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[33650] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7bb96dbc
Date: 2016/07/27 21:00
ギレンの野望 IF ある男のガンダム戦記



宇宙世紀0052。一人の英雄がサイド3ムンゾに入った。
名前をジオン・ズム・ダイクン。
地球連邦が危険視する反地球連邦、親スペースノイド、サイド独立主義者である。
彼のサイド入りは多くの人々に共感と希望を与えた。
前年に凍結されたコロニー開発計画は、スペースノイドにとって棄民政策と捕えられた。実際は予算の増大を懸念した緊縮財政の結果であったのだが、一般市民にそこまで深読みする事を求める事自体が困難であるのは古来よりの伝統である。
加えて、ジオンと共にサイド3へ入ったザビ家などの有力スペースノイドの存在がジオンを強気にさせた。

そんな傍らで。
一介の官僚が、小さな、それでいて大きな生き方を見せる。
これは、激動の時代を駆け抜けたある一人の男を中心とした群雄伝説である。



Side ウィリアム・ケンブリッジ 宇宙世紀0052.04.09
地球連邦 首都ニューヤーク 旧国連ビル



「ウィリアム・ケンブリッジ宇宙開発補佐官」

若手。
この年26歳になるケンブリッジは従兄弟にして秘書のミール・ケンブリッジに呼び止められた。
ニューヤークと名前を変えたかつてのニューヨーク、その摩天楼の一角を形成する国連ビルの60階で。

「何か?」

「相変らず無愛想ですね・・・・・これ、今回の報告書です。読んでおいて下さい」

「日本、アメリカ、旧EU圏の内イギリスからの強制宇宙移民が制限されだした。
移民はアフリカ地域、アラブ・中央アジア地域、インド南部地域、東南アジア地域、イギリスを除くEU地域、ロシア地域、オセアニア・太平洋地域に集中した、か。
うーん・・・・・地球連邦未加盟の中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国、インド北部地域、イランなどは人口爆発を利用し、コロニーと貿易する事で息を吹き返しつつあるな」

インド経済の南北対立。ムンバイを中心としたインドとニューデリーを中心としたインド。
経済と政治の対立に宗教・歴史の対立が加わり、インドは宇宙世紀0012年の春、連邦に残った南部と分離・独立の北部へと分裂した。
また、西暦1990年の天安門事件の対立を引き摺ったため、西暦1999年地球連邦非加盟国となった総人口15億を数える中華人民共和国、更に主導権を握るアメリカ合衆国への対立から参加しなかったボリビア、キューバ、シリア、イラン、朝鮮民主主義人民共和国がある。
地球連邦は地球圏の国家の大半を掌握したが、全てでは無かった。
当然ながら、地球連邦は北部インド連合の独立を認めておらず、セイロン島コロンボ基地、南インドマドラス基地に大軍を展開。ディエゴ・ガルシアのインド洋艦隊と共同でこの40年間経済封鎖を続けてきた。
5年前には主要都市に対して反乱鎮圧の下、衛星軌道とデブロッグ隊を中心とした高高度からの絨毯爆撃を行っている。
もっとも、その広大な領土(中国と接している長大な陸路)と潜水艦やダミー資本を使った隠密貿易が功をそうしたのか、封鎖は形骸化しつつある。

「やれやれ・・・・・・宇宙移民の制限・・・・・・移民終了の宣言。
それも連邦構成国家の中でもNo1からNo3のステーツ、日本、イギリスか。
続いて欧州と韓国の人間が対象で、他の地域は・・・・・・特にジャブロー建設地域の強制移民は増加。
火種にならないと良いが・・・・・」

「補佐官?」

「いや、何でもないんだ。なんでも」

(なんで俺みたいな一介の官僚がこれ程詳しい情報を知らされたんだ?
まさかな、俺に何かしろっていうんじゃないだろうな!?)

嫌な予感を抱えながら彼は職務に戻った。
若き宇宙開発補佐官の懸念はこの約25年後に、予感は6年後に当たる。





宇宙世紀0058年02.09

Side ウィリアム・ケンブリッジ
地球連邦 首都ニューヤーク 旧国連ビル65階



余談だが地球連邦発足以降、国連ビル勤務者は高い所に行けば行くほど高給取りであり、権限も高まる。
そんな中で、彼は6年前の嫌な予感が現実のモノになった事を知った。

『サイド3共和国建国!』

新聞はセンセーショナルに報道している。
PCを起動させて国営放送、地球NETを起動する。

『サイド3は連邦の統治を離れた。
反連邦諸国と共同で我ら人類の正統なる統一政権である地球連邦による全人類の平和と秩序に反するつもりだ!!
連邦警察、地球連邦、各サイド自治政府はこの運動、スペースノイド独立と言う無責任な運動を抑えなければならない。
早急に小惑星ユノー、月面都市フォン・ブラウンの駐留宇宙艦隊の強化を行い、サイド3に圧力を加え独立宣言を撤回させるべきなのだ!!』

白人と黒人の混血であり、カトリックでもあるケンブリッジにはたちの悪い冗談にしか思えなかった。

(これじゃあ戦争を煽っているのと何が違う?)

カナダの故郷を幼いころに出た。
ニューヤークにでてからは学問で駆け上がり、ハーバード大学を何とか卒業したが、その連邦でもう終わった部門である宇宙開発局に0050年に入局した。
それでも大過なく仕事を務めたし、宇宙移民者と地球移住者との軋轢回避に全力を尽くしたつもりだった。
そんな苦労人(自称)から見ればこの新聞の論調は過激だ、過激すぎだ。
だが、ワシントン・ポストやニューヤーク・タイムズも似た様な論調らしいと聞かされて頭を抱えた。
今までの融和政策。
それを担当してきた自分としてはデスクの上にあるモノ全てを滅茶苦茶にして叩き落としてやりたい気分だ。
だが、何とかそれを落ち着ける。
深呼吸して平静さを取り戻した。

(宇宙に住む者と地球に住む者は皆同類。
だが・・・・・それも傲慢な考えなのだろうか?
いや、地球に住むものだって北インド7億、中国15億が公式には反連邦の敵となる。
そしてサイド3の独立宣言。これじゃあ、もう地球連邦と言えないじゃないか)

過去に連邦軍の軍政家で有名なゴップ先輩は言った。
忠告と言っても良い。

『君は遠からず政府と軍との橋になるだろう。命を粗末にするなよ』

そう言われて身辺警護にSPを3名、銃の携帯許可書を1枚用意してもらった。
が、それも杞憂に終わっていた。

(あの頃は連邦内部で対宇宙融和政策の事実上の責任者だったからなぁ。
実質は肌の色の差別から来るただの左遷で命の危険もそれなりだったけど、これでもう危険からは遠ざかりそうだ。
ありがたいことだ)

そう安堵した。次の辞令が来るまでは。
固定電話をとり、メモの順をする。発進と着信は見知らぬ相手だった。

「ああ、ケンブリッジ補佐官ですな。元気かね?」

「あの、失礼ですがどなたでしょうか?」

「うん? ああ、答えてなかったな。はははは。
私は地球連邦政府CIA課長。そうだな、ホワイトマンでもアベンジャーでも好きに呼んでくれ」

「了解しました、ホワイトマンCIA課長。
先程は失礼しました。知らぬ事ととはいえ申し訳ありません。」

「堅苦しくなくてよい。今日は君にとって良いニュースを持ってきたのだから」

「は? 良いニュースですか?」

「うむ。君は明日の12時に昇進する。
その後はちょっと遠くまで行って貰いたい。
ああ、あくまで出張と言う形であり、赴任では無いよ」

「・・・・・・その、どこでしょうか?」

「ジオン・ズム・ダイクンのいるサイド3。
今流行の反地球連邦主義者たちの巣窟。
そこで彼らを監視・調査してくれたまえ」


思わず受話器を落としそうになったがそれ位ご愛嬌だろう。
私は宇宙にいった事は無かったのだから。
それがエリートと呼ばれる地球連邦の若手上級公務員・軍人・財界・政界の常識的なキャリアでもあった。
そして当時の自分は思ったのだ。

(数か月。長くて数か月で祖国アメリカの土をまた踏める)

と。
これがとんでもない思い違いであった事はその後の私を見れば分かる。





宇宙世紀0060.01.05 サイド3 地球連邦軍駐留軍司令部 副司令官室
Side ウィリアム・ケンブリッジ



私はダイクン家、ザビ家、そのの方々の側近らと会食する機会が多くなった。
先年秋に赴任したが、この時点で指導者ジオンは私の目から見ても明らかにおかしかった。
まるでサーカスのピエロ。
そして、この壮年の宇宙軍きっての名将と呼ばれる人物にもそう見えたらしい。
その時の一部始終だ。

「・・・・・君の想像通りジオン首相は体調不良なのだよ。
最近は支離滅裂な理想論を繰り返すばかりで、具体的な要求を地球連邦政府に送る事は少ない。
寧ろ、非連邦加盟国との貿易強化、コロニー間の貿易強化に乗り出している。
それを隠すために道化を演じているのか、道化になったのかは分からないがね」

そう言って、サイド3駐留艦隊副司令官イブラヒム・レビル少将は私とお茶をかわす。
地球のセイロン島のお茶は宇宙で貴重品だと知らされた。
何と言ってもコロニーで合成栽培されたモノの10倍の値段なのだ。
しかも連邦軍軍人、連邦政府役人は毎月1個、キリマンジャロ産コーヒー豆かアールグレイ茶か、出身国の地球産アルコール飲料が支給される。
コロニーでは月給の数分の1は確実にするものを、公務の名目で税金を使い支給されるのだ。

(これが不満の原因なのは間違いないな・・・・・もっとも目の前の御仁もまったく気が付いていないようだが。
・・・・・・これで不満をどうにかしろなんて・・・・・無茶を通り越して無理無謀だよ)

「ああ、ユノーの軍事化、聞いているかね?」

「聞いております、レビル副司令官。
ルノーは今後ルナツーとして要塞化し、対ジオン、対コロニー独立派への橋頭保とするとか」

「文官にしては話が早くて助かる。
言い難いが最近ここも物騒でな。
これは規定事項だが・・・・・君も知っての通りジオン国防隊が発足する。
これがかつてのジエータイの様にやがて保安隊になり国防軍になるだろう。
それは歴史の必然かもしれないと私は思うのだ。
が、それだけで終わる筈も無い。宇宙と違い地上は親ジオン国家が存在している。
例え、空爆と経済封鎖で痛めつけていようとも25億に迫る人口は脅威である。
それに新設されるサイド3の軍隊が呼応しない筈がない。必ず戦争になるだろう。
そうなる前に、圧倒的な軍事力を備えなければならぬ。ジオンを暴走させても問題がない程度の、な」

「・・・・・閣下は戦争を望まれると?」

「・・・・・・痛いところを聞いてくるな・・・・・・戦争を望む、そうは言わぬ。
が、相手が戦争を望めば受けるのが軍人だ。それが私の職務だしね。
それに、地球連邦市民はこのサイド3にも他のサイドや月都市にもいる。
彼らを守らなくて何が地球連邦宇宙軍か。何のための宇宙艦隊なのか?
地球で非連邦構成国に経済封鎖や数年単位で忘れたように空爆を続ける陸海空軍、海兵隊とは違うのだ。
少なくとも、この宇宙空間ではね」

「?
ああ、これが資料ですか。レビル副司令の独自案・・・・・拝見します。
1個艦隊、新造のマゼラン級戦艦5隻、同じく新造のサラミス級軽巡洋艦40隻、改コロンブス級改造空母5隻の50隻1個艦隊制度。
しかも各サイドに一つずつ、グラナダ、フォン・ブラウンには2つずつ、ルナツーに7・・・・7つ!?
戦略予備として3個艦隊!! 
更にそれを支える補給艦隊に17の独立任務部隊ですか!?」

「うむ。それだけあれば何とかなる。
君に見せたのは君の伝手で親スペースノイド派中堅クラスの官僚とスペースノイドらにこれを認めてもらいたいのだ。
ああ、軍内部の方と政府上層部は私たちが責任を持ってやる」

(あの・・・・・・これだけでも大増税です。しかもリターンの見込めない軍備。
軍備増強の財源を賄う相手は各地のサイドに住むスペースノイドですよね?
これでは連邦が彼らを挑発していると言っても過言ではありません。
相手に銃口突き付け、金を巻き上げながら仲良くしましょう、恨まないで下さいなんていう理屈は通じませんよ?
それが分かっているのですか?
いやまてよ・・・・今なんて言った!? 
たち? 私達っていったか、この軍人馬鹿は!?
畜生目! これは個人案じゃないのか!?)



レビル将軍は連邦を第一に考える軍人だった。
それは間違いない。
だが、軍人以上の思考は無かったのではないかと思う。
この点はレビルの三期先輩のゴップ中将が軍政家・政治家として巧みに行動した。
まずコロニー駐留艦隊を原則半個艦隊25席に減らし、フォン・ブラウンは警備艦艇10隻のみに、ルナツー駐留艦隊も7から5に減らし、独立艦隊も12まで削減した点は後世の歴史家からも非常に評価されている。
無論、ジオン独立の抑止力を自ら減らしたとして批判する声も大きいが。
仮に、この決定をしなければジオン独立戦争は無かったかもしれない。
が、その前に連邦政府が内部から瓦解していた可能性が高かったと思う。
大増税によって高まる地球市民の反連邦政府運動によって。



宇宙世紀0069年08.07 ジオン共和国 首相官邸
Side ウィリアム・ケンブリッジ



(どうしてこうなった!?)



妻、地球連邦軍少佐であったショートヘアーで黒、日タイ混血のリム・キムラと結婚して半年。
漸く地球へ、祖国アメリカへと帰れると思った。
私が作った各サイドのパイプ、ジオン首脳部とのパイプは政府上層部に高く評価された。
ジャブロー建設責任者であるゴップ大将や地球連邦宇宙艦隊司令長官ビラー大将からの受けも良い。
政府上層部の親スペースノイド派であるアルビリオ副首相やマーセナル財団、ビスト財団、ルオ商会からも無形の援助を受けた。言わば、出世頭であり、あとは地球に戻るだけだった。
実際、辞令も内定していたらしい。

が、ここにきて急激に事態は悪化。
ジオン・ズム・ダイクンは議会の演説中に死去。
その報道はまるで我が連邦政府が暗殺を行ったかのようで、激昂したムンゾ(ジオンと言い換えても良いか)市民が、自宅前まで押し寄せてきた。
何とか妻と2歳になる息子と共に大使館へ駆け込んだが、そこも変わらなかった。
群衆に包囲され、門の前では連邦軍ががっちりと正規装備で武装している以外に違いは無かった。

「さっさと地球に帰るぞ!!」

漸く一人に慣れて地球息のシャトルの乗船許可をもらった時に思わず叫んだのはご愛嬌だ。
だが、その目論見は直ぐに崩れる。
この国のNo2、ギレン・ザビが私に面会を求めてきたのだ。

面食らう。

確かにザビ家とも面識はあるがそれはあくまで連邦官僚の一員であり、個人的な交友関係は無い。
確かに連邦中堅官僚随一の宇宙通になってしまったが、それでも私はただの官僚だ。
曲がりなりにも国家の上層部の方とお付き合いするほど偉い訳でも肝が大きい訳でも好奇心が旺盛なわけでもない。
寧ろ、丁寧にお断りしたいくらいだ。

「・・・・・・本当にあのギレン・ザビですか?」

「そうだ、あのギレン・ザビだ」

「デギン・ソド・ザビ史からの詰問では無く?
本当にギレン・ザビ史からの面会要請ですか? しかもこの反連邦暴動真っ只中の最中に?」

「言いたい事は分かっている。気の毒だとも思う。
だがこれも給料分の仕事の内だ。ジオン国防隊、いや、ジオン軍から警備部隊と輸送車がくるから心配するな」

(余計心配です!)

そうは思ったが、私は心を入れ替え妻と子に別れを告げると用意された車に乗る。
護衛隊長はランバ・ラル大尉だと言っていた。

(たしか、ジオン派の重鎮の息子の筈だが。
が、彼からはそんな重い政治的意思は見られなかった。
どうやら生粋の武人らしい)

「ご安心を。このランバ・ラル、例え素手でも任務をやり遂げましょう。
ケンブリッジ補佐官殿は大船に乗ったつもりでいてください」

(一介の武人ね。結構な事だ・・・・・はぁ・・・・・・おれだって唯の官僚だぞ!!!!
なんだってこうなるんだよ!?)



そうこうしている内に車は行政府につく。
相変らず仰々しい悪趣味な建物だな、と思いつつ。

「よく来てくれた、ギレン・ザビだ」

「この度はお招き頂きありがとうございます、ウィリアム・ケンブリッジです」

「私はサスロ・ザビ。貴方の噂はかねがね聞いている。
この間の食糧輸入税撤廃法やサイド間交流法など立案に関与した非常にスペースノイド寄りの御仁だとも」

「恐縮です」

「そこでだ、ギレン兄上は貴方の狙いがどこにあるか知りたがっていてな。
会いたいと思っていたが漸く会えたわけだ」

(なんという事だ!?
この独裁者としか思えない人間に目を付けられただと!?
SPだけじゃ殺されてしまう!!)

「うむ、君の噂はかねがね聞いている。評判以上の男の様で私もうれしい」

「光栄です。
しかし現在は暴動もデモも起きています。
こんな危険な時期に会わなくと・・・・・・」

「いや、こんな時期だからこそ、だよ、補佐官」

「ギレン閣下にそういわれると嬉しいですね」
(冗談じゃない! こんな危険な時期にザビ家の相手をしてられるか!)

「ん、緊張しないのは中々の者だな」

「それで要件は何でしょうか?」

「うむ、サスロはあくまで証人として居てもらう。
気にするな。
これ以上は何も語らぬから、実質気味と私の二人だけになるが・・・・・・さて、聞くが、連邦は我々の独立を認める気があるか?」

単刀直入。
だが、それだけに嘘偽りのない言葉。
そして、直観。

(この男、下手な回答をすれば何億人も殺すのではないか?)

「どうかね? どう思う?
あくまで宇宙開発局副局長にして、次期地球連邦内閣府対スペースノイド政策補佐官の立場として聞かせてくれ。ケンブリッジ補佐官」

「冷や汗がでますな、お茶を一杯飲ませてもらいます」
(冗談じゃない! 俺は大統領でも軍総司令官でも議長でもないんだぞ!?
確約なんかできるか!!)

「うむ、その豪胆さもまた敬意にあたる。
サスロ、私にも一杯くれ」

「・・・・・・ふう。
あくまで補佐官として、尚且つ私の立場として言わせもらいます。よろしいですね?」

「構わんよ。その方がありがたい」

「結論から言いましょう。連邦は絶対に認めないでしょう」

「ほう?」

「連邦はあくまで多国間条約によって成立した単一政権国家と言う複雑な裏事情を持ちます。
その条約から離脱した北インドの惨状をご覧下さい。
南と西と海から包囲し、難民さえ国境、いえ、境界線を越えさせません。
ニュースになっていないだけで、鉄条網と地雷原で旧国境線を封鎖し、難民を見捨てると言う事実上の大虐殺が連邦軍の手で行われているのは一定以上の地位にいる人間には常識です。
その理由は単純明快。
北インドが中国、北朝鮮らと違い、最初は連邦構成国家の一員だったからです。
地球連邦と言うのは旧世紀のソヴィエト連邦の民主主義版であるとも言えます」

「続けてくれ」

「仮に連邦政府がサイド3の独立を正式に認めるには連邦宇宙軍の壊滅か連邦宇宙軍と対等以上の軍備を維持する事が最低条件になります。
地球連邦の権威と力の象徴を屈服ないし沈黙させない限りサイド3の独立は認められないでしょうし、私も認めません。
後はそれ以上の政治的な戦果、例えば近年の経済復活が目障りな、失礼、経済成長が著しい北インド、中国の二つをどこかの誰かが抑えてくれる必要があります。
つまり、連邦の国益である非連邦加盟国への武力行使或いは経済封鎖による対象国家郡の経済破壊、連邦宇宙軍の壊滅による地球軌道を含んだ制宙権の完全な掌握が無い限りサイド3が独立を達成するのは不可能です。
そして前者と後者は完全に矛盾しております」

「ふむ?」

「連邦、連邦政府にに反抗しない限り、連邦宇宙軍の壊滅はあり得ず、いえまあ、現実問題からも戦力差から考えるに宇宙軍との会戦さえ不可能でしょう。
また、連邦敵対国家である非連邦加盟国との戦争は下手をしなくともジオン経済を崩壊させます。
地球に兵員・物資を送るのです。それも長期にわたって。さらには20億もの人口を養う義務。
サイド3の人口4億5千万では到底不可能です。国家も経済も民間企業も仲良く破綻です。
そして経済が崩壊した武力だけの国家に、連邦打倒に独立達成、非連邦加盟国への圧力も絵に描いた餅です。
結論として連邦からの独立は武力では不可能だと、敢えて二度申し上げます」

「なるほど、補佐官は連邦宇宙軍の存在が我々への抑止力になると思っているのだね?
そして我らジオンには連邦も非連邦加盟国も倒せる戦力は持ち得ない、故に隷属状態は続く、そう言う事かな?」

「はい。まさにそのとおりです。
通常兵器を使った消耗戦で先に根を上げるのは正面戦力で劣り、国力でも30分の1以下であるサイド3です。
また、仮に何らかの方法で連邦宇宙郡軍を撃破しても、地球に侵攻し統治する力の無いサイド3に地球連邦を打破する力はありません。
以上を持って、私はジオン軍は連邦軍に勝てず、それ故に独立戦争も敗北で終わると申し上げさせてもらいます」

「・・・・・・・兄上」

「ふふふ、私相手にここまで言える連邦の方がいるとは思いもしませんでしたな。
分かりました。
今日はありがとうございます」

「あ、ああ、その、失礼しまし・・・・わ、忘れてくれると、その、うれし・・・・・」

「どうも、ありがとう、ございます」

「あ、あ、ああ、あ、ありがとうございます」

「それでは補佐官殿。
こちらへ。兄上、俺はかの御仁を玄関まで送っていく。良いな?」

「ん、そうしてくれ」



大使館に帰った私は冷や汗でびっしょりだったシャツを選択し、そのままシャワーを浴びて寝た。
が、腹ただしい事に、上層部からはスパイ容疑で尋問され、それを証明する為にこの1週間は大使館と監視付きでジオン行政府を往ったり来たり。
ギレン・ザビやサスロ・ザビとは個人的な交友関係まで作らされるし、昇進したレビル司令官の参謀の様な役や、両陣営の駆け引きの場には必ず引きずり出された。

「私は平穏無事に過ごしたいだけなんだ!
放って置いてくれ!!」

一度そう言ったが、どうやらザビ家にとって私は連邦随一の宇宙通にされてしまったらしく最早後の祭り。
同僚もだれも本気にしてくれない。
ジョークと受け取ったのだろう。或いはもう地球に帰ってくるな、という事か。
1週間で睡眠時間が8時間と言う人生史上最短記録を樹立した。

が、生真面目な私は自分で言うのもなんだがこの時点からジオンが連邦に独立戦争を仕掛けるのでは無いかと警戒し、訓戒を行うよう進言した。

そして宇宙世紀0069.08.15。
私は妻に叩き起こされた。

「貴方!! 
先ほどキシリア・ザビが死にました!!! ダイクン派の自爆テロの様です!!!
ええと、他にはガルマ・ザビも重体ですね。ご友人のサスロ、ギレン両氏はご無事です」



いい加減にしろ!!
誰が友人だ、誰が!!

私は心底そう思いたかった。
ついでに神に祈った。
これ以上厄介ごとを増やすな、と。



[33650] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:e51a1e56
Date: 2012/07/10 11:59
ある男のガンダム戦記 02

「暗殺の余波」





『キシリア・ザビ爆殺事件』

『ガルマ・ザビ重症』

妻と息子を連れて大使館に逃げ込んでから4日が過ぎ、5日目。
(もっともジオン共和国が完全に独立したのを認めた訳では無いので俗称である。
公式には地球連邦政府サイド3ムンゾ自治政府連絡府と言う)
宇宙世紀0069.06.20となった。

ジオン共和国と名前を変えたサイド3は混乱の極みにある。
5日前にサイド3最有力のザビ家長女キシリア・ザビ、四男ガルマ・ザビの乗った車が爆破されたのだ。
犯人は今を持って不明。
公式にはサイド3、いや、ジオン共和国側は一切の発表をしていない。

重ねて言うが公式発表は無い。故に、犯人は不明。
しかしそれ故に思う。

(あの情報部・諜報部・治安維持の三つを担当していたキシリア・ザビ氏が死んだのだ。
この混乱は分かる。犯人を決めるにせよ捕えるにせよ、それを行うトップがいない。
しかも連邦と違い、歴史も伝統も浅く組織も盤石とは言い難いジオン首脳部の一人の死。
これで混乱しない方がどうかしている。)

が、サイド3の、ジオン共和国の各メディアが暗殺犯人はダイクン派か地球連邦情報局、連邦軍のいずれかであると報道した。
これが不味かった。

『キシリア・ザビ氏を殺したのは連邦軍、或いはダイクン派であり、断固とした対応を市民は取るべきである。
また、裏にいるダイクン派のシンバ・ラルは連邦軍ジオン共和国駐留軍、いや、植民地搾取軍と共謀して我々サイド3の民を、ジオン・ズム・ダイクンと共に移住してきた民を売り払おうとしている』

私の妻は自宅で呟いた。

「なんとももはや、穴だらけすぎて呆れてモノが言えない」

同感だ。

が、何故か人はこういう過激論が好きで好きでしょうがないらしい。
マスコミの報道を自分の主張として、武器になるものを持った一部の市民が、隣人且つ善良な一般市民の(しかも同じ連邦市民の、である)家を囲み、燃やし、略奪し、警察は見て見ぬふりをするのが昨今のステータスの様だ。

(ふざけるな! 俺たち連邦市民が何をしたんだ!?)

尤も、一個人の思いなどを無視し、報道に流されたジオン共和国を構成する各バンチの市民が首都の1バンチに流入。
完全に事態を悪化させた。
ついでにジオン共和国内部の他バンチでも暴動やデモが多発。
更には一部の市民が火炎瓶などを持って連邦役員の駐屯所・駐屯エリアに押し掛ける事態にもなっている。

(もう駄目だな。事態の平和的な収拾は不可能だ)

俺はそう思った。
無論、口には出せない。
そんな事を口にすれば最後、不安げに見送る妻、両方の両親から引っ切り無しにかかってくる孫や娘、息子の安否確認の連絡に笑顔で対応できなくなりそうだ。

(笑顔だ。笑顔を見せろウィリアム!!
あのギレン・ザビとの個別会談でさえ乗り切ったじゃないか!)

「二人とも行ってくる」

格好は黒の上下スーツに白いYシャツと青のネクタイ。同僚も似たような格好である。
特に青系列のネクタイと地球連邦の国旗を示すカフスリンクスは官給品なので着衣は必須だった。
因みにスーツ本体は私費購入。
一山いくらの量販品ではなく、バーバリーの高級スーツにセミオーダーシャツとイタリア製のネクタイだ。
ジオンに行く事になった際に、さして裕福では無い両親が「お前の卒業祝いだ」と、買ってくれたもの。
そして私は結婚前にもうけた為2歳になる息子のジン、妻リムに行ってくると挨拶を告げる。
玄関前に停まっている用意された公用車に乗り込む。
運転手兼護衛の連邦軍兵士は二人。ついでに同じく後部座席には同僚が一人。
メインハイウェイを渡ると同じ黒の連邦公用車ER-C22が続く。
宇宙世紀0022に開発されたこの完全電動自動車はコロニー社会、月面都市では無くてはならない存在なのだ。
もっとも、そんな事は乗っている四人には、いや、車列には関係ない。
後の74式ホバートラックの原型となる装甲車8台、ER-C15台、ジオン共和国の警察車両10台が走る。
一路、ジオン共和国・ムンゾ迎賓館に向かった。



「おお、来たか。
とりあえず無事で何よりだ。ウィリアム君」

ムンゾ迎賓館の大会議室と呼ばれている部屋に入った。
中将に昇進したイブラヒム・レビル提督はムンゾ迎賓館応接間から持ってきた椅子から立ち上がり、そのまま握手してきた。
同僚の視線は・・・・気にならない。
何故ならここに来た約30名中最後に挨拶されたのが私だからだ。
私より偉いサイド3駐留の連邦政府役人は軍部ではレビル将軍と副司令官のゴドウィン・ダレル大佐、代表団では今回大使館に残ったチキン野郎の代表団長と副団長、首席補佐官の3人だけである。
全く我ながら30代後半に差し掛かって代表団の第四席とは大した出世だよ。
もっとも、サイド3というのが曲者なのかもしれないが。

サイド3は反連邦感情が高く、地球や他のスペースコロニー、月面都市からの反連邦市民の移民も多い。
ジオン・ズム・ダイクンに憧れたと言える。

或いは・・・・・・彼に扇動されたか?

まあ、結果としてサイド3は半ば紛争地域となり、地球の北インド、イラン、北朝鮮、中国、シリア、アフリカの一部と同様の扱い、危険地域になる。
この為に、レビル将軍の様な有能だが一癖も二癖もある人物か、無能ではないが有能でもない、ぶっちゃけ、そこで消えても連邦にとっては代わりが幾らでも居る私の様な人物を中心に代表団を組み、サイド3へ着任する事になる。
(なお、レビル中将は将兵や文官らからは提督では無く、陸軍から宇宙軍に転向した為に、例外的に将軍と呼ばれている)

(宇宙の栄転という意味ではサイド2かサイド5、月面都市フォン・ブラウンの連邦政府代表団が有名なんだよね。
サイド3はどっちかというと野心家向きの当たり外れが激しい場所だし)

そんな感想を置いておき、

「それでだ、代表団団長の全権委任である君の意見を聞きたい」

レビル将軍が重そうに口を開く。
会議室の机は円卓になっており、全員がイヤホンを付けている。
照明も明るい。まるでかつての国連の安全保障理事会の様な部屋だ。
また、参加者の前には500ミリペットボトル(珍しい事にサイド3製)のコーヒーが置かれていた。
全員が筆記用具とノート型パソコン、スマートフォンを出している。
会議が始まる。

(あのくそ禿は俺に全部押し付けてきやがった。
どうせ今頃は地球行きのシャトルに乗ってのうのうと地球に向かっているに違いない。
多数の職務放棄野郎のSPと共にな!!)

が、とにもかくにも軍人・官僚合わせて50人近くいる大会議室に移った私は何とか意見を絞り出す。
同僚の官僚たち、とくに黒人とのハーフであり、しかも地球連邦構成国では最も影響力のあるアメリカ合衆国出身の自分を、陰で「ジオニズム信望者の裏切り者」と叩いていた連中程元気がない。
サイド3出身の連邦官僚や軍人も、だ。
まあこの人らの場合は同胞と言って良い人物に家具や家を焼かれれば元気もなくなるのだろう。
と、埒もない事を考えていたらゴドウィン大佐の咳払いで思考を現実に戻された。
大佐が続ける。

「で、君ならば先日のキシリア・ザビ暗殺という事態とそれに伴うこの暴動にどうする?
治安回復を名目にサイド3駐留の連邦軍を出動させるか?」

私は大佐の問いに答える事にした。
私に近いメンバーで協議した対応策を。

「いえ、軍の出動は愚策の愚策でしょう。
事態の収拾はジオン共和国の警察機構にやらせるべきです」

氷が解ける音がする。
それでも私は続けた。

「軍を出せば自分達、つまり連邦がこの事態に関与したと捕えられる可能性が高いです。
或いは連邦関係機関がキシリア・ザビ氏を暗殺したと宣伝する事になりかねません。
それではジオン共和国政府は・・・・あ、失礼。ムンゾ自治政府は納得してもサイド3の市民感情は収まりません。
ならば、ここは静観すべきです。
さらに言うならば、暴徒に対しても絶対に発砲してはなりません。
その理由は・・・・・こちらです、どうぞ皆さんお手元の資料をご覧ください」

無料動画投稿サイトからダウンロードした映像を全員のパソコンに送る。
そのまま90秒ほどが無言で過ぎた。
正確にはダウンロードした映像の音声のみが会議室に木霊したと言って良かったか。

「ご覧の通りです。現在のサイド3世論は極めて反地球連邦に近い。
ならば連邦は敢えて介入せず、ムンゾ側の・・・・・いえ、もう面倒なのでジオンと称しますが・・・・・彼らからの介入要請があるまでは絶対に介入しないと公的に発表し、要請があるならば友好的な対応をすると言って彼らジオン共和国側から譲歩を引き出すべきです。
また今すぐにでもキシリア・ザビ氏の死を悼む声明を出すのです。」

手が上がる。
レビル将軍だ。
事実上の連邦の権益の守護者にして代表者。
厄介だが・・・・・無視をする訳にもいくまい。

「前半は分かった。
連邦軍と言う自己完結した組織を持つ我々が力を貸すぞと言って無言の恩を売る訳だな。
だが、後半は何故だ?
何故キシリア・ザビ氏の死を悼む?
いや、テロ行為は憎むべきだし、個人的には彼女の死を悼むべきだ。
しかし、連邦政府としてはその死を悼むべきなのか?
言い難いが、彼女はムンゾで反対派の粛正に力を注いできた言わば秘密警察の長だぞ?
かえって反発や反連邦活動の活性化につながらないのか?
これらを踏まえた上で、君から理由を聞きたい」

レビル将軍が聞く。
私は、ええい畜生。いやらしい質問だ、と、思いながらも答える。

「言い難いのですがサイド3、ジオン共和国は共和国とは名ばかりの独裁国家です。
これは豊かと貧しい、地球と宇宙という違いがあるにせよ、国内情勢は北朝鮮とほぼ変わりません。
その独裁者の一族の死。
それを悼むことは連邦の寛大さとスペースノイドへの歩み寄りを宇宙全体に示す事になるでしょう。
また、これといったマイナス面もあり得ないのが特徴です。
死者は美化されるもの。それは現在の暴動を見れば明らか。
ならば手をうつべきです。ジオンに死者を悼まない冷酷かつ薄情な連中と言う罵詈雑言の切っ掛けを与えない為にも」

うむ。
そうゴドウィン大佐が頷いた。レビル将軍ものどを潤した後、腕を組み頷く。
どうやら正解みたいだ。
30後半になる前の自分に、50代の連邦軍エリート軍人の相手をするのは本当に疲れるモノだ。

そう心から思う。

「よかろう、君の案件が叩き台に適している様だ。
他の者は何か反対する意見は無いかね?」

いつの間にやら会議冒頭から20分近いプレゼンを聞いていたレビル将軍が全員に問う。
代表団長がいない以上、官僚団つまりは連邦政府の代表は私ウィリアム・ケンブリッジであり、その私に駐留軍のトップが同意する事でこの方針を連邦政府の基本方針とする。
そういう儀式であろうか。

「無い様だな。
では正式な文言にして向こう側に、そう、ジオン共和国に渡そうと思う。
各員の奮闘に期待する」

その言葉の後全員が席を立ちあがった。
軍人は敬礼し、私たちは頭を下げた。
が、この時頭を下げた為、私は気が付くのが遅れた。
レビル将軍とゴドウィン大佐が何事かを話し合い、その後直ぐに私に視線を向けていた事を。



2日後。



「貴公がウィリアム・ケンブリッジ補佐官か?」

何で?
どうして?
何故だ!?

現実逃避をしたい。
目の前にいるのがジオン共和国首相のデギン・ソド・ザビであり、傍らには暗殺事件で前と後ろを走っていたジオンの要人、サスロ・ザビとギレン・ザビが控えていた。
迎賓館で24時間働けますかを実践し、何とか連邦政府からも許可を得た自分たちは誰がこれを、公式回答をジオン側に伝えるかで議論した。
といっても、実際は議論したのかどうかは疑問だ。
何故なら、ゴドウィン大佐が一言。

『やはり連邦の大前提である文民統制の原則と発案者の功績を考えるべきだ』

などと言う趣旨の発言から流れは一気に傾く。
最終的には私が責任者としてデギン首相と会談する事になった。
無論、ゴドウィン大佐もレビル将軍も後輩や同僚たちも参加するが、代表団の上から3人が敵前逃亡した(正確には急病と称して部屋から出なかった)為、会談の責任者に祭り上げられた。
因みに暴徒が怖くて職務放棄、欠席してくれた代表団団長も一言。

『君の経歴の箔になるのは間違いない。
責任は君が自分の裁量で取れば良いから好きなようにしたまえ。
まあ、頑張れ』

というとんでもない伝言をメールで送ってきた。言いたくないが殺意がわいた。
私たちは缶詰め状態で妻子に電話さえ出来ないと言うのに、である。

(安全な大使館で護衛の連邦軍、しかも完全装備でMBTのガンタンクまで用意した一個大隊に守らせておいて責任は自分で、後は知らない、と?
くそ、いつかこき使ってやる!!!)

まあそんなこんなんで会談は順調に進み、全部が終わる正にその時、私はデギン首相らに1時間後、7階の別室に来るよう勧められた。
しかも一人きりで。それが1時間前の事であった。
誰も暗殺の危険性を指摘してくれなかったのはザビ家を信用しているからか、それとも私が嫌われているからなのか。



「キシリアの死を悼んでくれて礼を言う。
最初にわしの娘を悼むようレビル将軍らを説得したのは貴公と聞いた。
これは機密事項だが、貴公とわしの信頼の証と受け取ってほしい。
・・・・・・・重体だったガルマの容体も安定した。若い体が奇跡を起こした。
あの子はわしの宝でな。
後遺症も無く、リハビリ後には健常者として動けると聞いて安心したよ」

そこに居たのはジオン・ズム・ダイクンと言う革命家の右腕にして連邦政府のブラックリストのトップに名前を連ねた政治指導者では無く、息子を失いかけ、一人娘を失った一人の父親だった。
連れて来られた別室にはイタリア製の豪華な家具と椅子、長机がありセイロン産のアールグレイの紅茶のティーセットがある。

(・・・・所謂、特権階級か・・・・・独立を叫ぶ人間が連邦政府の高官と同じお茶を飲む。
これを知ったらあの世とやらにいるジオン・ズム・ダイクンや今絶賛暴動中のサイド3市民やら反連邦親ジオンのスペースノイドはどう思うかな?)

お茶には手を付けず、そのままデギン首相と会談し、それも終わる。
時間にして30分ほど。
一人のジオン共和国軍将校が入ってきた。
階級章は大佐。鋭利な軍官僚の様な雰囲気が印象的である。

『公王陛下。お時間です』

その言葉に一瞬血の気を失ったが、ザビ家の3人は全く顔色を変えずに私に言う。
ではこれにて謁見を終えます、と。

(ど、どういう事だ?)

こんな言葉は不適切かも知れなかった。
顔に出ていた。

お前たち何をした? 何を言ってるんだ!? と。

が、私は知らなかったのだ。
私が呼ばれた時点でジオン共和国議会が現体制を大きく変化させ、ジオン公国へと国名を変えた事を。

「そう不思議そうな顔をしないで頂きたい」

ギレン・ザビがサスロ、デギンの退室を見計らって言う。
まるで心を読まれたような感じで怖気を感じた。
別室に残ったのは私とギレン・ザビの二人だけ。

「失礼ですがギレン殿。
あの、こ、公王とはどういう事ですか?
お父上のデギン氏は首相の筈でしょう?」

思わず詰め寄る。
もっとも姿勢は変えない。
ギレンも悠々と慌てふためく一人の連邦官僚、一人のアースノイドの質問に答える。

「ええ、公王陛下です。
まずはご質問にお答えしましょう。
先程ですが議会は一連の混乱収拾の為、一時的にジオン共和国をジオン公国へと改める事を決定しました。
これがその映像です」

手元のリモコンで壁に内蔵された装飾されている大型TVを起動させた。
映し出されたジオン共和国議会の映像では多くの議員たちが立ち上がり議案に賛成する様子がクローズアップされている。
そう、専制国家に近い公国制への移行と言う重要な議案に市民から選ばれた筈の議員が数多く賛同している。

(や、やられた!)

畜生。
なんてこった。既にこのキシリア・ザビ爆殺事件の1週間でいつの間にか既成事実を作られていたのだ。
信じられない思いがあった。
目の前の男の政治手腕の鋭さに。その妹の死さえも利用すると言う冷酷さに。

「まあ、その件は後日公式に返答しましょう。
さて、ここからはプライベートな口調でよろしいですかな?
ウィリアム・ケンブリッジ補佐官殿?」

ゴクリ。
思わずつばを飲み込む。
そして残されたお茶を一杯飲みきる。
そしてカップにお茶を注ぎ、覚悟を決める。

「良いでしょう。
後に連邦政府に報告させてもらうと言う条件付きでお聞きします。
・・・・・・・それで何がお望みですか?」

「では口調も改めさせてもらおう。
これは私ギレン・ザビから貴殿ウィリアム・ケンブリッジへの信頼の証と取っていただきたい。
貴殿の本意はどこにある?
何が望みだ?」

単刀直入に聞いてきた。
思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。

「我が妹キシリアは死んだ。爆殺された。暗殺されたと言っても良い。
殺したのはダイクン派だろうが何だろうがこの際は関係ない。
が、貴殿は知っていたのだろう?
貴殿にとっても政敵であるキシリアは、私やサスロと仲が良い貴殿を嫌っていた。いつかは排除したいと考えていた。
その為にはテロ行為も辞さないと考えていた。
その上で補佐官は、妹の思惑を何らかの形で知っていた、或いは察知した、そうではないのかね?
だから先制攻撃に出た。
敵の排除に乗り出したのだ。
君を代表団に選抜したのは連邦情報局のホワイトマン課長であったかな。
彼は今やサイド1、サイド2、サイド3担当の連邦情報局部長であり、情報部部長クラスとしての権限とアメリカCIAに鍛えられたの地球連邦情報部特殊作戦群の指揮権もある。
彼の、いや、彼女の長い手を使って自分の脅威であるキシリア・ザビを排除した・・・・・違うか?」

なんたる陰謀論。
そしてなんたる過大評価。
大声でこの独裁者に言いたい。
寝言は寝て言え、と。

が、ここで悪魔の誘惑にかられた。
魔女の微笑みを思い浮かべさせられた。
ホワイトマン課長の嫌な笑みが思い出されたのだ。

(・・・・・・だが、もしかしたらギレン氏の言うまさにそうなのかもしれない。
特に、ホワイトマン課長は宇宙に出て以来、気味が悪いほどに何かと便宜を図ってくれた。
更にキシリア・ザビ氏はここの諜報関係と治安維持を一手に引き受けていた。
ザビ家はサイド3の最有力勢力にして要。
情報・諜報の要の柱である彼女が亡くなればジオン共和国、いや、ジオン公国か、の地球連邦構成国家、反地球連邦国家群への影響力は激減する。
それを狙って今回の爆殺事件、いやテロ行為を起こしたのか?
・・・・・・まさかな・・・・・だが・・・・それなら今回の首謀者が特定できないのも頷けるし・・・・・しかしなぁ)

黙り込む。
悪かった。
悪い癖だと知っていたのに、悪い方向に流れると経験していたのに黙り込んでしまった。
それを見たギレンがおもむろに頷いた。

「やはりな。
ケンブリッジ補佐官、貴殿は頭が良い。
あえて自らの手を汚さずに政敵候補を葬り去った訳だな?
いや、勘違いしないでほしいものだ。
私は何も貴殿を責めてはいない。
正直に言うが貴殿の影響力ではキシリアを守る事も暗殺計画を頓挫させることも不可能だったろう。
それ故に自らの目的に動いた冷酷さは評価に値する。
が、私はそれだけが狙いではないと思っている。
寧ろ本当の狙いは何か、それが気になって私は父上に相談して再び貴殿と会う事にしたのだ。
ああ、無論だがキシリアの死を悼む気持ちで私もまた、父上と同様に今にも胸が張り裂けそうだよ」

それが嘘であるのか本当であるのか、特に妹の死という後者の点について、は置いておく。
私はこれ以上の誤解を避ける為に言い切った。
もっとも連邦政府の公僕としての義務も忘れない。
その曖昧な態度が個人的には地雷原の上でダンスする事になっても。

「いえ、キシリア・ザビ氏の死は本当に不幸な事故でした。
青天の霹靂と言っても良いでしょう。
この事故で、ああ、失礼。
暗殺事件で私が望外の極みだと思えたのはただ一つ。
あなた、ギレン・ザビ氏と個人的に話をすると言う誼を結べた事だけです」

ふ。
ギレンが笑う。
私は苦笑いを浮かべる。
手の震えを隠す様に、敢えて腕を組む。
ギレンもまた肘を机につけ、手で口元を隠したようだ。

(笑った?)

「なるほどな。私との誼、か。
確かに私は貴殿を再評価しなければならぬようだった。
連邦政府は軟弱であると思っていたがそうでは無いな。
いや、これは失礼。
失言であった。許されて欲しい。
貴殿ほどの人物がいるならばジオン独立も、スペースノイドの自治権樹立も可能だろう」

何故か自分が地雷を踏んだような気がした。
そしてギレンが立ち上がる。

「補佐官。いや、ウィリアム。
今日はありがとう。
これからも何かと貴殿とはお会いするがこの様に腹を割って話をしたいモノだ」

握手。
ギレンは白い薄手の高級手袋を外し、なんと素手で握手してきた。
そして握手した私はこの男の血液の流れを感じた。
温もりと言っても良かった。
不思議と今までの嫌悪感が消えていく。

(もしかしたらみなこのギレン・ザビを誤解しているのかもしれない。
彼は冷酷な独裁官では無い。
寧ろ、情熱を隠した冷静さを装った革命家なのかもしれない)

そう思っているとギレン自らが扉を開けた。
慌てて部屋の外に出て、深々と一礼する。

(・・・・・・・・不味ったかなぁ)

この会談でまた妙な方向に私の株価が上昇したのは間違いない。
嫌だ。
憂鬱だ。
そう思える。
そう思ったとき、更に追い打ちが来た。

「ああ、今度私は貴殿の地球帰還に合わせて地球視察を行う事にした」

「は?」

「くくくく。そんな間抜けな声を出すな。
キシリアを出し抜いた貴殿がこのまま連邦のコロニー駐留軍の犬で終わる筈があるまい?
あの戦争屋のレビルよりも余程危険人物だ。
その貴殿の案内で地球の実情を視察させてもらうとしよう。
後日、改めて公式に依頼する。
ふふふ、楽しみにしていてくれ」

そして扉は閉まった。
気が付けば時計の針はもう日付変更線を越えている。

「やっと終わった・・・・・長い一日だった。
お土産買って帰るか・・・・・店が開いていればだけれど」

そう呟いて私は残っていた連邦軍の護衛3人と共に大使館のあるD地区に帰った。



ウィリアムの退室からすぐに議連は内線電話に手をかける。
一言、二言、愛人にして第二秘書のセシリア・アイリーンに命令する。
それから10分もしないうちに。

「ギレン閣下、お呼びと聞きました」

「兄貴か、こんな時間にどうした?」

ウィリアムが帰った後、ギレンはサスロと腹心のエギーユ・デラーズを自らの執務室に来た。

「うむ。
まずはサスロ、ガルマの容態はどうだ?」

ギレンもガルマは心配だった。
政敵であるキシリアとは違い、という形容詞が来るかもしれないがそれでもガルマ・ザビはザビ家全員から愛されている。

「父上が付いている。峠も越した。
医者の言葉を信じればリハビリさえ上手くいけば心身ともに支障は無いそうだ。
で、ギレン兄には言う必要がないが軍を統括しているドズルが怒り心頭になっている。
ありとあらゆる権限を使い軍部情報部と警察機構に犯人捜索を命じているが・・・・・・まあ、ラル家のジンバが犠牲の子羊になるだろうな。
うん?・・・・・・その件ではないのか?」

ギレンは頷く。

「違う。サスロも聞いて欲しい。
まずはデラーズ、ここに資料がある。
資料の主はウィリアム・ケンブリッジ。
先程私が会った人物だ。一読してくれ」

デラーズがギレン直々に資料を受け取る。

「拝見します」

約1分後。

「なるほど。ギレン閣下の懸念される様な人物ですな。
洞察力もあり、胆力もある。
他人を欺くこともでき連邦軍、情報局の上層部ともコネクションを持つ人物。
危険ですな。しかし、この者が何か?」

「私は一時、父上に政務を、外交はサスロ、それに軍をドズルに任せて地球行こうと思う」

その発言に二人が驚く。

「「!?」」

絶句。

「そう驚くな。物見遊山では無い。
第一に連邦政界、特に北米州と極東州、東南アジア州の3つとコネクションを結ぶ。
オセアニアも加えられればベストだがな。そうも上手くはいくまい。
第二に連邦軍の内情を確認し、我がジオン軍に足らぬものを取り入れる。
その為にはデラーズ、貴様の力が必要なのだ。一緒に来てもらう。
随員は旧キシリア派のマ・クベ大佐らに、ダイクン・父上派のダルシア・ハバロ副首相らだ
第三、第四の理由は・・・・・今は言えんな。帰ってきてこちらの思惑通りに事が運んだら公表しよう」

これにサスロが反対を表明した。

「地球随行に旧ダイクン派を連れて行く・・・・キシリアの件もある。
それではギレン兄の身が危険ではないか?」

と。
デラーズも我が意を得たとばかりに頷く。

「私も反対です。
ギレン閣下とは正反対の派閥を二つも加え地球へ行くなど自殺行為ではありませんか?」

が、ギレンは右手で二人を制して話を続ける。

「懸念は尤もであるが故、無論、安全策を取る。
その為にその男を利用する」

一度の机の上においていある先ほどの資料、A4プリントの印刷された写真に指をさす。
そう言われてデラーズは手元の資料に目線を移した。

「ウィリアム・ケンブリッジ」

思わずサスロ・ザビが呟く。
そしてギレンは宣言した。

「私自身がアースノイド共を見極める。
そして・・・・・・来たるべき開戦の日にジオンの独立を勝ち取るのだ
今回はその為の視察である」





大使館に戻ったウィリアム・ケンブリッジは直ぐにベッドにて・・・・・・寝れなかった。
心配して起きていた息子の相手をさせられるわ、完全武装状態で部屋にいた(入室と同時に突撃小銃を後頭部に突きつけられたのは悪い思い出だ)中佐の階級章を付けていつの間にやら現役に復帰した妻に途端に泣かれるわ、そのまま息子を寝かさず夜酒に付き合わされるわ、で散々だった。
漸く親子三人、日本語の川の字で寝れたのはもう朝の3時を回った頃だった。



眠い。
寝かせてくれ。
起すなバカ。
寝かせろ。



そんな中、キシリア・ザビ暗殺から約一月後。
宇宙世紀0069.09下旬

ギレン・ザビを中心とした地球視察訪問団とその案内役に抜擢され、更に私は出世した。同僚からは羨望と妬み、上司からは嫉妬と警戒のオンパレードだ。
任命者は連邦政府首相府のトップ、つまり首相であるアヴァロン・キングダム。
彼から地球連邦安全保障会議(EFSA)のサイド3担当首席補佐官着任の任命を受ける。
宇宙問題の首席補佐官の内約は各サイド・スペースコロニー担当者6名、月面都市群3名、ルナツー担当1名の10名しかいない文字通りのエリートコースにであり、実績とザビ家ととのパイプを持つとはいえ混血の私が40前にその電車に乗った。
嬉しいのだが・・・・・こういう時は、非主流派が主流になるというのは歴史上大きな戦乱や混乱期が来ると相場が決まっているので不安だった。
案の定、ただで任命されたわけではない。

ギレン・ザビらジオン視察団の案内役を大過なく全うする事。
それが条件。



やっぱこうなったなぁ。
それにしても何の罰ゲームだ?
エギーユ・デラーズとかいう禿げの軍人、マ・クベという如何にも切れ者とジオン公国総帥ギレン・ザビにその護衛。そいつらと同じシャトルで毎食一緒って。
しかも連邦の人間は俺一人だけ。
家族も別のシャトル。
これは死んで来いという事なのか!?
第一、純粋なコロニー料理で旬の和食の味なんか分かるのかよ!!

こうして彼の地球への帰還の旅が始まった。
尚、地球帰還後の宇宙世紀0069.10月、帰還後に妻の妊娠が発覚し狂喜するのは別の話。




[33650] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:9ef01505
Date: 2012/07/15 19:52
ある男のガンダム戦記 03

<地球の内情>




宇宙世紀0069.7.20
地球行きのシャトルで徹底的な質問攻勢にあった私はへとへとになって地球に帰る。

「ようやく解放された」

祖国アメリカに戻った自分はキャルフォルニア基地(旧サンディエゴ基地を中心にカルフォルニア州南部の主要海軍基地、空軍基地を合併させた地球第二位の軍事拠点)で対ジオンの歓迎団と合流する。
この、宇宙港も備えたキャルフォルニア基地は地下都市部や極東州(つまり日本)の高速鉄道網によってロス・アンジェルス、サンディエゴなどの近隣大都市とも僅か2時間で到達できる北米州最大の軍事拠点であり、ジャブロー建設計画発表までは人類史上最大という形容詞を持った拠点でもあった。
そんな中、宇宙港のロビーを軍服姿の妻と3歳になる息子、グレー系列のスーツに帽子をかぶった私は歓迎団のトップがいる場所へ歩く。
周りは日系人や日本人、恐らくアメリカ国籍の白人や有色人種が闊歩している。
この点では地球連邦北米州というよりもアメリカ合衆国という言葉の方がしっくりときそうだな。

(相変らず日米交流が活発なこと。
技術大国、鉄道帝国日本の面目躍如と言うところだ。
あ、ギレン・ザビらはもうワシントン行きの飛行機に乗った頃か?)

広大なガラスの壁。
今まさに飛び立つ鉄の鳥たち。それを見ながら出迎えの将校に一礼する。
妻が教本通りの敬礼を捧げる。

「リム・ケンブリッジ中佐、ただいまウィリアム・ケンブリッジ首席補佐官をお連れしました」

地球連邦海軍の将官の軍服に軍帽を被った禿鷹の様な眼光を持つ軍人。
思わず、何でこの人がいるのかと思った。

(げ、先輩!?)

ついでに隣の将官の第一印象は豊かな髭だ。
それに丸刈りに近い自分とは違い、豊かな髪。
その帽子を被った将官の二人は返礼する。

「私はジャミトフ・ハイマン准将。
知っているとは思うがキャルフォルニア基地作戦本部副本部長だ。
・・・・・・久しぶりだな、補佐官どの」

ニヤリと笑う。
悪戯が成功した児童のように。息子のように。
だから止めてください。あなたがいると知っていたならば仮病を使うべきだった。
そう頭を抱え込みたいと思いつつも握手する。
そして左隣にいたもう一人の将官にも手をさし伸ばす。

「はじめまして、ウィリアム・ケンブリッジ補佐官。
自分はブレックス・フォーラー准将。彼とは同期に当たる。
役職はキャルフォルニア基地の第一航空軍司令官。
ああ、堅苦しいのは嫌いでな。
最初は戸惑うかもしれないが、私も君の先輩のジャミトフ准将と同様に、ブレックス准将とファーストネームで呼んでくれ」

ブレックス准将が手を握り返す。
しっかりと握手する。

「わかりました、そのご好意、謹んで拝命します」

少し芝居がかかったのはご愛嬌だ。
ふと妻を見ると何か見つけたかのようにそわそわしている。
何事かなと思って視線をやると其処には妻の両親がいた。

「あ、おじいちゃんだ」

息子が可愛らしい声を出して駆け出そうとする。
慌てて止めるとジャミトフ先輩が苦笑いしてきた。

「ウィリアム、遠慮せずに行かせたまえ。
子供には親が必要だ。
君はコロニーでスペースノイドの暴徒共に囲まれたのだ。
その分の埋め合わせの休暇の手続き位はネットでも出来るさ」

ジャミトフ准将がせっかくの好意を示してくれたのでそうする事にした。
妻と何事かを相談した後、妻は息子と共に実の親元に戻って行った。
義理の母親が妻を抱きかかえて泣いているのが見える。
どうやら心に塞き止めていた物が一気に崩れたみたいだな。

(そうだな・・・・・サイド3のキシリア・ザビ暗殺暴動は悪い事しか報道されず、市民の死者も出た。
父と母、義理の両親らにとっては戦場に孫たちを送り込んだ様なものだから・・・・・仕方ないか)

一抹の寂しさと、何よりも安堵を感じる。

(俺は帰って来た。合衆国に帰ってきたんだ)

感傷に浸るのもそこそこに。
そこで二人の准将と護衛役の一個分隊の憲兵に守られて自分は車に乗った。
環境車では世界を席巻している日本・韓国ブランドではなく、伝統あるベンツというのが驚いた。
合衆国の三大国産メーカーではないのか?
ふと、扉が閉められる音に顔を上げるとブレックス准将が聞いてきた。

「さて、君に聞きたい事がある。
サイド3は現在どういう状況なのだ?」

護衛の3人は防弾ガラスの向こう側で音が聞こえない。
車は珍しいディーゼルエンジン搭載なので振動が心地よい。

(また仕事だよ・・・・・少し休ませてくれ)

と、思ったがそんな事はお構いなくブレックス准将が聞いてきた。

「ジオンの、ええ、もうジオン公国の状況は端的に言いますと次の通りになります。
ギレン・ザビを中心とした独裁体制。
非地球連邦加盟国との密貿易による富の蓄積
非加盟国=ジオン間貿易で蓄積した富の軍需産業への流入。
反連邦感情の高騰。これは北朝鮮やイランが北米州に持つ敵愾心に匹敵する程です。
4と関連した冷静さを欠いた市民の暴走。
だいたいこんなとことですか。当たり前のように共和国時代から続いた議会は傀儡。
下手を打てば、という形容詞がつきますが、代表団も連絡府も駐留軍もそう遠くない将来、サイド3からの全面撤退に踏み切らざるをえなくなるでしょう」

ジャミトフは軍帽を置き顎に右手を当てて、ブレックスは椅子に体重を預けた。
ちなみにジャミトフ・ハイマンは伯父が北米州代表の連邦議会議員になる(そのハイマン氏の影響で混血児である自分が連邦政府で大きな影響力を持ちつつあるのは自覚している。まあ、ジャミトフ先輩の基盤を固めたいという気持ちもあるのだろう)
ブレックスもまた親族が月面都市フォン・ブラウン市長の職で前月面都市郡代表議員にあたる。
ブレックス・フォーラー氏自身は月面都市郡出身者(ルナリアン)で連邦軍でも珍しいルナリアンの高級将官。
よって両者は軍人であるが、家系柄か政治的にも隠然たる影響力を持つ。
いわば連邦の名家とでも言うところの出身に当たる。

(もっとも片方はスペースノイド寄り、片方は地球よりと対極なんだけど)

少しネクタイを直す。
襟を正す。
正装は解かない。

「正直なところ同じスペースノイドとして独立を叫ぶ市民感情は分からないでもない。
寧ろ連邦内部に不平等体制は変革されるべきだ。
既に宇宙住む者が30億人に達している。
だからジオン・ズム・ダイクンの言わんとする事は理解する。
だが、実際に独立するとなると話は別だ。
仮にだ、独立を達成しよう。その独立後は如何する?その展望があるのか?
連邦の改革の為に戦うならともかく、連邦打倒の為に戦うのでは本末転倒だろう・・・・」

ジャミトフもブレックスの意見に賛同なのか、続ける。
ジャミトフ先輩がスペースノイドの意見に賛同するなんて珍しいな、と私は思いながら。

「・・・・・何だウィリアム・・・・・その目は?
・・・・お前、私がブレックス准将に賛意を示すのがそんなに珍しいか?
私とて愚か者では無いし、地球連邦軍の一員だ。
連邦の利益になるのならスペースノイドとはいえ自治権程度の付与は認める。
仮にではあるが、反連邦運動を止めて各州の様な権利を求めるのであれば条件次第では認めても良い」

そこで一旦口を閉ざす。
そして言い切る。
先輩が何か強く言いたい時というのはこの様な動作をする事が多い。

「だが、単に独立したいというだけの我が儘を認める気はない。
その我が儘を認めた結果が半世紀以上続く凄惨な北インド問題ではないか」

顔に出ていたようだ。
が、それはそれ。これはこれ。私にそんな事言われても・・・・正直言って困る。
ただ・・・・確かに北インド問題は有名だな。

(経済格差による諸問題解決の為と大国との自意識から独立に踏み切ったインド。
歴史の授業で習ったな。官僚試験でも論文の必須項目だし。
当時は熱狂的で、連邦構成国の市民たちやマスコミも連邦崩壊の始まりと伝えられたが・・・・・結果は凄惨たるありさま。
独立したは良いものの経済は軍需にのみ偏り、旧パキスタン国境にはアラビア州軍。海洋は北米州の海軍を中心とした空母機動艦隊、と、北、西、南と連邦軍の大軍が睨みを利かせている。
しかも、だ。
国境・・・・・軍事境界線で紛争が起きるたびに情け容赦の無い空爆と衛星軌道からの軌道爆撃が敢行される。
結果はほぼ10年ごとに1000万前後の死傷者を出し、連邦は非加盟国(連邦市民が通称する所によれば枢軸国。第二次世界大戦で敗戦した国々への国連の対応をモチーフにした)であることを理由に見て見ぬり。
他の非加盟国領域も軍事力で圧力を受けるのは似たり寄ったり・・・・・・全くもって・・・・・厄介だな)

溜め息が出そうだ。

ジャミトフ准将はその事を連邦第一の課題と考えるタカ派で有名。
彼は反スペースノイドというより地球至上主義者。
先ずは地球を、というのがハイマン家の家訓であったから仕方ないと言えば仕方ないか。

「ジャミトフ、そうは言うが地球の非連邦加盟国問題、所謂市民やマスコミが言う枢軸問題とジオン問題は別個ではないのか?
自治領とはいえ、各コロニーに住む者は連邦市民。
非加盟国の人間は非連邦市民。
これは残念だが歴然たる事実。
そして連邦政府は各々のサイドに住むスペースノイドを守る義務を持つ。
一緒くたに考えず、別個に対応し無条件での自治権拡大も認めるべきだ」

一瞬両者の視線が交差する。
止めて欲しい。胃が痛くなる。
唯でさえこの二人は良く分からない関係なのだ。
巻き込まれる方は迷惑極まりない。

「そうは言うがな、連邦非加盟国が誕生して既に1世紀近く、だ。
彼らの行いは自業自得だ。しかも母なる地球を汚す切欠となった。
奴等さえいなければ統一政権下での地球清浄化も今よりより強固に進められた筈。
それにだ、裏でコロニーの独立運動と連動しているのも間違いなかろうよ。
でなければサイド3の自治権獲得とジオン国防軍設立やその維持が出来る筈も無い。
事実、サイド3=グラナダ、フォン・ブラウン=枢軸ルートのシャトルや輸送船はこの数年間で10倍に達している。
これでは州を構成する加盟国が警戒するのも無理はないし、ルールを破る輩に独立など認めさせん」

地球連邦加盟国。
旧国際連合の加盟国から数カ国を除いた国々で構成されるのが地球連邦である。
更に後述する州を地域ごとの国々が構成し、各州独自の方法で(ただし、間接民主制か直接民主制が大前提)代議員を選出し、連邦議会に送る。
送られた連邦議員は多数決で任期8年一期のみの地球連邦首相を選出する。

旧国際連合加盟各国→各連邦構成州→連邦議会→連邦首相→首相による閣僚任命(連邦政府)、という流れが一般的である。
後は別個に、連邦中央試験から選抜される1から3等までの政府直属官僚と各州から推薦で送られる特別官僚の二種がいる。
権限は変わらないが後者の方が各州の利益代表と言う面が強い。
もっとも、出身州の利益誘導に走るのは前者にもいるし、後者でも連邦全体の事を考える者はいるので一概に区別出来る訳ではない。
そしてそれらとは完全に独立した組織として地球連邦軍がある。

(・・・・・が、連邦海軍は北米州と統一ヨーロッパ州、極東州がほぼ独占している。
正規空母を持つのは極東州の日本と合衆国のみ。
他州は設計が失敗したとしか言いようがないヒマラヤ級を押し付けられている。
連邦空軍は機体こそ共同運営だが、開発のノウハウは北米州と統一ヨーロッパが持て、あの手この手で他州主導下の新型機開発を妨害して、各州は陸軍に比重を置いて連邦軍に貢献する事となってたか。
ああ、連邦軍海兵隊は北米州のみが、各種特殊部隊は各州が直接保有する訳で・・・・うーん。
何で文官の官僚の自分がここまで詳しくなったんだ?
やはりあれか? 
ジオン・ズム・ダイクン死去やキシリア暗殺事件にかかわってしまったせいなのか?)

ちょっとため息。
車はようやく3分の2まで来た様だ。
それでもまだ遠い。
リニアトレインや改良型シンカンセンを実用化し、北米や南米をはじめとした地域の地上輸送網に革命をもたらした日本は凄い。
そんな的外れな事も考えながら、現実の事も考える。
人間とはかくも複雑なものなのだ。

(言い換えると陸海空の内、海軍と空軍は伝統的に旧先進国が独占している・・・・・陸軍は紛争地域で使われるから汚れ役と言う意識が各州にある
それを補うために正規宇宙艦隊は各州の構成市民から一個艦隊ずつ編成されているのだったけ)

と、連邦軍と連邦の基本をおさらいしている頃。
ブレックスとジャミトフの衝突は続いていた。

「ジオン国防軍とは違うが、我が連邦軍とて一枚岩ではない。
地上軍は陸海空の三軍で予算を奪い合い、陸軍は朝鮮半島、インドシナ半島、極東ロシア、台湾、南インド、イラン高原にそれぞれ30万ずつの大軍を編成している。
宇宙艦隊も新造艦への交代と人員の完熟が間に合ってない。
船はあるが人がいないんだ。しかも各コロニーの駐留艦隊や独立任務部隊はスペースノイドが中心なんだぞ。
ならばこそ、サイド3にも、ジオン公国にも穏健な態度で挑むべきだ。
挑発して第二次世界大戦を引き起こしたアドルフ・ヒトラーの愚を犯すべきではない」

が、ジャミトフも黙らない。
お願いだからもう少し穏健な話し合いをしてほしいだけど、という私の意見は無視のようだ。
はいそうですか。

「首都を新設しておいて言える事では無い。
しかも地下都市と大規模な防空施設、宇宙艦隊建造用ドッグに15万人の守備兵。
どうみても穏健とは言い難いのではないかな?」

地球連邦首都は南米の新都ブラジリア。
宇宙世紀0075までにギアナ高地のジャブローに移転する予定である。

「首都問題も根深いですね」

呟く。
そう、首都とは国家の頭脳。
頭脳をどこに置くか、しゅとが繁栄の中心になるのは世界各国、世界史の常識。
下手をすると紛争状態になっただろう。
そうならない様、首都は衛星軌道に創られた。宇宙世紀元年の事だ。

しかしその宇宙世紀元年。
ラプラス事件が発生。
首都は衛星軌道から地球のニューヨーク(正式に移転後、ニューヤークと改名)に移った。
が、宇宙世紀も四半世紀が過ぎコロニー開発が軌道に乗ると地球各国から首都の移転が出る。続出する。

『いつまで仮住まいする気だ?』

『大家面するんじゃないぞ!!』

『いい加減にしろ』

経済も軍事も政治もアメリカが担っていた地球連邦とは名ばかりの独裁体制へ多くの地域からNoが出てきた。
この流れはさしもの北米州の雄アメリカ合衆国も逆らえなかった。
結果、首都はニューヤークから移転する。
多くの国々が『首都』誘致に全力を尽くすが、最終的には国土を提供した南米州がその権利を得た。

『アメリカに支配し続けられるより100万倍マシ』

時の世論はそう言ってブラジリアという都を建設。
地球連邦直轄領として南米州のギアナ高地近辺を大規模工業化を敢行。
その改装・改造規模は北米州の五大湖工業地域と極東州の太平洋工業ベルトを合計するほどのモノとして語り継がれる。
確かに振り返ると首都機能移転とそれに伴う発言権の向上は非常に大きなものがあったと言える。
実際問題として南米州の工業力や収益、発言権は地球連邦初期時代とは比べ物にならない。

と、どうやら話が変わるようだ。

「まあいい。要は地球の環境回復が最優先課題なのだ。
軍はいつまでも北インド、中国、イランらの枢軸問題に対応している場合では無い」

ジャミトフの言葉は現在の連邦の情勢を端的に表している。
唐突だが、地球連邦政府は大きく分けて以下の諸州から構成される。

北米州(旧カナダ・アメリカ並びアメリカ海外領土・中部太平洋諸国・南太平洋諸国)
中米州(メキシコを中心とした中米諸国)
南米州(アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、ブラジルなど所謂南米。ジャブロー区は連邦直轄領)
オセアニア州(オーストラリア・ニュージランドの二か国)
アジア州(旧ASEAN諸国+ベトナム、ミャンマー、バングラディッシュ、東ティモール、パプアニューギニアなど)
極東州(日本・台湾・韓国)
インド州(南北に分裂した南インド・コロンボ)
アラビア州(アラビア半島・イスラエルを除く中近東全域)
北アフリカ州(地中海・北大西洋沿岸のアフリカ諸国)
10、中部アフリカ州(旧AUの内陸部)
11、南部アフリカ州(キリマンジャロ地区以南のアフリカ各国・大西洋沿岸、インド洋沿岸地区)
12、統一ヨーロッパ州(西欧・中欧・南欧・北欧・東欧・ロシア)
13、中央アジア州(ロシアを除く旧ソビエト連邦、CIS加盟国)
14、特別選抜州(イスラエル並び上記13の州に加算されない特別地域、実質は地球連邦直轄領)

(そして地球連邦議会がある。議会は一院制で各州から20名ずつ選出される連邦議員と各コロニー代表団2名からなる合計12名、そして月面都市群代表の8名からなり、総計300名が地球連邦を代表する間接民主制。
あ、ジオンが抜けたから今は298名か。任期も4年だからそろそろ中間選挙の年だな)

思考の海から顔をだし、未だにスペースノイドの自治権拡大に賛成か反対かで議論している二人に聞く。
ちょっと考えてみるに地球の各州と各サイドの格差は酷い。
単純でも20対2、つまりどうあがいても多数決の原理を採用する絶対民主制では、地球側に譲歩させる事は出来ないわけだ。
これではジオン・ズム・ダイクンのコロニズム思想に共感するのも分かるな。
ああ、そんな事ばかり考えているから厄介ごとを押し付けられるのだろう。畜生め。

「それでジャミトフ先輩、地球の状況はどうなっているのですか?」

それを聞いたジャミトフは少し目をつむって考えた後、徐に切り出した。
それは予想通りの内容だった。

「地球連邦設立時、あの国連投票に反対票投じたイラン地域、中国地域、朝鮮半島北部、そして反イスラエル運動から離脱したシリア地域。
更には北インドと中国がインド洋や台湾海峡を挟んで依然として冷戦状態だ」

「なるほど。
所謂、地球連邦対非加盟国という図式は数年では変わらない訳ですね。
各地域が反地球連邦で協調しているのも、その結果経済崩壊を起こしかけているのも、軍需で無理やり経済を回しているのも変わらず、ですか?」

「そうだ。
まあ、連邦内部各州の経済摩擦はあるが本格的な対立には至って無い。
補佐官の言う通りだが、ディエゴ・ガルシアやクレタ、オキナワ基地には連邦海軍の超大型原子力空母が二隻ずつ艦隊と共に配備され各地域を威圧している。
世は事もなしだよ、腹立たしい事に、な」

ブレックスが思わず悪態をつく。
ジャミトフもそれに釣られて続ける。
この二人は息が合っているが、考えの根本は逆と言う良い意味でも悪い意味でもライバルなのだ。

(はぁ)

溜め息を何とか押し止める。
そして思う。
早く目的地のキャルフォルニア政庁につけ、と。
車は安全運転なのか、時速75kmというのが見えた。
これまた余談だが、度量衡は全てg・mで統一され、インチやオンスなどは余程特殊な事態、金相場の買い付けなど、以外ではもう使用されてない。
これはサイド3でも同じである。

「現在の憂慮すべき事態はジオンと手を組む非加盟国だ。
ジオンの生命線である水やウランを枢軸が輸出し、見返りに最先端工業で作られた電子製品を輸入しているのは明らかだ。
ジオン=非加盟国の補給線、貿易ルートを遮断しない限りジオニストやサイド3の反乱分子は鎮圧できん。
だからこそ、政府は強固な姿勢を見せて連邦の威信を回復すべきなのだ。
そうしてこそ、連邦は栄華を、地球は真の姿を取り戻せる」

「だがジャミトフ、その傲慢さは・・・・」

「いや、最後まで言わせてくれ。
・・・・・・ウィリアム、突然だが海岸線を見ろ」

ん?
私は内心で首をかしげながらも高速道路を走る車から外を見た。
最初に見えたのはハリウッドのマーク。
だが、多分それじゃない。
そう思って海岸沿いを良く見る。

「・・・・・・綺麗ですね」

本音が出た。
が、ジャミトフは首を横に振った。

「見せ掛けだけだ。
ここはともかく・・・・・この間までイージス巡洋艦の艦長として赴任していた北インドは酷かった。
環境を汚染する大量の産業廃棄物、不法投棄されたごみの山、更には・・・・・餓え死にした、かつては人間だったものの山。
他の遠洋航海で寄った紛争地域も似たり寄ったりだ。
観光資源が州を構成する各国の産業基盤の根幹を成す為に環境保護や清浄化に取り組んでいる州ならともかく、非加盟国側やそれと否応なく対立している地域は酷いものだ。
スペースノイドがコロニーの、宇宙から見る青い地球など最早単なる見せ掛けにすぎん」

そう言って彼は窓を少し開ける。
潮風と共に油のにおいがする。
ネクタイが揺らめくが、やはり基地の近くだからか?

