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[40371] 【マインクラフト】匠転生生活日記
Name: 翼の勇車◆858b04e4 ID:7c807e15
Date: 2015/04/19 01:11
「よっしゃ、ダイヤめっちゃ出た!」

 俺の名前は神山 拓海(コウヤマ タクミ)、引きこもりニート生活満喫中の高校生だ。中学を卒業し、義務教育とかいう呪縛から逃れたおかげで、大好きなパソコンゲームに入り浸る生活をしている。

「ダイヤ剣切らしてたから嬉しいわぁー」

 そして今俺は、マインクラフトというゲームにはまっている。このゲームの中の物は全て立方体によって構成されていて、冒険してよし、建築してよしという非常に自由度の高いゲームとして人気がある。

「もう少し奥は……っと、もう松明ないじゃん。じゃ、一旦帰るか」

 ゲーム内で帰宅した俺は、リアルで強烈な睡魔に襲われた。時計を見ると……深夜3時半。

「寝るか……」

 眠い目を擦りつつゲームを終了させると、そのまま布団へダイブ、深い眠りへと落ちていった。

……
…………
………………

「メエエェ……」

「メエエエェェ」

 うーん、五月蝿い……。

「メエッ」

「メエェェ……」

「フシューッ!(るっせぇ!)」

 体を起こして怒鳴った瞬間、俺の意識は一気に覚醒した。青い空、青々とした草原、そして……立方体で作られた木と羊。

え? ……え?

 目を擦ろうとして、ある事に気付く。腕の反応がない。ってか、腕自体の感覚とかが無いんですが。

 慌てて体をひねり体を確認する。緑。あれっと思い、一度四角い雲の浮かぶ青空を見てから再度確認。緑。ヒジョーに見覚えのある緑。そう、この緑は恐らく多くのマインクラフターにトラウマを焼きつけたであろう、あのお方の緑。

 まてまてまて、一気に多くの情報が入りすぎた。こっ、こういうときは素数を数え……あれ? 素数って何だっけ?

 ……よし、現実逃避はこのくらいにしておこう。まず言うと、俺の今いるこの場所、どう見てもマインクラフトワールドだ。だってあれだよ? 四角い羊が歩き回ってるんだよ? あんな動物リアルでいてたまるかって話だ。

「フシューフシュー、フシュフシュー(あーあー、テストテストー)」

 現実逃避に再び突っ走りそうになる思考をおしとどめ、俺自身のこの姿についての考察を始める。

・独特の緑色の体
・四本ある足
・フシュー

 で、ここがマイクラの世界という前提で考えると……。

 オッス、おらクリーパー!

 クリーパーというのは、マインクラフトのマスコット的存在である敵モンスターだ。こいつの特技はズバリ、自爆。プレイヤーへとこっそり近づき、自爆して周囲のブロックごと吹き飛ばす。たまに家付近に出没しては爆発し、見事に開放感のある家にリフォームしてくれるので、某リフォーム番組より『匠』の異名を持つ。

 ……で、どうやら俺はそいつの姿になっているようだ。っていやいやいや、確かに俺の名前はタクミだが、我が両親はそんな目的でこの名前をつけたわけじゃないぞ!?

 さて、いつまでもボーッとしていてはいかんな。まずは周囲を観察っと。……うん、早速すごい違和感をハッケン。幹にあたる原木ブロックがない木がチラホラ見える。つまり葉のブロックが宙に浮いてる。重力仕事しろよ……というツッコミを内心入れつつ、考察開始。

 まず言うと、このマインクラフトの世界ではブロックを扱うやつはプレイヤー、そしてエンダーマンだけだ。……と思う。俺MODとかあんま入れてないから俺の知らんそういうのがあるかもしれないけど今は忘れよう。しかしエンダーマンはこんな集中的にブロック引っこ抜いたりしないだろうし、まず間違いなくこれをやったのはプレイヤー。……つまりここはプレイヤーの活動範囲内!?

 そう思ったが、周囲には松明が置いてない。昼間にしか来ないのか、モンスターなんぞ怖くないっていうような強者か……。

 フシューと声を出しながら悩んでいると、視界の左下にウィンドウが出てきた。これには見覚えがある、マイクラでマルチプレイをする時、プレイヤー同士の意識疎通に使うチャットのウィンドウだ。……で、そこに、今まで俺が喋った言葉が緑色の字で表示されていた。現実(?)ではフシューとしか喋れないんだけど、ちゃんと日本語で書いてある。

『お、新しい色の字幕だな』

『仲間ですかね!? 早く合流しましょう!』

 急に、黒色と白色の字がチャットに現れた。



[40371] 第一話~転生モンスターズ~
Name: 翼の勇車◆858b04e4 ID:7c807e15
Date: 2015/04/19 01:13
『おーい、緑文字の人、聞こえてますかー?』

 いや聞こえてるっていうか読めてるっていうか……。まあとりあえず、はい、と白文字に返事をした。喋った事がそのまんま文字になるってのが違和感凄いんですが。

『少し待て。こっちから探しに行く』

 黒文字さんの指示に従い、暫く待つことにした。そしてお得意の考察タイム。

 俺の喋った内容は、緑色の文字で表示された。単なる偶然と言ってしまえばお仕舞いだが、この色が喋ったキャラクターの色なんかが反映されるとしたら、今の黒文字白文字さんがどのキャラクターなのかおおよそ見当がつく。

 まずは黒文字さんだが、マインクラフトで黒いキャラといえば、まず間違いなく……。

『待たせたな』

 黒い文字が表示されると同時に、独特の音をたてながら目の前に黒い人が現れた。やっぱりあなたでしたかエンダーマン先輩。

 エンダーマンは、製作が恐怖担当として配置した敵MOBで、身長3メートルという真っ黒な人型をしている。スポーンした時点ではプレイヤーに攻撃はしない中立MOBだが、プレイヤーが視界中央に彼を捉えると瞬時に敵へと変わり、得意のワープを使ったヒット&アウェイ戦法でプレイヤーを翻弄する。目を合わせるとキレて襲ってくる、長身といった事から、一部プレイヤーからは先輩の愛称で呼ばれている。

『最寄りの草原バイオームにいるぞ』

『わかりました、すぐに行きます』

 白文字さんも合流するらしい。まあ、緑がクリーパー、黒がエンダーマンとくれば白はきっと……。

『あっ、いたいた』

 密林バイオームの中から走り出てきたのはスケルトン。うん、知ってた。

 スケルトンはその名の通り動くガイコツ。だが残念ながらというか幸いというか、外見が完全にマイクラ仕様なので怖くない。というかむしろ可愛く見える。彼らの攻撃手段は弓矢による遠距離攻撃。故に地形的に有利な状況でもない限りノーダメージで倒すのは難しく、かなりのダメージを負っている場合は大きな脅威となる。愛称はスケさん。

『来て早々に悪いが、とりあえず家に行こう。落ち着いて話せる方がいいしな』

『そうですね。ささ、匠くんこっちです』

『よっ、よろしくお願いします』

 とりあえず立ち上がり、二人さんについて行く事に決めた。ちなみにこの世界に来て初めて歩いたけど、足四本でも問題なく歩けた。



 歩くこと約5分。密林バイオームの中に、家の入り口はあった。地面に4×4の大きさの穴が開いており、そこに螺旋階段があった。普段は土ブロックで隠蔽しているようだった。中にはちゃんと松明が置いてあり、他のモンスターが湧かないようになっていた。そしてそこを降りると、立派な鉄の扉がお目見え。きちんと感圧板のスイッチまでついている。

『ただいまーっと』

『まあ上がれ。この世界に茶は無いが、牛乳でよければ出そう』

 意気揚々と入っていったスケさん。エンダー先輩はどう考えても入口に頭がつっかえると思ったが、ワープで入っていた。流石です。

 中は凄くおしゃれで機能的だった。間取りもしっかりしてるし、地下故に日光が入らないのはグロウストーンとライトでカバー、玄関には観葉植物まで置いてある。

 階段ブロックを応用したソファーに座らせられると、エンダー先輩とスケさんも机を挟んで反対側のソファーに腰かけた。

『まずは自己紹介だ。俺は黒田 終也(クロダ シュウヤ)。好きに呼べ。元は大学二年だったが、だいたい一ヶ月ほど前からこの世界にいる。』

 おお、黒とか終とか、何かエンダーマンを彷彿とさせるお名前ですね……。そしてやっぱり先輩は先輩だった。

『自分は桐谷 祐介(キリヤ ユウスケ)っていいます。呼び名は……この姿ですしスケとかでいいですよ。ええっと、元々は高一で、先輩が来た少し後にここに来ました』

 おっ、ということは彼と俺、同年代だ。これはちょっと嬉しい。

『ええっと、俺は神山 拓海っていいます。年は多分スケさんと一緒です』

『えっ、本当? うわー嬉しい、この世界来てから先輩としか話した事無かったんですけど、同年代がいるのってこんなに嬉しいものなんですね!』

 カランコロンと身振り手振り大喜びするスケさん。

『タクミ、か。そのままでは何だし、その見た目だ、匠と呼ばせてもらうぞ』

『よろしく、匠くん』

『こちらこそ、どうぞよろしくです』

 ……なんか俺もこの家に住むの前提で話が進んでる気がするんですが。まあいいか、どうせ一人じゃ怖いし(主にプレイヤーが)、他の人と一緒なら元の世界に戻る手段も割と早く見つかるかもしれないし。何よりこの人達、優しそうだ。

『で、早速といいますかなんといいますか……一つ質問しても?』

『勿論だ、言ってみろ』

『俺らって、普通にマインクラフトの敵MOBとして……転生? したって判断でいいんですかね』

『おそらくな。だが俺たちはただのMOBって訳じゃなさそうだ』

『と、言いますと?』

『例えばだが、お前さっき草原バイオームにいただろう? お前はクリーパーだから問題ないが、俺はエンダーマン、本来日光は苦手だ。スケルトンに至っては燃えてしまう。だが俺らはそういった物は問題ないんだ』

『なるほど、確かにそれは大きな違いですね……』

 要するに、先輩もスケさんも日中の活動可能ということ。クリーパーは確か元々日中も活動可能だったと思う。

『じゃあ、先輩って水に触れるんですか?』

『いや、残念ながら水には触れない。ダメージを受けてしまう』

 むむ……これは心配だ。何が心配かって? 実は俺……猫派なんだ。もうネコ大好き。マイクラのMOBネコちゃんでもウェルカム。だがこの今の俺の体であるクリーパーは……極度の猫嫌いなのだ。ネコがいれば、目の前にプレイヤーがいたとしても一目散に逃げるほどの。いったいその性質は受け継いでしまったのか否か……。

『それと見ての通りだが、俺らでもプレイヤー同様クラフティング、アイテムの使用ができる。この家はそうやって作った』

 恐らくこれは、人様のオツムがあればみんなできるのだろう。

『ざっとこんな所だ。他に何か質問はあるか?』

『いえ、今のところは。また何か聞きたい事ができたらその都度聞きます』

 多分しばらくここで暮らす事になりそうだし、焦ることはないだろう。

『ああ、それとだが……俺たちは死んでもリスポーンができる。身をもって実証済みだ。クリーパー特有の自爆も使えるな』

『え、えぇ!?』

 そんな、俺は動くTNTですか?

『あ、大丈夫ですよ。死ぬって言っても全然痛くないですし、リスポーン地点も死んだところから100マス以内ですから』

『な、なるほど……』

 かくしてマインクラフトの世界で生活することになった俺。元の世界へ戻る手立ては見つかるのだろうか……。

――――――――――――――――――――

 どうも作者です。

 初投稿の翌朝、掲示板を覗いたらPV数が500越えててファ!?( ゚д゚;)ってなりました。こんな駄文をちょっとでも読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。m(_ _)m

 そして感想板にて感想、修正点をご指摘してくださった方々、ありがとうございます。今回はその事について少し。

 段落の書き初めを一文字開ける事に関しましては、一度投稿した後、別端末より修正させていただくという方法をとりたいと思います。なぜそんな方法をとるのかといいますと、私が普段使用している端末、全角スペースが打てないのですorz。ですので投稿初期の段階ではおそらく段落初めが開いておりませんが、その後修正いたしますのでご了承下さい。

 一話分が短かすぎることについては……申し訳ありませんが改善できそうにありません。端末の都合により、書き溜めができず、現在も直接書き込んでいるような状況です。出来る限りの努力はしますが、この面での改善はあまりご期待にならない方が良いと思われます。

 それではまたいずれ。by翼の勇車

ps
修正しました! NNさん、ご指摘ありがとうございます!



[40371] 第二話~この世界の支配者(プレイヤー)~
Name: 翼の勇車◆858b04e4 ID:7c807e15
Date: 2015/04/19 01:15
『普段はどんな事をしてるんですか?』

 エンダー先輩がアイテムボックスから出してくれた牛乳を皆で飲みながら会話を続ける。手がないから必然的に犬食いならぬ犬飲みになってしまうのが悔しいです。

『そうだな……夜はモンスターを狩ったりして素材集めだな』

『一応自分等も敵MOBなんでほっとけば攻撃される事はないんですけど、こっちから手を出せば向こうも攻撃してきます。当たり前といえば当たり前ですけど、そこがゲームと違うところですね』

 なるほど、どうやら脅威はプレイヤーのみではないようだ。……そういえばクリーパーって、前まで攻撃されれば相手がプレイヤーでなくても自爆しに突っ込んでいったっけ。アップデートでその仕様はなくなったけど。

『昼は日によるな。畑の食料の収穫や、釣りなんかに行く事もある』

『そうだ、今度、動物を手懐けてみようって話してたところなんですよ。オオカミとかいれば心強いですし、馬がいれば移動手段として使えます。それに自分、動物大好きですし』

『あっ、それはいいですね。……でもスケさん、オオカミ大丈夫なんですか?』

 オオカミの特性として、スケルトンを見つけると骨欲しさに攻撃するというものがある。その特性は飼い犬にしても引き継がれるし、スケさんは大丈夫なのだろうか。

『うーん、そこのところどうなんでしょうね……。僕ら、まだ雪バイオームに行ったことないんですよ。そのあたりも確認してみましょう』

 というわけで、一応の目標が立った。俺も猫が大丈夫か確認せねば……。

『それで明日だが……まあまずはプレイヤーを見せに行くか』

『……え?』



 翌日の夜明け前、俺ら三人は家を出発、プレイヤーの家へと向かっていた。この体は睡眠を必要としないらしく、一晩中二人と話をしていた。しかしプレイヤーについては、どんなに聞いても『見た方が早い』の一点張り。どういう意味だろうか。

『いますかねぇ……』

『先日迷宮ばりの炭鉱から帰ってきたばかりだ。恐らく収穫なんかにおわれるだろうし、そう遠出はしないだろう』

 俺は二人についていくだけなので時間の有効活用として考察開始。

 プレイヤー。マインクラフトの主人公であり、この世界を自由に作り変える権利を持つ者。つい一昨日までは俺も操作していたそのキャラクターだが、昨夜の会話で全く情報が得られなかったわけじゃあない。

 俺は意識を視界の左下へと向け、昨夜の会話を遡っていく。こんなことができるのに気づいたのも昨夜の会話で教えてもらったからだ。そして俺は、黒い文字で書かれた一文を凝視する。

『あの娘は怖がりだからな』

 あの"娘"。これの意味するところは何か。そう、プレイヤーは女なのだ! ただの言い間違いじゃないか? 確かにそうかもしれない。だがあえて言おう、俺はこの説を信じる! 俺はこの立方体の支配する世界に癒しが欲しいんだ! その娘も立方体で構成されていても、俺はスキンが可愛いければ満足だ。これが俺の能力(スキル)、希望的観測だぁっ!

