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[36754] 【完結】とある道化の回転方向(トルネイダー) (原作:とある魔術の禁書目録)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 13:10
【あらすじ】


 八月二十一日。
 上条当麻が駆け、御坂美琴が震え、一方通行(アクセラレータ)が吼えたあの日。
 彼らの与り知れぬところで、一人の少年が学園都市の闇に揉まれていた。
 コードは『回転方向(トルネイダー)』。
 一方通行(アクセラレータ)に成れなかった失敗作(グーフィーズ)である。



 これは、語られることのない物語。
 それは、知る必要のない物語。

 徒労に終わる、物語である。



※この作品は【ハーメルン】様にも投稿しています



[36754] 序 章 レディオノイズプロトタイプ Level2(Product_Trial)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 11:13
 風はない。
 そもそも、風が吹くことはない。
 ここは学園都市に無数に存在する地下研究所の一つ。室内とは思えない広さの部屋の中に、二人は立っていた。
 一人は少女。
 年の頃は十三、四歳ほど。肩まである茶色い髪に、幼さを卒業し大人になり始めた整った顔。学生服に身を包んだ少女には、しかし何の感情(表情)も浮かんでいない。学園都市が新たに開発した人工スキンを用いた人形(ひとがた)ロボットだと言われたら信じてしまうくらいにその様は人形(にんぎょう)染みていた。
 もう一人は少年。
 こちらは少女より三つほど年上で、無地のセーターを着込んでいる。短く切り揃えた黒髪は少しだけ上を向き、少女とは違い感情を顕にしていた。
 二人は箱の中にいた。
 巨大な特殊強化ガラスに囲まれた、教室一つ分に相当する閉鎖空間だ。
 中には他にマイクと無骨なカメラが数台あるのみであり、少女と少年の間を遮る物は何もない。
 無機質なそこは、完全に制御された空調調整システムによって適温に保たれている。夏が終わり外の気温は下がり始めているが、ここでは関係がなかった。
 そんな施設の一室で、二人は対峙する。
 少女の正体は量産異能者(レディオノイズ)試行検体(プロトタイプ)。学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人、超電磁砲(レールガン)こと序列第三位の御坂美琴(みさかみこと)をお姉様(オリジナル)とする体細胞クローン――妹達(シスターズ)の試作品である。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』のために製造される予定の妹達(シスターズ)の実証検体として作られた少女は既に役目を果たし、あとは処分を待つのみ。
 そのことをこの場で知らないのは少年だけだった。
 少女は自身の境遇を理解していたが、そこに何の感情が湧くこともない。
 洗脳装置(テスタメント)により己を実験動物として認識している少女は、自身にそれ以上の価値を見出ださない。そもそも、純然たる事実として少女はそう扱われていた。そこに至る思考回路に何ら疑問はない。
 しかし、目の前の少年は違った。
 この異常が通常と化している空間の中で唯一、現状と理性の狭間で嫌悪と恐怖に苛まれる。
 けれども、それに同調する者はここにはいない。
 箱の外から見詰める研究者たちの目には、実験動物と被験対象しか映っていない。その白衣は嫌になるほど清潔で、清純を表すはずのそれは巡り回って全く逆の感想を見る者に与える。
 事態の打開を図ろうと思考する少年を余所に、天井に取り付けられたスピーカーから無情な声が流れた。
「始めろ」
 指示が下ると同時に、少女は拳銃を取り出した。黒光りするそれを、一瞬の迷いもなく少年に向け、引き金を引く。
 学習装置(テスタメント)によって与えられた的確な射撃技術と磁力の微調整を受けた弾丸は、ジャイロを描きながら少年の額へと向かう。
 弾丸はゴム弾ではなく、鉛に銅合金を被せたそれである。遮蔽物のない空間で、距離七、八メートルの標的を仕留めるのに十分な殺傷能力を持っていることは疑いようがない。
 刹那、弾丸が目標に到達する。
 それを人間の反射速度では知覚することはできない。
 弾丸を避けるのなら、少女が引き金に指を掛けるよりも先に動き出す必要があった。
 弾丸に耐えるなら、この場に至る前に分厚い装甲を着込んでいる必要があった。
 故に、弾丸は少年の額を直進し、肉を捩じ切り頭蓋をかち割り、脳を破壊する。

 ただし、少年がただの少年ならば。

 弾丸が撃ち抜いたのは少女の方だった。
 少女の額に穴が空き、赤黒い血液がじわりと滲み出す。と同時に直立よりやや後ろ向きに傾いていた体は、そのままばたりと仰向けに倒れた。
 その拍子に少女の手から離れた拳銃が、かたりと音を立てる。今まさに人の命を奪ったはずのそれは、そのことを嘲笑するかのように軽い音を響かせる。
 少年は暫く唖然として立ち尽くしていた。
 あまりにも呆気なく、あまりにも軽すぎる命の重さに、少年は足元から崩れ落ちそうになる。
 これまで少年を支えてきた倫理という名の地面がひび割れ、奈落へと誘うように暗い穴を空ける。
 もしこれが、少年自身が拳銃を握り少女を撃ち殺したのならば、少年はそこまで戸惑わなかっただろう。なぜならその場合、拳銃の重さと引き金の固さ、発砲の衝撃が確かな形として命の重さを少年に伝えてくれたのだから。
 しかし現実はそうではない。
 少年は向かってきた銃弾を無意識に『反射』しただけだ。常に身体に纏わせている『回転』の流れに流され、銃弾は少年の身体を半周して打ち出された。擬似的な『反射』を再現している少年のそれは、何の感慨も与える暇なく少女の命を無慈悲に刈り取った。
 まるで、像がそれと気付かず足元の蟻を踏み潰すような気軽さ。
 けれども、少年は像でなければましてや少女は蟻ではない。
 同じ人間なのだ。
 そのずれが、より一層少年の心を掻き乱す。
 そんな少年を嘲笑うようにスピーカーから再び声が放たれる。
「気に負うことはない。あれは人間ではない」
 告げられたのは少女の正体。
 それを知った少年はその瞬間、“現実を壊した”。



 その日、学園都市の研究施設が一つ封鎖された。



[36754] 第一章 グーフィーズ Level3(no_Level)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 11:27
     1

 目が覚めたら大洪水だった。
 お尻に張り付いたボクサーパンツと夏だというのに冷えきった股、湿ったベッドシーツが語るのは、極めて明瞭かつ簡潔な事実だ。
 つまり、おねしょである。
「――――!」
 声にならない叫びを上げ、道長昨也(みちながさくや)はベッドから跳ね起きた。
 夏だというのに水分を含んだベッドシーツは、仄かに香ばしいアンモニア臭を放っている。意外と嫌悪が湧かないその臭いを吸い込みながら、道長は立ち上がって被害を確認する。
 枕、無傷。
 シーツ、撃沈。
 布団本体、軽症。ただし、臭いが移った可能性有り。
 結論、クリーニング。
 道長は、知り合いと接触することのない、人目の少ない場所にあるクリーニング屋の位置を思い浮かべる。普通のおねしょなら洗濯機に突っ込んでおけばそれでよかったのだが、生憎と道長が生み出したのは『地図』ではなく『洪水』である。十七歳の体で本気のおねしょをしたらどうなるか、という見本がそこにあった。
 道長はベッドから離れると、箪笥から替えのパンツと洋服を取り出す。室内に立ち込める臭いも除去したかったが、まずは居心地の悪い下半身をどうにかしたかった。それに、このままでは衛生上良くないのは確かだ。
 脱いだパンツとパジャマを洗濯機に放り込み、設定を変更する。
 ここ、学園都市の洗濯機には『おねしょコース』という機能がついているのだ。小学生の頃から親元を離れて学生寮で暮らす学生が多い学園都市ならではの機能と言えよう。
 がたんごとん、などという物音を立てることもなく洗濯機は動き始める。その静かさもこの洗濯機の売りだった。
 次に道長は窓を開ける。ベランダからは夏の蒸し暑い空気が流れ込み、アスファルトの焦げた臭いが漂った。この辺りは学生寮が乱立しているため緑がなく、そのためか一段と気温が上がっていた。
 殺菌の意味も込めて布団とシーツを干し、下に落ちないように固定する。
 おねしょの部分が外から見えないようになっているのを確認してから、道長は朝食の準備を始めた。
 トースターに食パンをセットし、冷蔵庫から牛乳を取り出す。ヨーグルトも忘れない。
 乳製品を毎日摂るように心掛けている道長だったが、彼の身長は一向に伸びる気配がなかった。そもそも、いくらカルシウムを摂取したところでそれを骨へと変える成長ホルモンが不足しているのだからどうしようもない。ホルモン抑制剤を打つつもりはない道長だが、せめて百六十センチは越えたいと願っていたりする。
 数分でトーストが完成し、道長は一人テレビを見ながら食事を始める。別段寂しくもない、普段通りの風景だ。
『――筋ジストロフィーの病理研究を行っていた水穂機構が業務撤退を表明しました――』
(筋ジストロフィーってなに?)
 パンを口にくわえながら、道長はテレビの中で原稿を読み上げる美人アナウンサーを眺める。アナウンサーは簡単に筋ジストロフィーの説明をしてくれた。
(ふーん。筋肉が駄目になる病気ね)
 学園都市が本気を出したら治せるんじゃね、などと頭の端で思いながら、道長はパンを咀嚼する。
 学園都市。今道長が住んでいる場所の名前である。
 東京の三分の一を占める一大能力開発機関であるこの独立都市は、周囲と物理的に隔離された状況でその科学力は外界よりも二十年も先を進んでいると言われている。総人口二百三十万の八割が学生であり、その全員が超能力の科学的開発にその身を差し出している異様なそこでは、日夜様々な研究と実験が行われているのだ。
 そんな学園都市が全勢力を上げれば、病気の一つや二つ、簡単に解明してしまうだろう。ただ、世の中には研究するべきことは星の数ほど存在し、為される研究が特定の個人に有益となるかは時の運となる。
『――それでは、今週一週間の天気です――』
 美人アナウンサーがお天気アナウンサーに替わり(彼女は眼鏡美人だった)、学園都市が打ち上げた人工衛星『おりひめ1号』に搭載された、今後二十五年分の技術を結集させた世界最高のスーパーコンピューター『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が『断言』する『絶対に外れない天気予報』が表示される。
 牛乳を飲みながらそれを眺め、いつもより多めの精神安定剤を飲んだ後にデジタル時計を確認する。
 八月二十日午前八時五十八分。
 夏休みもそろそろ終わりが見えてきた頃だった。


     2

 学園都市はその巨大さ故に、使用用途に沿って二十三の学区に分けられている。
 そのうち第七学区は学校や学生寮、病院が建ち並び、学園都市の中でも一二を争う広さを持っている。
 そんな第七学区には、当然ながら多くの学生が生活している。ましてや今は夏休み。見渡す限り、学生、学生、学生の学生の海が生まれていた。
 それぞれが思い思いの格好をしているが、共通して薄着というものがある。
 八月も盛りまだまだ猛暑が続く中、若者たちは肌を晒し少しでも体を覆う布面積を減らそうとしていた。艶かしい十代の白い肌が至る所から目に入ってくるが、変な気を起こそうものなら直ちに学生治安部隊である風紀委員(ジャッジメント)がやって来るだろう。
 それ以前に、能力で撃退されるかもしれない。
 理論上、学園都市の学生はすべからく何らかの能力者である。
 学園都市の学生は全員脳を開発され、超能力を扱えれるようにされている。その手法は万物の真理たる科学によるものであり、強度(レベル)はともかく、彼らが能力者であるのは確かだった。
 学園都市の学生は見た目から強さを判断することができない。凄みを効かせる大男が、知覚できるほど能力が発現していない無能力者(レベル0)かもしれないし、ひ弱そうに見える細身の少女が、個人で軍事作戦に影響を与えるほどの力を持つ大能力者(レベル4)かもしれない。とは言うものの、学生の六割もが実質的に何の力もない無能力者(レベル0)であるし、一番上位に当たる一人で軍隊に匹敵する超能力者(レベル5)に至っては僅かに七人しか存在しない。強能力者(レベル3)まではあくまで個人の枠に収まる程度の能力なので、やり方次第ではどうにでもなるのだが、あくまで彼らは学生であり、軍人ではないので戦い方を知っている学生は不良学生か血気盛んな学生くらいである。
 ならば結局のところ反撃なんて恐れるに足りない、と行動に出た変態紳士を自称する犯罪者たちは、学園都市製の防犯グッズの前にあえなく御用となるだろう。
 事実今でも路地裏から『変態ホイホイ』のけたたましい音が鳴り響いている。
 すぐさま風紀委員(ジャッジメント)が駆けつけたようで、野次馬に混じって道長が覗いてみると、茶髪ツインテールの制服姿の女の子が、十人ほどの柄の悪い男たちに手錠をかけていた。
 人数差と体格差を考えて、恐らく女の子は高位の能力者なのだろう。まだ中学生になりたてに見える様子から、そうであると道長は見当をつける。
(超能力者(レベル5)の風紀委員(ジャッジメント)なんて聞かないから、たぶん大能力者(レベル4)。まだ小さいのに凄いな。それにしても、何の能力だろう? 発火や水流は違うだろうから念力や強化か?)
 十人分もの手錠を持っていたことに呆れつつ、道長はその場を離れた。能力者を見たら何の能力か考えてみる癖が未だに抜けていないことにため息をついた。
 道長は再び大通りを歩き目的地へと向かう。
 ビルの壁に付けられた大型テレビでは、先月の幻想御手(レベルアッパー)事件の特集が放送されていた。
 幻想御手(レベルアッパー)は一ヶ月前に学園都市で話題となった、実在した都市伝説だ。使うだけで強度(レベル)を上げられるということだったが、何でも実際に使った学生は意識不明の重態に陥ったらしかった。道長は興味がなかったので手を出していなかったが、一時期は裏で十数万単位で取引されていたとか。既に終わった事件だが、解決の立役者として噂される存在が道長には気になった。
 御坂美琴(みさかみこと)。超能力者(レベル5)にして序列第三位。超電磁砲(レールガン)の異名を持つ、お嬢様学校常磐台(ときわだい)中学の電撃姫。
 学園都市の代表としてマスコミに顔を出し、学園都市の人間ならば一度はその名を耳に、その姿を目にしたことがあるだろう少女。容姿端麗、学業優秀、運動万能、品行方正、才色兼備を地でいくとされる美琴は、誰もが憧れるお嬢様として知られている。
 そんな美琴に淡い恋心を抱く者は多い。だがそれはアイドルを慕うようなものであり、本気で美琴に恋慕の情を抱いているのは、美琴の本性を知る彼女の同居人くらいだろう。
 当然、道長は美琴に女を見ているわけではない。かといって単なる興味本位で美琴を気にするわけでもない。
 ただ、道長は御坂美琴という人物を考えずにいることができないだけだ。
『――今回の事件はもしかすると、能力の優劣に依存する学園都市のシステムが生み出したとも言えるのではないでしょうか――』
 上を見上げると、テレビの中でコメンテーターの女性が険しい顔つきでしゃべっていた。
 道長は人波に流されながら横断歩道を渡る。数人の少女らとすれ違い、彼女らの会話が少しだけ聞こえた。
(身体検査(システムスキャン)、か)
 身体検査(システムスキャン)とは、学園都市の学生に課せられる定期検査だ。これにより学生たちは能力強度(レベル)を測られ、無能力者(レベル0)から超能力者(レベル5)の六段階に識別され、区別される。そしてそれは、学園都市からの奨学金に始まり、成績、進路、学校での立ち位置等々、学園都市での生活にありとあらゆる影響を与えるのだ。それこそ、無能力者(レベル0)と超能力者(レベル5)では住む世界が、見える世界が全く違う。
 これは当然のことだ。能力というものが学園都市に貢献している以上、能力優劣によって待遇が変動するのはごくごく自然なことと言える。
 ただ、忘れてはならないのは、学園都市にとって能力者の存在はあくまでも手段に過ぎず、到達するべき目的では決してないことだ。
 だが、果たしてどれだけの学生がそのことを正しく認識できているであろうか。
 事実、道長昨也も十ヶ月ほど前までは能力至上主義者の一員だったのだ。強度(レベル)の低い人間を馬鹿にしたり痛みつけたりしていてたわけではなかったが、ここが学園都市である以上、能力のある人間こそが優れており、能力者である自分は選ばれた存在だと密かに思っていた。
 だから道長は非合法の地下研究所に連れて行かれ、一人の少女を殺すことになった。
 そしてそのことに怯え、今や精神安定剤を手放せず、終いには悪夢に失禁することになっているのだ。


