生き残るのに必死なの。いざとなりゃあ、祖父さんと愉快な仲間達に助けてくれと頼んでみるよ」
『閣下も頼まれると嫌とは言えない所がありますからね』

祖父さんは事故の時には少将だったが、中将への昇格が内定していた。

低ランカーの出世頭なので同じ低ランカーや高ランカーを技量だけで叩きのめした事もあって魔法が使えない連中の人気が高い。
ベルカ式の使い手からも老いても尚高い技量から尊敬されているほどだ、孫にも容赦ない人なんだけど。

訓練で手加減しないんだもん、他の時はいい祖父さんなんだけどな。


「鬼のジジイも孫は可愛いか。まあどうにかするべく努力はしているのだな」

「そう、だからもっと教えてくれ。血はそれなりにな、三ヶ月待てるなら400ml吸ってもいいぞ」

ここでは授業料や別荘の使用料として、血を提供している。最初は結構吸われたなあ、超包子でレバニラをしょっちゅう頼んでたぐらいだ。


「400mlで三ヶ月とは、日赤の献血じゃないんだぞ。それにお前の血は癖があると言ったろ?旨いんだが、多く飲むとそれが気になってきてな。少しずつ飲むのがいいみたいだ」

癖が気になってくるって…。僕の血はリキュールかなんかか?それも薬草系の。



「それはそうとして基礎はマスターしたな?始動キーは決めたのか?詠唱は上手くなったか?小僧は詠唱が下手だからな」


そう、これがこっちの魔法を学ぶ上で最大の問題だった。
早口言葉は苦手だ、始めなんて2回に一度は噛んでたからなあ、だからこっちの魔法は嫌いなんだ。


「長年生きてきたが、"火よ灯れ"を噛む奴なんて初めて見たぞ」
くくくっ、と笑いながらこっちを見る。


「魔力の扱いは一級品、まああんなややっこしい術式を平然と扱うんだから当然だな。だが、詠唱はシロート以下。発音も怪しいと来た」

使われるのはラテン語か古典ギリシア語と来たもんで、慣れていない発音の為に唱えたつもりが何も起こらなかったりした。

ロシア語と日本語とミッド語しか出来ないんですけど、僕。
祖父さん辺りだと、教養の一環として単語を知ってるだろうが、ミッドと日本じゃ全く使わない。


なので、別荘まで使ってのスパルタ式ラテン語講座と古典ギリシア語講座を受ける羽目になってしまった。畜生、だから嫌いなんだ。


「喜べ、小僧ほど下手くそな奴は、私の長い人生の中でも初めてだ」
読むのは問題ないんですよ、詠唱が苦手なだけで。


「そして何より、ミーシャの方が出来がいいのが傑作だ」
くくくっと悪そうな笑みを浮かべつつ痛い所をついてくる。くそう、この悪幼女め。


そう、詠唱の特訓中、戯れに「お前もやってみろ」とミーシャを杖の上に置いて詠唱させた所、


成功してしまった。


これには全員唖然とした。まさかデバイスがこっちの魔法を使えるなんて夢にも思ってなかった。

エヴァも「魔法を使える機械なんて初めて見たぞ」と言っている。


使えると分かったら後は早い、何せ記録媒体ですから、あっという間に上位古代語魔法も使える様になってしまいました、デバイスが。

その一方、ひいひい言いながら古典ギリシア語に苦戦しているそのデバイスの主人。


悔しくなんか無いやい、目から出てるのは汗だい。


「まあ、それはさておいてだ。起動キーは決めたか?ミーシャ」
何でミーシャから先に聞きますか。アナタは。


「小僧よりミーシャの方がいい生徒なんだよ。自分で唱えるよりもコイツ経由で使った方がいいんじゃないか?」

またまた悪そうな笑みを浮かべてくくくっと笑う。どうせ出来の悪い生徒ですよ、悪うございましたね。


『まあまあ、同志。確かに私の方が噛む事もなく、古代高等魔法でも問題なく使用出来ますが…』

くう、コイツは主人を殆ど立てないデバイスだからな。祖父さん、何を思ってこんな性格にしましたか。


『それも貴方の強大な魔力があるからです。最初のマスターであるお祖父様も、お父上も、魔力が少なくて苦労しました。ですが、貴方はこの年でAAA+クラスの魔力を持っている。成長すればSランク級の魔力も夢ではない。そんなマスターを持てて光栄です』

その反面、たまに恥ずかしくなるほど褒めるから余計質が悪いんだ。


『まあ、魔力量だけで魔力放出量の関係上Sランクは無理です。AAAが限界でしょう』

オチを付けるのを忘れないのが一番質が悪いんだがな!!


「おい、其処の漫才コンビ。それはいいから始動キーを決めておけ」
誰が漫才コンビだ、誰が。


『アフタマート・カラーシュニカヴァで行こうかと思っています』

「「そのまんまだな」」
思わずハモってしまった。お前はAK-74をモデルにして作られたのは確かだが、それでも「カラシニコフ式自動小銃」はまんま過ぎるだろ。
名前も設計者から取ったんだぞ。


「起動キーは自由に出来るからな、好きにしろ。で、小僧は?」
出来の悪い生徒はオマケ扱いですか、へいへい。


「フレブ・ザ・フレブ クロフ・ザ・クロフで行こうかなと」

「パンにはパンを、血には血をか。お前らしいな。まあ、"噛む"なよ」
ロシア語で噛んで堪りますか!一応母国語で、喋れない頃からの付き合いです!


そうして、この話は終わり。



後はたわいない話が続いていた。

「来週から二月か、日本人は大変だな。3日に豆撒いて、14日にチョコ上げたり貰ったり」

ミッドには聖王教会関係の行事以外はあまり無い、有っても他の世界由来の物ばかりだ。


「大変だなって、小僧は半分日本人みたいなものだろう」

「沖縄に豆撒く風習はありません、本土の連中が持ってきた物です。カトリックの聖人の日なんてオーソドックス(正教会)には関係有りません」

一応クリスチャンだ、全く敬虔ではないが。
管理世界にはロシア系コミュニティがあったりする。局にスカウトされたり、事故で来たロシア人の中に主教様が混じっていた為に
ミッドチルダ正教会が存在したりする。小さいが聖堂も持ってるぞ。

祖父さんもそのコミュニティに世話になっていたので、よく聖堂を訪れていた。僕もよく連れられてだが、訪れていたので一応信者になった。

気が向いたらお祈りするぐらいだがな、宗教観は日本人よりマシなぐらいだし。


そのせいか、同期の連中が陛下に払っている敬意が全く解らなかったのは。聖王教会は管理世界の彼方此方にあるからなあ。

管理世界出身で、敬意を払ってなかったのは僕ぐらいだったし。



そんな事を考えつつ、お茶のお代わり貰っていると、茶々丸がこんな事を言っている。
「マスター、来月に来日するのでは?」


「ああ、準備を進めなければな」
何の準備なんだか、悪そうな顔して。


「一体、誰が来るんだ?」
「サウザンドマスターの息子だよ」

ああ、前に教えてくれた、ツッコミ処満載の呪いを掛けた奴のね。
資料を漁っている時に何度か名前が出てたな。でも、そんなに歳取ってなかった様な…。


「確か10歳だったな」ちょっ、それ、労働基準法に、
「数え年で10歳ですので、正確には9歳です」法律違反だー!


「思い切り抵触しているな、だがあのじじいの事だ気にもしていないだろうな。そう言う小僧も同じぐらいから嘱託で働いていたんだろう?」
まあ、バルタ○星人は気にもしてないだろうな。御陰で新聞代を経費として処分出来てるし。


「いや、ミッドチルダは就業年齢が低い世界であって、日本の常識ではその年齢は一寸なあ」

確かにその歳で無茶苦茶やっていたのだが、ある意味それが普通の環境だったからな。

八神家や高町家やハラオウン家の皆さんもそれぐらいで大暴れしていて、それが受け入れられていたんだから僕の暴れっぷりなんて可愛いもんだ。


「これで呪いが解けるな…」

局に解いて貰うんじゃないのか?ミーシャがリストアップしていたぞ、解けそうな連中を。


「悪いが、それは次善の策にさせて貰う。何時接触出来るのか分からんからな」

ふむ、最速の手段に出る事にしたのか。それは結構だ。


「また、追われる様な事になったら言ってくれ。接触後なら便宜を図れる、エヴァなら即採用だ」

世話になったお返しにもなるかは分からないが、局の保護下に入れば賞金稼ぎ共には手が出せないだろう。


「悪い、気を遣わせたな小僧」

「いいって事よ」


そう言ってお代わりのお茶をまた啜る。そうして夜は更けていくのだった。




そして、物語は本格的に動き出す。


****



あとがき:情報の扱いが軽いのとネギま魔法嫌いの理由を書いてみました。



[4701] 第九話「キノコだと名乗った以上は編み籠に入れ」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/16 16:03
二月、一年の中でも寒い時期。


早朝、日課にしている事がある。いや、習慣になってしまったと言った方がいい。
手足に重りを付けてのランニングだ、ついでに魔力負荷設定にしてある。


そうして、毎朝走り終わる頃、よく会う子がいる。

歳は同じぐらい、腰まであるオレンジ色の髪を二本に纏めた新聞配達の女の子だ。

色は違うが、陛下と同じオッドアイなのが特徴だったりする。
なので、ちょっとした親近感を持っている。


とは言えお互い挨拶止まりであって、お互い顔は知ってはいるが名前も何処の誰かも知らない仲だ。


その日は今年一番の冷え込みで、偶然そう言う気分だったのもあり、声を掛けてみる事とした。


「おはようございます、今朝は冷えますね」
「あ、おはよーこざいまーす。確かに冷えますねー」


まあ、知らない顔じゃないんだし、警戒はさほどされてはいないと。


側にあった自販機でホットコーヒーを買う、因みに買う時はブラック無糖かU○Cのミルク入り○コーヒーのどちらかにしている。
微糖とか中途半端なのはちょっと好みに合わないの、コーヒーの味を主体に飲むか脇役にして飲むかのどっちかが好きなの。
この寒い時期だと甘いのをゆっくり飲むのもいいけど、ブラックを火傷しない様に気を付けつつ、クイッと飲むもよい。


缶コーヒーの好みはさておいて、「よかったらどうぞ」とミルク入り缶○ーヒーを放り投げてみる。


ちょっと驚いた顔をして受け取ったのを確認して、そのまま走っていく。

いい男は引き際が肝心なのだ。『それ以前に、いい男はミルク入り缶コー○ーは飲みません。何でブラックにしないんですか』
うるせい、甘いのをゆっくり啜り飲みしたい気分なんだい。


後ろから聞こえる「ありがとーごさいまーす」の声に押されて家路を急ぐ。



これが、もう一人と共に濃い付き合いの始まりとなるとは全く思っていなかった。



****



その日の放課後、弟子一号ことタカミチのオッサンに用があって女子校エリアまで足を踏み入れた。


うう、女子校ノリの空気が満ちあふれていて、居心地が悪いったらありゃしない。

管理局の陸上部隊暮らしが長いこの身にとっては、大半女のここはどうも慣れない。

あ、女性がいない訳ではないぞ。前線でバリバリやっている人も多いし、後方要員には結構多い。
ただ、体育会系ノリの人やサッパリとした性格の人が多くて、こんな女の子女の子した人達が少ないだけ。


さっさとタカミチに会って用を済まそうと思っていた矢先の事だった、「あ、あのー」と声を掛けられたのは。


ナンパか!?ナンパなのか!?

自慢ではないが、顔は整っているぞ!髪は癖のないハニーブロンドだ!前も言ったが、アッチの経験は豊富だぞ!


ただし実行に移したら陛下にスターライトブレイカーかフォトンランサー・ファランク…いや、アレはジェノサイドシフトだな、のどっちか、
若しくは両方をつるべ打ちされる事請け合いだから絶対出来ないがな!


そんなくだらない事を考えつつ、振り返ってみると其処にはどっかで前に見た顔が二つほどあった。



どっかで前に見た事がある顔なんだけどなあ…。のど元ぐらいまで出てきているがいつ見たか思い出せない所に意外な答えが返ってきた。


「「この前はありがとうごさいます!」」頭を下げながら礼を言われた。
この前で、二人の女の子…、あ、おしおきタイムの時の!


女の子二人にお礼を言われ続けているとなんか気恥ずかしい。
あのときは本当に怖かったらしく、僕の助けがありがたかった事、お礼を言いに戻った時にはいなくて困った事、
記事を見て尋ねようとしたが、中々会えなかった事とかを説明してくれた。丁度研究室に入り浸っていた頃だな…。


そんなこんなを話している内に気が付いた、まだ自己紹介していない事を。


「そういや、自己紹介がまだだったね。知っていると思うけど礼儀として、僕の名はアンドレイ・コンドラチェンコ。家族や友達からはアリョーシャって呼ばれてる」

本当はアンドリューシャになるんだが、曾祖父さんがそう呼ばれていたので名前を貰った僕もそう呼ばれている。


「あ、私は佐々木まき絵。中等部の二年です。で、こっちが同じクラスのゆーなこと、明石裕奈」

「いえいえ、こちらこそ。…ん?」
聞き慣れた苗字があって、前に聞いた事が…。


「明石さん、ひょっとしてお父さんここの職員?」
「あ、そうです。大学部で教授しています」

やはりそうだったのか。前に同じぐらいの娘さんがいるって言ってたからな。


「あのだらしない格好した明石教授?」

出会った時には服装チェックをしている。する様になってからはマシになったが、それでも目に余る時が時々ある。
そのような時は有無を言わさずに研究室に連れ込んでアイロン掛けをさせている。自分で出来ないと意味がないからな。

研究室にアイロンと台と各種道具を常備しているのよ、無論経費で買いました。


「その通りです、反論の余地もありません」
深々と頭を下げながら言っている所からすると、「アイロンもって押しかけて正解だったな。娘からも認められているとは」

それを聞いた娘さん、恥ずかしそうに顔を赤くして、
「ああっ!この前はありがとうございましたっ!ウチのおとーさんってホントにだらしなくって、あそこまでの荒療治でないと効果がないんです!」

必死の形相で泣きながらお礼を言われるのって初めてかも、娘にこれだけ言わすとはどんだけだらしないんだあのオッサン。



「ゆーな、アリョーシャさん引いてるよ…」


****


怒濤の自己紹介が一頻り終わった後に、聞いてみた事がある。

確かタカミチは女子中等部の教員だったはず、なら知ってるかを聞いてみた。


担当科目を知らんからな、目安にはなるだろうと思ったが、
「ウチのクラスの前の担任です」とビンゴを引いた。


聞く所に依ると、教育実習生が変わって担任を務める事になったと。
今からその新任先生の歓迎会をする事になっていて、前任担任も呼ぶとか。
で、良かったら来ないかとお誘いしてくれている。


おお、渡りに舟って奴だ。
その新任とはエヴァが言っていたサウザンドマスターの息子の筈で、一度見てみたかった所だ。
タカミチのオッサンも来るんだから丁度いい。


返事?無論YESだ。


****


遠慮されながらも買い出しとセッティングを手伝う。

にしても、2-Aは濃いクラスだ。


入った時に、知った顔がえらい多かった。

くのいちで山仲間の楓ちゃんにさんぽ部の双子、仕事仲間の真名とせっちゃん、図書館探検部(まだ仮部員扱い)のデコ娘とおっとり娘、
その友達のパル様と本屋ちゃん、本屋ちゃんとは付き合いが薄いのが悩み、可愛いのに。

そして、人の顔を見てびびっているパパラッチも同じクラス、心配するな揉まんから。

さらにはエヴァと茶々丸、超包子の面々までも…。


何て濃い面子ばっかなんだ、この面々、一癖も二癖もある奴が多いったらありゃしない。

あのバ○タン星人、「面白そうだから」で一纏めにしてるんじゃねえのか?



知り合い連中と挨拶を交わし、知り合い同士は共通の知人がいた事で盛り上がる。

そんな姦しい空気の中、ほっとけば間違いなく悪評を広めるであろう奴を押さえに行く。


「げ、私の胸を揉みにここまで来たのか!?」
「いや、其処まで暇じゃないし、揉む気はないし」
パパラッチだ。コイツを押さえておかないと平穏な日々が遠くなる。


「それに言っておく、彼女いるぞ。もしそんな事をしたらどんな目に遭わされるか…」
最強クラスの魔導師の怒りなんて買おうものなら…、ああ、恐ろしや。


「へー、アンタ彼女いるんだ。どんな子?」
その一言で、姦しい目線が一斉に集まる。おい、そのレコーダは何だ。

「まあまあ、いいじゃん。聞かせてよ彼女の話」


彼女の話?ヴィヴィオについてねえ…。

まあ、基本的に明るくて、いつも楽しそうな顔してて、乱読系の本好きで、拗ねた時の顔が可愛らしくて、なんか黒い。
そんな子で、ただいま遠距離恋愛中?ってとこか。


「へえー、いいねえ。可愛い彼女で」
パパラッチの微笑ましい視線に気が付くと、周り中から同じような視線が。口に出してたそうだ。
うう、視線に耐えられん。くすぐったくて堪らないのよ。


そんな視線を無くすべく、「怒ると凄く怖いよ?」と言ってみたが、

余計にニヤニヤされた。「おー、愛されてるねー」とかの茶化し声が飛ぶ。



頼む、この空気をどうにかしてくれ。



そんな空気を払ってくれたのは、弟子一号ことタカミチのオッサン。良くやった、師匠として褒めて使わす。
で、隣のメータークラスの巨乳さんは彼女か!?彼女なのか!?


「あれ、アンドレイ君。何でこんな所に?」
お前がなかなか顔見せないからだよ、渡そうにもこっちに来ないし。

「それは悪い事をしたね。で、これがそうなのかい?」
手渡したデバイスをじっと見て、念話を使ってある事を聞いてきた。


「名前は決まっているのかい?自分で決めろって?うん、それなら決めてあるんだ」

「どんな名前だ?応答機能はあるから呼んでみ?それで登録出来るから」


一呼吸置いて、念話でだがはっきりと、情感が籠もった声で呼んだ「ヴァンデンバーグ」と

後で聞いた所、嘗ての師匠の名前らしい。なるほど、師匠に魔法が使える事を報告した訳だな。


周りから腕時計型デバイスについて聞かれたが、「昔から探していた腕時計を持っているというので譲って貰った」としておいた。
ごつめの機械式腕時計に似せた形に作ってあるので、殆どが納得した。


関係については「親父の友人で、昔からの知り合いだ」で話を合わせてある。念話ってこう言う時便利なんだよな。



そして、主賓のお出ましだ。


エスコート役は今朝会った新聞配達員の子、彼女も同じクラスなのね。
ならば、一癖有るのか?そうは見えんが、人は見かけによらないと言うからな。


主賓の子供先生はと…、ホントに子供だなあ。弟の一人と同じ歳だが、こっちの方がしっかりしてる。
だが、あちこち年相応らしさが滲み出てる。

顔は可愛らしい感じで、女の子好みの顔と雰囲気だ。事実、周りにかわいがられている。
モテない男共には目の敵にされるタイプだな。


そんな子供先生の様子を見ていると、本屋ちゃんが近づいてきてお礼言ってる。

引っ込み思案で恥ずかしがり屋なのに珍しいな、勇気を出したか?
そんな本屋ちゃんを茶化してる皆さん、姦しいねえ。


そうしている所に金色ストレートロングの子、お嬢って感じだな。

その子が、布かぶせたなんかを引っ張ってきた。何かと見れば、
胸像?子供先生の?記念ですと本人は言ってはいるが理解に苦しむ代物だ。

流石にパパラッチ曰く「ノー天気」な連中でもツッコミを入れまくっている。


そこに「アンタバカなんじゃないの!?」と、そう思っている奴の声を代弁してくれたのは
橙ツインテールの新聞配達員。

「なっ…、アナタに言われたくないですわ、アスナさん」と、応酬が始まった。


「いやー、あの二人ってさ、好みが逆でよく喧嘩するのさ。あっちのオレンジ髪の方、神楽坂アスナは親父好きで、金髪の方がいいんちょこと雪広あやかはショタコン。で、昔っからのケンカ友達なんだよね」
機嫌がいいのかパパラッチ、色々と教えてくれる。

そうしている間にも発展していく口喧嘩、それを見ていてついつい言ってしまった。


「歳の差なんて関係ないけどなあ」ふと、横から口を出してしまった。

年齢差がどうだこうだと、不毛な感じがありありとする橙ツインテールと金色ストレートロングの二人による
口喧嘩から二人のとっつかみ合いへと進化していく様とそれを肴に賭をはじめる周りを見ていて、つい。


「僕の父と母は14歳の差がありますが、仲良くやっていますよ」
ウチの親夫婦は端から見ていても仲がよい、何せ現在進行形で家族が増えてるぐらい仲がよい。
年上の親父は年下の母の尻に敷かれてるがね。


「へえ、どんな馴れ初めなの?」
流石は女の子、自然休戦状態になって皆こっちに興味が移っている。
目が爛々と輝いて、興味津々な事が見て取れる。メモとレコーダを持ち出してくる奴までいるぐらいに、パパラッチしかいないけどな。

喧嘩を止められたので良し、として話を続ける事にした。


「母の父、母方の祖父ですね、当時の上司で父を高く買っていたそうです。何度か家に招いたそうで、その時見た父に一目惚れだったそうです。父に対して積極的に出て行きまして、めでたく結ばれて僕が生まれたと」

「積極的にねえ、どんな事したかとか聞いた事ある?」
レコーダをマイク代わりに突きつけられたので憶えてる範囲のを答える。


「一生懸命甘えてみたり、好物を聞いて手料理振る舞ったり、手製のプレゼント渡したり…」
と、一つずつ挙げていく度に「うんうん」とか「具体的には?」とかの合いの手が入ってくる。

やっぱみんな女の子なんだなあ、この手の話が大好きなのがよく分かる。
彼氏持ちは早速実践や応用するんだろな。


「後、一服盛ってみたり…」
そう言った瞬間、


空気が凍り付いた。


いや、比喩じゃなくて、みんな凍り付いた様になったのよ。

「一服…、盛った?」
しばらくして、パパラッチが絞り出す様な声が出してきた。普通の人はここで引くよな、息子でも引くぐらいなんだから。
だからといって止まるわけがない、「キノコだと名乗った以上は編み籠に入れ」と言うことわざに従い、最後まで言うのだ!


「ええ、三日間ぶっ通しの訓練の後、溜まっている時に非合法な媚薬を盛って、手を出させたとか…」
沈黙が広がる。もうかなーり痛いレベルの沈黙だ。

「あー、悪いけどさ。お母さん今いくつ?」とパパラッチ。「27歳です」


今度は"世界"が凍り付いた。

「その後は上司や同僚に氷河期クラスの冷たい目で見られる日が続いたそうです。母が「私が一服盛ったの!」と言うまでは…」


話はそこで終わり。大半は重い沈黙と共に散っていったが、約3名ほどブツブツと呟きつつ去っていった。

ちなみに橙ツインテールと金色ストレートロングと「ネタに…」とか呟いてるパル様の3人だったりするんだが、
後でどうなったかは知らんし、(怖いので)知りたくも無し。


ついでだから弟子一号のデバイスに対BC戦用プログラミングを入れて置いた。盛られるなよ?


****


あれだけ強烈に水を差したというのに、流石はノー天気。すぐに元の姦しい雰囲気となった。

弟子一号に巨乳の人、しずなさんの関係を問いただしていると、近くにいた子供先生に声を掛けている。
ちっ、話を逸らされたか。

「ネギ君、紹介するよ。僕の先生である、アンドレイ・コンドラチェンコ君」
「タカミチの先生?初めまして、ネギ・スプリングフィールドです…」



これが、僕とネギのつきあい始めとなった。

もう一人と愉快な仲間達とのえらく濃い日々が始まるんだが、それはまた後の話し。





あとがき:ネギとの出会い前後と一部伏線の処理をしました。
因みに母親は直接的には恐ろしくありませんが、作中通りの恐ろしい人です。



[4701] 第十話「バタフライ効果」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/21 22:53
大騒動には必ず発端がある。

原因となったモノが気がつかない様な事でも、その果てでは凄まじい事になっていたりする。
これをバタフライ効果と言ったり言わなかったりする。



「ま、待ってアスナさん!」
「ちょっ…、ついて来ないでよ!」
「今、僕の本見たら媚薬ってゆーの載ってるんです。4ヶ月位あれば研究出来ますから!!」


これが次の段階。



****



弟子一号に頼まれごとをされた。


子供先生こと、ネギ・スプリングフィールドに色々と教えてやってくれないか、と言う頼みだ。


真っ直ぐで一生懸命ないい子なのだが、少々歳不相応な所が多い。

そこで、同じぐらいから様々な経験をしている僕に面倒を見て欲しい、との事だ。



自分で見ては?と返したが、タカミチのオッサンは仕事が忙しい人で、外回りも多い。

それに、彼の父親を知っていて、尊敬しているからこそ二の足を踏んでしまうのだとか。



その点、僕は多数の魔法先生達の意向もあって外回りをする事はない。


まだ脅威論唱えてるんだよ、あの連中。

基本的に面倒だからやんないっての、こっちゃボランティアでやってんじゃないの。


サウザンドマスターの威光が全く通用しない数少ない人間だというのもその理由だとか。

まあ、弟の一人と同い年であるし、なんかほっとけない感じがする子だからな…。



そしてなにより、「個人的にお礼するから」が決め手となりました。

結構貰っているらしく、忙しいのもあって残高が大きくなる一方だとか。



そりゃ、あんなダッ○・バイパーみたいな高級アメ車も買えるぐらいだからな。期待出来そうだ。



****



ネギ君が来た。


僕が面倒を見ようと半年前から準備はしていたが、いざその時が来ると上手く行かないな。

来る少し前から「依頼」で出張する事が増えてしまったからだ。


アンドレイ君直伝の「ミッドチルダ式魔法」を使える様になった頃からか、試しに使ってみたのを同業者に見られたのが悪かったんだなぁ。


あの時は思い切りよく使ったからね、飛んだり、ラウンドシールドで敵の魔法を正面から受けたり、シュートバレットで迎撃したり。

それが広まってしまって、僕の評価が上がってしまって、依頼が増えてしまったんだな。


そりゃあ、僕が悪いよ。でも、せっかくの「魔法」なんだから使ってみたくなる物だろう?

初めて使えた時は嬉しかったよ、いくら努力しても出来なかった事が少し違う形だけど出来たんだから。


まあ自業自得だから依頼はこなすしか無いからね、でもネギ君の面倒は誰かが見なければならない。



そこで、アンドレイ君に頼んでみようと思った。


彼は8歳の時から嘱託魔導師として仕事をしていたそうだ、ネギ君は今9歳。

同じぐらいの歳から経験を積んでいる事と、彼には7人もの弟妹がいて同じぐらいの弟さんがいる事、


異世界の出身だからこっちの威光なんて関係ない事、何かあっても対応出来る強さ、他の先生方はそれを恐れて外に出さないし。

僕は「依頼」を受けさせてもいいと思うんだけどなぁ。管理局員って警察官みたいなものだろう?

本職じゃないか、組織ごと潰してくれそうだし。


まあ、そんな彼なら面倒を見るのにぴったりだと思う。


それに、今のネギ君は真面目過ぎる節がある。

アンドレイ君は言っては悪いけど不真面目でお金に煩くて面倒がり屋だ、妙に律儀な所があるけどね。


そんな彼ならいい兄貴分になってくれて、いい感じに砕けさせてくれると思う。

ナギぐらい砕けたらいけないけど、其処は僕がフォローすればいいや。



それに彼を口説く必殺ワザもあるしね。これを出せば一発で引き受けてくれると思う。



****



しかし、最大級の難問が立ちふさがっていた、考えりゃ当然すぎるがな。


あいつは女子中等部勤務で、羨ましい事に女子寮住まいらしい。

こっちは男子中等部の生徒でむさ苦しい男子寮住まい。一人暮らしだからまだいいが、今すぐ換われと言いたい、てゆーか換われ。


故に、接点がロクにねえ!どうやって面倒見てやるかを悩んでいる頃だった。



あの大騒動が起きていたのは。


後々知ったが、僕の一言が蝶の羽ばたきとなっていたとは…。



****



その日、神楽坂アスナを毎度のことながら脱がしてしまったネギ、無論怒るバカレッド。

そうして悩んでいた所に偶然転がり落ちた「魔法の素丸薬七色セット(大人用)」

それが、嵐の到来を早める物だったとはまったく気が付いていない我らが子供先生、危機予測能力が低いぞ子供先生。

経験値不足からそのまま突き進む子供先生。


そして、魔法の媚薬が出来ちゃいました、いいのか?こんなのが先生で。



「アスナさん、アスナさーん」
元気良く入ってくる子供先生。


「…また来たわね、ネギ坊主」
不機嫌なオーラを出しつつ「何の用よ」と威嚇するバカレッド。


「実はできたんですよ、アレが!!」
無邪気さ故に威嚇が全く通用してないネギ坊主、空気読め。



「アレ?」「媚薬です、媚薬。作ったんです!」



後ろ髪を微妙に引かれつつ離れようとするバカレッド、追いすがるネギ坊主。


勧めがしつこい為に切れるバカレッド、飲まされるネギ坊主。


そうして、端から見れば喜劇、当の本人からすれば悲劇の幕は上がったのだ。






結論から言おう、ネギの貞操は守られた。
とは言え、「もうおムコに行けない」状態になる寸前だった。


バカレッドの助けが遅れた場合はネギの貞操と本屋ちゃんの貞操が失われていた所だった。

それほどのピンチだったのだ。




****




その騒動の後、帰り道に出会した所で事件の顛末を知ってしまった。

何故、媚薬なんて作ったのかネギを問いつめた所、ウチの母親の話が発端だったと判明。



それを聞いたバカレッド、同級生達が10歳児とエロエロ状態になったのをを見せられた事は相当ショックだったらしく、

「元はと言えばアンタの話が原因よー!」と逆ギレする。


逆ギレってされた方にとっては理不尽な事この上ないんだな。

いいじゃん、人類は滅びない程度に皆エロいんだから。そう言う神楽坂だってタカミチに盛るつもりだったんだろ?



そうして現在、バカレッドこと神楽坂に理不尽な怒りの一撃を加えられているのだ。

相変わらすミーシャは自動防御をしない、『この場合は防御しないのがセオリーです』との事、何処の理論だそれ。



天にまします我らが父よ、アナタはヒトに対してなんか恨みでもあるんですか?だったら恨み続けます。



「ゴ、ゴメンなさい、僕のせいで。大丈夫ですか?アンドレイさん」

ネギは必死に謝っている。なんか、弟に謝られてるみたいで懐かしい感じがする。

そんな奴に他人行儀な呼び方をされているとむず痒くなる。



「ああ、大丈夫だし、気にしてないからもう謝らないでよい。それよりもだ、ネギ!今からアンドレイではなくアリョーシャと呼べ!」

ビシッと指を指して宣言する、案の定鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてる。


「えっ?愛称で呼べって!?どういうことですかアンドレイさん?」

そりゃあ、会って間もない人間に愛称で呼べと言われてもなあ。

だが構うもんか、決めた事は貫くのが男の生き方。


「だかーらー、アリョーシャと呼べと言ってるだろ。目上の人の言うことが聞けんのか?」

とっ捕まえて、頭をぐりぐりしながら言う事を聞かせてみる。弟たちには効くんだこれが。


「わ、分かりましたよー。は、放してください、アリョーシャさん」

さん付けなのと口調が丁寧なのが気に入らんが、まあ良かろう。


「なんかあったら言いに来い。力になってやる」



まあ、ちょっと強引だったが、こうしてネギとの関係が出来上がるのだった。





****





そんなこんなで季節は3月、週明けには期末テストの時期。

国語などが少し苦手な今日この頃、理数系は問題ないぞ。


テスト前だが、本を漁りに図書館島に来ていた。


夜の7時だが、「第一級閲覧権」は時間も関係なくなる。

一日中いても咎められる事が無く年中無休・24時間営業で閲覧が可能だ、取引しておいて良かった。


偶々、地下三階に来た時だ、ドアの開く音が聞こえたのは。
そのドアは図書館探検部の秘密の入り口。


ただし、最近はあんま使ってない、僕を連れてこれた時は正面から入れるからだ。


誰かと覗いてみればデコ娘ことゆえっちを筆頭とした2-Aの皆様方。
この時間に何の用だ?特にバカレンジャー(パパラッチから聞いた)の面々。


「あれ、何でアリョーシャさんが?」

ネギ、何故にパジャマ姿でここに?補習授業にしては変だぞ、格好が。


「魔法の本?」

ここに来た理由は何かと聞いてみたら、返ってきたのはそんな答え。
そんなの取りに行ってる暇があるなら勉強しろ、勉強。


だが、そんな真っ当な意見は完全に無視して、行く気満々なバカレンジャー。


「雄山羊は前から近付くな、馬は後ろから近付くな、馬鹿はどこからも近付くな」と言う諺がある、馬鹿は何をするにも周りを巻き込むと言う意味だ。

流石は馬鹿、気が付いたら僕も参加する事となっている、勝手に決めるな。


特に図書館探検部の二人、人が頼まれると断り切れない性格なのを利用するな。



進む内に解ってきた事がある。バカレンジャーの皆さんはいろんな意味での変人集団だという事が。


新体操用のリボンと片腕でぶら下がれる佐々木さん、握力と腕の力凄いのね。てゆうかそのリボン何で出来てるの?

自分の質量以上の本棚を蹴り飛ばせる古さん、勝負しろとうるさい。試験でいい成績とったらね?

言わずもがなな楓ちゃん、見慣れてしまったなあ、分身とか。

ゆえっちよ、何故にこんな変人を見て其処まで冷静でいられる。ある意味羨ましいぞ。



そうして、第178閲覧室まで進み、そこで休憩している時だった、ネギと神楽坂の会話が耳に入ってきたのは。


「…とは別の魔法の力を感じます…」「…ょっと!それってどーゆう…」


バレたか?基本的に隠す気はないし、そのうち言おうと思っていたからな。

にしても神楽坂も関係者とは、バカレッドなだけはあるな。魔法関係者という変人とは、意表を突かれた気分だ。

ネギにそのことを言おうとしたら、「何さっきから二人でヒソヒソ話してるのー?」「ホントに今日は仲えーなー」横槍を入れられた。


ま、後で時間が出来た時にでも話すか。



****



変人達と設計者の頭の中を見たくなる造りにSAN値を減らされつつも進んでいく、


次元世界を見回してもラペリングと匍匐前進が必要な図書館はここだけだろう、有ってたまるか。



出発から2時間後、紆余曲折を経て、やっとこさ辿り着きましたよ、安置室。



この手の遺跡を見るたびに思うんだが、作ろうと思って実行した奴らってよっぽど暇なんだろうなと。


生きるのに必死な状況じゃあ作ろうとも思わないだろうし、他の事で忙しくて堪らなくても作らない。

となると、生活に余裕があって忙しくも何ともない時期、つまり暇な時にしかこんなのを作ろうとは考えもしないだろう。

無駄に広く、必要以上に荘厳な造り、妙に凝った装飾、雇用や職人の技術継承のためと分かってはいるが、やっぱり暇な人達が作ったようにしか見えない。


そんな事を考えていると「見て!!あそこに本が!!」と佐々木さん、見
れば二対の石像に挟まれる位置に台座に安置された本が。


ネギ曰く、「メルキセデクの書」と呼ばれる魔法書だとか。宗教的なもんはよく解らんが資料としてはかなり貴重らしい。


そして、「ちょっと頭を良くするくらいカンタンかも…」とネギが言った次の瞬間にはバカレンジャーの皆さんが走り出していました。

いや、成績が心配なのは解りますよ?わざわざ怪しい物に手を出さなくてもいいじゃないですか。


それにネギよ、「あ、みんな待って!!」と制止を掛けたのはよい、

「あんな貴重な魔法書、絶対ワナがあるに決まっています、気をつけて!」取りに行く事前提の制止かい!お前は先生なんだから、マジメに勉強を教えんかい!



お約束というか何というか、呆れている間に驀進していた2-Aとその担任。

放っておけずに後ろから追いかけていると、纏めてワナに引っ掛かってしまいました。


その後、石像が動いて「フォフォフォ」と思いっきり聞き覚えのある声で笑っています。


「ミーシャ、アレってやっぱり…」『学園長殿の声です、声紋も魔力紋も一致しています』うん、やっぱりな。

APFSDSシェルを準備しておく。あのバルタン星○の事だ、穴の一つや二つ空いた所で死にはしないだろ。



何処ら辺に穴を開けてやろうかと考えている間にもツイスターゲームは進む。

え?お前はどうなのかって?このかちゃんとネギと共に外野で眺めています、英語で学術論文書けるもん。


「第11問"BASEBALL"」

「うっ…、うぐぐぐ"や"」

「きゅ…、"きゅ"~ッ」

「うっ…"う"ひっ」

皆さん苦しそうな態勢であり、5人中4人がスカートの為に、パンツが丸見え状態です。

いいぞ、もっとやれ。



「"DISH"の日本語訳は?」

とうとう最後の問題、この光景ともお別れか。

「わ・・・わかった!"おさら"ね」



「……おさる?」

流石はバカレンジャー見事なオチを付けてくれました。
普通、「ら」と「る」は間違えんだろう、流石バカ。


不正解に対して「はずれじゃな、フォフォフォ」との回答と共にハンマーを振り下ろすゴーレム。

砕かれる石版と落ちていくバカレンジャーズ+1、飛行魔法で浮いている僕。

ドップラー効果で高くなっていく「アスナのおさる~~~!!」他、良くわかんない叫び声。



皆が見えなくなった所で、バ○タン星人扮するゴーレムに威嚇射撃をしてみる。

「学園長、アンタ何やってるんですか。正直に答えないと風通し良くしますよ?」

問いかけつつも、威嚇は続ける。APFSDSシェル・スメルチシフトは発射態勢だ。
こう言うのを砲艦外交って言うんだよな。


流石の学園長も、人の剣呑な雰囲気を感じ取ったのか大人しい。

そりゃあ、ハンマーをハチの巣にすれば同じ素材のゴーレムがどうなるかは自明の理。


「いやのう、この魔法書を手に入れようという話を聞いての、ネギ君の最終課題と絡めてみようと考えたんじゃよ」

でっかいゴーレムの手で器用に本を摘んで見せる。


「最終課題?」

「2-Aは試験の順位が毎度学年最下位での、それを脱出出来たら正式な先生にしてあげる。と言う課題を出したんじゃよ。
 で、足を引っ張っておるのがあの5人でな、特別補修を受けさせられるいい機会じゃからな」


「で、ゴーレムとツイスターゲームを使った理由は?」
「じじいのちょっとしたイタズラと茶目っ気じゃよ」


あー、そんな事を楽しげに言われると発射したくなるなあ。


「でのう、一つ頼みがあるんじゃが…、その前にその魔法を解除してくれんか?剣呑すぎるぞい」


「頼みって何ですか?それの内容如何によっては…ね?」

恫喝は交渉を有利に進める為の手段なんですよ?何か無い限り解除する訳が無いじゃないですか。


「下に落ちていった子達に理数を教えてやってくれんか?理数系は院生レベルじゃろ?」

ふむ、ネギもだがこの世界の魔法使いは文系よりみたいだしなあ、役割分担出来るかも。


「それに成績が良かった場合、報酬として特別ボーナスでどうじゃ?」
「成績の如何を問わないのなら受けます」

「授業料+出来高払いでは?」
「それなら、もし学年首位になれたら更に上乗せで」

「なれたのなら授業料を2割り増しにしてもいいぞい」
「詳細はテスト後に、という事でよろしいですか?」


交渉の結果、バカレンジャーに理数を教える事となった。



彼女たちの元へ向かうべく、学園長ゴーレムと共に降下していく。


「おさるでも解る中学2年生数学・理科」の中身を考えながら。






あとがき:最近、筆が進みにくいです。
なにげに前後編となっています。後編は近いうちに。


それと、番外編を考えています。弟子一号二号話やエヴァ相手の全力戦話他。




オリジナル設定
スメルチシフト:ファランクスシフト似の形態です。12発のスフィアを用意、タイミングをずらして発射していきます。


APFSDSシェル:名前の通りの超高速徹甲魔力弾です。カートリッジを使用して半実体化超高密度魔力弾を形成。
初速もその名前に恥じないぐらい速い為に、加速用にカートリッジを使用します。
ただし、弾も加速もカートリッジを使わなくても、時間を掛ければ使えます。



[4701] 第十一話「地底図書室」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/11/29 02:37
図書館島最深部、悪趣味な司書の家。

其処には家主と後頭部の長い客人がいる、二人は同じ映像を見ている。

「アレが噂の?」
「そうじゃ、自称異世界の士官候補生アンドレイ・コンドラチェンコ」

「ふむ、なかなか面白そうな子ですね」
「取引が上手くてな、それと見せた資料の通りの戦闘能力じゃ、こっちも強く出られんのじゃよ」

「確かに、あのFAEバレットでしたかあれだけの威力の魔法を12発同時に発動出来るのはそうはいません」
「それも起きがけにじゃ、儀式もロクな詠唱も無しにあの威力はのぉ」

「そこで、私に調べて欲しいというわけですね」
「こちらでも調べて入るんじゃが、盗聴・盗撮は無効化しよるし多少の魔法は無力化する手段を持っている様でな」
「私のアーティファクトの出番が来たと」

「そう言う事での、ワシらにかなりの事を隠しておるじゃろうしな。おぬしも興味があるじゃろ?」
「フフ、異世界の人間で異なる魔法使い。実に興味深いですねえ」

「近い内にそちらに出向く様にしておく、図書館にはしょっちゅう来ておるからの」
「ええ、その時を楽しみにしていますよ」

性格の悪い司書は微笑む、本当の異世界を知っている人間がいて、その人生を収集出来る。
他人の人生の収集を趣味にしている者にとってはこれ以上の喜びは到底あり得ない。


彼に会うのが本当に楽しみだ。


****


「なんか悪寒がする、まるで性格と趣味の悪い奴に目を付けられた様な…」
『えらく具体的な悪寒ですね』

そんな事を呟きつつも仕事は続く。


期間限定講師を請け負ったが、下準備もその範疇に入れられていた。
テキスト・ノート・筆記用具類の確認、食料・調味料類の在庫確認、厨房のガス・水回りの点検、タオルの用意等々。
幸いな事に、管理局員にとってこの類のチェックは日常茶飯事、お役所である以上この類はさけられないのだ。

只、大半が女の子なので男にはちょっと扱いにくい代物も用意されていたりする。
多い日でも安心とか書いてある物、男にどう扱えと?


それと何で楽器があるんだ?キャンプじゃねえんだぞ?変形補習授業だろコレ。


ついでに落ちた連中のバイタルチェックもお手の物、前線で身体張る人達の基礎知識です。
後は、目を覚ますのを待つだけとなった。

こちらも仮眠をしておこう、ミーシャ警戒よろしくねぇ…。

****

二日目の朝(明るさ変わらず)


「ここはどこなの~~~!?」
恐らくは神楽坂のでっかい声で目が覚める。
女の子にしてはでっかい声の出せる子だな、肺活量が多いんだな。
運動能力が高いからか運動能力が高くなったのかは解らんが。


軽い柔軟運動をしながらミーシャに尋ねてみる。

「現在時刻は?」
『午前6時頃、間もなく日の出の時間です』

後ろの方からは姦しい声が聞こえてくる。

そんな中、ネギの「み、皆さん元気を出してくださいっ、根拠はないけどきっとすぐ帰れますよっ。諦めないで期末に向けて勉強しておきましょう」
一生懸命な声が聞こえる、やっぱ小さいながらも先生なんだな。

ちょっと安心しながら食事の支度をする。

「食料探しだーっ」の声を受けて、皆の御飯でも作りますか。

****

「ごちそうさまでしたー」

アリョーシャさんが作ってくれた朝ご飯をみんなで食べた。
僕たちよりも早く目が覚めたからって、周りを調べてくれたり、ご飯を作ってくれたりしてくれて何だだか申し訳ないや。

ちなみに作ってくれたのは「スィルニキ」って言うロシアのチーズ入りパンケーキとロシア式紅茶。
ロシアじゃあ、紅茶は濃く入れてお湯で薄めて飲むって聞いた事はあったけど初めて飲んだ。

イギリスで飲むのとちょっと違うけど、これはこれで美味しいや。


朝ご飯を食べて、休憩をした後に授業をする事にしたんだけど、アリョーシャさんがこんな事を言い出したからびっくりした。

「お前は文系を担当しろ、僕は理数を教える」って言ったときはどうしようかとも思った、僕は先生でアリョーシャさんは生徒なのに…。

でも、夕映さんが「アリョーシャさんは理数得意です、院生レベルだそうです」と教えてくれた事と、
長瀬さんが「面倒見がいいのでござるよ」と耳打ちしてくれたのでちょっとだけ納得いかないけどお任せしてみよう。


「…よってX=4、Y=5となります。さて、逆算してみると…」
アリョーシャさんの教え方は基礎重視型だ、基本を何度も繰り返して、
基本式を解ける様になったら応用に移る。

理屈が解った所で応用問題に取りかかるので正解率が高くなってる。
それと、合間に理数系の面白い話を言ったりしてみんなリラックスしてる。

僕もこう言う所は見習わなきゃ。



このかさんのお昼ご飯を食べた後の休憩時間、魔力を感じたので見に行っていると、

アリョーシャさんの周りに三冊の本が浮かんでいて凄い勢いで捲られていく、最後まで行った本は本棚に戻っていってまた新しい本が飛んでくる。
見た事もない光景だった。

それを見ていたら、こちらに気付いたアリョーシャさんが声を掛けてきた。
だから、思い切って聞いてみる事にした。

「アリョーシャさんは魔法使いなんですか!?」


****


食事休憩後に読書魔法を使って適当に漁っていた、するとネギの魔力がこっちに近づいてくる。
どうやら魔力を感じ取ったらしい、声を掛けてみるとこっちに来て

思い切った様な顔で、「アリョーシャさんは魔法使いなんですか!?」と聞いてきた。

昨日話そうと思っていたので丁度いい、この手の話はしていなかったからな。


「ああそうだ、でこっちが相棒の」
『ミーシャと申します。今後ともよろしくお願いします、ネギさん』

「え?どこから声が?」
首から外して差し出す、この手のアイテムはこちらには無い様だからな。

『改めまして、ミーシャです』
「あ、初めまして。ネギ・スプリングフィールドです、…アリョーシャさん、僕こんなの初めて見ましたよ!」

好奇心一杯に目を輝かせて話す所は年相応だなあ。

「これは精霊入りのマジックアイテムですか?」
『私はインテリジェントデバイスと言いまして、人工知能による自己判断能力を持ったマジックアイテムの一種です』
「人工知能って事は…、作り物なんですか!?スゴイや!」

まあ、デバイスのことやら纏めて説明した方が手っ取り早い、無論異世界の事は言わないが。
そのうちに話すがな、管理局の事とかは。


****

「なるほど、それでタカミチは”先生”って呼んでいたんですね」

結局、ネギにはロシアから来て独自の魔法を使う事、タカミチのオッサンにその魔法を教えている事、
学園長直轄で警備をしている事等々の、学園長と用意したカバーストーリーに少しばかりの真実を加えた程度しか話さなかった。

まだその時期ではないと判断したからだ、それにバ○タン星人の目が光っているだろうからな。


「僕にもその魔法を教えてくれませんか?」
いや、教えてやりたいがそれよりも先にやる事があるだろが、先生には。
あの馬鹿共に真っ当な成績を取らせてやる、それが今するべき事。

お互い、暇が出来たら弟子3号にしてやろうと約束してその話はおしまい。 



ネギは念を押されてやる気が余計に出たのかして、気合いが入った授業をしている。
やる気ってのは伝染する物で、バカレンジャーも気合いが入っている。

バカだからすぐにハングアップしているけどな。



この地底図書室は一日中暖かい光に包まれている、そんな環境では時間がよく解らなくなる。
しかし、腹時計はそんなの関係ねえと訴える。

要は、昼を食べて6~7時間経つと要求するのだ「早く何か食わせろ」と。
勉強で脳にエネルギーを食わせているとなお一層それは酷くなる。

そう言う訳で、夕食と相成った。


今日の勉強が終わった開放感も相まって元気一杯、実に姦しい食卓だった。

大皿にあった料理は瞬く間になくなり、大量に炊いておいた米は空っぽになる。
年頃の女の子とは言え食欲は旺盛、体力系の子が多いので対して気にはしていないのだろう。

食後に甘い物を欲しがっていたときは「太るぞ」と言いたくなったが、そこは押さえる。
こんな閉鎖環境で目の敵にされちゃあ敵わないからな。


夕食後、そこらにあった木っ端を集めて焚き火をする。
たわいのない話が中心だが、女って何でそんな事でずっと話せるんだろう?男には解らない世界だ。

そんな世界が余計に解らないネギと二人で寂しく過ごしていた、魔法の話をしようにも人目が多すぎるし。


そんなときだったテンションが上がった神楽坂が「アンタ達、何辛気くさい顔してるのよ」声を掛けてきた。

「我々男の子はあなた達の話しについて行けません」
理解出来てないんだから付いてこれる訳がない、男の浪漫を女が理解出来ないのと同じだ。

「だからって二人して辛気くさい顔されてるのもね…」
三人して「どうしようか」と顔をつきあわせているときだった、

「そやったら、芸でもしたらどや?」
バカではないが天然の人に不意打ちを食らったのは。

「拙者も見てみたいでござるな」「あ、私も見てみたいなー」「どんな芸が出来るアルか?」
「そうですね、見てみたいです」「僕も見てみたいです」

何コレ、なんかするのがもう既定?僕の答えは聞いて無い?

まあ、結局はするんだけどな!


何故か有る楽器の中からアコースティックギターを取り出し、チューニングする。
実はギターが弾けるのだ、どうせやるのならビックリするような奴をやってやろう。

「どんだけ下手か見てやるわ」とか「どないなんか楽しみやわ~」とかの声を受けて準備する。
ギターを膝の上に"水平"に乗せ、左にネックをトップに右手を載せる。

そして、弦を"弾く"のでは無く"叩く"のだ、所謂「ラップタッピング」と言う奴である。

この「水平ラップタッピング」(勝手に命名)とあるカナダ人ギタリストの演奏法で、実はファンだったりする。


これには流石のバカレンジャーズ+1も黙って聞いている。

演奏が終わった後は拍手喝采、「よくもまあ、そんな難しいの演奏出来るわね」とかの憎まれ口を叩かれたが、マルチタスクを使うと実は出来たりする。

右手専門、左手専門に分けてミーシャに起こさせた左右の楽譜通りに演奏させると出来るのだ。
能力の無駄遣いとも言えるが、音楽の凡人が演奏しようと思ったらこれぐらいしなければ出来ないのだよ。



そうして、(明るいけど)二日目の夜は更けていった…。


****


三日目(やっぱ明るい)

ネギの授業は続く、「では、これわかる人ー」
「ハイ」「ハイ」「ハーイ」挙手する人と正解率が明らかに増えている、相変わらず神楽坂は苦労してるが。

ネギの教え方は歳不相応に上手い、覚えやすさ重視の授業だ。
テンポも良い、何処で覚えたんだろうなこんなの。



昼食後の自習時間、周辺調査の為にサーチャーを飛ばしていたときだった。

佐々木、古、楓ちゃんの三人が水浴びしているのが見えたのは。
これは役得と観測を続けていると、ネギが捕まってもみくちゃにされている、今すぐ換われと言いたくなった。

その傍らに魔力反応があったので見てみると、


学園長ゴーレムでした。


あー、もう一寸離れた所に降りたよなあ。覗きに来たのか?

そんな事を考えていると合図が来た、ここから出る為の試験を開始するという合図だ。
あのバルタン星○が考えた事だ、詳しくは教えて貰えなかったがロクでもないだろう。


さて、茶番劇の幕を上げますか。


****


途中、ネギが封印の事と秘匿義務を完全に忘れた為に何とも言えない空気が流れた事を除いて学園長のシナリオ通りに事は進んだ。

螺旋階段に仕掛けた問題を次々と解いていくバカレンジャー、本のパワーで頭が良くなったとか言っているが、
あんな怪しい物で良くなれば苦労はない、ここ二日間の勉強の御陰だと気付かないのが馬鹿たる所以か。

さっきの問題「下の図でXの値を求めよ」なんて、散々やった数式でしょうが。


バカブラックが足をくじくトラブルはあったが僕のフォローで事なきを得た。
30kg装備での行軍になれているので何ともない。それと、ネギよ背負おうとした心意気は買うがそれは無茶という物だぞ。

まあ、恥ずかしがって赤くなったゆえっちの顔を見られるのと、女の子独特の柔らかさを手に感じれるのは役得って事で。
やましい気持ちはないぞ?『否定する所が怪しいですね』


登り初めて1時間少々、直通エレベータまで辿り着いたまでは良かった。
が、重量オーバーだからって脱ぐ事はないだろ。

生々しい衣擦れの音がはっきりと聞こえてくるし。


それでも非常なるブザーは鳴り続ける、追いつく学園長ゴーレムを見たネギは意を決して飛び出していく。
「僕が降ります!!みなさんは先に行って明日の期末を受けて下さい!」

エレベーターを守るように立つネギ、だがすぐさま後ろから引っ張り上げられた。

引っ張ったのは僕だ。

「あのな、こういうのはお兄さんに任せなさい。兄貴分の仕事は弟分を守ってやる事なの。お前は先生なんだから生徒を最後まで守ってやんなさい」

そう言って、エレベーターの中に放り込み、前に立つ。神楽坂に「そいつ飛び出さないように抑えておいて」と念を押しておくのも忘れずに。

受け取った神楽坂が「何カッコつけてんのよ、バカ。でもこいつは任せといて、こいつが先生になれるかどうかの期末試験だからね」
と答える、しっかりと抑えられたネギは「あんたがいないまま試験受けてもしょーがないでしょーが、あいつもだけどカッコつけて、もーバカなんだから!」叱られている。

セットでバカにバカ扱いされているのが腑に落ちんが、いい女じゃねえか。


抑えられたネギは「え…、でもこのままじゃ…、あのゴーレムに…」不安げな反論を試みている。
バカの反論は単純明快だ。「こーすんのよ!」

「え…、そ、それは!」
ネギの驚愕など何処吹く風とばかりに、ぶん投げられるメルキセデクの書。

同時に閉まっていくエレベーター、光を放ちながら放物線を描く魔法書、その直撃を受けて足を滑らせ地球の重力に従って落ちるゴーレム。


そうして残されたのは僕と、六人分の服と下着だけだった。



****



その後、僕の期末試験は文系の成績が上がり、学年上位に食い込む事に成功した。

2-Aは学年首位となり、臨時ボーナスを手に入れる事となり、ネギは正式な先生になった。


古菲に「平均点が67点ネ、成績上がったから勝負するアルね」と言われたのが問題だが。
畜生、これだけ成績が上がるとは、その時の僕の馬鹿野郎。

ま、春休み中に正式に勝負する事で折り合いを付ける事には成功したが。



季節は間もなく春、全体からは小さな、当事者達には大きな騒動はこうして終わりを告げた。







あとがき:月末は忙しいです。作中に出てくるカナダ人ギタリストについては「AirTap!」でググると出てきますので興味のある方は是非とも、ファンなので。


追申:クウネルと接触させようかと思いましたが、時間的余裕がないので春休み中にしました。1~2話後に会わせる予定です。



[4701] 第十二話「学園放浪&弟子二号交流記」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/12/02 23:03

春休みの天気のいい日、ぶらぶらと歩いていた。

悲しい事に習慣と化した魔力負荷と重りが一緒だが。
朝から普通に付けてたからな、出てから気が付いた。


「ピンポンパンポーーン♪
迷子のご案内です。中等部英語科のネギ・スプリングフィールド君、保護者の方が展望台近くでお待ちです」


………ネギよ、まあ数えで10歳だ。迷子になってもおかしくない年頃だし、と自分に言い聞かせる。
どんな情けない顔をしているか見物にでも行くかと展望台に向かう。

にしても神楽坂の奴、とうとう自分が保護者って事に気が付いたのか。


展望台に着き、ネギを探してみる。
背広を着た赤毛ででっかい杖背負った子供なんてあいつしかいないのですぐに見つかる。

しかし、保護者の神楽坂とルームメイトの木乃香ちゃんはおらず、代わりに散歩部の双子といた。

「おーい、ネギー。にしても珍しい組み合わせだな」
鳴滝姉妹とネギ、背格好は同じぐらいで精神年齢が高めのネギと低めの双子、結構しっくりしてるな。

聞く所に依ると、あの二人はバ○タン星人の呼び出された為に偶々通りがかった双子に学園案内を頼んだとか。


「で、アリョーシャ君は何でここに?」
分かってる癖にほくそ笑みつつ風香が聞いてくる。

「迷子のネギがどんな情けない顔してるか見に来た」
「アリョーシャさん!僕は迷子になんかなっていませんし、情けない顔なんてしてません!」
オブラートに全く包んでない発言に対してネギはムキになって反論する、目尻に涙溜めながらだから説得力皆無だがな。


「まあ、それは置いといてだ。学園案内だって?さんぽ部の二人には適任だな」
「そうでしょー、ボクらさんぽ部にお任せあれって所だかんね」

「さんぽ部?どういう活動をしているんですか?」
話に乗ってきたネギ、すぐに「…って、お散歩するクラブに決まってますよね」と判断。


そこに待ったを掛ける姉の方、「ち、違うよネギ先生」
「散歩競技は世界大会もある、知る人ぞ知る超ハードスポーツなんだよ!」

「ええっ!」すぐに引っ掛かるネギ、僕も初めて会ったときにこの嘘言われたなあ。
「プロの散歩選手は世界一を目指し、しのぎを削って散歩技術を競い合い…、「デスハイク」と呼ばれるサハラ砂漠横断耐久散歩では毎年死傷者が…」

躊躇いと淀みなく言われる嘘、まだまだ純真な田舎者は完全に引っ掛かっている。

「ス、スミマセン、散歩がそんな恐ろしいことになってたなんて知りませんでした…。田舎から出てきたので…」

妹の史伽が小声で「お姉ちゃんダメ、信じてるです。先生子供なんですからー」と言っているが全く気付かない子供先生。


ガタブル震えて「二人とも気を付けて…」他人の心配をしているネギの頭を叩いて一言。
「心配するな、真っ赤な嘘だ。コイツらはそんなバカ話をしながらまったりブラブラしているだけ」

ネタバレをされて不満そうに膨れている風香、嘘と分かってホッとしているネギ。
ま、これもバカ話の範疇なんだけどな。



「やほーーー、ねぎくんにアリョーシャ君」
「あ、ゆーなさん。こんにちはー」
「久方振り、散らかってる?」
気付けば体育館、何故か同行してたりする。

ユニフォーム姿のゆーなが出てきた、因みに「散らかってる」とは親父さんの部屋のことだ。
この前、暇だったので強襲して片づけてやったのだ。

「うーん、まだ整ってるんだけど、あちこち散らかり始めてたよ」
娘と僕の両面作戦によって大分マシになったもののまだだらしない所がある、困ったオッサンだ。

まあ、申請やら資材の仕入れで世話になっているからほっとけないだけなんだがな。


「ここは中等部専用の体育館、21もある体育系のクラブの生徒が青春の汗を流しているんだよ」

「うちで強いのはバレーとドッジボールだっけ?」「あと新体操とか女っぽいのが強いです」
ゆーなの説明に双子が捕捉する。


「へー」と頷くネギ、「ちなみにバスケは弱いよー」ケンカを売る風香、「ほっとけー!!」半分怒り、半分肯定のゆーな。

「ま、見ていたら分かるが、動きが単調なんだよな。特にディフェンスを抜くときが」


その一言に反応するゆーな、「なんかいい方法有るの?」
他のバスケ部員を使って、実演してみる。

総てにおいて素早く動く必要はない、相手の間合いより薄紙一枚分だけ早く動けばいい。
たったそれだけ、祖父さん式の近接戦闘術の教えの一つだ。

5人のディフェンスを紙一重でスルリと交わしていく、フェイントは使わないで身体捌きだけを使う。
人体の構造が分かっていれば簡単だ、ゴール直下まで行ったら拍手が飛んだ。

「ス、スゴイですアリョーシャさん。あの、ぬるっとした身体捌きだけでみんなかわしちゃうなんて」
絶賛するネギ、「ボクらは前から知ってるもんねー」とエッヘンと胸を張る風香、何でお前が偉そうにする。


コーチをしてくれないかと頼まれたが、こっちは専門外の人間で他のことを応用しただけだと断った。
そうして、幾つかの要点を教えてそれの練習をするバスケ部員。

それを見たネギが「なるほど、スポーツをがんばってる女子生徒というのはいいですねー。さわやかだなー」
其処を茶化す風香「あ、何か先生オヤジっぽい発言」と茶化し、赤くなる史伽。

「えっ、ど、どういうことですか!?オヤジって…!?え!?」
我が意を得たりと更に茶化す姉、「ウヒヒ、もー、わかってるくせにー」

イヒヒと笑いながら後ろ手でドアを開ける風香と「おねーちゃ…」止めようとする史伽。
ドアには「更衣室」と書いたプレートが貼ってあって、その奥は男にとって未知の園だったりする。

「じゃあ、ネギ先生ご期待の更衣室探検…、いっとく?」
その一言で「な、何でそーなるんですかーー」とあわてふためくネギ、

僕がお前だったら迷わず突撃するんだけどな。


その騒ぎを聞きつけたのかまき絵ちゃんが「あ、ネギ君だー」と顔を出す、無論全裸だ。
目が合う、ネギぐらいの歳の子に見られるのと同年代で知り合いの男の子に見られるのでは意味合いが全く違う。

真っ赤になり、音もなく引っ込んでいくまき絵ちゃん。
皆、何とも言えない雰囲気となり体育館から出て行った。



次に訪れたのは屋内プール。同じA組の大河原という子がスゴイらしく、全体的に強いとか。

「アリョーシャさんはどれぐらい泳げるんですか?」

ネギから質問が出る「3~4kmは泳げるな、着衣でも1kmは行けたな」
その代わり遅いぞ、持久力重視で顔を常に出す泳ぎ方だからな。

驚く3人と共にプールサイドまで進む、矢張り可愛らしい子供は人気があるようで囲まれてキャイキャイ言われてる。
くそう、羨ましくなんか無いぞ、羨ましくなんか。

「アリョーシャ君、涙浮かべながら言っても説得力無いよ」
にやにやとしながら突っ込む風香。

ネギと僕の様子を見てくすくすと笑う史伽、やっぱ姉妹か、ホントに楽しそうだな…。

少しすると、興味がこっちに移った、「あっちの金髪の人は?」と。
「ボクらの友達で留学生のアリョーシャ君!」
「初めまして、アンドレイ・コンドラチェンコと申します」

その後は男にとって羨ましい時間だった、結構可愛い子が多くて皆水着。
話をしていると『同志はここで軽い所を見せるから二枚目半なのです』ミーシャが突っ込んでくる。

うっせい、どうにか出来るならしてるわ。


女の子達との会話は「彼女とかいるんですかー」「…確か彼女持ち」で終わった。
ああ、そう言えばA組の連中は知っているんだよな、ネギの歓迎会の時に聞いているから…。



そして、何か楽しそうな鳴滝姉妹と、まだ顔の赤いネギ、一寸凹んでいる僕が次に向かったのは
「屋外の体育クラブはこっちです」「人が多すぎていっつもコートの争奪戦で大変なんだ」屋外コートである。


バッ…と捲れ上がるスカート、チアリーディング部の練習である。
その動きは一見華やかだが、アクロバティックな動きやそれを使った組体操に踊りなど、なかなか激しい。

中には三次元機動を組み合わせた組体操まである、陸戦魔導師だが低空での三次元機動は得意な方だぞ。


ネギに気付いた子が「あ、ネギ君。何しに来たのー、見学?」声を掛ける。
続いて「…のぞき?」「いいよー、のぞいてきなー」三人ともA組だったりする。

「あ、アンドレイ君はのぞき禁止ね、彼女に怒られるよー」
くそう、彼女持ちに対する差別だこれは。4ヶ月ぐらい会ってないけどな!


世の中の理不尽さに嘆いている横で黙りこくるネギ、頬を赤くして俯いている。

「あわ、とうとう黙っちゃったですけど」「お色気ムンムンだもんねー」
悪意(主に姉)の籠もった声に対し、とうとう堪忍袋の緒が切れた。

「そーゆーとこしか見せてくれないのは誰ですかーーーっ」
「わーん、先生怒ったーっ。お姉ちゃんのせいだー」
「しょーがないだろ、女子校なんだから」

泣きながら怒るネギと逃げる双子、それを微笑ましく思いながら追いかけていく僕。
下の弟妹達がじゃれている時みたいで懐かしい。



その追いかけっこが終わった頃に、息を切らしながら姉妹が付け加えた。
「文化部は今日一日では紹介しきれないです」「何せ、160個はあるからねー」

「どんな学校ですか、ここは!?」
驚愕するネギ、怒りは走っている内に発散されたんだろう。

何せ、史伽の「あ、じゃあそろそろおやつにするです、先生」に対する返事が「そうですね」だからな。
小突きながら「大人としておごってくれるんだよねー、先生」と要求する風香。


そこで、「いや、僕が奢ろう」と提案する。
矢張りというか「え、でもアリョーシャさんにはこの前お世話になった所ですし…」遠慮するネギ。

「いいから、いいから、この前の期末で儲けさせて貰ったからな。それに兄貴分が弟分に奢られるなんて情けない事は出来ないよ」
給料貰っているので食券の価値が他の生徒に比べると低い、そこでこの前の期末試験の時、校内ブックメーカーにて2-A首位に全部賭けてみた。

無論超大穴だったので5年間は食うのに困らないだけの額が返ってきたのだ。



「食堂棟は地下から屋上まで全部食い物屋だよ」こう言う所が律儀な鳴滝姉妹。

にしても、ちっちゃいのに良く食うなこの双子。
おかわりを繰り返す姉妹、人の金なら遠慮無く使うタイプだな、ふたりとも。

「あー、このマンゴープリンココパルフェおいしー」「今月の新作ですー」

よく食べるなーと思っているらしい顔をしているネギ、「お待ちどおさまです」と更に運ばれてくるおかわり。
そんなネギをからかうように「ほら先生、あーん」とスプーンを差し出す妹。

「い、いいですーーーっ」断らんでもいいじゃないか、男の浪漫の一つだぞ?

色気が皆無なのが玉に瑕だが。


食後、「じ、じゃあ、この辺でおひらきにしましょうか。そろそろ夕方だし」
そうだな、今夜は警備の日だからな。と伝票を持って席を立つ。


「――何言ってんの――」後ろから聞こえてくる声はあえて無視し、後ろに手を振って別れの挨拶とする。



今夜も頑張るとしますか。



****



弟子二号のデバイスが組上がった、またしても腕時計型だ。

本式の機材があれば待機モード設定をペンダント型や指輪型にしたり、カード型に出来るのだがここの機材ではそこまでは出来ない。
よって稼働状態と待機状態の切替は出来ず、記録と処理に特化した物となる、常に同じ形態であるのだ。

出来るのはバリアジャケットの生成と魔法発動・管制のみ、割り切っているのだ、弟子用デバイスは。

ま、調整とかはたまたま持ってたメンテナンスデバイスで行っているから実用面は問題ないけどね。


因みにデザインはブランド物のバングルタイプを元にした。バングルの所にも部品を仕込めるからね。



出来上がったので呼び出す、タカミチのオッサンと違ってこちらの方が立場は上だからな。
弟子一号には教える代わりに名義上の保護責任者になって貰ってるの、日本の法律上では未成年だし。


世界樹広場で待ち合わせて、修行場所へと向かう。
途中、友達に一緒にいる所を見られて大変だった、とぼやいていた

まあ、年頃の女の子からしてみれば友達が男の子と一緒に歩いているだけで大騒ぎになるからな。
おまけに、自分で言うのも何だが顔は整ってる方だからな。

『まあ、永遠の二枚目半止まりですが』ミーシャうるさい、弟子二号くすくす笑わない。



さて、修行場所として使っているのはエヴァの別荘だ。
ここなら時間も人目も気にする必要もなく、思いっきり動ける。

自力の封時結界ではそこまで行けないからな、時間経過を1/24にしたりkm単位で展開するなんて…、無理です。
使用料として血を吸われるのが難点だが。


最初は緊張しまくりだった弟子二号ことメイちゃんだが、最近はエヴァともにこやかに挨拶を交わせる様になった。
時々、茶々丸とお茶をごちそうになりながら談笑してるぐらい馴染んでる。

「小僧が馴染みすぎてるんだよ、私もお前が茶を啜っているのを当たり前だと思うようになってしまったからな」
と言うツッコミが聞こえるが無視しよう。



別荘でデバイスを渡して一時間、秀才だけ有ってもう使えるようになっている。
バックアップに使っているストレージデバイス「スキッチェン」を使っての予行練習が功を奏しているようだ。


弟子二号は秀でた才能を持っている人間、所謂秀才だ。

魔力傾向も解っているし、伸ばす所と難点を指摘すれば後は勝手に伸びていくだろう。


****


私、佐倉愛衣がアリョーシャさんこと教官から「ミッドチルダ式魔法」を教えて貰うようになってから二ヶ月が経ちました。

お姉さまは教官にあまりいい印象がないので、あまりいい顔をしていません。
二回も脱がされてしまっていますからね。


教官の魔法は私が知っていた魔法とは全く違っていて、最初の方に「理系なんだよ、これは」と仰っていたのがよく解りました。
ですが、こう見えても演習でオールAを取ったこともあるんですから、負けられません。


私は炎系が得意なんですが、調べて貰った所"魔力変換資質"を持っているそうです。
魔力を意識せずに火に変換出来るのです。

なので、炎を使った魔法を中心に教えて貰っています。


演習場代わりと言ってエヴァさんの家に連れて来られたときは緊張しました。
だって、あの"闇の福音"ですよ?$600万の賞金首の真祖の家に来るなんて考えもしてませんでした。

人が緊張しているのに、「コレ、弟子二号ね。これからヨロシクー」って言ってくつろいだ感じでお茶を飲み始めたんですから

ちょっとムッとしました。


別荘を使ったときは驚きの連続です、高位の魔法使いなら出来ると聞いてはいましたが実物を見るのは初めてでしたから…。
教官も最初は驚いたと言っていますが、似たような「封時結界」という結界をアイテムも無しで張れる教官もスゴイです。


そして、最も驚きだったの教官の生い立ちでした。
「弟子にしたから教えてあげる、ただし他言無用よ?」そう言って教えてくれましたが、

まったくの異世界の出身で、管理世界と呼ばれる異世界群の治安を守る司法機関の魔導師だと、
普通だったら信じられないことですが、教官の魔法が私達の魔法とは全く違うのがこれで説明が付きます。


別荘での特訓は熾烈なものでした、基礎だと言って出してきた問題は高校の理系専攻の人達がしているレベルの問題です。
これを向こうの小学生ぐらいの子供が解いていると言うのですから余計に大変です、容赦してくれませんもの。

一緒に教えて貰えたマルチタスクの御陰で楽になりましたが。


教官には色々教えて貰っていますが、同じぐらい、いえひょっとしたらそれ以上に教えてくれているのが、
インテリジェントデバイスのミーシャさんです。

教官のお祖父様から代々使っておられて、とっても経験豊富だそうです。

教官に時々的確なツッコミを入れていたりしますが、生まれる前から見ているから出来ると言っています。
そんなお二人を見ていると強い信頼関係なんだなあと判って、少し羨ましくなったりします。


そうそう、弟子一号こと高畑先生とご一緒させて貰ったのも印象的でした。
呪文が使えないという話でしたが、あくまでも私達の魔法の方であって、原理の違うミッドチルダ式は関係ないとのこと。

「もしかすると「偉大な魔法使い」として認められるかもしれませんね」と言うと、「うーん、そうなったらいいけど、認められるかなあ」
と仰っていました。

「向こうの方々は頭が硬い人が多いから」とも、確かに自分たちと違う魔法を使うんですから認めないかもしれません。



そんなこんなで二ヶ月経ったある日、教官から「デバイスが出来たから試運転もかねての演習を行うよー」連絡がありました。

教官製のデバイスは先に使っておられた高畑先生に使わせて貰ったことがあります。
今まで詠唱していた魔法がトリガーとなるキーワード一つで出来るからもう便利でしょうがありません。

しかも、ストレージデバイスという「道具」でこれです。ミーシャさんみたいな「相棒」のインテリジェントデバイスになると
自動発動させたり状況に合わせた微調整も行ってくれるから便利ですけど、扱いがとっても難しいそうです。

「相棒」との信頼関係を作るのって大変なんですね。


待ち合わせ場所はいつも世界樹広場、それはいいんですが、友達に見られる可能性が高いのかちょっと…。
この前なんて、そう言う話が好きな子に教官と一緒の所を見られちゃいましたし…。

向かう途中にその話をしたらまんざらでもない顔をしてました、顔はいいですからね。

『まあ、永遠の二枚目半止まりですが』とミーシャさんに突っ込まれてムスッとした顔になっちゃいましたが。

それを見て思わず笑っちゃいました、注意されましたけど。


そしていただいたデバイス、名前は「プラナス」桜の学名ですね。
ブル○リの腕時計に似たデザインでステキですし、コレならいつも付けていてもおかしくありませんね。


別荘にて早速使ってみます。


****


「ファイアピルム!」誘導制御型射撃魔法を8発同時に制御している、無論攻防一体で、だ。
教え始めて累計三ヶ月、別荘は便利だ、本来は二ヶ月しか経っていないのに。


かなり覚えの良い生徒だ、素地があったとは言えこの短期間で8発の同時誘導が可能になるとは。
くそう、何で誘導制御が得意な奴が不得意な僕の弟子になってしまうんだ?

タカミチのオッサンも4発ぐらいなら移動しながら誘導可能だし、こっちゃ静止状態で2,3発がやっとだってえの。

代わりに誘導精度を高めているがな、地球のレーザー誘導砲弾みたいな物だ。


教官としての面子が丸つぶれになってしまうじゃないか、『お父上は大得意なんですけどね、だから私は教えられますが』
余計に面子が立たないんだよな、こいつの方がこっちの魔法得意だし。

ああ、天にまします我らが父よ、何で親父の40発同時誘導という化け物みたいな才能を僕にくれなかったんですか?
『大容量と引き換えだったと思えばいいんです、放出量が少ないから最大交戦時間は恐ろしく長いですよ?』

いや、それは判ってるし、只の無い物ねだりだから。



演習が終わったのでお土産を渡す。
ここの所の休みを利用して旅行をしている、今回は京都だ。

「はい、お土産の生八つ橋とそばぼうろに宇治茶」
茶々丸に渡せば、後でセットで持ってきてくれるので手間が掛からなくて良い。

「で、エヴァへのお土産がこれで、チャチャゼロには伏見の酒」
品評会で金賞取った酒蔵の大吟醸だ「オー、コリャーイイ酒ダナ」とチャチャゼロもご機嫌だ。


「おい、小僧。西陣織なのはいい、だが何でペナントなんだ?しかも「努力」とか書いてあるのを買ってくる?」

凄まじくいらなさそうな顔をするエヴァ、そりゃそうだ
何てったって、「貰ってもいらなさそうで且つ捨てられそうにない物を選別した結果だ」何だもん。


うがー、と怒るエヴァ、その横から質問が来た。
「あのー、教官。色々買ってますけどお金とか大丈夫なんですか?」

「コイツは転移魔法も使えるからな、日帰りで済ましているんだよ」
代わりにエヴァが答える。そう、転移魔法を使っているので交通費はタダなのだ。


更に、タカミチから貰ったネギの面倒見たお礼、結構な額をくれたのでそれも使っている。
よって、懐には殆どダメージがないのだ。


茶々丸がお茶とお菓子、お銚子とお猪口を持ってくる。
さてと、皆とお茶にしますか。




お土産のお茶とお菓子を皆で食べつつ、春休みは過ぎて行く。
間もなく新学期の平穏な日の出来事だった。










あとがき:前回に比べれば早く投稿出来ました。今回もオリジナル設定が出てます。嫌いな人ゴメンナサイ。


オリジナル設定

弟子二号の魔法:ラテン語にしようかと思いましたが、区別と調べる手間の関係上とアメリカ帰りなので英語です。
安易ですが「炎熱」の魔力変換資質持ちと設定してあります。

オリジナル魔法
ファイアスピア:炎系射撃魔法
ファイアピルム:炎系誘導制御型射撃魔法
フレイムパイク:炎系砲撃魔法

後は飛行、高速移動魔法、バインド系、各種防御魔法等々。




[4701] 第十三話「始業式前後」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/12/08 21:22
明日は始業式、春休み最後の日。



朝からバルタ○星人から呼び出された。何だろう、凄まじく嫌な予感がする。

経費で外為や証券を買ったのがバレたのか?
いや、自分の知識に依るとローリスクハイリターンになるはずの所にしか手を出していないからバレても大丈夫なはず。



「地底図書室の司書?」学園長の用件はそれだった。
何でも、この前来たときに興味を示したらしく、一度会ってみたいとか。

「どうせ、地底図書室に行けば世話になるんじゃ。会ってみてくれんかの」
それは正論だ、図書館で何か探すときには司書の世話になることが多いんだから。



無限書庫クラスとなると司書の世話にならないと無理だろうしな。

陛下の親父さんの司書長には訪れたときに世話になったからな。
親バカの気があるけどいい人だったな、地味だけど。



そう言えば、陛下の歳の割に能力高すぎる弟妹も元気だろうか。
両親が高ランク魔導師で、母方が戦闘一族な子供だからなあ。

特に弟は母方の血が濃そうだ、何てったって士郎さんや恭也さんに似てるもの。
対して妹は明確な父親似、一目で親子だって解る。顔の造りがそっくりだったな。



昔を懐かしみつつ、会うことを決める。絶対裏に何かあるだろうが、会わないと話は進まない。

「分かりました、それでは行ってきます」
「ああ、待つんじゃ。これを忘れずに持って行きなさい」
渡されたのは二つ折りにされた紙、開くと僕の名前が書いてある。


「これは?」「招待状じゃよ、これを持っておらんとドラゴンに襲われるぞい」
…ドラゴンいるのね、この世界。異世界とは言え地球上にドラゴンねぇ…。



部屋と研究室に寄って準備する。

戦闘はないだろうが、あのバルタン星○が古い付き合いだと言っていた。
ならば、ロクでもない奴だろう。タカミチのオッサンは例外だが。


出かける前は忘れずに、とある物を持って行く。
現在9個しかないが、仕方がないだろう。相手がどんな能力持ちか分からないからな。



図書館島まで行き、地底図書室まで飛んでいく。

遅いとは言え300km/hは出せる、本物の空戦魔導師連中なら超音速巡航出来るのも珍しくなかったりする。
スピードタイプならマッハ3以上出せる奴もいるからな、いかに300km/hが遅いかが解る。


やっぱり仕掛けてあるトラップをくぐり抜け、立派な門の前まで辿り着いたのはいいが、

後ろから「グルル」と言う剣呑な声が聞こえてくるのは気のせいじゃないよな?
『残念ながら、気のせいではありません』

恐る恐る振り返ると、其処には、ヨダレ垂らしたでっかいドラゴンがいてました。



ドラゴンの類に会うのは初めてではない。

陛下繋がりでキャロさんちのフリードを見せて貰ったことはある。
でも、あのドラゴンは卵から育てた奴だから人間に馴れてるし、コミュニケーションも取れる。


第34管理世界の「天龍」は念話で会話出来るし、人間と変わらないかそれ以上に頭がいい。
ああ、板東さんは元気かな、嘱託魔導師時代にお世話になったからね。


まあ結論としてはだ、こんな風に喰う気満々なドラゴンって初めて見たよ。
あ、何か口からちろちろ出してる。火を噴いたりするのね。



『同志、現実逃避するのはそれぐらいにしておきなさい。学園長殿は招待状を見せれば問題ないと仰っていたではありませんか』
いいじゃん、現実逃避ぐらいとぼやきつつ学園長から貰った招待状を見せる。


良く躾けられているのかして、「どーぞ」と言わんばかりの態度を取ってどっかに飛んでいった。
良かった、ちゃんと躾けられていなかったらどうしようかと思った。

『一応倒せるでしょうが、苦戦しそうですね』
うむ、同意見だ。


司書の住み処はなかなか趣味のいい所で、中には興味深い本が大量にある、そのうち見せてもらお。


念話の導きに従い、上がった先に中性的な顔した食えなさそうな奴がいた。
「初めまして、ここで司書をしているアルビレオ・イマと申しますが、今はクウネル・サンダースと呼んで下さい」

…、本名名乗ってから偽名を名乗るって、相当な変人だな。しかも、妙なプレッシャー出しまくってるし。
『ええ、私の経験からしても変人です。雰囲気からして変人です』

「まあ、司書とはいえここで食っちゃ寝をしているだけですが」
ああ、だからクウネルと。……つまらんことで納得してしまった。

「此方こそ、初めまして、アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコと申します」
板に付いていると思っている敬礼と共に名乗る。

「これはご丁寧に、セルゲイの息子アンドレイ、歓迎しますよ。さあ、どうぞ此方へ、お茶会の準備が整っていますよ」


「ああ、お土産代わりこれをどうぞ」
とある物を稼働状態で投げて渡す。出会う一寸前から稼働させている。

「これは?」受け取った瞬間、像がぼやけてすぐ戻る。

『本体ではなく質量を持った魔力体の可能性が高いですね』
用心なのか、そうせざるを得ない状態なのか、果たしてどっちなのやら。

「AMFグレネード、小型のアンチマギリングフィールド発生装置です。魔力結合を解く力場を発生させます」
「魔力結合を解く?なかなか面白そうな機械ですね」

何か、顔を輝かせて興味を示すとは…、普通は戸惑うと思うんだけどなあ、流石変人。



用意されていたお茶は一級品ばかりで、お茶請けもなかなかの物ばかりだ。
こんなのばかりで食っちゃ寝出来るとは…、羨ましいぞ今すぐ換われ。


「所で、なんで僕に興味を持った?」
たわいない会話から唐突に本題に入る。

「ふふふ、それは…」「それは?」「ヒ・ミ・ツです」
コケた、それはもう盛大に。

「まあ、冗談はほどほどにして、興味を持っているのは本当ですよ。ですが、私は諸般の事情で動けないのですよ」
「そこで、学園長経由で呼び寄せたと?」
「ええ、彼とは古い知り合いの一人ですからね。給料を貰っている身の貴方は立場上弱いでしょうから、断らないと踏んだのです」

ああ、間違いない、コイツは性格が悪い、それもとてつもなくだ。


警戒度合いを上げていると、「そう言えば、エヴァンジェリンと親しいそうですね」
そんなことを言ってきた。

「ん、あいつと付き合いがあるのか?」
「古き友ですよ、そこの箱を私からと言って渡して貰えませんか」
指さす先には衣装箱がある、「確認してもいい?」

「用心ですか、危険な物は入っていませんよ」

そうは言われても、爆発物を疑ってしまう癖が付いている。
嘱託時代に付いてしまった癖だ。

持つと、軽い。時計の音もせず、魔力反応もない。


一気に開けたら「…スクール水着?」が入っております、しかも旧型。
あと、セーラー服の上にネコミミとシッポ、楕円メガネ。

…なんだろう、何かシンパシーを感じると共に持って行ったら殺されそうな気もする。


「渡したときの反応が楽しみですねえ」
クウネルは後ろの方で、すっごい楽しそうな顔をしている。

……殺されろと?



