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[34250] 【ネタ】ひきこもりな彼(東方 オリ主)
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/07/16 19:06










 注意書き


 この小説は、家から一歩も出ないオリ主が馬鹿やるだけの話です。

 そんな物でもいいと思う方が居れば、どうぞお楽しみ下さい。












[34250] 人里の守護者を追い返す
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/13 00:23








 幻想郷で唯一人間が安心して暮らせる場所、人里。

 その一角には、不思議な家がある。

 見た目は大きな四角い屋敷。

 その屋敷の中には、ひと回り小さな家が建っている。

 家の中に入ると、やはりまたひと回り小さな家が。

 それを7回ほど繰り返して、ようやく最後に小さな部屋へと繋がっている。

 そんな、まるで入れ子のようなその部屋には。

 十人十色な神妖霊人がひしめく幻想郷でも、1番のひきこもりが住んでいるのだった。










「なあ、新月。いい加減外に出たらどうなんだ」


 部屋で昼寝をしていたら、お節介の慧音が性懲りもなく訪ねてきた。

 そしてあろうことか、この俺に外に出ろなどとほざいて来やがったじゃないか。

 無論俺の答えは。


「断る」

「少しは考えてくれ」


 やなこった。

 俺は誰がなんと言おうと、ここから出る気なんざ更々無い。


「体にも良くないぞ。こんな閉じた空間に居たらダメになる、たまには日光を浴びないと」

「全家屋ぶち抜いた天窓から燦々と降り注ぐ光があるから問題なし」

「外の空気を吸え外の空気を!」


 ……ええい、しつこい女め。

 そんなだから婚期を逃すんだ。俺に構う余裕があるのなら、適齢期を軽く三桁過ぎている自分の身を案じやがれ。


「…………今何か、貶された気がするんだが」

「え~、気のせいっすよ~」


 あっぶね、危うくサトラレるとこだった。

 妖怪はこぞって勘が鋭いから気を付けなければ。


「とにかく、新月。里の者達も心配している、妹紅だって昨日「そう言えばアイツってもうのたれ死んだのか?」と言っていたぞ」

「それ心配されてねーから。100歩譲って生存確認されただけだから」

「だから外に出ろ! 妹紅を安心させてやれ!」

「無理やりいい話に纏めようとしてんじゃねえよ!!」

「……チッ」

「舌打ちしやがった!?」


 慧音の奴、段々手段を選ばなくなってきたなオイ。

 言葉を捻じ曲げ、都合よく仕立て上げるとは卑劣な……!

 つか、そもそもどうして俺を外に出したがる。


「里の子供達の悪影響になるだろうが! お前みたいにひきこもり化する子供が出てきたらどうする!」

「第2第3の俺か。魔王みたいでカッコいいな」

「単なる堕落だろうが! ひきこもりの代名詞に使われてるんだぞお前は!」

「え、マジで? 紅魔館のなんちゃってカリスマ吸血鬼の妹とか、永遠亭の不老不死蓬莱ニートとか差し置いて?」

「そうだ」


 なんてこったい。

 100年単位でひきこもってる大先輩方より、俺の方が有名とか……


「やっべ、マジテンション上がるんだけど」

「はぁ!?」


 こいつ何言ってんだ、みたいな顔で見るなよ慧音。


「だってそうじゃん? 俺人間だし、ひきこもり始めてまだ3年位なのに、あんな大御所差し置けるなんて。すっげー得した気分」

「…………」


 お、今度は俺がサトラレしたぞ。

 きっと慧音は、「ダメだこいつ、早く何とかしないと……」とか思ってるに違いない。

 俺の洞察力すげー。


「誰だってそう思うわ!」

「かと思いきや俺もサトラレてた。慧音ってばホントは覚妖怪のハーフなんじゃね」

「誰でもお前の考えくらい理解できるわ!」


 まじか。そんなに俺、分かり易い人類か。

 いっそバカルテット2番手のルーミアみたく、「お前は分かり易い人類なのかー?」とか言って回って……外に出たくないから却下だ。

 夢の中でもひきこもる勢いのひきこもり舐めんな。


「そうと聞いたら益々外には出られませんなぁ。みんな俺のことを究極の引きこもりだと期待していらっしゃるんだから、それに報いなければ」

「どうしてそう自分に都合よく律儀になれるんだお前は……」

「それが俺のクオリティ。例え四肢を鎖で括られ、その1本1本の先端を別々の妖怪に括りつけて引っ張られようと絶対にここから微動だにしない自信がある」

「いやもうそれ死ぬからな?」


 うん、知ってる。某漫画の処刑方法だし。


「オール・ハイル・ひきこもり! さあ、ご一緒に!」

「誰がするか!!」

「ちなみにここでのオール・ハイルとは、全部入る……即ち『オール・入る』という意味であり、俺の不屈のひきこもり精神を指し示しているのだ」

「マイナス方面に屈強すぎるぞお前は……」

「お褒めに預かり恐悦至極」


 とまあ、今日もこんな感じで慧音をうまく追い返した。

 明日もきっと誰か来るだろうけど、絶対に追い返して見せる。

 ひきこもり舐めんな。マイナス方面の努力だけは欠かさないぞ。










 なぜなら俺は、名を『満月新月(みちづき しんげつ)』。

 人呼んで、幻想郷ナンバーワンの引きこもりなのだから。












[34250] 亡霊とお話
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/11 03:42








「こんにちわ~」

「誰かと思えばあんたか」


 昼飯をかっ食らっていたら、急に来客があった。

 また性懲りなく慧音かと思えば、別の顔馴染み。


「飯の匂いにでも惹かれたか、ゆゆさん」

「ん~? 何か言った?」


 もう頂かれていた。流石ゆゆさん、自由度マジパネェ。


「あ、美味しいわね~これ。なんて料理?」

「知らん。八雲さんが置いてってくれる食材を適当に刻んで炒めて煮込んだものだし」


 男の料理なんてそんなもんだ。


「根菜類となんかの肉が主なのは分かるんだがね」

「熊~? それとも猪~?」

「恐らく妖怪の肉ではないかと、血の色がアレだったし。まあ食えば同じだ、好き嫌い良くない」

「それもそうね~」


 妖怪だろうと何だろうと肉は肉だ。別に毒があるわけじゃない。

 そもそも俺悪食だし、プラスチック以外なんでも食える自信がある。


「あ、そう言えばね~新月くん」

「なに?」

「ここの守護者さんに新月くんの家に行くって言ったら、貴方が外に出るよう説得して欲しいって――」

「おのれ慧音め! ゆゆさんを使おうとは不届き千万、恥ずかしいとは思わんのか!」

「そう言われたら、「ひきこもってる自分を恥ずかしいとは思わないのか!!」って返して欲しいって~」


 え? ひきこもりが? 恥ずかしい?

 ……なんで?


「え、ひきこもって何か悪いの?」

「…………さあ~?」


 うむ、ゆゆさんにも分からないのか。

 じゃあ俺にも分からん。

 まったく慧音め、訳の分からんことを言いやがって。

 だぁから余計に婚期が遅れるのだ。


「俺は外に出ないぞ。出てたまるか、断じて!」

「別に出さないわよ~。私だって気付いたら1年ぐらいお家の中から出てなかったりするもの」

「流石ゆゆさん。無意識でそこまでやってのけるとは。だが例えゆゆさんでも幻想郷ナンバーワン引きこもりの座は渡さん!!」

「別にいらないけど……」


 ならば安心だ。

 ゆゆさんは何故か非難されがちな俺の数少ない味方だからな。もし彼女が生きていたら結婚申し込んでるところだ。

 あ、でも式を挙げるのに外に出なきゃならんな……よし、前言撤回。

 ひきこもりを一瞬でも止めるくらいなら一生独身で行くぞ俺は。


「あらあら~ふられちゃった」

「またもサトラレ現象が。幻想郷って実は覚妖怪の巣窟なのか?」


 しかしそうなると、地霊殿のボスが地底に居る意味全く無いよな。

 無駄骨乙。


「あれ、でも考えてみれば人間相手にもサトラレていた記憶が無きにしも非ず」

「だって新月くん分かり易いもの~」

「なんとぉっ!」


 慧音とかにも度々言われていたが、やはり俺は分かり易いのか!

 これはいかん。具体的に何がいかんのかいまいち不明だが、とにかくいかん。

 よし、今日からは常にポーカーフェイスで通そう。

 さて、トランプトランプ……


「ねえ、新月くん。別にポーカーフェイスは、ポーカーやりながらしなくてもいいのよ~?」

「……なんとぉっ!?」


 新事実発覚だった。

 だが、だったら何でポーカーフェイスっつうんだよ。意味分かんねえ。


「世の中理不尽共和国」

「どこの国~?」


 当然国境などありません。










 妖夢がゆゆさんを迎えに来るまで、一緒に食べたり話したりしてた。

 ……お陰で食料の在庫が残り1週間分を切ってしまった。

 ヘルプ! 八雲さんヘールプ!












