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[35299] [完結]リリカル ふみ☆だい
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/10/04 01:53
※このSSは最低系です。
 タイトルを [初投稿]リリカル二次(タイトル未定) にしようかなと思ったけど流石にやめた。



海鳴市 某年 1月5日 昼前

 高町家での正月の年越し会(集まって紅白を見て飲んで食べて初詣に行く会兼、JS事件後始末完了お疲れ会&六課解散パーティー)が一段落した頃。
 初詣も終わりクロノとエイミィは「八ツ橋」を手にミッドチルダに戻り、両家の実家をこれからまわるとか。
 ユーノはタイミングを同じくして「ひよこ銘菓」を手にスクライアの部族へと向かった。
 エリオとキャロはスバル、ティアナの両名に連れられてナカジマ家に訪れ、その手には「もみじまんじゅう」があったという。
 実は料理が上手いと噂のギンガの正月料理を楽しみにしていた。
 ヴィヴィオは高町家で今頃なのはと一緒に雑煮のおもちと奮闘中に違いない。

 さて、各自が実家や親戚、親しい友人宅をまわり、仕事始めの準備へと向かう中、海鳴市の街中を一人足早に歩くフェイトさん22歳の姿があった。
 六課発足からゆりかご撃墜までの期間より、その後の復興と報告と後始末に利権調整などの方が遥かに時間を要し、気付いたら年単位の時間が経過していた。
 早期に六課から除隊したキャロとエリオに至っては海鳴市の小学校に半年間ほど短期で通っていた程である(しかもそれが終ったのは半年前である)。
 さて、そんなフェイトであるが時折キョロキョロと周囲を伺い、手に持つ待機常態のバルディッシュを気にしている。
 どうやら周囲にサーチャーまで飛ばしているらしく、挙動不審なその様はどう控えめに見ても彼女が普段捕まえている逃亡者……つまり犯罪者のそれであった。

「(ううぅ……誰にも見られてないよね?誰にも見られてないよね?バルディッシュ)」

『Yes,sir』

「(なのはにバレたら絶対怒られちゃうよ……でもでも、しょうがないんだ。しょうがないんだよ。ね?バルディッシュ)」

『………………sir』

「(その『間』は何なのぉぉぉお???一大事なんだよ!本当なんだからね!)」

『………………』

「(何か言ってよバルディッシュぅぅぅぅ!!)」

『……裏切り行為では?』

「………ちがうよ」

 フェイトは口に出して己がデバイスを否定すると、立ち止まってそっとバルディッシュを持っていない方の手でおへその下辺り、下腹部をそっと撫でた。

「大切な……ことなんだよ」

 顔を上げれば、そこにはどこにでもありそうなアパート。
 その2階の一番奥の部屋が、フェイトの目的地だった。
 ここ周囲2kmには、他にフェイトが寄り付きそうな場所は存在しない。
 駅もスーパーも知り合いの家も無い。
 だから、この付近にフェイトが居るという事は、『ここ』に用があるという事。
 なのはやはやてが知ったら怒り狂うだろうなとフェイトは冷や汗とかきつつも、カンカンと鉄製の階段を上がってゆく。
 廊下の先には郵便物がドアのポストからはみ出ている部屋がある。
 長期間留守にしているためではなく、純粋にものぐさで溜め込んでいるだけと知っているフェイトは軽くため息をつきながらもチャイムを鳴らすが……反応が無い。
 あれ?とフェイトは不審に思いながら、こんどはドアをノックしてみる。
 やはり反応が無い。


「(…………居ない?)」

 連絡手段が無くてアポ無しでは来たが……
 いや待て、寝ているだけかもしれない。
 しかし……流石にそれは……
 でもここでおめおめと帰るわけには……
 フェイトの頭が一瞬フリーズしかけるが、今は自分ひとりでは無い事を思い出す。
 そっと下腹部を撫でてデバイスを持つ手に力を込めた。

「(バルディッシュ?)」

『中には誰もいないようです。しかしサーモセンサーで走査した結果、ストーブらしき熱源を確認』

「(ストーブがついてるって事は……すぐ帰ってくるよね。バルディッシュ、魔力偽装結界お願い。もしなのはが私を探してもバレないように)」

『sir…………ハァ』

「(何でデバイスなのに『溜息』ついてるのぉぉぉぉお??)」

『彼に会うのはマスターの未来にとってプラスになるとは思えません。考え直すべきでは?』

「(どうしても私は彼に会わなくちゃいけないの!必要なの!解るでしょう?………バルディッシュには……理解して欲しいんだ)」

『……sir』

 その時、かんかんと鉄を叩く音が後ろから聞こえてきた。
 階段を上がる音、なんとなく解る、彼だ。
 フェイトが振り向くと、果たしてそこに目的の彼は居た。

 今、自分は自然な笑顔で笑えているだろうか。




「あれぇ?フェイトさんコッチ来てたんだ。あけましておめでとーございます」

「うん、おめでとうケーイチ」


 背は170cmジャスト程だろうか、やや細めの体型に肩まで伸びた黒髪。
 焦げ茶の瞳は、よく見れば右目の方がやや赤色が強い事に気付くだろう。
 かれこそがフェイトの目的地であるアパートの住人、春原圭一(22)である。
 言うまでも無く、彼こそが『ふみ☆だい』転生者だ。


「態々悪いね新年の挨拶でこんな遠くまで。あぁそうか、ミッドじゃ年賀状も遣り取りできないしな」

「ううん、いいの。っていうか私、ここの住所知らないし……」

「たはは、そういやそうだ。俺も教えた記憶ねぇや。初詣はもう行ったのか?」

「大晦日の年明けすぐにね。ケーイチも来ればよかったのに。みんな居たよ?」

「いや、今知ったんだが……」

 お互い、言葉を交わす。
 この寒空の下、部屋の外で。
 ケーイチは彼女が何の目的で『ここ』に来たか、何となく気付いていた。
 それをやんわり拒否するように、彼の口からはある言葉が出ない。
 『寒いしちょっと上がっていくか?』
 その言葉が。

「あ、そそそそうなんだ!てっきりなのはが連絡してるのかと」

「いやぁ、多分高町さんもそう思ってると思うんだよなぁ。パターン的に」

「あれ?ユーノとかクロノとかとも仲良くなかったっけ?」

「アイツらはケータイを持ってねー。そして俺はリンカーコアを持ってねー」

「あ、なんかごめん」

「いいんだ、空を飛びたいと思った時はあったけど。高町さんが叶えてくれたし」

「え?なのはが?ちょっとそれ私聞いてないんだけど」

「あー、いつだったかな。小学校の真ん中くらいの時だったか?こうバンザイした俺の手を高町さんが掴む形でさ。いやあの時は空を飛んだ感動よりも『この手を放されたら死ぬ』ってシチュの方が怖かったワケだが」

「そ、そうなんだ……クシュンッ!」

「おいおい大丈夫か?」

「うん……あの、さ……ちょっと中に入れてもらっても……いいかな」

「ッ……あぁ、いいぜ」

 フェイトから切り出す事でようやくケーイチは了承し、鍵を開けてドアを開いた。
 ストーブによって暖められた空気が逃げぬうちにと、2人はさっさと部屋に入る。

「ネスカフェのプレジデントと紙パックの甘酒をチンするかの二択になるけどどっちがいい?」

「チンで!」

「なんかエロイな」

「あわわわわわ!」

『落ち着いてください』

「全くだよ!」

「どうした?」

「ううん!」


 ケーイチは冷蔵庫から円柱状の紙パックの甘酒を2つ取り出すと、ぺりっとふたを剥して電子レンジに投入した。
 ヴン…とオレンジのライトとともに回転を始めるトレイをぼんやりと眺めるケーイチの横顔を眺めるフェイトの顔は、どうしてかどんどん赤みが増していく。
 本人も火照っているのが自覚できているようで、それがさらに赤みに影響を及ぼしているようだ。
 やがてチン、と小気味良い音と共に加熱も終わり、ケーイチはタオルで巻いた紙カップをフェイトに手渡した。

「ほら」

「あ、ありがと……」

「顔赤いけどホント大丈夫?高町さんち連絡しようか?」

「な、なのはの連絡先しってるの?」

「え?うん。多分財布の中に翠屋のレシートあるし」

「あぁ、そっちかぁ」

「何が?」

「いやなんでもないだけど」

「っていうか高町さん地球で使える携帯持ってないんじゃないか?」

「あ、そっか……」

「そういやアイツ彼氏とか作らないのかね」

「えっ、どうだろう。娘はできたけど」

「え?式の招待状が来てないのは置いとくにしても翠屋の年賀状にもそんな事書いてなかったぞ。相手は?」

「いないよ、養女だから。っていうか翠屋から年賀状って来るんだ」

「幼女なのはわかってるよ出来たの最近だろうし。月イチのメールマガジン配信で来るんだよ。見せると10%引きになるんだぞ」

「いやうんごめんちょっといろいろ待ってね、そういえばJS事件の話とかしたことなかったもんね」


 フェイトは話せる範囲でJS事件の話を……といっても重い話を避けたので身寄りの無い犯罪被害者の子供を引き取った、のような表現になったが。

「そうか。ちなみにメルマガの配信は高町さんの親父さんがやってるぞ。レシートについてる二次元バーコードを読み込んで空メールを送信すりゃいいんだ」

「ごめん、私ケータイ持ってないから……」

「そうか、すまん……」

 あ、ダメだ。
 このままじゃ雑談して終っちゃう。
 律儀に座布団の上で正座していたフェイトは膝の上でぎゅう!と拳を握り締めると、勇気を出して用件を切り出した。

「あ、あ、あのさ、ケーイチ」

「んぅ?」

「そ、その……ね?アレ……シて……欲しいんだけどさ」

「え゙ぇ?」


 今までの和気藹々とした雰囲気から一転、一気にケーイチの機嫌が悪くなった。


「もうしない……あれっきりだって約束だったろ?」

「でもでも、私もう明日にはミッドに帰らなきゃいけないし、体の事だし、こんなのケーイチにしか頼めないし」

「俺以外にんなヤツいねーだろうけどさ……居たら代わってもらうわホントに」

「そんな事言わないでよ!私……私ケーイチだから頼めるんだよ?」

「クソ、解った、解ったよ……おい待て、何故サイフを出す」

「え、だって前に『次は金取る』って」

「バカお前それはお前らがここに通ったりしないためで……って万札3枚とかリアルな金額をしまえ。取らねぇよ金なんて」

 ケーイチはひとつ大きな溜め息をすると、観念するかのように首をひとつ振り立ち上がった。

「布団しくからちょっと待ってろ。流石に床じゃその……痛いしな」

「う、うん」

 マットレスを敷き、敷布団を敷き、シーツを掛ける作業をフェイトは両手で持った甘酒を何度も持ち替えながら見ていた。

「(うぅ……キンチョーしてきた……私今きっと顔まっかだよ……)」

「ね、ねぇ」

「んー?」

「靴下は脱いだほうがいいかな?」

「どっち答えても八神にイジられそうだからどっちでもいい」
 
「言わないよ!」

「そおかぁ?ぽろっと言っちゃいそうだけどな。『えっ、ケーイチは靴下はいたままがいいって言ってたよ』とかさ」

「言わないったら!……けど上着は脱ぐね?」

「だから報告はやめろ生生しい」

「乙女心なんだよ!」

「ここ来た時点でドブに捨ててんじゃねーか」

「泥の中でも光り輝くんだよ!」



 敷き終わった布団にフェイトは後一歩の所まで近づく。
 この一歩を踏み出せば、もう取り返しのつかない所まで自分は行ってしまうだろう。
 ごくりと唾を飲み込み、右足を…………


「あー!フェイトちゃんが抜け駆けしてるっ!!!」

「なのは?!」


 二人が振り返れば玄関には、仁王立ちした高町なのはその人の姿が!!




「フェイトちゃん……何で?何で私には教えてくれなかったの……?フェイトちゃんはケーイチくんの時はいつもそうだよ……私、悲しいよ」

「ち、ちがっ、違うのなのは!」

「ずるいよ!フェイトちゃんばっかり!私だってケーイチくんの事踏みたかったのに!

「ごめんね、ごめんねなのは、でも私、正月のお料理がおいしすぎて……」

「うん、わかるよ。私も一緒だから……だから、ね?フェイトちゃん。一緒に踏もう?」


「おいやめろ」



 春原圭一、彼は『踏み台にされて踏み台昇降運動をされると相手の脂肪を効果的に燃焼させる能力(1kg/600sec)』を持つ転生者である。
 そんな彼の部屋に、青い楕円形の光がみ゙ょーんと突如出現すると、中からはなんとエイミィの姿が。

「けー君おっひさー!お年玉上げるからちょっと踏ませてね。後で義理母さんも来るか……ら……あ、お楽しみ中だった?ごめんね」

「断じて違う!俺はただ……踏まれそうになっていただけだ!」

「うわっ二人ともそういう趣味だったの?ちょっとクロノ君通してユーノ君に相談してくるね」

「ちょ、エイミィさんも同じ要件でしょ?!レイジングハート!今の会話録音してたよね?」

『証拠はバッチリです。sir!!』

「フェイトさん、あそこに居る犯罪者を君は逮捕すべきだと思う」

「えっと……今、オフだし?」

「絶望した!お役所仕事に絶望した!!」


 み゙ょーん


「やっほー!あけましてはやてちゃんやで!!早速やけどけー君にお年玉やで。なんとはやてちゃんに踏まれるっていうご褒美を……あ」

「主、仕事始めのパーティーに着ていくドレスが入らないからといって春原を踏むのはやめてください!確かに守護騎士はいくら食べても太りませんがその男は私の彼氏です……む」


「「「「…………………………シグナム今何て言った?」」」」


「よし、とりあえずお前ら帰れ。シグナムは俺と初詣行こう」

「すまないが初詣は主ともう行ってしまったんだ」

「俺の初詣に付き合ってくれよ。別に何度行ったっていいじゃないか。そんで出店でなんか食べよう」

「そうか…………ならば和服に着替えてこよう。せっかくだからお前に見せたい」

「待った!シグナム待った!!え?どういう流れなん?これどういう流れなん?最近のオリ主ははやてちゃんラブがデフォやろ?」

「私だって人気あるんだよ!」

「はいはい結局妹ポジションから出られないパターンな」

「そんな事……ないもん」

 草食系なんて……と崩れ落ちるフェイト。

「わ、私は?家は遠いけど学校ずっと一緒だったんだよ?!」

「いや、大学卒業前にして中学校までの同期とか今更……」

「うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 中卒とか痛いとこ突かないでよ!となのはも崩れ落ちた!

 ピンポーン

「これ以上増えんの?!」

「おいまて八神、愛人が次々見つかったみたいに言うな」

「そうです主はやて、春原圭一の女は私シグナム一人です。それ以上もそれ以外もありえません」

「ぐぎぎぎぎぎ」


 どんどんどんどん!

「ハルハラ居るんでしょー?!ちょっとすずかも居るんだけどさ、その……お礼はするから!!」

「アリサちゃんとすずかちゃんまでー?!」

「ちょ、何で知っとんねん」

「八神が一昨年のバレンタインに酔っ払ってバラしたんだろーが!!」

「てへっ」

(男女比は)ハーレム end



フェイトが脱ごうとしていたのは少しでも踏んだ時に軽くなりたいという乙女心ですがそもそも重くなったからケーイチの部屋に来たんじゃんっていう。


シグナムかわいい。








 み゙ょーん


「ハルハラさん!来週エリオ君とデートに行くんですけど!」

「キャロちゃんまで?!」

「ちょいまち、それは流石に頼まれたからって犯罪やで」

「ふざけんなキャロがお前らみたいなドロドロした要件で来るわけないだろうが」

「あれ?キャロそのノートどうしたの?」

「はい!私が持ってる服のリストです!」

「デート用に組み合わせのコーディネートしてるんだよ」

「最近オサレだと思った!」

「あれ、シグナムも最近休日オサレやよね?」

「よく春原と買い物に行きますから」

「ちょ、私の分も買って!」

「シグナム!これ以上収集がつかなくなる前に逃げるぞ!」

「承知!」

「あっ逃げたー!」

「エイミィ!たのむで!」

「ビンゴ!見つけたよ!」

「追えー!」


リリカル ふみ☆だい 終劇



[35299] ぼーいみーつがーる
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/09/26 18:47
レイハ「ふみ☆だいチャンネール!!このコーナーでは前回の話をキュルルンッと一行でバルディッシュちゃんががまとめちゃいます☆ミ」

レイハ「さてバルディッシュちゃん、前回なのはちゃん達がビリビリ……フェイトちゃんに気付かれずにアパートに突入できたのは何でかなぁ?」

バル「通報しました(レイジングハートに)」

レイハ「ななななーんと!バルディッシュちゃんが裏切っていたのです!よっこのブルータス!!生きてて恥ずかしくないの?じゃあみんな、バイビーv」

※この映像は机の上にぽつんと置かれた待機常態のデバイス2体からの提供でお送りしています。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ギルティ(有罪)。罪状は『彼氏報告義務の放棄』や。犯した罪は償わなならん。シャマル?」

「そうねぇ、おかずはメザシ2匹と沢庵、それと具抜き味噌汁一ヶ月の刑が妥当かしら」

「問題ありません、好物です」

 ず、とお茶を飲みながら答えるシグナム。
 これには八神家も苦笑い……していなかった。
 主に家長のはやてが。

「……ホンマか」

「何がでしょう」

 ここはミッドチルダが八神家のダイニング。
 いつのまにか用意されているホワイトボードには「第82回家族会議『シグナムに彼氏が出来た件』」と赤いペンで書き込みがしてあった。

「ホンマに……耐えられるんか?シグナム。ウチらは遠慮なんてせーへん。キチっと料理は……させてもらうで?」

「構いません」

「シャマルゥ!今日は鯛や、鯛の炊き込みご飯や!買い物いくでっ!」

 メザシに対して鯛……その発想の愚かさに、彼女はまだ気付いて居なかった。

「なーなー、いいのかシグナム。はやてのヤツ本気だぜ?さっさと謝って馴れ初めを話ちまった方がいいって」

「ふふっ……聞かれなかったからな、ヴィータ。馴れ初めなど、別にそれ程特別な事でも無し。聞かれれば話すさ。それに私は……基本的に魚は貴賎無くどれも好きなのだ」


 毎日毎食メザシ、『ロールパンとスクランブルエッグとスープ』と比較すれば、シグナム的には寧ろウェルカムである。
 メザシと沢庵と味噌汁など、武士っぽくて硬派だ。
 剣道着を着てあぐらをかきつつ額に皺を寄せて食べたい。
 それに比べてパン食は……軟派過ぎる。

「確かにミントもチョコもストロベリーもどれが劣ってるってワケでもねーか。ただしワサビ、テメーはダメだ」

「あれはあれでよいものなのだが……」


 そして夜、本当にはやては鯛の炊き込みご飯を用意し、宣言通りシグナムは白飯にメザシ、沢庵に具無し味噌汁だった。
 ここで鍋を選択して「ねぇねぇ一人鍋を見てるだけってどんな気持ち?」等とやらない程度には、やはりはやてもシグナムを愛しているのだろう。

「ククク……シグナム、どうや。このはやてちゃん渾身の炊き込みご飯の香りは。私かて鬼やない。罪を許す事もできる。今なら……」

「………レヴァンテイン」

『ja』

「ちょ、シグナム!デバイスは不味いって!!」

「シグナム………どういうつもりや?」

「どうもこうもありません、ならば私も、料理で答えるまでです」

「はやてちゃんを料理する気?!」

「待てシグナム、ハラを下すぞ」

「……ザフィーラ?」

「わ、わおーん」

「一週間ペテグリーチャムの刑な」

「わふっ」

「ふむ」


 シグナムはメザシの尻尾をひょうと掴むと、のそりデバイスの刃の上に寝かせる。


「ウェルダンだ。火力の調節は任せるぞ」

『ja』


 次の瞬間、じゅ…という音と共にメザシの水分は全て吹き飛んでしまった。
 しかし、決してその身が焦げる事も無く、見事にカラカラに乾いている。
 食卓に香ばしいメザシの香りが漂う中、シグナムは無造作にメザシを掴むと……

「なん……やて……」

 グシャリと、ご飯の上で握りつぶした。
 水分を飛ばされたメザシは潰れるというよりもむしろ砕けるという表現が正しい程粉々になってご飯に降り注ぐ。
 さらにシグナムはそこに具の入っていない味噌汁を投入、熱と取り戻した水分により、さらにメザシの強い匂いが食卓を覆う。
 もはや、鯛の繊細な香りなどメザシに完全に塗りつぶされていた。
 ソレほどまでに、圧倒的なメザシ……メザシの香り!!

「ずず……うむ……うむ……あぁ……うまい」

 嘘偽り無く本当にうまそうだった。

「な、なぁシグナム。アタシのごはんとその……ひとくち交換しようぜ!」

「ヴィ、ヴィータが裏切った!」

「これは罰なのだ。私だけの……な。すまんが欲しかったら主に黙って彼氏でも作るんだな」

「無茶言うなよ!周りに男全然いねーじゃねーか!アタシだって去年圭一に告白してフられてんのに!!ってか彼女がいるからってお前だったのかよ!!」

「………ヴィータ?」

「………はっ!」

「半年間アイスはサンマ味のみの刑に処す」

「ちょ、結局彼氏はできてねーんだからいーじゃん!!」

「うっさいわ!そもそも何で圭一くんに告白とかしてんねん」

「だってアイツの部屋ハーゲンダッツが常備してあんだぜ?季節限定物までバッチリだ。告白せざるをえないだろ

「ハーゲンダッツ……だと?……それは……やむおえんな」

「あぁ、うん。いいや、無罪で。ヴィータとザフィーラは後で反省会な。あと八神家でスーパーカップをdisると血ィ見るで?」

「はやてちゃん……ハーゲンダッツにしないのは家計を考えてじゃなく……」

「あのわざとらしいバニラ味のよさがわからん者は八神家には……いや、今はやめとこ」

「まてよ……シグナムのせいで付き合えなかったんだから……シグナムはアタシにハーゲンダッツを奢る義務があるよな?」

「はふっはふっ、メザシ汁丼は旨いなぁ」

「っていうかシグナムもそんな食べ方どこで覚えたん?」

「ずず……ごくん。えぇ、春原が昔『冷汁』なるものを再現しようとしてアジの開きで似たような事をしていましたので……この沢庵のアクセントがまた……」

「なぁ、やっぱひとくち交換しようぜ」

「ダメだ」

「くそっ、守護騎士の結束は何処に行ったんだよ!」

「少なくともメザシの中では無いな」

「いい加減メザシから離れよか。それと夜天の王、八神はやてが命じる………ひとくち分けて」

「これからも継続して三日に一度メザシが出るなら考えましょう」

「ホンマ好きやな自分!ってちゃうねん。そう、いろいろ聞かなきゃおさまらないやろ。その………いつからなんや?」

「えぇと……主はやての中学校卒業式からですから……もう7年になりますね」

「長いわっ!っていうかヒトの卒業式で何ちゃっかり彼氏作っとんねん!突っ込みが追いつかんわ!」

「ど、どっちから告白したんだ?」

「告白?……あれが告白なのかは解らないが……まぁどちらと言えば春原だろうな」

「んん?どういう事だ?」

「あれは……主はやてがなのは、フェイトと記念写真を撮っていた時の話なのだが……」


 校門で並ぶ三人娘、そして写真を撮影する両親達(シャマル含む)。
 そんな彼女らを見て、シグナムは思わずぽつりとつぶやいた。

「主はやてが卒業……か、一時期を想えば信じられぬ。全く、時の流れとは……」

「誰にでも等速で流れるものか……かな?」

 そのつぶやきを拾い継いだ声に振り返ると、そこには詰襟の学生服を纏った春原圭一の姿があった。

「フッ……そうだな。誰にでも……か」

「そうだよ。背は伸びなくても、ヒトの心は記憶と経験を糧に成長するモンだしね」

「これ以上伸びても困るのだが……ひょっとして春原、私を慰めてるのか?」

「どうだろう、俺から見てもシグナムさん達は成長してると思うけど」 

「それこそ自分では解らぬな……だが感謝しよう」

「どういたしまして」

「なぁ春原」

「何でしょう?」

「例えば私は……おかしな話かもしれないが、心とやらを手に入れる事はできるのだろうか」

「心ですか」

「そうだ。お前達人間にはあるのだろう。だが、その心は何処にある?心臓の鼓動の周期がソレなのか?それとも、その頭蓋の中に入っているのか……」

「確かに、実際心が本当に人間にあるかっていうと、正直証拠は出せないね」

「私達守護騎士にとって、感情とはプログラムだ。ならばその感情の総体を心と呼んでいいのだろうか」

「日本じゃ、大事にされた武器や道具は魂が宿るって伝説があるし……仮にシグナムさんに心が宿ったとしても、それはおかしな話じゃないんじゃないかな」

「そうか、ならば私にもいずれ理解出来る時が来るのだろうか」

「………何を?」

「そうだな、例えば……ヒトを、異性を好きになるという感情を、私は理解できるようになるのだろうか。恋愛という、心の病に掛かる事はあるのだろうか。私は……それを知ってみたいと思う」

「そう………」

「やはり無理なのだろうか」

「いや、無理とか可能以前にさ、八神家の周辺の男ってクロノ君とユーノ君と俺しか居ないなと思って。クロノ君はエイミィさんになんだかんだでベッタリだし、ユーノ君はアレ高町さんにベタ惚れだろ」

「ふふっ……確かに。相手が居ないのならば話は始まらないな」

「じゃあさ、シグナムさん」

「ん?」

「形から入るって言葉もあるし、俺と付き合ってみる?」

「あぁ、そうしよう」

「……えっ?」

「……えっ?」


 その後、二人の間には気まずい沈黙がおりたが、どちらともなく手の甲を相手に接触させ、いつの間にか手を握り合っていた。



「……ということがありまして」

どう見てもひょうたんから駒な件

「で、どこまでイッたんだよシグナム。付き合って7年だろ?」

「フッ、接吻までは済ませた」

「え?圭一くん22歳やろ?7年付き合ってヤッてないとか逆に引くんやけど」

「ヤッてたらヤッてたで怒るのでしょう?」

「ウチに挨拶も無くシグナムの肢体を堪能するやなんて……次の日には圭一くんがスポーツ新聞の一面を飾るかもしれん……」

「知り合いの執務官に主が殺害予告してるって連絡してくる」

「ちょ、ヴィータ?!冗談やから!」

「そんな事言って、はやてもアタシのハーゲンダッツを狙ってるんだろ?