     3

「診療日は昨日のはずだったんだがね?」
 開口一番、その医者は診察室に訪れた少年を苦言を述べた。
「すみません」
 短髪黒髪の小柄な少年、道長昨也はばつが悪そうにうつむく。
 その様子を少し見つめてから、愛嬌たっぷりなカエル顔の医者はカルテを取り出して目を走らせた。
「今のところ身体に変化はないみたいだね? 薬はどれくらいの頻度で使っているのかな?」
「三日に一回ほど。ただ、昨日と今朝はいつもより多めに飲みました」
「突発的なやつかな? 能力の方はどうかな?」
「使っていません。使う気も――ありませんし」
「ふむ。AIM拡散力場の数値も相変わらずのようだね?」
 カルテから顔を上げ、医者は道長の目を見つめる。
 鋭くなった眼力にたじろぎ、道長は目を反らした。
 道長とこの医者の付き合いは既に十ヶ月になる。道長の数倍の年月を生きたこの医者は、当然ながら道長の態度に思うところはあったが、今はまだそのときではないとして問うことはしなかった。
「それじゃあ、いつも通り検査と治療をするから三号室の前で待っているんだね?」
 それを合図に道長は立ち上がり、診察室を出ようとする。
 しかしその前に、道長は足を止めてカエル顔の医者に振り返った。
「あの、先生」
「何かな?」
「もし――能力を無理にでも戻したいと言えば、今すぐに戻せますか?」
 道長の質問に一瞬顔をしかめるも、医者は患者の要望に答えるべく口を開く。
「やりようはあるね? ただし、お勧めはしないけどね?」 医者の言葉に道長は少し考え込む。
 そしてそれ以上聞くことなく、道長は診察室を後にした。


     4

 病院からの帰り道、道長はゆっくりとした足取りで人混みの中を歩いていた。
 昼過ぎに行った病院で数時間拘束されていたため、既に時刻は夕暮れ時となっている。建ち並ぶ高層ビルの窓ガラスに反射した夕日が街を染め始めていた。
 歩道を歩きながら、道長は時折脇道に目をやる。路地裏へと繋がるそこは、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。でなければスキルアウトや不良学生たちがたむろしている。
 一年ほど前まで、道長にとって学園都市の『裏』とはそういうものだった。
 能力というたった一つの指針によってヒエラルキーが決まってしまう学園都市であるがゆえに、凡人は肩身が狭くなり、それが嫌な者たちは居場所をなくす。
 しかしその程度は『表』の日陰でしかない。本当の学園都市の『裏』には、そんなものでは到底及ばない。
 道長昨也はそれなりな優秀な能力者だ。
 学園都市でも数少ない『ベクトル操作系能力』の持ち主にして強度(レベル)は三。『回転方向(トルネイダー)』という特異な能力は道長の自尊心になり、優越者としての立場を築かせた。
 学園都市最強の超能力者(レベル5)である『一方通行(アクセラレータ)』の能力は、学園都市のデータベースである書庫(バンク)によると『方向制御』と記載されている。
 『方向制御』とは、『方向』つまり『向き(ベクトル)』を操作するベクトル操作能力のことだ。
 ある特定の方向に対象を移動させる『ベクトル操作系能力』は数は少ないものの幾つかは確認されている。しかしそれらはあくまで『ベクトル操作系』であり、『向き(ベクトル)』を完全に支配下におくことはできない。彼らは強度(レベル)が低かったり能力の有効範囲が狭かったりと、希少ではあるもののただそれだけだった。
 だが、『一方通行(アクセラレータ)』は違う。学園都市の序列第一位は体表に触れたありとあらゆる『向き(ベクトル)』を操作する。決して傷一つ付けることのできない最強の存在。
 そんな第一位に最も近いベクトル操作系能力者が、道長昨也だった。
 学園都市の能力強度(レベル)は強能力者(レベル3)からエリートとされる。道長は強能力者(レベル3)の中でもかなり大能力者(レベル4)よりの強能力者(レベル3)。これは一方通行(アクセラレータ)を除くベクトル操作系能力者の中でトップに当たる。更には道長の能力であるところの『回転方向(トルネイダー)』はそれなりに使い勝手がよかった。
 『回転方向(トルネイダー)』はベクトル操作系能力の中でも『円運動』に特化した能力である。対象を『加速』させ、なおかつ自身に『引き付ける』ことで円軌道を描かせるのだ。操作できる『向き(ベクトル)』に決まりはあるものの、必ずしも対象に触れる必要はなく、最大距離三十センチほどまでが有効範囲になっている。『一方通行(アクセラレータ)』の下位互換とでもいうべき能力であるため、強能力者(レベル3)にしてはそれなりに認知度はあった。
 そんな道長に声が掛かったのは一年前のことだ。
 その当時、自身は選ばれた存在だと顔の下で思っていた道長にとって一番の目標は、あともう少しでなれる大能力者(レベル4)に早く到達することだった。
 能力者は強能力者(レベル3)からエリート扱いされるが、実際のところ強能力者(レベル3)はかなりの数が存在する。有名エリート校である常磐台中学では入学条件が最低強能力者(レベル3)であることから分かる通り、強能力者(レベル3)は所詮“その程度のエリート”でしかない。事実、能力強度(レベル)の上昇において強能力者(レベル3)から大能力者(レベル4)になれずに落ちこぼれていく学生も多い。更には能力強度(レベル)は『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』が固定化する前の思春期に変動しやすく、十六歳となった道長には焦りが現れた始めていたのだ。
 そんな道長にもたらされたのは、とある実験の協力打診だった。
 それは、当時進められていた一方通行(アクセラレータ)の『絶対能力進化(レベル6シフト)』を流用して道長を超能力者(レベル5)にする、というもの。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』の詳しい情報は道長には与えられなかったが、一方通行(アクセラレータ)に与えられるカリキュラムを流用できるということだけで道長がその話に飛び付くには十分だった。
 そして道長は連れてこられた地下研究所で“彼女”と出会った。
 そこで初めて、道長はこの学園都市の『裏』を知ったのだ。
(あれからもう一年か)
 帰路の中、道長は意味のない感慨にふけた。 賑やかだった街道も、学生寮が建ち並ぶこの辺りでは嘘のように静まり返っている。別に人影がないわけではないが、伸びた影のせいかどことなく侘しさを感じさせる。
 道長は自分の学生寮まで帰ってくると、錆び付いた階段を登った。かなりの年数が建っているこの建物は、そろそろ建て替えの時期が迫っている。
 自室のドアの鍵を開け、道長は中に入る。
 薄暗い廊下の奥、リビングの外のベランダから射し込む夕日が人形(ひとがた)を写し出していた。
 赤く染まった空を後ろに、ベランダに干された布団に背を当てて肌を晒す妖艶な女。
 御下げな髪は首元で縛られ、上半身はさらしを巻き付けるという大胆な格好。肩に羽織ったブレザーが肌の白さを誇張し、健康的かつエロスを醸し出すという二律背反。成熟した身体と相まって他者を魅了する端整な顔つき。
「昨日ぶりね。道長昨也」
 結標淡希(むすじめあわき)がそこにいた。



[36754] 第二章 ムーブポイント Level4(and_More)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 11:40
     1

 道長昨也(みちながさくや)が結標淡希(むすじめあわき)という名の女と知り合ったのはつい昨日のことだ。しかし、道長は以前から結標淡希という人物の存在は知っていた。
 結標淡希。霧ヶ丘(きりがおか)女学院に在籍する、今最も超能力者(レベル5)に近い大能力者(レベル4)。学園都市の人間で少し情報に強い者なら誰でも知っている著名人だ。
 結標淡希は優秀な大能力者(エリート)である。だが、どうやらそれだけではないらしいということを道長は知った。

「『絶対能力進化(レベル6シフト)』」

 昨晩突然現れた淡希は、一言そう告げたのだ。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』は文字通り、絶対能力者(レベル6)に至るための実験のことである。まだ見ぬ超能力者(レベル5)の先、人を越えた超越者としての存在。人に在らざる神の領域こそが、学園都市の目指す『全ての未知を既知とする』ための解答なのだ。
 当然それは、極秘中の極秘プロジェクトである。学園都市を支配する統括理事会直々に行われる一大計画は、関係者以外には知らされることはない。つまりこの計画を知っている人間は、計画の関係者か学園都市の上層部と繋がりがある人間だけとなる。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』。この単語だけで、淡希がただの大能力者(レベル4)でないことを物語っている。
 結局、淡希は大した話をすることもなく名を名乗るだけで道長の元を去った。そしてそれは正しい選択だった。なぜなら、その時点で道長の精神は正常を保つことができなかったからだ。
 一年前、道長昨也は『絶対能力進化(レベル6シフト)』の存在を知った。しかし、その全てを教えられていたわけではない。道長に与えられた情報は実験の被験者と方法のみ。それも後者に至っては知らされたのは既に“事後”になってからだ。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』は極めて単純な計画である。ただ、規模が大きいというだけだ。
 学園都市に七人存在する超能力者(レベル5)の内、最も人を超越している序列第一位の一方通行(アクセラレータ)に二万通りの実践経験を積ます。一見そこまで秘匿する計画でもないが、問題は“実践経験”の内容にあった。
 学園都市のスーパーコンピューター『|樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が提示した“実践”というのは、相手の息の根を止める人と人との殺し合いであったのだ。そしてそのために殺される二万人は、御坂美琴(みさかみこと)の体細胞クローンたちが請け負った。
 二万人のクローン人間を殺す。それが『絶対能力進化(レベル6シフト)』であり、ならばそこから流用される『超能力進化(レベル5シフト)』も根本的な点で変わることはない。
 しかし、道長が超能力者(レベル5)になることはなかった。第一回目の実験において道長は殺人行為に強い拒絶を示し、実験は続行不可能として凍結されることとなったのだ。
 それは当然の結果と言えた。
 道長昨也はあくまで“普通の”人間である。道長の住む世界において殺人行為は忌避され、社会理念として否定される。道長の自意識を形作る倫理観が殺人行為を認めることはない。
 故に計画は中止された。
 もともと、『超能力進化(レベル5シフト)』は『絶対能力進化(レベル6シフト)』のおまけでしかない。優先順位もさして高いわけでもなく、道長を無理に超能力者(レベル5)にする必要があるわけでもない。そもそも『超能力進化(レベル5シフト)』は『絶対能力進化(レベル6シフト)』に携わった一部の人間が自らの利益のために行った非公認実験なのだ。
 利益を優先する科学者は決断か早い。道長が一方通行《(アクセラレータ)のように上手くいかないと解った時点で、彼らはすぐに別の実験へと興味を移した。道長昨也を使った『超能力進化(レベル5シフト)』など一つの手段に過ぎず、“使い物にならなくなった”実験台は新しく取り替えるのが科学者というものであった。
 その後とある医者に拾われた道長は、今こうして『表』の世界で生きているのだ。
 しかし、いくら『学園都市の闇』に染まる前に抜け出せたといっても、過去がなくなるわけではない。人を殺したという罪悪の鎖は道長を覆い、『表』の生活においても事あるごとにその身を締め上げた。
 学園都市に御坂美琴のことを知らない人間はいない。超能力者(レベル5)の代名詞といえば御坂美琴であり、お嬢様の代名詞といえば御坂美琴であり、努力家の代名詞といえば御坂美琴であった。美琴の名前が至るところで飛び交い、美琴の顔が至るところで映し出される。教師は美琴を見習えと言い、テレビCMではカエルの人形を抱えた美琴が無邪気に笑う。その度に道長は否応なしに“彼女”のことを思い出すのだ。 
 茶色く短い髪。少し幼さが残る顔立ち。凹凸の控えめな身体。無表情な顔と、向けられる拳銃。そして、倒れ伏す亡骸。
 走馬灯のように甦る記憶が、道長の心に深く突き刺さる。
 そのような状態で、“普通の”人間である道長昨也がまともでいられるはずかない。
 だから昨日、結標淡希はすぐに引き上げたのだ。
 そして今、こうして再び二人は対面している。
「――――住居不法侵入罪、ですよ」
 淡希の雰囲気に呑まれながらも、道長は言葉を発した。
「あらそう、それは悪かったわ。――それで、頭は冷えたのかしら?」
 淡希は不敵な笑みに、道長は薬の入ったビニール袋のとってをぎゅっと握りしめる。指が食い込み、ビニールに皺が広がった。
 学園都市において高位能力者というのは一種の特権階級にいる。少々の祥事は見逃され、気に入らないことがあれば無理矢理に押し通す。高位能力者たち、特に超能力者(レベル5)たちはそれが許されるだけの力を、それを可能とするだけの力を持っている。
 結標淡希は最も超能力者(レベル5)に近い人物である。それはすなわち、学園都市序列第八位ととることもできるのだ。
 そんな相手を前に、道長は腰を低くすることしかできない。目の前の女は、道長をどのようにすることもできる実力と権力を持っている。加えて、恐らくは『学園都市の闇』の関係者なのだ。道長の精神はこの状況においてかなり強い部類と言える。
 これがもしただの“普通の”学生ならば、まともに会話することすらできずへたりこんでしまっていただろう。本来、超能力者(レベル5)、それに準ずる大能力者(レベル4)と相対するということはそういうことなのだ。戦術レベルで影響を与える大能力者(レベル4)に、軍隊そのものといえる超能力者(レベル5)。彼らと対峙するということは、戦車に向かって生身で特攻することに等しい。
 しかし、“普通の”、『表』の世界の学生たちはそのことを無意識に忘れている。それは、『表』の生活において、高位能力者たちを純粋な戦闘力の面で認識することがないからだ。彼ら『表』の学生にとって高位能力者はあくまで能力開発におけるエリートであり、殺戮兵器と同等に捉えるようなことはない。
 そして『裏』の人間にとってそれは当たり前のことである。常に血を浴びる彼らが高位能力者と対峙したという“だけ”で思考停止になることはない。その場から逃亡するか、裏をかいて何か弱点を突くか。どちらにせよすぐさま行動に移る。
 言葉使いが丁寧になり、その場に踏み留まりながらもそれ以外に動けない、それでも口を動かすことはできる道長の状況は、『裏』を知る『表』の人間という彼の特殊な立ち位置が作り出していた。
「どうやら冥土帰し(ヘブンキャンセラー)から処置を受けたようね。それなら暴走されることもないわね」
 淡希は胸もとで組んでいた腕を解き、左右の御下げを揺らした。ベランダから離れ、部屋に置かれた卓袱台の前に移動する。
 そして何処からか取り出した軍用懐中電灯を握り、未だ玄関に立ち尽くす道長に目を向けた。
「そんなところで突っ立っていないで――」
 淡希が懐中電灯を振るう。
 次の瞬間、道長は玄関から卓袱台の前、淡希の向かい側に立っていた。驚く道長だが、淡希はその暇を与えずに手を広げて言う。
「――座ったらどうかしら?」
 道長に拒否権がないことは、一目瞭然だった。


     2

 勧誘。
 淡希と道長の会話を一言で言えば、それだった。
 淡希にはある目的がある。そしてその目的を達成するには仲間が必要なのだ。
 数年前まで、結標淡希は普通の女学生だった。
 学友と共に学校に通い、漫然と授業を受ける。放課後には後輩を集めて能力を高めるための手助けをし、何事もなく一日を終える。
 そんな当たり障りのない生活を送っていた淡希は、ある日能力開発の実験で能力の調整を間違えた。
 本来ならば起こるはずのない失敗であり、未だに原因は分かっていないのだが、とにかく、淡希は力の制御を誤り、その結果死ぬような思いをすることになった。
 そして気づいたのだ。自身が操る“超能力”という名の大きすぎる力に。
 そしてそれは学園都市の『裏』への入口でもあった。
 淡希が“超能力”の存在意義に疑問を持ち始めたのと同時期に、学園都市上層部が彼女に接触してきたのだ。
 学園都市側の要求は一つ。『座標移動(ムーブポイント)』という名の淡希の超能力を用いた、要人の移送だった。それも、学園都市統括理事長がいるとされ、出入口が存在せず核兵器にすら耐えられると言われる通称『窓のないビル』への護送だった。
 当然、淡希に断ることができるはずもなく、打診という名の強制によって彼女は『窓のないビル』へと学園都市のVIPを送り届ける『案内人』になった。
 『案内人』という立場は淡希に多くの情報をもたらす。これまで知ることのなかった学園都市の『裏』は淡希の前に広げられ、少しずつ彼女を染めていく。そして気づいたときには、学園都市の『裏』の人間になっていた。
 そんな中でも淡希の“超能力への存在疑問”は大きくなっていった。いや、そのような状況だからこそ淡希の疑問は強くなっていった。
 『案内人』という立場は学園都市の本当の姿に触れる機会が多い。繰り広げられる学園都市の“実験”を知り、いつしか淡希には明確なる疑問が生まれていた。