「ウィリアム、覚えておくのだ。
地球連邦をまるで悪の権化の様に言うスペースノイドだが、そもそも人口の絶対数ではまだ地球に住む者が多く、そしてその地球は危険なまで汚染されている。
連邦が空気税や水税を取り、地球環境改善にその税金を投入するのは当然だ。
そうしなければ地球の環境破壊は進み、結果として人類は宇宙移民も現在の文明も維持できなくなる。
聖書級大崩壊が我々を襲い来るのも時間の問題なのだ!!
だからこそ我らは早急に手をうたねばならん!!」

ブレックス氏も私も驚いたようにジャミトフを見た。
SP役の兵士も熱した上官に驚いている。

「忘れるな。
母なる地球を尊重しないで人類に未来は無い。
サイドの独立、スペースノイドの自治権確立も結構だが、それ以上に地球の事を考えねばならんのだ!」

思わず私は咳き込んだ。
そして姿勢を直して聞き直した。
彼の演説に。

「・・・・・それには?」

ジャミトフ先輩はハッキリと言い切った。

「簡単だ。
中央集権化し、今よりも宇宙にも非加盟国、いや枢軸国にも強い姿勢で臨める政府がいる」

と。




ギレン・ザビの訪問は凡そ3か月に及ぶことになる。
気が付いたら私は彼らと連邦政府との橋渡しをする羽目になっていた。

特にマ・クベ大佐、デラーズ大佐、ギレン氏との4者面談は堪える。
全員が一癖も二癖もあるのでオチオチ冗談も言えない。

「明日は北米州大統領と会談です。
ニューヤークはどうでしたか?」

「美しい街並みだった。
連邦と言うのは独自の政治体制を持つ国々を集めた旧EUやASEAN、ソビエト連邦に近いのだな。
正直地球に降りるまでは我がジオンのような均整な街並みを全ての都市が持つものだと思ったよ。
我がジオンも宇宙に浮かぶ真珠のような国だが、地球の都市もまた良いものだった
ふふふ。心配するな。建前ではない、本音だよ」

他愛のない雑談。
だが、それも一時の事。
ギレン氏はちょっと目を離したすきに多くの要人と独自のコネを作っている様だ。
デラーズ大佐など露骨に自分を睨むし、この間などジャミトフ・ハイマン氏に喧嘩を吹っ掛けた。
頭が痛い。

『ほう・・・・かの有名なハイマン准将・・・・・・あの地球至上主義者ですな?
ふん、時代遅れな・・・・・一体全体何様ですかな?』

『なるほどな。大学などの教養とはこういう時に役立つものだ。
・・・・・大佐・・・・・宇宙にしか住んだ事の無い教条主義者が地球の何を知っているのですかな?
地球の美しさも分からぬとは・・・・・・所詮はスペースノイドの飼い犬か』

どこが交流パーティだったのか。
お蔭で胃薬が常備品になってしまった。責任を追及したいものだ。責任者などいないだろうけれども。
尤も有耶無耶にされて終わるのだろうが。

話しかけられたギレン・ザビが上機嫌で答える。
人生で初めての空の旅、それもエア・フォース・ワンと同型機であって快適なのだろう。
随員私を初め連邦官僚とホワイトマン部長、更に昇進し地球連邦統合幕僚本部本部長のゴップ大将に南米州方面軍(首都・ジャブロー方面軍)のジョン・コーウェン少将がいる。

「うん、君の故郷だけあって実にいいな。
この地の戦略的な重要性も理解した。
これが終わったら欧州経由でアラビア、インド、アジア、極東、オセアニア、南米と見て回る。
たしか・・・・・君はカナダ地区生まれだとか?」

「カナダのトロントで生まれ、10からはニューヤーク育ちです。
バラク・オバマ、エイブラハム・リンカーン両大統領に憧れて生きてきました」

「ふーむ」

殊更私と仲が良いと見せるのがギレン氏の狙いか?
とにもかくにも私はこの旅が一刻も早く終わる事だけを切に願った。

そんな視察の中、ロシア出身のアレクセイ少将が酒に酔ってアラビア州のアル・カミーラ少将に食って掛かるシーンがあった。
双方とも飲みすぎだった。更に片方が足を引っかけたのが喧嘩の始まりだった。

『ムスリムめ、トルコは我らロシアの領土だ!
コンスタンティノープルを返せ、盗人が!』

『侵略してきたのはそちらだ!
しかも一体何百年前の事を持ち出している?正気なのか?
客人の前でそこまで酔える貴官の底の低さに敬意を表するな!!』

『なんだと!?』

『ふん、領土良くしかない北の荒熊め。少しは学習しろ!』

明らかにジオン側を格下と見ているが故の失態。
ジオン代表団は表面上気にしてはいなかったが不快でない筈がない。

(畜生!! どこのどいつだ!?
こんなバカ二人を一緒に歓迎団に入れたのは・・・・・本当に勘弁してくれ)

その時は単なる酒の席の狼藉であると思ったのだが、この小さな事件が大きな事件につながるとは神ならぬ身の私には想像できなかった。

そして約三か月。
地球連邦各州と各界の、特に北米州・極東州・アジア州と会談しその後も定期訪問を行う事で一致したらしい。
らしい、というのは州政府が独自に決定した事で、連邦政府は関与しなかったからだ。
それに建前上、連邦はまだ連絡府を各サイドに置いているから定期訪問という区別を新たにする必要はない。恐らく。
また、関与したくておも内政自治権を明確に認められている地球連邦各州が強固に反対すれば大きな障害となる。
そこでふと私は思った。
連邦の中央集権制の意外な弊害について。

「まあ、干渉は出来ない事は無いんだけど、強固な干渉を各州にやれる首相はここ30年はいないよな。
次の選挙に影響するし・・・・・でも、それは他の州にも言えるわけで。
かつて祖国アメリカの大統領は連邦首相に勝るなんて言われていた。
今でもそう思っているアメリカ人は多いはずだ。国力も最大。海軍力は地球圏一位。
空軍もあるし、何よりパナマ運河の権益を確保しているから太平洋経済圏と大西洋経済圏、地中海経済圏の海運を網羅している。
各州での経済力でもトップだし、広域経済地域でもやはり太平洋・大西洋を抑えているからトップだ。
だけど実際の連邦議会の北米州の一票はあくまで一票でしかない。
各州の多数派工作をしたくても連邦設立から敵を作りすぎた祖国はそう簡単に味方を作れない。
結果、この30年、いや、40年は一度も連邦首相を出してない・・・・・」

地球連邦は各州の代表者から首相を選抜する。
そして首相が閣僚を任命する。閣僚だけでなく各省庁上級官僚の任免権も持つ。
更に任期は8年と長い。
ゆえに連邦政府の首相はお飾りでは無いのだ。
巨大な地球連邦という組織の頂点に立つ。それはまた、連邦首相を出した場合の地球各州は歴史的・国力面・経済面・文化面・学術面から明らかに優遇されるという事でもある。

が、この状況が気にいらない州がある。
北米州だ。
自分達こそ連邦を支えると自負する、或いは先祖代々世界の警察官として活躍してきたと自認する人々にとって、今の状況は我慢できるが耐えたくないという状況になる。
これに州間の対立や歴史問題、認識の差がでてくる。

(厄介なんですけど、本当に。)

例を挙げるならば、今のアヴァロン・キングダム連邦首相は統一ヨーロッパ州出身で、地球連邦構成国、構成州の北米州(北米州は連邦への最大級の貢献をしている)大統領ジョアンナ・ハクホードとは伝統的に仲が悪い。

(植民地人、旧大陸人と互いに嫌いあっている。
特に第二次大戦から連邦設立前後のアメリカ統治時代がそれに拍車をかけたんだよな)

そんな視察も終わり、ギレンらジオン視察団は宇宙世紀0070になる前に地球から去った。
視察後、すぐに辞令は来たのだが何故かジャブロー地区には回されず、ワシントンで四年間も足止めをくらう(無論、対宇宙宥和政策という仕事は山のようにあったし、ジオンの外務担当になった感のあるサスロ・ザビらとも何度も交渉した)。


漸く南米のブラジリアへの出発準備が整ったある日の事。

「前回は特に何もなかったなぁ」

私がそう思っているとまた妻がとんでもないニュースを持ち込んできた。
時は宇宙世紀0074。
最近、娘マナが生まれたからと、産休を取っていた妻。
だが、前の暴動の時も思ったのだが、私の心の相棒は私が平穏でいたいと思う時に大問題を持ち込む癖があるのではないかと思う。

その内容とは以下の通り。

月面グラナダ市にある地球連邦宇宙開発省衛星管理局の初歩的なミスでサイド3のバンチのひとつに隕石が衝突、数千人の死傷者と避難民が出た事。
(完全にこちらのミス。人災だ。担当者も勤務者も全員くびり殺してやる。お陰で宥和政策はおしまいだ!)

対連邦感情を配慮してサイド3駐留地球連邦軍並び連邦市民の退去が正式に決定された事。
(市民の財産を没収する光景が目に浮かぶ。これで連邦も引くに引けないだろう)

その前段階として連邦軍の一部が10分の1以下の士官学校の学生に襲撃を受け武装解除させられた事。
(宇宙軍の面子は丸つぶれだ。意固地になる軍部が目に浮かぶ。頭痛い)

決起を主導したのはガルマ・ザビであった事。
(ザビ家が連邦に宣戦布告したも同然だな、これは。長兄のギレン氏やサスロ氏はどう考えているのか?)

副官にシャア・アズナブルという若手将校が居て、実質の扇動者は彼であった事。
(これは些細なことだ)

ジオン公国は明確にかつ強力に軍備増強を開始した事
(つまり開戦する気という事か・・・・一度拡大した軍備は使わなければ自国を滅ぼす。大日本帝国だな)

これに伴い地球連邦宇宙艦隊ルナツー所属の第1艦隊から第7艦隊、連邦直轄工廠・宇宙港のパナマ運河地帯、トラック諸島、ジブラルタル半島の三大宇宙港兼軍需工廠施設にて第8艦隊から第10艦隊の編成が確定した事
(ジオンがジオンなら連邦政府も政府だ。同じレベルで喧嘩する子供だ。
連邦政府も被害者面だけしてやる気満々。もう開いた口がふさがらない。)

ジャブロー建設が強固に進められる一方で、2隻の通常型大型空母を中心した4個海上艦隊が結成され、更なる恫喝が枢軸(非連邦加盟国)に行われる事
(多分、海空軍の宇宙軍への対抗意識だと思う。
軍部の連中、連邦政府は小学生に小遣いをあげる母親と同じ感覚なのだな。馬鹿軍人め!一度収税の苦労や予算管理の重圧を経験してみろ!!)

その増税は宇宙税から賄われる事
(この一言が決めてだ。畜生が!!俺の苦労はなんだったんだ!? 全部台無しか!?)。



妻の報告を聞いて私は一瞬我を忘れてしまう。

「少し胸を貸してくれないか」

そういって私は妻の、リムの胸に倒れこんだ。ソファーに押し倒す。
長い髪がなびくが気にならなかった。
そのままソファーに座り込む。
あまりの事に唖然とする2歳になる娘と6歳になる息子の前で私は泣いた。
嗚咽が止まらない。

気づいた。
気がつかされてしまった。
もう引けない。
行く所にしかいけない。
地球連邦も、連邦非加盟国も、宇宙も、ジオンももう進むしかない。

「・・・・・・ああああああああ」

自分のしてきたこと、嫌々ながらも必死で尽くした一つの政策。
対宇宙宥和政策は、この天体衝突、連邦軍武装解除というたった一つの事件でもろくも崩れ去った。






戦火の足跡はすぐそこまで来ていた。



[33650] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:e51a1e56
Date: 2012/07/14 10:24
ある男のガンダム戦記 04

『ジオンの決断』




ケンブリッジが連邦政府使用の極秘回線でジオン公国からの撤退の報に触れたころ。
ズム・シティではザビ家の間で熾烈な家族喧嘩が起きていた。
軍服姿のドズル・ザビを公王服に身を包んだデギン・ザビと襟と黒のジャケットに身を固めたサスロ・ザビが責めている。
ギレン・ザビはその執務室の窓際で我関せずと言う感じで立つ。
部屋にいるのはこの四人のみだ。親衛隊は別名あるまで廊下で待機中である。

『一体何のためにお前を士官学校の校長に任命したと思っているのか!?』

『図体だけがデカい、この薄ら馬鹿が!!』

怒声は続く。
どこにこれだけの肺活量があるのかと思う程、60近い父親の怒声が部屋中に鳴り響く。

『お前の役目は何だ!?ガルマを守る事だろうが!!
それがよりにもよって未熟な学生だけで10倍の連邦軍に特攻させただと?
気は確かか!? この愚か者が!!』

『ガルマが死んだりしたらどう責任を取るつもりだったのだ!?』

『そもそもだ、お前は自分に誓ったはずだろうが!!』

四男(末の息子)可愛さに、三男のドズルに烈火の如き怒りの刃が突き刺さる。
ドズルはたじたじとなり、部屋の隅まで追いやられた。
これ程の怒りはキシリア・ザビ暗殺時にも見せなかったと思う。
ジオン公国軍の実働部隊、つまり軍実戦部隊を完全に掌握しているドズル・ザビもこの父親の思いもしない程の大攻勢に委縮するばかり。

「だ、だが親父・・・・・これには・・・・」

「言い訳するな!!」

完全に怒り心頭の父デギン。取りつく島もない。
何度目かのやり取りの後、ギレンはジオン公王府に戻ってくる一台のリムジンと護衛車の群を窓から確認する。

(ガルマだな)

ガルマ・ザビがズム・シティ中央広場の凱旋パレードから帰って来たのだ。
ギレンは腕を後ろで組み、サスロにも怒り心頭の父デギンにも委縮しているドズルにも背を向けて考える。

(あの事件は・・・・・連邦軍の武装解除と言う事態は両陣営にとって痛恨の一撃だった。
この私にとっても寝耳に水と言って良かった。
一部の青年将校の暴走で連邦との関係は修復不可能となったな。
地球視察がなければこれをそのまま奇貨として開戦準備に繋げたが・・・・・そうはいくまい。
今はまだ開戦できん。少なくとも後5年は必要だ)

それにしても、と思う。

(連邦軍も案外不甲斐無い。
あの精強さを見せた北米州の連邦海軍第1艦隊や海兵隊に比べてサイド3駐留軍の何たる無様さか。
幾ら奇襲を受けたとはいえ・・・・いや、せんもないな。
それよりも我がジオン軍が連邦軍相手に勝った事を宣伝すべきか。
だが、宣伝が偏りすぎれば連邦軍の実力を軽視する輩が増えるであろう。
コントロールのきかぬジオン国民は要らぬ。軍部も正確な判断を下せぬなら交代させぬばならぬな。
故にこれ以上、マスコミに好き勝手な報道をさせる訳にはいかぬ)

ギレンの考えを読み取った弟のサスロが何か言おうとした時、扉が開いた。
が、ギレンはそれに気が付きつつも無視を決める。
椅子に座り、頬杖を作り顎に手を当て考える。

(仮に氷塊衝突事件だけであればそれを理由に平和裏に連邦軍を退去されただろう。
或いは被害者として多額の賠償にジオン公国軍、つまりジオン国防軍の軍備を正式に認めさせる事も、連邦議会を分裂させ親ジオンの州政府を作る事も、各コロニーを反連邦として扇動する事も可能だった筈だ)

それにも関わらずジオン公国軍准尉の制服を着たガルマが誇らしげに、そしてどこか照れたまま、花束を持って執務室に入ってきた。
思わずザビ家らの視線が、ギレンは例外に、ガルマに注がれる。
ガルマが背筋を伸ばす。
ドアを開けたジオン親衛隊(旧キシリア機関、ドズル、デギン、サスロ、ギレンと5つに独立していたザビ家の私兵集団を統合、公にした組織。総帥府直轄、指揮官はエギーユ・デラーズ大佐)の将校が敬礼して去る。
侍女たちもお茶を配った後、そのまま立ち去る。まるで逃げる様に。
そんな中、デギン公王が公人としてでは無く、私人としてガルマ・ザビを労わった。

(父上が何か労っている様だが・・・・・・老いたな、父上。
先ずガルマが国際法も連邦法も無視した暴挙に出た事を咎めなければならぬのに。
仮に咎めなければいつかこれと同じ事をしてしまうだろう・・・・・・誰かが教えぬばガルマの今後を左右するぞ)

と、思っているとサスロが無言でガルマに近づいていく。
その間、ドズルがガルマを、

『しかし10倍の敵を武装解除させるとは・・・・・将来は俺さえも仕えこなせるな!
それでこそ俺の弟だ!!
今は休め。後の事は兄貴と親父が上手くやる。まあ任せろ』

などと軽はずみな事を言って父の気苦労も知らずにこれまたガルマを労っている。
ついでに言うならギレンの思惑も蚊帳の外。

(・・・・・・ドズル・・・・・まずは将来より現在だ。
もはや氷塊衝突事件では無く兵舎襲撃の方が重度な政治問題なのだぞ!
ガルマは自分が如何に軽挙妄動に走ったか分かって無い。
身の危険とか言うレベルでは無い。
氷塊衝突事件とその後のデモ、発生したであろう連邦軍によるデモへの武力鎮圧は最大の外交カードとなる筈だった。
特にデモを鎮圧させ、鎮圧時に我らジオン側に犠牲が出れば出るほど現連邦政府を打倒し、次期政権に親ジオン政府を作る事さえ可能な鬼手となる筈だった。
それを一部の士官候補生が大局も見据えぬ愚か者どもに踊らされて連邦に付け入る隙を与えたなど豪語同断だ。
尤も・・・・・英雄として凱旋しているガルマを処罰すれば国内が安定しない。
が、処罰しなければ連邦を、正確には連邦各州を反ジオンで一枚岩に近づけさせる。
ガルマよ・・・・お前は数少ない連邦の大失策と言う好機をふいにしたばかりか、我がジオンの外交を八方ふさがりにしたのだぞ)

ギレンが何か言おうとした。
正にその時。

バチン!

音が発生して、音が消えた。
ガルマが一体何が起きたのか分からないと言う顔をして右の頬を撫でつつ、兄サスロを見た。
サスロは思いっきり右手を振り切った状態と心配と怒りがない交ぜになった状態でガルマを見ている。

「この馬鹿者!!」

ギレンにとっても珍しいシーンだ。
外交担当となって以来、いや、キシリア暗殺以来絶えず、笑顔を絶やさずにいて、自らの本音を隠してきた男が本心を語る。
ある意味でガルマが成し遂げた快挙。

「命を粗末にするとは何事か!?
10倍の敵に突撃するなど正気か!?
それでも士官学校No1の首席卒業者なのか?
第一、 この事件を契機に連邦が本気を出してジオンを攻めたら責任を取れたのか!?
死んでいったお前の僚友には何と言って詫びるつもりだ!!」

そこでサスロはガルマを抱きしめる。
気が付けば涙を流している。
それに気が付き何も言えなくなったガルマ。
サスロの独白は続く。

(サスロの贖罪か・・・・・キシリアを目の前で失ってしまってもう5年近くか。
それが関係しているのかもしれんな)

と、ギレンは思った。

「血気にはやるのも結構だが・・・・・・無謀と勇敢は違うだろう。
ガルマ、頼むからもっと自分を大切にしてくれ。
無茶だけは・・・・無謀だけはしないでくれ・・・・お前は俺の、俺たちの大切な家族なのだから・・・・・」

ザビ家の中で最も情に厚いのがドズル・ザビ。
が、冷静に大人の対応と家族愛を持つのがサスロ・ザビだったと後世に言われるエピソードである。

(ふむ・・・・・ガルマの件は父上とサスロ、ドズルに任せれば良いか。
問題は・・・・・・連邦政府への今後の対応だな。あの男もいる。ウィリアム・ケンブリッジがどう動くかが分からぬ。
彼奴の動き次第で我らも対応を迫られるだろう・・・・ふ、厄介な男だな、ウィリアム。
本来は外交で独立を達成するべきだったが・・・・・事ここに至ってはやむを得ん、か)

ギレンが冷静に政局を判断する。
そして、彼は一度解散を命じた。
ガルマを連れて行く父と弟たちを見送って、第一秘書に昇格したセシリアに内線をかける。
因みに盗聴を恐れて電波式のスマートフォンでは無く、機密性重視の為の固定回線である。

「ギレン閣下。お呼びとお聞きしました、セシリア・アイリーンです」

「うむ、早速だがジオン経済の件でジオニック、MIP、ツィマッドらと会談したい。
そうだな、1週間以内だ。調整を頼む」

そう言って直ぐに切る。
椅子に背を、体重を預ける。
眼下にはイタリア産の高級机とアンティークのチェス盤、キリマンジャロ産のコーヒーセットが用意されていた。
戯れにチェスの黒ルークを白のビショップで取る。続いて、順番を無視してポーンで白ナイトも。

「さて、駒は動いた・・・・・いや・・・・・あのシャア・アズナブルとかいう若造に動かされたか?
まあいい。
こうなれば旧APEC(北米州、中米州、極東州、統一ヨーロッパ州ロシアの極東地域、オセアニア州、アジア州)から発展した地球最大の経済圏、太平洋経済圏に揺さぶりをかける。
予てからの手筈通り、太平洋経済圏を押さえ、地球―コロニー間の貿易、大西洋経済圏、地中海経済圏を破壊すれば連邦政府と言えども継戦は不可能になるだろう」

因みにギレンの語った三大経済圏とは以下のとおりである。

・太平洋経済圏
極東州、アジア州、オセアニア州、北米州、中米州、南米州太平洋沿岸による地球内部では最大級の経済圏。日本、韓国、台湾という世界三大電子機器メーカーがしのぎを削り、アメリカと言う一大消費地兼資源供給地(農作物、鉱物問わず)を持ち、オーストラリアやアジアと言うコロニー市民に匹敵する購買層をも持つ経済圏の事。シンガポールを基点としてインド洋経済圏へとも至る。
州事業の太平洋観光もサイド1、2、4、5、6のコロニー市民やルナリアンからは絶大な人気を誇り、朝鮮半島やインドシナ半島、台湾に連邦軍の100万以上の大軍が落とす駐留軍マネーも各州にとっては大きな財産となっている。
コロニーから奪ったものを軍が還元してくれていると豪語したバカ政治家が日本にいたくらいだ(もっともその女は直ぐに失脚したが)。
ジャブロー建設の『技術』はここが源泉となっている。

・大西洋経済圏。
ヨーロッパ半島と北米、中米、南米、パナマ運河を結ぶ一大航路である。
(この運河は地球連邦設立時の例外としてアメリカ合衆国がその利権を時の連邦政府に認めさせている。他の地域では認められない独善として、初期連邦政府=アメリカ合衆国という図式が垣間見える一例にして悪習。現在も防衛の任務以外は全てアメリカに権利があるが、最大の国力から来る無言の圧力故に誰も文句は言えない)
経済規模は人口の差から太平洋経済圏に劣るものの、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカなど先進国が名を連ねるだけあってその経済圏は強大である。第二位。
なお、アフリカ大西洋沿岸からは鉱山物資の運搬だけが行われているが、経済圏内部で加工しないので大西洋経済圏に北部、中部、南部アフリカ州はカウントされてない。

・地中海経済圏
統一ヨーロッパ州と北部アフリカ州、アラビア州を結ぶ、スエズ運河、紅海、地中海、黒海を中心とした経済圏。
統一ヨーロッパ州の富の源泉であり、地球内部の経済圏第三位を誇る。また黒海沿岸部にはオデッサ地区と言う地球最大の資源埋蔵・精製設備がある。
ここから算出される資源は地球圏経済の40%に達すると言われており、購買層の人口が小さいながらも世界第三位の経済圏を形成している。基本はスエズ運河、ジブラルタル海峡、ダーダネル・ボスポラス海峡が経済の大動脈になる。こちらの海峡、運河は地球連邦政府直轄地であり、イスタンブール(アラビア州)やジブラルタル(統一ヨーロッパ州)、スエズ(アラビア州)は連邦政府の都市となっている。
地球の各州は返還運動を求めているが、既に70年が経過した今、権益の問題からどこも返還される気配さえない。

あとは似たり寄ったり。
このトップ3、一位太平洋経済圏、二位大西洋経済圏、三位地中海経済、四位以下は三位に大きく水をあけられた上で五十歩百歩となる。

地球経済の基盤となる海峡や運河の幾つかに、イラン高原に面し、石油の大動脈であるホラズム海峡、地中海と紅海を結ぶスエズ運河地域、太平洋・大西洋の出入り口パナマ運河地区が存在する。
この二大運河は連邦政府直轄領土として、ホラズム海峡、マラッカ海峡、ジブラルタル海峡、ボスポラス・ダーダネル海峡の三つを合わせ6大海洋ルートと呼ぶ。

これが地球連邦の地球経済大動脈である。
仮にこれらの一部でもが分断されれば三大経済圏の連動も一緒くたに分断され連邦政府は大恐慌時代を経験するだろうと多くの学者が一致した見解を述べている。

因みに、海路を使わない空路では燃費や費用対効果がやはり悪く、宇宙航路はスペースノイド(各コロニー行き)用物資運搬の地球=コロニー経済圏がある為、地球内部間への輸送は滅多な事が無い限り許可されない。
流石にコロニー向け航路を挑発すると言う政策はどの時代の連邦政府も取れなかった禁忌中の禁忌である。

「地球経済を支える三大海洋経済圏。地球圏全体では無いのが考慮すべき事態だな。
まあ旧欧州=北米=極東アジア=東南アジア・オセアニア=アラブというルートが順序立てされただけだが・・・・・これを利用しない手は無い。
それに地球連邦政府自体の税収は我々が支払うコロニー税が、連邦財政の収入全体の過半数に達しようとしている。
それが・・・・・その上で更なるコロニーのみを対象とした増税か」

地球連邦はもっとも確実な方法として、公式発表上の地球圏全人口の3分の1を占め連邦議会に影響力を持たず、固有の武力も無く、歴史も伝統もない各コロニーサイドに多額の税をかけている。
最初はコロニー開発という大型プロジェクトの達成の為だった。
が、やがて組織によくある自己防衛本能の為、税金を取る為に課税しだす。
それが本格化したのは北インド問題の発生で連邦軍が大規模動員されるようになってからであり、建前上はコロニーのメンテナンス費用(無論、それは現在でも続けられているのだが)というお題目も形骸化し、宇宙世紀70年代には完全に地球連邦政府が恣意的に使っていると市民に印象付けられてしまった。
この印象はアースノイド、スペースノイド、ルナリアンを問わずに広がっている。
特に反地球連邦運動が広がったのが月面都市群とサイド3、サイド6であり、これはこの税収・課税格差を利用したサスロ・ザビの功績でもあった。

そんな世界情勢の中、ジオン公国の国章が刻印された総帥専用i.Padには地球のタイムズ社の社説が掲載されていた。

『ジオンの横暴により連邦将兵が死傷した。これは紛れもない事実だ。それは否定しない。
だが、それを理由にスペースノイド全体に重税をかける。
これは明らかに過剰反応である。
我が敬愛すべき地球連邦政府はいつから全体主義国家へと転落したのか?
罪なき人を罰して何が民主国家、何が絶対民主制なのか?』

もっとも、この記事を探すのには苦労した。
地球に住むアースノイドは今回の増税の対象外。
ならばこの社説が叩かれるのも分かる。

「さて・・・・・まずはサスロだ」

Ipadの電源を消す。





一方、地球では私はそんな事もつゆ知らず、妻のズボンを涙で濡らしてしまった後、家族サービスに出かけていた。
仕方ないだろ。いくらサイド3担当とはいえそんな遠い国の事(そう思う時点で私は当時の地球連邦内部で異端扱いだった)に構っていられるか!
そんな気分だったのだから。
因みに目くじらを立てて陰険な虐めをしてきたのは前サイド3連絡府連絡団代表だった。
MBTに隠れた後は、警察の陰に隠れてこそこそと敵前逃亡の証拠隠滅を三人でやってるらしい。
この三人は何でもサイド2に栄転だとか・・・・・畜生め! 反省の色は無しかよ!! 死んでしまえ!!



地球連邦軍のサイド3退去が決定してから2週間。
私は何故か激務に追われている。
地球連邦軍が市民と共にサイド3から逃げ出すと言う不名誉な事態を私はジャブロー第1区画にて詳細を知らされた。まあ、それは構わない。
が、連邦軍並び連邦市民の退去と言うこの時点で地球連邦安全保障会議(EFSA)のサイド3担当首席補佐官という地位は形骸化。
実質は唯の・・・・・・一官僚でしかなくなった。
当たり前かもしれない。担当すべき部署が消滅していくのだ。
事実、部下たちはもう誰も残って無い。

(こういう点は早いな。責任逃れや沈む船から逃げ出すのだけは上手いんだから嫌になるよ)

みんな他所の部署に異動になった。私が残ったのは多分市民向けのプロパガンダだろう。
『連邦はジオンに屈してはいない』、という。
トーキョーのウエノにある動物園の今は珍しい中国産客寄せパンダの様なものだ。
新聞もニュースもジオンの内情やサイド3、スペースノイドの横暴を非難したり報道したりしても、連邦組織の内部構造の変化なぞ話のタネにならないと言う事で無視だ。

(ああもう・・・・・なんかもうやる気が全然出ない)

真剣な顔をしつつ、頭では別の事を考える。
外を、ジャブロー建設区域の喧騒を見やる。
まるで高校の学生の様な事をしつつTVで、諸子百家になった議会を見やる。

(畜生、本気でやる気が本当に出ない)

あの連邦軍投降事件で、今まで10年近くやってきた仕事が否定されて、その結果憮然とした顔が多くなった。
それでも何とかやっていけたのは家族がいたからと、自分が築いたものをやすやすと捨てたくなかったからだ。

事件直後、毎日キングダム首相らに呼ばれ、サイド3の脅威を何度も繰り返した自分。
そして私は受け入れられないのを承知でサイド3に武力では無く、外交的な圧力と独立化・特別選抜州への編入を主張する。
が、これが地球から見た宇宙しか知らない、暴動の現場でサイド3市民の、ジオン公国の反連邦感情を知らない人間には分からなかった。
親スペースノイド、しかも目障りなアメリカ合衆国の非主流派が地球連邦安全保障会議(EFSA)で10人しかいない首席補佐官に抜擢されたと言う事実からか、北米州、極東州以外の他の補佐官や構成員全員からの無理解・嫌味が男の嫉妬、女の妬みに変貌するのは簡単だった。
事件発生から10日後には私の席は無くなっていた。
居ても居なくてもしょうがない存在だった。

(どうやら・・・・・ウザい様だな。ああもう!!
既に俺の居場所はないと言う事か?
そっちで勝手に任命しておいてなんだその対応は!?
まあ、ギレン・ザビの追従者だの、ジオン・ズム・ダイクンの亡霊だの、宇宙主義者だのと侮蔑の対象にされれば当然だろうけど・・・・・・泣きたい)

私は一応首席補佐官なのだが、最早誰もそうは見てくれない。
首席補佐官の前に、失脚近い、という形容詞が付くからかな。
それとも現実的な武力によらないサイド3問題解決案をしつこく提示して首相に嫌われたからなのかな?

で、失脚間近の官僚についても碌な事は無い。ジャブローにお引越し中の政治家連中はそう判断した。
唯この点は個人的には結構な事だった。唯一の収穫でもある。

(ただこれでもうギレン・ザビらに勘違いされる事も、妙な期待を負わされる事もない。
家族と過ごす時間も増えたし、勤務地は安全な地球の南米ジャブロー基地。
街での反ジャブロー運動さえ気を付ければ・・・・・世界は事もなく平穏無事で何よりだ。)

と、思っていたのだが・・・・・世は上手くいかないモノの様だ。
首都機能移転を確認するため、自らジャブローに赴いている北米州の国務長官のブレーンであるヨーゼフ・エッシェンバッハ氏が会いたいと連絡官に任命された士官候補生が電話してきた。

「私に?」

「はい、ケンブリッジ首席補佐官に至急会いたいと」

はて?
私は既に窓際。止めに連邦の裏切り者扱い。
上級官僚解任には複雑な手続きが必要(下級は身分保障がある為、基本犯罪による懲戒か辞職以外免職は無い)な事でその面倒くささ故に現在の地位に残っている様なもの。
スーツももうバーバリーなどと言う高級スーツは着ずに一山いくらの量販品。
色も黒色。ネクタイは紺。シャツは青。靴は黒。髪も短髪。
如何にもどこでも居そうな人物を気取ったのだが。

いつもは嫌がらせの、良くある悪意ある訪問だと思った。だが、今回は違うらしい。

「ブレックス准将やジャミトフ准将の進言を受けてかな?」

この間昇進した40代の若手出世頭の二人を思い出す。
陸軍比べてポストが少ない海軍と空軍、宇宙軍の将官への昇進は狭き門であり、更なる昇進について10年はかかると言うのが連邦軍の常識だ。
そこで42歳と43歳で准将というのはハッキリ言って例外的に早い。
以前のサイド3駐留軍の副司令官だったゴドウィン・ダレル大佐が48歳で漸くと考えればその異例さが分かる。
これは巨大な歯車である連邦軍では急激な昇進は戦時でもない限り忌避される為だ。
この点、55歳で中将かつ身内の宇宙軍では無かった事もハンデとはしなかったイブラヒム・レビル将軍(まもなく大将への昇進が内定)の非凡さが分かる。

さて、そんな事は後で考えよう。今はこちらだ。
連絡した士官候補生に聞き直す。
が、きっちりと軍服を着て、TV電話に出ている彼は律儀に答えた。
それは自分には分かりません。自分は明日の10・00に補佐官を迎えに行けと言われただけです、と。
そして次の日。
宇宙世紀0074.5月03日の事である

「ケンブリッジ補佐官」

士官候補生、つまり准尉の階級章を付ける青年が挨拶する。
年は17と聞いた。
そして緊急の会談だか会議だか何だか知らないが、政治家にありがちな事に今日の呼び出しは延期。
2時間30分後という中途半端な時間にもう一度首相官邸の地球連邦安全保障会議控室に来るように、と命令された。
それをしゃちほこばって伝える目の前の青年将校に、自分が重なった。
思わず諧謔心がでて青年将校をからかいたくなる。

「すまんね、中年の相手をさせて。
交代時間までまだあるが・・・・・何か聞きたい事があれば職務規約違反にならない限り答えるが・・・・あるかな?」

その士官候補生は一瞬迷った後、聞いてきた。

「補佐官殿は以前サイド3に行かれたと聞きました」

うん、行ったよ。
それはそれは酷い体験だった。

「その際に宇宙を経験したと聞きます。
その・・・・自分はまだ宇宙へ行った事がありません。
・・・・・不躾ながらお聞きします。宇宙とは・・・・・コロニーとはどのような場所ですか?」

なるほど、緊張の理由はそれか。
この緊迫した情勢ではいつ宇宙に行くかは分からない。いや、行くのは確定事項だろう。
だが、それが怖い。宇宙に行くのが怖いのだ。
未知との恐怖。しかし正面切って怖いと言えない。
当たり前だ。連邦軍の軍旗に、軍規に、連邦政府に忠誠を誓った以上どこへでも、例え木星船団に配属されて外惑星勤務が確定してもそれを全うしなければならない。
が、やはりというべきか怖いものは怖い。
・・・・・・・・・・・・・そういう事か。

「これは私個人の感想だから参考になるかどうか・・・・・ちょっと世間話をするか。
第一に知って貰いたい事だが、宇宙から見た地球は美しい。これは本当だよ。
人類史上初めて地『球』を見たガガーリン少佐の言葉の通り地球は青かった。
もっとも、現実の地球は違うと言うのが私の先輩らの意見だが」

何度も頷く連邦軍の士官候補生。
ベンチに腰かけた私は立っている彼にまるで中学の先生がHRで指導するかのように穏やかに伝える。

「宇宙から見た地球は青く貴重な存在だった。
ああ、宇宙に出る恐怖と言う点ではその地球が見えなくなる時が一番怖かったな。
地球から最も遠いサイド3がジオン公国を名乗り独立を叫ぶのもその恐怖の裏返しでしかないのかもしれない。
極論だがヘリウム3開発の木星船団の様に外惑星まで飛び出せば話は違うのだろうが・・・・所謂地球圏にいる限り地球の重力からは飛び立てないのかもしれん。
ま、仮説だがね。
つまりだ、私が初めての宇宙勤務で、コロニー駐在で思ったのは産みの母親を嫌う人間はいるかもしれない。しかし産みの母親を無条件で嫌う動物はいないという感情だった。
地球と言う生みの親。コロニーと言う子供たち。それが今の人類社会の縮図なのかもしれない。
そして・・・・・言い方は悪いが母親である地球連邦は子供であるコロニーに決して寛容でも無かったし、親愛を注いでも無かった。
寧ろ途中まで子育てをして、育児放棄をしたのかも知れない。
多分、ジオン・ズム・ダイクンが独立を掲げたのは其処等へんに理由があるんじゃないかな」

勉強になっただろうか?

「ジオンが独立を声高に掲げるのも逆に言えばもっとも地球連邦に期待した場所であると言う事が言えるだろうね。
ああ。不思議に感じるだろう?
私も分からなかったよ。自分がジオンに赴任するまでは」

何か考えている様だ。
若者は考えるのが良い事だ。特に地球と宇宙の対立に染まり切って無い若者は。

「なーに。
窓際官僚の仮説にすぎないからあまり深刻に受け止めるなよ?
あと、コロニーで双眼鏡は禁止だ。上を見ると人が生活している。
私も経験したが地球育ちには軽いノイローゼになるからな」

さて、長話になる前に雑談を終わらせよう。
この若い士官候補生はこの任務の後、また学校に戻るのだ。
そうしていつかは、或いはかもしれないが、連邦を担うのだろう。
ならば年長者としてある程度は導かねば。
その心意気を感じたのか、目の前の士官候補生は敬礼した。
と、時計に目を見やるとチャイムが鳴る。

「時間ですか・・・・補佐官殿!
今日はご教授頂き誠にありがとうございました」

「なぁに、気にするな。それより頑張れよ、ブライト・ノア候補生」





宇宙世紀0074.06.02

サイド3は以前連邦軍が居た。もっとも最早一個大隊1000人に満たず。
駐留艦隊25隻もサイド5に撤退が決定し出港済み。
最後のコロンブス級輸送艦10隻に通常航路シャトル40隻、強襲揚陸艦5隻がサイド3の第7バンチに入港する。
これらによる回収作業が終わればサイド3は完全に地球連邦軍の管理下から離れる。

それをズム・シティの公王府から映像で見やる二人の人物。
ギレン・ザビとその父親デギン・ソド・ザビである。
公王服と総帥服に身を固めた二人は公王室からサイド3の1バンチ市街地を見渡す。
見渡す限りの群衆。

『連邦兵の撤兵万歳!!』

『地球へ帰れ、連邦軍!!』

『ジオン独立!!』

『ザビ家と共に!!』

『団結せよ!! サイド3!!』

『ジオンに栄光を!!』

という旗やジオン国旗、デギンやジオン・ズム・ダイクンの肖像画が至る所に掲げられている。
以前国民は熱狂的である。
あの兵舎襲撃からもう1か月が経過すると言うのに。
いや、まだ1か月なのかもしれない。
とにかく、民衆の熱気を覚ますのが大変なのだ。
と、椅子に深々と腰かけていた公王が総帥に問う。

「サスロはどうした?」

と。

「ドズルと共に参ります、父上」

それは不快感の念を露わにした訳では無かった。
が、公王は、父親のデギンは今の状況も受け答えも気に入らないらしい。

「ギレン、お前に問いたい。お前の真意は何だ?
地球との共存では無かったのか?」

彼は息子を、切れ者の長男を評価していた。
自分以上の政治センスを持ち、あのキシリアの死を悼んだ補佐官の影響か、敵を知る為に危険を承知で潜在的な反抗分子や政敵に隙を見せようとも地球に降りた決断は敬意を表する。
まして、最早自分は地球に降りられる身分では無い。
よって長男が作り上げた、或いは築きつつある人脈は大きな武器となりこのジオン公国に多大な貢献をするだろう。

そうだ。

後ろで立っている長男はある程度現実と理想に折り合いがついたのか、地球視察以前よりは遥かに父親を尊重した態度を取っているのがその証拠だ。

「その点についてはサスロ、ドズルが到着次第お話します」

その言葉にデギンは頷いた。それはギレンにも見えたらしい。
しばしの沈黙。
沈黙を破ったのはギレンだった。
いつの間にか自分専用のipadを持って来てデギンに見せる。

「仕方ありませんな。
今からはジオン公国総帥としてジオン公国公王陛下に申し上げますが・・・・・よろしいですかな?」

またも言葉無く頷くデギン。

「現在のジオンは連邦非加盟国群との密貿易とコロニー開発公社の社債を通じた木星船団、月面都市群への影響力でヘリウム3や水、地球や月原産のレア・メタル、食料を輸入しています。
輸出は宇宙空間に浮かぶという利点で作られる先進工業用品。連邦が非加盟国への輸出規制品として警察に取りしまわせている物です。
彼ら非加盟国とはバーター取引なので信用の薄い非加盟国の現地通貨は決済に使っておりません。
仮に通貨決済が必要な場合は全て地球圏共通通貨「テラ」にするよう命令してあります。
勿論、先の氷塊衝突事件で発生した食料自給率の減少は再開発と再建で乗り切ります。詳しくはこちらを」

そう言ってギレンはipadを手渡す。
一読し、それを返すデギン。

「父上もご存じのとおり宇宙経済、つまりコロニー経済は地球で作られた物を消費する事で成り立ちます。
その際に落ちる消費税と呼ばれる間接税、水税や空気税などの直接税が連邦政府の主な収入源です。
生産者は地球、資源供給は木星船団、連邦政府のコロニー開発公社、地球の連邦構成州。
そして主な消費先は30億に達したスペースノイドであるのはこの世界の常識です」

一旦言葉を区切り、グラフを見せる。
そしてまた語りだした。

「・・・・・が、そのスペースノイド30億の消費を失えば地球連邦の経済はどうなるでしょうか?」

ギレンは手を後ろで組む為、ipadをデギンに見える様に立てて置く。
標準より高性能で高画質、高速かつ画面が大きい機器を操作して説明を続ける。

「30億の市場の喪失。これで連邦経済はまず間違いなく倒壊します。
地球に住む者は非連邦加盟国の人間を含めて約60億人。総人口90億の人類で3分の1がスペースノイドであり、最も地球で生産された物資を消費する中産階級がこぞって消失すれば連邦経済は確実に崩壊するでしょうな」

そこまで言ってデギンは察した。
この長男の狙いと思しきモノを。

「スペースノイド全体を離反させた上での地球連邦それ自体の解体、か?」

にやり。
ギレンは笑った。
父は老いてはいるが耄碌まではしてないと。

「話は変わりますが現在の地球最大の鉱山・資源地帯は統一ヨーロッパ州、黒海・カスピ海沿岸部のオデッサ地区です。ここです。
宇宙世紀40年代に発見された地球最大級のレア・メタルや海底油田、その精製所はジャブロー地区の工業化を支え、今なお地球圏全土に影響力を持ちます。
三大地球経済圏である地中海経済圏も大西洋経済圏も太平洋経済圏も、です。
無論、隣接する地球連邦構成州全てにも、です」

一旦操作を止める。
世界地図が画面から消える。

「父上、仮にここを我がジオンが押さえたらどうなりますか?
中国、北インド、イランと言う資源埋蔵国が連邦の敵である以上彼らから資源を受け取るのは連邦政府にとってはナンセンス。
その上で地球連邦の資源はオデッサ地区にその何割かを依存しております。
ああ、シベリアやウクライナなどの氷土の資源地域や穀倉地域を繋ぐ日本産の鉄道網もオデッサにはあります。欧州=ロシア=アラビア間のパイプラインも走っています。
そして海運を途絶えさせ、資源の高騰をさせれば一体何をもたらすのか?
それは宇宙世紀10年代のコロニー建設や世界恐慌を見ればおのずと明らか。
これも連邦のアキレス腱でしょう。
イスタンブール、スエズ、ジブラルタルという三大都市。これが次の鍵ですな
そして・・・・・・地球連邦政府は一枚岩ではありませんでしたよ、父上。」

ここで漸くデギンはサングラスを外し、息子の顔を見た。

「ギレン・・・・・お前はまさか」

ギレンはゆっくりと振り向き言い切った。

「ええ、事ここに至っては仕方ありません。
連邦市民から連邦憲法で保障された私有財産を強制徴収し、ザビ家の御曹司自らが連邦軍の顔に泥を塗ってしまった以上、自治権の放棄と言うような事でも言わない限り連邦は我らを許さないでしょう。
我々は連邦市民の財産を奪うと言う連邦憲法に正面から手袋を叩きつけたのです。ついでに連邦軍人も殺している。100人ほど。
歴史的に見て、大国が小国になめられたままでいるなどあり得ません。10年以内に我がジオンは連邦に戦わず屈する様、要求されるでしょうな。
そして事件解決の為の大胆な行動ですが、そもそもそれが、自治権の放棄などと言った大博打が出来るならば私はここに存在しませんし、ダイクンもジオン国国民から支持されずに泡の様に消えた筈です」

思わずデギンが椅子から立ち上がる。

「待て!! ギレン。お前は本気なのか!?
お前の言っている事はまるで・・・・・まるで!!」

「ええ、本気です父上」

ドアがノックされる。
正にドアが開かれようとした瞬間、ギレンは言い放った。

「我がジオン公国は地球連邦政府に対して武力による独立戦争を挑むべきなのです」





宇宙世紀0076.3.3



(もういい加減にしてくれよ。頼むから)

地球の裏切り者と言われつつも針のむしろに座って2年。
既に首相ら閣僚からの信頼は全くない。
これは近い将来首かな?
そう思っていると統合幕僚本部本部長のゴップ大将からメールが来た。

『ウィリアム・ケンブリッジ補佐官へ
明朝0900に第3会議室へ来る事、尚、個人携帯用パソコン、筆記用具以外の持ち込みは禁止する。
また、随員はリム・ケンブリッジ中佐以外認めない』

という訳で、2人会議室に向かう。
衛兵に3度IDを見せる。
妻も同様だ。

(何なんだこの物々しさは?
戦争でもする気か?)

衛兵が完全武装だ。まるでキシリア・ザビ暗殺事件の頃を思い出させる。
しかもここはジャブロー。
地球連邦で一番安全な地域の一つの筈。それがこの警戒の厳しさ。
一体全体何事だ?

「失礼します、地球連邦安全保障会議(EFSA)のサイド3担当首席補佐官のウィリアム・ケンブリッジ、参りました」

「リム・ケンブリッジ中佐、入ります!」

二人そろって入室した。
二人して絶句した。

軍部No1の統合幕僚本部本部長のゴップ大将がいるし、彼からの招集だからからそれなりの将官らがいるとは思っていた。
が、これは予想以上だ。
先ずは統合幕僚本部作戦本部部長(連邦軍全体のNo6)エルラン中将。
No2の統合幕僚本部副本部長のグリーン・ワイアット中将。

(あ、No3地球・宇宙方面軍総司令官ジーン・コリニー大将も一緒だ)

更に准将クラスではブレックス准将にジャミトフ先輩。
宇宙艦隊司令官もティアンム少将を初め5名いる。
極東州軍司令官のタチバナ中将も居る。
陸軍参謀本部でも兵を大切にしないマキャベリストで有名なイーサン・ライヤー大佐もいた。
他にも何人も有名な軍人たちが思い思いの場所に座っている。

(うーん、ああ、これは見落としていた。
ジャブロー地区担当のコーウェン少将もいたか)

海軍、空軍、陸軍のお偉いさんにスーツを着ているのは各州の予備役(州軍)を司る安全保障担当の州官僚らだろう。
それにしてもだ、統合幕僚本部本部長、統合幕僚本部副本部長、地球方面軍総司令官、統合幕僚本部作戦本部部長ら地球連邦軍TOP.6の内四人いる。
しかも次期宇宙艦隊司令長官確実と言われるマクファティ・ティアンム少将までもが任地のルナツーから地球に降りている。
いないのはサイド3のごたごたに巻き込まれているが為、宇宙を離れられない連邦軍全体のNo4、宇宙艦隊司令長官イブラヒム・レビル大将くらいだ。

(厄介ごとか?
そうだな?
そうなんだな!?)

ちょっとパニックしてきた。
これとよく似たパターンを数年前に経験しているが故か、感が告げる。
嘗て無いほどの厄介ごとだ、と。
高級の黒い皮椅子が用意されている。相も変わらず紅茶付き・・・・と思ったらゴップ大将の趣味なのかキョウトの緑茶だった。

「やあケンブリッジ補佐官。かけてくれ。
ケンブリッジ中佐も、だ。そこのA-01、A-02にな。
言うまでもないがここから先は最高機密だ。他言無用である。」

挨拶もそこそこに、ブレックス准将が座る様に進める。
と言うか、命令。
命令でしかない。他の方々の視線を思えば。

(うん? あれはホワイトマン部長?
それにアナハイム・エレクトロニクスのテム・レイ部長じゃないか?
ああ、ジョン・バウナーじゃないか。元気そうだ。あいつ今は北米州の国防系の仕事だっけ?
お、アデナウアー・パラヤも居る。あいつ政治家に転向したんだよな。
羨ましいぞ、畜生め!! 親のコネが使えるってな。)

ちらほらと見かける知り合い。
どうやらここには若手や中堅層の官僚、政治家に軍部トップが一堂に会っている様だ。

(おいおい・・・・・下手をするとクーデター扱いだぞ)

「ああ、政府の許可を取ってある。心配するなウィリアム。
クーデターごっこではあるが、本当のクーデターでは無いぞ」

隣に座っているジャミトフ先輩が安心させるように言う。
だけどこの人の安心させる顔ってすごく傲岸不遜に見える。
しかも今のは冗談にならない。相変らずジョークのセンスが最悪だよ。
ほんと、話してみると情熱家でとても良い人なのだけど・・・・・いろんな場所でその性格で損しているな、と思ったら思いっきり後頭部を叩かれた。

「と、ところで私がいてよろしいのですか?
私は親スペースノイドでギレンの追従者ですよ?」

逃げたい一心から思わず本音を溢した。
溢してしまった以上は引くに引けない。とりあえず自分が如何に融和政策に力を注ぎ、連邦の国益をどれだけ害したかをとくとくと語った。
そして罵倒共に出て行けと言われる事を考え、いつも通りに出て行こうとすると、拍手が巻き起こった。
思わず、映画館の様な会議室の周りを見る。
妻も同様だ。いや、自分以上に固まっている。

「君は盛大な勘違いしているぞ、ケンブリッジ君」

「そうだ、補佐官殿は決して売国奴では無い。寧ろ稀代の愛国者だよ」

ブレックス、ジャミトフ両名が嫌な事を言う。
これと似たパターンを10年ほど前に経験したぞ!
何度でも言うがキシリア・ザビ暗殺事件の時もこんな感じだった!!

「ああ、准将らの言葉を変えれば卑怯者でも臆病者でもないな」

タチバナ中将がありがたいお言葉を告げてくれる。
そう言って紙媒体のファイルと一枚めくる。
表紙には『ウィリアム・ケンブリッジ』という不吉な文字が黒くでかでかとプリントされている。

まさか!?

「君のサイド3での勤務実績は見た。護衛の兵士たちからも直接意見を聞いた。
大したものだ。
あのギレン・ザビらとたった一人で会談し、連邦市民を暴徒から守ったのだからな」

はい?
一体何を言ってるんですか?

「謙遜するな。私は日系だが謙遜は美徳とは思わん。
妻と子供を残し、自ら暴徒の中に、死地に赴くその姿は正にサムライだ。
軍人だって逃げ出すような状況で、まして直属の上官が逃げた尻拭いを誰にも言われずにやり遂げるその心意気は立派だ」

ニシバ・タチバナ中将がべた褒めしてくれる。
これにつられたのかジーン・コリニー大将だ。

「君は私たちの祖国アメリカの、いや、地球連邦の権益を守る為に独裁者共の中に飛び込んだのだよ。
そして奴らから譲歩を勝ち取った。
あの時期にレビルが撤退に追い込まれなかったのは君の功績だ。
無論、どこぞのバカの性で全てが無駄になったがな・・・・・が、それは君の責任ではないぞ」

ライヤー大佐も声をかけてくる。

「スペースノイドが多少死のうが、君の命には代えられん。
明日にでも正式に辞令が下るが、海軍のケンブリッジ中佐は君の直属の護衛官となり、更に特殊部隊二個分隊を護衛にさく。
護衛の実質の指揮官はダグザ・マックール大尉。
それと君個人の指揮下に、宇宙軍のエリートであるカムナ・タチバナ中尉と海兵隊出身のマット・ヒィーリ中尉、空軍パイロットのマスター・P・レイヤー中尉が連絡武官としてつく。
意味は分かるかね?」

全然わかりません。
何でたかが一官僚にそんな豪勢な護衛達が付けられるんですか!?
というかパラヤやアデナウアーらが見る目が痛い。痛すぎる。
やめろ、そんな目で見るな!
俺は何もしてない!!!

が、軍部はそれを肯定と受け取ったようだ。
軍部にとっても対ジオンで有名な自分は優秀な手駒らしい。
ふと思ったら、個人指揮下にある連絡武官とかいう人物って全員太平洋経済圏の人間じゃないか?

そこでエルラン中将が発言する。
彼だけは軍帽を被っていたが、それを取り外した。

「君にはこれから対ジオン対策官として軍に出向してもらう。
その為の形式的な手続きだ。ああ、一隻シャトルを用意しよう。
アームストロング級高速スペースプレーンだ。ブーストもリニアカタパルトも無しで地球=サイド3を往復できる「スカイワン」という船だ。
君個人に与えられた任務は重要だ。
その為の二個分隊の特殊部隊の護衛、三名の連絡官の所属。
もうそろそろ分かるね?」

私はまたも黙ってしまった。
もう辞めたい。
そんな気持ちで擦れた声で質問に答える。

「ジオン、ですか?」

その言葉に多くの将官らが我が意を得たと頷く。
やはり優秀だ。
我々のテストに合格するとは。
他の首席補佐官は何だかんだと言って逃げたからな。
ギレン・ザビが交友を持つ理由が分かる。

などなど大絶賛。
盛大な勘違い劇はここでも続いた。

(俺は小市民で良いんだ!!
英雄になんか成りたくない!!)

が、そんな事は誰も気が付かない。
かってに紹介されて、他のメンバーが互いに紹介しあっている。
ああ、一番階級が低いのはリムか。
他のメンバーは大佐以上で、役職も上級将校だ。

(ああもう、安定した老後は俺に来るのか!?
子供たちは実家に送る方が良いだろうな。
どんな無茶難題を言われるか分かったもんじゃないし。)

と思っていると、唯一黙っていたゴップ大将が口を開いた。
流石に全員が黙る。

「さて、本題を始めようか?」

リモコンを操作して何やら宇宙空間を疾走する人型の機体を見せる。
従来の航宙機では不可能な機体制御で一隻の老朽艦を100mクラスと思われるマシンガンで撃沈した。
時間にして30秒弱。
誰も声を出さない。

「終わりだ、軍の者は全員これで4度目の鑑賞。が、結論は出ない。
これが兵器なのか武器なのかそれとも作業機械なのか、のな。
だから文官として忌憚のない意見を聞かせてくれ、ケンブリッジ補佐官。
他の者もだ。遠慮はいらない。
ちなみに名前はモビルスーツ。形式番号はMS-05ザクⅠというそうだ」

「・・・・・モビル、スーツ?」

私は思わずその光景に目を奪われていた。
古の騎士が、侍が戦う様な戦争がまた来るのか。
戦争を変えるのかもしれない。そんな感じはした、したが・・・・・確証はない。
そして確証がない状態で軍が動く筈も無い。

「そう、モビルスーツです」

そこでテム・レイ氏が熱弁をふるってきた。

曰く、MSは戦車にでも戦闘機にでもなれる。
宇宙ではこの兵器こそが無敵の存在になる。
だから連邦も直ぐにでも同種の兵器を開発しジオンに対抗すべきなのだ、と。
漸くすると短いが実際は30分近い独演だった。
もっとも連邦軍の事実上の首脳部が集った会合だ。
そう簡単に論破できる筈も無い。
そしてパラヤやバウアーは我関せずを貫いている。
賢い生き方だろう。

「よろしいですか?」

仕方なしに手を上げる。
妻が『なにやってんのよ』という目で見て来るが仕方ないよ。

「古来、兵器には金がかかります。
みなさんは戦艦大和をご存じであるかと思います。
大和型戦艦は合計二隻建艦されました。当時の日本国ではギリギリの莫大な国費を使って。
それはかの大日本帝国海軍が多大な期待をした為だと考えられます。もちろん、他にも理由はありますが」

そこでお茶を一口。
のどが渇いてはプレゼンは出来ないからな。
大学生時代からの主義だ。

「つまり何が言いたいのかね?」

ティアンム提督が聞いてくる。
カニンガム提督がタバコに火をつける。
宇宙では葉巻は吸えないから地球に戻った時に吸い貯めしていると聞いたが本当らしい。
禁煙主義者のジャミトフ先輩が嫌な顔をしているのが暗い室内でもわかった。
というかいつまで間接照明でいるつもりなんだろうか?

「MSが本当に有効かどうかは分かりません。実績がないのですから。
それにレーダー誘導兵器全盛期にあそこまで接近するなど自殺行為だと思います。
そもそも我が軍にはMS技術の蓄積がないのはレイ部長の発言にある通りです。
このザクというMSに追い付くのは後10年かかるというのが先ほどの見解かと思います。
・・・・・・が、このザク開発は逆に言えば10年単位で莫大な国費を消費していると言う事です。
しかもAE社などによればMSは1機や2機では無く数百機単位の発注なのでしょう?」

何人かの軍人たちは悟ったようだ。
私の言いたい事に。

「つまりジオンはこれに多大な期待をかけている、と言う事です。
それも国を、ええ国家ジオンの財布を緩くするほど、国家財政を傾けるほどの期待を。
他に何か秘策があるのかもしれませんが・・・・・・私は敢えてこれを脅威とは断じられません。軍事面の事は分かりませんから。
しかし、これに期待するジオン首脳部の考えは留意すべきです。
そう考えるならば、我が軍でもMS開発と配備は進めるべきです。
敵が持つ以上味方も持つべきなのですから」

宇宙世紀0076.11月。この一言が決め手となり、連邦軍はAE社と共同してテム・レイ部長を中心としたMS開発チームを結成。
独自のMS『ガンキャノン初期生産型』と呼ばれる機体の開発をスタートする事になる。
なお、何故か私も特別顧問の称号でMS開発に関わる事になった。
まあ、一種の左遷だろう。これと前後して首席補佐官の地位を解任された事だし。

その後はダークコロニーと呼ばれるジオンの軍需工廠に焦点が当てられた。
ジオン公国の宇宙艦隊は非加盟国との交易の結果、従来の予想の2倍程度まで膨れ上がっていた。
これは重大な脅威だと、私も、出席者全員も思い、コロンブス級改装空母20隻の配備を進言する様決定した。
また、ワイアット中将が『バーミンガム』級というマゼラン級を上回る戦艦の建造を主張し、第3艦隊にネームシップのバーミンガム、第1艦隊にリンカーン、第2艦隊にミカサ、第4艦隊にアナンケが配備される事で決定された。
特にアナンケは宇宙世紀0078の中頃に予定されている観艦式に間に合わせる事が正式に決まる。

因みに編成された宇宙艦隊の編成表とメインの出身者を見せてもらった。

地球連邦軍宇宙軍正規宇宙艦隊。
ルナツー配備(編成、訓練完了)
定数『マゼラン級戦艦』5隻、『サラミス級軽巡洋艦』40隻、『コロンブス改級改装空母』5隻

第1艦隊・北米州 旗艦「リンカーン」
第2艦隊・極東州 旗艦「ミカサ」
第3艦隊・統一ヨーロッパ州 旗艦「バーミンガム」
第4艦隊・特別選抜州 旗艦「アナンケ」
第5艦隊・アラビア州 旗艦「ダマスカス」
第6艦隊・インド州 旗艦「グプタ」
第7艦隊・中米、南米州 旗艦「マゼラン」

ジャブロー配備艦隊(建造、編成中)
第8艦隊・アフリカ諸州 旗艦「カルタゴ」
第9艦隊・アジア州 旗艦「マラッカ」
第10艦隊・特別選抜州 旗艦「キボウホウ」

となり、艦隊司令官は機密扱いだった。
ふーんと思っているととんでもない事をとんでもない人が言ってくれる。

「さて、君は1月後にグラダナ市に行ってくれ」

ゴップ大将が全員を解散せていく傍らで私を呼んで命令した。
私は文官だから軍からの命令を聞く義務はないはずだとそれとなく注進する。
すると予想外の答えが帰って来た。
というか電子辞令だ。私を嫌っている首相直々の。

『地球連邦首相アヴァロン・キングダムよりウィリアム・ケンブリッジ首席補佐官へ。
貴官を対サイド3問題解決の為、対ジオン大使団の一員に任命する。
宇宙世紀0076.04.09に行われるサイド3撤兵交渉に参加すべし。なお、現地にては文官の全権大使に任ずる。
軍部代表はイブラハム・レビル大将が、副代表はブレックス・フォーラー准将が担当する』

レビル将軍が担当するのは分かるが何故私が?
そう思っているとゴップ大将は笑顔で肩を叩いた。
そして言った。理由が分かったのはその時だ。

「君は噂以上だな。ジオンに詳しく、連邦でも孤立を恐れない覚悟の強さ。
命の危険性があっても職務にまい進し、我々のテストに見事合格した。
合格したのは君だけなのだ。パラヤ君やバウアー君ではまだまだ信頼がおけなくてね」

唖然とさせる。
俺はそんなこと望んでないのになんでこうなる!?

「しかも命の危険を顧みない豪胆さとギレン・ザビに気に入られる人望の深さ、止めに新兵器への経済面からの脅威の強調。
まさに連邦市民の鑑だ。その力を今度の月面での交渉でも発揮してくれ。
無論、過激な連邦至上主義者やジオニストの暗殺対象になる可能性は高い。
その為の護衛部隊に連絡武官だ。
箔づけに君の指令ひとつでサラミス3隻とコロンブス1隻が動ける様にしよう。それでいいかね?」

良い訳あるか!
もっとも私の提言は受け入れられず、妻と共に私は三人の新米中尉さんと10人の特殊部隊の隊員に囲まれてシャトルに乗った。


私は政府と軍部の要請通りサスロ・ザビとの会談。
相も変わらず油断できない人間扱いされていた。

(ああもう本当に泣きたいよ。そんな評価は要らないのに)

それも終わり、更に2年が経過する。
この間にグラナダから連邦軍が大幅に削減され、フォン・ブラウンを中心とした月の表側諸都市と木星船団が全ての地球圏各国(ジオン、連邦、非加盟国)へ中立を宣言した。
この間、ミノフスキー博士亡命事件があったらしいが途中で奪還されたそうだ。良く知らない。
他にもジオンが各社に共通規格制度とかいうモノを国内の各会社に押し付けているらしい。
まあ、何がしたいのかはうすうす分かるけど。

宇宙世紀0078.10月。
地球から環太平洋州である北米州のエッシェンバッハ氏、現役のロス・アンジェルス市長が北米州の国務長官と共にジオンを訪れた。
会談内容は不明だが1か月以上に渡った事が確かで連邦のCIAと北米州のアメリカ合衆国CIAが暗闘を今も尚繰り広げているらしい。

更に2か月後。

宇宙世紀0078.12.12
私は正式な代表団の一員としてジオン本国で交渉に臨む。
これは公王デギンと総帥ギレンからの強い要請があったためである。

『平和の為に、正々堂々話し合おう』

渡りに船と、かつて左遷した連中に重荷をかつての裏切り者や卑怯者に、厄介者に押し付けつつ(つまり私の様な人物たち)、交渉は再開された。
連邦政府としては凡そ2年ぶりの交渉である。

が、交渉が佳境に入った宇宙世紀0079.0103。
とんでもない事態が我々の間で起きた。






ギレン・ザビが交渉の途中で、私たちの目の前で倒れたのだ。



これが吉凶いずれか、開戦前夜か開戦回避となるかどうかは私には分からなかった。



[33650] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:a6bca1b8
Date: 2013/05/11 22:06
ある男のガンダム戦記05

「開戦への序曲」





宇宙世紀0079.01.03。
地球から最も遠いサイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対して独立戦争を仕掛ける一歩手前まで来ていた。
が、ここでデギン公王自らがジオン全土、つまり総帥府と議会に政治工作を行い最後の外交交渉を申し込む。
片や地球連邦政府は信義に基づき、ウィリアム・ケンブリッジ以下40名を非武装で派遣する。

一応、ルナツーから月軌道までは第3艦隊が護衛についたが、サイド3ジオン公国の領域内部に入港したのはスカイ・ワンとコロンブス級1隻という2隻の非武装船のみ。

『ジオン独立問題』

総帥服のギレン・ザビとスーツのサスロ・ザビ自らが出迎える。
こういう儀式では敢えて公王などは後から出して政治カードにするのは常識なので一部の若手以外は平穏無事にズム・シティに入った。
会場は公王府周辺の第一級ホテル。

(私の人生二度目のジオン本国か。結構変わった。まるで戦争前夜だ)

そう、戦争こそが今回の議題。
今までとは違い、私が最高責任者にして全権大使。向こうもギレン総帥自らが交渉にあたってきている。

『いかにして妥協点を探り、双方の国民を納得させるか』

これについて約三週間議論していた。
連邦政府、つまりこちらはジオンの軍備解体、非加盟国への最新工業機器輸出全面中止を条件に独立を承認すると言う案を出す。
ジオン側は、軍備を保持し連邦各州と同程度の権利を求めた上で、自分たちを『独立国』、『地球連邦の同盟国』として認めるように要求。
これができれば軍縮(あくまで軍縮)に応じ、非加盟国との密貿易を止めると言う。
議論は平行線をたどる。

ジオンにとっては外貨と資源、水獲得の最大の手段が密貿易である以上それを破棄するには大きな決断以上の何かがある。
方や、連邦政府も無条件降伏に近い対案を出してこない限り、そう簡単に割り切れない。
地球の連邦非加盟国問題もリンクしているのだから下手な対応は自爆に値する。

(だいたいもう連邦政府も連邦軍上層部もジオンも戦争する気なんだよな
今回の交渉だって私は悪くない、悪いのはあいつだって言う為の茶番劇の様なものだ)

と思う。
思うけど手を抜かない。
こういう変な真面目さはアジア系の妻に似てきたと思う。
それに上手くすれば何万、何十万、下手したら億単位の人間を救えるかもしれないのだ。
これ程の重圧と高揚感を抱える仕事もないだろう。

き真面目と言いますか、そんな真面目さが自分をここまで追い込んだのだが・・・・・気が付かないのは誰にとっての不幸だろうか?
ウィリアム・ケンブリッジか、それとも交渉相手のギレン・ザビか、若しくは妻か?

とにかく、いつの間にやらタフネゴシエーターになっていた私はジオンの交渉団にとって極めて厄介な存在だったらしい。
マ・クベ中将が休会間際、

『貴殿ほどの人物がジオンにいれば我らの独立も後5年は早く達成できた』

という意味深な言葉を残している。
まあ、彼はジオンきっての地球通。
あまり本気にしない方が精神の為に良いだろう。今は亡きキシリアの私設機関、俗称キシリア機関を立て直したやり手らしいがその分性格も複雑だった。

(でも驚いたな。突然ギレン氏が倒れたんだから)

それは会議もだれてきて一度休会する事を決めた時の事。
休会を宣言したギレン・ザビ総帥は椅子から立ち上がり・・・・・そのまま円卓に突っ伏した。

ドン。
という鈍い音共に。

『ギレン閣下!』

『総帥!!』

『代表!?』

隣にいたサスロ氏と後ろで控えていたデラーズ准将(良く分からないが数年前に会った時に比べて昇進していたようだ)が随員と共に慌てて駆け寄ったのが見えた。
正面に座っていた連邦代表団の代表で、全権大使でもある私にとってもそれが政治手段としての演技には見えなかった。

「申し訳ないが・・・・・休会させて頂こう」

サスロ氏の苦悶に満ちた表情からその言葉が出る。
と同時に連邦側からはいい気味だと言う感じの空気が流れた。
胃が痛い。
頼むからそんな幼稚な反応するなよ。
仮にも相手は国家元首クラス、連邦で言えば州政府の代表たちと同じと考えて良いんだからな。

一旦、休会となって私たちはホテルの自室に戻った。



「ここは?」

それからしばらく経ってギレンが目を覚ました。
彼は困惑する。
彼の最後記憶では、自分は確かあの男の前でジオン独立の為の戦いを繰り広げていた筈。
そう思うと看護婦らしき人物が入ってきた。
それは白衣を着た第一秘書のセシリアだった。

「何が起こった?」

極めて冷静に聞く。
それに対するセシリアもギレン好みの女性だけあって冷静に返す。

「閣下はお倒れになりました。
主治医の見るところ心労と過労による疲労の蓄積が原因です。
5日間、目を覚ましておりませんでした」

カルテを置く。
内線電話にアクセスすると同時に、携帯型の情報端末を持って来てギレンに現在の状況を伝える。
会議の模様が映し出された。正確には会議室に残ったジオン側の混乱が、だ。

「一時的にサスロ様が代行すると言う事で合意しましたが二日目になっても閣下がこん睡状態から戻らない為に外交交渉は休止。
恐らくですが、閣下の昏睡を理由に交渉自体が終了するでしょう」

そう言ってセシリアは纏め上げたレポートを見せる。
自分も同意見だ。
そして漸くにもここが何処かも気が付いた。
ズム・シティのザビ家私邸ではないか。
総帥府でも公王府でも議会議事堂でもない。

「都合が良いな」

「は?」

何でもない、それよりも父上とサスロ、ドズルにガルマを隠密裏に呼んでくれ。
内容は任せる。

ギレンは珍しく人にものを頼んだ。
彼らしくなく命令では無くて。
それから2時間後、件の2人が来た。
サスロだけは3時間かかった。理由は連邦代表のケンブリッジが見舞いに行くと言って聞かなかった為だ。

「ウィリアムがそんな事を言うとは・・・・・恐らくは敵前視察か・・・・・相変わらず油断ならんな。
確かに見舞いに行くと言う相手を追い返すのは余程の理由が必要だ。
それでだ。サスロ、何と言ったのだ?」

面白そうに、寝間着のギレンがポールスミス製の紺色の高級スーツにて対応していたサスロに聞いた。
人としての余裕というべきものが言うのが、地球視察後のギレンには出来ていた。
或いは視野が大きく広がったと言って良い。
これがデラーズ准将ら親衛隊だけでなく中道派から絶大な支持を集める切っ掛けになったのだから、人生分からないものだ。

「・・・・・・人生塞翁が馬だな。ギレン兄。
実は今日が峠だ、家族葬になるかもしれないと言って議場を抜け出してきた」

一瞬だがバツの悪そうな顔をする。
そんな顔をするなよ、弟。

「ククククク。そうか。それは良い」

ギレンは笑う。
それに父デギンも弟らも不思議そうな顔をする。
自分が死ぬと言われて喜ぶとはどういう事か、そんな表情だ。

(己が意識を失う程疲労し、交渉中に倒れたのは予想外だったがこれは奇貨なのかもしれない。
考えてみれば恥と言う外聞さえ除けばこれ程立派な時間稼ぎもないだろう)

そしてギレンは命令する。

「ドズル、宇宙艦隊はどうだ?」

等々に話を振られながらもこの時点でジオン軍中将と言うジオン宇宙軍最高級の階級にいるドズルは答えた。
ちなみに大将はギレンであり、元帥職は存在しない上、ザビ家の権威から見てもドズル・ザビがジオン軍実戦部隊のトップになる。

「練度は問題ない。総数も300隻に達する。
それでも連邦宇宙軍の三分の一だが・・・・・兄貴、それより自分の体調を心配してくれ」

俺は嫌なんだ。
もう家族を失うのを。
そう続ける軍服姿のドズルにギレンは苦笑いしながらも公人として、ジオン公国総帥としてジオン国防軍の軍総司令官に命令する。

「宇宙世紀0079の6月までにドロス、ドロワ、グワラン、グワデン、グワリブの建造を完了し8月1日までに実戦配備させろ。
ああそれとだ、可能な限りで構わんが全力を挙げてMS隊も新型機に切り替えるのだ」

三人がその言葉の裏にあるモノを察知した。
一斉に険しい表情になる。
デギンがせっかくの和平交渉をふいにするのか、もう後戻りできないのかと問う。

「ギレン。お前は本当にやる気なのか?
もう言葉では解決できないのか?」

が、ここで父親の嘆願を切って捨てたのは意外にも次男サスロだった。

「親父、もう駄目だ。
連邦はこれ以上譲歩できない。
これは交渉してみていれば分かる。ケンブリッジは己の生命をかけて此処にいる。
だが、いや、それだからこそ、これ以上の譲歩はできない事を知っている。
仮に今以上の譲歩を、ジオン世論とジオン国民が完全に納得する条件で交渉を妥結しよう・・・・・それは連邦政府や地球連邦各州のバランスを大きく崩す事と同義になる。
地球連邦の官僚としても政治家としても市民としても、或いは軍人としても、連邦の国益の観点から見てもそんな事は認められない」

今までコロニー、連邦構成各州、非連邦加盟国、月面諸都市と虚々実々の駆け引きで交渉を重ねてきたサスロの言葉は重い。
しかし公王陛下である父親はまだ諦めない。
ギレンのベッド越しに座り、同じようにギレン愛用のソファに腰かけるサスロに尋ねる。
因みにドズルは部屋に誰もいれるな、という長兄の命令を守るかのように唯一の入り口である寝室のドアに背を傾けている。
ガルマは大尉の軍服でデギンの隣に座っていた。

「だが・・・・・サスロ・・・・・・国内はわしとお前とギレンの三人で抑えれば・・・・」

それでも容赦なく切って捨てるとはこの事か?