「ヴィータも諦めような」

「給与は出ているんだから自分で買えばいいだろうに」

バカ野郎他人の金だからうめーんだよ!!

「ヴィータ……ちょっとそこに正座」

「えっ?」


後半へ続く




[35299] それもこれもエイミィってヤツの仕業なんだ
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/09/26 20:41
 誰も彼も、本質を何も理解していない。
 そう、何も。

 普段あれだけ耳にしているのに。

 普段あれだけ目にしているのに。

 普段あれかけ口にしているのに。

 そう、「ただし、イケメンに限る」と。

 踏み台こそが、人生勝ち組への道だと!


『せっかくだから、俺は踏み台を選ぶぜ!!』

『フォフォフォフォフォ、いいじゃろう!その欲望、叶えた!!』


 そう思っていた時期が、俺にもありました。
 いや、イケメンにはなったけどね。
 なんでよりにもよって出産祝いで酒控えてて潰れなかった産後太りを気にするエイミィさんに『じゃあ俺で踏み台昇降運動しろよ!』とか言っちゃったんだろう。
 きっとユーノ君が持ち込んだあの怪しげな地酒のせいだ。
 去勢されろ、草食小動物。
 次の日お腹が少しすっきりしたエイミィさんに踏まれるわその後エイミィさんの劇痩せぶりを見たリンディさんに踏まれるわ……
 その後なんて最悪だ。
 どこで情報が回ったのか高町さんちのお袋さんにまで踏まれたんだ。
 しかも親父さんの監視付きで。
 俺を踏み台にしたとか言う暇もなかった。
 高町道場の真ん中で踏みつけられる俺、それを厳しい目で見る親父さん、そして何故か最終的に(はやてのせいで)話が回って月村家に呼び出される俺、待ち構える月村姉妹とバニングス。
 はやてだけじゃねぇ……情報源はあのイケメンの高町の兄貴か、死ねばいいのに。
 や、やめろ!
 俺にそんな趣味は!!
 ふざけんな何頭踏んでんだ金髪!ご褒美じゃねーよコラパンツ覗くぞ!!
 おぃぃぃいいい月村テメー何カメラ構えてんだふざけ……おい執事なんだそのロープと目隠しはやm………

「大丈夫だ、私はお前を踏み台になどはしない。決して」
「シグナム……」
「守護騎士は太らないからな」
「台無しだよ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「しかしアレやな、なんか肌を重ねない理由とかあるん?」

「もちろんです、主はやて。未だこの身、恋を知らぬ故」

「え………恋?」

「確かに春原の事は好ましく思っていますが……恋を知るために付き合い始めたのであって、私は未だその境地に到達していません。いつか恋を理解したら、春原には改めて私はお前に恋していると、抱いて欲しいと伝えるつもりです」

「漢前すぎるやろ」

 はやてはあたまをかかえている!!

「じゃあお前ら普段デートとか何してんだよ。やっぱハーゲンダッツ食べてんのか?」

「ヴィータはちょっと黙ろうな」

「バカを言うな、私だってクレープを食べさせあったりソファーで手をつないでTUTAYAで借りてきた恋愛ドラマを見たりくらいする」

「普通やな」

「普通ですねぇ」

「しかしなんやろ……こう、胸の辺りがキリキリ傷むのは……嫉妬か?嫉妬しとるんか?ウチは……」

「なんだよはやてもやっぱりハーゲンダッツ食べたいんじゃん」

「ヴィータはそろそろ本当に黙ろうな」

「あ、はい。すいません」

 いつの間にか完全武装した八神はやて(ユニゾン済み)がそこに居た。
 今まで一度も発言が無かったが、リィンも居たのだ。
 そう、作者が忘れていたのではなく……はふはふと鯛の炊き込みご飯を食べるのに忙しかったんだよ!!

「嫉妬……?まさか、主はやて……春原に?」

「いやそれはない」

 脊髄反射の如くピシャリと返した今のはやての言葉を聞けば、たとえその気が無くとも圭一はヘコむだろう。
 それくらいボールが壁に跳ね返るかの如くだった。

「なんやろ。こうなぁ、うちらクロノ君とエイミィちゃん以外彼氏彼女おらんかったやん。なんかこう彼氏ほしーとか言いながらずっと誰も彼氏とかできないんやろうなぁ……とか思っていた矢先にやな」

「置いてかれた感がして寂しいんですねはやてちゃん!」

「初セリフやけどもう黙ろうなリィン」

「でもまだ仲間はいっぱいいるですよ?」

「シャマル、ちょっとリィンの様子がおかしいんや。フルメンテナンスだしてきて。この時間ならゆうパックとかあるやろ」

「すいませんフルメンテだけはカンベンしてくださいです」

「はぁ……しっかし恋愛ドラマを見るシグナムも想像できひんな……どんな格好していくん?」

「そうですね……先月はジーンズに上はタートルネックの白いセーターでした」

「んん?そんな服持ってたっけ?」

「デート用ですから。春原が似合うからって買ってくれた物ですし」

「なんやろう今急に殺意の波動に目覚めそうなんやけど……ちょっと着てきてもらってええ?」

「いいですが……すこしお待ちください」

「はいCMはいりまーす」



~~~~~~~

ヴィータ「だからアタシは言ってやったのさ、『毎日ハーゲンダッツ食いに来ていい?』ってな
     そうしたらアイツ………何て言ったと思う?
     彼女が遊びに来る時があるからダメだってさ。
     ハハ、アタシったらその頃にはハーゲンダッツ食いに三日に1度は通ってたのに、そんな事にも気付かなかった。
     笑ってくれよ、このバカな女をさ」

アイゼン「m9」
~~~~~~~


「はいCMあけまーす!3,2,1……」

「その、このような感じなのですが……主はやて?」

「な、なんやそれ……シグナム」

「え、いや何と言われましても」

「シグナムが……シグナムが可愛いやて?!

 ガシャンと音がした、振り向いたらシャマルが食器を落として口に手を当てている。

「私の存在意義が!?」

「いやそれは……やめとこ。溺れる犬をあえて撃つ事もないやろ。しかし……ほんまかわいいなシグナム」

 ピッチリとしたジーンズはシグナムの細く長い足をより長く見せ、白一色だが編みこみにより植物のツタがねじれるようなデザインが随所にされているセーターは、タートルネックが可愛さを、胸の膨らみが色気を演出している。
 単純にして明快。
 大人の色気と、女の可愛さを引き出す鉄板。
 例えるなら、牛肉に塩と胡椒をかけるようなもの、その素材の持ち味を生かした魅力は、シンプルにして絶対!!
 やや長めで指の付け根あたりまである袖がまたそそる!!
 くそっ確かにいいセンスだ!!
 また白地にピンクのポニーテールが映えるっ!!
 こんなかわええシグナムが横で一緒に恋愛ドラマ見てたら、つい肩に手ぇまわしてまうやろ!
 抱き寄せてしまうやろ!
 それで頭をこっちにコテンとかしてきたら押し倒してまうやろ!!
 ……圭一くんよく我慢しとるなぁ。

「わ、私は可愛い服などは似合わないと思うのですが。春原がかわいいからと白ばかり寄越してくるので」

「そうかー、シグナムには白が……?白……ばかり……やて?」

「えぇ、クリスマスプレゼントは白い手触りのよいロングコートでした」

「ちょっと着てきて」

「え?」

「えぇから、なるべくその日の格好全部でな」

「あ、はい」

 ガラガラガラ……ピシャン。

「はい八神家集合ー」

「あーい」

「アレもうダメやん。完全に恋する乙女だったで」 

「あたし達も生まれてから長いからな」

「色『ボケ』もするっちゅーわけか、ってやかましいわ。まさか本人気付いてないパターン?」

「私が春原さんにモーションかければいいんですね?」

「ウチらまだ死にたくないからやるならシャマル1人でやってな」

「えぇ?はやてちゃんは興味ないんですか?」

「んー、圭一くんはなぁ……イケメンだけどそこまではタイプじゃないねん」

「はやて……タイプとかあったのか?」

「はっは……そろそろウチかてブチキレるで?」

「サーセン」

「そうやなぁ……ザフィーラみたいにかっこよくて、シグナムみたいにウチをまもってくれて、シャマルみたに優しくて、ヴィータみたいに一緒にいると楽しくて、そんでウチら全員より強いヒトとかタイプやな」

「無茶言うなよアタシら5人揃ったらそれこそなのはとフェイトがタッグ組んだって叶わないんだぜ?」

「それを如何にかしてこその愛やろ!!」

「シャマル、ザフィーラ……その時は……解ってるな?はやてを行き遅れにするようなマネしたらアタシがおまえらをペシャンコにしてやるからな」

「無論だ」

「心は一つよ、ヴィータちゃん」

「え、なにその団結力」


 え?ウチ行き遅れの心配されてる?
 そこで戦慄するはやての都合をまるで知らないシグナムが帰ってきた。


「戻りました……主はやて?」


天使か!!

 白いロングコート、襟元と袖口は白いふわふわとしたファーで飾られ、その下には淡いピンクのワンピース。
 胸元には金色のネックレスが。
 けっしてゴテゴテしているわけではなく、周りと見事に調和が取れている。
 ネックレスのアクセサリ部分は、長さ2cmほどの鍵の形をしており、とって部分に赤い宝石が添えられている。
 うっわぁー!の鍵型メッチャいろんな意味がこめられてそー!!
 鍵を掛ける、閉じ込める、この女は自分の物だ、誰にも渡さないというように。
 いつか交わした言葉、シグナムが恋を理解するまでそばにいるという誓い。
 どんなにシグナムを魅力的に飾り立てても、決して手を出さないという約束。
 よく見ると、唇にはピンクのリップが……そんなの塗ってる所見たこと無い……えぇい!それも圭一くんの贈り物か!!
 シグナムも嬉しそうにコートのあちこちをさわったりネックレスいじったりすんな!!
 リア充爆発しろ!!っていうかもう結婚しろ!!


「もう……ウチには何も言えへんよ……幸せにな、シグナム」

「あぁうん。確かにスゲー説得力だ」

「これが……愛されオーラ……ねぇ!どうやって取得するの?!」

「わぁ、シグナムちゃんかわいいですー!」


「えぇ!いや……その……はい」


 顔を真っ赤にしてうつむくシグナムは、アルカンシェル級に可愛かったという。



次回ヴィータ「でもアイツ昔はやての事が好きだったって行ってたぜ?」はやて「ガタッ」



[35299] 踏み台と烈火の事情
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/09/28 01:43
八神家でコントばっかりやってて主人公不在のSSはこちらです。


 夜も深まってきた八神家の食卓。
 団欒とした空気の中、一人空気を読まないかのように浮いた存在が居た。
 ご存知八神シグナムである。
 彼女はそのうちシグナム・Y・ハルハラになるのだろうか。
 それともシグナム・Y・スプリングフィールドになるのだろうか。
 後者の場合はなんか別の魔法漫画とのクロス作品みたいなので取り合えず却下である。

 おかしい。
 しいて言えばシグナムがおかしい。
 かわいい系のオーラを全開にし、イスにちょこんと座る彼女は最早烈火の将などではなく、完全に恋する乙女だった。
 別に勝負をしていないのにはやてを襲う敗北感。

「女子力……」

 ヴィータが思わず呟く。
 戦闘力たったの2か、ゴミめ。
 そんな幻聴が聞こえた気がした。
 そういえばさっきから妙にいい匂いがしないだろうか。
 ファブリーズの新作かな、などという冗談すら浮かばない、シグナムから流れてくる匂いだった。

「……仕事の会食以外で最後に香水使ったのっていつやったっけ」

「地球でやったはやて達の成人のお祝いかな……ってそんなに自分を追い詰めちゃだめだって!」 

 ちなみにはやてはフェイトと同じ歳。
 1話の冒頭を読者の皆様は覚えているだろうか。
 つまり2年前である。

「何ちゃっかり自分は違いますみたいな顔しとんねんヴィータ!!」

「アタシは毎日教導が終ったあとちゃんとエイトフォーしてるもん!

「ヴィータそれ香水ちゃう……制汗スプレーや」

「え?女子高生向けの香水だろ?地球じゃラブプラス起動したDSだって使ってるんだぜ、ニンテンドーも使ってるんだから間違いねーよ

アカン、どこからツッコミ入れればいいか本気でわからへん

※余談ですがラブプラスにエイトフォーをかけるとねねさんの香りがするという実話が存在します


「しかし驚いたな……細かなしぐさまで変わっている。デバイスを放せば、お前も女なのだな。いや、女になったのか。お前の成長を、仲間として俺は嬉しく思う」

「ザフィーラも良い事言ってシメに入らんといて!」

「フッ、ここは素直に礼を言っておこう」

「俺もそうだな……散歩以外の趣味でも作ってみるのも、案外悪くないのやもしれん。現状への満足は成長を阻害する。お前のヒトの心への理解の欲求を近くで見て、本当にそう思うよ」

スルー……やと……?!


 自分の扱いに戦慄するはやて。
 この短い間に随分何度も戦慄しているが、着替えただけでここまで変わるシグナムは確かにビックリだ。
 シャッハとかティアナ辺りが目撃したら驚愕のあまり顎が外れてしまうかもしれない。
 そういえばティアナも結構リボンとかのアクセサリーや私服のセンスがよかったような……

 がたん!

 はやては突然立ち上がり、吼える。

「顎外れろ!!」

「はやてちゃん本気で収集つかなくなるのでこれ以上脱線しないで欲しいです」

「あ、すいません」

 リィンフォースが腰に両手を当てぷんすか!といった感じではやてにストップを掛ける。
 あれ?何でこんな流れに?
 とても理不尽……でもないがどこか釈然としないものを感じながらはやては席に着いた。


「でもシグナムを見る限りもう十分に恋してると思うんやけどなぁ……まだ足りないん?」

「私もその片鱗を掴み取った感覚はあるのですが……まだ確信には至らず……春原にも辛い思いはさせてしまっているとは理解しているのですが」


 そりゃなぁ。
 こんだけかわいいシグナムが隣に居てキスまでしかできないとか拷問やろなぁ。

「あら?でも片鱗は掴んだんか」

「えぇ、主はやて。私は恋の淵に手を掛け、ある言葉の意味を理解できました」

「ほうほう、ちょっとはやてちゃんに報告してみい。参考にするから」


 必死すぎる。
 ヴィータは目頭を押さえて首を振った。
 そういえばこの手の話題に食いつきそうなシャマルは……と見てみると、メモを片手に目を見開いていた。
 正直キモイがそっとしておくのが仲間のやさしさだろう。
 『話してみると何気に頼れる良い人 三年連続1位 (部下へのアンケートによる)』のヴィータは伊達ではない。

「実は私は……3年程前からずっと不調が続いておりまして」

「えぇ?気付かんかったんやけど!普通にショックやわそれ」

「いえ、体調面では問題が無かったのですが……どうにもデバイスが重く感じたり、仕事にやる気がでなかったり、気付けば遠くを見ていたりと……無気力、というのでしょうか。胸に穴が開いたような、何か大切な物を失くしてしまったかのような感覚に、いつも苛まれていたのです」

「くっ……まだダメや……静まれウチの左手……!」

 はやての右手は今にもスナップを利かせそうな左手を押さえている。
 「五月病か!」という叫びもなんとか飲み込んだ。

「私も流石におかしいと調べたのですが……バイタルチェックに問題は無く、しかし調子の良い時と悪い時の周期があったため、そこから原因を逆算してみる事にしました」

「ふむふむ」

「そして、春原との因果関係が統計的に明らかになったのです。具体的に春原に会うと症状が改善され、春原と長く会わないと症状が悪化しました」

「そこは統計的に出す所やないやろ……」

「ふむ。情緒、といった物ですか。まだ私には理解が及びませんが……そこで私は、私の状態が人間のとある症状と酷似していると気付きました。それは」

「それが恋に落ちるって現象やな」

いえ麻薬中毒の患者と非常に近い行動パターンが検出されたのです

台無しすぎるやろ常識的に

「成る程『恋は麻薬』とは、このような状態を指し示す物だと。またプログラム体である私でも脳内麻薬は精製できるのだと知りました」

「なんやろ、今急に圭一くんに謝りたくなってきたわ」

「つまり……その時のシグナムの思考データをトレースすれば私も愛されふわモテガールにっ!!」

「ないわー」

 ぐっとこぶしを握るシャマルを一撃で切り捨てるはやて。
 今宵も虎鉄は血を求めていた。

「ま、シグナムも室内でコートはそろそろ暑いやろ。皺にならないように衣装ケースの奥に仕舞い込まずにちゃんとクローゼットにかけるんやで。こっちはあとは片付けだけやし、今日は寝とき」

「では、お先に失礼します。主」

 退室するシグナムを見送ると、はやては両手を組んだまま上に「んっ!」と伸ばし、続いて「ほぅ…」と溜息をついた。

「まさかバトルマニアに女子力で完敗するとは……」

「元からだろ、はやての場合」

「ちょっヴィータ!それは聞き捨てならんで!アレは私の女子力が低いんやない、シグナムが高すぎるだけや!!」

「いや、な?落ち着けってはやて。ならちょっと立ってみなよ。ザフィーラはちょっと後ろ向いてろ」

「なんやねんなんやねんホント、ちょっと今日のヴィータははやてちゃんに対する優しさがたりないんとちゃう?……ってきゃあっ!!」

 ヴィータは立ち上がったはやてに近づくと、突然はやてのTシャツをめくり上げ、ホットパンツをずりおろした。

「ほらやっぱり」

「な、ななななにすんねん!」

 ずざざっ!とはやては後ずさり、衣服をなおしながら叫ぶ。
 しかしヴィータは全く動じずに答えた。

「ぱんつが水色の縞々でブラがピンクの花柄ってズレすぎだろ。休日だからって下着くらいタンスの上から使うのやめよーぜはやて」

「ぐああっ!!」

「シグナムは常在戦場だからな。アイツなら今も下着の上下は揃ってる筈だ」

 ぐっと胸を押さえてうずくまるはやて。
 今日一番の衝撃、ブレイカー級が直撃だった。
 まさか、まさか合法ロリに下着の組み合わせについて指摘されるとは!!
 しかしどこからどう見ても悪いのははやてである。


「終った……グッバイ、私の青春」

「大丈夫だって。青春に期限なんてないってエ○レカセブンでやってたし」

「エウ○カが言うなら間違いないな」

 少年ハ○トによりはやては立ち直った。
 どこに立ち直る要素があったのかは若干疑問である。

「それに圭一のヤツ、昔ははやての事好きだったって言ってたぜ?」

「え?それマジバナ?」

「ちょ、はやて近い。顔が近い」

「いやそれ超重要情報やん。何ではやてちゃんに報告がないねん。庭先にロストロギア落ちてんのに放置するようなもんやろ

「時期が時期だったしなぁ。ホラあたしが去年フられた時にさ、ちょっと圭一と飲んだんだよ。そん時に聞いた」

「圭一くんとサシで飲むヴィータとかいろんな意味で想定外すぎるわ。っていうかヴィータってお酒飲んだりしたっけ?」

「あぁ、アイツほらビールとか嫌いだろ。カシスリキュールとか瓶で持ってるからアイスティーで割ったりして飲んだりしてさ」

「それ去年仕事後に缶ビールばっかり飲んでみんなに苦い顔されたウチへの当て付けか」

「ちげーよ!……んでまぁアタシはそのカシスをハーゲンダッツに掛けてさ」

「それ飲んだって言わへんからな普通」

「でまぁ……美味しかったよ」

終わりか!!

「落ち着けって。んでそん時にじゃあ誰と付き合ってんだって話になってさ。当てれたら教えるから5人まで上げてみろって言われてよ」

「まぁ5人だったらシグナムは出てこんよな……ん?候補つったらウチとなのはちゃんとフェイトちゃんと……あと2人誰を上げたん?

「大学の友達とティアナだけど

「私じゃないの?!」

「シャマルはちょっと皿洗いしてような。そもそも圭一くんティアナと面識ないやろ」

「いやーそうなんだけどさー、アイツきっとティアナみたいなヤツ好きだぜ……誰それとか言われたけど。まぁそん時は酔ってたしそのへんまで頭回らなかった。下はアタシから上はリンディさんまで守備範囲とか言ってたし。でなのはから順番に聞いたけどアタシの中じゃ本命はフェイトだったんだよね」

え?ウチ大穴扱い?っていうか今色々と聞き捨てならない言葉が聞こえたんやけど

「あん時は確か……」

「CMはいりまーす!」

※ちなみに主人公含めなのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの成人パーティーは翠屋で行われ、地球産まれ以外の参加者はハラオウン家ご一行とフェイトの家族扱いのエリオとキャロ。
 ヴィヴィオは夜だったのでお留守番で、地球側のお祝いということでシャーリー、スバル、ティアナ達は来ていなかった。
 酒の入った桃子が「ちょっとあの棚の上のお茶の葉を取りたいんだけれど……(チラッチラッ」などとはっちゃけ始め、後半は参加者全員に踏みしめられる事になった圭一である。
 後日ばっちりすずかが撮影したテープを体で買取るハメになったのは言うまでも無い。 

~~~~~~~~~
なのは「ひとつだけ、わからない物語があるの。
    何のとりえも無い女の子が、魔法に出会って、空を飛べるようになったの。
    魔法の力で、いろんな人を助けられるようになったの。好きになった人が居て、結婚したの。
    小説家になりたいっていう好きな人を支えたくて、仕事に一生懸命になったの。
    家事も頑張ったの。
    でも夫は女の子の前から姿を消してしまったの。何が悪かったのかな」

ユーノ「物語は、ちゃんと理にかなっているよ。
    主人公は完璧だし、周りもちゃんとやってる。
    女の子は誰かを助けるために、夫を助けるために空で戦いエースになった。
    小説家になりたかった男は結局、命を削っても一作も作り出す事ができなかった。
    それでそろそろ、才能が無い小説家志望が、良くある不治の病で物語から消える。それだけさ。
    想定外だったのは、女優が控え室まで夫役の俳優を追いかけてきた事くらいかな」

なのは「ユーノ君……」

ユーノ「なのは……僕は……君を……」

リリカルデットエンド にじファンにて絶賛公開停止中!!

