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[33815] 0組の使い魔 (ゼロの使い魔 × ファイナルファンタジー零式)
Name: 朱ノトリ◆01245b45 ID:a1a580d1
Date: 2012/08/18 03:39
はじめまして。
朱ノトリと申します。

この作品は、にじファンさんの方で掲載させて頂いたもので、
FF零式とゼロの使い魔のクロスとなっております。
にじファン終了に伴い、こちらへ移籍させて頂くことになりました。
にじファンさんの方で掲載されていたものに加筆修正しております。

基本的な設定、世界観は双方の原作に準拠するように努めておりますが、
キャラの性格や言動などは多少異なる部分が出て来てしまうかも知れません(特にゼロ魔側)。

FF零式の方はネタバレも多分に含んでおりますので、
原作未プレイの方はお気をつけ下さい。

感想の方は、貴重なご意見と一つ一つ必ず見させて頂きますが、
返信はあまり行わないので、そこはご了承下さると助かります。

また、更新は不定期で、執筆速度の遅さや現実での仕事の忙しさにより、
1話と1話の間がかなり空いてしまうことも多々あると思われますが、
そちらもご了承願います。



[33815] プロローグ
Name: 朱ノトリ◆01245b45 ID:a1a580d1
Date: 2012/07/07 03:48
朱雀領・ルブルム地方。


その地はまるでとても大きな嵐が過ぎ去り、何もかもを飲み込んでいった後のようであった。
街という街には火の手が上がり、人という人は力尽き倒れていた。
生き残った人々も、廃墟の中を右往左往し、言葉にならぬ叫びを上げ、この現状を嘆き、そして悲しんでいる。
周囲は焼けた煤と血の混じったような臭いが漂い、むせ返る程であった。
それはまさに死の香りであり、この辺一帯が死の大地と化しつつあることを如実に示していた。

見上げると、空は真っ赤に染まっている。
血のように真っ赤なそれは、生き残った人々へ世界の終わりを連想させた。
朱色は朱雀の象徴。
それ故に、この光景は実に皮肉めいていると言わずにはいられなかった。

しかし、そんな空にも一筋の虹が架かっていた。
燃えるような空の中でそれは一際綺麗に見えて、まるで希望の光へ架ける橋のようでもあった。

虹の端を辿っていくと、やがて一つの大きな建物が見えてくる。
そこは魔導院ペリシティリウム朱雀。
朱雀領の中でも大きな施設の一つである。
元は大きく立派な建物だったのだが、今はあちこちが損壊しており、辛うじて原型を留めているに過ぎない状態であった。
人の気配もあまり無く、静寂がその空間を支配している。
建物自体が大きいだけに、その静寂は余計に寂しさを感じさせていた。

その魔導院のとある一室には、お互いを支え合うかのように寄り添い合っている傷だらけの少年少女たちがいた。
彼らは12人全員が目を閉ざし、呼吸を止め、ピクリとも動かない。
恐らく、死んでいることは間違いないであろう。
だが、そんな彼らを見た者は、誰でもきっと死んだとは思わず、ただ眠っているだけだと思うに違いない。
それ程に彼らは死からは遠く、そして安らかな表情をしていた。


エース
クイーン
ナイン
キング
サイス
エイト
ジャック
セブン
デュース
トレイ
ケイト
シンク


それが彼らの名前である。

彼らは0組(クラスゼロ)。
朱雀最強の戦士たちであった。

彼らは最後の戦いに勝利し、その代償として死を迎えることになった。
そう、彼らの物語はここで一旦の終わりを告げたのである。


その筈であった。


その時までは。










------ 0組の使い魔 ------









エースは深い闇の中にいた。
とても冷たく、とても哀しく、そしてとても寂しい……。
そこにいるだけで、心も体も全てが引き裂かれてしまいそうであった。

先のシドとの戦い。
それはまさに死闘であった。
エースとその仲間たちは肉体も精神も限界を超え、満身創痍となっていた。
それでも彼らは幾多の試練を乗り越え、シドを、そして運命をも打ち破り、自分たちの手でアカシャの書へと最後の1ページを刻んだ。
彼らの物語の結末を……。

だが、その代償はとても、とても大きかった。
この深く果てしない闇は、その結果と言っていい。

しかし、それでもエースは決して孤独ではなかった。
0組(クラスゼロ)の皆が側にいる。
目には見えなくても、それだけはこの闇の中でも分かったからだ。
それが彼らの絆である。
だからこそ、エースはその身を闇に委ねることが出来た。

きっと、今自分が……いや、自分たちがいるこの闇こそ『死』なのだろう。

それを受け入れる前は怖かった。
痛かった。
苦しかった。
悲しかった。

でも、今は違う。

それは皆がいたから、そして今も側にいるからなのだとエースは強く思う。
だから耐えられる。
この闇に。
永遠とも知れぬ刻の流れに。


だが、闇も刻も永遠に続くことは無かった。
ただ一つのイレギュラーによって……。




「……よ」

エースの耳にかすかな声が聞こえてきた。
恐らく少女の声である。
まったく聞き覚えのない声。

(……誰、だ?)

エースが呟く。
それは、ただ脳内に響く信号のようなものではなく、ハッキリとエースの口から発せられていた。
その瞬間から周りの空気が変わったように思える。
しかし、その呟きに驚いたのは他の誰でもなく、エース当人であった。

(声?……自分の……声)

再び、エースは呟く。
今度はそれを自分自身の声として認識することが出来た。

(生きている……のか?)

エースはそう自問自答した。
それは本来ならば有り得ないこと。
命の源、命の別の形であるファントマまでもが傷付き、壊れ、修復不能になる程の戦いを経てきた彼らには生への道など無かった。
その筈であった。

(だが、なら、何故……?)