「親父・・・・・ダイクン死去、キシリア暗殺、氷塊衝突事件、ガルマによる武装解除、連邦軍退去とその後の威圧。
ハッキリ言って国内の方が火種はくすぶっている。今やらないとそう遠くない将来に内戦になる。
そしたら何もかも水の泡だ。内戦か戦争か、それを決める時が来たんだ」

肩を落とすデギン。
サスロが自らの行為を非難した事に驚くガルマ。だが、誰かがいつかは言わなければならい事だったのだ。
そう思う。
心苦しいが。

「そういう事です。お分かりいただけましたか父上。
私もまったく同意見です。
交渉はこの三週間で纏まらなかった。反交渉のデモも各地である。地球とジオン双方で。
何故互いに妥協するのか、何故仇敵を許すのか、それが許せないのでしょう。
前にも言いましたが・・・・・・もう遅いのです」

ギレンもサスロに同調した。
ドズルは軍事専門で政治に口を挟まない。この点で亡き妹キシリアとは正反対である。
ギレンの国内宥和政策により、なんと驚くべきことだが彼女の派閥はまだ生き残っている。
が、その彼女自身は軍事ではド素人だった。しかも謀略家で長兄を政敵と考えていた節があった。
一方、あの暗殺事件で生き残った次男のサスロは自らを兄ギレンの忠実な補佐役と位置付けており、その事に喜びを感じるタイプの男。
大きな違いと言える。

ギレン・ザビにとってエギーユ・デラーズが軍事面の片腕なら、サスロ・ザビは政治面での片腕だった。
更に言えば、ガルマはまだ兄たちに反抗する気はない。
将来はともかく、今のガルマ・ザビはまだ20歳の若手の一将校にすぎず、権威はあるが権力はない。

「サスロ、先ほどの言い訳は良い機会だ。僥倖と言っても良い。
私は開戦日を8月3日と定める。
7月に復帰すると言う事にしてそれまではサスロ、お前が総帥職を代行しろ。
父上、明日にでも連邦のケンブリッジをジオン国内から追い払ってください。
あ奴も、あ奴の上司のホワイトマン部長も鼻が利く。
私が仮病を使っている事を悟られてはなりません」

サスロは無言で頷いた。
父も少し迷ったが結局は息子の意見に従った。
無念極まりないという表情で。そして言った。

『確かに勝算があるのだな?
国民を未曾有の大戦争に叩き込んでも尚且つ勝てるだけの勝算が!』

『ご安心ください。我らに秘策ありです』

そして改めて三人を、いや、ガルマを入れれば四人を見る。

「私は意識不明の重体だ。そしてそれは国家の非常事態に当たる。
サスロ、これを利用して議会に国家非常事態宣言と国家総動員令を発令させろ。
半年後の開戦に備えさせろ。
ドズル、非加盟国との交易ルートを確保しろ。
弾、食料、衣服など地球で作れるものは地球でも作らせろ。借金しても構わん。
勝てば良いのだからな。
更にだ、ミノフスキー博士を脅してでもビーム兵器搭載のMS隊を編成するのだ。
ああ、サスロ、これが各企業への暗号通信になる。
欠陥機扱いされているツィマッドのヅダも前線に投入する。
例の艦隊決戦試作巨砲とやらも有効に活用しろ。実戦面での詳細はドズルに任せる。
ドズル、使えるモノは全てお前に託す。使い方は任せるから使い切って見せろ」

ガルマ以外が真剣に自らの役割を考えている様だ。
そこに父親デギン・ザビも覚悟したかのように言う。

「・・・・・・・・わしとダルシアは道化を演じるのだな?
独立を武力によらんとする強硬派と言葉で達成せんと望む穏健派にジオンが分裂したと連邦に思わせるのか・・・・そうだな?」

話が早い。
ギレンは頷いた。
その間にも近ばに用意されていたA4用紙に命令書を書きあげていく。
情報端末に詳細な情報を打ち込んでいく。

「ええそうです。
父上と首相府には道化を演じてもらいます。連邦市民が錯覚し分裂し、安心するような派手な道化を。
・・・・・・それに現実面として経済的な面でも軍拡してしまった以上、どこかで軍備を消費しなければジオンは内部から瓦解します」

その言葉は重い。
正にその通りだ。
軍拡で崩壊したソビエト連邦の先例に倣う事は無い。
そう考えると軍拡を開始した時点で地球連邦も崩壊の途上にあるのかもしれないが。

「開戦は8月3日午前0時ちょうど。対象は地球連邦政府。
戦略は短期決戦のプランC。作戦名はブリティッシュ作戦とする」

反対は無かった。
ここにジオン公国は開戦を決定する事になる。





そして全員が退室した後でギレンはマ・クベ中将の組織した諜報機関からの報告書を電子端末を使い見た。
そこには連邦軍のMS、RX-77―01という形式番号の肩に一門の砲をつけたタイプのMSがそれぞれのコロニー首都バンチ防衛に30機、一個大隊が配備されているという報せだった。
これはケンブリッジの献策の結果の影響で、地球連邦軍のMSはミノフスキー亡命事件(スミス海の虐殺)で大敗を喫する前に試験的に配備された。
試験的と言ってもジオンが羨む事は間違いない大量生産であった。
もっともテム・レイら連邦軍MS開発チームはこの機体に全く満足はしてない。
それでも連邦軍初の本格的二足歩行人型兵器としてコロニー守備隊に30、駐留艦隊に30
正規艦隊に36機ずつ配備される事になって現在に至る。

「そして・・・・・新型MS開発と母艦建造の計画とV作戦か。
V作戦が今以上に本格化する前に・・・・・連邦政府や連邦議会がMSの導入を議論している間に、ミノフスキー粒子とザクシリーズの本当の効力に気が付く前に決着をつけなければならぬな」

ギレンも決断する。





宇宙世紀0079.01.05

「退去要請?」

ジオン産鶏肉のバター炒め定食を食べていた私は連絡武官の一人、レイヤー中尉から報告を受けた。

「はい。こちらの赤い書式がジオン側の正式な書類になります。
あと、青い方は連邦政府のキングダム首相からです」

中尉はそう言って二つの書類を差し出す。
ギレン氏が倒れて数日。
命も危ぶまれる重体と聞き、流石に交流があったし個人的には嫌ってまではいなかったので、このまま死なれたらバツが悪かった。
だから彼の見舞いに行きたかったが立場が邪魔したのかいけなかった。
携帯に映るニュースでは連日サスロ・ザビ総帥代行への就任を取り上げており、他に連邦との交渉は破棄しろという見出しが載っている。
しかも何かあったのか、デギン公王も連邦使節団退去を命じた。更には傀儡化したはずの議会が反発しデギン公王とダルシア首相が揉めていた。

(私達連邦政府がギレン氏を毒殺しかけたとでも思っているのだろうか?
何か作為を感じるが・・・・・出来すぎている気もするし考えすぎな気もする)

分からない。
ジオン側のこの豹変ぶりは全く分からない。
少なくとも連邦政府とは違い自分は戦争回避の為にわざわざ妻と共にここまで来たのだが。
その妻は我関せずといつの間にかハンバーグステーキセットを食べきって食後のプリンにスプーンを入れている。

(まあ、仕方ない。正式な命令である以上反対しても・・・・・・くそ、またか)

「どうなさいますか?」

空軍出身らしく、鋭い眼光で私に問うレイヤー中尉。
他の二人は交代で休憩中だ。
流石に公王府の隣の高級ホテルに突っ込んでくるバカはいないだろうが・・・・・念には念を入れて代表団員は全員U.N.T. M71A1という軍用無反動の拳銃が渡されている。
しっかりと出発前に訓練してきた。
私なんかもう40歳を越したのに海岸への上陸訓練までさせられた。
一体今はいつの時代かと思ったがお蔭で若返ったのだから良しとしよう。
ビールでぽっこりしていた御腹も完全にへこんで正規兵並みの筋肉が付いた。

(ただあそこまでやるのってどうよ?
正規兵並みの筋肉が付く護身術の訓練や砂浜への強襲上陸作戦の想定訓練とか・・・・・政務を中断してまでやる事か?
ヘリボーンまで計画していたとか可笑しいだろ? 俺は軍人じゃないんだけど。
それだけ期待されてないと言う事なのだろうが・・・・・ああ、海軍の参謀職だった筈のリムが生き生きとしていたのが怖かったな)

「仕方ないよ。お偉いさん・・・・政府の決定だ。
中尉、この後で皆を集める。君らも撤収準備をしてくれ」

そう言って私はサイド3を後にする。
もう二度とこの地を踏む事は無いと思いながら。

スカイ・ワンは衛星静止軌道の宇宙ステーションに向かくコロンブス09と別れた。
地球への帰還コースを取る事無く、シャトルは私と護衛のダグザ大尉ら11名に三人の中尉と妻、シャトルの乗員らと共に宇宙世紀0079.01.09にサイド3を後にする。
目的地はサイド7.
ルナツーを経由する、ジオン本国より最も遠いスペースコロニー、サイド7の1バンチ、通称「グリーン・ノア」である。
この唯一完成している開放型コロニーには200人ほどの民間人と軍人・軍属1000名ほどがいる。
また防衛戦力としてマゼラン級戦艦が1隻とサラミス2隻が配備されている。
この時点でミノフスキー粒子の本当の恐ろしさを知らない連邦軍はジオン軍の実力を宇宙海賊の襲撃程度としか考えてなかった。
よって電子兵装でジオンを圧倒するマゼラン級戦艦があればルナツーの増援部隊到着まで余裕で持ちこたえられると信じている。
そんな暇な船内にて。

「タチバナ中尉。君の意見を聞かせてくれ。
現在の連邦宇宙軍の正規艦載機であるセイバーフィッシュはどんなものだ?
仮にジオン艦隊と戦った場合に制宙権を確保できるのか?」

いわゆる特別室の一つである執務室で私は三人の中尉に軍事面での実情を問う。
こうなる事を予期していたタチバナ、レイヤー、ヒィーリ中尉らはしっかりと答えてくれた。

「セイバーフィッシュはジオンのガトル航宙機に対して全ての面で優越しています。
訓練の事は分かりませんのでパイロットの質こそ互角かも知れませんが、量と兵器単体の性能差は隔絶しております。
大使のご懸念する様な事態にはならにならないと思いますよ」

最初から砕けた口調なのは論外だがいつまでたっても砕けられないのも問題だ。
そう言う意味ではカムナ・タチバナ中尉が一番親しみを持ちやすい。
で、レイヤー中尉が一番固く、ヒィーリ中尉が一番緩いと言うのが今の印象になる。
そうこうしている内にパックに入っているコーヒーを皆で飲む。サイド1製の安物だから美味しくは無いのだが。

「艦載機搭載の対艦ミサイルも充実してますから・・・・・仮に戦争になっても戦力の集中さえできればジオン艦隊は壊滅でしょう」

更にカムナ・タチバナ中尉が補足する。
そう言ってシャトルのTV型情報端末を操作する。
現在の連邦軍の編成はルナツーに正規艦隊が7個。ジャブローに3個正規艦隊の合計500隻。
更にサイド1、サイド2、サイド4、サイド5の4つのサイド駐留艦隊に30隻ずつの120隻。
付きのグラナダ市とエアーズ市にそれぞれ20隻ずつの月面方面艦隊40隻。
衛星軌道上にある拡大ISS(旧国際宇宙ステーション)に20隻。
ルナツーと各サイドを根拠地とする2隻一組のパトロール艦隊が15セット、30隻。
連邦宇宙軍は総計で710隻の純粋な戦闘艦艇を持つ。これはジオン宇宙艦隊の実に三倍である。

「また、MSだがRX-77-01が各正規艦隊に36機、合計360機。
ルナツー防衛隊に改良型のRX-77-1が60機。
コロニー首都バンチ防衛用に30機が展開しています」

「セイバーフィッシュ艦載機の総数は?」

ふと画面を見て気になった事を問う。
その画面には艦載機の詳細が載って無かったのだ。

「申し訳ありません。詳しくは分かりませんが2000機は確実かと」

まあこれをみればジオンに勝てるだろう。
私はそう思った。
いくらMSに国費を投入しても1000機は無いはずだ。二倍の大軍で攻撃すれば戦史上の常識から余程の質の差がない限り勝てると言うのが常識の筈。
軍部上層部もそう考えていたしな。
それに何と言っても宇宙戦争の主力である戦艦、巡洋艦がジオンの三倍弱あるのだから。





宇宙世紀0079.01.23.
ギレンは常識的な連邦官僚としてのケンブリッジと異なり大きな戦略の変更を決定した。
自分の私室。ベッドの上で情報端末を使い指示を出すギレンの下にドズルが訪れる。

「兄貴、参謀本部が出した結論だ。見てくれ」

サイド3ジオン公国でも着々と来たるべき8月3日に向かって準備が進められていた。
特に家族思いのサスロ、ドズルは二日に一度は兄の様態確認の為に私邸に帰ると言う事にしている。
これが対外的には良い偽装になった。
また、兄の強い要望と称して全家政婦、執事に半年間の休暇を命じた。勿論対連邦超大作の為である。

(公式には私はまだ昏睡状態なのだからな)

その為食べ物が全部ジャンクフードか病院食と言う極端な食生活になったのだが・・・・無論、酒も表向きは禁止。
そうした状況下でギレンの手足となった二人の弟はなんども密談し、ジオンの戦略プランを練る。
その結果が以下の様になった。
紙媒体のファイルを手渡す。

・政治的理由からNBC兵器前提による各サイドへの電撃作戦、武力侵攻は放棄。
・奇襲を前提にせず、あえて連邦軍に先手を取らせ、新型MSの性能を信じ各個撃破する。その為にソロモン要塞と本国を囮にする。
・開戦と同時にサイド1、サイド2、サイド4から連邦駐留艦隊を引き出す為、外交攻勢を仕掛ける。
・ルナツー駐留艦隊を誘い出す為、コロニー一基に核パルスエンジンを搭載し、それを連邦への脅迫に使う。
・前後して全コロニー駐留艦隊、月面方面艦隊、3個正規艦隊、独立部隊を先に撃破する。
・サイド5を決戦の地とする。
・決戦に勝利した後、各サイドを正式な占領下に置き、戦争終結の為の交渉材料とする。
・連邦正規艦隊を壊滅させるまでは戦力分断の愚を犯さない為、本国に宇宙海賊対策用の20隻の艦艇を配備する以外、全ての艦艇ドズル・ザビを総司令官としたジオン連合艦隊へ一任する。
・ソロモン、ア・バオア・クー、占領下のグラナダにはMS守備隊のみを配置する。
・地球侵攻の準備を9月上旬までに完遂させる。目標は統一ヨーロッパ州ならび特別選抜州のあるオデッサ鉱山・工業・宇宙港地域。
・非連邦加盟国への交渉並び軍事援助による重力戦線の構築。
・全サイドの占領ならび連邦政府への交渉材料化。各州の政治的・軍事的分断。

それ以外にもギレンのみが知るルートで連邦を動かさんとしていた。
それはあの地球視察で自らが築き上げた極秘ルートであり連邦政府や連邦情報局、ジオン国内の反ギレン、反ザビ家の派閥さえも欺かれていた。

「ふむ・・・・・短期決戦による連邦艦隊の壊滅で講和を申し込む、か。
よかろう。それで部隊の方は?」

「ああ、ええと・・・・このページだ。
兄貴の言った様に最新鋭艦と最新型で固められるだけ固める。
先ずは艦艇、次にMSだな」

ジオン親衛隊(月面攻略艦隊) 司令官エギーユ・デラーズ准将
ドロス 182機
ドロワ 182機 
ムサイ級 8隻 4機
チベ級 8隻 12機
MS、ザクⅡ改492機

第一艦隊(サイド1、2、4連邦駐留軍迎撃艦隊) 司令官ドズル・ザビ中将
改ムサイ級総旗艦ワルキューレ 6機
グワジン 24機
グワデン 24機
グワリブ 24機
グワラン 24機
護衛砲撃戦強化型ムサイK 40隻 4機
MS、MS-09-R2リック・ドムⅡ96機
MS―06F2ザクⅡF2(ザクⅡ後期生産型)166機
QCX-76A 試作艦隊決戦砲 ヨルムンガンド2基

第二艦隊(本国守備軍)司令官ノルド・ランゲル少将
ムサイ級20隻 4機
MS、MS-06ザクⅡ 80機

第三艦隊(第一艦隊補完、戦略予備)司令官コンスコン少将
ティベ級5隻 18機
ムサイ後期生産型10隻 4機
MS、MS-06-R2 130機

ソロモン守備艦隊 司令官ラコック大佐
チベ級4隻 12機
ムサイ級10隻 4機
MS、MS-05ザクⅠ88機

ア・バオア・クー守備艦隊 司令官トワニング准将
チベ級4隻 12機
ムサイ級10隻 4機
MS、MS-05ザクⅠ88機

特別教導艦隊 司令官ダグラス・ローデン大佐
ザンジバル級7隻 9機
MS、MS-14Sゲルググ 63機

義勇兵・外人部隊

ザンジバル級2隻 9機
チベ級4隻 12機
パプワ級 4機

MS、MS-09リック・ドム57機
   EMS-04 ズダ 4機

支援艦隊
パプア級20隻
パゾグ級30隻
ムサイ級10隻 4機
MS、MS-06ⅡCザクⅡC型40機

報告書を呼んだギレンは自分で言っておいてなんだが、一瞬眩暈がした。
この報告者は希望と妄想に満ち溢れている愚か者が書き上げたものなのではないかと。

「大軍だな。量はともかく質は最早ジオンの国力ギリギリだ。
これではやはり民生品の大規模な抑制も考えなければ」

これだけの大戦力を後半年で用意しろと軍は要求する。
特に、ビーム兵器はまだMSの半分サイズと言う大型のビームバズーカとビームライフルが試作段階に入ったばかり。
最新鋭機の純正なるビーム兵器標準仕様MSのMS-14Sゲルググ63機分など正気の沙汰とは思えない。
だが、実はこの計画、極めて常識的でもある。
戦闘用艦艇も150隻前後で、偵察・通商護衛艦隊所属のザクⅡF型とムサイ級約40隻を除いている。
また、パプア級、パゾグ級補給艦も50隻近く(ジオン全体で89隻しかいない)を動員しているので補給も何とかなる。
正直0079の年初に開戦していたらこれは絵に描いた餅だろう。
が、統合整備計画と非加盟国との秘密貿易に加え、突如として訪れた半年間の猶予がこの計画を現実のものにしている。
ただし予算面では『ぎりぎり』をとっくの昔に通り越しており既に国庫の貯蓄まで切り崩している。
ドロス級二隻にゲルググ63機など財務省の役人が卒倒したくらいの値段になっていた。
地球との密貿易がなければこれ程の予算は確保できなかったと言っても良い。

「地球の北朝鮮に核分裂弾頭を30発ほど高値で売りつけた甲斐があったな。
あの時の予算でドロス級2隻が0077に発注出来た。
さて、そのことは首相を通して極東州にも伝えないとな・・・・・・恩はうらないと」

軍事境界線で北朝鮮と絶賛対立中の極東州にしては何を言ってやがる!と怒鳴り込む様な思考だが、ギレンは本気である。
それに、だ。非加盟国に核弾頭を売った事を知っているのはジオンの旧キシリア機関の者だけで切り捨ても容易と考えている。

ジオン公国が軍備増強にひた走ったこの時期、もう片方の主役である地球連邦はどうであったか?
実際に増強されるジオン軍を見る連邦軍はともかく、ジャブローの連邦政府はギレン倒れる、の報告に安堵しており、傾いていた軍事費を平時に戻そうとする。
この動き自体はそれほど悪くない。ソビエト連邦の例を見るまでもなく行き過ぎた軍事費は国家を破堤させるし、対ジオン、対スペースノイド融和政策としては目に見える効果だろう。
そして本来であればジオン国内の様子見をする筈であったが、ジオン国内の政治対立がそれに、軍備縮小に拍車をかける。
形骸化していた議会が軍部に反撃している。
今の状況から考えるにザビ家らは排除される。必ずやジオン国民は平和裏に民主国家ジオン共和国を再建するだろう、だからこれ以上の軍備拡張は必要ない。ましてMS開発など不要という中堅官僚の意見に流されだす。

ジオン公国のギレン・ザビはしばらくの間これがどの様な影響を国民生活に及ぼすのか、或いは本気で可能なのか熟考した。

結論は可能。

ただし、ドロス級の完熟航行には難がある。
MSはシュミレーションと統合整備計画の影響でザクⅡ改、リック・ドムⅡ、ゲルググ、ザクⅡF2は何とかなる。整備面も。
高機動型ザクⅡだけが不安だが、重点的に実機を乗り回せればパイロット、整備兵の要請には良いだろう。もともとベテラン中心なのだから。
グワジン級だが、艦船の方も父上のグレート・デギンを徴発して訓練に当てる。
各種ムサイ級、ティベ級、チベ級も従来艦かその改装艦だからそれほど不安では無い。

(問題はビーム兵器だが・・・・・こればかりはミノフスキーを叩いてやらせるしかない)

ベッドに横たわるギレンは不安げになりつつあるドズルを鋭い眼光で見つめる。
その眼光は全く衰えてなかった。
依然、ジオン公国の実権が誰の手にあるのかが分かるエピソードだ。

「分かった・・・・・必要な手は打とう。議会にも国民にも手を回す。無論連邦や非加盟国群、枢軸にもだ。
その他の後方戦力も可能な限り増強させよう・・・・・・だがドズル」

「?」

「絶対に勝て」

ギレンは弟に対してきっぱりと勝利を求めた。





宇宙世紀0079.03.04.

地球のとある大陸、とある都市の、とある白い家に国際便が届いた。
中身は厳重に封をされた分厚い聖書である。
連邦軍の大将の制服を着た男がしっかりと金属ケースに入れて自分の真に忠誠を捧げた国家の中枢へと持ち込む。
無論、公的な名目は視察であった。決して私的な用事で訪れた訳だは無い・・・・筈だった。

厳重に封をされていた書籍を開け、中にある情報端末のユニットを取り出す。
白い館の主にそれを渡す。
傍らには館の主と彼が信頼する人々、そして連邦軍の准将が一人いた。
そのデータをダウンロードする主。
端末は珍しい事にいかなる通信回線にも接続できない読み取り専門の機械だ。
しかもその上、指紋認証にパスワード、特別な鍵が必要なルナ・チタニュウム製の機械。
暫くの沈黙。
それが破られ執務室に50代の男の声が響きだす。

「なるほどね・・・・うん。ははぁ~借金は踏み倒す気か。
あの男もやるな。それで、これは例の大使は知っていたのかね?」

わざと調子に乗った男を演じている。
まあ政治家などそんなものだ。
色々な状況に応じて自分を演じるのが仕事と言う事で映画俳優とタメを張れるものだろう。

「彼はこの事は一切知りません。彼は限りなく有能ですがグレーですので伝えておりませんので」

准将は館の主の問いに答えた。

「そうか。うーん、彼は確か寒い地方の出身だったな。
今度宇宙から帰ってきたら私たちが主導して常夏の楽園に招待するべきだろう。
ところで諸君。
仮にだが我が敬愛すべき連邦軍の宇宙艦隊が大損害を受けた時に我々は如何すべきかな?
私個人としては祖国の市民たちを無為に散らしたくないものだよ。
ああそうだ、島国や遠い彼方の人々とも協力しなくてはね。
そう、私はいかなる場合でも我が市民の犠牲は減らすべき、と思われる。
それに、だ。いつまでも借家人が大家面するのはいけないだろう?」

この言葉に室内にいたすべての人間が何らかの同意を浮かべる。
追従する笑い。
陰謀の夜は更ける。





サイド7に到着した私はテム・レイ部長から説明を受けた。
現在のところRX-78-1ガンダム(プロトガンダムとも呼ばれる)は完成している。
ただ武装がまだ不完全で100mmマシンガンしかない。
ビームサーベルとビームライフルはまだ理論の段階だ。恐らく半年はかかる筈。
が、その一方、RX-77の改良型でもある量産型ガンキャノンは順調にロールアウト。
既に36機が実戦配備に至っている。

「なるほど・・・・と言う事は・・・・・問題はこのガンダムと言う機体の量産化ですか?」

買い換えた黒いアルマーニのスーツを着こなした自分と中佐の階級章を付けた連邦軍第二種軍服の妻のリム。
それに10人の護衛と三人の中尉に大尉。
三人の中尉はここに来てからテストパイロットとして働かされていた。
宇宙、海兵、空と三軍のパイロットや経験者であった事がMS開発にとって大きな前進となるとテム・レイ部長が主張し、暇だった上に若返ったと言っても良い妻といちゃつきたかったウィリアム・ケンブリッジ大使が許可を出したせいである。

(はは、働かざる者食うべからず、だな)

とも思ったが一番働いてないのは自分だったりする。
海兵隊出身のダグザ大尉らは宇宙空間戦闘に慣れるので忙しい。
護衛も2人まで減った。
交代で訓練中なのだ。
しかし当のケンブリッジ本人はもう外交も政務もやる事は無い。
何故だか知らないが大使の肩書から、地球連邦内務省政務次官に昇進となったが任地へ向かうのは来月6月。
それまではジャブローで骨休め。
尤も、職業柄なのかこうして視察したり論文を書いたり、無駄とは知りつつも連邦政府に対ジオンの警告をしたりはしている。

(全て放り投げて後は知らない振りは出来ない・・・・・俺はそこまで卑怯者じゃないからな)

と、テム・レイ部長の説明も佳境に入っていた。

「はい、量産機コードネームは『ジム』なのですが、この『ジム』がどうもOSの調子がおかしく。
ガンダムは学習型コンピューターを内蔵するので、HLVに使われる量子コンピューターの小型版を内蔵すれば済みますがいかんせん高くつきます。
更にガンダムは7機が開発中ですが・・・・・月かルナツーでしか取れないルナ・チタニュウムが主装甲ですので予算を馬鹿食いしています。
ええ、装甲とOS問題、後は標準装備のビームサーベルが問題です」

テム・レイ部長はネクタイを締め直しながら答える。
白衣にスーツは似合わないと思うのだが。
まあ、その辺はポリシーでしょう。

「ガンダムは一機当たりマゼラン級戦艦1隻分の予算を必要としました。
特にミノフスキー博士をジオンに奪還された事が開発費の高騰を招いております。
ジオンが持つザクⅡやその改良型、更には今後10年先にも対応できる拡張性にビーム兵器の実用化を視野に入れているのですが。
やはり最後が一番の難点です。我が軍ではメガ粒子砲の開発さえ滞っていたのですから」

確かにその話は聞いたことがある。
ジオンはミノフスキーという天才を軍事に利用する。
この短期間でジオン公国が独立戦争に踏み切れる自信をつけたのは彼のお蔭だろう。
スミス海の虐殺は見せてもらったが・・・・・酷い。12対5で大した打撃を与えられずに全滅、完敗とは。
死んでいった将兵に申し訳ない。

「しかしマゼラン1隻とは豪勢な。
と言う事はこのサイド7の軍需工場には一個艦隊分の予算が投入されているのですか?」

サイドのベイを見ながら聞く。
が、感想は正直勘弁してくれと言うものだった。
上げ足も取るしな。

「軍需工場では無く地球連邦人型決戦機動兵器製作研究所です。
ああ、サイド7の予算は正規艦隊3個艦隊分が出ています。
もっとも、ガンダム3号機など開発した機体はジャブローに送っているのでここにはガンダム1号機と2号機、それにMBTのガンタンクが6台、ガンキャノンが10機ですか」

「防衛は?」

少し気になったので紺のネクタイを直しながら聞いてみる。
油のにおいがきついな。
それに大きい。映像で見たザクとは違い、より人に近い感じがする。
もっとも顔まで人型にする必要があるのかは疑問だが・・・・・テム・レイ氏の顔を見るに聞いてもどうやら無駄なようだ。

「ここはルナツーの裏側ですよ?
ジオンが攻めて来る筈がありません。絶対に不可能です。
ジャブロー並みに安全ですよ、大使殿!」

ばんと背中を叩かれた。
全然心配ない。
そう彼が言う。

「そ、そうですか。
レイ部長がそう言うならばそうなのでしょう。
・・・・・・我々は辞令の影響で明後日にはスカイ・ワンでルナツーを経由して地球に戻らなければなりません。
良かったら食事でもどうですか?」

「それは良い。息子のアムロを連れて行っても良ければお願いします」

「もちろん親子そろって」

こうして私はガンダムと出会った。
カラーリングは黒と灰色で、白を基調下2号機以降は実際に目をする事は出来なかったが、それでもガンダムに会えたことが有意義な体験になるのは間違いないと後日私は振り返る事になる。



5日後。私たちは水と塩の補給の為ルナツーに寄港した。
そこでは昨年末の戦時の様な重々しさは無く、平常運転が続いている。
現在のルナツーには宇宙艦隊司令長官のレビル大将、第3艦隊から第5艦隊を複合指揮するティアンム中将、第6艦隊のカニンガム少将、第7艦隊のワッケイン少将がいる。
第1艦隊と第2艦隊は伝統的に連邦軍の中でも北米州と極東州の将官(それも中将)が担当している。司令官はアサルティア中将にナンジョー中将。
シャトルがドックに入港し、与圧される。
ここでは護衛の者達も3日間、つまり補給完了までは無条件の休暇をもらえる事になっている。ダグザ大尉だけが渋い顔をしていたが無理矢理休ませた。

(毎日働きづめじゃあ倒れるだけさ)

と、思って。
妻は最低限の荷物を購入してくると言って軍服のままPXエリアに向かっていった。
私は大使として話を聞きたいと言うレビル将軍とティアンム中将、アサルティア中将、ナンジョー中将のいる艦隊司令官用会議室に向かう事にする。

「よく来たなウィリアム。歓迎するぞ」

握手する。
確かに一時期はバカ軍人と侮ったが、実際はここまで優秀な連邦軍人はそうはいない。
自分の見る目がないのが恥ずかしい。
穴が在ったらそこに入りたいくらいだ。
そう思う、いや、冗談も比喩も無く本当にそう思う程レビル将軍のカリスマ性は凄い。

(もしも自分が軍人だったら喜んで戦場に行くな。
まあ、1000%そんな事は無いから好きな事が言えるのだけどね。リムが行くと言った足を撃ちぬいてでも行かせないぞ)

などと過激な事を思っているとまた紅茶が出てきた。
ジオンに赴任していた時と良い、何か紅茶に思い入れがあるのかな?
昔の大英帝国の支配層に倣っているとか?
あ、ワイアット中将はイギリス出身だからそうか。

「さてと、紹介も終わった事だし・・・・衛兵。
悪いが呼ぶまで下がってくれ。君たち従卒もだ。
これからこのやり手の大使殿と秘密会議だからな」

そういって四人は円形のソファに腰かける。
中心には丸いプラスチック製のテーブルと確か原子力空母ニミッツの模型が置いてある。
部屋はかなり広めで標準的な士官ルーム。
机とその上に置いてあるのはレビル将軍の私物のビッグ・トレーの模型にBMWの新車模型が自己主張していた。
あれを見ると彼が陸軍出身の転向者だと言う事を思い出させる。
まあ、それももう30年近く昔らしいが。

「そうですね、ジオンは軍備増強を進めています。
嘗て無いほど過激に。私の予想では今年中に開戦の号砲を鳴らすと思いますよ」

事も無げに言うがそれが事実だろう。
三大経済圏や地球=コロニー間経済圏から除外されているジオン公国にとって今の軍備は明らかに不相応。
このままいけば崩壊か戦争しか無く、こういう時に独裁国が取る道は大抵決まっている。開戦だ。
それは歴史上の君主国だけでなく共和国もそうだろう。

(誰だってじわじわと迫る破滅よりも・・・・ええと、妻の言っていたキヨミズノブタイカラトビオリル方が良いに決まっている)

と、ここで全人類必須のアイテムとなっている感のある情報端末を持ち出す。
ジオンの軍備増強と枢軸国側との交易活発化、それに伴う非連邦加盟国群の軍の臨戦態勢の強化が出ていた。

「非加盟国がジオンと共同歩調を歩んでいます。もちろん、これに証拠はありませんが状況からそう推測されます。
見てください。北朝鮮と韓国の軍事境界線です。明らかに北の戦力が南下してます。
また、上海郊外の上海基地には中華人民共和国海軍の二個艦隊が、大連から黄海へ「革命」「同志」の二隻の原子力空母が出港しています。
台湾への恫喝とオキナワ基地への牽制でしょうね。
これを理由に極東州とアジア州は連邦宇宙軍への増税を拒否。むしろ空軍と海軍への戦力確保を要求しました」

レビル将軍とティアンム中将はともかく、アサルティア中将、ナンジョー中将は状況が理解できたようだ。確かアサルティア中将はグアム島の、ナンジョー中将はコーベの出身だからコロニー、正確にはサイド3との貿易で軍備を近代化した共産中国の脅威を地肌で感じているのだろう。

「それとイラン地区とシリア地区ですがこちらはザクⅠを使った機動部隊を編成しているようです。
中には少数ながらもジオン製と思しき大型輸送機やVTOLらしき戦闘機なども見れます。
宣戦布告は無いでしょうがアラビア州とイスラエルは戦力増強を求めているので陸軍が15万名ほど増員されます。しかも金のかかる機甲師団です」

と言う事は。
もう言わなくても分かる。

「ウィリアム。つまり連邦政府は足元の火消しに躍起になっていて宇宙の革命騒ぎは忘れていると言う事か?」

ティアンム中将が的確に聞いてくる。
私は頷いた。

「まさにそうでしょう。ジオンの艦艇は150隻。こちらは500隻以上。
常識的に考えて負ける筈がないのですから。
そう思えば・・・・・増援、来るのですよね?」

言っていて不安になる。
それに答えたのは珍しく不機嫌そうなレビル将軍だった。

「増援は来る。ただし、コロンブス改が20隻とサラミスが20隻だけだ。
君が脅威と感じたMSは一機もない。理由は分かるかな?」

アルマーニのスーツとシャツだから風通しは良いはずだ。
しかも今日はネクタイをしてない。
好意に甘えたところもあるけど・・・・・ならばなんでこんなに汗をかく?
ここは宇宙要塞だぞ?室温は25度で保たれているはずなのに。

「地上軍に優先配備する、と?」

ジャブローのモグラどもは自分の事しか考えてない。
要約するとレビル将軍とティアンム提督はそう言いたいらしい。
コロンブス改に乗せているのはビーム砲搭載のコア・ブースター戦闘攻撃機240機。
確かに大規模な増援だが、本当に大丈夫なのかな。
が、ここでちょっと気になる。祖国アメリカ出身のアサルティア中将と極東州のナンジョー中将が何も言わなかった。

(戦力不足、特に艦載機に不安は無いのか? それとも何か秘策があるのだろうか?)

そう思いつつも議論はふける。

「ああ、ゴップ大将から君宛に艦隊を配備する様言われていたな。
見たまえ、サラミス級後期生産型。我が軍初のメガ粒子砲を4門も搭載した新型だ。アクティウム、ツシマ、レパントの三隻だ。
そしてこれが代わりの強襲揚陸艦ペガサス。
指揮官は歴戦のたたき上げであるエイパー・シナプス中佐。
いや、まもなく大佐に昇進するか。とにかく彼が第14独立艦隊指揮官として君らを護衛する」

唖然となる。あの時も思ったがこの厚遇は何だ?
次は何をさせる気だ?
ジオン本国に攻め込んでギレン氏を殺して来いとでも言われそうだ。
ああ。畜生、畜生、畜生!!
何度でも言うけどな、おれはただの一般人なんだよ!! 
あんたらエリート軍人やパラヤの様な政治屋と一緒にしないでくれ!!!

良く見ると、先ほど言われたように大型ディスプレイには次期砲撃戦強化型サラミスKが三隻映し出されていた。

まだ一隻も艦隊に、そう正規艦隊にさえ配備されてない新型巡洋艦が護衛?
一体何の冗談だ?
今日は4月1日だっけか?
不思議だ。私は・・・・・俺はどうやらいつの間にか地球連邦の閣僚か高級軍人になってしまったようだ。
どこで道を間違えた?
幼馴染のリムについて都会に行かず、カナダで田舎の仕立て屋を継げばよかったんだろうか?
第一に総数4隻と言う数からして可笑しい。
艦隊戦力として考えれば少ないし、ただの偵察部隊にしては明らかに多い。過剰だ。
しかもティアンム中将が言うには、艦隊の正式名称が第14独立艦隊?
つまり戦場の便利屋。火消し役。体の良い捨て駒。
何だかんだと理由をつけられて俺が乗っていても前線に行くのだろう。
連邦軍の切り札だ。戦況悪化にすれば純軍事的に、圧倒するなら政治的に戦線投入が要請されるだろうからな。

(流石に自分可愛さに味方を見捨てろなんて言えない!!
ああ畜生め、畜生のくそったれめ!!! なんて厄介なんだ!!!)

しかも説明の続きでは5月にはペガサス級1番艦『ぺガサス』がMSと共に配備されるらしい。

「サイド7で見た、ここルナツー所属のガンキャノンですか?」

ティアンム中将が人の良さそうな顔で疑問に答えてくれた。
もっとも、こちらとしては堪ったモノじゃなかったが。
本気で殺意がわく。必死で消してるけど護身用の拳銃で目前の提督方に説教したい気分だ。

「いいや、違う。テスト兼ねてRGM-79ジム初期型だ。搭載機は9機。
ただし受領はサイド7で、それも7月中旬になる。
パイロットはカムナ・タチバナ中尉以下の第1小隊、マット・ヒィーリ中尉以下の第2小隊、マスター・P・レイヤー中尉の第3小隊の三つ。
徹底的に改装しているから、CIC要員は女性オペレーターが3名で連邦軍随一の綺麗どころの艦だ。
きっと、気にいって貰えると思うよ」

もう笑うしかない。
これは死んだ。
きっといろいろと難癖付けられてコロニー防衛戦やらジオンへの通商破壊戦やらと戦争に投入されるんだ。
ああ、そうか。
アヴァロンのクソじじいはだから俺にこんな対ジオン特務大使とかいう役目を俺に任せたな!?
俺に死んで来いと言っているのだ!!
たった4隻で・・・・・しかも使えるかどうか分からない艦載機が9機しかない状態でどうしろと言うんだ!?
俺たちは超能力者じゃないんだぞ!!

(なんとか・・・・・こんな如何にも個人の武勇最優先で行くジオン軍の撃沈候補No1のような独立任務部隊から逃げなきゃ。
逃げなきゃだめだ。絶対に逃げなきゃだめだ。絶対の絶対逃げなきゃだめだ!!!)

が、悪意の無い善意程たちが悪いものは無かった。
彼は止めを刺してきた。
レビル将軍は一通の辞令を読み上げる。

『リム・ケンブリッジ中佐をペガサス級強襲揚陸艦一番艦ペガサス艦長に任命する
なおルナツーにて結成式を行う。
第14独立艦隊結成は8月1日を予定し、それまでに全乗員は訓練を完了せよ
また、ウィリアム・ケンブリッジ政務次官も参加する事』

この時私は最高の上司のアヴァロン・キングダム首相をぶん殴ってやろうと思った。
いや、あのくそじじいが引退したら絶対にぶん殴ってやる。

代わりにジャブローの児童養護施設に二人の両親らと共に住居を提供させ息子と娘を預ける事は認めさせた。

やがて四人の中将から解放されると妻の待つ居住区に向かった。
この時戯れによった士官食堂でレイヤー中尉とダグザ大尉と遭遇したので食事を一緒にすることにした。

その時レイヤー中尉が、

「戦争になりますか?」

と、ストレートに尋ねてダグザ大尉に怒られていた。
私も思わずストレートに、

「なるね。今年の秋ごろが怪しい」

と、言い切った。
お蔭で近くにいた連邦軍の将校らにパネル・プレゼンをする羽目になった。
だが、それが原因なのか少なくともルナツーでは弛緩した空気が若干ではあるが引き締まったとして帰り際にティアンム中将から感謝状を受け取る事になる。

「ウィリアム・・・・・私って魅力ない?」

部屋に帰ってずっと連邦政府へのレポートを書いていた私は途端に現実に引き戻される。
妻のリムが下着姿でシャワー室から出てきたのだ。
気が付かなかった。
軍事訓練によって引き締まった肢体は昔と変わらずに美しかった。

(幼馴染の彼女を口説くためだけに大学にいったんだけ。
あの時は若かったなぁ。士官候補生を口説くのは一流大学の出身者だけだなんて・・・・学歴と知性や教養は全く比例しないのに)

まあ、そのあとは昔のゲームのセリフ通りの展開だったので割愛する。





宇宙世紀0079.06


「植民地人と北の荒熊、宇宙がうるさい」

かつてEU本部がおかれ、現在は統一ヨーロッパ州の州都があるブリュッセルで議長が発言した。
無論、非公式な発言である。
が、その発言自体が統一ヨーロッパ州全体の意見統一に大きな弊害が出始めていた証左だ。
例えばキプロスはシリアへの物資輸送に港を提供。
ロシアは極東軍拡大の為オデッサ防衛の任務を軽視している。
他にも成人病などで州軍の質の低下が著しい。兵器も一部を除けば一世代から三世代過去のモノ。
止めに統一ヨーロッパ州にはオデッサ防衛の7万以外の地球連邦陸軍は3万しか駐留しておらず、それもモスクワ、ベルリン、パリに三分割されている。

「戦争の夏は近いが・・・・・ジオンは宇宙で阻止すべきですな」

ドイツ首相の言葉が彼ら統一ヨーロッパ州の意見を集約していた。


一方、極東州でも極東州を構成する三カ国会談が持たれていた。
その三人の女政治家らが話した詳細な内容はまだ明らかではないが、アジア州と共同して中華を大陸に閉じ込める事を決定する。
また、不穏な動きを見せる北と中華に対抗する為に地球連邦軍の朝鮮方面軍、台湾方面軍、インドシナ方面軍の三軍90万人に準動員体制への移行を連邦政府に求める事で一致した。
アジア州もそれに追随する。


オセアニア州、中米州、南米州、インド州はジオンの対応を傍観する事で一致。
わざわざ火の粉をかぶりに行く必要はない。火中の栗は連邦政府自らが取りに行けばよいと言うスタンスを維持する。
また、経済格差によって貧困層の多い中米、南米は増税に反対であり、軍備拡張の増税はまずはスペースノイドからと言う論調を張りスペースノイド全体の失笑と怒りを買っていた。


南北中央アフリカ州の内、経済発展が遅れ資源搾取状態の中央アフリカは非加盟国とジオンを支持し連邦議会で大演説をぶちかます。
北は地中海経済圏の恩恵を受けているからそうでもないが南もきな臭い。アフリカ方面の連邦軍最大軍産民複合拠点のキリマンジャロ基地がなければ南アフリカ州もそうなっただろう。

更に時は下り、宇宙世紀0079.07.15
中立を保っていたアラビア州は深刻な内部対立に悩まされていた。
シリアが聖戦を唱えた。
しかもイェルサレム奪還の為にジオン軍と協調するとまで言ってきた。
連邦政府は政教分離が原則なので無視したが、ムスリム人口が8割を数えるアラビア州はそうはいかなかった。


ギレンのうった手は全て芽が出てきた。
まず地球連邦軍並び地球連邦政府は地上に意識を集中させしすぎた。
仮定の話だが、地球全土が一つの政府に統一されていたらこのような事態は無く、総人口100億近い連邦に、恐らく1億前後のジオンが無謀且つ大虐殺者と言う汚名を被る作戦を展開しなければならなかった筈だ。
が、状況は幸か不幸か大きく変化している。

あの独立交渉で自らが倒れた事さえも奇貨とした。

地球連邦政府は宇宙軍による(陸海空宇宙海兵の5軍全軍の共同要請では無い点に注意)度重なる宇宙艦隊増強要請を無視した。
ジオンの内部対立を殊更声高に叫んだサスロ・ザビの情報操作に連邦市民は乗せられ、ジオン恐れるに足らずと思っている。
そして連邦内部での政治力学をひっくり返すまたと無い好機として見据える各州、反連邦の掛け声と連邦弱体化を望む非連邦加盟国の面々。



舞台は整う。



宇宙世紀0079.08.02 12.00

ギレン・ザビがおよそ半年ぶりにマス・メディアの前に姿を現す。
そして総帥杖が弟のサスロ・ザビから返上される。
どよめきを余所に公王府の前にあるジオン革命広場に集結した全ての人間の前で宣言した。

「私はジオン公国総帥、ギレン・ザビである。
我がジオンが自治権要求の運動を行って既に四半世紀。だが、これに対して地球連邦はいかなる回答して来たか?
諸君、ジオン国国民ならば知っていよう。応えは否だ!!
地球連邦の現政権は歴史上の当然の帰結であるスペースノイドの自治権確立と独立承認要求に対して武力と経済制裁で対応してきた。
これは歴史上事実であり、誰もが経験してきた屈辱の歴史である。
だが、戦争行為は悲惨である。これは旧世紀の大戦が証明している立派な事実だ。
それでも!!
我がジオン公国は耐えてきた。屈辱的な外交交渉を積み重ね、妥協に妥協を重ねてジオンの独立為に平和裏に活動してきた。
だが、その結果は連邦軍の威圧と言う行為である!!!
こと、ここに至って我がジオン公国は自らの国家主権獲得の為、全スペースノイドノ自由獲得の為の鏑矢となるべく一つの決断を下す!!
宇宙世紀0079.08.03午前零時を持って、我がジオン公国は地球連邦政府に対して宣戦を布告する!!!
人類史上、紛れも無い植民地解放、独立戦争を神が見捨てる筈がない!!
諸君。共に現地球連邦政権を打倒し、我らサイド3に住む5億5千万の民の正統なる権利を得よう。
ジーク・ジオン!!」




[33650] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:9ef01505
Date: 2013/04/24 13:34
ある男のガンダム戦記06 

<狼狽する虚像>




宇宙世紀0079.08.03.
地球から最も遠いスペースコロニー、サイド3はジオン公国を名乗り地球連邦政府に対して宣戦を布告、独立戦争を仕掛けてきた。
宣戦布告開始時刻と同時にジオンは行動する。
サイド1ザーン、サイド2ハッテ、サイド4ムーア、サイド5ルウムの四つのサイドにサスロ・ザビが最後通牒を突き付けた。
宣戦布告から僅か30分後の事である。
直通回線で突き付けられたのは以下の通り。

・各コロニー駐留連邦軍の退去。
・連邦駐留艦隊の武装解除並び艦艇の引き渡し。
・局外中立の宣言。
・制限時間は12時間。

これらを守らない、施行しない場合は四サイドを地球連邦と見なし攻撃する。
また、その際に民間施設への攻撃、コロニー本体への攻撃も辞さない。
更に、だ。
これらの責任は四つのコロニー自治政府と連邦軍に責任がある。
もっとも、12時間では世論を誘導するどころか政治家らが決断を下す事さえ出来なかっただろう。よって殆どこの攻撃は決定されているものと各サイドは判断した。
ジオン側に交渉する気はない。このままでは先制攻撃を受けるだろう。

『やられる前に、やれ!』

ドズル指揮下の主力艦隊がソロモンを出発し、行方が分からなくなって既に24時間以上。
不安の身が各サイドの上層部に蔓延した。
そもそも連邦軍が優勢なのは総数であり防衛拠点ごとに見たらジオンと同等かそれ以下しかない。
コロニー自体もソロモン要塞や資源開発衛星だったルナツーの様な頑強さは持ってないのだ。まさかコロニーで決戦など考えるだけでおぞましい。

『このままだと攻められる、戦火が市民に及ぶ。
そうなる前に、ジオン軍が攻めて来る前に攻めろ。幸い時間的余裕はあるのだ。ジオンの出鼻をくじけ。
ジオン艦隊の帰る所を占領して根無し草にし、逆にジオン艦隊を武装解除させろ!』

恐怖と期待感と楽観がない交ぜになった地球連邦政府の各コロニー連絡府と各コロニー自治政府、加えてエアーズ市、グランダ市にある月面方面艦隊は数隻の護衛艦を残してソロモンとジオン本国を突く事とする。
戦前に検討された戦略の一つの様に。

と言う理由から、つまり市民感情からか、ソロモン要塞と隣接したザーン、ムーアの二つの駐留艦隊は先手を取る事を決定。
それぞれ周囲の偵察艦隊や独立艦隊を合流させて凡そ30隻ずつ、合同艦隊を編成しソロモンを二正面から強襲・・・・・しようとした。

だが、その目論見は外される。



漆黒の闇の中で一際目立つ赤いゲルググがビームライフルを構えた。
目標は至近距離。
いくらミノフスキー粒子散布下とはいえ外す訳もない。
士官学校を次席で卒業したパイロットは躊躇なく引き金を引く。
粒子が加速し、ビームが銃口から三度発射された。その高熱は、エンジンを守る巡洋艦の装甲を簡単に貫通したようだ。
光が突き刺さり、暫くして爆発する。
直ぐにMSのメインブースターを使い距離を稼ぐ。
撃沈した巡洋艦の発生させるデブリにぶつかって墜落してしまうなど彼の矜持が許さない。

「これで二隻め、か・・・・・MS-14ゲルググ。
前に乗っていたカスタムザクとは大違いだ。ビーム兵器標準搭載機・・・・・・使えるな」

サイド1方面から来た連邦軍を迎え撃っているジオン軍。
ザンジバル級機動巡洋艦と新型機ゲルググのみで編成されたジオンの切り札の一つ。
通称、特別教導艦隊である。
ジオン軍は思い切った手をうつ。
ドズルの第一艦隊はその全力をサイド2、サイド4に向けたのだ。
そしてサイド1方面の連邦軍には4分の1程度の戦力で抑えるようにした。
その為の切り札が、7隻だけで編成されたザンジバル級であり、ジオン初のビーム兵器搭載艦載機のゲルググであった。
しかも「黒い三連星」や「青い巨星」、「荒野の迅雷」と呼ばれる事無になるエースパイロット部隊が多い。
また、三連星や巨星、迅雷などはチーム戦を重視する指揮官らであり、個人の武功に走る傾向のあるジオン軍の中で異質の存在。
よって連邦軍にとっては組織面でも性質が悪い。
ジオン軍が個人で攻撃してくるなら数で圧倒できたかもしれないがミノフスキー粒子下の戦闘を想定した組織戦を仕掛けられては正直なところ手も足も出ないと言って良かった。
実際、艦載機が100機前後だったサイド1駐留艦隊はミノフスキー粒子散布後の戦いでは完全に後手後手に回っている。
と、赤いゲルググのパイロットが次の獲物に狙いを定めようとした時、レーザー通信が入る。

『四番艦フェンリルのゲラート・シュマイザー少佐だ。戦場にいる全機に通達する。
これより我が艦のフェンリル隊は敵旗艦右舷後方下部より総攻撃を仕掛ける。
他の部隊は混乱に乗じ、残存艦隊を各個撃破せよ』

そう言って一隻のザンジバル、『フェンリル』にて編成された闇夜のフェンリル隊が攻勢に転じる。
傍らにはケルゲレン所属のノリス・パッカード中佐の紺系統のゲルググが部隊を指揮し、北欧神話の狼の進撃ルートを切り開くべく、90mmマシンガンで連邦軍の艦載機を次々と落とす。
一撃で火を噴き誘爆するセイバーフィッシュ。
彼の指揮下にある機体は全てビーフライフルでは無く、MMP-90マシンガンに換装していた。
これは最初から決まっていた事で、半分のゲルググは制宙権を確保するべくセイバーフィッシュを弾幕を張れるマシンガンで狩り出している。

・・・・・そう、既に戦闘は狩りとなっていた。
依然として連邦軍が秩序だった行動を取り、虐殺に突入して無いのはマゼラン級戦艦が2隻おり、艦隊戦力として10隻歩健在だからに過ぎない。

「ふむ・・・・・この戦線の均衡もこれで崩れるな」

とビームナギナタで目の前に来たセイバーフィッシュを落とす。
中にはソロモン要塞攻撃用だったと思うパブリク攻撃艇もいた。
攻撃機を迎撃に投入している時点で勝敗は決していたのかもしれない。
どちらかと言うと機関砲よりも撃墜すると対艦用ミサイルごと爆散するので逆に注意している。

『各機、下手に近寄るな。敵機の爆発に巻き込まれるぞ。
落ち着いて正確にかつ慎重に行動しろ。360度上下前後左右の警戒を厳に』

レーザー回線越しにノリス中佐の命令が聞こえる。
ノリス指揮下のケルゲレン中隊もまた圧倒している様だ。

「ふーむ、流石は教導大隊出身者。
ザビ家の私兵であるジオン親衛隊に匹敵する艦隊と言われるだけはあるな。
ほぼ無傷で4倍の敵を殲滅する、か」

パイロットのシャア・アズナブル中尉は更に一隻のサラミスを轟沈させつつ呟く。
ビーム兵器とミノフスキー粒子、MSの機動性は連邦軍を完全に圧倒していた。
セイバーフィッシュの機関砲ではMSの装甲は貫通できず、搭載している対艦ミサイルは無線誘導なのでミノフスキー粒子散布下では当たらない。
さらにまぐれ当たりでも装甲が強化されたゲルググのシールドに弾かれてしまう。
そして機動性、加速性、旋回性、火力で圧倒するMSの前にただなすすべもなく撃破されていく。

「さて、次は連邦軍のMSを叩かせてもらおうか」

そう言うとシャアは僚機を尻目に一気に旗艦と思われるマゼラン級に突撃した。
1機のガンキャノン初期型が肩のキャノン砲を放つがそれを余裕を持って回避する。

「甘いな!」

思わず叫ぶ。
ビームライフルを腰につけ、ビームナギナタを使いガンキャノンを正面から一刀両断にした。
数瞬の後、自分と同じ赤い連邦のMSは爆散。新たな宇宙ゴミとなる。
続いてそれらの僚機と思われるガンキャノンのマシンガンの火線が向けられるも、左足でデブリを蹴ると言う荒業で一気に距離を取り回避。
そのまま仰け反る様な視線と姿勢でビームライフルを2斉射。左側のガンキャノン初期型を撃墜。
もう一機は逃走しようとして、青いゲルググに後ろから撃たれた。
そのまま残存艦隊へと襲撃をかける青いゲルググとのその指揮下の部隊達。
それを見て独語するシャア。

「しかし・・・・・ソロモン要塞から艦隊を発進させ、その後に各サイドを脅す。
敢えて大量破壊兵器を保持しつつも戦略的な奇襲をせずにソロモンを攻めさせる。
ソロモンを攻めなければ各サイドの自治政府が倒れる、虐殺される、戦場にされると錯覚する様に仕向けるとは・・・・サスロ・ザビの情報印象操作、あなどれん。
そしてそれを見越したギレン・ザビ。
そのギレンの思惑を戦術面、戦略面で昇華させているドズル・ザビ」

団結したザビ家は自分の予想をはるかに超えていた。
その結果がこの戦いだ。
30対7という劣勢は関係ない。MS隊は敵を圧倒しており、まもなく戦力比は4対7になる。

(まさかこれ程とは・・・・・・やはりガルマを利用するしか無い様だ)

戦場で謀略を巡らせるその姿は正に余裕。
それを象徴するかのように黒いバックパックを改良したゲルググ三機が後方に陣取っていたマゼラン級を斜め上空から攻撃。
見事な編隊運動で11発ものビームを叩き込み、そのままマゼランは沈黙、爆発させた。
今回投入される予定の63機のゲルググは開き直った軍部と財務官僚によって決戦兵器に位置付けられた。
その為、全てのゲルググが別物として特別改修されている。整備兵曰く、『くたばれ』というから余程の事なのだろう。

(確かミゲル・ガイア中尉だったな。
彼らは私に反発しているからな・・・・・駒にはならんか・・・・・あれはランバ・ラルか?
ランバ・ラル隊18機はこの部隊でも最大級で更に白兵戦の玄人たち。私のファルメルと合流すれば27機。
約半数・・・・手札は多い方が良い。しかし、あくまで信じられなければ意味がない。
戦闘のプロとしては良いがギレンやドズルに尻尾を振る現状、ザビ家の犬と言う現実・・・・・あまり認めたくないものだ。
地球への脱出まで支援してくれたラル家が私たちを見限ってザビ家につくなどとは、な)

そう言いつつも残敵掃討段階になった戦場でシャアは予備兵装の90mmマシンガンで敵航宙機を撃墜する。
ソロモンを挟撃する事で攻略せんと欲した連邦軍60隻の内サイド1駐留艦隊は予想外の抵抗に遭遇し、壊滅する事になった。

『バカな!! 諜報部の報告ではジオン艦隊はルナツーを狙うのではなかったのか!?』

『味方は如何した!! MSがこんなに強いなんて聞いてないぞ!!』

『こちらガダルカナル、航行不能。艦を放棄する。繰りか・・・・』

『来た! 青いやつだ!! 青い奴らの一つ目の群だ!!』

『情報部のくそったれぇ!!!』

『いやぁぁぁぁぁ』

ミノフスキー粒子散布下でかすかに聞き取れる連邦軍の通信は完全なパニックだった。
爆散する連邦軍の艦載機。一刀両断にされるガンキャノン。
逃げ出す巡洋艦に、伝説の魔獣のエンブレムを持った新たなる兵器の群によって沈められていく戦闘艦。
もう軍隊として機能してない。
こうして連邦軍サイド1駐留艦隊は、0079.08.04の正午を迎える前に、サイド1のほんの少しを出た場所で、4分の1の敵に捕捉され壊滅した。

この緒戦、サイド1攻防戦の損害比は凡そ5対1.
ゲルググ2機の完全喪失だけで200機を超すセイバーフィッシュ、パブリク攻撃艇、ガンキャノン初期型の混合部隊と2隻のマゼラン、25隻のサラミスが永久に失われた。


一方、ドズル・ザビ指揮下の第1艦隊も似た様な結末を敵に与えていた。
8月1日にソロモンを出港して敢えて熱源を絶つ。慣性航行に入りそのまま24時間待つ。
連邦軍はミノフスキー粒子の高濃度散布下の宇宙を進まざるをえず、その為かサイド1側の戦闘の救難通信を見逃した。
見逃したと言うと語弊がある。
正確には聞いたが内容が分からなかったと言える。
決断を下せなかったというベキかもしれない。

『全艦隊、主砲用意。目標、ソロモン要塞!』

僅か30隻でジオン最大の要塞を攻略する事に不安しかわかない将兵。
それでもソロモン要塞に攻撃をかける。
時間さえ立てばサイド1の艦隊が援軍に来る。そうすれば駐留する艦艇が15隻に満たないジオン軍など一掃できる。
このままソロモンを落とせ! 俺たちは開戦劈頭で英雄になれるぞ、と鼓舞する指揮官。

(もっとも陸兵も居ない状況では占領なぞ出来ない。だったら艦隊だけさっさと壊滅させてその時に発生する損害を理由にルナツーへの撤退許可をもらわなければ。
部下共はともかく、俺は地球出身のエリートなんだ。こんな所で無駄死にはご免だ!)

が、口調とは裏腹にその指揮官にも不満と不安は残る。
ますます強くなる。
ノーマルスーツを着ているのに汗がびっしょりだ。
しかも艦橋の司令官席の手すりから手が離れない。

(ドズル・ザビの艦隊はどこに行った?
例のMSは何故一機も出てこない? 要塞の固定砲台以外は何故撃って来ないのだ!?)

そしてその不安は突如として舞い降りた一機のリック・ドムの手によって現実のものとなる。
緑と青のカラーリングをした、試作型ビームバズーカを装備するアナベル・ガトー大尉のリック・ドムが彼の旗艦の艦橋を撃ちぬいた。
何が起きたのか分からぬもまま絶命する司令官。
そして指揮系統は混乱し、ガトーのリック・ドムは続けざまに直援のガンキャノンをヒートサーベルで真っ二つにする。
奇襲方法は原始的。
先ずはMSに反射材を使った横断幕を傘の様に持たせ、それを展開。その後、ワルキューレのカタパルトを使って宇宙開発初期から使われている非熱源の無音潜航、慣性航行。
続いて、上空から急降下爆撃機の様な角度で先兵として敵マゼラン級を急襲。

「遅い!!」

引き金を更に引く。
今度は撃沈したマゼランの横にいたサラミスが目標となった。
此方も右舷に4発のビームを受けて炎上、大破、ミサイルに引火して即座に轟沈した。
怒りに狂ったガンキャノンの2個小隊6機がガトーを狙うが、それこそがドズルらの狙い。
続けざまに前方の艦隊に爆発が続出する。
同じよう要領で発進したリック・ドムⅡが奇襲をしかけたのだ。
戦闘機も攻撃艇もソロモン攻略に振り向けた為、直援機をガンキャノンのみに頼ったサイド4駐留艦隊も後手に回る。
奇しくもサイド1駐留艦隊と同じ様なパターンである。
それでも上方へ回頭してドズル艦隊迎撃の為に戦おうとしたのだが・・・・・それは叶う事無かった。
一撃離脱型のドムタイプが再び360mmの巨砲ジャイアント・バズという凶器を持って艦の底やエンジン部に牙をむく。
ビーム兵器を唯一搭載していたガトー大尉専用リック・ドムも即座に一隻沈める。

「これで三つ!」

ガトーの叫びに各部隊が呼応。
一斉に攻撃を強化。残っていたセイバーフィッシュ隊はザク部隊の壁に阻まれてドズル指揮下の本体にも艦隊の救援にもたどり着けず壊滅。
最早、戦力としては通告外になった連邦軍だったが泣きっ面に蜂と言うものかドズル艦隊からも艦砲射撃が後方部隊に集中する。
断末魔の悲鳴を上げる艦隊に止めを刺したのはやはりビーム兵器だった。
リック・ドムが迎撃のガンキャノンを瞬殺し、そのまま防衛線を突破。

『悪夢だ、これは悪夢だ! ソロモンの悪夢だ!!』

あるサラミス級の艦長は後世にさえ残る名言を吐き、それが戦場域に伝わったのジオン側が確認したかのように撃沈された。

完全に消滅した指揮系統。

あとはソロモンの鴨撃ちと評される程の醜態をさらす連邦軍と実弾演習と嘲笑するジオン軍だけが残る。


「撃ち方やめ!」


ドズルが態々命令を下すほどの呆気なさで所詮は終わった。

このころジオン親衛隊は月面方面艦隊を駆逐。
小規模な偵察艦隊の脱出こそ許したものの、ドロス、ドロワの艦砲とザクⅡ改の高性能さで月軌道にまで上がってきた連邦軍を撃破する。
特に大鑑巨砲主義であったマゼラン級が一方的に撃ち減らされた姿はグラナダ市、エアーズ市、アンマン市などの月の裏側のルナリアン(月市民)らの戦意を砕く。
これにギレンの政略が効果を奏して、次々と月面都市を無血開城。

エギーユ・デラーズ准将もまた圧倒的な戦果を持って、月軌道会戦を勝利に導く。
残存した5隻程の連邦艦隊は一斉にサイド5ルウムへと転進。
救援部隊であった2つの独立艦隊サラミス級軽巡洋艦8隻とコロンブス改級改装空母2隻のサイド5へと進路を取り、月面の支配者は連邦からジオンへと変わった。



「白い狼?」

偵察に出た機体から入った最後の報告。
司令官がノーマルスーツ越しに参謀に問い直したその直後、130機近いザク高機動型の襲撃を受ける。
司令官の反応が遅れた為、艦隊全体も反応が遅れた。こうしてア・バオア・クー会戦で初弾を発射したのはジオン軍の方だった。
敵は最初からMSを出していた。いたが、目立った動きがなかった。
だから判断したのだ。

『敵艦隊は自軍に自信がない。
ここ、ア・バオア・クーと呼ばれる宙域で敵を拘束する事はサイド2を守る我が軍にとって必要不可欠である。
合戦用意。敵艦隊に連邦の力を思い知らせろ』

そう訓示したのだが・・・・・見誤ったらしい。
一方的に沈むのはこちらの方だ。
ガンポッドという連邦宇宙開発局と軍が共同開発した無人誘導兵器はミノフスキー粒子らしきもののせいで使用不能。
この言葉には語弊があるか。
使用できるが当たらないのだ。100発撃って1発でもかすれば良い方だ。

(これでは戦えない。一度体勢を立て直すべくサイド2まで戻るべきか?)

マゼラン級戦艦トータチスの艦長イライザ・オロマはここにきて意見具申すべきだと判断する。

(これ以上の戦闘は明らかに失策。兵士を無駄死にさせることになる!!
既に艦艇の3分の1を失っている以上、我々はここに留まるべきでは無い。
ルナツーとルウムの戦力を合わせれば目の前のジオン第三艦隊の10倍は揃えられる。それならば今は戦力の温存を図るべきではないのか?)

そこまで思った時。
ユニコーンのエンブレムを付けた機体が紅い高機動型ザクが、同じ系統の白い高機動型ザクの支援の下、稲妻のようなスピードで崩壊しつつも対空砲にて弾幕を張る艦隊を一直線に駆け抜けた。

「不味い!!」

ナダが何か叫んだが、私は冷静に決断した。
もう旗艦は助からないのだ、と。
そして白いザクに食い破られた艦載機の群は必死に逃げながら・・・・・機動性も運動性も加速性も武装も装甲もパイロットの技量も全てに優越するMSの前に撃ち落とされていく。

「これはもう駄目だな」

副長のフェゼが絶望に浸った声で発言する。
それはレーザー通信を経由したのか他艦にも伝わったらしく辛うじて保たれていた均衡が一気に崩れだした。

『エリザ機、私の攻撃後に小隊を率いて目前のサラミス級を沈める! 行くぞ!!』

『了解しました、マツナガ中尉殿!』

拾った通信が後の白狼とよばれたドズルの最も信頼する将校の一人であるとは会戦後に知る。
ただこの時私たちの言える事は私達の前で旗艦が轟沈したと言う事実だけ。
MSなぞただの人形だ、そう言ってこちらのMS隊をサイド2に置いてきた艦隊司令官は戦死。

『月面方面艦隊並び各地の独立艦隊と合流し100隻の大軍となって迎撃に出るジオン軍を撃破する。
その後はそのままサイド3へ直行。
よろこべ貴様ら、2週間以内に公王府で無礼講だ』

といった司令官はア・バオア・クーと呼ばれるジオン軍の要塞の直前で戦死した事になる。
直ぐに艦橋から発光信号弾と発光信号、レーザー回線、シャトルを出して味方を、数少ない生き残りを纏めようとする。
この間、自分の艦が生き残ったのが不思議なくらいだ。ノーマルスーツ内で思わず吐きそうになった。
ストレスだ。

『これより艦隊の指揮はトータチスのイライザ・オロマ中佐が取る。
全制宙戦闘機隊は一撃離脱を行いつつ後退せよ。サラミス級を!」

『二隻沈没。真紅と白いザクがそれぞれ単機でやった模様!!』

『被弾したサラミス級を放棄。乗員は白旗を掲げ降伏せよ。
戦闘可能艦はこのまま後退しつつ戦闘を続行。後退先はサイド5のルウムだ』



この発光信号を解読したジオン軍は攻勢に転じた。
特にティベ級とムサイ後期生産型という火力よりも防御力、MS搭載力、速度を重視している艦隊なので追撃戦にはもってこいの艦隊だ。

(しかも司令官はドズルが最も信頼する機動艦隊の指揮官コンスコン少将。恐らくは直ぐに戦線を再構築してくるだろう)

イライザの予想通り、ジオン軍の艦隊が前進を開始する。損傷艦らしい損傷艦を持たないジオン軍はまさに烈火のごとく攻撃を強めてきた。
何より、補給の為に帰還した高機動型ザクの大半が損傷らしい損傷をしておらず、直ぐに戦線へと再投入できたのが良い。
そんな旗艦ティベの控室。

「あんた、シン・マツナガ中尉だろう?」

コンスコン少将の旗艦ティベのパイロット控室でソフトドリンクを飲んでいたシン・マツナガ中尉は紅いノーマルスーツの大尉から話しかけられる。

「そうであります、大尉殿。何かご用でしょうか?」

敬礼して背筋を伸ばす。
それを見て大尉は手をひらひらさせた。
「堅苦しいのは無し。それにあんたも俺も同じ少佐だ」と言う。
そう言ってポケットから情報端末とメモリーディスクを渡す。
メモリーディスクには二つの昇進に関する辞令があった。

『先の戦闘に対して貴官の奮闘に敬意を表し、二階級特進とする シン・マツナガ中尉』

『先の戦闘に対して貴官の奮闘に敬意を表し、一階級昇進とする ジョニー・ライデン大尉』

と。
どうやら高機動型ザクの火力不足を考え、MS隊の指揮官としてサラミス級を集中的に沈め艦隊としての戦力を削ると言う案をコンスコン少将は高く評価して下さった様だ。

(これからも恩義あるドズル中将の期待に応えなければな)

「そうそう、それをさっき廊下で伝令から受けとったんでな。
せっかくだしマツナガ家の跡取りのあんたとも話したくて・・・・・どうだ、この戦いが終わったら一杯付き合わないか?」

自分とは正反対の性格。
軽い人間だと悪く捉えられる事もあるだろうに、それを感じさせない底抜けの明るさ。

「良かろう。お互い生き延びて祝杯を上げよう」

その言葉を待っていたとばかりにライデン大尉、いや、少佐は右手を差し出してきた。
ノーマルスーツ越しだがしっかりと握る。

「ああ、とびっきりの美味い日本酒とやらを期待してるぜ、マツナガ少佐」

「ああ、任せてくれ。ライデン少佐」

それから5分間ほど他愛ないお喋りをしていたが、再出撃の準備が整ったという整備班の報告を受けてブリーフィングを行う。
既に連邦艦隊は半数を消失し宇宙のゴミと化していた。戦闘よりもそのゴミを回避する方が大変だと言う雑談が聞こえる。
残りの半数も無傷な艦は片手で足りる。
更に敵はサイド2を見限り全速でサイド5にいる味方と合流するつもりだ。
つまり、無防備な後方を晒しながら逃げ出している。士気の面で圧倒的優位に立ったのは間違いない。そう白狼は思った。
ブリーフィングルームでは司令官自らが訓示を行っている。

「司令官のコンスコンだ。貴官らにはまだ苦労を掛けるが・・・・・申し訳ないが・・・・もう一働きしてもらう。
さて、この敵艦隊だが連邦軍の友軍と合流されると厄介極まりない。
何故ならこの艦隊はMSの戦術に関するノウハウを持っている。我々に敗れた事それ自体が貴重な情報源となり、我が軍のMS戦術解明に利用されるだろう。
よって、出来うる限り叩く。情報を遮断する事が目的であるので撃沈よりも撃破に集中してほしい。
また、義勇外人部隊が後続部隊としてサイド3を出発した。
我々はその露払いという役目もある。
サイド2占領は総帥府の厳命である以上、この艦隊を徹底的に叩くことは戦略上の要請であるが・・・・・・なに質問は?」

そこでライデン少佐が手を挙げた。

「その義勇外人部隊とは?」

コンスコン少将も詳細は知らされてないらしい。が、地球連邦軍に比べて考えるのも馬鹿馬鹿しい位人的資源に劣るジオン軍では珍しく、多くの陸戦兵員を乗せた補給艦と強襲揚陸艦を持つ部隊である。
MSはリック・ドムが基本となっている事、海兵隊が所属している事などを挙げた。

「要するにサイド2の占領軍ですか?」

「おい」

ライデンの余りにも愚直な意見に思わず注意した。

「貴官の言う通りだ。
仮に宇宙で補足された場合、サイド2占領は延期か失敗に終わり、このア・バオア・クー会戦はピュロスの勝利に終わるだろう。
各員の健闘に期待する。他に質問は?」

そうしている内に会議は終わる。
といっても5分も無かったが。
誰も手を上げない。ここで一々聞いているようでは軍事大国ジオンの屋台骨を支える事など出来はしないだろう。
それは戦友たちも分かっている。

「何もないか。では各機、再発進だ。
連邦軍サイド2駐留艦隊を徹底的に叩け!」



この後直ぐにコンスコン指揮下の第三艦隊は猛攻に転じた。
結果、マゼラン級であり臨時旗艦のトーチタスは轟沈。
乗員も6割が戦死した。
臨時の旗艦で損傷著しいとはいえ最強の一角と信じていたマゼラン級がこうも簡単かつあっさりとMSに沈められた事実は衝撃以上の何かをサイド2駐留艦隊にもたらす。
そしてサイド2駐留艦隊は少なくなった戦力を二手に分ける。
サイド5へ撤退する艦隊と、近場のサイド2に逃げ込んだ艦隊である。
特に酷かったのは逃げ込んだ艦隊の方だ。
負け戦で気が立っていた連邦兵は首都バンチの駐留部隊共同歩調を取るかのように、サイド2市民に対してあらん限りの乱暴狼藉を、首都アイランド・イフィッシュで行う。
この為、反連邦感情が一気に噴出。
勝ち馬に乗る、或いは恐怖、若しくは抑圧からの解放や後ろめたさからなのか、教条主義的なコロニー解放運動がサイド2にて発生。

この運動が暴動になり、暴動が反乱になるのは時間の問題であった。
ギレンの戦略の下、サスロが各地のサイドで編成した親ジオン派閥の武装決起は戦力の空白が発生した各サイドで発生するがそれはこれより若干あとである。
兎にも角にもジオンの占領軍である義勇外人艦隊とシーマ海兵隊が治安を回復するまで続いた。



宇宙世紀0079.08.10

詳細がルナツーに入る。一週間で3つのサイドは事実上陥落し、月は完全に敵の支配下に落ちた。月の表側フォン・ブラウン市らとサイド6は中立化しているので地球連邦に残された拠点はサイド5ルウムとルナツー、そして研究所兼軍需工廠しているグリーン・ノア(サイド7)しか無い事になる。
拡大ISSの艦隊はルナツーに撤退、拡大ISS自体は大気圏に突入させて放棄する事がゴップ大将以下、統合幕僚本部にて決定している。

無論。文官の私は知らないし知りたくもない。

一週間で失われた連邦宇宙軍の兵士は40万名に達する見通しで、これは連邦宇宙軍全軍の約4分の1に匹敵する。
大敗北と言っても良いが、まだ逆転の目はある。
奇襲も無くなり、ルナツー所属の正規艦隊が健在な今こそ反撃のチャンスだとレビル将軍は先の会議で皆に言っていた。

(・・・・・少し楽観過ぎないだろうか?)