[34250] 人形遣いとひきこもり
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/07/18 19:32










「新月、居るわよね」

「居るに決まっているともさ」


 一服してると、来客があった。

 自分の左右に人形を控えさせている人形遣い、アリス・マーガトロイド。

 我が家への来客率第4位の常連さんだ。

 ちなみにゆゆさんは5位、1位は当然うるさい慧音である。


「いらっしゃい。紅茶、コーヒー、ココアに番茶。妖怪の山のおいしい水もあるが、どれにする」

「コーヒーを頂くわ。貴方の淹れる紅茶は紅茶と呼べない代物だもの」

「美味いのに」

「コーヒーはね」


 紅茶も美味いぞ。煮詰めまくってすげー渋くしたやつ。

 あれの味が分からんとは、悲しいことだ。


「シャンハーイ」

「ホウラーイ」

「む、来たな妖怪人形共め。どんなに善行を積んだって人間にはなれんというのがまだ分からんのか」

「別に目指してないわよそんなの……貴方を手伝おうとしてるだけでしょ」


 コーヒー淹れるのに人手は要らないんだが。


「さあできたぞ。熱いからぐいっとやってくれ」

「火傷するわよ!」

「んなもん舐めときゃ治るって」

「舌を火傷するのよ? どうやって舐めればいいのよ」

「…………」


 なんて難しい質問してきやがるんだこいつは。

 火傷を舐める。舐めるのは当然舌だ。

 しかしその舌を火傷している場合、どうやって舐めればいいんだ?

 舌を舌で舐める? 無理だろそれ。

 フェルマーの最終定理以上の難問がここに!!

 ……あ、いや、そうか。俺が舐めればいいのか。

 まさにコロンブスの卵。発想を転換すれば簡単だった。


「新月?」

「大丈夫だ、結論が出た。アリスが舌を火傷したなら、俺が舐めれば問題ない」

「…………」


 ぶん殴られた。

 少し考えれば当然のことだった。


「済まん、思慮が足りてなかった。舌をどうやって舐めるかしか考えてなかった」

「あ、貴方ね……そんなだから幻想郷三大⑨とか言われるのよ!」

「なんだとぉ!!?」


 衝撃の事実だった。

 俺が、賢くてカッコいいこの満月新月様が、あの1桁の足し算も満足にできないバカ妖精チルノと、2秒前のことも頭から抜け落ちる究極鳥頭の空と同レベル!?

 有り得ん。絶対に有り得ん。


「誰がそんなことを……」

「みんな言ってるけど」

「おーまいがッ!! 俺の信じる神は死んだ!!」

「厄神なら元気よ」


 悪運に塗れた俺の救世主、我が神こと雛ちゃんは元気だった。

 今日は祈る時間を倍にしよう。


「雛ちゃんが最近俺の厄が増えたと言っていたが、まさかその影響か……あえて言おう、これは異変であると!!」

「随分個人的な異変ね。博霊の巫女動かないわよ」

「だったら俺が直接解決に臨んでくれるわ! 俺は賢いんだ、⑨じゃない! 俺の頭脳はえーりんクラスだ!」










「へぷしっ!」

「あら永淋、風邪? 薬師が病気なんて笑えないわよ」

「いえ、今しがた不愉快なところで名前を出された気が……」










「誇張もここまで来るといっそ清々しいわね……」

「シャンハーイ……」

「ホウラーイ……」


 人形連中に気の毒な目で見られている気がするが、んなこたぁどうでもいい!

 お前らは自分のローザミスティカでも賭けて戦っていろ! そして完全な乙女アリスにでも……もう居たわアリス。目の前に。


「で、アリス。手っ取り早く異変を解決するにはどうすればいい」

「無駄骨だと思うけど……まあ、元凶を叩きのめせばいいんじゃない?」

「よし、外に出たくないから却下だ!」


 家から出るくらいなら、謹んで⑨の称号を受け取ろう。

 ひきこもり舐めんな。


「……ホント、貴方ってぶれないわね」

「そんな俺のところにふらっと立ち寄るお前も相当な変わり者さね」


 ウチの来客者は大体目的あってくるし。例外も居るけど。

 ゆゆさんとか霊夢辺りは飯食いに来るし。

 魔理沙なんか人んちの物をかっぱらいにくるし。むしろ来客者から除外だな。

 ああいうのは強盗って言うのだ。


「目的も特に無く俺のところに来るなんて……まさか俺が好きなのか?」

「そそそそんなわけ、なななないじゃない」

「シャンハーイ!」

「ホウラーイ!」

「なんだつまらん」


 まあ、そんな奴が居るのならそれこそ変わり者だけど。


「ん……俺もコーヒー飲むか」

「すすす好きにしたら?」


 ちなみにアリスの奴、なぜか慌ててコーヒー飲むもんだから舌を火傷してた。

 ドジッ子さんめ。












[34250] 花妖怪、来たる
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/08 19:08









 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!





「ッ!!」


 箪笥の上に設置した目覚まし時計型緊急警報のけたたましいサイレンを耳にした直後、俺は食っていた煎餅を放り出して押し入れに入り込んだ。

 直後。


「新月」

「俺は留守だ!」


 ドアを開けて俺の名前を呼んできた声に、可能な限り素早くそう返した。

 あの警報は、『とある妖怪』が俺の家に接近した時にのみ鳴る特殊なもの。

 にとりに山ほどキュウリをくれてやって作らせた逸品だ。その正確さはまさに超高品質。

 そしてその『とある妖怪』とは……


「あらそう、居ないの。だったら押し入れに向けてマスタースパークでも撃ってみようかしら」

「止めてくれー!」


 押入れ上段から飛び出てジャンピング土下座。

 着地と同時にスライディング土下座に移行し、招かざる客の前で停止。

 我ながら素晴らしい土下座テクニック。略してどげテク。

 略すと何の事だかさっぱり分からんな。


「あら? 新月、いつ帰ってきたの?」

「ずっと居ました! ここ数年片時も家を離れておりません!」

「へぇ~、そうなの」


 会話しつつ、俺の頭をぐりぐり踏みつけてやがるこのボケ女の名は風見幽香。

 巷じゃアルティメットサディスティッククリーチャー、略してUSCなんて呼ばれてる幻想郷トップクラスのドSだ。


「その不愉快な名前を広めたのは一体誰だったかしら」

「痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさい」


 俺だ。認めるから踏むのは止めれ。


「まあそんなことはどうでもいいのよ。人間風情にどう呼称されたって大した問題じゃないわ」

「流れるような動作で俺の背中に座るんじゃねー、重いだだだだだだッ!!?」

「何か、言ったぁ? ねえ新月、貴方今私に何か言ったかしら?」

「言ってない言ってない言ってないッ!!」


 日傘が背中に、刺さッ!?


「そう? でも私、確かに貴方が『重い』って言うのが聞こえたの。これって、私の耳がおかしくなっちゃったの?」


 さも楽しそうに聞いてきやがるこの腐れ花妖怪!

 返答を間違えたら永遠亭に入院コースじゃねえか! ひきこもり強制終了させられるなんてゴメンだっつの!!


「あ、あれだ。重いなんてのは全くのウソで、本当はメチャ軽い。もう花びら1枚分くらいにしか感じないね」

「そう。だったらこのままで問題ないわね」


 うぐぐぐぐ……! 入院は免れたが、幽香の即席椅子の使命を負ってしまった。

 納得行かん。だからこいつには関わりたくないんだ。


「おいコラ幽香。手前何しに来たんだ」

「なんて言ってるのか聞こえなーい」

「ひぎゃあっ!!?」


 おもっくそ背中引っ掻きやがったこのアマ!


「……ゆ、幽香さん。当家へどのような御用で来られたのですか」

「新月で遊びに」

「帰れサド女!」

「え? なに?」

「何も言ってませんごめんなさい!」










 幽香はその後5時間にも渡り俺を心身ともに痛めつけた後、満足そうに帰って行った。

 ……霊夢にタダ飯を餌に、1番強力な護符でも作って貰おう。

 背中がすごくヒリヒリする……。












[34250] 名前のネタが被ってる
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/04 14:06










 俺は、常々思っていることがある。


「どうしたの、新月。いつになく真剣な顔して」


 それは何かと言うと、現在俺と差し向かいでテーブルに座り、自分で淹れた紅茶を啜る女。

 悪趣味な色彩の館こと紅魔館のメイド長、十六夜咲夜についてだ。

 ちなみに来客率は多分8位ぐらい。


「お前のことを考えていた」

「……聞く人が聞けば誤解を招く台詞ね」

「お前を思うと夜も眠れない日がある」

「…………」


 どうして困りきった顔をするのか。


「私、人形遣いに殺されたくないのだけれど」

「なぜ俺が咲夜について考えると咲夜がアリスに殺されるのかは意味不明の迷宮入りだが、実際そうなんだから仕方ない」


 気になって気になって仕方ないんだよ。


「……咲夜」

「な、なにかしら?」


 俺は一拍間を置くと、彼女のとある部分を指差した。

 どこかと言えば、まあ胸だが。


「……それは、詰め物なのか?」










 (現在、風見幽香も引くほどの残虐シーンが繰り広げられております。しばらくお待ち下さい)










「…………ぐぶ……もう、少しで……魂が身体を抜け出て……この家から、出て行くところだった……」

「まだ生きてたのね」

「ぐばるさっ!!?」


 酷い、酷過ぎる。

 俺はただ、咲夜は胸に手心を加えていると皆が言っていたからそれが本当かどうか知りたかっただけなのに……。


「失礼極まりない連中ね……!」

「……そ、それに、だ。咲夜お前、去年あたりと比べてこう、膨らみが増しているから……てっきり事実なのかとぉっ!!?」


 ナイフ! ナイフが俺のこめかみの1ミリ先に!!