 能力者は能力を得る必要があったのか。

 能力の発現方法など、当然淡希は理解している。淡希が知りたいのは能力者の存在意義そのものだ。
 学園都市が能力者を生み出すのは、あくまで超越者たる神を作り出すため。能力者という存在はそれに至るための一つの方法でしかない。
 それなのに、学園都市は学生に能力という人の身には過ぎた力を押し付ける。そうして少なくない数の学生たちが能力によって破滅していく。
 学園都市は何のために能力者を生み出し続けるのか。学園都市はいったい何を能力者に求めているのか。
 淡希の中で渦巻く疑問は、ある日大きな転機を迎えた。

 『量産異能者(レディオノイズ)計画』。その存在が淡希を変えた。

 『量産能力者(レディオノイズ)計画』とは学園都市序列第三位の超能力者(レベル5)、超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴の体細胞クローンを用いた、『超能力者(レベル5)は量産可能か』という命題のもと始まったクローン製造計画である。しかし、学園都市の頭脳たる『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の演算結果によると、産み出されたクローンの性能(スペック)は本家には到底及ばず、その能力はせいぜいが強能力者(レベル3)程度にしかなれない『欠陥電気(レディオノイズ)』であり、そのことは実際に先行製造された量産異能者(レディオノイズ)試行検体(プロトタイプ)によって証明されている。
 当時、『絶対能力進化(レベル6シフト)』が提唱される以前、『量産異能者(レディオノイズ)計画』に携わった科学者たちはその結果に落胆した。しかし、淡希にとってその結果は大いに驚愕に値するものだった。
 感情のない、経験のない、純粋な人間でない、単価十八万円程度の血肉の塊ですら能力を得ることができたのだ。それも、作られたクローン全員がである。
 ならば、と淡希は考える。
 能力を得るのが人間である必要はないのではないか、と。
 人間以外が能力を得ることは可能なのではないか、と。
 けれども、それを確かめる手段を淡希は持ち得ない。持ち得ない――――はずだった。
 転機が訪れたのは今から一ヶ月前。
 学園都市の頭上、衛星軌道上に浮かぶ『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が何者かに地上から迎撃されたのだ。そして『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の残骸は学園都市に降り注いだ。
 幸運にも『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の中枢部は無事地上に落ちている。それを回収することができれば、再び『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を組み立てることが可能だった。
 学園都市の重要な実験は、全て『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』によってあらかじめ予測演算が行われている。『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は学園都市の頭脳なのだ。能力開発は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の指示に従って行われている。それならば、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を使えば淡希が能力者にならなければならなかった理由が分かるはずだった。
 何故、能力者は能力者にならねばならなかったのか。
 何故、学生たちは能力を与えられなけれはならなかったのか。
 何故、学園都市は学生たちを能力者にしたのか。

 能力は人間に宿る必要があるのか。
 人間以外が能力を得ることは可能なのか。

 それを知るために、淡希は残骸(レムナント)を求める。
 それが淡希の目的。
 結標淡希が前へ進む、理由なのだ。


     3

「あなたのことは知っているわ、『回転方向(トルネイダー)』」
 開口一番、淡希はそう切り出した。
「非公認の『超能力進化(レベル5シフト)』の被験者、今は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の庇護下にいるようね。お陰で探し出すのに手間をくったわ」
 道長は淡希を睨む。焦らされるような話し方は嫌いだった。それにさっさと話を終わらせたかった。能力で脅しをかけられた状態では、文字通り生きた心地がしないのだ。
「用件はなんですか?」
「あらこわい。なら本題に入りましょう。あなた、学園都市に恨みはない?」
 道長は小さく息を飲んだ。
 淡希の言葉は、そのまま学園都市への反逆を意味する。『表』の世界において、それはただの言葉に過ぎない。しかし、『裏』を垣間見た道長にとってはとても危険なものに思えた。学園都市への反抗。それが意味するところを考えたくはない。学園都市が敵対者にする仕打ちは、嫌でも予想できる。
「――――どういう、ことですか?」
「あなた、『超能力進化(レベル5シフト)』で欠陥電気(レディオノイズ)試行検体(プロトタイプ)を殺してしまったことを後悔しているのでしょ?」
 道長はズボンの裾を握りしめる。僅かに動いた腕が、傍に置いたビニール袋に触れた。
「あの実験、本来なら行われることのないはずだったのよね。一部の人間が暴走した結果だったのだから。あなたが欠陥電気(レディオノイズ)試行検体(プロトタイプ)を殺す必要もなかった。――――でも、本当にそうかしら?」
「何が言いたい?」
「『絶対能力進化(レベル6シフト)』の流用、なんて誰でも思い付きそうな事態を上が想定していないとは思えないわ。ということは『超能力進化(レベル5シフト)』が行われたのは、害はないとして見逃されたのか――――」
 それとも、と淡希は続ける。
「最初からそういうプランなのか」
 プラン。淡希のその言葉に暗い感情が混ざっていたことに、道長が気づくことはなかった。
 それでも、淡希の言いたいことは理解した。
 全ては仕組まれていたのではないか。道長が研究機関に声を掛けられたことも、“彼女”を殺すことになったことも。
 それは突拍子のないことであり、けれども『絶対能力進化(レベル6シフト)』などという学園都市の『裏』を知っている道長にとっては笑い飛ばせない推測でもある。
 しかし、それだけだ。
 仮に学園都市そのものに仕組まれていたことであったとしても、“彼女”を殺したのは紛れもない道長自身なのだ。それに、何者かに仕組まれていたというならば、それはあの研究所にいた研究員たちがそうでもある。
 だから、道長昨也が学園都市に刃向かう理由はない。
 そうして道長が何も言わないでいると、二人の間に電子音が響いた。
 張り詰めた空気を切り裂いた携帯電話を取り出した淡希は、道長を気にすることなく会話を始める。
「――そう、捕捉したのね。ならそのまま監視をお願い」
 監視。その言葉に道長は頭を捻る。
 道長に分かるのは、淡希が誰かと共に誰かを監視しているということだけだ。道長には何ら関係のないことだったが、自身の状況のこともあり、淡希の仲間が自分と同じように他の人間にも接触しているのかもしれない、と予測を立てる。
 自分の言葉に道長が興味を示したのを確認した淡希は、携帯電話をしまい彼に語りかける。
「気になるかしら? いいわ、教えてあげる」
 淡希は薄く笑い、道長に告げた。
「見つけたのはミサカ一00三ニ号。『絶対能力進化(レベル6シフト)』の生け贄に注がれる、哀れな子羊よ」



[36754] 第三章 シスターズ Level3(not_Only)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 11:52
     1

 『絶対能力進化(レベル6シフト)』は一方通行(アクセラレータ)が二万人の妹達(シスターズ)を殺害することで成立する。二万人もの少女たちが、無口な躯と成り果てるのだ。
 当然、そのことを道長昨也(みちながさくや)は知っていた。知っていて、何もしなかった。
 道長昨也はあくまで“普通の”人間なのだ。学園都市統括理事会が自ら進める実験に横槍を入れる権利も力もない。だから、道長は学園都市の非道を見て見ぬ振りをした。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』だけではない。学園都市では大小様々な非人道的所業が至るところで行われている。それは科学の発展の犠牲であり、そうして得られた成果の恩恵を、道長たち学園都市の住民は当然のように受けている。学園都市の『表』の人間にとって、『裏』の出来事などそれこそ夢物語のような話であり、それゆえに自らが享受するものに何ら疑問も抱かない。それが普通で、それが当然なのだ。
 道長が一人声を上げたところで、学園都市の『裏』は何も変わらない。道長一人に学園都市の『裏』は傷一つ負うことはないし、それ以前に道長自身が学園都市の『表』に異分子として淘汰されてしまうだろう。
 第一、道長だって学園都市の『裏』を把握しているわけではない。道長が知るのは『量産異能者(レディオノイズ)計画』と『絶対能力進化(レベル6シフト)』の二つだけであり、巨悪に思えるこの二つすら氷山の一角なのだ。ただ道長に分かるのは、学園都市の『裏』が『量産異能者(レディオノイズ)計画』や『絶対能力進化(レベル6シフト)』を平然と行うような場所だということだけだ。
 道長一人が動いたところで何になるというのか。道長一人抗ったところでどうなるというのか。
 道長昨也はただの学生に過ぎない。強能力者(レベル3)などという肩書きは学園都市そのものの前には意味をなさず、『回転方向(トルネイダー)』という特別性(オリジナル)も一方通行(アクセラレータ)の前では無に等しい。成人すらしていない十七歳はまさしく子供であり、何の力も持ってはいないのだ。
 それに、道長の知っている『量産異能者(レディオノイズ)計画』も『絶対能力進化(レベル6シフト)』も、“誰にも”迷惑すらかけていない。
 『量産異能者(レディオノイズ)計画』によるクローン人間の製造は確かに国際法で禁止されている。けれど、言ってしまえばそれだけに過ぎない。生命を冒涜するという“ただそれだけ”の理由でしかクローン人間製造は禁止されていないのだ。クローン人間はクローン人間として扱われ、そこに人間としての矜恃も感性も生まれない。クローン人間自身が己を実験動物だと認識する以上、そこにあるのは実験動物と研究者の関係だけであり、クローン人間は特別知性が発達し人語が解せる“動物”でしかない。量産異能者(レディオノイズ)は学習装置(テスタメント)によって知性を得るものの、ならば生まれたてのクローン人間は知性を持たないただの“動物”なのだ。人間を人間たらしめるものが知性であり、その知性が育て親によって育まれるものだというのならば、クローン人間は研究者によって動物として育てられた動物である。クローン人間など、ただの細胞の集合体でしかないのだ。
 そして『絶対能力進化(レベル6シフト)』はそんな“ヒトの形をした動物”を殺すことでしかない。二万匹という膨大な数ではあるものの、人間が日々気づかず殺しているバクテリアたちの数を思えば霞むような数字だ。更にはクローン人間たちを殺されて悲しむような者もいない。もともと殺されるべくして生み出されるのだ。そんな存在に人間関係など必要はなく、よってクローン人間たちは誰にも知られることなく生み出され、殺されていく。
 たとえ自分が通った通りの路地裏で御坂美琴(みさかみこと)のクローンが殺されていようとも、毎日二十人以上もの彼女らが殺されていようとも、道長には関係のないことなのだ。日々作業的に殺されていくクローンたちと同じ顔をする御坂美琴の姿を画面の向こうに見たところで、道長が動揺する必要もないはずなのだ。
 そうやって道長は自分を抑え込み、この一年過ごしてきた。近くで人が殺されていようとも、それは中東で日々起こっている紛争と同じであり、道長とは関係のない“遠い”ところの出来事なのだと。
 なのに。
 いや、だからこそ。
 結標淡希(むすじめあわき)が口にした「ミサカ一00三二号」という言葉に反応してしまったのだろう。
 派手な音を立てて身を乗り出してしまった道長に、淡希は目を細める。
 その視線に気づいて、道長は浮かした腰を元に戻した。
「――――どうしたのかしら?」
「いえ、なんでもありません……」
 分かりきった問答の後、沈黙が二人を包む。
 道長昨也は視線を落とし、結標淡希は視線を保つ。
 逃げるように俯き、かつて何度も繰り返した思考に道長は再び隠った。
 ――――一〇〇三ニ。
 次に実験に使われる妹達(シスターズ)の検体番号(シリアルナンバー)が一〇〇三ニだと言うのならば、それはつまり、“それまでにに一〇〇三一人の妹達(シスターズ)が殺された”ということに他ならない。絶対能力進化(レベル6シフト)が始まって約十ヶ月。毎日二十人から三十人の妹達(シスターズ)が死んでいる計算になる。
 異常。まさにその一言に尽きる。
 正気の沙汰とは思えない所業。けれど、道長にはどうしようもない事であり、関係のない事であるのだ。道長が行動を起こす理由にはなり得ない。
 殺された一〇〇三一人の妹達(シスターズ)。これから殺される九九六九人の妹達(シスターズ)。ニ万人という、学園都市人口の約一パーセントにも及ぶ膨大な数。学園都市の百人に一人が|妹達(シスターズ)であるという事実。百人に一人が、殺されているという現実。
 それはとても恐ろしいことだ。
 既に『知らなかった』ではいられない。だが、動いてしまえば『なかった』ことには、後戻りすることはできない。
 今、この瞬間、確かに殺されようとしている命がある。そのことを道長昨也は知っている。しかし、彼女を助けるということは残りの九九六八人の命も助けるということである。
 一度助けてしまえば、二度と見て見ぬ振りはできない。一人救ってしまえば、残りを見捨てることはできない。
 それは学園都市に反抗するということだ。強大な学園都市と、対立するということだ。
 たった道長一人で、“親しくも何ともない”少女たちのために、“殺されるべく生み出された存在が殺されることを許せないというだけ”の理由で、二三〇万の能力者と現行三十年先の科学力を有する実質上の独立国家、学園都市と戦う。物語の中でなら言えるかもしれない。世界を敵に回しても、たった一つを守る意思こそが大切なのかもしれない。
 けれど、現実は優しくない。
 道長昨也に学園都市に歯向かう力などなく、妹達(シスターズ)に寄せる思いもない。
 書面上でしか妹達(シスターズ)の存在を道長は認識していない。道長が知っているのは欠陥電気(レディオノイズ)試行検体(プロトタイプ)だけであり、その彼女も既に死んでいる。道長が絶対能力進化(レベル6シフト)を気にかけるのは一重に“彼女”がいたからであり、妹達(シスターズ)とは直接は関係がない。
 そしてなにより、一方通行(超能力者)を敵に回そうと考えることがあり得ない。
 道長は、妹達(シスターズ)の存在を一年前から知っていた。知ってはいたが、それはあくまで存在だけであり、いつ、どこで、どのように、妹達(シスターズ)が殺されるかまでは知らなかった。だからこそ、道長は妹達(シスターズ)を助けるか否か、などという事を考える必要などなかったのだ。
 けれども今、道長の目の前にはそれを知る存在がいる。道長には、それを知る手段が生まれてしまっている。
 選択しなくてはいけない。
 妹達(シスターズ)を見殺すのかどうか。一方通行(アクセラレータ)と戦うのかどうか。学園都市と対立するのかどうか。
 考えて、道長は自身を嘲笑する。
 こんな問題、考えるまでもない。答えなど最初から決まっているのだから。
 道長は顔を上げ、淡希を見つめる。
 淡希の表情は変わらない。最初から最後まで、薄い笑みを浮かべている。
「妹達(彼女たち)がどうなろうと、知ったことじゃない」
 ニ万人の他人の命と自分の命。
 誰も知らない命と自分の命。
 殺されることが決まっている命と自分の命。
 そんなもの、端から天秤の傾きは決まっている。
「学園都市に抗う気なんてありませんから」
 道長が最後に付け加えた言葉は。余計な一言だったのかも知れない。


     2

 翌日、道長が目を覚ますと、いつもより天井が高かった。背中の感触も布団にしては硬く、掛布団の代わりにタオルケットにくるまっている自身に気づいた道長は、まだ動きの鈍い頭で昨日のことを思い返す。
 あの後、淡希は意外にもすぐに帰り、道長は一人でインスタントの夕食をとった後、宿題をする気にもなれず早めに寝た。ただ布団はおねしょしてしまっているため使うわけにもいかず、床で寝ることにしたのだ。
 寝る前に処方された精神安定剤を一昨日よりもしっかり飲んだためか、道長の股元は無事だった。
「……クリーニング行かなきゃ」
 射し込む日差しの中で、道長は伸びをする。
 昨晩淡希が座っていた場所には当然誰もおらず、既にその温もりも霧散している。昨日のことが嘘のように、いつもと変わらない朝を道長は迎えていた。
 朝食の支度をしながらテレビを点ける。一人きりの部屋にニュースキャスターの穏やかな声が流れ始めた。
『――ここ数日企業の撤退が相次いでいる筋ジストロフィーの病理研究において、新しい風が吹こうとしています――』
 テレビの音声を聞き流しながら、パジャマを着替えて朝食の準備をする。いつも通りのルーチンワークに身を任せ、道長は淡々と作業を進める。
 何も考えないように。
 昨日のことを思い返さないように。
 結標淡希の存在を忘れることができるように。
「――んぐ……」
 錠剤を口に含み、水で押し流す。塩素の匂いが口内に広がり、喉の奥がざらついた。
 本来、胃を荒らさないために食後に服用するべき精神安定剤だったが、道長はそれを無視した。精神安定剤は当然それそのものに精神安定効果を保持しているが、長期、または重度服用者の場合は“服用するという行為自体”が精神安定効果をもたらすからだ。
 喉を固形物が通るのを感じながら、道長は大きく息を吸った。そしてトースターから取り出したトーストを口に運ぶ。
 八月二十一日の朝のことだった。