「ヴァー……」

「フシュッ!?(あひん!?)」

 びっくりした。ホンットびっくりした。そういえば俺、夜明け前の森歩いてるんでしたね、忘れてましたよ……。ゾンさんほんとカンベンしてください。

『……匠くん、今の驚き方かわいいですね。あひんって』

『元の姿を知らない上に文字での会話だからな。おまけにクリーパーは擬人化がかなり広まっていた。そういう視点で見てしまうのも無理はない』

『あー、クリーパーカーさんとかいうのですね。あれ可愛いですよねー。……っていやいや! 俺しっかり男ですし!』

 そんな会話をしていると、あっという間についてしまった。しかし……。

『トウフですね……』

『ですよね』

『なんだか懐かしさを感じるだろう』

 トウフというのは豆腐拠点の略称。豆腐のようにただ四角い拠点を言う。とはいえ、ゲーム初期の資材がない状態ではけっこうな数のプレイヤーがお世話になる拠点でもある。かくいう俺もその一人だ。

『……このプレイヤー、少なくとも一ヶ月以上ここで生活してるんですよね?』

『匠くん、いっそリフォームします?』

『いやしないですよ……』

『なんということでしょう、なら俺が言うぞ』

 それ多分"なんということをしてくれたんでしょう"になりますよ先輩。

ガチャ……。

 突如トウフの扉が開く。木陰に隠れる俺たち。

「んーっんー、良く寝たー」

『ファ!?』

 目の前にはプレイヤー、いや多分プレイヤーなんだけど……完全に企画外の存在がそこにいた。

『言っただろう、見た方が早いと』

 エンダー先輩が、硬直した俺の肩を軽く叩く。いや、見た方が早いっていうか何ていうか……。

 俺の目の前にいるそのプレイヤーは、立方体などではなく、アニメキャラクターのような可愛い普通の女の子だった。

――――――――――――――――――――

 むしゃくしゃしてやった。反省はしている。後悔はしていない。

 ほんっとぉに申し訳ありません!orz

 どうしてこうなった……いや、すいません言い訳させてください。

 元々はスキンを女の子にするので妥協しようと思ってたんですよ……でもですよ? そんなので我らが匠先生は満足できないんです……元引きこもりニートの彼は、ネコ画像と二次画像集めにも凄まじい力を入れていたんです……これはそんな彼の救済措置です。もうこんな暴挙には出ない……と思うわなにをするやめr

 by作者



[40371] 第三話~癒やしとこれから~
Name: 翼の勇車◆858b04e4 ID:7c807e15
Date: 2014/10/05 00:15
 目の前にいるのは、まごうことなき女の子。しかもどう見ても二次元少女だ。燦々と日の照るこの世界でタンクトップに短パンというラフな格好にも関わらず肌は白く、髪は茶髪のショート。まさに俺好みの女の子だ。

「フシュー……」

『たっ、匠くん!』

 女の子ことプレイヤーに見とれているうちに、どうやら木の陰から数歩出てしまったらしい。スケさんの制止の声が聞こえた頃には、既に手遅れであった。

「ひっ……」

「……フシュー(……どうもーっす)」

 俺が発見されると同時に、顔を出していた二人も発見されてしまったらしい。 数時間にも感じる沈黙が流れた。

「嫌、こっ、こっ、来ないでええぇぇぇ!」

 腰についているポーチへと手を突っ込むプレイヤーちゃん。そして取り出したのは……。

『……木の剣?』

 え、この娘この世界に1ヶ月は住んでたんですよね? なのにまだ木の剣か……。これはトウフ家も納得ですな。

 ……っていやいやいや! 何俺冷静に分析してんの!? 木の剣にしても相手は武器を持ってるんだよ!? とにかく逃げないと……って、あれ?

「こないでぇーっ!」

 ……。

「嫌ぁー!」

 ……うん、大丈夫だこれ。よほど怖かったのか腰を抜かしてへたり込み、半ベソかきながら剣振り回してる。ぶっちゃけ可愛い。

『これ以上怖がらせるのは可哀想だ。行くぞ、匠、スケ』

『わかりました……』

『匠くん、大丈夫ですか?』

 エンダー先輩の言葉に頷いた俺は、再び元来た密林バイオームへと戻っていった。



『なんといいますか……凄いですね。いろんな意味で』

『だな』

『ですよねー……』

 密林をのんびりと歩きながら、俺は彼女についての情報を聞いていた。曰く、どうやらあの娘はパソコン操作によるプレイヤーでは無く、純粋なこの世界の住民であるらしいこと。また相当なビビリであること、趣味は裁縫で最近はもっぱら雪原バイオームへ行くためのマフラー編みに精を出しているとか……って、ちょっと待て。

『なんでそんな細かいとこまで知ってるんですか?』

『『うっ……』』

 ……どうやら聞かなかった方が良かったようだ。

『ま、まあとにかく、だ。俺らは彼女を見守りつつ、この世界で安定して過ごせるようにしている。元の世界への帰還は二の次だ』

『そういう事です。改めてよろしく、匠くん!』

『こちらこそ』

エンダーマンとスケルトンとクリーパーがお辞儀しあってる場面なんて、端から見たらどう思うんだろうとか思い、そしてこれから始まるであろう生活に若干胸躍らせ、俺はこの世界でしばらく暮らす決心をしたのであった。

――――――――――――――――――――

 お久しぶりです、作者の翼の勇車です。

 読んでくださっている方、大変お待たせしてしまい、申し訳ありません! m(_ _)m

 今後はもう少し早い更新を……と考えておりますが、相変わらず不定期更新となります。

 エタる気は無いので、気長に待っていただければなーと思っています。

 そして最後に。PV数5700!?。゚(゚´Д`゚)゚。アリガトウゴザイマス

 それではまたいずれ
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 ■■■■ フシュー
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 ■  ■ by翼の勇車



[40371] 第四話~遠征~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/04/19 01:18
チュンチュン……

 朝、スズメのさえずる拠点近くの湖の湖畔にて、俺とスケさんはのんびりとした一時を過ごしていた。というか、スズメなんかいないのにさえずりが聞こえるとはこれ如何に。

『平和ですねー』

「ヴァー……」

『ホントですねー』

「ゴァッカッ……」

 のんびりとした雰囲気に、会話までのんびりに。日光に当たって死んだゾンビなんて俺は見てない。

 すると湖の水面が揺れ、浮かんでいた浮きが勢いよく沈んだ。

『よっと、これだけあれば十分だよね、匠くん、行きましょう』

 スケさんが釣れた魚を懐にしまいこみ、すっと立ち上がった。俺は手が無いし見てるだけだったけど、なんかのほほんと出来たから満足だ。



『ただいまーっと!』

『先輩、帰りましたよ』

 俺達が家につくと、先輩は優雅にソファでミルクを飲みながら地図に目を通していた。イケメンすぎます。

『む、帰ったか。二人ともこれを見てくれ』

 スケさんが釣った魚をチェストにしまって戻って来ると、先輩はピストンテーブルに地図を広げ、ある場所を指した。

『これが今軽く周囲を調査して得られた地形データだ。この拠点のある密林バイオームの上……仮に北としておくが、かなり広大な砂漠バイオームが広がっているのはスケも知っているな? そこをさらに北へ行くと、砂漠の神殿があるのを確認した』

 そう、マインクラフトでは砂漠に神殿、すなわちピラミッドがたびたび生成される。存在そのものも割とレアなのだが、何よりも嬉しいのはそこに隠された財宝だ。金や鉄、そしてダイヤモンドにエメラルドも見つかることもある。

『これはかなり美味しいじゃないですか』

 少し興奮ぎみに俺が言うと、先輩はゆっくりと頷き、そして再度地図を見る。

『そう、確かにこれは幸運だ。だが本命はそこじゃない。この神殿を越えてさらに行ったところで……ジャングルバイオームを発見した』

 マジすか先輩! 横を見ると、スケさんもカランカラン喜んでいるようだ。

『早速さっき釣った魚が役に立ちますね!』

 なぜ俺らがこんなに喜んでいるのかといえば答えは一つ。そう、ニャンコをペットにしに行くのだ! ついにこの時がやって来たのだぁぁ! ……っと、落ち着け、ここはCOOLになるんだ俺。

『出発はいつにします?』

『距離はそう遠くない。今からでも十分行って戻って来られるだろうな』

 というわけで急遽今日の予定が決まり、少しの間拠点は騒がしくなったのだった。



「フォギュフォギュ……(準備は出来たか?)」

「カロンコロン(オッケーです!)」

「フシュー(いつでも行けます)」

 諸々の準備を終え、俺達は拠点前の広場に集合した。ちなみに俺は物を使うことはできないが、インベントリに物を入れることならできる。ま、もっぱら荷物運び担当ってことだ。

『それじゃあ、出発だ』

エンダー先輩の掛け声で、俺達はぬこぬこパラダイスへ向けて出発したのだった。

――――――――――――――――――――

 毎度ありがとうございます、作者の翼の勇車です。

 先日、ある方のブログ(?)にてこの匠転生がオススメ小説として紹介されているところを発見、大歓喜いたしました。この場を借りてお礼を言わせてください、こんな小説を紹介して下さった方、本当にありがとうございます!(ノ≧∀≦)ノ

 またPV数も7400を突破いたしました! 読者の皆様には感謝の言葉しか見つかりません。m(_ _)mアリガトウゴザイマス

 そして感想掲示板におきましても、現状誹謗中傷の感想が一件もないという……本当に嬉しい限りです。

 今後も少しでも皆さんのご期待に沿えるよう、尽力していきます!

 それではまたいずれ
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 ■■■■ フシュー
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 ■  ■ by翼の勇車



[40371] 第五話~ピラミッドの罠~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:d7093b05
Date: 2014/10/06 20:27
『これがピラミッドですか……』

『地味……ですよね』

『特段大きいというわけでもないしな』

 しばらくして、俺らは無事――というか本当に何もなくてただひたすら暇だったのだが――砂漠の神殿へと到着した。

『とりあえず飯にしません? 腹減ってもうそろそろダメージ喰らいだしそうなんですけど……』

『そうだな。ついでだ、ピラミッドの上ででも食べるとしようか』

 という訳で、ピラミッドの頂上で飯を食べる事になった。……まぁ、期待はしてなかったけど、やはり砂とサボテンだけの面白くもない風景。こんなもんはここに来る途中の砂丘の上で散々見たわ。

『匠くん、食べるの手伝いましょうか?』

『あ、大丈夫ですよ。見ててください』

 フッフッフ、こんなこともあろうかと身につけておいた技があるのだよ諸君。まぁ、いつまでも犬食いで飯を食う訳にはいかんからな。

 インベントリからアイテムを出すと、目の前にそれが投げ出されるのは懸命なクラフター諸君ならば解るだろう。またマルチプレイ等で他のプレイヤーがそれをやるのを見ると、まるで口から吐き出したように見えることも知っていると思われる。これを応用すると、俺でも普通に食事をすることができるのだ。

 俺は大きく体をのけ反らせ、インベントリへと意識を向けた。そしてそこからパンを出す。するとパンは俺の口付近から排出されるわけだが、俺は今真上を向いているので、パンは真上に飛び出すこととなる。そのパンが落ちて来たところを……。

パクッ

「フシュー!(ジャジャーン!)」

『おぉ!』

『成る程、考えたな』

 これこそが我が秘技、†リリース&キャッチ†である! 簡単そうに見えるだろうが、パンはそれなりに高く飛び上がるから、絶妙な角度で反らなければうまく口元に落ちてこない。練習では大量のパンを消費し、食いすぎで腹痛になったのはいい思い出である。エンダー先輩が食料の減り方が異常だとか言ってた気がするがそんなのは気のせいだろう。

『匠くん、もう一回それ見せて下さい!』

『勿論ですとも! ほっ!』パクッ、モシャモシャ……

『おぉー!』



『食いすぎた……』

『阿呆、調子に乗るからだ』

『なんか……すいません匠くん』

 ……ゴホン。気を取り直して、ひとまずピラミッド周囲を散策することにした。何故かって? そんなものは気分だ気分。

『あっ、匠くん見てください、これ!』

『お、模様入り砂岩ですね。……あ、そっか、この模様ってクリーパーなんでしたっけ』

『記念に持って帰るか?』

 いえ、別にいいです、たしかこれクラフティングで作れたと思いますし……。

『……そろそろ入るぞ、ここで時間をくっていては夜までに帰れん』

『あっ、ちょっと待って下さいよ先輩!』

 ピラミッドの中は見慣れたあの風景。ゲームで初めて来た時、宝の場所がわからずwiki先生のお世話になったのが思い出される。……ちなみに、隠し部屋の場所だけ確認して飛び込み、見事にTNTトラップの餌食となったのは内緒である。

『早速お宝回収します?』

『そうだな』

 エンダー先輩はピラミッドの中央から一つずれた羊毛を破壊すると、螺旋階段のようにブロックを設置していった。……あれ? 先輩はワープで行けるのでは? 『みんなで一緒に行った方が喜びもひとしおだろう』さいですか。

 ある程度ブロックを設置したところで、三人で降りていった。そして感圧板を踏まないようにそれぞれ飛び降りた……のだが。

カチッ

『『『え?』』』

 一斉に顔を見合せる。そして足元を見るが、誰も感圧板には触れていない。それにTNTの着火音も聞こえない。設計(生成?)ミスかと思ったが……それは壁を見た時に違うと分かった。壁には穴が開いており、中に先程の音の原因が隠れていた。

『トリップワイヤー!?』

 俺が叫ぶのとほぼ同時に、ガションというピストン特有の音が響いた。そして俺ら三人を襲う浮遊感。

『うぇ!?』

『うわぁ!?』

『……!』

 こうして俺達は、本来砂漠の神殿には存在しないはずであるトリップワイヤーによる謎の罠で、地下深くへと落ちていったのだった。

――――――――――――――――――――

 どうもお久しぶりです、翼の勇車です。

 ようやくトラブルらしいトラブルを書けました……ここからは勢いに乗っていきたいと思っています。

 これからも頑張っていきます……おや? こんなところに看板が……。

《作者にコメントを与えてください。コメントは作者の動力源です》

 それではまたいずれ
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 ■■■■ フシュー
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 ■  ■ by翼の勇車



[40371] 第六話~怒りと初戦闘~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2014/11/03 17:24
『……』スタッ

『よっと』カロンッ

『ぐへぇっ!』グキィッ

『たっ、匠くん大丈夫ですか!?』

 いたたた……や、やばい体力が……ってポーション持ってきてないし……。

 先輩とスケさんは綺麗に着地していた。そこそこの高さから落ちたのにダメージを受けた様子は無い。そういえば、本来マインクラフトのモブは総じて腕や膝の関節を持っていないが、この二人はそれを持ち合わせている。そのため普通ダメージを受けるような高さから落ちたりしても、膝をばねにすることで軽減できるのだ。足の長いエンダー先輩に至っては、ちょっとした崖から落ちても生きていたのだ。ちなみに俺の足も曲げることはできるものの、元より短いためほとんど効果が無い。差別だ。

 ところでここはどこだろうか? そう思い周囲を観察する。全く光の差さないこの場所だが、俺たちは元来暗闇に生息するモンスター、難なく見ることができる。

 極稀に、ピラミッドの隠し部屋の真下に洞窟が生成されることがあるが、ここはどう見ても人工的な空間だ。大体、自然生成にトリップワイヤーとピストンの罠があるなんて聞いたことが無い。あとここの特徴と言うと……。

「ヴァー……」

「ヴァー……」

 ゾンビだらけ。スポーンブロックも無いのに、ゾンビだけが異常な密度でいる。というかスポーンブロックがあってもこんなに沸かないだろう。まあ、こちらから危害を加えない限りは攻撃してこないし、どうでもいいんだけど……。

 そういえば少し前から気になっていたが、この世界のスポーン・デスポーン事情はどうなっているのだろうか。ゲームではプレイヤーから一定の距離の範囲にモブは沸き、敵モブ等はプレイヤーから離れすぎるとデスポーン、つまり消えていた。だが現状、どう考えてもプレイヤーからかなりの距離があるにも関わらず敵モブは存在している。まさか、俺達もスポーンの核になっているとか……? ははっ、いや、そんなまさかな。

「何がかかったかと思えばモンスターかい」

 突如背後から聞こえた声に振り返る俺達。そこには、見覚えのある姿があった。

「エンダーマンにスケルトン、それにクリーパー、ね。悪くない」

 それはウィッチ、即ち魔女だった。ウィッチは湿地帯に生成される魔女の家付近にスポーンする敵MOBで、ポーションを投げつけて攻撃してくる。かなりレアなMOBなのだが、正直どうでもいい。それよりも何故その魔女が砂漠の、しかもこんな所にいるのかという事と、MOBであるウィッチがしっかりと喋っているという事だ。

『もしかして村人とか、人間のMOBは喋るんですか?』

『いや、俺達はまだ町へは行っていないから解らん。……だが、この様子だとそうみたいだな』

『だとすると少し厄介ですね。いずれは村で交易とかしたかったんですけど、僕ら見たら逃げちゃいそうです』

 そういえばゲームでは、基本的に村人を襲うのはゾンビだけだから、彼らはそれ以外の敵からは逃げない設定になっていた。だがこの世界では村人の知能が高いとすると、敵MOBを見れば逃げてしまう、あるいは避けられる可能性が高い。

「ゾンビばかりでは不安だからね、今後は他のモンスターも入れるとしよう」

 こっちの会話は他所に(というか多分何言ってるか解ってない)しゃがれ声で呟くウィッチ。こいつの話を聞くに、どうやらここはこのウィッチが作ったようだ。

「クラフターを仕留めるためにね」

 ウィッチがそう言った直後、その顔の横を凄まじい勢いで矢が通り抜けていった。

「なんだい!?」

 矢に驚いたウィッチはしりもちをつくとそう叫んだ。奴が驚くのも無理はない。何せその矢は、たった今ここへやってきたスケルトン、スケさんから放たれたものだからだ。

「あたしは手出ししていないだろう!」

『……匠くん、先輩、今のは僕の聞き間違いですか?』

 静かにウィッチを見つめたままそう言うスケさん。

『いや、俺にも聞こえた』

 そう言った先輩の体からは、エンダーマン特有のエフェクトと怪音が発せられていた。

「ひいぃ!?」

 次の瞬間、先輩はウィッチの正面へとワープした。相変わらず発せられる怪音に加え、座った人(魔女が人かどうか怪しいところではあるが)と身長3メートルのエンダーマンという高低差による威圧が、奴を震え上がらせる。