そう思うが文官が口出しする事じゃないと思っていたので黙っている。
仕方ないだろう。自分は経済と法律、政治学は学んだが軍事の専門教育なんて受けてない。
精々昔強制的にやらされた新兵向けの体力作りと拳銃、アサルトライフルの撃ち方の実弾講習程度なのだ。
そんな素人の目線でもこの連邦軍随一の要所ルナツーが嘗て無い程の緊迫状態であるのだけは分かった。

「一週間戦争ですね」

私こと、ウィリアム・ケンブリッジにダグザ大尉が言ってきた。

(言い得て妙だな)

因みに私が先ほどの会議でこの言葉を引用してティアンム提督らにMSの脅威を訴えた為、『一週間戦争』というお題目は地球圏全域に知られる事になる。

(・・・・・・・・またやってしまった、と思うのは自分だけだろうか?
このままだと共和制ローマを終わらせた事実上のローマ帝国初代皇帝ユリウス・カエサルになってしまう)

文官の癖に軍事に口出しできると言う連邦始まって以来のあやふやな立場が拍車をかけてくれる。

(もう・・・・・いや・・・・・頼むから地球の片隅に左遷してくれ。
家族ともども窓際族で良いから・・・・・神様頼みます)

もっとも、神は中々奇跡を起こしてくれないからこそ崇められるわけで・・・・・私の信じる神もそう簡単に願い事を叶えてくれない。
さて、現実に戻ろう。私たちはこの非常事態、ジオンとの開戦、に対応する為、護衛隊隊長ダグザ大尉、各サラミス級の艦長、シナプス司令官、レイヤー、ヒーリィ、タチバナら三小隊のメンバーに妻のリムを含めて会議を招集する。
携帯用の情報端末を操作してBBCニュースとジオニック・ラインの放送を見せる。

『連邦宇宙艦隊は大打撃を受けました。
ジオン側の公表によりますと地球連邦軍宇宙艦隊の喪失艦艇は150隻に達し、損傷艦艇も50隻を超えます。
サイド1、サイド2、サイド4は無防備都市宣言を出そうとしている模様ですが詳細は分かりません。
月全土はジオンの支配下にある事がフォン・ブラウン市とグラナダ市の共同宣言にて分かりました。
なお、サイド2は首都が陥落したとの報告が宇宙部の記者から上がっております。
これが事実ならば地球連邦宇宙軍のコロニー駐留艦隊、月面方面艦隊の壊滅を意味しており、我が地球連邦は宇宙の半分をジオンの手に渡したと言えるでしょう』

『地球連邦軍は我らジオンの精鋭の前に脆くも崩れ去った。
我がジオン軍は2倍以上の敵を相手に勇猛果敢に奮戦。これを撃破、大勝利をもぎ取った。
が、これで我が軍の快進撃は終わらない。ジオン艦隊はソロモンにて補給を終了後、サイド2にて極秘作戦を展開している。
ソロモン会戦、月軌道会戦、ア・バオア・クー会戦に続き、更なる勝利を国民に約束する!!
必ずや地球連邦政府は打倒され、我がジオンの独立は達成されるだろう!!
ジーク・ジオン!!!』

BBCは比較的に中立放送だが、ジオン国営放送は完全にプロパガンダ。
ああ、何か含み笑いするギレン氏やサスロ氏の顔が簡単に思い浮かべられる。
あの二人ならそうするか。恐らくデギン公王の胃を痛めさせながら。
戦争が後1か月前だったら妻ともどもジャブロー勤務だったのに!!
ふざけるなよ!! あの独裁者が!!

「それで政務次官、今はどういう状況なんですか?」

アニタ・ジュリアン伍長が遠慮なく聞いてくる。
少しは空気を読んでほしいが・・・・・そうだな。女性に言うセリフじゃないか。

「うーん、この点はリム・・・・ではなくて、ケンブリッジ中佐に伝えてあるから話してもらおうか」

これは最初から決めていた。
これは個人的な理由が大きい。
何せこの間離婚届にサインしろと半泣き状態で突っ込んできた妻を宥めた。
理由はアンダーソン伍長らが企画した飲み会に招待された事だ。しかも自分だけ。
それが大いなる誤解を招いた。若い女性とイチャイチャした事を察した鋭い妻の感は例のニュータイプかと思う。

因みにこの艦隊は女性士官の割合が多い。
作戦参謀のマオ・リャン大尉、艦隊管制官(MS管制官ではない)のミユ・タキザワ少尉に各MS小隊の女性オペレーターなど明らかに狙ったとしか思えない人事だ。
整備兵さえ女性兵だ(流石にこれは唖然とした)。
しかもレーチェル・ミルスティーンというジャブローからのお目付け役まで女性と来た。
絶対に夫婦生活をぶち壊す気だろう。そう思って秘話回線を使って編成に携わったというジャミトフ・ハイマン准将を叩き起こしてやった

(それで寝不足で不機嫌なジャミトフ先輩に尋ねたところ最悪な答えが帰って来た。
先輩曰く、
「お前は極度の女好きだからな。
リム・ケンブリッジ中佐を追いかける為だけに第一等官僚選抜試験に合格したのは祖国アメリカでは有名だ。
だから少しは配慮した。有望な男性兵以上に優秀な女性兵の人材を集めた。
各地の陸海空軍に海兵隊、宇宙軍に士官候補生と選抜は大変だったんだぞ」
というとても有り難いお言葉を頂いた。
誰がいつ何時女好きだって言ったんだ!!
俺が追いかけた女の背中は今も昔もそして将来もリムだけだよ!
・・・・・・お蔭でその日は一睡もできなかったんだ。
泣かれるは押し倒されるは飲むは引っ叩かれるは離婚届は突き付けられるはでもう最悪。
死刑囚の気分だったよ・・・・・・無事に帰ったら・・・・・・いや絶対に生きて帰ってやる。そしてジャミトフ先輩をドゲザさせてやる!!)

という事で、女性兵からの質問は基本的にリムが答える。
要らぬ反発を招くからだ。主に夫婦生活で。それは子供の教育に良くない。
まあ、リムとこういう事を話す事で政治と軍事面の折り合いがつくのだから良い面も多々あるのだが。

「では、アニタ。これを見て」

そう言ってリム・ケンブリッジ中佐はデジタル時計と宇宙の勢力図、艦隊の配置をメイン・モニターに映し出す。もちろん、ジオン艦隊は予想位置だ。

ジオン公国が発令したブリティッシュ作戦。
それは電撃戦による各サイドの占領と占領したサイドを利用した連邦への脅迫だった。
宇宙世紀0079.8月3日。地球から最も遠いサイド3のジオン軍はサイド1、サイド2、サイド4の各駐留艦隊をおびき出す。
開戦から僅か40時間で3つサイド駐留艦隊は壊滅し28万名の戦死者を出した。
だが、その大敗も次の大敗の序曲でしかなかった。

8月5日。
月面方面艦隊、月軌道会戦にて敗北後、ジオン親衛隊に月面諸都市はジオン公国に全面降伏を決定。偵察艦隊と独立艦隊2個を含んだ極僅かな艦艇のみが地球軌道に退避する。

8月7日。ジオン海兵隊を中心とした艦隊がサイド2を占領。
その後、首都バンチ「アイランド・イフィッシュ」からの全人員の完全退去を開始。
ルナツーと決死の覚悟で出した偵察艦隊、現地残留部隊や諜報員からの報告によると既に本日10日の時点で8割がたが退去された模様。
なお、各コロニーからは自治政府首班と政財界の一部、富裕層がサイド5に亡命中。
ふと、また女性オペレーターの一人が手を上げる。

(確か・・・・タチバナ中尉の部隊のオペレーターだったな)

「それって亡命政権が出来たって事ですよね?
確か正式な報告は明日の筈ですけど」

エレン・ロシュフィル伍長が遠慮なく聞く。
この辺は女同士のネットワークの強さなのか強かである。
この間シナプス大佐らと飲んだ時にも愚痴にあがったなぁ。

「ええ、エレンの言う通りよ。
サイド1、2、4は亡命政権、コロニー解放戦線の樹立を宣言しています。詳細はレイチェルから渡されたデータを見てね。
それと・・・・・ここからが重要です」

一旦コーヒーを口に含む。
自分はあまり、と言うか、完全に軍事には疎いので妻に全部説明を任せる。
妻は旗艦ペガサスの艦長であると同時に艦隊のNo2なのだ。実質というだけでは無く、階級的にも。
それにしてもコーヒーが不味い。
やはりコーヒーはキリマンジャロ産に限る・・・・・いかんな、地球至上主義に毒されてきたか?

「ジオン軍はMSと同時に何らかの電波攪乱手段を導入しています。
その方法は不明ですが一番の可能性が高いのはミノフスキー粒子と思われるわ。
そしてそれ故に各地の連邦軍は大敗したのだと言えます」

更にコーヒーが不味くなった気分だ。
と、その時。
ノエル・アンダーソン伍長が何か聞きかけた時ルナツーの会議室に緊張が走った。
放送だ。それも基地全体への。

『第3艦隊、第5艦隊はティアンム提督指揮下の下、13日00.00を持って出撃する
第3艦隊、第5艦隊乗組員は12日18.00まで自由行動、23.00までに乗船、配置を完了せよ』

やはり。上層部曰く想定内の作戦とやらだ。
連邦政府は亡命政権を見捨てないというスタンスを見せている。そして事実上陥落した三つのサイドはコロニー早期解放を掲げた。
各コロニーを見捨てない。これは当然だろう。それは地球連邦の存在意義なのだ。
市民を守るのが連邦軍であるが、その大元は、市民を守る最終的な責任は地球連邦政府が責任を担う。
だからこそ税金を初め多くの巨大な権限を与えられている。

「それが力と秩序の象徴である駐留艦隊の消滅に加え、サイド2首都の制圧。
これで何もしなければ地球連邦は解体だな」

現実問題としてジオンが抑えたのはサイド2のアイランド・イフィッシュだけ。そして他のサイドは恫喝で終わっている。
としても、連邦政府の構成上、危機である事は関係ない。
連邦にとって軍が大敗を喫して支配下にあるコロニーが離れる事が問題だ。
サイドが独立すれば次は州政府が独立する。地球の各州が独立すればそれは地球連邦と言う組織の完全なる解体。

「ハルマゲドン・・・・・聖書級大災厄・・・・・笑えないよ」

それにだ、面子を守る為の逐次投入など世界史を紐解けばいくらでもある。政治の都合で軍事が振り回されるなど常識以前の話だろう。
ええいくそ、あのクソじじい。そこまで深読みしたのかよ?
もしかして・・・・・いや確実にあのクソじじいは自分の面子の為にサイド2早期解放作戦とか考えて軍に発令したな?
でなきゃこんなに早く艦隊が出港するか!!

(うん?
なんでこっちを見る?
リム、説明は如何した?
シナプス大佐、何故感心したようにこっちを見ているのですか?
タチバナ中尉らも一体なんだその納得した様な視線は?)

「声、でてたわよ」

ぼそと妻が言った。思わず顔が赤くなる。
と言う事はあの妄想は全部知られたわけか?
10は違う若い女性らに・・・・・しかも一人はジャブロー勤務の女性士官。
これは・・・・・開戦早々早速死亡が確定したな。
泣いて良いですか、神様。畜生!!

「それで・・・・・次官殿はどうお考えです?」

ダグザ大尉が聞いてくる。
他のメンバーも注目している。
これは逃れられない。しっかりと妄想・・・・・・もとい、意見を述べなければ。

「予想と想像と願望があるからしっかりした事は言えないが・・・・・まず前提条件だ。
第一に、ジオン公国の目的は連邦宇宙艦隊の早期壊滅とその戦果を元にした早期講和による独立の承認だ。
それと勘違いしている人間が軍に、特に若手士官や中堅官僚が多いが、連邦宇宙軍の存在意義は各コロニー、月面都市防衛の為である。決して対ジオン撃滅の為では無い。
である以上、ジオン撃滅は手段であり目的では無い。そしてそれはギレン・ザビ総帥らも知っている。
その証拠に要所ソロモンと本国を空にすると言う大胆な戦略を取った。
我が軍の内情から、専守防衛によるコロニー防衛よりもジオン本国を突くと考えたんだ。そして言い難いが軍は見事にその策略に乗った。
ジオン本国と言う禁断甘い果実に手を伸ばして・・・・・・真っ二つに両断された。
これが連邦軍駐留艦隊壊滅の政治的、戦略的な理由・・・・・と言うか要因だ」

ちょっとちょっと。みんな。なにその凄い、と言う目は?その尊敬の眼差しは?
ジオンの狙いがどこにあるかなんて常識でしょ?
彼らは独立がしたい、連邦はジオン軍を撃滅したい。ならば、餌を用意すれば食いつくでしょ?
ギレン氏と話せばそれくらい・・・・・あれ・・・・・もしかしなくても話した事あるのって俺くらいか!?
ああもう・・・・・・またぞろ何か嫌な予感がする。

「それで次官はこの次はどうなる、と?」

ダグザ大尉が続きを促し、

「コロニーに核パルスエンジンを装着中と言う報告がありますが・・・・この真偽は?」

コーウェン少将の秘書官でもあり軍上層部と政府(自分ことウィリアム・ケンブリッジ政務次官)との連絡役であるレイチェル氏が聞いてきた。
あの離婚騒動はアンダーソン伍長ことノエルお嬢さんが切っ掛けだが彼女に誘われてお酒を一緒にしたのも原因だった。それをリムに見られた。あれは不味かった。
拳銃突き付けられて押し倒される。
リムに、

「私を捨てるのか!? 子供たちへの愛は嘘なの!? 愛してるって言ったじゃない!!」

と言われたのは怖かった。

「何言ってんだ、愛しているのはお前だけだ」

と言っても聞かない。
だから唇で唇を塞いでやって何とかなったんだよな。
頼むから外交とか話し合いとかそう言う言葉をみんな知ろう?
ニュータイプ議論の前にもっと重要な事あるでしょ!
さて本題に戻ろう。またもや後には引けないのだろうから。

「この光学センサーで確認された核パルス装着は事実だろうね。その為の強制疎開だ。
内部からの工作を恐れている証拠。
ところでシナプス司令官はこう考えているのではないかな?
ジオン軍の次の作戦はコロニー自体を巨大な弾頭に見立て地球に落着させる事。
目標は地球連邦軍本部並び地球連邦首都ジャブロー、と」

不安げな表情や憤りの表情がそれぞれの顔にでる。
男たちは感情を制御しているが、女性兵士たちの、しかもエレン、ノエル、アニタらお嬢さんらオペレーターたちはそれが引き起こす大惨事を想像したのか恐怖にひきつっている。
そんな中、リムだけが面白そうにこちらを見ている。

(やれやれ・・・・・お見通しですか。お姫様)

私にとってのシンデレラ、或いは白雪姫は愉快そうな表情をその黒い瞳に映している。
私もアルマーニのスーツのジャケットを着直して、ネクタイを締め直すと真面目に語った。

「まず、コロニー落とし作戦は無いでしょう。
ギレン氏らはコロニーの、正確にはサイド3事、ジオンの独立が目的です。ここで連邦全体の怒りや憎悪を買う事が確実なコロニー落とし作戦などは愚策も愚策です。
そもそもコロニー落としをするならば近年の非加盟国との交渉やコロニーへの穏健的な対応などする必要はない。
無差別核攻撃などでコロニーごと駐留艦隊を撃破してしまえば良い。その方が後方の安全も保障できる筈。
よって、コロニー落としは現時点で最低の作戦です。政戦両面で。何故なら先程も言ったように地上には非連邦加盟国と言う存在がある。
この潜在的な同盟国を敵に回す事はあの聡明な独裁者はしないでしょうな。ああ、これも現時点では、という条件が付きますけどね。
では何故ここまで大々的にコロニーへの核パルスエンジン装着を行っているか?
理由は先ほどの放送ですか。
ルナツー駐留の正規艦隊壊滅が狙いですよ。まず間違いありません」

因みに、この後ほど迂闊という言葉を思い知った事は無かった。
何故なら久しぶりに演説ぶったせいでとんでもない苦労に恐怖を味わう事になるのだから。



宇宙世紀0079.08.16
サイド2奪還作戦『赤壁』が発令された。
なんで連邦非加盟国の戦史から作戦名を取ったのか謎であったが、まあ、関係ないかと無視する。
ティアンム提督には出撃するな、キングダム首相には出撃命令撤回を要求したが所詮は文官で政務次官の一人。
戦争中に軍隊の行動を止められる権限はないし、元々首相からは嫌われ役の便利屋扱いなので意思疎通も片側通行。つまり、無視。黙殺。
キングダム首相も決して悪い人物でも無能でもないが、彼はもう76歳なのだ。
老人特有の経験則に、自分の意見に固執する傾向が強いのも当然だろう。

『黙っておれ!!』

(一喝でした。残念な事に何を言っても聞いてもらえず最後は憲兵に部屋から引きずり出される始末)

しかも失敗を糊塗したい中級官僚や同僚たち、対ジオン融和派として票を集めその票を全て失いつつある連邦議員さんらの保身が連邦を縛る。
この点、挙国一致のジオンとは大きく違うな、と思える。

(それに北米州が、祖国が何かおかしい。この重要な時期にアサルティア中将を初めとして第1艦隊の上級将校全員を解任した。
いや、確かに戦力に余裕はまだあるし、アサルティア中将らよりもライアン中将の方が宇宙戦のエキスパートなのはわかるし、人員交代も制宙権を確保しているから間に合うだろうけど・・・・何か変じゃないか?)

と、思っていると今度はダグザ大尉が一枚のメモリーディスクを持ってくる。
黒に白いライン。宇宙軍の辞令だ。
因みに白に黒は陸軍、青に白は海軍、青に黒は海兵、白のみは空軍の辞令である。
地球連邦軍はいまだ完全に統合されてないので命令系統や辞令についても複雑である。
無論、赤に白と言う統合軍用の辞令もあるが使われた事は無い。と、妻がベッドの上で教えてくれた。

『地球連邦軍本部ジャブローより、宇宙艦隊司令部ルナツーへ伝令。
第10艦隊を17日15時ちょうどに地球第二周回軌道へと打ち上げを完了する。
ティアンム中将は第3艦隊、第5艦隊、第10艦隊との合流後、サイド2奪還を目指す事』


この時、戦力分散の愚に遅まきながらかつ中途半端ながらも気が付いた連邦軍は三個艦隊150隻を持ってジオン軍撃滅に当たらんとしていた。
が、それは甘すぎる考えであった。
ジオン公国のドズル・ザビはミノフスキー粒子を使った索敵網の無力化を利用して大胆な地球軌道への侵入作戦を実行。
コロニーと言うお荷物を持たないドズル・ザビ指揮下の第一、第三の二個艦隊で第10艦隊を強襲。
打ち上げ直後で満足な航行も反撃も出来ない連邦軍に再び圧勝する。
そしてサイド2に待ち構えていたジオン公国軍の義勇外人部隊、ジオン海兵隊(選抜された各地のMS混成大隊)、ジオン親衛隊、独立教導艦隊の4つの部隊と地球連邦軍正規艦隊の第3艦隊、第5艦隊は交戦。
全てのMS隊、コア・ブースター隊を投入して、ビーム兵器搭載のゲルググ11機を撃墜破するも、被害は甚大。
第3艦隊旗艦バーミンガムは無傷だったが、艦隊戦力の7割を喪失した。
特にジオンの移動要塞ドロス、ドロワに完全に撃ち負けした事は連邦宇宙軍の士気をズタズタに切り裂いた。
今まではMSに負けたと言えたのに、今回は艦隊の砲撃戦で敗れたと言えるのだから。

宇宙世紀0079.08.20の事である。



そしてジオンは戦力を再編し、ルウムに全軍を進軍させる。
一方、連邦政府(特に北米州の議員らが中心)と連邦軍(こちらも北米州と極東州所属の上級将校中心)はコロニー落としの危険性とルナツー陥落の可能性から第1艦隊、第2艦隊を地球軌道とルナツー防衛に残す事を決定。

そしてもたらされる驚愕の知らせ。

『第14独立艦隊はルウム自治政府首班ならび亡命政権首班保護の為にルナツーを出港せよ。現地にて最善の行動を取られたし。なお、政府要人護送用に高速シャトル『スカイ・ワン』の随伴も命令する』

あの時の嫌な予感が現実のものとなりつつある。
私は思い切って聞いた。
これを直接伝えてくれた親切な将官、エルラン氏に。

「エルラン中将・・・・・で、我らに戦場へ行けと?」

私は完全にひきつった顔で目の前のエルラン中将の顔を見ている。
が、エルラン中将はどこ吹く風でこちらを見ており、私の哀願など無視した。

「君に戦えとは言わん。当たり前だ、君は文官なのだからな。
だが、ジャブローの連邦政府はそうは捉えてない。
まずは聞きたまえ、ああもちろんオフレコだ」

そう言ってイヤホンを付ける。
聞こえるのはどうやら地球連邦安全保障会議の内容だ。
知っている声がちらほら聞こえる。

『この責任は融和政策を取った首相にある』

『そうだ! 死んでいった40万名もの将兵とその遺族何と言って謝罪するつもりだ!!』

『責任を取り辞任するべきだ』

とまあ、野次のオンパレード。
取り敢えず犠牲の子羊さがしに全力を挙げている方々、中にはパラヤなど知っているメンバーの声音もあった。
それでたじたじになっている政府首班(地球連邦安全保障会議のジオン融和派メンバー)だが、それでも言い返す。

『これは陰謀だ。君たちはジオンに担がれている。
ここで首相を解任すればジオンに付け入る隙をさらに与える。そうしてはならない。
まずは我々が結束しなければならない。そう、数十年前の北インド問題の様に』

『ジオンだけが相手では無い。地球の非連邦各国にこそ目を向けるべきだ。
この敗北は早期の大勝利によって覆さなければならい。
そうでなければ調子づいた枢軸軍を止めることは出来ないではないか!
事実、ジオンと連動して朝鮮半島は30万の連邦軍と50万の人民軍の大軍が睨み合っている』

『シリアの聖戦宣言も問題だ。宗教が政治に口を出すのは許されない。それが連邦憲法の基本理念だ。
だからこそ、我が連邦政府は今倒れる訳にはいかない、いや、倒れるかもしれないと言う幻想さえ見せてはならいのだよ!』

『信愛なる諸君。安心せよ。我々にはまだ正規艦隊が存在する。
確かに第10艦隊は事故で失ったが、それでもジオンの三倍の戦力を持ってあたるから問題は無い。
そうだ、その増援の一例として第8艦隊と第9艦隊の打ち上げも行う。無論、先の失敗は繰り返さない様に地球軌道をそのまま脱出できるだけの推進力を与える。
そうして艦隊決戦に勝利すれば良い。ジオンを占領するなど容易い。ジオンが地球を制圧する事などないのだ』

『ではコロニーを地球に落とすと言うギレン・ザビの発言は無視すると?
占領下にあるサイド2をみすみす敵の手に渡したままでいろと?
各サイドとの物流の途絶がどの様な経済的な損失を連邦に与えるか首相や内閣府はお分かりなのか?』

『エッシェンバッハ北米州議員の言う通り。我が極東州議員連合派一刻も早く対応すべきと考える。
正直、ジオンの独立も認めてよい』

その発言に一気に会場が、連邦議会議場がざわめいた。

『・・・・・・・本気ですかな?』

『連邦の経済は30億と言うスペースノイドの消費と彼らが支払う税金で維持されていた。
それが無くなるのです。下手をしなくともこの戦争中は。
そして足元の非加盟国の挑発行為によって発生している地球戦線とでもいうべき大規模な対立。
ジオンと連邦と言う小国と大国間とは違い、我が地球連邦と非加盟国群はどちらも互いに相手を完全に占領できる力がない分、鳩の喧嘩の様に凄惨たる有様になるのは確実。
それならば早期講和を行っても良いのでは?』

『N・・・・・Noだぁぁぁ!!!』

『しゅ、首相!?』

『聞きたまえ諸君。まずは宇宙にいるケンブリッジ政務次官を使って亡命政権のメンバーを保護する
そして亡命政権を認め、ジオンを屈服させる。戦前の、いや反乱勃発前に戻す。それが政府の決定だ』

あの男は信用できませんな。ギレン・ザビらと繋がっている。
この大反攻作戦にも反対だと言っている。軍事を何も分かって無い。三倍の味方が敗れる筈はない』

『そうだ。奴に責任を取らせるのだ。そもそもやつが悪い。奴がギレン・ザビを侮るように進言したのだ!!
そしてサイド3へ武力侵攻し、この戦争を終わらせる!!それでよいではないか!!』

『お、横暴だ』

『待て、現場の言う事を無視して現場に丸投げするのか?
しかも今はいない人物に責任があるだと・・・・恥を知れ!!』

『だいたい緒戦の敗北の責任はどうした!! 誰が取るのだ!?
なんだかんだ言って総辞職するのが嫌なだけだろう!!』

『ここに政府は非常事態宣言を発令する。
議会は終戦まで閉鎖する。議長、この案件の決を採れ!!』

『首相、そんな勝手な事が許される筈がありませんぞ!!』

『何を言うか売国奴!! ジオンに屈する方が連邦の威信をコケにしておるわ!!』

『一時閉会、一時閉会します!! 全員退去しなさい。繰り返します、全員は退去しなさい!!』

眩暈がした。何というか・・・・・此処まで酷いとは。
完全に責任のなすりつけ合い。しかも首相の絶叫付きと来た。
こりゃあ・・・・・・早期決戦を連邦政府も望むのも無理はない。
ただ非加盟国問題があるから早期決戦を双方が望むのは分かるし、戦う以上大勝利を求めるのも理解できる。
が、だからと言って最前線に立て、納得しろというのは無理だ。
しかも軍事にド素人なのに何故か戦術家としても有能だと思われてないか?
ええい、俺は臆病者で十分なのに!!

(というか、俺の名前が思いっきり出てな。あのくそ首相、精神は大丈夫なのか?
俺をスケープゴートに選んだ事と良い、連邦史上最大の敗北を喫した事と良い、完全に頭に血がのぼってるぞ。
これは近い将来政変が起きそうだ)

と、現実逃避してみる。
だけど、現実逃避はあくまで逃避であって、実際に現実の問題から逃げることは出来ないんだよ。

「という訳だ。
首相の体調が優れないので将来的にはゴップ統合幕僚本部本部長か宇宙艦隊司令長官のレビル将軍が軍の総指揮を執るだろう。
が、今は違う。連邦政府の命令により先の敗北にもかかわらず連邦軍はジオン軍に決戦を挑む。
意味は分かるだろう? 君は優秀だからな。それにしても君は運も良いな」

思わず画面に拳を叩きつけたい。
極秘レーザー通信とはいえ、中々本題に入らないエルラン中将にいらっときた。

「ルウムでの決戦は我が軍の勝利で終わるだろう。
如何にMSが強力でも第4艦隊、第6艦隊、第7艦隊、第8艦隊、第9艦隊の5個正規艦隊にティアンム提督の残存第3艦隊と第14独立艦隊を除くすべての独立艦隊7つ、そしてコロニー駐留艦隊を再編成した第11艦隊だ。
忌々しい事実だが大勝したし、我が軍は敗北した。とはいえジオン軍も度重なる戦闘で消耗しているからやはり三倍の戦力を揃えられる。
世紀の大決戦を君は肉眼でみられるのだ。実に羨ましいな」

くそ、そこまで言うなら代わってやろう!
さっさと地球から、その安全なジャブローと言う巣穴から出てこい!!
拳の震えが止まらない。

「第14独立艦隊の出港は本体から遅れる事2日。
まあ、ルウムで勝利すれば亡命政権がそれぞれのサイドに帰れるのは時間の問題だ。
その時に我が連邦軍の強さを見せる為の第14独立艦隊だと思ってくれ。
それでは、勝利を最前線で見れる君の幸運に乾杯」

そう言って通信は切れた。
後には真っ暗な画面だけが残っている。
一瞬夢かなと思ったが、次の瞬間情報端末に接続されていたプリンターが命令書を印刷するのを見て現実なんだと思い知らされる。
そう思った瞬間、涙がこぼれだした。

怖いんだ。
ああ、とてもとても怖い。
キシリア・ザビ暗殺事件とは比べ物にならないくらい怖い。
怖くて怖くて・・・・とても怖くて仕方がない。
前とは違うのだ。今度は明確に自分を殺しに来る。殺意と武器を持って、数え切れないほどの人間が殺しに来る。
そう思うと今すぐにでも逃げ出したい。
前も思ったが俺は英雄なんかになりたくはないんだよ。
ただ平和に、家族仲良く暮らせればそれで良かった。

だから手紙を・・・・・遺書を書く。勿論妻には内緒だ。
ジャブローにいる両親に。
自分はどれだけ両親と子供たちを愛しているか、を。どれだけ感謝しているかを。
そしてほんの少しだけ安堵した。
どうやら妻が自分の知らないところでジオンに殺される事はなさそうだ、という事実。
ずっと一緒にいた幼馴染と共に逝けるという事実。
この二つの事実と現実に少しだけだが安堵した。神に感謝した。

(二人ともごめんな・・・・・・お父さんもお母さんも帰れそうにない。
父さん、母さん、子供たちを頼むな)



宇宙世紀0079.08.23



サイド5近郊に連邦軍が7個艦隊約336隻の大艦隊を集結させる。
方やジオン公国軍もア・バオア・クー、ソロモンから守備隊のチベ級全てを引っ張り出した上に、本国からも10隻のムサイ級を増援に組み込む。
ジオン艦隊も総数108隻に達した。

更に士気高揚の為、グワジン級戦艦グレート・デギンにデギン公王とガルマ・ザビが自ら乗船、督戦する事となる。

連邦とジオンの艦隊の戦力比は約3対1。士気は互角。
航宙艦載機の数は連邦軍が、MSは質量ともにジオンが遥かに優位。
補給線は双方問題なし。



『人類史上に宇宙での戦争無し!
まして艦隊決戦の試し無し!
ジオン国民諸君、歴史をつくるべし!!』



ギレン・ザビの号令と共に、示し合わせたかの如く双方の艦隊が行動を開始した。

後にルウム戦役と呼ばれる戦いの始まりである。



そして私はサイド5、ルウムの後方8000kmに陣取る事になる。
観戦官僚という訳のわからない地位と権限を与えられて。命令は単純。
ジオン軍を友軍が完全に撃破し、サイド3を占領するまで自由行動をせよ、であった。



[33650] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7a75023c
Date: 2012/08/02 01:59
ある男のガンダム戦記07

<諸君、歴史をつくれ>





「敵艦発砲!」

ジオン軍のムサイ改良型である総旗艦ワルキューレに警報が鳴り響く。
彼我の距離は7500kmであり、連邦軍のマゼラン級でさえ有効射程距離圏外。
だが、何事にも例外はある。

「バーミンガム級か」

ジオン艦隊総司令官のドズル・ザビ中将は誰にも聞かれない様に独語する。

「・・・・・噂以上だな・・・・・厄介な」

切り札であるMSの更に切り札たるゲルググを5機も撃墜した連邦軍の最新かつ最大級の戦艦。
その戦艦が圧倒的な火力をジオンに見せつける。
連邦軍は第4艦隊旗艦「アナンケ」を中心軸として、中央に第4艦隊と第5艦隊残存部隊。
左翼を第6艦隊、第7艦隊。
右翼を第8艦隊、第9艦隊の6個艦隊が連動する。
ティアンム提督指揮下の第3艦隊と第11艦隊は損害の少ない艦を中心に艦隊を組み、地球軌道から重力カタパルト運動を取らせてジオン艦隊の後背を遮断にでる。
また、レビルはティアンムと交渉して艦隊決戦の為に第3艦隊旗艦のバーミンガムを借りていた。
こうして、連邦軍宇宙艦隊総司令官のレビルは、砲撃戦能力だけでもジオンを確実に上回るべく手をうったのだ。
かたや、ジオン軍は敵右翼にジオン親衛隊を、敵左翼に第三艦隊を、中央にはソロモン要塞、ア・バオア・クー要塞から引き抜いたチベ級を含んだ第一艦隊が横一列に展開。
時間を稼ぐことを目的に、両軍は何ら芸の無いまま正面から衝突する。
だが、その計画は修正しなければならない。

「閣下! グワランが!!」

ドズルが旗艦のムサイ級改良艦ワルキューレで驚愕の報告を受け取る。無論、顔には出さないが。
指揮官が一々驚いていたりしていた戦争にならない。ましてそれが艦隊の総司令官では・・・・・己の仕草一つが戦を決める。

「グ、グワラン轟沈!! MS隊ならび脱出シャトルの一機もありません!!」

オペレーターの報告では二隻のバーミンガム級戦艦が集中的にグワジン級へ砲撃を強化。ミノフスキー粒子下にもかかわらず、その地球圏随一の光学センサーはしっかりとジオンの切り札の一つを沈めたという。
ぎりと噛む。思いっきり手摺りを握りしめる。

「観測班! 連邦軍との距離は!?」

ドズルが怒鳴る。
観測班から待っていたと言わんばかりにすぐさま報告が上がる。

「距離、6000km」

(ち、まだ遠いわ!)

ふと、ツシマ沖で国運を背負ったトーゴー提督の気分が分かった。
ああ、彼はやはり伝説の英雄だったのだ。
そして・・・・・俺もまたそうならねばならない。祖国ジオンの為。そして。

「そして漸くにも手に入れたミネバの為にも・・・・・負けられるか。
距離5500kmになった時点で第603技術試験隊に連絡、大蛇よ咆哮せよ、とな!!
各艦は有効射程距離の5000kmにて発砲せよ。
ミノフスキー粒子濃度を絶えず計測。レーザー通信と発光信号を確認。特に発行信号、信号弾、連絡シャトルは見落とすな。
いいか、これからだぞ!!」

と、ワルキューレの主砲が一斉に動き出す。
MS隊はまだ出さない。今出しても集中砲火で数を減らされるから。
何よりも航続距離の問題があるのだ。

(ギレン兄貴に無理を言って増援として揃えた90機のゲルググと対艦用ビームライフル。
緒戦の連邦への勝利を考えるに・・・・使い時を過なければ勝てる。連邦軍の艦載機さえ・・・・)

「閣下! 5500kmです」

「ヨルムンガンド発砲!!」

高出力プラズマ砲が漆黒の宇宙を駆け抜けた。




「俺たちは冷や飯を食わされてる・・・・・たく、何が冷や飯だ。
これだけ豪勢な観測機に護衛のムサイが二隻。しかも司令官直々の薫陶付きで初弾必中を命令する、だ?
上等だこら!!」

アレクサンドロ・ヘンメ大尉はあの技術中尉の恩師が作ったと言うYOP-04 試作観測ポッド「バロール」4機からの間接照準データを受信しつつ思った。
それにしても会戦直前にあのドズル・ザビ自らが護衛も付けずに厄介者扱いされていると思われていたヨーツンヘイムを訪問した時は柄にもなく感激したものだ。

『ドズル閣下に捧げ・・・・礼!!』

それが多分に政治的な意味合いであろうとも補給部隊を軽視しないのは特筆に値する。
生意気な特務大尉殿もたいそう緊張していた。艦長だってガチガチだったな。

「ま、かくいう俺もらしくはなかったけなぁ」

ジオン軍の入隊式と観艦式以来の正装を引っ張り出した俺にドズル中将は言った。

『俺は兄貴たちと違って難しい言い方は嫌いだから要点だけ纏めて貴様らに伝える。
まずだ、初弾は貴様らが担当する。
我が軍の中で最長の射程を持つ巨砲が敵のマゼラン級を沈める。それを合図に艦隊は砲撃戦に突入する。
いいか、兄貴のセリフではないが絶対にはずすな。初弾がマゼラン級を一方的に沈められるかどうかで我が軍全体のその後の士気に関わる。
無論、その為の護衛と観測ポッドの準備はしてある。期待しているぞ諸君』

その言葉に嘘偽りは無かった。
観測機のバロール4機はミノフスキー粒子散布と言う戦況の中でこれ以上ない確実なデータを送ってくる。
護衛のムサイはミノフスキー粒子とビーム攪乱幕を散布している。
流石に最新型じゃないがヅダも専属の護衛についている。

「行ける!」

そう叫んだのと目標にしていたマゼラン級が正面からプラズマの塊が貫通、爆沈させたのは同時だった。
拳を握りしめた。
やれる、確かに時代はMSだがまだまだ大砲屋だって終わって無い。
それは連邦軍にバーミンガム級とかが出てきたことも、このかわいい大蛇が一撃で戦艦を一方的に沈めて見せた事が証明している。
何もMSだけが戦争の主役でなければならい、MSでしか戦ってはならないと言う理由は無い筈だ。俺はそう思った。

「続けて第二弾、おい、技術屋!次の装填が遅いぞ。あん?
二号機め、何外してやがる!!
大砲屋の意地は如何した!!MSに後れを取るな、次は当てろ!!」

そう言っている間にも装填作業と冷却作業は行われる。
戦力比を考えると危険なのはサラミス級よりもマゼラン級だ。
そう思って観測と照準の固定作業を続ける。

『大尉、マイです。仰角マイナス12度にマゼラン級一隻。従える護衛サラミスの数と通信量から正規艦隊の副旗艦と思われます。
これより複合観測データを送ります、ご武運を』

有線通信からデータが送られる。
今頃、母船の方ではバロール4機の情報処理に追われていて回避運動さえ取れない程だろう。それもこれもドズル・ザビがこのじゃじゃ馬を決戦兵器とみなしたから。

「け!
・・・・・ありがとよ、技術屋・・・・・わりぃな連邦軍・・・・・こいつで・・・・・お陀仏だ!!」

三度、大蛇は咆哮する。




こうして、驚異的な破壊力とデブリベルトを全速航行しても問題が無い程の光学カメラを装備したジオン軍は、反撃にてマゼラン級3隻、サラミス2隻を撃沈、プラズマの余波で4隻のサラミスが脱落した。
既に冷却と弾数の為、ヨルムンガンド二基は砲撃を中止しているが問題はこれからの艦隊戦だ。

それにたった二門の砲がもたらしたと考えれば僥倖と言って良い戦果だろう

「やってくれたな」

ドズル・ザビは元々大鑑巨砲主義者である。それがMS絶対主義を生まなかった。
勿論冷徹なる独裁者ギレンがただ勝利に邁進していたのも大きな要因である。
そんな中、ドズルが対連邦勝利の為、試験項目視察の名目中に目を付けた、技術試験課で埃をかぶっていた試作兵器らを実用段階にまで高めてこの決戦に持ち込んだのは流石と言うべきだろう。
が、バーミンガム級は依然として健在で更にチベを二隻轟沈させた。

「あれだけ一方的に叩かれて尚この動き・・・・・指揮官はレビルか」

両軍は更に距離を詰める。
戦場中央は完全なる殴り合いの様相を示しだす。




一方、右翼を第8艦隊、第9艦隊を相手取るデラーズもドズルと似た様な考えに達した。
移動要塞とでもいうベキ巨大空母ドロスとドロワを使って優勢に戦線を形成していたのだ。
ドロス級の主砲はマゼラン級を遥かに上回り、連邦軍に無視できない出血を強いる。

『最大船速。通信士、各艦に伝達!
ぶつかるつもりで距離を詰めろ!! ミノフスキー粒子のお蔭で長距離砲など命中しない!!
全速前進!!』

連邦軍は90隻と言う物量でジオンの親衛隊を押し潰さんとする。
方やジオン側は中央と異なり距離を取りだした。
敵艦隊との相対速度0kmを可能な限り維持せよ。それが旗艦ドロスからの命令。

焦る連邦軍は、ここで右翼下方から600機のセイバーフィッシュを突入させる。
戦場で焦りは危険なのだが、このまま数を撃ち減らされるのだけでは意味がない。
一か八か攻撃に出なければやられると言う脅迫感が彼らを動かす。

その中に、第04小隊と呼ばれるセイバーフィッシュの部隊が居た。
この部隊はサイド4駐留艦隊所属であり、損害も損失も出さずにザクを一機撃破している連邦軍でも数少ない勲功部隊だ。

「各機、編隊を崩すな。この間通り一気に戦場を駆け抜けて帰還する。
それ以外の事は考えるな!
特にモンシア! 勝手に進んだら腕立て伏せ1万回だ。分かったな!!」

隊長のサウス・バニング中尉が僚機に命令する。
そうしてあのソロモン会戦を生き残ったのだから。

『うへぇ! 中尉、まだソロモン会戦での事を怒ってるんですか?
もうしませんって・・・・・ですから勘弁してくださいよ』

彼が態々名指しでモンシアを注意するのも理由がある。
あの時はザクを一機撃墜した事に暴走したのか、部下のモンシアが暴走して二機目に攻撃したのだ。
その攻撃されたザクは残弾が無かったようで直ぐに逃げたから良かったものの、もしも援軍を呼ばれたり、格闘戦に持ち込まれていたら犠牲は必ず出ていた。
だから思いっきり修正してやった。
モンシアも帰還先が無くなって、第3大隊の生存者が自分達だけだと知って愕然としたのかその修正をしっかりと受け入れた。

「そうだな、分かってるなら良い。
よーし、お前ら生き残ったら俺が秘蔵の30万テラはしたウィスキーを奢ってやる!!」

『マジですかぃ!?』

『やったぜ!!』

『これは是が非でも生き残らせてもらいますよ!!』

ふと、計器を見る。もうすぐ戦場だ。
近距離のレーザー通信もまもなく使えなくなる。
更にジオン親衛隊は新型のザクⅡ改で編成されている。厄介極まりないと連邦軍全体に言われている。

「本気だ・・・・・いいか・・・・・モンシア、アデル、ベイト・・・・・全員生き残れよ」

『『『了解!!!』』』

誰も怯えは見せない。
それが虚勢なのか本気なのかは分からなかったが、今はそれが心地よい。
例え生き残った後に来るのが今月の破産だと言う事態であっても。

「では・・・・・行くぞ!
ザクどもには目をくれるな!! 目標はムサイ級だ!!」




「デラーズ閣下、敵艦載機こちらの迎撃ゾーンに入ります」

この戦域全域を完成する最高責任者であるバロム大佐は唯一ノーマルスーツを着ず、ジオン軍親衛隊の将官服に身を包む上官に報告する。
薄手の白い手袋ごしに両手を組んだデラーズ准将はしっかりと頷いた。

「よろしい。全艦に伝達せよ、MS隊を迎撃に出せとな。
ドロス、ドロワの全MS隊はかねての予定通り敵艦載機の迎撃に、その他の艦のMS隊は小隊ごとに敵の進撃経路を逆進。
そのまま敵艦隊に取りつくのだ!」

デラーズらジオン軍右翼迎撃艦隊の構想は単純だ。
MS隊を敢えて出さない。特にドロスとドロワと言うミノフスキー粒子散布下の戦場でも戦闘管制が可能な移動要塞がある以上、それを利用しない手は無い。
連邦軍もミノフスキー粒子が無ければ同じ事が出来たのだが、MS以上に決戦兵器として位置付けられたミノフスキー粒子の研究の差はここにきてジオン優位をもたらす。
本来であれば艦載機に置いて200機と600機では600機に200機が圧殺されるだろうが、これがMSと航宙戦闘機では逆転する。
ミノフスキー粒子下で真価を発揮するように作られたザクを初めとしたMSと、ただ単純に何とか戦えると言うだけのセイバーフィッシュでは意味合いが大きく異なるからだ。
まして片方が多数のレーザー通信による管制を可能とした軍であれば尚更。これをデラーズは最大限に利用する。
それでも連邦宇宙軍の最新型のセイバーフィッシュが600機だ。
誘導され、ミサイルが正常に使えればジオン艦隊は壊滅状態に陥っただろう。それも簡単に。
だが、現実は連邦軍にとって悪魔が微笑んだ。




「クソォォォ!」

ヤザン・ケーブル中尉は一気に急降下する。
急降下と言う言葉が正しいかはわかないがノーマルスーツ越しのGがきついのは確かだ。
だがここでホワイトアウトなりブラックアウトなりしてはいられない。
後ろには二機のザクが追ってきている。

「右だ!」

操縦桿、フットぺダルを動かして軌道を強制的に変更する。
その次の瞬間、90mmと思われる火箭が脇を通り抜けた。
どうやら死神の鎌をまたもや何とかかわしたらしい。

「死神は優しい神様だって聞くが・・・・・俺にはまだお呼びじゃないんだよ!!」

絶叫する。
声を出してないと発狂しそうなのだ。
既に第5連隊は自分以外を除いて壊滅。
ヤザン中尉は分からなかったが、戦闘開始から25分、敵将デラーズの放ったザクⅡ改100機前後という矢は防空用のセイバーフィッシュ隊という盾を強制的に貫通。
続けて第8艦隊の防空網を突破、第8艦隊を蹂躙していた。

「!?」

咄嗟に回避する。
ムサイ級だ。
いつの間にか敵の艦隊のど真ん中にいる。
しかも何故か偵察機使用のセイバーフィッシュが一機飛んでいる。
それにザクが照準を付ける。

「バカが!!」

気が付いたら最大速度でザクに接近、対艦ミサイルを一斉射した。
流石に対艦ミサイル6発中5発の同時直撃には耐えきれなかった。
ザクは爆散した。そして思わず舌を舐める。

「そうかい、お前が壁だったのか!!」

そのザクは射線上に一隻のムサイ級巡洋艦を守っていたのだ。
外れたミサイルの一発はムサイの主砲を粉砕していた。

「そこの機体、突入する援護しろ!」

『こちら偵察機カモノハシのリュウ・ホセイ!!
無理だ!この機体に武装は!!』

ごちゃごちゃ五月蝿い。
武器がないから戦えない?
そんな事言ったって敵が待ってくれるか!
武器が無いなら無いなりにやり方はあるってもんだよ!!

「良いから俺に続け!!
ビビるなよ!! こういう時はビビったら死ぬんだ!!」

そのまま強引にカモノハシとやらを引き連れる。
こういう時は敵にとって判断を鈍らせる状況を作れば良い。事情を知らないジオン艦隊から見ればどっちの機体にも対艦ミサイルがあると思うのが常識だ。
まさか後ろからついて来ているのが弾無しの偵察機などとは思わないだろう。
事実、対空砲火は一機で突っ込むよりバラバラになっている。チャンスだ。

「ここまで近づきゃあ・・・・・落ちろ!!!」

残りの6発をムサイに打ち込んだ。
そのまま突き抜ける。
ふと後ろのカモノハシとムサイがどうなったかを確認したい誘惑に駆られるが生き残る為にそれを無視する。
数機のザクを回避して艦隊を突破する。
精一杯確認できたのはムサイ級のグリーンの塗装がされた装甲が急加速で自機の隣を飛んで行った事だ。

「こちらヤザン機。ムサイ級一隻を撃沈。カモノハシ、聞こえるか?
うん? どうした!? おい、カモノハシ!? カモノハシ!!」

だが、それに返答は無かった。




「デラーズ閣下、MS隊、完全に第8艦隊を掃討完了。これより第9艦隊を攻撃します」

中央の戦局は芳しくない。
数で劣勢に立ち、第一撃でグワランを沈められたのが大きいのか。
大蛇は役に立ったが距離を詰められてはあまり意味がないし、それに大蛇の予備弾はそれ程無い筈だ。
これはジオンの国力の限界を示している。MS、艦艇、新兵器、弾薬を全て揃える事が出来る出家の国力が無い。
その後はジオン親衛隊と同様の戦術を取ろうとしたが、上手くいって無い様だ。

(ドズル閣下らしくないな・・・・・いや違う。
報告によると赤い旧式のMSが100機単位で活動している、か。旧式とは言えMSはMS。
どうやら敵もMS隊を直援に回している様だ。これはこちらの様に上手くは行かぬのも道理か?)

と、傍らのムサイが沈んだ。
どうやら二機の敵機に撃沈されたらしい。艦隊防空に携わる艦を沈める猛者がこの深くまで侵入したようだ。

(敵ながら見事)

思わずデラーズは彼らの奮闘を評価する。が、それこそこちらのジオン軍が優勢に立ちつつある証拠だろう。

「艦隊を反転させて中央を支援しますか?」

バロム大佐が管制の合間に聞いてくる。
軟弱な連邦軍の第8艦隊と第9艦隊は宇宙での実戦経験どころか訓練さえも碌にしてない。
その弊害が大きく出ているのか、艦隊行動が執れない艦、艦隊陣形から落後する艦が続出してきた。
防空陣形を維持する前に蜂の様に飛び回り刺し殺さんとするジオンのMS隊に恐慌状態に陥っている。

「・・・・・まて、今何時だ?」

ふと、時計に目をやる。
これが例の作戦通り進行していたなら、自分たちは敵右翼を完全に拘束すれば良いのだ。

「は、作戦開始から1時間と4分を経過したところです」




連邦軍左翼は意外な善戦を遂行する。
連邦軍の攻撃隊がMS隊を突破しジオン艦隊に到達できなかったのは左翼、中央と同じだがジオン軍もMS隊を攻撃に転じる事が出来なかった。
その理由は連邦軍の戦術にあった。この艦隊は宇宙では危険とされる密集隊形を敢えてとる。
何故宇宙で一定以上の密集隊形が危険なのか?
それはデブリだ。高速で飛来するデブリがある以上、距離を保てない限り誘爆して沈む可能性が高い。
だからこそ、艦隊はある程度間隔をあけて迎撃するのだが、故にその間を潜りにぬけられるMSは宇宙空間で現時点最強の兵器となった。
が、連邦も黙っては無い。MSに対抗する為古代ギリシアのファランクスもかくやという艦艇による槍衾を形成した。
そして先の戦いで判別している第三艦隊の旗艦ティベ周囲に猛砲撃を加えた。

ルウムへ出発する前、カニンガム少将は同僚のワッケイン少将と一つの結論に達する。

『MSの機動性を封じない限り我が軍は確実に負ける』

『ではカニンガム提督はどうする、と?』

『艦隊の機動性を捨て、デブリ衝突による艦艇喪失の危険性の回避も捨てて、敢えて密集隊形を形成し受け身に徹する』

『・・・・・それで?』

『その間に中央と左翼が砲撃戦でジオン軍を撃ち減らす。
要はティアンム提督の艦隊が彼らの後背を突くまで持ち場を死守すれば良いのだ』

『つまり、時間を稼ぐと』

そうした会話が会戦直前に二人で交わされた。
カニンガムも敗退する各地の連邦軍と合流するまでMSの真価を分からなかった。情報が錯綜するのだから当然だ。
が、それ故に判断が遅れたが、それでも致命的な遅さでは無かった。
それに密集隊形は悪い面だけでは無い。高火力の連邦艦隊は確実にジオン軍を削っており、何度か突入を仕掛けようとしたMS隊には艦隊正面火砲の全力射撃を命じてこれまた数を減らす。
如何に高機動型ザクで構成されたジオン軍第三艦隊MS隊とはいえ、あの砲撃の中を突破して艦隊に肉薄するのは自殺行為である。
その為、この戦線は奇妙な硬直状態を作る事になる。




「またか!」

ジョニー・ライデンは攻撃に来た敵機を落としながらも毒づく。
目の前でティベ級が一隻爆沈したのだ。これで2隻目だ。
忌々しそうに敵艦隊を見るがどうしようもない。

「畜生! あの砲撃さえなければ!!」

そうは思うが連邦軍とてやはりバカでは無い。
全火力を僅か数機の小隊に集中するのだ。MSパイロットに、いや、単なる人間に回避しろと言うのが無茶苦茶である。
ビームは光の速さ。
実弾兵器であるミサイルを宇宙空間で回避するのとは訳が違う。そんな事が出来るのは超能力者だろう。

「くそ、艦隊は防空と迎撃しかできないのか!?」

攻撃に来るセイバーフィッシュを撃墜する。これで7機めだった。




第三艦隊指揮官のコンスコン少将も無能とは程遠い将官だ。
彼は実力主義のドズルの下で少将になった。故に対策を考えた。

(敵艦は危険なまでに密集して砲火を集中しているな。
正面に出ればドロス級とてただでは・・・・いや、確実に沈む。
実際、未だ敵艦は60隻以上。こちらは27。いや、5隻沈んだから22だな)

コンスコンは戦局を打開する為、高機動型ザクを半回収。ジオン軍の標準である3隻ごとにランダム回避運動を命ずる。
こうなると連邦軍も迷う。砲撃を集中する相手がいなくなるのだ。
無論、ビーム攪乱幕を双方が展開している以上、ジオン軍も撃沈は困難になる。
だが、それでも今の消耗戦よりは遥かにマシとジオン軍は判断。
こうしてこちらの戦線はMS隊を封じた連邦軍優位として戦況が固定化されつつあった。




「ドズル閣下、グワデン被弾しました」

「敵マゼラン級一隻撃沈、サラミス級2隻撃沈」

「セイバーフィッシュ隊接近、あいや、撃退」

戦況は一進一退。
ジオン軍はMS隊を投入するも、連邦軍もまた正規艦隊全艦隊のMSとルナツー駐留のMS隊をこのルウムに投入。
艦隊戦では数に勝る連邦軍が、MS戦では質で圧倒するジオン軍が、全体の戦局はジオンが若干優勢ながら進める。
時間を気にするドズル。
時計は既に戦闘開始から1時間を経過している。MSの推進剤が尽きるころだ。実際第一次攻撃隊は整備・冷却中で再出撃はあと10分必要。
頼みの綱であったグワジン級も一隻がバーミンガム級に撃ち負けして沈んでいる。グワランは沈み、グワデンも小破。
ここにドロスとドロワ以外に純粋な空母を持たなかった弊害が出てきた。国力の差とはいえ実際の戦闘で空母がない。
これが堪えだしてきた。連邦軍の艦載機はなんとか安全な後方のコロンブス改装空母達に合流すれば良い。
しかしジオンは艦隊戦真っ只中の巡洋艦や戦艦に着艦するのだ。
当然ながら砲撃に晒されつつ、しかも激しい運動をしている艦に着艦するのと殆ど固定されている艦に戻る。
どちらの方が困難か子供でも分かる。

「閣下、具申します!!撤退すべきです!!
これ以上の犠牲はジオン本国の陥落に繋がります!!」

迷う。

今の参謀の発言に間違いはない。
このままではデラーズのジオン親衛隊艦隊はともかく中央の艦隊は艦隊としての機能を失ってしまうだろう。
そうなればデラーズもコンスコンも側面から砲撃を受け壊乱する。撤退するなら今しかない。
既にヨルムンガンドは弾薬の補給の為使えず、第二次攻撃隊も敵MSの決死の反撃で一時退避中。
これ以上戦局が悪化する前に引くか?

「ドズル閣下!」

だが、本当に不思議なものだ。
この時のドズル・ザビの指揮官としての逡巡がジオン軍全体を救うのだから。




ドズルが迷っていたころ、デラーズが敵右翼の撃破を確信し、コンスコンが戦術を変更したまさにその時。
互いに本体を囮にしていた両軍に明暗が分かれた。
シオン軍の切り札、ありったけの機動巡洋艦ザンジバル級とゲルググを配備した部隊がついに戦線に到着したのだ。
しかも両軍ともに前方ばかりに気を取られ、後方の観測は最低限。
いや、偵察機は撃墜される直前まで警報を出していたのだが、最大級に散布されたミノフスキー粒子のせいで連絡は行かなかった。
伝令が途絶えたが故に壊滅した軍は古今多く、その途絶えた理由さえ分からなかった軍もまた多い。
今回は連邦軍がその不名誉を担う様だ。全くもって人が度し難いとはこの事だろう。

「あれか、連邦軍」

そんな中、シーマ・ガラハウ少佐は己の機体を敵艦隊下部後方へと詰める。
これに標的としたサラミスの艦内の誰かが気が付いたのか一斉に対空砲火が放たれ、護衛MS隊が動くが・・・・・・明らかに遅い。

「狼狽してるのかい? ふふふ・・・・・より取り見取りだ!」

新装備の、正確には初期型の大型ビームライフルを発射する。
艦艇下部から上甲板まで高熱源が貫通、一隻のサラミスが爆沈した。
それが合図。

「さあ、派手にドンパチ楽しもうじゃないか!
といっても・・・・・もう落ちるんだけどね!」

更に二発。僚機も一斉にビームを放つ。
今度はマゼラン級だ。狙いは核融合炉、つまり艦のメイン・エンジン部分。
沈む。
面白いように沈む。

「ざまぁないねぇ」

嘲笑する。

元々対艦用兵器として開発されたのがMSであり、その武装もサラミス級巡洋艦やマザラン級戦艦を至近から沈める事を念頭に置いてある。
ジャイアント・バズやザクバズーカなどが良い例だ。
ザクマシンガンだって至近距離ならサラミスを穴だらけに出来るだろう。
と言う事はザクもドムも性能面で凌駕するゲルググが、せっかく国力を傾けてまで生産(量産には程遠い)したゲルググと言う決戦兵器が、攻撃力薄弱では笑えない。
というかギレンにはそんな笑い話にもならない事など認められない。
と言う事で初期のビーム兵器はジェネレーターや冷却材の理由もあるが何よりも対艦攻撃兵器とし高出力・高威力を求められた。
因みにドズル・ザビとギレン・ザビの直接命令であり、ミノフスキー博士を脅迫してやらせた。

『いかなる方法をもってしても構わぬ。開戦までに実用的なビーム兵器を実戦部隊に配備せよ』

その結果、取り回しこそ最低だが、アナベル・ガトー大尉が使ったようなビームバズーカなどが出来る。
そして独立戦争最大の山場(と、ギレンは判断した)である連邦正規艦隊との艦隊決戦には確実に戦艦を沈める火力が配備された。それがゲルググ。
更には緒戦の電撃戦、一週間戦争と後に名づけられた戦いには間に合わなかったものの、何とかルウムでの戦いには間に合ったゲルググと改ザンジバル級機動巡洋艦の増援。
その為、90機近いゲルググをダグラス・ローデンは指揮下に置いた。
そしてこの大艦隊戦において、遂にゲルググが戦局を動かす。

「ふん、雑魚が!」

機体を後進させ、ガンキャノンの放ったキャノン砲を回避するシーマ機。
現在のジオン軍はある程度の例外を除けば完全実力制である。
マハルなどの貧困層出身だろうが義勇兵だろうが外人部隊だろうが差別しない。
これはギレンと言うよりも軍総司令官ドズル・ザビの方針である。

『軍は完全なる実力制で行く。兄貴にも口は出させんぞ!!』

ただ、ギレンはそれを疑問視はしているし、旧キシリア派や旧ダイクン派の監視も怠って無い。
(理由はキシリアの残した日記などにある。彼女が残した日記にはギレンへの警戒心が書かれており、私兵集団を対ギレン用に教導していた事が判明した。
この偶然に見つかった日誌はキシリア日誌と呼ばれる事になり、国家のトップシークレットとしてギレン自らの手により総帥府の総帥執務室の机の引き出しに秘蔵された。
が、それ故にか、或いは当然と言うべきかギレンは今も尚、ダイクン派とキシリア派を危険思想の持ち主として見ている。それが更に彼らの反ギレン活動に繋がる悪循環にある)
まあ、そう言ったギレンの思惑を考えると現在のダイクン派などは体の良い単なる便利屋か捨て駒扱いなのかもしれないが。
それでもギレンも表面上は今のところ彼らが優遇されている事実に変わりは無い。
事実、この攻撃の指揮官はダイクン派の軍部重鎮のダグラス・ローデン大佐で、中にはランバ・ラルなどもいる。

シーマのゲルググは右手にビームライフル、左手にマシンガンを装備している。
シーマ指揮下の海兵隊はビームライフルとマシンガンの両手持ち。シールドはザクのナックルシールドを固定しているだけなので防御力は気休めだ。
そのマシンガンで迎撃に出た別のガンキャノンを穴だらけにした。
ガンキャノンは爆散し、その破片は連邦艦隊後方に降り注ぐ。
デブリが凶器になるのは宇宙戦闘の常識であり、それを回避するのが当然だが、MSの導入でそのやり方は大きく変化している。
その最たる例が接近時における敵艦、或いは敵機撃破に伴う高速の宇宙ゴミ問題。
回避するか、盾か装甲で防ぐかそれしかない。が、盾で防げると言うのは宇宙空間では驚異的な事だ。犠牲も危険性も減少する。
そして、それが出来るのがMSであり、MSのパイロットと言える。
その最たる例は今この場にいるゲルググのパイロットたちだろう。特に高機動型にカスタマイズされたゲルググのパイロットの技量は凄い。
一瞬で巡洋艦を沈めてしまうのだ。今も黒い三機のゲルググが巡洋艦を撃沈した。

「うん、あれは?」

またもやセイバーフィッシュをマシンガンで穴だらけにして血祭りにするシーマの右に一機の赤いゲルググが映る。

「一機で艦隊に仕掛けるきか? 正気かい!?」

自分でさえ部下の海兵隊の援護の下、共同で撃沈しているのだ。
ところがあの赤い機体は全くそんな素振りを見せずにマゼラン級1隻とそれを守るサラミス4隻に突っ込む。思わず死んだなと思った。

「ま、自業自得だねぇ・・・・・死にたがりに用は無い・・・・・・ってなんだと!?」

驚いてばかりだが仕方ない。
なんとあの機体は正面から突撃、急旋回し、一挙に降下して艦隊の防空を攪乱。
そのまま一隻のサラミスに5発のビームを叩きつける。
左手に大型ビームライフル、右手に通常ビームライフル。それぞれを連射した。
そしてバスケットボールの選手がやるように体をひねる運動を機体に命令する。
この高機動で更に正面へもう一隻のサラミスのミサイル発射管を射程に捕える。
ここで瞬時に通常型ビームライフルを撃つ。
ビームが直撃、弾薬庫が誘爆、サラミスが更に1隻轟沈。
爆風を利用して、そのまま最大加速でデブリを回避しつつ弾幕を張るマゼランに交差。光の線が宇宙に描かれた。
恐らく、交差した瞬間にビームを長時間当てて、バーナー切断の要領で目標としたマゼランの艦橋からエンジン部までを焼き切ったのだ。
あっという間にマゼランが目の前で沈む。
その後もまた信じられない。

「なんて技量だい!? 本当に人間なのか?」

マゼランの反対側にいたサラミスの隙を見つけてそのまま突破、ゼロ距離まで接近し、艦橋上部から大型ビームライフルを撃ちぬく。
爆発する前に人間がジャンプする要領で甲板を蹴り、加速、もう一隻に正面から射撃を集中、撃沈した。
この間約5分。
1分で一機のMSに一隻の戦闘艦が撃沈された事になる。
それもたった一人の活躍。決して連邦軍にも油断などしてなかった筈なのに。
あり得ない。

『あ、あり得ない・・・・・こ、これでは・・・・・ま、まるで・・・・・赤い・・・・彗星・・・・・』

この通信は誰が出した? 連邦軍か、或いはあたしか?
そう呟いた。

この会戦後、赤い彗星と呼ばれるシャア・アズナブルの大戦果だった。
この華々しい大戦果の後、艦隊は大混乱に陥る。
連邦軍は第5艦隊旗艦を喪失、背後からの襲撃に完全に浮き足立つ。
本来であれば後背を突くのは自分たち連邦軍のティアンム艦隊の筈だった。
だが実際は90機前後の新型MSに後背を取られて右往左往する。
当然だろう。全精神を前方のジオン軍中央に集中していたのだ。それがいきなり崩された。動揺しない方が変だ。
動揺は一気に広がる。艦隊総旗艦「アナンケ」の傍までMSが来た事実が兵士たちを不安に陥らせる。

『自分達もここで死ぬのではないか?』

『コロニー駐留艦隊や月面方面艦隊の様に皆殺しになるのではないか?』

『死にたくない! 勝てない! 逃げよう!!』

そう言う流れが出来つつあった。
そしてそれはレビル将軍のアナンケ内部でも発生しており一時的に指揮系統がマヒ、更に艦艇を失う悪循環に突入する。
一方で突入したゲルググ各機は平均して二機で一隻を沈めると言う快挙を成し遂げつつある。
このまま交戦すれば壊滅するのは自分達連邦艦隊。
そう思われても仕方ない。

「あのマスク・・・・・はったりだけじゃなかったか」

シーマは手じかなMSにビームを撃ち込むと共に考える。
赤い制服に妙なバイザーマスクをつけた中尉を思い出した。

(単なる変態かと思ったけど・・・・・案外やるねぇ。ま、関わりたくないのは変わらないけどね)

既にサラミス三隻は沈めた。海兵隊も冷却の関係からかビーム兵器の使用を制限する程の余裕が出てきた。
他の部隊の援護の為、後ろから前へ戦場を、敵中央艦隊を縦断している。

(これ以上前に出て戦って死ぬのもバカらしい。私たちはあの赤い中尉の様に死にたがりじゃないんでね。
ならば一旦、海兵隊を纏めて誰かさんに功績を譲ると言う形で逃げるか?)

シーマのその思いは直ぐに現実のものとなる。
ヴィッシュ・ドナヒューの迅雷隊がガンキャノンで構成されたMSの直援機を9機排除した。
ヴィッシュ・ドナヒュー中尉自身もマゼラン級とサラミス級をそれぞれ一隻ずつ共同撃沈している。
個人の武勇を望む、望まれる傾向があるジオン軍では大物食いが奨励されている。
だからシン・マツナガ少佐が唱えていたサラミス級を集団で狙えという作戦は受けが悪い。狙うなら戦艦だ、それも自分だけの手で。
そういう事だ。それをシーマは知っている。バカの妄想だと。

(戦場は生き残った方が勝ちなんだよ・・・・・それが大物狙い?
釣りか何かと勘違いしている馬鹿には付き合ってらんないねぇ)

「ドナヒュー中尉聞こえるか?」

『聞こえます、少佐。海兵隊も壮健で何よりです。』

その一言が心地よい。どうやらこの将校さんは私ら貧困層出身者で構成された海兵隊に偏見を持って無い様だ。
良い人間らしく、いささか騙すようで気は引けるし、偏見が無く開口一番に私ら海兵隊を褒めた時点で一杯奢らせてもらいたい気分だが、今はこの先の戦いで己が生き残る為の共犯者が必要だ。
仕方ない。それに首尾は上々。後は乗せるだけ。

「私の隊とそっちの隊で連邦軍の五月蝿い直援機を排除するよ!
どうやらこちらの隊は全体的にビームエネルギーに問題でねぇ。これ以上の対艦攻撃は難しいと判断する。
よってあたしら海兵隊とそちらの隊で他の部隊の対艦攻撃の助攻を行う・・・・・・・質問は?」

しばしの間。
簡潔な問い。

『指揮系統は一本化しますか?』

この男出来る。シーマは純粋に感心した。こういう奴こそ戦友に欲しい。
こういう時に自分の安全と部下への影響力確保に動けるのは無能では無い証拠なのだから。

「海兵隊はあたし、このシーマ・ガラハウ自らが。
そちらの迅雷隊はヴィッシュ・ドナヒュー中尉、あんたが指揮しな。
戦場で指揮官が健在な部隊が互いに口出ししあっても碌な事は無いからね。
ただし、交互に援護し会う事だけは忘れない事!」

『了解!』




「リック・ドムⅡ隊全機、突入せよ!!
全艦、砲撃を強化。照準固定、P-16だ。全メガ粒子砲一斉射撃・・・・撃て!!」

ドズルの檄が飛ぶ。
時間をかければティアンム指揮下の別働隊が後ろから襲ってくるだろう。
だが、それはこちらも同じ事。
時間との勝負だったが時の女神を掴めたのはジオン軍だったようだ。
ゲルググを中心とした独立教導艦隊(本国より増援あり。ザンジバル級10隻、ゲルググ90機)は月を迂回して戦場に到着。

「よーし、レビルの鼻を明かしてやった、奴らの背中を叩き切ってやったぞ!!」

ワザと声を上げる事で艦隊全体の士気向上につなげる。
既にグワランを喪失、グワデンも大破して戦線を離脱しているのだ。
ジオンは負けては無い、連邦に勝っている、これで連邦に勝つ、という事を艦隊の全将兵に知らしめなければならない。

この時、逆U字型で艦隊を縦断し、左から右へと連邦軍を蹴散らして、もう一度と突入するゲルググ部隊に掩護射撃がかかる。
ドズルの第一艦隊全力射撃は、内部に侵入したゲルググ部隊の阻止行動を行うべく陣形を変えつつあった連邦艦隊に直撃。
更にこの時点でドズルは全てのリック・ドムⅡに突入命令を発令しており対艦攻撃力の高いMS隊が突撃。
未だ残る連邦軍の攻撃隊やMS、艦載機は全てザクⅡF2の部隊で迎え撃つことを決定する。

「これより連邦軍の掃討段階に入る!! 全軍・・・・・前進!!!!」

簡潔な猛将の命令程、戦場にて効果のあるものは無いだろう。
こうしてレビル艦隊は内部にゲルググ、外部にドズル艦隊、外壁にドム部隊を抱え込む。
が、それでもバーミンガム級戦艦のアナンケは強固であった。
侵入してきたゲルググ1個小隊を撃墜した上、射線上に入ったムサイ3隻を中破に追いこみ、攻撃を試みた7機のドムに突入を断念させる。
ワイアット中将が提唱した世界最強の宇宙戦艦バーミンガム級戦艦の真価を発揮していた。

が。その奮戦は蟷螂の斧になっていた。或いは線香花火の最後の光。
バーミンガム級恐るべしと感じたジオン軍は戦術を変更し、周囲の艦隊を徹底的に嬲る。
更には右翼から援軍に来たジオン親衛隊は後方のコロンブス級改装空母部隊に殺到。地獄を作り出す。

「・・・・・・・恨むなよ」

ドズルが独語した頃、アナンケに三機のゲルググが接近する。
カラーリングは黒。教導大隊時代からMSに乗っており、あのスミス海の大勝利(連邦側では虐殺)を演出した男たちの小隊だ。

「あれは何か?」

部下たちの為に敢えて確認する。

「はい、ミゲル・ガイア中尉以下の第1小隊です」

そうしている内に見事な編成行動でバーミンガム級の弱点である後方下部から攻撃する。しかも一過性では無く、直ぐに反転して今度は艦橋を狙い撃つ。
主砲が、副砲が、ミサイル発射管が、対空砲が、装甲が、エンジンが次々と撃ちぬかれた。
断末魔の悲鳴を上げるのは時間の問題だろう。

「沈んだな、アナンケ」

独白した直後に連邦軍の最新鋭戦艦バーミンガム級第四番艦「アナンケ」は撃沈した。
それは総旗艦の沈没と指揮系統の完全なる消滅を意味している

「今を逃すな! 必要最小限の防空部隊を残して一気に攻撃出る。
逃げる艦載機は見逃しても構わんがMSと戦艦、巡洋艦は徹底的に沈めろ!! 急げ!!」

猛将、ドズル・ザビ中将。
この命令が連邦宇宙艦隊の死命を制した。
連邦宇宙艦隊は完全に敗走を開始。特に右翼は20隻、中央も30隻程しか残って無い。
ゲルググとリック・ドムⅡ、ザクⅡ改に食い破られているのだ。しかも漸く補給が終わったのか、依然として混戦状態から距離を置く連邦軍に大蛇が牙をむける。
残弾が残り3発とはいえ、プラズマ砲は敵艦隊の陣形を崩すのにも役立つ。
それを惜しみなく投入する。ジオン軍はこれが最後の戦いになると信じているのだ。そしてこの戦いののちに悲願の独立が達成されるとも。

「追撃する! 出し惜しみは無しだ!!」

が、ジオン側も戦力の消耗は大きい。
ドズルの第一艦隊で無傷な艦は殆ど無く、更には攻撃部隊の帰投、補給、整備、パイロットの休養が間も無く必要である。
つまり、一時的にせよ後数十分で戦局を決したMS戦力は無くなるのだ。
それは分かっている。だからこそのジオン親衛隊艦隊である。
こちらは空母が二隻存在すると言う事で補給も整備も従来艦よりも早い。
ドズルは決断した。右翼から一気に左翼に向けて追撃を仕掛けよ、と。

「コンスコンはどうしたか?」

気がかりなのは敵左翼艦隊。
現時点の対MS戦闘ではもっとも有用な方法を見せつけた為か、決定打を与えられなかった連邦軍の部隊。
その後の砲撃戦とゲルググの脅威から艦隊を分派したが、依然として50隻は健在である。
しかしながらドズルはコンスコンを責めようとは思わない。もしも自分がその立場だったら同じような方法を取るしかなかっただろうから。それに自分が最高司令官であり艦隊の総司令官である以上、部下の失敗は自分の失敗として考えなければならないのだ。

(やはり連邦は侮れん。最悪、牽制程度と考えるべきだな)

が、彼、コンスコン少将からの報告はドズルの期待以上だった。
それは各艦隊司令官も同様である。

『ドズル閣下。我が艦隊は追撃任務が可能です。
MS隊の補給・補修も完了しております。後は相手次第ですな』

『デラーズ准将です、閣下。既にMS隊は再発進しました。
軟弱な連邦軍はこれで終わりでしょう』

両翼を固めた二人の司令官に続き、今なおザンジバル級10隻で敵中央の後背を抑えているローデンからも連絡が来る。

『こちらも準備完了です。MSの補給作業さえ終われば先程と同じ戦果を挙げて見せると皆が言っております。
・・・・・・・・・ドズル閣下、ご命令を』

これらの言葉にドズルは決断した。
全軍、攻撃再開。目標、地球連邦宇宙艦隊全艦!!
と。




「ワッケイン、これは負けたな」

レーザー通信でマゼラン級グプタのカニンガム少将が言ってくる。
分かっている。
レビル将軍が戦死された、すくなくとも艦隊総旗艦のアナンケが沈んだ時点で均衡は崩れた。
我々が考えた時間稼ぎは結局のところ無駄だった。

「は。この上はルナツーに帰るしかないかと」

そこで先任のカニンガム少将はノーマルスーツのヘルメットを取りキューバ産の葉巻に火を入れる。
美味そうに一服する。
私はタバコ派なので今日も禁煙だ。
そしていつも宇宙では禁煙している提督が態々皆の前で葉巻を吹かすのが嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。まるで小説や戦争映画のワンシーンだ。

「ふー。やはり葉巻はキューバ産だな。ワッケイン君、君はタバコ派だが・・・・私に言わせればタバコなど邪道だよ。
さてと・・・・・・悪いが君にはルウム経由で残存艦隊を率いて帰ってもらうぞ」

両艦隊の砲撃が続く。
遮光シールドが無ければ失明する程だ。それほどジオン軍が至近に接近し砲火を集中している証拠だ。
思わず艦橋の椅子のベルトを着けているのを忘れて立ち上がろうとした。

「は? どういう事です?」

しかし、そんな混乱状況も先任であるカニンガム少将の言葉で氷解する。悪い意味で。

「ルウムには各サイドの亡命政権らがある。ジャブローのお偉方が必ず回収しろと言ってきた亡命政権が、な。
ジャブローのモグラはな、私は大嫌いだ。嫌いだが・・・・・あんな嫌な連中らでも地球連邦市民が自分で選んだ首相なんだ。
それを文民統制化の軍人が政府の命令を無視する訳にはいかない。部下は上司を選べんしな。
確かに嫌な命令だ。死んで来いと言っているようなものだ。
だからと言って無視して良い法律もない。
先程も言ったように我らはジオン公国とは違う、文民統制の軍隊だ。
軍人や一部の政治家が私的に行動して公益や秩序を乱すなら地球連邦は存在意義を失う」

また一服。
最後の葉巻なのか非常に美味そうだ。
話は続く。

「君も知っているケンブリッジ君が言っていたよ。
連邦市民の権利と財産を守るのが連邦軍の存在意義だと。ははは。全く持ってその通りだな。
そしてあそこには、ルウムにはジオンの支配を良しとしない大勢の市民が、難民が我らの助けを待っているのだ。
それを無視するのか?
守るべき人々を群狼の中に放置して自分達だけ安全な我が家に、ルナツーに逃げ込め、と?
そんな事をしたら私は私を一生許せなくなるだろう。連邦を許せなくなるだろう。
色々問題はあるが・・・・・それでも連邦軍に忠誠を誓った身なのだ。
それなのに最後の最後で自分を、自分たちに縋る者達を見限る訳にはいくまい?
民主主義の国家の軍人として生きて給料を得ながら最後は軍国主義者になった、とは言われたくは無いじゃないか?」

冗談めかして言うカニンガム少将の口調とは裏腹に、その意志は固かった。
彼は、カニンガム提督はここで死ぬ気だ。

(自分だけ義務を全うする気なのだ・・・・・・そんな事が・・・・・これだけの覚悟を持って戦う事が私にできるだろうか?)

