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[41120] 冬木防衛戦、深海棲艦『レ級』現る(Fateシリーズ×艦これ)新章始めました
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2016/03/27 21:11
注意
このSSはFATEシリーズ(特にzero)と艦これのクロスオーバーです。
艦これ側は幾らか独自設定で、FATEの世界観に組み込む感じ・・・そういうオリジナル要素等が苦手な方は注意して下さい。

・・・艦これ側の登場キャラは少なめです、ごめんなさい。
もっと出せと思う方も居るでしょうが話の都合上出せるキャラには限度が・・・ごめんなさい。
主な登場キャラは艦これ風味FATEキャラが一人、艦娘が二人(過去編なら+一人)深海棲艦が一体です。

追加・・・多少変則的な形ですが艦これキャラが三~四人増えそうです、でもこっちは出番は控えめかも。

追記二・・・現在、第五次『前夜譚的なもの』を投稿中、こちらは艦娘が二人、深海棲艦が一人(モブなら沢山)出ます。



[41120] 序章・過去の出来事
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/06/11 00:42
男が居た、傲慢な男だった。
アインツベルン始まって以来の天才的魔術師で、党首となって三度目を数える『戦争』に向かった。
その男の名はアハト=アインツベルンと言った。



「何故初代党首も先代も気づかなかったのか。
アインツベルンの魔術が戦いに向かず、聖杯『戦争』に勝てないのなら……『戦争』を司る者を呼べば良い。
戦争の神格、例えサーヴァントとして不完全な具現化だとしてもお釣りが来るだろう。
……アテナ、アレス、マルス、タケミカヅチ……さて召喚されるのはどれかな?」

魔法陣に主要な軍神戦神、その他神々縁の宝物が並べられている。

「どれか一つでいい、召喚の触媒として機能すれば……満たせ満たせ……」

彼は自信満々に詠唱する、自分なら出来ると信じきっていた。
だが、その代償は大きかった。
まさか戦争の一面、侵略し人を殺傷するという『負』の『概念』が『超自然的災害』として実体化するとは思っても見なかった。

「ここに現れよ、天秤の守り……「五月蝿イヨ、オ前」……え?」

ザシュッ

魔法陣の中心に膨大な魔力が渦巻き、そして次の瞬間そこから伸びた『蛇のような巨大な尾』が令呪の刻まれた右腕を食い千切る。
この瞬間冬木の地に『人類種の天敵』が出現した。
史上類を見ない、最悪の戦争が始まった。



序章・悪夢の第三次聖杯戦争



「ぎゃああああああ!?」

アハトは悲鳴を上げる、その聞くに堪えない叫びは『彼女』を刺激しただけだった。
『雪のような真っ白な髪』『夜の闇のような黒い外套』『白蛇の如き下半身』を持つ少女が不敵な笑みを浮かべた。

「アア五月蠅イナア、残リモ食ッチマウカ……」
「ひっ、そ、そいつを止めろ、ホムンクルス共!」

彼は慌てて警護のホムンクルスをけしかけると、ふらつきながら必死にここから逃げていく。

「アハハハ、召喚早々ゴ馳走アリガトナ、『元提督』!」

ビチャビチャビチャ

ホムンクルスの返り血で赤く染まり、血を(そしてホムンクルス達の魔力をも)啜る少女を残して、アハトは逃げるしか無かった。
こうして彼の、アハト=アインツベルンの聖杯戦争は一日で終わった。

「フウ、オ腹一杯……サア暴レルカ」

そして戦争の一面、人を間引く現象として実体化したサーヴァント・アベンジャー『深海棲艦レ級』という災いが解き放たれた。



それから凡そ一ヶ月彼女は荒れ狂った。
五騎のサーヴァントを降し、あらゆる命を喰らい続け、冬木の地を恐怖のどん底に陥れた。
ある瞬間まで、彼女を脅威と考え自ら出陣した間桐臓硯と『大和』に落とされるその時まで。

「アーチャー、いや……英霊『大和』よ、あれを落とせ。
令呪を持って命ずる、更に重ねて命ずる……最後の令呪を持って命ずる!……粉砕せよっ!!」
「はっ、宝具……『主砲、連装46㎝砲(書類上は予算詐欺で40㎝)』」
「ギャハハ、コリャ無理ダ、モウチョイ暴レタカッタガ残念ダ……流石ニ令呪三角強化ノ、超弩級戦艦ノ主砲ハ耐エラレナイカ」

五騎の英霊と五人の魔術師と数千の一般人を食らった反英雄『深海棲艦レ級』は臓硯の全てを駆けた一撃で消滅し、同時に大和も消える。

「ふん、こう被害が出ては勝った気はせんな……大和、良くやってくれた、だが……アハトの不手際で聖杯が紛失した、勝利者なのにすまんな」
「いいえ、彼女達と戦うのが我が使命……そういう意味ではこの勝利で望みは叶えられました、だから気にしないで」
「聖杯抜きで望みを叶えたか、羨ましいな……」

消え行く大和を見送って、間桐臓硯は暗い顔で歩き出す。
嫌な胸騒ぎがした。

(終わった、そう終わった筈だが……次回に備えた方がいいかもしれんな)



第三次聖杯戦争はその凄惨たる結果に加えて、二つのイレギュラーで今までに類を見ない物だった。
艦娘と深海棲艦(前者は大和が名乗り、後者はその口から明かされた)、これ等二つは聖杯戦争関係者の心に深く刻まれる。
魔術師達の中で、それぞれ希望と絶望として語り継がれていった。



尚唯一の生き残りの魔術師、間桐臓硯が抱いた懸念は凡そ半世紀に的中することと成る。



序章の二・第四次聖杯戦争・・・『一体目の召喚』



アヴェンジャーの反英雄『レ級』、それの齎した惨禍が忘れ去られかけた頃『冬の城』にて一人の英雄が召喚された。

「サーヴァント『ランサー』着任しました……問おう、貴方が私のマスターか?」

黄金の髪に白銀の鎧、『巨大なラム(衝角)』を持った少女が『擦り切れた男』に問い掛けた。

「君がアーサー王……なのか?」
「違います」
「え?」
「ロイアルアーサー、まあ伝承通り『蘇る王』として19世紀『英国の外征駐屯地の守護』を担ってはいたので間違いではないかな。
……艦娘ですが一応アーサー王の転生体といえるかも」

彼女はやや憐憫を含んだ声音で、もう一度改めて名乗りを上げた。

「……ランサーのサーヴァント、そして同時に……巡洋艦『ロイアルアーサー』、着任しました」

この瞬間人と英霊と、全てに牙を剥く異形の魔物『深海棲艦』の戦いが再び幕を開けた。





思いつきから書いてしまいました・・・英国にセイバーという船発見→アルトリアさんにこじつけ後無理がありボツに→ロイアルアーサーに気づく。
・・・紆余曲折の果てに結局書いてしまった、基本的に艦娘風セイバー(ロイアルアーサーが衝角持ちでランサー)+艦娘二名VSレ級がメインです。



[41120] 一 聖杯戦争前夜
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/06/11 00:43
三度目の戦争から半世紀経て運命の夜が再び始まる、それが運命かのように因縁が再び冬木に収束する。

「ふっ、見ていたまえ、ソラウ……これから私が呼ぶのは……前回の聖杯戦争でアインツベルンが喚び5騎までを倒した英霊だ」

ザシュッ

「五月蝿イヨ、オマエ」
「え、ぐわあああ!?」
「ああ、ケイネス!?……(……あの英霊がケイネスに気を取られてる間に逃げましょ)」

戦争を名誉を得るための場としてしか考えられなかった男は『戦争という災いそのもの』に食われた。



「畜生畜生、エリート気取りの頑固野郎、僕はあの男……ケイネスを超えてやる……という訳で召喚だ!」
「……HELLO、私は金剛デース、クラスは(波に乗る的な意味で)ライダー、よろしくね、提督!」
「……は?」

師を越えようとする少年は何の因果か、師の召喚した(そして彼を殺した)サーヴァントの『対極』といえる存在を召喚した。



「妙高型巡洋艦『足柄』着任しました!」
「大和じゃない、じゃと……」
「お祖父様、この人バーサーカーだって」
「だって飢えた狼だから!」
「……アーチャーの席が埋まっていたというところかの、遠坂かアインツベルン辺りか」

レ級再臨を考えて、色々準備してきた臓硯は頭を抱えた。
衰えた自分の代りのマスターに態々遠坂桜を引き取りすらしたのに(外には新しい血を入れる為、身内は胎盤にすると嘘を付いた)



そして、最大のイレギュラーは『冬の城』で起きた。

「サーヴァント『ランサー』着任しました……問おう、貴方が私のマスターか?」

黄金の髪に白銀の鎧に『巨大なラム(衝角)』を持った少女が『擦り切れた正義の味方』に問い掛けた。

「君がアーサー王……なのか」
「違います」
「え?」
「ロイアルアーサー、まあ伝承通り『蘇る王』として19世紀『英国の外征駐屯地の守護』を担ってはいたので間違いではないか。
……艦娘ですが一応アーサー王の転生体といえるかも」

彼女はやや憐憫を含んだ声音で、もう一度改めて名乗りを上げた。

「……ランサーのサーヴァント、そして同時に……巡洋艦『ロイアルアーサー』、着任しました」
「…………そうか、二三のイレギュラーは覚悟していたが行き成りか」

やっと理解したマスターが苦々しい顔に成り、それに対しランサーと名乗った少女は済まなそうな表情をする。

「まあ混乱するでしょうね、いや私も……聖杯戦争なら普通にアーサー王として来たかったのですが……」

気まずげに彼女はある事実、悲劇的真実目の前の二人に説明する。

「深海棲艦の気配がする、それへの対抗として召喚された可能性があります……無事に聖杯戦争が出来る可能性は低いでしょうね」

それは世界の危機に世界が望んだことかもしれないし、あるいは人側の事情で起きたことかもしれない。
唯確かなのはこの場に呼ばれたのはアーサー王ではなく、艦娘だがアーサー王の性質も持つロイアルアーサーであるということだ。

「ええと……マスター、怪物退治のご経験は?」
「一応あるが……」
「ああ良かった、流石に単騎は厳しいので……頭数、一部隊揃えるのは無理そうですが」
「おい、僕も数入ってるのか?強制!?」
「……システム的に単騎は直ぐ落ちちゃいますから」

こうして『擦り切れた男』は最後にもう一度だけ正義の味方として、歪んだ聖杯戦争への参加を余儀なくされたのだった。



一 聖杯戦争前夜



「……ランサー、君のスキルで一つ疑問があるんだが」

『疲れ果て擦り切れた正義の味方』衛宮切嗣が自分のサーヴァントに問いかける。
戦場を地獄と考える彼はそこで戦果を立てた英霊に話しかけたくはないのだが、そうは行かない理由がある。
かつて第三次聖杯戦争を滅茶苦茶にした深海棲艦の存在を聞いてしまった。
そうなると自分の拘りでチームワークを乱す訳にはいかない、彼は渋々だが妥協したのだった。

「ええと、良くわからない能力があってだね……」

彼は自分のサーヴァントの能力を確かめるためにステータスを確認し、そこで思わず首を傾げる欄を見つける。

「スキル……『イギリス海軍』って何だい?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれました!」

この問いにランサー『ロイアルアーサー』は無い胸を張って偉そうに答えた。

「これこそ最強の証である!……ああ具体的にはイギリス海軍所属艦娘は宝具以外の全ステータスが1ランク上昇します」
「は、はあ、凄いもんだね……」

所謂知名度補正の一種である。
それによって上がったステータスを見た切嗣は素直に感心する。
そこには筋力B敏捷A耐久A魔力Aという凄まじい数値があった。

「但し戦艦以外ですが……大体五発でビスマルクに沈められたフッド関係で戦艦は逆にマイナス補正が掛かるので」

どうやら余り大きな艦種だと逆に弱体化するらしい、切嗣は自分のサーヴァントが巡洋艦クラスであることに心底安堵した。

「……ところで宝具Bなのは何故だい、あの聖剣は?」
「アーサーそのものではないから『約束されし勝利の剣(エクスカリバー)』使用不可ですので……」
「ああそうなるのか……まあ仕方ない、燃費が上がったと思うか」
「え、ええと『衝角突進(ロンゴミアント)』が一応対軍宝具ですから!」

残念ながら旨い事ばかりではないようだ、最強の聖剣無しで戦わねばならないらしい。
唯辛うじて衝角が宝具扱いなのが救いか。
だが、それより気にすべき点が一つ有った。

「……後幸運だけDと異様に低いんだが」
「…………マスターの影響ではないかと」
「う、否定出来ないね……」

死徒により壊滅した故郷、師の命を己の手で奪ったこと、思い至ることがあり過ぎた。
暗い顔になった切嗣を見てランサー(元アーサー王)が慌ててフォローする。

「あ、ああ、でも……そ、そうだ、女運はいいと思いますよ、ほらこっちはアーサー王の頃それで破滅してますから」
「……捨て身のフォローありがとう」

寧ろそっちが酷いだけな気がするが、お陰で切嗣は少し落ち着けた、少なくとも良き妻と可愛い娘が居るだけ彼女よりマシだろう。

「さあ提督(マスター)幸運低下の件は忘れるとして……戦略を考えましょう!」
「あ、ああそうだね、深海棲艦のこともあるし色々準備しないと」

先ほどまでの会話(地雷)を忘れることにして衛宮切嗣とランサー『ロイアルアーサー』は話し合いを再開する。
皮肉なことに、英雄嫌いと艦娘でもあるイレギュラーな英霊は共通の敵(深海棲艦)の存在により辛うじて一つの勢力と成っていた。




「深海棲艦とは何か、難しい問いじゃな、儂の推論も混ざるが……」

特殊な香が、朽ちかけた生者の肉体を活性化させる香が漂う空間で老人が口を開く。
彼は魔術師かつ半死徒というべき存在だ。
レ級という脅威を知り強引に延命した、だが獣そのもののレ級を見た事で自分の理性を保とうとして完全な死徒に成っていない。
そんな執念深く半端とも言える男の言葉を『好戦的な雰囲気』『白いカチューシャと黒髪』『黒っぽいスーツ』の女がじっと聞く。

「かつてアハトの若造は戦神を不完全な状態で喚ぼうとした、その時現れたのが深海棲艦『レ級』だ。
……恐らくあれは戦争という概念の一面が実体化したものだろう、侵略や殺傷行為といった類の……」

不完全な召喚が戦争の一部分だけを先鋭化させて喚んだ、彼は己の立てた推論を話していく。

「深海とは人の手の届かない領域だ、死を想像する程に……それが反英霊となるのにはちょうど良かったのかもしれない。
あるいは某著名なオカルト作家ラブクロ……ごほん、『R』の提唱した不定形生物や魚人等と同じようなことかもしれぬな」

戦争の負の側面、深海が持つ暗いイメージ、それ等が合わさり強力な反英霊と成ったのが深海棲艦だと彼は言った。

「深海棲艦は二つの特徴的スキルを持つ……『捕食者』と『殺戮者』じゃ」
「『捕食者』に『殺戮者』、どういう物なの?」
「『捕食者』は人及びそれに類する者を喰らい効率的に自分の糧とし、『殺戮者』はやはり人及び類する者を効率よく殺害する」
「……ああだから大和は勝てたのね、人ではなく艦娘だから」
「そういうことじゃろうな、足柄」

コクと老人、かつて大和と共に戦った間桐臓硯は自分のサーヴァントの言葉に頷いた。

「艦娘は深海棲艦への対抗力……深海棲艦が人を殺しすぎれば『霊長側』が困る、世界を壊しすぎれば『星側』が困る」
「だから私達が喚ばれた?」
「ああ、聖杯戦争に現れた最悪のイレギュラー『レ級』、それに対向する為の『霊長側』と『星側』のほんの少しの後押しでな。
……恐らくそれが儂にかつて大和を与え、またお主をここに喚んだのじゃろう」
「……大事になる前にそっちで何とかしろってこと、駄目なら守護者で全部吹っ飛ばすか」

事前に押さえられればそれでよし、駄目なら霊長側と星側が被害を考えず倒すのだろう。
これは負けられないと臓硯と足柄は緊張した表情に成った。

「……『前の海より』酷い戦いになりそうね」
「だが勝たねばどうにもならん、レ級が居ては根源を目指す余裕もないのじゃ……期待しておるでな、飢えた狼殿」
「まあ任せて、栄えある妙高型は勝負強いのが自慢よ!」

にやりと足柄は好戦的に笑い、心強いことだと臓硯も笑みを浮かべる。

「うむ、深海棲艦の対抗で軍艦がベースなのは侵略に挑む者だからだ、この国の雄々しき軍艦への信頼や想念も後押しするだろう。
謂わば今まで散々英霊を翻弄してきた知名度による補正が……お主らだけには味方となってくれる筈じゃ」
「へえ、そう言われちゃ尚更負けられないね!」
「……まあその性格が心配だがな(……飢えた狼か、狂戦士に選ばれる程の攻撃性が裏目に出なければいいが)」

彼女は他国の技術者が絶句する実戦的設計からの異名『飢えた狼』に相応しい攻撃的性格をしていた。
だが、それは攻撃面ではプラスとなるが防御面では逆に不安になりかねない。

(……そういえば家出した次男が『桜』の母に惚れていたか、桜関係で言い包めれば即席戦力くらいに成るか)

例えば『虫蔵』に入れられるとか『廃人』に成ってるとか、そう思い込ませればやる気に成って自己改造くらいするかもしれない。
思いついた臓硯はそれを実行に移すべく次男に連絡を取ることを決めた。
彼はやはり善人ではなく、例え打倒レ級に燃えていても冷徹な魔術師だった。



そして最後に、戦う前に負けた者が爆弾を落としていった。

「婚約者がサーヴァントに喰われました、保護してください」
「……ああ、それを受けよう、ミス・ソラウ」

その女を迎えた神父、言峰綺礼が彼らしくなく一瞬ぽかんとした。
何故なら女は最愛の男の死を全く気にしていないのだ、それどころか彼が食べられてる間に逃げ出す始末である。

「貴方は……悲しくないのですか」
「いや家が勝手に決めたことだし、そもそも婚前交渉もまだだから……ああでも帰る時は夫の死に泣く位しないと行けないかしら」

さばさばし過ぎてるソラウの言葉に綺礼は頭を抱えたく成った。

(……ああこれが同情か、見たことも会ったこともないケイネス=エルメロイ=アーチボルト、私は貴方を哀れだと思う)

恐らく彼は人生では始めてその感情を抱いた。
こういう形でそれを実感するのは、自分が正の感情のない失敗作だと思っていた身としては皮肉だが。

(少なくとも……私の妻はこれより余程マシだったな)

綺礼はかつて死別した妻を思う、死に際に悲しめなかったこと(正確には少し違うが)が今の彼の不安の始まりだ。
が、目の前の自称未亡人を見ると違うような気がした。

(……今私は安堵したのか?少なくともこいつでなくて良かったと、妻が良き女だったことにかつてと違うことを思ったか?)

(正常な)喜びも悲しみも知らない男は始めてそれを実感しかかっていた。

「ああ、少なくとも全く心を動かされなかった訳ではなかったのか……」

彼は愉悦以外の何かに気づかけていた。

(私は妻を愛せていたのかもしれない、唯愛という物の感じ方がズレてただけ……愛かどうか兎も角失うのを惜しいと思えてはいた)

少なくとも比較対象である目の前の自称未亡人でなくてよかったと、妻のことをよく思う程度には想っていたらしい。
壊れていた筈の男は意外な切っ掛けから自分の人間性に気付けた。

「ねえ、神父、未亡人気取るなら私が喪主やった方がいいかしら?」
「……そちらの好きにやれば宜しいかと(……関わりたくないなあ)」

でもその代わりに、自分ではなく人間の善性自体が信じられなくなりそうだった。

(ああ誰でもいい、私に人の善性を見せてくれ……これが人の全てだと信じたくない)

壊れかけた男は祈った、彼はギリギリのところで踏み留まっていた。





今更だけど説明回、臓硯さんが教師役で深海棲艦と艦娘について(まあ前回書くことの気がしますが)
性質的には某病気ライダーが近いのかな、でそれぞれ戦争の正負の属性が偏って出てるって感じです。
・・・神父が悪女のせいで愉悦せず、その代わり人間不信になるかも。



[41120] 二 火種蠢く冬木にて
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/06/19 00:21
『深海棲艦』それは人という種の天敵で、世界を脅かす存在である。
かつて第三次聖杯戦争で召喚された『レ級』が多大な被害を出したように。
その性質は破壊と殺傷能力に特化している。

不幸中の幸運というか、現在までで二度の召喚事例しか無いのは数少ない救いだ。
あるいは『何らかの理由で時間の停滞した世界』ならば複数体現れる可能性が有った。
死とは存在の究極的な停止であるから、停滞した世界ならそれを崩す者に死を与える防衛機構として複数現れるかもしれない。
それに比べれば単騎の召喚というのはマシだとは言える。

更に言うと対抗存在として召喚された『実体化した軍艦の少女』達の存在もそう言えよう。
彼女達は侵略者に立ち向かう『人の希望』という『戦争の正の面』として召喚された、それ故に深海棲艦への数少ない対抗手段だ。
唯見かけ通りの心を持っていることを忘れてはならない(戦時下の行動や攻防どちらを主としたか等からの性格設定ではあるが)

だから、彼女達と共に行動し、一筋縄ではいかない性格に振り回されることもある。



二 火種蠢く冬木にて



衛宮切嗣は冬木について早々『ある場所』に向かった、己のサーヴァントにせっつかれての事だ。

「……ああ、私はサーヴァントとして召喚され、初めて感動しているかもしれない」

朝日のように輝く黄金の髪、白磁の如き肌、そんな世の大半が羨むような特徴を持つ少女がドンと『空』の皿を机に置いた。
注文が届いて数十秒程で彼女が平らげた物だ。

「店主、海軍風カレーお代わり!」

もきゅもきゅがつがつ

「ランサ……その、そろそろ終わりに……」
「嫌です、外食もしたくも成りますよ、貴方に……レーション等という雑な食事を用意されれば!」

サーヴァント、ランサー『ロイアルアーサー』の暴食に切嗣は頭を抱えた、力無く制止の言葉を掛けるも睨み黙らされる。

「それに、これは座の情報ですが、海軍風カレー=ソウルフード……そう『弩級後継である某四姉妹』経由で記録されてるので」
「……自分も食べてみたく成ったか、まあ多少なりとも魔力に成るからいいのか?」

『四姉妹』とランサー(ロイアルアーサー)はそれなりに深い関係がある。
相手は運用こそ日本海軍だがイギリスで設計された、巡洋艦戦艦の違いは有れど先輩後輩という関係で、その情報が座にあるのだ。
尤もそれで得た情報がカレーが美味しいというのは下らなすぎるが。

もきゅもきゅがつがつ

「ふう、座にいい土産が出来ました……記憶は無理でもしっかり記録にします!」
「(……そんな記録貯められても座も困るだろうなあ)……あっ、店員さん、お勘定を、この腹ペコ獅子が三杯目に行く前に!」

いい笑顔でお代わりを食べ終えたランサーが感動し、切嗣は更なるお代わりの前にさっさと会計を済ませる。
そして、彼は微妙に物足りなさそうな彼女を連れて強引に店から出て行った。

「ああ次は辛口を食べたかったのに……」
「良いから行くよ、まずはここの……聖杯戦争の戦場となる冬木を一周りしてからだ」
「……むう、仕方ないか、地の利は大事ですしね」

英霊嫌いとイレギュラー、一見合わないように見える凸凹コンビは意外にもそれなりに上手くやっていた。

「ああそうだ、マスター……また雑な食事用意したらクーデター起こしますから、そらもうモードレッドばりに」
「……止めろ、令呪で止めるぞ!?」

但しマスターの方(特に胃)は危ういかもしれない。



「……クシュン、何か噂されてる気がシマス」

ギュゴゴッ

下水道を巫女服を着た長いブラウンの髪の少女が滑るように駆けてきた。

「到着ダヨ、提督!」
「……ううっ、ちょっと待って、船酔いが気持ち悪くて」

かつての装備(砲や装甲)を一纏めにした艤装に捕まっていた少年、ウェイバー・ベルベットはふらふらと歩き出す。
彼をここまで運んできたライダーのサーヴァント『金剛』は砲を何時でも撃てるようにしながら続いた。

キシャー

門番のつもりか巨大な軟体生物、どこか冒涜的な異形がウェイバー達に襲いかかる。

「……邪魔デース、あっち行けっ!」

ドガッ

が、素早く前に出たライダーに横殴りにされて吹き飛び、壁にめり込んだそいつを観察したウェイバーは酷く顰め面に成った。

「海魔の類か?(……ここに居たのは真っ当な英霊じゃなさそうだな)大体判ったしもう撃っていいぞ、ライダー!」
「了解だヨ、提督……三式弾、ファイア!」

ギャアアアッ

「聞くに堪えないな、夢に出そうだ……多分反英霊の下僕といったところだね、スキルかそれとも宝具による召喚かはわからないが」

拠点破壊に定評のある三式弾丸は、怪物とそれが守る『キャスター』の工房毎粉々に吹き飛ばした。
青黒い体液で染まった辺りを見てウェイバーは思わず口を押え、だが直ぐ立ち直りライダーを褒めた、無鉄砲な少年らしい意地だ。

「うっぷ、これはきつい……そ、それより良くやった、ライダー」
「このくらい楽勝だって、提督!」
「……うん、おかげでゆっくり調べられる」

満面の笑顔のライダーにパチパチと拍手を送りながらウェイバーはまだ少し青い顔で工房残骸を調べ始める。

「……うーん、魔力の反応が殆ど無いなあ、隠れ家の一つではあるだろうけど本命でなくて予備のアジトかな」

だが、直ぐにウェイバーはがっくり肩を落とす、というのも彼の目的が絡め手の得意なキャスターだったからだ。
ウェイバーはケイネスの呼んだサーヴァント、ライダーは深海棲艦を倒す事を望んでいる(この時一致してると気づいていないが)
が、性質的にキャスターは場を引っ掻き回す事が多く(アサシンも似たような物だが探し用がない)可能なら倒そうと決めていた。
だから彼らは街に来て早々土地の魔力を調べ、そこからキャスターの痕跡を割り出し追っていた。

「……とはいえ反応が複数有ったからなあ」
「あーまあそうはうまくは行かないって、ドントウォーリー!」

気合の入っている、寧ろ入り過ぎているウェイバーの肩にポンと手が置かれる、実戦経験の有るライダーが主の若さを宥めた。

「ごめん、焦ってた、落ち着いたよ……とりあえず拠点を潰すのは無駄にならない筈、それで尻尾を出してくれるかもしれないし」
「はーい、それじゃあここ潰すネ……三式弾、再装填からの……ファイヤー!」

ズドドドドッ

二度目の斉射、これによって壊れかけていた工房を完全に破壊された。

「……よし、それじゃ次の候補の場所に行こうか」
「了解だヨ、提督!」

再びウェイバーがライダーの艤装に捕まって、それを確認してから彼女は走りだす。
疾風の如き速度で、来た時のように唐突に脈絡なく二人は去っていった。

「明らかに邪悪なキャスター、多分反英霊とケイネス深海棲艦纏めてなんて考えたくない……まず見つけ易いのを倒すぞ、金剛!」
「イエッサー、さっさと海魔の親玉を倒して……私達それぞれの目標に集中しましょ!」

若く未熟な少年と古参中の古参戦艦、ある意味正反対なコンビは地道にキャスターを追っていた。



「……元気の良い事じゃ」

バサリと間桐臓硯は数枚の書類を机に放った、使い魔からの情報を分析したものだ。
屋敷中に漂う二つの香(ここ数年常時使用の生命の活性化と最近使い出した魔力回復だ)それを浴びながら臓硯は思案する。

「バーサーカー以外に召喚された艦娘は二騎……マスターはアインツベルンに雇われた魔術師殺し、それに時計塔の魔術師か」

これは臓硯にとって幸運と言える、足柄以外にも艦娘が存在するのは嬉しい誤算だった。
片方が魔術師殺しの衛宮切嗣というのが怖いが、逆に言えば実力者である彼が深海棲艦と戦ってくれるということでもある。
もう片方の時計塔の魔術師は未知数だ、若いし魔力もそう多くは無さそうだが、冬木を精力的に探っているのは頼もしい。

「足柄、喚ばれた艦娘の特徴を纏めたが正体はわかるか?虫の目を通してなので髪色とか細かい部分は曖昧じゃが……」
「待って、ええと……黒系統の色の髪に巫女服、時計塔の方は金剛型の誰かだと思う、直接見れば正体はわかるかな」
「ふむ、まあ艦種だけでも十分……アインツベルンの方は?」
「……金髪の小柄な女か、ごめん、これだけじゃわからない……欧州のどこかの奴だとは思うけど」

片方は正体の特定は無理だが艦種まで、もう片方は辛うじて欧州の船とだけわかった。

「……まあ追々調べれば良い、そのうち追加情報も入ってこよう」

それで足柄と相性の良い艦娘なら接触し、そうでないなら逆に距離を取ればいい。

「郊外で見つかったエルメロイの若造の変死体、レ級かわからんが深海棲艦なのは確実……どちらかの艦娘と組み仕掛けたいのう」

とりあえず方針を決めると、次に臓硯は他の英霊について考える。

「さて深海棲艦以外に気をつけるべき相手がいる……海魔を操るキャスター、マスターも制御できていないのも問題じゃな」

あるいは敢て暴走させたか、一緒に暴走しているのかもしれない。
余り派手に暴れ回られると深海棲艦の痕跡が紛れる可能性がある、深海棲艦に専念したい臓硯としてはそれは少し厄介だった。

「……時計塔の魔術師が追っているが果たして辿り着けるか?」

ベストは相手にキャスターを追わせて臓硯が深海棲艦を追うというものだが、状況によっては接触し助力も考える必要がある。

「一時街への監視を減らしても協力、それで倒せれば大きい、後は本命に専念出来る……全力出し切り監視網を崩すのは論外じゃがな」

この辺はバランスが重要だ、とはいえ現状では何とも言えないが。
時計塔の魔術師と共闘するかは状況次第だろう。
ここまで考えたところで臓硯は腕を組んで唸る、残りのサーヴァントに関しては別の意味で難しいのだ。

「五騎判明し、残るは二騎……片方は間違いなく遠坂時臣じゃ、それに確か弟子が居たはず、奴等は何を喚ぶのじゃろうな?」

遠坂当主である時臣はかなりの大物を喚ぶはずだし、弟子もとなれば深海棲艦打倒に偏っている臓硯でも気になる所である。
聖杯に最も近いのは彼らだろう、また戦況によっては臓硯と敵対する可能性もある。
すると折良くというべきか、臓硯の使い魔の蟲が『二体のサーヴァント』の戦いを捉えた。
遠坂邸に『黒尽くめに骸骨の仮面のアサシン』が侵入し、それを月明かりを浴びて輝く『黄金の鎧のサーヴァント』が倒したのだ。

「……いやいやいや無い、これは流石に無い、アサシンのクラスがそこまで迂闊な訳あるまい」

どうやら遠坂とその弟子は共謀して他の参加者を騙そうとしているようだ。
茶番としか言いようのない流れに臓硯は呆れてしまった。
同時に、自分が打倒深海棲艦に頑張ってるのに、こいつ等は平常運行で少しばかり腹も立つ。

「ねえ、桜のお祖父さん、相手のやり方気に入らないなら……纏めて倒しちゃえば?」

すると足柄がとんでもないことを言い出した。

「狂化で私の肉弾戦闘用ステータスはA、それに『二つの宝具』を使えば二騎相手でも何とか成るんじゃない?」
「『西方の勇者達<Braves・of・West>』に『---の女神<Goddess・of・----->』か……」

足柄の発言に臓硯は難しい表情で唸った。
彼は召喚した際に聞いた宝具の内容を思い出す。

「『西方の勇者達』……お主が所属していた第五艦隊、及び後に統合された南西方面艦隊所属艦の召喚じゃな」
「そうそう、あいつ等と一緒なら……」
「却下じゃ」

素気無く足柄のアイデアは跳ね除けられた。

「えー、何で!?」
「それはな……召喚した者に召喚者であるお前の『狂化A』が反映されるからじゃ!」
「てへ、そうでした、あいつ等にもスキル付いちゃうんだったか……」

飢えた狼は幾つものの戦場で仲間を引っ張ってきた、これは仲間に心強さを与えたが、同時に熱狂という形でも現れてしまう。
その結果バーサーカーである彼女が喚ぶ者たちもまたバーサーカーと同質の存在だった。
複数の狂戦士が並ぶ戦場等悪夢にしか思えず、当然の如く臓硯は却下した。

「考え無しに使えばあれは自爆宝具に過ぎん、儂がいいと言うまで使ってはならんぞ!」
「はーい」
「……『---の女神』は更に慎重になる必要がある、あれはお主の僚艦だった『ある戦艦』の召喚じゃ、滅多な事で使えんよ」

もう片方の宝具は更に使いどころが難しかった。

(あれは大和と同格の存在じゃ、それを『狂化』付きで喚ぶ等危険過ぎる……)

正直ゾクリとした、臓硯は慌てて思い浮かべた悪夢的光景を忘れようとする。

「あ、足柄、宝具は極力使うな……いや西方の勇者達なら兎も角……二つ目の宝具は絶対に駄目じゃからな!」
「はーい、そうしまーす……ちぇ、派手に暴れたかったな」
「止めろ、飢え過ぎじゃろ、お前!?」

マイペースな足柄の言葉に臓硯は頭を抱えた、大和カムバックと叫びそうだった。




簡易ステータス

ランサー
真名 セントー級巡洋艦『ロイアルアーサー』
筋力C(B)
耐久B(A)
敏捷B(A)
魔力B(A)
幸運E(D)
宝具A-
備考・()はスキル『イギリス海軍』適用後のステータス

ライダー
真名 金剛型一番艦『金剛』
筋力B
耐久B
敏捷B
魔力B
幸運C
宝具?
備考・スキル『イギリス海軍』(但し戦艦なのでマイナス補正だが)は日本籍により消滅

バーサーカー
真名 妙高型三番艦『足柄』
筋力B(A)
耐久B(A)
敏捷D(C)
魔力D(C)
幸運D(C)
宝具?
備考・()は狂化後のステータス




今回は主に艦娘とコンビを組んでる連中の話です。
まあ槍組と騎兵組は不安要素はあれど上手くやっているといえるでしょう。
それにしても最後だけ空気が違いすぎ・・・あ、足柄の宝具はぶっちゃけ自爆宝具。

以下コメント返信

通りすがりの提督様
出したいですね、美味しいネタ沢山だし・・・でも艦これですからね、あれ出てない人はオリジナルに成っちゃうので出せません。
因みに例に挙げられたののうち幾つかがバーサーカーの宝具で召喚される予定です、全てではありませんが。
・・・あ某初代ド級なら直系である金剛で何らかの形で出せるかも?

アルニレ様
神父は女性関係は結構まともな感性を持ってると思う、実は話の都合上切嗣とか関り薄くなって・・・暫く一人で悩んで貰います。
まあ隠蔽とか多分大丈夫、被害を出す筆頭の切嗣が大人しくなる予定ですので(戦艦主砲である場所が吹っ飛びそうだけど・・・)

rin様
人の善性を求めて未来の外道神父は暫く迷走する予定です、巻き込まれて金ピカ&時臣がネタキャラになりそう。
ケイネス先生は召喚事故を起こす不幸な人を誰にするかで最初に思いつきました、悪女属性持ちが近くにいるも好都合だったし。



[41120] 三 始まりの夜
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/07/26 11:01
三 始まりの夜



ズリズリと『人気の全くない街』を大蛇の尾が這う、その上に乗っかているのは奇妙なことに非人間的な程に美しい少女だ。
不吉なまでに白い肌と白い髪、それ以上に不吉さを感じる邪悪な笑みを浮かべている。

「腹減ッタナア」

お腹を押さえて異形の少女、アヴェンジャー『深海棲艦レ級』が溜息を付いた。
召喚されたのは凡そ数週間前、召喚直後に『水銀臭い幸薄そうな男』を食って腹を満たせたものの、それからが良くない。
彼女に気づいた教会、言峰親子の手の者が情報封鎖や強引な暗示催眠すら使っての避難誘導で『食料』を経ったからだ。

「アー、腹減ッタ、偶ニ教会ノ奴等ガ捕マルクライダシ……全然足リネエ」

彼女にとって救いなのは遠巻きに監視する教会の工作員が時々距離を見誤ったりして喰らえるが、それとて体の維持に精一杯だ。

「……畜生、戦争ノ前ニ干カラビテ……アン、何カ変ダナ?」

バッと彼女は頭上を見上げる、自分の近くの住居屋上、正確にはそこに居る『何か等』に気づいたのだ。
その感知能力が、(通常砲撃に雷撃に艦載機指揮まで)汎用的な攻撃能力を支える高精度センサーが『暗殺者達』を補足する。

「誰ダッ!?」
『……っ!』

潜む影が補足されたと気付き刃を抜こうとしたが、それよりもレ級が攻撃準備を整えるのが遥かに早い。

「……遅エンダヨッ!」

彼女はその体では大き過ぎるダボついたコートの裾を払う。
数基の砲身が展開し、そこから黒く禍々しく輝く弾丸を連続して放った。

ズドドドドッ

『ギッ!?』

ある者は直撃し、ある者はかわし、ある者は刃で凌ぐ。
攻撃が終わった時無傷の者は皆無だった。
特に比較的近くに居た数体は胴体や四肢を抉られて落下する。

「直撃か、不覚……」
「ヒヒッ、挨拶代ワリノ雷撃ノ味ハドウダ?」

ニヤリとレ級が雷撃に使った砲身を撫でながら笑う。
が、それに対して影達、『アサシン』の分身は同じく笑って言い返した。

「ああ大したご馳走だった……カカッ、覚えたぞ!」
「アン?」
「……カカカカ、雷撃を直に体験した、貴様のそれは……一定以下の耐久値の者を即殺する弾丸だ、本戦前にそれを知れたぞ!」

彼はレ級の攻撃能力の一つを暴いた、文字通りその身を呈して。

「主が最近やる気だ、現実逃避の節もあるが……主がそうな以上『ハサン』として仕事は完璧にせねばならん!」
「アサシン、手前ハソンナコトノタメニ!?」
「……そんなことか、だが使命である、完璧にこなすのが我等闇に生きる者の誇りよ。
ふむ、ざっと『耐久C』か『遠距離への対策』を持たぬ者をそもそも戦場すら上げさせないか……分身数体でこれなら十分な戦果だ」

そして、情報を稼いだ上でその瀕死の体すら利用する。
カカッと短剣が二本ずつ放たれ倒れた彼らの体を貫いた、仲間の筈の者が投擲した頭上からの刃だ。

「ぐっ、これで……仕上げだ」
「同士討チ、イヤ……」
「……上には薬と毒使いのハサンがいる、薬を塗った刃で我が魔力を過剰強化し……毒を持って爆ぜさせる!」

その霊体を構築する魔力がオーバーロードを起こす。

シュボッ

死に体の筈のハサン達は魔力の光を迸らせながらレ級へと突進した。
その身は燃え上がり特大の爆弾そのものになっている。
彼らは最後までその身を使い潰し、同時に自滅による消滅でレ級の『捕食』を封じるつもりなのだ。

『情報の次は……ワズカデモ、ケズルッ!』
「チッ、寄ンジャネエッ!」

再びレ級がコートの裾を払い、今度はそこから『巨大な球体』が飛び出し特攻するハサンを迎え撃つ。

「艦載機か……皆、雷撃の次はあれの性能を暴くぞ!」
「カカッ、承知……先陣を切った奴等に続け!」
「おう、やられても上の薬師共が有効利用してくれるからな!」
「……厄介ナ、数デ押スノハコッチノ真骨頂ダロウガ……」
『カカカカカカッ、それはこちらも得意だ、残念だったな、深海棲艦……百の貌のハサン、その総数の半分を持って相手しよう』
「…………本気デ厄介、取零シデ何体カ喰エルダロウケド、代リニ情報持ッテカレルカ?」

特攻を仕掛けるアサシン達に続けと、頭上の手負いのアサシン達もレ級と艦載機に突撃する。
唯一頭上に残った『小柄アサシン』がつらそうな表情で戦いを見守っていた。
他と比べて背丈も低く明らかに痩身で戦闘向きではない個体で、だが同時に暴走の為の薬と毒を操るある意味この場で最も重要なアサシンだ。
暴走させる役目だけでなくこの戦いを主へと中継するという役目も有る。

「……私がここで戦いを見守ろう、だから……思う存分戦いがいい、同士よ!」
「カカカッ、言われるまでもない……薬師のハサンよ、しっかりと情報を主に届けるのだぞ!」
「……前回ノ、戦争ノ記録ト違ウ、魔術師ラシクネエ戦イダ」

余りにも泥臭い戦い方にレ級が顔を引き攣らせる。
彼女がアサシン捕食できて一部だ、それでも人より遥かに効率的でこの戦い分の消耗は取り戻せるだろう。
だが情報面ではかなりの部分まで暴かれかねないと思う程の気合を相手から感じていた。

「……良イヨ、情報持ッテケ、ダガ絶対ニ殺ス!」

レ級はアサシンとそれを操る存在に宣言した、宣戦布告であるしある意味では敵だと認めたともいえる。



「……いっそ奴の手に掛かれば楽なのだがな、これ以上悩まずに済むのだから」

アサシンを通して戦いを見ていた悩める神父、言峰綺礼は自虐的に笑った。
だけど彼にはそう出来ない理由があった。

「だが……まだ死ねない、私の何かがあの女の暴虐を魅力的だと思っている。
……それは同時に、その衝動に抗い切ることが出来れば私は『違う何か』に成れるかもしれない!」

善性とは遠い(かもしれない)自分が綺麗事を貫き通せれば自信が持てる。
今まで知れなかった喜び(正しい生き方では知ることの出来ない邪悪な喜び)が間違いだと思う(思い込む)事が出来る。
例え真実とは違う、本質から目を逸らすことだしても敬虔なる使徒の仮面を被ろうとしていた。
だからこそ師に求められてない監視以上の行為、聖杯戦争の勝敗に直結しない艦娘と深海棲艦の潰し合いに首を突っ込んだのだ。

「せめてこの仮面は守らせてもらう……そうでなくては仮面を、『私の本質だと思ったまま逝った女』が哀れ過ぎる!」

尚彼のその思いの根源は『とある悪女』を見た反動である。
側に控える女アサシンがホロリと泣いた。

「ああ主よ、難儀過ぎます、その生き方……」
「ええい、アサシン(リーダー)、同情の目で見るな!?」



四 初日・昼



反英霊と暗殺者が戦っているころ別の場所でも、二組の参加者が出会っていた。
こちらは向こうと違って穏便な形だったが。

「……切嗣、尾けてるのが居ます、これは……二組か?」

正体を隠す為に黒いスーツ姿のセイバー(ロイアルアーサー)が隣の主に報告する。
切嗣として(所属とか悪評とかで)自分が狙われることを利用し出てきた勢力を叩くつもりだった。
唯尾行、つまり監視程度では難しい判断だ。

「ふむ……尾行の理由はいくらでも思い至るが、まあ放っていい、追っても力の無駄だ」
「了解しました……因みに片方はサーヴァントでしょうが異様に気配が薄く、もう片方は反応自体が小さいから使い魔でしょう」
「やはりアサシンは無事、それに使い魔……「異様に小さい、蟲です」……間桐か、アサシンが遠坂の陣営とならまあわかる」

どうやら他の御三家の目があるらしい、切嗣は難しい表情で唸った。
見ているのは遠坂と間桐、切嗣が所属するアインツベルンと共に聖杯戦争の基盤を作った一族だ。

「……ううむ、僕らは一応アインツベルンだから当然だろうけど警戒されてるな」
「しかもそのせいで……これから集中攻撃される可能性もありますし」
「うん、謂ば優勝候補の御三家、それも当然だけど……そういう意味じゃ狙われ易い御三家で引き篭もる遠坂は自信家だなあ」

切嗣はサーヴァントに自信があるのか強気な遠坂に呆れてしまう。
その職業柄、戦場の悲惨さを嫌という程見たことで、元々英雄を嫌っている彼からすれば英霊への依存等信じられないことだ。
と同時に他に思うことが有った、というのもアインツベルンに籍を置く以上彼らと切嗣は何れぶつかる運命なのだ。

「……深海棲艦は当然探す、が時間掛るなら既に情報のある遠坂の方へ行くのも考えるか、話し合いか戦闘かはまだ分からないが」
「何故です、切嗣?」
「今の僕はアインツベルンに雇われてる、形だけでも真面目に戦争をしないと……まあ色々不自然だからね」
「宮仕えは大変ですねえ、私は王なのでわかりませんが……」

立場上一度は会わないといけないので切嗣達は泣く泣く接触を決意した。
そんなことを二人が考えていると、向こうから二人の男女が歩いてくる。
神経質そうな少年に、こちらで買い揃えたのか安物のワンピースとスカートを来たブラウンの髪の少女だ。

「うー、中々本当の拠点に当たらないなあ……」
「まあデモ、アジト何個か潰したじゃないの、悪く無いって、提督!」
「うん、そうだね……(多分全てに念の為海魔を置いたか、その魔力がダミーに成ってる、でも本命はもっと戦力多そうだし)」

ランサー組と同じように彼らもいろいろ考え悩んでいた。
特にマスターであるウェイバーはキャスター探索が上手く行かず少し焦っている。
かといって標的を変えられない、純粋な魔術師である彼ではキャスター以外探せないのだ(彼が出来る魔術的探査で唯一引っ掛る)
その上見つけてもそこは今まで以上の敵が居るだろう、宝具で『確実性』を取るか『情報及び魔力の温存』を取るかで悩ましい。

「……それにしてもあの拠点等は元から有ったのかな、そうならマスターの方だろうけど……裏社会出身者か?」
「常日頃からそういうのが要る『後ろ暗い事情』の持ち主だろうネ……下手すれば犯罪者と反英霊か、何とも嫌な組み合わせだネ」

もう一つ不気味な点があり、そのことも気にかかっていた。
隠れ家の用意等今の世界を知らない英霊が出来る筈もない、反英霊を喚んだ存在に関しても気味の悪さを覚えていた。
そうやって切嗣とランサー、ウェイバーとライダーがそれぞれの今後に考えていたから、彼らは互いに気付かなかった。

「とりあえず使い魔を遠坂邸に送って……」
「反英霊の情報だけでも教会に知らせて……」
「え、教会?」「え、遠坂?」
『……参加者か!?』

互いに気づいたのは凡そ一メートル程の距離で、彼らは手遅れながらに身構えた。

「……おや後輩」
「あら先輩!」

が、サーヴァント達(英国製同士)が呑気に挨拶したせいで、一瞬で緊張感が崩壊する。
切嗣とウェイバーは微妙な表情で顔を見合わせた。

「……互いの従者にその気が無さそうだし、ここは交渉かな」
「そ、それが良いと思います、まだ序盤だし」
「なら切嗣、食事の準備を、小腹空きました」「紅茶もいいよ、喫茶店へGOデース!」
『自重しろ、英国製』

強いけど呑気でマイペースだったり行き成り突拍子もない事をする、それがイギリス海軍の特徴である。



喫茶店の一角に陣取り、緊張した表情で向かい合う互いのマスター達、だが互いのサーヴァントは勝手に意気投合していた。

「先輩は海域を回って睨み効かせてたんでしたっけ……私も色々回りたかったナー」
「……そっちも色々な海行ったでしょ、馬車馬の如く駆けずり回ったとも言うけど」
「あれは寧ろ便利屋扱いですネー、燃費は兎も角巡航速度がそこそこなせいで……」

まずバランスの良い性能から戦場の穴埋め的にあちこち行かされたライダーがランサー(海域の警護が主だった)羨ましく思った。

「その装備や艦重量で30ノットって速すぎでしょ、可笑しくないですか?」
「日本の技術者さんが頑張ったからデース」
「……もう魔改造ですね」

そこからライダーの戦艦なのに異常な速度の話題に発展、ランサーは相手の性能に思わず首を捻る。

「……日本製の艦はラムネやアイス装備って本当ですか、後輩」
「先輩、それ大和です、私にはついてませんって、あっションボリしないデヨー」

かと思えば性能以外の面で最初と逆にランサーが日本艦の特色を羨ましがる(尤もそれは一部なのでライダーには無関係だが)

「うーん、私も先輩みたいな衝角が欲しいネー、唯の船なら兎も角艦娘なら白兵戦も考えないといけないし」
「貸しませんよ、これは私のチャームポイントです……いっそ装甲板辺りで殴ったら?」
「オウ、それっ、良いかも知んない!」
「……え、今のは冗談だったんですが」

まさか冗談の装甲板凶器説を本気にされランサーが焦る、明日辺りライダー(筋力B)が海魔を殴り殺す光景があるかも知れない。

「……そういえば先輩、盾も持ってるんでしたっけ?」
「ええ、主に重要箇所、急所の防御用ですが」
「……あー必須ダネ、イギリス的に考えて」
「ええ、イギリス的に考えて、後の事ですが……フッド、プリンスオブウェールズの事例を考えるとまず急所を固めないと」

後共通の話題、互いの後輩から防御の重要性を噛み締めたりもした。

「そういえば……金剛型の設計、イギリスでも感心する程良かったそうですね?」
「そうデース、まだ当時の弩級戦艦は主砲配置とか重量バランスとか手探りで荒削りでしたガ。
でも、私はそれを見直して設計したから大分改善に成功……ドレッドノートの次のライオン級は私の設計の影響受けてマース!」
「……ライオンか(仔獅子型で召喚されないかな)」
「アー先輩、違うの想像してませんカ?」

こんな感じでサーヴァント達は無駄に騒がしく馬鹿話をしていた、対して主達は真剣に話し合っている。

「ふむ、君は時計塔出身か、だが腕試しとは……何とも無茶だね」
「超えたい奴が居てね……そっちこそ雇われで聖杯戦争か、十分無茶だろうに」
(……この少年見かけ通りの素人か、だが己の実力は自覚している、何時でもライダーに撤退指示できるよう念話を維持している)
(何か得体が知れない、空虚というか……格上か、わかっていたが怖いな、ま深海棲艦とは共闘出来るから心強いとも言えるけど)

互いに方向性や差はあれど相手を警戒し評価した(切嗣の場合は実力面ではないが)
双方それを認識すれば少しだが歩み寄れる、切嗣もウェイバーもそれぞれの内情を明かすことにした。

「僕はさっきも言ったが雇われでね、まあ雇い主の関係で狙われ易い立場だ……逆にそれを利用し参加者の反応を待っている」
「囮か、釣り上げようってことですね?」
「ああ、まあそこで真面目に戦争したい面子、対深海棲艦戦に邪魔なのを叩けば……深海棲艦に集中できるだろ?」
「……僕は今ある反英霊を追っています、それの処理が終われば……同じように深海棲艦に集中できるでしょうね」
『……その時は組めるね(ますよね)?』

ニヤリと切嗣とウェイバー(こっちは相手に負けないよう虚勢だが)二人は笑みを浮かべる。
彼らはどちらともなく互いの右手を出すと固く握手した。

「……その時生きていれば共に戦えるかな?」
「状況次第ですが……サーヴァント同士の相性は悪くはないでしょう、可能なら是非に」

切嗣とウェイバーは今ではないが明日以降、中盤からの共闘を誓い合った。
切嗣の好戦的な組の牽制(後雇われとして他へのポーズ)ウェイバーのキャスター無力化ないし戦力充実の妨害で、それは可能となるだろう。

「死ぬなよ、ウェイバー君……僕とランサーの負担が大きくなるからね」
「出来る限りそうします、そっちも気をつけて」

二人は最後に警告し合って別れた。

「行くよ、ランサー」
「もきゅ?……はい、今行きます、あっでもテイクアウトするので少し待って!」
「ライダー、話は終わったから行こう」
「店員さん、この紅茶はどの茶葉を……あっハイ、今行くヨ!」
『ああ格好がつかない……』

但し互いのサーヴァントの食い気のせいで台無しだった。

「ああそうだ……ライダー、これを」
「先輩?」

カキカキ

「このメモをどうぞ、困った時に見てください……アインツベルンの拠点です(ボソ)」

後最後にランサーが一つ内緒で情報を残していった、当然主に内緒である。

「……マイペースな人だネー」
「ああうん、それは……君だけに言われたくないと思うよ、ライダー」

強いけど呑気でマイペースだったり行き成り突拍子もない事をする、それがイギリス海軍の特徴である。



「……英国製はいかんと思うのじゃよ、癖が強すぎるから」

味方候補の微妙さに情報収集中の老人が弱音を吐き、少女はそれを横目で見ながら炭酸飲料入りの瓶を傾ける。

クピクピ

「(癖の強さは足柄もかわらないだろうに……)まあ頑張って、お祖父様……今更だけどこの家って、何でいつもラムネが数本常備されてるの?」
「ああ『大和』が好きでな……」

♪~

「お祖父様、何でこの家、常にスピーカーから大音量で軍楽が成ってるんですか?」
「あの船にはそれ専門の部隊が乗っていてな……」

ハア

嘆息しながら間桐桜は戸籍上の祖父、臓硯を呆れて見た。

「……お祖父様、戦艦『大和』が好き過ぎじゃありません?」
「いや前の聖杯戦争の頃、丁度旗艦として完成し発表した時分で……あの威容には年甲斐もなく興奮させられ、それと共に戦ったのでな」

臓硯を恥ずかしそうにその禿頭を擦る、昔を思い出し懐かしそうにした。
それまでの戦艦を超える規格外の戦艦、いや『超戦艦』に科学の対極にいる魔術師の臓硯でも大いに胸を躍らせたのを覚えている。
そして、実際聖杯戦争でそれが艦娘化した存在と轡を並べて戦えば、人間性を失いかけていた臓硯ですら嫌でも心を震わされた。

(魔術師を軍艦ヲタにするとは……前回のアーチャー、罪な人だなあ)

まあそれにより桜は無碍な扱いをせずに住んでいるので感謝すべきだろうが。

(そのおかげでこの人は打倒『深海棲艦』に燃えてる……だから私は魔力源としか見られずに済んでるけど)

それ以上期待してないので魔術は殆ど教わっていない、魔力タンクでいいから戦力に数えず教えるのをすっぱり時間の無駄とした。
その上密かに恐れていた次代への胎盤扱いもされていない、やはり深海棲艦を前に次代を考えていないだけだが。
最早桜の、間桐の未来の為という養子縁組が完全建前になっていた。

「お祖父様、打倒『深海棲艦』に全力投球過ぎませんか?」
「いや召喚されたのが艦娘でなければ真面目に戦争やったじゃろう、それは対抗すべき深海棲艦が喚ばれなかったって事であるし」

何かその時はその時でこの人残念がりそうだと桜は思った、多分喚んだ普通の英霊見て大和カムバックとか叫びそうだ。

「……お祖父様、百年以上生きてて軍艦ヲタって色々大丈夫?」
「ふっ、女にはわからんよ、男のロマン等は……」
(その、ロマンの産物の艦娘が女の子なのは言っちゃいけないことなんだろうなあ)

桜はああ帰りたいなあと思った、厳しい魔術の修行とかでそう思うかと思っていたのと違うこういう形でというのは予想外だった。

(……雁夜おじさんが家出したの、魔術の修行が嫌とかじゃなくて……もしかしてこのせいだったのかな)

尚その『おじさん』が密かに地下で改造されていることを桜は知らなかった。
尤も蟲を送れない場所での諜報を任せるくらいのつもりで、廃人と成る程の人体改造ではないが。
戦力とするならそれこそ肉体が蟲に置き換わる程やった、だが行ったのは神経付近に魔術刻印の性質の蟲を送り擬態させる程度だ。
肉体と虫の置き換えが寄生なら部分的な後者は精々共生、代わりに人の姿を保っているので目立たず諜報に打ってつけだ。
但し彼には『桜への虐待及び廃人化』という『出鱈目』を裏切り防止に吹きこんであった。

そのことが間桐にも遠坂にも別け隔てなく、悲劇を齎すこととなる。
街に放った一匹の蟲が、臓硯達の呼んだサーヴァントを発見し知らせた、彼女はこの地のセカンドオーナー(管理者)の館の前に居た。



「時臣、出てきやがれ!……来ないならその自慢の貴族趣味の家をぶっ壊すぞ」
「そうだー、出てこーい、この足柄様直々の出陣だぞー!」
『……何これ』

僅かに青い顔の、だけど常人の範疇である雁夜、それに足柄が遠坂邸に突如赴き叫んだ。
これには見ていた者全てが戸惑い、混乱した。



「あれは雁夜か、だが何故……」
「まあ確かなのは……時臣、貴様のアサシンを使った小細工が無意味ということだな……無能、研究者に策を任せるでなかったわ」

時臣は困惑し、黄金のサーヴァントが皮肉げに笑った。
弟子のアサシン、彼の呼んだマスター殺しを可能とする英霊の脱落偽装、それにより周りを戦わせ同時に自分は温存するという策が不発に終わった。



「ふう、アサシンは無駄死にか……」
「泣きたいです、綺礼様……同士よ、すまん」

アサシンの分身を使い捨ててまで行った欺瞞が無駄になった綺礼とアサシンが頭を抱えた。
流石の綺礼も嘆く暗殺者には同情の視線を送った。



そして、臓硯は両手で顔を覆って泣いた。

「うう、態々呼び戻した肉親に足引っ張られた……」

これは臓硯にとって予想外だった。
肉体改造と最低限の魔術の手解きを終えた雁夜が速攻で遠坂邸に突っ込んでいった、突然過ぎて止める間もなかった。
後何故か修羅場に気づいた足柄まで着いてったが、多分退屈だったのとこれから戦闘になると直感したのだろう。

「……何で雁夜おじさん、あんなに怒ってるんだろ?」
「さ、さあな……(言えん、時臣への対抗心を煽る為に桜のことで色々嘘言った等とても言えん)」

桜の疑問に臓硯は口を紡ぐ、正直この点に関しては自業自得だった。

「うーむ、しまった……雁夜にはお前から見て必要なことをやれといった、虫にはその判断力がないからじゃ」
「……あっ、足柄に言った『お祖父様の許可なしでの戦闘禁止』……」
「うむ、儂が好きにやれと許可を出した『雁夜の命令という体裁で』、足柄は戦闘禁止という命令の隙間を潜ったのじゃろうな」

そう言ってる間にも足柄は戦闘準備を着々と整えていく。
彼女を中心に膨大な魔力が渦を巻いた。

「あっお祖父様、魔力持ってかれてる……宝具を使う気だよ」
「ちょ、行き成りか!?」
「行くぞ、金ピカアーチャー……Goddess、of……」

しかもよりによって切り札である二つ目だった。

「よ、止せ、そっちは駄目じゃ、足柄!」
「だ、駄目、今から令呪使っても間に合わない!」

そして、それは完成する、バーサーカー『足柄』の切り札が展開された。

「……Leyte(レイテ)!」
「ああ馬鹿な、その宝具は……途中で戦線離脱したから大和が不参加じゃないか!」
「気にするのそこなの!?」

だけど違うことに突っ込んだ臓硯に桜は寧ろそっちに呆れた。



「この場での戦闘は予想外だが……面白そうだな、雑種……いや餓狼よ」

ゆらりと黄金の鎧を見たサーヴァントが現れる、何かを感じたか完全装備だ。
その視線の先で膨大な魔力が渦を巻いた。
バーサーカーが宝具の名を叫んだ瞬間それは更に強くなる。

「ふふふっ、金ピカアーチャー、これを使った以上……貴方は終わりだよ!」
「ほう、大した自信だ……見せて貰おうか、貴様の切り札を」
「ああ見せてやる、私の……私達の切り札を!」

ビュウビュウと激しい風が吹く、だがその風を受けたアーチャーは疑問を覚えた。
冷たく重い、陸で吹く類の風ではなかった。

「海、潮風か?」
「そうとも、あの『地獄の海』の風だ……私の戦歴で最も激しかった戦場、そこに参加した船達が抱く共通の風景が有る」

足柄がその場で拳を横薙ぎにする、するとパリンパリンと世界に亀裂が入っていく。
その先には『青』と『赤』、二つの色があった、海の水の色と炎の色だ。

「あそこに居た全ての艦娘に刻まれた記憶の具現……それを縁とし座にアクセス、あの海の中心にいるべき『彼女』を召喚する!」

そして、一人の女が現れる。
史実通りの夜戦用装甲の如き黒い肌、最後の戦いで塗った白銀塗装と同じ色の眼鏡、他を圧倒する超絶主砲が背の艤装から伸びる。

「彼女こそがレイテにて、大国の猛者すら震え上がらせた……レイテの女神、武蔵だ」
「ほう、その名は……」
「おう、大和の妹さ!……さあ私と共に「ガオー!」へぶっ!?!」

ドゴス

『え?』

が、武蔵は野獣の如き眼光で足柄を睨むと、横薙ぎにした拳の一振りでふっ飛ばした。
数百メートル程ふっ飛んで、キランと足柄が夕焼けの空に消える。

「……え、あれ?」
『雁夜、この大馬鹿者!あれは狂化付きのサーヴァントだぞ!
……そんな相手、一流の魔術師でなくば操れん……当然だがバーサーカーはキャスターではない!』

バーサーカーはバーサーカー、キャスターではない、ある意味当然のことを言いながら臓硯が使い魔の虫達を送り込んだ。
バッと無数の羽虫が集まり呆然とする雁夜を覆い隠す。
そして、それが散った時彼の姿はなかった。

『すまぬ、遠坂それにアーチャー……うちの馬鹿が迷惑をかけた……それと、その武蔵は喚んだら喚びっぱなしなので後は頼んだ』
「それは……何とも傍迷惑な宝具だな」
『ああ後、『狂化』付きなんで完全ランダムで暴れる、倒すか戦闘の消耗で消えるか、それまで頑張れ』
「……本当に傍迷惑だな、おい」

言うだけ言って臓硯の蟲は飛び去り、後にはアーチャーと武蔵だけが残されたのだった。

「……はあ、いっそ逃げれば楽なんだが、退く訳にはいかんのだよなあ」

一応背後には遠坂邸、彼の主がいる、全く敬っていないが魔力の元であるので守る必要がある。
屋敷を捨てるという手もあるが屋敷惜しさに残るだろう、また逃げても英霊でない人の身で目の前の相手から逃げれると思えない。
止むを得ずアーチャーは迎撃を選んだ。

「仕方ない、まあ『伝説の戦艦の片割れ』だ、楽しめるだろう……武蔵よ、その力、我に示すがいい!」
「ガオー!」

吠えながら武蔵がジャキンと砲塔を向ける、が声のせいで台無しだった。

「……ああ狂化で喋れんのか」
「ガオ……」
「ううむ、茶番とは違う本当の戦いなのにこれでは空気が……ええい、細かいことは気にせん、掛かってくるのだ!」

しょぼんと恥ずかしそうに武蔵が縮こまりアーチャーはこの生ぬるい空気を変えようとばかりに大袈裟に叫んでみせた。
荒れ狂う風の中、英雄達の王というべき存在とレイテで世界を震撼させた大戦艦が衝突する。

「行くぞ、伝説……戦艦武蔵よ!」
「ガオ!」
「……ああ無理に返事しなくていい、緊張がどっか行くではないか」

余りにも温い空気、聖杯戦争初戦にしては微妙過ぎる空気の中で聖杯戦争の幕が開けた。

(ああ時臣、後で貴様の策の不備について話そう、説教を覚悟しているがいい)
(……承知しました、英雄王)

同時に、地味に半目からの反逆フラグが立ったりもしていた。





色々仕掛けたら、見事に裏目に出た臓硯の図・・・うっかりというより策士策に溺れるですかねえ・・・
後足柄の宝具はどっちも艦娘の召喚です、但し無制御で狂化付きで・・・矛先来たら逃げるしか無い、但し相手は高起動or長射程。
・・・自爆というより自滅宝具の方と書いた方が良かったかな?
それと・・・作中時間で戦争初日が終わってから、話数で言うと3~4話くらいでTYPEMOON板へ移動する予定です。

以下コメント返信
ご都合主義様
先生しか居なかったんですよ貧乏籤引くの・・・まあ弟子が仇を取ろうと頑張ってくれるから(結果的にだけど)
まだ綺麗な綺礼さんは揺れつつ奮闘中、でも娘に会うのは面白そうですが・・・罵倒で精神的に止めの気がするので暫く無しで。

あぶさん様
あ、間違いです、初期案でウェイバーが喚ぶのは榛名でして・・・その時の修正漏れですね(ライダーの幸運ステも下げとこ)

rin様
実はしっかり改造済み、死人に見える程の無茶な改造は諜報に支障を来すし部分的にですが・・・でも精神そのままやっぱり暴走。
頑張ってるウェイバーは案外綺礼の心の支えかもしれません、横目でワクテカしつつレ級を牽制と地味に頑張ってます。

通りすがりの提督様
あ混ざってた、金剛型のベースのドレッドノートですね、でも弩級への畏怖とかで実際呼べそう・・・後同名艦sも、仰る通り番外でしょうが。
英国製の艦は(特に大きい艦種から)妙に不運なのが目に付くんです、マイナス補正はそのイメージを反映した物だったり・・・。
装甲の急所ピンポイントで貫通したフッド、新兵&主砲故障の二重苦のPow、衝突事故多発なその同型や後継艦・・・うん不幸過ぎ。



[41120] 四 二つの戦場
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2016/03/06 01:48
四 二つの戦場



ズドンズドンと轟音が何度も響いた。
音だけでなく物理的被害でも遠坂邸周辺は滅茶苦茶だ、時臣が魔術的な結界で閉鎖しなければ目立って仕方なかっただろう。

「はははっ、伝説とはこれ程か……我が財が頼りなく見えるとは異常だな、全く!」
「ガオオォー!」

英雄王が手を翳す、辺りの空間が歪み無数の財宝、明らかに伝説級の武器の域に達する物が打ち出される。
それに対し、艤装の装甲甲板で凌ぐと武蔵は主砲でアーチャーに反撃する。
二人の間の空間を財宝と砲火が空を切って行き交った。
正しくそれは『聖杯戦争』に相応しい『人外の戦い』、アーチャーが聖剣や魔槍、神の武具を放てば、武蔵は主砲や対空機銃で迎え撃つ。
攻撃は十の位を直ぐに超え、数十と数を増し、百を通り越して、互いの攻防が千に行くか行かないかの辺りで勝負が動き出す。
アーチャーの放った自ら猛禽の如く空を飛ぶ刃が、一旦急上昇した後頭上から武蔵を急襲した。

ズ、ズン

「ガオ!?」

それまでの攻防で亀裂の入った装甲を魔剣が貫き、武蔵は悔しそうな表情で地に崩れ落ちた。

「ガ、ガオ……」
「ふん、やっと止まったか、頑丈な奴だ」

だが、アーチャーの表情に喜びは無かった。
悔しそうに武蔵の砲撃で罅の入った黄金の鎧と砕けた無数の盾の宝具達、更に自分が放った数百の刃の残骸に溜め息を吐いた。

『……お見事です、素晴らしい戦いでした』
「黙っていろ、殺すぞ、時臣……蔵の中身をあれだけ使って喜べるか」

御為ごかしを言った主を黙らせたアーチャーは倒れた武蔵と、そうするまでに使った宝具を比べてもう一度大きく溜め息を吐いた。

「……ふう、我はどれだけ撃ち込んだかわかるか、時臣?」
『こちらで確認できた数で宜しければ……』

前置きしてから直接戦わず見ていただけで余裕があった時臣が数を言う、それは信じられない数だった。

『対城が最低十七に対軍宝具が最低二十です、互いの撃ち合いから確認不確かなものの明らかな直撃数がこれで……増えるのは確実かと。
……また対人宝具は明らかに向こうの装甲に弾かれていたので省略しています』
「……ふむ、恐ろしい耐久力だな、攻撃の方でも盾を何枚か割られたが」

大体一発でアサシンの分身(それも物によれば複数)が消し飛ぶのを考えれば意味がわからない数字だ。
更に武蔵の打倒に使った物だけでなく、攻撃を防いだのにも多大な犠牲が在った。
特に『七枚の花弁を持つ盾』の残骸には流石のアーチャーも顔が引き攣ってしまう。