「ゾッ、ゾンビ共! こいつらを倒せ!」

 ほぼ悲鳴に近い金きり声でウィッチがそう叫ぶと、近くにいたゾンビがエンダー先輩へと躍りかかった……が、すんでの所で先輩はワープし、俺らの横、元の場所へと戻っていた。

 ゾンビ共は俺ら全員をターゲティングしたようで、この空間にいる全てのゾンビが俺らへ向かって襲ってくる。本来ならば腐ってドロドロの死体が襲ってくるという世紀末のような光景なのだろうが、生憎ここはマインクラフトの世界、怖くもなんともない。マイクラを始めた当初であれば恐れ慄いたかもしれないが、俺ら三人は全員やりこみプレイヤーだ。ゾンビを怖がるクラフターなぞ、幼児を怖がる保育士のようなものである。

『どうします? 一旦引きますか?』

『引くも何も、四方を囲まれているのだから無理だろう』

『それもそうですね』

 背中を合わせ、各自構える。先輩は柔道か何かのような構えをとり、スケさんは弓を構える。……え? 俺? 前屈みになるだけですが何か。

「ヴァー!」

 一番近かったゾンビが、先輩へと襲い掛かる。しかし先輩はその長いリーチを利用し、攻撃が来る前に腹のド真ん中へと一撃を加えた……のまでは良かった。

「ゴァッカァ……」

『え!? 一撃って……』

『体術系は人間の時に諸々習っていた。この体を存分に生かせる』

 流石先輩、パナいっす……。

『そんなこと言ったら、僕は中学校、高校と弓道部でしたよ。シューティング系のゲームも得意でしたね』

 事もなげに言うスケさんだが、手にした弓からはクロック回路に繋がれたディスペンサーかと突っ込みたくなるほどのスピードで矢を放っている。全く恐ろしい人たちだ。

 そうこうしているうちに、ほとんどのゾンビは殲滅できていた。……俺まだ何もしてないんですけど。

「本当に何なんだいお前たちは!? こうなったら最後の手段……!」

 突如手にビンを持って掲げたウィッチ。それには怪しげな液体が入っていた。あんなもの、ゲームでは見たことが無い。

『おいスケ、あれは多分あれだよな』

『先輩も知ってますか。はい、あれです。少し厄介ですね』

 おーいそちらのお二人さん、勝手に話を進めないで欲しいんですが。なんですかあれって。

「これで終わりだよ!」

 ウィッチがビンを近くにいたゾンビへと投げつけた。どうやらウィッチお得意のポーション攻撃では無さそうだ。当のゾンビだが、割れたビンから溢れてきた煙のような物に包まれていた。奥にゾンビの目が光ってるのが見えるんだが……え? 目線高くなってません? 俺の気のせい?

「ヴォアアァァァ!!」

『ミュータントMODだ』

 煙の晴れたその場所にいたのは、凄まじく巨大化したゾンビ。等身がおかしくなってる。

『あんなの追加するMODあるんですね……』

『あれ、匠くん知りませんでした? あれゾンビ以外にもいるんですよ。クリーパーとかスケルトンとかエンダーマンとかも』

 ということは俺達もあの煙吸ったりしたら化け物になるのか? ……考えたくないな。

「ヴォアァッ!」

 突如前触れもなく化け物ゾンビが跳躍し、俺の目の前へと来る。この動きはそのMOD特有の物なんだろうか? それともこの世界限定の動きなのか。この化け物ゾンビに限らず、この世界のMOB達は度々ゲームと違う動作をする。ゾンビは揺れながら歩くし、スケルトンは弓をつがえるといった動作もする。ま、どうでもいい話だが。

『匠くん!』

 ゾンビの拳が俺の頭めがけて振り下ろされる。一時期かわいいと思っていた時期もあったゾンビだが、その身体能力はあの狂った魔法のような(本当に魔法かもしれないが)薬により驚異的な発達をとげていた。その拳は大木をへし折り、その蹴りは岩をも砕くだろう。可愛さの欠片もありゃしない。俺はその強さに反してスローモーションなパンチを横目にそんなことを考えた。これならきっと、並のクリーパーなんか一撃でノックアウトだろう。リスポーンは避けられない。――並みのクリーパーなら、の話だが。

 そういえば先輩もスケさんも得意技を持っていたが、俺にそれが無いかと言われれば全くそんなことは無い。俺は目にも留まらぬ速さでミュータントゾンビの攻撃をかわし、体をひねって後ろ右足で図体の割に小さい足を思い切り払った。足をすくわれたミュータントゾンビはバランスを崩し、ズズンという地響きと共に地面へ伏せた。

 そう、俺は《極普通のクリーパー》などではない。人間の知能と技術を持った、転生クリーパーなのだ!

「ヴォアアァァァ!!」

 怒りの咆哮と共に再び起き上がった化け物ゾンビは、狂ったように腕を振り回しながら突進してきた。しかしその巨体ゆえ、パワーこそあれど攻撃の隙が大きい。俺は今でこそニート生活を満喫しているが、中学校の頃は俊足として定評を集めていた。ただ早いだけでなく、機動力が高かったのも自慢である。ネトゲの面白さに取り付かれてからはめっきり運動はしなくなってしまい、体もなまってしまっていたが、今の俺の体はクリーパー、四本ある足には助走、足曲げもほぼなしで1メートル飛び上がれるほどの力を秘めている。これが、俺の特技だ。

『匠くんすごいです!』

 ひらりひらりと攻撃をかわす俺の姿に感激した様子で声を上げるスケさん。ここで、俺の悪い癖が出た。持ち上げられると何かしらミスをするという、悪い癖が。

グニッ

 スケさんの声に俺が気分を良くした直後、ハイスピードで動かしていた俺の脚が何かを踏み、スリップした。一気にスローモーションとなる視界に映りこんだのは……ゾンビ肉。俺が踏んで蹴り飛ばし、宙を舞うゾンビ肉だった。先輩とスケさんが殲滅したゾンビの遺品であった。おのれら、死んでなお俺の邪魔をするか……!

 これをチャンスと見た化け物ゾンビは、渾身のストレートパンチを繰り出す。俺の顔面まっしぐらコースだ。ああ、調子に乗るんじゃなかった……。

『……阿呆』

 次の瞬間、目の前に先輩が現れ、化け物ゾンビの腕を担ぐように受け止める。そしてそのまま奴の勢いを利用し、投げ飛ばした。

『すぐ調子に乗るのは直すべきだな』

『あ、ありがとうございます先輩……』

 投げ飛ばされた化け物ゾンビは、壁に頭から激突してノックダウンしていた。俺が近づこうとすると、先輩が静止をかける。

『あれは死んだふりだ。下手に近づけばまた起き上がってくるぞ』

『うわっ、タチ悪いですね』

 数秒黙っていた先輩だったが、何故か唐突に目の前にチェストを置いた。

『匠、持ってるアイテム、全部ここに入れておけ』

『え? あ、はぁ……分かりました』

 一体何がしたいのか分からないが、まあ先輩の事だ、何か考えがあるのだろう。しかし、何故アイテムを……あ。

 俺が先輩の考えに気づき二人の方を見ると、共にガッツポーズをしていた。

『さっきの汚名返上だ。奴に寝覚めの一撃を喰わせてやれ』

『匠くん、ファイトです!』

 はは、デスヨネー。まぁ、これがクリーパーの真骨頂なんだから仕方ないけど……。

 俺は軽く屈伸(?)をすると、一気に化け物ゾンビ目掛けて走り出した。まだ起き上がる気配は無い。一気に距離を詰めると、ジャンプし奴の頭の真上へ。そして触れる直前で……。

「フシュー……」

ズドオォン!

 俺は、炸裂した。断末魔の声を上げた化け物ゾンビは、再び脱力し、今度こそアイテムをドロップし死に絶えた。

『うわっと』

 無事リスポーンした俺は、初めての感覚に若干戸惑いつつ、二人のもとへと駆け寄った。

『匠くん、お疲れ様です! かっこよかったですよ』

 褒めてくれているはずなのに、謎の無力感に襲われる俺。何故だ。

「そん、な、どう、し、て……」

 ガタガタと振るえ、言葉にならない言葉を喋るウィッチ。……まあ、気持ちは分からんでもない。奥の手って言ってたし、しかもそれがたった三匹の初期MOBに倒されたのだ。もはや絶望しか無いだろう。

『お前はプレイヤーを狙った。当然の報いだ』

 先輩が冷酷に言い放つが、こいつにその意味は伝わらない。だが先輩は言葉を紡いでいく。

『お前は他の力に依存しすぎた』

「おっ、お前らは、きっ、きっと……」

『貴様ら普通のMOBはリスポーンできない。死んであの世で悔やむんだな』

「あっ、あのお方が、倒して下さ……」

 言い切らないうちに、先輩が踵落としを奴の脳天に打ち込む。凄まじいダメージを受けたウィッチは、そのままアイテムをドロップして消えた。実に小物っぽい最後だったな……。

『さて、ここから出よう。もう日が暮れてしまっているだろうな』

 かくして、俺達の怒りによって起こったこの戦いは、俺達の圧勝で幕を閉じたのだった。

――――――――――――――――――――

 どうも、作者の翼の勇車です。

 やはり「短すぎる」との意見が非常に多いですね。そうですよねぇ、一話が長ければ更新されていた時の嬉しさもひとしおですしね。というわけで、今回はがんばってみました。残念ながら場面的にのほほんはできませんでしたが、三日分の成果です。( ´_ゝ`)ドヤッ

 流石に毎回この文量だと私が死んでしまいますので、ご容赦を。

 それではまたいずれ
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 ■■■■ フシュー
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 ■  ■ by翼の勇車



[40371] 第七話~ジャングルの天使~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/04/19 01:26
「フシュ……(ん……)」

 朝、か。うーむ、この体のせいかよく眠れたのかどうかイマイチ分からんな……。

 体を起こし、フシューと一つ伸びをする。先日三人の間で話し合い、できる限り人間だったころの習慣は忘れないようにしようということになった。睡眠もその一つである。この体は睡眠を必要とはしないが、別に眠れないという訳ではないのだ。そういえばよくよく考えてみると、マインクラフトにおける睡眠は夜を安全に過ごすための手段であって、別に寝なくても活動はできた。たぶんこれも同じ原理だろう。

 スケさんはまだ眠っているようだ。……昨夜寝るときにも思ったけど、ベッドにモンスターが寝てるって凄いシュールな光景だな。エンダー先輩にいたってはベッドが身長に対して小さすぎるから、縦に二つ連結させて寝てたし……。って、あれ、そういえば先輩どこだ?

 昨日事件のあったこのピラミッドの中にいるのは俺と、未だ爆睡中のスケさんのみ。先輩の寝ていたダブルベッド(縦)もなくなっていた。まぁ、先輩の事だし大丈夫だろう。

 ベッドを破壊してインベントリに戻す(俺達は死んだ付近でリスポーンするため、ベッドによるリスポーン地点確保が不要なのだ)と、外に出る。昼間の砂漠は暑すぎ、夜の砂漠は寒かったが、今は夜の冷気に暖かい太陽が組み合わさってちょうど良い気温だ。

『む、匠も起きたか。おはよう』

 ピラミッドの正面でラジオ体操第一をやっていると、ワープ音と共に先輩が現れた。

『おはようございます先輩。どっか行ってたみたいですけど、何してたんですか?』

『いや、今朝のプレイヤーの様子を見てきた。昨日のこともあって少し心配でな』

 流石先輩、プレイヤーちゃんの安全確保も万全のようだ。

『……僕の大腿骨がぁっ、ヘボァッ!』

 ガラガッシャンという音がピラミッドから響いてくる。え……大腿骨? 一体どんな夢見てたんすかスケさん……。

『いてて……あ、匠くん、先輩、おはようございます』

『大丈夫ですか? 何か凄い音聞こえましたけど……』

 大腿骨の事は言わないでおこう。

『あ、はい。おかげですっかり目が覚めました』

『それじゃあ、そろそろ出発するとしよう』

 準備を終えた俺達は、再び灼熱の地へと変貌した砂漠の中を歩き出した。ただただ暑い中ひたすら歩くというのは精神的によろしくないので、サボテン数えから考察へと思考をシフトすることにする。

 昨日会ったあのウィッチだが、とても奇妙であったと思う。砂漠にいた事やゾンビを操っていたことなども理由にあるが、俺が一番気になっているのはあいつが死に際に言ったあの言葉だ。

“おっ、お前らは、きっ、きっと……あっ、あのお方が、倒して下さ……”

 この発言からすると、あのウィッチが独断であのような行動をとっていたのではなく、複数の存在が組織的に動いていると考えるのが妥当だ。だとすれば、今後もプレイヤーにあいつ以上の脅威が迫る可能性は高いだろう。あいつからもう少し情報を聞き出せば良かったと思わなくもないが、こちらの言っている言葉が伝わらない以上尋問はできないし、何よりプレイヤーを狙ったあいつを一刻も早く排除するという先輩の判断に俺は賛成だったからその点はべつにいい。しかし、やはり多少警戒しておいた方が良さそうだ。

『む』

 俺が一人で勝手に結論をつけ終わったタイミングで、先輩が歩を止めた。ワープし、近場の砂丘の上に乗ると、一言。

『見えたぞ』

 その声に顔を見合わせた俺とスケさんは急いで砂丘を登ると、目を凝らす。

『あっ、本当です! 匠くん、見えますよ!』

『ふむ……ちゃんとヤマネコもいるようだな』

『えっ、先輩みえるんですか?』

『あぁ、はっきりとな』

 うえ、まだあんなに離れてるに見えるとか……。以前ゲームで、バイオーム一つ挟んで向こう側にいたエンダーマンと目を合わせて襲われたことがあったけど、やっぱりエンダーマンって視力めっちゃいいんですね……。

『……行くぞ』

『あっ、ちょっと待ってくださいよ先輩! ワープで先行くなんてズルイですよ!』





『いましたかー?』

『今のところは見当たらんな。匠、そっちはどうだ?』

『いないですね……先輩、木の上にワープして見てきてくれませんか?』

 ジャングルバイオームへと到着した俺達は、早速猫の捜索を開始した。だがなかなか見つからない。さっき先輩が見えたって言ってたし、いることにはいるっぽいんだけど……。

 それにしてもこのジャングルバイオーム、かなり広そうだ。遠目に見たときも大きく広がってるのが見えたし、探せば神殿も見つかるんじゃないだろうか。

 そんなことを考えつつ三人で奥へと進んで行くと、茂みがガサリと揺れた。何かと思って見れば、そこから猫が飛び出してきたではないか!

『あっ、猫! 匠くん、先輩、猫ですよ!』

『割とすぐに見つかったな』

 二人がコメントを述べる中、俺は静かに歓喜に震えていた。俺が待ち望んだ、ニャンコがここにいる!

『ほら猫ちゃん、お魚だよー』

 文字通り猫撫で声で喋りながら、スケさんが魚を差し出す。猫をペットにする時の鉄則は、追いかけない、逃げ場を作る、そして満腹であることだ……自分が。満腹状態でないと、猫に魚を与えず自分が食べてしまうのだ。まぁこれはゲームでの話だし、この場合間違えて自分が食っちゃったーなんて事は起こり得ないだろうからどうでもいいけど。

 スケさんに魚を差し出されたヤマネコちゃんだったが、ぷいとそっぽを向き、つぶらな瞳(マイクラ使用の姿な点は既に脳内補完済みだ)を向けながら俺の方へ歩いてきた。

 じっと見つめてくるヤマネコちゃん。かっ、かわいい……。

『俺、がいいの?』

 聞いてみる。分かんないとは思うけど……。

「ニャーン」

 うるうるの瞳で見つめながら鳴くニャンコ。あらためて言う。かっ、かわいい!

 俺は大急ぎで†リリース&キャッチ†にて生魚を取り出し、差し出した。かと思えば、勢いよく飛びついて食べるニャンコ。しつこいようだがもう一度言う。かっ、かわいいぃ!