渡すことは丁重にお断りし、そこでお茶会はお開きとなった。
凄まじく疲れた…。


****


効果が切れたAMFグレネードを手で弄ぶ司書。
これはこれで興味があるが、自壊機能が付いているらしく、一瞬熱くなった後に焼け焦げた。


「まさかこのような手段が存在するとは…」
一人呟く、そこへ連絡が入る、学園長からだ。

「どうじゃったか?おぬしのアーティファクトなら上手く行ったじゃろ?」
「フフフ…、隠し球の一つは解りましたが、収集は失敗しましたよ」


収集自体は失敗に終わったが、余計に興味が増す。
あのような隠し球を持っているのだ、成功したときが楽しみでしようがない。

「何?おぬしの収集を妨害するとは…、どの様な隠し球じゃ?」
「それは…、いえ止めておきましょう。後ほどゆっくりと」


不敵な笑みを浮かべる司書、友人の息子の事に加えて異世界の魔導師と10年間食っちゃ寝していた甲斐があったというものだと実感させられる。

早く学祭期間が来ないかと、本当に楽しみだ。



****



図書館島から出ると、夕方近くだった。

季節なのもあって桜が綺麗に咲いている、特に予定もないことだから花見と洒落込みますか。


コンビニで肴を買い、特に場所を決めずにぶらりと桜を見る。
時々、スキットルに口を付けて肴を摘む。

本日の中身はアルメニア・ブランデーの20年物。

このスキットル、曾々祖父さんの頃の代物で銀製だ。
祖父さんから入学祝い代わりに「飲めるようにになったら使え」と貰ったんだが、実はその前からこっそり飲んでたんだよな。
その時からバレないように魔法で色々と工夫した甲斐があって、今現在もバレてない。



ブラリブラリとしている内に女子寮近くの桜通りまで来たときだった。
馴染みのある魔力と「いやあぁ~~ん」の聞き覚えのある声。

ああ、夏頃から血を集めてると言っていたな。
最近、血を吸う量が一寸増えたかな?と思っていたが、それだけに飽きたらず生徒を襲い続けていたとは…。
ま、エヴァはほっといても大丈夫だろう。

だが、襲った後は放置してるって話だ、あの声は確かまき絵ちゃんの声。
知り合いを放置しておくのは気分が良くない、『襲うのは止めないんですね』

だって、「お互いの行動を邪魔しない」って協定の中にあるじゃん、お前も解っているだろ?
『倫理上の指摘です』



バイタルチェック後、お姫様だっこをして寮まで行く。
こんな時間に意識不明の女の子を抱えている所を見られると色々とヤバい様な気がするが、魔法を使う訳にも行かないのでこうするしかない。


寮の前まで着き、寮母さんに声を掛けようと思っていると、後ろから呼びかけられた。


「あれ、アリョーシャさんやん。どないしたんこない時間に?」

だっこしているまき絵ちゃんのルームメイトで友達の亜子ちゃんだった。
ちょっと前にスターブックスでゆーなとまき絵ちゃんに紹介して貰ったので覚えている。


「そこの桜通りでまき絵ちゃんが倒れていたから連れてきた。先に言っておくが、お持ち帰りする気は一切無いぞ」
「いや、誰もそないなことゆーてへんし、ってか!まき絵!?大丈夫なん!?」

友達でルームメイトが倒れていたってんだ、慌てて当然だが、ツッコミは忘れないのね。

「脈と呼吸と体温はあるぞ」
「いや、生きてたら当たり前やし。そう言う事やのうて、まき絵ー!まき絵ー!変な事とかされてへん!?」

ぷちパニック中の亜子ちゃん、縦横斜めの三次元にまき絵ちゃんの頭を回してる。
気を失っているとは言え、それは良くないぞ。

「気を失っているだけみたい。服は尻餅着いたみたいでお尻が汚れてるぐらいだし、18禁な目に会ったわけでは無さそう」
「ふっふっふ、アリョーシャってそう言うこと解るんだぁ」

聞き覚えの思いっきりある声、パパラッチ同様にコイツには気を付けろな人物の声がしました。


パル様です、何か目が「ギピーン」と光ってます。


パパラッチに何かバレると新聞記事にされ、コイツにバレると尾ビレと背ビレと足が着いて勝手に走り出す。
そんなパル様にヤバい事を聞かれました。

ま、陽気な享楽主義者な性格は嫌いではないぞ、一人いれば全体が陽気になる。
昔いた部隊でもこの手の奴がいて、ムードメーカーだった。二人も要らんが。


まあ、解るかどうかと言われれば解りますよ。
祖父さんにハニートラップ対策の訓練だとか言われて第34管理世界でも有数の高級娼館に一ヶ月近く放り込まれたからね…。


何か期待するような視線、後ろでは顔を赤くしつつも聴き逃すまいとしている亜子ちゃん、このような状況の最適解は…。

「戦術的撤退!」『要はトンズラです』
強化魔法を掛けて全力疾走。


「逃げんなー!吐け!総てを詳細に吐けい!」

パル様から全力で三十六計を決め込みつつ、心の中でまき絵ちゃんに対して「ゴメン」と呟く。
止めようと思えば止められたからな…。


****


翌日の放課後、ネギが会いに来た。

倒れていたまき絵ちゃんを連れて帰った事に対するお礼と、その時感じた魔法の力に関しての事を聴きにだ。


少々の罪悪感もあって、エヴァの企みごと話してやりたいが協定の「相互秘匿」を守らねばならないこの身、
生死に関わらないのなら規則は出来る限り守る事にしている、命が掛かるのなら別だが。

別荘の提供やブービー・トラップの事とかを秘密にしてくれてるんだ、こっちも守らなきゃ仁義が立たん。


自分である事は否定しながらも、本題ははぐらかしておく。
諦めたのかしてお礼を言って去るネギ、その後ろ姿が気になる。


サーチャーを制作、不可視化しネギに付ける。悪いが監視させて貰うぞ。


****


酒と肴を片手に監視を続ける、今のところは動きはなく普通の見回りに留まっていた。


数時間後、動きがあった。

「ぼ…、僕の生徒に、何をするんですかーっ」
本屋ちゃんを襲おうとした所に杖を奔らせ駆け付けるネギ、さながら騎兵隊の様だ。

「魔法の射手・戒めの風矢!!」放たれる11本の風系統拘束魔法、
それは、「もう気付いたか」カートリッジを使った「氷楯」防御魔法に防がれる。

「僕の呪文を全部はね返した!?」

が、余波でよろめき帽子を吹き飛ばされる、こっち製の劣化コピーカートリッジとはいえ、かなりの魔力が入っている。
それを触媒とした防御を若干とはいえ、通り抜かすとは…。

「驚いたぞ、凄まじい魔力だな…」ああ、同意見だ。
近い内にネギを局式計測法で計ってみよう。


犯人がエヴァと分かり驚愕に包まれるネギ、その驚愕は「10歳にしてこの力、さすがに奴の息子だけはある」の発言により更に包まれる。

あいつと親父さんについては聞いている、話の上にしかいない父親、それは「英雄」と呼ばれる存在で
魔法使いの道を選んだのもその父親への憧れが原点だと。

かくゆう僕も憧れが原点にある、親父や祖父さんの背中を見て憧れ、こうなりたいと思った物だ。


だが、培ってきた「魔法使い」としての意識は父の事を問いただす事よりも目前の敵を問いただす事を選ぶ。
「な…何者なんですかあなたはっ、僕と同じ魔法使いのくせに何故こんなことを!?」

子供故の無知と純粋さから出る疑問、その答えは単純だった「この世には…、いい魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ、ネギ先生」

カートリッジを取り出し、呪文と共に送り出す「氷結・武装解除!!」

そこからあふれ出す魔力、呪文に従い触媒として周囲の魔力を変異させる。
変異した魔力は「氷結」に姿を変えて衣服を破壊する事により「武装解除」させる。

姿を変えた魔力だったが、抵抗された事によりネギの左腕で止まった、
「抵抗したか、やはり…」それを見て納得するような声を上げるエヴァ、期待通りの結果だったようだ。


動揺するネギ、自分の腕の中にいる本屋ちゃんを見てみて更にビックリ、
本屋ちゃんは抵抗なんぞ出来るわけが無く、服の大半が氷結して全裸同然になっている。

サーチャーの視野角を弄って見えないようにするが、
未練なのかしてちらりと見てしまう、これは男の性なので許して欲しい。

そうこうしている間にもあたふたしているのが見て取れる。
貞操の危機になるぐらい迫られた割にウブなのね、まあ普通の10歳児だし。


「何や、今の音!?」

発動時の爆音を聞きつけたのか人影が近付いてくる、神楽坂と木乃香ちゃんだ。

気が付いても、子供なので対処出来る知恵を持ってはいない、その結果としてパニックを起こすネギ。

「あんた、それ…!?まさかそこまで…」神楽坂は媚薬騒動を覚えているからか顔を真っ赤にしている。
そりゃあ、あんな事の直前まで行った事もある組み合わせに、ほぼ全裸が付いたとなればね。


****


本屋ちゃんを二人に任せというか押しつけて、エヴァを追うネギ。

「いい魔法使いと悪い魔法使いがいるだって…!?世のため人のために働くのが魔法使いの仕事のはずだろっ」怒りながらひとり呟く、

さっきも言ったが子供故の無知と純粋さの為にネギは解ってはいなかった。
それはあくまでも道徳上の話であって実際は違うと言う事を。


局に5年以上在籍し、紛争世界を任地としていたから世界の汚さは十分解っているつもりだ、

この世には絶対の正義や悪なぞ存在しない事。

力を主義や思想を強要するために使う者の多い事。

それを取り締まる自分たちも「法の上の正義」と言う思想と「大部分にとっての平和」と言う主義を強要していると言う事。


そんな事を考えながら監視は続いていた。

先ほどから空中戦を続けていたが、ネギの「風花・武装解除」を受けて下着姿となったエヴァ、二人とも近くの建物に着陸する。

月明かりの下、照らし出されている人影にも気が付かず、降伏勧告をする。

だが、介入者によって一瞬のうちにそれは逆転する。
エヴァのパートナーである茶々丸だ、抵抗はしてみるものの10歳児の力、強化しても限りがある。


捕らえられたネギ、呪いに対する鬱憤をぶつけるエヴァ、そして解呪のために血は吸われる。

「…悪いが、死ぬまで吸わせてもらう…」
その一言を聞いた瞬間、ミーシャを起動させて部屋から近くまで転移する。


言葉の綾であろうが、弟分としている奴が本当に死にそうになったのなら武力介入するつもりだ。

身内扱いの奴の生死がかかってるんだ、必要最低限の血で止めるのなら良し、義理を立てて傍観する。
だがそれ以上、生命に関わるまで吸うのなら協定なんて糞食らえ、仁義も関係ない。


「うわあ~ん、誰か助けて~っ」心配するな、いざというときは助けてやる。


血を吸われながら男の子にしては艶っぽい声を出すネギ、そこへ救いの手が差しのべられる。
「コラーッ、この変質者どもーっ!!」屋根までよじ登ってきた神楽坂だ。

神楽坂の蹴りを受けて三流悪役のような捨て台詞と共に撤退する二人、呆ける神楽坂、泣き出すネギ。

泣き声で我に返りネギへと駆け寄る、そうして肩に手を当てて心底心配そうな調子で

「も~、あんたってば一人で犯人捕まえようなんてカッコつけて。取り返しのつかないコトになってたらどーすんのよ、バカァ!!」


…やんちゃをした弟をしかる姉にしか見えない構図だな、神楽坂、やっぱおまえはネギの保護者だよ。





後は保護者に任せればいいだろう、そう思いエヴァの家へと向かう。
悔しがっているだろうから、残念会と称して酒を酌み交わすのも悪くない、それと釘を刺しておかなきゃな。







あとがき:食っちゃ寝司書の登場です。この後も何度か出す予定をしています。
吸血鬼編は後二,三回で纏める予定となっております。




追記:後半、短くしてみました。
それと、指摘については

1.主人公の倫理観
モデルの一つである主人公の祖父(征途のコンドラチェンコの次男)が個人的な理由で明確な命令違反をしている所(兄の亡骸を取り戻すために部下率いて村人皆殺し)からそう言った物をあまり守らないキャラ付けにしています。

2.機密と技術漏洩
スバルは普通校出身で事故後に魔法を勉強して訓練校に入ったので個人でも学べるみたいです。
となれば基礎の重要度合いもかなり低い物と推察し、今後交流が出来たら勝手に流れ込んでくる物のひとつに成り下がると考えています。

ティアなんて魔法学校~訓練校入学の間にアンカーガン作ってますから、非殺傷設定は学生に教えるレベルの代物と見なしています。

技術面は七話に記述がありますが、管理局に有利になる罠を付けて提供してあるので局にとってプラスに働くようにしてあります。

3.判断材料
白旗上げても交渉決裂後に戦闘なんて良くある事です。
出方を窺うための投降と思っていただければ…。

軍使を出してきた時点できちんと国際法守るような組織だと判断してます、日本なのも拍車を掛けています。

北の某国とかのやばい状況だったらペンペン草一本も生えなくなるぐらいするつもりでしたし記述もあります。

それにリリなの世界の魔導師はデバイス無しでも魔法使えますし(ユーノ他)、武装解除してデバイス渡しても問題は少ないと考えています。

4.そもそも
キッチリと規則を適応していた場合、第一期はクロノ登場の時点で終了してますし、麻帆良側との交流が出来ませんのであちこち目をつぶって欲しいです、つぶりきれない所は指摘して下さいね。









[4701] 第十四話「荷馬車から落ちたものは、失われてしまったもの」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/12/15 22:09
夜の麻帆良学園学園長室、本来は誰もいない時間。
だが、そこには何人もの人がいる。

そして、そこにいる人間には共通点があった。
魔法を知っている、若しくは使う者であると言う事だ。


部屋の主であり、彼らの長である近衛近右衛門は部下達の報告を聴いている。

「…ネギ・スプリングフィールドとエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの第一次接触についての報告は以上です」


そう、アンドレイ・コンドラチェンコが監視していたように彼らも監視していたのだ、
「英雄の息子」ネギと「真祖の吸血鬼」エヴァンジェリンの動向を。

「ふむ、概ね予想どおりじゃな。アスナちゃんの動向がやや意外じゃったな、まさかあそこで飛び蹴りとは…」
頷く人間多数、屋根の上という不安定な場所で浮遊術などが使えない人間はあんな事はしない。


だからこそ意外だったのだ、てゆーかフツーはしません、お金貰ったってしません。


「意外と言えば、コンドラチェンコ君が出てきた事も意外ですが」
監視者の一人が呟く、「異世界の魔導師」アンドレイ・コンドラチェンコ。

彼が転移魔法を使って出現した時は関係者は呆気に取られた。

一人の例外を除き魔法先生達は知らなかった。
影や水といった媒体を使わない転送魔法が存在し、彼が使えるという事を。


「あんな転移魔法を使える事をワシらに隠しておったからな、身内に甘いのがよく判るの」
「何せ「死ぬまで吸わせてもらう」の直後でしたからね、自分が監視していたのと手の内の一つがバレる事よりも弟分の命を優先しています」

魔法先生達はアンドレイがネギを弟分扱いしている事をタカミチから聞いて知っている。

「で、介入をしそうかの?そうならば釘を刺しておかねば、如何に兄貴分とは言え試練の邪魔をしてくれてはの」

学園長の疑問に対して一人が答える。
「エヴァンジェリンの撤退を確認後に撤収した所から、本格的に介入する意志は薄いようです。介入するならネギ君の元へと向かっているでしょう」
「確かにの。それにあの二人は協定を結んでいるようじゃしな、基本的には介在はすれど介入はせんと考えた方が良さそうじゃ」


「協定ですか?」とある魔法先生が聞く。
「中身はよく判らん、どうせロクでもない中身じゃろ。二人ともワシらとは根本的な考え方が違うからの」


世俗的で結果主義の魔導師と元賞金首で悪の吸血鬼、世のため人のために働く魔法使いとは似て非なる存在の二人。


二人とも"人格"や"力"を認めていても、同じ"魔法を使う者"としては認められない深くて長い溝があるのが実情だった。


****


エヴァのヤケ酒大会に付き合わされた、軽く飲んで、慰めて、グチを聞いて終わらせるつもりだったんだけどなあ。

中途半端にしか吸えなかった事と神楽坂の蹴りが相当悔しかったらしく
別荘の酒蔵からダース単位で持ち出しているぐらいだ。

酒も相当飲んで、そこいらへん中に酒瓶が転がっている。
顔も相当に赤く、酔っ払い独特の妙に高いテンションになっている。



「御主人エラク荒レテルナ、蹴リヲ入レラレタノガヨッポド悔シインダゼ。ケケケ」

人形のチャチャゼロは当然として、それに付き合わされている僕は平然としている。


アルコール分解能力が恐ろしく高いらしく今まで酔った事がない。

流石にキンキンに冷やしたスピリタスを1瓶飲んだときは酔った、ほろ酔いぐらいにな。

『そういう人をウワバミとかザルとか言うんです』「アア、同意見ダゼ」
ミーシャとチャチャゼロは気が合うのかして良く話をしている、「オ前ト酒ヲ飲メナイノガ残念デショウガナイゼ」とか言ってるぐらいに。

両方とも主を主と思わぬ所があるからな…。



見た目幼女、中身は立派な酔っ払いが人に管を巻いている。
そんな中、「パートナーを見つけていない今がチャンスなんだ」と言っているのを聞いて


ふといらん事を考えてしまっていた。

「契約すればアーティファクトと魔力供給が受けられるんだよな」
「従者となった者の性質に合ったアーティファクトが出てくるシステムだ、魔力供給は各種能力の強化が出来る」


そして、いらん事をいってしまったのだ。

「僕が契約したら、どんなアーティファクトが出るんだろ?」と。
覆水盆に返らず、時すでに遅し、荷馬車から落ちたものは、失われてしまったもの(ロシアのことわざ)



「ほほう、興味があるのか小僧。私の従者にしてやろうか?」
獲物を見つけた肉食獣の目です、アレは。
お酒の影響もあって余計にやばいです。

「えと、エヴァンジェリンさん?」
「お前の彼女とやらには悪いが、私も興味がある。異世界の魔導師と契約するとどんな結果になるのかがな」

いやまて、仮契約するにはキスが一般的なんだろ?
陛下って結構ヤキモチ焼きな所があって、この事がバレたらあの虹色魔力でどんな目に遭わされるのか、想像するだけでも恐ろしや。


「因みに拒否権は?」「そんなモノは無い」
完全否定です。


「申し訳ありません、アンドレイさん。マスターの意向ですので」何時の間にやら回り込んでいた茶々丸、ガッチリと拘束されてしまいました。
しかも、間接を完全に固めています、間接外し対策済みの拘束法です、教えたのは僕です、自分に返ってきてます。


手早く床に書かれた契約陣に置かれたら、お人形みたいなエヴァの顔が目前に。

白くて細い手が頭に回されて、目と目があった次の瞬間、ニィと妖艶な笑みを浮かべて、近付く唇、そして


キスされました『相変わらず押しに弱いですね』ミーシャのツッコミを聞きながら。

助けやがれこの不良デバイス。



たっぷり1分ほどして離れたエヴァの顔は赤くて、ちょっと息が乱れています。

「何なんだ小僧、上手すぎるぞ」
はい、舌が入ってきたので反撃で絡めてやりました、積極的に。

「前言っただろ、娼館に一月近く放り込まれたって」
女性客用に竿師が用意してある所だった、殆ど弟子扱いであれやこれや教えてもらった。
で、それを試す相手もまた用意してあってな…、上手くなって当然だ。


「契約は無事出来ました」茶々丸がカードを差し出す。
どれどれと受け取ったエヴァ、「珍しい結果になったな」と

横から見てみると


数字はLXX(70)、色調は銀で特性は勇気、方位は中央、星辰が当て付けなのかして黒い穴。
称号は「容赦の無い砲撃手」

肖像はアブマットモード時のブルーベレーにチャコールグレーのボディアーマーとアサルトベスト。
腰の辺りにミーシャを構えていて、下は同色のカーゴパンツに黒のニーパッドとブーツの組み合わせ。


因みに、バリアジャケットが暗色系統で統一されているのは魔力光の影響だったりする、魔力光がグレーなの。


そこに丸に四本アンテナが付いた、人工衛星みたいなのが浮いている構図だ。

「珍しいって、具体的には?」
実は"契約制度"については詳しくない、こっちの魔法を体系的に調べてレポートとして纏める事に時間と手間を割いているからだ。
カードの記述については触り程度にしか調べていない、なので珍しいと言われてもよく解らない。


「銀色は珍しいんだよ、星辰も黒い穴とは珍しい。モグラ小僧にはぴったりだな」
くくくっと人の悪い笑みを浮かべる。

天にまします我らが父よ、こんな所で当て付けみたいな事をしなくてもいいじゃないですか。
アナタは関係ないかもしれませんが、取り敢えず恨んでおきます。


「それよりもだ、アーティファクトを出してみろ。この人工衛星みたいなのをな」
何時の間にやら作ったコピーカードを手渡される、確か掲げて「来れ」だったなと。



カードが光に包まれ、アーティファクトが出現する。

やっぱり人工衛星だった、具体的に言うとスプートニク1号型だ。
違いと言えば、アンテナが固定ではなく動くぐらい、そんな形だった。


「どんな機能が付いているんだ?流石の私でもこんなのは初めてだぞ」
エヴァが珍しそうに見ている、そりゃあこんなファンタジーの欠片もない形だからね。

「床が、…見える?」
頭の中に映されている感じで映像が見える、試しに空間モニターを出してみるとそちらに移った。
アーティファクトを動かしてみると映像も動く、映像の中から見たい物に視線を向けるとそれをクローズアップする。

実験として外に出て、高度を上げてみる。3000mほど上げてわざと雲越しに見てみるが、関係なく見える。
街を歩いている人がいたのでズームする、小さな点が瞬時にして顔が識別出来るほどにまで拡大される。


「なるほど、遠隔操作系で偵察や広域監視が出来るアーティファクトか、偵察型は珍しくないが広域も、となると珍しい。茶々丸」
「はい、詳細について調べておきます。取扱説明書も用意しておきます」



そうして主役は酒からアーティファクトに移り、酒宴は終わった。
調べるのは二人に任せ、家路に着く事にする。

帰り際に、ちゃんと「ネギを殺す気ならネギ側に付くぞ」と釘を刺しておいた。

あちらもこちらと敵対する気はないようだし、やられても半殺し程度で済むだろう。


****


あれから2日後、アーティファクトの慣熟と機能確認もかねて監視を続けている。


元気づける会と称した逆セクハラ大会(やっぱ換われ)やろくでなしオコジョなどを見続けている。

因みに、オコジョの毛皮ガウンは英王室御用達で公式行事の際に使われるのだ。
なので、そういう時に二世の女王陛下やバツイチ皇太子がガウンを着ていた場合、オコジョ製だと思えばいい。

とは言えイギリス産オコジョよりもクソ寒くて森林だらけのロシア産オコジョの方が最高だとされているがね。



その日の夕方だった、本屋ちゃんを誑かそうとしたオコジョをこの目で見たのは。

「よ、ネギ。元気か?」
ここ数日監視し続けているというのに、嘘を吐いているとは思わせない素振りが染みついている自分に嫌気がさす。
これも局入りしてから付いてしまった物の一つだ。


「あ、アリョーシャさんこんにちは」「何だ?その冬毛のままのオコジョは?」
下着ドロだと判ってはいるが、映像越しではなくこの目で見て解った。コイツは弩助平な犯罪者だと。
十中八九下着集めも趣味だ。

嘱託やってた時の部隊の執務官さんに執務官補佐代理心得とか言うよく判らない肩書き付けられて使われてたのよ。
主な仕事は隊内の規則違反者の確保、中には女性隊員やご近所さんに対する下着ドロとかもいたのでこの手の輩は何となく判るのだ。


「あ、この子はペットのカモ君です。カモ君、この人は魔法使いだからしゃべっても大丈夫だよ」
「さいですか、俺っちはアベニール・カモミール。オコジョ妖精でさあ」

薄っぺらいとは言え職業倫理上逮捕してやりたいが、ここは堪えて自己紹介する。
「アンドレイ・コンドラチェンコ、自称ネギの兄貴分だ」


「兄貴の兄貴分ですか、そりゃあ失礼いたしやした。アンドレイの兄貴、俺っちはカモと呼んで下さい」
「ア…アリョーシャさん、その"兄貴分"はよして下さいよ。そりゃあ弟みたいに見てくれているのは嬉しいですけど」


出会って二ヶ月以上経つが、未だに他人行儀なネギ。
「いいや、止めんぞ。お前は僕の弟分で、弟子3号(予定)である事に変わりはない」
他人行儀な態度を取った時は、いつものようにとっ捕まえて頭をぐりぐりする。


「やめて下さいよー」とネギが涙目で抗議するが、謝るまで続ける。
それを見ていたカモ「仲いいんすねー、ホントの兄弟みたいですぜ」と一言。

ちょっと嬉しくなったので、ネギをいじる手の力を強める。

「どうだ?端から見たらお前は弟なんだぞ?これからはさんと敬語は無しな、うりゃうりゃ」
「わーん、やめてくださいよ。アリョーシャ"さん"」
まだ懲りないネギ。まあ、一朝一夕に変わる物でもないし、期待もしていないからな。


いい加減にネギを解放してやる。そうして可愛い弟分にある物を放り投げる。

「え!こ、これって…!?」驚きと困惑に包まれるネギ。
一昨日に見た物がここにあるのだ。そう、カートリッジだ。


****


宮崎さんと契約しちゃいそうになった後、帰ろうとしたらアリョーシャさんに会った。
「よ、ネギ。元気か?」

肩のカモ君は急いで普通のオコジョの振りをする。
でも大丈夫、アリョーシャさんは魔法使いで、いい人だ。


僕の事を弟みたいに思ってくれていて、色々と教えてくれたり、手伝ってくれる。
時々イジワルをしてくるのはやめて欲しいけど、お兄ちゃんがいるみたいでちょっと嬉しい。


でも僕は先生で、アリョーシャさんは生徒。そこの所はきちんとしなきゃ。

だから「その"兄貴分"はよして下さいよ」って言うんだけど、
いつも「いいや、止めんぞ。お前は僕の弟分で、弟子3号(予定)である事に変わりはない」とか言って
頭をぐりぐりするんだ、これもやめて欲しいのに。

それを見たカモ君も「ホントの兄弟みたいですぜ」って言う。
嬉しいんだけど、アリョーシャさんは嬉しそうに力を強くする、だからやめてぇ~。


そうして、しばらく続いた後でやめてくれたんだけど、ちょっとして投げてきた物を見て驚いたし、どうしてここに、って気持ちになってもう…。
一昨日、エヴァンジェリンさんが魔法を使う時に使っていたやつだ。


僕のコレクションの魔法銃用銃弾に似ているけど違う、さわったカモ君が「うわ、兄貴!これはハンパじゃねえ魔力量ですぜ!」
そういった通り、魔力量が全然違う。

形は銃弾だけど威力は砲弾だ、それぐらい多い。


何でこれをアリョーシャさんが?ひょっとしてエヴァンジェリンさんの仲間で悪い魔法使いなの!?

どうしたらいいのか判らないでいたら、アリョーシャさんが言った
「危ないと思ったらそれ持って魔法を唱えてみろ。使うときはためらわずにな」って。

そうして前みたいに背中を向けて後ろに手を振って去っていった。


…助言と切り札だよね、これは。
うん、やっぱりアリョーシャさんはいい魔法使いだ。


****


ネギに渡したカートリッジ、あれは手持ちの純正カートリッジに発動体としての機能を付け加えた物。
一発限りの大威力魔法が使える、エヴァがネギには対処出来ないような大威力魔法を使ってきたときの用心だ。

刺しておいた釘と合わせれば、ネギの生死に関わるような事態には陥らないと思う。


両方とも身内だと思っているからこそ、どちらかに明確な味方が出来ない。

遅からず二人は再び衝突する、その結果として一方が死ぬなんて事はあって欲しくない。
どちらも生きていて欲しい、だから必要だと思った事はしておく。


どうやら、必要だと思った事は何としても成し遂げるのはコンドラチェンコの血の性らしい。

曾祖父さんは親友兼義弟の北日本への復讐には自分が必要だと思ったから、最後まで付き合い「やまと」の艦砲射撃で共に消えた。
祖父さんは大伯父さんの亡骸を取り戻す事が必要だと思ったから、軍規を破って取り戻した。



だから、その血を引く僕もネギとエヴァの戦いに決着が付くまでとことん付き合うつもりだ。










あとがき:契約させちゃいました、元々は吸血鬼編の後ぐらいにしようと思ってたんですが、ネギの監視に都合がいいので出しました。

前回、2,3回で終わらすと言いましたが、何か伸びそうな予感がします。
書いてたらネタやアイデアとか色々と出てきますからね。



追記:第34管理世界について
天龍の板東さんが出てくる所からも分かるように「皇国の守護者」世界です。
時代設定的には一巻冒頭、手紙の部分より少し後の時代としています。

管理局との接触は天龍が最初で次が導術士達、主に皇国と付き合ってます。

帝国は、ユーゴスラビアみたいな経緯で三つに分かれてしまい、少し前まで本土部分で紛争が起こってました。

そこに次元犯罪者の皆さんまで加わったので管理局に協力を依頼。
尽力の結果、停戦合意と次元犯罪者の逮捕に成功しました。

ただ、犯罪者の皆さんの置き土産のせいで停戦監視団(実質治安維持軍)が必要となったのです。
その停戦監視団団長が祖父さんで、世話役が板東一之丞。

気があったのか親交の出来る二人、そこへ嘱託魔導師としてやって来たアリョーシャ君。
そういうわけでお世話になりました。

プロローグの仙人は南冥の「凱」に居ます。




[4701] 第十五話「嵐の前」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2008/12/31 18:34
管理世界のキモは次元間航行技術と転送ポートや次元転送・転移魔法などの転送技術にある。


広大な次元世界を行き来するには高い次元間航行能力が必要で、官民問わず航海士は高給取りだ。
大質量貨物や多人数の移動には次元航行船が欠かせない、本局の主任務の一つは航路の安全確保となるぐらいに。

転送技術も欠かせない、軽貨物や少数の人間の移動は転送ポートや次元転送魔法に支えられている。

重要な技術であるから、悪用や流出を防ぐ為に管理局では陸/空曹長以上にしか転移魔法を教えず、使用権限も渡さない事が内規で決まっている。
抜けやすい士クラスに教えて覚えたら即退局、と行かれない為の方策だ。



まあ、何が言いたいかと言うとだ、そんなもん教えられる訳が無い、と言う事だ。

バルタン星○こと学園長の呼び出しを喰らい「君の使う転移魔法、教えてくれんかのう?報酬は出すぞい」と言われたのだ。
それに対する返事は「関東魔法協会の理事と権限、学園長の椅子と学園の年間予算総てをくれるのならいいですよ」と答えた。

続いて「無理矢理聞き出そうとしてもいいですが、そのつもりなら殺傷・物理破壊設定状態で大暴れします、付随被害を気にもせずにね」
と悪い笑みを浮かべながら言ってやった。

止めがミーシャの『同志の魔力量から換算すると最大で10時間は暴れられますね』だ、
10時間も暴れられればどれだけの被害が出るのかを解らない人では無いからな、学園長は。

流石の○ルタン星人も唖然として口をあんぐりと開けていたな、部屋の外で待っているエヴァに見せてやりたかったぐらいだ。
無論ブラフだ、10時間と言う時間も消費量を最低にしての計算値であり、実用性皆無の計算だ。

法執行機関の構成員としてのモラルは一応守っているつもりだし、そんな悪趣味な事なんて出来るかっての。



****



とある金曜日の放課後、学園長に呼び出しを喰らう少し前、エヴァのお呼ばれで茶室にいた。
今日の朝にアーティファクトの資料が揃ったらしく、茶会と重なるのでお呼ばれに預かった次第だ。

その呼び出し方法がカード使っての念話ってのがなあ。
エヴァと茶々丸にはミッド式の念話を教えてあって、いつもはそれで遣り取りしているのにこっちの念話をわざわざ使わなくてもなあ。

端から見てるとおでこに何か当てて、はっきりした独り言を言っている可哀想な人にしか見えないのよ、カード式念話は。
耳あたりなら携帯で話しているように見えるからいいけど、おでこだからなあ…。



茶道部所有の茶室は、外国のお客様を日本らしい所でもてなしたり、日本文化を実感させる関係もあって立派な造りとなっている。
あちこちがいい色合いで、侘びた感じが出ていて良い。


余談だが、一般的なミッド人は抹茶や煎茶の味が良く分からない奴が多い。
何処の誰かとは言わないがミルクと砂糖を入れる提督で校長とかが居たりするし、それが広まっているからまあ恐ろしいこと。




お料理研究会のさっちゃんが用意してくれた茶菓子と茶々丸が点てたお茶をいただいた後、
以前より気になっていた事をさっちゃんに訊く、「親戚に同じ様な話し方する住吉って人いる?」と。

97管理外世界の地球で、協力団体の人達と会ったときの事だ、さっちゃんと同じような話し方をするあの人に出会ったのは。

あの方々は凄かった、今思い出しても凄い、
「愚民と地球に配慮した無理なき征服の第一歩"市街征服"を企む悪の組織に対抗すべく作られた、オーバーテクノロジーを多数保有する市営の組織」

なんだもんなあ。

色々調べていると「どちらの地球にもいる人」が結構いる事が解り、ひょっとしたら…、と思った次第だ。


「ええ、父方の又従兄弟です。なんで知っているんですか?」
「いや、ちょっとした事で知り合ってね、向こうは覚えていないと思うけど」
流石に「向こうの地球で知り合いました」とは言えないし、言っても信じて貰えるわけがない、そういうわけで誤魔化しておく。

しかし、父方の又従兄弟か…。微妙に近いんだか遠いんだか。



そうして、出会ったときからの疑問は見事に晴れ、すっきりした気持ちでアーティファクトの詳細を教えてもらった。
その後にタカミチのオッサンによる学園長の呼び出しを二人して喰らうのだった。



****



土曜日、今日は山中行軍の日。月に二回ほどは近くの山に入る。
訓練をしながら夕方までに宿営地まで進み、次の日の夕方に帰宅するスケジュールだ。


士官学校と陸/空士学校ではJS事件後、訓練体系に大幅な変化があった。

AMF環境下での戦闘能力の向上を達成する為に体力や脚作りを重視するようになった。
今までよりも過程が大幅に増えた、それは第97管理世界の軍の訓練体系に酷似していたのだ。

と言うか参考にした。推進派のトップは部下をスペツナズ式にビシバシ鍛えていたウチの祖父さんだ。

まあ、魔法のない世界の中でも文明レベルが高めの世界だからな。
管理外世界で同レベルの世界は幾つかあるが、悲しい事に軍事レベルが一番高いし。


その様な事があって、僕も体力と脚作りの鍛錬は欠かさないというか祖父さんと親父に習慣づけられた。

御陰なのか、士官学校入学後の通称「地獄の一学期」を平然と過ごせたのは僥倖だったが…。
ふるいに掛ける為に容赦なく行くの、同期で戦闘兵科志望の1/6ぐらいがここで辞めていったぐらい。

後で聞いた所に依ると副校長が推進派で、「これしきで辞めるような奴に犯罪者の相手が勤まるわけがない」と言い切っているとか。



装具を整え、糧食と宿営地の主へのお土産を用意する。
宿営地とそこの風呂の使用料代わりだ、甘党ですからね、あの人。

本日のお土産は神戸モ○ゾフのプリン、とある魔法処理した箱に入れてあるので何時間経っても適温で、ガラス容器も割れないのだ。
因みに創業者は亡命ロシア人、神戸あたりはそんな人が始めた店が結構多い、ゴンチャ○フも然り。


各種訓練をしながら山中を進む、途中「く、く、くま、くま―――ッ」と言う声と熊の鳴き声が聞こえてきたが…。
物好きっているんだな、こんな山中で熊に追いかけられるような奴が。

山になれている奴なら熊に追いかけられないやり方を知っているのが普通だし。


夕方、日が大分傾き茜色に染まってきた頃に宿営地に到着する。
そこに意外な人間がいた、宿営地の主の楓ちゃんは当然として、

「何でネギがいるんだ?」
「何でアリョーシャさんがここに?」

満月を過ぎたエヴァが大人しくなるのもあって、監視を外していたのだ。
そのために改造カートリッジを渡した後のネギの行動を知らない。

**** 

いつものように修行をしていたときでござった、何かが水に落ちた音と人の声がしたのは。
今日はアリョーシャ殿が来る日でござるが、あの御仁は夕方頃に来る上に、水に落ちるような人ではござらん。

かと言って、このような山奥まで来るような酔狂な御仁は知らぬしな、確認するでござるか。


見てみると「―――おや?誰かと思えば」ネギ坊主がいたでござるよ。


濡れていた服を干し、話をしていたでござるが、少し落ち込んでいて思い詰めている様でござった。
気分転換になればと思い「ネギ坊主、しばらく拙者と一緒に修行でもしてみるか?」と言ってみたでござる。


ネギ坊主を連れての修行、途中に熊と追いかけっこをしたり、夕飯の材料を集めたりしていると、
あっと言う間に夕方、もうそろそろアリョーシャ殿が来る時間になったでござる。


あの御仁は「使用料代わりだ」と言って、いろんなお菓子を持ってきてくれるので甘党の拙者としては有り難いナリよ。

この前は福島は柳津の栗饅頭を持ってきたでござるが、アレは中々美味でござった。
黒糖入りの皮に白餡、中は渋皮ごと甘露煮にした栗が丸ごと一つ、上のクルミが良いアクセントとなって…。


今日は何を持ってくるか楽しみでござるな。


そうしてやって来たのでござるが、ネギ坊主とアリョーシャ殿、揃って鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたでござる。


****


手土産のプリンを食べながら聞いた楓ちゃんとネギの話を総合すると、
自棄を起こして家出をした所で墜落、そこを見つけた楓ちゃんと一緒に修行していたそうだ。

途中で聞いた「く、く、くま、くま―――ッ」はネギの声で、蜂の巣を巡っての事だとか。


風呂の準備を整えた後、ネギと話をしていたが、声のトーンが低い。
何があったかは知らないが、恐らくはエヴァがらみの事で落ち込んでいるようだ。

風呂が沸くまでまだ間がある、何で家出したのか、どうしたいのかを聞いてやろうじゃないか。
それが兄貴分の仕事って奴よ。




「―――迷惑をかけたくないんです…」ネギの話はそんな一言で締められた。
聞き終わった後、拳に力を入れ「アホか」の一言と共に脳天に振り下ろす。

いい音がした。うむ、いい石頭だ。
涙目になりながら頭を押さえて「な、何するんですかぁ~」と言うネギ。

「迷惑をかけたくない」だと?キリスト教文化圏育ちはこれだから嫌なんだ、一人で何でも出来る気になってるよ。


「お前は先生だろ?生徒に迷惑をかけられているじゃないか。多少迷惑をかけても、それでお相子だ」

当たり前すぎて考えた事もなかったのか戸惑うネギ、だがそんな事知った事ではない。
控えめな正教徒であり無自覚な仏教徒でささやかな神道の支持者の意見を国教会信者(多分)に叩き付ける。


「で、でも、僕が原因ですから他の人に迷惑を掛けるわけには…」

ああ、石頭だけあって頭が固い。コイツにも色々あったのは知っているが、意固地になっているぞ、このガキんちょは。

「ガキは周りに迷惑を掛けて当然なの、自分が原因でとある人に10ヶ月も迷惑をかけ続けた奴が今更何を言ってるんだ」
「え?」
「お前の母親だよ。お腹の中で守って貰い、自分の血肉を分けて育てて貰い、産みの苦しみに耐えてこの世に出して貰った」


押し黙るネギ、コイツが3歳頃には親無し子でおじさんの家で育ったのは聴いてはいる。
だからこそ言わねばならぬ事もある、お前は一人で生まれてきたんじゃないぞって事を。

「まあ、何がいいたいかと言うとだ。子供がそんな事を気にするな、助けてくれる人がいるのなら我が儘言わずに頼れって事」
「ワガママって、僕はそんなつもりは…」
「周りに親身になってくれる人がいるのに、一人で総て解決したい。十分我が儘じゃないか」
「うう…」


「相当ひねたヤツでもない限り、人に頼りにされるのは嬉しいものだぞ。「この人は信頼出来る」と思われている証拠なんだから。お前の使い魔のカモ、あいつだってお前の事を信頼しているから日本まで来たんだろ?嬉しくなかったのか?」

「嬉しかったです…。カモ君が僕を頼りにしてくれたのは…」
ちょっと嬉しそうな顔、コイツは嫌われたくないからいい子ぶっているフシがある。
あのエロオコジョは打算で動いたのだろうが、嫌われたくないネギにとってはそれが良かったのだろう。



「それとだ、人と人の繋がりが無いと出来ない事も世の中たくさんある。言い方は悪いが、お前だって一人じゃ出来ないからな」
「え?僕が?」
「そうそう、お前は両親の共同制作品だからな」

意味合いが判ったのか、顔を赤くして「何言ってるんですかーっ」と怒るネギ、だが事実である事には違いはないぞ。

「人と人の繋がりを日本じゃ"縁"って言うんだ。お前のお姉ちゃん、タカミチや僕、神楽坂他お前の生徒達は迷惑を掛けられたからって、離れていくような"縁"なのか?」


論破され、悩むネギ、悩めよ子供。この様な事がお前を成長させるのだ。
お前と同じぐらいに、祖父さんや親父の部下や同僚達に論破されまくって同じように悩んだものだ。

あの頃は青臭い理想論ばっか言ってたなあ、そんなもんは先の方々と紛争地帯の現実に木っ端微塵に打ち砕かれたわけだが。



「まあ、悪いが今回の事については僕は助けてやれない。自分や助けてくれる人とで解決する事だな。死にそうになったら別だけど…」
協定の縛りって奴だ。あちらが違反しない限りこちらも動けないからな。


楓ちゃんの呼ぶ声が聞こえる、この悩める子供を先に入れてやろう。

「一番風呂行ってこい、そしてサッパリした頭で考えておけ」
「あ…、はい」

力なく答える、だがその表情から迷いが少し消えていた。
さて、本来は説教なんて出来ない未熟者は訓練の続きと行きますか。



お呼びが掛かったので風呂に入りに行ったら、楓ちゃんと一緒に入っていた事が判明。
畜生、先に入れるんじゃなかった。

『そんな事を言ってもしょうがないでしょう。未熟者ですね』


****


そうだ…、僕、魔法学校をいい成績で卒業して何でも一人で出来るっていい気になってたんだ…。
それなのにいざ、自分にどうしようもならない問題が起きたらアワアワあわてて逃げることばかり考えていた。

校長先生の言葉、「わずかな勇気が本当の魔法だ」って…、アスナさんにはあんなにエラそうに言っておいて自分は…。

それに、みんなに迷惑をかけたくなかったのも、迷惑をかけたら嫌われてしまうって思っていたからだ。
アスナさんだって、タカミチだって、アリョーシャさんだって迷惑をかけても僕を嫌うどころか許してくれたのに…。


****


「ありがとう、アリョーシャさん、長瀬さん。僕…、出来るだけ一人でがんばってみます。でも、どうしようもない時は頼ってみます」

翌朝、「いろいろ考えさせてくれてありがとうございました ネギ」との書き置きがあり、
杖に乗って飛び立つネギの後ろ姿が見えた。

さてと、楓ちゃんももうすぐ起きるだろうし、朝食の準備をしますか。



****



月曜日、茶々丸からエヴァが風邪を引いたと聞いて見舞いに来た。
手土産は葛湯の詰め合わせ、奈良は吉野の本葛粉を使ったヤツで風邪引きにはこれがいいのだ。


が、入って最初に見たのはえらく荒らされた家だった。次に見えたのは黙々と片づけをする茶々丸。
最後は憤懣な態度を示しつつ茶を啜る病人?兼家主、一体何があったのやら。



とうとうネギのヤツが覚悟を決めたようで、果たし状を持ってきたそうだ。

再度釘を刺しておき、片づけを手伝っているときだった。
アーティファクト「魔女の眼」の試験中に気付いた事を訊いてみたのは。


「そういえば、この学園結界張ってるんだろ?」
「ああ、高位の魔物や妖怪が動けなくする為のと侵入者を探知するヤツが張ってある」
後者は警備でお世話になっている。こちらの連中は昼間に堂々と動くのを嫌っているから余計助かる。


「うん、それ以外のもあるんだろ?電気をえらく喰うヤツが」
顔色が変わる、まったく知らないと顔が言っている。

「なんだそれは?!15年間ここにいるが、そんな結界初めて聞くぞ!?」
襟首とっ掴まれながら言われてもなあ、揺らすな、しゃべれんだろが。



それに気が付いたのは「魔女の眼」の機能確認試験中の事だった。
コイツは可視光線、赤外線、魔力濃度等々を見る機能が付いていて、戦場監視や追跡に使える便利なヤツだ。
他にも付いてはいるが、ここでは割愛させて貰う。

広域で見ていると、あちらこちらにポイントらしきモノが見えた。
気になって、調べてみると高圧線に繋がれていて『かなりの電力を消費しています』との事。


タカミチのオッサンは「うーん、悪いけど知らないなあ」で、真名は「興味ないね」、弟子二号は「知りませんね」と
他の面々には嫌われているので答えてもくれないし、ヒゲグラのオッサンは答えてくれるやもしれんが、あのマイペースっぷりは疲れるし…。



そういうわけでエヴァに聞いたんだが…、ひょっとしてヤブヘビ?








あとがき:ここ最近は本業が忙しいのもあって難産となりました。
来年も書きますので、読んで下さっている方々、よろしくお願いします。

追伸:最近A'sを見返していて思ったのですが、猫姉妹やザフィーラやアルフの使い魔や守護獣の皆さんはデバイス無しで戦闘出来てますね。





[4701] 第十六話「暴風警報」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/01/08 23:04

二つの人影以外誰もいない中等部情報処理室、一台のPCが起動している。
それは本来はアクセス出来ない学園中枢部へとアクセスしている、様々な障壁が用意されていたが量子コンピュータの前ではほぼ無力であった。

「…どうだ?」
「予想どおりです。やはりサウザンドマスターのかけた「登校の呪い」の他にマスターの魔力を抑え込んでいる「結界」があります。この結界は学園

全体に張りめぐらされていて大量の電力を消費しています」
「ふん、小僧に指摘されるまで10年以上気づけなかったとはな…」

「しかし、魔法使いが電気に頼るとはなー。え~と、ハイテクってやつか?」
「私も一応そのハイテクですが…。それにアンドレイさんの魔法は高度な科学で構成された魔法といえる物ですが…」
「あいつは特別だろ…」


****



大停電の日、ヤブヘビな一言によりその日はエヴァとネギの対決の日となった。

放課後にエヴァから念話で連絡があった。今回はミッド式の念話だから大丈夫。
口も動かさずに他の事をしながら会話が出来る。


見届けたい所だが、裏表共に警備を強化する日であり、警備要員をしている僕もその一員となっている。
とは言え支援要員であるので、基本は詰め所で待機する事となっている。

有り難い事に僕のアーティファクトは戦場監視向きの物だ。何か無い限りは見続けられるのでよい。
細かい所を拾う用の偽装付きサーチャーも飛ばしておく、盗聴機能付きなので会話も聞ける。

そういうわけで、同じく支援要員の真名と一緒に詰め所で待機するのだ。


要請が掛かったらどうするかって?弾雨を降らしてやります、時間あたりの火力を過密にして速攻で片を付けてやんよ。
例えて言うなら、見たい番組の途中の用事みたいな感じ?で片づけるよー。

マルチタスクで並列処理出来ても、大事な事は集中したいからね。


****


「まあ、いいわ。これでもう、あの訳のわからない契約とかに付き合わされることはなさそーね」
「…い、いえ。こないだみたいなことを頼んでしまうかもしれません、アスナさん」

「ん?」
「出来るだけ頑張ってみますが、ひょっとしたら迷惑をかけてしまうかもしれません。でも、もう一度お願い出来ますか?」

「え…、あ、まあ、乗りかかった舟だしね。一応付き合うわよ」
「兄貴…」


****


停電の少し前、出来るだけ来ない事を祈りつつ、詰め所で待機している。
だがしかし、最近はボキーどもは問答及び容赦無用で吹っ飛ばしているのであまり来ないだろ。

「うん、最近は気持ちいいぐらい容赦がないからね。楽でいいよ」
真名が独り言に対して応じる。
「でもねアリョーシャ、君恨まれているみたいだよ」

え?恨まれてるってどういうコト?

最近やった事と言えば…。
1.大量のレッサーデーモンと共に現れた男魔法使いをシュートシェル・ラビットファイアで掃射・粉砕。バインドで捕縛後、
大層な演説を始めて五月蝿かったので金的蹴り。

2.鬼と術者を魔力弾の地雷原に追い込む、足が止まった奴は後ろに砲撃加えて進ませ、運良く抜け出てきたのは
組んでいた真名の狙撃で始末して貰う。

3.守りが自慢の女(ブサイク)魔法使いを障壁ごとAPFSDSシェルで貫通。勘違いした発言をしてくれやがってうっとおしかったのでバインドで捕縛

時に細工して、あちこちの間接が痛い角度で固定。
ぐらいだったけどなあ…。

「それをやられた連中が恨んでいるのさ。その前なんかグループのリーダー格の男に遠距離から弱い魔力弾をぶつけ続けていたぶっていたじゃないか

。最後の方なんて土下座して許してくれと謝っていたじゃないか」
「アレは最低限の労力で戦意を殺ぐ方法の一つだぞ?」

「ああ、私も似たような事をされた事があるから効果は解るんだが、えらく恨まれるんだ。アレは」
「まったく、殴られる覚悟がないのに殴ろうとする輩が多くて困る。そういうヤツに限って、節度やら戦時国際法を守らないし知らないんだぞ?」

「まあ、抑止力にはなっているみたいだよ。去年の今頃に比べれば侵入者の数が明らかに減っているからな、反面君の砲撃を覚悟した連中ばかり来る

から痛し痒しと言う所だね」

そんな真名の一言とほぼ同時に停電の時間を迎えた。
さて、二つの仕事をする事にしますか。


****


それにしてもなあ、何でこんなに不埒なヤツが多いんだ?

停電が始まった直後、エヴァの魔力を感じた、いつもの何百倍もの感じ方で。
「魔女の眼」で見てみると、幻術で大人モードに変身したエヴァらしき女性がいた。


で、少ししてネギの方に目を向けるとまっぱのまき絵ちゃんと対峙しているではありませんか。

この後どうなるか気になるってのに、しょっちゅう要請があるんだからなあ…。
マルチタスクを使えば問題なく見られるが、集中して見たいのに…。

なのでHE-FRAGクラスターシェルをガンガン撃っている。圧縮魔力で作った弾殻を均等に割り爆風と一緒に破片を撒き散らす弾種だ。
魔力は問題ない、工学部に作らせた此方製カートリッジを山盛り用意してある。


こんなコトが出来るのもエヴァの御陰だ。

元はお土産代わりに渡したカートリッジを熱望しているから、バルタン星○に頼んで生産させた。
葉加瀬とかの工学部一同は研究材料で止めるつもりだったようだが、作られればその魔力量に引かれ、ネギに渡したのと同じような改造を施し、
コッソリ使うヤツもいる。

まだまだ成長過程の魔法生徒とかがな、先生や才能のある奴らが高威力魔法を使うのを見てれば下駄も履きたくなるのが人情ってもんよ。


そこに弟子一号が加わった事で更に加速した。実は弟子用デバイスはカートリッジシステムを採用しているのだ。
この学園有数の腕利きのお墨付きだ、使用量も堂々と使うヤツも増えるし生産量も増えるってもんだい。


研究側からするとじっくりと調べてから咀嚼し、消化してから導入したい所だろうが、前線で使っている連中はもっと作れとせっつく。
この麻帆良学園という組織は現場側に弱い、要請に対して止む無く中身は解らないが作り方は分かっている物を生産する。

そうして導入は済し崩し的に進む、此方の罠を気付けずに。
まあ、何かあるのを気づいたヤツがいてもミッド語で書いて管理局式暗号処理してあるからわかんないだろ、多分、きっと、恐らく。


****

ピロリロリロリと電子音が響く、神楽坂明日菜の携帯の呼び出し音だ。
ウトウトと眠りの入り口に入り始めていた彼女は緩慢な動作で電話を受ける。

「もしもし、アスナさん。僕です、ネギです」
「ん、何?ネギ?ウトウトしてたトコなのに」

「放課後に言っていたこと、お願いする事にしました。10分後に大浴場の前まで来て下さい」
「え、エヴァちゃん諦めてなかったの?」

居候の一言で眠気が吹っ飛ぶ。

「はい、まき絵さんまで操ってます」
「まきちゃんまで巻き込んでるの!?わかった、今から行くわ」

そうして、ルームメイトを起こさないように気を付けながら駆け出す彼女、二人の戦いが始まる。


****


そうして、もののついでみたいな感覚で無慈悲な弾雨を不埒な輩に降らしている間にも事態は進む。

大浴場に神楽坂と一緒に来て、吸血鬼化した4人中2人を無力化、エヴァと茶々丸と残り二人と交戦したまでは良かったが、
相方を放っておいて飛ぶなよ。後ろから走って追いかけてるぞ、神楽坂。


と、要請がまたあった。集中して見せろって!!


****


「あー、もー!あんたをちょっとでも信じたあたしがバカだったわ!」

操られている4人を見て怒ったアスナさんはエヴァンジェリンさんにこう言った。

「改心したのかな、と思ったらまきちゃんだけじゃなくて、アキラにゆーなに亜子まで操るなんて!こんな悪い魔法使いなんてさっさとやっつけちゃ

うわよ!ネギ!」

「は、はい!」

うん、やっぱり頼んで良かった。
隣に頼れる人がいる、それだけでこんなにも勇気が出るなんて。


「バカにそんな事を言われるのはな…。まあいい、やれ、我が下僕達」

その一言で操られた4人が一斉にかかってきた、契約執行したアスナさんと構える。
みんな傷つけないようにしなくちゃ、吸血鬼化の手当は後だ!

「何よー!何でみんなこんなに速いのよー!?」
「吸血鬼化されて身体能力が上がっているんです!契約執行したときと似たようなものです!」

ゆーなさんとまき絵さん相手に苦戦しているアスナさん、僕はアキラさんと亜子さんに脱がされてしまって、大事なコレクションを取られていく。
そこで「風花・武装解除」の効果が有る魔法薬を使う、そうして出来た隙に「眠りの霧」を使って二人を眠らせる事に成功した。

その後、エヴァンジェリンさん達まで加わり、一人でその場を離れるのがやっとだった。
アスナさんとカモ君、置き去りにされて怒ってるんだろうな。

…ゴメンなさい。

****

全く持って不埒な連中をダイナミックキャンペーン中に付き1.5倍(当社比)の投射量で片づけて差し上げた。

「刀子先生から苦情が来ているぞ。やりすぎだと言っているぞ」と真名が言っているが、遠慮はしない方がいいじゃないか。
あれだけやれば身体が恐怖を覚えてもう二度と近付かなくなるだろう、そうすれば不法侵入予定の人間が減って仕事が減って楽になるぞ。


先人曰く、一罰百戒と。一人を罰して百人への戒めとする、あの人達はその一人になって貰っているんだよ。真名、君なら解るだろ?
「いや…、それは詭弁にしか聞こえないんだが…。どちらかというと八つ当たりにしか見えないけど…」

「ああ、八つ当たりだよ!ネギとエヴァの勝負を集中して見たいの!いくら同時並行で処理出来ても、大事な事なんだから集中して見たいの!」

そういって、空間モニターを真名の目前に投影する。

「これは…、エヴァンジェリンとネギ先生の勝負?」
「そう!本音を言わせて貰えばこの目で直に見届けたい所をぐっと堪えて仕事してるんだよ!」
『まあまあ、同志、落ち着きなさい。これがネギさんへの試練だという事と彼女の目的と主義は知っているでしょう?釘も刺していますし』


エヴァの目的はネギの血、それとあいつの主義は「女子供は殺さない」

そしてこの勝負は父親の残した(ロクでもない)試練の一つ、

あいつが"魔法使い"として生きていく上で越えなければならない物の一つ、それは本人とその仲間以外は手出ししてはならない物。

だから堪えていられる。


「ミーシャ、すまんな。少し苛立ちすぎた」
『いえ、これも私の役目です。閣下やお父上の域になるまでまだ時間がかかるのは先刻承知の事、それまで支えますよ』

全く主人を尊ばないデバイスだが、こう言うときにその理由が分かる。
僕よりも長く生きているからな、コイツは。

『ですが、いいのですか?真名さんに空間モニターを教えても?』
「 あ゛」

後ろを見るとネギとエヴァの戦闘の様子もだが、空間モニター自体を興味深げに見る龍宮さんの姿がありました。
「本当に虚空に映し出されているな…、どこかから投影しているわけでもない…。アリョーシャ、これも君の魔法の一つなのかい」


エヴァ一家と弟子一同以外秘密にしてたのにー!
あんなオーバーテクノロジー魔法見せたら正体教えるハメになって面倒なのにー!!



何処から説明するか考えている合間にも戦いは進む、大橋まで来て、捕縛結界に引っ掛かったが解かれた所まで…。


****


「だが、今日は良くやったよ、ぼーや」用意していた奥の手も破られたネギ、二手三手を用意していないのが子供だな、
「パートナーを置き去りにしたのは失敗だったがな」神楽坂も置き去りにするし、さっき一寸見たら必死に走ってたぞ、何処行ったか分かってないの

に。

胸ぐらをぐっと掴まれ、「さて…、血を吸わせてもらおうか」いざ吸わんと顔を近づける、吸血へのカウントダウンが始まった。
男の子の意地なのか涙を堪えてはいるが「うううっ…」怯えてるのがよく解るネギ。

そこへ茶々丸が水を差す「あ…、あの、マスター、ネギ先生はまだ10歳です。…あまりひどいことは…」
「心配するな。…別に殺しはせん。女子供は殺らんし、…それに、このぼーや自身にも興味が出てきたところだしな…」

その後にサーチャーの方をちらりと見て「それと、やりすぎるとアリョーシャの奴が砲撃してくるからな」取って付けたように言った。
気付いてやがったか、偽装が甘かったな。

「「え…?」」

二つの声が重なる、一つは茶々丸、もう一つはネギ。両方とも意味合いが少し違うが困惑に包まれている顔をしている。
ネギの奴、少し混乱しているな。思いもしない名前が出てきたからなのかな?

****

救世主という奴はいつも最良のタイミングでやって来る。
まあ、逆に言えば一寸遅れればそれまでよ。な、ぎりぎりのタイミングとも言えるが…。

「コラーッ、待ちなさいーっ」とうとう神楽坂が追いついた、当てずっぽで良くここまでこれたな。



そうして神楽坂とカモの応急コンビは茶々丸のセンサーをマグネシウムの閃光と煙で一時無力化、本丸であるエヴァを狙う。

「ふん、たかが人間が私に触れることすらできんぞ」
自信たっぷりに障壁を張る、あの障壁は強固で大威力魔法か貫通特化魔法意外は意味を成さない。
しかし、今回は逆だった。

神楽坂の見事(パンツ丸見え)な跳び蹴りは障壁を意味のない物としてしまった。
詳しい事は解析しないと解らないが、『AMFの集束展開に近い感じですね』障壁が無効化されていた。

自慢の守りが意味を成さなくなった結果、はなぢをだしながらなっさけないかおでふっとばされるえう゛ぁんじぇりんさん。
流石に二回目だけ有って何とか着地は出来たが。


に、しても脚速っ!
オーバーロードから回復して煙が晴れるまでのほんの僅かな時間にネギと犯罪者オコジョ回収して、逃げ切ったとは…。
やっぱA組の人間だけあって変人だなあいつ。


****


「神楽坂はウチのクラスでも1,2を争う脚の持ち主だからな」

自分でもちょっとやりすぎたなー、と思うほどの砲撃の結果、

侵入者達は逃げたか砲撃喰らったか前線の皆さんにどうこうされたかの3つに分かれ、進入を予定していた人達も逃げたようで、えらく静かになった

今現在、詰め所に真名と二人、視線の先には空間モニター、戦いを見守っていますですハイ。

とは言え、エヴァ・茶々丸組がネギ・神楽坂+オコジョ組を見失った現在は自然休戦中であるが。



「さて、説明して貰おうか。私も昔は「魔法使いの従者」としていろいろな魔法を見てきた。だが、今まで見て来た君の魔法は明らかに異質だった」
やっぱり聞かれたよ、戦闘が続いていた先ほどまではそっちに気が向いていたから良かったものの、合間が出来たらこれだ。

「アリョーシャ、君の魔法には神秘の欠片もない、科学的というか兵器に近い魔法だ。それに加えてこの空間投影の魔法だ。一体君は何者なんだ?」
赤い目で人の目をしっかり見て話してくるから誤魔化しにくいし…、実証となる魔法を見せてしまったし、腹括るか。


「実はな…」「ネギ先生出てきたぞ」「…後でな?」「まあいいだろう、後でな」
不完全燃焼な気持ちだ…、もちっと遅く出てこいネギ。


****


従者のデコピン対決から始まった第2ラウンドは意図的な打ち合いとなった、一方が魔法の射手を17本出せばもう一方が同数を出すといった風に。

しかしながらネギの詠唱がワンテンポ遅いため、至近距離で余波を喰らっている。
防御のリソースを総て攻撃に置き換えて何とか同等だ。

対するエヴァは飛行魔法に加えて常時展開型障壁をで出しながら余裕で対処している。
ここが経験と練度の違いって奴だな。


さて、このままネギ不利な膠着状態になるかと思われたが、男らしく勝負に出た。

「ラス・テル マ・スキル マギステル 来れ雷精、風の精!!」
お、アレは確か…、『雷の暴風ですね』先に言うな。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック 来れ氷精、闇の精!!」
『闇の吹雪です』言わせる間も与えんのかい!


ネギの右手の練習用杖から出る「雷の暴風」、エヴァの右手から出る「闇の吹雪」
火事場のクソ力ってヤツかしていい感じに拮抗している。

だが、よく見るとネギが不利だと解る。使っている杖、アレは所詮は練習用、負荷に耐えられずひび割れ始めている。
ネギは杖がなければ魔法が使えず、エヴァはなくても使える。

この差はいかんともし難いものである、さてどうする?ネギ・スプリングフィールドよ。


****


僕の使える最大の攻撃魔法「雷の暴風」、スゴイ力の「闇の吹雪」と何とか打ち合えているけど…。
練習用杖もヒビが入って、かけはじめている。ダ、ダメだ…、打ち負ける…。


いや、まだだ。もう逃げない!!あきらめるもんか!

そう思った瞬間、「危ないと思ったらそれもって魔法を唱えてみろ。使うときはためらわずにな」アリョーシャさんの言葉を思い出した。
そうだ、あれを使えば打ち勝つ事が出来る!


急いで左手で取り出す、パンツのポケットに入れていたから大丈夫。ちゃんとある。

そうして、「ええい!!」のかけ声と一緒に出したんだけど…、

くしゃみが出ちゃった。


****


改造カートリッジをあんな風に使うか!

突き出された左手とカートリッジ、そこに良く人を脱がす(主に神楽坂)くしゃみが加わった事で「超・風花 武装解除」とも言える魔法が出来た。
なにせ、「闇の吹雪」と障壁他、一切合切を吹っ飛ばして脱がす、前回はマントまでだったが今回は全裸。

「…やりおったな、それにアレは小僧の…。フフッ…フフフ、期待どおりだよ。さすがは奴の息子だ…」
一応賞賛を送ってはいるが、赤い顔が引きつってますよエヴァンジェリンさん。

「あ、あわっ、脱げッ…!?ご、ごめんなさッ」
そりゃ、600歳とは言え女の子だからね、全裸は恥ずかしいでしょ。

にしても、ネギよ、お前は女の子を脱がす星の元に生まれてきたのか?それともエロネタを振りまく星の元なのか?
ちょくちょく脱がしているではないか。

「ぐっ…、だがぼうや、まだ決着はついていないぞ」
全裸になっても戦闘意欲は落ちていないエヴァ、その時だった。

詰め所の通信機から「点検終了、間もなく復旧します」一報が入ったのは、本来の予定時間より早かったな。
長引けば迷惑がかかるからって頑張ったんだな、担当の人達。

今日の仕事はここで終了、後は見回り要員に任せるのだが…、何か忘れているような…。

『結界も復活しますよ』
「あ」

あいつ、結界内ではマント無しで飛べなかったよな?

『飛べません、それにあの身体では着水時の衝撃には耐えられません』
「いけないマスター!戻って!!」茶々丸も同じ結論に達したようだ。

着水時には大いに衝撃がかかる、「コンクリートに叩き付けられるような物」と評されるほどに。
飛び込み選手は指先から真っ直ぐに飛び込む事でその衝撃を最低限にしている、だからオリンピッククラスの人の着水は綺麗なのだ。

だが、それが出来るのは訓練を受けたか天性の物を持っている人間だけ、カナヅチにそれを求めるのは酷って物だ。

「悪い真名!戻ってきた連中への説明頼む!話は後で!」
「ああいいよ、その代わり一回オゴリだぞ」
「あいよ!ディナーでも構わんぞ!」

そうして大橋まで転移する、間に合うかな?


「媒体無しの転移魔法まで使えるとは…。一枚80万の転移魔法符を使っている身としては羨ましいよ。さて、何をオゴらすか…」


****

「な…何!?」次々と灯される明かり、それは彼女たちのスケジュールより大いに狂っていた。
「予定より7分27秒も停電の復旧が早い!!マスター!!」

「ええいっ、いい加減な仕事をしおって!」
いや、そこは褒めるべき所であって貶す所じゃないぞ、と内心ツッコミを入れる。


「きゃんっ」と可愛らしい悲鳴を上げ、大きく痙攣して落ちる、封印が復活した。
落ちていくエヴァ、「エヴァンジェリンさん!!」無謀にも飛び降りるネギ。

馬鹿野郎、お前は杖無しでは飛べないだろうが!

「ネギーッ」「杖よ」

何とか杖と手を掴む事は出来た、しかし所詮は10歳児の身体、エネルギーを吸収しきれずに手から杖が離れる。

そのまま一緒に落ちてしまいそうになった次の瞬間、「無茶するなって」『フローター』


「アリョーシャさん…!?」「これは…、小僧の魔法か」


何とか間に合った。


****


封印が復活して、エヴァンジェリンさんが落ちていく。
あの人は僕の生徒、だから助けなきゃと思ったら飛び出していた。

「杖よ」僕の杖を呼び出す、でも思ったより遠くに流されていた。

右手でエヴァンジェリンさんの手を、左手で杖をつかめたけど腕が引っ張られて思わず「くっ…」声が出る。
そうしたら左手がゆるんでしまった。

杖から離れていく、このまま落ちてしまうのかな、とぼんやり思っていたら

「無茶するなって」聞き覚えのある声がした。


正方形が二つ回っている魔法陣が現れて、ふわりとした感覚に包まれた。

見上げると軍服みたいなのを着た「アリョーシャさん…!?」が飛んでいた。


****


助けてもらったのとお姫様だっこが気恥ずかしいのか赤ら顔のエヴァ、始めて見る魔法に興味津々なネギ。
そんな二人をフローターを使い、橋まで持ち上げる。

茶々丸に「ありがとうございます、アンドレイさん」礼を言われたが、それほどの事はしてはいない。
あのまま落ちても衝撃が相当殺されていたので濡れる程度で済んだ事だろう、まあそれを分かっていてした自分も自分だがな。


橋の上に置いた後、ネギの勝利宣言と「一つ借り」発言、見た目相応な感じの口喧嘩、と言うかその出席簿、何処から出した。
傍目には楽しそうなお祭り騒ぎを締めにしてこの勝負は終わり、幕は引かれた。



そうして一件落着と思われたが、やはりというか何というか、各人による追及大会が開催された。

神楽坂の「アリョーシャ、アンタも魔法使いだったの!」に始まり、
カモの「なんでここがわかったんすか?アンドレイの兄貴」、
ネギの「何なんですかあの魔法は?前の魔法もそうでしたけどあんなの見たことありませんよ」と各々の質疑を浴びせかけられる。

いや、一遍に言われてもおにーさん困るんだけどな。


そこに「のぞき見の成果が出たな、小僧」とエヴァが油を注いでくれやがったからもう大変。

真名に加えてコイツら二人と一匹にもちゃんと説明するハメになっていまいました。



****



翌日、反省会という名の僕が如何にやりすぎたのか懇切丁寧な糾弾大会がされるは、

オゴると言った真名に学園都市内で一番高い店に連れて行くハメになり、エスコートの為に変身魔法使うハメにもなったし、
一番高いコースを頼まれるは、散々でした。


『それはいいですが、何でソムリエにお勧めワイン聞いて頼んでるんですか。高く付きますよ』
いいじゃん、半分ヤケ酒で半分美味しくいただく為のワインだよ。


そういう訳で財布がピンチにはなりましたが、大変美味しくいただきました。








あとがき:TVを見ている最中に電話が良くかかってきた所から着想を得て書いてみました。




[4701] 第十七話「狸穴町」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/01/17 21:49
祭りの後の水曜日、昼休みを利用してネギ達に説明すべくスターブックスカフェに向かう。



夕方から昨日の報告会兼反省会が行われるんだが…、文句しか言われないような気がするのは気のせいなのかなー。


『十中八九気のせいではありません。ここの人達は過剰な事を嫌いますからね、昨日の同志の砲撃なんてその最たる物です』
あ、やっぱり?自分でもやり過ぎたなー、とは思っていたんだけどね。


『真名さんへの説明とディナーもありますからね。今月の遊興費から引いておきますよ』
そんな!酷いぞミーシャ!来週からの修学旅行で色々と入り用だというのに!

『ご心配なく、先々週の株取引の収益を丸々計上していますので十二分な予算になるかと』
あ、そうなの、良かった良かった…って、そういえばいつからだっけ?お前が僕の財布の紐握るようなったのは。


『同志が嘱託魔導師試験に合格して、お父上から私を受け継いだ頃からです』
つまりは魔導師歴と同じと、…デバイスに財布の紐握られるのが当たり前の魔導師…、なんか情けなくね?

『余り気にしない事です。何せお父上も同じように私が握っていました、大奥様の命令で。私は大奥様には逆らえませんからね』

うわ、親父も同じ目に遭っていたのか…。


****


このインテリジェントデバイス「ミーシャ」はコンドラチェンコ家三代に渡って使われているデバイスだ。

実は大奥様こと、うちの祖母さんの作品だったりする。バックアップに使っている簡易ストレージデバイス「スキッチェン」も祖母さん製。
うちの祖母さんは元デバイスマイスターで、祖父さんが配属された部隊に所属していたとか。

そこで祖父さんに惚れた祖母さんが自腹切って作ったデバイスをプレゼントしたのが馴れ初めと、小さい頃に聞いた事がある。
そのデバイスがミーシャだ、なのでミーシャは生みの親である祖母さんに逆らわない、ていうか逆らえない。


今でも現役のデバイスマイスターで魔導師の叔父や叔母、従弟妹達のデバイス制作やメンテをバリバリこなしている女傑だ。
で、一時指導教官をしていた事もあるだけに、人に物を教えるのが好きで、初孫である僕も色々と仕込まれた。


今の機材でメンテナンスや弟子用の簡易ストレージデバイスの制作が出来るのも祖母さんの御陰だ。

なにせ、「ろくな機材のない世界でも作れる簡易ストレージデバイス」と言うどこぞのステンかAR-18ですか貴方は、みたいなコンセプトで作った「スキッチェン」
構造は殆どAPS拳銃で9mmマカロフ弾も撃てます、材料も魔法で弄ってあるとは言えスチールだし。

コレを参考にし、CPU兼メモリとしては十二分な量子コンピュータ、そして小さい頃から仕込まれた技量の三つが揃った御陰だからね、作れるのは。


余談だが、ミーシャは祖母さんが作った時はもっと素直な性格付けにだったそうだ、祖父さんの要望を聞いて弄っていく内に今みたいな性格になったそうな。


……祖父さん、そのまま素直にしておきゃあ良かったのに何でこんな性格に…、御陰で息子と孫が苦労する事に…。


****


そんな事を考えているうちに「アリョーシャさーん!」と着いたみたい。
だから、さんをつけるなよ、ネギ助野郎。



適当な事を考えるのも面倒なので、異世界の司法機関所属の魔導師である事とこっちに来たのは事故で、救援待ちな事を隠さず話す。
で、たまたま居合わせたエヴァとは協定結んだ関係で、各種便宜を図って貰っていると。

「ええと、そんな事を言われましても…」
「アンタ、頭大丈夫?」

うん、やっぱり変に思われたよ。

「当たり前だ、私だって最初はそう思ったぞ。証拠を見せてやれ」


と言うわけで実証、

用意した二つのキッチンタイマー、二人に確認させてから同じ時間に設定させてスイッチオン
一つを茶々丸に持たせて少し離れた所に立たせ、もう一つは神楽坂に持たせる。

使っているテーブルの周辺に『封時結界』をしばらく展開、解除後に二つのタイマーを見せるだけ。

「え?これって?ええ?」
「なんなのコレ…、ホントに魔法みたいね…」

同時にセットしたはずのキッチンタイマーがものの見事にずれていた。


茶々丸や周りの客が見えなくなったのとの合わせ技で

「まあ、信じるしかないわね。にしても、異世界ねえ…」バカだけに物わかりのいい神楽坂と、

「他にはどんなのがあるんですか?」遊んで欲しい子犬みたいな目をして色々と訊きたがっているネギ。

取り敢えず信じて貰えたようだ。


****


「ちょーど、良かったじゃん。ネギ、ねえ」
「ハイ」「え?」「ん?」


実証後、ネギの親父の話となった。

資料では10年前に死んだ扱いだが、ネギ曰く「6年前のあの雪の夜…、僕は確かにあの人に会ったんです」と。
どうやら生きてたようで、惚れてたっぽいエヴァは嬉しそーに馬鹿笑い。

そこから京都のどっかに一時の住み処が有ると分かったのだが、「困ったな、休みも旅費もないし…。服の弁償代とかで…」
うん、やっぱコイツは女の子を脱がす星の元に生まれてきたに違いない。


「え、うちのクラスは京都・奈良になったんですか?」
担任のクセして修学旅行の目的地が初耳のネギ、ここの所の騒動で大変だったのは分かるが、もっとしっかり仕事しなさい。


「京都や奈良は何度か行ったけどいい所だぞ。ウチのクラスはハワイだ」


****


選択制となっているとどうしても揉めるものである。

歴史好きは京都・奈良に行きたがるように、好みで揉めていた。
やれ、あそこは嫌だの、あそこはどうしても行きたいだの。


そこへ一石を投じた男がいた、そいつはハワイ派のようで効果的な一言を練っていたらしい。
いくら濃い学園生活とはいえ所詮は中学生、野郎のリビドー、フロイト先生の方のな、を刺激する事を言ったのであった。

「向こうのお姉ちゃんはバストがビッグだぞ。女子中等部のしずな先生クラスがゴロゴロいるらしい」
しずな先生はこちらでも有名な方である、あのメートル直前クラスがいくつもあるのかと、単純なおっぱい星人共は即刻賛成に回った。

とは言え、しずな先生の魅力は大きさもさることながら、あのギリギリのバランスもあると思うのだが。
向こうは他の部位も”デカイ”人も多いしなあ。

京都派は留学生の僕をダシにして盛り返しを狙ったようだが、「春休み中に行った」の一言で諦めるをえず、
勢い付いたハワイ派に敗北を喫する事となったのであった…。


****


放課後、とっても嫌な報告会兼反省会。案の定遠回しな糾弾大会と化した。


ナントカ地区では何人捕縛しただの、内何人が病院送りになっただのの報告が続く。
必ず最後に「なお、支援砲撃による病院送りは○○名です」と人の方を見ながら言ってくる。

アチラさんも支援をしてしまった後ろめたさが有るのかして直接的には言わないが、遠回しに言ってくるのも何かなあ。
刀子先生とかははっきりと「過剰すぎます」と言ってきてくれるからまだいいんだけどな。


あ、弟子一号ことタカミチのオッサンも何か言われてる、最近、外の仕事で"やりすぎている"らしい。
「全く、あなた方は手加減という言葉を忘れているのですか?高畑先生は彼の弟子になってから忘れたようですが…」

…何げにひでえ事言われてるな、こっちは幼少の頃から「手加減するのは失礼」と教えられて育った人だからねぇ。
タカミチのオッサンは"楽しい"んじゃないの?ちょっと前まで使えないから別方向を鍛え続けた人だし。


そんな中だった、弟子二号ことメイちゃんの担当地区の番が来たのは。あそこは珍しく支援要請がなかった所だったんだが…。


報告を聞いて分かった、要請がなかった理由が。メイちゃんがやりすぎてしまって侵入者の皆さんをみんな病院送りにしたのだ。
「愛衣、貴方やり過ぎよ…。森の中に逃げたからって、砲撃で焙り出した上に吹っ飛ばさなくてもいいじゃない…」

疲れた顔で何か遠く方を見ている高音の姉ちゃん。可愛い妹分兼パートナーがたった三ヶ月で見事な砲撃手になってしまって悲しそうだ。


念話で尋ねてみる「どうしてそうなったんだ?サーチャーと組み合わせた誘導弾で十分間に合ったはずだぞ?」
「イエ、何て言いますか…、始めはそうしていたんです。でも侵入者の方達が思っていた以上に多くて…」

「広域砲撃で焙り出してしまおうと考えてしまったと?」
「ハイ…。それに何て言いますか、撃っているうちに何か、こう、気持ちが…」
「あー、それ経験有るわ。ランナーズハイやトリガーハッピーとか言われている状態だ、ソレ」

長距離走っている内に気持ちよくなったり、「ヒャッハーッ!」とか叫びなら撃ちまくったりするアレだ。
エンドルフィンの過剰分泌が原因とされていて、コレに陥ると冷静な判断が不可能となる。


さて、そんな状態になってしまった弟子二号。
師匠としては冷静さを失ってしまった事を叱ってやりたいが、それは訓練の時にでもすればいい。

今はもっと身近な人へのフォローをさせよう、人間関係の修復は早いほうが良いのだ。


「やりすぎた事を反省する事、それとグッドマンさんに心配を掛けてしまった事をちゃんと謝る事。いいね?」
「ハイ、お姉様にはちゃんと謝っておきます…」

叱られた犬みたいにしょんぼりするメイちゃん、それを見た高音の姉ちゃん。
「大丈夫、怒ってないわよ」と言った表情で微笑みかける。


どうこう言っても”パートナー”だからな、あの二人は。
たかだか暦の上で三ヶ月、実時間なら半年程度の付き合いの僕には届かないんだよな。

ちょっと悔しい気もするな。



****



日曜日の東京都港区麻布台二丁目。
一昔前まで「狸穴町」と呼ばれていた所に其れはある。


あのバ○タン星人の力がここまで及んでいた事には驚愕をせざるを得ない、存在しない筈の人間のパスポートをここに作らせるとは…。


そう、在日ロシア連邦大使館である。


しかもだ、大使閣下直々の応対とは…。
「何、あのコノエモンに借りが作れるのなら安いものだ。スモレンスカヤのお偉方も同意見だ」との事。

…この世界の魔法使いって、裏で政府機関と深く繋がっていて、あれこれやっているのがよく解るな、特に○ルタン星人が。


それとだ、この世界は魔法の存在を専門機関まで作って直向きに隠している。
国レベルの情報を扱う諜報機関とも繋がっていると考えた方が自然だ。

"偉大なる魔法使い"に成れない、成らない連中はその方面行ってそうだな…。
もしや、吹っ飛ばした連中の中にはCIAやらFSBに国家安全部所属の連中が混じっていたのでは…?

大使閣下も「君自身と君の魔法には大いに興味があるよ。色々と訊きたい所だが、コノエモンと対立するのは我々の本意ではない」
と仰っていたからな。

うわ、予想が当たっていたら諜報機関のブラックリストに書かれているやもしれん。
それは…、嫌だな。



****


大使館発行の偽造パスポート(外務省発行一般査証&合衆国発行短期観光査証着き)を貰った帰り、渋谷に服を買いに来た。


この時期のハワイは最高気温が26度以上になる。そのために夏物衣料が必要なのだ。

服を買うだけなら学園生協でもいいのだが、時期がちょっと早い事もあって夏物、特に盛夏物は殆ど並んでいない。
ゴールデンウィークを過ぎた頃に本格的に並べると生協の白石さん(衣料品担当)が言っていた。


え、夏物持ってないのかって?
ミッドの実家や士官学校の寮にはあるが、事故でこっちに来た人間ですから持ってません。

よって、下着やら靴下やらの衣料品あれこれ買う事になるわ、制服も作らねばならんわで、始めは大変でした。
特に制服がなあ、既製のは幼少から鍛えた関係上、左右の手の長さとかあちこち常人と違うから違和感有って嫌だったな。

最近は学園都市の近く、瀬流彦先生が紹介してくれたナポリ仕立ての店で仕立てた制服を着ている。
立体で仕立ててあるのと、仮縫いを何度もしたので実に着心地がいい、皺が幾つかあるが、それが逆にいい味出してる。

優男だけあって趣味いいな。



そうして、一通り買い終わったので目に付いたクレープ屋に有ったゴーヤクレープを囓りつつ(買うとき苦いよと言われたが、沖縄育ちだと言い返し

て買った)
ぶらりと歩いていると、見覚えのある三人がとっても怪しい事をしていました。


****


「何してんの?」思わず声を掛けてしまいましたよ。

さっきからネギとこのかちゃんの買い物の邪魔ばっかしているガングロセーラーの柿崎・桜子に何故か似合っている学ランの釘宮。
こんな怪しい人達とは関わりたくありませんが、一応顔見知りという事で…。

「うわあっ!?、ってアリョーシャ君じゃん。こんなトコでどしたの?」と柿崎。
「ビザ貰ってきて、ついでに夏物買ってきた所」買い物袋を見せれば納得する。

「そいやー、ハワイ行きだったね。暑いから大変でしょ?」と桜子、
「いや、逆にハワイの方が過ごしやすいぐらい」

「え?あんた、ロシア人でしょ?何でハワイの方が過ごしやすいの?」と釘宮さん、後のお二方も驚いています。
ごもっともな意見でございます。


ロシア系だけど亜熱帯の沖縄育ちなんだもん。
麻帆良やクラナガンに皇都の冬はちとキツいし、元東方辺境領やモスクワの冬は耐え切れません。

防寒専用バリアジャケットを暖房の効いた所以外ずっと展開し続けなければ耐えられません。
最大容量がデカイいからこそ出来る技なんだけどな、魔力の少ない連中からは「壮絶な無駄遣いだ」と言われてたりする。


「へー、沖縄育ちなんだ」
「そうそう、だから暑い方が慣れてるの。で、何してんの?さっきからネギとこのかちゃんの買い物を邪魔しているようにしか見えないけど」


****


……流石はノー天気、そんな考えに辿り着くとは考えもしなかったよ。

そして、雪広さん。筋金入りのショタコンなのはいいが、成長したらどうすんだ?


で、なんで僕まで茂みで覗いているのでしょうか?『相変わらず押しに弱いですね、苦労しますよ?』止めろって。


人が現実逃避している横で姦しくしているチア三人娘。
「ああ~っ、ヒザ枕だーーっ」
「くぅ~っ、うらやましいわね。このかの奴~っ」

…最近の女子中学生はショタコンの気がある奴ばかりなのか?それともこの世界の女子中学生独自の傾向なのか?

『そんなキリが無いクセにどうでもいい事この上ない事なんか考えないで下さい』


と、現実逃避を続けていたときだった。
「あ、そや、カード!ネギ君にキスしたら出てくるんやった!うふふ、丁度寝とるし…」


カード?キスしたら出てくるって、仮契約カード?秘密じゃなかったのか?それともまたぞろバレたのか?


「ん~~」
とネギに唇を近づけるこのかちゃん、やっぱ換われ今すぐ換われ。


****


そうして、明らかになった真実。

バースディプレゼントのオルゴールを渡すネギとこのかちゃん、邪魔したときの買い物をプレゼントと言って誤魔化すチア三人娘、
「私は明日、渡しますわ」とショタコンの雪広さん。

…そこの三人娘よ、何さ、その「プレゼントは?」って顔は。
僕も渡さなきゃならないの?『渡した方が得策です。明日までに用意しましょう』…何でさ。



そう言うわけで、さほど親しいわけではない女の子にプレゼントを用意する事になってしまった僕、女難の相でも有るのか?




****




京都某所、メガネ・白髪・犬耳・ゴスロリの何の脈絡も統一感もへったくれも無い四人組。
集まって何をしているかというと、所謂悪巧み中である。


「いよいよ来週やな?」
「ああ、来週の火曜日から四泊五日の日程みたいだね」


「どない奴が来るんやろか?楽しみやわー」
「まあ~、ウチはやとわれたからには仕事はキッチリさせてもらいますー」


計画の確認をする四人、しかし首謀者の顔に懸念が浮かぶ。

「そやけど、一つ問題がなぁ…」
「麻帆良に現れた大砲使いかい?」


そう、大砲使いこと、我らがコンドラチェンコ君の事である。
あれだけ派手に且つ過剰気味な事をしてればそりゃあ、噂が広がって当然である。


「何やそいつ?大砲てドッカンドッカン撃って来よるんか?」

「そや、ちょっと前にな、お嬢様狙ろうて、鬼を仰山呼んで向かった奴がおったんやけど。魔法で作った地雷原に誘導されてしもたそや、引き返そとしたら後ろから灰色の砲撃みたいな魔法を撃って来よるから進むしかないし、何とか抜けられたら狙撃と、這々の体で逃げならんかったそうや」

彼女の語った陰陽師、彼は何とか逃げられたが、引き際を間違えた侵入者はほぼ、砲撃を喰らって捕まっているのが実態である。


「うわー、えげつなー。堂々と出てこられへんのか?ソイツ」
「なんでもな、そいつがおったら"戦い"が"戦争"になってしまうとか。他にもえげつない事やっとるそやで」

何せ「戦闘は火力で物量は正義」が座右の銘な人である。
正々堂々戦って味方に犠牲が出るより、卑怯な事や過剰な事をして味方に犠牲が出ない方がいい、と思っている上に
その手の経験を積んでいる人間の辞書に手加減や手心の文字はない。


「僕は何故そうするか解る気がするな。戦争に置いてはそれは正しいよ」
「ウチも解りますわ~。どんな人か見てみたいわ~」


「ちゅーても西洋魔法使いやろ?派手な事はせえへんと思うけどなあ」
「いや、殆ど気にせずに撃っているらしく、隠蔽が大変だそうだよ」

そもそも前提条件が違う世界の人間である。
この世界の魔法使いは表に出ず、隠蔽に力を注ぐが、管理世界は隠す必要すら見当たらなく、管理外世界でも各種結界で分からなくしてしまうので
全く気にしないで使う。

そんな育ちの人間に隠せと言う方が無理がある。


「そう言うこっちゃさかいに、護衛ん中にそいつがおったらいろんな意味でえらい事になる。準備は十二分にせんとあかんで?」


そうして、彼女たちは準備を進める。かの砲撃のごとく、過剰に。







あとがき:いよいよ四巻突入です。元ネタの「三巻王」にはならないで済みました。

で、京都について行くのもお約束過ぎて面白くないので、ハワイに行く事と相成りました。
なので、京都で起こる事の大半に関わりません。


オリジナル設定
スキッチェン:APS拳銃の中にアンカーガンからアンカー射出機能を引いたのを組み込んだ感じのデバイスです。




追記:次回、ガンドルフィーニ先生がかなり出てくる予定です。




[4701] 第十八話「晴れた空、そよぐ風」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/09/20 21:07
夕方の新東京空港国際線発着ロビー、麻帆良学園男子中等部ハワイ行きご一行様が集まっている。

そこにやけに整然と整列しているクラスがある、我がクラス3-Aだ。

「委員長殿 !3-A計6斑30名点呼終了致しました!」
そう、何の因果か知らんが、学級委員長なんて役職に就いている。



切っ掛けは編入直後だった。

前任の委員長は引っ込み思案で、統率力のない男だった。
よくある嫌々選ばれた類の奴だ。


そこで、士官候補生としての経験と、嘱託時代に下士官達に色々仕込まれた経験を生かして補佐してみた所、
副委員長の肩書きを送られてしまった。


仕方がないので昔々にハートマン陸曹(口が悪いんだが、愛を持って接するいい人です)に教わったあれやこれやを実践。
その結果、担任の推薦と委員長の譲渡発言で、副委員長から委員長への昇格を受けるしかなくなったのだ。


ええい、もう自棄だとビシバシやった結果、あのような整列と点呼が出来る連中へと変貌を遂げた。

「あの締まりの無いクラスが、君のお陰で整然としたクラスになった。ありがとう」と担任や生活指導の先生には好評だ。



え、逆らう奴出てこなかったのかって?
それが意外な所のお陰で出てこなかったのよ、パパラッチのお陰で。

あいつがあんな記事と「ゴールデンクラッシャー」の二つ名を付けたお陰で「逆らうと潰される」という恐怖で出てこなかったの。
それでも挑んできたクラスの武闘派連中を秒殺したのもあるんだけどね。


あと、見逃せる物は見逃して、緩める所はしっかり緩めているし、恐らくこの学園の中学生一の質と量を誇る猥談も提供してるし、
その類の物もばらまいてたりする。

締める側がばらまいてどうすんだと言う声もあるが、そこは飴と鞭という事で。
飴は良質なのを取りそろえているのでクラスの連中にも好評。


あいつらもキッチリ締める所を締めればいいと判ってきたしな。



ああそうだ、乗り込む前に電話しておくか。機内では携帯は禁止だからな。
「もしもし、僕だ。ちょっと頼みがあるんだが…、」



「…お礼は帰ってからな。うん、じゃあ頼むぞ」
電話を切り、今朝の事を思い出してみる。



****



朝、走っているとネギがいた。
その様は、何というか、年相応というか、遠足の時の小学生の顔だった。
 
「あ、アリョーシャさん!おはようございまーす!」

返答しつつも、いつものようにグリグリとしてやる。
元気なのはいいが、さんは付けるなって言ってるだろが。

「い、いたいですよー」「ホント兄貴達は仲いいなー」
ホント、コイツも懲りない奴だなぁ。



「へ?西への特使を仰せつかったって?聞いてないぞ?」
ネギとの話の中で出てきた話、東西の対立は聞いているし、時々西の陰陽師さん達を吹っ飛ばしているので判っている。


平和条約を締結して睨み合いを解消しようという話は分かる。とは言え、コイツを特使として派遣するのはどうかと思う。

そりゃ、プロパガンダの材料としては「英雄の忘れ形見」は絶好の素材だ。
西の反体制派に襲われれば体制派とっては粛清の発端に出来、東にとっては介入の材料となる。

とは言え、「英雄の仲間」で、強いタカミチの方が特使としては向いてると思うぞ。



それとも何か?千尋の谷に突き落とすって奴か?エヴァの時もそんな事を匂わすような発言をしていたな。
お得意の飄々っぷりではぐらかされたが、ほぼ間違いないと踏んでいるが…。


まあ、甘やかされて育ったガキにろくな奴がいないのは判っている。

それが麻帆良学園の教育方針なら、基本的に部外者の僕が口を出すべき事ではない。
バックアップ役を付けているだろうしな。


だけど、弟分にちょっとしたプレゼントとちょっとした助けを仕向けるぐらいはいいだろ?
あと神楽坂へのプレゼントもな。金が掛かってんだ、気に入らないとは言わせんぞ。



****



新幹線ひかり213号車内、発車して少し立った頃。


「あ、アスナさん。アリョーシャさんから一日遅れのバースディプレゼントだそうです。材料の調達に時間がかかったとかで」
そう言って、アリョーシャさんから渡された包みを渡す。

「アイツってば律儀ねぇ…。どんなのやら…、!!?」
固まるアスナさん、アルバムみたいだけど何が写っているんだろう?


「あ、タカミチだ」タカミチがお酒を飲んでいる写真ばかり貼ってある。変わった所と言えば、タバコじゃなくて葉巻を吸っている所ぐらいかな?
何で、アスナさん固まっているんだろ?


「な…」「な?」
固まっていたのが溶けてきたんだけど、震えているアスナさん。

「何で…、こんなに…、解ってるのよ。あたしの好みを…」
「確かに、アスナさんの好みをよく解っていますね。それに構図や照明、小道具が渋さを引き立たしていますです」

「あー、この写真の高畑先生かっこええなあ」
「むう、アスナの気持ちがちょっとだけ解る気がするわね…」


よく解らないなぁ、タカミチがバーみたいな所で誰かと一緒にお酒飲んでいる所ばっかりなのに。


「てゆうか、誰なのよ!?一緒にいるダンディーなオジサマは!?」


その時だ、アルバムから封筒らしき物がひらりと落ちた。拾ってみると「アンドレイから神楽坂へ」って書いてある。


封筒の中から出してみると「神楽坂へ、色々と考えた結果、お前の大好物を用意してみた。気に入らないとは言わせんぞ」
それを聞いたアスナさんはうれしさ半分くやしさ半分な顔をしている、何でくやしいんだろ?


続きにはキリルで何か書いてあるんだけどこれは…。

「なあ、ネギ君。この続きは何て書いてあるん?」このかさんに尋ねられたけど、
「ゴメンナサイ、ロシアで使われているキリルって言う文字なのは解るんですけど読めません」
と、ホントはアーニャから教えて貰っていて読めるのにウソをついてしまった。だって…、魔法の事が書いてあるんだもの。


「因みに一緒に写っているのは変身魔法で親父と同じぐらいの歳に化けた僕だ。追伸:ネギへ、お前キリル読めるって言ってたな?お前の教え子達は読めないだろうから魔法の事はキリルで書いておく」って、ね。


アスナさんにも教えるべきなのかなあ?
「今度、このステキなオジサマを紹介して貰おう」とか言ってるし…。



****



神楽坂へのプレゼント、それは「タカミチのダンディな写真集:オーセンティック・バー編」だ。

タカミチを捕まえて、変身魔法で親父と同じぐらいに化け、少し前に見つけたいい感じのバー一緒にで飲み、その時にサーチャーで撮影した写真だ。
一緒に飲んだバー、イ○デンホールのマスターの佐々倉さんは若いのに腕がいい、銀座にあるからちと高いのが難点だが。



その被写体が捕まらなくてなあ、昨夜になってやっと捕まった。

で、無理矢理約束を取り付け、とっ捕まえたら銀座まで転移、最初は誰か解らなくて戸惑っていたが、転移したら解って貰えた。
そのまま一緒に楽しく飲み、ダンディズムをパワーアップさせる為にタバコではなく葉巻を吸わせ、飲み終わり次第編集・印刷・製本と、
徹夜して仕上げました。


因みに、タカミチが吸っている葉巻はコイーバだったりする、高いんだコレが。

金は掛かったが、旨い酒が飲めたし、世話になっているお返しが出来たから良しとするか。



****



機内はヒマで有る。
だから新しいって言うか場合によっちゃあ劇場公開前の映画や、スーパー○リオや上海だとかの延々やってられる系ゲーム、新旧洋邦合わせた音楽等々、ヒマ潰しの為の手段が揃っている。


とは言え、ヒマである事には変わりはない。


いつもは騒がしい連中も割と大人しく暇つぶしをしている。
いくらエネルギーが有り余る年頃とはいえ大騒ぎするわけには行かない場所だというのを解っているからな。


…とは言え、「騒ぎすぎたり迷惑を掛ける客がいる場合、機長の判断一つで途中で引き返したり降ろしたりしますからね。いいですね」と凄んでみたのも効いているようで。



そんなこんなでエコノミークラスで7時間ほど、一般的なオアフ島のホノルルでは無く、ハワイ島コナ国際空港にたどり着きました。

クリア直前に消されて叫ぶ奴、ずっと寝ていて寝惚け眼の奴、酔って吐いて顔色悪い奴、「あんな鉄の塊が…」とか言って顔色悪い奴、
ナチュラルハイな奴、様々な人間模様を浮かべながら、皆降りていく。


搭乗口の近くでも空気の匂いが違う。ああ、遠い所まで来たんだなと、実感する瞬間だ。

そうして、タラップから降りる。日差しが眩しくて、風か気持ちいい。
ハワイへと辿り着いた瞬間だ。



****



ハワイ島の観光名所と言えば、キラウェア火山です。
他にもいっぱいありますが、第一目的地がそこなんです。



麓とは全く違う海抜1200mの風、ちょっと肌寒く、空気がちょっと薄い為か柔らかい風。
そんな風が吹く玄武岩の荒野、時折風と共に硫黄の匂いがする。

その荒野の中にあるカルデラ、その中にあるハレマウマウ火口。
ハワイの神話では火の女神ペレが住まう場所という。

眺めてみて、なるほどと納得した、硫黄臭さの元の噴煙が吹き、所々で溶岩の赤が見える。
人が留まれるような所ではない、神ならば留まれると考え、神の住まう場所とされたのだろう。



その次、第二目的地は酸素吸入器と上着必須の場所、マウナケア山頂です。

途中で必ず休憩するのだが、ここの学校の連中は適応能力高いなあ。
ここでも標高2800mあるのに高山病にかかってる奴が一人もいないとは…、恐るべし!麻帆良生徒!!