「これはアイアスが使った盾の原型だぞ、いやはや大艦巨砲主義ここに極まれりといったところか……」

攻防共に明らかに馬鹿げていた、はあとアーチャーはこの国に、特に技術者の可笑しさに苦笑し嘆息する。
勿論英雄王とも成ればもっと早く片付けることも出来た、がそれを今の主は許さないだろう。

「あるいは……あの『剣』を抜けば容易く倒せただろうがな」
「流石にそれの情報の露出は致命的ですので……』
「ふん、小さな男だ……(やれやれ綺礼が迷って無ければ此奴から乗り換えたのだが)」

弟子の方はまだ見る所が有るが『脱落したというマスターの婚約者』と会って様子が可笑しく、乗り換える誘導を延期していたのだった。
そのせいで今の典型的魔術師に付き合うしか無く、アーチャーとしては少しばかり不快だった。
そういう意味では目の前の存在との戦いはまだマシといえた。

「大したものだ、武蔵よ……攻防共に両立していて、まるで天牛と戦った時のようだったぞ。
……この戦い、少々退屈だと思っていたが貴様のおかげで違うとわかった……二度目はあるか?」

アーチャーとしては最大級の賛辞に武蔵が好戦的に、狂ってない笑みで答える。
消滅間近で正気を取り戻した彼女は真剣な表情で頷く。

「……ああ、足柄が喚べばだが……次は温存なんてさせない、その全力を引きずり出してやるからな!」

次は本当の意味でアーチャーと戦う(戦わせる)ことを宣言すると、彼女はシュウと光と成って消滅していった。
その様を完全に見送ったアーチャーはどこかからかうような感じで時臣に話しかける。

「時臣、貴様の目論見は見事に外れたな、マスター殺しのアサシンの脱落で他の参加者の戦いを誘発させる。
同時に我の力を見せることで警戒させ……外で殺し合わせて弱った所を我が潰す、だったな」
『はっ、その筈だったのですが……』
「ああ、我が自ら参加し、アサシンの分身を犠牲にしてまでした細工が……貴様狙いの襲撃でご破産だ、笑えるなあ」
『……申し訳ございません、まさか雁夜があのようなことをするとは』

半ば筋違いの文句だがアーチャーは己の主に皮肉を言い放つ。
が、一頻りそうした後彼は鷹揚に笑ってみせた。

「くくっ、だが許す」
『は?』
「武蔵との戦いはそれなりに楽しめた……聖杯戦争、強ち悪くないかもしれん」
『で、ではやる気に成ってくれたので?』
「それはまだこれからだ、武蔵以外の情報はまだまだだろう……だが面子によっては出ても良い」
『おお、それで十分です、英雄王!』

ぱあっと時臣からの念話に喜色が混じる、気紛れな英雄王に手を焼いていた彼は大いに喜んだ。

『ああ急いでアサシンに参加者の情報を集めさせねば……英雄王ならきっと我が代で一族の悲願が……』
(……はあ、この小物っぽさ、小狡く立ち回ろうというのが無ければ……)

アーチャーは調子に乗り始めた時臣を苦々しく思った。
貴族を気取ろうが本質は研究者で繊細(悪く言えば小心者)である、豪放な英雄王としてはそれが気に入らなかった。
聞こえないよう舌打ちし彼は館に戻ろうとする。
が、『時臣の物でない念話の声』によりその足は止まった。

『……終わったと思うのは早いよ、アーチャーに遠坂当主殿』
「何?」

男の声、どこか疲れている、あるいは擦り切れたと言っていい不吉な声にアーチャーは素早く構える。
出処を探ろうと彼は時臣に調べさせようとする、アーチャーと言っても純粋な弓使いではないから感覚はそこまで鋭くないからだ。
そして、その一瞬が隙と成った。
ブワと風が吹いた、と思った次の瞬間白銀の鎧を纏う『騎士』が出現する。
彼の眼の前に、同時に衝角を全力で突き出した状態で。

「ちっ、時臣、使い魔で斥候を……「遅い、既にここにいる、『蛮族(海賊船)貫きし衝角(ロンゴミアント)』」……ごふっ!?」
『ああ、アーチャー!?』

ドゴンッ

突然の奇襲でアーチャーが勢い吹き飛ばされ、彼は遠坂邸の玄関へ、扉を貫きそのまま消えていった。
そして、それを為した騎士は己のマスターへの恨み言をぶち撒ける。

「……ちっ、初仕事がこの不意打ちか、マスター後でぶん殴る」
『え、あれ、何で……何で明らかに騎士っぽいのがこんな真似を……ていうか仲悪いな、おい』

明らかに騎士らしい英雄のそれに反する卑怯極まりない攻撃、時臣は唖然としつつ後半のマスターへの反抗にえっと成った。

「五月蝿い、私だって正々堂々やりたかった、だが令呪翳して脅迫されれば行くしか無かったんです……殴る、マスターぶん殴る!」

暫くマスター殴るあの鉄面皮殴ると繰り返した後やっと落ち着いたのか、その英霊は遠坂邸へと、その奥にいる時臣に向かって言い放つ。

「ふう、私はランサーです、遠坂時臣……マスターから伝言があります」
『何?』
「……教会の者を弟子にし、尚且つ脱落者に見せかけて裏で動かすのはルール違反だろうとのことです」
『ぐっ……』

暗黙の了解程度だが敵である教会の利用、更にこれも暗黙の了解だがそれ以上戦争に関わらない脱落者の諜報活動、しっかりと釘を差す。
彼女は主の伝言として時臣に幾つかの警告をした。

「マスター曰く土地の管理者であることを悪用したルール違反、この襲撃はそのペナルティとのことです。
……伝言は以上、ああ因みにアインツベルンのマスターよりです」
『……警告ということか、やり過ぎな気もするが』
「ええ、それと一組だけ盤石なのは気に入らない……先の一戦及び不意打ちでそれなりに消耗したでしょう、暫く引き篭もってて下さい」
『…………それがペナルティ、回復無しでは漁夫の利狙いも出来ないから』

全てを言い終えた後彼女自身の言葉でも苦言を口にする。

「ええ、貴方は深海棲艦より聖杯戦争の勝利をお望みのようだが……艦娘としては少し目障りです」

するとこの言葉に時臣以外から言い訳が来た、まだ煙の立ち上る遠坂邸の表から少し辛そうな言葉が掛けられる。

「……一応考えてない訳ではない、我は神性持ちだ、唯の人の英雄よりは『捕食者』『殺戮者』に対抗できるが?」
「アーチャー、タフですね……ですが二つを秤にかければ聖杯戦争を優先するのは明白です、何せ他者の削り合いを狙ったんですから」
「ちっ、ぐうの音も出んな、あんな茶番では……」

だがそう言いつつどこか他人事だ、煙の中の者は気にしておらず寧ろ主への嫌味のような感じが言葉の中に混じっていた。
どうやら不仲のようでランサーは苦笑する。
その後彼女は脇腹を押さえて苦悶の声を上げた。

「……それにしても確かに奇襲だったのに、こちらも唯では済みませんでしたか」

ズブという音がし、先端が赤く染まった剣が引き抜かれる。
それはキラキラと煌く華美な剣だった。

「一瞬で反撃したか、大した物ですが……それが『王が持つであろう剣』なのは何かの皮肉ですか?」

言いながらランサーは王の剣を館の表へと放る、パシとそこから出てきたアーチャーがその手で取ると苦笑しながら答えた。

「いやそういう訳ではない、気づいた時点で近づかれ間合い的に剣で反撃するしかなかった……それを抜いたのは純然たる偶然だ。
……尤も一瞬とはいえ貴様を見て何故か王だと感じた、だから無意識にそれを……『原罪(メロダック)』を取ったが」
「……ちっ、恐ろしい洞察力だ……これ以上話すのは怖いな、今日はここまでです!」

瞬間的に出自までを割り出されたことに、戦力以上に警戒した様子でランサーは離脱する。
ダダッと最速のサーヴァントに相応しい速度で走り去って行き、一瞬で地平の向こうに消えた。
アーチャーは彼女を見送って感心の声を上げる。

「来た時も思ったが速いな、敏捷は……A前後あるいはスキル次第で上がるか?」
『英雄王、追わなくてよろしいので?』
「そうすれば魔力を使い過ぎるだろう、本格的に外に出られなくなる……唯でさえ消耗しているというのに」

既に一戦やっているだけに追撃は難しい、アーチャーは嘆息し鎧を消す。
グイと額から流れる血を拭う、追いついてやり合えばこの程度で済まない(速度的に撒かれる可能性もある、それは唯の魔力の無駄だ)
なばらせめてと時臣はアーチャーに問いかける、情報程度は欲しいと思ったのだろう。

『……先程あれを王と言いましたね』
「ああ、王特有の気を纏う、だが武蔵と同じ人の形をした艦でもある……王の乗った艦か、もしくは王が由来だからその存在でもあるか」

艦娘かもしれないし艦娘でありながら英雄である可能性もある、由来として名付けられれば同一視も有るだろう。
一息に正体に辿り着ける物ではないがそれでも情報には違いない。
綺礼に調べさせようと時臣は思い、後で聞き出すかとアーチャーも密かに決めた。

「ああ、少し残念だな……惜しい」
『は?』
「あのセイバー、造形が好みだった……口説いておくべきだったな」
『……本気ですか?』
「うむ、次回まで口説く文句でも考えておくか」
『…………はあ、お好きにどうぞ』

呑気なことを言うアーチャーに時臣は呆れて嘆息した。



ウェイバーはバツ悪そうに『隣でジト目のライダー』から目を逸らす。

(……うっ、手を挫いたかな)

少し晴れたようにみえる手が痛む、彼はそっとそこを押さえた。

ジイイ

するとライダーがまだジト目だ。
はあと溜息を聞こえ味がしにした後ウェイバーは彼女の艤装、『赤と青の血の付いた装甲』を示す。
ぷいと今度はライダーが目を逸らした。
二人は暫しそうした後互いを見て言った、精一杯の皮肉を込めて。

「……提督、本拠地だから慎重にって言ってなかった?」
「そういうライダーだってそれが良いと言っただろ……」
『あそこの犯罪者殴ったのに?』

ウェイバーとライダーの視線の先には二人組、どこか異様な雰囲気のナイフを持つ青年と明らかに魔術師ぜんとし狂気を感じる男がいた。
青年の方は頬が腫れている、芸術と称して拉致したらしき子供の解体現場を見たウェイバーが思わず殴ったのだ。
魔術師らしき方はもっと酷い、顔面が凹んでいるし側に付いていた海魔が壁際でピクピク悶絶している、こちらは当然ライダーだ。
飛び出したウェイバーと同時に突っ込み、そのまま追い抜いた彼女が装甲でぶん殴ったのだ。

「ああ糞、行き成り何するんだ……俺の芸術活動の邪魔して……」
「ええ、全く許せませんね、龍之介……貴方の素晴らしき芸術を阻むとは何たる暴虐、何たる破廉恥、許せませんぞ!」

誘拐と殺人の加害者達が抜け抜けと被害者面をする。
これを聞きウェイバー達は言い合いを止めた、ライダーが素早く前に立ち、ウェイバーが僅かな生き残りの子供達に優しく声をかける。

「提督、後ろに……早く済ませちゃって」
「ああ……君達、こっちを見るんだ、じいっとね」

ユラユラと指を揺らして暗示を掛け、くたと彼らは気を失いウェイバーにもたれ掛かる。
それを抱きかかえるとウェイバーはゆっくりと後方に下がっていく。

『ああ、子供たちが……材料が!?』

彼らにとって芸術活動とやらに欠かせない存在を奪われ、キャスターとそのマスターが叫んだ。
だが、その叫びはウェイバーとライダーを刺激しただけだった。

「そうか、材料か……ライダー、戦闘準備だ」
「ふうん、良いの、提督?……万が一話がわかるようなら説得なり脅迫なりして魔力を提供させるって言ってたけど……」
「ああそれは良い、あいつ等は目障りだ、話なんてするか……や(殺)れ、ライダー!」
「そう来なくっちゃ、許可が出たし思い切り……や(殺)っちゃいますネー!」

最初に考えた魔力不足を補う下心を切り捨て、ウェイバーがクイと親指で首を掻っ切るようにする。
明らかに怒っているウェイバーにコクとライダーも頷く。
彼女も同じくらい怒っていた、ガコンガコンと弾丸を装填していく。

「『36㎝45口径連装砲』四基及び『15.2㎝50口径単装砲』16基、STANDBY……」

艤装がけたたましく動く、これを見たキャスターは咄嗟に持っていた不気味な書を慌ただしく捲る。

「全砲門、良し……FULLFIREデース!」
「……『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』、海魔共、我等の盾と成るのです!」

ズドドドッと轟音と共に砲弾が飛び、それを湧き出るように出現した海魔が包み込もうとする。
砲弾と海魔の消耗は僅かに後者が不利、だが元から拠点にいた分が直ぐに集まりその不利を埋める。
消し飛ばされながらその質量そのもので砲弾を防ぐ海魔の奥で、キャスターがニタリと不気味な笑みを浮かべた。

「ふ、ふふ、これなら拠点に貯めた魔力による追加召喚で……」
(弾丸交換の瞬間に反撃に出るか、一見頭が可笑しいけど戦い慣れている、でも……マスターは違う)

本人の魔力は大分使ったが、拠点にも魔力はあるのでキャスターは分があると思った。
だが、ライダーはその相手の思い込みを否と判断する。

(あれは成り行きで召喚したようデスね、尤も悪い意味で……犯罪者が偶々英霊を喚び、それが狂人だったから事態が悪化した)

僅かな会話でライダーは向こうのマスターが素人で巻き込まれだと気づく、だから彼女は賭けに出た。

(でもそれは一方的な殺しは兎も角……戦争への覚悟がないということ、少なくとも勝ちたいという気持ちは提督に遠く及ばない)

彼女はチラと後方、マスターであるウェイバーを見た。
その右腕には三角しか無い令呪、『サーヴァントへの絶対命令権』がある、がそれだけではない。
令呪は魔力の塊でも有り使い捨ての魔力タンクとしても機能する。

「……提督、奴等に目に物見せられるかもしれません、だから令呪PLEASE!」
「良いだろう、持ってけ!」
「なっ、何、一瞬も躊躇せずに!?」

ライダーの叫びに僅かも躊躇わずウェイバーが応えた。
余りの反応に驚くキャスターの前で令呪が輝く、それが齎す魔力が『瞬時』に次弾を装填させた。
当然ながら艦娘もサーヴァント、その装備もまた魔力から成る、だからこその有り得ない連射だ。

「『36㎝45口径連装砲』四基及び『15.2㎝50口径単装砲』16基、弾丸再装填、二度目の……FULLFIREデース!」
「ええいっ、『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』……くっ、魔力が足りないか!?」
……龍之介、令呪に意識を集中し魔力充填を願いなさい、唯イメージして念じればいいのです!」
「わ、わかったよ、旦那!」

慌ててキャスターも追加召喚しようとしたが魔力が足りない、拠点の分を足してでも。
やむを得ず彼はこちらも令呪の使用を決意し、マスターを促す。
が、ここでライダーはハッタリを掛けた、地上では使わない魚雷発射管を見せつけながら動かす。

「い、行けっ……「ああ魚雷発射管ACTIVEデース」つ、追加がある、駄目だ、一角じゃ……」
「龍之介、何を!?」

恐怖に覚え真っ青になった殺人鬼は二角に手を伸ばす、虚しく消費されるそれにキャスターが唖然とする。
運悪く彼は純粋な魔術師でないから二画分の魔力を持て余し、また意識に無かった突然の召喚は中途半端に終わってしまう。

「残念だったネ、キャスター……自分で喚んだのではなく、マスターに強引に喚ばされた召喚は完全じゃない、精々1.5回分でしょう。
……そしてそれなら私のFULLFIREで仕留められる範囲だヨ!」

ズドドドドッと轟音立てて二度目の連射が『一画目で召喚された海魔』と『二画目で不完全に召喚された海魔』を薙ぎ払っていく。
この光景に殺人鬼のマスターは悲鳴を上げ、キャスターは悔しそうに歯噛みする。

「し、死にたくない、まだ俺の芸術は完成してない……だ、旦那、さっさと逃げるんだよ!」
「ぐうっ、巻き込まれ故の覚悟の不足を突かれたか……退きます、覚えていなさい!」

せめてもの嫌がらせに彼は拠点に有る魔力を暴走させて目眩ましにする。
バッと前に出て荒れ狂う魔力を払うライダーの後ろで、ウェイバーはホッと安堵しまた一抹の悔しさを覚えた。

「……拠点を暴走させたか、追えないな」
「予想内デース、追い詰めればそうするかなと……だから相手の手札を多く切らせました、でも提督もよく反応したネ!」
「まあ補充の宛はあるし……反英雄の存在を教会、聖杯戦争の進行役に伝えれば討伐報酬に成るだろ?」
「……地元同士でズブズブだろうから早い者勝ちで遠坂にやりたがるでしょうが……それならそれで、奴等を排除できるから良しデス!」

どの道それでキャスター達は倒されるし、また今まで追っていた分一番相手を読めるのはウェイバー達でもある。
早い者勝ちでもそれ程悪い賭けではないと二人は考えていた。
だからこそウェイバーは瞬時に令呪を使えたのだ(殺人鬼達への怒りも当然あるが)

「さてまずはこの子達だ、教会にでも保護させたら……借りてるホテルに行こう、流石に疲れた」
「いえいえ、それより良い考えがあるヨ、提督!」

最終的に逃げたがキャスターの怖さは陣地に在ってこそともいえる、二人はまずはこれでいいと追跡を切り上げることにした。
ウェイバーとライダーは分担し子供達を抱えると外へ、子供を教会に預けたら(キャスターの情報提供もだ)流石に休まないといけない。
流石にこの一戦でそれなりに魔力を使った、問題は唯のホテルでは魔術師の陣地や所謂霊地程回復しないことだ。
すると、ライダーが何故か得意気に提案した、メモを見せつけながら。・

「これを見るデース、こういう時は先輩に頼るデース!」



ポカーン

「ええと……ライダーにウェイバー君だったね、もう一度いいかい?」
「おや全く、聞いてなかったのですか、マスター」

正々堂々が良かったのに不意打ちさせられたことに根に持ったランサーに切嗣はグチグチ文句を言われながら帰った。
すると何故かアインツベルンの城の前にライダーとウェイバーがいた。
そして、ライダーは問題発言をブチかましたのだ。

「部屋貸してー!宿代はキャスターの情報デス!……唯のホテルより魔術師の管理地の方が魔力の回復の効率は良いし」
「ええ、どうぞ……うちのマスターが話がわからない人ですので、話し相手が欲しかったところですから!」
「待て、色々待て!」
「……本当にごめんなさい、うちの英国製がごめんなさい!」

これには切嗣が突っ込み、後ろでウェイバーがブンブンと頭を下げる。
だが、互いのサーヴァント達は勝手に話を進めていく。
もう彼女達の中ではここ借りる(貸す)方向で決定のようだ。

「よろしくね、先輩!」
「ええ、仲良くしましょう、後輩」
「……僕への不満か、当て付けか、セイバー!?」
「……の、呑気過ぎるだろ、聖杯戦争ってこんなんで良いのか?」

こうして主そっちのけでこの二組の共同生活が決まったのだった。



その日別の場所でも動きがあった、やや時を遡った頃のことで、宝具と砲弾が雨のように降る戦場の片隅の出来事だ。

「はははっ、伝説とはこれ程か……我が財が頼りなく見えるとは異常だな、全く!」
「ガオオォー!」

英雄王と伝説の戦艦、二人の間の空間を財宝と砲火が空を切って行き交う、正しくそれは『聖杯戦争』に相応しい『人外の戦い』だった。
そして、その嵐の如き空間から密かに抜け出る、『幾つかの小柄な人影』が在った。

「……もう足柄は勝手過ぎます、付き合ってられません」

セーラー服姿でその服に双眼鏡を引っ掛けた少女が数人を先導して走っていた。
誘導されるまま走る少女の内『黒髪を一筋だけ横に流した、勝ち気そうな少女』が訝しげに問いかける。
彼女は狂化により武蔵同様に明確な言葉ではなく、がそれでも先頭を行く娘には伝わるようだ。

「あっちが馬鹿やってるうちに行きましょう……『駆逐艦』の皆さん」
「ガオー」
「え、武蔵を手伝わないのかって?……その場合巻き添え確実ですよ、朧さんの所の次女さん」
「ガ、ガオー」
「え、勝手に動いて良いのかって?……文句はややこしい状況作った足柄に言って下さい
「……ガオ」

せめて助太刀しようと言えば一緒に吹き飛ぶぞという現実的な答えが返ってきた。
これに止めようとした少女も困る、流石に吹き飛びたくないので完全に納得した訳ではないが勝ち気そうな少女は口を噤んだ。

「それに……私達が居るということは深海棲艦が居るということ、どうせ戦うならそっちでしょう?」
「……ガオ!」

先を行く少女は真剣な顔で懸念を口にし、この発言に後ろを行く少女、その後ろの他の駆逐艦達のも同様に真剣な顔つきになった。
そもそもの存在理由である対深海棲艦に絞ろうという言葉に曙他数名は迷いつつ頷いたのだった。

「でも、戦えば消滅確実……ちょっとだけど、平和そうなこの世界を過ごしてみたかったなあ」
「ガオ……」

立ち止まって残念そうに少女が呟き、その肩を後方の少女がポンポンと優しく叩いてやった。
相手は歴史に残る幸運艦だが彼女にとっては後輩でもある、だから狂化付きでも慰める。
これによりセーラー服の少女は照れながら元気を取り戻す。

「大丈夫、ありがとう……行こう、宝具による召喚では活動時間は余り無いはず、速やかに目標を探し打倒しましょう!」
『ガオー!』

さっきまでの悲しそうな表情から一点セーラー服の少女は元気よく宣言し、他の者達も力強くそれに頷いた。

『……ほうほう、それは結構なことじゃな』
「誰です!?」
「ガオ!」

すると老獪そうな声が響き、一同は慌てて艤装を展開した。
バアッと無数の羽虫が頭上に集まってそこから言葉が掛けられる。

『驚かせてすまんな、儂は間桐臓硯じゃ……お主達を呼び出した足柄のマスター、まあその協力者じゃな』
「……その協力者さんが、何のようですか?」

相手の返答に少女達は艤装を解除し、それでも警戒状態を維持したまま更に聞く。

『深海棲艦の情報を渡すし、桜に維持用の魔力も用意させよう、代わりに……』
「代わりに?」
『……指揮下に入って欲しい、いや足柄が使い難くいんじゃもの』
「……ああ苦労してるんですね」

考え得る限り最高の条件が提示された、がその理由はちょっとばかり情けない物だった。
思わず警戒の代わりに同情の視線を羽虫達、というか先に居るであろう男に向けた。

『足柄は家でマスターが暴れるなと説教しておる、雁夜には強く言い含め諜報に専念させた……でそれで暫く動かせん、深海棲艦の相手を任せたい』
「……了解しました、これより我等三艦、そちらの指揮下に入ります」

セーラー服の少女が敬礼し、後方の少女達がそれに続く。
そこまでしてあっとセーラー服の少女が言い忘れに気づく、彼女は遅ればせながら名前を名乗った。

「あっ肝心なこと忘れてました、私は……陽炎型八番艦『雪風』です!」
『……ああ、奇跡の艦じゃな』
「光栄です、乗組員皆さんのおかげでもあるけど……では、よろしくお願いします!」

天真爛漫に奇跡の駆逐艦少女はにこりと笑う。

『ところで、お主は狂化しておらんのか?」
「ああ私は足柄の僚艦ですが……基本的に別働隊だったし、レイテでも後方支援でした、だから受ける影響が少ないようなんです」
『……つまりは関係深い者程制御できないか、本当に使い難い宝具じゃな』
「は、はは、彼女は餓えた狼だから仕方ないかと……」

例外と知って嘆く臓硯に雪風は更に深く同情したのだった。




頑張って武蔵を追い返したギルガメッシュ&ロイアルアーサーによる不意打ち、英雄王は受難のようです。
そしてこいつ等だけシリアスやってるウェイバー達が青髭と殺人鬼を陣地から追い出しました。
・・・抜け抜けと寝床借りる辺り英国らしいマイペースさか(教えたの相手だけど)

以下コメント返信
草様
あー流石に魔改造にも限界有ったのか、艦これの消費量で判断してました・・・該当部分を削りました、ご指摘ありがとうございます。
英国はネタに事欠かな過ぎです・・・確かにウォースパイトは-補正無いな、でも僚艦へペナと確信できる(事故の意味で又はドジっ子?

宇。様
ええ、見事に自爆しました・・・でもバーサーカー云々でなく足柄が餓え過ぎてるせいというのが正解と思います。

rin様
三次時点ではまだ人間らしいだろう、そこで大和に影響を受けたと仮定したら・・・何か愉快な人になってしまった。
あーアサシン脱落偽装でなく・・・マスター殺しが消え他が好戦的に成り且つ派手に倒したアーチャーを警戒させるのがあの策でしょう?
周りを戦わせ自分は温存するのが目的な訳で・・・それが彼の因縁のせいで失敗したと嫌味を言ったんです、ギル時臣嫌ってるし。



[41120] 五 戦争二日目の出来事
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2016/03/06 01:49
『ああん、やる気かおい!?』

ゴツゴツゴツッ

疲れ果てた正義の味方と騎士王であり艦娘である少女が俗にいうメンチ切り合い、互いの胸座掴んで額を撃ち合いながら相手を睨む。

「……何で勝手に他所のマスターとサーヴァントを引き入れてるんだよ、この英国製!?」
「切嗣が話相手に成らないからせめて後輩迎えたんですよ、わかれ、この無精髭!」

二人はメンチ切りながら相手を罵った。
そんな奇妙な主従にウェイバーは戸惑い、一方ライダーは然程気にしない。

「……どうしろと」
「気にせす休めばいいんじゃない、提督」
「マイペースすぎんだろ、こっちの英国製……」

はあと溜め息を吐いたウェイバーだが確かに疲れている。
セイバーのマスターには悪いが部屋を貸りることにした、流石に長居する気はないけれど。
察したのか、いつの間にか現れたメイド服の無表情な女性がウェイバー達に話しかける。

「……ではご案内します」
「ええと?」
「あっちの二人が心配で……希望者から選抜し、アインツベルンから同行した者です」
「そうか……待て、アインツベルン?」

相手の言葉の中に聞き逃せない物があった、今更ながらにウェイバーはここが『どこ』で『どの勢力』の支配する地かに気づく。

「御三家だと……」
「……気づいてなかったので?」
「あっちの英国製に場所だけ聞いたんだよ!?」

ウェイバーは隣のライダー、それにマスターと言い合うランサーを恨めしげに見て叫んだ。
恐らく彼が初めてだろう、聖杯戦争でアインツベルン城に『全く気付かず』入った者は(というか戦闘目的なら兎も角全く考えてないのは普通無い)
割りとこっちも酷かった。

「……外行きます?野宿になりますが?」
「くっ、体力的にそれは明日以降きつくなる、怖いが……城内で頼む、前回の内容、あっちのマスターの言葉を信じるぞ」

自分の状況と消耗度を考え、精神的安寧を引き換えにして彼は部屋を借りることにした。

「……わあい、こんな豪華な城に泊まれるなんてラッキーですネー!」
「おい、喜ぶな、少しは緊張しろ、ライダー!」

が、自分と違ってマイペースなライダーは楽しむ気満々で、テンションに着いてけそうになかった。
和気藹々とメイドと話すライダーにウェイバーは大きく溜息を付いた。

「あ、メイドさん、紅茶お願いデース!」
「はっ、それではご用意します、少々お待ちを」
「……僕は先に寝てるんで勝手にやっててくれ」

彼は呑気なサーヴァントを恨めしく思いながら、せめて警戒にと辺りの動物を使い魔化した後心細く眠りにつくのだった(何もなくて無駄だったが)

(……英国製か、能力に反して時々残念扱いする理由がよく分かるよ)

緊張しっぱなしで床についたウェイバーは心の底からそれを思い知らされた。



五 戦争二日目の出来事



そして翌朝、起きて部屋から出たウェイバーは奇妙な光景を目にする。

「ふっ、僕らは互いに不幸なようだね、ランサー」
「ええ、そのようですね……養父が発狂して魔術的バイオハザードで故郷全滅、その後世話してくれた師と死に別れとは大変でしたね、切嗣」
「いや君も大変だな、姉と仇の息子の交際発覚で親戚一同が暴走、それを辛うじて止めた後筆頭騎士と王妃の不倫とか……」
『……せめて、この戦いでは良い目見よう!』

何か後ろ向きな方向で団結していた。
多分言い合いが何かの拍子に互いの不幸自慢に発展、そこから合ったのだろう。
ウェイバーはあんな風に嫌な形でやる気な人達は初めてだなと思った。

「さあ互いに思考傾向というか戦いへのスタンスは違えど……勝利という目的はかわらない、そうだろう、ランサー!」
「ええ、それに関しては気持ちは同じ、何とか折り合いをつけていきましょう、マスター!」

二人は雄々しく吠えたのだった、言っていることは悲惨だが。

「……勝ちに行くのはいいですけど、深海棲艦打倒を忘れないで下さいね」
「ああ、わかってるさ……まあ打倒深海棲艦は忘れない、最悪なのは終盤聖杯起動条件が整った際に残っていることだしね」
「うっかり深海棲艦に聖杯奪われたら最悪です、それだけは避けますとも……中盤までに倒して、その時私達が生き残っていたら取りに行きますよ」
「あ、そういう優先順位ね、まあそれなら良いか」
「そうですネ、目的終えたら先輩の勝利を祈るってことで……」

一応艦娘として目的である深海棲艦の打倒は忘れていないらしい。
それならとウェイバー達は好きにさせることにした。
幸い彼とライダーは聖杯戦争に勝つのが目的でない、それぞれの目的を倒せば満足なのだ(尤も目標である師が深海棲艦を呼んだと未だ知らないが)
ぶっちゃけその後契約を切ってサーヴァントの維持を辞めれば平穏に離脱できる、だから仮にあっちが優勝目的でも何の問題もなかった。

(ま、元々アインツベルン数百年越しの悲願なら是非とも勝ちたいか……僕には関係ないけどね)

『二人』のそれぞれの『目的』を知らないウェイバー達はそこで思考を止めてしまった。
もしここで何を聖杯に望むかを聞けば、何としても考えを改めさせただろう。
だが、まさか世界規模の人の感情への干渉や既に起きた過去の改竄等と大それた物と気付ける筈も無かった。

「(まあ雇われなら現実主義者だ、破綻したことは願わないだろう)……それより聖杯戦争について話しましょう、深海棲艦とかキャスターとか」
「ああそうだね、ウェイバー君」

寧ろ現実主義者だから抉らせたと気づかず、話は次の話題に移ってしまった。

「キャスターは間違いなく反英雄で、本人はそれ程魔術行使に長けてはいないようです」
「……でも宝具が厄介だったネー、そこそこ強い海魔を魔力のかぎり召喚可能なようデース」

ウェイバーとライダーはわかっている限りの情報をランサー達に話した。
元々情報は宿代のつもりだし、向うが襲われる可能性もあるからだ。

「ふむ、面倒な相手だ……が、それなら拠点の喪失は大きいな、魔力面で特にね」
「ええ、もう拠点に貯蓄出来ない、これは大きいですね……キャスターのマスターは?」
「多分素人で、魔力があるだけの殺人鬼が偶然召喚したと思う……その上令呪は残り一つだ」
「……発見できれば然程問題なく倒せるか、まあ一応教会に言うべきかな?情報面でも報酬という面でも……」
「あ、既にやっておきました、調べてると思うのでそれを聞き出したいところです」
「令呪辺り報酬に分捕りたいところですネー、ぶっちゃけこっちはどうやっても決裂しないんで令呪は単なる魔力タンクですから」
「……良いなあ、令呪で変な命令されないって羨ましいな、後輩」

ウェイバーとライダー共に互いの勝ちたい相手に勝てばそれでいい、その目的から離れなければ反目はしない。
マスターが無茶な命令をすることもサーヴァントが反抗することもないので令呪は唯の緊急時用としか見ていなかった。
これが普通のサーヴァントなら支配権が強まることに危機感なり抱いたかもしれないが。
実際ランサー的に本当に羨ましい、先程幾らか不満は解消したが騎士道とかを否定するのはやはり合わない。

「安心しろ、ランサー……致命的に合わないようなことでなければ強制はしない」
「それっと必要ならさせるってことじゃないですよね、うう気が重いなあ」

安心させるように、でも全然安心できない切嗣の発言にランサーはがくりと肩を落とした。
予め言うのは多少良心的だがいざと成ったら非道な内容でも命令するということだ。
暗い表情のランサーを切嗣は済まなそうにし、そんな二人をウェイバー達は不思議そうに見ていた(手段を選ばない魔術使いだと知らないからだ)

ドンドンドンッ

が、その奇妙な空気は聖杯戦争参加者にのみ通ずる合図によって途絶えた。
一般人には聞こえない魔術的な信号だ。

「これは教会からだが……」
「非常事態宣言?」
「……内容は?」
「……待ってくれ、これは……深海棲艦が無差別攻撃に出ただと!?」

一同は驚愕し、その後緊張した表情で外、街の方へと向かった。



「……ヒヒヒ、暗殺者共、手前ラノオカゲデ散々ダ……ダカラ遅レヲ取リ返サセテモラウ」

早朝の町外れ、無数の焼死体、アサシン達の亡骸の中心で深海棲艦『レ級』が邪悪に笑った。
彼女が漆黒の外套を翻すとそこから無数の球体が這い出てくる。
絶え間なく浮き上がったそれ等は数百に及んだ、そして隊列を組んだ。
ギョロリと血走った眼球を剥いてフワリと街の方へと向かい、ニヤニヤ笑ってレ級はそれを見送った。
これに頭上で監視していた非戦闘型のアサシンが動揺した。

「何を!?」
「遅レ取リ返スッテ言ッタロ……コウイウノ、コノ国ダト何ツッタカ」

暫く語彙を探してからレ級は冗談めかして言った。

「タコ焼キ、ダッケ?……マ、人ガ蛸ヲ喰ウンジャナクテ、コイツ等が人『ヲ』喰ウンダガ」
「まさか……魂喰い!?」
「ソッ、アレハ私ノ端末ミタイナモンダ……喰エバソレハコッチニ貯マル」

霊体であるサーヴァントの食事は魔力だ、だが魔術師だけでなく人そのものからでも多少は取れる。
それに付け足すようにレ級が加える。

「ツイデニ……参加者ノ反応ハ様々ダロ?止メル奴便乗スル奴ッテナア!?」

この言葉にアサシン達とそれを操る言峰はぞっとする物を覚えた。
例えば拠点を失い消耗したキャスター達、例えばそれよりは狂っていないが勝利を目指す漁夫の利狙いの遠坂陣営、幾らでも火種はある。
向うが一枚岩でないのなら艦載機達が生き残る目はあるし、大量の一般人あるいは魔術師やサーヴァントすら取り込むことが出来るかもしれない。

「サア派手ニヤロウゼ、折角ノ聖杯『戦争』ナンダシナッ!」

こうして聖杯戦争二日目、波乱の一日が幕を開ける。




「何?……綺礼、今可笑しなことを言ったか、我に雑種の手伝いをせよと?」

英雄の王は鼻で笑った、レ級の動きを知った協力者の壊れた聖職者への言葉だ。

「予定では我はあの貴族気取りの合図で仕掛ける予定になっている、深海棲艦は元より他の英雄も狙いだ。
……詰まらないが効率はいい、それを貴様の下らぬ拘りで潰せと?」

彼は訝しみ、いや正気すら疑ったような目を向けた。

「何だ、まだ本当の喜びに目を背けるか?これから踏み躙る者共に遠慮したか?」

だが次の壊れた男への発言にアーチャーは僅かに戸惑いを覚えた。

「違う、それだけじゃ……生者だけではない、私は……既に死した死者を踏み躙りたくないんだ!」
「ほう?」
「死と人にとって最大の苦しみ、それを既に受けた妻に更に苦しめというのか……彼女は私が被っていた仮面を本性と思ったまま逝ったのだぞ!」

血を吐くような叫びだった、だが初めて英雄の王は沈黙する。
彼にとっても無視出来ない内容だった。

「許せ、それは王とて触れてならぬ物だ」
「アーチャー?」
「いや、死者への思いだけはな……」

聖職者は疑問に思い、だけどすぐに気づく、目の前の英雄はそれをよく知ると。

「エンキドゥ、神から遣わされし男……」
「……全て一緒とは思わん、王と王に唯一並ぶ者と雑種とその連れ合い、重要度では比べられる筈もない。
だが悲しみや嘆き、その喪失感は我とて覚えがある物だ」

すると彼は驚くことをした、小さく、だが確かに頭を下げたのだ。

「それを突ついてしまった詫びだ、一度だけ『財』を使ってやろう」

傲岸不遜な彼の妥協、有り得ないと思っていたものだった。

「アーチャー、一体何を……」
「貴族気取りでなく、貴様の私情に優先し付き合ってやろう……だが我も消耗した故介入の時を図る、だからアサシンを向かわし逐一知らせるのだ」
「……それで十分だ」

言峰は彼の言葉に短く答えた。
だが、同時に目の前の男とはやはり相容れないとも感じた、先のは半ば気まぐれに過ぎない。
何かの拍子にその傲慢さを発露するだろう、その絶大な力と共に。
考えるにそれは恐ろしく、だけど今だけはこの目の前の協力者を頼もしくも思った。





以下コメント返信

ネコ様
ええそうなるでしょう、確かランサー(チャー)古代インド核が対国だし、又は防御用(常時)の宝具が付きそう?

宇。様
ま、まああれよりは大丈夫、目的すらバラけてた節すらあるあっちと違い打倒深海棲艦は同じです・・・時々手段主張がぶつかり言い合う感じか。
・・・金剛は運がいいというより要領がいいでしょうかね、古参戦艦で何度か旗艦もやったからその辺に頭が回るってとこかと。



[41120] 六 狂気と狂喜
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/08/30 22:26
ゴウンゴウンと重低音が響く、その出処は空を覆う黒い何かから。
真っ黒い有機的な球体、深海棲艦の艦載機だ。

「……やれやれ終末思想宛らだな」

現場で教会の構成員を指揮しながら(同時にアーチャーへ情報も送り)が不利な状況に言峰綺礼は苦々しい表情で嘆息した。
色々在って信仰危うい彼でもそんなことを思う程の光景だ。

「それにしても数が多い……これでは長く保たんか?」

愚痴と共にヒュッと彼は黒鍵を投擲、射撃体制に入っていた艦載機を妨害する。
ダメージは殆どないがそれで相手は僅かに崩し、更に近くの艦載機と衝突して向こうの連携に乱れが出てきた。

「……今だな、後退するぞ!」
「はっ!」

今の内にと彼は近くの手勢に後退を命じた。
仲間は殆どが傷つき少なくない数が向こうに『喰われ』言峰自身もボロボロだ。
戦いが始まってからずっとそんな調子で、綺礼による直の指示と時間稼ぎに専念することで辛うじてまだ保っている。
だが、少なくない犠牲だがそれにより滅茶苦茶に散ろうとする艦載機を『一箇所』に留めることに成功した。

「ま、幸い私達だけではなかったが……」

バアッ
ギイギイ

艦載機に群がり牙を立てる羽虫の働きも大きい、明らかに魔術師の手の入った虫で倒せこそしないが相手の気を引いている。
臓硯の送った援軍(お茶を濁したとも言うが)である。

「ふう、ご老体の助力がなければ全滅していたな……サーヴァントを送ってくれれば尚良かったが」

綺礼は言った後贅沢かと苦笑した、向こうにも色々あるのだと予想出来る。
バーサーカーは制御出来てなかったのは師から聞いていたし、そもそも性能的にも性格的にもこういった防戦には向いていない。

(あるいは……二体以上の英霊が要るかもしれないが出さないか、それでは魔力的に後が続かない)

何より英霊召喚が燃費の良い筈もない、発動に使う魔力も維持する魔力もかなりの物だろう。
寧ろ虫という援護をくれただけで感謝すべきだ(間桐の魔術をそれなりに明かしたとも言えるし)
そして、犠牲覚悟で敵をこの場に、『一箇所』に留まらせたことはどうやら『吉』と出たようだ。

「……それに、時間稼ぎで十分だしな」

ちらと綺礼が、少し遅れて彼の部下がある方向を見た。
突如巨大な魔力の持ち主が複数現れたのだ。
衝角を担いだ鎧姿の少女、複数の大砲を構えた巫女服の女性、それにマスターと思しき男性二人がバイクに相乗りして向かってきた。

「見事な戦いだ、防人達よ……後は私達に任せて!」
「ええ、良くここまで戦線を保たせてくれました……私達と交代デス!」
「サーヴァント、ランサー」
「同じくライダー!」
『……参る!』
「……成程、あれが英霊か(……私には眩しすぎるな)」

怪物に雄々しく立ち向かうランサー達は正しく英雄そのもので、綺礼達(特に自分はああなれないと知る綺礼)はとても眩しく映っていた。



六 狂気と狂喜



「……さて始めましょう、マスター!」
「号令お願いします!」

ランサーとライダーは並んで立ちそれぞれの武器を構えると、後方のマスター達に促した。
バイク後部座席から降りたウェイバー、それに思案気に引いていく綺礼達を見ていた切嗣が頷く。

「凄い数だがライダー、それにランサーも居るなら……」
「ああそうは負けないだろう(……言峰綺礼、深海棲艦の艦載機をここまで止めるか、やはり警戒した方がいいかな)」
「……切嗣さん?」
「いや何でもない(……今は敵に集中しないと)……始めよう」
『……ランサー(ライダー)、攻撃開始!』

切嗣は警戒する男、執行者(教会に所属し怪異を狩る専門家)で自分と同じ何かを感じる言峰綺礼への警戒を強めたが、直ぐに気を引き締め直す。
彼とウェイバーは自分のサーヴァントに攻撃を指示した。
ランサーとライダーは力強く頷くと、並走して一気に艦載機へと駈け出した。

「……とりあえず先制します、FULLFIREデース!」

ドガガガッ

最初に仕掛けたのライダーだった、走りながら照準し艤装から展開した砲と機銃を連射する。
ズドンズドンと砲撃が艦載機を砕く、破片を散らしながら落下していく。
バラララと機銃が砲撃で乱れた隊列を更に撃つ、こちらは砲撃程の威力はないが牽制には十分だ。
黒い群れが数カ所同時に鉄槌打たれたかのように割れた。

「先輩、今だヨ!」
「ええ今ですね、宝具を使います……ロンゴミアント!」

この瞬間ランサーが更に加速、幾つかに分断され一瞬動きが止まったうち一つへと衝角を構えて突進する。
全身から迸る魔力が彼女を中心に広がると、突き出した衝角を先端にして円錐状に収束し、彼女自身が巨大な衝角と成ったかのようだった。
そのまま輝く衝角は斜め上方に向けて急加速し艦載機の群れの一つへと飛翔した。

ドゴンッ

衝角の先端に直撃した者は当然消し飛び、纏う魔力に触れた者すら粉々になった。
だが、それを一瞥だけした後ランサーは直ぐに次の相手に目標を移す。

「……まだだっ、ロンゴミアント!」

残骸の一つを蹴って方向転換した彼女は再び加速、次の艦載機郡へと突進する。

ドゴンッ

再びの轟音、二つ目の艦載機群が木っ端微塵と成って壊滅する。
が、当然艦載機もやられっ放しではなく、数体がランサーへと接近してきた。

「……む、来るか?」

眉を顰めたランサーに艦載機が特攻を仕掛けた、ダメージ覚悟で重量そのもので擦り潰そうというのだ。

「だが……甘い、『風王結界(インビジブル・エア』!」

カキィン

艦載機の捨て身の反撃に対して、ランサーは唯手を翳しただけだった。
だがそれだけで防御は事足りた、掌中で渦巻いた風が分厚い風となって艦載機達を弾き飛ばしたのだ。
彼女のもう一つの宝具といえる物である。

「ふむ、そこそこ硬いか……聖剣を失ったのは痛いが風王結界を鞘以外に、ある程度自由に使えるのは悪くないな」

本来は聖剣を隠す為の宝具だが、(多少非力ながら)小回りの効くランサーのクラスというのも合わさり汎用性が高くなっていた。
おかげで彼女は艦載機の攻撃を気にせず行動できた。
更に彼女は弾いた艦載機へ衝角を一振り、バキンと一撃で叩き割る。

「ライダー、二射目は!?」
「待って、もう直ぐで……ようし、準備完了です、下がって!」

眼下でライダーが弾丸の装填を終える、キャスター戦の時と違い余裕を持って終えた。
それを確認したランサーは再び艦載機の残骸を蹴り離脱する。

「さあ、二発目行くデース!」

ズガガガガッ

次の瞬間ライダーが砲撃と機銃の連射を行った。
更に幾つかの艦載機郡が撃ち落とされる、黒で染まった辺りがそれなりに見える物となった。
スタンとライダーの隣に着地したランサーがやや安堵した様子で辺りを見た。

「上手く先制出来たか、首尾は上々でしょうかね……後は機銃で何とか成るでしょう」
「はーい、一機ずつ落としていきましょう、先輩!」

ランサーが普段使わない機銃を展開し構え、ライダーも頷いて魔力効率のいい機銃のみ装填する。
初手でそれなりに落とせたので後は各個撃破で何とか成るかと二人は考えた。

ザッ

が、足音がした、新たな乱入者だ。

「おやこれはこれは……乱戦でどこか落とせれば令呪一角でも逆転かと、そう思ったのですが予想と少し違いますねえ」
「旦那、これ俺らに風が来てんじゃない?」

狂った魔術師と殺人鬼、現れた二人にランサーとライダーは顔を顰める。
レ級が期待した通りの混乱が起きようとしていた。

「これは……先日聞いたキャスターか、よりによってこのタイミングでか……」
「……ああ、ジャンヌ!?」
「は?」

が、何故かキャスターがランサーを指差して興奮気味に叫んだ。
ランサーは意味がわからずキョトンと首を傾げる。
彼女は当然ながらジャンヌではない、艦娘であり英雄アーサーだ、ジャンヌの名はどちらとも合わない。
だが、キャスターはそう信じ込んだようだった。

「おお、これは正に運命、そう運命です……ジャンヌ、また会えるとは!」
「は、え?……あの、どなたかと間違えてるのでは?」

ぽかんとした表情で機銃で艦載機を牽制し、ランサーは手を止めずにキャスターに違うことを訴える。
が、この言葉は通じない、軽度の狂化(精神汚染)が彼に不都合な言葉を無かったことにするのだ。

「いいえ、貴女はジャンヌだ……ああこれは何としても貴女に聖杯を捧げねば!」
「……人違いで捧げられても困るのだが」

ランサーは頭を抱えた、このままでは埒が明かないと相手に叫ぶ。

「……ええい、忙しいのに、ジャンヌ某でない説得は後にするとして!……私は魂喰を止めねばならない、無辜の民を救う邪魔なら倒しますよ!」

彼女は殆ど脅迫紛いの言葉を掛けた、だがキャスターは予想外の反応を取った。
彼はギョロリと濁った目を見開いて泣き叫んだ。

「魂喰を止める?無辜の民を救う?……ジャンヌ、貴女は魔女狩りに掛けたクズ共を庇う気か!?」
「……キャスター?」
「はっ、魂喰等好きにさせればいい、無辜の民等存在しない……人間等すべからず救われない、奴等は罪に塗れているのです!
……そうか、貴女はまだ聖女たらんとするのですね、ですがそれは間違いでありそうと教えるには阿鼻叫喚は最適か?」

言葉を挟む間もなかった、行き成り相手はヒートアップし、止める間もなく自身も凶行に及ぼうとする。
キャスターはパラパラと魔導書を捲ると海魔を召喚した。
それ等は街の方、まだ避難途中の市街地へとゆっくり進んでいく。

「ジャンヌ、聖女という重荷、私が退けてやろう……海魔達よ、思う存分喰らうのです!」
「……ああだから反英雄か、説得しようとするのが間違いだった」

敵の数はこれで二倍となった、ランサーは頭を抱えた後衝角と機銃をキャスター達に向ける。
キャスターの暴走ですかさず立て直した艦載機にはライダーが砲と機銃を突き付けた。

「……先輩、友達選びましょうよ」
「あれが間違えたのに言いなさい……二手に別れましょう、どちらかでも取り零せば大惨事です」
「ええ、わかってます……馬鹿やった奴等に後悔させてやりマース!」

ランサーとライダーは背中合わせで言葉を交わすと、それぞれキャスターに海魔、艦載機郡へと走り出す。
一人の狂人によって終息しようとする状況は悪化した。
それを収めるべく二人の艦娘は力を尽くす、先にある地獄を起こさせない為に。



ブオオォッ

乱戦となると見た切嗣は素早くバイクを走らせる、その背には緊張した表情のウェイバーも。

「市街に行くぞ、捕まって、ウェイバー君!」
「はい……もしもを考えて、一般人を避難させないと」
「それに、ランサー達が抜かれた場合は僕らで戦わないといけない、教会も戦ってくれるだろうが……その時は酷いことになりそうだ」
「……止めて下さい、深海艦の艦載機も海魔も人で相手するのは難しい」
「だが保険はいる、まああっちが勝てばいいことだが……とりあえずラインから目を一時も離ないように」

二人は嫌な想像をしていまい顔を引き攣らせた。
戦闘経験豊富な切嗣でも過酷な戦いだろう、それどころか殆ど素人のウェイバーには荷が重すぎる。
自分達のサーヴァントの勝利を祈るしか無い。

「それにしてもキャスターの言葉……ジャンヌ、民に魔女狩りに掛けられた、だったか?」
「ジャンヌ・ダルクでしょうか、となるとその身内に反英雄で魔術絡みは……青髭くらいしか該当しないけど」
「……悪魔、いや邪神崇拝者だ、確かに納得の狂気だな」

条件に合うのに思い至った二人は納得と諦観を抱いた。
特徴があの狂気の魔術師に一致する、深海棲艦だけでも厄介なのに更なる問題に頭が痛くなった。

「……ジャンヌの火計はジルドレ等有力者を惹きつけた魅力、それに対する貴族の嫉妬による謀略説があるが……
『ジャンヌが死んだのは彼女を旗としたお前のせいだ』と言ったらあいつ切れるかな?」
「止めて、殺しに来ますよ!?……いや囮になるか、でも貴方一人でやって下さいね!」
「君も割りと酷いこと言うな、まあ僕もまだ死にたくない……その時はランサーに言わせるさ」
「ちょ、酷っ……」

切嗣の言葉にウェイバーがドン引きした、同時に囮にされるかもしれないランサーにも。




ランサー&ライダーによる艦載機殲滅戦、そこにキャスター乱入したところで次回へ・・・流石に最後は切嗣だってやりません(没ネタ出しただけ)
今回は爺さんと足柄&西方艦隊はお休み、爺さん多分出たがる足柄や雪風を必死に抑えてます。

以下コメント返信

rin様
実はウェイバーそこそこ止り、安定してるがそれだけ、原作の活躍は破天荒な王に引張られた意外性が大きいと思うんです・・・殻を破る機あれば?
臓硯と言峰はレ級という明確な敵の分中立寄りに押し出されました、各キャラは艦娘と深海艦の二本軸を焦点にしつつ周囲に配置されてる形です。
・・・ぶっちゃけ誰か喰われればレ級がパワーアップして動くので、その誰かが出るまではこんな感じですね(この空気は書き易い、暫くはですが)

ネコ様
雪風は中盤出番あり・・・能力は普通のサーヴァントより高いと変だし敏捷幸運A他D?、十分高いけど知名度的に低いと変だからこの辺りで。
アルトリアさんはまあ民守って怪物と戦うとか気分的には良いと思いますよ・・・まあそこでストーカ来たりとやっぱ不幸気味ですが。



[41120] 七 一人目の脱落者
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/06/19 00:25
空は深海棲艦の眷属に、地上は邪悪な海魔に埋め尽くされていて、その光景に老人は大きく溜息を付いた。

「やれやれ、頭が痛いのう……」

送り込んだ蟲を一旦下げ、その視界を経由させた情報は余り良くない物だった。
蟲を犠牲にした時間稼ぎで二人の艦娘が間に合ってくれた、ここまでは良かったがそこからが問題である。
ランサーとライダーが順調に艦載機を片付けてたのに、何故かキャスターにがしゃしゃり出てきたのだ。

「……乱戦に必要なのは多数の敵を打ち砕く火力、それに長時間攻撃から生き延びる防御力じゃ。
それ等を両立させねばならん……そして、これが中々に難しい、特に我が陣営にとっては……」

間桐家当主である臓硯が呟く、いや正確にはある二人に向かって言い聞かせる。
視線の先で、苛立たしげに足柄と雪風がガタガタと貧乏揺すり中だった。
二人は戦場に向かいたいと全身でアピールしたが臓硯は許さなかった。

「足柄は前者は問題ないが……狂化によって少々小回りが効かず、攻撃に偏り過ぎてるから乱戦では不覚を取りかねん。
召喚されし駆逐艦は……逆に後者は兎も角火力面でやや心許ない、やはり行かせられんのう」

同時に向かわせれば条件は満たされるが、その場合戦闘の魔力消費が跳ね上がる、また同じ理由で武蔵を出すことも論外である。

「それ故に、ここはお主等の出番ではない……今は待つのじゃ、良いな?」
『……はい』

理路整然と臓硯が指摘し、ショボンと足柄と雪風が項垂れながら頷いた。

「……すまんのう、流石に連日の連戦では桜の魔力供給が間に合わぬからな」

二人を宥めた臓硯は気不味そうにしながら監視に戻る。
倒すべき深海棲艦の眷属を前にして、待たなければならない二人の辛さは良くわかる。
しかし、それでも止めねばならない、本命であるレ級への警戒は欠かせないからだ。

「だが幸いというべきか……戦ってるのはあの二人だけでは無いようじゃぞ」

二つの動きに臓硯は気づいた。
一つは空で、一つは地上で、戦いはサーヴァントだけではないらしい。

「ふむ、孤軍奮闘ではないか、ならば……此度の戦争参加者の手並み、見せて貰おう」

臓硯は蟲の視界越しに『何かを教会に伝える青年』と『戦場に向かう黄金の舟』を目にした。




風より早く三騎士の一角、ランサーのサーヴァントが駆ける。

「……はあっ!」

ギュオッ

ランサー、アルトリアであり巡洋ロイアルアーサーでもある少女が気迫の声と共に衝角を叩き付けた。
魔力放出で強化した一撃が生理的嫌悪を否応なく抱かせる異形、海魔を高々と跳ね飛ばす。

ドゴオッ

「ギッ!?」

手近なところに居た海魔をふっ飛ばし、衝撃で弾けて飛んだそれの破片は後方の海魔数体を更にふっ飛ばした。
隊列が崩れ動けなくなった所へランサーは腕に展開した機銃で追撃する。

「……まず、数を減らさねば」

バラララッ

横に払うように銃口を滑らせ、連続して放った弾丸が揉みくちゃで動けない海魔を四散させた。

「まだ来るか、海魔共!」
「ギギイッ……」

更に数匹纏めて倒した所でランサーが衝角を向け、その戦乙女宛らの雄々しい様に海魔は怯えがちに下がりかけた。
だが、そこへヒステリックな奇声が飛んだ。

「……ちっ、ええい、怯むなっ!」
『キ、キシャアッ!』
「(倒しても召喚で補充か……)キリがない……」

その無謀な指示で突進する海魔を回避し、そこでランサーは顔を顰めた、宝具による連続召喚で中々数が減らない。
しかも、後方からキャスターが油断なく援護する。

「……きえええっ!」
「そっちもか、これは少し面倒だな……」

ズドンズドンと魔術攻撃、単純に魔力を練り固めただけの援護射撃がランサーを襲う。
純粋なキャスターではないから然程威力は高くないが体勢を崩すには十分だ。
しかも、炸裂する魔力が海魔の死骸やその体液を巻き上げ、ランサーを撹乱する。

「ひ、ひひっ、邪悪な海魔の血潮、我等英霊にとっても毒になるでしょう……気分はどうです、ジャンヌ?」
「……最悪の気分ですね、後人違いです(……不味いな、ランサーの対魔力ではやや厳しいか)」

衝角を振り回して海魔の残骸を弾くランサーはさっきより酷い顰めっ面だった。
(同じ対魔力を持つ三騎士の)セイバーやアーチャーに比べてスキルの恩恵が少ない、魔術による援護や海魔を利用した妨害が無視できないのだ。
そこへ海魔が突進を仕掛け、彼女は慌てて腕を翳し風を収束させる。

「キシャアッ!」
「……ちいっ、風王結界!……更に爆ぜろ!」

ドゴンッ

「うわっ、風が……目晦ましですか!?」

ランサーは風で海魔を遠ざけると更に炸裂させ、キャスターと海魔を怯ませると素早く間合いを取り直した。
トンと後方に飛び退いた彼女は再び展開した機銃でキャスター達を牽制する。

バラララッ

「くっ、まだ抗いますか、ジャンヌ!」
「……だから人違いだと言ってるでしょうに」

弾丸を海魔を盾にして凌いだキャスターが海魔の群れの奥から喚き散らし、ランサーは相変わらず話が通じない相手に頭を抱えた。
その後戦況その物を考えて大きく嘆息する。
機銃の牽制で距離を取れたが精々時間稼ぎ、数を笠に攻める海魔をどうするか考えを巡らす。

ドンッ

すると背に軽い衝撃、肩越しに向うも顔を引き攣らせた金剛が見えた。
艦載機、邪悪な球体がその身を割って砲塔を展開していて、その弾幕に押され引いてきたらしい。

「ソーリー、先輩……どっちも大変みたいですね」
「ええ、本当に……」

ライダーもまた機銃で敵を牽制する。
相手が頻繁に動き回っては上空から砲弾を降らすので中々砲撃体勢が取れないらしい。
それでも僅かな隙に何度か大型榴弾、通称『三式弾』を打ち込んで纏めて撃ち落とすも焼け石に水といった体だ。

「相性はそこまで悪くないのに……うう、この手の相手は比叡の方が向いてるカモ、三式弾の扱いはあの子が一番上手いし」

後手後手の現状に悔しそうな顔になった後ライダーはチラと後方に視線を向ける。
彼女は自分の苦戦を恥ずかしそうにしながらランサーに問いかけた。

「ええと、先輩、私はさっきからもこんな調子で……ちょっと梃子摺ってます、先輩の方は?」
「海魔自体は脅威ではありませんが数が厄介です、その上少し削っても召喚で補充される……本人を狙うにしても群れが邪魔ですし」

ランサーは海魔の群れの奥にいるキャスターを衝角で指す、常に距離を保ち奥にいるので直接狙えないのだ。

「はああ、英霊二人掛かりなら直ぐに片付く、そう思ったのですが……」
「……予定ずれちゃいましたネー、乱入してきたキャスターのせいで」

まず敵の数が当初の予想の倍で更に分断された、短期決戦で片付くと思ったのに長期戦となり尽く予想を外されている。
だが、そこで二人は背中合わせで苦笑し合った。

「……ですがまあ、ここで負けるつもりはないでしょう、後輩?」
「当然デース、そもそもまだ聖杯戦争も序盤も序盤……ここで弱音吐いてちゃ金剛型一番艦の名が廃るネ!」

ランサーは強気に笑う、アーサー王として無数の蛮族と戦った時や防衛艦として海の荒くれ者に睨みを効かせた時と比べればまだマシだ。
ライダーも同じく笑った、彼女もまた歴戦の艦娘でその上旗艦経験者として、また名鑑金剛級の長女としての誇りがあった。
二人は包囲する深海棲艦の眷属に、邪悪な魔術師とその下僕に対し雄々しく吠えた。

「……叩き潰します、覚悟しなさい」
「同感デース、全機銃……一斉掃射!」
「まずは牽制から……」

ガガガガッ

ランサーとライダーはコクと頷きあった後四方全てに銃撃する。
衝角を一旦地に突き立てランサーは両腕に展開した機銃で艦載機とキャスター陣営の双方を撃った。
同様にライダーも、本来対空用の機銃で空の艦載機と地のキャスター主従へ銃撃、手数重視で牽制する。

「……ふっ、その程度の攻撃で何を!?」

マスターと共に前に出した海魔で防いだキャスターが相変わらず喚き散らす。
彼が訝しんだのも当然で、キャスター達にも深海棲艦にもこの程度の銃撃は時間稼ぎ程度の効果しかない。
魔力の無駄でしかない行動をキャスターが、艦載機を操るレ級が嘲笑おうとした時だった、ランサーとライダーがダッと駈け出した。

「うりゃあデース!」
「ちっ、また貴方ですか!?」

ドゴオッ

一直線に走ってきたライダーがキャスターに艤装の装甲部分で殴りかかった。
キャスターは咄嗟に近くに居た海魔を盾にする、青黒い体液を撒き散らして吹っ飛んだそれにライダーが舌打ちした。

「……ちぇ、外れデスね、なら次です!」

言って彼女は飛び退く、向こうの方で艦載機を衝角でぶち抜いたランサーもまた退いた。
二人は入れ替わるとそのまま互いの相手も交換して殴りかかる。

「はあっ!」
「ジャンヌ?……くっ、海魔よ、盾となれ!」

ドゴオッ

叩きつけられた衝角にギョッとし、キャスターは再び海魔を盾にして凌いだ。
だが、そこでランサーが小さく笑った。

「惜しい、ですが……本命は次ですよ!」

彼女は衝角を持つのと逆の手に機銃を展開した。
それが狙うのはキャスターと海魔達の足元、そこにはライダーの三式弾が数発転がっていた。

「な、何、何時の間に!?」
「さっき彼女が突っ込んだ時です……ふっ飛べ!」

ドゴンッと轟音が響き、火と合金片が炸裂してキャスター達に襲いかかった。
キャスターは咄嗟に割り込ませた海魔で耐えたものの、綺麗に隊列を整えていた海魔の群れの連携が滅茶苦された。
更に向うでもドゴンと爆音がした、キャスター達にしたようにライダーが艦載機郡の中心で三式弾を炸裂させたのだ。

「ふむ、上々か……来なさい、ライダー」
「イエッサーです、先輩!」

空と地上、両方の敵の足並みが乱れ、それを確認したランサーが手招きする。
それに従いタタッと軽い足音がした。
ライダーが走ってきたランサーの元まで寄った。
そして、二人は合流したと思うと行き成り真横に、横へ急転換し走り去っていく。

「キャスター、ここからが本番です」
「ここから……ノンストップですヨー!」
「……一体何を考えて……って、何ですと!?」

一瞬行動の意味が掴めず訝しんだキャスターが次の瞬間目を剥く、金剛を追って艦載機が突進してきたからだ。
そして、ライダー達が反転したことで目標を見失い、艦載機はそのままキャスター達へ突っ込んだ。

「……不味い、海魔達よ、直ぐに散開を!」
「ふっ、遅いぞ、キャスター!」
「さあ……三つ巴の乱戦デース!」

彼は咄嗟に海魔を下げようとしたが間に合わず二つの異形、深海棲艦の眷属と海魔達が滅茶苦茶に混ざり合う。
先程まで分たれていた二つの戦場が一つとなった。
深海棲艦側も海魔側も混乱と戦闘の興奮で睨み合に成る、そこからは一瞬でキャスターが止める間も無かった。
艦載機が生体火器を展開し、海魔が牙と触手めいた腕を振るい凄惨な殺し合いを始めたのだ。

「や、止めなさい、海魔達よ、それよりもジャンヌ達の方へ!」
「無駄です、本職の魔術師なら制御出来たかもしれませんが……」
「くっ、そうだとしてもまだだ!」
「……ええ、まだでしょうね、ですが我等もですよ」

キャスター、ジル・ド・レは海魔を大人しくさせようと必死に命令する。
だが、純粋なキャスターではないから大幅に制御能力に劣り一度の乱れは致命的と成った、地道に一体ずつ静めるもその間に海魔の被害は拡大する。
そこへランサーとライダーが最後の止めとなる行動を取った。

「マスターからの念話によると……教会が深海棲艦及びキャスター共に討伐対象に認定しました」
「ならば少し派手にやっても問題ないでしょう、消費は報酬で贖えるでしょうしネ」
「……それに、『彼』も近くに来たようですね、こちらに合わせる気か……ライダー、先手は貴方が!」
「ヤー!」

チラとランサーが上を見上げた後ライダーを促し、まずライダーが追い打ちとなる攻撃を仕掛けた。

「ライダー、道を開いて!」
「イエッサー、弾種を三式弾から通常弾へ……FIREデース!」

放たれた砲弾は通常弾、三式弾に比べ攻撃範囲こそ狭いが一点の貫通力に勝る弾種で、艦載機と海魔をグチャグチャに轢き潰して横断した。
すかさず空いたその隙間をランサーが駆けていく。
彼女は衝角を突き出し、魔力放射で爆発的加速する。

「乱戦で陣形は乱れた、今なら……ロンゴミアント!」
「くっ、龍之介、令呪を……螺湮城教本を使います!」

進路上の海魔と艦載機を消し飛ばし、更にはキャスターが盾にした制御下の海魔すら蹴散らしてランサーが突進する。
瞬く間に距離を詰めていく彼女にキャスターは慌てて令呪で援護させた上で宝具を発動する。
ユラユラ世界がさざ波だったと思うとそこを引き裂いて青白い肉塊が現れる。
ゾブと衝角が根本まで突き立った所で停止する、他の海魔を圧倒する巨躯を持つ海魔がその身でランサーの突進を受け止めたのだ。

「は、はは、これならば……」

半ば引き攣った表情でだがキャスターがニヤリと笑う。
がその瞬間ランサーもまた笑みを浮かべ、それに何故かキャスターは悪寒を覚えた。

「甘いぞ、キャスター……私の攻撃は終わっていない!」
「何!?」

彼女は拳を握るとそこに風を集める、振り被ったその先には衝角で傷ついた海魔の胴だ。

「この風は防御だけではない……風王鉄槌(ストライク・エア)!」
「ひっ、は、反撃するのです!」
「……遅いっ!」

ボンっと頑強な表皮ではなくその下、剥き出しの肉が根こそぎ吹き飛んだ。
海魔が悲鳴と共に悶絶し、無茶苦茶に暴れ回ってキャスターを怯ませる。
そしてそこへ追撃が来た、手応えに顔を顰めた様子でランサーが引いて、入れ替わるようにライダーが駆けて来る。

「先輩、交代です……直の感触が気持ち悪かった?」
「ええ、ちょっと……ま、まあ後は任せました」
「了解デース!」

先輩の言葉に頷いてライダーが走る、ボッと『大海を彷彿とさせる蒼色』の魔力を全身から放出した。
それは辺りをその色一色で埋め尽くす程に強い。
何よりその魔力の総量にキャスターが愕然とする。

「馬鹿な、ライダーなのに……魔力Aランク、いやまだ上がる?A++!?」
「行きますよ、これで終わりにします……二つ目の宝具の開帳デース」

宝具が発動しゆっくりと彼女の性質が書き換えられる、正確には先祖代わりが正しいかもしれない。
この瞬間だけ彼女は時代を変えた『とある艦』と同一となった。
他国にすら浸透し以降その設計がスタンダードと成った程の艦、当時最強で知名度も相応の艦へと彼女は変貌する。

「The、Dreadnought〈弩級の後継者〉……やああっ!」

グシャリとライダーの拳がランサーが穿った傷をぶち抜いた。
唯魔力を全開にして叩き付けただけだ、但し『弩級の知名度』に後押しされ強化された魔力でだが。
生半可なキャスターを凌駕する魔力が内部から海魔を打ちのめす。
炸裂し粉砕し蹂躙する、それは時間にして一秒にも満たなかっただろう、だが拳を引いた時点ですでに海魔は致命傷を負わされていた。