     3

 道長昨也という少年は、学園都市の『裏』において少々特殊な立ち位置にいる。
 学園都市の『裏』は暴力の世界だ。誰かが助けてくれることもなく、誰かが守ってくれることもない。殺られる前に殺る。それが罷り通る無法地帯。
 しかし、そんなアンダーグラウンドすらも学園都市統括理事会の手足でしかない。もちろん、完全にコントロールできているわけではないが、学園都市の『裏』における強力な集団、又は個人は皆何らかの形で統括理事会との繋がりを持っている。そして学園都市に買われた、飼われた彼らはそうでない『裏』の住人を配下におき、手足として使い潰す。
 道長昨也は知らないことだが、学園都市の『裏』である『学園都市の闇』の中でも、『表』の捜査も受け付けず、統括理事会の意思の下で学園都市のために暗躍する者たちを特に『暗部』と呼ばれ、『裏』の住人の内影響力がある人間は大方皆『暗部』に属しているのだ。学園都市の『裏』の住人は何らかの組織に身を寄せており、全ては最終的に統括理事会に帰結する。そしてその道筋によって様々な派閥が形成され、勢力争いが日々どこかしらで物理的に引き起こっているのだ。
 そんな学園都市の『裏』を『表』と繋ぐ存在は極めて珍しい。両者の境界に位置するためには、『裏』の侵攻を押し止める力と、『表』で振る舞うための地位が必要だからだ。通常『裏』が『表』に働きかけるときは統括理事会にまで一度命令系統を逆上らなければならず、『裏』と『表』が直接触れ合うことはない。少しでも『裏』に関わった者は『学園都市の闇』に堕ちやすく、『暗部』は言うに及ばない。
 そんな中で、道長昨也は一度『裏』にそれなりに関わり合いながら、それ以降『裏』と接触することもなく『表』で生きている。
 当然、道長自身の力ではない。
 凍結した『超能力進化(レベル5シフト)』の中で埋もれていた道長を引き取った男がいたのだ。

 冥土帰し(ヘブンキャンセラー)。それが男の他称である。

 その医者は患者を助けることに全てをかける。医療技術が足りなければ研き、治療設備が満足いくものでなければ開発する。誰一人見捨てることもなく、どんな危険な患者も救ってみせる。
 曰く、どれほどの致命傷を負おうとも、彼の元に“生きて辿り着きさえすれば”死ぬことはない。
 曰く、寿命すらも超越し、彼の患者になればもう死ぬことはできない。
 患者が必要とする物は何であろうと揃えあげ、“脳細胞の完全破壊による記憶喪失”という異例を除いて全ての患者を冥土から取り戻してきた男。
 “患者を救う”ということに異常なまでの執着心を持ち、“患者を救う”という偉業を常に成し遂げてきた医学界の異端児。
 尊敬はされるものの、共感を得られることはなく、その身にたった一人の追随を許すこともなく、ただ目の前に横たわる患者をひたすら救ってきた。
 差し伸べられた手は決して拒まず、任された命は有無を言わさず引き受ける彼だが、しかし“そうでなければ”何もしない。そして、確かに歪んでいるのに、それを感じさせない処世術も併せ持つ。その線引きがまた、この男の異端さを際立てていた。
 そんな彼が道長昨也を見つけたのは偶然だった。
 通常、学園都市の『裏』の出来事に『表』の公的機関が関わることはない。『表』『裏』区別なく患者を治療するこの医者でも、わざわざ自分から患者を探しに『裏』に行きはしない。いくらそこが患者“候補”に日々溢れ返る場所であったとしてもだ。
 その日、彼の“暗部用の緊急回線”に連絡が入った。至極単純な、助けを求める内容だったが、その連絡は彼を少しばかり驚かせもした。
 冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の名は学園都市の高みに近い者にとって有名である。それは『表』も『裏』も変わらない。そして、有名過ぎた。
 一部の者なら冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の名が学園都市統括理事会理事長アイレスター=クロウリーと引けをとらない価値を持つことを知っているだろうし、そうでない者も冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の学園都市における異質さは理解しているだろう。
 冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が住まう彼の城、学園都市第七学区にある彼の病院は、学園都市統括理事会理事長直々に『不可侵』と表明されているのだ。
 それを破ることは学園都市統括理事会理事長を敵に回すことになる。
 故に、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の存在を知りながらも学園都市の力ある者たちは彼を頼ることができない。
 そんな自分に『裏』の人間から要請が入ったのだ。その人物は『裏』での地位も力も全てを投げ捨てて“生きたい”と願ったのだろう。それでも、その人物が彼の“患者”でなくなれば『不可侵』は適応されなくなる。その先は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の名は守ってくれないのだ。
 『裏』の者たちが医者を必要にする原因を作り出すのは、大概が派閥争いか処分執行である。一時を冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の元で行き長らえたとしても、その先に待つのは既に決まってしまった変わらない結末なのだ。故に、『裏』の人間が冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の処置を受けるとき、そのほとんどが偶然によるものとなる。『裏』の人間は彼に助けを求めるなどという“無駄な”ことはしないのだ。
 だからこそ連絡を寄越した経緯に興味を持った。
 といっても、大それたものではない。彼の興味の大部分が患者の容態と事後経過であり、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は患者を救ってこそ冥土帰し(ヘブンキャンセラー)となる。彼の意識の片隅に残っただけだ。それでも、彼が“患者”を見つけるのには十分だった。
 学園都市の『裏』に関わることであったため、彼は自ら連絡してきた患者の元へ向かった。そうして、瓦礫の下敷きになっていた道長昨也と出会ったのだ。
 その日、道長昨也(グーフィーズ)と冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は出会い、語られることのない物語が始まった。
 そのとき以来、道長昨也は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の預かりどころとなり、平穏な日々を過ごすこととなる。
 八月二十一日から、およそ十ヶ月前のことだ。


     4

 八月二十一日も既に三分のニが終わろうとしていた。
 夏至はとうに過ぎたとはいえ、まだまだ夏の盛りである。辺りは十二分に明るく、昼間の熱気が引く様子もみられない。夏休みもラストスパートということもあり、学園都市の街は学生たちで溢れていた。
 そんな人だかりの中を、道長は歩いていた。
 午前中にクリーニング屋に出かけ、昼食は少し早めの時間に外食。学園都市の外食産業は統括理事会の助成金によって低価格高品質を実現しているため、自炊のできない学生でも十分に栄養バランスの整った食生活が送ることができるようになっている。基本的に台所に立つことがない道長は、昼は外食で済ますことがほとんどである。
 学生たちで込み合う前に店を後にした道長は、体が鈍らないためのウォーキングと食後の運動も兼ねて学園都市の散策へと興じた。
 途中、本屋の立ち読みで数時間潰し、そろそろ戻ろうかというのが今の状況だった。
 日が沈むまでまだ二時間はある。明るい街中を道長はクリーニング屋へと向かう。
 学園都市のクリーニング屋は極めて優秀で、一体どんな技術を使っているのか、五時間もあれば一仕事終えることができる。学生にとっては嬉しい限りであり、道長もその恩恵を享受するうちの一人だ。
 ところが、クリーニング屋に着いた道長を待っていたのは、諸事情により業務が遅れているとの旨だった。
「たいへん申し訳ありません」
 頭を下げるバイトの受付女学生の謝罪を受けながら、道長はどうするか考える。
 なにやら、あと二時間待てば全工程が終わるらしい。二時間どこかで時間を潰すのと二日連続で床の上に寝るのを天秤にかけ、前者に傾いたことを確認する。
「わかりました。また、後で来ます」
 再び頭を下げるショートカットの女学生に見送られ、道長は店を出た。
 予期せぬ時間が与えられたものの、幸いにも今は八月。日が落ちるまでまだ時間はあるため、二時間くらいなら気兼ねなく待つことができる。
 道長は来た道を戻り、再び本屋へと立ち読みをしに戻った。
 大型チェーンの古本屋なので中には私服姿をした学生たちがけっこういたが、普段に対して別段混んでいるわけではない。学園都市は娯楽関連物に高い税率をかけているため、漫画やエンターテイメント小説といったものが読みたい場合は、立ち読みOKな古本屋に行くのが学生たちの共通認識である。
 道長もその例に漏れずエンターテイメント小説コーナーに立ち入ると、三十分ほど前と同じように『魔術と科学が交差する物語』の続きを読み始めた。
 世界は自然科学(フィジカル)で満たされているとその身に知りながらも、魔術的(オカルト)な存在は娯楽として人々の中に在り続ける。それは、超能力すらも自然科学で再現してみせるここ学園都市においても例外ではない。もっとも、最近は仮想現実を題材にした似非ファンタジーSFが人気のようだが。
 そのまま道長は古本屋で時間を潰し、日が陰ってきたところで外に出た。
 午後も六時過ぎということで、所々に暗い影がさしている。ビルとビルの隙間などはとくにそれが顕著で、大通りから少し脇に逸れればそこは既に夜の世界だ。
 夏特有の薄ら寒い夜風を浴びながら、道長は歩道を進む。エアコンによって冷えた身体が夏の空気に熱せられ、首元を掠める生温い風が変に身体を冷ます。路地裏から吹き出る隙間風に首を潜めた道長は、そこでつんと鼻にくるすえた匂いに気がついた。
 漂ってくるその匂いは、僅かではあるものの確かに空気に染みていた。
 道長は顔をしかめ、ちらりと目をそちらに向ける。細い路地の奥は真っ暗で、その先に何があるか確かめることはできない。再び鼻孔に染みる酸っぱい匂いに鼻を手で押さえながら息を吸う。そして道長は、もう一つの匂いの存在に気づいた。
 一度気づいてしまえば、意識せざるをえない濃厚な匂い。逆になぜ先に気づかなかったのか不思議に思うくらいに独特の匂い。ねばっこくて、重たくて、生暖かい“それ”の匂い。
 “それ”は大量に溢れたとき、匂いを変える。普通に暮らしていれば決して知ることのない“それ”を、確かに道長は覚えていた。
 すぐさまこの場を離れようとして振り返った道長の肩を、誰かが掴んだ。
「――――!」
 道長は思わず腰を落としてしまう。みっともなく尻餅をついた道長の前に立っていた、胸に更級を巻いたツインテールの女だった。
 彼女、結標淡希は薄く笑って道長を見下ろす。
 夕日を背にした淡希の笑みは、暗く輝いていた。
「どうしたの?」
 淡希の妖しい声色が、そっと道長を撫でる。その暗い瞳に覗き込まれ、道長は動けなくなってしまった。
 そんな道長に対して、淡希はその白い腕を伸ばして彼の腕を掴む。そして道長が口を開く前に、淡希は彼を引っ張り上げた。
 但し、その向きは路地の奥。
 道長に腕を伸ばすと同時に彼の隣を通り路地へと歩を進めていた淡希は、そのまま道長を奥へと誘う。気づいたときには、道長は路地の中へと入り込んでしまっていた。
 有無を言う間もなく道長は路地の奥へと連れ込まれる。全身を覆う不快感が一層増すが、直接身体に触れている空間移動能力者(テレポーター)相手に為す術などない。能力が使えなくなっている道長にとって、頭に拳銃を押し付けられた状態に等しいのだ。
 淡希は道長を連れて路地を奥へと突き進む。それに従って道長の悪寒は加速度的に増していく。そうして、道長は“それ”を見つけた。
 一言で表すならば、それは“肉”だ。
 赤く染まったピンクの柔らかい腸肉が、血の海に倒れ伏す少女の腹からはみ出していた。陥没した頭蓋に、あらぬ方向に折れ曲がった手足。全身の血液が外に流れ出しているかのように辺りは真っ赤で、腹だけでなく身体中の至る所が“内側から”破壊されて、血を、肉を、骨を露出している。
 人間は所詮人体という名の“血肉”でしかない、と思わせるほどに無惨な亡骸。
 顔は膨れ上がり、もはや原型を留めていない。それでも、その死体が誰であるか道長には理解できた。
 欠陥電気(レディオノイズ)。御坂美琴のクローンにして肉体面における完全なるコピー。殺されるべくして生まれてきた実験動物。ひき肉になろうとどうしようと、それを憐れむ必要もない使い捨ての存在。そして単価は十八万円。ボタン一つで生み出される、ただそれだけの存在。
 道長はその躯に生理的嫌悪を覚える。けれども人形めいたその死体は、道長の意識を強引に揺さぶる。
 それはまるで、透明な水面を見ているような。
 “そっち”と“あっち”は確かに違うというのに、その境界線に違和感がない。一歩踏み出せば沈んでしまうというのに、それが嘘であるかのように世界が繋がっている。
 越えてはならない境界。けれど、それそのものはあやふやで。確かにそこに在るのに、そうとは思えないように自然で、不自然で。
 きっと越えれば戻ってこれない。それはとても危険な思いで。
 きっと越えれば楽になれる。それはとてま甘美な誘いで。
 おそらくは“向こう側に立っている”結標淡希を見て。
 道長昨也はその重圧に耐えられず、その場で激しく嘔吐した。
「…………おぉ……おぇ……」
 としゃりと黄色く酸っぱい液固状の内容物が地面に落ち、その一部が跳ねて血の海に飛んだ。
 重たい血の匂いに臭いすえた匂いが混じり合い、人体が出すとは思えないほど醜悪な匂いとなって辺りに漂った。
 ぜぇぜぇと荒い息を繰り返す道長の隣で、淡希は淡々と言葉を紡ぐ。
「無事、第一00三一次実験は終了したようね」
 その声に、憂いはまったく感じられない。
「まだこれを、九九六九回も続けるのよね」
 所詮はクローン、作られた命。
「あーあ、第一位も大変ね。だるいだけの作業をちまちま繰り返すなんて」
 誰も彼女たちの生存を望んではいない。
「そういえば、超電磁砲(レールガン)が今晩にでも動くのかしらね」
 御坂美琴の代用品でしかない、消耗品。
「第一位と直接やりあうようだけど、今度こそ殺されるんじゃないかしら」
 …………え?