ものの10分で山頂近く、冬は雪が積もってスキーも出来る山頂平原となる。
かの有名な「すばる望遠鏡」もここにある。


時刻は夕方近く、間もなく日が沈む頃。その夕日を見に来たのだ。

そして西の空に日が沈む、海と島と夕日の作る光景。
この島で一番高い所からの絶景だ。


自然には敵わないねえ、色々見てきたけど、どれも飽きないわ。




短時間での気圧や酸素濃度の変化というのは結構体力を削るものです、


流石の麻帆良生徒も体力を消耗してしまっていてとても大人しくしています。
夕食のハワイ料理も、いつもの事を思うと大人しく食べています。

学級委員長としては楽でいいんだけどね。
いつものノリだったらこっちが疲れるのよ、ウチのクラスの場合は僕の一喝で大人しくなるからいいけど、他のクラスなんてもう…。

疲れと、枕投げも出来ない(ホテルだからね)のもあって殆どの生徒は大人しく就寝。そうして、修学旅行一日目は終わるのです…。




****




開けて二日目、朝食後に空路ホノルルへ。
ワイキキビーチ近く、カラカウア通り沿いのホテルに移った後、


ホノルル市内観光と銘打ってはいますが、メインは違います。
なにせ男の子ばっかりですから。


カメハメハ大王の銅像やイオラニ宮殿等々のハワイ王国時代の名所を見ますが、楽しみはその後、


アリゾナ・メモリアルセンターでございます。

一応選択式になっていて、ダイヤモンドヘッドとかに行くのも用意してあるが、殆どがこっちを選択した経緯がある。
とは言え、沈んでいる方にはあんまし興味がない連中ばかりで、大半がアイオワ級3番艦・戦艦ミズーリを見に行く人ばかりです、

一部の通が潜水艦見に行くけど。



そう言う僕も戦艦ですがね。


だって、第97管理外世界じゃあ武蔵に沈められてて、沖縄の海底に行かない限り見られないもん。
オアフ島で記念艦として公開されているのは4番艦ウィスコンシン、降伏文書に調印したのもこのフネ。


双方の世界ともアイオワ級は4隻現存してるけど、知ってる方では戦没した2番艦ニュージャージーとこのミズーリの替わりが5番艦イリノイと6番艦ケンタッキー。
2隻沈めた同型艦(大和)が浮いている事と、ソヴィエツキー・ソユーズ級が就役したのでその対抗で完成させたのだ。


因みに知っている人は知っている、サクラメント級AOEの機関は第97管理外世界の方は未成空母ユナイテッド・ステーツのを使い、こっちはケンタッキーのを使ってたりする。

酷似している世界なのに微妙な違いが結構あるんだよな。



****



さて、アイオワ級3番艦ミズーリですが、特攻機がぶつかって凹んだ後とか、あんまし改装されてない所とかの色々な違いが多くて面白いわ、コレ。



同じ様に記念艦になってるウィスコンシンならば昔に細かく見せて貰えた事がある、それも普通は立ち入り禁止の所までな。
何で見せて貰えたかというと、去年の夏期休暇後半、高町家に遊びに行った後、陛下他の友達連れで、


藤堂の爺ちゃんこと進さんと一緒に見に行ったからだ、僕の事は「曾孫みたいなもんだ」と言って可愛がってくれている。


見学に来た相手が、海自の元提督で、このフネと最後の戦いを繰り広げた「武蔵」艦長の忘れ形見。
「やまと」の艦長を務め、統一戦争時には第二機動艦隊司令で樺太強襲作戦の指揮を執ったと、

これだけ並んだ相手ならそれ相応に丁重に扱わなきゃダメでしょ、と爺ちゃんを知っていた担当者が考えたのかして
えらく丁重な扱いだったのを覚えている。

何てったって、案内役として付けてくれたのが退役時まで乗り込んでいて、退役後にここに就職したベテラン下士官と来たもんだ。

対応も現役時代と変わらなかったって、藤堂の爺ちゃんが言ってた。



****



隣のボウフィンの回天四型を見てたら時間となりまして、ホテルへと帰還。


夕飯はアメリカらしい固え上に火を通しすぎた牛肉、茹でるときの塩がちと多かった海老、えらく甘い上に不自然な色のお菓子等々。
素材は悪くないのよ、牛肉は牛肉らしい味で肉食ってるって感じだし、海老は新鮮なのでプリプリしてるし。


それらを打ち消してるのが、大雑把な調理法と大味な味付けなんだけどね、まあ、団体さん用だからしょうがないけど。
…レストランとかの個人向けは悪くないし、美味しいのよ。

藤堂の爺ちゃんに連れてって貰ったお店、太平洋艦隊司令部御用達(現役の頃に教えて貰ったそうだ)の店は美味しかったし。





夕食後、どうも一杯飲みたくなった。愛用のスキットルはバレたらいけないので持ってきていない。
買うのは後々の手間を考えたらイヤだし、日本に戻って飲むのも時間が掛かってしょうがないし…。

『片道1時間も掛けて一杯飲むなんて事をするよりも、この前のように変身魔法で歳を誤魔化して飲めばいいんです』そだな、そうしよう。



そうして20歳中盤に化けて、やって来ましたホテルのバーに。


そこには見知った顔が二つ、引率のガンドルフィーニ先生と弐集院先生だ。

元々引率をする予定だった先生達が事故や身内の不幸で来られなくなった為、代理としてきているのだ。
デカイ学校だから出来る技だな。


ふむ、あの二人とはあんましじっくり話をした事がなかったな、よし、一緒に飲んでみようと


「隣、よろしいですかな?」と声を掛ける。


「ああ、どうぞ」少々の驚きを隠せない顔をしつつも答える。
そりゃあ、ハワイで、黒人に、ロシア人が、流暢な日本語で声を掛けられたんだ。当然と言えば当然だな。


そうして、バーテンダーに注文をする「メーカーズマークVIP、ダブルをトゥワイスアップで。後、こちらの二人にも」と、英語で。

「いえ、見ず知らずの方の施しを受けるつもりはありません」と、
日本暮らしが長くとも日本人ではないのできっぱりと断るガンドルフィーニ先生。

「まあまあ、せっかくのご厚意なんかだからね。ガンドルフィーニ君」日本人らしく、
相手にも気を遣う弐集院先生。


「所が、見ず知らずの方ではないんですよね」と、一言。それどころか夕食時にも会っているんですよ。

「失礼ですが、どなたでしたかな。私の憶えている限りではお会いした事がないのですが…」
そりゃ、姿変えているんだからね。魔力パターンやら調べたら解ると思うが、そんな事ここではしないしなぁ。


と、注文したグラスが三つ並ぶ。


それを軽く傾け、口の中で転がしながら飲む。

喉を潤わし「ここからは、酔っ払いの戯言を思っていただいて結構です。変身魔法で姿を変えたアンドレイ・コンドラチェンコと言っても簡単に信じては貰えないでしょうからね」

会話の始まりだ。



****



「何?君は変身魔法まで使えるのか?」とガンドルフィーニ先生。

高度な魔法らしく、その用途と相まって必然的に使える人間が少ないらしい。
これも、英才教育のお陰でございます。魔力容量の少ない一族に生まれた大容量の子。

弟妹達もそこそこの容量を持っているとは言え、初めての子だったので小容量コンプレックスを多少なりと抱えていた親族一同大いに期待し、色々と教えてくれたもんです、ハイ。

だがしかし、放出量の少なさだけはしっかり受け継いだので、大出力魔法や相対的に大出力が必要な儀式魔法は使えないけどな!
防御も工夫しない限り、薄めだしな!


「色々と出来るねぇ。あんな砲撃は出来るし、転移も出来れば変身も出来る。ホントうらやましいぐらいだよ」
と笑みを浮かべて、グラスを傾ける弐集院先生。

単なる貧乏器用って奴なんですけどね、出力の関係で。


「オマケに酒の趣味もいいと来た。なかなか美味しいよ、コレ」お褒めいただき光栄です。

「弐集院さん、それよりも…」「…ああ、それよりもだ。一度訊きたかった事があるんだが、いいかな?」
二人が真剣な顔をする。

ええ、機密事項とプライバシーに類する事以外なら答えますよ。
酒のコレクションの内容とかね。


「何で、君は隠そうともせず、我々に苦労を掛けるのかな。そして、何故あそこまで過激な攻撃に出るのか。それを教えて欲しい」
ああ、やっぱりね。この類と思った。

この世界は「あくまでも魔法は存在しない物」として扱っている。
そこにやってきたのは「存在して当然」の世界の住人だ、かみ合わなくて当然でもある。


それもあるんだが、僕の経験もあるんだな。コレが。


「まあ、僕が異世界の出身で、魔法を使った法執行機関の人間である事はご存じでしょう?」

「ああ、学園長から少し訊いた事がある」
最初は隠していたが、派手にやりすぎたときに否定派の何人かに話したそうだ。その一人がガンドルフィーニ先生、
弐集院先生は元から知っている一人。


「それが隠さない理由かい?でも、隠密任務とかの目立ってはいけない仕事もありそうだけどね」
痛い所を突っ込む弐集院先生。でも、ちょっと違うんだよな。

「まあ、そう言う部署もありますけど、こっちで言えば公安や刑事の仕事ですから。僕の所属していた部隊は機動隊やSWAT…、いや救援もしていたからESUか、そう言う所ですよ。やってた事はPKF…、いやISAF的な事ですが」


「ISAF?言う事は君が所属していた部隊が配置されていたのは…」
顔が引き締まるガンドルフィーニ先生、ええ、予想している通りの世界ですよ。



「紛争地域ですよ。それも分裂した多民族国家に宗教が絡んだ最悪のね…」



****



重い沈黙が走る。自分たちの教え子と変わらない歳の男がクソッタレじみた世界を見続けてきた事。
そこから導き出された生き方を、知らぬとは言え否定し続けていた事を。


「何で、君のお祖父さんはそんな所に初孫を送り込んだのかなぁ」呟くように、閉じていた口を開く。

そうでもしない限り、この沈黙に耐えられなかったのだろう。


「祖父さんが言っていました。「闇を見ろ、そこから何か見出せ。何も見出せないのなら魔導師を諦めろ」ってね」
こちらも沈黙が辛かった所だ、ある意味ありがたい質問だ。


「「闇を見ろ」か、その闇が紛争地域という訳か。確かに人間の闇がありありと映し出される場所だな」
グラスを煽り、新しいのを頼んでいる。

思い当たる事があったのだろう、出来れば思い出したくない所に。


「ああ、ガンドルフィーニ君、君そんなに強くないだろう?もうちょっと控えて…。それで…、アンドレイ君は何か見出せたのかい?」
細い目でこちらを見据える。


「ええ、人間っていいな。と思える事を見出せましたよ。闇の中だからこそ綺麗なものが際だって見えて、それを守ってみようと思いました」

「守る為の魔法なんだね、君の魔法は。その過激なまでの砲撃が抑止力となると」

黒いのに赤い顔でこちらを見る、あーもー、そんな強い酒飲んじゃって。
その「ジョージ・T・スタッグス」、アルコール度数が70度以上のバーボンだぞ?


「とは言え、闇もまた人間、僕もまた闇で光。って事で折り合い付けてますよ。陰陽清濁持って人間、綺麗なだけでは生きてはいけません」

「確かに」頷く弐集院先生。

「それに、毒は毒で対抗するのが最も効率がいいんですよ。ほら、抗ガン剤や放射線治療は本来身体には毒ですが、癌細胞には有効でしょ?そう言うものだと思って、僕を使い潰していただければいいんですよ。それが本業の人ですから」


****


一通り話したら何か、スッキリした。
先生方も言いたい事や"何故"が解消したようで、一緒にたわいない話が出来るようになっていた。


「へー、娘さんいるんですか。小学校に上がったばかり?妹の一人と同い年ですね」
「そちらの娘さんは幼稚園と、同い年の双子の弟がいますよ」

二人とも結婚していて、可愛い盛りの娘自慢をする。
こちらは同じぐらいの弟妹がいるので結構盛り上がる。

「アンドレイ君の所は大家族みたいだね。何人家族かい?」
「ウチだけで10人。祖父さん以下合わせて35人の一族ですよ。だからみんな集まるともう…」

特に初孫の僕は、7人の弟妹に15人の従弟妹のお兄ちゃんなので大変だったらありゃしない。
叔父さん叔母さん、いくら懐いていて、扱い慣れてるからって押しつけないで…。


「それだけいると賑やかだろうねぇ。…そう言えば、アンドレイ君」
「はい?」

いい感じに酔ってる弐集院先生が訊いてくる「彼女いるの?」って。
ああ、訊いて欲しくない事なのに…。


「いますよ。ただし、向こうに置きっぱなしですが…」
やけっぱち気味に答える、飲まなきゃやってられません。

「「ジョージ・T・スタッグス」トリプルフィンガー、ストレイト・ノゥ・チェイサーで!」
グラスを傾け、強烈に強い酒を飲む、チェイサー無しは喉に効く。

「それはご愁傷様だね」
こんな時は素に戻らないで下さいよ、ガンドルフィーニ先生。

「しかもですよ?告白されて、OKして、さあこれからだ!と言う所で事故でこっちに来てしまったんですよ!?五ヶ月という中途半端な時間しか経っていないので余計に未練が残りますよ!」
鬱憤が溜まっていたのかして、するすると口から出てくる愚痴。


タカミチやエヴァは、この手の話向いてなさそうだからなあ。
二人とも妻帯者だから恋愛関係の愚痴を言えるのかも。

「まあまあ、新しい出会いを探すとか…」
「彼女がね、結構ヤキモチ焼きで、怒ると滅茶苦茶怖いんですよ」

そんな気軽に言わないで下さい、あの人を知らないからそんな事が言えるんですよ。

「そんなに怖いのかね?君の彼女とやらは」
「同期最強です。局全体でも対抗出来るのは一握りだけ、血筋さえも最強です」

模擬戦をした時なんてまあ…、虹色魔力光に対して死の恐怖さえも感じました。
お母様と同じく、全力全開でぶつかってくるお人です、陛下は。

「君よりも強いとは…。想像も出来ないな」
「浮気するなんて恐ろしくて出来ません。それに…」

「「それに?」」
「先に告白されたとは言え、僕も気になっていましたし…、惚れていた弱みと言いますか…、ね」

…なんですか二人とも、その優しい目は。ニヤニヤしないで下さいよぅ…。


「いやー、若い若い!青春しているねえ、アンドレイ君!」
「君が早く彼女と再会できることと、その後上手く行く事を祈ってあげよう。がんばりたまえよ?アンドレイ君」




京都ではえらい事になっているというのに、酔っ払い二人に弄られながらハワイの夜は過ぎていく…。








あとがき:作中の日程・描写は以前私が実際に行ったときのを元にしています。
とは言え、7年も前の事なので細かい所を思い出すのに時間が掛かりました。






[4701] 第十九話「デウス・エクス・マキナ」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/02/13 16:19
メガネ、こと天ヶ崎千草。彼女は現在ホテル嵐山の従業員として働いている。
今作戦の「仕掛け」の為である。


本来、彼女が考えていたのは「ホテル内に進入後、お嬢様の身柄を確保。その後は人払いの呪符を使って無人とした鉄道網を使い逃走」
と言うものだった。

その作戦を大幅に変更したのは今年の一月、「大砲使い」の話を聞いてからである。



生還者曰く、

「恐ろしく遠くから撃ってくる。それに速く飛んでくるから気付いた頃には手遅れだった」
「狙いは異様なほど正確だ。予測されないようにジグザグに緩急付けて逃げていた奴に命中するんだぞ!?」
「多少の防御なら貫く、障壁が薄かった仲間は悉くやられたよ」
「直撃でも何故か死ぬ事はない、この通り傷一つ無く五体満足だ。だが当たったときの苦痛と来たら…」
「地雷まで撒いている。思わず足を止めたら砲撃が来た」
「砲撃から逃げようと、近くの森に入ったらそこの森全体に罠が仕掛けてあった。魔力型指向性対人地雷に地雷に落とし穴と何でもござれと来たもんだ」
「アレは戦争屋のやり方だ、魔法使いのやり方ではない。昔、傭兵をしていたから解る」

等々の悪評が湧くように出てきたのだった。
その話を聞いた瞬間、自分の作戦が失敗する様が見えた。



攫ったお嬢様が楯代わりになり、大威力魔法を使えない状態になる事を前提としていたこの作戦では逃走中に砲撃されてしまう。

特に「当たっても死なず、傷も付かない」のだ。人質を一切気にすることなく撃ってこれるではないか!


彼女は作戦を大幅に変更する事を余儀なくされ、「網を投げる」のではなく「網を仕掛ける」方向へと舵を切った。
その「仕掛け」の場所としたのが麻帆良学園の定宿、ホテル嵐山であった。



長期間にわたっての仕込みだ。内部の人間である必要があり、他人任せには出来ない仕事。

どの様に内部に進入するか考えていた丁度その頃、従業員の一人が辞めるという情報を手に入れ、その後釜に着く事に成功した。
本山の修業時代に礼儀作法は教えられていたし、大戦以後は一人で家事をしていたのでそれなりに、そつなくこなせている。


一時は、従業員を洗脳して退職させる事も考えた事もある。
丁度のタイミングで退職してくれた事が、彼女にはある意味有り難かった。

裏社会の人間としてのモラル、「表の人間にはなるべく手を出さない」が根付いているからだ。
それはまた、20年前の大戦で死んだ両親の教えでもある。その敵討ちを兼ねた計画だからこそ破るわけにはいかない、彼女はそう思っていた。



****



転移魔法符、かなり便利なものだが、高い。
最低でも80万円、長距離型で120万円もする高額商品である。


それが彼女、メガネこと天ヶ崎千草の前に6枚並んでいる。無論、自腹で用意した。

様々な符の代金と雇った人間への前金とアジトの維持費、その三つで彼女の銀行口座の残高は二桁しか無く、来月の水道代と光熱費も払えるか怪しいほどである。


「失敗だけは出来へんねん…、マジでやばいねん…」


いくら厨房と仲良くなって、賄いや食材の木っ端を分けて貰ったりしていても限界はある。

特に休みの日の食事が特売のヒガシ○のうどんスープに同じ特売の袋うどんだけを入れた素うどんばかり、たまの贅沢と言えば卵やちくわを入れるぐらい、ネギは特売の大束(198円)の根っこをプランターに刺して伸びたのを彩り程度に入れる、そんな生活には嫌気がさしている。


失敗すれば更に酷い、河原のニットキャップマン以下の生活を強いられる事になりかねない、失敗は即ち失職でもあるのだ。

さらには追っ手も来るだろう、東西それぞれに大喧嘩を売るのだ。無事で済む方が異常だ。


そんなときに頼りになる逃走資金はほぼ無く、闇金に手を出して裏表問わずに追われるのは御免だ。

元々の計画では逃走資金も用意出来るはずだったが、計画を変更した為にこうなった。


それもこれも「大砲使い」のせいだと、逆恨みとも言える感情と、プレッシャーに追いつめられながら修学旅行の日が来た。
ホテル内の仕込みはほぼ出来上がり、式神も配置した。


後は来るのを待つだけ、対応を見極める為のイタズラ程度の仕掛けも、あちらこちらの女子中学生が好みそうな所に配置した。
願わくば「大砲使い」が来ない事を祈りながら彼女たちは動き出す。



****



ホテル嵐山の露天風呂、そこに一人の子供先生と一匹の犯罪者オコジョが浸かっている。

「ふー、今日は色々あったねー」
「おうよ、カエル入りの落とし穴に酒を仕込んだ滝と、つまんねえ妨害ばっかりだったぜ」

妨害はあったが、地主神社に落とし穴があったり、音羽の滝に酒が仕込んであったりと、イタズラ程度でしなかった。
そのために、やや気を抜いていたフシが一人と一匹にはあった。

まあ、露天風呂の開放感もあったが。


「こんな妨害ばっかりだったら助かるんだけどねー」
「その通り何だけどな。ただ、せっかくアンドレイの兄貴が用意してくれたプレゼントが役に立たねえよ」

朝、プレゼントとしてアンドレイから受け取ったもの、アポーツの術式を組み込んだ袋。
その中には彼にしか用意出来ないものが詰まっていた。


「うーん、アリョーシャさんがくれたのを使わないで済むのが一番なんだけどね」
「まあ、そりゃそうだ。あのカートリッジって奴は恐ろしいまでの魔力が入ってんだ、そこいらの魔法使い相手に使ったら死んじまうかもしれねぇ」

そう、幾つかの改造カートリッジとある物を弟分にプレゼントしていた。

エヴァンジェリンとの戦いでその効力を知っているだけにどうしても慎重になっている。
あの時は偶然出た「風花・武装解除」で発動したから殆ど被害がなかったものの、「雷の暴風」で発動していた場合、
エヴァや大橋にどれだけのダメージを与えていたか見当も付かない。

だからこそ、使用には慎重となっていた一人と一匹だった。




稍あって、一人と一匹の話はとある神鳴流剣士の話に移っていた。

「う~ん、魔法使いに剣士は天敵だよー。出来れば戦わずに…」

と、誰かしら知らないが入ってくる音がする。
振り返ると、噂をすれば何とやら。


噂の人、子供先生の教え子が一人、出席番号15番桜咲刹那であった。



そう、ここは男にとっては羨ましいやら居づらいやらな場所、混浴風呂だったのだ!



****



覗いたり握られたり、誤解を解いたり解かなかったりした直後だった、脱衣所どころかホテル全体から悲鳴が聞こえてきたのは。

押っ取り刀で浴衣を羽織り、浴場から出た二人と一匹の目前に広がっていた光景、それは、


カエルの団体さんでした。


もう、そこら辺中にカエルカエル。カエルの団体さんがうようよと。

トノサマガエルやアマガエル級が一匹二匹なら騒ぎにもならないが、ガマガエルやウシガエル級、何をとち狂ったのかゴライアスガエル級のカエルまでいる。


まあ、本人もやりすぎたと思っていたようで後に「何であないにでかい、信楽焼のカエルみたいなん用意したんやろ。やりすぎたなぁ」と言っているが。


それが百匹どころではない数がいれば大騒ぎになって当然である。

少数のカエル好きは喜び、大多数のカエル嫌いは悲鳴を上げたり意識を手放していたりと、混乱のるつぼと化していたホテル嵐山であった。



我らが子供先生や魔法教師の瀬流彦先生、「鬼の新田」こと学園広域生活指導員の新田先生などの先生方は何とか事態を収拾しようとするが、
誰もこんな、カエルの団体さんの襲来を受けた事はない、いたら見てみたいほどだ。なので収拾のしようがない。

因みに、カエルが苦手なしずな先生(巨乳)は早々に意識を手放しているので出番は無い。



収拾のしようがない混乱の最中、また一人気を失う人間が出る。
ただその過程が少し違っていて、顔面に飛びつかれてバランスを失い壁に頭を打ち付けた、「ようにしか見えない」気の失いかただった。

ただし、飛びかかったのがゴライアスガエル級(体長30cm以上)なので誰も疑ってはいないが。


****


「このか!?」
カエルを回収していた神楽坂明日菜は、気を失ったルームメイトにして親友の近衛木乃香の肩を掴み、揺さぶろうとしていた。

揺さぶろうとした瞬間、「お客様!?頭を打った人にそれは厳禁です!!」腰まである黒髪の従業員に止められた。

「この様な時は安静にして、頭を冷やしながら様子を見るのが一番です」
「はあ、そうでしたね」


人間は咄嗟の時に正しい事を言われると、無意識の信用をしてしまう。


麻帆良学園では中等部以上の生徒には救急救命講習を受けさせている、3-Aの誇るバカ集団、バカレンジャーのバカレッドでも人の命に関わる事に関しては(やや怪しい所があるが)憶えている。


その発言が、知識としてある妥当な頭部強打時の処置だった事と、カエルの大量発生という異常事態によって思考能力が低下していた神楽坂明日菜はこの従業員に対する無意識の信用を余計にしてしまっていた。


だから、何故そこに居たのかとか、従業員が濡らしてきて客同士が様子を見るのが当然だと言うのに「お客様、これを濡らしてきていただけますか」と普通とは逆の事をおかしく思うのが遅くなってしまっていた。



それが彼女の狙いであり、カエルの団体さんもそのための仕込み、音羽の滝の酒は気付ける人間を減らす為の手段だった。
ここまでは上手く行っている、特に障害も見当たらない、後はアジトまで逃げるだけだ、一度転移した後に離れた所からもう一度転移すれば追っ手も撒く事が出来るだろう。


天ヶ崎千草は成功を確信し、事実ほぼ成功を収めていた。
物事には常に鬼札(ジョーカー)が存在し、敵の手中にはギリシャ演劇におけるデウス・エクス・マキナが存在している事を知らぬまま。



****



AMFグレネードは新暦70年代後半、JS事件後にDr.スカリエッティ開発のAMF発生装置を原型として開発・制式された若い兵器である。
一部の部隊や局員を除き、余り使われておらず、使うとしても魔術しきトラップの一時無効化ぐらいなのが実態だ。


コンドラチェンコ一族と薫陶を受けた局員達はその一部に属する。彼らはGRUスペツナズ式戦闘術を発端とする戦闘術を習得しており、魔法を主ではなく従、若しくは使用しない戦闘が可能な為、攻守問わずに多用出来る。

必然的に一族が一人、アンドレイ・コンドラチェンコも10発と標準からすると異常な数を保有しており、そのうちの一つを"弟分へのプレゼント"にしていた。

本職のデバイスマイスターには及ばないもののそこそこの腕で改造を施して。


****


「あ、兄貴、間違いないぜ。関西呪術教会の仕業だ!カタギを巻き込むたあゲスな!」
「う、うん。でもどうしてカエルなんだろ?」
「うーん…、またまたイヤガラセかそれともこの騒ぎに乗じて何かを狙っているのか…」

もっともな疑問を持ちながら回収を続けるが、数が数だけに回収しきれない。


「そうだ!アンドレイの兄貴から貰った奴で、「魔力結合を解いて、多少の魔法や式神を無力化出来る」ってえアイテムがあったよな、兄貴!」
「あ、そうだね!使ってみよう!」

回収したカエルから「魔力のようなもの」を感じていた一人と一匹は躊躇いなくAMFグレネード(改造型)を使う。
この行動によってこの事件は収拾されるが、次の事件、大どんでん返しの始まりである。


****


AMFグレネード(改造型)は効果範囲の拡大と自壊装置の無効化を施してある、効果範囲はホテルの敷地全域にも及ぶ。
AMF環境下では"自らの魔力を触媒を使い大気中の魔力を変化させて発現させる"この世界の魔法は殆どが無力化される。


発動させた丁度その瞬間、天ヶ崎千草は確保した近衛木乃香と共に転移魔法符が発動しようとする直前だった。

この手の魔法符は発動直後に封じられていた魔力を放出し触媒とし発現させる、AMF環境下では触媒となれず、放出して終わりとなる。
後は只の模様が書いた紙になる。

「な…、何で発動しやへんのや!?ああ!小猿の式が勝手に送り返されとる!?猿鬼!アンタは大丈夫やろな!?」
依って、彼女は80万円をドブに捨てる事となった、金欠なのに。

御愁傷様…。



作戦が失敗した彼女。こういう時の人間追いつめられるとかなりの確率で

「砲撃なんか怖ない、砲撃なんか怖ない、砲撃なんか怖ない…。よっしゃあ!中央突破や!砲撃が何や、あんなん全然怖ないわ!」

開き直るものです。



「小太郎!月詠はん!今からウチはホテルから走って逃げる!追っ手を食い止めてや!」
転移先に足止め役として待機させていた二人に連絡を取る。


これで二人に持たせていた転移魔法符が無くなるが致し方がない。
お嬢様の確保は出来ているのだ。このチャンスを逃したくはない。



さあ、足掻けるだけ足掻いてやろうじゃないか。









あとがき:ちと難産気味です。次話も遅れるやも…。






[4701] 第二十話「"悪人"の仮面」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/03/02 21:29
天ヶ崎千草が覚悟を決めた頃、消えていくカエルと呆然と見ていたバカレッドがようやく気が付いた。
「ちょっと変じゃない?」と、流石バカ、気付くのが遅い。

濡らしたタオルと共に戻るが、時すでに遅し。
二人ともどこかへ消えていた。


****


魔法教師で生徒達の警護担当として同行していた瀬流彦は焦っていた。
「まいったな、混乱に生じてなんて古典的で単純な方法に引っ掛かるなんて」
神楽坂明日菜から近衛木乃香が従業員と共に消えた、との報告を聞いた瞬間に先ほどまでのカエルが混乱を生じさせる為のデコイであった事に気が付いた。

混乱を起こし、その隙を利用するというのは古典的も古典的、猿が人間に進化するよりも遙か以前、
捕食性の動物が群れを造り、狩りを始めた頃から存在し、数十億年以上経った今でも使われている単純だが堅実な手法だ。


幸か不幸か、彼女は膨大な魔力を持っており、探知魔法を使えば相当遠くか対策を施した場所に行かない限り見つけられる。
実行犯と彼女はまだホテル内にいるようで、そこに一番近いが自分自身、急げば間に合うかもしれず、相手が少数なら一応戦える。

関西呪術協会の過激派から生徒を守る為にここにいるというのに、警護対象を危険な目に遭わせてしまうかもしれないという焦り、
それが致命的な隙を生むとはその時までは微塵も思ってはいなかった。


****


ネギ・スプリングフィールドと桜咲刹那も焦っていた。
カエルはプレゼントの効力で物の見事に消えたが、只のイヤガラセではなく、これが本命だと判明したからだ。

子供先生は謎の従業員と共に行方不明となった事で、神鳴流剣士はお嬢様がこのような暴挙に及んだ輩の手に渡ってしまった事と守れなかった自分に。


そんな二人に「声」が聞こえた。

「近衛木乃香の誘拐犯がホテルから逃げる。犯人は猿の着ぐるみを着込んでいる」そんな声だった。


****


「……サル?」犯人の元に駆け付けた瀬流彦は戸惑った。
どっからどう見てもサルの着ぐるみにしか見えない物体が警護対象の一人、近衛木乃香と共にいるのだ。

首の所から長めの黒髪が出ているから中身が入っている事は解る、多分それが犯人だろう。
魔力を感じる所と、関西呪術協会の人間であろう所からして、アレはきっと式神で、それを着込んでいるのだろう。だが何故にサル?


まさか犯人がこんな格好をしているとは露程も思っていなかったのが運の尽き。
一瞬呆けてしまった、それは致命的すぎるほどの隙だった。何せ、直接戦わない術者でも解るほどだ。

「ジェットアッパー!」「げふぅ?!」

どこぞで聞いた事のあるような名前で、「グワシャッ」というような擬音が似合いそうなアッパーカット一発で伸される瀬流彦。
おおせるひこよ、しんでしまう(死んでません)とはなさけない。

とは言え、意識を失う直前、「緊急念話」と呼ばれる魔法を発動させる事に成功していた。



****



緊急念話と名付けられた魔法がある。

これは大なり小なり"魔力"を扱っている者や、神鳴流剣士などの"気"を扱う者なら誰であろうと受信出来る魔法である。

その特長を生かして、緊急時の連絡手段として使われている。


しかしながら、有効半径内に無差別発信してしまう魔法であるが為に、
無意識に気を使っている者、一般人だが魔法の素質がある者、何故か受信出来る体質な者、等々にも聞こえてしまう難点が存在する。

その為かして、麻帆良七不思議の一つに「希に聞こえる謎の声」が扱われているとかいないとか。



元魔法使いの従者、龍宮真名は仕事の準備をしながらひとりごちた。

「あのカエル騒ぎの張本人か…、まさかネギ先生じゃなくて近衛が狙いだったとはな。それにしても瀬流彦先生、緊急念話を使うのはいいがウチのクラスには受信出来る人間が多い事を忘れているぞ?1/3が酔いつぶれているからまだマシだが」


彼女はアンドレイから「ネギが西への特使になったそうな、あれこれ邪魔が入るだろうから助けてやってくれ」と依頼されていた。

近衛木乃香の奪還は厳密に言うと依頼の範囲外だが、あの可愛らしい先生は責任感から首を突っ込みに行くだろう。
ならば、仕事の範疇と見なしても問題はない。

それに本来の護衛である刹那も加わるだろう。面倒見のいい依頼主が白紙小切手を切ってくれているのだ、タダで助っ人をしてやるのも悪くはない。

ついでだから甘味仲間にも声を掛けておこう。
彼女も依頼主と同じく面倒見がいい上に、先生を気に入っているから手伝ってくれるだろう、手数は多い方がいい。



****



「まさか、お父ちゃんの形見の「リング○かけろ」がこないなとこで役に立つとは思わんかったわ。読んどくもんやな」

発見されはしたが、いい感じのアッパーカット一発で伸した後、ホテルからの脱出に成功したメガネ。
だが、彼女の逃走は順調とは言えない。

瀬流彦の「緊急念話」は自分の存在と犯行、容姿を麻帆良学園魔法関係者一同に知らしめてしまったのだ。
言うなればそれは、非常ベルとそれに連動した通報装置を作動させてしまったのに等しい事である。



無論、呪符使いである彼女も受信出来ており、追っ手が来るのは必至だという自覚はある。
一応、月詠と小太郎に指示をして逃走経路と迎撃態勢を準備させている。


彼女たちには追っ手を叩かねばならない理由があった。お嬢様の膨大な魔力、それは正に「闇夜に提灯」であり、容易に追尾されてしまうからだ。

アジトには対策を施してあるが、逃走経路総てに施す事は時間的にも金銭的にも不可能だ。
よって、どこか適当な所で追っ手を迎え撃ち、断念させないとアジトの位置が把握されてしまう。

それが理由であった。



とは言え、仲間は自分を含めて4人だけ。もしそれ以上の数を用意されたらどうするか、ひょっとしたら東の連中だけではなく同業者も来るかもしれない。
何せ自分は長の大切な「お嬢様」であり、東の理事の孫でもある娘を攫った"誘拐犯"だ。

長に取り入りたい者や、西洋魔法使いどもに擦り寄りたい下種共にとってはこれ以上の標的はそうはいない。


ひょっとすると「大砲使い」が来てしまうかもしれない。
その砲撃を警戒して計画を変更したというのに、呼び出してしまっては本末転倒でないか!


イヤ、もしかしたらだが更に悪い相手、高畑・T・タカミチが来てしまったらどうする!?
その強さは東西新旧問わず知れ渡っており、自分でもその強さは聞いた事があるほど。

長と彼は戦友であり、現在は麻帆良で教師をしているという、それも女子中等部の。
教え子で戦友の娘、出てくる理由としては十二分すぎる。


海外出張しており、こちらには来ないと解っていたから実行したとは言え、弱気になった人間の思考という奴は悪い方へ悪い方へと進んでいくもの。


開き直って打って出た事を後悔しかけた頃、「待てーっ」とうとう恐れていた追っ手が来た。
月詠と小太郎の準備はまだ終わらず、合流出来るのはもう少し後。

半ば諦めの感情を持ちつつも、恐る恐る振り向いた次の瞬間、安堵してしまった。
追っ手はたったの三人と一匹だけなのだ、それもカワイイ魔法使いと使い魔らしきオコジョ、あっさり騙せた女の子と神鳴流剣士、それだけだった。



****



安堵したのはよい、今現在は以前考えた「無人とした鉄道を使い逃走」計画をなぞる事で何とか逃げる目処を付けてはいる。
ただし、"戦闘向きの札を十分な数と種類用意してから"が頭に着いていないが。


元々、安全に転移出来る場所まで逃げる時間が稼げれば良いと割り切り、あまり札を持ってきてはいなかった。
手持ちの札の内、それなりの数がある小猿の式札は如何せん戦闘向きではなく、一枚だけある大文字焼きの札は切り札として使えるが故にそう簡単には使えない。

この状況を如何様にするのか、それが問題だ。



取り敢えず、密閉空間内で一番有効であろう大水の札を「車内で溺れ死なんよーにな。ほな」大口と共に使いはした。

しかし、あんなものが本当に有効だとは思ってはいなかった。
窓を開けるか破るかすればそこから水は出て行くし、非常用コックをひねってドアを開けられれば一発で終わり、その程度の札しか持っていないのが現状だ。

事実、神鳴流剣士の一閃によってドアが破られ、自分まで巻き込まれる始末。


それでも、「なかなかやりますな。しかし、このかお嬢様は返しまへんえ」と大口を叩き精一杯の虚勢を張る。

そうでもしないと"悪人"な自分を保てないからだ、本来は臆病で小心者な彼女は"悪人"の仮面を被り、自分の復讐心を煽り、虚勢を張り続ける事で
今回の計画を実行に移す事が出来たのだ。


何かの拍子にそれらが保てなくなったとしたら、すぐにでも逃げ出してしまうだろう。
それが天ヶ崎千草という女性だった。



待てば海路の日和あり。

相手は気付いていないようだが、少しずつ追いつめられていたメガネ。
それを引っ繰り返せるチャンスが来た、小太郎と月詠から準備が整ったと連絡があったのだ。

場所はこの近くの大階段。さて、追っ手に引導を降ろしてやろうじゃないか。



****


「フフ…、よーここまで追ってこれましたな」
このかさんを攫ったおサルさんの正体、それは関西呪術協会の刺客で、「おサルが脱げた!?てゆーかさっきの従業員!」ホテルの従業員さんでした。

「そやけど、それもここまでですえ。あんたらはウチらの罠にまんまと引っ掛かったマヌケな獲物やからな」

「え!?罠…?」
ひょっとして、僕がエヴァンジェリンさんにしたのと同じように逃げていたと見せかけておびき出されたの…!?


どうするか考えていたら、アスナさんは僕の頭の上に手を置いて言った。
「罠が何だってのよ!アンタをやっつけてこのかを取り戻せばいいだけの話よ!」

うん、アスナさんの言う通り簡単な話だ。
あの時僕が仕掛けた罠は結局解かれてしまった、なら僕も破ればいいだけ、それだけなんだ!


そうして僕も覚悟を決める。「逃がしませんよ!!このかさんは僕の生徒で…、大事な友達です!」


「契約執行180秒間!!ネギの従者「神楽坂明日菜」!!」


****


「…罠にまんまと引っ掛かったマヌケな獲物やからな」その言葉は私の足を躊躇させるには十分な言葉だった。

計画的な犯行であろうこの事件、人払いの呪符によって目を気にせずに遠慮無く使える状態、これだけの仕込みは一人では無理だろうから恐らくは複数であろう犯人、
そして人質として手元に置かれてしまっているお嬢様。

何処にどの様な罠が仕掛けてあり、何処に伏兵が隠れているか解らない状況、それらは私の足は動かせなくする。


そんな私を動かしてくれたのは担任でまだまだ子供のネギ先生と、お嬢様が麻帆良に来てから一番の友達、神楽坂明日菜さんの二人だった。
「ネギ先生…、神楽坂さん…」

神楽坂さんは物の本質を突いた事を言ってくれた、恐れていてこのまま攫われてしまうのなら恐れずに取り返してしまえばいいと。

それに気付いた私は「桜咲さん、行くよっ!」の呼びかけに「え…、あ、はいっ!」悪い考えに取り憑かれた頭を振り払って答え、駆け出す。



****



「何や?あのハリセンは!?」
そう思うのも無理はない、自らの善鬼護鬼が一つ、猿鬼を只の一発で送り返してしまった。

それを見て一つの考えが出てくる、あっさり騙せた女の子はそこのカワイイ魔法使いのパートナーらしい。
纏っている光は魔法使いの魔力、あのハリセンは契約したら貰える物の一種だとさっき言っていた。

ならば、あのハリセンの力は主たる魔法使い由来ではないのか?との考えが出た。


本来は全く違うのだが、西洋魔術師嫌いの彼女は、孫子の兵法「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」の「敵を知り」の部位を意図的に避けていた。
その無知と少ない知識故の誤解は、

「魔法使い由来なら、あの時魔法符が発動せず、小猿の式とカエルたちが消えたのは主の能力かもしれない。従者はそれを集束して強烈にした物に違いない」
との誤回答を生み、

その誤解は「こんな苦労をする事になったのも、自分のと二人の分の転移魔法符、合計240万を無駄に使ってしまったのも、みんなあのチビガキのせいだ」と言う恨みを抱く事となってしまった。


「フ、フフフ…。そうか、そこのチビ、アンタさんのせいやったんか。許しまへんでぇ…」
今の今まで、計画を成功に導く為に生活費を出来るだけ切りつめていた彼女にとっては到底許せない事だった。
とは言え、転移魔法符や小猿の式、カエルの団体さんについては当たっているので強ち間違った恨みではないが…。



「な、何!?今の震えは?な、何か怒っているんだけど、あのお姉さん」
「あー、なんでかは判かんねえけど、兄貴に対して相当に怒ってんなあ。あの刺客の姉さん」
「な…なに、子供に対して…、そんなに怒ってるの…よ…」
「くっ!何なんだ、この恐ろしいまでの怒気は…」

天ヶ崎千草から放たれる怒気に気圧されるネギ一行、特に明確な憎しみを浴びせかけられ慣れていないネギとアスナは戸惑いの色が濃い。
何せ、有る程度修練を積んでいる刹那でさえもやや気圧されるほどであるから、推して知るべし。



怒れる心持ちで指示を出す、「小太郎!そこのチビをやってしまい!遠慮はいらん!!月詠はん、アンタもや!」
「よっしゃ!出番やな!大したことなさそなチビ助なんが納得いかんけどな!!」
「はい~、本気でいかせてもらいますわー」

手持ちの札を容赦なくぶつける事によって、恨みを晴らす事としたのだ。

西洋魔術師どもは基本的に前には出ず、パートナーに任せるという。
中には前に出て来て戦う輩もいるそうだが、単体で十二分に戦えるのはこの世界、向こうで言う所の旧世界では少数との事。


熊鬼と小猿と戦っているパートナーは攫う時に疑いもしなかったような素人中学生、神鳴流の剣士は先ほどから月詠の相手で精一杯。
チビガキの魔法使いにはオコジョがお供にいるが、所詮は小動物、用心さえしていればよい。



そうして、戦いの推移を眺め、自分たちの流れになってきた事を満足げに眺めていた。

見習い剣士は相手をするのがやっとの状態、式返しのハリセンを持っている素人中学生は小猿に脱がされそうになる事で戦いに集中出来ず、
あのチビガキは不意を突いたのもあって、小太郎にいいようにやられている。

その様を見て、満足したのか、もう一枚の転移魔法符を出し、ケレン味たっぷりに、高らかに宣言する。
「さてと、丁度ええとこやし、クソガキども。うちはこのかお嬢様と一緒にお暇させて貰うわ」

"悪人"の仮面を念入りに被り直し、更に続ける。敵に更なる絶望を与える為に、
「ウチの勝ちやな、向こうで呪薬と呪符でも使て、口を利けんよにして、上手いことウチらの言うコト聞く操り人形にさせて貰うわ。ほななー」

掲げられた転移魔法符、それは勝利の証であり、追っ手にとっては絶望の証となる、筈であった。
穴が空き、火が着いて使い物にならなくなるその一瞬前までは。



****


「え…」

刺客のお姉さんが掲げていた転移魔法符、それを見た時は「ああ、もうダメだ」と諦めてしまっていた。
僕は学ラン姿の子に手も足も出ずに防戦一方で、アスナさんはぬいぐるみのクマみたいなのにつかまれて、刹那さんは敵の剣士さんの相手で精一杯。

ああ、こんな事ならアリョーシャさんがそのうち教えてやろうと言っていた魔法と戦い方を教えて貰えばよかったな。
そんな事を考えていた。


でも、銃声と穴が空いて、みんな呆気に取られたその後。

大きな手裏剣が割って入って、見覚えのある髪型をした影にあの子が吹っ飛ばされていた。
「がっ…、残像!?分身攻撃!?なっ…何者や!?」

いつの間にか僕の側にいた人、それは…。
「遅くなって申し訳ござらんな、ネギ先生」「な…長瀬さん!」


****


二刀使いに間に合わない位置に追いやられてしまい、掲げられた転移魔法符に絶望感を感じていたその時だった。
「遅くなったな、今から援護するよ」聞き覚えのある声が頭の中から聞こえた。

次の瞬間、銃声と燃えて使い物にならなくなった符、呆気に取られた皆の姿がそこにあった。


だが、私は誰の仕業か解っていた。

この感じの念話を使える奴は麻帆良でも片手で数えるほどしかいない。
コンドラチェンコの奴と、高畑先生ともう一人の弟子の二人、そして龍宮真名、私が知っている限りこの4人だけだ。

そして、あれだけの狙撃が出来て、ここに駆け付けられる奴と言えば龍宮しかいない。



ネギ先生の方には大きな風車手裏剣が見える所からして楓が助っ人で来たのだろう。
さて、これで3対3から5対3へと変わった。優位に立っている内にこのかお嬢様をお助けせねば。



ああ、そう言えば、龍宮への報酬は誰が払うんだろうか?そんな事を頭の片隅で考えていた。


****


メガネはほぞを噛んでいた。

あの時、手持ちの転移魔法符の中でも特に高価な長距離型を掲げなぞせずに早々に逃げていればと。
もう一つ、時間を掛けすぎ増援が駆け付けてしまった事を。


小太郎は増援の一人で、かなりの使い手らしきくのいち相手に苦戦している上に、「女は殴らない」と言う考えを持っている。
なので、勝機は薄いだろう。

月詠は見習い剣士と戦い続けているが、増援の狙撃手と上手く連携しており、先ほどよりも優位に立たれている。


こうなれば、切り札として持っていた符を使い、足止めとして使うしかない。
あれだけの炎だ、狙撃手の狙いも狂うだろう。

「小太郎、月詠はん、でかいの行くで!喰らいなはれ、三枚符術京都大文字焼き」
手持ちの中でも最大級の火力を叩き付ける。


しかし、足止めにもならなかった。小太郎にやられていた為に、うっかり忘れていたチビガキによってあっさり消される運命にあったのだった。


****


「ラス・テル マ・スキル マギステル、吹け一陣の風、風花 風塵乱舞!! 」
魔法で炎を吹き飛ばす、次の瞬間を狙って僕は走る。

殴られて、身体のあちこちが痛いけど、そんな事よりもこのかさんを取り返す方が大事だ!
示し合わせたように、クマみたいなぜんきかごき君かどっちかををやっつけたアスナさんと、フリルいっぱいの服を着た剣士さんを吹き飛ばした刹那さん。

フリフリの剣士さんはメガネを落としてしまって、よく見えないのかして物陰に隠れてしまった、あのままじゃあ撃たれちゃうからね。


そして、炎が消えきった次の瞬間、僕の「風花 武装解除」、アスナさんのハリセン、刹那さんの「秘剣 百花繚乱!!」の三つが決まって、このかさんから離すことに成功した。

壁にぶつかってやっと止まったお姉さんは、僕たちが凄むともう一匹のおサルさんを出して、フリフリの剣士さんと一緒に逃げていく。

楓さんが相手していた男の子は、転移魔法符で逃げていた。
「ふむ、最後であのような手を使い、逃げおおせるとは。拙者も精進が足りないでござるな。ニンニン」



このかさんの無事を確かめた後、弾かれるように逃げようとした刹那さん。
でも、嫌っている訳じゃないって解っただけでも十分だね。

アスナさんも「大丈夫だって、このか。安心しなよ」って言って、励ましている。

「でも…、って、あれー?ウチ何でこんなカッコしとるんやろ。ハダカやー」
何か言おうとしたんだけど、気付いちゃったこのかさん。


「いえっ、それは、あのっ…」
誤魔化そうとした時、いつの間にか新品の浴衣が置いてあるのに気が付いた、なので急いでこのかさんに着てもらう。


浴衣と一緒に手紙が置いてあって、楓さんの字で「後始末は拙者達がするでござるよ。ネギ坊主は皆を連れて帰るがよろしでござる」と
龍宮さんの字で「詳しいことは明日にでも話すよ。甘いお兄さんに感謝しておきなさい」の二つが書いてあった。


甘いお兄さん?誰だろ…、って、アリョーシャさんのこと?
あのプレゼントだけじゃなくて、こんなコトまでしてくれるなんて…。



ホント、申し訳ないや。















****

「あんのガキ共がぁ!!次はホンマに本気で行きますえ!!合計360万の恨み、晴らさでおくべきかぁ!!!」
「えらく怒ってるね。まあ、額が額だけに仕様が無いか」
「メガネー」

****








あとがき:あれこれアイディアは出るんですが、それを上手いこと繋いでいくのに苦労しました。特に三人称で繋ぐのが。


追記:眠い目擦りながら投稿するもんじゃこざいません。
あちこち変な所が…。





[4701] 第二十一話「"悪い"お兄さん」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/03/13 22:10
修学旅行二日目の朝、朝ご飯のちょっと前。


僕とアスナさんと刹那さんはロビーで、長瀬さんと龍宮さんを待っていた。
昨日のお礼と、何で助けてくれたかを訊く為だ。


長瀬さんは「いつでも呼ぶでござるよ」と言っていたから判るんだけど、龍宮さんはそうじゃない

刹那さんが言うには「龍宮は気まぐれで助けに来るとは思えません。誰かが依頼したのでしょう」だし…。


「はあ~、担任はガキで魔法使い、エヴァちゃんは吸血鬼で茶々丸さんはロボ、アリョーシャのヤツも魔法使いで更には異世界の人間。そこに加えて剣士に忍者にスナイパー!?もうお腹一杯よ」
アスナさんがため息混じりに呟いていると二人が来た。

とりあえずは「昨夜はありがとうございました!」お礼を言わなくっちゃ。



****



「…以外ですね。そこまで大盤振る舞いするような人物とは思っていませんでした…」


昨日の手紙に書いてあった「甘いお兄さん」はやっぱりアリョーシャさんだった。
龍宮さんは初日の朝に依頼されて、僕の手助けをしてくれるそうだ。


でも、依頼には報酬が必要で、刹那さんが言うにはそれなりの額が必要なんだって。


ちょっと気になったから、その事を聞くと「ああ、アイツが奮発してくれたよ。何の迷いもなく「修学旅行から帰ったら、言い値を払う」と言ってな」
何て言うんだから、本当に申し訳ない気持ちになっちゃった。

プレゼントにくれたAMFグレネード…だったっけ?あんなスゴイ物をくれた上に、カートリッジもあんなに付けてくれて、そこに龍宮さんまで…。
でも、何でここまでしてくれるんだろ?


考えていると、長瀬さんが言った
「アリョーシャ殿の家は代々軍人の家系と聞くでござる。そのせいでござろうな、身内を大切に扱うのは」
「へ?どうゆうこと?」
「軍人の家系ってえことは、戦争の前後で身内の数が違ってくる可能性が高い家系。つーコトだな?」
「20世紀からのロシアは戦争の連続だからね。身内が殆ど居なくても不思議じゃないよ」
「あー、つまりは、アイツの家は戦争ばっかしてた国の軍人さんの家系で、そのせいで親戚があんまりいなくて、だから少ない身内を大切に扱うのが当たり前の家になった。…ってこと?」
「そうでござろうな。「身内は大切に」が家訓にでもなってるのでござろ」


それを聞いた時、本当に嬉しく思った。
赤の他人であるはずの僕を、本当の身内と同じ様に見てくれているんだって。

僕の顔を見たアスナさんが背中を叩きながら言う。「良かったじゃん、ネギ。「お兄ちゃん」が出来て」
そんなに嬉しそうな顔していたのかなあ?


****


「過激すぎる悪いお兄さんですが…」
刹那さんがこんな事を言った、どこか遠くを見ながら。

「え、過激ってどーゆーこと?それに悪いコトするヤツには見えないけど?不真面目っぽいけど、どちらかというと律儀でいいヤツだけど」
「ああ、お二人は知りませんからね。コンドラチェンコさんの悪行の数々を…」
そう言って、刹那さんが語り始めた。龍宮さんはちょっと困ったような顔をしているけど、アリョーシャさんって何をしたんだろ?




「…この前なんて、侵入者を罠を大量に仕掛けた森の中に砲撃で追い込んだりしてましたし、その前は痛いだけの魔力弾を相手が土下座して謝るまでぶつけ続けたりと、悪行三昧ですよ!
知ってますか?大学付属病院には私達が捕まえた時にケガをさせてしまった侵入者専用病床があるのですが、アイツが来てから増床するハメになったんですよ!?ああ、更にその前なんて…」

矢継ぎ早だったっけ?そう言う感じでしゃべる刹那さん。
アスナさんが「桜咲さんって、無口なイメージあったけど、結構しゃべるのね」って、言うぐらいに。

それを聞いて、顔を赤くしてしおらしくなっちゃう刹那さん。


アリョーシャさん、悪い人相手にだけど色々と悪いコトをしているんだなー。僕もやりすぎだって思うもん、全員病院送りにするなんて…。
そう思ってたから、龍宮さんが言ったことを聞いてビックリした。

「しかしだ、アイツは入院はさせるが"怪我"はさせてはいないぞ。全員ショック症状か転倒時の傷ぐらいで、一晩もすれば回復するような状態だ」

「え、どういうコトですか!?ケガさせないで病院送りなんてどうやったら出来るんですか!?」
「おや、ネギ先生は聞いていないのかい。アリョーシャが使う魔法は"非殺傷設定"と言うヤツが出来ることを」

非殺傷設定?それって文字通りの意味だよね…?

「魔力越しにダメージだけ与えて、身体には傷一つ着かないように出来るんだよ。他にも"非物理破壊"も出来るそうだよ」
「魔法って、そんなこと出来るの?」

ううん、僕もいろんな本とか読んで研究したけど、そんな攻撃魔法は今のところ無い。

「いえ、コンドラチェンコとその弟子二人にしか今のところ出来ません。だから、不利な状況をひっくり返そうと思ったら頼らざるを得ないのです」
俯いてくやしそうな刹那さん、何でくやしいんだろ?
それに、さっきから聞いてたらアリョーシャさんが嫌いみたいだけど、何で嫌いなのかな?

「どこで使っても敵だけやっつけれて、周りにゃあ被害無し。そりゃ、頼りたくなるよなー」
うん、修学旅行が終わったら、時間を作って弟子にしてもらおう。図書館島の時に「暇が出来たら弟子3号にしてやろう」って言ってくれてたもん。


****


「あ、そうだ。良かったらこれもらって下さい。はい、アスナさんも」
「何コレ、招待状?」

アリョーシャさんのプレゼントの一つ、招待状をみんなに渡す。
パスハ・パーティーの招待状だ。

「パスハって言うのは…」
「キリスト教の復活祭のことですね。ゴルゴタの丘で十字架に貼り付けられたイエス・キリストがその三日後に復活したことを記念する日で、キリスト教徒最大の祭日とされていますです。
カトリック・プロテスタント・英国国教会などの西方教会ではイースターと呼んでいますが、ロシア正教を始めとする正教会等の東方教会ではパスハ、日本語では復活大祭と言われています。
ちなみに、春分の日の後の最初の満月の次の日曜日がその日ですが、東西で用いている暦が違う為に日付がずれることが多々あるです。
今年の東方教会では今度の日曜日、4月27日がその日となるです」
「その通りです…」

いつの間にかやってきた夕映さん、僕が言おうとしていたことやそれ以上のことを言ってくれた。
そう言えば、もうすぐ朝食の時間だ。

「夕映は教会とかも好きだからねー、記念日とかも詳しいのよ。ん?その招待状…、ネギ先生も招待されたの?」
「されたのって、パルさん達もですか?」

ちょっと悔しくなった。
そりゃあ図書館探検部所属なんだし、パルさん達に渡してても当然だけど、僕より先に渡すこと無いじゃない。

「そうそう、知り合いみんなに配ってるみたいよ。律儀ねぇ」
「毎年、一族とその友人知人総出で壮大にしているそうなので、こちらでも壮大にするって言ってるです」

あ、それじゃあ…。
「悪いね、もう貰っているんだ」「拙者もでござるよ」
「へー、龍宮さんや長瀬さんも招待されたの?まきちゃん達もだし、ゆーななんてお父さんごと招待されたって言ってたから、こりゃあ賑やかになるわねー」

僕が最後じゃないの。身内みたいに思ってくれてるなら先に渡してくれてもいいのに。
「こーらー、何ムッとしてるの。お兄ちゃんにイジワルされたからって拗ねないの」

すねてなんかいないもん、最後にされたからちょっと怒ってるだけだもん。



****



修学旅行2日目は、全般的には平和だった。

途中、子供先生が鹿に取り囲まれてフクロにされたり、助平オコジョが何かしらを感じ取った男鹿(複数)に攻撃されてたり、引っ込み思案な女の子に告白されて知恵熱出して倒れたり、
猫を助けたらパパラッチに正体がばれたり、唇が勝手に賞品にされたり、関係者一同が朝まで正座させられたりしたが、
まあ平和だったと言えよう、つーか言わせろ。


明けて3日目、各班自由行動の日。
ネギとアスナはこの日を利用して、親書と共に本山へと行こうと思っていた。

龍宮真名と長瀬楓は護衛をすると主張したが、「一度きりしかない修学旅行なんです。僕のことはいいから、同じ斑の人達と楽しんで下さい」
と、頑として譲らず。

「こちらも仕事だ。依頼を受けたからには遂行させてもらうよ」
と、こちらも譲らなかった。

このまま平行線をたどるかと思われたが、龍宮真名が「しょうがないな、誰かさんの財布に更なるダメージを与えておくことで手を打とう」
と言って引き下がった。
何か耳打ちされた長瀬楓も「何かあったらすぐに連絡するでござるよ。ハイ、拙者の携帯番号」と、同じく引き下がった。


誰かさんとは無論アリョーシャのことだ。彼はどこぞのメガネと違って、結構金持ちだったりする。

相棒でデバイスのミーシャ、彼の演算処理能力は非常に高い。
元来高い能力を持つインテリジェントデバイスに、複雑なプログラムを多用するコンドラチェンコ家式魔法に対応すべく演算系を強化してあるからだ。

その能力を経済動向の解析に利用し、株に先物国債に為替とあれこれ手を出して成功を収めているからだ。
それを知っている真名は、転移魔法符などの高価な札や、各種術式付加弾を遠慮無く使う気でいた。

その頃ハワイの依頼主が多大な出費が必要になりそうな悪寒に襲われていたが、気のせいでしょう、多分。



****



京都市内某所、所謂ゲームセンター。
コッソリと向かうつもりだった二人と一匹、アスナが妙に勘のいいハルナに捕まった事により、現在に至る。

抜け出すチャンスを窺っていたが、誘われてプリクラ取ったり、ゲームをしてたりとそれなりに楽しんでいた。
ゲームオーバーとなって、視線を動かした先にいた"それ"を見るまでは。


年の頃は11、2歳程、白い髪に白い肌が特徴的な少年だった。
偶然、彼と目が合った瞬間、ネギは言いようのない感覚に襲われた。

脳が多大な酸素を要求した為呼吸が激しくなり、心臓は酸素を送るべく鼓動を強め、熱くなった脳を冷やす為に汗が出、顎を伝い床に着く。
喉が渇き、喉を鳴らして無理矢理つばを飲み込む。

それらが一瞬で訪れた。

今まで味わったことのない感覚に戸惑っている内に、先ほどまでプレイしていたゲーム筐体、
「GAME OVER」と「ネギ・スプリングフィールド」と表示された画面を一別して去っていった。


時間に直せば一分と無い短い時間、それがとても長く感じた瞬間だった。



短時間に大量の汗をかき、呼気を荒くし、顔が赤くなれば何かあったのかと気になるもの。
「んー?ネギ君えらい汗かいとるけど大丈夫なん?顔も赤いし」

ネギはそれを逆手に取り、席を上手く外すことに利用することにした。
「すいません、ちょっと熱くなりすぎたみたいです。ちょっと顔冷やしに行ってきますね」
トイレに向かう振りをして目配せする。

それに応じて、「ちょっとネギ、大丈夫?」とアスナも付いていく。
皆から保護者みたいなもの扱いされている為に誰も怪しみはしない。

そうやって、気付かれずに抜け出すことに成功した二人と一匹。
自分たちに付いてくる影には全く気付かずに。



****



「へへへっ、あっさり罠に掛かったやん」
「やっぱ所詮はガキやな。これで脱出不可能、足止めはOKや。アンタは奴らを見張っとき」

千本鳥居近くの竹藪。そこから戸惑う二人と一匹と一体を見ているメガネと犬耳。

指示はされたが、犬上小太郎の顔には不満がありありと浮き出ていた。
「うぇー、めんどいな。それに俺、こーゆー地味な作戦好きやないなぁ…。あいつら、特にあのチビ弱いで。一昨日ボコったった奴やん。正面からガツンと

やってまえるで」

「アンタは黙ってゆーこときーとき」
不満をあえて黙殺する千草、彼女はあの二人と一匹に対する誤解もあって、封じ込めることにしたのだ。
手数が少ない彼女たちにとって式神はそれを補う為の大切な駒で、その駒を無力化出来るあの二人は切り離さなければならない存在だったのだ。

切り離しに成功し、増援が来た様子もなく、一昨日のくのいちもいない、町中ならスナイパーも自由に動けまい。
今度こそ上手くやる、そうでなければ意味がない。




休憩所で話し合っているネギ一行、「無間方処の咒法」の罠に掛かってしまった現状をいかにして打破するかが議題となっていた。

「これが使えたら出られるかもしれないのに…」
「効果は実証済みだかんな。今は使えないってえのが痛いよな」

プレゼント袋から出したAMFグレネードを見て呟く。
自壊機能は壊してあるが、再使用するにはアンドレイが直すしかないのが現状だ。

「何それ?え、一昨日のカエルを綺麗さっぱり消したのそれなの!?」
「ハイ、アリョーシャさんがプレゼントしてくれたんです。後はカートリッジをこんなに」
袋からカートリッジを取り出してみせるネギ。

「コンドラチェンコさんのプレゼントですか…」
ちびせつなの顔が曇る、それを見たアスナが予ての疑問をぶつける。

「そういえばさ、桜咲さんはなんで、アリョーシャの奴が嫌いなの?昨日の朝は愚痴ってたし、さっきだって嫌そうな顔してたし」
「僕も聞いてみたいです。そりゃあ、悪い人相手に悪いことをいっぱいしていますし、ちょっとイジワルで不真面目で面倒がり屋ですけど優しい人ですよ?


二人して見る、ため息を吐きて語るちびせつな。

ちょっとおバカなちびせつなでもアンドレイは好きにはなれなかった。
「軟弱な所や使う魔法が好きになれませんし、金に煩い所が嫌いですし、あと馴れ馴れしくしてくる所も…」

「軟弱って?」
「突如麻帆良に現れたんですが、すぐさま白旗を挙げたそうです。そんな軟弱な人、見たこともありませんでした」
正しくは「面倒だったから」と言う見事なまでにしっかりした考えの元、投降したのだが、知っているのはタカミチと真名ぐらいである。


「使う魔法が好きになれないってどういう事ですか?」
「聞いた所に依ると、「目視外距離からの攻撃が基本で、近接戦は決定的に間違えたときに行う物だ」と言い張っているそうです。私達神鳴流剣士をバカに

しているとしか思えないです」
自分の根幹を成す物を間接的に侮辱されて怒るちびせつな。

とは言え、近接戦に置いても彼は強い。
只、敵が反撃出来ない距離で叩けば自分も仲間も傷つくことなく勝てるからそちらを優先しているのだ。

高確率で反撃を喰らう近接戦をせざるを得ない状況に至ってしまうことを決定的な間違いと彼は言っているのだが、嫌っている人間が曲解した結果である。


「金に煩いってどういう事でぇ?」
「警備に参加する替わりに、月に15万貰っているそうです。それだけならともかく、食費や寮費は必要経費扱い。研究室を貰っているそうですが、そこにかかるお金も経費で落として、と色々と学園側に払わせているそうです」

金に煩いのは事実であるが、挙げたことの大半は学園側との契約に基づいて支払われている。しかし、知らない人間から見たら支払わせているようにしか見えない状態でもある。

「月に15万も貰ってるの?…私も警備に参加しようかな…、あ、あと馴れ馴れしいって?」
「その…、あの…、私のことを、「せっちゃん」って呼ぶんです。顔を赤くして怒るのが可愛らしいからって…」

恥ずかしいのか、赤くなって(只でさえ小さいのに)縮こまるちびせつな。
それを見た二人と一匹は心の中で「確かに」と思ったとか思わないとか。



話は契約執行に移り、「ま、私が何とかするしかないのよね。アンタみたいなガキを前に出さすわけにはいかないし」
発した後だった。

「…へへへっ、ならこの俺と戦ってもらおか」
巨大な蜘蛛を模した式神と共に、見張りの役目を捨てて、戦う事を選んだのが来たのは。

「はな戦ろか、西洋魔術師。いや…、ネギ・スプリングフィールド。今日はあの糸目のねーちゃんもおらんことやしな」
「き、君は、一昨日の…」

ここに二度目の戦いの火ぶたが切って降ろされた。




「連弾・雷の17矢!!」
鬼蜘蛛と称される式神をアスナが片した後、敵が戦士と知っているネギは近づけさせない為の魔法を放つ、もう一つの狙いと共に。


護符で凌ぎつつ、近付く小太郎、「白き雷!!」連続攻撃で阻止しようとするネギ。

「なかなかやるやないか、チビ助!!」
その攻撃は、総ての護符と引き換えにして突破される。


護衛であるアスナ、オマケのカモとちびせつなは狗神に捕らわれ、詠唱は間に合わない。
渾身の力を込め真っ直ぐ向かう拳、勝利を確信した小太郎の拳は届くことはなかった。


「契約執行0.5秒間 ネギ・スプリングフィールド」我流の強化魔法によって。


次の瞬間、まだ勢いの残る小太郎の顔面に拳が突きつけられる。
身体が宙に舞い、起きたことの判断が付かない所へ魔法、それもカートリッジ付きの「白き雷」が放たれた。



****

「そう言えば兄貴、何時思いついたんだ?自分への魔力供給なんぞ」
「一昨日、この子にやられた後に思いついたんだ。昨日の見回りの時にちょっと練習してたんだ」
「ああ、昨日は帰るのが遅いと思ったらそんなコトしてたの」
「昨日今日で出来るようになるとは…、流石ですねネギ先生」

人の声が聞こえる、それも複数の。

「…と、これで良しと」「ねえ、こんなコトしていいの?」「仕方ありませんよ。こうでもしないと…」
「あ、目を覚ましそうです」「じゃあ、本屋ちゃんお願いね。ホントはこんなコトさせたくないんだけどねー」

犬上小太郎は、戻りつつある意識の中でこんな事を聞かれた。
「あなたのお名前は何ですかー?」

はっきりとしない中、反射的に「小太郎。犬上小太郎や」と答えた。

そこで意識の像が結びつき、もやが掛かっていた視界が戻る。
見えたのはさっきまで戦っていた連中と、見たことのないお姉ちゃん。

咄嗟に動こうとするが、手足が全く言うこと聞いてくれない。
「な、なんなんや!?身体が動かへん…、って縛られてもーてるやん!」

今彼は、後ろに回された腕をひねった上に手の甲を合わせた状態で手首と親指を縛られ、
両脚は交差した状態で曲げたヒザの前後を繋いで縛って、更には足首を縛られている、そんな有様だ。
縛っているのは所謂結束バンド若しくはケーブルタイ。ご丁寧に二つの輪を小さい輪で止めるやり方で、軽く肉に食い込むきつさで止めてあった。

忍者がよく使う「間接外して縄抜け」をしても全く抜けない状態、なので術を使おうとするが
「狗神!…な、何ででーへんのや!?」

「そりゃ、私のハリセン乗せてるもん。効果は知ってるでしょ?」
動けない上にハマノツルギで術まで使えない、犬上小太郎は完全に戦闘不能となっていた。

「こんなもん千切ったらええねん!ってなんぼ固いねんコレは!」
獣化して力任せにちぎろうともしたが、びくともしない。それどころか肉に余計に食い込んで痛いだけ。

「ザイ○ンって言う合成繊維で強化してあるから切れないそうだよ」
「現在最強の有機系合成繊維だぜ。イシダイでも噛みちぎれねえよ」

「にしても、こんな物騒な物もプレゼントにしてたのね。アイツってば何考えてんだか」
余った結束バンドをつまみながら、半分呆れ顔のアスナ。

そう、小太郎を縛っているザイ○ン強化結束バンド(工学部謹製)とそれを使った拘束法マニュアルはアンドレイのプレゼントの一つだ。
刺客を捕まえた時用に入れてあった、10歳の子供に渡すのは問題が多々あるような気がするが。

「あ、あの…ちょっと、か、可哀想な気もしますが…」物が物だけに使うことに消極的な意見もあったが、
「私の術では拘束しきれませんし、狗族の力を考えると普通の縄では千切られてしまいます」それぐらいしか拘束する手段がなかったことと、
「せっかくアリョーシャさんが用意してくれたんです。使っちゃいましょう」本当に慕い始めているネギの使おうという意志が勝ち、

あちらこちら焦げてる小太郎を縛り上げたのだった。


****


「いどのえにっき」で聞き出した「この広場から東へ6番目の鳥居の上と左右3箇所の隠された印を壊す」に従い、脱出に成功した三人と一匹と一体。
暫しの休息を経て本山へと向かおう、役目は間もなく果たされるのだ。






小太郎?結界内に封じ込めた上に縛ったまま放置ですが何か?






あとがき:次話、やっとこさ主人公登場です。意外な人も活躍予定。

 



[4701] 第二十二話「突撃砲兵(上)」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/04/30 22:52
「…砲兵より3-A一同へ、只今より支援射撃を開始する、…うぷ」
私の頭の中に聞き覚えのある、そんな声が聞こえてきた。…うぷ、って何よ?
何かやな予感がするんだけど…。


****


日付が変わって少しした頃、日本で言えば丑三つ時。
ようやく部屋に戻ってこれた、同室の奴は朝まで何があってもグッスリタイプなので問題はない。


先程まで弐集院先生に付き合わされていた。ああ見えても大酒飲みな先生、それもウワバミクラス。
結構弱いガンドルフィーニ先生はこちらに押しつけてさっさと退散、なので最後まで付き合うハメと相成った。

何でも、「飲み始めると相手の方が先に潰れるんだ、ここまでつきあえたのは君が初めてだよ」と喜んでおられた。
いや、嬉しいのはいいんですが(日頃飲んでるとは言え)未成年(姿変えてますが)と延々飲み続けるのは教師の倫理観としてはいかがな物かと。

そんなことを考えつつも最後まで付き合ったこっちもこっちだけどな。
お開きになったのも閉店時間が来たからだし。

シャワーと歯を磨いてベッドに潜り込む、瞬時に寝る術を用いてそのまま朝まで…、のつもりだった。



ベッドに潜り込んで少しした頃だった、部屋の電話が鳴り響いたのは。
こんな時間に何処の何奴だ?そう思いながら酒の残る身体を動かし電話を取る、

その中身はアルコールの影響を消すのには十分な内容だった。



****



急ぎ、弐集院先生とガンドルフィーニ先生の部屋へ向かう。
恐らくは自分の所にかかってきたのと同じ様な内容の電話が架かっているはずだ。

それなら何も言わずに動いてもいいのだが、一応学級委員長という役職に就いているこの身の上。
朝までに帰れなかった場合を想定し、副委員長への引き継ぎ事項やクラスの連中を納得させられる言い訳を用意して貰うべく向かう。

その時はまさかあの人があんな事を言うとは露程も思ってはいなかった。



弐集院先生に引き継ぎ事項の連絡と、言い訳を考えて貰うことをお願いし準備を始める。

学園長に聞いた西の本山の住所。
それを元に経度緯度を割り出し、座標を設定し、高度を設定、それらを16進法に変換する。
ちゃんとやっとかないと「*いしのなかにいる*」になっちゃうからね。高すぎた場合はいいの、飛べるから。


本来は負荷や魔力消費を考慮して一時間ほど掛けて移動するのだが、緊急事態故にカートリッジを使い15分まで短縮する。
ホントは使いたくないんだけどなぁ…、コレ苦手だからなぁ…。

斯くして南国に暫しの別れを告げ、古の都へと向かう。
1リットルのミネラルウォーター他、と共に。


****


「ようやったな、嬢ちゃん達。500体おったのが半分になってしもた。しかしや、あんたらはもう限界やろ?もう終わりにしよか」
大将格の大鬼が諭すように言う。

4対500、そんな絶望的に不利な状況の中四人は奮戦し、4対250まで減らすことが出来た。
だが、圧倒的な数量というものは相当な要因がない限りひっくり返すことは出来ない。


どこぞのロボット物では、殺したくないとかほざいてる主人公の乗るロボの七色光線が棒立ちの敵に必中してひっくり返すが、そんなものあり得ない。
多数を攻撃出来る能力があるのなら、対処しきれない"それ以上の数"をぶつけてやればいいだけのこと。

物量で勝る者は"それ"が出来るのだ。鬼達は間断なく、何波にも渡って攻撃を加える。

防御側は幾重もの敵を対処しなければならず、掩護も出来ない。
攻撃側は不利と感じれば離れて後ろの味方と変わればいい。


そして、4人は"それ"により、250体もの敵と引き換えに消耗していく。

弾薬は底が見え始め、刀は何十合もの打ち合いで刃が潰れかけ、拳は鈍り始める。
心臓は酷使され、振り回し続けた手足の細かい筋繊維が切れ、内出血や外傷によりあちこちの血液循環が不具合を起こす。

脳は脳内麻薬の類を過剰投与されているので誤魔化せてはいたが、肉体の方は誤魔化せない。
有り体に言えば、限界に近かった。

本来、鬼達はこんな戦い方をするわけではない。
するようになったのはここ数ヶ月の事だ。


「最近呼ばれたんですが、人間達はワシらにも戦争のやり方を使うようになりましたな」
還ってきた鬼の一体の感想が切っ掛けだ。

その鬼曰く、見えないほど遠くから砲撃のような魔法を加え、十分蹂躙してから掛かってくると。
他にも罠や地雷などを使い、昔のように正攻法で正面からぶつからなくなったと。

そうして「向こうが戦争のやり方を使うのなら、ワシらもやったろやないか」と始めたのがこの戦い方。
それは数の暴力と合わさって勝利を確実な物にしつつあった。


だが、間もなく異分子によってそれは覆される。
奇しくも、この戦い方を始める切っ掛けとなったのもその異分子であった。



****


上空3000m、自由降下しながら「魔女の眼」で状況を把握する。
ネギも見えるが、鬼の団体さんと戦ってる4人の方がヤバそうだ。

あっちは近い内に来るであろうエヴァに任せるとして、敵さんにも聞こえるような念話を送る。
口を押さえながら。


そうしてあいさつ代わりの一発。「HEシュートシェル、着発4」『了解』
真っ直ぐに飛ぶ魔力弾、付随効果無しの為直撃部と周辺以外にはあまり効果はない。

コレはあくまでも示威の為の攻撃だからね、本番は着地してからよ。


****


聞き覚えのある変な声がした直後、上空から降ってきた何かによって4回爆発と轟音が響いた。

「一体何なのよー!?」
思わず叫んだ私に対して龍宮さんが、「砲兵隊のおでましさ」と答えてくれたけど、砲兵って誰?

鬼達も「嬢ちゃん、アンタアレが何か知っとんのか?」と訊いてくる。
「ああ、恐ろしい奴さ」そんなこと言ってるけど誰だろ…、

思いっきり聞き覚えはあるのよね。それも何度も聞いたことのある…。


ふと、見上げてみて判った。アリョーシャのヤツだって。
…杖とか無くても飛べるのね、流石異世界の魔法使い。

そうして、近くの岩の上にふわりと着地した、そいつの顔は今まで見たこと無いぐらいキリリとしていて、歳不相応な渋さが出ていた、少し青いけど。

ちょっとステキかも…、と一瞬だけ思ったんだけど、次の瞬間木っ端微塵に砕かれた。
少しからみるみる青くなって、「ちょっと失礼」と背を向けてうずくまって、戻しやがった。

みんな押し黙ってたからその音の響くこと響くこと、しかもご丁寧に二度も吐くし、何かペットボトル持ってるなと思ったらソレ用だったのね。

スッキリとした顔をしてこっちを向いた瞬間、「何聞かせてんのよー!!」思いっきり叩いてやったわ。


「…なあ、嬢ちゃん。ホンマに恐ろしいんか?」「…おかしいな、そのハズなんだが…」



****


「何聞かせてんのよー!!」謎のスチールハリセンに叩かれた。
助けに来たのに失礼じゃないか、神楽坂よ。

「あんな音聞かされるこっちの身になってみなさい!貰い吐きしかけたわよ!!」

長距離を短時間で転移をすると、こうなるのだよ僕は。

だからやりたくなかったのに、お前達がピンチだって聞いたから来たんだぞ。
感謝される謂われはあれど、そんな凶悪ハリセンのツッコミ入れられる謂われはない!


言い返せず、すっごい不服そうな神楽坂はおいといて、本番と行きますか。
取り敢えずは、この包囲網を脱して、そこの森の中にでも逃げますか…、いや転進と言った方がいいか。



「そこの坊主、もうええか?」
律儀な人(?)だ、神楽坂との会話が終わるまで待っていてくれるとは。
今からすることを考えると心苦しいような気がするようなしないような気がする。

「ハイハイ、わざわざ待って貰ってすいませんね。今から「突撃砲兵」としての姿をお見せしますよ」
そう、いつもは「砲兵」らしく遠距離間接射撃中心にしているが、時々は中近距離直接照準中心の「突撃砲兵」となる。近くても拳の届かない距離までだがな。


「そこのお兄さん、見たところアナタも銃使いみたいですけど、神鳴流に飛び道具は効きまへんえー。それでもやらせてもらいますえー」
何か目が危ないゴスロリメガネのねーちゃんが怖めのことを言ってくる。
確かにせっちゃんを見ていれば普通の飛び道具が通じないことは判る、しかしだ。

「じゃあ、今からお見せしますよ、鉛弾使う飛び道具とそれ以外の飛び道具の違いを」
ウチの一族の魔法は近代兵器の要素を再現した魔法だ、見せてやろうじゃないか、近代兵器の恐ろしさってヤツを!


****


私達は今、敵の包囲網から脱しつつある。
そんな私達の視界には凄まじい光景が写っている。

『HE-FRAG-VT』曳下射撃の様に敵の上で炸裂し魔力で出来た破片と爆風を撒き散らし、
「シュートシェル・クロスラピッドファイア」二つの球状の塊から機関銃のごとく発射され十字砲火を浴びせかける、
「クレイモア」足を生かして近付こうとしたのを吹き飛ばす指向性地雷、
『ABM』途中で爆発し散弾を撒き散らす、
等々のアイツしか使えない、神秘の欠片もない魔法。

それだけではない、並行して「フレブ・ザ・フレブ クロフ・ザ・クロフ」西洋魔法まで使っているのだ。
「魔法の射手 連弾・炎の11矢!」哀れ、飛んで近付こうとした鳥族を墜としていく。


「な、な…」
それを見て呆然とする明日菜さん、致し方がない。私だって、最初に見た時は同じ様な反応を示した物だ。
鬼達も同じ様な反応を示している。

「に…250体の兵が数分で半分以下に…!?さっきの嬢ちゃん達よりもこの坊主の方が化け物…」
驚いている間にも次々と返されていく。

「…わびさびどころじゃありませんぜオヤビン」
「…そやな、多分この坊主のことなんやろな。戦争のやり方を使ことるっちゅーのは」

アイツ以外では到底作り出せない光景だ。

"戦い"ではなく"戦争"になってしまうんだな、アイツが関わると。
私がアイツのことを好きになれないのもそこにあるんだろうな。


それはそれとして転進を続け、このかお嬢様とネギ先生の元へと急ぐ。
殿はとても意外な人が務めていてくれている、コンドラチェンコと共にハワイにいたはずのガンドルフィーニ先生だ。


****


せっちゃんたちは順調に包囲網から抜け出している。
そこで追っ手に対して獅子奮迅の活躍を見せているのが、殿のガンドルフィーニ先生だ。

話を付けに来た時に「私も連れて行ってくれ。君達教え子を矢面に立たせておきながら、大人であり教師である私には安全な所で構えているだけなんて耐えられないんだ」
と仰ったから連れてきたのだ。

流石は大人、中身のある格好いいこと言うじゃありませんか。


本来は愛用の銃とナイフで戦う人なのだが、ハワイにそんなもん持ち込めないから「スキッチェン」と収納してある魔術付加バヨネットを渡したのだが…。
流石は有能な人、もう使いこなしているじゃないか。

射撃で回避を強要するか、当てるかして安定を崩させ、地面を匍うが如き走りで一気に距離を詰める。
天性のバネに魔法の強化が加わったことにより、まるでチーターかレイヨウのごとき速さを見せる。

間合いに入れば、身体のしなやかなを見事に活かした動きを持って動脈や腱、場合によっては臓器にバヨネットの一撃を加える。

または、反射の高さと動体視力の良さと眼の良さ(あのメガネは視力強化魔法が掛けてあるらしい)が合わさった事による
銃弾で銃弾を撃ち落とせるほどの正確無比な射撃で次々と戦闘不可の状態にしていく。

先程やられた三体の鬼達なぞ森の木を見事に使い、その速さを殺すことのない方向転換によって一瞬で背後に回り込まれたと思ったら、

一体目はヒザの腱を切り裂かれ、身体を崩した所で脇から伸びたバヨネットで心臓を一突き、
二体目は棍棒を構えようとしたが一動作で手首と喉笛を瞬時に切り裂かれ、
三体目が間合いから抜けようと後ろに飛んだはいいが三点射を頭部に喰らう、

と瞬時に始末している所から腕の確かさが見て取れる。


なるほど、CQCの使い手だけあって室内戦ならば大抵のヤツを仕留められそうだな。
…今度、教えてもらお。祖父さんのやり方はちょっと古いからなー、今から20年前のやり方元にしてるし。



250体はいた鬼達もかなり少なくなった。
まあ、タコツボや塹壕も無く、遮蔽物もほとんど無い所で砲撃喰らったらこうなるわな。

生き残ってる連中も、警戒して遠巻きに構えているだけ。
片付け終わるのも時間の問題だな…。

と、「もー、おにーさん、こないにどっかんどっかんとやりすぎですわ。メガネ落としてしもたやないですか。でも、こんなん初めてやわ~」
ゴスロリメガネが上気した艶っぽい顔でこちらを見ている、恐らくは間合いに捕らえられた状態で。

しまった、早々に吹っ飛ばしてそのまんま忘れてた。


で、おにーさん女の人に上気した艶っぽい顔で見られるのは大好きだけど、「目がとってもヤバい」が付く人にそんな顔で見られるのは非常に好きじゃないのだよ。
『はい、私の経験上アレはかなり危険な性質持ちの御婦人です。得物からして悦として斬りかかってきますね』

うわー、そんな女の人は48時間前に来て欲しいなあ。
「いけずやわ~、一昨日きやがれなんて。まあ、それはそれとしていきますえー。あ、鬼さん達、邪魔せんといてもらえますか~?」
「おう、好きなだけやっときやー。ワシら近付いたらそこの坊主に吹き飛ばされてまうわ」


斬りかかってくるゴスロリメガネ、着剣させたミーシャを構える。
鬼達がかかってこないだけマシだな。

「ざーんがーんけーん」と、斬撃をミーシャで受け、受けきれないのはシールドで受ける。

「えらく頑丈ですなー、その銃。斬岩剣で切れへんなんてなー」
そりゃそうだ、制作者である祖母さんが30年間改修を続けた結果、アームドデバイス並のフレーム強度を持つ射撃型インテリジェントデバイスと言うよく分からない物となっているのだ。
『大奥様のお陰で無駄に頑丈です』


さて、そのお陰で凌げているのだが、相手は打刀と脇差の二刀使い。
運悪くこの手の二刀使いとの戦闘経験がほとんど無く、近接戦では打って出られない。

小太刀二刀の経験ならいやと言うほどあるというか、思い出したくもありません。
何であんなのに気に入られたんだろうか、銃剣使いにとっては疑問です。


ならばと無理矢理間合いを取り、とある射撃魔法を撃つ。
取り敢えずコレでも喰らっておきなさい。

「おにーさんのは魔法ですから流石に切れませんえー。けどこんなん避ければええだけ…、きゃあ~」右に避けたのに右に吹っ飛ばされるゴスロリメガネ。
「ああ、一つ言い忘れてた。さっきのも含めて今から撃つのは全部、近接信管付指向性炸裂弾だから。つまりは近付くだけで爆発して、居る方向に爆発するヤツだかんねー」

リアクションタイムが短くなる近接戦タイプにとっては最悪な組み合わせであるはずだ、紙一重の回避が意味を成さないのだから。
因みに、各種空対空・地対空誘導弾で使われている組み合わせだったりする。


起き上がってきたゴスロリメガネの反応を見ようとした所、斜め上の発言をしてくれやがりました。

「あいたた…、もーそんなん使こて来るなんて…。ますます初めてやわ~、刹那センパイもええけど、おにーさんもええかもー」
…なんかスイッチ入れちゃった?

『戦闘狂ですね、ついでに言うと嬲るのも嬲られるのも好きそうです』
遠慮致したい組み合わせだな。特に嬲られるのだけは勘弁願いたい。(性的な意味で)嬲るのは歓迎するが。


何合かの打ち合いが続く、何とか間合いを取ってデカイので片を付けるか?さすればこのゴスロリメガネともお別れ出来る。
と、いうか。もう十分時間は稼げたよな?

『ハイ、5人とも十分に…、魔力反応増大、どうやらネギさんは間に合わなかったようです』
祭壇の方から現れる大鬼、結構離れているというのに恐ろしいまでの威圧感を持つ、
驚異以外の何者でもないそんな存在が出てきた。


「あれが雇い主の千草はんの目的ですわー、どうやら刹那センパイやあのカワイイ魔法使い君は間に合わへんかったようですなー、まあ、ウチはおにーさんと戦い続けれたら十分ですけどなー」
嬲る気満々のゴスロリメガネ。

『片をつけましょう。残留魔力濃度は十分、FAEシェル数発で敵残存兵力をほぼ殲滅出来る物と試算します』
殺傷設定は…、やっぱダメ?

『死人に口なしと言うことでならいいでしょうが、もしバレると立場が更に危なくなる可能性が高いのでオススメしかねます』
そう、管理局では(建前上)殺傷・物理破壊設定の使用は許可制となっており、特筆すべき理由のない無許可使用は処罰対象として扱われる。

唯でさえ、(引き換えに様々な情報を集めているとは言え)機密漏洩をしているのだ。

処罰大好き人間達にとって都合のいいことはなるべくしない方がいい。流石の祖父さんや親父でも庇いきれなくなるやもしれん。
まあ、まだまだ任期が残ってた参謀議長殿と祖父さんが昵懇の仲だからほぼ心配はないと思うけどな!ビバ権力!

と言うわけで、コイツに引導を下せないのが心残りだが、一発で決めることにした。


「ジュラーブリクフォームへ移行、一気に距離を取る。あと本命の前に目くらまし」
『了解、FAEシェルよろし、煙幕弾及び照明弾よろし』
さて、今まで何故距離を取らなかったというと、着剣時のフォームでの初速とゴスロリメガネの「瞬動」だったか、それの速度が大して変わらなかったからである。


さっきは無理矢理取れたが、解ってしまったら取れないし、取らせてくれない。


ボディアーマー型の重防御型ジャケット着たままだからな。流れ弾や不意打ち、裁ききれなかった攻撃対策なのさ。
そのお陰で上昇率も低い、だから飛んで逃げられなかったのだ。最初から飛んでたらAHみたく撃たれ強くていいんだけどなあ。

それに対し、今から使うジュラーブリクフォームは極軽防御高機動重視、一発喰らったらお終い。
ただし、加速はスゴイ。ほぼ零距離で最高速度まで加速出来る、そんな一長一短なフォームだ。


さて、でっかいのいきますよー。
片付けたらネギのトコに行くよー。








あとがき:一話で纏めるつもりでしたが、前後編となりました。
因みにタイトルの元本が上下巻なので敢えて(上)としました。


オリジナル設定
ガンドルフィーニ先生関係:某作品を参考とした戦闘スタイルを取らせています。
メガネは(話中でも書きましたが)銃弾に銃弾を当てることが出来るのなら目が悪いから付けている訳ではない
→あの形(アンダーリム・カニ目)のメガネは老眼鏡(近く用)に多いが、そんな歳でもない
→ならば他の目的なのでは?
と言う連想ででっち上げました。







[4701] 第二十三話「突撃砲兵(下)」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/04/01 05:42
「雷の暴風!!!」

僕の使える最大の魔法、そこにカートリッジを足した。
それでも障壁を突破するのがやっとで、すぐに再生するような傷しか付けられなかった。

あの白髪の子への「戒めの風矢」も解けた。
「善戦だったけれど…、残念だったねネギ君…。そういえば、君の使っていた銃弾みたいなの、凄まじい魔力だったけどなんなのかな?」

問いかけながら、ゆっくりと近付いてくる。
そんな時だった。後ろの方、アスナさん達が鬼と戦っている場所辺りに大爆発が起きたのは。


****


「あー、おにーさん、えらい勢いでどこ行かはるのー?ん~、煙が…」
「なんやこの煙は?うわっ、眩しっ!?、…何も見えへん?」
煙幕と照明、その二つを夜間に使うと煙が光を乱反射し、視界が真っ白になってほとんど見えなくなる。
濃霧や吹雪の中でヘッドライトのハイビームにした時と同じ現象、即ちハレーションを起こす。

更にだ、魔力で作った煙に魔力の光を当てる為に魔力を視覚化出来るタイプの魔眼持ちであっても見えなくなる。
視覚に頼る生物は視覚を妨げられると反射的に行動を止めてしまう物である。

それが狙い、足を止めてしまっている上にこちらの出方も解らなくした所に"疑似"広域攻撃魔法を使えば取り残し無く殲滅出来るってもんよ。

この「FAE」は霧散させた魔力を爆発させて全方位から衝撃波をぶつける魔法で、弾数や一発あたりの大きさを変えれば攻撃範囲を調整出来る利点がある。
室内だけに限定して使うことも出来るので使い勝手の良い魔法と言える、その時の魔力は全部自前だけどな。

原型となった兵器と同じく一度拡散させる必要があり、危害を与えるメカニズムも同じ。
欠点も同じなのが玉に瑕、対衝撃型全方位バリアを張られるとほとんど効かないのだ。

こちらの人達はそんなの使わないからいいけど。


****


500体もの鬼、飛騨の大鬼神「リョウメンスクナノカミ」、極東最大の魔力を持つ近衛木乃香。
それを手中に収めている天ヶ崎千草は自らの野望の成就を確信していた。

だから、鬼達が居る所でのキノコ雲が上がるほどの大爆発が起きたことや、小さい魔法使いが障壁を貫ける魔法を使った事実や、従者を召喚したことを足るに足らないことと思っていた、
いや、思おうとしていた。

奥底に残った不安は現実となっていく。

500体もの鬼は4人の女と1人の魔導師により殲滅され、お嬢様は護衛を務めていた半分鳥族の神鳴流剣士に奪還される。
護衛であった狗神使いは甲賀忍者に敗れ、二刀使いの剣士は鬼達と共に大爆発に巻き込まれた。


1人残った西洋魔術師は優勢に戦いを進めていた。

「まずは君からだ。カグラザカアスナ」
フェイト・アークウェルンクスは「魔力完全無効化能力者」と思しき神楽坂明日菜を始末すべく突っ込んでくる、そんな時だった。

「人の弟分に何してやがるんだ。この若白髪」矢が放たれた。
次の瞬間、魔力で形作られた何かが障壁を紙の如く貫き、背中に当たった。

「?!!」
自分の障壁はその様には貫かれないはずで、守りには自身があった。
だが、事実として総て貫かれ自分に達し、今まで味わったことのない、焼けた鉄棒を捻り込まれた様な苦痛を与えている。

一滴の血も出ていないのに、だ。

確かに彼の障壁は強力ではあった。
ただし、アンドレイが使用した"音速の4倍以上で着弾する半実体化高圧縮魔力"と言う埒外な物を受け止められる物ではない。

その様な魔法が存在し、この世界唯一人の使い手がここにいることを知らないフェイトは、
苦痛と驚愕に包まれており、致命的なまでの隙が生まれた。


突きだしたままの腕をネギ・スプリングフィールドに掴まれ、神楽坂明日菜のアーティファクトで障壁総てを取り払われる。
それに合わせて顔に叩き込まれた右の拳、この後幾度か拳を入れられるが、此が最初となった。

静かな怒りは苦痛をも忘れさせ、「…身体に直接拳を入れられたのは…、初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド」
放たれた報復の一撃は、「ウチのぼーやが世話になったようだな。若造」最大の鬼札によって妨げられる。


****


おー、エヴァの奴間に合ったか。
あのデカブツの始末は任せられるな。ちゃんと記録しておけよ?

『愚問です。停電の日は手加減をしていたのです。本気でのデータが取れる機会なぞ早々ある物ではありません』
そりゃそうだな、コイツは言わなくても情報収集するだろう。


にしてもだ、せっちゃん羽付いてるのね。
ちょっと挨拶がてら突っついておくか?このかちゃんも一緒だし。


そう言う訳でせっちゃん達の方へ向かう。

「このかちゃん、お久」
「あ、アリョーシャさんや。せっちゃんみたいなハネついてへんでも飛べるんやなー」
「げ、貴様にまで見られるとは…」
せっちゃん、そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ。
天使みたいでカッコカワイイのに、それが台無しよ?

「うん、ウチもそう思うでー」
「なっ…、このちゃんまで…。…貴様、ネギ先生達の所へ向かわなくていいのか?身内扱いで弟分なのだろう?」
「アリョーシャさんとネギ君、ほんまの兄弟みたいに仲ええからなー。喜ぶとおもうでー」

あー、顔見せといた方がいいか。そう言う訳で向かうが、その前に…。
「ハイ、コレ」
「シーツ?何処から出したんだ?」

収納してあったシーツを出す。このかちゃんをハダカのままで居させる訳にはいかないでしょ?

「…ああ、確かに。感謝する」
「因みに、ハワイからの直輸入品よ、ソレ」
顔が柔らかくなったと思ったら、すぐさま固まるせっちゃん。

「…マテ、つまりはだ…」
「ホテルからパクって来た。用意する時間がなかったんだからしょうがないじゃん」

「全く…、貴様という奴は…。いつもの事ながら怒るべきなのか感謝すべきなのか…、解らん奴だ」
「用意してくれたんはええけど、そんなんあかんでー、ちゃんと返さなホテルの人こまるでー」

後ろの方から聞こえる批判も何処吹く風な感じでネギ達の元へと向かう。

「おーいネギー、取り敢えず生きてるかー」
「え…、アリョーシャ!?何でここに?ハワイにいるんじゃ…」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔するネギ。

ん?アイツ、"さん"を付けてなかった様な…。
まあ、アイツも自覚無しに言ってるみたいだし、帰ってから突っ込んでやろう。

ソレよりもだ、お前、右手が石化してるじゃないか。
腕出せ、時間稼ぎぐらいにはなるだろ。

こちらの石化魔法は初めて見る。だが、魔力を邪魔させれば進行は遅れるだろ、多分。
…余計進行することはないだろうとは思うんだけどな。
『確証無く進めるのはオススメ出来ませんが、やらないよりマシでしょう』

魔力で針を作り、腕に刺す。魔法を魔力針経由で身体の中に流し込む。
普通に使えば浅い傷や骨のヒビを治すぐらいの魔法だが、こうやって患部に直接流し込むことで深い所やピンポイントで治癒させる。

祖父さんの腹心が一人、バイアン三等医務陸佐こと先生直伝の技だ。


顔色が多少はマシになったかと少し安心していると、「良かったわねー、世話焼きなお兄ちゃんが来てくれて」
にひひと笑みを浮かべている神楽坂が声を掛けてくる。

「さっきの矢みたいなの、アンタの魔法でしょ?「人の弟分に何してやがるんだ。この若白髪」って聞こえたわよ」
アレ、着速が1400m/s以上あるのですが…、見えたの?