そんな疑問を抱きながらも命令を遂行するべく数名の参謀に戦闘可能艦艇と航行可能艦艇、無傷の艦艇の判別をさせる。

「なぁワッケイン。
・・・・・・老人の都合で若い人が何万人も死んだ。嫌な時に生きたと思わないか?」

生きた時。そう、「生きた」とき。それは覚悟の表れ。今艦橋で葉巻を吸う姿がもしかしたらこの人なりの別れなのかも知れない。
そう言いつつも艦隊の指揮を取る姿は立派だ。
ジオンの連中が何と言うか知らないが、彼は連邦軍人の鑑と言っても良いだろう。

(ジオンが何と言うか知らないが仮にカニンガム提督の生き様を否定する事だけは許せない)

そんな事を考えているとオペレーターが悲鳴のような、いや、悲鳴を上げる。

『正面のジオン艦隊よりMS接近、数・・・・・・60機以上!!』

今までの部隊とは違い、最初から左右上下に距離を取って攻めてくる。艦隊の砲撃を拡散させるのが狙いか。

(更に中央を食い破ったビーム兵器搭載のMS部隊が横にいる。いかんな、これは)

先程との差異の一つに我が軍の中央がもう持たないと言うのもある。
艦隊としてはまだ保っているが、それでもこのままでは時間の問題。
ドムとザクに群がられている右翼と中央右寄りは助からない。
我が艦隊には助けも来ない。寧ろ我々が助けなければならない。

『撤退信号!! 殿は我が第6艦隊が執る!!』

グプタから緑色の撤退信号が何発も打ち出される。次々と。まるでパレードの様に。
それが合図だった。戦場に残っていた各艦隊は一斉に散開。
各々の思いの方向でルナツーへと経路を取る。
方や第6艦隊は前進を開始。

「!?」

カニンガム提督の手に驚いたが考えてみればそれは逆に良い手である。
艦隊同士の乱戦に持ち込めばジオン軍とて追撃の手を緩めざるをえない。
さらに接近すればMS隊も母艦を失うと言う恐怖から追撃の手を緩めるだろう。
そして緩めればあとは加速性能がものをいう。
一度高速軌道に乗った巡洋艦や戦艦を宇宙で補足するのは不可能だ。
後方のコロンブス空母部隊も反転を開始している。
幸か不幸か戦闘機隊はその殆どが撃墜された為、初期の段階で撤収していた。
MS隊は悪いが殿として全て第6艦隊に預けた。

「第7艦隊ならび戦闘可能艦はルウムに撤収する!
進路そのまま。経路変更なし! 信号弾青。全艦・・・・・撤退する・・・・・・我に続け!!」




「恨むなよ・・・・・・敗者の定めだ」

ランバ・ラル隊がバーミンガム級戦艦を強奪したという信じられない報告に色めき立つ艦橋。しかし、ドズルの胸に来たのは別の事だった。
敗残し、逃げる事も戦う事も出来ずに沈んでいく戦艦。
的になってしまった巡洋艦に、帰る場所を失い自棄になって死んでいく艦載機のパイロット。

それを見たドズルの胸に到来したのは勝利による高揚ではなく、敵兵への哀愁。

設立以来、絶対的な強者として君臨してきた地球連邦宇宙艦隊が壊滅したのだ。
それがまるで悲しかった。理由は分からない。
或いは我がジオン軍もまたいつかこの道を辿るのだと思ったのかもしれない。

「敵艦隊旗艦、恐らくですが、マゼラン級12番艦グプタの撃沈を確認。
敵艦隊司令官カニンガム少将も戦死した模様。抵抗、微弱」

「敵艦隊より入電、我降伏ス、貴軍ノ寛大ナル対応ヲ願ウ、です」

ただ無言で宇宙を見つめる。
そして頷いた。

「敵に返信しろ。90秒だけ攻撃を停止して待つから国際法に則って白旗を掲げ、機関を止めろと。
それを持って降伏の受け入れとする」

それから180秒ほど経った後、連邦軍残存艦隊約10隻はジオン軍に降伏した。
この結果、連邦軍は参戦した336隻中287隻を永久に失う。方やジオンも106隻中61隻を撃沈破されたが、実際に損失した艦は30隻前後にとどまった。
MS隊の犠牲はもっと少なく、新型機であった事も考えると損害機を含め200機に届かなかった。
一方の連邦軍は2200機の艦載機中1987機を失い、ガンキャノンを中心とした連邦軍のMS隊も全滅した。
連邦軍は地球軌道からも撤退を開始し、拡大ISSを放棄、爆破。
更に地球連邦政府上層部はこの会戦の結果を聞いた直後、僅か10分でルウム放棄をも決定。
そこに住む、或いは各サイド、月から逃げてきた軍官民合計で6億人を見捨てた。

・・・・・カニンガムらの犠牲を無駄にして。




宇宙世紀0079.08.23 ルウム。
ルウムの後方に陣取っていた第14独立艦隊も決断を迫られた。
再編されたジオン軍が進撃を再開。
ティアンム提督の艦隊は戦力温存を理由にルナツーへの帰還コースに乗っている事が判明。
連邦政府もサイド5防衛を放棄、サイド5占領は時間の問題であり、ジオン派の市民が武器を持って騒乱を起こしていた。
一方鎮圧すべき連邦軍は政府、財界、軍、官僚の上層部と共に逃げだす。
ワッケイン少将は最後まで抵抗するつもりだったが、ここでジオン軍が秘蔵している核兵器を使えば大虐殺が起きると考え、秘かに攻略艦隊のコンスコン少将に軍使を派遣していた。
もちろん、たかが一個独立艦隊の司令官程度がそんな高度な判断を知る筈がない。
分かっているのはサイド5から政府首班や亡命政権のメンバーと思われる人々の船が30隻程、6隻か7隻の小中破したサラミスらに護送されており、それがジオンの偵察艦隊の猛追を受けていると言う事実のみ。

「シナプス司令です。ケンブリッジ政務次官、艦橋までお越しください」

ルウム戦役の報告がおぼろげながらに入ってきた昨今。
ルウム後方に陣取っていた第14独立艦隊は政務次官の予想通りに嫌な位置にいる事になる。
それは敵艦隊と味方艦隊の中間。と言うより、殿の一つ。
ルウム戦役の報告を長距離通信レーザーで知った亡命政権らは即座にルウムを脱出する。疾風迅雷の如くであった。
ついでに疾風のごとく出港する船の中にはケンブリッジに与えられていた特別船『スカイ・ワン』もいた。ルウムに接近した時点でルウム自治政府に徴発されたのだ。
思うところが無い訳では無いが、今は別の事だ。
サイド1、2、4、5、月面都市代表の5つの自治政府首班からの要請が来た。

『我々を守ってくれ。ルナツーまで護衛しろ』

色々とかつ長々と形容詞や修飾語付きで言われたが要約するとこうなるな。
シナプスはノーマルスーツのバイザーを開けると水を口に含む。
既に艦橋全員が、いや、艦隊乗組員全員がノーマルスーツを着用している。
ペガサス級の高性能光学センサーは戦闘の光を確認したのだ。

「MS隊はいつでも出せる様にしておけ。
第1戦隊は警戒態勢。MSは神出鬼没だ。上下左右前後360度全方位警戒態勢を維持せよ」

ワッケイン指令の第7艦隊を中心とした艦隊がルウムで一般市民の疎開を開始している為、対抗馬のジオンの第三艦隊は動かない。
また、シナプス大佐は知らない事だが極秘にルウム無血開城の交渉がワッケインの独断で進められている。
圧倒的に不利な連邦軍は代償として、戦闘可能艦艇全ての譲渡という屈辱的な内容で開城準備を進めていた。
故に双方の正規艦隊は無言の紳士協定で動かないと言う事になる。
が、ジオンの偵察艦隊は別だ。現に4隻のムサイ級が脱出船団に向かっている。

(我々だけなら逃げるのもたやすい・・・・・が、民間船と損傷艦を守りながらだと話は別だ。
噂に聞くザクに本艦隊のジムがどこまで通じるかで話が変わる・・・・・勝てるか?)

無傷の護衛は自分の艦隊4隻のみ。
後は亡命政権らと一緒になって補修を名目に逃げ出した7隻のサラミスで構成された艦隊がいる。

(7隻か・・・・・だが、どれもこれも被弾しており戦闘など不可能だろう)

どうやら亡命政権の方々は各コロニーサイドの市民を見捨てたツケが今来たように思えてならない。
そうこうしている内に通常の兵士とは違うサイド6製の水色のノーマルスーツを着用したウィリアム・ケンブリッジ政務次官が来た。
先に妻に向かうかと思ったがそれは無かった。用意された席に着席する。
まだバイザーは開けている。余裕の表れなのだろう。

(ここで妻に一言も声をかけないのは流石だ。
凡人なら妻に一言くらい声をかけるだろうに。それもこの部隊で一番偉いのだから誰も咎めないにも関わらず・・・・・ふふ、あのサイド5の脱出組とは大違いだな)

流石は最も連邦にとって忠実な官僚と言われるだけある。
だが、だからこそ軍人たちが主体の戦場に連れてきて良い人物とも思えない。
ギレン・ザビらと交友関係があるなら尚更だ。
そう言う人物は外交にこそ必要であり、こんな戦場で、しかも負け戦で失って良い人材では無い筈だ。

(ならば汚名を被ってでも彼を逃がすべきか?)

そう思うが既に遅いかもしれない。
敵艦隊に動きがある。
ザクがこちらに向かって来た。数は12機。恐らく全力攻撃だ。

「次官閣下、敵艦隊です。
戦闘可能艦の数は同数ですが、MS隊は向こう側が恐らく全部で16機。
こちらが9機と数では負けてますな。
パイロットの質も宇宙を生活の場にしているスペースノイドであるジオン軍が、恐らく向こうが上でしょうから・・・・・勝てる保証はありません」

何事かを考え込む政務次官。
私はそれでも言わぬばならぬ事を言った。
戦うのか、逃げるのか、と。

「その・・・・もしも戦うとしたらどうする?」

シナプスはきっぱりと言い切った。

「本艦を囮にし、敵MSを吸引します。幸いこの船の防空能力はバーミンガム級に次ぎますし彼らにとって最良の獲物に見えるでしょう。
その隙に第1戦隊のサラミス三隻の火力でムサイ級4隻を艦砲射撃で仕留めます。撃沈が無理でも引かせます」

が、それには一つ気がかりがある。
これも伝えなければならに。正確な情報を伝えるのは軍事の専門家としての誇りであり、義務だ。

「しかし、ルウム疎開の影響で第7艦隊やそのほかの偵察部隊と距離を取りすぎています。増援は望めません。
それと撤退中の友軍は明らかに戦闘行動が不可能です。
士気の面でも救援は怪しいかと。
また、交戦後に撤退する際は苦肉の策としてMS隊を殿にして時間を稼ぎますが、この策を取った場合MS隊は壊滅する可能性が高いです。
しかし劣勢になった時、私の頭ではそれ以外に船団と閣下をお守りする方法が思いつきません」

政務次官の顔からさぁと血の気が失せるのが分かった。
それでも震えを隠そうとしている。拳を何度も開いては握り、開いては握る。恐怖ゆえだろう。

「か・・・・・・いや、降伏は・・・・・・何でも・・・・ない」

まだ迷っている。
敵と戦うか、味方を見捨てるか、すべて捨てて逃げ出すか。

(仕方ないか。これ以上迷っていたら自分たちが死ぬ。それは司令官として許容できない)

ならば先ずは自分たちの身の安全を保障する事だ。例え卑怯者と呼ばれても目の前の人物を失う訳にはいかない。
彼はあのザビ家らと交渉できる数少ない人材だ。ただ戦える人間は多いが戦争を収められる人間は少ない。

(特に友軍がルウムで大敗北を喫した今は彼の様なタフな外交官が必要になるのだ。
絶対に死なせてはならぬ)

シナプス大佐は決意する。

「・・・・・仕方ない。タキザワ少尉、全艦に連絡。レーザー回線は使うな。発光信。
内容は180度回頭、MS隊は発進準備のまま待機。撤退よう・・・・・」

「し、ししし、し、シナプス司令官!」

友軍と脱出船団を見捨てて撤退すると言おうとした時、政務次官の瞳に強い意志が宿った。
それは臆病者の一かけらの勇気。

「ひ、避難民を守ろう」

彼もまた避難民なのだが、それでも自分より弱い立場にいる人物を守る為に行動した。
やはり自分の第一印象は間違ってはいなかった。
この方は、この官僚は他の官僚とは違う。今の地球連邦にとって本当に必要な人物なのだろう。私の見立てに間違いは無かった。

「次官閣下・・・・・・軍の危険手当は存外低いですぞ? よろしいですか?」

無言で、しかし必死に頷く。
怯えが見えたが仕方ないだろう。自分だって初陣は怖かった。今だって夢に見るのだ。

「よーし、タキザワ少尉、各艦に連絡。攻撃態勢、第二戦闘陣形へ移行せよ。
リャン大尉、MS隊全体の作戦指揮を任せる。MS発進準備。管制官は担当各機の管制を忘れるな。総員第一種戦闘配置!」



「ひ、避難民を守ろう」

ああもう。
なんでこんな事を言ったんだ!?
逃げる最大のチャンスだったのに。逃げる最後のチャンスだったのに!!

でも仕方ないか。俺が逃げてもあの逃げ出した亡命政権の連中は別の誰かに助けを求める。
そういう連中だ。
だから守るしかない。それに連中の下にいるシャトルの乗組員とかは連邦市民だ。
戦艦に乗っている自分が我が身かわいさに見捨てられるだろうか?
答えは否だ。断じて否である。ああ・・・・・いかん、ギレン氏に似てきたか?
それにそれだけが理由じゃない。MS隊を犠牲にするってことはあのパイロットの期待を裏切るって事だ。

・・・・・・・ルウム戦役と呼ばれる会戦が勃発する直前、私はロッカールームでスーツの上着を脱いでいた。
其処に黄色のパイロット用ノーマルスーツを着用した黒人パイロットが来た。

『パミル・マクダミル軍曹であります。
あの、失礼ですがウィリアム・ケンブリッジ政務次官閣下でよろしいですか?』

『そうだけど・・・・・・なんだい?』

『あ、いえ、個人的な案件なのでありますが・・・・・自分は次官閣下を尊敬しております。
自分は南米のスラム街出身です。あそこから逃げたいが為に軍に入った様なものでした。そして軍でも差別されてきました。この肌の色で。でも、だからこそ閣下を尊敬しております。
同じく有色人種でありながら実力で政務次官まで上り詰めた閣下に希望を見出しました』

『それは・・・・・その・・・・・困ったな』

『ご謙遜を。閣下の武勇伝はニュースで知っています。暴動の中、単身独裁者に立ち向かったとか。
自分は今から出撃しますがそれだけは言いたくてこちらに来ました。
閣下はカムナの兄貴の次に尊敬する方であります。ではご武運を』

そう言ってタチバナ小隊のパイロットは去って行った。
そんな事を言われて自分だけ逃げられるのは余程の強者だろう。
生憎、ウィリアム・ケンブリッジと言う人間はここで逃げるほど強くもなく、勇敢に戦えるほども強くは無い。

怖くてがちがちと歯が震える。
幸い、ノーマルスーツ越しのバイザーで分からないようだが。
今からでもリムと逃げられたらどんなに良かったか。
だけどそんな事は許されない。
だから思う事を述べる。
この時、ノエルお嬢さんの操作ミスで全艦に自分の告白が伝わるなど思いもよらなかった。

「なあシナプス大佐。聞いてくれ。私は勘違いされてきた。
勘違いだけで45歳にして政務次官なんて言う高級官僚になった。
でもその実態は無能で、臆病で、なんでここまで来れたのか分からない、ただの人間だ。凡人だ。
私の代わりなんてきっといくらでもいる。でも、私にはリムの代わりはいない。言い難いが私にとって守りたいのはリムなんだ。
正直言うと怖い。ああそうだ、軽蔑してくれ。侮蔑してくれてよい。怖くて怖くてたまらない。
ああ、そうだ恥も外聞もなく言おう。今すぐに逃げたい。逃げ出したい。
あんな連中の為に死ぬのは嫌だ!!誰かの盾になって死ぬのはご免だ!!
与えられた権限を使って今すぐにシャトルで逃げたいんだ!!!」

そこで一旦区切る。
誰もが。艦橋中の誰もが私の独白に聞き入っている。
それを知ったのは後だったが。

「それでも逃げちゃだめだと思う。
私は愚か者だ。卑怯者だ。いつも厄介ごとばかり押し付けられてきた運も無い男だろう。
だけど、だけど、妻を・・・・お母さんを見捨てた、お父さんだけ逃げだしたと子供たちに言われる父親にだけはなれない。
私用ですまないが、それだけはなれない。なれないんだ。
それに私はこの艦隊で一番偉いんだ。
その私が一番先に持ち場から離れる訳にはいかないのだろう?
私は軍人じゃないから分からない・・・・だけど、サイド3で上司に見捨てられた時の悔しさと辛い思いは分かる。
だから・・・・・・すまないが・・・・・シナプス司令官・・・・・全て君に任せる」

もう途中から何を言っていたのか分からなかった。
ただそれを聞いたファング2のレオン少尉のジムから苦笑いが起きたのを引き金に艦隊全員が笑いに包まれた。

「政務次官殿、そんなにはっきりと身の丈を晒しては進めの涙ほどの危険手当さえ出ませんぞ?
さてと・・・・・・・ケンブリッジ艦長!」

シナプス司令官が本当に楽しそうに声をかける。

「良い男に選ばれた・・・・・・貴官の幸運に敬意を表する。
ついては戦闘後秘蔵の薬を開けよう。それでチャラにして良いかな?」

唖然としていたリムだが、少し怒った口調で、だが殆ど照れた口調で言い返した。
それはあの頃から変わらないリムらしい口調だった。

「違いますよ、大佐。選ばれたのではありません。自分が選んだのです」

その言葉に再び一斉に笑いが起こる。
艦橋に詰めていた綺麗どころのお嬢さん方も言う。
中にはマオ・リャン大尉もミス.レイチェルの声もあった。

『いい旦那だなぁ。私も結婚するなこんなかっこ悪い奴が良いな』

『アニタ、そういう優良物件は先に押さえられているものよ』

『ミユは五月蝿いわねぇ・・・・・・夢を見るなら良いでしょ?』

『ノエル・・・・・あんた何歳?』

『ま、カッコ悪いのには同感だわね・・・・あら? 私って酷い?』

『そうそう。でも私はかっこ良いと思うな~』

『全く貴様らは・・・・・そろそろ仕事だ』

『マオ大尉は堅いです~。少しくらい恋ばなに心躍らせても良いでしょう?』

『一世一代の心からの叫び・・・・・映画みたいでしたね・・・・・艦長、次は貴女の番ですよ!』

『次はあたしたちとお酒飲みましょうよ!』

『・・・・・みんな。そういう事は生きて帰ってからゆっくりやりましょう』

ミス.レイチェルが〆たのが始まりだった。
ひときり艦内の笑いが収まったのを見たシナプス大佐が命令する。

「よろしい。では各機発進。続いて最大船速。
敵はまだこちらの真価に気が付いてない。最大船速で敵艦隊右舷から砲撃戦を仕掛ける。
反航戦の機会をあたえるな。一撃で仕留めて見せろ!!」

こうして私の人生はじめての実戦は幕を開ける。




『こちらファング3、マイクだ。一機撃墜!
ま、ざっとこんなもんかな?』

乗機のジム・コマンド宇宙戦闘使用に標準装備されたビーム・ガンでザクⅡF型を落とすホワイト・ディンゴ隊こと第三小隊。
ホワイト・ディンゴはレオン機が牽制し、ファング1のレイヤー隊長が接近する気配を見せる。が、これは陽動作戦。
本命はマイクのビーム・ガンによる射撃。取り回しが難しいガンダム用のビームライフルよりも小回りの利くこちらの方が優位と判断した。
その判断は間違ってない。今のところは。

『ファング2、二機目を確認。マシンガンにて牽制中』

ばらばらと閃光が一機のザクを捕えんとする。
ザクは殆どが対艦攻撃用のザクバズーカ装備であった。当たればこのジム・コマンドとて不味いが、どうやら母艦のペガサスを沈める為に取っておきたいらしくあまり撃って来ない。
マシンガン装備機は先に落とした。

「舐められたものだな」

レイヤー中尉は思わずジオン軍を罵る。勝ち戦で完全に油断しきっているのだろう。
そう言いつつも火力では圧倒するホワイト・ディンゴ隊。
3対3で始まった迎撃戦はいつの間にか3対2になり、今またロックオンする。
恐らく敵機のコクピットでは五月蝿いほどの警報が鳴っているだろう。そしてこちらの兵器はビームライフル。

「一機撃破!」

その掛け声と核融合炉の誘爆は殆ど同時だった。
これで3対1。最後の一機は形勢不利と見たか逃げていく。

「もっとも・・・・・作戦が成功すれば逃げる場所など無い筈だが」

レイヤーは一旦小隊を纏めるべくアニタに連絡する。




『カムナ隊長!』

『カムナ君』

二人の声が聞こえる。スペースノイドのジオン兵相手に宇宙空間で格闘戦を仕掛けたのは無謀だったか?
少し後悔したが性能差に助けられた。ジム・コマンドのパワーとガンダムと同じビームサーベルの圧力・威力で押し切った。
ヒート・ホークが焼き切れそのまま袈裟懸けでザクを両断する。
直ぐに盾を構えて距離を取る。爆発。そのデブリがシールドにぶつかる嫌な感触が何故か分かった。

「これが実戦、か」

息が荒い。
三小隊の中で最高のスコアを持つ自分がここまで本番に弱いとは予想外だった。
それでもエレンの管制下でシャーリーやパミルらのマシンガンが共同でザクを追い込む。ザクにとっては、ジオン軍にとっては予想外の展開だろう。
ジオンの十八番であるMS戦でこうも一方的に落とされるのだ。
気が付くとハチの巣にされるザクが見えた。これで二機目。逃げ出そうと背後を見せたザクに咄嗟にビームを撃ち込む。

「これで三つ!」

気分が高揚する。
戦勝がこんなに気分が良いとは思わなかった。




『マット隊長! ちょっとヤバいんじゃないですか!?』

『同感!!』

アニッシュとラリーが連絡してくる。
自分たちの任務は母艦の護衛。
シナプス司令官は旗艦のペガサスのみを突出させるという大胆な方法で全ての敵攻撃隊のザク12機を吸収した。
それ自体は三隻のサラミスKを守る為に必要な処置であったが、その分のしわ寄せが第二小隊のデルタチームに来たのは否めない。
それでもこの小隊は全機がビームライフル装備という事もあって既に2機のザクを宇宙の塵と化している。

「アニッシュ、下に一機行くぞ! ラリー、左舷に二機回り込む。
ノエル、敵機の正確な位置を報告してくれ! 先回りする!!」

空間機動ではザクのパイロットたちが上。
ならば管制で勝つしかない。幸い改装されたペガサスは強固な対空火砲と小隊毎の安定した連絡網が俺たちを救う。

『ノエルです。デルタ2はP65に向かってください。敵の後ろを取れます
デルタ3は・・・・P29です、急いで!!』

『無茶言うな!』

冷静な報告と言うのは必須だ。
特に戦場では。それが分かっているのか、どのオペレーター達も必死に冷静さを保とうとしている。
それでも無理な面があるのは否めない。
アニッシュがビームライフルでザクの右肩を撃ちぬく。
それを見た俺は直ぐに持っていたマシンガンでそのザクを撃つ。

「ええい・・・・後何機だ?」




『取り舵12、左舷多弾頭ミサイル発射! 
続けてデルタ3の後退を援護する。閃光弾装填、MSの目とモニターを潰す・・・・・・今だ、1番から6番撃て!』

私は妻の傍らで人生史上初めての宇宙戦闘を、所謂初陣を見学していた。
本当は一番安全なペガサスの艦中枢にいても良かったが、最後の意地でここにいる事にした。妻がいる艦橋に。
と、言えば聞こえが良いが本当は逃げると言う事も出来ない程の震えがあり席を立てなかった。
妻と子供の為だけに部下を死なせようとする、こんな自分を見れば誰もが軽蔑するだろうと思ったのに・・・・・何故か誰も軽蔑しなかった。
それどころか心地よい笑いに包まれた。意味が分からない。みんな死ぬのが怖くないのか?

私は怖い。
本当に怖い。
今だって怖いのに。

ずっと祈っている。
あまり礼拝には行かなかったが今日ほどそれを悔やんだ事は無い。
教会で見上げて崇拝した神様に頼む、どうか殺さないで下さい。
まだ生きていたいです、と。

その時ペガサス全体が大きく揺れた。
ザクがバズーカを叩きこんだようだ。

『ダメージコントロール!被害状況報せ!!』

『艦長、こちらダメージコントロール班。被害軽微。戦闘並び航行に支障なし』

『ミユです、ただいま攻撃したザクはデルタ1が撃墜しました。
シナプス司令、第1戦隊は予定位置に到達。砲撃戦に移ります』

『リャン大尉だ、これより各小隊は迎撃に専念せよ。ザクは残り少ないが無理に殲滅する必要はない』

どうやらうまく行くみたいだ。
良かった。帰れそうだ。
思い切り安堵の溜め息をつく。

『よし、第1戦隊に連絡、扉を開け!』

ふと目をやるとピンクの光が、メガ粒子砲の光がムサイに降り注ぐ。
艦隊による全力射撃とはこういうものなのか、と思えるほどの砲火がムサイに集中する。
先ずは右翼の一隻が沈んだ。圧倒的な砲撃にミノフスキー粒子もビーム攪乱幕も対応しきれなかったようだ。
そしてこの攻撃で直援に残していたザクも1機落としたみたいだ。それも撃沈したムサイ級のデブリで。
敵艦隊は素人目に見ても明らかに狼狽している。艦隊陣形こそ保たれているがそれでも不利なのは変わらない。
更にペガサスもメガ粒子砲を撃つ。

『目標、敵右翼二番艦。当てなさい!!』

ここまで怖い妻は久々に見た。
余裕があると思っていたがそうではないらしい。途端にまたもや恐怖が体中を支配する。
腕を組む。ふと気が付いて、いつの間にか開けていたバイザーを慌てて下ろす。
そうして初めて恐怖から身を解放する。
もっとも、解放した気になっているだけだが。
そして何を言い出すか分からないから口は挟まない。
が、これもある意味では誤解の元だった。

(もっと指揮系統に口出しするかと思ったが・・・・・やりますな、ケンブリッジ次官)

(コーウェン少将らの言った通りの人物ですね。
これはやはり大物です。しっかりとジャブローに報告しなければ)

シナプス大佐とレイチェル大尉が盛大な勘違いをしてくれいるが気が付けない。
今までとは違ってそんな余裕はない。
が、余裕がないのはどうやら自分だけでは無かったと後に知る。

『敵艦被弾、沈みます! 轟沈です!!』

『ミユ、良く言ったわ!! よし、続けて敵左翼一番艦。第1戦隊と共同して刈り取るわよ!!』

通信越しに妻の興奮した声が聞こえる。
そう言えば直接戦闘に参加しないで後ろにいるダグザ大尉はどんな気分なんだろう?
私と同じように怖いのだろうか?
それとも生粋の軍人は怖くないのだろうか?

『何!? ちょっと待て!? おい!!
ケンブリッジ艦長! シナプス司令!
撤退中の味方艦隊反転。反撃に加わるとの事です』

『今さら!? ええい、さっさと残りのムサイを沈めるわよ。
ん? 砲術長、右舷下部ミサイル4発発射と同時に対空砲を叩き込みなさい。ミユ何を見てたの!? ザクが下にいるぞ!』

マオ・リャンが報告し、妻が毒舌と同時に艦の保全に努める。
ペガサス級は連邦軍でたった二種類だけの、対ミノフスキー粒子下での戦闘(特に接近戦)を想定された艦である(もう一隻はバーミンガム級)。
故に、MSと言えどもペガサス級強襲揚陸艦を叩くのは骨が折れる。
装甲も大気圏突入とその後の飛行を考えてマゼラン級戦艦よりも厚い。
止めにデブリの中で強襲揚陸を行うのだから全体も装甲が厚い。特に二番艦以降は更に改良が加えられている筈だ。
まあ何が良いたかと言うとザクの攻撃では沈めにくい、と言う事だ。
尤も、実際これがゲルググなどであれば第14独立艦隊は壊滅していたが、ザクⅡを基本とする二級線の偵察艦隊であった点が勝利の女神に微笑まれる要因となる。

次の斉射でムサイが機関室を撃ちぬかれて漂流。
残りの一隻は味方を見捨てて撤退。

残った4機のザクはこれを見て武器を捨てる。そのままザクはペガサスに着艦。
ウィリアム・ケンブリッジ政務次官はほぼ無傷の4機のザクⅡF型を武装解除すると言う功績と亡命政権の船団をルナツーに無事送り届けるという功績をあげた。
いや、第14独立艦隊がこれらの功績を上げたと報告した。
そしてそれはウィリアム・ケンブリッジには用兵の才能があると連邦政府上層部と軍上層部に錯覚させる事になる。




宇宙世紀0079.08.23
ルウム戦役勃発。地球連邦連合艦隊、二時間にわたる激戦の末、完全な敗北を喫する。
ジオン軍、本国に向けて凱旋を開始。

宇宙世紀0079.08.24
連邦宇宙軍、ルナツーに帰港。全軍の85%を喪失。
ジオン第三艦隊、21時にサイド5宙域に侵入しサイド5ルウム制圧。
第7艦隊、武装解除。将校のみルナツーに後送される。将兵は捕虜になる。
ジオン第一艦隊、ジオン親衛隊、独立教導艦隊、ジオン本国に凱旋帰還。

宇宙世紀0079.08.26
ジオン公国、ヨハン・イブラヒム・レビル大将の生存ならび捕縛を正式に発表。
同日10時、地球連邦政府に対して外交交渉を開始。
同日15時、ジオン公国本土にてルウム大勝記念大会を開催。
同日19時、地球連邦政府、南極にて交渉開始を受諾。
同日23時、ジオン公国、ギレン・ザビ自らを中心とした代表団の地球出発を公表。

宇宙世紀0079.08.29
連邦、ジオン代表団双方が対面。南極にて交渉開始。




そんな中、ルナツーである事件が起きていた。
ウィリアムが私室でくつろいでいるとそれは起きる。
部屋の前が何やら騒がしい。そう思って彼は読んでいた雑誌を片付ける。

(この間地球に降ろせってうるさかったムーアとザーンの亡命政権首班をぶん殴ったせいかな?
あいつら国民見捨てたんだ。それが被害者だと言い放って、責任は死んでいった連邦兵にあるだの、連邦軍が悪いだのなんだの・・・・シナプス司令らの前だったけど我慢できなかった)

良くある事だが、権力を持っていた連中が安全なところにいたいのは良くある。
そして連邦艦隊が壊滅した今、ルナツーも安全とは言い難い。
何より宇宙要塞であるルナツーはコロニーの首都バンチ程快適では無い。
だから地球で一番安全で尚且つ快適なジャブローに降りたがっていたのだ。
それを伝えられた時の怒りときたら・・・・・自分が殴らなければ他の誰かがやっていただろう。
自分は臆病者で役立たずだが、それでも部下の怒りと感情の代わり位は務めないと。

と、思っていたのだが少しやりすぎたかとも反省。
未だに感情が高ぶっているのが分かる。もう1日が経過したのに。
そして扉を開く。
部屋にはダグザ大尉以下の護衛達も制服で寛いでいたが何事かと立ち上がる。
剣呑な空気が辺りを支配する。

「ウィリアム・ケンブリッジ政務次官・・・・・ですな?」

無言で頷く。

(私服だが・・・・それが不味かったか?)

眼鏡をかけた大尉の階級を持つ将校と何故か警察官と検察官が一緒だ。
凄く・・・・・嫌な予感がする。

「逮捕!!」

「な!?」

後ろで何事かと構えていたダグザ大尉ら二個分隊の護衛の虚を突いて私は重力区の床に叩きつけられた。
ダグザ大尉らが拳銃を引き抜き、向こう側も小銃を一斉に向ける。互いに銃口が向けられるが、どちらも譲らない。

(痛い。肩を脱臼したな)

何故か冷静にそれが分かった。
やはり実戦を経験すると変わると言うのは真実なのだ。

「私は第401警戒中隊長代行のナカッハ・ナカト大尉です。
こちらは憲兵隊と検察局に内務省警察庁の方々。それにエルラン中将が派遣されたジュダッグ中佐。
もうお分かりでしょう・・・・・ケンブリッジ政務次官、あなたを内通罪、国家反逆罪、軍事情報横流し、物資横領、スパイ容疑ですか、他にも大小幾つかありますがこれらの容疑で拘禁させてもらいます。
民間人に銃口を向けるのは気が進みませんが・・・・・来てもらいましょうか?」

唖然とした私に彼は告げた。
銃口が額に突き付けられた。
恐怖よりも理解不能と言う唖然とした気持ちが強い。

「弁明は査問会なり軍法会議なり、あ、いや、貴方は民間人ですから特別法廷ですか。
其方でするのですな。奥方は軍法会議です・・・・・連れていけ。精々丁寧に、な。」

宇宙世紀0079.08.28
地球連邦政府並び地球連邦安全保障会議はルウム戦役を初めとする一連の敗北の責任を問うとしてウィリアム・ケンブリッジ内務省政務次官の招聘を決定した。



「ここだ」

そう言われて私はルナツーの一室に逮捕、拘禁された。
第14独立艦隊も軍事研究の名目で事実上の査問会にかけられる。



そして舞台は再び政治に移る。
政治の季節がやってきたのだ。

宇宙世紀0079.08.30
ギレン・ザビは自ら南極大陸に降り立つ。




[33650] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:9ef01505
Date: 2012/08/02 09:55
ある男のガンダム戦記 08

<謀多きこと、かくの如し>





宇宙世紀0079.08.24

ルウム戦役とギレンが名づけた会戦の名はそのまま地球圏全土に定着した。
ルウムで大勝利を収めたジオン軍は、その規律を守る限りジオン本土に置いて英雄たちとして迎え入れる。
ジオン本国は歴史上稀に見る大勝利に沸いた。国民は勝利の美酒に酔っている。
これと対照的だったのが連邦軍だ。片方が大勝利ならもう片方は大敗北である。
歴史的大敗を喫した為か帰還した将兵らの士気は崩壊。秩序もくそも無くルナツーに我れ先に入港。
そのまま先のルウム戦役での敗北に、MSへの恐怖、戦友を失った事への寂しさを紛らわすかのような乱痴気騒ぎに突入していた。

そうした中、ジオン公国首都のズム・シティではザビ家全員が公王府のデギン公王執務室に集まってきた。

総帥服姿のギレン・ザビ総帥。
黒いゼニア製スーツと紺のネクタイと白いシャツを着た次男サスロ・ザビ。彼の役柄はジオン公国議会議長兼副総帥。
中将の階級章を付けた2mを超すジオン軍の英雄、ドズル・ザビ。
同じく大尉に昇進したザビ家の四男、ガルマ・ザビ。
そして公王としての姿で椅子に座っている、彼らの父親デギン・ソド・ザビ公王。
四人は思い思いの場所に座っており、それぞれのサイドテーブルには銀製品のグラスとフランスボルドー産の白ワインとドイツ製のチーズが置いてある。
地球の統一ヨーロッパ州ドイツのチーズをうまそうに食べるドズルとガルマ。
二人とは違い、食事には手を付けずに小声で何事かを相談しているギレンとサスロ。
こうしてみると四人の役割の違いが良く分かる。
もしくは戦争屋の役目と政治屋の役目の差、か。
ドズルは一仕事終えた親父という感じで、ここに来る前まではギレンとサスロ、ガルマの姪、つまり自分の一人娘ミネバと妻ゼナと共にザビ家の私邸に居た。
余談だが、ザビ家は独裁者と言うイメージを払しょくするべく周辺の名家に比べて私邸が小さい。まあ、庶民にとっては十分豪勢な家なのだが。
ガルマは凱旋してきたシャア・アズナブル少佐(マゼラン級撃沈とその後の攻勢のきっかけを作った功績により昇進予定)らを労う、士官学校同期生主催の戦勝祝賀会に行っていた。
それが今ようやく終わってザビ家の私邸に帰って来たばかりだ。
ルウムでの戦勝で友人を含めた同期生らが大いに活躍したのは疑いない。その為か、何事かを考えている節がある。

(誰かに何か吹き込まれたか?)

ギレンは一瞬、以前の連邦軍武装解除事件を思い出した。
方やデギン公王は国民向け放送で団結を呼び掛けて一度席を外しており、その間ギレンとサスロは今後の方針を話し合う。
部屋には超大型のTVモニターが設置されていて、ルウム戦役の両軍の戦闘映像とそれが編集されたプロパガンダ映像が室内に流されている。

「やはり何度見ても凄い・・・・・ドズル兄さんは無敵だ。我がジオン軍は宇宙一だ!」

ガルマが楽しそうにはしゃいでいる。
そこに父デギンが戻ってきた。どうやらガルマの一字一句を聞いたらしく機嫌が悪そうだ。

「ガルマ!」

それを見ていた公王が怒りを露わにする。
彼には末の息子があまりにも楽観しすぎているように見えるのだ。
事実、ガルマ・ザビはこの独立戦争を、いや戦争そのものを楽観視している。

「お前は幼い。戦争がどんなものか分かって無い。
今日の連邦軍は明日の我が軍になるかもしれないのだ。それを知れ・・・・・ギレンよ」

ガルマが不服そうに黙るのを見る。
そう言えばガルマはずっと戦いたい、何でもすると言っていた。
このまま放置しておく訳にはいくまい。
やはり以前に問題を起こした盟友のシャア・アズナブルとかいう士官の活躍にほだされているのだろうか。
そう思いながらも父親の問いに耳を傾ける。

「何でしょうか?」

ワインを口に含みながらも今後の事を弟サスロと共に考えていたジオン屈指の実力者は父親の言葉に反応する。
ふと父親の表情に陰りがあるのが分かった。あのルウムでの大勝利にもかかわらず浮かれてないのは流石だ。
並みの指導者ならば浮かれて政局を誤る所だろう。実際、そうして滅んで行った歴史上の人物は極めて多い。それは反面教師とすべきだ。

「それで? ギレンよ、これからどうするのだ?
ルウムで連邦宇宙艦隊は壊滅した。これは好機だ。恐らく最初で最後の好機だ。
今こそ連邦と即時停戦、早期講和だ。それしかない。
此処を逃せば泥沼の消耗戦になる。
それを勝ち抜けるだけの国力はジオンにはなく、占領した他のサイドにもMSや戦艦を建造するような工業力は無い。
この時をおいてジオンが独立を達成する道はないのだ。そうであろうに。
それとガルマの件だが・・・・・・何か腹案があるのだろう?」

なんだその事か。
ギレンは内心ほっとした。
これが連邦軍との再戦や自分の持つ独自のパイプの事など痛くもない腹を探られるなど御免こうむる。
ついでにガルマの件と連邦への対応なら既にある程度の事が決まっていた。

「ガルマの件については本人の意向を尊重し、昇進の上で軍務上重要なポストである参謀本部勤務にします。
安全なジオン本国からは出しませんのでご了承ください」

不満を述べそうなガルマを手で抑え、ギレンは続けた。
その実に常識的な提案に少し不安であったサスロも安心しているようだ。

「父上、ご安心を。戦死の可能性が高い前線などガルマ本人が余程強く望まない限り認めません。
ガルマには戦意高揚の為と国内政局、軍と政府のまとめ役の補佐をしてもらいます。サスロと共に。
それで連邦への対応ですが先ずは州単位で切り崩を仕掛けます。
こちらから政治的に先手を取りましょう。
ルウムでの大勝利を持って現政権への独立承認を求めるつもりです」

地球連邦はあくまで多国間条約に基づいて成立した連邦国家である。
その第一に構成国があり、更にその第一から構成する州政府があり、州政府は絶対民主制と多様性を主張、保障する為、連邦内部で独自の影響力を持っている。
これは地球圏全土に周知のとおりで、スペースノイド主体のコロニーやルナリアンの住む各月自治都市とは違い、独自に宇宙艦隊を建造できる工業力、その州出身だった連邦軍退役兵で構成された州軍も維持している。
当然だが、州によって政治体制も若干異なり、基本的に議会による民主制という点以外は別個のものであるし(構成国家に至ってはさらに細かく区別される。中には事実上の直接王政まである)、軍事力やそれを支える経済力もまた各州、各州が連携して形成する経済圏によって大きく異なる。

「ま、勝って見せますよ。私自ら地球連邦と交渉します。
このまま何事も無ければ独立の達成は時間の問題ですな」

そして連邦政府(中央政府)が、この戦争で壊滅的な打撃を受けた地球連邦宇宙艦隊を再建するには三大経済圏の援護が必要不可欠であるのだけは間違いない。
これは州政府や州構成国家の発言権強化に繋がる。
そして歴史的に見て(つまり伝統的にという意味だが)、各州間や構成国家間の経済、宗教、文化、歴史対立問題は根強く、連邦政府が一枚岩では無い事を先の地球視察でギレンは知っていた。
あの地球視察で作ったパイプは最大限に役立っている。地球連邦政府では無く、地球連邦そのものに揺さぶりをかけるのだ。

「無論、ただでは独立できませんので我がジオンの独立を承認させるとともに連邦と相互通商・安全保障条約を締結します。
つまり、連邦政府と唯一対等な同盟国としてジオン公国を認め、ジオンの立場を強化させるのです。
これは連邦が一度認めた独立を有耶無耶にするような行動を抑制する為の目に見えない鎖が必要であり、その為の処置です」

ギレンの最終的な交渉目的はジオン公国の独立達成と自治権獲得、そして同盟国化による地球経済圏へのジオンの参入。
特にMSは兵器として以上に、宇宙開発機器としても最重要な機体であり、ジオンが持つそのアドバンテージは10年以上で、ジオンが連邦を圧している唯一の点とも、識者に言われている。
更に宇宙に住むスペースコロニーの中で唯一工業化に成功している我がジオン公国。
独立戦争で損傷した各サイドのコロニーの改修工事やサイド7にでも作られるであろう難民向けの大型コロニー建設、デブリ回収作業という大型公共事業を受注する為に、既にヤシマ重工を中心とした極東州に働きかけをサスロが行っている。
戦後不況を乗り切らないと第二、第三の独立要請が出て全て水の泡になる。それに経済的に連邦に頼られると言う事は連邦内部にジオンのシンパを増やす事にも繋がるので基本的にデメリットが無い。

(極東州は公共事業関しては歴史的に繋がりが深い。地球でも宇宙でも。
ならば積極的に利用すべきだろう・・・・・極東州の裏には北米州があり、北米州の影響下にはオセアニア州とアラビア州、アジア州があるのだ)

これらを踏まえた上で、我がジオンは宇宙開発の最前線に立つ。国家の経済の為に。
ここで宇宙開発の最前線に立ち、地球と唯一対等なスペースノイド国家となりスペースノイドの盟主的な存在として君臨する。
また、ジオン国民のガス抜きの為にも、5億人の経済力と消費能力を持って地球連邦と唯一の対等な『同盟国』として存続する。
勿論だが、先ほども父に述べたように『ただ』で存続できる筈も無い。
地球連邦もそこまでバカでは無いし、権益の問題や非加盟国問題などから連邦議員たちにも譲れない一線がある以上、一方的な要求などすれば独立戦争の継続を招く。
故に大規模な軍縮やソロモン、ア・バオア・クー両宇宙要塞の割譲、非加盟国との交易の停止、MSを初めとしたジオンの最先端技術の提供などはしなければならない。

「父上が心配する様な戦争の長期化は避けねばなりませんからな。
無論、我が軍も戦争の長期化に対応する様にはしますが、現実問題として我々にジャブローを占領するだけの力はありません
そして残念ながら国民と言うモノは熱しやすい。これはダイクンの死を切っ掛けにした暴動が良い例です」

だからこそ、ルウム戦役にて大勝利をおさめ、国民の溜飲が大きく下がっている今こそが絶好の機会なのだ。
これを逃せば何故勝利したのに講和しなければならないのかという至極まっとうで現実を見ない厄介な意見が出てくるだろう。
いや、今だって出ている。報道管制のお蔭で表だって反発してないだけだ。実際は国内でも更なる戦果を求める声はデカい。
だから演説なり減税なりで抑えに回らなければならない。

(独裁者ほど難儀なものは無いだろうな。国内の調整の為に自分さえも欺かなければならん)

この事はサスロを通してダルシア・バハロ首相も分かっており、現在の首相は議会の抑えに回ってもらっている。

「なるほど・・・・・同盟国か・・・・・それならば連邦も辛うじてだが認められよう」

父親は椅子に深く腰掛けながら息子を見やる。
一方、長男は椅子から立ち、いつもの様に後ろで手を組んで父親の傍に来る。
他の3人は思い思いに座って成り行きを見ている。
だが、ガルマだけは不満の様だ。
恐らく兄ギレンが前線に自分を出さないというのが癪に触っているのだ。

「ええ。それに地球圏経済に食い込まなければジオンは経済面から壊滅します」

事実、ジオン公国の経済圏は5億人と小さい(小さいとは言えなくても決して大きいとも言えない)し資源もない、輸出先も非加盟国だけである。
そして地球連邦との関係上、ジオンと非加盟国はあくまで秘密貿易が中心であり大規模な貿易は出来ない。
またジオンが得意とする宇宙艦隊や宇宙産業の需要も彼ら非加盟国にはない。
彼らの戦力と軍需は第一に巨大な陸軍なのだ。
第二に空軍であり、余裕があってはじめて海軍力に目を向ける。
中華の持つ原子力空母こそ連邦海軍の空母と同世代だがイージス艦は二世代前だと連邦海軍に常々馬鹿にされている。
まして海兵隊の様な強襲揚陸部隊や宇宙艦隊などと言う金がかかる部隊を用意する事など出来はしなかった。
加えて非加盟国が宇宙から締め出されており、宇宙には攻めるべき拠点も守るべき拠点もない事も影響している。

(・・・・・・・非加盟国に宇宙に出る余力などない。連中も宇宙での軍拡などする気もないだろう。
そうなればMSは陸戦用や水中用が輸出第一となる。地球での戦闘を考慮したMSはあるが・・・・実際は未知数だ)

ギレンは地球各国の内情を思いやる。
地球の非加盟国は正直言って貿易相手としてはある程度だが頼りになっても、共に戦う戦友としては全く持って頼りない。
泥沼化してしまうのはジオンにとって最悪だし、地球圏全体を考えるギレンにとっても不本意極まりない事態だ。
地球連邦と非加盟事の戦争は確実に地球環境の破壊を加速させる上に、戦略面でも大陸への封じ込め戦略を取られ、宇宙と地球の二正面作戦を連邦が採用する事で最終的にはジオンが押し負けるのは目に見えている。

「ジオンを経済面から再生する為、地球連邦との通商関係を含んだ同盟条約締結。
それを成すにはルウムでの大勝利によってジオン国民の気分が高揚し、連邦政府に対して寛大な状態になっている今しかありません。
この機を逃しては我がジオンは連邦との総力戦に突入し、向こう1年以内に連邦軍に追い詰められるでしょう。
その証拠に既に連邦軍はMSの実用化と量産化に着手しているのです」

ギレンの主張、つまりサスロの主張でもあるが、は、ここでの戦争終結。
その為ならば大幅な譲歩もする。だが、その譲歩に国民が耐えられるのは勝利と言う幻想に酔っている今しかない。
仮に酔いから覚め、更なる熱狂に突入すればギレンと言えども国民を制御する事は出来なくなるだろう。
自縄自縛。古来の独裁者や国家が陥った罠に自らも陥る事になる。
そうならない為には今の段階で連邦に休戦、停戦、講和、独立承認、同盟締結という流れを認めさせなければならない。
そうでなければジオン公国は遠からず崩壊する。経済的にも軍事的にも政治的にも。

「それに父上、例の部隊、父上が懸念していた地球侵攻軍も別に実戦に投入しなくても良いのです。
そもそも軍とは抑止力と言う意味合いが強い。そうだな、ドズル」

いきなり話を振られたが、軍事に関してはザビ家、いや今では地球圏でも有数の人物となっている三男だ。反応が早い。

「おう。兄貴の言う通り軍隊と言うのは存在すると言うだけで意味があるからな。
これは今の状況からの例えなんだが、連邦軍の宇宙戦力はルウムで壊滅した。
が、未だにルナツーに第1艦隊と第2艦隊、それにルウムから個別に逃げ出した残存戦力を合わせて130隻程が立て籠もっている。
これはジオン軍の稼働可能艦隊よりも50隻程多い。まあ、向こうも実際に動けるのは第1艦隊と第2艦隊だけだろうが。
MSの有無を考えれば全力もってすれば第1艦隊も第2艦隊も殲滅できるが連中とてバカじゃないだろうから艦隊保全に走ると思われる。俺たちを牽制する目的で。
そう言う意味では今の連邦宇宙軍もギレン兄貴の言う通り抑止力としての軍だな」

ドズルが我が意を得たとばかりに言うとギレンはまた別の事を続けた。

「開戦前の大戦略に基づき、地球降下作戦を準備します。
南極での交渉が仮に決裂した場合は地球のオデッサ地区を抑えます。オデッサは以前申し上げた通り地球内部の経済圏を支える要。
ここを抑える事で地球経済そのものを人質に取ります。
また、仮にこの戦争が南極にて条約締結をもち終戦となる場合は地上用MSを連邦軍に輸出し、代わりに我が国に必要とする物資を輸入します。
無論、極秘裏に非加盟国へ『作業機械』と『解体用火薬』を輸出して外貨ならび資源獲得を行います。これは条約締結まで続けますが」

そう言って黒いファイルを出す。
中には地球侵攻作戦と露骨に書かれた書類が入っている。
しかもイギリス製の万年筆だ。記憶に間違いがなければギレン愛用の物だ。

「やっておいて今さら。それで、我々は誰を交渉相手にするのだ?」

その言葉を待っていた。
ギレンの顔はまさにそれだった。

「ウィリアム・ケンブリッジ政務次官。
恐らくこの交渉で連邦側の代表を務める人物です。
我らザビ家が唯一恐れるべき連邦の官僚ですな・・・・・父上もご存知かと思いますが?」

ふ。
デギンもそれには全面的に賛成らしい。

「ウィリアム・ケンブリッジ・・・・・ああ、あの男か。連邦にしてはえらく珍しい人間だったな。
そうか・・・・・厄介よ。ギレン、あの男がキシリアを悼んだ時に暗殺でもしておけば良かったか?
いつの間にやら政務次官となり、権限と実力に差がなくなってきておる」

と、ギレンの携帯電話が鳴った。メールが端末に来たのだ。
差出人は秘書のセシリア・アイリーンからで、ダルシア・バハロ首相から公王に面会要請があるという。
それをギレンがデギンに伝え、デギンは椅子から立ち上がり公王杖を持って部屋を出、議会に向かう。

「では先に行く。仔細は後で聞く故、サスロらと共に詰めて置け」

父親はSP(親衛隊では無く、内務省の警察官)を従えて部屋を出る。議会までは車で凡そ10分だ。
ジオン公国議会は傀儡と化しているとはいえ野党も存在しており、ジオン憲法は形式上は立憲君主制を敷いていた。
実質はともあれ。内情はどうあれ。だからこう言った行事や首相、議会の要請に公王がでるのは必然である。
たとえ衆偶政治の可能性があっても、ダイクン以来のジオン議会政治を途切れてはならない、というのも公王やダルシアなどの意見だ。
因みにザビ家の他の面々の対応だが、ギレンはと言うと議会軽視の姿勢が目立ち(と言うより冷淡且つ無視)、ドズルは軍人としての姿勢を貫き我関せず、ガルマは立憲君主制に理想を抱き、サスロは国民への不満解消や政策の多様性という現実面と連邦へのポーズから議会を認めている。

「・・・・・・行かれたか。
さてそれでは会議もいったん休憩にしよう。サスロ、ドズル、ガルマ。
45分後にこの部屋だ。それぞれ情報端末とメモリーディスクを持ってくるようにな」

ギレンが残った弟たちに解散を命じようとした時、ガルマが動く。

「ギレン兄さん!」

いつにない剣幕だった。

「うん? 何だ?」

まあ、それで海千山千の猛者を相手にしてきたギレンが動ずるわけはないが、少しガルマは気合が入りすぎているのは否めない。

「ど、どういう事ですか!? 僕が参謀本部配属って!?
僕は前線勤務を望んでいるって父上にもギレン兄さんにもドズル兄さんに言ったじゃないですか!!」

どんと机を叩いて立ち上がる。

(そこまでの気迫故に一体全体何事かと思えば・・・・・つまりは単なる子供の英雄願望か。
あの連邦軍武装解除事件でもそうだったのか? ガルマよ、頼むから少しはケンブリッジを見習え)

ギレンは弟の危うさに気が付いた。弟は焦っている。
自分達、国内統治の実績を持つギレンに外交関係を構築し長兄の補佐役として連邦に警戒されているサスロ。
開戦時からルウム戦役までの大勝利で歴史に名を刻んだ三男にしてジオン軍の軍総司令官であるドズル。
そしてジオン・ズム・ダイクンにつき従いムンゾ自治共和国をジオン共和国に格上げし、最終的にはジオン公国として事実上の独立国を建国した父親デギン。

(確かに今現在のガルマはザビ家の中では暗殺されたキシリア並みに知名度が低い。
ガルマは実績もない事に苛立ちを持っているのか。
キシリアに似ているが・・・・・もっとも、あのキシリアは暗殺時、つまりはまだ保安隊の隊長のころから私に対して良からぬ事を考えていた様だが)

因みに対連邦対策の為の国内宥和政策から依然として旧キシリア派閥は健在。これはギレンの予想外であった。
亡きキシリアに忠誠を誓う者もいる。キシリア暗殺から10年ほどが警戒してその影響力は衰えてきた。
が、国内諜報部や秘書のセシリアによれば、表向きに衰えたその分、反ギレン派の不満分子を糾合し、裏では勢力を盛り返しつつある。
そのキシリアの代わりに担ぐ神輿はドズルの娘、姪のミネバ・ラオ・ザビ。
自分の姪を利用して、秘かな、しかし確実な反ギレン運動を行っている。国内団結の為に敢えて無視しているがそれ故に調子に乗り出している。
厄介なのはそれに政治的に無関心のドズルが全く持って気が付いてない事だ。
サスロはキシリア暗殺を防げなかった事が流石に後ろめたいのか手を出せず、父デギンは孫娘に娘の派閥が接近している現実、それを信じない。ガルマも同様。
かといって自分が手を出せば反ギレン派の思うつぼだ。この間も総帥暗殺未遂事件があったばかりなのだ。
暴発し易いと思われたキシリア派だが、自分が過労で倒れていた時にも自重してくれたお蔭で更に厄介になっている。

(まあミネバがこちらの手にあり、キシリア派もダイクン派もジオン国内にいる限りどうとでもなるがな)

とは、それをセシリアから聞いたギレンの判断。
ふと、回想を終えて現実に戻るとまだガルマが何か言っている。

「だがガルマ・・・・・」

ドズルが何か言いたそうだったが、ガルマはその気迫を次にギレンへとぶつける。

「シャアだって武勲を立てて少佐になったんだ!」

(ああなるほど、やはりそういう事か。そんな顔をするドズル)

ここでドズルはガルマの思惑を誤解した。
ガルマがここまで前線勤務に拘るのは単に友人に負けたくないだけなのだと。本心では戦闘に参加などしたくないと。

「なんだ?昇進したいのか?それだったら安心しろ。
参謀本部付けになるから自動的に少佐にしてやれる」

バン。
またもや思いっきり机を叩く。
いつの間にかガルマは自分が座っていたソファーから立ち上がっていたのだ。

「違います!! 僕はお情けで昇進したいんじゃないんです!!
嫌なんですよぉ。父の七光りなんて思われるのは!!
お情けで昇進して、それでザビ家の血筋を引きながら無能だの坊やだのお飾り指揮官なんだのと言われるのは・・・・」

若者特有の英雄志望に加え、個性豊かで強烈な兄弟や友人と思っているシャア・アズナブルとやらに対する劣等感がない交ぜになって爆発している。
これは性質が悪いな。そうギレンは思った。

「ガルマ、参謀職も立派ものだぞ?
それに前にも言ったが体を・・・・・・・」

サスロも最後まで言えなかった。あまりの剣幕に、ガルマらしくない迫力に歴戦の政治家が押されたのだ。
こういう意味ではギレンに匹敵するカリスマ性を持つかもしれない。
もっともまだ原石にすらなっては無いが。

「ドズル兄さん!!!」

びく。

(ドズル・・・・・・頼むから弟に怯えるな。ルウムでの勇猛さはどこへやった?)

ギレンは眩暈がしてきた。ふと携帯をチェックすると個人宛の暗号メールが入ってきている。
MIPやジオニックを初めとした財界幹部らと会談しなければならい。気が付いたら既に自分たち用の時間はとっくに過ぎている。
そして連邦との交渉が間近に迫る今、国内の調整の時間も一分一秒が惜しい。
いつまでも子供の我が儘に付き合っていられない。
だが、ギレンの性格からしてそれを表情にも声にも出す事は無い。
故に誤解されるのだが。まあ、それは置いておく。

「ドズル兄さんは今やジオンの英雄だ。ジオン救国の英雄でしょ!?
ならばドズル兄さんの権限で何とかできないんですか!! いいえ、出来る筈です!!!
僕はシャアに負けたくないんですよ!!」

そう詰め寄るに弟の前に、三倍の敵、連邦宇宙艦隊を率いたレビルにさえ屈伏しなかった男は屈服した。

「わ、分かった。とりあえず・・・・・ガルマの言いたい事は分かった。
と、という訳だ、ギレン兄貴。なんとかならんか?」

その丸投げの態度に、思わず。

(いい加減にしろ、と怒鳴りつけたくなるが・・・・・・そこまで前線に出たいと言うなら仕方ない。
ガルマよ・・・・・・お前は戦場で・・・・グレート・デギンでルウムの戦いを見て何も学ばなかったのか?)

と問いただしたいが、やはり総帥職にある者としては、今は時間が何よりも惜しい。
それに護衛をつけ、正規艦隊が出て来た時は撤退を厳命し、MSは全てゲルググを配備するならば勝利は簡単だろう。戦死の可能性も少ない。
ならば・・・・・任せてみるか。

「・・・・・・・分かった。父上には私から進言しておく。
ドズルはガルマの護衛部隊と直卒部隊の編成を急げ。
交渉失敗の場合、占領地サイド5周辺の連邦軍の通商破壊艦隊ならび地球軌道にいる連邦偵察艦隊の撃滅を命令する。それがガルマの任務だ」

嬉しそうに敬礼する弟を見て、即座に部屋を出るギレンとサスロ。まだ仕事が山積みだ。
独裁者らに休息は無い。




その頃、首都防衛大隊に一人の中尉が訪れた。
彼はタチと名乗ってアンリ・シュレッサー准将に面会を求める。
面会までにだいたい1時間ほど待たされたが、彼が突然の訪問で内容も言わなかった以上は早い方だ。それも例外的に。

「さて私に用事があると聞いたが・・・・・・タチ中尉だったな。何かな?」

ダイクン派でありながら閑職に回される事無く、親衛隊以外では唯一ザクⅡ改を充足するジオンの本土防衛の要を担う男、アンリ・シュレッサー准将。
と、一応建前上は首都防衛の精鋭だそうだが、実際は旧ダイクン派を纏めて隔離したいデギンとギレンの思惑から誕生した部隊がこの首都防衛大隊である。
彼らの実際の仕事は防衛の任務では無く徴兵された兵士らの教官職。
が、そうであるが故にその練度は高く、コロニー内戦闘ではジオン軍の中でも有数の、ギレンらは認めたくないだろうが下手をするとジオン軍最強の部隊の一つになる。
その執務室で。
ルウムに潜入してそこから無事に帰って来た優秀だが、一介の中尉に過ぎない人物が何の脈絡も無く会いたいと言ってきた。
しかも軍情報部所属。興味がわく。

「ここは綺麗ですね」

途端に妙な事を言って・・・・・シュレッサーは気が付いた。
先程警戒の為に目を通した軍歴。
この目の前の男は確かダイクン派の重鎮ジンバ・ラルの一人息子、ランバ・ラルと交友関係があった。
そして情報部独特の言い回しで人払いを命じている。それも現役の将官に、である。

(なるほど・・・・人に言えない事か、聞かれたくない事か、あるいはその両方か)

判断するとシュレッサーは直ぐに部屋を変える。
首都防衛大隊を抜き打ちで視察しに行くと言って部屋を出る。
その移動の間は他の将官や将校、将兵の様にルウム戦役の勝利を祝う言葉を並べた。
軍服姿のアンリが、タチ中尉を引き連れる姿は第三者から見て何も不自然では無かった。
そして軍用車では無く、私用の駐車場に停めてあった自家用車に乗る。

「で、何事か?」

運転は中尉がやると言うので任せた。念のため、拳銃の安全装置を解除していつでも撃ち殺せる状態にしておく。
それに気が付きつつも、中尉は懐から一枚の写真を取り出した。
それは珍しい事にフィルムに焼き付けた写真であり、電子プリントされたものでは無かった。
映っていたのは医学生らしき女性の横顔。女性と言うかまだ女学生だ。年はだいたい16前後と見える。

「これが?」

アンリの問いにタチ中尉は用心しつつも言った。
何か見覚えはありませんか? どなたかの面影はありませんか? と。
そう言われると何処かで見た様な気分になる。思い出そうと記憶の奥を探る。
そしてふと思い立った。

(金髪。女性。16歳前後。場所はサイド5のテキサスコロニー。ん?)

テキサスコロニーは連邦からジオンに旗色を変える事を潔よしとしない難民らが集まり、大混乱が発生している。
現有戦力ではジオンは点を支配することは出来ても面を支配できない。
また、連邦政府の印象を、正確には連邦政府内部の良識派の印象だが、これを良くする為に避難民や脱出者への攻撃は極力控えるように通達された。
特に連邦軍の量産型MS、ジム・コマンド9機の前に、ジオンにとっては宝石よりも貴重な16機のザクⅡF型が失われた事から慎重になっている。

(各サイドの難民向けシャトルに乗る直前の映像のようだが・・・・・・まてよ、この女性は・・・・ま、まさか!?)

そこで思いつく。
この映像に出ている女性の心当たりが。
それはもう10年以上昔だが、ここがまだムンゾと呼ばれていた時に出会った仰ぐべき主君の娘。

「タチ中尉・・・・・・君は彼女が例の方と?」

ランバ・ラルと何か繋がりがあるのか?
旧ダイクン派にとって希望の芽となるのか?

そう思いながら尋ねた。あの女性は誰か。私の予想通りの方か?あの方の娘か?
信号で止まったエレカーを運転していたタチはハンドルを右手の人差し指を使い、モールス信号を叩くことで言ってきた。

『ハイ』

と。

(・・・・・・そうか。アルティシア様が生きておられた。ならばキャスバル様も)

希望か、悪魔の囁きか。
現在、ジオン国内のキシリア派、ダイクン派は大きく勢力を激減しており国内政治勢力最大はエギーユ・デラーズを筆頭にしたギレン心酔派のギレン派。
このギレン派に現実面のサスロ派が加わるが、彼らは基本ギレン派閥の外交・内政部門と見て良いだろう。
軍内部も表面上はドズル・ザビの下一致団結している。独立達成の為にはやむを得ない処置だろうが忸怩たる思いはある。
が、正確に言えばジオン・ズム・ダイクンを暗殺した逆賊ザビ家にこのサイド3自体が屈伏していると言える。
それはダイクン派やキシリア派がギレン派によって排斥されつつある事の証左。

(加えてダグラスもノルドも閑職に回されるか前線で使い潰されるらしいからな)

これはまだ機密情報だが、独立教導艦隊を率いてルウムで決定的な打撃を地球連邦軍に与えたダグラス・ローデン大佐は准将昇進後に地球侵攻軍に編入。
事実上の左遷と言われている。
ランバ・ラルも中佐に昇進後は独立機動部隊として連邦軍との小競り合いに使われると言う噂が実しやかに流れている。
かつてギレン派からデギン派に鞍替えしようとしたサハリン家も没落し、当主自らが軍の技術将官としてペズン(サイド3とア・バオア・クーの間にある技術試験並び資源採掘工廠)に送られる事が決定していた。

(そうだな。火の無い所に煙は立たない。
ギレン・ザビがこの戦勝と軍備縮小を理由に、軍からもダイクン派やキシリア派を追い出そうとしている噂はやはり本当か)

写真に写っているその人物、アルティシア・ソム・ダイクンの写真をゆっくりと眺め、彼はそれを携帯灰皿にいれる。
この時の為に用意した大きめの携帯灰皿にマッチを投入して写真を焼く。
証拠を残さない為に。

(ダイクン様の遺志を継ぐ為、ギレン・ザビらの野心は止めなければならん。
が、今は駄目だ。
我々はこの10年で力を失いすぎた・・・・だが、どこかでこの国を、ジオンをあるべき姿に戻さなければ。その為には同志を集める必要があるな)




宇宙世紀0079.08.27

ルウム戦役での敗北。

『我がジオン軍宇宙艦隊は数に勝る連邦軍を撃退したのである。
このルウムでの大勝利こそ我がジオンの精強さの証である。
決定的な打撃を受けた地球連邦軍にジオン本国への逆侵攻を行う事はできなと、この私ギレン・ザビは宣言する』

TVはジオン国営放送を受信している。本来の連邦の報道規制はあって無きが如くだ。
地球軌道がジオン軍により事実上奪取され、地球軌道防衛の要である拡大ISSを失い、多数の偵察、通信衛星をジオン軍の偵察艦隊によって破壊された為か、地球全土は大規模な電波障害にあっていた。或いは電波ジャックに。
海底ケーブルや近距離電波、無線塔の使用などで通信自体は今のところ何とかなるが、個人用携帯電話やインターネットなど衛星を使った通信回線は打撃を受けている。
それでもここ北米州ではそんな事、目立った電波障害は無かった。
極東州、統一ヨーロッパ州西部と同様に変態的なまでに通信網が発達している地域であり、宇宙で使われたミノフスキー粒子でも散布されない限りは通信に支障は無いだろう。

そんな北米州の州都、ワシントン.D.Cの一角で。

かつての私は、連邦議会議員になったばかりのローナン・マーセナスは自分が推進する地球環境改善法案を可決したかった。
だが、非加盟国問題とジオンの台頭、アースノイドとスペースノイドの対立で大きな挫折を余儀なくされた。

(あの時の悔しさは忘れられない)

それでも副首都として政治的な妥協の下に成立した北部アフリカ州の州都ダカール市を中心とした緑化計画「ポエニ」を推進し一定以上の功績をあげた。
その結果、彼は、若手としてジョン・バウアーやアデナウアー・パラヤ、(今日は極東州に事態打開の名目でここにはいないが)ヨーゼフ・エッシェンバッハらと共に北米州のトップに位置付けられている。
因みに息子のリディがいるが、養育に関しては執事に頼りっきりだ。この点はライバルらと変わらない。
そんな中、館の主がイギリスの青い仕立服を揺らして口を開く。

「ああ、諸君、仕事お疲れ様。みな健康そうで何より」

極東州で流行しているクールビズとやらなのか、白いシャツの胸元にはネクタイは無かった。
無論、それが出来るのは館の主のみなので、他の面々は連邦軍の軍服や各々の政治家が好んで着るスーツとネクタイと言うオーソドックスな姿でいる。

「さて諸君。知っての通り連邦宇宙艦隊は第1艦隊と第2艦隊を除いて壊滅した。
悲しい。ああ、そうだね・・・・とてもとても驚くべきことで・・・・・とてもとても悲しい事だな」

北米州の大統領、つまり太平洋経済圏の支配者にして連邦を影から操ると言われるアメリカ合衆国大統領は発言した。
彼の名前はエドワーズ・ブライアン大統領。
50代で北米州を統括するやり手。
地球連邦はアメリカ合衆国によって導かれなければならいという教条主義的な面もあるが、合衆国の国益の為なら全てを犠牲にする愛国者でもある。

(止めに現実主義者だな、このやりての大統領閣下は)

それを彼ことローナン・マーセナスの人物評価だ。

「確かに。『連邦』の宇宙軍を失ったのは大きな痛手です」

近年、政治家に転向したバウアー議員が答える。
ジョン・バウアーもまたアメリカに基盤を持つ純粋のWASP出身者だ。
あと20年もすれば合衆国大統領選挙に出るのではないかと噂されている。
そう言う意味ではアデナウアー・パラヤと同様に私のライバルとなる。
尤も、目下最大のライバルはジオンのギレン・ザビらザビ家と交友関係を持ち、各サイドの亡命政権らを保護した上、ザクを4機も鹵獲すると言う軍事上の実績を上げたウィリアム・ケンブリッジなのだが。

「そうだね。連邦政府は大混乱だ・・・・・・考えてもみたまえ。
僅か一ヶ月で最強を誇った『地球連邦宇宙艦隊』は壊滅し、50万もの将兵が戦死し10万近い兵士が捕虜になってしまった。
憂慮すべき機事態だと思わんか?」

ブライアン大統領の口調とは裏腹に、この場にいる軍人たち、政治家たち、官僚たちの顔は明るい。

「なるほど・・・・・確かに『我が軍』の宇宙艦隊は早期に再建されなければなりません」

私は巻かれて片付けられていた大きめの地図を出し、それを机の上に展開する。
地図上を見れば分かるが、大規模な宇宙艦隊建造用ドッグがある地域は多くは無い。
極東州の日本、祖国アメリカ、最大級の軍事工廠ジャブロー、統一ヨーロッパ州のオデッサ地区の4つ。
そして打ち上げ施設まで併設してあるのはパナマとジャブローのみ。

「宇宙艦隊の再建には国力の面から我ら合衆国が最も貢献する、いやしなければならない」

ブライアン大統領はきっぱりと宣言した。と言う事は、それは北米州全体の意志である。
言うまでもないが米加協定により、カナダは既に事実上のアメリカ合衆国なのだ。宇宙世紀元年以来続く関係である。

「そうですな・・・・・・『我が軍』の宇宙艦隊が健在なうちに手をうちましょう」

その後も長い事大統領執務室で議論が下されたがどれもこれも公言できる代物では無い。
下手に公にすれば全員が政治的に抹殺されるのは間違いない。もっとも、抹殺できそうな相手はルウム戦役の大敗北で今や風前の灯だが。
はじめにアデナウアー・パラヤが冷や汗をかきながら退出する。

(気が小さい男だ。良くそれで連邦議員になろうと思ったものだな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やはり厄介なのはケンブリッジか)

そして軍人たちも今後の事を、再建される宇宙艦隊とMSの戦訓分析の為に退出した。
残ったのはバウアーと私のみ。
ブライアン大統領に最も近い側近であり、次期大統領候補の候補として、また政界・財界に大きな影響力を持つ事からも有能な人物と自負している。

「ところで大統領閣下。連邦は解体されるべきですか?」

バウアーがストレートに言う。
苦笑いする私達。

「苦みが効きすぎるよ、バウアー議員。まるでブラックのコーヒーをいきなり飲まされた子供時代の自分の様だ・・・・例えが分かりにくいか?
ならばマーセナル議員の顔を見たまえ。そうだ、そう。バウアー君、何事にも手順があるのだ。
それに・・・・・我が合衆国は世界の警察官だ。
当然の事だが警察官は悪者を捕え、喧嘩の仲裁をするのが役目である。
が、警察官と言うのは行き過ぎた人間を処刑する死刑執行人ではないのだからね」

そして赤と黄に配色された電話を取り出す。表面にはアルファベッドでアジアという文字が書かれている。
その連絡先はアジア州の州都シンガポール。相手はアジア州州政府代表。

(そう言えば壊滅した艦隊にはアジア州の艦隊もあったな。今頃アジアも遺族問題や責任追及で大変だろう)

が、考えてみるに向こうは宇宙艦隊を厄介者扱いしていた。莫大な国費を貪る厄介者だと。
地球連邦設立以前から宇宙開発の最先端を走る我々とはそこが違う。
彼らは、アジア州はインドシナ半島の国境線越しに非加盟国である中華共産軍150万の大軍の圧力を受けている。
しかも、イギリス植民地時代から複雑な政治の流れに乗ってそのまま独立した(中華から見れば奪われた領土)、こちらからは出島となっている武装中立都市兼連邦直轄領土である香港の防衛軍も組織しなければならない。
当然ながら香港市民の避難誘導義務も課せられているのだ。
その為に州構成各国共同で海軍3個艦隊を維持するという困難さを味わっている。
(そもそも船は密閉空間である。そんな中に言語も文化も生活習慣も違う乗組員を乗せる苦労は想像を絶する。
極論だが乗組員の言語が違えば、その一人の小さな発音ミスで戦艦が沈んだりもする。
特に英語が伝統且つ義務の地球連邦宇宙軍とは違い、各国海軍を取りあえず暫定的に編入・編成しただけの連邦海軍ではその傾向が強い。
連邦海軍でのこの種の例外に当たる部隊はインド洋と太平洋、大西洋の第1から第7までのアメリカ海軍、東シナ海と日本海を守る第8と第9の日本海上自衛軍。この二大海軍出身の艦隊のみ。後は各国海軍の混合軍である。)

「では諸君、悪いがここからは極秘会談だ。我が祖国の為に一人きりにしておいてくれ」




宇宙世紀0079.08.27

シンガポールから一機の航空機が飛び立ち、一時間もしないうちに直ぐに着陸した。
場所はとある都市の王宮。
第二の州都にしてアジア州最大の工業地帯を争う国の首都である。
そこでアジア州の州議員の一人が王宮へ入り、国王陛下の謁見許可を求めた。

「陛下、ビー議員が参られました」

かつての王宮に比べて徹底的に近代化、要塞化された王宮。
共産国家の君主廃絶論に真っ向から立ち向かう宮内省の面々は、バンカーバスター爆弾の直撃に耐えられる構造の地下シェルターを宮殿に建設していた。
その謁見室で謁見が行われている。

「陛下。こちらがデギン公王、ギレン・ザビ総帥の親書です」

そう言ってジオンの国章が入った赤地に黒の、ナチス・ドイツ軍を連想させるファイルを渡す。
それを10分ほどかけて私たちの国王陛下は読む。
徹底的に、一言の文字も漏らさぬ様に。相手からのメッセージをしっかりと理解するべく。
そして溜め息と共に聞く。
余談だが各国の王族はこの戦争勃発と同時に核シェルターへの避難が行われていた。
当たり前だが王室の血筋を絶やす訳にはいかないのだ。それは民族の独自性の問題と大きく関連するのだから。

「議員・・・・・・宇宙での戦争は負けていると聞いたが?」

重苦しい問い。
その言葉は現地球連邦市民全員の代弁であろう。

「御意」

聡明な国王と言うのは良い。
ビーと言うあだ名(この国の人間はよほど親しい人でも本名を呼ばせないし呼ばない。それが文化だ)の女性議員はそう感じた。流石は我が我が国の国王陛下だ、と。
その声は宇宙に散った民を嘆きながらも、民の為に今後に思いを寄せる正に君主の鑑。

(先程まで電話会談していた、どこぞの自国利益優先主義丸出しの成り上がり者とは大違いだ。
やはりこれが百年単位である伝統の差なのだろう)

事実世界中の王室や皇室はこの戦争勃発を大きく憂いており、出来うる限り早いジオン公国との停戦、和平交渉開始を求めている。
もっともこれと異論をする勢力も多い。
地球連邦内部に隠然たる影響を持つ各王家とはいえ、立憲君主制の建前上『勅命』は出せない。
そして連邦政府はそんな勅命も命令も受ける義務はないとばかりに動いている。

「議員、州政府はどうするのだ? 戦争を継続するのか? 後何人殺して殺されれば終わるのだ?」

その問いに答えた。

「北米州が一計を案じております。それしだいかと」




同日。
ヨーゼフ・エッシェンバッハ北米州州議員は日本のキョートを訪れた。
どうでも良い事だが、非加盟国の脅威を受けている最前線国家の一角、極東州は首都問題で大揉めに揉めた。
最終的には、問題解決の為、毎回お決まりの様に政治問題と化していた幾つかの群島領土を各国の共同統治とする事、経済のソウル、軍事と宇宙港のタイペイ、政治のキョウトに区分けする事で問題を収めた。

(実に東洋的、いや、日本的な解決方法だ)

とは、歴史の授業で思った正直な感想。
そのキョウトにエッシェンバッハ議員が訪問する。そして三人の各国代表に会う。
リン総統、リー大統領、オオバ首相。
全員が40代前半の女性政治家であり、これは各州だけでなく連邦全体でも非常に珍しい。

「議員、仰ることは分かりました。
つまり我らへ対北、対中華用の海軍力を一時的に提供する代わりに、北米州による連邦政府への圧力強化に同調せよ、という事ですね?
また、見返りとしては新経済圏への参入と戦後の宇宙開発産業への大規模な参加。それで手をうてと?」

的確な発言だ。流石は東洋の女狐と呼ばれるオオバ首相。言う事に無駄が無い。

「はい。それが北米州大統領の親書の内容です」

考え込む三人。
それと見てエッシェンバッハも思う。

(ジオンと共同歩調を取る非加盟国だが、別にジオンの同盟国という訳では無い。
つまり外交信義上はともかく条約の様な強制力はジオン=非加盟国間にはない。
まあジオンが独立国では無いと言う形式上の反対意見もあるだろうが・・・・・それにこの戦争は三カ国に蔓延っていた念仏平和主義に冷や水を浴びせた。
連邦軍の余りにも不甲斐無い敗北は地球圏全土に放送された。他ならぬ当事者のジオンの手によって。
今や宇宙の早期奪還は不可能に近く、講和やむなしの声もある。
これはこれで利用できるが・・・・・・問題はアジア州と極東州がどう動くかだな)

何事かを話し合う。
が、自分の存在に気を配ったのか、英語での話を止めて即座にA4用紙を出してその上にカリカリと高級そうなボールペンで何事かを書きだす三人。

(ふむ。いくら最友邦の北米州とはいえ警戒するか・・・・・まあ、当然だな。
寧ろ無条件で信頼される方が厄介だ。
・・・・極東州の議員は平凡だがその代り州政府は優秀だ。官僚も、政治家も。宇宙世紀以前とは大きく違う。
そうしなければ生き残れなかった・・・・あの大高齢化社会を元に戻す為には必要な指導力だったのか?)