~~~~~~~~~

「CMあけまーす!圭一さんスタンバイいいですか?回想編スタート5秒前……3、2……」


 バレンタインも3週間が過ぎ、世の中のチョコを貰えた男子はさてお返しは何にしようかと頭を捻る頃。
 (ちなみにこの年(時系列的に去年)のホワイトデーにシグナムにプレゼントしたのが前回登場した鍵型ネックレス)

「いい事思いついた。このカシスとハーゲンダッツをミキサーにかけてシェイクにすると……?」

「圭一っ!お前天才か!!………ってちげーよ!!お前の彼女だよ彼女!!」

 大学三年生を間近に控えた青年、踏み台の転生者こと春原圭一と鉄球の騎士八神ヴィータは男女間のアレを肴に海鳴市のとあるアパートで酒を飲んでいた。
 圭一は手に持っていたカシスのアイスティー割りをぐいっと飲み干すと、カシスリキュールとアイスティーをコップに注ぎ始める。
 カシスはドンキで、水出し紅茶は100均でそろえている辺り、大学生の彼の懐事情が伺えた。
 予防線を張るが、彼の好物はハーゲンダッツと広島焼きである。
 流石にいつ来るかも解らないヴィータのために買いためる余裕は無かった。
 この頃はしょっちゅうタカられていたが。

「わかった、どうせなのはだろ?

「ぶっぶー。残念賞のヴィータさんには駅前でもらったこのアメ玉つき英会話教室のパンフレットを……」

「え、だって仲良くなかったかお前ら。去年の成人パーティーだって楽しそうにしてたじゃん」

「いや高町さんとは仲は良い方だと思うけどさ……アレから丸一年連絡何もとってないし」

「でもどうなんだよ。なのはだって黙ってれば美人じゃんか。胸もでけーし

「んー。まぁ確かに美人になった。スタイルも良いし性格も明るい。落ち込んでたら励ましてくれそうだし子供の面倒見もよさそうだよな……だけどまぁ、高町さんは無いな」

「えぇー?もういーじゃんなのはで。どこが気に入らねーんだよ」


 圭一はかき混ぜていたコップをちゃぶ台の上にの置くと、腕を組んで「むぅ」と唸った。


「俺になー。リンカーコアがあれば多分もうちょっと話は変わってくると思うんだけど」

「リンカーコアは関係無いだろ」

「男にはあるんだよ。いいかいヴィータさん。大学生くらいになると、だいたいの男ってのは女と付き合う時に、『この女と将来結婚するんだろうか?』っていうシミュレーションをするモンなんだよ」

「アイツ子供の面倒見はいいぜ?お前も言ってたじゃんか」

「いや、そういうのじゃ無くてさ。例えば今なんかがそうだけど、俺って高町さんへの連絡方法って無いじゃん?そりゃ親御さんが倒れたりしたらクロノ君の別荘?ハラオウン家の海鳴出張所に駆け込むくらいはするけどさ」

「まぁ、そうだな」

「そうなるとだよ、高町さん側から俺に対する強い好意が無いとそもそも関係として成り立たないわけだ」

「あぁー、つまりアレか?なのはから告白したらアリってヤツか?とんだチキンだなお前」

「いやそれだけじゃなくてさ。将来どうすんの?って話だよな。結婚したとして地球とミッドのどっちで暮らすんだよ。最初から別居だったら結婚する意味ねーしさ。ミッドじゃ俺ミッド語覚えなきゃ就職すら怪しいじゃん。嫁さんが高収入のエリートでさ。それってなんか辛くね?っていうか俺大学行ってる意味なくね?んで高町さんも魔法から離れられないじゃん」

「………んっんー。んー。あー、解るっちゃ解るんだけどよぉ……なんかこう釈然としねぇなぁ……もうっとこう……若さに任せて何も考えずに付き合っちまえばいいのに」

「だから仮に付き合いはじめても長続きしねーって言ってるわけで」

「よし、じゃあフェイトだ。アイツ惚れた相手には一途そうだし。結婚する頃にはエリオもキャロも独り立ちしてるだろ」

「エリオ?…あぁあのボーズ達か。そういや女の子の方から翠屋経由で伝言あったな」

「おいキャロに手ェ出したら犯罪だぞ」

「いやボーズと地球でデートしたいからデートコースのプラン作るの手伝って欲しいんだってよ。去年の成人パーティーで応援するぜっ!って言ったの覚えてたらしい」

「そうかぁ、アイツらがなぁ……って違ぇーよ!フェイトの話だよ!」

「フェイトさん?それこそ無いわ。無い無い」

「贅沢すぎだろお前。フェイトの何処が不満なんだよ」

「フェイトのお袋かアンタ……何でこう男心がわかんないかなぁ」

 圭一はふぅ、と酒臭い息を吐くと天井を見上げて目を閉じた。
 10秒ほどそうしたあと、つい、とヴィータに視線を戻す。

「アイツってさ、なんつーの?『美女!説明終了!!』って感じじゃん?美人過ぎるって言うの?俺の知り合いってやたら美人多いけどさ、ブッ千切りじゃんアイツ。アイツを超えるどころか並ぶくらいの美女なんて見たことも無い」

「いいじゃねーかそんだけ美女なら」

「だからそこが無いんだよ」

 圭一は首を振ってヴィータを否定すると続けた。

「男が美女を連れて歩く時の頭の中は2パターンだ。『俺の彼女こんな美女なんだぜ!』か『何でこんな美女が俺の彼女なんだろう』ってのな。心の中じゃどこか不安があるのさ。彼女にとって自分は本当に価値がある人間なのか。他にもっといい男がいればそっちに行っちまうんじゃないか……ってな」

「おめーの器がちっちぇえだけじゃん」

「あぁそうさ。俺の器は小さいんだ。俺だってイケメンを自負してるし、正直たまに『ちょっと髪切ればルル様に激似!』とかキモイ事思うけどさ。それでもアイツの隣に歩く時は劣等感を隠し切れんわ。……まぁそうだな。そんなの気にならない位お互いに好き合ってれば違うかもしれないけど。……アイツ俺のこと知り合い以上友達以下くらいにしか思って無いだろうしなぁ。ミッドから集団里帰りしてきて皆でパーティーしてる時も殆ど会話した事ないし。こっち居た頃は人見知り激しかったしな」

「お前めんどくさいな」

「男の本音なんてそんなもんさ」

 圭一はぐい、と手元の酒を飲み、ヴィータはかき混ぜてシェイク化したアイス(カシス入り)を口に運んだ。
 
「じゃあまさかよぉ……はやてじゃねぇだろうな」

「一緒に暮らしてれば解るだろ」

 後から振り返るとえらい皮肉である。

「でも八神だったらそうだな、付き合ったら楽しそうだ」

「おいここまできてはやてだけオッケーなのかよ」

「昔好きだったしな」

「あぁ?!だったらお前………そういや闇の書でごたごたしてた頃一番見舞いに来てたのってお前だったか」

「俺あの頃いろいろあって男友達少なくてなー。今だから言えるけど八神ってヒッキーだったからマンガとかゲームとかイロイロやっててさ、話が合うのって八神しかいなかったんだよ」

「………思い出した。そういやガキのクセに毎回なんかフルーツ持ってきてたよな。そういやアレどうしたんだ?」

「高町さんの実家に頭下げて高校に入ったら金作って払うからって安くわけてもらったんだよ」

「そこでコネ使った上に後で払う気満々なのがお前らしいよな」

「まぁいろいろあってチャラになったんだけどさ。正直あそこいいフルーツ使ってるから無利子分割払いでも高校生には辛かった」

「チャラってお前……いや、察した。でもなー、いくら趣味が合うからってガキの頃マンガの話で盛り上がったからって付き合うのはちょっと違うだろ」

「あぁ違う違う、それ当時の話な。今はそうだなぁ……例えば高町さんとかフェイトさんと居る時はさ、ちょっと良い所見せたいっていうか、背伸びしてなきゃいけないっていうか……常に気を張ってる感じなんだよな」

「どう見ても自然体なんだが」

「いや一緒に居るだけで気ぃ使うっていうか神経磨り減るんだよ。その辺り八神はなんつーの?そういう無駄な努力とか笑い飛ばしてくれそうっていうかさ。自然体で居られるって言うか……一緒に居て楽なんだよな。逆説的に言うと高町さんとフェイトさんは一緒に居て疲れる」

