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[34220] 【習作】琥珀のリリカル奮闘記(リリカルなのは TS オリ主転生) 注意書き+
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/16 09:07
この作品はにじファンで投稿していたものに加筆修正を施したものです。
読者の皆様に多大なる不快感を与える作品かもしれませんが、どうかよろしくお願いします。

以下、注意事項になります。

この作品は以下の要素を含みます。

・転生オリ主
・転生者複数
・TS
・チート系

※にじファン投稿時とちょっとだけ設定が違うところがあるかもかもです。

+鬱展開あり?

2012/7/15 初投稿



[34220] 人物紹介(無印)
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/12 20:44
人形遣い編までの
ネタばれ乙な簡易人物紹介。

※見なくても問題ないです。人形遣い編が終わってから読んだほうがいいかも。












・・・・・・・

〈オリキャラ〉

・・・・・・・

○岸野琥珀
これの主人公。10人目の転生者。腰まである緑の髪に、軽いつり目で琥珀色の瞳。
願い事は”大切な人たちとの楽しい時間が何時までも続きますように”で時間を操る能力。
色々と制限のある能力で、使い方によって体が若返ってしまう。ただ、ティファニーが能力と既存の魔法を組み合わせた事から、何かヒントを得たっぽい。
クロノを治した時に小学2年生時から膨らんできた胸部装甲が減った。身長も2cm縮み138cmから136cmに。
趣味は歌と料理。料理は母、クロエの才能を受け継いでいる・・・。

○上谷大輝
マゾの変態にして転生者。琥珀の犬。ショートの銀色の髪に赤い瞳。残念イケメン。モデルはぬらりひょんの孫のリクオ。
願い事は”確かな絆が欲しい”で他人の力を借りる能力。使い方によっては最強かもしれない能力。
琥珀は親しくなった人に優しくなるので、嫌がる事をして叩かれようとする困った変態。放置しても自家発電。

○岸野翡翠
琥珀の父。世紀末都市、UMINARIの親父の1人。世紀末救世主。
大輝に対しては最初に会った時は優しかったが、変態である事を知ってからは厳しめになった。さらに、琥珀に近づく男にも大輝のせいで厳しくなった。

○岸野クロエ 旧姓 クロエ・ウッド
琥珀の母。琥珀を大きくしたらこうなるんだね、見たいな見た目。軽く垂れ目。ボンッキュッボン。
料理を爆発させる謎の才能を持つ。最近は治り気味?

○カリン
メス。化け猫で転生者で戦国から生きてる。最初の転生者。
友達の狐妖怪の恋愛話を聞いてイラッとする子。

○アーク・リーナス
全部の元凶。やはり天才・・・。

○イザナミ
アークが作った転生用デバイス。莫大な量の魔力を持ち、琥珀たちを軽く皆殺しに出来る戦闘能力。
銀髪に赤い瞳。見た目はリーンフォースに似てる。モデルになった人が一緒?

○人形遣い(お前の名前ねーから!)
見た目は赤砂のサソリがモデル。全身機械で、胸のコアに魂が宿ってる。転生者だがリリカルの事は知らない。
元々凶悪犯罪者で、死刑執行前にイザナミに転生?させられる。願い事は”もっともっと活きのいい死体を集めたい”で人間を操り人形にする能力。

○バルムンク・フェザリオン
性犯罪者で転生者。願い事は”愛されたい”で自分を愛するように洗脳する能力。
モデルは銀魂にちょっと出てくる奴。
最初は能力で好き勝手やっていたが、段々愛が解らなくなって行方をくらます。その後は・・・?

○ティファニー・ラングレー
クーデレでクロノの幼馴染で転生者。親や管理局員の化け物を見る目に傷つきながらも、頑張って執務官を目指した。クロノと切磋琢磨したのでクロノと一回の試験で合格し執務官になった。
親とは不仲の為、リンディのほうになついていた。見た目のモデルはエヴァのアスカ。
本気モードはドラゴンボールのジャネンバのように手だけ転移させたり、攻撃を空間を歪めて跳ね返したりと、実は最強だった。

・・・・・・・

〈原作キャラ〉

・・・・・・・

○高町なのは
琥珀の影響で家族との仲がとても良く、原作より子どもっぽくなってるはず。
最近、大輝のあまりの変態さに戦慄し、琥珀から引き離そうと努力してる。
美由紀の影響で少女漫画を良く読むようになってる。

○アリサ・バニングス
ツンデレ乙な人。大輝のお蔭で精神的に強くなってる。
1年生時の大輝はアリサにとっても恐怖だった。

○月村すずか
おしとやかなお嬢様、・・だったが大輝の影響で”スゴ味”を持つ。そのため琥珀にヤーさんだと思われてる。
2年生時に大輝の変態身体能力を見てから、なのはとアリサを守るために自分の血も乗り越えた。
だが、カリンが大妖怪と知ってからはカリンにビビリ気味。

○高町士郎
なのはの父。世紀末都市、UMINARIの親父の1人。なのはにべた甘。
もう2度と寂しい思いをさせないようにあの手この手でなのはに構う。
娘と仲の良い男の子、ユーノに対してどう接すればいいか迷い気味。

○高町桃子
なのはの母。なのはを大きくしたらこうなります、見たいな見た目な人。娘にべた甘。
ユーノに対して将来の息子かも知れないと、優しく接している。

○高町恭也
なのはの兄。世紀末都市、UMINARIに居る兄貴の1人。なのはにべた甘。
美由紀の少女漫画を読むなのはを、止めるべきかどうか悩んでいる。

○高町美由希
なのはの姉。なのはに寂しい思いをさせていた事を後悔している。
なのはと会話が出来るように少女漫画を読み始めた人。あきらかに道を誤った。

○月村忍
すずかの姉。変態である大輝がすずかに手を出さないように警戒。
カリンについてすずかに聞いてからは警戒してる。気苦労の絶えない人。恭也と付き合っている。
なのはと美由紀に自分の漫画を貸したりしてる。

○ユーノ・スクライア
スクライア一族の少年。
琥珀たちと出会った当初はまじめ一辺倒な少年だったが、最近は大輝に影響されて遊ぶ事も覚えた。良い影響なのかどうかは不明。

○フェイト・テスタロッサ
金髪、赤目の美少女。
プレシアを殺され、世界にはどうしようも無い悪党が居る事を知った。自分のような人をこれ以上増やさない事を決意する。
自分を認めてくれるなのはたちが大好き。

○アルフ
不遇のワンコ。フェイトの犬。
初登場から琥珀にボコられ、次は人形遣いにボコられる。
べ、別に作者はアルフのこと嫌ってなんて無いんだからね!ただ設定上ボコられちゃっただけなんだからね!

○プレシア・テスタロッサ
フェイトの母。普通にめっちゃ強い人。次元跳躍攻撃という反則が使える凄い魔導師だった。
しかし、人形遣いによって心の弱点を突かれて敗北。

○クロノ・ハラオウン
魔法少女リリカルなのはってタイトルじゃなかったら普通に主役やってそうな男の子。
ティファニーが生きていたらエイミィと3人で、マクロスFっぽいことやってくれたかも知れない。俺の翼だ!てきな事言って次元世界を逃走、みたいな。
人形遣いの被害者たちに沢山会っていて、人形遣いに対して深い憎悪を抱いてる。

○エイミィ・リミエッタ
クロノの姉的存在の1人。
ティファニーと仲が良かった。あんまり喋らないティファニーと何故か気があっていた。頭のアンテナで受信したのかも。

○リンディ・ハラオウン
クロノの母。クロノと同じく人形遣い絶対殺す、の人。
ティファニーを娘のように可愛がっていた。あんまり構いすぎてちょっとウザがられていた。

○八神はやて
車椅子の少女。人形遣いに襲われるも、リーゼ姉妹によって助けられる。だが、家が無茶苦茶にされた。
謎の男に襲われ、気がつけばいきなり世界の危機。はやて本当に大変。

○ギル・グレアム
ダンディなじい様。
闇の書を封印することを一生懸命考えていたが、人形遣いが次元世界で暴れまわってそれどころではなかった人。みんなで作戦を練り直すべくはやてを保護。
クロノたちと同じく人形遣い絶対殺す、と思っているが、表面上は出さない。

○リーゼロッテ+リーゼアリア
ニャン子姉妹でグレアムの使い魔。かなり強い。人形遣い絶対殺すと思ってる。というか、管理世界の出身者はみんな思ってる。
何時の間にかカリンと仲良くなってる。

○アースラ武装隊の方々
実は人形遣いの被害者で構成されていた、対人形遣いのチーム。
死亡フラグを良く立てる気の良い連中。

○傀儡兵
漢字変換で出てこない厄介な名前の連中。
The Aランク相当だったがあっさり全滅。



[34220] 1.prologue
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/07/15 21:02
 皆さんこんにちは。『私』は岸野琥珀と言う、今年で9歳の小学三年生だ。
父は日本人、母はアメリカ人のハーフということになる。

容姿は、DTBの私と名前が同じ色の人、それでわからなかったらコードギアスのCが付く人見たいな感じだ。
エメラルドグリーンのロングヘアーに金色の瞳、雪みたいに白い肌、現実ではありえない見た目で、ロリロリハンターズに見つかれば連れ去られてしまいそうである。


道端に落ちていた、丸いガラス板のようなものに触れたら、何時の間にか謎の空間に居て、謎の存在――とはいっても神様的な奴ではなくデバイスだそうだ――に転生させられたテンプレ的やつである。
しかも、TS。
23歳、入社二年目で社会人としてやっと仕事に慣れてきた時にこの様である。
TSさせる意味がわからん。あのボインの無表情ねえちゃんめ。童貞を貫いてキングになれということか。


まあ、そんな訳で赤子からやり直しを強制的にくらい、現在リリカルマジカルな世界で主人公と同じ学年、同じクラスに居るというわけである。
ただでさえ子供時代のやり直しとか、男から幼女になって苦労させられているのに主人公と同じクラスとかやめて欲しいものである。人の事は強く言えないが、見た目小学生であの精神の成熟具合が苦手だ。
そのうえ私と同じ境遇で、去年から苦労させられている、”アイツ”も同じクラスだ。
何であんな馬鹿に関わったんだか。


「まだ同じクラスだね!」


廊下から明るい主人公たちの声が聞こえてくる。教室の中も子供たちはハイテンションではしゃいでいる。
そんな中ボッチの私は窓際の自分の席で肘をつく。自分の場違い感が半端じゃない。

「・・・はぁ・・・」










 歩くたびに結ったツインテールが上下に動く少女、高町なのはは楽しくて仕方がなかった。一緒に廊下を歩いている2人の友人、アリサ・バニングスと月村すずかと再び同じクラスになれたからだ。

「また同じクラスだね!」
「そうね、まあ違うクラスになるなんてありえないわ!」
「ふふっ」

明るいなのはの声に自身もうれしくなったアリサが答える。頬が少し赤くなっていてとても愛嬌がある。すずかもそんな2人を見て微笑む。
3人は1年生の時、喧嘩してからの――もう1人割って入った男子が居たが、彼女たちは好いてはいない――友人で、毎日一緒に登校するほどだ。

先ほどクラス分けの内訳をしり、自分たちの教室の前まできたというわけである。

「やあ、おはよう。みんな」

そんな彼女たちの後ろに何時の間にかにいた銀髪に赤い目の少年、上谷大輝が声をかける。
その少年は、岸野琥珀と同じように異常に整った顔をしており、にこやかに微笑んでいる様はとても絵になっていた。
だが、その笑顔を受けた少女たちは、嫌そうに顔をゆがめる。さっきまでの楽しくて仕方ないといった様子からするとすごい落差だ。

「・・お、おはよう」
「・・・おはよう」

なのはとすずかは引き攣ったように挨拶を返す。アリサにいたっては無視である。

「うん、それじゃね」

そんな3人に気にした様子もなく少年は短く挨拶をして、教室に入っていく。
残された3人はショックを受けたように動けずにいた。

「うう~、同じクラスだなんて」
「なんであいつまで一緒なのよ、もう!」
「?・・」

嫌そうに言う2人とは違いすずかは不思議そうに首をひねっている。

「?、すずかちゃん、どうしたの?」
「すずか?」

すずかの様子に気づいた2人は問いかける。

「上谷君、1年生の時と違ってしつこくなかったし、なんか変わってたから不思議で」

すずかの疑問に2人も気付き、1年生の時を思い出す。
上谷と3人は1年生の時からの知り合いで、始めてあった時からしつこく絡んできた上に、笑い方の種類が先ほどとは違った。
以前はまるで人形のように笑っていても感情が篭っていない無機質な笑い方をしていた。
先ほどの微笑みはとてもさわやかで人間らしかったとすずかは感じていた。

「そうかしら?」
「う~ん、なんなのかな?」









「はい、皆さん自己紹介をしましょうね。出席番号順に廊下側の人からお願いしますね」
 
HRが始まり、クラスメイトたちはそれぞれ自己紹介をしていく。
流石は小学生。落ち着きなく騒ぎながらも自己紹介は進んでいく。
お調子者らしき男子の小学生特有の下ネタで喜び、女子は女子で大人ぶってそんな男子を注意して喧嘩になりそうになる。
まとめ役の先生は非常に大変そうである。
この中に居ると家に帰って飼い猫に慰めてもらいたくなってくる。不思議っ!


そんな中でも落ち着いている高町たちは、HR前に廊下で何事かを話していてなかなか教室に入ってこなかったが、今はおとなしく席についている。

教室に入ってくる時に私のほうを見て何か言っていたが、おそらくは私の前の席に座っているカヲル君カラーのせいだろう。
なにやらこの馬鹿は高町たちの嫌そうな様子にショックを受けていたようだったが、それは自業自得。仕方がないことなのでそっとしておいた。

「はい、次、上谷君。お名前と好きな事、将来の夢を教えてね」

考え事をしている間に馬鹿の番か。何を言うんだか。







「ふっ・・・俺の名前は上谷大輝だ。好きな事はたくさんありすぎるのでいいきれないぜ。将来の夢は、この顔を活かした仕事に就きたい!俺に惚れた人はぜひこの鞭でっっ!!!!・・・っイバッタ!!!」

奇妙な自己紹介と共に、自分のカバンから何かを取り出そうとした上谷大輝は、教室に響く轟音と共に、壁に頭から激突する。
ちなみに上谷の席は窓際の最前列の席であるため被害は上谷だけだ。
あれだけ騒いでいた子供たちは、今では水を打ったような静けさだ。

「阿呆が、まともに自己紹介もできんのか」

この惨状を起こした本人はその可憐な容姿と違い、厳しい声でぐったりとした上谷に言う。

「き、きしのさん?」
「何かありましたか?先生」

教師は引き攣ったまま話しかけるが、琥珀はまるで悪びれた様子もなくむしろ堂々としていた。
綺羅々々と輝いてさえ見えるそのさまは、騙したことがばれて開き直ったジョルノ・ジョバーナの様にさわやかだった。康一君がいたら”爽やかな奴”だったと承太郎に報告するだろう。

「だ、大丈夫!!上谷君!!生きてる!?」

教師はそんな琥珀の様子に何も言えず、今だ壁際に転がっている上谷に駆け寄る。

「はあ、はあ、大丈夫です。むしろ俺はこうなることを望んでいました・・・・。腕を上げたな・・・琥珀・・・・」
 
上谷はあれだけ激しく壁にぶつかったにもかかわらず、無傷だった。
そしてなぜか、光悦の表情を浮かべ息を荒げていた。その手には鞭が握られていた。


「なんなのよーーー!!!!」
女教師28歳独身の叫びが校舎に響いた。





「はあ・・・・この腐れ変態が」
そうつぶやく琥珀の表情は、ゴキブリを見ているかのようだったと少年少女たちは思った。




[34220] 2.prologue2
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/07/15 21:12
 会社からの帰り道――といっても独身寮で暮らしているめ、ほんのわずかな距離だが――歩道の真ん中に光るものを見つけた。
それはガラスのようで、とても透き通っている。円形の板状で、縁には謎の模様が描かれていた。
『俺』は昔から不思議なものを見かけるとつい触って確認して、珍しそうなものを収集する悪癖があった。もし『私』があのときの行動を近くで見ていたなら、ぶん殴って止めていただろう。

「うおっ、まぶしっ!!」

そのガラスのようなものを「俺」が拾い上げたとたん、その物体は眩い光を放った。まさか”うおっ、まぶしっ!”なんて言うことがあるなんて思いもしなかった。

次に目を開けたときは灰色の世界だった。建物が、太陽が、空が全て灰色になっていた。

「な、なんだ・・?」
「結界を張りました。今この中にいるのは、あなたと私だけです。最後の候補者さん」

突然聞こえた声に後ろを振り返ると銀髪、赤い目で着ている服は紺の着物美人がいた。”戦場のヴァルキュリア”のボインさんが、現実にいたらこんな感じだと思う。2・5次元。同じ人間と思えないほどの美貌だった。
だが、その表情は全くの無表情で、俺は逆にその美貌が恐ろしいと感じた。
嫌いなホラー映画を見ているような、そんな気分だった。

「ど、どちらさまで・・?」
「私はアーク・リーナス様に製作された、転生用デバイス、イザナミです。あなたにはリリカルなのはの世界に転生していただきます」

何を言ってるのかさっぱりわからなかった。これを友人が言っていたのなら救急車を呼ぶが、この女に対する恐怖と、目の前に広がる灰色の空間のせいで俺は何も言えなかった。
異常すぎて頭がおかしくなる状況である。

「私の製作者、アーク様はリリカルなのはの世界、アルハザードに原因不明の転生をしました。そしてアルハザードが魔法機械の暴走で滅びる際、私を製作しました。私に与えられた役目は、以前アーク様が生活していた世界より10人転生させる事です。アーク様の遺言に従い、見繕った方たちを私の内臓魔力により転生させています。そしてあなたで最後、10人目です。ご理解いただけましたか?」

な、なにを言ってるのかわからねーと思うが、俺にもわからねー、頭がどうにかなりそうだぜ。
とにかく、この女に捕まったら転生させられるらしい。
手に持っていたあのガラスっぽいのが何時の間にか無くなっていた。ホラーだ。
この女の声も、まだゆっくりとかボーカロイドの方が感情が篭ってるんじゃないかってほどの無機質。
正直ちびりそうになってくる。

「その、あ、アークさんは何で転生させると?」

とにかく時間を稼ぎ、この不思議空間から脱出する手がかりを見つけねば。仮面ライダーのように改造されてしまう。というか、怖いので家に帰りたい。

「アーク様は様々な人間を自分と同じ目にあわせてやる、という嫌がらせと、原作の時代を見れなかった無念から、とおっしゃっていました」

なんじゃそりゃ!まるで意味がわからんぞ。

「うおっ、なんだこれ!」

銀色のワッカに体を縛られ身動きが取れない。ってこっち来んな!
っくまるで解けん!
なんてこった、俺の冒険はここで終わってしまうのか。

「心配しなくても大丈夫です。転生特典はあなたの願望から自動的に選ばれます。あなたの願望に一番近いあなたの知っている人物、キャラクターを参考に転生させます」


「では、よき人生を」


銀髪さんの腕がズブリと俺の胸に刺さり、あまりの激痛により俺は気絶?した。









「そして気がつけば赤ん坊と」

 私はあの阿呆な自己紹介をした馬鹿を踏みつけながらつぶやいた。
あの後、担任の叫び声のせいで、ほかの教師が駆けつけ説教を受けてしまった。
親呼び出しじゃないだけましとだは思うが、こいつのせいで散々な1日だったのでその怒りを元凶にぶつけているのだ。
第一、学校に鞭なんて持ってくんな。

「お、おお落ち着いて話し合おう琥珀!うけると思ったんだよっ!!あ、ま、待って!その傘を、どこに突き立てる気だ?まさか、その傘は無くした☆AIBO☆の代わりなのか!?」
「しね」


 ”ズブリッ” ”アッー!!!”


イラっとしてつい刺してしまった。この傘はもう使えんな。

「さすがにひどいよ、琥珀。いくら俺がMでもきついよ」
「なんで、もう平気なんだか、変態が。・・・その傘はやるよ。ビニールだし」
「いらないよ!」

この変態は上谷大輝。2年の時に絡んできて、うざかったので絞めてからの付き合いである。
当時のこいつはうざオリ主そのものだった。
色といい、表情の無機質さといい、あのボインを思い出してイラッと来てしまったのが始まりだ。

「とにかく立て。帰るぞ大輝」
「自分でぼこぼこにしといてよく言うよ。ほんと」

その時の私の無双ぶりのせいでちびっ子たちは私に寄り付かなくなり(もともと容姿のせいで仲のいい子はいない)、こいつしか、つるむ相手がいなくなってしまったのである。

「しかし、いいのか。たかまつたちと一緒に帰らなくて」
「高町ね、高町。・・・いいんだよ、別に。魔法の自主練はやってるし、それにもう現実だってしっかり意識してるし」
「そうか」

変わったもんだ。今では自然な表情になった。
中二が治まってからは親御さんとの仲も良くなったと聞くし、まあいいか。


「琥珀は原作介入?するの?もし、するなら手伝うけど」
「原作とやらは知らん。あのボインに聞いてるとは思うが、私とお前以外にあと8人いる。そいつらが地球を滅ぼそうとするなら、どんな手を使ってでも倒す」
「確かにどうなるかわからないもんね。しかし、どんな人たちなんだろうね?あと8人もいるなんて想像もつかないや」
「そうだな、能力次第ではすさまじい脅威になるしな」

私たち転生者はあの女から能力を刻まれている。それだけではなく、プロジェクトF(だったか?)のような記憶の書き込みにより、魔法の知識も与えられている。
そのため、本人の努力しだいでデバイスが無くても魔法が使える。

「君の能力ほどではないと思うけどね」
「対価もあるがな。しかし、デスノートみたいな能力をもってるやつがいたら一瞬で私たちはアウトだ。慎重にならないといけない。ただでさえ、目立つ見た目なんだから」
「確かに。俺の能力なんて他人の魔力を自分で使えるだけだしね」

そう、こいつの能力は他人の魔力を使うもの。接触した相手の魔力を自分のものにしたり、意識が入ってない空気中の魔力を使える。
たとえば直進のシューターを私が適当に放てば、それを操ることができる。ただし、他人が使う誘導弾は完全には操ることはできない。
あと、他人の魔力を集めてでスターライトブレイカーとか、集めた魔力で自分をパワーアップさせたりできる。


「繋がりが俺の願望だったらしいからね。まあ、頑張ろう琥珀。そうだ、気合を入れるために、これから俺たちは地球防衛軍と名乗ろう!」
「1人で名乗れよ・・・、恥ずかしい」

夕暮れの春風が心地いい。
なんだか、こいつはほんとに全部守って見せそうで頼もしい限りだ。馬鹿で、お調子者で、Mだけど。



ちなみに大輝の願望は確かな絆が欲しい。とか言うのだそうだ。
私の能力の元になった願望は”楽しい時間が永遠に続きますように”だ。
それで時間を操る能力を持ってる。対価とかあって完全ではないけど。

ほんとに恐ろしいことが起こらず楽しい時間が続けばいいと思う。

危険な冒険も、銀髪ボインのねえちゃんも必要ないのだ。




[34220] 3.閑話 上谷大輝の始まり
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/05 16:02
黒歴史。
それは全ての人が持つ、忌まわしい記憶のことである。月光蝶である。
人によってその重要度、長さは異なるが、上谷大輝にとって岸野琥珀に出会うまでの第二の人生は、まさに黒歴史そのものだった。
 
学校からの帰り道、夕日に照らされながら隣を歩く同胞、岸野琥珀を横目で見ながら、上谷大輝は思い出す。








その日の上谷は何時も通り、最悪の気分で自らを写す鏡を見た。
転生前の自らと比べ、祖母に似て異常なほど整った顔をしている。
しかし銀髪赤目という配色から、自らを殺した着物の女の顔がちらつくのだ。
現実感の無いほど整った顔が、それをさらに助長する。

「・・・・」

大輝は不機嫌な顔をしたまま朝の支度を終え、食卓に着く。

「・・大輝、今日は始業式だけど、・・・」
「そうだね」

何時も通りに、自分に恐る恐る話しかけてくる母に対し、適当に返事をしながら朝ごはんを食べる。

「あ、あのね、今日は途中まで、一緒に学校に」

自分に対して恐怖を抱いてる母に苛立ちを感じながらも急いで朝食を片付け、父と会わないように家を出た。

大輝は以前、その魔力を親の前で使ってしまったことある。
その時は自身の身を守るためでもあったし、使わなければ死んでいたのだ。だが、それからの親子関係は亀裂が入ってしまった。
大輝自身、自分があの夫婦から大切な子供を奪って存在している事に負い目を感じている。それがさらに大輝を苛立たせた。
 

苛立ちを振り切るように思い切り道を走る。
学校に着いたらオリ主になろう。何時も通りの思考で、家でのことを振り切る。

大輝は未だにこの世界に現実感を持てずにいた。
生まれた時から持っていた、異常な力に、魔法の知識に。
自分が生前読んでいた二次小説にいるような錯覚を起こしていた。親との不仲もそれを助長していた。
これは夢、もしくは自分を転生させた化け物が見せている幻術で、役割を演じていればやがて覚める、元に戻るのだと思い込みたかった。



学校にて、始業式が終わり新しいクラスとなった。高町なのはたちとは、別のクラスだった。
大輝は何時も通り高町なのはたち3人組に声をかけたが、案の定避けられた。しかし、大輝にとってそんなことはどうでも良かった。

『俺はオリ主だから、そうならないといけない。役者に感情はいらない。そうすれば、いつか元に戻れる』

大輝はまるで人形のように感情の無い表情を浮かべながら教室へと向かった。

大輝の新しい教室では、騒がしかったがどこか不自然な様子で、誰かを遠巻きに観察しているかのようだった。
気になった大輝が近づいて確認しようとすると、近づかれた生徒たちは大輝に気づいて離れる。
生徒の壁が壊れ、その中心人物が大輝の瞳に映った。

その人物は不機嫌そうに肘を突いて、手にあごを乗せて窓から空を見ていた。
鮮やかなエメラルドグリーンの髪に、金色の瞳を持った、美少女だった。
何故か大輝はその少女から目が離せなかった。
その少女のことを噂では聞いていたが、実際に目にしたのは初めてのことだった。

「なにしてるんですか?皆さん席についてください」

つばを飲むことすら忘れてその少女を見つめていた大輝だったが、担任が教室に現れてやっと我に返り、自分の席についた。

HRはどうやら簡単な連絡とプリントの配布で終了したらしい。
生徒の自己紹介等は次回のHRで行い、今日は早く帰らせるらしい。
大輝は少女のことが頭から離れられず、何時の間にかHRは終了していた。
らしくない、と頭を振りまたオリ主らしくしようと考え、少女を探す。オリ主であればあの少女も自らのものにする。そんな考えだった。
少女はすでに教室におらず、窓から外をのぞけばエメラルドグリーンが目に映った。

大輝は帰り支度を急いで済ませると、少女の後を追った。
少女のことを考えるとなぜか胸が熱くなる。だが、『役』には必要ないものだとその考えを無視した。






「ねえ、君。名前はなんて言うの?俺は上谷大輝。君は?」

何なんだこいつ?
何時の時代のナンパだよ。
父が気をつけろと言っていた(2121)ハンターズか?

私、岸野琥珀は小学校からの帰り道、エヴァン○リオンのカヲル君みたいなカラーディング奴に絡まれていた。
人のこと言えた見た目じゃないが、なんという中二。
こんな人通りの多い道で長く一緒に居たくない。注目の的だ。

こいつは確か主人公たちに猛アタックをかけていた奴だ。確実に転生者だろう。
というか、こいつを見ているとあの無表情ボインを思い出す。
表情はあるはずなのになんと言ったらいいか、そう、人形だ。あのボインと同じだ。
なんとなく感じる気配、引き付けられるような不思議な感じもあのボインに似てる。
一目見てわかった。こいつは気に入らない。

とりあえず私はメンチビームで威嚇する事にした。
学校で”さよオナラッ、ブー!”攻撃してきた男子にしたメンチビームより強めで。

「何なんだ、お前」

「い、いや、俺は、・・・」
 
冷たい表情に低い声で問いかけると思いっきりひるんだ。――なんだ、少しは人間らしくも出来るのかと、安心する――ついでにもうすぐ行くと曲がり角、チャンスである。

「あっ!」
「え?」

私は奴の後ろに目を向けながら驚いた声を上げた。案の定奴は後ろを振り返る。
その隙に私は猛ダッシュし、曲がり角で能力を発動する。”加速”する。
世界陸上に出場できるレベルの速度で一気に走りぬけた。
奴はすぐに私を見失った事だろう。

第一、さっさと帰ってお母さんのプリンが食べたいのだ。
お母さんのプリンはちょっとサイズが間違っているが、母と2人で食べるのが好きなのだ。
甘いもので何時もよりニコニコとしてくれる。たまに、お父さんも参加してくれる。とても幸せな時間なのだ、邪魔をされたくない。




あの時私は、1回突き放せば2度と関わってこないだろうと思っていた。
そんな考えは最中のように甘かったと後悔するはめになった。

奴に目をつけられたその日からは、まさにメンドサの極みだった。
一応、私のほうもあの上谷とか言う奴が、私が転生者と気付いて接触してきているのかとか、危険人物かどうか?とか注意して適度に見張ろうと考えていた。
だが、そんなもの奴のウザったさの前に吹っ飛んでしまった。

奴は私を見かけると、必ず声をかけてくるようになってしまった。
主人公たちがやられていた奴である。
実際にやられると何というウザさだろうか。話かけるのはまだ我慢出来るのだが、こいつの顔が気に入らん。いや、表情か。
そりゃ主人公たちが避けるわけである。ていうか誰でも避ける。私も避けたい。
作ったような笑顔は人形を見ているようで非常に気持ち悪い。
第一、私を見ているようで見てないのだ。
こいつの言葉だって全く本気じゃない。心此処にあらずだ。
こんな失礼な奴を気に入るわけが無い。

最初の邂逅から2週間が経ち、昼休みの時間についに私は我慢の限界を超えた。





何時も通り琥珀に話しかけ何時も通りに冷たくされる。
大輝にとって琥珀の反応はどうでも良いはずだった。
自分はオリ主なのだから勝手に仲良くなるのだろうと思っていた。

「なにしてるの?」

「ごはん一緒に食べない?」

「ねえ、今日一緒に遊ぼう。カラオケとかしない?」

なのはたちに話しかけている時と同じ事を琥珀にしていた。むしろなのはたちの時よりもしつこく話しかけていた。
何故かは、大輝にもよくわからない。
始めて琥珀を見た時など、転生原因となったイザナギに出会った時のような不自然な感じがしたが、不快ではなかった。
琥珀を見ていると、大輝の中の何かが刺激される。
それを確かめたい、それが解れば帰ることが出来るのではないか? そんな打算もあった。


「おい」

琥珀から発せられた凄まじい怒りの篭った声に、大輝の体が震える。
親との関係が気まずくなった事件以来、感情を隠していた仮面が恐怖で取れた。
主人公たちに罵声を浴びせられても取れなかったというのに。

「何時までもペラペラ煩いんだよ、人形みたいなツラしやがって」

その言葉ともに視界から急に琥珀の姿が消えた。
大輝の頬に痛みが走る。
琥珀が消えたのではなく、自分が仰向けに倒れているのだと頬の痛みでやっと気付けた。

何時殴られたのか、見ることすら大輝には叶わなかった。
しりもちを付いたまま自身を殴った相手を見上げる。

だが見上げたと思った時はすでに胸倉を掴まれていた。至近距離で金色の瞳が大輝を射抜く。
また、何時行動していたのか大輝にはまったく知覚できずにいた。

「お前が、何を考えてるか私の知ったことじゃないが、その作ったような表情とその目をやめろ。不愉快だ。気持ち悪い」
「・・・え?」
「人形劇がしたいなら部屋に篭ってリカちゃん人形とでも遊べ」

乱暴に突き放され再び、大輝はしりもちを付いた。
2人の様子に気付いた周りの生徒たちが騒ぎ出す。
大輝は呆然としたまま去っていく琥珀を見ていることしか出来なかった。


結局大輝は放課後まで琥珀に話しかけることが出来ず、オロオロとしていただけだった。
HRが終わった途端にイライラとした様子で帰った琥珀を追いかけるため全力疾走した。
昼のことについて話しかけなければならない。
奇しくも初めて琥珀に話しかけた場所で、再び琥珀に話しかける。
殴られたことに怒りを覚えているのか、それとも嫌われたくなかったのか、大輝は自分の感情が理解できず情緒不安定になっていた。
ただ、琥珀の話を聞けば何かがわかるような気がした。

「ね、ねえ人形劇って何?俺の何がいけなかったの?」
「・・・・そのツラだ、目だ」
「顔?のせい?」
「つくりの事だけを言ってるんじゃない」
「え?・・・それって、どういうこと?」

そこから先を聞いてはいけないと、大輝の心は警鐘を鳴らす。
それを聞けば、自分は苦しむと。

「・・・お前は”ここ”を現実って認識してない」
「な、何を言ってるの・・?」

本当に何を言っているのか、大輝は理解を拒んだ。
だが、大輝の表情は今まで琥珀に見せていた表情の中で、一番驚愕で歪んでいた。

その表情を見た琥珀は、我が意を得たりと、大輝を見下すように笑う。

「誰もが自分と違うって思ってるからだよ。だから、そんな面をしている。弱虫が。そうやってれば構ってもらえるとでも思っているのか?」

琥珀に言われたことを理解すると大輝はかつて無いほどの怒りを覚えた。
衝動のまま琥珀を押し倒し、胸倉をつかんだ。
大輝自身なぜここまで怒りを覚えたのかわからず、また、こんな風に琥珀を押し倒している自分が情けないと思った。
結局は自業自得だと大輝自身わかっているはずなのに、八つ当たりせずにはいられらなかった。

「君になにがわかる!こんな訳のわからない状態になって!誰も俺を知らなくて!怖がって!それでどうしろってんだ!!」
「私がお前の事情なんて知るか」

何時の間にか大輝と琥珀の位置が逆転してた。2人の位置が何時の間にか入れ替わっていたのだ。大輝の背中に鈍い痛みが走り、ようやく位置が逆転したことに気付く。

「な、なにが・・」
「私もお前と同じさ。気が付けば赤ん坊で、女子」
「!なっ、き、君も!」

目の前で囁かれた言葉に大輝は目を見開いた。
自分だけだと思っていた大輝は、言葉につまり琥珀を見詰めることしか出来ない。

「どう足掻こうが、私たちは”かつて”に戻れない。認めろ」
「そ、それは・・」

認められるわけが無い。
何時かは戻れる。それだけが心の拠り所だった大輝にとって、それは一番聞きたくない事だった。

「それに、私たちは周りの人たちにとって本物なんだよ。私は『岸野琥珀』で、お前は『上谷大輝』だ。お前が認める、認めないは関係ない」
「!」

その言葉は大輝にとって完全な盲点だった。また、自らの心を守るために目を背けていたことだった。
この世界の両親が大輝に恐怖しながらも構って来る理由、受け入れようとする理由、それは『上谷大輝』が彼らの子供だからだ。

琥珀の言葉一つ一つで、大輝は自分を守っていた鎧が剥がされていくようなような気分だった。


「そんなこと、・・しるかよ、認められるか」
「・・・少しくらいなら、手伝ってやる。受け入れていけ」
「むりだよ、今更・・・どうしろってんだ」
「・・・・・・」

「はぁ、・・ショック療法が一番だな。まあ、今までのストレス解消にもなるしな」
「えっ?」

そう言って笑う琥珀は、大輝にとって未だ嘗て見たことがないほど邪悪な笑みを浮かべていた。








なんか隣の馬鹿が、しかめ面したと思ったらころころ表情を変え、最後には震えだした。顔が赤いし。
訳がわからん。

「おい」
「っ、」
「どうしたんだ?風邪か?」
「ナ、ナンデモナイヨ」

なぜ片言なんだ?
相変わらず意味のわからん奴だ。





「ねえ、」
「ん?」
「これからも、よろしく琥珀」

風で琥珀の髪が巻き上がる。夕日に照らされた髪はキラキラと輝き、少女が幻想的な生き物のように大輝には見えた。

彼女に出会ってなければ自分はどうなって言ったのだろうか?
今では鏡に映った自分を見ても、イラつくことは無くなった。――認められるゆとりを少女にもらった。
親ともぎこちないながらも、以前のように戻りつつある。――歩み寄る勇気を少女にもらった。
何かを演じる必要はなくなった。――素直に気持ちを表す喜びを少女にもらった。
新しい世界の代償に、新しい性癖まで出来てしまったが、
大輝にとって、自らを救ってくれた”同胞”の少女は何よりも大切になっていた。
決してこれから起こる”物語”の渦になど傷つけさせはしないと大輝は誓う。

「なんでいきなり、よろしくなのかわからんが、まあ、よろしくな」



あとがき
転生者は精神状態がみんなよろしくありません。大抵どこか異常があります。
お医者さんの診断を受けましょう的なレベルの人もいます。

ついでに作者も加筆修正なんかしていると、ペルソナ4の自分のシャドウと出会っているような気持ちになります。
これが黒歴史か・・・。
いや、書いてる時はノリノリだったんすよ。



感想返し

ハゲネ様
感想ありがとうございます。
楽しく続けられるように頑張ります。

はい。Darker Than Black=DTBです。
とても面白いのでみんな見てね!と宣伝してみる。



[34220] 4.マジカルの始まり
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/07/16 22:07
「にゃあ」

もぞもぞと不機嫌そうにベットから顔を出す少女に、少女の隣で寝ていた黒猫が抗議の鳴き声をあげる。
カーテンから漏れた光から、今日が晴天である事がうかがえる。主婦たちはさぞご機嫌がよろしいだろうと琥珀は寝ぼけ頭で考えた。
だが岸野琥珀にとっては、その日の朝はまさに最悪といってもよい朝だった。
ある少年が化け物と戦い傷つく夢。日常の終りを告げる、警報であった。

もしも、琥珀と同じ境遇の者が大輝だけだとしたら、琥珀にとってその夢はどうでもいいものだっただろう。
しかし転生者は琥珀を含め、強力な力を持っている上、どのような考え方をしているのか琥珀はまったく把握できていないのだ。
そんな連中が後8人もいる。
それは琥珀にとって恐怖であった。

琥珀には、すでに大切な人たちが大勢出来ている。
やさしい両親、アメリカにいる祖父母、ペット――ふさふさの長い毛の猫、種類は知らず、毛は黒で瞳は青色。尻尾が分かれているように見えたことがある―― のカリン。そして、友人の大輝。
琥珀にとって全員欠けてはならない人たちだ。

「・・・はぁ」

これから起こるかもしれない”最悪”を思って、深いため息をついた。





聖祥大附属小学校の昼休み。
高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずかの三人は何時ものように屋上にて、弁当を広げていた。

「本当に上谷君、変わってたね。驚いちゃった」
「そうね。あの琥珀って子のおかげかしらね。一年生の時みたいにならないでよかったわ」
「にゃははは、・・大変だったもんね。でも、上谷君と一緒にいる琥珀ちゃん、なんとか仲良くなれないかなぁ?」

三人にとって、上谷大輝の変化は好ましいものだった。
大輝は以前と違い三人に対して、しつこく話しかけたりせず、あいさつや軽く会話するだけにとどまっていた。
また、他の生徒に対しても礼儀正しく、困っている人に積極的に助ける姿はクラスメイトたちに好印象を与えていた。
そんな大輝と一緒にいる少女に視線が行くのは自然なことだった。

「そういえば、岸野さんってテスト百点しか取ったことしかないらしいよ」
「む!」
「え!ほ、ほんとなのすずかちゃん」
「うん。それでね、運動神経も抜群で上谷君を一瞬でのせるほどらしいよ」
「にゃ!そ、それは、どうなのかな?う、運動神経?」
「な、なるほど、頭がよくて凶暴なのね。そ、そういえば自己紹介でぶっ飛ばしてたわね」

三人は琥珀に対して間違った?認識を覚えた。

「でも、琥珀ちゃんって、上谷君としかお話してるの見た事ないの」
「う~ん、確かに上谷君以外は避けてるみたいな感じだもんね」
「お話してみたいなぁ」
「あんたも避けられてたもんね~。難しいんじゃない?大抵上谷を盾にするし」
「む~」
「なんだか、まだ上谷君とはお互いに気まずくなっちゃうもんね」
「ま、諦めなきゃそのうち仲良くなれるでしょ。手始めに今度のテストで私が負かして、認めさせてやるわ」
「それは違う気がするよ、アリサちゃん・・」
「にゃはは」

三人の話題は琥珀に対してのものからHRであった将来お話に移っていく。
すずかとアリサの将来の夢を聞いて、なのはは自身のことを考える。
だが、これといったものが浮かばず、自虐的な言葉をこぼしてしまい、アリサに頬を引っ張られてしまった。






「ごろごろ・・・」

私はカリンを太ももに乗せながら、カリンの顎を掻く、ごろごろと鳴く様子はとても可愛らしく何時までも触っていたい気分になる。しかし、あまりやりすぎても不機嫌になってしまうので、そろそろ自粛する。

主人公たちはきちんとあのイタチ少年ユーノック?ユーリック?だったかを発見し、動物病院へと連れて行ったようだ。
隠蔽魔法をかけたサーチャーを十分離した上で大輝と監視していたが、怪しい奴は現れなかった。今晩は戦闘班大輝、監視・転移班私でそれらしい奴が現れたときに対処するつもりだ。

転生者というのは、私や大輝を含め常識外の力を手にしているはずだ。相手を出来るのもやはり、同じ異常者だけのはず。

「こはく~ごはんよ~」
「は~い」

今日のご飯はなにかな?
やはり、半日も見てるとどうもめんどくさい。
今もマルチタスクで思考を割いてるが、気合を入れなおさねば。
このマルチタスクも、とても面倒くさいのだ。というか、当たり前に使っているが、思考分割ってもう人間じゃなくね?
これが出来るようになった時は天下とった気分だったね。


「クロエ、今日も美味いな。最初のころが嘘のようだぞ」
「ふふ、そうでしょそうでしょ、もっと褒めていいのよ」
「うん、おいしいよ。お母さん。原因不明の爆発を起こしてたなんて思えないよ」
「こ、こはく、もっと素直に褒めて~」
「ははは(琥珀も人のこと言えんぞ)」

この”ははは”と笑ってる北斗神拳伝承者っぽいマッチョメンは私の父、岸野翡翠。私に手を出す奴は抹殺すると公言する危険人物で、口数は多くないが、よく母といちゃついている。
ちなみに格闘の仕方は父に習った。ただ冗談だとは思うが暗殺拳とか言ってたので、ちょっと不安である。マジで北斗神拳とか言い出したりしないかが。
職業は警察官。犯罪者にならないかある意味不安である。モヒカン暴走族を殺したりして。

そして、この私をそんまんま大きくしたような女性が私の母、岸野クロエ、旧クロエ・ウッド。私と違う点は眼つき。母は、なんていうかDTBの大人アンバーだ。
私は目元は父親似でつり目っぽい。母は垂れ目だ。
日本に留学に来ていた時に道に迷って、当時交番に勤めていた父によく世話になったらしく、好きになってからは用もないくせに交番に行って困らせていたそうだ。
銀行強盗に人質に取られた時に、颯爽と現れた父が強盗を一瞬で倒したのが決め手だったらしい。なにが起こったのか、誰にもわからなかったらしい。いったい何者なんだか。

「琥珀」
「ん?なに?おとうさん」
「上谷君とは、なんだ、仲良しか?」
「うん。大輝とは一番仲がいいよ」
「そ、そうか」[バキッ]
「あらあら、はいお箸」
「む、すまんな。つい」

また力加減を間違ったらしい。父は私が二年生になってからさらに大変な修行を重ねていて、この通り力加減が完全でなくなるほど鍛えてるらしい。
母も一緒に鍛えていて、私もやってみてるが結構きついもんである。子供メニューなのに。
父はもう30を超えている年なのにを20代に見える。というか、父は高校生の時の写真から変化がない。その時から24,5歳に見えた。ちなみに母は28だが、母の写真も10代から変化がないので、この夫婦は波紋でも体得しているのではないのだろうか。
まあ、そういうものなんだろうと納得するしかない。不思議っ!

「ご馳走様でした」
「おそまつさま」
「うむ」
「片付けは私がするね」
「うん。お願いね」
「にゃ~」
「はいはい、ちょっと待ってね」

皿洗いは私がよくやる。昔、申し訳なさが抜けなかった時からの習慣である。
ちなみに、カリンの餌も基本的に私がやっている。
カリンは父が生き物を育てることの大変さを教えるために捕獲してきた猫で、なんでも暴れていたのを倒したらしい。
猫を倒すってなんなんだか。父曰く私の護衛でもあるらしい。猫が護衛ってなんなんだろう。
カリンは大輝に対してえらい攻撃的で、会うたびに手を噛んでいる。
大輝もカリンをいつか倒すとか意味のわからんことをよく言ってるし、なんなんだか。
あと、みんなしてカリンに話しかけたりしている。特に父は似合わないにもほどがあるのでやめて欲しい。
わたしも、誰も居ないときに鳴き声を真似て話しかけてみたりするが、カリンは喋ったりしない。
しかし、ニヨニヨと可愛らしい顔をしてくるので、ついついやってしまう。
誰かに見られたら私は憤死するけど。

お風呂に入って半そで短パンの寝巻きに着替え、ベットの上に腰掛けると、カリンが太ももの上に乗ってくる。
今でもサーチャーによる監視は続けているが、変化がなくて自分の杞憂なのではないかと思えてくる。
まあ、原作とやら通りに進めばそれでよいのだが、そんなに上手くいくほど世の中出来ていないだろうということ。
何も無ければそれでいいのだ。

《お願いします。誰か、この声の聞こえている方!僕に力を貸してください!》

ユーノック?の広域念話が来た。ついに物語が始まる。気合を入れなおさねば。
しかし、こんな事毎日やるなんてめんどくさいなぁ・・・。
ジュエルシード、別の世界に飛んでかないかなぁ。

《琥珀。把握してる?》

大輝からの念話だ。
ちょっと弛んでいたため、少しドキッとした。

《大丈夫だ、問題ない》
《不安になるから、やめてそれ》
《なんで!?》
《・・・にゃ~》
「・・・ん?カリンか?」

そんなこんなでリリカルマジカルキムゼムオール。始まってしまった訳である。
高町の初魔法体験だ。
危険があった時に備え、大輝は何時でも行ける様に準備している。

『リリカルマジカルジュエルシード封印!!』

「・・・っ!」
《琥珀?》
《・・・にゃー》

まじでリリカルマジカル言ってるよ!カメラもって撮っとけば良かった。デバイスを持ってればな~。
しかし、何故リリカルなんだろう?大魔法峠も確かリリカルだったな。
いったいどういう意味なんだ?

「!」

ふざけていた思考が一気に覚めた。
何者かが高町の魔法初体験の場所にいたのだ。

《いた!大輝、動物病院の後ろ!》
《こっちも確認したよ。ただ、動く気はないみたいだよ》
《一般人かもしれないけど、顔覚えとくぞ。それと何時でもいけるように》
《了解》

高町たちが現場を去った後、結局その男は何もせずに去っていった。
しかし、サーチャーで追跡し住所は突き止めた。犯罪だけど気にしない。
気にしたら負けです。地球を守るためです。
この通り自己弁護は完璧です。

《不気味な奴だったな》
《そうだね、なんていうか、生気が無いっていうか。・・まあフェイトに味方したり、ジュエルシードを集めだすようだったら、家に奇襲をかけよう》

大輝も中々過激な奴である。
敵の自宅に奇襲をかける転生者なんて、二次創作でも中々いないんじゃね?
まあ、私も賛成だけど。楽したいし。

《そうだな。だけど、まずは情報集めからするか。別の世界から来たのか、それともこの世界の人間なの・・・》

「にゃー」
「ん、どうしたんだカリン?」
「にゃふ」
「わ、どこ舐めてるんだ,こらっ」

まだ、話している途中なのに、何てとこ舐めるんだっ。くすぐったい!

《琥珀!どうしたんだ!》
《あ、いやなんでもない、ひゃ!》
《琥珀!?》

「か、カリンくすぐったいって」

とにかくやめさせなければ。ホントに太ももはやめて欲しい。
って、転移反応?!

「琥珀!!無事か!?」
「ちょ、転移して来るなっ」
「しゃー!!」
「あいて!さっきのもお前か、この化け猫が!」
「にゃふ《くく、馬鹿な小僧よ、釣られおったわ》」

ん?
大輝の手に噛み付いたカリンが、邪悪な顔をしてる?
あれ、やっぱ普通だ。錯覚か?

「!!・・あ、・・・ああ・あの、え、あ・・」

いきなりどうしたんだ?大輝の奴。
?後ろ?

!!! お、お父さん、お母さん、い、何時の間に・・・!
鍵閉めたよな・・?・・娘のプライベートは?
あっ、ドアごとお父さんが持ってる?ドアが外れてる?
一体、どういうことだってばよ。

「上谷君・・・こんな時間に娘に何の用かな」
「・・・あ、ああ・・ああ・琥珀の、お父・・さん」

大輝がプルプル小刻みに震えてお父さんを見上げる。
お父さんから何か緑色のオーラが見える。錯覚だよな・・?

「!・・お前にお義父さんと呼ばれる謂れは無いわ!!小僧!!」
「ちょっ、字が違いますって、まっておち落ち着いて!」
「琥珀、カリンと待ってなさいね」
「お父さん、お母さん落ち着いて!これは、そのあれ、え~と」

いかん!よく解らんが、このままでは大輝が死んでしまう!
魔法のことは言えないし、何て言えばいいんだ?