次にエースは瞼を動かしてみる。
無駄だと思い半ば諦めていたのだが、実際に動かしてみると、徐々に闇が裂け、光が差し込んでくるのが分かった。
その光があまりに眩しくて、エースは再び闇の世界へと戻ってしまう。
だが、今度は先程までの深い闇とは違う。
光の世界はすぐ目の前なのだから。

(もう一度……光を……)

エースは再び瞼を開いて光の世界を覗き込む。
久し振りの光はとても眩しく、最初は何も見えなかったが、何度も瞬きを繰り返し、光に目を慣らすことで、ぼんやりとしながらもようやく世界が見え始めてきた。
やがて光にも慣れてくると、目の前に一人の少女が立っているのがおぼろげながらに確認出来た。
それは夢にしてはあまりにも現実感があり過ぎていた。
少女の顔も表情も見えない。
だが、何となく自分を心配しているような雰囲気は感じられた。
少女はエースの目が開いたことに気付くと、途端に素っ頓狂な声を挙げる。

「……!!い、生きてる!!やっぱり生きてるわ!!」

少女は驚嘆しているようであった。
それもそうであろう。
全身傷だらけ……それも重体も重体な状態で倒れていた者が、突然目を開ければ、誰でも似たような反応をする。
対して、エースはただじっと少女を見つめているだけであった。
『死』から『生』へと引き戻され、初めて目にした少女のことを。

(この子は……一体……?)

目の前の少女は一体何者なのか。
ここは一体何処なのか。
そして、自分は何故こうして息を吹き返したのか。

すべてが謎のまま、彼らの物語は再び始まる。
運命の螺旋から外れて……。



[33815] 第一章 0組、彼の地で目覚める その1
Name: 朱ノトリ◆01245b45 ID:a1a580d1
Date: 2012/07/08 02:48
エースと少女。
お互いの視線が重なり合う。
少女はエースへ何か言いたそうに口をパクパクと開いていはいたが、上手く言葉が出ない様子であった。
それはエースもまた同様である。
何も分からないエースは、何も言葉にすることが出来なかった。

沈黙。
お互いがお互いの顔を見つめ、そして言うべき言葉が何かを模索していた。
やがてどちらからでもなく、視線をお互いの顔から外す。
と、エースは少女以外にも、人がいるということに気が付いた。
それも一人や二人ではない。
少女を囲むように多くの人が立っているのが目に入ってきた。

(……囲まれて、いる?)

エースは途端に危機感を抱く。
目の前にいる少女も含めた周囲の人々が味方であるとは限らないことに気が付いたからだ。
常に戦場を駆け回っていた0組(クラスゼロ)であるエースには、敵も多かった。
他国の領に入れば、時には兵士ではない市民すらもその敵意をエースたちにぶつけていた。
故に、常に臨戦態勢で、どんな状況でも襲って来た相手と戦えるようにするのがエースを含めた0組(クラスゼロ)の日常であった。
生への衝撃と満身創痍の状態から、かつては日常であった筈のその感覚が薄れていたようである。
自身が覚醒していく度に、生きていた頃の感覚を少しずつ取り戻しているのをエースは感じていた。

だが、感覚よりも大事なのは肉体である。
どんなに臨戦態勢にあっても、肝心の肉体が動かなければ、されるがままである。
エースは試しに指を動かしてみた。
その細くしなやかでありならがらも、先の戦いによって傷だらけになっていた指は、エースの意思でピクリと動いてくれた。
それを皮切りに、エースはどんどん他の箇所も動かしてみた。
ぎこちなく、僅かにしか動かなくとも、自分の体を自分の意思で動かせるのが分かった。
肉体が次々と自分の支配下へ置かれていくような感覚。
同時に伴う痛み。
それらがエースに実感させる。
自分は生きているのだと。
今、ここで。


「……は、早く彼らを医務室へ運ぶんだ!!」


エースの耳に中年男の叫び声が聞こえて来る。
“彼ら”とはどういうことなのだろうか。

その時であった。

「ふあぁ~~~~あ」

気の抜けた大きな欠伸がエースの背後からその場へと響き渡った。
実際は、そこまで大きな声ではなかったが、エースやその場にいた者たちにはそう聞こえていた。
そのくらい唐突な欠伸であった。
エースは振り向かなくても、その声の主が誰だか瞬時に理解した。

(ジャック……か?)

「あー、よく寝たぁ」

ジャックはまるで気持ちの良い目覚めのようにそう言ってのけた。
何か大変なことが起きているのだということさえも忘れてしまいそうであった。
と、そんなジャックの言葉を合図にするように。

「……んだ、ここはァ?」
「……あれ、アタシたち一体?」

次々と仲間たちが目を覚ましていった。
目覚めの一発目からドスを利かせていたのはナイン。
何だか懐かしく、微笑ましい。
戸惑い混じりに目覚めたのはケイト。
いつも勝ち気な彼女も今は流石に不安そうなのが声色から分かった。

「生きて……いるのですか?」
「どういう……ことだい?」

目覚め掛けにそう問い掛けたのはトレイ。
そして、サイスも続く。
やはりこうして目覚めることは、0組(クラスゼロ)の誰にとっても不可思議なことなのだろう。

「み、皆さん。大丈夫ですか?」

デュースの声。
こんな時でも自分より皆を心配しているようである。
その優しさは何処か心地良い。

「……一体、これは?……全員いますか?いたら返事して下さい」

そう皆に確認を取ったのはクイーン。
委員長気質はこんな時でも変わらないようだ。
眼鏡のズレを直すカチャッという音が聞こえてきた。

「私は……大丈夫だ」
「問題……ない」
「どうやら生きている……みたいだな」

彼女の声に呼応したのはセブン、キング、エイトの三人。
三人とも冷静に今の状況を分析している。

「……シンクは?」

誰かが尋ねる。
確かに彼女の声はまだ聞いていない。
エースは周りを確かめようと、痛む体を起こそうとする。

と、その時。

「むにゃむにゃ……もう食べられにゃい」

間の抜けたような言葉が耳に入ってきた。
この声は間違いない。

(シンク……ここにいるんだな)

他の皆がいたのであれば、彼女もここにいるのだろう。
と確信めいたものはあったが、実際に声を聞いたことでエースはホッとする。
そして、思わずフフッと笑っていた。

皆が実際に側にいる。
闇の世界から感じていたことが、こうして現実として目の前にある。
そのことがエースはとても嬉しいと感じていた。

だから周りが少々騒がしくても、それが耳に入ることはなかった。
目の前の少女が何か言っているのさえも。

やがて、エースは少しだけ体を起こし、そして振り返った。
そこには、仲間がいた。
共に学び、共に笑い、そして共に戦った仲間が。

体は相変わらず痛みを訴えていたが、そんなことはどうでも良くなっていた。
エースは彼らに声を掛ける。

「みんな……」


そうして、彼の地での再開を喜び合っていたエースたち0組。


そんな彼らの至福の時間を裂いたのは、悪意に満ちた嘲笑の声であった。


「おい、ゼロのルイズが死にかけの平民をたくさん召喚したぞ!」

その声を皮切りに、次々と笑い声が起こり始める。

「まさか人間!それも平民の集団なんて!」
「流石はゼロの二つ名!俺たちの予想の斜め上を行ってるぜ!」
「あっはっはっは!」

さながらオーケストラの如く、嘲笑と誹謗中傷が巻き起こり、やがてその場を包み込んだ。
突然の事態にエースたちは困惑する。
こういう時に真っ先に噛み付く喧嘩っぱやいナインですら戸惑いを隠せないでいた。