「それに、さっきは大活躍だったしねー。あの大爆発アンタの魔法でしょ?龍宮さんが教えてくれたわよ」
「え、アリョーシャ、スゴイ爆発だったけど、あんな魔法も使えるの?僕にも教えてよ!」

まあまあ、今は取り敢えずエヴァの活躍っぷりを見てやろうじゃないか。

と、その前に神楽坂。

「ん?何?」
前隠せ。ピンク色した先っちょが見えてるぞ、夜風に当たってたせいか立ってるし。

「見てから言うなー!!」本日二回目のハリセン、忘れてたお前が悪いんだろうが、理不尽だ。
だが今回は許す!スウィングの拍子に捲れ上がったスカートの中が見えたからな!!


…ノーパン健康法でもやってるのか?パイパンのクセに。



阿呆な事をしている合間にも事態は着々と進む。
「"おわるせかい"フッ…砕けろ」

砕け散る大鬼、皆そちらの方に気を取られているが、「あーれー」と叫びながら飛んでいく人影を見逃す様な僕とミーシャではない。

恐らくはアレが主犯だろう、飛んできたエヴァ一行とネギ達に「ちょっくら捕まえてくるわ」と言い残し向かう。
「ああ、こちらもチャチャゼロに追わせているが、お前も行った方が確実だろう」とエヴァンジェリンさん。

なので、あの若白髪が伏撃してきたのは後で知った。
あの場に居てたらえげつない目に遭わせてやったのに…。


****


すぶ濡れの女、天ヶ崎千草が走る。
当てもなく、夜の森を走っている。

資金もほぼ底を突き、資産はあるが即時に現金に出来ない物ばかり。
それ以前に、両親が残してくれた物なので換える気はなかったが。

この事件の前まで、影ながら支援してくれていた者もいるが、本山を襲ってしまった以上誰も助けてはくれないだろう。

そんな五里霧中に陥っていた時だった。

「オ前…、悪人ダナ…?」子供の様な声が聞こえた。
「悪人ならこんな事されても文句は言えないな」少年の様な声が続く。

「なっ…、何者や!?」数少ない札を出し、構えるが、

「チェーンバインド」鎖の様な物に捕らえられる。
何が起こったのか理解しきれない内に人影が見えた。

一つは小さく、不釣り合いな大きさの刃物を持ち。
一つは兵士の様な装いをし、銃を吊している。


あれは追っ手で、自分は捕まってしまったのだと理解した。
そうして冷えた頭で自分を見て気が付いた。

「ひっ…、ひぃいいい!?」
あられもなく、出来ることなら見せたくない所が丸見えな姿に拘束されていることを…。


****


「ニシテモダ、偉クエロイカッコデ固定シタナ。趣味カ?」
「無論だ。大抵の縛り方は出来るぞ、昔に一通りな」
主犯のメガネのおねーちゃん(顔は悪くないし、結構胸がある)はパニックを起こしている。
追っ手に捕まったかと思ったら、こんな状態で拘束されたんだからなー。無理も無いわな。


「デ、コノ後ドウスルンダ?殺ッチマッテイイカ?」
「そうだなあ…、最近溜まってるし…嬲るか」
「嬲カ、マアソレモイイワナ」
『同志と同志チャチャゼロ、無理矢理はダメですよ。一応は同意を取って和姦に持ち込みましょう』


そんな会話を聞いて青くなるおねーちゃん。誰も止める奴がいない上に、"一応"だもんなあ。

だけどね、「悪事をする覚悟があるならこんな事をされても文句は言えないでしょ?」
「ソウダナ、覚悟ガネェンナラタダノバカカ、三流デ腰抜ケノ小悪党ダ。バカヤ小悪党ヲ嬲ッテモ何ノ問題ネェナ」


「い、いや、ウチは…。あの、その…。って!何でウチを嬲ることになってん!変やろあんたら!」
「いいじゃないの、こっちは暴走する十代なんだし最近欲求不満気味なんだから。おぼこじゃあるめえしケチケチしない。減るもんでないし」
「欲求不満デ暴走スル十代カ。女ノホウガ持ツカガ問題ダナ」

みるみる青くなるおねーちゃん、話が全く通用しない事が判明したからだ。
まあ、無理矢理は犯罪だから同意させて和姦にさせるよ。

と言うか、懇願させる。そのための手法は昔に師匠に教わった、ここ最近全く使ってはいないがまだ錆び付いてはいないはず。

手を揉むだけでイかせれるもん、僕。

さーて、久方振りに全力出すとしますか。



――三時間後――



「息モ絶エ絶エデ、腹上死ノ一歩手前ッテトコロダナ。コンナ短時間デヨクモマア、アレダケイカセタモンダナ」
「言っただろ?師匠は世界一さお師な男だって」

入れられていた娼館は竿師も用意してある所なのだが、そこの主が気を利かせて本来フリーの師匠、伊達千蔵を雇っていたのだ。
師匠は皇国で随一と言われた男、そんな男に一ヶ月間付きっきりで教えられた僕もそれなりの腕を持っていると自負している。


そんなのに全力で掛かられたメガネのおねーちゃんがどうなるかは自明の理。
多分、しばらくは腰抜けたままだろうな。



そんなこんなで抵抗する意志を失った(気も失ってる)おねーちゃんを抱えて合流する。
とっても面倒だが一時間かけてハワイに戻らなくっちゃ、荷物置きっぱなしだし。 



****


「にしても、ネギと本屋ちゃんにこのかちゃんの二人と仮契約するとはねぇ。朝倉にバレたりと波瀾万丈な修学旅行だな」


合流後、神楽坂とせっちゃんにここ数日のあらましを説明して貰った。
息も絶え絶えだけど上気した顔したおねーちゃんについて追及されたが、ソレについては黙秘権を行使させて貰った。


あの後ネギの石化は応急処置が幸いしてかなり進行が遅れていたらしい。
しかし、応援部隊の到着を待っていては間に合わないとのエロオコジョの判断で仮契約に至ったそうだ。

その時のネギの嬉し恥ずかしな模様は見てて微笑ましいぐらいだったとか。
茶々丸ー、後で画像くれー。



転移魔法で戻る時、皆が見送りに来てくれた。

とは言え、大半が日曜日のパーティーに招待してあるからすぐに再会するんだけどな。
神楽坂には渡してないけど、ネギと一緒に来るから問題ないとして…、もう一人が問題だな。

「このかちゃん、日曜のパーティーだけどさ、せっちゃんも連れてきてくれない?」
「うん、もちろんやで」

面食らうせっちゃん。


神楽坂に「自分のこと、化け物だって言ってた。ハネついてる以外は同じなのに」と聞いていたから敢えて誘う。
そして、この言葉を贈ろう。決断を下すのはせっちゃんだけど、判断材料にはなるだろう。

「マイルス・デイヴィスって、知ってる?」
「モダンジャズの帝王と言われたトランペッターですね」
ゆえっちの解説と共に続ける、ナイスタイミングだゆえっち。

「彼のバンドのピアニストが抜けて、その次に迎えたのがビル・エヴァンス。彼は白人でマイルス他のメンバーは黒人」
「黒人のファンから批判を受けたそうです」
「でも、マイルスはこう言ったそうだ「緑色の肌をしていようと、赤い息を吐いていようと、俺はどうでもいい。そいつに才能さえあれば何色だってかまうものか」ってね」

イマイチ掴めていないせっちゃん(と神楽坂)。
まあ、何が言いたいかというと、「世の中、人との差異を気にしない奴もいるって事。この人この後も白人や日本人をメンバーに迎えているからね」

「ですが、それは音楽の才能があったからで…」
「だーかーらー、その才能を持つ人が必要だからこそ気にもしなかったの。せっちゃんは必要とされてるでしょ?」

視線をネギや神楽坂、このかちゃんに送る。みんな笑顔で頷いた。


涙目になってるせっちゃん。
このまま一緒にいてやりたい所ですが、「おーい、アンドレイ君。悪いが時間が無くなるよー」ガンドルフィーニ先生を待たせていますからね。

「じゃあ、今度の日曜日にまた」

斯くして京の都に別れを告げ、南国へと戻る。
お土産何がいいかなあ、マカダミアナッツ入りチョコは確定だけど。


****


そうして、ホノルルへと帰還する。

時間は11時頃、2時前の便で帰るからギリギリの時間。
弐集院先生が上手いこと誤魔化してくれたお陰で変に思われることもなかった。(逆に心配された)
後でお礼代わりにいい酒プレゼントしよ。


そうして急いでお土産を買う。
知り合いが多くなるとコレが面倒なんだよな、数多くなるから。

均一品で済ましたい所だけど、その送る相手の好みを知っているとそれに合わせた物を買ってやりたいものです。
例えば、料理好きにいいお醤油や味噌、酒好きにいい酒を送るととても喜ばれる様に。こっちも嬉しくなるものです。

何とか受託荷物の制限重量(多少のオーバーなら見逃して貰えるが)に収め、ホノルル国際空港へと向かう。
さて、どうやって機内での暇を潰しますか。


取り敢えずは考えるは日曜日のパーティーについてだな。

料理はお料理研究会と超包子の面子に依頼済みで、仕入れ用の前金も渡してある。
会場は超包子が店を開いている所で、テーブルや食器類もそのまま使わせて貰える。ついでに屋台も。

で、外注していたアレも帰り次第確認しなきゃ、試作品からして出来に問題はないだろうけど、数が多いからなあ。
あー、自作のアレ、別荘に置きっぱなしだった。エヴァが帰ってきたらすぐに取りに行かなきゃ…。




南国から晩春の日本へと一行を乗せて銀翼は進む、旅は間もなく終わり。








あとがき:此にて修学旅行編終了でございます。
次話は原作にない展開故に少々遅れるやもしれません。

祖父さんとその部下もちょっとだけ顔を出す予定です。




追記:話数間違いを訂正、ちょびっと文章追加。



[4701] 第二十四話「パスハ」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/04/16 19:07
女子中等部の修学旅行が終わるほんの少し前。
3-A担任のネギ・スプリングフィールドは泣きそうな顔をしていた。

「ネギ先生どないしたん?」
「…お腹痛いの?」

事情を知らない教え子達は皆心配しているが、事情を知っている者は諦めさせようとしていた。

「あーもー、アンタが悪いんでしょ?アイツはそんなこと気にもしないだろうから気にしないの!」
「確かにねー。こざっぱりとしたトコあるから、気にもしなさそうじゃん」

それでも泣きそうな顔をする子供先生、自分の失敗が許せないのだ。


****


ユリウス歴と言う暦を使い祭日を決めている正教会では3月21日を春分と定めている。
本日、2003年の4月27日はその春分の後の満月の直後の日曜日。

その日が正教を始めとする東方教会最大の祭日、復活大祭ことパスハの日。
イイスス・ハリストスの復活を記憶する日。

ああ言っておくが、中世ギリシャ語でイエス・キリストを読むとイイスス・ハリストスになるだけで、同一人物だぞ。
カールがシャルルやチャールズやカルロになるのと同じ様な物だ。


そんな日なのだが、全く敬虔ではない我がコンドラチェンコ家は帰郷する親族一同や親しい人達を呼んで騒いで親交を深める日となっている。
一般的日本人にとってのクリスマスパーティーとお盆を足して2で割ってない感じなのだ。


太陽は間もなく真上に達する頃。

100人以上の人達が集まっている。
…裏方合わせても80人ぐらいと想定してたんだけどなぁ。

どうやら、招待状を持っている奴に付いてきたのや連れられたのが混じっている模様。
見覚えのある様な無い様な奴がチラホラいるもん。

あそこでネギとあーだこーだ言ってる髪を後ろで纏めてる地味メガネとか。
顔の造りは良さそうだから、ちょいちょいと弄ったら化けるかも…。


…と、料理足りるかなあ?
年頃からして喰うだろうと思って多めに作ってもらってるけど、ここまで多いとなあ。

厨房の方へと向かい、さっちゃん他の調理スタッフとどれぐらい追加出来るかの打ち合わせをしようとしていた時だった。
綺麗な金髪をした女の人、雪広さんがいた。


****


この麻帆良学園には○ルタン星人率いる学園執行部と渡り合える様に生徒会や各種委員会を纏める為の組織、MU(Mahora Student body Union)こと麻帆良学生自治連合がある。

マンモス学園だけあって規模は大きく、とある組織を元にした編制となっている。
メンバーは各学校の各種委員や専従生徒で構成されていて、無論クラス委員長もこの内に入る。


尚、CLO(学園図書委員会機関)なる組織や、クラスや学校間のもめ事を解決する為の学園司法裁判所があったり、
保育士志望の学生やボランティアを纏めているMNICEF(麻帆良保育児童基金)なる組織まで付いている始末。
止めに魔法生徒による学園安全保障理事会まであるし…、どこぞの国連かお前ら。


余談だが、この学園は基本エスカレータ式なので中学3年は先輩方からこき使われる運命にある。
生徒会や外に進学する連中は別よ、そうでない奴らを高等部や大学の先輩方が「1,2年よりも3年の方が仕事が解っている」と言って使うの。

で、僕も雪広さんもこき使われる3年、そこで知り合ったのだ。
ネギという接点が元で、お互いの仕事を手伝ったり手伝われたりもするぐらいの仲だ。

更に余談だが、こき使われる比率は僕の方が高かったりする。
男子中等部3-Aを数ヶ月でまとめ上げた手腕が評価されたのが原因。



「あれ?雪広さんどうしてこっちに来たの?」
素直な質問をぶつけてみる。お客として呼んだのであって、裏方として呼んだのではないからね。

「手ぶらで来るのも失礼と思いまして、実家の使用人達とコック達、それと料理を持参しましたの。お好きにお使い下さい」
え?そりゃあ、料理やスタッフ足りるかなあと思ってた所だから助かったと言えるけど、お客にそんな気を使わすなんてなあ。

「お気にせず、コンドラチェンコさんにはMUでお世話になっておりますから、その御恩返しと思っていただいて結構ですわ。それに…」
「それに?」

顔を爛々と輝かせはじめた。あー、何か見覚えのある顔。
「ネギ先生がお兄さんの様に慕っている御方の為なら、これぐらい当たり前ですわ!」
…どっから聞いた?アイツが人のこと呼び捨てにする様になって数日と立っていないのなのだが。パパラッチ辺りか?



まあ、解ったら簡単だった。僕へのお土産を買うのをうっかり忘れてしまったことを雪広さんが聞いたのだとか。

夕方持ってきた生八つ橋がそれだったのか、気にしないっての。
と言うか、京都は春休みに行ってたっての、悪いから言わなかったけどな。

「ネギ先生ったら「アリョーシャへのお土産を忘れちゃったよー」と涙を浮かべておりましたので、私の持っていた生八つ橋をお分け致しましたの。あんな

お顔を見せるなんて、ネギ先生は本当にコンドラチェンコさんのことを慕っていますのね…」

一瞬寂しそうな、羨ましそうな顔を見せたが、すぐにいつもの調子に戻る。

「そう言う訳ですから、好きなだけ使って頂いて結構ですわ」
「オーッホッホッホ」と、典型的お嬢高笑いをする雪広さん、じゃあ使わせてもらうよ。遠慮無くな。




そんなこんなで開始時間、雛壇から主催者の一言。

「本日は私事にお集まり頂き、誠に感謝致します」定型文から始まり、

「本当はこの12時間前に始めるののですが、全く敬虔では無い我が家、特に一族の長である祖父さんが
「春のいい時期なんだから」と言う理由で昼間にしてしまったんですよね。孫としても恥ずかしいぐらいいい加減な祖父です」
この形になったいわれと祖父さんへのちょっとした悪口を加える。

今頃クシャミでもしてるだろーなー。


****


とある次元世界のとある島国の首都郊外、其処にある時空管理局所有施設の一室。
「司令執務室」と書かれた部屋の主で、時空管理局少将の階級章を付けた男がクシャミをした。

「風邪ですか、お頭?」その初老の男の部下で、副官を務めている男が声を掛けた。
「誰かが俺の悪口でも言ったんだろう、心当たりがありすぎて誰かは解らんがな。にしてもだ、お頭は止めろと言っただろう"クローリク"?」
副官はその名で呼ばれるのが嫌らしく、顔をしかめる。

「お頭、私にはユーゴという立派な名前があるんですから、それは止めて下さいよ」
この色白のぽってりした柔らかい身体の持ち主、ユーゴ・T・キムラ。名の示す通り第97管理外世界に祖を持ち、近代ベルカ式の剣使いである。
童顔で、どことなくウサギに似ている為、口の悪い者はユーゴのことを司令の故郷でウサギを意味する「クローリク」と呼んでいた。

「お前が俺のことを"お頭"と呼ぶからだろう。現地雇用の奴や此方生まれの佐嶋ならともかく、ミッド生まれのお前もつられてどうする」
「は、申し訳ありません。ユーリー・アンドレービッチ・コンドラチェンコ少将閣下」

してやったりといった顔をするユーゴ、苦い顔をするユーリー。

「全く、こんな事をするのはお前ぐらいだぞ?ユーゴ・T・キムラ一等陸尉」
この二人はユーゴが新米三尉だった頃からの付き合いであり、どことなく憎めない性格と、いつもはおっちょこちょいだがここぞと言った時の働きっぷり
が気に入っており副官として置いている。

「と、所で何の用だ?」
「はい、ハラオウン士官学校校長から定時報告書が届きましたので、報告に。…もうすぐ半年ですか、アンドレイ君がMIAになって。報告書には何と?」
第34管理世界方面隊司令兼停戦監視団司令を務めるユーリー・アンドレービッチ・コンドラチェンコ少将はコンドラチェンコ家の長であり、アンドレイの祖父に当たる。
アンドレイは士官学校入学までは停戦監視団司令部付の嘱託魔導師として働いていた。

祖父の副官であるユーゴとも無論の事ながら親交を持ち、近代ベルカ式について師事したこともある関係だ。
故に、演習中にMIAとなったと聞いた時は狼狽したほどである。

「…そうだな、まあ今回も「微弱ながらも救難信号を連続受信、場所の特定には至らず」とある。発信し続けている言うことは生きてはいる様だから問題は

ないだろう。それにそんなに柔に育ててはいないのはお前も重々知ってはいるだろう?」
「ええ、私他部隊の皆で心身共に鍛えましたからね。最後の方となると新人を扱いていたぐらいですよ」
「それにだ、アイツの相棒はミーシャだぞ。この俺とセルゲイの相棒だったデバイスだ。クローリクが付いているより遙かに頼りになる」
「まあ、ミーシャさんはお頭やセルゲイさんの相棒だったデバイスですから心配はありませんが。それよりもお頭、それは止めて下さいよとさっきから言っておりますでしょう」
「ほれ、お前もお頭と言っているから此でお相子だ。さて、そろそろ昼だ。食いに出るからお前も付いてこいユーゴ」
「ははっ、お供致します閣下」
「全く、調子の良い奴だ…」

そうして部屋の主と副官は足早に部屋を出る。
生きてはいる孫がクシャミでもしているだろうと思いながら。


****


「花粉症にでもなったのかね?」
挨拶回りの途中、でっかいクシャミが出た。
ガンドルフィーニ先生の奥さん(結構美人)と娘さんを紹介して貰った直後だった。

その前に弐集院先生の奥さんも紹介して貰ったが…、どうやって騙したの?と聞きたくなるぐらい美人だった。
…娘さん、奥さん似でよかったですね。と言ったら一寸凹んでいた。気にはしていたか。

「いえ、多分コレは誰かが人の悪口を言っているのでしょう。心当たりが有りすぎて誰かは判りませんが」
「まあ、君の悪行は方々に知れ渡っているからね」
「この前に共犯者になったクセに何を仰いますか。…と、その時お貸しした得物。いかがでしたか?名残惜しそうにしていましたが」

京都へ行った際にガンドルフィーニ先生に貸し出したスキッチェンと銃剣、返して貰う時に一瞬逡巡していた様に見えた。

「確かにね。あの拳銃もだが、銃剣の切れ味のすばらしさには驚嘆したよ。敵の剣を受けようとしたら相手の方が切れてしまったほどだ」
まあ、この世界の魔法銃よりも高性能で実銃とほぼ変わらない扱いが出来るのと、
某所で手に入れた斬○剣合金で作ったのですんばらしいまでの切れ味を発揮するの、惜しくない方が珍しいよなあ。

「宜しければお譲りしたい…、所なのですが、流石にここでは作れない代物ですからね。お譲り出来ません」
「…。そうか…、やはり無理か」
最初に色めき立ち、最後でガッカリする。気付かれない様にしているつもりなのでしょうが、丸わかりですよ。

「とは言え、今までのお詫びと今回のお礼を兼ねてなんか作ります。何が宜しいですか?」
顎を親指と人差し指で挟みながら、「ナイフと拳銃を頼む。ナイフは今使っているヤツと同じ形で頼む」と頼まれた。

お安いご用です。今手に入る資材を使って出来るだけいい物を作りますよ。


****


主催者の挨拶回りは続く、祖父さんの大変さがちょっと判る今日この頃。


図書館探検部の4人、
「アリョーシャ君、今日は呼んでもろてありがとなー」
「あ、きょ、今日はお招きいだたきありがとうご、ございます…。アンドレイさん」
まあ、いつも通りの二人。

本屋ちゃん、4ヶ月も経ってるんだからいい加減慣れてよ。
アリョーシャって呼んでよー。

対照的に、
「いやー、招待してくれて感謝するよ。にしても太っ腹だね、これだけのごちそうを用意してくれてるってのに会費ゼロだなんてね!!」
「ご招待感謝するです、オモシロ珍しい飲み物をあれこれ用意してくれたことも感謝するですよ」
妙にテンション高い二人。パル様は只飯で、ゆえっちは珍飲料で。

「特にこの「ゲルル○ジュース」と「ど○り濃厚ピーチ味」は話には聞いていましたが、飲むのは初めてです」
「うん、仕入れに使った問屋さんがメーカー在庫でなら有るって言うから取り寄せて貰ったの」
微妙に目を輝かせているゆえっち、そんなに珍飲料が好きなのか…。

「でもそれ…、個性的で前衛的な味よ?」
「それがいいのです」
そうか、それがいいのか。ならば何も言うまい。


超一味、
「私の所に依頼して正解ネ。でもスゴイネ、これだけの規模のパーティをポケットマネーだけで開くなんて相当持ってないと無理ヨ」
「まあ、それなりに持ってはいるし。金は天下の回りもの、あの世まで持って行ける訳でもないんだから何かの折に使って行かなきゃ」
感心されたので、自分の考えを言ってみる。

「それはそれで正しい考え方ヨ。同じ歳なのにそんな考えが出来るとは、アリョーシャサンは大人ネ」
祖父さんの受け売りなんだけどな。事件が片付いた後に自腹切って臨時ボーナスを出したりするから余計に慕われるのだ、ウチの祖父さんは。


「初めて作るお料理が多くて大変でした・・・。でも…、いい勉強になりました」
さっちゃん達調理スタッフには苦労をかけてしまった。

代表的ロシア料理は食べたり作ったりしたことはあっても、宗教的伝統料理を作ったり食べたことがある人間は流石のお料理研究会でも少数派で、そこに合わせて修学旅行シーズンである。

知っている人間が修学旅行に出ていたりしてなかなか打ち合わせが出来なかったり、さっちゃんも帰ってきてすぐに仕込みに入らなければならなかったりで、苦労をかけてしまった。
ゴメンね、そしてアリガト。


「うちの子達は元気ですか?三人も送り出したんですからねー」
うちの子とはハカセ提供の量子コンピュータのことである。
現在二つは弟子用デバイスとして絶賛起動中。

「ああ、今度また手伝って下さいよーっ。アンドレイさんのアプローチは大胆で且つ実践的ですからー」
そう、ちょっと前にハカセの研究している「魔法の工学的応用」の論文の一部を見て、
個人的考察とミッドチルダでの実例(無論ミッドのことは隠してだぞ)を言ってみたら偉く感動され、手伝わされたのだ。

代償として3つ目の量子コンピュータと既存のアップグレードがタダで出来たので良しとするが。


まだまだ挨拶回りは続く、ちょっと招待しすぎたかなぁ…。

双子、
「お招き頂きありがとうございますですー」
「アリョーシャ君、ゴチソーサマー!」
色気より食い気…の割に成長しないなあ、この二人。


パパラッチ、
「アンタも魔法使いだったとはね。それも無茶苦茶強いそうじゃない、今度話聞かせてよ」
…記事にはするなよ?したら爆殺するか、そのムネが更にデカくなる様な目に遭わすぞ。
オマケでお腹も大きくなるがな!

無言で頷くパパラッチ、素直な子は好きよ。


真名、
「取り敢えずの請求額がこれだけだよ」
そう言って、電卓の数字を見せる。…高っ!いくら何でも使いすぎだろコレ。

「言うと思った、そこでだ。頼みを聞いてくれたらこれぐらいにするんだが…」
そこに表示されていた額はヤマ○電機やビッ○カメラも驚きの値引率。
…一体何を頼むんだ?ひょっとして僕の身体?

「いや、仕事用の道具だよ。近い内に大きい仕事があるからね、それ用のが欲しいんだ」
ああなるほど、そう言うコトね。判った、詳細は後日ってコトで。

でさ、銃口を眉間に突きつけるのはよして貰えないかな、.50AEモデルだろ?ソレ。流石にゴムスタンでも痛いし、マズルファイヤで火傷するんだけど、実包じゃないだろうな?
「さあ、どうだかね」


楓ちゃん、
「京都ではありがとうな」
「なんのなんの、あれは拙者が勝手にしたことで、気にしなくてよいでござるよ」
とは言え、恩に対して何も返さないのは我が家の礼儀に反するんだが…。

「では、美味しい菓子を一つ。それで手打ちにするでござるよ」
判った。今度、特上のお菓子を用意しよう。それでいいのね?
「楽しみにしてるでござるよ」


古ちゃん、
「礼の替わりにワタシとまた勝負するアルよ。アリョーシャ相手だと全力が出せるネ」
春休みに一回やり合ってから、再戦しろと五月蝿いのだ。
手を抜くのは失礼との考えから、目・脊髄・急所への攻撃有りでやったのが悪かった模様。

その緊迫感と衝撃の流し方の上手さ、更には身体強化魔法を使っていたため、多少打ち込まれても何ともなかったのがお気に召した様で、この様になったのだ。

え?魔法で強化するのはずるいって?
あっちは無意識に"気"を使って強化しているんだからこれでお相子ってコト。

「あ、そう言えば。ネギのことでちょっと頼みがあるんだけど」
「ネギ坊主のことアルか?」


明石親子、
「お招き頂き感謝するよアンドレイ君。今日はちゃんと当ててきたよ」
「おとーさん、ウソはダメだよ。朝、私が行かなきゃシワの付いたシャツで来るつもりだったでしょ」
相変わらずの親子だなあ。まあ、裏にアイロンとアイロン台を用意しておいたんだが使わなくて済んだな。

亜子ちゃんとまき絵ちゃんとアキラさん、
「ほんまにええのん?こないにご馳走になって、タダて」
「本人はいいって言ってるよ?ならご馳走になろーよっ!」
「御馳走様」

チア三人娘、呼んだ憶えないぞ?
「まあまあ、いいじゃん」
「ごちそーになってるよー」
「ごめんね、このバカ二人が勝手にね…」

ネギに連れられてたメガネ、
「…こうして面と向かって会うのは初めてですね。長谷川です」
「どういたしまして、アンドレイ・コンドラチェンコです。…で、長谷川さん。此方へはネギに連れられて?」
「ええ、半場無理矢理に」
「ごめん、後で叱っておくわ」
弟分を叱ったり代わりに謝ったりするのも兄貴分の仕事。


****


やっとこさネギと神楽坂の所、
神楽坂、顔が赤いがどうした?ネギの方をチラチラ見て…、ははん。
オジンコンの反動でショタコンに走ったか。

「違うのよ。私そんなんじゃないのよぉ~!!」
近くの木に頭を叩き付ける神楽坂。

まあ、自分がショタコンに目覚めたことをオジン好きとしては認めたくないのだな。
「ア、アスナさん、一体どうしたんですか!?」

気にするな、一過性の病気みたいなモノだ。暫くしたら落ち着くやもしれん。
「まあ、あれはあっちにおいといてだ。弟子三号となることに相違ないな?」
此方の目をしっかりと見て返す。
うん、いい目をしてるな。

「ハイ!お願いします!!えっと…」
「教官と呼べ。ただし、訓練の時だけだぞ?それ以外はいつもと同じで宜しい」『私もお忘れ無く。そのままで構いませんからね』
「教官にミーシャさん、よろしくお願いします!」
とまあ、弟子にするのはいいんだけどなあ。問題が色々あるし、コイツで試したいこともあるし、方針決めなきゃなあ。

あー、はっきりしてないからってこいつ用のデバイス後回しにしてたわ、ガンドルフィーニ先生の頼まれ物もあるし、真名にも頼まれたなあ。
さっさと片付けなくっちゃ、手先が小器用だとこんな時損なんだよな。

「あ、教官」「今はアリョーシャでいいと言ってるだろが。で、何だ?」
今さっきいつもと同じで宜しいと言ったでしょうが、オンオフが下手だなコイツは。

「さっき、弟子三号って言ってたよね?一号はタカミチだろうけど、二号はどんな人なの?」
あー、それもあったな。後でメイちゃんと会わせなきゃ…、あー挨拶回り途中だったわ。
主催者の辛い所なんだよなコレが、祖父さんや親父の気持ちが分かってきた様な気がする。

後、エヴァに一言言って…と、待てよ?それならこうして、ああして…、あいつに連絡とって…。

「アリョーシャ、何ブツブツ言ってるの?」
『ご心配なく、お馴染みのろくでもないことを考えているだけです』
「お馴染みのって…」


****


お開きになって少し立った頃、日が暮れかけている時間帯。場所は変わってエヴァの家。

「何?ぼーやを弟子にするだと!!?」
とっても分かり易い狼狽の仕方を実演してくれているエヴァンジェリンさん。ネギに神楽坂、参考にしておきなさい。
「何の参考にするのよ…」

後ろの神楽坂が呆れている様な気がするが、気のせいだろうから話を続ける。
「そうだ、コレは前年度、細かく言えば三学期の期末試験前からの約束だ」
「本気か?あのジジイが黙っていないと思うぞ?」

問題その一、バルタ○星人他。
試練を与えているとは言え、大事に育てたい英雄の息子。タカミチは良しするだろうが、あのジジイやまだまだ人のこと嫌っている先生達は反対するであろう。
そこで、前々から考えていたこととの合わせ技で解決することにした。

「で、コイツに此方と彼方の融合をさせてみたいのだ。そう言う訳でこちら側の師匠になって、と言うかなれ」
「命令形!?貴様はアホかーっ!!何で私がコイツを弟子にしなければならんのだ?お前が戦い方を教えれば良かろう」
予想通りの反応、そこでネギをずずいと前に出し続ける。

「いや、僕が教えられるのは"魔導師"の戦闘法だけで、"魔法使い"の戦い方は教えてやれないのよ。兄弟子二人は戦闘スタイルが確立されている奴らだけど、コイツははっきりとしてないの。興味ない?此方と彼方の融合」
「まあ…、確かに興味はある。だが、ぼーやはいいのか?勝手に実験台にされることになるが?」

ネギにサインを送る。背中をこうしたらこう言えと教えてあるのだ。
「ハイ!構いません。それに京都での戦い、アレを見て魔法使いの戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいない。そう思いました!」

鼻をぴくりと動かす、クウネルさんの言っていた通りだなあ。
連絡とっておいて良かった、弄り方・擽り方を色々と、それこそ聞いてもいない所まで教えてくれたからな。

「…ほう、つまりは私の強さに感動した…と、…本気か?」
「ハイ!!」
指示はしてはいるが、気持ちは本物だ。
コレを思いつき、話した時に「教えてもらえるのなら教えてもらいたいです」と言っていたからな。


悪そうな笑みをうっすら浮かべたエヴァンジェリンさん、この後何を言うかは何となく解る。
「フン…良かろう、そこまで言うのならな。そこの後ろで立っている奴に花粉症を治して貰った借りがあることだしな」
治したというか、ワンシーズン殆ど気にならない様にしただけだがな。バイアン先生直伝の鍼でな。

「え…」
「ただし…!そこのそいつはともかくぼーやは忘れている様だが…、私は悪い魔法使いだ。悪い魔法使いにモノを頼む時にはそれなりの代償が必要だぞ…、くくく」
ずいっと出される素足。

「まずは足をなめろ…。って!小僧がなめるなぁ!!」
嘗めようとしたら凄まじい勢いで引っ込められた。ひどいじゃないか、その対応。

「アンタもするなーっ!!」神楽坂もだ。3回目だぞ、そのスチールハリセンで叩かれるのも。
エヴァを「何突然子供にアダルトな要求してんのよーっ」とハタくのはいいとして「イヤ、良くないだろ」


「チャチャゼロから聞いたぞ。あの呪符使いを腹上死寸前にまで行かせたと、そんな奴になめられたら腰が抜けるまでなめそうだ。だからお前はなめるな!」
「アレハ見物ダッタゼ。最後ノ方ナンカ軽ク触ラレルダケデ潮吹イテタカラナ。アノママモウ少シシテタラ死ンデタンジャネーカ?」
茶々丸の頭の上のチャチャゼロが捕捉する。

ダメと判ると余計にしたくなるのが人情ってモノでしょう、そう思っていると。
「わ…わかったよ。今度の土曜日、もう一度ここへ来い。弟子に取るかどうかテストしてやる。それでいいだろ?だからそんな目で見るのは止せ」
「アリョーシャ、アンタ今さっき、スゴイイヤらしい目してたわよ。このドスケベ」

何げにひでえ事言ってくる神楽坂、対照的にネギは純真な目で「腹上死ってなーに?」と聞いてくるが、当分は知らなくて宜しい。
そして良い子は意味が判らなくても決して神楽坂やタカミチに尋ねてはいけないし、ググってもいけない。お前と僕との約束だ。いいな?

「…そのうち教えるかも」
「アホかーッ」

4回目の神楽坂スチールハリセン、理不尽だ。可能性の話なのに。









あとがき:いよいよ、アリョーシャ君によるネギ魔改造が始まります。
この後どの様になるのか、こうご期待。



[4701] 第二十五話「乳母が七人いると子供に目が届かない」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/05/19 01:15
ネギに怒られた、「なんで教えてくれないの!」と。
月曜日のことだ、古ちゃんに近接戦闘教官になって貰ったことをネギに報告したらこうなった。

魔法と一緒に格闘術も教えて貰えると思っていた所に、此方が勝手に決めていたので余計に怒った。
だが、此方にも教えられない訳がある。


僕が使うコンドラチェンコ式近接戦闘術は若き日の祖父さんがリャザン空挺学校の特殊戦部隊教程で教わったのに実戦経験と魔法を使った各種強化を加えて煮詰めたモノである。

基本思想は「理詰めで人体の構造を知り、それを用いての効率の良い無力化」である。
故に、普通の武術では禁止されている目つぶしや金的、脊髄への攻撃等々の禁じ手も普通に使うし、倒れたのを踏んづけもする。
武道家としての心がどうのこうの言ってくる奴もいるが、軍特殊作戦部隊起源だもん、効率第一で別に相手殺してもいいところだし。

なので心身共々鍛え上げた奴でないとマスター出来ない。

軍人として訓練を積んだ奴ならともかく、ネギにははっきり言ってまだ早い。
僕は幼少の頃から基礎訓練をしていたし、知らず知らずに出来る身体になっていたが。

だから、中国拳法の使い手である古ちゃんに依頼したのだ、「ネギに格闘戦の基礎を教えてやってくれ」と。
近い将来教える上での素地作るには十二分すぎる、どっちも理論的なところがあるからネギに向いているだろうし。

しかしこの「複数で教える」遣り方がエヴァにヤキモチ焼くとは思いもしなかった。



****



日課の早朝ランニング。
最近は不本意なメニューが加わってしまった。

「アンドレイ・コンドラチェンコ、いざ勝負!!」挑んでくる阿呆共の始末だ。
どうやら古ちゃんが僕の名前を出したらしく、「古部長が認めるほどなら相当な腕に違いない」と考えた皆さんが挑んでくる様になった。

こんな朝早くから良くやるよ…。


最初の方こそはちゃんと(急所攻撃無し)相手していたのだが、こうも毎日相手していると嫌になってくる。
よくもまあやってられるな、古ちゃんもコイツらも。

なのでこの前、一番しつこいの(男)を潰れない程度に金的を蹴り上げ、ダメージが残らない程度の目つぶしをし、血尿が出る程度に内蔵を痛めつけ、
脊髄に損傷を与えない様に気を付けて攻撃してスケープゴートにしたのだ。

あれだけ痛め付けられる様を見せたら流石に減るだろうと思ったのだが…、減らねえでやんの。
スケープゴート君(仮称)も数日間検査入院しただけで、挑んでくるし…。コイツら、Mか?


そんなこんなので片付けた後、世界樹前広場へと向かう、ネギの自主練を見にだ。
アイツには基礎体力を付けさせるために自力でのランニングをさせている、近い内に魔力付加や過重を付けさせるつもりだ。

この時間は走り終わって、古ちゃんから教えてもらった基礎の形の練習をしている最中の筈だ。

そこにはいつもの面々(神楽坂、古ちゃん、せっちゃん)とまき絵ちゃん、伸びているネギというよく判らない組み合わせがあった。
一体何があったの?



…何というか、アイツは時々見た目相応な所を見せるのだが、それが悪い形で出てきたか。
後で文句を言っておこう、引っ込みが付かなくなっているだろうから、撤回はしないだろうが。



****



放課後、エヴァの家。まだ帰っていない様なので勝手に作った合い鍵で入る。
勝手知ったる人の家、勝手にお茶を入れ、見繕ったお茶菓子(と言うか僕がこの前買ってきた)を摘みながら待たせて貰う。

帰ってきたら、「何でお前が先にいて、更にはくつろいでいるんだ!?」驚いていた、茶々丸なぞ「お待たせさせてしまい申し訳ありません」と平然としているのに。

茶々丸を見習いなさい。

「見習うかー!って言うかどこから入った!?」
そんなに怒ると血圧が上がるぞ、いい歳なんだからさあ。

「玄関から」
「そんなことは分かっている!鍵がかかっていたはずだが?」

合い鍵を見せる、一応魔法使いの家だけ有って鍵には魔術的処理とが施してあったがミーシャにフルコピーさせた。
「勝手に作らせて貰った。言っておくが、ミーシャと僕の魔法の前ではティンブルキーだろうが電子ロックだろうが魔術的なモノだろうが無意味だぞ」
つーか、座標データは揃っているからな。トランスポーターでここに来られるし。

「まあ、今のお前に何言っても無意味なのがよく分かった。で、何の用だ?念話ではなく直接来たと言うことはそれなりの用件なんだろう?」
半場諦めの表情を浮かべ、ソファにどっかと腰を下ろす。

とは言え、「文句言いに来た」それだけだからなあ。


「ああ、ぼーやのことか。と言うか、お前が決めたと聞いたぞ。船頭を多くしてどうするつもりなんだ?」
今回の論点はそこ、「複数で教える」遣り方を「船頭多くして船山に上る」と考えるか、「餅は餅屋」と考えるか。

ロシアのことわざにも「乳母が七人いると子供に目が行かなくなる」と言う諺もあるが、それは明確な基本方針を決めていないからだし、きちんと役割分担決めてやろうとしているだけなのに。

「軍や管理局では「餅は餅屋」で複数の教官に教えられるのが当然だからなあ、僕もミーシャと共同で弟子に教えているし」
「小僧の言っている事も間違いではないぞ。お前は組織の中で教育を受けたからな。高い平均値が要求される軍人の考え方だ」
考え方の理解はして貰えるみたいだな。

「だがな、私は一匹狼だ。自らで決めた高みを上ってきた者の考え方はまた違うのさ」
ふむ、それも一理ある。此方は組織が求める高さに達すればいいが、一匹狼は自分で決めなければならんからな。
自分で決めて上がってきた者からすればあれやこれやと手を付ける遣り方は面白くないと。

「それにだ…」
それに?

「あんな破格な条件でもダメな奴を弟子にとる気はない、メンドいからな。…何だその目は、小僧に茶々丸」
「別に」「イエ、特には」

なるほどねぇ、千尋の谷とか愛のムチって奴?
「だから、ちがうっつーの、コラ」

「まあ、それはこっちに置いといてだ。アイツは今現在僕の弟子だ、別荘は如何に問わず使わせて貰えるんだろうな?協定上ではそうなっているが?」
「協定内の「別荘使用に関して」の項目に確かにあります。「弟子若しくはそれに類する者の使用に関しての過干渉を禁ず」と」
「協定を持ち出してきたか。そちらが遵守している限り此方も守らねばならんからな…」

細部まできちんと決めておくとこう言う時に助かるのだ。
エヴァが嫌っている奴がもしも弟子になった時に備えて加えておいた。

「使わせて貰えるんだな?それならいい。ああ、弟子への口出しは今後も構わないぞ、三号相手でもな」
そう、エヴァは時々弟子達へ文句の様な形で助言をしてくる。
主に弟子二号ことメイちゃんが出されているが。タカミチは出す必要がほとんど無いもん。

「ああ使ってもいいし、口出しは続けさせてもらうさ。ただし、使用料を値上げさせてもらうやもしれんし、ぼーやだけ口を出さないかもしれないぞ?」
ん、それが聞ければ十分。

コイツのことだ、あれこれやっている内に堪らず口を出すに違いない。
目論見の一つ「此方と彼方の融合」はやや遠回りになるだろうが、実現するだろう。


そもそもテストに通ればよいだけのこと。少々扱いてやりますか。


****


明けて金曜日の放課後、昨日は、ネギがフォアグラを作らんばかりの勢いでまき絵ちゃん謹製お弁当(美味しいのだが量が多すぎ)を食べさせられたり、
急激に太ったりやせたりしたり、まき絵ちゃんのリボン演技を見せてくれたり(パンツがよく見えたのは役得)と色々あったのでした。

まあ、子供っぽいと言う意見には賛成だ。しかし、中学生に深みを求めるのはどうかと思うぞ二ノ宮先生。
正確な基礎技術を身に着けてから自分なりの表現力を付けていくのが筋であって、今は技術の頃だと思うのだが。
ノー天気に楽しんで過ごせば、深みなんて出る訳無かろうに…。


朝も朝でヒゲ付けたバカがバカなことをしていました。
地獄の特訓メニューねぇ、陸自候補生学校でやっている背嚢30kg背負っての二夜三日筑波山80km行軍でもやらせてみるか?
それとも、SASのフル装備68kg山中100km一泊二日行軍の方がいいかな?

それを聞いていた一同が
「そ、そんなことをするんですか?!」
「何よ、その三日で80kmも無茶なのに、倍以上身に着けて二日で100kmって非常識なのは…」
「それぐらい出来ないと士官や特殊部隊員には成れないのですか…」
「流石は特殊部隊アルな、流石のワタシでもそれは無理アルよ」
「そんなの絶対無理だよおっ。死んじゃうよっ」
青くなってたりガクブル震えていたのはご愛敬って事で、冗談に決まっているじゃないか。

前者みたいのなら実際にやったこと有るんだけどね。士官学校の行事にあるのよ、元ネタ提供者・ウチの祖父さん。
お陰で文句言われました、上級・同級・下級問わずに。



古ちゃんに格闘戦技教官役を任せ、僕は時々端から見て感じたことで口を出す。
吸収力が高いだけ有ってあっと言う間に様になっていくネギ。

だんだんとヒマになってくるので、隣にちょっかいを出してみる。
「せっちゃん、ナイフとやり合ってみない?」と。

「貴様…、コンドラチェンコさんとナイフでですか…。殆どやり合ったことがありませんからね、…いいでしょう」
了承を得て、愛用のナイフ、と言うか銃剣をカバンから出す振りをして出してくる。
一般人のまき絵ちゃんの前で実体化させれないからね。

「ええっ、それ本物っ…?」
とは言え驚かれるのは変わらないのだがな。

「ゴムで出来た訓練用の奴だよ。この通り切れないの」
腕に刃を当ててみせる。保護フィールド張ってあるから全く切れません。
本来は斬○剣並の切れ味を誇るのだがな。あ、超斬鉄○合金製なのでコンニャクも切れるぞコレは。



「やっぱり得物が長いだけ有って内側に潜り込まると弱いね。筋と血管、最低でも五回は切られてるよ?」
「くっ、貴様に為す術もなくやられ、夕凪まで取られるとは…。参った」
双方気や魔法での強化はせず、大技も使わずにやり合うと、開始数十秒でこうなった。

僕が倒れたせっちゃんの顔の上に立て膝で座っている状態だ。
右手の夕凪は手に力が入らなくなる極め方をして離させて取った。

元々剣持った相手に対してもやり合える近接戦闘術だ、対ベルカの剣士用に強化されたコレとなると"気"を使わないと勝負にならなかったりする。
…この前のは打刀と脇差の二刀使い相手にするのが初めてだったのと、こっちの未熟さが重なったからであって、本来なら勝てるのだぞ。
帰ったら、祖父さんと親父に揉んで貰おう。

「アンタの動きスゴい事はスゴいんだけど、ヌルヌルしてて…何かキモい」
「まさか刃の峰を腕に当てて滑らせることで、刃の軌道を変えさせるとは…、勉強になりました」
「相変わらずイイ動きアルねー。瞬間的に重心崩して倒したり、ヒザで肩を動かせない様に固めたりと容赦ないネ」
「アリョーシャさん、スゴいなあ。ウチ、せっちゃんがこかされてもうて、そこに乗っかられてもうたくらいしかわからんかったわ」
「強いって聞いてたけど、ホントに強いんだねー。私から見てもすんごい滑らかな動きだったもん」
各自の意見を言ってくれる皆様方。

その中でもネギは
「あんなにスゴいコト出来るのに、何でぼくに教えてくれないの!」
またまた怒っていました。

「あのなあ、アレは基礎が出来てからでないと教えても出来ないの。毎朝のランニング、アレも大事なステップの一つなんだから地道にやっていきなさい」
「でも…、じゃあ、どれぐらい出来る様になったら教えてくれるの?」
そんなことを聞かれてもなあ。そだな、せめて…。

「筑波山中30kg80km二夜三日行軍、それぐらい出来る様になってからだな。今からするか?」
「う、うん、分かった。地道にランニング続ける」
冷や汗をかきまくるネギ、そんなに嫌なのか?30kg80km二夜三日行軍が。

「アスナー」「ん、何?」
「ネギ君とアリョーシャ君って仲いいよね?さっきからタメ口で話してるけど」
「アリョーシャ君、下の弟妹が七人もおってな、そんひとりがネギ君と同い年なんやて。そやから弟扱いしてるんやて」
「で、ちょっと前からあいつもお兄ちゃんみたいに思い出したみたいで、あんな風に話す様になったのよ」
「へー、そーなんだ」


特訓は続き、とっぷりと日は暮れて夕暮時。
「よーし、今日はお腹もすいてきたアルから解散ネ」

ヒマな間筋トレをしていたので汗もかく、さっさと風呂場行って、サウナ入って、氷風呂から風呂入るべ。
と、汗拭いてるネギが視界に入る。確かコイツ風呂嫌いだったよな?

「神楽坂ー、コイツも一緒に風呂入れていいかー?」
猫みたく襟首掴んで、保護者に聞いてみる。

「え」と被保護者が言うと、「きれいに洗ったげて。コイツ入ろうとしない上に、水で流すだけで済ましちゃうんだから」
と保護者の有り難いお言葉。

「わかったー、さーて、ネギよ。お前にサウナと風呂の素晴らしさをじっくりと教えてやる」
肩に担いで連れて行く。「あううう」と手足をじたばたさせているが気にしない。

「ドナドナだね」との声も気にしない。

助平オコジョが「兄貴、日本じゃあこう言うのを「裸の付き合い」って言うんだぜ」とフォローを入れていた。
それはいいが、女の方に向かうのな、お前は。


「あ、カレーが大量にあるんだけど、良かったら食べる?食べるのなら後でコイツに持って帰らせるぞ」
金曜日はカレーの日、海の一族である藤堂の爺ちゃんや輝男さん達の影響で我が家ではそうなっている。
こういうのは大量に作った方が旨いし、寝かせた方が味がこなれてくるので前の土日に作って業務用冷蔵庫で寝かせてある。

「ええでー、ご飯炊いて待ってるでー。せっちゃんも一緒に食べよなー」
「え、は、ハイ…」
「期待しないで待ってるわよ」
「ワタシも食べるネ」
「あ、私もー。亜子の分もお願いねー」

「男の子のカレー」を想像しているだろうが、驚くなよ。
今まで食べさせた連中に絶賛され、いつもお裾分けしている近隣の方々に楽しみにされているコンドラチェンコ家流カレーに。


****



中等部男子寮、ここまで来ると流石に観念したのか大人しい。
取り敢えず、寮監さんに断っておいてと。

「ん?アンドレイ君、その子は確か…」
「女子中等部のスプリングフィールド先生です」
「おお、そうだったね。それが噂の子供先生かい」
御歳70歳、定年まで教諭兼広域指導員を務め、定年後にココの寮監になった御方だ。新田先生の先輩だな。
好々爺で、今でも元教え子の先生方がよく遊びに来られている。そんな人だ。

「でも、何で連れてきたんだい?アンドレイ君が弟扱いしているのは聞いているけど」
「コイツ風呂嫌いなんですよ。さっきまで運動して汗かいたのに入りそうにないので連れてきました」
「これぐらいの子は汗を良くかくし、コーカソイド系は体臭が強めだからね。アンドレイ君はロシア人だけ有ってサウナが好きだから気にならないけどね。

学園長に頼み込んでフィンランド式だけだったのをロシア風呂作らせちゃったぐらいだもの」
無理言って作ってもらいました。タカミチにも協力して貰って。

「ええ、大好きですよ。氷風呂にしますけどイイですか?」
「ああ、構わないよ。私も後で使わせて貰うし。わざわざここに来る人もいるんだよ、本式のロシア風呂は麻帆良でここだけだって。…そう言えば今日は金曜だったね」

「あ、後で持って行きますから。待っておいて下さいね」
「ああ、楽しみにしているよ。ネギ先生、アンドレイ君のカレーは美味しいですから楽しみにしておきなさいね」
寮監さんの許可を得て大浴場へと向かう。

日本で一般的な「フィンランド式サウナ」と「ロシア風呂」こと「バニャ」はあちこち似ている様で大きく違う。
両方とも白樺の枝葉で身体を叩いたりするが、芬式は湿度10%の気温80~100度に対して露式は湿度80%以上40~60度と蒸し風呂状態なのだ。


着替えとタオルを用意し、脱衣場で脱がしたネギの服や下着は隣にある洗濯場の洗濯乾燥機(ドラム式)に突っ込んでおく。
さてー、コレで逃げられないぞ。


「あついよー、もう出てイイ?」「我慢なさい、五分したら上の段のもっと熱いところに行くから」
バニャの入り方は最初の5~10分に40度台の下の段で寝転がって過ごし、身体が慣れたら上の段、60度のエリアで30分。
暖まってきたら濡らした白樺の枝で身体を叩いて血行を良くしたり、ハチミツやオイルでマッサージしたりする。
最後に外に出て冷水を掛けて一気に冷やすか徐々に冷やす。

これを3,4回か繰り返すのだが、初心者で子供のネギには辛いので一度だけにした。
のぼせかけてぐんにゃりしているネギを小脇に抱えて、いざ行かん氷風呂へ。

コレが気持ちいいんだよな、冷たいので身体が引き締まって。

後はラクチン、大人しくなったネギを洗ってやる、弟妹達で洗うのは慣れっこなのだ。サイズも丁度これぐらいだし。
逆に「背中洗ってくれー」と言えば「うん!」と嬉しそうに洗ってくれる。

お姉ちゃんが愛情を注いでくれたから母性愛は足りていても、父性や男兄弟の愛情は殆ど味わったことがなさそうだからな。

「どうだ、さっぱりしただろう?」「うん!ちょっと疲れたけど、すっごくスッキリしたよ」
風呂から出た頃には洗濯物も仕上がり、身も心もスッキリとする。


後はカレーを渡して帰すだけ。部屋に連れて行く。

男の部屋は珍しいらしく、きょろきょろとするネギ。
いつも見てるのが女の子の部屋だからなあ、やっぱ換われ。

基本的に飾り気のない、本が多い部屋、隊生活が長いので1分で片付けられる程度にしか散らかっていない部屋、
そんな部屋で写真(ミーシャに保存してあったのを印刷した)を見つけたので聞いてくる。こっちはカレーの仕上げ中。

「これがアリョーシャの家族?いっぱいいるねー」
去年のパスハの時の一族写真だ、みんな合わせて35人いるからなあ。

「この同じぐらいの歳の人達はー?緑色の制服みたいなの着たの」
士官学校の同期で同じ斑の連中ー。ストロベリーブロンドで翡翠と紅玉のオッドアイの子いるだろ?それが僕の彼女ー。

「じゃあ、こっちに来てからずっと会ってないんじゃあ…」
畜生、それに触れるなー。こっちも会いたいってのに…。


そんな話をしている内にもカレーは仕上がる。今日は贅沢シーフードカレー。

カレーソースを入れた鍋とタッパーに詰めた具を渡す。
ソースと具を軽く一煮立ちさせれば出来上がりだ、仲良く食べろよー。


****


土曜の朝、カレーは気に入っていただけたようで、みんな褒めてくれた。

「具が贅沢ねー。キノコに半分に切ったホタテにカニに魚が二種類に海老にタコに…」
魚は空揚げにした鯛とカレー粉入りの粉付けた穴子だ、あと白ワイン蒸しアサリとその汁も入っているぞ。

「スゴイ美味しかったよーっ。亜子も美味しかったって」
そりゃどうも、今度アキラさんにもご馳走してあげよう。あの四人で食べてないのは彼女だけになっちゃったからね。
ゆーなは親子で食べているし。

「四葉に教えてやって欲しいネ。そうすれば皆が超包子で食べられるヨ」
教えるのはいいけど、点心メインの店だろアレ。カレーを出すのはなあ。

「…昨夜、龍宮が言ってました。「アイツのカレーは店が開けるぐらい旨い」って、…本当でしたね」
そりゃそうだ、親父が気に入った店の主人に頼み込んで教えて貰ったレシピを使っていて、そこの御主人はホテルで長年修行した人だもの。
真名他、仕事関係者や弟子一同やエヴァは何度か食べているからな、金曜に当たった奴ら限定で。

「ちょっと辛かったけど、美味しかったよー。また食べさせてね」
金曜になったらな、コレもウチの風習なんだ。

「美味しかったわー、作り方教えてくれへん?」
いいよー。ただ滅茶苦茶手間が掛かるし、最低でも数日寝かすよ?
ルーなんてたっぷりのタマネギ・人参・セロリを色付くまで炒めて冷やしてカレー粉と薄力粉を混ぜてオーブンでカラカラにして粉にしたのと各種スパイスを使い、

そこにまたたっぷりのタマネギ・人参・セロリを炒めてホールトマトにパインジュースにリンゴとマンゴチャツネ、チキンブイヨンとフォン・ド・ヴォーを同量たっぷりと。

そこに表面焼き固めた牛固まり肉(オージービーフ)を投入、暫く煮込んで引き上げて冷めたらサイコロ状に切って、別個に保管。

そして6時間ぐらい煮込んだのを漉して冷やして寝かして…、とココまで手間暇掛けて作ってます。

ん、何だ神楽坂「本当に店でも開いたら?」って顔は。
我が家の伝統なんだからしょうがないでしょう。小さい頃から仕込まれてきたのよ、母さんよりもこのカレーとの方が付き合い長い親父に。


そうして特訓は続く、ネギは今日の夜12時のテストに向けて、まき絵ちゃんは日曜の昼からの選抜テストに向けて。








あとがき:指摘があった通り、祖父さんとその仲間達は池波作品をモデルとしています。
名前だけ出てきているバイアン先生なんてそのまんまです。



[4701] 第二十六話「埼玉県警麻帆良署」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/05/19 01:15
土曜日の午後四時過ぎ、陣中見舞いのお弁当でちょっと早めの夕御飯。

「来週持って行くからね。皆で食べてね」
「・・・楽しみにしてる…」
「ホントに美味しいからねー、楽しみにしてなよー」
アキラさん(と他三名)に金曜カレーをご馳走する約束をする。

あー、ネギ(+二名と一匹)よ、心配しなくてもお前の所にも持って行くってば。
だから「僕の分は?」って顔は止めなさい。


「さてと、ネギよ。悪いが今夜は事情があって見届けられん」
今夜は警備シフトの日だ。とは言え弟子二号と高音の姉ちゃんと一緒だから「魔女の眼」やサーチャーで見ながら仕事しても何の問題もないだろう。

「相手が茶々丸だからな、取り敢えず…殺されることはない…、と思う。酷くて麻帆良大学附属病院救急救命センターのICU(集中治療室)のお世話になる程度で済む…、のならいいんだけどなあ。まあ、人間は結構頑丈に出来ていてな、左右どちらかの腎臓や脾臓が破裂したり小腸がはみ出した程度では死にはせん。そう言うわけで頑張れ。あと、大ケガした瞬間ってのは意外に痛くないから」

「不安を煽りまくってどうするのよーッ!」「縁起でもないことバカリ言ってどうするネーッ!」

ハリセンと腰の入った裏拳のダブルツッコミ、緊張を解すためにちょっと黒目で軽いロシアンジョークを言っただけなのにそんなに怒らなくてもいいじゃないの、ねぇ?

「解れてないよーっ、逆に追い込んでるよーっ」
「うわ、めっちゃ黒っ!ネギ先生、青なって涙目でガタブル震えてはるやんか」
「全然軽くない…、むしろ重い…」
「同意求められても困るにゃー」

誰も同意してくれないけど、いいじゃん。愛ある弟いぢりは兄貴の特権よ?

あ、神楽坂ー。そいつきれいに洗ってやってねー。
「ハイハイー、お兄ちゃんの許しが出たことだし、きれいに洗ってあげるわよー」
「え、いやっ、昨日アリョーシャが洗ってくれたし…」

「ネギ、日本では大事な事の前には身を清めて挑むもんだぞ。戦いならともかく、勝負に汚い格好で挑むのは紳士としてあるまじき行為だとは思

わんのか?」
「ううう…、そんなこと言われたら…」

渋々了承している風呂嫌いに背を向け、後ろ手に手を振りながら去る。
今晩は平和であることを祈ろう。



****



「二人とも、真面目に見回りをする気があるんですか!!」
高音の姉ちゃんが怒っている。

午前0時頃からずっと、僕と弟子二号の二人が空間モニター見ながら見回っているからだ。

「ゴ、ゴメンナサイお姉様…。でも気になっちゃって…」
「心配しなくても、僕のアーティファクト「魔女の眼」で広域監視し、そこら辺中にサーチャーばらまいて、ミーシャにモニタリングさせてアメリカ軍並みの戦域監視網を引いているから心配ないぞ」
僕は弟分の選択を見届けたくて、メイちゃんは弟弟子が心配で見ている。

因みにメイちゃん、弟弟子となったネギを弟扱いして可愛がっている。
すぐに追い抜かされそうな予感がするので、その後がちょっと心配な今日この頃。

後、神楽坂以下従者達とは面通しがまだなので近い内にさせねばな。


「そう言うことでは無くて、態度の問題です!いくら濃密な監視網を引いていても、ながらでしたら見落としがあるやもしれませんでしょう?だから真面目にしなさいと言っているんです!」
常人にはながらは危険だが、我ら魔導師はマルチタスクによる並列処理が可能なため、問題はないのだ。(マルチタスクの使えない良い子は決して真似しないでね)
大停電の時はどうなるのか分からない不確定要素が多くて心配で集中して見たかったが、今回は割と安心して見ていられる。

あっちで怒っている高音の姉ちゃんはある意味常人なので分かって貰えませんが…。

せっかく、ミッドチルダ式魔法のことをメイちゃん経由で教えてあげたのに…。
「教えて」と言ってくれれば教えるのに…。メイちゃんに教えさせるけどな!


****


日曜午前1時過ぎ、世界樹前広場。
只今茶々丸によるネギのフルボッコタイム中、それを設置しておいたサーチャー(盗聴機能付き)で鑑賞中の僕。

せっちゃんを除くギャラリーの皆さんはフツーに生きてきた少女のため、見ていられない様子。

対照的に、僕はサーチャー越しにフツーに見ている。何でかって?茶々丸の拳に"殺意"が無いからだ。
余り言いたくないが、あれぐらいの歳の子なら"文字通りの意味"で秒殺することが出来る。

茶々丸のスペックならそれも可能だろうし、人間に危害を与えているところからしてアイザック・アシモフによるロボット三原則を「何ソレ美味しいの?」な感じに扱ってそう(まあ、ハカセ制作だし)なので実行も可能だろう。

しかしそれをせず、致死性のダメージや急所をさけて攻撃している所から"殺意"が無いと判断している。

あれぐらいなら新人がベテラン連中に訓練の名を借りた修正をされているのと差して変わらない。
どちらも心を折れさせるのが目的であって、殺すことが目的ではないからだ。

そんな攻撃を受けつつも心の折れないネギ、見所のある奴だ。
コレならビシバシ扱けるな、各種訓練をさせて、降下訓練とかもやらせてそのうち…。


ぢごくのとっくんめにゅー(9歳児用)を考えていると、ミーシャからの報告が入る。
「魔女の眼」で発見した奴の分析結果だ。

ただの夜歩きか酔っ払いか、侵入者としても一般人か魔法使いか、魔法使いなら捕縛後こちらで始末するが、一般人なら警察に不法侵入他の現行犯で引き渡さねばならない。
それを分析させていた結果が出た。

『侵入者と確定。魔力反応が基準値以下の所から一般人の模様。2時の方向、距離250』
「みんなー、お客さんー。一般人だからねー」
考えはそこで終わり。本来の仕事へと戻る。



****



警察と麻帆良学園を始めとする魔法使いたちの関係は深い。

何せ、現関東管区警察局長が"魔法使いから警察官になった"「魔法警察官」であるほどだ。
彼ら「魔法警察官」は多くが麻帆良学園OB・OGで「マギステル・マギ」とならなかった、若しくはなれないが人のために尽くす道を選んだ者達である。

そんな、魔法使いとしての才能がなかったが別方向の才能があった者、才能はあったが魔法使い以外に生きることを決めた者は警察の他にも
消防、自衛隊、公安、行政関係、司法関係、中央省庁の官僚、弁護士、広域指定暴力団、代議士等々、
その手は長く広く広がっているのが現状である。


因みに、学園長近衛近右衛門はネギ・スプリングフィールドの中等部教諭就任に当たり、政府へ働きかけたがその際に強力に援護した者がいる。
現在の与党執行部の一人で、麻帆良市を地盤とする埼玉選出の衆議院議員だ。

彼もまた"元魔法使い"であり、魔法より政治家としての才覚を持ち合わせていた男だ。

関東魔法協会や協会経由の魔法世界、魔法使い達から政府への窓口を受け持つ。
その見返りを、選挙時における麻帆良学園の全面支援という形で受け取ってはいるが。



麻帆良学園都市、その治安維持を受け持つ埼玉県警麻帆良署は魔法使い達と繋がりがある組織の一つである。
とは言え、署内でも警部補以上の幹部や所属する「魔法警察官」が知らされて・知っているだけではあるが。

学園都市内に幾つかある交番。
そこの交番所長を務め、本日夜勤の大原巡査部長も「魔法警察官」の一人である。

夜勤中、連絡が入り部下の中川巡査が応答する。
「班長、ウルスラ敷地内への不法侵入者を捕らえたとの通報です」
「よし、両津!引き取りに行くぞ、付いてこい。中川、留守頼むぞ!」
中堅に後を任せ、新人の両津巡査を連れて向かう。

学園関係者が捕らえた"一般人"の逮捕・取調等の処理は警察、"魔法使い"の場合は魔法協会若しくは呪術協会と役割分担が決まっている。
しかし、警ら中に不法侵入した魔法使いに遭遇する事もあるため、魔法警察官の割合が高いのも麻帆良署の特徴である。

「どうだ両津?ここにも慣れてきたか?」
「いや、ここの滅茶苦茶っぷりにはなかなか慣れませんよ。今みたいな"防犯ボランティアの生徒や先生"が捕まえた犯人を引き取りに行くのなんか、始め面食らいましたよ」

魔法生徒や先生による夜間警備は表向き「学園内の安全意識を高めるための防犯ボランティア活動」、火の用心の夜回りみたいな物として扱われている。
夜回り中に偶々発見し、捕まえることに成功したから警察に引き渡す。
それ自体は自然なことではある、その"偶々"が非常に多く、捕まえられ、引き渡される確率が非常に高いことを除けば。

因みに、この両津巡査、弱めの抗魔法体質であったりする。
その為に学園内の各種阻害魔法が効きにくく、ホウキで飛んでいるのがうっすら見えたり、茶々丸がどう見てもロボにしか見えなかったり、異様に運動能力が高い人間が多い事に気が付いたり、
世界樹があれだけデカいのに殆ど知られていないことを訝しんでも周りに理解されなったりと、
苦労しているのです。

「ここに来て一ヶ月たっていないんだからしょうがない。ここの出鱈目っぷりは他に類を見ないからな」
「そうなんでしょうけどね…。そう言えば班長はここの出身でしたよね?通りで道案内が上手いわけですよ」
「おう、幼稚園から高校までここ一本よ。今度のパトロールの時に裏道教えてやるよ。この前みたいな時に役に立つからな」
「この前の引ったくりですね。先回りしたのに驚いて転んだのはいいんですけど、何か不自然な転び方だった様な…」
「気のせいだ」
「そうですかね?」

両津巡査が不自然に思ったのは当然である。
大原巡査部長は引ったくり犯の乗る50ccスクーターに対して無詠唱「魔法の射手 風の一矢」を用いて転倒させたのだ。
それ程才能がなかったとは言え、鍛錬を続けてきた結果である。

余談だが、両津巡査の抗魔法体質によってこの先大原巡査部長が苦労することとなるが、それはまた別の話。


話をしている内に引き渡し先である聖ウルスラ女子高等学校校門が見えてくる。

そこにはウルスラの制服を着た金髪の女子高生と女子中等部の制服を着た赤毛の女の子、
金髪に水色のベレー帽と灰色の軍服みたいなのを着た中学生ぐらいの男の子の三人と男の子に拘束されている犯人らしき男がいた。

男の子の格好が異様だが、不自然さを感じさせない雰囲気を纏っている。
こちらに気が付いて送って来た敬礼、それと合わせると極々自然に見えるほどだった。

「あの軍服みたいなの着た金髪のな、ロシアの軍人家系の生まれなんだとか。祖父さんに父親、親戚みんな軍人ならお前よりも色気のある敬礼が出来ても無理無いわな」
「そんなサラブレッドと比べないで下さいよ。ウチの親は普通のサラリーマンなんですから…」

こうして、今日も犯罪者は引き渡される。
余り知られていない、麻帆良学園都市の裏側であった。


****


草木も眠る丑三つ時近く、まき絵ちゃんの言葉が切っ掛けで一撃を加えられた頃。

「この通りです。何とかお目こぼしをば…」
平身低頭、土下座をしていました。

「…お姉様…」
ジト目で隣の高音の姉ちゃんを見るメイちゃん。

「ああ、もう!これでは私が完全に悪者ではありませんか!」
堪えきれなくなった高音の姉ちゃん。

なんでかって?ネギの所に行きたいから30分ぐらい中抜けさせてくれって言ったら、「ダメです」と断られたから。
真面目だから断られるだろうと思っていたけどな。

無断で行っても構わないだろうけど、一応法執行機関に籍を置いているんだからこの場の最上位者の許可は取らなければならないでしょ。

そう言うわけで、真面目なところを逆に付くこととした、それが土下座。
ここまでして頼まれると性格上「NO」とは言えまい。

プライド?そんな飲み込める様なちっぽけな物は犬にでも喰わせればいい。

その代わり、絶対譲れない物は命と引き換えにしてでも守ればいい。「やまと」の砲撃と共に消えた曾祖父さんの様に。


「分かりました、30分だけでいいのですね?なら行ってらっしゃい!」
上手に乗せることに成功し、飛んで向かう。

念のためにバリアジャケットを夜間塗装に変えておく。
色は青みがかったグロスブラック、目立ちそうに見えて馴染んでしまって目立たなくなるの。マットブラックだと暗すぎて浮いて見えるのだ。


「教官ー、見つからない様にして下さいねー」
「全く貴方という人は…、弟分が心配な気持ちは理解できますが…。ああ愛衣、最近の貴方、あの人の影響を受けすぎてるわよ。考え方とかがますます似てきたもの」

そんな声が聞こえる、どうのこうの言っても仲いいんだよな。あの二人。


****


「大丈夫です。気を失っているだけで、脈拍呼吸とも正常です」
「それなら大丈夫、手当をしましょう。…来ましたか、コンドラチェンコさん。もう終わってますよ」
「今頃何しに来たの?」

着いて早々、神楽坂に酷いことを言われる。

酷いなあ、中抜けしてやってきたというのに。
まあそれはいいとして、いい物持ってきたのよ。

「このシートみたいなん、なんなん?バンソーコーみたいな形やけど」
それがいい物の一つ、医療用ハイドロコロイドシート。

この時期(2003年)にはまだ一般向け販売していない代物で、2004年辺りにジョ○ソン&○ョンソンが発売予定。
医療機関向けに売っているのは知っていたので、申請して買ってもらって、絆創膏サイズにカットしておいた。

水を通さないので、付けたまま水仕事やお風呂に入れて、傷の治りも早くなるとっても便利な代物。
「へー、便利なもんね…って、ちょっとちょっと」

神楽坂か耳打ちしてくる。
「アンタ、多少のケガなら魔法で治せるんじゃなかった?何で使わないの?」
「あのなあ、ここにいるのが魔法を知っている奴らばかりならそれも出来るけど、半分以上知らない奴だろ?」
「ううっ、確かに。ばれたらオコジョにされちゃうもんね」

…どこか根本的なところで誤解というかごっちゃにしている様なので詳しく解説してやりたいところだが、コイツはバカだから理解するのに時間

が掛かることは容易に想像できる。
地底図書室の時に一番手間が掛かったからなあ、コイツは。

「何二人でヒソヒソ話してるのー?」
流石に怪しまれた様だ、後できちんと解説してやろう、後でな。


傷口を滅菌水を含ませた脱脂綿で洗ってやり、水気を取ってシートを貼る。
ここら辺は、治癒魔法が使えない時の用心として幼少の頃から仕込まれているのでお手の物。

張り終わったら「目が覚めたらこれ飲ませてやって」錠剤と水を渡す。

「何の薬アルか?」
「鎮痛剤。効き目が長くて強力な奴」

時空管理局制式の鎮痛剤、これは良く効くこと請け合いだ。
ミッドチルダにある製薬会社が管理局と共同開発したもので、痛みを殆ど感じなくなる上に長持ちする。
治癒魔導師は数が少ないし、大きい怪我は高位でないと治せないし、近年多くなったAMF環境下戦闘では使えないので開発された。

これが出来てから負傷後のショック症状を起こして二階級特進する奴が激減した上に、多少の怪我ならそのまま任務続行が可能となったほどだ。


そうして、応急処置を施し終わったら合流すべく立ち去るのだが、その前に…。

「心配掛けさせやがって、このやろ」デコピン一発お見舞いしておく。
いくら命の心配が無く、ある意味で安心していられるとは言え、弟分がフルボッコされているのを見るのは精神安定上宜しくない光景であった。


「じゃあ、薬はちゃんと飲ませてやってね。こっちは中抜けしたから早く戻らなきゃなんないから」
「わかったー。苦くてもちゃんと飲ませるよ」
まき絵ちゃんに膝枕されるネギをちょっと羨ましく思いつつ、足早に離れる。



「そう言えばさー、アリョーシャ君何で来れなかったんだろ?」
「中抜けした、とか言ってた…」
「んー、ウチのおとーさんから聞いたところに依ると、工学部の方に研究室貰ってるそうだから、その関係じゃないのかなあ?」
「徹夜で研究しとるわけやね。所で何の研究何やろ?」
「いやー、流石にそこまでは聞いてないにゃー」


「…ホントは夜間警備なんでしょ?」
「はい、私を含めた魔法生徒は大抵警備に参加しています。基本的にボランティアですが、アイツと龍宮は例外です」
「龍宮さんとアリョーシャさんが例外て?」
「龍宮は仕事ごとの報酬で、アイツは月給で働いています」
「月給って…、いくら?」
「手取りで月15万ほどとか。しかも、学費や寮費は免除ですからね」
「よおさんもろてるんやなあ。中小のサラリーマン並みやん」
「うそっ!そんなにもらえるの?私もやろうかしら…、いや、でも、学園からでしょ、それじゃあ返したことには…」



****



ネギの奴が気が付いた頃、夜が明ける頃、我ら見回り斑の仕事も終わる。

本日は魔法関係の侵入者はいなかったが、暖かくなったら出てくる人達。即ち変態さんが豊漁な日だった。
麻帆良署の留置場、その手の人でいっぱいになってんじゃねえの?


弟子二号と高音の姉ちゃんなんか、見敵必殺・問答無用でボコってから捕まえていた、無論僕も。
なんだよ、あの変態番付に乗せられそうな連中は、そして何で今日はこんなに多いんだよ!

定番のロングコート中まっぱに始まり、

ウルスラに侵入して体操着を着ようとしていた奴、高音の姉ちゃん「なんでウチにこんなのが来るのよ!」と言いながら影の皆さんで念入りなリンチをしていた。

下半身丸出しでランニングしていたオッサン、爽やかな顔で走っていたのがムカついたので師弟砲撃で始末しておいた。下履いてしろ。

女子中等部に侵入して上履きを盗んでいた奴、匂いフェチらしい。
等々…。



ネギの方が爽やかならば、こっちはその反動を喰らった様な一夜だった。








あとがき:ちょっと前まで忙しくて、今は新型インフルエンザの影響でヒマになりそうな今日この頃です。

豆知識:医療関係の学会とかは関係なくするそうですよ。
我々より知識のある人の集まりですからなあ。





[4701] 第二十七話「一日をくださる神様だもの、一日の糧もくださるだろう」
Name: あず吉◆4ffe3c79 ID:8dd07ffc
Date: 2009/05/26 23:10
一日をくださる神様だもの、一日の糧もくださるだろう。(ロシアのことわざ)


国民の休日の日曜日、ちょっと損した様な気分になっている朝。
特に2005年に「国民の祝日に関する法律」が改訂されるまで振替休日が月曜日固定だったので余計に損した気分にさせられる。

2010年生まれだから火曜日でも水曜日でも振替休日になるのが当然だったもん。
それはさておき、休みの日らしく、余裕のある朝食としよう。


早朝ランニングのコースには農学部や近隣農家の方々所有の畑がある。
そこで早朝から頑張っている学生や先生に農家の方々。
そこの人達と仲良くなる事に成功したために、朝取り野菜を驚きの低料金若しくは手伝って、分けて貰っているのだ。

御陰で美味しい朝食にあり付けれる今日この頃。


本日のメニューは新じゃがとアスパラガスとベーコンの炒め物に夕飯の残りのうすいえんどうと新タマネギのポタージュと焼きたてパン。

新じゃがは早めに抜いた奴、本来はこれを新じゃがと言う。

アスパラガスは朝取り、一寸した青臭さやえぐみがほとんど無くて甘いので塩茹でして軽く塩するだけで十分美味しい。
因みに、油と相性がいい野菜なのでマヨネーズもいいが、ゴマドレッシングとも結構合う。

ベーコンは麻帆良銀座商店街のお肉屋さん手製の品、ドイツ帰りの息子さん担当。塩がややきつめで肉の味としっかりとしている本格派。
スープに入れるといい出汁が出る。

農学部で作っているうすいえんどうは関東の方では馴染みはないが、関西ではよく食べられている。
グリンピースよりも味と香りが淡いが甘みが強い品種。
これで豆ご飯を作ると甘くてホクホクして美味しいが、今回は淡路島の新玉ねぎと合わせてポタージュとした。

パンは商店街にあるパン屋さんから買う。朝一の焼き上がり時間と僕が通る時間が丁度合うので毎度焼きたてを買っている。


野菜の甘みで美味しい朝食を食べ終わった時だった、ゆえっちから電話が。
なんでも「重大な話があるのです。女史中等部の図書室まで来てくれませんか?」だそうな。



女子校独特の何となく男には居づらい空気の中、明かされる驚愕の事実!
ネギの親父が残した地図にはカタカナで「オレノテガカリ」と書いてあったのだ!ご丁寧にイラスト付で!!

…類は友を呼ぶって諺があるけど、あのクウネルの戦友だけあって変人だ、コイツ。
で、その場所は…って、クウネルの家に繋がる門の所だ。

あそこはなあ、10年以上前の地図に「DENGER」って書いてあるから昔からあそこにいたのな、あのドラゴン。
最近は顔を覚えてくれたのか、襲おうとしなくなってきたことだし、テキトーな名前でも付けて餌付けでもしてみるか?うん、そうしよう。



****



「…ネギ先生にアリョーシャさん、貴方は魔法使いですね?」「うん。厳密に言うとちょっと違うけど、そだよ」
ゆえっちから明かされる重大な話。

まあ、あれだけ見せつけておいて気が付かない方が異常だ、全く。
だから「えうっ。そ、それは…」なんて肯定しているに等しい反応は止しなさい。
「いや、アンタが軽すぎるのよ」と言う呆れた感じの声が聞こえるが無視しておこう。


ゆえっちはかく語りき、頭の回転はいい方だから歯車が揃えばガンガン働き、看破していく。
いつもは面倒がって揃えないからなあ、だからバカレンジャーの一員なのだ。

と、説得しきれなかったネギ、「すすす、すみません、ダメですーっ」
「あっ、ネギ!?」「逃げたです!?」

現実から逃避じゃなくて現実に逃避しやがった。ネギめ、後でお仕置きだべ。週末にバニャのフルセット(3~4回繰り返す)の刑で。


逃げられて不服そうなゆえっち。でもね、ニーチェが言ってるでしょう?
「怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない」ってね。
連続殺人犯について調べていた人が同様の事件を起こした様に、下手に深入りしてやばいことになって欲しくないと考えていると思うのよ。
僕もだけど、アイツも。

どうなろうと構わないだけの覚悟があるのなら別だけどね。


少し考え込んでいたが、唐突に、何か思い出した様に口を開く。
「そう言えば、アリョーシャさん。一つ訊きたいことがあるのです。ネギ先生は隠そうとしていましたが、何で全く隠そうとしないのですか?修

学旅行の時も私達が見送る中、平然と使ってハワイに帰りましたが…」
「あ、あ、あとー、厳密に言うと違うってさっき言ってましたけど、どういう事ですかー?」
あー、それはね…。

「コイツはフツーの魔法使いとはちょっと違うのよ。言うなれば「この世で一匹」ってカンジ?」
人のセリフ取るな神楽坂。で、なんだその何処ぞの平面ガエルみたいなフレーズは。

「この世で一匹ですか…?それでは説明になっていないようですが」
「まあ、正確に言うと「現在この次元世界に一名しかいない時空管理局局員」だな」
「時空管理局?何ですかその大袈裟そうな組織名は」
「そ、それに次元世界って…何ですかー?」

まあ、話すと長くなるんだけどね。掻い摘んで話すと…。


証拠の魔法に空間モニターに映し出される解説用映像等々とセットで解説する。
胡散臭そうな感じだったのが大きく変化していく。

「まさかこの宇宙の他にも宇宙があるとは…」

「…絵本の中みたいな世界もあるんですねー」

「ゴメン、それドコの世界の言葉?全然わかんないんだけど」

神楽坂は途中からついて行けなくなっているが。まあバカだし。

「…で、僕は元来士官候補生で有って、事故でこっちに来たと。そう言うわけ。で、これがさっき説明したデバイスのミーシャ」
『ご挨拶が遅れまして失礼をば、ミーシャと申します』
「しゃべるペンダントなんて、本当に絵本や小説みたいですー」


掻い摘んでも膨大なために時間が掛かる、終わった頃には夕方近く。

「ファンタジーを超越してSFの世界になってるです…。まあ、違いを言うとネギ先生達の魔法がファンタジーで作った魔法ならば、
アリョーシャさん達の魔法は科学で作った魔法と、そう言うことですね?」
「そう言うこと、だから向こうの魔導師は子供でも理数系が得意なのよ。出来のいい子だと、小学生3年ぐらいで高校2年の問題を解けるのもいるし」
「科学が元だけ有って、色々と便利そうですが、なかなかハードルが高そうです」

歯車が揃ってるモードゆえっち、理解が早くて助かる。対照的に煙上げてるバカレッド。

このモードを持続できるのなら物に出来るやも…、無理か。
面倒がってバカブラックに戻ってしまうもんな、僕も面倒がりなので気持ちはよく分かる。


「特に私なんか無理ね…」
何を言わんや神楽坂、特に理数系がダメだったもん、お前。
この前の地下図書室で教えた時、10回やらせたら9回は間違ってたぞ。

この前の期末は天文学的確率の奇跡の結果であって、フツーに教えたのならば絶対無理だ。
「うん、無理。…いや、洗脳教育レベルで教えたのならひょっとして…」

「好き勝手なこと言うんじゃないわよーっ」
7回目の凶悪ハリセン、事実を述べただけなのに。

『そこをオブラートに包まないからそうなるのです。自業自得かと』
「ミーシャさんの言うことに全く同意です」



****



損な気分の子供の日の月曜日。
日課のランニング中にふと空を見上げると、ゆえっちと本屋ちゃんがネギの杖に乗って飛んでいた。

「…珍しい組み合わせだな」『同意です。ネギさん、バレたからって大胆な行動に出ましたね』
「声掛けるか。バリアジャケット展開」『了解、認識阻害魔法発動及び制空迷彩での展開を行います』
こっちで憶えた認識阻害魔法と、目立たない色にしたバリアジャケットを使い、早朝からご苦労様ですな方々に解らない様にする。

因みに、一つだけ使える幻術魔法オプティックハイドも使えば完璧なのだが、アレは飛行魔法とは相性が悪いので飛びながらは使えない。
だから、バリアジャケットの色と模様を変えて迷彩で誤魔化すのだ。センチネル風ブルースプリッターパターンも出来るぞ。

だからといって使わないわけではない、ククーシュカ(砲狙撃)モードではよく使うのだ。
愛○万博のモ○ゾーやポン○ッキのム○クを緑色に染めてみた感じのギリースーツを着なくても完璧な隠匿が出来るので便利です。


「三人ともおはよ」
「へ…、アリョーシャさん…?お、おはようです」
「あ、おはようアリョーシャ!」
「…お、おはようございます…」
三者三様、飛べることを知っている奴は普通の反応をし、知らない奴は空の上で知り合いから挨拶されるとは思っていなかったので呆然とする。


「あの地図の場所に行く?」
「ああ、そうだぜアンドレイの兄貴。で、出掛けにこのふたりに見付かっちまったってワケよ」
「アリョーシャさんも付いてきてくれると非常に嬉しいのです。図書館探検部部員でしょう?」
確かに部員だ。だがまだ"仮"が付いているがな!


さて、あそこにネギ達が向かうのは良い。
しかし、あそこの主兼飼い主がどの様な反応を示すのか、それが問題だ。

連絡を入れよう。そう思い、ミーシャにメールを打たせる。
実はあそこには光ファイバー回線が引いてあって、メールとネット用のパソコンがあったりする。

結構柔軟なんだよな、こっちの魔法使い達。まほネットや電子妖精を見れば解る。
一般生活を送っていて、その便利さに触れていれば不思議ではないが。

とは言え、魔法世界生まれの高音の姉ちゃんやタカミチから聞くところに依ると、
使うのは旧世界こと、こっちの魔法使いだけであって、魔法世界の魔法使い達は決してその様な物は使わないそうだ。
似た様な技術はある事はあるが、収斂進化の結果であって、科学に影響された物ではないとか。


そうこうしている内に返答が来る、
「まだ時期尚早です。追い払わせますので、貴方は来ないで頂きたい。この前のエヴァンジェリンについての情報の見返りはそれでチャラにしましょう。
あの子は顔を覚えた人とその周りの人間は襲わない様に躾けてありますから。追伸、連絡手段であり、退屈潰しと情報収集用だからいいのです」との事。

来ない事で相殺か…、取引としては悪くはない。問題はコイツらの見張り兼護衛がいなくなると言う事。
どうするか悩んでいると『同志、同志茶々丸がこちらを追跡しています。いかがいたしますか?』

渡りに船だな、後は茶々丸に任せておこう。
そしてこっちは「急用が出来た。悪いが付いてこれん」と言い訳をしよう。

後々詫び代わりに何かすればいい。


****


昼前、茶々丸から連絡が入る。帰ってきたら連絡くれたしと頼んであった。

ドラゴンに追い回されて炙られかけて、這々の体で逃げてきたらしい。
時間も時間だし、お詫びにお昼を奢ろう。うん、そうしよう。



「いつか必ずリベンジするですーっ。トカゲー」
「おうー!!」
「お、お~」
三人が気勢を上げている丁度その時、電子音が鳴り響いた。

「あ、あのー、せんせー。携帯鳴ってますよー」
「あ、ありがとうございます。宮崎さん。えっと…、アリョーシャからメールだ」
メールを読み終わるや否や、電話をかけ出す子供先生。

「うん、うん、夕映さんやのどかさんも一緒だけどいい?うん、分かった。じゃあ10分後に駅前で」
「アリョーシャさんからですか?」
「はい。お昼を食べに行きましょう。アリョーシャが朝のお詫びに奢ってくれるそうです」
「相変わらず太っ腹ですね。何を奢ってくれるのでしょうか」



麻帆良中央駅近くを通る幹線道路の横の道、地元民から旧道と呼ばれる道沿いに10分ほど歩いたところにその店はある。

今年の4月に開店したばかりの上、有名店で修行はしたが関西の店であるから、マニア以外にはその名は知られてはいない。
そんな店であるために、3ヶ月少々のネギはともかく麻帆良が長いはずの二人もこの店を知らなかった。

「ここははじめてですー」
「…ある意味凄そうなお店です」
「僕、食べるの初めて」
「みんなお腹空いてるね?ここはお腹にガツンと来るから空いていた方がいいよ」

さて、今から食べるのはラーメン、それも豚骨ラーメン、更に言うと濃厚豚骨。
あまりに濃厚なのでスープじゃなくてポタージュと化し、色も白濁じゃなくて褐濁色。

普通は鶏の足や豚の皮と言ったゼラチン質の多い部位や野菜のデンプン質で濃度が付くのだが、これは豚骨と水をひたすら煮込んで乳化させた結果の濃度なのだ。
更にスゴイのはキッチリとした下処理の御陰で獣臭さがないと言う事だ。

これだけ煮込めば普通は臭いも出るし、次から次へと投入していくので漏れがあってもおかしくないのだがそれもない。


そんなスープに合わせる麺は中太縮れ麺、修業先の修業先である宮崎から取り寄せているとか。
で、麺を持ち上げるとスープも持ち上がるのよこれが。


食券を買い、テキパキ動く奥さんが細かい注文を訊いてくる。
「大盛りネギ多め麺堅めこってりで、こっちの三人は普通で」
「私もネギ多めで」
「わ、私は麺やわらかめでー」
ゆえっちがネギ多めが好きで、本屋ちゃんはやわ麺好きな事が判明した後、暫し待つ。

店の大将が上手い事タイミングを合わせてくれたのでほぼ同時に持ってきてくれたのを有り難く思いつつ食す。
「こ、これは…!?」
「うわあ…」
「お…おいしい!!」

第一声の後、次々と食べる皆。ふふふ、旨かろう。
「これだけ濃厚なのに何でするすると入るですか、この後味の良さと共に不思議です」うん、初め食べた時同意見だった。
「おいしいですけどー、堅めの方が良かったですー」あー、やわ麺はスープが良く絡むからねえ。濃厚スープと合わさるとすごい事になるし。

3/4ほど食べた所で、豚骨ラーメンにつきものの「細麺堅めでー」替え玉を注文する。
「豚骨と言えば細麺でしょ」や「一杯で二度美味しい」なお客さん用に準備してあるのだ。
普通の麺がモチモチならこちらはプッチリと歯切れが良く、これはこれで美味しい。

頼むついでに、女の子にとっての悪魔の囁き「そっちもどう?」も忘れずに。

「うう…、私も細麺堅めでお願いしますです…」
「ゆ、ゆえー、…細麺堅めで…」

ここのは美味しいからつい頼んでしまうが、これだけ濃厚だとカロリーもそれ相応。
そこに替え玉だ、カロリーや体重を気にしてしまう年頃の女の子にとってはねえ。

実の所、この時期だったら成長に回されるから何の問題もないがな!

「僕も…」
こらネギ、お前はまだ小さいから食べきれないでしょうが。替え玉半分やるから我慢しなさい。

その代わりとして、「すいませーん。ご飯くださーい」ライスを追加だ!
備え付けの高菜と塩気が強くて薄いチャーシューとスープがオカズだ!