「身も蓋もねー」

「でも一番重要なのはソレだろ。一緒に居て疲れるようなヤツとは付き合えない。どんなに相手が上玉でもな」

「ちぇっそうかよ………となると……ティアナとか?」

「いや誰?」

「そういやお前会った事無いな。解りやすく言うとホラ、なのはの部下だよ」

「へぇー」

「あークソッ!だめだワカんねぇ!んじゃ大学の友達だろ?それしかねー」

「ぶっぶー、正解はヴィータさんの知り合いの中に居る、でしたー」

「マジかよ!あとは……リンディさんくらいしか残ってないぞ……あとはアルフくらいか?」

「クロノ君のお袋さんなら守備範囲だけど流石にこの歳で同世代の息子とか無いわ」

「年上趣味だったのか?!」

「いやヴィータさんも全然守備範囲だけど」

「テメー!!アタシはもっと年上だっつってんだろ!!」

「アイスのおかわりくう?」

「食べる!!」



~~~~回想終了~~~

「って事があってさ……はやて?」

 話が終ってふとヴィータがはやてに視線を戻そうと見上げると、はやての姿はそこには無かった。
 部屋を出て行く気配はしなかったが、はて……と見回すと、居た。


「ウチは……ウチはなんてもったいない事を……」


 『orz』のポーズで足元に崩れ落ちる夜天の王。
 中学校の卒業式、もしあの場ではやてが圭一に告白でもしていた場合、歴史は変わったのかもしれない。

 ふと、ヴィータは気付く。
 例えばシグナムとなのはを比べた場合、シグナムが美人よりでなのはが可愛いよりになる。

『いや一緒に居るだけで気ぃ使うっていうか神経磨り減るんだよ』

 ならシグナムと一緒に居ても劣等感を覚えたりはしないのだろうか。
 しかし、彼らは実際7年間付き合いが続いているという。


『……まぁそうだな。そんなの気にならない位お互いに好き合ってれば違うかもしれないけど』


「あぁ、そうだな」

「やろやろ?しまったぁ……ウチのバラ色の青春が……」



 アタシが認めるよ。
 確かにお前らは、恋人だ。



[35299] 作者は大変なものを忘れていきました
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/09/29 13:58
 薄暗い部屋の中で深夜、男がカタカタとキーボードを叩いていた。
 キーボードの横に置いてある紙コップの底には半ば乾いたコーヒーがこびりついており、先週の大雨から壁の中に住み着いたねずみがチュウチュウと四六時中煩い、そんなクソのような環境である。

「くはははは、さぁ読者様、ご覧の通り貴様ら掘るのは最低系が極地。踏み台の転生者。恐れずして読破してみせろ!スコッパー!!」

 仕事に疲れ、若干変な方向にスイッチが入った男はリズムよくキーを叩く。
 2chをチェックし「1話でやめときゃよかったのに」という書き込みを見つけてニヤニヤする。
 名前を変えて投稿する度に似たような事を書かれているため、もはや男の中では予定調和というか形式美と化しており、何ら痛痒も感じていない。
 スコッパーにしてみればいい迷惑だ。
 ちなみにこの男、既にリリカル物だけで2本エタっており、アクセスが伸びたほうを上げると『俺が拾った家出少女がフェイトなわけが無い』はコイツの書きなぐった文章である。
 ついでにここで告白するとゼロ魔で1本、東方で1本、マブラヴで2本エタった過去を持つ。
 真面目に書こうと思ってたISモノは投稿先のサイトが閉鎖したせいで書く気が無くなってやはりエタりつつある。本当にひどい。
 これでまた「作者が本編にでしゃばんな」とかリリカルSSスレに書き込まれるのだろうなとさらにニヤニヤするあたり、いろいろと末期だ。
 だがそんな男も、ふと一瞬だけ自我を取り戻す事に成功する。

「違う。何かが違う。いや違うというより……最低系にしては何かがたりないような……でも何だかんだで原作キャラと付き合ってるし……台本形式もやったし……はやては残念化したからアンチ要素も満たしているはず……」

 22の乙女に「下着の上下が合ってない」とかとんでもない暴言を書き込んだのだから、アンチとしては十分だろう。
 本局に水爆を転送するくらいのアンチ度は稼げたはずだ。

「そうだ、その辺の最低系をちょっと読んで……ハッ!そうかしまった!成る程、確かにこれじゃ俺のSSが最低系だって気付かないわ」

 男は気付いた。

 気付いてしまった。


1話と2話の間にキャラクター紹介を挟んでない!!

 キャラクター紹介を忘れるなど最早最低系ですらない。
 表紙ページを作ってアニメは見たけど「作者はリリカルは二次創作でしか読んだ事がありません」とか墓穴という名の逃げ道を確保したり、毎回毎回乞食のように文末に「感想待ってます」とか書いたりするのも忘れている。
 つまりこの文章は最低系ですらない、それ以下の産業廃棄物……だめだ、それは受け入れられない。
 このSSは最低系なのだ。

 そういうわけでキャラクター紹介です。
 ついでに主人公と各キャラクター同士の人物評価ものせちゃいます。
 そんな訳で今書いてる「踏み台の初デート」の漫喫のツイン部屋でシグナムとキャッキャウフフするシーンのアップは今日中には無理なんだ。すまない。

 あと最低系はクロノに対して「クロノ君マジKY」と発言をしないといけないらしいのだが、実は圭一は黒い服ばっかきてるのでクロノとは(トゲを除けば)ファッションセンスが合うため、普通に仲が良い。
 つまり「クロノ君マジかっこいいYO(KakkoiiYo)!!」である。
 ……あれ?問題ない?


 春原圭一 22歳
 本SSの主人公。
 原作知識持ちだが、それを隠す能力だけは無駄に神掛かっている。
 ひぐらしの主人公と名前が似ているが全く関係が無い。
 また、苗字を英語にするとマガジンでこの前連載終了した魔法先生漫画みたいになるが、やはり関係ない。
 『踏み台にされて踏み台昇降運動をされると相手の脂肪を効果的に燃焼させる能力(1kg/600sec)』を持つ転生者。
 KAMISAMAに元気良く「踏み台で!」と答えたら上記の能力を得た。
 狙い通りイケメンになれたのが唯一の救いか。
 酒に酔うと「俺は髪を切るとルル様に檄似」「髪を伸ばしたらどう見てもシンクー」とよく口にするが、言うほど似ていない。
 シラフの時は「俺ってアスランザラにクリソツだよな」とか思っているが、やはり思っている程似ていない。
 たまに「メガネ掛けるとよくティエリア・アーデと間違われてサインを求められて困る」などとこぼす事があるが、そのような事実は存在しない。
 念のために書き込んでおくが、これでもリリカルの世界でも市内の学校に1人いるかいないかくらいのレベルのイケメンである。
 前世の顔がイケメンとは程遠かったため、イケメンになってからは若干ナルシストが入っており、常時クールな男を装っている(つもり)。
 その余計な見得のためになのは、フェイトらと一緒に居ると気疲れしてしまう。
 つまりめんどくさいやつである。  
 中流階級の家庭に生まれ、両親は健在の一人っ子。
 大学からは独り暮らしを始めており、たまにシグナムが遊びに来る。
 しかし童貞である。  
 シグナムとは「まさか付き合い始めるとは思わなかった」「まさか長続きするとは思わなかった」「まさかとは思うが、最近どうやら本気で好かれてるっぽい」のまさかの三連続であり、高校で彼女を作って制服デートをしたいというささやかでロマン溢れる彼の夢は爆砕した。

 高町なのはに対して
 呼び方は「高町さん」 
 幼少期にアリサとキャットファイトを繰り広げた通り生来の押しの強さが災いし、彼女が一時期クラスで浮いていた時期がある。
 小心者の圭一は「鬱ルートかっ!!」と必死にフォローに走った結果、「女子に媚を売ってる」と男子にハブられるかわいそうな過去を持つ。
 魔王魔王と前世で呼ばれているが、少なくともリンカーコアを持っていない一般人から見ると普通にイイヤツである事が判明するも、やはり若干苦手意識を持つ。
 小学校から中学校までの付き合いで、その後疎遠となる。
 出会った頃のお互いの思い出は全く食い違っており、圭一が「小学校低学年の時はよく一緒に折り紙を作ってた」に対し、PT事件などが強烈過ぎて日常生活の記憶が掠れてしまったなのはは「よく覚えてないけど気付いたら友達だった」程度の認識。
 「年に一度くらい会う仲の良い友人」というのが妥当なところ。
 普段は仕事で体を動かしているが、年末などに実家に戻って食っちゃ寝生活を一週間続けてしまった場合、「おはなしがあるの」と圭一のアパートを訪ねる。
 圭一はなのはの胸元にある赤い宝石を見ると、何もいえなくなって部屋の中になのはを招待するとか。

 フェイトに対して
 金髪であるため、=外人という扱いであり、ハラオウンさんではなく呼び方は「フェイトさん」
 圭一との関係は一言で言うなら「薄い」。
 小学校の人見知りが激しかった時期は、フェイトのストレスにならないようにと無駄に気を使って距離を取っていたため、会話もあまりなかった。
 一度だけなのはが家の用事で遅れて2人で遊んだ事が会ったが、なのはが合流するまで2時間、一言も会話せずに黙々とオセロをしていたという。
 その気まずさときたらアルフでさえ逃げ出す程で、しかも本気でやって圭一が全敗した。
 なのは登場時にフェイトがこぼした一言、「ごめんね?」
 圭一はその夜泣いた。
 中学校からは本格的に活動的になったはやてによく引っ張られてなのはと三人で遊ぶ機会が増え、圭一とはますます疎遠に。
 両者から見た二人の関係は、「まぁ友達…かな?」の一言につきる。
 なのはと同じ理由でたまに圭一を利用するが、その姿を他の人間に見られることを非常に恥じらい(当然だが)こっそり行く場合が多いい。
 しかしバルディッシュがレイジングハートに毎度通報してしまうため、結局なのはと二人になる。
 周知プレイにより圭一のライフポイントへのダメージはいわゆる「さらにドン」である。


 はやてに対して
 呼び方は「八神」。
 所謂ヒロイン三人娘の仲で唯一の呼び捨てであり、一番仲が良い。
 中学生時代は圭一が積極的に年賀状を書く2つのあて先の内のひとつである。
 ちなみにもう1つは何だかんだで世話になってる翠屋である、誤解しないでほしい決してなのは宛てではない。
 闇の書事件中に月村の紹介で2人は出会い、小心者かつ貢ぎ体質(人に何かを送るのが好き)な圭一はフルーツや漫画、ゲームを持ち込んだりしていた。
 どうてもいい話だが「友人が世話になってるから」とナースステーションにまで差し入れをしたところ、逆にナース達の手持ちのお菓子を大量に貰い、その全てははやてに横流しされた。
 はやて本人は家事が得意としているが、所詮は子供。
 365日毎日朝晩の料理を用意するのは、たとえシャマルの補助があってもつらかろうと圭一はしょっちゅう八神家に差し入れをしている時があった。
 そのために「高町道場で目隠しをして30分蹲っているだけで料理をわけてもらえる簡単なお仕事」を当時週イチで行っており、誰とは言わないが高町家の女性二人のカロリー摂取量が一時期ハネ上がったという。
 二人のなかになのはが含まれていない時点でお察しください。
 実は圭一の今世での初恋の相手だったが、その恋心を表に出す事はなくタイムオーバー(中学校卒業)を迎える。
 その後やはり疎遠になるが、年に数度のミッドと地球の知り合いが集まる場では、地球側の漫画や小説などを集めておいてはやてに渡していたりと、未だ友達付き合いは続いている。
 はやてからはミッドのドンキホーテ的な店で「ティン!とキたモノ」がお礼として渡されており、謎の魔法技術で作られたクッションなどは重宝しているとのこと。
 二人の関係は「仲の良い友達」
 「圭一くん……その、えぇやろうか?」と言われれば「しょうがねぇな」と笑って踏み台になるくらいには仲が良い。

 アリサに対して
 呼び方は「バニングス」
 敬称をつけないのは圭一にとって敬称をつけるに値しない人間関係だから。
 小学校の頃、クラスで若干浮いていたなのはとアリサのフォローに回っていた圭一の事を一応評価しており、友達付き合いを継続している。
 高校からは進路が分かれたが、たまにふと圭一の事を思い出し、「我が家の専属踏み台にならないかなぁ」と思ったりしている。
 もちろんの事として男としては全く見ていないが、上流階級に対する一つの切り札、「健康的に短時間で絶対に痩せる」というカードとして欲しがっているようだ。
 「背中部分だけを露出し、中に人間が入っているとは到底気付けない凄いデザインセンスの『箱』」をいくつか開発するも、圭一の披露した「それでも僕は家具じゃない……人間なんだ」という「うみねこの鳴く頃に」のパロディに激怒。
 無駄に金がかかった投資をコケにされたのが相当シャクに触ったのか、圭一の頭を踏みつけ、鼻血を出した圭一に「あら興奮してるの?ヘンタイ。じゃあご褒美をもっとあげなきゃね」とドSの女王様に目覚める。
 当然圭一は抵抗しようとするが、執事に抑えられ、すずかにカメラで撮影され、その後は思い出したかのようにバニングス家か月村家に呼び出されて屈辱の時間を過ごすようになる。
 そのあまりの仕打ちに執事達はトボトボと家路につく彼に、金銭のつまった封筒をそっと差し出すのであった。
 具体的に言うと30万くらい入っており、これは独り暮らしの生活費とシグナムとのデート代にあてられることになる。
 二人の関係は見ての通り「女王様と奴隷」
 正直圭一は本気で縁を切りたがっている。
 「よし、今日もアンチに走らなかった。えらいぞ、俺……へへ、これで俺、シグナムとメシ食いに行くんだ……女に踏まれた金で……クソッ」
 と呟きながら、半泣きで金の入った封筒をぐしゃりと握り締めてとぼとぼと帰宅する彼の背中に、慰めの言葉は虚しく空をさまようだけだ。

 すずかに対して
 呼び方は「月村さん」
 別に「『さん』を付けろよデコ助野郎。テープバラ巻かれたいの?」と脅されたわけではない。
 圭一を踏む際に若干申し訳なさそうにしているため、アリサとの対比でなんだか良い人に見えてしまう不思議。
 でも結局踏む。
 彼女は圭一の背中の上では冒険家であり、両手を広げて片足立ちしてバランスを取ると二の腕とふとももの脂肪が効果的に燃焼されるなどの発見をするに至る。
 「私の専用踏み台にならないかなぁ」
 曰く、椅子に座って本を読んでる時の足置き台にしたいとのこと。
 毎度毎度ちゃっかり撮影をしているあたり、彼女も相当だ。
 二人の関係は「お嬢様と下僕」
 圭一としてもアリサの次に関わりたくない人間である。


 高町家に対して
 関係は良好である。
 「長期入院してる友達に差し入れをしたい」と頭を下げに来たり、「親が居ない友達に差し入れをしたい」と頭を下げに来たりと何だかんだで友達想いで頭も回る。
 翠屋を利用、というよりも高町家を頼っている形であり、きちんと礼も義理も通すと好評価。
 子供達が手が掛からなかった分、どうも頼られると嬉しくなるようだ。
 士郎としては嫁や娘が大学生を踏み台にするというのは確かに思うところがあるが、実際に嫁の腰周りがキュッと引き締まったのを夜に確認できたため、まぁいいかと静観している。
 (この世界では主人公が中学校に上がったあたりでエイミィが出産したため、当時は中学生を踏みつけていた)
 ただ行為の後に圭一が(精神的に)辛そうな顔をしているのを見て、つい「俺がレジの時はタダでいいから好きな時に食いに来い」と声を掛けてしまう。
 圭一とはたまに閉店後の翠屋で一緒に酒を飲んだりもし、娘二人の男っ気の無さを愚痴る姿もあった。
 夫婦揃って何故か見た目まったく歳を取らないどころか、桃子にいたっては体の各所が引き締まって若返っているようにしか見えない。

 ヴィータに対して
 呼び方は「ヴィータさん」
 よくハーゲンダッツを食べに来る友達。
 よくも悪くもそれ以上でもそれ以下でもない。

 ザフィーラに対して
 呼び方は「ザフィーラさん」
 一人っ子の圭一にとっての兄貴分。
 中学生の時は一緒に釣りをして八神家の晩飯をゲットしたり(海釣りでイワシ狙いならド素人でも釣れる、アジになるとそうでもないが)、「女ばっかりじゃ気が滅入るだろ」と外でメシを食ったりしていた。
 「近所の物静かなお兄さんとそれを連れまわす弟分」といった関係で、何気に仲が良い。

 シャマルに対して
 実は八神家で一番会話をした事が無い。
 しかしそれは他と比べたら、との話であり、はやての私生活の一番の支えになっているシャマルに対しては圭一も頭が上がらない。
 というか守護騎士は太らないためこのリリカル世界で唯一彼を踏み台にする必要性が発生しない人たちなので、圭一は基本的に守護騎士の事が好きである。
 はやての場合は「しょうがないな」と苦笑いで済ませる程度には今でも好意を持っている。

 シグナムに対して
 ありのまま今起きた事を話すぜ……俺は冗談で言ったつもりなのにいつの間にか烈火の将が彼女になっていた!
 フラグなんてちゃちなモンじゃねぇ、もっと恐ろしい片鱗を味わったぜ……!!
 続きは本編にて。

 エイミィに対して
 呼び方は「エイミィさん」
 本人の過失とはいえ圭一の順調な人生を捻じ曲げた元凶。
 それでもそこまで憎まれていないのは、生来の彼女のめんどう見のよさか。
 実地球との橋渡し業務を一部手がけていた彼女はは唯一圭一がシグナムと付き合っていることに気付いており、踏み台のお礼と称してミッドのお金を圭一に渡したり、他の知り合いにバレないように(正式な手順で)ミッドに招待しシグナムとデートをセッティングしたりしている。

 クロノ、ユーノに対して
 お互いに「君」付け。
 バラバラに済んでいるが半年に一度くらいは集まって近況報告をしたりする。
 普通に友達。






[35299] 八神家 第83回家族会議
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/09/30 18:41
 このSSの冒頭を読んで

『リリカルの主要人物から嫌われている踏み台タイプのオリ主にフェイトが惚れており』
『「あの人には私が居ないとだめなの!それに私のおなかの中には赤ちゃんが……」と見事にダメ男キャッチャーと化していて』
『周りがいくら止めてもヒモ化したオリ主と何度も肉体関係を持ってしまい、しかもDVまでされている』
『踏み台を「踏む」転生者は原作に関わりたくないとか平穏に生きたいとか言いながら初代リィンを所持しており、今日もミサワごっこをしつつなのはとはやてにモテモテ』

 そんな風にドロドロ展開を予想したスコッパーのアナタ、疲れてます。
 あとかえって荒れそうなので返信はしていませんが、頂いた感想はありがたく読ませていただいています。 
 


 はやてが珍しく残業せずに定時退社できたある日のこと。
 最近手の込んだ料理をしていないなとスーパーに立ち寄り、牛肉の割引セールと出会った彼女は「本格的に下拵えしてスゴイ手間が掛かったシチューでも作ろう」とカゴに次々と食材を放り込んだ。
 野菜コーナーを端から端まで吟味し、久しぶりに腕を振るえるとあってテンションがいけない方向にMAXになりながらスーパーの中を練り歩いてゆく。

「主演はフィレ肉ビーフ様にしても……そうやな、ヒロインはこの瑞々しいアスパラちゃんや。そんでもって音響監督は……マイタケ君、君に決めたッ!!」

 ドラマでも撮影しているのだろうか?
 ピューリッツァー賞間違いなしやで!とぐっと拳を握る後ろ姿が逞しいが、ピューリッツァは新聞などの写真や文章に送られる彰なので、ドラマは関係が無い。
 言うまでも無いがもちろん料理にも関係ない。

「せっかくやし……眠らせてるワインとかもあけたろ。なんや楽しくなってきたでぇ!」

 支払いをカードでサッと済ませ、ますますデキル女!といったカンジである。
 肩で風を切って歩くはやてに、荷物の重さなど感じる筈も無かった。
 

 その幻想をブチ殺されるまで、あと30分。


「ただいまー……って誰かもうおるん?誰やー?」


 玄関を開けた瞬間、ふとした違和感。
 それは明かりのついた廊下でもない、人の気配でもない、僅かに外気と異なる湿度と熱を持った空気でもない。

 何故――――

 シャマルは帰り道に連絡を取った。
 今日はもうちょっと仕事をしてから帰るという。

 何故――――

「主でしたか、お疲れ様です。運びましょうか」

「あんがとな、シグナムやったか。そういえば今日はシフトで休みやったけど。地球に行ったりしなかったん?」

「えぇ。春原は卒論のテーマ決めで研究室にしばらく通うとかで」

「卒論かぁ……ウチらが出してる報告書とかとはまた違うんやろうなぁ」

 廊下の奥から現れたのはシグナム。
 両手がふさがったはやてから買い物袋を受け取り、はやては靴を脱いだ。

 違和感、その大本はシグナム――――――――
 何故、何故何故何故なぜナゼナゼ何故何故なんでなんでなんでどうし……て――――???????


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨



「シグナム……」

「なんでしょうか」




「どうしたんや……そのエプロン……」


 そうだ、ドアを開けてからの違和感。
 この空気、その匂いだ。
 用意する人間が居ないはずなのに、夕食の匂いがする!!

「あぁ、これですか」

 シグナムはエプロンを着用していた。
 『はやてが見たことの無いエプロン』を。
 そこにややこしい謎やトリックなど存在しない、新しく買ったのだろう。
 問題は、『誰が』買って『何故』今着用しているかだ。
 そしてその答えを……はやては知っている!!


「圭一くんに買うてもろうたんか」

「いえ……」

「あ、解ったで。言わんでえぇ。こっそり料理の練習して、圭一くんに披露するんやろ」

「違うのです、主」

「なら……なんやの……」


 心臓が痛い程リズムを刻んでいるのがはやてには自覚できた。
 ごくりと唾を飲み込むが、からからに乾いた喉が逆に痛みを訴える。


「このエプロンは……その……ユザワヤで売っている『教材用エプロン作りセット』でして……」

「ちょ、ちょい待ちぃ……まさか、まさかそのエプロンは……」

「春原の手作りですが何か?」

「ウチの負けや……シグナム……お前がナンバーワンやで……」


 流石にオリ主といえども洋服を作るようなマネはできないが、ミシンくらい実家に帰れば母親が持ってるし、エプロンなら直線縫いだけでできる。
 というか小学生の家庭科の授業で作るくらいなのだから大人の春原なら説明書を片手に3時間もあればイナッフである。
 アイロンでくっつくフェルト布を使って無駄に凝ったレバ剣型ワッペンを作ってあるあたりは手間が伺えるが、パソコンで印刷した絵をハサミで切り裂き、それにあわせてフェルトを切ってエプロンに乗せてアイロンしただけだ。

 しかし……ぱっと見た目だけなら、エプロンにしては手が掛かっており、男が態々付き合ってる女のために作ったとなれば彼氏が居ないはやてを絶望させるには十分な威力になる。

 そして、はやては認めなければならない。


「夕食……もうあるんやな……」



「え?えぇ……あっ!申し訳ありません主が食材を買ってくる可能性を忘れておりましたっ」

「ええてええて、冷蔵庫に入れれば2、3日持つし。そもそもシチューやさかい今日作って明日食べてもええしな。で何作ってん?圭一くんに食べさせる前の練習やろ?」

「いえ、春原に教わった料理を試してみたかったので皆の為に作ったのですが」

「圭一くんが?あのこ料理できたっけ?」

「それはまぁ、独り暮らししてますし。最低限は」

「なら期待してるでー。けど衛宮家に通った桜ちゃんみたいな腕になってたら叩かれるから注意せなあかんよ」

「主は毎話毎話多方面にケンカを売らないといけない理由でもあるんですか?」

「念のためやって。ねーんーのーたーめっ」

 なにやら不穏な会話をしつつはやてはキッチンに直行する。
 しかし既に料理は終ったようで、キッチンは既に片付けられていた。
 これならばはやてが料理をしても問題あるまい。
 次の日も定時で上がれるとは限らないため、今のうちに作ってしまうことにしたのだ。

 手際よく料理をしていくはやての隣で、野菜の皮を剥いたり使い終わった調理器具をこまめに洗ったりと普通に手伝いだすシグナム。
 はやてとしてはそれはもう嬉しくてグッと来るものはあるのだが、なんだろうこの違和感は。素直に祝福できない。

「ただいまー!ハラへったー」

「只今戻りました」

「ただいまはやてちゃん。今日の夕食何かしら」

 鍋の中で煮込んだ野菜にフライパンで炒めて焼き色をつけた肉を投入し、さてはやてちゃんスペシャルルーを入れる前にもうちょっと煮込もうかといった頃合。
 残りの守護騎士たちが返ってきた。
 食事の匂いを嗅ぎ取ったのだろう、荷物を置いて手を洗うと、そのままダイニングに集まってゆく。

「今日は何かなーっとうおっ何これスゲェ!!

「あらあら、楽しそうねぇ」

「そうだな、普段はやるとしても大鍋だが……ふむ」

 そしてなにやら並べられている料理が大人気である。
 はやては着替えてそのままキッチンに入ったのでダイニングは見ていない。
 というかみんなを待たずに先に見るのもなんだか悪いなぁと思っていた……のだが。

「………シグナム?

「いえっそんな、確かに色々地球で購入しましたがそれもダイソーで1500円くらいですよ?」

「そか、まぁええわ。見てみんとどうにも言えんし」

 鍋の火を止めてはやてはダイニングに向かう。
 シグナムは冷蔵庫からサラダを取り出していた。

「おかえり皆。実は今日の夕飯はシグナムの……なん……やて……?!」 

 成る程、確かにこれは今まで八神家には無かった。
 どこか特別な感じがして、大人になってもワクワクしてしまう。

 ダイニングのテーブルの上には鍋が鎮座していた。
 それ自体は八神家では珍しい事でもないのだが、その数がおかしい。
 なんと一人ひとつ用意されているのだ。
 はやても昔見たことがある。
 アレは100均とかで売ってる一人鍋ようの土鍋……
 さらにその土鍋を乗せている台!
 黒色の陶器製のそれは、まさしく旅館とかの夕食で鍋を暖めるのに使うアレ!!
 そしてその中には同じく青い良く燃える謎の固形燃料!!
 成る程、最近の100均はなんでも揃っている。

「そろった事ですし、そろそろ火を入れましょうか。10分程で出来るはずです」

「シグナムお前これ作ったってマジか。何鍋?なぁ何鍋なんだよ」

「完成してフタを開けるまでとっておくのだな。ホラ火を付けてくれ」

 そうして差し出されるチャッカマン……チャッカマン?!
 それも今までの八神家には無かった!!
 てっきりドヤ顔をしながら指パッチンで点火すると思っていたはやては衝撃を受ける。
 チャッカマンは……チャッカマンはアカン。

「よっしゃ!ほらザフィーラどけって!」

 期待を裏切らないというか、はやての予想通り完全にヴィータのテンションが旅行に来た小学生のソレになっている。
 続いてシグナムはラップを外したサラダの入ったボウルをテーブル中央に置くと、小皿に持っていた『何かべちょべちょしたもの』をドチャッ!!と掛けてかき混ぜ始めた。
 その『何かべちょべちょしたもの』は白いクリーム状のナニカと赤い繊維状のナニカが混ざった混合物で、さらに言うなら黄色いツブツブが混ざっている。

「シグナム……それ何か聞いてえぇ?」

「主はあまり食べた事が無いかもしれませんね……コンビーフをマヨネーズで崩してコーンを混ぜたものです」


 そういいながらシグナムはさらに「白いプルプルしたべちゃっとしたもの」を投入してかき混ぜる。
 崩れると中から黄色が顔を見せる。
 今度は半熟卵だったらしい。

「確かにコンビーフは地球のスーパーで見かけたけど……食べた事あらへんなぁ」

「美味しいですよ?余ったらサンドイッチの具にしても美味しいですし」

「明日試してみようか。ほな鍋ができるまで皆、サラダでもつつこうか」

「シャマル、冷蔵庫に水出し麦茶を作っておいた。持ってきてもらえるか?」

「いいわよ、ちょっと待っててね」

 わらわらとテーブルについてサラダを各自の皿に取り分けてゆく。
 使われている野菜はレタスにトマト、ニンジンなどのオーソドックスな物であり、追加投入した物にも地雷は含まれていなかったため、普通に美味しい。

「アレやな。サラダに細切りしたベーコン入れる時もあったけど、これはこれでイケルんやな」

「そうねぇ、私も何か使ってみようかしら」

「コンビーフとかスパムはスライスして焼いても旨いと聞きました」

「おい火ィ消えたぜ?誰か鍋つかみ知らねぇ?」

「あぁ、そこに置いてあるぞ」

「おぉう……んじゃ早速……何だコレ?」

「春原家の家庭料理らしい。菊鍋という。ポン酢で食え」

 100均の土鍋に、材料は豚のバラ肉と白菜を用意する。
 白菜は4cm間隔で切り、まずは鍋の側面を内側から覆うようにぐるりと敷き詰める。
 その次はバラ肉を白菜に貼り付け、そこに白菜を……これを中心に肉か白菜が届くまで繰り返す。
 不揃いのいびつな白菜はやがて綺麗な円を描けなくなり、肉の赤と白菜の白のコントラストが上から見ると菊の花のように見える。

 故に、菊鍋。

 水分は白菜のソレで十分であり、10分程火に掛ければ十分に火が通る。
 あとはお好みのタレに付けて食べるだけ。
 本日は同じく100均で購入した『ゆず味ぽん(小瓶)』でどうぞ。

「うめぇぇぇ!!コレさっぱりしててうめぇぇ!!」

「あら、いいわね」

 こちらも外れる要素が無い。
 守護騎士の面々には大人気だった。
 しかし、そんな中はやては難しそうな顔をして腕を組んで唸っていた。

「どうしました?主」

「いや、美味しいんや。美味しいんやけどな………SSの趣旨ズレとるんちゃう?」

いいから黙って食べて下さい

「あ、ハイ。すいません」

 『教義の為なら教皇すら殺す』
 八神家の食卓は実はルールに煩い。
 具体的には空気を読まないヤツに人権は無い。
 オサレ師匠は言った。
 『声を発さず、ただ頭を垂れて口に物を運んでテーブルのすみっこでかろうじて生きてろ』と。


「あぁー食った食った!いやぁシグナムが料理作ったっつった時は絶望しかけたけどさ、普通に旨かったな」

「ホントね。でもシグナムも突然どうしたの?」

「それ程理由があった訳でもない。しいて言うなら、そういう気分だっただけだ」

「ほー、そういう気分なぁ」

「何ですか主、ひっかかる物言いですが」

「いやね、はやてちゃんも色々あんねん。いつの間にか武力一辺倒だと思ってた家族が普通の女の子みたいになって、ちょっとした料理まで作れるようになってたりな?主より先に彼氏作ってたりそれを隠されたりな?」

「主……」

 その話は終った筈だ。
 そう睨む食卓の守護騎士達をはやては睥睨する。

「この歳で彼氏もおらんどころか個人的なフリーの男友達なんてユーノ君しかおらへんし……でもな、そんなウチでも……そんなウチだからこそ解る事もあるんや」

「な……何がわかるっていうの?はやてちゃん」

さっさと吐きぃシグナム。お前から隠しきれんラブ臭がする

「何言ってんだよはやて!7年付き合ってチューしかしてないシグナムだぜ?そんな問い詰める程面白いネタなんて出ないって」

「………やはり主に隠し事はできませんか」

「え?マジで?」

 ヴィータが驚愕と共に見たのは、なにやら隠し事をしていたシグナムか、それともラブ臭とやらを嗅ぎ取るというよく解らないがちょっとキモイ能力を手に入れた主はやてか。
 それは明かさない方がいいだろう、はやてが可哀相すぎる。
 ……おっと。
 
「解るに決まってるやろ。ウチを誰やと思ってるんや。『夜天の王』八神はやて様やで?守護騎士の事だったら何でもお見通しや。前フリで1話分(11kb)使ってる時点でバレバレやわ」

「あんまメタい事言ってるとまた叩かれるぞ……っていいのか。最低系だし」


 はやてはテーブルの上で両手を組むとその上に顎を乗せ、まるで選手宣誓のように宣言した。

「ほな、家族会議を始めようか?」



 第83回家族会議『シグナムがまた何か隠し事をしている件』



「ほな、話して貰おうか。前回に続いてウチらに対する隠し事は二回目や。もちろん……相応の理由と罰は覚悟の上やな?」

「勿論です主。確かに浮かれていましたが、コトがコトだけに……切欠が無ければ私は暫くは隠したままだったでしょう」

「ウチだってな、シグナムが圭一くんとどう付き合おうと細かい事には口出したくないねん。昨日はどこでデートしたとかどこまでイッタとかそんな報告は求めてない。けど態々シグナムが隠そうとする程デカイ何かがあるっちゅーんなら話は別や。八神家家長として、ウチはそれを聞かなならん」

「解りました。お話しましょう」

 ごくり、と誰かが唾を飲んだ音がダイニングに響く。
 シャマルは危険な空気を感じたのか、たらりと汗を流す。



春原に求婚されました


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!

「はやて?!落ち着け」

「はやてちゃん!傷は浅いわよ!」

「そうか。おめでとう、シグナム」

だからザッフィーはシメに入らんといて!!

 はやてはテーブルをバンバンバン!!と叩きながらヘッドバッドを数回繰り返し、さらに足を高速でバタバタさせて自分の椅子の足にカカトを強打して悶えたりした。

「え?もう何なん?前回のキャラクター紹介回で『今書いてる踏み台の初デートは……』とか言ってたやん?!」

「今この瞬間最も面白い(と作者が思っている)物を書く。それがプロットの無い勢いで書くSSというものです」

「だからオフシーズンの夏期休暇なんて取るもんやないんや!!はいCMの後は恒例の回想編!!」

~~~~~~~~~~~~~~
作者雪道

最低系を書く上で書かねばならないのにどうしても……書けない文章がある。
それは各話のラストで作者とキャラクターが会話するアレだ、漫談っつーの?。

オリ主「おい作者てめぇなにしてくれてんの?」
作者「痛っ、おいお前やめろよザフィーラにケツ掘らせるぞ」
オリ主「あ、はいすいません」
~~中略~~
作者「それでは」
オリ主「次回も見てくれよな!」