『一発でペットになりましたよ!』

『やっぱりこの猫ちゃん、匠くんの事が好きみたいですね!』

『よかったな、匠』

 こうして、俺は、じゃなくて俺達は、プレイヤーちゃんに次ぐ癒し、ニャンコを手に入れたのだった。



 我輩はヤマネコである。所詮MOBのため名前はない。

 一週間ほど前にこのジャングルにスポーンし、ただただ走り回ってすごしてきた。たまに仲間や魔の者に出くわしたが、どいつもこいつも我輩の魅力が分からぬのか見向きもしなかった。……あいつを除いては。

 それは緑色の奇妙な形をした魔の者で、私を見ると一目散に逃げていくのだ。理由は分からなかったが、とくに面白いことの無かった我輩は、そいつを見つけるたびに追い掛け回して遊んだ。ぐるぐると周りを回った時のあいつの慌て様ったら傑作だった。

 そんなある日、このジャングルに三体の魔の者がやって来た。一体は、犬っころ共が好きな骨。一体は、極たまに見かける黒く大きな者。そして最後の一体は……あの、緑色であった。木々の間を何か探すように歩くその三体を少しばかり不思議に感じたが、あそこにあの緑色がいる以上我輩が出向かぬわけが無かった。

 茂みより飛び出し、三体の周りを駆け回る。するといつものように、緑色が驚いてこちらを見た。……のまでは良かったのであるが、なんとこれまで我輩に見向きもしなかった別種の魔の者である二体もこちらを見ているではないか。

 そのことに少しばかり驚き暫し様子を伺っていると、骨がその手に魚を持ち、差し出してきた。だがそんなものに興味はない。我輩は今、この緑色をいじめてやりたいのだ。と緑色を見れば、逃げるどころか我輩をじっと見つめているではないか。

 面白くない。そう思い、凄みながらゆっくりと近づいていってやった。暫しの睨み合いが続く。

 緑色が、ふしゅぅ、と声を上げる。威嚇の声だろうか。ならば我輩も負けてはいられぬ。一つ声を上げ、さらに睨み付ける。すると降参したのか、緑色が口に魚をくわえて差し出してきた。どうやら我輩が勝ったようだ。

 こいつはこいつで、面白い。これまでは我輩から逃げる反応しか示さなかった緑色だが、この者は怯えず、我輩とまともに対面したのだ。こやつが我輩に媚を売ろうというのならば、付き合ってやるのも悪くは無い。そう思い、我輩はその“貢物”を喰った。

 緑色が跳ね、骨が手をカランコロンと叩く。我輩を称えているのであろう、まあ、悪い気はしない。

 こうして我輩は、この奇妙な一団と生活を共にすることとなるのであった。

――――――――――――――――――――

 どうもどうも、翼の勇車です。

 動☆力☆源吸収っ! 感想をくださった方、ありがとうございます! おかげで今後数話分の内容が一気にひらめきました。まだまだ頑張っていきますので応援よろしくお願いします!

 本編では新キャラ、ニャンコが登場いたしました。自己中心的な猫特有の思考はどうにも嫌いになれないわたくしであります。

 それではまたいずれ
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 ■■■■ フシュー
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 ■  ■ by翼の勇車



[40371] 匠転生生活日記に関する重要なお知らせ
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2014/12/04 23:04
 どうもどうも、お久しぶりです、作者の翼の勇車です。

 久々の投稿がお知らせという……お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません。 m(_ _)m

 さて、お知らせの内容なのですが、この作品の投稿ペースについてです。

 実は私、今期に受験を控えておりまして、その勉強のためパソコンが使用できていないという現状にあります。今回のこのお知らせも、ない時間を削りに削って書き込んでいる次第です。恐らく次の投稿は受験が終わった後、即ち翌年の2月ごろになると思われます。

 どうやらこの作品を楽しみにしてくださっている方がいらっしゃるようで、私としては大変嬉しい次第なのですが、このまま無言で待たせてしまっては申し訳ないので(それと読者離れが怖いという私の勝手な都合で)、今回お知らせという形で書き込ませていただきました。

 何度も言っている事ではありますが、エタる気は毛頭ありませんので、今後とも『【マインクラフト】匠転生生活日記』をよろしくお願いします。

 それではまたいずれ
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 ■■■■ フシュー
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 ■  ■ by翼の勇車



[40371] 第八話~雪原の覇者~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/02/22 17:16
 私はオオカミ。この雪原の群れの一匹だ。

 私はスポーンした時から、どういう訳か群れのみんなから嫌煙されてきた。狩りをする時も省かれて、自分の食べ物は自分で確保するしかなかった。そして、やっとしとめた獲物さえも、周りの仲間に横取りされる。私が食べられるのは、死んでいるのに動く人間を殺した時に出る、腐った肉だけ。

 勿論おいしくはないけど、この肉だけは仲間は見向きもしない。私の唯一の食料だった。

 そして、ある日のこと。私はいつも通り、動く死人の肉を食べていた。どういう訳か最近獲物の数が減って、これも数日ぶりに食べる食事だ。

 そこへ、群れの仲間がやってきた。相当苛立っている様子で、軽く唸っているのもいた。

 獲物が減っている、っていうのはこの動く死人だけの事じゃない。羊や豚、牛とかの獲物もめっきり減っているんだ。だからみんな、餓えていた。そして、目の前には腐っているとはいえ肉をくわえている私。

 きっとこれは、些細な引き金にすぎなかったんだと思う。群れのみんなの私を嫌う目は、日に日に強くなっていたのは私でも分かっていた。餓えている自分達、肉を食べている邪魔者。この状況が、これまでのイライラを含めたみんなの怒りを爆発させたんだ。

「ガウッ!」

 先頭にいた仲間が、私に飛びかかってくる。どうにか跳びのいて避ける私。再び顔を上げた時には、目を真っ赤にさせた群れのオオカミ達が、狩りの陣形で私を囲んでいた。

「グゥルル……ガウッ!」

「グァウ!」

 四方八方から次々に攻撃を仕掛けてくる“元”仲間達。昔から反撃もしてくる動く死人相手にずっと単独で狩りをしていたから、多分この群れでの一個体としての強さは群れのリーダーの次くらいだと思う。それでも、オオカミの真骨頂である“群体での狩り”には、とても強わなかった。確実に少しずつ、体力が削られていく。

 最後の一撃とばかりに、このグループのリーダーが正面から飛びかかってくる。この攻撃を受ければ、私は死んでしまうだろう。

 痛い、痛いよ……。死ぬのは、嫌だよ……。助けて、誰か……助けて!

 その時私は心の中で、生まれて初めて“助け”を求めた。

「キャインッ!?」

 私の直前まで迫っていたグループリーダーが、突然横に吹き飛ぶ。突然の出来事に驚いた仲間が、丘の上を一斉に見た。

 そこには、一匹の魔物がいた。

 魔物は手に持った何かを構えると、風を裂くような音の後に、また別の元仲間が悲鳴を上げて吹き飛んだ。

 私たちオオカミは、本来プライドの高い動物。戦いの邪魔をされた上に、あんな高いところから見下すように攻撃されたりしたら、みんなの怒りは頂点に達する。

 全員が一斉に飛びかかる。でもその魔物は、その場所を動こうとはしなかった。それどころか、またあの武器を構えて迎撃をしようとする。

 バシュシュシュシュ! という音といっしょに、魔物に躍り掛かろうとしていたオオカミたちは全員後ろへ吹き飛ばされた。

 そして、起きあがったみんなの目からはもう、あの魔物への敵意は消えていた。その代わりに、明らかな恐怖の念が、私にも見て取れた。

 独特な足音をたてて、ゆっくりとこっちに歩いてくる魔物。私が気付いた時には、他のオオカミたちは全員いなくなっていた。みんな逃げたんだ。

 魔物が、私の目の前へやってくる。あんな凄い力を見せつけられたというのに、何故か私はこの魔物に対して恐怖を感じなかった。他のオオカミへ向けていた威圧を、私には使ってこなかったんだ。

 魔物が私へ手をのばす。そして……私の頭を、そっと撫でた。

「カロン」

 独特な音をたて、魔物が取り出したのはお肉……それも、牛肉だった。スポーンした直後から差別を受けてきた私は、牛肉なんて食べた事ない。たまに仲間が、凄くおいしそうに食べていたのを見ているだけだった。

 そんな牛肉を、私に差し出してくる魔物。私はそれに、ちょっと躊躇ったのちにゆっくりとかぶりついた。初めて食べる触感、腐った肉とはまるで比べものにならない旨み……。

 それ以来、私はこの命を救ってくれた魔物に一生ついていく事を決意した。私のご主人、スケルトン様に……。



『え、ちょ、早すぎじゃありません?』

『先日猫を仲間にしたばかりだろう』

 我らモンスター組ににゃんこが加わった翌日、俺がにゃんこを撫でまくっていると、突然スケさんが拠点にオオカミを連れてきた。いやいやいや、確かに犬も仲間にする予定ではあったけど、いくらなんでも早すぎないか!?

『そ、そう言われましても……』

 困ったように頭をかくスケさん。……のはずなんだけど、表情も声色も分からないというのに、何だかうれしそうに見えるのは何故だ。

 実は昨日、ジャングルの神殿を探しにそのへんを歩き回ってみたところ、雪原バイオームに突き当たったのだ。で、先輩のハイスペックな目によってオオカミがいることも遠くから確認できたんで、一端引いて色々準備を整えたりしてから仲間にしに行こう――というのも、食料や木材を作る時に骨粉を使いまくって、あんまり予備がなかったんだ――って事になったんだけど……。

「ワフッ!」

 嬉しそうにスケさんに寄り添う犬。大体、オオカミから常に敵対されるはずのスケルトンであるスケさんがどうやって仲間にしたんだ……? と思いつつその犬をよく見れば、飼い犬である印になるはずの首輪をしていない。つまり……正式な仲間じゃないって事か?

『そう! そうなんですよ匠くん!』

 スケさん曰く、地形を把握するために雪原を歩いていたところ、オオカミが仲間割れ(?)をしている所を発見、この子が他のオオカミからリンチを受けていたので助けたところ、妙に懐かれてしまったのだそうだ。

『体力回復のために肉はあげましたけど、仲間になる条件の骨はまだあげてないんですよね……』

 肉をあげるために近づいたそうだが、攻撃してくる素振りは全くなかったそうだ。

『先輩、どう思います?』

『うむ……。この世界のMOBは、動作が細かくなっていたり頭が良くなっている事はあるとはいえ、基本的にはゲームと行動方式は変わらん。人間型のMOBに関してはどうか分からんがな。しかし、オオカミの大きな特徴の一つである“スケルトンを追いかけ、攻撃をする”のがこの世界ではないというのは少し考えにくい』

 階段ブロックソファの上で足を組み直す先輩。

『あ、そういえば……。他のオオカミがこの子を攻撃する所を少し見ていたんですけど、基本的に動作はゲームと一緒でしたね。ただ、陣形みたいなの組んでましたけど』

 それらの事を踏まえ、改めて犬の方を見る。やはり嬉しそうに、体をスケさんへ擦りつけたりしている。どう見ても普通のMOBのする行動とは思えない。だとすると……。

『あの……この子が、俺らみたいな存在って可能性は?』

『どういう事ですか、匠くん?』

『あ、いえ。この犬らしい動作とか、チャットに入ってこない事から、この子が人間からの転生者ではないとは思うんですけど、それ以外、それこそ犬から転生してきたとか、転生してきたのとはまた別の特殊な個体なんじゃないかって思いまして』

 転生という奇妙な現象が起きたくらいだし、他にも何かしら起こったとしても不思議じゃないと思う。

『一理あるな。まぁとにかく、骨を与えてみるとしよう』

 そう言って立ち上がり、チェストから残り少ない骨をいくつか取り出すエンダー先輩。もうこうなってしまえば、もったいないとか言ってられないですしね。

『ありがとうございます』

 それを受け取ったスケさんが、そっと犬の前に骨を差し出す。すると犬は、丁寧にその手から骨を受け取って食べた。

『あっ、また一発で成功しましたね!』

『スケさんに凄い懐いてたみたいですし、ある意味当然なんじゃないですか?』

『まだまだ分からん事は多いな……』

 そう、先輩の言うとおり、まだ分からない事も多い。ゲームの時のようにただただ襲ったりランダムに動き回るMOBもいれば、うちのにゃんこや今回の犬、そしてこの間のウィッチのように明確な自我を持っていると思われるMOBもいる。人型のMOBに関してはひとまず置いておくとしても、一体この差は何なのだろうか? スケさんの言っていた他のオオカミ達の事とかを考えると、単純に敵(モンスター)MOBと中立、友好MOBの差というわけでもないようだ。今後も色々と検証していく必要がありそうだな……。

 かくして俺たちは新たな仲間、犬を迎え入れたのだった。

――――――――――――――――――――

 どうも、とてもとてもお久しぶりです、作者の翼の勇車です。

 まずは一言謝らせてください。本ッ当に、申し訳ありませんでしたぁ! m(_ _)m

 前回投稿させていただいた報告にて、二月の上旬には更新すると言ったのですが、色々と忙しかったりキャラの性格を忘れかけていて執筆に手間取ったりしたために今まで更新できずにいました。

 読者の皆様には大変ご迷惑をおかけ致しましたが、お陰様で受験の方は無事合格、今までの遅れを取り戻そうと執筆に躍起になっている所です。

 それでは、今後とも『【マインクラフト】匠転生生活日記』を、どうぞ宜しくお願いします!

 それではまたいずれ
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 ■■■■ フシュー
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 ■  ■ by翼の勇車



[40371] 第九話~犬と猫と和~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/03/08 20:50
《……つまらぬ》

 私が骨を食べた事でご主人が喜んでいる姿を見ていると、横から声が聞こえた。そこにいたのは……さっきまでクリーパーに撫でられていた、一匹の猫。

《緑よ、早く我輩を愛でぬか。背が痒いぞ》

 大きく欠伸をしながら喋る猫。なんでだろう……? 言葉が分かる。

《あの……》

《ん? 何だ、新人犬っころ》

 話しかけると、横目に睨みながら返事をしてきた。やっぱり、話ができるみたい。

《あ、あの、ええっと……。ごめんなさい、私、自分以外の生き物と話したの、初めてで……》

《ふん、それは我輩も同じ事よ。今まで貴様のような犬っころや同じヤマネコにも話しかけた事は幾度となくあったが、皆聞こえぬようだな》

《え、そうなの?》

 私はてっきり、自分が嫌われているから話を聞いてくれないと思ってたんだけど……。違うのかな。

《そのような事、我輩が知るわけなかろう。飽くまで憶測だ》

 大きく延びをし、クリーパーの座っている所から飛び降りる猫さん。

《ふむ……。貴様、我輩と同じく特別な存在のようだな。どうやらここにいる者は皆特別なようだが、我輩と貴様は同じ類のようであるな》

《そ、そうなの?》

《先程のは憶測と言ったが、これは確信に近い。ふむ……そうであるな。ここにいる魔の者どもは我輩に色々と世話を焼くが、如何せん言葉が通じんので不便なのだ。言葉が通じるのならば、我の話し相手になるが良い》

 話し相手……? あ、そっか。

《……うん。よろしくね! お兄ちゃん》

《そっ、その呼び方はやめんか!》

 私は、猫さんの尻尾が楽しげに揺れているのに気がついていた。強がってはいるけれど、きっと話をするのが楽しいんだ。私もとっても楽しい。ちょっと変わっているけれど、この猫さん――お兄ちゃんと、これからも沢山お話ししたいな。



『おやおやっ、匠くん匠くん、猫ちゃんと僕の犬、もう仲良しみたいですよ?』

『王子ー、犬さんの事いじめるなよー?』

『……王子?』

 早速近づいていった二匹を見ながら言った一言に、エンダー先輩が的確な質問をしてくる。よくぞ聞いてくれました!

『はい! この子に名前つけたんです。この子イケメンですし、俺が前飼ってた猫の名前が姫だったんで、どうかなーって』

 マイクラの猫がイケメンかどうか分かるのかって? 俺には脳内補正があるから何の問題もないね。

『あ、ハイハイッ! 実は僕も、この子の名前考えたんですよ。ラン、なんてどうでしょう?』

『おっ、かわいいじゃないですか。ちなみに理由を聞いても?』

『はい。この子、僕が見つけた時に仲間達から攻撃されていたじゃないですか。それでも負けずに雪の中に咲く一輪の花って事で』

『深いな』

 こうして我が家の新たな仲間、ランちゃんを迎え入れた事によって、この拠点はより一層賑やかになったのだった。

『ペット、か……』

 最後にエンダー先輩が一言呟く。先輩もペットが欲しいのだろうか? まぁ、これで俺もスケさんもペットを持った事になるし、先輩が何か連れてきても快く迎え入れるとしよう。先輩が何を連れてくるか、今から楽しみだ。



『あっ、そういえば!』

 ペットの件の話が終わったタイミングで、ポンと手を打つスケさん。

『超大事な事を話すのを忘れてました! ランを見つけるちょっと前、雪原バイオームの奥に、密林バイオームを発見してちょっとだけ見て回ったんですけど、そこでこれを見つけたんです!』

 スケさんがインベントリから取り出して見せてきたアイテムに、俺とエンダー先輩は思わず前のめりになる。

『ス、スケさん……それはまさか……』

 基本的にあまりMODを導入しない俺でも、マイクラの世界を最大限楽しむためにも、多少はMODを入れていた。そして俺達の目の前にあるのは、その俺が入れていた数少ないMODの中の一つ、その代表とも言えるアイテム……。

『タケノコか……スケ、大手柄だぞ』

 相変わらずあまり感情を見せない文脈で言うエンダー先輩だったが、その挙動から僅かに、喜んでいる事はしっかりと見てとれた。それもそのはず、これはそれほどに貴重かつ便利なアイテムなのだ。

 この“タケノコ”が登場するMODとは、様々な“和”をこのマイクラ世界へ追加する、竹MODというものだ。いわゆる“和製MOD”ではなく外国人が作ったMODなのだが、これがまた素晴らしくよく出来たMODで、俺を含めた数多くのクラフターが導入していたものだ。

『サンプルに一つ持ち帰りましたが、バイオームの中にはまだ沢山はえていましたよ。いやー、すみません……その後に起こったオオカミ達の一件ですっかり忘れてました……』

『ぜんっぜんオーケーですよ! 明日にでもみんなで取りに行きましょう!』

 竹MODで導入されるものは様々だが、それらの多くを作ったりするには、このMODの名前の元となっている竹、つまりこのタケノコを育てたものが必要となってくる。いくらあっても損にならない、素晴らしい代物だ。是非とも沢山採ってきたいところだな。