「な、何なんだゴラァ?」
「笑われている……みたいですね」

クイーンが当たり前のようにそう答えると、ナインは一気に不機嫌な顔になった。

「何で俺らが笑われてんだ?あぁ?……ッツツ!」
「さあ?でも、不快であることには違いないですね」

クイーンのメガネがキラリと光る。
クイーン以外の面子も、声にこそ出さなかったものの、皆不快感を隠しきれずに身構えていた。
暫くそうしていると、やがて嘲笑の対象が自分たちだけではないということに気付き始める。

「……あの子も、嘲笑(わらわ)れているのか?」

エースが息を吹き返してから、一番最初にその目に飛び込んできた少女。
0組の目の前にいるその少女こそが、この嘲笑の真の標的であることにエースは気が付いた。
少女は表情を見せないように俯き、その身をかすかに震わせている。
一見、嘲笑に耐えているように見えたが、何となく思い詰めたような雰囲気を感じた。
少女は僅かに口を動かし、何かを呟いている。

「………………………………」
「……?」

エースは立ち上がり、その言葉を聞こうとするが、傷つき朽ち果てかけた肉体がそれを許さなかった。
体を動かしたり喋るだけならば痛みを伴いながらも可能ではあるが、どうも立ち上がり歩行するだけの体力が無いようである。
人間が当たり前にしていることの難しさを死ぬ寸前になって知り、そして今もまた改めて思い知らされる。
今のエースたちは子供にすら殺されかねないほどに衰退していたのであった。

「静かにしなさい!そんなことよりも早く彼らを医務室へ運ぶんだ!!」

そう怒鳴りつけるように言ったのは、中年の男であった。
先ほど自分たちを医務室へ運ぶように指示していた声の主であろう。
男がそう言うと、嘲笑の声は徐々に収まっていき、やがてその場は静寂を取り戻した。

「……ふむ、ようやく静まったか。さあ、彼らを運びなさい」

男は周りを見回しながらそう言った。

「……出来るな、あの男」

キングがボソっと呟いた。
恐らく、男はこの場にいる少年少女たちを引率する者なのだろう。
一見すると気が弱そうで頼りなさそうな感じである。
頭も禿げ上がっていて、それが余計に中年の物悲しさを感じさせる。
だが、男をよく観察すると、その立ち振る舞いには一切の隙がない。
まるで、数々の戦地を潜り抜けてきたような兵のそれであった。

男は、少女の方へ歩み寄って来る。

「……さて、ミス・ヴァリエール。早速契約を……と言いたいところだが、彼らは怪我を、それもとても大きな怪我をしているようだ。まずは治療が先になるだろうね」

男は少女に向かってそう言うと、チラッとエースたちを見た。
その目はエースたちを警戒しているようにも見える。
死にかけの彼らを見て、それでもなお何かを感じ取ったのであろうか。
男が油断のならない人物であることはエースは勿論、他の仲間たちにもインプットされた。
少女は、男の言うことに渋々といった感じで頷いてた。

男は次に、エースたちの元へと近付いて来た。
男が近付いて来るにつれ、エースたちは満足に動けぬ体でそれぞれ身構えていた。
「治療する」と男は言っていたようであるが、最悪の事態は常に想定しておかねばならない。
敵ではないようだが、だからといって味方であると考えるのは早計である。
正体の分からぬ者へその身を任すのはあまりにも危険な行為であるとエースたちは考える。
その気配に気がついたのか、男は少し困ったような表情をしていた。

「……そんなに警戒しなくてもいい」
「…………!?」
「この一時でいいから、我々を信じてはくれないだろうか?」
「…………」

男の言葉に0組の者たちは誰も何も答えなかったが、抵抗はしないということを示すかのように力を抜いた。
そもそも、今の彼らでは、仲間どころか自分の身さえ守る力は無い。
魔法だって満足に使うことは出来ないであろう。
相手に何をされようと、まともな抵抗は出来ない。
それが今の自分たちの現実である。

「……どうやら、我々を信じてくれる気になったみたいだね」

男は取り敢えず、少しホッとしたような表情でそう言った。
だが、エースたちは男を信じたわけではなく、また警戒を完全に解いたわけでもない。
彼らは心の中でだけは、まだ身構えていたのだ。
だが、男と対峙し、緊張したせいであろうか。
エースを始め、他の仲間たちは強力な睡魔に襲われていた。
元々、消耗し尽くした肉体である。
今のところ命にこそ別状は無いようであるが、だからこそ回復を欲しているようであった。
まるで気を失うかのごとく、眠気が襲ってくる。

「…………の足…………えた。…………りに……たを」

エースは途切れ行く意識の中でかつてマザーに教わり、今も耳に残っている歌をかすかに口ずさむ。
それが子守唄になったかのように0組の面々は次々と目を閉じていった。
そしてエースもまた目を閉じ、再び闇の世界へと戻った。

だが、この闇の世界が永遠に続かないということを心の何処かでは分かっていた。
だから、エースは安心してその身を委ねた。
次の光を夢見て。



[33815] 第一章 0組、彼の地で目覚める その2
Name: 朱ノトリ◆01245b45 ID:a1a580d1
Date: 2012/07/09 02:38
再び闇の中。

闇というものはやはり暗く、冷たく、寂しい。
仲間が側にいるのだと分かっていても、それは変わらなかった。


「……………………!!」


ふと、誰かの声がエースの耳に入って来た。
誰の声なのか、どんなことを言ったのかは分からない。
だが、何となく聞き覚えがあるような声であった。

(……誰……だ?)

エースは心の中で問い掛ける。
返答は無い。

「……………………!!」

再び誰かの声。
その声の主はエースへ、いや0組の皆へと向けて何かを言っているようであった。

「……………………!!」

新たに声が聞こえる。
今度は先程の誰かとは別の声であった。

「……………………!!」
「……………………!!」

声は重なり合い、増幅される。
だが、言葉の内容はやはり聞き取れない。

何となくだが、二つの声は0組のことを呼んでいるように思える。

(誰……なん……だ……?)