みたいなシメで終るアレだ。
無理だって指が拒否するんだもん。
どういう精神構造すりゃアレ書けるんだよ不思議過ぎる。
クソッ、最低系を書くのがこんなに難しいなんて……エタるのと叩かれるのは得意なのに……!

~~~~~~~~~~~~~~

「はいCMあけまーす!シーン5b-2、スタート5秒前……3、2……」


 シグナムと圭一は別に逢う度にデートをしているわけでもない。
 圭一の部屋で何をするでもなく、のんびり過ごす。
 そんな日も7年付き合っていれば当然存在する。
 圭一がコーヒーやら紅茶やら緑茶やらを用意し手をつないで一緒にぼんやりしたり膝枕をしたりされたり。
 ただこの日はほんの少し、圭一の様子が違った。


「将棋をしないか」

「構わないがその……出来たの?……か?」

「まぁ、教養としてルール位は知ってる」

 最近は圭一と居る時はなるべく一人の女の子でいよう、そう思って口調も変えようと頑張っているが、未だにシグナムは慣れない。
 所詮、逢う頻度など2週間に一度以下なのだ。
 一日意識してようやく身に付けたニワカな女らしさ等、戦闘を主体とする生活の前には簡単に溶け消えてしまう。

 床板の一部を外して床下収納を開くと、確かにそこには将棋板と駒が入っている箱があった。
 圭一は駒を初期配置に並べるのをシグナムに任せ、その間にお茶を二人分用意する。


「春原、先手だ」

「うん。いや、実は前からシグナムとは将棋したいと思ってたんだよな」

「ならもっと早く言ってくれれば良いのに」

「ド素人丸出しでか?仮にも勝負をするなら、男の子はそういう無様なマネは嫌がるもんなのさ」

「なら、期待してもいい……のかな?」

「さぁ、どうだろうね」

 圭一は考えるような素振りを見せつつ、駒に触れようとしない。

「どうした?」

「いや……中学校の卒業式から付き合いだして……もうすぐ大学も卒業だな、ってさ。そうだ。ダラダラやってもアレだし、何か賭けようか」

 相手が指してから切り返しに悩むのではなく、先手……しかも初手で悩むなど、通常では有り得ない。
 その異様さに、圭一の持つ雰囲気の違いに、7年の付き合いであるシグナムは気付く。

「なんというか、遠まわしで……いつも恥ずかしいセリフをべらべら口にするお前らしくないな」

「そうかな。でも……たまに思うんだ。俺たちは、最初それこそ『恋人ごっこ』みたいな関係だった。それがいつの間にか、どんどん可愛くなっていくシグナムの事を本気で好きになって」

 シグナムは己の頬がかっと赤くなるのを感じた。
 どくんどくんと顔に血が流れる音が聞こえてくるようだ。

 角の道をあけるように歩の駒を拾うと、圭一はそれを手の中で弄びはじめる。
 将棋では、一度盤から離れた駒は、「やっぱなし」と元の場所に戻すことは出来ない。
 そして、歩は前に1マス進む事しか出来ない。
 ならばこの駒を取り上げた時点で、置く場所はもう確定している。
 それでも、圭一はまだ歩を盤には置かなかった。

「でもシグナムが休みを取れて地球に来ても、ミッドと暦が違うから休みが合わなかったり……就職したら、もっと逢えなくなると思う。何より……」

「何だ」

「ある日突然シグナムが地球に来なくなったら、それだけで俺たちの関係は終ってしまう。ハラオウン家に話を付けられたら、俺はもう追いかける事すらできない」

「そんな事はしない」

「違う」

 否定するシグナムに、圭一はさらに否定を被せる。

「する、しないじゃない。そういう事が『出来る』っていうのが、俺にはどうにも我慢が出来ない」

「……なら私は、どうすればいい。どうすれば……お前の不安を打ち消す事ができる?」

「シグナムが、じゃないんだ」

 圭一は目を閉じて俯いた。
 呼吸が徐々に荒く、心臓の音が不規則に大きくなってゆく。
 痛みをこらえるように、口からマグマを吐き出すように、ゆっくりと言葉を刻んでゆく。

「俺が、今の関係を終らせたい。だからシグナム」

「な―――」

「結婚しよう。俺が勝ったら」

 このタイミングで、圭一はようやく歩を盤にさす。
 先程とは違う意味で、シグナムの体温が上がった。
 彼氏彼女の関係になって早7年。
 シグナムも人並みには乙女心を持っている。
 だから、未婚の女性にありがちな、プロポーズへの夢を持っていた。
 それは断じて、初めてさす将棋の賭けの対象に扱われるものではなく……
 つまり、盤外戦術の一つだと、そう受け取ってしまった。
 それでも、圭一を信じたい気持ちも確かにある。


 故に、問おう。


「………本気か?」

 嘘は許さない。
 そう目が語っていた。
 圭一は盤から目線をシグナムに戻すと、小揺るぎもせずに返す。

「賭けの内容は語った。駒もさした。後はシグナムがさせば後戻りは出来ないし、俺が勝ったら役所に結婚届を貰いに行く。シグナムは戸籍ないけど、ケジメにはなるだろ」

「本気か……」

 今度は言葉の意味をかみ締めるように、その言葉は相手ではなく己に向けて呟かれた。
 圭一を信じるなら、シグナムが駒を進めれば、それは即ちプロポーズを受ける意思があるという表明に他ならない。
 つまりそれは……どういうことなのだ?

 守護騎士と人間との思考における最大の違いは、時間への価値観であると言えないだろうか。
 彼らは肉体的には成長せず、老いもせず、長い時を生きた。
 彼らにとって重要なのは仲間と主であり、遺憾ながら主は毎度短期間で滅びてしまうも、仲間は常に不変としてそこにあり続けた。
 だが人間はどうだろう。
 守護騎士にとっては極短い期間に成長し、そして老いて行く。
 何よりマトモな生活とは程遠い戦闘ばかりの日々。
 子供はやがて大人になり、そして寿命で死ぬ。

 そんな当たり前の事が、はやての成長が、妙に新鮮で嬉しかった。

 つまりそれは、彼らが『人間の時』に対して非常に不慣れである事の証だ。
 故に、圭一が社会人になったら実質ほぼ逢うことが不可能になる等と、シグナムは予想できていなかったのだ。
 今でさえシグナムに合わせて選択で履修自由な授業は外している。
 その中には興味があった授業もあっただろう。
 そもそもミッド側が休日だからといって毎週シグナムが地球に来れるわけでもない。

 ようやくシグナムは自覚する。
 中学卒業を境に圭一とミッドに移り住んだ人間の関係が希薄になった。
 それと同じ事が、大学卒業時にもう一度起きる。
 今度は、自分と圭一の間に。

 それは恐るべき黙示録の予言であり、世界の週末を知らせるラッパであった。
 だが、結婚とは何だ?
 結婚するとどうなる?
 子供も産めぬ身で……
 そうだ、自分は子供すら作ることができない。
 だがしかし、プロポーズしてきたのは圭一の方からで……

 解らない。
 そもそも、短時間で解るような問題ではない。
 ゆっくりと、時間を掛けて向き合うべき問題だった。
 全くの未知。
 未知とは恐怖。

 ぶるぶると無様な程に腕が震えるのがわかる。
 何故――――
 好きな男に、望んでいた言葉を掛けられた筈だった。

 なのにどうして、こんなに不安で、さみしくて、孤独感を自分は感じているのだろう。
 ふと、シグナムは縋る様に圭一の目を見た。

 圭一は、笑っていた。
 シグナムの好きな、優しい、包み込むような、安心するような、そんな笑顔で笑っていた。

「男なら」

 気付けば、もう腕の震えは止まっていた。

「勝って見せろ」

 先手と同じく、角道を開ける。
 賭けは、ここに成立した。

 ぱちりぱちりと、互いに10手ほどさしたあたりで、シグナムは気付く。
 銀を一歩進め、問うた。

「……春原、将棋を本格的にやり始めてどれくらい経った?」

 始めてから数手、圭一の打ち方に迷いが無い。
 本か何かで定石を覚えたのかと思ったが……それにしては、駒を持つ指先の熱量がおかしい。

「ん?うん……」

 圭一は答えず、少しの間考えると、飛車を中央に振った。
 シグナムの先程の銀はただ前に一歩進めたのではなく、斜め前に。
 隣の歩の前に押し出す「腰掛銀」。
 桂馬と飛車の機動性が上がる、急戦の構え。
 その急戦に、正面から殴りかかる戦法を圭一は選んだ。

「三年前から……かな」

「大学に入ってすぐに?」

「携帯ゲームとかネットで対戦とか出来るし」

「今日この日のために……か?」

「そうだよ?」

 
 気負う事もなく、たださらりと事実を肯定するように圭一は頷いた。
 それに対してシグナムは……

「そう……か」

 ぱちりと、銀の前を開けるために先行していた歩をさらに進める。

 将棋とは、ターン制のゲームであるが、RTS(リアルタイムストテラジー)のような側面も持つ。
 両者は同じだけ与えられた手数の中で、玉を守る防衛陣を敷き、相手を攻める攻撃陣を作る。
 だから将棋の初期は、大抵陣地作りが中心になりがちだ。
 しかし、当然そこに急襲する戦法も存在する。
 それが急戦。
 玉を守る陣形「穴熊」「矢倉」「美濃」などを一切作らず作らせず、ただ只管に相手の玉めがけて突き進む戦法だ。
 当たれば一撃で沈める事ができるが、もし耐え切られたら後に残るのは強力な打撃力を失い突撃能力を欠いた駒達と、何ら防衛線を敷いていない玉が残るだけ。
 そんな将棋を、シグナムは選んだ。
 圭一も、そんなシグナムに答えるように中央の歩を進め、飛車と銀を押し出す構えに入る。
 再び、シグナムの手番。

 駒に手を伸ばすシグナムに対し、圭一は口を開いく。

「俺は……シグナムを……」

 差し手が止まった絶妙なタイミングで、その言葉を放り込んだ。

「俺だけのシグナムにしたい」

 ビクリと、指先が痙攣した。
 一瞬、頭が真っ白になって何をさそうとしたのか忘れそうになる。

「(ダメだ、今駒に触れては――――)」

 やっとの思いで手を引き戻すと、胸に手を当て深呼吸を繰り返す。
 圭一の顔をチラリと見ると、してやったりと笑っていた。

「(盤外戦術……本気で……勝ちに来てる!!)」

 そういえば先程から、圭一はシグナムの手番でしかロクに喋っていない。
 そこまでか。
 そこまでして勝ちたいのか。
 どうしても勝ちたいのか。

 そんなにまで―――――


 ―――私と結婚したいのか。


 シグナムの中で、『何か』がむくりと立ち上がった。
 その何かは戦場で培った物でも、本能でも、理性でもない。
 ここ7年で急激に成長した、シグナムの一部。

「(なら、見せてやろう。ただ剣を振るだけだった男とも女とも解らぬ戦闘機械が、お前との7年間でどう変わったのか。夜天の騎士シグナムがお前と居てどう成長したのか、見せてやる)」

 シグナムの、女の部分に火がついた。
 銀をさらに一歩進めると、圭一が駒に触れる前に口を開く。

「私が勝った場合の賭けの内容を話していなかったな」

 こう言われれば、圭一は手を止めるしかない。
 出来れば聞かずにさっさと自分の手番を終らせてしまいたいが、そうすればシグナムは自分の手番が終ってから話の続きをするだろう。
 何より圭一側が不意打ちで賭けの内容を宣言している。
 ならば、聞かねばなるまい。
 シグナムの賭けの内容を。

「まず、私が勝ったらお前が入れてくれた、このお茶を飲み干す」

「……ん?」

 咽返るような、濃厚な華の蜜の香りがした。
 シグナムは考え事をするように親指だけ伸ばした握りこぶしで顎を触る。

「しかしそうだな、私は昨日の教導で疲れているし、先程のお前のプロポーズも嬉しかったから、手が震えて飲みこぼしてしまうかもしれんな」

 そして、その親指で、唇から顎、喉から鎖骨、胸の谷間から臍、そして下腹部までをなぞってゆく。
 まるでそこに、『何かが流れるように』。

「春原……お前には、そのこぼれたお茶を舌で舐めて綺麗にしてもらおうか。私が綺麗になったと……認めるまで。たっぷりと……ずっと……な」

「~~ッ!!」

 ぱしりと、圭一の左手が右手首を掴んだ。
 右腕はぶるぶると振るえ、指は制御を失ったかのようにそれぞれが勝手に動いている。

「いぃ……返しだぜ……シグナム」

「ふふっ」

 シグナムは、本当に嬉しそうな顔で、誘うように、全てを受け入れるように笑った。
 見惚れる程の、女だった。
 この表情を見れるのは、後にも先にも圭一1人。
 いや、圭一1人でなくてはならない。
 断じて他の誰かになど、見せさせてたまるものか。
 この勝負、どちらが勝っても確実に、両者の関係は変わる。

「まぁ、それでも」

 圭一は震える手で同じく銀を掴み。

「負けられないな」

 引かず、進めた。
 もはや互いの主戦力はぶつかり合う直前であり、玉を守る壁など無く、そもそも玉が一歩も動いていない。

 魔法に例えるなら、ベルカ式の使い手がバリアジャケットを展開せずに殺傷設定で空中戦をしているに等しい。
 先に当てた方が、一撃で勝つ。

「楽しみだな。だが今夜は………お前の舌でふやけてみたい。夜通し蕩けさせてくれ。朝日が、私達を邪魔するまで」

 囁くようなシグナムの声が脳髄に直接突き刺さり、下半身に血液が集中してしまうのを感じる。
 圭一は思わずシグナムを睨みつけるが、そこには妖しげに微笑むシグナムが居るだけだ。
 歯を食いしばり、無理矢理に笑う。

「ダメだね。お前は、俺と一緒に、今日人生の墓場に行くんだ」

 さして、一言。

「いいのか?……直接、舐めさせてやるぞ?」

 さして、一言。
 互いに言葉を重ねながらも、盤の中央では激しい攻防が続く。
 ここを突破してしまえば、後は玉まで一直線しかない。
 化かし合い、陽動し、見破られ、特攻させ、防がれ、受け返し、耐え切る。

「……ここまでか」

 そして、桂馬の移動先に、さらに桂馬を置く『継ぎ桂』により、4手先の『詰み』が確定した。
 どうしようもない、どのようなパターン、どのような進め方でも、確実に玉は詰む。

「ありません」

 その言葉は、女の口から発せられた。



~~~~~~~~~~~~~ 


うわぁ……

 余の生々しさに若干引き気味の主に、シグナムは真っ赤になって弁明する。

「と、とにかく先日結婚届にサインしました。両家にもその……近々挨拶に行くことになるかと……思います」

 しかし、だんだんと声が小さくなり、最後のほうは消え入るようになか細い声になっていた。

「それで、ですね。えぇと……もう隠す必要も無いので……出しますが……このような物も頂きまして」

 シグナムは襟元をごそごそと漁ると、シャツの下に隠れていた細い銀色のネックレスを取り出した。
 そしてそのネックレスには……もう語るまでも無いだろう、透明な宝石が輝く、婚約指輪が通されていた。






[35299] なのは「あたしよりお父さんの方が出番が多いってどういうこと?」
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/10/01 23:16

 最終話  『Stop,in the name of Love.』




 メーデー、メーデー、メーデー

 この声が届いていますか?

 僕は自分の世界を見失った模様。

 要救助者は1名。

 現在位置の特定は困難。

 メーデー、メーデー、メーデー

 貴女は、今もそこに居てくれていますか?






 踏み台転生者の青年、春原圭一は二つの力を持っている。
 一つは『能力』。
 神から与えられた『絶対痩身』の力。
 もう一つは美貌。
 都市伝説たる『※ただしイケメンに限る』を現実にする能力。

 手に入れたものが余に眩し過ぎて、彼は背中を確認する事を忘れてしまった。
 真夜中の闇が、彼の影を消し去ってしまうその時まで。
 全てを壊すダモクレスの剣は、伝説通り今まさに彼の世界の全てを破壊しようとしている。


 \アッサーモヨールーモコーイーコ………イマハマエーダケーミテーレーバイー/ 


 地球。ある冬の終わりの週末の、昼時も過ぎた頃。

 踏み台こと春原は海鳴の住宅街を歩いている最中、ふと足を止めて周囲を見渡した。
 いつもと同じ風景。
 変わらぬ空。
 春を前に少し温かくなってきた季節。
 全く何もかも全てが、彼の体験してきた海鳴の日々がそのままである。

 なのに何故か、本当に不思議な事に、それらがとても大切な物に見える。
 不思議だ。
 これがスイーツ脳とやらだろうか。
 成る程、俺はスイーツだったのかと春原は納得し、翠屋に向かう足取りを再開させた。

 タダ食いができる。
 なによりそれ以上に旨い。
 既に定位置となって長いカウンターの奥に座ると、「ベーコンサンドスペシャルで」といつものメニューを告げた。
 そうして先に来たブレンドコーヒーをのんびり飲みながら、注文した料理が来るのを待つ。
 何度も、何十回も繰り返してきた日常。
 だが何の前触れも無く、何の予告も無く、冗談みたいにそんな日常はアッサリと終った。


「それは常連さん用の裏メニューなんだけど……どこで知ったんだい?」

「ん?」


 窓の外を眺めてコーヒーを待っていれば、掛けられたのは高町なのはの父、士郎の怪訝な声だった。


「あれ?寝癖そんなに酷かったですかね?」


 常連といえば自分程の常連も居ないだろう。
 なんせ小学校からこちら一ヶ月以上来なかった事が無い程通いつめているのだ。
 ならきっと、寝起きでそのまま来たものだから、圭一だと気付かれないくらい酷い頭をしているんだと。
 そう、思った。


「そうは見えないが……」

「んー?確かに……何かのギャグですか?俺ですよ、春原圭一」
 
「いや………?」


 お冷のグラスで歪んだ自分の顔を見ても、確かに誰かを間違えるほどひどい寝癖はなさそうだ。
 士郎は士郎で、目の前の青年がどうやら本気で困惑しているのを見て取り、首を捻ってしまう。
 なんだろうか、これはタチの悪い冗談でも意地悪でもなくて……ひどく嫌な予感が、した。

「すまない。本当にわからないんだ。俺の家族の知り合いかな?」

「いやっ、知り合いっていうか……高町さん、いや高町なのはさんと小中学校でクラスが一緒だった春原ですけど」

「あぁ!」

 士郎が何か思い出したような顔になり、圭一はほっと一息ついた。
 何の遊びかは知れないが、これでようやくメシが―――――

「なのはのクラスメイトだったのか。いやぁ、よく来てくれたね。なのはのヤツ、男の子の友達なんて連れてきた事もなかったけど、ちゃんと居たんだな。おっとごめんごめん、今用意するよ」


 圭一の顔が、凍りついた。
 出てきたサンドイッチは、温かかったが、何故か味が解らなかった。

 それでも体は自動的に動く。
 数年振りにレジで士郎に食事代を払い、「よかったらまた来てくれ」と声をかけられる。
 えぇ、是非。
 かろうじて返事をして店を出る。
 背後で閉まる扉の音が、嫌に頭に響いた。

 其の場から一歩も動かず……いや、動けずに、圭一は携帯を取り出すとまずメールを確認した。
 日付は約一ヶ月前、なのはがヴィヴィオを連れて里帰りするから、孫?の顔を見に来て欲しい。
 ついこの間届いた士郎からのメールが、確かに其処にある。

『スペシャルサンド、相変わらず美味しいですね』

 そう送ったメールは、宛先不明で突き返された。




「何だ……何が起きてる?」


 最早尋常な事態ではない。
 確信があった。
 何か洒落では済まない事が、今起きている。

 アパートに小走りで戻りながらハラオウン出張所に電話を掛ける。
 コール音が鳴るだけで安堵するなんて、そんな事が―――

「はい、山之内です」

 耳元から聞こえる老人の声に、春原は足を止めた。
 電話相手にクロノ君のお宅ですか?と聞いてみるも、返されるのは否定の言葉。
 間違い電話を謝罪し、通話を終了した。


「あぁ、くそ。何なんだ?本当に……」


 超常現象。
 科学でも、魔法でも説明出来ない何か。

 神に逢った事のある圭一だからこそ確信が持てる。

 今自分を取り巻くこの異常事態は、『リリカル外』から何かの影響を受けたからだ。
 そうでないと、『リリカル』の何かが圭一と『リリカル』を引き離す意味が見つからない。
 真実なんて、暴いてしまえば簡単なものに決まってる。
 よくある話で、『春原圭一』の存在がリリカル正史を捻じ曲げてしまい、今世界は押さえが取れたバネのように、元の姿を取り戻した……とか。
 例を挙げるなら、ハラオウン家の連絡先。
 昔は充電器に刺しっぱなしの携帯電話が置いてあったのを、圭一が無駄に金が掛かると固定電話に変更させたのだ。
 圭一の実家が名義人になって。

 それが、『無かった事になった』。
 いや、『戻った』のか?

 馬鹿馬鹿しい、そんな事があってたまるか。
 それならまだ体重を気にしたナンバーズと調子に乗って脱獄したマッドの陰謀の方が……いや、そちらの方が無いか。

 確かめる術の無い疑問ばかりが頭の中にぐるぐると回り、気付けばアパートの前まで戻ってきていた。
 ハラオウン家のマンションに向かう気は起こらなかった。
 気付かなかったからじゃない、もし誰も居なかったら、他人が住んでいたら……そんな事が怖かったからじゃない。
 一番怖いのは、ミッドの関係者の誰かが居る事。
 そして、その誰かが圭一の事を忘れてしまっている事。

 つまりそれは、シグナムも……

 ハッと左手の薬指を見る。
 銀に耀くリングが、確かに其処にあった。
 蜘蛛の糸は繋がっている、まだ。
 
 鍵を開けようとして気付く。
 アパートの鍵が、開いていた。
 出掛ける時に鍵は閉めたはず。

 このアパートの合鍵を持っているは、両親と……

「シグナムッ!!」

 ドアが壊れるんじゃないかという勢いで、思い切り開く。
 電気の消えた部屋の中央に人影。

「よかった、君は―――――」

 何故、部屋を暗いままにしていたのか。
 そんな事すら疑問に思わず、圭一は靴を脱ぎながら部屋の電気を付ける。


「あぁ、遅かったじゃないか―――圭一クン」


 部屋の中に居たのは、シグナムでは無かった。


「どうしたんだい?そんなに酷い顔をして。『死んだ筈の親友の幽霊が現れた』みたいな顔しているよ」

「……ユーノ君?」

 部屋にいたのは、ユーノ・スクライアだった。
 スーツを纏い、優しげなインテリ風な佇まいは、今は酷く不気味だ。


 何故、この男は、薄暗い部屋の中で電気も付けず、立ちっ放しで玄関を眺めていたのだろうか。


「やぁ、お邪魔してるよ」

 そうふんわりと笑った瞬間、圭一の全身の自由が奪われた。
 動かない、腕も、足も、胴体も、顔すら、喋る事もできない。
 ただ金縛りにあったように、何一つできなくさせられていた。


「残念だよ。本当に残念だ。間に合うと思っていたんだけどね、読みが甘かった。本当に済まない圭一クン」


 聞き様によっては、今圭一の周囲で発生している異変に1人いち早く気付き、対処をしようとしてくれたように聞こえる。
 そして、そのくらいの事はしてくれそうな程度には、友達付き合いをしてきた筈だ。
 だが、そんな希望を、圭一は捨てねば成らなかった。
 感じるのだ。
 彼の、ユーノ・スクライアの笑顔から。

 ドス黒い程の、悪意を。


「バインドだよ。圭一クンは初めてだろう?いや、リング型よりチェーンタイプの方がいいかな?『ユーノ君』的にはさ……プッ…くはは、あははははははは!!!」


 おかしくてたまらない。
 膝を叩きながら全身でそう表現するユーノに流石に圭一も気付く。
 理屈抜きに直感で理解した。


『 コ イ ツ だ 』



「はは……圭一クン君さぁ、『スーパーマリオ』やった事あるかい?『スーパーマリオ』。スーファミのアレだよ。やった事あるだろう?アレにホラ、『ヨッシー』っているじゃない」


 睨み付ける圭一の目線を楽しむよう一歩一歩、ユーノは圭一に近づいていく。
 その右手には、ゴルフボール程の緑色の光球がキラキラと光を零しながら握られていた。


「例えば普通のジャンプじゃ届かない所に行きたい。でもその手前には落とし穴が……そんな時は『ヨッシー』に乗ってジャンプして、『ヨッシー』の上からジャンプするよねぇ?誰だってそうする。僕だってそうするさ。その後落とし穴『ヨッシー』が落ちようとさ、そんな事は『知ったことじゃない』んだよ。そうだろ?君だってそう思うだろ?だろぉー?」 


 ユーノの口の両端が釣り上がり、目が細めされる。
 吐き気を催す程の邪悪が、そこにはあった。

「何言ってんの?って顔してるね。教えてあげるよ圭一クン。友達の僕がさ。つまり何が言いたいかっていうとようするにさ……テメェはこのユーノ・スクライアにとっての『ヨッシー』なんだよ春原ァーッ!!」

 野球のスライダーか何かの変化球のように、ユーノは握っていた光球を横投げで圭一に投げつける。
 畳んだ羽毛布団を平手で思い切り殴りつけたようなくぐもった音が部屋に響いた。

「初バインドに続き初シューターだ、おめでとう圭一クン。安心しなよ、管理局ご自慢の『非殺傷設定』ってヤツさ。だからさぁ」

 本気で腹部を蹴りつけられた事がある人間は、この日本にどれだけいるだろうか。
 先程ユーノに投げつけられた光球は圭一の臍よりやや上に着弾し、低い爆発音と共に砕けた。
 体中をバインドで縛られ、逃がす事の出来なかった衝撃がダイレクトに春原の内臓を襲う。
 痛い、ではない。
 ただひたすらに苦しい。
 横隔膜がショックで痙攣し、吐いた息を吸い込むことができなくなる。
 呼吸のし方を思い出せない。
 目の前にちかちかと白い光が走り、意識が飛びそうになる。

「寝るのにはちょっと早すぎるんじゃないかい?そうだろう圭一クン」

 ゴン、と。
 硬質な衝撃音が部屋に響く。
 圭一の頭を殴りつけたユーノの左手には、先程圭一が家を出る前にコーヒーを飲んでそのままだったマグカップが握られていた。

「あぁ、痛そうだね。本当に済まない。僕の過失だ。君ってヤツがあまりに便利だからさ、僕の準備中ずっと放置してたんだよ。だからこれは僕のせいだ。そうだ、『僕が悪い』」

 圭一の顔に痛みが走る。
 今度は、ユーノは圭一の足を踏んでいた。
 玄関から入り靴を脱いだ圭一の足を、室内に居たユーノが『靴を履いたまま』。

「僕は女性の過去には拘らないタイプなんだけどね。勘違い、そうそれは勘違いだったんだよ。だってスゲェムカつくんだもん。解る?りきゃいできるぅ?」

 コンコンと、まるで中に何か入っているのか確認するようにユーノは圭一の頭をノックする。
 その衝撃は、5回、10回、20回と回を重ねる毎に強くなり、ついに思い切り圭一の頬を殴りぬいた。

「まさかお前いたいなモブにさぁ、シグナムを中古にされるなんて。あぁスゲェムカつくわ。もう一発食らっとけよ」

 どむん、と。
 ユーノは先程と同じ光球を再度圭一の腹部に叩き込む。
 内臓が正常動作を諦め、強烈な吐き気と気持ち悪さが圭一を襲う。

「ふぅ、ちょっとスカッとしたよ。ほんのすこーし、だけどね。あぁそうそう。ここで漫画だったらシグナムあたりが君を助けに颯爽と現れる所なんだけどさ、それ無いから」

 一旦窓際まで離れてユーノはポケットを探ると、金属製のリングを取り出した。
 そのリング――指輪に、圭一は見覚えがあった。
 見間違えるワケがなかった。
 先日、シグナムに贈った……昨日も、シグナムが帰るまでずっと左手の薬指に付けていたソレ。

「こーゆーアイテムを回収しそこねるとさぁ、愛の力(笑)とかで記憶が戻ったりするんだろ?あと言うまでもないけど、『ユーノ君は結界が得意』なの、知ってるよね?とっくに敷いてあるんだよ秘匿隔離結界」

 まるでゴミでも捨てるように指輪を床に放ると、指輪は倒れる事無く車輪のようにコロコロと圭一に向かって、まるで助けを求めるかのように進んでゆく。
 圭一は拾おうと四肢に力を込めるも、多重バインドに縛られた体はピクリとも動いてくれない。

「あっは」

 そこに、鉄槌を振り下ろすかのようなソフトボールほどの大きさの光球が、物理破壊設定で叩き落とされた。
 轟音と揺れ、それに粉塵。
 煙が晴れた後には、床にはバスケットボールほどの穴が、指輪など何処を見ても、陰も形もありはしなかった。

「さて、名残惜しいけどそろそろお別れだ。圭一くん。僕も流石に『リアル世界』の同郷を殺すのは心苦しい。モンスターハンターは好きかい?管理外世界に竜が多く棲んでる惑星があってね」

 突然、圭一の口を押さえていたバインドが外れる。
 酸素を求めるように獰猛に息を吸い込み、あらん限りの声量で吼えた。

「ユゥゥゥゥノォォォオオオオオオオ!!!!!」

「あぁ、その声が聞きたかった。さようなら、よいハンターライフを」













 最終話?あぁ、ありゃスマン、ウソだ。
 重いから今日はここまで。



[35299] 「それでは、いい週末を」
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/10/03 03:05

最終話-後編- 『God Speed Love』



 僕は、ついてゆけるだろうか

 君のいない世界のスピードに(ドヤァッ




 管理外世界 世界名 惑星名 名称不明


 空気があり、海があり、草木があり、動物が居る。
 高原では肌寒い空気が大地を撫でるが、力強い生命は草木を茂らせ見上げれば雪山。
 生命の美しさ、自然、そんな言葉が似合う風景に、光とともに男が1人放り出される。
 立ち上がろうとして、四肢に力が入らず地面に転がり、荒い息のまま男は空に叫んだ。

「っづぁ!くそっ、チクショウ!!シグナム!シグナムッ!!!」

 肺の中身を全て吐き出すように叫ぶ。
 しかし、声は届かず。
 天へと伸ばした手は何も掴む事は出来ず。
 男は、糸が切れたように意識を失った。

 それを見ていたのは空と大地、草花と遠くを走る草食獣、そして……

「な、何なのニャッ?!突然へんなのがでてきたニャッ!!」

「うわぁ……」

 そして服を着て二足歩行で歩き人語を話す猫と、ドン引きする1人の少女だった。


 ここで、少し時間を巻き戻す。
 圭一がユーノ?に飛ばされた管理外世界、ここは確かに竜種が数多く生息し、人々はそれ故に生活圏を広げすぎる事無く、こじんまりと自然と闘いながら生活している、そんな世界だった。
 具体的に言うと本当に『モンスターハンター』の世界だった。
 ポッケ村とか普通にあるしハンターが今日も肉を焼いてる、そんな世界だ。
 『リリカルの世界の中にある管理外世界』に何故『モンスターハンターの世界』があるのか。
 それは、具体的に言うと雪山のベースキャンプで肉を焼いている少女のせいだった。

「たんたたん♪たたたたんたたん♪たたたテレレッテレレッテレレッテレレ♪テテテテテン!!って全然焼けないよぉ~このサイズの肉10秒で焼くとか冗談でしょう?中まで火ぃ通すのに1時間とかフツーに掛かるんだけど……」