『明日する事が決まったな。よし、匠、スケ、お前達はクワをいくつか作っておいてくれ。確か鉄は二番目のチェスト、木の棒は五番目のチェストに入っていたはずだ』

『リョーカイです。先輩はどうするんですか?』

『プレイヤーの様子を見てくる。確か拠点にいたはずだから、直ぐ戻る』

 そう言って扉を開けると、ワープですっ飛んでいった。俺ら三人、常にプレイヤーちゃんの事を気にかけていて、今やこのプレイヤー監視は先輩の日課となっていた。

『さ、スケさん、さっさとクワ作っちゃいましょう!』

『はい、匠くん。明日が待ち遠しいですね!』

 こうして俺達二人は、作業台へと向かっていったのだった。



「でーきたっ!」

 前々から作成していた赤色のマフラーを持ち、嬉しそうにはしゃぐプレイヤー。俺はその様子を、窓の外から眺めていた。ようやくマフラーが完成したようだ。

 俺、黒田終也は今、日課であるプレイヤーの様子見をしに彼女の拠点へ来ていた。

 松明で煌々と照らされている豆腐ハウスの中で元気でいるプレイヤーの様子を見て満足した俺は、沈みかけている四角い太陽を見つめた。特に意味はない。何となくだ。

 映画などでありがちだが、夕日というものは、何か人に色々な事を回想させるような要素を含んでいるのだろか。多分に漏れず、俺もこっちの世界へ来てからの事、そしてここ最近あった多くの出来事を思い出していた。

 少し前、まだ俺とスケの二人で生活していた頃には特に大きな事件もなく、のんびりと過ごしていた。しかし、匠がこの世界へ来たのを皮切りに、良くも悪くも次々と事が起き始めた。偶然とは思いづらい。やはりあのクリーパー、匠には何かあるのかもしれないな……。

 しかしそれにしても、新しく始まった三人での生活はなかなか楽しいものだ。俺は生憎こんな性格故にあまり話を盛り上げたりする事はできないが、明るい盛り上げ役のスケ、思慮深くてノリの良い匠、そして無口な俺。結構面白いパーティーだと、俺は勝手に思っている。

 等と夕日を眺めながら色々と考えていると、視界のすみに一匹のエンダーマンがうつった。一応同族なのだが、俺にそんな慈悲はない。プレイヤーに害をなす可能性のある敵である以上、必ず排除するのみだ。

 奴の背後へワープした俺は、回し蹴りを頭へ当てた。断末魔の声を上げて倒れるエンダーマン。後には、ドロップしたエンダーパールと経験値が残った。

 経験値を回収した後、エンダーパールを拾い上げ、なんとなく眺める。それとなく生き物の目にも見えるそれに、最近のペットラッシュの事を思い出す。匠は猫の王子を、スケは犬のランを仲間にした。俺とて動物好きだ、いずれは丁度いい動物を仲間にしたいところだ。

 しかし、仲間にするならば何がいいだろうか。移動手段に馬というのもアリだが、スケや匠ならともかく、俺はワープがあるから必要ない。今のところMODで追加されるような動物も見かけないので、既存の動物から探すしかない。しかし、何にするべきか……。

 手元のエンダーパールを見つめる。ふむ、そういえば……。

『考えておくとするか』

 独り言をぽつりと呟き、エンダーパールをインベントリへしまうと、俺はワープで自分たちの拠点へと帰っていった。

――――――――――――――――――――

 どうも作者です。

 時間が無かったために後書きを書く時間が無く、後付けになってしまいました、すいません。m(_ _)m

 一話一話を長くしたために大幅に更新ペースが落ちてしまっていますが、確実にやっていきますのでよろしくお願いします。

 エンダー先輩のペット、何になりますかね。(すっとぼけ)

 それではまたいずれ
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□□■□□■□□ by翼の勇車



[40371] 第十話~故郷の面影~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/03/31 01:55
『おぉー! 沢山生えてますね、スケさん!』

『はい! このバイオーム結構広そうなんで、タケノコには不足しなさそうです!』

『さあ、どんどん採っていくとしよう』

 翌日、俺ら三人はスケさんの見つけた密林バイオームへタケノコ掘りへやってきていた。王子とランは拠点で留守番。

 来る途中雪原バイオームで、スケさんが昨日撃退したものと思われるオオカミの群れと遭遇した。何せスケさんを見た途端に全力で逃げていくんだから一目瞭然だったね。

『匠、クワを』

『はいはーい、今渡しますねー』

 インベントリからクワを取り出し、先輩とスケさんへ渡す。しかぁーし! 俺とていつまでも物運び担当ではないのだ!

『リリース&キャッチ!』

 そう、あの後も俺は練習を重ね、†リリース&キャッチ†で受け止めたアイテムをそのまま口で扱えるようになったのだ! やはり手でやるのよりは多少効率が落ちるとはいえ、これが出来るのと出来ないのとでは大違い。俺だって元クラフターなのだ。

『おぉー! 匠くん凄いです!』

 ……スケさんの発言に激しくデジャビュを感じる。ここで調子に乗るとまた馬鹿見る事になりそうなんで、ありがとうございますと一言言って済ませた。俺も成長したものである。

まぁ、そんなこんなでクワを口でくわえた俺は、次々とタケノコを掘っていった。

 ……繰り返すが、これは和製MODではなく外人の作ったものだ。にも関わらず、タケノコをちゃんとクワでないと採れない所とか、かなーり細かく作り込まれているのだ。初めて導入した時、あまりの作り込まれように思わずため息をついてしまったのを思い出す。これ作った人、よっぽど日本が好きなんだなぁ……。

 とまぁ、色々と考えながらひたすらタケノコを掘っていると、密林の奥の方に何かがひらひらと舞っているのが見えた。

『……もしかして?』

 あ、あれはまさか……。

『どうしました? 匠くん』

 思わず漏らした言葉に近くにいたスケさんが近づいてくると、俺の見据える方向へと視線を移す。

『……え!?』

 やはりスケさんも驚いたようだ。うん、やっぱりそうですよね? 俺の見間違いじゃないですよね?

『何かあったのか?』

『先輩! 大変です!』

『アレ見てくださいよ、アレ!』

 ゆっくりとした足取りでやってきたエンダー先輩に、二人して大興奮である方向を指す。この中で一番目が良い先輩は、すぐにあれが何か分かったようだった。

『匠、スケ、先に行くぞ』

 少しの間の後、先輩はそう言ってワープで先に行ってしまった。

『あっ、抜け駆けズルいですよ先輩!』

『スケさんお先ですー』

 ワープは出来ないがこの中で一番足の速い俺は、急ぐスケさんを追い越してあっという間にエンダー先輩の所へ追いついた。そこには……圧巻の景色が広がっていた。舞い散る花びら、一面の桃色……。

『すっごぉ……』

 密林のど真ん中、普通の木々に隠れるようにして、その場所は存在していた。数十本という桜の木が、花びらを舞わせていたのだ。

『匠くん足速すぎですーって、おぉー!』

 ようやく追いついてきたスケさんが、大量の桜の光景に感嘆の声を上げる。俺も驚きすぎて声が出ない。

 桜。これも、この竹MODで追加される要素の一つだ。通常の木と同様に自然に生成されるのだが、割とレアで見つかりにくかったりする。それがこれだけ密集しているとなると……。

『先輩、ここってやっぱり、竹MODのためのバイオームみたいな感じなんですかね?』

『そう考えるのが妥当だな。竹MODに限らず、もしかしたらここのような特定のMOD対応のバイオームがあったりするかもしれない。今後は意識して探してみるとしよう』

 舞い散る花びらの一つを手で受け止めながらいう先輩。……黒いとはいえスレンダーな先輩がそういう仕草をすると、もの凄く様になるんですよね。流石ッス先輩。

 やはり俺らも日本男児、マイクラワールドとはいえ、生まれ故郷の面影を持つこの光景に、俺たちはすっかり心奪われていた。

『先輩、匠くん! チェスト発見ですよ!』

 ……と思いきや、いつの間にやら大はしゃぎで桜の中を走り回っていたスケさんが、両手を振り回して呼ぶ。……今更だけど、スケさんって本当に高一? いや、別に幼いって言うわけじゃないけど……何かと行動が可愛らしいなって。

 スケさんの呼ぶ所へ行くと、確かにそこには松明で囲まれたチェストが一つ置いてあった。

『開けますね……?』

 ギイィ、という特有の音を立ててスケさんによって開けられたチェストの中には、沢山のあるアイテムが入っていた。

『おお! 先輩、桜の苗木ですよ!』

『これはありがたいな』

 桜の苗木はその名の通り、桜の木の元だ。これさえあれば、好きな所に桜を生やすことが出来るのだ。



『大漁、大漁!』

 手当たり次第にタケノコを掘った俺たちは、桜の苗木の入っていたチェストに今日一日の収穫を全て集めてみた。タケノコが5スタック、桜の苗木が2スタック。ニヤけてしまいそうな量だ。

『これだけあれば、当分は困りませんね!』

 竹の特徴として、最大まで成長すると周囲に新たな竹を生やすというものがあるんだが、成長した竹を収穫しても新たなタケノコが手に入る事はない。前述の特徴を上手く使えば比較的効率よく栽培できるとはいえ、数があれば助かる事にかわりはない。桜にしても、成長した桜の花ブロックを壊しても新たな苗木が手に入る事はなかったはずだから、それこそ数があるに越したことはないのだ。俺たちの拠点は地下にあり、保存場所なら土を掘っていくらでも拡張できるんだから、採るのを惜しむ事はない。

『この景色、プレイヤーにも見せてあげたいなー……』

『ホントですねー……。いずれ、仲良くなれるでしょうか?』

『なれるだろうさ。さぁ、帰ろう。王子とランが待っているぞ』

 こうして俺たちは、この幻想的な場所を後にしたのだった。いずれは、プレイヤーと来られる事を夢見ながら……。



『……2スタック、か』

 十分すぎる量だ。これだけあれば三つともみつけられそうだな。……一つ見つかれば十分だが。

 俺、黒田は、拠点の倉庫部屋へと来ていた。先ほど収穫したタケノコと桜の苗木をしまうついでに、あるアイテムの数を確認するためだ。綺麗に陳列されたラージチェスト、その部屋の最深部に置いてある、こちらの世界へ来て一番最初に作ったチェストの中に、それは入っていた。

『どうしたんですか?』

 俺の喋った事に反応して、緑色の文字がチャットに現れる。このチャットはお互いが一定距離以内にいれば壁があろうが何があろうが話ができる、なかなか便利なものだ。……独り言の多いやつにとっては、隠し事の難しいという事でもあるが。

『いや、少し確認したい事があってな。気にするな』

 返事をしつつリビングへと戻る。そこにはいつも通り、王子と一緒になって階段ブロックソファに座る匠の姿があった。スケはランと一緒に夜桜と称してあのバイオームへと散歩へ出かけていて、距離的に今はチャットが繋がらない。

『リョーカイです。そういえば先輩、明日はどうします? 早速竹林作りにいきますか?』

『いや、申し訳ないが、明日は少しやりたい事がある。竹林作りは俺もやりたいからな、』

『やりたい事?』

『ああ。少し時間がかかると思うから、明日はパスしてくれるか?』

『全然オッケーですよ! どうせ急ぐ理由も無いですし』

 快く承諾してくれた。最も、最初から断られるとは思っていなかったが、やはりこいつは優しい奴だ。スケの奴も多分、いつものテンションでオーケーと言ってくれるだろう。

『楽しみにしてますよー?』

 王子の事をチラチラと見ながら言う匠。全てではないのかもしれないが、俺が何をしようとしているのか何となく分かっているのだろう。

『スケには内緒だぞ?』

 どうせなら驚かせてやりたいからな。

『はい!』

 こうして、日の暮れた後ののんびりとした時間を過ごしたのだった。



『スケには内緒だぞ?』

『はい!』

 どうやらついに明日、エンダー先輩がペットを手に入れる事にしたようだ。またここが賑やかになるのか……楽しみだ!

 現状仲間にしていない動物というと馬かそこらだと思うが、先輩は一体何を連れてくるつもりなんだろうか? この世界のバージョンがどうなっているのか分からないが、ペガサスあたりを連れてきそうだ。というのも、確かバージョンアップでペガサスが自然発生しなくなってしまったのだ。まぁ、先輩のことだから配合してでも手に入れそうではあるけど……。空の移動手段というのはなかなか便利だからね。

『うーん……あ、そうだ!』

 残っていた牛乳を飲み干すと、立ち上がって先輩の方へ向き直る。

『それじゃあ、俺も明日は前々からやりたかった事をする事にします! 覗いちゃ駄目ですよ?』

『ああ、分かった。スケにも伝えておこう』

 この少し後にスケさんとランが帰宅し、しばらく三人で談笑した後にお開きとなった。ふふふ、明日も色々と盛り沢山になりそうだ……。

――――――――――――――――――――

 どうも、作者です。

 怒涛の二日連続投稿です! 以前お待たせしてしまいましたので、その分頑張りました。今後も他サイトで書いている別作品と折り合いをつけつつ、できる限り早く投稿したいと思っています。

 最近では私達日本人より外国の日本通の方のほうが日本について詳しかったりするんですよね。ワタシレキシハワカリマセーン。

 それではまたいずれ
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[40371] 第十一話~軍勢~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/03/31 02:05
 トン、トン、トン……。

『ふー、これでようやく本体部分完成って感じかな』

『匠くーん、ホント何作ってるんですか? というか、どこにいるんですか?』

『ナイショですよ、ナイショ。完成したらお披露目しますから』

 現在地、拠点のすぐ側にある山岳バイオーム内部。一番大きな山の中をまるまるくり貫いて、巨大な空間を作ってみた。手堀りならぬ口堀りだと恐ろしいほど時間がかかる上にツルハシが勿体ないので、ひたすら自爆して掘りましたハイ。これでこそのマイクラの匠だな。

 とまぁ、こうしてできあがった巨大な空洞をちょちょっと改造して、巨大なラボっぽいのを作ってみた。当然、折角の秘密のラボなんだから二人には内緒。さてさて、ここからが俺の本領発揮! 二人をあっと驚かせる物をここで作ってやろうじゃないか。

 サク、サク、サクと足場に使っていた砂の塔を壊して下におりると、遠目から確認する。うーん、どうしても大きくなっちゃうな……。最も、今となってはそれを気にする必要もないんだけど。マイクラ世界が現実化するとどうなるか、とくとご覧にいれてやろうではないか。

「ヴァー……」

「ヴァーヴァー……」

『……ん?』

『どうしました? 匠くん』

 あれ……? 沢山のゾンビのうめき声が聞こえる。いや、沢山なんてもんじゃない。あの時、そう、あの謎のウィッチの罠にかかった時のゾンビの数よりも遙かに多いのが、ここからでも声だけで分かる。おかしいな、ラボの下に空洞が無い事は確認済みのはずなんだけど……。となると、まさか外?