「本当はFULLFIREと併用するんですが、魔力量的にここは素手で……で、更にこのまま行きます!」

ブチリと彼女は駄目押し、貫通させた海魔の胴の大穴に手を当てると力任せに引き千切る。
そして、海魔をその場に放ると次にキャスターを見た。

「ひ、ひいっ……な、なら向うを誘導し……」

慌ててキャスターは魔力を手に集めた、今も争う艦載機と海魔にぶつけて誘導しよううとしたのだ。
勿論自分に来る可能性もあるが贅沢は言えない。
が、その悪足掻きすら『彼』は許さなかった。

「ふっ、諦めが悪いなあ、雑種……その足掻きの元、片付けるとするか」
「……え?」

からかうように掛けられた言葉はどこか神々しい、呆けたキャスターの視線の先に空から戦場を見下ろす黄金の影が在った。
彼は古代インドの飛行宝具から身を乗り出して、二つの宝具を肩に担ぐ。

「汚らしいあれに刃は抜きたくない、ならば焼き払うか……雷神の杵(ヴァジュラ)、堅き雷光(カラドホルグ)!」

三叉の刃を持つ神具と雷光を模した刺突剣が空を裂いて飛んだ。
それ等は艦載機と海魔の争う戦場中心に着弾し、辺りに雷光をばら撒いた。
バチバチと広がる紫電が纏めて焼き払い、後には僅かな灰だけが残った。

「……ふん、仕事はしたぞ」
「ええ、感謝を……ライダー!」
「わかってます……これで終わりデース!」

唯一人残ったキャスターにライダーが走り、魔力を纏った拳を大きく引いた。

「止めですヨ……ヤアッ!」
「ぐあああっ!?」

ズドンと蒼の魔力で輝く拳がキャスターの胴を強打し貫く。
ゆっくりとライダーが拳を引き抜くと同時に、キャスターは暗い表情、目的を果たせず消えることへの絶望の表情で倒れた。

「これで……まず一人めの脱落者ですネ」



この瞬間勝者と敗者、聖杯戦争一人目の脱落者が決定した(某女難の教師除いて)



「あ、がっ……な、何故だ!?」

胴をぶち抜かれ、風穴の空いたままでキャスターが問いかけた。

「何故……何故己しか考えない民を守るのです、ジャンヌ!?」
「……彼らは何も罪を犯していないからです」

ランサーが答えた、英雄としてそれは譲れない。
だが、キャスターが憎悪を抱えた表情で言い募った。

「今はそうでも……一皮剥けば奴等は貴方に牙を剥く、なのに何故!?」
「……そうだとしてもその時は来ていない、来るとも限らない、今は彼らに何の咎も無い」

二度目の否定の言葉に、だがキャスターはそれを受け入れなかった。
彼は何度も首を振って、只管に恨みの言葉を口にする。

「ならば民に裏切られた我等の、いやジャンヌの気持ちはどうなのだ……」
「火計に処されし聖女か、確かに不幸ではある……だがそれでも民に武器を向けてはならない」
「何故、何故ですか!?」

キャスターは延々と世界と人を呪った、だが次のランサーの言葉に彼は絶句する。

「武器を、憎悪を向ければ……それこそ民を守ろうとしたその者の全てを否定することだからです」
「ジャンヌを否定、だと……違う、私は……唯私はジャンヌの苦しみを百分の一でも……いや同じ、私は黒太子と同じだった?」

ランサーの言葉に彼の中でグルグルと今までの、ジャンヌと共に占領軍と戦った記憶が呼び起こされる。
そして、民を殺したという意味で自分と占領軍が重なった時彼は絶望した。
彼は自分がジャンヌの敵と同じことをしたと気づき、混乱する彼にランサーは悲しそうに首を振って続けた。

「青髭、ジル・ド・レでしたか……聖女を失った貴方の怒りは想像できない、ですがそれでも民を殺したのは間違いです。
……少なくとも他にすることは有った筈です、ジル・ド・レ元帥」
「すること、ですか?」
「戦乱後の復興、軍部の再編等……」
「まさか……それは民や貴族に諂うようなものだ!」

激しく混乱し、それに思い至れない(それでも憎悪が激しかった)彼にランサーは宥めるような口調で囁く。
だが、彼は耳を貸さない、すると横から金剛が口を挟んだ。

「軍人の仕事は殺すことだけじゃない、私はそう思うんデス……」
「ライダー?」

彼女は『誰か』親しい者を思うような目で殺す以外の軍人の仕事を口にした。

「死した者を弔うのも、被せられた汚名を晴らすのも……後に残された生者だけが出来る。
……なのに、何故黒魔術になど傾倒したんですカ?……元帥の位にあった者なら他の方法が有った筈なのに」
「……そんなこと、考えもつきませんでしたよ、裏切った貴族や民が唯憎たらしくて……」

再び彼は絶句した、それでもまだ納得行かない彼にライダーがめげずに話し続ける。

「生き残って国を復興は当然として、戦時下の間違いを後世に伝える、そうやって……『聖女』としてのジャンヌの真実を伝えれば……」
「……はは、これは手厳しい……そしてその意味では……黒魔術の生贄を欲し命を奪い続け、私はジャンヌの汚名を重ねたような物ですね」

彼は主を思い出して、悔いたような表情と成った。
死を前にしてその狂化(スキルによる精神的汚染)が薄れ行く、彼は自分の愚かさを悟った。

「ああ、狂った頃の自分は我ながら何ておぞましい、これではジャンヌに合わせる顔がない……迷惑をかけました、ライダー、ランサー」

やっとランサーを別人と気づいた彼は謝罪と、自分を止めたことへの感謝を口にする。
狂気の消えた彼は疲れた様子だが英雄、元帥にまでなった程の軍人らしく、先程までとは別人だった。
正気の彼にランサー達は歪められた英雄を悲しく思った。

「何と悲しいのか、記録に歪められた英雄か……」
「ジル・ド・レ元帥、その半生は紛れも無く英雄なのに」
「……いえこれも自業自得でしょう、怒りに飲まれてしまったのだから」

悲しみ哀れむ二人にキャスターは力なく首を振った。
彼は唯後悔し、また自分への憎悪を抱く。

「ああすまない、ジャンヌよ、貴方の戦友として恥ずかしい……そして神よ、此度こそ正しく罪を、我が罪だけを裁いてくれ」

そう懺悔の言葉を口にして、彼の体が透け始める、もう限界だった。

「もし次の機会があれば私は……唯の軍人であった頃の私として現世に降り立ちたいものです」
「きっと、その方がずっと今より手強かったでしょうネ……そして、出来ればそんな貴方と会いたかったデス、ジル・ド・レ元帥」

ライダーが思わず口にした言葉は心底から本音だ、本来なら彼はそれ程の男だった。
だけど彼は自分を反英霊と知っているから大げさと思い、まただからこそある違和感に気づいた。
反英霊である自分が喚ばれたことに彼は懸念を抱いた。

「……ランサー、ライダー、最後に一つ……私のような英雄崩れを呼んだこの戦争は何か可笑しい、気をつけて」
「それは確かに、注意しましょう……さようなら、キャスター」

ゆっくりと消え行く彼を見送り、その後ランサーは複雑そうな表情をした。

「生き残って復興し、間違いを教訓として伝えるか……耳が痛いですね、後輩」
「半分は自分に対してですがネ、それが出来たのは榛名だけでしたから……私も彼女以外の妹も、ああ成りたかったって密かに憧れてます」

苦笑してライダー、金剛が唯一終戦まで残った妹への憧れを口にした。
それは言った彼女自身も出来なかったことだった。

「ふん、青臭く人間臭いな」
「口が悪いですね、アーチャー……」
「人間臭くて何が悪いんですカ?」
「……そう言われても人なのは半分でな……終わりだな、帰るか」

からかいのような自嘲のようなことを言った後アーチャーが辺りを見る。
が、何かに気づき転がる『人の腕』を指さした。
それには消えかかった令呪が刻まれてい、強引に力で千切られたような傷だ。

「……そこの欠片、何時出来た?」
『え?』

ランサーとライダーは慌ててそれを見た。

「……キャスターのマスター?」
「ですが、どこでこうなったの?流れ弾、にしては傷が……」
「ああ、力付くで引きちぎったように見えるな……ふむ、少し待て、思いついたことがある」

アーチャーは次に自身がやった戦場の荒れた辺り、焦げた艦載機の残骸を観察する。
そして、暫くして両手に二機分を持って来て見せた。
それは半分に裂かれていた、異様に綺麗な断面だった。

「深海棲艦の艦載機?」
「アーチャー、それは?」
「……まずこれを見ろ、綺麗な傷だ……まるで自分から切り離したかのようだ、そしてこちらは別の部位が無いな。
多分漁れば似たようなものが他にも有るだろう、多分全て別部位で一つにすれば一体分の……」

彼は艦載機、一部分だけ失われた物を示した後回りを見やる。
仮に艦載機が百の部品で出来ているとしたら、そしてここには百以上の艦載機の残骸が落ちている。

『……まさか!?』
「これはやられたか、戦場で新しく艦載機を作り出した、既にそこに居る敵なら兎も角……新しく増えた物にまで気は使うのは無理だな」

消えた死体と、新たに増えた一機の艦載機、その意味にランサー達は絶句した。



「……ヒヒ、来タキタ」

レ級の元に一機の艦載機が帰還する、傷だらけの艦載機が人の死体を引きずっていた。
即死が望ましいので内部火器一発で腹を吹き飛ばされている。
最も重要なのは頭部であり、そこは全くの無傷だ。
死体、キャスターのマスターを受け取ったレ級はその頭蓋に歯を建てた。
バリバリと噛み砕き、その身の滋養にすると共に『捕食』スキルで『知識』を奪う、それは殺人鬼であるからの『後ろ暗い』方面の邪悪な知識だ。

「ヨウシ、コレデ魔力……ソレニ、コノ男ノ記憶ガ……コノ地ノ情報ガ手ニ入ッタゼ。
アトハ……ゲリラ戦ダナ、殺人鬼ノ隠レ家ハ暗殺者デモ探スノハ一苦労ダロ?」

こうして今まで暗躍したキャスターを支えた、殺人鬼の知識が最悪のサーヴァントの元へ渡った。



「……ちっ、乱戦になった時点であちらの思う壺だったようじゃな」

臓硯がレ級と殺人鬼の意味に気づいて舌打ちした。
彼は蟲により離脱する艦載機に気づいてはいた。
だが蟲では止められず足柄や他の英霊を活かせるのは時間が足らなかったのだ。

「可能なら奴はキャスターを取り込みに行ったじゃろう、だがそれはあの場の全てを敵に回す……だから注意の行ってないマスターを狙ったか。
素人とて聖杯に選ばれしマスターじゃ、少しばかりの魔力と……何より影にて暗躍する術を手に入れたか」

レ級に臓硯が当たりを付ける、彼女は両方が目的だった。
片方が駄目でももう片方が手に入れられれば良し、勿論キャスターの方が大きいだろうが知識も十分有用だ。

「どうするの、爺さん?」
「当然動く、十分休んだ……レ級が本格的に動き出す前に仕掛けよう、相手の出鼻は挫き……あわよくば削りたいところじゃ」

問いかけた足柄に臓硯が答えた。
それに満足そうにニッと彼女は笑い、後ろでコクコクと駆逐艦達も頷いた。

「了解だ、準備してくる」
「……はい、私達も!」
『ガオ!』

元気のいい四人に苦笑した後臓硯は僅かに考えこみ、その後保険を掛けることにした。

「まあ待て、教会……それに一応他のマスターにも誘いを掛けてみよう、他にも来るかもしれんしのう」

御三家最後の生き残り、その主導で新たな戦いが起ころうとしていた。





ライダーの宝具は全火器による一斉射撃と自己強化です・・・ライダーのクラスは乗騎を強化するイメージがあるけどこの場合は彼女自身なので。
で・・・とりあえず二日目完及びキャスター脱落となりました・・・レ級は魔力がそうでもないですが裏社会や犯罪に関する知識を入手。
でレ級の目的は原作キャスターのように地下に潜ること、それを臓硯が邪魔しに行きます。

以下コメント返信
ネコ様
何か乱戦とか策や駆け引き期待したらごめんなさい、割と力押しで突破です・・・でも三人にそれなりに出番あった筈、原作的な群像劇ってことで。



[41120] 八 因縁の始まり
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/06/19 00:25
ギロリ

擦り切れた正義の味方がある意味同類を睨んだ。

「……教会の犬がセカンドオーナーの弟子か、しかも偽装を手伝うとは恥知らずめ」

ギロリ

幽鬼の如き黒い青年が睨み返す。
聖杯戦争から脱落して教会に逃げ込み、教会に所属する者としての深海棲艦打倒を理由に復帰した彼は皮肉げに言い返した。

「殺人鬼にそこまで言われる義理など無いがな、それと……偽装、何のことだ?それは憶測と情況証拠だろう?」

二人の男、衛宮切嗣と言峰綺礼が殺意すら込めて睨み合う。
双方共に相手に自分と近い何か、それでいて決定的に相容れない何かを感じ、嫌悪(補足すると同一嫌悪かもしれない)を感じていた。
互いに最初の目的を延期、あるいは一時忘れていることで今は敵対関係ではないが、それでも相性は最悪のようだった。

バチバチ

「ちっ……」
「ふん……」
「……ああもう、何なんだよこれ!?」

火花を散らすのを幻視する程険悪な空気で、そこにいた者達は緊張に包まれることとなった。
特に切嗣の隣に居たウェイバーは最悪の居心地で、慌てて口を挟ぶ。

「お、おい、止めろよ二人共……今回は深海棲艦に関する情報交換だろ!?」
「ああ悪い、その……彼の所属する勢力は優勝候補の一角だから、つい警戒してね」
「……こちらこそすまない、教会が呼び出したというのに」

熱くなっていたと気づいた切嗣はバツ悪そうにし、そもそも今日『複数』の聖杯戦争参加者を集めた側である綺礼は事務的に謝った。
暴走した二人と、止めた一人、それ以外の二組がやや苛立たしそうにする。

「……ふん、詰まらん余興だ」
『全くじゃ、早う本題に入って欲しいのう』

サーヴァントでは唯一来たアーチャーと使い魔を送った臓硯である。
前者は暇潰しにマスターを無視して現れ、後者はバーサーカーのマスターの代理という名目で虫を送ってきたのだ。

(……アーチャーは考えるだけ無駄だが、マキリは深海棲艦排除にそれなりに本気か?)
(アーチャーは訳がわからないから放っといて……間桐臓硯、前回の被害を知る生き残りだけに必死なのかな)

切嗣とウェイバーは密かにを観察し推測する。
アーチャーに関しては元々得体のしれないので考えるのは放棄している、人智を超えた存在の上に愉快犯的で考えるだけ無駄だ。
残り一人、マキリ当主である臓硯に関して心強く思い、またそれ以上に警戒もする。

「(今は強力な味方だが……)油断するなよ、ウェイバー君……捨て駒にはされたくないだろ?」
「ええ、わかってます……ていうか半ば化け物でしょう、下手すれば深海棲艦並の……」

ボソボソと二人は言葉を交わす、双方化け物を見るような目で彼を見た。
それ等を受けた臓硯は(態々虫に)居心地悪そうに体を縮めさせた後、聞こえ見よがしに呟いた。

「何じゃ、その目……ショックじゃな、か弱く善良な老人なのに」
『どこがだ……』
「いやまあ……当然の反応だな、神の使徒たる自分でも彼は信用出来かねる……」

彼の言葉に、切嗣とウェイバー、それには綺礼すらも思わず胡散臭がった。

「……話がずれているぞ、本題に入れ」
『ぐ、よりによって、こいつに言われた!?』

一人他人面のアーチャーが呆れて促す、聖杯戦争(殺し合い)参加者同士なので当たり前だがバラバラの状態で会合が始まった。



八 因縁の始まり



その日、教会に聖杯戦争参加者が集まった。
魔術は秘匿されるという禁を犯したキャスター討伐の報奨、及び未だ冬木に潜む深海棲艦に関する情報の交換だ。

「各々方の働きで見事キャスターは討伐された……教会を代表して関係者には感謝を。
協力者には令呪を与えよう、アーチャー、それにランサーとライダーのマスターは前へ」

言峰綺礼の父、璃正が三者に令呪三画を見せた。
これの魔術的措置による譲渡がキャスター戦の報奨である(現場に居た綺礼がこれをさせた、何時にない熱意で押し切られたともいう)
といっても彼は遠坂と組んでおり三人に与えるのは苦肉の策と言えた。
令呪は戦力に直結し、聖杯戦争のライバルであるランサーとライダーの陣営が強化される、かといってキャスターとの戦いに文句をつけられない。
ならばと、最後だけ関わったアーチャーにも渡し、一見公平に見せて遠坂を援助することにした。

「ここに居ない遠坂には後日譲渡に向かい……」
「……いやいやそれは通らんだろう、我はそれを断ろう」
「アーチャー?」

が、否定の言葉をかけた者が居た、それも意外なことに遠坂の側であるアーチャーである。

「我が助力したのは最後だけだ……貰うのは公平性に些か欠けている」

ニヤニヤと笑い、彼は令呪の権利を放棄した。
唖然とする璃正に、彼程ではないが訝しみながら切嗣が挙手し己の考えを口にした。

「……こちらも辞退する、打倒キャスターに関しては止めを刺したライダーが一番の功績だろう」

切嗣は元々こういうつもりだった、仮に彼と遠坂に令呪が渡ったとしてその『重さ』が違う。
性格的相性は悪くても一応主従の形である切嗣とアルトリアに対し、遠坂はアーチャーを制御出来ていない。
その備えである令呪は喉から手が出る程欲しいだろう、だから切嗣は敢て権利を放棄し、相手の思惑を外したかった(勝手にアーチャーが捨てたが)
アーチャーと切嗣の言葉に、璃正に一瞬顔を顰めた後頷いた。

「むう……ではその通りに、ライダーのマスターはこちらに」

彼はそれ以上の言葉を諦め、ウェイバーの腕に令呪一角を与えた。
以前の失われた失われた令呪の箇所に、やや異なる色彩の新たな令呪が輝く。

「……アーチャーは己の枷を減らしに掛かっているか、余り良い主従じゃないようだね」
「そのようですね……切嗣さんにとっては良かったのかな?」

切嗣はニヤニヤ笑うアーチャーの方を見て、複雑そうな顔をした。
令呪を受け取り戻ってきたウェイバーが小声で話しかける。

「いやどうだろう……仲間割れは戦争の勝敗だけ考えれば好都合だが、深海棲艦との戦いで爆発されたら厄介だ」
「あー確かに……アーチャーの動きには警戒した方がいいですね、色々な意味で」
「……ああ本当にね、色々な意味で気になる相手だ」

彼は今後の台風の目に成る、切嗣とウェイバーはアーチャーを改めて警戒した。

「では次は深海棲艦に関してですが……」
『それに関しては儂から提案が有る、良いかのう?』

璃正の言葉をバサバサと使い魔の奇怪な虫、いやそれを操る臓硯が遮った。
この場の中で唯一前回(使い魔での援護はやったが)参戦しなかった彼はその詫びとばかりに情報提供、それ以上のことをやった。

『ああ、まず情報からか……深海棲艦はレ級、前回喚ばれたのと同一の相手じゃ、深海棲艦でも特に強力な個体らしい』
「……へえ、一度戦った相手ということですか、ご老体……弱点に注意点等は?」
『……やや脆かったように、前回の時感じたのう』
「教会でも独自に調べたが……雷撃による先制攻撃、艦載機との連携による手数重視の攻撃、これ等が厄介だろう」

臓硯は過去の経験から、それに綺礼がアサシンの情報を教会からと偽って付け足した。
切嗣は後半部分(というか言った相手に)多少疑いを持つも頷く。

「……まあ事前情報としては十分か、わかっていれば対策を立てられる」

すると虫が、臓硯がやや苦い声音で懸念を口にした。

『いや問題が有る……前回の戦闘の折に、奴はキャスターのマスター……連続殺人鬼を食らったじゃろう?
……それによりその知識を手に入れ、奴は殺人鬼のセーフティーゾーンを転々としておる、実質冬木の大半に手が届くと思うべきじゃ』
「……ああそれが有ったか、厄介だな」

それは魔道と異なる闇の世界で、殺人鬼の知識を元に動きまわるレ級の探索は困難となる。
一同はそのことに気づき、暗い表情に成った。
だから、臓硯は敢て『潰れ役』を自分から名乗り出た。

『冬木各所には奴の手は回り、そして罠や眷属が潜むはず……儂等がそれへ仕掛けよう、犠牲覚悟で』
「……何だと、正気か、ご老体?」
『正気じゃよ、何せ前回奴に散々やられたのでな……無視して無用な被害を出したくないのじゃ。
……儂が仕掛けた後は好きにしろ、レ級の消耗を見計らうなり静観し温存するなり……そう、好きにのう』

最も損をし、最も危険な役目を彼は自ら望む。
これには切嗣もウェイバーも綺礼もぎょっとする。
唯アーチャーだけは笑みを浮かべ、またどこか呆れたような様子だった。

「ふん、随分と精力的で情熱家だな、魔術師……我の知る貴族被れとは大違いだ」
『……少しばかりやる気の出る、いや思い出す出会いがあった、尤も六十年も前じゃが』
「……どうせなら貴様が我を喚べば面白かったのにな、虫でも蛇よりはマシだろうしなあ」
『光栄じゃな……使い難そうだから遠慮するが、下手すりゃ足柄以上に』

アーチャーが滅多にない評価を口にして、それに対し虫の外から顰めっ面と判るほど嫌そうな声で臓硯は答えた。

「……ふむ、臓硯殿は仕掛けるとして……他の者は?」

二人の会話に気圧されながら璃正が周りを見渡す。
だが、他の者がここで動くとは彼も思っていない、臓硯の言う通り暫く見に、あるいは動くとしても途中から動くだろうと思っていた。
が、それに反してオズオズと手が上がった。

「僕も出よう、キャスターを追った経験があるから役に立つはずだ」
「ウェイバー?」
「……深海棲艦はライダーの目的だ、今日まで頑張ってくれた彼女にそれを果たさせてあげたいからね」

ニッと(でも虚勢気味で緊張した様子で)ウェイバーが笑って共闘を願い出る。
己のサーヴァントのことを思い遣る、ある意味マスターとサーヴァントらしいともらしくないとも言える考えだ。
切嗣や綺礼は僅かな驚きと呆れの混じった視線を送り、アーチャーは唯皮肉げに笑った。
唯臓硯だけはウェイバーの言葉に感心した様子だった。

『中々良き主従のようじゃな……なあ英霊交換せんか、何なら取って置きの虫も付ける、バーサーカー凄い使い難いし』
「遠慮します、ライダーで満足しているので……」

即答だった、心の底からウェイバーは嫌がった、ある意味臓硯達はウェイバー等と逆の意味で主従らしからぬ陣営かもしれない。



数時間後ウェイバーは使い魔の虫を肩に乗せ、数人の少女と共にレ級の目撃情報のある一角に来ていた。
ウェイバーのサーヴァントでライダーのクラスである金剛、それに足柄に召喚された駆逐艦達だ(足柄は暴走を恐れて不満タラタラで留守番である)

「あら雪風、それに朧ちゃんの次女の……すっごい久しぶりですネー!」

少女達を見た金剛は懐かしそうな笑みを浮かべ、その後元気よく宣言した。

「それじゃあ……即席艦隊、出撃デース」
『了解です(ガオッ)!』
「うろついてれば痕跡なり艦載機なり見つかるでしょう……辿ってきますヨッ、後者は撃ち落としながら!」
『了解です(ガオッ)!』

彼女達は仲睦まじい友達同士といった所で、一見戦場には相応しく無いだろう。
だが、互いに知り尽くしただけに再会直後でも見事に陣形を作った、言動の端々も一人の時よりずっと力強い。
組むことでもっと強くなる、この面でも艦娘は他者を食らい強くなる深海棲艦の対極なのかもしれない。

「へえ、これが……真骨頂ってことかな」
『そのようじゃな……儂の時のアーチャー、孤軍奮闘させた大和には悪いことをしたのう……』

金剛の背、艤装の片側に捕まったウェイバー達は感心した様子でそんなことを言った。



「……むう」
「駄目だからな、ランサー……ライダー達に任せろ」

そして、参加しなかったアルトリアと切嗣は唯待った。
本来彼女も行きたかったが聖杯が遠のいてしまう、そのことで迷い、またライダーもそういったことを厭って敢て誘わなかった。
後輩のそういう心遣いが有りがたく、それ以上に情けなかった。

「うう、向うはどうなってるでしょうか?」

ウロウロと腹の空いたライオンのように、彼女は歩き周りライダー達を心配する。
そんな彼女に切嗣は嘆息し、だが少しだけ譲歩した。

「僕らが仕掛けるとしたら後だ、後詰だが強制されてない以上はそれでも破格の行動だ」
「わかっています……」
「……が、どのタイミングかは君に任せてもいいかな」
「……切嗣?」

切嗣は苦笑気味に彼女に言った、一つのスキルを思い出しながら。

「……ポジション、待機場所が重要だな」
「……というと?」
「もしレ級が動いた場合直ぐに行けて、ライダーが危機に陥れば救援できる……そんな条件下の位置だ、『直感』が有るだろう?」
「…………感謝します、マスター!」

最初からの参戦は消耗や情報漏出の面から避けたい、が援護できる程度の距離に付いて万が一の時は仕掛けるのは仕方がない。
ライダーを心配する彼女に、それさえ守るならと切嗣は自由行動を許した。
彼が嫌う英霊で駒として見ていても、一応今は仲間であり、そうする程度の甲斐性は有るようだ。
やや皮肉げに笑う主に見送られて、ランサー『ロイアルアーサー』は戦場目指して走り出した。

(近い方がいいが、近すぎても乱戦に巻き込まれ自由に動けない……難しいところだな)

自身の直感を信じて、慎重にライダー達が向かった方を見て条件を満たせる場所を探る。
そんな時だった、少し邪まな物を感じさせる声がかけられる。

「……そんなに急いでどうした、ランサー」

振り向けば視界の端に金の輝き、嫌な物を感じつつそちらを向くと先日以来となる黄金のサーヴァントが笑っていた。

「うっ、アーチャー、何故……」
「暇で散歩でも、そう思ってなあ……これも何かの縁だろう、我が宝具に相乗りでもするか?」
「……頼みます、上からの方がよく見える」
「良し、乗るが良い……落ちるなよ」

宝具の出現と同時に二人が古代インド飛行艇に飛び移る、人目につかないように一瞬で上昇する。
ランサーは気のせいか自分に向けられる邪まな目に違和感を感じつつ、二人の英雄が冬木の空を飛ぶ。

「アーチャー、ところで……遠坂の屋敷に居なくていいので?あちらが貴方の単独行動を許すと思えませんが?」
「はっ、貴族気取りの命令など知ったことか、我は王だぞ!」
「……そちらのマスターは苦労していますね、同情します」

空にランサーの哀れんだ声が虚しく響いた。





・・・という訳でレ級追撃戦開始(まあ準備段階ですが)とりあえず金剛&雪風その他の出番となります。
アーチャー(多分デート気分)と共に向うアルトリアさんも当然戦いますが・・・まあ金剛達が暫くメインでしょうか。
今まで前に出なかった分も・・・レ級には派手に暴れてもらいます、ゲームでも強敵だしSS的にボス格ですしね。

以下コメント返信
ボブ様
まあサーヴァントもマスターも狙われます、ファンの方はキツイかも・・・その辺避けられない展開に成りますね、後半それで重要イベント有るし。

ネコ様
とりあえず乗り物乗れて(金剛はそのものだけど)広範囲攻撃撃てるのが公式でのライダーの共通項っぽい・・・それは破っては居ないはずです。
まあ艦娘はアーチャーは大体やれるとして、それ以外も欲しいので敢て拡大解釈してます・・・まあワンパターン防止ってことで許してください。



[41120] 閑話一 男の決断
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/06/19 00:26
タッタッタッと『逃走者』の足音が森に響く。
逃走者の片割れである男、衛宮切嗣は背後からの風切り音に渋面を作った。
『ハルバード』がビュンビュンと振り回されて、その度に冷や汗が出た。

「何で、こんなことに……」
「……いやあ逃げの一手か、何か久しぶりですねえ」

焦る切継に対し、もう一人の逃走者であるランサー、アーサー王でありロイアルアーサーでもある少女は相変わらずマイペースだ。
彼女はこの逃走すら楽しんでいるような、お気楽に呑気な顔で笑っていた。

「クソっ、いい気なもんだ……こっちは本気で困ってるというのに」

切嗣は隣のランサーを睨んだ後、チラと後方を見る。
そこにはハルバード等の重量級武器を手にした『戦闘用ホムンクルス』の一団が殺意隠さず向かってきていた。

「クソッ、わかってたが……殺す気のようだな、捕まれば八つ裂きか」
「それはそうでしょう、何せ……アインツベルンの『至宝』が貴方の手に有るのだから」

主の言葉を聞きつけたランサーが苦笑交じりに彼の手を指す。
そこには黄金の布、『豪奢なドレスの切れ端』に包まれた『赤々と濡れた肉塊』が有った。

「アイリの心臓……『聖杯』を奪ったのです、アハト翁が許す訳無いでしょう」
「……唆した、いやそう仕向けた君が言うなっ!」

どうしてこんな事に成ったのだろうか、切嗣は泣きたくなるのを必死で耐えて思い出そうとした。



閑話一 摩耗した男の決断



脱走数日前、召喚から一月程経ったアインツベルン城で切嗣は僕を探していた。

「ランサー、冬木での計画を詰めておきたいんだが……ランサー、居ないのかい?」

何時もは広間でこの時代の書物を読み漁り、あるいはアインツベルンの庭を彷徨いているランサーの姿が無い。
首を傾げた彼に侍従(アインツベルン製ホムンクルス)が言伝を伝えた。

「……先程暇だから『狩り』に出ると」
「そうか、全く勝手なことを……」

はあと切嗣は溜息をつく、英雄全般を嫌うも深海棲艦相手には共闘せねばならないので多少向うに合わせてきた。
が、そのせいで甘く見られているかもしれないと切嗣は思った。
大げさだが普段から主に言わず動き、もし戦闘でもそうなればと思えばぞっとしかしなかった。
言い方が悪いが躾け、そういうのが癖にならないように何か言わねばと考えた。

「……今までが甘かった、一つ言っておくかな、確かに城に篭もるのは退屈だろうが」

彼がそう心に決めた時、城の方から何かを探す妻の声が聞こえる。

「イリヤー、どこかしら?」

この時切嗣、それに侍従のホムンクルスは何か既視感を覚えた。

「切嗣、イリヤと魔術の手解きをする時間なんだけど……貴方達は見なかった?」
「いや、見ていないが……」
「……あの子、最近座学が退屈がってたから、逃げたかしら?」
『……まさか』

ギギギと錆びた人形じみた動きで、切嗣と侍従のホムンクルスが顔を見合わせる。
まさか、まさかそれは無いだろうと考えた、いや自分に言い聞かせる。
が、その次の瞬間ドゴンと遠くで爆音が成った。
一つは大きく、一つはやや小さく、片方はランサーの、もう片方は切嗣達の娘の魔力だ。

「……えっ?」
『……やはりか』

数分後心配する三人は意気揚々と凱旋する二人、ランサーとイリヤスフィールを発見した。
ランサーは肩にイリヤを乗せて、残る手に数頭の猛獣を引いていた。

「ああ、やはり体を動かすのは良い……良き狩りでした」
「私もすっとしたよ、狼がドッカーンって吹っ飛んで……最高だった!」
「ランサー、イリヤ、今まで何を……」
『暇潰しの狩り兼……魔術の実地訓練、ですが(だけど)?』

とりあえず切嗣はランサーの顔面にレーション缶をぶん投げ、娘に手加減した拳骨を落とした。



「……鼻がジンジンします、酷いですよ、マスター」
「黙ってろ、お願いだからじっとしててくれ……」

態とらしく(別に赤くもない)顔を押さえるランサーのクレームに、切嗣は頭を抱えた。

「一応理由はありまよ……ほら戦争前でしょ、戦いの緊張感を思い出すのと、それと……」
「……それと?」
「直感スキルがですね、狼を狩って間引いておけと……でないと、イリヤスフィールやその身内が『後で』苦労すると告げたので」
「はああ、何を意味のわからないことを……」

流石に主を怒らせるのは不味いかとランサーが言い訳する。
しかし、それは今一理解し難い内容で、切嗣は呆れた表情で嘆息したのだった。

「……ていうか、森の狼って……魔術師の土地に住むからか霊体食いかねない程凶暴化した連中じゃなかったか?」
「ええ、明らかに殺傷力の可笑しい……多分魔素か何か突然変異してる気がする、あの狼……の皮を被った獣共です」

ここだけ抜いたら割りと意味不明だ、二人は狼の有り得ない生態に首を傾げ、だがランサーは直ぐに自慢気に笑う。

「でも、狩りは大成功でしたよ!衝角を地面にオベリスクみたいにぶっ刺してですねえ……」
「……上からイリヤと一緒に遠距離攻撃ってところか?」
「はい、所謂鴨打ちでした……獲ったのは燻製にでもしましょうか」
「いや、もう黙れよ、この腹ぺこライオン」

何かいらっと来たので、とりあえず切嗣はレーション缶を投げておいた。
またランサーは顔面に受け(相手の敏捷はAなので多分わざと、多分主をからかうのを楽しんでる)大袈裟に痛がった素振りの後真剣な表情に成る。
彼女は真剣な顔で切嗣に、致命的な問いかけをした。

「ああそうだ、切嗣……聖杯、アイリスフィールの心臓らしいですね」
「なっ、何故それを!?」
「……狩りというのは開放感か、血の匂いによる興奮か、人の心を浮足立たせる……だから古来から暗殺や不穏分子の燻り出しに利用されるのです」
「……イリヤが喋ったということか、狩りはそういう雰囲気の場を作る為だと」

想像はご自由に、そう言いたげにそれ以上答えず、ランサーは唯疑問を抱いていたと口にした。

「……私は聖杯が欲しい、だから本物であるか軽くカマをかけました」
「ちっ、イリヤを遠ざけておくべくだったか、もう遅いが……」
「ほら、私は母国の運命を背負ってるでしょう?……戦争の報酬たる聖杯の、特に『真偽』を問うのは当然の権利です」
「……まあ確かに、君は……有るか無いかも不明な聖杯探索で騎士を失っていたなあ」
「……あれに関しては本気で悪いと思ってます、天に登ってちゃったガラハッドには特に」

ランサーはどんよりしたオーラを纏った後慌ててそれを払い、少し誤魔化し気味に話題を戻した。
彼女は切嗣に虚偽は許さないという目を向けた。

「ごほん、話を戻し……聖杯に全てを賭ける貴方達なら、まあ保険を用意する気持ちはわかる」
「……ああ、僕は失敗できないからな」
「でも……嘘を吹き込まれ、それに命を賭ける方の気持ちを図ってほしいものだ。
……茶番の片棒を知らずに担ぐ、どれ程虚しいか少し考えればわかるでしょう?」

が、ここで彼女は責めるような口調から『目下の者に道理を説く』ような口調に変わった。
彼女は切嗣の計画に、怒りではなくそれ以外の物を覚えていた。

「ところで……一ついいですか、マスター」
「何だい、ランサー?」
「馬鹿ですか?阿呆ですか?……『か弱い婦女を守る』という『繊細な任務』を私に任せる等正気か?」
「……ああ君大雑把だったな、でも自分で言うなよ!?」

心情以外で実利的な面の、かつ割と切実な理由が返ってきた。
ランサーは必死な表情で主に訴える。

「いや貴方も海を戦場とすれば直ぐにわかる……風だ雨だで一喜一憂する内に、細かい事等考えられなくなるから!」
「それで良いのか、最優の騎士王!?」
「仕方ないでしょう、今の私は艦娘でも有る……ロイアルアーサーだった頃は任された海域の海賊や反乱分子を追い回してきたのですよ?
……その影響で私の性質は『攻勢』に偏っています、これが騎士王ならばバランスの良い能力で攻防両立させられたでしょうが……」
「……り、理解できた、そういうことなら……し、仕方ないのか?」

ランサーの発言、やや情けない内容だけれどどうしようもなく、切嗣はそれ以上突っ込めなかった。

「……で、偽物の聖杯が駄目ならどうするんだ?」
「ここは考え方を変えましょう、マスター……いいですか、重要なのは攻守をどう割くかです」

彼女はニコニコと笑って、切継にとって予想外の言葉を放った。

「真の聖杯と偽りの聖杯、二つを持ち寄るのはこうなっては無意味……策としても小細工の域は出ない。
ならば……『母を生かせ』、『残る子の元に置け』……要るのは聖杯だけ、そして当然ながら守る対象は少ない方がいい」
「……つまりは」
「貴方が聖杯を持て、私はどちらも守ろう」

事態の単純化、大雑把な彼女らしい言葉に切嗣は虚を突かれた。
そんな彼に、ランサーは『腹を縦に割る』仕草をした後冗談めかして言った。

「刃物の扱いは得意ですから『取り出す』のは任せて、後は……保存道具は『娘』に用意させなさい、彼女にとっても他人事ではない」
「……アハト翁が黙っていないぞ」
「……戦争に行くのに、老人一人を恐れると?」

この挑発じみた言葉に、切接はニイっと笑みを返す。

「……良いだろう、どの道既にイリヤに言ってあるんだろう?……乗るしか無いじゃないか、悪女め」
「はっ、本当の悪女というのは……もっと酷いですよ、『あれ』は騎士団の半分を掌で転がすから」



「……で、摘出直後に見つかってこうなったと」
「途中まで上手くいったんですがねえ……」

二人は並んで走り、必死に追ってから逃げていた。
切嗣が妻を説得して心臓を摘出し(その後腹心の女性に面倒を見させてある)『専用の入れ物』に納め、そのまま城を出た(直ぐに見つかったが)

「とりあえず聖杯は手に入ったし、外部の影響を抑える『ドレス』……の試作品で覆ってある、当座は大丈夫のはずだ」
「なら逃げるだけです、マスター……アハト翁より、貴方達に肩入れするホムンクルスが森の外に『足』を用意してます、そこまで行けば問題ない」
「どこまで手回しを、いや……イリヤか」
「ええ、彼女にとっても他人事ではないのですから」

ある意味恐ろしい思い切りと用意の良さ、切嗣達の娘は何だか末恐ろしい。
二人は脳裏で小悪魔ちっくに笑うイリヤに苦笑する。
今から既に賢女の、そして悪女の片鱗が見えていた。
頼もしく、これからが怖くも有り、切嗣とランサーは引き攣った表情で苦笑した。

「まあでも、これで……僕が戻れなくてもイリヤは大丈夫だ、アイリが居れば何とかなる」
「おっと弱気な発言は止めなさい、戦争前に不吉ですよ」
「すまない、でも……一応これでも父親だから、ついね」
「ふむ、今だけ見逃します……まあ貴方は良き父親だと思いますよ、少なくともモルドレッドを歪ませた私よりはずっと……」

二人の主従、いや父親達は少しだけ共感した。
彼らは前よりはちょっと歩み寄り、マスターが英雄嫌いの割に仲良く逃げていく。
本来ならアインツベルンに総出で送り出されるが、逆に彼らは賊徒として追い回されて、だけど何故か満足してそこを発ったのだった。



クスクスと白い少女が可笑しそうに笑い、城の窓から外の騒ぎを見下ろす。
その隣には心臓を失い、何本ものケーブルで生命維持出来ている母がベッドに横になっていた。
また切嗣に捨てられた『体』で同情を誘う形で残った切嗣の腹心の女性も居た。

「ふふ、お祖父様ったら切嗣の裏切りに卒倒しちゃった……おっかしいの!」
「はしたないわよ、イリヤ……まあ無理も無いわねえ」
「……留守番は癪ですが、切嗣の大切な人を任されたと思うか」
「ふふっ、切嗣、ランサー、ありがとう……大切な人を残してくれて、片方だけだけど……」

少女は少し寂しそうにしながら父への感謝の言葉を口にした。





過去編です、いやアイリさんや舞やの出番が大分削れそうで・・・いっそ留守番で、心臓は予備のホムンクルスのパーツくらい有るだろうし。
展開がかなり変わるけど生存の場合、五次の時幾つかの役目を任せられます・・・まあ伏線かつ今後の展開のための都合でも有ります。
・・・今回はもう一話あり。



[41120] 閑話二 艦娘達と共に
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/06/19 00:27
閑話二 艦娘達と共に



それは『彼女達』が戦場に向かう数日前だった。
三人の少女が冬木の市街を楽しそうに練り歩く、物珍しそうにするセーラー服の少女二人をそれより年下の大人しそうな少女が案内する。

「ねえねえ、あの店は?」
「ああ、泰山ですね……辛党以外は近寄らない方がいいよ」
『……止めとこ(ガオッ)』

ツンとした臭いがして、セーラー服に双眼鏡を引っ掛けた少女と黒髪を横に流した強気そうな少女が慌てて離れた。
案内役の少女が苦笑する、とはいえ『間桐での修行という名目』で普段外に出れないから久々の街に楽しそうだ。

「……辛いのはいいや、甘いの出してる店はどこ、桜ちゃん」
「それならあっちかな、美味しいケースの出るカフェ有るよ」
「わあ……お願い」
「……が、ガオっ!」

桜に先導されて二人の少女、陽炎型八番艦『雪風』が笑い、後期吹雪型二番艦『曙』も一見大人しそうにしたが我慢できず飛びついた。
元気よくカフェに乗り込むと、目についた端から頼む。
そうして、カフェでは周りの者が微笑む程に二人は楽しんだ。

「……雪風さん、お口真っ白」
「ガオガオ……」

ケーキを頬張る雪風に桜と曙(こっちはちょっと呆れた様子で)が笑みを浮かべる。
口元をクリームでベタベタにして、雪風は気づいて恥ずかしそうに拭いた。

「むう、食べ過ぎた……でも楽しかった!」
「ガオッ!」
「……凄い喜んでるけど普通のケーキだよ、そこまでかな?」
「だから……良いの、それが良いんだ」

雪風は幸せそうに町を、どこにでもある風景を見て笑った。

「だって、私達が戦ったのは……そういう普通の為で、こういう光景の為だから。
結局勝てなかったし生き残れた人達も少ないけど……それでも笑顔のある街が広がってる、あの戦いが無駄じゃなかったって思えるの」

彼女は共に戦った者達を思い出して寂しそうに、でもそれでも周りを見渡して笑みを浮かべる。

「だから楽しむの、そして貴女も楽しんで……それも私達には喜びだから」
「ガオッ!」
「……はいっ」
「おっと硬いなあ」

今を生きる者が笑っている、そのことに二人の艦娘は満たされた物を感じていた。
二人の言葉に慌てて桜は緊張気味に笑おうとし、プッと艦娘達が吹き出す。

「硬い硬い、無理しなくていいよ……次は何を食べようか、ああ気軽に屋台でも回ろう」
「あ、案内するね!」

恥ずかしそうに顔を赤くした桜が誤魔化すように背を向ける、二人を連れて屋台を見に行った。

「……そ、難しく考えず楽しもう、桜」
「うん、そうする……行こう、雪風さん、曙さん」
『ええ(ガオー)!』

このたった数時間の出来事は忘れられること無く双方の心に残った。
二人の艦娘にとっては戦場でない世界を見れる貴重な経験、記憶には残らないが僅かな情報として座に持ち込まれる。
例えそれがこの召喚だけの思い出でも、心の何処かに刻み込まれて少しだけ心を暖かくさせるだろう。
そして、間桐桜にとってもこの二人の艦娘は深く記憶に刻み込まれることと成る。

(ああ、この世界の為に戦ってくれる人が居た、ううん居るって……ずっと覚えておこう……)

英雄だからとかではなく、他人を思える人だから、彼女はそう決意する。
とても小さく子供らしい、だけど利己的な魔術師に在り得ない感情だ。
彼女のこの思いは『十年後』ある意外な形で、数人の者達に影響を与えるのだった。



間桐邸で、地図とレ級の情報を見比べていた臓硯が何とはなしに呟いた。

「……桜は楽しんでいるかのう」
「意外と世話焼きなのね、名目的に外に出せないから案内役にかこつけて……」

相手の言葉に足柄がからかうような目で見て、すると臓硯を肩を竦めて言い返す。

「あれは珍しい虚数属性の持ち主じゃ、反抗されては厄介な事になる……機嫌を取るに越したことは無い」
「ふうん、建前っぽいなあ」
「……まあ好きに思うがいい」
「ちぇー、もっと何かリアクション無いの?……つまんない」

軽く受け流された足柄が詰まらなさそうに口を尖らせた。
その後彼女はふと気になった様子で聞いてきた。

「……雪風と曙、楽しんでる?」
「ああそのようじゃ……今は桜と食べ歩き中だ」
「へえ、それは良かったよ」

クスクスと足柄は珍しく普通の(好戦的ではない)笑みを浮かべる。

「あいつらも偶にはいい目を見ないとさ……」

大人っぽく足柄は微笑んで、今は楽しんでるだろう二人のことを思った。

「特に雪風は苦労性だからね……」
「ああ、奇跡の艦であり死神か、今まで見たくもない物を見たじゃろうな」
「長く戦い続けて、多くの仲間の最後を看取ったから……曙もさ、毒舌で生意気だけどあれも結構無理させたからねえ」
「……ああ武闘派で知られる妙高型、その中でも勇敢とされる足柄、那智、その僚艦か……那智ってお主以上のやり手の気もするし」
「あの人は私以上の武闘派よ……まあずっと一緒に転戦してきたからね、偶には良いでしょ」

少し捻くれた所があるのが玉に瑕だが、戦友である曙も休暇を楽しんでいると聞いた足柄は喜んでいた。
大戦初期からの僚艦で、同じく僚艦の那智(同じ妙高型で姉に当たる)共々修羅場を潜ってきたから大事に思っているのだ。

「うん、融通の効かない召喚宝具だけど……今はこの世界を見せられてよかったと思うよ」
「……普段は狼なのに、そちらこそ世話焼きではないか」
「ほっとけ……ていうかこれでも一応姉よ、まあ下の方だけど……」

最初と逆に言い返されて、足柄は恥ずかしそうに笑ったのだった。

「ふっ、まあお主の甲斐性はどうでもいい……集めた情報を頭に叩き込んでおけよ」
「よく話をすぐに戻せるわね……まあわかってるわよ、お爺さん」
「明日、雪風と曙はレ級に仕掛ける、その情報も追加すればある程度は手札を暴けるだろう……その時がお主の出番じゃ」
「……ええ、わかってる、『飢えた狼』の……そして、妙高型の力を見せてやるわ」

足柄は拳を握り力強く頷いた。
一瞬彼女に、『中性的な容姿の武人のように見える女性』が寄り添うように見えた気がした。

「……あ、旗艦は無しじゃからな、そっちは後が続かん」
「ああ、それはそうね……あの人はお休みってことで」

今度はしょぼんとした表情の『銀髪に褐色の肌の女性』が現れる、一瞬だけだが。



「フーム、何か……旗艦仲間、嘆いてる気配がするけど……まあ良いか、紅茶飲みましょ」
「……軽いなあ、うちのサーヴァント」

喫茶店で、ライダーが何気に酷いことを言いながら紅茶のカップを傾けた。
フウと満足そうに舌鼓を打つ、するとその隣で同じようにフウと微かに声がした。

「美味しいデスね……教会の使いさん」
「うん……」

ぼそぼそと少女、『黒い肌』に何故か『ドクロの面』を首にぶら下げた、似合っていないシスター服の十代前半の娘が頷いた。
彼女はウェイバーとライダーに情報、『レ級及び艦載機』の情報を持って来たのだ。
その礼にとライダーが誘い、最初渋ったものの押し切られて今は諦めて楽しんでいた。

「……いやライダー、そいつどう見てもサーヴァントなんだが」
「ハハハ、お茶の席で無粋だよ、提督!」
「無粋、だよ……」
「……ごめんなさい」

思わず(当然の)突っ込みをしたウェイバーだが二人(しかも片方は自分のサーヴァントだ)に窘められ、あれと首を傾げながら謝った。

「……変だな、マスターなのに立場弱くない?」
「うーん、主従の前に……私は旗艦経験者だからってことで」
「私、山の一族の首領、うん皆偉いってことで……」
「……おい今自白したぞ、こいつアサシンじゃないか!?」
『五月蝿いです』
「……ごめんなさい」

我慢できずにもう一度突っ込んだがやはり押し切られ、ウェイバーはまたあれと首を傾げた。

「……で、キュートな暗殺者さん、貴女はどうしてここに?」

暫くウェイバーをからかった後ライダーが真面目な表情で少女に問いかける。

「情報、必要だと思って……『皆を見守る』って仕事が終わったから」
「ああ、ちょうど手が空いていたと……確かに受け取りました、THANKS」
「……同士が体を張った情報、無駄にしないでね……」

目的を達した少女、アサシンの一人はペコリと頭を下げた。
少し残っていた紅茶を飲み干すと立ち上がり帰路につく。
するとその去り際、彼女はチラと後ろ目にウェイバーを意味ありげに見た。

「……ライダーのマスター、これからも頑張って」
「え、ええと、どういう意味だい?」
「マスターが少し気にしてた……参考になるのはランサーのマスターだけど、貴方にはそういうの抜きで期待してると思う……」

一方的に良くわからないことを言って、アサシンの一人は去っていった。
最後に聞き逃せない一言だけ残してから。

「それじゃ……『また』ね、二人共……」

か細い幻聴のような声を残し彼女は消えた、それまでの言動に見合わない隠形にやっとアサシンであると確信する。
残されたウェイバーとライダーは最後の言葉にきょとんと首を傾げる。

「また……え、また来るの?」
「そのようデスね、提督……何か良くわからない娘だったナア」
「うん、マスターの方も暗い目というか、得体の知れないところが有ったけど……」

二人は顔を見合わせる、まるで狐につままれるような顔をしていた。

『……何だったんだろう』

こうしてその少女とウェイバーとライダーの初顔合わせは終わった。
最初は単に主が気にしてたから新設で情報を届けに来たアサシン(当時仕事明けで偶々暇だった)が個性的な二人を気に入るのは然程先ではない。
彼女が入り浸り始める少し前、奇妙な三人組が冬木で目撃される大分前のことである。

「……主の方はリアクションが、従者はノリがいい……気に入ったかも、次も私が行こう」

影が密かに微笑んだ。




・・・えー、レ級戦の前に過去及び閑話です、急な変更すみません。
でもここで書かないと入れる場所なくて(暫く戦闘続きだし・・・)あ、アサシン(少女)は没設定にあった事故ったアサシンを拾う下りが元ネタ。
英雄王と征服王の対決が無く、遠坂陣営とウェイバーの繋がりが消えたのでそのフォローの意味もあります。

以下コメント返信
rin様
・・・お爺さん関連の文章や描写を修正しました、確かに不自然でした、ありがとうございます。
共通の敵というか、出た杭を打つ感じに協力できるでしょう・・・逆に言えば決着が見えれば『抜け駆け』も有るということ、火種はそこかしこに。
切嗣と綺礼はまあ状況が状況なので衝突はしませんでした、でもある意味不燃燃料が積んでってるとも・・・ええ、刺激次第では爆発するかも?

一本松様
・・・あ、駆逐が一人減りましたが、でも大丈夫・・・このSSはFATEなのでそれっぽいスキルや宝具でカバー出来るはず。



[41120] 九 地の底で
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/07/26 11:14
注意・戦艦レ級に関して捏造設定有り(いやあの万能な能力でこれしか思いつかず・・・)




タッタッタッ

冬木の地下、網のように張り巡らされた生活用水路に足音が響く。
音の主は二人、やや遅れて更に二人、彼所達は機材搬入用らしきやや広い空間に出た。
そこで何かを感じたか足を止める、その瞬間ボウっと頭上で何かが光った。

ギロリ

天井には球体、明らかに生物的な質感の何かが張り付いていた。
見上げれば、無数の眼光が禍々しく輝くのを見ただろう。
彼らは血に餓えた蝙蝠のように、獲物目掛けて降下し襲いかかろうとした。

「……甘いです」
「ガオー」

が、行き成り眼下の二人、共に海兵服で茶と黒の髪の少女が上を見上げ笑っていた。
片割れ、雪風は先手を取ったことに会心の笑みを、もう一人、曙はそれよりやや邪悪に『見たか』や『ザマアない』という感じの笑みを浮かべている。
二人の手には重厚な砲台、主兵装である連装砲が握られていた。

ドガガガガッ

「……命中、下がりますよ!」

砲撃を受けて艦載機達はバラバラと落ちていく。
といっても艦としては小型な雪風達に一撃で倒されて訳ではなく、降下直前に攻撃を受けてバランスを崩し落下しただけだ。
が、それで十分、落ちる艦載機を避けるように雪風達が散り、入れ替わるように距離を空けて着いてきたライダーが出る。

「旗艦金剛、交代です!」
「了解デース!」

纏めて倒す為に三式弾を一発だけ装填、そして狙う。
ジャキリと背負う艤装から伸びる砲塔が艦載機へ、落下した上に群れでいたから積み重なって動けない艦載機達へ突きつけられる。
ニヤリと笑ってライダーは引き金を引いて、特殊榴弾が放たれる。
一秒後砲撃の轟音が、更に一秒後艦載機の断末魔めいた爆音が響いた。

「とりあえず敵機撃破デース、良い感じネー!」
「……良し、この調子だ、皆頑張ってくれ」
「うむ、バランスの良い雪風と対空が充実する曙、二人の牽制で動きを止め、戦艦主砲で仕留める……巡回する深海棲艦の眷属はこれで良かろう」
「ええ、暫くはこの繰り返しで……三人共、やれるか?」
『はいっ(ガオ)!』

ライダー達の戦いに感心した様子でウェイバーと肩に捕まる蟲(正確には操る臓硯)の言葉に、三人の艦娘は元気よく頷く。



九 地の底で



「……レ級討伐作戦、再開デース」
『了解(ガオッ)!』

三人の艦娘を中心に一行は進む、艦載機を処分しながらレ級の魔力痕が僅かに漂う地下を散策していった。
先程と同じように撃ち落とし、あるいは弾を温存できるようならやり過ごし、慎重に進んでいく。
ある程度そうしたところで臓硯が唸る、やや艦載機群が厚くなったように感じられたのだ。

『ふむ、これは……近い、かのう』
「相手の陣地ってことですか?」
『ああ、遭遇する頻度が増した、それに魔力の気配も濃い……注意するのじゃ』
「わかってます……そろそろ広い空間に出る、そこでしょうね」

ウェイバーがライダーの艤装に掴まり(足では追いつけず、が抱きつくのは恥ずかしい、その妥協だ)大まかな地図と照らし合わせ仲間に警告する。
急なので用意した地図は大雑把な物だったが、蟲による索敵範囲とウェイバーの対キャスターの経験がその不十分さを埋めていた。
恐らく相手の予想を遥かに超えて、この襲撃は効率よく行われている。
それを実証するように、彼らが出た広い空間(点検用スペースだろう)の中心で一人の少女が渋面で立っていた。

バシャリ

「フウ、後少シデ『召喚』が……ゲッ、モウカヨ!?」

広い空間の中心に、食い残しらしき肉塊を掴んで、固まりかけた血で陣を刻んでいた少女が居た。
黒い外套と裾から溢れた蛇の尾、銀髪に明らかに人でない青白い肌、反英雄『レ級』である。

「……チッ、艦載機ジャ相手ニ成ラネエカ」

レ級はライダー達を見て大きく舌打ちし、そしてその後彼女は予想外の言葉を口にする。

「アー、今少シ立テ込ンデテナア……ココハ交渉デモ……」
「……何ですって?」

反英雄にして消極的な言葉、意外な内容にウェイバーやライダー、雪風は僅かに戸惑う。
が、相手をよく知る老人と、武闘派姉妹の僚艦で影響を受けた少女は違った。

『……交渉だと?あれがそんな殊勝な相手か……撃て!』
「ガオッ!」
「チッ、時間稼ギハ無理カ!?」

ズドンと曙が主砲がレ級を貫く。
がその胴にポッカリと穴が開く、大きな風穴を空けたまま、全く頓着せずにレ級が愚痴を吐いた。

「何?戦闘続行、それとも……」
「チェ、折角ノ仕込ミガ台無シダ……最初ノ獲物ノ知識、使エルト思ッタンダガ」

次の瞬間レ級に異変が起きた。
『ドロリ』と水銀の飛沫となって『崩れた』、霊体である英霊であっても有り得ない光景だ。

「なっ、何だあれは!?」
『仕込みと言っていたが……皆注意せよ、先のは囮じゃ!』

臓硯が警告した瞬間、地面が大きく揺れた、地下道より更に深くから何かが近づく。
この時点でレ級は何らかの切り札である陣作りを放棄、寧ろそれをお取りに彼女は攻撃を仕掛けた。

ゴゴゴ
ズガンッ

「キシャアアッ!」

現れたのは巨大な蛇、陣の書かれた石床を突き破って長い胴を撓らせながら牙を剥く。
ライダー達の眼前に突如現れた蛇、レ級の尾が大顎開いて四人を噛み砕こうとした。
咄嗟にライダーが前に出ながら艤装に取り付けられた装甲を振り回し、相手の攻撃の軌道に立って迎撃に出た。

「皆、下がって……どりゃあデース!」

ギィンッ

「……チッ!?」

甲高い音がした、装甲表面に一条の傷を負うもライダーは蛇の尾を弾く。
蛇の尾は悔しげな気配を漂わせて地面に潜り、その後そこからレ級、本物のレ級が飛び出す。

ダッ

「仕方ネエ……直々ニ相手シテヤル!」

空中で彼女は外套の裾を払う、はらりとそれは広がるとガコンガコンと無数の砲塔が伸びた。

「……雷撃、行ケッ」

ヒュルルッ

だが、既に駆逐艦達が前に出ていた。

「曙、合わせて……させないよ!」
「ガオーッ!」

バラララララッ
ズドン

数条の雷撃、それを迎撃する機銃の掃射、殆ど同じタイミングだった、空中で雷撃が弾ける。

「チビ共、邪魔シヤガッテ……」

レ級が撃ち落とされ爆散した雷撃に顰め面をする。
だが、彼女はすぐに切り替えた、爆風に煽られながらも四足で着地するとそのまま尾を高く上げる。

「主砲展開、吹ッ飛ビナッ!」

大顎が開き巨大な砲塔が伸長する、がそこへ巫女服を閃かせながらライダーが立ち塞がった。

「そうはさせませんヨ……提督!」
「……宝具を使え、だが一発だけだ!」
「イエッサー、それで構いません……ドレッドノート機動!」

ボウっとライダーが青い魔力を纏った、そしてジャキンとレ級に対抗するように背の砲塔を向ける。

「通常弾一発のみ……行くデース!」
「真正面カラダト!?」

訝しみながらレ級は禍々しい真紅の砲弾をぶっ放す、それは辺りを暗く染める程に強く激しい。
が、一瞬遅れ放たれた『青』の光は更に強く濃かった。

「さあ一発勝負……但しこっちは魔力Aoverですがネ!」
「ナッ、ソノ威力ハ!?」
「……Criticalデース!」

ドゴオォンッ

青が赤を飲み込む、そのままレ級へと着弾した。

「先制は出来た、ようですね……でも……」
「ライダー?」

ライダーが緊張した様子で身構える、宝具の強化は解除し、だが主砲は構えたままだ。
その視線の先はレ級の居た場所、もうもうと煙が巻くそこで奇妙な音がした。

バチャ

何か液体が溢れる音がした。

「……痛イジャネエカ」

ビチャリ

足元に広がる『青黒い』水貯まりを踏んで、何かが進み出る。
ズリズリと引き摺るような音を立てて、煙を裂いて影が現れる。
レ級だ、但し血を流し、肉を落とし、臓物を腹から溢れさせて、だがそれでも現界し続けていた。

「全ク、荒ッポイナ……艦娘共!」

キシャアアッ

蛇と共に咆哮し、その後彼女は体を揺する、ブルブルと血肉を払うようにすると傷一つ無い体がそこに有った。
全身の傷、血も肉も臓も逆送り映像のように再生していた

「わかっていたけど、一撃で落とせる相手ではないか……」
「SORRY、提督……仕留め損なったデス」
「いや、楽勝と行かないってわかっていたろ……でも、マキリの長老には抗議したい、どこが脆いんだ!?」
「……いや防御はB辺りじゃ、他が大体Aだから相対的には低いし……」
『ライダー(私)と同格なんだけど!?』

ウェイバーとライダーに睨まれて、臓硯の虫がバツ悪そうに目を逸らした。
すると苦笑しながらレ級が自分の耐久性について口にする。

「イヤア、間違ッテハイナイナ……鬼ヤ姫ヨリ柔イッテノハ確カダシ」
「比較対象がボスじゃないの!?」
「……何でこれが道中に出るんだろ?」

自称低耐久発言(実際は再生能力の分差が出るだろうが)にライダーと雪風は素でクレームを入れたのだった。

「ヤレヤレ馬鹿話ハ終イダ、反撃ト行コウカ……」

レ級はライダー達のツッコミに首を竦めると話を戻す、彼女はトンと足で地面の陣(というか残骸)を突いた。
それはスウッと淡い光を放ち始めた。

「本当ハ……『私』ニ『コンタクト』スル為ノモンダッタンダガ……仕方ネエ、半端ダガ使ッチマウカ」

ゆっくりと魔力が渦を巻く、それはこの場一帯、いやそれどころではなく冬木の街からも一部集まってくる。
キャスターが残した陣地、それをある男、『時計塔の魔術師』の知識で改造した成果だ。

「手前等、早ク来過ギダ……次善ノ手を出スカ」

集まった魔力がレ級を包み込み、そしてその体に浸透する。

「……見テナ、面白イモノ見セテヤルヨ!」

その言葉と同時に彼女の体が膨張した、いや、内部から何かが展開したのだ。
まず両腕、肉を裂いて『牙を向く肉食魚』、怪物的なまでに巨大な二頭の怪魚がその手から生えた。
更に肩からは『黒装束の女』、腕と一体化した砲塔と雷撃口を持つ異形の女が向かい合わせに現れる。

「来イ、駆逐イ級、雷巡チ級……更ニッ!」

レ級がバッと黒コートを脱ぎ捨てる。
そこには一体の異形が融け合うように張り付いていた。

「ヤルゾ……空母ヲ級!」
「ヲッ、ヲヲ……」

レ級の右半身が変貌し、そこに怪物を模したヘッドギアの女性が微笑む。
その女性とレ級が同時に腕を高く掲げると、一斉に艦載機、地下の生き残りや巡回の物までが集まった。
全てが今までよりも精密に飛び回る、明らかに制御能力が上がっているようだ。

「サア……ココカラガ本番ダゼ」
「何あれ、まるで……」
「深海棲艦の集合体?」

レ級の変貌、一体化した深海棲艦にライダー達がぎょっとする。
唯一人、臓硯だけがやや平静な(それでも嫌そうな)声音で推測を口にする。

『ああなっては『大和』クラス主砲で纏めて砕くしかない、が確実に当てる場を作るのが厄介じゃったのう……
だが……我らの目的は削ることじゃ、一足飛びに打倒というよりは幾らか楽じゃろう』

といっても打倒するまでが難しく、だから足柄達や武蔵を出さなかった。
陣地の破壊、あわよくば追い出して今後戦い易くすればいい、がそれとて困難なことだ。
彼の言葉にウェイバーとライダーは頭を抱えた。

「クソっ、マキリの長老も無茶を言いやがる……」
「すまんな、儂は……一般参加者を信じとらん、先に全て教え臆病風吹かれても面倒なので『後戻り』できなくなるまで内緒にした」
「覚えてるデスよ……やるしかない、覚悟を決めるデス、提督!」
「……わかってる、最悪令呪で援護する!」
『手伝います(ガオ)!』

ライダーがウェイバーを一喝した後前に出て主砲を構えた。
ウェイバーも覚悟を決めて、令呪に意識を集中し何時でも使えるようにしながら後方で待機する。
二人の駆逐艦も強敵への戦意満々でライダーと並んで兵装を展開する。

「ヒヒッ、来イヨ、艦娘ニ人間……諸共ニバラシテヤル!」

そして、艦娘達をギロリとレ級が、更には一体化した深海棲艦までもが睨みつける。
その日初めて最悪の英霊が、いや冬木にとっての悪夢が真価を発揮しようとしていた。





・・・色々捏造しました、ネロ・カオスっぽいは禁句です。
いやレ級の通常火力+雷撃+艦載機援護、この連続攻撃の火力的に・・・二人羽織とか組体操とか、コートの中に引っ付てるイメージが合ったんです。
Fate的にはD~B(Aは流石にない)の複数の宝具がが常時発動している感じかな?