「だからご主人……お肉はおうちで焼きましょうって言ったニャン」

「えぇ~大自然の中で焼くから美味しいんだよ?」

「美味しいのとスタミナ回復は別の話ですニャ……」

 一本角があるヘアバンダナ、白いチューブトップにケープ。
 腰にはふかふかの毛皮がゴッツイベルトで止めてあり、その装備を構成する全ての素材が陽の光を浴びてキラキラと耀いている。
 キリン装備を纏った駆け出しハンター、キリンちゃんだ。
 余談だが男の娘と勘違いされるくらい胸がぺたんこであるも、性別はきちんと女の子である。
 フォローさせていただくと、少し目が細いが顔は美少女だ。
 でも胸がなぁ……
 キリンで駆け出し?と思う方も居るかもしれないが、実は村クエしか進めておらず、下位のキリン装備を作った時点で竜種討伐は満足してしまい、ハンター家業からほぼ手を引いてしまったのだ。
 今では小さな収集系の依頼で西へ東へ、大自然の中で肉を焼き、マボロシチョウを追いかけて迷子になる日々を送っている。

 ポッケ村ではファティマ・スピネッティーナと名乗っているこの少女、実は本名を『ディア・ナ・ファナトス』といい、圭一やユーノをこの『リリカルの世界』に放り込んだKAMISAMAこと本名『デウス・エクス・マッキーナ』の孫娘である。
 10年程有給休暇を貰い、現在はこの『モンハンの世界』に引篭もってぬくぬくしていた。
 今日は雪山の壮大な景色を見ながらバーベキューでもしようとお供アイルーの「ニャニャ吉」を連れて骨付き肉を携帯焼肉機でもりもりと焼いていたのだが……
 
「あれ、人口の魔力反応?誰か来るよ」

「ニャン?」

 次の瞬間、ファティマの斜め前方にミッドチルダ式転送魔方陣が展開され、中から男が1人吐き出された。
 そんでもって、冒頭の絶叫をかまして大往生するように力尽きる。

「うわぁ……」

 何か痛い人見ちゃった、と無視して火に掛けた肉を回転させる作業に戻るファティマ。
 お供のアイルーが「え?いいの?」といった視線を送ってくるが、スルースキルでも発動しているのか、完全に無視して大自然と肉の焼ける匂いを堪能していた。

 さて、10分程肉を焼く作業を継続しながら、「変な人だけどすごいイケメンだなぁ。今のうちにぺろぺろしようかなぁ」とチラチラ圭一の顔を見ていたファティマの脳裏に光が走る。
 それは随分と過去の記憶の断片であり、今は封じ込めた思い出のカケラ。

「ねぇニャニャ吉」

「ニャッ?」

「この人連れて返ろう。乙った時に使うネコ車用意しといて」

「移送ネコサービスの用途外利用は高いけど……いいニャン?」

「ん、いーよいーよ」

 立ち上がってむしゃりと一口こんがり肉をかぶりつく。
 この辺の草食動物はイイ草を食ってるのか、野性的な肉の味が強い。
 つまりはサイコーだ。
 脂肪たっぷりのぶよぶよ肉を食べて「この肉は……甘いっ?!」などと食通ぶる軟弱な現世の肉とは違うのだ。
 ファティマは全体的に肉を食べると、ネコ車が来るまで肉を再度焼き始めた。
 どうやら中までは火が通っていなかったらしい。

「どうりでイケメンだと思ったら………おじいちゃん……有給明けたら三回くらい殺そっかな。どうせ生き返るし」

 なにやら物騒な声は雪山の空に消え、流石に聴力に定評のあるフルフルも聞こえては無いだろう。
 KAMISAMAの孫娘とか神殺し発言とか出てくる辺り、いよいよ最低系も大詰めである。


 ぱちりぱちりと、木材が燃える音。
 火が近いのか、真冬で電気ストーブの近くにいるかのように体の前面に熱を感じ、背中は酷く冷える。
 圭一が目を醒ました時に、まず目に入ったのは炎。
 現実味の無いゆらゆらと照らされる部屋の風景。

 何故か、縛られてる手足。
 そして思い出した、自分が意識を失う前、何を見たのか。

「次から次へと……いい加減にしろよ……!!」

 体をくの字にまげて確認する。
 幸いな事に体の自由を奪っているのはバインド魔法ではなく、ロープのようだ。
 しかも化学繊維らしさを感じない、藁か何かの植物性由来の。
 ならやることは決まっている。
 ここは何処だか知らないが、少なくとも拘束される事は自分にとって現在不利益でしかない。
 手足を突っ張ってみるも、ロープは余程しっかりと巻きつけられているのか、緩む気配が無かった。

 部屋の作りは木造と……土壁か何か。
 少なくともコンクリートではない。
 電気が通っているようにも見えず、となるとここはド田舎の倉庫か、それとも文明的に後進の国か世界……
 いや、やめよう。
 解らない事を考えてもしょうがない。
 今は兎に角、動かなければならない。
 そうしなければどうにかなってしまいそうだ。

 マンガ的には2つの選択肢がある。
 1.どこからか手に入れた瓶をどこからか手に入れた布で包んで衝撃を与えて砕き、破片でロープを切る。
 2.目の前の暖炉から燃える薪を蹴り出し、赤熱している薪にロープを押し付けて焼き切る。

 辺りを見回すも、転がったまま手に入る位置に都合よくワイン瓶などはなさそうだ。
 となると、消去法で手段は一つになる。

「火傷は嫌なんだけどな……」

 室内でも靴が履きっぱなしにされていたのが唯一の救いか。
 さて覚悟を決めて暖炉に近づいた所で、タイミング悪く背後からドアの開く音がした。 

「ごはん持って来たよ~って、起きたんだ」

 女性の声。
 それも若い。
 ゴロリと体の向きを変えると、其処には女性用キリン装備一式を身に纏った女装趣味の少年……ではんく、胸が残念な少女が居た。
 一瞬手の込んだコスプレか、それともバリアジャケット(笑)かと考えるも、少女の足元に居る二足歩行のネコを見てその考えを投げ捨てる。
 流石にアレがユニゾンデバイスとかは無いな、無い無い。
 となると、残る解はひとつだけ。
 つまるところ、ここが本当に、ガチで、ここ数年一番のヒットをしているアクションゲームの世界だという事。
 キリンの少女はテーブルに持っていたお盆を載せると、椅子を引いて圭一に向かって座った。
 肘掛を使って頬杖をする少女は無理に大人ぶって頑張ってる感が強くて微笑ましい物があったが、その足元で両手足を拘束されて転がされている圭一を見るに、控えめに言って『誘拐犯の黒幕』と『被害者』にしか見えなかった。


「ようこそ~、『私のモンスターハンターの世界』へ。転生者さん」

「あぁ……やっぱりか」

 未だ彼女が、『リリカル世界に転生したいな!デバイスは双剣の超絶と弓のはきゅん!と……いいや俺のPSPの倉庫全部で。あとユニゾンデバイスでアイルーもちょうだい。貧乳の美少女にTSも忘れんなよ!!キリン娘サイコー!!』とかKAMISAMAに申告した転生者である可能性があるのだ。
 だが、今の言葉でそれは若干確信に変わりつつあった。
 真相はまぁ、全然違うのだが。

「『やっぱりか』って……コッチのセリフだよ!まったく、君さぁ、イケメンになりたかったんでしょ?なんで『見た目はセフィロスでいい(謙虚)』とか『とりあえず見た目はキラ・ヤマトな(ドヤァッ)』とか自己申告しないワケ?バッカじゃないの?もうホントにバッカじゃないの?死ねばいいのに!!最低系の主人公やってる自覚あんの?あとあのジジィボコっときなさいよ!!

「ハァッ?!」

 とりあえず、面食らった。
 あと、ねーよと叫びたかった。
 まだ初対面から数分なのに死ねとか、アンチに定評のある天然ボマースキルのピンク頭だってそこまで酷くない。

「もうっ!もうっ!バーカ!でもやっぱイケメン!!大好きっ!!結婚してっ!!!

 そしてものすごい速さでデレた。
 少女はだらしない顔で「でへへっ♪」とニコニコ笑っており、そこに悪意を感じないのが逆に不気味が過ぎる。
 今すぐ帰りたい。
 まぁ、帰れそうにも無くて困っているのだが。
 少女は一通り罵倒と告白を繰り返すと、ふぅと一息ついて、持ってきたトレイに乗せていた飲み物をぐい、と呷る。
 通り魔に襲われた気分とは、おそらくこういうのを言うのだろうなと圭一は頭痛の酷くなる頭を誰かに押さえて欲しかった。
 切実に。

「あらごめんね、1人で盛り上がっちゃって………とりあえず疑問に答えるね。問題『何で私が、君が転生者だと気付いたか』」

 そんな事よりいろいろ突っ込み所が多すぎて、違う!と圭一は叫びそうになった。
 一瞬だがシグナムの事も頭から抜けるくらいの衝撃だったのだが、それを自覚するとなんだか自分の想いが酷く薄っぺらい物に感じてしまうので、圭一は考えるのをやめた。

「答え『君が800年くらい前に私の考えた『わたしがかんがえたさいこうのいけめん』と同じ顔をしてたから』……厳重に封印してた筈なんだけどね……あぁ、でも本当にイケメンだぁ……」

 とんでもないことをのたまった上に頬を染めてチラッチラッとこちらを見てくる少女。
 すまないシグナム、異世界に飛ばされたけど俺はもうだめかもしれない。
 ここに来て自分のイケメン顔が他人の黒歴史だと知った彼のダメージは計り知れなかった。

 ファティマ・スピネッティーナと名乗る少女はKAMISAMAとの関係を説明し、現在10年ほど有給を取ってここでのんびりしている旨を説明した。
 ちなみに、有給はあと9年間たっぷり残っている。

「神様の関係者だと思っていいの……ですか?」

「うんうん、関係者っていうか分類で言えば私も神様なんだけどねー」

「頼みがあります!俺を……俺を『リリカル世界の地球』に帰して下さい!!」

うんごめんね、それ無理

「だったら、あの時の神様に連絡するとか……何とかなりませんかっ??」

「ごめんねぇ。君イケメンだし、正直助けてあげたいんだけどこればっかりはあと9年はどうにもならないのよ……あぁ、でも本当にかっこいいなぁ。ぺろぺろしたいなぁ……」


 早い話が、有給中はKAMISAMAパワーを封印しちゃった。
 自分で。

「なんでそんな事を……」

「だって天殻とかざっくざっく出ても面白くないでしょう?あ、携帯に頬擦りさせてもらっていい?拭かなくていいからね?

 この際彼女の不審な発言は無視する。
 つまりは、ロールプレイのためだった。
 物欲センサーと戦うために逃げ道やバックドアまで潰している所が無駄に手が込んでる。
 しかも早々に飽きて肉焼きとマボロシチョウを追い求めて迷子になる日々。
 ダメだコイツ、早く何とかしないと……

「さて、お家に帰りたいのは解るけど、ちょっと今すぐ帰るのはどう足掻いても絶対無理だって神様の私が保証するから、君の話が聞きたいなぁ。あ、ロープ切るね。くんかくんかしていい?」

 とりあえず神様相手に口答えする勇気の無い圭一は、聞かなかった事にして誤魔化しに入った。
 悪いのは無視をした圭一ではない、音を脳に届けなかった耳だ。

 ファティマは圭一に近づくと、腰に挿してあったナイフで拘束に使っていたロープを切り裂く。
 どんな砲撃でも傷一つ付かず、破壊するには大地を砕くのと同じくらいの力が必要……と言われている古竜種の鱗ですら容易く剥ぎ取る、『お前もうそれで戦えよ!』で有名な不思議なナイフである。

 地球に戻るのは、どう足掻いても絶対に無理。
 神様に保障されてしまっては、どうにもならなかった。

「ふんふん、なるほどねー。ちょっと太ってくる。ぐへへ、合法的にイケメン家具……おっと、イケメン踏み台なんてご褒美すぎます常考。流石私ってば神過ぎてごめんね!!

 圭一は神様に出会ってからここに飛ばされるまでを説明した。
 改めて通して説明すると再認識するというか、俺爆発しろよと思う。
 あぁ、シグナムに逢いたい。
 とても無事とは思えない彼女の無事を祈ることしかできない自分の弱さが、今は辛かった。

 今程強く思った事は無い。
 何故俺は、あの時魔力チートなり戦闘チートを望まなかったのだろうと。

「んー、私が9年後に地球に送ってあげるのはいいよ?けどそれって結局今度こそユーノに殺されちゃうんじゃない?」

「みんなの頭を治してユーノをぶっ殺したりできませんか?」

出来たら今すぐやってるけどね。9年後でもそこまで私が派手に動くとおじいちゃんに止められちゃうかなぁ」

「じゃあ俺は……どうすれば……」

「モンハンすればいいんじゃないかな。シグナムの事が忘れられないなら……私が忘れさせてあげようか?」


 ぐい、と身を乗り出すファティマに対し、思わず体を反らす圭一。
 しかし、ファティマは顔を前に突き出したまま椅子から立ち上がり、ジリジリと圭一との距離を詰める。
 何かの力が働いているのか、圭一は彼女の目から視線をそらす事ができない。
 それでも、体ごと横に向ける事で、なんとか拒絶の意思を示した。

「んー?必死に嫌がるイケメンも……ゴクリ……じゃなかった。な、何勘違いしてんのよっ?!まさか私の体を使って忘れさせて上げるなんて勘違いしてないでしょうねっ?!」

 そして何故かツンデレが入った。

「違うんですか?」

「寝取り趣味は無いわよ。ただちょっとこの工房試作品ガンハンマで転生してから先の記憶を吹き飛ばすだけで」

 ※ガンハンマ。リボルバー銃のシリンダーと撃鉄を巨大化し、棒を付けてハンマー化したもの。火属性。殴られるともの凄い痛そう。というか死ぬ。


「命が関わる系はちょっと」

「ごめんなさい、ガンハンマは冗談よ」

 つまり記憶消去はガチである。
 その辺は制限つきでもKAMISAMAだった。

「記憶操作が出来るんですかっ?!」

「うん、転生者の光体(アストラル)はそのへんいじり易いように出来てるから……あぁ、近くで見てもイケメンはいいなぁ。ちゅっちゅしていい?いいよね?えいっ」

 回避距離+2があるわけでもないのにサッと横に回避する圭一、そして地面とちゅっちゅするファティマ。

「俺だけ……なら、お願いしたい事があるんですが」

「そうやって私をロロ雑巾みたいに使い捨てる気ね?でも……それでもね?……それでも貴方の顔が好きなの」 

 圭一はとりあえず「この人はこういう人なんだろうな」と諦める事にした。

「記憶がいじれるなら、忘れないようにして欲しいんです。9年後に、俺はやっぱりそれでも地球に帰ります。それまで、シグナムの顔が、シグナムの声が、シグナムとの思い出が……時間に削り取られないようにして欲しいんです」

「いいよ!」

 ヨヨヨ、と泣いたフリをしていたファティマはその言葉を聞くとがたん!音を立てて立ち上がり、ぐっと親指を立ててサムズアップ。
 ちなみに最低系のSSに「サムズアップ」という単語が含まれる可能性はおおよそ83.25%。

「一途なイケメンとか大好物だから。ちょっとこっちおいで」

 そう言うと座り方を女座りにぺたんと変えて、圭一を呼びつけた。

「そこに寝っ転がって。んで頭をこっちに、そうそう。何恥ずかしがってるの?ご褒美なの?ぺろぺろするよ?」

 身振り手振りで膝枕させろと言う彼女に、圭一は仕方なく従った。
 声?先程からファティマから圭一への意思表示はボディランゲージオンリーの筈だが。
 ファティマは眼前にある圭一の顔を包み込むように手を添えると、自らの顔をそっと近づけ、ひたいとひたいを接触させると、ぶつぶつと詠唱を始める。

「時間、場所、イベント……世界と、人と……こんな感じかな?IDなんて覚えてないしなぁ……in句でいっか。時間かかるけど」

『SELECT * FROM Episodic_Memory AS EM
 WHERE worldcd in
  (SELECT worldcd FROM World_M AS WM
   WHERE worldNamelong='リリカルなのはの世界'
   AND worldTime=stsDate()+add_months(sysdate, 12*3)
   AND custumType=fix)
 AND mem_seq =
  (SELECT mem_seq FROM MEM_M AS MM
   WHERE nationality = '日本'
   AND name1long = '春原'
   AND name2long = '圭一'
   AND birthday = 19850601
   AND sex = 'MEN'
   AND cherryflg = 0)
 AND characters like '%シグナム%'
 FOR UPDATE』


 驚いたことに、この世界のアカシックレコードはoracleサーバで動いているようだ。
 さり気なく人物マスタテーブルの抽出条件に『チェリー(童貞)フラグ=0(なし)』とか検索されているあたり、話していない所までいろいろモロバレだった。
 あと誕生日が文字列型じゃなくてナンバー型なのは設計思想上あんまり圭一の好みではなかった。使いやすいのは認めるが。

 詠唱が唱え終わると『リリリリリ』と鈴虫の鳴き声を電子音化したような高音が連続で響き、圭一は自分の中の『シグナム』に関する記憶が確固たる物に変わってゆくのを感じた。
 10分程経過した頃、高音は鳴り終わり、頭の中で何かが変わってゆく感覚もまた、終わりを迎える。

 さらに5分後。

「…………」

「…………うへへ」

 頭の上から気持ち悪い声が聞こえた。


「終りました?」

「………ちぇっ」

 やはりあの感覚の終わりと共に処理は完了していたらしい。
 誰かいい加減このHENTAIを如何にかして欲しい、割と切実に。

「君の中っていうか、今の私で出来る範囲で世界に対して情報に排他ロックかけたから。これはもう神様系の能力じゃないと変更削除は一切受け付けないからね」

「SQLでどうにかなるんだ……」

「やだなぁ、私がイメージしやすいから使ってるだけだよーもー」

 シグナムの記憶はこれで固定された。
 あとは9年後を……
 9年後、現在22歳の圭一はもう31歳だ。
 9年もあれば入学したての小学生が高校生になってしまうし、駅前の通りも様変わりしてしまうだろう。
 ヒトの一生に対して、それはあまりに長かった。
 ひとまずその日はお開きとなり、部屋のソファーで横になる圭一。
 いろいろと考えなければならない事はあるはずなのに頭は重く、気付いたら意識を失っていた。
 ちなみにニャニャ吉は部屋に入って速攻ベットに飛び込んで寝こけていた。

 大切なものを、色々と失った一日は、そうして幕を閉じる。

「ちゅぱ……んっ……おいしい……ぐへへ……イケメンの唾液とか不老長寿の霊薬です……捕獲用麻酔玉マジ便利wwwwサーセンwwww」

 大切なものを、色々と失った一日は、そうして幕を閉じる。

「(ちゅるるっ……でもさっきアカシックレコードにアクセスした時の違和感……んむっ……上位権限じゃないとわからないけど、妙な負荷が掛かってたような……けーくんわたしのつばも飲んでね♪あー、鎖で縛って閉じ込めたいなぁ……)」



 大切なものを、本当に色々と失った一日は、そうしてようやく幕を閉じる。





 翌日。
 ファティマが運んできたポポ肉のステーキセットという朝霞からヘヴィな朝食を済ませ、2人は今後について話し合う。

「私としてはイケメンのヒモとか超絶ウェルカムなんだけどね?家賃は体で払ってもらうし」

「すいません仕事紹介してください」

 かつてここまで労働意欲に燃えたことがあったろうか。
 今なら行ける、ハローワーク。
 

「そうだねー。小さい村だから男手は必要だろうけど……私とハンターやる?」

「ハンターってあの……竜退治とかですか?」

「うん。っていうかやった方がいいよ。この世界の仕組みもちょっと教えてあげるね」



 神様曰く、『アニメのリリカルなのはの世界なんて本当に存在するわけないじゃん』とのこと。
 身も蓋も無いが、それが事実らしい。
 じゃあ今居る世界は何なのかって言うと、『神様が創ったリリカルなのはっぽい世界』が正解。
 ただし、リアル世界を創ったのみ神様で、リリカル世界を創ったのも神様。
 そこに性能の違いはあれど上下関係は無く、よくある『俺にとってこの世界は物語の世界じゃない、現実なんだ!』という話はちゃんちゃら可笑しいらしい。
 何?そんなに自分の事特別だと思った?ばっかじゃねーの?とのこと。
 言ってみればリアルの世界の住人も神様が創ったリアルという世界の登場人物に過ぎないのだ。

 さて、この『モンハンの世界』だが、休暇用にファティマがモンハンの世界を作る際、イチから作るのが面倒くさくて『リリカルの世界』に寄生する形で創ったらしい。
 『管理世界』という概念が実装されているため、後付が非常に楽なんだとか。
 ついでに魔法があるため、『明らかに物理的に飛べない竜が空を飛べたりビームを吐けるのは、魔力のお陰なんだよ!!ナ、ナンダッテー!!』理論で構築も楽チンでしたっておいおいいいのかそれ。

 例えばモンハンをしててこんな事を思った事は無いだろうか。

 プレイヤーが装備してる防具がいくら恐ろしく硬い竜の素材で出来ていたとしても、20トンを軽く超えるような巨大な竜に踏み潰されたり体当たりされて、何で生きていられるのか。
 明らかに重量が100kg近そうな武器を平然と振り回しているのは何故か。

 そんな疑問もこの世界では一発で解決だ。
 つまり『それは魔力を持つ竜の体を使った武器防具を作って装備することで、自然に体が強化されてるんだよ!!ナ、ナンダッテー!!』であり、『強く長く生きている竜ほど体に強い魔力を持っているんだよ!!ナ、(ry』の理論でどんどん装備が強くなるとプレイヤーが強くなるのだ。

「この惑星に住んでいる人は、もちろん私もだけどリンカーコアなんて持ってないの。けど強力な竜種から作った装備があれば、どんなに重たい装備を持っていても風のように速く走れるし、岩を砕く怪力を発揮できる。それなら、もしかしたら魔導士にも対抗できるかもしれないよ?」

 んなワケあるか!と普段の圭一なら反論していただろう。
 そも、遠距離攻撃が得意なミッド式を相手に、近接オンリーかボウガンか弓とは装備に不安がありすぎる。
 だが結局、彼に他に何かする手段は無いのだ。
 この星にはデバイスもなく、魔法も使えない。
 幸いシグナムの記憶は消えないのだ、モチベーションも簡単には折れないだろう。
 よって圭一の答えは、YESだった。

「ふふん、モンハンをやるならやっぱ1人より2人だよねー。じゃあこれからはお互い命預けるんだから。最初みたいに気軽に話しかけてね?じゃないとマジ死んじゃうから。ティガレックスとかラージャンとか

 最低系のテンプレ『偉い人からタメ語許可』が発生したが、ある意味切実だろう。
 生死を別ける戦場で「粉塵!」と「申し訳ありませんが生命の粉塵にストックがあれば使っていただけますか?」では生存率が違いすぎる。
 ついでに最低系のテンプレ『ギルド(笑)加入』イベントも発生した。

「んじゃ、とりあえずクック先生の装備作ろっか。森丘ならこっから片道2日くらいで行けるし

 流石に狩場の移動はリアル補正を免れなかったようだ。




 さぁ、先を読んだ方も居るでしょう。
 声を揃えてお願いします。



『キング・クリムゾン!!』



 3年後 ミッドチルダ 某所 地下
 
 薄暗いその部屋は、ちょうど高さも広さも学校の体育館ほど、といった所だろうか。
 壁にはなんらかの動力炉のようなものが並び、今やその稼働は運転限界ギリギリに到達しようとしている。

 その部屋の中央には2人の人間が立ち、やがて来る時を待っていた。

 1人はメガネを掛けたクリーム色の髪の男性。
 1人は金髪の、まだ少女と女の中間のような女性。

 男の名はユーノ・スクライア。
 無限書庫で洗脳魔法の研究を極め、己の欲望のままに人々を操った男。

 そしてもう1人は、彼の犠牲になった……


「そろそろかな?いやぁ、研究してみるものだよね、何事も……さ」


 ユーノの声に答える声は無い。
 だが、それが常なのだろう。
 彼は最初から答えなど求めていないように、今か今かと虚空を見つめる。

 彼にとって、春原圭一は何だったのか。
 聞けば、彼は笑って答えるだろう。
 『便利な駒だった。早く始末すりゃよかったけど』
 ユーノの使った『支配』の魔法、それには僅かながら制限があったのだ。

 『対象が、術者に心を許していること』

 ユーノ・スクライアは闇の書事件を境に地球から離れ、またなのは達との接点も次第に少なくなってゆく。
 さてどうしたものかと知恵を絞る暇も無く、解決策は向こうから勝手にやってきた。
 地球の主要人物と、なのは達を繋げる橋渡しになる地球人の男が。
 あとはその男との関係が続く限り、セットでスクライア一族……つまり部外者であるユーノも、身内として扱われる事ができる。
 実際、圭一が居たからこそ生まれた「年に1度か2度は海鳴に集まってメシでも食おうぜ会」に毎度紹介され、女性達と友誼を交わしていったのだ。

 そんな彼だが、ありていに言えばこの世界に若干飽きつつあった。
 今はまだ飽ききったわけではないが、例えばなのはやフェイト、はやてらは肉体年齢25歳を迎え、女としては十分魅力的な年齢の範囲ではるが、ユーノ基準では「ババァ」に分類される一歩手前まで来ている。
 このままでは数年後にはもう、彼女達の肉体的魅力は衰えるばかりになるだろう。
 そうなる前に。

 新しい遊び場を探そう。

 『リリカルの世界』があるのなら、他の世界もあるのでは?