誰かは分からぬ声。
だが、何故か懐かしさを強く感じる。

きっと、知っている人間の声なのだろう。
だけど思い出せない。
ということは、死んでしまったのであろうか。

エースたちは、クリスタルの加護により死者の記憶を失う。
先程から呼び続ける声は、エースたちの記憶から消えてしまった者たちなのだろうか。

(いや……違う!)

(この声は……)

(そう、この声は……!!)




………………………





「…………………」

次にエースが見たのは、白い光であった。
正確には部屋の天井の色である。

「……ここ、は?」

エースが呟いた。
先程まで何か夢を見ていた気もするが、その内容をあまり思い出せない。
だが、眠る前に何処かへ運ばれるというような会話を聞いたことはおぼろげながら覚えていた。
身の回りを確かめると、どうやら簡単なベッドらしきものの上にいるようである。
体にシーツが一枚だけかけられている。

「ようやく起きましたね」

そうエースへ声を掛けたのはデュースであった。
彼女だけでなく、エース以外の0組は皆目を覚まし、体を起こしている。

「エースはこんな時もお寝坊さんなんだね~」

シンクがそうエースをからかった。
そんなやり取りさえ、何だか懐かしいように感じる。

「皆……無事か?」

誰のことも忘れてはいないから、全員生きているのだということは分かっていた。
しかし、一応エースは尋ねる。
すると、ジャックがいつものようにニコニコしながら答えた。

「ぜ~んぜん!体のあちこちから悲鳴が聞こえてくるよ~『たすけてー』ってさあ。アハハハ!」
「……だが、それで死ぬということはないみたいだ」

エイトが付け加えるように言った。
エースも含めて彼らの肉体は傷付いたままで、相変わらず満足に動けないでいる。
しかし、怪我は致命傷にまでは達しておらず、取り敢えず今のところ命に別状はないようであった。
それを確認して一先ず安心すると、次に自分たちの現状が気になる。

「僕らに一体……何が起きたんだ?そもそも、ここは何処なんだ?」

先程のことを思い返してみる。
息を吹き返し、意識を取り戻した時、エースたちは多数の人間に囲まれていた。
殆どが同年代かエースたちより若干幼いくらいの少年少女で、その中に一人だけ中年の男がいた。

人物以外で僅かに見えた風景を思い出すと、魔導院と似たような建物があったような気がする。
ということは、自分たちは朱雀領の何処かへと何らかの力が働いて飛ばされて来てしまったのだろうか。
だが、そんなことは有り得ない。
エースたちのいた朱雀領……いや、オリエンス大陸全体が、フィニスの刻により、ほぼ壊滅しかけていた。
ルルサスの騎士たちの蹂躙により、世界は血のような赤に染められていた。

しかし、先程見た風景を思い出すと、そんな様子は微塵も感じられない。
世界は赤くないし、今いるこの建物も古くはあるが、何処も破壊されてはおらず、無事である。
これらのことから、今いる場所が朱雀領……いや、そもそもオリエンス大陸ですらないということは、ほぼ間違いないだろう。

「ふむ……」

トレイが口元に手を当てて考え込む。

「……恐らくここは先程見えた魔導院のような建物の中なのでしょう。そして私たちを囲んでいた彼らは、そこの訓練生……といったところでしょうか?」

トレイがそう自分の考えを皆へ告げると、ケイトが一番に反応した。

「……ってことは、ここはオリエンス大陸の何処かってワケ?……アタシの記憶が正しければ、オリエンス大陸は何処もかしこも滅茶苦茶になってたと思うんだケド」
「ええ……。もしかするとここは未知の大陸なのかも知れません」
「未知の……大陸?」

セブンが聞き返すと、トレイは頷く。

「……私としては、自分の理解が及ばないことをすぐに未知のものとしてしまうことには抵抗があります。しかし、あまりにも我々の知る状況と今が違い過ぎるのを目の当たりにしてしまった以上は、そう考えるのが至極普通の思考だと思います」
「ったく、イチイチ回りくどいねえ。分からなきゃ分からないって言えばいいだろ?まどろっこしい」

そう苦言を呈したのはサイスであった。
元々イラつきやすい性格ではあるが、今イラついているのは自分たちの置かれた状況が理解しづらいというのもあるのだろう。
サイスに限らず、トレイも他の皆も多かれ少なかれ不安を感じているようである。

「……そんなことより、もっと考えるべきことがあるだろう」

そんな中、キングが口を開いた。

「俺たちは、何故『生きて』いる?」

誰もが思いながらも口にしなかったその疑問をキングは敢えて尋ねた。

「……それこそ、未知ですね。悔しいですが、理由の見当もつきません」

と、残念そうにトレイは首を振った。

「あ~、きっと私たちが死にたくない死にたくないって願ったから、神様が助けてくれたんだよ~」

そう言ったのはシンクであった。

「神様……ね。今はあまり神とかそういうのはパスしたい心境」

ケイトがうんざりしたような顔で言った。
0組……いや、世界全体がその『神様』の運命とやらによって未曾有の危機へ追いやられてしまったのだ。
ケイトの表情も当然のことであった。

「神様の計らいかどうかというのはともかく、パスしたいというのは賛成だな。私たちが何故生きているのか……その疑問の答えはあまりにも出しようが無さ過ぎる」

セブンがそう言うと、ジャックも同意する。

「そうそう。難しいことはともかく、皆生きているんだから結果オーライ!ってことで今はいいんじゃないかな?」
「でも、いずれは知らなければならないと私は思います。私たちが何故生きているのか、何の為に生かされているのかを」

クイーンはそう言いながら、メガネをカチャリと鳴らした。
そのままこの話題は、ここで一旦終わることとなった。

「……ん~?」

と、シンクが小首を傾げて唸っていた。

「どうしたんだ、シンク?」

何事かと思ったエースが尋ねると、シンクは小首を傾げたまま答えた。

「……そう言えば~、マキナんとレムっちは~?」
「!!」

エースはハッとなる。

その名前。

0組で共に戦った二人。


マキナ・クナギリ
レム・トキミヤ


(……そうだ。あの闇の中から呼び掛けてきた声。あれはマキナとレムじゃないか)