大高齢化社会で求められたのは人的資源の効率的な活用。
女性の社会進出に高齢者の雇用、若者への教育強化に若者の政治不信の払しょくや硬直した利権体制の打破。
構造改革と言う痛みを耐えながらも成し遂げたのが現在の極東州である。人口ピラミッド再構築の実績は伊達では無いと見える。

(どうやら日本語らしい。残念ながらドイツ系アメリカ人の自分にはドイツ語と英語以外は理解できない。
ましてそれが筆談でやられたら全く分からない。カンジ? ヒラガナ? 自然発生した暗号だよ、日本語は)

20分くらい経過したか?
そう思って学生時代から愛用しているIWCの時計で時を確認する。
それに気が付いたのか、三人の手も止まり、まとめてシュレッダーに筆談に使われた紙が流される。シュレッダーは切断+焼却式で、紙が燃えるにおいが部屋に充満する。
来客用のソファーと机、後は本棚というシンプルな西洋風の部屋にて三人が背筋を伸ばし直した。

「お待たせしました議員」

リン総統が三人を代表するかのように口を開いた。いや、実際に代表しているのだろう。

「我々は友好的に対応します、ええ、貴州らの言う同盟の意味を再確認しておりますよ」




さて、この大敗北を喫した当事者である地球連邦軍本部ジャブローはどうなっていたのか?
これはもう単純だ。ハチの巣をつついた、いや金属バットでスズメバチの巣を叩き落としたくらいの騒ぎである。
当然だろう。主だった連邦宇宙軍の将官が尽く戦死するか、捕虜になるか、行方不明か、敗残の身でルナツーに逃げ込むかのいずれかを選んだのだ。
第1艦隊は人事入れ替えなので別の意味でも混乱しており、唯一混乱してないのは第2艦隊のみという酷い有様。
もう何もかもが滅茶苦茶である。ジャブロー勤務の一般兵士らはところどころで噂した。

『ジャブローにコロニーが落ちる』

『ジオンが大軍を率いてルナツーを攻め落とす』 

『いや違う、地球に侵攻する』 

『それも違う、講和だ。俺たち連邦軍を撃ち破った実績で講和する気だ』

『ジオンから連邦に降伏勧告が出たらしい』

『コロニーが核攻撃を受けて壊滅した』

『月都市で毒ガスが使われた』

などなど。真実味のある噂からゴシップまで何でもござれ。
連邦政府以上に連邦軍は浮足立っている。
無論、大半の将校もそれに含まれるのだが、何事にも例外は存在する。

その貴重な例外である統合幕僚本部本部長のゴップ大将は作戦本部長のエルラン中将と二人きりで面談していた。
場所は応接室。部屋のインテリアは通常の将校用執務室と変わらない。ゴップ大将の私物の戦艦大和と戦艦アイオワ、戦艦ビスマルクの三隻がある事を除けば。

「なるほど・・・・・君の言いたい事は分かった。既に壊滅した宇宙軍の再編が必要だと言うのは理に叶う。
よかろう、こちらからもこのビンソン計画は推進しよう」

ビンソン計画。
カタパルト並びメガ粒子砲搭載サラミス級巡洋艦、通称、サラミス改級とミノフスキー粒子対応のマゼラン改良型の建造。総数350隻、7個艦隊の早期再建。更にサラミス砲撃戦強化型Kタイプの配備。
連邦軍のジャブロー造船所だけでは圧倒的に足りない。恐らく他州にも協力を要請するだろう。
それに・・・・・・だ。

「ペガサス級の量産か。二番艦ホワイトベースは11月にでもガンダム受領の為に出港できるだろう。
何事も無ければ、だがね。
それで・・・・・本当にこれは必要かな?」

ゴップが試すような視線を向ける。
エルランも同様にその視線を受け止めて返す。

「ええ、必要になるでしょう。南極での交渉が上手くいけば艦艇の総数こそ減ります。
ですが、いつまでもジオン軍に地球軌道並び各サイドの制宙権を渡していてはなりません。
そう遠くない将来、MSを基本とした我が軍がもう一度宇宙最強として君臨する必要があり、この計画はその為に必要とします」

情報端末をコンソールで操作して、必要な情報をもう一度ゴップ大将に見せる。
巡洋艦であるサラミスKにサラミス改、戦艦マゼランの改良型で編成される新正規艦隊に、ペガサス級強襲揚陸艦を中心に構成された独立艦隊。
これらすべてをビンソン建艦計画としてどさくさに紛れて議会に可決させる。
特に連邦市民が増税反対と言いだす前に。
実際、壊滅した宇宙艦隊の再建には増税が必要不可欠であり、その為には明確な敵と明白な事象が必要だ。
戦争と言う明白な事象が。市民全体から理性を奪い去るだけの必要のある理由が。

「ふむ、エルラン君、何か策があるのかな?」

緑茶を飲むゴップ大将にエルラン中将は言った。

「お任せください。政府がどうなるにせよ必ず軍備再編は認める策があります」




同時刻、別のオフィスではこちらも大将が一人、准将が一人密談をしていた。
一人はジャミトフ・ハイマン准将。もう一人はジーン・コリニー大将。
コリニー大将がジャミトフを呼び出したのだ。己の執務室に。
来客用のソファーに腰を掛けるジャミトフ。
彼は用意された日本産の冷水を飲む。部屋にはコリニー大将の趣味なのか連邦軍軍旗が掲げられている。
そして自分用の机に肘をおき、ジャミトフに問いかけるコリニー大将。

「さてジャミトフ。当初の予想とは大きく異なったが・・・・・上手くいきそうか?」

前置きも雑談も何もなしにコリニー提督は本題に入る。彼の頭にあるのは謀略と政争の四文字。
ジャミトフ以上の地球至上主義者であり、No3である彼の影響力は軍内部に関しては制服組No1のゴップ大将に匹敵する。
彼、ジーン・コリニー大将から見れば宇宙軍の艦隊司令長官でしかないレビル大将など赤子同然の陸軍からの転向者に過ぎない。

「はい。今回のルウムでの大敗北は予想外でしたがそれ以外は順調です。
我が軍と同盟軍の、失礼、連邦宇宙艦隊第1艦隊と第2艦隊は無傷でルナツーに健在です。これは大きい。
何せ残った宇宙戦力は我が祖国と忠実な同盟国軍で編成された宇宙艦隊ですからな。ああ、連邦軍でした。また失言ですな」

苦笑いする二人。
気をつけろと言うコリニー大将。

「それに緒戦の責任はアサルティア中将が自ら被ってくださった。
勿論彼には別のポストが用意されます。それは人事課に命じておきましたのでご安心を。
尤も、当然の事としてですが、ルウムでの責任を追及されるのは捕虜となったレビルであり、二度も敗退したティアンムです。我々ではありません」

そう言って用意された水で咽を潤す。
やはり水は日本などの大山脈を備える国に限る。これがアフリカ産の海水浄化・淡水化プラント製品の水では不味くて飲みたくないものだ。
それには目の前のコリニー大将も同感なのか、足元の冷凍庫から氷を取り出し大きめのウィスキーグラスに入れる。
宇宙世紀以前のスコッチウィスキーと冷水をグラスに注ぐ。

(愛国者を気取るならばバーボンでも飲めば良いものを)

とも思うが口にも顔にも出さない。そう言えば伯父は自分とは違い酒豪だったな。
そんな理由からか今でもハイマン家には様々なバーボンがある。

「さてジャミトフ。時は来たと言えるか?」

危険な発言だがここはクリーンだ。ホワイトマン部長直々の清掃の末、盗聴器類は全部ない。
だいたい連邦軍本部ジャブローで連邦軍高官を盗聴、盗撮する馬鹿は政府の連邦諜報局連中と相場は決まっていて、それ故に連邦軍高官から例外なく嫌われている。
部屋を片付けるのは子供でもする事だし、それで咎められればクーデターになるかもしれない。
地球連邦政府の文民統制もこの80年で大きく衰退したモノだ。下手をするとギレン・ザビの下に統制されているジオンに劣るかもしれない。

「・・・・・まだ、でしょうな」

それでも時期は到来してないと准将は言う。
ジャミトフは長くなりますがよろしいですか、と一旦聞いてから説明する。
その際には情報端末も紙も使わない。証拠を残してはならないのだ。
全て空気中に拡散してしまわなければならない。

「ジオン軍は緒戦とルウム戦役に勝利しました。
緒戦の電撃戦はともかくルウムでの敗北は完全な想定外です。
祖国は例の作戦を推し進めたいようですが今は危険でしょう。止めるべきです。その理由は単純です。
連邦政府が予想以上に弱体化している点に原因があります。
今にも倒れそうな、少なくともジオンや連邦市民、非加盟国の連中らにそう思わせるほど連邦は外から見て弱体化しております。
それはひとえに緒戦とルウム戦役の大敗が錯覚させたのです」

ここで一旦、グラスの水を飲む。
美味い。

「地球連邦など恐れる必要はない、そう思わせたのだな?」

コリニーが続けるように首を促がす。
ジャミトフもそれを見て説明を続けた。

「この時期に現政権を打倒する動きを見せれば確かに打倒は叶いましょう。ブライアン大統領らの思惑通りに。
ですが、その後はどうするのですか?
政治も軍事も子供の喧嘩の様にムシャクシャしてやってしまった、後の事は考えてないと言うのでは通じません。
このまま交渉が決裂すれば連邦軍はこれからジオン軍と再戦するでしょう。
それに、緒戦に受けた一連の大敗を糊塗する為、屈辱を注ぐ為には連中の本土サイド3まで占領しなければなりません。
その際の犠牲は? 緒戦のジオンとは違い我々は同じ土俵に立って戦うのです。
この時のMSのアドバンテージの無さによる犠牲の多寡は誰が責任を取りますか?」

そこまで言ってコリニーも頷いた。
直ぐに大将専用の特別軍用回線でワシントンD.Cに連絡する用意をする。

「なるほど、君の言う通り現時点では時期尚早。
今の連邦政府には精々最後までジオンを名乗るスペースノイド共と潰しあってもらう、そう言う訳か」

ジャミトフは水を飲みきるとしっかりと言う。
帽子を被り直して立ち上がる。

「閣下。君子危うきに近寄らず、という人類の格言の通りに行動すれば良いかと。
いずれにせよジオンとの交渉が決裂すれば戦争は再開され、犠牲が出ます。
となればこの戦争初期における失策とその時、並びその後犠牲はキングダム首相らが背負えばよいと言う事です。
仮定の話ですが、連邦とジオンが講和すればその時点でキングダム首相らを退陣させるだけですな。
ルウム戦役を初めとする敗北は政府首脳部のMSへの無理解さが招いたとして。
幸い我が軍・・・・・失礼・・・・・連邦内部での宇宙における発言権と艦艇再建の為の国力を背景にした影響力は連邦成立以来最も高まっているのです。
どの様な形で迎える戦後にせよ、地球連邦政府に北米州である我々の要求を通すのは容易でしょう。
それに・・・・・エルラン中将が何やら不穏な事を企んでいるとの事ですし今は待つべきかと」




ジオン公国では各艦隊のドッグ入りで喧騒に満ちていた。
この日、シャア・アズナブル中尉は二階級特進の辞令をドズル・ザビ中将、つまりジオン軍、軍最高司令官から直々に授与。ジオン公国軍少佐に昇進した。

「シャア・アズナブル少佐、入ります」

辞令と同時にザビ家専用シャトルに乗る。
首都から僅か30分足らずのダークコロニー01に移動するだけと言うのに護衛にリック・ドムが2個小隊6機もいるのが独裁国家らしい。
室内には2mを超す巨体の中将、今やジオン最大の英雄であるドズル・ザビが全天モニター付きの円形ソファーに座っていた。
中心には同じく丸い机と情報端末が一台ある。ドリンクも二つ置いてある。
グリーンの情報端末にはザビ家の家紋がある事から父と母の仇、ザビ家の専用であると分かった。

「まあ座れ・・・・・ルウムではご苦労だった。
貴様を初め、黒い三連星にランバ・ラル、白狼や迅雷、真紅の稲妻など名だたるエースパイロットたちが俺の指揮した艦隊から生まれた。
誇ってくれ。俺も貴様らを誇りに思うぞ」

そう言ってドズルは冷蔵されていたドリンクを取り出す。一口口に含む。
中身はアイリッシュコーヒーの様だ。アルコールの味が口の中に広がる。
最近は、というか自分が地球に亡命した頃からジオンは連邦からの経済制裁を受けていた為、嗜好品は高級化して手が届かなくなりつつあった筈なのだが、どうやら独裁者の一族には関係ないらしい。

(やはりザビ家の独裁は倒さねばならぬ)

若いシャアはそう思った。
この様なスペースノイド間の不平等を是正するジオン公国も、それに敗れた地球連邦も打倒すべき存在だ。

「これを見ろ。ただし誰にも言うな」

そう思っているとドズルが端末の液晶部分をこちらに向ける。
ムサイ級の光学センサー用モノアイカメラから記録したのか画像が粗いが、それでもビーム兵器を使う連邦軍のMS隊、見た事もない木馬の様な新造戦艦、従来型に比べてはるかに強化されたサラミス級らしき巡洋艦が映し出されていた。
時間にして凡そ180秒ほど。その間に数機のザクⅡF型と思われる機体が様々な形で撃墜される。
ビームライフルらしきもので貫かれる機体、ビームサーベルと思われる光に両断される機体、実弾で穴だらけにされる機体。
そして唐突に映像は途切れる。どうやら艦橋に連邦軍の新型戦艦が放ったメガ粒子砲が直撃でもしたようだ。詳しくは分からないが。

「分かったか。
連邦軍の本格的な量産型MSだ。例のガンキャノンとは比べ物にもならんほどの高性能だ。
もちろん、ザクに対抗する為に生産されている訳じゃない」

ドズル中将が自分に対して何が言いたいのか直ぐに受け取る。
上司の言いたい事を察するのは出来る部下の第一条件と言っても良いからだ。

「ザクを凌駕する為のMS、ですね」

我が意を得たとばかりに頷く。

「そうだ。連邦軍は確実に強くなる。
ギレン兄貴はそれを見越してゲルググをくれたが如何せんあれは値段が高い。
俺が思うに戦いは数だが今のジオンとゲルググではそれが出来ん。
ルウムでこそ集中運用できたが・・・・・・それはあくまで敵軍の連邦軍が纏まったからだ。
事実、ティアンム艦隊に対しては我が軍は一機もMSを向かわせていなかった。
認めたくないが、ルウムに観戦に来ていた親父とガルマが生き残ったのは運が強い面があるな」

その時シャアは無意識に握り拳を強くしたが、愛用の白い大きな手袋お蔭でドズルは気が付かなかった。彼特有の幸運である。
そしてドズルは本題に入る。全天モニターにはドズルの使った改良型ムサイのワルキューレが目前まで迫っていた。

「さて問題の連邦軍のMS開発施設だが・・・・・俺はサイド7が怪しいと思う。
ルナツーと言う連邦の要害の後ろにあるサイドで、知っての通り俺たちのいるこの本国からもソロモンからもグラナダからも遠い。
しかも戦前から何やら情報管制と報道管制の両方を引いていた。不必要なほどに、な。
これも情報通のお前なら知っていよう?
多分、この量産型MS・・・・・通信を傍受したムサイによるとジムというらしいが、これの改良型、或いは進化系がそこにいる筈だ」

そう言ってもう一度映像を見せる。
見た限りではザクⅡF型では対応しきれないだろう。
そしてザクの改良型やリック・ドムでも怪しい。
ジオン上層部、と言うよりも憎いザビ家の焦りは相当なものだ。何せ自分達の勝利にして権力基盤の要因であるMSで後れを取りつつあるのだ。

「なるほど、連邦軍のMS。それを偵察するのですね」

シャアの問いにドズルは腕を組み直して言う。

「お前だけに任せるのは心苦しいが、他に適任者がおらん。
シン・マツナガ、つまり白狼らは教導大隊に戻す。
青い巨星と連邦に恐れられているランバ・ラルはどの任務にでも使えるのだが・・・・如何せん奴はダイクン派の重鎮だった男の息子。
ギレン兄貴がそう簡単に独自行動を許すとも思えんのだ。
俺はダイクン派だとかキシリア派だとかそんなつもりは全くないが・・・・この点はサスロ兄貴もうるさくてな。
ああ、黒い三連星は地球使用のドムの慣熟訓練に入っていてこれもまた任務に対応できん」

そしてオフレコだが、と言ってドズルは続ける。

「ギレン兄貴は地球侵攻作戦を視野に入れている。そうだ・・・・・地球にいるジャブローのモグラどもを叩く。
今進めている連邦との条約締結が失敗に終わった時はそれが全軍に発令される。
全軍の指揮官は流石に言えないが、一度地球侵攻が始まればルナツーを叩ける機会は無くなるやもしれん。
だからお前に託すのだ。無論、素手でやれとは言わん」

次の画面を見せる。
更にメモリーディスクを渡す。ジオン公国軍の辞令に使われるものだ。

「俺の使っていたワルキューレをお前に譲る。MSも貴様のゲルググと、兄貴お気に入りのデラーズ指揮下のジオン親衛隊から奪ったMS-06Z、ザクⅡ改が5機だ。
少数精鋭だから用兵はすべて任せよう。連邦軍のMS開発計画を察知したなら優先的に援軍に物資を送ろう。やれるか?」

シャアじゃマスク越しにザビ家の男を見た。
母を幽閉し、父を暗殺したザビ家の中で異色の軍人、軍内部で絶大な信望を得るドズル・ザビを。

(・・・・・今は階段を上るとき・・・・・・精々踊らされてみようではないか)

そう思ったシャア。仮面の奥に真意を隠しながら。
ディスクを受け取り、命令を受諾する旨を伝えた。
だが、最後に気になった事があるので聞くことにする。

「ドズル閣下、命令は受諾しますが一つよろしいですか?」

なんだ?言ってみろ。

「連邦軍の新型MS開発並び量産化計画の名称はなんといのですか?」

ああ、伝えて無かったな。
ドズルはそう思うと静かに言った。

「V作戦。連中はそう呼んでいる」

と。




ウィリアム・ケンブリッジ政務次官。

この名前は敵味方に響き渡る事が予想され、特にジオン側にとっては彼が居る、居ないが交渉の最大ポイントになると思われていた。
味方である地球連邦軍については、あのルウム撤退戦の最中ザクⅡを四機もほぼ無傷で鹵獲し、亡命政権船団をルナツーに送り届けたという実績がある。
しかも彼が明らかに保身を持って部隊を指揮したと言うのに、そのあまりにも素直な心意気に感じたのか、将兵らの人気は高まるばかりだ。

将兵は感じていた。

『良く訳の分からない理想を掲げる上官よりも、大義名分を掲げて自分だけ安全なところに居ようとする上司らよりも余程尊敬できるし親愛の感覚がわく』

と。


こうして宇宙世紀0079の8月が終わりを迎えようとしていた。激動の一月である。
ところが、ジオン側にとって誰にも予測できなかった事態が到来する。
それはウィリアム・ケンブリッジ政務次官の拘禁と言う事態であった。
この事態に最も慌てたのは代表団団長のギレン・ザビでは無く、首都に残ったデギン・ソド・ザビ公王であった。

「何! 彼は出てこないのか!?」

使者の前で声を荒げるデギン。宇宙移民者たちにとってウィリアム・ケンブリッジの名前は良くも悪くも轟いていた。
同僚の地球連邦政府高官らが考える以上に彼は宇宙移民者スペースノイド政策の専門家として敵ながらも信頼に値すると捉えられていたのだ。
その彼が出席しない、まして拘禁され軟禁されている。それは無視出来ないうねりとなって連邦とジオンを襲う。

「では外交交渉は別の者が担当するのか? 彼は連邦の現政権から排除されたのか?」

デギンの問いに使者はただ一言、YESと手短に答える。
何事かを考えたデギンは直ぐにレビルとの面会へと向かった。

政治は信頼できる敵がいて初めて成り立つ。
これが政治の大原則だ。相手が約束を守る、或いは守らせる力があると信じるから政治交渉は妥協できる。
この点、単純に敵を叩けばよい軍事とは大きく異なる。軍事は敵を知れば勝てるが、政治は敵を信じる必要がある。
そのもっとも強敵で、もっとも信頼できると思われた人物の欠席。これだけで連邦の対応が分かるのが一流の政治家だ。
無論、相手が一流である保証はどこにもないのだが。

レビル将軍と面会するデギン公王。この時の会話が奇跡的に残されている。

『将軍、私はこれ以上戦火を拡大する事は望まない』

『ケンブリッジ政務次官が交渉の場に来れない以上、連邦政府内部にある反ジオンの感情を消し去ることが出来る人物は貴殿を置いて他にはいないと思う』

『どうだろうか・・・・・私を助けてくれないか』

この時レビルはこう答えた。
捕虜の身でデギン公王の意思を連邦政府に伝える事は不可能である、と。
それに対してデギン公王はただ言った。

『捕虜では無理だが・・・・・・そうでは無いなら話は別ですな?』

と。
第三者がいればデギン公王はレビル将軍に哀願したと言って良いと証言しただろう。
その結果がどうなるかは誰にも分からなかった。



宇宙世紀0079.09.01.
ジオンが独立宣言を出してから一か月、時代は確かに変化の兆しを見せている。



[33650] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:9ef01505
Date: 2012/08/04 12:21
ある男のガンダム戦記 09

<舞台裏の喜劇>





宇宙世紀0079.08.30

連邦軍本部ならび連邦政府首都ジャブロー。
このギアナ高地にある地球連邦の最重要拠点で、キングダム首相をはじめとした地球連邦安全保障会議の面々は激論を交わしている。
本会議場で地球にジオン軍が進行する可能性をエルラン中将が示唆した以上、その対策を取らぬばならない。
だが、件のジオン軍はどこに侵攻するのか? 非加盟国に増援として送り込み、完全な世界大戦にするのか?
或いは、各地の重要拠点に降下上陸して連邦を政治的にも軍事的にも分断するべく行動するのか?
それが分からない。
いや、その前に重要な議題がある。勿論、『彼らにとっての』という言葉が付くのだが。
一体誰に、この緒戦(一週間戦争)とルウム戦役の敗北の責任を押し付けるのか、である。
各州の代表たちは連邦政府に責任があると言っている。軍も下手に責任を追及するとサボタージュする可能性が出て来た。
だいたい宇宙艦隊司令長官のレビル将軍は敵の捕虜になり、今現在はその責任の追及が出来る状態では無い。
他の軍人らを追及しても、のらりくらりとかわされるだろう。この点は官僚や連邦議員らも一緒だ。ついでに言うと自分達も同じ穴のムジナ。

『歴戦の勇士に、戦場を戦い抜いた同士に責任を押し付けるとはいったいどういう事か?』

多分、そう反論してくるのがオチだ。
しかもである、各地の州軍と地球上の地球連邦軍の陸海空軍の一部が結託して現政権に反発しているという噂まで流れるし始末。
この噂を肯定するかのように、北米州と極東州は無条件での宇宙艦隊再編を拒否する構えである。これはブライアン大統領の、

『我々は責任を負うべき人間がその責任を果たすまでは責任を果たせない』

という事実上の脅迫発言に由来する。
彼らは自らの立場強化の為に、何かを要求しそれを通すべく策動している。ジオンと内通しているのだろう。
が、北米州を敵に回せば最悪の話、地球連邦と言う多国間統一国家が消滅してしまう。
特に現時点で宇宙艦隊の再編に北米州の工業力を当てに出来る、出来ないでは今後の戦略に支障をきたす。

「さて、困ったな」

そんな中、サヴィル・ロウで仕立てられた黒の高級スーツと赤のネクタイに白いシャツをした連邦首相が発言する。
この地球連邦安全保障会議は首相の信任厚い閣僚で構成された、言い換えれば今回の戦いで責任を負うべき人々の集まりである。
そんな彼らの思惑は最低な面で一致した。

『何としても戦争の敗者としての引責辞任だけは避ける』

という面で。
もう1時間は話し合っているが八方塞で結論は出ない。
だが、一つだけ全員の意見を一致させた。

「・・・・・とりあえずは、あのケンブリッジ政務次官に詰め腹を切らせると言う事で」

会議は碌な事を議論しないまま、閉会した。




宇宙世紀0079.08.31

地球の南極大陸でジオン公国と地球連邦政府の外交交渉が行われている。
強気のジオン、弱気の連邦という立場は崩れない。崩せない。
何しろジオン公国は地球連邦宇宙艦隊を一方的に撃破したと言う実績があるのだ。そして味方を増やすべく事前に行動していた。

南極での講和会議への地球連邦非加盟国の参加。

地球圏問題の包括的な解決の為の講和会議という名目で行われる南極での会談は、ジオン側の提案通りに非加盟国も登場する事になった。
この地球連邦非加盟国と地球連邦政府が対等なテーブルに着くのは凡そ25年ぶり。
それまでは国力と軍事力に圧倒され、地球連邦軍に圧力をかけられ、連邦政府からも一方的な態度を取られてきた。
これがジオン・ズム・ダイクン支援へと時の非加盟国指導者らを走らせ、極秘裏に彼と彼のグループを支援させる切っ掛けとなる。
その結果が、ムンゾ自治共和国誕生、ジオン共和国の成立、ジオン公国への変貌、一週間戦争とルウム戦役でのジオン軍大勝利に繋がった。
ギレン・ザビらジオン公国の首脳部はそれを忘れてはいなかった。
確かに非加盟国は一滴の血も流してないし、ルウム戦役などでは直接の参加はしてない。
だが、仮にジオンと連邦が何らかの妥協点を模索し妥協した場合、その際には非加盟国も居た、除け者にしなかったという事実が必要である。
そうした中、ギレンは副代表のマ・クベ中将と共に夜空を見上げながら夕食を取る。
出された食事は日本料理と言われる極東州の伝統的な料理。
先日は高級フランス料理であった事から、軍事で敗退した連邦が文化で逆転しようと小細工を弄しているとギレンは感じた。
実際に、ナポレオン戦争以来、料理自体にもメッセージが込められるようになっているのであながち間違えとは言えない。
今回はウナギ料理。
多様性をアピールしつつ、マダガスカルを領有する南アフリカ州と極東州、アジア州は連携していると言う地球連邦政府の無言のメッセージだろう。
昨日のフランス料理は『お前たちジオンにこんな高尚な料理は出来まい』という嫌味もあった。連中の顔を見れば分かる。

「連邦政府は中々譲りませんな。戦前の閣下の予想通りですか」

マ・クベ中将は食べ終えた料理一式を侍女に片付けさせてギレンに向かう。
ギレン、マ・クベ、デラーズらがこのホテル『サウス・スノー』の第6階の部屋全部とスィートルーム、会議室3室を貸し切っている。
そのギレン専用のスィートルームでセシリア・アイリーンらが要人たちの護衛兼秘書をやっている。

「連邦とて追い詰めれば牙をむくと言う事だろう。焦る事は無いがもう少し早めに動くべきかな?」

全員が軍服である点に、ジオン公国の政治的な特徴が見いだせる。
方や連邦は半分が軍服で残り半分はスーツ姿だ。文民統制も限界に近いのかもしれない。

「は。ギレン閣下の仰る通りです。
連邦議会の中にも強硬論があります故、現政権はその抑えに動かなければならないのでしょう」

マ・クベがナプキンで口元を拭った後に答える。
料理は片付けられ、食後の飲みものが出される。宇宙では珍しい、地球ならではの地球産の100%天然の水だ。

「そうだな。連邦政府は敗戦回避の為に予想以上に粘っているが・・・・・・各国の王家の心境は?」

各王家に発した国書、親書。それが大きな役目を持つのは当然の事だ。
ジオンにとっても連邦構成国(州では無い)にとっても国書と言うのは表に出ないだけで隠然たる影響力を持つ。
返書も何通か来ている。
そのどれもが共通して、これ以上の戦火拡大を憂い、ジオンと連邦の早期停戦を各国家の政府に働きかけているというものだ。
裏の政治的なパイプと言っても良いか、表ではありえない動きだ。
連邦政府もこの動き、政治的な先手を取られた事には気が付いているのだが、絶賛混乱中の為に対応できてないので意味は無い。
現キングダム政権がそれだけ一週間戦争とルウム戦役の損害の埋め合わせに躍起になっている証拠でもある。

「アイリーン殿、ファイルを」

マ・クベがセシリアからファイルを受け取り、それを見せる。
ファイルには各王家が独自に行っている和平交渉の進展具合が箇条書きで書かれていた。それはギレンの望むモノでもある。

「デラーズ、純軍事的にはどうか?」

ギレンの問いに親衛隊の長であり、今回の代表団護衛の最高責任者であるエギーユ・デラーズ少将(ルウムの功績により昇進)が答える。
まあこの数日間でそれほど大きな変化がある訳でもないので内容はそんなに変わらないが。

「連邦宇宙艦隊は第1艦隊と第2艦隊の合計100隻を除き壊滅。MS隊も全滅しました。
また、各地の偵察艦隊、独立艦隊、コロニー駐留艦隊の残存艦隊もルナツーへと逃げておりますので例の脅しは現実味を帯びています」

例の脅し。
それはコロニーを巨大な弾頭に見立てて地球に落下させるという人類史上最悪の作戦、コロニー落とし作戦。
そもそも本来のブリティッシュ作戦とはこのコロニー落としがそうであったのだが、ウィリアム・ケンブリッジを切っ掛けとしたギレンの地球査察で大きく変貌した。
ギレンらは知った。
地球連邦政府は決して一枚岩では無く、むしろ各地にひびの入った、見かけは綺麗なそれでいて中身は脆い大理石の様な危うさを内包していると。
そうと分かるとギレンは躊躇なく独立の為の戦略を変更。
ブリティッシュ作戦は当初の予定を大きく変え、連邦宇宙艦隊の完璧なる撃滅と各サイドの占領を目的にする。
その成果が、現在の南極大陸で行われているジオン=連邦間の交渉だ。
また、ジオン=非加盟国、非加盟国=連邦という会談も同時並行で行われている。
地球に一緒に降りてきたダルシア・バハロ首相はそのジオン=非加盟国間の交渉に向かっているのでこの場にはいない。
非加盟国とは明白な同盟関係を結んでいるのではないから、彼らと交渉しないといつ出し抜かれるか分からない。
事実、非加盟国内部でも、北インドと中華・北朝鮮は対立しているし、イラン地域、シリア地域も共同歩調を取っているとは言い難い。
そこに連邦政府が付け入る隙もあるし、各個に崩される危険性もある。

「これは諜報部が得た情報です。
現時点での地球連邦地上軍ですが当初の予定通り北インドと南インドの境、台湾、朝鮮半島南部、インドシナ半島北部、日本列島に大軍を集結させております。
また、統一ヨーロッパ州は度重なる財政難の都度に軍事費を削減したので脅威とはなりません。例の作戦を実地するならば早い方が良いかと」

デラーズの発言にマ・クベも続く。
彼、マ・クベは一度解体されたと言って良い私設諜報機関であるキシリア機関を再編した手腕があり、尚且つジオン屈指の地球通と言う事で今会議でも重宝されている。
特に地球至上主義者よりというスペースノイドのジオン公国には貴重な人材で、外交交渉でも役に立つ。
伊達に軍の最高階級の一つである中将にまで昇進していた訳では無い(ジオン軍には現在大将がギレン・ザビ総帥しか居ないので中将が最高階級になっている)。

「それと閣下。連邦の地上軍ですが、さらに動きが。
北米州軍で編成されていた地中海機動艦隊がインド洋に移動し、代わりに黒海艦隊がある程度、ロシア地域のセヴァストポリス要塞に集結しているようです。
これを抑える事、奪取する事が出来ればイスタンブール攻略作戦や地中海制圧作戦にも大きく貢献するでしょう。
ご覧を、黒海艦隊の編成表です」

そこには海中艦隊、U型潜水艦やM型潜水艦が10隻単位で配備されている事が書いてあり、同要塞が宇宙からの攻撃に対しては全く無防備であることが分かった。
言うまでもなく宇宙に存在するコロニー国家であるジオン公国は海上戦力などない。
それを確保する事は大きな戦略上のアドバンテージになる。
大艦隊を編成できなくても海中からの通商破壊や生産中の海中戦闘用MAや水陸両用MSなどはミノフスキー粒子下の戦場で脅威となろう。
それこそ自分たちの狙い。自軍に無いなら敵軍から奪えばよいという作戦だ。

「強盗だな、まるで」

そう言うデラーズにマ・クベも反論する。

「軍隊など半分は強盗でしょう。歴史的に見ても軍紀に正しく、民間人を守る軍隊の方が少ない筈ですが?
それにデラーズ少将、いずれにせよ宇宙艦隊だけでは地球は抑えきれません。
陸軍、空軍戦力は共産軍らからの提供と独自の開発で何とかなりますが、海上戦力だけは確実に劣勢です。
それを覆す為の水陸両用MSの開発は進んでいます。が、そのMSの母艦は我が軍に存在しません。ならばある所から奪うしかない」

デラーズも心の底では賛成なのだろう。
それ以上は何も言わずにマ・クベの提案を受け入れた。
と、マ・クベがファイルを片付け、ジュラルミンケースに入れ直している。

「ギレン閣下」

マ・クベが聞く。先程の余裕がある軍官僚と言う顔とは違い、かなり真剣な表情だ。

「なんだ?」

姿勢を正すマ・クベ中将。ギレンと対等に向き合えると言う点では流石である。

「例の作戦の司令官、私が内定していると聞きましたが・・・・・・本当ですか?」

例の作戦とはコロニー落とし作戦が破棄されてから極秘裏に検討されてきた地球侵攻作戦の事である。
戦前からの予定通り、地球周回軌道からの大規模な部隊による降下上陸作戦をオデッサ地区に対して行う。
そしてオデッサと言う地球経済圏最大の資源供給地域を奪い取る事で地球連邦経済そのものを人質に取る。
ジオン公国と言う小国が出来る最初で最後の大作戦であろう。実際、ジオン軍はこの作戦発令の為に宇宙軍を削っている。
第一級線の艦船とゲルググを初めとしたMSこそ揃えたが、ア・バオア・クー要塞やソロモン要塞は当然の事として、本国守備隊でさえ一部を除いて旧式のザクⅠに頼る有様である。
また、ジオン公国の補給を担当する事になったユライア・ヒープ中佐(この後、ルウムでの補給線維持の功績を称え、大佐に昇進)らは補給問題をアキレス腱であると主張しており、その解決の為、尋常では無い程のHLVを配備している。
それでも問題解決には程遠いのが現実だ。
今でもこの作戦を実行すれば地球連邦との無制限消耗戦に突入する可能性が非常に高く、ギレンも実行したくない作戦である。

「・・・・・・事実だ。不服なのか?」

これが一般の将兵や将校ならば不服だろう。地球を見下す傾向が強いジオン公国の軍人にとって態々その地球に行けと言うのだ。
もっとも、相手はジオン公国の頂点にして独裁者。
普通ならばYESと答えるしかないだろうが、ある意味で自分の価値をとことん理解しているマ・クベは違った。やり手と言うかなんというか。

「不服と言いませんが・・・・・承服しがたいですな」

「中将殿!」

その言葉に傍らに控えていたデラーズが怒りを露わにする。彼から見ればギレン総帥の勅命に反する事は不忠の極みなのだ。
それが分かっているのか、或いは平然として無視しても問題ないと思っているのか。
デラーズは怒りの形相で上官の一人であるマ・クベ中将を睨むがあまり効果が無い。
が、睨まれた方も役者だ。親衛隊の司令官と言う国内でも有数の役職についている相手の視線など意に介せず平然としている。

「何故私を地球攻撃軍の総司令官に抜擢したのか、その理由をお聞きしてもよろしいですかな?
ご存じのとおり、私は旧キシリア機関を束ねる者。そんな輩を地球に派遣するとは一体どういうつもりですかな?」

的確な判断だな。
そうギレンは思った。
確かにこの男は旧キシリア機関を掌握している故に勝手に動かすのは危険すぎる。
だが、それ以上にこの男には価値があったのだ。地球に送るだけの価値が。

「貴様ほど地球に詳しい人間はいない。我がジオンの上層部には宇宙には詳しくとも地球には不慣れな者が多いのが現実だ。
特に、地球各州との交渉を担当する可能性が高い、いや、担当するであろう地球侵攻軍の司令官は柔軟な対応と豊富な情報が必要だ。
まして貴様はジオニズムに傾倒しておるまい?」

その最後の言葉が周囲の空気を凍らした。
ジオニズムに傾倒してない司令官と言うのはダイクン派であるという暗示があるのが現在のジオン公国だ。
それを言った。

「それは・・・・・言い難い事ですな」

言葉を濁すマ・クベ。
それを見たギレンは周囲の目を憚らず用意されていた紅茶を飲み干す。
すかさず、秘書のセシリアが注ぎ足す。

「勘違いするな中将。何も責めている訳では無い。寧ろ敬意を表している。
貴様がガチガチのジオニストで地球各州と地球連邦を同一視するならば私は監視役も一緒に派遣しただろう。
だがマ・クベ中将。貴様はこの地球がコロニー国家であるジオンと異なり、多様性に満ちている事を知っている。
その証拠に地球連邦政府とて一枚岩では無く、北米州を初めとした何枚もの派閥に分かれている事も周知の事実だ。
だからこそ抜擢した。無論、地球侵攻の総司令官としての相応の権限は与える。
またジオン本国に凱旋将軍として帰還すれば貴様が納得するポストを用意しよう。どうだ、納得したかな?」

飴。古来より使われる言葉である。何より独裁者からの要望は命令と変わらない。
これを断る事など出来ないし、普通の将官には不可能だ。
だが、この地球通のマ・クベは良くも悪くも普通では無い。この言葉に対して疑問を投げかけたのだ。

「閣下、それで私の身の安全は保障されておりますか?」

それはジオン公国総帥であるギレン・ザビへの挑発行為に近かった。一介の中将が言って無事に済む言葉では無いだろう。
実際、秘書官の一人はあまりにあまりな発言にびくりと肩を震わせたし、別の者は持っていた書類を落としかけた。

「ほう?」

ここでマ・クベは己の懸念を表明すし、ギレンは先を促す。まあ言いたい事は分かっていた。
要約すれば簡単だ。自分は捨て駒にされるのではないか?
そう言っているのだ。

「閣下。編成表から見るにこの地球降下作戦に投入される部隊の大半が今は亡きキシリア派やダイクン派で構成されております。
これがわざとでは無い、偶然であるなどと言う言葉を閣下から聞けるとは思えません。
明らかに国内の反総帥派の口減らし、流刑の為の部隊ではありませんか?
それを率いて地球へ降りるのですから・・・・・正直言って閣下から直接言質を頂きたいものです。私を見捨てないと言う言質を」

デラーズが少将に昇進した時、ギレン自らが彼に与えた指揮杖を握りしめる。
明らかに自らの主君への度を過ぎた態度に怒り心頭である。
それを察して椅子に座るギレンは立っているデラーズを手で宥める。

「デラーズ、怒るな。この中将の言う事は当然だ。気を静めろ。
さて、マ・クベ中将。
貴様の言いたい事は分かっていた・・・・本国で厄介者扱いしている者どもを私が切り捨てると言う事に不安なのだな?
それが分かっているなら話は早い。中将、貴様に二隻のザンジバル級を与える。ルウムで活躍した独立教導艦隊は解散する。
ゲルググは渡せないがザンジバル級二隻は渡せよう。そして・・・・新設される地球攻撃軍司令官には撤退の全権も与える。
無論、司令部のみの撤退する・・・・・などと言う事はないだろうが、全軍の撤退の全権を与えて置く。そのあたりはマ・クベ中将の裁量に一任しよう」

そう言ってセシリアがジオン軍の軍章が入った一通の書類を渡す。
その書類には先程のギレンの命令がこう書かれていた。

『マ・クベ中将を宇宙世紀0079.09.02付けで地球攻撃軍総司令官に任命する。
権限として占領地の統治権全権並び地球からの撤退の自由を保障する』

と。こうしてギレンはマ・クベの退路を断った。
いや、この言葉は語弊があるだろう。最初から退路など無かったのだから。
最初からギレン・ザビはこの軍官僚的な男を地球に派遣するつもりだったのだ。地球攻撃軍総司令官として。

「それに、だ。貴様は地球通。
スペースノイドにとって憧れの地でもある地球の土を踏めるのだ。大したものだと思うが?」

マ・クベは唯黙って敬礼した。
胸の内は複雑だったが。

(なるほど・・・・・私にキシリア機関を再編させた上で取り上げなかったのはこういう時の為か。
私が、いや、ダイクン派やキシリア派が失敗しようと成功しようと関係ない状況に陥らせる。
地球と言う流刑地にジオン国内の厄介者や反逆者予備軍を纏め、攻撃部隊として送り込み連邦軍と潰し合わせる。
その隙に宇宙艦隊を再建させて連邦軍の反攻作戦に備え、一方で外交的には地球連邦各州の切り崩しを任せる。
成功すれば私を任命したギレン総帥の功績としてジオン国民は総帥を称え、失敗すれば自分の責任として私を処断する、か。
食えん男だ。問題はその食えない男から逃れる術が今の私にはないと言う事。
確かにこのギレン・ザビがいう様にジオンきっての地球通の中将・・・・これ程、地球攻撃軍の司令官に適任もおるまい)

ギレンはマ・クベを退出させる。その間際に重要な事を言った。

「地球攻撃軍の補給の担当はザビ家の者、具体的にはガルマに任せる。これはデギン公王からも許可を取る。
ザビ家自らが采配を取ると言う事で地球に降りる者を鼓舞するのだ。それで士気の低下はある程度防げよう?
それに新型こそ少ないがシリア地域で実戦を経験したザクⅡJ型やザク・キャノン、ザク偵察型、ガウ攻撃空母、ドップなどに加え、非加盟国軍の陸上兵器も加わる。
補給のあてもある。ああ、マ・クベ中将、支えてくれればジオンは勝つよ」




やがて外交交渉は大きな山場を迎えていた。ジオン側が提示した条件は以下の通り。

・ジオン公国の完全なる独立承認。
・ジオン公国と対等の通商条約ならび安全保障条約の締結。
・戦争犯罪人の不起訴、不処罰。
・双方の戦時賠償金支払い権利の放棄。
・両軍の宇宙艦隊の軍縮。具体的には艦船比率をジオン側1対連邦側2。
・最大MS数の制限、両軍350機のみ。
・各サイドの独立自治権付与。月面都市の交易権の承認。木星船団へのジオン側の権利保障。
・連邦非加盟国との不可侵条約の締結、連邦による非加盟国並びジオン公国への経済制裁の解除。
・捕虜の解放、交換。
・中立地帯の制定。
・スペースデブリの回収、コロニー建設計画の再スタート。

で、ある。

当初これに加えて、ルナツーの割譲、月面都市群の国家化にフォン・ブラウンを中心とした月面表面へのジオン艦隊の駐留、地球連邦宇宙軍の一方的な軍備制限も含まれていた。
ジオン側は強気な姿勢を崩さず、温存した核兵器や今なお支配下にあるサイド2の首都バンチ『アイランド・イフィッシュ』が地球連邦に対して無言の圧力を加える。

(ふむ・・・・・連邦も主力部隊がいないにしては良く粘るな。そう言えばまもなくか。
木星船団の補給船団がヘリウム3と共に帰還するのは。連邦に手をうたれる前に確保しておかなければ)

そもそも戦略級の兵器とは使わない時が最も威力を発揮する。
その典型例が今回の一週間戦争にルウム戦役で一発も撃たれなかった、ジオン軍が持つ数百発の戦術核弾頭であり、コロニー落とし専用のコロニーである。
使わない戦略兵器、それを使った典型的な砲艦外交をジオンは仕掛けてきた。
そして連邦政府はまさにその脅しに屈しつつあった。特に犠牲の子羊の選別が終了したという点で現政府は安心していた、いや、安心しようとしていた。

宇宙世紀0079.09.02
交渉は最終段階に入る。ジオン側の提案をほぼ無条件で受け入れると言う事態にまで連邦は押されていた。
何よりもサイド3を除く、コロニー市民25億人と月市民8億人の命には代えられないという大義名分にして至上命題がある以上強硬路線には出られない。
事ここに至っては条約締結、ジオン独立承認、同盟国化を止むなしとする機運が高まった。
特に極東州とアジア州、北米州が共同でジオンへの融和政策をはかる。

(戦前の予想通り。やはりあの取引に乗って来たなブライアンめ。
地球連邦内部でのアメリカ合衆国の復権。これ程美味そうな魚もないだろう)

上記二つの州が共同歩調を取る以上、アジア州とオセアニア州、つまり太平洋経済圏の恩恵を受ける州も共同歩調を取るのは当然であった。
地球連邦政府の代表団であり、北米州の州議員でもあるマーセナス議員は内々で同僚たちに言った。

『これ以上の戦闘継続は北米州の市民を保護する点から断固として認められない。
そもそも壊滅した連邦艦隊再建の為にどれほどの時間と予算が必要か計算したのか?
艦隊の再建にかかる莫大な費用に加え、戦死した将兵らの遺族への補償、更には優秀なる軍人たちの補充は最低でも数年から十年はかかる。
それだけの資金があるならばジオンに宇宙の安全を肩代わりさせ、地球環境の改善に取り組むべきだ。
連邦政府の存在意義を鑑みても地球環境の改善こそ最優先課題にすべきであろう。
付け加えるならば、我が連邦政府はここで戦略を転換し、連邦と冷戦状態にあった非加盟国と新たなる関係を築くべきである』

マーセナス議員の発言は連邦政府内部の穏健派や地球至上主義者の中でもどちらかと言えば地球尊重主義者に受け入れられた。
それは連邦政府全体に、南極での条約調印止む無し、という雰囲気を作り上げる。ギレンらの当初の予定通り。
こうして地球連邦政府はまさに条約に調印し、人類史上最初の宇宙戦争は当初の予想を大きく覆して一コロニー国家、ジオン公国の勝利で幕を閉じようとしていた。

(どうやら上手くいきそうだな)

それを見やるマ・クベ中将。
目の前に置かれた水と氷が半分に減っているが、関係ない。
どうやら自分は、地球と言う敵軍の真っただ中に落下傘降下させられる事態は避けられそうだと胸を撫で下ろした。流石に使い捨てにはされたくない。
そして、連邦の代表が条約文章を想起して持ってきたまさにその時、自分の視線の中で一人の女性が横切った。
紅の制服を着た秘書官長であるセシリア・アイリーンだ。
ギレン・ザビの秘書であり数年来の愛人である事は周知の事実で、更に噂によれば息子がいる、らしい。

(独裁者が認知しない子供など対して問題にはならないが、あの噂は本当なのか?
トト家に養子に出された少年。
あのセシリア・アイリーンがギレンの首席秘書官に収まり権勢を得た時期と重なる・・・・・・もっとも彼女は有能だ。それは認めるが。
それにしてもなんだ?この時間帯に報告するなど連邦政府に付け入る隙を・・・・・)

そこまで思った時に珍しいものを彼は見た。
あの独裁者が、冷徹で冷静な独裁者ギレン・ザビが、驚愕の表情を浮かべたのだ。
それは目の前にいる連邦の代表団も同じだった。




宇宙世紀0079.09.01

条約調印寸前の約24時間前。地球から最も遠い宇宙都市サイド3から一隻の超高速シャトルが発進した。
名前は「スカイ・ワン」。サイド5のルウム政府が挑発し、極秘裏にサイド3宙域まで潜入していた連邦の最速宇宙船の一隻である。
その船上で、一人の将官が着替えを終える。
船は月軌道から重力カタパルトを利用して一度、サイド6へと向かう。そして彼は合流した護衛の艦隊と共にルナツーに進路を取った。
ルナツーでは大量の艦隊、そう無傷で宇宙に残った地球連邦宇宙軍二個艦隊が観艦式もかくやと言わんばかりに一人の将官を迎えた。
将官の名前をヨハン・イブラヒム・レビル大将。ルウム戦役で連邦軍の総指揮官だった男だ。
その彼がルウムでの敗戦の責任を取る事無く、このルナツーにて歓待されているのは連邦軍の上層部にある思惑があるからか?
何事かを知らされぬまま、宇宙世紀0079.09.02に日付が変わる。
そして地球からのレーザー通信を使って南極での交渉をつぶさに見ていたレビルはメディアに出る事を決断した。
まさに条約調印がなされようとしたその時、レビルは己の信念に則り、行動する。
ルナツーに集められたメディアが一斉に向く。

『前連邦市民の皆さん、私はヨハン・イブラヒム・レビル連邦軍宇宙艦隊司令長官です』

という言葉が地球圏全土に発信させられた。
この一言から始まる放送は南極で調印式だけを残していると思われた連邦とジオンの代表団にも想定外の事態として響き渡る。

『連邦宇宙軍の敗北の責任は単にこの私が負うべきことです。その点につきましては一切の弁明はしません。
あまんじて全ての批難をお受けします。
しかし、連邦政府がジオン公国と言う専制と独裁主義国家に屈するという事態だけは断固として避けなければなりません。
今まさに調印されようとしている条約は条約ではありません。降伏文章です。屈辱の極みなのです。
私は連邦の軍人として開戦後初めてサイド3を訪れました。そして見ました。ジオンの真の姿を。真実の姿を。
私を尋問した兵士も、私を誘導した兵士も皆20代前半の若手士官や兵士でした。
本来であれば30代のベテラン兵が尋問するべきであるにもかかわらず、です。これが何を意味するのかお分かりでしょう』

放送は続く。
それを忌々しそうに、或いは興味深げに、若しくは嬉しそうに見る多くの人々。この放送に関しては皆が見ていた。
視聴率だけで言えば80%に近い。ミノフスキー粒子も散布された宙域がある状態でのゲリラ放送にしては最良の視聴率だろう。
言いたことは単純だ。

『戦争を継続せよ、我々は負けてない』

『ジオンには最早戦うための物資も艦艇もMSも無い』

『何もかもが無い無い尽くしのジオン公国に何故、我が連邦が膝を屈しなければならないのか?
宇宙を専制国家、独裁者の手に委ねて良いのか?』

と言う事を訴えている。
ここで、ある兵士は気が付いた。
レビル将軍は巧妙にルウム戦役での敗北と言う自分の責任を逸らして、開戦の責任と一週間戦争にルウム戦役の敗北の責任をジオン軍とザビ家に押し付けている。
そして将軍自身はもう一度戦う機会を望んでいるのだ、と。一種の責任逃れであり、論点のすり替えである。
そもそも大将閣下とはいえ、一軍人に過ぎないレビル将軍に他国であるジオン公国の政治体制を公的に批判し、それを論議すべきでは無いだろう。
それは政治家や外交官の仕事だ。軍人の仕事じゃない。それを軍人がやれば連邦もジオンと同じではないのか?
第一、文民統制である筈の地球連邦軍軍人が戦争継続をメディアに訴え、さも自分が代表の様に振る舞うのは民主主義国家の軍人として正しいのだろうか?

『我々も苦しいが、ジオンも苦しい。
そして彼らに残された兵力はあまりにも少ない』

『そして我々は民主主義の名のもとに団結し、勝利する。
全連邦兵士諸君、母なる大地である地球に依って戦おう。そして共に勝利を得よう』

が、そんな事を考えたのはごく一部だけ。そしてこの放送、『ジオンに兵なし』は何度も何度も地球圏全体に流れた。
それはサイド3ジオン公国の首都ズム・シティでも受信できた。報道管制が間に合わなかった。
これを最初に知ったザビ家の者はサスロ・ザビだった。帰宅途中のリムジンに備え付けられたTVに映し出されるレビル大将の姿。




「親父か!」

次男のサスロ・ザビがザビ家私邸に向かうリムジンの中で叫んだ。
思わず手に持っていたワイングラスを強化ガラスに叩きつける。
秘書官の一人に零れたワインがかかるが普段の温厚なサスロとは違い、それを気遣う余裕は無かった。
ザビ家の私邸に到着するや否や正門から玄関へ、そして、食堂へ駆け込む。
其処には食事中の義理の妹ゼナ・ザビ、父親にあやされている姪のミネバ・ザビと父にしてジオンの英雄ドズル・ザビ、更に実弟のガルマ・ザビの4人が楽しそうに家族の身の団欒を繰り広げていた。
召使は誰も居ないので、料理もゼナ・ザビが自ら作った手料理のようだ。美味しそうに食べていたドズルが能天気な顔で、

「おお、サスロ兄貴か。一緒に食べんか?
ゼナの渾身の手料理だ。地球産のシーフード料理で美味いぞ」

などと言う。ガルマもそれに頷くが、今の自分はそれどころでは無い。

「ドズル!! 親父はどこだ!?」

不思議そうな顔をするドズルが何か言おうとした時、父親のデギンが入ってきた。
思わず詰め寄る。ガルマが慌ててどうしたのか聞くが、サスロは聞く耳を持たない。

「親父!!」

やってくれたな! と、サスロは父親の胸ぐらを掴みあげた。
あまりの事態に思考が停止するデギン、ドズル、ゼナ、ガルマ。
普段、家族には温厚に接するサスロの姿とはかけ離れていた。
何もかも無視して一気に怒鳴りつける。

「親父、レビルをどうした!? 今どこにいるか知っているのか!!
何故、親父直轄のレビルが・・・・・・ここに・・・・・・TVに映っているんだ!!!」

そう言ってリモコンを使い、薄型の壁掛け用TVを付ける。
そこには先程の演説を繰り返し流すアングラ放送の映像が詳細に、かつ、巨大に映し出されていた。

「な!?」

ドズルが驚きの声を上げ、サスロが更に詰め寄る。

『一体全体どういう事なのか?
何故公王府に幽閉されていた筈のレビルがルナツーに居て、こんな演説をしているのか?
何故、この様な重大な報告が副総帥である自分にも軍総司令官であるドズルに上がってこなかったのか?』

そうサスロは親であるデギン公王に詰問する。

「レ、レビル!?」

が、父もこの展開は信じられないようだ。
何か裏があったのだろう。
密約があったのだ。レビルとデギンとの間に何らかの密約が、敵味方ではあったがそれでも父親は敵将を信じていたのだ。
穏健派であるレビルなら必ず自分の期待に応えてくれるだろう。そう言う信頼が何故か父親にはあったのだ。
そしてそれをレビル将軍はデギン公王の信頼を最悪の形で裏切った。
地球圏全土に徹底抗戦を訴えると言う最悪の方法でジオン側の和平への期待を粉砕した。

「親父! 説明してもらうぞ!! 
何故レビルが脱走した!? 何故レビルはあそこにいる!? 警備に何を命じたんだ!!」

詰め寄るサスロのデギンは杖を落とした。
姪のミネバ・ザビが大泣きしているが今はそれどころでは無い。この怒りを解消する為にも、そして今後の事を考える為にも真実を掴まなければ。
その思いで詰め寄る。

「わ、わしは・・・・・た、ただ和平を・・・・・連邦との・・・・・・和平を」

その言葉で全てが分かった。理解した。想像通りの結末だった。
やはり父は連邦軍の一軍人であるレビル大将に肩入れしたのだ。彼が、レビルが地球連邦の軍人であると言うその一点を忘れて。
兄ギレンにも自分にも内緒で。下手をしたらダルシア・バハロも知らないのかもしれない。完全な独断専行。掴んでいた手を放す。放心したかのようにデギンは椅子に腰を落とした。

「親父はこれがどんな事態を引き起こすか分かっているのか!?
あの男はジオンの内情を地球圏全体に暴露したんだ!!
これでは戦争の早期終結は無くなるかもしない、いや、無くなった!!
確実に戦争は続くぞ!!
どうしてくれるんだ!! 親父が公王じゃなければ国家反逆罪で逮捕したいくらいだ!!」

流石にこの発言にドズルが動いた。
ゼナにミネバと共に部屋から出る様に伝えるとサスロに向き直る。

「サスロ兄貴いくらなんでも言いすぎだ・・・・・親父だって国を思って」

だが、次のサスロの言葉にドズルは反論するすべを失う。

「国を思っても戦争が続いたら意味がない!! 政治も軍事も結果が全てなのはお前だって知っているだろう!!
そして・・・・・・くそ!! ギレン兄がどうでるかは分からないが戦争は恐らく継続だ。
悪意から出る成功よりも善意から出る失敗の方が余程性質が悪い!!」

デギンがこの言葉で辛うじて持っていた杖をも落とした正にその時、秘書官がノックした。
入れ、とサスロが言う。ドアを開けるが早いかどうか、その秘書官は息を切らしながら全員に聞こえる様に伝えた。

『連邦政府、南極での終戦交渉を白紙化。我が国との徹底抗戦の構えを見せています』




ジャブローではこれに狂喜した男たちが存在した。
敗戦の責任を負う事を免れないと思っていたキングダム首相らである。彼らはレビルの演説を天啓と捉える。
そしてその天の恵みに答えるべく、一つの決断を下した。自らの野心と保身の為に。

『南極の代表団に連絡せよ。戦争は継続する、とな』




宇宙世紀0079.09.05

南極にて一つの条約が締結された。所謂、南極条約である。
南極条約の主な点は、捕虜・市民の人道的扱い、サイド6、フォン・ブラウンの完全中立化、非加盟国=各コロニー間の貿易の承認、NBC兵器並びコロニー落とし作戦の禁止などである。
また、現時点でジオンが占領している4つのサイドはジオン軍の駐留を認める。
その代り、勾留中の連邦軍捕虜の人道的配慮を行うという点が決定された。そして連邦市民の人権保護も決定した。
一方、検閲の許可、移動の制限など各サイドの持っていた主権は全てジオン側に委ねられる。
更には双方ともに捕虜交換は現時点ではしない事も明記される。

そして休戦期間は宇宙世紀0079.09.15まで。
この日までの軍事行動は原則禁止とした。




一方でウィリアム・ケンブリッジはどうしていたか?
要約するとスパイ容疑で逮捕されたウィリアム・ケンブリッジは、将来的には尋問および隔離の為、ルナツーからサイド7に護送される事になる。
一応、妻との関係を考慮して第14独立艦隊がその護衛につくが、同じく尋問中の妻とは会えなかった。
息子と娘に電子手紙を送る事は許されたが、それ以外の通信は禁止という文字通りの罪人扱いである。誤認逮捕も確信があれば誤認ではないだろう。
そして妻もまた夫と同様、尋問を受けている。

(何故こうなったのだろうか? 俺が一体何をした?
リムは一体何をしたんだ? ただ職務に忠実に働いたのにこの仕打ちはないだろう?)

それだけが頭の中を駆け巡る。一体何が悪かったのか? 
ただ一所懸命、連邦政府の公僕として職務を果たしてきたつもりだったのに。




妻のリムもまた理不尽な言葉の暴力に耐えていた。

(何度目だろうか?)

このルナツーに戻って以来、定期的に開催される簡易軍事法廷で何度も何度も自分の罪状が読み上げられる。
ナハト大尉とやらが自分を告発する検察役な様だ。

(どいつもこいつも嫌いだな、相も変わらない憲兵どもめ。唾を吐きたくなるな。その嫌らしい弱い者いじめを楽しむ目つきが気に入らない)

罪人扱いされているのはリム・ケンブリッジ中佐。この場では単に中佐と呼ばれて、いや、怒鳴りつけられている。

(私はともかくウィリアムは無事なの?)

心配になるのは夫だ。
連邦の第一等官僚選抜試験合格者は軍役を除かれるので、軍隊の経験が無い。その夫にこの過酷な精神的仕打ちが耐えられるだろうか不安になる。
軍隊経験者でも軍法会議やそれに類する裁判は非常に神経を擦り減らされるのだ。
ましてそれが全く関係なく経験もない夫なら尚更だ。
それに自慢じゃないが私が選んだ夫は決して要領が良いとは言えないし、芯が強い英雄の様な人物では無い
もっとも、私にとってはあの時からずっと英雄だったが。

「リム・ケンブリッジ、旧姓、リム・キムラ。
貴官は宇宙世紀0050に飛び級で地球連邦軍士官学校に入学した、間違いないな?」

頷き、一言ハイと答えた。
下手に口答えしてもそれを理由に叩かれるのがオチなのだから静かに頷けば良い。

(ああ、あれから30年近く。考えてみれば遠くに来たものね)

三歳年上の、なんとも思ってない幼馴染を尻目にリム・キムラは士官学校に入学した。
宇宙世紀0052、士官学校トップ20、通称T=20の一人として海軍配属を希望した自分は類稀な航海技術と航宙測量技術で海軍、宇宙軍双方のカリキュラムを二年連続で合格。
将来は連邦軍宇宙艦隊か連邦軍海上艦隊かどちらかの艦隊司令官までは間違いなしと言われるようになった。

(いつ頃からだろう? 男に不自由しなくても、その男に物足りなくなったのは?)

東洋的な神秘さを持つが故に、西洋系の同僚や同期生に何度か告白され付き合った。
それでも彼らは多くの面で自分より勝っていた筈なのだが、何故かあまり魅力を感じなかった。感じなくなっていった。

「それで中佐、貴官は士官学校では極めて優秀な成績で卒業しているが、一体どういう風の吹き回しなのかな?
この、ウィリアム・ケンブリッジ政務次官と言う人間と付き合いだした理由は?」

ナハト大尉が聞いてくるが、流石にこれは人権侵害だ。そこまで答える必要はない。
誰が誰を好きになろうと知った事ではないだろう。
第一、婚姻統制でも敷くのか?この地球連邦と言う国は?
そうでは無いのなら、無視しても問題は無い筈だ。

「答える義務を認めません」

『ふざけるな! 質問に答えたまえ!!』

そう答えつつも、内心ではあの日の事を思い出す。
宇宙世紀0053.12.19の冬の日。
久方振りに両親が待つ故郷のニューヤークに帰ってみると初雪が観測されたのか街中が雪化粧に覆われていた。
それが懐かしさを感じる。ついでにハワイの海軍士官学校に居たので肌寒さも感じた。
家族との再会は思いのほか順調であった。
そして、ずっとお兄ちゃんと呼んで慕ったが、決してそれ以上では決してなかった男と再会する。

『あら、ウィリアム兄さん。久しぶり』

その言葉にウィリアムが大きく傷ついたのだけは理解した。
ただあの時は別の男と付き合っていたのでそんなに問題だとは思いもしなかったが。




別室では、ウィリアム・ケンブリッジ政務次官への聴聞が行われている。
彼は手錠こそかけれてはいないが、パイプ椅子の上に座らせられていた。
勿論、嫌がらせの様に、私服のアルマーニ製のスーツの上着は脱がされ、シャツしか着てない身に、冷房が効きすぎている部屋で検察の取り調べを受けている。
どう考えてもこの設定気温が20度というのは検察側の嫌がらせだ。人権侵害も極まったな。

『何故、我が連邦政府や連邦軍に開戦時期を連邦政府に伝えなかったのか?或いは伝える義務を怠ったのか?
それは政務次官がジオンやザビ家と内通していたからではないのか?違うか?』

『以前にMSの脅威を唱えていたが、それは何故か? 
例の経済面からMSを脅威と捉えた論文は壮大な言い訳で、真実はジオンの独裁者から教えてもらったのではないのか?
そしてそれを手柄に連邦内部で出世する為に利用したのではないのか? 
MSへの警戒、その本当の目的は連邦に警告する為では無く連邦内部でライバルに差をつける為では無かったのか?』

『何故、4機ものザクⅡを鹵獲できたのか? 何故撃沈できる筈のムサイ級軽巡洋艦を見逃したのか?
本当は戦闘自体が擬態で、ジオン軍に我が軍の量産型MSジムの性能を伝える事が目的では無かったか!?』

『政務次官と言う地位にありながら何故亡命政権の人間を殴ったのか? 
所詮相手はスペースノイドで亡国の輩という本来の連邦官僚としてあるまじき差別意識があったからではないのか?』

だいたいこの4つが論点に挙げられた。
他にもいろいろあったが、ケンブリッジ政務次官に取って重要な議題だと思われたのはこの4つだ。
どれもこれも言いがかり以上でもそれ以下でもなかった。実際に彼にとって訳が分からない事ばかりだ。
一応、弁護人はいるがあまりやる気がなさそうだ。と言うより、絶対にやる気がない。
心配なのは妻と子供たちだ。この余波を受けているのは間違いない。

「何度も言う様に、私は知りません。やってません。信じてください。
それに記録をしっかり確認して下さい。
私は何度も連邦政府にジオンが宣戦布告に踏み切る可能性があると警告しています。
それを黙殺したのは貴方方、地球連邦政府の現政権でしょ!?」

『責任転嫁を図る気か!?』

そう言ったが、自分の反論が聞いて貰えるならばこんな場所でこんな裁判ごっこで浮かれている事は無いだろう。
本気でジオンを脅威と考えるならば直ぐにでも対応策を練るべきなのだ。
それが弱い者苛めに全力を傾ける。これが今の連邦政府の内情とは怒りを感じるし、憤りも覚える。

「連邦軍が負けたのはミノフスキー粒子とMS、MS携行のビーム兵器の存在を軽視した、若しくは察知できなかったからです。
更に言わせてもらえば私は諜報部の人間ではありません。
それを、ただの文官に、ジオンの新兵器や新戦術を知れ、探れ、予想しろと言うのはむちゃな要求です」

途端に目の前の査問役の黒スーツ姿の男がまた怒鳴り散らす。

『それでも連邦の上級官僚なのか!? 
言い訳するとは何事か!? そんな幼稚な言い訳で我々を煙に巻こうと言うのか!?』

三人いるうちの別の者も続けて私を批判した。

『連邦に忠誠を誓った身とは思えない傲慢さ。やはりギレン・ザビらと交流が、いや、密約があったに違いない。
このキシリア・ザビ暗殺事件の直後にある記録。
ここにあるザビ家との単独面会で何を約束された? 金か? 地位か?』

最後の一人はもっとあからさまだった。
机をよけて近づくと、私の頬に向かって張り手をして思いっきり引っ叩いた。

『この売国奴が!』

この時ほど、連邦に失望した時は無かった。
マジック・ミラーになっていてそこで聞いている筈の弁護団も憲兵も警察も私の人権を守る事は無かった。
次に来たのはボディーブロー。思わず胃液が出そうになる。これが売国奴扱いと言う奴か。
ジャブローにいて、安全な場所から全て押し付けた連邦政府に、あのクソじじいのキングダム首相閣下らの対応に、反吐が出そうだ
更に髪の毛を引っ張られて額を机の上に叩きつけられる。額から血が出る。重力ブロックでは無かったら赤い球が飛び散っただろう。
それを見てにやける三人の男。正直に言おう。殺してやりたい。そして声を大にして叫びたいのだ。

(俺は決して自分から望んだ訳じゃない。ただただ与えられた、押しつけられた課題を必死に解こうとしただけなんだ。
決して英雄になりたいなんて思った事は無かった! 英雄でありたいとも誰かを出し抜きたいとも思ってない!!
それなのにこの仕打ちはないだろ!!
ザクの鹵獲だって偶然だ。お前たちが邪推するような取引をジオンとした訳じゃない!!
本当はあの時だって怖くて怖くて堪らなかった。逃げ出したかった。何もかも捨てて逃げたかった!! 手の震えも止まらなかった!!
ああ畜生!! こんな事になる位なら全部捨ててリムと一緒に逃げれば良かった!! ここまで言われるならジオンに投降すれば良かった!!!)




リム・ケンブリッジ中佐は思い出す。
あの新年の日。私を引き留めた一人の男性を。その男は冴えないこれと言って特徴が無い人間だった。
両親は学歴エリートだから優良株だし、幼いころから見ていて人としても出来ているから問題ないと言っていたが私にはそうは思えなかった。
いつもいつも小さな私の手を引いてくれて、それでもどこか抜けている、あの頼りない姿が印象的な男性だったから。
そして私は休暇のある日、ホテル街を歩いていた。当時付き合っていた二期上の先輩に渡すプレゼントを持って。

『誰よ、その女?』

よりにもよってその日、当時付き合っていた男が別の女と一緒にホテルから出てくるのを目撃した。
男なんて何人とも付き合って来たから別に別れるのはショックでは無い。しかし、弄ばれた事は幸運な事に無かった。
弄ばれていた。二股をされた。信じられない。それで自棄になって突っかかった。
その男が連れている女は自分の同期生で、両親が一般の家庭人である自分とは異なり親のコネが強いのも知っていたが、関係なかった。

『誰よ、誰なのよ!? その女とどういう関係なの!?』

『う、五月蝿い!! 離れろ、ここから出ていけ!』

『え?』

『いいから出ていけ! 俺はお前みたいな、いかにもできますっていう賢い女が大嫌いなんだ!!』

『ちょっ!? そ、それじゃあなんで付き合ったのよ!?』

『五月蝿い!! さっさと離れないと警察を呼ぶぞ!!』

『五月蝿いわね、この負け犬。さっさと去りなさいよ』

そう言って私は追い出された。
その後、その女と男は順調に出世した。
私はその男が手を回したのか、或いは女の方か知らないが、ずっとT=20を維持していたにも関わらず謹慎処分と優待生からの除名をくらったわ。

(しかし面白いわね。あの時の男は宇宙艦隊のグプタ副長に配属になってルウム戦役で戦死。
女の方は連邦軍武装解除事件でジオン軍と交戦時に負傷し、しかも副連隊長であった事からそのまま不名誉除隊。
で、私は英雄でありながらも査問会に夫ともども直行。運命って本当に残酷で面白いわ)

と、思ったら。
またぞろ何か言いだした。どうやらこの私の傲岸不遜な態度が許せない様だ。確かにそれはあるかもしれない。
何やら聞こえる。

『しっかりと顔をあげたまえ、面接官の目を見ろ』、か。

まるで学生の就職活動のレクチャーだ。私は大学を出たばかりの子供か?