「貴方の思考回路には、私の胸が成長したって考えはないの?」

「いやだっておま、もう成長とか見込める年齢じゃな――」


 ドスドスドスッ!!!


「失敬、御立派な成長具合で」

「分かればいいのよ、分かれば」


 咲夜の胸は自前であると、頭の中に深く深く刻んでおこう。

 まだ死にたくないし。


「……ハァ。それにしても、誰が初めにそんなことを言い始めたのかしら……まさか」

「違う! 断じて俺ではない! 確かに幽香をアルティメットサディスティッククリーチャーと最初に呼んだのは俺だし、霊夢んとこの賽銭箱をサーセン箱と改名したのも俺だし、パチュリーを紫モヤシと呼び始めたのも妹紅にもこたんとあだ名をつけたのも鈴仙の弾幕が座薬みたいだと吹聴したのも全部俺だが、お前のPAD長だけは知らん!」

「…………どうしたらいいのかしら。全く信用できないわ」

「知りません! 知らないんです! だから喉下に当てたナイフを収めて下さい! 死んだら引き篭もれなくなります! えーき様の説教を聞くのは嫌です!」


 本当にこれだけは知らんのだ。レミリアをおぜう様と呼称したのは俺だが。


「だ、大体、だな? 名前のネタが被ってるお前を、俺が悪く言うわけなかろ?」

「名前、1文字も合ってないけど」


 みちづき しんげつ。満月 新月。

 いざよい さくや。十六夜 咲夜。

 確かに一見共通点ゼロだけどね。文字数すら合ってないし。


「いやいや、これがよく考えるとそうでもないのさ。十六夜ってのは要するに十五夜、つまり満月の次の日だろ?」

「まあ、そうね」

「そんでもって、咲夜を『昨夜』とするとだ、十六夜の昨夜……つまり満月だ」

「…………」

「そして更に咲夜を『朔夜』と読む。朔夜ってのは新月のことだろうに」

「成程……確かにそう考えると、私達の名前って似てるわね」


 つまり俺達は仲間なのだよ。

 ちなみにこの名前の件は、咲夜の胸が本物か否かについて考察する合間に気付いた。


「面白い偶然もあったものね」

「そうだろー?」

「それはそうと、私のこの上なく不名誉なあだ名についてなんだけど」

「だから知らないんだってばよー!」


 誤魔化せなかった。

 そして誤解だと分かって貰う為に、およそ半日を費やしてしまった。

 とても疲れた。












[34250] ザ・信仰
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/07 17:38









 俺の第6感を通り越した第7感辺りにズズイときた。


「……この気は!」


 認識した後の俺の行動はまさに迅速。

 すぐさま戸棚からとっときのコーヒー豆を取り出し、八雲さんから今朝方頂いた外で今話題のスイーツを家で1番上等なアンティーク皿に乗せる。

 そして細心の注意を払い淹れた俺特製コーヒーと共に、普段使っている安机からガラステーブルに入れ替えたそれの上に配置。

 仕上げに座椅子をセッティングし終えた直後、部屋の扉が開かれた。


「居る? 新月」

「ようこそいらしたマイゴッド雛ちゃん。ささ、まずはコーヒーと話題のスイーツでも」


 胸元で結んだ長い緑色の髪に、赤いゴスロリチックな衣装を纏った少女。

 彼女こそが、俺がこの幻想郷で信仰する唯一無二の神、厄神様こと鍵山雛ちゃんだ。

 厄をため込む程度の能力というものを持っており、人1倍悪運に塗れた俺の厄をこうして時々祓いに来てくれる。


「ああ、悪いわねいつも。けどどうしてもう準備してあるの? 今日来ることは言ってなかったと思うけど」

「俺のセブンスセンスで感じ取った。雛ちゃんが来ると」

「超能力者か何かみたいね……」


 話しながらも座椅子に腰掛け、コーヒーを飲む雛ちゃん。

 ちなみに彼女、咲夜ほどではないが若干猫舌なので、多少温めに淹れてある。


「うん、美味しいわ」

「雛ちゃんの味覚に合わせて淹れた俺特製珈琲、名付けて『EXひな』だもの。これで雛ちゃんが美味しくないと言ったら俺は死ぬ寸前まで首を吊る」

「死にはしないのね」

「死んだら引きこもれなくなる」


 えーき様の説教も嫌だ。


「ん、ケーキも美味しいわね」

「外で今話題らしい。お気に召したなら持ち帰り用にいくらか包みませう」

「至れり尽くせりね、お願いするわ」

「御意」


 マイゴッドの為ならたとえ火の中水の中、スキマ旅行もなんのその。

 ……スキマは家の中じゃないから却下。


「部屋の四隅に目が届く……これほど安心することもない」

「だからいつも部屋の中央にいるの?」

「そう。食事の時も寝る時も、雛ちゃんにお祈りする時も」

「……神棚に私の写真が飾ってあるわね」


 射命丸にネタ提供と引き換えで雛ちゃんの写真を貰ったのさ。

 あれに毎日夜明けと日没で1時間ずつお祈りしてる。


「なんていうか……私も神様やってて長いけど、厄神をここまで熱心に信仰してくれる人間も珍しいわ。て言うか新月くらいよ」

「厄払いの神を何故信仰しないのか、それこそ理解に苦しむね俺は」


 雛ちゃんのお陰で、俺はこうして快適に引きこもりライフを送れるのだ。

 以前の厄塗れの俺だったら、きっと同じ場所に3日も留まれないって。


「それと、新月が私を信仰するようになってから、私の神力が倍以上に増えたんだけど」

「俺の信仰心は千人万人に匹敵すると専らの噂だ! 八雲さんもそんなこと言ってた」

「滅茶苦茶ね……」


 いやいや、稀に居るらしいんだって。信仰の力が他人よりずば抜けて高い人間。

 卑弥呼とかジャンヌ・ダルクとかもその類だったらしいね。


「しかもこれが遺伝する確率高いらしくて。だから八雲さんも最近俺に嫁を取れとうるさかったりする」


 信仰心の調整に使えるかららしい。

 幻想郷のパワーバランスを保つのも大変だよな。


「だがしかし、外に出たくないので無理」

「何よりもそれが優先されるのね」

「それに妖怪とか神様を嫁にするのも無理。寿命違い過ぎる、先に死ぬのは気分的にきつい」

「人間相手ならいいじゃない。親しい子もいるでしょうに」

「…………」


 人間、それも異性の知り合いとなると。


「まず霊夢は却下。あいつの場合、俺が博麗神社に住まなきゃならん。つまりひきこもり辞めなきゃならん」

「ひきこもることへの執着がすごいわね。その辺も厄いわ」

「魔理沙とか論外、あれはただの強盗だし。阿求も霊夢と同じ理由で却下」

「……その思想で行くとかなり限定されそうね」

「消去法で咲夜ぐらいしか居ないが、あいつが紅魔館を辞めたらレミリアが死ぬ」


 むむ。済まん八雲さん。嫁を取るのは俺にゃあ無理っぽい。


「いっそ貴方が妖怪にでもなったなら、私が嫁いであげてもいいわよ?」

「何とも魅力的な提案だがね。俺は人間でいい、このままでな」


 妖怪になれば確かに寿命はあって無いようなもんになるし、色々と便利にもなる。

 だが。人間っていう脆弱で短命な生き物だからこそ、今こうして有限な時間をひきこもることに価値があるのさ。


「格好良く言っても全然格好良くないけど」

「難しいなオイ」


 ひきこもりってどうして理解されないんだろうか。












[34250] 実は1番相性良好?
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/26 10:11









 かふかふかふかふ。


「ん、おかわり」

「そう急くなよ。別に飯は逃げやしない、ゆっくり食えや」


 いつも通りの無気力な口調とは裏腹に、素早く茶碗を突き出してくる霊夢にいささか苦笑しつつも、新たに飯をよそってやる。

 それを渡すと、また勢いよくかふかふと掻き込み始めた。


「やれやれ、どれだけ腹が減ってたんだ? 死にそうな面して家に入ってくるなり「ご飯……」とだけ呟いてぶっ倒れた時には、流石の俺もびっくりしたぞ」

「かふかふ……だって、お賽銭が全く入ってこないんだもの。食べるにも困るに決まってるじゃない……おかわり」


 ちなみに5杯目だ。


「ほいほいっと。煮物とか漬物も食え、材料は例の如くよく分からんが」

「まず小腹を満たしてからよ。そうしないと味なんてわかりゃしないから損した気分になるわ」

「飢えまくりだなぁオイ……そこまで腹空かす前に来いよ。いつもいつも極限になってから来るな」

「そうしたいのは山々だけど。頻繁に来てアリスにでも出くわしたら話が拗れて面倒だもの」

「?」


 何故アリスが出てくるのか分からない。

 そういえば咲夜もこの前似たようなこと言ってたし。


「アリスがなんかしたのか? あいつが何か良からぬことしたなんて噂、聞いたこともないが」

「新月さんには言えないわね。もし明言でもしようものなら殺されるわ」

「……咲夜もそんなことを言ってたが、本当になんなんだ」


 アリスって実はおっかない奴なのか?