「琥珀」
「はい!」
「大丈夫。上谷君と”お話”するだけだから。安心しなさい。ね?」
「え?」

お母さん、口は微笑んでるけど、目が全然笑ってないんだけど・・・。

「いや絶対大丈夫じゃないでしょ!まって、おじさん!やめて~」


お父さんとお母さんに引き摺られながら大輝は行ってしまった。
どうしよう、この状況なんて言えばいいんだ、どどどうすれば

「にゃ~」

ん?今何か、カリンが新世界の神みたいな顔に、
いかん混乱しすぎてる。幻覚が・・・
幻覚だよな?なんかまだ見えてるような・・・?

「あっ、カリン?」
「にゃ」

ドアが外れたままの扉から、カリンも行っちゃった、どどど、どうしよ

”アーーーー!!”

なんか、聞こえた・・・。
大輝、えっと・・・。
とりあえず私は、窓から見える星に敬礼しておいた。
・・・・無茶しやがって・・。



あとがき
こんなやってますけど、翡翠とクロエはそれなりに大輝を信用しています。
あと、2人ともかなり良識的なので、お仕置きはそんな酷くないです。
でも禁止ワードを言うと、命の危険があります。



[34220] 5.魔法少女の後をつけるって、大変なんだな
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/20 06:57
「あ゛~、尻が・・・」
「普通の1.3倍くらいに見えるぞ。それ」

リリカルマジカルの翌日である。昨日はお父さんとお母さんによる大輝の抹殺が行われるかと思ったが、そんなことは無かった。
父は一人だけ登場する世界が違うような見た目をしているが、かなり常識的な人である。
大輝の罰は、拳骨一発と、お尻ペンペンで済んだ。
最初、お尻を叩く役は母だったが、こいつが喜びだしたので父が代わり、このとおりご覧の有様というわけだ。

「ほら、これ使え」
「あ、琥珀ありがとう。・・しかし、昨日は死を覚悟したね、ホント」
「お父さんが殺人なんてするわけ無いだろ。警察官なんだから」
「いや・・、(彼氏で~す、とか冗談でも言ったら絶対殺すでしょ、あれ)」

一応椅子に直に座るのはきついだろうと、クッションを持ってきてやった。
こいつはお父さんの見掛けから、誤解している節がある。全く失礼な奴だ。

「こぶもでかいがホントに大丈夫なのかそれ、見た目的に」
「問題ないよ。見た目あれだけど」
「ま、いいけ「にゃ!上谷君大丈夫なのそれ!」ど・・・」

む、高町か。1年の時のことで、気まずいとか言ってたが、まさか、実は大輝にフォーリンラブなのか?
かなり心配しているようだ。意外だな。
しかしこのツインテール、どっかで見たような気がする。

「ほんと、どうしたのよそれ?」
「大丈夫?上谷君」
「あ、ああ見た目だけで、全然大丈夫だよ。これは、ちょっと叱られちゃってね。はははは・・・」

こっちみんな、私がやったみたいじゃないか。絡まれてしまう。
とりあえず、絡まれないように大輝を盾にして半分だけ顔を出す。
この子達、普段大輝を避けてるくせにこんな時は来るんだから人のよさが伺える。
でも私、ぶっちゃけ苦手なんだよこの子達。
転生してからボッチ経験が長いからどうもこう、突っ込んでくる子は苦手だからなぁ~。
何かこの子達、9歳のくせに妙に大人びてるし。

『俺』が9歳の時なんて⑨だったぞ。デジヴァイスが降ってきて、いつかデジタルワールドに本当に行けるって信じてたぞ。
太一たちの年齢の時は、デジヴァイスを朝起きたら部屋中探してたし。
ポケモンだって、関東地方に本当にいるって思ってたし。
こいつらは、もうサンタすら信じてないね。きっと。
ちなみに『俺』は中学校まで信じてた。家に来ないのは手紙を出してないせいだと思ってました・・・。

「ちょっと、あんた!いくらなんでもやりすぎでしょ」
「いや!琥珀じゃないんだ。夜中に家を抜け出そうとしてそれで、親に怒られたんだよ」
「え!」
「あっ、そうなの、ごめん岸野」
「いや、別に気にしなくていい、普段が普段だし」

聞き捨てならんことを言ったので、大輝の上着の裾を掴み接触による念話で抗議する。

《ばか!夜中抜け出そうとしたなんて言うな!魔導師だってばれたらどうする!》
《大丈夫だよ。どうせ俺たちは魔力を隠し通すなんて器用なまねできないんだ。昨日の念話で外に出ようとしたけど、親に見つかって出れなかった。そういうことにしたほうが自然だよ》

むぅ、大輝のくせによく考えてやがる。意外すぎる。誰だこいつ。

《ちょっと、誰こいつって目で見ないでよ》
「それにしても、あんたの親、結構厳しいのね。まあ100%あんたが悪いけど」
「あはは・・」

バニングスは大輝に相変わらず辛辣だけど、これでも前よりはマシになったらしい。
そんなバニングスの後ろの高町はバックに居るイタチと喋っているようだ。というか、魔導師かも知れん奴の前で堂々としすぎだろう。
せめて、盗聴対策くらいしとけ。傍受しようと思えばできちまうぞ。
いや、まさかトラップか?わざと盗聴させてあの不思議スペックのレイジングハートに発見させる、とか?
なら、コッチにも対策はある。

《大輝、能力で》
《大丈夫、もうやってるよ。琥珀にも聞こえるようにする》

まあ、大輝の能力便りだけど。
大輝の能力で周辺の魔力を操る、これで私たちが操作している魔力をカモフラージュする。
さらに高町とユーノの念話の魔力を干渉、拾って私にも伝えているのだ。

やはり、私たちのことをあのユーノックは疑っているようだ。高町に警戒を促している。
だがまぁ、今のところ普通の子供だという考えのほうが大きそうだ。
高町という前例があるからな。魔力の高さだけでの決め付けは出来ないだろう。

というか、いまさらながら私たちの魔力、高町と同等近いってやりすぎだろう。
あの銀髪ボインの言ってたとおり、――魔力が必要ないほどの能力を与えておきながら、これである。――平穏に生きられないようにする嫌がらせも兼ねているのかもしれない。
私としては魔法よりも、本気で能力を使ったら体が縮むのをどうにかして欲しい。
使い勝手が悪すぎだろ。というか、今の生活を捨てないと使えない能力だ。
私だって”ザ・ワールド!!時よとまれぃ!!”とか、”ロードローラーだ!!”とか、”貴様はチェスや将棋で言う詰み(チェックメイト)に嵌ったのだ!!”とか、”無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!!”とかしたい。
なんで時間操る能力なのに時止め使うと体が縮むんだよ。
今まともに戦闘で使えるのなんて、雨の水滴にあたって死んだ某ハンバーガーのあれくらい無いじゃん。しかも、下手したら第二のバーガーさんだし。ゴランの有様だよ!


「俺のことより、そのイタチは学校に連れてきて良いのか?」
「イタチじゃなくてフェレットだよ、上谷君。昨日からなのはちゃんが飼うことになったんだよ」
「いや、そうじゃ「ね?」な・・・ああ、そうなんだ」

そう言って微笑む月村の目が、赤く輝いたように見えた・・・。
ていうか、こわっ。

《ツエーな月村。というかちょっと怖いぞ》
《俺も怖かったです、はい。世の中聞いちゃいけないことがあるんだね》

「なのはちゃんもだけど、その子は岸野さんの家の子?」
「え?」

「な~」
「カリン!どうして学校に、ていうか何時の間に・・・・・なんだ、手紙?」
「出たな化け猫」
「フーー!!《黙れ変態小僧》」

お母さんからだ、カリンは本当に頭がいいな。手紙を咥えて持ってくるなんて。
というかどういうことだってばよ。何時の間にか私の机の上に居たカリンから手紙を受け取って読んでみる。

「えと、今日は護衛としてカリンをつけます。上谷君に注意しなさい。男は狼です・・・?」
「どんだけ信用無いの俺!よりにもよって化け猫を学校になんて!」
「ちょっと、手紙の内容はともかく、こんなかわいい子に化け猫なんて何言ってんのよ」
「そうだよ、ふさふさしててかわいいよ」
「にゃ、ちょっと触ってもいいかな?」

3人とも物凄く期待に満ちた目だ。
これ、断れる人間いるの?

「・・・カリンが嫌がらなければ」
「にゃ~」
「こ、こいつ・・・・!(琥珀だけでなく、この3人も騙して、味方にする気か!恐ろしい子!正体ばらしてやりたい!!)」
「にゃふ《はっ!小僧。今貴様の味方などどこにもおらんぞ、・・・・くっくくく、あーはっはっはっは!》」
《お、おのれ~は~・・・!!》

カリンも大人しく撫でられている。ちょっと盗られたみたいで悲しい。
というか、大輝は何故カリンを目の敵にするのだろうか?
犬派なのかもしれんな。私は猫派だ。こればっかりは譲れない。
あと、犬を飼った事もないくせに犬派とか言う奴、テメーはだめだ。
1回飼ってみなさいな。大変だから。まぁ、飼えばかわいいけどね。

「ユーノ君とも仲良くしてね。カリンちゃん!」
「ちょっと、なのはそれはまずいんじゃない?」

高町がユーノ(ユーノックじゃなかった。良かった誰にも言ってなくて)を両手で掴んでカリンに近づける。高町の手の中でユーノは震え、バニングスが心配しているが、うちのカリンは賢いのだ。飼われている動物を噛んだりしな・・・

「フシャー!!!」
「きゅっ!」
「ちょ!化け猫落ち着け!!」

・・って、未だかつて無いほど怒ってらっしゃる!!やば!

「か、カリン!こら、だめだよ!」
「ふー、う~」

直ぐに胸に抱いてユーノから離す。
こんなところで、ユーノがお亡くなりになるところだった。
賢くてもやっぱり猫だから、本能的にやっちゃうのかもしれないなぁ。

「ほら、なのは。猫にげっ歯類は近づけちゃだめよ」
「にゃ、ごめんねユーノ君、カリンちゃん」
「きゅ~」

《おい、化け猫どうしたんだよ》
《あやつが琥珀を疑っておったからの。害になる前に抹殺しとこうとな・・。決して、本能的に殺りたくなったわけではないぞ。決して》
《つまり、本能ですね。解ります。》
《やかましいぞ、小僧。大体、小動物に化けて回復とか意味が解らんわ。化けとる時点で魔力消費せんのか。それとも、あれが奴の原型か?》
《言われてみれば、確かにそうだね・・・。学校に動物を連れ込んで怒られないくらい不思議「上谷君?」だ・・・・・こわ!月村エスパー!?》

「皆さん席についてくださいHRをはじめますよ~」

なんか大輝とカリンが向き合ってたが、担任が来たためやめたようだ。
というか、担任はペット持込みに対して何も突っ込まな「岸野さん?」いん・・・・こわっ!







そんなこんなで学校は終わり、私と大輝とカリンは猛ダッシュで帰宅と見せかけ、――決して月村にビビッていた訳ではなく――高町たちのあとをつけていた。

「確か、今回は神社で犬にジュエルシードが発動するはず。昨日の男も現れるはずだよ」
「そうだな、昨日の奴の居場所はわかってるんだから、私があの男の監視、大輝はそのまま高町たちの動向を見ていてくれ」
「いや、男のほうは俺が見ておくよ。奴が動いた時は俺に任せてくれ」
「・・・ん、わかった」

大輝なりの考えがあるのだろうが、私の事をあんまり信用してないような感じがしてなんかむかつくな。

神社での戦闘に備え、神社付近の茂みを目指す。
前よりずっと近いわけは、何が来ても即座に動けるようにするためだ。
発動前に周囲を探索して昨日みたいな奴がいないか確認しておく。
特に誰もいなかったので安心して茂みにINだ。
虫がいっぱいだね!泣きたくなってくるね!

その後は原作通り?ジュエルシードが発動。
前の奴もだったが発動体キモいな。リアルになるもんじゃないわ。

発動を感知した高町が神社に向かってくる。
その向ってくるまでの間、発動体にビビッて気絶した女の人をダッシュで回収して一緒に茂みに隠れる。
発動体が生意気に私を噛もうとしたけど、適当に蹴りを入れたらキャンキャンいいながら吹っ飛んだ。
生憎私は猫派なので躾のなっていない犬に容赦はしない。
まあ、まだ元気があった様なので問題ないだろう。

昨日と同じように隠蔽性を高めたサーチャーで高町の監視を続ける。

「大輝、男のほうはどうだ?」
「それが、おかしいんだ琥珀。あいつには魔力がないっぽいよ。発動にまったく反応していなかった。会社で普通に仕事してる。」
「なら、たまたま居ただけの一般人だったのか・・・?いや、決め付けは良くないか」
「そうだね、そっちはどうだい?」
「こっちは神社に着いたようだぞ、暴走体と接触し・・・!いや、だれか来たぞ・・・!」
「!」
「あの人は、私の近所に住んでる人だ!様子がおかしい、まるで、昨日の奴のみたいだ・・、生気が無いと、言うか・・・・」
「まさか、・・能力かな?人を操って、監視してるのか・・・?」
「・・・とりあえず、現状維持だ。昨日の男と一緒にマークしておこう、」

もし大輝の言うとおりの能力だとしたら、人を操る力なんて碌な能力じゃない。
私たちの能力は無表情ボインの言った事が本当ならば、その人物の望み、願望から決まる。
もし、想像通りの能力ならまともな人格など期待できない。
ますます、警戒が必要になった。

《リリカルマジカルジュエルシード封印!!》

高町は少々苦戦したが封印を終えた。
しかし高町さん。前も思ったんだが相手の攻撃を棒立ちで受けるのはやめて。
怖いから、まじで飛び出しそうになるから。
あの不思議な杖、レイジングハートが防いでくれるとは解っていてもヒヤヒヤしてしまう。

「結局、あの人に動きはなし、そのまま帰ってる」
「男も変わった様子は無かったよ」

相手の用心深さ、そして、他人を使ってまで監視する様子は敵が恐ろしい奴であることを暗示しているかのようだ。
正直な話、関わりたくない。

「なんとも、不気味だな・・」
「能力はともかく、向こうも転生者を警戒しているんだろうね。・・厄介そうだね」

「な~」

カリンが慰めるように私の手を舐めるが、これからを思うと少々憂鬱だ。
だけど、私の手を一生懸命に舐める可愛らしいカリンに心が落ち着く。まさにアニマルセラピーだ。
お返しに優しく撫でてあげる。

「ありがとね、カリン」
「にゃ~」
「・・・おのれ、化け猫」

私のひざに乗るカリンを大輝が睨みつける。
なんかカリンも睨み返してるけど。
ホントに大輝はしょうがないな。
そんなに猫が嫌いなのか?

《小僧、お前が第一防衛ラインだ。しっかり守れよ》
《わかってる。琥珀の能力を使わせずに勝つ、縮む対価なんぞ払わせる気は無い》
《ふん、わかってるならいい》

「どうしたんだ?大輝?」
「いや、なんでも。・・・それより、対策をきっちりしとかないと。帰ったらまた、トレーニングに付き合ってくれ」
「まあ、いいけど。疲れが長引くようなのはだめだぞ、軽めにな」


不安は色々あるが、やらないで後悔したくないしな。
とりあえずこの気絶した女の人をどうするか、だな。






[34220] 5.5琥珀の魔法少女追跡日記
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/05 15:02
注意:作者の英語力はエキサイト翻訳に頼る程度なので、レイハさんが日本語で喋ってます。読者の皆様は、脳内で英語に翻訳してください。



















私が学校で会話する相手は大輝くらいで、休み時間中大輝がトイレに行ったりするとボッチ状態になる。
そんな時に決まって高町たちは私に接近を試みるので教室からスタコラサッサする事にしている。



え?ボッチが嫌なら仲良くなればいいって?
うん、それ無理。
だってあの3人、私を見る時、獲物を狙う鷹の目なんだもん。
私のコミュ力ではちょっとハードルが高すぎる。

え?人見知りしすぎ?
だってこんな見た目してたら色々大変なんだよ?
このカラフルな日本人だらけの世界でも飛び切り目立つ色だよ。
お母さんには悪いけど、緑の髪って無いと思う。
好奇の目で見られ続けたら、そりゃ人見知りにもなるよ。うん。

え?だったら他のクラスメイトはどうだ?
いや、あいつらはちょっと精神年齢が低すぎて無理。
だって”サヨオナラ、ブッー!!”とかちょっとした下ネタで大笑いする連中だよ。
大人の精神持ってるのに会話になるわけないじゃん。
あいつらの殴る効果音”デュクシ!!”だよ。絶対無理。

え?さっきから誰と話してるのって?
そりゃ手帳兼、日記さんとだよ。
1人で自問自答とも言うね!
なんか死にたくなってくるね!不思議っ!!



今日は大輝が戻ってくるまでの間、トイレの個室に篭って手帳と睨めっこする事にした。
ただ予定確認してただけが、何故か何時の間にかこんな事書いてるんだよ。
これがボッチということか・・・。
いや、こんな弱気になってるのは、昨日まだ肌寒いというのに川にダイブしたせいだな。
結論、全部ジュエルシードが悪い。




そう、昨日は最悪だった。
昨日ののジュエルシードの暴走体は子供の玩具、かくかくのロボット人形を大きくした見た目の奴だった。
ロケットパンチやら目からビームやら妙な事はしてきたが、特に問題もなく高町は封印成功した。
あの子のプロテクションはジュエルシードの暴走体には崩せない、そう解っているので安心して見れた。

だが、封印されたと思った暴走体の体が何故か爆散した。
高町はレイジングハートに守られ何とも無かったが周りの被害が大きかった。電柱が倒れたり、壁が崩れたり。

まあこの時は危なかったねで済んだと思ったんだが、帰り道の河川敷に暴走体の破片によるものだと思われるクレーターがあった。
”うわぁ、こんなとこまで飛んだのかぁ。”と大輝と2人でかる~く考えていたら、川の岩場に引っ掛かっている中学生くらいの女子がいた。
うつ伏せで川に顔を突っ込んだ状態で。

あれを見たときは思わず悲鳴をあげてしまった。幾らなんでも予想外すぎだし。
焦って飛び込んで川から引きずり出し、救急車を呼んで大輝と2人で心肺蘇生を試みて何とか事なきを得たが、その後も事情聴取とか色々あって大変だったのだ。
ずぶ濡れになっただけでなく、子供だけで川に飛び込むな、とお父さんに叱られてしまった。

まあ、それで疲れて弱気になってしまったのだろう。
普段の私だったらこんなとこに引きこもらないもんね。

しかし最近、大輝の奴が何かと理由をつけて、休み時間に私を置き去りにするような気がする。
別に毎時間と言う訳ではないが、2年生の頃と比べると明らかにおかしい。
解せぬ・・・。何を企んでいるんだ?
まさかロリに目覚めて、その辺の幼児で光源氏計画をしようとしている・・?
・・・ありそうで怖い。
友人として止めるべきなんだろうが、個人恋愛だしな。
もし光源氏やってても、・・そっとしておこう。

「全く、パパったら大げさなのよ」
「ふふっ、でもそんなに喜んでもらえたんだから、アリサちゃんも嬉しいでしょ?」

うわっ!バニングスたちか・・・!
びっくりした。
まあ此処トイレだし、仕方ないか。
あの子達が出るまで出れそうにないし、お父さんがやってた気配を絶つ練習でもしよう。
え~と、心を無に?だっけ?瞑想?あれ、なんか違うような?まあいいや。
・・・・・・。
・・・なんで女子って用を足すわけでもないのに集団でトイレに来るんだろう?
あっ、さっそく雑念が・・・

「すずか、さすがにあそこまで喜ばれると恥ずかしいわよ」
「でもアリサちゃん。顔が赤いよ?、ね?なのはちゃん」
「うん!とっても嬉しそうだよ、アリサちゃん」
「なっ、何言ってんのよ!べ、別にパパのためじゃ無かったし、そんな嬉しくなんて無いわよっ」

・・・何というツンデレなんだろう。バニングスってレベル高いね。
扉で見えないけどバニングスがどんな様子か直ぐにわかるほどだ。
しかし、ツンデレってどんな家庭環境で誕生するんだろう。

「大体、たかが肩叩きよっ。なのに初肩叩き記念とか言っちゃってプレゼント買って来るなんておかしいわよ」
「確かにプレゼントはいき過ぎかなぁって思うけど・・・」

肩たたき?・・・・KATATATAKI・・・・だと・・・・!
・・・・なるほどな~。
そういえば、私もお父さんに肩叩きとかやった事無い。
いままでした親孝行っぽい事は家事の手伝いとかくらいだ。
考えればつくづく子供らしくない。

これはやってみる価値があるだろう。
肩叩きなんて、成長するにつれてなんとなく恥ずかしくなってくるもんだし。
最近はジュエルシードの被害のせいでお父さんの帰りは遅い。それに昨日も迷惑かけたし。
しかも、魔法なんていうこの世界の科学では判明出来ない事を捜査しているのだ。
謂わば殆ど無駄な捜査になってしまう。

お父さんの心労を思えば、肩叩きくらいすべきだろう。
うん、今日にでもやってみよう。

《マスター、岸野琥珀がいます》
《レイジングハート?》

 !?
え?何?念話か?
まさかあの杖、指向性ではなく広域で?
私の反応を見る気か?
だが、私はクールだ。この程度で尻尾を出す訳が無い。
自然に、ゆっくりと手帳に顔を近づけて表情を隠すぜっ。
べ、別に動揺した顔を見せないようにする為じゃないんだからねっ!あ、移った。
って、ていうか、よく考えたら、あの杖、こ、個室を覗いてないか?

「どうしたの?なのはちゃん」
「にゃっ、なんでもないよ!」
「あんたねぇ、そういう反応なんかあるって言ってんのと同じなのよ」

そうだね、何かあるよ。
バニングスさん、高町のもっているビー玉を窓から投げ捨ててください。

「えと、お、お父さんに肩叩きしたらどうなるかな~って考えてて」
「あ、確かに士郎さんがどうなるか気になるわね」

ちくしょう、あっさり誤魔化されやがった・・!
あのビー玉、どうやって私を見ているんだ・・・!?
サーチャーか?一体何処に?

《一番奥の個室にいるようです》
《レ、レイジングハート、ダメだよ!!トイレ中なんでしょっ!》
《彼女は腰掛けて手帳を読んでいるだけのようです。スカートも下着も下ろしていません》

やめろォ!!
なんでトイレに入って何やってるか解説されなきゃならんのだ!!
せめて本人に聞こえないようにやれっ!

《そ、それでもダメだよっ!》
《ですが、ユーノから彼女と上谷大輝に注意するように言われています》

絶対ユーノもそんなつもりで言ったんじゃないだろ!!
常識!常識の範囲内で注意してっ!お願い!

《彼女をここ数日注視していましたが、不思議な方ですね。基本的に上谷大輝以外とは話すことは無く、体育の授業では他の方のペアが決まるまで1人でいたり、休み時間に上谷大輝がいないときは校内を散策、さらにはトイレで用を足す訳でもなく手帳を読む。行動が読めません》
《にゃ、えと、ちょっと変わってるけど、そ、そんな変じゃないよ!》

・・・・。
・・・・・・なにこれ?何この精神攻撃。
・・・・べ、別に泣いてなんかねぇよ、こ、こんなもんだよ人生。

「そろそろ授業ね。行きましょ」

・・・・。
やっと、出て行ったようだ。

・・・・あの赤玉
いつかビーダマンに詰めて壁に向って連射してやる・・・!




~その頃の上谷大輝~

琥珀がレイジングハートによる精神攻撃を受けているとき、大輝は屋上のフェンスにもたれかかっていた。
近くのベンチには毛の長い黒猫、カリンが寝そべっている。

「琥珀、友達出来たかなぁ?」
「さてのぅ。お前とずっと一緒にいなければ、あの娘っこたちとも仲良くなるかと思ったんじゃがのう。中々仲良くならんなぁ」

岸野家の飼い猫のカリンが、大輝に向かって言う。
猫がその口で喋っているというのに大輝は驚かず、ごく自然体だ。

「1人にして他の奴と仲良くなれるって考えも安直だと思うんだけど」
「何もせんで、お前に依存するようになるよりはマシじゃろうて」

カリンはのんびりした口調で言ってはいるが、琥珀の人見知りをかなり心配していた。

「・・・依存か。・・・それって、何時か『ズキューーン!!』や○○××、果ては『ピーーー!!』しても大丈夫ってことじゃないか!?それも良いような気がしてきたぜっ!!」
「戯け、この変態が」

表情が解りにくい筈の猫だというのに、わかりやすいほどにゴミ虫を見るような目だ。
その視線を受けた大輝は、毅然とした態度で続ける。
そのキリリとした姿は、少なくともこんな時に使う表情ではない。

「何を言う。女の子が自分のみ見詰めてくれる、さらにあんなことやそんなことをヤラせてくれるというのは、全ての男にとっての理想だぞ。ていうか、なんでもいいからやらせて欲しい」
「・・・・翡翠を呼ぶかの」
「すみません。それだけは勘弁してください。Mでも普通に死ねます。あの人、人間じゃねぇです」

カリンが処置なしとばかりに翡翠の名を出した途端、大輝は土下座した。
あまりの土下座のスピードに、カリンの目に残像が見えたほどだ。

「はぁ・・・・続けるが琥珀はの、こないだ翡翠の後輩が飯を食いに来た時も、クロエの後ろに隠れて猫のわしより猫っぽく警戒しとった。さすがに如何にかせねばならんじゃろ?」
「・・・・同世代にだけじゃなかったんかい」

入学当初は周りの精神年齢が低すぎるためだとばかりカリンは思っていたが、どうにも違うらしいという事が最近証明されてしまった。
これはまずいと、カリンは琥珀の両親、翡翠とクロエに相談して一計を講じる事にした。
一番の友人である大輝が近くにいれば、会話の殆どを大輝に任せてしまうため、大輝を休み時間に琥珀から遠ざけることにしたのだ。

「まあ、その翡翠の後輩がロリコンだったから警戒しとったんじゃけどな。琥珀を見た途端、ウホッ、いい幼女!とか言ったからの」
「誰だって警戒するだろ、それ。でも翡翠さんの後輩って、警察、だよな・・・?」
「いつ逮捕されるか、楽しみじゃの」













夜の学校。
私はジュエルシードの発動を感知し、お母さんに見つからないように自分の部屋の窓から飛んできた。
私たちは校庭内の木の陰に隠れている。隠れる場所が少ないのため、オプティックデバイドで透明状態だ。
ちなみに、お父さんはまだ家に帰って来ていない。
ジュエルシードによる謎の破壊痕の調査のせいだ。

「今日のジュエルシードは学校みたいだね。・・・・琥珀、今日はなんか元気ないけど、どうしたんだ?」
「何も無い。なんもない。もんだいない」

大輝が気遣ってくるが、そう、何とも無い。うん。元気。
それより封印、ちゃっちゃっと終わって欲しい。
早く帰ってお父さんに肩叩きをするから。

「・・・まあ、いいけど。昨日までの監視していた人達はどう?」
「全員普通に生活してる。これ、もうこの人達を警戒しても意味ないんじゃないか?」

これ以上サーチャーの数を増やすのもめんどくさいし。
第一プライバシーの侵害だ。
今日私はブーメランってものを身をもって味わったし。

「確かに定期的な監視で、もういいかもね。本当に操られてただけみたいだし」
「ん。ところで、今日の奴は何処だ?」
「校門の近く、ほら、あそこだよ」

大輝が指差した方向には、建物の影から魔法少女を死んだ魚の目で見つめるおっさん。
すごく、犯罪っぽいです・・・。

これで操られたのは5人目か。本当に監視してる奴はなんなんだ。
ジュエルシードを狙っているわけでもなく、高町に接触してくるわけでもなく、ただ人を操って見ているだけ。
何がしたいのか訳がわからない。

『リリカルマジカルジュエルシード封印!!』

高町がクルクル回りながら暴走体を封印した。
何時もながら大した魔力だ。やはり天才・・・。
だが、連日の封印作業で疲れが見える。老人のように杖を突きながら帰っていった。



「終わったね、琥珀」
「・・・そうだな、いつも通り監視者も帰って・・・?!っ!大輝!校舎!」
「!誰かいる!もしかしてあいつが今までの黒幕か!!」
「・・行こう!!」

高町が帰った後、校舎から覗く怪しい人影を発見した。
今までの鬱憤を晴ら・・・じゃなかった、地球の平和を守るため、私たちは直ぐに飛行魔法で突撃した。

「そこまでだ!!」

甲高い音を立てながらガラスが割れ、破片が飛散する。
障害物となる窓ガラスを防御魔法を使って突っ込んで破り、2階の廊下にいる犯人と思しき奴を大輝と一緒に挟み撃ちにした。
校舎に被害が出たけどしょうがない。地球を守るためです、と今日も自己弁護は完璧だ。

犯人と思しき影は、私たちのダイナミックエントリーに驚いているのか、動きはない。
今がチャンス。さっさと、倒すのみ・・・・?って、何だこいつ。

「ま、魔法少女見つけたと、思ったら、空飛ぶ少年少女が来たーー!!どっちもカワイイーー!!写真とらせて!!」
「「・・・うわぁ」」

・・・ただの変態だった。
児童が忘れたと思しきブルマを右手に持ち、背中のパンパンになったリュックからは入りきらないリコーダーが3本見えてる。
頭は覆面の上にまたブルマ、服は迷彩服、首からカメラ。
・・・・なぁにこれぇ。

「はぁ、ハァ、ハァ、こ、怖くないよ・・・ちょっと写真を、いや、ちょっと触らせてくれるだけで」
「っ!」

変態が手をワキワキさせながら、私のほうににじり寄って来る!
どうしたらいいのこれ、・・・誰か教えて。

「はいはい、おねんねしましょうねっ!!」
「おぶぅ!!!」

背後に回っていた大輝が跳び蹴りを変態にかました。
綺麗に後頭部に決まり、変態は頭から地面に倒れて気絶したようだ。
・・・・・はぁ、どっと疲れた。

「ほら琥珀、死んだ魚の目をしてないで撤収しよう」
「そうだな、・・・あっ!こいつのカメラは壊しておかないと」

”魔法少女現る!”なんて、新聞に載せるわけにはいかないしな。
・・・・高そうなカメラだから、中身だけにしといてやるか。
中からフィルムを抜いて魔法で焼却する。
実は、まだデジカメの画質は其処まで綺麗じゃないから、フィルム式持ってる奴が多い。
カメラもこんな事に使われるなんて、最悪だろうな。

処理を終えた私たちは、変態をそのまま放置して窓から家まで帰還することにした。
変態は匿名で通報しておいたから大丈夫だろう。

「そういえば、琥珀。リコーダーは無事だった?」
「・・・・気付きたくなかった」

新しいの、買わないといけないかも。







大輝と分かれて家に着くと、お父さんはまだ帰っていない。
とりあえずリビングで帰りを待つことにした。

ちなみにお母さんには今日の夕方、ジュエルシードの発動前に肩叩きした。
お母さんは物凄く喜び、新しい服を買ってあげると、私はすぐさまバイクで連れ去られてしまった。
あの時はファッションショーみたいにされて、かなり疲れました。
なんか服を買わせるための口実にされた気がする。


お母さんとテレビを見ながら待っているんだが、遅いなぁ。
もう10時回ってるのに、今日も遅くまで捜査しているみたいだ。

「琥珀、もう先に寝ててもいいのよ?」
「大丈夫、まだ眠くないよ」

私の隣のソファーにいるカリンはとっくに寝てるけど。
私もちょっと眠くなってきたけど、まだ大丈夫だ。

・・・めがしぱしぱする。

「ただいま」

「!、帰って来た!」
「あら、琥珀」

ここはダッシュでお出迎えだ!
なんか今日は打ちのめされる事がたくさんあってテンションがおかしい気もするけど、まあいいや。

目標は既に靴を脱いでスリッパを履いていたので、そのまま突撃した。
能力で3倍の速度まで加速したから受け止められまい!

と思ったけど簡単に受け止められた。なんか私より速く動いて見えたけど気のせいだろう。
でも、珍しく驚いた表情をしていたので満足だ。
そのまま右手で軽々と抱き上げられる。

「お帰りなさいっ」
「・・起きていたのか。ああ、ただいま」

すっぽりと大きな手が私の頭を撫でる。
お父さんの手はかなりでかい。
父は現実でケンシロウがいたらこんな人だろう、みたいな見た目だ。
女児向けアニメ?(だったか?)の世界に1人だけ世紀末救世主。
正直こんな警察がいたら、その町の犯罪なくなると思う。昔は交番で制服着て居たんだからびっくりだわ。


ん。お母さんも来たみたいだ。
抱き上げられたままの私を母が微笑ましそうに見てくる。
な、なんか、恥ずかしいな。
そんな目で見られてると顔は赤くなるけど、頭は逆に冷えてくる。
上がっていたテンションが下がり、自分の行動を振り返ると転がりまわりたくなった。

「お帰りなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも・・むきゅ」
「言わせんぞ、全く・・・ただいま」

母がお決まりの台詞を言おうとしたが、その前に父の左手が母の口を塞いだ。
私の前だと気を使ったのだろうが、私は空気を読むくらいできるから気にしなくてもいいのに。




『何時から私がこの法案に賛成だと錯覚していた?』

・・・父はご飯を食べ終わり、ニュースを見ている。
ニュースにはこの世界の日本の総理大臣、某オサレ漫画のヨン様そっくりの奴が映っているが今はどうでもいい。
今がチャンスだ。父の後ろに回りこんで肩に触る。

「どうしたんだ、琥珀。もう寝なさい」
「え、えと、」

いざ、やろうとすると結構恥ずかしいなこれ。

「?何かあったのか?」
「翡翠、琥珀はね、肩叩きをしてあげたいのよ」

お母さん、そ、其処は言わないで欲しかった。いや、助かったかも。

「そ、そうか。・・・琥珀、頼む」
「う、うん」

お父さんは何故か手で顔を覆うが、気にせず始める事にした。

相変わらずムキムキの肩をトントンと叩く。
手に伝わってくる感触、これは・・
硬っ!!
何これ、凝ってるってレベルじゃねーぞ!
お父さん肩に鉄板入れてるの?!

私の手が痛いので魔力で強化しておく。

「俺は、・・・幸せものだ」
「?何か言った?」
「いいや。なんでもない」
「そう?」
「ああ」

何を言ったかよく聞こえなかったけど、お父さんは喜んでくれたらしい。
バニングスには感謝だな。

今日は色々あったけど、最後はいい感じに終わったな。
日記には”今日一日いい日でした”でいいかな。



翌日。
学校に出没したあの変態はちゃんと逮捕されたらしい。
窓ガラスはあの変態が割った事になってる。
昼まで休みで、さらに全校集会になった。眠かったので正直大助かりだ。

ちなみに、高町も父親に肩叩きをしようとしたらしい。
感激して、何故か泣きながら上半身裸になって”さあ!やってくれ!”って言ったらしい。
高町の親って露出狂なんだな。

この町変態率高いね。
登校時は注意しよう。










[34220] 6.トトロの木はいらない。
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/04 15:48
不気味な敵を発見できないまま、時間は進んでいく。
それに、比例して私の不安は高まっていく。
大輝曰く、原作通りに今のところ進んでいっているそうだ。
だが、ジュエルシードの発動と共に毎回違う人物が1人、生気の無い顔で高町なのはを監視しているのだ。
現在5人の彼らは、いたって普通の生活を続けている。
しかし、能力者の能力の詳細は不明だ。どんな後遺症があるか、もしくは、まだ操る力が残っているのではないかという疑いもある。



「すこし、俺たちもアクションを起こそう」

という、大輝の言うとおりにサッカー少年が発動させるジュエルシードを街に被害を与える前に沈静化させることにした。

だが、姿を”敵”に見られて私生活まで監視されたら堪ったものじゃない。
そのため私たちは変身魔法で前世のキャラクター、大輝がFF7のセ○ィロス、私が初○ミクに化けて、ビルの屋上に続く踊り場にいる。
普通に不法侵入だし、見つかるとコスプレイヤーの変質者だ。

ここ1週間、虫がいっぱいの茂みに突っ込んだり、封印後に何故か爆発した暴走体の爆風に吹っ飛ばされた少女を助けるため川に飛び込みびしょ濡れになったり、学校のジュエルシードでは黒幕かと思った奴がただの変質者だったり、挙句の果てはコスプレ、か。

「一体私は何処へ向っているのだろう・・・」
「こらっ!コスプレするなら心まで着飾りなさい!!」
「変身魔法だがな・・」

ビシッと指差してくる今の大輝は、○フィロスの姿だから何という違和感なんだろう。
カッコイイ筈の悪役のイメージが崩れそうだ。



ジュエルシードが発動したら一瞬で封印し、その後にわざと姿を見せて、動きを誘うという作戦だ。
変身魔法も前世を生きたものなら殆ど知っているキャラクターだ。
何か反応がある、と思いたい。
黒幕はさっさと姿を現してほしい。ていうか首吊って死んで欲しい。
大輝が監視班、私が囮の封印班だ。だがこの役割に大輝はご不満のようで、

「琥珀、やっぱり俺が囮を・・・」
「はぁ・・、何度も言ってるが、能力的にこっちのほうがいいだろう。お前のほうが魔法は上手いし、私は被害を出す前に”加速”で封印。・・いい加減しゃんとしろ」
「しかし・・・」

この通り、さっきから渋っている。

「今回のは下手すれば死人が出るかもしれないんだ。街に被害なんて出させる気はない。私たちのわがままで発動を見逃すんだからな」
「そういうことを言ってるんじゃなくてだな」
「そんなに信用が無いか、私は」

こいつ心配しすぎだろ。模擬戦での勝率は私のほうが高いんだぞ。能力全開なら負けなしだってのに。
確かにデスノートみたいなのを敵が持っていたらアウトだが、私にはいざと言う時の体を治す”巻き戻し”がある。
心臓が止まっても脳に酸素が送られなくなる前に”巻き戻し”を発動すればいいだけだ。
対価により体が少々縮んでしまうが、命と比べたら遥かに安い対価だ。たぶん。
何かあった時の生存率は私のほうが大輝よりずっと高い。

「もう、時間も無い。さっさと気合を入れろ」
「・・・わかったよ。・・絶対やられるなよ」
「ふふ、誰に向かって言ってる、心配無用という奴だ」

大輝に向かって不適に微笑んでやる。
いい加減、信用しろという意味を込めて。

「・・・・というか、すごい違和感だね、ミクだし」
「・・お前がこれがいいと言ったんだろ」

なんというKY。締まらん奴である。


サーチャーによると、サッカー少年が彼女らしき少女と一緒に翠屋から出てきた。
そろそろだ。屋外に出て”加速”をいつでも使えるように準備する。

「しかし、人を操っている奴は魔法をほとんど使わないな」
「そうだね、それらしいサーチャーもないし」

監視していたサッカー少年がジュエルシードを取り出し、少女に渡そうとする。
あれ位の年の少年少女がイチャイチャしててもリア充爆発しろとか全然思わないな。むしろ微笑ましいくらいだ。
これが高校生とかになると砲撃魔法をかましたくなるほどなんだろうけど。

「じゃあ、行って来る」
「ああ、気をつけて。バックアップは任せて」
「ん!」

ジュエルシードが発動し、少年と少女を中心に木が成長しようとする。
しかし、”加速”に入った私はすぐさま飛行魔法と防御魔法を発動し、トップスピードに入る。

この”加速”は私の時間の進みを速める能力だ。飛行魔法で移動する時はその分の負荷が私の体にかかり、中々のダメージを被る。
そのため、防御魔法で体の回りにシールドを張り続けねばならない。――まあ、デバイスが手に入り、バリアジャケットを作れば在って無いような物だ――あと、ものすごくお腹がすく位の代償だ。

軽い対価なのに強力な能力で、私の時間は通常の3倍になる。赤い彗星を思い出した方は挙手しなさい。友達になろう。トランザム!とかいった奴は廊下に立ってなさい。別に、速さ以外パワーアップしてねーから!
まあ一番多用する、私の十八番というやつだ。

「砲撃・・!」

発動体が伸びきる前に中心部のジュエルシードを狙って、至近距離の封印魔法兼、砲撃魔法を突き出した右手から発射する。
ちなみに、この砲撃魔法は高町なのはが後に習得するものと比べた場合、太さも威力も共に1/3もないだろう。しかし、このスピードは高町のそれよりも私の”加速”も相まって何倍にもなる。そして、その分破壊力はぴか一だ。どんな魔導師のシールドも貫通させる。多分。
魔力×スピード=破壊力だ。体重と握力はどっかに行きました。
まあ、まだ本気の砲撃ではないし、さらに威力を高めることも出来る。
つまり私TUEEEEE!ということだ。
まいったか!この石ころが!
お前のせいで迷惑被っている分だ!!

「ジュエルシード、封印!!」

私の魔力光である金色をともなった砲撃はジュエルシードを飲み込み封印した。
成長しようとしていた木は、淡い光を放ちながら消滅し、ジュエルシードと発動させた2人だけが残る。
私は封印されたジュエルシードを掴みポケットに入れ、体の”加速”を解く。

「よっと・・・!」

暴走体が無くなった事によって落下しそうになったサッカー少年と、その彼女を両脇に抱える。
被害としては発動させた2人と、その下のコンクリートが剥げた程度。
暴走体による被害を最小限に抑えたが、発動の瞬間に生じる魔力の波動をこの世界に黒幕がいるなら感じたはずだ。

《封印完了。警戒を頼むぞ》
《了解》

大輝がサーチャーをばら撒いて警戒を開始した。もちろん、サーチャーは発見されないように魔法をかけてある。
周囲の人たちはいきなり現れた私に驚きを隠せずにいる。
私もいつでも能力を発動できるように備える。操る能力の実態がわからない上に件の人物以外の転生者が現れる可能性だってあるのだ。
とりあえず、気絶した2人を道の端に移動し、周囲の警戒を行う。





・・・・5分後。

《琥珀、高町たちが来る複数回の転移で、集合場所まで帰ってきてくれ》
《わかった》

粘ってはみたものの、何時ものような監視者が現れたりしなかった。
戦闘を仕掛けてくるものも現れず、それどころか、野次馬どもの見世物になっただけだった。

どっから沸いて出たのか、元の世界では絶滅危惧種の山姥ギャル共に「何あのカッコww超ウケルんですけど~w」って言われたり、
やけに汗をかいた連中に「もえ~」だの「脇、はぁはぁ」だの言われる。
・・・・初音○クに、大輝に言われたとおりに化けなきゃ良かった。
どうせなら世紀末覇者に化けとけば良かった。そうすれば、この連中をボコにしても許されるよね。

「くらえ!野次馬ども!!」

私は魔法に頼らない大輝製の特性煙幕玉を、野次馬たちの目の前の地面に叩きつける。
叩きつけられたソフトボール大の煙玉は、ボフンと言う音と共に白い粉塵を広範囲に散布した。
突然巻き起こった煙に野次馬どもが悲鳴をあげてる。いい気味である。

「転移、っと」

山姥ギャルたちが煙玉の粉塵で真っ白に成る様を見てやりたかったが、見つかる前にさっさと転移した。

「アベシッ!!」「ガッチョオオオン!!」「あじゃぱ~!!」

ん?何の音だ?
転移前に、なんか殴ったような鈍い音と千葉さんみたいな悲鳴が聞こえたけど、何だったんだ?


 
私たちは秘密基地である山の中にある小屋にいた。
大輝と一緒に作った作戦司令部だ。童心に返って作った小屋ではあるものの、6畳ほどの広さがある。

さも半分作りました見たいな事言ったけど、嘘です。ほとんど大輝が作った。
というか、こいつ器用すぎるんだが。以前のこいつは何をやってたんだろう。
ちなみに材料はその辺に生えていた杉。普通に犯罪だけど、気にしたら負けです。これも地球を守るためです。

「空を飛んだり、異常なスピードで移動する奴はいなかったよ」
「もしかしたら、あの野次馬の中にいたのかもな」

あんな連中の中に居たなんて思いたくないけど。

「にゃ~」
「あれ?カリン何時の間に、というかどうやって」

何時の間にか私の足元にカリンが来ていた。確かにここには一度つれてきたこともある。
猫の行動範囲は広いとは言うが、家からここまで5キロ以上の距離だ。
まぁ、以前学校にもやってきたほど賢い猫だから以前通った道を覚えていたのかもしれない。
でも、これだけ行動範囲が広いと、車に轢かれるかもっていう心配もある。
家に帰ったらお父さんとお母さんに相談したほうがいいかもしれない。

《小僧、あの場には琥珀を害そうとするものは見当たらなかった。ただ、あのくされ野次馬どもは煙幕にまぎれて一発づつ殴っておいた》
《最後のは余計なんだけど・・。カメラは壊した?》
《心配せずとも破壊してある》

壁に寄り掛かった大輝を見詰めているカリンを抱きあげて、床板に引いてある座布団の上に座る。
しかし、カリンと大輝は仲が良くない筈なのに見詰め合う事が多い。何なんだろう?

「相当警戒心が高いね。何らかのアクションぐらい起こしていいものだと思ったけど」
「もしくは、ジュエルシード自体に関心があまり無いのかもしれないな」

狙いは高町なんだろうか?
もしかしたら、普段の学校でも高町は監視されている・・・?

「とりあえず、今日は撤収しよう。ジュエルシードは俺がこのまま持っておいて、管理局の連中に直接渡そう」
「確かにそのほうが安全だな。高町たちに守りきれるかも不安だしな。ただ、私たちが怪しまれるかも知れないぞ」
「その辺は考えがあるから大丈夫だよ。まあ、どんな敵がいるかもしれないこの状況で、俺たちみたいな子供に構ってる余裕は無いと思うよ」

なんか楽観的過ぎる気もするけど、まあ、いいか。









あの後家に帰った私は、自分の部屋で勉強をしていた。
操られていたと思われる人たちの監視は、既に定期的な監視に切り替えた。そうでもしないと私たちの身が持たないからだ。
勉強している内容は高校生レベルの問題集である。
いくら私が社会人として働いていた記憶を持っていたとしても、勉強はいつか限界が来る。以前の『俺』の時は、もっと学生時代考えて進学すれば良かったという、後悔がある。だからこそ成績を上げて、選択肢を増やしておきたいのだ。
それに、

父    「・・・さすが、俺の子だ」
母    「やはり、天才・・・」 
大輝   「たいした奴だ・・・」
カリン  「にゃ~」
祖父   「・・・ここまでの子とは」
祖母   「・・・琥珀ェ・・」

という風に褒められてみたいのだ。転生なんてした、こんな状況だからこそ欲張ってみたい。
『俺』は犠牲になったのだ・・・・・『私』の犠牲にな・・・・・・・。

「フフッ」

褒められる想像(妄想じゃね?)をして気分が良くなった私は、ついつい歌を歌ってしまう。
この世界の曲で、私が赤ん坊の頃からよく母が聞かせてくれた歌だ。
綺麗なバラードの曲調で、英語だ。
歌詞はごく在り来たりなラブソング。すっかりお気に入りになった歌である。

ちなみに私は母の影響で英語ぺらぺらである。
夏休みにはアメリカの祖父母に会いに行ったりもする。将来は翻訳家とか、通訳とかそんな仕事がいいかもしれない。

「へぇ~、琥珀歌めっちゃ上手いんだね!」
「そう?自分じゃ良くわからないな」

ん?何かいた・・・?

「や、こんばんわ、琥珀」
「・・・・・な、な・・何で・・・?」

振り返れば何時の間にか大輝がいた。いったいどうやって入ったのか、扉はしっかり閉まっているが、音は全くしなかった。
前お父さんが壊したけど確り直したはずなのに・・!

「いや、今日は親いなくて、翡翠さんとクロエさんに誘われてたんだ」
「・・・・・・」
「いや、驚いたよ。琥珀がこんなに歌が上手かったなんて。ん、どうしたの?赤くなってプルプルして。ベススライム?」
「っ!・・・・・死ね!!」
「!ベッスゥ!」

魔力で強化された拳は大輝の腹部にクリーンヒットし、大輝は部屋の壁まで吹き飛び仰向けに倒れる。
そのまま私は飛び掛りストンピングで追撃した。

「部屋にノックもせずに入ってくるな!」
「ご褒美、ありがとうございます!!」

・・・・。

「・・・・・・・・・・っ!!」
「・・・いや、ちょっと無言にならないで!マジで殺す気っぽいよ!!」
「マジなんだよ!」

死ね!氏ねじゃなくて死ね!記憶をなくせ!
・・・・・・・。


「はぁ、はぁ、二度とするな、言いふらすな。・・わかったな?」
「・・・・はい。二度としません・・・」

変態を部屋の中央に正座させる。
鍵をもっと確りした奴に付け替えなくては・・。
金庫の扉みたいにしないと安心できんぞこれ。

「にゃあ~~」
「ふぅ、カリンごめんね、騒がしくして」

とりあえず馬鹿はほっといて、カリンを抱き上げベットに座る。カリンを撫でることで自分を落ち着かせ、赤くなった顔を冷やす。

「で?」 
「いや、ホントすいません。つい、歌が聞こえたので気付かれないように気配を消して入りました・・。・・・あの、ゾクゾクするので、そのゴミを見るような目をやめてください」
「ちっ!・・・この変態が!」

ドガッっと鈍い音が響く。
むかついたのでもう一度腹を狙って蹴りを入れたが、こいつは顔を蹴りの軌道上に動かし頬で受けた。

「ああっ!」
「よろこぶな!!・・・どうすればいいんだ、この変態・・・」
「・・・・にゃ」

なんで蹴られて嬉しそうな顔するんだよ。
最近学校でもこいつの過激度が上がってきたし、どうすればいいんだ・・・。
猫のカリンすら呆れてるよ。

「・・にゃう《ホントに変態だな小僧》」
《俺をこんなにしたのは琥珀ですぅ。責任を取って貰ってるだけですぅ》
《なるほど、これがうざいと言うやつかの》
《ひどい!、でも琥珀が歌ったりするとはねぇ、しかも上手いし。何か意外だよなぁ。音楽の時間もボソボソっと聞こえない声で歌うだけなのに》
《人前じゃ歌わんからな。恥ずかしがり屋じゃからなぁ。わしはよく聞くが》
《お前普段聞いてるのか!?》
《無論よ。ほとんど一緒にすごしているからの》

大輝の奴がまたカリンを睨んでる。
こんなに可愛いのに、何がそんなに気に食わないのだろう?