以下コメント返信
ネコ様
割りと本気で切嗣の逃げ場を消したかった・・・今後の展開的に、関係者を減らし(セイバーは距離有るから論外)一人で悩んで貰う必要が有るんです。
アサシン少女は金剛とウェイバーをFate側に近づけるキャラでも有ります、艦これ要素が強すぎて浮いてる気がして・・・



[41120] 十 天に昇り、天から落ちて
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/08/10 01:10
ガゴンガゴンガゴン
キイキイキイッ

三人の艦娘達が砲塔を展開、対抗するようにレ級も生体火器を機動し、更に有機的な装甲を持つ黒の球体が空中から敵を狙う。
そんな一触即発の空気の中、まず探るような舌戦が交わされた。

「……戦艦と駆逐の王道編成に挑むとは……愚かですネー!」
「ハッ、良ク言ウゼ、主ヲ守ル為二『手』ヲ割カレルクセ二……」

レ級がライダーの後ろ、そこに立つウェイバーを見てからかうように言った。
だが、彼女はそれを無視して話を続けた。

「砲撃一発じゃ駄目そう、となると……フルファイアを連続で打ち込むとしますかネー?」
「……ヒヒッ、ソンナ魔力アンノカー?」

からかうようにレ級が言うと、ライダーのマスター、ウェイバーが腕の令呪を翳してみせる。

「その為に僕が居る……素で一二発、令呪込みで更に三発飛ぶと思え」
「チッ、前ノメリスギンダロ……(全部ガ本気トハ、流石二思エナイガ無視モ出来ネエ……サッキノ仕返シカ?)」

遠回しにさっきの反論、マスターの意義を見せられレ級が舌打ちする。
これで、そういった令呪の援護をも警戒せねばならなくなった。

『マスターを弱味と見るのは浅はかじゃな、深海棲艦?』
「……五月蠅エゾ、魔術師」
『いや黙らん、どうも思うように行かないようじゃし……彼はこの場を特定するのに役立ってくれた、この後も令呪で戦場にそれなりの影響を与えるじゃろう』

使い魔越しで判り難いが、明らかに嘲笑と共にレ級に言葉が掛けられた。
それまでのキャスターとやり合った経験を活かしてここまで辿り着き、また令呪による援護を厭わないウェイバーの脅威を臓硯が強調する。
どう見ても揺さぶりだが、これまでのことが有るので無視できない物でレ級は顔を顰めた。

「……撹乱カ、嫌ラシイヤリ方ダ」
『カカカッ、悩め悩め、そうすればこちらは……幾らか楽じゃからな』

レ級は蟲を、その奥にいる臓硯を不愉快そうに睨み、臓硯はカカッと人悪く笑った。

「いや、僕の肩に留まって……そういう言い合いは止めて欲しいんですが……」
『おう、出汁にしてスマンな……まあ精神戦は大事なことじゃよ』

肩に止まってるから纏めて睨まれたような気がして、心胆を寒からしめたウェイバーが愚痴った。
レ級に聞こえないようにウェイバーがクレームを入れ、臓硯も声音を落とし幾つか言い交わす。

『実際短時間にここを暴いたのはお主の手腕じゃ、令呪の援護にも説得力は有るじゃろ?……正直真正面からぶつかるのは分が悪い、まず『動揺』させねばな』
「……それはそうですが、でもこれで僕を狙ってくる可能性も高くなりましたよ!?」
『まあ確かに、『痛し痒し』……だが、元々射程内に居る以上その可能性はある、違うか?』
「…………むう、多少リスクを増やしてでもプレッシャーを、そういうことですか」

言い包められてウェイバーは渋々沈黙する、がそれでも恨みがましそうな彼に臓硯は苦笑気味に付け加えた。

『この短時間で戦闘に持ってこれたのは僥倖じゃが……どうせなら更に有利な条件を、そう思ってな』
「……こっちは大分肝が冷えますがね、相手睨んでるし」

臓硯と違って使い魔ではなく自分自らで、段違いのリスクを負っているウェイバーは嘆息する。

『まあその辺は仕方あるまい、念話は『ラグ』が出る……それは捜索でも、戦闘でもいい結果に繋がるまい』

相手の言葉にウェイバーはグッと詰まる。
確かに言い分は正しい、念話という英霊を介した情報では遅れが出かねない(特に三角しか無い令呪の無駄撃ちは出来ないし)

「……ええい、もう根性を決めてやるしか……」

自棄になった様子でウェイバーが令呪を見て、精神を集中する。
そうやって、彼が決意した(あるいは諦めた)瞬間だった、声が響いた。

『意外に勇気がある、感心感心……ところで、その状況なら分身とて役に立つのでは?』

空中から数人の『影』が湧き出て、トンっとウェイバーの周囲を守るように降り立った。
影の中で、特に小柄な仮面の少女が短剣(ダーク)を構えながらウェイバーに話しかけた。

「助っ人、要る?」
「……何時かのアサシン!?」

驚くウェイバーに構わず、暗殺者の少女は彼を守る位置に立って言った。

「……護衛に付く、それでライダー達を前に出せるでしょ」
「助かるけど……どうして?」
「主の命令、後深海棲艦の一人勝ちよりはマシだから……あれが消えれば艦娘も戦争から降りる、アーチャーを勝たせて聖杯の分前を貰うの」
『……それ、かなり難しくないか?』
「……その気もするけど、他に方法無いし」

苦笑しながら彼女達は明らかに援護の構えを取った。
元々レ級を否定する綺礼の命令で着いてきたらしい、何より『切実な理由』で聖杯が欲しいアサシンとしては何としてもレ級を落としたいのだ。

「私と同胞、直接戦闘向けのハサンで護衛する、艦娘達は攻撃を優先して……信用出来ないかもしれないけど」
「……ライダー、どう思う?」
「計略というには回りくどい、信じていいと思います、それに……『体を張って得たレ級の情報を無駄にするな』前回の言葉は嘘じゃないと思うから」
「ふむ……頼んだ、僕に付きっきりじゃ三人の脚を活かせない」
「わかった、頼まれた……流れ弾も艦載機も通さないから」

彼は暫し考え、ライダーの答えもあって受け入れることを決めた。
二人の言葉に頷きアサシンは隊列を組む。
そしてライダーは主という心配も消えて意気揚々と、雪風と曙を連れて前へと進み出た。

「イヤイヤ、予想外でしたが助かります……これで全力で戦える!」
「はい、行きましょう、旗艦『金剛!』」
「……チッ、言イ合イハ不利ダシ、オマケモ付イタ……最悪ダナ、オイ」
『……ふふっ、ご愁傷様っ(ガオッ!)』

ライダー達は顔を顰めたレ級に笑ってみせると、一斉に走り出す。

「それじゃあ……総員、攻撃開始デース!」
『了解(ガオ)!』
「……チイッ、来ヤガレ、艦娘共!」

叫んで両者は激しく砲火を交わす。
こうして、舌戦と乱入者を挟んで、戦いの火蓋は切られたのだった。



十 天に昇り、天から落ちて



その戦い、まずレ級が動いた、左半身と一体化したヲ級とともに艦載機を嗾けようとした。
だが、それを後手の身でありながら、悠々と追い抜いた存在が居た。

「……ライダー、やれ」
「イエッサー、第二の宝具……ドレッドノート発動!」

ダンッ

青い魔力を纏い、それを噴射しながらライダーが駆け出す。
淡い茶の髪を棚引かし、艦載機を蹴散らして彼女は一気にレ級の方へと踏み込んだ。

「クッ……チ級、ヤレ!」

意表を突かれたレ級だが、素早く背中に張り付いた二体に指示を出した。
漆黒の砲塔が並んで突き出て激しく輝く。

ズドンッ

弾丸が着弾し、ライダーの居た場所に激しく土煙を巻き上げる。

ヒュッ

「……甘いデース」

だが、その土煙を一つの影が裂く、ライダーは『跳躍』し頭上から降下体勢に、彼女は弾丸を飛び越え躱したのだ。

「あの時の、先輩を……参考に!」

ニッと笑って言いながら、彼女は艤装の右半分を振り被る。
キャスター戦で見せたランサーの突進宛らに、それを凶器に見立て振り下ろす。

「艦娘ノクセニ……上ダトッ!?」
「覚悟……デース!」

これには先程以上に意表を突かれ、だがぎょっとしながらもレ級は艦載機を操った。

「止メロ、艦載機!」
「……させません、曙」
「ガオッ!」

そこへ雪風達が突っ込む、二人は並走して走ったと思うとまず雪風が身を低くする。
彼女が真下から装甲板を跳ね上げ、それを足場にもう一人、曙が跳躍する。
ドンッと高々と、ライダーすら飛び越えた彼女は背面跳びの体勢から下方へ銃を向ける。

「知ってます?彼女、航空機飛び交う戦場初期の生き残りって……やっちゃえ、曙!」
「ガオッ!」

バラララッ

空を飛ぶ艦載機の更に上、頭を押さえるように機銃がばら撒かれる。
一撃で破壊こそ出来ないものの、その脚は確実に鈍る。
そして、その瞬間ライダーがレ級へ仕掛けた。

「ナイスです、二人共……ドレッドノート重ねがけ、はああっ!!」

ガギィンッ

降下の勢いのまま、更に追加した魔力強化を加え、頑強な装甲板が叩きつけられた。
レ級は慌てて両腕を交差させる、本当はチ級の砲で反撃したかったが間に合わない(発射直後で装填されていない)
だから選んだのは迎撃でなく防御、両腕の怪物魚を盾にした。

ギイッ

「イ級!?」

ギシッとその身を軋ませ、駆逐イ級を犠牲に何とかライダーの打撃を受け止めた。
レ級はややヒ歪んだイ級達に顔を顰め、ライダーの肩越しに見えるウェイバーを睨んだ。

「随分トマア、大盤振ル舞イジャナイカ……保ツノカオイ?」
「問題ない……アサシン、遠坂と組んでるのはもうバレバレだ、魔化した『宝石』が有るならくれ」
「……誤魔化すのは無理か、はい」

ポイっと投げ渡された宝石をウェイバーは即使用、先程の宝具分の消費はそれで贖われた。

「……予備弾薬が有るからね、派手に行こう」
「オマッ、他人ノダカラッテ……」
「ああ、良いだろう?何より別に自分の懐が痛む訳じゃない……どんどん行け、ライダー!」
「……ハーイ、そういう訳で、もういっちょ……ドレッドノート!」
「……コノ、オダイジンメ!?」

二度目の宝具による強化、今度は魔力を拳に纏わせてライダーは叩きつけた。

ズドンッ

「……チイッ、デース!?」

拳が異形の怪魚にめり込んだ、咄嗟にレ急が翳した左腕、そこに一体化したイ級がその身で拳を受け止めていた。
ひしゃげる姿にレ級は顔を顰めた。

「ワリイナ、イ級……ホネハ拾ッテヤル」

悶絶し力なく鳴く彼に詫びながら、レ級は右腕を振り被った。
右のイ級が牙を剥いた。

「……オラッ、返スゼ!」
「NO、そんなの……要らないデース!」

ガシイッ

咄嗟にライダーが向こうの鼻先を掴む、まだ続いている魔力強化を活かし押し留めた。
だが、レ級はニッと笑った、右のイ級もニタリと笑った。

ジャキンジャキンッ

イ級が体を揺らす、鱗めいた表皮が裂けて無数の銃口、内部火気が飛び出した。

「ゼロ距離ダッ、行……「ガオッ」駆逐ノ方カ!?」

だが、その引金を引く前に曙が走り込んで来た。
軽量かつ加速に秀でた後期吹雪型の速度(40ノットの島風に次ぐ38、因みに雪風は36)を活かし強く地面を蹴る。
ダッと勢いよく跳躍し、半ば上から踏みつけるようにイ級を蹴りつけた。
キイっと、悲鳴を上げた彼は上からの衝撃で砲塔の向きを真下へ向けられた。

ズガガガ
ブワッ

「オイオイ、アノ糞ガキ、フザケタ真似ヲ……」

寸前での変化に間に合わず発砲、土煙が辺りを包む。
舌打ちしながらレ級は尾を伸ばし、更に肩のチ級の砲門を動かす。
ようやくそちらの再装填が終わったのだ。

「……反撃ト行コウカ」

トンっと後退し距離を取ると、レ級が三つの砲を土煙の中、ライダーのいた方へそれ等を向ける。
目を凝らせば影が一つ、ニヤリと笑ってレ級は引鉄を引いた。

「オラッ、ブッ飛ベヤ!」

ズドンッ

三つの砲火が並んで空を裂いて、土煙の中の影へと飛んだ。

「……ううっ、貧乏籤です」

一つ目を躱し、二つ目もぎりぎり躱し、だが三つ目を受けて『海兵服姿の双眼鏡を腰に掛けた少女』が高々と空を飛んだ。

「……アン?」

それはどう見てもライダーではなく、一瞬レ級は唖然とする。
ベチャと地面に腰から落ちた少女、雪風は痛そうに背を擦った。

「うう、流石に三つは無理かあ、回避は自信あるんだけどなあ……そ、それはともかく囮は成功、今です!」
『……ナイスです、雪風(ガオッ)!』

土煙を迂回し、左右からライダーと曙がレ級へと走る。
その時間を稼ぐ為に雪風はギリギリまで引きつけた。

「……今度はこっちの番デース!」
「ガオッ」

まず先手は曙、直に狙わずレ級(と左半身のヲ級)の足を払うように機銃を撃った。

バララッ

「ヲヲッ!?」
「グッ、牽制、小細工ヲ……」

戦艦であるレ級、それ以上の耐久を持つヲ級のダメージにはならないが、僅かに体勢を崩し動きを封じられた。
そこへライダーが丁度辿り着き、魔力を纏わせた拳を振り被った。

「ドレッドノート再起動……やああっ、デース」

ドガッ

「グッ!?」
「良し、まず一撃デス……」

拳打がレ級の胴を穿った、強化された拳の威力に押し切られ彼女は浮き上がる。
すかさずライダーが背負う艤装の砲塔を展開した。

ガコンッ

「ドレッドノート継続……通常弾セット、シュート!」

ズドンッ

狙い澄ました砲撃が空中で身動きの出来ないレ級、その『左』の胴を貫いた。

「ヲ、ヲッ……」
「……ちぇ、ヲ級の方がカバーに入りましたカ」

ライダーが顔を顰めた、直撃の寸前左半身のヲ級が右側のレ級を庇ったのだ。
高耐久の彼女によって砲撃は不発に終わる。
フラフラとレ級は立ち上がり、半身の血だらけのヲ級を労るよう撫でる。

「ワリ、助カッタ……モウ少シ、頼ムナ」
「……ヲッ!」

二人は呼吸を合わせ、艦載機を同時に操った。

バララッ

「ふぉ、フォローです!」
「……ガオッ」
機銃の雨の中、慌てて横から雪風と曙がライダーに飛びつき、押し倒した。

「うわっ!?」
「ガオッ!」
「……曙は寝てろと、私も同感です、宝具使いすぎ!」

二人はライダーの身を低くさせると(強引にだが)、空の艦載機に向けて砲と機銃を向けた。

「ハンッ、タッタ二人、ドウ止メル!?」
「……ガオッ!」

レ級が嘲笑い、するとピピッと数機の艦載機を順に指さした。
それを見たレ級の顔が一瞬凍りつく。

「……ガオッ」
「あ、訳します……艦載機の制御が二種類ある、片方がレ級、もう片方がヲ級……アサシンに既に読まれたレ級側を囮にするんでしょ?」

雪風が狂化で喋れぬ曙の言葉を訳す、図星を突かれたレ級は顰めっ面に成る。
その反応にニッと笑って、二人の駆逐艦娘は対空攻撃を行った。
それに長けた曙が情報の無いヲ級側の艦載機を、既に情報のある艦載機を雪風が撃つ。
バララッと四方に一見滅茶苦茶に、だが正確に砲撃、更に弾丸が撃ち込まれ、瞬く間に艦載機を撃ち落としていく。

「サ、下ガレ!」
「ヲッ!」

慌ててレ級とヲ級は艦載機を引かせる、一方二人の駆逐艦に手を借りて立ったライダーは笑みを浮かべた。

「……ご愁傷様ネ、それとお見事デース、曙……レ級の方を調べてくれたアサシンもネ!」
「ガオッ!」
「……いえいえ」

ライダーの言葉に曙が胸を張り、後方のアサシン少女がはにかんだ笑みを浮かべた。
そして、分が悪しと見て僅かに下がったレ級に砲を突き付ける。

「どうやら……僚艦五枠の選抜を間違えたようですね」
「チッ、否定デキナイナ、特二空母ヲ級……ソッチノ駆逐ノ対空ノセイデ、役立タズダ」
「ヲッ!?」
「……左の子、凄いショック受けてますが」

対空戦の経験豊富な曙によって、無力化されたヲ級が(レ級の言葉の方が大きいかもしれないが)涙目になった。

「アア、冗談ダッテ……耐久ノ底上ゲニナッテルシナ」
「ヲ、ヲ……」
「……マ、代ワリニ、雷巡辺リヲ入レタ方ガ十倍役立ッタ気モスルガ」
「ヲッ!?」
「……慰めたいのか弄りたいのか、どっちなんデスカ?」
「……ツッテモ、私ノ方モ余裕ナイシナア」

やれやれと隣の涙目のヲ級から目を逸らし、疲れた様子で肩を竦める。
だが、その後彼女はニッと笑って、奇妙なことを言った。

「アア、仕方ネエ、不確実ナ方法ハ好キジャ無インダガナ……『運』二頼ルヨウナ……」

バッ

残念そうに言って彼女は何かの束を放り投げた。
それは長く緩く弧を描く、尖った先端と後方への羽を持つ、黒光りする何かだった。
艦娘達はそれを知っていた、皆持っている。

「……素の」
「魚雷?」

百以上有るそれに一瞬首を傾げ、だがレ級の行動でその顔が青ざめる。
レ級は空高く放った束に、尾の大顎から伸びた大砲を向けた。

「……コウスルンダヨ!」

ズドンッ

放った凶器は砲火に飲まれ、爆炎が爆ぜる。
それは辺りに、何の区別なく、火の雨を降らした。

ボウッ

「ヒヒッ……見テナ、面白イコトニナル!」

だが、被害は偏りがある、レ級には僅かしか落ちなかった。

「私ノ、幸運ステータスハ……Aだからな!」

言って彼女は火の中駈け出した、その口元には悪意のある笑みが浮かんでいる。
それに対して、ライダー達はレ級のように散発的な被害ではない。

「NO!?」
「ガ、ガオッ……」
「金剛、曙!?」

ライダーと曙は爆炎を浴び怯む、被害から逃れられたのは雪風だけだった。

「これは……幸運のステータス?こうも被害に差があるのはそれ!?」

この瞬間雪風以外は無力化され、その光景にレ級は邪悪に笑った。
そして、今見せる隙を逃すかとばかりに、走り出した。

「……ハッ、無事ナノハ雪風、手前ダケミタイダナ!?」
「さ、させない、二人が戻るまで……」
「邪魔ダッ、宝具ノ手前ナンゾ!」
「きゃあっ!?」

慌てて阻もうとした雪風は尾の一振りで吹き飛ばされる、サーヴァントではなく宝具によるイレギュラーの召喚では地力の差がありすぎた。
一気に彼女を突破し、レ級はその奥のライダー達に照準する。

「サア、落トスゾ……ヲ級、泣イテル場合カ、手伝エ!」
「ヲッ!?ヲ、ヲヲ……」

ガコンとレ級は尾の砲塔を伸長し、涙目だったヲ級も促され頭部の面に突いた砲塔を動かす。
火砲が動けないライダーと曙を捉えた。

「サア……」
「ヲッ!」
「……フッ飛ベ、艦娘!」

ジャキンッ

突きつけられた砲塔が不吉に輝いた。
だがその寸前だった、最初はおっかなびっくりに、しかし力強く声が響いた。

「……令呪よ、ライダーに力を……炎を振り払い反撃を!」
『エッ(ヲッ)?』

そこだけポッカリ炎の降っていない隙間、そこに立つウェイバーがその手に輝く令呪を翳し叫んだ。

「幸運のステータスか、どうやら僕はツイていたらしい」
「……うわイイな、暗殺者として羨ましい、搦手の成否に直結するし」
「まあそれはともかく……やれ、ライダー!」
「イエッサー!」

活性化した魔力を全開にし、ライダーは纏わりつく炎を振り払う。
そして、自由になった彼女は向かってくるレ級を殴りつける。

ドゴッ

「ガッ!?」
「……まだデス!」

宝具による強化以上の魔力、それを纏わせた拳がレ級を叩き伏せた。
地面に叩きつけられた彼女へ更にライダーは追撃、装甲板のアッパースイングで打ち上げる。

「やああっ!」

ドガッ

「グアッ!?」
「……今デース、ドレッドノート!」

ライダーは宝具による強化も追加、二条の強化の中で砲撃体勢へ、すかさず砲を空中のレ級へ向ける。
その日最大の輝き、最大の轟音、限界を超えた砲撃が天へと放たれる。

ドゴオォンッ

空中で爆発的な魔力が炸裂し、レ級は愚か天井まで貫く。
ガラガラと有機的装甲の残骸が落ちる。

「やったか……どうだ、ライダー!」
「いえこれは……」

空を見上げウェイバーが喝采を叫びかけ、がライダーが止める。
その視線の先には『下半身のやや欠けた影』が一つ。

「ヲッ!?」
「……無事ダ、危ナカッタガナ」

レ級が心配そうなヲ級に、硝煙発する砲を展開した彼女に何とか言葉を返した。

「……助カッタゼ、ヤッパ空中ジャ空母ガ上カ」
「ヲッ!」

着弾の寸前ヲ級が横へ砲撃し強引に躱したのだ、ヲ級に命を救われたレ級は笑みを浮かべ、それを見上げるライダー達は顔を引き攣らせる。

「……惜シカッタナ、ダガモウ油断シネエ……艦娘ニモ、人間ニモ目ヲソラスカヨ」
「くっ、同じことは出来そうにないですね……」

命拾いしたレ級は気を引き締める、さあ再開と彼女は意気込んだ。

『艦娘にも、人間にも……それはつまり……』
「エ?」

が、反響し響く声、どこか遠くからの声に彼女は固まった。
ヒュッと風が吹く、ライダーの空けた大穴を通って『小柄な影』が飛んだ。
それは衝角が振り抜いて、レ級の胴を強打する。

ズドンッ

「ガグッ!?」
「つまり、今来た私は……艦娘ロイアルアーサーは見えてない、ですよね?……風王鉄槌(ストライクエア)!」

そのまま更に至近距離から風を叩きつけ、地下道へとレ級を送り返した。
ドガンっと轟音立てて彼女は落下し、それに遅れて小柄な影、ランサーが降り立った。

「直感よ、ありがとう……おかげで隙が付けた、その上対処法のない潜水艦も居ないしね」
「……ああ、そりゃ駆逐艦が複数いるのに出さないって……美味しいとこ持って来ますね、先輩」

ちょっと呆れてる様子のライダーにランサーがニヤリと笑う、彼女は得物である衝角を一振るいした。
ヒュッと深海棲艦の青黒い血を払うと、衝角を後滅茶苦茶に荒れた落下現場のレ級へ突き付ける。

ビシイッ

「……ということで私も参加です、第二ラウンドって奴ですね……覚悟しなさい!」
「クッ、飛ンダ乱入者ダナ!?」

地下深くで、深海棲艦の悲鳴が響いたのだった。



「……忙しい女だ、さっさと降りて行きおって……口説き損ねた」

そして、空中で残されたアーチャーが嘆息した。
そんな彼に念話が入る、(認めてないが)主からだ。

(英雄王、そちらの近くで魔力反応が……状況は)
「時臣か……地下で艦娘と深海棲艦がやり合ってるのだろう、大分派手にやってるから深海棲艦にライダーにランサー、バーサーカの宝具も居るな」

すると彼は何か考え込んだ。

(さようで……そうですか、『粗方の面子』が揃っているのですか)

明らかに何か思いついた様子で、アーチャーは何か嫌な予感を覚えた。

「……時臣、何を?」
(いえいえ、気になさらないよう……『まだ』早いでしょうからね、そう決着の付く辺りが『美味しい』かと)

貴族趣味の男が笑ったのがわかった、顔を合わせた訳ではないのに。
唯アーチャーは何かが、流れというべき物が変わったと直感した。




一応念のため、10だからって題名に天を続けて訳じゃないです・・・
・・・ウェイバーって原作のステルス的にどう考えても幸運高いよね?そんな話・・・いやまあクライマックスじゃやれないネタなので今やっただけですが。
でまあ、ようやく主役っぽくなったランサー(アルトリアさん)が突っ込んだ所で次回へ。

以下コメント返信
ネコ様
サーヴァントが7騎な以上枠が足らず、レ級+aはそれでも出すための設定改変でした・・・少し厳しいけど、艦隊戦をさせる為のご都合ってことで。
アルトリアさん後輩のチャンスを活かしました、何か出待ちっぽいだけど・・・というか直感スキルが便利すぎたかな?

rin様
臓硯は公式で『挺身型ヒロイン』に弱いから大和とも相性はいいでしょう・・・姫とかは捕食で強化したレ級にくっ付くかなと、前戦争は殆ど決めてませんが。



[41120] 十一 それぞれの亀裂
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/04 21:03
ブウンっと衝角が振り下ろされる。
ランサー、アーサー王であり巡洋艦ロイアルアーサーでもある存在が突進した。

「魔力放出、最大……はああっ!」

ダンッ

爆発的に爆ぜた魔力を推進力にして、彼女は一気にレ級の懐へ飛び込んだ。
力任せに衝角が掬い上げられ、レ級をガード毎吹き飛ばした。

ドガアア

勢い良く飛ばされ、レ級は慌てて尾で体を支えながら叫んだ。

「クウ、速エ……ソノウエ重ッ!?」
「ふっ、最速のランサーで、魔力放出のステータス底上げもある……甘く見るなよ、深海棲艦!」

相手の驚愕の言葉に彼女はニッと笑い、素早く二度目の特攻を掛ける。
前のめりに槍を構えた体勢から、再度魔力放出を全開にした。

ダンッ

衝角を真っ直ぐに突き出した、ランサーが再加速した。
だが、咄嗟にレ級も地を蹴り、同時に尾を撓らせる。

トッ
ズドンッ

「……何?」

衝角が『一瞬前』までレ級の居た場所に突き立ち、顔を顰めたランサーの顔に『影』が差した。

「奴が消えた、いや……上か!?」
「舐メンジャネエ、コッチモ……敏捷『A』ナンダヨ!」

ボウッ

「……デ、当然反撃!」

頭上で『三つの砲火』が瞬く、跳躍体勢のまま彼女は自身と融合状態の雷巡チ級の兵装、禍々しく輝く主砲を同時に起動させていた。
ガゴンガゴンガゴンと重々しく唸りを上げて、凶悪な火器が狙いが付けられた。
そして、眼下の槍のサーヴァント目掛けて、引鉄が引かれようとする。

「不味い……避けて、先輩!」
「わかってます!」

ダンッ

だが、その直前ランサーが駆ける、後ろではなく前に出る形で。
突き立ててあった衝角を足場に、それを蹴り、高く彼女は跳んだ。

「はあっ!」
「何ッ!?」

彼女は三つの砲弾の隙間を抜けるように跳び、そのままレ級と並走する。
そして、魔力放出を手加減して蒸かし体勢を整えると、徐ろに両の拳を握った。
ギリと拳打が引き絞られ、一瞬の溜めの後解放された。

ゴウッ

「……はああっ!」

立て続けに響く二度の轟音、レ級の肩と脇腹が弾け、抉り飛ばされた。
だが、その腕のイ級が牙を向く、レ級は体を捻り反撃の体勢に移った。

「グッ……ヤレッ、イ級!」

ザシュッ
ガギィン

禍々しく伸びた牙が閃き、アルトリアの胸甲に二条の傷が走った。

「くっ!?」
「ハッ、ヤラレッ放シジャネエゾ!」

ガコンガコンッ

レ級はニヤリと邪悪に笑うと、吹っ飛んだ状態で更に反撃へ、黒装束を払い兵装(生体火器)を展開した。

「雷撃、まだ来るのか?ならばこちらも……インビジブル・エア!」

ビュオオオッ

ランサーは一瞬の魔力放出で体勢を整え、両腕に風を纏わせた。
そして、風を白兵の併用ではなくそのまま広範囲に解放、ある意味本来の形で宝具を発動した。

ドガアアッ

爆炎と風、二騎のサーヴァントの攻撃がその中心で炸裂した。

「ぐあっ!?」
「ウア……」

二人同時に吹っ飛び、睨み合いながらアルトリアとレ級は着地する。
コツンと甲冑が落ちる、槍のサーヴァントは肩口を穿たれ赤い血を流していた。
ブチと肉片と腸が溢れる、反英霊は胴に風穴が空いて青黒い血を流していた。

「……アア痛エナア、ケドソッチモ無傷ジャナイ」
「ちっ、捨て身とは厄介な、何より……今の攻防、手応えから判断するに……筋力魔力共にA、いやA+といったところか」

ランサーが舌打ちしながら肩を押さえ、応急ながら砕けた甲冑を再展開する。
一度損傷した分強度は落ち、無数の罅が入っているが、彼女は魔力放出を重点的にそこへ集中させ補った。

「まあこれで……ひとまずは大丈夫、ですかね」
「……器用ナ奴ダ、ダガ……コッチダッテ、マダ戦エルゼ」

レ級の胴、そこに開いた傷口が蠢く。
時間が巻き戻るようにその肉が膨れ上がって、胴の大穴、更にはその前に受けた肩と腹の傷も塞がった。

「サア、コレデ元通リ……ジャア続キ、ヤロウカ」
「化け物め……良いでしょう、お相手しますよ、深海棲艦」

一瞬瞠目し、その後大きく嘆息した後ランサーは地に刺さった衝角を抜いて構える。

「……倒れるまでやるのみ!(……そう、難しいことは後ろに、魔術師に任せればいい!)」

相手が何でもありということは最初から承知の上、覚悟を通り越して開き直って、彼女は三度目の突進を敢行した。



『馬鹿な、あの再生力、いやそれはわかっていたが……魔力効率が良すぎる、主無しであれ程等……あり得るのか?』

後方で戦いの行方を見守っていた蟲が、間桐臓硯が絶句した。

『……妙じゃ、魔力の収支が合わぬ……どこからか流れ込んでいる?』

六十周期で冬木の地、その霊脈は平常時の数倍あるいは数十倍の魔力を放つ。
元々の性質と御三家の手が加わったことによる物で、最初から魔力的に肥沃な土地であり、また人工的にもそれが強化されている。
だが、マスターやサーヴァントの恩恵は本来一定量、どこかに偏って流れることは本来有り得ない(陣地なら兎も角)
それなのに、レ級に異常な程の魔力が流れ込んでいた。
レ級への過剰供給、恣意的な偏りが、彼女を勝たせようという『何かの意思』を感じた。

『いや馬鹿な、しかしこれは……今次以前の、『何らかの要因』で聖杯戦争のシステムが歪んだとしか……』

ありえない光景に臓硯が戸惑う、聖杯戦争の大元といえる基板に歪みが生じたとしか思えなかった。
絶句し困惑する臓硯、しかし戦うために召喚された者達はそれよりも戦場に集中していた。

バリンバリン

「……お悩みの所悪いけど、そんな場合じゃないと思いマース」
「ええ、深海棲艦との決着を……」

宝石、魔力を凝縮させた簡易礼装(アサシンからの横流し品)を他人のだからと躊躇なく使い切り艦娘達は再び立ち上がる。

『……そうじゃな、奴の相手を頼む(……儂がうだうだと悩むことではない、後で調べればいいか)』
「そういうことで……先輩の方へ行きますかネー?」
「はい、行きましょう!」
「アサシン、そっちは大丈夫?」
「……問題ない、任せて」

主達に、その護衛のアサシンに言うとライダー達が戦場へ向かった。

「……じゃあ行ってくるネ、提督(マスター)」
「ああ、思い切りやってこい……二画目、何時でも切れるようにするから」
「イエッサー、思い切り……ぶっ放してやりマース!」
「魔力、どこまで持つかわからないけど……援護します!」

ライダーと雪風はこくと力強く頷いて、ヒートアップする戦場へと飛び込んでいった。



十一 それぞれの亀裂



「風よ……やああっ!」

ダンッ

ランサーが三度目の突進を敢行した、今度は魔力の瞬間放出だけでなく風による後押しも加わっている。
倍近い速度で彼女はレ級の目の前へ現れた。

「……甘エンダヨ、イ級!」

ギイイッ

が、左右から合わさるように怪魚が牙を剥いた。
深海棲艦の眷属はその身を抉られながらも、ガッシリと衝角を咥え込んだ。
透かさずレ級は生体火器、速射性の高い雷撃を展開した。

ズドンッ

「ぐっ!?」
「ヘッ、命中確認……」

至近距離からの爆炎にランサーが苦悶の声を上げる。
突進時纏っていた魔力が幾らか削いだが、完全には衝撃は消せず僅かにバランスを崩した。

「チャンスカ?……チ級、ヤレッ!」

ガコンガコンッ

レ級は眷属の名を叫び、左右からその背に融合した二体は頷き主砲を傾けた。
それが狙うは当然敵サーヴァント、目の前で一瞬硬直したランサーである。

「照準ヨーシ……放テ」
「……ちいっ、舐めるな!」

ボウっと禍々しい光、収束した魔力が砲口から放たれる。
しかし、寸前でランサーは魔力の放出、更に風を『自分の近く』で炸裂させた。
溜めは無く小規模ながら、彼女の装甲に包まれた右足を動かすには十分だった。

ズドンッ

ランサーは相手の胸元を蹴りつけ、砲撃を『外させた』。

「グッ!?」
「回避と同時に……返すぞ、深海棲艦!」

更に彼女は次の行動、反撃に適した体勢へ移った、空中から衝角を上段に構え、その上機銃も装填状態で展開した。

ズドンッ
ドガガ

「……グアッ!?」

深海棲艦の悲鳴が上がる、ビチャリと青黒い体液が零れ落ちる。
衝角の一閃が額を割り、更に斜めに掃射された弾丸が胴を浅くだが広範囲を傷つけた。
ランサーは青く染まった衝角を一度払い、今度は真直ぐに、胴体目掛けて突き出す。

「まだだ、再生等させるか……貫け!」
「……ヲッ!」
「何!?」

ガギィン

が、追撃のそれは不発する、掲げられた『白い左腕』、『有機的、生物的なスーツに包まれた肘』が衝角を弾く。
返る手応えはレ級より一段上の耐久、彼女を救ったのは左半身と融合した白い深海棲艦だった。
その存在は反対側のレ級を叱るように叫び、同時に破壊された筈の艦載機群が『無事な部分』を継いで浮かび上がった。

「ヲッ!」
「……ワカッテル、合ワセロ!」

レ級は頭を振りながら答え、二人は同時に艦載機を制御する。
四方から集まった艦載機がその生体火器を一斉に展開し、衝角を押さえ込まれ動けないランサーへ照準した。

「不味っ……」
「……撃テエッ!」
「ヲッ!」

バララと数えきれない程の爆雷が降り注いだ。
後は爆ぜるだけ、ニヤリと笑いながらレ級は白い尾を自分に巻きつけ巻き添えを避けようとした。

「アア?」

その寸前、尾の隙間から入ってきた光景に彼女は凍りつく。

ダッ

兵装を展開しながら、二人の艦娘が駆けてきたのだ。

「そうは行かないデース……雪風ちゃん!」
「はい、任せて!」

ガガガッ

並走して走ってきた二人が機銃をばら撒く、一つの爆雷を撃てば誘爆で他も落ちる。
金剛と雪風、合わせて三〇を砲門から弾丸が爆雷の大半を無力化する。
落とし切れない物もあるが、目減りしたそれはランサーの風の突破に至らない。

「……い、今のは少し焦った、助かりました」
「大丈夫ですか、先輩!」
「ええ、お陰でね、後輩」

風で生き残りの火器を落としたランサーが礼を言う、それにライダーはニッと笑みを返す。
その後二人は同時に頷き、レ級の方を見た。

「……やりますか?」
「ヤー、当然……ここは同時攻撃デース!」
「ふっ、成る程、それは……いい考えです!」

ダンっと二人は好戦的に笑い走る、白と青の魔力を迸らせながら一気に駈け出した

「チッ、止メロ、艦載機共!」
「ヲヲッ!」

レ級とヲ級が焦った表情で指示を出し、周りに艦載機を集めようとした。
だが、その瞬間雪風が前へ出る、先を行く二人を追い抜き全兵装を展開する。

「二人共、あれは……私達が!」
「ガオッ!」
「ようし、任せるデース!」

横を抜ける瞬間金剛が装甲を掲げる、そしてそれを足場に雪風と曙が跳躍する。

ヒュッ
ジャキン

硬く跳んだ二人は兵装を展開し、上空から(構造上)艦載機が対応できない頭を取って狙いをつける。

「分析済みだよ、ヲ級の癖も既に見た……行きます!」
「……ガオッ、ガオオー!」

ガコンガコンガコン
ドガガガガガッ

二人は主砲に副兵装、機銃や爆雷、本来海戦用の魚雷すらばら撒く。
レ級が操る艦載機はアサシンが、ヲ級の物もここまでの戦いで既に読んでいる。
だから殆どが当たり、ありったけの火器が艦載機を蹂躙した。
ガラガラと降り注ぐ破片の中をランサーとライダーが駆け抜ける。

『今だ、これで……』

ダンッ

二人は一気に戦場を駆け抜けてレ級の眼前へ飛び込もうとしていた、魔力を全開にし宝具を起動させながら。

「グッ、不味ッ……」
『……遅い!』

引こうとするも一瞬遅い、レ級の目の前で宝具が発動する。

「我らの攻撃、その身に受けろ……風王結界(インビジブル・エア)!」
「TheDreadnought起動……三式弾装填、ファイアーデース!」

至近距離、距離の減衰無しの連携攻撃がレ級へと叩きつけられた。

ドゴンッ

二重に魔力が渦を巻き、同時に二つの宝具が発動する。
解放された風が右のイ級を抉り、炸裂した榴弾が左を引き裂く、そしてそれでも止まらずその奥のレ級へと突き進む。

「迎撃、間二合ワ……ガ、ギアッ!?」

風が榴弾を押し、榴弾が楔となって、二つの宝具は互いを破壊力を損なわず、寧ろ上乗せして破壊力を発揮した。

「ガアアッ!?」
「ヲヲ……」

グシャという音と共に肉片が飛び散る。
同時にレ級の体が崩れ掛かる、咄嗟に耐久で勝るヲ級が右側のレ級を支えるもそれで精一杯だ。
両腕、イ級はズタズタに裂かれてギリギリ形は保っているも唸るのみ、一番被害の少ないチ級すらも余波でふらついている。
だが、それでも深海棲艦達は戦意に、殺気に満ちた目で睨んでいた。

「ギッ、ヨクモ……」

最早驚きや呆れすら無かった、艦娘達は油断せず構えた。

「……本当に化け物ですね、ですが!」
「ヤー、このまま止めを!」
「再生等させない、切り札も……このまま追撃を……」

二人は衝角を払い、主砲に弾丸を装填、一気に畳み掛けようとした。
カッと外が輝き、ズドドと『輝く刃』が降り注がねばだが。

『何っ!?』

無数の刃が雨のように落ちる、その全てが明らかな宝具だった。
それは無差別に、レ級もランサー達も構わず降り注いだ。

「避けて、二人共、これ……アーチャーの宝具!」

アサシンが、唯一その正体を知る少女が必死に叫んだ。



「……やってくれたな……なあ、時臣よ」

黄金の鎧の英霊が顰めっ面で呟く。
彼は苛立たしげに腕を組み、だが引っ切り無しに注がれる魔力が強引に宝具を発動させる。
そして、彼の意思を無視して、波紋のように揺れる空間から無数の刃が放たれた。

「……どういうつもりだ、時臣?」
『勝機と見ました……深海棲艦、そしてこれから立ち塞がるであろうアインツベルンを倒す絶好の機会かと』

ここからでも状況は幾らかわかった、ランサー達が宝具を使ったのも、それを受けてレ級が魔力量を大いに減らしたのもだ。
だから彼は令呪を使ってアーチャーに攻撃させた。
障害となるランサーを倒し、同時にレ級打倒で(この地の代表としての)面子を果たし消費分も教会から得られる。

「時臣、貴様……よくもそのような巫山戯た物言いを」

だがプライドの高いアーチャーは激高しかけ、それに訝しそうにする。

『貴方は勝利が欲しい、ならば……喜ぶべきでは?』
「このような姑息な真似、王たる我に……」

アーチャーが空を睨む、二人の間に決定的な罅が入りかけた。
その寸前、ガララッと音がした、瓦礫を押し除け生存者が現れる。

「トンダ乱入者ダ、ダガ……チャンスダナ、モウスコシ保タセロ、ヲ級」
「……ヲヲッ」

深海棲艦が辛うじて立っている、咄嗟に寄せ集めた艦載機郡を盾にしてアーチャーの攻撃に耐えたのだ。
それから一瞬遅れて、二人の人影が現れる。
正確には二人、それとその腕に支えられた消滅寸前の影だ。

「雪風ちゃん、曙ちゃん!」
「私達を庇って……」
「……まあ残すならそっちでしょう、それに魔力量次第ですが再召喚もあるから」
「が、ガオ……ちぇ、流石にリタイアだね、後は頼んだからね」

ランサーとライダーを庇い二人は消滅(あるいは送還)される、それを見送ってランサー達は一瞬項垂れる。
だが、直ぐに顔を上げレ級、次にアーチャーを睨みつけた。

「むう、少し立て直したか、それに……アーチャー、やはりさっきのは」
「令呪を使われては、な……」

バツ悪そうな顔で彼は答え、その後主へ嫌味を言った。

「先の命令、三騎同時に打て……そのせいで火力がバラけた、どうするつもりだ、時臣?」
『……問題無いでしょう、まだ『令呪』の効力は切れてませんから』

すると再び周りに波紋が生まれ、そこから刃が湧きでた。
突き出た刃達は先端を三方向に、ランサーとライダー、それにレ級へと向ける。

「ちっ、まだ切れぬか……」
『さあこれで……我らの勝利です!』

苦々しそうなアーチャーに対し、その主は勝利への確信、言い換えれば慢心と紙一重の宣言を口にした。
だから、それはある意味『必然』だった。
レ級が呆れたような声を出した。

「……馬鹿ダナ、余計ナコトシナケリャヨカッタノニ……『ギリギリ』間二合ッタ」

そう言った瞬間地が揺れた、地の底から何かが唸った。

ズズッ

「何?」
「ヒヒッ、ギリギリダナ……アノママ、艦娘に畳ミカケラレテタラ……危ナカッタカモナ」

アーチャーの乱入が一瞬戦場を停滞させた、それがその現象を間に合わせた。
ピチャリという音がした。

「……終ワリダ、アバヨ」

ドンッ

地面が爆ぜて水柱が上がる、そこから艦載機が顔を出した、それがやった細工がこれを起こしたのだ。

「くっ、これはまさか……」
「ええ、先輩……冬木の地下水道、あそこにはそれが集中していて、多分強引に歪めさせて……」
「……フッ、正解」

ランサー達の言葉にレ級がニヤリと笑う、
万が一に伏せていた伏兵だ、戦いが始まった時点で地下を壊させた。
尤も少数の艦載機でその速度は遅く、間に合うかは彼女にとっても賭けだった。

「……アリガトヨ、魔術師」
『何?』
「オカゲデ賭ケニ勝テタ……巡洋艦二戦艦、ソレジャ私ニハ追イツケナイ」

レ級はゆっくりと空いた穴の縁に足を掛けた。
彼女は深海棲艦の中でも屈指の汎用性を誇る、つまり潜水艦のようにも動けるということ。
高速かつ自由に水中機動が可能、そして、水没した地下は冬木『各地』に繋がっている。

「分岐スル道、大小合ワセテ、マア……二、三十ハアルカ、当面ノ避難場所ニハ十分ダロ?」
「さ、させない……追いますよ、ライダー!」

慌ててランサー達が追おうとする、一度潜られれば速度と水中での自由度の差、それに滅茶苦茶であろう錯綜する地下道で巻かれる可能性がある。
そうなってしまえば次に追いつくのは難しい、その上レ級には殺人鬼が齎した裏社会の知識がある。

「と、止めねば……」
「……避けろ、令呪はまだ続いている!」

だが、それはアーチャーが無差別に放つ宝具がさせてくれなかった。
効力の途切れかかった令呪が諦め悪く攻撃を続けさせる、それは目標と成る三者を執拗に狙う。
それによってランサーとライダーは回避に時間を取られた。
勿論レ級にも行くが、最早必要ないとばかりに艦載機を盾にして耐えた。

「ヒヒ、残念、ツイテネエナア……惜シカッタナ」

その光景を楽しそうに見ながら、彼女は艦載機の空けた穴へと体を預けようとした。

『令呪を持って……』

が、その瞬間二重に声が響いた。

『……命ずる、仕留めろ、ランサー!』
「命ずる、援護しろ、ライダー!」

片方は念話越しに切嗣、もう片方は(アサシンに庇われ)物影に隠れるウェイバー、そして二つの令呪によってランサー達は能力以上の速度で走り出す。
ライダーがど真ん中に飛び出し、周囲へ砲塔を向ける。
四機の主砲の内二つをレ級へ、残り二つをそこへ行くまでの道の為に向ける。

「道を開きます、第二の宝具……FULLFIRE!」

ズガガガッ

「グオッ!?」
「今デース、先輩!」

砲弾が宝具の雨を強引に開き、そこへ続いて砲弾が飛び込み、レ級を横から吹き飛ばす。
高々と吹っ飛んだところへ一場の風が吹く。

「……感謝します、マスター」
『唯戦うより……場合によっては立て直しの方が大変だからね』

珍しく殊勝に礼を言い、宝具の雨の隙間を走り抜けてランサーが地を蹴った。
彼女は前傾姿勢で衝角を構える。
その全身に魔力を纏い、渾身のチャージを仕掛ける。

「穿て、名槍ロン……ロンゴミアント、はああっ!」

ズドンッ

轟音が響き、空中で青黒い体液塗れの肉片が弾けた。

「何!?」

ギギッ

大顎を持つ怪魚、イ級が悲鳴を上げた。
彼を中心に、生き残りの艦載機がスクラムを組んでいる、それ等が作り出したが衝角を受け止めていた。

「レ級、貴様、これは……」
「悪イナ、艦娘……庇ワセタ」
「……そうか、大和に令呪三角でぶち抜かせたというのはそういうこと!?」
「多分ナ?」

そうしてニヤリと笑いながらレ級が水の中へ沈む。
パシャと一度だけ白蛇の尾を跳ね上げ、それを最後に彼女は完全に消えた。

『……追えんな、巡洋艦に戦艦、そしてただの英雄ではな』

臓硯が言って、丁度それぞれの令呪が消える、そして戦場に沈黙が訪れる。

「……行った、気配もずっと先まで……逃げられました」
「そんな……ここまでやって、駄目だったなんて」

ガクリとランサーとライダーが肩を落とす、追い詰めれば十分とは言ったがそれでも倒せなかったことは悔しかった。
そしてそれ以上に、悪鬼の如き形相でアーチャーは空を睨んだ。

「これが……欲望に負けた結果だ、どうするつもりだ、時臣」
『……何、致命的ではありません、深海棲艦があるならば……今回のような状況も『また』訪れましょう』
「ちっ、そううまく行けばいいがな……」

抜け抜けといった彼にアーチャーは一度だけ舌打ちした。
だが、それで怒りが治まる訳がなく、鬼のような業像で飛行艇を動かしこの場を去っていった。



「成功成功、上手クイッタゼ……」

ドンッ

冬木地下、その一画の水路の水面が爆ぜた。
そこから白髪に人間味のない青白い肌の少女が飛び出す。

ポタタッ

「……ヒヒッ、追手ハ無シダナ」

髪から垂れる水を払いながら、彼女は笑みを浮かべた。
戦いでは危ない所が有ったが無事に逃げられた、これで聖杯及び『その奥にいる物』接触が出来る。
だから忙しくなるなと彼女は思った。

「殺シテ、壊シテ……アア、忙シイゼ」

それが彼女の目的だ、戦争という概念が形になった、しかも負の面が実体化した存在だから何故そうするかとか思わない。
言ってしまえば彼女はそういう現象だった。
燃え広がった炎が伸びた相手に何か思うか、堰を切って溢れた大水が飲み込む相手に何か思うか、唯当然のことで理由等どうでもいいのだ。
重要なのは無事前回生き延びられて、続きをやれるということだけだ。

「サア……待ッテイロヨ、『私』?」

彼女は自分、この世界のどこかに(座に戻らず)残っているもう一人の自分のことを思った。
それと接触できれば目的である殺戮と破壊は大いに捗る筈だ。
つまり当面の目的は回復まで逃げること、最終目的は片割れとの接触だ。

「キット楽シイダロウナ、頑張ラナイトナア……手前等モナ!」

キイキイキイ

レ級はニヤリと笑い、それに追従するように半身のヲ級や左のイ級、左右のチ級が笑った。
そう決めると戦いで弱った体に力が漲る。
彼女は未来の殺戮を思い、力強く逃走を再開する。

「……次ノ、道ハット」

バシャと枝分かれした水路の一つへ跳び込む、そこから右へ左へ、撹乱目的にコマ目に変えながら彼女は逃げていく。
そして、ある程度ランサー達との戦場から離れた所で『何か』が触れた。

ブツッ

「アン?」

透明で細い、蜘蛛の糸のような物がレ級に引っかかって切れた。
彼女が訝しんだ数秒後近くで爆音が成った。

ドゴンッ

一人の少女、動きやすそうな装束を着た娘が水路の壁を破った、明らかに魔術士の手の入った大きな蜘蛛を乗せている。
糸の出処はその蜘蛛だ、あるいはここだけでなく冬木の地下中に張り巡されているかもしれない。

「ナ、何イ!?」
「糸に反応あり、ここか……妙高型が三番艦……足柄、参上だよ!」

ギロと艦娘、足柄がレ級を睨む。
レ級は顔を引き攣らせた、水中を自在に動けなくても『待ち構える』なら関係ない、彼女は慌てて艦載機を突っ込ませる。

「ウオ、罠……行ケッ!」

咄嗟に放って水中を駆ける艦載機、だが足柄に辿り着く直前影が割って入った。
それは足柄と似たような容姿で服も似ている、敢て差を上げればやんちゃそうな足柄よりやや凛々しい。
その少女、明らかに妙高型の一人が艦載機を鷲掴みにした。

「……やっちまえ、姉上殿!」
「……ガウ」

コクと頷き、妙高型が拳を振り被る。
ズドとまず火器を砕き、次にセンサー部から手を突き入れて艦載機を貫く。

「ガウウッ!」

バギンッ

更に掴んでいた左腕を深く刳り込ませ、その後内部から両腕で割って開く。
ガラガラと艦載機の破片が辺りに散って、それを踏み躙ってから妙高型の一人がニヤリと野性味の有る笑みを浮かべた。

「グル……」
「……紹介しよう、妙高型が二番艦『那智』、見た通り荒っぽい人だよ」

紹介しながら足柄も同じように野性味の有る笑みを浮かべる、狼の名に恥じない笑い方だ。
彼女はレ級を指差し立ち塞がって、ゆっくりと言い放った。

「ここは通行止め、周りな……で、その時勿論追うが……そこで一つ話がある」
「何ヲ言イタイ、餓狼?」
「……まあ水中戦じゃ逃げられる、だがそっちじゃ唯じゃすまないだろう……そらもう大型イベントばりにリソース吐きな、それで手を打とう」

ビッと足柄はレ級の身体、そこに張り付いたヲ級達を指し示した。
水中戦に適応できず地の利はあちら、だがそれならそれで相手から『絞り尽くそう』というのだ。
だがここは逃げたいレ級の取れる手は限られる、この強引な取引を無視できなかった。

「ググッ、ドイツカ残セッテノカ」
「正解、でどうする?……時間は無いよう?」

ジャキンと足柄と那智の砲塔が同時に展開、催促するようにレ級に突きつけられる。
そうなるに至ってレ級は相手の思惑通りに動くしか無かった。

「……イ級、ソレニ、チ級ノ片方モイケ」
「毎度あり、って感じかな」

生き残った方のイ級、それと雷巡の片方を時間稼ぎに残し、彼女は背を向け泳ぎだす。
レ級は別方向への迂回に向かう。
その背で爆音と、興奮した様子の足柄達の言葉が聞こえた。

ドガガガッ

「久々に暴れようか、獲物は小ぶりだが……楽しませな!」
「ガウガウ、ガルル!」
「ははっ、興奮しなさんな、姉……レ級、それと残り二体も直ぐに後を追わせてやるからな!?」

一方的な宣言、屈辱に顔を歪めながらレ級とヲ級達は逃走するしかなかった。



「クソガ、クソガッ!?」
「ヲヲ……」

荒れ狂いながらレ級は逃げ切り、荒れ果てた殺人鬼の隠れ家の一つに逃げ込んだ。
怒るレ級を見たヲ級が心配そうにする。
すると、暫し辺りの壁に八つ当りした後レ級が冷静になる。
ゆっくりとヲ級とこの後のことを検討していく。

「アア大丈夫、戦力モ魔力モ問題無ェ」
「ヲッ!」
「……ダガ保険ハイルカ、少シ賭ケニナルケドナ」

レ級はそこで言葉を切った、訝しそうにするヲ級に苦笑気味の顔で答える。

「英雄喰ウノガ楽ダガ、コレジャ難シソウダ……ダカラ、奴等ヲ……利用シテヤル」

ゆっくりと彼女は鈍く輝く液体、『水銀』をこね始めた。



「……誰だ」

黄金の英雄が訝しげに誰かを読ぶ、すると銀の影が現れる。

トプンッ

「私ダ、話ガアル」
「貴様は……」

豪奢な貴族趣味、遠坂の屋敷の壁に体を預けていたアーチャーに器用な客が訪れた。
時臣の暴走以来彼は怒りっぱなしだが、その上妙な客の登場で本格的に切れかけている。
だが、その客は好都合とばかりに笑いかけた。

「荒レテンナア、主運ガ悪イノカイ……ヨウ、真実ガ知リタクナイカ、聖杯ガ如何ナルモノカ、トカナ?」
「……話せ、それが……時臣の舐めた物言いに繋がりそうだ」

邪悪なる異形の魔物と神代の大英雄、本来交わること無き二人がこの日接触した。
ゆっくりと最悪の聖杯戦争、その盤面が加速し始めた。





レ級は逃走、ダメージは大きいでしょうが再起は十分でしょう・・・しかもアルトリアに金剛ともに令呪損失、困ったことに。
それ以上にアーチャーがかなり切れてます、あ、裏切りフラグ・・・
題名の『亀裂』、全勢力に当てはまりますが・・・さて致命的なのはどれか、ああどう見ても原作ラスボスか。

・・・とりあえず何やらレ級と英雄王が悪巧みした所で次回へ。

FC様
個人的にタイコロ当たりの彼女が好き、ちょっと影響有るかも・・・ヲ級はピンが続くレ級の相方に成るかも。

ネコ様
時臣パパ、予想通りやっちゃったようです・・・令呪マイナス1と金ピカぶち切れという最悪な結果に。
もっとも本人はまだ2角あるからと軽く考えてます、うん駄目なフラグですね。
・・・弟子は逃げても許される、アサシンが顔つなぎに成るか?



[41120] 十二 戦いの後で
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/04 21:04
アインツベルンの拠点、二人の男女で向かい合い紅茶を飲んでいた。

「……ふう」
「提督(マスター)?」

すると、男の方が疲れた様子で溜め息を吐いた。
マスターの一人、ウェイバーである、彼を見てサーヴァントのライダーが首を傾げた。
深海棲艦との決着がつかず、だが見失いどうにも出来ず、再発見までの僅かな休暇だというのにと不思議に思った。

「どうしたデスカー?」
「あの戦いの後、別れ際に間桐の翁に聞いたんだが……先生はもう死んだってさ」

答えたウェイバーはもう一度溜め息をつく、目標を見失って困惑しているようだ。

「はあ、自分の力を見せてやるって……そう思ってたんだが、その相手がもういないなんて……」

情けなさそうな顔で彼は俯く。
だが、その際ライダーは主の『ある動作』を見逃さなかった。
彼は一瞬だけ両手を合わせた、まるで何かを隠すように。

「……怖くなった、デスカ?」

一瞬の震え、ライダーは心配そうにウェイバーに声をかける。

「……少し、だけどね」
「無理しないで、提督……知り合いの死を知れば流石に意識しない方が可笑しいです。
その……嫌だというなら、もう止めてもいいですよ」

ライダーは相手の右手、そこに刻まれた、一画だけ残った令呪を見て言った。
それを無駄撃ちすれば彼は聖杯戦争から抜けられる。
三画目で魔力供給すればライダーとしても問題ない、深海棲艦と戦うという彼女の方も目的も果たせる。

「……いや深海棲艦を呼んだのが先生なら……教え子として奴を何とかしたい、完全に他人ごとじゃないんだよ」

だが、ウェイバーはライダーの言葉に首を横に振り、まだ戦うことを告げた。
敵討というほど良好な仲ではなかったが、それでも教えを受けた者として放ってはおけないと思った。
それに他にも戦う理由は有った。

「これは……同業者が引き起こした一件だ、同じ人種が何とするべきだ……表の世界に被害を出させるわけにも行かないよ」
「……所謂ノブレス・オブリージュ?」
「いや、同じ時計塔に所属する研究者として、その最低限の責務……かな?」

身内の不始末はその手で、表社会に胸を晴れるような生き方ではないがそれでも一応のルールは有る。
彼は数代程度の『若い』一族だが、それでも魔道に生きる者としての心構えはできていた。
だから、彼は右手の令呪を一度撫でた後己が従者に言い放った。

「……この令呪を使い切るまでは僕がマスターだ、良いな?」
「後悔は……しませんか、提督?」
「ああ、しない……そしてこれを最も有効な時に使うよ」

ウェイバーは静かに、だがはっきりと頷き答えた。
ライダーは少し驚いて目を瞬かせ、だけどその後嬉しそうに笑った。

「ありがとう、提督……それでは頑張りましょう、次の戦いも」
「ああ、これで互いの目的が一致した、深海棲艦の打倒……それを為そうじゃないか。
僕は自己満足、ついでに時計塔への功績アピールと共に故国へ……ライダー、君は使命を果たし胸を張って座へ帰るんだ」

初めて二人の目的が一致した、そこに至るまでも行動もその後も、二人は顔を見合わせて力強く頷き合った。
その後同時にフッと吹き出す。

「……はは、どっちにしろ令呪前提とは……マスターとサーヴァント、僕等程主従らしくないのは居ないんじゃないか?」
「ふふっ、本当ですネー、しかも最後の令呪になのに……ま、此れ位が私達らしいと思いマース!」

互いの命を左右する令呪、それを軽く扱う自分達が可笑しく思えて二人は笑った。
聖杯を求めていない若造と、唯の英雄ではなく艦娘と、正しく異端の主従は無邪気に笑ったのだった。

「……で、あっちはどうします?」

が、笑みは引き攣る、その後真面目な顔で横を見た。
そちらではウェイバー達同様に二人の人物が向かい合っている、但し主従でもないしどちらも男だが。

「はあ、切嗣さんと……教会の、息子の方か」
「まーた、睨み合ってますネ?」

切嗣と綺礼が互いを睨んでいた、殺気立ってすら居る。
最初は綺礼が情報提供にアインツベルンを訪れたが、話す内に前のように皮肉を言い合い始めたのだ。

ギロリ
バチバチ

二人は口を開けば罵詈雑言、殺人鬼に教会の犬だと舌戦を交わし合っていた。

「わー、凄いギスギスしてる……止めないの、提督?」
「いやもう疲れた、それに……今日は彼女が居るから」

ウェイバーは面倒くさそうに言った瞬間、ヒュッと風が吹いた。

ドゴンッ

『ぐわあっ!?』
「いい加減にしろ、バカども……食事が不味くなる!」

一人の少女が目を吊り上げて怒った。
近くに置いてあった花瓶で切嗣達を殴り倒すと、ランサーが柄悪くペッとつばを吐き、その後メイドを侍らせ自分の食事に戻った。

「わあ、先輩怖いデース……」
「……他に突っ込みが居るから任せる、それに前は言葉で止めたが……それで懲りないなら力づくも仕方ない」

ウェイバーはやれやれと言いたげに肩を竦めた、濃い連中のおかげか図太くなってるのかもしれない。



十一 戦いの後で



アルトリアによる鎮圧、それにより罵り合いは止まるも切嗣も綺礼もまだ相手を睨んでいた。

「……」
「……」
「何時まで睨み合ってるのです、また殴りますよ」
『止めろ!?』

少し離れた所でメイドに給餌させていた少女の突っ込み、慌てて睨み合いのもやめるがそれでもどちらも妥協はしない。
チラチラと互いに殺気を込めて見る、流石に他が呆れそちらが動く。

「……マスター、流石にいい加減にしようか」
「アサシン、何故勝手に!?」
「いや存在はバレバレだし……ここは素直に出て誠意を見せようかと」

音も無く現れた小柄な少女、ライダー達に会いに来たアサシンが綺礼の頭を鷲掴みにした。
更に普段補佐役で、更にアサシン全体の纏め役の女性アサシンまで同じようにする。

「主よ、流石にそれは……ここで意固地になってどうするのです」
「ぬお、そっちまで!?」

二人は実力行使に出た、英霊故の人外の力任せに押す。
ギリギリと強引に前傾姿勢、土下座の体勢を主に取らせた。

「……申し訳ない、ランサーのマスターよ」
「マスターがごめん、謝る……ほらマスターも」
「ぐおお、アサシン、貴様!?」
「子供じゃないんだから……情報提供しに来たのに、喧嘩を売ってどうするの?」

屈辱に顔を歪めた彼の頭をペチペチ叩き、その頭を下げさせ自身もまた頭を下げる。
そうまでされ、意地を張っていた切嗣は毒気を抜かれてしまった。
ランサーをまた怒らせるのも避けたく、慌てて頭を上げさせた。

「ああうん、それ位で、僕も悪かったし……情報提供しに来たこと、それにアサシンの言った誠意、こちらこそ受け取ろう」
「……深く感謝する、ランサーのマスター」

切嗣の言葉に、アサシンはもう一度だけ頭を下げた後立ち上がる。
そして下がる、主に一度釘を刺してからだが。

「後はマスター同士で、でもまたやったら……わかってるよね?」
「あ、ああ、もう手は煩わせない、だから睨まんでくれ……」

すうっと目を細めながらのアサシンの言葉に慌てて頷いた。
バツ悪そうにする彼にキツイ一瞥をくれてからアサシンはライダー達の方へ向かった(長身の方は監視に残ったが)

「疲れた、マスター意地っ張り……」
「……大変だな、英霊には英霊の苦労があるか」
「全くですネー……メイドさん、彼女にも紅茶頼みマース」

ベチャとテーブルに疲れた様子でアサシンが倒れ込み、それをウェイバーとライダーが優しく労る。
大人の女性の方のアサシンはそれを微笑ましそうに見、その後一転し主へ厳しい目を向けた、監視である実力行使も辞さないという感じだ。
人間性の出てきた綺礼に親しみ感じつつも、持て余している彼に呆れてすらいるようだった。
最早誰と誰が仲間、同じ陣営なのかわからなかった。

「……もしかして、自分は軽んじられてるのか?」
『ノーコメント(です)、教会の……』

他所と仲良くし自分に素気無くするアサシンに綺礼が肩を落とし、切嗣やアルトリアは同情の視線を送ったのだった。



ドザザッ

「……現時点での情報はこれが全てだ、追加が有れば持ってくるが」

無数の資料を机に落とし、先程までの羞恥を堪えた顔で綺礼は話し終える。
アサシンの些細な反抗というアクシデントが有ったが辛うじて目的は達成、断片的だがレ級に繋がりそうな(現状ある物でだが)情報の共有を終えたのだった。
本来敵である彼らにこうするのは戦略上些かよろしくないが、アサシンは戦闘向きではなくアーチャーは気まぐれ、深海棲艦打倒を任せるしか無い。
それに、先日の戦い以降時臣アーチャー間が歪で、綺礼とアサシンは満場一致でランサーとライダーの同盟に近づくことを決めていた。

(……単なる杞憂、保険で済めばいいのだが……無視は出来ん)

綺礼もアサシンも主筋である遠坂達の問題に慎重だった。

「さて話は以上だ、ここらで……」
「……その前にお時間は宜しいでしょうか、マスター」
「アサシン?」

話は全て終わり、後は帰還だけだったがそこでアサシンが口を挟んだ。
戸惑う主を無視して、彼女は切嗣を見た。

(……折角綺礼様が変わりかけているのだ、切っ掛けになってくれよ)

彼女は綺礼が切嗣を気にしていたことを知っている、自分の性を確かめるために綺礼は命がけの試練に身を置いていたが似たようなことをしているからだ。
もしかしたら同類かもしれないと考え、彼女は切嗣が裏社会に生きる理由を問いかけた。

「衛宮切嗣、大凡の人の幸せに背を向け……凄惨な死地に、戦場に只管に飛び込み続ける、それは何故でしょうか?」
「……何故そんなことが聞きたいんだい?」
「ある人が知りたがっている、ああ安心して欲しい、聖杯戦争には関わらないことです……」
「おい、アサシン……ぐっ!?」
「黙れ、マスター、貴方は悩みすぎるのです」

ドゴッと見もせず側頭部を殴って綺礼を黙らせ、彼女は切嗣の答えを待った。
訝しそうにした後切嗣は首を横に振ろうとした。

「それは、僕の個人的な事情に過ぎないことで……」
「マスター、答えてあげたらどうです」

黙秘しようとしたがランサーが制した、食事を止めて近づいてきた彼女が囁く。
彼女は真剣な表情で切嗣と綺礼を順番に見てから言った。

「ランサー?」
「……勘ですが、後々に影響しそうですので、私の直感スキルの有用性は知ってるでしょう?」
「むう、確かにそうだが……」

暫し考えこみ、その後切嗣は今までのランサーの活躍を鑑みて決心し、意を決して話し始めた。
その際小さく誰かの名を呼んだ、「ナタリー」「シャーレイ」という言葉をランサーだけが聞いた。

「……継いだからだ、『もう居ない』色んな人達から」
「継いだか、何を?」
「想い、理想、人を助けたいという……そういう物を、尤も僕なりのやり方でだが」
「……それにしては血なまぐさいやり方の気がするが」
「……まあそれは僕個人の悪癖だ、やり過ぎてしまう……でも原点が『彼女達』だというのは確かだ」

振り絞るような言葉に真実味はあり、少し考えた後アサシンは横の綺礼を見た。
すると、彼は力無く首を振る、直ぐに念話が来た。

(……違う、求めていた物ではない……あれは自覚の上で行動している、『気づいてすら無い』私とは違う)

綺礼とアサシンは理解させられた、似ていたと思っていたが正反対だ。
明確に必要なことをしていた切嗣と悩んだ末に自分を追い込んだ綺礼のやり方が『偶然』重なっただけだったのだ。

(……だが、継いだ想いか、『自分以外』を芯とするというのは考えたことはなかったな)

幸か不幸か、全く参考にならなかった訳ではなかった、綺礼は取っ掛かりを得た気がした。

「……マスター?」
「いやいい、十分だ……何かを得られたような気がする」

それは他者から見た過不足なき仮面、偽りでも聖者足らんとした今までの彼とある意味でだが同じだった。
唯自分自身の糧にしたか否か、刻み込んでそれを目指した切嗣と『漠然と演じていた』綺礼とは違うのだ。
自分の性に翻弄される綺礼と受け入れている向こうの差はそれだろう。

「……衛宮切嗣、感謝する」
「何を、かな?」
「私にとっての命題、その参考になるかもしれない……借りができた、何時か返す」
「……よくわからないが覚えておこう、期待はしないが」

小さく綺礼は頭を下げて、その後何かを決意した表情で踵を返した。
二人のアサシンが慌てて追って、切嗣達は訝しそうに三人を見送った。

(……私は自分だけで完結していた、今後気にしてみるか……父や師、従者、それに妻のこと、ゆっくりと考えてみよう)

今までは向こうがどう思うかばかり印象を気にしていた、だが自分と相手、相互関係は考えてない。
自分が他人をどう思うか、そこで何に価値を見出すか、それが最終的に自分への疑問の答えになるかもしれない。
彼は少しずつ真実に、忌避すべきかもしれない真実に近づいていた。




・・・外道神父(未満)が悩んだ末に何か思い至った所で幕・・・そろそろ中盤の終わりかなあ?