そんなこんなで四人とも完食、スープも全部飲み干した。
「はあ、満足です。このこってり感がクセになりそうなのが問題ですね」
「ごちそうさまですー。美味しかったけど、太りそうなのが…」
年頃の女の子らしい感想の二人。

「おいしかったです。ごちそうさまでした」
と大将と奥さんに挨拶するネギ、イギリス人だけど味が分かってるのだよなコイツは。

まあアレは、ひたすら茹でるとか焼くだけの単純すぎる調理法と「酢でも塩でもお好きな様にご自由にどうぞ」前提の味付け、余り良くない土壌と気候の三点セットと
それが当然だったために食に淡泊になった労働者階層が融合進化した結果だ。


さて、連休が明けたら本格的に鍛え始めよう。そう思った端午の節句の昼だった。


****


5月6日の放課後、訓練メニュー制作のためにエヴァの遣り方を見る事にする。
概要は決まっているが、細部の詰めの為だ。

ラテン語と古典ギリシャ語を習った時に感じたけど、結構スパルタなんだよな。
全力魔力供給3分させて魔法の射手199本と無茶苦茶な負荷を掛けさせて不満と来ましたか。


「まあいい、今日はここまでだ。めんどいからな。解散!」
「ハ、ハイ師匠!」

ドラゴンについてのお叱りを喰らっていたが、アイツは知らない模様。
…転移魔法であそこまで送ってやるか?と不穏な考えがよぎったりした。

そんな事よりも、今は夕食の支度をせねばならん。

昨日のラーメン屋の事を知ったエヴァが「よりにもよって、あいつらに教えるとは!」と機嫌を損なってしまい、お詫びとしてで夕飯を作るハメになってしまった。
エヴァも気に入ってたからなあ、あの店。

共通の友人であるパル様経由で名が知れ渡って、気軽に食べにいけなくなるのがイヤなのだろう。


夜、ネギとこのかちゃんとせっちゃんが来た。

ネギが沈んでいるのでせっちゃんに訊いてみると、神楽坂とケンカしたらしい。
ふむ、原因が分からない以上、余計な口出しはやめておいた方がいいな。


「次はぼーやだ、…アリョーシャ!お前も早く来い!」
しばらく経って、ネギの番が来た様だ。

火を止め、エプロンを外して2階へ向かう。


「やっと来たか、さてこれからの修行の方向性を決めるため、お前には自分の戦いのスタイルを選択してもらう」
「戦いのスタイル…、ですか」
「うむ、修学旅行での戦いからお前の進むべき道は二つ考えられる。二者択一、簡単に言おう」

従者ありきのこちらのスタイル。
センターガード相応の「魔法使い」対して、フロントアタッカーやガードウイング相応の「魔法剣士」
この二つが選択肢となる。

「で、アリョーシャ、お前の番だ」
一区切り付いたところでお鉢が回ってくる。

「時空管理局式の分類は戦闘か非戦闘かの二つ、戦闘なら陸戦魔導師か空戦魔導師か。後はそれぞれのポジションだな」
「空戦と陸戦の違いは?」
「飛ぶのは割と簡単なんだが、必須の高々度飛行魔法を習得するには高い三次元空間把握能力と安定した出力、各種安全措置が要求されるの。
先天的に資質が高い人達以外は訓練に時間と金がかかる…、戦闘機パイロットみたいなものだな。
で、それ以外の魔導師が陸戦魔導師。空戦魔導師でも陸戦過程で戦闘訓練や実績積んでからなる場合も多い。
逆に自在に飛べるけど空戦資格取得に費やされる手間を他の魔法に費やしたいから陸戦のままでいる人もいるし、これは適正と好みの問題だね」

「ポジションて?」
「最前衛・前衛・中衛・後衛の四つのこと。最前衛が固くて攻撃力高いフロントアタッカー、例えれば重戦車だな、速い人もいるけど。
前衛がそれよりも固くなくていいけどその代わり速い動きが要求されるガードウイング、攻守それなりの快速中戦車だな。
中衛が中長距離担当のセンターガード、視野が広くて余り動かないところからすると砲兵部隊が近いかな。
最後に後衛、フルバック。これはトラック装備の補給部隊だな、動き回っての支援担当」

「アリョーシャは?」
「僕は飛べるけど陸戦、空戦では遅いけど、陸戦には十二分な速さなのも有るしね。ポジションはガードウイング兼センターガード」

略式に説明をし、ネギに向いているのを探すが、
「お前は陸戦のガードウイングかセンターガードで決定だ。あと、飛び方は教えられても空戦魔導師は無理だからな。ウチは代々陸戦だからミーシャにも教えられん」
答えは殆ど決まっていた。

説明をちゃんと聞いていたからこそ不満そうなネギ、一気に選択肢を狭められたからな。

「…えらくあっさりと決まりましたね」
せっちゃんが呆れ顔で呟くが、だって教えられるの僕一人だもん。僕の教えられる範囲で探すとなるとそれしか無いんだからしょうがないでしょう。

それより夕食だ!後で来るハカセの分も用意してあるぞ!
来ると思っていた神楽坂の分はタッパーに詰めておいたから持って帰りなさい。


「ごちそうさまでした。おいしかったよー」
「つくねの出来が良かったな、つなぎは自然薯か?」
「ホンマ、料理上手いなあ。ドコで習ろたん?」

今回のメニューは鶏つくねと空豆の親子丼、淡竹の若竹煮と豆腐の味噌汁。

鶏は農学部で廃鶏(卵を産まなくなった雌鶏)になった名古屋コーチン、味はいいのだが如何せん固い。
なので、つくねにする。

本来は胸肉で作るが、今回は骨も肉も丸ごとミンチで。エヴァの家に挽肉器があるので使わせて貰った。
昔はチャチャネとかにソーセージとかを作らせていたらしい。最近はベーコン買ってるお肉屋さん、あそこから買っているとか。
「若いが腕はいいからな。あそこの息子は」
「あー、銀座商店街のお肉屋さん。あっこのんはおいしいなあ、朝ご飯用によう買うてるわ」

つなぎの自然薯はこの前山中行軍している時に見つけた。麦とろを作って楓ちゃんと食べた残り。
また掘ればいいんだが、魔法使っても手間が掛かるのがなあ。

空豆は横の畑で作った奴。ロシア人は職業に関係なく畑仕事が出来る人が多い。
郊外に家庭菜園付別荘、ダーチャと呼ばれる、を持っている人が多いからだ。
ソヴィエト末期の物がロクにない時期でも餓死者が出なかったのはこれの御陰。

この前ネギを連れて入ったロシア風呂ことバニャもここに作る事が多い。
ウチの祖父さんも一族全員集まれるだけのデカイのを持っている。ただし、祖母さんの実家が金持ちなので買えたらしい、無理しちゃって。

まあその関係上、小さい頃から畑仕事を手伝っていたので草刈り、トラクター運転に畝立て、収穫等々、一通りは出来る。
「隣の空き地を勝手に畑にしたからな」いいじゃん、野菜を賃料代わりに渡してるんだから。
新じゃが一緒に食べただろ?

淡竹のタケノコはランニングコースの近くにある竹林より、見た目も味も孟宗竹より淡いがクセがなく歯応えも良い。
盗みはしてないぞ、早めに生えているのを適正な価格で買ったんだ。


で、何で料理が出来るのかって?
基本は親父、カレーと一緒に仕込まれた。次に幼なじみの山岡のお父さん、知識と腕がハンパねえ人。
何でもお祖父さんが銀座裏にある「○食倶楽○」と言う店を作った人だとか、見た事も行った事も無いけど。
その二人に仕込まれた結果、出来る様になった。

他にも洗濯や裁縫も親父に教えられたし、「軍人たる者、身の回りの事ぐらい一人で出来なければならない」と家訓にあるのだ。
そこに一寸凝り性な親父の性格が加わってこうなったのだ。


え?もう本職になった方がいいのじゃないかって?言うな、こっちも気にしてるんだから。

『転職時の経理担当はお任せあれ。何せ機械ですから』追い討ちかけるなミーシャ。



弟分とその姉御分の間に問題を含みながらも事は進む。
取り敢えずは服を持って行ってやろう、年頃でパイパンの娘さんがクマパン一丁で外は辛すぎだろ。

エヴァ所有のフリフリ過多の服だがな!








あとがき:前々回のカレーの話が好評だったので、一人「食事はきちんと取りましょう」キャンペーンを開催、その一環として、食い物の話ばかりちりばめてみました。
なお、実体験を元に書いておりますので、作者も食べたくなってしょうがなかったです。



[4701] 第二十八話「熊の親切」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/06/09 23:47
「熊の親切、って話知ってる?」

隠れていた岩越し、着替えを渡して神楽坂と話す。
知らぬ仲でもないし、弟分の姉的存在だ。そのまま放っておく訳にもいくまい。

「知らないわよ、アンタお得意のロシアのことわざでしょ?」
「うん、そうなんだけどね。ある所に優しい熊がいた。その熊は優しいからウサギと仲良くしていた。あるとき、ウサギの顔に蚊が止まったのを見た熊は、『刺されてはいけない』と思って払ってあげた。
でも、熊の力はウサギには強すぎて、ウサギは死んでしまいましたとさ。って話。まあ、お爺さんだったり蠅だったりと微妙な違いはあるけどね」
「…何が言いたいのよ」
「熊をネギ、手を言葉に置き換えてみ?」
「私はウサギってワケ?」
「アイツは悪気はないのだよ。ただ、子供だから語彙が少なくて、気持ちが読めなかっただけだと思う」
「…それぐらい、アンタに言われなくても分かってるわよ」

押し黙ってしまう神楽坂、一寸の掛け違えと不幸な事故の積み重ねで、引っ込みが付かなくなっているのだろう。
似たような経験があるから分かる。

「言っておくが、仲を取りなす気はないぞ」
「お兄ちゃんのクセに冷たいのね」
「これはお前とネギの間の問題だ。いくら兄貴分を自称していてもそこまで踏み込めるとは思っていない。ホントの兄弟でもな」
「優しいんだか、優しくないんだか。よく分からないわねー、アンタは」
「上げ膳据え膳で育ったらろくな奴にはならないだろ?ちゃんと導くために敢えて厳しく当たるのも優しさって奴よ」
「上げ膳据え膳ねぇ…、昔のいいんちょもあれこれやらされてたしね」
「ま、仲直りできたら教えてくれ。飯でも奢るわ」

そう言って去ろうとした時、「ちょっと待って」
神楽坂に引き留められる。

「何だ?」分かっていて、敢えてぼやかす。
「服…、持ってきてもらって何だけど、他にないの?この…ヒラヒラでフリフリなの以外に。靴下までフリルが付いてるんだけど」
用意した服はエヴァのコレクションの中から選んだ弩が付くほどのゴスロリ。

「悪いな、エヴァの趣味だ。借りられそうな服がそれしかなかったのだよ」
9割方嘘です。フツーのブラウスとスカートもありましたが、敢えてそっち方向のを用意してもらいました。

「それに…、女の子を一人で夜道を歩かせる気?」
いや、そこらのチンピラぐらいなら倒せるだろ?と喉の奥から出かかったが、『送っていくことを推奨します。ハリセンはイヤでしょう?』
ミーシャに止められたし、レディに恥をかかすのは士官候補生としてあるまじき行為だ。

…そう言うことにしておこう、凶悪なハリセンを持ってるわ、見事な跳び蹴りかませるのがレディかは別にして。


「これは失礼いたしましたお嬢さん。この不肖アンドレイ・コンドラチェンコ、寮までの短い合間とは言え無事送り届けましょうぞ」
片膝を付き、片手を取って手の甲に軽い接吻を…、ホントにしたらハリセンアタックされそうなのでするふりをする。
それでも真っ赤になるのだからなあ、女子校育ちなのがよく解る。

「何カッコつけてんのよ。…なかなか様になってるじゃん」
こう見えても士官候補生ですから。士官は外交官でもあるのだよ、だからキッチリとした礼儀を仕込まれるのだ。



****



青い海と白い雲、照りつける太陽。
今年二回目の南国。

そして3-Aのノー天気軍団、ここは雪広グループ所有のリゾートアイランド。
ネギに誘われたからついて来たのだ。半数以上がいる3-Aの連中は勝手について来たそうな。

「コンドラチェンコさんはまだいいのです。ウチのクラスの面々と来たらもう…」
雪広さんも大変ねぇ。あれだけ濃い面々相手にしてるんだから。
ですが、御陰で目の保養になってますよ、いつもは男ばっかりの環境だし。



「う~ん、でも男の子の一人もいないとせっかくの南の島も今ひとつかにゃ~」
「…アリョーシャ君は?」
「アレは遠距離恋愛中だからカウント外。この前写真見せてもらったけど、カワイイ子だったよー」
「ウチらにも早うカレシ出来んかなあ」
「やっぱネギ君かな」



人が馴染みのある環境でゆりかしウェア羽織ってまったりと過ごしている時だ。
「アリョーシャ君泳がないの?」通り掛かった村上さんが声を掛けてきた。

「泳げるし、泳ぐけどね。沖縄育ちだってのは知ってるよね?そのせいか落ち着くのよ、南国の空気が」
「それはいいんちょから聞いて知ってるけど、沖縄とロシア人って言う組み合わせがどうもしっくり来ないんだよねー」

んなこと言われてもなあ、実家のある嘉手納宇宙港の周りにはNASDAに再就職したロシア系技術者とその子孫が結構住んでいるし、
日本は疎か世界中の宇宙関係者が集まると言う場所柄、何人が住んでいようが誰も違和感を感じないのが現状だったからなあ。
通っていた嘉手納市立第一宇宙港小学校なんて市立なのにインターナショナルスクール状態だったし。

こっちの世界では妙な違和感を持って取られるのか。

「ま、あんまり気にしないことだよ。さてと、泳ぐとしますか。ん?向こうが騒がしいな」
「ホントだ。…ちづ姉のおっぱいにネギ先生がはさみ込まれてる!?」
聞いた時は耳を疑った。確かめてみると聞いた通りの状況。

かなーり羨ましい状況だこんちくしょうめ、さらにはだ、それが増えて行くではありませんか。
四人によるおっぱいアタック、…コレはお仕置きせねばならんな、うん、コレは正当な懲罰だ。
『嫉妬は大人気有りませんよ』

どっかからツッコミが入っているが無視、何故か知らないがここに丁度いい物があるからコレを使おう。



何コレー、マシュマロじごくー!?
とまあ、いくら羨ましい地獄にいるんだお前な子供先生。

「あれ?空から変な音が…」周りの生徒の内何人かが妙な音がするのに気がつく。

その直後、トタン特有の鈍い輝きと音、「大変っ、先生の頭からええ感じの音がっ!?」そんなのが響き合った。
「いやあああ~!?」
「なんで金だらいが!?つーか、どっから!?」
「それよりも、誰か人工呼吸を!!」
「私が」「私ーっ」


「初弾命中、先程ノ射撃ハ見事ナリ」
「いや、カッコつけられても…。何で金だらいが?」
「偶々あったから使ったけど、こんな南の島にあったと言うことは、「コレを使いなさい」という天の父からの啓示だったんだよ!」
流石に呆れているが、南の島にトタンの金だらい(40cmぐらい)があって、何故か僕の近くに置いてあった時点でなあ。
使って頭に当てるのがお約束だとは思わないのかね、村上君?


「何やってんだか…、バカ…。アンタは余計にバカだけどね…」


****


「確かにねー、最近の男子は情けないってゆーか、カッコ悪いってゆーか、元気ないところはあるよ」
「まーねー」
「ん?向こうで泳いでるのアリョーシャ君でしょ、さっき向こうで泳いでなかった?」
「あ、ホンマや。…ひょっとして、おーい、アリョーシャくーん」
「なにー?」
「さっきからずっと泳いでんのー?」
「もうちょっとで一周するとこー」


「ま、まぁ、元気な男子もいるって事で」
「遠泳と立ち泳ぎ…、上手い…」


島を泳いで一周したらもう夕方。調子に乗りすぎたなと思いながらコテージの方へと向かう。
コテージ前の広場にさしかかった時、パパラッチ以下五名と一匹が集まっていた。

「おう、アンドレイの兄貴、丁度いいところに!」
自重しろエロオコジョ。で、ナニが丁度だって?

「いえ、この二人が魔法を勉強したいって言うもんですから、モノになった時の編制を考えてたところでして。で、アンドレイの兄貴にも加わってもらう

としてドコに来て貰うのか。それを考えてた所でしてね」

ふむ、チーム編成か。エロオコジョにしてはいいこと考えるではないか。
「アンドレイの兄貴、その"エロオコジョ"ってのは止めてくれやせんか?俺っちにはちゃんとした名前が…」
「呼んでもいいが、風呂は常に男湯、寝床の女物下着は全部返還して代わりに六尺褌(使用済み)で寝るのならな」
「エロオコジョで構わないでさあ…。と、とりあえずこんな編制を考えてるんですが、いかがでしょ?」

そんなに褌はイヤだったのか…、武士の情けで正絹の褌にしてやろうと思っていたのに…。
「いくら絹でも使用済み褌は嫌っしょ、このスケベに男湯しか入らせないってのもねー」

それはそれとして、ウッドデッキに書いてあるのを見てみる。

「前衛がせっちゃんと古ちゃんか、そこに神楽坂とネギ加えて4人分隊組ませて、残り4人を後方支援担当にした方がいいな」
「ネギの兄貴も前に出すんで?」
「その為のパートナーだろ?神楽坂とネギでツーマンセル組ませて中衛担当だ。軍隊で言うところの機関銃手か擲弾手だな」
「で、兄貴の魔法で足止めされたり弱った敵さんを前衛の二人が直接叩くってワケですか」
多少は勉強しているらしく、話が通じやすい。ネコ目イタチ科イタチ亜科イタチ属動物だけどな。

「…もう少し人が欲しいな、分隊が組めるぐらい。出来ればガチンコで殴り合える奴と火力を持ってる奴が欲しいところなんだが…」
現在アメリカ陸軍のライフル分隊は分隊長と4人班二つの9人編制。
班の内訳はアサルトライフル持った班長と小銃手、局式ポジションで言えばフロントアタッカーかガードウイング。
グレネードランチャー付きアサルトライフル持ちの擲弾手とMINIMI持ちの分隊支援火器兵、センターガード相当。

ちょっと前まではここに対戦車ミサイル装備の特技兵(センターガード)が付いてたが、人員削減と柔軟な運用を計って削減されました。

そこにアメリカらしい豊富な後衛(フルバック)や地獄見そうなぐらいの砲兵か航空支援(センターガード)が付くのだがそれは割愛。

「となると、楓姉ちゃんや龍宮の姉さんに加わってもらうってのはどーでい?」
「悪くないな、足速い楓ちゃんを遊撃型ガードウイングに、真名は狙撃型センターガードに…、雇うと偉く金が掛かるのがなあ。言っておくが払わんぞ」
「そ、そんなっ!俺っちや兄貴の財布から出せってのかい?金持ってるんだからアンドレイの兄貴も出してく…、…兄貴に加わってもらえばいいだけの話

じゃねえですか。つーかその時にどこに入ってもらうか悩んでいたところだってーの」
「言っておくが、入るかどうか解らんぞ?こっちはこっちで仕事持ちだからな」
為替や株で副収入があるとは言え、確実な基本収入は必要だ。その為に夜間警備をしているのだ。

それに、もしも救援が来たらこの世界に居続けられるかは定かではない、それを決めるのはミッドのお偉いさん方であって、そこに自分の意志は全く介在しない。
これが「すさまじきものは宮仕え」という奴だ。


「いや、そこはアンドレイの兄貴に何とか加わってもらえればってことで。兄貴は士官候補生として専門教育受けてるんでしょう?
あの砲撃だけでも百人力だってのに、専門家としての知識が加われば尚のこと強くなりやすぜ。更に愛衣の姉さんにもセンターガードとして加わってもらえば完璧ってもんでさあ」
「雛は秋に数えるもの」ってことわざがあってな、日本では「取らぬ狸の皮算用」と言う。不確定要素を試算に入れるな。
僕もだが、弟子二号が面子に入るとは限らないぞ?


「あのー、愛衣さんって誰のことですかー…」
僕の弟子でネギの姉弟子、そのうちみんなと会わせるから。

「アンタの弟子って事は、その子も魔法使いか、結構いるモンなんだねー」
お前達が知らんだけで恐ろしい数いるからなあ。
この世界と隣の魔法世界だけで6700万人、管理局が把握している全次元世界の魔導師(所属・非所属・ランク問わず)合わせりゃ地球の総人口以上いるんじゃねえの?

「そないにおるんかー。ウチもがんばって、はよ一員にならな」
そういや、このかちゃんは治療魔法学ぶんだったな。それなりの知識はあるから教えようか?
頭いいからミッド式でも憶えられそうだし。

「どんなん知ってるん?ウチ、色々知りたいからいっぱい教えてなー」
いいよー、中の中の成績の医大生ぐらいの医学知識と野戦治療の経験とバイアン先生直伝の技術が有るから出し惜しみ無しで教えてあげる。

「そのバイアン先生という方も管理局の人ですか?」
うん、三等医務陸佐で祖父さん直下の司令部付医官、鍼と按摩と灸の三療と治療魔法を組み合わせた技法の使い手。
患部近くに魔力の鍼を刺しての文字通りのピンポイント治療とか、威力調整型炎熱系魔法を使って温熱療法したりするの。

「…そこに鍼を使った暗殺術が加わったら完璧ですね…。どうしましたか?そんな顔して…、まさか」
そう、そのまさか。何で分かったの?暗術使いでもあるって事を、身長も180cm(六尺)で目も小さめだし。

「本当に事実は奇なりになってますー」



****



割り当てられたコテージ、310号室で夜の一杯中。

未成年の集まりなので夕食にアルコールは付かないし、付けられません。
仕方がないので、ボーイ(現地雇用)に多めのチップを渡して部屋に酒とつまみを持ってこさせました。


ネギに「未成年なんだから飲んじゃダメだよ!」と注意されたが、
「スイスのとある州ではビール類は14歳から飲める。オーストリアやギリシアでは15歳から飲める。だから問題はない」と屁理屈をこねてやった。

「ミーシャさんからも注意してくださいよー」ミーシャを味方に付けようとしたが、
『ネギさん、同志は酒好きでしてね。5歳の頃からコッソリ飲んでいたほどです。私も昔は注意していましたが、無駄と悟った今は何も言いません』
諦めの境地に入っているから味方になりゃあしない。ある意味筋金入りなのだよ、僕は。


で、持ってこさせた酒はよーく冷えた金色のラベルに恵比寿様が書いてあるビールを大瓶半ダース。ここは日本資本だからね!

つまみはスペインの誇る旨いもんの一つ、ドングリばっか喰わせた黒豚の後足の生ハム、ハモン・イベリコ・デ・ベジョータ。
こんなリゾート島に来るのはヒマな金持ちと相場が決まっているので、いい物を揃えているのだ。
喰ってた物の性で脂がさっぱりとしています、噛めば豊かな味が広がります、絶妙な塩気が酒を呼びます。


ネギにも飲ませてみたが「うう、苦いよぉ。ハムは美味しいけど、ちょっと塩辛いし」
まだまだ子供だな、もうちょっとすればお前もこれが旨く感じてくるのだよ。

とは言え、酒のつまみは少々味が強い物ばかりだからな、酔うと味覚が少し鈍るから少し強めの味付けにしてある場合が多い。
飲屋街の気の利くラーメン屋だと、最後の〆に来た酔客と一般客で味付けを変えている場合があるのだ。


旨いつまみで2本ほど空にした頃、先程までしていた話を打ち切り、唐突に話を切り替える。
「この前のことだけどな、神楽坂、とっくに許してくれているみたいだぞ」と。
「え…、アスナさんから聞いたの…?」
「直接は聞いてない。この前召喚したはいいが、素っ裸だっただろ?あの後服を持って行ったんだが。その時の話の様子からな…」
「そうなんだ…、てっきり今でも怒ってると思ってた…」
やっぱり子供、読みが甘い。怒らせたのも心の機微が読めなかったからな。

とは言え、僕も人のことは言えません、一年次の時に陛下を怒らせてしまい、とんでもない目に遭わされたことがある。
どんな目かって?母親直伝スターライトブレイカー、その改良型で貫通力強化型。
場所は演習場近く、運の悪いことに三年による魔法使用可の演習が終了した直後、残滓魔力がたっぷりな状況です。

一人で防御一切無視の火力は反則です。しかもその強化の為のプログラム追加を手伝ったのは僕なのですから、とんだ因果応報です。


「でも、何で話を聞いてくれないの?ひょっとして僕のこと嫌いになっちゃったのかなあ…」
こら、お前はすぐにネガティブというか、悪いように考えてしまう傾向があるぞ?
男の子なんだから涙を浮かべるのは止めなさい。

「まあ、神楽坂と付き合いの長い連中に聞いてみたんだがな。アイツは"頑固者"だそうな」
「アスナさんがガンコ?確かにこれと決めたら聞かないところがあったけど…」
日頃身近に接しているから解ってはいるな、ならば宜しい。

「だから心の中では許していても、頑固にお前の謝罪を受け入れまいとしているのだと思うぞ、僕は。全く、許しているのなら素直に謝っちまえばいいものを、頑固者め」
「…アスナさん、仲直りしてくれるのかな…」
「ま、近い内に許してくれるだろ。丁度ここに吉兆が現れていることだし」
そう言って、四本目を取り出してラベルの所を指さす。

「ここの所、恵比寿様は知ってるよな?」
「うん。日本の神様で幸福を連れてくる七人の神様、「シチフクジン」だったっけ?その一人だって聞いてる」

神様は"人"じゃなくて"柱"と数えるのだが、10歳のイギリス人にはそれは分からないだろうから後で説明するとして。
「そうだな。で、鯛を抱えている恵比寿様の後ろの籠、魚籠って言うんだけどな、この空瓶のと見比べてみ?」

四本目とさっき空にした三本目をネギに渡す。
「うん?…あ、鯛のシッポが出てて、二匹になってる」
そう、これがその吉兆、五~六百本に一つの確率で混入させてあるという「ラッキーヱ○ス」。
そんな珍しい物がこのタイミングで、遠く離れた異国の地で、僕の頼んだのに入っていた。
これはきっといいことが起こる前兆だろう、だからきっと近い内に仲直り出来るぞ。

「…うん、きっと仲直りしてくれるね!」
「その前に、ちゃんと謝れよ~。向こうが許していてもひどいことを言ったししたことには代わりはないんだからな?」
乱暴に頭を撫でながら釘を刺しておく。何か嬉しそうな顔しやがってコイツは、ぐりぐりしてやる、うりゃうりゃ。

「うわ~ん、それやめてよぉ。痛いってばぁ」
「まったく、仲いいなあ。兄貴達は」
『同意見です。下の弟妹方や従弟妹方とほぼ変わらない扱いですからね』


****


翌朝、仲直りと言葉によるちょっとした誤解を繰り広げる二人。
ウサギと熊が入れ替わったか。

「しっかし、やっぱ姐さんって、兄貴のこと…」
愛に年齢は関係ないぞ、ウチの両親は十四歳の差があるが、仲いいぞ。それに比べれば五、六歳なんて大した問題ではないだろ?
「いや、それはアンドレイの兄貴の所が異常ってだけじゃあ…」


南の島の朝日と朝風を受け、爽やかな気分の朝。
足下で痙攣を起こしているイタチ科動物は気にしないでおこう、自分でやっておいてなんだけどね。







あとがき:気付けばPV二十万オーバー、読者の皆様方には感謝してもしきれません。
マイペースで書き続けますので、気長にお待ちいただけば僥倖でございます。


オリジナル設定
嘉手納市:嘉手納飛行場の返還と宇宙港への切替に伴う人口増加によって出来た架空の市です。
宇宙関連の企業団体と人間が世界中から集まる関係上、「沖縄一沖縄らしくない市」と呼ばれています。
因みに、この街では琉球語はほぼ使われません。なのでアリョーシャ君も使いません。



[4701] 第二十九話「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/06/25 17:55
高度4,000m、本来なら地球の丸みが実感出来る高度。
そこには二人の男がおり、その下では二人の女とロボと人形とオコジョが見守る。

「3カウント後、降下開始」
「ホ、ホ、ホントに降りるの?止めようよぉ」
子供の方はすっかり怯えた声を出すのに対して、
「これぐらいで怖がってどうすんだ。慣れたら12,000でこれやるぞ。ああ、杖呼んでも無駄だからな。メイちゃんがチェーンバインドで岩に縛り付けてあるからな」
まったく怖じ気のない声を出す少年、と対照的であった。
それも当然、同じぐらいの年頃に同じようなことを幾度もやらされており、慣れきっていたのだった。

無論の事ながら、空挺軍出身の祖父の考えが発端である。


「降下始めましたね。ネギ君、飛ぶ前から泣きそうでしたけど…、茶々丸さん?」
「はい、望遠で確認。現在ネギ先生は泣きながら降りています」
「おい、佐倉。朱に交われば赤くなると言うが、お前もすっかり赤くなってしまったな。お前も最初はピイピイ泣いてたじゃないか、それが平然とした顔で人の心配が出来るようになったか」
「アノボーヤモアカクナルノカネェ。御主人モ大変ダ」
「…いくら度胸付けや空中機動の訓練のため、たぁ言えなあ。アレはキツいだろ」
地上のものは各々好き勝手なことを言う。

当事者達はと言えば、
「あわ、わわわ、あばばば@☆★◎▽※!?」
「舌噛むなよー、今回はぎりぎりまで減速しないからなー」
相も変わらず対照的である。



****



女子中等部、3年A組。
ここ最近、子供先生に関する二つの話題がおしゃべりの中心となっていた。

一つは、ここ最近窶れがちで疲れている担任について。
「五月病か?」や「気の早い夏バテとかー」とか言われてたりする。

もう一つ、こっちの方が気になる生徒が多い。
「とある2年と親しく話をしていたり、一緒にどこかに向かっていたりした」

目撃者でウワサ好きのPさん曰く「ネギ君、二年のいくつかのクラスでも授業受け持っているけど、アレは教え子と生徒って感じじゃないねー。それよりも親密な関係って感じだったさっ!」
とのこと。

「ネ、ネギ先生は教師として良く出来たお、御方で、ですわ。せ、生徒にし、し、慕われるのも当然のことか、あがっ!」
「いいんちょ、分かり易いぐらいドモってるし噛んでるよー」
「うーん、こればっかりはネギ君次第だよ」
この話題は(極めて一部の生徒に)多大なまでの動揺を与えていた。


異様なまでの疲れっぷりと謎の2年生、その二つが気になる神楽坂明日菜他五名による尾行が開始されたのは必然の理であるとも言えよう。

「でも、その2年ってどっかで聞いたことがあるような気がするんだけどね」
ちょっとした引っかかりを感じながら。


「あれは・・・、佐倉さん?」
「せっちゃん、知ってるん?」
合流した二人の内一人、桜咲刹那は前を歩く2年生を知っていた。
この面子の中では唯一裏に携わっていたため、魔法関係者の幾人かを知っていた、その一人だ。

「はい、私と同じく警備に携わっている生徒で、魔法使いです。コンドラチェンコの弟子の一人だったと記憶しています」
「つまりはネギ先生の姉弟子という事ですか?それなら一緒にいるのも納得です」
「この前コンドラチェンコさんが言ってた人ですかー」
「オオ、そう言えばアリョーシャと一緒にいるトコを何度か見た事アルね!今思いだしたヨ」
「くーちゃん、そう言うことは早く思い出してよー」

そんな会話をしながら尾行になっていない尾行は続く。

「皆さん、いったい何をしているのでしょうか…。撒きますか?」
「知らんよ。あいつらはノー天気だからな、何を考えているのかは私にも良く解らん。撒く必要もないだろ、放っておけ」
ネギ以外の二人にはばっちり気付かれていたが。念話を使用していたのもあって、気付かぬはネギばかりなり。

余談だが、アンドレイが祖父に教わった事の一つに「尾行の撒き方」がある。拠点等を割り出される危険性を低減させるための技能だ。
野戦用の方法だが、基本は似たようなもの。それをキッチリ教えたために彼の弟子達(三号除く)は素人の尾行なら十二分に撒くことが出来た
りする。


****


エヴァンジェリン邸地下、その部屋には一つの球型瓶が置いてある。
実は部屋の隅に似たようなものが幾つか置いてあったりするが、今は使っていないために7人には気付かれなかった。

現在使用中の別荘に次々吸い込まれる7人、そこでとんでもない会話を聞くことになってしまうのだった。



「はあぁ、うんっ!あん、そこぉ…」艶の入った、有り体に言えば感じちゃってる子供先生の声。

それだけでも女子校育ちの彼女たちを赤面させるのに足るというのに。
「ここか?じゃあ次はこうしてと」
兄貴分で、教官で、7人共通の知人の声と「ひぃやあぁぁ、うん、そこ、気持ちいい…」どう聞いても連動してる子供先生の声。
「ま、まさか、男同士で…?」

十代前半の妄想力をフル動員した想像図を思い浮かべた時、更にとんでもない声が聞こえてきたから、さあ大変。
「ふふふっ、ネギ君気持ちよさそー。教官ー、次は私の方もお願いしますねっ」
聞き覚えのない女の子の声、これまたちょっと艶が入ってるっぽい声だから余計に大変。

「さ、三人で!?まさか両刀遣い?」
「あわわわわわ」

妄想が妄想を呼び、エロい構図以外思い浮かばなくなる直前(宮崎のどかと綾瀬夕映はとっくにそうなっていたが)、
ブチッと神楽坂明日菜の何かが切れた。


「コ、コココ、コラーッ。一体何やってんのよーっ」
「何って…、按摩と鍼ですが何か?」

そこには、俯せで揉まれている子供先生と、
「は、初めまして…、ネギ君の姉弟子で佐倉愛衣と申します…。寝転がったままでスミマセン、針が刺さってますので」背中に魔力鍼が刺さっている弟子二号、
揉んでいる時空管理局所属魔導師、
「…なんだ、お前達」呆れ顔の家主の4人がいた。

言っておくが、バカイエロー以外の6人が妄想していた様なことは一切無い。無いったら無い。


****


「ハイハイ、じっとしててねー」
只今、リンカーコアの簡易検査中。

このかちゃんに医学的知識と経験と技術を教えてあげる約束をしていた。
丁度いい機会なので検査をすることにしたのである。あれば、ミッドチルダ式魔法も教えてあげられるからね。

7人全員するハメになったりしたのはご愛敬。

とは言え、器具を使って調べるのが一般的なこのご時世。
使わずに調べる方法は有ることはある。先生が知っていて、教えてもらったのは肌に触れてそこから魔力の流れとかで調べていく方法、つまりは触診である。
リンカーコアがあるのは胸部中央付近、必然的に胸の谷間に手を当てるのだ。

こっちは真面目にしており、このかちゃんもそれが解ってくれているので、こちらは問題ないのだが、
せっちゃんが「本来ならば許さないが、今は我慢してやろう。ただし、変なことを少しでもしてみろ、即刻叩き切る」と言わんばかりの視線を送ってくるのがなあ。
『具体的且つ、現実的な解釈ですね』

「検査のついでで揉んじゃったら?」と、パパラッチが煽るから余計に…。
せっちゃん、せっちゃん、匕首出さないで、構えないで。
「もー、せっちゃん。アリョーシャさんは真面目にしてはるんやから、そないなことしたらアカンでー」


とまあ、全員の検査終了。
途中、せっちゃんに喉元に匕首突きつけられながら検査したりもした。
せっちゃんの時な。揉むわけ無いじゃん、揉むほどもな…、

「何か失礼なことでも考えたか?そんな気がしたのだが…」
何でもありません。だから後頭部の匕首引いて。
『このような時の女の感という物は恐ろしいというのが実感出来ましたね』


そんな苦労の結果、
有り:馬鹿デカそうなこのかちゃん、そこそこっぽいせっちゃん、普通らしいゆえっち、弱目な本屋ちゃん。
無し:残り。文句言うな、ミッドチルダでも魔力資質持ってない奴多いんだから。
との結果、ゆえっちと本屋ちゃんが意外だったな。

で、神楽坂が一寸変、動きを見るために細工した魔力が消えていくような感じ?がした。
詳細に調べてみたいが、機材も知識もないから別にいいや。

で、せっちゃん。きちんとした下地があるからベルカ式の基礎教えた上で、コネを利用してシグナム一尉に鍛えてもらうと面白いかも。
無事に帰れてお咎め無しだった場合の話だぞ。


どんなコネかって?実は祖父さん、八神一佐や高町三佐とは昔から親しい。同じ地球出身なのであれこれ世話を焼いてたとか。

一年次の夏に初めて一佐にお会いした時曰く
「ユーリのおっちゃん?んー、会うたび小遣いとかくれる気のいい親戚のおっちゃん、ちゅー感じやな。私が六課作るゆうた時も、あれこれ応援してもろたし。当時の陸の将官(当時准将)としてはかなり珍しい擁護派やったんやで」

で、そんな仲の祖父さんと八神一佐経由で頼めば可能、と言う話。



余談だが、エヴァに弟子二号と三号に明石教授等の調べさせてくれる魔法使いを調べた結果、こっちの魔法使いにもリンカーコアが備わって

いた、調べさせてくれた魔法使い限定の話だが。
魔力素を体内魔力に変換させるのに使っていた。その魔力を触媒として少量使うか、直接変換して作用させるかの違いはあるが蓄積・放出機関として使っているところも同じ。

更に、今回の調査で陰陽師の血統のこのかちゃんや補助に陰陽術を使っているせっちゃんにもあることが判明。
どうやら、自前での魔力運用にリンカーコアが必要なのはここでも変わらない模様。
咸卦法とかの自前魔力運用は出来るが、詠唱出来ない(触媒への変換不全か?)弟子一号にもあるからな。



****



エヴァとかわりばんこで行っているネギの修行、今日は僕の日。

基礎訓練に戦術講習に図演、サバイバル講習に家事全般と、色々と教えている。

後、いろんな人の逸話とか。
この前は某次元世界の諜報機関所属、殺人許可持ちで男色家で少佐で浮気癖なエージェントの話をした。

次元世界って広くてね、どっかで見たことがある人とかが実際にいたりするの。
へちゃむくれで守銭奴な人間コンピュータ国王もセットでいるしな!


その中でも模擬戦や演習は時間を決めずに行っているのが特徴だ。
睡眠途中、食前職昼食後、訓練中、気の向くままに行う。
戦闘はTPOをわきまえない奴ですから、やって来る時はお茶の時間であろうが関係なくやってきます。
お昼は元気だが夜はダメとか、お腹が空いて戦えないとか、顔が濡れて力が出ない、は通じません。

だから、時と場合を選ばずに行うことにしてある。場所はここしか無いがな。


今日は皆との夕飯前、いつもより多いギャラリーの前で行うことにした。
まあ、パパラッチが「そう言えばさー、アンタの魔法って見たこと無いんだけど、見せてくれない?ここならいくら使ってもバレないからいいじゃん

」と言ってきたのもあるんだがな。

その意見に「あー、ウチも飛んでる所しか見たことあらへんー」このかちゃんと、「一からちゃんと見てみたいです」ゆえっちに「わー、私も見たいですー」本屋ちゃんが賛同。
せっちゃんは微妙な顔していたが反対はせず、残りも同意したためにやむやく行うこととなった。
今回は眠りについて2時間ぐらいしてからやってやろうと思ってたのに。


「Борьба готов(戦闘用意)」『Да(はい)』
一瞬で展開されるバリアジャケット・アブマット(突撃)モードとミーシャ。

「まるで蒸着ネ」『では蒸着プロセスをもう一度見てみよう!』
…僕はどこぞの宇宙刑事か。
て言うか、知ってたのね古ちゃん。そしてこの前CSで見たからって乗るなミーシャ。

「前にハルナに「日本文化の勉強」で見せてもらたヨ。夕映と本屋も見てるネ」
パルめ、貴様が元凶か。
近いうちにギャフンと言わせて…やらんでもいいか、パルだし。

「にしても、アンタの持ってる銃みたいなの。元はドッグタグ型でしょ?軍服みたいなのと合わせて魔法とほど遠いカッコのクセに魔法としか言えないのよね、ソレ」
『AK-74をモデルにしてはいますが、あくまでも「魔法使いの杖」ですから』
「オマケにしゃべるし」
「SFと魔法を無理矢理合わせた感じです」
外野があれやこれや言ってるが、無視して準備を進める。

これから5分連続で全力砲撃をする。
それに耐えきるか、逃げ通せるか、一発でも反撃出来たらネギの勝ち。
当たっても動けりゃあ宜しい。

逆に耐えきれなかったら負け。

使用する魔法は各種TP(演習弾)シェル・バレット、当たってもそんなに痛くない。…デコピンぐらい?
ただし1/1,000の確率で各種非殺傷設定弾が混入してある。当たると滅茶苦茶痛いのが、ショック症状を起こさないように調整してはあるが。
更に1/1,000,000の確率で各種殺傷設定弾が混じっているかもしれない仕様。

先に言っておこう。これは祖父さんが考案したもので、元部下や影響を受けた奴らで構成される派閥では一般的となりつつある訓練法だ。
導入した部隊曰く、「訓練での真剣度合いが跳ね上がった」とのこと、痛かったり死ぬのは誰でも嫌ですからね。
ホントに殺傷設定弾が混じっているか真偽はさておき、「ひょっとしたら」という気持ちと生死が懸かっていれば嫌でも真剣になるだろ?

さて、皆を流れ弾の心配のないところに移動させた上で始めますか。
『TPクラスターシェル・スメルチシフト』



濛々と立ちこめる砲煙、未だ飛び交う弾雨、地形を変えんとばかりに叩き付けられる魔力弾、遠雷の様なひびきを見せる砲声。
その様相はパパラッチ曰く「…戦争だね」

弟子と家主一家の反応はわかりきっているが、ギャラリーの皆さんの反応がちょっと気になるので、よく使う盗聴機能付サーチャーを皆の所に
置いておいた。

ゆえっちが呟く、「なるほど、質量兵器を駆逐出来るはずです。一人であれだけの火力を投射出来るのですから」
これぐらいで驚いてちゃあいけないよ、SランクだとかSSランク連中(殆どいないけど)の攻撃は例えて言うなら
「戦艦(16インチ級)部隊による艦砲射撃」
「戦略爆撃機(B-52クラス)一個大隊による絨毯爆撃」
に例えられるほど。

僕は最大出力がさほど高くない(B+)ので精々155mm榴弾砲クラス、良く言って227mmロケット弾。
大容量(AAA+)による手数で補ってるけどな。

「あ、あわわわわ、ネ、ネギ先生がー」
「ネギ君大丈夫やろか。あないにどっかんどっかん鳴っとるけどー」
大丈夫、大丈夫、死なないように気を付けてるから。
フォローを隣にいる弟子二号に指示する。

「大丈夫ですよ、私もアレやらされましたし。最初はパニック起こしちゃうんですけど、何回かすると割と冷静に判断出来るようになるんですよー」
そうそう、最初は本気で泣かしちゃったのもいい思い出。
「教官ー、それは言わないでくださいっ。教官にとっていい思い出でも、私にとっては恥ずかしい思い出ですーっ」
今じゃ、弾道から着弾点見切って適切な回避行動取れるようになったもんよ。

「…あの時はスッゴク頼もしかったけど、こうして見るとねー。イジメ?」
砲撃ってのは味方から見るととてつもなく頼もしく、敵や端からから見ると恐ろしいもの。
戦場ってのはこんなもので、攻勢の矢面に立たされた部隊ってのもこんなもんよ。

「ね?どうも好きになれないのが判るでしょう?鍛えた意味が無くなりますよ…」
失敬な、こっちはこっちで反吐が出るような訓練を受けた成果がこれだぞ。
近接戦闘に置いて、僕が本気のせっちゃんに敵わないように中遠距離戦で強いだけだ。

「うむ、屋内とか森とかの飛び道具が苦手とする場所に引きずり込むしかないネ」
残念、その手の場所用訓練も行ってるし、いざとなれば手榴弾代わりの炸裂魔法弾や炎熱魔法の応用で火炎放射器代わりと、そんな手も使うぞ僕は。
殴り合いでは確実に勝てないからだけどな!


呆然と観戦するギャラリー、弟子や家主は見慣れた光景であるが為に平然としている。
「あれだけやって死なないんだから便利だよな、非殺傷設定は」
「俺ハイクラヤッテモ殺セネエノハイヤダナ。カワリニイクラデモ切レルカラ興味ハアルゼ」
「3分40秒が経過、記録更新中です」


****


演習終了後、今日は惜しくも4分30秒でノックダウン。
砲撃下で精神力を大いに消耗し、障壁を持続させられなかったのが原因。

もうちょっと神経野太くさせなきゃな、と思いつつ皆と早めの夕飯と酒盛り中。

「わ、バカ、未成年がそんなもん飲むんじゃないっ」
「え?でもジュースって書いてあるよ」
「ただのジュースじゃないんだよ」
「まあまあ、堅いコト言わないの。エヴァちゃ~ん。それにアリョーシャの奴は平気で飲んでるけど?」
「小僧にとってはジュースみたいなものだと言えるが…、とにかく飲むなっ。アレは単なるザル…、いやワクだな」
多少飲んでもいいじゃん、今の内から下戸か上戸か判ってたら将来楽になると思うよ?多分。

「うーん、ほとんど酔わない教官が言っても説得力がないと思いますよー」
アイスヴァインの炭酸割り飲みながらそんなこと言われても説得力がないと思いますよ、弟子二号。
酒を教えてるのは僕だけどな!飲みやすいのから教えるのさ!


さて、めでたくミッド・ベルカ式魔法が使えることが判明したこのかちゃん、せっちゃん、ゆえっち、本屋ちゃん。
とは言えネギ達の魔法にも興味があるらしく、エヴァに教授を頼むも断られ、ネギに押し付けられる。

そうして始まる「初心者のための魔法講座」懐かしいなあ、最初の呪文「プラクテ ビキ・ナル 火よ灯れ」アレで苦労したなあ。
「苦労したって?あんなすっごい魔法使ってたのにどして?」
「コイツは詠唱が下手くそだったんだよ、二回に一度は噛んでたぐらいだ」
「ミーシャさんの方が上手いですからね、今でも」
人の心の古傷に塩をすり込むな、この悪幼女と不肖の弟子め。


「うーん、上手く行かないねえ。あ、メイちゃん、アンタ魔法使いでしょ?お手本見せてよ」
弟子二号に声かけるパパラッチ、この調子なら早々に仲良くなれそうなので非常に宜しい。
こういう場合、グループの仲で一番社交的な奴が受け入れてくれれば後はすんなりと行くものです。

「ええっ、私ですか?ネギ君ほど上手に先輩方に教えられるかどうか…」
「メイさんはスゴイですよ。僕の無詠唱魔法の先生ですから!」

ネギは只今各種訓練と並行で魔法剣士の必須技能、無詠唱魔法の練習もしている。

詠唱という言霊を使い自らの魔力を触媒へと変化させる工程を省く。
これが此方の魔法使いにとっては一種のハードルとなっているらしく、なかなか上手く出来ないのが現状である。

その無詠唱魔法の先生がメイちゃん、エヴァの奴に「昔のこと過ぎて忘れた。メンドいから佐倉、お前教えてやれ」との横暴な鶴の一声でそうな

った。


「まあ、無詠唱でもこの通り出せますが。私の始動キーと合わせるとこうなります。メイプル・ネイプル・アラモード 火よ灯れ」
「オオッ、カコいいネ!!」

「そー、その始動キーって言うのは-、自由に決められる物なんですかー?」
本屋ちゃんの質問に僕が答える。
「うん、言霊と語呂の関係だから次に繋げやすくて自分にとって意味がある言葉なら何でもいいの。僕の場合は、フレブ・ザ・フレブ クロフ・ザ・クロフ 火よ灯れ。って感じ」
『私の場合は、アフタマート・カラーシュニカヴァ 火よ灯れ。です』
ミーシャ、待機モードのまま火を出さない。アゴを火傷させる気か?


この後起こる騒動も知らず、何処までも平和な一時であった。
外は雨、其れは恵みの雨か涙雨かは神のみぞ知る。










あとがき:最近またまた忙しいです。来月は大きい予定が入っているので余計に…。
月に数回の更新を心がけていますが、出来ない場合は平にご容赦を。




[4701] 第三十話「雨降って地固まる」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/07/10 21:45
夜の別荘、ネギの話を見、宴会の第二部が終わり、ついでに僕の秘密も公開(前にゆえっち達に話したのと同じ内容)し、大半が寝静まった頃。

何となく眠れずにそこいらへんを歩いていた。
一人と思っていたが、先客がいた。せっちゃんだ。

「隣、空いてる?」そう言って、隣に座る。
嫌とも立ち去ろうともしていないから別にいいだろ。

お互い無言、海を眺め続ける。
そんな空気を破るべく、声を掛ける。「模擬戦しよ。気に魔法にアーティファクトに拳有りの模擬戦を。遠距離砲撃は無しね」と。
僕のことを嫌っているのは知っている。

とは言え、守るべき存在と思っているこのかちゃん他、友人一同と友人である僕。
そんな間柄で仲が悪いと皆に悪い気がする、そのままでもいいと言えばいいのだが何となくね。
ネギの過去見たのもあるんだろうなあ、面倒がらなかったの。

で、こういう時は体育会系のお約束、ガチンコ勝負だな。剣の道一直線のせっちゃんもこれは理解出来るはず。
『アレですね。準備しておきましょう。近くの掃除用具入れの所に丁度いい長さのデッキブラシがありました。桜咲さんにはソレで代用してもらいましょう』

男同士ならこれで何とかなる可能性が高いが、女の子のせっちゃんに通じるのか?
ソレはやってみないと判らない。


****


ネギ先生の過去を知り、皆で騒いだ後のことだ。皆が寝静まった後、ふと目が覚めた。
夜風に当たろうと外に出、何となく海を見ていた。

そこへ近付く気配、ここには見知った人間しかいないからそのままぼうっとしていた。
声が掛かる、私の好きでない奴の声だった、「隣、空いてる?」

律儀な奴だ、断られる可能性が高いのにわざわざ断りを入れてくるとは。
軍人の家系らしいなと思いながら、わざと返事は返さない。
このままぼうっとしていたかったから。

そのままお互い、目も合わさず海を見続ける。
堪えきれなくなったのかして、コンドラチェンコの奴が口を開く、どうせロクでもないことだろう。
「模擬戦しよ。気に魔法にアーティファクトに拳有りの模擬戦を。遠距離砲撃は無しね」
ほら、やっぱりロクでもない事じゃないか。

「お前とか?何で模擬戦をしなければならないんだ!?」
初めて組んだ時から気に入らなかった。戦争屋の遣り口が。
遠距離から問答無用で吹っ飛ばし、地雷をばらまいて身動きを取れなくしたり、魔力弾を機関銃の如く打ち出す。
正に「目的のために手段を選ぶな」を地で行くような魔法と遣り口、剣と身体を鍛え続け、戦ってきた私には今ひとつ好きになれなかった。

間違ってはいないから余計にな。


只、面倒見がいいことや、律儀なところは知っていた。

少し前に龍宮や私を砲撃に巻き込んでしまった事があった。
謝るコンドラチェンコに「大阪のとあるホテルのロールケーキで許してやろう。出来れば明日中に」と龍宮が無茶を言った。

その次の日、寮監さん経由でその菓子を持ってきた。私の分と謝罪の言葉を書いた紙も付けて。
好きにはなれないが、そんなところは嫌いではなかった。

決して、お詫びのロールケーキが美味しかったからじゃないぞ。
もっちりと且つしっとりしたスポンジ、それでたっぷりのふんわりクリームを一巻き。上手い具合に控えられた甘さのおかげかさっぱりしたクリーム。
この二つが調和して、…一本丸々食べてしまったぞ。

手段を選ばなさすぎるところや、経費で落としてくれだの給与がどうたらの中途半端に金に煩いところは大嫌いだぞ。

まあ、根っこはいい奴のようだ、修学旅行の時のあの言葉は有り難かった。
自分が何者であろうと構わない人達がいる事を教えてくれた事は、このちゃん達がそんな人になってくれると言ってくれた。
その切っ掛けを作ってくれたことには本当に感謝はしている。



「いいから、いいから、この前僕のナイフとやり合って負けたでしょ?その雪辱と思えば」
えらく熱心に勝負を挑むコンドラチェンコ。面倒がり屋じゃなかったっけ?コイツ。
とは言え、この前負けたのは事実で、雪辱の機会と言えばそうだ。

それに一度こてんぱんに伸してみたかった所だ。遠距離からの攻撃さえなければ勝機はある。


…筈だったんだがなあ。


****


下の砂浜に降りる。階段は面倒だから重力に従って。
「だからといって、他人の手を取って一緒に落ちるのはどうかと思うぞ。お前も私も飛べるから問題はないとは言えだ」
文句を無視して近くの掃除用具入れからデッキブラシを取ってくる。

「せっちゃんはそのデッキブラシを気で強化して、丁度夕凪と同じぐらいの長さでしょ?僕は着剣したミーシャに訓練用緩和魔法付けて」
僕の近接戦スタイルは、基本の銃剣戦闘術にベルカ式槍術を加えた遣り方、当然ながらマイノリティだ。
他の皆さんは槍や剣とかの真っ当な得物で戦うし。

「模擬戦をするのはいいのだが、お前の魔法は五月蝿いからな、皆が起きるぞ?」
「無問題、結界を張る。こっちの結界とは違って"空間を切り取る"方式だから、認識も侵入も出来ない。誰か居たとしてもそのままか、追い出

せるかを此方で決められるから大丈夫」
認めた奴か対策魔法使いは別だけどね。

「…便利すぎるぞ、その魔法」
古代ベルカの「封鎖領域」を応用して開発された魔法。人質付の立てこもり事件とかで威力を発揮する。
鬱陶しい野次馬近隣住民やマスコミ共を纏めて追い出せ…じゃなくて避難させられるし、
元来気にするつもりもない人質とか言うのを無視して…げふんげふん、人命ハ最重視デスヨ?非殺傷魔法デ人質ゴト撃ッタコトナンテ一度モ
アリマセンヨ?…救出もしなくていいから問答無用一切遠慮無しで行えます。
この結界魔法の御陰で、かなーり楽になりました(いろんな意味で)。

とは言え、ミッドチルダ式及び近代ベルカ式への応用には多大な時間と予算が掛かり、JS事件後に何とかモノになった魔法だ。
一回予算削られたのもあるのだがな、JSF計画並みの予算喰いだったとは言え、さっさとモノに出来てりゃあ、色々と楽になったモノを…。

因みに、統一戦争後に兵器輸出が解禁された日本製FV-2の方が売れて、米英蘭以外にはあんまり売れませんでしたとさ。



結界を張り、バリアジャケットを展開、対峙する。

ブラシを下段に構えるせっちゃん。やや足を開き、中腰に近い姿勢でシトゥイークモード(銃剣)のミーシャを構える。
先手を打ったのはせっちゃん、射撃魔法を警戒して距離を取らせない気だろう。

「斬空閃」
飛ばされた斬撃を回避するが、回避の強要が目的であって当てるつもりはないようだ。
何せ、よけた方向にせっちゃんが飛び込んできているんだから。

「奥義・百烈桜華斬」
その名の通り降り注ぐ斬撃、しかしバリアジャケットやシールドを切られるほどでもない。
とは言え、思わず守りに入ってしまうなコレは。

次の一手、なるほど、動きを止めるための布石だったかさっきの技は。
にしても、ある意味逆セクハラだそ、あの技は。そんなことを思いつつ「神鳴流浮雲・桜散華」によって投げ飛ばされる僕。
今のがせっちゃんだったからラッキーと思えたが、ごっついオッサンにあんなのやられたら「殺してくれ」と言うまでボコれる自信あるぞ。

「意外と呆気なく…も無いな。思い切り叩き付けたつもりだったが、ソレも魔法か?」
角度や勢いからすると、常人ならばKOされた程の投げ技、生憎こっちは一寸痛かった程度で済んでいる。
飛行魔法の応用、衝撃を斥力で緩和する。超低空で空戦を行う物の必須技能の一つ。
コレをもっと高度に行うと慣性制御魔法となるのだが、それは別の話。

「ま、そうなんだけどね。次、こっちから行かせてもらうよ」
銃剣は生まれて400年経っていない、若い武器だ。
ただし、その実力は槍や剣や弓矢に劣らず、パイクなどの長柄武器を駆逐してしまったほど。

3kg以上ある鉄や木、硬質プラスティックの塊。
ストック部分やマガジン部分で力と勢いで殴りつける、刃で突き、肉を刺して斬り上げる、刺したまま撃つ。
それも短く、単純な動きで。

単純ではあるが、只の人間の殺傷には十分な威力。そこに各種魔法やカートリッジによる強化が掛かることによって魔導師の殺傷にも十分
な威力を持つことに成功した。

そして、防御魔法で守られた魔導師を殺傷出来ると言うことは"気"で身体を強化した人間も殺せると言うことである。
衝撃緩和魔法付けてあるから死なないけどね!痣とかは出来るけどね!


「銃剣を侮っていました、認識を改めます。近付けば打突や斬撃、遠のけば銃撃。これだけ使える武器だとは知りませんでした」
そりゃどうも、旧軍の銃剣突撃馬鹿の性で悪いイメージしかないからなあ、銃剣には。


****


紆余曲折の末に行ったコンドラチェンコとの試合(模擬戦だが)、想像以上の勝負になった。

まあ、私達が転進した後、月詠と鬼達相手に戦えたのだ。
それなりの腕は持っていると思っていたし、この前のナイフ捌きからかなりの腕前であるとは解ってはいた。
しかし、これほどの腕前とは思っていなかった。
気と神鳴流の技が使えるのなら勝てると思った自分の未熟さを痛感した。

得物が気で強化したデッキブラシとは言え、アイツの守り、防御魔法とバリアジャケットという魔力で編んだ防護服、
意志のある突撃銃型の杖、ミーシャと名乗っていたが、それらに依る防御を破れないのだ。

それだけではない、ぬめっとした体捌き、身体の構造を活かした滑らかな動き方で下手な攻撃は躱される。


攻撃においても1m程の銃を巧みに操り、棒術のような槍術のような棍棒のような攻撃をしてくる。
銃床を打ち込み、銃の中程で殴り付け、先端に付けられた短剣で鋭く突き、薙ぎ払ってくる。

そこに肘や膝に肩での打撃が加わり、此方の重心を崩しに掛かる。
恐らく、倒されたが最後、短剣で胴体や首、頭を突きに掛かるのだろう。

反撃なり防御のために拳や足を出すと間接を決めるか投げようと掴み掛かる手。
礼儀も作法もなく、敵を倒すことだけを考えた技や攻め方の数々、これが軍隊式格闘術か。


そして、銃の最大の特徴、撃つ。
離れれば構えて撃ち、縺れた状態からでも銃口が向けば撃てる。

先程、刺突を気で止めた次の瞬間に撃たれた、本来はそのまま刺し、刺さったまま撃つのだろう。
後ろに飛び退いて躱すしかなく、その飛び退く合間にも撃ってくる。

神鳴流に飛び道具は通じないのだが、咄嗟に躱そうとするか守りに入ってしまう。

なるほど、現在の戦場でも使われる訳だ。
兵士にとって一番身近にある物と体術を組み合わせる事でこれだけ戦えるのだからな。

そうして、私は考えを改めた。
知らなかったが故に侮っていた銃剣についてと、

「銃剣を侮っていました、認識を改めます。近付けば打突、遠のけば銃撃。これだけ使える武器だとは知りませんでした」

コンドラチェンコについてだ。今まで低く見てしまっていたことを心の中で詫び、強さを認めた。
お前は強い奴だ、と。


****


何合目かの打ち合い、気で強化したデッキブラシではミーシャは切れず、緩和魔法越しの打撃や斬撃では強化ブラシを折れず。
神鳴流の斬撃はコチラの守りに止められ、コチラの打突は気やデッキブラシの柄によって逸らされる。
アーティファクトの匕首で死角を突こうとするが、「魔女の眼」に死角はない。真上から見てるからな。
そうして所謂膠着状態となった。

「なかなかやるな、一撃一撃が重いぞ!」
「そちらこそ、中々の冴えだよ。何とか持たせてるけど、フツーの奴の守りだったらとっくに破られてるよ!」
思惑通りなのかして、口調が少しゆるんできているせっちゃん。

やっぱ、拳で語り合う系なんだなあ、せっちゃんは。なんか生き生きして奥義を繰り出してきてくれるし。
…こっちの技も見せてみるか、いい刺激になるかも。そうして指示を出す「ミーシャ、脱剣」

「今度はナイフか、この前の続きをするのか?」
「うんにゃ、一寸せっちゃんに見せてみたいのがあってね」

アサルトライフル形態のミーシャを背中に回し、外したバヨネットを構える。
纏わせた魔力の密度を上げ、繰り出す技は「烈風一迅」キムラさんから教わった近代ベルカ式の技の一つ。
僕はブリッツアクションと組み合わせて使っている、基本はミッドチルダ式ですから。


「…短剣とは言え、いい切れ味と剣筋だ。どういう技かあとで教えてくれないか?それと今の瞬動か、中々見事だぞ。一級の剣士に引けを取
らない動きだ」
結果、デッキブラシ真っ二つ。せっちゃん、いい物が見られたとご機嫌気味。
「密度の高い魔力を纏わせた斬撃だよ。そこに瞬動に似た移動魔法の一種を組み合わせたの」
喜んでもらえて光栄です。…って、いけね、得物斬ったらダメじゃん。

「「神鳴流は武器を選ばず」無手でも戦えるが、キリがいい。ここいらへんにしないか?あくまでも模擬戦だろ?」
ま、そうなんだけどね。せっちゃんから止めようと言ってくるのが以外だなあ。
…これ以上やると砲撃をしてくるとでも思ったのかな?

(…今のところは銃撃だけだが、このまま続けた場合何時砲撃に切り替えるか解らん。夕凪も護符もないこの状態ではな…。手段を選ばない
からなこの男は)


****


結界を解除し、座り込んで月を見る。先程と似たような状況だが、一寸違う所がある。
先程は双方無言だったが、会話をしている所が。

「なるほど、気をそんな風にして使うとこうなるのか」
「中々上手いな。あれだけ自在に魔力を扱えるのだから当然とも言えるか」
今、せっちゃんに簡単な神鳴流のレクチャーと気の扱い方について教えてもらっている。

資料等で知っていても、実際に見るのとは大違い。聞けるだけ聞いておかなきゃ損だし。
弟子一号の使い方とはまた違い、長い歴史に成り立つ体系だった遣り方はとても興味深い。

それに…、
『取引材料が増えますしね。気を使った一般局員の戦力化が可能だった場合、強力なカードとなること請け合いです』
ミーシャ、いくら念話だからって本音を言わない。ま、取引材料は多い方がいいし、打算半分の好奇心半分って所?


で、幾つか教えてもらった所で逆に聞いてみる「魔法、勉強してみる?」と、
「ミッドチルダやらベルカとか言うお前達の魔法か。私に使いこなせるとは思えんぞ?」無論、断られる。

だがっ!悪魔の囁きの如き殺し文句が有るのだっ!!
「基礎にマルチタスクってのがあってね、2つ以上のことを同時に思考・進行させる技能の事、戦闘魔導師の必須技能ね。それを憶えるだけ

でもかなり違ってくると思うよ?」
「あー、つまりは、将棋や碁の名人が「先の手を考えながら今の一手を打つ」の様なことが出来るということか?確かにそれはな…」
そう言うこと、これが出来ると戦闘時にかなり有利となる。アーティファクトや魔法と組み合わせられれば優位性はかなりの物となる。
せっちゃんの場合だと、「匕首・十六串呂」をファ○ネルみたく扱いながらの戦闘とかが出来るようになる、誘導制御系射撃魔法に近いからな



そして必殺の一言「因みに、勉強やテストにも応用出来ます。解らない所を考えながら解る所解いたり、複数思考で一つを解いたり出来ます

。今度の中間テストにも使えます。…せっちゃんの成績、下から数えた方が早いんでしょ?」
言った途端、とっても悔しそうな顔で、「それを言うな。私だって頑張っているつもりなんだ…。お前みたいな上から数えた方が早い奴には判ってもらえないだろうが…」
ごめん、触れてはいけない所を触れてしまったようだ。体育座りして砂にのの字書くなんて思ってなかったもん。
因みに、こちらの成績は学年で五本の指に入って、理数系だけなら首位だぞ。


バカレンジャーの連中よりはマシだから気にしてないと思ったんだけどなあ。
「あの連中と一緒にするな。アレよりはマシな頭をしているつもりだったんだ…、が」
が?
「この前の期末で追い越されてしまった。流石に凹みかけたぞ」
ああ、ネギと僕で勉強見てやった成果だ。三日間缶詰にしてだけどな。…あの、目が怖いですよ?桜咲さん。
ひょっとして、図書館島に缶詰になった時のことを詳しく知らないとか?このかちゃんも一緒だったのに?
「いやな、学園長から「ネギ君と一緒じゃし、ワシが見守るから手出し無用じゃぞい」と言われてな。お前が図書館島に居たことを含めて殆ど
知らさせていなかったんだ」
バルタン星○め、やはり楽しんでやってやがったか。

まあ、あの時は偶々本漁りに来てて、偶々出会して、成り行きで付いていったからなあ。知らなくても無理ないな。


「で、どうやったらあの連中にあそこまでの成績を取らせることが出来るんだ?!特に理数系!」
肩掴んで揺らさないでください。そんな必死になって頼まなくても教えてあげますから、おちちついて。

「つまらんボケを言うなーっ!!」
せっちゃんに突っ込まれた!匕首がハリセンに変形した!せっちゃんにまでハリセンで叩かれた!
『驚くことが多い日ですね』


****


雨降って地固まる。
本来なら固まることはないはずだったが、親しい者の悲しい過去で濡れていたからこそ固まった。

そんな和解の瞬間だった。









あとがき:せっちゃんとの和解話です。近接戦の描写は難しいです。格闘バトル中心の人を尊敬したくなりました。




[4701] 第三十一話「雨に唄えば(上)」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/08/18 23:05
別荘の中、間もなく一日が過ぎ、出られる時間が来ようとしている。

「もう一寸で仕上がるから、あと一日ここにいるわ」
逆に留まる者もいる。もう一日余計に過ごしても、外では一時間しか経たない。

「僕のデバイス?もう出来上がるの?」
「基本はもうすぐ出来上がり、後は使っての微調整を何度か行って完成だな。不具合や不満は遠慮無く言えよ?」
もう一日を使い、弟子三号用デバイスの最終組み立てを行うつもりだ。

「うん!楽しみだなー、僕のデバイス。名前は何にしようかなー♪」
…実の所、3~4時間もあれば終わるのは内緒で、真名の頼まれ物がメインなのは更に内緒だぞ?


「まんま、欲しいおもちゃを買ってもらえる子供ねー」
「まあ、年相応の反応と言えるでしょう」
「そやなあ、今のネギ君の方が子供らしいわー」
「そうですね。でもネギ君、私に対してはいつも通りですけど、教官と一緒にいる時はあんな感じですよ」
「確かにねー。ちょっとイジワルなお兄さんとよく懐いてる弟ってカンジ?」
「…ちょっとうらやましいです…」


のんびりした空気が流れていた。
その一時間後、余計に留まっていたことを少々後悔することになるとは思ってもいなかった。


****


居残ってはや三時間、組み立て終了。
動作確認も終了、ほぼ完成したと言っても良い。


となれば次の仕事に掛かろう、真名からの頼まれ物を、頼まれたのは照準器である。

修学旅行の際の報酬の一部であり、麻帆良祭の時に使う予定らしい。
今から、出られるようになるまでの時間を使って、骨子を決めて設計図を考えるのだ。

機材とかがあれば試作も出来るのだけど、ここには”電気がない”という致命的な難点がある。
発電機を持ち込めばいいのだろうが、家主が嫌がるので持ち込めません。


さて、どんな感じにするか…。
『凝りすぎて実用性が低い物を作らないでくださいね』
解ってるわい、いくら性能が高かろうが「武人の蛮用に耐えられない武器に意味はない」ってのは肝に銘じてるって。

とは言え、「昼夜兼用・測距機能付で出来れば軽く、あと銃を変えることもあるからゼロインも容易に出来るようにしてくれないか」と無茶を
言ってきたからなあ。
工夫を凝らしまくるしかあるまいて?
『出来ると思われている証拠です。期待に応えましょう』

まあ、時間はあるし、ちょっと違うが知識と経験もある。頭を捻って何とか纏めましょう。資料は充分にあるな?
『はい。昔任務で集めに集めた第97管理外世界の技術情報。軍事機密や企業機密も揃えています』


ミーシャに収められているこれらの情報、親父が集めてきたものだ。某提督親子みたく、住みやすいので住んでいたわけではない。
親父は駐在武官的役割を持って、日本に住むことになったのだ。


…周りからの視線を哀れんだ祖父さん達(父方・母方双方、二人とも上級局員)が上層部に頼み込んだことは親父には秘密だぞ?


まあ、嘉手納にしたのは輝男小父さんの薦めが大きいが。
現役飛行士(当時)と元提督が保証人だったからすんなり住めるようになって、ご近所さん(宇宙港関係者が大半)にも「藤堂さんの遠い親
戚なら」と言うわけで親切にしてもらえたし。

流石に母さんについては驚かれたが。13歳で乳飲み子付だからなあ、驚かない方がどうかしてるっての。
それに誤魔化そうにも母さん隠さないもん、おかげでこっちも有名人よ。


閑話休題、第97管理世界は科学のみで発展した世界であり、管理外世界の中ではかなりの技術力と軍事力を持つ。
しかし、時空間航行・通信技術を一切持っていないために、周辺世界への影響はないとして、現在時空管理局は干渉はせず、静観を貫いている。


とは言え、何かの拍子に持ってしまわないかと見張る必要はある。その為の情報収集役を置くこととした。
その内の一人が親父だ。基本的に合法的手段で集めるが、時には非合法手段を用いる時もある、その中には機密扱いの情報もあった。
あれこれヤバいこともやっていたらしいが、そこいらへんには守秘義務が働くし、内局の諜報部に目を付けられることはしたくない。
なので知らないし、知りたくもない。

そうして集めた情報は管理局に報告されると共に、バックアップとしてミーシャにも収められ続けられていた。

現在はその任を後任者に譲り、部隊長として陸士隊を率いている。
只今第34管理世界に部隊ごと単身赴任中だ、父親が総司令だからやりにくいって、ぼやいてるけど。


バックアップはそのままミーシャに保存されており、それをミーシャを受け継いだ僕が活用しているのだ。

ありがとう親父、帰れたら去年の夏(2024年)に秘蔵のワイン(シャトー・ムートン・ロートシルト1982年)を居ないことをいいことに持ち出し、ハワイで藤堂の爺ちゃんと班のみんなで飲んだことを謝るよ。まだバレてないよな?まだ派遣期間中だし。
『意外とバレているかもしれませんよ?』



****



麻帆良学園地下に存在する中央管制室。
学園結界の管理や、各種観測機器のモニタリング、指示管制(ただし音声回線止まり)、それらを行う場所であり、常時要員が詰めている


魔法生徒の一人、ナツメグこと夏目萌もそんな要員(オペレータ)の一人であり、今日は当番の日であった。

その日の彼女の担当は魔力探知装置のモニタリングであった。
一定量以上の魔力を探知するこの装置は学園結界外に設定された”警戒識別圏”に沿って設置され、侵入者を探る。
このエリアに許可無く侵入した場合、直ちに待機要員が急行、目標を確認・識別後、それらに合わせた行動を行う手筈となる。


モニターを見つめていたその時だった、警戒識別圏外に輝点を見つけたのは。
「明石主任、エリア51に魔力反応あり。識別圏外縁ですが」

主任と呼ばれた男、いつもは教授と呼ばれているが、報告を聞いて頷いた。
「コンディション5A発令。待機要員に即応態勢での待機を指示して、そのまま監視」

時たま、「探る」為に使い魔や式神等をこれ見よがしに侵入させることがある。
これもその様なパターンだろう、明石教授はそう思っていた。

その認識は次の報告で打ち砕かれる。
「了解、監視続けま…、反応増加!急激に数を増やしていきます!」
「159、160、161…、まだ増えています!」
「新たな反応、上位悪魔級の反応です!」

学園外周部に急速に増えていく魔力反応。
今は動かないからいいものの、もしも、この大群が一斉に動いた場合、現在の戦力では止めきれない。

此方から打って出ようにも、上位悪魔の存在がある。
下手な戦力では間違いなく返り討ちに遭う、学園結界内では行動出来なくなるのが幸いか。

となれば、戦力を用意するしかないが、主任管制官にそこまでの権限はない。
それ以外の関係者達の動員要請が出来るのは学園長を筆頭とした自分の上司達であり、精々待機要員達を顎で使うぐらいの物だ。
「コンディションを4Bに変更、待機要員に偵察を指示して。学園長に回線を繋いで、DEFCON4の発令を要請」

「敵に動きは?」
「ありません。数を増やしていくだけです」

それなりの間魔法使いとして生き、大抵のことは慣れたつもりだった明石教授、その彼でさえ内心動揺していた。
一体何が目的なんだ?!と。




「仲間の身を案じるなら助けを請うのも控えるのが賢明だね…。まあ、私の仲間達に掛かり切りで君どころではないと思うがね」



****



「なんやネギ、そん袋は?」
戦闘はほぼ準備段階で決まる、そうアリョーシャに教えられていたネギ。
少しでも優位に進めるための準備を行おう、そう思いと袋を呼び出す。

「戦うための道具が入ってるんだ」
そう言って、カートリッジを見せる。以前プレゼントとして渡された袋である。

「何や、その、銃の弾みたい何は?・・・て、あん時の止めのえげつない魔法の秘密はそれやったんか!?」
そう、ネギは京都での戦いに於いて、小太郎への止めとしてカートリッジを使ったことがある。
その威力は強靱な身体を持つ狗族、その血を引く小太郎を一撃で失神させたほど。威力を文字通り痛感していた。

「うん。これを上手に使えばうまくいくと思う。乗って」
かくして少年達は戦場へと向かう。



「おおっ!そんなんお前、男なら接近戦に決まっとるやん」
「う~ん、そうかなあ…」
「何がそうかなあや」
二人して怪訝な顔を浮かべる。

「だって、アリョーシャが教えてくれたよ?「戦闘の基本はより遠く、より多く、接近戦はいざという時の保険」って」
「誰やそのアリョーシャっちゅーのは。…ああ、あんときの金髪のにーちゃんか。遠くなあ、どれぐらい遠くから撃ってきよるんや?」
「うん。30km先からでも命中させられるんだって。数だってスゴく多く撃ってくるし…」
「30km!?戦いにならへんやん。ええかネギ、そないなんを"イジメ"っちゅーんやで。真似したらアカン…て、何遠い目しとんねん」
ついさっき、別荘での訓練を思い出す。見えるものは爆炎と砲煙、聞こえるものは砲声、肌で感じられるのは爆風。
そんな目に遭ったからこそ”イジメ”と言う言葉に内心納得はしているが、自分の師であり、兄貴分を貶されたことは許せなかった。

だから、ちょっとした仕返しをすることにした。
「真似したらダメって…、僕のお師匠さんなのに。…高度下げるよ、ここからはNOE(匍匐飛行)で行くから」
「師匠て、あんなんの弟子なんかお前!?…うわっ、低い低い!!当たる当たる!!」
「大丈夫だよ、高度は一定の高度を保ってるから。暴れて落ちても、悪いのは小太郎君だからね」
敵に見つかりにくくする為という判断もあることはあったが、こんなときは年相応なネギだった。



****



中央管制室、そこの緊張は高まり続けていた。

「状況はどうじゃ?」
「5分前から数は変わっていません。動く気配も今のところは」
学園長が直々にやってきたと言う滅多にないこともあって、拍車が掛かっていた。

「偵察班に依ると、大半がレッサーデーモン、それも最下級のですが如何せん数が…。それに加えて上位悪魔が確認できただけでも5体。さすがに爵位級はいないようですが、それでも十分な驚異です」
学園結界内では高位の魔物は動けない。しかし、強力なものというのは"そこにいるだけ"で驚異となる。

「タカミチがおればまた違ってくるんじゃろうが、出張中じゃしなあ…。アンドレイ君は?」
「弟子の佐倉君が言うには「教官ならあと三十分は連絡がつかない場所にいます」だそうです」
現在、学園内の魔法使い達は招集に応じ、集まって編成をしている。戦力は整いつつあるが、問題がある。
破城槌若しくは機甲部隊的な存在、敵の守りに大穴を開けられる人間の不在だ。

高畑・T・タカミチならば「豪殺・居合い拳」の連打でそれが出来る。
アンドレイ・コンドラチェンコならば有無を言わさぬ砲撃の嵐でそれが出来る。
しかし、今現在いる人員は個と個の戦闘に置いては精強な人員が多く、対集団戦闘向けの技能を持つものが少ないのが現状だ。

それに何より、この世界の魔法はWVR(目視距離)戦闘の為の魔法が過半を占める。出来ないこともないが、儀式魔法となり、戦術レベル
での即応性に欠ける。

だからこそ、即応性の高いBVR(目視距離外)戦闘が可能なコンドラチェンコは有力なカードであり、驚異でもある。



****



地を這うような高度にまで下げ、飛び続けていたが、ステージが近くなると急に止まり、自分の脚で走り出すネギ。
「何で飛んで向かわへんねん、早よ助けなアカンやろ!」

批判されるが返事はせず、口に指を当てて静かにするように促す。
黙ったままステージから見えないように近づき、客席外側外壁部に取り付いたと同時に詠唱を始める。
「ポイントサーチ」生成したサーチャーを使いステージを観察する。教育がよいのか、覚えのよすぎる生徒の性か、この程度の魔法ならデ
バイスの補助がなくとも使えるようになっていた。


「アスナさんがまたエッチなことになっていて…、その後ろにみんなで、右が刹那さん左に那波さん…、となるとこうで…、こう使って…、この前教えてもらった使い方をすれば…、うん、こうしよう」
「何ブツブツ言っとんねん。早よ動かんか…」
「シッ!兄貴は今作戦考えてるところだってえの、静かにしろっての。あのオッサンに気付かれるぜ?」
「くっ…」

本当のところ、ネギも小太郎と同じく、今すぐ飛び出していって一刻も早くみんなを助けたいと思っている。
そんな気持ちを抑えているのは2つの言葉、"情報は許す限り集めろ、何の情報もなく飛び出すのは断崖絶壁から飛び出すのと同じ意味だ"、
"判断は冷淡にしろ。下手な感情に振り回された判断に碌なものは無い"兄貴分に教えられたことの一つ。
その教えを守って情報を集め、判断を下そうとしているのだ。



****



雨がしんしんと降り注ぐ中、影を纏ったお姉様とバリアジャケットを展開した私はいました。
私たちの視線の先にはレッサーデーモン。見たこともないほどの数います、…敵が七割で陸が三割ってところでしょうか。

そんなレッサーデーモンと何体かの上位悪魔達に対応すべく私たち魔法使いが対峙しているのですが…、
ハッキリ言って中途半端です。


こちらから仕掛けるにしても中途半端です。
神鳴流の人や接近戦を得意をする人たちで斬り込み隊を作ったり、無詠唱魔法や素早い詠唱が出来る人たちで援護射撃隊を作ったりと言った、再編成をしたりせず、いつもチームを組んでいる人たちで固まっています。

防御に徹するにしても、陣地も作っていませんし、地形に応じた配置もしていません。
キルゾーンの設定ぐらいしてもいいのに、それもしてません。

先生方に提案はしてみましたが、あんまり乗り気ではないようでして、「敵の狙いが解らないのに設定するのはどうかと思う」と有耶無耶にされました。


その先生方や、魔法職員の方々も
「ここにこの様に配置し、防御を固めれば…」
「いや、敵の狙いはそれかもしれないぞ?我々の反応を見るためかもしれん。とすれば出来るだけ動かないのが得策だ」
大戦に参加した経験のある方達があれこれしようとしてはいますが、参加していない方達との温度差があるのが見て取れます。


敵の狙いなんて別にどうでもいいと思うんですけどね。
仮にですよ、これがただのブラフだとしても、「粉砕できるぞ」と言う意志と証拠を見せれば黒幕も諦めると思いますが…。
本気で侵攻する気でも同じ、こちらが先制的自衛攻撃を行使できる組織だって所と全部やっつけた所を見せられればね?

バレない様に先制攻撃してみましょうか?誘導魔法弾を使えばどこから撃ったのか判りませんし…。
「メイ…、お願いだからしないでね?お願いよ?」

嫌ですねお姉様、冗談ですよー。本気ですると思いますか?
「昔のあなたならともかく、今のあなたならしかねないもの」

…ま、まあ、お姉様のことはこっちに置いておいて、「独断で行っていいのは自分だけで収束させられるものだけ」
私の経験と教官の教えを合わせて導き出された教訓の一つです。
教官ぐらい強ければ、大抵のことは収束させられるでしょうが、私はそんなに強くありませんからしません。

…独断じゃなきゃいいのです。何人かが同じ意見で纏まって、合議の上で行うのはね?


まあ、それはそれとして、私一人で出来ることからしていきましょう。
それに同調する人が出ても私は知りませんよ?



****



それぞれの思惑の中、戦火は徐々に強くなる。
多少の雨では消えないほどに。









あとがき:現在、厄介な病気にかかってしまっています。
「現在進行中の部分よりも、まだまだ先のネタばかり思いつく」と言う厄介な病気です。
なので、さらにペースダウンする旨、ここに記しておきます。

…後々楽になるんですけどね。






[4701] 第三十二話「雨に唄えば(中)」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/08/18 23:05
麻帆良学園の警備範囲は区画制だ。各区画は「エリア」と呼ばれ、末尾に区画番号が付く。

各エリアには必ず一つ、学園所有の建物がある。
平時は警備時の控え所として用いられ、有事の際は前線指揮所として使われる。


第51警備区画、通称「エリア51」結界境界部分・山林方面を担当範囲としている。

場所柄、他のエリアより厚生設備が充実した建物、その廊下に音が響き、空き缶が散乱する。
「畜生め、何であんなクソッタレじみた連中が指揮権を持っているんだ?」

罵りの声が聞こえる。何時もの彼を知っている人間が驚くほどの。
「ちょ、ちょっとガンドルフィーニさん、聞こえちゃいますよ。そんなこと言っていいんですか?」
廊下に備え付けてある自動販売機、その横にあった空き缶捨てを蹴り飛ばした男を魔法先生の一人、瀬流彦は宥めようと必死だ。


その男、ガンドルフィーニは少数派の魔法使いである。

魔法世界の人間は旧世界で言うところのギリシア系・ラテン系白人に近い人種だ。
旧世界における"魔法"はヨーロッパ文化圏で発展した、故に"魔法"使いはヨーロッパ系白人が最大勢力であり、
その次が「陰陽道」等の独自の魔術体系を持ちつつも取り入れた日本人。
文化的・歴史的背景もあって黒人の"魔法"使いは少ない。

彼はその少数派の中でもさらに少数派、最近増えつつはあるが、の「銃使い」だ。


黒人系魔法使いは杖や指輪に各種武具と言った「古典的魔法具」を使う人間が圧倒的に多い。
植民地時代や、奴隷として送られた新大陸等で魔法世界の"偉大な魔法使い"達に教わったのが最大の要因だ。
獣人や亜人が当たり前の彼らは肌の色なぞ全く気にしない。その点は旧世界より進んでいた。

「拳銃とコンバットナイフ」と言う近代的武器を使う魔法使いは少数。
なぜ、そんな"魔法使いらしくない"ものを使っているのか?嘗て祖国の軍隊に身を投じていた時期があり、そのときの名残である。


「瀬流彦君、君は何とも思わないのかい!?あの連中の戦術眼の無さを!?いくら此方に地の利があるとはいえ、防御のための築城もし

なければ、攻勢に出るための制圧準備もしない、伍長止まりの私からみても穴だらけだぞ!?一騎当千を揃えておけば行き当たりばった

りでも何とかなる魔法世界の戦い方を持ち込んでいやがる」

最下級の下士官だが、"班長"として部下を率いる立場。様々な戦術を知らねばならない、下士官の権限の範囲での、だが。
見識があるからこそ、上司達の方針が気に入らなかった。

「まあまあ、この前の一斉停電時にも大規模な襲撃がありましたけど、何とかなりましたし…」
前例を持ち出し、何とか宥め賺そうとするが、
「それは一騎当千の高畑君や砲兵代わりのアンドレイ君と言った人間がいたからだよ。高畑君は出張中で、アンドレイ君はあと20分は連絡がつかない所にいるそうだ。その20分の間に動かれたらどうする?現状では統制だった阻止攻撃も出来ない」

通じない所か、逆に食ってかかられる始末。それでも諦めず、
「一騎当千と言える葛葉さんや神多羅木さんもいますから何とかなりますって」
説得を続ける、何時もはいい上司で、公私とも世話になっているから。

「確かに彼らは強いよ。ただ、物量差を粉砕できる程の強さではない。せめて、有効な配置が出来れば活かせるのだが…」
同僚としてともに戦っているからこそ判る。彼らの強さは闘争の強さであって、戦争の強さではない。

「同意見ですね。流石の私でも、あれだけの数を行き当たりばったりで相手にするのは無理です。神鳴流決戦奥義を用いても、です」
「く、葛葉さんまで…。どこから聞いてました?」
ひょっこりと現れた同僚にして神鳴流剣士葛葉刀子、彼女もまた不満を持っていた。

「ガンドルフィーニさんがゴミ箱を蹴飛ばしたところからかしら?あの連中についての不満もバッチリね」
「うわっ…、全部じゃないですか。くれぐれも内密にお願いできますか?」
「そんな無粋なことはしません。それにあの連中に腹を据えかねているのは私も同じです」
学園長の秘書も兼任している彼女は"あの連中"との接点も多く、その分不満を多く抱えている。

と言うよりも、この学園の魔法関係者、一部の腰巾着を除き、大なり小なり"あの連中"に不満を持っているのが実情である。



****



臨時前線司令部前でため息をつく少女、佐倉愛衣。
「はうぅ、何でこんなことになるんでしょう?」
「日頃の行いのせいです。最近暴れすぎでしたからね」
マスターである高音・D・グッドマンに追い打ちをかけられる。

なぜ、彼女はため息をつくのか?
弟子入り後、急激に伸ばした戦闘能力と、(彼らにとっての)危険思想に目をつけられて、「司令部予備」とされてしまったからだ。
首輪に手枷足枷をつけられた状態に等しい。

まあ、彼方此方を煽っている真っ最中だったので、"危険思想"と言うのも強ち間違いではないが。


「メイ、魔法使い・人間界日本支部の理事の方々の指示なのですから、ちゃんと守るのですよ?」
「ハイ…、上からの命令ですし、予備兵力は必要不可欠ですからね。ちゃんと守ります、それが組織に属する者の義務ですから…」

命令遵守の意志を見せつつも、ションボリしている妹分の姿を見て、ぽろりと本音が出てしまう。
「役員と言っても天下りだそうよ。お父様がぼやいていたわ、「何で後方でのうのうと過ごしていた"あの連中"が理事に収まるんだ!?」って…、このことは内緒よ?私も好きじゃないし…」


誰からも嫌われている"あの連中"とは、
日本及び極東アジアの魔法使いによる相互扶助・情報交換を目的とする秘密結社「魔法使い・人間界日本支部」の役員達、その中でも魔法世界出身者達を指す。

関東魔法協会はこの結社の下部組織ではあるが、理事の近衛近右衛門が結社本部の上級役員と、霊地「麻帆良」と関連施設群の管理者を兼任していることから、パワーバランスはやや麻帆良が勝っている。
そのために互いに睨み合い、嫌い合っているのが現状である。

しかし、上部組織であるが故に警戒情報は無条件で遣り取りされ、大規模な動員をかけようとすれば承認が必要、緊急度合いの高い懸

案については優越的権限が発生する、などと言った権限を持つ。
今回は其処を突かれ、指揮権を奪われた。


役員達もずぶの素人ではない。
大半が大戦に従軍しており、幾人かは予備役とは言え軍に籍を置いている。ただし、経験したのは"後方勤務"や"参謀勤務"ばかりだが。

更にだ、魔法世界はその名の通り魔法優越の世界であり、魔法は個体依存が著しい。
一部の天才の有無で趨勢が決まってしまうことも多々ある。そんな戦場では戦術の価値が低くなり、相対的に思想の発展は遅くなる。

その遅れた思想に従って発展していく兵器、艦首に備えられた馬上槍の如き大砲を積んだ戦艦、距離を取れば巨大な的にしかならない鬼神兵等々。
それに引き摺られて歪な形になっていく戦術。
大量の血と鉄と火薬によって発達していった旧世界と比べ、遙かに劣っている始末。


それを"あの連中"は「所詮は魔法の使えない者共の浅知恵だ」と根拠のない優越感で見下す。
戦術だけではなく、旧世界の過半すらも。


だから"あの連中"は嫌われている。殺意を覚える者が出るほどに。



****



「今からこうするから、その後こう行って…、小太郎君はこう行って、いい?」
壁のコンクリートに油性マジックで概略図を書き、小声で打ち合わせをする二人と一匹。

「こうやったらアカンのか?こう行った方がええと思うんやけど」
「うん~、それでもいいんだろうけど、これの有効範囲って狭いんだよね。だからこうするしかないと思うんだ」
「ふむ、2.8mやからなあ。しゃあないやろけど、それやったらこないにした方がええぞ。こーゆーんはこれで行けんねん」
「あ、そうか!それは気付かなかったよ!」
実戦経験のある小太郎と間接的な専門教育を受けたネギ、二人の間で作戦が練りあがっていく。

「…俺っち、仲間ハズレ?」
中途半端なエロオコジョ抜きで進む。半可通はやはり専門家に勝てないのだ。


二人と一匹の声は雨に吸い取られ、掻き消されて聞こえず、NOE(匍匐飛行)を続けた為に目視されなかった。
その為に「結界内に入ってはいるが、どこに居るのか判らない」状態であった、姿を見せないために暇を持て余す人質と加害者。

「…来ないわねー」
「…同感だね。いつまで待たせるつもりなのかな?おじさん我慢できなくなっちゃうよ」
「もしや、イヤらしい事でもしようとか考えてないわよね?」
「失礼な。仕事の関係でこんなことをしてはいるが、私は基本的に紳士だよ」
「紳士がこんな下着選ぶ?」
「…」
「何故そこで黙る」

待ちぼうけを食らう九人と三体。
投げ込まれたのはそんな時、完全な不意打ちだった。

鼓膜と視神経に後遺症を残しかねないほどの音と光がステージを包む。
この前教えてもらった使い方、「カートリッジの音響閃光弾化」を用いたのだ。

カートリッジに封入してある魔力、それを音と光に変換する術式を加えてスタングレネード代わりに使うという物。
魔導師ならば同じような事は出来る。ただし、AMF環境下ではその効力はどうしても落ちてしまい、有効性が低くなる。
「ならば落ちても問題ないほど大効力化すればいい」と言うユーリ・コンドラチェンコ少将のソヴィエト的思考から生み出されたのがこれ。
その回答は正しく、ほんの少し加工すれば非魔導師でも扱えるというオマケ付きだ。

祖父から孫へ受け継がれた用法は弟子達に渡り、麻帆良でも使われた。



光と音を出し切ったカートリッジが石畳に当たる、それを合図に二人は駆け出す。
いくら強力な光と音とはいえ完全無力化できる時間は短い、その短い時間を活かすべく、全力で奔る。
座席を抜け、ステージに駆け上がる。

目と頭を押さえ、苦しげな男、後ろの人質も似た様な状態なのは仕方がない事だが、特に神楽坂。
そのときネギは「後でちゃんと謝らないと。アスナさん、耳や目を押さえられないのに使っちゃったし」と思い、
小太郎は「待っててや、ちづる姉ちゃん。このオッサンぶっ飛ばして、助けたるからな」と思っていた。

そんな事が考えられるほどの精神的余裕があった二人。事実、光と音でヘルマン伯爵のみならず、三匹のスライムも無力化出来ており、

後は肉薄して封印するだけ、それだけになっていた。


音響閃光弾化カートリッジには副次作用がある、いくら大効力化したと言ってもカートリッジの魔力を全てを使うわけではない。

使い切るほどの音と光では死人が出てしまい、制圧用途に使えない。
残存魔力は光と共に周辺に撒き散らされ、その残滓は魔眼や魔法系観測機器を傷付け、一時的に無力化する事が出来る。

物理的にも魔法的にも見えなくなる事を知っていたネギと、教えられた小太郎。二人は全ての効果が発揮された事を前提に動く。


全く正常な判断であり、問題なく進むのが当然な状況、"魔法無効化能力"と言うイレギュラーがこの場に無ければだが。

無理もない。きわめて極少の能力であり、保有者は片手で数えられるほどしかいない。想定する方が不自然だ。
封印の魔法がかき消された驚きは座席に叩き付けられる事で晴れる。

「マジックアイテムを使い、私たちの目と耳を封じてくるとは…、実に悪くない作戦だったよ。さっきまで見えず聞こえずの状態で、今でも目
と耳が痛いほどだ。それに魔眼殺しの効果まであるとはね、全く恐ろしい物を使ってくれたものだ」
帽子を調え、二人に向き合い告げる。

「ただ、何故カグラザカアスナ嬢だけがこうなっているのか。それを考慮に入れていなかったのが失点だね」
手を大きく叩く、それを合図に三体のスライムが襲い掛かる。

第一ラウンドは敗北に終わり、第二ラウンドの開始だ。



****



「こんなもんか?」『こんなものでしょう』

「龍宮真名専用特殊照準器」の設計図をやっとこさ纏め上げる。

必要な機能から概略を出し、ミーシャとメンテデバイスにシミュレートさせる。
導き出された結果を基に技術の取捨選択をしやレイアウトを決めて、試作型を作る。
ここいらへんは2003年型スーパーコンピュータを凌駕する演算能力を持つデバイスに任せられるから楽だ。

後は研究室でモックアップ作っての摺り合わせ。こればっかりは真名がいないと話にならないからね。


気付けばもう間もなく出られる時間。休憩と食事挟みながらとは言え一日の殆どを使ってしまった。
しかし、現実時間ではたったの一時間、便利だなあ。そう思いながら出る支度を調え、表に出る。

表に出るとやる事がある。携帯の着信チェックだ。別荘の中では通じないので、着信即留守番設定にしてエヴァの家に置いてある。

この別荘は一部の関係者以外秘密のため、この様にするのが一番だ。
今のところ、弟子一同とネギのお供達以外は知らないはずだが、あのバルタン星人はたぶん知ってるだろう。
タカミチが若い頃にここで修行したって言ってた、経由で知っててもおかしくない。


着信履歴を見ると、メイちゃんからEメールが…、
…ミーシャ、『ククーシュカで起動します。同志、アーティファクトを。データリンク後、戦場地図を製作します』
「解った、来たれ」いつの間にやらミーシャとリンク出来る様になった魔女の眼を呼び出し、エリア51方面・高度3,000mへ飛ばす。

同時並行で連絡だ。「メイちゃん、状況教えて」
「…教官!やっと来られましたかっ!!纏め上げてありますからミーシャさんに送ります」

送られてきたのと戦場地図を見てみると…、ただ睨み合ってただけ?編成や配置とかしてないの?
「ハイ、支部の方に指揮権が移ってしまいまして、その指示通りなんです。私の予備扱いも」
…支部の役員達は無能な働き者ばかりなのだな。会った事無いけど。

「教官は学園長直轄ですからね。上司直轄に口出しは控えてるのでしょう」
下に強くて上に弱い、典型的なお偉方な様だな。
「下の私は首輪を付けられて予備扱いな訳です。…される前に火種と燃料を撒いておきました、使ってください」
どれ…と、なるほどねえ。よく燃えそうな所に燃料を置いておいたわけだ。後は火を付けるだけだな?
「ええ、教官の火は私よりも強力ですから、よーく燃えると思いますよ?」

弟子の下準備に感謝しつつ、戦場へと向かう。後は共犯者を何人か作れば完璧だな。
出来れば先生方から出そう、さすれば生徒も気兼ねなく共犯者となってくれるだろう。

そして、そいつらをシンパにしておけば…、影響という物は大きくなればなるほど反動も大きくなる物。
そうなれば日本赤軍的総括も闇に葬る事も早々出来まい。

これも異邦人が生きていくための知恵なのだよ。


****


「こちら砲兵、指示求む」
管制室に一報を入れる。リアルタイム情報が貰えるからな。
「学園長、コンドラチェンコさんから連絡入りました!」
「うむ、アンドレイ君。状況は今から送るとおり、指揮権は残念じゃがワシらにない。しかし君は魔法使い協会に属しておらんし、ワシ直轄じ

ゃからこちらの指示に従ってもらうぞい」

無能な連中の指揮に入らなくていいのは有り難いのだが、命令系統別だと直協や掩護の時ややこしくならね?
…てゆうか、上部組織はもっとデカい事考えるのが仕事であって、下部組織の現場指揮権奪うってのもおかしくね?
「もっともな意見じゃな。…本音を言うとこちらが全権握った方がスムーズに行くぞい。ワシら魔法使いは縦割りにならないような柔軟なシ

ステムを作ったつもりじゃった、それがこの様じゃ。おかしい使い方をされてしまったと気がついた時には遅い、それが不合理な事でも組織に属し続けるならば従わねばならん。君も解るじゃろ?」
「まあ、組織構成員ですから解りますよ。ただ、上の暴走に対しての安全装置が無いのはどうかと思います。明文化された抗命権の様な物や、非常時の権限剥奪事項を用意すべきだと提案します」

ウチ(時空管理局)にはあるぞ。
ウチの祖父さん、昔それ使って無能で働き者で小遣い稼ぎ程度の汚職してた嫌な上官を懲戒免職&実刑判決に追い遣った事があると言ってたなあ。
流石に遣り過ぎだが。

「近々総会がある。そのとき具体例を挙げて提案してみるぞい。まあ、どうにか出来たとしても、それは未来の話。君もワシも今は出来ること以外出来んのじゃよ。多少の無茶や汚い方法も含むが、な」
常時巫山戯ている○ルタン星人だが、実力でのし上がれた人のようだ。
そうでもないと、暗に灰色な事をしてもいいと唆しません。


「…了解、只今より管制下に入る。今のところ現状維持ですね、ナツメグさん?」
「は、はいっ!ですが、状況把握のためにある程度動き回ってもいいとの学園長の指示です」
ああ、余計に唆しやがって、弟子二号が燃料ばらまいたのも知ってんじゃねえのか?この老狸め。
元々そのつもりだ、ならば乗ってやろうじゃないの。


「学園長殿、ちょっと試してみたい事があるのです。副作用として念話通信やらに障害が出るやもしれませんが、構いませんよね?」
「構わんぞい、君の魔法の強力さは皆知っておる。強力すぎて長時間障害が出た、ただそれだけの事を訝しむ連中もおらんじゃろう?」

端から見ると解らない、当事者達と勘のいい奴だけ解る。ある種の密約だなこれは。



****



不確定要素をくべられた火は燃えさかる。
燃え尽きた後がどうなるのか判らないほどに。









あとがき:アレ?悪魔軍団との戦闘を書くつもりだったんだけど、なんかポリティカルな感じになっちゃったよ?