「むっ!」
「?・・・今度は何だ?」

カリンを睨んでいたと思ったら大輝の視点がカリンより少し上を向いている?
一体どうしたんだ?ジュエルシードの魔力は感じていないんだが。

「琥珀」
「?一体なんだ?何かあったのか?」

何時に無く真剣な表情だ。
もしかしたら私が感じ取れていないだけで、何らかの事件が起きているのかもしれない。

「・・・胸、大きくなったな!」
「・・・・・・」

サムズアップする変態の顔に殺意が沸いた。さっきの真剣な顔はなんだったんだ。
しかも、人の気にしている事をズケズケと言いやがる。
もう、ころ・・・

「あっ、カリン」
「シャー!!」

ガブ!と音がするほどに、私の腕から飛び出したカリンは大輝に噛み付いた。
目に余る変態さにカリンも我慢できなかったのだろう。いいぞ、もっとやれ。

「あいて!やめろ馬鹿猫!」
「フッー!!《馬、鹿、猫いったいどれじゃ、このドM変態が!!》」
《仮に変態だとしても、変態という紳士だよ!》
《うわぁ・・》
《ちょっ引くな。冗談だ・・・・っむ!》
「ガブガブ《今度はなんじゃ》」
《・・・中々、気持ちよくなってきたよ。もっとするがいい》
「ニャ!?」

なんで、こいつニヤニヤしてんだ。カリンも余りの気持ち悪い顔に口を離して後ずさってるぞ。

「と、まあ冗談はこの辺にして。・・・琥珀。問題はお茶会の時だよ」
「私がふざけてたみたいで腹立つな・・。それで、どういう問題だ?」

月村家のお茶会で、フェイト・ステイナイト?が現れ、高町が負ける。
その時に、もし私たちの敵が現れた時のことを言っているのだろう。

「もし敵が現れ、何かやばい事をしようとしたら、俺たちは動かないといけない。そして、高町たちに正体がばれる。だから今のうちに言い訳を考えとこうと思ってね」
「まあ、そうだな。今日ジュエルシードの封印をしたから、他の魔導師がいることに気付いているだろうしな」
「それでなんだけど一応考えはあるんだ。俺たちは昔怪我をした次元漂流者を助けて魔法を教わったことにしよう。嘘っぽいけど、それ位しかないでしょ」
「まあ、そうだな。私たちはデバイスを持ってないし、それでいいか」
「うん、後は適当に俺が説明するから話をあわせてね」

いつも思うんだが、こいつは私の事をすごく馬鹿だと思ってないか?

「琥珀は人見知りが激しいし、口下手だからね。俺のほうが口八丁で嘘も上手いから任せといてよ」
「・・あんまり美徳とは思えん言い方だな。まあ、口下手なのは確かだからお前に任すよ」
「任せといて。全部上手くやって見せるさ」


これからどうなっていくか、不安だなぁ。
お茶会は近い。物語の加速もそこから始まる。






[34220] 7.閑話 カリンの思い出
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/05 16:45
岸野家で飼われている猫カリンは、化け猫にして転生者である。
琥珀や大輝と同じく銀髪の女、イザナミによって転生させられた。
当時のカリンは小学2年生で、銀髪の女の言っていることが全く理解できなかった。
ただ漠然と、目の前に現れた女が恐ろしい異常な世界から来た化け物であるとだけ解った。

銀髪の女によって胸を貫かれたカリンは、気がつけば母猫の乳に懸命にしゃぶりついていた。
自らの意識がはっきりとしてから暫くはカリンにとって幸せな時間だった。
カリンは猫が好きだったのだ。そのため、自らが猫になれたことに幸せを感じ、イザナミのことを化け物ではなく神様だったと、無邪気に思いなおした。


しかし、時代は戦国。幸せが長く続くような時代ではない。
その日はカリンにとって突然だった。
カリンたちが縄張りにしていた森を通った野武士の八つ当たりにより、母猫と兄弟猫を殺される。カリンだけは、野武士の面白半分で生かされた。
死が理解出来なかった当時のカリンは、家族の死体の前で一晩中鳴き続けた。
野武士はその様子を見て楽しんだ。自身が眠くなってからはカリンに布を巻きつけ、鳴き声が聞こえないようにした。
それでも鳴き続けるカリンの様子は、野武士の暗い心を満たした。

一晩中鳴き続け、声が枯れ掛けた時、カリンは死をやっと理解した。
そして、自分が人間だった頃を思い出した。人間だった時の両親はどうなったのか?祖父母は?やさしかった姉は?
思い浮かんだ全ての人たちに二度と会えないことをカリンは理解した時、銀髪の女が神様ではなく悪魔だったのだとやっと解ったのだ。
自分が殺されていた事を、面白半分で自らを弄ぶ存在たちの事を。

そうして植えつけられていた魔力と、家族の猫を殺した野武士と自らを殺した銀髪の女に対する激しい怒りにより、カリンは巨大な”化け物”になった。
膨大な魔力は妖気となり、妖怪として生まれたばかりであるはずのカリンの力を、幾年も齢を重ねた妖怪と同等にまで跳ね上げた。
怒りのままに、憎しみの赴くままに、突然の変化にうろたえていた野武士を八つ裂きにしたカリンは、復讐のために銀髪の女を探して日本中をさまよった。
妖怪退治だという陰陽師や、武士たちを返り討ちにしていき、日本において知らぬ者はいないほどの化け猫になった。


やがて日本中の腕の立つものや術師たちは、カリンを倒せぬと悟ると、カリンを封印するための生贄を用意した。
カリンが白髪の老人たちを優先して殺していることから、白子の少女が選ばれた。
白子の少女を人柱にし、その血によって深き地中へと封印する。
数多の術者たちはその封印術の完成に心血を注ぎ、その時を待った。



やがて術者たちにチャンスが訪れる。
カリンの移動ルートを掴んだ術者たちは、その進行途中の村で封印を試みる事にした。
カリンは命を捨てて自らに挑んでくる武士たちに誘導され、術者たちが封印術をしいた村にたどり着く。

誰も居ない村の中央にいた白子の少女がその瞳に映った時、カリンは怒りに我を忘れ八つ裂きにしようとする。
既にカリンにとって、髪が白いというだけで抹殺対象だった。
周りに人間たちが隠れていたことに気付いていたが、所詮人間如きと、気に留めもしなかった。

殺す前に無表情な少女の顔を恐怖で歪ませてやろうと、その巨大な爪を振り下ろしわざと少女の目の前で止める。
しかし、少女はなんの抵抗も反応もしなかった。それどころか、カリンに対して微笑んだ。
その微笑を見た時、カリンは言いようの無い不気味さを覚え少女に問いかけた。

「・・・なぜ抵抗しない?なぜ恐怖しない!?貴様はなんじゃ!?」
「だって、死んだほうが幸せなんですもの」

少女の答えが、カリンには全く理解出来なかった。
 
――死んだほうが幸せ?ならば、あの悪魔に殺された『あたし』は幸せになった?否!母猫は、兄弟は、わしが八つ裂きにしてきたものが幸せだったと言うのか?違う!

「なにが幸せじゃ!死はもっとも恐ろしいものじゃ!!わしはわしに”それ”を与えたものを皆殺しにする!妙なことを言うな!何も知らぬくせに、何も解らぬくせに、死を知らぬくせに!!」
「あなたこそ、『生きること』の何を知ってるの?」
「なに!?」
「あなたは、死んでるのね。うらやましいわ」

ヒュンという音と共に矢が向かってくる。カリンにとっては玩具に等しい。未だにそんなものに頼る人間が馬鹿馬鹿しすぎてカリンは避ける気すらしなかった。
ただ目の前の小生意気で意味の解らない事を言う少女を許せず、自分を転生させた女を思い出させるような少女の無表情を恐怖で歪ませてやりたかった。

しかし、矢はカリンに当たらなかった。ただ、肉を削る音が辺りに木霊する。
カリンが何事かと周りを見渡した時、目の前の少女の胸から矢が生えていた。

「これで、・・やっと・・」
「な・・、なんじゃ・・・?やっと、なんじゃ?」

少女が死に際に呟いた言葉が耳に残り、カリンは動けずにいた。
カリンにとって最も恐ろしい死だというのに、あまりにその少女が、嬉しそうで、満たされた表情で、カリンは気付かぬうちに少女に羨ましいと感じていたのだ。
何故、カリンが恐怖する”死”で少女は幸福になったのか?何を掴んだのか、ただそれだけを知りたかった。


少女の胸から広がった血が、地面に不可思議な文様を作り出す。
広がった文様が回転して混ざった時、円を描かれた地面が黒く染まり、カリンと少女の体を中心に波紋が広がり飲み込んでいく。
しかし、カリンは何の行動も起こさなかった。自分を飲み込んでいく黒より、少女の言葉の続きを、少女を満たしたものを考えた。

「なんじゃ・・・、なにを言おうとしたのじゃ、お主は・・・!!」

こうして二十数年もの間、日本中を恐怖に陥れた化け猫は封印された。
化け猫は白髪の老人を狙って居た事や、放たれていた黒い妖気が炎のように揺らめいていた事から様々な脚色をされ、罪人の死体を持っていく”火車”と呼ばれ語り継がれるようになる。







カリンは暗い大地の中で、その封印が解けるまで、何年も少女の言葉の続きを考え続けた。
その土地は時間によって弱まった封印から漏れるカリンの妖気によって、悪性のものが寄ってくるようになってしまっていた。
封印のために手付かずで残されたままの文化遺産ともいえる村の建物は、暗く恐ろしい様相を見せている。
時を経て現代となり、カリンの封印された土地は有名な心霊スポットとなった。
この土地は、カリンの封印に携わったものたちの子孫たちにより観光地にもならず誰も知らない土地だったが、たまたま迷い込んだ大学生がネットによって、広めてしまったのだ。


心霊スポットとして広まってしまったその場所は、スリルを求める若者たちにとって格好のターゲットになってしまった。
だからこそ、封印が解けるのは時間の問題だったといえる。

やがて、封印のための楔である杭を肝試しで来ていた高校生の少年たちが面白半分で壊してしまう。
そうして、カリンは封印から開放された。
突如現れた巨大な化け猫に、少年たちの1人が興奮し触れようとした。
しかし、カリンから放たれる強力な妖気により少年はもがき苦しみながら死んでしまう。
その少年の苦悶の死に様を見ていた他の少年たちは余りの恐ろしさに必死に逃げ、その事を周りに伝えた。




「もうそろそろか?」
「ああ。やばそうなのがいた時は頼むよ」

カリンを封印した子孫の1人で神職用の袴に身を包んだ神咲真治は、兼ねてから交友がある岸野翡翠を呼び出し、事実確認と少年の生死の調査に向かっていた。

「人間が・・・何ようじゃ・・・」

廃村に居たのはおぞましい妖気を発する、まさに大妖怪だった。
神咲真治の一族にとって火車の伝説はすでに御伽噺、当時の被害の多さも所詮脚色されたものだろうと認識が甘かった。
そのためカリンの妖気の巨大さに、まるで蛇ににらまれた蛙のようにピクリとも動けなかった。

しかし、岸野翡翠は目の前の妖怪を何とも思ってないかのように一歩前に出て、萎縮して動けない神咲真治をカリンから庇った。

「ここに、1人の少年がいたはずだ。どこにいる?」
「・・・人間風情が大きな態度よな。ここに来ていた童など、わしの妖気だけで死んだわ」
「そうか。なら、お前は倒さねばな。真治、やるぞ」

自分に対して戦闘態勢に入った人間に対して、カリンは嘲笑した。
かつての実力者たちがこぞってカリンに挑み、そして無為に死んでいったというのに目の前の人間は勝つ気でいるのだ。
カリンは笑わずにいられなかった。

「・・・人間が何を言うかと思えば、面白い冗だ」

カリンの言葉は頬に走る激しい衝撃によって途切れた。
馬鹿な人間を八つ裂きにしようと腕を振り上げた矢先だった。
カリンは何が起こったのか全く理解出来ずに吹き飛ばされた。

「ぐぅ・・・なんじゃ!今のっ」

カリンが空中で体勢を建て直し、着地した途端に再び同じ場所に衝撃が走り、再びカリンは宙を舞った。
今度の一撃は、カリンの瞳に僅かに映った。
翡翠は、近づいて殴っただけなのだ。
ただ単純な一撃の筈だというのに、何時接近したのか、何時攻撃したのか解らぬほどに極まった打撃。
シンプルであるからこそ、カリンの理解を超えていた。

「ぬっ!・・ぐぉ!かはっ、!」

体勢を何とか立て直そうとするものの、何度も受ける衝撃によって立て直すことも地面に立つことも出来ない。
一撃一撃は妖怪であるカリンにとって大きなダメージにならないが、与えられる大きすぎる衝撃によって体の自由が利かずに、さらに頭を激しく揺られまともに翡翠の姿を見ることすら叶わない。
着実に積み重ねられる打撃により、少しずつカリンはダメージを負ってゆく。

――なんじゃというのだ、こやつは・・!本当に、人間か・・・!?

大妖怪である自身を翻弄する理不尽な存在に、カリンは恐怖した。
初めての敗北に、さらにその先にある死に。

だが、カリンには意地があった。
かつて世を恐怖に貶めた大妖怪として、ただの人間に何も出来ずに滅せられるなど絶対に受け入れられない。

「な・・なめるな!!」

カリンは妖気を無差別に放つ。
ただの人間ならば、触れただけで死に至る猛毒の妖気だ。
カリンを中心に放たれる強力な力によって、高速で打撃を放っていた翡翠は吹き飛ばされる。
だが翡翠にダメージを受けた様子は無く、僅かに服が熔けたように破けただけ。
仕切り直しのようにカリンの前に立った。
力の流れを敏感に感じ取った翡翠は、自ら後ろに跳んで受け流したのだ。

カリンにとって目の前の男は常識外の人間だった。
自分のように特別な力の無い筈のただの人間によって、妖気によって直ぐに治っていくとはいえ、かつて何者にも傷つけられなかった体に傷を負ったのだ。

今度は一瞬も見逃さぬと、翡翠の姿を睨み付ける。

「・・・フッ!!」
「っ!?」

暫くにらみ合っていた2人は同時に動いた。
轟音と共に地面を踏み抜いた翡翠はカリンに再び突撃する。
対して、その攻撃を先読みしていたカリンはその巨大な爪を真横に振り払った。

「・・・!」

だが翡翠はその姿勢を蛇のように低くし、高速で突撃する事によってかわす。決まった筈のタイミングの攻撃を避けられたカリンにとっては、翡翠が消えたのかの様に映ったほどだ。
振り切った右腕をカリンが戻す前に、懐に入った翡翠の拳が腹部に突き刺さる。

爆弾が爆発したような轟音が周囲に響いた。
カリンの腹に走った凄まじい衝撃に僅かに浮くも、今度は吹き飛ばされなかった。
初めから一撃を貰うつもりでわざと胴に隙を作り、腹部に妖気を溜め、足に力を入れ踏み留まったのだ。

吹き飛ばす積もりで一撃を加えた翡翠は、予想外の手ごたえに驚き、初めてカリンの前で隙を晒した。

「むっ!?」
「終わりじゃ!!人間!!」

腹の底から捻り出したような叫びが翡翠の鼓膜を打つ。
カリンは逃さぬように翡翠の逃げ道を右手で塞ぎ、圧し掛かるような姿勢で妖気を放った。
翡翠の服を強力な妖気が溶かし、さらに皮膚を焼く。

絶体絶命の状況だが、翡翠は逆に踏み込んだ。
足に渾身の力を込めて大地を踏み抜き、その拳に全霊を込めた。

「!・・・ォオオオッ!!」
「ぐっ、なんじゃ・・・があああああ??!!」

翡翠の全霊が込められた拳は、翡翠を死に至らしめようとした妖気すら押し返した。
翡翠の拳もカリンの妖気によってその体に届いていない筈だと言うのに、カリンはその衝撃によって吹き飛ばされ、さらにこれまでとは比較にならないダメージを負った。
まるで内側から裂けてバラバラになってしまいそうな程、強烈な一撃だった。

「・・・ぬ、くぅ・・!」

吹き飛ばされたカリンは、ほぼ水平に後方に吹き飛び家屋に激突し、さらに突き抜けその後ろの家屋にぶち当たって漸く止まった。
カリンの通過した場所は抉り取られ、大量の土煙を起こした。
埒外のダメージにカリンは立つ事も侭ならず、そのままの体勢で土煙の先にいる翡翠を睨み付ける。

対する翡翠も、カリンの妖気によってダメージを負っていた。
上着は全てが破け、その鋼の様な肉体が露出している。肌の所々に火傷の跡のような傷が出来ていた。特に殴りつけた右手の怪我が酷く、ぼたぼたと血が流れ落ち、骨が見えるほどだ。
だが翡翠は痛みを堪える様子も無く、油断無くカリンが吹き飛んだ場所を睨みつける。

その翡翠の隣に、神咲真治が並び立つ。

「真治・・もういいのか」
「あ、ああ。ホントに僕1人だったら一瞬で八つ裂きだったよ。だけど、もう終わりだ。ご先祖に感謝しないとね」

翡翠と共にいた、今までカリンが目をくれてもいなかった霊能力者、神咲真治が地面に手を着く。
同時に未だダメージによって立ち上がれないカリンの真下に不可思議な文様が浮かび上がった。
かつてカリンを封印した術だった。
カリンの体を地面へと引き摺りこむべく、漆黒の影が大口を広げる。

「また、これか!お、おのれ!!うがあああああ!!」

しかし、今回カリンは封印に抵抗した。体に宿る全ての力を解放し、迫り来る”黒”を弾き、渾身の力で黒の泥から足を引き摺りだした。

「!な、うそだろ!これほどの封印を・・なんて奴だ!」
「・・・わしはあの娘の言葉の続きを知らねばならんのだ!!・・邪魔をするな!」
「!」

ほとんどの力を使い封印の全てを弾き飛ばしたカリンの目に映ったのは、再びその豪腕を振りかぶる翡翠の姿だった。
カリンは自分の終わりを悟った。皮肉なもので今まで殆ど見えていなかった攻撃が最後の瞬間にゆっくりと見えたのだ。

――これで、やっと・・・!今、わしはあの娘と同じ、この想い、これが・・・・

そして、カリンの意識は途絶えた。





「封印で小さくなっているとはいえ、その子は伝説の大妖怪なんだよ」
「構わん。娘に世話をさせる」
「いや、何言ってんの!危険だよ!今回だってこんなに上手くいったのは、封印が解けて間もなかったからだ。二度目は無いかも知れないんだ」
「もう決めた事だ」
「・・ぐ、・・・・・はぁ、わかったよ。言って聞くような君じゃないしね」

カリンが再び目覚めた時、目に映ったのは白い壁に囲まれた鉄の檻と大きな人間たちだった。

「な!何じゃこれは!!・・人間!何をした!」
「起きちゃったよ」
「そうだな」

自分の力が全く出せない状況、そして自分より大きくなった人間たちの姿にカリンは混乱した。
目の前の人間たちに言いようにされて堪るかと、噛み付くように叫んだ。

「何をしたと言ってる!」
「簡単に言うと君の力を封じたのさ。その影響で君は小さく弱くなった」
「それと、お前は家の飼い猫になった」
「何!?何を言ってる!殺せ!辱める気か!」
「敗者に選択権など無い。お前は家の娘に世話をさせる」
「な・・」

カリンは翡翠が正気とは思えなかった。自分を殺さずに生かす意味も、自分の娘という大切なものと合わせる意味も全く解らなかった。







「ただいま」
「おかえりなさい、翡翠。!?手、怪我してるの!?」
「問題ない。もう、治療は済んでいる」

岸野翡翠の家に着くと、玄関から翠色の髪の女性が現れる。翡翠の妻、クロエだ。
翡翠の手に巻かれた包帯を見ると、顔色を変えて駆け寄ってくる。
戦国の時代どころか、前世でもお目にかかった事のない鮮やかな翠の髪に、カリンは困惑した。
おそらく、この女性は翡翠の番であろうとカリンは当たりをつける。

「・・・本当に、大丈夫?」
「ふ、嘘を言ったことがあったか?」

そういう、翡翠をクロエはジト目で見つめる。

「結構あるわよ」
「む、・・・まあ、大丈夫だ」

妻のジト目を受けて翡翠はうろたえ、目を逸らす。ののヮ

「クロエ、こいつは琥珀への土産だ」
「あら」

とにかく話題を逸らそうと、翡翠は左手に持っていたカリンの入ったケースを差し出した。
ケースから覗く黒猫に、クロエは頬を緩め自分の後ろに隠れていた5,6歳の少女を翡翠の前に出す。

「ほら、琥珀。隠れてないで、パパにただいまって言いなさい」
「お、おかえりなさい。ぱ・・・パパ」

顔を真っ赤にしながら、照れくさそうに翡翠をパパと呼ぶ少女に翡翠は顔を緩ませる。傍から見れば小さな変化であるが、翡翠は物凄くうれしがっていた。
4歳の時に熱を出して寝込むまで、どこか遠慮していたような少女はぎこちないながら素直に翡翠とクロエに甘えるようになってきていた。
それまでは情緒不安定で何時も泣いていて、翡翠は心配でしょうがなかったのだ。

カリンは目の前の少女が自分と同じ”もの”であると、本能的に気がついていたが、翡翠に伝える気にはならなかった。
決して翡翠の喜ぶようなことはしてやるまいと考え、この少女にも自分の正体を教えず、絶対に仲良くしてやるまいと思った。

「土産だ。琥珀。猫を飼いたがっていただろう。こいつなら、お前の護衛も出来る」
「翡翠?猫が護衛って?」
「ふむ、クロエ、後で話す」

カリンはゲージから出され、翡翠の大きな手によって琥珀の前に差し出される。
琥珀は母と同じ金色の瞳を見開いて目の前の猫を凝視する。

カリンはその金色の瞳を見るとなんとなく落ち着かなかった。
恐怖も、怒りも、憎しみも負の感情が全く無い目。かつての少女のように全ての感情が抜け落ちたような目とも違う。翡翠が先の戦闘で向けていた決意と強い意思の目とも違う。
かつて人間だった時に自身が持っていた”目”だった。
琥珀は恐る恐るといった様子で、翡翠の手からカリンを受け取った。

「名前はなんて言うの?おと・・・ぱ、パパ」
「ふむ、”火車”だったか?」
「かしゃ?」
《おい》
「む」

カリンにとって全く喜ばしくない名前にされそうだったので、妖気による念話で翡翠に話しかける。

《術だ。頭で思い浮かべればいい。それと、わしの名前はカリンだ。妙な名前にするな》
「《そうか》琥珀、カリンだった。さっきのは間違いだ」
「カリンね、かわいい名前ね琥珀」
「そうだね、お母さん!」
「ママね、ママ!」
「う、・・・ま、・・ママ」
「うん。よろしい!」

これがカリンと岸野家の出会いだった。
それから、カリンは琥珀と常に共にいた。翡翠はカリンが外に出ることを認めなかった為だ。
そのことを、疎ましいとは思うものの、敗者である事や封印により力が出せないためから、逆らうことはしなかった。
ただ、何時かはこの家を抜け出し嘗ての力を取り戻そうと画策していた。

琥珀はカリンのことを極度に構ったりせず、やりたいことをさせていた。
時たま触ってきたり、クロエや翡翠がいないことを確認して猫の鳴きまねをして話しかけたりしてきた。その時は、顔を真っ赤に染めつつも話しかけてくる琥珀に和んでしまい、ついカリンはニヤニヤとしてしまった。それを、喜んでいると勘違いした琥珀は「にゃ~」と、よく鳴きまねをするようになった。
もちろん、クロエによって琥珀の気付かぬうちにビデオで撮られていたが。

どこにでもある、家族の穏やかな時間。
岸野家のことを観察していたカリンは、何時しか人間だった時の家族のことを思い浮かべるようになった。やさしく明るく接してくるクロエは”母”、翡翠は――不本意ながら――無口でありながら頼れる雰囲気から”父”、不器用ながらも両親に甘える琥珀はかつての”自分”を感じていた。
特に琥珀に対しては自分と同じ存在でありながら、ごく普通の子供であるような姿をカリンは何時しかうらやましいと思っていた。
白子の少女のことを考える時間はだんだんと減っていった。



「カリン。少しは、”あの娘の言葉”とやらはわかったか?」

3ヶ月が過ぎ、夜、琥珀が眠りについたあとにリビングのソファーで丸まっていたカリンに翡翠が話しかける。

「そのために、わしを生かしたのか?人間」
「そうだ。あの時、お前の意思に俺は負けた」
「・・・・・わからぬな、何も」

カリンは封印された当時のこと、自身が妖怪になった理由を翡翠に語った。

「・・・そうか」
「あの時・・・お前にやられる前、わしも同じ想いが思い浮かんだはず。あの時は、解っていたはずなのに、ここに来て解らなくなった」
「そうか、なら、それでいいのではないか?」
「なに?」
「それは、解らぬほうがいい。・・・。明日からは外に出ても構わない。ただ、お前の家はすでにここだ。覚えておけ」
「待てっお前には続きが、あの想いが解るのか!」
「おそらくだが。だがな、カリン。お前は今、幸せか?」

翡翠の思いもよらない問いかけに、カリンは今を思い起こす。
自分を優しく撫でる琥珀、そして優しい目で見守るクロエと翡翠。
かつての復讐のみに囚われ殺し殺されの世界に居た自分と比較して、一目瞭然だった。

「ああ」
「お前は既に生きることを知った。”娘”は生きる事に絶望していたんだろう。それしか知らなかったから、お前が妖怪になった時と同じ、その想いしか知らなかったのだろう」
「・・・」
「だからこそ今のお前には続きの言葉は不要だ」
「そうか・・・、そうじゃな。その通りじゃな。だからか、あの時気になったのは、羨ましかったのは。そうじゃったのか・・・」
「もう、遅い。寝るぞ。・・お休みカリン」
「・・・うん、お休み”翡翠”」
「!・・・ああ」


 
――あの娘と同じだったわしはもういない。二度の喪失はわしに力を与えた
   あの連中には、一応感謝してやる。もう一度出会ったら八つ裂きだがな。
    それと、あの娘には冥土であったら”もったいないことしたな”って伝えてやる。     
     もうわしは手放しはしない。わしがかつて憧れた猫らしくわがままに、そして妖怪らしく傲慢にな。 


その日、カリンは久しぶりに家族たちの夢を見た。かつて人間だった時の家族、ただの猫だった時の家族、そして、”今”の家族。どの家族との時でもカリンにとって、幸せな夢だった。




 


あとがき

作者の中二具合が伺えるお話でした。
ついでに翡翠とカリンは最強クラスのキャラなので、無印では出番がないです。たぶん。やっぱ出すかも。
神咲真治が使った封印に、何であれだけの力があるのかというと、あの下にはまだ、少女が埋まっているからです。
あと、真治はかなり優秀な設定。スーパーな霊能力者です。
このあと、廃村には慰霊碑が立ちます。真治は翡翠がカリンを連れ帰る時、様々な苦労をしました。文句を言う真治の親戚が、翡翠に挑んで返り討ちになるので。




[34220] 8.黒幕っぽい奴がきた
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/07 00:05
高町たちがお茶会をする当日。
私たちは月村邸の森の中に息を潜めていた。
というか、この家の防犯グッズの多さはどうにかして欲しいものだ。
魔法が使えない人間では決して発見されずに入ることは出来ないだろう。
実はヤーさんなのではと戦々恐々している。それなら、あの時の月村の凄みも納得だ。

ばれない様に気を張りつつも隠れなければいけない苦労は、以前の世界では味わえないものだろう。
茂みの中は虫が多いので私は常時鳥肌ものである。
サーチャーによって見える高町たちの楽しそうな様子に自分が惨めな気分になってくる。不思議っ!


―『あのね岸野さん。今度の週末にすずかちゃんの家でお茶会をするんだ。良かったら一緒に・・・・。あっ、上谷君もいっしょにどう?』
 『いいの『悪いけど、週末ははずせない用事がある。また今度誘ってくれ。』か・・・い・・』


なぜ、あの時断ってしまったのだろうか?髪の毛に付いた葉っぱを取りながら、遠い目をしてしまう。

「いいなぁ、おいしそうなクッキーと紅茶だなぁ。・・・誰かさんが断っちゃうからなぁ」
「うるさい、馬鹿。黙れ、馬鹿。アンパン食ってろ」

隣の馬鹿が何か言ったので、買っておいたアンパンを口にねじ込んだ。
こういう張り込みには、アンパンが必須だよね。

「もぐ、全く、いくら苦手だからって。そんなんじゃ将来苦労するよ琥珀」
「うぐぅ・・・で、でもいきなりお茶会に参加って無いだろ。そんな親しくないもん」
「ソウダネ」

ちくそう、このやろうめ。おのれ、ジュエルシードめ。発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ発動しろ・・・・。

「来た・・・!」
「サーチャー、まわすよ」

ジュエルシードの発動時に生じる魔力の波動が体を突き抜ける。私の思いが通じたようだ。この状態を脱却できるまさに御褒美だ。
サーチャーで確認できた今回の暴走体は巨大猫のようだ。
暴走体のかわいらしい巨大猫に感謝のモフモフを行いたい。
というかぜひ触らせてもらいたい。

「暴走体はちゃんと猫だったよ。大きくなってる。周りの警戒に移るね」
「わかった。高町たちも気付いたようだ。ユーノが猫のほうに向かっている」

それにしてもでっけえ猫だな。あのままお持ち帰りしたいなぁ。
家のカリンもジュエルシードをあげたら大きくならないかな。そしたら存分にモフモフさせてもらうのだ。

『にゃっ!大っきいネコさん!?』
『この子の大きくなりたいっていう願いをジュエルシードが叶えたんだ!なのは、封印を!』
『うんっ!任せてユーノ君』
『気をつけてね。僕は周りを警戒するから』

やはりユーノは、こないだの事から魔導師を警戒しているようだ。
ユーノは高町から離れ、一番近い木の上に登り、枝の上から周囲の警戒をする。
高町もセットアップを行い、猫のジュエルシードの封印をしようとするが、猫ののほほんとした様子に戸惑っている。
高町は攻撃を躊躇してるみたいだ。
よかった。私の高町への好感度が、結構上昇したぞ。
躊躇無く攻撃するような奴だったら、学校で2度と会話しないつもりだったし。

「琥珀。フェイトが来たよ。妨害する?」
「いや、操る奴が気になる。下手に動かないほうがいい。何時もの”奴”はまだいないな?」
「うん、発見できない。確かに今回は何かあるかもしれないね」

今まで必ずどこかで見張っていた、操られた人間が見当たらない。
もしかしたら、今日は本体が来るかもしれない。
その時は必ず捕らえなければ。

「ほら、フェイトはあそこだよ」

大輝が自分のサーチャーの映像を私に見せた。あれがフェイトとやらか。木の上でマントをバサバサやってる。
バリアジャケットはレオタード?恥ずかしくないのかな?
少なくとも私にあんな格好出来ない。

「ん?」
「攻撃態勢に入ったね」

攻撃態勢?何か魔法を放とうとしてる?
何をする気だ?
ま、まさか、あの可愛らしいにゃん子に攻撃する気か?
いや、に、人間ならそんな事出来るはずがない、うん。

『なのは!魔導師が来た!』
『あ!ネコさん!』
『に゛ゃあ゛あああああ!!』

ああっ猫が!!
あいつ、人間じゃねぇ!!
なんて奴だ、フェイト・ステイナイトめ!私の中の評価がワースト1に輝いたぞ!
奴は犬派の尖兵のようだ。あの可愛らしい猫に躊躇なく攻撃を行った。
しかも、電気の変換資質の魔法は猫を必要以上に苦しめているように見える。
猫派の私としては、奴を必ず仕留めなければなるまい。

『ジュエルシード頂いていきます』
『待って、君はだれなの!』
『・・・・言う必要はありません』

高町と見詰め合ってるフェイトに人差し指を向け、魔法詠唱を行う。

「・・・・ぶっころ」
「タイム・・!!・・何してんの!?」

今が好機と放とうとした途端、後ろから羽交い絞めにされ狙いが定まらない。

「琥珀、落ち着いてっ・・・!それ不味いって・・・!猫は生きてるって・・・!」
「ええいっ、HA☆NA☆SE!!」

大輝め!こいつも犬派だったか、裏切り者め!
いいだろう、お前たちが猫を苛めると言うのなら、私が犬派をこの世から消し去ってやる・・・!

第一高町もなんだ!
苦しんで倒れている猫を気にせずフェイトばかり見おって!目と目が合った時、好きだと気付いたのか!?


『待て』
『『!!』』

「!何時の間に!!」
「琥珀!落ち着いて」

何時の間にかローブのようなものを着た赤い髪の男?が、あの2人の間にいた。
私は直ぐに飛び出そうとするが、大輝にさらに強く抑えられて止められてしまう。

「奴の目的も、能力の詳細も、今までの奴なのかもまだわからないんだ。不用意に姿を見せちゃだめだ!」
「う・・・すまない・・」

確かに、その通りだ。冷静さを失って突っ込むところだった。

ローブから見える奴の顔は今までの操られた奴のように生気が無い。
これでは本体なのか、それとも今までの様に操られた人なのか解らない。
しかし、今までと違い行動を起こしたのだ。こちらも倒す用意をしなくては。

『あなたは何者ですか?・・・以前のジュエルシードの発動を止めたのはあなたですか?』
『・・・・・・』

ユーノの問いかけを無視して、男?は高町とフェイトを見比べる。

『金髪のコレクションは少ない。茶色は別にいいか』
『あなたは?この子の仲間?』

フェイトが不審な男にデバイスを突きつけながら言う。自身の前に何時の間にかに現れ、ブツブツと喋る男を警戒しているようだ。
男は武器を突きつけられている事を、全く気にせず高町のほうに向き直った。

『そこの金髪。さっさと行け』
『!・・』
『まって!』
『待って!それは、ジュエルシードは危険なんだよ!』

男は高町の前に立ちふさがりながら、フェイトに告げる。
フェイトは男のことを気にしながらも、この場を去っていった。

『あなたは誰です!』
『お前たちはコレクションに要らんな。”茶色”はすでにいいのを持っているしな』

ユーノが高町と男の間に割り込んで問いかけるが、あれはまずい!!
なんてもの持ってるんだ!

「琥珀!!」
「ああ!行くぞ!」

何処の戦争ものの映画ですか、それはっ!
直ぐに”加速”に入った私は、ユーノと男の間に高速移動魔法で割って入り、男のローブから現れた巨大なガトリングの弾丸を防ぐ。
ローブから銃口が現れたときは、防がないといけないと解っていても恐ろしくて手が震える。
さらに”加速”の能力で動きがゆっくり見えるから恐怖倍増だ。
私に3秒ほど遅れて、大輝は男の上方に移動してから魔力弾を放って男を仕留めようとするが、あっさりと後方に下がってかわされてしまう。

「ぐっ・・・重い・・!!」

ガトリングから放たれた弾は、私のプロテクションにより弾かれる。しかし、予想外の連射力と威力を持っていた。
ガトリングはその凶悪な見た目以上に強力な威力だ。7,8発の弾丸でプロテクションに簡単に皹が入った。
皹が入った途端、不味いと思った私は新たにプロテクションを2枚作り出した。これは、加速能力が使える私の反射神経あってのものだ。
防ぎきった時には、1枚目が破られ、2枚目に皹が入り後僅かで破られていただろう。
あと少し、大輝が攻撃するのが遅かったら私は穴あきチーズになっていたかもしれない。私のプロテクションは強力なはずなのに。
おそらくは、ただの弾丸ではない。通常の弾丸よりも強力になるような仕掛けが必ずある。

「・・・・なに?」
「き、君たちは・・・・?」
「き、岸野さん・・?上谷君・・?」

高町たちが驚いているようだが、正直余裕が無いので無視する。私はこいつから目を離さない。
なんの躊躇もなく高町たちを殺そうとした。こいつは危険すぎる。
今すぐ斬りかからないのは、私自身が恐れているからに他ならない。未だに手が震えて集中できず、魔力刃を発生できないからだ。
こんな異常者、本当に係わり合いになりたくなかった。

「おまえたちか。へぇ、これはラッキーだな」

この男のローブから覗く私たちを見る目は、まるで珍しい玩具、商品を見ているかのようだ。
この気持ち悪さ、会ったばかりの大輝の目より気持ち悪い。

「何を言ってるんだお前!」

大輝が横から白色の砲撃魔法を仕掛ける。ほぼ抜き打ちではあるものの、牽制の威力ではなく本気の砲撃魔法だった。

「何!?」

だが、男が一瞬で張った赤色のプロテクションはそれ以上だった。左手を掲げて張られたプロテクションはとても一個人が使えるようなプロテクションじゃない。
込められた魔力の桁が違う。大輝の砲撃はいともあっさりと防がれてしまった。

「ふふっ、今は引いておく。俺もベストじゃないからな」
「っ!待て!」

《準備が整ったら、迎えに来てやる》

突如男の姿が揺らいで消える。
私は恐怖を押し殺して能力を発動し、手に魔力刃を発生させ切りかかる。
だが、奴が消えるほうが早かった。私の魔力刃は僅かに届かず、ただあいつの来ていたローブの切れ端が宙を舞った。

「!転移魔法、展開速度が桁違いだ・・・。突然現れたように見えたのはこれのせいか、並みの魔導師じゃない」
「琥珀!怪我は無いか!」
「大丈夫だ。プロテクションは破られてない」

逃してしまったけど、正直助かったかもしれない。
今戦闘に入っていたら、私がまともに動けていたかの自信がない。
殺されるかもしれない戦闘なんて、本当に勘弁して欲しい。
頬を伝う汗が気持ち悪い。

「あの、岸野さん?上谷君?」

高町の声でハッとした。
まだ此処が安全というわけでもないのに何安堵してるんだ。

「場所を移す。あんな奴はさすがに予想外だ。転移する」
「え!ちょっとまって」
「きゅっ!っく、苦しい・・もっと、優しく、掴んで・・!!」

狼狽する高町たちを掴み寄せ、転移魔法を発動した。緊張していたせいかユーノを強く掴みすぎた気もするけど、大丈夫だろう。うん。
転移した場所は私たちの秘密基地だ。
ここの防御力は魔法の結界を張っているため中々ある。私たちにとって一番安心できる場所だ。
この場所を知っているのは、カリンと大輝と私しかいない。

「にゃ、こ、ここは・・?」

大輝は未だに混乱している様子の高町たちへの説明のために、高町たちの正面の座布団に座る。
私も大輝のとなりに座り、高町たちにも座布団に座ることを勧める。
動きの止まっていた高町は私に勧められてやっと、ぎこちない動きで座布団に座った。ユーノは高町に渡している。

「聞きたいこともあるだろうから、俺たちから言えることはちゃんと言うよ」
「上谷君と、岸野さんも魔導師なの・・・?」
「そうだよ。事情があって、ある人から2年前に教わったんだよ」

取り合えず、以前の打ち合わせどおりに大輝に会話を任せ私は相槌を打つことにした。
しかし、さっき奴には本当にびびった。大体なんだあれ、あんなもの片手で撃つなんてターミネーターかよ。

「ある人って誰なんですか?君たちは管理世界の人じゃないんだよね?」
「その人は次元漂流者だったんだ。怪我をしていたのを俺が見つけて、治療のお礼に教わったんだよ。琥珀には俺が教えちゃったんだけどね」

ユーノは此方を信用仕切れていないのか、高町の正面にその二本足で立って様子を伺っている。
どうでもいいが、骨格はどうなっているのだろうか?
また、新たな謎が生まれた。トリビアとかに投稿したい。

「あの・・なんで今まで黙っていたんですか?」
「それは、俺が君を疑ってたからだよ。ユーノ君」
「え!」

ユーノと高町が驚いている。かくゆう私も驚いているが、なんとなく納得した。
恐らくだが、先に此方から疑うことによって、ユーノの不信感を逸らすのだろう。

「君があのロストロギアを使ってこの世界で何かしようとしているとか、高町を騙しているとかね」
「ち、違います!僕はジュエルシードの被害を食い止めるために・・」
「ユーノ君はそんなことしないよ!」

責任感の強い奴なのだろう。”高町を騙しているとか”の件で一番動揺していた。
ユーノが疑われた時、未だ混乱している様子だった高町は中腰になり、怒りの表情で大輝に食って掛かる。
高町が如何にユーノを信じているかが伺える。

「まあ、ここ数日で、ある程度信用してもいいかもと思っていたんだけど、それだけじゃないんだ」
「?それは?」
「今日の男だよ」
「!彼はいったい何者なんですか!?それに、あの少女も!」
「何者かは俺たちにも解らないけど、君たちを監視していたのがここ数日いたんだよ。俺たちはずっとその監視者を警戒していたんだ」
「か、監視者って・・?」
「ロストロギアの発動のたびに違う人物で、みんな生気の無い顔をしていた。恐らく、今日の男に操られていたのだと思う。だから、迂闊な行動をとれなかったんだ」
「そ、そうなんだ・・」

一応の納得を2人はしたようだ。
まあ、あまり嘘を言ってないし、こいつらに危害を加える気は本当にないのだから、当然といえば当然で。
なぜ、魔法を私たちが使えるかという最大の疑問点からも関心を逸らしている。
たいした奴だ・・・・。やはり天才・・・。
あっ、私が言われるはずだった台詞を思い浮かべてしまった。
この台詞、とても印象に残るし、私の語彙が乏しいせいもあるけど、全くたいしたこと無くてもついつい浮んでしまう。
口には出さないけど。

「えっと・・、この前の発動したジュエルシードを止めたのはあなたたちですか?」
「そうだよ。街中だったからね。焦ったよあの時は」
「あの、そのジュエルシードは?」
「俺が持ってるよ。管理局の人が来たら直接渡そうと思ってね。理由はわかるでしょ」
「・・・はい」
「え?え?どういうことなの?」

高町はやっぱりちょっとあれだな。
まあ、大輝ははっきりとは言ってないからな。
ユーノは自分が信用されてないとか、今日の男を警戒してとか色々と思ったはずだ。
しかし、そろそろ時間的にお開きかな。

「大輝、そろそろ高町たちを帰さないと」
「そうだね、まだ聞きたいこともあると思うけど、これ以上時間をかけると、君たちが心配されるからね。また、学校で」
「えと、わかりました」
「え?え・・?」

高町が未だに混乱しているが、言っておくべきことを言わないとな。

「それと、あの男が現れたら直ぐに私たちに連絡してくれ。正直危険すぎる。決して、自分たちだけで対応しようとするな」
「はい、必ず」
「じゃあ、送るぞ」

オロオロしてる高町はともかく、ユーノのほうが確り頷いたから多分、大丈夫だろう。
サーチャーで確認していた誰もいないさっきの場所に高町たちを送る。
しかし、私たちは警戒を解かない。

「これからは、普段から警戒が必要だな。顔を出してしまったから」
「そうだね。あと、これからは高町たちと一緒に行動したほうがいいね」
「えっ゛、ソウカナ?」

確かに高町たちの護衛をしないと何されるかわかったものじゃないし、危険だけど、一緒に?マジ?

「ふふ、苦手を克服するいいチャンスじゃないか」
「う、・・はぁ、仕方ないか・・・」
(これで、琥珀の人見知りも緩和されるといいんだけどね。未だに俺ぐらいとしかまともに話そうとしないし。)


何かこいつ、したり顔してやがる。ドヤってか。
まあ、気にしても仕方ないか。何かムカッて来るけど。
それよりもあの男だな。私たち2人で倒しきれる、かな・・?

「あの男についてなんだけど。あの弾の威力はかなり異常だった。プロテクションだってそうだ。私たちの魔力量的にもかなりおかしいぞ」
「なにかカラクリがあるって事か・・・。あの出力に対しては一応対応策があるよ」
「どんな?」
「俺の能力。魔力を他の人に借りればあの出力でも突破できるし、あいつの使ってたのも魔法だから接近して触れれば能力で崩せる。・・・ただ、あいての能力の詳細がわかってないか

ら、迂闊なことはお互いしないようにね」
「そうだな。今日も最初から”加速”で突っ込んでたら私がやられて終わってただけだろうしな・・・」
「まあ、これからこっちの味方も増えていくはずなんだ。そうなればかなり優位に立てるはずだ。あまり、思いつめたりしないようにね」

「わかったよ・・」

大輝はこう言っているが、いざというときは本気で対価を払わないとな。
でも、面倒な成長をはじめた体が若返るのはちょっと魅力的かもしれない。







[34220] 9.友達が増えた?
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/08 21:00
月村家のお茶会で琥珀たちが戦闘を行った日の夜。
岸野家のリビングの明かりはまだ消えていなかった。
時間は、10時。
大人のように振舞っていても体は所詮子供、眠くなった琥珀はすでに2階の自室にいる。

「カリン。今日は何があったの?」

リビングのソファーに座った長い毛の黒猫に問いかけるのは、琥珀の母、クロエである。
疲れきった様子で帰ってきた娘をずっと心配していたが、当の琥珀は何でもないの一点張り。不安で仕方なかったのだ。

「かなりの戦闘能力を有した男に高町が襲われた。殺されかけたところに琥珀と大輝が割って入ったが、その男は戦闘をやめ、瞬時に転移した。戦闘者としての能力は琥珀より上だろうな。躊躇なく殺人が出来る奴でな。あと、普通の人間ではなかろう。肉の匂いがほぼ無く、鉄の匂いがした」

「!」

カリンから告げられた事実はクロエにとって衝撃過ぎた。あまりの事実に言葉をなくし、眩暈すら覚える。
自分の大切な娘が、そんな異常者と接触していたのだ。
今すぐ2階にいる琥珀を呼んで、叱って、危ない事に関わらせない様にしたかった。

「カリン、お前が仕留めなかった理由は?」

今まで、クロエの隣で腕を組んだまま目を瞑っていた翡翠が、カリンに言う。
冗談は許さんとばかりの気迫は、カリンが圧迫感すら感じるほどだ。

「はっきり言うと、琥珀の経験値にしようと思ってな。まだ、奴1人なら琥珀と大輝で対応可能なレベルじゃ。これから先、あの2人が何らかの目的をもっているなら過保護にしすぎるわけにもいくまい」

カリンの言う、琥珀の目的というものも解らないが、クロエにとっては危険に関わらせる事事態が納得できない。
第一、ジュエルシードという危険物に琥珀が関わる事自体、クロエは反対だったのだ。
親にとって、子供が命に関わる事をしているのなら止めるべきだと、過保護でもなんでもないとカリンに食って掛る。

「でも!そんな奴に娘が関わる必要なんてないじゃない!他の事ですら十分危険なんでしょう!」
「クロエ、わしならあの男を直ぐに殺せる。もしもは無い」
「そんなことを言ってるんじゃないわ!」
「クロエ、落ち着き無さい」
「でも、翡翠!」
「クロエ」

激昂していたクロエを翡翠が抱き寄せ、しばらくの間、クロエの背中を撫でる。
翡翠の手のひらを感じ、高ぶっていた感情をクロエは落ち着かせた。
クロエが落ち着いたのを見計らって、カリンは自らの考えの続きを語った。

「確かに、殺し殺されの世界なんぞ琥珀が知る必要もない。だからこそでもある」
「琥珀を怖がらせ、もう関わらせないようにしようと言う訳か」
「乗り越えるならば、それでも良い。乗り越えられなければそれもまた良しじゃ」
「・・・・」
「あやつは、魔法という羽を持っている。今のままではどこぞに飛んでいって死んでしまうかも知れん。だからこそ、幼い雛鳥の内に、わしらの手の届く範囲で教えねばなるまいと思った。琥珀の羽を奪うにしろ、成長させるにしろあの男はちょうど良い糧という訳じゃ」
「・・・そうか」

翡翠はクロエを抱いたままソファーに深く沈みこむ。
天井を見詰めながら、琥珀に魔法の才があったことに憤りを感じていた。

「なぜ、琥珀には・・」
「あなた・・・」

魔法さえ、そんなものさえ無ければ、と思わずにはいられなかった。

「・・だれにでも、もって生まれたモノを活かすことは、人にとって一番の喜びじゃ。あまり、琥珀の才を不幸だと思ってはいかんぞ」
「解ってはいるが、納得は出来そうにないな・・・」
「・・・そうね」

カリンは話は終わったと、ソファーから飛び降りドアまで歩いて振り返った。

「わしはもう寝る。現状維持を続ける。それでよいな」
「・・・・・・・・・ああ。もしもの時は頼むぞ」
「うむ、まかせよ。琥珀に傷1つ、つけさせんさ」

カリンは琥珀の能力については翡翠とクロエには教えなかった。
もし、教えてしまえば翡翠とクロエは琥珀と話をしてしまう。
それではだめなのだ。
翡翠とクロエはきっと、琥珀の能力すら受け入れる。
しかし、翡翠とクロエが”知らない”ということが、琥珀の抑止力となっているのだ。
翡翠とクロエが受け入れてしまえば、能力を使うことへの忌諱感が弱まってしまう。
だからこそ、教えることが出来ない。

――難儀なものよ。あの銀髪には本当に、何倍にもして返さねば気が済まぬな。
   それに、あの男。簡単にいけば良いが・・・。やはり、仕留めておくべきじゃったか。












何故かは解らないが、朝起きたらお父さんとお母さんにギュッとされた。
ちょっとうれしいと感じているあたり、私もあれだと思う。うん、あれだよ。なんだよ、こっちみんな。
理由を聞いてみたんだが、かわいかったからだそうだ。明らかに誤魔化してるでしょ。
昨日遅くまで起きてたみたいだから、映画でも見てて影響されたのかな?
何で遅くまで起きていたか知っていたかって?・・・・カリンが来てくれるまで中々寝付けなかったのだ。
何か1人じゃ中々寝付けないんだよなぁ。





月村家でのお茶会で謎の男に襲撃された私たちは、常にお互いをカバーできるように一緒にいることにした。

転生なんてして、小学生をやり直してる私ではあるが、苦手なことなんていっぱいある。
たとえば、目の前にいる3人組とかだ。
どんなチート能力を持っていようと、人間関係にはまったく役に立たない。


「あのね、岸野さん。私の事名前で呼んでね?」
「あ、ああ」
「なら、私の事もアリサでいいわ!私も琥珀って呼ぶから」
「あ、ああ」
「私もすずかって、呼んでね。ね?」
「あ、ああ」

という、具合に押しに押されていた。というか、恐怖を感じた。
大輝というシールドを張ってはいるが、そんなもの意味無いぜと言わんばかりに回り込まれてしまった。

「あの・・、私めは・・・?」

そうだよ、大輝シールドも相手してあげて。
ていうか、そっちとお話して。

「あ、ごめんね上谷君。居たんだ?」
「あ、居たの。あんた」
「ごめんね、視界に映らなくて」
「ぐっ、はぁ!」

ひでぇ!いたよさっきから!大輝シールドが破壊されてしまった。
まあ、すぐに”気持ちいい”とか言って復活するだろう。大輝だし。
というか、月村「琥珀ちゃん?」・・・こわっ!エスパー!?・・、すずかのが一番心に響くね。

「それより、あんたたち何かあったの?琥珀、結構私たちを、っていうか大輝以外避けてるのに」
「いや、・・バニン「アリサ」・・アリサ。高「なのは」まち・・・なのはと一緒に探し物を探すことになったから、予定の確認をしようと思っただけだ」
「探し物って?」

さて、とりあえず言い訳をしないとな。
しかし、これ変な誤解を生みそうでやだな。

「私の大切なものなんだ。ただ、大勢に知られるのは恥ずかしいから、聞かないでくれると助かる」

もちろん高町とは打ち合わせなんてしていないので念話で伝える

《合わせて》
《え?えと、えと、わかったの!》

急に念話したからって、キョドりすぎだろう。しかし、あのツインテールは何で出来てるんだ?というか、顔を動かしてないのに何故動く?