 いやいやまさか。基本的に温和だし、ドジっ子だし。


「うん? 咲夜もここに来てるの?」

「割とな。目的も無くここにふらっと立ち寄るのなんざ、アリスと咲夜ぐらいだ」

「ふぅん……」


 あいつらそんなに暇人なのか? 咲夜は仕事あんだろうに。


「おおそうだ。咲夜といえば、八雲さんを何とかしてくれ霊夢。俺に嫁を取れとうるさい」

「あー、例の馬鹿みたいに高い信仰力を次世代に受け継がせるってやつね。いいじゃない別に、結婚すれば」

「結婚するには外に出なきゃあかんだろうが!」

「そこまで外に出たくないわけ?」

「当然だ!」


 俺は一生ここで暮らすと決めている。

 それに幻想郷の女はそろって癖が強いから、嫁になんかしたら尻に敷かれるのが目に見えている。


「とにかくこのままでは、消去法で咲夜あたりを嫁にしなくてはいけなくなる。八雲さんを何とかしてくれ」










「…………?」

「どうしたの? 咲夜」

「あ、いえ。今誰かにとても微妙な扱いを受けた気が」










「新月さんも大変ねえ。悩みなんてないと思ってたけど」

「何気に酷いな霊夢。そんなこと言うともう飯を食わせてやらんぞ」

「ごめんなさい」

「よし、許す」


 飯の効力恐るべし。

 霊夢が素直に頭を下げることなんて、そうそうないだろう。


「……けど、確かに新月さんが結婚したら、こうしてご飯をたかるのも難しくなるわね」

「そーだそーだ」

「ま、一応言うだけ言っといてあげるわ」

「恩に着るよ」


 持つべきものは友達だね、やっぱ。


「だからおかわり」

「いくらでも食ってけ」


 今日の霊夢の食欲は、ぶっちゃけゆゆさん張りだった。












[34250] もこたんといっしょ
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/08 19:08










「よぉ新月、生きてるー?」

「来るなりそれはねーだろ、人を何だと思ってんだ」

「ボケ輝夜以上の引きこもり」

「いやそんな、褒めんなよ」


 まったく妹紅ってば褒め上手なんだからよー。

 もうお茶菓子とか出しちゃう。


「カステラ食うかカステラ。クッキーとか羊羹とか杏仁豆腐とか色々あるぞ」

「杏仁豆腐って茶菓子じゃないし」

「……おおっ!」


 そういやそうだなオイ。

 杏仁豆腐でコーヒーとか飲みたくないぞ流石に。

 絶対合わない。


「じゃあ無難にカステラとコーヒーで」

「ま、ありがたくいただくわ」


 どうぞどうぞ遠慮なく。


「しかし妹紅、どうした急に。……ハッ!? まさか慧音の奴に俺を外へ連れ出すよう依頼されたな!! 俺はどんなことがあってもここから出ないぞ!!」

「いや、そんな机にしがみついて意思表示されても。私は久々にお前と碁でも打とうかと思って来ただけだって」

「なんだそうか」


 だったらいいのだよ。

 慧音の奴は俺を外へ引きずり出すためならば手段を選ばんからな。この前なんてバカルテットの連中をうちへと送り込んできやがった。

 あれは地獄だったぜ。あいつら騒ぐことに関して妥協しないから。


「んじゃま、この前勝ったから俺が先手で」

「今日は負けないさ」










 今回は俺の1目半負けだった。


「ぬぉぉ……中盤の読みが甘かった……」

「これで通算58戦27勝26敗5分けだな。私の勝ち越し~」

「な、ななな何が目当てだ!? まさか雛ちゃんの水着写真か!? あれだけは絶対譲らんぞぉぉぉっ!!!」

「いや、要らないから。そもそも賭けてないし」

「そう言えばそうだった」


 勝負=賭けの考えは良くないな、反省。


「だがまあ、菓子のお代わりくらいは貰っとこうかね」

「そんなもんでよけりゃあいくらでも。対霊夢用、対ゆゆさん用、対アリス用、対咲夜用のどれが良い?」

「んー……対厄神用で」

「なんとも殺生な!? 雛ちゃん用を欲しがるとはもこたんめ、俺の菓子グレードを完璧に理解してやがる!!」


 話題のスイーツだの高級洋菓子店の逸品だのは大概雛ちゃん用にしているからな。いくらかゆゆさんとかにも回してるけど。

 うぐぐぐぐ……だがしかし、敗者に人権無しだ。


「……とっときの品だ。キャラメル&ミルクの2層バームクーヘン、数がないから八雲さんもあまり手に入れられない逸品。食べるがいい!」

「おー、こいつは美味そうだな」


 我が神、雛ちゃんの為に取っといたのだが、この際仕方ない。

 雛ちゃんにはこの動物っこマカロンを出そう。今外で大人気らしいし。


「良いなコレ、マジで美味いぞ。新月、コーヒーお代わり」

「おう。ついでだから俺も飲もう」


 しかし、1人で食べるには結構量があったと思うが、妹紅はバームクーヘンを全て平らげて行きやがった。

 やはり女性にとって甘いものは入るところが違うらしい。

 マカロンも欲しそうにしていたが流石に死守した。これは雛ちゃんのだい。





 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!





「ごきげんよう、新月。暇だからお菓子でも食べに来たわ」

「帰れ侵入者め! コレだけは絶対に渡さん!!」

「……へぇ? 私に対してそんな口を利いちゃうんだぁ」

「うにゃあぁぁぁぁぁぁっ!!?」


 妖怪と人間の戦力差はいかんともしがたかった。

 ごめんね雛ちゃん……また八雲さんに何か用意してもらうことにするよ……。












[34250] 馬鹿な子ほど可愛い……のか?
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/10 22:19










「大変大変大変大変大変大変!」


 3時のおやつで茶をしばいていたら、うるさいのが一際うるさくやってきた。


「どーした空。騒々しい」

「新月! 変態!」

「よしよし、とりあえず喧嘩売ってんのは分かった。表に出ろ」

「うにゅ? うん」


 言われるがまま外に出て行くお馬鹿カラス。

 俺も続いて外に出ようとして……出たくないから即行止めた。

 そしてそのまま時間が経過する。

 5分ほど経って、再び空が家の中に飛び込んできた。


「大変大変大変大変大変!」

「だからどーしたってんだ。騒々しいこと極まりない」

「新月! 変態!」

「よしよし、とりあえず思い切り喧嘩売ってんのは理解した。表に出ろ」

「うにゅ? うん」


 またも言われるがまま外へ出る大馬鹿カラス。

 ……しかしあいつは一体何をしに来たんだ?

 何はともあれ、俺を変態呼ばわりとはいただけない。

 俺は変態ではなく引きこもりだ。よしんば変態だとしても、変態という名の引きこもりだ。

 補足するなら引きこもりの中の引きこもり、引きこもりキングだ。あと2年もしたら引きこもりゴッドに進化する予定だ。

 そんなことを思っていたら、再三空が家に突入して来た。


「新月新月! 大変なんだよ!」

「やっと本題に入れそうだな。で、何が大変なんだ?」

「何が大変なのか忘れちゃって大変なの!」

「よーし、帰れ。ゴーホームだ」

「ごー……うにゅ?」


 英語が全く分からないらしい。

 まあ予測はできたことなのでどうということはなかった。


「このような場所までわざわざ足をお運び頂き大変申し訳なく思っております。ですから今すぐご帰宅お願いします」

「新月だいじょーぶ? 日本語ちゃんと話そ?」

「ぶっ飛ばすぞ手前」


 馬鹿に馬鹿呼ばわりされた。こいつぁコトだ。

 どうしてやるか。羽根でも毟ってやろうか。


「……とにかく帰れよ。俺はそんなに暇じゃない。強いて言うならこれからおやつの水羊羹を片付けるので大層忙しい」

「うにゅ、そうなの? なら空も手伝うー!」

「しまった墓穴だった」


 こいつの相手は疲れるから、可及的速やかに帰ってほしかったのに。

 こうなったら水羊羹食うまで意地でも帰らないぞこいつ。記憶力絶無のクセして食い物のことだけは絶対忘れねーんだから。


「ならば食ってさっさと帰れ。何の用だったのか知らんがな」

「ん、空何か新月に用事あったっけ?」

「いや、知らんて」


 結局こいつは何しに来たんだっつーの。

 大変大変言ってたくせに、簡単に忘れやがって。


「もぐもぐ……あ! そうだよ新月! もぐもぐ……大変なんだよ!」

「食べるか喋るかどっちかにしろ」

「……もぐもぐ」


 いや、食うのかよ。別にいいけど。

 だがこれはきっと、食い終わる頃には何もかも忘れてるパターンだぞオイ。










「ごちそーさま! 新月、いつもありがとー!」

「はいはい」

「それでそれで、大変なの!」


 ……こいつは珍しい。覚えてやがった。

 余程大事なことらしいな。この3歩どころか1歩踏み出した瞬間ものを忘れる空が覚えてるくらいだ。


「何が大変なんだ?」

「それを忘れて大変なの!」

「結局そこからかよ!」


 なんて中途半端な奴だ。非常時くらい全部覚えておけや。


「いくらなんでもお前の忘れたことなんて知らんぞ」

「うにゅ……新月馬鹿だもんね、仕方ないよね」

「なんて理不尽な扱いだよ。馬鹿に馬鹿言われたばかりか、無理難題を無理と言ってそれかよ」


 なんなのこいつ。思考回路どうかしてるんじゃねーの?