(そう言えばあの後だったかしら。
ウィリアムが、ハーバード大学経済学部宇宙開発学科の卒業証明書と一緒に地球連邦第一等官僚選抜試験合格通知書を持ってきたのは)

わざわざ最後の休暇を使ってハワイの連邦海軍士官学校に来た。
そそかしい事に私にメールを送ったのはホノルル空港に到着してから。しかも授業中だからそう簡単に会える訳ない。
ついでに、あの別れた二股男と女の影響で、私は非加盟国の共産主義信望者だの、スペースノイド過激派のスパイだの、男漁りの背徳者だのという噂が付いていた時期。
私がかなり自棄になっていた時、未来の旦那はクソ熱いハワイの中で、明らかに不釣り合いな恰好、学生が値段を出せるという意味では最高級のポールスミス製スーツを着て、ホノルルの『太平洋リゾートホテル』という高級ホテルの最上階のカジノバーで待っていた。

(あの時は憂さ晴らしと厄介者払いのつもりで行ったのよね。
私が今から言う全てを奢ってくれたら一つだけ願い事かなえてあげる、そう言ってやったわね。懐かしい)

あの時の自分はどうかしていたのだろう。
仮にウィリアムが代償として私自身を求めても、きっと私はそのまま身を任せて彼に代価を支払ったに違いない。
取り敢えず、10万テラはしたコース料理にワイン、デザートを奢らせた。
しかもホテルの部屋代にカジノで遊びたいから30万テラを貸してとまで言ってやった。
初任給が25万テラである事を考えると大した額だ。今思うと本当に悪い事をしたなとも思う。

(あの時払える筈も無かった筈・・・・・それでも支払ったのは惚れた弱みなのかしら?)

過去へと記憶を飛ばす。
困った様な、それでいて嬉しそうな顔をする未来の旦那に私は思ったものよ。

(何しに来たか知らないけど、これだけやれば尻尾を巻いて帰るでしょ。
は、ご愁傷様でした。今は誰とも付き合う気持ちは無いんだから。
その辺の安っぽい女と一緒にしないでくれる?)

と、心の中で舌を出していると、兄と思っていた、今は財布としか思えなかった男から、一言。

『リム、ずっと好きだった。付き合ってくれ』

と、告白された。

(冗談じゃない。なぜアンタみたいな凡人に、エリートの私が、単なる貧乏人の冴えない将来性もない男と付き合わないといけない・・・・)

と、一瞬だけ思ったが、良く思い出してみるとその言い訳はもう通じない。
彼はハーバード大学を出て、もう間もなく地球連邦政府の第一等官僚になる。
T=20と呼ばれる連邦軍士官候補生と比べても決して遜色はない経歴の持ち主だ。
いや、地球連邦は文民統制が原則だから下手をしなくても向こうの方が色々な意味で格が上だろう。

(それにだ、たしかこの目の前の男は決して成績は良くなかった筈じゃ・・・・)

最後に私が飛び級した時などは、その報告を聞いて悔しさと情けなさから陰で泣いていたのを知っている。
そんな軟弱な男だった筈なのに。こんな真剣な目をした男じゃないと思っていたのに。

(何なのよ? この目は? わ、私が欲しいですって? じょ、冗談でしょ?)

高級カジノバーの席から滑り落ちそうになる。

『じょ、冗談きついわ。なによ、あ、もしかしてこの間の憐みのつもり!?
捨てら得た女だから簡単に落ちるとでも思ってるの!?』

『冗談じゃないし憐みでもない。ずっと好きだった。いつかお前に相応しい男になろうと努力した。努力してきた。
まだ足りないならもっと努力する。なれと言うなら大統領にでも首相にでもなってやる。だからお願いだ。一緒にいてくれ』

『あ、その、いや、あんた、あ・・・・ウィリアム、その、だから』

逡巡していた間に物事とは進むようだ。
ウィリアム・ケンブリッジはいままで誰も言った事が無い方法で口説いてきた。
ストレート。一切の脚色を取っ払った言葉はあの時の私の心にしみわたる。

『俺はリムの全てが欲しい。その代償に俺の全てをくれてやるから。だから俺と一緒に来い』

そう言って差し出された手、その震える手を、臆病者な勇者の手を、私はいつの間にか握り返していた。
その後は二人でワルツを踊った。
下手くそな二人だったが、あの日のハワイの夜から私たちの関係は始まったのだ。
そう思うと何もかも懐かしくなる。そう言えば子供たちは元気にしているのだろうか?

「何が可笑しいのか、中佐。それ以上は法廷侮辱罪も考慮に入れるぞ!」

ええ、お好きなように。あの日から私はずっと一緒にいてくれる人がいた。だから怖くないわ。




地球連邦軍本部ジャブロー。そのある執務室ではとにかく、予想外の事態に対応していた。
怜悧な刃物と呼ばれるジャミトフ・ハイマン准将はウィリアム・ケンブリッジ政務次官が捕えられるという報告に焦っていた。
彼らしくもなく、である。
理由は単純。ウィリアム・ケンブリッジ逮捕と言うのは彼のシナリオにはなかったからだ。

「やはり黒幕は首相か。余計な事をしてくれたものだな」

本来ではあれば、ケンブリッジ政務次官は地球連邦の北米州の権益代表であるマーセナス議員と共に現政権の打倒に動いてもらう予定だった。
が、どうやら、連邦の古狸であるキングダム首相の方が先手を打ってきた様だ。
流石に官僚の任免権を持つ首相に命令は出来ない。と言うより軍人が口を出してはならない。ここは文民統制の国家なのだから。
まして今回の事件が首相ら内閣府の証拠隠滅や責任逃れの意味合いが強いから真っ向から立ち向かっても握りつぶされるのがオチだろう。

「それで、ケンブリッジはどうなったのか?」

秘書官が黙って報告書を見せる。メモリーディスクを起動させて机の上に置いてある黒い情報端末に詳細を映し出す。
宇宙世紀0079.09.01時点では暴力まで振るわれて軟禁状態。
責任を押し付けたい連邦の現政権と、その現政権の人権侵害を武器に政権奪回をもくろむ各陣営が裏で動いている。
動いているのはゴップ大将らの派閥、北米州を中心とした州政府、敗戦の責任を逃れたい首相ら内閣府、更にはレビル将軍の宇宙艦隊の派閥にどうやら嗅ぎ付けた他の州も動いている。

「予想以上に混沌としている・・・・・魑魅魍魎とはこの事だな。で、要約するとどうなる?」

また、連邦軍としても連邦政府としても落としどころを探っている。
特に軍法会議中のリム・ケンブリッジ中佐らが捕えたザク4機は貴重なサンプルとして連邦軍本部ジャブローとサイド7に運ばれる事が決定した。
これを持って、彼女リム・ケンブリッジらの方は英雄として扱われる事になるだろう。まだ正式な通知は無いが。
それはジャミトフと共にブレックス・フォーラ准将が動いたのも理由の一つだ。
MSを鹵獲し、尚且つ敗戦の中で明確な勝ち星を得たと言うのは明らかに好材料だ。
これを利用しない手は無い。
実際、人情味あふれるブレックスなどは積極的に文民統制の原則を破って、勝手に連邦政府に圧力をかけてくれている。
ジャミトフも流石に露骨に圧力はかけないが、叔父の力を借りてケンブリッジの保釈運動を進めている。

「ケンブリッジには個人的にも公人としても借りがあるからな」

ジャミトフの発言に秘書が続ける。

「はい。
政務次官ですが、現時点では軟禁状態の様です。まだルナツーから動かされていません」

それは朗報ではないが最悪の報告でもない。
現政権は急速に悪化する支持率回復を目指したい。その為には各州の代表議員らの支持がいる。
また、連邦市民全体の支持も欲しい。ルウム戦役の敗北を逸らす為の犠牲の子羊も必要だからだ。
その為の生け贄がウィリアム・ケンブリッジだったが、叔父の力を借りて裏事情を暴露した事が大きな痛手となっている。

『ウィリアム・ケンブリッジ政務次官という得難い人材を連邦政府は自分たちの保身の為に失おうとしている。
それは許されるべきでは無い。
現時点においては我が連邦政府は間違いを認め、その上で襟を正し南極での交渉に臨むべきである』

それがジャミトフを経由して発信され、それが北米州全体の意見となったのだ。

「連邦の現政権の愚か者はあれ程の逸材を自らの手で失おうとしている。それは避けねばならぬからな」

ジャミトフは椅子から立ち上がり、窓から見えるジャブロー地下都市の景色を見た。
視界には連邦軍のペガサス級強襲揚陸艦の一隻、緑の配色を持つ「サラブレッド」が見える。

「ブレックス・フォーラ准将に改めて連絡を取れ。この件に関しては奴の力も必要だ」




ルナツーでは証人喚問が行われていた。が、それは続ければ続けるほど原告側を不利にするだけであった。
被告であるウィリアム・ケンブリッジ政務次官とリム・ケンブリッジ中佐が一切の自白を拒否した為、強引に彼ら二人を有罪にするべく動いたのだがそれがいけなかった。
先ず第14独立艦隊のメンバーらの署名運動から始まった。
軍では許されないこのような運動は、厭戦気分と相まって発火、一気に大火となってルナツーに広がる。
最初の動きはノエル・アンダーソン伍長である。
彼女は同僚や友人に艦長と政務次官の不当な逮捕に愚痴った。正確には上層部批判を行った。彼女らしくなかったがそれでも彼女自身の正義に従ったと言える。
彼女は酒の席で多くの同僚たちの前で叫んだ。今すぐに連邦の英雄を解放しろ、と。
それがルナツーに帰還していたパイロットの一人に伝わった。

「いやぁ、あんなかわいいお嬢ちゃんに愚痴られて黙っていちゃあ男がすたるぜ」

とは、その時の少尉さんの言葉。
この少尉が制服を着てルナツーの下士官向けガンルームで同僚と飲んでいた時の事だ。

「ベイト少尉。自分は思います。
やはりバニング隊長は立派です。自分ならこんな高級酒、部下には振る舞いませんよ」

と、同僚が飲みながら、上官への敬意をこぼしていた時に新しい情報として持ってきた。
メモリーディスクを机の内臓端末に接続する。

「何を見るんです、モンシア少尉?」

帰還した全将兵に一階級特進を命じた連邦政府。
軍の人事課に直接命令してきた(形式上は首相からの要請だった)が、本来であればあり得ない厚遇は如何にルウムでの大敗北を糊塗したいかを物語る。

「あ、ああ。
えーとな、さっきそこで愚痴ってたお嬢ちゃん曰く、何でも・・・・とっても情けなくてかっこ悪いおじさまのとってもかっこいい惚れたシーンだそうだ」

片側に明らかに口説いてきた女将兵を侍らせてモンシア少尉が飲む。
ついでに酒の摘みである燻製肉を頬張る。

「おいおい・・・・・それって矛盾してないか?」

「ごもっもです」

とは同僚二人の言葉。
因みに、あのルウム戦役で敵艦隊に突入しながら全機が帰還した第4小隊は不死身の第4小隊としてルナツー内部の戦意高揚の宣伝に使われている。
三人が、いや、傍らの女性兵を含めれば4人か、が、画面に注目する。
面白半分にベイト少尉が音量を最大にして見せる。そして流れた。あまりにも情けなく、そしてあまりにも赤裸々な本音を。

『お母さんを見捨てて、お父さんだけ逃げ出した』

『それだけはなれない』

『私の代わりはいくらでもいるだろう』

『だが、私はこの艦隊で一番偉いんだ。そんな私が一番先に逃げ出す訳にはいかない』

あの時の告白がいつの間にか会場全体に響いた。
部下を、上官を、或いは同僚を失ったルウム戦役と言う戦い、しかも連邦政府はさっさとルウムの放棄を決めた。自分たちの奮闘をまるで無視したように。
命がけで戦ったのに自分たちの戦いを全て無視した様な行動の前にある意味自棄になっていた彼ら。
ここにいる将兵の大半には大なり小なり連邦政府への、現連邦政権への不満の念があった。
だからこそ、このたった一人の官僚が発した本音は響いた。

自分たちと何が違う?

怖かった。逃げ出したかった。それでも戦った。
逃げずに、仲間を見捨てずに、前に向かった。

「こいつは・・・・・」

ベイト少尉がいつの間にかグラスを置く。
アデル准尉も腕を組んで考えている。
意外な事に最初に反応したのはモンシア少尉だった。
彼は少し考えると席を立ちあがった。そしてどちらかと言うと大尉や少佐らが座っている場所に進む。
そして一人の肩を掴み、自分の方へ向かせる。

「おい、確かあんた憲兵だったよな?
ちょっとこいつとこいつらの状況を詳しく聞かせてもらおうじゃねぇか・・・・・みんなにな」




サイド3から出港する一隻のムサイ級巡洋艦。しかし一般的なムサイ級では無い。
これはルウム戦役まで名将ドズル・ザビが乗艦していた旗艦ワルキューレである。その艦橋で。

「良かったのでありますか?」

艦長のドレン中尉が艦の指揮を取りながらも、自分よりはるかに若い少佐に聞く。少佐の階級章を付けた仮面の男。
ルウム戦役にて5隻の連邦軍艦艇を瞬時に撃沈したとして名前がジオンはおろか連邦軍全体に轟いたエースパイロットにして英雄。
そのシャア・アズナブル少佐は指揮官用シートに腰かけながら宇宙を見た。そして事実上の副司令官でもあるドレン中尉の問い質問で返す。

「何がだ?」

ドレンも人が悪い、そう言いたげな表情を見せながらシャアに聞く。

「何って、例の艦ですよ。あの高速船は確か『スカイ・ワン』って言う名前でしてね。
連邦軍や連邦政府にも僅か6隻しかない貴重な船です。しかも青を基本色とした船でしたからネームシップの『スカイ・ワン』です」

ほう、とシャアが指揮官らしく余裕を持って答える。
貴様は博識だな、と。

「そりゃ大宇宙を駆ける戦士の少佐と違いまして船乗りですからね。船の判別くらいは当たり前に出来ます。
ですが少佐、あの時期に連邦の民間船がここまで侵入したと言う事は何かあったと見た方が良いのではありませんか?」

ドレンが小声で聞く。部下たちに聞かれて動揺しないようにする為だ。それが艦長としての義務だろう。
やはり現場からの叩き上げは役に立つ。そう思わせる。そこへ。

「艦長、少佐。通信が入っております・・・・・あ、違います、地球圏全域に向けた広域通信です。
回線を回しますか?」

メイン・モニターに表示しろ。
ドレン中尉の判断は間違ってはいない。ここで司令官のみがこの放送を見れば、一体何故と言う疑惑を招くだろう。
それに非番の者がこの通信を見ている筈だ。ならば兵たちと情報を共有する事が今は大切だ。

「ん? こいつは確か敵将のレビルじゃないのか? 何でこんな放送に出てるんだ?」

ドレンの報告に思わず顔がゆがむ。
ああ、やはりそうか。あの時のあの船にいた敵将レビルは偶然に脱出したのではない、誰かに、恐らくザビ家の中の反ギレン派の者に手引きされてあの場にいた。
そして私の判断も正しかった。
あのレビル将軍を見過ごした行為はギレンを中心としたザビ家独裁に小さな亀裂を打ち込む結果となるだろう。

(笑いが止まらないな。これであの坊や以外にも切り崩しが可能となる、か)

放送は佳境に入る。

『・・・・・ジオンに残された戦力はあまりにも少ない』

ミノフスキー粒子の影響下にもかかわらず、最後の一言は地球圏全域に伝わった。無論、このワルキューレ乗組員全員にも。
そしてこの時のジオン軍程意見が一致した軍は無かっただろう。彼らは、彼女らは本能的に察する。

『独立戦争は継続される』、と。

「少佐」

気が付くとドレンが更に近づいてきた。右手にはマイクを持っている。

「どうやら・・・・・独立戦争は当分の間は続くな」

マイクを受け取る前にドレンにそう伝える。
そして、レビルによる徹底抗戦を煽った放送が一段落して周りが騒ぎ始めたころ艦内放送を行うべくマイクのスイッチを押した。

「指揮官のシャア・アズナブルだ。これより本艦の乗組員全員に告ぐ。我が艦は第一種警戒態勢に移行する。
我が艦はルウムの英雄であるドズル中将より直接、この戦争を左右する重大な任務を預かっている。
この任務はジオンの将来を左右する極めて重要な任務である。では諸君、地球連邦軍が動く前にサイド3宙域を抜け、月周回軌道を突破するぞ」




そのサイド7では連邦軍の新型MS、RX-78、コードネーム『ガンダム』の開発が難航していた。
特にジオンが投入してきたザクⅡ改やリック・ドムⅡの兵装の一つである90mmマシンガンとジャイアント・バズに耐えきれる装甲とゲルググと呼ばれている新型機に対抗するだけの機動性が求められていたが、それが上手くいって無い。

「モスク・ハン博士、そちらはどうか?」

開発主任のテム・レイ博士が同僚のモスク・ハン博士に尋ねる。
内容はマグネット・コーティング、通称MC技術のMSへの採用。詳しい事は省くが増加装甲による機動性低下を解決する為の方法である。

「問題は幾つかあるが、性能と言うよりも目下のところはパイロットだ。こいつを扱えるパイロットは居るのか?」

ガンダムは確かに高性能だ。それは認める。
だが、問題はパイロットにある。プロトタイプガンダムをテストしているユウ・カジマ中尉らの感想ではジムタイプに比べて遥かに扱いにくい。
特にジムタイプとは異なり、反応系が過剰なまでに敏感である。
これはガンダムタイプ全てが、連邦軍では例外的に完全なるワン・オフ機として設計、開発されているから仕方のない点があろう。
それでも連邦軍はこの機体に賭けていた。ジオンのMS全てを凌駕する事を。
だが、その期待も新型MSゲルググの登場で挫折する。
ビーム兵器を標準装備し、ザクとは比べ物にもならない機動性を確保しているゲルググの存在。
これにジャブローのV作戦担当者の実質的な最高責任者であるコーウェン少将は焦った。
この状況下では例えガンダムが高性能と言えどもジオンの跳梁を許すであろうと。そうなっては士気に関わるし、何より後手に回る。
そう考えたコーウェン少将は新たに新型ガンダムの開発を命じた。
それは今まで開発してきた機体の実績、或いはルウム撤退戦で採取された第14独立艦隊の戦闘データや連邦製、ジオン製両方のMSの全戦闘データを渡す故、これら現存するMS全てを凌駕する機体を作れと言う命令である。

「やはり新規開発だな。RX-78-2のデータをベースに改良を加える。
まず脚部にバーニアーを増設し、両腕にサブ・ウェポンとして90mmガトリングガンを装備しよう」

ザクⅡF型4機の内、半数はジャブローに、残りの半数はサイド7に直接送られる。
そしてV作戦の実行責任者であるジョン・コーウェン少将からも二度、命令が下った。

『ゲルググに対抗できる機体、ガンダムの改良型を完成させるのだ』

言うは易くて行うは難し。それを地で行く命令。
命令する方もする方だが、された側もされた側だ。
された側、つまりテム・レイ博士らはここぞとばかりに新型戦艦であるバーミンガム級一隻分の資材と予算を獲得した。
流石にワイアット中将らが反発したが宇宙艦隊の再編はまず数からという至極まっとうな意見に押され、予算が動いた。
ただし連邦政府の良識派官僚は悲鳴を上げた。一体いくら税金をMSというおもちゃに投入すれば気がすむのか、と。
その資金の流れはジオン諜報部であるキシリア機関(俗称。本当の名前はジオン諜報部対連邦特別諜報部門という)に警戒を抱かせる程であった。
そういう裏の事情があるからこそ、連邦軍は早期にこの新型機を開発させなければならない。
360度全天周囲モニター、新型ビームライフル、マグネット・コーティング、コア・ブロックシステム排除による装甲の強化、ブースターの増設。
パイロットを選ぶと言う兵器としてはあるまじき機体であるため、サポートシステムの強化に学習型AIと音声入力システムの導入。
ジム6個小隊、つまり、ジム2個中隊分の生産設備を投入したこの機体が後に伝説となるとは現時点では誰も知る由もない。

「コードネーム『アレックス』が完成した暁には・・・・俺はあのミノフスキー博士を越えられるんだ!」

そう言って己に発破をかけるテム・レイであった。
そんな彼も勿論知らない。自分が持ち帰っているメモリーディスクを息子のアムロ・レイが盗み読みしている事を。




そして宇宙世紀0079.9月上旬。

レビル将軍の、所謂『ジオンに兵なし』という演説が連邦政府を強気にさせ、結果として南極での交渉は決裂した。
無論、せっかくの交渉の場である以上そのまま何もしないのでは両陣営に取って多大な影響を与える事を鑑みて、戦時条約を結ぶことで両政府は一致。
こうしてジオン側から見た独立戦争は継続される事になる。
また、ここでジオンとの密約を結んでいた北米州は様子見の態勢に入る。
これにつられてなのか極東州とアジア州も対中華戦線の維持を名目に軍をアジア方面に移動する。特に海軍航空隊の移動が顕著であった。
一方ジオンも地球各州政府とのパイプを断ち切る事はしなかった。

連邦軍は宇宙艦隊再編に全力を注ぐ。
方や、ジオン公国は休戦期間の終了と同時に遂に地球侵攻作戦を発令。
ジオン公国は全軍に地球への降下、上陸作戦の開始を命じる。




宇宙世紀0079.09.18
ジオン公国軍、地球周回軌道に降下部隊を展開、地上へと降下開始。

歴史の歯車は一気に回りだした。




同月20日、2日間に渡る激戦の末、オデッサ基地並び黒海沿岸部制圧完了。
ジオン地球攻撃軍主力部隊、東欧方面、ロシア・モスクワ方面、中央アジア方面へ進軍開始。

同月24日、連邦直轄領、イスタンブール市陥落。黒海全域の制海権確保。連邦海軍第17海上艦隊(黒海艦隊)と潜水艦30隻程をジオン軍が接収。

同月27日、ジオン軍、水陸両用MSゴッグ、ハイ・ゴッグ、ズゴッグを実戦投入。
クレタ島より進出した統一ヨーロッパ州ならび北アフリカ州中心の地中海艦隊(第16海上艦隊、第10海上艦隊)をダーダネル海峡近郊にて撃滅。
戦史上はじめての海中と海上の三次元同時攻撃を行い、主力艦であるヒマラヤ級空母6隻全てを撃沈。多数の艦艇を鹵獲。

宇宙世紀0079.10.10
ジオン海中艦隊、キプロス、マルタ、クレタなど地中海諸島を奪取。ジオン海中艦隊の水陸両用MSの前に連邦海軍、地中海艦隊残存戦力はなすすべなく後退。

同月20日、ジオン軍、第二次降下作戦を開始。スエズ運河地帯を制圧。東欧全域、北欧全域、ヨーロッパ・ロシア地域を掌握。

同月21日、中欧ポーランド地域にてドイツ軍を主体とした連邦軍が反撃、これに対してザクⅡJ型、グフA型を中心としたジオン軍の陸戦型MS隊が迎撃、連邦陸空連合軍を撃破。連邦軍、ヨーロッパ半島での陸軍戦力の7割を失う。
同日、同時侵攻が進められていたイタリア半島南部をジオン軍が制圧、ローマ・ヴァチカン市国、非武装中立を宣言。ジオン軍、ローマ入城。

宇宙世紀0079.11.04
ジオン海中艦隊、並び第二次降下部隊ヨーロッパ半島の過半を占領(連邦軍はフランス北部、ドイツ北部、ベネルクス三カ国、スイス、イギリスなどは何とか保持する)
ジブラルタル宇宙港無血開城。この時を持って地中海経済圏は完全に崩壊。
その余波を受け、大西洋経済圏も大打撃。太平洋経済圏も不況に突入。
連邦政府、再度の国家非常事態宣言を発令するも、焼け石に水。各州内部で現政権への不満が急激に上昇。
反戦運動活発化、連邦警察反戦活動家を5000名程一斉に逮捕。
北米州、極東州を中心とした新経済圏(戦時経済圏)の構築が開始される。

同月8日、ジオン軍、極秘裏にシリア地域との補給線確立。
オデッサ工業地帯―イスタンブール海峡地域―スエズ運河地域―地中海諸島―ジブラルタル宇宙港のジオン防衛線構築。
地球連邦軍ヨーロッパ方面軍(大陸反攻軍)編成されるも、大西洋航路、ドーバー海峡にて喪失。ジオン、地球攻撃軍総兵力50万名へ増強。
統一ヨーロッパ州はヨーロッパ半島より撤退を開始、北アフリカ州ならびアラビア州は軍を戦線から300km後退させる。

同月14日、マ・クベ中将、増援部隊と共にオデッサ基地に着任。オデッサより大規模な資源打ち上げ開始。

宇宙世紀0079.12.12
第三次地球降下作戦開始。目標は非加盟国への大規模な物資援助。
地球周回軌道にてジオン親衛隊艦隊、第3艦隊残存兵力と交戦、これを撃破。
地球連邦軍、第1艦隊ならび第2艦隊に連絡。『両艦隊ハ艦隊ノ保全ヲ第一トセヨ』。事実上の日和見を命令する。
共産中華ならび北朝鮮、軍拡。国境線に総数200万の大兵力の移動を確認。
地球連邦政府には演習と通達するも、地球連邦軍の陸海空軍も対応し、極東州、アジア州、北米州、インド州、オセアニア州を中心とした大軍200万を中華戦線に投入。両軍睨み合いになる。

同月20日、サイド5ルウムにてジオン軍地球攻撃軍副司令官のガルマ・ザビ大佐が着任。
通称、ルウム方面軍が設立。この部隊の設立を持って地球軌道は完全にジオン軍の手中となる。


そして戦争は膠着し、年を越えた。


この間、ウィリアム・ケンブリッジは何度も要請を受けて裁判の被告に立ったが、上記したように時と共にそれは被告から被害者へ、被害者から英雄へと変貌していった。
度重なるジオンの地球降下作戦で失われたのはキングダム首相の政治基盤である統一ヨーロッパ州そのもの。
端的に言ってしまうと裁判ごっこにうつつをぬかしている場合では無くなったのだ。
悲鳴のような増援要請を聞いて慌てて送り出したジャブローからの増援部隊はドーバー海峡を渡る事無く大西洋航路上で敵の潜水艦隊に捕捉撃滅された。
また、ルナツーのケンブリッジ夫妻の解放運動も無視できない規模になる。
一人の少尉からスタートした解放運動はルナツー全体に広がり、更にジャブロー内部でもシンパがいたのか将官クラスにまで広がった。
これ以上の拘禁はマイナス面だけが大きくて、他には大した意味は無いと判断せざるをえず彼の解放へと舵を切る。
もっともただ解放しただけでは連邦政府の、正確に言えばキングダム内閣府の沽券に係わるので、あくまで保釈するが宇宙世紀0080.03.25まで軟禁も継続するという形を取る。

場所はサイド7。

この監視役に増強した第14独立艦隊を特別手配させて入港させる事も考慮されたが、それは見送られた。
代わりに第14独立艦隊はサラミスK型6隻とペガサス1隻でサイド5方面の通商破壊作戦を担当する事になる。




宇宙世紀0080.03.30
一隻のムサイ級が陽動作戦を展開、サイド7周辺の護衛部隊を誘き出して各個撃破、撃沈した。
そして、熱源をきった慣性航行でサイド7宙域まで侵入、5機のザクⅡ改を潜入させる。



赤い彗星とV作戦の接触である。



[33650] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7bb96dbc
Date: 2012/08/06 09:58
ある男のガンダム戦記10

<伝説との邂逅>




サイド7はジオン本国からもっとも遠く離れたコロニーである。更にルナツーが直ぐ傍に存在する事も大きな要因となって守備兵力は少ない。
そしてその少ない守備兵力も実戦経験は皆無であり、MSも殆ど無い。
現在、連邦軍の虎の子であるMS隊は壊滅したルナツー駐留部隊と第1艦隊、第2艦隊、ルウム戦役での残存戦力を再編した第11艦隊に優先的に配備されている。
しかも配備されているのはボールと呼ばれる作業ポッドの武装強化版とRGM-79ジムである。
第14独立艦隊の様な、或いはペガサス級二番艦ホワイトベースの様な新造艦に配備される機体は無かった。

そんなサイド7で、ペガサス級強襲揚陸艦二番艦のホワイトベースにはガンダム1号機と2号機の2機、ガンキャノン重装備型が4機、アレックスと呼ばれる新型ガンダムが1機、ジムが4機、ジム・キャノン1機と言う合計12機である。
これに予備パーツを乗船させるのだからホワイトベースの積載量は最大限にまでなっている。
これらのMS隊と整備物資の搬入が終わればホワイトベースはルナツーを経由してジャブローに降下する予定である。

私はそれを見ていた。連邦軍の新たなる力の象徴、白いMSを窓から見ていた。
と、振動がきた。窓が揺れる。
テーブルの上に置いてあった情報端末が揺れ、空になったペットボトルが転がり落ちる。

(コロニーに隕石でもぶつかったのかな?)

ええ、のんきですね。そんな事を考えている余裕もありました。
軟禁状態のビジネスホテルの一室から連邦軍の研究所に向かってジオンのザクⅡ改二機がマシンガンで手当たり次第攻撃しているのを視界に入れるまでは。

(あ、な、あれは!?)

驚きの余りに声も出ない。
ザクが数機、コロニー内部で暴れ回っている。爆発が近づくし、何よりこのビルも高い。一般的な攻撃目標にされてしまうだろう。
そもそもこのコロニーの護衛のジムはどうしたのかと思ったが、先ずはそれよりもこの部屋から逃げないと。
慌てて寝間着からスーツに着替え、ドアを開けようとした。

「ジムが!?」

一機のジムがマシンガンで牽制射撃をかけるが、それをシールドで弾く。
ザクⅡ改はジオン軍でも高性能機であり、90mmマシンガンはサラミス級の装甲を撃ちぬく。市街地を盾に一気に詰め寄るザク。
慌ててシールドを構える通常型のジムの右手にマシンガンを二連射。次に頭部に一撃。ジムは倒れた。

「ちょっと待て!? あれだけか!?」

他に戦闘音が聞こえない事を感じるとあの機体が最後のジムなのか?

(急いで逃げないと)

が、ドアは開かない。何度ドアノブを回してもロックは外れない。どうやら外側からロックされている様だ。
普段は意味もなくいる二人の監視役兼SPもこの混乱に巻き込まれたのか逃げたようで部屋の前には誰も存在しないようだ。

「おい! 誰かいないのか!! おい!!」

戦場とかしたコロニー、サイド7「グリーン・ノア」ではそんな小さな声は、殆ど効果は無かった。




一つのコロニーバンチにしては過剰な護衛が居たサイド7。だが、故にそこに襲撃をかけた赤い彗星のシャア・アズナブル少佐。
まず乗艦のワルキューレを囮に護衛艦隊を誘い出す。そして自らの手でサラミス2隻とマゼラン1隻を葬る。
葬り方は簡単。自機を囮にしてムサイ級の射程圏にサラミスを追い込む。一隻目はそれで撃破した。
続いて、部下のザクⅡ改二機に陽動させ、右舷直角からビームライフルで右から左へマゼラン級の装甲を撃ちぬく。そのままガンポッドが配備されている格納庫に最後の一撃を加えて緊急離脱。
戦艦の装甲を蹴り上げる事で一気にサラミスとの距離を詰めつつ、ビームを艦橋に撃つ。
そして後は5機のザクⅡ改と共に残ったMS隊とセイバーフィッシュ隊を掃討した。
もっともその中で誤算は、一機のボールが放ったマシンガンの弾丸がビームライフルに偶然あたり、これを破棄しなければならなかった事か。
間の悪い事に予備のビーム兵器は母船にも無い。ビームライフルは高級品であり支給されなかったのだ。

「まあ良いか。デニム、アッシュ、このままサイド7に侵入せよ。強行偵察だ」

そのまま部下のザクⅡ改5機をサイド7に侵入させた。シャアが言葉にした通り作戦の目的は威力偵察が当初の予定だった。

「ドレン、光学センサー索敵や敵味方の通信の傍受を怠るな。連邦軍の新型、例のガンダムタイプはここにいるぞ」

シャアの予想ではここにいる。連邦軍の最新型MSガンダムと言う機体はこのサイド7で開発されている筈だ。
その言葉通り、連邦は微弱ながらも貴重なMSであるRGM-79ジム4機を実戦に投入して、敗退した。
一機は穴だらけにされ、一機はビームナギナタで両断され、残りはビームライフルで撃ち抜かれて宇宙の塵になっている。
連邦軍のサイド7駐留部隊は完膚なきまでに敗北した。やはり宇宙の戦闘ではジオン側の方が圧倒的に優位である。

(ふふ、これで判明した。MSを出してまで守りたいモノがこのコロニーにはある。やはりドズル・ザビの言った通りか。
ここにあるのが連邦軍の新型MS、RX-78ガンダム、V作戦の要か)

この防衛戦闘の敗北はMSの性能差と機体数の差が克明に出た証である。
連邦軍は敗退に敗退を重ね、サイド7内部まで侵入を許す。ザクⅡ改を与えられただけあってパイロットも一流であったのが一因だ。
そしてサイド7では、重装型ガンキャノン4機、RX-78-2ガンダム1機、RX-78NT-1ガンダム・アレックス1機(ニュータイプ=新型という意味であり、ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプとは違う)、RGM-79ジム5機の搬入作業中だった。

「さて・・・・・これか連邦軍のMS隊。ほう・・・・・なるほど・・・・・これは凄いな」

シャアは外壁から内部の様子を確認して驚嘆の声を出した。まるで連邦軍のMSの見本市だったのだ。
一方のホワイトベースは、直ぐに搬入するべき機体は多く、しかもその殆どが炉を落としていた。
ついでにパイロットも別の場所にいて、満足に迎撃出来たのはプロトタイプガンダムのユウ・カジマ中尉のみ。
が、プロトガンダムも二機のザクⅡ改に拘束されて迎撃らしい迎撃も出来ない。コロニー内部でのビーム兵器使用をテム・レイ博士が禁じた為だ。

「クッ!!」

ユウは舌を噛みそうな機動戦をしかける。ビルを使った三角蹴り(HLVに使われる高性能AIがこれを可能にした。現時点でこれが出来るのはガンダムのみであろう)でジオンの意表を突く。
まるで伝説の様な運動に戸惑うザクの頭部に、100mmマシンガン20発、一マガジン分を叩きこむ。ザクは頭部の装甲を抜け、胸部にまで弾丸が達した。
何発もの流れ弾がサイド7の人工の大地を抉るが、先ずは生き残る事だ。フィリップとサマナは機体受領も出来なかった為防空壕に避難している様なのだから。

「これで一つ目。な!?」

と、一瞬の安堵の隙を付き、ヒートホークを構えたザクが距離を詰めてきた。しかも歩行では無くホバーリング。早い。
そう叫ぶ前に空になっていたマシンガンをヒートホークで両断されてしまう。慌ててバーニアーを噴かせて距離を取る。
また牽制の頭部60mmバルカンを放つ。敵のザクはこちらを回収する気か或いは余程腕に自信があるのか格闘戦を仕掛けるべくヒートホークを構え直した。

「やる気か・・・・・仕方ない」

ガンダムもビームサーベルを展開するが、その威力を最低限にまで落とす。
狙いは双方ともにMSの神経系の中枢である頭部。
両機のこの行為自体は間違ってないだろう。下手にコロニーに内部でビーム兵器なぞ使えばコロニー自体に穴が開く。
が、この膠着状態に陥った結果、ユウ・カジマ中尉が逃した3機のザクに連邦軍サイド7駐留部隊は良い様に蹂躙される事になる。
迎撃に出るのは軽車両や歩兵部隊のみ。MSは遠くで戦っている黒いガンダムだけ。あとは不明。もともと戦闘は想定してないのだ。
地球侵攻作戦とルナツー防衛、緊急事態の援軍がルナツーから来ることを鑑みてサイド7の防衛は戦争勃発から半年以上を経過してなお手薄の一言であった。

「軍は一体全体何をやってるんだ!?」

ウィリアム・ケンブリッジは恐怖を抑える為に必死で叫んだ。
またこのパターンだ!! いい加減にしろよな!! 恰好が悪いぞ! とも思ったが実際こうでもしないと、誰かに責任を押し付けてないと恐怖で押し潰れそうである。
それに連邦軍が良い様にあしらわれているのは事実なのだからしょうがない。問題はこの間のルナツーの尋問室の様に脱出さえ出来ない事か。
と、付近に90mmマシンガンの弾丸が着弾したのか避難中だった家族らが全員吹き飛ばされて死亡した。
トイレに即座に駆け込み、思わず、胃の中の物を戻す。次は自分ではないのかと言う恐怖に耐えながら。




「シナプス司令官!」

ミユ・タキザワ少尉の報告に私は注意を促された。いかんな。齢の所為か集中力が欠けていた。昨日の勤務の疲れが残っていたのか?
と同時に、前方の宙域で爆発光らしきものを確認したのだが、どうやら戦闘の光らしい。即座に艦隊全艦艇を警戒態勢に移行させる。

「総員第一種警戒態勢、ノーマルスーツを着用。それでなにか?」

務めて冷静に言う。この艦隊は既にサラミスK型6隻、ペガサス級ペガサス1隻という独立艦隊の中では一番強力な戦力を持つ艦隊なのだ。
その艦隊司令官が驚いていてはいけない。指揮官は常に冷静でなければならない。決して部下の前で狼狽した姿を見せてはいけない。これは大原則だ。

「サイド7から救援要請受信!! 要請の発信時刻は今から1時間前です!」

サイド71バンチ、通称は『グリーン・ノア』。

あそこには確かウィリアム・ケンブリッジ政務次官がいる。
隣の艦長席に座っているリム・ケンブリッジ中佐の顔を見て見たいと言う欲望にかられるが、それは下種の発想と言うモノだろう。自分の夫が自分の目の前で死にかけているという状況下の女性の横顔を見たいなどとはな。

(全く・・・・何を考えているのか。度し難い。それよりも今は己の職務を優先せねばならない)

ウィリアム・ケンブリッジ政務次官は、そのケンブリッジの姓から分かる通り彼女の夫であり、彼女の産んだ子供らの父親なのだ。
その安否を気遣う女性の横顔を見るなどやってはいけない事だ。それが出来る奴は刑務所にでも言った方が余程世の為になるのではないか?
さて、現状を確認し、目的を定めなければ。

「先ずはどうするか・・・・政務次官である彼を失う訳にはいかないな。ならばダグザ大尉に救助を依頼するとして・・・・問題は敵の宇宙艦隊だ。
ミルスティーン大尉、リャン大尉。敵艦隊の識別は可能か? 識別次第、ルナツーの第1艦隊に応援を要請しろ」

第1艦隊はサイド5方面への哨戒任務は終えているから向かっても問題は無いと思うが。
と、考えていると第7艦隊司令官からルナツー司令官に着任したワッケイン少将から連絡があった。

余談だが、第1艦隊と第2艦隊はルウム戦役後とジオン軍による大規模な地球降下作戦前後に何もしなかったと言う理由で再び司令官を解任させられている。
この時の解任劇の音頭をとったのがレビル将軍だった為、北米州や極東州は事ある毎に地球連邦軍のレビル派(戦争遂行派と影で呼ばれるようになった)と対立している。

(私は知らないが噂ではティアンム提督らが自身の影響力確保の為に大規模な人事異動を行っていると聞く。
今はそれどころではないのだが・・・・・それにレビル将軍は焦っているのではないか?
軍人として大敗の上敵の捕虜になると言う最大級の不名誉を受けたルウム戦役、何も手をうててないジオンの地球侵攻作戦。
これで平静でいられる方がある意味で大物か、或いは単なるバカか。願わくば現在の連邦軍最高司令官は前者であって欲しいものだが)

そんな中で、ウィリアム・ケンブリッジ派閥とでも言うべき存在があった。
それがジャミトフ・ハイマン准将やジーン・コリニー大将を中心とした地球連邦地上軍のいくつか(北米州、アジア州、オセアニア州、極東州)と宇宙艦隊の第1艦隊、第2艦隊、そして不本意ながらも私が指揮する第14独立艦隊である。

(圧倒的な国力差から来る慢心。その結果が南北アメリカ大陸の対立に繋がっている。
連邦軍上層部の、いや、連邦軍本部ジャブローと北米州の州都ワシントンの温度差は想像以上に激しい)

この戦いを祖国の独立戦争と捉えて、ジオン公国とザビ家全体が曲がりなりにも一致団結しているのに対して、連邦軍と連邦政府は内部抗争が激しい。
まあ、ある意味で戦後を見据えた動きをしていると言える。
ジオン側にとって戦後を考える余裕はまだないのだが、連邦側には既にある。この差が国力の差と言うモノであろう。

「艦長、ワッケイン少将と通信回線を開いてくれ」

リム・ケンブリッジは自分の夫が既に死んだのではないかと言う恐怖を懸命に抑えながら職務を果たす。
私は冷酷にも、リム・ケンブリッジ中佐を一瞬、哀れな女性だ、とも思った。
ジャブローが子供らにとって危険と分かった時、彼女は子供らをキャルフォルニアに移送させていた。両親と一緒に。
確かにジャブローに預けたマナ君とジン君の身の安全は連邦政府によってしっかりと保障されていた。だが、心の安全は? 心の平穏は?
時に子供は大人よりも残酷だ。無邪気に人の心を傷つける。或いは心を壊してしまうかもしれない。
リムは自分たちの子供らが、謂われなきいじめの対象になりつつある、そう感じた。
何せ夫がスパイ容疑その他もろもろで逮捕されたのだ。別の子供が知ればそれは必ず弱い者いじめの対象になるだろう。
だから彼女は一度地球に戻ると直ぐに子供らを連れて、キャルフォルニア基地の中では田舎にあたる部分に引っ越した。
ある程度に都会へのアクセスが容易く、戦略的に重要では無く、それでいて二家族が暮らせるマンション二部屋を借りる。
その希望通りの家に家族を移した。自身の両親と夫の両親も一緒に。幸い、両親間は古くからの知り合いなのでそんなに棘が立つ事もない。
残念な事に夫の件と自分の件からだろう、両者とも本心から地球連邦政府を信用できなくなっていたのだ。

「通信繋ぎます」

ミユ・タキザワ少尉がルナツーからのレーザー通信を繋いだ。
ワッケイン少将が何事かを命令しながらモニターに映る。ミノフスキー粒子が散布されているのか若干不明瞭だ。

「シナプス大佐、貴官の艦隊は今すぐにサイド7に救難活動へ向かってくれ」

詳細は後ほど伝えるが、先ずは一刻を争う。
そう言って通信は切れた。

「ルウムでも感じたが・・・・・相変らず本艦隊は便利屋扱いの様だな」

小さく呟くと艦隊に命令する。サイド7へ向かえと。
自嘲の響きは幸いか不幸か、誰にも聞かれる事は無かった。




「あれがガンダムか」

もう達観したのか、諦観したのか、逃げられない事も忘れて見入る。青と白のカラーリングのMSがザクを一機撃破した。

動きが所謂映画で見る様な『殺陣』だった。
流れる様なスピードでザクが右肩に振り下ろさんとしたヒートホーク。それをコンピューターは即座に反応し、パイロットに指示を出した様だ。流石マゼラン級のスパコン『仁』を採用しただけの事はあるな。
ガンダムは右肩を後ろに下げる事で回避し、大振りで生じたザクの隙をついて右から左にビームサーベルを一閃。
ザクをコクピットごと両断した。そのまま支柱を失ったザクの上半身はサイド7の地面をバウンドして転がり落ちる。
見ていただけだが分かった。パイロットは即死だな。

更に、ビームサーベルを構えてもう一機と対峙し、これも撃破する。
この時はザクが90mmマシンガンを乱射したが、バーニアーを噴かせて上半身を低くして一気に距離を詰めた。
そのまま日本の抜刀術の要領で左腰から右肩へビームサーベルを振り上げる。ザクの両腕が切断され、マシンガンが地上に落ちる大きな音が部屋の窓を揺らす。

(いけ!)

心の中で声援を送る。ジオンのパイロットにも大切な人がいるのだろうが正直言ってそんな事に構っている余裕はない。
今は自分が生き残る事が全てだ。そう思っているとガンダムがザクの上半身の上部を横一文字に切り裂く。
最後の一機のザクが必死に援護したがその強固な装甲を生かして無視していた。

「あ!?」

その際、エンジンを暴走させたのか大穴をコロニーに大穴を開ける。これは不味いなと思った。何故だか冷静だがきっと興奮の所為だと思う。
とりあえず緊急用の備え付けノーマルスーツを着用するが、広大な宇宙空間に放り出されたら気休めにしかならない。
それでも着なければコロニー内部に侵入してくる放射線で被爆してしまう。それは嫌だ。私はこの半年一度も子供らをこの手に抱きしめてないのだ。
もう一度抱きしめるまでは死んでも死にきれない。いや、本音を言えば何としてもこの戦争を生き抜いてやるという事だ。

「くそ、コロニーでMSを爆発させるとは・・・・・それにしても凄い機体だ。ザクの改良型を一瞬で撃破するなんて」

ケンブリッジ政務次官はあえて対象をMS同士に絞り込むことで恐怖を忘れようとした。本音は政府上層部への罵倒で完全に埋まっている。

(どうして俺がこんな目にあう? なぜ俺なんだ!? 俺が何をした!)

言い難い事だが、これら全てはギレン・ザビらと交流を持ったが為の結果と言える。もっとも言った所で本人は信用しないだろうし、聞く耳とを持たないのは間違いない。
ウィリアム・ケンブリッジと言う男なのだが、彼自身は自分にそれ程の実力は無いと客観的に見ていて、自分は臆病者で代わりはいくらでもいるとそう判断している。
が、ギレン・ザビ、デギン・ソド・ザビ、やジャミトフ・ハイマンらなどの連邦、ジオンなどの有力者らはそうは見てくれない。
特にキングダム首相はウィリアム・ケンブリッジを若手でもっとも有能で油断ならない連中と見ているのだ。
首相は側近に一度言っていた。
側近の問い、「何故あそこまでケンブリッジなる北米の有色人種を警戒するのか?」と。
これに対してこう答えている。

『ケンブリッジは必ず統一ヨーロパ州の他の議員を抑えて首相になるだろう。今のうちにその芽を摘み取る必要がある。
何故かと言う顔だな? 簡単だ、奴には運のよさと人望を兼ね備えた実力がある。更に厄介な問題なのは誰もがそれに気が付いていて利用しようとしている点だ。
だから摘み取るのだ。我々統一ヨーロッパ州の権益を確保する為にも、後に続く我らの後輩らの為にも』

彼の本心である。スパイだの機密漏洩罪だの、国家反逆罪などはその為の肉付け作業、いわば補足説明であり理由づけだ。
戦場で死ねばそれでよし、そう思われて第14独立艦隊に配属されたが・・・・・そこでまさかザクⅡF型を4機も確保するとは思わなかった。
その功績を無視することは出来ず、更にルナツーを発端にしたケンブリッジ夫妻解放運動を考えるとそれ以上彼をルナツーに拘束する事も出来なかった。
故に苦肉の策としてサイド7に幽閉されたのだ。
全く、誤解と誇張と虚像が生んだケンブリッジの災難である。

「やはり一気に空気が抜けていく。くそ大穴が開いたのか? あれは・・・・他のザクか?」

窓からは最後の一機が突進して行く姿が目に入る。
怒り心頭なのか、ショルダーアタックという非常に原始的な方法で攻撃をしようとして、腰を落としたガンダムがビームサーベルを構え、そのままコクピットを貫いた、
青と白のガンダムはそれをビームサーベルで串刺しにして簡単に撃破する。

「これで三機。あれが新型ガンダムの性能?」

ザクでは歯が立たないのか。これが連邦軍のガンダムの性能なのか?
そんな事を思っていると今度は反対側の港の方から爆発の振動を感じた。

「もう一機ガンダムがいるのか!?」

そう思った。知らず知らずのうちに口に出している。やはりそうでもしないとあの時と同様の恐怖に押し潰されそうなのだ。
もう周りには人はいない。空気も流れ出ている。下手をしなくても窒息死してしまうのではないか?
この事象がパニックを引き起こさせた。

(ここで死ぬ!? いやだ!! 死にたくない!!! 誰か助けてくれ!!!!!)

その時である。扉が叩かれた。それも定期的に何か金属の様なもので。
思わず距離を取る。そして神の助けを聞いた。

「ケンブリッジ政務次官殿、ご無事ですか?
自分です、ダグザ・マックール大尉であります。次官を救出に来ました! おりましたら応答してください!!」

直ぐに反応した。ドアを叩き直す。

「ここだ!! 大尉、この部屋にいるぞ!!!」




シナプス大佐は避難民をホワイトベースに移動する作業に追われていた。
本来であればペガサスにも乗せるべきなのだが、ダミー隕石を巧妙に使った敵ムサイ級の動きと新型機ゲルググ、援軍要請と思われるレーザー通信を警戒して艦隊の輪形陣を解く事は無かった。
特に赤いゲルググが確認されており、それがサイド7防衛艦隊所属の艦船全てを撃沈したのだから警戒して当然であろう。

「敵はどうやらあの赤い彗星、シャア・アズナブルです。警戒を解くのは得策ではないかと」

「艦長に同感します。MS隊はあくまで迎撃に専念しましょう。新型のゲルググ相手にジム・コマンドがどこまで戦えるかは未知数です。
他の第1戦隊と第2戦隊も360度全方位警戒を厳にすべきです。奇襲を受ければ駐留部隊と同じ目にあいます」

リム・ケンブリッジ中佐とマオ・リャン大尉が相次いで進言する。
下手に分散すればあの赤いゲルググに各個撃破されるのは目に見えている。だから申し訳ないが避難先はホワイトベースに任せよう。
また奇妙な事にジオン軍はゲルググを温存しているようで自分達地球連邦軍はゲルググに勝った事が無く、当然ながら鹵獲した事も無い為にゲルググの基本性能は依然として不明なのだ。

(それに、だ)

それに避難民護送用のシャトルや脱出ポッド、コロンブス級輸送艦はあるのだ。下手にコロニー内部に侵入してペガサスらが撃沈されでもしたら連邦軍全体の喪失となる。
また、別命もあった。
これはジャミトフ・ハイマン、ブレックス・フォーラー両准将とルナツー基地司令官のワッケイン少将三名の連名の命令書である。

『万難を排してウィリアム・ケンブリッジ政務次官を救出せよ』

思わず内心で頭を抱える。

(無茶を言う。両准将は今も地球だから何も知らないという事で無茶な命令を出すのは分かるが、ルウム戦役を戦い抜いたワッケイン少将までこんな無茶な命令を言うとはな。
確かに救助したいのは山々だが、ケンブリッジ政務次官はサイド7内部のどこにいるのか分からないんだぞ?)

それでも政府が教えてくれた(戦闘勃発までは極秘扱いだった)、一応地図上に表記されている軟禁場所のホテルにダグザ大尉指揮下の陸戦部隊を送る事にした。
カムナ・タイバナ指揮下の第1小隊を護衛に、ランチを送る。そして外壁から一気に侵入して目標を確保する。
もしも居ない場合は残念ながら撤収する、という作戦である。
連邦軍でもどちらかと言えば現場を歴任した叩き上げの将校であり多くの作戦を成功に導いたエイパー・シナプスという男にしては珍しく、失敗を前提にした作戦であった。
部下の、ペガサス艦長でもあるリム・ケンブリッジ中佐には悪いのだがとてもではないが生きているとは思えないのだ。
ザク5機の侵入とそれに伴う被害の大きさは、ここが後方拠点であった事を鑑みてもあまりにも酷い惨状である。倒壊したビルも多い上に放射線被爆も大きい。

「敵ムサイ級、後退していきます」

ミユ・タキザワ少尉が報告すると同時に、マオ・リャン大尉も似た様な報告を上げてくる。

「艦長、ホワイトベース出港しました。しかし、出港航路上に例のムサイ級がいます。交戦状態に入ります」

スクリーンには交差する両艦と砲撃戦の模様が映し出されていた。

「赤いMS・・・・・・やはり赤い彗星なのか!?」

マオ・リャン大尉が叫ぶ。
その言葉に反応したのかアンダーソン伍長らも一瞬だがモニターを見る。そこにはビームライフルこそ装備してないものの、確かに赤いゲルググの姿が映し出されていた。
連邦の切り札であるガンダムを圧倒するジオンの最新型MS、ゲルググ。
武器はガンダムの鹵獲が目的なのか90mmマシンガンだ。舐められているのだろう。
しかし舐めるだけの実力はあるようだ。一方的にガンダムを追い詰める。
ただ、ガンダムの方もシールドと増加装甲に助けらているのかかなり持ちこたえられている。

「きょ、驚異的な装甲だ・・・・・あれだけ直撃を受けて破壊されないなんて」

リャン大尉が感心したように声を出す。
確かにそうだ。サラミス級の装甲を引き千切る90mmマシンガンの直撃に耐え、あまつさえ反撃するその性能は連邦軍の旗手機に相応しい。
ならば、なすべきことは一つ。

「各艦戦闘配置。
アクティウムのみはコロニー回転機動に同調。ダグザ・マックール大尉ら陸戦部隊の回収作業に当たれ。
他の艦はホワイトベースを援護する。目標はムサイ級。母艦を沈めるぞ。10秒後に全力射撃!」

この命令に即座に反応したのが艦長のリム・ケンブリッジだ。
伊達にルウム撤退戦で実戦経験を積んだ訳では無い。

「本艦ペガサスは第一種戦闘配置につきます。総員警戒態勢から戦闘態勢に移行。
両舷メガ粒子砲、目標を前方4200km先のムサイ級・・・・・敵艦の発砲前に先制攻撃を仕掛けます。
MS隊は直援に回します。ミサイルは多弾頭ミサイルを装填。ホワイトベース所属の新型のガンダムを支援。
アニタ、ノエル、エレンはいつも通りMS隊の指揮を。ミユは艦隊全体の管制を、マオ、貴女は同型艦との連携を命じます。
よろしいですね、シナプス大佐?」

的確な判断だ。口を出す必要性を認めない。彼女に任せれば本艦は上手くいくだろう。士官学校のT=20というのは伊達ではないか。
無論、学術馬鹿もたくさん居るから一概にあてには出来ないが、彼女は貴重な例外みたいだ。

(本艦はこれで良い。適度な緊張が戦果をもたらす。このペガサスも精鋭部隊と呼ばれるだけの実力はあるか。
だが、それにしてもあの新型機のパイロットの動きは何だ? まるで素人が戦っている様だ。一体どんな訓練を受けていた?)

シナプス司令官は思う。完全に的になっているガンダム。
高機動でビームライフルの射点を取らせないゲルググ。一方的な展開である。改めて確認して思う。

(やはりな。あれではまるで素人だ。性能差で生き残っているだけだ。これがジムなら死んでいるぞ。それが分かっているのか!?)

事実、完全に押されている。コロニー内部のザクこそ撃退したようだが、あの赤い彗星が乗るゲルググには良い様にあしらわれている。
マシンガンを撃ちこまれ、蹴りまでくらっている。良く機体が持つものだ。
と、どうやら充填期間の10秒が経過したらしい。ペガサスがメガ粒子砲を発砲する。
目標に命中したが、破れて飛んだ質量から見てバルーンダミーであった可能性が高い。いや、ダミーであった。

「反撃、来るぞ。各艦回避行動を」

そこまで命令しないといけないのが現在の第14独立艦隊である。
旗艦ペガサスとは違い、第1戦隊の乗組員の内、ルウム撤退戦を戦い抜いたベテラン兵士は半分が連邦艦隊再建の為としてルナツーにて下船。
現在は新兵と新米士官が半分である。いくら訓練をしていても初陣の実戦でパニックを起こさない保証はない。これは増援として編入された第2戦隊も同様である。
ならば自分達実戦経験者が的確な命令を出してそれでパニックの発生を抑えるべき。
何もしなくても心配なく動くのは旗艦のペガサスのみと言える。

「各艦ミサイル装填、敵艦はビーム攪乱幕を張っている。ミサイル攻撃で牽制しつつ距離を詰める。
ケンブリッジ艦長、回避行動ならび砲撃戦の指揮は任せる」

だが敵将はあの赤い彗星だ。戦力比がこれだけ広がれば撤退するだろう。




「こちらに」

ダグザ大尉の指示の下、私は脱出経路を走り抜ける。近くには動かないノーマルスーツや漂った人間を見たが、必死に自分は何も見なかったと言い聞かせて走る。

(ああはなりたくない。俺はもっと生きていたのだ。その為には今は走る時だ)

やがて宇宙空間と繋がっているベイにでた。エアーロックの向こう側には連絡艇が一隻待っていた。
ハッチが開く。乗るように乗組員が手招きする。
慌ててその船に乗る。ダグザ大尉らも即座に乗り込むと、そのまま船は一隻の強化型サラミスに収容された。

「あ、あれは!?」

思わず叫んだ。連邦軍の新型MSガンダムがジオンのゲルググに良い様にあしらわれているのだから。
ビームライフルは切り落とされたのか、既に無く、増加装甲の一部を放棄したのか、両腕のガトリングガンと頭部バルカン砲で牽制している様だが目立った効果は無い。
寧ろ、ゲルググが撤退のタイミングを計っている様だ。
何度目かの直撃弾を受けるガンダム。しかしそれに耐えきるあの増加装甲も凄いなと思う。
自分がまだ安全じゃない事を忘れてその戦闘に見惚れた。互いに決定打を欠ける故のその戦闘に。




『少・・・・佐・・・・・シャア少佐・・・・・ここまでです』

ドレン中尉からの連絡だ。
どうやら敵艦隊の増援が来た様だ。しかも一隻は要人の護送の為かサイド7の外壁を盾にして砲撃してくる。
これ以上は戦えない。流石にMS9機を展開している別の木馬と護衛のサラミス5隻相手に1機で突っ込むのは無謀だ。
ルウム戦役とは違い、敵にも対抗可能なMSがある上にだ、この新手の艦隊は宇宙でのMS戦を経験している例の第14独立艦隊という部隊だろう。
ならば無理をすれば戦死する。それに武功はルウムで十分挙げた。ガルマ・ザビに加えてドズル・ザビの信頼も得ている。

(撤退だな・・・・・しかし、連邦軍の新型MSは化け物か!?
90mmマシンガンを一マガジンは撃ち込んで効果なしとは・・・・・ビームライフルを失ったのがこれ程響いたとはな!!)

序盤の戦闘の流れ弾で失ったビームライフル。それさえあればこの新型ガンダムも、出港してきた白いペガサス級にも止めをさせたのだが。
世の中上手くは行かないモノ。
赤い彗星は撤退に入った。多くの置き土産を残して。




戦闘は終わったらしい。
あの初陣と違って第三者の立場にいたせいか、或いは知らず知らずのうちに戦闘に慣れたお蔭か圧倒的な恐怖は無かった。
というよりも、本格的に殺される、怖いと感じる前に戦闘が終わったというのが第一印象だ。
ただ、助かったと言う思いでネクタイを外して、ノーマルスーツのポケットに入れる。

「政務次官、まもなくペガサスに戻ります。そこで一旦辞令を受けてもらいたいそうです」

ダグザ大尉が言い難そうに、実際あの仕打ちを知っている以上言い難いのだろうが、伝えてくれる。

「大尉、そんな顔をしなくて良いよ。お互いに宮仕えの身なんだ。それに、歯車には歯車なりの価値がある。
連邦と言う時計も、その歯車が一つでも欠ければ動かないなんだから、誇ってよいと思うんだ」

どこまでいっても宮仕えの身。それを忘れたら最後、ただの私利私欲を貪る害虫だ。だからと言って命令拒否も出来ない。
でもね、どこぞの誰かさんらは、この私が交渉も政治も戦争も出来るスーパーでウルトラな官僚だと思っている様だが実際はそんな便利な者じゃない。
たんなる臆病者だ。それを知ってほしい。ましてジオンとのパイプやスパイ活動など不可能だ。頼むからそれを自覚してくれ!!
そう思ったが口にも顔にも出さない分別はある。そして懐かしい艦を見る。数か月ぶりの艦だ。

「あ、ペガサスだ。懐かしいなぁ。半年ぐらいたつのか?」

宇宙世紀0079.09.20に、『証拠不十分なれど釈放するに値せず』という訳のわからない命令を政府から受けて約半年。
宇宙世紀0080.02.12日、私は古巣と言って良い戦艦に戻ってきた。
戦闘態勢の為、後方の第3デッキから着艦する様に通達される。連絡艇はそのままゆっくりと着艦コースに入り着艦したい。




その頃、ザクを全て失ったシャア・アズナブルはこれを契機にルウム方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐の謀殺を考える。
ガルマは士官学校の同級生であり、その出自とお兄弟の苛烈さ、国民への思いからか大きな劣等感を抱えている。それをくすぐれば直ぐに艦隊を出撃させるだろう。
そしてルナツー近辺まで誘き出して連邦軍と相打ちに持ち込ませる。
その為にはこちらも新たな手駒を必要としたのでドズル・ザビ中将に補給要請を出した。無論、交渉カードは連邦軍の新型MSと木馬二隻の戦闘データ。更にこの通信もそれとなく連邦軍に傍受できるように行う。あくまで事故として。

『よかろう、直ぐに補給艦を送る。ザクも武器弾薬も水や食料も、だ。それで連邦軍の新造艦を叩け』

その際にガルマ大佐に花を持たせたいのでルウム方面軍にも援軍を求めますがよろしいですか?

『ほう、気の利いたことだ・・・・・流石は赤い彗星だな。
ガルマ自身が軽挙妄動せぬ様に俺からも釘はさすが、貴様も見張れ。それが条件だ。ガルマにはこちらからも出撃許可を出そう』

ルウム方面軍。サイド2、サイド5を占領する艦隊で構成されたジオン軍の宇宙艦隊の一つ。
通称がルウム方面軍であるのはサイド5ルウムの1バンチコロニーに司令部が置かれているからである。
このサイドの艦隊をジオン軍は第四艦隊と呼び、ザビ家の一族、ガルマ・ザビがいる事からジオン軍としても可能な限りの戦力を与えようとした。
が、それも地球侵攻作戦の予想外の成功により頓挫する。

「地球侵攻の予想以上の進撃が戦線の拡大を引き起こした。これでは初期の想定以上の物資を地球に送る必要がある」

サスロ・ザビは執務室で天を仰いだ。
地球侵攻作戦は、第一次降下作戦でオデッサ地域全域を占領した後は亀の様に甲羅の中で戦線を縮小させて固まるだけであった。
ところが連邦軍が地中海で海軍力を失い、ポーランド地域で州軍と連邦軍の増援部隊が壊滅した結果、ヨーロッパ半島のほぼ全域、地中海方面全域、北アフリカ沿岸の制海権、中近東の一部まで戦線を拡大する結果となる。
その地球侵攻軍からの度重なる援軍要請に悲鳴を上げるジオンの国力。
結果、全てをゲルググで揃える筈の第四艦隊は旗艦のザンジバル改でさえガルマ・ザビ専用ゲルググを一機搭載するだけであとは全てザクⅡF2型となってしまった。
それでもチベ級6隻、ムサイ級18隻、ザンジバル改級1隻は連邦軍にとって侮れない戦力である。
また月軌道にはコンスコン少将指揮下の第三艦隊が駐留しているのでそれが火急の際の援軍として機能する以上、それほど危険視されてはいなかった。
ジオン軍から打って出ない以上は。

「という訳で私はザクを全て失った。頼れる友人に頼ってみたくなった、そう言う訳さ」

この報告を聞いたガルマは直ぐに増援を出す、任せろと安請負する。
艦隊もそれほど強化せず、直ぐに出撃可能だったムサイ級4隻とザンジバル改1隻の5隻でシャアのワルキューレ救援に向かった。
この通信がその赤い彗星によって意図的に連邦軍へと流された事に気が付きもせず。




連邦軍ルナツー基地は宇宙艦隊増員と地球への救援部隊再編と言う矛盾した課題を抱えた上に、ルナツー死守命令が下っていた。
止めに第7艦隊からルナツー基地司令官になったワッケインは何故か第1艦隊と第2艦隊の両司令官に比較して階級は下であり命令を強く下せない。
そうなれば逃げ込んできたホワイトベースに対しては、自分自身としては嫌々ながらもジャブローに行けと言う命令を伝えるだけのメッセンジャーになるしかなかった。

「カニンガム提督との約束さえ守れないとは・・・・・寒い時代だ」

『避難民と負傷兵だけでも降ろさせてください』

という、中尉の言葉に思うところはあった。だからパオロ・カシアス中佐ら負傷兵は降ろす事を許可した。
だが、それ以上の人員を養えるだけの余裕はこのルナツーにもない。
さしあたっては第14独立艦隊の解散命令もエルラン中将から来た以上、彼らに地球周回軌道まで護衛してもらい、その後ジャブロー到着時に避難民を捌いてもらう。

『寒い時代と思わんかね』

ワッケイン少将はルウム戦役で戦死したカニンガム少将に向かってそう呟いたと言われている。
さて、ホワイトベースだが事実上その道しかなかった。
既に連邦軍は宇宙での自由航行する権利を奪われている以上選択肢は多くない。

「ケンブリッジ政務次官」

そうした中、彼を呼び出した。入港からきっちり2時間後に司令官室に来てもらう。
威風堂々とは程遠いが、確かに何かを感じさせるような人物である。
傍らにいるティアンム提督やトキタ提督、クランシー提督らに気に入ってもらえる人物の様だ。

「お呼びと聞きましたが?」

少し緊張しているのだろうか?
いや、現存する宇宙艦隊司令部の中で最高位の面々に呼び出しをくらって傲岸に笑える方が凄いのだからこれでもすごい。




「お呼びと聞きましたが?」

何かしただろうか?
正直言ってまた人権侵害をくらうのかと思うと嫌になる。あの事件は今でも裁判が継続中で、誤認逮捕で大問題化しているらしいが。

(それにしてもやる気のない事この上ないな。本当にやる気がない。それを目の前の軍人さんたちはどう捉えるだろうか?
このままどっか遠くに左遷、という事にはいかないだろうか?)

そうすれば家族仲良くと思ったがリムはペガサスの艦長だ。
しかもMS戦と宇宙戦闘、ルウムからの撤退戦を経験したベテラン艦長だ。

(絶対に軍が手放さいだろう。こんな事になるならサイド3で暴動に巻き込まれた時に現役復帰するなと言い含めておくべきだった。
後悔先に立たずとはよくも言ったものだ、畜生め)

今やトレードマークとなったらしい黒スーツに紺ネクタイに水色のシャツ姿で4人の将官と対峙する。
彼らは全員が連邦宇宙艦隊の制服と制帽を被っている。何か嫌な予感がするが、謹慎の身でサイド7を離れたのが不味かったか?
だが、あれは緊急避難と言う側面が強い筈だ。あのままあのホテルに居たら死んでいた。事実ホテル近郊の丘は流れ弾で倒壊している。
そう思っていると、またもや辞令のメモリーディスクを渡してきた。

「ケンブリッジ政務次官はキャルフォルニア基地にいったん降下してもらいたい。そこで新たな任務が待っている」

ティアンム提督がさらりと言う。

「地球に帰れるのですか?」

地球か。確かにスペースノイドの大多数にとっては支配と搾取の象徴かも知れない。
しかしながら多くのアースノイドにとっては唯の懐かしい故郷なのだ。
それを一方的に奪って良い筈がない。これはサイド7という異郷の地に監禁されて思った事だ。
考えてみればあのルウム撤退戦後、妻と引き離されて半年も経過するのか。それはそれで長い時間会って無いものだ。

「現在の宇宙情勢は危険だからな。事実、ルウム方面軍に通商破壊艦隊と思われる部隊の出港を光学望遠鏡が確認した。
だから第14独立艦隊最後の任務としてペガサスはキャルフォルニア基地への入港を命ずる。その後は・・・・・私の口からは言えん。
キャルフォルニアに居るジャミトフらに聞いてくれ」

どうやら厄介ごとらしい。
本音は自分に不可能だとぶちまけてやろうか? いや、どうしよう。

「君が現政権に対して不満と不安を持っているのは分かるが・・・・どうかね、引き受けてもらえるか?」

ティアンム中将が聞くと私は迷わずに本音をぶちまける事にした。
それしかこの嫌な状況を助かる道は無いと思ったからだ。

「閣下らを初め、連邦政府も連邦軍も私を誤解しています。私は凡人です。
何故だかしりませんが、政務次官に就任したのも単に運が良かっただけです。それなのにこれ程の大任を任せると仰る。
正直に言いまして無理です。私より有能で優秀で、適任者がまだまだ居る筈ではありませんか?
何故彼らに任せないのですか?
ジオンのスパイ容疑のある人物を態々幽閉先のサイド7から引きずり出してまで交渉に当てる必要はないのではないですか?」

その言葉を言って目前の将官らは虚を突かれたような顔をする。
そうだろう。俺はスパイだと言われなき危険性を高らかに言われてきたのだ。
いつも言いなりだったが今日はそうでは無い。何としても妻を解任させ、子供らと共に北米の奥地に引きこもってやる。
もともとリムを口説くためだけに連邦の第一等官僚になった。それがいつの間にか小説の主人公みたいに連邦全体を動かす人間になる?

「冗談じゃない!」

思わず立ち上がった。我を一瞬忘れたのだ。これは恥ずかしい。
だが、それ故に挽回できない失敗として語られるだろう。こんな暴発する人間に連邦政府の、地球連邦の未来を任せられないと。

「ケンブリッジ政務次官、落ち着きたまえ」

ワッケイン少将が宥める。私も実に大人げなかった事は理解しているので直ぐに気を持ちなおす。
だが、それでも私の考えは変わらない。これ以上厄介ごとを持ち込むな。それだけだ。

「提督方、今は戦時下です。私は先ほど述べたようにただ単純に運が良いだけの、平時なら何とか使える凡庸な人間にすぎません。
それが戦時下で国家の大任を任されるなど国家にとって損失しか生みません。それはお分かりの筈です。
どうか提督方から自分と妻の罷免要求を連邦軍上層部、ひいては連邦政府に出してください。
私の様な臆病者で無能者のスパイが上層部に居たとあっては全軍の士気に関わります」

そう言って頭を下げる。
何やら相談している様だが知った事では無い。私はもう逃げたいのだ。だが、ふと思う。我ながら無様な事をしていると。
案の定、彼らの結論は決まっていた。私の解任など出来る筈も無い。人事権が無い。
そしてなにより。

「政務次官、貴官が政府を嫌うのは分かる。私だってカニンガム提督の死を無駄にしてルウムを見捨てた政府に言いたい事はある。
だが、子供の我が儘が通るとは思ってはおらんよ。それに、だ」

ワッケイン少将の言葉を引き継いだのはクランシー中将だった。
この人はヒューストン出身の北米州の人間だから、私の解任に賛成するかと思ったがどうやら盛大なる誤解はまだ解けて無い様だ。

「君は優秀だ。ザク4機の鹵獲、ルナツー内部の敗戦気分の一掃、士官、下士官、将兵からの絶大な支持。
さらに私を中心とした北米州や極東州の将官からの絶対的な信頼に、ザビ家が認める政治力。
どれもこれも凡庸とは程遠いと私たちは判断しているのだ。あるいは君は単に凡庸なだけなのかもしれない。
しかし、その運のよさはかのナポレオン・ボナパルトも認めるだろう。
かの戦争皇帝は言った、運が良い男が余の部下の第一条件だ、と。私も運が良い男の指揮の下戦いたいのだがね。
それでは足りんかな?
それともだ、あの有名な告白、妻を見捨てて自分だけは助かる父親になるという道だけは歩めないと言うのは嘘か?」

なんでそれを!?
というのは顔に出たのだろう。彼が、クランシー中将が答えてくれた。
あの時、ペガサス艦橋にいた一人のオペレーターがルナツーのガンルームで喋った。

(誰だ? ノエルか? アニタか? エレンか? それともミユか? 或いはマオ大尉らか?)

それが切っ掛けで連邦軍ルナツー内部の意識統一が成功したし、その上で君の罪状を再度洗い直して無実を証明する様、政府に働きかける事になったのだ、と。

「あ、いえ、ですが」

そこまで言われたら言葉が出てこない。
せっかくなけなしの勇気を振り絞って自分の解任請求を出したのに。

「それにだ、そこまで正直に自分の気持ちを吐ける人間もまた英雄の条件の一角だと私は思う。これはトキタ提督も同意見だ。
これからは政治の舞台で戦う事になるだろうが・・・・・頼んだよ、ケンブリッジ政務次官殿」

(そうだ、決めていたか。いつかあのクソじじいをぶん殴ってやろうってな!)

この面談が終わって部屋に帰った時に一番初めにした事。
辞表を書こうと思って用意した紙をぐちゃぐちゃにしてゴミ箱に捨てた事くらいか。
二日後。サイド7から搬送された負傷兵の仕分けが終わった頃、私は宇宙港側の売店で懐かしい人に会った。
ブライト・ノア中尉。
あのジャブローで出会った士官学校候補生が今はペガサス級強襲揚陸艦二番艦の艦長だ。代理ではあるが。

「政務次官、ケンブリッジ政務次官ですね?」

このパターンは何度目だ?
沢山の将兵らに敬礼されたり尊敬の目を向けられたりして私は困った状況に陥った。
そこまで私は凄い人間じゃないのだ。それがこんなに祭り上げられるなんておかしいだろう?
でも笑えないがこれが現実なのだ。悲しすぎる。可笑しすぎる。怖すぎる。

「君は・・・・・あれ? どこかであったよね?」

その言葉に頷く。
改めて背筋を伸ばして敬礼した。

「ブライト・ノア中尉であります。先日のサイド7攻防戦では助けていただきありがとうございました」

意味が分からない。何故そこでサイド7が出てくる?
私は何もしてないぞ?と思っているとどうやら第14独立艦隊の功績を知っていたらしい。これもノエルお嬢さんの迂闊な発言の影響かな。
故にあの艦隊がシャアの来襲を予見して配置された、その総指揮を自分が執ったと思っているらしいのだ、この若い中尉さんは。
ちょっと待ってくれ。私は文官だ。艦隊の指揮権など・・・・と思ったら・・・・あった。存在している。文官の癖に軍事に口出しが出来るのだ。自分は特別に。誰かさんの所為で。
開戦直後、作戦本部長のエルラン中将がルウム戦役前夜にいらん事をしてくれたお蔭で私にも艦隊の指揮権があるのだ。第14独立艦隊のみであるが。
そして先の戦いでサイド7駐留部隊の崩壊を救ったのはその第14独立艦隊。これでは誤解するなと言う方に無理があるか?