エースは急に先ほどの夢の内容を思い出していた。

二人のことを覚えている。
ということは、二人は生きているという証。
だが、それならば今の今まで思い出せなかったのは何故なのだろうか。


と、その時、扉の開く音が聞こえた。

0組の皆は即座に身構え、視線を扉の方へ向けた。
肉体はボロボロでも、朱雀最強の戦士として身に染みこんでいたものが反応したのである。
扉の方には、中年の男と少女が立っていた。

「……おや?起きていたのかい?」

そう言ったのは、中年の男の方であった。
先程、0組を医務室へ運ぶように指示した男である。

「それならばちょうどいい。実は君たちに会わせなければならない者がいてね。……ミス・ヴァリエールだ」

男がそう言って隣の少女を案内すると、彼女が部屋の中へ入って来る。
ミス・ヴァリエールと呼ばれたその少女を見て、エースは気付いた。

(あの子は……確か)

少女はエースが目を覚まして初めて目にしたあの少女であった。
桃色髪に小柄な体格の少女。

「……いや、しかし君たち全員を運ぶのには骨が折れたよ。最初は医務室に運ぼうかとも思っていたけれど、色々あってね。こんなところに押し込める形になって申し訳ない」

男はそう言って0組の皆へと詫びた。
どうやら、今彼らがいるこの部屋は正式な医務室ではないらしい。

「室内に医者の姿を見かけなかったのはそういうことだったのか」

キングはそう言って、納得する。
しかし、その顔は少し不満げであった。
確かに、見るからに深い傷を負っている彼らを医務室ではない部屋へ運び込んだことは疑問に思われる。
既に医務室が満員であるなどの事情でもあるのだろうか、とエースは思った。

「……こちらには聞きたいことが山ほどある。その子の紹介の前にまずはそれに答えては貰えないだろうか?」

セブンが口を開き、男へそう尋ねた。
男は0組の皆へ会わせたいと少女を連れてきたが、今は彼女よりも現状把握の方が先決である。
セブンも含め、0組の皆はそう考えていた。
すると、男は少女の方をチラリと見ながら答えた。

「……まずは彼女を紹介させてはくれないかね?」
「何故だ?まずは私たちに今何が起きているのかを説明するのが先だろう?」
「それらを説明する為にも、だよ」
「……その子を紹介することが私達に起きたことを説明することになるならば、こちらとしては異論を挟む余地はないな」

セブンはクールな表情の中に少し納得のいっていないといったものを見せていたが、取り敢えずは男の意見に妥協するようであった。

「それは良かった」

その様子を見て、男は安心したようにコクリと頷くと、そのまま話を続ける。

「……そう言えば自己紹介がまだだったね。私はジャン・コルベール。ここトリステイン魔法学院で教師をやっている」

(トリステイン?魔法学院?)

全く聞き覚えのない言葉と多少は聞き覚えのある言葉がコルベールという男の口から彼らの耳に入る。
すぐに問い質したい気持ちはあったが、取り敢えずはコルベールの話を最後まで聞こうと、誰も口を開こうとはしなかった。

「そして彼女は……」
「コルベール先生!自分の名前は自分の口で告げます」

コルベールの言葉を制して、少女はようやく口を開いた。
一歩前へ出ると、0組の皆の方を向き直る。

「……私の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

やや間を空けてから少女はそう自身の名前を名乗った。
不機嫌な様子を隠そうともせず、腕を組み胸を反らす。
彼女は少し睨み付けるような目で0組の皆を見回していた。

「オイコラァ!何ガンつけてやがんだチビ?あぁ?」

彼女の態度を見て、直情型のナインが早速反応する。
ナインの歯に衣着せぬ物言いに、ルイズも興奮で顔を紅潮させた。

「何よっ!?」

甘ったるく甲高い声が室内へと響き渡る。

「こっちだってアンタたちみたいな平民なんか、召喚したくなかったんだから!」

不満が爆発した、という感じでルイズは喚き散らした。
売り言葉に買い言葉……といった感じで、ナインもすぐに応戦する。

「んだ、コラァチビ!平民とかワケ分かんねえこと言ってんじゃねえぞコラァ!」
「何よ何よ!平民の癖に!」
「ナイン!」「ミス・ヴァリエール!」

クイーンとコルベールが同時に呼び掛け、言い争う二人を止めた。
呼ばれた二人はそのまま口ごもる。

「ナイン!気持ちは分かりますが感情的に動いていても、何も始まりませんよ」

窘めるようにクイーンは言った。

「でもよぉ……、ったく、わぁーったよ!」

ナインは渋々そう言うと、まるでふてくされた子供のように、そのままベッドへふんぞり返った。

「……ミス・ヴァリエール。君のその苛立ちはよく分かる。だが、ここは一先ず我慢しては貰えないだろうか?」

一方、コルベールも諭すようにルイズの肩へ手を置き、優しい口調で語り掛けている。
ルイズは流石に先程の失言を恥じたのか、少し俯き気味であった。
双方、刀を鞘に納めたところで、コルベールが一つ咳払いをした。

「オホン!……色々と戸惑いがあるのも当然だと思うが、まずは落ち着いて聞いて欲しい。……実は、君たちは召喚されてここへ来たんだ。ここにいるミス・ヴァリエールの手によって」
「しょ、召喚だって!?」

ケイトを始め、何人かが思わず口を開いた。
それ以外の者たちも、声にこそ出さなかったが、皆同じような衝撃を受けていた。
彼らの世界における召喚とは、主に軍神召喚のことであり、その代償は著しく大きい。
軍神召喚は術者の命を奪うのである。
マザーが実験していた術者の命を奪わずに召喚出来る特殊軍神など、例外は確かにあるものの、基本的にはそれが彼らの常識であった。
0組だけはマザーの加護により、召喚を行って戦線を離脱しても復帰は可能であったが、だからといってそう易々と使えるものではない。
故に目の前の少女が召喚した、という事実もそうだが、こうして目の前に健在しているということの方が衝撃としては大きかった。

「おい、マジかよ。そこのチビが俺たちを召喚しやがったのか?」

ナインも思わず飛び起きていた。

「あはは、じゃあわたしたち、シヴァやイフリートと同じだね」
「いや、違うだろ……というか、そう思いたいね」

シンクの冗談混じりの言葉にサイスが若干弱気なツッコミを入れる。
普段強気なサイスでも、流石にこの状況には戸惑いを見せているようであった。
それはサイスだけでなく、他の0組の仲間も同様であったことであろう。