 自分の名前も漢字で書けないくせに……。


「でも平気だよ? 新月がとっても馬鹿でも、空は新月のこと大好きだよ?」

「キレ辛い態度をとるんじゃねえよ! なんなのお前、わざとやってんのかそれ!」

「うにゅ? 空わかんない」

「おぉおお……頭痛がヤベェ……」


 疲れる。非常に疲れる。

 こいつは基本的に俺に懐いてるから構って欲しがるが、万事こんな調子だから俺としては精神力をガリガリ削られる。

 だからと言って徹頭徹尾邪険にするのも可哀想だし……どうすりゃいいんだ?


「……とにかく、大変なことが何なのか思い出せなくて大変なら俺にはどうしようも出来んぞ」

「えー」

「えーじゃない」


 霊夢同様に努力を放棄してる俺が言えたことじゃないが、そういうことは自分で頑張るもんだ。

 つーか、他人じゃどうしようもねー。


「うにゅー、ケチ」

「誰がケチだ誰が。俺は引きこもりだが、心の広い引きこもりだぞコラ」

「じゃあ空の大変を何とかして!」

「無理だっつってんだろうが! どうして俺に頼る!?」

「あ、思い出した」

「このタイミングで!?」


 忘れてしまった大変なこととは、いつも胸に着けている赤い目をどこかに落としたことらしかった。

 確かに今日は何で着けてないんだとは思ったが……落としたのかよ。

 一緒に探してくれと頼まれたが、それは全力で断った。

 引きこもり舐めんな。









 



[34250] 嫉妬? SHIT?
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:b9bb781d
Date: 2012/08/11 21:56










「……妬ましいわ」


 どうしてこうウチに来る客ってのは、一部を除いて面倒臭い連中ばかりなんだろうか。


「何が妬ましいんだよ。いきなりんな事言われても反応に困るだろ。話題なり何なりを振るなら振るで、順序と筋道ってもんを立ててからにしろよ」


 馬鹿の空とか馬鹿のチルノじゃねえんだから。

 あと人の話を全く聞かない魔理沙辺りとか。


「妬ましい……妬ましい……日がな1日こんなところでのんびりぐうたらしているくせに、生きる事に何ひとつ困っていない貴方がとにかく妬ましい」

「……いきなり褒めるなよ。照れるだろ」

「褒めていないわ。妬んでいるの、僻んでいるの、呪っているの」

「忙しい奴だなオイ。どれかひとつに統一したらどうだ、パルスィ」


 そんな風にしてたら気疲れするだろうに。

 もう少し簡単に物事を考えた方が楽でいいぞ。


「頭痛持ちとかにゃあなりたくねーだろ? 俺も一時期、魔理沙とか幽香の暴挙で心労が溜まって大変だったからな。気楽に行こうや、な?」

「…………優しい、のね。こんな私に。その寛容さと幸せそうな現状に、ますます私の妬みが募る……」

「思考のデフレスパイラルに陥ってるな、最早」


 影を背負ってパルパル言い始めるパルスィ。

 まあこれが水橋パルスィって女なんだから、今日も平常運転って事で結構なんだろうけど。

 そう割り切ってしまえば、中々に味があって面白い奴だと思えるし。


「しかしお前、旧地獄から出て来てまで俺に恨みごとっつうか妬みごと言いに来るとか、人のこと言えないぐらい暇なんじゃねえか」

「パルパルパルパル……うん? ああ、ええ、そうね。どうせ私はいつも暇よ。貴方みたいに客人をもてなすような機会も無ければ、これと言って重要な役職に就いている訳でもないもの。やることなんて精々が丑の刻参りぐらい……本当、妬ましい」


 何でもかんでも妬みとか僻みに結びつけるんだよなーコイツ。

 つっても、そもそもパルスィの種族である橋姫って妖怪の性質がそんな感じな訳だし。

 ……元々は外敵の侵入を防ぐ水神信仰の一種だったんだが、何がどうトチ狂ってこうなったのやら。


「知りたい? 格別な妬みを添えて教えてあげてもいいけど」

「サトラレすんな。どうしてこうどいつもこいつも俺の思考を読んで来るんだ」

「だって貴方……妬ましいぐらい分かり易いもの」

「おーまいがっ!」


 やはりか。やはり俺は分かり易いのか。

 こうなったら仕方無い。是が非でもポーカーフェイスを習得するしか俺のサトラレ現象を止める手立ては……。


「そんなあくまで前向きなところも、非常に妬ましいわ」

「だから思考を読み取るんじゃありません」


 おちおち考え事も出来ないじゃないか。










「パルパルパルパル妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい……」

「どうでもいいけど、いつまで続ける気だよその呪詛」


 さっきから延々と。

 ぶっちゃけ疲れないのか?


「……貴方の中にある嫉妬心を増幅させようとしているのよ。あまりにも妬ましかったから」

「さり気に恐ろしいことを実行するんじゃねえよホントに」


 流石に少しだけビビった。

 罰としてほっぺたムニムニの刑だな。


「ふわぇふわひゃわ」

「ちったあ反省しろやコイツめ。脛に蹴りを入れるな」


 地味に痛いぞ。


「ひゅゆ……何をするのよいきなり。呪うわよ、丑の刻参るわよ」

「既にやってそうだが」

「……私をサトラレしたわね。その鋭い感性、とても妬ましい」


 どうあっても妬み僻みから離れられないようだ。

 ま、そういうもんだと理解していれば、結構付き合い易くもあるんだけど。


「それにしても……分かっていたけど呪わしい。貴方からは嫉妬心自体が感じ取れないわ……誰かを妬んだこととか無いの?」

「ん? 無いな、そう言えば。俺のモットー、ナンバー1よりオンリー1だし。頭の良さとか身体の頑丈さとか、全部ひっくるめて個性だろ?」

「…………僻ましい!」

「なにゆえ!?」


 牙を剥く勢いで唸られたし。

 なに、ホントなんなの? 俺何か悪いことした?


「私は24時間365日何かを誰かを妬んで僻んで呪っているのに、貴方は……!」

「いや、そんなこと言われても……」

「……もう私の勢いは止まらないわ。貴方が誰かを妬むようになるまで、毎日毎日呪い続ける……!」

「勘弁してくれ……お菓子やるから、な?」

「週に1度で妥協してあげるわ」

「それ位ならドンとこーい」


 案外チョロかった。

 でもま、嫉妬とか僻みなんてそんなもんだと俺は思う。












[34250] 強盗時々人形遣い
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:bd0b3acc
Date: 2012/08/13 02:47









「よぉーっす新月!」

「…………」


 さて、今誰か俺に話しかけたか?

 たぶん気のせいだな、うん。


「おーい、新月?」

「黙れ。すぐさま180度方向転換してもと来た道を振り返らずに戻りなさい。さもないと……」

「さもないと?」

「や、特に何もないけど」


 俺の言葉に、ずるっと体勢を崩す魔理沙。

 うむ、中々の反応だ。


「だがしかし、俺はお前を歓迎などしないぞ。さあ、帰るのだ」

「ん? 借りるもん借りたら帰るぞ?」

「無許可無期限で人の家から物を持って行くのはね、めーなの。分かる?」

「問答無用だぜ。私が借りたいから借りるんだ! それにちゃんと返すぜ、死んだら」

「お前が死ぬ頃にゃ俺も死んどるわ! 生きててもヨボヨボの爺だわ!」

「細かいこと気にすんなって。つーことでアレ出して欲しいんだぜ」


 笑顔で要望しつつも俺にミニ八卦炉を向けてやがる。

 要望でも嘆願でもないただの恐喝じゃねえかこれ。


「誰がくれてやるものか。一応俺にとって大事なものなんだぞ、アイテムボックスの分類的には『たいせつなもの』なんだぞ」


 それをあげるなんてとんでもない! みたいな。


「んなこと言うなって。お前が持ってても仕方ないだろ?」

「確かに使い道なんぞ皆無だがな。無くしたり手放したりしたら殺されるんだよ」


 箪笥の上に置いた鍵のかかった小箱を手に取り、机の裏に貼り付けた鍵を使って蓋を開錠する。

 入っているのは、小さな桜色の貝殻。

 昔輝夜から貰った『燕の子安貝』とか言うお宝らしい。


「大体こんなもん、手前だって何に使うんだよ?」

「知らないのか? 燕の子安貝は最高の魔法薬の材料になるんだぜ」


 そいつは初耳だが、だとしたら余計に渡せねー。

 薬にされたら戻ってこねえじゃねえか。


「輝夜にぶっ殺されるわ! これ渡された時、大事にしろって3回も言われたんだぞ!」


 あと、その気になったらこれ持って自分を訪ねろとか言ってた。

 その気ってどの気だ。


「大丈夫大丈夫、借りるだけだぜ」

「全然大丈夫じゃねーよ! 絶対渡さねえ!」


 再び鍵を閉めて箱を元の場所へと戻す。

 輝夜怒らせたらどうなると思ってんだ。あいつ不死身なんだぞ、何しても死なないんだぞ。

 そもそも勝てないけど。


「わがままな奴だぜ……じゃあ他のもので」

「雛ちゃんの水着写真は渡さんぞぉぉぉっ!!!」

「別に要らないんだぜ」


 あ、そう?