以下コメント返信
ネコ様
切嗣とランサーはビジネスライクにしてりゃそこそこ、尤も今回のようにきつい突っ込みもやるけど・・・
で遠坂陣営はガタガタ、一応綺礼達は気づいているけど保身優先なので根本的な解決にならず、で金ピカが他所を見始め・・・うん、後は悪循環ですかねえ。



[41120] 十三 うたかたの夢
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/04 21:05
どんがらがっしゃーん

「ただいまー」

足柄が『大荷物』抱えて戻った、壊れた砲塔の仮面の破片、沢山の戦利品に大威張りだ。

「ほら見てみて爺様、戦利品……チ級の主砲残骸とイ級の頭ぶち切ってきたよ!」
「……色々言いたいがご苦労、調べるから奥に……『匂い』を虫に覚えさせよう」

大はしゃぎで深海棲艦の破片を見せる姿はまるで、獲物を銜えた猟犬のようだった。
それで喧しい帰宅に文句を言いかけた臓硯は沈黙してしまった。
苦笑する彼の横を通り抜け、心配した様子の桜が出てきた。
ちょこちょこ歩いてきた彼女は『獲物』にちょっと引きつつ、労いの言葉を足柄に掛けた。

「……バーサーカー、ええとお疲れ様」
「労いありがと、マスター……でも雪風達は送還中だ、ごめんね」
「ううん、戦争だから……でも二人にも伝えて、お疲れ様って」
「ああ伝えたよ……本当に良い子だね桜は」

ポンと彼女の頭を撫でて(英霊を人のように扱うのは稀だ、悪い気する筈がない)その後足柄は戦利品を工房に持っていく。
すると、並んで歩きながら臓硯が話しかけてきた。

「……足柄、現状をどう見る?レ級の戦力は半減したと見るか?」
「まさか……確かに減らしたけど一発かましただけ、唯スタートダッシュを阻んだ……遠坂が食われたら一気に逆転ね」

問いかけに対し足柄は面倒くさそうな顔をし、大仰に肩を竦めた。

「問題はスキルの捕食……アーチャーなら単純な戦力増強、アサシンは神出鬼没さの基である隠密性……この辺が取られれば怖いわ」
「ふむ、確かにのう、あちらとて注意するとは思うが……少し監視を増やしておくか」

足柄の言葉に臓硯は暫し考え込み、その後使い魔の派遣を決める、『前』を思い出したか苦々しい表情だ。
それを決めると彼は次の問いかけをした。

「……足柄、お主が相手の立場ならどうする?」
「難しいけど……まずは『戦力の充実』からね」
「ほう?」
「私達もあいつ等も基本は近代戦術……第一に戦力を揃え、第二にそれを相応しい時に動員する……この形は多分崩さないと思う。
実際レ級は艦載機による魂喰い、その後は地下に魔力を溜め込んだ……次もこういった方向性でしょうね」

レ級がどうするか、問われた足柄は暫し考えこれまでを鑑みて予測する。
少しして自信なさげにしながら口を開く、まずその手の準備をするだろうと、動くのはその後だと彼女は読んだ。

「ふむ、戦力の充実か……その意見を元に探ってみよう」
「ええ、お願い……ああでも『決め付ける』のは不味いかも」
「……というと?」
「準備っていう方向性は変えなくても……何かしら奇策が来るかもしれない、『手段だけ』がらりと変える可能性はあるわ」
「……了解じゃ、そのことにも注意するか……」

つまりはそこまでの道筋の変化、レ級は今まで魔力供給を重視していたが『それ以外』を重視して動く可能性がある。
足柄の警告に臓硯は頷く、暫く手駒の虫や雁夜と共に情報収集しようと思った。

「(戦争の流れが変わったか……)暫く読み合いじゃな、慎重に成らねば……」
「そうね、気をつけましょう……アインツベルンの連中はこの後どうするのかしら?」
「確かマスターが戦争屋だったな……拠点の準備、迎撃体制を整えるといった所かのう?」

二人は味方と成り得る陣営(少なくとも対深海棲艦に於いては)を思い浮かべた、何となくだが彼等が鍵になるような気がした。



十三 うたかたの夢



ヒュウヒュウッ

「……赤い?火、いや……戦場か」

ふと気づくとランサー、いやアルトリアは煤けた風を受けていた、彼女は『赤い地面』の上に立っていた。
訝しそうに周囲を見回し、直ぐに既視感を覚えた。

「ああ、あの『丘』か」

アルトリアがよく知る、いや忘れられない場所だった。
彼女の騎士達が倒れ伏し、持っていた剣や槍がそこかしこに突き立つ。
そして、彼女の前にはよく似た容姿の騎士が立っている、その手に有る剣の名は『クラレント』だ。
チラと手元を見ればそこには一本の槍、衝角ではない『ロンゴミアント』が光景の意味を裏付けする。

(ああカムランの夢か……それにモルドレッド、我ながら女々しい夢だな)

この期に及んで昔の夢、終わったことを引きずる自分に呆れ果てるも、アルトリアは目の前に立つ『息子』とも『半身』とも言えるホムンクルスを見た。

「私は聖杯を手にしてみせる、そしてあの国をやり直して……まあ、その時も私が王でる必要は無いだろう。
……他の円卓の騎士、いっそお前が王になるか、そして私は……ケイやマーリンのようにそれを支えるのも悪くはない」

何とはなしに彼女は目の前の騎士に語りかけた。
それが感傷だとはわかっていても、思わずそうしてしまった。
嘗てこの騎士が王器ではないと思ってはいたが(良くも悪くも)純粋だ、ガムシャラと言っていい程でそれくらいの方が上手く行ったかもしれないと。

「……ま、聖杯戦争が遂行できるかどうか、そんな状態で言うことではなかったか」

そこまで考えた所でアルトリアは気が早いかと肩を竦める、皮算用という話ですら無い。
呆れる彼女はふと終わりと、自分の目覚めが近いことを自覚する。

『…………サー、しっかり』

丘とは違う場所からの声、現実が自分を呼んでいるのだ、だから最後に目の前の騎士に言葉を掛けた。

「モルドレッド、手に入るかはわからないけれど……聖杯、手に入れて戻ってみせます」

それが夢の中の幻だとわかっていても、でも彼女は誓おうとした。

「そして、あの国を再び……」
「……そうやって一人勝手に悩んで戦って、勝手すぎるぞ、騎士王」

ビクリ

目の前から複雑そうな感情を湛えた瞳、同じく感情を感じさせる血を吐くような声、ぎょっとするアルトリアに『モルドレッド』が睨む。
そのままアルトリアの胸ぐら掴んで引き寄せると、殺意混じりの叫びを上げた。

「死してまで戦って、地獄を潜り抜けて……貴方の血で染まった聖杯等重過ぎる、そんな物を届けられても困るんだよ!
それくらいなら……いっそ自分の為だけに戦ってくれ、ブリテンや私達のことなんて考えずに……」

『モルドレッド』は後半力無く言って、アルトリアを弱々しく叩いた。

「聖杯の為に全てを犠牲にする、そんなの貴女には似合わない……騎士王、一度くらいそれを捨てて……」
「モルドレッド……」
「……それで聖杯が駄目でも誰も恨まない、だから……」

すると相手の姿が揺れる、最初にモルドレッド、次にガウェインやランスロット、最後にマーリンの姿が見えた。
彼等は鎮痛そうな表情をアルトリアを向けていた。
恨んでいないと、無理しないでくれとアルトリアをを案じていて、それが却って彼女には辛い。

「何で、私は貴方達の為に……」
「……貴女がそういう人だとは知ってる、でも自分のことも少しは考えてもいいはず……」

最後にモルドレッドに戻り、だけど夢は冷めかけて、辛うじて言い切るかどうかの所でアルトリアは『目覚めた』。



ガタッ

「モルドレッド、貴方は……『自分のことも』か、貴方を殺した私に何故そんなことを……」

突っ伏していた机からアルトリアは起き上がる、頭を数度振りながら言葉を思い出す。
奇妙な夢だった、あるいは彼女の迷いなり何かが騎士の口を通じて形になった可能性や、またこういった物は未来や過去を暗示するという故事もある。

「……ただの夢と、切って捨てるのは……出来んか」

そこで考えた所で、彼女はふと違和感のような物に気づいた。
異様にガラガラしているというか、喉が渇く、というか異様に痛み口を開くのも億劫だった。
不思議に思って口元を拭い、そこで一瞬固まる。
拭った手は真っ赤だった、が血とかではない。

「はて、これは……」

慌ててこうなる前を思い返す、同時に周りも見回す。
そこは洋風の館、だがやや放置されたのか荒れていて、加えて偽装されているが魔術師関係の物が落ちている。

「ああ、そうだ……エーデルフェルトの館、アインツベルンの城より街に近いここに移ってそれから……」

ゆっくりとだが彼女は事情を思い出してきた。
レ級が何時動くかわからないから市街に近い場所、第三次聖杯戦争で使われた拠点の一つ、つまりここに一時の引っ越しをしたのだ。
何と言っても最初から設備が有れば一から用意するよりは楽だし、まだ他の候補としてある武家屋敷があったが異国の者が多いから不自然と判断した。
そして自分や切嗣、ライダー達に一部のメイドで準備した筈だった。

(確か、そこに……)

そう誰かが、来客が来た、そこまで思い出した彼女は『机のど真ん中の大鍋』を認識する。
やたら刺激臭が鼻に来た。

「……『泰山の激辛中華』、アサシンが引込み祝いと……さっきの夢でなくて走馬灯か!?」

興味本位で食べて意識が絶たれたのを思い出し、彼女はバッと後退った。
よく見れば別の机でも被害者が居た。
アサシン(何時かの少女)とライダーがぶっ倒れていた。

「ぐああ、泰山の昼限定メニュー、安いからって買うんじゃなかった……」
「……ああマヤ、嘘だと言ってくれ……お前が人形だなんて、そんなはず……私を一人にしないで、マヤ」

今更ながらに後悔する元凶、何らかの電波を受信している後輩がそこにいた。
今正気なのは偏に耐久差のおかげだろう。
アルトリアは少し前までの自分を思い出しそっと目を背け、これ以上相手の無様を見るのも何だと離れることにした。

「行こう、この国でいうところの武士の情け……おいそれと見る物ではない……」

未だヒリヒリする口を押え、彼女はふらつきながら地獄のような部屋を出て行った。



逃げるように台所を出た彼女に二人の人影が話しかけてきた。

「……ランサーか」
「あ、やっと生還者がひとり」

大きな机に荷物を並べる二人のマスター、切嗣にウェイバーだ。
といってもその作業は口実、どう考えても泰山の料理から逃げるための物にしか思えなかった。

「二人共、逃げましたね?」
『……あれは人の食べ物じゃないし』

ランサーが睨むと二人はそっと目を逸らした。
更に誤魔化すように作業を続ける、態とらしいそれにランサーは嘆息した。

「……まあ良い、あれはこっちの食い意地が原因か……で二人は何を?」
「アサシンが持って来たこれ……魔化された宝石の分配だ」
「戦争前に遠坂から預かったそうで、実際戦うこっちに使えと……」
『……他人の金だ、贅沢に使おう!』
「何気に酷いな、このマスター共……」

ジャラジャラと音を立てるそれを切嗣達は魔力量ごとに整理していく。
そして、寄り別けが終わった所で同時に立ち上がった。

「……さて終了だが、ここから分ける訳だな」
「どっちも当然多く欲しい、ならばここは……」

二人はバッと拳を付き出した。

『最初はグー……ホイ!』
「ぐうっ……」
「……僕の勝ちです」

グーの後二人は手の形を変える、それを比べて切嗣が項垂れた。
だが、直ぐに顔を上げ二度目の勝負へ。

『最初はグー……ホイ!』
「……良し、二連勝」

グーの後二人は手の形を変える、それを比べて切嗣が項垂れた。

『最初はグー……ホイ!』
「三つ目!」

グーの後二人は手の形を変える、それを比べて切嗣が項垂れた。

『最初はグー……ホイ!』
「……取った、これで四つ!」

グーの後二人は手の形を変える、それを比べて切嗣が項垂れた。
流石にここでランサーが口を挟んだ。

「待て待て待て、幾らなんでも弱いぞ、マスター!?」
「何故勝てないんだ……」
「……多分、幸運の差?」
『……うわ、勝ち目が無い!?』

今更ながらにそれに気づいて、ランサーと切嗣ははっと顔を見合わせ凍りついた。
だが、それは一瞬のことで、ランサーはニヤッと笑って切嗣を押しのける。

「……退いて、私が出ます!」
「何?……良いでしょう、来い、ランサー!」
「ふっ、私はそこの根暗マスターとは違いますよ」
「言うね、でも……ライダーの先輩とへ容赦はしないぞ」

ウェイバーは余裕綽々で迎え撃ち、ランサーは意識を集中しながら拳を振り被る。
が、最初のグーの直後ニヤリと笑って『ある能力』について言った。

「ところで……直感スキルのこと、覚えてます?」
「あっ……」

ドザザッ

数分後、圧倒的な読みで彼女の前に宝石が積まれたのだった。

「ふっ、我が直感は……『羅針盤』の三~五倍程度の精度です!」

ドザララララッ

「何と、あそこから一気に挽回した!?」
「ひーふーみー……七割といったところか、最初の切嗣の負けがなければもっと行けたのだが……」
「……まあ三割残れば十分、僕等はここぞという時に宝具を使うけど、複数多用するからあっちも欲しいだろうし」

宝石を前に勝ち誇るランサーに切継が驚愕し、一方で減ったが十分だとウェイバーは満足するのだった。

「……でそれはそれとして、下の中華を片付けに行きましょうか」
『ひいっ、死刑宣告!?』

でそれはそれとして(逃げたのを)根に持っていたランサーは二人を引きずっていった。
先に倒れるライダー達もノーサインで手伝い始め、第二の地獄が始まった。

『ははは、遠慮せずに食べろ(デース)』
「ああ父さん、僕もそこに行くかもしれ……ぐはっ!?」
「……ヤバイな、ちらと先生が見え……ごほお!?」

惨劇の再開(あるいは復讐劇)エーデルフェルトの館に絶叫が響いたのだった。




閑話的なの、空気が違いすぎるか?・・・hollowとかタイコロっぽかったかも。
まあ後半前に軽い話を挟んでみました、忙しくなる前にアルトリアさんの内面を書いときたかったし・・・こんな感じで引き摺ってます、マスターもそうだが。

以下コメント返信
天パ様
レ級はその、極端な話リアクション取ってくれる人が居ないから・・・英雄王が動き出せば幾らか描写が増えてくるはず。

ネコ様
言峰は多少自覚が出てます、同時にそれを恐れ・・・開き直るかマイルドになるか、正に分水嶺ってところかと。
英雄王が遠坂に、そして中々愉悦しない言峰にも見切りつけ始めてます・・・彼が動けばそのまま終盤でしょうね。

rin様
英雄王はやはり敵でないと、そういう拘り・・・というか味方だと強すぎて使い難い、性格的にも向いてないし、何でまあ裏で組んじゃいました。
遠坂は戦力考えると何で苦戦したのとしか・・・第四次ってこう、戦力と精神的な安定性が反比例してる気がします、遠坂はまさのその代表(逆がウェイバ達)
最後に嬉しい感想ありがとうです、こんなシリアスと緩さ交互な話で良ければお楽しみを・・・



[41120] 十四 運命に続く日
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/04 21:05

ダッとスーツ姿の男装の少女が市街、その寂れた一角を駆けてきた、どこか苛立った様子だ。

「……ランサー、こっちです!」

ランサーに呼びかけたのは侍従姿のホムンクルス、街の巡回に向かった切嗣のサポートに出ていた女性だ。
焦った様子でランサーに状況を説明した。

「状況は?」
「連絡は未だ取れず……できるだけ早く合流を」
「わかっています……切嗣め、世話を掛けてくれる」

ランサーが苛立たしそうに言う、何せ少し前からマスターの行方がわからないからだ。
巡回に向かったのは深海棲艦の目撃情報の有った場所で、そのせいか魔力に乱れが生じ念話が通じ難かった。
不安定な状態で一度だけ繋がるも、戦闘中だと告げて切れてしまった。

「やれやれ本当に世話が焼ける、尤も今回は仕方ないとも言えるが……」

溜息つきつつランサーはチラと足元を、そこに散らばった鞄とその中身に複雑そうな顔をする。
それはやや小ぶり、大人が使う物より明らかに小さいサイズの、つまり子供用の持ち物だ。

「ふんっ、子供が襲われてるから助けに行ったか……これでは皮肉も言えないな」
「一応止めたのですが、時制御で加速して突っ走っていってしまい……」
「仕方ありませんね、機械的に見えて……まだ人間性が残っていたか、まあ見捨てるよりは余程マシだ。
……やれやれ、追うか……私が辿り着くまで無事だといいのだが」
「ランサー、あの方をお願いします……ご武運を!」
「ああ、向う見ずな馬鹿主を連れて、必ず戻る!」

侍従にコクと頷いてからランサーは走り出す。
内心では少しだけ彼女は主を見直し、でも無茶を後で怒ろうと思っていた。



カツカツ

「ふう、久々だな、こういう窮地は……」

その頃切嗣は数人の子供を先導し、深海棲艦の縄張りから脱出しようとしていた。
深海棲艦の影響か辺りの魔力が不安定で、軽度の呪いのように彼と子供達を消耗させる。
唯それでも彼は気合で耐えて、子供達を守って縄張りの中を歩いて行く。

「……八方塞がりだ、戦場を思い出す」

辺りにいるのは精々艦載機程度だが、それでも人が相手するには難しい相手で、しかも子供連れとなれば経験豊富な彼でも緊張は隠せない。

(やれやれ、これではランサーに何を言われるか……)

加えて、後に待つ説教に関しても頭が痛く、切嗣は顔を僅かにだが顰めた(子供の前なので本当に僅かにだが)

「……ちっ、先に居るな、迂回しよう」

それでも豊富な経験が味方し、艦載機の動きを読んで安全な方へと進んでいく。
一旦角に隠れ、フワフワと艦載機が通りすぎるのも待つ。

「……良し、行こう」

はあと安堵の溜息をついて彼等は脱出を再開する。

(艦載機だけでよかった、人への警戒が薄いことも……)

サーヴァント対策なのか向こうが霊的な感知を優先し、物理的な警戒がやや疎かなことが味方した。
更に言えば子供達、その中に一人幾らか冷静な『少年』が混じっていたのも幸運といえた。

「オジサン、少し待って……さ、行こう、無理そうなら俺が手を引く」
『……う、うん』

『赤毛の少年』が他の者達を促す、潜在的に魔力量を高いのか呪いに近い状態の中でも余裕があった。
彼が他の子供を励まし支えているおかげで切嗣は艦載機に集中できるのだ。

「すまないね、唯でさえ辛いだろうが……」
「良いから、前を見てくれ、オジサン」
「……オジサンは止めてくれ、まだ若い……つもりだから」
「えっ、うちの父さんと同じくらいに見えるけど?」
「…………ああそうだよ、僕は子持ちで既婚者だ、オジサンでいいです」

切嗣はちょっと項垂れた、彼と『――士郎』はこうして『本来とは違う』会い方をした。



十四 運命に続く日



「もう少しだ、だから頑張ってくれ」
『……は、はい』

切嗣は子供達に声を掛け励ましながら、慎重に縄張りの中を進んでいく。
ここは市街の外れ、開発途中の場所で、だからこそ艦載機が我が物顔で居座る危険地帯だった(今回の巡回はそれに気づき、排除する前段階の情報収集の為だ)
表まで出れば一旦安全だが凡そ数百メートルで、普通なら短距離だがこの状況では何倍にも感じた。

「ええと、君達は……何でこんな外れに?人気のない所は危ないだろ……」
「う、その……」

切嗣は子供達に話しかける、気を張り続けるのは宜しくないと思ったからだ。
すると『ツインテールの黒髪の少女』が気まずそうに黙り込んだ。

「コトネを探して、迷い込んじゃって……」
「コトネ、その子かい?」

黒髪の少女は同じくらいの年の、薄幸そうな(今回の事がなくても殺人鬼に攫われそうな)少女の手を握っていた。

「……私、気づいたらここに、何だか頭の中がボウッとして」
「そうか、『誘われた』か……運が無いな」

暗示や魅了なりにやられたのだろう、不運というしか無い。
すると赤毛の少年が説明を加えた。

「そっちのツインテールが『コトネはどこ』って走り回ってたんだ、でここに……最近行方不明だとか物騒で、大人が行くなって行った場所に……」
「彼は私を引き止めようとして、でも私はそれを無視して……ごめんなさい」
「ミイラ取りがミイラに、か……それも二人も……まあ食われる前に見つかってよかったけど……」

意識を奪われて拐かされたのを黒髪の少女が探しに行き、それを止めようとした赤毛の少年が巻き込まれた。
切嗣は何とも言えない状況に嘆息する、これでは怒る訳にはいかない。

「ううっ、ごめんね、『凛』ちゃん」
「ううん、そもそも……避難の前に会おうとした私が悪いの、コトネを呼ばなければ……」

少女達が謝り合う、が切嗣は別のことが気に掛かった。
具体的には黒髪の少女の名、更にその顔も聖杯戦争開始時に集めた資料で見た気がした。

「……遠坂凛?」
「な、何で、知って……」

ぎくりと少女が身を竦ませた。

「あ、あんた、まさか父様と同じ聖杯せ……」
「……それ以上言うなよ、間違いではないけど」

聖杯戦争参加者かと問おうとした少女、遠坂凛の口を慌てて塞ぐ。
魔術はあくまで裏の世界の事柄であり、表の世界に広める訳にはいかない、言い含めるようにし彼女を黙らせた。

「安心しろ、人質になんてしない……従者の方がそういうの気にするとは思えないしね」

とりあえずこの場で警戒されるのも不味いと、切嗣は安心させようとする(傍若無人なアーチャーには通じないだろうし)

「オジサン、女の子泣かせるなんて実は悪い奴じゃ……」
「違うから、誤解をといただけだって」
「なら良いけど……よくわかんないけど大丈夫?」
「え、ええ……もう大丈夫、一人で歩けるから」

それまで少年に手を引かれていたが、遠坂凛は少し顔を赤くし手を離した。
が、そこでややふらつく、魔術師の家系といえど(魔力回路も継いでるはずもないし)まだ未熟で呪いの中では辛いらしい。
少年は慌てて手を伸ばし、再び少女の手を取り立たせた。

「ああほら、無理は駄目だって……捕まってて、良いな?」
「う、うん、ありがと……」
「……ははっ、やるね君……行こうか、もう少しだから頑張れよ」

再び彼女は少年に支えられ、切嗣が先導し少年が二人の少女を引いて歩く形で脱出を再開した。



ジリジリと警戒しながら彼等は進む、先程の会話から幾らか進んだ、残り百メートルと少しといったところか。

「(……もう少し進めば一息に、といったところか)……そうだな、ならば気分展開に何か話すかい?」

子供の足で一気に走れる距離まで詰めれば後はそのままと、そう考えた切嗣は少年達を一度休ませることにした。
また体だけでなく心も、そう考えて張り続けた気を和ませる為話しかける。

「話って……具体的に?」
「そうだな、ここは(シャーレイなら……)夢とかどうだい、ここを逃げれたらどうするとかさ」

クッと初恋の人を忘れてない自分を笑い、切嗣は少年達に気分展開の話題を投げかけた。
順番に三人の顔を見回して答えを促す。

「ええと、私は……」
「それじゃコトネちゃんからどうぞ」
「……普通に、お嫁さんとか、その……今みたいに酷いことに有ったから……普通がいいです」
「ひ、悲痛だけど……わ、悪く無いと思うよ?」

薄幸そうな少女が子供らしい、だけ痛々しい事を言った、周りの凛達が慰めるように頭を撫でる。

「……ええと、遠坂のご令嬢は?」
「私は……お父様の後を継ぐのかな、何だかんだ言って私は遠坂だもん」
「まあ、そうだろうね……」

次に切嗣は遠坂凛に問いかけ、彼女は大人っぽい態度で答えた。
でも、その後子供らしい、優しい表情で加えた。

「それに……私が頑張れば、もしも妹が間桐に馴染めず逃げてきても……守れるからさ」
(……あの爺さんの本性を知れば、どう思うかなあ?近寄るなというべきか?)

妹思いの少女だったが、切嗣は曲者の老人を思い(同情すらして)首を傾げた。

「……最後に君は?」
「俺は……ええと、笑わない?」
「ああ、笑わないよ」

少年は一瞬躊躇い、その後切嗣を見て夢を語った。

「今までは考えてなかったけど、今は……オジサンみたいな人、ええと何ていうのかな。
そうだ……『正義の味方』っていうのかな、うんそう成りたい」

彼は切嗣を見て真剣な表情で言った、自分達を助けてくれた人みたいになりたいと。
その輝く目に切嗣は何とも言えず、然りげ無く目を逸らした。

「……言いすぎだ、そんな立派なもんじゃない」
「でも、さっき助けてくれたから……オジサンみたいに成りたい」
「買いかぶりだ、僕はそんな……」

思わず自分は違うと怒鳴りかけ、相手は子供だと切嗣は慌てて口を紡ぐ。
誤魔化すように彼は前を、歩き出そうとした。

「……休憩は終わりだ、行こうか」
「ええと……俺、何か不味いこと言った?」
「違う、何でもない、気にしないでくれ……(僕がそんなんじゃないってだけ、なんて子供に言えるか、情けない……)」

彼は純真な言葉に、憧れに却って耐え切れず、酷く自分が情けなく思えて俯いた。



やがて距離が数十メートルほどに縮まった。
切嗣は立ち止まり、手元の時計とここまでで測った艦載機の巡回速度を計算する。

「……ちっ、一機抜けられない……やり過ごすのな無理だ」

どうしても艦載機が一機邪魔だ、かといって時間を無駄にすれば他が来てしまう。
彼は少し考え、赤毛の少年達を向いて真剣な表情で問いかけた。

「三人共、走れるかい?」
「え?な、何とか……そっちは?」
『だ、大丈夫!』

まず少年が頷いて、次の彼に手を引かれた少女も続けて頷く。

「良し、なら……僕が合図したら表まで走れ、一機邪魔なのが居るがそれは僕が潰す」

そういうと彼は行き成り隠れていた角から出て、路地の目立つところに出ていった。
慌てて少年が口を開きかけ、それを不味いと思い少女達を引いて角に隠れる。
その数秒後、フワフワと艦載機が路地を飛んできた。

『え?』

が、艦載機は一度切嗣を見て、そこで逡巡するように沈黙する。

「……何で?」
「あの人、『止まってる』……」
「え?」
「心臓も鼓動も、何もかも……完全に止まって……」

少年は首を傾げ、魔術的な見方の出来る遠坂凛が驚愕し、その次の瞬間奇妙な時間は終わる。
凍りついたように『停止』していた切嗣がニッと笑い、すると彼の姿が掻き消えるように消えた。

ズドンッ

そして、再び現れたの艦載機の目の前、彼は艦載機の装甲の隙間に銃口を捩じ込み引鉄を引いた。

「……ふうう、『速める』のと逆のやり方は堪えるな」

真っ青な顔で銃を引き抜き、同時にずずんと艦載機が落下した。
彼は素早く弾丸を装填しつつ叫んだ。

「今だ、走れ!」
『はい!』

ダッと三人は走った、先頭を行く赤毛の少年が少女達の手を引いて走る。
そして、切嗣は残り、逆から音を聞きつけた艦載機を迎え撃った。

「え?……オジサン、何で!?」
「……良いから行くんだ、誰かがやらないと……少年、止まるなよ、その二人も死ぬぞ!」
「……何だよ!やっぱりあんたは……正義の味方じゃないか!?」

泣きそうな表情で少年は一瞬止まりかけた足を進め、それを見送って切嗣は銃を構える。
その時彼はどこか苦笑気味の表情だった。

「正義の味方ね、最後に面倒な置き土産をしてくれる……全く、やる気が出るじゃないか」

笑ってるようで怒ってるようで、何とも言いがたい表情で彼は意識を集中する。
直ぐに数体の艦載機が集まり、その砲塔を切嗣に向ける。
だが、着弾の寸前彼の姿がブンと掻き消えた。

ズドン
ガガガッ

「……邪魔だ、消えろ」

一瞬で切嗣が艦載機の背後を取り、大型拳銃をぶっ放すとすかさず自動小銃を抜いて掃射する。
それで艦載機の体勢が崩れる、それだけで十分だった。

「ま、倒すには至らないだろうが……さあ出番だ、君は速さだけが自慢だろ、ランサー!?」
「……減らず口を、心配させておいてよくいいますよ」

バキンッ

風を纏ってここまで突っ走ってきたランサーが衝角を振り抜き、艦載機達を粉々に砕いた。
不機嫌そうな彼女に切嗣はふてぶてしい表情で更なる命令を下す。

「さ、掃除と行こうか……この辺の艦載機共、その場所と巡回パターンは逃げるついでに読めたのでね」
「何ですか、妙にやる気ですね?……何か有ったので?」
「……僕は正義の味方らしい、だから化け物共を片付けようかと思ってね」

この言葉に首を傾げた従者を引っ張って、切嗣は艦載機の群れの排除に向かう。

「……今日くらいは良いだろ、こういうのも」

その時彼はずっと昔のような、険のない、純真にそれに憧れていた頃のような顔をしていた。



表で、侍従に呼ばれた青年が赤毛の少年達を保護していた。

「……ふん、魔術師殺しらくないことだ」
「あの方はあれで結構複雑ですから……」

青年、言峰綺礼は呆れ、侍従が言い訳のようなことを言う。
それでも彼は首を傾げ、それでも保護した少年達に処置をしていった。
同門である凛は注意に止め、コトネという少女は記憶を消す、凛達の別れは改めてということに成る。

「ふむ、友人が戦争に巻き込まれては心の傷か……ついでに彼女を送る際、家族に暗示でも掛けておくか」
「暗示、どのような?」
「……暫く街の外に出そう、親戚にでも訪ねさせるか」

最近人の善性を気にしている彼は妹分の為に世話してやることにする。
勿論戦争が佳境になれば街中に避難を促すが、魔術を隠すという前提上遅れて被害が出る可能性もある。
だが、その前に精々一家族が先に避難して問題ないと考えた。

「問題はあの少年だな、こちらは悩ましいな……」
「潜在的な魔力量からして、記憶が残るかもしれません……どうするのです?」
「……暗示は駄目だな、こちらで言い含めるしかあるまい」

赤毛の少年の処置は幾らか悩んだ、コトネのように記憶を消しても残る可能性がある。
だから、彼は別の方法を取ることにした。

「……捻らず素直に、化け物の情報が出ればパニックになる、だから秘密裏に処理するから黙っているように……ま、こんなところだろう」

見た限り純朴そうな少年で、理路整然と解けば素直に受けるだろう。
更に加えて一つ念を入れることにする。
その、『彼らしくない一つの親切』、それは後に少年の未来に大きな影響をあたえることと成る。

「まあ、又こんな事に巻き込まれる可能性はあるな……『護符(タリスマン)』でも作るか、それで流れ弾程度の事故は防げよう」
「……それが宜しいでしょう、御三家のご令嬢を救った少年、無為に死なせるのはどうかと思いますし」

そう決めて彼は教会の知識を元に作業に向い、こうして少年は切嗣と綺礼、二人から『目指すべき理想』と『生き残る為の道具』を得たのだった。




今回も軽めの話、進まなくてごめんなさい・・・でも第五次を考えたらこれを書かない訳には行かないので・・・
この出会いが多少なりとも10年後に影響しそう(それ書くのは大分先だけど)・・・

以下コメント返信
ネコ様
桜に関してはまあ大丈夫かと、但し臓硯に深く関わったことで(そのせいでか?)困った影響があるかもしれませんが・・・
直感スキルは原作でも割りとチートですから、一部宝具をその使用前に性質読んだりとか・・・羅針盤の気まぐれっぷりに関しては仕様だと諦めましょう。

てっぺー様
あー実は未定で、そう言う訳では・・・単に街から離れた城だと展開的に無理あるので移っただけ(第五次を書くは確定、でもhollowまではその・・・)

rin様
ええ、英雄王とレ級が動くまでの平和な時間、悲鳴上がってるけど・・・切嗣が丸く見えるのはマイペースな英国×2の(悪)影響。
・・・第三次は細かく決めてませんが、聖杯の異常で消滅寸前か最低でも弱体化した各参加者をレ級が無差別に魂喰らいしつつ襲った感じですかね。
で、臓硯達が捕食スキル(これに改造も含んでるかも)で強化されまくった彼女を捨て身で倒した(多分強化分は令呪で埋めた)ってとこかと。



[41120] 十五 その先は見えず
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/14 21:53
「……用意しておいてよかったな、これ」

ドドド、切嗣の前で大型バイクが甲高く唸りを上げる。
彼はそれを手慣れた様子で操作し、エンジンに火を入れた。

「……ふむ、準備の良さは褒めてあげますよ、マスター」

ストと後部座席にアルトリアが腰を掛ける、片手を切嗣の肩へ、もう片方の手は幾つかの小物が入った鞄を抱えている。

「……精々落ちるなよ、ランサー」
「そこまで間抜けではありません……出してください」
「ああ、行こうか……」

準備ができたのを確認し、その後切嗣はエーデルフェルト館のテラスに座る少年を見た。

「ああ……ウェイバー君、少し出るよ、留守は任せた」
「……行ってらっしゃい、二人共」

頷いてかっ飛ばし、みるみる遠くなる背にウェイバーは少し呆れた様子で手を振った。

「先日、子供を助けて艦載機と戦ったのに……また直ぐ見回りか、タフな人だなあ」
「多分、根が真面目なんでしょうネ、あの人……」

彼の向かいでランダーが侍従(アインツベルンからついてきたホムンクルスだ)振る舞われる紅茶に舌鼓を打ちながら答えた。
見回り及び発見した場合の深海棲艦の眷属退治は二人もやっているが、そのペースは遥かに向うが多い。
それは体力、そしてサーヴァントを支える魔力の差であり、更には敵を倒すことに拘る戦闘者故の精神、それを徹底できるかとも言えた。

「……僕はあそこまでやれないな」
「戦闘に特化した心構えが有る、その辺は個人差デース……私達は温存しましょう」
「ああ、わかってる……何が起きてもいいように」

ある意味非常時の対処を任されたともいえる、ウェイバーは経験の差を悔しく思いながらも焦りを我慢した。

「……そういえば少し仲良く成ったのかな、皮肉が減った気がする」

落ち着いた所でウェイバーはううむと首を傾げた。

「あの二人、歩み寄る気になったのか?」
「うーん、前回の事件ですが……先輩が『見直した』と言ってたからそれかも」

何が起きたかは詳しくは聞いていないが、ランサーは主の珍しい一面を見たらしい。
それがいい方向に出ているのかもしれない。

「あの二人は似てるけど、根が違います……同じ戦闘者でも兵士と騎士というか」
「ふうむ、全く同じなら争わない、全然別ならそれはそれと割り切れる……微妙な差異が却って違和感になるってことか」
「でも、それが先日の一件で少し解消したのかも……」

そこまで考えて、ライダーはある『IF』を口にした。

「もし判り合えなかったまま聖杯戦争が進んでいって……そうしたら、何時か最悪の形で破綻したかもしれません」
「それが……今なら起きないと?」
「さあ、現時点では何とも……でも、歩み寄れたのは良いことだと思いマース」

少なくとも今の状態は悪くない、何となくそう思いながらライダーはもう小粒程の切嗣とランサーの影を見た。

(……ある意味似た者同士、上手くやってくれるといいんですがネー)



十五 その先は見えず



「……例の場所はそろそろの筈だが」

ブロロ、切嗣とランサーの乗るバイクは市街を出て山間部近くへ、ある程度行った所で辺りの様子が変わる。
俄かに霧が出てきた、陽の光がそれに遮られる。

「ああ、やはり……僅かにですが、『あれ等』の気配を感じます」
「そうか、まあ予想通りだ」

二人は構わずそこを突き進む、ある程度まで霧に入った所でバイクを止める。
辺りには大きな川が見えた、本来ならそれなりにキャンプ客等で賑わっているだろう。
だが、今はしんと静まっている、この辺りで奇妙な怪情報に怪事件が有ったからだ。

「……さて、少し待つかな、『向う』が動くのを」
「ええ、そうしましょう……で待つ間『これ』を」

いきなりランサーが持っていた鞄から棒状の物を引き抜く。

「ほらマスター、突っ立てるのも何だし……食料調達係でも」
「……君さあ、本当にどこまで」

切嗣の顔ががヒクヒク歪む、それは組み立て式の釣り竿だった。

「……一応聞くがこれは?」
「釣りです、そこに川があるでしょう……ああ、焼き魚が良いですね」
「いい加減にしろよ、サーヴァント、そんなの自分で……ああ不器用な君なら小火起こすか、やるよ」

釣り竿を切嗣に押し付けると、ランサーは川べりの石に腰掛け同じく鞄から香辛料の瓶を並べていく。
彼は思わず怒り断りかけ、だが少し考えてやむを得ず受け入れる。
彼女は完全に食事専門で、それにやらせる方が問題だと気づいたのだ。

「……君、英雄時代からこうなのかい?」
「ええ、割りと……」
「騎士の苦労が浮かぶようだ……」

ガクリと肩を落とし、切嗣は釣り竿を手に川に向かった。



ヒュウウッ

暫く切嗣が釣りを、ランサーが観戦していると冷たく濡れた風が吹いた。
それに合わせて霧が少し深くなった気がした。

「……後少しかな、『向う』がその気になるのは」
「……でしょうね、ま、二三匹釣る時間は有ります」

二人はそう言葉を交わしやや警戒を強めた。
切嗣は懐の銃器を気にしつつ釣り竿を持ち、ランサーは衝角を手元に置いてから焚き火(釣りの合間に切嗣に用意させた)で魚を炙っていく。

「……ああ、少しいいかい、ランサー?」

そんな折少し暇を覚えたか、切嗣が釣りしながらどこか恐る恐るといった感じで口を開いた。

「その、時々不安になるんだが……君は聖杯戦争を諦めてないよね?」
「いきなり何ですか、在り得ないでしょう、私は聖杯を求めるから召喚に応じたんです……戦闘自体が目的の英雄も居るかもしれませんが私は違う」
「いやだって……凄い俗に、『現世生活の謳歌』というか……ああも戦闘以外に浮ついた様子だからなあ、やる気ないのかって……」
「ま、まあそういうのを楽しんでるのは否定しませんが……」

切嗣の指摘にランサーは顔を逸らす、後輩であるライダーの乗りが良いので一緒に楽しんでいることは否定出来ない。
一度咳払いし、それだけではないと、目的は変わっていないと主に告げた。

「私の目的は今も変わっていません、あの日あの時……窮地に在ったブリテンをやり直す。
そうだ、私達はまだやれた……敵国に囲まれ、蛮族に襲われ続けて、やっとそれを何とかしたところでの滅び等冗談ではない」

例えば既に斜陽の中にある国なら諦めたかもしれない、だが一度詰み掛けた状態から折角立て直し、なのにそこでの滅びとなると流石に納得できない。
しかもそれが『退廃的思考の極まった魔女』と『それが生み出した狂気の少年』による反乱なら尚更だ。

「だから聖杯で全てをやり直す、あるいはその時私が王でなくてもいい……あんな悲劇なんて絶対に変えてやる!」

それは血を吐くような叫びだった、彼女は切嗣の疑いを全身全霊で否定した。

「(あの夢で、『彼』がああ言っても……)切嗣、余計な心配は結構です……私の意思は変わらない、必ず勝ち抜いてみせます」
「そうか……ならばいい、さっきのは忘れてくれ」

彼女の言葉に切嗣は自分の懸念を消した。
だが、その瞬間切嗣の浮かべた顔にランサーは気づかなかった。
その時彼は訝しげな顔だった、奇妙な感慨のようなものを覚えていたのだ。

(英雄といえど……彼女も同じ『人』か、それも個人では本来無理な重荷を背負おうとする……)

まるで鏡写しで、同病相哀れむとも同族嫌悪ともいえる何とも言い難い感情を懐いた。
彼は(自分も込みで)呆れた様子でハアと嘆息する。

(皮肉めいてる……ある意味僕も彼女も悲観的な程のリアリスト、それが聖杯なんて求めるとは)

何とも言えない響きが有って、ハアアと切嗣はもう一度大きく溜め息をついたのだった。



ジャリッ

「……むう、これは?」

ピクとランサーがそれに気づいたのは、会話が一旦終わってどうにも居心地の悪い空気が漂う時だった。

「……マスター、誰か来たようです」
「む、目的の連中か?」
「いえ、これは……人ですね」

二人が訝しそうにそちらを見る、すると辺りの霧を忌々しそうにしながら『真黒な人影』が現れた。
長身を神父服に包んだ陰気な男、言峰綺礼が相変わらずの鉄面皮で現れる。

「……釣れているかな、二人共?」
「釣りね、魚はそこそこで……『もう一方』も追々来るでしょう」
「そうか、ならば良い……近頃頻出する怪事件、何らかの兆候だろうからな」

綺礼は難しい表情で懸念を口にし、串に刺した焼き魚を齧りつつランサーが応ずる。

「この辺りで目撃された怪生物に、それに伴う神隠し……レ級が関わっているのは明白、考えられる可能性は……」
「……本命前の陽動、ないしその本命で全力を出す為の『食事』ですか?」
「……ああ、行方不明事件は恐らく奴による捕食、ならば被害者を増やす前に敵戦力を削るべきだろう」
『言われるまでもない(ありません)」

余計な世話と言いたげに切嗣とランサーは答えた。

「ところで……私は何か邪魔でもしたかな、そちらの戦争屋が微妙な顔をしているのが」
「……それも、余計な世話だと言っておく」

綺礼が訝しんだ様子で問いかけるが、対する切嗣の反応は素気無い。
やたら嫌そうな顔だった、先程の自分の葛藤に触れられたくないらしい。

「ふむ、何というか……認めたくない真実に気づいたというか、教会で懺悔を受けた時に見る顔だな」

が、嫌らしいことに相手はズケズケと踏み込んできた。

「人間観察が趣味とは思わなかったよ、聖人気取り」
「おや、失礼した……以前そちらと話し合い、『そういう感情面の問題』を気にするようになったからかな」
「……なら、探し物は見つかったので、教会の?」
「いやまだだ、手掛かりは掴めた気はするのだがな……」

向こうからの皮肉っぽい反撃の言葉、綺礼は力無く肩を竦める。
自分の悩みの全体像は今までのことで概ね掴めたが、そこからが余り進んでいなかった。
それとその度にアサシン達がこの駄目人間的な目で見るのも地味に辛かった(特にリーダーの女性と外との渉外担当の少女が)

「ま、私の問題は要は……二択なんだ、長く被った偽りの面と、今まで封じ続けた錆びついた本性という……」
「……よくわからんが、どちらを選ぶんだい?それと僕らに被害がないのも?」
「さあ、両の問いどちらにも答えられん、私が何を選ぶか……それが具体的にどう影響するかも」

やはりここでも綺礼は答えるしか無く、曖昧にそう言う。
そもそもそれが彼の問題だった、神への信仰に他者に求められるままに有ろうとしし続けて、却って自分に鈍感になっている。
その鈍感さは二択に揺れる自分とその先の変化まで判断付かなくさせていた。
もう余りにもその辺が判断出来ないので、ある意味出たとこ勝負と開き直ってもいた。

「全くわからない物だ、自分のことだからか……ま、この戦争が切欠になるだろう、その流れで決めるしかあるまい」
「……無責任だね、精々こっちに迷惑掛けないでくれよ」
「……出来る限り気をつけよう、確約はしかねるが」



ザアッ

暫くして風の向きが変わった、ピクとそれまで黙っていたランサーが眉根を顰める。

「……マスターに教会の男、そろそろですよ」
「はあ、やっとか……」
「釣れたか、良い頃合いだ」

辺りの霧が極限にまで深まり、行き成りボウっと不吉な赤い光が灯った。
綺礼が教会の主力武器である投剣『黒鍵』をブラブラさせながら言った。

「そもそもこの異変……まず野山から動植物が消えた、人々が不信に思った所でこの深き霧……
そして、そこから霧に紛れ……奴らが現れた」

ヒュッ

言いながら彼は黒鍵を投擲し、ガッと霧の中で火花が散る。
ギャッと明らかに人手はない悲鳴が鳴った。

「それが行方不明事件の真相、この霧はある種の異界……こっちから足を踏み出すしか無い」

ズガンッ

続けて言うと切嗣が同じ相手を銃撃、再び火花が散り悲鳴が上がった。

「……当たりか、艦種としての位はそこそこのようだが」

二度の火花で巨大な怪魚が浮かび上がった、直ぐに霧が隠すも十分相手の姿を見ることが出来た。
前回のイ級に似るもやや大きい、また更に言えば人の手足に似た(異様に白いが)四肢が生えて陸上に適応していた。

「やはり深海棲艦、イ級?……いや軽巡のようです、マスター」
「……ちっ、出来れば大物の方が戦力を削れたのだが」
「ま、その辺はレ級達も同様……上級の艦は温存するということでしょう」

欲を言えば前回落とし損ねた空母ヲ級か雷巡チ級が良かったが、贅沢は言えないと改めてランサーは衝角を握りしめる。
慌てて二つの傷を追った軽巡型の深海棲艦が身構え、その援護に周囲に球体、艦載機も集まってくる。

「さて、どう崩すかな?」
「ま、何時も通り風でも打ち込んで……」
「……待て、二人共、『配置』が済んだ」

が、殺気立つアインツベルンの主従を綺礼が制して、バッと手を掲げて『合図』を出した。
ザッと四方を囲む深海棲艦達を更に囲むように、黒い影達が霧の中に降り立った。

「待たせたな……アサシン、やれ!」
「……ああ、態々ここに出たのはタイミングを測る為か」

ドガガガッと四方からダーク(多様な用途の短剣)が降り注いだ。
それ等は直接撃破は狙わず、深海棲艦とその眷属の動きを封じるように放たれている。
その意味に気づいた切嗣とランサーは互いを見て頷き合う、ランサーが切嗣を肩に担ぎ、同時にリーダー格のアサシンが綺礼を同じようにした。
ダークにより深海棲艦が撹乱され、その間にダークの雨の中を二体のサーヴァントが主を連れて走り出す。

ダダッ

『……離脱します!』

一瞬でダークも深海棲艦の火砲も届かず距離へ行き、そこで直ぐ様ランサーは衝角を手に反転する。

「……で、向うの混乱治まらぬ内に」
「ああ潰せ、ランサー!」
「了解……風王結界!」

叫んで風と共にランサーが特攻、アサシンに乱された陣形のど真ん中に踏み込んで深海棲艦を上空にかち上げる。

「そら、飛んでけ……はああっ!」

ドガッ

轟音と共に彼等は高々と宙に舞って、そこですかさずランサーは衝角を振り被る。
ゴウっと彼女を中心に更に強く風が吹く。

「潰れろ、風王……鉄槌!」

ドゴンッ

そして、更なる轟音、極限に圧縮された風が砲弾として打ち出され、深海棲艦をひしゃげさせがら更にふっ飛ばす。
数秒ギシギシと彼等の体が歪み、やがてバギンという音と同時に粉々に砕けた。

「……ふんっ、手応えがない奴等だ」

ランサーの言葉に一瞬遅れバラバラと有機非有機的パーツが混じって落ちて、それで上がった土煙が霧を掻き消していった。

「……相変わらず乱暴なサーヴァントだな、戦争屋」
「手っ取り早いだろ、それしか取り柄がないともいうが……」

自分でも呆れつつも切嗣は軽く肩を竦めたのだった。

「……ま、悪くないとも思えてきたが」

そう言って苦笑して、そこで彼は何とはなしに空を見上げる。
すると宝具の風に流されたか霧が空へ行き、一瞬太陽を遮る、薄どんよりとした中で切嗣は思う。

(……ちっ、何か嫌な感じだな、前途多難とは思いたくないが、まだ問題山積みだし)

その光景はどこか不吉に映って、切嗣は気のせいだと思おうとした。



(事後処理を終え)その後も暫く彼の心は冴えなかった、自分のサーヴァントと距離は縮まったがどこか見落としていることが有るような気がしたのだ。
だけど結局気がつけなかった、そもそも自分達の考えが聖杯が正常であることが前提だと。
『三次聖杯戦争』で『戦争の概念』を一時でも迎えた聖杯だと、彼等は見落としてしまった。
そのことを彼等は後に大いに後悔することになるのだった。




・・・という訳で久々の本編。
思わせっぷりに綺礼がレ級の動きを強調したり、また前回前々回を受けての切嗣達の会話回と・・・まあ伏線的な話か。
とりあえずこれで『ボス二名』を動かす準備完了、さて次回は間桐か遠坂側の視点かな?

返信・匿名で……さん・・・ふうむ確かに金剛らしく無いか、ただ他(アインツベルン)兼ね合いで一歩引く位置でして、調整しますが方向性は変えられないんです・・・



[41120] 十六 英霊達の宴
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/14 21:54
「……綺礼、適当なワインを……この様は何だ?」

アーチャーは(一応の)主の弟子を訪ね、そこで首を傾げた。

グツグツ

教会の地下を蒸気が埋め尽くしている。
まるで、人が想像する地獄かのようだ。
そして、その中を『真っ黒な影達』が一心不乱に駆け回っていた。

「こらそこ、『鍋』から目を離すな……『料理』の手を止めるな!」

グツグツ

影の中でも最も小柄な、渉外担当のアサシン(少女)が他のアサシンに指示を出した。
幾つもの大鍋に火が掛けられ、刻まれた肉や野菜が熱せられる。
それに合わせ香辛料の刺激的な匂いが段々と強くなっていく。

「アサシン、何をしているんだ?」
「本格スープカレー、ライダーに聞いて……美味しそうだったから、待機面子で作ってみた」
「……何故か、主の私まで、それをやらされてるが」
「……もう明らかに手綱が取れてないよな、綺礼」

グツグツ

幾らか減ったが数十人のアサシンだけに大仕事のようで、主である言峰まで参加している。
アサシンに混じって大鍋をかき混ぜる綺礼の姿は哀れな程に情けなかった。
その軽んじられる姿に(人間のいいとこ探しに部下が呆れてるのもあるが)アーチャーははあと呆れたのだった。

「……哀れだな、『己だけ』の愉悦に殉じれば、そうはなるまいに」
「黙れ、十数年も被った仮面を今更……ワインだったか、勝手に持って行け」
「はっ、精々足掻くのだな、破綻者よ」

苦笑しながら尚も誘惑する黄金の英雄を、綺礼は素気無くあしらい手で追い払うようにする。
その意地を張る姿をフンと鼻で笑い、その後アーチャーは無駄な努力とでも言いたげに肩を竦めた。
今はこうでも何れ気づくと、素の自分が出る事態になると判断したのだ。

「そろそろこの戦争も……『あの女』の言葉が正しいなら、次の段階に移るのだからな」
「アーチャー、何を?」
「……気にするな、戯言だ(今の時点ではな)」

思わずつい『密約』を口に仕掛けてアーチャーは誤魔化す。
突っ込まれないうちにと、彼は綺礼の私室のワインを漁りに行こうとした。

ガシッ

が、その腕を小さな手が掴んだ。
アーチャーが訝しげに見ると、少女のアサシンだ。

「……何だ、小娘」
「……ねえ、暇なの?」
「まあそうだが……」
「それじゃ、来て……面子は多い方がいいし」
「……構わんが、だから何だと」

グイグイと彼女はアーチャーを引っ張っていく。
今日はただ酒を飲みに来ただけで、断る理由のないアーチャーはされるがままだった。

「本当は『女子会』のつもりだったけど……ハブは駄目かなあと、貴方も来て」
「は?」

思わず首を傾げた彼に構わず、アサシンの少女はその手を引いて外へと向かった。

「あ、主と同志はまだ煮込んでて、ざっと三時間程……」
『鬼か、お前!?』
「……山の翁だけど?」

去り際に一方的に仲間と主へと言い放ったが。



テクテク

「……で、どこに?」
「街だけど」
「……質問を変える、何をしに?」
「『皆』で軽く……交流会でもって」

そう曖昧に言いながら、暫く歩いて二人は目的地へ。
そこには二人の少女が居た。

「やあ、待った?……ライダーにランサー」
「いま来たとこデース、アサシンちゃん」
「……げ、アーチャー、何故貴様が」

明るく手を振るライダー、顔を顰めるランサー、二人を示してアサシンは今日の目的を重ねて言った。

「……という訳で親交を深めるべく、街で適当に遊ぼうと」
「……聖杯戦争とは何だったか」

この光景にアーチャーは思わず首を捻る。
本来なら殺し合うサーヴァント、しかもそれが四組も集まっていた。

「察して、こっちも必死……深海棲艦に出し抜かれたくないの」
「ああ繋ぎか……何気にお前等、どこよりも立場が弱いからなあ」

弱々しく言うアサシン(主筋からは捨て駒)が余りにも哀れで、アーチャーはポンと彼らしくなく優しく頭を撫でたのだった。



十六 英霊達の宴



「……で街で遊ぶというが、まずどこに行くのだ?」
『食事処で』
「即答か!?」

アーチャーの問に三人(特にランサーの声が大きい)が同時に答えた。
ぴったり揃ったそれにアーチャーが冷汗を流す。
何か自分だけついてけないというか、アウェーの気分だ。



「……という訳で、前の時は切嗣のせいで半端だったカレーを……メニューのここからここまで!」

カレー店が阿鼻叫喚する、サアッとランサーの指がメニューを横断したのだ。

「おい、意味不明な注文が聞こえたんだが!?」
「安心して……お金は切嗣の財布からギッテきました」
「地味に酷いな……」

絶句するアーチャーにランサーはニッコリと笑った。
見惚れるほどいい笑みで、でも言ってることは外道だった。

「……流石にこっちは先輩程は食えませんネ、まず普通のを一皿」
「私、辛口で……」
「……お前等、この光景に何か言えよ」
『ヤダ、疲れるし……突っ込みは任せた』

そして、マイペースなその他二人にアーチャーは思わず頭を抱える。
開戦からランサーと共にいるライダー、時折様子見に行くアサシンと違い、アーチャーは慣れてない分ランサーについてけないようだった。

「……ていうか、口説かないの、アーチャー」
「アサシン、この空気でそれは無理だろ……」

食事の最中、アサシンの少女がそんなことをアーチャーに言う。
彼女なりに気を利かせて、ランサーと同じ場に誘ったようだ。
が、正直飲み干すようにカレーをかっ食らう彼女に対して、それをしろというのは傍若無人なアーチャーとて難事だった。

「……えっ、しないの、奥手なの?」
「いや、我とて場は選びたいし……」
「仕方ないなあ、なら次……ここより大人しい所で」

少し考えてアサシンは冬木の地図を開き、次の行き先を選んだ。

「……というかだ、アサシン……この後カレーを食うのか?」
「いや飽きるし……ああ、教会で作ってるのは今飛び回ってる同志の分、英霊でも連続稼働はキツイから交代制なの」
(それ、綺礼は無関係のような……本当に扱い悪いなあ、あいつ)



ガシャガシャ

カレー店での食事を終えて、その数分後彼らの前に『緑』が並べられた。

「カレーは高カロリー、バランス良く……野菜サラダが美味しい店で」
「違うぞ、そうじゃないっ!?……というか、食べ物から離れろ!?」
「……うん、何か間違った?」

間違いだらけである、が胸焼けすらしているアーチャーの前でランサーが皿を片付けていく。

「うむ、口直しにちょうどいい」
「……いやよく食えるなおい、こっちはアテられそうなんだが」

バリバリと野菜を片っ端からかっ込むランサーにアーチャーが肩を落とす。
やはりこの様では口説く空気ではなかった。

「……カレーは濃い味だし、さっぱり風味でお願いデース」
「ええと、この和風サラダを……」
「おい、やはりスルーか、突っ込めよ!?」

先程と同じように食える分だけ注文する二人に、アーチャーは再度肩を落とした。

「……で、お望み通り場所は変えたけど……口説かないの?」
「おい、無茶ぶりは止せ……こう、女子らしい場所でだなあ」
「仕方ないなあ、なら次……女の子っぽい所だね」

再び考え込んでアサシンは冬木の地図を開き、次の行き先を選んだ。



ガシャガシャ

四人のテーブルに色とりどりの皿が並べられる、甘ったるい匂いが辺りに満ちた。

「……女の子っぽく、ケーキと紅茶を」
「おい、そろそろ怒るぞ、だから食事以外を……」

そろそろアーチャーは突っ込みに疲れ始めている、が当然ながらランサーはそれに気にせずケーキを減らしていく。

「もぐ、もぐもぐ……あ、ショートにモンブランにチーズが美味しかったんで一ダーズずつ」
「おい、ペース落ちろって、底なしか……」

一口二口で一個完食し、直ぐ様次に向かうその手は一向にペースが落ちない。
最早アーチャーは呆れ果て、疲れた様子でそれを見るしか無かった。

「うん、ケーキと紅茶、女の子してますネー」
「量次第だけどね……」
「……突っ込みを、いやもう何も言わん」

やはり向うは完全にスルーで、アーチャーはとうとうクレームを諦めた。

「ほら、アーチャー……ランサーを口説こうよ、女の子らしいでしょ」
「違う、我の知る女子とは……」

見かねた様子のアサシンの言葉だったが、それはもう嫌がらせの域だった。
アーチャーはガクリと肩を落とし、はああとその日最大の溜息を吐いた。

「も、もういい、日を改める……」
『……そっ、(駄目だろうけど)頑張ってねー』

この場での口説きを諦めた彼に、アサシンとライダーは無責任に応援して、寧ろこいつ等が問題ではともう一度嘆息したのだった。



「……はああ、本当にどうしようもないな」

あの後四人は別れ、アサシンすらも変えしたアーチャーは暗鬱な気分で遠坂邸に向かっていた。
彼は何度も重く溜息を繰り返す。
だがそれは決してランサーのことだけではない。

「奴ら、ああも笑い……幸せそうに、満ち足りて……我にはわからん感覚だ」

街を一巡りしてランサー達は笑っていた。
それは暴飲暴食だけではなく、そこで街の者達を見て、これから自分が『何を守るか』を見たのも有るだろう。
彼等を見て改めて自分にやる気を入れた、それ故の笑みであり、敢て自らを追い込むとも言える。

「だが……我は到底そんな気には成れん、そんな価値は見い出せんな」

アーチャーは隔たりを実感して居心地の悪さを覚えていた。
向うは人寄りの英雄で、アーチャーの半分以上は神なのだ。
だから、彼女達の気持ちが全く理解できなかった。

「寧ろ、今の世は……煩雑過ぎる、減った方がいいとすら思える程に」

彼は眉を顰め呟いた、それはずっと彼が心の何処かで感じていたことだった。

「そも最初が時臣なのも悪い、引きが悪すぎる……」

思い出し方を落とす、まず会った時失望して、その後諦観に変わった。
『この程度』で『一流の魔術師』扱いというのが余りにもショックだった。

「むう、我の知る呪い師は……ああも詰まらない、俗な者達ではなかったが。
……世から良くも悪くも逸脱し、人も……下手すれば神すらも手玉に取る人種だろうに」

変わったのは確かだ、永き時を経て魔術師は増えて、大規模な組織も築かれた。
だが、アーチャーとしては水準が大きく下がったとしか思えなかった。

「そして、今の人々もまた……」

それは表の世界へ目を向けても同様で、そちらも水準が下がったように見えた。
技術は発展し便利に成った、一見安定しているように見える。

「それが却って不味いと思ってしまうのは……神代の感覚故か?」

数十年前に世界規模の戦争こそ起きたが、あれと同程度の者がそう起きるとも思えない。
それはつまりアーチャー達のような、『英雄の生まれ難い世でも有る』ということだ。
そして、そんな世界は最古にして原点である英雄として許せなかった。

「……ああ駄目だな、やはりランサー達のようには……今の世に価値が見つけられん」

それでは深海棲艦から守る気等到底起きなかった。
それどころか減ろうが丁度とすら思ってしまう、いや寧ろ自分の手で等と考えてしまうのだ。

「尤も対軍、あるいは対城宝具ですら少々削る程度……『あの剣』を使えばかなり削れるだろうがコストパフォーマンスは最低か……」

そうなると別の、一つのある可能性が思い浮かんだ。

「聖杯は思っていた物と違った……我らが死した時構成する魔力でその中身が満ちる。
我らは聖杯という餌に釣られた生き餌に過ぎなかった……」

その情報をレ級に聞いた時二つの感情を覚えた。
屈辱であり憎悪、だが今は別の物が心に芽生えている。

「……だが、それに命を懸ける以上は我にも権利が……我が手中に納める権利もあるだろうよ、なあ魔術師?」

チャンスだと彼は今では思っていた、いい皮肉であるとも。
そうなれば彼にはただ戦う以外の『別の選択肢』が生まれる、そしてそれは『彼女』にも得がある。
アーチャーはチラと、街の路地にある影を見た、そこに銀の影が現れる。

「……『貴様』とは利害が一致するということだな、異形よ」
「ヒヒッ、ソノ通リダナ、神崩レ……」

レ級が操る水銀の人型がニタと凶悪に笑った、アーチャーもまた同じくらい嫌な笑い方をした。

「我が納めるには世界が雑多過ぎる……聖杯でそれを『間引く』」
「アア悪クネエナ……モットモ、ワタシハ間引キドコロカ……モットモット、人ヲ減ラシタイトコダガ」
「……どこまで殺すか、どちらの意を通すか、それは手に入れたからで良いのではないか?」
「マア同感ダ、ソンジャア……上手ク、付キアッテイコウゼ、王様ヨウ?」

黄金と銀、神と魔性、本来正反対の人外達はこうして共に轡を並べる事を決めた。
ゆっくりと最悪の聖杯戦争が、その惨劇の歯車は回り始めた。





所謂アインツベルン城の王の会談・・・のはずだった、見ての通り寧ろhollowぽくなってしまったが・・・
まあ今まで別行動だった槍騎と金ぴかを関わらせるのが主なので・・・後者が不穏だけどだからこそってことで。

以下コメント返信
ネコ様
切嗣と綺礼か、多分ですが大分変わりそう・・・予定してる第五次は今やってる四次よりややこしくなりそう、でも山場自体は少ないかな?