「なのはには、この間大輝と一緒に探してるのを見られたから、手伝ってもらうことになってしまったんだ」
「そ、そうなんだよ、アリサちゃん!」

だ、だめだ、こいつ、キョドリすぎだろ・・・。
もう、”私、隠し事あります!”って言ってるようなもんでしょ!

「ふ~ん。それでね~。最近なのはが、放課後の付き合い悪いのはそのせいな訳ね」
「そうだったんだ。う~ん、私たちに知られるのはだめなの?」

あんまり疑われなかったみたいだ。
2人がお人よしで助かった・・・。

「すまない。本当にたか・・・なのはに見られたのは偶然だったんだ。口止めも私がしていたんだが、君たちに誤解させてはいけないと思ってたんだ」
「いいわよ。大切なものなんでしょ!でも、あんたたちだけで見つけきれないと思ったら言いなさいよ!」
「うん、その時は私たちもがんばるから」
《これで、しばらく問題ないだろう。いいね、たか・・なのは》
《えと、ありがとう琥珀ちゃん》

ふっ、大して親しくもない奴が教えたくないと言うものを追求できまい。
言ってて空しくなってきた。どうせ、大輝以外友達のいないさびしい奴さ。

あ、大輝、復活したのか。あと、人の後ろに回り込む癖やめればいいのに。変態くさい。

「琥珀、実は週末のことで、話しがあるんだけど」
「!?きゃっ!あ、あんた、何時の間に!」

何かバニングスの反応が新鮮だ。もう私は、驚く事に疲れてしまったよ。
大輝の変態的行動にいちいち驚いていたら身が持たないしな。

「何時ものことだから気にしなくていい。それで?」
「実はさ、家と岸野家で温泉旅行に行くんだよ」
「はぁ!?聞いてないぞ!」

そんな事、本当に聞いた事がない。
幾らなんでもおかしいだろ。
私の反応を見て、目の前の馬鹿がしたり顔だ。

「うん、言ってなかったからね。(ドヤッ」
「・・・・・」

ドヤ顔うぜえ。とりあえず殴るか。

「あぁん!」
「キモイ、死ね」

変態が気持ち悪い声で倒れた。とりあえず、背中を踏みつけておく。

「むぎゅ」
「なにやってんのよ?まったく」
「それにしてもすごい偶然だね。私たちも温泉旅行に行くんだよ。ね、なのはちゃん」
「うん!琥珀ちゃんたちはどこの温泉なの?」

いや、知らないんだが。というか、なんでお父さんたち教えてくれなかったんだ?
大輝に任せとくって不自然だし。サプライズとか言うつもりだったんじゃなかろうか?
もし、そうだとしたらこいつKYだな。

「海鳴温泉だよ」
「!私たちと一緒だわ、本当にすごい偶然ね」
《実を言うと、この話は俺から提案しててね。まあ、関わる関わらないにせよ行った方が良いと思って1月前からね》
《なるほど、お前からすでに話が言ってると思ってお父さんたちは何も言わなかった訳か》

どうでもいいが、その体勢で上を向こうとするな。
スカートの中身が見えてしまうだろ。
大輝の上から退いて、さっさと起き上がらせた。
なんで、残念そうな顔してるんだよ・・・。

「まあ、この辺で温泉って言ったらあそこでしょ。向こうに着いたら合流するかい?」
「そうね。というか行く時も一緒で良いんじゃないの?」
「まあ、その辺は親の都合だから」

さて、高町たちの相手は大輝に任せておいて。

《ユーノ》
《何、琥珀?》

高町のバックの隙間から光る怪しい瞳!
まあ、ユーノだけどね。
ちょいちょいと手招きしてユーノを呼び、バックから出てきたユーノを手に乗せる。
手乗りサイズか・・・・。猫も良いけど、フェレットもそこそこ良いかもしれない。

《温泉でのことなんだけど、常にたかま・・なのはと一緒にいて欲しい。サポートを頼む。戦闘の時でもプロテクション系でカバーできるようにして欲しい》
《わかったよ。任せて。絶対に守って見せるから》

決意を込めた瞳で、私を真っ直ぐ見詰めて来る。
見た目に反して、男らしいなこいつ。
フェレットモードだから締まらないけど。

《あの男の攻撃は正面から受け止めず、プロテクションをなるべく傾斜をつけて受け止めてくれ。まともに受けたら2,3秒と持たないぞ》
《そ、そんなに強力だったの?》
《わたしの魔力量を考えればわかるだろう》
《・・うん、わかったよ》

なんだか、弱弱しい様子になったぞ。まさに草食動物、草食系男子。
前言撤回だな。
まぁ、でもあんな兵器の前に立って攻撃を受けるなんて私も2度とやりたくないし、仕方ないのかも。

《それと、あの人について・・・あのあとレイジングハートと考えてみたんだけど、2人ほど心当たりがあるんだ》
《何?知ってる奴なのか?》
《多分・・・、次元世界だと有名な話なんだけど・・・》

有名人?なら、相当な犯罪者とかか・・?
もし、そうなら管理局が捕らえ切れていない奴ということだ。
いくつもの管理世界を束ねている管理局がだ。

《1人はバルムンク・フェザリオン》

おい!どっかで聞いたことあるぞ、その中二ネーム!相方にアイザック・シュナイダーとかいそうだ。
明らかに転生者だろ。それも凄まじい中二病の奴だろ。

《黒髪に黒と赤のオッドアイで、その赤い右目から放たれる、どんな女性でも洗脳できる魔法の使い手らしくて、2年前までクラナガンでは女性の1人歩きが禁止されていたほどなんだ。管理局でも行方を追ってるらしいけど、2年前から音沙汰無しらしい》
《というか、最悪だな》

私にそれが効くかどうかは解らないが、絶対に遭遇したくない。
自分の意思が捻じ曲げられるなど、死ぬのと一緒くらい最悪なことだ。

《容姿は変身魔法でいくらでも誤魔化せるし、操られていた人がいたから、そいつが怪しいというわけか。しかし、あれほど慎重な奴が、そんな奴とは思えないし操られていた人の中には男も居たんだが》
《うん・・・可能性は低いね。・・・これは本当に当たって欲しくないんだけど、もう1人の心当たりは、”人形遣い”っていう管理局から懸賞金までかけられている犯罪者だよ》
《”人形遣い”?操る魔法で有名なのか?》
《うん。どういう魔法かは一切不明で、管理局員まで操られているらしい。返り討ちにあった管理局員はかなりの数になるし、管理世界もいくつか滅ぼされたり、”人形遣い”の被害者の数は兆を超えるって言われている。管理局が殺害もやむなしって言ってるほどの史上最悪の犯罪者。それが、”人形遣い”》
《・・・・・本当か?》
《まだ、可能性の話だけど、・・・だから、琥珀も絶対に1人になったりしないでね》
《ああ》

最悪な話を聞いてしまった。
恐らくはその”人形遣い”も転生者なんだろう。
私たちに良心が無かったらいかにやばいかを示してるな。
はぁ・・・聞かなきゃ良かった。胃が痛い。
私の能力がデスノー○だったらなぁ~。名前書いて終了なのに。はぁ・・・。




[34220] 10.温泉は静かに入ろう
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/10 17:41
週末、私たちは海鳴温泉へ向かっている。
あっちで高町たちと合流の予定だ。
それぞれの家で、一台づつ。家はワゴンタイプのお父さんの運転する車で、助手席にお母さん。私のふとももの上にカリンがいる。

「琥珀、高町さんたちはどんな子達なの?向こうで、合流するんだから仲良くなったんでしょ?」
「・・仲良く?・・・う~ん?」
「え?違うの?」
「え、いや、そうだね。仲良くなったよ。」

此方を向いて首をコテンと曲げる我が母は本当に28なんだろうか。
それにしてもたか・・なのはたちとは、それなりに仲良くなったと思う。
大輝シールド無しでも会話出来るようになったし。
本当に凄い進歩だ。もう、ゴールしてもいいよね・・・。
しかし、どんな子かぁ。・・・どんな子?

「た・・なのはは、ちょっと頑固だけどいい奴、アリサはちょっとうるさいけどいい奴、すずかはちょっと怖いけどいい奴だよ」
「と、とにかくいい子なのね?」
「うん、多分」
「にゃ《というか、人見知り強すぎるじゃろう。将来が不安なのじゃが》」
「ふむ。《たしかにな。これを機に友達を増やせると良いのだがな》」






「こっちよ!琥珀!上谷!」

どうやら先に高町たちは着いていたようだ。
バニングスが手を振って私たちを呼ぶ。
元気が良いなホント。
向こうは先に到着していたらしく、高町一家に月村のお姉さんっぽい人たちもいる。
3人もお姉さんいるのか月村。ヤーさんの一家だと思ってたけど、優しそうな人たちだ。
でも、なんか私の腕の中にいるカリンをガン見してる。

そういえば月村家は猫屋敷だったな。
も、もしや、”オウオウ、カワイイにゃん子じゃねーか?ちょっと寄越しな”ってことか?!
さ、流石ヤーさん、格が違う・・・・!
カリンを盗られない様に、お父さんの後ろに隠れることにした。
ヤーさんに対抗できるのは警察官だけだしな!

なんかみんなに苦笑されてるんだけど・・。
な、なんか、急に恥ずかしくなってくるぞ、これ。
と、とりあえず、挨拶しとこ。

「やあ、みんな。それと、よろしくお願いします。俺は上谷大輝です」

あぅ、・・・先越された。
なんで、大輝は至って普通なんだよ。
っていうか、なんで私ばっかりガン見されてるの?

「・・・ど、どうも、岸野琥珀、です」







「はやく、お風呂行きましょ!」

という、アリサのお言葉で早速お風呂となった。お父さんたちは高町家の親御さんたちと話をしてたから、後から入るだろう。
なんだかお父さんとシロウさんは、会って直ぐに見詰め合ったあと握手してたけど、なんだったんだろう。腐臭のすることではないのは確かだ。ホモォはお呼びじゃない。というか、タッチがお父さんたちの周囲だけ変わってたよ。北斗の拳みたいなタッチになってたよ。お母さんとモモコさんまで、ユリアみたいになってた。


それにしても、着いて直ぐ風呂って早くね?
旅館の中を探検してからでしょ、普通。でも、卓球台があったから後で卓球しなくては。
月村と高町のお姉さんも合わせて、私たち小学生組みは和気藹々と女湯へと向かった。
大輝の奴もニヤニヤしながら一緒にきて・・い・・る・・?

「って、何普通に女湯に入ろうとしてんだ、このあほが!」
「大丈夫だ。問題ない。(キリッ」

なに、キリッとしてるんだ。逮捕だから普通。
もう、これは私の手に負えそうに無い。仕方ない、お父さんを呼ぶか。

「こっちに来ようか。上谷君」

おわっ、高町のお兄さん何時の間に!
大輝の頭に食い込んでいくアイアンクローが、すごくギチギチいってます。
あ、変態が倒れた。

「・・・・・希望はないのか・・・」
「あるわけないだろ」

まだ諦めきれないのか、這ってでも女湯に行こうとする大輝を高町のお兄さんが襟を掴んで止めた。

「「「・・・・・」」」
「・・・てへっ!」

高町のお兄さんが掴んだ拍子に、変態の服からビデオカメラが転げ落ちた。
次いで、空気が凍った。
ペコちゃん面で誤魔化そうとしているけど、・・・これは、流石の私でも弁護出来そうにない。
このまま、ここで集団リンチになるくらいなら、大人しく逮捕されるべきだろう。

「お父さんを呼んでくるから、大人しく待ってるんだよ。大丈夫だよ、1年くらいは面会に行くから」
「ちょ、急に口調がやさしく?!まって琥珀!逮捕はやめてぇ!」



高町のお兄さんが確り見張っておくということで、逮捕にはならなかった。
私としては一回くらい牢屋に入ったほうが、あいつも反省すると思う。

「面白い子だね、なのは」
「・・・にゃ・・ははは」

いえ、メガネのお姉さん、ただの変態なので気にしないで。
高町のお兄さんに引きづられていくあいつを見ていると、私まで恥ずかしくなる。
友達やめたくなってくるレベル。

《ユーノ!後を頼んだぜ・・・お前が、俺の希望だ・・・!俺の死が無駄ではなかったことを証明してくれ・・!》
《いや、する訳ないでしょ!》
《ここで行かなかったら、俺はお前を軽蔑するぜ。いいから、走れ!!》
《何言ってるの!?》
《その通りじゃな、お前は男湯じゃ》

「きゅ!?」

「あ!ユーノ君!!」
「カリンだめだよ!」
「にゃふ」

カリンにカプっと咥えられたユーノがそのままブンと振られ、男湯の方に放り投げられた。
その勢いのまま、ユーノは男湯に入っていく。あの大きさであんなふうに投げられて,しかもあの飛行速度だ。まずい!

《ユーノ無事か!?》
《だ、だいじょうぶ・・。生きてるよ。カリンが手心を加えてくれたみたい・・・怪我も無いよ・・》

生きてたみたいだ。しかし、カリンにはしっかり言いきかせないと、いつかユーノを殺してしまいそうだ。というか、手心ってあれで?多分、ユーノが頑丈なんだろう。
暫くの間は、ユーノとカリンが一緒に揃ったら、カリンは抱いて離さないようにしないと。





そんなこんなで、女湯。
アリサたちはキャッキャと騒いでるが、私がそんな気分になれるわけがない。
私はクールだからな。
うん、いい訳です。あのテンションに馴染めないだけです。

さて、女湯であるが、別に今更女性の体を見ても何とも思わない。
お母さんのボンッキュッボンと何度も一緒にお風呂に入ってるのもあるし、最近は自分も成長してきて憂鬱なのもある。
月村のお姉さんとかのスタイルの良い体見ても、私もあんなになったら大変だろうなと思うだけだ。というか、成りたくない。板ましいとか、垂直とか言われても絶壁がいいと思うんだが、すでに成長の予兆を見せてる。
ついでに言うと、野朗のマッパを見ても何も思わない。
つまり、私は性別を超越した完全生命体なのである。嘘です。悔しいから適当に言ってるだけです。
だから女湯に入るのは嫌なんだよなぁ。結局、男にも女にも成れないまま生き続けるって思い知らされるし。

「にゃあ」
「あ、ごめんねカリン」

カリンが入り口で止まっていた私に抗議の鳴き声を上げた。
さて、鬱になるのはこの辺にして、カリンと一緒に洗い場に向かう。
いつも通り、風呂椅子に座ってカリンを洗う。いつもフサフサのカリンがホッソリとなる。毛が長いだけで本当はとてもスリムなのだ。
猫用シャンプーで泡だらけに成ったカリンは写真に撮りたくなってくる可愛らしさだ。
洗い流すとカメラはご遠慮だけど。

「痒い所はない?」
「ない。あっ・・・・! ・・・にゃあ」

ん?なんか女性の声が聞こえたような・・・・?
周りをキョロキョロと見回してみたけど、さっきみたいな声を出す人はいない。
幻聴か?

「ま、まさか、幽霊・・・?」
「にゃ、にゃあ」

ひ、昼間からそんなもの出るわけ無い。うん!
た、多分バニングスたちの声だろう。さっきからキャーとかイヤーンみたいなこと言ってるし。

バックの悲鳴のような声は、とりあえず無視の方向で。
はしゃぎ過ぎだろう、幾らなんでも。
他に客がいないとはいえ、お風呂というものは静かに、ゆっくりと浸かるものだ。

「流すよ」
「にゃ」

カリンに一声かけてから、泡を流す。
びっくりするほどスリムになった。カリンはスタスタと湯船へと向かった。深さ的に大丈夫なんだろうか?まあ、カリンは賢いからどうとでもするんだろう。

さて、私も体と髪をさっさと洗って湯船に浸かろう。
髪が腰まであるので、洗うのは一苦労だ。
男のようにグシャグシャっと洗うわけにはいかず、丁寧に洗う。しかも、その後に待っているのは面倒なドライヤー作業だ。これだけ長いと乾かすのに非常に時間がかかる。
バッサリといきたいが、お母さんを悲しませたくない。
髪を洗った後は体を洗う。これも思いっきりゴシゴシするわけにもいかない。
男のようにやってしまうと、肌負けしてとても痛いのだ。
泡を洗い流して、未だに胸を揉み合ったりしてるバニングスたちを無視して、湯船に行ったカリンを追いかける。
というか、温泉で胸揉みあうとか、ソレナンテエロゲ、である。
奴らが興奮して錯乱しているうちにさっさと湯船にはいろう。

「こ・は・く!」
「ひゃあ!」

なん・・・だと・・・・
う、後ろから鷲づかみ・・・だと・・。

「なんで、同い年なのにこんなにあるのよ!この、この!」
「ちょっと、やめ、ないか!さわり、たいなら、月村さんの、ほうに」
「もう触ったわ!」
「ア、アリサちゃん、落ち着いて。・・・・あの、私も触っていい?」
「わ、私も!」
「いいわけ、無いだろ!」

なんで触ってくるんだ!?自分のでも揉んでろっ!!

「いいなぁ、女湯。・・・9歳って入ったら駄目でしたっけ恭也さん?」
「例え良くても、君は駄目だ」

隣から変態の羨む様な声がした。こっちの気も知らないで呑気な奴だっ。




「お風呂はお楽しみでしたね!琥珀君!で、どうだった!?琥珀もおっぱい大きくなってるんだろ!ぜひ私めに揉ませて頂きたいんですが!構いませんねっ!!」

バニングスたちの攻撃から逃れるために、一足先にお風呂から脱出した私の前には大輝がいた。
風呂で散々な目にあって、やっと出れたと思ったら目の前の変態が、鼻息をフンフンして手をワキワキさせながらこれだ。
大輝の肩に乗ったユーノも呆れた目で大輝を見ている。
これはもう、殺るしかないだろう・・・。

「・・・・その股にぶら下っているのを切断してやろうか?どうせ将来的にも紙資源を無駄に浪費するしか使い道の無いものだろう?」
「使うよ!きっと!というか目の光が消えてるよ!ちょ、どっから鋏を!?ってでか!ハサミでかっ!庭用!?両手持ち!?」

シャキン!シャキン!

「ま、まって!せめてなんか喋って!く、来るなって!」
《落ち着いて!琥珀!大輝が死んじゃうから!いろんな意味で!》

シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!
シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!
シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!・・・・・・・・・シャキン!


「フフッ、冗談だ。ただ、ちょっと切断しようかと思っただけさ・・。」
「はぁ、はぁ、洒落になってないから・・・。死ぬから・・。いろんな意味で・・」
《ちょっと切断って・・・。切れてるよね・・・・。想像しただけで震えが・・》

この馬鹿に付き合ってたら、また汗を掻いてしまった。もう一度入らないとな。
だいたい、外にまで逃げずにさっさと切られていればいいものを。
まあ、ちゃんと温泉に入った気もしなかったし、お母さんと入ればいいか。

「さっさと帰るぞ」
「・・・・自分で追い掛け回したくせに・・・(ボソッ」
「文句があるのかな?かな?」
「ノー、マム!!何も問題ありません!!」
《そうだね、早く帰ろう。なのはたちから、離れすぎてるよ》
「!そうだったな・・。すまない、急ごう」

いかん、すっかり忘れていた。
もしかしたら私たちは凶悪殺人犯に狙われているかもしれないのだ。
高町のことはもちろん。私たちもこんな森の中だ。いつ襲われてもおかしくない。

「!琥珀!ちょっと待った。」
「なんだ、大輝?」
《ジュエルシードだ。封印するから2人は周囲の警戒を頼む。》
《わかった。それにしても、発動前に発見できるなんて運が良いな》
《そうだね、でも大輝、気をつけてね》
《ああ、問題ないよ》

大輝の封印魔法がジュエルシードを包みこむ。
私たちはいろんな魔法の知識を持っているが、特に封印魔法の練習は欠かさなかった。
ちなみに、さっきの鋏も魔法で取り出した。すごく高度な技術だ。
デバイスなしでこんな事出来る私たちって、ちょっと異常なんじゃなかろうか。

私の練習時間は大輝よりも長い。でも、技術的に大輝のほうが高いという納得できない結果になっている。これは能力の関係上、大輝は魔力操作の巧みさが半端ではないことが大きい。

「なにも、来ないね」
《油断はだめだよ。大輝》
「転移するぞ。2人ともこっちへ」


大輝が封印作業中にサーチャーを旅館に放って人がいない場所を確認していた。
結局あの男は現れなかった。が、高町のほうにアル・・・アルハ・・・アルト・・・アルツ、・ハイマー・・・、アル何とかさんが来ていたらしい。
正直どうでもいいが、やばそうな犯罪者までいるというのに出てこないで欲しい。
アル何とかさんに何か言われたせいで高町の表情は暗い。
これからの事を考えると、このままではいけないな。





「琥珀ちゃん、上谷君。一緒に魔法の練習をして欲しいんだ」
「僕からも頼むよ。琥珀、大輝」

夜、高町から念話で呼び出しがあって、旅館の外に行ってみたらこれだ。ちなみに、私たちは一家でそれぞれ部屋をとってる。部屋から出る時、お父さんに普通に気付かれたが、カリンを連れて行くならOKとの事なので、カリンは私の肩に乗っている。最近はもうツッコんだら負けだと思っている。

高町の話を要約すると、以前あの男に襲われた時、何も出来なかった事と、フェイト・ステイナイト?と”お話”をするために、強くなりたいそうだ。
今日、実はアル何とかさんだけじゃなく、フェイトのほうにも会っていたらしい。私たちがさっさと封印してしまったせいかも。
殆ど無視されたらしいけど。

正直に言うと、今のままだとあの男が出てきた場合は、さっさと逃げてくれたほうがありがたい。
あれを相手にするときは、攻撃を受けるより避けたほうがいいし。

「良いんじゃないかな、琥珀。これからを考えると、こっちの戦力アップはどうしても必要だよ」
「まあ、そうだよな。しかし・・・。いや、解った手伝うよ」

高町が此方をその大きな瞳で見詰めて来る。”俺、やるぜ!”見たいな決意が感じられる。
断ろうと思ったが、あんなじっと見られた断れんだろう。
”しかし”のくだりで一気に涙目って何?涙腺を完全にコントロールしてんの?
仕方ないが、やるからには気合を入れていかねば時間の無駄だ。
まあ、私は教えるのに全く向いてないので大輝の出番だろう。私には体育系のノリで模擬戦するくらいしか出来ん。

「とりあえず、私が結界と警戒を担当。大輝が教えてやってくれ」
「わかった。高町、始める前に言っとくけど、時間が無いから早足で行くよ。本当はゆっくり練度をあげていくものだから、この事件が終わった後、無茶をするのは無しね」
「僕は、琥珀の手伝いをするよ。がんばってね!なのは!」
「うん!」

と、そんなわけで訓練開始になった。
せっかく旅行に来たのに、こんなことになってしまった。
あの男にはお礼の意味を込めてボコボコにしてやらんと気がすまないな。




[34220] 11.閑話 なのはの記憶
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/17 22:08

「こっちだ」
「え?!」

ユーノの結界空間の空。
なのはに向かって突撃していた琥珀が、待ち構えていたなのはの直前で高速移動魔法を使って消えるかのように移動した。

「はぁ!!」
「きゃあ!!」

背後を取った琥珀の攻撃に対応できずになのはは魔力刃の直撃を受け、落とされてしまう。これで今日の戦績も5戦5敗でなのはの負け越しだった。

温泉での特訓開始から数日。なのはの魔法習得スピードから、琥珀たちは基礎の訓練を続けながらも、模擬戦による戦闘訓練を開始していた。

「なのは、相手の動きに反応できずに見失ってもいちいち動きを止めちゃだめだ。防御魔法の準備もしろ」
「はぁ、はぁ・・う、ん!わかったの!」

琥珀の攻撃で落とされたなのはは、飛ぶ事も出来ずに琥珀の腕の中に居た。所謂、お姫様抱っこという状態だ。
わざわざ自分のために迷惑をかけて申し訳ないと思うものの、琥珀の腕のぬくもりを感じてついついうれしく思ってしまう。

「なのは、自分をマグロだと思うんだ」
「ま、マグロ?」

なのはは、さっきまでアドバイスだったのになんでいきなり魚が出てくるんだろうと思い首を傾げる。

「待つんだ、琥珀!!マグロはあかん!!言いたい事は解るけどマグロはだめだ!!」
「?・・止まったら死ぬのはマグロじゃなかったっけ?サメか?」
「サメでいいよ!!マグロはダメね!!」

真面目な顔でボケをやっている琥珀に鋭いツッコミが届いた。下で見学していた大輝だ。
あのままいっていたら、なのは=マグロにされる所だったと、大輝は本気で焦った。

「大輝の奴、よく聞こえるな・・・。なのは、とりあえず一端休憩だ。私も疲れた」

琥珀は魔力ダメージで飛べないなのはを気遣ってゆっくりと高度を下げていく。

「うん、ごめんね、琥珀ちゃん」

なのははなるべく負担にならないように、琥珀の腕の中でじっとしながら琥珀の顔を見詰める。
前までは恥ずかしさもあって中々話しかけられなかった琥珀と、魔法を通じて仲良くなれた。それがなのはにとって嬉しかった。





なのはは今よりも幼い頃、公園でいつものように1人でいた。
父、士郎が重症を負って、家族はバラバラになりなのはと居る時間がなくなってしまっていたのだ。
母、桃子は喫茶店翠屋で一家の生活を支えるために懸命に働き、兄、姉の恭也と美由紀も母の手伝いと父への見舞い、また剣術の修行にと忙しく駆け回る。
一家の大黒柱である士郎の入院はそれだけ家族に余裕というものを無くし、幼いなのはに対する配慮がなくなってしまっていた。

あんなに頑張っている家族に迷惑をかけるわけにはいかない、迷惑をかけたら自分は家族と一緒に居られなくなる、という脅迫概念にも似た思いを抱いたなのはのとった行動は、”いい子で待っている”という事だった。
”いい子”でいるために、寂しくても決して家族に弱音を言わずにいた。しかし、それでも我慢が出来ずに涙が出そうになるときがある。そんなときにはいつも誰も居ない公園のブランコの上で泣きはらす事にしていた。家では決して涙を見せないために。

「おい、おまえ。どけよブランコのれないじゃん」

その日は何時もとは違い、なのはの前には体の大きい、小学1年生ぐらいだと思われる男の子が居た。
何時もは自分を見かけても、誰も話しかけたりせずに楽しそうに遊んでいるはずなのに、そう思っていたなのはは、その少年の言葉に何も言い返す事が出来なかった。
なにより、少年の大きな体になのはは硬直していた。

「どけってんだよ!」
「!イタ、や、やめて!」

何も反応を示さないなのはに苛立った少年がなのはの髪を掴んで強引に引っ張る。
自分よりもずっと大きく体格のいい男の子の力に抵抗する事が出来ずにブランコから引き摺り下ろされ、地面に転がる。
髪の毛を引っ張られた事と地面に放り投げられたことによる痛みに涙目になってしまう。
その少年はなのはにとって大きな怪物だった。
きっと”いい子”にしていなかった自分への罰なんだと、幼いなのはは思った。

痛みに耐えながらうつ伏せになった、なのはの涙に滲んだ視界に男の子の後ろから向かってくる緑色の何かが映った。
それは、なのはの涙で歪んだ視界では、見た事も無い緑色のお化けに見えた。

――あれは木?木のお化け?なのはは悪い子だから食べられちゃうのかな・・・?

「おい」
「ん?なんヘブゥ!!」

なのはが緑色のお化けだと思ったものは、ブランコに乗った少年に後ろから一声かけ、少年が振り返ろうとした瞬間、少年の腰あたりを蹴り飛ばした。
なのはが緑色のお化けと思った物は、なのはと同じ年頃の女の子、岸野琥珀だった。
少年はブランコから滑空し、なのはの隣に頭から見事なヘッドスライディングを披露する。
さらに地面へとぶつかった衝撃で気を失ったのか、動きがない。いや、微妙にピクピクと痙攣していた。

「・・・やば、やりすぎたか?・・・まあ治せばいいや」

少年を蹴り飛ばした琥珀は、少年の痙攣する様を見て冷や汗を流すが死んでなければそれでいいやと、心配は2秒で済んだ。

「大丈夫か?」
「ふえ、え!え!?」

自分と同じ小さな女の子が体格のいい男の子を蹴り飛ばしたのだ。しかもその男の子は、テレビでしか見た事が無い痙攣をしている。
なのははあまりに衝撃的な映像に混乱してしまい、まともに話す事も出来ない。
さっきまで零れ落ちそうだった涙も吹き飛ぶ衝撃だった。

「まあいいや、ブランコは好きにするといい。こいつには明日には謝らせにくる。ではな」

琥珀はそのまま気絶した男の子の服の襟を掴んで、引き摺りながら公園から去っていく。
なのはは琥珀が去っていくのを金魚のように口をパクパクさせながら見ていることしか出来なかった。
結局その日は混乱しすぎて何が起きたのかもわからず、呆然となのはは過ごした。





「・・・・」
「さっさとしろ」

翌日、公園のベンチで再びなのはは男の子と向き合っていた。
少年の隣には琥珀がいて、少年になのはに対して謝るように言う。
少年は涙目になっており、悔しそうに琥珀を睨む。
実はこの少年は琥珀と同じ幼稚園の出身で、変わった容姿で可愛らしい琥珀に対して”好きな子は苛めたくなる”理論でちょっかいをかけて、返り討ちにされた事で苛立ち、公園で1人ポツンとしていたなのはにちょっかいをかけたのだ。
結果はご覧の有様で、再び琥珀にやられてしまった。

「はぁ、・・・言わないなら、解っているのか?」
「だって!・・・う、、うう」

少年が琥珀に対して反論しようとするが、琥珀の睨みで押し黙る。

「ちゃんと言葉にしなければ相手に伝わらないものだ、さっさと言わないか」
「う・・・、き、昨日は悪かったよ!・・・ちくしょーー!!」

捨て台詞のように謝りながら少年は公園から走り去った。
その様子はジャイアンに苛められたのびた君の様だった。

「まぁ、こんなものか。・・悪かった、彼が君にちょっかいかけたのは、私のせいだ。ごめんなさい」
「え、えと、あ・・・の」

少年が去った後に、琥珀がなのはに礼をして謝る。

「そ、の・・・えと」
「なに?」
「そ、そ・・・の」

昨日の事に引き続き、あまりの展開になのはは混乱していた。
なのはの要領を得ない話に怪訝に思った琥珀が謝罪をした体制からなのはへと向き直る。

「あ・・・その」
「深呼吸でもして、落ち着いたらどう?」
「う、・・・えと」
「君もか。さっきも言ったけど気持ちを伝えるのにも、ちゃんと言葉にしなければ相手に伝わらないものだよ。まあ言葉では伝わりきらないものもあるかもしれないけど」
「言葉に・・・?気持ち・・?」
「?・・それがどうかしたのか?」

琥珀の言葉から自分はどうなのかと、なのはは思い浮かべる。
母に、兄に、姉に自分の気持ちを伝えた事はあっただろうか?
伝えた事など一度もなかった。伝える勇気が無かったからだ。
もし、一言でも寂しいと、構って欲しいと言ってしまえば、家族は自分を見捨てるかも知れないという恐怖から、言葉にする事が出来なかった。

「おい、・・・おい」
「にゃ!あ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
「別に謝る必要は無いが、どうしたんだ?ボーっとして」

反応しなくなったと思ったら、今度はビクビクと謝りだすなのはを琥珀は怪訝に思う。
琥珀の質問に答えることなく、なのはは何を言えば良いのか解らず再びビクビクと琥珀を見ながら沈黙してしまう。
小動物を思い浮かべるようななのはの態度に、自分がなのはの前でしてきた行動から怖がっているのだろうと思った琥珀は、内心で傷つきながらも、早く目の前から去るべきだろうと判断した。
ただ、このまま幼女(あんたもです)に怖がられたまま帰るのは憚りたいので、少々勇気付けてから帰ろうと琥珀は思った。
琥珀から見て、なのはは危うく見えた。今度同じ様にいじめられてしまうと、この少女は立ち直れなくなるかもしれないと、お節介とは思いつつも忠告をする。

「君はもう少し勇気を持ったほうがいい」
「ゆ、勇気?」
「そう、勇気。昨日もそうだったが、怖くても何か行動しないと。目の前のことから逃げていても何も変わらない。とりあえず、誰かに助けを求めたりするべきだよ。例えば、君のお母さんとか」
「で、でも!それでだめだったら!?」
「?・・何でだめ?」
「だって、そんなの無理だよ!怖いよ!」

なのはは家族に自分の思いを告げられない事を考え、琥珀はそんなにあの少年が怖かったのかと、微妙に噛み合ってない会話を続ける。
琥珀は自分の言葉が難しくて伝わっていないのかもと、なるべく優しい口調で、簡単な言葉で、なのはに向かって話しかける。

「助けを呼ぶのが、そんなに怖いの?それとも、呼んだら何かされるってこと?」
「だって、迷惑になっちゃう・・・そんなのいい子じゃないの、いい子じゃないとだめなのに・・・」

何でいきなり、いい子?の話になったのかと、琥珀は首を傾げる。

「?・・よく解らないけど、助けを求めたら迷惑とか、悪い子になるなんてことはないでしょう。普通」
「え!だ、だって」
「なら、君は誰かが”助けて”と言っているのに迷惑だからって知らん振りするの?」
「そ、そんなことしないよ!」
「でしょう?困っている人を見たら助けるものだよ。まして、それが家族や友人なら絶対に助けるよね。だから、これからは言葉にして、誰かに助けを求めるんだ。こんな時に1人で居ようとしちゃいけない」
「う、うん・・・。で、も、私に出来るかな?」
「?出来る出来ないじゃないだろ。やるべき事だ」
「そ、そうなの・・・。うん、私、やってみるの!」
「(そんなに気合を入れることなのか)・・・じゃあ、私はこれで。君もしっかりな」
「う、うん!」

琥珀は気合を入れてうなずくなのはに”不思議な子だな”と思いつつも、これだけ決意した眼差しをするようになったのだからもういじめは大丈夫だろうと公園から去った。
そういえば何処かで見た事がある幼女だったなぁと思いながら。

「・・・・・あっ!お、お名前聞いてなかったの・・・」

なのはが名前を聞く事を忘れていた事に気が付いたのは、琥珀が公園から出て行った後だった。

「・・言葉で・・ちゃんと言う、うん」

琥珀から言われた事を思い浮かべ、もっと、自分の家族と向き合ってみようと思えた。
とりあえず、お手伝いしたい事や、自分の気持ちを伝えてみようと、なのはは思った。
寂しいと家族に言うことを想像すると、その先がどうなるかわからずに体が震えてしまう。
だけど、逃げてばかりでは何も変わらない。琥珀に教えてもらったの事を胸に刻み、自宅への帰路についた。

その後なのはは、母に震えながらもその事を告げた。母は涙をこらえながらも自分を抱きしめながら、”ごめんね”と謝ってくれた。
それからのなのはは何時も家族の誰かと一緒にいれた。忙しいながらも、簡単な手伝いをしながらの生活は今までの寂しさを吹き飛ばしてくれるものだった。
誰かと一緒にいれることのうれしさがなのはを明るくさせた。

もし、今度あの翠の髪の子に会えたらお礼を言おう。そして名前を聞いて、友達になるんだ。
そんな願いをなのはは抱いた。

小学1年生になり、なのはは琥珀を見つける事が出来た。
琥珀はその容姿のせいで、小学校で有名になっていたのだ。
さっそく、話しかけてみようとするが、周りから注目されている琥珀には話しがけ難い上に”上谷大輝”というある意味邪魔者に妨害され、なかなか話しかけることができず、さらに琥珀は授業が終わると直ぐに教室から消えてしまうので、別のクラスであるなのはは会うことすら難しかった。

3年生となり琥珀と同じクラスとなったなのはは、自己紹介で大輝が腰を蹴られて飛んでいく姿にデジャブを抱く。
あの人形みたいだった大輝すら変えてしまった琥珀と、なのははますます仲良くなりたくなった。






ジュエルシードの探索で、フードの男に襲われてから一緒に行動しているものの、なのははなかなかお礼を言い出せずにいた。
大輝シールドはなかなか堅牢なのだ。
また、上谷君なの!とプンプンしつつも、琥珀と一緒の探索は楽しかった。
通りづらいところでは手を引いてくれたり、歩道では車道側を歩いたり、水筒を持ってきて、分けてくれたりと琥珀は探索のたびになのはをさりげなく気にしてくれていた。
今でも、なのはの頼みをきいて模擬戦をしてくれている上、なのはが危うく墜落しようとすると、すぐにそばに来てなのはを支えてくれる。
ぶっきらぼうな口調にも優しさがこもっている。なんとなくお兄ちゃんに似てるな、となのはは思う。
琥珀と友達になれてよかったと、本当に思う。もし琥珀が男の子だったら惚れていたかもしれないと、クスッと笑った。

「ねえ、琥珀ちゃん」
「ん?どうかしたのか?」
「ありがとう!」
「?どういたしまして?」

なのははキョトンとした顔の琥珀をかわいいと思いつつ、やっと言えたと達成感を抱く。
あの時の事と、ハッキリとは告げていないのはやっぱり恥ずかしいからだ。

「お~い!琥珀!高町!お茶用意したよ!」
「なのはも琥珀もすごいよ!どんどん成長してる!」

琥珀の腕に抱かれてゆっくりと降下する途中、大輝とユーノが地面にひいたシートの上から呼びかけてくる。
今のなのはにはあの時の寂しさなんて欠片もない。
友達、家族。暖かな人達に囲まれている。

だからこそ、あのフードの男からみんなを守りたい、
そして、あの寂しそうだと思った金髪の女の子とも友達になりたいと思う。

――1人より2人。みんなと一緒ならどんな事でも乗り越えていける。そうでしょ、琥珀ちゃん?

決意を新たに、なのはは進んでいく。
それでも、”女の子とどうやって仲良くなれば良いんだろう”と1人で悩むあたりは愛嬌だ。













あとがき
あの男の子は琥珀が居た事によるバタフライエフェクトでした。
琥珀が直ぐにボこる印象を受けるとは思いますが、結構長い間、彼のちょっかいを我慢してました。しかし、ぼこったせいで幼稚園でボッチ。それで心配した翡翠たちが、幼稚園からの生徒が少ない私立へと進学させました。

琥珀の人見知りと同年代への苦手意識はこのボッチ期間のせいでもあります。
あの少年、結構重要キャラでした。




[34220] 12.犬を虐待、だが私は謝らない!
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/20 06:58
高町なのはの魔導師としての才能はまさにチートと呼ぶほか無かった。
時を操れる能力を持っている私が言うなとか、言われてしまいそうだがその才には嫉妬せざるおえない。
私が半年かけて出来るようになったことを1日でされた時には、かなり落ち込んでしまった。
練度はまだ甘いが、飛行魔法に誘導弾、バインドに砲撃魔法、フラッシュムーブまで習得してしまった。しかも、魔力を収束することに関してはそういう能力なんじゃね?と思ったほどだ。
いくら、持っているデバイスが優秀だからってこれは無いだろ。あれ、収束ってレアスキルだっけ?私出来ないし。

今現在は模擬戦に重点を置いた訓練を私としている。
私はフェイトとの戦闘を意識して、後ろを取ったり、接近戦と射撃を合わせた戦闘法をしている。
今のところ負けなしだが、能力無しだといずれ私も追い越されてしまうだろう。

あの旅行から数日、あの男の手がかりも無く、私たちの前に姿を現すことも無い。
嵐の前の静けさと言うべきか、あの男の”ベストじゃない”という言葉から、今はベストにする準備中ということだ。しかも、迎えに来るとかほざいていた。
ユーノの話通り指名手配の”人形遣い”だったら、管理局が来ても私たちを狙ってくる可能性だってある。最悪の敵だ。


「ねえ、琥珀。あんたの探し物はどうなったの?最近、なのはが悩んでることも多いし、あたしに出来ることなら手伝うわよ」

あの旅行から、こうしてバニングスや月村が話しかけてくることが増えた。
今現在、大輝はトイレに行っていて教室には居ない。狙ったか、アリサ・バニングス!
ちなみに、高町は訓練以外はボーっと上の空であることが多くバニングス火山は噴火寸前だ。
今現在もボーっとしている高町の間抜け面にでこピンをかましてやりたい。
しかし、探し物がまだ続いているというのはいささか不自然だ。
新しい言い訳で、誤魔化しとくか。

「実はそこでボーっとしているたか・・なのはは探しものの途中で友達になりたい奴を見つけたんだが、そいつを発見できないことと、そいつになのはが危険な奴と思われていてまともに話せないんだ」
「危険な奴って・・・、なのはちゃん何かしたの?」
「いや何もしていないが、異常にに警戒心の強い奴で遭遇した途端に逃げ出す奴なんだ」

なんか変な方向に行っている気がするが、まあいいや。

「何よそいつ!とっ捕まえてやりましょ!」
「いや、なのは自身で捕まえたいらしくて、そのためになのはは今特訓中なんだ。必殺のエルボーを喰らわせるって意気込んでるからな。奴に任せてほしい」
《ちょっ!琥珀!もっとうまい言い訳を考えてあげてよ!》
《すまん、ユーノ。ちょっと楽しくなってきた》

ユーノが高町の机の上から抗議の念話を送ってくるが、こういう嘘って何かワクワクしてしまうので続行する事にした。

「えっ!エ、エルボー?なのはが?」
「な、なのはちゃんが・・?」

2人ともドン引きである。友達になりたいやつにエルボー叩きこもうとしてたらそりゃあ、ドン引きだろう。私だってドン引きだ。
しかし、実際は砲撃魔法かましてやろうとしているんだから、何とも言えん。
私はあんなの喰らわせられたら、そいつとは一生口利きたくないけどな。

「そんな訳でなのはは悩んでいるんだよ。そいつをボコボコにして、脅迫して友達になろうとしてるんだ。ここは暖かく見守るべきだぞ、2人とも」
「「いや、止めるべきでしょ!」」
「まあ、ボコボコうんぬんは嘘?だから安心していい」
「なんで疑問系なのよ!」

私は正直だからしかたがないのだよ、バニングス君。

「それは置いといて、なのははそいつと仲良くなれたら、2人に紹介するって意気込んでいたから、この話は内緒にしておいて」
「そうなんだ・・」
「むう・・」

月村は寂しそうに微笑み、バニングスはむくれてしまった。
よほど、高町のことが好きなんだろう。そういう友達がいるっていうのはとてもいい事だ。
あ、大輝が帰って来た。しかし、何でこいつは人の後ろに気配も無く立とうとするんだろう。

「とられたみたいで悔しいのかい?」
「!?あんた!何時の間に!というか、な、なにがよ!別になんとも思ってないんだから!!」
「ツンデレ発言ありがとうございます」
「アンタはー!」

しかし、こいつはホントに場の空気を乱すのが旨いな。
バニングスも月村もさっきまでの湿った雰囲気は無くなった。
ま、なんだかんだで高町たちは仲がいいからな。私の心配など最初から不要だろう。





放課後、魔力もちのメンバーの日課になっているジュエルシード探索をする。
しかし、探索時まで高町は悩んで俯いている。こうまで悩むのは、あの犬に忠告とやらをされたせいか。
もういい時間なので、いったん解散してそれぞれの家に帰らなければならないというのに。
これはいい加減気合を入れさせんといかんな。
相手がフェイトだけだったら別に良かったんだがな。

「高町、もっと集中しろ。何時まで悩んでいる」

少し嫌味でも言うか。
もっと口が上手かったらやさしく諭せたんだろうが・・・。

「え、琥珀ちゃん、えと、名前・・」
「何時までもグダグダとどうでもいいことを悩んでいる奴なんて苗字で十分だ」
「ど、どうでもいいことなんて・・・」
「どうでも良いだろう。あの金髪の事情なんて」
「良くないよ!だって、あんなにさびしそうな目をしてたんだよ!」
「それがなんだ。お前の妄想だろう?」
「妄想なんかじゃないよ!あの目は!」

しかし、たった2度会っただけで良くそこまで気に入ったものだ。
初対面で武器向けてきた相手となんて、私だったら仲良くなろうとなんて思わない。

「たった2回あった相手の事情なんて、解る訳ないだろう」
「で、でも!」
「琥珀」

大輝は甘いな。余裕なんて無いのに。

「はぁ・・、で、お前は何を悩む必要があるんだ?」
「え?そ、それは、どうしてあんな目をしていたのか知りたくて・・」
「悩む必要なんて無いだろう。どっちにしてもお前のやることは決まってるんだ」
「やること?」
「あいつに話を聞く、もし話さなかったらボコボコにして聞く。それだけだろう」
「にゃ!?ボコボコ!?」
「なんだ?違ったのか?そのために魔法の練習しているんだろう?」

てっきり私はOHANASHIとやらのためだと思っていたんだが。
自覚が無かったのか。

「ちがうよ!ただ私はあの子のお話が聞きたくて!」
「いや(一緒じゃないのか?)・・・まあ、いいか。・・・まあ、どっちにしろあの金髪とはぶつかるつもりなんだろう?悩む必要なんて無いだろう。今、お前がグダグダ悩んだところで何の意味も無いぞ」
「!・・・なんで?」
「金髪と当たらん限りお前の悩みなんて解決できないんだ。考えるだけ無駄だ。今は金髪と当たるまでにお前自身のコンディションを整えとけ」
「・・・そう・・そうだね、うん!ごめんね、琥珀ちゃん」
「別に、どうでもいい」

高町はうれしそうに笑う。少しはこれで集中力が上がれば良いんだが。

《ツンデレってやつかな?》
《そうじゃな、しかしデレが解りにくいからツンツンじゃないか?》
《大輝、カリン、ツンデレってなんなの?》

何時の間にか1人と2匹が離れてヒソヒソやってる。
何でカリンまでそっちに行ってるんだ?
というか、カリンまで巻き込んで不快っぽいことを言ってる気がするぞあの2人。

「とにかく!一端解散するぞ。ユーノも1人で行動するなよ。いいな?」
「それじゃあ、今日何も起こらなければ明日だね」
「うん!」
「また明日ね。琥珀、大輝、カリン」








「お前がフラグを立てるからだぞ。大輝」
「そんな旗立ててないから!」
「みんな、結界を張るから!」

結局ジュエルシードが発動し、封印処理に私たちは向かっている。
街中で発動させるなんて、本当にいい度胸だなあいつら。
ビルの上に立つ迷惑な連中2人を発見した。
ユーノの張った結界魔法が町を包み、ジュエルシードが出すはずだった被害を抑える。

「みんな!あの子は私に任せて欲しいの!」
「もとから、そのつもりだ」
「任せたよ、高町」

あの男がどこかから見ているかも知れないため、私たちは常に1人がフリーになるように心がけている。
そのため一番察知能力の高い大輝は、今日は戦闘不参加だ。

ジュエルシードの封印作業に高町が移り、私たちは周囲の警戒をする。
目の前の脅威より、姿を見せないあの男のほうを警戒しているからだ。

「リリカル、マジカル!」
「ジュエルシードシリアル14」
「封」
「印」

フェイト・ステイナイト?と高町の封印魔法がジュエルシードにぶつかる。
2つの魔法がジュエルシードを中心にせめぎ合い、ジュエルシードは封印された。

ジュエルシードを奪わせないために、私たちは全員でジュエルシードへと駆け出す。

「みんな!早く確保を!」
「そうはさせるかい!」

犬、確かアル何とかが私たち目掛けて牙をむきながら落下してきた。
私は噛まれる前に飛び上がり、犬の首をアッパーで毒づきし、そのまま右手で掴んでさらに犬の手足と口をチェーンバインドで縛り上げる。
これでこの犬はもがくことも、私を噛む事も出来ない。

「ぐぅう!?」
「アルフ!?」

そうか。アルフというのか、このワンコ。
正直、犬というよりモンスターにしか見えないわ。
そして、私は猫派だから全く可愛く見えない。=この琥珀、容赦せん!