『おかしい……。今は昼のはずなのに……』

『だからどうしたんですか……って、あれ……?』

 どうやらスケさんも気づいたみたいだ。まだチャットが繋がる程度とはいえ、スケさんのいる我らが拠点とこのラボは少し離れている。ここでもあそこでも聞こえたという事は、やはり相当の規模……。

『……嫌な予感がする。スケさん、合流します、待っててください』

『分かりました。僕も準備しますね』

 大急ぎでダッシュし、ラボを出る。ラボから拠点までは地下に一直線の通路を掘っておいたから、戻るのはあっという間だ。

『スケさん!』

『うわっ、匠くんどっから出てきたんですか!?』

『そんな事より、早く外に!』

 二人して大慌てで外へ出る。そこには……信じられない光景が広がっていた。

「ヴァー……」

「ヴァーヴァーヴァー……」

『……え』

『匠くん、これ……』

 辺り一面、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。見渡す限り、大量のゾンビがひしめき合っていた。しかもご丁寧に、全てのゾンビがフル装備ときた。なるほど、だから日中でも燃えないのか……。最も、明るい所ではスポーンできないのだから、これだけ発生した事の謎は残るが。

『んー……。スケさん、気づきました?』

『あれ、匠くんもしかして同じ事考えてます?』

 少しゾンビ達を観察していると、どうやらどこかを目指しているように見えた。皆が皆、同じ方向へ歩いていっている。そして俺達には、その場所に心当たりがあった。

『プレイヤー、狙ってますね』

『これは許されませんねぇ』

 瞬間、俺とスケさんのモンスターの目が赤く光った(気がした)。拠点入り口の縦穴ある丘の上から飛び降りる。

『おいゾンビ共! プレイヤーちゃん家はコミケ会場じゃねぇんだよ!』

『えっ、匠くんその例え……。まぁいいです。先滅します!』

 俺達転生モンスター三人は、プレイヤーへ危害を加えようとする存在を絶対に許さない。ちょっとキャラが変わっちゃった気がするけれど、そんな事は気にしない。

『せいやぁー!』

 ゾンビが密集している場所を見つけ、全速力で突っ込む。そして……。

『バルス!』

 自爆。もはや慣れたものだ。一度に数十体を昇天させる事ができた。見れば、スケさんもお得意のハイスピード射撃でどんどん殺してくれている様子。よっしゃ、この調子で……。

 と思っていた時期が俺にもありました。ゾンビの特性として、一体のゾンビを攻撃すると、周囲のゾンビも反応して一斉に襲ってくるというものがある。ゲームでプレイしていた時はかなり驚異だったのをよく覚えているけれど、アイテムも持っていない今ならむしろウェルカム。というか、こっちに矛先が向けばプレイヤーちゃん家への行進もストップするので万々歳だったんだけれど……。

『匠くん、こいつら全然こっちに攻撃してこないですよ!?』

 そう、スケさんの言うとおり、いっくら攻撃してもゾンビ共は行進を止めようとせず、俺らの事はさっきから見向きもしないのだ。お前ら……プレイヤーちゃんが可愛いから俺らが見えてないのはよく分かるけど、流石に攻撃受けてもスルーはないんじゃないですかい? しかもさっきからだんだんと押し寄せる数が増えてきているせいもあって、ちらほらと討ち漏らしが出てくるようになってきてしまった。俺らが減らした分元の量より相当少ないとはいえ、あの数を木の剣で相手とか言われたら俺でも泣く。増してやあのビビリなプレイヤーちゃんではもう……。

『あぁもう、こんな時に先輩がいてくれたら……』

 先輩なら、ワープを駆使して討ち漏らした奴らを確実に仕留めてくれただろうに……。

『はやく帰ってきてくださいよ、エンダー先輩……』

 ひしめくゾンビ共の中、空を仰いでそう呟いたのだった。



「ヴァー……」

「ヴァーヴァー……」

『……これはなかなか厄介な事になっているな』

 帰ってきてみて驚いた。全身に装備をつけた大量のゾンビ共が、ぞろぞろと蟻の如くどこかへ向かっている。……どこへ向かっているかはおよそ見当がつく。

 ブオンッ

 ゾンビの正面へワープし、蹴りを入れる。いつも通り一撃で死んだゾンビだったが、どういう訳か周囲のゾンビ共が反応しない。奇妙ではあるが、好都合だ。

 ワープを駆使し、次々とゾンビを駆逐していく。すると少々飽きてきた頃になって、急にやってくるゾンビの数が減った。しかも、やってくるゾンビの中には度々矢が刺さっているものもいる。これは……。

『……スケと匠ががんばっているようだな』

 このゾンビ共の進行ルートが直線だとすれば、こいつらは丁度俺達の拠点の上を通る。これだけの数がゾロゾロと通ったならば、二人が気づかないはずはない。粗方、あいつらが片づけたんだろう。まだチャットの繋がる距離ではないため、会話は出来ないが……。

「のう、まだ着かぬのか? それにしてもこのゾンビ共の数は何なのだ? 全く、お前といいこのゾンビ共といい、今日は不思議な事三昧じゃな」

 古くさい言い回しの、可愛らしい“声”が背後から聞こえる。俺は一度振り返ると、正面に見える密林バイオームの方を指す。

『もう少しだ。ほら、あの森の中』

「うむ……遠いな。シューヤよ、わらわをおぶれ。何なら“お姫様抱っこ”でも良いぞ?」

 何だそのご褒美は。

「……冗談じゃ、冗談。ほれ、その物欲しそうな目をやめんか」

 いや、別にそんな目はしていないつもりだが……。

 まぁとにかく、あの二人が戦闘をしているのならば、俺も一刻も早く合流しなくてはなるまい。そう思い、俺達は歩を進めた。

――――――――――――――――――――

 どうも、作者です。

 前回調子に乗って「二連続投稿!」とかほざいてた自分をぶん殴ってやりたい気分です。おかげで大分間が開いてしまいました。すいませんっ!m(_ _)m

 何と、新たな意思疎通可能キャラクターが登場!? 今後どうなっていくのでしょうか、作者にも予想できません。これからも頑張っていくので、よろしくお願いします!

 それではまたいずれ
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[40371] 第十二話~終末竜~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/04/08 23:58
『うぅー……いつになったら減るんですかぁ……』

『全くです……。もしかすると、どっかでこれだけの数がスポーンして流れ込んでる、なんて事もありうるんですかね? だとすればキリがないですよ!?』

 俺とスケさんは、あれからかれこれ軽く十五分は戦闘を続けていた。この体のおかげで疲れる事はないし、俺もスケさんも攻撃手段が尽きる事はないんだけど、精神的にかなりすり減ってきている。さらにはこの状態を維持できたとしても、俺たちの討ち漏らしてプレイヤー宅を目指すたゾンビの数は着実に蓄積しているわけだから状況は悪化する一方だ。くそぅ、こんな時こそ俺が今作っている“アレ”の出番だろうに……。残念ながらまだ完成は遠い。

 ツルンッ

『ふおっ!?』

 さーて、突然ですがここで皆さんに問題でーす。この場所には、俺とスケさんが倒したゾンビ達の遺品、即ち腐った肉が沢山落ちていまーす。そしてそしてー? 俺は上記の事を考えながら走り回っていましたー。これらの材料を元に、たった今俺の身に起こった事を、俺がこの世界に来てからの出来事から抜粋しなさーい。

 やっちまったぁぁぁぁぁっ!

 何故だ!? ゾンビの肉を踏んでずっこけるなんて本来そうそう無い事だよね!? 俺ってゾンビ肉に嫌われてんの!? この汚肉! ゾンビーフ! 絶対許さんぞぉぉぉ!

『ぶべしっ!?』

『匠くん!』

 スピードを出した状態でズッコケた事により、宙を舞う俺の体。そしてズザザーッという音と共に華麗な顔面スライディング。顔がっ、顔面がすり減る……っ。

「ヴァー……」ゲシッ

「ヴァー……ヴァー……」ゲシゲシッ

『ちょっ、お前らっ、止め……グハァッ!』

 ズッコケて地に伏せている俺を次々に踏みつけて進行していくゾンビ共。一度に最低三体は乗っているので起きあがるのは困難。さらには踏まれるのは痛いけれど何気にダメージが入らないので死んで脱出もできない……。ならば自爆をっ……!

 ……
 …………
 ………………あれ?

『自爆できないっ……ゲボァッ!?』

 何故だ!? いつも通りにやっているのに……自爆できないだなんて初めてだぞ!? 待て待て待て、ひとまず落ち着いて……。ってこんなゲシゲシ踏まれて落ち着けるかぁーっ!

『匠くんっ!』

 バシュシュシュッと音がすると、俺の上を乗り越えていたゾンビ共が一斉に吹き飛んだ。その隙にエビのように体を跳ね上げて立ち上がる。

『大丈夫ですか!?』

『はい、たすかりま……』

「ヴォアアアァァァッ!!!」

 ……二番煎じはさっきの腐った肉だけでお腹いっぱいなんですが。これ以上はお腹壊します、腐った肉だけに。

 俺たちの目の前に現れたのは、MODの力によって変質した化け物、ミュータントゾンビだった。いや、会話する時間ぐらい与えてくださいよ。コミュニケーションって大事よ? 集団行動する君らゾンビなら分かるでしょう? あっ、ミュータントゾンビは群れないか……。

『あぁもう! 普通のゾンビでも手いっぱいだってのに……』

 さらには、俺がズッコケているうちに相当な数のゾンビがここを突破してしまっている。最も、あれだけの数が一気に押し寄せるのもかなりヤバいが、あのハルクを逃す方がその何十倍もヤバいからどうにかしないと……。


「ヴォアアアァァァッ!」

『……えっ?』

 突然ズシンと地響きがしたかと思えば、目の前に壁が現れる。えぇっと、これはもしかして……。

「ヴォアッ」

『グハァッ!?』

『匠くん!』

 俺の目の前へ突然現れたミュータントゾンビは、とんでもない力でアッパーを俺の顎へ入れる。凄まじい衝撃と共に大きくカチ上げられる俺の体。かと思えば、上空にいる俺へ向けて大きくジャンプをしてくると、力任せに地面へ叩きつけられた。

『こいつは攻撃してくんのかよ……ガフッ』

 全身に激痛が走る。転生当初、死ぬ時には痛みを伴わないと聞かされたが、これは“死ぬことそのもの”への痛みを指す。事実、モンスターになった事で痛覚は多少鈍くなったみたいだったけれど、相応の攻撃を受ければ普通に痛い。

「ヴォアアアァァァ……」

 ゆっくりとこちらへ近づいてくるミュータントゾンビ。視界の隅の体力ゲージを見ると、残るハートは一つ。あと一撃食らえば間違いなくオダブツだ。……さっきから自爆で死にまくっていたのに今更何を言うって? いや、実はこれにはちゃんとした理由があるんですよ。っと、そんな事考えてる暇は無さそうだな……。

 どうにか立ち上がった俺の目の前にやってきたハルクは、再び先ほどのカチ上げ準備の姿勢を取った。あー、やっぱ避けられないかー。ま、仕方ないね……。

 そう思い、下から振り上げられようとしているミュータントゾンビの腕を眺めていると――突如周囲が暗くなり、俺へ攻撃をしようとしていたゾンビが強い風の音と共に吹き飛ばされた。

『すまない、待たせた』

 チャットに現れた黒い文字。俺がハッとして、現れた巨大な陰を落とすそれを見る。それは……エンダードラゴンと、それに跨る黒い人の姿だった。

『エンダー先輩!』

『二人ともよく頑張ってくれた。後は俺たちに任せてくれ』

 先輩がそう言うや否や、エンダードラゴンは周囲のゾンビ達へ向けて突進を始めた。上空からの圧倒的な力と攻撃面積によって、大量のゾンビが面白いように消し去られていく。僅かな生き残りも、先輩がワープを駆使して殲滅していった。

『うわぁ……』

『流石ッス先輩……』

 俺とスケさんはドラゴンの体当たりが当たらないように拠点入り口の縦穴へ飛び込み、そこから顔を覗かせて様子を窺う。まるで強風に巻き上げられる木の葉のように命(死体だけど)を散らしていくゾンビ達。……何だか逆に可哀想になってきたぞ。

「ヴァー……」

「ヴァ……」

『……あれ?』

 そんなこんなで先輩ズ無双が始まって暫くすると、突然ゾンビ共の進行がストップした。何かを探すように、周囲をキョロキョロしだすゾンビ達。かと思えば、回れ右をして元来た方向へ戻っていった。

 ……一体どうしたというのだろうか? 見た感じ、エンダードラゴンと先輩による猛攻に怯えてって訳でもなさそうだった。何だか、何かから命令を受けたみたいな……。

『無事か、二人とも』

 着地をしたドラゴンから飛び降りる先輩を二人で迎える。どうやら深追いするつもりは無いみたいだ。

『はい、先輩のおかげでどうにか』

『本当、先輩ナイスタイミングでした!』

 相変わらずの大げさな身振りのスケさんを見て思わず笑う俺。表情の無い先輩の顔も、何だかほっこりしているように見えた。

『……で、先輩。さっきからもの凄く気になってる事があるんですけど』

『あぁ、そうだったな。ほら、ここにおいで』

 先輩が後ろで暇そうに自分の尻尾を眺めていたエンダードラゴンへと声をかけると、ゆっくりと立ち上がってこちらへ歩いてきた。かと思えば、先輩はおもむろに砂糖を取り出す。スケさんがその砂糖を見て何やらハッとしたような仕草をした所を見るに、先輩が何をしようとしているのか分かるのだろうか? マイクラのバニラ使用についての知識はかなり自信がある俺が知らなくてスケさんが知っている事となると、十中八九MOD関連だ。一体あの砂糖に何があるのだろうか?

 ポン

 先輩が砂糖をエンダードラゴンへ使うと、その巨体が消失。驚いた俺が視線を落とすと、そこにいたのは……一人の女の子だった。そう、プレイヤーちゃんと同じ“アニメ系女の子”だったのだ。

「ほぉー、シューヤよ、これがおぬしの仲間か? 面白い、実に面白いのぅ!」

 幼い顔をパッと輝かせて、ゴシックロリータの紫色のワンピースを揺らす少女。いや、幼女と言った方がいいだろうか? 見た目の年齢は精々十歳かそこらだ。ちょっと突っ込みたい所がありすぎるが……とりあえず一番気になったのはこのコが言った言葉だ。

 シューヤ。このコは確かにそう言った。シューヤ、終也。そう、エンダー先輩の本名だった。

『あぁ、そうだ。分かってるとは思うが、彼らもお前の言葉の意味を理解しているからな』

「分かっておる。わらわはエンダードラゴン、よろしくの!」

 ……何という事でしょう。視線左下のチャットが無ければフォギュフォギュ言ってるようにしか聞こえない先輩と、ハッキリと人語を話すエンドラ少女が会話をしているではありませんか。

『え、ええっと先輩。これは……』

『あぁ。本人が今言ったように、彼女はエンダードラゴン。MODで人間の姿になっている』

『“どらごんめいどさん”ですね!』

 俺と先輩の間に頭を突っ込んで補足を入れるスケさん。そうだ、と先輩は頷くと、話を続ける。

『これはエンダードラゴンにメイドへの変身能力を与えるMODでな。最も、俺もまさかこんな姿になるとは思っていなかったな……』

「……シューヤ、それはどういう意味じゃ?」

 ジト目で先輩を見るエンドラさん。いや、恐らくはあなたが想像しているような意味ではないですよ?

 先輩が言いたいのは、プレイヤーと同じような二次元女の子になった事だ。スケさんの言う“どらごんめいどさん”なるMODは初めて知ったが、先輩の話を聞くに前提としてリトルメイドMODが必要になるみたいだ。内容は名前の通り、マイクラ世界に新たなMOB“メイド”を追加する物。このMODも、竹MODと同じく俺が入れていた物の一つだからある程度の知識はあるが、このMODで現れるメイドが二次元リアル少女であるという事は当然無い。そしてもう一つ気になるのが……。

『先輩。彼女、先輩の言葉を……?』

 頷き、エンドラさんの方を再び見る先輩。

『彼女によると、エンダーマンとエンダードラゴン、姿形は大分違うが種族的には親戚のようなものなんだそうだ。だから、俺の口から発せられるエンダー語の意味が分かるそうだ』

「そういう事じゃ。残念ながら、シューヤの言葉は分かるがクリーパーやスケルトンのは分からん。話す時はシューヤを通してくれ」

 何故か誇らしげに無い胸を張るエンドラさん。……可愛いな、このコ。

『という訳で、今後はこいつも俺らの拠点に住む事になった。宜しく頼む』

「頼むのじゃ!」

 手を差し出してきたエンドラさんに、スケさんが応じる。お互いに手をブンブン振り回し、笑っていた。……言葉を使わずに意気投合しおったぞこの二人。

――――――――――――――――――――

 作者はロリコンです(唐突)

 なんという事でしょう。プレイヤーちゃんに飽き足らず、新たにエンダードラゴンまで二次キャラ化してしまったではありませんか。

 すんませぇぇぇぇん!!