「……君たちが動揺するのは当然だ。何せ、我々も予想だにしなかったことだからね」

意味合いこそ違うものの、0組の動揺は想定済みといった感じでコルベールは続ける。

「本来、召喚されるのは一人につき一体、それも君たちのように平民……いや、人間が喚ばれるということはないのだ」
「つまり、そちら側でも私たちが召喚されたのは想定外。ということなんでしょうか?」

そうデュースが尋ねると、コルベールは頷いた。

「人間が召喚されたこともそうだが、それが複数人ともなると余計にね」
「……仮にオレたちがそこの子に召喚されたとして、その子は一体何の為にオレたちを召喚したんだ?」

エイトがルイズの顔をチラッと見て言った。
もっともな質問である。
大体の場合、一つの行動には何かしらの理由が存在するものなのだから。
彼らの常識の中だと、召喚は主に戦いにおいて使用するものである。
となれば、召喚された理由は少なくともその範囲内である可能性が高い。
0組のメンバーは、皆そう考えていた。

「この度の召喚は試験の一環でね。パートナーとなる使い魔を召喚するという儀式だったんだ。ミス・ヴァリエールは……」
「ちょっ、オイ待てハゲコラ!」

コルベールの説明の途中に、思わずナインが口を挟んだ。
普段ならば、クイーン辺りが注意するのだが、誰もナインを止めはしなかった。
そのくらい、コルベールの一言を聞き捨てならないものだと思っていたのである。

「ハゲ……。……一体何ですかな?」
「オイ、ハゲ。試験って、テストのことか?んなことのために俺らを喚んだのかコラ?」
「え、ええ?」
「それと使い魔って、どういう意味だコラ?使い魔ってアレか?そこのチビのってことかぁ?あぁ!?」

ナインはルイズを指差しながら、チンピラのようにコルベール恫喝した。
その後ろで、人差し指をこめかみに当てたシンクが口を開く。

「使い魔ってことはぁ、つまりぃ、わたしたちがもぐりんみたいになる……ってことなのかなぁ?」
「……モーグリならばまだいい。下手すれば、俺たちは軍用クァールと同じかそれ以下ということかも知れん」

シンクの問い掛けにキングがそう答えた。
彼女の言った”もぐりん”とキングの言った”モーグリ”とは同じものを指し、
それは”Military Operation Organization Guidance/Logistics Expert”の略称である”MOOGLE”のことである。
"Military Operation Guidance"の略で"MOG"と呼ぶ者もいる。
召喚獣の一種で、0組のサポートを主に担当しており、時には本部からの指示を伝えたりもしていた。
0組はその”もぐりん”とは基本的に仲良くやってはいたが、そこはやはり人と召喚獣という関係である。
自分たちが”もぐりん”と同じか、それ以下であるようなことを言われたことで、0組は全員が一瞬で不機嫌になった。

「君たちは何か勘違いをしているようだが、使い魔と一言で言っても、ペットとかそういうことではなく、生涯を共にする唯一無二のパートナーであってだね……」

不穏な空気を察したコルベールがそう言って説明すると、今度はサイスが突っかかった。

「生涯を共にってことは、つまり一生そのルイズって子と一緒にいろってことかい?……随分と無茶苦茶なことを言うねえ。流石のあたしも怒るより先に呆れちまうよ」

そう言ってサイスは肩をすくめた。
コルベールは場を一旦リセットする意味も含めて、少し声の大きい咳払いをする。

「オホン!……余計な誤解を招くといけないので要点だけ伝えよう。君たちは使い魔として召喚されたのだ。そこのミス・ヴァリエールの手によってね」
「…………………………」

改めてコルベールの口からそう説明されたことで、0組の皆は逆に静まり返る。
それぞれに様々な意図はあったが、好ましい空気でないことは共通していた。
コルベールはそれを肌で感じながらも、更に続ける。

「そして君たちには、ミス・ヴァリエールと使い魔の契約を交わして欲しい」

コルベールのその発言に対し、いの一番にナインが反発する。

「んだとコラ!何で俺らがんな……ッツツ!」

ナインはまだ開いたままの傷口の痛みに顔をしかめながらもコルベールとルイズを交互に睨み付けた。
ナインだけでなく、他の0組の皆も大なり小なり同じ考えであるようで、口に出さずともその表情は否定の色を醸し出している。

「……その、改めて召喚し直すということは出来ないのでしょうか?」

0組の中で一番温和なデュースが、困惑した表情でコルベールにそう提案する。
すると、コルベールよりも先にルイズが口を開いた。

「……それが出来るならとっくにしてるわよ」
「じゃあ……」
「残念だが、それは出来ない」

コルベールはデュースの言葉を遮り、首を横に振った。

「召喚の儀式は神聖なものだ。やり直すことは許可出来ない」
「何それ?そういうのってアンタが決めることなワケ?」

ケイトが反論する。
しかし、コルベールは頑なに首を横に振るだけであった。

「……何と言われようとも、召喚の儀式をやり直すことは出来ない」
「そっちの都合ばっかじゃない!こっちの意思は無視ってこと!?」

ケイトが不快感をあらわに声を荒げる。

「……だから君たちに聞いている。こういうことを言いたくは無いのだが、君たちが眠っている間に無理矢理使い魔の契約を交わすことも可能だったのだ。それをしなかったということを分かって欲しい」

コルベールはそう言うと、目を伏せた。

「……あんた、コルベールと言ったか?」

嫌な空気が漂う中、エイトがやや落ち着いた口調でコルベールの名を呼んだ。

「……確かにあんたの言う通りだ。実力行使をされていれば、眠っていたオレたちにそれを阻むことは出来なかっただろう。あんたたちにそれをしないだけの良心があったのは認める。だが、それを誠意だと言ってあんたらの要求を俺たちに押し付けるのであれば、それはただの傲慢だ」

エイトはそう言うと、拳をグッと握り締める。
コルベールはエイトの言葉に対して、何も反論はしなかった。

そのまま場は沈黙する。
先ほどからの嫌な空気が更に濃くなったように感じられた。

「……何、でよ」

そんな中、ルイズがぽつりと呟く。
皆の視線が彼女へ注がれた。
と、ルイズは急に激昂した。

「どうしてよ!!何で……何でなのよ!!何でアンタたちが来たのよ!!」



[33815] 第一章 0組、彼の地で目覚める その3
Name: 朱ノトリ◆01245b45 ID:a1a580d1
Date: 2012/07/14 06:32
心からの声。
悲痛な叫び。