 そんな妄想を元に、彼は研究を始めた。
 そして、見つけたのだ。

 虚数空間、その先に。
 アルハザードでは無く、別の世界を。

 通常、作品レベル間の移動はキャラクターであるユーノには不可能だ。
 それは原理的にというものではなく、単純にKAMISAMAの設定したセキュリティシステムによって、である。

 そして、現在構築、デバッグ中である『けいおん!の世界』は、そのセキュリティをまだ実装していなかった。
 ユーノは、見つけた世界がどんな世界なのか知らない。
 しかし、調査の一歩として、小さいゲートをつなぐ実験が、もうすぐ佳境に入ろうとしてるのだった。
 

「あぁ、楽しみだなぁ。バトルが無いほうが楽だよね。まぁゼロ魔レベルならどうにでもなるんだけど、さ」


 流石にニャル子などのクトゥルフ系と、ドラゴンボールみたいな超インフレ系と、アンパンマンみたいなそもそも人類が存在していない系はどうしようもない。
 マブラヴも無理だし大量破壊兵器系は難しい。
 ガンダムもできれば遠慮したい。


 そんな事を考えてると、いよいよジュエルシード封入タイプとレリック励起タイプの魔力炉はそれぞれ臨界に達し……無かった。
 それどころか徐々に稼動音は大人しくなり、止まりかけている。
 さらに――――


「何で止まるんだ?シャマル!クアットロ!!ドクター!!!……何だ……何が?なのは?……フェイト……??」


 技術畑の連中に通信を飛ばしても反応が無い。
 違法研究に当たるので念のため護衛に付けていた武装組みもだった。

「まさか神(笑)の横槍か?……って、AMFぅ?!」

 体から力が抜けていくような感覚。
 経験した回数は少ないがこの特徴的な脱力感は覚えがあった。
 アンチ・マギリング・フィールド。
 魔力炉の暴走対策で設置されたそれが、今全力で稼動している。

「くそ、一旦出るよ……って今度は何だい?!」
 
 ユーノが隣に立つ女性に声を掛けた瞬間、広間の正面扉が突如爆散した。
 重厚な扉の残骸があちこちに引っかき傷を付けながら転がりまわり、粉塵が入り口を隠す。
 事故でもない、管理局の取り締まりでもない、テロリストの襲撃でもない。

 事故でもあんな場所は爆発しない。
 管理局なら誰かしらの耳に入るはずだし、そもそもここまで実力的に来る事が出来ない。
 テロリストはここに用がない、唯一興味ありそうなドクターは時間を掛けて洗脳している。

 ならば、そこに組織立った理由は無く。
 つまるところ、個人に。
 さらに上げるのならば、怨恨に根ざした悪意しかありえなかった。


「はは、何だい君は。コスプレ会場なら他をあたって欲しいんだけど……って君、圭一クンかい?」

「…………」

 煙が晴れた場所に立つのは、男がただ1人。
 青い武者鎧、戦国の世の将軍が身に付けたかのような出で立ちで佇む、春原圭一の姿がそこにあった。

 暁丸・覇

 古き龍にして巨大なる龍。
 その装備を纏うものは、世界を制す、または世界を破壊するとまで謳われた、至高の一品である。

「とんだ同窓会になったね。まさかソレ、バリアジャケットのつもりかい?君リンカーコアも持ってないだろうに。それとも一回死んで、神様にお願いして帰ってきたのかな?」

 ユーノの余裕は崩れない。
 そもそも、余程の反則を持ってこない限り、彼を倒す事は出来ないのだ。
 正確には、彼を守る『隣に立つ女性を倒すことが出来ない』。


「殺せ、ヴィヴィオ」

「……砲撃開始」

 ユーノの隣に立つ女性、それは3年の月日で成長した、高町ヴィヴィオだった。
 手足が伸び、リンカーコアの扱いに磨きが掛かり、さらに高性能の杖型デバイスまで持ち、おまけにリィンフォースツヴァイと常時ユニゾンしている彼女を倒せる存在など、この管理世界を見渡しても皆無と言って良いだろう。
 表情こそ無くしているものの、彼女は美しく、そして力強く成長していた。

 ノータイムで放出された砲撃は、彼女の手持ちの魔力だけで全盛期の高町なのはのそれを軽く上回る威力を孕んでいた。
 そして、ロストロギア級魔力炉の暴走を押さえる程のAMFの影響下で、彼女の砲撃は全く減衰されずに圭一に到達した。
 特定魔力波長を除外した特殊結界、野望と保身には鼻の利きがよくなる男である。

 だが、それを―――――


「なん……だって……?」


 圭一は、背中に引っ掛けていた70cmほどの青い楯を手に取ると、それを前方に突き出すだけで砲撃を正面から受け止め、散らせてしまった。
 千年の時を生きる超大型古龍、ラオシャンロン。
 巨竜種すらこの竜の前では捕食対象ですらない。
 ただ歩いて通り過ぎるだけで幾つもの国を滅ぼしてきた、正真正銘のドラゴノイド・タイフーン(災害竜)である。
 その魔力の最も強く宿る天鱗と呼ばれる鱗から作り出した彼の装備は、最早魔法と名のつく一切の脅威をほぼ無条件に無効化する。
 ついでに言うなら、今の彼はガード系スキルが発動状態であり、ガード行為によるスタミナ消費も最低限だ。
 彼を殺したければ、肌が露出している部分に質量兵器を、それも最低でティラノサウルスを一撃で殺せる程度の威力をぶつける必要がある。
 つまり、大量破壊兵器を除けば、戦車の砲撃を顔面に直撃でもしない限り、今の彼は傷一つ付くことは無い。

「随分高性能なシールドを貰ったじゃないか、圭一クン。神様のケツでも舐めたのかい?怒りすぎだよ、ちょっと知り合い全員を洗脳して管理外世界に放り込んだだけじゃないか。……まぁ僕なら確実に相手をブッ殺すけどさ」

 ユーノは話しながら時間稼ぎに入った。
 彼は圭一の装備のスペックを知らないし、ある確信があったからだ。
 もう少し待てば、彼に忠実な女性達が、間違いなく駆けつけると。

 そんなありもしない幻想を、愚かにも未だに抱き続けていた。

「そういえば、そもそもどうやってミッドに来たんだい?最近の神様はタクシー業でも……」

「シグナムが……」

「ん?」

 この部屋に来て、圭一が最初に発した言葉はやはり彼が愛した女性の名前だった。
 その想いが今だ色あせていないのは、彼の左手につけられた婚約指輪が証明している。

 だが彼は今何と言っただろう。

 シグナム『が』。


「あぁ、あの産業廃棄物ね?僕ってば優しいからあのあと洗脳を解いて上げたんだよ。聖人みたいだとは思わないかい?まぁ、その後デバイス取り上げて擬似リンカーコア潰して、管理局員の殉職率8割の扮装地域のスラムに放り込んだんだけどさ。そういえば今どうしてるんだろうね?」

 ユーノは、挑発しているつもりだった。
 おかしい、これだけ派手に破壊行為が行われたのに、誰も救援に駆けつけない。

 圭一が予備知識も無しにユーノの言葉を聞いていたら、きっと取り乱していただろう。
 いや、実際シグナムがあの後どうなったかなんて、圭一は今までしらなかった。

 それでも、そんな事は最早、知ろうが知るまいが、嘘だろうが本当だろうが、知ったこっちゃなかった。
 だから、結果だけ一言、ユーノに回答をプレゼントしてやった。


「死んだよ」

「死んだ?そうか残念だね。ビッチざまぁ」

「念のために言っておくが、ユーノ」

「何だよ、踏み台」





待ってても誰も来ないぞ。全員俺が殺したから
 
「ハァッ?!何言ってんだよ君。どうせそんな度胸も無いくせにさ」

「なら、来ない援軍を待ってればいい。俺がお前を殺すまで」


 圭一がユーノに向かって歩き出す。
 暁丸シリーズを装備した時独特の、シャリンシャリンという宝石を散りばめた布が揺れるような音だけが、広間に響いてゆく。

 彼が今装備しているスキル珠は「気配珠」。
 言葉どおり、彼はここに来るまでに周囲の人間を皆殺しにして来ていた。

○ ● ○

「洗脳が解けない?何でだよっ?!」

 今から2年程前、つまり圭一が『モンハンの世界』に流されて1年が経過し、フルフル装備をそろえた頃の話だった。

「確認したんだけど、ユーノが使う術式は原始的だけど『原初』……解りやすく言えば世界の情報をまとめたアカシックレコードにアクセスしているみたいなの」

 話はこうだ。
 『リリカルなのはの世界』は神様が作成した。
 住人はそもそも世界の根源情報にアクセスする方法を『知らない』ため、セキュリティ対策はしてあるものの、それは万全では無かった。
 過去にそのセキュリティーホールを突かれる事件が発生し、その技術を開発した国は管理世界単位で滅ぼしたらしいのだが……まだ未使用だったために見落としていた裏道の情報が、無限書庫に眠っていたのだ。

「ありがち過ぎて笑えないんだが。まさかその国って『ア』で始まって『ド』で終ったりしないよな?」

「『アルハザード』……ね。アレもイレギュラーだったのよ。本来なら歴史の大まかな流れだけ設定して、後は基本放置プレイが私達のスタイルなんだけど……」

 この世界のアルハザードの最も優れた発明。
 それは魂の数式化に成功した事だろう。
 彼らはそれにより『リリカル世界』の内部だけでなら任意の転生すら可能となり、やがて世界の解析に走り、根源へとたどり着いてしまった。
 そして、神に滅ぼされた。

「今回の件でも、修正パッチが入ると思うよ。でもそれには時間がかかる」

「具体的には」

「40年くらい……かな。この『リリカル世界』はもうリリースして長いから、システム的にロールバックも利かない上にパッチを作るのも実行するのも時間が掛かるの」

「ちなみに、具体的にパッチが動くとどうなるんだ?」

「多分前と同じだから、KILL OLLコマンドが走ると思う。発動してから1年以内に、死因はいろいろだけど、関係者は全員死ぬわ」


 全員、死ぬ。
 シグナムも。
 高町なのはも。
 フェイト・T・ハラオウンも。
 八神はやても。
 守護騎士たちも。
 クロノも、エイミィも、翠屋の人たちも。

 そして、もしかしたら聖王教会や管理局の関係者、そして戦闘機人たちも……


 みんな、死ぬ。

「まぁ、彼女達にしてみれば現時点でも既に死んでるようなものかもね。人物情報にアクセスしたけどこの1年間で全員非処女になってるわ。9割が妊娠経験ありになってるし、避妊って大切だと思わない?ちなみに出産データはゼロね。胎児が3ヶ月以上生き延びたケースもゼロ」

 この頃から、圭一が夜に外で考え事をしている姿が目撃されるようになる。
 そして、その2年後。
 現在から、ほんの少し前の出来事だ。

 相変わらずファティマの家のソファーで寝ていた圭一が起きると、目の前の床に銀色の太刀が突き刺さっていた。
 銀火竜の太刀かとも思ったが、竜鱗などの生物的な特徴が無く、むしろ金属の……人間が精製した、人工物の趣がある。
 遠い記憶、どこかで、この剣を見た事があるような。

 そうだ、これは……

「炎の魔剣……フレイム……いや、レヴァンテイン?」

『おはようございます。セカンドオーナー、ハルハラ』

「何でお前が、いやそんな事はいいんだ。ファーストオーナーは、シグナムはっ?!」

『死亡しました』


 世界が、砕け散る音がした。

 アームドデバイス、レヴァンテイン。
 彼は主シグナムの消失を検知し、最後に残されていた命令、『私が死んだら春原の元へ』を忠実に実行し、カートリッジを消費してここまで転送してきたのだという。
 主シグナムとは3年前に引き離されており、『共に闇の書にデータ化されていた』つながりから主の死を検知したのだという。


 どんな姿でもいい。
 もう一度、会いたかった。
 届かなくてもいい、もう一度愛してると言いたかった。
 その想いが届くことは、もう無い。

 次の日には、『モンハンの世界』から圭一の姿は消えていた。

○ ● ○


 突き出した右手には、剣を模した待機常態のデバイス。

「終わりにしよう。せめて『俺達』で決着を付けよう。レヴァンテイン……セットアップ」

『ja』

 バリアジャケットは要らない。
 全ての魔力を、剣へ。
 今、圭一は魔力の塊である竜の鎧を身に纏っている。
 リンカーコアを体内に持つのではなく、外に身に纏っている形に近い。
 無理矢理デバイスに魔力を流し込んでいるせいで、今にも回路は焼け落ちてしまいそうだった。

「何でお前なんかがソレをっ!!」
 
 ――――持っている?
 ――――起動できる?

「ヴィヴィオ!殺せェッ!!」

 杖型のデバイスに魔力刃を展開すると、まるでフェイトのお株を奪うかのように空中を縦横無尽に駆け、圭一の頭上から急襲。
 それを、やはり左手に持つ盾で受け止める圭一。
 届きはしない、その程度では。

 ヴィヴィオの慣性が殺され、一瞬の停滞。
 その隙を逃さずに、圭一はヴィヴィオをレヴァンテインで串刺しにした。


「―――え?」


 その声を上げたのは、無敵の下僕をアッサリと殺されたユーノか。
 自らの強い力を自覚していたのにも関わらず、紙に突き立てるようにあっさりと防御を抜かれたヴィヴィオだったか。

 圧倒的な物理的な腕力と、竜の魔力を宿した魔剣。

 しかし致命的な傷を負ったのは、ヴィヴィオだけでは無く――――
 ピシリピシリと硬質な何かにヒビが入る音が、圭一の頭上から聞こえる。


『ハルハラ』

「あぁ」

『Um ihn zu töten(彼を殺せ)』

「言われなくとも」

『....Danke(感謝を)』

 べきりと、ついに異質な過剰魔力に耐えられなくなったレヴァンテインが、刃なかほどでへし折れた。
 支えを失って重力に任せて落下するヴィヴィオを、圭一は受け止める。
 リンカーコアごと心臓をぶち抜いたレヴァンテインの切っ先は、今だ彼女を貫いたまま。
 内部にいるリィンフォースは既に機能不全に陥っていた。

 つまり、ヴィヴィオの命も、あと数瞬で掻き消える。

 彼女を丁寧に床に下ろそうとしたその時、今まで無機質でどこを見ているのかも解らなかったオッドアイの両目が、明確に圭一を捕らえた。

「ハル…ハラ……お兄さん?」

「ヴィヴィオ?君は……意識が?」

「あのね…あのね……わすれてて、ごめんなさい」

「……いいんだ」

「くまさん。ありがとう」

「え……」



 くまさん。

 心当たりが、あった。

 仲間内で集まって、18の誕生祝いをした時の話だ。
 圭一はミッドに行って暫く誕生日を祝っていなかった友人達に、『3年分の誕生日プレゼントまとめて』とそこそこ豪華なプレゼントを配った。
 その時高町なのはに渡したのが、ヴィータ程もある大きさの、クマー!のぬいぐるみ。

『どうせ無駄に広いベッド使ってるんだろ?寂しかったら抱きしめて寝ていいぞ』

 そんな言葉で、からかった覚えがある。
 そして、過去に一度だけヴィヴィオに会った時。
 そうだ、士郎からメールで誘われた、なのはが落ち着いてから初めてヴィヴィオを地球に連れてきたあの時、圭一にヴィヴィオを紹介する時に言っていた。

『ヴィヴィオ、この人がママの小さい頃からの友達でハルハラケイイチ君。ほら、ヴィヴィオのおっきい熊のぬいぐるみ、ケイイチ君がプレゼントしてくれたんだよ』

 その時ヴィヴィオは、なんだか恥ずかしがって高町の後ろに隠れていたっけ。
 あとから聞いた話じゃ、よく抱きしめたまま昼寝をしていて、よだれでべとべとにしてしまった事が何度かあったから、恥ずかしかったのだろうとの事だった。

「こんどは……言え……たよ?」

「大切に……してくれたみたいだな。どう、いたしまして」

 ヴィヴィオは今、時を戻っているのだろう。
 3年前の、全ての時が優しく流れていた、あの頃に。

「うん、大切な……たからもの、なの」

 腕の中で、ヴィヴィオの体から力が抜けるのがわかった。
 そっと地面に下ろすと、立ち上がりユーノを睨みつける。

「ヴィ、ヴィヴィオを……ヴィヴィオを殺したな?!この殺人鬼がっ!!」

「シラけさせるなよ。もううんざりだ」


 もう、いい。
 苦しめてとか、憎しみぬいてとか、どうでもいい。
 兎に角1秒でも早く、死んで欲しい。
 圭一はAMFの中を駆ける。
 あまりに強力すぎて、転送魔法も防御魔法も使えない中、折れたレヴァンテインを振りかぶった。

「お前が、お前が居たからっ!!あぎッ……」

 折れたまま、その断面を喉に突き刺し、気管を潰し、動脈を引きちぎり、頚椎を砕き。
 そうして、特に見せ場もなく、ユーノ・スクライアはアッサリと死んだ。

 誰も彼も死んだ。
 何もかも死んだ。

 そして、1人残された男も、もうすぐ死ぬ。

「まぁ、上等な方だよな」

 何の達成感も無いが、よく生きてここまでこれたと思う。
 元々、戦闘向きの性格じゃなかった。
 それが気付けば大型飛竜との戦いの日々。
 死ぬほどの怪我はしょっちゅう。
 飲むだけで怪我が治る不思議ドリンクを飲まない週は無く、体はいい加減ボロボロだった。

 手甲を外して、左手を掲げる。

「ホント、世話になりっぱなしだよな」

 知らないうちに、あの情事の中この指輪に微弱な魔法を、シグナムは掛けていたらしい。
 だからレヴァンテインは、その僅かな信号を頼りに、圭一の下に辿り付くことが出来た。

「逢いたいよ、シグナム」

 気付けば両膝が地面についていた。
 気付けば後ろに倒れていた。

 なんだか、とても眠い。

 そうだ、起きたら、シグナムの墓を作ろう。
 あの、海風が吹く海鳴の街に。








 地球。ある冬の終わりの、週末の朝。

 1人暮らし用の狭いアパートに、「たんたらりったん!たんたらりったん!」と携帯の着信音が響く。
 mp3も着信音に設定できるようになったこのご時世、何故か皆着信音を基本音に設定してしまうのは、少し大人になったからだろうか。

 春原圭一が枕元の携帯を確認すると、画面中央には『クロノ君別荘』の表示。
 時刻を見るとまだ朝の8時過ぎだった。
 さて、ハラオウン家地球出張所から掛けてくるとなると管理世界の誰かであろうが、さて誰だろうか。
 しかし、夢、か。
 すげぇ夢見たな。
 あのユーノ君が腹黒とか、リアルモンハンとか。

「もしもし?春原です」

『どうもお久しぶりです春原お兄さん、高町ヴィヴィオですっ!』

「…………あぁ、これはご丁寧に」

 電話を切って何も無かったことにして寝たい。
 おかしい、高町さんとは親しいつってもヴィヴィオから連絡が来るほどじゃない筈なんだが。

「ミッドで何かあったのかな?」

「えっとですね、なのはママとフェイトママが長期のお仕事で帰って来れなくなりまして、周りのお友達も忙しいみたいなんです。それで丁度私の学校がお休みだったからなのはママの実家にお世話になる事になりまして」

「ほー、そうなんだ」

 あれ、俺全然関係ないよね。
 何だ、誰の陰謀だ。

「それでですね、翠屋に電話したのですが、今お客さんが多くて少し出られないそうなんです。それで春原お兄さんに時間があれば、案内を頼んでみて欲しいって」

「士郎さん……」

「あっ、でもでも、美味しいものを用意して待ってるって言ってました」

「それは俺に言ったのか、それともヴィヴィオちゃんに言ったのか……」

「あの、来ていただけますか?」

「あぁ、いいよいいよ。高町さんのお父さんには世話になってるし。久しぶりにヴィヴィオちゃんにも会いたいし。背は伸びたかな?」

「前に会ってからまだ一ヶ月ですよ!……あっ!えっと……お兄さん」

「ん?」

「前は、いいそびれちゃって……その、くまさん。ありがとうございます」

「いや、いいんだ。大事にしてくれているなら、それで」

「はいっ」

「すぐ行くよ、15分もあればつくとおもう」


 玄関の鍵を閉めて、冬の住宅街を歩く。
 春が近づいたせいか、寒いながらもどこか希望があるというか、明るい感じがする。
 それとも……

「俺がスイーツだからかな?」




 住宅街を早歩きで進む圭一の頭上100メートル。
 ゲームから飛び出してきたような格好の少女が、ニヨニヨしながら圭一を見下ろしていた。

「もぅ、苦労したんだからね?ユーノが転生者じゃなくてけーくんが居る並行世界を探し出して、魂と記憶統合までしたんだから。ま、御代は頂いたけど」

 そう言って、今度は慈愛の篭った、綺麗な笑顔で下腹部を撫でる。

「でゅふふ、イケメンと死姦とかサイコーでした。ゴチでありますwwwww禁断のリアル親子丼wktk!!ふひっwwwふひひっwww」


 



 何のためにユーノ君のキャラクター紹介はしょったと思ってるの?