[41120] 十七 離反者
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/06 20:08
「そんな、聞いてたのと話が……」

間桐雁夜は呆然と『少女』を見詰める、信じられないのか数度自分の頬を抓りその後更に強く抓る。

「あ、ああ、何で……」
「……久しぶりだね、雁夜おじさん」

そこには『虫に貪られていた筈の桜』の平穏無事な姿があった。
彼女は同情の視線を雁夜に送っていた。

「全部聞いた、私が酷いことになってるってお祖父様に騙されて……遠坂に怒ってるとも」
「……あ、うん、そうとも言えるが(……言えねえ、横恋慕からの嫉妬も有るなんて)」

『酷いこと』の内容までは流石に聞いてないようだが、雁夜を手駒にした事情を知った彼女は何とも言えない顔だ。
そこでやっと雁夜は自分が手駒として利用されたと気付く。
その後ろにバツ悪そうな顔の間桐家当主の臓硯、彼は壁際に避難中の足柄を睨んだ。

「口止めされてたけど……いやあ再召喚した雪風が喋ったみたい、我ながら迂闊迂闊……」
「……態とらしいことを、恨みを持続させた方が使い勝手は良いというのに」

嫉妬の鬼である雁夜を哀れと思った足柄が喋ったらしい(言い訳に駆逐艦を仲介にさせて)それで臓硯の悪行が表に出た。
桜は雁夜の後ろめたさ(時臣への個人的コンプレックスとか)に気づかず、自分の為に身を捨てた彼の姿に泣きそうだった。

「私の為に怒ってくれたんだね、自分の体をこんなにボロボロにして……」
「……あ、うん、そ、そうなるのかな?(……言えねえ、割りと個人的な確執もあるなんて)」

桜の母である遠坂葵への片思い的感情とか、その心を掴んだ時臣への嫉妬とか、そういうのも有るので桜の潤んだ目と言葉がザクザクと胸に刺さる。
何故だかいい方に勘違いされているようで、彼は奇妙な罪悪感を覚えていた。

「そ、そんなに立派な理由じゃなくてね
「ううん、だってその為に間桐に帰ったんでしょ?……このタイミング、私を助けようとしたとしか……」
「あー、ええと、それはそうだが……その後別方向にズレたというか」

そう桜はキラキラと尊敬、更には申し訳無さの混じった目で見てきて、雁夜はどんどん追い詰められていく。
彼は臓硯に何とかしろと見るが、それを受けて口を開きかけたところで桜に睨まれた。

「そ、そのことなんじゃが其奴にも其奴なりの思惑が……」
「お祖父様、少し黙ってて、流石に怒るよ」
「……あ、はい、すまぬ」

が、助け舟は轟沈、今回の件で桜の臓硯への信頼はガタ落ちだった。
そして、この事件により臓硯の権威が一時失墜し、同時に『鬼』だった男は人へと戻った。

「恨むぞ、足柄……桜が羽虫を見るような目を向けるのだが」
「ははっ、悪いわね、爺さん……嫉妬の鬼と共に戦うのは流石に面倒、荒療治だが戻させてもらったよ」
「……却って胸を抉られてるようだが」
「……ありゃ彼自身が何とかする問題でしょ」

足柄は桜を宥める雁夜に全部投げ捨て、無責任にケラケラと笑った。



そして、鬼ではなく人だから、『その日』雁夜は正しい選択肢を選ぶことは出来た。

「ジジイ、これは本当に起きてることなのか……」
「……うむ、信じられぬが」

ボウボウと『遠坂邸が燃えている』、それを虫の目が発見する。
赤い炎に時折『白』、深海棲艦の姿が入り混じる、伝えられたその情報に雁夜は決意の目で臓硯を見た。

「……今直ぐ向かう、止めるなよ、ジジイ」
「はあ、何故……とは聞くまい、時臣が桜の父だからじゃろ?」

無鉄砲な身内の言葉に臓硯が呆れる、理由を推測すれば雁夜はうっと黙り込む。
例え恨んでいる恋敵であろうとも、桜の父であり、彼女の言葉で(抉られついで)恨みが薄れてた以上放っては置けないと思ったのだ。

「……悪いかよ」
「ちっ、せめて『貸し』を作り上に立つ……とでも強気に言ってみせろ、半端者め」

碌な口実すら無いその甘さに呆れつつ、臓硯は嘆息の後傍らの足柄を見やる。

「……が、その半端者が思い切りを見せたなら……当主として答えてみせねばなあ、足柄の回復状況と相談じゃが」
「うーん、無視はできないけど、誘導の可能性も有るし幾らか温存もしたい……駆逐艦を一人ってとこかしら?」
「ふむ、ならば……雁夜、雪風を付けてやる、同じ御三家として救援に向かえ」
「……ありがとうよ、ジジイ」

小さく当主に頷いて、彼は雪風を伴い出発準備を進める、その際に不安そうな桜を一度見てから。

「あいつ、何かウッカリやらかしたらしい……見に行って来るよ、桜ちゃん」
「……オジさん、ありがとう」
「……止めてくれ、まだ何もわかってないんだから」

確実に助けるとは言い切れず、それでも力を尽くすと誓ってから雁夜は間桐邸を出た。
桜の不安の視線を背に走り出し、雪風と共に燃え盛る遠坂邸に向かう。


そして、彼と雪風はそこで驚くべき光景を目にすることとなる。
間桐にとっても遠坂にとっても、大きな転換期となる瞬間を。



十七 離反者



遠坂邸が突如揺れ、それと同時に敷地内に仕込んでいた防衛設備が数基消し飛んだ。

「……これは?」
「敵、だろうな……どうする、時臣?」
「当然、迎撃します」

訝しむ時臣とどこか面白がるようなアーチャー、対照的な二人は外を見やる。
砲撃による炎が庭を焼く、そしてそれを突っ切ってくる数体の深海棲艦が目に入る。

「邸内のトラップを起動します、それで撹乱程度には、そこへ攻撃を……宜しいか、英雄王?」
「……ふむ、二三異論が有るのだが」

工房を守る罠、魔術師である彼は当然の心得として仕掛けていて、それで動きを止めるから止めを刺せとサーヴァントに指示する。
が、彼はどこか面白がるように笑って首を横に振るう。
それに時臣は怪訝そうな顔になった。

「……英雄王?」
「ああ、そんなに不思議がるな、簡単だ……これでわかるだろ、王の財宝」

ニヤリと傲慢不遜に笑い、彼は蔵から引き抜いた『槍』と『大鎌』を振るった。

ザシュッ

「ぐっ……アーチャー、何を!」
「……離反だ、戦争の常だろう?」

咄嗟に下がった時臣の胴を軽く薙ぎ、彼は信じられないという顔をした。
だが、疑問を抱きつつも時臣は令呪を翳す。
『予定』より早いが彼はそれを発動した。

「狂ったか……自害しろ、アーチャー!」
「……無駄だ、『その命令』は通じない」

が、彼は絶対の強制権を無視し追撃、ザクと槍の刺突で腹を抉る。
更に、彼はそこから一歩踏み込んで、大鎌を振り下ろす。
バキンと時臣の肩、鎖骨辺りを割られその手から『赤い杖』が滑り落ちる。
反撃の手段を奪って、アーチャーは槍と鎌を時臣の首元でに交差させた。

チャキッ

「くっ……」
「……動くな、ま念の為に杖は貰っておく、貴様は魔力だけはあるのでな」

彼の杖を壁際まで蹴り飛ばし、アーチャーはぞっとする程冷たい目で時臣に警告する。
傷口を押さえ(槍と鎌、宝具の効果か、血が止まらない)、苦悶と絶望の表情で時臣はサーヴァントを見た。

「深海棲艦が跳梁する、このタイミングで裏切りだと……正気か、アーチャー!?」
「……今だからこそだ、元主殿」

そういうと彼はチラと外を見て、別の宝具を引き抜く。
よく注意すれば外で剣戟の音、直ぐに中に黒装束数人が雪崩れ込んできた。

『無事か、アーチャーに当主殿!『市街』にも同じように襲撃が……なっ、これは!?』

恐らくその襲撃へ対する戦力としてアーチャーを呼びに来たのだろう、がその彼の凶行に一瞬アサシン達の動きが止まる。
すかさずアーチャーは握っていた三叉の投擲剣、ヴァジュラを放った。

「態々ご苦労、が無駄だったな……消し飛べ!」
「くっ、散れ!」

リーダー格の女性暗殺者が指示し、彼等が跳んで直後雷光が弾けた。

バチバチィ

雷光が数人の黒装束を焼き尽くす。
が、まだ足りないと言いたげにアーチャーが邪悪に笑う。

『ぐあっ……』
「まだだぞ、アサシン……そら、深海棲艦が追いつくぞ」

キシャアッ

背後から、ここに来るまでに撒いた数体の異形達、『駆逐艦イ級』がその体の大多数を占める牙を剥いた。

『がああっ!?』
「ははは、動揺しそこへの不意打ち……暗殺者の名が泣くぞ!」

陣形の乱れに乗じて、イ級が暗殺者の頚椎や腹に牙を突き立てる。
更に横からもアーチャーの宝具が放たれ、一人、また一人とアサシンを貫いていく。

「悪いな、お前達は嫌いではなかったのだが……」

ドガガガガッ

それが殆ど止めとなり、辛うじて敵味方を判断し備えられたリーダー格のアサシンだけが残った。

「くっ、同志達が……」
「ふっ、残念だったなあ、アサシン……貴様等はよく働いた、本当に嫌いではなかったのだがな」

時臣に鎌を突きつけたまま、彼は残念そうにアサシンに言い、それに対しアサシンはイ級の壁の向こうから問いかける。

「……何のつもりです、アーチャー?」
「繰り返しになるが……離反だ、戦争ならば何の不思議もあるまい」
「ちっ、レ級と組んでいたか、市街への襲撃も示し合わせてのこと……」
「正解だ、遠坂が攻撃されても……態々敵であるここに来る者は居ないだろう、その上……市街の方にも襲撃と成れば尚更だ」

今起きている二箇所の襲撃、それはアーチャーを確実に自由にさせる為のレ級の援護だった。
裏切りが成功した後、単独行動のスキル持ちといえど魔力源が尽きて弱体化した彼を守る意味でも。

「……だが、そちらも見落としているぞ、英雄王」
「ほう、それは……影の、死体の『影』に潜む小娘か」

ザシュッ

「きゃっ!?」

モゾリと仲間の亡骸の下から飛び出そうとした少女人格の暗殺者が槍と鎌、『ケルトの英雄の槍』と『ゴーゴン殺し』のそれぞれの原型による横薙ぎで切られた。

「くうっ、気づかれてた?」
「……忘れたか、我はアーチャーだぞ、感知力に最も秀でた……さて、小細工は終いか?」
「悔しいけど、そうだね……」
『『私達』の細工はね?』

ブブブッ

その瞬間羽音が突然響いた、無数の羽虫が邸内を埋め尽くした。
それは一瞬アーチャーの、イ級の目を眩ませた。

ズドンッ
バララララっ

一瞬の隙を『彼女』は見逃さず、砲撃がアーチャーを、機銃の掃射がイ級の群れに襲いかかる。

「……よくも、こんな酷いことを!」
「ちっ、餓狼の仲間か……」
『ギイッ!?』

アーチャーが手甲を翳して顔や急所を庇い、イ級は運悪く直撃した仲間を盾に攻撃を凌ぐ。
だが、それでアーチャーは嘗ての主から遠のけられ、そこへ一人の男が走ってくる。
そこへ、数日前と同じ、だが幾らか余裕(それと人間味)のある叫びが響いた。

「……時臣、生きてるか!?」
「……騒がしい奴だ、相変わらず……」

出血で朦朧するとする彼を暑苦しい声が叱咤する、青白い顔の男(時臣も似たようなものだが)がその肩を支えて怒鳴りつける。

「しっかりしろ、葵さん達を泣かせる気か!」
「……何故助けに来た、間桐の君が?」
「ふんっ、助けにか、僕個人としちゃどうでもいいが……桜ちゃんの父親だからね」
「そんな理由でか……今更だが雁夜、君は甘い、甘過ぎる、これは戦争なのに……」
「……放っとけ、うちの蟲ジジイみたいなこと言うな」
「……酔狂さでいうなら、君もその蟲ジジイと十分似てる」

互いに嫌味を言い、その後二人は緊張した表情で虫と宝石を用意し構えた。
チッとそれを見てアーチャーが舌打ちした。

「……これは思わぬ援軍だな、ちと面倒そうだ」

彼は時臣と雁夜を、その前に立ち塞がる雪風とアサシン達をギロと睨んだ。
そして、一度嘆息した後『宝物庫』を開いた。

「はあ、余計な手間を……悪いが『時間』が無い、さっさと片付けさせて貰う(……そう、我には『時間』が無いのでな)」

アーチャーは一瞬その体、『霊核』を貫き強引に宝物庫の霊薬で動かす体を苦笑気味に見てから宝具を展開する。

「ふん、ここまで来れば後は時間との勝負、さあ……全取りと行こうか!」

アーチャーは宝具を手に叫んで走り出す。
戦いと同時にその影で、彼の一世一代の賭けが始まった。





えーまあ予想してた方もいるか、何話か前から書いていた不和がついに爆発。
因みに自害の命令が効かなかったのはある意味果たされていたから・・・で英霊の脱落はそのまま・・・例の『あれ』の起動ってわけで。
・・・つまりあれです、起動させてドサクサで受肉や破壊活動狙い・・・金ピカとレ級、本気で(聖杯戦争すっ飛ばして)全取り狙ってます。

以下コメント返信
ネコ様
ええ、女性陣は可愛く書いてみました・・・だって、今回こんな風に殺伐になるからこう、バランス取り?
で、言うとおり正に手遅れで・・・とりあえず時臣さんは生きてるけど脱落です、しかも本人の性格上逃げるとも思えないのでまだ危ないですね。

rin様
多少予想混じりだけど・・・原作でも現世やそこの人間への酷評あったでしょ?それを逆算しある意味一番(時臣とかで)荒んだ時期の彼がしそうなこと書いてみました。



[41120] 十八 穢れた聖杯
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/22 22:06
十八 穢れた聖杯



チャキ
ブブブッ

「今更だが……雁夜、君は甘い、甘過ぎる、これは戦争なのに……」
「……放っとけ、うちの蟲ジジイみたいなこと言うな」
「……酔狂さでいうなら、君もその蟲ジジイと十分似てる」

互いに嫌味を言い、その後二人は緊張した表情で虫と宝石を用意し構えた。
チッとそれを見てアーチャーが舌打ちした。

「……これは思わぬ援軍だな、ちと面倒そうだ」

彼は時臣と雁夜を、その前に立ち塞がる雪風とアサシン達をギロと睨んだ。
そして、一度嘆息した後『宝物庫』を開いた。

「はあ、余計な手間を……悪いが『時間』が無い、さっさと片付けさせて貰う(……そう、我には『時間』が無いのでな)」

アーチャーは一瞬その体、『霊核』を貫き強引に宝物庫の霊薬で動かす体を苦笑気味に見てから宝具を展開する。

「ふん、ここまで来れば後は時間との勝負、さあ……全取りと行こうか!」

アーチャーはそう叫ぶと走り出した、最初に狙うは雪風達からだ。

「さて、ここは……壁を退かすか、落ちろ、小娘共!」

ドガガガッ

まずは小手調べと、アーチャーは自分の先を生かせるように宝具を打ち込んだ。
牽制であるそれを雪風達は散って躱す、がすかさずアーチャー自身が仕掛けた、回避し下がった雪風を素早く追う。

「武蔵の仲間か、貴様から……」

ヒュバッ

アーチャーは蔵から抜いた鎌、それと『禍々しい形状の黄の槍』を左右に握って薙ぎ払った。

「落ちろ、駆逐艦!」
「……断ります、やっ!」

対する雪風小回りを活かして回避、一気に後方に跳んで壁際まで下がった。
当然アーチャーが追おうとしたがその瞬間雪風が更に跳ぶ。

「……まだですよ、とうっ!」
「ぬっ、何を……」

背にした壁を蹴り、反転してそのままアーチャーを飛び越えた。
そして、着地と同時に全兵装を展開する。

ジャキッ
ガシャン

「む、この距離……ゼロ距離射撃か」
「そっちの攻撃、一発は受けよう、でも刺し違えてでも……」

彼女は砲と機銃を左右の手に構え、そして装甲を全面に押し出して突撃を仕掛けた。

「そうか、ならばこっちは……『赤』だ」

ザシュッ

が、そこでアーチャーは新たな宝具を抜く、黄の槍を床に突き立てて代わりに『似た装丁の赤い槍』を雪風の装甲に突き立てた。
それはまるで薄紙か何かのように装甲を切り裂いた。

「……え?」
「残念、装甲対策は考えてある……武蔵で懲りたのでな」

ニッと笑って、アーチャーは赤の槍を手放し、黄の槍を再び握った。

「ケルトのある英雄の槍、其奴が持つ四振りの一つだな……そして、こちらもそうだ」

ヒュバッ
ドス

すかさず彼は防御手段を失った雪風に追撃する、今度は黄の槍による刺突が足を軽く切り裂いた。

「きゃっ、そんな……」
「赤薔薇と黄薔薇の原型、それぞれ防御と治療不可……ああ、後者はこの鎌もか」

雪風は足を押えて下がったが、アーチャーは素早く間合いを詰め直す。
血で濡れた槍と、更に逆に握る大鎌、ゴーゴン殺しの原型がギラと禍々しく輝いた。

「黄薔薇に加えて、不死身の蛇殺し……サーヴァントとて、流石に耐えられまい?」
「くっ……」

だが、それが振るわれる寸前横合いから『黒塗りの短剣』が飛ぶ。

『……させない、下がれ、駆逐艦!』
「アサシン!?」
「……ちっ、分体とて流石の『山の翁』か」

妨害に追いしがる深海棲艦の駆逐を躱し、リーダー格のアサシンと少女人格のアサシンがダークを投擲する。
舌打ちしアーチャーは盾の宝具を蔵から抜いた。

ガギィンッ

「だが非力、時間稼ぎにしかなるまい……」
「いいや十分です……弾丸装填、行け!」
「ちっ、今度はそっちか」

その援護の間に雪風は立ち上がり砲塔を向ける。
僅かに顔を顰め、アーチャーは新たな盾の宝具を取り出した。

ガギィンッ

「無駄だ、悪足掻きだな」
「くうっ……」

重なった無数の盾に砲弾が弾かれる、僅かにギシと軋んだ程度だった。

「むう、私の火力じゃ無理か……でも、今の内に立て直して……」
「……おっと、それは少し悠長だな」

雪風は悔しそうな顔になりながらも体制を立て直そうとした。
が、その瞬間盾のでアーチャーがニッと笑った。
そして、彼は新たに抜いた鉄槌を振り被った。

「仕切り直しなんてさせるものか……ぬうんっ!」
「え?……きゃっ!?」

ズドンッと轟音が響き、『自ら粉砕した盾』の破片が雪風を襲った。
高速で打ち出されたそれは散弾のように飛んで彼女を弾き飛ばす、咄嗟に二人のアサシンが受け止めたが衝撃で彼女達までバランスを崩す。
アーチャーはニヤリと邪悪な笑みを浮かべて、『三叉の刃』を振り被った。

「ふっ、悪いが長引かせたくない、好みではないが……荒っぽく行く、金剛杵(ヴァジュラ)!」
『うああっ!?』

バチバチバチィッ

投擲と同時に雷光がばら撒かれ、雪風とアサシン達を吹き飛ばす。
そこでアーチャーが笑う、これで邪魔はもう居ない、後は時臣に止めを刺すだけだと。
が、その勝利への核心はほんの僅かな『隙』となった。

ドスッ

「雁夜よ、感謝する……君のあの時の怒りが桜ならば……私よりは遥かにマシだ、まあ悔いは無い」

『赤い杖』の石突きがアーチャーの脇腹を抉る、時臣が取り戻した杖で鎧の継ぎ目を突いたのだ。

「ぬっ!?」
「……王よ、残念です」
「時臣、貴様……」

全身血だらけの体で、深海棲艦の爪牙を強引に抜けた時臣が壮絶に笑っていた。
それに驚いたのはアーチャーだけではない、後方で使い魔の虫で深海棲艦を撹乱していた雁夜が時臣に向かって叫んだ。

「時臣、何を……戻れ、死ぬ気か!?」

手負いで英霊に挑む、特攻としか思えないそれに呆然問うが、それに対して時臣は諦めたような笑みと共に言い返す。

「ふんっ、よく考えればわかるだろう、ハルペーと黄薔薇による傷は癒えん……私は既に詰みだ。
……ならば、せめて『責任』を取らねばなるまい」
「時臣、何を言って……」
「……臓硯殿に伝えろ、これを遠坂の失態の精算としてくれと」

そう言うと時臣が素早く手元で何かを操作する。
それと同時に屋敷が揺れた、同時にバチと邸内に漂う魔力が火花を立てる。

「時臣、悪足掻きを……」

苛立たしげにアーチャーが時臣を締め上げる。
だが、その体勢のまま彼は『令呪』の刻まれた手を掲げ、残る力を振り絞りそれを起動した。

「自害の不発の種は既に読めた……『動くな』!」
「貴様、まだ!?」
「……雁夜と艦娘達、邸内の魔力を暴走させた、今の内に離脱しろ!」

彼は動けないアーチャーの首を掴み返して叫んだ。
血だらけの体で明らかに無茶なその行動に、だが雁夜達は異を挟むことは出来なかった。
死を覚悟したその言葉には異様な力があり、それに逆らうことは出来なかったのだ。

「時臣、馬鹿野郎、何でそんな……」
「戦場で他人の家族を思う、そんな甘い男を道連れには出来ないだろうが……良き父ではなかったからせめてそれ位のことはな。
……それともう『これ』は必要ない、一族が継いできた魔術回路、娘に届けてくれよ?」

どこか自虐的に笑うと彼はアゾット剣で右腕を断ち切った。
放られたそれを反射的に取った雁夜は数秒悩んだ後外に走り、雪風とアサシン達もそれに続く。

「この馬鹿野郎が……」
「……忘れません、看取ってきた戦友と同様に」
『……見事なお覚悟です、時臣様』

そして、アーチャーと時臣の二人だけが残り、アーチャーが訝しそうな顔で問いかけた。

「……どういう風の吹き回しだ、時臣?」
「どの道私に生き残れない、ならば……娘達に余計な物を残さないようにしなければ……」
「ちっ、見誤ったか、人としても魔術師としても最低だが……父親として及第点か」

そのどこか感心したような言葉の直後、ボッと真紅の炎が邸内を走った。
一瞬で炎が遠坂邸の全体に広がり、そして一気に弾けた。



ゴゴッと高々と火柱が上がる。
遠坂邸を中心に天を衝く程の勢いで吹き出し、『赤』が空を染める。
それが突如引き裂かれ、一条の『黄金』が炎から飛び出した。

「……ギリギリか、だがヴィマーナはもう使えんな」

アーチャーが溶解した船から飛び降りる、炎を強引に突破した代償で天翔るその船は完全に機能を停止してしまった。
降りた彼は周囲を見渡す、館もそこにいた深海棲艦も完全に燃え尽きている。
彼は炎の消えつつある遠坂邸の跡に舌打ちし、そこで弱々しく膝をついた。
炎に飲まれる寸前に令呪の縛りから抜けたが、それでも数秒程爆炎に焼かれたのだ。

「ぐっ、鎧が軋んでおる……最後の最後でやってくれたな、時臣め」

苛立たしげに言いながら彼は脇腹を貫く杖を引き抜く。
それはまだ赤い火を灯していて、まるで時臣の執念が乗り移ったかのようだ。
そして、バチンと最後に一度大きく爆ぜた、それが一瞬彼の目を焼く。

ヒュッ

偶然か、それと同時に『風』が吹いた。

ズドッ

「がっ!?」

轟音が焼けた遠坂邸の跡に響く。
一瞬の視界の乱れ、それを逃さず銀の甲冑の少女、ランサーが衝角をアーチャーに叩き込んでいた。

「な、何……」
「はああ、ロンゴミアント……所謂御三家の一角、その最後に報いろと主が言ってな」

ランサーはそういうと得物を引く、止めを刺そうと衝角を再度振り被った。
アーチャーは反射的に蔵から剣を、王が振るうべき聖剣『原罪(メロダック)』を抜き抜く。

「さ、させん、はあっ!」
「ちいっ、まだ動くか……」

ガギィンッ

今度はアーチャーが先手を取る、『原罪』による一撃がランサーの手から衝角を弾く。

「さて……一度だけ聞くぞ、ランサー」

無手となった彼女に刃を突きつけるとアーチャーは意外なことを言った。
それにランサーは思わずぽかんとしてしまった。

「……ランサー、我が物と成らんか?」
「何?」
「その姿、その性質、共に我の好みだ……聖杯にて受肉し、世を謳歌しようぞ」

一瞬ランサーは呆け、その後しつこく付き纏ってきた理由に気づく。
だが、彼女はキッと睨んで言い返した。

「……断る、人外共と群れていろ」
「そうか、残念だ……では力づくで物にする」

ヒュッ

残念そうに苦笑し、その後アーチャーは力で屈服させようと『原罪』を振り下ろす。
それがランサーの鎧を安々と切り裂けるのは既に実証積みだ。
だから、『その光景』はアーチャーにとって完全に予想外だった。

ガギィンッ

「ぬっ、馬鹿な!?」
「……ああ、本来なら『そう』だったろうな」

唯の魔力放出に弾かれ、アーチャーが一瞬凍りつく。

「言った筈だ、主が遠坂に報いろと命じたと……今の私は前とは違うぞ」
「ちいっ、そうか……『令呪』、魔力の底上げか!?」
「……今更気づいても遅い!」

ズドンッ

「ぐっ!?」
「……アーチャー、貴様はここで落とす!」

ランサーは明らかに異常な魔力を放出しながら飛び込み、肩からアーチャーにぶつかって行く。
強化された突進に、アーチャーはバランスを崩し蹈鞴を踏む。
すかさずランサーは拳を握り、手甲を叩きつけるようにしてアーチャーの肩を打った。

ズドッ

衝撃で彼が仰け反る、その手から『原罪』が落ち、それが地に落ちる前にランサーの手が奪い取った。

「ぐっ……」
「止めだ、はああっ!」

ザシュッ

「がああっ!?」

同じ王に奪われ、振り抜かれた王の剣、『原罪』がアーチャーの体を貫く。
ブシャリと人と神の血が吹き出す、ランサーは更にグイと『原罪』を深く押し込む。

「最後だ、アーチャー!」
「ぐ、それは……」

だが力無く膝を付いたアーチャーがギラつく目を向ける、彼は勝利を核心したように笑っていた。
どこか狂気じみた笑いと共に、彼は『赤い空』を仰ぎ見た。

「それは……どうだろうなあ、ランサー……これで『条件』は整った!」

その瞬間ゆらりと世界が揺れた。
ゴボリと『泥』が溢れるような音がした、訝しみランサーは辺りを見回す。
突然異常な魔力に満ち始めていた、それも呪いと言っていい程に穢れ切った魔力だった。

「アーチャー、貴様……何をした!?」
「聖杯は我等の存在で満ちる、そして……ここは遠坂が支配地、聖杯の大元に繋がる五つの地の一つ。
即ち我が霊核は直にそこに流れる、一瞬だが道が出来る……呼び水には十分だ!」

ドロリと泥と共に二人の間に『杯』と『亡骸』が空間を裂いて現れた。

「……よく見ておけ、前回未完成に終わった聖杯だ、但し『不純物』……ある反英雄が混じっているが」

邪悪な魔力を帯びたそれは杯に纏わりついた『人』と『獣』の躯、聖杯を抱く女の亡骸に白骨化した蛇が巻き付いている。
女の方の頚椎を掴んでアーチャーがそれを振り上げる。
そして、杖を振るようにすると『泥』が跳ね飛んだ。

バシャ
ジュウウッ

「何っ、ぐあああ!?」
「……効くだろう、特に貴様のような『お綺麗な英雄』には」

飛沫、豆粒程のそれが対魔力を突破、ランサーの身を焼く。
それにニヤリとアーチャーが笑う、奇妙なことにその身は一見元通りに成っていた。
(自害の分も含めて)体の傷を泥(魔力)で塞ぎ、聖杯に収まった筈の霊核は『穢れた聖杯』経由でサルベージしたのだ。
尤もそれは汚染と同意で、狂ったような、いや隠せない程の狂気が溢れている。

「くくっ、成程な、抑えられん……まるで一頭の獣、欲が湧くかのようだ」

彼は今まで以上に遥かに邪悪に笑い、『前回の聖杯』を振り上げた。

「このまま汚染してやろう、それなら我を拒むまい……我と貴様、レ級以外の三騎で聖杯を完成させ、それによる惨禍を高みの見物しようじゃないか」
「……くっ、切嗣、拠点に戻せ!」

ブンッ

「ちっ、それが有ったか……」

最後の令呪で彼女は瞬時に離脱し、アーチャーは消え行く彼女を少し悔しそうに見送る。
だが、直ぐに邪悪に笑い、聖杯を宝物庫に納めた。

「まあいい、まずは合流……その後奴を手に入れ、他を落とし聖杯を完成させればいい」

彼は意気揚々と、陽動中のレ級との合流場所に向かった。

(……後は、この呪いで削らせてもらうぞ、『世界』!)






という訳で、アーチャーが聖杯(3次+おまけ)を手に入れました。
英雄王、一度倒されたけど召された魂を直に引っ張り戻して健在、その際に汚染・・・『限定的(ここ重要)』に『泥』を操れるのも合わせ、原作綺礼に近いか。
因みに時臣、実は人質になった葵か凛を庇い致命傷の予定でした、でも今の方が意地を感じるかなと変更・・・合わせて何か綺麗になった気がする。

以下コメント返信
デボエンペラー様
時臣さんはその、原作でもどこか自分本位だから(視野が狭い?)・・・その辺や自己中発言とか、まあ心の底でサーヴァントを見下してたのが大きいのかも。
それと・・・間違ってた部分直しました、ご指摘ありがとうございます。

ネコ様
ええ、もはや予定調和・・・その怒りを考えて武器を追加、書いててアーチャーの本気度が上がった気がします。



[41120] 十九 足掻く者と抗う者達
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/25 02:27
注意・前回投稿部分(特に後半)色々変わりました、具体的には教会関連で変更点有り



男は聖杯を手に、二人の女達と落ち合っいた。

「……戻ったぞ、異形共」
「ヤルジャネエカ、金ピカ!」
「ヲッ!」

その男、アーチャーの帰還に艦載機で陽動していたレ級とヲ級は嬉しそうに笑った。
この聖杯戦争で、彼を味方に引き込むことと聖杯の入手は勝利までの過程で絶対条件だ。
深海棲艦とそれ以外全てとの戦いになっていたが、その状況で隙を突いて2つの条件を満たせたのは最高の結果と言っていい。

「……とはいえ完全な起動ではないがな、本来のやり方以外で『元』から引き釣り出したから未接続状態だ」
「マア、ソノ辺ハシャアネエ、追加デ『クベレバ』イイダケダ!」
「ヲッ!」

アーチャーとレ級は沈黙した(こびり着いた汚染魔力はまだあるが)聖杯に残念そうにする。
一度繋がっていたが再び離れた、その大元である大聖杯と再度繋げる必要がある。

「ソノ為ニハ英霊ヲ脱落サセル……ランサー、ライダー、アサシン、バーサーカー」
「出来れば、あの女……ランサーは手中にしたいのだがな」
「強欲ダナ、王様……他ノ三騎ダ、落トシテ起動シテナカッタラ覚悟シトケ、後『マタ』アンタガフラレテモ……」
「……先に落とした青ヒゲ含めて四騎、微妙なところか……それと振られてない、奴が不感症なだけだ」
「往生際悪イナア……」
「ヲ、ヲヲ……」

そんな風にアーチャーとレ級達は今後のことに関して話して、がそこでレ級が唐突に顔を顰めた。
ウゲと言う感じの表情になり、気まずげにアーチャーに『別の場所で起きたこと』を伝える。

「ワリイ……問題ガオキタ、金ピカ」
「問題だと?」
「……教会ノホウデ、『イレギュラー』ダ……チト厄介ニナルカモ」

そうして彼女は思わぬ被害と、予想外の敵のことを語った。



「はあ、はあはあ……」

遠坂邸の異変直後まで時は遡り、その同時刻『攻撃された場所』に一人の男が蹲っていた。
その手には人間の腕、何画もの令呪が刻まれた老人の右腕が抱えられている。

「何故だ、父よ……まだ死ぬには早いでしょうに」

男、綺礼は目の前の『建物』を、ボウボウと燃える教会を呆然と見た。
艦載機に寄る陽動と遠坂の異変で大半のアサシンが出払い、そこへ突然の砲撃でこれだ。
近くにつけていたアサシンに庇われて彼は無事で、だが他の者達は皆砲火の中に消えた、その中には綺礼の父も含まれている。
綺礼は偶然それだけ焼け残った『腕』を手に外へ飛び出すことしか出来なかった。

「……同時に起きた異変、測ったようなタイミングは……アーチャーか」

ザッ

「正解、ツイテネエナ神父?」
「深海棲艦か……」

綺礼が顔を上げれば、水銀で形作ったレ級の写身と侍るように飛ぶ艦載機の群れが在った。
先頭のレ級の写身が綺礼に『伝言』を伝える。

「ヨウ、金ピカノ代理デ来タンダガ……イイ表情ダナ」

彼女は怪しく微笑みながら誘った、『父』の死に自覚なく『歪んだ笑み』をその顔に貼り付けた男に。

「ソノママ伝エル『仲間と成れ、綺礼』……仮面、ソロソロ捨テルカ?」
「私の答えは……」

綺礼はフラと立ち上がった、まだ歪んだ笑みが張りついている。
が、そこへ周囲に無数の影が現れた。
陽動に気づいて戻ったアサシン達だ、彼等は綺礼の動向を見守るように唯ジッと待った。

「……何か、言う事は有るか、アサシン」
『言峰様、貴方は良い主ではないが……それでもマスターだ、答えを待とう』

その言葉に綺礼は僅かに沈黙する、浮かんでいた笑みが崩れた。

「……私は、私は」

『試されている』と綺礼は感じた。
己の本性に従うか抗うか、主家に殉じるか私欲のまま振る舞うか、深海棲艦と戦うかそちらについて従者を裏切るか、そのどちらかを。

「アサシン、私は……いや、もう良いんだ」

しかし、それは綺礼にとって『今更』だった。
彼には慣れている感覚だ、今気づけばずっと彼は『世界』に試されていた。
ずっと試練が続いた、世界に排斥されるだろう本性を隠し、他者に望まれる『仮面』を被り続けてきた。
が、今となってはそれを手放す気にはならなかった、長くそうするうちにそれが自然になっていた。

「……悪くは無かったのかもしれん、父の死を笑う背徳感よりずっと!」

再び綺礼の顔に『聖者の仮面』が被られる。
本性を隠す窮屈さは有る、だが父の死に対する喪失感がそれ以上に存在する。
あるいは『自分で殺したかった』だけかもしれないが(逃避を自覚しながらも)考えないように思考外にし、綺礼は左に黒鍵を握り、更に右の令呪を掲げる。

「アサシン、やるぞ、せめてこの意地だけは……唯の特攻かもしれんがな」

殉死を強要するような言葉に、だが影達はキキッと喜ぶように、開き直ったように笑ってみせた。

『最早、聖杯を手に入るまい……ならばあれ等に報復を、存分に我等を使い捨てろ、面を手放せぬ同類よ!』
「……言い得て妙というか……令呪三角で強化、いや『狂化』する、捨て身で掛かれ!」
『承知、だがこの場に居ない『指揮者』と『渉外担当』は外せ、後々役には立つだろうから』
「ああ、二者を除いて……狂え、山の翁」

ウオオオオォォッ

「……チッ、当テガ外レタ、迎エ撃テ、眷属共!」

令呪によって生き残りのアサシンが狂乱し、皆一斉にダークを手に深海棲艦に襲いかかる。
更に、並んで綺礼も黒鍵を手に駆けて、それに慌ててレ級(の写身)は艦載機に迎撃させた。



十九 足掻く者と抗う者達



「ウオオォ!」
「ギイッ……」

ザシュッ
ズドンッ

そこは宛らまるで地獄だった。
もう跡形も無い、数分前まで教会が在った場所で血みどろの戦いが行われていた。
『黒い影』が捨て身で刃を手に特攻し、『邪悪な意志を持つ球体』が八つ裂きにされる。
『邪悪な意志を持つ球体』が爆撃して、『黒い影』が木っ端微塵に成る。

「アサシン、間を置かず攻め立てろ……押せ、押し潰すんだ!」

綺礼が指示を出す、執行者が使う投擲剣『黒鍵』を振るいながらのそれに従い、アサシンが捨て身で仕掛けた。
令呪による魔力のブースト、過剰なまでのそれと引き換えに半ば理性を失った彼等は遮二無二突撃を繰り返す。
捨て身の突進で艦載機と刺し違え、倒れた仲間の亡骸を踏み越えて更に次の者が前に出る。

ダッ

「キキ……ハッ!」

次から次に彼等が駆けて、深海棲艦の眷属を刃で引き裂いていった。

ザシュッ
バギンッ

「ハアアッ!」
「ギッ!?」

跳躍したアサシンが艦載機を串刺しにして、それを放り捨てて次の艦載機へ向かう。
当然二機目の艦載機が迎撃しようとしたが、そこへ綺礼の黒鍵が投擲された。

ヒュッ

掠った黒鍵で体勢が崩れ、動きの止まった所へ綺礼が叫んだ。

「ギッ!?」
「……そこだ、砕け!」

すかさずアサシンの一人が取り付いて、強化された力で打ち砕いた。

バギンッ

「ウオオオッ!」
「……足を止めるな、そのまま次へ!」

破壊を確認すると、綺礼は別の眷属を黒鍵で牽制、アサシン達も直ぐ反応し先程と同じように撃破していく。
少なくない犠牲を出しながら、綺礼とアサシンは深海棲艦側の戦力を削っていった。

「やれやれ、地獄絵図だな全く……予想と違うか、深海棲艦?」
「神父、手前ェ……」
「……このまま艦載機を全滅し、そしてランサー等と合流だ、向うの令呪を補充させればまだやれるだろう」

綺礼は父の『一部』を手に言う。
生き延びることと敵の戦力を削ること、そして敵の主戦力に対抗できる勢力に与することの全てを為そうと。
聖杯戦争の管理者『言峰』の最後の男として、執念と言えるまでに彼は生き残ろうとしていた。

「悪アガキヲ……」
「まだ死ねん、それでは『真実』を捨てた甲斐がない」

直撃こそ無いが至近弾で傷だらけで、それでも彼は黒鍵を構える。
在ったかもしれない『愉悦』を捨ててまで反抗を選んだのだから、そう簡単には死ねないと彼は言い放った。
そうしてから、ヒュババッと左右四振りずつの黒鍵を放ち、それに合わせてアサシンを突撃させた。

「陣形は幾らか乱れた、これで……突破だ!」
『キイッ……ウオオオォ!』

残り少なくなったアサシンが最後の突撃を仕掛け、同じく残り少ない艦載機に襲いかかる。
が、数は同じでも言峰の牽制で向うは後手である。
そのままアサシンが深海棲艦の眷属を蹂躙しようとした。

ズドンッ

『ガアッ!』

但し割り込むように飛んだ砲弾が無ければだが。
先頭の数人が消し飛んで、レ級がニッと笑った。

「惜シカッタナ……雷巡『チ級』、サッキ陽動カラ戻シタ」

言いながら彼女は『黒尽くめ』に『腕と一体化した砲』を持つ深海棲艦をチラと見て、それに頷きその深海棲艦は今度は手数重視の雷撃を放つ。

「……ヤッチマエ」

ドガガガッ

「ガアッ……」
「キッ!?」

至近距離で爆炎が弾けて、アサシンが物言わぬ肉塊に変わっていく。
雷巡チ級は円状に薙ぎ払うように雷撃すると、それで相手を封鎖けてる間に主砲の右手を掲げた。

「ちいっ、止めろ!」
『ハアアッ!』

不穏な動きに綺礼が黒鍵を、それに続いて生き残りのアサシンがダークを投擲する。
だが、レ級(の写身)とチ級は落ち着いて、その悪足掻きに対処した。

「……ハッ、迎撃ダ!」

コクッ

一旦チ級は主砲を納め、その場でターンするように軽やかにステップする。
更に、そこから全身から内蔵花器を展開、周囲に機銃をばら撒いた。

ドガガガッ

「……デ次ッ、本命ニ照準!」

コクッ
ジャキン

黒鍵とダークを機銃で撃ち払い、チ級は改めて主砲を掲げ、逆の手を添えて照準する。
カッとその主砲口が禍々しく輝いた。

「主砲、放テッ!」

ズドンッ

爆発的にその魔力が膨れ上がって、ドンとなって激しい爆炎が巻き起こる。

『ガアアっ!?』

アサシン達を熱が焼いて、衝撃波がその身を引き裂いて、辺りを滅茶苦茶にしてやっと治まる。
最早暗殺者の影も形もなく、焼けた大地が広がるのみだった。

「……チ級、注意しろ」

だが、深海棲艦達は油断せず、背中合わせで辺りを慎重に探る。
その次の瞬間、ズズッと地が傾き、土中から何かが現れる。

「まだだっ!」

そこから綺礼が、ボロ布のようにズタズタのアサシンを担いだ最後の管理者が深海棲艦達に襲いかかる。
従者を盾に耐えた彼はまず黒鍵を四方に投擲し、レ級と写身と残りの艦載機を地面と縫い付けにした。

ヒュババッ

「手前ッ!?」
「そこで大人しくしていろ……そして貴様だ、雷巡!」

彼はその後右手を掲げ、直ぐ様チ級へと走る。

「私が……私が殺す、私が生かす、手に哀れみを……」

彼の手の中で魔力が渦を巻いた、死徒を滅し反英雄にも幾らかのダメージと成り得る浄化の魔力だ。
それを手に、彼はチ級の懐に飛び込んで顔面を掴んだ。

「砲撃直後、消耗している今なら……はああっ!」
「……ァァッ!?」

ジュウウッと浄化の一撃がチ級の体を焼く、ゆっくりと触れた箇所から塵となって散っていく。
当然チ級は抵抗し、主砲と一体化した腕やその他の四肢を振り回す。

ドガッ

額を打たれ鮮血が散って、だがそれでも離さなかった。

「ぐっ、だがまだ……まだだっ!」

頭から血を流し、顔を真っ赤に染めて、それでも彼は浄化の行使を止めない。
更にその魔力を振り絞った。

バチイィッ

「これで終わりだ、はああああっ!」
「……甘イナア」

だが、浄化し切る寸前『銀』の何かが視界を掠めた。

「調子ノッテンジャネエゾ、人間風情ガ……」

ザシュッ

水銀の構成を組み換え、拘束から逃れたレ級の写身が腕を払って綺礼の腕を落とした。
ブツリとその腕が半ばから絶たれ、ブシュと断面から血が流れ出す。
そして、その表情を痛みで歪めた彼に、逆にチ級が掴みかかった。

ガシッ

頭蓋を軋ませながら彼の体が浮いて、そこへチ級が主砲を突きつける。

「ぐあっ……」
「惜シカッタナ、ダガ……ソノママ仕留メロ!」
「ぐっ、私はまだ死ぬ訳には!?」
「ハッ、ソンナブザマナ格好デマダイウカ」

宙吊りの上に突きつけられた砲口、正しく詰みと言っていい。
それでも彼は諦めず逃れようとして、レ級が嘲笑する。
だが、そこへ二人の男女の言葉がかけられた。

「……良く言った、大した執念です」
「……Yah、同感ですネ、だから……間に合った」
『何?』

ズドンッ

どちらとも違う声に人も深海棲艦もギョッとし、次の瞬間その日数度目かの砲撃音が鳴った。
死角から放たれたそれがチ級の上半身を吹き飛ばし、自由になった綺礼がドサと落ちる。
そのまま倒れこんだ体勢で、彼はそこに現れた新たな影を見た。

「君は……」
「やあ神父、アサシンは……駄目か、だが主の方は何とかギリギリか」
「……残念です、撹乱してた艦載機、眷属共に時間を稼がれましたネ」
「……だがせめて彼だけでも」
「了解……行きますよ、マスター!」

双方共に妨害する深海棲艦を強引に抜けたか、全身が火傷や擦過傷でボロボロで、だがそれでもウェイバーとライダーがここまで辿り着いたのだ。
荒く息吐きながらウェイバーが敵を指差し、それに従いライダーに前に出る。

「思い切り……やれ、ライダー!」
「Yah……第二の宝具『ドレッドノート』!」

その瞬間全身から魔力が放出され、それを纏ったままライダーが走り出す。
彼女は一瞬で間合いを詰めると、まずレ級の水銀の写身を手刀で貫いた。

ズドッ

「まずは指揮官から!」
「グッ……ドコマデモ邪魔シヤガル、艦娘ッ!?」
「どこまでもデス!後で『本体』にも挨拶しに行くけど……今は消えて!」
「グアッ!?」

ブツンッ

ライダーは強化された力で写身をバラバラに引き裂く。
更に彼女は止まらず次へ、先程の行動で艦載機が混乱し、すかさず高速戦艦の艦娘は主砲と機銃を展開する。

「……落ちちゃえっ、FIREデース!」

ズドン
ドガガガガッ

隙だらけのところへの一斉掃射、それが決め手となって全てが沈んで、やっと辺りの安全が確保される。
それを確認し、ウェイバーは倒れる綺礼の肩を支え立たせた。

「……ふう、とりあえず全部やれたか」
「そのようですネー、やっと一息つけマース……今だけですが」
「そうだね、ならば……」

彼はそこで一瞬言葉を切って、その後支えていた綺礼を見た。

「さて状況は最悪ですが……事態の収拾の為に協力を求めます、言峰神父」
「まさか……ノーとは言わないですよね?」
「あ、ああ、従おう……当然、出来る限り支援する」

殆ど脅しのそれに一瞬ぎくという顔をし、その後綺礼はぎこちなく頷いた。
父である言峰神父の手には保存されていた令呪、襲撃の中何とか持ち出せたそれをウェイバー達は見やった。

「……どうすればいい、ライダーのマスター?」
「令呪が欲しい、それでランサーを完全な状態に戻す……三画程度、余ってるでしょ?」
「先輩が一番強いですから、その補強は欠かせません……アーチャーがあっちに行って数だけでなく『質』も上がっちゃいましたから」

質には質を、そう考えた二人は令呪全損したランサーを完全な状態にすることにした。
そして、同時に一画のみの自分達はそのサポートだと割り切った。

「さて……提督(マスター)、私達の役目はわかりますね?」

ライダーがウェイバーに問いかけ、ウェイバーはどこか寂しげに笑って答える。

「ああ一発大きいのを撃って……僕らの戦争は終わりだ、ド派手にやろうか」
「露払い、特攻ですネー、かなりハードそうだしやんなっちゃう……」
「そういう割に楽しそうに……深海棲艦の眷属その他、道連れ沢山欲しいんだろ?」
「ええ、先輩の道を開いて……派手に散りますヨー!」

ウェイバーとライダーは互いの顔を見て、その後コクンと頷き合った。
二人の顔には別れを惜しみ、同時にどこか大勝負を楽しむような笑みが浮かんでいた。

「大仕事だ、見習いの身でそれに関われて光栄だよ……行こう、ランサー達と計画を立てないと」
「金剛型一番艦『金剛』、例えどんな結果でも誇りに思います……合流しましょ、もう一頑張りデース」

状況は最悪で、手を組んだレ級とアーチャーが聖杯を手に入れた。
しかし誰も諦めてはいない、ここに艦娘と深海棲艦、そして英雄達に『仮面の聖者』、その最後の戦いが始まろうとしていた。



そして。
最終章の幕がゆっくりと開けた。



原点-ZERO-
序章



ビュウッ

『そこ』に唯乾いた風が吹く、少年が心配そうに辺りを見た。

「さて、どうなるか……」

その場所は冬木の市街からやや外れた一画、といっても本来ならそれなりに雑多返しているような普通の場所だ。
だが、今日だけは人影は殆ど見当たらない(少年だけだ)
近くには公民館らしき建物が見えるが、そこも同様だ。

「……出来れば被害は出したくないが、まあ流れ次第か」

少年はクシャと『特性の護符』を握る、それが広域に結界を張って人を遠ざけているのだ。
その護符は教会の執行者とアインツベルンの知識を合わせた物である。
そして、それを預かるのは時計塔の一学生であるウェイバー・ベルベット。

「……来たか」

ザッ

『理解できん、自殺願望でもあるのか?』
『イカレテンジャネエノ?』

その時結界内に侵入者を感じ、ウェイバーがその方を見た。
黄金の英雄と黒尽くめの異形、アーチャーとレ級だ。
二人の到着を確認し、ウェイバーはずっと送っていた魔力性の波長(シグナル)を停止した。

「……魔力をばら撒いて、何のつもりだ?」
「敵であるマスターが『今回の最大霊地』で何かしている、君達は無視できないだろ……招待状さ」
「ほう?」
「……逃げ隠れと悪巧み、君達はずっとそうだ、なら後手に回りたくないと思ってね」

態々注意を引くようなことをしたのは誘いだと、そういったウェイバーにアーチャー達は面白そうにする。
どちらもが好戦的な(反)英雄だ、寧ろ望むところだと思ったのだろう。

「ふむ、面白い、そして……」
「……コッチニモ好都合、ライダーヲダシナ!」
「……待ちなよ、今回はもう一組来てる」

やる気になったアーチャー達を制して、ウェイバーは後方をチラと見た。
するとそこから羽虫の群れが飛来する。

バアアッ

「……儂も参加しよう、まあ御三家の当主としては来ない訳にも行かぬし」

一瞬羽虫が視界を埋め尽くし、次の瞬間そこに間桐家当主『間桐臓硯』が現れた。
彼はウェイバーの隣に立つと、令呪を加工した偽りの令呪『偽臣の書』を構えた。

「折角の戦争じゃ……儂も、一口乗らせてもらおうかのう」
「ほう、何時ぞやのご老体か……令呪モドキ、『売られた娘』でも『陰気な男』でもないか」
「前者は父の死に泣いて、後者はそれが心配で付きっきり……儂が出るしか無いのじゃよ」

まるで自分の冷血さを嘯くように臓硯がいう。
他二名は前回の事でどちらも出せず、だから来たと彼は肩を竦めて、その後隣をチラと見る。

「……やれるな、ミスター・ベルベット?」
「何とか合わせてみますが、但し……見ての通り若輩者、余り多くは期待しないように」
「はっ、何だ、緊張しとるのか……だが、マスターの仕事なぞ令呪の管理が大半よ、それだけやっとれば良い」
「……それはそれで、プレッシャーが掛かるんですがね」

ちょっと引き攣り顔でウェイバーが腕を掲げ、それを見てから臓硯も偽臣の書を握る。
そして、二人の前方で僅かに空間が揺らぎ、二体のサーヴァントが現れる。

「そっちのアーチャーはランサーが望みだろうが……まずは僕達が相手だ」
「ふむ、奇襲でも狙うというところか」
「……そうかもしれないし違うかもしれない、ここに既にいる可能性も有るしずっと遠くかもね?」
「重要なのは、それまで儂等で削って削って……削り捲って、そこへ投入してやろうってことじゃ!」

そう二人が言って、それに応えるように二人の艦娘が武装を展開する。
『淡い茶の髪』に『巫女服』の少女が、『艶のある黒髪』に『機能性重視のスーツ』の女性が、その主砲をアーチャー達に照準した。

ガシャ
ジャキンッ

ライダーが、バーサーカーが臨戦態勢と同時に『敵』に叫んだ。

「騎士(ライダー)のサーヴァント、いいえ『ド級の直系』……金剛型一番艦『金剛』!」
「狂戦士(バーサーカー)のサーヴァント、いや『飢えた狼』……妙高型三番艦『足柄』!」

二人の艦娘が『敵』、深海棲艦とそちらの側に着いた英霊に走り出す。

ダッ

『……戦闘開始(デース)(だあっ)!』
「ふっ、来い、ここで……」
「沈メテヤルヨ、艦娘!」

当然レ級もアーチャーも迎え撃って、最後の戦いの『一幕目』が幕を開けた。



・・・原点ZEROの一へ続く・・・





ええと読者の方々、何かごめんなさい、最終決戦開始の予定でしたが・・・綺礼関連のイベントを忘れていました、今回はそれと最終章の初めだけ書いて終わり。
で、彼は結局仮面を被り続けます、といっても幾つかの要因で揺れっ放しで決心できなかったという微妙な理由で。
・・・とはいえあくまで現時点で愉悦の道を選ばなかっただけ、十年後くらいまではまだまだ迷いそうですが。
ああ後アサシンは聖杯戦争からは実質脱落したけど一応生き残りは要ます・・・リーダーと少女人格の二人が(元は遠坂の)魔力入りの宝石で現界中。

コメント返信・ネコ様・・・一応『儀式場(地下)』は無事ですからまあ大丈夫、後普通に金ピカ等は地下に隠れてその後最終決戦の場にってかんじです。



[41120] 原点<ZERO>・一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/03/14 01:29
「……覚悟デース、レ級、アーチャー!」
「ソレハ……」
「そちらだろうが!」

英雄達の戦場、辺りが異様な音と共に唸る、まるでその戦いを恐れた世界が悲鳴を上げるかのようだった。
三体の英雄、そして一体の反英雄はそれぞれの武器をほぼ同時に展開させた。

「開け、『王の財宝』!」

英雄の王が財宝を周囲に浮かべる。
それは謂わば装填済みの弾丸であり、彼の意思一つで敵に放たれる。

「出ナアッ、ヲ級……更ニコイ、『ホッポ』!」
「ヲッ!」
「霊核オイテケ!」

レ級は右半身を自身の特徴を残したまま、左半身をヲ級と融合させる。
更に腹に手を突き入れ、割り裂いて『白い少女』を引き摺り出す。
容姿は遥かに幼い、また髪も肌も服も異様なまでに白く、だが扇情的な黒のインナーが僅かに股下から覗いている。
明らかにレ級達と同じ人外の少女がその全身から砲塔を展開した。

「『北方棲姫』、大盤振る舞いですネ、だけどこっちも……
今回は最初から全力ですヨ、宝具……The、Dreadnought!」

そんな敵達を睨み返してライダー、『金剛型一番艦金剛』も負けじと宝具を発動した。
金剛は全身から魔力を放出すると、その四肢に、更には艤装に行き渡らせる。
一瞬で、弩級戦艦の直系に相応しい力が放出される。
そして、その仲間である足柄もまた宝具を使った。

「……編隊を組む、行くわよ、艦隊旗艦『武蔵』!」
「ガオーッ」

彼女の傍らに影が一つ、黒い肌に輝く銀の髪の『伝説』が眼鏡を手で抑え咆哮する。
ジャキンッと、足柄と彼女に呼び出された艦娘が砲塔を展開する。
但し、狂化故の理性不足でかなり大雑把に。
一秒後、足柄と武蔵は『両手いっぱいの酸素魚雷』をその場でバッと放った。

「……えっ?」
「は?」
「ハア?」
「『誘爆』狙い……とりあえずぶっ放すよ、対処は自己責任ね!」
『おい、待て!?』

正面のアーチャー達も、いや隣の金剛もギョッとする。
が、クレームに構わず足柄達は装填し終え構えた。

「行っくよお!あと金剛は当たったらごめん!」
「wait、足柄!?」
「アイツ、滅茶苦茶ダゼ……」
「……正に獣、まるでフンババだ」

ズドンッ
ドガガガガッ

狂戦士『達』の無差別砲撃で、滅茶苦茶に炸裂した炎で、最後の戦いの先端は切られたのだった。



原点<ZERO>・一



タンッ

地を蹴って、頭蓋を模した面に黒い肌の少女が魔術師達を抱えて後方に跳んだ。

「……行き成り派手、だね」
『全くだ(じゃ)』

髑髏の面の少女、生き残りのアサシンは砲撃の届かない距離まで離れると抱えていたウェイバーと臓硯を降ろす。
元々一体の英霊を分化して弱体化し、更に現在は魔力を込めた宝石で強引に現界している状態で、戦力にならないならとせめてマスター陣の護衛に着いていた。

「……流れ弾くらいなら、私でも防げるから」
「ああ、任せた……これで援護に集中できる」

彼女に守られながら、ウェイバーは右腕に意識を集中し、慎重に慎重に介入のタイミングを測った。

「強引なやり方だけどこれで乱戦に持ち込める、アーチャーの広域攻撃は使い難いはず」
「うむ、あれだけの宝具なら対城や『それ以上』も有るじゃろう、汚染された『聖杯』も……」
「……はい、一網打尽だけは避けて……それから個々に打倒し、そしてアーチャーと聖杯の無力化を!」

同じように戦場を伺う臓硯と言葉を交わし、ウェイバーは右手に輝く令呪をチラと見た。
彼と金剛の繋がりであり、嘗て誓った約束の証であるそれを。

「最後の令呪……これで道を開く、僕と彼女で!」

決意の表情で彼は『最後の令呪』を起動させた。



「……ちいっ、宝が汚れたではないか」

炎が分厚い壁の上を流れる、いや壁に見えたそれはアーチャーによって『盾の宝具』が重ねられたものだ。

「やれやれ、乱暴だな全く……」

アーチャーは、蔵から纏めて引き寄せた盾、その表面の焦げ目や罅割れに苦笑する。
それから自ら防御を崩し、次の瞬間彼の横を二つの影が駆けた。

「反撃、イクゼ!」
『オウッ!』

レ級(とヲ級)に北方棲姫、防御をアーチャーに任せたのだ。

ダッ

「……ガオッ」

が、それを阻むように『銀』が立ち塞がる、『最短距離』、まだ僅かに残る炎を突っ切ることで相手の先手を取って。

「ガオオオッ!」
「ゲッ、先手取ラレタ!?」

装甲を頼みに突破した彼女が大きく吠えて、それからブンと特大の艤装を振り被る。
ゴウッと鈍器のように勢いよく振り抜かれ、右肩と一体化した部分装甲がレ級を、左の側が北方棲姫を跳ね飛ばした。

ドゴオッ

『ギャッ!?』
「ちっ、好き勝手してくれる……」

目の前のゴリ押しというしか無い蛮行に、アーチャーは舌打ちすると牽制に周囲に浮かべた宝具を向ける。
だが、それが放たれる直前に武蔵がニイと『してやったり』という風な笑みを浮かべた。

「ガオッ」
「何を……」

そしてその体が透ける、召喚が解除されたのだ。

「ご苦労様、また呼ぶと思うから休んで、旗艦殿……今度は私達が!」

次の瞬間武蔵の左右を二つの影が駆ける。

「戸惑ったわね?……武蔵に気を取られた、隙ありよ!」
「ガウ、フウウッ!」
「……むっ、来るぞ、異形共!」

妙高の姉妹達が笑う、ギリギリまで武蔵を囮にし、それから『還す』ことで宝具の掃射を不発させたのだ。
彼女は殴り飛ばされ、着地直後のレ級達に飛び掛かる。
懐に入り込んだ足柄がレ級の首を、那智が北方棲姫の顔面を鷲掴みにする。

「さあ遊びましょ、銀髪さん?」
「……グッ、近接戦、トコトン戦闘狂ダナ!?」
「ガウッ!」
「キャッ!?」

咄嗟に彼女達も迎撃体制へ。
レ級は巨大な尾を、北方棲姫は(グローブ乱暴に放り)指先に目立つ不釣り合いに『赤々と照る爪』を、それぞれ目の前の敵に振るう。
が、それで二人が深海棲艦を押さえられ、その間にちょっと煤けた巫女服の少女が前の二人を睨みつつ武装を展開した。
彼女、金剛は足柄達と深海棲艦を外し(敢て照準を避けさせ)アーチャーに狙いを付ける。

「……さあ勝負デース、アーチャー!」
「ふんっ、大物が使えん、狙いはこの形に持ち込むことか……」

生意気だと言いたげに鼻を鳴らしたアーチャーが宝具を向ける。
小振りな物を中心に(『前』を巻き込まない為だ)彼は選定後それ等を打ち出し、金剛も主砲である『45口径四連装砲』の引鉄を引く。
魔剣と砲弾が組み合ってる互いの仲間を避けて飛んで、真正面から激突した。

ズドン
ドガガガッ

余波として魔力を散らしつつ二者の攻撃が弾け、ガランガランと破片が跳ねた。

「ちぇ、相殺か……まあ良いデース、続けますヨー!」
「ふむ、一人で我を抑えると?」
「抑える……まさか、当然それ以上デスヨ!」

アーチャーが試すように問いかけ、すると金剛はニッと笑い、今度は機銃を向ける。
バンといきなり撃たれたその弾丸は『アーチャーの右手』を正確に狙った。
それに気づいたアーチャーは顔を顰めながら、片手を空間の歪みに伸ばした。

「弾丸の先は……聖杯か、させんっ!」

ヒュッ
ガギィン

咄嗟にアーチャーは左手で宝剣を抜いて、弾丸を払い飛ばした。
弾かれた弾丸が虚しく宙を舞って、金剛がちょっと悔しそうにする。

「むうう、そう上手くは行かないか、でも……隙あらばドンドン狙いマース、精々気を抜かないことですネッ!」
「……撹乱か、それとも……だが無視出来んか、随分と性格の悪いやり方だ」
「……うちのマスターは『持たない』なりに色々考えるので……」

アーチャーが皮肉を口にし、対して金剛はどこか自慢するように笑う。

「……楔を刺したつもりか、艦娘」
「さて何のことやら……」

相手を睨んで半身を引いて、アーチャーは自分の体で聖杯を遠ざける。
先程の金剛の狙撃で、彼は自分だけでなく聖杯を気にする必要が出た、積極的な攻勢がし難くなってしまったのだ。
これに、前方で妙高姉妹と組み合うレ級が唸った。

「チイ、『金ピカ』ガ止ラレタ?ナラ……艦載機!」
『ヲッ!』

苛立たしげに吠えたレ級、それに彼女に融合したヲ級がその身を揺らす。
ブワリと黒コートが広がるとそこから艦載機、『推進器と大砲を持つ球体』が湧き出るように現れた。
バラバラと空を我が物顔で飛び回り、それからアーチャーと睨み合う金剛へと降り注いだ。

「むっ、私デスカ!?」
「……ヤレッ!」

ヒュッ

流星のように一直線に、噴射炎が尾を引いて、深海棲艦の眷属が敵である艦娘目掛けて飛んだ。

ジャキンッ

だがその寸前で、快活な笑みを浮かべた少女が割って入った。

『……だけど、甘い!』

『奇跡の駆逐艦』雪風が、彼女を召喚した足柄が同時に叫んだ。
ゴウンゴウンと駆動音立てて雪風が武装を展開、総数二十四の機銃が空を、そこに浮かぶ艦載機に突きつけられ照準する。

「……やっちゃって、雪風!」
「了解!」

召喚者の指示に雪風はコクと頷いて、針鼠のように機銃を四方に向けて火線をばら撒いた。

「目標……敵艦載機、迎撃します!」

ドガガガガガッ

音速超えて放たれた銃弾が艦載機を落とし、あるいは掠めて弾き飛ばす。
艦載機も反撃するも、雪風は小柄な体を活かし動き回って更に撃つ。
そんな状況で、機銃に打たれ金属片が降り注ぐ中で、足柄とレ級がギロリと己が敵を睨んだ。

「どう?これで空は押さえ……アーチャーも金剛が相手している、つまり……」
「私ラ次第ッテコトカヨ、艦娘?」
「そういうこと!」
「……ワカリ易イゼ、コイ!」

ギリギリと押し合いながら、二人は更に四肢に力を込め始めた。

「……金剛、アーチャーは頼んだ!」
「了解デース!」
「金ピカ、流レ弾ハ出スンジャネエゾ!」
「……ふん、大口叩いて、しくじれば笑い物だぞ?」

二人は互いに肩越しに仲間に叫び、それに頷いて後方もそれぞれの敵に対処する。
地上と空で撃ち合う雪風と艦載機に続き、後方の金剛とアーチャーも射ち合って、その衝突をを横目に改めて足柄達も動き出す。

「姉よ、行こうか?……ここで潰すわよ!」
「ガウウッ!」

餓狼達は好戦的な笑みを浮かべ、狂化のスキルによって得た力を全開にする。

「フンッ、ソウ簡単ニハ……コッチモ全力デイクゾ、ホッポ!」
「リョーカイ!」

対する深海棲艦もまた身構える。
牙を、爪を、その殺戮の為だけの器官を剥いて妙高姉妹を迎え撃った。

「ここで……」
「バラバラニナッテ……」
『……沈め(シズメエッ)!』

ヒュバ
ドガガガッ

交差する火線のど真ん中で、二人の艦娘と二体の深海棲艦が宿敵を打倒すべく荒れ狂う。

「……艦娘を舐めるなあ!」
「ソッチコソ……深海棲艦ヲナメンナッ!」

ヒュバ
ドガガガッ

人を守る者と害す者、その意地を見せつけるように、二人は互いの肉体や武器を振るう。
足柄が拳を突き出せば、レ級が蹴り返し、足柄が装甲を叩きつければ、レ級が尾を払う。
掠めた攻撃でチッと血に青黒い体液が飛び散り、だがそれでも足柄もレ級も拳と装甲を、四肢と尾を振り回し連撃を繰り出した。

ヒュバ
ドガガガッ

「負けない……誰かを傷つけたいなら、何かを壊したいなら……」
「アア?」
「……貴女がそうなれば良い、レ級!」
「ハッ、ソレジャ……詰マラネエダロ!」

ガギィン

『きゃっ(ガアッ)!?』

再び血と青黒い体液、それに金属片と肉の欠片が散って双方が弾かれる。
そして、その隣でも、艦娘と深海棲艦が激しく打ち合った。

「フウウッ……シャアアッ!」
「烈風オイテ……ナサソウダシ、艤装ヲモラウ!」

ヒュバ
ドガガガッ

那智と北方棲姫が姉妹たちに負けじと攻撃を繰り出し合う。
那智が掌打を放てば、北方棲姫が爪を閃かせ、那智が装甲で打撃すれば、北方棲姫が展開した火器を横殴りにする。
二人は全身から血と青黒い体液を流し、それでも那智は連続攻撃を行い、やはり北方棲姫も全身震わせ迎え撃つ。

ガギィン

「チイッ……」
「……シツコイ!」

こちらでも血と青黒い体液、金属片と肉の欠片をばら撒いて、二人もまた隣と同じように弾かれ合った。

「負けるないでよ、年長者?……ぶっ放すわよ!」
「ガルッ!」
「……落トスゾ、ホッポ!」
「ウンッ、落チロオッ!」

両者は間合いが空いた瞬間まるで張り合うように、近距離から砲を展開した。

『……吹き飛べ(ブットベ)!』

ジャキン
ドゴオッ

至近距離から砲撃が交差する、炎が爆ぜて、だがそれを裂いて彼女達は突き進む。
再び激しく、時代錯誤な肉弾戦が繰り返される。

「……はああっ!」
「ウオオオォッ!」

ヒュバ
ドガガガッ

チッと血と青黒い体液が飛び散り、ガギィンと装甲と生体武器が砕ける。
更にその戦いを縫うように、足柄等と完全に真逆の形で、二人の英雄が激しく撃ち合っていた。

「うりゃあ、FIREデース!」
「……負けぬぞ、王の財宝!」

ライダーが砲撃を放ち、アーチャーが魔剣や魔槍を降らせる。
巧妙に前方の仲間を外し、だがその奥の『敵』は正確に狙う。
砲弾が、刃が、風切って飛んで、真正面からぶつかって火花を散らせた。

ガギィンッ
ガギィンッ
ガギィンッ

「Shit……」
「ちいっ!?」

互いの攻撃が相殺し、金剛もアーチャーも舌打ちし更に手数を追加する。

ガギィンッ
ガギィンッ

二人のちょうど真ん中で、再度銃撃と刃の射出がぶつかり合う。

ヒュッ

が、今度は僅かに狙いが、角度がズレて数発の取り零しが双方に飛んだ。

「むっ!?」
「ふん……」

金剛は顔を顰めて、艤装の装甲部分を振り翳し盾にする。
アーチャーもまた酷い顰め面で、蔵から盾の宝具を抜いた。

ガギィンッ

「おっと……」
「やれやれ、余計な手間を」

取り零しの一撃が甲高い音を立てて弾き飛ばされて、だが互いに体勢が衝撃で僅かに崩れた。
すかさず金剛もアーチャーも(主砲を)(弓の宝具を)倒れかかった不自然な体勢で構えた。

「……行って!」
「これなら、どうだ?」

ビュオ
チチッ

風切って砲弾が、矢が、放たれ交差した。
そうして、大勢が崩れた二人は僅かに防御が遅れ、砲弾はアーチャーの側頭部を、矢は金剛の頬を掠めた。
ダラリと血が流れ、二人は相貌を朱に染めたまま睨み合った。

「女の子の、顔の傷……高く付きますヨ!」
「それは我の台詞……半神の血、安くはないぞ!」

金剛は頬を手の甲で拭い、アーチャーは傷に乱暴に神薬をぶち撒け、それから二人は撃ち合いを再開する。
再び砲弾と刃が交差する。

『ここで……討つ、落ちろっ!』

二人はギリと睨んで、相手を打倒すべく攻め続ける。
そしてその撃ち合いのど真ん中で、それと負けない勢いで足柄達も相手を睨みつけ打ち合っていた。

ガギィンッ

「……粘リヤガル」

数十度目の攻撃がカウンターで両者に当たって、二人は距離を取り口元の血を拭う。
ステータスの差を狂化による強化で埋めて、食い下がってくる足柄にレ級が苛立った。
思わず彼女は愚痴り、後方で宝具を撃ち続けるアーチャーもそれに続いた。

「……チイッ、シツコイ奴ダゼ」
「全くだ、何故そこまで邪魔ばかり……」
「大量虐殺なんて……絶対にさせない!」

するとそれに対し足柄が吠える、彼女は戦いの昂揚、狂気が霞む程の義務感をその目に浮かべ叫んだ。

「人間は簡単に死ぬんだ、こんな馬鹿げたことで……命を失わせてたまるかっての!」
「……ハッ、ヤッパ艦娘ッテノハワカラネエ……ソウハ言ウガ、ソモソモ望ンダノハ人間ダロウガ」

相手の言葉に訝しんだ様子で、レ級がぽつと疑問を口にした。
彼女は自分を呼んで、破滅した連中のことを思った。

「『敵ヲブッ殺セ、全テヲ薙ギ払エ』、マスター共ガ望ンダンダ……私ハソレヲヤッテルダケ。
……マ、戦争ノ区分ヲ超エテ、ソレ以上ニ殺ソウトシテルノハ認メルガ……ソノ辺ハ本能、止メラレネエナ」
「それでも、貴女の望みを果たさせる訳には行かないわ!」

だがそれに足柄が言い返す、彼女は『違う』と、『それだけ』ではないと、レ級の言葉に反論した。

「……人に有るのは欲望だけじゃない、寧ろ少数で……なら、一分の暴走に巻き込む訳にはいかない。
そして『殺せ』というのが深海棲艦の本能だというなら……それを止めるのが私の、私達の使命よ!」
「そうデス、私達が居る限り……貴女の望みは叶いませんヨ!」

この言葉に、その後ろで構える金剛も続く。
彼女は自分の後ろを、そこに広がる『世界』を示し、慈しみ誓うように叫んだ。

「何よりもこの世界、『何でもない平和な世界』は……私達が、『軍』に関わる者が全てを捨てて守りたかったものだから。
……あの海で戦った、戦士の誇りに掛けて……最後まで戦い抜く、守ってみせマス!」
「……ヘッ、言ウジャネエカ」
「ええ、何度でも言います、ここで止める……『その身』を文字通り『再興』の礎とした妹の分もネ!」

ビッと主砲を突きつけて彼女が宣言し、それに続いて足柄も拳を突き上げて雄々しく咆哮する。

「そして……実際にここにある世界で、楽しそうに笑う人達が要る……その『今』を生きる人達の為にも!
……負けない、いや負けられない……だから、貴方達はここで討たせて貰うわ!」

そう叫んだ二人の言葉は深海棲艦にも反逆の英雄にも、どこか眩しく映った。
だが、反逆の英雄はそれ以上の反発を抱き、嘲るような目で世界を見た。

「……だが、その『平和な世界』、『今を生きる人』……それ程の価値が有るのか、艦娘?」
「アーチャー、何を……」
「我には、そうは思えぬのだがな」

彼はどこか冷めた目で愚痴を、嘆くような言葉を口にした。
神代の英雄故の、ある意味科学が進んだ今を嘲笑う。

「ヘラヘラと笑うだけの、緊張感のない世界……ウルクに在った熱さが、必死さが無いでないか!
……そんな英雄の生まれ得ぬ世界を何故守る必要がある!」
「……それは違いマス、『だから』守るんデス!」

だがそれに対し、金剛が、足柄が『逆』だと叫んだ。

「緊張感がない世界、それは……必ずしも戦う必要がないということ、選ぶ余地があるということデス!」
「……要は自由ってこと、戦いたいなら戦えばいい、平和を謳歌するならすればいい……それがこの世界なのよ」
「……選べるというのは幸せデス、武器を持って戦う『しかなかった』『嘗て』とは違うのだから」
「そして、その分も戦う物好きもいる、守りたいって命を懸ける……」
『そう、それが……私達の役目!』

あくまで人を害すなら、今の世界を否定するなら、それを阻むと金剛と足柄は言い放った。
二人は魔力を前回にし、その持てる全てを解き放つ。

『……提督、良いですネ?』
『ああ……思う存分やれ、しっかり見てるから』

まず金剛が念話で合図し、それにどこか寂しむように主が言う。

『Thanks、提督』
『……いや僕にはそれくらいしか出来ない、ごめんな』
『Non、謝る必要はありません』

共に戦えないことを詫びる言葉に、だが金剛は愛おしむような顔で首を横に振った。

『無力であることを自覚し、出来ることだけでもしようとする……それだって凄いことですよ、提督。
……貴方は優しい、そして魔術師に有りがちな傲慢さが無い……きっとそれは立派な長所デス』

彼女は未熟な、だがきっとまだまだ伸びるだろう主に対し微笑んだ。

『ライク、アンド……リスペクトかな』
『金剛?』
『愛(Love)というには残念ながら時間が有りませんでしたが……好意(Like)と尊敬(リスペクト)を覚えてます、貴方に仕えられて良かったデス』
『良かった、か……光栄だよ、金剛』
『ふふっ……さあ早く、アサシンと共に離脱を、後は私達が!』

金剛が笑って別れの言葉を言って、それにウェイバーも不器用に笑って応える。
そうして、二人が最後の言葉を言う横で、ずっと奇天烈なもう一組も言葉を交わした。
ふっと笑って、足柄が奇妙な老人に感謝の言葉を掛けた。

『……爺さん、ありがとね』
『……それはどういう意味で?』
『うーんと、色々勝手させて貰ったことかな』
『いや全く勝手だった……最後までその自分勝手、貫いてこい!』

最後の最後で足柄は勝手さを謝って、それに呆れながらも臓硯は発破を掛けた。
彼女は流石に気まずげに頬を掻く。

「……うん、最後までそうするよ、爺様!」
『ふっ、そうしろ、この飢えた狼め!』

奇妙な主従はさっさと別れを済ませて、それにやや遅れて金剛等も最後の会話を終える。

『あちらも済んだか、なら……さあ行って来い、金剛。
……君の、いや君達の力を、奴等に……見せてやれえっ!』

若き主はそう叫び、同時に令呪が輝く、金剛の四肢に全身に力が満ちる。
コクと主に頷いて、金剛がその日初めて前に出た。

「Yessir、今直ぐにでも……行きますよ、三人共!」
『おうっ(ガオッ)!』

ダンッ

地を蹴り、アスファルト軋ませ、金剛と足柄達が前へと踏み出した。
ジャキンジャキンと走りながら、金剛がまずその全火器に弾丸を装填する。

「『36㎝45口径連装砲』四、『15.2㎝50口径単装砲』十六……FULLFIREデース!」

ジャキンジャキン
ドガガガガッ

最後の令呪で強化された砲撃が、いや火と鉄の嵐と言っていい攻勢が始まる。
まず初めに雪風の攻撃で半分ほど減った艦載機が消し飛んで、それから更にその源である者達へ。
彼等は反射的に一箇所に、アーチャーが飛び出しレ級達の前に出て、そしてその肩越しにレ級とヲ級と北方棲姫が火器を構える。

「……出来るだけ落とせ、残りはこちらで止める!」
『オウッ!』

ヒュバ
ガガガッ

レ級が砲撃と雷撃を、ヲ級が対空機銃を、北方棲姫がその見に似合わぬ大出力の生体火器をばら撒く。
ガンガンと空中で弾丸同士がぶつかって、ガラガラと地に落ちる。
幾らかある取り零しは纏めて重ねたアーチャーの盾が阻み、ガギィンッと火花立てて逸らされる。
だが、令呪で強化された金剛は速さ、『攻撃の回転速度』でも限界を超えた。

「おっと、まだまだデース!」

ジャキンッ

一瞬で弾丸を装填し、更についでとばかり彼女はさっきは撃たなかった機銃の分も装填する。
彼女はまず今用意した機銃を構え、同時にその身を低く伏せる。

「……行きますヨッ、足柄!」
「ああ、やっちゃいなっ!」

バララッ
ブワアァ

機銃の掃射が足元を、アーチャー達の前方、その真下を払うように放たれた。
瓦礫が散乱し視界を奪う、盾を出していたのも在って向うからは尚更だ。
すかさず、足柄が並走する那智と雪風に目で合図した。

「今度は私達よ!」
『ガオ(はいっ)!』

雪風が艤装を構え、足柄と那智がそこに飛ぶ。
ブンと鉄の塊が振り回され、それを足場に妙高の姉妹が跳んだ。

ダンッ

「行くわよっ!」
「ガウ、フウウッ!」
「……後は、任せました!」

二人が跳躍しダイナミックな飛び蹴りの体勢に、それを確認し雪風が魔力温存の為に帰還しながら応援する。
消えかかる僚艦の言葉に頷いて、足柄と那智が並んで盾を蹂躙する。

ドガアァ
ミシイッ

「ぐっ、我が財が!?」

視界不良で無闇に無防備に崩せず、アーチャーは消耗したまま盾を翳すしかない。
が、それは当然ダメージが蓄積しているということで、一瞬後重ねた盾から異音が響く。

ビキビキビキイッ

上が一枚が割れて、そうかと思えば二枚目三枚目も罅が出来て、異音は止まらずそこの盾にも亀裂が走る。

「くっ、突破され……」
「……そこデス!」

ズドンッ

そこへ金剛が二射目を放ち、更に盾の異音が更に強まる、そこへ足柄達が空中で大きく体を捻った。

「足柄、今デース」
「おうっ!」
「……サセルカヨッ、艦娘」
「……ワタシモッ」

白い影が出たのはその直前だった、レ級と北方棲姫が素早く火器を照準した。
体を捻って突き出した尾の主砲が、白い肌を裂いて迫り上がった生体火器が、凶悪な銃口が邪悪な魔力で輝いた。

『喰ラエッ!』

ジャキン
カッ

砲撃体勢を瞬時に整え、砲口が更に輝き魔力で満ちて、そして開放されようとした。

ダンッ

「ガウ!」

が、その寸前で那智が空中で反転し足柄を蹴りあげ、同時にやはり温存に送還される。
それにより加速した足柄の体が一気に間合いを詰め、彼女は拳を大きく振り被る。

「ありがと、二人共、後は……私が!」

大斧か断頭台か、構えた両手は狂化によって強化された力が、強化された魔力が絶大な破壊力を拳打に齎す。

「……打ち砕く、どりゃああ!」
「冗談ジャネエッ……迎撃ダ、ホッポ!」

姉妹艦のサポートで足柄が次撃を間に合わせ、それに絶句しながらもレ級と北方棲姫が砲撃を放つ。
餓えた狼の豪腕が、深海棲艦の砲撃が、上下に互い違いに交差した。

ドゴオォ
ズドンッ

「……あうっ」
「グ、ア……」

足柄の両の拳が深海棲艦に打ち下ろされ、砲撃が上向きに放たれ足柄をの体を貫く。
ブツと音がし、足柄の肩と胴が爆ぜた。

「ぐ、お……」

ゴブと彼女は溢れ出す血に呼吸を詰まらせ、だがそれでも四肢に力を込める。
その瞬間まるで、『叱咤するように』仮の令呪が彼女に鋭い刺激を与えた。

「(感謝する、爺様)……はああああっ!」

ブウンッ

瀕死の筈である彼女の拳は更に勢いを増し、そのまま抉り込むように最後の拳打を放つ。

「手前、マダ……」
「ギャッ!?」

バキバキバキッ

二人が呻いて、だが構わず足柄は拳を振り抜いた。

「はああっ!」

ドゴンッ

渾身の力で拳が突き出され、レ級の胴には風穴が空く。
だが彼女はまだマシで、軽量級である北方棲姫は踏み止まれず、ブンっと打ち上げられた。
ニッと足柄が口元を朱に染めたまま笑って、空中の小さな異形に主砲を向けた。

「ウッ、不味……」
「ええそう、これで……詰みよ!」

ズドンッ

「ウ、グッ、ギャッ!?」

やり返すように真上に、魔力を振り絞った彼女の砲撃が行われる。
ガリガリと砲弾が北方棲姫の体を削って、その身を人外の血で青く染めながら彼女が吹き飛んでいった。

「ホッポ!?」
「……ふふっ、まず一匹よ」

彼女の小さな体は瞬く間に虚空の彼方へ、その光景に絶句するレ級に足柄は不敵に笑った。

「チッ、ダガ……」

一瞬気圧され、だがレ級は苛立たしげに舌打ちし、激昂のままに尾を払った。

ブウンッ

「……餓狼、手前モ終ワリダ!」
「くうっ!?」

バギンと装甲が砕け、大蛇の牙が足柄の体を裂いた。
だが、彼女はその状態で億劫そうに体を捻り、『レ級の半身』に爪を立てた。
狂化で跳ね上がった力で。

「……で、更に二匹目!」
「マ、マダ!?」

バギンッ

「ヲッ!?」

不敵な顔のまま彼女はヲ級の喉を握り潰し、そしてバタリと倒れた。
それとほぼ同時に、ダメージの限界に達したヲ級の体が消えていった。

「ヲ、ヲ……」
「クッ、ヲ級マデ!?」
「……これで耐久面は下がる、後は……」

唯一人のレ級を見上げて勝ち誇るように笑い、それから足柄が仲間『達』に叫んだ。

「後は……やりなっ、『お二人さん』」

彼女は倒れ、だがそれで開いた射線に二人の影が立って火器を構えていた。

「頼んだわ、金剛、それに……武蔵、『前の借り』私の分も込めて返しちゃえ!」
「YES、任せてっ!」
「ガウッ!」

金剛と、更に、再召喚された武蔵が砲を全展開した。

「くっ、間に合うか!?」
「不味ッ、阻止ヲ……」

咄嗟にアーチャーが『剣』を抜こうとし、レ級が尾の主砲を装填し、がその瞬間二人の艦娘がその引鉄を引いた。

「遅いデス、これで……」
『落ちて(ガオッ)!』

ドガアァァッ

並んで砲弾が飛んで、そして炎と共に爆ぜる。
ゴウッと真っ赤に輝いて、金剛と武蔵がゆっくりと砲を降ろした。

「これで……」

勝利を確信しかけて、だがそこで奇妙なことに気づく、煙に混じって『青黒い何かの破片』はあるのにそれだけだ。

(……魔力片も、鎧の破片すら?)