「はっ、、はな、うぅ・・・が、はなっせ・・・!」
「アルフを離せ!!」

飼い犬の危機にフェイトがダッシュで切りかかってくる。
正直、私にとっては遅い。フェイトのソニックムーブ中の動きも確り見える。・・・あれ、私人間・・?まあいいや。
ここはアルフを盾にして犬派に生まれた事を後悔させてやろう。
くっくっく・・・・・・なんか私、凄く悪役だな!不思議っ!!

「!!・・なっ!」
「おっと・・!」

盾にしようとアルフをフェイトの方に向けた時、大輝が割り込んでフェイトを止めた。
しかもカッコつけてフェイトの魔力刃を右手で掴んで止めてる。普通に防げよ。

「?!・・何!?」
「おしい・・・!」

フェイトは突然、掴まれていた魔力刃を消して大輝から飛び退いて距離をとった。
大輝の奴、魔力刃を通じて魔力暴走させようとしたな。

説明しよう!!
魔力暴走とは、くらうと自分自身の魔力で体が内側からズタズタになる超えげつない攻撃だ。その後はリンカーコアに異常が生まれ魔力が練れなくなり魔導師人生が終了する外道攻撃、大輝の残虐な精神を形にしたような能力である!

「いや、違うからね、吸収のほうだからね?!なにさり気なく人を外道にしようとしてるの!?」
「ちっ」
「舌打ち?!」

むっ、アルフのほうが暴れてそろそろ拘束が解けそうだ。バインド解析してきてる。
急ぐか。

「・・・私はこいつを片付けて合流する。そっちは任せた」
「はぁ・・気をつけて、琥珀。周囲の警戒も俺がやっとくよ」
「ああ」

転移魔法でジュエルシードから離れた場所、地面から50mほどの場所にアルフごと転移する。

「う、・・・ぐう、は、はなせぇ!!」
「お望みどおり。地面に向かってな・・!!」

私はアルフの首を掴んだまま”加速”を発動し、地面へと高速で落下。その勢いのまま思い切り地面へアルフを投げつける。
爆発音のように激しい音を立て、地面へと突き刺さるアルフ。バインドは衝撃で砕けてしまった。アルフは防御魔法の展開ができたようだ。
まあ、死なないように確認してから投げたけど。加速中に防御魔法が展開できないようだったらチェーンバインドでジャイアントスイング30回するつもりだったから残念だ。
アルフが激突した場所を中心に煙が舞い、周囲の視界を奪う。

「ショット」

完全に見えなくなるのは面倒なので、射撃魔法で今のうちにアルフへと追撃をかけ煙を散らすが、アルフは転がって私の魔法をよけた。
しかし、地面に魔法が当たって弾けた爆風と破片によってアルフは10m程吹き飛ばされ、道路の中心に転がる。
ふらついてはいるが、まだまだ元気なようだ。
そのまま寝てれば苦しまずに済んだものを。

「ぐぅ、・・・や、やってくれるね・・、この、・・、クソ餓鬼がぁ!」
「・・・遠慮はいらないな」





――あの翠の髪の子・・・強い・・!スピードも私以上かもしれない・・・。
     この子を倒して直ぐに行くから、私が行くまで無事で居てねアルフ・・!

フェイト・テスタロッサは高町なのはと空中戦を繰り広げていた。
ビルとビルの間を縫うように飛行魔法で飛び回り、射撃魔法の牽制をしあう。
アルフの元に今すぐ向かいたいが、なのはに邪魔をされて向かうことが出来ない。
そしてなのはの戦闘力もフェイトに迫るものがあり、互角の戦いを繰り広げていた。

――この子も強い・・!しかも、下に居る魔導師も、かなりの実力者みたい・・。
   あれだけのサーチャーを完全にコントロールして、さらに私の攻撃も簡単に防いだ。
    あの子が参戦して来ない今のうちに倒さないと・・!

琥珀と上谷。この2人の魔導師がいることが、フェイトにとってプレッシャーとなっていた。
アルフの身を心配し、焦りが体を支配する。
フェイトが牽制に放ったアークセイバーを、なのはが射撃魔法で打ち落としている間にフェイトは勝負に出る。

「はぁあああ!!」

フェイトはソニックムーブでなのはの後ろを取り切りかかる。なのはは杖をアークセイバーのあった前方へ向けていたために防ぐ事は出来ない。

「!?・・後ろ!っえい!!」

だが、なのははフラッシュムーブで前方に身を転がるように投げ出し、フェイトの斬撃をかわした。
なのはの動きは、魔法によって強化されている高速の縦回転のでんぐり返し。琥珀が見たらこんなの教えてない、と言うだろう。

――大丈夫、ちゃんとかわせる!上谷君から習った空中高速でんぐり返し、ちゃんと使えるの!
   この子のスピードは琥珀ちゃんよりも遅い!そして魔法の威力は上谷君よりも低い!

高町なのはは琥珀たちとの訓練により着実に力を付けていた。
フェイトのスピードは琥珀との模擬戦によって、追いつけるようになっていた。
後ろからの奇襲も、琥珀と大輝によって対処法を教え込まれていたのだ。教えに少々悪ふざけが入っているためカッコはつかないが。

「シュート!!」
「くっ、!!」

バルディッシュを空振り、体制を崩したフェイトにディバインシューターによる射撃攻撃を放つ。
誘導性を廃し、スピードを優先した一撃は確実にフェイトを捉えた。
だが、フェイトのシールドによって防がれてしまう。
しかし、フェイトは予想以上の威力の攻撃に体制を崩した。
今が好機と、なのははフェイトに向かって叫ぶ。

「名前を聞かせて!私は高町なのは!」
「!・・・フェイト・テスタロッサ」
「どうしてジュエルシードを集めているの!?私はユーノ君のお手伝いがしたいから、みんなに傷ついて欲しくないからジュエルシードを集めているの!フェイトちゃんはどうして!?」
「答えても、意味なんて無い・・!」
「そんなこと無い!言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ!どうして、そんな悲しい瞳をしているの!?」
「・・・!」

フェイトの返答は魔力刃による反撃だった。高速移動魔法を使った一撃だが、フェイトの感情の揺らぎを表すかのようにその斬撃にはキレが無かった。
不意を突かれた形ではあったが、なのはは間一髪レイジングハートでバルディッシュを受け止める。

「フェイトちゃん!」
「私は母さんのためにジュエルシードが必要なんだ!邪魔を・・しないで!」
「きゃあ!」

もう一度、迷いを振り払うかのようにフェイトは上段からバルディッシュを振りかぶる。
なのはは体重と気迫のこもった一撃を受け止めきれずに弾かれ、地面へと吹き飛ばされてしまう。

なのはに追撃をかけようとしたフェイトの瞳に、なのはの背後、封印されたジュエルシードが映った。
フェイトにとって、母親の笑顔を見るために必要なもの、母が欲しがっている重要なもの。

フェイトは目の前の少女との決着よりもずっと大切なものを思い出した。
なのはを無視して、ジュエルシードへと一直線で飛行する。

「っ!!」
「待って!!」

フェイトの視線から狙いに気付き、なのはもフェイトを追いかけジュエルシードへと飛行する。
両者共に高速移動魔法で一気にジュエルシードへと達した。そのタイミングはほぼ同時。

お互いデバイスに封印するべくジュエルシードへと振りかぶる。
二人の杖が同時にジュエルシードをとらえたその瞬間、
レイジングハートとバルディッシュに亀裂が入り、まばゆい衝撃と閃光が走った。

「きゃああああ!」
「くっあああ!!」

光の爆発の衝撃は2人を吹き飛ばし、光が治まった後もジュエルシードは不気味な鼓動を続ける。

「なのは!!!、・・っく、大輝!まずいよ!次元震だ!」
「わかってる!」

2人の対戦を見守っていた大輝とユーノが焦りを顕にジュエルシードへと飛行魔法で向かう。

「どうするの!?」
「封印。任せといてくれ、得意だから」

たどり着いた大輝が右手にジュエルシードを掴んだ瞬間、ジュエルシードの鼓動が一瞬にして治まる。
あれほど不気味な光を放っていた事が、まるで嘘のように沈静化した。

「すごい・・・。あの暴走状態を一瞬で・・・・!」
「得意だって言ったろ?じゃなきゃ、2人ともさっさと止めてたよ(・・・いてて、素手で危険物に触るのはやめよう)」

大輝はキリッとした顔で得意げにユーノに自慢しているが、内心は思っていたよりジュエルシードの力が強くて怪我するところだったとヒヤヒヤしていた。

「上谷君!大丈夫!?」
「ん、大丈夫だよ。高町」

ジュエルシードの暴走によって吹き飛ばされたなのはも、心配そうに大輝へと駆け寄った。なのはも先ほどのジュエルシードの魔力に不気味なものを感じていたのだ。

なのはに少し遅れて、大輝の手の中にあるジュエルシードを奪うため、フェイトが大輝たちのもとに走ってくる。
ボロボロになりながらも、その目は大輝たちへの敵意と戦意で満ちていた。

「ジュエルシードを渡してください・・・・!」
「フェイトちゃん!」

ボロボロになったバルディッシュを大輝に突きつけながらフェイトが言う。
だが、大輝はフェイトの言葉を無視して、ジュエルシードをポケットに入れた。
フェイトにとって、その動作が自分の敵になり得ないと言われている様に思え、怒りのまま大輝へとバルディッシュを振りかぶる。
だが・・・

「そんな状態で、勝てるとでも?」
「な!何時の間に!?」

何時の間にか背後に現れた琥珀の金色の刃が、フェイトの首に添えられていた。








飛び掛ってきたアルフを上段からの一太刀で片付けた私は、気絶しているうちにバインドで縛り上げ、引きずりながらジュエルシードへと向かっていた。
結構遠くまで来ていたために歩きながらでは時間がかかった。
それだけ、なのはが会話できるチャンスを作ってやろうと、大輝と決めていたからだ。

しかし、次元震が起きた場合は直ぐに介入して止める予定だ。
次元震は危険ではあるが、大輝の能力によって抑えられるほか、管理局がこの世界に来るのを早める役割もある。
やばそうな犯罪者がうろついている状況だからこそ、安易に起こさなくするなど出来るものじゃない。私たちは管理局への通報の仕方とか知らないしな。
そんなことをつらつらと考えていたら次元震が起きてしまった。
そのため、駆け足でジュエルシードへと向かう。

「う、・・あぁ・・」

引き摺っているワンコがコンクリートで擦られて呻いているが、これも地球を守るため。仕方が無いのだっ!
持ち上げて行くのは両手がふさがって危険だし、仕方ない!うん!


ジュエルシードのもとにたどり着いた私が見たのは大輝にデバイスを突きつけるフェイトの姿だった。
アルフをその辺に放り投げ、能力を発動させて後ろから魔力刃を首へと突きつける。

「あの犬を連れて、さっさと逃げ帰るんだな」
「え?・・・ア、アルフ!?」

私の後ろに転がっているアルフに気付いたフェイトが声を荒げる。

「さっさと帰れ、今日はもうお開きだ」
「う・・・・。くっ!」
「フェイトちゃん!」
「・・杖を見ろ、なのは」
「あ!・・・レイジングハート・・」

フェイトはアルフを担いで、私へと怒りの視線を向けながら去っていった。
なんか、涙目だったので凄く悪い事した気分。
高町も不満そうに私を見たが、レイジングハートの損傷が酷く追いかけるのをやめた。
何で捕まえないかって?
大輝から聞いた話だと、捕まえてたらプレシア?っていう、確かラスボスの人が雷で狙ってくるからダメ、だそうだ。

「大輝、何か動きは?」
「いや、彼女たちの他には何もなかったよ」

ユーノは高町のもとに向かって、2人ともレイジングハートを心配しているようだ。



全く姿を現さない敵。フェイトの危機に出てくるかと思ったが何の反応も無かったな。

















あとがき

主人公容赦ネーナの巻
猫派だった場合はもう少し優しかったでしょう。相手がワンコだったのがいけませんでした。







以下、感想返し
感想返しって何処で返せばいいのか解らず迷走する作者です。

>リョウ様
感想、ありがとうございます。
 >それが意味するところは、2人とも両方イケるということか 
  其処に気づくとは、やはり天才・・・・。

>ASK様
感想ありがとうございます。
カリンは変態じゃないです。カリンは長い事生きてるけど、エロや恋愛方面は経験無しで幼いです。ちなみにメスです。
友達の狐妖怪の恋愛話にイラッとする子です。

>ぉょぉょ様
感想ありがとうございます。
百合にはきっと走らないでしょう。多分。
なのはは百合じゃないですよ。stsなんか怪しかったですけど。多分。




[34220] 13.急転直下
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/21 21:11
フェイトは時の庭園へと、母であるプレシア・テスタロッサにジュエルシードの探索状況を報告するため帰還していた。
今現在、フェイトが獲得したジュエルシードは2つ。

「フェイト・・ごめんね、あたしがやられちゃったせいで・・・」
「ううん、あの子はとても強かったから・・、アルフのせいじゃないよ」

プレシアの待つ部屋へと向かう途中、アルフはフェイトのことが心配で仕方なかった。
尻尾も常のような元気もなく、ただ垂れ下がっている。
もし、昨日のジュエルシードを獲得できていれば、プレシアであってもそこまで酷いことはしないのではないかと思うと、邪魔をしてきた翠の髪の魔導師への怒りがふつふつとこみ上げてくる。

そう、昨日の探索では全くフェイトの役に立てないままアルフは意識を失ってしまったのだ。
意識を取り戻した時の屈辱感は忘れられない。

ジュエルシードたった2つでは、フェイトがプレシアに何をされてしまうかわかったものではない。
アルフのプレシアへの不信感は、フェイトをつれて逃げ出してしまいたいと思うほどに高まっていた。

「それじゃあ、アルフは待っててね」
「うん・・・」

部屋への扉を開けフェイトが進んだ先には、フェイトへと振り返って微笑む、まるで”死人のように血の気がない顔”をしたプレシア・テスタロッサがいた。
それを見たフェイトの心に、最も望んでいた、やっと見せてくれた母の微笑みのはずなのに、言いようのない恐怖が襲った。

「か、かあさん・・?」
「よく来たわね、フェイト」









「ねえ琥珀、昨日何かあったの?なのはがむくれながらあんたを見てんだけど」

昨日の戦いから一夜明け学校に来ているのだが、高町の奴がフェイトを帰してしまった事にまだ不満を持っているのか、膨れっ面で私を見ている。
正直全く怖くない。むしろ可愛らしいくらいだ。デコに⑨と書いてやりたいくらい。

また、面倒な事に私1人でアリサたちに応対中だ。
今現在、大輝はトイレに行っていて教室には居ない。狙ったか、アリサ・バニングス!・・・・あれ、デジャブ?
あいつの扱いは未だにこんなもんだな。私が盾にしてるせいかもしれないけど。
とりあえず、高町をからかうか。

「なのはがエルボーを喰らわせる予定だったやつに、私が先にかましてしまったのが不満なんだろう」
「にゃ!エルボーって!?」
「なるほど、焦れて先にやっちゃった訳ね」
「そういうことだ」
「どういうことなの!?」

高町が手を上下に振りながら必死に話しかけてくる。一緒にツインテールも上下に揺れているのは何故なんだろう。あの動きは不自然すぎないか?

「なのはの奴は鈍くてな。何度も技をかけようとするが、相手の逃げ足が速くて決まらなくて、つい」
「あ~、想像できるわね。でもそうまでして、仲良くしたい奴ってどんな奴なのよ。なのは」
「私も気になっちゃうな。なのはちゃん」
「えっ!ちょっと待ってよ!というか技って何なの!?」
「そんなことはどうでも良い事だ。それとアリサたちの言っているのは、あの金髪のことだ」

もう、いい加減この2人の不満も多いだろう。
聞かせられる事は聞かせてやるべきだ。
言えない所は適当に嘘でもつけばいいと言うのに、高町は真面目ちゃん過ぎるな、ほんとに。

《魔法のこと抜きで話してやれば良いだろう?先日までお前がボケッとしていた時から2人はずっとやきもきしていたんだ》
《え!・・・フェイトちゃんのこと?・・でもなんて言えば・・》
《見た目とか、すぐ逃げるとか、目的のために町を破壊しようとしたとか、猫を苛めたとか》
《そ、そんなことフェイトちゃんはしてないよ!・・・多分》
《いや、実際やってたろ》
《琥珀、ちゃんとアドバイスしてあげようよ・・・。なのは、なのはがあの子の事をどう思ってるか言えば良いんだよ》

まじめにアドバイスしていた積もりだったが、ユーノからしたらダメダメだったらしい。
高町の肩の上から抗議の視線が飛んでくる。
私としては事実をありのままに言うのが一番だと思うぞ。

「あ、あのね、フェイトちゃんっていってね・・・えと、金髪で赤い目をしたかわいい子なんだけど、悲しそうな顔をしてたの、だから気になっちゃって。どうして、あんな顔までして頑張っているのか知りたくて・・・」
「それであんたは気になった訳ね」
「琥珀ちゃんの話から聞いていたイメージと、ちょっと違うね。すぐ逃げるって聞いてたから」
「にゃ!?こ、琥珀ちゃん!」

高町が月村の言葉から私へと抗議の声を上げる。
ホントのことだと私は思うぞ。

「実際、目的を果たしたら直ぐ逃げるだろ。友達なんかイラねーゼ、見たいな感じだし」
「もう!何でそんなにフェイトちゃんに厳しいの!」
「奴は犬派の尖兵だ。=倒すべき敵という事だ」
「あ、アルフさんのこと?確かに犬だったけど・・・。そういえば昨日もアルフさんに容赦なしだった・・・・」

まあ、昨日のはちょっとやり過ぎだったかもしれないが、私は猫派だから問題ないな!

「アルフさんって?」
「あの金髪の連れている犬だ。躾の全く出来ていない奴でな。噛み付いてくるものだから、ぼこった」
「琥珀ちゃんって見た目に反して容赦ないよね」
「というか動物虐待はやめなさいよ」

月村に容赦ないとか言われたくない。
そういえば、バニングスも犬派だったな。まあ、猫を苛めたりはしていないので許してやろう。
まあ、犬を苛めてはいけないと言われれば、やる事は1つだな。

「わかった。飼い主をぼこる」
「「「やめて!」」」










あの後、動物虐待について説教されてしまった。解せぬ。
その上、バニングスから犬がどれだけすばらしいか長い解説を聞かされ、正直うんざりだった。まぁ、話がうやむやになったから、計画通り、何だろう。うん。
私が高町のせいで、不利益ばかり被ってる気がする。不思議。

放課後、私たちは再びジュエルシードの探索に出かけていた。

「なのは、レイジングハートは大丈夫?」
「うん!今度は絶対壊させたりしないよ」

あの杖、1日で直るってどういう事なんだろう。
自動修復機能ってむちゃくちゃすぎると私は思うぞ。
そんなのあるなら私も欲しい。携帯とかにつけて、落としても大丈夫にしたい。
あと、プラモデルとかにつけて、幾らでも遊べるようにしたい。あの間接の脆さも解消だな。

「っ!」

この魔力は、ジュエルシードか!
このビビッと来るのは何とかしてほしいな。

「みんな!ジュエルシードだよ!行こう!」

ユーノの言葉に全員が頷き、発動場所へと向かう。
発動した場所は、夕暮れの公園。
ジュエルシードの暴走体は木で出来た化け物だ。
キュートな見た目だな。いや、嘘。
ぶっちゃけきもい。リアルだとやばいね。
なんでジュエルシードの暴走体はこんなんばっかなんだろう。

「私たちが1番乗りのようだな」
「うん!結界を張るよ!」
「さっさと終わらせようか」

ユーノの結界が公園を包み、大輝が封印のための砲撃魔法を準備する。
相変わらず、大輝のああいった魔法の威力は高い。収束砲撃まで出来てしまう。

私の多様する手から出す魔力刃の魔法は、片手からしか私は出せないのにあいつはドヤ顔ダブルソードとか、足からも出して4刀流とかしやがる。
それでカッコいいポーズしたときはつい殺意が沸いてしまった。
それだけあいつの魔法の熟練度は高い。というか、異常の領域だ。計算式とかどうなっているんだろ。能力だけじゃ出来ないだろ。

「琥珀ちゃん!」
「ああ!」

あの木の暴走体はあいつ1人で十分だと思うが、一応牽制をしとくか。

「ショット!」
「ディバインシューター!!」

高町と共に左右に飛んで別れ、挟み込むように暴走体に魔法を放つ。
しかし、ジュエルシードは小ざかしくもバリアで私たちの魔法を防いだ。
しかも枝を幹の前でクロスするポーズだ。バーリヤ!ってか、すっげーイラつく!小学生か!
なんだかあの顔が私を馬鹿にしているような気さえする。

「砲撃!!みんな撃つよ!!」

大輝からの砲撃魔法がジュエルシードを貫き、封印魔法が発動した。
ジュっと言う音がしそうな感じで、白色の光にバリヤポーズのまま包まれていった。
まさにざまぁないぜ!って感じだな。
どうでも良いが、大輝は何でかめはめ波のポーズ?片手突き出すだけでいいだろ。
まあ、この世界で知ってる奴なんていないんだろうけど。

そういえば、私も誰も居ない時に陰でやったな。
カリンしかいなかったから、”か~め~は~め~はー!”って、魔法なんて使えたらしたくなっちゃうよね、普通。絶対するよね!ね!

「やったね!」
「お疲れ、問題なかったな?」
「うん。ジュエルシードはちゃんと封印できたよ」

ジュエルシードを高町のレイジングハートに収納した後、ユーノが結界魔法をといた。
全員集まってのびのびとする。雑魚で助かったな。

「気をつけろ!何か来る!」
「え?」

いきなりどうしたんだ、大輝の奴?、っ!!
これは!空間が歪んだと思ったが、転移魔法か!

「上だ!みんな下がれ!」

大輝の叫びに従って、私たちはその場を飛びのく。
飛びのいた後、どさっと言う音と共に何者かが私たちが居た所に落ちた。
落ちた拍子に、ピチャッという水音と共に何かが飛び散り、私の頬に掛かる。
これは・・血・・・・?

「う・・あ、く、・・」

転移魔法で現れたのは昨日戦ったはずの、血まみれのアルフとフェイトだった。
フェイトのほうは意識が無い様で、アルフにもたれかかっている。
とにかく出血が多い。どちらが怪我をしているのかわからないが、この出血はまずい!

「あ、あんたた、ちか・・・お願いだ、フェイトを、たすけてくれ・・」
「・・あ・・あ、あ、・・フェ、フェイトちゃん!アルフさん!」
「とにかく止血だ!・・大輝!救急車を!ユーノ!回復魔法の手伝いを!」
「ああ!」
「うん!」

とにかく2人を横にし、怪我の確認をする。服に血が付くが、気にする余裕なんてない。
特にアルフのほうの怪我が酷く、右脇腹に焼けど、銃器で撃たれたような貫通痕が左脇腹、左腕に1発づつある。
恐らくは、あの男によるものだと思われる。
フェイトのほうは、かすり傷がいくつかと、背中に焼けどがある。
アルフの方はここが管理外世界である以上、私の能力で”巻き戻さない”と間に合わないかもしれない。
私が何ヶ月分になるかは解らないが、若返って縮む事になるが、命には代えられない。

「救急車はいい!此方は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!此方の医療局員を回す!エイミィ!!」

! 何時の間にかに現れていた、黒い服の少年がいた。
この子は確か、原作で重要な登場人物になってたはず。
しかし、このタイミングは出待ちしてたのか?

「もう転送ポートでそっちに向かってるから、直ぐ付くよ!」

夕暮れの空に映像が映し出され、特徴的な癖毛を持った茶髪の女性が現れた。
誰かは私は知らないが、管理局の者ならば任せたほうが得策だろう。

「事情を聞かせてもらいたい。武装解除を」











次元航行艦アースラの一室、いかにも外国人が勘違いした和室のような場所で、私たちはリンディ・ハラオウンに今までの事を話していた。
カリンも何故かいたので連れてきている。私の膝の上だ。

ちなみに、私たちの目の前にあるリンディ茶とやらは普通にまずそうだ。砂糖はやばいって。何で入れるの?馬鹿なの?死ぬの?糖尿病で。
途中の廊下でユーノが変身魔法を解いたが、高町はフェイトたちを心配して気付いておらず、部屋の中に入ってから気付いて少々混乱していた。あまりに華麗にスルーしていたので、知っているものと私も思ってしまった。

「なるほど、あの子達はジュエルシードを狙っていた魔導師、という事ですね」
「あ、あの!フェイトちゃんたちは大丈夫なんですか!?」
「アースラのスタッフは優秀よ、安心して。命に別状はないわ」

なのははその言葉に少しは安心したのか、安堵のため息をついた。
此方が落ち着いたのを確認してから、リンディさんとクロノは話を続ける。

「あなたたちを襲った、ローブの赤髪の男と、監視していた人たちの事を詳しく聞かせて欲しいのだけど、いいかしら?」
「はい。監視していた人たちは魔力を持たない一般の人たちで、行動中、生気の無い顔をしていました。現在は普通の生活をしていて、その後に怪しい行動は特に見受けられませんでした。記録として住所をノートに取っているので確認して欲しいです。赤髪の男は転移魔法でフェイト・テスタロッサと高町の間に現れ、テスタロッサを逃がし、高町に質量兵器のガトリングガンのようなもので発砲しました。割り込んで助けたところ、”ベストではない””いずれ迎えに行く”と言って転移していきました」

大輝が報告を行う。初対面の人と良くそんなにペラペラ喋れるな。
監視していた人たちは、ノートに住所や名前等の情報を記入してある。普通に犯罪だが、もしもを考えたら仕方なかった。地球を守るためだ、うん。

「・・・なるほど、解りました。その情報は後ほど詳しく聞きます。・・これよりあなたたちをご家族を含め、時空管理局が保護します」
「え?」

予想外の爆弾発言をされ、私たち全員が固まってしまった。
家族を含め保護する。それには自分たちの情報開示が必要だろう。
管理外世界で正体を明かす。そこまでの事をしなければいけないのかという驚きで何も言えなくなる。
そして、それはお父さんたちに魔法の事がばれてしまうということだ。
大輝は魔法がもとで、ご両親との関係に亀裂が入ったと言っていた。
異能を持つものは、持たない者にとって化け物でしかない。
お父さんたちは、・・・受け入れてくれるのだろうか。

「”人形遣い”に次元干渉型のエネルギーの結晶体。どちらも、総力を挙げて取り組まなければ成りません」
「それに、”人形遣い”は気に入った人を操ろうとする時、人質をとって行うと言われている。もうこれ以上、管理局は奴のために被害を出すわけにはいかないんだ」
「実はこの世界で”人形遣い”が何かをしようとしているっていう通報もあったのよ。明日には応援としてもう一隻次元航行艦が来るわ」

次々に告げられる情報に、頭が混乱しそうだ。
通報した、という事は私たちの他に次元世界への通信手段をもった魔導師がいたという事だ。
そしてたった1人の人間に次元航行艦が2隻も来るのだ。どれだけ本気かが伺える。
もう”人形遣い”を人間として見ていないのだろう。
もはや、ロストロギアだ。それも超危険な。

「もう1人、あなたたちの他にも保護するべき人が居るから、少し待っていて欲しいの。ご家族の方たちにも、私たちが護衛として一緒に行動して説明に行くから」
「こんな事になってしまったが、どうか理解して欲しい」

そう言って私たちに頭を下げる2人の真剣さに、私たちは黙るしかなかった。

最初、監視していた頃はこんな大事になると思っていなかっただけに、緊張と不安で胸が張り裂けそうだ。
私たちを転生させた人は、何を思って転生させたのだろうか。
もし、今のような状況を作り出したかったのなら、さぞ、地獄で高笑いしているのだろうな。



[34220] 14.突入前
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/08/25 21:00
あの後、それぞれの家に事情説明に回り、より詳しい説明のため喫茶店翠屋へと足を進めていた。
もともとはアースラで行う予定だったらしいが、いきなり聞いた事もないような組織の拠点に自ら望んで進むような真似は誰だってしたくない。
そのため、高町夫妻の好意により場所を貸して頂いたわけだ。もう1人の保護すべき人物も、通報した魔導師と共に来るらしい。

リンディさんについて来てもらって私の家族に事情を話したとき、父と母は神妙な様子で頷いていた。
現在、数名の武装局員と共に家族で翠屋へと向かっているわけだが、私は父と母の真剣な面持ちに一言も喋る事が出来ずにいた。
夜の闇が、より私の恐怖心を高める。もし、この人達に受け入れてもらえなかったら、私は立ち直れる気がしない。それに、私は危ない事に黙って首を突っ込んでいたのだ。

内心でビクビクとしながら、私の手を引く父に黙って付いていく。いつもなら安心を感じる父の手が恐ろしい。
私の肩に乗っているカリンのぬくもりが、少しだけ安心感をくれる。




翠屋にはすでに高町家の面々や、大輝の家族も来ていた。
私の両親は解らないが、大輝の両親がこの場に来ているのは、魔法という超常現象をすでに知っていただめ、管理局という一般人から見たら荒唐無稽な組織を信じられたのだろう。
当たり前だが、みんな真剣な顔をしている。
その中に今まで見た事のない車椅子に乗った少女と、猫耳で体の各所に包帯を巻いている女性が2人いた。猫耳の女性2人の怪我は、それなりに大きいようだ。
車椅子の少女の表情も硬い。

「皆様、御集まりいただき、ありがとうございます。さっそくですが、説明に移らせて頂きます」

リンディさんとクロノが説明を開始した。
要約すれば、自分たちの組織、管理局について。さらに、もう一隻の船が来る事。
ジュエルシードという世界を滅ぼしかねないロストロギアがこの世界に転がっている事。
又、それを私たちが回収していた事。
そして、管理局が追っている犯罪者、”人形遣い”の事。
人形遣いに私たちが狙われている事。
そのために、それぞれに護衛として武装局員がつき、人形遣いが現れたら、直ぐに私たちを連れてアースラへと逃げるように転移する事だった。
また、私たち魔導師は、決して1人で行動しないように家族に見張っていて欲しいと言う事だった。

「あ、あの私たちも、何か出来る事を」
「だめです。こればかりは、既に民間人が手を出していい案件ではありません」

高町が、おずおずと協力したい有無を告げるが、直ぐにリンディさんに拒否されてしまう。
高い魔力資質をもったなのはすら拒否されてしまったということは、私たちも一緒だろう。
一番の大きな理由は、人形遣いの能力を省みて、これ以上戦力を与えるわけにはいかないということなのかもしれない。
高町はショボンとしすぎだろう。普通あんな危なっかしい奴に関わらなくてもいいなら喜ぶべきだ。

「俺たちは、あなたたちの人員が見張りに付く以外は普段どおりに過ごして欲しい、というわけですか?」
「はい。大輝君、あなたたちはとても高い魔力資質を持っていますが、人形遣いは規格外です。ですので、私たちを信用してあなたたちは今までの生活に戻ってください」







結局、その後はお父さんたちが幾つかの質問をしてその場はお開きになった。
ついでに、私たちと親しいバニングスと月村にも密かに護衛が付くらしい。
私たちの家族に説明があったのは、私たち子供が、魔法に関わっているからだそうだ。
明日にグレアムという提督が来るらしく、そのメンバー紹介も明日に行うらしい。ついでに、避難場所である次元航行艦にも希望で案内してもらえるらしい。

あの車椅子の少女は1人暮らしであったため、そのままアースラへと猫耳の2人組みと移動する事になった。
障害をもった女の子が1人暮らしをしていたことに、驚きだ。
あの子の事はどっかで、見たような気がするが思い出せない。もしかしたら原作のキャラなのかも。
もっとまじめにアニメを見とくべきだった。でも9年以上も経ってて、そんなに詳細に覚えていられるわけが無いよなぁ。

などと現実逃避をしていたが、遂に家に着いてしまった・・・。
リビングで家族会議が始まる。ソファーに座ってテーブルを挟んで父と母と向き合う。
武装局員の方は、家までは入ってきていない。外で怪しいものが居ないか監視だそうだ。基本的に私たちとの接触は最小限にするとの事だ。管理外世界で正体を明かしたことすら、本当は褒められた行為ではないんだろうし。

「あ、あの、今まで黙っていて、ごめんなさい」
「・・・・」

リビング内の沈黙に耐え切れず、私はとにかく謝る事にした。
お父さんたちの目を見る事が怖くて、否定されるのが怖くて涙目になって俯いてしまう。
涙を流してしまえば、歯止めが利かなくなってしまいそうで必死に耐えた。次の言葉を聞くのが怖くて仕方がない。
大輝に何時も偉そうにしておきながら、私自身はこんなにも情けない。

「琥珀・・実はな、すでに知っていたんだ」
「ぇ?」

お父さんの言っていることが良くわからなかった。
すでに知っているとはどういうことなのか、俯いた顔を上げて2人のほうを見るが、何時の間にかもう1人、長い黒い髪の猫耳で、黒い着物を着た女性がお父さんの隣に座っていた。
その女性は始めて見るはずなのだが、なぜか既視感を覚えた。なんと言うか、何時も一緒に居るような不思議な感覚というか、
ハッ!まさか、私はニュー○イプとして、目覚めてしまったのか!

「わしじゃ、琥珀。この姿では始めましてじゃな。カリンじゃ」
「え?、え、カリン?へ?」

な、なにを言ってるのかわからねーと思うが私にもなにを言われたのか解らなかった・・・。
ハッ・・いかんポルポルしてしまうところだった。
いやだが、この人の配色はどう見てもカリンと一緒だし、尻尾とか猫耳・・?
しかし、そんな筈は・・、いや、だが、なんか、あれ・・・でも
いや、でもそれは・・・・・・・・・

「ほれ、この通りじゃ」
「!」

目の前の女性が光りだしたと思ったら、カリンになっていた。
な、なにを言って(ry
毛の長いキャットが私の目の前に!
瞬間移動か!
いや、何かのマジックだな!トリックは何だ!
いや、でも(ry

「What!?あ、いや、ど、どういう事!?な、なにが起きてるの?」
「落ち着きなさい、琥珀。・・・カリンは妖怪なのだ」
「お主の護衛をやっておった。いや~、一度言い逃すと中々いいだせんくての、すまんかったの」

目の前の黒猫がペラペラ喋っておる!腹話術か!
お父さんもお茶目なんだな~。AHAHAHAHA!!

・・・いや待て、今父はなんて言ったっけ?
”妖怪”?そういえば、この町に妖怪の狐が居るみたいな事を大輝が言ってたような。
この世界は原作とやらと違って普通に妖怪がいるらしい。
その辺に妖怪やらたたりの伝承が色々と残されていて、霊能力者が普通に職業としてあるとか何とか。
と、いうことは・・・
・・・つまりカリンも妖怪と言う事になるのか?
・・・・・・・・・・・・・!!!???
な、・・・なん・・・だと・・・・!!
わ、わたしは、カリンとはど、んな時も、一緒にい、た・・・。
つ、つまり・・それは、私がやってきた事を、見ていたと、いうことか・・・?!



~以下、カリンの前でやった思い出される記憶~

1、猫に話しかける
”にゃ~、カリンご飯だにゃ~。いっぱい食べるにゃ~”

2、必殺技の練習
”波動拳っ!!・・・やっぱり出ないか・・・いや、魔法ですれば・・。しかし、ストリートファイターとしてそれは出来んな・・・”

3、ノリノリで歌う。(B'Zとか)
”♪~♪~♪~   ん、カリンか?どうしたの?もしかして、煩かった?”

4、心霊番組を見て泣く
”うぅ・・、幽霊番組なんて見なきゃ良かった・・・、カ、カリン、一緒に寝てね?”

5、意味も無く窓から雲を眺める
”あの雲・・・!絶対ラ○ュタがある・・・!”

6、ポップを目指す
”メドローア!・・・やっぱ無理か・・・。私に変換資質さえあれば・・・!”

7、赤い彗星のかっこいい台詞の練習
”まだだ!まだ、終わらんよ!   ・・・・いつか使う時が・・・。赤い服とサングラスでも買いに行こうかな・・”

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「う、うう・・・うあぁぁぁぁぁ・・・・!!!」
「こ、琥珀、落ち着くのじゃ!大丈夫、わしは何も見てないぞ、ウン!」

う、嘘だ!ニヤ付いてるよ!絶対見てたね!
ああ、何かお父さんたちまで生暖かい目で!やめて!そんな目で見ないで!

さっきまでとは違う理由で、私は涙目になって俯いてしまう。とてもじゃないが顔を上げることなんて出来ない。
私に出来る事は頭を抱え込んで俯く事ぐらいだ。
記憶を消す魔法さえあれば・・・・!いや、今こそ私の能力を発動する時か!何年分体が若返っても気にしない、この世ごと巻き戻してくれるわ!!
そうだな、きっとこんな時のために、この能力は出来たんだな!うん!

「こら、琥珀。落ち着くんじゃ」

カリンに抱き上げられ、集中力が途切れ能力の発動が止まってしまう。
何故バレたし。
そういえば、本気の能力使用時に私の体は金色に発光してしまうんだった。カリンにもぺらっと言ってたわ。

「そ、それでね、琥珀。カリンから今までの事は全部聞いていたの、貴方が危ない事をしてるって」
「ぅぅぅ・・、・・え、と、前に言ってた、護衛ってそういうことなの?」
「そうだ。その上で、黙認していた。・・すまなかった」

何故、お父さんたちは謝っているのだろうか?
悪かったのは私のはずだ。私は何も言わずに勝手な事をしていたはずだ。

「どうして謝るの・・?」
「・・・琥珀、お前が魔法の世界に行かないように、魔法を怖がるように、あの男を泳がせた」
「!」
「わしなら、初めて遭遇した時に仕留められた。・・・だが、見誤っていた。すまなかった」
「ごめんなさい・・・!琥珀っ!」

お母さんが身を乗り出して、私をカリンから受け取り抱きしめる。
・・・この人たちは、本当に私の事を想ってくれているんだと、解る。本当に、この人たちのもとに生まれて良かった。私は本当に幸せものだ。
現金な私は、今までの不安が全て消し飛んでいく。お母さんの腕の中で、自然と頬が緩んで笑顔になっていく。
赤くなった顔を見られないように、お母さんの胸に顔を埋めておく。

「ううん、謝らないといけないのは私だよ。・・ごめんなさい。そ、それと、あの、ありがとう」
「・・ああ」







翌日、凶悪犯罪者に狙われているというのに私は上機嫌で学校に来ていた。
まあ、傍目から見たら私の表情の変化なんて小さなものだから、誰も気付かないんじゃなかろうか。
護衛の人はある程度離れて私について来ている。小学生を尾行する大人。文章にすれば犯罪くさいが、周りに気付かれないようにしているようなので、逮捕とか言う落ちはないだろう。

もちろん、私の肩にはカリンが乗っている。教師には突っ込まれないし、もう私も突っ込まない事にした。
カリンとは晩の内に色々と話した。今まで会話がしたことはなかったけど、カリンはやっぱりいい子だった。餌はカリカリより、缶詰がやっぱり美味しいらしい。
聞いた話だが、カリンも転生者だってことには物凄くびっくりした。
大体、転生の時代が戦国って何?あの銀髪ボインなんでも出来るね。ホント、性質が悪いよ。

ついでに言うと、私の黒歴史については黙っていてくれるようだ。
お父さんたちにも言っていない様で、一安心だ。でも、昨日の反応を見る限り、知っているような気がする・・・・。いや、ないな!

それにしても両親に黙って行動していたことは私に対して大きなストレスになっていたらしい。昨日の事で一気に肩の荷が下りた気分だ。
これが、もう何も怖くないって奴だな!


そんな私と比べて、学校での高町の落ち込みようはかなりのものだった。
気になっていた奴は怪我で寝込み、やりたい事は強制的に終了させられたのだ。落ち込むのは当たり前だろう。というか、私のほうが不謹慎だ。
ユーノの奴も元気がない。しょんぼりとした様子で落ち込んだ高町を気にしている。
大輝の奴も傍目から見たらいつも通りのようだが、表情が硬い。わかるやつには解ってしまうだろう。昨日の事に納得してないのかもしれない。

「ねえ、琥珀ちゃん。なのはちゃんたちどうしちゃったの?」
「そうよ。何か上谷の奴まで暗いじゃない。なに落ち込んでんのよ」
「あ、いや、落ち込んでる訳では」

恒例の質問タイムが始まってしまった。私の机に2人が集まる。高町は相変わらず自分の席でボーっとしている。
今日は大輝シールドがある。私が喋らなくても何とかなりそうだ。
というか、月村は相変わらず大輝スルーですか、トランクスルーですか?

《どうしよっか?管理局の事は話せないし》
《フェイトが怪我をして入院したと話せば良いんじゃないか?》
《でも、調べられたらばれちゃうよ》
《なら、ありのまま話すか》
《え!?ちょっと琥珀!》

「簡単に言うと、私たちは探索中にやばいのに襲われてしまったんだ」
「琥珀!」

大輝が私を止めようとするが、構わず続ける。
というかこんな状況だ。魔法の秘匿もあったものではないと思うんだが。
それどころか、この2人が人質として狙われるかもしれない。護衛は付いてるのだろうけど、2人の危機意識は必要だろう。
なら、魔法の事は秘匿しなくてはいけないかもしれないが、適当な嘘をついて警戒を促したほうがいい。後で嘘がばれて私が怒られても、この子達が警戒心を持ってくれたほうがずっといい。

私の言葉を聞いた2人がポカンと口を開ける。

《魔法の事は話さない。大丈夫だ、問題ない》
《しかし》
《小僧、琥珀に任せておけ》

私の机の上に乗ったカリンのおかげで大輝は、不満そうではあったが押し黙った。

「やばいのってなによ!なにをされたの!?」
「大丈夫だから、大きな声を出さないでくれ、説明する」

アリサ山が案の定爆発した。クラスメイトからの視線を集めてしまって少々気まずい。
とりあえずバニングスを落ち着けてから、説明を開始する。

「それで、フェイトが怪我をしたんだ。犯人はまだ捕まってない」
「怪我って、大丈夫だったの?」
「ああ、軽いものだ。だが、私たちはなるべく自宅待機になった。今日も送り迎えをしてもらったしな」
「なによ、そいつ、とっ捕まえてやるから言いなさい!」
「悪いが、ほとんど特徴を掴んでない。変装していたからな。警察に任せるくらいしか出来ないだろう」
「・・・むう」

なんだか、直ぐにばれそうな嘘ではあるが、実際事実だからまあ大丈夫だろう。それよりもこの2人には高町の傍に居てもらいたい。

「とにかく、なのはの奴が落ち込んでるのはそれのせいだ。あいつと一緒に居てやって欲しい」
「うん。任せて。なのはちゃんは大事な友達だもんね、アリサちゃん」
「そうよ。言われなくても一緒に居るわ!」
「あと、2人もなるべく1人になったりしないように気をつけるようにしてくれ」

私の忠告に頷いた2人は高町のもとに向かった。
これで、しょぼんとした高町の気が、少しは晴れてくれればいいんだけど。

「琥珀、俺たちも高町のほうに行こう」
「!・・・そうだな」

大輝の提案に納得した。というか心配なら自分で行けよという話だ。
どうにも距離感が未だに掴めていないというか。





午後6時、家に帰っていた私たちに管理局のほうから連絡があった。
緊急を要するらしく、私たちは迎えに来た局員たちと直接、グレアム提督の乗る時空航行艦シルヴァーナとかいうアースラよりも大きな戦艦へと向かった。

会議室へと通された私たちの前には、初老の男性、恐らくグレアム提督と、昨日の猫耳2人組み、ハラオウン親子が待っていた。
私たちが席に着いた時グレアム提督の後ろにディスプレイが表示される。映し出された映像には、人形遣いと、それに付き従う死人のような顔の人達がいる。

「皆様、本日は申し訳ありません。私が時空管理局提督ギル・グレアムです。緊急を要するとは、人形遣いより、犯罪予告と私たちに対する要求があったためです」

「奴は岸野琥珀、高町なのは、上谷大輝、フェイト・テスタロッサを連れ、時の庭園、現在の奴の住処へと24時間以内に行かねば、奴が集めたジュエルシードで地球を滅ぼすと言っています」

「奴は”ゲーム”と言っていました。自分を捕らえて見せろと。これから、私たちは総力戦として奴を捕らえに向かいます。ご協力を」


その後の説明によると、私たちの他に、何人でも時の庭園に行っていいそうだ。

あの人形遣いは相当に自信があるらしい。そのまま、私たちの要求だけをすればいいのに、わざわざ奴を捕まえられるチャンスをくれるなんてな。
フルボッコにして地獄に突き落としてやらんと。


















あとがき

次あたりからから最終決戦です。もう終わりそうな雰囲気です。
何で人形遣いがわざわざ招くのかと言うと、悪役-甘さ=物語の終了、ということです。クウラとかフリーザと同じ感じ。
ちなみに、はやても狙われてしまったため、グレアムさんは闇の書に対して作戦変更しますた。
シルヴァーナはオリ戦艦。クロノがSTSで乗ってた奴とアースラの中間サイズです。微妙な大きさです。



[34220] 15.私たちの戦いはこれからだ!
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/01 07:08
私たちが時の庭園まで行くことには、私の両親を含めみんな反対した。
しかし、実際にジュエルシードが奴の手にある。私たちが目をつけていなかった海中にあったものや、街中を人形にした人々を使って人海戦術で先回りされていたらしい。
結局、行かなければ次元震を起されてしまう。奴の言うことに従うしかない。

「この船の武装で吹き飛ばせんのか?行かずとも消し飛ばせばよかろう?」

私の肩の上に乗ったカリンが恐ろしい事を言い出す。
って、かわいい顔して発想怖すぎでしょ。

「あなたは、琥珀さんの使い魔ですか?」
「違う、妖怪じゃ。それで出来んのか?」

喋るとは思っていなかったらしく驚いた顔をしたリンディさんが突っ込んでくる。
そうだよね魔力は感じないし、普通の猫にしか見えないもん。
しかし、グレアムさんはほとんど驚いていない。妖怪という言葉にも大して反応しない。
リンディさんは妖怪という言葉に首を傾げているのに。
もしかしたら知り合いに妖怪がいるのかも。この世界出身らしいし。

「奴との通信が途絶えれば、地球上に配置されたジュエルシードが発動するよう手筈されているそうだ。奴の人形によって。下手な手は打てないのだよ」
「ちっ、面倒な事じゃな」
「私たちは突入班と、ジュエルシード及び人形確保班に別れます。アースラ武装隊、私たちで突入します。探索班はシルヴァーナ武装隊になります」

リンディさんの説明によると、グレアム提督は全体指揮のためシルヴァーナを離れられないが、その使い魔である、猫耳2人組が一緒に来るらしい。猫耳2人組は管理局でもかなりの戦闘能力だそうだ。
その2人の怪我は、人形遣いに狙われた車椅子の女の子を守るためだったそうだ。しかし、戦闘行動に支障はないらしい。

「突入組に、わしと翡翠も加えてもらおうか」
「そうだな、娘を1人では行かせられん」

ってカリンとお父さんは何言ってるの!
カリンは妖怪だから何とかなるかもしれないけど、お父さんは魔力のない普通の人でしょ。

「何言ってるの!お父さん!危ないよ!」
「いや、琥珀。大丈夫だと思うよ。うん」
「大輝!お父さんは魔導師じゃないんだよ、無責任な事言うな!」
「いや、俺何時もフルぼっこだし」
「はい?」

こいつは何言ってるんだ?
普通魔力障壁1つで何も出来ないでしょ。
しかも、何時お父さんと戦ったんだよ。

「非魔導師の方はこの船で待機していただきます。危険です」
「魔導師との戦闘経験も、そこの大輝くんとである。ついでにカリンも共に行く。問題はない」
「あの、翡翠さんの言ってる事は本当です。実際俺よりも強いです。そこの化け猫も」
「しかし、」
「私は警察官だ。一般市民を守る側です」






カリンと大輝の協力もあってお父さんは私についてくる事になった。
高町家の人たちも付いて来ようとしたが、さすがに却下になった。喫茶店の店員さんだしな。
私としてはお父さんには待っていて欲しかった。それをあの大輝の奴が援護するから、まったく、何考えてるんだ。
作戦の結構時間は、PM9:00。シルヴァーナの武装局員が、ジュエルシードの位置特定を行い配置されるまで、基本的に待機らしい。
特定、封印作業の囮を私たちがするわけだ。
基本的に私たちは人形遣いの制限時間のリミットなど全く信じていない。何時、爆発させられるかもしれない爆弾があるのに一晩まったりなど出来ない。