そんな風に思えるくらい、先程のルイズの叫びは真に迫っていた。

最初は自分たちの要求が通らなかったことに対する怒りなのかとも思われたが、彼女の様子を見る限りどうも違うようだ。
そう感じられたのは、彼女の先程の言葉が0組ではなく、まるで自分自身へ言っているかのように聞こえたからである。
故に、0組の誰もが彼女の言葉に対して、何か言おうとはしなかった。
それは頭に血が上りやすいナインでさえも同様であった。

「…………………………」

コルベールもそれを悟ったからなのか、下手にルイズへ声を掛けようとはせず、ただ心配そうな顔で彼女を見守っている。

当のルイズは、あれからは特に何も言わず、0組を睨みつけているだけである。
彼女の顔は紅潮し、体も小刻みに震えていた。
目には涙を溜めており、今にも溢れ出してしまいそうな様子であったが、
彼女のプライドなのか、唇を千切れんばかりに噛み締め、それに耐えているのが見て取れた。

そうしてその場には再び沈黙の空気が訪れた。

妙に時間が長い。
時間そのものは大して経過してはいなかったが、場の空気が皆にその進みを遅く感じさせていた。

「……一つ、提案があります」

そんな中、意を決したようにクイーンが口を開いた。
皆の視線が彼女へと一斉に注がれる。
クイーンは一旦メガネの位置を直すと、すぐに言葉を続けた。

「わたくしたちに少し時間を頂けないでしょうか?」
「時間?」
「はい」

コルベールが聞き返すと、クイーンは頷く。

「こうして話し合っていても埒があかないと思います。判断材料も少ないですし、これで今すぐ決断しろと言うのは些か横暴ではないかと。
それに、わたくしたちだけで考えたいこともありますし……」

このままお互い血が上った状態で話し合っていても現状把握はおろか、使い魔の契約をする、しないの平行線に発展する可能性があり、埒があかなくなる。
であれば、一旦時間を置いてお互いクールダウンさせた方が建設的だとクイーンは判断した。
また現状の情報だけでも、まとめることで少しは現状把握に繋がるだろうとも考えていた。

「……分かった」

仕方ないといった様子でコルベールは承諾した。

「そういうことならば君たちに時間を与えよう。とは言え、無限に与えられるわけではないがね。こちらにも、その、……事情というものがあるのだ。
一先ず、我々は退散し、また後で答えを聞きに来ることにするよ。それでいいね、ミス・ヴァリエール?」
「…………………………」

コルベールがそう尋ねると、ルイズは無言で頷いた。
あまり納得のいっている表情では無かったが、このまま無駄に時間を過ごすよりはマシと考えたのであろう。
二人は0組へ背を向け、ドアの方まで歩いて行く。
部屋を出る直前にルイズが振り返り、一瞬だけ0組を睨みつけた後、すぐにドアを閉めた。
二人の足音が遠ざかっていくと、やがて部屋の中は再び0組だけとなっていた。

「やれやれ、だな」

その中で一番最初に口を開いたのはキングであった。
先程までの心情がその一言に集約されていた。

「いやはや、強引だったねー」

やや引きつった笑顔でそう言ったのはジャックであった。

「ったく、何だいありゃ?あたしらのことを何だと思ってんのかね?」

サイスもむしゃくしゃした様子でジャックに続く。

「……ええ、全くです。こちらの事情は一切考慮していないといった感じでしたね。私たちを連れてきたのも強引ならその後はもっと強引です。
使い魔として契約し、生涯を共にする……それはすなわち、契約する者を親しい者たちや家族から永遠に引き離すことと同意義です。
それを今さっき会ったばかりの者へ強いるのは、流石に人としてどうかと思いますがね」

と、トレイも珍しく眉間に皺をよせていた。

「でも、私たちが召喚されたのはあの人たちの方でもイレギュラーだったと言ってました」

デュースがそう言うと、再びサイスが口を開く。

「なら、尚更悪いね。普通、そういう時はもっと慎重になるもんじゃないのかい?」
「あの二人……特にあの子は何だか追い詰められているようだった」

エースは呟くように言った。
思い返せば、二人とも明らかに使い魔の契約を急いでいるようであった。
何か急ぐ事情でもあるのだろうかとエースは考えていた。

「あの子ってえと、あのルイスだかルイズだかいうチビのことか?」

ナインがそう尋ねると、エースは「ああ」と言ってこくりと頷いた。
ナインは頭の後ろをボリボリと掻き始める。

「あー、やっぱあいつか。ことあるごとに俺に突っかかって来てよぉ、俺ぁ、あんま得意じゃねーなあ」
「あれはお前が悪い」

エイトがそう突っ込むと、ナインは「んだコラ!?」とすぐに返す。
そんな二人のやり取りを無視してシンクが皆へ話し掛けた。

「ねえねえ~、考えたんだけど、わたしたちが今こうして生きてるのって、もしかしてもしかしてあの子がわたしたちを召喚したからなんじゃないかな~?」

シンクが何気なく言った一言に場は静まる。
そしてすぐにまたざわめき始めた。

「んなアホな!ぜってぇー有り得ねえ!」

真っ先に否定したのはナインであった。
トレイもナインに同調する。

「ええ、自分もナインと同意見ですね。シンクのその意見はあまりに突拍子が無さ過ぎますし、根拠も何もあったもんじゃありません」
「そうかな~?」

シンクが「ん~」と唸った。
一見、抜けているように見えても彼女は意外と真実を見抜く目を持っている。
その直感が侮れないことは0組の皆も知ってはいたが、流石にこの意見には同調しづらいようであった。

「……でも、タイミングとしては一致している。偶然と片付けてしまうにはあまりに不自然だ」

エースもそう主張する。
確証が無い為、自らの口でそう言うのは躊躇われたが、実はエースもシンクと同じようなことを考えていたのだ。

「あの子の召喚が一度は完全に失われた僕たちの命を紡いだ。そう考えれば僕らが生きていることの辻褄は合う」
「だが、彼女の召喚と私たちの生存の関連を結び付ける根拠はない」

セブンが冷静に答える。

「……止めよう。さっきも言ったが、こんな答えを出しようもないことは今考えるべきではないよ。今はもっと他に考えるべきことがあるだろ。
それに、仮に彼女の召喚と私たちの生存に関連があったとして、エースはどうするつもりなんだ?まさか、彼女の使い魔になるのか?」
「それは……」