 た、確かMOBを二次キャラ化するMODがあったと記憶しているので、そういう事で許容してください。お願いします。m(_ _)m

 順調にPV数も増えて、とっても嬉しい限りです! コメントも御待ちしています。

 それではまたいずれ
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[40371] 第十三話~魂~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/04/19 01:09
 ……暇なのじゃ……。

「ギュオオォォオゥ!(あーもー暇なのじゃぁっ!)」

 ゴロゴロと地面を転がると、下にいたエンダーマン共が潰されてアイテムをドロップしていく。

 わらわはエンダードラゴン。このジ・エンドの主じゃ。生憎この世界には昼夜は存在せぬゆえ、スポーンしてからどのくらい日数がたっているのかは皆目見当もつかん。恐らくは一年経っておらぬのだろうが……やる事が無さすぎて、実は百年経っているのではないかと思うほどに暇で暇で仕方がないのじゃ。

「ギュオォウゥ……(何か面白い事でも無いかのぅ……)」

 地面に寝転がり、体を伸ばしながら愚痴る。……と、その時じゃった。わらわが管理しているこの世界に、突然大きな歪みが生まれたのじゃ。……これはあれかの? いわゆる“ふらぐ”という奴かの? 考えれば、あのような発言をしたことなどこれまで無かったような気もする。……もっと早くふらぐを立てておくべきじゃったな。わらわ、反省。

「フォギュフォギュフォギュ……(む、エンド本土の内部へ出たか。急いで地上へ上がらねば……)」

 ……どうやらふらぐという物は、わらわが思っていたよりも遙かに素晴らしい物じゃったようじゃな。万歳。

 地面に現れた穴から出てきたのは、手にピッケルを持ったエンダーマンであった。しかしやはり、挙動が普通ではない。大体エンダーマンはブロックを持つ事こそあれど、ゾンビのように普通のアイテムを使用する事はないのじゃ。で、一番大きな点じゃが……あのエンダーマン、喋りおった。このエンドにおるエンダーマン共も鳴き声を発する事はあるんじゃが、意味の通った言語である事は無いのじゃ。しかし、あやつは喋る。フフフ、尚更面白くなってきたではないか。

「……フォギュ?(……ん?)」

 そんな異質なエンダーマンは、地べたに寝そべってじっと見ていたわらわに動きを止める。まぁ、当然であろう。ある意味ではわらわも異質なのであるからな。

 実は、わらわの司っておるこの空間と同じようなものは幾つか存在する。で、わらわの同族であるエンダードラゴンがその世界をそれぞれ管理しておるのじゃが、本来わらわ達はそこいらのエンダーマンと同じノーマルMOB、ランダムに動くMOBじゃ。じゃが、わらわだけは違う。生まれながらに自我や感情があり、自分の考えで行動する“魂持ち”なのじゃ。恐らくはあのエンダーマンもそうなのであろうな。まぁ、わらわは自我を持ってしまったが故に退屈な時間を過ごすはめになってしまったのであるが……逆に、自我を獲得しておらねばこのようなワクワクも無かったという事じゃ。

「ギュオオォウ(案ずるな、そこのエンダーマン)」

 首を起こしてそう言うが、返事もなく警戒してくる。……うむ、どうやらこちらの言葉は通じぬようじゃな。さらにはどうやらあの者、わらわと戦う気でここへ来たように見えるの。厄介じゃのう……。

 まぁとにかくは、わらわに敵意がない事を伝えるのが先決であろう。初めての客人じゃ、もてなしたい所であるな。ええと、この場合どうするんじゃったか……。

 わらわはひとまず立ち上がると、目の前のそのエンダーマンへ頭を下げた。お辞儀、と言ったかのぅ? まさかわらわが礼儀作法の類を使う事になろうとは……。知識というのはいつ必要になるか分からぬな。

 驚いた様子のエンダーマン。暫く様子を見ておれば、不思議そうにしてはおるもののどうやらわらわへの警戒心は薄くなったようじゃ。

 もう一押し。極力ゆっくりとエンダーマンの下へと向かい、鼻先を近づける。

「……?」

 ほれ、早う撫でぬか。なかなか恥ずかしいのじゃぞ、これ。

「……フォギュフォギュフォギュ?(……まさか、俺の言葉が分かるのか?)」

 何故分かったし。敵意が無い事を伝えようとしたら核心を突く発言をしおったぞ? しかも、結局撫でずじまいではないか。……やはりこやつ、面白い奴よのう。

 わらわが頷くと、エンダーマンは暫く考えた後に懐を漁り始めた。何をしておるのか興味を持って暫く待っておると、その手にはアイテム“砂糖”が握られておった。……あぁ、成る程。確かにこの体格差では対峙しにくかろうしな。……しかし、その知識を一体どこで手に入れたのやら。

 エンダーマンがわらわの体にその砂糖を使うと、突然視線が低くなる。先程までは目下に見えていたエンダーマンの姿が、急に大きくなったように感じられる。

「うーむ、実際に己の体で使うのは初めてじゃが……不思議な感じがするのぅ」

『……まさかプレイヤーと同じとは……』

 エンダーマンの顔を見ると、驚愕、というような表情であった。何かと思うて己の手を見れば……。

「……成る程、面白いのぅ」

 これまで四角のみで構成されていたわらわの体は、小さき娘へと変化しておった。この世界でこのような四角でない体が構成されるのは実に希な事。わらわも運が良いものじゃ。

『……まだ俺の言葉が分かるか?』

「無論じゃ。というか、それはこちらの台詞じゃぞ? おぬし、エンダーマンのくせに人語を解するのか?」

 エンダーマンは一言『あぁ』と肯定する。うーむ、先程まではわらわの方が大きかったというのに、今となってはこやつの方がわらわの倍ほどもあるのじゃな。姿は四角でなくなっても、そのへんは忠実なんじゃな……。

『先程は失礼した。まさかエンダードラゴンに言葉が通じるとは思わなくてな』

「なーに、気にするでない。おぬしはわらわの初めての客人じゃ。もてなそうぞ」

 生憎、飲み物など出せぬのじゃがな。

「これまで暇で暇で仕方がなかったのでな」

 これがわらわにとってのファーストコンタクトという奴じゃな。いやー、実に楽しいのぅ!

『……』

 ウキウキ気分のわらわを見つめてくるエンダーマン。うむ、仕方ない事よの。メイド型となったわらわはとても可愛らしいであろうからな。

『いや、確かにそれには激しく同意するが、今考えていたのは別の事だ。』

「ほう、言うてみよ」

『……俺と一緒にこの世界から出る気はないか?』

 こうして、わらわは奇妙なエンダーマン……シューヤと出会ったのじゃった。



『と、いう訳だ』

「なのじゃ」

 わけが分からないよ(某孵卵器風に)。

 ひとまず拠点へ入った俺達。階段ブロックソファーに座った俺とスケさんは、ピストンテーブルを挟んで反対側に座るエンダー先輩とエンドラさんから話を聞いていた。

 改めて言おう、わけがわからない。いや、経緯的な意味では分かったんだけど、マイクラ的な意味で訳が分からない。スケさん曰く、エンダードラゴンの卵を孵化させてペットにできるMODがあって、例のどらごんめいどさんというMODはそれが入っている前提の物なんだそうだ。しかし、普通にジ・エンドにスポーンしたエンダードラゴンが最初から友好MOBである事は当然無いらしい。大体、帰還用のポータルはエンドラ倒さないと出現しないはずなんですが……。

「うむ、ポータルはわらわがご都合主義的に呼び出したから万事オッケーじゃ」

 自分で言うか、ご都合主義。このエンドラさん、口調は古いのにやけに今時の言葉やネット用語とかも使ってくる。何故知ってるし。

『それで、匠のもう一つの質問についてだが……。何でも、彼女も俺たち三人も“魂持ち”と呼ばれるMOBなんだそうだ』

 今回俺たちがこのエンダードラゴンさんから得られた情報は、いずれも俺たちにとって初耳、かつ有益なものだった。この世界において、MOBは大きく二つに分けられるらしい。村人やウィッチのように魂を持つMOBと、種族差はあるとはいえ基本的にランダムに行動する普通のMOBだ。おおむね動物やモンスターなんかは後者だが、たまーに魂を持ってスポーンしてくる個体もいるんだそうで、俺らモンスター組にこのエンドラさん、さらには王子とランもその“魂持ち”のMOBらしい。

「そうじゃのぅ……。“魂持ち”のスポーン確率ははだいたい、村人ゾンビのチキンジョッキーと同じくらいかのぅ?」

 可愛らしく牛乳をラッパ飲みするエンドラさん。

『……ええっと、チキンジョッキーのスポーン確率っていくつくらいでしたっけ?』

『確か前にwikiを見た時、子供ゾンビが5%、それがチキンジョッキーになる確率は更に5%と書いてあったな。で、村人ゾンビの発生確率は……』

『同じく5%ですよ。えぇっと、要するに村人チキンジョッキーが生まれる確率は……8000分の1ですか? かなーりレアですね』

『匠くん、すごい計算早いですね……』

 うーむ……。だとすると、そんな超低確率でしか発生しない魂持ちがこの場所に集結してるっていうのも不思議な話だ。俺たちモンスター三人組はチャットというコミュニケーションツールがあるから当然といえば当然だけど、王子やランはそんなものはない。これはエンドラさんにも言える事だ。……これは、ただの偶然という事で片づけられるような話では無い気がする。

「それにしても、奇妙な話よのぅ。別種のモンスター同士が意思疎通をしておるとは」

『……どういう事だ?』

 チャットの見えない端から見れば、クリーパーとスケルトンとエンダーマンと二次元幼女がそれぞれの言語で話しているというかなーりカオスな状況の中、くりくりとした目を細めて呟くエンドラさん。

「いやのぅ? 確かに魂持ちのMOBはそれぞれ明確な自我を持っておるが、動物はともかくモンスターの場合は別種同士の会話はできんはずなのじゃ」

『えっ、そうなんですか?』

 スケさんが如何にも“驚いた”という様子のリアクションをとる。これも俺たち全員初耳だ。どういう事なんだろうか?

「同種の魂持ちが生まれ、そして互いが出会う確率なぞとんでもない低さじゃし、結果的には己以外の生物との意思疎通などできぬはずなのじゃがな。何故かおぬしらは普通に会話しておる、というか互いに違う言語を使っておるのに互いに理解しておる。どうやら人語も解しておるようじゃしの。かと思えば、わらわの本来の姿の言語はエンダーマンの物とほぼ同じじゃというのに通じなかった。どういう事なのじゃ……?」

 ちなみに、俺たちが別の世界から転生してモンスターになったという事はまだエンドラさんに話していない。今後共に生活する仲間として隠し事をするのはどうかと思うし、このドラゴン妙にこの世界について詳しいのでもしかすると元の世界へ戻る手がかりも知っていたりするかもしれないが、何せたった今知り合ったばかりだ。こういう重要な話は、もう少し馴染んでからがいいのではないかという三人合致の意見である。ま、ぶっちゃけると元の世界へ戻るのはあんまり優先順位高くないし。

『まぁ、そういう話はまた今度でいいだろう。とにかくだ、この拠点へようこそエンダードラゴン。そこで、今後共に暮らす仲間として名を贈ろうと思うが、いいか?』

「名!? 名が貰えるのか!」

 うーんとかわいい顔を俯かせて考えていたエンドラさんの顔が、先輩の言葉でパッと上がる。その目はキラキラと輝いているように見えた。……かわいい。

『あぁ』

 先輩は気を引き締めるような動作をすると、ソファーから立ち上がって部屋の奥にある舞台へと乗った。ここは半ブロックを使って若干高さを上げていて、普段は宴会モドキをする時ぐらいにしか使わない場所だ。

 先輩が、興奮で頬を紅潮させたエンドラさんに立つよう指示する。慌てて従うエンドラさん。

『では命名する。この拠点にて、その可愛らしい大輪の花の如き笑顔を振りまいてくれる事を願い“カトレヤ”の名を授ける』

 感極まった顔をするエンドラ改めカトレヤさん。俺とスケさんははやし立ての声をあげ(クリーパーがフシュフシュ言いながら跳ね、スケルトンがカランカランいわせながら手を叩いているという異様な光景だ)、エンダー先輩も静かに拍手していた。

 こうして、この拠点に新たな仲間、エンダードラゴンのカトレヤさんが加わったのだった。

――――――――――――――――――――

バッ○ベアード「このロリコンどもめ!」

作者「うっ……」

 どうも、作者です。

 マイクラというゲームで設定組むの大変なんですよね……。何ですか魂持ちって。

 新たな仲間、エンダードラゴンのカトレヤさんです。この花、実はラン科の植物なんですね。さっきWikipedia見るまで知りませんでしたwwwww

 さぁーて、ヒロイン(?)が追加された今、どうなるでしょうか!? 楽しみですねぇ……。

 それではまたいずれ
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[40371] 第十四話~叶うは三人の夢~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/05/10 18:30
「うっし、全員集まったな!」

 匠達がエンダードラゴンのカトレヤを仲間にしたその日の夕方。とある場所で、謎の会議が開かれていた。ピストンテーブルの上には蝋燭代わりの松明がいくつも並べられている。

「そんじゃぁ、これから緊急会議を開始するよっと」

 緊急会議、というにはあまりにも軽すぎる口調のその男は、テーブルの一番奥に腰掛けている。他の席に座るのは、ウィッチや村人などの、人型のMOB達。

「んじゃウィッチ、状況報告頼むわ」

「はい、分かりました」

 一番近くにいたウィッチへと指示を出す。そのウィッチは立ち上がり、大きな声で報告を開始した。

「まずは皆さん、私の仲間のウィッチの一人が、第三砂漠の神殿にて罠を張っていたのを覚えておられるでしょうか?」

「あー、あいつか。ウィッチの中で一番歳くってたんだよな。ああいうの老害っていうんだよ。砂漠に送って正解だったよな」

 己の男の発言にしばし黙ったウィッチだったが、再び報告を開始する。

「……彼女は神殿内部に落下式の罠を張り、中でモンスターを使った待ち伏せを行っていました。しかし数日前……彼女からの連絡が途絶えたのです」

 薄暗い会議室に若干のどよめきが起こる。彼女は確かに老いていたが、その分知識はこの幹部メンバーの中で一番多かったのだ。

「あー、やられちゃった感じ? 役立たずだなぁ」

「……連絡が途絶えた以上、あのウィッチが無事である可能性は低いと思われます。ですが彼女はミュータントモンスター変異薬“ケミカルX”を生成する技術を持っており、この事から現在クラフターは変異させたモンスターを使役した彼女を倒せるほどの実力を持っている、と考えられます」

「いやいや、確かにあのウィッチはクズだったけど、流石にあのクラフターがミュータントモンスター倒すのは無理だろ。粗方寝てたかボーッとしてた隙にー、とかだろ? ま、ケミカル使った相手がスケルトンとかならクラフターにもワンチャンあるかもだけどね」

 ケラケラと笑う男の声以外、会議室は静まり返る。一通り笑い終わったリーダーは、続けろと指示を出した。

「……はい。その後部下を現地に向かわせましたが、罠の中にはモンスターや当のウィッチは勿論、チェストやかまど等、彼女が普段使用していた家具の類も消失していました。全てクラフターに持ち去られたと考えて間違いないでしょう」

「ふーん。で? ぶっちゃけあのババアが死んだ所で大した損害じゃないし、緊急会議開く程でもないだろ?」

 およそ自分の仲間だった者への発言とは思えないが、会議室にいる者は誰も何も言わない。いや、言えない。ここで楯突けば、次は自分が標的になると分かっているからだ。

「いえ、実はそれなりに問題があります。あの砂漠の罠に置いてあったチェストの中には、そのケミカルXが大量に入っていたのです。使い方によっては、強力なミュータントモンスターを味方につける可能性もあります」

「味方ぁ? スノーゴーレムとかならまだ分かるけど、他のミュータントモンスターを味方にする方法なんてあんの?」

「はい。ミュータントクリーパーを倒した際に出る卵から孵化させた子クリーパーをミュータント化する等すれば、あるいは」

「はぁーん、なるほどね」

 納得して深く座り直す男。それを確認したウィッチが話を続けようとした……その時。

「会議の最中、失礼します!」

 声と共に会議室の鉄の扉を開けはなち、息も絶え絶えに入ってきたこの一人の司書村人によって、事態は大きく動く事となるのだった。



『これで最後の一つですね』

 ザクリ、とタケノコを草ブロックの上へ植え、その傍らに松明を置いた。うん、完璧だ!

『終わったー! 竹が沢山採れる日が待ち遠しいですね、匠くん!』

 拠点のある密林バイオームの一角を整地した場所にて、俺たちは先日収穫してきたタケノコを植え終えた。タケノコの増え方ってちょっと変わってるから、効率よく増えるよう植えるのって結構頭使うんだよね。

「終わったかのぅ? お疲れさまなのじゃ」

『お前も少しは手伝ってくれてもよかっただろうが……』

 肩を竦めるような動作をするエンダー先輩。カトレヤさんは座っていたラージチェストからピョンと飛び降りると、一人一人に牛乳を配っていった。おぉ、気がききますな!

『一仕事終えた後の牛乳って美味しいですよね!』

 ラッパ飲みをするスケさん。スケルトンって、カルシウム摂取で体力回復とか強度上昇とかありそうだけど、その辺どうなんだろう。当たり前のように食料を食べて空腹度回復とかしてるから消化吸収はできるんだろうけど……。その辺の仕様はプレイヤーと一緒なんだろうか。

『俺も火薬食ってみようかな……』

『? どういう事ですか、匠くん』

『あぁいえ、気にしないでください』

 それでもし俺の爆発力が強化されたとしても、大して使える場面も無さそうだしね。……そういえば、火薬火薬って言っても火をつけようがマグマに投げ込もうがTNTにしない限りは爆発しないんだよね。多分俺の体内にはTNTが入ってるんだろうけど、火薬をTNTにする器官が体内にあるとかじゃない限りは食べたところでそれが増えたりする事は無さそうだ。

『思ったより早く終わっちゃいましたね。今日はあと何します?』

『うむ、そうだな。……なぁ二人とも、そろそろ地下生活も飽きてきた頃じゃないか?』

 ……え?

『どういう事ですか?』

『なに、いい加減コソコソ過ごすのではなくて、地上に家を構えてみるのも良いかと思ってな』

『でもでも、それだとプレイヤーに見つかっちゃうかもしれませんよ!?』

 そう、スケさんの言うとおりだ。あの地下拠点はプレイヤーに見つからないためにあの場所へ作ってあるのであって、地上へ建ててしまっては意味がない。下手をすればプレイヤーが入ってきたりして……。

『……スケ、お前があの桜のバイオームで言っていた事、覚えているか?』

『え!? もしかして僕、何か変な事口走ってました!?』

『いやスケさん、先輩が言いたいのはそういう事じゃないと思いますよ……?』

 しかし、あそこでスケさんが言っていた事……。うーん、駄目だ、はしゃいで桜の木の間を走り回っているスケさんしか浮かんでこない。

『……。“この景色をプレイヤーにも見せてあげたい”』

 腕を組み、ゆっくりとそう言う先輩。あぁ、そうだった、確かにそんな事言ってたなぁ。……って、という事はまさか先輩……!?