[36754] 第四章 オフェンスアーマー Level4(by_Product)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 12:16
     1

 学園都市の『裏』、とくに『学園都市の闇』は統括理事会がコントロールしている。その中でも子飼いの個人、集団を『暗部』と呼ぶ。そうして『暗部』は学園都市の意志の下運用され、管理されている。
 そんな『暗部』の中でも『アイテム』は理事会の直属に位置する組織である。学園都市の不穏分子の排除、『暗部』組織や上層部の暴走を防ぐことを任とする武力行使集団『アイテム』であるが、その構成員は僅かに四名、しかもその全員が女となっている。もちろん構成員は超能力者(レベル5)が一人に大能力者(レベル4)が二人、電気工学のエキスパートが一人と軍隊の縮小版のような戦力であり、配下に多数のバックアップ組織を持ってはいるのだが。
 そんな『アイテム』のリーダーこと麦野沈利(むぎのしずり)は上機嫌に同構成員のフレンダ=セイヴェルンのこめかみに拳を押しつけていた。
「いたい、いたい、いたいたいたい! それちょー痛いんだってば麦野!」
「あぁ? 使わなかった爆弾は回収しとけっていつも言ってるよな?」
「ごめんなさい、反省してます! だから許して麦野様!」
「前も確かそう言ってたよな、フ、レ、ン、ダー?」
「ぎゃー⁉」
 金髪碧眼の美少女、フレンダの悲鳴が個室サロン内に響く。
 現在フレンダは、先日の作戦において未使用の爆弾を回収せずに撤退したためリーダーである麦野に折檻を受けていた。
 頭蓋が割れるかと思うほどのきついお仕置きではあるが、これでもまだ軽い方だ。機嫌の悪い時の麦野ならば、今頃フレンダの上半身は下半身とさよならしている可能性もなくはないのだから。
(何かいいことでもあったんだろうか?)
 ぐりぐりから解放された頭を抱えながらながら、フレンダはふと疑問に思う。一向に引く気配のない頭痛から逃れるためだったのだが、それでもやっぱり痛い訳よ、とフレンダは心の中で叫ぶ。
 フレンダと同じ疑問を残りの構成員二人も抱えていた。
 先日、『アイテム』はとある実験施設の防衛任務をおび、襲撃者御坂美琴(みさかみこと)と対峙した。
 御坂美琴。超電磁砲(レールガン)の名を持つ、超能力者(レベル5)序列第三位。原子崩し(メタルダウナー)たる麦野沈利の上位に位置する、“ぴっちぴち”の中学生だ。あらゆる面において麦野は御坂にコンプレックスを感じる要素があり、事実麦野は先日の作戦において美琴を殺すつもりであった。
 しかし実際対面してみれば、美琴は連日の破壊活動で疲労困憊、だというのに麦野は決定打を決めれず逆に情けを掛けられる始末。プライドの高い麦野が当然それを許せるはずがなく、美琴にしてやられた原因がフレンダが現場に残した『置き土産』ならば尚更である。
 けれども現在、麦野の機嫌は悪くない。むしろ良いと言ってもいい。
 当然、それを仲間たちは皆不思議に思った。
 そんな仲間内の様子など知らず、麦野は再びフレンダの頭を掴む。フレンダがお得意の嘘泣きで助けてアピールをしで涙を溜め始めたところで、個室サロン内に電子音が響いた。
 途端、四人全員が真顔になる。フレンダは涙を引っ込め、ピンクジャージの少女は閉じていた目を開ける。映画雑誌を読んでいた少女はそれを閉じ、麦野はフレンダを離してテーブルの上のノートパソコンに手を伸ばす。
 通信コールを鳴らしていた『暗部』用のパソコン画面に電源が入り、そこに見慣れた女のシルエットが映し出された。
 上司からの通信。『暗部』組織『アイテム』の仕事の時間である。
『よし、全員そろってるね』
 決して姿を見せない、音声だけの女上司が麦野たち『アイテム』を見回して確認する。
「なんだ? 昨日の今日だぞ」
 麦野が怪訝そうに尋ねた。
 『アイテム』は『暗部』における上位組織である。裏切り者の粛清を主とする『アイテム』ではあるが、毎日毎日仕事があるわけではない。学園都市の『裏』は広大ではあるが、それは同時に多数の『暗部』組織が存在するということでもある。超能力者(レベル5)である麦野を有する『アイテム』が動くのは、超能力者(レベル5)クラスが必要な場合、もしくはかなりの重要機密に関わる場合だけなのだ。それ以外では、下部組織が日々動き回っている。
『仕事の依頼よ。理事会直々の』
 画面の女はため息をつきながら答える。その声色は何やら依頼内容に不安があるようだった。
『いい? 十七学区の操車場で午後八時三十分からある実験が行われる。あんたたちの仕事は、そこに妨害に来るであろう『回転方向(トルネイダー)』を死なさずに追い返すこと。但し、それ以外の乱入者には絶対に手を出すんじゃないわよ』
「はあ? なんだそれは?」
 麦野はその依頼内容を訝しむ。
 妨害者の排除。それは納得できる。つい先日請け負った仕事も同じようなものだった。しかし、その妨害者を殺すでも捕縛でもなく、死なさずに追い返せとはあまりにも依頼内容が異質すぎる。
(何か裏がある。厄介事か、もしくは……)
 麦野は先日の事を思い返す。
 研究所を襲ってきた御坂美琴(レールガン)。その目的は自身の妹達(クローン)が生贄にされている『絶対能力進化(レベル6シフト)』を止めること。
(そういえば、あの時襲撃者は御坂美琴(第三位)だと最初から分かってたみたいだったな。今回も相手は判明しているようだしこれはもしかしたら……)
「なあ、その実験ていうのは、『絶対能力進化(レベル6シフト)』なのか?」
『なに、あんた知ってたわけ? どうやらそうらしいわよ』
 麦野が一人納得している後ろで、残りの三人は首を捻っていた。
 『アイテム』の中で『絶対能力進化(レベル6シフト)』を知っているのは先日研究所撤退前に研究員を締め上げた麦野だけだ。麦野は誰にも話していないので、三人が知らないのは当然である。
「分かった。受けるわ」
 麦野が了承の意を伝えると、映画雑誌を左手に持っていた十二歳くらいの少女、絹旗最愛(きぬはたさいあい)が声を荒げた。
「正気ですか⁉ どっからどう考えても超怪しいんですけど」
「――お前は黙ってろ」
 麦野にそう言われて、絹旗は納得のいかない顔をしながらも引き下がる。
 『アイテム』の決定権は全て、リーダーである麦野沈利にある。そして麦野はキレやすく、そうなれば仲間だろうが何だろうが自分に従わないのならそれだけの理由で簡単に殺すだろう。
 麦野がその依頼を受けるというのなら絹旗は何も言わない。言ったところで聞き入れるはずがないからだ。
 けれども、絹旗は思う。
(それで死ぬのは、超わたしたちなんですけど)
 麦野沈利は超能力者(レベル5)であるが、絹旗歳愛は大能力者(レベル4)なのだ。もう一人の大能力者( レベル4)は直接戦闘に疎く、フレンダ=セイヴェルンは肉弾戦闘が可能とはいえ無能力者(レベル0)。絶対の安全などなく、何かの拍子に死ぬ可能性は大いにあり得る。もちろん、『暗部』組織に属しているのだからそれは当たり前のことではあるが、それでも死の危険を出来るだけ回避するにこしたことはない。しかし、麦野は恐らくそのことに気づかないだろう。かといって絹旗がそれを告げることはない。自身の能力は防御性能に秀でているし、そもそもそのような弱気な発言を麦野は許さないからだ。そして結局絹旗が残りの二人を守ることになる。
 『学園都市の闇』の中なのだから、自分の身は自分で守るのが当然。途中で死ぬ者がいれば、所詮そいつはそこまでの奴だっただけだ。それなのに『アイテム』のメンバーに関してそんな考えが出てこないのは、絹旗が今の『アイテム』を気に入っているからか、それとも弱くなったからか。
 そんな答えのない問答を抱えながら、絹旗は作戦会議に加わった。


     2

 道長昨也(みちながさくや)が目覚めると、見覚えのある病室の中にいた。
 体を起こし窓に目を向ける。
 カーテンの向こうから感じられる温もりは既になく、部屋に置かれたデジタル時計が午後七時を表示していた。
 道長は病室を見渡し、何故自分がここにいるのか思い出した。
 結標淡希(むしじめあわき)と共にミサカ一00三一号の死体を発見した道長は、淡希が入手した警備員(アンチスキル)がやってくるという情報に従って路地を出た。その際淡希が色々と話していたが、ミサカ一00三二号の死体にあてられていた道長は、二度目の嘔吐と共に意識を失ってしまった。恐らくは倒れた道長に気づいた誰かが救急車を呼んでくれたのだろう。あの場には警備員(アンチスキル)がいたのだから彼らに助けられたのかもしれないし、たぶん有り得ないだろうが淡希が気を利かせたのかもしれない。
 大して意味のない疑問であり、大切なのは道長が今、第七学区の縁ある病院にいることだ。
 現在時刻は午後七時三分。
 『絶対能力進化(レベル6シフト)』第一00三二次実験開始時刻は午後八時三十分。
 そして、御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)と衝突するまで残り一時間三十分。
 結標淡希曰わく、御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)との戦闘によって殺されることで、『絶対能力進化(レベル6シフト)』を事実上の廃止に追い込むつもりだという。
 一方通行(アクセラレータ)をまだ見ぬ|絶対能力者(レベル6)へと至らせる『絶対能力進化(レベル6シフト)』。その計画は欠陥電気(レディオノイズ)との二万通りの実戦経験を積むことで能力成長を促すというもの。その前提は、『最強の超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレータ)が序列第三位の超電磁砲(レールガン)と一二八種類の戦闘経験を積むことで絶対能力者(レベル6)に至れるというものである。
 美琴は、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の想定よりも超電磁砲(レールガン)に価値がないことを示すことで、『絶対能力進化(レベル6シフト)』の基盤そのものを破壊しようというのだ。
 しかし、素人目に見ても荒だらけの作戦である。事実、道長はこの計画を聞いただけでそれを指摘することができた。
 仮に超電磁砲(レールガン)にそれほど価値がないと認められたとしても、それを踏まえた上で『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』で再計算すればいいだけのことであるし、『絶対能力進化(レベル6シフト)』を通して一方通行(アクセラレータ)が強くなることはあっても、弱くなることはないのだから『絶対能力進化(レベル6シフト)』が中止になることはまずないだろう。
 そんなことを美琴が分からないはずがなく、それはつまりそれだけ彼女が追い詰められているということ。
 何に?
 当然、美琴のクローンである妹達(シスターズ)の虐殺にである。
 美琴が『絶対能力進化(レベル6シフト)』に自身のクローンが使われていることを知ったのはつい最近のことだと、淡希は言っていた。
 御坂美琴という少女は、クローンたちを憂い、その扱いに嘆き、そして彼女たちを救おうと行動している。
 対して道長昨也という少年は、クローンたちのことを知っていながらも何もせず、見殺しにしている。
 そんな道長がこのような感情を抱くのは、甚だ滑稽なことであろう。それでも彼は、美琴に死んで欲しくないと思った。
 今まで一万回もの殺人を許容し、一万人もの人間を見捨ててきた少年が、殺されてきた少女たちと同じ顔の、同じ体の、同じ人間の少女を救いたいと思う。
 それは妹達(シスターズ)がクローンであり、御坂美琴がオリジナル(人間)だからか。
 それはクローンを一万人も殺しておきながらそのオリジナルが殺されそうになっていることに、今更ながら罪悪感を覚えたからか。
 けれど、どれだけ取り繕うと、どれだけ挽回しようと、道長昨也が一万人のクローンを見殺しにしてきた事実は変わらない。
 それでも、道長が美琴を、妹達(シスターズ)を助けたいと思ったのは、恐らく。
 これが最後のチャンスだと思ったから。
 欠陥電気(レディオノイズ)試行検体(プロトタイプ)を殺してしまった八ヶ月前のあの日から、道長はずっと思っていた。
 そもそも道長昨也という人物はただの高校生に過ぎない。その精神は十七歳の子供のそれであり、人殺しを許容できるような器であるはずがないのだ。道長が『絶対能力進化(レベル6シフト)』を阻止したいと考えるのは当然の帰論である。
 しかし、欠陥電気(レディオノイズ)試行検体(プロトタイプ)との戦闘は一瞬のうちに終わってしまい、その後道長は能力を喪失。一方通行(アクセラレータ)を止める力も、学園都市に抗う力もなくした道長に、できることなどなかった。
 けれども、状況は一変。御坂美琴が反旗を翻し、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の手により道長の能力は回復可能となった。学園都市と敵対したとしても、少なくとも学園都市序列第三位との接点、そして結標淡希が率いる反乱分子の一員という居場所は確保されているのだ。
 そしてなにより、回転方向(トルネイダー)と超電磁砲(レールガン)の共闘には一方通行(アクセラレータ)を破る可能性がある。
 一方通行(アクセラレータ)がベクトル操作能力を使ってその身に纏う『反射』の膜。それにより一方通行(アクセラレータ)は最強の盾を手にし何人たりとも傷つけることは叶わないとされている。戦闘面において一方通行(アクセラレータ)が優遇されているのは、この『反射』があるからである。いかに超電磁砲(レールガン)の一撃であろうと、この盾を破ることはできない。
 しかし、何事にも例外はある。
 一方通行(アクセラレータ)と同じベクトル操作能力を持つ回転方向(トルネイダー)ならば、一時的に一方通行(アクセラレータ)の『反射』の膜を解除することができる。『超能力進化(レベル5シフト)』によって一方通行(アクセラレータ)の『反射』の膜を擬似的にとはいえ手にしている回転方向(トルネイダー)ならば、一方通行(アクセラレータ)の不意をつきその盾を掻き消すことが可能だ。
 もちろん、一方通行(アクセラレータ)の能力は回転方向(トルネイダー)の能力の上位互換であり、ベクトル操作能力において断然一方通行(アクセラレータ)の方が優っている。けれども、回転方向(トルネイダー)の知名度は序列第一位の一方通行(アクセラレータ)に比べれば無いにも等しいものであり、何より道長の能力は現在使用不可能ということになっている。一度の敗北も苦戦も経験したことのない、戦闘時における身の防護は全て『反射』に頼ってきた一方通行(アクセラレータ)ならば、回転方向(トルネイダー)が突きいる隙はある。
 そして回転方向(トルネイダー)はその能力を以て一方通行(アクセラレータ)の力を封じることができる。
 一方通行(アクセラレータ)の能力の本質が『未知の法則を逆算、解析』することだというのならば、回転方向(トルネイダー)の能力の本質は『既知の法則を限定、固定』することである。八ヶ月前、錯乱した道長は最終的に自身の『AIM拡散力場』を『限定』、能力を発動させようとするAIM拡散力場の動きを捻じ曲げ『作動』→『中止』の円(サイクル)に『固定』した。これにより道長は能力を失ったのだ(道長は知らないことだが、この時のデータを元に『能力者がの演算を何度も強制的にやり直させ、その演算を失敗させる』という『AIMジャマー』なる対能力者用兵器が生み出されていたりする)。
 更に、『絶対能力進化(レベル6シフト)』は最強である一方通行(アクセラレータ)のみが絶対能力者(レベル6)に至れるという前提から生み出されている。そして、序列第一位、第二位の二名と、第三位との差は超能力者(レベル5)と無能力者(レベル0)よりも離れているといわれ、第一位が第三位と強能力者(レベル3)の二人組に負けることなどあってはならない。絶対能力者(レベル6)に至れるのが“最強”である一方通行(アクセラレータ)“だけ”である以上、一方通行(アクセラレータ)が第二位以外に敗れることは、一方通行(アクセラレータ)が絶対能力者(レベル6)に至れるという前提までもが崩壊しかねない。超電磁砲(レールガン)に価値がないことをいくら示しても『絶対能力進化(レベル6シフト)』は止まらないが、一方通行(アクセラレータ)自体にその価値がないと示すことができれば実験そのものに意味がなくなる。
 御坂美琴一人で『絶対能力進化(レベル6シフト)』を止めようとするよりも、それに道長昨也が加わった方が遥かにその可能性は上がる。
 道長昨也はここにきて、始めて自分の思いに素直になることにした。
 だがら道長は手を伸ばし。
 冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に渡りを付けるべくナースコールを押した。