…次こそ戦闘シーンメインに書きますのでお待ちをば…。



[4701] 第三十三話「雨に唄えば(下)」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/09/04 21:59
「学園長、あんなこと言っちゃってよろしいのですか?多分あくどい事をすると思いますよ?」
当直管制主任の一寸不安そうな声。手段を選ばず、自己解釈と拡大解釈をたっぷりする結果主義者にフリーパスを渡したのだ、不安にならない方がおかしい。

「元来彼は法執行機関所属じゃ、極端な事はしまいて。それに、君の娘さんの友人じゃ。根っからの悪人と友好を結べるような子には育てておらんじゃろ?明石君」
「痛いところを…。まあ、皺だらけのシャツを平気で着ていたやもめ男にアイロンがけを仕込もうとするようなお節介な子ですからね。お陰でクリーニング店のアイロン係に雇って貰えるだけの腕になってしまいましたよ」
二人とも交友があり、どんな人間なのかは判っている。

「ほう、それはそれは。それじゃったらいつクビにしても大丈夫じゃの。再就職先が決まっておるんじゃから」
「ああ、それもいいですね。学園長、いいお店紹介してくださいね」
「ふぉふぉ、それでは再就職祝いにその店にアイロンがけの注文だそうかの」
だから深刻にならず、このような冗談を言っていられる。その冗談は緊迫していた空気をほんの少し和らげた。


「さて、ちょっと席を外す。後は頼むぞい」
世の中、地位の高い人間にしか出来ないことがある。近衛近右衛門はそれを成すために向かう。


****


どんな無能でも、一定以上の地位があるともれなく腰巾着が付く。
胡麻を擂るのが大好きなそいつらは、不相応な肩書きがつき、偉ぶるものである、それ位しか誇る物がないからな。
厄介な事に腰巾着は忠誠心が強いのが多い、それが気に入られる要因なのだが。


まあ、何が言いたいのかと言うと、ぶっちゃけ邪魔。
ウザいだけならまだしも、無能の考えを墨守しようとするから邪魔だったらありゃしない。

そんな連中に絡まれてますハイ。
「あ~、コンドラチェンコ君だったか?君がいくら学園長直轄とはいえ、作戦要領は守ってもらうよ?何、経験豊富な上層部の指示だ。君のような若輩者が心配する必要はないよ」
ああ、ウザいです。殺って、そこいらの山中に埋めたい…、イヤ、半殺しにしてあそこの熊のご飯にしたいぐらいウザいです。
まあ、後者は人間の味覚えて襲うようになるとといけないから却下だが、前者なら誰にも気付かれない場所に心当たりがあるので実行可能だ。
『同志、実行するのはコレの自筆文章を手に入れてからにしてください。偽装遺書が作れないじゃないですか』
怖い止め方をするな、冗談だって。

『そう言えば、ここから30分ほど行ったところに立派な山桜の木がありましたね、殆ど知られていませんが。埋めるなら其処にしましょう、養分を吸って見事な花を付けてくれる事でしょう』
埋めません。桜に失礼じゃないか、こんな無能由来の養分を与えるなんて。

『まあ、念話漫才はこれぐらいにして…、どうします?この腰巾着野郎。矢張り埋めますか』
何故埋めたがる、まあ、どうするかは決まっているけどね。
「…なのだ!む?窓を開けてどうするのかね…」
腰巾着野郎に喋らせるのはここまで、次の瞬間そいつは頭から崩れ、液体を撒き散らす。

「着弾よろし、命中だ」携帯越しに伝える。
「了解、やはりスッキリするね。ソイツは特にむかつく奴だから」そう、真名の狙撃だ。

弾種は麻酔弾、去年の学祭で使った奴の余りだとか。何に使うんだ?と言う疑問がわき上がってくるが。
「にしてもいいのかい?君なら自力でどうこう出来るはずだぞ」
「弟子が折角準備してくれたんだ。使ってやらなきゃダメだろ?箸にも棒にもかからない事なら兎も角、使えるんだから」


弟子二号の仕込みの一つが無能役員と腰巾着野郎のリスト(顔写真入り)だ。

メイちゃんはアメリカにあるジョンソン魔法学校(詳しくは知らん)留学中に魔法演習でオールAを取ったとか。
そんな将来有望な人材にはよく人が会いに来る。青田買いをして、自分の派閥に組み込むためだ。

それに加えて、マスターの高音の姉ちゃん、結構いいとこのお嬢らしい。
なので、同年代の魔法生徒よりも面識のある中間職や上級職が多い。腰巾着野郎や無能役員ともな。

昔の記憶を辿り、待機中に魔法関係者名簿(顔写真入り)をイントラネット経由で手に入れ、作ってくれたのがコレ。
真名に狙撃依頼したのも弟子二号、真名も腹に据えかねていたらしく、無報酬で引き受けたとか…。
どんだけ嫌われてるんだ、そいつら。

「私は元従者だからね、再契約して人のために尽くせとかうるさく言う奴が多いんだよ。ソイツなんて「私が新しくマスターになってあげてもいいんだよ」なんてふざけた事を言ったこともある。だから無報酬でもいいんだ」
真名がいいのならなあ、友人としてこれ以上何も言うまい。

「で、処分するところまでは弟子の考えだが、師匠はどうするのかな?悪辣なことを考えてるんだろ」
「スケープゴートにする。こいつだけじゃあ足りないからもう一寸集めてからな。協力してくれよ?」
「やれやれ、人使いが荒いな。だが、喜んで」
さてと、早く腰巾着共を集めよう。さっさと排除した方が仕込みが生きるし、みんなも喜ぶだろ?


****


「ふむ。ネギ君、君は先程から放った攻撃全てを"見て"判断しているね。相当肝が据わっているか、恐ろしいほど撃たれていないと出来ないことだよ」
戦いの最中、ヘルマン伯は語る。

幾許かの戦いで戦度胸を付けて居るであろう事は容易に想像出来た。
しかし、ネギの度胸は想像以上だった。攻撃を見て、躱すか防ぐか判断し、防ぐとしても受け止めるか逸らすかを判断していた。

妙なほど"恐れ"が無いのだ。
かと言って、共にいる小太郎のように勇猛果敢、悪く言えば猪武者という訳でもない。

慎重に確実な攻撃しかしてこず、無駄撃ちはしない。深追いはせず、一撃離脱に徹する。
まるで歴戦の兵士のような動きと判断力。
京都から今日までのさほど長くない期間に、一体どのような訓練を受けてきたのか、ヘルマン伯は疑問に感じた。

「血尿が出る」と称される空挺軍初等教程相当の訓練を受け、一個砲兵大隊の全力射撃に匹敵する砲撃を何度も耐え続ければ流石にこうなるのも宜なるかな。
ネギ曰く「攻撃?アリョーシャの砲撃に比べたら全然平気だったよ!」


英雄的戦闘を好んだ父親とは真逆の戦い方、だが興味深くはある。形は違えど才能の片鱗を見せているのだから。
だが、落ち着きすぎていて面白味に欠ける。そこで古傷を抉り、焚き付けてみることにする。

培われた冷静さが無くなり、身に付いた技能を武器に闘争本能むき出しに襲ってくる様、想像するだけでも素晴らしい。
さあ、どう出るのかね?ネギ・スプリングフィールド君。


****


腰巾着を集めた。バインドでがっちり固めてあるので逃げは出来ない。
コレで下拵えの一つは終わり。次の下拵えをするのだが…。

誰が共犯者になってくれるかねえ?学園長は黙認してくれてはいるがなあ。
実際の所、話を聞いてくれて、擽れそうなのは一人ぐらいしかいない。

他の人?「踏まれたい・罵られたい女教師No.1(MU調べ)」の刀子先生は刀突きつけられながらのお話になりそうだし、瀬流彦先生は話聞いてくれるけど、優男な外見通り頼りない。
ヒゲグラこと神多羅木先生もちゃんと話を聞いてくれるんだが、マイペースな楽観論者とは話が合わん。

弐集院先生?あの人思いっきり後方要員だし。共犯にしても前線への影響力は殆ど無いし。
気は合うんだけどなあ、飲み友達になりつつあるし。今度イーデ○ホールに飲みに行きましょう。


消去法と繋がりからガンドルフィーニ先生を共犯者にすることにする。
「ん?ああ、アリョーシャ君か」
「状況はどうですか?」
「見ての通り、行き当たりばったりだよ。いつもならウチの参謀連中が必死になって考えた作戦に従って動くところだが、今回は"あの連中"に指揮権を奪われている。WW1…、いや普仏戦争時のフランス軍相手でも負けそうな作戦に従って動かねばならん」
深刻そうな顔をしているガンドルフィーニ先生。

CQCの指導を受けている時に聞いたのだが、軍人時代にマキャヴェリにクラウゼヴィッツにリデル・ハート等が著した思想書を読破し、孫子の兵法やスキピオとハンニバルの戦術、古今東西の戦史の勉強もしたそうな。真面目な人ですからね。

そんな人からすれば、この配置や当を得ない指示は堪ったものではないのがよく解る。
いくら強力なカードが使えるとはいえ、こんな無能丸出しな戦術を使うような連中の指揮に従うつもりはない、僕も先生も。

そう言う意味でも共犯者にしやすいともいえる。あっち元地上軍下士官、こっち殆ど軍隊な組織の士官候補生、教程や内容が全く違うとは言え、軍隊生活という共通項があるからな。



「つまりは、支部からの命令を無視して動けというのだな?」
「ええ、先程聞かせたように学園長からの許可、と言うかフリーパスは戴いたと解釈してもよろしいかと」
只今説得(と言う名の誑かし)中。

「ここだけの話ですが、作戦決行の前に大規模な念話妨害を行います。それこそ、管制施設との念話通信が不可能になるほどの」
念話妨害魔法の原型はエロオコジョの魔法だ。とあるデータと引き替えに教わったそれを大出力化した。
今回は純正カートリッジ五発を使った大規模なもの。大半のバンドを妨害出来る。

因みに、此方の念話は妨害されない。UHFアナログと無線LANの違いみたいなもの。
周波数帯が違えばジャミングも違ってくる訳。

「支部との通信も不可能になるというわけか。だが、支部所属の人間はどうする?参加人員の中にも何人か居るぞ」
「さあ?どこで何をしているのやら。状況把握のために動いた時には殆ど見ませんでしたね。お昼寝でもしてるんじゃないですか?」
それを聞いた途端「にぃっ」と人の悪そうな笑みを浮かべるガンドルフィーニ先生。うん、やっぱこの人根っこは軍人だわ。

上級司令部と連絡が付かず、士官の何人かが連中が行方不明になるという状況。それはつまり、残った士官や下士官だけで動かざるを得ないと言うこと。
普通は不利な状況となるのだが、無能な働き者や机上の天才達、銀英○のフォ○クとか○ボスとかド○ソンとかリップシュッタ○貴族連合軍(メルカ○ツとファーレンハイ○除く)みたいな連中。
そんなのが排除された場合は不利とはならない、つーか有利になる。

そこに有能な中級司令部から「弁明はこちらがしておく。勝手にやっても良い」とのメッセージ(勝手な解釈を含む)。
さて、この様な時に有能な働き者や怠け者達はどう考えるのか?答えは明白、"最善を尽くす"それだけだ。


少し考え込み、あごを指で挟みながら一言、
「君の作戦は聞かせてもらおうか。あと同僚達の説得は私がしよう、君は生徒達を頼む。まあ、君は生徒達に人気があるからスムーズに行くと思うがね」
誑かしに成功し、共犯者となった瞬間だ。



****



雨が止み、月が覗く頃。少し前から大規模な念話障害が発生していた。
現状を知ろうと"あの連中"は子飼いの部下達、腰巾着共に連絡を付けようと必死のことだろう。
だが、その連絡は繋がることはない。

謎の妨害が止んだ時、中央管制室に一報が入った。
「一団が敵集団へ突撃を行い、包囲された。只今より救出を行う」と。
支部の役員達の顔が蒼白になる。
念話を用いた敵味方識別の結果、包囲された一団とは腰巾着共だと判明した。

そう、狙撃して眠らせてバインド掛けておいた連中を出汁にすべく敵集団へ放り込んだのだ。
そのまま放り込んでも良かったが、流石に家族とかが可哀想なのでディフェンサープラスで防御してある。
いけ好かない奴らだからと言っても、家族まで巻き込むのは流石にね。


魔女の眼越しに光が見える。何カ所から同じような点滅する光が挙がる。
配置完了を意味する信号だ。

作戦開始だ。「ミーシャ、HEATーMPシュートシェル・ムスタシフト・三点射」
『ムスタシフトよろし、弾種HEATーMPシュートシェル、弾数3』
スメルチと対のシフト、スメルチが瞬発火力型ならばムスタは持続火力型、精度もこっちが上。

『リンクを確認、照準よろし』「撃てえーっ!!」
三点バーストが向かう先、偉そうな上位悪魔共だ。
さて、殴り合いをするとしますか。


****


日頃の行いが物を言うという言葉がある。私はそれを二度実感していた。

上からの命令を無視し、独断で動く。
人生で二度それを行ったが、日頃の私を知っている同僚や部下達は賛同したり、従ってくれた。

一度目はルワンダ。
当時、魔法使いでありながらカナダ統合軍地上軍に籍を置いていた私はPKFの一環としてルワンダに派遣された。
そこでは一民族による他民族への大虐殺が繰り広げられていた。

上層部は政治的要因という奴で雁字搦めにされ、的確な指示が出せず。
下は指示が貰えないが故に動けない、精々警告射撃が出来たぐらいだ、保護を求めてくるまで静観するしかなかった。

保護を求めることさえ出来なかった者達はそのまま殺される。私たちはそれに耐えきれず、"現場の判断"で介入をした。
命令を無視し、民兵を多数殺傷した私たちは軍法会議に掛けられてもおかしくなかった。
結局は掛かりはしなかったが。同郷の平和維持軍司令がどうにかしてくれたらしい。


軍に限界を感じた私は軍を退き、"偉大な魔法使い"を目指すことにした。
限界は有ろうとも、より多くの人を救えると信じて。
それから何年かして、最前線を去った私は"偉大な魔法使い"の卵や雛を育て、守る立場になった。


二度目は今回。
実態を知らない"あの連中"の命令を無視し、異世界の魔導師の共犯者になった。
そのことを伝えた時、皆が「仕方がない」と言った顔をして賛同してくれた。



配置に着いた我々は最初の砲撃を待つ。

悪魔達に砲撃を加え、囮として敵の攻撃を吸引し続ける。それがアリョーシャ君の役目だ。
流石の彼でもこの数は始末出来ないようで、正面からの殴り合いで数を減らし、弱った所で我々が突撃・殲滅する。
それが今回の作戦だ。

旧日本海軍の構想を参考にしたというこの作戦、戦艦に当たる彼と水雷戦隊の我々。
勝負を決めるのは我々だ。魔導師に見せてやろうじゃないか、魔法使いの力という物を。



****



一つの戦いが終わった。

少年達は力を合わせ、とらわれのお姫様達は自らの力で牢獄から抜け出し、その助力もあり勝利した。
貴族たる悪魔は敗北を認め、止めを刺すように促す。死に場所を求めるように。

止めを刺すための魔法、復讐のために覚えた魔法、ネギはそれを使わないという。
一呼吸置いて理由を告げる。

「一つ訊きます。心底自分を憎んでいる相手に情けを掛けられて生きのびる、貴族のあなたはそんな屈辱に耐えられますか?」
「…ほう、それは確かに…。そうか、そう言うことだね?」
「はい、ズタズタになったプライドを背負って生きのびてください。それが僕の復讐です」

少し前に兄貴分から聞かされた話、叔父に父と親友を殺され、恋人を傷付けられた男の話。
叔父と戦い、命を落とそうとしていた叔父を助け、罪のつぐないのために生きのびさせる。
その男の最初で最後の復讐、それがこれ。

「自殺するかもしれんぞ?それでは復讐にならんよ」
「いえ、そんな人なら人質にひどいことをするはず。あなたはそんな事はしません」

暫しの沈黙の後、
「完敗だネギ君。傷だらけのプライドを背負って生きのびることにしたよ」
愉快そうな笑い声を上げる。

「ここまで残酷な仕打ちは初めてだ。今後どのように成長するか。楽しみにしておくぞ、少年!」
笑い声と助言を残しに煙に消える。

ここにネギ・スプリングフィールドの復讐、その一端が終了した。


****


「ABMバレット・六点射」
悪魔の間近で炸裂し撒き散らされる散弾、殆どが防がれるだろうが構わない。
防御を強いるための攻撃、本命はこの次。

多めの爆煙が発生するように調定しておいた弾が弾ける、瞬間的に鈍る動き。
「APFSDSシェル・二点射!」4発のカートリッジと引き替えに発生する二つの矢。
規格外の存在以外全てを貫くそれは音速の五倍で飛び、障壁に当たる。

この超高速侵徹体の前では多少の守りなど焼け火箸の前の薄氷の様なもの。溶けるように貫かれ肉体へと侵徹する。

受け止めた肉体は運動エネルギーから変換された衝撃波に砕かれる。
悪魔の強靱な肉体であっても、MJ(メガジュール)級のエネルギーには関係ない。


さっきのでやっと二体目。確実に葬れる矛と防ぎきれる盾を持つとはいえ、数で負けているのだ。
それに加えて、僕は出力が高くないのだ、つまりは装甲があまり厚くないことと問答無用の大出力魔法が使えないと言うこと。
何とか一対一の体制に持ち込み、各個撃破するしか手がない。

レッサーデーモンは飛べず、上位悪魔は飛べたのが幸いか。
飛び回れば最大速度や加速の個体差でバラバラになりやすく、各個撃破のチャンスも増える。


さて、流れ弾や広域砲撃で少しは減ったしこちらへ意識を向けるのにも成功した。
殆どの悪魔が僕への包囲網二酸化、後背を気にしている奴が居ねえ。レッサー(劣化)だけに頭悪いのな。
上級悪魔は僕の相手で一杯一杯みたいだし。

…潮時か。信号弾と念話を送る。送る内容は「ト・ト・ト」所謂ト連送である。
さあ、暴れまくってくれよ、水雷戦隊の諸君。



****



ト連送、旧日本海軍で用いられていた電信略号の一つ。「全軍突撃」を意味する。
腹の底から捻り出した鬨の声が響く、「総員突撃、私に続けーっ!!」うん、戦士は声が大きくなければな。

刀子先生をはじめとする前衛連合を先陣とした魔法使い達が動く。
皆、必死に走る。少しでも速く走り、射点に付こうとする。
一分一秒でも一瞬でも縮める事が時間が安全と攻撃成功率に直結する、その事を知っているからだ。

後背を付かれ、完全な奇襲の形。社会まで遮る物はなく、レッサーデーモン共は軽い混乱を起こす。
上級悪魔も気付くが、そうは行かない。
お前達の相手は僕だ。ボサッとしてると殺すぞ?


射点に付いた後衛連合、各々の最大魔法が放たれる。吹き荒れる魔法による暴力、その勢いはより一層強い。
何で、より一層強いのが解るのかって?弟子二号の仕込みだからさ。



****



50分ほど前、
「佐倉ー、お前はいいよなー。ムチャクチャ強いお師匠さんに色々教えてもらえて、カートリッジをガンガン使えて」
「まあ、私たち以外は警備の時以外は渡してくれませんからね。それも要求申請した数よりも少ない数しか配給されないって聞きましたよ?」
「ああ、だから俺なんて、工学部にいる兄貴の友達に無理言って分けてもらったのを足して使ってるぐらいだ」
純正カートリッジの半分強の魔力しか収められていないが、威力増強には十二分。
その為、学園側は危険物として最低限の量しか配給しない方針を採っている。

とは言え、簡単手軽に自分の魔法をパワーアップさせられるアイテムがあるのに使えない。
お肉の前でお預けを食らった犬のようなもの、その不満は「よし」を言わない学園側に積もる。

親心って解って貰えない物なのよね。
こっちが手軽に使ってるから安全だと思ってるようだけど、ホントは逆流や暴発を起こす可能性がある危険物だし。
まあ、幾重もの安全装置を掛けてあるから殆ど心配ないけどな、代わりにリロード出来ないの。

「ならちょっとお願いがあるんです。聞いてくれるのなら私の持ってるカートリッジ分けてあげますよ」
「え?マジで!?」
最低限の量と言ったが、何事にも例外がある。
それが僕とその弟子一同。「くれ」と言っただけの数を無条件に渡す約束(明文化済み)なのだ。
それを逆手に取り、山盛り持って行ったそうな。

そうして、若い連中に
燃料をばらまいてくれた弟子二号。

…なんて恐ろしい子。純っぽい所があったとはいえ、影響受けすぎだぞ!?
お陰でスムーズにいけました、そこは感謝します。



****



後衛連合が敵集団を細分化し、前衛連合が各個撃破する。様々な歯車が噛み合えば、機械式時計の様に滑らかに動き出す。
動き出せば自分の勢いで動き続けるものだ。

ここまでくれば心配はない、後は任せておけばいい。掃討戦時に伏撃されないようにな。
それで病院送りになる奴が結構居るんだよな、気が緩むのかして。


さてと、さっき二体纏めて始末したので後一体、お前だけだ。
早く始末して差し上げるのでおとなしく還りなさい。

「貴様ハ…、一体何者ナンダ?」
「あ、喋った」『喋りましたね』
「見タコトモナイ魔法陣ヤ、発動ノ仕方カラシテ違ウ魔法ヲ使イコナス。依頼者モ言ッテイタ、謎ノ存在ダト。何ナンダオ前ハ!?」

聞かれたからには答えてあげるが世の情け、
「時空管理局統合士官学校所属、士官候補生アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ、陸戦魔導師だ」
「魔導師…?ナルホド、"魔法使イ"デハナイト言ウコトダナ」
「そう言うこと。依頼者に伝えとけ、「常識の埒外にいる存在だ」ってな。言い残すことはそれだけか?じゃあ還れ、お前達の相手をするだけが僕の仕事ではないんだ」
HEAT-MPシュートシェル・スメルチシフト、その一斉射で片は付いた。



****



雨は止み、月明かりが照らす戦場。そこで燃え続けた火は間もなく消える。
その残り火がとある所へと飛び火を起こすのだが、それは別の話。









あとがき:病気が治りません、なんかいい方法無いですかね?
あと、解説付です。


設定と解説

ガンドルフィーニ先生の過去:ナイフと銃使いであることから軍人、イギリス系の名字から英連邦出身と勝手に想像。
黒人が居てもおかしくなく、英連邦な国。と言うわけでカナダ(総督が黒人)にしました。
PKFによく参加しているのも都合が良かったですし。


魔法の呼び方:中長距離砲撃時は「HE(弾種)シュートシェル(威力)・瞬発(信管)三点射(弾数)」と細かめの指示で、
近距離砲撃時は「HE(弾種)シェル(威力)瞬発(信管)3(弾数)」と使い分けてます。


水雷戦隊と戦艦:旧日本海軍は大艦巨砲主義だとか言われてますが、本当は魚雷重視主義だったとか。
他国の同級艦より重雷装の艦を大量に突っ込ませて大量に発射、そこに艦攻や陸攻の魚雷も加わって…、どれだけ魚雷好きなんだお前ら。

それに何より、戦艦より駆逐艦の方が安くて且つ数が揃えられるから使い勝手がいいんですよね。









[4701] 第三十四話「会議は踊る」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/09/19 22:07
「久方ぶりじゃな。頼んでいたのはどうじゃ?」
「いやあ、流石は元"偉大な魔法使い"、クリーンなもんよ。無能な上に全体主義者でなきゃあ、世の役に立ったかもしれねえぞ」
「全体主義者とは…、言い得て妙じゃな」
「そうそう、アイツら自分たち魔法世界の正義が絶対の正義と思っていやがって、それを他人に強要するでやんの。昔々の旧世界ではそんな方々に散々苦労させられたと言うのに…」

部屋には男二人、一人は近衛近右衛門ともう一人は魔法使い日本支部所属の監察主任。
二人とも日本生まれの魔法使いで、所謂昔なじみ。腹を割って話せる間柄と言う奴だ。

「まあ、なんじゃ、お前さんがここに来たと言うことは何かしらの収穫があったんじゃろ?」
「ああ、5年ほど前から不明瞭な金の動きが幾つかあった。全て"あの連中"がらみだ。それと先日のアレ、合わせ技で行けばいい所まで追
い詰めれると思うぞ。訴追まで行けるかはお前さん次第だ」
「ふぉふぉふぉ、そこまで行く気はないぞい。あくまでも"そこまで"じゃがな」
人を食ったような笑みを見せる近右衛門、それを見た相手も笑い返す。
「なるほどな、"そこまで"は行かないのかそれを聞いた本部の連中はどうするかは別にしてな」

そうして意思疎通を終えた二人は酒を酌み交わす。
その酒が何を意味するのかは本人達のみが知る。


****


6月始め、この時期は5月に続いて良い時期である。
先日まで続いていた中間テストも終った。僕の成績は問題なく(特に理数系)、クラス平均は学年3位となった。
テスト前日に行った勉強会が良かったのか、エロDVDをエサにしたのが良かったのかは解らないが。

前の期末の時はエロ本、ほんの一部を見せただけであれだけ能率が上がるなんて…、中学生って解りやすいなあ。
え?「あんなエロ過ぎるのをほんの一部見せるなんて生殺しをされたらイヤでも能率上がる」って?


ネギの方は学年3位、短い天下だったなあ。
で、だ、神楽坂は矢張りというか、必然的というか、成績が落ちて最下位になってたそうな(ネギ談)。
つーか、平均点落とした最大の要因お前だろ。

他のバカレンジャーの面々はやや落としたぐらいで、楓ちゃんだけちょっこと上昇。
テスト前の土日に山の使用料代わりに勉強見てやったからなあ。こんなことなら神楽坂も教えてやれば良かったかねえ、金取るけど。


まあ、そんなこんなで半月後に迫った学園祭、それの出し物を今朝のホームルームで決めるのだ。
にしてもだなあ、中学でも金儲けOKってどんな校風だよ。超包子やネギの時も思ったが、労働基準法に真っ正面からケンカ売ってんな。

聞く所によると各種阻害魔法を掛けてある上に、表面化する前にOB・OG使って潰してるから問題ないそうだけどね!
やっぱ権力って素晴らしいね!!


「班長、いいんですか?あの屋台の子達どう見ても中学生ですけど…、それとあのロボは一体…」
「両津、いい加減に馴れろ。ここはそう言う所だ。明けに奢ってやるから、な?」


****


出し物は一発で決まった。
「委員長殿のカレーショップがいいと思います」「異議無しー」「当たり前だお」「当然だろ、常識的に考えて」
…絶対打ち合わせしただろお前ら。

とは言え、決断は早いほうがいい。
特に僕のカレーは冷蔵庫で一週間ほど寝かせてから使うので、今から注文してもいいぐらいだ。
その材料だってあれこれ使ってるから、八百屋や肉屋や魚屋に乾物屋に米屋と注文先が多岐に渡る。

それに加えて食器や炊飯器に冷水器、テーブルにイスにクロスにお盆と色々とレンタルしなければならん。
遅いと同業に採られてしまうからな。あ、券売機かレジスターも頼まなきゃ。



さて、決めたのなら決めたでやる事が多くなる。
一日当たりの集客人数設定はどれぐらいにするのか、メニューは一種類にするのか複数にするのか、内装はどの様にするのか。
そして何より、客単価をいくらにするのかが問題だ。

毎週作っているのは金のかかった趣味みたいなものであって、自分が満足出来る範囲の材料を使えた。
ただ、それをそのまま出すと単価が相当高くなること請け合いであり、学祭で出るカレーの価格ではなくなってしまう。

そらそうだ、元はホテルで出されてたカレーなんだから。
それを学祭で出してもいい価格帯に押さえつつも、超包子やらの競合店と争える味にする。これはかなり難しい問題である。

材料の大量仕入れである程度抑えられるだろうし、クラスの連中を使えば人件費が要らないので更に抑えられる。
それでもちょっと高くなりそうなのがなあ、初期投資もかなり要るだろうし。

それに何より、ぽっと出の、それも素人のカレーがどれだけ売れるのか?それが最大の問題だ。

自慢ではないが、僕の料理の腕は調理師専門学校一年課程卒業者より上だと自負している。
と言っても、ここのお料理研究会に所属している訳でもなく、身内連中を除けば殆ど知られていないのが現状で、対外的にはシロートだ。
いくら食べて貰えれば価格以上の価値が有ろうとも、食べてもらわないと話にならない。

さて、どうするかねぇ?



****



翌日、試算や調理場や機器のレンタル交渉は進めど、何食分作るかが決まらない今日この頃。

朝夕のホームルームは、
「いくら委員長殿のカレーが旨くとも、知名度が低すぎる。控えめにして出費を抑えるべきだ」
数を抑えて出費を少なくしようとする穏健派と、
「クラスのみんなは知ってるだろ?委員長殿のカレーの味を。アレなら売れる、大々的に打って出るべきだぞ」
大々的に打って出るべきだと主張する過激派に分裂して紛糾。

そこに、
「シーフードとビーフがいいと思う」「一種類の方がいいんじゃないの?楽だし」「俺チキンカレー」
メニューを何種類にするか問題に、

「やっぱコシヒカリでしょ」「いいや、ひとめぼれだよやっぱ」「あきたこまちもいいぞ」
米の銘柄は何にするか問題、

「割れた時のことを考えると白いシンプルな皿がいいでしょう」「いや、結構な値段になるって話だから、それなりの皿やスプーンにした方がいいよ」
食器の質問題、等々。
問題噴出、ウィーン会議を皮肉った「会議は踊る、されど進まず」の言葉を地でいくような、日本人だったら「小田原評定」と言った方が解り
やすいか、まあそんな光景が繰り広げられた訳だ。

そんな席でメッテルニヒとタレーランとカレームを兼ねなければならない僕。
その苦労たるや…、現場で分隊指揮をしている方がまだ楽だぞコレ。

今日は金曜。弐集院先生と飲む約束をした日だ。
その前にカレー持ってお邪魔しよう、それがいい、そうしよう。



****



酒豪の人と飲むのは結構好きだ。
酒に恐ろしく強い上に、色んな酒・カクテルを飲み較べるのが好きな僕。
普通の奴だとそんな飲み方すると潰れてしまい、一人酒になってしまう。

一人酒は一人酒で好きよ。でも、アレが旨いのソレがいいだの言いながら飲みたい時もあるの。
そんな時に重宝するのが気の合う酒豪の人。
第34管理世界停戦監視団司令部でも、時空管理局統合士官学校でも、そんな酒豪を見つけては飲み仲間にしたものだ。

そうしてここ麻帆良で見つけたのが弐集院先生。そう言う訳で今から飲みに行くのだ。
飲み代が高くなるのが難点だがな!


「それじゃ、ご主人お借りします」「はい、熨斗付けてお貸ししますわ。この人飲み始めると止まりませんし」
弐集院先生の奥さん(美人)と、「パパいってらっしゃーい。おにーちゃん、カレーおいしかったよー」娘さんに見送られて出発。

で、奥さん見るたびに思うんだが、…どうやって騙したんですか?そうでないとあんな美人な嫁さんはそうそう手に入らないはず…。
「人聞きの悪いことを言うね。これでも恋愛結婚だよ?」
「ああ、その切っ掛けは魔法の◆◇で※※な薬と言う訳ですか」
「使ってない、使ってないよ。で、どこに飲みに行くのかな?」
何やかんや言われてるんだろうなあ、対応が馴れてるし。
まあ、奥さんデブ専なんだろ。

「銀座です。そこに行きつけのバーがあるのです。そこのマスターはかなり若いのですが、腕は一級品です」
「銀座か…、ちょっと遠くないかい?電車で一時間ぐらいかかるし、飛んでいく訳にも行かないよ」
「心配有りません。お忘れですか?僕は大容量魔力の持ち主で、貧乏器用だって事を」

周りに人がいないことを確認し、魔法陣を展開。16進化した座標を唱える。
幾秒後、そこは銀座のとあるビルの屋上。ここの屋上は開放されているから怪しまれずに出入り出来る。

と、到着と同時に変身魔法を使って二十代中盤の容姿にする。流石に実年齢では酒を出してくれませんからね、出してくれてもビール止まりだし。
佐々倉さんフランス帰りだから、その手のことに詳しいからなあ。誤魔化せません。


6丁目にあるビル、上の階には名店「Bar 南」もある。
そこの地下のバーが目的地。

「今晩は」「いらっしゃいませ、コンドラチェンコさん」
ここを知ったのはつい最近。

ただ、第97管理外世界にもここのマスター佐々倉さんはいて、名バーテンダーとして名が知れていた。
同じように姿買えて飲みに行ったことも何度か。
で、ひょっとしてこっちの世界にも、と思い探してみればあったじゃないですか。

そうして、常連の一人になったのでした。バーホッパーの伊丹さんにこっちにしかない店やもう閉店してしまった店とかも教えて貰えたし。
あ、バーホッパーってのはバーに顔を出し、数杯ぐらい飲んでは他のバーをハシゴする人の事ね。
ちょっと止まっては跳ね止まっては跳ねなバッタの移動法と似てるからホッパー(バッタ)と名付けられているのだ。

「そちらのお客様は?」
「今の職場の先輩で弐集院さん。前から飲みに行こうって約束してたんですよ。で、飲むのなら佐々倉さんの所にしようって考えてたんですよ」
「それはありがとうございます」
「初めまして、弐集院と申します。なかなかいい店ですね。バックヤードが充実してますし」
お、流石は酒好き。「銀座の酒蔵」と呼ばれる程の充実っぷりに気付くとは…。

まあ、そう言う酒談義は後にするとして…。
「ハイボール、神戸スタイル。そこのボウモアカスクで」
最初の一杯と行きましょう。


強い酒好きが二人いれば盛り上がるものです。
それに比例して増える空のグラス。周りのお客さんも呆れてます。

「ねえ、あそこのお客さんさっきから水みたいに飲んでるけど、お酒よね?」
「はい、あちらのお客様は私の知る限りでも指折りの酒豪です。お連れの方もその口かと」
小声で話していますが、聞こえてますよ。えっと…来島さんでしたっけ?



あれこれ話をする内に学園祭の話になる。
告白阻止とか人混みに紛れて進入してくるゴロツキや、他校生徒との揉め事解消等々、やる事が多そうだ。

「会議が踊っていましてね、どうやったら収拾を付けられるのか」
「指揮官は大変だねえ。でも、テーマは決まっているんだろ?それならそれを目指せばいいじゃないか」
「旅行で言えば行き先が決まってはいる状態なんです。どんなグレードのホテルに泊まるのかや、じっくり見るのかたくさん見るのか、それで揉めていまして…」
「節約するか、大盤振る舞いするのか。それが問題なんだね?」
「ええ、僕としては多少の損害も許容するつもりなのですが、穏健派がね…。初めてのことですから慎重になるのは解るんですよ」

そう、慎重なことは大切だ。但し、慎重なだけではいけません。
かのバーナード・モントゴメリー英陸軍元帥は慎重に慎重を重ね、相手を間違いなく圧倒出来るだけの力を蓄え、一度攻勢に出れば敵に1m与えるすら許さない程の頑強さを見せたという。

やる時はやる、やらない時はやらない、そのバランスが大事なのよ。
と言う訳で、「マティーニ、モントゴメリー将軍で」
「15対1のドライマティーニですね。…どうぞ」

「余り聞かないスタイルだね。何でそんな名前なの?」
「ヘミングウェイの『河を渡って木立の中へ』の主人公が注文したスタイルです。ドイツ軍との戦力比が15対1にならないと攻勢を始めなか
ったことと引っ掛けて命名されたそうです」
「石橋を叩いて渡る人だったんだね」

ただし、渡ったが最後、15倍の戦力差と物量で有無を言わせぬ攻勢に出る。
何でも徹底的にやり遂げないと気が済まない人でもあったのです。

まあ、それが仇になって迅速な用意や変更が効かず、マーケット・ガーデン作戦では失敗するのだが。
じっくり準備してからが強いタイプなんだな。


注文したマティーニを飲みながら思う。…いっちょ攻勢に出てみますか、と。
主導権はこっちが握ってんだ。あいつらがなんと言おうが、僕がいなけりゃあこの企画は進めないんだからな。

人の顔から察したのか、
「お、勝負に出るのかい?人生の先達として応援するけど、どうなっても知らないよ?」
ちょっと無責任なことを言う弐集院先生。他人事と思って…。
しかしそんな事でめげるような育てられ方はされていません。

「決断ですか、いくら良かれと思っての行動でも理解されない時もあります。ですが、一時的に信頼を無くしても前に進める。それが人の上
に立つ素質なのかも知れませんね」

佐々倉さんの一言が染みた、そう、人間前を向いてしか歩いて行けない生き物なのだ。ならば進むしかない!
「そうですね。こんなところで躓いていては出世は出来ませんからね。と言う訳でもう一杯!同じのロックスタイルトリプルで!!」
「僕も同じのを」
「ト…、同じの…」「ダブルブラックホール…?」
ちょっと顔が引き攣ってますよ、佐々倉さん。誰がブラックホールですか、来島さん。



****



「えー、皆さんに任せていてはいつまでたっても決まらないので、学級委員長としての強権を発動します。反論は僕を納得させられる物以外
受け付けません。自分さえ納得させられない反対意見に対しては肉体言語を持って返しますので悪しからず」
翌日の放課後HR、攻勢に出た。それも有無を言わせないような。
個人的プランを黒板に書き出し、これで進めることを宣言したのだ。

とは言え、独断ではない。皆の意見の中を大いに取り入れてある。
但し、金の掛かる方の意見ばっかだが。

僕のカレーは高級ホテルの流れをくむカレー、貧乏ったらしくしてお客様に出すのは双方に無礼に当たる。
出すのなら金を掛けようじゃないか、超薄利多売になるけどな。


案の定ざわめく、
「おい、誰か反論してみろよ」「無茶言うな。委員長殿は頭がいいが弁も立つ、そんな人を納得させられるか?」
「ムチャクチャ強えーしな。古部長が認めてるぐらいだぞ?敵うもんか」
「この前、部の先輩が挑んでやられて、血尿出たって言ってた。容赦ねえからなあ」
「この企画は委員長殿がいないと成り立たないしなあ…。従うしかないか?」
ある種、僕の意見を肯定する空気の中、反論を試みる奴も出てくる。
反論というか質問だけどな。

「委員長殿。黒板に書いてあるプランだけど、金が掛かり過ぎねーか?俺たちに学生だからそんなに出せねーぜ?」
そう、穏健派はそれが心配で慎重になってしまっている。
中学生が出せる金額という物はどう頑張っても高が知れているからな。

「心配するな。コレで多少の問題は解決する」
懐に手を入れ、取り出したるは銀行の封筒。その中身を見せた瞬間空気が張り詰める。

「取り敢えずは100万ほど用意した。初期費用はコレから出す」
昼休みに引き出してきた。資本主義社会においてお金は正義です。
「えーと、委員長殿…自腹?」
「自腹、皆を僕の我が儘に付き合わせるんだ。これぐらいの負担は当然だろ?」

静まりかえった後、歓声が上がった。
「流石は委員長殿!男だぜ!」「予算の心配が無くなったぁ!思いっきりやれるぞぉ!」

うんうん、いい奴らだ。(形式上)部下がやる気を出したのなら、それを伸ばしてやるのが上司の役目。
「よーし、役割分担決めてくぞ。飲食店の三本柱は調理と給仕と洗い場の三つだからな、ビシバシ教えていくぞ!」
「サー・イエス・サー!!」



****



さて、物事はするべき事が決まればスムーズに進むもの、カレーの試作兼調理訓練や各種機器のレンタル、給仕の特訓等々。
押し並べて順調に進んでいるのだが、通常では解決出来ない問題が幾つか。


知名度と単価だ。男ばっかで華もないし。
女装案もあったが、即刻却下した。


そこで、知名度を上げ、客足を増やすことが出来そうで、ついでに華を増やせる。
そんな一石三鳥な事をとある人に頼みに行くことにする。使える物は親でも使うからね、僕は。

「そう言う訳で、力貸せ」「うん、いいよ。でもみんながなんて言うか…」
「取り敢えず、今日の夜にお邪魔するわ。新田先生当たりに話しておけばいいかな?」「うん、新田先生がいいって言えばいいと思うよ」

「…と言う訳でして、お願いしますよ。新田先生」「新田君、私からもお願いしますよ。コンドラチェンコ君の評判は君も聞いているでしょう?」
「確かに聞いてはおりますが…。先輩直々に頼まれましたら嫌とは言えないじゃないですか。…卑怯だね、君も」


さて、この方策が上手くいくのか失敗するのか。
それはやってみないと解らない。







あとがき:気付いている人はお気付きでしょうが、作者はスーパージャンプ読者でファンです。
特に「王様の仕立屋」が好きです。無論「バーテンダー」も。





[4701] 第三十五話「華麗なる日々」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/10/08 22:11
火曜日、幽霊騒ぎも一件落着し、学祭準備のために集まっている女子中等部3-Aの面々。

時間は午後7時28分。いつもは元気な彼女たちだが、今回はちょっと様子が違っていた。
「うう、おなか空いたよー」おなかを抱えている人間多数、
「なんでネギ君「ご飯は食べないて来てください」何だろ?」担任の謎の指示を疑問に思う生徒多数、
そう、彼女たちは何も食べずに集まっていたからだ。

終業時のHRで「今日、学園祭の準備に来る人にお願いです。ご飯は食べない出来てください。これは僕からのお願いです」
と、よく解らないことをお願いされた。
形はどうであれ担任を慕っている彼女たち、よく解らなくても律儀に守ってここに来た。

とは言え、花も恥じらうが食べ盛りのお年頃。
アン○ンマンのカバ○くんのごとくおなかが空いて動けなくなりかけていた。


「ん?このニオイ…」突然鼻をひくひくさせた明石裕奈。
「どしたのゆーな?って・・・、カレーの匂いだ」
「あ、ホントだ」「余計おなかが…」

急に漂ってきたカレーの匂い。食欲は否応なく刺激される。
「このニオイは確か…」明石裕奈には覚えのある匂いだった。


と、教室の扉が開かれた。そこにはこのクラスの人間なら皆知っている顔、
「今晩はー、カレーの試食会でーす」
「アリョーシャ君!」ことアンドレイ・コンドラチェンコがいた。




「…空腹なのを差し引いても美味しい…」
「腕いーね、これならいつでもお婿さんに行けるね♪」
「コレを出すですか。繁盛間違い無しです」
試作カレーの試食会、ウチのクラスの連中以外の声が聞きたいので3-Aに食べてもらっている。概ね好評。

辛さが、
「もう少し辛い方が好きかな。美味しいからいいんだけどさ」弱いの
「アリョーシャ君、これ辛いですー」強いのが出てはいるが、味については問題なし。

後、パル。僕は長男一家の長男だ、婿入りする気はないぞ。それとお前だけは貰ってやらん。


と、待っていた声が上がった。
「いつもに較べたらちょっと味がキツいかにゃー、先週食べたのはもっとまろやかだったよ?」
この中で一番僕のカレーを食べているゆーなだ。

「お、判ってもらえた?実はコレ、三日しか寝かせてないの」
「いつもは一週間ぐらいだったよね?どおりで味がちょっと違う訳だ」
それを聞くと食べてみたくなるのが人情って物。
「と言うことは、一週間寝かせたのはもっと美味しい訳ですか。…そう言えば、前に探検部の皆と御馳走になったのはもっとまろやかだったです」
うん、自分でも判ってるもん。あちらこちらがキツくて尖ってるって。

「あー、それ食べてみたいな~っ」
そんな声が上がってくる。そこが狙い目。
「そこで、提案があります。ウチのクラスの宣伝と配膳、それを手伝ってくれれば3-A全員学祭期間中無料です」
無駄に行動力があり、顔のレベルが高いこの人達、協力して貰えれば知名度向上と華の両方が手に入る。

それともう一つの提案、「相互チケット?」
「両方で配るのよ、見せれば割引になる券を」
お化け屋敷に来たお客をカレーに、カレーに来たお客をお化け屋敷に、上手くいけば相乗効果が得られる。
悪くない提案だと思うけど?

「確かに悪くない提案ですわね。皆さんはどう思われますか?」
「いいんじゃない?私は賛成、ウチのクラスだけで宣伝するよりも効果がありそうだし」
「ええんとちゃう?タダになるんやし。コレも美味しいけど、この前まき絵と食べたんはホンマに美味しかったで。具がぎょうさん入っててな
、シチューみたいになってんねん」


全体的に賛成ムード、と神楽坂が耳打ちする。
「なるほど、このためにおなか空かせてたのね。弟をこんなことに使うなんて、悪いお兄ちゃんね」
気付いている奴もいるが、餌付けを成功させるためにネギを使ったのだ。悪い?



「そう言えばアリョーシャ、四葉にこのカレーのレシピ教えてやたアルか?」
「…はい。この前一緒に作りました。…お店(超包子)では出せませんけど…勉強になりました」
「ウム、ウチでも出したいぐらいダガ、作るのに手間が掛かりすぎネ。専門店カ、人が多いホテルでナイと難しいヨ」

で、丁度いい所にいい話があるんだが…。聞いて貰える?
「どんな話カ?私はアリョーシャサンのコトを気に入ってるから聞いてあげるネ」
うん、実はね…。



****



準備期間は着々と過ぎる。ウチのクラスの準備も着々と進む、ついでの仕事に比重が移っているような気もするが、気のせいだ。
うん、そう思っておこう。

実家が飲食店で跡継ぎになると決めている奴や、学園都市内にあるホテルのフロアチーフが親父の奴が居たために余計に順調の筈。

あと、物知りで何でもそつなくこなせる顔が長いのと、物覚えが良すぎるメタボ白饅頭のコンビが中心となって頑張ってくれている。チート過ぎる奴らだがな。




そんな忙しくも平和な日々、茶々丸がロボット三原則を完全無視して大暴れしたり…、つーか、元々設定してないけどな、したりしたが平和だった。

ああ、ハカセ。半分女の子を捨ててるのは解っているし、「オシャレ?何ソレ美味しいの?」なのも解っている。
それを踏まえて、一つ二つアドバイスさせてくれ。

放熱板は編み笠風のデザインにした方がいいと思うぞ。あと、衣装をアオザイ風にすれば東南アジアチックになって更にいいと思う。
チャイナドレスとアオザイは親戚関係だからね、点心の店で着てても違和感は無いと思うぞ。

それかキャミソール型冷却ジャケットでも着せてみるとかな。背中が大きく開いた形のキャミソールもあるし。
「むむむ、ジャケットはペルティエ素子と茶々丸の髪に使っているマイクロヒートパイプを使えば出来そうですーっ。衣装も綿で作って長ズボンを穿かせればいい様です」
女の人にとって、オシャレは大事だもんね。僕は茶々丸やその姉達は女の人だと思ってるし。

「一つ聞きたいんですけどー、いいですかー?何でアンドレイさん、女の人のオシャレ関係に詳しいんですか?」
いや、ウチの母さん、三番目にオシャレが好きな人なの。一番は親父で、二番が僕ら自分の子供ね。
で、ムチャクチャ若いのは知ってるでしょ?だから若い女性向きの服が家にいっぱいあるのだよ。
物心ついた時からそう言う服とかに囲まれて育てばある程度詳しくなるってもんよ。「門前の小僧」って奴。




学園祭前最後の金曜日。
超包子のメニューに何時もはない一品が加わっていた、「限定カレー」と。

超に頼み込んで載せて貰ったのだ。総売上の内、材料費を除く収益全てを超包子に渡すという条件で。
無論、仕上げたり運んだり下げて洗うのもこちらがする、本番時のサービス・オペレーションの演習も兼ねているからな。

言っておくが、僕の方が言い出したことであって、超は最初「イヤイヤ、ソレはイケないネ。儲けは作った人の元にイクのが道理ダヨ」と断
られた。

そこを「いいや、こちらは宣伝戦略の一環で利用させて貰うんだ。その返礼だと思って受け取ってくれ」と押し切った。
まあ、材料費を取り戻せば何の問題もなく、出て行った儲けは宣伝費に使ったと思えば何のことはない。


取り敢えずは50人前用意した。いくら超包子の面々のお墨付きとはいえ…、売り切れるかなあ?



****



金曜のカレーは成功を収め、完売した。注文していただいたお客様には「男子・女子中等部3-A共通サービス券」をお渡しした。
取り敢えず、どっちも50人ぐらいは来て貰えるだろうと思う。まあ、幸先がよいと言える。


よく晴れた気持ちのいい日曜日。
何故かは知らんが、酒飲みモード(二十代中盤)に姿を変え、ピーピング・トム中。

その隣には「うーん、さすがオジ様好きのアスナやなー」このかちゃん21歳バージョンと、
「あのー、こちらの方が良かったのでは?」と人を指さすせっちゃん7歳バージョン、人を指ささない。
それと「確かに。アンドレイの兄貴の方が適任だったなあ」エロオコジョ。
遠目に見ると親子連れ+ペットに見えなくもない組み合わせだ。


で、皆の視線は神楽坂と、15歳ぐらいに姿変えたネギのデートに向けられている。
何でも、タカミチとのデートの予行演習だそうな。

…言ってくれりゃあ、アイツのどストライクな年頃と衣装でデートしてやったのに。
「いや、予行演習で本命クラスを用意しちゃあ、演習になりやせんぜ。つーか、今でも姐さんのストライクゾーンにギリギリ入ってそうですし

そっか?今日はこの時期の緑が映えるようにクリーム色のコットンジャケット、ワイドカラーにロンドンストライプのクレリックシャツ、
首もとに赤青黄の小紋入りグリーンスカーフを締めてるんだが、ダンディーか?
「そやなー、今でもカッコええから行けるやろけど、5年ぐらい後やったらアスナのバッチシ好みやと思うでー。」


そんなお褒めの言葉を戴きつつ、出歯亀は続く。
途中、やっぱり親子連れに間違えられ、テキ屋の皆さんに「そこの美人の奥さん」だの「両手に花でいいねえ旦那」だの「奥さん似の可愛い娘さんだね」だの言われてしまいました。

悪い気はしないけどな、今のこのかちゃん美人だし。
『悪乗りしていた人が何を言いますか。「ウチのカミさん似でねー。ちっとも似てくれないの」と言って刹那さんを抱き上げたのは何処の誰
ですか』

「体面上、大人しくしていましたが、後で覚えて置きなさいね?」
うわあ、小っちゃいせっちゃんすごんでも迫力無いー、て言うか可愛いので…。

「だ、抱きしめるなー!?止めろーっ!!」
ぎゅっと抱きしめてみる。暴れるが、暴れる弟妹達を抱き馴れているのだ、これぐらい何ともない。
「暴れたらアカンて、せっちゃん。パパの愛情表現やのにー」
すかさず乗ってくるこのかちゃん。そうだぞせっちゃん、ママの言うことはちゃんと聞かないと。
「お、お嬢様まで…」
あ、いじけた。暗い部屋の隅っこで膝抱えながら「スタンド・バイ・ミー」見てそうな感じにいじけた。
「…何ですか、その具体的な喩え方は…」



さて、そんな小芝居をしている内にトラブルが発生した。
エロい星の下に生まれているネギが又ぞろエロイベントを起こし、こちらに吹っ飛ばされてきた。

発見される我々、「あ・・・あんた達…?」
エロオコジョ以外外見を変え、年相応の服装をしていたために一瞬戸惑う神楽坂。

「あ、あの薬ね。一瞬誰かと思ったわ。それよりも…、アンタの仕業ね。このエロガモ…」
凶悪ハリセンを構え、死刑執行人の如き顔を見せる神楽坂。エロオコジョよ、成仏出来ることを祈っておくぞ。

「あ、姐さんっ!代わりにこの方なぞいかがでやんしょっ!!」
人の後ろに回り込み、有耶無耶にしようと画策する。つーか巻き込むな。

「そんな事でごまかされは…って、こちらの方は?どこかでお見かけしたような…?」
ああ、誕生日プレゼントの写真集だな。年齢をコイツ好みに三十代後半にしたとはいえ基本的な造形は変わらんからなあ。
「よ、神楽坂。見たこと有って当然だ、お前が時々眺めてうっとりしている写真集に写っているのはタカミチと更に高い年齢に変身した僕なんだからな」
うっとりの件はネギから「時々変身したアリョーシャとタカミチの写真集見てうっとりとしてるよ」聞いた話だから確実だ。

「その声としゃべり方はアリョーシャ!?アンタって結構いいおと…、ちょっと待ってよ、さっきなんて言って…っっ!!そ、そんな…あの素
敵なオジ様の正体がアンタだったなんて…」
素敵なオジ様てあーた、幾ら変身魔法で姿変えていたとは言え、同じ歳の女の子に言われてもなあ。

あ、さっきのせっちゃんみたいにいじけた。二人して「スタンド・バイ・ミー」でも見るか?部屋の隅っこで。
まあ、このままいじけられても埒が開かん。コレでもシバいて鬱憤晴らしとけ。

そう言ってエロオコジョを神楽坂に差し出す。「へ?俺っちイケニエ?」うん、サンドバッグ代わり。
「ありがと…、ありがたくいただくわ…」



****



時間は瞬く間に過ぎる、光陰矢の如し、周りは準備で忙しいが、カレーを寝かしているウチのクラスは割と気楽だ。

取りかかるのが早かったので、テーブル・イス、各種食器類にレンタル調理機器に食器洗浄機も確保。
インフラ整備(ガス・水道・電気)も万全。

その空いた時間はサービス・オペレーションの特訓に当てたいのだが…。
みーんな、女子3-Aの手伝いに行ってんだよなあ、気持ちはわかるし、提案して交渉したの僕だから何も言えないけど。

そう、新田先生の許しを得、特約として提案したのが「男子3-Aの面々(特定人物除く)を「パン買ってこい、5分で」みたいな感じで顎で使
ってもOKよ権」なのだ。
物がお化け屋敷でしょ?設営やらで人手や人力が必要な場面が出てくるだろうから出したのよ。


余談だが、男女中等部間の協力体制ってのは何故か今まであんまり無かったみたいで、許可を貰うのに苦労しそうだった。
バルタン星○はあっさり許可をくれそうだからいいとして、問題は広域指導員の新田先生当たり。

あの人、確りした理念と思想を持った有能で且つ厳格な教師だからねえ、尊敬出来るのだが、融通がちょっと利かない。 
そこで、頭の上がらない人を持ち出すことにした、中等部男子寮の寮監さんだ。

前に聞いた所によると、新田先生は後輩に当たり、教え子でもあるとか。
で、更に、僕のことを信用してくれている。
最初に話を持ち出した時も、「僕が躾けた連中です。妙なことをしようとすれば僕が責任持って処分します」と宣誓した所、
「ふむ、君がそこまで言いますか。…よろしい、新田君の説得に協力しましょう」と承諾していただいた。
お陰でスムーズに事が進みました。後々、菓子折を持ってお礼にいきます。



****



火曜日、ガンドルフィーニ先生の注文の品が仕上がった。
ナイフと拳銃だ。


このナイフを制作する上での最大の問題があった。それは、「材料」である。

比較対象が斬○剣と同じ材質のナイフだ。
更には第97管理外世界やミッドチルダと比較しても問題は大きい。

いくら技術水準が高くとも、比較対象が悪すぎるからねえ、片や高軌道ステーションまで作ってる世界、片や魔法と科学が融合して高度に発展している世界と、比べる方が可哀想なほど。


実家のある方の第97管理外世界では無重力精製材が手に入る。
国際高軌道ステーションに○菱や住○、J○Eスチールに○立や日○製鋼所とかの金属系企業連合が共同出資した工業ブロックがあり、少量だが生産しているからだ。

…「宇宙の海は俺の海」を地で行きつつあるなあ、第97管理外世界の日本。
"国際"と銘打ちつつも運営してるのNASDAだし、最大の出資者は日本企業だし。

NASA?X-30の事故以来、有人飛行関係の予算削られまくって宇宙探査と先進航空技術研究がメインになっていますが何か?
スペースシャトルも後継機無しで退役したし。


ミッドチルダなら、それに加えて分子構造変化材も手に入る、人為的に分子構造をいじり、カーボンナノチューブ構造にしたりダイアモンド構造にしたり、馬鹿でかいアモルファス材作ったり出来る技術だ。
それが大量生産してるんだからねえ、技術の差は推して知るべし。

向こうの方ならば斬鉄○合金だって、完全再現ウーツ鋼(カーボンナノチューブ構造アリ)だって、ガンダニュウム合金だって、メトロ・テカ・クロム玉鋼だって、時間と金を惜しみさえしなければ手に入るのだが生憎とそんな物は手に入りません、無いものは無いのです。
手に入るもので作るしか有りません。


そこで役に立つのが金属工学部の連中である。
ミーシャが知ってた「第97管理外世界における2024年時点での冶金学情報」と現ナマ積めば喜んで作ってもらえます。
ついでに親父の各種機密情報もプレゼント、バレたら警務隊のお世話になるだろうからばらさないだろ、多分。


そうして、散々試作させて出来た素材、堅くて、強靱で、ステンレス並みに錆びないと三拍子揃った特殊鋼の制作に成功。
それでも劣るのだけどな、年月や技術力の差は大きいのです。

各種処理を行い刀身の形に加工し、刃を付ける。
ここいら辺は刀関係の研究を行ってる方々に協力してもらった。
たたら吹きで玉鋼作る所から始めてるんだから、気合い入った人達でした。

でもね、その玉鋼で包丁やナイフを作って麻帆良祭の時に売るのはやり過ぎだと思うよ?それじゃ研究じゃなくて本職じゃん。



拳銃は拳銃で又問題があった。
何たって、フルサイズカートリッジを使うこと前提で、一から設計しなきゃならないのだ。


僕の使う簡易ストレージデバイス「スキッチェン」をコピーして渡すのが一番手っ取り早く簡単だ。
弾倉を交換すれば9mmマカロフ弾使用のマシンピストルとしても使える便利な奴です。

ただ、コレは拳銃弾サイズで魔力容量半分のショートカートリッジ専用なのだ。実弾との共通性を持たすためには仕方がないのだ。

このショートカートリッジ、ここ麻帆良では生産していない。
あくまでもバックアップ用デバイスにしか使ってないから、手持ちので十分だと思い、作らせていなかったのだ。
と言って、ラインを作るのは金と時間が掛かりすぎる。どうしてもと言うなら、突貫でライン作らせるけどね。

費用はガンドルフィーニ先生持ちだけど。

安い早い旨いを考えると、生産しているフルサイズカートリッジの使用がベターという結論に達する。


一からとなると考えることが増える。
オートにするか、リボルバーにするか、割り切って中折れ式にするか。
携行性を考えてワルサーPPK/SやSIG P230サイズの小型にするか、
割り切ってモーゼルC96やS&W M29サイズ(30cm級)の大型にするか、
間を取ってベレッタM92FSやFNハイパワーサイズの中型にするか。

まあ、「ジャケットの下に隠れるサイズならどんな形式でも構わん」と言ってくれてるから多少は楽だったけどね。



****



水曜日、真名の照準器が仕上がる。

光学照準器にFLIR(赤外線前方監視装置)と低光量カメラ、更に赤外線レーザーでの測距機能に照射機能と、
レーザー誘導爆弾の誘導だって可能な、航空機用ターゲティングポッドを歩兵携行可能なサイズと重量にしたような代物。
まあ、照射機能はFLIRと波長を合わせての目標の照らし出しがメインだけど。

…米軍当たりに売れるんじゃねえのコレ?演算用の量子コンピュータの量産がネックになるけど。
あと電池代、高電圧大容量リチウムポリマー電池って高いのよね。この時代(2003年)なら殊更に。

「…で、アリョーシャ、なんだいこのリストは?後ろの数字のゼロがずいぶんと多い気がするね」
メンテや部品交換時の料金表よ?ああ、それ弄れるの僕だけだから、ハカセや超に頼まないようにね。
いざという時用自爆装置も付いてるから、誤作動起こして壊れても知らないよ。

「イニシャルコストが取れないからってランニングコストで取り戻す気なのかい…。やっぱりいい性格してるよ、君は」
いやあ、誉められると恥ずかしいなあ(棒)







あとがき:次回、超展開(予定)が有ったり無かったり。





[4701] 第三十六話「どんでん返し」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/10/19 20:28
「高音君、影を勢子として前に、君自身は私に付いてくれ。佐倉君は殿を。にしても、受領してから数日も経たない内に初陣とは…。どれだけ使いこなせるか疑問だな」
木曜日の朝、下ろし立ての銃とナイフを持ちそんな事を呟く。
「「一番扱い馴れている形にしてある」ときょうか…、コンドラチェンコさんが言ってましたが、そうじゃないんですか?」
それを聞いて疑問が返ってくる。
「いや、昔の相棒を元にデザインしてあるからね、目を瞑っていても扱えるよ。更にだ、気を利かせてくれたのかして幾つかの部品に懐か

しの部品達を使ってくれているよ」
銃を構えてそう答える。

この銃、アンドレイ・コンドラチェンコがガンドルフィーニ氏へと贈った物で、M16突撃銃をレシーバーだけにしたような形を取り、
ロアレシーバーやグリップ、セイフティ等の部品には彼がかつて属していたカナダ軍制式ライフルC7の部品を用いている。
「ただ、馴染みやすくはあるが、まだ馴染んでくれていない。それだけの話だ。何とかしてみせるのも腕の内だがね」
聞き終わり、少し釈然としない顔をする佐倉愛衣、高音・D・グッドマンが答える。
「あなただって、そのホウキを同じ型のホウキに変えると解ると思うわ。微妙なフィーリングの違いよ。でしょう、先生?」
「そう言うことだよ。さて、お喋りはここまでだ。本腰を入れる、端末を用意してくれ」

つい昨日から支給された新型携帯情報端末を取り出し、二人の端末と同期させる
地図と位置情報が表示され、中央管制室からの様々な情報が入る。

狐狩りの始まりだ。



****



「アリョーシャ君様様やなー。皆が苦労してんのに、ウチらだけヨユーやもん」
「そりゃー、他のクラスの八割増しの人数でしてるんだよ。力仕事や組み立てのほとんどと買い出しをお任せ出来たしねー。前夜祭が楽しみだ」
「とても助かった…」
女子中等部3-Aの面々は余裕である。男子中等部3-Aの8割が協力したからだ。
箱物の大半を外注出来、自分たちは衣装制作や仕上げ等々に集中出来た上に買い出しも男子が喜んで行ってくれる。
それこそ、「パン買ってこい、五分で」と言ってもだ。

男子校の悲しさか、女の子にどの様な形であれお願いされることに嬉しさを感じてしまう男ばっかだったからだ。
一部の彼女持ちは除くが、あとガチホモな奴。


それを知った他のクラスは大層羨ましがった。自分たちの所も手伝って貰おうともした。
しかし、「お前達に許可を出した覚えはないぞ。自分たちだけで進めなさい」新田先生の警告で止められる。
申請を出し、許可を出したのは彼らだけだからだ。規則を守らせ、指導していく立場としては有耶無耶にさせる訳には行かず、一層厳しく当たっていた。


故に協力体制は堅持され、順調に事は進んだ。
その結果、女の子のお肌の大敵である睡眠不足は回避され、男共は「いい加減にこちらの特訓もしろ」と鬼より怖い委員長殿の扱き(ハートマン陸曹直伝)を受ける。

迎えた学園祭前日、準備が終わって余裕で元気な女子3-A、余裕があったが地獄の特訓に費やされて疲労困憊した男子3-A、対照的な

双方であった。



****



「諸君、昨日までご苦労だった、明日からいよいよ本番を迎える。諸君らの働きについては何の心配もないと僕は思っている。僕の特訓に耐えられたのだからな」
教室に全員整列し、委員長殿ことアンドレイ・コンドラチェンコの演説を静聴する男子3-A。
ここ半年で規律と礼儀を叩き込まれている彼らは中学生らしからぬ空気を纏っていた。
「…以上だ。明日0830時現地集合、それまでは自由に行動してよろしい。惰眠を貪るなり、前夜祭で脳内麻薬の分泌量を増やすなり、好きにしてくれたまえ。解散」
アンドレイが退室の後、各々退出し行動を始める。

とある二人、メタボ白饅頭と顔の細長い二人は
「ふいー、マジメモードの委員長殿の前では緊張するお。何時もは気軽に付き合えるんだけど、あの時だけは苦手だお」
「まあ、委員長殿の家は軍人家系で更に長男だろ。人の上に立つ時の心構えが染み込まされてるんだろ」
先程までの感想を呟きながら歩いていた。

ふと前の学園祭のことを思い出す、
「その心構えのお陰で驚くほど順調に進んだお。去年なんてヒドかったお」
「去年はなあ…、ギリギリまで出し物が決まらないわ、三日連続で徹夜する羽目になるわで、ヒドいとしか言いようがないだろ、常識的に考えて」
「それにウチのクラスは元々纏まりがなかったお。それに加えて、前の学級委員長はリーダーシップ皆無の奴だったお」

アンドレイがここ麻帆良学園男子中等部にきておおよそ半年強、3-Aはずいぶんと様変わりした。
「変わったのも委員長殿が来てからだろ。さっきみたいな整列はほとんど無理だったろ。半年とちょっとしか経っていないのにすっかり躾けられてるだろ、俺たち」
「もう半年かお。季節外れの留学生がここまでスゴいとは思っても居なかったお。いきなりロシア語で自己紹介された時はどうなることかと思ったお」
「その後に流暢な日本語でしゃべり出したから余計にインパクト有ったろ…。そう言えば俺たち、委員長殿が副委員長の頃から"殿"を付けて呼んでたろ、いつの間にか。まあ、理由としては、何というか…、敬愛の念だったけな?そう言う物を抱かせるんだろ」
「上物のエロネタもいっぱい提供してくれてるお!余計に敬愛するお!!」
「もっともだろ!帰ってDVD見るだろ、委員長殿厳選のをな!!」
いい意味でも悪い意味でも馴染んで、慕われていた彼だった。



****



超鈴音は困っていた。
目の前にいる子供先生こと、担任であるネギ・スプリングフィールドへの回答に対してだ。

「で、超さん。一体何をしでかしたんですか?」
何時もの笑顔でとっても答えにくいことを聞いてくるからやりにくいったらありゃしない。
「怪しい奴等だろうが、悪い魔法使いだろうが追われる様なことをしたんでしょう?それも一般の方に目撃されるかも知れないというリスクを背負ってまで追ってくる様な事を」
適当なことを言って誤魔化すのが常套手段だろうが、正論を言ってくるネギに対してそれは良くない。

行きずりで味方をしてくれているが、下手な誤魔化しは心証を悪くする。他の二人もまた然り。
「あなたたち魔法使いの集まりを覗き見していました。追っ手は魔法先生と生徒です」
と正直に言えば、「じゃあ引き渡しましょう」と言われるのがオチだ。

にしてもだ、自分の知っている担任はもっと"いいひと"で、
「言ってくれないと、生徒指導室で新田先生とお話しして貰いますよ?」
こんな事を言う様な性格悪ではなかったはず。

新田先生は悪い人ではないが苦手だし。

ハカセの話や茶々丸のデータでもこんなのは見てはいない。
いつの間にこんな性格になったのだ?と疑問に思っていた。


但し、それは半分正解で、半分間違っていた。
ネギの性格自体はそんなに変わってはいない、ただ切り替えをしているだけ。
平時の思考と戦場の思考の切り替えが出来る様になりつつあったからだ。

そうやって切り替えた思考に多大な影響を与えているのが、兄貴分の教え。
その一つ「戦場ではまず疑って掛かれ、間違いない情報以外は敵の罠である可能性がある」の前半、
「戦場ではまず疑って掛かれ」を超に対して実行しているだけだった。

「言ってくれないと困ります。悪い人相手でも悪いことはしちゃいけませんよ、一体何をしたんですか?」
「エト、その…、つい好奇心から覗き見をしてしまったネ…。それを見つかってしまったから追われてるヨ」
詳細は言わず、本質のみを抜き出して言う。嘘は一切無い、ただ要約しすぎているだけだ。

「何覗いたんや?追ってきょる所からしてヤバい話やろ、非合法品の取引とかな。昔、見張りの仕事したことあるよってわかんねん」
「物によっては見られただけでもマズいでしょうからね。追っ手を出してくるのも解らなくはないです」
「「好奇心は猫をも殺した」と言うことわざがあります。好奇心もほどほどにしなきゃダメですよ、超さん」
何とか誤魔化せたと安堵する。しかしネギの戦場での疑りっぷりをなめていた。

「そう言えば、何で他の魔法先生や生徒の皆さんに保護を求めなかったんですか?」
きちんと"相手のいやがることは進んでしましょう"をしてきたのだから。
「アハハハ、イヤー…」
遠くを見ながら、乾いた笑い声を上げるしかなくなった超であった。

「む、待ってください。どうやらこっちの居場所に気付いたようです」
「近付いてくるな、数は3」
追っ手のお陰で有耶無耶に出来、心の中で感謝する超。無論矛盾に気付いてはいたが。

戦闘準備を調える三人。
「ガーランド、セットアップ。バリアジャケット非展開」
ただ、先程支給された携帯情報端末を起動させるのを失念していた三人であった。



****



携帯情報端末を弄りながら歩く。
この端末、この前の悪魔侵攻後に提唱し、その為の試作品として少数生産させた内の一つだ。
この学園祭期間を試用期間として利用し、評価後制式採用を決定する流れだ。
コレが制式採用されれば、アメリカ軍が進めている情報RMA化以上の効果を関東魔法協会にもたらす事だろう。

因みに中身はiPh○ne3GSの丸パクリだ、容量は32GBで音楽も聴けるぞ!
『此方からすれば15年以上前の骨董品ですがね』

せっかく未来から来たんだ。使える知識は使わなきゃダメじゃないか。そっちの方が楽だし。
『ap○le社に売り込みますか?売却より、関連特許をガチガチに固めてからのロイヤリティー契約をお勧めします』
しないって、あと三年半で第一世代iPhoneが販売される。
つまりは○ppleの皆様方が企画を練ったり技術開発をしている真っ最中じゃないか。
そんな所に二世代進んだ奴の設計図を持ち込むなんて野暮な事はしちゃあいけません。

『株や先物に未来情報を使いまくっている癖に、そういう所のモラルは守るんですよね、同志は』
うん、祖母さんにそういう風な事言われながら技術を教えて貰ってたからな。そのせいだろ。

それに、僕はパテント・トロールとか言う特許を使って金儲けをする非生産的な連中が大嫌いなんだよ。
奴等の真似して手に入れた金なんて新聞の折り込みチラシよりも価値がないと思ってるからね。
自分たちの頭で生み出していない、買いあさった特許を使い、難癖に近い事を吹っ掛けて、莫大な和解金を手に入れる。
そんな連中が大っっ嫌いなんだ。まあ、目先の利きっぷりには感心するけどな。

…カートリッジ使った爆弾でも贈ってやろうかなあ?一発でビルを吹き飛ばせるぐらいのを。
『誰もいない時間帯に作動する様にしておきましょう。炎熱変換プログラムも入れて関連資料全てを焼失させられる様にして』

とまあ、そんな馬鹿話をしながらあちこち回っているのだ。
付き合いやらで色々とするからね。



****



乱痴気騒ぎの前夜祭、そして迎えた学園祭初日。
何時もの様に早朝ランニングをしていた、その何時ものコースに意外な顔があった。
初めて見ると言えば初めてで、見慣れたと言えば見慣れている、と言うか生まれる前からの付き合い。

「よう、僕」そこには自分がいた。
『間違いなく同志アンドレイですね。ここにいるのも、そこにいるのも。そして私も』



「10日後から来たというわけだな?100年ほど後のこの世界の魔法と科学と世界樹の魔力の三つを合わせたそれを使って」
未来の僕の手中にある懐中時計、「カシオペア」と呼称されるタイムマシン。
ミッドチルダや全盛期の古代ベルカでも流石に時間跳躍は実現出来ていない、つまりはアルハザードの域だ。
んなもん実用化出来ているとは…、恐るべし超りん!

「コレを使ったトラップに引っかかってしまって、三日目昼から一週間後に飛ばされてしまったわけだ」
「そういうこと。魔法をバラすという計画にネギ達が邪魔だったらしくてな。別荘と組み合わせたトラップを組み込んでいたらしい」
まあ、話は早い。何たって自分なんだから。
ツーカーって奴だな。

「で、なんて言ったんだ?魔法をバラすという超に対して?僕の事だ、ヒドい事言ったんだろ?」
バラす事については特に興味はない、当たり前の世界を知っているからだ。
隠す事にも特段の拘りはない、無くて当然の世界で育ったからだ。

ただ、この世界の様に裏では存在するが表には秘匿されている世界では話が違ってくる。
"秘匿し続ける"事がこの世界における多数派なのだ、少数派が強硬手段を用いて無理矢理ひっくり返す。
それは秩序を無視した行為であり、法執行機関所属の人間としては無視出来ない。
まあ、質量兵器の無許可使用だとか非殺傷魔法を使っての拷問とかの小さい悪は棚に上げるけどね!

「うん、仲間に引き入れようとしてきたのはいいんだが、「私はうまくやる」だとか「不測の事態については私が監視し調整する」
だとかの巫山戯た事をぬかしやがったから馬鹿にしてやったよ」
うん、流石は僕だ。そこにいれば間違いなくそう言ったよ。で、どんな?

「「理想を大多数に押し付ける…、スターリンか毛沢東になるつもりか?」ってね、そして「調整方法は反対派の粛清か?同調者は紅衛兵
で文化大革命を再現するんだな。いや、お前の私兵だから超衛兵だな」といってやったよ。必死に怒りを隠している顔は見物だったぞ」
よくぞ言った。ああいう輩は自分の理想に酔ってるのが多くて、理想は劣化する物で、組織は腐敗していく事を知ろうとしないからなあ。
だから人事や世代の交代で食い止めてたり、成長させて腐った部分を直したりするんだが、超とその仲間達だけの組織ではなあ…。
大多数の反対派は無理矢理頭を押さえつけられた経緯から協力しないだろうし、同調したのが出ても裏切り者扱いされて闇討ちされる可能性が高い。
太鼓持ちなら闇討ちされんだろが、役に立たんし。だから有能な仲間は増えないだろう。

過激派は間違いなく敵になるしな。

「ま、金と技術で何とかするつもりみたいだったけど、そんなので片が付くのなら僕ら戦闘魔導師はほとんど要らなくなるよなあ。ロストロギア関係を除いて」
「魔法を周知の事実にしても世界は平和になりませんってのは時空管理局の存在が肯定してるのになあ。天才と何とかは紙一重ってのか実証されたな」
同じ顔を見合わせて笑い合う。


で、未来から来た方が真剣な顔をする。
「一つ頼みがある。三日目の昼までこの別荘に入っていてくれないか?」
近くにあった包みを解くとそこにはエヴァの別荘、それも城が入ってる奴。…どうしてここにある。
「土下座してマガジン一つと引き替えで貸して貰った。ちゃんと後片付けをするなら多少荒らしてもOKだ」
…カートリッジ30発と引き替えか、純正の方を欲しがっていたからなあ。土下座まですればエヴァの性格上貸して貰えるか。

入るのはいいが、どうすりゃいいんだ?
「同じく10日後から来たネギとその従者一同がすでに入っている。そいつらを鍛えて貰うのと…」
鍛えるのと?
「工学部の超嫌いの連中と機材を運び込む。出来れば魔法生徒も突っ込もうと思うからそいつらも鍛えてくれ」
ああ、超軍団用の装備を作るのね。で、こちらになびいてる生徒も鍛えて戦力強化をすると。
弟子二号がカートリッジと引き替えに動いてくれる奴等をピックアップしてくれていたから、そいつら中心だろう。

で、僕はどうすんの?
「表で動く。超の企みその他諸々は知っているから、監視網をくぐり抜けて動く事が出来るのは僕だけだ。手のひらで踊らされている様に見せかけておくのさ」
なるほど、そして三日目の昼に僕と本来の時間軸のネギ達はトラップにわざと引っ掛かって、超は自分の計画通りに進んでいると錯覚させる。
が、踊らされているのは自分の方だったと…。よし、乗った!
と、バ○タン星人の説得材料は完璧だな?
「ああ、祭りの一週間後だったから資料はたっぷりと。コレを見せればいけるだろ」
流石僕、準備万端だな。 



****



説得が終わり、別荘に入った事を確認、こっそり張っていた隠匿用結界を解除する。
「ねえ、いいの?いくら過去の自分とは言え騙しちゃっていいの?それに私の事だって…」
「いいの、いいの。自分を騙すなんて罪にもならないよ。それに、言ってないだけだよ?君の事はね、陛…いや、ヴィヴィオ」
そこにいるのは陛下こと僕の彼女、高町ヴィヴィオ。

そう、彼女も一緒に10日後からやってきたのだ。




紫陽花栄える六月下旬、梅雨の合間。
二十四節気では小暑の時期だが、男は春の風を感じていた。










あとがき:前回予告の超展開でした。次回はその前を書くつもりですので、こうご期待。

追記:…気分転換に読むんじゃなかったあずまんがリサイクル。
と言う訳で誤字修正。



ガンドルフィーニ先生専用銃:本当にM16のレシーバー部だけにした形をしています。
ボルトフォアードアシストノブもダストカバーも無く、キャリングハンドル兼用リアサイトはレール付フラットトップになってます。
ついでにバッファー部分の出っ張りもありません。


ネギのデバイス:二枚組のドッグタグ型です。名前はアリョーシャ君が勝手に命名。
自分が持ってるのがライフル由来だったので同じようなのと考えた結果、
スプリングフィールド→スプリングフィールドアーモリー→M1ガーランド→ガーランドで決定。



[4701] 第三十七話「祭りの後(上)」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/10/25 22:17
変化には発端がある。
その始まりはほんのちょっとした事だったりする。


学園祭三日目午前、告白阻止作戦の交代時間になり、持ち場を離れる時。
ふと呟いた事がある。それが変化の発端だったんだろう。

「願いねえ、連絡の取れない遠距離恋愛中の人間の願いは叶えてくれないものかね。相互連絡だけでも取らせてくれよ」
と言い、続けて、
「ま、相手が来てくれるのが一番だけどな」
それが発端。

その直後に転移魔法でエヴァの家に向かい、そのまま別荘に入ったから知らなかった。
世界樹が発光を起こし、とある場所に魔力が集中した事を。



****



客観時間は過ぎ、一週間後の午後。
浦島太郎かリップ・ヴァン・ウィンクルか、そんな状況に追い詰められた僕であったが、兎にも角にも状況の把握に努めようとしていた。

しかし、聞き覚えのある声にそれは妨げられた。
「アリョーシャ君っ!!」
懐かしい声に振り向くとそこには信じられない物が見えた。
「え?陛…、じゃなくて、ヴィヴィオ…?!」
告白後に離ればなれになってしまい、泣かせてしまった人。高町=スクライア・ヴィヴィオその人がいた。
翡翠と紅玉の眼はうっすらと滲んでいる。…また泣かせちまったなあ、二度も泣かすなんて男失格だぞ僕。

体に走るある意味心地いい衝撃、「会いたかったよぉっ」と飛び掛かられたからだ。
会えた驚きと泣かせてしまった後悔で力が上手く入らず、二人して崩れる。
…くそ、こういう時は男がしっかり抱き留めてやるべきだのに…、未熟者が。

胸元でむせび泣き続ける、僕は背中や頭を優しく撫でであげる。
「待たせてゴメン。でも、今は大丈夫。今はこれが精一杯だけど、好きなだけこうしてていいよ」
そうして続けていると落ち着いてきたのか、嗚咽は収まっていく。

制服のポケットからハンカチを取り出す。「ほらほら、顔拭いて。せっかくの美人がぐしゃぐしゃになっててなあ、ヒドい顔だ」
ちょっと拗ねた顔をして言い返す。
「むー、誰のせいだと思ってるの」うん、僕の好きな顔だ。拗ねた時の顔が可愛いんだよな。

涙を拭き、鼻をすすり、改めて目を合わせる。
二人して倒れ込んだ姿勢、否応なく密着する身体、そんな状況で見つめ合うと異様に愛しく感じてしまうのは男の性であろう。
半年ちょっと離れ離れだったから余計になあ。

両思い状態の男女がこういうシチュエーションになってしまえば選択肢は少ない。
無意識に唇に向かってしまう視線。それに気が付いたのか、閉じられる目蓋と少し窄まる唇。
…これはOKと言う事でしょうか?と言うかそれしかないよな?