「じゃあ何を狙ってやがる……咲夜のくれたティーセットか? パルスィが置いてった藁人形か? 霊夢が忘れて行った陰陽玉か? 何故かアリスがウチに仕舞ってる裁縫道具か? それとも幽香が俺に押し付けたこの日傘か!」

「……聞けば聞くほどお宝揃いなんだぜ。だったら全部借りていくんだぜ!」

「誰が渡すかぁっ!! ティーセットは気に入ってるし藁人形は人に渡したら俺が呪われそうで怖いし陰陽玉は霊夢のだし裁縫道具がないとアリスが困るし日傘を盗られたとあっちゃあ幽香にミンチにされるんじゃあっ!!」


 部屋の隅においてある『いるものBOX』を背に庇い、魔理沙と対峙する俺。

 ……問題はミニ八卦炉だ。マスタースパークなんて撃たれたら死ぬ。

 昔幽香から1発貰ったことがあるが、10日生死を彷徨った。

 あ、いや生死を彷徨ったのはあいつのサディスティックな看病のせいだった気が……


「やっぱ最後はこうなるんだぜ……お前を薙ぎ倒してお宝全部借りていく!」

「させてたまるかぁっ!!」


 本来なら、俺が魔理沙に勝てる見込みはない。

 だがしかし! ここは俺の家で、魔理沙はこんな狭いところじゃ満足に戦えない!

 格闘戦に持ち込めば、俺にも勝機は十分ある!


「っしゃあミニ八卦炉奪取! これで手前は羽根を捥がれたチキンだふはははは!」

「こ、のっ! 卑怯だぞ新月! 返すんだぜ!」


 頭上に持ち上げたミニ八卦炉を取り返そうとその場で飛び跳ねる魔理沙。

 が! やや背の低いコイツとどちらかと言えば長身な俺とではリーチが違うのだ!


「くはははは! 貧弱! 貧弱ぅ! こうなったら今までの借りを返す意味をこめて軽くお仕置きしてやる! くすぐりの刑だ、覚悟しろ強盗娘!」

「わー!? やめろこの幻想郷第3の⑨!」

「絶対許さん! よくも人が気にしてることを!!」


 足を掛けてすっ転ばせた魔理沙へと馬乗りになり、地獄のくすぐりコースを実行しようとしたところで。

 ガチャリと音を立てて、誰かが部屋に入ってきた。


「新月、近くを通りがかったから遊びに来たわ。べ、別になんとなく顔を見たくなったとかじゃないから、その辺勘違いしない――」

「あ、アリス! 助けて欲しいんだぜ!」

「この野郎往生際が悪いぞ! 大人しくしろ!」

「……………………」


 ……うん?

 なんか寒い。とんでもなく悪寒がする。

 なんだろ、例えるなら散歩中に地雷踏ん付けたとかそんな感じの――


「……ねえ、新月。なにしてるの」

「お? いや、この強盗を少し懲らしめてやろうと――」

「正座」

「はい?」

「いいから正座」


 …………どうしよう。アリスが怖い。

 言うとおりに正座したら、俺の両隣に上海人形と蓬莱人形が。


「助かったんだぜアリス! さ、今の内にお宝を――」

「魔理沙。帰って」

「へ?」

「帰って。そして当分ここに来ないで。むしろ一生ここに来ないで」

「そいつは無理なそうだ「帰れ」分かったんだぜ!」


 すげえ。あの魔理沙が一瞬で戦意喪失した。

 そして何故そんなに怒っているのですか、アリスさん。


「おこってないわ」

「いや、明らかに怒って――」

「おこってないわ」

「ごめんなさい」


 思わず土下座するような声音だった。










 そして俺は8時間に渡り、アリスから異性に対する扱い方というものをつらつらと正座のまま聞かされたのであった。


「シャンハーイ!」

「ホウラーイ!」

「痛い痛い痛い! 分かった、寝ないから! ちゃんと起きてるから、殴るな妖怪人形共!」

「そもそも貴方にはデリカシーというものが……」

「い、いつまで続くんだこれ……」


 俺が何をした。












[34250] 一筋ですから
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:bd0b3acc
Date: 2012/08/13 23:20








 突然だがこの俺、満月新月には特殊な能力がある。

 これは幻想郷では『程度の能力』とカテゴライズされているものの一種で、強い妖怪や一部の人間なんかが持っていたりするらしい。

 んで、俺の能力ってのは、名前を『信仰を増やす程度の能力』という。命名は八雲さん。

 つまりこいつは、人間1人が持っている信仰の力を1とすると、それを100にも1000にも、下手すれば10000にも増やすことの出来る能力なのだ。

 まあ増やせるのは俺自身限定だが。

 しかし八雲さん曰く、俺が本気でそれこそ盲目的に信仰すれば、その辺の石ころが神様になるくらい強力なものらしい。

 言い方を変えてしまえば、俺の能力は『神を作り出す程度の能力』とさえ呼べる。

 そしてそんな俺の能力を現在ダイレクトに受けている雛ちゃんは、元々戦闘面ではさして強くなかったが、今では天狗の長たる天魔も凌ぎかねない神力を備えているし。

 要するに何が言いたいかと言えば、俺の能力は神や妖怪を極端に強化し、使い方を誤ると幻想郷のパワーバランスを簡単に崩しかねない代物で。

 同時に、神なんかからしてみたら、喉から手が出るくらい欲しい信者だったりするのだ。










「信仰しましょう!」

「帰れ」


 最近見ないとか思っていたら、狙いすましたかのように訪ねてきやがった。

 噂をすれば影って、あれホントなのな。今度からこいつの存在を思考から外そう。


「そんなこと言わずに。今入信すれば諏訪子様と神奈子から受けられる神徳が3割増ですよ!」

「いらんっつーに。俺は雛ちゃんオンリーなの、戦神と祟り神に用は無し」

「戦神じゃありません軍神です!」

「どうでもいいよ、果てしなく」


 さっさと帰れ。こちとらこの前はアリスに正座で意味不明な説教をされ、昨日は相も変わらず俺を外へ出すことに情熱を燃やす慧音の相手をしてくったくたなんだよ。

 お前の相手なんぞしてる精神的余裕ないっての。


「俺の能力が神さんからしたら死ぬほど魅力的なのは分かるよー。けどな、俺は雛ちゃん以外の神を信仰するつもりないの。他あたれ」

「他って誰ですか! 貴方が信仰してくれれば、それだけで諏訪子様も神奈子様も全盛期の御力を取り戻せるんです!」

「……いや、無理だって」


 そも信仰ってそいつの心根ひとつだろうに。

 誰かに強制されて出来るもんじゃねーし。


「意地悪しないで信仰してください!」

「え、俺が悪いの?」


 どないせーっちゅーねん。


「今なら御二方のサインと握手会のチケットもあげますから、ね?」

「イラネ」

「だったら私の水着写真を!」

「ますますイラネ」

「失礼な人ですね!!」


 だって要らないんだもん。

 早苗の水着なんて、雛ちゃんのそれと比べることさえおこがましい。


「どれだけ厄神大好きなんですか!」

「魔理沙の3万5011倍。幽香の約20万倍。慧音の850倍、妹紅の13倍、咲夜とアリスの5倍、ゆゆさんの4倍、八雲さんと霊夢の3倍。そしてお前の1037倍」

「……やけに具体的な上にとても傷付く数字なんですけど」

「現実から目をそらすな」

「ひきこもってる人に言われたくないです!」


 差別されたし。

 ひきこもり差別だ。こいつ嫌い。


「とにかく信仰は無理」

「……どうしてですか」


 どうしてって、んなもん決まってるじゃねえか。


「軍神と祟り神に、俺の悪運どうにかできんの?」

「…………そ、それは」

「できるってんなら、喜んで信仰するけど」


 早苗は言葉に詰まってしばらく固まっていた。

 ……そりゃそうだ。こいつも俺の本来の悪運は知ってる筈だからな。

 雛ちゃんみたいにそれ専門の神じゃないとどうにも出来ないレベルだって、理解はしてるだろうよ。


「が、がんばれば何とか」

「無理」

「わ、私が奇跡を起こせば!」

「俺の悪運なくすんなら、お前たぶん3週間ぐらい詠唱ぶっ続けだぞ」

「…………すいません無理です」


 分かればよろしい。

 俺を助けてくれるのは雛ちゃんだけなのだ。


「ま、もし俺にガキができたらそいつも同じ能力持ちだろうし。そっちに期待すりゃいいんじゃね?」

「……そうしま……! そうですよ!」

「何だいきなり」


 突然の大声にびっくりしてたら、早苗に手を取られた。


「結婚しましょう! そして私達の子供に、諏訪子様と神奈子様を信仰させれば万事解決ですよ!」

「はっはっは、断る」

「何故ですか!?」


 だって結婚するとなると、外に出ないと駄目じゃんか。

 それにお前の場合、守矢神社に移住しなくてはいけなくなる。

 つまりここでのひきこもりに終止符が打たれてしまうのだよ。


「どこまでひきこもる意志が強いんですか!?」

「果てしなくさ」


 ひきこもり道に終わりはない。

 俺はただ、まっすぐとこの道を進み続けるだけだ……


「格好良く纏めようとしないで下さい」

「サトラレることにも慣れてきた今日この頃」


 ポーカーフェイスは諦めた。












[34250] 幻想郷縁起 英雄伝 『満月新月』
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:b9bb781d
Date: 2012/08/16 11:05