 面倒くさかったからだよ。
 別に前回の伏線とかねーですから。


 あとこのひどいキリンさんを誰か如何にかしてください。


あとスマン、連続更新はもう無理だ。
っていうか更新しないかもしれない。
するとしても次の「踏み台の初デート」が」ラスト。
ご愛読ありがとうございました。



[35299] 『僕たちの失敗』
Name: 雪道◆f250e2d7 ID:fa6a10b9
Date: 2012/10/04 01:23
 ミッドチルダ首都クラナガン リーンズリーフ通りの12番交差点にある喫茶店


 1階で会計を済ませた際、イートインをすれば2階で食べる事ができるこの喫茶店はタルト系のケーキが巷で評判であり、タウン誌にも載っているデートスポットだった。
 そんな喫茶店の2階の隅っこで、「勉強会」と称してランチを食べている女性が2人。

「でさぁ、ほら私達って体に金属入ってるから重いじゃない。先週なんか酔っ払ったギンガ姉さんが『彼氏と騎乗位とか対面座位とかが恥ずかしくてできない。らぶらぶして気持ち良いのに。たまに彼が重そうな顔するの』って泣き出しちゃってさー、お父さんも漢泣きし……て……はい、すいません。調子のりました」

「まだ寝ぼけてるなら一発スッキリさせてあげるけど?秒速1234メートルの私の弾丸で」

「や、もう、覚めたから。いろんな意味で覚めたから」

 ティアナ・ランスターはスバル・ナカジマの鼻先に突きつけていた指先を手元に戻すと、空になったパスタが入っていた皿を横にどけて替わりにテーブルの端にあったアイスティーを目の前に持ってきた。
 カバンから単語帳とメガネを取り出すと、以前から行っていた法律に関する暗記をふんふんと再開する。
 一方スバルといえばまだ『でらっくすメガ盛りステーキ定食ニンニクマシマシ』が片付いておらず、目の前に座っているティアナの鼻にはにんにくの匂いが突き刺さり、ここがタルトが自慢の喫茶店だという事を忘れそうになる。
 なんでこんなメニューがあるのかが、そもそもの謎である。
 おまけに肉はまだ山のように残っており、当然のようにスバルはトレイを片付けている店員さんにごはんの御代わりを要求した。

「そんな事言っちゃってー。ティアナだってずっとパイパンなのを悩んぐえっ、ちょ……スネはカンベン……」

 無言でフンと鼻を鳴らすティアナの右手はテーブルの下に隠れており、指先からは魔力の残滓が煙となって流れていた。
 ちなみに、戦闘機人じゃなければスネの骨が砕けてるくらいの威力はあった。

「もう、アンタが筆記試験の対策したいっつったからこうやって態々休日なのに付き合ってるのよ?」

「だからご飯代は出すっていってるじゃ~ん。大体確立とか統計とか部下率いるのに使わないのに何で試験に出るんだろうね」

「使うにきまってんじゃないどこまでアンタ……主席卒業って経歴詐欺なんじゃないの?」

「だってさぁ、『重ね合わせ理論』とかワケわかんないよ。つまり焼肉を食べておなか一杯になったアタシと腹八分目のアタシが居るんでしょ?」

 シュレディンガーのナントカにそんな話があった気がするが、きっとスバルは根本的な事を理解していない。
 確立とか統計というのは直感でなんとなく言いたいことが解る人でなければ、あとは公式を只管頭に放り込むしかなのだ。
 さて……

「いい?よく聞きなさい?」

 ティアナが人差し指をピッと立てて説明を始める。


「まずとっても硬い箱を用意します」

「ふんふん」

┏━┓
┃箱┃<カッチカチやで!!
┗━┛

「フェレットになったユーノさんを中に入れます」

「……ん?……ふんふん」


┏━┓
┃箱┃←YU-NO in
┗━┛

「一緒に壊れて今にも暴発しそうなカートリッジを中に入れます。このカートリッジが12時間以内に暴発して中のユーノさんがひき肉になる可能性はなんと驚愕の50%」

「えぇっ?ユーノさん死んじゃうの?」

┏━┓
┃箱┃<なぁにこれぇ?
┗━┛

「一晩放置します」

「出して上げようよ!ユーノさんかわいそうだよ!」

┏━┓
┃箱┃<なんだか暗くて狭くて落ち着くなぁ……zzzz
┗━┛

「さて、次の日になりました」

「ゴクリ」

┏━┓
┃箱┃ ………
┗━┛

「箱の中に居るユーノさんが死んでいる確立は50%。箱をあければ生きているかどうかはハッキリするけど、じゃあ箱を開ける前は?」

「つまり……ユーノさんの右半分がひき肉に……」

「それ死んでるでしょ。この時、ユーノさんは50%生きていて、50%死んでいる。それはひき肉になって完全に死んでるかもしれないし、傷一つ負ってない可能性もあってその2つの状態が同時に存在してる。これが『重ね合わせ』の状態よ」



















┏━┓
┃箱┃<キュー!!
┗━┛
 人人人人人
<生存確認!!>
 VVVVV

「………やっぱ帰る」

「見捨てないでよぉぉぉぉぉ!!!!!!」




※あのテーマの前奏
てれててん、ててててれててん、てれれてれれれたらりらん

\イマハーマエーダケーミテーレーバイー/




 カーテンコール 『僕たちの失敗』 残ったネタてんこ盛り、立つ鳥後はうんこだらけver




「士郎さんに一応メールしとくか。『合流したので今から向かいます』っと。行こうぜ、そんで向こうでホットレモネードでも飲もう」

「うん!」

 前回のラストに続き、頭上にヘブン常態のキチ●イが居る事にも気付かずにヴィヴィオを迎えに来た圭一は、念のため翠屋にメールを送っていた。
 何故かメールが普通に送信完了してしまっただけで安心してしまう自分に首をかしげつつ、ヴィヴィオの手を引いて歩き始める。
 一方ヴィヴィオはというと、荷物が入ったキャリーカートをガラガラと言わせながら、嬉しそうに付いて来ていた。


「ねぇねぇ春原お兄さん」

「んー?」

「フェイトママの初恋の相手がお兄さんってホントですか?」

「ぐはっ、ゲホッ……ゲッホッ、ちょ、すまん手ェ放しゲッホ!ガッ…気管入っゲホッ!!オェッ!!」

 誤魔化すためではなく、本気むせだった。
 しかも大きくなりすぎて吐き気まで催してきた様子で、壁に手を突いて荒げた息は中々戻りそうもない。

「っハァー、ハァー。今のはヤバかったホント……けほっ」

「ああぁ、ごめんなさいごめんなさい!!」

 立っている事も出来ずにうずくまる圭一の背を、ヴィヴィオが半泣きになりながら擦っていた。
 ぱっと見死にそうになっていたので、ヴィヴィオも必死だ。

「もう大丈夫だけど……フゥー……誰から聞いたんだい?っつーか初耳だよ俺も」

「えっとね、先週ママ達が夜お酒飲んでる時に。フェイトママが言ったよ。子供の頃はかっこかわいくて好きだったって」

「当時からショタだったのかあの人……いや、当時は同世代だからショタじゃ……まさか、俺のせいで?そんなバカな……ならエリオ君の説明がつかない筈」

「ほんとうに大丈夫?」

「……あぁ、大丈夫だよ。大丈夫だとも。ま、フェイトさんがそう言うならそうなんじゃないかな……子供の頃は静かな人だったからあんまり話した事無かったし」

 世の中知らない方がいい事もある。
 そう実感した圭一だった。

「行こうか」

「うんっ!」

 ヴィヴィオの笑顔を見て、ふと思った。
 将来、こんな娘が欲しいなと。

 そして数歩歩き、気付く。

「(この娘……父さん役の大人の男に肩車とかしてもらった事ないんじゃないか?)」

 女の子には肩車をするものだったか……
 女性二人を育てた士郎さんに聞いてみよう。
 っていうかどうせヴィヴィオなら喜ぶから士郎さんに頼もう。

 例え相手が少女でやることが肩車だとしても、彼は自分の上に女性を乗せる事に強い抵抗感を覚えていた。
 人はそれを、トラウマという。


 翠屋につくと朝食サービスに来ていた客もハケたのか、店内の混雑率は40%と言った所だった。
 荷物を置きに奥に消えたヴィヴィオを見送り、いつもの通り出てきた『ベーコンスペシャルサンド』は、寒い中を歩いてきたせいもあってか、たまらなく旨かった。



● ○ ●


「解せんわ……」

 所変わってミッドチルダ八神宅。
 今日も日課の糠漬けを作るべく、糠床に刻んだ野菜を入れてぬっちゃぬっちゃとかき回していた。

「どうしたですか?はやてちゃん」

「いや、リィンな。おかしいやろ、うら若き乙女のウチが朝起きて最初にやるのが糠漬け作りとか。そのうち『ウチのシグナムをお願いします』とか圭一くんのご両親にご挨拶に行かなならんのやで?まだ処女なのに」

「処女は関係ないと思うですが……」

「おかしいて。絶対おかしい。そもそもこの糠床がそもそもおかしい」

「おいしくてリィンは好きですけど……けーいち君のプレゼントですし」


 さて、記憶力の良い読者の皆様は覚えているだろうか。
 はやて達が18歳の時に、圭一がミッドの友達に、『3年分の誕生日プレゼントまとめて』と豪華なプレゼントを贈ったのを。
 その時圭一がはやてに贈ったのがこの糠床『家庭で簡単糠漬けセット』である。
 一応、ミッドでも和食っぽいのを簡単に作れるようにとの配慮であり、年に数回会う度に減った分の糠を補充する『追加糠』をマンガとかと一緒に渡されていたのだ。
 実際こうやって物持ち良く4年間もキッチリ使っている辺り、ものすごい有効活用されているのだが、流石に乙女へのプレゼントとしてはおかしい。

「おはよーはやて。あたしが入れたニンジンできてる?」

「おはようさんヴィータ。ニンジン?さっき確かこっちの奥の方に……あったあった、ほなこれ朝ごはんに出すな」

「さんきゅー、顔洗ってくるよ」

「あ、ちょい待ちヴィータ」

「んー?」

「4年くらい前に圭一くんがみんなに誕生日プレゼント一斉に配ったりしたの覚えとる?」

「覚えてるけど」

「ヴィータって何貰うたっけ?」

 他の人が何を貰っていたか流石に4年前の出来事になるとはやても記憶にない。
 なのはがやたらでっかいクマー!のヌイグルミを貰っていたのは覚えているのだが。

「はやても良く見てる筈だけどなぁ。ちょっと待ってて」

 ヴィータは台所の箸とかスプーンとかフォークとかが入っている引き出しを開けると、奥の方から黒い小箱を引っ張り出してきた。

「これだよ。使ってるの見たことあるだろ?」

 箱を開けると、そこには銀色のスプーンが入っていた。
 確かにはやても見たことがある。
 ヴィータがよくアイスを食べるのに使っているスプーンだ。
 取っ手側の先にはハート型の青い宝石がはめ込まれており……まぁやたら大きいからガラスか何かのイミテーションだろうが、その周りには唐草模様が掘り込んである。
 デザインがいいからどこかのブランドかヨーロッパ方面で作られた物だろうが、兎に角可愛格好よかった。
 それに比べて自分の物ときたら……

「……圭一くんてウチの事好きやったんよね?」

「そりゃ間違いないと思うけど」

「そやったらこの扱いおかしくあらへん?なんや悪意を感じるんやけど」

「えぇー」

 ヴィータは眉をひそめてはやてを非難した目で見る。
 はやては何か自分がミスをしてしまったような気がして、何か落ち度はあったっけと頭を捻った。

「それはやてが『ミッドじゃ漬物売ってないから圭一くん沢山買っておいて』って圭一に頼んだからだろ?っていうか……はやて知らないの?」

「そんな事言ったんかウチ……あぁ、なんや言われて見ればそういう事もあったよな……ってなんやて?」

「いやさぁ、嫌な言い方だけどウチらの中でシグナム抜かしたらはやてのが一番カネ掛かってるんだぜ?アタシぐぐって調べた事あるもん」


 八神家プレゼントランキング グーグル調べ

 最安値 4800円
 シャマルが貰った手のひらサイズの櫛。
 カマボコを輪切りにしたようなよくあるデザインの和風の櫛で、色は黄色地に赤い椿の花が描いてある物。
 着色は京都の伝統工芸で塗られているらしく、サイズの割りに普通にそこそこの値段がする。
 一時期シャマルは何か辛い事があると「私はまだ大丈夫。まだオワコンじゃない」と呟きながらその櫛で髪を梳かしていたとか。

 次点 5200円
 ザフィーラが貰った腕に巻くシルバーアクセサリ。
 狼の顔を正面から捉えた匠の銀色の本体を、チェーンでつないだもの。
 こちらもたまーに犬型の時に首に巻いている。
 一度鎖が千切れてしまい、どうせ家で付ける場合が多いからと鎖のサイズを変えたのだ。
 渡した時の言葉は「ザフィーラももっと腕にシルバー巻くとかSA☆」だったか。

 暫定二位 7800円
 ヴィータのアイス用スプーン。
 専用のスプーンが欲しいなとぼやいていたのを聞いていたらしい。

 暫定一位 2万3000円
 はやてに贈った家庭で簡単高級糠漬け作成セット。

 ランク外
 リィンフォース・ツヴァイ。

「ケタ違うやんウチだけ……ちなみに何でリィンはランク外なん?」

「けーいちくんとはその日初めてあったです。そのあと小さい植木鉢とバジルの種を貰いましたですよ?」

「あぁ、アレかい」

 そういえばリビングの棚にリィンが水をやっているバジルの植木鉢があった。
 鉢のサイズは大人の男が両手の親指と中指で輪を作ったくらいの……直径10cmくらいのものだ。
 たまにはやてが適度にむしってチキンのジェノベーゼ焼きとか作ってる。

「シグナムのはそういや見てないな。アタシらより安いってことは無いだろうけど」

「おはようございます、主」

「おっ、シグナムいい所に来た!」

「私ですか?」

 この時、八神はやては脳裏に嫌な予感がよぎったという。
 その証拠に、両手の平が妙に汗ばんでいる。
 案の定、事情を聞いたシグナムの声は歯切れが悪い。

「えぇと、金額で言えば間違いなく主の方が掛かっている……と思います」

「そうなん?!」

「ただ……私の場合は物じゃなかったので」

「ちょ、気になる気になる。きりきり吐いて。朝ごはん作れんから」

「あのですね……その、横浜に連れて行ってもらって……赤レンガ倉庫で小物を見て回ったり……中華街で食べ歩きしたり……観覧車に乗ったり……大桟橋で夜の海を一緒に見たり……しましたが……」

「リア充爆発しろ!!」

 ここでノロケか!
 聞かなきゃよかった。
 はやてはぷんすかしながら冷蔵庫に向かう。
 さて、卵は全員分あった筈だが―――――

「なぁシグナム」

「何だ」

「で、続きは?」

「いや、その……だな。歩く時は腕を組んだり、観覧車が一番高い所に来た時にこう……接吻などを」

「爆発しろ!!」

 全くだ、実にけしからん。
 本当は観覧車が下がり始めたあともキスをせがまれ、「後ろのゴンドラから見えてしまう」とか言い訳しながらも押し切られてちゅっちゅしてたりしたのだが、流石にそこまで話す気はシグナムも無かった。

 まずい、思い出したら顔が赤くなってきた。

「んん~?……まぁ、この辺にしとくか。あたしの番になったときにあんまからかわれたくないし」

「相手いるのか?」

「そのうちだよバーカ!」

 八神家は今日も平和である。



 夜。


 

「そういや知らん内に今でこそフツーに恋人やっとるみたいやけど、最初の方とかどうやってん?圭一くんも初彼女やろ」

 相変わらず自分へのリフレクを気にしないはやてがそんな事を聞いてきた。
 シグナムが食卓を見回すと、少なくともザフィーラ以外は興味心身のようだ。
 腕を組んでうむ、と思い出してみる。
 当時は確か……

「高校生の時は春原はまだ実家暮らしでした。なので地球に行って公衆電話から春原の実家に電話したのですが」

「ふんふん」

「……ひどく驚かれたのを覚えています」

「どゆこと?」


 真相はこうである。

 『シグナムが連絡を取ったのは、9月』

 さてシグナムと圭一の馴れ初めを復習しよう。
 彼らは中学校の卒業式で晴れて彼氏彼女(仮)となったわけだが、当然季節は春前。
 3月の出来事だ。
 それからミッドの移住したはやての身の回りの整理や、必要な各種手続き、管理外世界からの出張からミッド常駐になった事での職場部署変更……と気付いたら激動の半年を送っており、その間連絡なし。

 4月、圭一は高校生活頭から美女と付き合えるとはしゃいでいた。
 5月、今は忙しいけどその内連絡あるだろ、と楽観していた。
 6月、あれ?そろそろおかしくね?と気付く。しかしミッドのシグナムに連絡を取る方法が無い。
    ついでに言うならフェイトもなのはも事情は同じで忙しい。
 7月、いつシグナムの時間が空くか確認していなかったので、部活も入っていないし夏休みに友達と遠出する予定も入れてなかった事に気付く。
 8月、せっかくのイケメンを有効活用せずに学校で彼女を作りそこね、割と寂しい無駄な夏休みを送る。
 9月、そろそろ諦めて彼女でも作ろうと決意する。←シグナムが卒業式後に初めて連絡したのがココ。

「うわぁ……」

「今想えば月に一度くらいは電話すべきでした」

「全くや!ちょっと同情してもうたわ!」

「それで地球に行って電話をしたら『会おう』という事になりまして。海鳴駅で待ち合わせしたのですが……その、最初の一言目が『シンジ君か!』でして。最初は意味がわからなかったんですが」

「いやウチもわからへんわそれ」

「その日の私の格好がYシャツに黒いスラックスだったんです……」


「シンジ君か!!」


 少なくとも半年振りに彼氏に会う格好ではない。
 こうしてシグナムと圭一の初デートは、ひとまずシグナムの服を買う所からスタートしたのだった。


● ○ ●

「わ、私はその……おしゃれ等をした事が無いのだが……それに、地球のお金は持っていないぞ?」

「あーいいよいいよ金は。そのかわり僕の趣味全開にするけど」

 前世持ちの圭一の金銭感覚は、同世代のそれとはかなり違う。
 金に関して一番損なのは、高校生大学生の時に遊ぶ金が足りないのが損なのだ。
 青春を楽しめないなんてバカにしている。
 しょせん10万や20万、大人になればすぐに稼ぎ出せるのだ。
 借金してでも有意義に遊べ、がモットーの圭一にとって、こういう時に使う金は糸目を付けるべきでは無い事になっている。
 幸いな事に高校に入ってからバイトでデート代は溜めていたのでそこそこの金はあった。

 シグナムは、まずYシャツが無い。
 旨が大きい割りにへそまわりがダボついていないので、恐らく女物なのだろう。
 だがその白いシャツは、やはりブラウスというよりもYシャツだった。

 とりあえずカッコイイ系に染める決意をした圭一は、同じようなタイプのシャツでも、襟や袖口、ボタンを留める正面の縦のラインや裾に刺繍がしてあるシャツをチョイス。
 スラックスはそのままにするも靴をデザインのよいブーツに変更し(普通の革靴だった)、シャツと相性のよさそうな黒いチョッキも購入した。
 ついでに赤い紐ネクタイも購入。
 これなら蝶々結びでもシグナムに似合うし、結ばなくてもブローチで止めればカジュアル度が高そうだ。
 ブローチはヨーロッパの硬貨みたいな、女性の横顔が掘り込まれている500円玉を少し縦に楕円にしたようなサイズの物を購入。
 店にはこの場で着ていくから今着てるシャツを袋にしまってくれと頼む事も忘れない。


「その、変じゃないだろうか。こういうのはよくわからなくて……」

「うん、ちょっとバンギャっぽいけど。かっこいいしかわいいよ」

「そうか。なら……いいのだが」

 はやてにも服はいろいろ服を買ってもらっていたのだが、今日は何も考えずに自分で購入したラフで外で着ても恥ずかしく無い格好で来ていた。
 ちがうだろう、男女の逢引では着飾るものだろうとようやくシグナムも気付いたようだ。

「これでデートとやらが出来るわけだな……どうした春原」

「いや、男女で服を買いに来るとか……世間一般だとデートだと思うよ」

「そういう物か」

 ちなみにシグナムが言う世間一般とは、はやてやヴィータが見ているテレビを横で見ていた程度。
 少女漫画くらい読ませればいいのにと圭一は心の中で溜息をついた。
 さて、どうしたものか。
 こちらは高校一年生、酒の出る店にはまだ入れないし、そもそもまだ日は高い。
 カップルらしい事ねぇ……TUTAYAでDVDでも借りるか。
 実家は流石に無いからマンガ喫茶いこう。
 この頃なら身分確認ザルだし。

「シグナムさん、ちょっとお店回ろうか」

 で、やってきましたマンガ喫茶。
 DVDプレイヤー付き二人部屋。
 ソファーに座るタイプじゃなく、靴を脱いで床にあるクッションに座るタイプだ。
 飲み物をドリンクバーでゲットしてきた2人は、早速敷居の中に入る。
 当然だが2人用でも相当狭い。
 具体的に言うと2畳もない。

「準備するからちょっと座ってて」

「うむ」

「えぇとヘッドホンが2つと……あぁスイッチここか」

 てきぱきとDVDをセットしヘッドホンを片方シグナムに渡すと、圭一はシグナムの隣に腰を下ろした。
 肩が接触しそう、というか接触した状態で。

「その、春原。近くないか?」

「カップルはどんなに部屋が広くてもくっつくモノだからねー。手もつなごうよ」

「う……うむ」

 狭い部屋で二人きり。
 ようやくシグナムも圭一の事を意識してきたのか、少し顔が赤くなっていた。

 流れるドラマは、21世紀初頭の傑作恋愛ドラマ。

『スタァの恋』

 大女優のヒロインと、会社員の主人公がふとした切欠で知り合い、互いの立場の違いに戸惑いながらも恋に落ち、別れ、すれ違い、結ばれるドラマである。
 主人公を草彅剛、ヒロインを藤原紀香が演じる、国産ドラマ絶頂期が生んだ奇跡。


 痩せ気味の男が夜の冬の町を歩く。
 ふと明るさに顔を上げると、そこには5メートルを超える巨大なヒロインのポスターが。
 男は一瞬微笑むも、やがて何かを諦めるように首を振り、未練を断ち切るようにポスターの前から歩き去った。

 当時絶頂期だった小室哲哉がアレンジカヴァーし、globeが謳う主題歌『Stop! In the Name of Love』がその背中を追いかけるように流れる。
 カヴァー元は洋楽なので、歌詞は全て英語。
 サビの冒頭の歌詞の意味は、『貴方が私の心を壊してしまう前に、愛の名の元に立ち止まって』。
 圭一の手の中で、シグナムの拳に力が入った。


『桜子さん。やっぱり、別れましょう。僕達は住む世界が違ったんですよ』

『何で……何でそんな事を言うの?』

 
 とりあえず、借りてきた分までは視聴が終る。
 ドラマの中では二人の関係が世間にバレそうになり、主人公が身を引くシーンで締めくくられた。
 見ている間、シグナムは黙って微動だにしていない。
 あれ、選択肢間違ったかなと不安になる圭一に、シグナムが震える声で呟いた。

「続き…」

「え?」


「春原、続きは無いのか?」

「借りてきた分は今ので終わりだけど……えっと、どうたった?」

「なん……だと……?」

 そんな目の前でニワカ死神に卍解されたみたいな顔されても。

「気になるのなら今度会う時に借りておくけど」

「うむ…うむ!来月、いや再来週だな、時間を空ける」

 なんという事でしょう。
 半年間なしのつぶてだった烈火の将が、恋愛ドラマを見たさに二週間後に遊びに来る約束をしてきたのです。
 これは前進……なのか?
 余った時間は『ハチミツとクローバー』を見せて過ごし、帰ったら八神家にある『フルーツバスケット』を読むといいよとアドバイス。
 最終的に『最終兵器彼女』でも見せようかと企む圭一は、実のところシグナムがあまりにマンガにも集中していたため、実の所結構暇していた。
 
 ……が。

「(シグナムさん、肩とかもやわらかくていい匂いだな……)」

 『恋人はマンガを読むときは恋人に寄りかかって読む』という間違っているんだか正しいんだか判断に困る知識をシグナムに授け、肩に腕まで回して恋人気分を堪能していた。
 夜は欧州のお城や教会風のステンドグラスやシャンデリアが飾られたオシャレなレストランで食事し、解散という流れになった。
 メニューに載っていた『今現在恋をしている人のためのカクテル フランチェスカ(ノンアルコールも用意できます)』に目が釘付けになっているのを圭一が苦笑して替わりに注文したり、あーんをしあったりと、なんだか本当に守護騎士ではなく普通の年上のお姉さんとデートをしているようだった。
 ※ちなみにこの店はキリストンカフェといって渋谷とか新宿に実在する。
  デートで使うのは非常にお勧めだが可能なら予約をしたほうがいいだろう。

「では、また。春原、今日は楽しかったぞ」

「僕のほうこそ。あ、そうだシグナムさん」

「ん?」

 駅前で解散しようとしたその時、圭一がシグナムの名前を呼んで、一歩近づく。

「両手を出してもらって良い?」

「こうか?」

 シグナムの出した両手を、そのまま両手で掴む。
 手と手をつないで輪になったような形だ。

「まだちょっと高いかな?」

「春原―――んむっ?!」

 両手を下に下げ、つられて上半身が下がったシグナムへ、背伸びをしてキスをした。

「待ってるよ。再来週まで」

「う、ううううむ!首を洗って楽しみにしていろ!」

 殺す気か。
 顔を真っ赤にしたシグナムを見れば、そんな気は無いのは一目瞭然だったけれど。


● ○ ●

「とまぁこのような具合で……主?」

「「「爆発しろ!!」」」

 女性三人の絶叫が、八神家に響いたという。





 以下アフターエピソード。


 二年後、春原圭一は八神シグナムと結婚する。
 当初は内縁の妻のような扱いにしようとしていたが、はやてが「地球には未練無いし、私からのせめてもの贈り物」とシグナムに自分の戸籍を譲渡する。
 もちろん違法というか犯罪としてはかなり高いレベルでアウトなのだが、シグナムはこれによって書類上は『春原はやて』として、仲間内では『シグナム・Y・春原』として圭一と結ばれる事になる。
 子を授かる事こそなかったが、夫婦の仲は終始円満だったと言う。
 プロポーズをやり直した時の会話は

『俺が生きてる間だけでいい。シグナムの時間を俺にくれないか』
『お前以外の誰かと生きたいとは思わん。一緒に生きて、一緒に死のう』

 シグナム漢前過ぎる。
 翠屋で行われた身内だけの式では、魔法が禁止されたためデフォで飛んでいたリィンフォースがブーケをゲットし、女性人は全力で泣いた。


 最低系とはいえここで座談会を挟むのはあまりにアレであるため、この物語はここで終了とする。
 
 おしまい。


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