突入はアースラで行う事になっている。時の庭園ではアースラがサポートしてくれるとの事だ。
私たちはアースラの会議室で突入までの間、待機となった。突入しないそれぞれの家族はシルヴァーナに残る事になっている。
私はシルヴァーナを出るための転送ポートでお母さんにギュッとされた。
うれしくてニヤニヤしてしまったあたり、何時の間にか私はマザコンになっていたのかもしれない。
高町の家も大輝の家もそれぞれ抱きしめたりしていた。周りでは悲壮感が漂っているのに、私は抱きしめられてニヤニヤ。やばくね。

「私から言うのも何やけど、なんか大変な事になってるみたいやけど、怪我せんようにな」

車椅子の女の子も私たちの心配をしているようで、アースラに移る転送ポートまで来た。
不安そうに眉を下げていて、ギュッと黒い本を抱きしめている手が震えている。
自分と同年代が、あんな危険人物のところに行く。そのうえ、地球自体、自分の住んでいた世界自体が危ういのだ。怖くて仕方がないのだろう。少しでも不安を取り除けるように、私は微笑んで車椅子の子に語りかける。

「大丈夫。無事に帰ってくる」
「そうだね琥珀ちゃん!あのね、私、高町なのは!」
「あ、私は八神はやて、よろしゅうね」
「これが終わったらみんなで遊ぼうね!もっと一杯お話しよ!」
「うん、うん!そうやね!」

高町と八神は仲良くなれそうだな。
しかし高町の無駄に高いテンションは、ちょっと無理をしてる感もある。
突入前に少々不安だ。

それと、アルフは怪我が大きすぎるうえ、まだ気がついてないそうだ。
フェイトのほうは怪我が軽くで済んだため、アースラで既に待っているらしい。
母親であるプレシア・テスタロッサは既に人形遣いに殺されて、操られてしまっているらしい。フェイトたちの火傷はプレシアの魔法によるものだったらしい。
母の仇を討つために時の庭園に突入する事に異存はないらしく、戦意も高いそうだ。
ただ精神的に不安定なので、クロノと組んで行動するそうだ。

「なのは、帰ってきたらみんなで翠屋でパーティーにしよう。・・・翡翠さん、リンディさん頼みます」
「ああ」
「必ず無事にお返しします」

シロウさんの提案で、これが終わったら今回の事件に関わったみんなで翠屋のケーキを食べに行くことになったので、絶対に帰ってこないといけないな。
なんか、死亡フラグを着々と立ててる気がするけど、気のせいだな!うん!
でも、よく考えたらラスボス級のプレシアまで人形にされてるんだから、やばいような・・・。






「フェイトちゃん!」
「・・・君は、なのは」

アースラの医務室。リンディさんに作戦前にフェイトにあって欲しいと頼まれ、実際に来てみたは良いがフェイトの表情は暗い。
だけど、固い意志も感じる。人形遣いへの復讐心なんだろう。正直ちょっと怖いくらいである。高町はそれでも心配の気持ちのほうが上回ったようだ。
ちなみに、医務の人とお父さんは遠慮して部屋の外に居る。
私もフェイトが行けるのか行けないのか確認を取っておくか。

「怪我はもう大丈夫なの?」
「・・・うん」
「それで、一緒に行けるのか?」
「うん。必ず、仇は討つ。絶対に」

やっぱり復讐心が心の拠り所といった感じだ。
自分にとって一番大切な人を奪われた上に、人形として使われる。これほどの屈辱はないだろう。

「そうか、ならよろしく。私は岸野琥珀だ。適当に呼んでくれ。こっちはカリンだ」
「えっ、うん。よろしく琥珀、カリン」
「俺は上谷大輝。よろしく」
「こっちはユーノ君!今までフェレットになってたんだよ!」
「その紹介はちょっと・・・。怒ってるの、なのは?・・えと、よろしくね、フェイト」

フェイトは見ていて不安になるが、仇を討つという1点においては信用して大丈夫だと感じた。
確か大輝がこいつはクローンらしいと言っていたが、人形遣いにそこを突かれれば戦闘中に動けなくなってしまいそうだ。
それだけが不安だったが、これだけ覚悟をもっているなら大丈夫だと思う。
たとえフェイトの心が折れそうになっても、それを私たちが思い出させてやれば立ち上がれるだろう。
我ながら最低な考えだが、それがこいつにとっての生きる理由になる。

?自己紹介中に高町が俯いた。

「?どうした?なのは」
「ううん、えと、ちょっと、不安になっちゃって」

まあどんなに早熟に見えても9歳だし、仕方がないのかもしれない。
私たちみたいな、なんちゃって9歳児でも不安なんだから。
高町の右手をとってみれば、少し震えていた。それが微笑ましい。年不相応な意思の強さを持っているとは言っても、やっぱり子供なんだよな。

私が手を握ると俯き気味だった顔が、キョトンと驚いた表情になる。
最近は暗い表情とか緊張した顔ばかり見ていたから、ちょっと新鮮だ。

「えっ!こ、琥珀ちゃん!」
「別に怖がって当たり前だしな。私だって怖いぞ」
「・・そうなの?」
「ん。だけど、みんな居るし大丈夫だ。みんな手だして」

みんな私の言葉にポカンとした表情をして私を見てきたが、目で促せば苦笑しながらカリンと大輝とユーノは手を出して私たちの手に重ねてくる。
カリンは猫モードではなく、人間モードになっている。肉球乗らないのはちょっと残念だ。

「ほら、フェイトも」
「え、えと、うん」

私に言われて、おずおずと右手を私たちの手に乗せる。
何がなんだかわからずに混乱した様子はご愛嬌だ。

「ほら、1人じゃない。大丈夫だろ、なのは」
「・・・うん!」

なのはもやっと笑顔満点になったな。
でも、こうやってると運動会を思い出すな。円陣みたいだ。ちょっと決意表明とかしたくなっちゃうな。

「これから突入する事になるけど、絶対に生きて帰ること。約束だ。」
「「「うん!」」」
「なんか、体育系のノリだね!」
「やかましいぞ、大輝。あと、フェイト。帰ったらみんなでケーキ食べに行くから、お前も参加だ」
「え?」

またキョトンとした顔になる。驚いてばかりだなこの子。

「うん!翠屋でみんなでパーティーやるんだよ。フェイトちゃんも一緒に行こうね!」
「そうだな。アリサやすずかにも紹介してやらないとな」
「うん!」

「・・私が一緒に行ってもいいの?」

フェイトが不安そうに私たちを見てくる。まあ、みんなの答えは決まってるしな。

「「「もちろん」」」
「!・・・・うんっ!」

頬をピンクに染めながら微笑むフェイトの顔を見て、この子も仏頂面よりも笑ってたほうがいいと思った。







いよいよ、作戦実行時間となった。
私たちはアースラ転送ポートに集合している。
時の庭園には既に多数の魔力反応が出ている。確か傀儡兵とか言う奴だ。人形遣い特有の操られた人たちは外からでは未だに見当たらない。
十中八九、あのラスボスの城のような時の庭園には大量のトラップがあるだろう。
到着後は武装局員の護衛と共に人形遣いへと向かう事になっている。

「それでは、出発します。武装隊各員!油断するなよ!」

クロノの号令で、転移魔法が発動する。
部屋一面に光があふれ、思わず目を瞑ってしまう。

光が治まった時には時の庭園のエントランスに到着していた。
なんというか、暗い。しかも雷がうるさい。
これを造った人は頭がおかしい奴だったんだろう。こんなラスボスの城みたいなとこによく住めるな。デザイン突っ込みどころが満載だな。

「ここが、時の庭園なの?」
「なのは、油断しちゃだめだよ」
「!さっそくお出迎えみたいだよ。琥珀」

傀儡兵がニョキニョキとその辺から生えてくる様は不気味を通り越してシュールだ。数にして100体以上は普通にいるだろう。お金持ちね!
こんなんがいるんなら、管理局人手不足とか嘘じゃね。これ使えよ。武装隊とかいらなくね?
操られた魔導師は今のところ出てきてはいない様だ。
傀儡兵は整然と並び、私たちに攻撃を仕掛けようとしない。

《ようこそ、人形の館へ。歓迎するぞ。新しい人形としてな》

若い男の声がエントランスに響く。子供と大人の中間みたいな声だった。
柱に取り付けられたスピーカーのような装置を使っているようだ。
それにしても人形の館って、センス無いな。蝋人形にしてやろうか?

「!?人形遣いっ!!貴様は今日!此処で仕留める!!必ずだっ!!!」
《これはクロノ執務官、何時ものように熱血だな。俺を捕らえたいなら、玉座の間まで来るんだな。楽しみに待っている》

クロノはこいつと因縁でもあるのか?顔メッチャ怖いんですけど。
キャラ変わってね?まあ、あいつの犯罪履歴見たらしょうがないよな。

通信が切れると同時に傀儡兵たちが動き出した。
しかし、この程度ならまだ問題ないがなるべく温存しながら戦わないと。

「気をつけて。母さんの所持していた傀儡兵です。1体がAランク相当の力を持ってます」

フェイトから忠告が入り、みんなが表情を引き締める。
魔導師ランクのAがどの位の強さか良く解らないが、確かに慢心はいけないな。

「執務官、奴の使うものに手加減はいらんな?」
「お父さん?」

お父さんいきなりどうしたんだろう?危ないから下がってて欲しいんだけど。

「・・・?ええ、必要ありませんが、非魔導師の方は下がっ・・・て、え?」
「え?お父さん?」

クロノの台詞の途中で大きな音がしたと思ったらお父さんが消えていた。
お父さんがいた場所は床が大きく剥げている。
何を言ってるのかわからねーと思(ry
いや、まさか何かのトラップか!まずい!!

「お父さん!どこにいるの!」
「ほら、琥珀。あそこじゃ。翡翠も娘の前じゃから張り切っているんじゃろ」
「え?」

カリンが指差す方向には、次々と上半身と下半身が分断されて飛んでいく傀儡兵と、ハッスルしてるお父さんがいた。
何を言って(ry

「元○赤光裂斬!!衝○輪!!」

今元斗って言った!絶対言った!アニメ版!?○斗皇拳!?
そこは北斗○拳にしとこうよ!!
なんかお父さんの指先から翠のレーザーが出た!?わっかが出てる!?
あれ、目の錯覚かな?大きな星がついたり消えたりしてる。彗星かな・・・ハッ!私は何を・・。

「わしも張り切るかの。よく見とくんじゃぞ琥珀!わしの活躍を!」
「え?ちょっとカリン!?」

カリンも行っちゃった。なんかカリンが腕を動かしたら5体くらいつつバラバラになっていく。あ、人間形態なのに爪があんなに長いのね。あと、カリンの着物どうなってるんだろう。あんなに動いたら着崩れ起こすだろ。袴はいてないのに何で肌蹴ないんだ?
明らかに爪の範囲外の奴もバラバラになってんだけど。爪の先から何かお父さんと同じようなオーラが出てるよ。あれも闘気?

「琥珀~!見とるか!ご褒美は最高級のキャットフードでよいぞ!!金の缶詰でな!!」
「カリン、俺より多く倒さんとだめだ。琥珀!カリンよりも父の勇姿を見ておけよ!ハァ!!!」

お父さんの謎の攻撃で、腕の射線上にいた傀儡兵が10体まとめて消し飛んでいく。
うん、5mくらいありそうなでかさの奴らが消し飛んでいったんだ。攻撃の通り道の床にあとが残っていて後ろの壁に穴が開いてる。何だろうねこれ。

「いや、わしのほうを見るんじゃぞ琥珀!!第一、翡翠!わしに勝とうなど生意気なんじゃ!!」
「一度負けただろうが!」
「あの時は封印のせいじゃな!!セイッ!!琥珀!今のでわしのほうが5体多く倒したぞ!」
「何を!ヌゥラァアア!!!琥珀!これで俺のほうが8体多いぞ!!」
「いや、わしのほうが・・・・・!!」「いや、俺のほうが・・・・・!!」

・・・・・・つまり、どういう事だってばよ。
なんか管理局のみんなも呆然としてんだけど。
ねえ、なのは、ユーノ、フェイト、誰でもいいから、だれか答えて欲しいでごんす。

「えと、大輝。どういうこと?」
「だから、強いっていったでしょ。ほら、ボケッとしてないで俺たちもやるよ」
「なぁにこれ」
「ほら、正気に戻って。常識は投げ捨てるものなんだよ」

わけも解らないまま、私たちの最終決戦が幕を開けた。
私たちの戦いはこれからだ!










あとがき

琥珀の冒険 完
最終回でした。(嘘)



[34220] 16.ピンチと友達
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/01 07:06

マジカルマスター クロノ 最終話 希望を胸に

すべてを終わらせる時・・・・!

「ウォオオオ!!くらえ人形!! スナイプショット!!」
『さあ来い! オレは適当な射撃魔法でも一撃食らえば死ぬぞオオ!!』

クロノの前には時の庭園に乗り込んだ際に際限なく沸いてきた傀儡兵、魔力で動く自動人形の1体が立ちふさがる!
しかし、クロノの神速の魔法の前に、自らの言葉通りに消し飛んでいく!

『グアアアア! こ、この、多分Aランク相当だと言われる傀儡兵が・・・こんな簡単に・・・・バ・・・・バカなアアアアアア!!!』

プレシア人形「傀儡兵がやられたようね・・・・」
謎の影A  「フフフ奴はザ・ドールズの中でも最弱よ・・・・」
謎の影B  「人間ごときに負けるとは人形の面汚しよ・・・・」

「くらえええっ!!ブレイズキャノン!!!」
「「「何っ!?グアアアアアアア!!!・・・こ、こんなばかなぁアアアア!!!!!!」」」

傀儡兵を倒した勢いのままに人形遣いの操る強力無比な人形たちを葬っていく!
人形たちは皆、人形遣いの魔力から解放され、北○有情破顔拳をくらった様なヘブン状態の顔で昇天していった・・・!

「やった・・・ ついに全ての人形たちを倒したぞ・・・これで人形遣いのいる玉座の間の扉が開かれる!!」

「よく来たな・・・・待っていたぞ・・・・」

その声と共に、眼前にあった巨大な扉が開かれて行く。予想外の事態にクロノの表情が驚愕で染まった。

――こ・・・ここが既に最深部だったのか・・・・!
   感じるぞ・・・今まで次元世界を恐怖に貶めていた悪魔の力を・・・・!!

「先に一つ言っておくことがある。俺を倒せるのは転生者だけとか、凄まじい防御力だとか攻撃力だとか言っていたが・・・・別にそんな事はない・・・・!!! 」
「な、何だって!」
「そしてジュエルシードは危なっかしいから管理局に封印して届けておいたぜ・・・。後は、この俺を倒すだけだな・・・・ クックック・・・・・・・」
「ふっ、・・・いいだろう!・・・・・最後に僕も1つだけ言っておく・・・・主人公っぽい翠の髪の女の子や、何だか無意味になのなの言っている女の子がいたが・・

「僕が・・・、いや、俺が!主人公だ!!!!!!!」

琥珀&なのは「「え?ちょっ待」」

「ほう・・・!そうか・・・」
「ウオオオ!!いくぞオォォォ!!!」
「さあ来るがいい!!」

クロノの主人公力が次元世界を救うと信じて・・・・!
ご愛読ありがとうございました!





・  

こんな感じで最終決戦が1話くらいで終わるはずだったのに何だか長くなってしまいそうです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


・・・・・なんか電波が届いたような気もするが、まあ、どうでもいいか・・・。

あの後、私は1体倒すくらいしかする事なかった。みんなそれくらいしか倒してないけど。
みんなよりちょっと正気に戻るのが早かった猫耳2人組、リーゼ姉妹だけが4体ずつ倒してた。
この世界はきっと猫が強いんだな。

「琥珀、大丈夫だったか?」
「あの程度で怪我などさせるものか。それより琥珀、わしのほうが2体多かったじゃろ?」
「何を言う。それは俺の攻撃で既に壊れていた奴だったぞ」
「余波で飛んだだけじゃろ。とどめはわしじゃったな!」

何か、子供みたいな言い争いを始めたんだけど。お父さんの威厳が吹っ飛んでいくね!
ていうか、この人達ハッスルしすぎなんだけど。
カリンは妖怪だから解るけど、お父さん汗ぐらい掻こうよ。
エントランスは見る影もない。柱はバラバラ、壁は穴だらけ。床も穴ぼこ、ささくれ状態だ。
扉なんてあったっけ?状態だ。不思議!

「あなたのお父さん、ほんとに人間?」
「え?何のこと?私何も見てないよ」(のヮの)
「顔がののヮになってるわよ。気持ちは解るけど、戦おうね現実と」

猫姉妹が私の耳元でニャーニャーと何か言ってるけど、よく解らないな。ほら私9歳だし。9歳なら⑨でも許されるでしょ。

「地球の猫と”警察”ってすごいんだね。魔力も使わずにあんな事が出来るなんて。琥珀も出来るのかな?」
「フェイトちゃん、それは絶対違うよ。でも、琥珀ちゃんなら出来ても不思議じゃないかも」
「いや、高町。あんなの翡翠さん1人だけでいいから」

あーあー、聞こえないな~。

「と、・・とにかく、全員!人形遣いへと向かうぞ!」

さすがクロノ。今までの空気をぶった切ってくれたぜ。
傀儡兵なんていなかったんだ!夢やったんや!もしくは幻術!
うん、幻術だったんだな。幻術なら目玉くりぬかれたり、刀で刺されたり、細胞レベルで爆発されても大丈夫だ。良くある展開だな。うん。

「これより、時の庭園内部に突入する!総員気を抜くなよ!」

クロノの号令で、全員が時の庭園内部へと駆け出す。
もはや先ほどまでの浮ついた雰囲気はない。
入り口でこれだけの数を出して来たんだ。内部には奴の自慢のお人形がいるんだろう。







「何も、ない?」
「ホントだね、なのは。・・みんな、あの大きな扉の先が玉座の間です。恐らく人形遣いはあの先の筈です」

そう、高町とフェイトの言うとおり、私たちは何の妨害もないまま玉座の間の前の大ホールへとたどり着いた。
不気味なほどに何の仕掛けもなく、ラスボス一歩手前だ。
しかし、こういうのって大抵大ホールの中に入ったら何かが発動するよな。
でもさっきから感じるこの違和感は何だろう。

「気を抜くな。何かあるぞ」
「そうじゃ、油断するでない。この部屋、何かおるぞ」

表情を伺えば、お父さんとカリン、あと大輝も何かを感じ取っているらしい。
見渡す限り、隠れられる物なんて何一つない。
私も、この部屋は不自然に感じる。そう”俺”が死ぬ前の、最後の時の不思議空間に似た感じだ。
あの銀髪が、あの化け物がもしこの部屋にいるなら、もれなく全員ゲームオーバーだ。
だが、違う。恐らく私たちと似た奴、転生者だ。

目の前の空間が赤茶色に揺らめいたと思ったら何者かが現れた。案の定死んだ魚の目、人形遣いの人形のようだ。

「!あの子は!」
「そういうことだったのね・・!」

リーゼ姉妹の知り合いなのか?
時空管理局の制服に身を包んだ、茶髪でツインテールの14,5歳くらいの少女だ。どこかで見た事がある。
そうだ、あれは多分前世のアニメの、”エヴァ”のキャラに似ている。
だとしたら、ATフ○ールドでも使うのか?
だが、私の能力を見れば解ると思うが、与えられた能力は結構いい加減だ。応用が利くから油断できそうにない。
さっきの現れ方からして、空間を操るくらいしてきそうだ。

「!ティファニー!?・・なんだと!?・・・まずい!みんなここか」

クロノが言葉を全て言い切る前に目の前の少女から赤色の”ゆがみ”が凄まじい速度で広がる。
大ホールごと私たちを”ゆがみ”が飲み込む。一瞬の出来事で能力を発動させる暇も無い・・!

「なんだ!これは!」

うにょうにょとした赤茶色の不思議空間が恐ろしく気持ち悪い。足を地面についているはずなのに、足場がないような感覚。まるで、何回転もしたあとの眩暈が起きてしまっているような状態だ。
旅○扉かよ、全く!

「こ、ここは?」
「琥珀!」
「!大輝か?お父さんたちは一体どこに?」

10秒ほどで、不思議空間がまるで巻き戻しをされるかのように通常状態へと戻った。
さっきの大ホールと同じくらい大きさの部屋だ。
しかし、普通の部屋をそのままに大きくしたような感じで、机や椅子があるが、スケールがおかしい。巨人でも座るのではないのだろうか。
それとも、私が不思議の国のアリスのように縮んでしまったのか?
今、一緒にいるのは飲まれる寸前に一番近くにいた大輝だけのようだ。
次に近かった高町たちすらいないようだ。

「なんだ、この部屋?琥珀、もしかして俺たち、小さくなってるとか?」
「!・・いや、仮にそうだとしても私たちだけ小さくなってるわけじゃなさそうだ」
「!」

部屋の中央にあるでかい4脚のテーブルの脚からそれぞれ3人ずつ、計12人の”人形”が現れた。いくらでかい脚だからって隠れすぎだろ。
SHI☆NO☆BIか?どっかの練り物と違って忍んでるし。しかし、どいつもこいつも死んだ魚の目をしてるな。

「哀れなもんだな」
「そうだね。琥珀、”例”の作戦でいこう。本丸の前に試さないとね」
「了解。なのはたちや、お父さんが気になる。さっさと終わらせよう」

大輝がポケットからたっぷりと糸を巻いたボビンを取り出し、私に渡す。
さて、ちゃっちゃと倒させてもらう!







「む、ここは?・・!?琥珀!どこだ!」
「・・・おらんようじゃな・・ちっ、妙な術を使いおって」
「どうやら、あたしたちは追い出されたってとこね。アリア」
「あの子の魔法は対処しようがないからね・・・。武装隊各員!取り乱すな!隊列を立て直せ!」

時の庭園の外壁。ちょうど大ホールの真上。
翡翠とカリン、リーゼ姉妹や武装隊各員は少女の魔法によって時の庭園内部から追い出されていた。
リーゼアリアの一喝で取り乱していた武装局員たちが静まり返り、冷静さを取り戻す。
翡翠たちが足場にしている時の庭園は、来た時とは違い薄い赤い光に包まれている。

「ぬしらさっきの奴の事を知っていたようじゃが、あれは何者じゃ?」
「あの子は、ティファニー・ラングレー。クロノと同じく最年少執務官だったはずよ・・」
「1ヶ月前に行方不明になってたんだけどね・・・」

リーゼ姉妹はそう言って目を伏せた。
隠し切れない悲しみを表すように耳と尻尾が力なく垂れる。

「なんであれ、琥珀たちの元に向かわねば、・・・む!」

翡翠が地面へ向けて拳を振り下ろす。武装隊員たちは先ほどの戦いを思い出し、外壁に大きな穴が開く事を確信した。
しかし、そこには傷1つついていない外壁が健在していた。拳が当たった箇所から、六角形の波紋が広がる。
赤い光の波紋に阻まれ外壁に傷をつけることすら出来ていなかった。

「!・・・それで、この赤い光は何じゃ?翡翠でも壊せんとは・・」
「これはあの子のレアスキル。空間掌握壁よ」
「これと通常の魔法を併用する事で馬鹿みたいな応用性を編み出したんだよ、あの子は。さっきみたいに誰かを飛ばしたり、今みたいに絶対に壊れない結界を作ったり、空間内の大きさや形を変えたりね」
「めちゃくちゃだな・・・」
「人間の領分を越えとるじゃろ・・」

リーゼ姉妹から利かされるあまりの能力に2人は慄いた。そんな人物まで、人形にされてしまっているのだ。

「ただ、あの子の魔力ではここまで大きなことは出来なかったはずなのよ。仕掛けがあるんでしょうね・・・。でもこの結界の発動中は能力の戦闘使用があの子の演算能力の限界で出来ないはずよ」
「つまり、クロスケがティファニーを倒すのを待つしかないって訳ね・・・、あ~あクロスケには荷が重いわ」
「そうね・・・、本当に人形遣いがっ・・・・!」

抑えきれない怒りをぶつける様に、アリアは外壁を殴りつけた。






「!・・・母さん!」
「・・・・・・」

時の庭園の一室でフェイトは母親であるプレシア・テスタロッサと対峙していた。
フェイトは必死にプレシアへと呼びかけるが、プレシアはただ立ったまま何の反応も示さず、視線も虚空を見つめるように定まっていない。

《感動の再会だな?フェイト・テスタロッサ。中々いい演出だろ?》
「!?貴様!」

部屋に配置されたスピーカーから嘲る様な声が聞こえる。
大切な母親を人形にし、今も自分の目の前で母親を弄ぶ外道の声にフェイトは激昂した。
虐待されたとしても、かつての笑顔を取り戻してくれると信じていたフェイトにとっては、今のプレシアの姿は絶望だった。
もう思い出の中のような笑顔は見れない。例え微笑んだとしても、もうそれは母ではない。

《さて、そろそろ始めてくれ》
「!・・・くっ!、!っうあああ!」

プレシアの杖から放たれた雷が咄嗟に飛んだフェイトを貫き、床へと叩き落とした。
魔法の発動を感じ、確かに捉えられる前にかわした筈の雷は、ほぼ直角に曲がってフェイトを追従したのだ。
その速度は人間の反射神経に捉えきれる速度ではなかった。

《素晴らしい性能だろ?威力もスピードも防御力も申し分ないぞ、そいつは》
「く、この!」

地に伏せっていたフェイトは片手を勢いよく床へと突き立て、その反動で跳ね起きる。その直後に紫の雷がその場を貫いた。
まともに受けていれば防御力の低いフェイトのバリアジャケットは意味を成さずに破られてしまうだろう。

狙いを定められれば、かわす事は不可能。正面から戦闘をしては、絶対に勝てない。そう判断したフェイトは、部屋中をプレシアを中心に牽制の射撃魔法を放ちながらジグザグに飛び回る。
それをプレシアは逃すまいと無数の魔力弾を発生させる。
その数はあまりにも桁違いだった。フェイトのフォトンランサー・ファランクスシフトですら、その数には及ばないだろう。まさにそれは紫の壁だった。
一斉にフェイトへ向かって放たれる様は、紫の津波。かわす隙間などほんの僅かしかない。

「く、こんな・・・!!」

僅かな隙間を探し、懸命に回避する。かわせない弾は己の魔法で持って弾く。
プレシアから放たれる無数の弾幕の多さ、誘導性、速度の緩急にフェイトは眩暈すら覚える。
掠めた魔力弾の威力は、直撃を受ければ2度と立てないだろうとすら思わせる。

《どうした?やはり、贋作はこんなもんか?》
「何を!、・・・くぅ!!」

人形遣いの意味のわからない挑発に苛立ちつつも、プレシアへと続く僅かな弾幕の隙間を見つけたフェイトは、ザンバーフォームのバルディッシュによる斬撃で仕留める為突撃した。
母の魔力障壁を貫ける射撃魔法など、展開する余裕はない。
自らの最高の斬撃で貫くほかない。
まるで、壁を思わせる紫の雷を帯びた魔力弾に心が逃げろと叫ぶ。
脇腹を魔力弾が掠め、帯びた電気が体を走る。
電撃の光に、虐待の記憶が蘇り体が竦む。
だが、フェイトは止まらない。母の名誉のため、仇を討つ為、止まる訳にはいかなかった。

「はぁあああああああ!!!」

フェイトの一閃は確かに、プレシアを捉えた。
非殺傷の筈の魔力刃が通った軌跡がプレシアの体を分断した。

――なんで!?そんな!殺傷設定じゃ無い筈なのに!

母の遺体を切り刻むつもりなど無かった筈なのに損傷させてしまった事態にフェイトは驚愕する。
だが次の瞬間、プレシアの体に刻まれた軌跡の空白部分の奥に、プレシア(・・・・)を見つけた。

あまりの事態に混乱し、動きの止まったフェイトの体を紫色のバインドが縛り上げた。

「あう!あああ!!」

バインドに込められた電撃で体が痺れ、バルディッシュを握る手から力が抜け落としてしまう。
まるで十字架に張り付けられたように空中に縛られたフェイトの前で、体を分担されたプレシアの体が陽炎のように消えていく。
魔力弾の壁の先で、幻影による囮を作り、弾幕でプレシアを視認出来なかったフェイトに気付かせず入れ替わっていたのだ。

《大したもんだ。・・・なあ贋作。何でこれだけの強さを持つプレシアが、俺に人形にされたと思う》
「くっ・・・なにを」
《面白い事教えてやるよ。プレシアの後ろを見るといい》

フェイトは自身の瞳に映ったものに目を見開く。

部屋の唯一の出口であるプレシアの後ろの扉が開き廊下が見える。だが、フェイトを驚愕させたのはそんな物ではなかった。
廊下に置いてあるカプセルのようなケースに入った少女、フェイトと瓜二つの少女だった。

「わ、わたし・・・?」
《いいや、違う。お前のオリジナルさ、贋作》
「・・・オリジナル?何を言ってるの・・?」
《お前はアレのクローンさ》
「え?」

フェイトは人形遣いの言った言葉に思考が停止する。
何を言われたのか、目の前の少女が何なのか、理解する事を心が阻んだのだ。

《プレシアはこいつ、アリシアを生き返らせたかったのさ、その過程でお前が出来た》
《だが、所詮はクローン。アリシアの記憶を与えても、アリシアにならなかったお前はまさに失敗作だった》
《アリシアと同じ姿でありながら、違うお前をプレシアは憎んだ》
《そう、俺と同じように、お前を人形にして貶めたのさ》

「違う、嘘だ・・、かあさんはわたしを、愛してくれる、また笑ってくれ、る」

次々と告げられる言葉がフェイトの心に皹を入れる。

《お前は決して、愛されてなんかいなかった。お前の見た笑顔なんてアリシアの記憶だ。良かったな》

嬉々として語る人形遣いのその言葉に、もうフェイトの心は限界だった。
仇の言うことなど信じない。そう思い込む事で心を守ろうとするが、目の前にあるものが、現実が心に突き立てる。
母に確かめたい、否定して欲しい。しかし、その機会は既に永遠に失われてしまっている。
取り返す事の出来ない時に、何もかもが、どうでもよい事にさえ思える。
瞳から光を失い、力なく俯く。

《そうそう、何で俺に負けたかだったか?》
《そいつの前でな、そこのアリシアを動かしてやったら馬鹿みたいに泣いて喜んでな》
《あっさり殺せたんだよ。俺の操っているアリシアに抱きついてるところをグサリってな》
《あの時の面はめちゃくちゃ面白かったぜ、何度でも見たいくらいだった。喜びから絶望に変わる様はな》

「・・・・!!ぅう・・・!!」

だが、続くその言葉を聞いたフェイトの心に灯った炎はまさに憎悪だった。
もはや、自分の事などどうでも良いとさえ思った。もう人形遣いを人間とは思えなかった。
この世には生かしておく事すら出来ない、存在するだけで虫唾が走るモノがいると知った。

「くっ、アアアァァ!」

無理やりにバインドから手を抜き出そうともがく。手首の皮が剥け、激しい痛みが襲うがもはや気にする余裕など無い。
あの男を、人形遣いを必ず滅ぼす。ただ、それだけだった。

《おいおい大人しくしとけ》
「!う、うあああああ!!!!」

フェイトのもがきなどまるで無意味だと言わんばかりの強固なバインドから電撃が流れる。
体に走る痛みに絶叫しながら、薄れ行く意識の中で思い浮かべたのは、母の笑顔やなのはや琥珀たちのことだった。

――ごめんね、みんな。パーティー出れそうににないや・・・
    せっかく誘ってくれたのに、友達になろうって言ってくれたのに、ごめんね・・・。
     アルフ、だめなご主人で、ごめんね・・・・    
      母さん、ごめんなさい・・・・・あなたの仇を討てませんでした・・


「フェイトちゃん!!」
《なに!?》

霞んだ視界の中で、桜色の閃光が煌いた。

「・・・え?」

フェイトの意識が戻った時、フェイトの呪縛は既に解かれなのはの腕の中にいた。
翠色の魔法の光がフェイトを癒す。
2人の前に片手を突き出して立つのはユーノだった。

「なのは・・・ユーノ・・・?」

「こんな所で、絶対に終わらせないの!一緒にパーティー出るって約束したんだから!」
「そうだね、なのは。絶対みんなで一緒に帰るよ!」














あとがき

人形遣いは元々前世から犯罪者で死刑前に転生って言う設定です。

ティファニーさんは元ネタの能力より物凄く応用がききます。
というか、オリ能力じゃね?ってほど原型ありません。
転生者の能力の中で、最も強い戦闘能力です。
願い事は”自分の人生に誰にも干渉されない事”です。





[34220] 17.なのは閣下のビームと”男子”
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/03 21:14
「今回は3倍じゃすまないな!!」

今の私は何時もとは違って、時間加速3倍までの加速という制限をしていない。
これは屋内での戦闘という事と、実は局員用のデバイスを貸与してもらって特殊設定した簡易なバリアジャケットを展開している事により可能となった。
バリアジャケットのデザインは大き目の白のパーカーにジーパンと、思いっきり私服にしか見えない。
ふふふ、・・・誰も私がバリアジャケットを展開しているとは気付くまい。

ちなみに、まともにデバイスを戦闘に使ったら私の魔力と演算に追いつかないという間抜けスペックのデバイスだからバリアジャケット専用だ。腰に差してるだけ。

自身の時間を”加速”させ、巨大化したような部屋を縦横無尽に駆け回る。
傍から見れば、私の速度は雷速にでも達していそうだ。あ、言い過ぎた。
でもそれくらい爽快な気分なんだ。やっぱり力をセーブするのはストレスになる。
もはや私の目には全てのモノがスロービデオのようにさえ見える。今の状態で喋っても誰の耳にもまともに届かないだろう。

「WRYYYYYYィィィィ!!・・・むぅ、上手く発音出来ない・・・」

ちょっと、言ってみたくなった。聞かれたら黒歴史決定だな!
ふざけるのはいい加減止めにして、大輝からもらった糸をとろとろ動いてる人形どもに巻きつけていく。
ついでに、恐らく人形遣いが覗く用だと思われるカメラと、隠蔽されたサーチャー、スピーカーを破壊しといた。
ここから先は”見せられないよ!”だからな。

糸の先っぽに錘をつけて、最初の一体に巻きつけたらそいつを基準に他の連中の周りを駆け回ってくるくると巻いていくのだ。この糸で一気に絞め殺してみたいが、こいつらのバリアジャケットであっさり防がれるだろう。
実際にデバイスを使ってバリアジャケットを纏って見ると解るが、はっきり言って両方反則だ。変身したくないとか思ってたけど、これほどの物なら誰だって使う。

「む、ちょっと引っ掛かったか・・・」

ちょっと上手く巻けずに机の脚とかに引っ掛かったとこはあるけど、まあ大丈夫だろう。
ちなみにこの糸は特別製。とは言っても千切ろうと思えば魔法であっさり千切れる。
チェーンバインドでもいいんだけど、その辺は節約のせっちゃんだ。
これだけ加速していれば、防御面に魔力を割かなければいけない。調子に乗っていても、あまり余裕は無いのだ。

1つのボビンじゃやっぱり足りないので、新しいけど安物の糸も足して全員に巻くことが出来た。
大輝の前まで言って、加速を解いて連中に繋がった糸を渡す。
私が移動した事による衝撃で人形たちが体制を崩した。チャンス到来だ。

「ほれ、出来たぞ」
「了解!魔力強制介入!!」

みんな忘れがちな大輝の能力、他人の魔力を操る能力により人形遣いとの繋がりを絶ってやろうという作戦。間接的にでも接触すればより強力な力になるから糸を使ったのだ。
これが成功すれば、大輝の能力は転生者の能力にも有効だと解る。
つまり、あの人形遣いには天敵になりうるということだ。私たちの能力は魔力を用いたもの。だからこそ、通用するはずなのだ。

自分たちに糸が巻かれている事に気付いた人形たちがその糸を切ろうと動くが、大輝の能力の方が速い!
糸を通じて、大輝の魔力光の白色がまるで燃え渡る炎のように人形たちまで達した。

「よし!出来たよ!琥珀!」

白い炎が達したとほぼ同時に、糸の巻かれた人形たちは正に糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。私、うまい事言った。

「随分あっさりだけど、ほんとに終わったのか?」
「ああ、成功。やっぱり能力はこの世界で可能な事に限られるんだろうね。所詮俺たちの能力はリンカーコアを特殊改造して出来てるみたいだし、結局は魔法によるものだからめちゃくちゃ簡単だったよ。これなら接触するだけであの人形は全ておじゃんに出来る」

大輝の話を聞いてると、なんだか私の能力がしょぼく思えてきた。
そういえば、私たちを転送した奴の能力も凄そうだし。
隣の芝は青いというか。しかし、何で私にばっかりこんな制限つきなんだろう。

なんとなくブルーになったので人形から死体に戻った連中に目を向けると、その体からそれぞれ一色の光が溢れ出ていく。
まるで、魂が天へと昇って行くかのように、淡い光が上へ上へと向いながらゆっくりと空中へ溶けていく。
部屋中に12色の光が蛍火の様に舞い踊る。
あまりの幻想的な光景に、思わず感嘆の声を零してしまう。

「すごい・・・」
「これは、魔力?彼らの魔力が人形遣いから解放されたから?死体にこんなに高密度な魔力は宿らないからなのか?」

大輝はよく冷静に分析していられるな。
本当に、魂みたいだ。







琥珀たちが人形から開放された人々から漏れた魔力光に心奪われている頃。
フェイトたちの戦いも佳境へと向っていた。
部屋の中は既にボロボロで、瓦礫がそこら中に散乱し、隣の部屋との壁は既に無くなっている。

「ディバインシューター!!」
「やあああ!!」

なのはとユーノの参戦によって、戦いは膠着状態になっていた。
なのはが攻撃、ユーノが防御、フェイトが翻弄させる。そんな役割が自然と出来ていて、3人の連携が初めてとは思えないほどだ。
しかし、まるで尽きる事を知らないプレシアの弾幕の物量と威力の前に、フェイトたちは押し切れずにいた。

プレシアの異常ともいえる魔法弾幕の仕組みを、ユーノは必死に考える。

――この魔力はおかしい!何か仕掛けがあるはずだ・・・!
     攻撃の溜めの無さも、回転速度も、人間に可能な事じゃない・・・!

ユーノはなのはとフェイトたちに追従しながら撃ち漏らされた魔力弾から2人を守る。
人形遣い用に準備していた、魔力消費は高めだが防御力を高めた障壁で紫の雷を捌く。
今のプレシアの異常な戦闘能力を考えれば、3人は善戦しているといえるだろう。

「はあ、はあ、はあ・・くっ!!」

だが、フェイトの体力が限界を迎えようとしていた。
なのはたちの参戦前に受けたプレシアの雷に、手首からの出血によってフェイトの集中力も乱れつつある。

――このままじゃ、なのははともかくフェイトが持たない・・・、
         そうなれば一気に押し込まれるだけだ・・・・、なら・・・!

そんなフェイトを見て、ユーノは覚悟を決めた。

《なのは!フェイト!僕が接近して隙を作る!だから、攻撃の準備を!》
《え!?ユーノ君?無茶だよ!近づけるわけ無いよ!》
《・・・・出来るの?》

神妙な声で念話を返すフェイトに、自分を心配して怒った様な顔を見せるなのはに、ユーノは微笑で返した。
この時の庭園に来る前、大輝と共に誓っていたのだ。
自分たち男が、絶対に女の子を守ってみせると。
特にユーノにはジュエルシードを発掘してしまい、なのはを巻き込み琥珀たちの平和な世界を乱してしまったという負い目もある。
必ずなのは達を守る、絶対の決意がユーノにはあった。

《大丈夫!約束もあるし、こんなところで終わらないよ。信じて、なのは、フェイト》
《わかったよ、ユーノ》
《・・・・ユーノくん・・・解ったの、信じる!だから、絶対にいなくなったりしないで・・・》
《うん、約束!》

ユーノはなのはの泣いてしまいそうな表情に、心配された喜びや、こんな顔をさせた自分への情けなさで心がざわついてしまうが、それを押し殺して笑顔で念話を返した。

プレシアの放つあの壁のような紫の弾幕を見ていると、ユーノは何故自分なんかがここにいるのかと自問自答したくなってしまう。
本当はあんな弾幕の中に突撃なんてしたくない。恐ろしくて仕方が無い。

「でも、僕は男なんだ!!・・ぉおおおおおおおおお!!」

ユーノは円錐状の特殊なプロテクションを自分の正面に展開させ、プレシアへと突っ込んだ。
同時に紫色の弾幕が、自らの主に挑む愚者に鉄槌を下す様にユーノへと集う。
今まで、3人へと向っていた物が1人へと向ってきたのだ。その量は今までの比ではない。

「ぐっ!まだまだぁ!!」

高ランク魔導師の魔法という物は、牽制だけで低ランク魔導師を圧倒的に超える威力を持つ。
ユーノのプロテクションはあっさりと破られ、電撃がユーノの体を蹂躙する。
それでもユーノは止まりはしない。意地と気力がユーノを支える。

「っぅうぅ、ぐっ!、おおおおお!!!」

破られたプロテクションを何度も展開し直しがら突撃を続ける。
人形となって感情は既に無くなっているはずなのに、まるでその気迫に気圧されるたかのようにプレシアが後ずさった。

――・・・抜けた!!でも・・・!!

紫の雷の層を超えプレシアへとついに辿り着くが、その一歩手前でバインドがユーノを拘束する。
フェイトを捉えていた十字吊りにするバインド、縛られてしまえば電撃で動く事を妨害するまるで拷問の様な苦痛を与える魔法だ。
だが、ユーノは既に覚悟していた。

「よんでたよ!こんな物ォ!!バリアバーストォ!!」

バリアバーストなどと言ったが、要するにただの自爆だ。
自分のバリアジャケットを爆発させる自らにもダメージを与える諸刃の剣。爆風にある程度の指向性を持たせても、自身が傷つく事に変わりは無い。
繋がられたバインドを破壊し、ぼろぼろになりながらユーノは吹き飛ばされた。

「ぐ、ぅああ!!」
「・・・!?」

ユーノを中心に起こされた翠色の爆発、足場すら吹き飛ばす爆風によってプレシアが体制を崩す。
幾らその威力を魔力障壁で防ぐ事が出来ても、衝撃までは完全に殺しきれない。
さらに足場も破壊された事によって、マシンガンのような紫の弾幕が止まり唯一絶対のチャンスが訪れた。

「ディバインバスター!!」
「サンダースマッシャー!!」

ユーノの捨て身の特攻により初めてプレシアの見せた決定的な隙を逃すまいと、なのはとフェイトは必殺の一撃を放った。

「・・・!!」

しかしプレシアの攻撃速度は尋常ではなかった。僅かに2つの砲撃に遅れて、自らの雷で迎え撃つ。
黄金の砲撃と桜色の砲撃が、紫の雷と衝突し相殺され、3色の極光のぶつかり合いは凄まじい衝撃を起こし部屋中の物を吹き飛ばす。
目を刺すような光はまるで閃光弾の炸裂のようだ。

だが、あえてフェイトはその光へと突撃した。
この隙を逃せば、あの絶大な力を持つプレシアに打ち勝つすべは無くなる。
ユーノが決死の覚悟で作ってくれたチャンスをフェイトは逃す気は無かった。

「あああああ!!!」

発生した衝撃波が、フェイトの身を削る。それでもフェイトは閃光の中を音速に迫る速度、まさに疾風迅雷のような速度で光を突き抜ける。
光を越えた先、フェイトの眼前には砲撃の体制のまま硬直したプレシアがいた。

「はぁああああ!!」

フェイトの振りかぶった魔力刃がプレシアのプロテクションと激突する。
あの衝撃の中でフェイトと同じ様に次の手を打っていたのだ。
プレシアの杖が自分を向けられ、フェイトの脳裏に自身が雷で貫かれる映像が過ぎる。
しかし、フェイトの表情に絶望は無かった。

今のフェイトは1人では無いのだ。

「なのは!!ユーノ!!」
「任せて!!チェーンバインドォ!!」
「うん!!」

プレシアの雷によってぼろぼろになったユーノの翠色の鎖がプレシアを拘束する。
吹き飛ばされながらも、意識を失わずにプレシアの側面に回り込み、瓦礫を盾にぶつかり合った砲撃の衝撃をやり過ごしていたのだ。
だが健在という訳にはいかなかった。額から血を流し、左腕は骨折し力なく垂れている。

ユーノが作ってくれた隙にフェイトは離脱し、ユーノの援護としてプレシアへバインドを仕掛ける。
だが、時の庭園動力部と繋がった圧倒的なプレシアの魔力の前では僅かな時間しか稼げないだろう。
しかし、その僅かな時間で十分だった。
ただ、その(・・)攻撃を防ぐ余裕さえなくせば。

「全力っ!全開っ!!」

周囲に散らばった魔力がなのはの杖に集まる。
それはまるで地上に現れた小さな太陽のようだった。
集まった魔力が、まるで心臓の鼓動のように胎動する。
圧倒的な魔力が、唸りを上げながらプレシアへとその矛先を合わせていた。

「スターライト・ブレイカァーーー!!!!!」

圧倒的な魔力の奔流がバインドで身動きの取れないプレシアを飲み込んだ。
その威力はプレシアだけに留まらずに時の庭園の外壁まで届き、外壁を覆う赤の結界によってやっと止まり、時の庭園を大きく振動させた。







暫く人形にされた人達から漏れた光の饗宴を観賞した後、私たちは休息をとっていた。
人形にされていた死体は、部屋の隅に糸を取ってから並べておいた。
冷たく硬い体が、生きていないと解る体温が酷く恐ろしかった。嫌でも此処が自分たちの日常とは懸け離れた世界だと解らせられた。

並べた死体をなるべく視界に入れないように巨大な机の脚で隠しながら、その脚に凭れ掛っていた。
さっさと人形遣いを倒しに行けよといった感じだが、3倍を超える加速は、思っていたより私の体に大きな負荷を与えていた。
使っていた時は何とも無かったのだが、後から疲労が来てしまったのだ。
能力による対価、疲労に空腹、こればっかりは如何し様も無い。

「このサンドイッチ、トマト入ってる・・・・」
「トマト嫌いだったの?琥珀は何でも食べそうなイメージなんだけど・・・」
「私が悪食みたいな言い方するな。トマトは1口で軽くリバースできるくらいには・・・」
「ちょ、やめやめ!ほら、お茶とトマト無しの」

能力のせいでお腹がすいたから、大輝の作ってきたサンドイッチを食べている。
あんな真剣な空気だったのに、食物持ってくるなんて中々根性ある奴だ。遠足か。
まあ、私のせいだってのは解ってるんだけど。
私は能力で空腹になっちゃうけど、その分の栄養はどこに行ってるんだろうか。
というか、何で私ばっかり腹ペコの呪いまであるんだ。

「みんな大丈夫かな・・・」
「う、・・すまん」
「いや、責めてる訳じゃないよ、仕方ないし。でも、みんな戦ってるのにこんなのんびりしてると何か罪悪感が・・・」

確かに・・・。
何かみんなが死闘を繰り広げているのにのんびりと食事をしていると考えると、罰が当たりそうだ。
でも、人形遣いとの戦いは万全にしとかないといけないから、仕方無いよな!うん!

「?・・・ん?何だ?」
「どうしたの?琥珀」
「いや、何か来てな”ゴォォォォオオ!!!”・・・!!???」

桜色の極太の閃光が轟音を上げながら私の目の前を左から右へと通り過ぎていった。
吃驚しすぎて声も出ないぞ!なんじゃこりゃああ?!

「っ・・・??!!!」
「のッアアアアア!!??」

間の前にあった巨大な椅子も消し飛ばして、その破壊の跡を残しながら閃光が走り去った。
大輝が床に座っていた私に覆いかぶさって、何とか破壊の光によって生じた風を必死に耐える。

なぞの光が通り過ぎた後には、何も残っていない・・・!
なにが、何が起きたというのだ・・・!

「はわわわわ・・・」
「危な!!何だ今の!?琥珀、大丈夫か!?」

い、いかん、腰が抜けてしまった・・・。
やばくね、あと数cm射線の角度がずれていたら私は極楽浄土逝きだったぞ・・・!
手に持っていた食べかけのサンドイッチも衝撃で吹っ飛ばされてしまった。

「今のは高町のスターライト・ブレイカー?・・・まだ戦闘をしているのかも、行こう!琥珀!」

これはあれか。テメー何サボってんだ、殺すぞ?っていうメッセージか?
何か時の庭園がめっちゃ揺れてんだけど。
ちなみに大輝曰く、高町のSLBは劇場版とやらの威力らしい。
魔法の練習中に放ってるの見たけど、ドン引きだった。
とにかく、これで開いた穴を通っていけば高町たちに合流できる訳だが・・・・

「琥珀?如何したんだ?まさか、どこか怪我を!?」
「いや、ちょっと待て!今立つ!」

う、やばい・・・!上手く立てない・・・!
こんな情けないところを見せるわけには・・・!
大輝が平気だったのに私が腰を抜かしてるなんて・・・、くっ・・・!

「!・・まさか・・・、ふぅん、そうなんだ・・・(ニヤニヤ」

も、もう気付いたのか・・!
滅茶苦茶あくどい顔してやがる!

「な、何だ!?言いたい事があるなら言えよ!」
「べっつに~。ただ、あの琥珀さんが腰が抜けちゃったなんてないよな~と思って」

こ、このやろう・・・!
あ・・足に力が入らない・・・く、ぐう・・!
な・・・なんてことだ・・・この琥珀が・・・腰を抜かしただと?
この琥珀があの大輝に立てて・・・
立つことが・・・立つことができないだと!?