『技術はある癖にそう言う方向での経験は薄いですからねえ、同志は』

目を閉じ、近づけていく。この後は…言わせんな。



****



「するの?しちゃうの?」
「それ行け、行け行け」
「けっ、いちゃつきやがって、バカップルが…」

街の中で突然カップルが抱き合い、泣き始めれば耳目を集めるのは必然の理。
やんやと冷やかす者もいれば、妬む者もいる。

当の本人達は自分たちの世界に入ってしまっており、多少の声は聞こえない。
「…どう声を掛ければいいものでしょうか?」
「我々に気付く様子は全くありませんからね、どちらかが声を掛けるしかないでしょう」
その横で、困っている男が二人。
一人は糸目の優男、一人は色白でぽっちゃりした兎に似た男。

用事があるから声を掛けねばならないが、馬に蹴られたり犬に食われる様な無粋な事もしたくない。
だからこそ役目の押し付け合いを繰り広げていた。

その不毛な戦いの結果、
「あー、アリョーシャ君に高町候補生。気持ちはとってもよーく解るよ。だがね、アリョーシャ君に話があるからそこいらへんにして貰えないかな?」
兎が声を掛けた。

「防御魔法とかはそちらの方が進んでますから…」


「…キムラさん?何でここに?」
声の主、旧知の人物キムラ一尉を見て呆気に取られるアンドレイと惚けるヴィヴィオ。
彼女の方から舌入れてきたからだ、そっちの経験と技術が豊富な男相手に。

「調査団の一員なのさ。団長はお頭だよ」
彼がお頭と言う人物はたった一人、
「…祖父さんまで来てるの?マジで!?」
そう、祖父であり一族の長、ユーリー・アンドレービッチ・コンドラチェンコ時空管理局"中将"もここ麻帆良に来ているのである。



****



キムラさんを先頭に学園長執務室へと向かう。
その道中、コチラの聞きたい事を察して、アチラが話してくれる。
上官の求める者を察して動くのが副官だからなあ、そう言う所は長けている。

それに加えて瀬流彦先生が三日目の夕方に起きた事とその目的を教えてくれた。
超の起こした事件の事、魔法の存在を全世界にバラすために使った儀式魔法の事、そして今どうなっているのか。
それらを要約して教えて貰った。


まあ、超の目的は本人から聞いたから知ってるけどね。
勧誘目的で教えてくれたのだが、馬鹿にしてやった上に断ってやった。
当たり前の世界でも犯罪や戦争は絶えないってのに、バラして平和が訪れるわけがないだろ。
秘匿義務が無くなるんだから、余計質が悪くなると思うぞ。


「今から一週間前、ここで事件が起きる少し前だったかな。士官学校の穴に変化が起きたんだ」
落っこちた穴。落ちた直後から閉じない様に処理を施してあったそうなのだが、
出口の方、麻帆良側はほとんど閉じてしまった状態だったらしい。
こっちで調べても解らないほど小さく。

救援信号は何とか伝わっていたみたいだけど。

「漏斗の様な状態が、突如砂時計の様な状態に変化したんだ。猛烈な魔力が確認されたよ」
「世界樹が発光した時間と一致しますから、世界樹の魔力だと思われます」
キムラさんと瀬流彦先生の話と呟いた時間、そこから導き出される結論は…、叶えてくれてたのね、世界樹。

「探索用プローブや各種サーチャーを打ち込んで大気組成や細菌・ウイルス類等々を調べていたんだけど、その最中にあの事件だろう?しようがないから経過観察に留めていたそうなんだが、発動した儀式魔法に魔力を奪われたのかして、穴が少しずつ窄まってきた」
「そこで、私が志願したの。「向こうに行かせてください。こちらと同じ保持処理を行います」って」

なんと無茶をしなさるか、よく解らない場所で、ドンパチやってた直後だというのに穴に入るってまあ。
よく許可したな、校長。
「校長…、ううん、リンディさんはちょっとだけ考えて「いいわ、行ってらっしゃい。でも、ちゃんと帰ってくるのよ、ヴィヴィオさん」って、送り出してくれたの。途中に通信の一時断絶が起こったりして心配掛けちゃったけどね」
「高町候補生のお陰で保持は出来て、通信手段は確保したんだけど、アリョーシャ君と連絡は付かないし、向こうは混乱の真っ最中。コンタクトが取れない状況だった」
「かなりの数の関係者が強制転移魔法で音信不通なのもありましたから」
「しょうがないから白旗揚げて待ってたら次々と転移してきて、そこにいた佐倉愛衣さん、お弟子さんだったよね?その子が私の顔と管理局の事を知っていたから話が付いて…」
未確認で魔法が存在する世界だと確認されたと。


「うん、それにね」それに?
「部屋にメンテナンスデバイス置いてたでしょ?そこに収められてたレポート。それが校長経由で統合参謀本部議会に提出されたの」
「議会で大々的に取り上げられてね。そのちょっと前にこの次元世界の座標が解ったんだけど、未到達次元空間に有った事も重なって大々的に調査するべきだと議決されたんだ」 
さあ、話が大きくなって参りました。
「お頭や僕ら先遣隊員は穴から来たけど、佐嶋さん率いる本隊は次元航行艦で待機している。今は静止軌道上にいるよ」
航行艦まで来ますか、議会もこの世界を相当重要視してんだなあ。

それに佐嶋二佐まで引っ張ってきましたか。大丈夫なのか?停戦監視団司令部。

で、何で団長に祖父さんが?確かに停戦監視団団長と方面司令の任期が近いのは知ってたけどさ、もうちょっと先じゃなかった?
「議長とお頭の仲は知ってるだろ?君の事を知っていたからこその温情人事だよ。それに引き継ぎの最中だったのも大きいね」
短期間で引き継げて、未開の地でも平然と出来る肝っ玉を持っていて交渉も荒事も得意。
うん、祖父さんが適任だな。


そうして、学園長執務室の前に立つ。この扉の向こうに祖父さんがいるらしい。
懐かしいのやら、恐ろしいのやら、複雑な気持ちだなあ。



****



「メイ、メイ、疲れているのは判るけど起きなさい」
「ふ、ふぁい・・・」
佐倉愛衣は疲れていた。ここ一週間碌に休めていないからだ。
理由は幾つかある。
魔法使いである事が事実上バレてしまった事、その混乱の収拾にかり出されていた事。

そして、時空管理局の調査団先遣隊の手伝いをさせられている事が理由だ。
弟子二号であり、管理局の存在を知らさせているが為に適任とさせられてしまったのだ。
外国から来たお客様にその国の言葉がわかる人間を世話係に(本人の同意無く)任命するのと同じだ。

なお、同じく存在を知っており、弟子一号である高畑・T・タカミチは魔法使い側として忙しい為に免除された。
が、そのしわ寄せは全部彼女に来ていた。面倒見のいい姉分兼主人が手伝っているからマシにはなっているが。


「仕事よ、内容は神楽坂明日菜以下9名の確保。…何でこんなことまでしなきゃならないのよ…。ただでさえ忙しいのに…」
「何で私たりにゃんですくぁー?」
「呂律が回ってないわよ。あなたなら身内扱いされるとでも思ってるんじゃないの?コンドラチェンコさんやネギ先生経由で仲いいし」
「確かに先ぷぁい方とは親しくさせてもらってますう-。でも、まだ残っている仕事が…」
双方の事情を知っている人間は極めて少ない。その上魔法使い側の役職に就いていないのは彼女だけ。
だからこそ扱き使われていた。

「少し前、あなたが居眠りしている時に連絡が入ったわ。コンドラチェンコさんを確保したって。一番の事情通が捕まったから残った仕事は彼にさせるみたい」
「私なんかよりよっぽど適任ですからね。お祖父様が団長ですし」
「もうちょっと休ませてあげたいところだけど、行くわよメイ。あ、あと、夏目さんも一緒に行くわ」
疲れてはいるが、組織人である彼女たち。下っ端であるが故に上の命令には従わねばならないのだった。



****



魔法使い・人間界日本支部地下30階、魔法使い専用独房。
難しい顔をした大人二人と子供が一人。

そのうち一人の大人が語る。
「…本国へと強制送還され、オコジョ収容所行きとなる。君もね、ネギ先生・・・そのはずだった。」
「だった?どういう事ですかガンドルフィーニ先生?」
過去形である事が腑に落ちないネギ。その答えは明快だった。

「時空管理局だよ。学園長は麻帆良が彼らとの窓口となることで調査団団長と合意した、協力者になるのさ我々は。そして君は数少ないミッドチルダ式魔法を学んだ魔法使いだ、高畑先生と佐倉愛衣と共に現地雇用扱いにするつもりらしい」
現在、時空管理局と魔法使い達は第一次接触の最中であり、その窓口として動いている関東魔法協会。
弱みを握られている日本支部の理事達はそれらの容認を強制させられ、ただのパイプとなっている。

「協力者に現地採用ですか?」
「そうだ。我々は本国との本格的接触までは送還出来ず、君たちは彼らの身内扱いとなり、現状では手が出せなくなったんだよ。下手にオコジョにすれば外交問題になりかねない」
突如現れた「時空管理局」を名乗る集団。疑いはしたが、次元航行艦と言う証拠を見せ付けられたからには無視するわけには行かず、
平和的接触を求めてくる彼らを無下に扱えない。

そんな集団、一部ではエイリアンかと目されている、が窓口に関東魔法協会を指定したのだ。
そこで働く魔法使い達を即刻処罰すれば自分たちとの接触も事前交渉も出来なくなる。

更にだ、犯罪を犯したわけでもない現地採用局員扱いのネギ達三人は本国だけの都合で処罰する事は出来なくなった。
もしも、引き渡し協定等の調印前に正当な理由無しで逮捕・処罰を下した場合は管理局への敵対行為と見なされる。
誰も彼も、エイリアンとの戦争は嫌なのだ。



****



神楽坂の携帯が鳴る。発信者は佐倉愛衣、悪魔騒動後に番号とメアドを交換したのだ。

「あ、神楽坂さん、佐倉です。今どちらですか?音信不通だった間に起きた事をお話ししたいのでそちらに向かいます、だから大人しくしていただけますかー?」
「あ、ありがとメイちゃん。大体何が起こったのかは判ってるんだけど細かい所がさっぱりだから、助かるわ。今エヴァちゃんの家ね」
「ハイ、エヴァンジェリンさんの家ですね?解りましたー」
携帯を仕舞い、向き直って言う。
「これで神楽坂さん達は足止め出来ましたー」

半分あきれ顔の高音・D・グッドマンと夏目萌。
「やっぱり適任ね。完全に身内扱いじゃない」
「杖を用意する必要が無かった気がしますぅ~」
「用心は必要ですよ?説明と説得はしますが、失敗する可能性はあるんですから」




エヴァ邸にて皆に説明をする。
ついでにお茶も用意した。勝手知ったる人の家、台所のどこに何があるかは大体把握している。

「つまりは、超りんの計画は成功しちゃって、その後にアリョーシャのお祖父さん率いる時空管理局が宇宙戦艦でやってきたって事だね?」
早乙女ハルナが眼鏡を直しながら確認する。

「科学製魔法使いの軍隊に宇宙戦艦かよ。ファンタジーを無理矢理発達させてSFにした、みてーな話だな」
長谷川千雨が呆れた顔で呟き、それに納得顔で返す。
「呪文じゃなくてプログラムですからねー。要求されるのも理数系スキルですし」

「で、ネギ先生は今どこにいるですか?」
綾瀬夕映がデコを光らせて尋ねる。
「事情聴取のために魔法使い本部にいます。私もですけど、顔を知られちゃってるわけですからそこに軟禁状態になっていると思います」

「軟禁て、ネギ君に会えへんのー!?」
近衛木乃香は涙目で聞く。
「いえ、軟禁ですから、言えば会わせてくれると思います。近衛さん経由で学園長にお願いすれば多分」

「ふむ、それなら可能性はあるな。…佐倉の姐さん、ちょいと俺っちの話を聞いてもらえるかな?」
「何でしょう、カモさん?」
計画を話し始めるアベニール・カモミール、それが上手くいくかは解らない。



****



休憩中の魔法先生二人、バツイチ神鳴流剣士葛葉刀子とヒゲグラ西洋魔術師神多羅木。
マイペースで平然としている神多羅木に対し、苛立った顔で肌が荒れ、ついでに髪のお手入れも出来てない葛葉刀子。
「あー、葛葉、酷い顔してるぞ。ちょっと休暇でも取ったらどうだ?」
「休暇なんて取れますかっ!!今回の件でただでさえ忙しいというのに、あの管理局とか言う訳のわからない連中の相手をするハメになってるのですよ!?申請する暇すらありません!」

タバコをくわえ、火は付けないで相づちを打つ。
「まあその管理局のお陰で今のところオコジョにならなくて済んでいるし」
「ぐっ、それはそうですが…。はあ、全く我ながら酷い顔だわ…。彼に見られたら幻滅される事間違い無しね…」
ファウンデーションの鏡で自分の顔を見て呟く。苛立ちと疲れと感謝が複雑に合わさった顔だ。

続けて、「忙しすぎて連絡も取ってないし…、このままでは自然消滅だわ…」
首をがっくりと下げながら呟く。事件後、こちらからの連絡は元より、相手への返信もまともに出来ていない。
一般人の彼氏が愛想を尽かされたのかと勘違いしてもおかしくないと彼女は考えていた。


と、「管理局のキムラとか言うの、あれはどうだ。少し違うが魔法使いだから前の彼の様に隠し事をしながら付き合わなくてもいいだろうし」
何時もの平然とした顔で答える神多羅木。
「付き合いませんよッ!!なんで別れる事前提で話をするんですかッ!!」

クローリクがくしゃみをした頃、
続けて言う「まあ葛葉は人気があるそうだから新しい出会いはすぐに見つかるだろう」
本人は励ましのつもり何だから質が悪い。

「どんな人気ですかッ!「踏まれたい・罵られたい女教師」ランキング一位(MU(麻帆良生徒自治連合)調べ)なんて有り難くもない人気で
すよ!?そんな風に見られたくないのにそんな風にばっか見られて…、うっ…ふぇぐ…うえぇ…」
三十路前後は微妙なお年頃、刀子先生はとうとう泣き出してしまいましたとさ。



****



執務室の応接用ソファー、バルタン星○の向かい、そこにふんぞり返っている年寄り一人。

「よう、よく生きていたな」『お久しぶりです。閣下』
「相変わらずだな、祖父さん」
殺しても死なない所か死神を返り討ちにしそうなウチの祖父さん、久々に見る顔だ。
これで70過ぎてんだからなあ、いつ死ぬんだ此奴は。





懐かしい人々との再会、その余韻を味わう間もなく物語は動く。








あとがき:登場の裏側と、拘束部隊の変化を書いてみました。
後半、さらなる変化(予定)と逆行に至る経緯を書く予定です



[4701] 第三十八話「祭りの後(下)」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/11/12 22:39
祖父さんとバルタ○星人が向かい合って座り、僕とヴィヴィオは祖父さんの横に並んで座っている。

「若い者同士はいいですのう。うちの木乃香にも早く相手が見つかってほしいものですぞ」
「お孫さんですかな?その木乃香さんというのは」
「ええ、娘夫婦の一粒種でしてな…」
「ウチはコイツを含めて23人、半年ほどしたらもう二人ほど増える予定です。コイツの弟妹ですよ、双子だぞ」
年寄り二人の孫談義、一見穏やかに見える。

つーか、母さんと親父まだ頑張るのか。まあ、母さん(28歳)まだまだ若いし。

「それは賑やかでよろしいですのお。うちは一人だけでしょう、じゃから早う曾孫の顔が見たくて堪らんのですわ。ヴィヴィオちゃんと付き

合っておらんかったらアリョーシャ君に勧めてみようかとも考えておりましたぞい。フォフォフォ」

聞いた途端、"これは私の"と言わんばかりに腕にしがみついてくるヴィヴィオ、それを横目で見た祖父さん、
「それはそれは高く買ってもらいましたな。残念ながら聖王女陛下と恋仲になってしまいましたからなあ、ウチの孫は。代わりと言っては何ですが、今年で24になるウチの末息子なぞどうでしょうか。親に似ずマジメな奴でね」

横で話を聞いている僕とヴィヴィオ、黙って聞きながら茶を啜り続けている。
いい葉で適温適時に入れてはいるが空気のせいで不味い茶を。


ぬらりひょんと鬼の妖怪大決戦だ。
鬼はウチの祖父さんな、作戦時の苛烈さと容赦の無さから鬼だと言われてる。

両方とも表面上はさわやかに談笑しているが、裏は真っ黒い腹の探り合い。
お陰で空気が悪いったらありゃしない。

腹の探り合い合戦に参戦出来るわけがない僕とヴィヴィオは、黙って茶を啜るしか有りません。
あー、茶が不味い。



そんな時、
「さて、アリョーシャ君。今事件の首謀者、超鈴音から君宛に手紙が届いておる。封はまだ解いておらん、見てもらえるかね?」
バル○タン星人が執務机から封筒を取り出してきた。

受け取ってみると、魔法使いが使うホログラフィ手紙だった。
別荘と言い、こういう所はやけに進んでいるんだよな。

興味を持った祖父さんに説明し、再生する。
「やあ、アリョーシャサン。コレを見ているという事は罠に引っ掛かったと言う事ネ」
映し出される超、今となっては小憎たらしい顔だな。
「私はアナタの事を気に入っていた。ダカラ仲間に引き入れようとしたガ、見事なまでに断られたネ。モウ怒りを抑えるのに精一杯だたヨ」
やっぱ悔しかったんだなあ、手紙の中でも悔しそうだもん。
「まあ、一理あったのも確かネ。私のやった事は秩序に対する反逆、クーデターに等しいネ。本来ハ数多くの同志と共に行い覆す革命でアルべきだとは解ってもいたし、本来はそうしたかったヨ。権力を得た少数派は力を用いるしか多数派に対抗する術を持たない。時には強硬な手段や恐怖を用いるしかない時もあるヨ」
何だ、解ってんじゃん。上辺では無い本物の狂信者はそれを理解出来ないからなあ。
「しかしダ、それでも私はやらねばならなかったのダヨ。何故かは言えないガ。ダガこれだけは言わせてもらうネ」
何だ?何を言うんだ。

「ザマアミロこの負け犬ガ、私の勝ちネ」
勝ち誇った笑みで、親指で喉を掻き切る仕草。
明確な勝利宣言だ。


手紙はそこで終わり。これ以上は言い訳がましくなると判断したのだろう。
超にしてみればこれでおあいこのつもりなのだろうし、理解は出来る。

が、

我がコンドラチェンコ家の男共にそんな理屈は通用しない。
何としても成し遂げるのが我が家の血、特に状況を引っ繰り返せるジョーカーの存在を知っている。
「ミーシャ、ドラグノフにデータ転送、その後カシオペア関係の資料をピックアップしてくれ」
『了解、リンクします』

祖父さんのデバイス「ドラグノフ」へと資料や未整理データを転送する。
途中のレポートに私見にと、ここで調べて知った事全てを送る。
その後、カシオペアのレポートを表示し、祖父さんに見せる。
「…コイツは一級のロストロギアだな。あれやこれやを限定する事で時間跳躍…、いや、世界の上書きだな。それを実行するとは…」

「祖父さん、家に一報は入れた?」
家族の皆や、士官学校の同期に無事だという報告をしたかを尋ねる。
「いや、まだだぞ。どうせなら無事な姿を見せてやろうと思っているからな。後でゆっくりと…」

正面に移動し、頭を下げて頼む。
「このままMIAにしておいてくれ。理由は聞かないでくれ」
今からネギ達を引き連れ、あっちから売って来た癖に勝ち逃げされたケンカを買いに行く。

但しこれは犯罪だ。過程がどうであれ受け入れればならない結果を無視し、改変…、いや改竄だな、故意に過程を書き換えに行くのだから。

調査団司令の孫が犯罪者じゃあ示しが付かないだろ?
コンドラチェンコ候補生は行方不明のままで、重要参考人と証拠物件を強奪したのは、あくまでも正体不明の犯罪者。
それで何の問題もないのならそれでいいのだ。


「…矢張り俺の血を引いているなお前は、戦場に行くんだろ?自己満足の為の戦場に」
真剣な顔した祖父さん、この人も若い頃に"似た様な事"を行ったから理解してもらえると思っている。

しかし、次に口から出てきたのはちょっと意外な言葉だった。
「今は許可は出せないな」
「…部下引き連れての軍規破りに非戦闘員の虐殺までした戦争犯罪者に言われたくないな。いくら兄弟の亡骸を取り戻す為とは言え」
"似た様な事"をあえて口に出し、非難する。
バルタン星○人の顔が歪んでいるが無視しよう。弱みと取られても知るもんか。

「まあ待て、"今は"と言っただろう?俺だけじゃなくて横も見てみろ」
横?って、ヴィヴィオが…、あ。
「私を無視して話を進めるんだー。また置いてけぼり?」
ほっぺを膨らませてすっごいむくれ顔をされています。陛下はお怒りです。
うっすら虹色魔力光が見えております。


「いや、その、無視してたんじゃなくて、自分勝手な満足の為の戦いに巻き込みたくないと言う意志が働いた結果であって…」
人が必死になって説明している所を、
「一介の将軍如きが許可は出せないなあ、陛下の許可をいただかなければなあ」
しれっとした顔で茶々入れやがってこのジジイは。
「そうですじゃのう。我々下々の者は陛下のお言葉には逆らえませんからの」
一緒になるなバ○ルタン星人。つーか、仲良くなるな妖怪コンビ。

しどろもどろの僕にある種トドメの一言、「私は何と言われようと着いていくからね」
うれしい事言ってくれるじゃない…、じゃなくて!犯罪行為をしに行くのよ!?
ホントにいいの?
「散々置きっぱなしにしておいてまたサヨウナラ、は許さないからね。それに犯罪行為ならゆりかご事件の時にしちゃったから気にしないの」
「ヴィヴィオ…」



「若い者はいいですのう」「全く」




****



「はーい、あ、アリョーシャ?うん今、愛衣ちゃん達に保護されて魔法使いさん達の支部だったっけ?そこに向かう所。え、愛衣ちゃんに変

わってくれって?ハイ、愛衣ちゃん」
「あ、ハイ、教官ですか?ええ、任務でして間もなく着くところです」

保護後、聴取をする為に日本支部に向かう道中、割と平穏な空気が流れていた。
カモの企みに愛衣が限定的な賛成をし、知りたい情報を教えてもらえたからだ。

「愛衣さんと皆さん、仲いいですねー」
「ネギ先生とは兄弟弟子の関係だからね。私たちよりも一緒にいる機会が多いから可愛い後輩だと思われているんでしょう。それに、あの子は人に好かれる子だしね」
前を歩く高音とナツメグは知らないが。

共犯者が出来た事で精神的余裕が出来ている9人。
「にしても、この端末スゲーな。このサイズでこれだけサクサク動くのが出来るとはなー」
知りたかった情報も貸してもらった関係者用情報端末(iPh○ne3GSの丸パクリ)で調べる事が出来た。


そんな空気を木っ端微塵に砕く物がやってくる。
「東南東の方向、風速2m」「了解、照準補正完了。弾着は15秒後の予定」

気の抜けた風切り音、前を行く二人の近く、風上の方向で「5、4、3、2、弾着今っ」それは弾ける。
「い、一体何っ!?」
「げほっ、ごほっ、喉が…、目が…」
催涙性の煙幕、涙と咳が止まらなくなり、まともに動けなくなる。

風向きの関係で煙がほとんど流れてこなかった神楽坂達は戸惑う。
「一体何でえ、あの煙は!?」
「咳とかが聞こえるけどさ、催涙ガスとかの類?こっちに流れてこない?」

そんな皆に「風上ですし、一応防護フィールド張ってますから大丈夫です。もしも吸っても後遺症とかは残らないですよー」
あっけらかんと答える。
事前に知らされていたからだ、「今から催涙煙幕弾を高音の姉ちゃんの方に発射する。風向きと風速を知らせろ」と。



****



「はーい、謎の魔法使いAでーす。これから皆さんを拉致いたしまーす」
皆に「謎の魔法使いA」である事を強調しておく。
これらの事件は「謎の魔法使いA」が行う事であって、アンドレイ・コンドラチェンコでは無いと言う事を示す為だ。

「謎の魔法使いって何よ、サングラス掛けて、リュック背負ってるだけじゃないの」
「それ以外は何時もの軍服姿でござるからなあ、してそちらの御仁は?」
グラサン掛けてるだけだからバレバレだけどね!!

「初めまして、高町=スクライア・ヴィヴィオです。よろしくお願いしますね」
「はー、初めましてー」
こら「謎の魔法使いB」、自己紹介して正体バラすんじゃありません。
せっかく買ってきたサングラスの意味がないでしょう。
「アリョーシャの彼女?可愛い子じゃん」
「ナカナカ強そうな子アルネ、身体のブレがほとんど無いヨ」

だから「謎の魔法使いA」だって、君たちは今から拉致されて人質にされて行方不明になる事になってんだから、ネギもね。
「行方不明て、どーゆー事なん?」
証拠品として抑えられてるカシオペア使って戻って超を懲らしめに行くの。
「あや?それってカモ君の作戦と同じやん」
うん、そこの弟子二号から聞いた時は愕然とした。ネコ目イタチ科が同じような作戦を立てていたとは…。
まあ、使える奴である証拠だからいいんだけどね。


参謀教育させてみるか?悪知恵が効く奴なんだから結構物になるかもな。
大隊指揮官資格持ちで上級キャリア資格持ちの佐嶋二佐に教授してもらえば…。



****



さて、弟子二号に煙幕攻撃食らったところを襲われたましたと言えと申しつけて気絶させた後に、
日本支部へスネークした我々、螺旋階段の前に立っています。

弟子二号情報では警備システムの抜け穴に当たるそうなのだが、保守点検とかはしてるみたいだから存在は知られてるんだろ?
さっき、襲撃事件があったばっかりだから見張りぐらい立たせても良さそうなもんだけどなあ。

まあ、祖父さんが取引したんだろ。
若い頃から家族思いだからなあ、「家族を大事にしない奴は男じゃない」と言うドン・コルオレーネの言葉がお気に入りみたいだし。
だから部下も大事にする、故に忠誠心の高い部下が多いのだ。



「深いなー」
『普通に降りればかなりの時間が掛かると推定されます』
地下30階へと通じる螺旋階段、その入り口。測距してみたらかなーり深いことが判明した。

因みに、待ち伏せされていた時の用心として音響弾も一緒に打ち込んでおいた。
今頃目を回して倒れていることだろう。…ショック死してなきゃいいけどね。

「音が聞こえるまでムチャクチャ時間掛かってんなー、降りんのか?コレを」
うん、その問題を一気に解決する方法が一つあるのだよ、千雨ちゃん。

近くにいた千雨ちゃんとこのかちゃんの手を取り、ヴィヴィオに本屋ちゃんとパルにゆえっちを任せる。
「残りは歩いて降りてきてねー。時間が掛かりそうなら迎えに行くから。神楽坂以外」
「何で私だけなのよ。ていうか何するのよ」という批判を背に、「おい、ひょっとして…」3、2、1、降下っ!!

螺旋階段で中央部分は吹き抜け、測距した時に障害物がないことは確認済み。
ならば、最短距離で進める方法を採ればいい、僕とヴィヴィオは飛べるし。

「ばっきゃろーっ!!」
「こ、こここ、これは想像してへんかったなー」
これが一番手っ取り早く降りる方法なのよ。
上に残した4人は足が速いけど、みんなで降りるとなると一番遅い人に合わせなきゃならなくなって時間が掛かる。
ならば、遅い人を最速の方法で降ろせば時間のロスは少なくなるって寸法なのだ。合理的でしょ?

「言わんとすることは解るぜ?だがな…、説明無しで飛び降りるんじゃねーッ!心臓に悪いだろがぁーっ!!」
「そやなー、一言言うてほしかったなー。チビるか思たわー」
言ったら言ったで文句言われるんだから、一度で済むこっちの方がいいの。手っ取り早いし。

「ちょっと乱暴だったかな?降下も自然降下が大半だったし」
少し遅れてヴィヴィオが降りてくる。降下速度を落として降りてきた模様。
「速度を落として降りてくれたので助かったです」
「アリョーシャは気が利かないところがあるからねー」
「気を遣っていただいてありがとうございますー」

僕は"飛べる陸戦魔導師"であって空戦の専門家ではないの。
ヴィヴィオは空戦魔導師だからそこら辺の制御が上手い、その違いよ。

残りがくるまで暫し待つ。人類の規格外な連中だから早々来るだろう。



****



警備要員休憩室、そこに待機している魔法使いは苛立っていた。
「ガンドルフィーニ先生、何故待機が続くんですの!?私たちに催涙弾を打ち込み、メイを気絶させ、重要参考人を強奪されましたのに、何故!?」
目と鼻の先で行われた犯行、それを食い止められなかった自分への怒りと、待機指示の為に動けない現状、その二つに高音は一層苛立っていた。
思わずその苛立ちをガンドルフィーニにぶつけてしまう。
「学園長の指示だよ。関東魔法協会理事の権限で発動されたこれに、我々は従うしかないのだよ。解ってくれ…」
彼女の気持ちはわかる。しかし、組織の長に「動くな」と言われているが故に自分も動けない。
一種のジレンマに陥っていた。

「時空管理局の皆様方はどうなんですか?犯罪者を相手にする組織なのでしょう、こちらから要請すれば…」
ここ一週間接触している組織に一縷の望みを託すが、
「あちらも同じく、司令官の指示で待機中。別命有るまで動けないそうよ」
葛葉刀子の一言で打ち砕かれる。
組織に所属している限りつきまとう宿命に翻弄されている魔法関係者の面々。



同じ頃、学園長執務室。
「申し訳ありませんな。ウチのバカ孫の為に全員待機命令を出していただけるとは」
「なあに、あのままでは強制送還の上、オコジョにされてしまうところだったウチの連中を助けていただいた恩がありますからなあ。その返済の一つと思っていただければ結構ですぞい。それに…」
「それに?」
「若いもんが自ら判断し、自らの意志で動こうとするのを老人が邪魔してはいかんでしょう」
「ご尤も、老人の仕事は間違っていた時に指摘してやることと経験からの助言を与える事ぐらいですからな。…取っときの酒が艦に積んであります、今夜はそれで一杯飲みましょう。クローリク、私室の戸棚の左奥だ。取ってこい」
「は、畏まりました。少々お待ちください」
「ひょひょひょ、御馳走になりますぞい」



****



タカミチの細工でネギと無事合流出来た。
予想通り祖父さんとバ○ルタン星人が取引をして、全員待機の命令を出したそうな。
よって、警備網が停止状態だったとか。

「管理局式念話を使える人間と学園長だけの秘密だよ。あと、資料を渡しておくよ」
タカミチから資料と、「後は任せたよ」無言のメッセージを受け取る。

任せとけ、あの女をギャフンと言わせてやる。




石造りの回廊、世界樹の根が張り付き、誰も使っていないことが容易に想像させられる。
魔力が残っている為にぼんやりと光るそれは徐々に光を失っていく。
まだまだ後ろの方だが、グズグズしていると追いつかれる。

そんな時だった。戦馴れしていない皆さんが固まる存在がやってきた。
地下を住処にする「トカゲ…」ドラゴンです。
この前襲われたゆえっちと本屋ちゃんは余計に固まってます。

ヴィヴィオは「凶暴モードなフリードだね」と割と落ち着いてます。
我々は龍を見慣れてるからね。


うなり声を上げるドラゴン、本来なら即刻攻撃をし叩くべき存在、しかしだ。
実は恐れるに足らない存在であったりする。僕が居るとき限定だけど。

「ポチー、ご飯だぞー」
僕の姿を見、この言葉を聞いた途端にしっぽ振り出すドラゴンさん。
そう、地底図書室にちょくちょく行く関係で顔を覚えてくれた。なので試しに餌付けしてみたら成功したのだ。
ついでにポチという名前を勝手に付けてみた。


「あー、つまりはだ、アンタは野良猫を手懐けるみたいな感覚でこのドラゴンに勝手な名前を付けてエサをやってたと言うことだな?」
「うん、そう言うこと。手間と時間と大量の各種肉が掛かったのよ。お陰で肉屋の兄ちゃんが仕入れ先教えてくれたぐらい」
リュック一杯の丸鶏を一つずつやりながら千雨ちゃんの質問に答える。
投げた鶏を一口で食べてしまうポチ、お前は大食いだからなあ。これぐらい用意しないとダメなのよ。

「んな常識外れな事すんなぁッ!!お前も餌付けされるなぁーッ!!」
んなこと言われてもなあ、ポチ?
「グル」一声鳴いて頷く、同意見の様だ。


「やっぱりアリョーシャはスゴいや」
「色んな意味でね…」
「同意でござるな」
「初めて見ました…、二重の意味で」
「ドラゴンとそれを餌付けする人間って事だね?」


****



満足したポチの見送りを受け、更に進む。
目指すは光の進む先、恐らくは魔力が一番残っている場所。

そこは広大な場所、魔力は中央部、魔法陣の上に集まっている。
何に使うかは解らないが、魔力集積目的の施設だと推察出来る。無事戻れて、やっぱり祖父さんが来たらここも調査対象にしてもらおう。


たどり着き、ネギに指示する。"初日の早朝に設定しろ"と。
準備期間は長い方がいい、半日と二日半では雲泥の差がある。
そして、この場合の時間は値千金、何よりも貴重だ。

「だがアンドレイの兄貴、それじゃあ膨大な魔力が必要で兄貴の魔力だけじゃあ足りねえぜ!?一体どうすんでえ?」
カシオペアは駆動エネルギーとして使用者の魔力を使う。
作動用触媒の世界樹の魔力は十二分、後は使用者の魔力次第。


だがしかし、手はある。
「エロオコジョ、契約陣書け。ネギが従者になるやつ」
「え、あ、てぇ…、そう言うことかぁ!流石はアンドレイの兄貴!!」
「え、どういう事?」

解ってないネギは置いといて、契約陣を用意する。
陣の中に立たせてと、
「じゃ、行くぞ」「行くぞって何が…、ええっ!?」

「あああああ、アリョーシャ、アンタ…」
「生やおいっ!?義兄弟モノッ!!?」
「あわわわわ」
「何をやってるですかーっ!」

皆、大パニック状態。
そりゃ、右頬にとは言え男同士のキスなんて思春期の乙女には刺激が強すぎるもんねえ。
が、これはちゃんとした目的有ってのことなのだ。
そこ、ヴィヴィオ他何名興味深げに見ない。

「ほい次」「みんなゴメンね」
続けてヴィヴィオが左頬にキスする。頬へのキスはヨーロッパ圏では挨拶の一種だから問題ないのだ。

最後に「ちょっとゴメンね」とこのかちゃんに耳打ちする。
「そないな事やったらしゃーないなー」とネギにでこちゅをして貰う。


「唇にだったら15万オコジョ$入んだがなあ…」
エロオコジョがぼやく中、三枚のスカカードが出る。
目的はこれが無いと出来ないのだ。
こらネギ、いつまで惚けてんだ。さっさと次行くぞ次。


「設定終わったか?」「う、うん。初日の早朝に設定したよ」
皆に手を繋がせるか掴ませる。
「このかちゃん!契約執行10秒間」
「あ、こやったな契約執行10秒間、木乃香の従者ネギ・スプリングフィールド」
「「契約執行10秒間、アンドレイ(ヴィヴィオ)の従者ネギ・スプリングフィールド」」

これが目的、ネギ一人で足りなければ他から持ってくればいい。
幸いにも僕の魔力容量はかなり多く、ヴィヴィオとこのかちゃんは半端ではなく多い。
そこに目を付け、供給目的でスカカードを作ったのだ。


とは言え、これで上手くいくかは解らない。
成功する可能性は高いが、絶対失敗しないことは証明出来ないからな。
失敗する可能性がジンバブエのインフレ率ぐらいでも有るのなら絶対失敗しないとは言い切れない、悪魔の証明ってやつだ。

ま、分が悪かろうが良かろうが賽は投げられてしまったんだ。この賭がどうなるかは出たとこ勝負だ。







時は戻り、物語は進む。嘗ての時とは違う形で。








あとがき:ちょっと詰め込みすぎたかな?な、後編でした。
次回から学祭編始まります。


余談:お気付きの方も多いやるやらコンビ、実は三十四話の時点で出てたりします。一言だけですが。

後、某戦鳥は十年以上前からの住民です。





[4701] 第三十九話「不確定」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/11/21 23:37
「いいわねー、アンタは。準備やらあれこれをするから別荘にこもらないんでしょ?学園祭を二回楽しめるじゃない。それもヴィヴィオちゃんと一緒に…まさか、一緒に楽しみたいから初日にしたとか言わないわよね?」
「ノーコメント」



****



自分で自分を騙した。
騙された自分は知らない。学園祭の楽しさを、騙した自分の隣に誰が居るかを。
さて、二回目を楽しむとしますか、二人でね。


その前に行うことがある。
バルタン星○もとい、学園長の説得だ。

タカミチから貰った資料+自分の構想+ネギのアイデア+ゆえっちが探った情報の三点セットで切り込んでいくつもりだ。
それに加えてヴィヴィオの存在だ。
これだけ強力なカードがそろってんだから成功させなきゃダメでしょ。



「…事実なのかね?」
「残念ながら事実です。時空管理局の名と、コンドラチェンコ一族の名誉に誓って」
執務室は緊迫した空気に包まれている、何時もの巫山戯た様な飄々とした感じが見る見る薄れていく。
こんな顔と雰囲気出せるんだな。

「所属する組織に加えて、一族の名誉に誓ってか…、その顔付きからして本気じゃな。よかろう、信じよう。での、話は変わるんじゃが、扉の向こう側からとてつもない魔力を感じるんじゃが…、誰かの?」
取り敢えず第一段階成功、一族の名誉も賭けたんだ。
これで失敗していたらご先祖様に申し訳が立たないところだ。

次の段階へと進める為にヴィヴィオを呼ぶ。扉の向こう側に待機させていたのだ。
「時空管理局統合士官学校所属、高町=スクライア・ヴィヴィオ三年次士官候補生であります」
凛とした威厳のある空気。ある種の威圧効果が出るこの状態、同期ではこの状態を聖王モードと呼んでいる。

その空気に負けじとするバルタン星○、品定めをする様な仕草を見せた後、
「管理局員がまた一人…。事故ではないの?」
何時もからは信じられない眼光を放つバルタン○人。まあ、ここまで出世してきた人だ。ただ者ではないことは判ってはいるが。
ウチの祖父さんと張り合ってたぐらいだし。

「はい。自分は先遣要員の一員でして、司令以下本隊は一週間以内に到着する予定であります」
嘗ての事実を組み込んだハッタリ。"超の計画が成功した時間軸"では事実だが、この時間軸では不確定事項。
しかし、"事実であった"事には間違いない。それ故に人間が嘘を言っているときに無意識にする仕草等は一切無い。

重苦しい沈黙、長く伸びた白眉が上がる。
「この情報と一週間もの時間差、つまりは猶予という事じゃな?来るまでに片付けておいてくれという意味に取っても構わんかね?」
「そう取って戴いても結構かと。僕はあくまでも"この情報を渡し、可能ならば協力せよ"との上からの指示に従っているだけですから」
よっしゃ、引っ掛かった。
まず、管理局調べに見せかけた情報を渡し、先遣要員と偽ってとんでもない魔力と威厳の持ち主を出すことではったりを利かす。
この二つが合わさっての誤認を狙ったのだ。

「良かろう。諸君らの協力を受け入れるとしよう。これだけ調べてあるんじゃ、対応策のプランも用意してあるんじゃろ?聞かせてもらおう」
その狙いは成功、こちらの提案を聞き入れる素地が出来た。
さて、超が涙目になる事間違い無しな状況を作ってやろうじゃないか。



****



交渉は妥結し、立ち去る直前。学園長がこんなことを聞いてくる。
「所での、アリョーシャ君とそこの彼女、ヴィヴィオちゃんじゃったか。どういう関係じゃ?」
「こういう関係です」と肩を掴み、引き寄せる。そうするとしなだれて顔を寄せてくる。
それを見せれば十分。
頬がちょっと赤くなってるし、よっぽどの朴念仁でもない限り判るだろ、多分。

「ふぉっふぉっふぉ、そう言う関係か。残念じゃのう、君に相手がおらなんだら木乃香を勧めてみようかとも思とったんじゃがの。そんな別嬪さんがおってはの」
何時もの○ルタン星人へと戻っていく学園長。…あの笑い方、やっぱバルタ○星人だ。
「準備や細々とした打ち合わせ等々はあるが、事に当たるまではまだ時間がある。年に一度のお祭りじゃ、二人とも楽しむんじゃよ」
好々爺の顔をして見送ってくれる。言われなくとも楽しみますよ、二人でね。



執務室から急ぎ、店舗へと向かう。
学園長との交渉が予想以上の時間が掛かってしまったからだ。

副委員長に「所用で少し遅れる。先に仕込みを始めておいてくれ」と連絡はしたから問題はないし、
大凡の指示は昨日のうちに済ましてあるから、余計に心配はないが。
それでもいちはやく向かうのが礼儀ってもんだ。


その途中、ヴィヴィオが念話で訊いてきた。
「ねえ、その超って子。バラしてからどうするつもりだったのかな?相当きちんとしたビジョンがないとここまでの計画は練れないよ?」
ふむ、勧誘に来たときに聞いた話では、何でも"過去を変える"と言っていたな。

で、その一環で魔法をバラして、何年かは混乱が生じるが監視して調整して"うまくやる"とかほざいてやがったなあ。
その理由はありふれた悲劇だと、嘱託魔導師時代、しょっちゅう見た様な奴だろうな。
「酷かったんだよね、第34管理世界・旧帝国本土での地域紛争。名目は停戦監視団だけど、実質平和維持軍として使わなきゃならないぐらいに」
うん、祖父さんが赴任してからはかなり改善されたけど、地球で言うところの旧ユーゴスラビア状態だったからね。


ま、悲劇の起こらない世界って事は"世は並べて事も無し"な世界平和が最終目的なんだろ。
「世は並べて事も無しな世界平和?」
そ、いくらありふれた悲劇は無くなりました、替わりに全面反応兵器戦一歩手前、ちょっとでも間違えば反応兵器のパイ投げが始まりそうです。
なんて状況は望んではいないだろうし、回避すべく動くと言ってもいた。
「更に進んで、バギーに乗ってトマホーク持ったモヒカンさん達が「ヒャッハー」とか「汚物は消毒だー」とか言って暴れてる世界になったら回避した意味がないもんね」
…誰が読ませた、「北斗○拳」。
「はやてちゃんのコレクション。お家に色んな本があって、そこで読んだの。「きしょいとこあるけどおもろいで~」って勧めてくれたよ?」
あのお姉さんは…、女の子に勧める本じゃないだろ。面白いのは確かだけど。

…話を戻してだ、となれば平和な世界を作るしかないでしょ。毎日が特段変わったこともない、そんな世界。
「確かにね」
ま、これは僕の解釈であって、超が本当はどう考えているかは判らないけどね。さて、もうそろそろ到着するから、この話はここまで。
接客とか手伝って貰うけど大丈夫…、愚問だな。
「小さい頃から翠屋のお手伝いをしてる私をなめてもらっちゃあ困るわよ。士郎お祖父ちゃんと桃子お祖母ちゃん仕込みの腕見せてあげる」
それはそれは頼もしいことで、期待してますよ?




「かわいいじゃん」「俺も欲しいなー」「委員長殿は巨乳派だったか…」

「気っ風のいい金持ちで、顔と頭が良くて、あまつさえ可愛い彼女持ち。ねえ、あれなんてリア充?なんてリア充?その上、目前で見せ付ける狼藉三昧、これを許せばご先祖様に申し訳が立たんお…」
「落ち着くだろ!本気の委員長殿に瞬殺されるのがオチだろ!命があるだけ丸儲け状態になりかねないだろっ!!」
「彼女さんは彼女さんで、おっぱいが勝ち組だお」
「…それは同意するしかないだろ。常識的に考えて」

ミーティングの後、皆にヴィヴィオを紹介した。
羨ましがる声や怨嗟の声が聞こえてくる。後者は聞かなかったことにしよう。うん、それがいい。



****



午前11時ちょっと前、開店まであと少し。
いい感じの緊張感に包まれ、きりりとした空気が流れている。

時間となったのと、人影に気付いた奴が扉を開ける。
さて、一番の客は誰になるのか…、同じか違うか。それが楽しみだったりするんだが…。
一回目はネギな。

「アリョーシャ、食べに来たよー!」ネギ、やっぱりお前か。
最初のお客様なので「いらっしゃいませ」気合いの入ったご挨拶をする。
ここら辺はきちんと叩き込んであるのだ。
「恐縮です…」ちょっと気圧され気味のせっちゃんもいる。一回目と同じ組み合わせだなあ。


「初めまして、ネギ君。高町=スクライア・ヴィヴィオです。よろしくね」
「あ、え、初めまして…。アリョーシャ、会えたんだね?良かった…え、でもそれじゃあ…」
ヴィヴィオに注文を持ってこさせ、挨拶をさせると事情を知っているだけにちょっと混乱するネギ。
あー、後できちんと説明(嘘混じり)してやる。だから冷めない内に食べなさい。
「初めまして、桜咲刹那と申します」せっちゃんもね。


「後でクラスのみんなにも紹介しないとね!」
そだな。会い次第紹介するけど、会わなかった連中には中夜祭の時にするからヨロシクな。



時間は12時を少し過ぎた頃。
チラシや共通チケット、この前の超包子で来てくれたお客のクチコミ等々のお陰で賑わっている。
賑わっていれば興味の対象となり、選択対象となる。

人寄せ用の作戦の一つ、「身内割引」も効果があった様だ。
サインした券を身内に渡せば割り引くシステムで、家族友人をサクラになってもらうと共にクチコミの発生源になってもらうのが目的だ。

「五番テーブルご注文、ビーフ2、シーフード2ですー」
「四番テーブルお会計ですー」
「十番テーブル分お願いしまーす」
忙しいが、鍛えたお陰で難なくこなしていく。

「みんな、てきぱきと動くわね。パリッとした制服と合わせると気持ちいいぐらいだわ」
ウチの制服は糊をよく効かせた白のワイシャツに黒のベストとスラックス、それに黒のボウタイとウエストエプロン。
所謂ウェイタースタイルである。

因みにワイシャツは全員に教え込ませたアイロンで仕上げた。
お陰で異様にアイロン掛けの上手い中学生が出来上がったがな!

僕は最高責任者なので黒タキシード姿、ショールカラーの地味なのにカマーバンド。


因みに今の時間に女子3-Aから手伝いに来てくれているのはチア三人娘の一人、釘宮ことくぎみー。現在小休止中。
「くぎみー言うなっ」
じゃあ、くぎゅうで。
「もっと嫌っ!!」
「中央駅前にホテルあるでしょ?そこのフロアチーフ監修の元鍛えられた連中だもの当然」
「唐突に話戻さないでよ…。あ、ヴィヴィオちゃん馴れてる感じだけど、どうして?」
「ヴィヴィオの田舎は繁盛してる喫茶店でね。小っちゃいときからお手伝いしてるからこういうのに馴れてるの」
翠屋には一年次の夏休暇にお邪魔した。士郎さんのオリジナルブレンドコーヒーが丁度好みの味だったりする。
帰ったら、お詫びがてら、手土産もってお邪魔しよう。

それを聞いて納得した顔を浮かべる。と、違う話を振ってきた。
「ふーん。で、明日の準備はどうなの?一人で演奏することになっちゃったんでしょ?」

そう、明日の夕方にある麻帆良ロックフェス。
そこに知り合いと共に参加するはずだったのだが、僕以外のメンバーが演奏出来ない状態になってしまった。
田舎の爺ちゃんが危篤だとか、腕折ったとか、そんな感じで。
「ギターソロのレパートリーが結構あるから何とかなるでしょ。大半コピーだけど」
好きなギタリストに、この時代でも知られている人からちょっと後に知られる人まで、ソロの人が多かったのが幸い、一人でも何とかなるのだ。

「そ、じゃあ頑張ってね」
そう言って、接客に戻る釘宮。割と男前な性格なんだよな、声もだし。



昼営業最後の注文が出た午後2時過ぎ、昼賄いを作る。
今回のメニューは「私が作るね」と言い出したので作ってもらった翠屋特製スパゲッティ。秘伝のレシピだとか。

因みにヴィヴィオは結構腕がいい。桃子さんと八神一佐が師匠だとか、前に御馳走になった。
「リア充過ぎね?」「彼女さんメシウマだしね」「おっぱいは正義だよ!」「ふう…」
ふふふ、羨ましかろう。てか、そこのお前、何賢者モードに入ってんだ。


え?カレー食べないのかって?これはお客様の分であって、我々の分ではないの。
それに、延々カレーの匂いを嗅ぎ続けてカレー食べるって、どれだけカレー好きなのさ。
まあ、食べるとしても夜営業が終わって閉店処理がほぼ終わった後の夜賄いの時ぐらいよ。



****



3時過ぎ、
「じゃ、7時頃戻るから。夜分の仕込み任せたぞ」
「は、畏まりました。洋食屋の跡継ぎにお任せあれ」
調理班班長に指示をする。コイツは継ぐ気満々で、実際に店に入ってたりするので任せられるのだ。
今度二人で食べに行くかんな、頼むぞー。

これから夜の書き入れ時まで休憩兼宣伝回り兼挨拶回り、実質デートタイムだがな!



「どこ行くの?」
そだなあ取り敢えず、エヴァの所に行くか。別荘とかで今回も世話になること確定だし。
「ん?ああ、アリョーシャか。今どこかって?野点で一服しているところだ」
ミッド式念話で呼び出す。通常は届かない距離だが、「魔女の眼」を中継器として使うことで可能となっている。
便利なんだけど、入手経緯がバレるととっても危険な予感がしたりする。


その道中、微妙に会いたくない奴に出会ってしまったのは不運としか言うしかあるまい。
「隣の子、猛烈なラブ臭がしてるところからして噂の遠距離恋愛中の彼女?」パル様です。

「初めましてです」「初めましてー」
そのお供の二人はいいのよ。見つけ次第紹介しようと思ってたから。


「良かったわねー、こんな出来た子に惚れられちゃって」
「愛想を尽かされなくて良かったです」
「…うんっ!」
こういう時のパルの勢いは筆舌に尽くしがたい、人の恋路を根掘り葉掘り聞こうとするんだからなあ。
その合間を縫ってゆえっちの本質突いた質問が飛んでくる。
そして何故か決意している本屋ちゃん、ネギとのデートがらみだろな。

とは言え、こちらは対尋問訓練を受けたことがある。
そのお陰でそれなりに逃れれたんだが、それでも幾つか喋ってしまった。
告白はヴィヴィオの方からだとか、色々とあってほとんど連絡が取れなかったこととか。
そんな事の一つ一つに目を輝かせて聞き入る三人。

…女の子って、ほんと、人の恋色話好きねえ。ABCのどこまで進んだかまで訊いてくるし。
バードキスで黙らせてやりましたが。

やっぱりウブなのよねえみんな。本好きだから知識だけはある、所謂耳年増だし。
「…私もなんだけど…」
アナタもウブな本好きでしたね。


本屋ちゃんとネギのデートの成功を祈りつつ別れる。
パルがデートの出歯亀に参加しないかと聞いてきたが、こっちもデートの最中だっての。
一回目の時に参加したから顛末は知ってるしな。神楽坂、冥福を祈るぞ。

そいや、あの時弟子二号にストラグルバインド使ってたが、いつ教えたっけ?
んー、…先々週か、やっぱりアイツは覚えと応用力が高いなあ。
お得意の「風花・武装解除」と組み合わせて、拘束後に脱がすというマニアックな使い方が出来る様になったんだからなあ。

兄貴分としては成長した事による嬉しさ半分、将来変なことに使わないよな?と言う心配半分なのだ。




茶道部が運営する「喫茶 野点」緋毛氈が敷かれた縁台、梅雨の合間の心地よい風の中、
そこで一服しているのだが、全く落ち着かない。
「ほう、これがお前の彼女か」
「どうも初めまして、アリョーシャ君がお世話になっているそうで」
両隣が険悪な空気を出しているからだ。

何故か張り合う様に威圧感を放つ二人、相性悪いのかなあ。
「オ前ノ彼女、ナカナカノタマソウダナ。御主人ノプレッシャーヲ平然ト受ケテルゼ」
まあ、本気出したら強いからね。戦闘種族の末裔だし。

「ほう?その割にはあまり魔力を感じんが?」
「自己リミッター発動させてるんです。本来AAA+を4ランク落としてB+にしてますから」
あのー、何で挑発的な口調と不機嫌な口調なんでしょうか。お二人さん。
「さあな?何故か知らんがコイツを一目見た瞬間からそう言う気分になってな」
「私も同じね。気が合うのかしら、私たち」
…会わせない方が良かったかしら、間にいるのがキツくなってきました。

「男ハツライナ。ソウ言エバ、御主人トキスシタ事ハモウ言ッタノカ?」
チャチャゼローッ!何爆弾発言してやがるんだお前はーっ!!
「へえー、どういう事なのかな?アリョーシャ君?」
「えっとですね、研究の一環でしてね、アーティファクトの入手の為に…」
「あの時はなあスゴかったぞ。舌まで入れてきてなあ」
くくくっと悪い笑みを浮かべる。入れてきたのはお前の方だろ。

「ふうん、私より先にねー」
虹色魔力が立ち上りつつあるヴィヴィオさん、このままでは入院生活を送るハメになります。
「トドメハ俺ガ刺シテヤルカラ心配スルナ」
仕方がありません、止めを刺されるのも嫌なので強硬手段と行きます。

「ねえ、お話しよう…、むぐっ!?」
唇を奪って黙らせる!その上抱きしめて果敢に攻める!
自分の持つその手スキルを最大限に用いての大攻勢だ。



「ん…、んむう…、んん…んはぁ、ふぁ…、んく…、はふぅ…」
ねっとりと粘り気のある音を出しつつ、たっぷり5分以上は続けていただろうか。神楽坂が夕方にされるの以上のを続けていた。
まあ、あっちは一方的。こっちは相互的という違いがあるからね!

「あー、お前ら。続けるのはいいが、ここが外で人目があるところだと言うことを忘れてりゃしないか?」
エヴァが声を掛ける。周りを見てみると人垣が、うん、ハズいね。
止めた途端に、弾かれた様に逃げ出す野次馬の皆さん。
みんな顔真っ赤っか、そらあんだけ濃厚なの見せ続けられりゃなあ。

かく言うヴィヴィオも顔真っ赤っか…てか艶っぽくなってます。
「オ前ノ彼女、スッカリ出来上ガッテルナ。タダノキスダケジャナイダロ、何ヲシタ?」
前戯の時に使う技も混ぜたから…、あ。
しまった。こんな所で使ってどうするんだ、僕。

上気した顔、とろんと蕩けた瞳、唇から漏れ出てくる声は艶がある。
「どう見ても情事直前だな」
全く持ってその通りです。ありがとうございました…、じゃなくて。
「コノママオ持チ帰リシテ、アノ呪符使イミタイニ食ッチマッテモイインジャネエノカ?」
またまた爆弾発言をしてくれやがるチャチャゼロ、聞かれてないよな?聞かれてたら本当に生命の危機だっ!!

…まだ惚けていた。どうやら聞いていなかった様だ。
クリスも察したかの様な点滅をしている。

「で、どうするんだコレ。チャチャゼロの言う様に食ってしまっても何の問題もなさそうな状態だぞ?」
…ホント、どうしましょう? 




どうなるかは誰にも判らない、そんな不確定要素の多い三日間。
その波乱の幕開けであった。







あとがき:予め言っておきます。この作品にはR18なシーンは一切有りません。
有ってもキングクリムゾンさんが全て飛ばしてしまいますので悪しからず。




[4701] 第四十話「あら何ともなや きのふは過ぎて 河豚汁」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2009/12/08 22:51
「目の毒ですねー」「いやはや全くもってねえ。でも…、新婚時代を思い出させるね」
苦笑いをする魔法教諭二人。
アンドレイとヴィヴィオの行いを見ての感想だ。

「止めなくていいんですか?アンドレイ君とその…彼女ですよね?あの子」
「久方ぶりに会えたんだよ?野暮すぎるよ。それに彼女で間違いないよ。ちょっと前にゆーなも呼んで御馳走してくれたんだけどね、その時に写真を見せてもらったんだ。あの子だよ」

当然の話だが、魔法教諭の仕事は告白阻止だけではない。
担任や顧問を務めていればそこでの仕事もするし、学園祭の円満な運営の為にかり出されることもある。
この二人もそうであり、それらの仕事を済ませて阻止指定箇所に向かう途中、計測機器が異様に反応した為に急行した所で出くわしたのだった。


行為が止まり、我に返る野次馬。蜘蛛の子を散らす様に逃げる。
「やれやれやっと終わったのかい。…仕事が増えそうだね」
「ええ、途中か他の所で決断してくれるのなら応援したいぐらい何ですけどね」
散った蜘蛛の子の中には男女連れもいる。告白を考えている間柄も。

さて、そんな関係の人間にフランス映画のキスシーン並みかそれ以上のを生で見せればどうなるか?
自分を投影してしまい、嫌でも意識してしまう物である。
結果、計測機器は危険水域を保ち続ける。石を投げたら要注意生徒に当たる、そんな状況であった。

大半は悶々とした状態で立ち去り、魔法関係者の手を煩わせる。
とは言え、歩いてすぐに告白する勇者も中にはいるのだが。



****



先程まで取り囲んでいた野次馬さんは大半が逃げたが、「私もあんな風にされたいですっ!」とその場で告白する勇者もいる。
耳まで真っ赤にしてまあ、頑張れ女の子。
唾を飲み込む男。お、肩掴んだ。行くのか?行くのか?
…おめでとう。魔法関係者の阻止行動を受けずに済んで良かったね!


と、現実逃避と野次馬根性はここまでにしてと…。さて、現状を見直してみよう。

隣を見てみる。やっぱり変わってないヴィヴィオ、もう少し悪化すれば発情しかねない状態である。
やり過ぎたと自己嫌悪。
逆の方には冷やかしモードのエヴァ、「別荘使っても構わんぞ。まあ、ラブホ代わりに使われるのは初めてだがな」
余計なお気遣い有り難くございません。
足下には「犯ッチマエヨ。ソコマデキテタラ食ッチマッテモ問題ネエゾ。インポナラ別ダケドナ」チャチャゼロ。
うるせぇ、若いんだから毎朝勃つわい。つーか、お前が発端だろが。


まあ、個人的には惚れた子だから、そこまで行ってもいいし、責任も取る気だ。
ただ、ご両親祖父母等々の関係者が恐ろしいのが問題なのだ。

特に男親方面、ユーノ司書長は結構親バカで、士郎さんは孫バカ。
更には恭也さんは親バカにシスコンが拗れたのが合わさって伯父バカ。拗れすぎだろアンタ。

逆に女親方面は応援してくれそうなのだが、これまた怒らせると恐ろしい。
全盛期よりも衰えたとは言えまだまだ強力な高町三佐の砲撃に、ハラオウン執務官の超高速攻撃、八神一佐による本物の広域殲滅魔法とまあ…、生きてられるかなあ。


と、不安感に包まれていると腕が引っ張られた。やっと意識が戻ったらしい。
激怒されておられるかと思い、恐る恐る振り向くと、俯いて耳まで真っ赤にされておられるではありませんか。
更には「いいよ」…って、更に次の段階に行っちゃってもOKと言う事でしょうか?
黙って頷く。

えっと、ベッドの上では紳士じゃなくなるけどいいの?
更に頷く。

先人はこう仰りました。
「据え膳と鰒汁(ふぐじる)を食わぬは男の内ではない」(夏祭浪花鑑より)と。




夜7時の夕飯時。昼営業時の評判のお陰か新規のお客様の割合が多くなっている。
先行販売の50名様の顔は控えてあるし、身内は記名付割引券使うからすぐ判る。

そんな中、
「彼女さん色っぽくなってね?」「そりゃ、半年ぶりに会ったんだからお前…」「恋人同士だもんね」「うん、もげろ」「ふう…」
色々と言われておりますが、一つだけ言わせてもらうと「寿命が75日延びました」ってこと。

まさか、裸Yシャツ(男物、着用済み、と言うかさっきまで着てた)で来るとはなあ、八神一佐の入れ知恵らしい。
いらん知識ばっかり付けてさせてまあ、あの人は…。

うん、今度会ったときに仕返しをしよう。
大ダメージを与えれそうなことを一つ知ってるというか推察出来るからな。



「はやてー、急に肩すぼめてどうした?」
「何や、さっき猛烈な寒気がした様な…」
「風邪かしら?卵酒でも作りましょうか?」
「いや、シャマル、それは止めた方がいい」
「うむ、同意見だ」



****



夜10時、閉店処理が終わり、賄いを食べてから女子3-Aの打ち上げ会場へと向かう。
皆に紹介しなきゃならないからね。

因みに夜の賄いは残った具を使ってのシーフードピラフ、エビカニタコにホタテ入り。
炒めて醤油ベースの和風タレで仕上げる。


スターブックスコーヒー前、ネギに念話で指示を出す。
「ハーイ、皆さん、ここでとある人を紹介しまーす。中には知っている人もいるかも知れませんが、ほとんどの人は初めてと思います」
「初めまして、高町=スクライア・ヴィヴィオです」

今日手伝いに来てくれた面々に図書館探検部三人組やせっちゃんに双子と楓ちゃん等々の知ってる奴は別として、
みんな誰だったけ?と言った顔をする。

だが、「あ、アリョーシャ君の彼女だ」
知ってる人もいる。親子一緒に見せてますからね、写真を。

「え、ゆーなそれホント?」
「うん、おとーさんと一緒に御馳走になったときに見せてもらったよー」

「ハイ御名答、この子は僕の彼女なの」
遅れて出てきて、肩を持つ。自然と身体を寄せてくる。
それを見て大盛り上がりな女子3-A。割と身近な人間の恋色模様を見せ付けられてんだからなあ。
そりゃ盛り上がるわな。


この後、凄まじいまでの質問タイムがあった。
喩えれば、夕方のパルの勢いの常数だからなあ。
疲れるのなんのって、ホント、女の子は恋色話が大好きだ。

質問攻めにされているヴィヴィオ、その輪から抜けだし、スキットルの酒をコーヒーに垂らし、それを飲みながら眺める。

同じようにしていたタカミチがこちらにやってくる。
「学園長からの預かり物。大至急で運ばせたそうだよ」
頼んでいたものを受け取る。三日目に必要な物で、サンプル用に一つ譲渡する様注文しておいた。
ご苦労様と、スキットルを渡す。

今日の中身はアルマニャック、ビターチョコと合わせても良い。
コーヒーの時はダークローストが合う、だからシアトル系コーヒーショップであるここのとは相性がいいのだ。

「相変わらず強いのを飲むね」
酒好きだもん。ワインや日本酒とかの醸造酒も好きだぞ。

男二人飲んでいると、タカミチが訊いてくる。
「予選の時の続きだけどいいかい?」未来の僕がなんか話したんだろう、詳しくは知らんが。
この後ネギと一緒に戻って参加する予定だからなあ。

「本隊が来たとして、僕や愛衣君にネギ君といった君の弟子一同はどうすればいいのかな。罰則とかはないのかい?」
ああ、その事ね。
「ほぼ心配はないと思うぞ?どうやらウチの祖父さんが司令らしいからな」
変える前はそうだった、コレからは知らん。
「まあ、現地協力者扱いして貰えるだろうし、入局の意志がある様に見せかければ悪い様にはされないと思うぞ」
「ならいいんだけどね」
ま、いざとなりゃ咸卦法を見せて教えると言えば取引成立で放免されること間違い無しだけどな。


と、「アリョーシャく~ん、助けてー」
ヴィヴィオの情けない声が聞こえてきた。3-Aの面々の勢いに対処しきれない模様。
「そう言うわけで、助けに行くからこの話はここまで。また明日にでも話をしよう」
「はいはい、大事な彼女だもんね。…大切にするんだよ」
そこそこに切り上げ、人垣の方へと向かう。

…最後、やけに気持ちがこもっていたな。過去に何かあったのだろう。
が、必要もない他人の過去は詮索せず、追求もしない、それが粋ってもんでしょ。



****



何とか救出し、抜け出せた。今からネギと合流する。
「勢いのある子達だったね。ネギ君毎日相手してるなんてスゴいねぇ」
うんうんと頷く、あのバイタリティーは驚嘆に値する。
ウチ(統合士官学校)の生徒と張り合えるんじゃねえの?ってぐらい。

ケンカしたら絶対勝つけどな!こっちゃドンパチの専門家候補よ!!


と、まあ、大人げない話は置いといてだ。
今から戻るんだが…、犬がこっち睨んでる。

犬ってのはそこにいる犬上小太郎の事な。
耳とかが犬っぽいから犬。本人は狼だといっているが狼はイヌ科イヌ属動物で犬と同じだからなあ、対して変わらんぞ。

それはさておき、犬は僕のスタイルが気に入らないらしい。
基本は遠距離からの物量戦で、近接戦では急所攻撃等々何でもあり、そんなやり方が気に入らないらしい。
特に予選のやり口を見て余計に気に入らなくなったらしい。

「男は正面から殴り合ってナンボやろ。兄ちゃんみたいなやり方して何がオモロいねん」
そうか?課程を重要視するか、結果を重要視するかの違いだけであって、結果として勝利を収めるという目的には違いはないと思うぞ?
そして僕は目的の為なら手段を選ばない主義なのさ。

「兄ちゃんの言っとる事も間違ってへんのやけどな。俺は気に入らへんねん」
まあ、そう言う思想の違いで睨まれているのだ。

それに加えて前日に弟子二号に酷い目に遭わされたことでそれに拍車を掛けているのだ。
何でも、投げたはいいが反撃で股間の急所を「コリッ」とされたとか。
無論、悶絶。その時の恨みが師匠である僕にも転嫁されているという訳だ。

まあ、弟子二号も「反撃に繋げるべく手を伸ばしましたら、咄嗟に掴んじゃいまして…」と言っているから故意にしたわけではないぞ。
「そらそうや。あん歳で平気で潰しにきよる女がおったら怖いわ。…まあええ、明日に両方とも負かしたるわ、見とれや兄ちゃん」
と言い切る犬。まあ、結果は知ってるが頑張れ。

まあ、そんな話をした後、時間を巻き戻す。
一日目、午前十一時半へと。



****



まず向かう所がある。世界樹広場近くの鐘楼、そこのヒットマンに会いに行く。
一日目の打ち上げ会場にいなかったからね。

後々敵対するとは言え友人に彼女を紹介するのに何の問題があるか?否と言えよう。
仕込みもするけどな。


「照準器の調子はどうだ?」
後ろから問いかける。
「アリョーシャかい、なかなか快調だよ。もう一人分気配がするんだが、誰だい?紹介してくれないか」
真名はボルトを操作しながら答える。視線は標的方向を向いたまま。

流石だねえ、あの状態で気配を感じ取るとは。
風・湿度目標の動き等々、それらの情報を敏感に感じ取れる射手はいい射手の証拠だ。
長距離狙撃の基本を教えてくれたトウゴウさんが言ってた。

そいや、あの人何歳なんだろ?
祖父さんの若い頃の写真に一緒に写ってたのを見たこと有るけど、その頃から見た目が全く変わってないし。
ま、長命不老種族の出身なんだろ。


「それが噂の彼女かい、話は聞いてるよ。君の彼氏とは気の合う仕事仲間だよ」
「初めまして、狙撃手さん」

小康状態を利用してメンテナンス兼細工中。
こちらでデバッグしてても、実際使用していると気付かなかったのや見落としていたのが出てくるものです。
兵器ってのはそんな声を聞き、問題を潰していって熟成させる物なのです。
そう言う訳で調整中。

「…面倒だから白旗を揚げるんだぞ?こんな魔法使いは初めてだったよ」
「面倒くさがり屋の所があるアリョーシャ君らしいね。そのくせ面倒見がいいんだもん、矛盾してるよね」
「保証期間付で初回無料だからね。どこの電機メーカーかいと言いたくなるよ」
戦場経験がある者同士なのか、そこそこ気が合っている様で何よりだ。
エヴァの時見たくなるのはまっぴらゴメンだからなあ。


と、告白生徒以外の阻止目標が出てきた。阻止するのは告白だけではなかったりする。

「何よっ!あなたがそんな人だったなんて思わなかったわ!!」「いや、俺はそんなつもりじゃないんだ。ちょ、待ってくれよ」
怒る女と、言い訳をしようとするが聞いて貰えない男。
「しつこいわねっ、いいわ。別れ…」
追いすがる男にとうとう堪忍袋の緒が切れた女、カップルにとっての禁句を持ち出そうとした次の瞬間、
「なに言っ…、へぶうっ!?」
いい感じの金属音が男の頭から響いた。
「え…?!何で金だらいが??!」

何が何だかさっぱり解らない女、解るのは金だらいが男に直撃したという事だけ。
呆然としている女の心境を勝手に意訳するとこんなもんだろう。


あ…ありのまま、今、起こったことを話すわ!「別れ話を切り出そうとしたら彼の頭に金だらいが直撃した」
な…何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起こったのか分からなかった…。

頭がどうにかなりそうだった…

ドリフタ○ズだとかいかり○長介だとか、そんなチャチなものじゃ断じてない。
もっと恐ろしい物の片鱗を味わったわ…。


因みに、金だらいを落としたのは僕で、別れ話の阻止が目的だったりする。
訳のわからない事、○時だよ全員集合の長さん的な事が起こればあんな感じのパニック状態になってそれどころじゃなくなるだろ?多分




そう、別れ話の阻止も仕事の範疇に入る。
心に干渉する作用を起こすこのポイント、ここで告白すれば120%成就する。
と言う事は逆もまた然り、別れ話をここですれば120%別れられるという事だ。

個人的にはそのまま別れさせりゃいいじゃん、本当に好き合ってるのなら焼けぼっくいに何とやらで縒り戻すだろうし。
と思っているが、悲しいことかな上の指示には従わねばならないのが下っ端の性。
結果、告白阻止と平行して行っているのだ。

「それはいいとして、何で金だらいなんだ?」
いや、「普通落ちてくる訳がない物が落ちてくる事による混乱」が狙いであって、物は何でもいいのよ。
ただ、商店街の金物屋でいい感じの金だらいが売ってたから使ってるだけ。

「そこで金だらいを選ぶ感性が変に思われる原因だと思うよ」
いいじゃん、周りの人もコントの撮影かと勘違いしてくれるし。



****



「その包み何?」
途中で寄った洋菓子店のシュークリームを囓りながら「美味しいけど、お祖母ちゃんの方が上ね」次の目的地へと向かう。
「特注品」この前の一件の時の報酬として特注しておいた一品だ。
あそこの店の店主はなかなか腕がいいので特注したのだ。

それを持って向かうは学園一周イベント宣伝ブース。さんぽ部の面々が詰めている所だ。
そこにいる忍者への贈り物なのだ。


「お名前はかねがねお聞きしているでござる。早速に戴いてみてよろしいか?」
ちょっとだけ抜けさせてもらい、近くのオープンカフェでお茶にする。

包みを開き、適当な厚みに切り分ける。
「ほう、なかなか芳醇で良い香りが。味の方は…、これはまた、贅沢な気分にさせてくれるでござるなあ」
「うーん、ブランデーのいい香りが染み込んでるよー。生地もすっごくしっとりしてて美味しいね」
そう、修学旅行の時のお礼に用意したのはブランデーケーキ。イケる口だというのを知っていてのチョイスだ。

使用したブランデーはカミュ、それもエクストラエレガンスを贅沢に一割使用。
それを一ヶ月ほど熟成させた一品だ。
店主曰く、「こんな贅沢な注文は初めてだ」とのこと。
そりゃそうだ、僕も初めてだ。参考にした大阪の某ホテルのだってXOエレガンスだもの。

「甘みがくどくない上に後味が良いでござるな。和三盆を使ってるのござるか?」
お、解ってもらえるとうれしいねえ、そうなのよ。
「どうせ贅沢にするのなら砂糖もいい物を使いましょう」と唆されたので使ったのよ。

因みに卵は近所で平飼い養鶏を営んでいる加藤さんちの烏骨鶏、それも産みたて。
牛乳は農学部畜産課の恵子(ジャージー種・雌)のお乳を朝一で搾って65℃30分の低温殺菌して使用。
バターは同じ生乳を使う一時間前に精製して使用。

とまあ、徹底的に贅沢にしてみました。
「いやはや、そこまでした一品を食べられるとは。"口福"と言う字はこの様な時に用いるのでござるなあ」



****



さて、この挨拶回り。今から向かうのが最後にして最大の相手。
そう、三日目に大事を起こす超鈴音の所へと向かう。

この時間は肉まん売り回ってた。一回目の時に「遠距離恋愛で一人寂しく巡ている人に一個進呈ネ」と貰ったので確かだ。
何かしょっぱかったなあ、あの時の肉まん。

「さて、今から会うのが今次事件の首謀者。でも、泳がせる予定だから手出しはダメだよ」
念話で念を押しておく。
「うん、わかってる。それに、これだけ大規模な計画だもん。首謀者がいなくなっても計画の重みで勝手に動き出すのは火を見るより明ら

かだしね」
「分かればよろしい。それに、個人としてみれば結構いい奴だから、割り切って接してやってね」
悪い奴ではないのよ。マキャベリスト的行動に走って、それが大いに迷惑をかけただけで。


「おや、アリョーシャサン、昼時だと言うのに店の方は大丈夫なのカ?」
自分も商売人なので、店の方を考える超。
「ちゃんと切り盛りしてるぞ。ここにいられるのはネギに渡したアレのお陰だ。感謝するぞ」
「ああ、ネギ坊主とアリョーシャサンは兄弟分だたネ。兄貴と一緒に使てもおかしくないネ」

店の事やらあれやこれや織り交ぜた世間話をする。
確かこの最中ににあのセリフが出てくるはずだが…。

「そいえばアリョーシャサン、一人で学祭を巡ているのか?」
普通はとっても聞きづらいことを訊いて来やがる火星人。後で泣かす。
「遠距離恋愛中、相手はこっちに来られません」
「それはツラい事ネ。仕方が無い、遠距離恋愛で…」
言おうとする超を「筈でした」遮って止める。

「筈でした?」
「紹介しよう。僕の彼女だ」
「初めまして、アリョーシャ君がお世話になったそうで…」
セリフを変えることに成功したのでした。


「いやー、実に良かたネ。アリョーシャサンは当然として、彼女サンも愛しの彼に久方ぶりに会えて良かたナー」
この時点では敵対もしていないし、お互いの正体も知らないので素直に祝福してくれる。
素直に祝福されてヴィヴィオも嬉そうだ。

「それではお祝い代わりにアリョーシャサンに肉まん進呈ネ」
二個渡された。ヴィヴィオの分は?
「何言てるネ。彼女サンは既に2つ持てるではナイか…、ああ失礼、自前のだたか」
何オヤジギャグを言っているんだお前は。と、思わず裏拳でツッコミを入れていた。
ハリセンで頭を叩いた方が良かったと後悔した。持ってないけど。

「中国式冗談の一種ヨ、仲良く食べて欲しいネ。まあ、アリョーシャサンはこれよりも彼女サンのを食べたいやも知れぬが」
まだ言うかお前。まあ、もう食べた後だがな!

「ほう、既に味見は済ませていると。最近の若い者は進んでるネ。…美味しかたか?」
「ええ、大変美味しゅうございました」
何故か猥談を始める我々。

それのネタにされた人はと言うと、「一体何言ってるのよっー!」
当然の事ながら怒っていました。



****



全体的に和やかな空気、それが打ち砕かれる時は静かに着実に近づいてくる。
その事を知りながらもこの空気を楽しむ3人であった。











あとがき:脳内であれやこれやが化学反応を起こしたらこんな文章が…。
一応全年齢で問題ありませんよね?

作中に出てくる某ホテルのブランデーケーキは高い(¥5250)ですが美味しいので懐に余裕がありましたら注文することをお勧めします。



[4701] 第四十一話「戦線拡大」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2010/01/02 15:44
金曜日の京都、関西呪術協会総本山。
「長、電報です。祝電や訃報ではありません」
秘書に当たる人間が一通の電報を手渡す。

「今時それ以外での電報とは珍しいですね。差出人はと…、おや?」
縁深い名前を見つけ、怪訝な表情を浮かべる。
「ええ、私も同感です。東の長は何故電報で伝える事にしたのでしょうか?しかも麻帆良からではなく、東村山から」
「お義父さんは時々突拍子もないことをしますからね。どれどれ、何と言ってるのか…」

「長?」
中身を読んだ次の瞬間、目を見開いた。
当然の事ながら中身を知らない秘書は疑問に思う。一体何が書いてあるのだ?と。

そうして暫しの沈黙の後、口を開く。
「明後日の朝までに帰還出来る者に召喚命令を」



****



僕とヴィヴィオであちこち巡る。

途中、
「コンドラチェンコだけど、支店長居る?アポは取ってあるんだけど」
「これはこれはコンドラチェンコ様。毎度、当行での取引ありがとうございます。ご希望の金額をご用意しております。ささ、こちらへお越しくださいませ」
「…いくら稼いでたの?」
銀行に寄ってナニを詰め込んだジュラルミンケースを貰ったり、


「初めまして、私、女子中等部3-Aで委員長をしております雪広あやかと申します。コンドラチェンコさんには委員会等で大変お世話になっておりまして」
「いえいえ、こちらこそ。ウチのアリョーシャ君がお世話になっておりまして」
ネギ、犬、雪広さんの珍しい取り合わせと同行したり、

「へー、姉ちゃん、かなりできるな。兄ちゃんよりも強いんとちゃうか?」
うん、普通にやり合えば間違いなく負けるぞ。
「うむ、アリョーシャとは違う方向とは言え、かなり出来るナ。後で勝負するネ」
古ちゃんも認めてるし。


「女の子に恥を掻かすなっ!この阿呆共が!!」
「うう、ゴメンなさい…」
「痛ったー。兄ちゃん本気でどついたやろ」
千雨ちゃんに恥を掻かせたネギと犬にげんこつを食らわせたりしていた。
魔力による硬化処理した奴でな。だって、こいつら石頭だもん。

「やんちゃしすぎた弟を叱ってるお兄ちゃんだね」
「本当に、…ちょっと羨ましいですわね」
「まき絵さんと同意見です。…始終見張ってくれりゃ楽でいいんだがな。ま、兄貴は兄貴の生活があるからそうは行かねえけどな」


そうして時間は午後6時前。現在龍宮神社の前にいる。
武道会予選に参加する為だ。

「初めまして、弟子二号こと佐倉愛衣です」
「佐倉の主人の高音・D・グッドマンと申します」
…お仕置き目的だと知ってはいても何でだろうと思うよな。この二人。
こう言うのに参加しなさそうなタイプだし。

「いえ、私はネギ君が細かい事を教えてくれて、実践してくれましたから解っているんですが、お姉様がお仕置きだって…」
まあ、高音の姉ちゃんの性格を考えると納得の話だけどなあ。


まあそれはさておき、ホントは参加しないで各種工作に奔走した方がいいのだろう。
けど、一回目に暇だったから参加しちゃったからなあ。
参加しなかったりしたら、これからの展開予測が付けにくくなってしまうと予測されるのでやむを得ないのだ。
まあ良かろう、これを逆手にとって逆工作をしてやる。

それに工作ならカシオペアで戻って行えばいいしな。
自分の作った代物で自分が苦しめられる事になる皮肉をたっぷりと味わうが良い、火星人よ。

で、持ち主の弟子三号、落ち込むで無い。
「だってアリョーシャ、多少の怪我なら直してやるとか言って遠慮無く技掛けて来るもん。治癒魔法が使えるからってあれはやりすぎだよー」
「弟相手にえげつないなー。お前の兄ちゃん」



****



「えー、こちらG組は惨劇の体を成しています。ダウンした選手の半分以上が苦しげにどこかを抑えています」
何か失礼なことを言っているパパラッチ、こっちゃ何時ものやり方をしているだけだっての。
お馴染みの各種急所(金的とか目とか喉笛とか)攻撃は当然の事ながら、
手首を捻ったまま投げて極めてみたり、肘と膝でレバーをサンドイッチにしたり、倒れた所を踏みつけたりと、武道家の皆さんはほとんど使わない技の数々を使っているだけですよ?

「「何が悪いの?」と言わんばかりの表情をする惨劇の主、ゴールデンクラッシャーこと麻帆中三年アンドレイ・コンドラチェンコ選手。彼の技は元スペツナズである祖父と父、その部下達から教わったとの事。特殊部隊由来の感性と技が炸裂しておりますーッ!!頼むから死人出さないでねー!!」
出しません出しません、精々検査入院程度に留めてます。



「軍隊由来か、どおりでえげつない訳やわ。躊躇無く止め刺してるやん」
「同意するでござるよ。まあ、拙者も似たようなものでござるがな。にしても相変わらず見事な後の先の取り方でござるな。ほれ、蹴りの流し方とか」
不機嫌な犬と平然としているくのいち、似た様な目的で作られた技術は似てくる物なのだ。これを収斂進化という。
くのいちは着目すべき点を犬に教える。
「上段回しの足を掴んで回して転かせとんのか。なかなかやんなあ…て、止めに鳩尾踏んづけとる。…やっぱ気に入らんわ。あないな戦い方のどこがオモロいねん」
着目して、感心はしたが、やっぱりやり口が気に入らない犬。

「効率重視だからね。少ない体力で確実に倒す事を重要視した戦闘術なんだって」
不機嫌っぷりを見てフォローに入る彼女、戦闘種族の末裔で戦闘一族の一員でなのでやっぱり平然としている。

「教えてくれておおきに。…ビビ姉ちゃんは出えへんのか?アン兄ちゃんよりも強いんやろ?」
「私も出ようかなーって思ってたんだけど、アリョーシャ君が出るなって言うから、やめたの。詳しい理由は言えないけどね」
「はあ?アン兄ちゃんに言われたから止めるんか?気にしやんと出たらええやんか」
率直な疑問をぶつける。戦闘狂の気がある犬には理解出来なかったのだ。

「だって、好きな人のお願いだもん。聞かなきゃダメでしょ。小太郎君も好きな人が出来たら解るよ」
戦う機会よりも恋愛を重視する事を。
「…解らへんし、余計に気に入らんわー」



とまあ、順調に片付けていって残るは片手で数えられるほど。
僕に得物のホウキ使ってる弟子二号、そこそこ出来る後ろ髪を三つ編みにしたツンツン頭、後モブキャラと言っていいその他。
モブは他の面々の末路を見て戦意を喪失している模様。
圧倒的な戦力差を見せ付けて戦意喪失させるのは軍事的示威の基本だからね!

対照的に戦意を失っていないツンツン頭こと中村達也さん、と言うか憤ってます。
前回の記憶によると気を使った遠距離攻撃手段である「遠当て」の使い手。

…何気にすげえなこの世界の住民。あの歳でそんな技が使えるとは。
後々スカウトするか?AMF環境下戦闘要員として。


まあ、それは置いといてだ。モブは弟子二号に片付けさせよう。
男に容赦もなく慈悲もなく叩きのめされるよりも可愛い女の子にやられる方がまだ良かろう。
せめてもの慈悲だ。



で、中村さんは僕が始末することが決まっています。一回目の時にやっつけたからです。
超に自分の書いたシナリオどおりに事が進んでいると錯覚させる為に必要な生け贄となって貰います。アーメン。



「許せねえな。いくら君の基礎が軍隊式格闘技であっても、これは許せねえ」
周りのダウンした方々を指さして怒る中村さん。人を指さしちゃいけません。
それにだ、こちらの技は昔から白兵戦を重視するお国柄と、生死を問わず無力化しなきゃ反撃で殺されるやも知れない環境で鍛えられた戦闘術だ。
「戦場というルールもなく命を遣り取りする環境で作られたのと、勝負というそれなりのルールと命は奪わない環境で育まれたのとでは齟齬が出てもしょうがないでしょう?」

「ぐっ…、それでもだ。武道家として君の戦い方は許せねえと言ってんだ」
「だから言ってるでしょう。こっちは戦争屋の遣り方、そっちは武道家の遣り方、齟齬が出て当然と思いますよ?」
まあ、道を究めるべく努力している方々については尊敬もするし、敬意も払いますよ。そこには中村さんも含まれてます。

「とは言え、それと勝負は別なので勝たせて貰います。正しいのは勝った方と言うことでいいじゃないですか」
勝てば官軍負ければ賊軍、歴史は勝者が作ってきたものですよ。
そうして敗者は潔く勝者に道を譲るのが一番いいのです。某βやジオン○残党の皆さんみたいにダラダラと残っているのはダメと僕は思ってます。
カラス先生も仰っています、「敗者の分際で勝者の行く手を阻むな」と。

「へっ、確かにそっちの方が解りやすいな。勝たせてもらうぜ!」
そうして構える中村さん。まあ、ご自慢の遠当ては普通の世界に生きている人には有効でしょうが、飛び道具が当然な魔導師には効果が薄いです。
そして何より、腕の軌道から簡単に弾道予測が出来ますから。あなたの烈空掌とやらは。ご愁傷様。


まあ、それ以前に耐衝撃性能がパネエバリアジャケット着てる我々にはよっぽどの一撃を当てないとダメージすら与えられないがな!
ネギは卑怯だとか言って着てないけど。

「烈空掌!」
無駄な一発が放たれる。それを見て予測される弾道からほんの少しずれた位置を駆ける。
距離をゼロにし、力を抜き柔らかくした腕を肩から振り回す。足腰と胸の捻りを使い、鞭のようにしならせた拳を叩き込む。
遠心力による勢いが付いた拳は凶器と化す。
それがこめかみに当たればどうなるかは自明の理、三半規管と脳が揺さぶられ、軽い脳震盪と平衡感覚の狂いが生じる。
駄目押しに脇腹に回し蹴り。その結果、地面にキスをする。

中村さんは近接戦が弱いのだ、楓ちゃんも同じ意見だ。
「気の練りはなかなかでござるが、それに軸足を置きすぎているでござるよ」
中村さんをノックアウトした頃、弟子二号もモブを片付け終わる。
一人無念そうな顔しているが。

まあ、頭の位置からして見えたのがパンツじゃなくて短パンだったのが無念だったのだろう。多分。



****



予選終了後、組み合わせ発表の合間。
それを利用して弟子一号にヴィヴィオを紹介する。
「はじめまして、不肖の弟子一号です。僕の長年の夢を叶えてくれた君の彼氏には感謝と信頼を寄せているよ」
素直な感謝と祝福を同時にしてくれるのは嬉しい物である。



因みに、長年の夢とは「呪文を詠唱して魔法を使う事」である。
「自己魔力の言語による触媒への変換不全体質」のタカミチは詠唱して使う魔法が使えない。
根性で覚えた無詠唱魔法が多少使えるそうだが、詠唱魔法が出来ないと「偉大なる魔法使い」とは認められないそうな。
全く持って狭小な連中だなあ、実より名を優先するとは。
名誉なんちゃらとか付けて認めてやれよ、それ以上の働きしてんだから。

で、それを聞いてそれっぽく見せかける方法を考案。研究の応用なのだ。
解析すればミッド式魔法だと解るが、素人目にはこっちの魔法にしか見えないのだ。

まあ、こっちの魔法使い達はミッド式を知らないのが当たり前だからな。
解析しても余計に解らなくなり、思考停止を起こす奴が大半になるだろうて。
…停止させずに解析と研究を続ける奴が一番恐ろしいのだがな。


それを使って狭小な連中をぎゃふんと言わせる事に成功したそうな。良かった良かった。
まあ、それが切っ掛けでちょっとした騒動になったそうだが、直接関わってないので知らん。
「あの後は大変だったよ。お陰で魔法世界への出張が大幅に伸びちゃってね。この前の騒動に加勢出来なかったのが悔しいよ」
この前の悪魔騒動の時と重なっちゃったんだよな。いてりゃあもっと楽になったのに…。
自業自得ってこう言うのを言うのね。



と、矢張り「でね、学園長からも聞いたけど、管理局の先遣隊が来てるんだって?彼女もその一員と、そして間もなく本隊がやってくると」
裏事情を知っているので其処を突いてくる。
「ん、本部兼活動拠点の次元航行艦に乗って本隊到着するのが大凡一週間後。その後に関係機関、まあここがそうなるだろうな、との接触等を行って専門家による各種調査を始める予定だ。先遣隊は見て貰う対象、つまりは差異を見つけ出すのが仕事ね」
半分事実で半分嘘、次元航行艦を拠点にするのは先遣要員(ヴィヴィオ)から聞いた話だから本当だが、先遣隊はまだ来てない。

「艦で来るって、一体どこに停泊するつもりなんだろ?ウチの敷地じゃないだろうね?」
「それはない、それはない。静止軌道上に光学迷彩施して留まるみたい」
まあ、留まると同時に様々な軌道に各種衛星をばらまくそうな。

斯くして時空管理局の監視下に置かれるこの世界であった。
無論関係者以外には極秘だがな!

「あと、魔法世界の探索と観測も行うみたい」
見つけ次第同じ様な監視体制を引く模様。
本格的な調査はもうちょっと後、こことの折衝を終えて基本的な情報貰ってからにするんだろうな。
祖父さんとその腹心の部下達ならそうするだろう。

「まあ、聞いた話から推察出来る君たちの技術レベルなら簡単に見つかるだろうね。それでね、話は変わるんだけど僕や佐倉君やネギ君といった君の弟子一同はどうなるのかな?」
なるほど、これがあの時に繋がるのね。なので話せません。

「皆様、お疲れ様です」
丁度、組み合わせが発表される。これを利用して誤魔化そう。




****



あの後、何回目のかは知らんが、ネギを捕まえて戻る。
時間は朝。丁度僕とヴィヴィオが学園長の協力を取り付け終わった頃だ。
懐を確認して目的地へと向かう。火星人退治の準備を調える為に。


まずはプランと各種図面に工期日程の用意。ミーシャ、出来てるな?
『はい、ここ数日を利用しまして設計と計算と作図を行いました。出来は完璧と自負しております』
チェックしてみると…、流石だミーシャ。これなら次へ進める。


と言う訳で、次は資材調達。
「ありがとうございます、○○電機埼玉支社でございます。毎度お世話になっております。ハイ、かしこまりました。担当の者と変わりますので暫くお待ちください」
「はい、××鉄工です。急ぎの仕事ですか?納期は明日の夜まで、その代わり即金で2倍ですか…。図面を送っていただきまして、現場と交渉した上で返答させていただくという事でよろしいでしょうか?はい、それでは…」
あちこちに朝一の電話、迷惑掛けます。


そのまた次に協力者集めに大学工学部のとある研究室へ。
そこにいる先生方が交渉相手。
「調べはついているんですよ。あなた方があの超鈴音を心底嫌っている事を」
「…天才って奴はね、秀才を惨めに見せてしまう存在なんですよ。人が少しずつ積み重ねてきた物の価値を一瞬で低くしてくれる。だから嫌いなんですよ。…よろしい、貴方に協力しましょう。同じように思っている私の友人達も快く協力してくれる事でしょう」
「魔法について知っている方々ばかりでしょうね?」
「ええ、私たちが先鞭を付けたのですから。当然でしょう」
この様にして「魔法の事を知っていて、超が嫌い」な技術者を集めていく。
天才は嫌われる物なのだ。


そのまたまた次、部活棟。
「これは本当でしょうか?」
「ええ、本当です。見ての通り学園長の承認を得て勧めている事です」
とある書類を見せての交渉という名の恐喝を進める。
意訳すると「この人の言う事に協力しなさい。しないと部費カットするよ」と書いてある書類だ。
本人のサインと判子が押してあるが、以前ミーシャにコピーさせた奴だったりする。
とは言え、こちらの行動に関しての全面協力は得ているので、問い合わせても承認せざるを得ないのだ。

無論只働きじゃないぞ。
「このイベントに協力していただけるのなら謝礼としてこれを進呈いたします」
3~400の福沢さんを差し出す。これでたいていの人はコロリと行くものです。
「…よろしい、協力しましょう。イベントへの全面協力と守秘義務を守ればいいのですね?」
「ええ、三日目の昼まで守れなかった場合はペナルティとして部費の90%カットと謝礼の返納義務がありますのでご注意を。あ、サインはここに」
こうして実働部隊を拡充していくのだ。




斯くして戦いの準備は進む。
徐々に拡大されいく戦線はどこに落ち着くのか?
それは誰にも解らない。










あとがき:年末は忙しいです。不景気でも忙しいです。
そう言う訳で年末年始休暇を使っての更新です。

で、前回説明を忘れてしまったので、説明兼用の短編を1つ


短編:とある狙撃手への暗殺依頼


第34管理世界停戦監視団司令執務室、そこには三人の男が居る。
一人は部屋の主、ユーリー・コンドラチェンコ時空管理局少将。
もう一人はその副官、ユーゴ・T・キムラ一等陸尉。
最後の一人、途轍もなく冷たくカミソリのような目を持つ男、背中を見せないように部屋の壁にもたれかかっている。

「標的はこの男、拝石教過激派の中でも主導的役目を果たしている男だ。中道派や穏健派はこちらとの交渉に応じる意志を見せてはいる。此奴は其奴らを狙おうとしている。だから排除する必要がある訳だ」
司令の目配せに応じ、副官がトランクを机に置き、開く。
「現金で20万、洗浄は済ましてあります」

それを見て男が口を開く。
「…この部隊は非合法作戦要員を何人も抱えているはずだが?」
苦笑いをし、質問に答える。
「流石だな。何時もは其奴らや偶々当該地域への偵察任務を命じた部下をそう言う任務を割り当てているんだが、今は"解っていない"査察官が来てるのと、別件に投入している関係で動かせないのでな。お前に依頼した訳だ。おい」
この停戦監視団は関係者の拉致や暗殺と言った非正規手段をも使う。
そうでもしないと抑えきれない状況だったのだ。事実、前任者は多数の殉職者を出し、更迭されている。

だからこそ、管理局上層部は(管理局から見て)汚れ仕事を平然とこなせるコンドラチェンコを司令として着任させたのだ。
質量兵器しかない世界の軍人で特殊戦要員であった本人は何とも思ってはいないが。価値観の相違という奴だ。
とは言え、"解っていない"査察官達の価値観からすれば許されない。上層部や世論に訴える可能性が高い。

自分のベストにシミを付けられる事に関しては何とも思わない。
が、部下にシミを付けられることと、自分たちの行動範囲を妨げられる事だけは防ぎたい。
よって、彼に依頼する事を決めた。


キムラ一尉に声を掛け、遂行に必要な物を並べさせる。
「元東方辺境領と周辺地域での通行許可証と司令部発行の身分証明書です。地元部族長との折衝は終えております」
「いいだろう…、やってみよう…」
依頼を承諾し、トランクとその他を取る。

と、「もう一つ頼みがある。此奴を同行させてくれ」呼び鈴を押し、外に待機させていた人間を呼び出す。
「アンドレイ・コンドラチェンコ嘱託魔導師、入ります」
入室してきたのは当時嘱託魔導師であったアンドレイ。
「これは…?」
冷徹な彼も流石に尋ねる。魔導師とは言えまだまだ子供だからだ。

「俺の孫だ。一通りの事は叩き込んである。汚れ仕事にも何度か参加させている。なに、邪魔に思ったのならこのまま置いていってくれてもいい」
「何故同行させる…?」
自分の孫を危険な場所に投入させる意図を問う。
「なに、闇を見せておく為と、お前の仕事っぷりを見せる為だ。決して戦ってはいけない相手への畏れを覚えさせたいからな」

それを聞き、暫しの沈黙の後、
「わかった…、付いてこい…」
執務室から立ち去る。音もなく。



という感じです。
基本はこの道中に教えて貰ったのです。








[4701] 第四十二話「千客万来」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2010/02/17 22:01
別荘にて爛れた状態で迎えた二日目。

そのお昼時、武道会は三回戦で棄権したので店にいる。
一回目の時も三回戦で終えたので全く問題はない。どうせあれこれしに戻るし。


「店の方を優先します。文句のある奴は食いに来い。味に不満があるという奴だけ相手してやろう」と、
啖呵切り兼宣伝を言ったのが功を奏して繁盛している。
言ったのはパパラッチだがな。
ただ、優勝賞金が少し惜しかったりもする。出費嵩んでるからなあ。

「くっ…、美味いから不満が言えん…」
で、乗せられてやってきたお客様と言うか中村さん、毎度あり。



さて、繁盛していると色んな人がお客様として来店される。
一回目の時は忙しさで細かく見れなかったが、二回目となると細かい所まで見れるものだ。映画と同じだな。
妙な行動を取られるお客様も居れば、店側への様々なご意見を仰って頂けるお客様も居る。
改善点の発見に役に立つので拝聴しております。

まあ、中にはいちゃもんつけて優越感に浸りたいだけのだけのクレーマーの方も居られますが、その様な方は特別料金と特別サービスを持って対応させていただいております。
内容は言えませんが。

これを受けた皆様は素直に帰っていただいております。
目が虚ろになっていたり、何かブツブツ呟きながらだけど。


そして頭を抱えたくなるような、色んな意味で、客も居る。
つーか、全員五月蝿い。つべこべ言わずに静かに食え。


例えば、
「ブラボー!このコク深く熟成されたソースと具の旨味が合わさることで調和を生んで…」解説しながら叫んでる爺さんとか。
何だよ、あの「すばらしいぞう!」とか絶対言いそうな爺さんは。
十中八九名字は須原に違いない。
だって、一緒のテーブルにいるお孫さんとおぼしき女の子が「椎造おじいちゃん」って言ってたもん、間違いない。

でだ、ブラボーな須原さんが居ると言う事は味○皇様な村田さんもいると言う事。
美味い物を食べると「うー・まー・いー・ぞぉぉぉぉっつ!!」とか叫びながら過剰の極み的リアクションを取るあの人、
オ○ラバトラー宜しくハイパー化したり口からビームを放ったりするあのお方だ。

可能性は低いがもしも来た時を想像してみる。

何故か緑色に光るウチのカレー、んな色に光りそうな物質は一切入っておりませんし、入れた覚えもありません。
食した後に何故か電撃が走り、何時ものBGMが流れ始める。
一呼吸置いてハイパー化。湖の上走ったり、世界樹を引っこ抜いたりのとってもカオスな今川監督的演出で大暴れ。
他のお客様方も何故か一緒に大暴れ。
それを呆れ果てた顔して見てる僕、セイフティとファイアリングロックを解除してるミーシャ。

…頼むから来るなと我らの父に祈っておこう。来ねえだろうけどな、つーか来るな。



その次、
「牛肉や鶏の旨味に野菜や果物の甘みが溶け込んでいるこのソース、少し辛めだがミディアムレアに焼いた牛肉の肉汁と合わさる事で丁度いい塩梅になる。そこまで考えて作ってあるんだ!」
ビーフカレーを注文した万年同じ格好をしているグータラ社員が誉め、
「イカ、タコ、エビ、スズキ、アナゴ、ホタテ、六種類も入ってるわ。きちんと下揚げや炒めてから合わせてあるからそれぞれの味が逃げないでいるのよ!」
シーフードカレーを注文した栗毛の奥さんも誉める。

とっても見覚えのある夫婦である。幼なじみの山岡のお祖父さんとお祖母さんだ。
時々孫に会いに来てて、その孫の幼馴染みだから何度も会ったり、御馳走になったことがある。
半端なく美味いんだよな、師匠の一人の山岡のお父さんも腕をふるうからもう…。

因みに山岡のお父さんの仕事は宇宙開発事業団嘉手納宇宙港福利厚生部調理課主任。
主な仕事は施設内食堂のメニュー開発。
それと各種VIP、目的がよく解らない視察に来る金バッジの先生方やNASAにESA(欧州宇宙機関)のお偉方等々への料理も担当。

で、その両親で東西○聞の「究極○メニュー」担当が何故ここに来る。
学祭で学生が作る、悪く言えば素人料理だぞ?