それはレ級に直撃したということ、だが同時に『一人』取り零したということ。
気づいて二人が慌てて構え直し、その瞬間『赤い魔力』が螺旋を描いた。

「……まさか、これを抜くとは……」

『三重の円塔』という奇怪な刃が煙を裂き、金剛へ突き出された。

ドスッ

「えっ?」
「……まず一人」

まず金剛の脇腹を刳り飛ばし、それから隣の武蔵を刀身を向ける。
ギュンと三重構造の刃が唸り、局地的嵐が彼女を吹き飛ばした。

ゴウッ

大戦艦である彼女が木の葉のように舞い、ズンと地に沈んで崩れ落ちる、全身がズタズタに割かれ粒子となって散っていく。

「ガウッ!?」
「……成程、切り札、デスか……」

足柄に並んで二人も地にに伏して、それを爆心地から現れたアーチャーが奇怪な剣を手に見下ろした。
彼は罅割れた鎧を軋ませて笑った。

「惜しかったな、だが……我の勝ちだ」
「……ふむ、それは……」

すると金剛が、いや足柄と武蔵が体を強引に起こし彼を見上げる。

ジイッ

それから三人は全く同じ顔をした。

ニイッ

「ふ、ふふ……」

三人が笑った、勝ち誇るような、同時にどこか同情するような表情だった。

「ええ、貴方の勝ちで……」
『……私『達』の勝ちよ』

ズドンッ

その瞬間『青い影が降って』、同時に振り下ろされた『衝角』がアーチャーの手から『螺旋の刃』を弾く飛ばした。

ガギィンッ

「私達の中で一番強い人が残ってます、お忘れですカ?……」
「……さあ思う存分に、やり合いましょう、アーチャー!」
「ちいっ、ここで来るか!」

全ては彼女を、最強の『近接戦闘能力』を持つランサーを十全に活かす為に。
レ級を突破して、アーチャーの切り札を暴き、それを無効化した上で『小細工なしの白兵戦』に持ち込む。
アーチャーへの止めを、最後の締めを任されたランサーは消え行く金剛達に頷くと風を纏った。

「……任せましたよ、先輩」
「ええ、皆に感謝を、そして……アーチャー、貴様も直ぐに送ってやる!」
「ちっ、『エア』は……ええい、来るがいい、ランサー!」

ビッとランサーが衝角を突きつけ、アーチャーは慌てて失くした剣を探すも結局見つからず、嘆息しながら『聖杯』を振り被った。
こうして最後に、この二騎が残って、最後の戦いの最終幕は始まったのだった。




・・・其二あります、それで一応完結。
あ、ついでに・・・


各サーヴァントデータ
ライダー
真名 金剛型一番艦『金剛』
筋力B
耐久B
敏捷B
魔力B
幸運C
宝具A
・所持スキル
『イギリス海軍』(日本籍によりスキルは消滅)
『騎乗』(正確には彼女自身が乗騎、主を抱えた状態でも十全で動ける)
『戦略』(これでも古株かつ旗艦経験者、特に奇襲戦や乱戦等を得意としている)
・宝具
FULLFIRE(正確には戦艦以上の艦娘が持つ共通攻撃手段、但し彼女の場合『三式弾』により攻撃範囲が広い)
DREADNOUGHT(ある種の信仰すらも有る『伝説』の直系、能力全般が強化されるが燃費も悪化する)

バーサーカー
真名 妙高型三番艦『足柄』
筋力A
耐久A
敏捷C
魔力C
幸運C
宝具A+
・所持スキル
狂化(バーサーカーの基本スキル、歴戦の重巡洋艦であり攻勢に長けている)
勇猛(敵の撹乱を無効化出来る、飢えた狼の名に相応しい闘志の持ち主)
単独行動(ある戦場で孤軍奮闘した経験を持つ、その為令呪無しである程度行動可能、同時に勝手に動き回るということでもある)
・宝具
西方の勇者達(嘗ての僚艦を召喚する、『強制付加』の狂化により攻撃面『は』強化されている)
レイテの女神(旗艦『武蔵』を召喚する、但し当然ながら狂化付き)



[41120] 原点<ZERO>・二(完)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/03/13 01:30
原点<ZERO>・二



『第四次聖杯戦争』、その最後は短い言葉から始まった。

「……アーチャー、何か言うことは?」
「ふむ……ランサー、これが最後の誘いだ」

青い衣に白銀の鎧の騎士に、黄金の甲冑を着込んだ半神の王が未練がましく訴える。
彼は半ば駄目元で、だが欲望を隠さず相手を求めた。

「我が物となれ!」
「断る、欲しいなら……」

が、ランサーにとって唯の敵、当然きっぱり切って捨てて、彼女は衝角を手に駈け出した。

ダッ

「……跪かせてみせろ!」
「ふっ、ならば槍の騎士よ……その通りにしてやろう!」

断られたのにどこか楽しげに、寧ろそういう相手だから気に入ったというように、彼は邪悪に笑ってランサーを迎え撃つ。
その経緯、相手の意固地さと手強さからアーチャーは全力で仕掛けた。
人と獣の骸、輝く杯を抱く女の亡骸に白骨化した蛇が巻き付いている、女の頚椎部分を杖のように掴んで掲げる。
杯の『泥』が怪しく蠢き、アーチャーが振り上げた瞬間大きく『泥』が跳ねた。

「そらっ、染めてやれ!」

バシャンッ

彼は最初から全力で蹂躙しに掛かった。
ランサー相手に生半可な宝具は無意味、『生半可でない』宝具は有るも既に手から弾かれて、だから残る手札の中で最大である物を選んだのだ。
ブワと黒い泥、呪いの塊が吹き出し、ランサーを飲み込もうと降り注いでいった。

「……ああ、それは私では止められないな、だが……」

彼女は抵抗せず、唯見上げ、それから『男』に向かって叫んだ。

「……だが、所詮それは『魔力』に過ぎない……今です、切嗣!」
「ああ、任せろ……あれは僕の『得意分野』だ」

ジャキと、大型拳銃が呪いの雨へと構えられた。
魔力の余波を、『もう一つ聖杯』から放たれる同質同量のそれで相殺し、『正義の味方だった男』が人の身で英雄の戦場に現れた。

「聖杯、それは……ユスティーツァ・アインツベルンの魔力が大元、ならば……これなら干渉することが出来る!」

『起源弾』、魔術師の魔力に干渉し、自滅させる禁忌の技が解放される。
バンッと無慈悲な音がして、『起源弾』が視界を埋める泥に着弾する。
ブワと泥が自ら弾け、大穴が空いた。

「これで……仕事は果たしたぞ、ランサー」
「……見事」

彼は切り札で道を開き、それにランサーが小さく感服し、そんな光景にアーチャーが信じられないとでもいうように叫んだ。

「貴様……人の身で、汚れた聖杯に近づくだと……死ぬ気か!?」
「そうだな、戦いが激化すれば状況は悪化する……未完の聖杯で防げないだろう、確かに自殺行為かもしれない、だけど……」

彼は銃を構えたまま、最後まで逃げず前を向いたままアーチャーを睨む。

「ここまで歪んだ聖杯戦争、それはマスター達が己の欲を律することが出来なかったから……願いを叶える聖杯を望み、他を省みなかったからだ。
ならば……同類として、同じ穴の狢として、無い物強請りばかりの魔術師の責任を取る!」

次代の聖女の『父親』はケジメを取る為に、未来に負の遺産を残さない為に戦場に立った。
そして、彼は令呪を掲げ、その最後の仕事へ。

「ランサー、行くぞ……令呪三角、持っていけ!」
「……承知、行きますよっ!」

彼女も頷き、大穴目掛けて更に踏み込む。
彼女もまたある意味で『子』の為に、救おうとした人達に恥ずかしくない姿を見せる為に、その為に彼女は自らの望みを捨てた。
起源弾の傷跡を突破し、アーチャーの懐に飛び込んで衝角を振り被った。

「ちいっ、願いの権利を自ら捨てるか!?」
「そんな汚れた聖杯、誰が要るものか……この選択に後悔は無い、『騎士たち』に胸を張れる姿を!」

ブウン
ドガアッ

衝角が突き出され、先端が黄金の鎧を拉げさせる、肩から抉りつつ腕を穿ち握られた聖杯に半分程めり込んだ。

バキンッ

小さくだが聖杯が軋むような音を立て、苦悶と驚愕の色を浮かべ赤の目がランサーを見た。

「ぐ、あっ、正気か、こんな暴挙……」
「そのような呪い……私達が、英霊が否定すべきものだろうが!」

彼女はそう叫び、一気に衝角を押し込んだ。

ドゴンッ

「ぐうっ!?」
「このまま……持っていくぞ、名槍ロン!」

衝撃がアーチャーを傾がせ、聖杯が更に軋む、そしてそこからその魔力を開放する。
三角分の令呪、それにより過剰供給された魔力が渦を蒔いた。

ゴウッ

「魔力放出……更に『風王結界』!」
「ええい、この愚か者があっ!」

この光景にアーチャーは絶句して、だがそれでも咄嗟に聖杯を活性化させる。
起源弾で暴走し掛け、だが彼は半身故の魔力で強引に制御すると出力を上げた。
だが、それより一瞬早くランサーの衝角が唸りを上げた。

「遅いぞ、傲慢な王よ……爆ぜろ、はあああっ!」
「ぐああっ、馬鹿な、我がこんなところで……」

ゴウッ
ズドンッ

その瞬間魔力が輝き、風が炸裂した、至近距離で放たれたそれがアーチャーと聖杯へと放たれる。
そのまま彼を飲み込んで、その掌中の聖杯を滅茶苦茶に打ち据えて吹き飛ばした。
直後、僅かな魔力、残滓でありながらだが邪悪な魔力が器から零れ落ちた。
赤黒いドロドロとしたそれを、ランサー達は吐き捨てるように思わず言った。

「……呪いですね、切嗣」
「正に……願わくば、もう二度と現れないことを……」

覚悟した笑み、『生還分のリソース』すら使い切って、立ち尽くしたランサーと切嗣がただ祈った。



ボウッ
ゴゴゴ

「……世界の終末だな、まるで」

その日、冬木を史上類を見ない規模の災いが襲った。
地は真紅に染まり、悲鳴が響く。
が、それでも、関係者は『奇跡』と呼べる程に被害を極限まで押さえ込んだと知っていた。

「……備えてはいた、いたのだが……」

聖杯から四散した、汚染された魔力の起こす火が、同じく穢れた風が冬木の各地を害し傷つける。
赤く染まった冬木の地を、言峰と教会の者達は呆然と見るしか無かった(数秒でハッとした顔で動き出したが)

「こうなるのは薄々だがわかっていた……だが、深海棲艦の打倒を優先するしかなかった」

この結果は皆が苦渋の決断で選んだ、聖杯の安全な解体には時間が無さ過ぎた。
だから敵の撃破を優先した、切嗣やウェイバーやランサー達、それに臓硯や綺礼の保有する全戦力ではそれがギリギリだ。
結局起きる惨禍を見過ごせざるを得ず、せめてそれを少なくしようと綺礼の側で今仲間と共に動いていたのだ。

「既に教会には備えさせているが……全ては無理か?」
「……言峰様、後悔は後で」

綺礼とその指揮する教会関係者により被害は抑えられ、だが最悪ではないと言いながらも少なくない死傷者に綺礼は悔しそうに呟く。
暗い顔で目を伏せた彼を、生き残りの片割れの女暗殺者がそっと彼に声を掛けた。
冷たく見えるが、主のサポートに残って、共に必死に呪いに汚染された冬木を駆け回るが故の言葉だ。

「……まだ救助活動は続きます、お切り替えを」
「ああ、わかっている……」

従者の言葉で切り替えると、綺礼は再び教会各員に指示を出し始め、アサシンは彼らでは行けない場所を優先して探す。
皆必死に汚染された魔力を浴びた人々を救い出し、(間に合う者は)治癒で傷を癒やし命を救う。

「全ては救えないな、それに隠し切ることも……いや隠蔽の心配なんて今更か」

溜息を付きつつ綺礼は死者に(その寸前の者に)黙祷した後生者を連れ出す。
予め決めてあった避難場所に生き残りを、また道行きのついでに更に何人か運ぶ(そこで『赤毛の少年』を見た気がしたが今は他が優先だ)

「(無事か、護符の効果か?)……次に行くぞ、急げ」
『はっ!』

顰め面を一瞬だけ緩め、その後顔を引き締め彼は再び動き出す。
赤く染まる冬木を駆け回り、そしてそれが一段落したところで『傷つき休んでいた彼等』を呼び出した。

「汚染魔力は収まりました、もう大丈夫かと……一応前には出ないように、臓硯殿にミスター・ベルベット」
「ああ、わかっておる」
「……行きましょう」

魔力汚染が下火に成ったのを見て部下に任せ、彼はウェイバーと臓硯を連れて戦場に向かう。
綺礼を先頭にしてその後ろに臓硯達が、またアサシンともう一人の生き残りを警戒に左右につけさせる。
そして、彼等は決戦の場でそれを見た。

「……こっちだ」
「何と……」
「ああっ……」

『黒い人影』が並んで見える。

「……衛宮切嗣、それにランサー」

戦場にぽつんと二人分の『黒い人型』、生きてる筈は無いというのに、彼等は未だ立って敵の居た場所を見据えていた。
その身は桁違いの熱量に焼き尽くされ、それでも尚各々の武器を構えている。
切嗣は亡骸であってもモーゼルを構え、聖杯が在った場所にそれを向けていた。
ランサーもまた衝角を振り抜き切った態勢だった。

「見事だ、二人共……」

圧倒されながら思わず綺礼が声を掛け、それを聞こえたかのように(あるいは保ったのはせめてもの神の慈悲か)彼等は灰となって崩れ始める。
まるで仲間達に勝利を知らせたかったかのようだった。

ザアアッ

仲間に見守れる中、二人の亡骸は完全な灰となって崩れ落ちた。

「……本当に見事な戦いだった、衛宮切嗣、ランサー」
「……二人のことは忘れません」
「ちっ、嫌になる、何故こうも……マシな奴から逝くかのう」

三人がそれぞれ言葉を掛けて、それから二人の残骸が風に流れていく。
それを名残惜しそうに見送ると、綺礼は切嗣の灰の前で跪いて『唯一そこに残った』何らかの魔術的礼装らしき『金属片』を手に取った。

「礼装、いや恐らく『宝具の破片』……アイリスフィール・アインツベルン、だったか?これは返さねばな……」
「それが良かろう、せめて届けてやらんと……」

綺礼が破片を手に立ち上がり、その後決意の表情で臓硯達を見やった。

「私は教会にこの惨禍を伝え、派遣された者達を率い対処します……二人は?」
「ふむ、儂は……伝手を使って各魔術組織を動かそう、そちらに送るから手伝わせるといい」
「……僕は時計塔に訴え、後処理をというのが精々でしょうか」

三人は対処を言い合い、その後緊張した様子で顔を見合わせる。
惨劇とその後について話し終えて、残るは『次』だ。

「第四次聖杯戦争は終わった、だが……きっと『次』が、五度目の戦争が有るだろうな」
「そうじゃな、何せ不完全な起動故に魔力が残っているはず……時間的にも解体は間に合うまい、十数年足らずで再開じゃろう」
「備えるしかありません、皆で、各組織で……『第五次聖杯戦争』に!」

綺礼に臓硯にウェイバー、『教会からの派遣者』、『土着魔術師にして冬木の裏の支配者』、『若き時計塔の魔術師』はコクと頷き合う。
そして、三人はそれぞれ別方向に歩き出した。
『次』に、『第五次聖杯戦争』に備え、今度こそ完全に勝つ為に。



こうして、第四次聖杯戦争は惨劇で終わった。
しかし、その中で一つの『絶望』が残ったことに誰も気づかなかった。

ポタタッ
カツカツ

全身から血を流し腸を引き摺って、だが男は歩みを止めず戦場から去っていく。
黄金の鎧で辛うじて耐えたアーチャーだ。
それを支えるのは『白尽くめの少女』、北方棲姫が支えて引いている。
彼女と、彼女がドサクサに回収した『螺旋剣』を支えに何とかアーチャーは立っていた。

「ちっ、このような無様を……だが、まだだ!」

男の、血と同じ色の、いやそれ以上に禍々しい赤の瞳がギラギラと輝く。
『英雄王』ギルガメッシュが再起を誓う。

「……まだ、我はまだ終わっておらぬ」

彼はそう宣言し、そして災害の混乱に乗じて冬木から脱出する。
表の目の届かない場所は幾らでも有る、そこなら『食う』相手は幾らでも居る。
そうやって生き延びて、彼もまた次に備えようとしていた。

「そう、再び求めよう、今度こそ世界を焼こう……あの邪悪なる火をもう一度!」

汚染された魔力を浴びに浴びて、『本来の可能性』より邪悪に歪んだ英雄が闇へと消えた。



だが、同時に希望も残った、『三つの希望』が。



二人の少女、それと二人の男が向かい合う。

「桜……」
「はい……姉さん、久しぶり」
「……桜、心配したのよ」
「ごめんね、姉さん……」

相対するのは遠坂凛と間桐桜、その背後にそれぞれ後見人として臓硯と綺礼が立っている。
凛達を見守っていた綺礼が臓硯に問いかけた。

「……臓硯殿、今日呼び出した要件……その、本気ですか?」
「うむ、本気じゃとも……このままでは遠坂は滅びかねん、立て直さねばなるまい」

彼は頷くと、そっと桜の背を押す。
困惑する彼女を促すように、一度だけ撫でた後幾つか言葉を掛ける。

「桜、出来ればお主の才を伸ばしてみたかったが……御三家を次まで残すのが先決じゃ。
故に……『遠坂桜』に戻るが良い、そして姉を支えよ」
「……お爺様」
「焼けた遠坂邸だが、地下と……そこの遺産は残っている、上手く使えよ」
「…………はいっ、お爺、いえご当主様!」

桜は凛に抱きついたまま、複雑そうな表情で臓硯を見上げ頷く。
彼女は臓硯にペコと頭を下げて、そして叫んだ。

「ご当主様、あの家で見たこと知ったこと、会った人や英雄達……忘れませんから!」
「……ならば糧とし、立派な淑女に成るがいい」

フッと笑って臓硯が答え、それだけ言って彼は踵を返して、桜は姉と共に感謝や戸惑いの混じる複雑な顔で見送る。
これにより遠坂が、遠坂姉妹が元の形に戻り、間桐は再び臓硯一人の手に委ねられる。
冬木とそこを管理する二つの家は新たな形を迎えた。



そして、最後の一族も変わろうとしていた。

タッタッタッ

「……思ったより掛かったな」

荒れ果てた道を一人の少年が、『赤毛の少年』が走る。
その手には花束、彼の小遣いで買えた一番良い奴だ。
彼が向かうは冬木を襲った災害の中心地、本来進んでそこに向かう者のない場所に敢て少年は向かっていた。

「……オジさん、あれから一度も会わなかった……冬木を出た可能性もあるけど」

嘗て少年を助けた男のことを思った、あれから会っておらず単なる勘だが良くない物を感じた。
あの、『正義の味方らしい男』が災害直後の冬木を放っておくとは思えない。
それがあれ以来影も形もない、幼いながらも少年は一つの不吉な予想を抱く。

タッタッタッ

「ここだ、事故が起きたっていう……」

考えてる間に少年が災害の中心地に辿り着く。
惨禍に飲まれ未だ灰で黒く染まったそこに、よく見れば空白が見つかる。
『男と女の足跡』、そこだけが灰が落ちていない。
少年は理由もなく、だが半ば確信で片方が『正義の味方』のものだと直感した。
彼は買ってきた花束を添え、『正義の味方と(恐らくは)その仲間』に手を合わせる。

「ありがとう、オジさん、それと……多分お姉さんかな……あの日何が起きたかわからないけど、前みたいに戦ったんだろうから」

パンと一度手を打って、そして少年は目を瞑って男達に礼を言う。
そして、数十秒ほどずっとそうする。

「……帰るか、父さん達が心配してるだろうし」

やがて、少年は目を開けた。
余り時間を掛けては両親が、災害に巻き込まれるも思いつきから渡した『護符』で生き延びた二人が心配するから。
だから、最後に『正義の味方』に頭を下げ、そして少年は帰ろうとした。

「……あれ?」

だが、帰ろうとして彼は数人の影を見つける。

「……ここに誰か来るなんて珍しい、なっ!?」

自分を棚に上げて言い、何となくそっちを見て驚愕する。
白髪の侍従と、それにどこか似た『親子』が今少年のいた方に向かっている。
何より彼は侍従に見覚えが有った、だって正義の味方の連れだったからだ。

「……アイリスフィール様、イリヤお嬢様、こちらです……おや貴方は?」
「あっ、あの時の!?」
「あら、切嗣に花を?……ありがとうね、君!」

少年は正義の味方の連れと出会う、そして恩人の家族とも。



そして、最後の希望は異国の教会で。

「失礼……少し訪ねたいのですが」
「……リーダー、あの娘!」

褐色の肌の女性が、それと似た容姿のやや小さな少女がある教会を訪れた。
主に内緒で『一人の女』の痕跡を辿り、そこで知った『ある娘』を探す為に。

「『カレン』という娘は貴女でしょうか」
「……だとしたら?」

何もかもが白い、その髪も肌も病的に白いシスター、でもどこか油断の出来ない雰囲気の少女が首を傾げた。

「……お父上の遣いです、彼と会って欲しい」
「……お願い、あの人はまだ迷ってるから」

最後の暗殺者達の最後の奉公(あるいは余計なお世話)が迷う聖者とその娘を引き合わせようとしていた。



・・・運命<FATE>序章『十年の空白』に続く・・・






・・・ってな感じでこれにてzero編完結です(我ながら掛り過ぎ、いや四次以降をどうするかで悩んで悩んで・・・)
結局アーチャーは生存、原作より大分不味い状態での受肉となります、彼には引き続きボスをやってもらいましょう。
そして綺礼を始めとした生存者達は第五次に備え準備するも・・・10年では足りず中止までは、また聖杯解体は出来なかったという辺りでしょうか。
但し問題だけでなく、かなり仲良くなる遠坂姉妹、そして冬木を訪れる予定のアイリの(押しかけ)弟子になる『某少年』というプラス要素もあり・・・
・・・悩むのは後者、『--士郎』オリジナルの姓か?または衛宮邸(の名義の土地)に入り浸って周りから衛宮と(通称風に)呼ばれるか・・・後で決めときます。

以下コメント
ネコ様
ぶっちゃけ金剛も足柄も捨て石覚悟、最後にランサーが出て行ってシメ・・・全員に見せ場を与えたつもりですがそう書けてたらいいなあ・・・

ロロン様
歴戦か、半分ネタキャラやってた金剛は怪しいですが・・・格好良い口上になってたら幸いです。仰る通り聖杯戦争を書く上で見せ場ですから。

rin様
師になるかはわからないけど、マスター生き残り組は戦争後も仲良くするでしょう・・・迷ってる綺礼や丸くなったとはいえ典型的魔術師の臓硯が少しやらかすかも。
・・・続きに関しては、1・士郎周りに2・遠坂の復興を書いて、その後軽くオリやってから第五次をってとこかな?



[41120] 幕間
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/04/18 16:52
『……てええっ!』

ドオオォーンンッ

何でもない日の午前のことだった。
英国、魔術師の巣窟『時計塔』に轟音が響く。
尚、先に述べた何でもない日との矛盾はない。

「……また『二世』か」
「大方何時もの『実験』、てか『実射』だ……放っとけよ」

若い者は面倒臭そうに、中堅層はまたかという顔をした後諦めるように黙りこむ。
対してそれが出来ない、頭の固い古参が頭を抱えた。
『前当主の遺体と遺品』手土産に、『エルメロイ』に取り入った男(但し本人にとって唯の師弟の義理、向うから持ち上げてきた)を古参連中は忌々しく思っていた。

「あー、報告を頼む」
「……はっ、実験施設でエルメロイ二世と取り巻きが……」
「それはわかる、で……」
「軍の払い下げの、『一四インチ砲』を各種魔術でレストア及び強化してぶっ放してます!」
「いや何に使う気だよ!?」

正解は『防犯』、更に言えば『相棒の武器をそれらしい名目』で使ってるだけ、そのうち常に共にある『水銀人形』が背負ってるだろう。
だがこれに、非常識だとかオーバーキルだとか誰も言えない。
何故なら上の一部、というか某『宝石翁』とかが面白がるというか爆笑しているからだ。
更に言えば、現代では自分達も科学と縁は切れず、寧ろ『魔術使いに成らない程度』に利用法を模索すべきという意見も有る(無自覚にだが某ロードがその筆頭)
『あの忌まわしき戦争』から『八年』、時間の経過と共に色々なものが変わっているということだ。

「ふ、ふふっ、やはり某『∨社』の火器は素晴らしい……国外だが、何時か大和の主砲とか弄ってみたいなあ」

砲煙でちょっと煤けながら、ロード(英国面)がニヤリと笑った。
英国帰りの艦娘と共に戦った彼は見事『英国面』に、主に火力に魅入られていた。

ドオオォーンンッ

「大艦巨砲主義、懐古かも知れないが、だが魔術が肩身狭く小さく縮まりがちな今なら……寧ろイケるのでは!?」

いや無えよと、常識ある者は思った。
そのロード(英国面)こそ、嘗てウェイバーと名乗っていた少年の成長した(あるいは染まった)である。



幕間一



『……続いて、てええっ!』

ドオオォーンンッ

『まだだ、リロード……てええっ!』

ドオオォーンンッ

ロード(英国面)がやらかすのは日常茶飯事だ、なので反応も其れなりだ。

「……本当に自由だなあの人」
「仕方ないって、英国面だし……」

あるゼミの生徒達が、轟音とそれに戸惑う魔術師達を同情する。
件のロード・エルメロイ二世の教え子達だ。
共に実射に出ている手遅れな先輩達と違い、まだ『浅い』者達は冷静だった。

(はあ、艦娘って……何というか、変な中毒性が有るんだなあ)

その中で深い溜息、『黒と青を混ぜたような髪色』の少女(間桐の薬物知識を扱う内に変質した結果である)がはあと嘆息する。
『これで二人目』なのだから。

「どうしたの、サクラ」
「ああ、ちょっと呆れてるだけ……」

溜息を聞きつけて、同じゼミの、そしてルームメイトでもある『金髪に青いドレスの娘』が心配する。
極東嫌いで有名な人物だが、年下相手には大人げないのか普通に相手するし意外に世話も焼いてくれる。
この『姉』にどこか似た先輩に、『齢十四』で時計塔で学ぶ『遠坂桜』が笑みを返した。

「大丈夫です、エーデルフェルト先輩」
「そっ、良かった……ロード達が馬鹿やるのは何時もの事よ、早く慣れちゃいなさい」
「はいっ!」

心配してくれた先輩にペコと頭を下げて、元気よく返事し彼女は勉学に戻った。
何故なら、『現場』で『最先端の魔術』を出来るだけ学ぶのがその役目なのだ。

(遠坂が蓄えてきた物は姉さんが何とかする……だから、私も全部覚えて帰らなくちゃ……)

姉が遠坂を『前の状態』まで立て直し、妹が知識を持ち帰って『それ以上』にする。
互いの役目を完璧に熟すと約束し、敢えて二人はもう一度別れたのだ。

「……姉さんも頑張ってるかな」

何となく彼方を、東の空を見て、桜は姉のことを思った。



その頃姉は『ある同級生』の喉元絞め上げていた。
がそこで力加減を間違え、相手がガクンと項垂れて、動揺から彼女自慢のツインテールが空を滅茶苦茶に踊った。

「……おうふ」
「……やべ、やっちゃった?」
「何で、さ……ご、ふっ」

赤毛の少年が悶絶し、下手人こと遠坂凛が顔を青くした。



少し遡り、始まりは『夕方の校庭』のある光景だった。
ある中学で、学生服の少女が首を傾げた。

「……あら?」

凛は『やや無理な』棒高飛びを繰り返す赤毛の少年が気がつく。
彼女は授業の調べ物で図書館に残っていた、当然既に陽が落ちかけている。
そんな中に熱心に良くやるものだと最初は思った。
それと少年の身長と比べ、(背丈のコンプレックスか見栄か)適性よりやや高いバーに挑むのに苦笑もする。

「……ああ、ん?」

が、次に抱いたのは呆れ、そして『怒り』だった。

ダン
ガッ

「ぐっ……」

少熱が跳躍し、がバーに引っ掛かって体勢を崩す、そして凛にとっての問題はそこから。

「お、お……うあ!?」

高飛びに失敗しマットに落ちる、だがその瞬間咄嗟にだろうか『身体強化』が為され落下の衝撃に耐えたのだ。
それから少年は体の具合を確かめた後、痺れたか両足に『軽度の治癒』をやってから立ち上る。
そうして、彼は再び跳躍を試す。

「……そこまでするなら、踏み込む時も強化しちゃいなさいよ」

思わず独りごちる、最低限のプライドか少年は踏み込み時の強化はしないのだ。

「いや違う、そうでなくて……」

突っ込んでから我に返る、それより凛にとって大事なことがある。
彼女は冬木の『霊地管理者(セカンドオーナー)』、そして少年は見知らぬ魔術師だ。
つまり、ここですべきは断じて突っ込みではなく。
スウと大きく息吸って、彼女はガアッと咆哮した。

「こらあっ、そこのモグリ野郎!」
「うおっ!?」
「……セカンドオーナーの目の前で、魔術の無断使用とは挑発かしら!?」
「え、あ、君も魔術、あっいや、オーナというと遠坂だっけ……」

何かに気づき、『聞きかじりの知識』を思い出しながら少年は言い訳しようとし、がキレた凛は無視して掴みかかる。
過度の運動で動きの鈍い少年の手を掻い潜り、凛の両掌が相手の喉元をガシと捉える。

「ぐえっ、苦し……」
「ようし、黙りなさい、軽く揉んで……」

が、ここでアクシデント、遠坂凛という娘は激情家で且つ妹や保護者というストッパーがここには居ない。
更にモグリの存在への怒り、見逃してきた自分の不甲斐なさ、二つが合わさって『半ば無意識的な強化』が発動してしまった。

メキ
ゴキンッ

『あっ……』

その結果『嫌な音』が少年の首から響いた。

「……おうふ」
「……やべ、やっちゃった?」
「何で、さ……ご、ふっ」

正しく厄日だった、凛にとっても『赤毛の少年』にとっても。



『ねえ、シロウ……』

銀髪の少女の悲しげな顔。
ふと過去を思い出す、特に『大火災の後に会った人』を。

『シロウはどんな大人になりたいの?』

侍従のセラ(ある戦争で、雇われかつ入婿を世話したりした)に連れられ冬木を訪れた『親子』と仲良くなった。
特に娘の方は少年の魔術の先生だ、こっちにとっては夢で自衛の手段、あっちには現当主との勢力争いの逃避だろう。
そこで、発端は忘れたが彼女が問いかけたことが在った。
その時は素直に『正義の味方』になりたいと言って、すると彼女は少し顔を曇らせた。

『そう、でも一つ考えて……正義の味方にも色々あると思うの』

どこか影のある笑みを浮かべ、師であり姉でもある人、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが幾つか例を並べていった。

『悪い人を殺、まあ何とかする、乱暴だけどそれも一つの形、理不尽を許さず実際にそれに立ち向かい続けるのもそう……他にも沢山有るかな?』

彼女は傭兵と(正確には色々違うが)その騎士を例とし、それから少年へと重ねて問いかけた。
『誰か』を思い泣くのを堪えるような儚げな表情で。

『シロウ、貴方は……どういう正義の味方に成りたい?それ次第で『泣いちゃう人』も居るかもしれないよ?』

この問いは少年の心に残っていた。
ただ漠然と憧れていた少年は『正義の味方という夢』はそのままに、『方向性』を模索し続けてた。
慎重にそうしなければと迷いながら、彼は学生と魔術使い見習いの二足草鞋な日々を生きていた。

『そうだ、俺は……』

だけどこの日、そんな迷いの中にある『正義の味方見習い』は一つ望みを抱いた。
痛切なまでに、彼はあることを望んだ。

『……そこそこ運の良い、女難じゃない正義の味方がいいなあ』

薄れていく意識の中で、今よりマシなら何でも良いと思った。
心の底からそう思った。

「し、しっかりしなさい、前科者は嫌よ!」

首絞めつつ少女が言い、なら離してくれと、『――士郎(衛宮邸に入り浸るので偶に衛宮と呼ばれる)』は心の中だけで叫んだ。



因みに、士郎はあっさり蘇生した。
『聖剣の鞘』、戦争時は衛宮切嗣が肌身離さず所持し、死後に綺礼の手を経てアインツベルンに渡った宝具の持つ効果だ。
蘇った彼に、凛はパニックの果てにゾンビと言ったり、やはりパニックから呼び出された『外道な保護者』に泣きついたり。
そんな幾つもの黒歴史を彼女は作ってしまった。

「……うう、泣いていい?」
「いや、頚椎逝きかけた、俺が泣きたいんだけど……」
「ふっ、面白い(……そうか、これが愉悦か!?)」

羞恥に泣いて、仏頂面して、何かに気づきかけてと三者三様。
これから後に、冬木で時々見られる光景の始まりだった。



幕間二・それぞれの日々



少年がウツラウツラという感じに頭を揺らす。

(……懐かしい『夢』見てた気がする、というより忘れたい『悪夢』……)

陽が土蔵に差し込む、夜が明けて、少年の意識がユックリと覚醒した。

「……ふわ、また『落ちてた』か」

ウツラウツラと座ったまま寝ていた『赤毛の少年』が、――士郎が寝ぼけ眼擦りつつ立ち上がった。

「寝落ち、何とかしないとなあ……にしても、まだ慣れないな、魔力流すの……」

起きた直後の混乱から立直り、士郎は気不味そうに頬を掻く。
こうなるのも彼の未熟さから。
魔術師の基本である魔力行使で一々負荷が掛かっているということだ。

「それにしても、イリヤが教えてくれた……強引に何度も魔力回路を作るの、何か神経にビリビリ来るんだよなあ」

実は間違った方法を教わったと気付かず(鞘があるから死にはしないという一種スパルタなやり方)、彼はもっと頑張らねばと意気込んだ。
そうやって、敢て負荷を掛けて魔術師歴が数年の彼を強引に伸ばしてるのだと、未熟な彼はまだ気づいていない。
そんな疑うことを知らない少年は姉貴分兼師匠に良いように使われていた(曰く『騎士』に鍛え上げるとのこと)

「はああ、上手く行かないなあ、っと……飯、準備しよ」

自分の未熟さに焦った顔をし、それからふと時間を確認した彼は慌てて土蔵を出る。
『七年前の大火災』の被害者である親は入院しがちで、それを心配したアイリの好意で屋敷に住ませて貰ってる、この朝食作りは彼なりの代価だった。

「ま、朝だけでもやっとかないと……セラさんが過労死しかねないし……」

また、自分以外料理が出来るのがアインツベルンから付いてきたメイドのみ、彼女が潰れれば家全体が不味いので出来ることだけでもやらねば不味いのだ。
流石に家族と離れた直後は作れなかったが、何だかんだ和食だけだが(当然ながら食べ慣れてるし)最近はそれなりに食える物が作れている。
多少は馴れた手付きで、せっせと彼は白米と焼き魚と味噌汁という黄金セットを仕上げ机に並べた。

「……よし、そろそろ完成です!」
「……うう、ありがと、シロウ君」

寝室から寝ぼけ気味なセラの声、士郎ほど早起きでない彼女に言付け頼んで、お握り数子包んでから学校に向かう準備をする。

「……俺は出ます、ご飯は冷めない内に食べちゃってくださいね!後オバさんも起こすように!」
「はあい、そうします……」

ノソノソと起き出すメイドに注意して、それから士郎は家を出て通う中学へ。
尚家主である先代聖女(夫を偲んで残っている、又今代聖女である娘の基盤を脅かさないのもある)はもっと朝が弱いので今も夢の中である。
一応は彼女が腹減って出てくるタイミングと料理の冷め時を前者がやや前に調整してあるから問題はないが。

(……あの人の夜行性、何とかしないとなあ)

とはいえ、息子(のようなもの)としては何とかしないと思わず考えた。
勿論士郎にも(火災の後遺症で入院続きだが)両親は居る、だが何だかんだ会えないから今は衛宮の者達も家族のように思えてきていた。

「……よう、今日も早いな、衛宮の坊っちゃん」
「雷河の爺さん、だから衛宮じゃないっての……」

時々衛宮亭で入り浸るからこんな風に言われ、でも心のどこかで認めている自分もいるので割りと手遅れかもしれない。

(……お、遠坂が今日は早い、珍しいな)

自分の家庭環境に悶々としながら、登校した彼は友人に挨拶しつつ教室へ。
そこで、優雅に微笑みながら読書する少女、遠坂凛を見つけた。
初対面では波乱が有ったが、互いに接触したかった(第四次のグダグダを再びしたくなかった)凛とアイリで『色々』と話をつけたので今は普通の友人だ。
だから世話になってるアインツベルンと深い付き合いならと『脛骨折り』の件を忘れることにしておいた(尤もその程度で戦争相手とは知らない、間桐も同程度だ)

ペコ

「……おはよう」
「ええ……」

但し知り合いとわかると周りが五月蝿い、互いに思春期の同級生の玩具になりたくないので表向きは挨拶する程度に留めてある。
すれ違い、それから『本の内容』をチラと見た士郎は一瞬凍る。

(八極拳の教本……この間兄弟子に負けてたからなあ、負けず嫌いめ)

一瞬彼女の『演じる』お嬢様に似つかわしくない内容に吹き出しそうになった。
が、その寸前相手が睨んでいることに気づき動揺する。
下手なことを言えば本の内容を『実践』だと目が語った。

「……な、何でもない」

キュッと思わず士郎は腹を、内臓を押さえて誤魔化す。
相変わらず『女に頭が上がらない』、衛宮を名乗らなくても彼も十分衛宮の男のようだった。



キーンコーンカーンコーン

「さて、今日はと……」

甲高い音が鳴ってその日の授業が終わる、士郎はさっさと立ち上がる。
が、その向かう先は家ではなかった。

「……はあ、あの根暗神父か……」

向かう先で待つ人物を思い少し暗くなる、そう彼は教会に向かおうとしていた。
が、その前に向かうところがある。
彼は敢て遠回りし、冬木各所、更に態々離れの『被災地後』を見てからやっと教会へ。

ギイッ

教会の扉を開き、そこで待つ『暗い瞳』の男が士郎を見た。

「……汚染魔力の残り、何箇所かヤバそうなのが有ったぞ」
「ご苦労、相変わらず……解析だけはやるものだな」
「五月蝿え、解析だけって言うな……そっちで浄化しとけよ、神父」

彼の魔術行使(といってもその本質は偏った一種で、解析はそれの副産物だが)相手にとても微妙な褒め方された(多分態とやってる)
一々引っ掛るような言葉を挟む神父を睨み、士郎は地図に印をつけて見せた。
呪いの四散から何年も経ち、だけど一部はまだ残っている、自身も被害者として思う所のある士郎はこうやって報告するのだ。
それを受けて教会が浄化、そこまで出来なくとも人に害がない程度に沈静化するのだ。

「……そっちにも『見れる』のは居ないのか?」
「残念だがアサシンくらいだ、それも……」
「それも?」
「人形の体に変えたことで、能力が不安定化し……感知力も下がっているから、そちら程の精度はない、暫く頑張ってくれ」
「へいへい、了解……」

教会付きの英雄(但し文体の一部)を頼ろうにもそう上手くは行かないらしい。
因みに、前回の数少ない生き残りのサーヴァント達は折角生き延びたのだと『曰く付きの人形遣い』を探し、体を用意させて今は人として生きていた。
彼女達のことを聞いた士郎やイリヤ達が大いに驚いたのは記憶に新しい(尤も士郎達からすればエキゾチックな気紛れ美人なのだが)

「……そういやアサシンさん達は?」
「……あいつ等なら『暇』だと……」

ポロンポロン

ふと問いかけ、するとピアノ演奏が始まる。
やたらと俗で情熱的な、明らかに賛美歌と違う、どこか異国情緒溢れる曲が教会中に響いた。
そして、並んでそれを弾く大小褐色娘が答えた。

『あ、ここでーす』
「……エキゾチックな音楽が響く教会ってどうよ?」
「聞くな、私は気にしないことにしている……何言ってもどうせ聞かないし」

自分探しに熱心な神父は相変わらず呆れられている(というか半ば舐められてる)ようだった。

「……何です、『元』主、何か問題でも?」
「いや……」
「なら、黙ってて……(ぼそ)はあ、これの自分探しが一段落せねば『会わせられない』な」

何かを企むような、綺礼達に聞こえない声音でリーダーのアサシンが物憂げな顔をする。
彼女も彼女で色々有るらしかった(個人的な話だが、最近良く異国の教会を訪れてるらしい)

「……で、ああ、話を戻すが……」
「ああそうだった、さっさと浄化やら沈静化やらやっとけよ……誰かが傷つく前に」

綺礼は弱味有り過ぎて何も突っ込めず、士郎も興味はないので話を戻す。
特に士郎は残留する呪いに怒ってるように、繰り返し対処を頼んだ。

「わかっている、『衛宮』よ……それにしてもボランティアなのに真面目なことだな」
「五月蝿えって、あれは……俺にとっちゃ『仇』なんだよ、まだ父さん達は病院から中々出れないし」

からかうように言葉に言い返し、そこで一瞬だけ士郎は『危うい』色を見せた。
自分もまた被害者で、だから仇討ちと言いつつ、それでいて(何もなければ熱意が燻ぶるだけで)呪いの存在にどこか充足感を感じているかのように。

「ほう、どこか……敵を待ち構えているように見えるぞ、正義の味方?」
「うっ、それは……」
「……難しい問題だな、正義の味方とて……鍛えた力をぶつける先がなくば唯の『隠者』なのだから」
「う、あー、わかったようなことを……」

綺礼が見透かすように言う、士郎の中には何か危うい炎が燃えていて、それをぶつける何かを欲していると。
そんな心の底まで探るような視線に、士郎は居心地悪そうにする。

「俺は、別にそんなんじゃ……」
「ふむ、まあ……悩むことだ、熱意に従うか抗うか、それは……近似値という形で私の『IF』に繋がるかもしれないのでね」
『……結局自分の事なのか』

刺激するだけ刺激し、結局自分探し(似た者同士、何かしら参考になると)まだ諦めてない綺礼にアサシンが突っ込む。
そして、散々弄られてから放っとかれた士郎は頭を抱えた。

「もう嫌だ、こいつ……遠坂が苦手にするのもわかる」
「ふう、善良な神父に酷い言い草じゃないか」
『……聞き流しとけ、少年』

頭痛を堪える士郎に綺礼が抜け抜けと言って、アサシン達が経験からアドバイスを飛ばす。

「……あっそうだ、後は一人で演奏お願い、リーダー」
「構わないが……何か予定でも?」

アドバイスの後、ふと時計を見て、小さい方のアサシンが演奏を止める。
何の用事かと問えば、彼女は何時もの無表情を崩し笑う。

「新しく開く模型店……『金剛のガレキ』を買うの!」
「……英雄?」
「聞くな……」
「あ、そういや、間桐の長老も行くって……『大和型』と『妙高型』を揃えるんだって!」
「……魔術師?」
「聞くな、飲まれるぞ……」

こんな感じに、少年と少女と元マスター達は破茶目茶な冬木で日々を生きていた。



「時間が流れるのは早いものね……いや子供の成長が、かしら?」

ふふと、美しい銀髪の淑女が笑う。
彼女は落ちる夕日の中軒先で娘達の衣服を繕い、ふと特に理由がないが仏壇に置かれた『遺品』を何となく見やる。

「ふふっ、今は未熟だけど、士郎君なら……違う『道』が見つかるかもしれない、そう思わないかしら『アナタ』?」

悲しいことが沢山在った、それから後は大変だったし、この先だってまだまだ見えない。
だがそれでも彼女は家族との時間を、立ち直りつつ有る冬木を精一杯楽しむつもりだった。
それが生き残った、後を任せれた者の役目だと思っているから。
そう思って、だから頑張ろうと、『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』は夫の遺品に頷きかける。

「さあ、ご飯の準備……は、セ、セラにさせるとして、お風呂炊かないと……」

不器用で料理下手でも、箱入り娘なりでも、それでも頑張ろうと。




自分で書いて何ですがロード変わり過ぎ、いや英国面の侵食が酷いのか・・・それと某親子関係が大分原作と乖離してる・・・
次から、ややシリアス・・・

コメント返信
三年寝太郎様
虫爺はオープニング飾った関係でどうしても目立っちゃいますね、対して神父は・・・ある意味これから、主な会話相手になる士郎が来たので前より目立つはず。

ご都合主義様
ええ、本当に別物です、やり過ぎました・・・まあ間に色々挟みつつも、原作つまり第五次まで行くのは決定ですから(まあその五次も変わりますが)
とりあえず、最終決戦に折角出してしかも逃げ延びた・・・ほっぽvs戦艦妹sを書いてきます、ついでに第五次への伏線とかも。

ネコ様
最後は総力戦というのは決めてました、一応全員に見せ場はやれたはず・・・続投組と新規は半々くらいの割合ですね、後新顔も前と繋がりを持たせる予定。
最後の三人は・・・残念ながら未だ会えてません、既に上司への尊敬捨てたアサシンが慎重にドッキリの準備やってます。

WW様
遠坂姉妹は環境考え色々変えて、能力的には『特化』予定、方向性の差はありますがそんな強化はしないかな・・・あっ妹は(性格は兎も角)曲者になるかも。

rin様
原作との変化が早速出てます、基本的にはキャラの配置の変化から逆算し・・・合わせて関係性も色々変わってます、まあまだ前回参加者が様子見ですが。
特に変わったのはウェイバー、『英国面』に完全汚染されてます、金剛の影響が数年後しに出た感じ・・・で、弟子もまあ影響は避けられないかな。
尚ほっぽですが、敵側の強キャラ同士で何となくレ級とコンビのイメージが・・・で、ヤンチャな姉と背伸びする妹な風に書いてます、偶にその妄想が溢れたり・・・



[41120] SN編前夜・・・AL作戦・序
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/04/18 16:52
『……ミナゾコニ』

最初は静かに。

ゾクッ

「この魔力は!?」
「な、何で……」

それは日常を過ごす魔術師達の悪寒からだった。
まず一部の魔術師達がそれに気づいた。

「オバさん、これは一体……」
「『奴等』よ、士郎君!」

敵意であり、邪悪な魔力であり、間違えようのないそれ等が敵を人外の存在だと知らせていた。

「ちょ、ちょっと、『奴等』は倒したんでしょ!?」
「生き延びていた、らしいなあ、妹弟子……出るぞ、アサシン達よ」
『はっ、綺礼様!』

否応なく彼等は『まだ終わってなかった』と悟った。

「ふうう、やれやれ、だから深海棲艦は厄介じゃ……短い平和じゃったの……」



『異変』は第四次聖杯戦争から七年と半年、少年と少女と駄目な大人の初顔合わせから数ヶ月程経った頃兆しを見せた。
悪意が再び人々に牙を剥いたのだ。

『……サア始メヨウ、アノ日ノ続キヲ!』

最初に起きたのは冬木の残留魔力の活性化。
少しだけだから一時的と人々は思い、だがそれは段々と勢いを強めた。
魔術師達が首捻って、それから直ぐ後に『奴等』が牙を剥いたのだ。

『……ミンナミンナ、沈メテヤル』
『行ケ、世界ニ牙ヲムケ……殺セ、壊セ、全テヲ』

沈み行く陽の中から湧き出るように『奴等』が現れる。
白い体に黒の装甲、禍々しく眼光輝かせ深海棲艦が。



Staynight<前夜>



(……胸騒ぎがするな)

真昼のロンドン、教師のエルメロイ二世、嘗てウェイバーと呼ばれていた男の陽に微睡む中『熱』と『違和感』を覚えた。
昼の時間でゼミ生の宿題の採点やアドバイスを終わらせ(何だかんだ教育者としては優秀だ)自分への褒美に惰眠を楽しむ気だったが何かがそれを中座させる。
ズキズキと、その右腕が、嘗ての相棒との繋がりが熱を帯びている。

「……ふむ、これは……何を言いたいのかな、『――』」

億劫そうに目をシパシパやって、それから彼は目を開ける。
惰眠の底より数秒、その時には既に頑固で厳格なロードに戻っていた。

「正直まさか、だね……『君』もそう思うだろう?」
「……」

ジッ

いつの間にか『巫女服の少女』がそこに、霞掛かって幻のようにだったが佇んでいた。
『彼女』と少年だった男の、数年ぶりの『再会』だった。

ジジ

「……」
「……久しぶり、というべきなのかな……」

目の前には儚げな、透き通っても見える『人影』、彼は目を見開く。
淡い茶の髪に快活な表情、紅白の動き易さを意識した巫女服、忘れられない人の『ほんの僅かな残滓』と再会した。

「令呪の跡か……それが、この光景を見せてる、ってところかな?」

それは有るべき場所に帰った『彼女』の影、名残りとも言えるチッポケな魔力の欠片だった。
ノイズ掛かったように揺れる幻影は短く一言、主に残す。

「……冬木へ」
「……良いだろう、任せて」

それだけ言って彼女は完全に消えて、コクと彼はしっかりと頷いた。
思わず自然に流れる涙を拭い、それから大声でゼミの最優秀生徒を呼んだ。

「すううっ……フラット君!」
「は、はい、何でしょう、ロード!?」
「私は少しここを空ける……一応課題を残しておく、君や古参が中心となってそれを解いておけ。
それと……サクラをここに、彼女だけフィールドワークだ」
「了解です、留守はお任せを!」

相棒の言葉なら無視できる筈もない、一度決めたらそのまま段取りを整えて、彼は学生一人を連れてその日の内に飛び立った。



「……モウスグ、モウスグデ」

年の頃は十かという辺りで幼く、だが人と思えぬ『白い肌』とそれを際立つ『扇情的な黒服』の少女がニヤリと笑う。
今は人が滅多に訪れない郊外、『嘗ての大火災の中心地』で彼女が何かを確かめるように膝をつく。

「……大丈夫、『目減リ』シタケド十分ノコッテル」

幼くもどこか邪悪さを感じさせる少女が何かの始まりをじっと待つ。
するとブワリ、通常ならば不可視の魔力が突然集まる。
実体化し見える程に濃い、殆ど『呪い』と云える程の魔力が。

「……キタ!」

少女が喝采を叫び、そうしてその目の前で『異形』が実体化する。
『細かく散った物』が『同質の物と引き合って』、嘗て冬木に四散した汚染魔力が一箇所に集まていく。

「……サア始メヨウ、アノ日ノ続キヲ!」

笑みを浮かべて少女がバッと手を掲げ、それを合図に呪いは確かな形を作る。
幾つかに別れて異形、深海棲艦の形を取った。
あるいは駆逐、あるいは軽巡、あるいは雷巡。
流石に時間経過で減って大型、重巡洋艦や戦艦、空母には届かないがそれでもここに深海棲艦が再臨する。

「行ケ、世界ニ牙ヲムケ……殺セ、壊セ、全テヲ!」

ガアアアッ

少女、『北方棲姫』に再現された深海棲艦が咆哮し、ギラギラと深紅の眼光を邪悪に輝かせて冬木へと走り出す。
この地を焼き払い、一人でも多くの命を奪うために。

「長カッタナア」

放たれた眷属を見送って、感慨深げに北方棲姫が溜息を残す。
恨みの先は主に『共犯者』、前回の戦争で共に逃げ延びた黄金のサーヴァントである。

「アイツ、口煩イ、勝手ニヤラセテヨ……」

思い出して不機嫌になって、ブウと彼女は頬を膨らます。
やれ『戦争再開まで大人しく』だとか、やれ『人目に付くから食事は最小限』だとか(相手からすれば当然なのだが)口煩く制御しようとするから反発も出る。
おかげで中々自由に動けず『諦めてない』彼女の冬木突入が今日になったのだ(また目立たない程度の捕食で再生等にも手間取ったし)

「デモ……モウ良イモン、私ハ勝手ニヤルモン!」

が、慎重に計画して相手を撒いて、遂に北方棲姫はこの日『続き』を(アーチャーに無断で)始めた。
そう、レ級の敵討ち、そしてその仕事を引き継ぐのだ。

「……ミンナミンナ、沈メテヤル!」

彼女は小さな体を震わせ、だがその体に合わない邪悪な野望を叫んだ。

「サア、地獄ノハジマ……」

ドガンッ

「ウヒャッ!?」

がその時、唐突な砲声がして彼女に待ったを掛けた。

「エッ、『イ級』が……イ級タチノノ魔力ガ消エ……」

まず駆逐艦の反応が消失し、それに続いて『敵意、それに気配』、何者かの魔力が近づいてくる。
北方棲姫は慌てて散らした仲間を再度集め、それから襲撃者を迎え撃つ。

「……敵ガクル、迎撃用意!」

ガアアアッ

唸り声を上げて彼等は隊列を組む、それから接近する気配を待ち構える。

「……先制スル、イクヨ!」

後数秒で接敵のところで、彼女はその前を薙ぐようにして、『一瞬紅白の何かが見えた』が構わず北方棲姫達が砲撃を行った。
だが次の瞬間彼女達は予想外の、そして見飽きた光を見た。
ギランとどこか神々しく、『鉄塊』が夕日を反射して輝く。

ガギィンッ

「……こんなの効かない、サウスダコタを見習えっ!!」

巨大な金属塊、いや『艤装』を盾にように掲げて砲弾が弾かれる。
そして、それをやった『女』はそのまま踏み込み、焦げ目のついた艤装を振り被る。

「……反撃の時間だオラアッ!」

ドゴオッ

飛び出した影が振るうはやはり巨大金属塊、つまりは艤装で、それが手近な一体を容赦なく叩き潰す。
グシャと駆逐を木っ端微塵にして、反撃を成功させた『巫女装束の少女』が微笑んだ。

『……エスコートは何とか、でも私が出来るのはここまでデース』

発端は『嘗てのライダー』の残滓、チッポケな魔力のほんの僅かな残りである。
だがそれは『対の存在』、北方棲姫達の存在により燃え上がったのだ。
天敵である役目を果たす、だから活性化しその前に立ち塞がろうとした。
しかし、彼女は座に帰り霊核は存在しない、だから『妹』の存在がそれを埋め、加えて『ある戦場』の具象化である『北方棲姫』に繋がる少女が存在していた。
縁を辿って、姉の残滓を流用し、『ただ一人の艦娘』が冬木に降り立つ。

「北方棲姫、可笑しいですね、何故敗北したはずの貴女がここにいるの?
……駄目でしょう、倒れた筈の貴女が居たら……お姉様の戦歴に傷がつく、しっかりここで沈めておかないと!」

睨めつけてその魔力を全開に、当然長持ちしないがどの道不完全な召喚、力を出し切って倒してそれを姉への土産に帰る気だ。

「……さあ、覚悟は出来ていて!?」
「ゲゲエッ、金剛型……眼鏡ノ末娘カ!?」

この天敵の出現は完全に予想外だった。
これに北方棲姫が、深海棲艦が動揺し、それにフフッとちょっと人悪く笑ってから『金剛の妹』が主砲を構えた。
長姉より濃い色彩のボブカットの髪を揺らし、神経質そうな印象を与える眼鏡を押さえ宣言する。

「金剛型四番艦……霧島、これより攻撃開始します!」

ズドオォーンンッ

「ギャア……助ケテッ、アーチャー!?」

霧島は主砲を、装填した三式榴弾をぶっ放し、この瞬間『艦娘』と『深海棲艦』の三度目の戦争が始まった。



SN編前夜・・・AL作戦・序



ジャキンッ

『敵の予測進路』を睨み、そこへ教会由来の投擲剣を構え、綺礼はが珍しく表情崩し顰め面をする。

「(黒鍵でも不安だ、何かしら聖遺物が欲しいが)……『二人共』、そろそろ来る頃合いだ、注意しろ」
『わ、わかってる……』

彼の後ろで学生くらいの若い男女、『遠坂凛』と『――士郎』が宝石とアイリが錬成した短剣を構える。

「……アンタ、まだまだ未熟者でしょ、下がってたら?」
「だからって放っとく訳にはいかないだろ、せめて時間稼ぎくらいは……言われなくても危なくなれば逃げるさ、オバさん達が絶対に切れるし」
「立場弱いわね、アンタ……意固地になってるよりは良いんだろうけど」
(いや、本音を言えば、お前等どっちも後ろに回したいんだがな……)

余りに急で、綺礼にとっても不本意な、だが精一杯の面子だった。
正直戦力としては二人とも不安で、しかし部下の大半が住人の避難に出ている。
止む無く自ら志願した二人を出すしか無かった、また『御三家』の関係もある。

(『老人』は勝手に見てるだろうし状況次第で動くから良いとして……遠坂の現当主とアインツベルンの聖女の弟子、危険でも現場に入れて情報を共有せねば……)

そんな事情で二人が必要である、面倒臭い状況にはあと嘆息した。
その横で(長身の方の)アサシンもダーク(暗殺用の短剣)を緊張した顔で構えていた。

「……おい、片割れは?」
「彼女なら斥候に……む、これは?」

が、綺礼が首を傾げる、共にいる小さな影が見当たらない。
訝しげにそれを問いかければ、相手は偵察だと答え、がそこで相手も困惑げに首を傾げた。

「……敵が引いた、いや……」
「どうした?」
「集まってます、一箇所に……これは一体?」

街に近づいていた筈の敵が軌道を変えた、彼女はその意味を考え、それから『行き成り現れた魔力』にハッとする。

「これは……まさか、『喚ばれた』のか!?」

敵が集まるそこは既に戦場で、その中心に『片割れの友と似た気配』、そしてアサシンの片割れもそこに向かっていた。
彼等は『何か』が起きていることに気づいた。



ピクッ

空港から出て、彼もまたそれに気づいた。

「……ふん、早速か」

彼に続く『二人の少女』、久々の冬木に戻った遠坂桜と、ルームメイトが気になって強引に着いてきた『エーデルフェルトのご令嬢』も顔を引き攣らせていた。

「そんな……」
「何て禍々しい……」
「ま、わかっていた事さ……迎え、みたいだね」

震える若い二人の頭をポンと撫でて落ち着かせる、そうしながら若きロードは辺りを見渡し魔力の発生源を探る。
すると、本格的な手段で探るまでもなく、『先導者』が手招いた。
ニコと笑い、ビッとある方向を指差す、それだけやって一瞬で『彼女』が消える。

「全く、ロードだろうと構わず扱き使うか……ま、聞かない訳には行かないけど……『トリム』!」

消え様に儚く微笑む少女にコクと頷き、彼はその手のアタッシュケースを、そこに液体状で待機する従者を起動させる。
ケースが開き、そこから湧き出た水銀が『人型』を為した。

「……行けっ、彼女ではないだろうが……姉妹の誰かか、親しい同僚が戦ってくれてる筈だからね」

『トリム』と呼んだメイドを模した人型が主の指示に従い走り出した。
それを見送ってから、男は今度は『教会』の方を見る。

「あっちはこれで良し……二人は監督役の元へ、僕は少し『下準備』してくるから」
『は、はい!』

緊張気味の二人を促し馴染みの神父の元へ、それから少し離れると戦場から『やや外れた』辺りに向かう。
それから彼は金剛の『次に知る魔力』に気づいて、トリムの視界を自身と同調させた。
フッと視界の端を、『黒い影』が掠めた気がした。

(ああ、そうだった、『君』も……金剛の友達だったね)



砲弾が音速を超え飛んで、空中でドンと真っ赤に爆ぜた。

ドガアァァッ

「ア、アウッ……」
『ギャッ!?』

広範囲かつ対地攻撃に高い効果のある『三式榴弾』が北方棲姫とその眷属に襲いかかった。
火と鉄の破片の雨が深海棲艦の装甲を焼き、また引き裂いていく。
ボンと周囲の仲間が爆散し、それだけに終わらず北方棲姫にも榴弾が襲いかかる。

ガギィンッ

「ウウッ……ソレ、嫌イダ!」

咄嗟にその右腕を、口で噛んでグローブから引き抜いた右の鉤爪を(特に直撃コースの破片)に何度も振るった。
ガギと幼い容姿に合わない、艶めかしい真紅の爪が榴弾を払いていく。
だが、バキと爪が割れ、またジュと火が肌を焼く、北方棲姫の顔が歪む。

「アタタ、アアモウ容赦無イッ……ハ、反撃、ヤッチャエッ!」

彼女が怒り心頭といった様子で叫び、それに従い深海棲艦達が傷を押して動き出す。
まず、機銃持ちの駆逐イ級が素早く半円状に散る。

「包囲カラノ……掃射、テエエッ!」

前は当然に広く横からも機銃が霧島に突き付けられ、北方棲姫の指示で照準後引鉄が引かれる。

ジャキンジャキンジャキン
ドガガガガガッ

「くうっ、手数で来るか、ここは回避より防御を固めて……っ、まだ!?」

艤装を覆う装甲で霧島は銃弾に耐えて、がそこで深海棲艦が更に動く。
北方棲姫と(大半駆逐で全体から一割程度だが)数体居る軽巡ト級が火器を展開したのだ。

「……畳ミカケル、続イテ」
『ギイッ!』

ジャキンッ

「くっ、不味っ……」

北方棲姫の主砲、そして軽重ト級の雷撃口が戦艦の艦娘へと突き付けられる。
そして、ドガンという轟音がし、深海棲艦達の追撃が放たれた。
砲撃の火線一つに、雷撃のそれより細い火線が並んで数条、機銃で足の止まった霧島に飛んだ。

「う、ああっ!?」

ドガアアアッ

ボッと大きく火が爆ぜて、パチパチと黒煙が立ち上った。
北方棲姫が思わずグッとガッツポーズをする。

「ヨウシ、命中……駆逐、索敵開始、軽重ハ一緒ニトドメ……ンン?」

が、そこで彼女が親と小首を傾げた。
火は燃え噴煙は確かにある、がそこに交じるのは『僅かに中を舞う金属片』だけだった。
赤い血肉も、白い巫女装束も、鉄色の艤装の破片のどれもが見当たらないのだ。

「マズイ、ミンナ、警戒ヲ……」
「……まだですよ、そして遅い!」

ダンッと影が噴煙を裂いて飛び出した。
展開した艤装の装甲の一部分を囮に、霧島は火器を展開しながら敵陣を斜めに駆ける。
速力で分断し、連携を封じながら反撃へ。
そのまま機銃を横に払うようにして、まず駆逐を牽制する。

バラララッ

「お返しです、こっちも手数で!」
『ギイッ!?』

ブシュと表皮に横一文字に刻まれ『青黒く』染まる。
激痛に悶え速度に勝る彼等を押さ、更に霧島は素早く後続に反撃する。
彼女は群れを掻き分けて真横から、『砲撃及び雷撃直後』、僅かに動きの止まった北方棲姫達に主砲を突きつけた。

「三式弾装填、照準良し……FIRE!」

ドガアアッ

「キャッ!?」

再び大型榴弾の一撃が今度は最初より近い距離で、殆ど目の前で炸裂した。
赤熱する鏃の雨が北方棲姫を、軽巡ト級達を貫く。
至近距離からのそれに今度は鉤爪の迎撃が間に合わない、直撃弾が彼女の小さな体を黒く染め、また軽巡も少なくない傷を負った。

「ウー、ヤッタナ、似非外国人メ……」
「お姉様だけよそれ……このまま止めです、北方棲姫」

ジャキンッ

今度はこっちの番だと言いたげに、霧島は傷つき青黒い血を流す北方棲姫に砲を突きつける。
彼女に止めを刺すべく、特攻である三式弾を照準し引鉄を引こうとした。

「これで」
「終り……」
「……マダダ、オキロ眷属達ヨ!」

が、その寸前で北方棲姫が傷だらけの腕を払う、ビシャと青黒い体液が散る。
それは周りで倒れ、あるいは悶え蹲る深海棲艦達を濡らす。
すると、傷ついた装甲に染みるように広がって、カッと赤いオーラが立ち昇った、傷で動けない筈の彼等が再び動き出した。

「……上位デアル我ガ血肉、ワケテアゲル!」

赤いオーラを纏った駆逐が三に、同じくオーラが纏った軽巡が二、傷を感じさせない勢いで立ち上がり駈け出した。

『ガアアアッ』

ガギィンッ

強化された深海棲艦が榴弾を装甲で弾いて、彼等が突進してきた。

「な、何で……いやあれは、ELITE(エリート)!?」

驚愕しながら霧島は慌てて後退し、それに復活した眷属に守られた北方棲姫が嘲笑を浮かべた。

二イイッ

「フフフッ、私ハ最上位ノ深海棲艦、彼等ノ統率者……強化ナンテ簡単ダヨ!
……流石ニ、万能型ノ『レ級』程融通ハキカナイケド……」

召喚や融合は無理でも、喝を入れて立ち上がらせる程度は彼女にだって出来た。
彼女は強化した部下を前に出させる。

「サア……押シ潰テヤル、艦娘!」

前回の決戦では『質』を優先し数を絞った、だが今回はこちらが多数で相手が単独である。
数の差を活かすべく、並行し強化した駆逐達を向かわせた。

「不味い、防御も上がってる、重装甲に相性の悪い三式弾は不利……通常弾に切り替えるしか……」
「……フフ、各個撃破、間ニアウカナ?」

まず数を減らさねばと霧島は砲を構え直し、それに北方棲姫が焼け石に水だと嘲笑う。
だがそれでも艦娘は、金剛の末の妹は抗おうとした。

「まだ、こんなところ沈んではお姉様にどう……」
「座デアヤマルンダナア……数ハ覆セナイヨ」
『そうか、数か……それならば……』

その時だった、『銀』と『黒』が突如現れた。

ダッ

『銀』と『黒』、使い魔の鳩を抱いた『水銀の人型』と『髑髏の面を被った黒装束』が戦場を駆けた。

『こちらも数を増やす……援護する』

ザシュッ

二色の影が駆逐の間を駆け抜ける。
ビシャと『青』の血が散る、駆逐の装甲の継ぎ目が深々と抉られていた。
『水銀の人型』が刃に変形させた腕を、『髑髏の面を被った黒装束』がダークをすれ違いに突き立てたのだ。

「エッ……」
「あれは……片方は、英霊?」

艦娘も深海棲艦もこれには驚き、そこへ使い魔越しに魔術師がに懐かしそうに話しかけた。

『ふむ、その姿、金剛型か?……ならば援護する、行けトリム!』
「……勿論私も、ね」

『水銀の人型』従者トリムを操る若きロードが、『髑髏の面を被った黒装束』受肉した暗殺一族の頭が『嘗ての仲間の妹』に助力を申し出た。
一瞬霧島は困惑し、それでも反射的に敵である深海棲艦に火器を向ける。

「……か、感謝します、ええと?」
「こちらはロード……いやウェイバーだ、そっちは前回喚ばれたハサン、で自分達は……」
『金剛の……仲間で、友達だ!』

ドガアアァ
ガギィンッ

「ウウッ、ドイツモ邪魔バッカ……コイツラ、何カ苦手……」

彼等は万感の思いで叫び、『友』の末の妹に並ぶ。
艦娘と暗殺者と魔術師の(即席)部隊はこうして、北方棲姫とその眷属へと向かって行く。
北方棲姫の予定、その何もかもが狂ってくのだった。



ギギギッ

男が『弓』を引き絞った。
防御効果の有る外套、『赤色の衣装』に覆われた腕が握る弓に、螺旋の如き『剣』が番えられる。
彼は英雄だ、但し『世界の都合で動く』英雄だった。

(……異形が暴れ回る世界、犠牲を少くする為には……)

『敵』がのさばったままでは『世界』に傷がつく、だからそれを厭うた『世界によって』彼は呼び出された。
その最大火力で『戦場を敵諸共に』を焼き払えと。

「だがあの呪いは、消せない……散る、だろうな……」

しかし破壊力の分一箇所に集まる『深海棲艦の魔力』が周囲に飛び散る可能性がある。
それは人を脅かすだろう、だけど戦場で戦う艦娘に任せるのは『世界にとって』賭けなのだ。
だから、男がここに居る。
纏めて吹き飛ばすことで、確実に異形の群れを殲滅する為に。

「所詮私なんて、こんな……」

迷い、だが彼は弓を離さない。
必要なことだとわかっているし、また『不可視の刃』が背後から突き付けられている。
それはもう一体の、世界が遣わした霊体状態の『英霊』、恐らく隠蔽型のスキルか魔術、あるいは『宝具』を持っている。

「私が戦場を焼く、『こいつ』が何としてもそれを遂行させる……念の入ったことだよ全く……」

彼は愚痴り、すると背後の英霊も皮肉げな気配を送る。
恐らく相手にも不本意で、だがそれでも彼等は役目を果たさねばならないのだ。

「ちっ、所詮掃除屋か……『破れた(ブロークン)……」

迷いながら、だが男は『最悪』を避けるべく両腕に力を込める。
更に強く力を引き絞り、また魔力を注ぎこんだ。
そうして、その最大火力を戦場に叩きもうとする、ゆっくりと強弓が解放される。

「『幻(ファンタズ……『待ってくれるかしら、お二方』……むうっ!?」

慌てて振り向き、そこで英霊達の体が凍りつく。
その先には影が大小二つ。
『二輪の白い花』、二人を見た赤い英霊は何となくそう思った。

「あ、ああ……(イリヤ?それに彼女の……)」

相手の顔を、その底の見えない瞳を見て、英霊達の体から瞬く間に力が抜けていく。
『先代に今の聖女』、『聖杯と対』であるその存在は英霊とておいそれと手を出せないのだから(赤い男の方はそれ以外の理由もあるが)

「私はアイリスフィール・フォン・アインツベルン……」
「その娘の、イリヤスフィールよ……少しお話しましょうよ、『短絡的な行動』する前にね?」
『あ、ああ……』

二人が微笑み、それに英霊、『エミヤ』と『(恐らく)アサシン』は力無く頷いた。
戦場の外、そこでももう一つ(世界との)戦いが始まったのだった。





さて北方棲姫編です、割りと短編、これとやはり短編もう一個やって・・・完結編である『SN編(題名未定)』の予定です(hollowは思いつかず無理そう・・・)
あ因みに榛名霧島なのはミッドウェー(北方棲姫の初登場イベのあれと関係が深い)攻略戦参加者だから・・・金剛姉妹で比叡だけ未登場だが何時か出したい・・・
で、FATE側から英霊一名が戦艦コンビに加わります・・・(実は触媒が?)二槍の女難騎士か豪放な王か、又は事故って連続殺人鬼か?