「悔しかったら、せめてその女の子座りを直してみたら~(ニヤニヤ」
「う~!こ、こいつ~!」

なんという屈辱だ・・・・!!
人形遣いの前にこいつをぶっ殺す・・!









あとがき

ご飯食ってる時に目の前をあんなの通り過ぎていったら、そりゃ腰抜かすよねっていう話でした。
むしろ漏らしたりしないだけ立派です。
どうやって合流させようかな~って考えていたら時の庭園に大穴が開きました。
劇場版のSLBってもう人間の撃っていいものじゃないですよね。




[34220] 18.ティファニーと小休止
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/05 22:14
「状況の説明を願います」
《行方不明だったティファニー・ラングレーが人形にされていました。私たちはティファニーのレアスキルによって分断されました。現状では合流はほぼ不可能です》

リンディはリーゼアリアからの情報に思わず手で目を覆う。エイミィは友人の死亡に呆然とした。
リンディとエイミィにとって、その人物はあまりに馴染みの深い人だった。
リンディに至ってはその子の幼い頃から知っていて、もう1人の子供のように可愛がっていた子だった。
行方不明になっていても、きっとティファニーが生きていると信じていたのだ。

「・・・・あなたたちは、撤退の準備もしておいてください。もしもの場合は、時の庭園をアルカンシエルで破壊します」
《・・了解》

アリアはリンディの言葉に不満を抱いたが、管理局員として短く返答し通信を切った。

「艦長!!まだクロノ君達がいます!!」
「最悪の事態には備えておくものよ。・・・もちろん、クロノがあの子の結界を解いてくれることを信じているわ」
「・・・・わかりました」

リンディの非情な命令に抗議の声を上げたエイミィだったが、続く言葉と、リンディの辛そうな、泣いてしまいそうな表情に押し黙る。
リンディ自身、息子とその友人が奇しくも戦う事になってしまったことに、ショックを隠せないでいる。
相手は、自身がクロノの傍にいなかった時に、クロノが最も辛い時に一緒にいてくれた人物なのだ。クロノの気持ちを思うと、胸が締め付けられるほどの悲しみを抱かずにはいられない。

「本当に・・・・頼むわよ、クロノ・・・」







時の庭園内部。
クロノ・ハラオウンは守るべき民間人を探して駆け回っていた。
その表情からは隠し切れない焦りが伺える。先ほど時の庭園全体を襲った振動も、焦りを増す要因だ。
恐らくは今いる階よりも上の階層で起こったことだろうとクロノはアタリをつける。

「邪魔だァァァ!」

廊下に続く部屋の1室から現れた人形に、S2Uを直接当て青色の衝撃で吹き飛ばした。
先ほどから何度も繰り返された光景。大した強さの無い人形をわざとぶつけてクロノ達の消耗を図っている事が伺える。
だが、時たま手ごわい者も現れる。そのため油断も出来ずに、さらに疎らな襲撃がクロノの集中力を消耗させていく。

クロノが人形の出てきた部屋の内部を見れば、上下逆さまの不可思議な空間が広がっていた。
これは全て、クロノと同期の執務官で友人であったティファニーのレアスキルによる物だ。
その前に開けた扉は、視覚のみが左右反転する恐ろしいところだった。
廊下も本来は直線だった物が急カーブになっていたり、螺旋状に成っていたりと、時の庭園内部は既に迷宮となっているのだ。

「合流する、もしくは何とかティファニーを倒さなければ・・・!全員が危な・・・!?」

クロノは体に走った悪寒に、咄嗟に伏せた。そのクロノの上を赤茶色の6角形が通り過ぎてゆく。
先ほど人形の出てきた部屋の反対側の扉を切り分けて出てきたそれは、クロノの攻撃により吹き飛び、反対の部屋の壁にあたって停止していた人形の体を半分に分断した。
それが通った軌跡に沿って空間が歪み、数秒で元に戻る。赤茶色の6角形は空間そのものを切り分けたのだ。
もし回避が間に合わなかったら、クロノもあの人形のように上半身と下半身が分かれていたことは容易く想像できる。
管理局でも解析しきれていないレアスキルの前には、クロノの防御力など何も関係しないのだ。それをクロノは身をもって知っている。

「ブレイズキャノン!!」

防御が効かない状態、相手の位置が解らないままで立ち止まるのはあまりに危険だ。
クロノはその攻撃の飛んできた方向に砲撃魔法を放ち、直ぐに砲撃で開いた穴に転がるように飛び込む。

「・・・っ!!これは・・!」

その部屋は障害物も何も無い真っ暗な部屋だった。クロノが後ろを確認すれば開けたはずの穴がなくなっていて、ただの黒い空間だけが広がっている。
だというのに、自身とその少女の姿だけはクロノの目にはっきりと映る。

その少女の事をクロノは良く知っていた。
管理局の制服を改造し、胸元の赤いリボンとフワッとしたロングスカートが特徴的な黒いバリアジャケット。滅多に笑わなかった彼女が、お揃いだと言って笑っていたのを良く覚えている。
クロノ自身が、赤茶色の髪と揃って良く映えると褒めたのを覚えている。
そして、その言葉に照れたような、はにかんだ笑顔も覚えている。
突入隊を分断し、時の庭園を迷宮へと変えた少女。ほんの1ヶ月前に会った少女、ティファニー・ラングレーだった。

「・・・本当に、世界は・・・!」

もともと、クロノにとってティファニーは大切な友人だった。
同い年だがエイミィと同じく、姉のような人物だった。
父を亡くし魔法にのめり込んで現実から目を逸らしていた時、弱い己を罰するように無茶な訓練をしていた時だって、彼女が叱って止めてくれた。
一緒に切磋琢磨して執務官を目指した。
たまに見せる憂鬱な、悲しげな表情を何とか取り除いてあげたいと思っていた。
ほんの1ヶ月前は一緒に笑いあっていた。
今のティファニーの感情の無い顔がクロノの人形遣いへの憎しみを強くする。

「・・・もう・・・!たくさんだ!!」

クロノは体の内側から沸き起こる怒りと悲しみを零さぬ様にS2Uを強く握り締める。
今まで人形遣いを追って来て、この表情を無くした人々をたくさん見てきた。被害者の家族の悲痛な叫びもたくさん聞いた。
もう、これ以上大切な人を亡くす人を見たくなかった。
そして、大切な人の亡骸をこれ以上弄ばれる訳にはいかない。

「ティファニー・・・・!これから君を解放する・・・!」

クロノの頬を涙が伝った。






大穴を進む途中、上下逆さまになったり、距離が長く感じたり、開いた穴自体が螺旋状になっていたりと、何度も気持ちの悪い現象が起こった。空間そのものに干渉する能力なのだろう。とんでもない能力だ。
私たちが戦っていた部屋の不自然なスケールも恐らくこの能力の為だろう。
このでかい穴無しでまとも廊下を歩いていたら幾ら時間が掛かったか解らないな。
穴を辿らなければ、この迷宮の中を彷徨っていた事は想像に容易い。

「なのは!」
「あ!琥珀ちゃんと・・・・・ううん、私は何も見てないの」

ん?何かボソッと言ってるけど何だろう?
まあ、多分私の足元に転がってるどうでもいいものの事だな。

「壁抜きで合流とは考えたな、なのは」
「え?どういうことなの?」

私の精一杯の皮肉は伝わらなかったらしい。もう少しで消し炭になってたんだからちょっと文句言っても罰は当たらないと思う。
しかし、よくこの時の庭園は崩壊しなかったな。
さすがラスボスの城だけはある。禍々しい雰囲気ははったりでは無かったようだ。



高町が開けたと思われる大穴を辿っていくと、倒れたユーノと付き添っている高町、そしてプレシア・テスタロッサの遺体に寄り添うフェイトがいた。さらに、カプセルの中に浮かぶ、フェイトそっくりな女の子。恐らく、あの子がフェイトのオリジナルなんだろう。
しかし、クローン技術とは。相変わらずミッドのビックリ技術だな。
演算能力が微妙ななくせに何処にそんな金掛かってんだよってくらいコストが高いデヴァイスとか意味の解らんこともやってれば、こんな風に圧倒的に進んでる分野もある。

「ユーノは私が見ておくから、なのははフェイトを頼む」
「うん。ユーノ君、ごめんね」
「・・・いや、こんなの軽いから大丈夫だよ」

ユーノは怪我が酷いが意識もあるようだ。特に腕が折れているのが大きな傷だな。
高町は無傷で済んでいる。
問題はフェイトだろう。プレシアの遺体の前でさめざめと泣いている。
状況から察するに、クローンであることも既に知ったようだし、精神的にかなりまずいんじゃないだろうか。
とにかく、怪我の治療からだな。

「ユーノの怪我をとりあえず治療しよう」
「あ、ありがとう琥珀。・・・・・・あ、あの、さっきから気になってるんだけど、後ろに引き摺っているのは・・・?」

ユーノの腕を応急処置で支え棒で固定し、包帯でくるくる巻きつけていく。
骨折と火傷が酷い。地球の医療レベルというか、魔法無しでは完治まで相当な時間がかかるだろう。
だが、この世界には魔法があるのだ。私は医療もかなり勉強しているから魔法での応急処置くらいは容易い。皮膚の再生とかまである程度出来てしまう。
それにあまり傷が大きければ巻き戻してしまえばいいだけだ。

なんで勉強してたかというと、暇だったから読んだ医学書が面白かったからだ。
ついでにちょうどいい実験体(大輝)もいたから、実践も済んでるのだ。
あと、お父さんの人体の急所の本も中々面白かった。
お父さんの本棚は人体に関することが多い。その理由は今回の事件で何となく解ってしまった。

「あの?琥珀?その、足元、それ大輝だよね?どう見ても僕より重傷なんだけど・・・?」
「ん?ああ、気にしなくていい。何時もの事だから」
「いや、顔ぼこぼこで腕の関節とかおかしいんだけど!?」
「・・・どうかしたかな?ん?」
「いえ!何も問題ありません!」

あんなに必死に首を横に振ってユーノはおかしな奴だな。怪我に響くぞ?
まあ、重症に見えてもたいした事はない。実際ユーノの怪我のほうが遥かに酷い。
骨も折れていないし火傷も無い。
ただちょっと間接が外れてしまってるくらいだ。入れようと思えば魔法でチョチョいだ。便利だね。幾らでも苦しみを与えられる。

「フェイトちゃん・・・」
「大丈夫だよ、なのは」

何か向こう側で高町がフェイトを抱きしめてる。百合百合しい展開が起こってるが、まあ友情だろう。
百合っぽく見えるのは私の心が汚れているせいだ。うん、反省しよう。

フェイトは高町に任せとけばいいか。
それに時間が必要だろう。大切な人を亡くした時に一番必要なのは心を整理する時間だからな。下手に目を逸らしてしまうと、後々に響く。

「無茶をしたな、ユーノ」
「まあ、僕は男だから無茶をしないとね」
「この背中の火傷とか、多分跡が残るぞ」
「大丈夫。この位男の勲章ってやつらしいよ」

ユーノの奴、ちょっと離れてる間に随分男らしくなったというか、成長してるんだな。

「あの、私めもそろそろ治して欲しいのですが・・・?」
「喋った!?大輝、無事なの!?」
「ふっ、この程度日常茶飯事だぜ。むしろエクスタシッバッ!!」
「やかましい、この変態が」
「ちょ、琥珀!けが人にストンピングはッ!?」
「あ゛~?」
「いえ!なんでもありません!!」

ユーノの奴また首を思いっきり振って、治療しにくいぞ?外しとこうかな?首。
・・・うん。そうしたら、大人しくなるよね・・・。

「よし、落ち着くんだ、琥珀。目のハイライトが無くなってるぞ」
「・・・・はぁ、誰のせいだ全く」

何時までもカッカしても仕方ないし、私が折れないとな。
ちゃちゃっと魔法と包帯で止血と腕の固定を済ませる。焼けども出来る範囲で治療しておいた。我ながら上手くなったなと自画自賛。

「ありがとう、琥珀」
「気にするな。問題は無いな」
「うん、大分楽になったよ」

心配させたくないのかバレバレの嘘言っちゃって。
鎮痛剤を打った訳じゃないんだ。全身の火傷と腕の骨折が今でも痛いはずだ。そんなに軽い怪我じゃない。
今だって脂汗が額に流れている。
まあ、本人が心配させたくないと無理して言ってるんだ。其処は汲んであげないといけない。
ついでに転がってる変態も外した関節を入れてやるか。

「ほれ」
「直った!?」
「おっ。うん、問題ないよ。ユーノただ間接が外れてただけだから」
「次やったら外したまんま直さんからな」
「あはは、ちょっと珍しいのが見れちゃったから、つい?」
「・・・・言うなよ?」

さっきの事を思い出すと羞恥で顔が赤くなる。あんな情けないことは、もうごめんだ。
ていうか足を突かれたり、くすぐられたりと、ここぞと謂わんばかりに変態にからかわれてしまった。
絶対Mじゃねーだろ、こいつ。しかも変態だし。カリンに齧られてしまえばいいのに。
全く、この変態が。変態め。変態野朗め。

《琥珀、耳まで真っ赤だ・・。大輝何やったの?》
《いや、それがさ~、さっき》

「おい」
「は!琥珀閣下!何かありましたか!?」
「・・・・解っているな?」
「はっ!!!」

《ごめん、命が惜しいから今は言えないわ》
《うん、ちょっと漏らしそうになったよ。後で聞かせてね?》

何か馬鹿2人がこそこそしてやがる。
こいつらは2人揃うといつもこうだ。ユーノの奴、大輝に影響されやがって。
あれを切断してやろか?女性専用車両に大手を振って乗れるようにしてやろうか?
こいつら顔が中性的だから丁度いいだろ・・・・。

「「琥珀閣下に敬礼!!」」
「ちっ」

私の殺気に気付いて敬礼する馬鹿2人はほっといて、フェイトのほうに向かう。
未だに涙が止まっていない。脱水症状でも起こしてしまいそうだな。

「ほら」
「えっ、あの琥珀・・・く、くすぐったいよ」

ハンカチで涙を拭ってやる。本当にくすぐったいのか、少しは笑顔が見れた。
困ったような笑顔ではあるが、泣き顔よりはずっといい。

「琥珀、なのは」
「ん?」
「なに、フェイトちゃん」

「もし、私が偽者でも、友達になってくれる?」

真剣な瞳で、不安そうに眉を下げながら上目使いで私たちを見つめるフェイト。
これ言われて断る奴がいるのだろうか。高町なんて顔を赤くして固まってるぞ。
まあ、もともと答えなんて決まってるし、さっさと答えてあげないといかんな。

「私にとってフェイトはフェイトだ。それに、もう友達なんじゃなかったのか?」
「!」
「そうだよ!フェイトちゃん!ほら!」

高町が私の右手とフェイトの左手をとって嬉しそうに微笑む。アースラでの事で手を繋ぐのが結構気に入ったのだろう。
私とフェイトもつられて笑顔になる。私のは苦笑に近いけど。
フェイトは泣き笑いみたいな顔だけど、少しは吹っ切れたみたいだ。

「・・・なんだか僕たち蚊帳の外だね」
「そんな事ないよ!ほら、ユーノ君も!」
「・・・・私めは?」
「変態は結構なの!」
「そうだな、変態は入れなくていいな」
「ヒドッ!」
「フフッ」

決戦前だけど、こんな風にふざけ合うのも悪くない。
私はこいつらの笑顔を守りたい。立ちふさがる人形達の様になって欲しくない。





あとがき

クロノ1人で奮闘中です。
琥珀より主人公っぽいですね。

ついでに転生者のティファニーと幼馴設定。
家がご近所。王道の幼馴染でござる。

ティファニーは子供嫌いで人嫌いだけど、クロノが子供なのにブスっと仏頂面でいたのが気に食わなかった事から、2人の出会いは始まったって言う設定。でも死亡。



[34220] 19.私、あんまり活躍できてなくない?
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/08 16:35
「くっ!」

十字にクロスされた空間掌握壁を、飛行魔法で必死に避ける。
命中すれば一撃で致命傷となる赤茶色の壁の前に、クロノは避ける以外の行動を封じられていた。魔法を放つ暇すらない。

弾速、派生速度ともにまさに兵器としか謂い様の無い魔法をティファニーは連続で放ってくる。無表情に、一切の感情を忘れたかのように容赦のない攻撃を放つティファニーは、まさに殺戮マシーンだった。
ティファニーが腕を振るえば、その軌跡に沿って赤茶色の壁が発生し空間を切り分ける。
壁の長さはその先が見えないほど巨大で、黒い空間がその発生時間だけ赤く光る。
その攻撃の最も厄介な事は、通り過ぎた後もその場に数秒壁として残ることだった。
下手な方向に避けてしまえば、その赤茶色の壁にぶつかって動きを止められてしまう。そうなれば待っているのは、死だけだ。

「くそっ!・・・結界発動中はこの攻撃は使えなかった筈なのに・・・!!」

宙返りのようなアクロバットな動きで何とか攻撃を避けているが、クロノには綱渡りをしているかのように余裕が無かった。
かつてのティファニーはこの攻撃をするためには、結界の維持をやめなければ使用できなかった。それはティファニー自身の演算能力の問題だ。
このレアスキルはデバイスによる補助が追いつかず、ティファニーが自分で魔法の計算を行うしかなかった。ティファニーに合うデバイスが無かったのだ。
次元世界で全くの未知のスキル。人形遣いの人形魔法と同じく、解明できない事が仇となっていたのだ。
結界を維持したまま空間掌握壁による攻撃をすれば脳へと多大な負荷がかかり、かつてのティファニーはふらふらとなり10分以上の休憩を取らなければ立つ事すらままならなかった。

「あの首輪か・・・・!」

クロノはティファニーの首で鈍い輝きを放つ首輪にその仕掛けがあると当たりをつけた。
その首輪を破壊すれば今のような攻撃を放てなくもなり、ティファニー自身の自滅すら狙える。僅かに見えた希望にクロノの弱った心が奮い立った。

――だが・・!問題は・・・僕自身か・・・!

そう、今のクロノには攻撃を放つ余裕が全く無かった。ティファニーの攻撃を避けるには、腕の動きに意識を集中させ先読みするしか方法はないのだ。
さらには、自分が逃げる方向を考えて避けなければあっという間に赤茶色の檻の中に囚われる。少しでも集中力が途切れれば、その瞬間に切り刻まれてしまう。

――だが・・隙は必ずできるはずだ・・・!それに転移攻撃までは使えないのなら・・!

縦一列に襲ってきた、空間を切り分けるその壁を横へ飛ぶ事で辛うじて避けたクロノは、その一瞬に賭けるために自身の魔力を全身へと漲らせた。

「たとえ・・刺し違えてでも・・・!」







「・・・まるで迷路なの」
「うん、何だか気分が悪くなりそう・・・」

高町とフェイトがそう言うとおり、時の庭園は迷宮になっていた。ユーノはフェレットモードで大輝のバッグの中で休んでいる。正直、もう戦闘はさせたくない。

十分な休息を取った私たちは、クロノ達と合流して人形遣いを倒すために下の階を目指していた。
何故下の階かと言うと、なんとなくとしか言いようが無い。だが、私と同じように大輝も下から何か感じると言った。これは恐らく偶然ではないだろう。
この迷宮を作り出したと思しき少女に感じたのと同じもの、大輝と会った時、カリンと会った時、感じたものだ。
もしかしたら、私たちは転生者同士で引かれ合うように細工をされていたのかも知れない。殺し合わせたりするために。
そうでなければ、この広い次元世界でこんな風にぽんぽんと転生者と出会うのはおかしい。私たちを転生させたあの常識外の化け物ならどんな事が出来ても不思議ではない。

「螺旋階段・・・?」
「そんな・・本当に滅茶苦茶だ・・・」

どうやってこんな巨大な螺旋階段になっているんだ?
下のほうがほとんど見えないぞ。大輝の言うとおり無茶苦茶すぎる。恐らく、一階層下がるだけなんだろうな、この階段は。
壁は今までの廊下と変わらないデザインだが、スケールが少し横に伸ばされた様な感じで縦と横の比率がおかしい。そのくせ段差はとても大きく、ぴょんぴょんと跳ねて降りるしかなさそうだ。
階段の幅は私たち5人が並んで歩いてもまだ余裕がありそうな感覚だ。
もともとが階段の空間を改造しているのなら壁があるはずなのに、内側には壁が無くただ黒い空間が広がっている。もしかして、この黒い部分は虚数空間に繋がってるとか言わないだろうな?

! 今気付いたが、大輝の能力ならこの空間を戻せるんじゃないだろうか?人形遣いの魔法に、大輝の能力で干渉できたし、意外と出来るんじゃないかな?聞いてみるか。

《能力で干渉できないのか?》
《それが、解析仕切れないというか、俺の魔力が届かないんだ》
《と、言うと?》
《術式に通じる魔力が掴めないから干渉自体出来ないというか、術者の魔力を感じないんだ》
《これ作った奴の能力、本当に強すぎないか・・・?》

ダメなのか・・。大輝の能力すら通じないのは正直やばすぎるな。どうやって倒すんだこれ。

私たちは警戒しながら、矢鱈とでかい段差で躓かない様にも注意する。こんな出鱈目の空間で飛行魔法を使用したら何が起こるか解らないしな。

「あ、ありがとう琥珀ちゃん」
「ん。気にしなくてい・・・!?・・何か来るぞ」

躓きそうになった高町の体を支えた時に、何かが下と上から来る感じがした。
全員が私の警告で戦闘態勢を整える。やっぱり螺旋階段は戦闘するのが定番らしい。軽く30体はいるな。

「えと、この人たちは?」
「人形にされて操られた人だろう。さっさと片付けるぞ」
「でも、管理局の制服を着て・・きゃ!?」

そう、高町の言うとおり管理局員だったんだろう。
とりあえず、ボーっとしている高町を抱き上げて飛行魔法で人形の攻撃を回避する。フェイトの方は既に戦闘モードだ。こいつらがどういう状態か、しっかり認識しているんだろう。
先の反応の鈍さを省みると、高町は解っていないのかもしれない。

「なのは」
「え、えと、こ、琥珀ちゃん・・・」

お姫様抱っこで抱き寄せた高町の瞳を見詰める。
子供にこんな事、こいつら人形が既に死んでいるなんていう現実を教えたくないが、此処はもう日常じゃない。
少しでもこの子が傷つかないためにそれは必要だろう。非殺傷でも魔法で人形たちを攻撃すれば、それは死体になるんだから。

しかし、なんと言えば良いんだ・・・?そのまま言うべきか?
しかし、さっきから人形どもも空気読めよ。さっきからしょぼい魔力弾を何発も撃ってきやがって。スローすぎて欠伸が出そうだが・・・、見なくても簡単に避けたり逸らしたりと容易いが、人が考え事してる時に・・・うざったいぞ・・。

「・・・・フッ!!」

切りかかって来た人形のショボイ斬撃を上に跳んでかわし、そいつの顔面を右足で踏み抜いて、イライラした分をプラスして叩き落す。ついでに足から魔力刃を展開しておいたので、もう立てんだろう。
その間も、なんと言うべきか思いつかずにただ高町を見詰める事しか出来ない。なんで私はこんなに口下手なんだか。

「・・・・」
「あ・・・あの、こんな所で、大胆すぎるの、・・・こ、この体勢って、き、・・キス・・だよね(ぼそっ」

?高町は何を言ってるんだ?
顔が赤くなっているが、体調が悪かったのか?

「こら!琥珀!高町!百合百合やっとる場合か!」
「なのはも琥珀もまじめに戦って!」

?百合百合は高町とフェイトだろ?
しかし、確かにさっさと参戦して数を減らさないとな。とりあえず、一番近い奴に魔力刃つきのとび蹴りをかます。
簡単にボディーにヒットし3体のほど巻き込みながら飛んでいった。大した奴は居なさそうだな。

「なのは、大丈夫だな?」
「そ、そんな、もっと段階を踏んでからだよ・・・それにわたしたちは女の子同士なのに(ぼそっ」

段階?
今の体勢だとまずいのか?最後のほうが良く聞こえなかった。
高町はさらに顔を赤くして私から目を逸らす。体調がそんなに悪かったのか?やばいな、また休息を取らせないと。
体調が悪いなら仕方がない。このまま戦う事にするか。

「とにかく、片付けてからだな。揺れるが・・しっかり掴まってろ!」
「う、うん・・・」

《なのはの体調が悪いらしい。私たちはこのままやる》

高町がおどおどと、しかし私の首にしっかりと手を回して抱きついて俯く。
私に迷惑をかけるのを申し訳ないと思っているのだろう。顔は見えないが耳が赤い。恐らくは熱が出ているんだろう。
突入前からもともと風邪気味だったのかもしれない。今までの状況的に無理をしなければならなかったから、悪化してしまったのだろう。

さすがに足から砲撃魔法なんて練習してない。魔力刃はロマンとして練習してただけだし。
高町を抱えているため使えるのは足と飛行魔法、簡単な誘導弾を周囲に展開する程度だが、この程度の連中ならEASYモード、楽勝だな。
さっさと片付けて休ませてやらないと。

「いや・・・・多分、完全にすれ違ってるよ琥珀・・・」
「なのは、どこか怪我してたの!?」
「・・・・そのままのフェイトでいてね」







「何!?」

ティファニーの激しい猛攻の前に遂にクロノの集中力がとぎれた。
かわす方向を間違え、2つほど前にかわしていたが、未だに残っていた壁に左肩をぶつける。
其処をすかさず放たれた縦の一閃をクロノは何とか身を捩って回避しようとしたが、かわしきれずに掠った攻撃がクロノの身を、右肩と右足の肉を削った。

「ぐぁっ!!・・この!」

続く2撃目は、ぶつかった壁が消えた事によって何とかかわす事が出来た。
だがこのダメージでは、今までのように集中する事は出来ないだろう。

ティファニーの魔力はまるで底なしのようだった。人間だったらあるはずの意識の油断もない。
なんとか隙を見つけるためにかわし続けていたが、もうこれ以上は体力を消耗するだけで勝機など見えないだろう。

「く、おおおお!!」
「・・・!」

自棄気味にクロノは一か八かでなんとか接近を試みるが、ティファニーは的確にその動きを封じる。
クロノの正面に縦に一筋、さらに下から上へとクロノに向って斜めに横一閃の壁。
ギリギリ右下に飛び込んでかわす事が出来たが、前方に出来た壁にぶつかりティファニーの正面に墜落してしまった。
足に力が入らず、出血と墜落の衝撃によって眩暈がして再び飛ぶ事は出来そうに無い。あとほんの僅かの距離、2メートル。その距離がクロノには別世界のように遠く感じた。

「・・・・!!」

既に満身創痍のクロノへと止めを刺すために、ティファニーはその左腕を振り上げた。
倒れ伏したクロノにはかわす術は無い。
だが、クロノは諦めていなかった。

「ぐう!おおお!!」

黒い地面へと向けた右手から魔力砲撃を放ち、それを推進剤と目くらましにティファニーへと突撃した。

しかし僅かに遅かった。ティファニーのその腕がクロノへと向かって振り下ろされる。
だがクロノはその手が振り下ろされた瞬間に身を捻り真っ二つだけは回避した。

「ア゛ア゛アアアアアア!!!!」

振り下ろされたティファニーの左腕から発生した赤茶色の光がクロノの右腕を肩から切断する。
意識を失ってしまいそうな激痛がクロノを襲う。
それでもクロノは止まらない。痛みを振り払うように雄たけびを挙げながら、鋼の意思でその瞬間に賭ける。

「!!??」

クロノのその攻撃の前に、ティファニーは怯んだ。身を捻る事で、右肩から勢いよく吹き出る自らの血をティファニーへと向けて目くらましにしたのだ。
生じた隙を逃さずデバイスをティファニーへと突き立てる。左手に持ったS2Uが、ティファニーの首輪を捉えた。

「ブレイズ・キャノン!!」

青色の閃光が首を殴りつけられ、クロノの血によって怯んでいたティファニーを僅かな抵抗も許さず包む。
ゼロ距離から放たれたそれは、黒一色の世界を淡い青で染めあげた。

「!、・・・・」

砲撃魔法で吹き飛ばされたティファニーが叩きつけられるように倒れ伏した瞬間、黒い世界に光が広がり元の時の庭園へと戻った。

クロノは元に戻った世界を確認し、崩れ落ちた。既に限界を超えていた体は身動ぎすら出来ない。
右肩の切断面から出た血が小さな水たまりをつくり、うつ伏せに倒れたクロノの顔を赤く染める。

「や、やったのか・・・、だめだ、血が・・・かあ・・さ・・エイ・・・ミィ」

出血多量で霞む脳裏に浮かんだものは、アースラに残してきた母と、同僚のエイミィの姿だった。







私たちは人形たちの大群を下し、螺旋階段を抜けて先ほどから感じる違和感の発生源を探していた。
高町の体調は悪くなかったらしい。それに、ちゃんと人形の元が死体だったと知っていたみたいだ。
既に覚悟なんて出来ていたのだ。大輝から言われて解ったが私の杞憂だったらしい。・・・なんとも恥ずかしい。
降ろすときに「そうだよね・・・にゃははは」とか、しょんぼりというか、ホッとしたというか、複雑そうな顔で高町が呟いていたが何だったのだろう。
大輝曰く、解らなくていい、女の子には色々ある、だそうだ。

「それにしても、今度は長い廊下か・・・」
「さすがにもうウンザリするの・・・」

本当に迷路みたいでメンドクサイ。
砲撃魔法で全部吹っ飛ばしてきれいにしたほうが早いんじゃないか?

「!何!?」
「これは、戻ってる?!」

グニャグニャとビデオの巻き戻しのようにもとの形へと戻っていく。
長い廊下が縮んでいく様子は気持ち悪くて悪く、私達の誰もが膝を着いて元の時の庭園に戻るまで耐えるしかなかった。

「・・・終わったか?」

今まで下から感じていた違和感がなくなった。術者をクロノが倒したのか?

「・・・サーチャーで確認しよう」
「「「うん!(ああ!)」」」

全員でサーチャーを周囲へと飛ばし、変わった地形を把握する。どうやら完全に元に戻っているらしい。普通?に人が住めそうな豪邸だ。

「琥珀!みんな!こっちだ!」
「!?大輝?」
「急いで!!」

珍しく焦った表情を大輝が浮かべている。私たちを待たずに走り出した。あまりに切迫した声に、私たちは急いで大輝を追いかけた。

・・・嫌な予感がする。
いや、もう既に予想は出来てしまっているが、信じたくないと言った方が正しい。

その部屋の前には、私たちを転移魔法でバラバラに引き離した少女が仰向けに倒れていた。
既に人形ではなく遺体に戻っるようで、開いた瞳は瞳孔が開き、此方に対しても一切反応しない。

だが問題はその部屋の中だった。

「いや、ああ、く、クロノ君!!」
「クロノ!!」

戦闘があったにしては小奇麗な部屋の中央、その血だまりの中に、クロノは居た。・・・いや、死んでいた。
高町とフェイトが、倒れ伏したクロノへと駆け寄るが。
確認しなくてもその出血量から既に息絶えているのが解る。切られた右腕がクロノから1メートルほど離れて床に転がっている。

1人の人間が、自分が知っている人が無くなった事実が、私の胸に重く圧し掛かる。

・・・・ふざけるな・・!納得できるわけがない!
こいつがこのまま帰らなければ、リンディさんやエイミィさんはどうなる?そんな光景、想像もしたくない。

・・・仕方ない。まだ、そんなに時間は経ってないはずだ。
死んだ人間を生き返らせる。それは私にとって、あまり良くない事態を招くだろう。だが、此処でこのまま何もしなければ、私は一生後悔するだろう。

覚悟を決めて大輝と一緒にクロノへと歩み寄る。

「・・・・間に合わなかった」
「いや、まだだ」
「え?おい、琥珀!」
「大丈夫だよ」

大輝が驚いて私の肩を掴むが、仕方が無い事だ。
それに、其処まで大きな対価じゃない。時間的に2、3ヶ月分といったとこか。それだけなら私に起きる異常に、みんな気付かないかもしれない。
それに、クロノがまだ生きていたから出来たことだと誤魔化せばいいだけの話だ。





自分に向って微笑む琥珀に大輝は何も言う事が出来なかった。
もしかしたら、今の生活を捨てさせる事になるかもしれないというのに、止めることが出来そうに無かった。
1人の命と、琥珀の日常。天秤にかける必要も無くほぼ全ての人が1人の命と即答するだろう。
だが大輝にとって琥珀が誰かのために対価を払う事、それは認められることでは無かった。対価など、絶対に払わせる気などなかった。
対価だけではない。
死人を生き返す事が出来ると解れば、多くの人が琥珀へと群がってくるだろう。もしかしたら琥珀を実験動物にしようとする者だって現れるかもしれない。そんな事は許せる事ではない。
だからこそ、そんな危険を招くかもしれないこの行為を止めなければならない。そのはずなのに自分に向けられた琥珀の微笑みの前に、大輝は止めることが出来なかった。

「大丈夫だ、問題ない」
「・・・・もの凄く不安になるんだけど」

こんな時でも冗談を言って自分の気を紛らわせてくれる琥珀に、大輝も覚悟を決めた。
琥珀に降りかかる火の粉は自分が全て掃えばいいと。

「ちょっと、どいて」
「・・・琥珀ちゃん?」
「・・・・琥珀」

琥珀がクロノの前で泣く2人に一声かけ、持ってきた、落ちていた腕を傷跡にあわせて置いた。

「何をしてるの・・?」
「治す」
「え?」

琥珀の全身が、薄い琥珀色に包まれ、長い翠色の髪が波を打つように僅かに浮かび上がる。
淡い光に包まれるその姿は、あまりに幻想的だった。
目の前で起こる謎の現象に、なのはとフェイトは唖然として動けない。

クロノの胸に手を当てて、琥珀はその魔法を使った。

「”巻き戻れ”」

琥珀とクロノは、その部屋は、琥珀色の光に包まれた。





あとがき

ティファニーさんは結界さえ発動していなかったら、ジャネンバみたいな攻撃と動きをしてきます。しかも全部ガード不可攻撃。
人形遣いがティファニーの能力を完全に把握してたら全滅エンドでした。



[34220] 20.合流と突撃
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/09 10:11
淡い光に包まれた一室で、その現象は起こっていた。
まるでビデオの巻き戻し、体外に出て部屋に飛び散っていた血の全てが、クロノの傷口へと集まる。
なのはとフェイトは、クロノの顔はもちろん、自分たちが触れてついた手の血まで還っていくその現象に、ただ唖然と口を開けることしか出来ない。
やがて切断されていた右肩が繋がり、波を打っていた琥珀の髪が重力に従い地面についた時、その光が治まった。
琥珀が触れた手の先には、まるで時の庭園に突入する前のクロノが其処にいた。






「はぁ・・はぁ・・フゥ・・・」

すげぇ!賢者モード!・・・じゃなくて、結構疲れてしまった。巻き戻しはまだそんなに使い慣れているわけではない。
魔力もそれなりに使ってしまう。これでは、最後の戦いで足手まといになってしまうかも知れないな・・・。
だがトクントクンと、クロノの胸に触れた私の右手に伝わる鼓動に、これでよかったんだと思う。
死に別れなんて見るのも体験するのも、やっぱり辛いものだ。

「・・・琥珀、大丈夫?」
「・・・少し、疲れた」
「お、おい、大丈夫なのか・・・?」

大輝が私の肩に触れてくる。
大丈夫、とは言い難い。ちょうど凭れ掛れるものが欲しかったので、大輝の方に凭れ掛った。
すっぽりと大輝の腕の中に埋まって解るが、私の体はやはり縮んでいた。
身長はあまり大きな変化はないが、胸部装甲に異常が見られるであります・・・。着けてる下着がずれるのを感知致しました。
アリサと月村は勘がNTか!ってほどいい。それに風呂場で一回揉まれてるから、触られたら誤魔化しようもない。
これは・・・暫くパッド装着して学校に行くしかないかも知れん・・・。
転生して、TSして、パッドを装備する・・・・。いったい私は何処へ向っているのだろう・・・・・。

「・・・こ、ここ・・は、・・!ぼ、僕は!?」
「「!クロノ(君)!!」」

クロノの意識が戻ったようだ。
感極まったらしい高町とフェイトがクロノに抱きついた。
両脇から抱きしめられて苦しそうだな・・・。

「まだ、時の庭園なのか?・・・っ!?・・腕がついてる?」
「琥珀ちゃんが治したんだよ、クロノ君!」
「そうだよ。でも一体どうやって・・?」

3人にガン見される。そんなに見詰めないで・・・なんて。
はっきりいって、体がだるくて反応する気も起きない。しかし、なんて言い訳しよう?

?大輝が私と位置を入れ替えて、背中に凭れる感じにされた。
後頭部が大輝の肩に当たってちょっと痛いが、だるい・・起きる気にならん・・・。

「琥珀のあれはそんなに出来る事じゃないんだ。今も疲労困憊になってるし、気を使ってやって欲しい」
「え?琥珀ちゃん!大丈夫なの!?」

高町が私のほうに回り込んで来る。
いかんな、私はこんな無様な姿をこの子に見せたくない。
ほんの一時でもこの子の先生やったんだからな・・・。とにかく、大輝に凭れ掛るのをやめて高町のほうに向き直る。

「・・・もう、大丈夫だ。ありがとう」
「嘘!ふらふらだよ!」

ふらついたのを見抜かれたらしく、今度は高町に抱き寄せられた。まずい、接触されれば縮んでるのがばれてしまう・・。

「?・・琥珀ちゃん?なんか、ちい」
《ちょっとした代償だ。言わないでくれ》
「え?」

ポカンとした表情になった。まん丸と開いた目が可愛いな、なんて。
あんまり知られるのも良くないが、隠しようの無い事でもある。だが、高町なら頼めば黙っていてくれるだろう。

《みんなには内緒にしてくれ。私からのお願いだ。・・・頼む》
《・・・うん。でも後でちゃんと聞かせてね?》

私からの念話に答えて口に出すのをやめてくれた。
不満そうな表情はしているものの、一応の納得はしてくれたようで、助かる。
未だに私に疑問の視線を投げかけているものの、基本的に悪い奴らじゃないから追求してこないだろう。

「・・・それで、大丈夫なのか?」
「少し休めば動ける。クロノこそ、動けるか?」
「ああ、問題ない。魔力も十分だ」

フェイトの方も何か言いたげだ。だが、フェイトには特に本当の事を教えるわけにはいかない。
必ず、母を生き返らせて欲しいというはずだ。しかし、プレシアは死後からかなりの時間が経っているだろう。
それを巻き戻そうとすれば私の対価がどうなるかもわからないし、フェイトだけを特別扱い出来るわけでもない。
物語では人がよく生き返ったりするが、この世界でそんな事をすれば生き返ったほうも、生き返らせたほうもあまりいい状況にならない。

《よかった!繋がった!!》
「エイミィか!?」

アースラとも繋がったらしく、御馴染みの空中ディスプレイが現れた。
私はとにかく、休息をとらないとな。頭もまともに働かないし・・・。







「こっちはティファニーを倒した。リーゼたちはどうなってるんだ、エイミィ?」
《外まで追い出されてたけど、結界が解けたから再突入したよ。リーゼさんたちに合流地点の指示するからそこで待ってて》
「そうか・・・、人形遣いは?」
《相変わらず、反応は最下層から動いてないよ》
「・・・余裕のつもりか・・・?」
《とにかく艦長が庭園内での転移魔法を封じるためにそっちに向ったから、後はリーゼさんたちと合流して叩くだけだよ!グレアム提督のほうも、ジュエルシードは残る1つだけ!見つかってないけど発生すれば直ぐに封印できるから大丈夫!》
「そうか!・・・いける・・!」

エイミィから伝えられた朗報にクロノは人形遣いを倒す希望を見出す。
しかし同時に、あの人形遣いがこうもやすやすと自分たちの思い通りにいかせている事に疑問を抱く。
あのティファニーすら殺して人形にした男だ。今のように最下層から動かない事も気になる。

クロノはエイミィが映ったディスプレイから目を離し、倒れたティファニーのほうに目を向けた。
砲撃の直撃を受けたティファニーは、既に操り人形から死体へと戻り、手足が糸の切れた操り人形のように乱雑に投げ出されている。
瞳孔が開いたままになっている瞳がクロノの目とあった。

「・・・・ティファニーの遺体の回収を頼む」
《!・・・・うん》

それを聞いたエイミィの顔が悲しみに染まる。目じりには涙がたまっていて、泣く事を必死に堪えていた。
その事にすら気づかないほど、クロノは血のついていないティファニーを見ながら、戦いの最後の瞬間を思い出していた。

――・・・確かあの時、血を目くらましに使った。だが、ティファニーノはきれいな顔だ・・・・。それに、僕はあの時・・・・死を感じた

ちらりと、未だになのはの腕の中にいて、全員から心配されている琥珀へと目を向けた。

――・・・何らかのレアスキル・・・何にせよ、命の恩人か・・・

クロノは、この事を上に報告する気は無かった。むしろ此処にいる全員に秘匿させるつもりだ。

かつてのティファニーは、その希少なレアスキルのために研究施設へと通わされ、その上、管理局員になることを義務付けられていた。
能力の有用性、危険性を考えると野放しには出来ない。そう上層部は語った。
あの時ほどクロノは管理局に対して不満と不信感を持った事はない。
ティファニーを知るクロノにとってずっと納得出来ずに訴えを繰り返したが、受け入れられることは無かった。一時は管理局に入る事をやめ、父の仇は別の道で討とうかと思ったほどだ。
そんなクロノが管理局に入ったのはティファニー自身がそれを受け入れ、父のような立派な局員になるというそれまでのクロノの夢を応援していたからだ。

だが、クロノは彼女にやりたい事も出来ず、強制されて入局などして欲しくなかったし、研究機関――その研究機関は母やグレアムの伝手を使って、徹底的に捜査してもらって怪しい連中を次々に摘発した――に通わせられる事など許せなかった。

だからこそ、同じ事を繰り返させるつもりは無い。執務官としては失格かもしれないが、その前にクロノは1人の人間だ。
命の恩人を売るつもりなどさらさら無かった。
こういう考えも、ティファニーと出会ってなかったら抱かなかったかもしれない。何も考えずにただ責務として報告していただけだろう。

――ティファニー・・・生き残ってしまったからには・・・仇は、必ず・・!

ティファニーの傍まで歩み寄り、開いたままだった瞼をその手で瞑らせる。
冷たいその感触に、かつて父を奪った闇の書に対して抱いた以上の憎しみが、クロノの胸に宿った。








クロノが、私が自分を治したことに対して箝口令を出した。
デバイスのデータも消すようにと、それほどの徹底振りだ。その時の表情だって、真剣すぎて怖いくらいだった。
正直ありがたいが、これは管理局員としていいのだろうか?
昔なんかあったのか?