     3

 学園都市第十七学区。
 学園都市の西の外れの大きな工場地帯であるそこで、『絶対能力進化(レベル6シフト)』の第一00三二次実験が行われようとしていた。
 時刻は午後八時十四分。実験開始まで残り十六分。
 実験場となる操車場より数キロ離れた場所で、絹旗最愛は道長昨也と相対していた。
「もしもし、絹旗です。当たりでした」
 絹旗は通信機を使って、ここら一体に散開している『アイテム』の残りのメンバーに回転方向(ターゲット)が来たことを伝える。
 『アイテム』に任された『絶対能力進化(レベル6シフト)』の実験場は広大である。しかし、周囲には民間人どころか誰もいないので、人目を気にする必要はない。防衛ラインにはフレンダによる爆弾が仕掛けられており、衛星カメラと監視カメラでターゲットを確認したら遠隔操作による爆破で足止めし、『アイテム』のメンバーが直接取り押さえに行く。その予定だったのだが、肝心のターゲットは幸か不幸か『アイテム』のメンバーの前に直接現れた。
 絹旗は事前に手に入れていた顔写真の記憶と目の前の人物を再び確認し、本人と断定する。
「回転方向(トルネイダー)、道長昨也で、超合ってますよね?」
 口で確認しながらも、絹旗は能力演算を開始する。
 身元を問うたことには意味がない。動揺してくれればそれでいいし、本人であるかどうかを確認する術は姿形しかないのだ。言葉自体に意味はない。
 すぐには動かず、絹旗は仲間が来るのを待ちながら道長を観察する。
 情報では元強能力者(レベル3)のベクトル操作系能力者。現在は能力が使えない無能力者(レベル0)であるらしいが、早計は禁物。相手は超能力者(レベル5)の実験に横槍を入れようとしているのだ。能力の代わりになる何かを持っているのか、もしくは能力が元に戻っている可能性もある。
 絹旗最愛は大能力者(レベル4)であり、その能力は窒素を自在に操る『窒素装甲(オフェンスアーマー)』である。窒素を展開し、その窒素が物を持ち上げたり物を受け止めたりする。但し、能力射程が短く、展開した窒素は装甲のように絹旗を覆うぐらいしか外に出れない。故に、絹旗は窒素の装甲を纏った怪力戦士のような戦い方をする。
 そんな絹旗だが、かつて実験により一方通行(アクセラレータ)の“『反射』の膜の機能”を得ることに成功しており、一定レベル以上の負荷が体に掛るとき、自動的に『窒素装甲(オフェンスアーマー)』が展開するように、AIM拡散力場に記録されている。絹旗の身を守る機能がこれであり、強度は規格外、その精度も一方通行(アクセラレータ)の『反射』に及ぶほどの自動防御機能となっている。
 絹旗は回転方向(トルネイダー)を見つめる。
 夏だというのに耳を覆い隠す深さまでニット帽を被り、こちらを睨みつけてくる男。
 一方通行(アクセラレータ)という成功例に至れなかった、失敗作(グーフィーズ)の烙印を押された一人。
 少しの間沈黙していた回転方向(トルネイダー)は、膝を折り、そして前方に跳躍した。
 その加速力に驚きながらも、絹旗は途中で止めていた演算を完成させる。
 能力者が、能力を使うとき、“演算”を必ず行う。『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を確立することでミクロの世界の可能性を手に入れる能力者であるが、能力はその時その時の状況を踏まえた上で発動するものであり、現実の情報の入力とその現実と自身の起こす非現実を一致させるための計算、つまりは“演算”が必要となる。それは視界かもしれないし、それは音かもしれないし、それは匂いかもしれないが、とにかく、自分自身で認識した現実情報を元に、能力者は『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を被せていく。科学知識のある者はそれを元に“世界の法則”を理解し、“演算”速度を早めることができるし、感受性の強い者は経験と直感で“世界の法則”を理解し、“演算”を省略することができる。どちらにせよ、能力の行使には“世界の把握”が必要となる。
 既に“場”の情報は入力し終えていた絹旗であったが、近接格闘を主眼とするその戦闘スタイルにより能力効率的発動のためには対象の情報が特に大切となる。超能力者(レベル5)でもない限り、無駄打ちをする余力などないのだ。どのような方法を採るにせよ、“演算”を行うのは脳であり、疲労は脳の回転を遅くするのだから。
 絹旗は回転方向(トルネイダー)の身長と体つきから、大まかな身体データを予測する。記録してあるデータベースから引き出してきたそれと、その身体の現在の傾きから予測される範囲内の身体の動きを元に回転方向(トルネイダー)との接触時に掛る負荷を計算、窒素展開の必要量の範囲を弾き出し、それをカバーできるように窒素展開の構成、配置を決める。そうして算出された“答え”が豪腕を生み出し、絹旗に宿る。
 能力者同士の戦いは最初の一撃が肝心である。傷を負えば痛みを感じ、“演算”の集中に支障がでる。中途半端な“演算”での能力行使は大変危険であり、半分以上の確立で自身に害を及ぼす。
 そして今。

 ーーーー衝突。

 かくして最初の接触は、絹旗が巻き込まれるように弾き飛ばされる結果に終わった。



[36754] 第五章 トルネイダー Level5(fake_Level)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 12:59
     1

 麦野沈利(むぎのしずり)がその場に辿り着いたのは、ちょうど回転方向(トルネイダー)によって絹旗最愛(きぬはたさいあい)が弾き飛ばされた時だった。
 当然ながら、吹き飛んだ絹旗への心配など麦野にはない。元々『アイテム』のメンバーを“駒”としてでしか見ていない麦野であるし、事実として“あの程度の衝撃”では絹旗は傷一つ負うことはないと知っているからだ。
(どうするかね)
 吹き飛ばされた勢いで回転し両足で難無く立ち上がる絹旗を見ながら、麦野は気怠く考える。
 今回『アイテム』が請け負った任務は、『絶対能力進化(レベル6シフト)』を回転方向(トルネイダー)に邪魔させないというもにである。普段ならば超能力者(レベル5)である麦野が対象を殺すことで終わる簡単な任務だったのだが、依頼主からの条件は“殺さないこと”。麦野の能力は手加減が難しくこの手の生け捕りはほぼ不可能であり、『アイテム』の上司もそれを知っていたからこそ麦野にこの依頼を任せることに不安を抱えていたのだ。
 確かに麦野は捕縛に適していない。けれどもそれが『アイテム』全体に言えるかというと話は変わってくる。
 例えば現在回転方向(トルネイダー)と対峙している絹旗にして言えば、近接戦闘を主体とするそのスタイルから当然捕縛術は修めている。トリックメーカーであるフレンダ=セイヴェルンには対象を弱らせる罠などお手の物。『アイテム』最後のメンバー滝壺理后(たきつぼりこう)の能力を使えば能力者相手ならどこまでも追跡可能となる。『アイテム』のリーダーは確かに麦野ではあるものの、『アイテム』全体の機能について見たとき、麦野の役割は牽制と粛清の意味を持つ移動砲台でしかないのだ。
(あーあ、面倒くさい)
 麦野はその綺麗な茶髪を左手でごしごし掻き乱しながらため息をつく。
 そもそも麦野がこの依頼を受けたのは、『絶対能力進化(レベル6シフト)』を止めようと動いている超電磁砲(レールガン)に会えると思ったからだ。回転方向(トルネイダー)が何処かで超電磁砲(レールガン)と繋がっており、『絶対能力進化(レベル6シフト)』を共に妨害しにくるのならば、それを阻止することで先日の屈辱を払し、尚且つ|超電磁砲(レールガン)を地獄に落としてやることができる。そのような魂胆の元依頼を受けた麦野だったが、肝心の|超電磁砲(レールガン)は未だ現れず、仮に現れたとしても制約のせいで“手が出せない”。依頼主の提示した条件は『回転方向(トルネイダー)“のみ”を止めることであり、他の者には“一切手を出すな”というものだからだ。いけすかない女上司が生け捕りの件と共に再三忠告していたので、“手を出さない”というのはかなり重大なことなのだろうと麦野は予想をつける。何故そのような命令が下っているのか、などという下賤な勘ぐりは自らの寿命を縮めるだけなので抱きはしなかった。
 麦野が戦場を確認すると、今度は絹旗が回転方向(トルネイダー)に接敵するところだった。
 恐らく回転方向(トルネイダー)の方はさっさと振り切って実験場へと向かいたいところなのだろう。しかし、一方通行(アクセラレータ)を相手にしながら背後に気を使う余裕などあるはずがなく、彼にしてみればここで絹旗を倒しておくことで憂いを除きたいに違いない。先ほど絹旗を吹き飛ばした時にこの場を後にしなかったのは、そういうことなのだろう。
 回転方向(トルネイダー)は強能力者(レベル3)である。その程度の強度(レベル)では能力の連続発動時間など大したことはなく、また複数の敵を相手に“演算”する技術も未熟であろう。仮に一方通行(アクセラレータ)を前に、窒素装甲(オフェンスアーマー)を後ろに構えることになったとき、回転方向(トルネイダー)が対応することは不可能である。
「……むぎの」
 麦野が一発撃ち込もうかどうか思案していると、後ろから聞き慣れた優秀な“駒”の声が聞こえた。
 ピンクのジャージに身を包んだ脱力系女子高校生、滝壺理后である。
「あぁ。一応やっといて」
 麦野は滝壺に彼女の能力、『能力追跡(AIMストーカー)』を発動させるように指示を出す。一度記憶した能力者のAIM拡散力場から、対象の人物の位地を割り出す能力であるが、太陽系レベルの捜索範囲を持っているのに対し、その能力の発動には『能力結晶体』と呼ばれる薬を服用しする必要があった。
「……むぎのがそう言うのなら」
 『能力結晶体』は適合者以外には劇物となり、適合者の場合もその服用は身体に害をもたらす。滝壺の身体は度重なる服用によってかなり弱っているが、それを気にすることなく彼女は取り出したそれを口に含む。
 ピルケースに入っているそれは、白い粉末状をしている。それを手に取り舌で舐めることで、滝壺は能力を発動させた。
「…………」
 滝壺が回転方向(トルネイダー)のAIM拡散力場を記憶している横で、麦野も自身の“演算”を開始する。彼女の能力『原子崩し(メタルダウナー)』は扱いが難しく“演算”も複雑なのだ。
 戦場は少しずつ動きを見せ始めていた。


     2

 何度目かの衝突を果たしつつ、絹旗は舌打ちをした。
 正直、舐めていたとしか言いようがない。まさか、『回転方向(トルネイダー)』の能力がここまで自分と相性が悪いとは思わなかった。
(超うざいですね、アレ……)
 ニット帽を被り込む回転方向(トルネイダー)を睨み付けながら、絹旗は状況を分析する。
 現状、二人のどちらも互いに有効打を受けず、与えることができていない。その原因はずばり、回転方向(トルネイダー)がその身に纏う『回転』の膜にあった。
 絹旗が持つ『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の自動展開と同じく、常時展開されている自動防御機能。学園都市序列第一位たる一方通行(アクセラレータ)がその身に纏う『反射』の膜を擬似的にとは言え再現した絶対の防壁。
 一方通行(アクセラレータ)の『反射』は有名であり、それを再現する試み自体は確かに行われている。絹旗自身も色々あってその『反射』の恩恵を受けた過去を持つ。回転方向(トルネイダー)がベクトル操作系能力者であることは書庫(バンク)で判明していたため、一方通行(アクセラレータ)と同じようなことをしてくる可能性は確かに考慮できた。
 けれども回転方向(トルネイダー)は所詮強能力者(レベル3)でしかない。強能力者(レベル3)の“演算”能力では、全方位へのベクトル演算を毎回毎回無意識に行うなどという荒技は到底できない。
 一方通行(アクセラレータ)の『反射』は、その肌に触れた物の入射角を測定、その角度を保ってソレを反射する。人体の肌は当然ながら凹凸が存在し、その肌に触れる物体の入射ベクトルは多種多様となる。一方通行(アクセラレータ)はその肌に触れたものにしかベクトル変換を行えないという能力の制約を持っており、そのため自身の肌の凹凸は完全に把握している必要がある。そうでなければ“完全な”『反射』は行えず、撃ち出された銃弾をを撃ち出した銃口に送り返すなどという神業を為すことはできないのだ。
 絹旗は一方通行(アクセラレータ)のソレと回転方向(トルネイダー)のソレを比較する。
 いくら回転方向(トルネイダー)がベクトル操作系能力者だとはいっても、その能力が完全に一方通行(アクセラレータ)と同じというわけではないのだ。そもそも、『回転方向(トルネイダー)』は『一方通行(アクセラレータ)』の下位互換であり、能力強度(レベル)における開きは比べるのもおこがましいほどである。つまり、たかだか強能力者(レベル3)程度の回転方向(トルネイダー)に一方通行(アクセラレータ)の『反射』を再現できるはずがないのだ。
(何処かに穴が、超あるはずなんですけどね……)
 『回転方向(トルネイダー)』。その効果はある一点を中心とした円運動の強制。一つの回転軸に複数の『回転』を発生させることで強弱を作り、竜巻(トルネイド)のように『引き込み』、『弾き飛ばす』力。『引き付ける』力と『回転させる』力を調整することで、打ち込まれた攻撃を自身の周囲を周回させて送り返す擬似的『反射』を可能とする能力。
(……竜巻?)
 ふと、絹旗の頭に何かが引っ掛かった。
 何故か思ったよりも積極的行動をしてこない回転方向(トルネイダー)を前にしながら、絹旗は“演算”の片隅で推測を構築していく。マルチタスクと呼ばれるこの並列思考処理能力こそが、絹旗が大能力者(レベル4)だという証である。大能力者(レベル4)が人間兵器として数えられるのに対し強能力者(レベル3)が“人間止り”なのは、この能力があるかないかが大きく関わっている。つまり、超能力などという人の身に過ぎた力は、常人では到底扱いきれないというわけだ。大能力者(レベル4)以上の超能力はその“演算”の複雑化により、マルチタスクがない者には扱えない。強能力者(レベル3)から大能力者(レベル4)へ至れずに落ち零れていく学生が多いのはこのためである。
 強能力者(レベル3)と大能力者(レベル4)の間には明確な差がある。その差は無能力者(レベル0)と強能力者(レベル3)のソレよりも大きく、それを越えるのは容易ではない。
 今この場において、絹旗最愛は大能力者(レベル4)であり、回転方向(トルネイダー)は強能力者(レベル3)である。格下の小細工程度、絹旗が見破れぬ道理はないのだ。
(回転方向(トルネイダー)の作る『回転』の“面”は常に背筋に超垂直。ならば……)
 絹旗は目の前の回転方向(トルネイダー)に向かって走り出す。
 回転方向(トルネイダー)は今までと同じように佇んだまま、『回転』の膜を張る。
 何度も繰り返されてきた攻防。
 しかし、今度の一撃は違った。
「はああああ‼」
(『回転方向(トルネイダー)』の射程はおよそ三十センチほど……)
 これまでの戦いの中で見極めた相手の最大射程距離ぎりぎりの距離。そこで、絹旗は力一杯跳ね上がった。
 『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の至近距離大量噴出による力技と絹旗自身の身体能力が合わさり、回転方向(トルネイダー)の認識速度を越えた速さで彼女は跳躍する。
(『回転方向(トルネイダー)』の『回転』面における中心点は常に奴に背骨に超水平。効率的な『反射』をもすなら、その射程距離を活かして円球状に“膜”を張るのが道理。つまりーーーー)
 絹旗の身体が回転方向(トルネイダー)の真上にくる。
(『回転方向(トルネイダー)』の『回転』円はその中心を一つの中心軸上にとる必要がありーーーー)
 回転方向(トルネイダー)は気づかない。
(その中心軸上、奴の真上には『回転』が働かない!)
 『回転方向(トルネイダー)』が『中心』に引き付け、加速させる能力だとして、その効果を十全に発揮するためには能力を完全にコントロールしないといけない。それはつまり、絶対能力者(レベル6)になるということだ。どんな能力であっても、それを能力の通りに使える者はおらず、能力使用にかかる制限によって能力強度(レベル)が決まっている。回転方向(トルネイダー)が強能力者(レベル3)であるということは、その能力行使に多分な制限が掛かっているということであり、『中心に引き付け、加速させる』という能力を十全にに使えるというわけではないということ。例えば発電能力者(エレクトロマスター)は総じて電気、磁気を操るが、それをいかに操るかによって強度(レベル)が変わってくる。それは射程距離であり、発電総量であり、媒介物質であるのだ。
 そうして、強能力者(レベル3)である回転方向(トルネイダー)の制約は、『回転中心』の指定可能範囲であった。最初は一点。次は二点。その次は直線。その上は球。
 つまり、強能力者(レベル3)としての『回転方向(トルネイダー)』には頭上の絹旗を止める術はない。
(超もらった!)
 振り下ろされる豪脚。『窒素装甲(オフェンスアーマー)』によって強化されたそれが、回転方向(トルネイダー)の頭へと放たれた。


     3

 おかしい。絹旗は目の前の現象に戸惑いを覚える。
 回転方向(トルネイダー)の頭上から放った一撃は、『回転』の穴を抜け確かに目標へと届いた。
(殺さないように手加減は超してましたが、しかしこれは……)
 回転方向(トルネイダー)へと直撃したはずのそれは、当たると同時に押し流され、ニット帽を吹き飛ばすだけに終わった。
 土壇場での能力操作。絹旗の狙いに気づいて『回転軸』をずらした。そう考えることもできなくはない。
 けれども、それよりもは。
(強度(レベル)が上がった? 何ですか、その超ご都合主義展開は。どこのB級映画ですか)
 絹旗は回転方向(トルネイダー)を睨みつける。そして、ニット帽が外れたことにより、あることに気づいた。
(舐めてるんですか)
 ニット帽の下。回転方向《(トルネイダー)の耳にはあろうことかイヤホンが刺さっていた。左右共にである。
 馬鹿にされていると憤る絹旗だったが、すぐにあることを思い出す。それは推測でしかなかったが、決して可能性が低いとも言えない、いや、現状を鑑(かんが)みれば十分にあり得ることだった。
 無能力者(レベル0)から強能力者(レベル3)へ。そして短時間の戦闘で大能力者(レベル4)に至る。耳にはイヤホンから曲を流し、それを常時聞き続ける。
 学園都市の実在する都市伝説。