『先日のゾンビの行進と、ピラミッドの一件。互いにどのような関係があるのか、あるいは関係無いのかは不明だが、ただ一つ言えるのは、確実にプレイヤーにとっての脅威が増えてきているという事だ』

 ……やはりその事か。実は俺も、今回のゾンビ共と砂漠のウィッチの関係について考えていた。あのウィッチは先輩に倒される直前に組織めいたものの存在をほのめかしていたし、今回の一件もゾンビ達は誰かに操られていたように見えた。あのウィッチもゾンビを使役して戦わせていたし、関係性を疑うのは当然だろう。もし相手が組織なのだとすると、驚異のレベルは一気に跳ね上がる。例えば、今回のゾンビの大行進を指揮していたと思われる奴を、今回俺たちは確認する事ができなかった。しかしそいつが組織の奴らに俺たちプレイヤー側のモンスターの存在を広めてしまうと、何かしらの対策を打たれてしまう可能性がある。確かに俺たちはそれなりに強いが、十分な知識を得た上で対策しようと思えばそれなりに出来てしまうものなのだ。

『むーん、“アレ”を使えば、大群相手なら無双なんだけどなぁ……』

『だぁーかぁーらぁー! 匠くん! いつまでも渋ってないでそろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか!?』

『まぁ待てスケ。ロマンとはそういう物だ』

 おっ、流石は先輩、よく分かっていらっしゃる。その通り、切り札というのは最後まで出し惜しむ物なのですぞ、スケさんや!

『ロッ、ロマン……。成る程、それは大事ですね!』

「……一体何の話をしておるのじゃぁ!」

 両手をブンブン振り回すカトレヤさん。まぁ、エンダー先輩の言っている事しか分からないのなら仕方ないか。

『……話が逸れたが、こうして彼女にとっての脅威が増えてきている以上、こうしてコソコソしながら見守るのにも限界がある。そこで……彼女との和解を目指そうと思う』

『た、確かにそれは分かりますし、プレイヤーと和解するっていうのにも賛成ですけど……。どうやって意思疎通するつもりなんですか?』

 言葉が通じない以上、こちらからどれだけアプローチをかけても敵対……というか怖がられてしまうだろう。この間のあのリアクションを見れば容易に予想ができるというものだ。

『そこで、だ』

 組んでいた腕を解いた先輩が視線を向けた先。そこには、話についていけずにしゃがみ込んでいじけ始めたカトレヤさんがいた。

「え……な、何じゃ? べ、別にあの魚はわらわが食べた訳ではないぞ!?」

 うわぁ、聞いてもいないのに自滅したぁ。成る程、ストックしてあった魚が減っていたと思ったらそういう事だったのか。最も、魚なんてスケさんがいくらでも釣ってくれるし全然事足りるんだけどね。……って、そうじゃなくて。

『あぁー、確かにカトレヤさんなら……』

『そっか、今のカトレヤさん人間の姿ですもんね! 先輩、もしかしてそれ狙ってました?』

『いや、極偶然だ。ラッキーだったな』

 相変わらず目を白黒させて混乱しているカトレヤさん。状況が掴めずアタフタしている姿も可愛いけど、そろそろ説明してあげる事にした。

「成る程、のう……。確かに今のわらわならば、クラフターと話をする事も可能じゃろうて。しっかしのぅ……」

『……? 何か問題でもあるのか?』

「いや、別に問題はないんじゃが……。おぬしら、クラフターと友好関係を築く気なのかの?」

 あぁ、そう来たか……。

 確かにおかしな話ではある。仮にも敵MOBである俺達が積極的にプレイヤーことクラフターと友好関係を築こうとするのは、端からは完全におかしく見えるだろう。しかし、魂持ちという名の知性体MOBならそういう事もあるんじゃないのか?

「あー、それはまず無いのぅ。そもそもの話、そなたら三体が異質すぎるのじゃ」

 話を聞けば、確かに魂持ちのMOBは人間と同等の知能を有するが、種族ごとの本能は持ったままなんだそうで。要するに、魂持ちであってもクラフターを見ればクリーパーは自爆しようと迫ってくるし、スケルトンは狙撃してくるし、エンダーマンは目を合わせたらブチ切れて襲うらしい。寧ろ、知能が高いせいで色々小細工を仕掛けるので相手からすれば非常に厄介、というかとんでもない驚異なわけで。

『……警戒対象が増えたな』

『8000分の1のスポーン確率は伊達じゃないですね……』

「ま、わらわは本能よりも理性が勝っておるから、わざわざクラフターと敵対しようとは思わんがの。じゃが流石に友好関係を築こうとは思わんかったのぅ」

 前々から思っていたが、カトレヤさんはこの現実化(?)したマイクラ世界についてとても詳しいようだ。三人揃えば文殊の知恵ということわざにもあるように、俺ら三人が揃えば“ゲームとしての”マインクラフトで分からない事はほぼ無いと言っても過言ではないと思う。けれども“魂持ち”を代表とするゲームには存在しないシステムについての知識は皆無であり、そのシステムによって俺達やプレイヤーに脅威が迫る可能性もある。その事を考えれば、カトレヤさんの存在は俺達にとってとても大きなものとなるのだ。

「ま、わらわはおぬしらの方針には従うぞ。面白そうじゃしの!」

『決定だな。よし、決まったのならば早急に準備へとりかかろう』

『匠くん、いよいよですね!』

『はい、楽しみです!』

 こうして、待ちに待ったプレイヤーとの友好関係への道が開けたのだった。

 ……しかし、この時俺達は浮かれていた。飽くまでプレイヤーとの和解の理由の一つとして用意した“最悪の事態”の一つが、こんなにも早く訪れるなんて事が、誰が予想できただろうか……。

――――――――――――――――――――

 マイクラって何だっけ(哲学)

 どうも、更新が遅れた上に何だかおかしな方向へ突っ走り始めた小説の手綱を制御できていない作者です。

 この小説のコンセプトの一つに、“マイクラのバニラの世界観を過度に失わない程度にMOD導入、創作をする”という物がありました。それがこの有様。組織なんか出しちゃったらもはやマイクラでは無いのでは……。

 と、とりあえずこれ以上世界観を破壊しないよう努力はします、努力は。

 それではまたいずれ
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□□■□□■□□ by翼の勇車



[40371] 第十五話~危機~
Name: 翼の勇車◆1e81440c ID:7c807e15
Date: 2015/12/16 15:26
『やっぱりここはオークの木じゃないですか?』

『俺は松派だ。そこは譲れん』

『あれ……? もしかしてアカシア派って僕だけ……?』

 あー、スケさんそれはちょっとマイナーですわ。俺も別に嫌いって訳じゃないけど、ちょっとあの色合いは建築には向かないと思いますよ。

『それにしても先輩、流石ですよね! 木材用の雑木林を作っておくなんて!』

『ゲームでもよく作っていたからな』

 俺達は今、先輩が作っておいてくれたという雑木林へ向けて歩いていた。家は結構ガッツリ建てる予定だし、場合によってはプレイヤーのトウフ拠点も建設し直す事になるだろうから、木材は大量に確保しておきたかったのだ。それを見越して調達元を用意しておくとは、マジパネェっす先輩。

『それにしても遠いですね』

『すまないな。作った当初はプレイヤーとの和解など当分先だと思っていたから、見つからないように遠くに作ったんだ』

 いわゆる整地厨というヤツも悪くはないと思うんだが、俺達三人は地形を利用して建築をするタイプのクラフターだった。故に、あんまりむやみやたらと周囲の木を伐採するのに抵抗があったのだ。植林したとしても、元あった地形を完全再現するのは難しい。妙な拘りだと思うだろうが、これが俺達三人一致の意見だ。

『具体的にはどこに作ったんですか?』

『この先の川を越えた所にある草原バイオームだ』

 なるほど、確かに草原バイオームなら木さえ伐採してしまえば元に戻るので楽だ。改めて、流石です先輩。

『あっ、あの川ですか?』

『あぁ』

 密林バイオームの終わりが見え、それと草原バイオームを分断する大きめの川が見えてきた。遠くには、先輩が植えたらしい綺麗に並んだ木々も見える。

『うっし、そんじゃいっちょ頑張りましょう!』

『おー!』

『やるか』

 俺達は植林場を目指し、意気揚々と進んでいったのだった。



「……む」

 いつものようにピストンの上にて寝ていると、つい先日ここへやってきた娘が何かに気づいたように顔を上げた。何かあったのか? まぁ、我輩にはどうでもいい話であるが。

《おねーさん、どうしたの?》

 ……犬っころめ、余計な事を聞いてくれる。下手に首を突っ込めば我輩まで巻き込まれるではないか。……まぁ、我輩らの言葉は皆分からぬようだから問題なかろうが……。

「む? あぁいやのぅ、何やら悪寒がしたのじゃ。今まで経験が無い分、少々気味が悪くてのぅ」

 通じた……だと……?

《おい、おいそこの小娘。貴様、我輩らの言葉が分かるのか? そして、なぜ我輩らもおぬしの言葉が理解できる?》

「小娘って……。少なくともおぬしらよりは長く生きてきたつもりじゃがのぅ。まぁ良い。わらわは魔物ではあるが、同時に動物でもあるのじゃ。今後はアニマルモンスター☆カトレヤちゃんとでも呼ぶが良いぞ」

 訳が分からぬ。大体、口調も一部我輩と被っているではないか。やりにくい事この上ない。

「で、わらわはこう見えてもこの世界のラスボスみたいなもんじゃからの。主人公補正ならぬラスボス補正が働いておるからか、こういったカンもそれなりに当たるようなのじゃ」

 ……何やらよく分からぬ言葉も含まれておるが、出鱈目を言っているような雰囲気では無いな。それに……。

《我輩のヒゲも、良からぬ空気を感じてはいるが……》

《お兄ちゃんも?》

 我輩は堂々と振る舞うよう心がけてはいるが、生憎我輩の体である山猫種は臆病な種。このようなカンが働く場合は良い事があった試しが無い。

「ほぼ決まりじゃな。二人が悪寒を感じたとなれば、このフラグが回収されんという事もないじゃろうて」

 ……また訳の分からない事を言う。

《あれ、お兄ちゃんどこ行くの?》

《……野暮用だ。小娘、後で合流する》

「了解じゃー」

 あの緑がいなくなれば、またつまらぬ生活に逆戻りだ。面倒だがここは奴の主として、一肌脱ぐとしようではないか。

《……?》

 ……この馬鹿な“妹”も、一端あの小娘に任せるとしよう。



『クリーパー匠主催! 状況確認のコーナー!』

『ドンドンパフパフー!』

『……』

 さて、いっつも一人で黙々と考察をしてる事が多い俺だが、今日は特別って事で先輩とスケさんも交えての考察大会を開きたいと思います! え? テンションがおかしい?

んな事気にしてたらこのマイクラ世界じゃやっていけないぜ!

『はい! 匠くん!』

『はいほい何でしょうスケさん!』

 勢いよく手を挙げたスケさんの方へ勢いよく首を振り、それっぽく振る舞ってみる。気分は一昔前のクイズ番組の司会だ。

『この場所はどこだと思いますか?』

『良い質問です! ズバリ、分かりません!』

『……まぁ、単純に見た目だけで言うなら黒曜石の石室だな』

 おぉ、流石はエンダー先輩、素晴らしい冷静な状況判断! では今度は俺から質問を出すとしましょうか!

『んじゃ俺達は何でここにいるんでしょうか?』

『ここへ閉じこめられた理由そのものの事を聞いているんだとしたら、俺は知らん』

 ……デスヨネー。

 さて、妙なテンションはここまでにしておくとしよう。俺達の今いる場所は、5×5の空間を開けて全方向を黒曜石で立方状に囲まれた場所。そもそも立方体で構成されたものばかりのこの世界ならばこんな場所が自然発生する可能性も否定できないが、まぁ恐らくは人工物だろう。

『これって、対プレイヤーちゃん用の罠なんでしょうか?』

『いやスケさん、その可能性は低いと思いますよ』

 ですよね? と先輩の顔を伺えば、その長い腕を組んでコクリと頷く。

『二番煎じに引っかかった事は痛い事だが、ここへのはめ方はやはり落とし穴だった。で、結構な距離を落下しただろう? あの高さならば、全身を鉄、いやダイヤ装備で固めていたとしてもほぼ間違いなく即死だ。さらに穴の底にはご丁寧にサボテンを設置、死んでドロップしたアイテムを悉くロストさせるという徹底ぶり。正直、対プレイヤーの罠としてはこれ以上ないものだろう』

 先輩の話に頷く俺ら二人。確かに、ここまでならばこの罠は非常にシンプル、かつ効率的なトラップだ。事実俺とスケさんは為すすべもなく落下ダメージで死亡してしまったわけだし、ワープを使っての落下距離の短縮と長い足でのバネを利用し生き残った先輩が瞬時にアイテムを回収してくれていなければ、貴重なアイテム達を見事に消失させてしまっていただろう。

『問題はこの先だ。そこまでで十分なはずのこの罠だが、何故かサボテンの床がピストンで動かされ、さらに下へ降りたこの場所へ到達した。しかもその後ご丁寧に上から蓋までして、だ。おかしいだろう? 即死のダメージを与え、アイテムをも全て消し去ったのだから、わざわざ再び床を開いてここへと通じさせる必要はない』

『た、確かに……』

 スケさんがうーんと唸り、顎に手を添えて首を傾げる。

『これって……もしかして、対俺達用の罠って可能性はないですかね?』

『え?』

 ふ、と思いついた事を口にすると、あからさまに驚いた様子のスケさんがこっちを見てくる。一方の先輩はやっぱり腕を組んだまま、一度頷いた。

『匠もそう思うか。正直、ゲームのマイクラにおいてこの罠が有効なMOBというのは俺は思いつかん。となればMODでの追加要素か、或いは“この世界特有の要素”という事になるんだが……』

 先輩がここまで話したところでスケさんもピンときたらしく、ポン、もといカランと手を打つ。

『そっか、この黒曜石の部屋はリスポーンさせるための部屋!』

『あれだけの落下距離も、即死ダメージを与えると同時に範囲が決まっているリスポーン可能な場所をこの石室のみに絞るためだと考えれば説明がつく』

『さらにはアイテムを消失させる事でピッケルを使えなくし、部屋からの脱出手段を絶つ……と。成る程、俺ら相手ならかなり有効な罠ですね』

 それぞれが納得し、うんうんと頷く。何だか妙な沈黙が漂った直後に、あれ? という文字だけながら間抜けっぽい声だと容易に判断できる語の後に、スケさんが再び質問を放った。

『じゃあ、この罠の制作者は僕らの存在と、その特性まで知っている……っていう事なんでしょうか』

『一応先日のゾンビ軍団襲撃の時にそれぞれの特性を晒してますし、この前の想定通り誰かがその様子を見ていたとすればこの罠も制作可能じゃないですか?』

 再び納得するスケさんの横で、突如先輩がエンダーマン特有の声を発した。突然の大きめの音に少し驚く俺達。

『待て。という事は……この罠を作った連中は、俺らがプレイヤーへの侵攻を妨害している、という事を知っているわけだな?』

 この石室に何度目かの沈黙が流れる。しかし今度はそこに、明らかな焦燥の空気が漂っていた。

 “プレイヤーへの侵攻を妨害している”存在。それを知って俺達を罠にはめて行動不能に陥らせた上で、この罠を作った連中が一体どうするか? ――答えは、火を見るよりも明らかだ。

『……まずいですね、早く脱出しないと』

『黒曜石も持てればいいんだが……アップデート後仕様か』

 先輩がエンダーマンの特性の一つ“ブロック持ち”をやろうと壁のブロックの一つに手をかけるが、外れる様子はない。少し前のバージョンのエンダーマンは黒曜石だろうが岩盤だろうが自由にブロックを引っこ抜けたと記憶しているが、アップデートによりそれが可能なブロックが大きく制限されてしまったらしい。当然岩盤に次ぐ最強硬度の黒曜石は制限の対象となってしまったため、この状況を生んでいるというわけだ。もしかすると、この罠はそのあたりも視野に入れて制作されているのかもしれない。大幅な時短は不可能なようだ。

『少しばかり時間はかかるが、ピッケルは無事だ、どうにかして脱出するとしよう』

『はい!』

『急ぎましょう!』

 事態は、急速に動き出した――。

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 どうも、本当に本当にお久しぶりです、作者です。今回はネタ抜きに、投稿が盛大に遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした。まだ読者さん残ってるかな……?

 いい訳をさせていただきますと、新作のモンハン小説の方へかかりっきりになってしまい、また少々こちらの話が私の中で煮詰まってしまっていた事が災いしました。今後

はー、とか言うとまた変なフラグが立ちそうですのでやめておきます。え? この時点で既にフラグ? あらまぁお上手(違

 本当に久しぶりなせいでキャラの口調なんかを思い出すために少々時間がかかってしまいました。また、話の構成の都合上ちょっと短めです。ご了承をー。

 それではまたいずれ
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□□■□□■□□ □□□□□□□□ ■■■■■■■■ by翼の勇車
   フシュー       カロン      フォギュフォギュ


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