「大丈夫じゃったか?琥珀?」
「むぎゅ」

あの後ボーっとしてたら何時の間にかお父さんたちと合流していた。
ユーノは一足先にアースラへと転送された。怪我的に、もう戦闘なんて出来ないし仕方ない。
今はカリンにギュ―っとされている。カリンの胸の谷間に埋められて息が苦しいです。
能力を使った事がばれてて、念話っぽいので叱られてしまった。

お父さんも私のほうを見て、無表情ながら何か言いたそうにしてる。多分これが終わったら家族会議かも・・・。
叱られるのなんて3歳の時に料理しようと包丁を握った時以来じゃないだろうか・・?
あの時のお父さんは物凄く焦った顔をしていて冷や汗まで流していた。私のほうがその表情にびびったくらいだったな・・・。
それまで見ていた表情の変化なんてほっこり笑顔だけだったし。

「これより人形遣いの征伐に向う。民間人は此処で待機願います」
「え?」

整列していた武装隊の確認をしていたクロノが私たちの前に出て予想外の事を言った。カリンの胸に埋まってたせいで聞き間違えたか?
とりあえずもがいて抜け出そうとするが力が強くて抜け出せなかったので、せめて向きだけを変えてクロノの表情を伺う。どうやら聞き間違いじゃなかったぽい。
此処まできてそりゃないでしょ。

「どういうことだ?」

お父さんもさすがに驚いてる。目が何時もよりちょっと大きい、珍しい表情だ。
カメラ持ってないのが悔やまれる。
今度はクロノじゃなくてリーゼ姉妹が前に出てきた。

「もう地球のジュエルシードの取り除きもほぼ完了しました」
「まあ、こっから先は私たちの出番って訳」
「それにどのような罠があるか解りません。全滅を避けるためにも此処に残っておいて欲しいのです」

にゃん子姉妹が交互に説明をする。主に説明してるのはアリアさんのほうだけど。
確かに、時の庭園にさっきまでの結界を張った最強クラスっぽい人や、プレシア・テスタロッサまで人形にした奴だ。
そんな奴が待ち構えてる所に、のこのこと民間人を連れてなんていけないよな。

「もしもの時はあなた方には脱出してもらい、時の庭園をアルカンシエルで消滅させます」
「ま、武装隊全員が奴の被害者だし、私たちもとっくに覚悟完了してるからね」

リーゼロッテさんが言うように、彼らの後ろに整列した武装隊の人たちは目に迷いがない。誰もが死地に向かうというのに恐怖の表情ではない。
覚悟を決めた表情というのだろうか。

私はその表情に頼もしさではなく、むしろ恐怖を覚えた。
本当に道連れ覚悟なんだろう。隊員が被害者で構成されているという事は最初からこの積もりだったのかもしれない。

「私も連れて行ってください・・!」
「フェイトちゃん!?」

フェイトが私たちの前に出て、アリアさんたちに訴え掛ける。
フェイトの表情は武装隊のおっさんたちと一緒だ。
高町が焦って止めてはいるものの、恐らく無駄だろう。此処で止めても、きっと勝手に行ってしまう事が伺える。
だがリーゼ姉妹はこの子を連れて行く気なんてないらしい。眉をあげて咎めるような表情でフェイトに問いかける。

「あなたには待っている人がいるでしょう?その子を1人にさせてしまうつもり?」
「!」
「そうそう、それに復讐やら道連れ覚悟なんてガキンチョがするもんじゃないよ。な、クロスケ?」
「まだ僕も若いのだが・・・、だがまあ、君を連れて行く訳には行かない。納得できずとも此処に残ってもらう」

クロノとリーゼ姉妹の言葉に、フェイトが悔しそうに俯く。
恐らく、アースラに残してきたアルフのことでも考えてるんだろう。
家族みたいな関係の人を出されれば、さすがに黙り込むしかないだろう。
だが、この人達だってそれは同じのはずだ。クロノにはリンディさん、リーゼ姉妹にはグレアムさんがいるはずだ。

「でも、僕たちだってあの胸糞悪い人形遣いと心中なんてするつもりはないよ。安心してくれ」
「そりゃそうだ。私たちだってお父様のとこに戻んないといけないしね」
「武装隊のみんなだって同じですよ。ね?」

そう言ってアリアさんは武装隊に視線を向ける。そのアリアさんの明るい表情は、本当に心中する気は無いかのようだ。

「もちのろんですよ!」「ここは俺たちに任せてくれ」「帰ったらとっておきのサラダ作ってくれるって言ってたしな」「どうせならカワイ子ちゃんと一緒に死にたい!」「そうそう俺、この前彼女できたし!」「あかん、それ死亡フラグや・・」「リア充、お前は死ね!」「人形遣いと一緒に爆発しちまえ!」「そんな事より俺にも可愛い子紹介してくれ!」「そうだ、俺だって・・俺は・・生きる!生きて○○○と添い遂げる!」「お前、そいつに振られたばっかじゃなかったか・・?」「もう何も怖くない!」


随分愉快な人達だ。あまりの台詞に私たちみんな冷や汗かいてる。
なんか柿崎みたいな死に方しそうで逆に怖くなるぞ。
この人達、滅茶苦茶ぶっとい死亡フラグ建設してんだけど。もう鉄筋コンクリートの100メートルクラスの巨大な旗なんだけど。折れそうにないんだけど。

「と、とにかく行くぞ!人形遣いを討伐だ!」
「「「「オオオッ!!」」」」
「ま、まあそんなわけでね」
「いい子で待っとくのよ」

クロノの号令で一斉に人形遣いへと駆け出した。
結局私たちは置いてけぼりにされるみたいだ。

「・・・お父さん、カリン」
「だめじゃ」「ああ、今は信じて待て」

首を動かしてカリンとお父さんに訴え掛けては見るものの、にべも無く却下された。
カリンが腕に込めた力が強くなって私はさらにカリンの胸に埋まる。
その力はとても振りほどけそうになかった。







時の庭園最下層、その広い洞窟のような空洞に、フードを着た赤毛の男は居た。
玉座の様な椅子にその部屋の中央に腰かけ、肩肘をついている。つまらなそうにビー玉のような茶色の瞳で飛び込んできたクロノたちを眺める。

「なんだ、全員じゃなかったのか?つまら」

クロノたちはその男に最後まで喋らせずに先制攻撃を仕掛ける。
総勢23名による波状攻撃が人形遣いを仕留めるべく放たれるが、人形遣いの表面を覆う黒い膜によって受け流すように弾かれてしまう。
その攻撃を受け、人形遣いは気だるげに、緩慢に立ち上がった。
着地したクロノたちは人形遣いを囲むように展開する。リーゼアリアが右、リーゼロッテが左へと高速で移動する。

「最後まで話は聞くもんだぞ?ママさんに習わなかったか?」
「お前と話す舌など持たない!」

人形遣いの余裕の表情と軽口に、クロノは激昂した。
もはや、人形遣いが生きているその事実だけで、クロノは腸わたが煮えくり返るような怒りを覚える。

「その通りってね・・!」

問答無用で放った正面からのクロノの砲撃と、左右に分かれたリーゼ姉妹の砲撃が動かない人形遣いに直撃した。
例のごとく黒い膜によってかわされそうになったが、3方向、お互いの砲撃が干渉し合い人形遣いを中心に爆発を起こしす。
人形遣いが爆発の煙に包まれるが、それでも武装隊は追撃の魔法を放つ。

琥珀たちと別れたときのようなおちゃらけた雰囲気など其処には全く無かった。
誰もがその男の死を望み本気の攻撃を仕掛けていた。
それらの攻撃は一個人に掛けるにはまさにオーバーキル。人形遣いは魔法射撃の光と煙に包まれていった。
だが・・・、

「!?・・チィッ!」

煙を掃いながらその弾丸は正面に居たクロノたちを目掛けて飛来する。
もちろん、人形遣いがこの程度で倒れると思っていなかったクロノたちはその攻撃をあるもので防いだ。

武装局員たちがクロノの前に出て構えているそれは、大きな灰色の盾だった。
その盾は人形遣いの魔力コーティングされた特殊弾丸を防ぐために改造された盾で、日本の警察が持っている防弾盾に似ていた。
その大盾と自らの魔力で持って、放たれた弾丸を自分たちの上へと受け流す。

魔法世界においてこんな物質に頼る事は珍しい。質量兵器ではなく魔法のみによる体勢。人形遣いに対しては、その姿勢すら捨てて挑んでいるのだ。

「少しは学習したみたいだが、無駄だっての」

煙から現れた人形遣いは全くの無傷だ。
その両手には今まで持っていなかった大型のガトリングガンを、発射の反動を忘れたかのように軽々と振るっている。

「なら!」
「接近戦はどうよ!!」

掃いきれなかった煙にまぎれて一気に人形遣いの両脇から接近したリーゼ姉妹の拳が人形遣いを覆う膜とぶつかり合い、黒い膜の接触面から甲高い悲鳴が上がる。
今までの射撃魔法と違い、その円の芯を捕らえた左右からの打撃に黒い膜は耐え切れなかった。
ピキピキと皹が入り、後僅かでその障壁を打ち破ると思わせた瞬間、人形遣いのガトリングの砲身が2人を捉えた。

「チィ、くそ猫が・・・!」

リーゼ姉妹は轟音と共に放たれたそれを、咄嗟に後ろへと飛び去ってかわした。
人形遣いは追い詰めるようにリーゼ姉妹に追撃を掛けるが、リーゼ姉妹はどちらも超常の反応とそのしなやかな動きで魔弾の弾道から身を退ける。

「おおおおお!!!」

人形遣いがリーゼ姉妹に気を取られている隙に、クロノは人形遣いに突撃した。
そのS2Uに怒りを込めて、人形遣いを覆う黒い膜に全力で叩きつける。

「ブレイクインパルス!!」

放たれた青い衝撃の前に、リーゼ姉妹の攻撃で皹が入っていたその障壁は、ガラスのように砕け散った。
無表情か、嘲りの表情しかなかった人形遣いの顔が驚愕に染まった。

「今だ!!」
「「「うぉおおお!!」」」

障壁を破壊したクロノが人形遣いの前から高速移動魔法で離脱した直後、待ち構えていた武装隊全員から砲撃魔法が一斉に放たれる。
驚愕し硬直していた人形遣いは防御も回避も許されず、その光に飲み込まれていった。

直撃による爆発と衝撃によって再び煙が巻き起こる。

「今度こそ・・やったか?」

呆然と武装隊員の1人が呟く。
障壁を破られ、直撃を与えられた筈だと、その場にいた全員が勝利を確信していた。
だが・・

「んな訳ねーだろ」
「な・・に!?」

煙から現れた人形遣いの姿にクロノは戦慄した。煙から出てきたのは、フードを脱いだ上半身裸の人形遣いだった。
だが首から下以外、その体はまるでターミネーターの様に、所々、肌(・)が剥げた箇所から銀色の金属が覗いていた。
よく見れば、その肌もマネキンのように人の質感を持っていない。体の間接にはそれぞれ黒いラインが走っていた。
さらに胸の中心にはコア部のような赤い宝玉が埋め込まれている。
すでに、人形遣いは人間ですらなかったのだ。

「さてさて、本番を始めるか」

首の調子を確かめるように手でコキコキと鳴らす人形遣いの背後に、天井から大小2つの白いカプセルが轟音と共に着地した。
大きいほうはトラックほどの大きさで、小さなほうはそれこそ人が入る程度の物だ。

「こいつは取って置きの一体だ。あのティファニーとか言う奴を仕留めたのもこれだぜ」

人形遣いの真後ろの小さいカプセルが開き、その黒い人影が現れた。





あとがき

長くなってきたので一端きり

人形遣いの似てる奴は、赤砂のさそりです。
体は機械。コアが本体です。




[34220] 21.あれ?私、サポートキャラ・・・?
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/12 20:59
《・・・全員、アースラに帰還してください》

クロノたちの帰還を待っていた私たちに、その通信は届いた。
エイミィさんのあまりに切迫した声に、最悪の事態しか浮かばない。
武装隊の人たちがあんなに死亡フラグを建設していったせいだ。

私が回復させる前の、クロノの冷たい体が、どうしても頭にチラついてしまう。
私たち子供組みはクロノのあの姿を見てしまったためか、全員が青い顔をしている。
平静を保っているのはお父さんとカリンぐらいだ。

「何が起こった」
《人形遣いの人形の中に洗脳魔法の使い手、指名手配犯のバルムンクがいました。リーゼロッテ、リーゼアリアの両名が操られ、クロノ執務官が苦戦中です》

バルムンク?ユーノが前に言ってた奴か?捨てキャラじゃ無かったんかい!?
そういえば、2年前から消息不明とかなんとか・・・。

「なら、わし等が行けばよいだけじゃろ」
《だめです!あなた達は局員ではありません!それに、女性が行けばさらに状況が悪化するだけです!》
「どういうことじゃ?」
《バルムンクの洗脳魔法は女性に対して絶大な威力を発揮します。どんな魔法でも、それを防ぐ事は不可能なんです。それに、一度かかってしまえば解く事の出来ない洗脳魔法なんです》

さすがのカリンも冷や汗を掻いてる。私だって頬が引き攣ってる。
猫姉妹まで洗脳されたって事は、動物もメスならいけるって事か?最悪すぎる。クロノたちに無理やりついて行ってたら、本当に全滅してたかも・・。
あの最強っぽい人たちが何で人形遣いなんかに負けたのか疑問だったけど、バルムンクとかいう変態のせいだった訳か。

「なら、俺たち2人で行けばいい。そうでしょ、翡翠さん」
「まあ、そうだな」

大輝の奴、何言ってるんだ!お父さんまで!
私たちを置いていく気か?私と大輝はマ○オとルイー○みたいな感じだろ?
どっちかというと大輝がル○ージだったろ?此処にきて下克上する気か!?
・・・あっ、そういえば私、緑色だったわ・・・。

《ですが!》
「その洗脳魔法とやらに対処する術が俺にはあります。リーゼさんたちの洗脳も、俺なら解けます」

確かに大輝の能力なら、人形遣いの操り人形に試したとおり猫姉妹の洗脳だって解けるだろう。
でも、あんな奴のところにお父さんと大輝だけで行って欲しくない。
ここはエイミィさんに頑張って貰わねば・・・。

《解りました。岸野翡翠、上谷大輝の両名の参戦を許可します》
《艦長!それは》
「エイミィさん、大丈夫です。リンディさん、ありがとうございます」

頑張って貰わねばと思った途端、リンディさんが通信に割り込んで許可なんて出しやがった。
そこは管理局員として反対する所でしょ!
いかん・・このままじゃ2人だけで行かせることになってしまう・・・。それは、なんか駄目だ。

「なら、私も!」
《琥珀さん、女性の貴方が2人についていくことは許可できません》
「!・・・っ」

リンディさんの鋭い声に私は何も言い返せなかった。・・っ、性別さえ、前と一緒なら・・!
さすがに敵の能力を考えれば無理だって事くらい、私だって解っているつもりだ。だけど、納得がどうしても出来ない。気がつけば、悔しくて、自然と下唇をかみ締めて俯いていた。

でも、悔しいのは私だけじゃないようだ。フェイトにとって人形遣いは、母親の仇。私よりよっぽど悔しそうにしてる。
そんなフェイトを高町が気遣い、励ますように俯いたフェイトの手を握った。

「大丈夫だよ、みんな。まあ大船に乗ったつもりで」
「翡翠はともかく、おぬしはヘマしそうじゃな」
「うん、翡翠さんはともかく、上谷君は不安なの」

大輝が茶化すように言ってカリンと高町がそれに乗るが、私はもやもやとして何も言う気が起きない。
だが、フェイトは気持ちの整理がついたようだ。意を決したようにのフェイトが大輝とお父さんたちに歩み寄る。

「大輝、翡翠さん。お願いします」
「うん」
「ああ」

フェイトは大輝とお父さんに向って深々と頭を下げた。
その声は少し涙声で、フェイトがどれほど悔しいかが伝わってくる。

「じゃ、行って来る」

もうお父さんたちは人形遣いへと向う気のようだ。私たちを一瞥した後、背を向けて走り出そうとするけど、まだやってない事がある。少しだけ待って貰わないと。

「待て、大輝」
「ん?」

私の引き止める言葉に怪訝そうに2人は振り返った。大輝には人形遣いと戦うために必要なモノを持っていってもらわないといけない。
お父さんは私の真剣な表情に遠慮してか、一歩下がって待っている。

「私の魔力、持っていけ」
「?・・ああ、あれか!すっかり忘れてた」

私の言葉で自分の能力を思い出したらしい。
あんまり使ってないとはいえ、自分の能力を忘れんなよ。あれがホントはメインだろ。照れくさそうに頭を掻いとる場合か、全く。
つい半眼になって睨んでしまうが、此処で呆れてる時間は惜しいので、さっさと大輝の右手を両手で握る。

意外とこいつの手は肉刺でゴツゴツしてる。あいかわらず小学生の持つ手じゃないな。変態だけど、凄く努力する奴だしな。
そういえば、こいつと会ってからはなんだかんだ言って、ずっと一緒にいたな。
なんというか、手の掛かる弟が成長したとか、危険人物の所に行かせるのが嫌だとか、何時の間にか成長して置いて行かれるとか、私より活躍しようとしててむかつくというか、上手くまとめられない複雑な気持ちだ。

そんな事を考えてたら、自然と俯いてしまっていた。

「・・・あ、」

とにかく何か言わないと、と思って顔を上げるが、不安で自分がとても情けない顔をしているのに気がついた。
これから戦いに行く奴にそんな面を見せたくなかったし、私自身、意地がある。

直ぐに不敵に、私らしく、いつも通りに冗談を言うように笑いかける。

「私は、待つのは嫌いだ。だから、さっさと行って終わらせて来い」
「!・・・ああ」

大輝も私の表情に合わせて、不敵に微笑む。
普段もこんな風にしとけば、クラスでももてるだろうにとは思うが、そんな奴だったら此処まで仲良くなって無かっただろうな。
もてるイケ面とか抹殺対象だしな。

繋いだ手から私の魔力が大輝へと渡る。魔力を抜き取られる感覚に、背中がムズムズするが我慢我慢。
私の魔力は大輝の体を包み、やがて背中から体の芯へと集まっていく。
大輝の顔に、目じりから頬にかけて琥珀色の一筋の波打つ線模様が生まれ、銀色の後ろ髪が不自然に持ち上がる。
その顔の模様は、私から送られる魔力量に併せて段々と濃くなり、やがて黒へ変色していった。

まあ、なんちゃって、ぬら○ひょんだ。髪があんな長くないけど。
簡単に言えば、ぬら孫の鬼纏の畏襲みたいなものだ。目尻から伸びる模様と、大輝の魔力の色が白から黒に近づくほどに、強力な力を振るえるようになる。
さらに魔力を与えた奴の特性みたいなものが、大輝に宿る。
私の魔力の場合は時間加速のような力が宿り、1.3倍くらい大輝のスピードが上がる。大輝曰く意識の加速だけなら本家である私にも引けを取らないだそうだ。後は練習しだいで能力もパワーアップするらしいく、もしかしたら私の能力を完全に使えるようになるのかも知れない。

「良し!ありがとう、琥珀」
「負けるなよ」
「もちっ!!」

今の私の魔力量じゃ足りないかと思ったが、何とか足りたらしい。頬の模様も、ちゃんと黒になってるみたいだしな。
お陰で私はスッカラカンだけど・・・。

「・・・お父さん、頼みます」
「ああ、必ず」

大輝の手を離してお父さんを見つめる。絶対にみんないっしょに帰ってきて欲しい。
言葉は少ないけどきっと伝わってるだろうし、お父さんは約束を破らない人だ。

「行きましょう!!」
「ああ」

そう言って人形遣いのもとへと走っていく。結局、私たちは居残りになっちゃったなぁ。

だけど、私たちにもまだやれる事はあるはずだ。

「大丈夫?琥珀ちゃん」

高町が心配そうに私に言ってくるが、それは愚問って奴だ。

「ああ、大丈夫。それより、なのはとフェイトも用意しとけ」
「「え?」」

ポカンとする2人はほっといて、私は戦う前の準備運動を開始した。
体を確り温めとかないといざって時に困るし。屈伸屈伸、うぁ、魔力不足でちょっとフラフラするな・・。

「どういうこじゃ?琥珀」
「バルムンクとか言う奴は直ぐに倒されるでしょ、カリン。そしたら、私たちも行ける」
「・・・ま、そうじゃな、なら、わしらも用意しとくか」
「「・・・うん!!」」







「ぐあっ!!」

武装隊の1人が濁った瞳をしたアリアの拳を受け、吹き飛ばされていく。
何とか盾で防ぐ事が出来たらしくまだ意識を保っているが、腕が折れているためもう戦闘不能だろう。
暴れまわるアリアを何とか抑えようと、吹き飛ばされた隊員の後ろから別の武装隊のメンバーが盾を構えながら突撃する。

「くそっ!」

クロノはそんなアリアの暴挙を気にする余裕がないほど、ロッテによって追い込まれていた。
その拳による猛烈な接近戦で、S2Uの間合いの内側に入り込まれ反撃が難しい。武器の有利を活かせないほどのインファイトになってしまっていた。
だが、何とかロッテを気絶させアリアを止めなければ、武装隊が全滅してしまう。

人形遣いは焦るクロノをニヤニヤと眺めているが、もし参戦されればあっという間に全滅させられてしまう。
なんとかクロノは人形遣いが参戦する前に、リーゼ姉妹を無力化しなくてはならない。

「一か八か!」

繰り出される拳をS2Uで正面から受け止める。
拳から放たれる魔力に腕に痺れを感じるが、その反動を利用してクロノは後ろへと飛んだ。
距離をとり、さらにロッテは拳を振り切った姿勢、いわばクロノにとって必殺のタイミング、砲撃魔法のチャンスだ。
しかし・・・

「ブレイ・・!くっ!」

武装隊を相手にしているはずのアリアから、絶妙なタイミングで牽制の射撃魔法が放たれた。
その一撃は的確にクロノへと迫り、チャージしていた砲撃魔法をキャンセルするしかない。
そのクロノの隙を突いて再び急接近したロッテにインファイトに持ち込まれる。

「っく、正気に戻ってくれロッテ!!」
「・・・バルムンクさまのために死ね!」
「!ガッ!!」

クロノは洗脳されてしまっているロッテへと必死に呼びかけるが、砲撃をキャンセルした事で生じた隙を突かれ、その強力な拳を頬に受けてしまう。
ロッテの拳によってほぼ水平に吹き飛んだクロノは、地面に回転しながらバウンドし、額から地面に叩きつけられて漸く止まった。

「・・・・っぅ、く・・・」

吹き飛ばされたことによって再び距離は開いたが、反撃する余力などクロノには残っていなかった。
脳がシェイクされるような激しい衝撃によってクロノの意識は混濁とし、必死に立ち上がろうと地面に手を突き出すが、腕に力が入らず倒れ伏す事しか出来ない。
クロノの霞む視界の先に、ロッテが自分へと向って拳を振りかぶる姿が映った。

―・・もう、だめか・・・・すまない、みん



「諦めるにはまだ早いってね!!」

黒い射撃魔法の一弾によって、クロノへとその拳が届く前にロッテは後ろへ跳び避ける。
さらに、そのロッテへと追い討ちをかけるように凄まじいスピードで迫る影があった。

「むん!」

ロッテが着地する寸前にその影、翡翠はロッテの足を掴み射撃魔法を放った大輝へと投げ飛ばす。

「!?ウギャアア!!!、ひ、翡翠さん、もっとゆっくり・・・!!」

まるで戦車の砲弾の様な速度で投げ出されたロッテを、大輝は必死に避けた。
最初の作戦では翡翠がアリアかロッテを捕まえて大輝に渡す手筈だったはずなのだが、自身に迫るロッテのスピードに作戦を忘れて叫んでしまう。
あまりのスピードで向ってくるそれに、大輝の目にはロッテが巨大に映ったほどだ。

「すまん、手が滑った」
「嘘だ!!ここで抹殺する気だったんだ!」
「・・・・そんなことは、・・ない」
「え?何その間?凄く気になるんですけど!!」

大輝が翡翠へと必死に抗議するが、翡翠は目を逸らしたまま合わせようとしない。
今までの空気をぶち壊すようなそのふざけたやり取りだが、絶望していたクロノたちににとってはこれ以上にない援軍だった。

「大輝・・!翡翠さん・・!」
「ああ。よく頑張った」
「後は俺たちに任せておいてくれ。翡翠さん頼みますよ」
「解っている」

倒れ伏すクロノを庇うように立ち、吹き飛ばしたロッテが再び立ち上がるのを視界に収めながら、翡翠と大輝は身構えた。





あとがき

主人公、まさかの参戦ならず。
タイトルどおりの立ち位置です。



[34220] 22.悪役は 何故か爆発 世の不思議 by琥珀
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/16 09:03
「邪魔をするなら、死ね!!」

起き上がったロッテは、翡翠ではなく大輝へと狙いを定めた。
超常のスピードによって突き出される拳は、常の大輝なら必死に防御する事でしか対処できなかっただろう。
しかし、今の大輝は琥珀の魔力によって強化されている。大輝の目にはロッテの動きがスローモーションのように映っていた。
繰り出される拳の軌道から腰を落とし頭を下げてかわし、さらに能力を込めた拳をロッテの腹部に狙いを定め、予測される位置へと突き出した。

「眠れ、ロッテ!!」
「ガッ!!」

大輝のカウンターに、ロッテは自らの勢いも相まって吹き飛ばされていく。
倒れ伏したロッテは、大輝の拳が纏っていた黒い光に包まれていた。

「良しっ!!」

大輝は倒れたロッテが起き上がらない事から、自らの能力が決まった事を確信した。
だが、次の瞬間、大輝の体は青色の輪によって縛られた。

「!?バインド・・?!」

武装隊をなぎ払ったアリアが、大輝の術後の硬直を狙ってリングバインドを放っていたのだ。
その魔法のあまりのスピードに大輝は避ける間も無くその場に固定されてしまった。

「スティンガースナイプ!!」
「!しまっ」

大輝が捉えられて殆ど間をおかずに射撃魔法がアリアから放たれる。
大輝は何とかバインドを自分の能力で解除しようとするが、時間が圧倒的に足りない。
このままでは防御も避ける事も出来ずに大きなダメージを負ってしまうだろう。
だが、ここにいるのは大輝だけではない。

「油断しすぎだ」

翡翠は大輝の体に巻きついた青色の輪をその手で掴み、ただ握り締めるだけで破壊し、そのまま大輝を脇に抱えてその場から一息で離れた。
青色の魔力弾は二人の居た位置を通過するが、2人を追いかけるように魔力弾はその軌道を曲げる。

「鬱陶しいわ!!」

翡翠は目の前に迫る魔力弾に向ってその右足を振り下ろした。
神速のスピードで振り下ろされた右足のあまりの威力の前に床が捲り上がり、魔力弾はかき消された。
大輝の頬に爆散した床の欠片が掠める。大輝はその威力を至近距離で感じて額に冷や汗が流れた。

「・・相変わらず、ほんとに人間ですか・・?」
「・・・空を飛ぶ奴に言う資格はないだろう」

翡翠に抱えられたままの大輝は、翡翠の言葉に確かに、と納得してしまう。
最近はみんな普通に飛んでいたので、それがいかに非常識なのか忘れてしまっていたのだ。
大輝は自分がいかに非常識に浸かっているのか改めて認識し直した。

「!?・・・・2人とも!」

クロノからの抗議の声に、そちらへと振り向いた。
ふざけ合っていた2人の目にクロノへと砲撃魔法を放とうとするアリアの姿が映る。

「!、大輝シールド!!」
「え?ちょっ!ひすいさぁあああ!!」

翡翠はクロノの危機に、脇に抱えたままにしていた大輝を、クロノの正面、砲撃魔法の軌道上に向って投げ飛ばした。
大輝は突然の翡翠の暴挙に絶叫するしかない。

「鬼ィィいいい!!後で覚えてろォォおおおお!!」

砲弾のように投げ飛ばされた大輝は、地面に焦げ目を作りながらも必死に着地し、プロテクションを発動させた。
青い砲撃は黒い障壁を破るに至らず、さらに砲撃魔法を防いだ漆黒のプロテクションは一切の揺るぎを見せず、それどころか拡散した砲撃の魔力を吸収してより強力になっていった。
むしろ大輝はその攻撃よりも、翡翠に投げ飛ばされた事のほうに命の危機を感じていた。

「バルムンク、やれ」
「・・・・」

今まで静観していた人形遣いの指示を受け、バルムンクから大輝へと向って砲撃魔法が放たれる。
かわす事の出来るタイミングだったが、大輝は後ろにいるクロノを守るためにその場を離れる事が出来なかった。

黒い砲撃と黒い障壁、ぶつかり合う2つの魔法から放たれる黒い閃光が大輝の視界を遮り、2つの魔力のぶつかり合いによって爆発が起こる。
大輝が防いだ2つの砲撃の威力は、次元世界においても圧倒的な威力だった。
だが、大輝のプロテクションには皹1つ付かない。圧倒的なその防御力に大輝は下を向いて安堵のため息をついた。

「後ろだ!!」

クロノからの鋭い警告に大輝は振り返る。その目に、自分へと止めを刺すべく拳を振りかぶるアリア姿が映った。
アリアは爆風に紛れて大輝の後ろへと回り込んでいたのだ。
だが大輝はアリアの動きを既に予測していた。バルムンクの砲撃魔法を防ぐ前からマークしていたのだ。そして、相手の攻撃と油断を誘うために、態々隙をさらしていたのだ。

「死ね!!」
「・・・・」

そして、大輝は動かない。
今、この場で最も信頼している人物がいるからだ。

「甘い」

アリアの繰り出した渾身の一撃が、翡翠の突き出した手のひらと交差する。
その軌道を僅かに逸らす事によって、魔力強化により弾丸のようなスピードで繰り出された拳は紙一重でかわされた。
翡翠は突き出された手首を掴み、そのまま拳の勢いを利用して大輝の上空に向って投げ飛す。

「ナイス!」

クルクルと回転しながらも、アリアは崩れた体勢を整えようとする。翡翠の作った隙を無駄にはしない、と大輝はアリアに向かって手のひらを伸ばした。

「おのれ!」

自らに向かって飛んでくる大輝に気付き、アリアは回し蹴りを放つ。さらに大輝を捉えるべく、複数のバインドを飛ばす周到ぶりだ。
だが、大輝は加速する意識で全て見切りきった。
自分に向かってくるバインドは触れる前にその構成を能力で破壊し、ロッテのときと同じようにアリアの蹴りの軌道を読みきり、カウンターの掌底打ちを放つ。

「っふ!!」
「ガッ!!」

黒い魔力光を纏ったその手が腹部に接触した瞬間、アリアは黒い光に包まれ、電源が落ちるかのように気を失った。
大輝は、気を失ったアリアが地面へと叩きつけられないように横抱きで抱え、仲間同士で戦う事になった元凶を睨み付けた。

「これで、後はお前だけだ!」
「ふん、・・・・・使えねえなぁ」

人形遣いは倒れたアリアたちを見て、忌々しそうに舌打ちした。
その台詞を聞いた全員が怒りで顔をしかめる。大切な仲間を操らた上、使えないなどと勝手な事を言ったのだ。

「!・・クロノ、もう大丈夫なのか?」
「ああ、もう問題ない。・・足手まといはごめんだ」

クロノが立ち上がり、大輝の横に並んで人形遣いと対峙する。
少しだけふらつきながらも、その目は人形遣いを確りと見据えていた。

「人形遣い・・!お前はもう終わりだ・・・!」

リーゼ姉妹に仕留められなかった武装隊のメンバーも、人形遣いを囲みその杖に魔力を漲らせた。
だが、対する人形遣いの表情に焦りは無く、未だに余裕を見せていた。

「おいおい、もう勝った気か?まだ、切り札はあるんだぜ・・・やれ」
「・・・・・!」

人形遣いの命令を聞いたバルムンクの右目、その赤い瞳から黒い波動が放たれた。
バルムンクを中心に放たれるその波動は甲高い怪音波を放ちながら部屋中に広まる。

「!?・・なんだ、これはっ・・・!!」

大輝は膝を着いて頭を抱える。抱えていたアリアも床へと落としてしまった。
あまりの不快音に未だに立っていた武装隊も含め、全員が膝を着いた。
耳に入るその音は、吐き気や眩暈を引き起こす。普段無表情の翡翠ですら脂汗を流して、顔を顰める事しか出来ない。

「ぐ、・・・こんな、も、の・・・!!」

大輝は必死にバルムンクの音波攻撃を能力で防ごうとするが、余りの不快感に意識を集中することが出来ず、能力を発動できない。
それどころか琥珀から貰っていた魔力を維持できずに霧散させてしまい、通常状態に戻ってしまった。

「こいつの対男用魔法だ。男にしか効かない欠点もあるが、その分効くだろ?防御も出来ないしなぁ。ま、俺は人間やめてるから効かなかったがな」
「・・・くそ・・!!」
「上谷大輝だったか?お前の力、中々厄介そうだからな。早めに片付けさせてもらうぞ?」
「っ!!」

人形遣いが指を鳴らすと同時に、バルムンクと一緒に落ちてきていた大きなカプセルが開いた。
その大きなカプセルから現れたのは10mを超える巨大な鉄の蠍だ。
その異様に、大輝たちの表情は凍りついた。
足の各所に設けられた機関銃や、各所に取り付けられているミサイル、外観だけでもわかるその武装の多さに、膝を着いていた全員の顔に絶望が宿った。
人を殺すためだけに造られた機械。その姿はまさに狂気の兵器だった。

人形遣いが指を動かせば、それに合わせるように鋼の怪物が動き出す。
バルムンクから放たれ続けるその怪音波によって、未だに立つ事の出来ない大輝へとその鉄の尾が狙いを定めた。
銀色の輝きを放つ尾は、まるで日本刀を思わせる。
繰り出されてしまえば、今の大輝では抵抗できず串刺しにされてしまうだろう。

「あばよ、いい人形にしてやるぜ」
「くっ・・・!!」

勝利を確信した人形遣いの表情は、大輝たちへの嘲笑で歪んでいた。


「ずっと洗脳魔法でも放っとればよかったのにのう?莫迦で助かったわ」
「は・・?」

突然聞こえた場違いなほど呑気な声に、人形遣いから呆けた声が漏れる。
声の位置を機械化された人形遣いが自身のセンサーで割り出した時、それは来た。

凄まじいスピードを持って、薄い琥珀色を纏った赤黒い炎が、巨大な妖力の塊が、轟音と共にバルムンクを飲み込んだ。
まるで太陽に焼かれたかのように、バルムンクは一片の灰すら残さず消滅、床に大きな跡を残しながらその破壊の光は進み、さらに射線上に居た鉄の蠍を一切の抵抗も許さず消滅させた。
避けることも、防御することも許されない、あまりに大きな破壊の力だった。
部屋に居た者全てが、一瞬の内に起こった出来事に呆然とする。








「な・・なんだと・・、な、何が起こった?!、こ、こんな・・馬鹿な・・!」

さっきの攻撃で出来た大穴から見える人形遣いが自分の後ろを振り返って呆然と呟いている。
人間やめてるくせに、意外と表情豊かだな。ちょっと安心したぞ。簡単に殺せそうで。
まあ、あんな最終兵器っぽい奴まで合わせて一撃で消し飛んだんだから、こうなっても仕方ないか。

大輝たちを見送った私たちは、実は部屋の前で待機してたのだ。いわゆる出待ち状態。いつでも割り込めるように準備していた。
もちろんリンディさんとエイミィさんは反対していた。リンディさんによってアースラに連れ戻される前に此処まで来たのだ。
この出待ちは、バルムンクの洗脳魔法の範囲を以前ユーノから大体の事を聞いていたから出来た事だ。
直接バルムンクの右目を視認してしまったら距離は関係ないらしいが、遮蔽物さえあれば300m位まで大丈夫だそうだ。昔の管理局員の尊い犠牲でわかった事らしい。

「・・す、すごい」
「今のが、カリンの力」

一緒に放たれる所を見ていた高町とフェイトも飛んだまま呆然としてる。
協力した私だってびっくりだ。

「ふむ。初めてにしては上手くいったの」

今の私は、この満足をそうに呟くカリンの上に乗ってる。
そう、乗ってるんだ。さらに猫形態でモフモフだ。
実はカリン、巨大化で来たらしく私は驚喜歓喜だった。此処に来るまでもののけ姫の気分を味わっている。

「これからの必殺技に丁度良いの。バンバン撃とうぞ、なあ、琥珀」
「相手が死ぬから撃てないよ、カリン」
「人間社会は世知辛いのう・・」

カリンが怖い事言ってるが、基本スルーしよう。さっきの奴、一応私とカリンの併せ技だったのだ。
バルムンクの能力を恐れて私たちは近づく事が出来ない。そのせいで、カリンの攻撃ではスピードが足りなかったのだ。

そこで私がなけなしの魔力を振り絞って、カリンが口から吐き出した攻撃を”加速”させた。
そのせいで音速を軽く超えた一撃になった。誰の目にも見えなかったんじゃないだろうか。多分残像が見えたんじゃね。
まあとにかく、絶対不可避の必殺技に成っちゃったと言う訳だ。

「情けないぞ、翡翠、小僧。つい手を出してしまったではないか」
「・・むう」
「いや、あれ仕方無いだろ。音なんて防ぎようが無いし」

カリンがその体重を全く感じさせない動きで、私を乗せたままピョンと大輝たちの横に着地した。
落ちないようにしがみ付くと頬に毛が当たって気持ちがいい。これは一生乗っていたい乗り心地だ。
お父さんと大輝は、このカリンの姿を知っていたのか平然としているが、武装隊の人達やクロノは尻餅をついたまま呆然と見上げてる。

「お父さんも、大輝も大丈夫?」
「ああ、問題ない」
「助かったよ。ありがとう、琥珀」
「・・・ワシへの礼はどうした?小僧」
「アリガトー、オカゲデタスカッタゼ(キラッ」
「・・・・命が惜しくないようじゃな」

私の下でじゃれあう2人は置いといて、周りを確認する。
見渡せばアレだけ死亡フラグを立ててた武装隊の人達も、リーゼ姉妹もクロノもお父さんも大輝も、怪我はしてても、気絶してても、死んでる人はいない。
その事実に私はさっきまで不安だった心が落ち着くのを感じた。

「・・人形遣い・・!!」
「フェイトちゃん、気をつけて!」
「・・うん・・!」

私たちに追いついてきた高町とフェイトが、未だに呆然としている人形遣いに向って油断無く杖を構える。

「ま、これで終わりじゃな。そろそろお前は死ね」
「・・・」

カリンもその大きな牙を剥き出しに、人形遣いを睨み付けた。
口から漏れるその赤黒い妖気に、上に乗ってる私まで寒気がするほどだ。
流石にこの状況にはビビッて居るのか、俯いている人形遣いの肩が震えている。やめろー死にたくなーい、とか言うのか?

「く、くっはっはははは!!」

!?突然笑い出した、気でも狂ったか?
何でこの手の悪党は追い詰められたら高笑いするんだろう?命乞いでもすればまだ可愛げもあるのにな。

「何がおかしい」

クロノが人形遣いへと問い詰める。その表情はあまりの怒りのためか、一切の感情をなくしたかの様に無表情だ。
そんな視線に晒されても人形遣いは愉快そうに笑っている。

「くく、いや、別に。俺ももう終わりかぁ。ああ、楽しい楽しい一生だった・・!」
「貴様・・!」

人形遣いは愉快そうに両手を広げて天井を見詰める。
クロノが切れるのも解る。全く後悔も反省も無いってか。本当に最低だな。

「俺を追い詰めたお前らにも、特別サービスだ・・・!これ、なぁーんだ?」
「ジュエルシード!?」

人形遣いが自分の胸の皮?を外した。投げ捨てた皮らしきものが、地面へ落ちてカンッと高い音をたてる。
問題はその先だ。
大量のコードらしき物に包まれたコア部のような赤い宝玉の右隣に、ジュエルシードはあった。

最後の一個か!
此処に来てあんまりな事態に私も冷や汗が止まらない。まずいぞ!あんなエネルギーの塊をあんな奴が握ってるなんて・・!

「一緒に死んでくれ」
「まずい!止めるんだ!!」

クロノに言われなくとも、全員が人形遣いを止めるべく動いていた。
だが、それよりも早く奴のコア部らしき宝玉が砕け散り、さらにジュエルシードも粉々に砕け散る。
人形遣いは、ジュエルーシードから発生した青い光の先に消えていった。発生した凄まじい魔力が円柱状に伸びていく。

これは・・何時ぞやの次元震なんて、比較にならない!

「はははは!!イザナミィ!!俺の女神様よ!!いい人生ありがとうよ!!お陰で楽しめた!!!はっははははは!!!!」

青い光に包まれた人形遣いの高笑いが嫌に耳障りだ。
満足そうなその台詞に、まるで私たちが負けたかの様に思えてくる。

ジュエルシードが砕けた事で次元震が起こる。
もうじき次元断層まで発生してしまうだろう。この異常な早さの次元震は、恐らく奴の砕けたコア部もこの次元震を後押しする原因の1つだろう。
もはや手出しの出来ない状況か、これは・・・!

「大輝?!待て!!」
「大丈夫!信じてくれ!!」

私が止めるのも聞かずに、この膨大な魔力が起こす災害を防ぐために、大輝は青い光に突撃した。
確かに大輝の能力ならこれを治められるだろうが、あんな中に突っ込んだらただじゃ済まない!
青い光に触れた大輝の手が、まるでカマイタチが起こったかのようにスパスパ切れていってる。まずい!

「大輝!!」
「うおおおおおおお!!」

大輝の叫びに合わせるかのように、銀色の魔力が青い魔力を一気に侵食した。







あとがき

やっと人形遣いオワタ
何で1話捨てキャラ予定だった奴がこんなに長引いてんでしょう。



[34220] 23.人形遣い編終了!
Name: イマンモス◆17ad50b5 ID:e3a24725
Date: 2012/09/18 21:15

ここは喫茶店、翠屋。
時の庭園に突撃する前にした約束どおりパーティーを開いているのだ。

「あ~ん」

両腕を負傷したため、包帯でぐるぐる巻きになった大輝の口に、一切れのケーキが運ばれた。
口を大きく開け、そのケーキを美味しそうに頬張る。
口の中に広がる程よい生クリームの甘みが、大輝の疲労を吹き飛ばしてくれるかのようだ。

「どう?おいしい」
「ああ、美味いよ。さすが翠屋だね」

その2人は、何処のカップルだ、と突っ込みたくなるような雰囲気を醸し出していた。
なにより、2人の距離は友達とは思えぬほど近い。肩と肩が触れ合ってしまいそうなほどだ。

「うん、こんなに美味しいケーキがあるなんて思いもよらなかったよ。はい、あ~ん」
「あ~ん」
「あ、口に付いちゃった。とってあげるね」
「ん、ありがとう」

その人物は甲斐甲斐しくも世話を焼き、口元に付いたクリームを拭ってやる。
それに対して顔を拭きやすいようにさし出し、大輝も嬉しそうにはにかむ。


・・・・・・・・。
ユーノと大輝、仕方が無いとは解ってはいるんだが、なんかキモイな・・・。









あの人形遣いのジュエルシードを用いた自爆は、大輝の能力によって抑えられた。
ただその代わりに大輝の腕の怪我は酷いものだった。
皮膚はほとんど剥がれ、そのうえ針で縫わなければならないほどの切傷が片腕だけで10箇所を超えていた。
魔法が無ければ、手の感覚だって失っていただろう。これでもまだ運が良い方だ。
下手をすれば腕自体無くなっていたかもしれないんだ。

「琥珀ちゃん、コーヒーのお代わりはどうだい?」
「あ、ありがとうございます、シロウさん」

口の中に広がる絶妙な加減の甘みが目の前のホモォたちを忘れさせる。
シロウさんは私が甘党だから最初から砂糖を入れてくれるのだ。
私では砂糖のさじ加減が微妙になってしまってコーヒーが不味くなってしまうので非常に助かる。
しかし、シロウさんもモモコさんもホストとはいえ参加者でもあるんだから、そんなに気を使わなくてもいいのに。
これがデキル店員って奴か。

「クロノ君、ミッドってどんなとこなん?なのはちゃんみたいな魔法少女がいっぱいなん?空にはアースラみたいな戦艦がいっぱい飛んでるん?」
「いや、そんな危険なところじゃないよ」
「クロノくん、それってどーゆう意味?」
「せ、戦艦が飛んでるかって所だ!な、なのはについてじゃない!だから落ち着いて!」

けほっ!コーヒー吹いた・・。
高町がいっぱいか。そりゃ恐ろしいな。今もおぼんでクロノに攻撃しようとしてるし。

「もう、琥珀ちゃんまで!」
「悪い悪い」


人形遣いについては、その遺体?の解析結果から、まだ油断はできない。
あの青い光が治まった跡に、黒く煤けた、手足の方向がおかしいが、原型を保ったままの人形遣いの遺体があった。
ただ、あの胸に輝いていた赤い宝玉は粉々に砕け散っていた。
管理局で回収されたその遺体は、全て機械で出来ているという信じられない物だった。
現在のミッドの技術力でも、あれほどのマシーンを作るのは不可能だそうだ。
恐らくは、イザナミ製なんだろうな。最初から人間でなかったのだ。
そしてそれは、奴の人格が別の機械にコピーされている可能性だってあるということだ。
だからこそ、第2、第3の人形遣いへの警戒は一応必要なのだ。
まあ、その可能性は極少とは思われるが。

だが、人形遣いの体から解ったことは悪い事ばかりではないそうだ。
奴の体には、数々の魔法がインプットされていた。
解析中ではあるものの、管理局でも未だに発見されていない物、ロストロギアの知識なんかも発見されているらしい。
間違いなく私たちに送られた魔法知識だろうが、奴の場合はデータ化されていたために、他人にも閲覧できるという事だ。
もちろん、私たち転生者を作り出すような危険な魔法なんて物は知識の中に入っていない。その辺の良識が、あのイザナミとか言う奴にもあったんだろうか?
とにかく、奴の体はロストロギアの研究に大いに役立つとの事だ。


人形遣いに操られていた遺体は、被害者家族のもとか、身元が解らなければミッド慰霊碑のもとに入るそうだ。
そう、慰霊碑が建つほどに奴の被害者は多い。被害者家族にとっては、被害者の遺体すら辱められていたのだ。
人形遣いのメモリーから、被害者の割り出しの解析も急ぐとの事だ。

今回奴を仕留められたことは、管理世界でも大々的に報じられるらしい。
だが、私たちの事は伏せてもらえるらしい。そりゃ、名前とか発表されたら大変な事になるしな。
ただ、管理局への勧誘とかはグレアム提督がある程度は抑えるものの、多くなってしまうだろうだって。
まあ入局させえて勢いを付けたいとか、色々あるだろうし、ホントに組織維持は大変なんだろうな。

「いやぁ~、悪いなユーノ」
「気にしなくていいよ。両腕が使えないんだから仕方ないし」
「ユーノだって左腕が折れてるのに・・・・、両腕の健在な誰かさんがしてくれないかなぁ~(チラ」
「そうだよね。元気な人がやってくれてもいいよね~(チラ」
「切るぞ?」
「「いえ!ナマ言って申し訳ありませんでした!!」」
「この2人はいつもこんな感じなのか?なのは」
「にゃははは、ま、まあいつも通りだよ、クロノ君」

まあ、つらつらと考えてはいたが、概ね平和になったで十分だろう。
私の目にいる馬鹿2人の怪我も重いが、助かった事には変わりない。
あの戦いから2日明け、翠屋の閉店後にパーティーをやってるというわけだ。昨日は金曜日であったが、私たちは学校を休んだ。

大輝の怪我は大きいし、私は縮んでいるのだ。ちょっと間を空けないと学校なんていけそうに無い。今はぶかぶかの服を着て誤魔化してる。
翠屋の中は、突入した武装隊の人もいるから中々狭い。
目の前には馬鹿2名にクロノが座っている。
私は大輝の前、対面の窓際に座っている。隣は高町、フェイトで私の膝の上にはカリンが乗って、フェイトの膝の上には小さくなったアルフが乗ってる。八神は車椅子だからって椅子よりもそっちのほうがいいらしい。
私たちの隣の席には保護者組みだ。グレアム提督たちがまだ事後処理中だから、なんだか悪い事してる気分だな。

「ユーノ、大変だったら私が代わるよ?」
「!?マジでかぁっ!!!」

フェイトの言葉に反応し、目を見開いて興奮する変態。マジで如何しようもないな。

「フェイト!やらなくていい!近づいたら何されるか解らないよ!!」
「うん、フェイトちゃんにも琥珀ちゃんにもさせちゃだめだよ、ユーノくん」

大輝に唸りながらもフェイトに警告するアルフ。大輝を厳しい視線で警戒しながら私たちに注意する高町。
こいつらの中で大輝像がどうなっているのか、物凄く気になるところだ。

「大輝君、そんなに変態さんなん?」
「そうなんだよ、はやてちゃん!琥珀ちゃんが何時も被害にあってるの!踏んでくださいとか言って琥珀ちゃんの前に寝転がったり、そのまま、今日のパンツはなんだい?とか言ったり、そのまま踏まれてキモチイイ!とか叫ぶんだよ!」
「「「「・・うわぁ」」」」
「誤解だ!!!琥珀からも言ってくれ!」
「いや、事実だからなんとも言えないだろ」

もうこいつの奇行はいちいち突っ込んでたら身が持たないレベルに達してると思う。
将来、絶対に警察のお世話になることだろう。今でさえバニングスと月村がうさ美ちゃんみたいな目で通報しようとするし。

「ちょっと来なさい。大輝」
「か、母さん!?いや、誤解なんだ!琥珀が最近殴ってくれないから、自分から行くしかないじゃないか!」
「・・・もうだめじゃ、こやつ終わっとる」

大輝は、大輝のお母さんに連れていかれてしまった。
カリンも呆れる大輝のあのハッスルは何処から湧いてくるんだか。
それにしても大輝のお母さん、なかなかパワフルだな。頭掴んで持ち上げるとは。



「酷い目に、あった・・・・」
「自業自得なの」

大輝が焦燥した顔で帰って来るまで、クロノやユーノ、エイミィさん等の次元世界出身者の人達からミッドがどんなとこか、とかユーノたちスクライア一族が巡って来た遺跡体験とか、中々面白い話が聞けた。
しかし、此処までミッドについて詳しく話すのは私たちの興味を促すためなのかもな。

「ミッドって普通に車が走ってるんだな。なんか、魔法の国のイメージと違いすぎだな」
「そうやな~、みんな空びゅんびゅん飛んで、信号も空中に浮いてるんやと思ってたわ」
「そうそう。通学、通勤とかも転移魔法で一瞬とか、建造物はみんな空に浮かんでるとか、車も空を飛んでるイメージだった」
「さすがに其処まで発展してないよ。それに、飛行魔法や転移魔法は治安上、安全上の問題があるから原則禁止なんだ」

スターウォ○ズみたいな都市になってるとばかり思っていたが違うらしい。
地球とあんまり変わらないとか、夢がないなぁ。

「スクライアの遺跡発掘で一番面白かったのって何?ユーノ」
「そうだね、僕の参加した奴で一番面白かったのは、タコみたいな顔をしてコウモリみたいな羽をもった巨人が出てきた遺跡かなぁ」

?変な生物だな。さすが次元世界だ。
というかタコの頭でコウモリの羽ってどういう進化したらそんな風になるんだ?

「その怪物に遭遇するまでは見たこともないような不思議な物ばかりでね。多分、ちゃんと調査できたら凄い発見になってたと思うんだ」
「何で調査できなかったんだ?そのタコの巨人、そんなに強かったのか?」
「うん。なんか近づいただけで気が狂っちゃいそうだったんだよ、だからみんな急いで逃げて、管理局にも報告したんだけど、もう一度来たら遺跡が影も形もなくなってたんだ。不思議でしょ?」

そんな不思議な遺跡なのか。
もしかしたら、その遺跡はアルハザードの手がかりかもしれないな。

「・・・いあ、いあ」
「?どうしたんだ?大輝」
「いや、どう考えてもクトゥ・・・いや、知らないならいいや」


その後はモモコさんによる新作ケーキ試食会とか、ビンゴゲームとかいろいろやった。
モモコさんの新作ケーキはどれもが美味しかったのだが、一部に美由紀さん作のケーキを含めるという暴挙を行い、死亡フラグを回収して武装隊局員の人が1人逝ってしまった。
その人の感想によると、最初に広がる恐ろしいほどの甘味、その後に続く脳みそを刺激されるほどの痛烈な辛さによって新しい世界が見えたそうだ。
見た目普通のショートケーキだったのにどうなってるんだよ。

だが、まあ楽しい時間はあっという間に過ぎるというか、いよいよお別れの時間になった。
海鳴公園に結界を張ってお別れの挨拶をする。
管理局組みはこのまま本局へと帰還するのだ。それにフェイトと八神は着いていく。

フェイトは母親が殺され、さらに操られていた被害者だ。今回の件で罪を負う事はないが、重要な参考人になるとのこと。
八神は病気、大輝曰く闇の書を直すためだそうだ。実は重要キャラだったらしい。最初に闇の書とか聞いたとき、中二病のことを考えた私は悪くないと思う。
大輝の話だと、その魔道書はかなり複雑なバグを起こしている為、直す事は困難らしい。
一体どうやって直すのだろう。
しかし、私の原作知識の少なさはどうにかせんとなぁ。高町は声変わりしてる動画があったから確り記憶してたんだけど。

「あの時は迷惑かけてごめん」
「助けてもらってありがとう。本当に感謝してるわ」
「なに、気にするな。一応、同属の好じゃ。それに気にするならキウイで手をうつぞ?」
「フフ、最高級の物を持ってくるわね」
「いいね、一緒に食い比べでもする?」
「わしと食べ比べとはの。いいのか?わしは強いぞ?」

猫組みが一同に集って和気藹々としてる。アリアさんも敬語じゃなくなってるし。
何時の間に仲良くなったんだろう。
どうせ集まるなら人間形態じゃなくて猫形態だったら良かったのになぁ。

「君たちの協力に感謝する。本当にありがとう」
「あなたたちの御蔭で、本当に救われたわ。ありがとう」

さっきまで保護者組みと話していたグレアム提督やリンディさんにも頭を下げられちょっと吃驚だ。

「いえ、此方こそ守って頂き、本当にありがとうございました」
「何か困った事があれば必ず協力することを誓う。何時でも頼ってくれ」

礼を返したらこれだ。
このじい様ダンディすぎて困る。


「なのは、琥珀、大輝、ユーノ。本当にありがとう。君たちに会えて、本当に良かった・・・」
「私からも礼を言うよ。フェイトを守ってくれて、ありがとう」

フェイトは涙ぐみながら、アルフは照れくさそうに頬を掻きながら言う。
私とアルフの仲は以前の戦闘で抉れるかと思ってたけどそんな事は無かった。
アルフはさばさばした性格でもう特に気にしてないそうだ。

「フェイトちゃん、これ、・・思い出にできるのこんなのしかないんだけど・・」
「!リボン・・・じゃあ、私も」

高町とフェイトがお互いの髪留めを交換する。
もちろん私はそんな物着けていないので参加しようがないし、この2人の邪魔はしちゃいけないだろ。

「もしかしてこれ、キマシタワーってやつなん、琥珀ちゃん(ぼそ」
「いや、友情だろ。maybe・・・。そう見えたのははやての心が汚れてるせいだ(ぼそ」
「琥珀ちゃんだって自信なさげやろ。つまり琥珀ちゃんも汚れとるで(ぼそ」

「聞こえてるの!」
「うわっ!琥珀ちゃんシールド!」
「ちょ、はやて!くっ大輝シールド!」
「いや、何で俺が!おかしいでしょ!ならユーノシールド!」
「わわっ大輝!?」

八神が私を盾にし、さらに私が大輝を盾にし、そして大輝がユーノを盾にする。
なんだこの状況は・・・・。

「もう、みんなしてふざけて!もう!」
「なのはちゃん、落ち着くんや!これは孔明の罠や!」
「どういうことなの!」

なのはが顔を赤くしてぷんぷん怒り、フェイトがくすくす笑う。
周りの大人組みが私たちをほほえましそうに見る。

暫く離れるって言うのにこんな雰囲気になってしまった。
まあ湿っぽいお別れなんてあんまりしたくないし、私たちには丁度いいかもな。


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