『悪運悲運の大信仰』

満月 新月 Shingethu Michizuki


 職業 不明

 能力 信仰を増やす程度の能力

 住んでいる所 人里





 人里の一角にある7重の扉と壁を持つ『マトリョーシカの館』で暮らす青年。

 服装は暗色を基調とした洋服姿。年齢は外見から察するに二十歳前後だが、本人の生活環境の所為か時間感覚が他人と比較してずれており、正確な年齢は不明。


 館の外に出る事はまず無く、その為人里で暮らしているにも拘らず人間との交流は非常に薄い。

 しかし彼を訪ねる妖怪などもそれなりに存在し、偏りはあれど独自の交友関係を構築している。


 いわゆる閉鎖的な人物であるが、思いの外性格は明るく気さく。他者を拒絶している訳では無く、訪ねれば茶と菓子を添えて歓迎してくれるだろう。

 が、彼を訪ねる者の中には危険な妖怪も多く、運悪く鉢合わせしないよう注意すべきである。

 また、彼に対して特別な感情を抱いている妖怪もいる為、下手にちょっかいを出すのは非常に危険だ。(※1)





『能力』


 自身の持つ信仰の力を、極端に増幅することが出来る。本人を強化する要素は欠片も無いが、彼が信仰する神は絶大な力を得る事が出来るだろう。

 彼が本気で盲信したならば、ただの石ころでさえもその瞬間神へと変わる。それ故に幻想郷に住まう神、若しくは神へと成り変わらんとする妖怪は彼の信仰を欲しており、しばしば訪ねている。

 だが彼は現在とある神を心酔、崇拝しており、他の神など眼中にない様子。彼にとって信仰するに値する神とは『自分を救ってくれる者』であり、ある意味最も分かり易く、最も困難な条件であるとも言える。

 この能力は、扱いを間違えれば幻想郷に多大な危機をもたらす為、かの妖怪の賢者はそれを警戒し、彼を館の中に閉じ込めたとの噂もあるが、1度でも彼に会えば眉唾以前の話だと確信できるだろう。

 ちなみに彼は意外と敬虔な信者であり、毎日夜明けと日没時に1時間ずつ、計2時間神への祈りを捧げているらしい。

 それを妨げることは、彼にとっての数少ない逆鱗のひとつでもある為、決して邪魔してはならない。

 もし彼を本気で怒らせれば、彼の信仰により絶大な力を得た神を敵に回すことになるのだから。





『ひきこもり』


 彼を表すのに、最も適切な言葉である。

 理由は不明であるが彼は外に出ることを何より拒んでおり、決して館の外へと出ることが無い。

 が、かつてアリス・マーガトロイドと魔法の森に同居していた時期があり、行動範囲の広い彼女と共に幻想郷全域を回っていたらしい。(※2)

 ちなみにこの時のことは彼もあまり話したがらず(※3)、かと言ってアリス・マーガトロイドに尋ねることも決してお勧めできない。彼に対して多大な好意を抱いている彼女に同居時代のことを聞くのは、盛大な惚気以外の何物でもないからである。

 そのような過去があったからか、引きこもりとして生活している彼を訪ねる者は多く、多岐に及ぶ。紅魔館のメイド長、冥界を統制する亡霊、旧地獄の面々など、挙げれば挙げるほどその統一性のなさに驚くだろう。

 本人はひきこもりであることに一種の誇りさえ持っており、今のところ外出する予定は全くないとのこと。

 また、同じひきこもりとはとても相性がいいらしい。(※4)





『悪運』


 現在は厄神の尽力により解消されているが、彼は本来とても運が悪い。

 最早災いを招くとさえ言えるそのあまりな悪運の為、同じ場所に3日も留まればその地は崩壊の一途を辿るだろう。

 雷雨の中に居れば必ず頭上に雷が落ち、風が吹けば絶対に大木や建物が飛んでくる。

 この呪いの如き悪運の原因は良く分かっていない。あくまで憶測ではあるが、何かの因果に巻き込まれているのではないかと言われている。

 その為過去に災厄の化身とまで呼ばれており、特に人間からは怖れ遠ざけられていた。

 人里に住んでいながら人間との交流が薄いのは、この辺りに理由があるものと思われる。





『外来人?』


 アリス・マーガトロイドと共に幻想郷を練り歩いていた頃以前の彼を知る者は一切居ない。

 そして彼の服装は外の世界に存在するものと酷似しており、噂では香霖堂にある未知の道具を容易く使いこなせるらしい。

 以上の理由から、彼は外来人ではないかと言われている。しかしながら、それを本人に尋ねてもはっきりとした答えが得られず、真相は不明である。

 たまに「マジKYなんですけど」「それくらいググれカス、あーいやここだとググれねーわ」等々、良く分からない発言をする。(※5)










 ※1 少なくとも3、4人はいるらしい

 ※2 人間には苦難の道だったと思う

 ※3 この頃は悪運の被害も多かったため

 ※4 ひきこもり同士でどうやって交流するのだろうか?

 ※5 取り合えず馬鹿にしていることだけは分かる












[34250] VSけーね
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:bd0b3acc
Date: 2012/08/17 13:02









 俺は今、戦っている。


「いい加減に外へ出ろぉっ!!」

「いーやーだぁーっ!!」


 ついに説得に業を煮やし、俺の足を掴んで外へと引っ張り出そうとする慧音と。

 床に爪を立て、しがみ付いて抵抗している。


「この人でなし! 言葉が通じなければ強行手段か!? だから婚期が遅れまくるんだバーカバーカ!」

「引きこもりに何を言われても痛くも痒くもない! お前こそ無駄な抵抗を止めろ!」

「絶対に外へなど出てたまるか!!」


 本来ならば、半人半獣の慧音に俺が力で敵うはずも無いのだが、今はいわゆる非常事態。

 脳のリミッターが外れ火事場の馬鹿力で抗う俺を、流石の慧音も押し切れずにいた。


「う、ぐぐぐ……くっ……はーっ……はーっ……なんて強情な………」


 やがて拮抗した状況に慧音の方が先に疲れ、肩で息をしつつ俺の足を放す。


「せ、正義は勝つ……俺も疲れた……」

「お前は、絶対、正義じゃ、無い……」


 何を言うか。引きこもりは正義なのだよ。

 俺、輝夜、パチュリー、さとり、そしてフランの5人で結成した『屋内戦隊ヒキコモルンジャー』の存在を知らないらしいな。

 なぜか引きこもりに対して悪い印象を持っている慧音のような偏見に満ちた奴等と戦う全国一千万のひきこもり達の希望の星、ヒキコモルンジャー。

 ちなみに俺はヒキコモルンジャーブラックだ。


「すぐに解散しろそんなもの!」

「とても具体的なサトラレのお陰で、説明する手間さえ省けるという」


 最近サトラレを有効活用しようかと考えるようになってきた今日この頃。


「……そもそも! どうしてそんなに外に出たがらないんだお前は!?」

「どうしてって、んなもん決まってるじゃん」


 外は物騒だもの。


「たとえば外に出るとする。するとどこからともなく大木や建物が飛んできたり、ガラの悪いにーちゃんに「ちょっと跳んでみろや」とか言われる」

「極端過ぎるぞその思考……しかも、それはお前が悪運だった頃の話だろうが」

「いーや、運が良かろうと悪かろうと外はそんなもんだ。きっとモヒカン頭が集団でうろついているに違いない」

「1人も居ないわそんな輩!」


 絶対居るって。

 そんでもって、汚物は消毒だーとか言って回ってるって。


「それに他にもあるぞ。たとえば外を歩いていたら、テラロイド星のシスティーナ姫が突然現れてイリュージョンで消されるかも」

「どこだテラロイド星って!? 誰だシスティーナ姫って!? どうしてイリュージョンで消されるんだ!?」

「俺が知るかよそんなこと」


 システィーナ姫に聞いてくれ。


「有り得んわ! そもそもそんな奴が居てたまるか!」

「居るかも知れないだろうが! ここは幻想郷だぞ!?」

「幻想郷を何だと思ってるんだお前は!?」


 人外魔境の大巣窟。


「だから俺は絶対に外に出ない! モヒカン共にカツアゲされた挙句にイリュージョンで消されるからな!!」

「消されるか! いいから外に出ろこの阿呆!」

「アホっつったなこの馬鹿!」

「馬鹿とはなんだこの⑨!」

「それを言ったらお終いじゃぁぁぁぁっ!!!」










 乱闘に持ち込んだが、ボロ負けした。

 決め手は慧音の16連頭突きだった。

 頭がぶれて見えるほどの早業だった。

 1R1分13秒でKOされた。


「だ、だが……今日も追い返して、やったぜ……」


 試合にゃ負けたが、勝負には勝った。

 絶対絶対、外になんか出るもんか。


「…………に、しても……」


 誰だシスティーナ姫。どこだテラロイド星。

 勢いのまま適当なこと喋ったが、思い返すと我ながら意味が分からなかった。












[34250] 悪霊たくさん!
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:bd0b3acc
Date: 2012/08/20 19:28