セブンの問いにエースは口ごもる。

「ま、もしもそれが事実ならば、あの子はアタシたちの命の恩人ってことになるワケか」

すぐ側でケイトがそう言って肩をすくめた。
仮に0組全員の生存がルイズのおかげだったとして、それに対して何をするべきなのかエースは考えた。
出来得る限りその恩には報いたいが、かといって契約して使い魔になろうと言うのか。

「だからと言って、あの子の使い魔になるのは別問題だと思うがな」

ケイトの言葉に対して、エイトがまるで釘を刺すかのようにそう言った。
別にエイトはエースの心を読んだわけではなく、ただ単に自分の主張を述べているだけなのだろう。
しかし、エースは彼の言葉に少しだけドキリとしていた。

「オレたちにはマザーがいる。あの子の使い魔になるということはマザーを捨てるようなものだと、オレは思う」

エイトはそう言った後、そのままベッドの上で軽くストレッチを始めた。
『マザー』という、今となっては何だか懐かしい響きに、一同がそれぞれ思いを馳せ始めた。

「マザー……。そう言えばマザーは結局どうなったのでしょうか?」

デュースがボソッと呟いた。

「私たちが覚えているんだ。それはつまり生きていることの証明じゃないか?」

セブンがそう告げると、デュースは「そうですか……」と安心する。
確かに、0組の誰からもマザーの記憶は失われていない。
その事実に一同ホッとして表情を崩す。

「マザー……、また逢いたいなあ」

珍しくケイトが感傷的に呟いた。
他の皆も、それぞれマザーのことを思ってはケイトと同じような表情を浮かべる。

『マザー』とは、ドクター・アレシアという女性のことである。
彼女は魔導院ペリシティリウム朱雀の魔法局局長であり、0組の皆をまるで自分の子供のように可愛がっていた。
その愛情に応えるかのように、0組の皆からは『マザー』と呼ばれ、深く慕われている。

彼女の存在は彼らの中ではとても大きい。
それは彼女の無事を確認しただけで、先程まで深刻な顔をしていた彼らがこれだけ柔らかな表情をしていることが証明している。

「マザーとまた逢う為にも、僕らは僕らの魔導院へ戻らなければならない。それにはまず現状把握が大切だと思う」

エースが決意するように言った。
皆もエースの言葉に頷く。

「……そう言えば、結局ここが一体何処なのかも聞けませんでしたね」

トレイが残念そうに言った。

「トリステ……とか言ってたような気もすっけど、んな場所聞いたことねーぞ?」

ナインが頭を掻きながら言った。
もっとも、ナインの場合はオリエンス大陸の地名をちゃんと覚えているかも怪しかったのだが。
そんなナインを見て、クイーンがため息を吐く。

「ナイン、人の話はちゃんと聞かないとダメですよ」
「聞いてたし、ちゃんと覚えてるぞコラァ!」
「では、地名を正確に言って下さい。『何とか』は使っちゃダメですよ」
「だからトリステだろ!?」
「…………………………」

クイーンは再びため息を吐いた。

「……確か、『トリステイン』でしたね。ですが、わたくしには聞き覚えのない地名です。トレイはどうですか?」
「残念ですが……」

そう言ってトレイは首を振った。
自身の知識を他人へ披露するのが何よりも大好きなトレイだけに、その無念さが伝わるような表情であった。

0組の中で一番頭の良いクイーンや、知識量だけは豊富なトレイにも聞き覚えの無い地名『トリステイン』。
どうやら先程トレイが考えていた通り、ここは元のオリエンス大陸と違う場所なのは確からしい。
無論、オリエンス大陸内でも知られざる秘境などはあるのだが、あくまでそこは秘境であって、こうした施設があるような場所とは異なる。

「ここが何処かも皆目検討つかない、か。召喚されたことといい、ますますわけが分からないな」

セブンが残念そうにそう言った。
やはり、あのコルベールという男、或いはあのルイズという少女から、得なければならない情報はまだまだあるようである。

「ねえねえ、ところでこの後どうするの?」

唐突にジャックが口を開いた。

「このままあの子の使い魔になる?それとも、ここから逃げちゃう?」

嬉々としながらジャックがそう言うと、すぐにキングが反応した。

「逃げる、か。この体で出来るなら、是非やって見せてくれ」
「アハハハ……だよね~」

0組の皆の体は未だ最後の戦いで傷付いており、体力も完全に回復していない。
一見、平然と喋っているように見えるが、その実いっぱいいっぱいなのである。
故にここから抜け出して逃亡、といった選択肢を選ぶことは難しい。
ここが見知らぬ土地であるならば、土地勘も無いまま闇雲に逃げ回るのは愚の骨頂に他ならない。

だが、だからといって、ここに長居するのも安全とは言い難い。
先程の二人も含め、ここの連中が0組へ危害を加えることはないと、誰も断言出来ないからだ。
最悪の場合、0組の誰かが力づくであのルイズという少女の使い魔にさせられる可能性だってある。
使い魔になるということが、その者にどういう作用を及ぼすのかだって分からないのだ。

「……皆さんの意思を聞かせて下さい」

クイーンが少しだけ声のトーンを大きくした。

「取り敢えず確認します。使い魔の契約、受けますか?それとも受けませんか?」

現段階での意思確認。
まず0組の皆がこの状況をどう考えているか、それをクイーンは知りたかった。
コルベールが持ち出した契約の話。
これをどうするか、それが一先ずは目の前にある課題だったからである。

「……受ける人はいませんか?」

クイーンが念を押すものの、誰も口を開かない。
その態度が全員一致で拒否の意を表明しているに他ならなかった。
エースも考えた末、この段階ではまだリスクの大きい使い魔の契約は結ぶべきではないとの結論に達していたので他の皆と同じ答えである。
彼女への恩は仮定の話であり、その結論を覆すには至らなかった。

「……皆さんの意思は分かりました。それをあの二人へ告げたいと思います」

暗黙の了解を読み取り、クイーンはそう言った。
取り敢えず、現段階での0組の出方は決まった。
後は、それを彼らに告げることで自分たちがどうなるか、である。


それから十数分が経った後、コルベールとルイズの二人は再び0組のいる部屋へと戻って来た。

「どうかね?よく考えたかね?」
「ええ、わたくしたちの意思は固まっています」

クイーンは揺らぐことの無い表情でそう告げると、メガネの位置を直した。
そして、クイーンは伝える。
0組の意思を二人へ。



やがて二人の顔は、見る見る内に落胆の色を濃くしていくのであった。


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