 『幻想御手(レベルアッパー)』。

(けれどアレは、使用者が複数人いて始めて効果を示すはず。いや、別にアレそのままでなくても、アレを元にどこかの研究所が開発した新型ということも……。まあ、今考えても超無駄ですね)
 『幻想御手(レベルアッパー)』は共感覚性を利用して使用者の脳波に干渉する音声ファイルである。複数の人間の脳を繋げた『一つの巨大な脳』状のネットワークを形成し、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』に匹敵する演算装置を作るものであり、その過程で取り込まれた脳波同士が互いの思考パターンを共有し、“演算”能力を底上げすることで能力強度(レベル)を上げる。
 当然ながら回転方向(トルネイダー)が現在使用しているものはオリジナルのソレではない。回転方向(トルネイダー)の“演算”時の脳波パターンをより効率的に改良したものを入力したソレを回転方向(トルネイダー)本人が使用することにより無理やり回転方向(トルネイダー)の脳波を上書き、働かなくなっているAIM拡散力場を正常へと矯正しているのだ。
 しかしオリジナルの|幻想御手(レベルアッパー)に『入力された脳波に矯正させられ続けることで脳が疲弊し、昏睡状態に陥る』という欠点があるのと同様に、回転方向(トルネイダー)が使用している幻想御手(レベルアッパー)にも欠点が存在する。
 それは、今後幻想御手(レベルアッパー)による補佐がないと超能力が使えなくなるというものだ。そしてそうなれば幻想御手(レベルアッパー)を使用する以前よりも能力強度(レベル)は下がってしまう。一時的なブーストと引き換えに今後の能力者人生を引き渡す契約。それが回転方向(トルネイダー)のために作られた幻想御手(レベルアッパー)である。
(積極的に攻めてこなかったのは強度(レベル)が上がるのを待っていたからですか)
 絹旗は拳を握りしめる。
 現在目の前にいる回転方向(トルネイダー)は自分と同じ大能力者(レベル4)。大能力者(レベル4)としての経験は絹旗の方が上とはいえ、相手はよりにもよってベクトル操作系能力者である。近接戦闘主眼の絹旗の勝率は、かなり下がってしまったとみてもいい。
 だがしかし。
 この場には絹旗以外にも能力者は存在する。それも、能力者の頂点、超能力者(レベル5)たる麦野沈利がである。
「麦野さん! 超チェンジです!」
 絹旗が叫ぶと同時に光と熱の奔流が目の前の回転方向(トルネイダー)を襲った。


     4

 絹旗最愛という少女は『アイテム』の中でもかなりの慎重派である。
 そんな絹旗が麦野に応援を要請した。それはつまり、麦野が能力を使ってもターゲットを殺さずに済む、と絹旗が判断したということだ。
 麦野沈利の能力、『原子崩し(メタルダウナー)』は、本来『粒子』又は『波形』のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を、
その二つの中間である『曖昧なまま』の状態に固定し、強制的に操る能力である。『曖昧なまま固定された電子』は『粒子』にも『波形』にもなれないため、 外部からの反応で動くことが無い『留まる』性質を持つようになり、この性質により擬似的な『壁』となった『曖昧なまま固定された電子』を強制的に動かし、 放たれた速度のまま対象を貫く特殊な電子線を高速で叩きつけることで、絶大な破壊力を生み出すのだ。その強力過ぎる能力故に、並大抵の相手では一瞬で融解してしまう。
 そんな麦野の一撃が放たれ、回転方向(トルネイダー)を襲う。
 舞い上がった煙が晴れた向こうに現れたのは身体の至るところを焼け爛れ、粗い息をついて膝を折る回転方向(トルネイダー)の姿だった。
(あちゃ、やりすぎたか......)
 その惨状を目にし、麦野は反省する。
 『アイテム』に与えられた任務は、回転方向(トルネイダー)を殺さずに追い返すこと。絹旗が大丈夫と判断したようなので一撃放ってみたが、危うく殺すところだった。
 麦野沈利は超能力者(レベル5)である。超越した存在である麦野には、格下たちの微妙な違いなど分からない。レベル40もレベル30も、レベル100の前では同じなのだ。
 それ故に格下である絹旗に判断を任せてみたのであり、事実として彼女の判断は間違っていなかった。
 息を絶え絶えの回転方向(トルネイダー)を前に、いつの間にかやってきて麦野の後ろに隠れていたフレンダが告げる。
「アンタさぁ、帰った方がいいんじゃない? ムリムリ、麦野に勝つなんて」
 その忠告に、回転方向(トルネイダー)は粗い息で答える。
 回転方向(トルネイダー)はベクトル操作系能力者である。その能力が十全ならば、麦野の『原子崩し(メタルダウナー)』を弾き返すこともできただろう。しかし、いくら大能力者(レベル4)になろうとも超能力者(レベル5)とそれ以下では越えられない壁が存在する。それは超越したマルチタスクによる圧倒的な超能力の操作技能である。回転方向(トルネイダー)がベクトル操作を行う前に、原子崩し(メタルダウナー)の粒機波形高速砲は対象を撃ち抜く。仮に前方の粒機波形高速砲の処理が間に合ったとしても、次々に押し寄せる電子の波に対応することは不可能である。回転方向(トルネイダー)は被弾直前で自身にベクトル操作を行い直撃だけは何とか免れたのだ。
 動かない、動けない回転方向(トルネイダー)を一瞥して、麦野は任務を終えるべく指示を出す。
「絹旗、もうこいつ動けないだろうけど、一応アレ外して」
 視線の先には奇跡的に損傷を免れた『幻想御手(レベルアッパー)』がある。
 それを外されれば、もはや回転方向(トルネイダー)に勝機はない。しかし、|回転方向(トルネイダー)がそれに抗う力はもう残っていない。
「『暗部』を舐めすぎなんだよ、お前は」
 麦野の吐き落とすその声は、突然の轟音と共に闇に消えた。


     5

 その場はまるで爆弾が爆発したかのように破壊されていた。事実、爆弾も爆発したが、被害の大元は別にある。
 地上より十数メートル上空で、この惨状を作り出した元凶たる学園都市序列第二位、未元物質(ダークマター)こと垣根帝督(かきねていとく)は対象の抹殺が上手くいかなかったことに舌を打つ。
「っち、邪魔しやがって......」
「てめぇ! 一体どういう料簡だクソ第二位!」
 垣根の下から、間一髪防御に成功した麦のが怒声を飛ばす。『能力追跡(AIMストーカー)』の能力を持つ滝壺が垣根の襲撃に逸早く気づいたため、麦野は何とか『原子崩し(メタルダウナー)』での防御が間に合ったのだ。一応『アイテム』のメンバー全員と捕縛対象である回転方向(トルネイダー)の命は助けれたものの完璧とは言えず、フレンダと滝壺が損傷を負ってしまっていた。といってもフレンダは鼻を折ったくらいであるし、滝壺は回転方向(トルネイダー)と共に絹旗に無理やり安全圏に引き込まれたときに、回転方向(トルネイダー)とぶつかっただけであるが。
「お前のような雑魚には興味ねぇんだよ、年増の沈利ちゃん。とっととそこの失敗作(グーフィーズ)から離れな」
(嫌な予感が今になって超当たりましたね)
 絹旗は垣根の言葉を聞いて、やっぱりもっと反対するべきだったと過去の自分を叱責する。
 回転方向(トルネイダー)を殺すなという今回の依頼。
 回転方向(トルネイダー)を殺すという垣根の言葉。
 あの憎らしい女上司はこうなることを知っていたのか。
(今考えても、超仕方が無いことですが)
 それよりも、と絹旗は自分たちのリーダーの様子を伺う。
 どうやら垣根に自分たちを害するつもりはないらしいが、果たして麦野はどうだろうか。
 自尊心の塊のような女である。やり逃げされて黙ってなどいられないだろう。
 しかし、先ほどの一撃が手加減されていたのは明らか。本気で攻撃されていたら今頃絹旗たちは生きてはいないだろう。あの攻撃は|回転方向(トルネイダー)だけを狙ったものであり、絹旗が彼を助けなければそれで垣根の目的は終わっていたのだ。
(任務を破棄すれば助かる。けれどあからさまにそれをするのは超まずい)
 今回の任務は学園都市統括理事会から直々に与えられたものであり、失敗することは非常に不味い事態になりかねない。しかしその妨害をしてきた相手は学園都市序列第二位の垣根帝督であり、そして『アイテム』という組織には確かに価値があるはずなのだ。つまり、ここで回転方向(トルネイダー)を見捨てたところで、すぐさま『アイテム』の面々が地獄行きになることはないであろうし、挽回のチャンスも巡ってくる。今までにだって失敗した仕事はあるのだから、ここは退くのも一つの手と言える。
 麦野は一体どうするつもりなの絹旗が伺っていると、後ろからフレンダの叫び声が聞こえてきた。
「ちょっと! 何してんのよアンタ!」
 慌てて振り向く絹旗。そこではちょうど、回転方向(トルネイダー)が白い粉末状のものを口に含むところだった。
(ちょっ、それは滝壺さんのーーーー)
 止める間もなく『能力体結晶』を服用してしまった回転方向(トルネイダー)。このような状況のもと、しかも重傷を負っていて、こんな行動をとると思っていなかった滝壺とフレンダの目を掻い潜った|回転方向(トルネイダー)は、目を閉じ、そしてゆっくりと開いた。
 カクカクと震えながら上がる手足。それはまるでマリオネットのような不確かさで。
 そして次の瞬間、回転方向(トルネイダー)を中心に竜巻が生まれた。
「うそ......適合した……?」
 傍で見ていたフレンダがその結果に唖然としているが、場所が場所なだけに危険極まりない。
 絹旗はすぐさまフレンダと滝壺の腕を掴み、その場から離れさせた。
「……まだそうとは限らない……これから暴走するかも……」
 滝壺はフレンダにそう呟くが、ならそうと分かっていて何ですぐに離れない、と絹旗は突っ込みたくなる。
 そしてそんな一連の事態でも麦野は滝壺たちを気にしてはいないが、それについて絹旗が思うことはいつも通り口の中へと飲み込まれた。
 回転方向(トルネイダー)を覆う竜巻は次第に激しくなり、巨大になる。
 そして、飛び上がった。
 竜巻を纏った回転方向(トルネイダー)は一直線に空を翔ける。一瞬で十数メートルも上昇し、垣根の目の前に現れた。
 回転方向(トルネイダー)は確実に『能力体結晶』に適合していた。
 『能力体結晶』とは、“演算”に“公式”与える薬である。暴走能力者と呼ばれる、通常よりも強力な能力を行使するも自我が保てないという状態に陥った能力者は、通常とは異なるシグナル伝達回路が形成される。それこそが“演算”を簡略化させる“公式”であるのだが、“演算”内容は能力者個人個人で違うため、必要となる“公式”もそれぞれ違っている。『能力体結晶』はそのうちの似たような“公式”を集めに集めてようやく形になったものであり、その“公式”を利用できる者もまた似たような“公式”が使える“演算”方法をとっている能力者だけである。そのため、ほとんどの能力者には『能力体結晶』が与える“公式”が適応せず、“演算”速度事態は上がるもののその精密生が著しく低下し、能力による自爆を起こしてしまうのだ。
 しかし、なんと偶然なことか、一抹の希望として回転方向(トルネイダー)が服用した『能力体結晶』は、見事彼に適合した。これにより回転方向(トルネイダー)の“演算”能力は跳ね上がり、遂には超越者へと辿り着く。

 超能力者(レベル5)。学園都市の頂上。御坂美琴(みさかみこと)や麦野沈利、そして垣根帝督と同じ、能力者たちの頂点。

 今確かに、回転方向(トルネイダー)はそこにいた。
 舞い上がる砂埃により灰色に染まる荒ぶる竜巻が、垣根帝督へと進撃する。
 触れるもの全てを巻き込み、触れるもの全てを弾き飛ばす。暴力の塊となった回転方向(トルネイダー)を前に、垣根帝督は目を向ける。
 自身に迫る回転方向(トルネイダー)のその様を見て。
 未元物質(ダークマター)は嘲笑った。
「同じ超能力者(レベル5)でもな。第二位と第三位の間には、第三位と無能力者(レベル0)の間よりも大きな隔たりがあるんだよ、三下がぁ‼」
 『未元物質(ダークマター)』の連続噴出により空中に浮遊していた垣根帝督の背中に、白く巨大な六枚の翼が生える。
 圧倒的な存在感と神々しさを携えた六翼が、回転方向(トルネイダー)を襲う。
 そして。

 ーーーー衝突。

 竜巻と六翼との邂逅は、音を消し去るほどの爆音を以て終わる。
 敗れた少年の身体が落下し、くしゃりと骨が砕ける音がする。
 勝利した青年の白翼が伸び、地に倒れ伏す少年の首へと向けられる。
 そしてそれは振り下ろされ。
 忽然と少年の身体はその場から消失した。
「なに⁉」
 これには垣根の他に、巻き込まれないように離れていた『アイテム』の面々も面食らう。
 しかし両者が行動を起こす前に。
 互いの通信機が同時に反応した。
 垣根と麦野は互いに顔を合わせるもあからさますぎる事態に、通信に応じる。
 かくして、両者の予想は当たった。
『垣根帝督。貴様には直ちにある任務を行ってもらう。これは他の何よりも優先しなければならない案件だーーーー』
『はぁーい、麦野。あんたたちの任務は終了よ。ボーナスあげるから帰ってきなさいーーーー』
 踊らされた。そのことを理解した二人は互いに通信機を握り潰した。



[36754] 終 章 フォーワンセルフ(Silly_Clown)
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 13:08
 道長昨也(みちながさくや)が目を覚ますと、見覚えのある病室にいた。
 これまた見覚えのあるベッドに寝かされていた道長は、窓から射し込む日差しを避けるためにカーテンを引こうと腰を起こし、激痛に襲われた。
「ーーーー⁉」
 腰から始まった痛みは、すぐに体中に伝播し、そして新たな痛みを引き起こす。改めて体中を確認すると至る所に包帯が巻かれ、片足は骨折しているのか持ち上げられていた。
「ーーようやく目覚めたようね」
 掛けられた声に驚いて道長が振り返ると、再び激痛が走った。それでも相手の人物を視界に収めることには成功し、ようやく誰だか半別がついた。
「……結標淡希(むすじめあわき)……」
「ええ、そうよ。ーーで、私があげた情報は役に立ったのかしら?」
 そう言われて、道長はようやく自分が何故病院(ここ)にいるのか思い出した。
 幻想御手(レベルアッパー)で能力を元に戻した上で強化し、更には何かの強化薬と思われるものを奪って服用してみて力を得たものの、呆気なく撃墜されるという無様な結末。一方通行(アクセラレータ)を倒し『絶対能力進化(レベル6シフト)』を止める絶好の機会だったというのに、その舞台にすら立てず敗北した。
 気になるのは御坂美琴(みさかみこと)の末路だ。己の命と引き換えに部の悪い賭けに出た彼女結末は、一体どうなったのだろうか。
 その疑問に答えるかのように、淡希は喋り始めた。
「まず『絶対能力進化(レベル6シフト)』だけど、中止になるそうよ」
 道長はほっと一息つく。どうやら美琴はやり遂げたみたいだった。勝率の低い賭けであったが、一人で成し遂げたのだろう。
 これじゃあ俺が行く意味もなかったのかもしれんな、と道長が一人悦に浸っていると、淡希が言葉の水を掛けた。
「“たまたま”現場に居合わせた無能力者(レベル0)と協力して超電磁砲(レールガン)は一方通行(アクセラレータ)に勝利。いや、前面に出て戦った無能力者(レベル0)に負けたことにより、一方通行(アクセラレータ)の『最強』に疑問が生じ、そのまま計画は白色に戻る。こういう結末のようよ」
 何だそれは。
 道長は呆然とする。
 御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)に勝利した。それはまだいい。自分は垣根帝督(かきねていとく)に手も足も出なかったが、美琴は正真正銘の超能力者(レベル5)なのだから。
 けれども、無能力者(レベル0)が助けに入り、あまつさえ一方通行(アクセラレータ)を打倒したというのはどういうことか。
「どう? 驚いたでしょ。けど、これは最初から決まっていたことなの」
 それを『プラン』と淡希は言った。
 学園都市で密かに行われ続けている、学園都市統括理事会会長アイレスター=クロウリーが描く計画。妹達(シスターズ)が生み出されたのも、一万人ものクローンが殺されたのも、『絶対能力進化(レベル6シフト)』がこの段階で中止されたのも全て、『プラン』に従ったものだという。
「さて、もう一度問うわ。――――学園都市に恨みはない?」
「俺は――――」
 道長昨也が人殺しを行ってしまったのも、その罪をこの身に背負うことになったのも、今こうして重傷を負っているのも、全て『プラン』によるものだとして。
 ならば道長昨也には一体何が残る?
 『プラン』はいつから始まっていた? 
 『超能力進化(レベル5シフト)』に参加したときか? 『回転方向(トルネイダー)』の能力を手に入れたときか? それとも学園都市にやってきたそのときか?
 考えれば考えるほど、道長の中の“自分”が希薄になっていく。
 学校のクラスメートは本当に友人か? 監視のために送り込まれた『暗部』の人間ではないか?
 近所の住人に怪しいところはないか? 知らないうちに思考を誘導されてはいないか?
 疑い出せば切りがない。けれども、偶然に思えるような事態までもが『プラン』の内だと言うのならば、全てが疑わしく思えてしまう。
 それもこれも、学園都市が原因だ。
「俺は――――」
 差し出された白い手を握ろうと腕を動かす。
 そして何度目かになる激痛が走った。
 痛い。ただ純粋に道長は思う。
 そう、痛いのだ。身体中の傷が痛いのだ。道長昨也は痛いのだ。そして“彼女”も痛かったはずなのだ。
 痛い。そう呟いて、道長は腕を戻す。
 分かっていたことだ。どんな経緯だろうと、“彼女”を殺したのは紛れもない自分であり、他の誰でもない。そこにどんな思惑が入り込んでいようと関係ないことであるし、たとえどんなに誰かを助けたとしても過去の事実は消え去りはしない。
 だから、名も無き無能力者(レベル0)の存在に感謝することはあっても、恨むなんて、妬むなんてしてはいけない。
 自分は何のために動いたのか。クローンたちを助けるためであろう。ならば、それは達成されたのであり、それは素晴らしいことなのだ。
 けれども、道長の中に渦巻くこのもやもやが消えることはないだろう。
 クローンたちをこの手で助ける。それは彼にとって贖罪であり、逃避だったのだ。
 結局のところ、道長は認めたくなかったのである。
 “彼女”を、欠陥電気(レディオノイズ)試行検体(プロとタイプ)を殺す瞬間、仕方がないことだと本当は一瞬思ってしまった事実を。放たれた銃弾を、“彼女”の額に撃ち返したのは、確かに自分自身なのだという事を。
 全ては仕組まれていたと思うことで、贖罪行為で自身を正当化しようと、殺人の罪から逃げようとしていたのだ。
 けれどそれは、ただの責任転換でしかない。
 己の罪は、己で背負わなければならないのだ。 だから、道長は差し出されたその手を握るわけにはいかない。
「俺は、あんたたちの仲間にはならない」
 道長昨也の回答に、結標淡希はやはり不敵に笑った。