味やサービスのレベルはプロ級だと思っているが。

「すごいですお!委員長殿のカレーが究○のメニューの担当者に評価されてるですお!」
クラスの連中は素直に喜んでいるが、僕は素直に喜べないんだよなあ。
小さい頃から知っているので、そんな人じゃなくて素直に誉めてくれているのは解るんだけどね。

世界の(別世界だが)汚い所を一杯見てて捻くれてる関係上、どうしてもねえ。
直したくても直らない所です。



そのまた次、
「何よこれぇ。模擬店のカレーって聞いてたから期待してなかったけどぉ、すっごく美味しいじゃないの!!」
銀髪で黒いお姉さんが予想外な味に驚き、
「レベルがとっても高い味なのかしら。スプーンが止まらないのかしら」
緑の様な灰色の様な…、間を取って利休鼠にしておこう、な髪色でオレンジ色のお嬢さんは食べ続ける。

「味は無論のこと、内装もサービスも模擬店とは思えないのだわ」
金髪で赤い、鎌とハンマー持たせりゃ完璧だな、ってぐらい赤いお嬢さんは店を誉め、
「同意見だね。皿はボーンチャイナで、スプーンやソースポットは洋銀だよ」
同意した茶のショートカットの子は皿やカトラリーに着目する。全般的に金掛けてますから。

「うにゅ~、Scrumptious!!」
そして、楽しく美味しく笑顔で食べてくれている小っちゃい金髪ピンクの子。ウチの妹の一人と同じぐらいの年頃かな?
そんなに幸せそうに食べて貰えると料理人冥利に尽きます。

そんな面子のお人形さんみたいな団体さん、全員フリル多めのロリータファッションが特徴。
おいそこのお前ら、一番小さい子を何妙な目で見てんだ。このロリコンどもめ。

どうやらウチの白饅頭とその相方の身内らしく、
「こんな美味しいのが白饅頭のオゴリだと思うと余計に美味しく感じるですぅ」
茶のロール付きロングヘアの子、ショートカットの子の姉妹だろう、両方ともオッドアイで、目の色が左右の違いがあれど同じだし。と、
「…誰もオゴるなんて言ってないお。割引するだけだお…」
こんな会話を交わしていたりする。
心配するな、ちゃんとお前ら二人の所から天引きしておくから。

余談だが、ウチの売り上げは均等に分けることになっている。
とは言え、諸経費を引いた純利益をだが。
で、この支払いはこのコンビの取り分から天引きする。
依って、利益が出せなかった場合はコイツらの純損となる可能性もあるのだ。

「委員長殿っ!それは酷いだろぉ!!」
男なら見栄を張れる位の甲斐性を持ちなさい。常時やれとは言わんが。
「そうよぉ、男ならそれ位やりなさい。流石は委員長さん、解ってるわねぇ」
「まったく、どこぞの白饅頭と違って委員長さんは大人ですぅ。爪の垢でも飲んでちったあ見習うですよ」
「レディに恥を掻かさないのが紳士なのかしら。と言う訳で御馳走さまかしら」
そんなこと言いつつも、「お代わりなのー」「もう一杯頂くのだわ」再度注文する皆様方。
ウチのカレー、高いよ?

「取り分が減っていくお…」「悲しいだろ…」男というものはつらいものなんだよ、解ったか?
「何寅さんみたいに締めようとしてるのよ」女にゃあ解らねえもんだよ。…てかヴィヴィオ、「男はつらいよ」見たことあるのね。


「…流石に僕は自分で払うよ」




そのまたまた次、
「ほれ、遠慮しないで食ってみろよ。前に偶々食ってな、美味いんだよコレが」
「それじゃ、いただきます…」
先行販売時に来てくださったツナギを着たお客様とお連れのチェックのシャツにニットのベストの方。
一見、男二人が一緒に食べているだけなのだが、

「ところで俺の具を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく…大きいです…」
会話の節々がなんか変。カレーじゃなくて他のもん食ってんじゃねえのか?ってぐらい変。

「委員長殿、あのテーブルのお客様って、ひょっとして…」
まあ、尻の穴がすぼまってしまう様な空気を放つ様な人種はそうはいない。
前の時にも薄々判ってはいたが、二人連れで来たことでハッキリと判った。
新宿二丁目や堂山町に屯している薔薇な感じで「ウホッ、いい男」な人種。
即ちガチホモカップルだ、アレ。

ヴィヴィオ、微妙に目を輝かせない。つーか、教えたの誰だ。
「えっと・・・、はやてちゃん。昔にそういう本を書いてたぐらいだから詳しいんだよね」
またあの人か。うん、仕返しは手加減一切無しで行こう。加減する気は元々ないけど


それはさておき、何で判るかというと嘱託時代の知り合いにいるんだなコレが。
管理局は様々な次元世界からの人員が集まる関係上、異文化に寛容な組織である。

思想信仰の自由もよっぽどのことがない限り保証されている。反体制的思想や、教義が犯罪行為な宗教はお断りだがな!
故に同性愛者も一杯居るのだ。


とある技術を使えば子供も作れるしね!
人為的に減数分裂させた細胞同士をくっつけて作るのだ。後は子宮か培養ポッドに入れればOK。
プロジェクトFなんちゃらとやらはこの技術を元にどうのこうのして出来たそうな。詳しくは知らんが。


で、第34管理世界停戦監視団にも無論と言うか結構居る。
結婚している上司(女)と部下(女)が居れば同僚(男)と交際中の男も居る。
8歳から士官学校入学までの5年間をそんな環境で過ごせば判るようになるのだ。

因みに、年下好きでどストライク(本人談)だった僕に色目を使ってしまう奴も居たりした。
其奴は祖父さんに心酔していたので、「あのお方の孫に手を出すなんてとんでもない」と言うスタンスをとり続けていた。
ありがとう、七光り。お陰で男同士の道を歩まなくて済みました。


「腹ン中がパンパンだぜ。次は何をするかな」
「それじゃ…、良かったらですけど、僕と…」
「しょうがねえなあ。俺は場所とかかまわないで食っちまう人間なんだぜ」
「いいんです…。僕、そんな所が好きですから…」

…頼むから早く清算してくれ…、ここはハッテン場じゃねえんだよ。


そして次から次に来る変わった客。
客足の増加に比例してアレなお客様も増える事が実証されたのでした。









あとがき:今回はちょっと短めです。武道会本番は次回より。
で、プロットの段階では後何組か出すつもりだったのですが、各種事情で敢え無くボツ。
後々加筆するやも知れませんので、その折は宜しく。


追記:誤字指摘感謝します。
で、「直」と「治」の違いですが、ATOK内蔵の「明鏡国語辞典」によると
直す:〔直〕よくないものを正しく改める。ただす。「欠点[偏食・誤字]を─」
とありましたので「直」の字としました。



[4701] 第四十三話「開幕前後」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2010/02/17 22:09
別荘で迎える二日目の朝。
外を見るとビーチバレーに興じる神楽坂にこのかちゃんとせっちゃん、修練に勤しむネギと犬、と言った面々。
そのうち四名が武道会に参加する。無論僕も。

ただし、面子が同じなので展開が分かっている。先の展開が判っている映画を見ている様な気分だな。
とは言え、筋書を変える訳にも行かない。
そうなってしまえば、"自分が書いたシナリオどおり進んでいると超に錯覚させ、それを利用して大打撃を与える"と言うこちらの計画を見直すハメになってしまうのだ。

ま、そのシナリオから逸脱しない範疇なら多少変わっても良い、つーかそっちの方が面白い。
そういう訳で、そこの二人を一寸揉んでやりますか。
「私も協力するよー」



「でね、このバリアジャケットは衝撃緩和に-90℃から400℃までの耐熱・対寒機能に与圧機能に対CBR(化学・生物・反応兵器)防御まで付いてるんだよ」
「…何でもアリやなそれ。ズルイでソレ。で、反応兵器て何?聞いたことあらへんねんけど」
すっかり仲良しになっている犬とネギ、善哉善哉。
「と言う訳で、武道会の時はバリアジャケットは基本禁止です。一号二号にも後で通達しておく。いいな?あと、反応兵器ってのは核兵器のこと。僕の育った世界ではそう言うの」

「えーっ」と不満を言うネギと、「そら助かったわ。ゴツい障壁身に纏ってるみたいなもんやし」対照的な犬。
「世間体を考えなさい。魔法は秘匿すべき物なんだろ?いくら攻撃しようが平然としてればおかしいと思う奴が出てくるものです。犬もいいな?」
と、頼りない釘を刺しておく。みんな気にせずバンバン使うのは判ってるからなあ。それでも一応な。
「解っとるけど、妙な略し方しゃんといてーな。俺は犬上やて、一文字足らへんて」

まあ、バリアジャケット禁止は公平さを期する為って面もあるんだがな。某執務官の真ソニックフォームの様な極薄型ならいいだろうけど、弟子達のデバイスでは細かい設定が出来ないし。
相手が気を纏わせるか防御魔法を使ってたら別よ、相手が使ってたら。


で、使っても良さそうなのはせっちゃんにクウネルにタカミチぐらいか。
気に魔法に咸卦法と各種揃っております。
特に(ネギ的に)驚異なのが咸卦法。アレは純粋にすごいと思う、今のところ再現出来ないのが実情。
で、使うことは判っているからなあ。使ったら許可を着用許可を出そう、但しネギだけにな。



****



「ちょーっとやり過ぎちゃったなー、っては思ったんだけど…。そもそもですね、小太郎君が想像以上にいい動きをしていたためについつい力が入ってしまいまして…。…生きてる?」
「脈は…ある、瞳孔は…閉じるな。何だ、頭打って気を失ってるだけか。腹にも異常はなさそうだし」
砂浜に寝かされている犬。ヴィヴィオに吹っ飛ばされたのだ。

大急ぎで浜まで引っ張り上げ、バイタルチェックや触診した所問題なし。
咄嗟に気で防御したのだろうけど、基本的に頑丈なんだな犬は。

このかちゃんにアーティファクトを発動させて待機して貰ったのに無駄になってしまったなあ。一寸残念。
「ウチも準備したのになあ。こん前にアリョーシャ君に色々教えてもろたのんを使えるなあ、て思てたのにー」
準備万端だったこのかちゃん、気持ちはとってもよく解るぞ。救命処置ってのは一遍試してみたいものだし、万端調えたのが無駄になると誰しもねえ?
使う事がないのが一番だが。

「いやいやアンタ達、そこは残念がる所じゃないでしょ。コタロ君の無事を喜びなさいよ」
で、神楽坂は何呆れた顔してんだろ?よく解らんなあ。


さて、何故犬はヴィヴィオに吹っ飛ばされたのか?
同じ打撃系徒手格闘使いなので犬に相手を頼んだのが切っ掛けだ。今思えばせっちゃんでも良かっただろうが。

「やーかーらー、俺は女に手を挙げへん主義やて。ビビ姉ちゃんとはやれへんて」
と言って断ろうとしたが、
「スパーリングでいいからしようよ。お願いっ!…アリョーシャ君は何でもありで手加減無しのカウンター系だからあんまり組みたくないんだよね。得物も使ってくるし…」
「まあ、アン兄ちゃんの遣り口やったら組み手にならへんやろしなあ…。寸止めでええか?」
という感じで折れた。で、彼氏の遣り方を何気に批判していますか貴方は。

「綺麗な構えと動きです。かなりの鍛練を積んでいますね」
そうして始まったヴィヴィオと犬の組み手。
「なかなかやるね」「ビビ姉ちゃん、めちゃめちゃやるやんけ」
相性が良かったのかヒートアップしていく二人。寸止めだけど。

と、熱が入りすぎたのが悪かった。一瞬本気になってしまったヴィヴィオ。
キレイに覇王様直伝断空拳を決められた為に吹っ飛ばされ、水面に叩き付けられ、いい感じの水柱を揚げ、暫くしてぷかりぷかりと浮かぶ犬。
「コタロー君ーッ!!?」


で、現在に至る。
「未熟者め」「返す言葉もありません」



****



入場開始の少し前、神社の周りを走り込んでいた。早朝走るのは習慣化した日課ですからね。
「おー、こんな朝早くに奇遇じゃん。ヴィヴィオちゃんは一緒じゃないの?」
こんなときに限って合いたくない奴に会う、パパラッチとその背後にいるの。

とは言え、世間一般レベルの社交性は持ち合わせているこの身、「そう言うお前も早いなあ。ヴィヴィオはネギ達と一緒に来るぞ」きちんとした返しは出来る。
「スタッフってのはどうしてもお客より早く入ってなくっちゃなんないからねー。おかげで眠くてってさ、何かいい方法知らない?」
裏方のつらい所だ、お客より早く来て遅く帰る、それが宿命なのだ。

「そうだなあ、こんな方法があるんだが…」「ふむふむ」
と眠気覚まし方法に関しての話をしていてもやっぱり感じる視線。
うわ、目が合った。
合った目が外せず、見つめ合う形になる。意外そうな顔したさよちゃんは目をぱちくりとさせてから、
「あのー、ひょっとして見えてますか?」
こんなことを聞いてくる。

うん、見たくもないし聞きたくもないけど、バッチリ見聞き出来てますよ。
『初めまして、お嬢さん。宜しければお名前をお聞かせ頂けますか?私はミーシャと申します』
ミーシャに至っては紳士的に話しかけてきてるし。


「え、あ、相坂さよです。ご丁寧にどうも…。あの、朝倉さん。あのペンダントみたいなのがミーシャさんですよね?」
驚く側と驚かされる側が逆転、なので鳩が豆鉄砲を食ったような顔のさよちゃん。
「え、あんたらさよちゃん見えるの?」
『魔力波の流れ等々から観測出来ます。同志は時偶見えるのです』コイツはあれこれ付いてるセンサー類を複合的に使えば見える。
僕は波長が合ったりしたのが見えるんですよ。ほとんどの幽霊は見えないんだけどね。

「へー、それじゃ、友達になってやってよ。ほら、さよちゃんからも」
「はいっ!不束者ですが、よろしくお願いします!!」
女子3-A以外のお友達が出来るのが嬉しいのかして、一生懸命にお願いするさよちゃん。
『私はインテリジェントデバイスと言う魔法使いの為の道具です。この様な物でも宜しければ、喜んで』
ミーシャは乗り気なんだけどなあ。
「うん、まあ、断る理由もないし…、いいよ」

対照的に僕の歯切れが悪いのを訝しんだパパラッチ、ミーシャに尋ねてみる。
「ミーシャ、コイツって、ひょっとして幽霊とか怖いの?」『昔から苦手なのです』
言うなって。そんな弱みみたいなのをコイツに教えよう物なら…。
「それはいいこと聞いたわね…」調子に乗るし、「で、何で怖いの?」根掘り葉掘り聞いてくるし。

『幼少期を過ごした沖縄は大東亜戦争における激戦地の1つです。見える方も比例して多くなります。中には酷い状態で見える方もおりまして…』
そう、小さい子供に機銃掃射や爆撃や火炎放射で酷い状態になったのを見せたりしてみなさいよ。トラウマになってもおかしくないですよ?
「あー、子供にスプラッタ物のホラー映画ばっか見せたみたいなもんだねー。そりゃ苦手にもなるわ」
「ゴメンなさい…、お友達になってくださいなんて言ってしまって…」
ションボリとする二人。だがな、今は割と平気だぞ。生きてる人間の方が怖いって解ったからなあ。
例えばな、昔実際に見たんだが…。


「ひ、ひいいぃぃぃ~。こ、怖いです~」
「やーめーてー、そんな生々しくてエグい話を平然と話さないでぇー」
実例として体験談や人から聞いた話を語ってやっているのに怖がって聞こうとしない、失礼な奴等だ。
真実云々言ってたから数多ある真実の1つを語ってやっているのに、軟弱な。
そんな奴には、「頭の中から声が!?アンタの魔法か!!?」念話で語ってやる。これなら嫌でも聞けるだろ。
オマケでバインドも追加だ!!

「ひぃーっ、お助けーっ」「いやああああぁっ」
二人の悲鳴が早朝の空気に響き渡る。清々しいなあ。『どこがですか』



「どうしたか、朝倉サン?顔色が悪いヨ」
「…知りたくもない真実ってキツいねー。お陰で眠気なんて消えちゃったさ」
「?…まあ、これでも食べて血色を良くするネ。特製スタミナ饅頭ネ」



****



斯くして始まった武道会、第一試合は弟子二号対犬。
「俺は女は殴らへん。そやけど今回は別や!こないだの仕返し、きっちりさせて貰うで!!」
股間の大事な所を「コリッ」とされてしまった恨みは犬流フェミニズムを超越してしまっていた。
「いえ、あれは不幸な事故なんですが…。私だってあんなところ掴みたく"も"なかったですし…」
一応の言い訳はするが、聞いちゃいねえ犬。

そんな二人の戦いが始まった。
瞬動とやらで間合いを詰める犬、一気に勝負をつけるつもりなのだろう。
兵は神速を尊ぶと孫子も仰っている。
が、現在それは戦略戦術レベルの話であり、戦場レベルでは逆になることがある。

丁度今の様に。
「おおっと!?小太郎選手、信じられないスピードで間合いを詰めたと思った次の瞬間、吹っ飛ばされたー!?」

「…なんか、今、足下で光らなかった?」
吹っ飛ばされた犬を見て、目がいい神楽坂が気付く。
「接触起爆設定魔法だ、踏んだり触ったらドカンと行く奴。風系統と組み合わせて使ったな。どう思う、ネギ?」
「うん…、複雑。メイさんが僕の考えたのを使ってくれたのは嬉しいけど、それがコタロー君に使われるなんて…」
そう、元は僕が使う「地雷化魔力弾」で使っている設定で、遅延呪文との合わせ技を考えたのがネギ。

コイツはこっちとあっちの融合の実験体なのだ。開発力があるので、色々と考えてくれる便利な奴です。
で、そのアイディアを選り分けるのが僕とミーシャ。それなりに経験積んでますから、取捨選択出来るんです。

それを教えて貰っていた弟子二号。用心も確認もせずに敵の懐、つまりは地雷原に突っ込んでしまった犬。
この様に神速が仇となる場合があるのだ。
まあ、地雷も塹壕も無くて、平原でぶつかり合うが当然の時代の兵法だしね!

「罠付かい!そやったらこうや!!」
体勢を整え再び仕掛ける犬。今度は手前でジャンプして地雷を避ける。
しかし、プロテクションに妨げられ、貫くまでのタイムラグに逃げられる。
更には「槍術でしょうか!?箒の柄先が次々と襲い掛かっております!」ラグを生かしての反撃付き。
因みに槍術じゃなくて銃剣術。まあ、槍術の要素を吸収しているから素人さんには同じように見えるのかも。



「正に一進一退!両者の攻防が続いております!!」とは言うものの攻め倦ねている二人。
守りは堅いが、近接戦闘技能と士気が犬より下の弟子二号。
いくら鍛えたと言っても一年経ってないし、近接戦闘は自衛用って割り切って教えたってのもあるからなあ。

士気と技能は高いが、防御ごと貫けるだけの攻撃が出来ない犬。
女は殴らない主義が心の奥底で邪魔でもしているのだろう。攻撃が一寸甘い気がする。

そして、事前に刺しておいた釘が多少は利いているのか、分身とか攻撃魔法とかの使用を避けている二人。
どちらかが先に使用すれば使い出すだろう、それが解っているから使えない。反応(核)兵器に依るMAD(相互確証破壊)体制と同じだな。
結果、釣り合ってほぼ互角。つまりは決め手がないのだ。

このまま膠着状態に入るかと思われたが、犬が打って出た。
爪先に気を集めての攻撃に切り替えてきたのだ。只のプロテクションなら切り裂けるであろう攻撃、事実切り裂いた。

対抗措置として「な、何とーっ!愛衣選手、「遠当て」を使いました。あの様な中2少女が「遠当て」の使い手とは想像だにしませんでした!!」
射撃魔法を使う。で、アレを遠当てと言い張るとはナイス誤魔化しだパパラッチ。
「どうしましたか、豪徳寺さん」「いえ、漠然としたものなんですが…。あれは遠当てとは違う様な気がするんですよ」
解説は誤魔化せてないけど。まあ、豪徳寺さんは使い手だからなあ、違いが分かるのだろう。



エスカレーションを起こすかと思われた試合、終わりはあっけなかった。
犬の振り下ろしを寸での所で躱し、間合いを取った次の瞬間「あ…」「え…」会場が俄に響めく。

皆の視線が一転に集まった。弟子二号の胸元へ。
そこに見えるのは歳の割に大きくて形のいい胸、乳首も見えるぞ。

理解が遅れている弟子二号と、やってしまった顔した犬。
犬の爪先が正中線上を通り、服とブラのみ切り裂いた。そこへ回避機動を取ったから動きと風で思いっきりはだけたのだ。
肌に傷が付いていないのが不幸中の幸いか。

理解した途端、見る見る顔が赤くなり、「いやぁあ~んっ」と泣きながらへたり込む。
…14歳の女の子だからなあ、メイちゃんは。衆人環視でおっぱい見られてしまったらねえ?

一方、犬は「えっと…、こ、これで隠しっ!!」自分の学ランを渡してそっぽ向く。
その顔は真っ赤っか、あの年頃の子に見せればあんな風になるだろうなあ、って感じの顔だ。
ネギ並みにエロイベントを起こしたのなら別だが。まあ、アイツはエロい星の下に生まれてきた子だからね!!


「えー、大変なハプニングがありましたが…、試合再開です」
再開したのはいいのだが、
「す、すいませんです…」学ランで胸は隠れてはいるが、羞恥心が全く抜けてない弟子二号と、「お、おう…、気にすんな…」恥掻かせたのとおっぱい見たのが合わさってか、直視出来てない犬。
心ここにあらず状態で、こりゃ試合にならんわと判断。

後々の展開からして犬には勝ってもらわないと困るので、
「おっと・・・、タオルです!タオルが投げ込まれました!!投げ込んだのは参加者であり、愛衣選手の師匠であるアンドレイ選手です」
強制ギブアップさせる。セコンドじゃないけど、いいだろ。

「アンドレイさん…」
隣の高音の姉ちゃんが怖い顔してるが無視無視、あの子はよく脱げる貴方とは違うんです、貴方とは。
「誰が原因ですか!…まあ、それは置いておきまして、ありがとうございます」
意外な返答が帰ってくる。
「あの子、負けず嫌いな所があるんです。ああでもしないと止めなかったでしょう。だから感謝してますわよ」
確かにね、弟子二号はそう言う所がある子だ。やっぱり敵わないなあ。
「不満を言うと思いますが、私が上手く言いくるめておきますわ。…それよりも、彼女さん怒ってらっしゃいますわよ?私を何度も脱がした事への言い訳頑張ってくださいな」
笑顔で任せておきなさいと言い、更ににこやかな顔で死刑宣告をしてくれやがる高音の姉ちゃん。…仕返しか?
「脱げる原因ってどういう事なのかなー?何度も脱がした事についても訊かせて欲しいと思うのですよ」
ハイ、見事に仕返し成功しているですよ。…試合が出来る程度に留めておいてね?


「えー、審議の結果を発表いたします。師匠格の者をセコンドと同等と見なし、試合放棄を認める判定となりました。よって、小太郎選手の勝利となります」



****



「そう言うことならいいの。でも、後でちゃんと謝っておくこと、いいですか?」
「ma'am yes ma'am」
説得の結果、後でお仕置きに負けて貰えた。何とかして有耶無耶にしよう。
ミーシャにクリス、その時に蒸し返したりするなよ?

間もなく僕の試合、相手は楓ちゃん。本気出さなきゃ間違いなく勝てない相手。
久方ぶりに全力全開で行きますか!!

と、その前に。アレを那波さんに渡しておかなきゃ。
メイちゃんに恥掻かせたお仕置きだ。



****



「ち、千鶴姉ちゃん…。何や、そのごっついネギは…!?」
「群馬県下仁田名産、下仁田ネギよ。アリョーシャさんにもらったのよ、好きに使ってくださいって言ってね。時期外れなのに太くて立派ねぇ」
「ちづ姉、まさかそれ、小太郎君に…」
「火を通すと甘くて美味しいけど、生で食べるととっても辛いのよ。どう使おうかしら?」
「何や、その目は!?…いややー、やめてえ~っ」










あとがき:と言う訳で武道会編開始です。
ああ、バトル表現がもっと上手くなりたい…。そう思って書いてます。


追記:誤字修正と言い回し変更。指摘感謝します。



[4701] 第四十四話「運動の第一法則」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2010/03/13 21:47
試合前、ぐにゃぐにゃくねくねしたウォーミングアップを済ませてバリアジャケットを展開する。相手が相手だからいいのだ。
それに今から使うのはこのモード限定の魔法だ。

「ジュラーブリクモード、発動準備開始」
バリアジャケットは最低限、ボーダーシャツとカーゴパンツ、そしてブルーベレー。それだけの格好。
『前回もそうでしたが、これを使うしか無いとは楓さんは恐ろしい方ですね』
滅多に使えない、切り札の1つ。高機動・軽装甲形態であるジュラーブリクモードでしか使えない。
前回は段階的に使ったが、今回は最初から全開で使う。

「会場では砲撃が出来ないからなあ。それで勝利を収めようと思ったら、これを使うしかないだろ?」
戦場は武道会の会場、狭いし、相手が高機動型忍者、悠長に照準をつける暇がありません。
対応策はあるが、場所の関係で一寸なあ…。
そういう訳で近接戦闘主体となり、そこから勝率を高める為にはこれを使うのが一番だ。


因みに、長距離砲撃主体の癖に高機動形態を持っているのにもちゃんとした理由がある。
一つは高機動目標対策。相対した敵がそんなのだった場合、対抗手段を持つ必要がある。
通常、長中距離砲撃による濃密な弾幕を張ると足止め出来る。それと連動したフロントアタッカーの迎撃で大抵の奴は仕留められる。
が、中にはその濃密な弾幕や迎撃を突破出来る奴も居る。ハラオウン執務官とかな。
そんな奴がこっちに来た場合に防御重視で加速があまり良くない、とは言え陸戦には十分だが、形態では翻弄されてお終い。
だから対抗手段を作ったのだ。

ただし、ほとんど使った事ないがな!演習や模擬戦で数回使っただけだ!
実戦投入は前の楓ちゃん戦が初めてだ!!


もう一つは移動目的。
砲兵は射撃地点から射撃地点への移動をよくする。カウンターバッテリーアーティラリー(対砲兵砲撃)対策だ。
居座っていれば、どこから撃っているのかがバレてしまって反撃を受けるからね。
依って、素早い撤収・移動・展開は近代砲兵の必須技能である。
展開は身一つの魔導師にはあまり関係ないが、撤収と移動は必要である。
次の射撃地点への迅速な移動は必要不可欠だからだ。と言う訳で最高速がすぐ出せるこれを使うのだ。

とは言え、長距離砲撃・狙撃モードであるククーシュカでもそこそこの加速性能なので急ぐとき以外使わないけどな!

最後にもう一つあるが・・・。まあいいや、一寸情けないし。



****




「さあー、第三試合の開始です。かたや特殊部隊、かたや忍者、歴史の陰で暗躍してきた者同士の戦いです!!」
パパラッチのアナウンスに合わせて舞台に向かう。
「帝政時代からの軍人家系、スペツナズの血と技術を受け継ぐ男、アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ選手!!噂では甲賀出身、分身の術まで使えば言い逃れは出来ないぞ!!くのいち、長瀬楓選手!!」
ちとハズい紹介。まあ、間違っちゃあいないけどな。

「このカード、どう見ますか豪徳寺さん」
「そうですね。長瀬選手が本当に忍者とすればこれは面白い組み合わせですよ。コンドラチェンコ選手の技術、システマと同じ源流だそうですが、はロシアの様々な伝統武術を元に理論的思考を用いて作られた物であり、かたや長瀬選手は歳月と共に培われ、継承されていった伝統技術です。双方ともコンバット・プルーフは十二分すぎるほどに済まされています。理論対歳月、これは楽しみですよ」
解説の豪徳寺さん、真っ当な勝負を期待している所悪いのですが、今から繰り広げられるのはその対極的構図です。
そうして、向かい合う。と、珍しい物を再び見る。
「アリョーシャ殿…、お主とは一度本気で当たってみたいと思っていたでござるよ」
両目を開いた楓ちゃん、本気なんだなあ。こういう時は全力で戦わないと失礼なので、首の後ろ、延髄辺りを触って一寸したお呪いをしておく。
じゃ、本気で行かせて貰うよ。

「Fight!!」次の瞬間、観客は目を丸くしたはずだ。
「流石でござるなあ」何時の間にか僕の立っていた位置に楓ちゃんが立っていて、楓ちゃんの立っていた位置に僕がいるのだから。
「縮地だったっけ?僕もとある魔法を使えば似たようなことが出来るのだよ。その一部だけどね」高速で移動した事は風が証明している。


「いつの間に入れ替わったの?」
「さすが楓姉ちゃんと言いたい所やけど、アン兄ちゃんもやんなあ」
「あれが「縮地」のほぼ完成形です。アンドレイさんの方は違う原理を使っているのでしょうが、同等の動きです」


再び向かい合い、「それではこれで」印を組む。と同時に現れる分身、その数四つ。
「出たぁーっ!!分身の術!」
分身による四方向同時攻撃、こういう時の対処は簡単。攻撃が修正不可なポイントに到達するまで動かず、その瞬間にブリッツアクションを使う。
そうすれば攻撃は空を切る。簡単すぎて逆に難易度が上がってるけどな。

躱した後、四人の内一人の足に足を絡めて重心を崩させ、任意の方向に倒して転がす。
すると簡易障害物の出来上がり。すぐに起き上がられない様に踏んづける事も忘れずに。
障害物のある方向は走り抜けが出来なくなり、飛び上がるか止まるしかなくなる。

飛び上がった方の足を掴み、そのまま跳ね上げる。
するとぐるりと回転し、重力により頭の方から地面に叩き付けられる。

止まった方は殴りかかってきたがボクシングで言う所のパアリングの要領で逸らし、その隙間に鳩尾狙いの肘カウンター。
ついでに踏んづけている方の足に重心を掛けてあげましょう。余計に動きにくく且つ痛くなります。顔だから余計にな!

最後、後ろからの回し蹴りには膝の力を抜いて屈んで躱す。
そのまま寝転がり、軸足に両足を絡ませる。我が家式やその原型となった近接戦闘術、更には親戚に当たるシステマはいやらしい足の使い方が特徴の一つなのだ。
足が絡んだまま腰を動かせば簡単に倒れる。背が高いと重心崩しに弱くなるのだ、片足立ちだと更に。


「いやあ、実に見事な、「柔よく剛を制す」な動きですね」
「と言いますと、豪徳寺さん」
「先程の一連の動き、ほとんど力を入れずに行っています。それにより身体が柔軟に動かす事が出来ます。しなやかであるが故の強さ、それを体現した動きですよ」


と、何時の間にか分身は消え、適当な距離を取っている楓ちゃん。
「以前に見たときも思ったでござるが、実に質の悪い戦い方でござるなあ。乙女の顔を足蹴にするとは」
軍隊、それも特殊戦部隊由来の格闘技だもん、質が悪くて当然。つーか、踏んづけてたのが本体だったのね、頬にうっすら靴の跡が。

「だからこそ、拙者も遠慮無く行けるでござるよ」再び分身が襲い掛かる、その数なんと15。3、4人ならさっきみたいに捌けるが、流石にこの数ではなあ。
今度は虚空瞬動まで使っての攻撃だ。
本来こういう相手には弾幕張って対処するのだが、観客席への付随被害がなあ。当たっても死なないからいいかもしれないが、色々と問題があるし。
だからこそこのモードであり、限定解除をしているのだ。

「な…何と、アンドレイ選手、15人からの攻撃全てを回避しているー!?まるでUFOの様な機動だーッ!!」
「これは?」
「いやーその、瞬動等を極めるとあの様な動きが…、出来ませんね。何なのでしょう、あの動き」

全ての攻撃を躱す。言ってしまえば至極簡単だが、常識外れの動きが要求される。
水平垂直両方向の直角ターンに鋭角ターン、絶対重心じゃねえだろな場所を軸とした回転等々。様々な変態機動を駆使して躱していく。
更には即時最高速・即時停止なメリハリ付き過ぎな緩急とを付けたら未来軌道の予測は無理で、見通し射撃が出来ません。
オマケに「魔女の眼」で天頂からの視界まで得ているのだから、躱せて当然と言っても良い。…それでも大変な事には変わりはないけどな。判断するのは自分だし。
楓ちゃんの攻撃、鋭いし、直感が優れているのかして、危うい弾道描くし。


「ハカセ、どう見るカ?運動の法則を無視している一連の動きを」
「…解りました。アンドレイさん、慣性制御を使っています。…と言うかそれでしか説明が付きません」
「そうカ、私もそれを考えていたヨ。あんな動きをされては流石のかえでサンでも当てられないネ、人間はどうしてもニュートン力学の範疇で物を考えてしまうものだからナ」
「あの機動の数々を説明しようとするとこれでしか説明がつけられません。何なんですかあれは!慣性質量がゼロの状態にするのは理論上は可能である事は解っています、アンチグラビティシステムや同原理の飛行魔法を使用すれば可能でしょう。しかし、実際に行おうとすると一体どれだけの演算能力が必要とされる事か解ったものじゃありませんよ。実行するにはカシオペアの制御用AI級の能力が必要ですが、何故アンドレイさんがその様な物を保有しているのか、そこも問題ですよこれは。ひょっとして渡した量子コンピュータ?三基を並列処理させれば可能だけど…、いいえ、それでは他の問題が処理出来ない。慣性質量をなくすだけじゃダメなんです、正負の加速度の問題も関わって来るのだから…」
「あー、ハカセ。自分の世界に入らないで欲しいヨ」



尚も続く左右上下遠近同時の気弾攻撃。このオールレンジっぷり、どっかで見た様な…。…ああそうだ、昔見たガン○ムのファ○ネルだ。
発射母体が自在に動き回って取り囲む様に撃ってくる様がそっくりなんだ。
そのシーンでは為す術もなく量産機が切り裂かれてダルマにされていったが、僕はそうは行かない。

なぜならば、ジュラーブリクモードの神髄、と言うか最大の目的はこれなんだから。

逃げ足の強化。この場合の逃げは敵の攻撃からの意味。

だって、限界で300km/h代な陸戦魔導師が高町三佐のショートバスター連射だの32連アクセルシューターだの、誘導制御を得意とする親父の40連HEーGバレット(誘導型HEバレット、板野サ○カスチックな動きをする)から逃げるには兎に角動き回って回避か、射撃諸元が得られない様な動きをするしかないでしょ。
多少の守りなんて、数の暴力の前には負けるのです。当たらない事が一番、その為の高機動です。
と、僕は考えているのだ。異論は認める。
ああ、言っておくが、防御が弱いとか低く見てるからの言い訳じゃないぞ。生存性の向上の為に必要不可欠なのは身をもって理解してるし。
言っておくが、ディバインバスタークラスならば全力を持ってすれば何とか凌げるぞ!一発だけだがな!!後は知らん。


この考えに基づき、どうすればいいのか考えた結果、導き出したのが慣性制御魔法。慣性質量をほぼゼロにすることで限りなく動きやすい状態にする魔法だ。
瞬間的な使用ならば高速移動魔法が使える全ての魔導師が行っている魔法だ。
これを常時発動状態にする。それが僕の回答だ。
しかし、これをする上で大きな問題が出てくる、だから普及しないんだよな、常時発動。


一つは制御用演算処理の複雑さ。専用の補助デバイスを用意しなければならない程だ。
その専用機、作るのに金が掛かる。インテリジェントデバイスを作っておつりが来る程高い。
んなもん作るぐらいなら他の事に金を掛けた方がいいと考える人が大半なので殆ど作られない。

僕の場合は、ミーシャが元々演算強化型インテリデバイスだった上に、祖父さんや親父が指揮用にと更に強化していたから可能だったのだ。
え、金?自分の奥さん(母親)がデバイスマイスターなんですよ、材料費だけで済ませられるじゃないですか。
その材料費も祖母さんに出させてるんだけどな、実家大金持ちだし。
当主の大叔父さんは祖父さんを「姉上と私の性別が反対だったら結婚を申し込んでいるよ」ってぐらい敬愛してるし、親父を我が子の様に可愛がってたそうだし。
僕には多めのお小遣いをくれるとってもいい親戚です。


もう一つが魔力消費の多さ。何もせずに立っていても消費されるが為に、「魔力の垂れ流し魔法」と言う悪名を付けられる程に消費が激しい。
これは僕の場合あまり問題にはならなかった、魔力が多いからだ。
現時点ではAAA+クラスの魔力量だ、一般的魔導師がドラム缶なら僕は50mプール。ドラム缶で問題になる量でも、50mプールでは大した問題にならない。
まあ、魔力がらみの問題はあるんだけどね。最大出力と未熟さの関係で致命的なのが。
時間を掛ければ解決出来るだろうが、今現在解決の目処が立っていない問題が。

そんなこんなで使える様になり、使用時専用モードとして作られたのがジュラーブリク。リソースを最大限に投入するが為に軽装甲となった。
そしてそれは現在真価を発揮し、分身と本体併せて15体の攻撃全てを躱せている。当たらなければどうと言う事はないのだ!

因みに、未完成であるが故に色んなツケが溜まって後々出てくるのが最大の欠点だがな!



だが、慣性制御魔法と真上からの視界と言う反則コンボを使っていても捕まる時もある。もう一体分身が加えられ、背中を取られた。
「気付かれずにもう一体ぐらいは増やせるでござるよ」
最大で16体出せるのは知っていたから、いつどこで出すのか、それを見つけ出して対処出来るのか、の読み勝負に負けてしまったのだ。修行が足りないなあ。
「反撃に成功だー!!アンドレイ選手、地に叩き付けられ…た?」
気弾が打ち込まる。慣性が働かない状態なので空気抵抗以外の抵抗が存在しない。限りなく動きやすい事は限りなく止まりにくいと同義なのだ。
まあ、こういう時の対処はとっても簡単だ。作用と同じだけの力、反作用を発生させればいいだけの事。
そうすれば力は釣り合い、ぴたりと静止する。

「ヒキョーでござるなあ、思い切り投げ飛ばしたというのに…。大した物でござるなあ、それがアリョーシャ殿の本気でござるか?」
半分不満、半分呆れ顔の楓ちゃん。そりゃそうだ、まともに食らえば只じゃ済まないだけの勢いだったってのに、ぴたっと静止されてはなあ。
「うん、近接戦闘時の本気モード。後で反動が来るから滅多に使えないの。実戦使用はこれが初めてよ」
忽ち嬉しそうな顔に変わる。まあ、口周りと眉が微妙に変わるだけだけどな。目元は変わりません。
「それはそれは、実に光栄でござるな。拙者がそれだけの強敵だと認められた証拠でござるからなあ」
そう言う事。一回目の時は段階的に行ったが故に苦戦しました。だから今回は最初から全開で行ってます。


「じゃ、次はこっちから行くよ」
300km/h代、その速度で片手を添えた手槌を打ち込む。無論末梢部も同じ速度域だ。
「ぐっ…」流石の楓ちゃん、何とか反応してガードするが、苦悶の表情を浮かべる。
新幹線かレーシングカー並の速度で打ち込まれるのだから当然だ、気で防御しなければ複合骨折間違い無しの威力。
それに加えて、我が家式の"防御ごと吹っ飛ばす"打撃法だ。踏ん張りきれずに蹌踉めく。

好機を見逃す様なバカでないので、のし掛かり馬乗りになる。マウントポジション状態だな。
「拙者ならばこの状態でも勝てるでござるよ?」
戦意を失っていない楓ちゃんが不敵な笑みを浮かべる。
確かにこの状態からでも反撃して勝つ事は出来る。僕もこの状態からの反撃方法を身につけているのだ。忍者なら言わずもがな。
「悪いけど、このままダウンして貰うよ。速く済ませなきゃなんないからね」
手に魔力針を隠し持ち、そのまま胸に刺す。

次の瞬間、楓ちゃんの上半身が大きく跳ね、そのままピクリとも身動きしなくなる。それを確認して立ち上がる。
「マウントポジションからのアンドレイ選手の一撃で、楓選手ダウーンっ!!と…、生きてるよね?と、ともかくカウントを取ります」
そのまま10秒が経過し、「アンドレイ選手勝利!!特殊部隊の勝利で二回戦進出です」僕の勝利となった。




「もうそろそろ効き目が無くなるはずだけど…、立てる?」
「…最後の、一体何を?指一本も動かせなかったでござるよ」
終了後、倒れたままの楓ちゃんに声を掛ける。
「針経由で魔法を直接身体に流し込んだの。運動神経からの信号伝達を阻害する魔法を」
バイアン先生に教わった技術の一つだ。抵抗して暴れる逮捕者を完全に動けなくする為の技。
「なるほど、拙者達で言えば即効性のしびれ薬を塗った針、それを刺されてはな。…なぜ途中で使わなかったので?」
当然と言えば当然の疑問、それにもちゃんとした理由がある。

「一つは、今の僕には本体と分身を見分けられない事。もう一つはツボというか、特定の箇所に刺した方が効果があるし、身体にも悪影響が出ない、だから正確に打ち込む必要があった。この二つ」
ミーシャが使えるのなら動き回っている最中でも解析出来る。突っ立っている状態なら補助無しでも解析出来る。戦闘機動を行っている目標だと僕一人では解析出来ない。
こういう構図なのだ。まあ、面制圧砲撃して実体も幻像も関係なく吹っ飛ばすのが基本だし。
で、ツボ以外に刺しても効果があるのだが、同じだけの効き目を及ぼそうとすると強くする必要があって、後遺症が出る可能性が出てくると先生が言っていた。
友人に後遺症が残る様な目には遭わせたくないだろ?明確な敵になったのなら別だけど。
「お気遣い感謝するでござるよ。とは言え、もし残ったとしても拙者は恨みはせぬ。そう言う育ちでござるからな」
割り切ってるねえ、まあ僕もそう言う所があるからなあ。だから気が合うんだろう。



****



「戦い終われば友人同士に元通りなのか、やや動きがぎこちない長瀬選手を支える様にして両選手が退場していきます」

一見、さわやかなこのシーン。行っている本人達はそれどころじゃなかったりする。ツケというか、反動がじわじわ来ているからだ。
「大丈夫でござるか?脂汗がスゴイでござるよ?」
「僕にも見栄ってもんがある。控え室まではこのままで頼む」
身体のそこかしこに反動が来て、痛くてしょうがない状態だ。開始直前にしておいたお呪いのお陰で何とか動けるが、無かったら倒れてるだろうなあ。

「何故に男というものは馬鹿が多いのでござろ?」男ってのはね、そう言うもんなんだよ。プライドやらで死ねる、そう言う生き物なのだよ。
正面に視界を移すと、「全く、無茶しちゃって」ヴィヴィオが怒ってる。と言うか、ジュラーブリクを本気で使うとどうなるかを知っている知り合いは皆同じ様な反応を示す。
そうして、無邪気に絶賛してくれているネギ一行と攻める様な視線を送ってくれているヴィヴィオと一緒に扉をくぐり、閉じた瞬間に見栄を張るのを止める。

即ち「アリョーシャ!!大丈夫なの!?」倒れる。
こらこら、命に別状はないから泣くな泣くな。






あとがき:やっとこさ書き上がりました。
慣性制御魔法なんて設定を作ったもんだから、説得力を出す為にwikiやらその手の本と格闘するハメになりました。一寸後悔。



[4701] 第四十五話「苦労しなくては池から魚は引き揚げられない」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2010/04/06 21:44
「そこら辺にお願い」
「ここらへんね?にしても、ヴィヴィオちゃん結構力持ちねー。男の子を簡単にお姫様だっこ出来るんだもの。あ、刹那さん、こっち持ってー」
「こう見えても格闘家ですから。日頃から鍛えているのですよ」
「普通は逆なんやけどな、ちょっと情けない気もするわー。さて、ミーシャ、お願いな」
『Да.ネギさん、結界お願いします』
「ぐす…、うん、範囲はこれぐらいでいいよね?」



衝立立てて区切った控え室の隅っこ、ネギに張らせた人払いの結界の中で休む。

「後でこういう風になる事が解っているのに使う気持ちは分からなくもないですよ」
一寸怒っているヴィヴィオ。とは言え、親御さんが無茶をする人なので多少は理解して貰えているし、そんなに怒ってない。
その証拠に膝枕してくれてるもん。
この世に108あると言われる、まあ現実はその十倍以上あるのだろうが暫定で108と言う事で、男の浪漫の一つである可愛い子の膝枕、をして貰っているのだ。

「でも、ここまですることはないと思うよ」そう言って、うなじを触る。お呪いを施した場所だ。
「拙者に刺した針と同じ様な物を刺して、痛みを誤魔化しておったのでござろ? 」
うん、脊髄に刺して痛覚神経を麻痺させてたの。
それが試合直前に行ったお呪いの正体、元々重傷者への鎮痛施術法。モルヒネみたいなもんだな、その裏技的使用法。
「それやったらあないな動きが出来る訳やわ。ほとんど痛ないんやからな。…アン兄ちゃんのこと、ちょっと見直したわ」

「いきなり倒れるからホントに心配したわよ。でも、命に別状はないんでしょ?なら大丈夫ね。ほらネギ、アンタも元気出しなさい。次の次がアンタの試合でしょ?」
フォローすまんな神楽坂、感謝するぞ。それと皆に心配掛けた事は謝るぞ。
「う、うん、タカミチとの試合。僕頑張る、だから早く元気になってね?」
ああネギ、目が赤いぞ。涙がまだ残ってるし、後で顔洗ってこい。しゃっきりとした顔で挑まないと、タカミチに失礼だろ?


「それにしても、無茶な話ですね。身体への影響を切り捨てて使うとは」
『もう少し精進すれば両立させられる算段が付いてはいるのです。同志の能力不足が原因です』
そう、ジュラーブリクモードの最大の難点、「身体へのダメージが大きい」、コレにはちゃんとした理由がある。
僕は最大出力がそんなに高くない。慣性制御に出力の大半を取られる現状では、残った出力で各種保護魔法を行う必要に迫られる。
となると優先順位を付けざるを得ず、生命活動に重要な部分、脳を始めとした中枢神経系や循環器系に呼吸器系に対する保護へリソースを注ぎ込まざるを得ない。あと首。
言い換えて見りゃ、消化器や骨を半分見捨ててますって事。

そんなのを何もせずに使ってみなさいよ。骨が軋んだり、レバーが揺さぶられてる痛みが常時襲ってくるのですよ?胃腸の中身が逆流しかけたり、腎臓周りの毛細血管が切れて血尿が出たりするんですよ?
痛みを麻痺させて感じなくさせなきゃやってられません。
で、時間制限があったりするから困る。試合終了直後からじわじわ来て、完全に切れたのが扉潜った頃。あれは痛かった…。


「これでも昔に較べればましになった方だよ。前に使ったときなんてねえ…」
「そのまま倒れて、丸一日意識がなかったんだよ。その後も二日ぐらい寝込んでたの。それに較べれば大した進歩です」
慣性制御の低燃費化が進んだからなあ、保護に回せる分が少しだけ多くなったから、倒れてもすぐに意識が戻るまでになりました。相変わらず血尿出るけどな。
目指すはさらなる低燃費化。五割にまで削れれば、翌日に筋肉痛が来るぐらいにまで軽減されるはず。これ以上は出力の関係で無理だがな!

「意識無くしてまうて、実戦やったら終わりやん。微妙に使えんなソレ」
だから、逃げが主目的だって言っただろ?友軍部隊に合流するか、回収されるまで逃げ切れればいいの。やられたらそこで終わりだけど、逃げ切れれば後がある。
戦闘機で喩えれば、WEP(戦時緊急出力)使って急降下制限速度ギリギリのダイブで逃げ切った、みたいな話。
まあ、そう言うのをした後は機体もエンジンもオーバーホールしなきゃならないけどね。丁度今の僕みたいな状態になるのだ。

そういう訳で、今は少しでも回復させることに力を入れよう。明日の夕方に大暴れしなきゃならないからね。
…カシオペアとか別荘使えば問題ないけどな。使えなかったときの用心よ。


その為に努力してくれているこのかちゃんに声を掛ける。
「実際に使ってみた感想はどう?」
「そやなあ、こうやって使うんは初めてやからよう分からんわ。そやけど、最初に使たんがアリョーシャ君やったとは思てへんかったわ。ウチのお師匠さんやのにな」
人払いをしている理由はコレ。

流石に関係者以外に見られる訳にはいかないからね、この治癒魔法使ってる所は。
先生直伝の身体のあちこちというかツボに魔力針刺して、そこにヒーリングを送り込む方法。普通のが塗り薬なら、コレは注射みたいな感じ。
で、肌に刺すので今みたいに四肢とか内蔵とかの治療をするには脱ぐしかないのですよ、その為現在パンツ一丁。
こんな状況をパルとか特にパルとか更にはパルに見られるとどんな背ビレ尾ビレを付けられるか解ったもんじゃねえからねえ。
だから区切って隠して行っているのだ。

周りの面々は、週一でバニャ(ロシア風呂)に連行しているネギとか、僕の身体を教材に教えているので平気で触れるようになったこのかちゃん、別荘での水着姿を何度も見ているので免疫が出来ている神楽坂とせっちゃん、見ても平然としている楓ちゃん。
こういう訳で別にいいんだけどね。
ヴィヴィオ?お互いの素肌や下着の中をじっくりと見た仲なのよ、何の問題もありません。



****



他の皆は次の試合の為に席を外し、今は二人。回復魔法陣の中で休んでいる。
「もうすぐ古さんと龍宮さんの試合だけど見ないの?その次の次のネギ君と高畑さんの試合も見ないのかな?お弟子さん同士なんでしょ?」
「だから言ったでしょ?過程も結果も既に知っているって」
一回目は無理して見たが、今回は其処までしなくてもいい。
二回目のメリットはコレだ、時間軸ではまだ見ぬ未来の出来事であろうとも、主観軸では経験済みの過去。何が起こってどうなったかを僕は知っている。故に見なくてもいいのだ。高音の姉ちゃんが脱げるのも知ってるし。
犯人とトリックが解っている推理物みたいなものだな。まあ、面白いのは知ってても面白いけどな。

それに「細かい変化があったとしても、工作用サーチャーからの映像やヴァンデンバーグとガーランドのデータログを見ればいいし」
弟子達のデバイス、と言うか管理局制式デバイス全般、にはデータロガーが組み込んである。収集された情報は捜査資料として使われたり、魔法使用の正当性判定に使われたりされる。
本来は運用時にしか働かない機能なのだが、弟子達のは常時働く様に設定してある。まあ、ぶっちゃけると、弟子達を常時盗撮盗聴してるって事。
制作者兼整備担当兼データ管理者だからこその情報収集手段なのだ。
「レポートにもあったよね、デバイス内蔵データロガーの項目。でもね、必要があったとは言えお弟子さんの行動を覗き見するのは趣味が悪いとヴィヴィオは思うのですよ」
まあ、趣味がいいとは決して言えないのは確かだ。
でもね、生存権の死守の為とは言え、僕は機密守秘義務違反を現在進行形でしててね、このままでは監察官や裁判官のお世話になるのよ。
上層部が司法取引に応じてくれて、更には無罪放免か執行猶予を与えてくれるだけの情報を集めようと思ったら、これぐらいしなきゃならないのよ。
ヴィヴィオだって嫌でしょ?帰ったら裁判で禁固何年とかは。
「もしもそう言う展開になったら、聖王教会を使って圧力を掛けさせようと思うのです。微罪の候補生と教会との関係悪化のどっちを選ぶかは一目瞭然。なんたって私は聖王様だもん、それ位してもバチは当たらないと思うよ?」
…何か黒いです。前々から一寸黒いと思ってはいましたが、黒さが増してます。



「ま、まあ、議長と祖父さんの派閥が味方してくれるだろうから、あまり心配しなくてもいいと思うよ。…もうそろそろかな」
壁の掛け時計を見て呟く。僕にしか解らない呟き故に疑問をぶつけられる。
「何がそろそろなの?」
「見てなって」隣の空きスペースを指さすと、丁度のタイミングで始まる。
衝立の中、僕たちの隣が光り、二つの人影が現れる。
「よう、未来の僕」「よう、過去の僕」陰の正体は未来の僕と、「こんにちは、過去の私」ヴィヴィオの二人。
「えっと…、未来の私って事だよね?」状況がよく解ってないのが約一名。

「店の方はどうだった?」「アレなお客様が一寸多かったけど、繁盛したぞ。このまま行けば黒字は確実だな」
未来から微細な情報を貰う、それを眺めている同じ顔。但し、表情は対照的だ。
片方は平然としていて、片方は困惑している。

「未来からここに来たのは解るよ、この時間の自分は疲れ切っているだろうって。でも、なんでここにいるアリョーシャ君はこの時間に来るって解ったの?」
困惑している方、展開についてこれていなかったのが抱く素朴な疑問。
「簡単だよ。一回目の時に同じ様な行動取ったから」「今と違って一人寂しく寝転がっている自分を助けに来たのだ」「そうして交代して、倒れてた僕は別荘に」「回復した僕が武道会の続きを」
そうやって乗り切った一回目。
「前回はこうなった、今回もこうなる、そんな時に僕だったらこうすると予想して呟いたの」「呟いた時間を知っている未来の僕はその時間にやってくると」「そして現在に至る」

二人で説明したのだが…、更に酷くなって混乱している。
「えっと、過去のアリョーシャ君が予想して、その予想に合わせて未来のアリョーシャ君がやってきて…。ん?それじゃ時系列的におかしくないのかな??」
まあ、僕は何度もカシオペア使って繰り返してた関係で、何度も過去の自分や未来の自分に出くわしてるからなあ。「未来が過去を書き換える」という状況に馴れてしまっているのだろう。
「あまり気にしない方がいいよ。この先何度も同じような事が起こるから」
未来は馴れてしまっている模様、肩を叩いて過去を諭している。


「まあ、それはそれとしてだ。交代するぞ、別荘で休んでこい」「応よ。後任せ…、言うまでもないな。僕なんだから」
愚問な引き継ぎをして別荘に向かうのだが、
「ゆっくり休んでね。それと私、こんな機会は滅多にないんだから、ちゃんと看病してあげること。いいですね?」
「わかってるって。頑丈なアリョーシャ君はこんなときでもない限り寝込まないもの、たっぷりお世話しちゃうよ」
一寸した不安を抱えながら一時の休息を得る、…ワタクシは一体何をされるのでしょうか?



****



過去の自分を見送る。
「あの後って確か…、あの時のアリョーシャ君スゴかったもんねー。あんなの初めてでした」
隣の人はその後にあったことを思い出して赤くなっています。何されたのかって?看病されてお世話されただけですよ?
お風呂に入れられたりしたけどな!身体の隅々まで洗われたぞ、何を使ってどんな風に洗われたかは秘密だ!!
「惚けてないで救護室に行くぞ。あの馬鹿を叱ってやらねば」
時間的に試合が終わって、救護室にいるところだ。ああ、一緒にいる古ちゃんに痛み止めの針でも打ってやろう。後々治るけど。


「アリョーシャ!タカミチに何か言ったの?最後まで魔法を使ってくれなかった…」
ネギが憤っていた。原因は簡単、弟子一号が魔法を使わない戦い、僕に出会う前のスタイルで戦い通したからだ。
バリアジャケットと防御魔法使ってもボロボロになっている癖に生意気言うな。
「そりゃ、つまらんプライドが有ったからに決まっているだろう。そのお陰で勝てたんだ、喜べぼーや。本来なら秒殺だぞ?」
その様を見て皮肉と共にお得意の悪い笑みを浮かべるエヴァ。
『確かに。高畑氏は戦場では下らんと一括される様な矜持、それを敢えて持って戦いました。その結果がネギさんの勝利です』
結果を受け入れろと諭すミーシャ。そうだ、世の中結果が全て、いかに素晴らしい過程があろうとも結果失敗すれば何の意味もない。

だが、客観的には失敗に見えても主観的には成功なのかも知れない。
「僕は何も言ってないぞ。ま、僕の魔法は悪く言えば外道だからなあ。お前の親父の仲間だった師匠から教わった技、言うならば正道で戦いたかったんだろ」
それが僕の推論。故意に手段を絞り、何かを伝えるか見極めようととしていた場合、敗北は失敗ではない。
伝わらないか目利きが間違っていたときが失敗だ。

「なるほど、ぼーやに色々と教えようとしていたからな、あえて正道を持ってぼーやを相手したと。タカミチのバカならしてもおかしくないな」
実際にいるからね、言葉以外の行動で教える人たちが。僕の先生達にも居たし。まあ、肉体言語とか言ってサブミッションを掛けてくる人だけはいらんが。
「伝えたかったことは「この状態の僕を相手に出来なければナギに近づく事も出来ないよ」とかか?」
さあ?つーか、コイツの親父がどんな人なのかは僕は知りません。異世界人だし。

顔色が変わっていくネギ、弟子一号の言葉と行動の節々を思い出しているのだろう。
「そう言えば、咸卦法を使ったときに「これぐらいでへこたれていては同じ舞台には立てないぞ」って言ってた…」
矢張りな。ネギがどれぐらいの高さにいるのかを確認し、親父がどれぐらいの高さに居ていたのかを教える。
そうして覚悟や度胸を見極めた上で、最後の技を受け止めたのだろう、成功を確信した上で。
「…本当に強い人なんだ、タカミチは。僕なんか全然及ばないや」「俺もそう思うわ」
最初の憤った顔から、情けないやら申し訳ないやらな顔になっていく。
「小僧のお陰で「落ちこぼれ」呼ばわりから解放されたが、それまで辛酸をなめ続け来たからな。そんな中でも精進し続けた結果が、あの心技体そろった強さだ」

うん、僕もそう思う。至上主義が行き渡り、それ以外を許容しない世界。言うなれば「この素晴らしき世界」に生まれ、そんな世界の為に働く。
それだけでも強い精神の持ち主と解る。そこにあの強さだ、益体もない主義者共に便利に使われて磨り潰されかねないのに世の為人の為に戦う。
心にでかい傷でもない限り出来んぞそんな生き方。間違いなく有るだろうけど。

まあだからこそ、"魔法"を惜しみなく教えたのだがな。ざまあみろ、主義者共が。異世界の技術を持ってお前達では磨り潰せなくしてやったぞ。


「僕…、本当の本気のタカミチと戦えるだけ強くなりたい!手を抜く事なんて出来ないぐらい強くなりたいです!!そうすれば、父さんやその仲間の人たちとも渡り合えるって事でしょう、師匠?」
「まあな。咸卦法にミッドチルダ式魔法の補助だ。両方使った状態ならごく一部、じじいやあいつら級でないと無理だろう。だが、あそこまで行くのは並大抵のことではないぞ?」
人の決意に水を差す。しかし、タカミチが注いだ油に着いた火はそんな事では消えはしない。
「覚悟の上です!老師に師匠に教官、これからより一層精進しますからよろしくお願いします!!」
僕たちに最敬礼をする。目にはより強い火が灯っている。
「オオ、決意したか弟子よ。私も共に更なる高みを目指すぞゾ!」

おー、いい感じに発破掛かったな。「苦労しなくては池から魚は引き揚げられない」ということわざがある、楽して得られる物はないと言う意味だ。
そう言うことで、武道会が終わったら特訓するぞー。SPメニューの「八甲田山死の彷徨ごっこ」を補助無しのフル加重で!
ん、どうした?顔がちょっと青いぞ?「僕、お腹がちょっと…」

『薬に治癒魔法と各種揃っています。簡単に治せるかと』
「あんだけ青なって震え出す奴の倍て、どんだけやねん」
そこの犬、お前も参加するか?間違いなく神経が野太くなるぞ。
…と言うか、明日の為に強くなってもらわなきゃ困るのだ。僕が別荘で鍛えてるネギとの差がなあ、コイツガキだからいじけそうだし。


「そやな、体験させてもらうわ。どないな中身か興味あるしな」
「コ、コタロー君、やめといた方がいいよ~」
こら、人の邪魔をするな。後涙浮かべるなって。









あとがき:主人公は動けません、故に試合を見に行けません。と言う訳でネギ対タカミチ戦はバッサリとカットされました。
ご了承のほどお願いします。

…バトルを書くのが嫌でこうしたんじゃありませんよ?
















[4701] 第四十六話「メフィストフェレス」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2010/05/06 23:33
モテモテなネギ。関係者以外立ち入り禁止の筈だが、クラスメイトだから関係者だと強弁を張って入ったのだろう。
「彼女だって言ったら出入り自由なぐらいですからね。ザルな警備体制だよ」
助教に「腕立て150回!!」と言われるぐらいザルだな。でも、ここは全体的にこんなもんだぞ、ある意味完結した世界であるが故だろう。

学園都市内には数多く(主に教育関連)の仕事があって、そこで働く人たち目当てに数多くの各種商店が出店していて、一人暮らしから家族までの住居も土地も揃っている。
そんな所で育てば外に出る必要性が薄くなり出不精になるだろう、ここで事足りるんだもの。
そう言う所じゃあ、結婚相手は大体同郷になる傾向が強い。みんな出不精になってるんだもの。
で、そんな両親の間に生まれた子供も必然的にそうなる、それが何世代か続けば内部への警戒心はかなり薄くなる。
要約すれば、便利な田舎の集落や都会の長屋と同じ様なものだ。「みんなご近所さんって感じなんだね」



「…んー、でもさっきのアレは「気」って言うより…、「魔法」ってカンジに見えたかなー」パルが異様な勘を働かせた直後、
こっちにお鉢というか火の粉が飛んできた。
「で、アリョーシャの方はどうなの?あのUFOみたいな動き見りゃ「気」とか何かが使えることは確かなんだけどねー、でもくーふぇや他の人が使うのとかとは違う様な気がするんだよねー。ネギ君のにちょっと似てた気もするけど」
共通点を薄々感じとってるし。
コイツの恐ろしい所はこの直感だ。創作で感性を鍛えられている為なのかして、エラく勘がいい。その上洞察力もいいと来たもんだ。
曖昧に答えると逆に更なる核心を突きかねない、故に明確な嘘をつくことにする。
…後でバレるの知ってるから別に話してもいいんだけどね。そこの三人が「言わないでくれ」と目で訴えてるから。
「あんな風にされたら素直に応じるのが一番だとヴィヴィオは思うのですよ。アリョーシャ君はどう思うのかな?」
念話で念押しされてるし、応じるしかないでしょ?


「あー、パルよ、旧ソ連が"超能力"を研究していたのは知ってるな?」
「知ってるよー!KGBがそれを利用して色々してたってのは聞いたことあるけど、それがどうかしたのかな?」こいつはゴシップが大好きな女である。
「実はだな、我らがソヴィエトは"超能力"だけではなく、"気"も研究していたのだ!それどころか実戦投入までしていたのだった!!」だから食いつきそうな話を持ち出してみる。

案の定、「ほほう、それは初耳ね。詳しく聞かせてもらえるかなー?」食いついてきた。つか釣れた。
「KGBや軍が中心となって研究・運用していてな、研究の発端は中国共産党にいた"気"の遣い手についてのレポートがスターリンに送られたのが切っ掛けで研究が始まったとか」
「おおっ、KGBは当然としてもそこでスターリンが出てくるか!?」
うわー、がっつり食いついてる。どういう性格かはよーく分かってたつもりだったが、こうして改めて見るとなあ。
「KGBの特殊工作員向けに続けられていた研究に軍が参加した切っ掛けがダマンスキー島事件だ」
政治的・領土問題において水面下で対立していたソヴィエトと中共が本格的軍事衝突を起こした事件。全面戦争や核のパイ投げにエスカレートする可能性まであった重大事件である。
この様な事実を混ぜると嘘は見破れにくくなるのだ。対尋問訓練で教わった。
「珍宝島事件の事ね、あまりに変な名前だから知っているのさっ!…女の子に何言わせんのよぉっ!!」
女の子って、同人女で腐女子だろお前。ナニを書いたりしている癖に恥ずかしがるな。
「中共側に遣い手がいたからさあ大変、前線の被害は甚大な物になり、戦車部隊の投入と砲兵隊の一斉砲撃でようやく殺せたそうな。"気"の威力を身をもって知った軍上層部が合流、スペツナズ要員向けにも始められたと」
ここはまるっきり嘘です。クォーク一個分ぐらいの事実は含んでいるかも知れないが。

「へー、そういうことなのか。所でさ何でアリョーシャはこんなこと知ってんの?軍人家系なのは知ってるけど、流石に知り過ぎじゃないかなー」
さあ、更に食いついてきました。と言うか飲み込んでます。
「ウチの祖父さんと親父は適性アリの元スペツナズ要員。技術と経緯はその二人から教わったし、曾祖父さんは導入後の地上軍参謀本部特殊戦部長経験者。知ってて当然なのだ」
これも事実だったりする。但し、第97管理外世界での話だが。
「曾お祖父ちゃんにお祖父ちゃんにお父さんみんなが関係者で当事者って、確実すぎる話ねー。なら聞きたいんだけどさ、あれはどうやってんの?」
「ん?あれというと…」

物の見事に引っ掛かってくれたパル。嘘は上手に吐ける様になりましょう、そっちの方がお得だから。
…嫌だねえ、ごく自然に嘘が吐けるってのは。仕事柄必要と解っててもね。



パルを上手いこと騙くらかした後、始まったせっちゃんと神楽坂の試合。
結果は知っているから別にいい、会場に向かう理由は別にある。
「おや、アンドレイ君。そちらのお嬢さんは?フフ…そうですか、それが君の…。宜しければ紹介して頂けますか」
「よう、食っちゃ寝司書。僕の彼女で、同僚だ」
「初めまして、司書さん。時空管理局の者です」
棄権が確定している準決勝、お店の方が大事だからね!その時用の打ち合わせが目的だ。

「何で小僧とお前が知り合いなんだ、ええ?」隣のエヴァは放っておくのが一番です。
「アナタへの秘密を共有する仲ですよ、エヴァンジェリン」



****



同時刻、学園地下深く魔法使い達と関係組織・企業以外には機密の場所
「進捗具合はどうかね?」
各種工作用に用意された特別室、そこを学園長が訪れた。
「順調ですが…、すいませんこんな格好で。暑いもんでつい…」
この部屋を受け持つのは弐集院教諭、応対したのはいいが今Tシャツ一丁に首にタオル、膝までまくったズボンに「トイレ」と書かれた木製のサンダルとまあだらしなく、上司を応対するには不向きなことこの上ない格好である。
何時もはスーツ姿の彼だが、この様な姿なのには理由がある。

「スマンのお、今夜までには冷房を調えさせるのでな、もう少しガマンしてくれ」
「いえ、スパコンと関連機器の整備が最優先だったのは解っています。ただ…、涼を感じさせる物を用意して貰えませんか?冷やそうにも風は暑い空気をかき回すだけで、水はショートを起こしかねないので使えませんし…」
この部屋の主のごとく鎮座する箱、大学部が発注し学園祭明けに納入予定だった空冷式2TFLOPS級スーパーコンピュータ、これが発する熱が原因である。
運良くメーカーによる最終点検が終了していたそれを今回の為に強奪同然に納品させ、機密保持の関係で本来用意されていた場所ではなくこの特別室に仮設させた。
当然の事ながら、大量に発生する熱対策は施されいない場所であり、武道会開催までに出来たのは何とか熱暴走を抑えられる程度の空調が精一杯だった。
そこに大量の人員が入るのだ、人いきれとスーパーコンピュータと関連機器の出す熱が加わり真夏の温室状態となっている。
この様な環境で作業するのだ、あの様な格好になるのは自然なこと。事実、彼以外も男女問わず似た様な姿だ。
使命感で耐え、機器に向かい合ってはいるが耐えかねて逃げ出してしまってもおかしくないこの状況。
物事の重要度合いにおいて居住性というのは下の方にある物、それをまざまざと見せ付ける光景が広がっていた。

「早急に用意させよう、とりあえずこれで凌いでくれ」
無詠唱で人の背丈程もある氷塊を出す学園長、流石は学園最強の魔法使いである。





学園祭を警ら中の警官二人組、そのうちの両津巡査があることに気が付いた。
「先輩、作業している所がやけに多いですね。毎年こんな物なんですか?」
その質問に対して、麻帆良OBにして魔法警官・大原巡査部長が答える。

「いいや、開催までに間に合わせるのが基本だ。俺の頃も何とか間に合わせていたもんだ」
各所の路地や屋根に作業服姿の人間が取り付き、何か作業をしている。例年にはなかった光景だ。
その様に気付く人間はいても、結界の作用で些細なことだと認識されて気にされない。一部の抗魔法体質持ちを除いて。
「明日の夕方のイベントの準備じゃないのか?毎年大規模にするからな、警備に機動隊の連中も動員されるのは知ってるだろ?」
大原は巧みに話をすり替える。この部下は認識阻害が効きにくい体質だ、このまま気にされていると何か不味いことになるかも知れない、その様な判断に基づいて逸らした。
実際の所、期間中は麻帆良署の人員だけでは追いつかない為に埼玉県中から応援を集めている。全校イベントがある最終日となると更に応援要員が必要となり機動隊も投入している。

「ええ、機動隊に行った同期からも聞いてます。あ、先輩、差し入れ持って行きたいんですけど、良さそうなの売ってる店知りませんか?」
逸らされたことに気付かない両津は、機動隊にいる警察学校の同期や顔見知りの先輩達への差し入れへと話を移す。
大原に聞くのが一番と思ったからだ。事実、生まれも育ちも麻帆良で卒配以来ここ麻帆良署に勤務している彼の地理の知識は相当なものだ。
今もその土地勘は遺憾なく発揮されている。警らよりも観光客への道案内が主となっているほど。
「お、よくぞ聞いてくれたな。体育会系な奴が多いだろうから…」
斯くして両津巡査の発見は逸らされ、翌日の差し入れ話へと意識が向かう。





彼らは働いていた。何時もなら友人と学園祭を巡り、成功率の低いナンパなどをしながら大学生らしく楽しく過ごしている時期だ。
今はそうではない。担当教授との取引により指示の元働いていた。
らしい生活を続けすぎたが故にこのままでは留年する可能性が非常に高い。よって、取引に応じた。
「メフィストフェレスと取引した気分だ…」学生の一人は呟く。
それに反応して「おうおう、ドイツ文学専攻の彼女持ちは違うねえ。…先週別れたんだったっけ?」友人が茶化す。
「るせえ、本来だったら学祭中に新しい出会いを捜す予定だったんだよ」
「ところが教授の「私の仕事を手伝いなさい。そうすれば出席しなくても「可」を、真面目に受ければ「優」をあげよう。どうかね?」と言う悪魔の誘いに乗っちまったと」
それが取引の中身、魅力故に放つ甘い香りに引き寄せられて何人もの学生が囚われる。


学生達が部品を組み立てている部屋の隣、製図室らしき部屋。メフィストフェレスに喩えられた老人に壮年の助手が尋ねる。
「教授、よろしいのですか?参加者に無条件で「可」を与えるというのは」
教授と呼ばれた初老の男は自虐的な笑みを浮かべて答える。
「構わんよ、学園長と学部長の許可は得てある。超君へのちょっとした復讐だよ。全く、無邪気な天才というのは質が悪い。凡人が何年もかかって見つけた糸口を悪意無く掴み、一気に引き摺り出してくれる」
「糸口を掴んだ人間として感謝はされど名誉は得られず、時を経て奥深く立ち入らねば出ぬ名となりにけり。と言った所ですか」
皮肉を込めて返す助手、その皮肉は誰に向けた者なのかは解らない。

「何、彼女を否定している訳ではないよ。長年追い続けた答えを出してくれたことは感謝しているし、その聡明さには尊敬さえしている。しかし…」
様々な感情が入り交じった表情、彼は超鈴音を嫌っていた。
人生を掛けて追求すれば導き出せたはずの答えを横合いから掻っ攫われ、その為に積み重ねていた努力をふいにされたことを恨んでいた。答えを知り得た喜びで多少は薄れていたが。
奥底に残っていたそれに昨日の朝、ちょっとした油が注がれる。その油には上司の許可(実際は少し違ったが)まで付いていたのだ。
そうなれば遠慮はいらない、自分の権限を最大限用いて意趣返しをしてやろうじゃないか。努力の積み重ねを他人にふいにされる悔しさを味わせてやろう。
何、若い内の失望は将来への良き糧となる。自分も似たようなことがあって今がある、だからいいんだ。
教授が浮かべた笑みを見て助手は呟いた。「何だ、結局は嫉妬か」と。

まあ、気持ちは分からないでもない。
彼女は若い、自分たちより多くの時間が使えが故に様々な糸口や答えを見つけるチャンスが教授はおろか自分よりも多くなる。
更にあの知性だ。こちらが知性を得る為に費やした年月もがそのまま、使える時間になる。

こうして客観的に考えてみると、老女が若い女を妬む気持ちが少し理解出来る気がした。どう足掻こうが永遠に得られないものを持っているのだから。




****



「フフ…、それでは優勝賞金で君の店に食べに行くことにしましょう。いい宣伝にもなるでしょう?エヴァンジェリン、あなたもどうですか?」
「いらんいらん、お前のオゴリだと旨い飯も不味くなる。それにだ、ウチのクラスの連中は手伝う替わりにタダと小僧と取り決めてあるのでな。私は例外だが」
せっちゃんと神楽坂の勝負に決着がついた少し後、交渉は決着した。
食べに来るならあの動画が出回って話題になった後、つまり夜の部に来てくれ、宣伝効果が増大する。

「何で小僧に対しては対価を出さんのだ、お前はっ!!私の時はあれだけノリノリで出しておきながら!!」
やっぱりうるさい隣のエヴァ、ネコミミ眼鏡にスク水セーラーを着なくて済んだんだから大人しくしてなさい。
つーか、ちょっと前にもその格好させようとしたな。趣味か?好みなのか?それとも…。
「彼らは私が知り得ない事を知っていて、それを教えてくれる。それが対価の替わりです。まあ…、蒐集させてもらえば更にいいのですが」
公開出来る範疇の情報ならいくらでも教えてやるが、蒐集はさせてやらんぞ。特にヴィヴィオのは。
自分の彼女にこんな変態を近づけさせる訳には行かん。
「心外ですね。私は紳士であって、あれは親しい者に対するユーモアの一種だと言う事はアンドレイ君なら解ってもらえると思っていました」
「ほー、世界は広いものだな、こんな性格の悪い紳士がいるとは。どんな奴か一度顔を拝んでみたい者だな」
わざとらしい目線、ジト目という奴だ。それを向けても蛙の面に何とか、馬耳東風、右の耳から入って左の耳から出ると言う奴で、しれっとした顔で返す。
「一体誰のことですかねえ。教えてもらえませんかエヴァンジェリン」
その時皆の心が一体になっていた、「お前だ」と。まあ、思っていても口に出さないのが大人な対応だ。
「アリョーシャ君、指、指。クウネルさん指さしてるよ」身体は正直だけどな!





一見平和な学園都市、しかしその下では二つの策謀が渦巻き、煮えたぎっている。
二つがぶつかり合ったとき、どの様な結末を迎えるのか。
それを知ることは神ならぬ身である当事者達には解らない。







あとがき:当然すぎる話ですが、新年度初めは忙しかったです。
月末とGWにようやく纏まった時間が取れた程。

後、バトル好きの方に謝罪。



[4701] 第四十七話「狐と狸」
Name: あず吉◆d1f0c29b ID:8dd07ffc
Date: 2010/06/16 23:01
「先生、これ見てもらえますか?」
長谷川千雨はネット上に上がっていた映像を見せた後、二人にもう一つの映像を見せる。
「え?僕やタカミチが??こんなことしてませんよ!?」「俺まで映っとるやんけ!こないなことしてへんで?」
驚愕に包まれる二人、そこに映っていた光景は特撮の裏の世界だった。

「ワイヤーアクションだったのか」「火薬、多めに使ってるけど大丈夫なのか?」「上手いことクレーンを隠してあるな」

これらの書き込みの元が流出映像の少し後に流された"メイキングらしき映像"である。
大会映像にはないアングルやカメラワークがあり、リハーサルの模様や機材設置風景等々。
更にはNG映像集まである始末。
主催者側が用意した映像を見た後にこれを見ると「なるほど、こんな風に撮ったのを編集したんだな」と、思わせるだけの説得力のある映像だった。



同時刻、大会本部。主催者であり首謀者の超鈴音は考えを巡らせていた。
「どうやって撮ったのかネ?撮影はナノマシンで不可能なハズ。ダガ動きや皆の表情からすると実際に撮影したものとしか言えない…。ハカセの見解はどうダ?」
魔法使い達が作成したと思われる偽メイキング映像、作成されること自体は想定の範疇だった。応酬の速さを除いて。
「望遠での撮影かと思いましたが、違いますねー。ほらここのシーン、内部からじゃないとこんなアングル無理です。ナノマシンの妨害が効かない手段を持っているとしか考えられませんー」
「こちらを上回り、更に把握されていない手段カ…。コレは驚異と考えた方がいいナ」
「ええ、同意です。魔法使いさん達の技術は一通り知ってはいたつもりでした。この映像は認識が甘かった証拠であり、効力低下はその授業料と考えるのが妥当です」

未知の技術を目の当たりにして気を引き締める二人であったが、この地球上はおろか魔法世界にも存在しない技術が使われているとまでは考えが巡りはしなかった。



同時刻、対超鈴音対策本部。偽映像とその反響を見る二人、
「上手くいっておるようじゃの、明石君」「はい、効果を上げていますが…。よろしいのですか?学園長」
明石教授は複雑な表情を浮かべて上司に尋ねた。
「このまま泳がせ続けてもよろしいのですか?待機させている要員を投入させれば彼女の確保も可能と思われますが…」
多少の邪魔はすれど、何故決定的な行動をしないのかと。
「このまま嫌がらせは続ける、これは警告なんじゃよ。じゃから捕まえん」
「警告ですか。ですから、確保する為に動くことでより一層の警告となりうると思われますが?」

暫しの沈黙、学園長が口を開く。何時もの飄々とした空気を消して。
「君も見たじゃろ?奴さんらの保有戦力を。あれだけの準備が出来るんじゃ、首謀者を捕まえても"同志"達がおる限り動き続けるぞい」
2500体の各種ロボットと使役された鬼神6体、まかり間違っても個人で用意出来るものではなく、出来たとしてもこの時期まで隠し続けられる物でもない。
彼女の影に複数、それもかなり多数の"同志"がいると考えた方が自然だ。
解っているからこそ押し黙る明石教授、そこに畳みかけるように続ける。
「全員捕まえるのが最善というのは解っとるよ。じゃが、たった三日でどこにどれだけおるのかをすべて調べ上げて捕まえるのは無理じゃ」
紛れもない事実だ、範囲を麻帆良だけに絞ったとしても関わっていることが確実・不確実な人間の数は相当なものとなり、そこに外部も含めれば恐ろしいまでの時間と人員が必要となる。
敵の大攻勢が迫っている状況でそれに注力することは正気の沙汰でない、敗北は世界の混乱に繋がるからだ。

「じゃから今は泳がせておる。それにの、時間がないのは向こうも同じじゃ。次のチャンスは22年後、それだけの間が空けばどうなるかは君なら解っとるじゃろ?」
飄々とした表情での回答を聞いて、苦笑を漏らす。
「確かに、熱された主義者や支持者にとっての最大の敵は時間ですからね。経てば経つほど冷めていく」
狂気にも似た情熱を保てる人間でもない限り、20年以上の歳月は長すぎる。
逆にこちらにとっては味方となる。それだけの調査期間を与えられたも同然だからだ。

「うむ、冷却期間を与えてやろうではないか。ただし、絶望という名の冷水を頭から被ってもらうがの」
「実働部隊の大敗北という名の冷水をですか」
希望は時として毒となり、絶望は薬となる。近衛近右衛門はそれを身をもって知っていたのだった。




****



試合は順調に進む。
犬はクウネルにボコられて凹んだのを別の時間軸の僕がハートマン陸曹直伝新兵扱き法で無理矢理立ち直らせると同時に鍛え直し、
エヴァに勝ったせっちゃんは何か開き直る。…開き直った人って、結構怖いのよ。

「さて、姿変えるとするか」
そうして時間は別の時間軸の僕が店に入った頃。檄飛ばしても皆の頭を臨戦態勢に切り換えているだろう。
となると、このままの格好で居続けると矛盾が出てくる。そういう訳で変身魔法を使って姿を変える、何時もの飲みに行くときの格好だ。
それを見たヴィヴィオがイタズラな笑みを浮かべて聞いてくる。
「気軽に使ってるけどいいのかな?変身魔法と言うのは、管理局法上、正当な理由若しくは指示無く使用した場合、違法と見なされるのです」
いいのいいの、ここは管理外世界。それも現時点では確認さえされてない世界で、局員は僕とヴィヴィオの二人だけ。黙ってれば何の問題もありません。
それに前々言ってたじゃないの、小っちゃい頃に変身制御で今ぐらいの格好になったりしてたって。大人モードって言ってたっけ?
そんな人が言っても説得力がありません。
「うっ…、痛い所を…。でもね、天と星に誓って遊びで使ったりはしてないよ、武術と魔法を使うときだけ。ママとの大事な約束だもん。お酒を堂々と飲みに行く為に何か使ってません」
「僕…いや、ウチの一族にとってのお酒というのはね、君にとっての武術と同じレベルにあるのだよ。祖父さんに親父に叔父さん叔母さん達が集まればそこには必ず酒、僕は様々な魔法と一緒に酒を教えられたのさ」


ウチの一族(血縁)は酒好きだ。会えば間違いなく酒を飲み交わすぐらいの酒好きだ。『閣下がそう育てましたからね。大奥様は良くは思っておられませんが、もう諦めていますし』
沖縄の家に遊びに来たら僕たちへのお土産とセットで必ず酒持ってくるからなあ。
それに対してサマゴンカ(自家蒸溜ウォトカ、密造?ロシアじゃ家伝の製法があるぐらい日常茶飯事だぜ!)や泡盛にそれに色々漬け込んだ母さん特製果実酒で持て成すのだ。

因みにこの泡盛、とある造り酒屋から壺買いしている。ここは進さんの母方の従兄弟の家なんだとか。
下手な小売店並みに買うのと藤堂の爺ちゃんとの縁もあって仲良くさせてもらってます。この前は100年物の古酒ご馳走様でした。

それはさておき、注がれたグラスは飲み干すのが礼儀なロシア系ミッドチルダ人。そんなのを繰り返すうちに空の酒瓶がどんどん増えていく。
さて、問題です。楽しんで飲んでいるのがよく解る人間ばっかりの環境におかれた子供は酒に拒否感を示すでしょうか?
答えは「Нет(いいえ)」人生になくてはならないものとなっています。


と、思いの丈の伝えてみた所、呆れ果てた表情を浮かべられた。
「…わかりました、そこまで好きなら黙っておいてあげます。今の内に肝臓をたくさん苦しめておいて、後でたくさん苦しめられるといいです」
変なこと言ったかな?因みにミッドチルダにはいい薬や治療法がありますので肝臓に問題はありません。

「でね、元に戻るのですが、私はどうすればいいのかな。このままの格好じゃあ矛盾が出るよ?子供の時は変身出来たけど、今は出来ないし…」
「こんなこともあろうかと用意してあるのですよ、口開けて」
青いあめ玉を口に放り込む。無論あのあめ玉だ。
「なるほど、こっちのマジックアイテムを使うという手がありましたか。こういうところは進んでいるんだね」
変化した姿は小学3・4年生頃、一番上の弟ニコライやネギに犬と同じぐらいだな。
『はい。実に興味深い物が多い為、調査団到着後に本格調査を進言することを提案します』
僕も同意見だ。と言うか、提案しなくても調査員の人が食いついてきそうな気もするけどな。




****



変装を済ませた我々、尋ねられた時用偽プロフィールもばっちりだ。嘱託時代の仕事の一つにこう言うのがあったので馴れているのですよ僕は。

さて、只今準決勝までの休憩時間中。と言うかアナウンスしてる最中。
本来なら会場に向かうのだがもう関係ない、棄権したもん。クウネルに渡した手紙をパパラッチに渡してあのメッセージを言わせる予定。
否が応でも耳目を集める組み合わせ、一方的な試合を見せた奴と常識外れの機動を見せた奴の勝負。
そこで読み上げられる棄権宣言と宣伝を兼ねた啖呵切り。いい宣伝になるだろ?

「むー、久しぶりにするとちょっと恥ずかしいよー。ザフィーラやユーノパパにしてもらってた頃は何とも思わなかったんだけどなー」
「成長したって事よ。ある程度成長するとこういうのや甘えるのが恥ずかしくなってくるの、ニコライがそうだもん。ちょっと前までは後ろに付いてきてたんだけどなあ…」
「それはそれで寂しい気もするね。ランチアやアイはまだ小っちゃいから素直に甘えてくるよ」
弟妹話をしながら移動中、20代中盤と10歳では歩幅が違いすぎるので肩車中。小っちゃくなった彼女をこの様にするのは新鮮な感じでよろしい。
肩車自体は嫌というほどしてるけどな、ニコライ以外のを。あいつ、嫌がるようになったからなあ。お兄ちゃんはちょっと寂しいぞ。


と、上空に展開させてある「魔女の眼」の警戒網に反応がある。同じような事しながら高速で移動する人影、美空ちゃんとココネだ。
あの人、僕とミーシャによる解析で「99.9999%間違いない」って言っても謎のシスターだって頑ななまでに言い張ってたなあ。
…言わせてみるか。ついでだ、あのイタズラ好き(ココネ証言)を思いっきりからかってやろう。丁度いいネタがあることだしな!!
「楽しそうな顔してるね」『酒もですが、人をからかうのも好きですからね。同志は』




「美空ちゃん!?美空ちゃんでしょあんた!?何やってんのよ、こんな所で!?何よ、そのカードはぁっ!?」
「いえいえいえ、私美空などという人ではありませんよ。見てのとおりの通りすがりのシスターでして」
丸わかりの癖に必死に否定している人と思いがけない所で思いがけない状態の知り合いに出くわした人。
片や必死に否定、片や必死に肯定させようとしていて、端から見ると滑稽な様である。
さて、そこに横合いから殴りつけて大混乱に陥れてやろうじゃないか。


「おや、そこにおわすは…、四数田さんではありませんか」
「へ?…えーと、どちら様で?」
突如子供を肩車した知らないオジさんに話しかけられれば当然こうなるといった顔をする当事者。
「と、…アリョーシャじゃない。どうしたのよ、変身なんてして。試合はいいの?」
「あやー、ヴィヴィオちゃん可愛らしなってもうて。あんあめ玉なめたん?」
あれこれ知っている人たちは平然としていますが。
「あー、幻術とかで姿変えてるのね。でさ、四数田ってだ…、そ、そうそう、私は美空じゃなくて通りすがりの魔法使いの四数田さんです」
「今、誰って言いかけましたね」「はい、"だ"まで言ってました」
助け船と勘違いして引っ掛かってくれる美空ちゃん。かかったなアホめ!!

「でね、この人は仕事仲間の四数田さん。四つの数の田と書いて"しすた"と読むの。因みに本籍地は福知山市」
「そうそうそう、変わった名字でさー」
三文芝居をしながら乗ってくれている。この後どうされるかも知らず…。
「へー、本当は四数田って言うんだ、美空ちゃん」
あー神楽坂、冷めた目で見るな。コレから始まる誘導尋問の一環なんだぞコレは。
「だから美空ちゃんじゃなくて四数田だって」さて、始めるとしましょう。

「教官、何か企んでますね、ミーシャさん?」『はい、思い切り企んでます』

横合いに立ち、逃亡防止に肩に手を置く。
「今ではこんな四数田さんですが、ちょっと昔僕が初めて知った頃はあんなんでした…」
「と言われましても…、どの様な?」至極当然なせっちゃんの指摘、
「それはもう極悪人でしてねえ。殺人、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、拉致監禁、密輸、誘拐、放火…」
返答としてテンポ良く悪事の数々を述べていく。皆の顔が引き攣っていく、いいように言われている本人は必死に首振って否定中。
そこに止めの一言、「…以外を行うほどでして…」

あ、転けた。見事なまでにすっころんだ、苦笑している弟子二号以外。
「あ、後何が残ってんのよー!!」
早めに立ち直った神楽坂。得物がハリセンな為か、いの一番にツッコミを入れる。
「皆で六個ずつ分けれたのをつまみ食いして五個ずつにしたりとか、朝顔洗うときにお湯出しっぱなしにしたりとか、真冬にお風呂の蓋開けっ放しにしたりとか、遊びに来た親戚の子叩くとか…」
今度はある意味悪事を並べていく。我が家ですると間違いなく母さんに怒られそうなのばっかりを。
「私はそんな行儀悪じゃねー!」
否定してはいるが、似た様なことなら絶対してるに違いない。イタズラ好きなんだからそうに決まっている。

「…冷蔵庫に入れておいた私のプリン食べたりトカ…」
ほら極悪人だ。「人のプリン食べてまうのはあかんなー」このかちゃんも同意してるぞ。
「ココネー!それはこの前謝ったでしょー!?」
食い物の恨みは恐ろしいのだ。極限状況であっても揉めるし。


攻撃の手は緩めない。今回みたいに追い詰めることが目的なら特に。
「更にだ、こんな格好してるけど浄土真宗なんだよコレが」
またまた転ける、今度は弟子二号までも。「さ、さすがにその発想はありませんでした…」
「ウチは両親ともクリスチャンだって!そりゃあ、お盆にご先祖様のお墓参りしたり、除夜の鐘を突きに行ったりはするけど…」
とっても日本人らしいことを言ってくれる美空ちゃん、本当に敬虔で日本的宗教観に染まってないクリスチャンなんてこの国は殆どいないからねえ。
何てったって、神父様や牧師様や主教様達でさえ染まっちゃうぐらい。だから「宣教師の墓場」などと言う不名誉なあだ名を付けられたりするのだ。

無茶なボケに対してツッコミを入れ続けた為に疲れが見えてきた美空ちゃん。ここまで来りゃいいだろ。
「とまあ、この様な人なのですよ。…どうかしましたか、四数田美空さん?」
「いや、四数田美空じゃなくて春日美空だって…、あ」
散々揺さぶられていた為に気が緩み、ついつい誘導尋問に引っ掛かる。

「ほら、やっぱり美空ちゃんじゃないの。フルネームで言っちゃったらごまかせないわよ」
「突然何を言い出したのかと思えば、このための布石でしたか」
そうそう、バレバレなのに否定し続ける様がおかしかったからね、からかって且つ自供させてやろうと思った訳。

しらを切り通せなかった悔しさを身体いっぱい使って表現する美空ちゃん、慰めていた神楽坂がふと、何かに気がついたような顔して訊いてくる。
「そいえばさ、こんな所で美空ちゃんからかっててもいいの?試合行かなくていいの?」
すると、丁度合わせたようなタイミングでクウネルに渡しておいたメッセージをパパラッチが読み上げた。
「えー、先程のメッセージのとおり、店長業務を優先した為にコンドラチェンコ選手は棄権いたしました。…これより15分間の休憩に入ります…。ああっ、ブーイングはお店にいる本人に言ってぇー!私は読み上げただけなのよーっ!!」
次の瞬間、何とも言えない沈黙が広がった。


暫し後、カシオペアのことを知っている面々は全てに納得が行った顔を浮かべる。ただ、知らない二人の内一人は「え、何でみんな納得してるの?」と言う顔をしているが。
もう一人?「別に私には関係ない」と言った感じです。










あとがき:後半、TVで吉○新喜劇(小藪座長回)を見ていた時に電波を受信。
それを元に書いてみた、反省はしていない。







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