追記・fate側はエミヤに変更、やはり第五次の『顔』ですので・・・候補だった四次ランサーと征服王はお蔵入りかなあ(辛うじてジャックは出せる余地はあるけど)
因みに、アサシン(仮)ですが・・・実は候補が四人程(うち一人がFAKEのジャック狂化抜き)、後は本編にGO組からですがさてどうしよう・・・

コメ返信・WW様・・・ロードも爺様も艦娘の相棒ですからそりゃあ影響受けますよ(殆ど別人ですが今までの積み重ねが有るし)ああ後『妹』は当然大活躍の予定。

何か後半切れてたので上げ直し・・・



[41120] AL作戦・序二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/04/18 16:53
・・・注意・艦これ側から『二人』出てましたが諸事情で『一人』に変更しました
・・・艦これ側から出るのは『四番艦霧島』だけです、前の話も直しましたが混乱した方ごめんなさい・・・



黒と銀が戦場を駆けて、紅白衣装の艦娘がニイとやたら攻撃的な笑みを浮かべた。

「ふむ、思わぬ援軍ですが……勝機か?」

すっと眼鏡を指で支え、その後それ越しに刃のように鋭い視線を敵に向ける。
素早く艤装を構え直し、弾倉に手を掛けた。

(……纏めて、吹き飛ばすか)

ガコンガコンッ

金剛型四番艦『霧島』、ライダーの末の妹が弾丸を装填する。
彼女が選んだ弾種は広範囲を攻撃出来る『三式弾』である。
北方棲姫に有効なのも確認済みだ。

ガコンガコンッ

「さあやるか、無様な姿は見せられないもの……」

魔力から成る、火と鉄の凶器が解放の時を待つ。

ガコンガコンッ

「全弾装填、ようし……みんな纏めて吹き飛ばす……覚悟して、北方棲姫!」
「チイイ、喰イ止メテッ、駆逐達!」

ぎょっとした顔で、北方棲姫が速度に秀でる者達を中心に迎撃させる。
が、ザアッと突進しかけた彼等の前に、『黒と銀』が立ち塞がる。

「駄目、行かせない、よ……」
『ああ……アサシン、トリムを『使え』!』

ギュルリと『水銀のメイド』が変形する、本来の液状化した姿に成った水銀が山の翁の四肢に纏わりつく。
更にそこで急速に凝固、右は長大な刃に、左は頑強な手甲を変形しアサシンの両腕と一体化する。

『蹴散らせ、アサシン』
「……了解!」

ダンッ

『エルメロイの遺産』を『装備』したアサシンが弾丸の如き勢いで前に出る。
霧島に猛進する駆逐の懐へと、地を這う獣のような奇怪な動きで踏み込んで、その凶悪な銀色の刃で薙ぎ払った。

ザシュッ

「やああっ!」
『ギイッ!?』

火線集中の為に集まった駆逐の群れが纏めて薙がれ、青黒い体液を金属片をばら撒きつつ崩れ落ちた。
それで、その時一瞬だけ戦場に大きく空白が現れ、その『道』は北方棲姫に続いていた。
ジャキンと、そこへ霧島が主砲を突きつける。

「隙有り……貰ったあっ!」
「ウッ、不味……」
「FIREE!」

ズドンッ

「ギャウッ!?」

微塵も容赦無く、霧島が放った榴弾が深海棲艦の鼻先で炸裂した。
派手に火と鉄の破片がばら撒かれ、直後轟音とほぼ同時に激しく姫を中心に土煙が巻き上がった。
余波を手で掲げたアサシン達が安堵しかけ、がそこで霧島は一瞬俯く。

『やったか!?』
「……いや、まだです、手応えが……」

霧島が緊張した表情で眼鏡を整え、それから得物を『三本のアーム』で自身を守った小柄な影に突きつけた。
彼女の背には長大なアームが伸び、それぞれ主砲と対空と装甲板(これは焼け焦げ半分程抉られていたが)が先端部に装備されていた。

「ウウッ、ヤッタナア……」
「その厄介な武装、使い始める前に仕留めたかったが……そう上手くは行きませんか」

本気でない内に倒せなかったことに顔を顰め、がその後ニッとまだ『次善』と笑った。

「ですが、この早い段階でそれを出させた、使わせることが出来た……ええ、まだ僥倖と言えましょう!
……何故なら、『世界』を焼く分のリソースを使うでしょうからね?」
「……ダカラ、温存シタカッタンダケドナア」

追加武装を動かすのは当然北方棲姫の魔力。
第四次の終盤で消耗し、その後八年間で溜めた分のそれで、ここで全力で戦えば戦う程後々に響く。
霧島は最初の理知的な佇まいから一転、好戦的な笑みを浮かべ主砲を構えた。

「それなら、後は私が粘れるだけ粘ればいい……私を倒そうが『瀕死の子供』が残るのみ、後は生き残った連中に任せればいい……
そこの可愛い暗殺者なり、覗き見する狙撃手なりに……」
「グッ、忌々シイ……」
「ふっ……リソースもっと吐けオラアッ!」

ガギィンッ

主砲の引鉄を引きかけて躊躇して、そこへ保身を一辺も考えず霧島が突っ込む。
大振りの拳が叩き込まれ、咄嗟に北方棲姫がアームの防御装甲板で受け止める。
それから『迷う』ように主砲と『ポケットの紙片』を順に見た。

「さあ、消耗覚悟で撃つといい……あるいは『他の札』でも良いですがね!?」
「ムウッ、ソレモ読ンデ……」

彼女は対応を必死に考え、武装とは『別の切り札』を切ることを決意した。
ブンと鉤爪振るって霧島を追い払い、それから『怪しい模様刻んだ羊皮紙』の紙片を神への供物のように掲げた。

「マダ火器ハ使イタクナイ、キテ……『海魔』!」

彼女の周囲の空間が揺らぎ、そこを裂いてヌラヌラと怪しく発光する怪生物の群れが現れた。
ザッと彼等は北方棲姫を守るように壁を作り、それに任せて北方棲姫と生き残り達は踵返して人気のない郊外に走った。

「ちっ、仕切り直す気か……」
「……ああ、そういや『あの戦場』に艦載機が居たっけ」
「……仕方ないか、大人しく殿共を潰しておこう……」

『新たな脅威』、その一幕目は姫の切り札一つの発覚と引き換えに終わった。



AL作戦・序二



銀髪の淑女と、黒い肌の精悍な男が睨み合う、ただ後者は戸惑っても居たが。

「……私達の目的はこの地を守ること、それも穏便に」
「……『世界』の目的は深海棲艦を倒すこと、出来る限り早急に」

アイリとアーチャーはそれぞれの目的を言い合う、それはある意味で一致しある意味で違う。
深海棲艦を排除すれば冬木の安全は確保される、がその過程の優先順位が違うのだ。

「聞くには同じに思える、協力できる……と思うのは早計かしら」
「ああ、そうだ、私は……敵を一網打尽にできるなら『少々の被害』は目を瞑る、そういうことが出来る英雄でね」
「……だから、個より全を重視する世界が選んだか」

手っ取り早く後先考えない無差別攻撃、最大火力の一撃は確かにこの状況では有効といえた。
が、それは戦場と周辺に消えない傷跡を刻むだろう、また運悪く巻き込まれた者は助からず、何より汚染魔力が余波で却って広範囲に広がる可能性があった。

「……それだけは、止めて欲しいのだけど」
「だが、脅威の排除には有効だ……止めるなら好きにするが良い、だが人の身でどうやってだ?」
「うーん、確かに力じゃ無理、困ったわあ……」
「……存分に恨め、私はそういう存在だからな」

この自虐的な言葉、どこか罪悪感を抱いているかのような言葉に、アイリとイリヤは僅かな戸惑いを覚えた。
少なからず壊れたところのある英雄にしては人間臭さが見える。

「変な人……どうする、母様」
「そうねえ、恨めと言われても……それ以前の問題なんだけど」

何故なら、恨む恨まない以前に、『彼女達は妥協出来ないのだ』。

ザッ

アイリが力で敵わないと理解しながら、男の前に立った。

「……警告どうも、でも止めて」
「……そうだね、私も同じ意見」
「な、何を!?」

イリヤも頷いて、母と共に英雄の前でまるで壁になるように手を左右に広げた。
その身で遮るように矢の先に晒していて、弓を構えたまま英雄が目を剥く。

「な、何のつもりだ、イリ……ヤスフィールとアイリスフィールとやら!?」
『え、旦那(お父さん)ならこうするかなって……』

二人は命の危機なのに、にっこり笑って答えた。

「英雄さん、私の夫は、イリヤの父は……英雄を嫌ってたの、綺麗過ぎる生き方は美談として人を甘えさせるから」
「でもね……あの人もそう言いながら、綺麗な生き方に憧れてたところもあるの」
「……その男はどうなった?」
『死んだわ……でも、結局捨て切れず貫いた』

アイリ達は英雄を憧れながら嫌い、だけど結局それに近い生き方をした男のことを語った。
結局彼は戻らず、だがその『墓標』は有る。

「8年前、この地に災いが起きた……でも、それは『本来』よりずっとマシだった」
「あの人が命を掛けて……それで死なずに済んだ人が居る、焼かれずに住んだ街が有る、なら『世界』と言えど犠牲にはさせたくないの」
『……不器用な、英雄もどきの宝を壊さないで、英雄さん』

英雄に憧れ、英雄に慣れず、だけど最終的にその生き方を選び近づこうとした男が最後に守った者が『この国』で『この街』だった。
男の生きた証、その『巨大な墓標』、真の英雄なら壊さないでくれと二人は訴えかける。

(……難しい、かもしれないけどね)

だけど、同時に心の隅に諦めが有る、世界に使わされた、所謂掃除屋のような英雄は反英雄かそれに近い者が多い。
だから切嗣の生き方に何も感じない可能性だって少なくない。
無駄かもしれないと覚悟し、すると『はああ』とやたら疲れたような嘆息を聞いた。

ガシャ

男が弓を降ろし、またもう一人の、姿の見えない相手も武器を仕舞った。

『えっ?』
「……そちらのやり方で世界を脅かす存在を排除しろ、それで構わん……アサシンも良いな?」

どことなく疲れた様子で男はアイリ達の言葉を受け入れ、また見えないがもう一人もそれを良しとしたようだ。
ぽかんとする二人に、彼は言い訳するように呟いた。

「良いの、お兄さん?」
「少しだけ、『気持ち』がわかる……いや、忘れてくれ」

ブンブンと誤魔化すように数度首を振って、それから彼はアイリに問い掛けた。

「……一口に協力というが、どうすればいい?」
「え、ええと……そうね、とりあえず深海棲艦は逃げるようだし……手下の海魔を潰してくれる?」

慌てて使い魔に意識を集中、するとそれ越しに姫が逃げ、殿に異形の海魔を呼んだのが見えた。
残しても碌な事に成らず、また味方の英霊が消耗する。

「世界の召喚でも……参考できるシステムが有るなら使うでしょう、恐らく冬木のサーヴァント関連のシステムを『借りた』んじゃない?」

そこで首傾げ、それから男とその連れを順番に見て、既存のサーヴァントに当て嵌めていった。

「それを元に考えるなら……見たとおり貴方が『アーチャー』、もう一人は『アサシン』ね」
「なら、主催者権限も……『聖杯の聖女』である私達の言葉、聞いてくれる、アーチャー?」
「……まあ、良いだろう(姉、それとその母、だしな……)」

友軍の消耗を避けるべく手伝ってくれと、アイリ達はアーチャーに頼んで、彼は絶対に断れない言葉を受けるしか無かった。

「……深海棲艦に逃げに徹すれば補足は難しい、単純に生命力が高く……冬木各地の『呪いの跡』に紛れられるから」
「でも、せめて削りだけでも……お願い、アーチャー!」
「承知、向うを援護する……逃走する『本隊』を狙えなくもないが、いや一撃では倒せないな……」
「……なら、海魔に集中して、どうやら艦娘は『次』に備えるようだしそれに習うわ」

コクと頷いてアーチャーが弓を構え直す。
相手の言葉、艦娘の部分に少し聞きたげだったが、直ぐに切り替え脈絡なく現れた矢を続けて放った。

「牽制で良いな?……それとアサシンは控えさせてもらう、『知られないこと』が最大の武器だからな」
「ええ、お願い、アサシンに関してもそれでいいわ」

戦えないことに不満そうな連れを睨んで黙らせ、それから彼は矢継ぎ早に矢を打ち込んでいく。

「……その弓、素材は何らかの合成素材ね、割りと近い時代の英霊かしら」
「一見洋弓、でも……顔立ちはアジア系、肌の色でちょっとわかり難いけど」
(やり難いなあ……)

尚、聖女の親子はしっかり観察していて、アーチャーは頭を抱えたくなるのを堪えて撃ち続けた。

「……能力はバランスは良さそう、でも際立った物はないようね?」
「あ、でも、魔力が高いよ……『魔術を齧った弓使い』それとも『弓を齧った魔術師』、どっちかな?」
「いや、組み合わせることで英雄に成る程昇華された存在、そう考えるべきだと思うね」

『三人』は好き勝手に、アーチャーのデータを解析していった。
ここで、アーチャーは何かが可笑しいと首を傾げた。

「待て……誰だ、最後の」
「通りすがりの時計塔のロードだ、気にするな……あっアインツベルンには前回お世話になりました」
「ああ、切嗣と共に戦ってくれたという……いえいえ、その節はどうも」
「…………また増えたよ」

ヒラヒラと『気難しそうな若きロード』が手を振った。
はあと、最後の海魔を撃ち終えたアーチャーが嘆息した、また変なのが増えたなと彼は思った。



戦闘終了三十分後、深海棲艦発生からは一時間後、関係者一同は『エーデルフェルト縁の洋館』に集まっていた。

「はい、皆さん、ご清聴……」

集まった一同の前でエルメロイ二世が、そして隣で(小さい方の)ハサンが相変わらずマイペースに口を開いた。

「これは私見だが……対深海棲艦を目的に同盟を組むのが賢いと判断する」
「尚、拒否権はないから」
「その為に『エーデルフェルト館』を拠点とすることを提案する……互いに人種も組織も違う、だが大まかな目的は共有できる、だが情報交換の場は必要だろう」
「勿論、これも拒否権はないから」

えっと、聞いてないと冬木を管理者する凛と綺礼が絶句し、更に続く後半に館の(籍上の)持ち主のリヴィアが恩師の横暴に呻いて膝を着く。

「……ご、強引過ぎます、ロード」
「いや、魔術師も英霊も基本は『自分勝手』、どうせ勝手に動くんだろうが……せめて見える範囲に置きたい、その辺察してくれ」
「ああ確かに……教会の者としてウェイ、でなくエルメロイ二世に同意しよう」

前回の戦争でその辺苦労した男達の意見が一致し、経験者の言葉は重く感じた一同が少し乗り気になった。

「……遠坂は条件付きで賛成、協力と……まあ『目』としての意味で桜をここに行かせるわ」
「エーデルフェルト先輩、ロードのマイペースさは無視するのが一番……あ、はい、頑張ります!」
「アインツベルンも賛成……行かせるならイリヤかしら、ああ食事時だけ士郎君が良いか」
『はい、当主(オバさん)!』

凛とアイリが何か在った時迅速に動けるように(協力者であり監視であり何か有れば制止役となる)それぞれの身内を向かわせると発言する。
それに続いて羽音が、そして枯れた男の声が響いた。

『マキリも賛成する……人はやれんが、蟲を幾つか寄越すので上手く使え……』

しっかり聞きつけてきた、相変わらず耳聡い臓硯が(流石に直接戦闘は無理だが)生育した魔蟲によるサポートを確約した。

「……では、英霊達は?」
「……金剛型四番艦『霧島』、問題有りません」

まず霧島がビシと敬礼し、その後奇妙な同盟への参加を表明する。

「魔力的に休む場所は欲しいし、また……情報面で現地の方々の協力は喉から手が出る程欲しい、代りに戦闘はお任せください」
「了解した、魔力は遠坂に教会と打ち合わせて……情報の方はハサンか?」
「うん、任せて……霧島、『彼女の部屋』、家具とか残ってるから貴女が使うといい」
「ありがとう、ハサンさん……お姉様のこと、後で聞かせてね」

戦力の代わりに必要な二つ、魔力はエルメロイ二世や遠坂等で、情報に関しては教会側で受け負った。
『明るい笑顔の英国帰り』を介して、直ぐに仲良くなった霧島とハサンが握手した。
ふっとエルメロイ二世が微笑んで、それから黙っているアーチャーに問うた。

「……アーチャーは?」
「……情報面の援助は必要だ、またこちらが得た場合も直ぐに伝える……ただ場所は必要ない、気を使わなくていいし、アサシンにもそう言っておく」
「ふむ、まあそうなるか、君等は色々難しいし……ふむ、こんな物か」

一応協力の意思は確認できて、エルメロイ二世はニヤリと笑って纏めに掛る。

「決まりだな、では……一緒に住む者もそうでない者も仲良くやろう、短い期間かもしれないが」
「……因みに、この人『館』を我が物顔で使ってるけど、実は違法利用者」
「はは、細かいなあ、アサシン……前回のはもう時効で、今は生徒から接収したってことにするから問題ない」
『職権乱用だよこの人……』

彼は全く悪びれず自己を正当化し、それに一同が呆れ顔で(当事者のご令嬢は涙目で)突っ込む。
が彼は恐るべきマイペースさで受け流し、さっさと話の結論へ。

「……さて仲良くやろう『皆の衆』、八年前みたいに」
「問題起こしたら、霧島の三式弾でお仕置きだから!」
「任せてっ、腕が鳴ります!」
『あ、はい』

ロードが暗殺者が、既に馴染んだ戦艦が他の意見を強引に押し切った。
そして、こうして魔術師と英霊の奇妙な共同生活、及び共同戦線が『また』始まったのだった。

「……よし、住む場所が決まったし……実戦に備えて、主砲をピカピカに磨かないと!」
「霧島ってば流石戦艦……やっぱり金剛の妹だね!」

一部はどこか楽しむような調子で。

「頭が痛い、呑気過ぎるというか……私は薄汚い掃除家なのになあ……」
「アーチャーだっけ、大変だな……あ、うちの姉貴分が無茶言ったみたいでゴメンな」
「……気にするな、私は気にしていない(……明らかに違う『奴』、どんな悪夢だこれは)」

一部は頭を抱えたり、そういうのを哀れんだりな感じで。
そんな風に滑稽な程に凸凹に、奇妙極まりなくて、忘れられない一ヶ月は始まった。




・・・えー、登場済みだった三女の出番を差し替えました、別パターン思いついて(浮き砲台トリオで、又は雪風率いる『幸運艦軍団』で出すとか・・・)
後アーチャーアサシン?(まだ未定)と合計四人揃えるのキツイ、短編なのも考えたら多分見せ場で食い合必至だし・・・か、彼女は次の出番待ちで(あるいは比叡も?)
イリヤと士郎とエミヤの共同生活だけでアカン気がするけど多分気のせい・・・

コメント返信
WW様
あの親子が原作との最大の差異ですね・・・割りと色んな方面に影響を与え得るイイ立ち位置かつ、トラブルの種でも有ります。

ネコ様
金剛の妹さん、一番真面目な人を出したので・・・他が引く勢いでほっぽを追う予定、ある意味彼女とそれに振り回される周りって感じになりそう。
アサシンは一応メジャーなの持ってくる予定ですが、ただ戦闘面よりアーチャーとの掛け合い相手の要素が強いので・・・正直どの候補も趣味的かも、あしからず。



[41120] AL作戦 其一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/04/18 16:54
女はじっと見ていた。

『……』

その肌は白磁の如き艶色で、白銀の髪が輝くようだ。
正しく『聖女』を体現した存在だった。

『……むうう』

そんな彼女は深海から現れた異形の齎す喧騒、その行方を憂鬱に見ていた。
それはある意味で女が元凶で、だから複雑そうな顔で溜め息一つ。

『……はああ』

彼女は何かすべきだと思った。
それが『一族』の責任だろうと、だから『行動』を起こした。

『……切っ掛けくらいには成るはず、これで何とか……』

『繋がり』という糸を、その女は静かに辿った。



AL作戦 其一



バサと『銀の翼』が風を打つ。
館に並ぶ『猛禽』の群れを、変わり者のロードが神経質な目で見回す。

「……一から六は市内を、七と八は郊外を、九と十は……」

エルメロイ二世が水銀の使い魔達(トリムの予備素材、汎用性を高めた謂わば特別製だ)矢継ぎ早に指示を出していく。
ある程度の判断力を持つ彼らを冬木の各地に飛ばしていく。
最後に一羽を見送り、ふうと彼は疲れた様子で作業を終える。

「……この数は流石にキツイ、でもこれで見張りは十分だろう」

何か有れば彼らが動く、深海棲艦の出現に素早く対処できる。
魔力の干渉から呪いに汚染されたに『直』には飛ばせないが、それでも後手を踏む可能性は低い筈だ。

「まあ、これは待ち、消極策だが……能動的な探索は『あちら』に任せればいいさ」

そう溢してエーデルフェルト館のテラス、そこに目立たず立つ二つの人影を見る。
一人は赤い外套の男、『鷹』の如き鋭い目と鍛え抜かれた『鋼鉄』を思わせる体躯が印象的だ。
もう一人はどこか薄っすらと儚く、幽鬼のような影しか見えず、しかもそれも直ぐに消えた。

「私は呪いに汚染された地域に向かう、アサシンはここに着いてろ……拒否権はないぞ、良いな?」

アーチャーがもう一人に、アサシンに一方的に告げる。
アサシンの方は不満そうにしたが睨まれ引いたようだ、霊体に成ったそいつが消えて、それに一度嘆息してからアーチャーが館の扉へ向かう。

「……アーチャー、行くのかい?」
「ああ、一発で『当たり』を引けるとは思わんが……それでも確認しておくべきだ」

北方棲姫を発見すれば当然倒しに行くが、各地に残る汚染跡からそれを正確に引き当てるのは難しいだろう。
だが、それでも『外れであること』を確定させておけば他に行けるのだ(勿論監視は居るが)

「だが慌しいね、もう行くのか……館の連中に少しは話を……」
「……『それ』が面倒だから行くのだよ、ではな……」

何故か『気不味そう』に、そう言葉を残すとアーチャーは霊体化し街に向かう。
ううむと、奇妙な素振りを見せた相手にエルメロイ二世は首を傾げた。

「何なんだか……」

訝しみながら彼は館に戻ろうとし、そこでちょこまかと動く『銀』を見つけた。

「士郎、箱開かないけど、ハサミどこー?」
「……ああ、それは重いから俺がやるよ」

聖女の娘の方が引っ越しの荷物(もう一人、唯一の男手に運ばせたのだろう)を紐解き、邸内を勝手に飾り付けていた。
何となくだが、アーチャーが不機嫌だった理由がわかった。

(逃げたな、前回彼女にしてやられたらしいが……そんなに苦手か、アーチャー)

英雄も形無しだと思い、そこで彼は『可能性』を一つ思いつく。
それだけではなく、イリヤスフィール・アインツベルンだからこそ、そういう可能性もあるのではないかと。

「いや、生前に関わる可能性も有るか?まあアインツベルン縁の英霊とまでは言わないけど……」

過去にあの手の少女に『痛い目』遭わされたなと何となく思う(流石に後者は冗談のつもりだが)



キュッキュッ

『えい、えい♪』

水に浸した布が何か大きな物ものを拭う、テラスで二人の少女が鼻歌交じりに作業していた。
それだけなら微笑ましい光景だ。
が、磨くのは『艤装』だ。

「いや、対象が……」
「ああ、可笑しいよね……」
「……今更だよ、ああ今更だ」

士郎とイリヤが突っ込み、既に慣れさせられたエルメロイ二世は肩を竦める。
楽しそうに磨く二人の少女、霧島とアサシンに三人が(程度の差こそ有れど)呆れていた。

『……いや、英雄?』
「深海棲艦という化け物に挑む、間違いなく英雄」

士郎達が首を傾げ、それにロードが極論を返す。
そして、霧島達は構わず主砲を磨く。

「さあ、頑張りましょう、ピカピカにしないと……」
「うん、貴女の一張羅だもん……完璧にしようね!」

二人はふふっと微笑み合って作業を続ける。
会ったのはつい先程で、だけど『一人の少女』を介して長年の友のように馴染んでる。
特にアサシンは相手が友人の末の妹と、どこかお姉さんぶった様子で頻りに構っているのだった。

「これに関しても、情報も……しっかりサポートするから、だから頑張ろうね、霧島!」
「ええ、頼みましたよ、ハサンさん!」

まるで仲の良い姉妹のように、あるいは付き合いの長い友人のように、二人は艤装の主砲を丹念に磨いていた。

「……良い関係じゃないか」
「いや、持ってるのが可笑しいから……」
「それ以外なら、微笑ましいけどねえ」

仲が良くて宜しいともう一人の友人が笑い、いやと士郎達が首を振るう。
慣れてる者とそうでない者の、差が明白に出ていた。

『……本当に、英雄?』
「だから英雄さ、間違いなく……」

未だに困惑する二人に、エルメロイはやれやれと肩を竦めた。

「英雄とは主に『後世に誉れとされる者達』……例え火力自慢だろうが暗殺の一人者だろうが条件さえ満たせば良いのさ」
「そ、それはそうですけど……」
「考え過ぎだ、いや英雄に夢を見てるか……『後世に誉れとされる』のが先で品格や力は『おまけ』だ。
いやまあ、聖杯戦争に呼ばれ得る英雄なら『後世』とは限らないけど」

教師の性か、立て板に水とばかりに彼は捲し立てた。
その途中『例外』(聖杯なら時間を超越しかねない)を思い付くもそれは例外とし、英雄について講義を始める。

「まあ、例外(未来の英霊)は置いといて……常人で成し得ないことを為すのが英雄だ、例えば『人外退治』とか」
「あー、その見方なら確かに……」
「……英雄だね」

色々端折った、端的かつシンプルな答えに士郎達は渋々ながら頷いた。

「勿論人を救う英雄も居る、人を導く英雄も居る、勿論戦う者も……その一つで、また今求められてるのが……」
「……深海棲艦と対である『艦娘』だと」
「そういうこと……まあ戦場の英雄譚は基本的に派手で華々しい、偏るのも仕方ないか」

そこまで言ってエルメロイ二世は肩を竦める。
そういう英雄の基本、それを忘れたことで起きたのが第三次と第四次の悲劇だと。

「力しか見ず、それだけを求めて……結果が『殺戮者』にして『捕食者』の召喚、当たり前のことを忘れた『ツケ』さ」
「……ツケか、高く付いたもんだ」
「……だから教訓すべきで、君たちもそうしてくれ」

冷静に前参加者が間違えた理由を語り、それに士郎とイリヤは重々しく頷く。

『えい、えい♪』

キュッキュッ

「……でも、やっぱり微妙だなあ」
「うん、あれが英雄なのかあ……」
「慣れろ、もしくは諦めろ」

だけどやはり微妙に納得いかず、そんな二人にエルメロイ二世はアドバイスのようでも逃避のようでもある言葉を掛けた。

「あー、霧島……君の英雄らしいところを言って見給え」
「え、はい、英雄らしさですか……」

仕方ないので、彼はここで当事者に水を向けてみた。
すると、彼女はニヤリと笑い自信満々に答えた。

「自慢は火力……これで深海棲艦を吹っ飛ばすんです!」
『見ればわかる』
「……通常仕様の徹甲弾と、面攻撃である三式榴弾の二種類を使えます!」
「……それぞれ、具体的には?」
「徹甲弾は重装甲の敵をふっ飛ばし……三式榴弾は広範囲の敵を吹っ飛ばせます!」
『結局火力のことか!?』

戦艦の妹はやはり戦艦だった、火力自慢に終始して尽く突っ込まれる。
寧ろ突っ込みどころにしか無い言葉に、ぜえはあと士郎とイリヤは殆ど叫びながら突っ込んだ。

「……ま、弩級戦艦なんて物騒な肩書、そんな誉れ方なら『そう』なるさ」
『そ、そうかもしれないけど何か納得いかない!?』
「いやあ、お姉様程じゃあないですがね、知名度の分……その分幾らか『小回り』は効きますが、能力もスキルも」
「寧ろ『迎撃』ならそっちが良いかもね」

突っ込み疲れに荒く息を吐く二人を置いて、エルメロイ二世は英雄と歓談するのだった。

「いや他に突っ込みが居る……楽でいいねえ」
『地味に酷いぞ、この人!?』
「……ふふっ、前回は某少年がその立ち位置だったのに成長したねえ」
「お褒めの言葉有難う、アサシン……僕、いや私も大人になったのさ」
『それ、成長かなあ……』

元突っ込み(今はスルー技術を覚えてボケに転向)に、それ程常識の捨てられない士郎とイリヤ、突っ込みの二人が突っ込んだ。
完璧漫才か何かだった。



「人ヨ、短キ平穏ヲ甘受シロ……」

呪いの奥深く、『白い少女』が笑う。

「……フ、フフ、『コレ』ナラバッ」

戦場から逃走した北方棲姫がバッと『外套』をその身に纏う。

「決戦用装備、完成ダッ!」

それは白一色の、彼女に誂えたように人外を思わせる色の衣、異様な質感に奇怪な粘液で濡れた『何かの生物の表皮』が重ね合わされている。
外套を纏った北方棲姫の周囲には『怪生物』の死体が山のように成っていた。
皆血を流し肉が露わにして息絶えている、力づくで少女に剥がれたのだ。

「厳選シタ『海魔ノ皮』、コレサエアレバ……艦娘ノ『主砲』モ、英雄ノ『宝具』モ効カナイモン!」

ニヤリと笑って強く意気込む、宿敵である艦娘を倒し、今度こそ世界を焼くのだと。



『……さあやるか』

夜のエーデルフェルト館、衛宮の姉弟と(好奇心から)ロードが馬鹿やっていた。

「さあ、士郎……日課の時間よ、鍛錬鍛錬!」
「こんな時なのに厳しいよな、イリヤは……ふうう、投影(トレース)開始(オン)!」
(……色々頭が可笑しい、やらせる側も実際にやる側も……)

アインツベルンの魔術がどんなものか、興味本位で見学していたエルメロイ二世が頭を抱えた。
何せ、苦悶の表情で士郎は『回路』を作り上げ、それから空っぽの刃をその手に創りだしたのだ。
『一々』魔力で回路を作るやり方等聞いたことがなく、エルメロイ二世は正気を疑った。
すると、それに気づいたイリヤが人差し指を口の前に。

「しーっ!」
「……君の入れ知恵か」

どうやら確信犯らしい、彼女は彼女なりの思惑が在って弟分に自殺行為をさせているようだ。
それでも正気かと言いたかったが、家族の問題と(後恐いし)エルメロイは口を紡いだ。

ギロリッ

(に、逃げた訳ではない……すまない、少年)

実際はバラしたらキレると言いたげな少女に負けただけ、彼は保身の為に沈黙した。

「……というか、その精度の投影とは……やり方によっては色々出来そうだな」
「うーん、そうは言われても……これ、欠けた程度で消えるような脆い半端物ですよ」
「逆に言えば……破損しなければもっと持つんだろ、そんな投影なんて私は見たことも聞いたこと無いが……」
「一応言うわ、ロード……利用しようとか他に知らせようとしたら『お人形』ね、『封印指定』なんて冗談じゃない」
「……はいっ、フロイライン」

士郎が色々可笑しいことを言ったが、姉に威嚇されてエルメロイ二世が青い顔で黙りこんだ。
弟に厳しいのか甘いのか、今一判断できなかった。

「えーと、ロードでしたっけ」
「む、何かな、少年」
「……何というか、こういうののコツとか有りません?」

イリヤに押されっ放しのエルメロイ二世に、士郎がふと思いついた様子で問いかけてきた。
アドバイスを乞われ彼は固まる、この非常識な魔術にどう言えと戸惑う。

「ふうむ、そうだな……」

とはいえ、教師としてこの手の問いには応えるべきだと、エルメロイ二世は経験や知識を引っ張りだす。
暫し考えて、それから彼はいくつか上げてみる。

「形は出来てるんだ、ここは汎用性……差別化するとかかな」
「差別化、ですか……」
「ああ、様々な性質の付加、要は特化させるということ……作りながら完成形を色々考えてはどうだい?」

そうエルメロイ二世が上げた時、その『右手の甲』がじわと熱を持った。
彼は訝しんで、その時まるで熱に浮かされたかのように、『天啓』のようにあることを思いついてそれをそのまま口に出した。

「まずは『実用的な剣』から、それをベースに各方面に特化させていくんだ」
「ふうん、やってみるか……」
「そうさ、まずは試し、例えば……『兵士』が持つような実戦重視の武器をイメージすると良い」

スラスラと彼はそんなことを言った、そうしながらあれと彼は心の何処かで訝しんだ。
思い付きにしてはどこか奇妙で、が戸惑いに気づかず士郎は実際にそれを行った。

「実戦重視、兵士の剣……良しっ、投影(トレース)開始(オン)!」

カッと魔力が輝き、『兵士が腰に下げるような無骨な刃』が投影された。
が、目の前のそれに士郎は僅かに戸惑う。

「あれ、何というか、兵士は兵士でも……左官、いや将軍が持つような?」

確かに兵士の剣だが、無骨ながらも質の良さを感じさせる中々に上等な物だった。
少しイメージと違い、『師』の剣を手に士郎は首を傾げた。
そして、その様子を見ていたエルメロイ二世は一瞬目を見開き、それから天を、この場に居ない者を睨むように肩を落とす。

「……堕ちる前の『彼』の武器、『償い』のチャンスとでもいうのかい、相棒?」

その右手が、『令呪の跡』が疼いだ。



『ふう、これで霊核の切れ端は遅れたはず……』
『良い仕事デース、聖女様』

パンと魔力の渦の中で『聖女』と『艦娘』が手を打った。
自分達は直接出れないが、『海魔』に関して『最も悔いを持つ存在』に間接的に助けさせることなら何とか出来た。
そんな不確かな賭けの準備を、嘗てのマスターにさせた少女達が笑い合う。

『さあ、後は……今を生きる者達の仕事よ(デース)!』

託すように言って、彼女達は現世の者達の健闘を祈った。




・・・青髭セイバー(性能は兎も角)格好いいよねという話、いやまあテコ入れというか・・・艦娘だけじゃあれですしね、クロスだもの。

以下コメント返信

リュウ様
榛名関連は修正しました、有難うございます・・・流石に北方棲姫がアリューシャン島なのはわかってます、だから題名が『AL作戦』表記な訳で・・・
前回の艦娘側の代表『金剛』『レ級』の関係者(メタ的な意味含め)代理戦にそれっぽく理屈をこじつけただけ(後付ともいう)そんな事情なんで見逃してください・・・

ネコ様
本戦(第五次)前だから多分大丈夫、のはず・・・本音言えば、ここ等で何かしらフラグを立てとかないとオリ展開を書く意味が有りませんから。



[41120] 幕間 時計塔の一日
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/05/18 12:52
・・・番外です、本編は次までに。





PIPI

ベルの音がし、『男』は『先輩教師との会合の酔い』が残る頭を振りながら起き上がった。

「う、ぐっ……もう時間か、クレーム対策とはいえ程々にせねば……」

彼は顰め面で起き上がる。
それから自身の赤ら顔をなんとかすべく、部屋に待機する付き人を呼んだ。

「……トリム、水を」

その日の彼の、ロード・エルメロイ二世の朝は唯一の従者(エルメロイ令嬢の成人までの地位だからとメイド等は断っている)への指示で始まった。
トタトタと直ぐに精巧なメイド服の人形、水銀でその身を構成された『トリムマウ試作型』がロードの元に。
水が半分程入ったコップ二杯を、ミトンに包まれた手(水銀の毒性からだ)に持って運んできた。

「ご苦労、トリム……ふうう」

まず一杯を一気に飲み干して酔いを覚まし、それから残りをゆっくりと口にする。
命令を果たし終えてペコと頭を下げた彼女に、エルメロイ二世は少し難しそうな顔をする。

「機能は問題ないが……次は情緒、完全な自は無理でもある程度自己判断能力を……」

研究者らしい神経質な顔で次に付加すべき機能を考えた。
この水銀人形はいずれ『次期当主』に護衛として引き継がせる(メイド服なのはそういう面から)ので細心の注意で仕上げねばならないのだ。

「……まあそれは後だ、着替えを……」

とはいえ既に朝、考え過ぎて遅刻しては元も子もない、教師である以上尚更だ。
一旦思考を切り上げるとトリムの用意したスーツに着替え、それから従者を引き連れて寮を出た。
道中時計塔、予習に余念ない真面目な生徒に手を振っていく。

「……はいはい、お早う、学生達……それと遠坂君?」
「げっ……あ、はい、お早うございます」
「一言目は聞かなかったことにする……おはよう」

とりあえず朝食でもと考えて食堂を訪れ、そこでレポート片手に食事を摂る『某家次女』と挨拶する。
途中ちょっと嫌そうな声(普段振り回してるから当然だが)聞いた気がしたが流して向かいに座る。

「宿題、済んでるかい?」
「はい、大丈夫です……今は誤字とかの添削ですね」
「よろしい……フラット達も君のように真面目ならなあ」
「……時々はっちゃける先生にも問題有ると思う」

思わずロードの口から愚痴が出て、そこに桜の突っ込みに帰る。
普段の恨み込めたそれは一瞬言い返そうとするも出来ず、彼はプイと目を逸らした。

「……何時もドカンドカンと五月蝿いから『ノリだけは良い人』が集まるんですよ?」
「だって、ヴィッカース社製だから……金剛の生まれたところで作られた火器だから……」
「いや、理由になってませんって……」

元提督(マスター)の本人的には真剣な答えに、いや無いからと桜は首を横に振る。

「……さあ、早く食べよう、一時限目が近い」
「誤魔化しましたね?……まあ、確かにそうですからここまでにしますか」

慌てて話を逸らしたロードを一度睨み、それから桜は目の前の定食に箸を付ける。

「……『懐かしい』んじゃないか、桜」
「……秋魚美味しいです、ご飯も……」
「あの戦争以来味覚が染まったようで……ロード一年目、和食が出来るスタッフを入れろとゴリ押ししたんだ」
「今だけは貴方の生徒であることに感謝します……」

ホカホカのご飯に同じく焼き魚酢橘付き、それを前にちっとも仲良くない師弟が至福の表情で舌鼓を打った。



時計塔の一日



「……やはり、金剛型は素晴らしいと思うんだ、フラット君」

授業中ふとした拍子に話がずれた、しかも教師自身によって。

「いえ、まずは元の弩級の先見性を語りましょうよ、先生……というかせめて自国の艦を語るべき、金剛型は日本独自の仕様が多いから英国関係ないでしょ!?」
「い、良いんだよ、ヴィッカース社もその辺を後継艦に取り入れたんだから!」

優秀生徒であり問題児でもある男が相手するが、突っ込みの内容は微妙にズレている。
更に、エルメロイ二世もまたズレた言葉を返したのだった。

『はああ……』

目の前の教師やフラット程非常識でない生徒が揃って嘆息する。

「とりあえずポンポン砲は産廃、これは決定稿だから……」
「はあっ、正気ですか、先生……三発撃ったら不具合が出る、その儚さ、退廃美がわかりませんか!?」
「はんっ、対空火器は実用性第一、多機能な高射砲を作れない時点で問題だとわかれ、フラット!」
『いや、何を言ってるか、どっちもわからないから』

思わず桜とエーデルフェルト令嬢が突っ込んだ(他の常識人は既に諦めている)

「……先輩、あれ、終わりそうにないから……」
「ええ、『鎮圧』しましょう、桜」

二人はニコと笑い合い、それから拳をゴキと鳴らした。
これに、言い合うロード達がハッとした顔をするも、もう遅く既に桜達は臨戦態勢だ。
桜は足元から黒い腕を伸ばし、令嬢の方は趣味の格闘技(レスリング)の構えの体勢に。

「とりあえず、ロードは影でふん縛って吊るしときますね」
「ええ、お願い……フラットはマウントからボコろうかしら」
「ひいっ……」

ドグシャッ

『ぐはああっ!?』

エルメロイ二世のゼミは日英『二大魔術師の末裔』によって辛うじて(常識寄りに)統制されていた。



授業再開後ある質問が飛ぶ、降霊科らしい質問だった。

「先生、使い魔を……特に英霊のような高位の存在を使役する際の注意点は何でしょうか?」
「缶詰をやるな、斬られるぞ」
「……ほ、他のを」

聖杯戦争経験者にうってつけと思われた問い、が彼が返したのは気難しいペットか何かを買う注意点の如き答えだった。
質問者が顔を引き攣らせるが、英国英霊二名と組んだ過去を持つ彼は真面目そのもので首を傾げる。

「うん、間違ったかな?」
「……あー、ご自身が注意したことは何ですか、ロード?」
「……桜か、ふうむ……」

温い空気と同級生に見かねた桜が少し質問を変えて聞いた、それにロードは少し考えこむ。

「下僕と考えてはいけない、最低限気を使い……だが気を使いすぎてもいけない。
間違っても『物』と思うな、人格ある存在だと心得ろ」

彼は過去を思い出しながら注意点を語った。

「英霊は既に『自身の役割を終え切った存在』であり、まだ終わってない私達は『経験』で劣る……それ故に無理に上に立とうと思うな。
……そうしようとすればいずれ破綻する、代償が手傷で済むか命まで失うかはわからないが」

がそこで彼は言葉を切り、強気に笑って続きを口にした。

「そして、それでも主は自分であると忘れてはいけない、魔力の源は使役者……主従ではなく、一種の雇用形態と考えるべきだね」

既に死した存在が活動するリソースは魔術師の側が出す、その代価として彼等の力を使う。
どちらが上ではなく、上下は無く平等なのだと彼は言う。

「無理に上に立とうとして反抗されれば『死』、命惜しさに下手に出て軽んじられれば『破滅』……どちらも良くない例だ、気をつけるように」

最後は過去の失敗例、そう戒めるようにして彼は話を締めた。
シンと経験者故ならではの真実味に一瞬ゼミが静まった。
が、それを破ったのもロードで、彼は茶目っ気のある笑みで次の言葉を口にする。

「それはそれとして『女性の英霊』には気を使おう、怒ると恐いから……レディーファーストは大事、本当に」
『あ、はい……』

その言葉には先程以上の実感が有り、英国人らしくもあるが情けない言葉に生徒達が苦笑した。

「ねえねえ、桜……」
「何ですか、先輩」
「……貴女、英霊とお会いしたことは?」

すると苦笑しながら、隣の某令嬢が桜に聞いていた。

「……三人知ってます、一人は大人の、二人は中学生くらいの女性です」
「へえ……」
「何だかんだ皆人間臭かったです、ロードが言うとおり『物』として扱うべきじゃないかな」

桜はゆっくりと思い出していく、破天荒な重巡洋艦、強気な駆逐と元気良くも影のある駆逐を。

「……何というか、人と同じ姿に人の心……力は有ってもまず話すべきです」
「……そうね」
「半神とか魔性とか、そういう極端なのは除いて……話が通じないのは滅多に居ません、『何らかの要因』で性質が極端でなければ……」
「あ、うん、そうね……」

エーデルフェルト令嬢が後半で呻いた、一人を『正邪』両極に分けた結果仲間割れで沈んだ一族の少女はぐうの音も出なかった。



カチャカチャ

エーデルフェルト館でプラモ素材を切り分ける音がする。

「……て感じで、何時もシッチャカメッチャカなゼミなんですよ、『姉さん』」
「へ、へえ……」

『ガレキ制作』と並行に、語られた何とも言えない思い出話に遠坂凛が顔を引き攣らせる。
ここに集まる面子の監視に、家の都合で妹を送った彼女だが、心配になって泊まりにきたのだ。
が、そこで何となく聞いた向うの話は色々心配になる物だった。

『ふふふっ……』

しかし、戸惑う少女達に対し、別の机で聞いてたアサシンと霧島は可笑しそうに笑う。

「ああ、ウェイバーってば立派になって……」
「順調に英国面に侵食されてるようですね」
『……え、そういう反応!?』

凛とルヴィアが戸惑う、片方は極東嫌いなのに突っ込むのが先らしい(あるいは同じ常識人を嫌う余裕が無いのか)

「……うん、大変ねえ、いや本当に」
「ええ、全くですよ……っと、雪風さんのキットの接着剤は乾きました?」
「ああうん、大丈夫そうだけど……」
「……じゃ、次は曙さんのに塗っちゃいましょう、ビンと筆を取って下さい、姉さん」
「……あんたも大概マイペースよ、桜」

愚痴りながら彼女は手早く作業し、それに凛が少し引く。
直にその英霊を知らない凛には今一理解できない。
それをわかるとすれば、『金剛』を協力して組み立てるアサシンと霧島くらいだろう。

「完成したら写真を取ろう」
「……お姉様達も喜びますね」
「……ようしっ、頑張って完成させないと!」

三人はニコと笑い合い、それから作業ペースを早める。
やる気が見える程熱心にプラモ作りをする三人に、凛とルヴィアははあと嘆息し肩を竦めた。

「駄目ね、着いてけないわ」
「……同感ですわ」
「……紅茶入れてくる、何が良いかしら、エーデルフェルトさん?」
「ストレートで……ありがとう、桜のお姉さん」

この瞬間二人は確かに分かり合った、気難しさと極東嫌いを突っ込みの共感が勝った。

「……主砲、エッジを効かせないと、金剛お姉様のチャームポイントですからね!」
「……迷彩色は金剛と、雪風と曙と、どれを基準に合わせる?」
「ううむ、悩ましい……っと、接着剤乾くからまず並べてみましょう」
「そうですね、三隻並べて……それからその辺含めて最終調整です!」
『うんっ、立派に仕上げよう!』

そんな向うの二人に構わず、艦娘とそれを知る者達は楽しそうに『友人のもう一つの似姿』を作っていく。
一見ミリオタ趣味の、だけど友情のガレージキットを前に、英霊も元英霊も人も区別なく思いを共にしたのだった。

「ようし、頑張るぞーっ!」
『……ああ駄目、全然理解できないわ』

エーデルフェルト館が湧いた、一部異様に温度差が有るけれど。




あ、ロード回のはずだけど殆ど『桜』回だった・・・最後に出そうとしたらガールズトーク的なの書きたくて外したせい、まあ出しても桜主役は変わらないだろうけど。
・・・次は本編、流石にオリ要素が増えてきそうです。
以下コメント返信
ネコ様
士郎に関しては大分オリジナル、で例の剣は・・・聖杯戦争の正と負の両方を見せるのに使う感じかな?



[41120] AL作戦 其二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/06/04 18:18
「トレース、オン……」

男は矢を片手に『敵』を睨む。
そして、慣れた様子で機械的に隠蔽型の結界を屯する深海棲艦や海魔に撃ち込み続けた。

ヒュッ
ズドン
ヒュッ
ズドン

「ちっ、これでは……」

魔力を帯びる矢に『抉られ』て駆逐イ級が両断され、その隣で別の矢に海魔数体が纏めて射抜かれる。
がそれをした男、アーチャーは喜ぶでもなく苛立たしげに舌打ちした。

ヒュッ
ズドン
ヒュッ
ズドン

「……キリが無いな、私の今の手持ちでは無理も出来んし」

手を止めないが思わず愚痴が溢れる。
深海棲艦の邪悪な魔力を感知し、それ等が潜む結界、人の寄らぬ異界に仕掛けたが余り良い結果は出ていない。
『あわよくば』程度だが敵の首魁である『北方棲姫』発見を期待し、が流石にムシが良かったかと嘆息する。

「……どうするか、削りは必要だがそれだけというのも芸がない」
「同感です、『こちらから仕掛ける』……攻めることも考えるべきでしょう」
「アサシン、か(……但し教会の方の)」

矢を放ちながらも切り上げ時を考えた時、彼は唐突に第三者に声を掛けられた。
ふと見ればアーチャーに近づく黒い女性、リーダー格の人格のアサシンがこちらに歩いてくる。
そして、それに続いて、どこか張り付いたような微笑の男も。

「(『俺の知らない暗殺者』、そして『奴』)……はああ、つくづく今回はやり難いな」
「……何故、顔を合わせて早々に嘆息する?」
「……胡散臭いからではないかと、綺礼様」

僅かに男が傷つきその忠誠を遠く忘れた女が茶々を入れ、そんな二人にアーチャーが再度嘆息する。
宿敵だった男の変貌を始め、どこまでも『彼』の常識とかけ離れた状況に疲れてきていた。

「はああ、本当に理解できんな……で、先の言葉の意味は?」
「ああ、『次』に備え、一旦牽制の中止を勧めに来ました」
「次?」

元主弄りを中断しての言葉にアーチャーはふむと首を傾げる。

「……教会の側で、何か細工でもしたのか?」
「いや、教会というか……」
「ええと、まあ一応個人で……」

すると綺礼とアサシンは一瞬言葉を濁し、それから呆れ顔で答える。

「『何しでかしても可笑しくない男』が『その気なら何でもやれる男』に会いに……」
「しかも、暇持て余していた『今まで動かなかった女』付きで……」

言葉を嫌な予感しながら噛み砕き、それからアーチャーは顔を引き攣らせる。
そして、思わず遠い目しつつ力無く天を見上げた。

「……ああ、碌でもない状況が進行してるのは理解した」

冬木の御三家、その特に『碌でもない連中』の暗躍である。



AL作戦 其二



「……ふむ?」

男は目の前に並べられた『小瓶』を注意深く改める。

「……まあまあ、じゃな」

その中には琥珀色の液体、それは目に見える程に凝縮された『魔力』だ。
魔術的に改造された『蟲』の蜜、それを加工した薬湯が数十並べられている。
彼の親族、『魔力』を持たない癖に魔術師面な困った少年から巻き上げたものである。

「数年後の『本番』に備えた魔力の代替品……ま、没収及び利用させてもらうぞ、慎二?」
「お祖父様の馬鹿あっ、せっかく用意したのにい!?」
『止せ、蟲蔵行きになるぞ、慎二!?』

非魔術師でありながら『戦争参加』を企んでいた少年は準備の何もかもを横暴な当主に奪われた。
涙目でクレームを入れる少年を、だが彼の父と叔父は慌てて止めようとする。
二人掛かりで引きずられていく彼に軽く手を振って、それから臓硯は『客』を迎え入れる。
仕立ての良いスーツの男と褐色の肌の少女だ。

「おお調度良い、サーヴァント用の魔力は準備出来た、持って行け……エルメロイ二世にアサシンよ」
「孫からヘソクリを巻き上げただけでしょうに……まあ、確かに必要だし貰いますが」
「……山の一族でも滅多に見ないスパルタだなあ」

最早孫を忘れたかのように抜け抜けと言う臓硯に、若きロードは顔を引き攣らせた。

「いや、しかしなあ……非魔術師の時点で既に聖杯戦争は不利、負け戦を止めただけじゃ」
「まあ、そういう意味では……温情か?」
「……というか、あれに勝機があるとすれば魔力を持たないから警戒され難く、また優勝候補である遠坂の娘の同級生という二点。
立ち回り次第では背後から刺せるかもしれんが……精々手傷負わせてそこで失速じゃ、何せ調子に乗る気質じゃから」
「つまりは……未来に遠坂を刺す道具を、『今』信頼を勝ち取るために使うと(……恐い人だなあ)」

恐いなと更に顔を引き攣らせ、それからエルメロイ二世は顔を引き締め改める。
彼は真剣な表情で、一枚の書状を臓硯に差し出した。

「今回は『とある方』の代理で来ました……前回の戦争、共闘した私に仲介しろと」
「ふむ?……成程、『彼女』か」

書状の表には家紋、魔術師ならば、特に臓硯は間違える筈のないある一族の家紋が刻まれていた。
それは『錬金術士』を発端とする一族、そして代々ある聖遺物を管理していきた一族の物だ。
その隣には白い花、『アイリス』を模したマークが描かれている。

「……聖女か、先代かのう?」
「彼女はこの一件を……若者達への『試練』としようと考えています、その段取りを手伝って欲しいと」
「ふむ、良かろう……手筈を整えよう」



ギロとアーチャーが睨む、彼は戸惑った様子で問い掛けた。

「……正気なのか、エルメロイ二世」
「うん、そのつもりだが?」

正気を疑う彼に、水銀の従者を伴せたエルメロイ二世が不思議そうに頷く。
彼はこれから北方棲姫の居る可能性が高い結界に向かうと言ったのだ。

「既に霧島、それにアサシン二人と言峰神父は別ルートで向かっている……動くよ、『四人』とも」

但し現地を調べる為の実験器具を『担がせた少年少女』を続けさせて(エーデルフェルトの令嬢は念の為に留守役だ)

「それじゃあ……『護衛』は任せたよ、アーチャー。
それと……桜、凛、士郎君、イリヤスフィール、北方棲姫の潜伏候補地に行こうか?」
『……え、何で?』
「……いや、本当に何でだ?」

彼自身首を傾げつつ、彼は『表向き』の説明をした。

「ほら、第四次は御三家の連携不備が酷かったから……今回は各勢力から参加者を募ることに成って」
「保証であり、何が起きたかを知らせる証人でもあると……」

前回の繰り返しは避けるべく、また相互の信用のために、それぞれの目として四人は連れられてきた。
賛同するように『蟲』、臓硯の使い魔が上下に揺れる。

「ほら、間桐も斥候役として来てるし……」
「……信用云々だけで、非戦闘員を出すのか」
「……というより非戦闘員だからかな、戦えるのが『戦場』に行ってる間に別ルードで市街地に来て襲われたらたまらない」

まだ困惑顔のアーチャーに、エルメロイは続けて説明する。
彼は深海棲艦の凶暴性、特に人間を糧として見ている部分を強調する。

「魔術師である時点で狙われ易い、そして食われれば向うが強化される……いっそのこと、一箇所に集めようとね」
「だからといって……これから向かうのは『戦場』だ、それを理解してるのか?」
「……寧ろだからこそさ、君が手早く敵を射殺してくれれば同時に『守る』ことに繋がる」
「……そういうことか、あちらの『目』を引きつけさせると」

相手の言葉の意味を悟ってアーチャーが目を見開く。
ウェイバーの、いやその『裏の女』の真意に顔を引き攣らせた。

「……アイリスフィールか」
「そ、旦那さんの死因……深海棲艦とは徹底的にやり合うつもりらしい」

その為には娘と馴染みの少年、そして遠坂の二人すら千尋の谷に落とす気だ。
絶句するアーチャー、そしてイリヤ達に若きロードは同情したような目を向ける。

「あの人、中々ぶっ飛んでる……逃げ道はないぞ、そろそろ時間だ」

彼がふと市街の方を指した瞬間、『ズドン』と『赤い何か』が見えた。

「何だ!?」
「……『市街のあるホテル』を爆破したのさ、直前に魔力をばら撒いてね」

彼が指した方に一条の煙、『外人向けのそれなりに大きなホテル』が崩れたのが見えた。
それは偶然にも『不幸な死を遂げたあるロードが借りた宿泊施設』、色々あって無駄になったがそのロードが事前に仕掛けた防御装置も流用しての起爆だ。

「(……何て偶然だ、だが仇は打ちますよ、先生)ああ勿論ホテルのオーナーとは話は付いている、古くなって立て直しも丁度視野に入っていたのも幸運だった。
これで……避難時の誘導の『言い訳』も出来たし、それに今から向かう結界も幾らか防御が甘くなるだろう」
「……撒き餌か、近くの深海棲艦はそこに群がっただろうな」

アーチャーが唸る、これで魔力に引かれ集まっただろう深海棲艦の眷属はそれなりに『焼かれた』。
後はそれで減った、薄くなった敵陣に踏み込むだけだ。

「さあ、段取りは既に済んだ、アーチャーも……イリヤスフィール達も覚悟するんだね」
「……拒否権は無しか」
「……寧ろ先代聖女が言わせないって」

その言葉に、彼等はガクと肩を落とす。
特にアーチャーは『表向き』以外の理由に気づき、それ以上に疲れたような顔をした。

「各陣営の繋がりの強化、探索の手伝い、だが……『戦場を実際に見せる』のが本音だろうに」
「全く遠回りなことだ、ある意味親心か?」
「……『鍛えたい』のか、『諦めさせたいのか』、さてどちらやら?」

それは彼女の迷い、娘であるイリヤや士郎を始めとした少年少女を利用し、あるいは思っての行動だった。
戦場に慣れさせあるいは適応すれば戦力になる。
だが、同時に心の何処かで戦場を恐れ魔道を降りるのを望んでいる部分もある。

「厳しいのか甘いのか、難儀な人だ、だがだからこそ……衛宮切嗣を選び、また彼と共に居たか」
(……その思いを継いでいる、恨むぞ、切嗣)

ウェイバーとアーチャー、特に『もう一人』をよく知るアーチャーは疲れたように嘆息した。



一条の煙が立ち上り、『消し飛んだ仲間』に動揺したように結界内がざわめいた。

「……そろそろ頃合いか、隠蔽も済んでいる」
「……だね、準備はできてる?」
「問題有りません、アサシンさん」

敵の、深海棲艦の動揺を見逃さず、促す神父や黒い少女の言葉に『眼鏡に短く切り揃えたボブカット』『巫女服』の娘が力強く頷く。
彼女は巨大な鉄塊、艤装を展開し砲を動かす。
それから結界内を埋め尽くす異形達を睨んだ。

「沢山、居ますね」
「そうだね」
「……手ごわそうだね」
「そうだね……怖くなった、霧島?」
「まさか……撃ち甲斐が有るってことです!」
「流石っ、それでこそ金剛型!」
「当然!」

強気な表情で霧島はニッと笑い、そして砲を構える。

「さあ、北方棲姫……いい加減決着を着けるぞオラアッ!」」

ズドンッズドンッズドオォーンンッ

轟音が響き、幾つもの砲弾が風を切って結界に叩き込まれる。
四度目と五度目の戦争、その間に起きた戦いの最終幕は『某四姉妹末っ子』によって開かれた。





・・・てことで北方棲姫編もそろそろ中盤戦となります。
・・・要は臓硯&アイリ&ウェイバーによる若い衆へのスパルタ(実戦)
面子は元より、慣れさせるのも諦めさせるのもどちらも本当ですが・・・何だかんだ第五次に色々準備してるということで。
次回は……多分、霧島&北方棲姫のターン。

以下コメント返信
飛魚二号様
霧島は(ゲーム中のセリフ的に)戦闘時以外は受動的かなとこんな感じで世話焼かれ中、でハサンも懐いてた相手の妹なのでノリノリ。

ガングロ様
まあ相手が姉だから仕方ない・・・彼女とその母親はアーチャーが絶対に勝てない相手だと思う、だから最初に合わせたとも言えるし


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