 学園都市のとあるオープンカフェで、二人の少女が腰掛けていた。
 一人は高校生。後ろ首を晒したおさげの髪型に、上半身はサラシという大胆な格好。昼間から外に出歩く姿とは思えない。
 もう一人は中学生。溢れんばかりの巨乳を抱え、金髪を華麗に腰まで垂らしている。『女王』の名に恥じぬ貫禄を携えた歳不相応なその様は、見るものに年齢詐称を疑わせても仕方が無いと言える。
 間違いなく人目を引く二人だったが、『女王』の少女によって周囲の人間は誰一人彼女たちを認識できなくなっているので問題はない。
「改めて思ったけど、あなたの能力(それ)、反則よね」
「当然じゃない。私を誰だと思ってるのよぉ。でも御坂さんには弾かれちゃうのよねぇ。なによ、あの電磁フィールド」
 可愛らしく悔しがる金髪の少女。それでも彼女は『女王』の名を欲しいままに振る舞う存在であり、その見せる表情は果たして本物なのだろうか?
「まあ結局、みんな手のひらの上なわけだしぃ」
 金髪の少女はニヤリと笑う。そしてそれに同意するようにおさげの少女は不敵に笑った。
 学園都市が進める『プラン』。全てはその計画通りに事は進んでいる。
 例えば御坂美琴。心優しい、現実を知らない子供である。自身のクローンが虐殺されていると知れば、必ずそれを阻止するために行動する。
 例えば垣根帝督。自身が、『プラン』の主軸である一方通行(アクセラレータ)のスペアであることを知っている彼は、『第二候補(スペアプラン)』から『第一候補(メインプラン)』へと成り代わろうと躍起である。そのために、一方通行(アクセラレータ)の代理に成り得る存在を潰し回っている彼である。一方通行(アクセラレータ)の成り損ない、失敗作(グーフィーズ)の存在は知っているであろうし、その内の一人でも居場所が知れれば当然、殺しに行く。
 例えば道長昨也。罪を清算する千載一遇のチャンスがあると知れば、それに乗らない道理はない。
 あとはそうなるように、彼らの周りを弄るだけ。
 精神の書き換えを呼吸よりも簡単にこなす彼女にとって、その程度造作もない。
 全ては『プラン』通りに、与えられた任務通りに事を終わらせた二人の少女は、昼の明かりの下、優雅に紅茶を啜る。
「それでぇ、ホントウによかったわけぇ? 回転方向(トルネイダー)をあなたの傀儡にしなくてもぉ」
 おさげの少女の願い、学園都市に刃向かう愚かな計画を知っている金髪の少女はそう尋ねる。
 そこに、道長昨也を人間として見る目はない。彼女にとっては道長昨也など、人の形をした置物も同然である。人権など与えないし、事実として彼女は他人(ヒト)の権利など簡単に踏み躙る。
 回転方向(トルネイダー)などただのゴミであるが、だからといって価値がないわけではない。切れるカードが多いに越したことはないだろうと、金髪の少女は打診する。
 けれども、おさげの少女はあり得ないとばかりに首を振った。
「アレはこっちには来ないわよ」
 それにね、と彼女は続ける。
「私は歳下にしか興味ないの」
「うわぁ。やっぱ真性のショタコンだわぁ」



[36754] 後書き
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:456c14fe
Date: 2013/02/22 13:09
 というわけで完結しました本作『とある道化の回転方向』です。
 途中、題名が『とある科学の回転方向』→『とある無様な回転方向』→『とある道化の回転方向』と二転しましたが、現在の『とある道化の回転方向』で題名は確定です。もう変更しません。ええ、変更しませんとも。
 僅か七話という短い作品でしたが、最後まで読んで頂いた読者の方には感謝の念をここに記します。チーレム(チート+ハーレム)も説教(原作アンチ)も原作ブレイクもない、設定まみれの作品でしたが(“演算”とか能力体結晶とか)少しでも皆様の娯楽となることができたのなら幸いです。
 さて、なんか中途半端に、打ち切りエンド的に終わった本作ですが、当初は続編を予定しておりました。ちなみにどんな内容かというと............


「ようこそ、学園都市第二十四学区(アンダーグラウンド)へ」


 はい、さっぱり分かりませんね。だいたい冒頭は以下の感じです。


・『終章』で淡希の仲間にならなかった道長は、情報拡散阻止のために淡希に栓抜き攻撃(詳しくは原作第八巻)を受ける。

・目が覚めると、目の前に怪しい研究員が。

・「ようこそ学園都市(以下略」


 学園都市第二十四学区(アンダーグラウンド)とはその名の通り地下都市で、第二十二学区よりも遥か下に存在する『学園都市そのものの代理都市』です。
 えっと、どういうことかと言うと。『プラン』には幾つものスペアがありますよね? だったら学園都市そのものにもスペアがあったりしないかなぁ、なんて......。
 で、まあ、そこでは地上の学園都市と同じように『プラン』が進められているわけですが、あくまでスペアなので、このアンダーグラウンドは本当に必要な機能しか持っていません。また、一方通行や超能力者は地上にしかいないので(当然ですよね)、アンダーグラウンドにおける一方通行やその他の重要人物は全て代理がこなしています。はい、そうです。道長君には一方通行の役割を演じることがアンダーグラウンドでは求められます。他にも美琴の代理(当然シスターズの誰かですが)とかいたりするわけですが、ある日地上から襲撃者が現れます。もちろん、垣根帝督です。そして再び合間見える道長と垣根。果たして道長の運命は!?みたいな展開になる予定でした。
 没で。

 そして次に思いついたのは、というか執筆中に考えていたのはこんな感じのやつになります。


「姫神秋沙か。ーーーー美人だ............」


 はい。幸薄ヒロインこと姫神とのラブロマンス、でもなくラブコメでもなく、道長が一方的に姫神に惚れる話です。まあ、姫神は終始上条Loveなわけですが。
 『原石』である姫神を、学園都市の悪の組織の手から影ながら助ける、そんな話でした。もちろんそんな道長の活躍は姫神に知られることはないんですが。
 そしてなんと、この姫神ルート(?)に行った場合は、もう一つ話が、つまり三部作になる予定でした。ちなみに三部目はこんな感じです。


・前方のヴェントが学園都市に侵入。

・「虚数学区を展開せよ!」

・「まだ調整が足りません!」

・「奴を使え。使い潰しても構わん!」


 えっと、どういうことかと言うと。『回転方向(トルネイダー)』の能力である『限定』と『固定』を使って、シスターズたちが展開する虚数学区を一時的に強化する、という話です。そのため、再び道長に『学園都市の闇』が迫り、最終的に、今度こそ道長は能力を失う、という予定でした。

 まあ、本当は三部作バージョンを書こうかなと思ったりもしたのですが、断念しました。
 何故か。
 それは、完結に二、三年かけてしまいそうだったからです。いや、まあ、二、三年くらいかければいいと思うんですけどね。
 ただ、もともとこの作品を書き始めた理由が『完結作品を一つ作る』というものだったので、完結できる内に完結したかったのです。
 という訳で、この作品は完結です。完結しました。異論は、もしかしたら認めるかもしれませんが、掲載する時は書き溜めてからです。



 さて、それでは次回作予告です。
 今度はあの『IS/インフィニット・ストラトス』に挑戦してみたいと思っています。
 もちろん、本作同樣、チーレムも説教もありません。原作ブレイクはどうとるかですが、たぶんありません。かといってオリ主もでません。
 まあ、つまりは性格改変ものみたいな感じですが、少し違います。
 どういうことか説明する前に。

 『IS』を知っている人に聞きます。
 セシリアの当初の言動に、国家代表候補生として違和感を覚えませんか?
 鈴音が一年で国家代表候補生になったことに、違和感を覚えませんか?
 シャルロットの男装理由に、違和感を覚えませんか?
 ラウラの当初の言動に、軍人として違和感を覚えませんか?
 箒の言動に、違和感を覚えませんか?
 そして一夏の唐変木ぶりに、男として(女性もいるかもしれませんが)違和感を覚えませんか?

 もしそれが、全て嘘だったとしたら。
 彼らの言動が、全て演技だったとしたら。

 嘘と真が混じり合う、本当のIS学園。表向きはハイスピードラブコメ、裏の事情はドロドロ。

 とまあ、こんな感じです。題名は『腹黒一夏くんと演技派箒ちゃん』でいこうと思っています。『コードギアス』のルルーシュや、『デスノート』の夜神月みたいな織斑一夏を目指します。でも、コメディーぽくなれたらいいなー。
 三月中に投稿できたらいいなと思っています。



[36754] 登場人物紹介
Name: Mr.エスカルゴ◆b0b9ac2e ID:f541ebf4
Date: 2013/03/03 16:52
【登場人物紹介】

道長(みちなが)昨也(さくや)

 本作品の主人公。一般人の感性を持つが故に、過去の罪を引き摺る少年。彼の未来は全て他者の思惑通りに作られており、その役割は一方通行(アクセラレータ)のスペアを構成する要素の一つ。一方通行(アクセラレータ)のスペアには、一人でそれが為せる垣根帝督による『第二候補(スペアプラン)』と、複数人の共同体で初めて一方通行(アクセラレータ)として機能する『失敗作(グーフィーズ)』の二つが存在する。道長昨也は『失敗作(グーフィーズ)』の中核を為す存在であり、またスペアとしての役割以外にも『虚数学区』の補強という役割も担っている。そのため、彼が学園都市から逃れることは許されない。しかし、知らなければ自由であり続けることができる。その前に垣根帝督に殺されなければいいが。おそらく、九月三十日までに死亡する。


姫神(ひめがみ)秋沙(あきさ)

 本作品のヒロイン…………になれたかもしれない少女。残念ながら話がそこまで辿り着かなかったので未登場。仮に登場していたとしても上条当麻にぞっこんであり、道長昨也の恋は成就しなかった。


上条(かみじょう)当麻(とうま)

 原作の主人公。『あらすじ』に名前が出てきただけで本作品本編には『無名の無能力者(レベル0)』として存在が仄めかされた程度。道長昨也が地べたを這いずり回っている間、御坂美琴と共に一方通行(アクセラレータ)と戦っていた。


禁書目録(インデックス)

 原作のヒロイン。影も形もない。


御坂(みさか)美琴(みこと)

 原作のヒロイン。自身は一度も姿を現していないのに、名前だけはやたらと登場しており、存在感だけはある。道長昨也は彼女のことを、容姿端麗、学業優秀、運動万能、品行方正、才色兼備だと思っているが、あっているのは学業優秀と運動万能だけである。他の三つは常磐台(ときわだい)中学に対する幻想の産物である。ちなみに、仮に道長昨也と御坂美琴が共闘して一方通行(アクセラレータ)と戦っても、チームプレーができないので負けていた。


一方通行(アクセラレータ)

 原作の主人公。彼の『反射』は凄いんです。


垣根(かきね)帝督(ていとく)

 第二候補(スペアプラン)の少年。自分に代わる『プラン』を潰そうと躍起になっている。今回は邪魔が入ったが、機会があれば道長昨也を殺すつもりである。


結標(むすじめ)淡希(あわき)

 自他共に認めるショタコン。道長昨也を誘導する任務の中で、彼を自身の手札にしようと動いていた。けれどもショタコンなのでやっぱりやめた。彼女の仲間は皆少年で形成されている。


食蜂(しょくほう)操祈(みさき)

 今回の事件を影で操っていた年齢不詳の少女。学園都市から下された任務に従って、御坂美琴に『絶対能力進化(レベル6シフト)』の情報がいくように妹達(シスターズ)を、垣根帝督に『失敗作(グーフィーズ)』の情報がいくように彼の部下を、道長昨也が現場に来るように彼本人を、道長昨也に検体番号(シリアルナンバー)一00三一号の死体を見せるために足止めとしてクリーニング屋のバイト女学生を、精神操作していた。


冥土帰し(ヘブンキャンセラー)

 達してしまった医者。本来なら彼の出番はもっと多く、第三章の題名は『シスターズ』ではなく『ヘブンキャンセラー』だった。しかし、そのシーンの参考にしようと思っていた、九月三十日の話が載っている原作の巻を持っていなかったため、断念した。


アレイスター=クロウリー

 学園都市を作り上げ、『プラン』を押し進める謎の人物。学園都市の悲劇は大体こいつのせい。


欠陥電気(レディオノイズ)施行検体(プロトタイプ)

 御坂美琴のクローンの中で最も初めに産み出された検体。クローン製造のテストを兼ねた検体であり、妹達(シスターズ)には含まれない。そのため『御坂ネットワーク』へのアクセス権も保持していない。


検体番号(シリアルナンバー)00000号(フルチューニング)

 『妹達(シスターズ)』として初めて製造された試作品。


検体番号(シリアルナンバー)一00三一号

 死体となって登場しただけ。『絶対能力進化(レベル6シフト)』の最後の犠牲者。


検体番号(シリアルナンバー)一00三二号

 名前だけ登場。『絶対能力進化(レベル6シフト)』で危うく殺されるところだったのを、上条当麻に救出される。


麦野(むぎの)沈利(しずり)

 『アイテム』のリーダーを務める女性。強力な能力者だが、強すぎて出番がなかた。


絹旗(きぬはた)最愛(さいあい)

 『アイテム』に所属する幼女。色々頑張っているがまだまだ十二歳の幼女。道長昨也の『回転』を打ち破るも、そこで出番終了。


滝壷(たきつぼ)理后(りこう)

 『アイテム』に所属する少女。本作品内での役割は『能力体結晶』を届けること。


フレンダ=セイヴェルン

 『アイテム』に所属する少女。トリックメーカーであるが、彼女が仕掛けた爆弾は垣根帝督の攻撃で爆発した。


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