「祇園精舎の鐘の声~諸行無常の響きあり~沙羅双樹の花の色~盛者必衰の理をあらわす~」

「……何やってるんですか、新月さん」


 機嫌よく琵琶を弾いていたら、背後から声がした。

 振り返ると、そこには。


「なんだ、ただの悪霊か」

「悪霊じゃありません! どうしてそういつもいつも失礼なんですか!?」

「だって妖夢をいじりたいんだもの。しんげつ」

「なんか腹立たしいですねその口調……!」


 み○を風に言ってみたんだが駄目か。


「まあそれはさておき。何をしているかと言われれば、琵琶を片手に平家物語の弾き語りを」

「見れば分かりますけど……なんでそんなことを」

「暇だったん」

「…………そうですか」


 なにゆえ呆れ顔なのか。

 暇潰しに弾き語りしちゃいけないのか。


「いけなくはないですけど、1人で弾き語っても仕方ないじゃないですか」

「……俺を寂しい奴みたいに言うな!」

「みょんっ!?」


 暗に根暗とか貶されてる気がしてムカついたので、足元に転がってた偽陰陽球(ウレタン製)を投げつけてやった。

 命中したとき、ポコッといい音がした。


「妖夢のくせに生意気な発言するからだ」

「私のくせにって何ですかそれ!?」

「その薄っぺらい胸に手を当ててよーく考えてみな」

「…………」

「俺が悪かったから剣を仕舞え」


 怒るなよ貧乳扱いしたぐらいで。

 ちなみに俺はどちらかと言えば巨乳派。隠れ巨乳ならなお良し。

 つまり雛ちゃん。










「っくち! 誰か噂したかしら……新月?」










 おおう、雛ちゃんと以心伝心してる気が。

 今日の運勢大吉だなこりゃ。


「全くもう貴方って人は……それにしても、随分古めかしい琵琶ですね。心なしか妖力も感じるような……」

「ホーイチとかいう奴の持ち物だったらしいぞ。目は見えないけど弾き語りの天才だったとか」

「……ほーいち? ほーいちほーいち……どこかで聞いた気が」


 どうした妖夢。まさか昔の知り合いか?

 幻想郷の奴等って外見不相応に年食ってるのが大半だからな。八雲さんとか卑弥呼の知り合いだったって聞くし。

 しかしまあ、もし知り合いだってんならこの際どんな奴なのか聞くのも悪くな――


「って、芳一!?」

「うわお、びっくりした。いきなり大声出すなお馬鹿妖夢」

「捨てて下さい! その琵琶! 今すぐに!!」


 なぜ。


「やだよ、お気に入りだし」

「死にますよ!? 殺されますよ!? てか、何で耳なし芳一の琵琶なんて持ってるんですか貴方は!?」

「むかしひろった」

「果てしなく分かりやすい説明ですね!!」


 褒められた。

 ちょい嬉しい。


「落ち着けよ妖夢。この琵琶が何だってんだ」

「……それの持ち主だった芳一という人物は、平家の怨霊に殺されかけ、助かったものの両耳をもぎ取られているんです! そんな琵琶でよりにもよって平家物語なんか弾いて、今夜あたり絶対来ますよ!?」

「怨霊かー。幽香の方が万倍おっかねーよ」

「そうかもしれませんけど!」


 なにを慌ててるんだ妖夢の慌てん坊さんめ。

 この家の仕様を忘れたらしいな。


「愚か者め。ここがどんな館か忘れたのか?」

「え?」

「あ、そもそも知らなかったクチか」


 伊達に7重の壁があるわけではないのだよ。

 こいつは謂わば7枚の物理結界なのさ。

 ちなみにここで言う物理とは結界自体が質量を持っているって意味の物理な。

 ……誰に説明してんだ俺。


「1層目が防音、2層目が耐寒。3層目は耐熱、4層目からはそれぞれ悪意、害意、殺意、敵意を遮断する。邪な考えでこの館には入れねーよ」


 悪気の一切ない魔理沙とか、根が加虐的な幽香には全然効かないけどね。

 その辺泣き所だったりする。


「そ、そんな仕様だったんですか……私てっきり単なる来客に対する嫌がらせかと」

「んだとコラ」


 そこまで性格悪くないやい。


「だから安心しろ。たとえこの琵琶が曰く付きでも、俺に危害が及ぶことはまずない。そもそもウチに入れる悪霊なんて、妖夢くらいだし」

「私は悪霊じゃありません!!」


 駄々っ子パンチしてくる妖夢の頭を押さえて、ひたすら空回りさせてやった。

 とても楽しかった。












[34250] 新月の日の兎さん
Name: かすたーど◆d7a28db9 ID:5b9d57ab
Date: 2012/08/25 17:18








「……ねえ、鈴仙。私って新月に嫌われてるのかしら」

「藪から棒に何ですか姫様」

「子安貝を渡して彼に求婚してから3年……なのにここへ来る気配さえないのよ?」

「ひきこもりだからじゃないですか?」

「分かってるわよそんなこと! けど少しくらい顔を見せてくれたっていいじゃない!」

「……だったら姫様が会いに行けばいいじゃないですか」

「無理よ、自分から訪ねるなんて。だって恥ずかしいじゃない」

「無駄に乙女ですね」

「うるさい」

「い、いた、痛いです!? すいません生意気でした殴らないで下さい!」

「分かればいいのよ分かれば」

「(新月の顔もまともに見れないヘタレのくせに……)……ですが姫様……そうやって後手後手に回っていると、人形遣いあたりに持って行かれますよ?」

「…………」

「姫様?」





「鈴仙、貴女ちょっと新月の様子を見てきなさい」










「余計なこと言うんじゃなかった……」


 件のバカが住んでいるマトリョーシカの館前で、私は思わず溜息を吐いた。


「それにどうして私がこんな面倒なこと……」


 てゐに押し付けようとも思ったけど、逃げられてしまった。

 お陰で私が来る羽目になった。


「…………」


 それもこれも何もかも、新月のバカが悪い。

 あいつが昔、姫様を口説いたのが悪い。

 あの馬鹿にはそんなつもり欠片も無かっただろうけど、あいつが悪い。

 そして引きこもって姫様に会いに行かないのが悪い。

 ついでに私の弾幕を座薬みたいだと吹聴して回ったことも許せない。

 ……よし、会ったらまず殴ろう。


「ああ……でも邪な考えを持ってここに入ったら弾きだされるのよね……」


 なんて面倒臭い所に住んでいるのか。

 噂ではここにこもったあの馬鹿に攻撃できるのは、愛情表現さえ暴力が伴う風見幽香だけだと聞く。

 これじゃ殴れない。


「……もういいや。様子だけ見て早く帰ろ」


 再び溜息を吐いた後、私はドアノブに手をかけた。

 扉を開けると、そのすぐ奥にまた扉が。

 …………相変わらず来客に対して不親切な設計ね。住人の性格の悪さが手に取るように分かるわ。

 どうして姫様はこんな処に喜んで住んでるような奴に惚れてるのか、理解できない。


「それに扉のデザインも全部同じ……感覚おかしくなるのよこれ」


 愚痴りながら、最後の扉を開ける。


「しんげ――」


 扉を閉めた。

 正確には閉めようとしたけれど、新月の大バカに部屋の中へと引き摺り込まれた。


「いらっしゃいよく来たな鈴仙まあゆっくりして行け具体的には3時間ぐらい!!」

「離して! 帰らせて!」


 なんてタイミングで来てしまったのだろう。

 部屋の中に漂うピリピリとした殺気。

 本来ならこの部屋にそんな物は持ち込めないのだが、家主である新月以外に向けられた感情に対してこの家は反応しない。

 ……そして今ここには、私と新月以外にもう2人居た。


「…………」

「…………」


 1人は、魔法の森の人形遣いアリス・マーガトロイド。

 姫様と同じく新月に惚れてる、私的に言えば趣味の悪い女。

 そしてもう1人は、紅魔館のメイド長十六夜咲夜。

 この2人はかなり仲が悪い。最悪と言っていい。

 ……原因は十中八九、私を捕縛しているこの馬鹿だろうけど。


「頼む鈴仙! アリスと咲夜を何とかしてくれ!」

「嫌よ! 無理よ! 離してよ! 私は帰るのよ!」

「見捨てないでくれ! あいつらもう2時間もあの調子なんだよ!」

「アンタの責任でしょうが!」


 そうこう言っている内に。


「……あなたとは1度白黒つけないといけないわね」

「望むところよ……完璧瀟洒の由縁を見せてあげましょう」


 あの2人がついにスペルカードを取り出した。

 ……死んだかもしれない。





「『デフレーションワールド』!!」

「『グランギニョル座の怪人』!!」

「よりによってその2つかぁぁぁっ!!?」





 狭い部屋の中でそんな物を使われたら――










 ぴちゅーん。


「…………」

「……げふっ……い……生きてる……」


 やっぱり私はこいつが大っ嫌いだ。











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