(冗談では無い。これ以上の厄介ごとも何もかもご免なんだ!)

そう思って彼の誤解を解いておこうとした時、ダグザ大尉が駆けてきた。

「政務次官、ご婦人と面会できます」

そう言えば、彼、ダグザ大尉にはなんか雑務ばかりを押し付けて悪いとは思うのだが、何故か率先してやってくれる。
一度酒場でその理由を聞いたらナハト大尉による逮捕を防げなかった事の償いだと言っていた。顔に似合わず情に厚い男だ。
だからこそ、

『気にするな。歯車には歯車の役目がある。連邦政府と言う時計を動かす大切な歯車だ。大きい小さいも綺麗汚いもない』

そう言って励ましたら、どうやらこの言葉にも何か感銘を受けたらしく全然治らない。それではもう仕方ないのだが。

「あ、ああ。了解した。それでは中尉、体に気を付けたまえ。地球で会おう」

その余計な言葉が後の私を左右するとは思いもしなかったが。
久々に会った妻は私に開口一番言った。

『やつれたわね』

と。
で、あとは若かりし頃の理性を失った暴走をした。全く、両方とも40代に入っているのにお盛んな事だ。
他人事の様に言ってみたが、正直言って妻は若い。見た目もまだ30代前半で通じる。東洋的神秘とでも言うべきか?




ルナツーを出港した第14独立艦隊とホワイトベース、それに護衛の旧式サラミス1隻。
この前日、シナプス司令官の同期であり、ワッケイン少将の教官でもあったパオロ・カシアス中佐は戦傷がもとで死亡した。
私は直接の面識は無かったから分からないが、その事を知ったシナプス大佐は珍しい事に自らルナツー司令官室を訪れ、ワッケイン少将と飲み明かしたようだ。
翌日、少し酔ったような大佐の姿が目撃されている。
そして周回軌道上に達する直前、艦隊全体に警報が鳴る。

「何事か!?」

マオお嬢さんに妻が確認する。どうやらルナツーから尾行がいたらしい。ストーカーはどの時代、どんな場所、どんな相手でも嫌われるだろうに。空気が読めない奴らだ。
いつのまにか慣れているのか、二度の実戦経験のお蔭なのか、或いは所為なのか分からないがルウムでの初陣に比べて恐怖は緩んでいた。
それが先ほどの飲んだ睡眠薬の影響で、単純に意識が朦朧としていただけなのかもしれないが。

「敵艦です。後方左舷3000kmにムサイ級、これは例のワルキューレです。赤い彗星です」

その途端、前面から発砲光がサラミスを貫いた。確か艦長はリード中尉と言ったはずだが、と思っていると味方艦が沈む。一瞬だが艦橋に沈黙が走る。

「ぜ、前方4200kmに敵艦隊。通常型ムサイ級4隻、ザンジバル級1隻。MS隊の展開を確認!!」

ミユお嬢さんの不吉極まりない言葉に眠気など吹き飛んだ。
これは不味い。絶対に不味い。先手を取られた事が更に私をパニックの底に突き落とす。まあ、前みたいにあまりの恐怖からかほとんど動けず能面の様な無表情さを保ってしまったが。
と、またもや敵艦隊から一斉射撃が来た。明らかに狙いはペガサスとホワイトベースの二隻。木馬とジオン軍が呼ぶペガサス級が狙いだろう。

「各艦迎撃する! ルナツーに打電!! 我有力ナ敵艦隊ト交戦中。至急増援ヲ請ウ、だ。急げ。各艦は第一戦闘配置。砲撃戦用意。
戦闘プランはJ-02でいく。ランダム回避運動と射撃データのリンクを急げ。敵艦隊に反撃せよ。メガ粒子砲全艦一斉射撃!!」

シナプス司令官の命令の下、艦隊は散開陣をとった。急速に高まるミノフスキー粒子濃度。明らかに汗ばむ背中。
またこのパターンだ。俺は死神に好かれているのかな? それとも嫌われているのかな?

「艦隊距離3000になった時点でホワイトベースと共に正面の艦隊を突破する、第2戦隊は上方、第1戦隊は下方に展開し、球形陣を取る。
砲撃戦用意。MS隊は直援を優先せよ。ホワイトベースのMSは性能が優秀だがカジマ中尉のガンダムを中心とした第1小隊以外は学徒兵だ。
迎撃戦闘に専念せよ。ジュリアン曹長、第3小隊から発艦させろ。ミサイルに閃光弾を紛れ込ませろ。来るぞ!」

ミサイル攻撃が開始される。
双方のビームが撃ちあうが初弾命中はやはりレーダーが効いていたからだろうな、次は両軍ともに中々命中しない
その一方でMSの数は向こうが上だ。
艦隊の艦艇数では勝っているが、MSでは3倍近い差がある。これでは勝てる筈も無い。
だが、味方はいる。それは時間だ。
連邦軍宇宙艦隊正規艦隊が駐留しているルナツーでは自分達より2時間早く第1艦隊が演習の為に出港していた。
彼らが戻れば、若しくは接近するだけでまた戦局は変わる。
ジオンの将がよほど愚かでなければ僅か5隻で50隻の大艦隊を相手取ろうとしないだろう。

「諸君。持ちこたえろ!」

戦闘開始から20分。奇跡的に損害がない第14独立艦隊。それはたった一機のMSの性能に助けられていた。
赤いゲルググは出てなかったが、それでも後方のムサイからは4機のザクⅡF型がいたのだ。
それを素人の学徒動員の兵士が乗るガンダム、『アレックス』が全て撃墜した。
シナプス司令官も信じられない。

(そうなると最初の突進命令も誤りになるか? いや、前面のMS隊を突破しない限りこちらに勝機は無い)

敵前回頭など出来る訳もないシナプス大佐は瞬時に従来の作戦通り決着をつけるべく行動する。
そしてウィリアム・ケンブリッジはこの混乱の中、またもや艦橋の特別席にいた。
やる事も無く、ただ戦闘を見ると言う行為はストレスになる。もっと端的言えばトラウマになるだろう。
だから通信を切って遮光バイザーを下ろしていたい。だが、彼は遮光バイザーこそ下げたものの通信だけは切れなかった。
これを切ったら最後、もう二度と妻の声を聴く事は無くなるのではないか?そういう脅迫感に襲われたのだ。
そしてこれは正しかった。こういう事は良くあるのだ。映画でも見るだろう。戦場で結婚の話をする奴程に大抵は死ぬ。子供の話もそうだ。
あれは誇張こそ入っているが嘘でもない。何故かこういう時に結婚の話をしたり子供の話をしたりする軍人は死にやすい。

「回避行動、ランダム03に変更!」

「艦隊主砲をザンジバル級に集中射撃。敵の艦載機の接近を許すな」

「第1戦隊、そのまま砲撃強化。第1から第3小隊までは小隊毎に迎撃。長距離射撃戦闘用意」

リムが、シナプス大佐が、マオお嬢さんが命令する。その命令を受けたのか、6隻のサラミス級と9機のジム・コマンドとホワイトベースから援護に回されてきたプロトタイプガンダムとジム・コマンド2機が援護する。
ザクと言えども、12機のMSを相手に強行突破するのは困難な様だ。護衛に引っかかり、攻撃も少なくなっている。

(これは勝てるかな?)




「ガルマ大佐が出撃しのだな!?」

シャアは自身の予想通りに動いた戦況に喜色の声を出しかけた。そうだ、この状況でガルマが撤退せずに勝手に出撃する。
これ程自分にとって都合の良い状況もない。
ガルマが勝手に交戦して戦死するならば現実主義者のギレン・ザビと理想主義者のデギン・ザビとの間に見えない亀裂を生むだろう。家族を愛するドズル・ザビと現実を優先せざるえないサスロ・ザビも今までの関係を続けられない筈だ。

(認めたくはないがあの坊やこそキーポイント。それを打ち破ればザビ家の結束を崩せる!)

それこそ狙いだ。

「ええい、それにしても連邦軍の新型MSは化けものだな!!」

今の発言をかき消す為に敢えて道化を演じる。連邦軍の新型MSが化け物なのは先日の戦闘で分かっていた。
機体に配備されているビームライフルの射撃を受け止めるシールド、撃墜されたザクⅡF2型のザクマシンガンの直撃に耐えきる装甲。
それはバーミンガム級戦艦に匹敵する装甲を持っていると言う事だ。そしてパイロットの技量低下を補うOS。

(・・・・・高性能すぎるな)

シャアはそう思う。ゲルググの性能を持ってしても圧倒できないこの機体。
接近戦を挑めば話は別だがそうすればザビ家の坊やに花を持たせるだけになる。それはそれで面白くない。
ならば、一度後退するか?
そう思っていると運が更にシャア・アズナブルを味方した。
彼は後世いろいろな評価をされるが、少なくともこの第9次地球周回軌道会戦でその運の良さを、或いは悪さを褒められている。

『少佐、ガルマ大佐の艦隊後方5000kmに敵艦隊50隻程を確認。
演習に出ていた第1艦隊です。これ以上の戦闘はナンセンスです!!退却命令を!!』

確認すると多数の光源が見える。敵艦隊が一斉射撃をするのも時間の問題だ。一応ガルマに連絡するか。

「ガルマ。聞こえているか? 敵の大規模な増援部隊だ。ここは引くべきだ。聞こえているな!?」

だが、返信は無く、その次に見えたのはガルマの乗っていたザンジバルが沈められる瞬間だった。




「前方にゲルググを確認。漂流中」

エレンお嬢さんの言葉に勝利に浮かれていた私たちは気を引き締められる。
第1艦隊はそのまますれ違い、ルナツーへ帰還する。
やはり正規艦隊の圧倒的な火力と言うのは健在なのか、5隻の敵艦隊は瞬時に壊滅した。

『ペガサスはキャルフォルニア基地へ、ホワイトベースはジャブロー基地に降下せよ』

この時、私のペガサスはキャルフォルニア基地へ、ホワイトベースはジャブロー基地に降下する命令を改めて受諾した。
その最中、緊急脱出したのか機体各所にデブリの破片を浴びた、カラーリングが通常のゲルググやザク、ドムとは大きく異なる機体を回収。
機体の回収時点で第1艦隊はルナツーへの経路を取っており、プロトタイプガンダムを中心としたホワイトベース第1小隊はオペレーターごとサイド7防衛の為にルナツーへ後送。
ホワイトベースは何故かブライト・ノア中尉が艦長を務めたまま地球に降下する。

(彼も私と同じ星の下に生まれてきたらしい。厄介ごとに不運と言う星の下に)

ついでに我が艦隊は新たな厄介ごとも拾ったと分かったのは10分後。
例の漂流していたゲルググに乗っていたのはガルマ・ザビ、ルウム方面軍大佐にしてザビ家の末子というのだ。本当だろうか?
本当なら不味い。私は急遽彼の下へ急ぐ。誰かが暴走して彼を殺そうとする前に。ザビ家の当主になるかもしれない男を殺す事は君主国で皇室や王室の系譜の人間を殺す事と同じ行為だ。一部の暴走の馬鹿で済む話では無くなる。

(おいおい、絶対に給料分以上の仕事をしているぞ。なんでガルマ・ザビがあんな小競り合いに場にいたんだ?)

私はダグザ大尉を連れて尋問室に向かう途中で思った。
ダグザ大尉は護衛の10名と共にフル装備でついて来ている。私にも拳銃の安全装置を解除する様に言ってきた。
全くもってこれでジャブローからの評価はうなぎ上りだろうな。この膠着した戦況と言う時期にこれほど大きな政治的得点を得るとはやはり運が悪い。

(だってそうだろう。これじゃザビ家の王子を捕えた英雄扱いになるのは間違いない。
私はあのクソじじいに辞表を叩きつけてやるつもりでいるのに、このままではまた余計に出世してしまう)

今日の戦闘だって怖くて仕方ないから薬を使って乗り切ったと言うのに、ここでまた要らない評価を得たら最悪だ。
戦場でも使える文官などと言う評価は欲しくは無い。第一、それぞれの役目を定めて分割して戦うのが官僚制度だろう?
どうしてお互いの権限を乗り越えて戦わなければならないんだ! いつもは権限争い縦割り行政で叩かれているのに。
そうこう思っている内にロッカー室につく。そこでノーマルスーツを脱ぎ、脱いでいたイタリア製のネクタイを締め直す。

「ケンブリッジです、入ります」

ノックする。先にはシナプス司令官と筆記係としてマオ・リャン大尉がいた。更に連邦軍の揚陸部隊所属に4名の戦闘歩兵。
私はネクタイをなおし、ボタンをしめて黒のストライプスーツを着こなすと彼に尋ねた。

「ガルマ・ザビ大佐ですね?」

疲労した彼は頷きもしなかった。その姿や態度に何人かはいきり立つが構わない。手を出さない限り、問題は何もないのだ。
だが、語らずともその独自のノーマルスーツの色と階級章、何より宣伝で見た顔が私の質問に明白に答えている。

「私はウィリアム・ケンブリッジ政務次官。失礼ですが、貴官をキャルフォルニア基地まで護送する様に命令を受けました」

そんな不思議そうな顔をするな。
私だってジャブローでは無くキャルフォルニアに行けと言うゴップ大将とレビル将軍とコリニー提督の三名の連名に加えてエッシェンバッハ議員らの地球連邦安全保障会議の議決を見た時は目を疑ったのだから。

「ジャブローではないのか?」

漸く喋っていただいた言葉は予想通り。全く持って悲しい事だ。
ここでマオお嬢さんが先の命令の補足説明してくれた。

(どうでも良いがガルマ・ザビのみがノーマルスーツで他は全員連邦軍の軍服姿と言うのは何故なんだろう?余裕の表れか?)

そう思うが一番の高位者として彼の問いに答える義務はある。
それくらいはまだ連邦政府に忠誠心が残っているからな。

「ジャブローではありません。キャルフォルニア基地、北米州に降りて頂きます。
申し訳ありませんが、それまでは一介の捕虜として扱わせて・・・・ああ、大佐の階級に相応しい処遇はさせてもらいます。
よろしいですね? 何かあればこちらの携帯に連絡をください。重要機密と判断しない限り対応させてもらいます」




宇宙世紀0080.02.21、ガルマ・ザビ捕縛するという吉報を受けた北米州は早速手をうった。
まず南米州議員をハニートラップでこちらに引き寄せると、連邦政府に対して囮作戦を強行する様に要請。
ペガサスを守る為、敢えてホワイトベースにガルマ・ザビが乗せてあるように情報戦を行う。
この時期、第1艦隊の遊撃任務につられてジオン艦隊はア・バオア・クー要塞に集結していた故に初動が遅れた。
更に第2艦隊がルウム奪回を目指す軌道を取る為、ザビ家とはいえたった一人の為に大軍を送る事が出来なくなった。
どれもこれもブライアン大統領とオオバ首相ら極東州の三姉妹とよばれる女政治家らの裏取引の結果である。
キングダム首相を排したいが、その時を待つと決めた北米州らは逆に連邦政府の切り崩しをかけるのを止めた。
正直に言うと今の政権は何もしなくても勝手に崩壊すると判断したからだ。そしてその判断は極めて合理的なものとして受け止められていた。

「ジャミトフ君。連邦軍としては彼をどう扱うつもりかね?」

白い館でブライアン大統領は地球連邦軍幕僚本部参事官という文官と武官の橋渡しをしている将官に聞く。
彼が伯父の力を利用してウィリアム・ケンブリッジを保釈したのは有名だ。
そしてジャミトフ・ハイマンと言う男は情に厚いがそれ以上に冷徹であり、理想家である事が有名である。
何が言いたいかと言うと、無駄な事はしない主義だと言う事だ。それ故にコリニー提督に重宝されており、ブライアン大統領らも信用している。

(怜悧な剃刀というハイマン一族の切り札。
その彼が一族まで動員して保釈に動いたと言う事はこのウィリアム・ケンブリッジという男は非常に使えると言う事か。
ふむ、有色人種と白人の混血児。どちらかというと黒色の髪に黒い瞳。我が国ではもう珍しくないクォーター同士の子供。
そして妻も極東州とアジア州出身の子供。これはこれで良くここまで来たものだ。差別もあっただろうに。だからこそ誰かに奪われる訳にはいかないな)

ブライアン大統領はそう思いつつも手元の書類をしまう。今は、再びとんでもない政治的な成果を手にしたこの政務次官をどう扱うかが課題。
またせっかく手に入れた敵国の王子様だ。これをあの老人に渡す必要はない。あの老人はもう清掃だけしてくれれば良い。
あの老人はこの戦争終了時まで精々こき使えられればそれで十分なのだ。

「せっかく無傷で手に入れたザビ家の御曹司です。生かさず殺さず我々の手で管理運営するのがよろしいかと。
手札は何枚あっても足りない事はありません。これからが勝負どころですからな。
報告しましたが、現在のジャブローは来たるべきヨーロッパ反攻作戦の準備であわただしい。ここで敵地のど真ん中に置くのは政治的に不味い。
政治面でも軍事面でも我々が彼を保護する義務がおありの筈です。ましてレビル将軍に渡すなど論外であります」

ジャミトフの言はそのまま北米州の意見となる。またバウアーやパラヤが交渉にいくのだろうがまあ仕事だと思って我慢してもらおう。
それよりも、だ。

「共産軍。確かに南下しているのだな?」

此方の方が重要だ。現在再編されている経済圏の内の一角、太平洋経済圏。
地中海経済圏が完全に瓦解し、その余波で大西洋経済圏もまた崩壊した。宇宙の消費地であるスペースコロニーはジオンの支配下。
である以上、連邦経済に残った最大級の経済圏を守る義務が世界の警察である我が祖国にはある筈だ。いや、ある。
それを脅かす可能性がある共産軍の存在は危険極まりない。ここで極東州やアジア州の防衛線が抜けられたら笑い話にすらならない。連邦は崩壊するだろう。
そうなれば呑気な陰謀ごっこなど出来なくなる。何もかもが水の泡になるのは避けなければならない。
だからこそ、連邦議会と連邦軍にアメリカ海軍と日本自衛軍で構成された地球連邦海軍の6つの正規空母で編成された機動艦隊を太平洋、南シナ海への移動を認めさせる政治工作を行ったのだ。

「ジオンが支配するスペースコロニーには非加盟国が日用品や水を輸出しています。その為か、我が連邦政府は完全に後手に回っております」

ジオンが開戦時の予想以上に健闘しているのは占領地域からの義勇物資の名目で集めている日用品などに加えて非加盟国との貿易が主たる要因である。
第三次降下作戦の結果、ジオンは非加盟国領土各地にHLV発射施設を建設して大規模な宇宙への物資打ち上げを遂行している。
これを護衛する艦隊も健在で、第1艦隊と第2艦隊しかいない連邦軍は積極的な通商破壊行動に出なかった。出来ないのではない、出なかったのだ。

「ブライアン大統領閣下が連邦のキングダム首相に要請すればこの流れも断ち切れますが。
・・・・・ゴップ大将らの掲げるビンソン計画とレビル将軍が奪ったV作戦の終了までは第1艦隊と第2艦隊は温存すべきです。
それに・・・・・我々が何をしなくてもジオンとの決着はレビル将軍らの派閥がつけてくれるでしょう」

ジャミトフが何を言いたいのか手に取るように分かる。
アメリカCIA局長が何やら耳打ちしてきたが、内容がそれもまた面白い。

「そうだな、ジャミトフ君。君らは『我』が連邦軍を鍛え上げたまえ。その為に必要な資金や物資はこちらで用意しよう。
そして連邦軍の中でも現政権に反抗的な人物と接触し、新興派閥には肩入れせよ。特にMSを中心とした派閥に、な」

執務室にいた数名が忙しそうに動き回っている。
いや、忙しいのだろう。
この戦時下で、崩壊した地球経済を維持しているのはビンソン建艦計画とV作戦による大規模な軍事特需と太平洋経済圏の維持。この二つ。
地球内部経済を支えた地中海経済圏と大西洋経済圏は崩壊。宇宙=地球間の生産と消費と言う関係もジオンにより寸断。
現在の連邦政府は過去の貯蓄を切り崩して戦争を遂行している。このまま戦えばあと1年以内に経済面から瓦解するだろう。
いや、瓦解する可能性があるというだけで反戦運動は大きなうねりになって、戦争継続を選んだ現連邦政府に津波の如く襲うだろう。
その時こそチャンス。最大の危機こそ最大の好機とはいったい誰の言葉だったか?

「大統領、コロニー国家であるジオンの国力は我々のシンクタンクの見積もり通り、小さいでしょう。
しかし、連邦も非加盟国への武力対応や戦後復興、崩壊した経済面から見て第二次世界大戦の様な大規模な消耗戦をする余裕もありません。
となれば、この1年。いえ、残り半年、宇宙世紀0081に入るか入らないかが勝負の分かれ目になります。
統合幕僚本部も幕僚長のゴップ大将やコリニー提督らもそうお考えです。
何より、ジオンとのサイドの決戦を、地球連邦軍全軍の最高司令官であるレビル将軍がそれを望んでいます」




いくつか命令はあったが私、ウィリアム・ケンブリッジはガルマ・ザビと共に地球の北米州に帰還する。
サイド3との交渉を任されて宇宙に出てからおよそ半年ぶりの事であった。
一方、道中を共にしていた連邦軍の強襲揚陸艦ホワイトベースはシャア・アズナブルの執拗な攻撃にあい、突入コースを強制変更させられてしまった。
彼らは本来の目的地のジャブローから外れ、ジオン地球攻撃軍の支配下である中央ヨーロッパに落ちる。
心配ではあるが、酷な事か私はそれよりも安堵の溜め息を吐いた。それは艦橋にいる、いやペガサス全乗組員の意見だった。
そして私は久しぶりの地球を満喫している。目の前にはキャルフォルニア基地の宇宙用ドッグが見えてきた。

「海、綺麗ね」

いつの間にか起きたのか、リムが肩を寄せる。
バスローブの下にはお互い何も着てない。通信によると子供たちが埠頭で待っているらしい。

「ああ、綺麗だな」

埒もない。戦闘後、互いに逃げた様な関係でもあったが、それでも夫婦としてもう20年近く生きてきた。
やりたい事も、望む事も、願う事も分かっている。だから横顔が美しかった。
長い長い宇宙勤務だった。そして私はある決意をしていた。それが妻を激昂させるのだろうがそれでも譲れない。




2月末、キャルフォルニア基地で私はゴップ大将の呼び出しを受けた。
正確に言うとゴップ大将、エルラン中将、レビル将軍、キングダム首相、マーセナス議員の5名が呼び出した人物に当たる。
その中で聞かれたのは連邦が捕えたザビ家の末子ガルマ・ザビの第一印象。私は簡潔に答えた。

「劣等感と希望に満ちた名誉欲に飢えている良くいる若者です。今の時点では恐ろしくありません。
ただ、叩けばギレン・ザビやドズル・ザビらに匹敵する恐ろしさを持っていると思われますので警戒が必要です」

その言葉を受け取った連邦政府は何事かを決めるべくキングダム首相が秘書官と共に退出した。いや、この言葉は語弊がある。
秘書官と共に画面から消えた。5つあるメイン・モニターのうち、1つが沈黙したのだ。全く、あのクソじじいは嫌がらせの為に来たのか?

「しかし災難だったな」

エルラン中将がまるで他人事の様に、事実他人事なのだが、労をねぎらう。

(確かに大変でしたよ。
だけどね、その内の半分以上はあんたの責任だろうが!! なんで戦闘に狩り出されなきゃならない!!)

そう思うが、必死に叫びを抑える。これ以上妙な誤解の元で戦場に送られるのはご免極まる。傍らにいるリムも戦場に送らない。絶対に、だ。

「ふむ、しかしザク4機を鹵獲し亡命政権首班の脱出を助け、今回はガルマ・ザビを捕虜にした。出来すぎた感はあるが。
事実は事実として受け止めよう。何か要求はあるかな? 可能な限り答えよう」

レビル将軍が言う。この辺りは隣のマーセナス議員と話が通じているんだろう。
そうでなければ我が地球連邦までもが文民統制を捨てている事になる。そうなってはジオン公国と何ら変わらない。救いがないだろう。

「なんでも、ですか?」

確認する。
向こうも簡潔に答える。

「出来る範囲で、だな」

この言葉を待っていた。
あのルウム撤退戦の戦闘からずっと言ってやりたい言葉があったのだ。

「リム・ケンブリッジ中佐を退役させてください」

罵倒が飛び交っても構わない、正直死にたくないがこれが受け入れられるなら銃殺刑でも構わない。
だからせめて。子供たちに母親を返してやってくれ。
ただそれだけを願い、私は頭を下げた。いや、妻の実家の土下座と言う行為を行った。

その途端、私は思いっきりど突かれて引っ叩かれた。
こうなる事は分かっていた。妻の名誉も傷つけるのは分かっていた。
それでもあの戦闘を見た後に、戦争を体験した後に、笑って妻を戦場に出せるほど私は強くは無いんだ。
だから許してくれ。いや、許さなくても良いから理解してくれ。




強襲揚陸艦であるペガサスが地球に降りて4週間。宇宙世紀も0080.03の下旬に差し掛かった。
私が要求した妻への処置は、数々の功績を鑑み無期限の休暇と言う戦時下では考えられない破格の対応が言い渡された。
一方で自分は北米州の大統領補佐官も兼務する事が正式に要請された。そしてもう一つの裏取引も。

(要請と言う名前の命令か。でもまぁ仕方ない。それくらいは覚悟するしかない。
それに北米州大統領府の勤務なら戦死の可能性も少ないから良しとしよう)

『それではあくまで勲功に報いる形を取る。
また再建途上の宇宙艦隊の艦長教官職としてキャルフォルニア基地勤務と言う点で如何ですかな、レビル将軍?
その代わり・・・・・・ケンブリッジ政務次官、君は現政府に協力してもらうぞ。
英雄である君が受けた数々の人権侵害については誠に申し訳ないが、我々と司法取引をさせてもらおう。
そうだ・・・・・いわゆる、目をつぶれと言う事だ』

マーセナス議員の言葉に自分の次の役割が決まった。
私は連邦政府の暗部を知る切り札になってしまった。これはキングダム首相にとって最悪の展開だろう。
戦争継続派のレビル将軍はウィリアム・ケンブリッジ拘禁並び人権侵害の件で連邦政府中枢に意見できる。意見しなくても意見が可能と言う点で十分脅威になる。
北米州もまた現政権に対していつでも人権侵害を理由に首相らの解任請求をできる立場となる。駒を手に入れた訳だ。

(道化、ですか?)

更にダグザ大尉は少佐に昇進の上で、一個小隊を率いて私の護衛に。ペガサスのメンバーもキャルフォルニア基地で教官職になる。来たるべきヨーロッパ反攻作戦「D-day」を勝利すべく、多数のMS隊を養成する。その為の教導部隊に昇格した。

(これも私を妙なところに進めない為の布石なのかな? 買いかぶりすぎでしょ)

そう思うがどうやら盛大な勘違いはまだまだ続くらしい。つくづく嫌になる。
ところで降下に失敗したホワイトベースの件をジャミトフ先輩経由で聞く。

「ホワイトベース、どうなりましたか?例の新型ガンダムとそのパイロット、それに殆ど新兵で編成されていたと聞きましたが。
今もジオンの勢力圏内部ですか?こちらからの救援部隊は派遣されたのでしょうか?」

と。
どうやら先輩曰く、ガルマ・ザビ奪還部隊として『青き巨星』と呼ばれているランバ・ラルがこれを追撃していたらしい。
らしいというのはミノフスキー粒子が濃い事とホワイトベース隊とランバ・ラル隊が接敵した事自体が極秘情報である事。
これに加えてガルマ・ザビはまだホワイトベースに拘留されているという欺瞞情報が流されている事が理由となる。

「まあ、ジオンも半分は信じてないがこちらがガルマ・ザビを極秘裏に拘禁している事がギレン・ザビらの目を欺いた様だ」

との事。

(そうだろうか? 何か別の思惑がありそうな気もするが。
・・・・・まあ、あのデギン公王やサスロ・ザビ、ドズル・ザビならガルマ可愛さに軍を私的に動かしそうだ。
ギレン氏はどう考えるだろうか? まだ連邦との戦争を続けるつもりなのか?)

更に敵も新型MSを導入しており苦戦した事、オデッサ近郊の為、積極的な援護が出来てない事などが挙げられた。
ただ、後に伝え聞く噂によるとランバ・ラルは敗死。新たな追撃に加わった黒い三連星もまた撃ち破り、戦死に追い込んだとの事。
連邦軍は局地的な優勢を全体の優勢に見せかけるべく、いくつかの手をうった。
その一つがRX-78NT-1アレックスとそのパイロット『アムロ・レイ』を白い流星と持ち上げ、ジオンに対するプロパガンダに利用している。
無論、補給部隊や掩護のMS部隊を送ったりしていたらしい。詳細は相も変わらず軍機扱いで分からないが。とりあえずブライト・ノア中尉は生きている様だ。良かった。
なお、ジオン側が名づけた『白い悪魔』の方が、通りが良いので多くの連邦兵もそれで通すのは戦争の皮肉さを物語っている。

因みにジオン軍との協定でここキャルフォルニア基地の市街地分野は亡命者受け入れを少数であるが許可していた。
亡命者だけでなく、サイド6経由やフォン・ブラウン経由のシャトル、木星船団の代表らの受け入れ場所でもある。所謂ハブ宇宙港。
もっともその亡命者の定義はジオンと連邦が認めた者であり尚且つ占領下のサイドに住む者と限定されていたが。




そんな中、ケンブリッジは家族水入らずの観光をしていた。
そして、乗馬クラブで一人の青年に出会う。
向こうは全速力で駆け足を馬にさせていたらしく、こちらに気が付くのが遅れた。

「うわ!?」

思わず落馬しそうになる。リムが支えてくれなかったら下の砂利道に背中を打ち付けられていただろう。

「これは申し訳ありません。ご無事ですか?」

一体どんな奴だ、と思って相手を見た。
紫色の髪。年齢はどんなに見積もっても20歳前後。
恐らく連邦の軍人だろう。引き締まった体から軍人特有の硝煙の匂いがする。

「あ、ああ。こちらこそすまない。まさか林から人が出て来るとは考えてなかった」

元々乗馬は妻が得意で、自分は不得意なのだ。それは知っているが子供の情操教育の為にも有効だと思うからやっている。
しかし、目の前の青年は完璧に馬を操っている。恐らく余程の修練を積んだんだろう。

(どこかの名家か?)

そう言えばブレックス准将もジャミトフ先輩も両方とも乗馬は得意分野だった。リムも嗜み程度と言いながら上手である。
と言う事は、この人物ももしかしたら北米州の名家出身の坊やなのかもしれない。妻も自分も一旦馬から降りる。
手近の馬場に馬を繋ぐ。中にいた乗馬クラブの人に借りていた道具を返す。子供たちは妻と乗馬インストラクターが面倒を見る。

「これは夫が失礼を。ええと、あなたは?」

私はリム・ケンブリッジ。彼は夫のウィリアム・ケンブリッジ。
そして二人の子供たちも名乗らせる。

「ジンです」

「いもうとのマナ」

それを聞いたポロシャツと騎乗用パンツをはいている青年は紺のヘルメットを取り、馬から降りてこう述べた。

「私はパプテマス・シロッコ。地球連邦木星開発船団の副団長です」

ほう、木星出身なのか?
確かニュースで木星船団の第6陣が帰還したと言っていたな。それならば時期も合致する。
それにしてもどこぞの王の様な、例えるならギレン・ザビの様なカリスマを持つ人物が語る姿は様になる。
そう言えば彼の襟には連邦軍中佐の階級章があった。休暇か。確かに宇宙軍の制服ではこの北米州西海岸は熱いだろう。
それに木星船団では乗馬など出来ない筈だ。今のうちにやっておきたいと言うのは分かる。

「コロニーで乗馬を習いました。
おや・・・・・間違いない、貴方はケンブリッジ政務次官殿ですな?
かのルウムの英雄に会えるとは・・・・私は運が良い。
どうですか、この後レストランまでご一緒しませんか?」

私に断る理由は無い。妻子と一緒であれば喜んで。そう応じた。



[33650] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7b44a57a
Date: 2012/08/07 15:41
ある男のガンダム戦記11

<しばしの休息と準備>




パプテマス・シロッコ中佐はまだ20代前半と言うのに連邦どころか全人類にとって重要な外惑星開拓船団(木星船団)の副船団長を務めている。しかも中佐だ。
妻だって中佐に昇進したのは30代後半だったのだが、それを遥かに上回る記録の保持者。
何と言うか、その言い難いが異様な雰囲気を持つ男と言うのが私の第一印象だ。勿論、本人にそんな事を伝えるほど私は礼儀知らずじゃないし馬鹿でもない。
そう言えば先程からアメリカ産のビーフステーキを頼んでいるが、使っているのは極東州の味付けソースだ。全然違和感が無い。うん。美味い。

「やはり地球産は美味ですか?」

私は話を食事の話題、地球の環境にシフトする。
地球連邦、いや、地球圏というよりも、木星圏で生まれ育った彼から見ればこのジオンと連邦の戦争は無益に見えるだろう。
木星にまで進出し、木星の資源にまで手を出した筈の人類がいまだに地球圏内部で大いなる世界大戦、事実上の第三次世界大戦を継戦している。
木星まで行った人類が、地球圏と言う名前のゆりかごの中で争う。彼にはどう見えるだろうか?

「地球産、というだけで他のコロニーや木星産の商品に勝ると言うのは幻影だと思いますな。
地球産は確かに素晴らしい。しかしながら、木星の厳しい環境に適応した食事風景や各サイドが独自に放牧するものなどは決して地球に劣らぬものも多いと私は考えます。
そう考えますと、政務次官のお言葉には一種のアンチテーゼを提供する事になりますかな?」

妻がワインを一口飲む。
子供らは楽しそうに窓から放牧された馬や牛などを見ている。

『牛だ』

『ちがうよお兄ちゃん、あれはヤギだ』

『いや馬だってば』

自然をモチーフにしたこのキャルフォルニア基地最大の人工公園が8階建てレストラン展望席に座る自分たちの眼下に広がっていた。
さながら王侯貴族になった様な感触を与える。いや、実際に王侯貴族なのだろう。私は私の我が儘で妻を前線から遠ざけた。妻は長い間軍人として生きてきた。
その誇りを傷つけたのだ。言ってみれば自分の都合で人生を否定した様なものだ。自分勝手だとは思う。それは分かっていた。だけど子供たちと楽しそうにかまっている妻を見てあの時の自分の判断が間違っていたとも思えない。

これでジャブローの面々を批判する権利は無い。寧ろ私は卑怯者で臆病者だ。やはりこんな地位にいて良い人物では無いだろう)

そう自己分析している。
するとステーキを切り分けていたシロッコ中佐が発言した。

「そう言えば奥方はペガサス級の艦長であるとか?
羨ましいですな。新造艦を任される、それだけ信頼されている証拠でしょう」

シロッコ中佐が妻であるリム・ケンブリッジ中佐を褒める。まあ、半分は世辞だろう。そしてその言葉が今は痛い。私の心を抉る。

『貴女の奥さんを私情で前線から外しましたね? それは徴兵逃れをする有力議員の息子や娘と何が違いますか?
他の戦友は今も尚ジオンとの最前線で戦っていると言うのに、自分の妻だけはそこから逃がすのですか? 自分の権限と権力を利用して?』

一瞬だが、そう聞こえた。それが幻聴なのは分かる。疲れているのだ、きっと。

「そう言ってもらえるとありがたい事です。ですが、現在は教官職にあり後輩らの育成に取り組むことになりました。
心苦しいですが前線にはしばらくの間出る事は無いと思います」

妻が説明する。その言葉に一番反応したのは案の定というべきかシロッコ中佐だった。
馬を乗る為に私服に着替えていた5人だが、シロッコ中佐のウィリアム・ケンブリッジを見る目が変わった。
羨望と敬意から、侮蔑の表情へと。それに反応するケンブリッジ夫妻。

「これは失礼。もう一度お聞きしますが・・・・・誰がペガサス級一番艦ペガサスの指揮権を持つのですか?
政務次官殿、お尋ねしたいのですが奥方は前線から外されたのですか? それとも外したのですか?」

シロッコの問いは的確であり、逃げ道はない。自分が自らの逃げ道を塞いでいるのだ。引く事など、出来はしない。
そう考えれば身から出たさびだ。自分は自分を慕ってくれた多くの将兵や戦友を見限って自分と自分の妻の安全だけを手に入れようとした。

「シロッコ中佐、君の想像通りだ。私は碌でもない最低のクズ野郎だよ」

その言葉が個室に響く。
個室には人数分のステーキランチセットと赤ワイン、リンゴジュースが丸テーブルに置いてあった。
香ばしい良い匂いがテラスになっている個室に満ちている。それが地球圏の食糧事情、特に先進諸国で構成された州の特権である。

「いきなり何を言い出すのですか、政務次官殿?」

そうだ。
彼から見ればこんなに早く自分の非を認める高級官僚など見た事が無いだろう。普通はあーだこーだ言って言質を取らせない。
そして。

(これがウィリアム・ケンブリッジ政務次官。
なるほど、噂以上に変わっているな。自分は安全なところで論理武装して部下や兵士を前線に送り込むのが一般的な地球連邦の高級官僚だ。
それがこの御仁は違う。私が今まで見てきた愚劣なるオールドタイプとは違うと言うのか?)

シロッコの考えを余所に、私は独白を、或いは懺悔を続ける。
それは自分の我が儘で傷つけた妻と、その妻の代わりに死ぬであろう人々への哀悼の意もあった。

「中佐。言いたい事があるのでしょう? お前は妻を助ける為に連邦上層部と取引した唾棄すべき卑怯者だ、と。
そう言いたいのではないのですか?」

地球連邦内部の高官同士で裏取引があった事は、地球圏情勢に最も詳しい木星船団船の団員として知っていた。
それが例のザビ家とMSに関すると言う事も。第9次地球周回軌道会戦と言う戦闘の結果であり、ザビ家の末子を捕獲したという大戦果もある。
だから『偶然を装って』その人物に会いに来たのだ。一体どんな人物なのか確かめたくて。

(冷静沈着、戦闘では口を出さず専門家に全て一任する。市民を守る為ならならば単身独裁者の真っただ中にも行く勇気ある行政官。
更には市民を見捨てて逃げ出す連中に対して手を出すほどの激情家でもありながら、小市民生活を求める男。英雄としての地位を嫌う無欲な人物。)

全くもって意味が分からない。ただ、前半部分と兵士たちからの評判を聞けば答えは単純になる。それは物語の主人公、『英雄』という人間。
前線で戦い、守るべきものを命がけで守り、良き父親、良き夫であり、恐怖を抑えて戦場に残って連邦政府高官としての義務を果たす。

(これが地球連邦の英雄でなければ何が英雄だと言うのか? ジャブローのモグラどもか? 冗談にしては悪質すぎるな)

その男が言った。俺は英雄じゃない、卑怯者だと。臆病者だと。断罪してほしいと。自らの非を直ぐに認めたのだ。一切の言い訳なく。

(なるほど・・・・・面白い、面白いぞ。ウィリアム・ケンブリッジ政務次官!!)

内心の悦びを表にせず、彼は、シロッコは普通に驚いたと言う演技と共に食事を進める。
無論、用意されたカルフォルニア産白ワインで口を濯ぎながら。

「これは驚きました。ケンブリッジ政務次官は、内務省政務次官と言うご自身の立場と言うのを不当に低く見積もっているようですな」

先ずは挑発。これに乗って来るかどうかで、相手の本音が分かる。
挑発されてムキになり同じ事に固執したり、必死で論破しようとしたり、或いは動揺を隠せないような展開になるなら相手にするだけ無駄だ。

(さてどうでるか?)

再び口にワインを持って行くシロッコ。楽しい。実に楽しい食事会だ。態々ここまで来た甲斐がこれだけでもあると言うモノだ。
そこで妻の方のケンブリッジ中佐が答えた。

「夫は卑怯者です。それは断言できますし、私が保証しましょう」

妻は実に清々しく先の軍法会議での司法取引を語った。これがばれれば二人ともタダでは済まないだろうに。
それでも彼女は一点の曇りもなく、自らの行為に一切の躊躇もなく己の行動を語る。夫の行動を擁護する。ただただ信じているのだろうか? 
自らの半身の行動を。実にすばらしい女性だ。権力欲で動く俗物ばかりの男どもとは格が違う。やはり人類の未来は女性が担うべきだ。そしてそれをサポートするのが私の役目。

「夫は軍人としては最低でしょう。何故なら私事で部下を軍務から引き離したのですから。本来なら軍法会議です。
ですが中佐。ここが重要ですが、私の夫は軍人ではありません。彼は文官であり、文民統制を行うべき地球連邦政府の政府官僚なのです。
文官が決めた事に軍は従うと言う大原則を守るのであれば、夫の行為の理由はともかく、是非は問題にならないと思いますが?」

ワイングラスを置く。シロッコがサイコロ状に切り分けられたステーキを頬張る。
話は続いた。

「夫は確かに過ちを犯しました。それはそうです。しかし、功なくして犯した指揮権の乱用ではありません。
ルウム戦役後半の戦い、ルウム撤退戦での完勝と4機のザクの鹵獲に亡命政権らの保護。第9次地球周回軌道会戦での完勝に加えたガルマ・ザビの捕縛。
確かに運が良かったのは否めません。いえ、運が良すぎたでしょう。それでも運も実力の内と言う諺があります。
私たちはその運を味方に引き入れて戦いに勝った。そしてその結果がスパイ容疑での拘禁。しかも連邦政府の失態を糊塗する為の生け贄扱い」

夫が私の前に肉の刺さったフォークを持ってきた。
思わず何をするのよ、と言いかけたがだ、直ぐに気が付いた。これ以上は言えない。言ってはならない。そういう事だ。夫であるウィリアムが引き継ぐ。

「と、まあ、妻が言うからかなり脚色されているのだろうけど、私はこうして生き残った。
そして本当に生き残ってしまった以上、やれる事はやりたい。
私は流されて出世した。誰もが誤解しているが、私自身、気が付いたら政務次官だ。もうこれ以上『上』は殆ど無い。だから今度は流されない。
シロッコ中佐、私は決めたのだよ。這い蹲ってやる。石に噛り付いてやる。泥水啜ってやる。そして絶対に私は私の家族を守る」

そして改めて言い直す。強い意志をこめて。

「私は英雄なんかごめんだ。新しい時代の幕開けとか、歴史の主人公、教科書に載る英雄の地位なんてもの一切合財興味はないんだ。これは本当だ。
私はね、私の家族が、そして生まれてくれれば非常にうれしい私の孫が平和に暮らせる世界を欲しているだけだ。それ以外は要らない。くれてやると言われても拒否させてもらおう。
その為ならば、多少の事はやってみようと言う気になった。卑怯な事もね。だから中佐、精々気を付けるよ。これ以上妙な方向に勘違いされない様に、ね」

煙にまかれたな。
シロッコはそう思った。本来なら彼の本心を暴きたかったのだが臆病者だと言いながら最後には戦うと言い切るその姿勢。
嫌いでは無い。そしてもっと見て見たい。純粋にここまで表裏もない人物も初めてだ。
連邦政府の俗物どもはこの男を第一級の危険人物、年齢に似合わない老練な政治家、有能すぎる官僚として警戒しているが、私事パプテマス・シロッコにはそれ以上に小市民としての彼の姿が眩しい。

(何故誰も気が付かないのだ? この男の真価は政治家候補の政治力でも官僚としての手腕でも、ルウム戦役後半の撤退戦で見せた用兵学でもない。
いつの間にか人を惹きつけ、その者の歩んできた道を変えてしまう引力とでも言うべき心の強さだ。連邦の俗物はそれが分かって無い)

彼の懸念はどうなるのか?
ニュータイプ(天才)による少数による大多数の統治を目指すシロッコは興味がわく。

(自分はこの男から何を奪い、何を獲れるのだろうか?)

多くの男が、或いは女性が、勘違いするウィリアム・ケンブリッジという人間に、シロッコは持論をぶつけて見たくなった。

「ところでケンブリッジ政務次官、ケンブリッジ中佐、ニュータイプという言葉をご存知ですか?」

ジオン・ズム・ダイクンが提唱した新しい人類、第6感(らしきもの)が発達した人間、見えないものを見える人、分かり合える存在、など色々な解釈がある。この解釈は百花繚乱だ。
と、夫妻はその解釈を口に出して上げてみる。確かにあっているだろう。だが、漠然としたものでしかない。
シロッコも流石にここまでは、ニュータイプには来てないのかと思った。そして安堵した。

(!? 私が安堵しただと!?)

そう、彼は安堵した。俗人であり俗物とみなしていたアースノイドの夫妻が先ほどまで自分を凌駕していた事実に気が付いて酷く驚いた。
そして脅威を感じた。
この二人から感じるのはオールドタイプの気配だがプレッシャーはニュータイプ候補生のサラ・ザビアロフなどとは比較にならない程強い。

(この二人は、いや、この男の方はやはり危険だ。
天才たる私に危機感や安堵感をもたらせるなど。それはこの男の思考や人格が私と同じと言う事を物語っている)

またもや厄介な人間に、厄介な評価を付けられたウィリアム・ケンブリッジ。
彼の本音は家族と幸せに暮らす事だけなのだが、誰も気が付かない。虚像が虚像を生み出し、誇張が誇張を呼び込んでいる状況なのだ。

「ではシロッコ中佐はニュータイプの時代が来ると?」

長い長い論議。子供らは暇なのか母親と一緒に映画館コーナーにいって極東州のアニメを観に行ってしまった。
何故か自分だけ残って食事が片付けられたテーブルで木星船団のNo2と話し合う。
内容は、ニュータイプとは何か、ニュータイプによる新しい統治体制が来るであろうか否か、そう言う話だ。

「と、こんな感じですかな。木星圏ではこういうニュータイプ論調が多い。スペースノイドも地球から巣立った事でニュータイプになれる。
この様な考え方に対して政務次官はどうお考えですか?
我々人類はニュータイプになり、やがてオールドタイプという存在は無くなるというのが一部のニュータイプ至上主義者の考えですが、そのような時代は来ると思いですか?」

一旦、私は最後のカルフォルニア赤ワインを飲み干す。
そしてシロッコ中佐が、この妄言に近い事を本気で言っているのか、それとも冗談で言っているのか判断し、冗談と捉えた。
少なくとも、目の前のパプテマス・シロッコという男は冗談、話の種の一つとして持ち込んだと言う事にしてもらおう。

(私の心の平穏の為にも)

クーラーの効いた涼しい部屋。見るともう17時だ。そろそろ区切りをつけて帰らなければ。
両親も心配しているだろうし、シロッコ中佐も軍務がある筈だ。私も明日は仕事なのだからな。

「ニュータイプが仮に存在したとして、それがオールドタイプを駆逐すると言う発想が既にニュータイプ思想では無く単なる選民思想ですね。
そもそも曖昧な定義の果てに生まれるニュータイプ程、悲しい存在は無いのではないでしょうか?
ニュータイプの為に戦うニュータイプ。では、そのニュータイプとはなんなのか? 
宇宙に住む者、つまりスペースノイドの事でしょうか? アースノイドやルナリアンは含まれないのでしょうか?
或いはスペースノイドから更に限定された者の事ですか? もしくはテレパシーなり何かを感じられる超能力者?
そのいずれにせよ、絶対多数なのはオールドタイプ、このオールドタイプにはアースノイドもスペースノイドもルナリアンも入るのでしょ?
それならばニュータイプによるオールドタイプ支配と言う考え方は余計に悲劇しか生まないと私は思います」

無言だったシロッコが口を開いた。
双方ともに料理もワインも片付けられて、もう水しかない。それを口に持って行くケンブリッジ。シロッコは腕を組んで聞いている。

「悲劇とは?」

私、ウィリアム・ケンブリッジはこの人物(シロッコ中佐)の今の心底不思議そうな発言を聞いて彼への印象に一つ加える事が出来た。言い方は悪いが。
歴史を知らない馬鹿だった、と。或いは理想主義しか見れない夢想家であるとも。

「オールドタイプと言う大多数による少数民族の圧迫、弾圧、民族浄化。歴史上何度も何度も繰り返されてきた虐殺と言う惨劇の繰り返しになる。そしてそれに抵抗するニュータイプ。
少なくとも、オールドタイプとニュータイプの人口比が6対4程度まで来ない限りニュータイプの統治が行われる事は無いでしょう。
特にニュータイプの定義が曖昧であればあるほど、ニュータイプ内部でも分裂してしまう。それはそれはとても悲劇だ。或いは悲劇を通り越して喜劇扱いされるかもしれません」

椅子から立つ。
もう時間だ。帰らねば。妻と子らがいる場所に。

「中佐、私は今の話をしていて改めて思いました。ニュータイプ思想は新たなる差別と弾圧を生むだけの道具になるのではないか、と。
・・・・・・・・・・・・・・・もちろん、そんな時代が来ない事を私は願っています」




宇宙世紀0080.04.05、地球連邦軍は遂に特別選抜州であるイスラエル領の半分を喪失した。
特別中立都市であるイェルサレム(他にはヴァチカン、メッカ、メディナなどがある)を放棄。ここにアラビア州はサウジアラビアまで戦線を後退させ、実質の中近東全体の支配権も失う。
中近東全域で行われた大規模反攻作戦、「明けの明星」作戦はジオン軍のドム・トローペンを中心としたノイエン・ビッター少将指揮下の第2軍により粉砕された。
中近東に展開していた28万名の陸上兵力中、22万名を戦死或いは捕虜とされる大損害を負う。ここに戦争の長期化は決した。

その最中、一人の青年士官が中立都市にして最大級のスパイ合戦が繰り返されている都市テル・アヴィヴで一杯のウィスキーを飲んでいた。
アイリッシュ・ウィスキーの苦みとコクのある味が口元に広がる。
夏服を着た、市街地戦迷彩式。サングラス、懐の拳銃ホルダーにはガバメントと呼ばれたアメリカ合衆国の拳銃。明らかに堅気では無い。

「お隣、よろしい?」

そこに一人の妙齢の女が腰かける。
バーカウンターに白ワインを一杯頼む。ついでに傍らの明らかに軍人としか見えない青年にも何か食べ物をと頼む。

「どうぞ、ミス」

男はそのままテレビを見続ける。サッカーの試合はやはり本場の地球圏が凄い。パスワークで一気にイタリアの選手が切り込む。
と、そのTV画面が突如歪んだ。ざーという昔ながらの音と共に画像が強制的に遮断される。
最近よくある電波障害なのか、と周りの客やジャズを演奏していたバンドの面々が達観しているとジオン軍の軍旗が画面一面に映し出された。
次に登場したのは多数の儀仗兵を後ろに従えた、この戦争の当事国の主であった。

『地球連邦市民の諸君、私はギレン・ザビ総帥である。私はここに重大な発表を行わければならない。
地球連邦政府の諸君も承知の通り、我がジオン公国の戦争目的は独立達成と言う正義の戦いである。
しかしながら、先のアラビア半島攻防戦や地球降下作戦、第1次、第2次地中海海戦での敗北にも関わらず連邦政府は未だ交渉のテーブルにつこうとしない。驚きと共に怒りを覚える行為である!
これは連邦政府が本来守るべき民を守らず、自らは安全なジャブローに籠もって市民を扇動している証拠であろう。
さて連邦市民の諸君、ここに我がジオン公国は改めて重大な発表をしよう。
真のジオン公国国民はこの戦争の長期化を憂いており、連邦市民諸君と同様に早期終戦、独立達成を望んでいるのだ!!
更に我がジオンは南極条約に基づいた捕虜、各占領地域の治安維持を行っている。これは地球連邦に対して我がジオンの誠意を知って貰う為である。
にも関わらず!! 頑迷なる現地球連邦政府は戦争の継続を選択した。これは愚劣なる地球連邦のその愚劣さそのものだ!!
私、ギレン・ザビは地球に住む全ての市民に問い質したい。ここに至って打倒されるのは本来誰であるのか、と!
地球の南米にある連邦軍本部ジャブローと言う安全な場所に居る腐った現連邦政権上層部こそ我らジオンと連邦の共通の敵なのだ!!
地球連邦の市民諸君、いまこそ立てよ市民。ジオンは諸君らの・・・・』

と、そこで演説が強制的に終了され、テロップが流れる。

『善良なる地球連邦市民は独裁者の戯言に耳を傾けてはいけません。最後の戦いまで我々は団結します、そして共に肩を組んでこの戦争に勝利しましょう。
その為には全ての連邦市民がこの戦争に協力する必要があります。ジオンのスパイを見つけた場合は最寄りの連邦軍までご連絡を』

連邦政府も躍起になって火消しをしているが間に合ってないな。
そういうささやきが聞こえる。もともとこの地域の州構成国であるイスラエル政府とパレスチナ自治政府は歴史的な大対立がある。自治政府の中にはジオンの地球侵攻作戦を歓迎する動きや風潮もあるのだ。
これで長引いたユダヤ支配から父母の大地を取り戻せると言うパレスチナ過激派と今こそ祖国防衛の為に裏切り者を潰すべきというユダヤ過激派の双方がぶつかり合い、ジオンでさえこの地の内陸部には纏まった戦力を展開してない。泥沼化を恐れている。

(これもギレン・ザビの狙い通りか。
宇宙世紀30年代に没落していくアメリカ合衆国を見限り、地球連邦政府に直接影響力を持つようになったイスラエルを分断する事で継戦派と終戦派を生み出す。全く大した戦略家だ)

この中近東の『約束の地』は数十年ぶりに大乱へと突入していた。
各地でテロが相次ぐ。それは反地球連邦であり、反ジオン公国であり、反ユダヤであり、反アラブであり、反パレスチナ、反ムスリムと実に様々だ。
そんな中の、紅いスーツ姿の女。この暑い中一人でバーに入ってきた風に装うが、青年士官は気が付いていた。
何人もの護衛役が一緒にバーに入って来た事を。

(つまりは自分が雇った護衛は始末したか。なるほど、手の込んだ事だ)

その女は自分に貸しを作りたいのか、いろいろと注文してくれるらしい。危険な感じがするが良い匂いの女だ。男なら抱きたい女の候補になるだろう。

「ねぇ大尉。貴方がこんな場所で飲んでいるのは御身の為、かしら?」

そう言ってきた。猫のような甘い声で、突然の発言だが何が言いたいのかも分かる。
だが、分かったが分かったと馬鹿正直に言って良いものでは無い。まして相手の正体が分からない以上は。

「仰る意味が良く分かりませんね、ミス。
それに私と貴女は今日初めてお会いしたはずですが。それをここまで良くされるとは誘われていると思ってよろしいかな?」

そう言ってサングラスを外して右手を隣の女性の肩に置く。
女性は更に背をもたらせる。女性特有の良い匂い、シャンプーの匂いが鼻につく。どうやらハニートラップを仕掛けてきた様だ。

「誘ってはいませんよ、シャア・アズナブル大尉」

そう言ってその女性は離れる。
その一瞬の瞬間に自分の懐にメモリーディスクと名刺をケースごと入れた。何事も無かったかのように一度距離を取る二人。

「そのままお聞きを・・・・・ダグラス・ローデン准将とアンリ・シュレッサー准将、それにマハラジャ・カーン中将が大尉の擁護に回ります。
しかる時機が到来した後にしかる地位に大尉を戻します。もちろん、階級もそれに合ったものになるでしょう」

そう言いつつ、彼女は紅のスーツの胸元のボタンを外す。傍から見たら商売の為に男性を誘っているようにしか見えない。
これが謹慎中では無かったら自分も疑わずにこの女性の誘いに乗っただろう。
だが、ドズル中将から干され、サスロ・ザビとギレン・ザビの監視下にある地球攻撃軍に編入された時からこの手の危険性は避けるべきだった。
それに今はララァがいる。下手に女性に手を出して彼女を裏切る気にもなれない。ニュータイプ同士という以前に一人の女性と一人の男性として。

(ララァは私の母となる女性だ。それを裏切る事は出来ないな)

と、紅のスーツを着た白人の女がグラス片手にまたもやしな垂れる。
肩と肩が接触し、むき出しの腕からスーツ越しの女の体温が伝わってくる。全く手慣れた女だと大尉と呼ばれた男は思った。
アイリッシュ・ウィスキーを一杯口に含む。

「ふふ、大人の女はお嫌いですか・・・・・キャスバル様?」

辛うじて聞き取れる声。
甘い囁きの裏にあったのは毒。
古代から言うではないか、綺麗なバラには棘がある、と。そして棘に刺された姫君は永い眠りにつく、と。童話でもあったろう。

「!?」

驚きを堪えた。この時の自制心の強さは自分でも驚嘆に値する。この時に無駄な事を言って他の連中に正体を悟られる訳にはいかないのだから。

「ダグラス准将とアンリ准将、それに月面都市群総督のマハラジャ提督の支援があるのと無いのとでは大尉の目的の達成方法にも大きな差が出ると思われます。
先程渡した先に是非ご連絡を。全身全霊をかけてお相手しますわ、赤い彗星」

にやりと笑う彼女の胸元に、下着と女性特有の豊満な合間に5000テラ札を入れる。

「楽しませてくれたお礼です、ミス・・・・」

そう言えば名前を聞いてなかった。それを思い出したシャアは彼女に敢えて名前を聞く。儀式の様なものだ。
お互いがお互いを知っていると言う儀式。それに利用される気はない。黙って神輿になる気もない。自分は自分だ。
ザビ家に復讐するのは自分の権利であり義務だ。誰にも譲らない。誰にも、だ。
その為には何でも利用しよう。その後の事など知った事ではないが、な。

「ジェーン・コンティと言います、若旦那様」

そう言って優雅に彼女は椅子から降りる。
金髪の長い髪を靡かせて紅のスーツを着た女性は砂塵舞う街の奥に消えて行った。




宇宙世紀0080.04.06。南半球が夏から秋へと変わる季節。
地球連邦政府がある南米のジャブロー。大規模な軍の空輸計画が立案、開始された。
北米のフロリダ、カナダを経由し、統一ヨーロッパ州アイルランドのベルファスト基地に120万の大軍とそれを支える物資数1000万トンを数か月かけて空輸するというのだ。
更にジャブロー守備の南米・中米の合同艦隊である第12海上艦隊と直轄領と特別選抜州出身者で構成された第15海上艦隊も護衛に出す。
目的地はニューヤーク海上港。ここに連邦海軍二個艦隊と北米州の第1海上艦隊(空母機動艦隊)を中心とした部隊を派遣する。
この報告をレビル将軍は自分の執務室、ではなく、地球連邦安全保障会議の会議室でエルラン中将、ゴップ大将、ブレックス・フォーラ准将とキングダム首相ら内閣の面々と共に聞いた。

「レビル将軍、貴官を、ルウム敗戦の責任を免責してまで連邦軍最高司令官に就任させたのは勝つためだ」

これで何度目だろう。
ヨハン・イブラヒム・レビルはうんざりした。
地球に帰って来たと思ったら労いの言葉でもなく第一が本当に勝てるのか?
だった。確かにルウム戦役ではジオンに大敗したがいきなり勝ってるのか、勝てるのか、は無いだろうに。

(軍人に聞く言葉では無いでしょうな。全く)

そう思ったが、彼ら後が無い連邦政府の力が無いと自分もまたジオンに復仇戦を挑む事が出来ない。だからエルランを通じて連邦内部を説得したのだ。

『ジオンに兵なし』

『今こそ反撃の時、地球が無傷である限り連邦政府も連邦軍も負ける事は無い』

その説得は功をそうした。自分でも予想以上の成果を上げた。精々連邦軍の一司令官かと思っていたら連邦軍総司令官に就任したのだから。
地球連邦政府、というよりキングダム内閣府は連邦成立史上初めての戦争の敗北者と言う汚名を甘受できないが為にジオンとの徹底抗戦を主張してくれた。
他にもいろいろ理由があるのだろうが、それで十分だ。今のところは。
私自身にとっても。ルウム戦役で敗北したと言う自らの恥辱を雪ぐ好機をくれた、ジオン公国の愚か者であるデギン・ソド・ザビに感謝している。とてもとても感謝している。本当だ。

「それなのにルウムでの負けを取り戻すどころか、ヨーロッパの過半を、我々の大地をジオンを名乗るスペースノイド共に奪われたわ!!
今残っているのはフランス北部、ベルギー、オランダ、リヒテンシュタイン、イギリス、アイルランドのみよ。どうしてくれるの!?」

この中で唯一女性である首席補佐官の一人がヒステックに叫ぶ。野次を飛ばすだけなら誰でも出来るのだがそれが分かっているのやら。
あの時、MSを経済面から脅威と断じたウィリアム・ケンブリッジ君の様な優秀さを求めるのは酷だろうか? だが、彼女は当時の彼と同じ役職であろうに。
エルラン中将がその責任は後で論じるべきだ、と言っているが焼け石に水か。それに彼女のいう事は別の意味で正しい。

「そもそも地中海経済圏と大西洋経済圏の二つが崩壊した今、戦争の長期化は北米州を中心とした太平洋経済圏の連中を利するのみ。
何としてもヨーロッパ全域とオデッサ資源地域の早期奪還を行わなければなりません。それが分かっているのですか!?」

机まで叩くとは。カルシウム不足だな。良くない傾向だ。
後で首相にそれとなく彼女を遠ざける様に頼むか。私好みでは無いしな。

「しかし首席補佐官殿、我が連邦軍の現有戦力でオデッサ奪還は不可能です。あと二か月は待ってもらわないと。
ジオンの新型MSドムの改良型やグフ、ザクなどもおります。陸戦型ジムや陸戦型ガンダム、陸戦用ジム、通常型ジムらの生産、配備、移送がひと段落する8月、いえ、7月中旬まではお待ちください」

エルランが実に良識的な事を言ってくれる。
一度行われ、海上で捕捉撃滅された大陸反攻作戦の頓挫はこちらにとっても失態だった。
本来であればもっと時間をかけて行うべき作戦を、かつてのナチス・ドイツ並みの電撃戦で欧州全土を席巻するジオン公国軍の地球攻撃軍の動きに連邦政府と一部の軍部が焦った。

(戦場で焦るとは命取りになるのだがな。全く、無能共が。度し難いな)

本来であれば十分な艦隊の護衛を付ける筈が、第13海上艦隊しか護衛につけられず、艦隊と共に大西洋に沈められた。タイタニック作戦とジオンが揶揄した輸送作戦であった。
この喪失劇から第一次大戦以来の海上護衛の重要さを再認識するという、殆ど戦訓らしい戦訓を得る事も無く敗北しただけの戦。
もっともレビル将軍個人としてはこの時点では関与してなかったので問題は無かったのだが。問題があったのは強引な軍事への介入を行ったキングダム首相だった。

「しかし!」

またもや首席補佐官の女性がヒステリックに叫ぶ。叫んだところでジオンが軍縮してくれる筈もないし、叫んで勝てるならルウム戦役は叫べる人数の差から我が軍の大勝利に終わっただったろう。
地球連邦安全保障会議に出てくる面々は変わらない。
首相と内務大臣、二人の首席補佐官、ゴップ大将、エルラン中将、私、そして最近副官の様な立場として動いてくれるブレックス准将。
総勢8名。他にもたくさん居たのだが各州の横やりや責任問題の追及で失脚している。よくもまあこれだけ内部抗争していてジオンに勝てると思っているものよな。

「まあまあ、みなさん落ちついて下さい」

青いまま黙っている首相や何事かを考えている能面の内務大臣、息を整える女性首席補佐官とうんざり気味の首席補佐官。
ブレックス君が取りなす。どうやら落ち着いた様だ。まったく、これだから最近の若い者は。まあ、ケンブリッジ君の様な例外も存在するが。

「とにかく、連邦軍としては宇宙世紀0080.08.07下旬に反攻作戦を行う予定です。それまではブリュッセルを中心とした地域を保持しつつ、各ヨーロッパ地区へ高高度無差別空爆に、オデッサ鉱山・工業地域の奪還を前提にヨーロッパ方面軍を動かします。
地中海方面、中近東はオデッサの後、という事でお願いします。また北米州にも空輸、海路護衛を任せておきます。戦略機動は彼らの得意分野ですからな」




宇宙世紀0080.06.03.地球降下から約二か月。ホワイトベースは度重なるジオン公国軍の追撃を尽く撃退し、単艦では考えられない戦果を挙げた。
アムロ・レイの乗るガンダム(NT-1アレックス)を中心に、スレッガー小隊やセイラ・マス曹長の乗るRX-78-2らはジオンの勢力圏を横断。100を超す敵軍を撃破した。
その戦果たるや確たるものである。

「ようやく味方の勢力圏内か」

ホワイトベースはシャア・アズナブルの攻撃でルーマニア北部地域に降下した。正確には降下させられたと言い換えて良い。
地球連邦の新造艦とはいえ、敵地のど真ん中に降下させられた時、艦長代行のブライト・ノア中尉は血の気を失い、自室で吐いた。その絶望さ故に。
が、マ・クベ中将はこの時期を地中海戦線の安定化と中近東全域の支配権確立、非連邦加盟国(枢軸国)との補給線確保、各構成国の分断、ロシア極東軍の寸断の為に戦力を費やした為、組織だった追撃はさほどではなかった。
それでもランバ・ラルが乗った新型機、恐らくグフの発展型である『イフリート』と呼ばれる機体を使った『青き巨星』の追撃、ドム三機で構成された『黒い三連星』との遭遇戦、撤退中の『闇夜のフェンリル隊』との遭遇戦など多くの苦難に出会った。
それでも漸くここまで、オランダ領内にまで来た。すでにフライマンタ戦闘爆撃機36機が護衛についてくれている。

「艦長。先行する第203航空隊より連絡がありました。
貴官らの勇戦に敬意を表する。なお、アルステルダム基地到着後は我らの秘蔵を奢る、です」

オペレーター席で見習士官用の赤い制服を着たセイラ・マス曹長が答える。今は緊急事態では無いので彼女が通信を担当している。
彼女自身もRX-78-2ガンダムのパイロットとしてホワイトベースを守ってくれた。ランバ・ラル戦と言う非常事態にはザクを1機撃破している。それが彼女の初陣。性能差に助けられたがそれでも凄いものだ。

(ホワイトベースが全て避難民と徴用兵士だけで連邦勢力圏に行けと言われた時は死んだと思ったが・・・・なんだろうな、この奇跡的な人員は。
それに急成長するアムロ、スレッガー小隊を構成するスレッガー少尉らも良くやってくれた。パイロットの犠牲なしとはそれが凄い戦果だ)

他にもカイやハヤトら民間出身のエースパイロット(実際はドップやマゼラ・アタックばかりだが)、ルウム戦役を戦い生き残ったスレッガー小隊らも連邦広報部の格好の宣伝の的である。
どうやら、あの『黒い三連星』と『青き巨星』を撃破、戦死させた事が大々的に連邦軍全体に知れ渡っているらしい。

(これはひょっとしなくても英雄として迎えられるのか?)

ブライト・ノア大尉(数々の功績により戦時昇進済み)は高鳴る鼓動を抑えきれなった。
実際、連邦軍が援軍らしい援軍を送った時点でアムロ・レイの撃墜スコアは50を超えており、ガンダムアレックスの活躍と共にジオン軍全体に知れ渡っていた。

『連邦の白い悪魔』、ここにあり、と。

そうだからこそ、連邦軍もなけなしの援軍をホワイトベース救援部隊として送った。
あの時は嬉しかった。自分たちは見捨てられていた訳では無い、そう感じた。そう信じられた。
戦車80台、戦闘爆撃機48機、制空戦闘機36機、戦闘ヘリ24機になけなしのビッグ・トレーまで。
まさにヨーロッパ方面軍全軍で迎え入れた。
しかもこの時、ジオン軍の一部であり精鋭部隊の闇夜のフェンリル隊がそのビッグ・トレーを強襲し、多数の護衛部隊が壊滅。
ビッグ・トレー自らも壊滅寸前に追い詰められたが、ホワイトベースと、ガンダムをはじめとしたホワイトベースの艦載機はそれをほぼ独力で撃退している。
この時のジオン軍はグフ・カスタムと呼ばれるグフの改良型やドムの改良型、ザクS型で全てが固められていた。にもかかわらず、MSで一日の長がある筈のジオン軍に対してホワイトベース隊は自軍艦載機を一機も失う事無く撃退したのだ。
これで地球連邦ヨーロッパ方面軍の心象と心証は大きく高まった。

『ホワイトベースとガンダム(白い悪魔)こそ救世主である』。

と。
ただブライト大尉が思った通り、この時点で(サイド7から成り行きで)ガンダムNT-1アレックスに乗っただけの、学徒兵でさえなかったアムロ・レイ少尉(戦時昇進)の成長は異常である。
精神的なモノは、何故だかわからないが敵である筈のランバ・ラルが鍛えたようだ。それにスレッガー小隊と模擬戦闘も繰り返した。が、それでもこの技量の向上は妙だ。正直言って恐ろしいものさえ感じる。

(まさか例のニュータイプとでも言うのだろうか? そう言えばアムロもセイラも妙な事を言っていた。見えない筈の敵のパイロットの意思や次の動きが分かる、と。
ならばこれは一度検査をしてみてはどうかと二人に提案して見ようか? 
流石に軍の医療訓練でもニュータイプの判別なんて無かったからな。何かの精神異常であれば早めに除隊を検討させた方が二人の為だ)

と、急に青いものが見えてきた。

「ブライト、どうやら大西洋よ」

そう思っているといつの間にか海が見える。ミライ・ヤシマ准尉が操舵席から伝えてくれる。艦橋からは先導するフライマンタ隊と大西洋が見えた。
ここでフライマンタ戦闘爆撃隊が一斉に編隊を二つに分裂させ、ターンをして交差する。恐らく歓迎してくれているのだ。

「ああ、ミライ。ようやくたどり着いた」

こうして彼の役目は一先ずにしろだが、終わった。




4月上旬。地球連邦軍がザビ家の末子、ガルマ・ザビを捕虜にしたという報告は両軍の暗黙の合意により徹底して規制をかけられた。
これが知れれば両軍ともに意図しない戦線の拡大を引き起こすからだ。
そして連邦軍への懲罰部隊(ガルマ・ザビ奪還部隊)として送り込んだランバ・ラル隊、黒い三連星、闇夜のフェンリル隊が相次いで敗死、戦死、敗退した事を受け、ジオン軍はガルマ・ザビ奪還作戦を中止した。
この吉報に、連邦軍上層部や連邦政府、特に北米州は色めき立つ。特別の外交カードが向こうから転がり込んだのだから。
これは大きい。そしてその功績があった連邦軍の第14独立艦隊の将兵全員が昇進する事になった。
もっとも口止め料でもある。事実、捕縛したパイロットは脱走を図り銃殺され死んだと公的には伝えられた。
という理由から、彼らの昇進の理由はジオン軍の新型MS、MS-14Sゲルググ指揮官機を捕縛したという点であると説明される。

「おめでとう、カムナ君」

「おめでとうございます、カムナ大尉」

「おめでとうでやす、兄貴」

大尉に昇進したカムナ・タチバナは小隊の同僚からの祝杯を受けた。勿論その前に彼らを祝う事を忘れない。
昇進の功績は全員が平等だとしたが、なかでも直接自分の手でゲルググを回収したカムナ・タチバナ大尉は地球連邦栄誉勲章までもらっていた。
もちろん、これが口止め料であり、極東州の方面軍司令官として辣腕を揮う親父の影響である事も分かっているがそれでも彼らにとっては誇りに思える事だ。

「ああ、何というか奇跡的と言えば良いのか分からないが・・・・・ありがとう」

これは本音。
軍服姿で集まったカムナ・タチバナ大尉の個室で開かれるささやかなパーティ。これと同じ事がレイヤー大尉やヒィーリ大尉らの個室でも行われている筈だ。
取り敢えず今はこの勝利を祝おう。全員があのルウム撤退戦から生き残り、その後の第9次地球周回軌道会戦でも生き残った。
他の独立艦隊や偵察艦隊の損耗率が50%から酷い時は100%という最悪の数値をマークし続ける中での全員生還、だ。この奇跡に今は感謝しようではないか。

「レイヤー大尉らとも後で合流するんでしょ?」

同期生としての口調に戻ったシャーリー・ラムゼイ中尉が聞いてくる。噂によるとファング2のレオン中尉が好みだそうだ。
まあ、詳しくは聞けないので聞かない事にしているのだが。
嘘を言う必要もないので、ビールの缶を一本あけながら頷く。摘みの枝豆の塩分が効いていて美味い。

「そうだ。小耳にはさんだんですが、兄貴の親父さんもキャルフォルニア基地に来るとか?」

そっちは初耳だ。あの極東州方面軍司令官に就任した親父が故郷の日本を離れて態々北米に来る? 何故? またぞろ嫌味を言いに来るのか? 指揮官の義務を自覚しろとわざわざ言いに来るのだろうか?

『カムナ。お前は自分の立場を自覚しろ。兵士には兵士の、指揮官には指揮官の務めがあるのだ。
良いか、お前は私の言う通りに歩めば良いのだ。それを忘れるな。これ以上勝手な事をして私の手を煩わせるな』

父親の声が木霊する。

その父親だが、実は既にキャルフォルニア基地に到着していた。
そのまま中将の権限を利用して宇宙港に停泊中のペガサスに入る。タチバナ中将の連れには珍しい人物がいた。
ペガサス艦長のリム・ケンブリッジに、その夫、地球連邦内務省政務次官のウィリアム・ケンブリッジだ。
もっとも彼も無期限休職中の様なもので暇つぶしという面があるのだが。
ペガサスの中は最低限の将兵しかいない、
その中を、中将と大佐の階級を持つ軍服の人間に黒い高級スーツと薄い青色のシャツ、茶色の革靴を履き、連邦政府高官のバッチとカフリンクスを付けた男。
案内役を頼まれた将兵は内心ガチガチであった。そのまま司令官室まで彼ら3人を連れてくる。

「失礼します!」

掛け声とともにドアを開ける。
中にはつい先日に大佐から准将に昇進した将官がいた。名前はエイパー・シナプス。
負け続きの連邦宇宙軍の中で唯一と言って良い程、勝ち星を挙げている司令官だ。
4月上旬の第9次地球周回軌道会戦やその前に発生したサイド7防衛戦でも赤い彗星を退けている。

「ケンブリッジ艦長、ケンブリッジ政務次官、タチバナ極東州方面軍司令官をお連れしました。入室許可をお願いします!」

いつも以上にしゃちほこばった従卒を笑いながら下がらせるシナプス准将。
何度も言うが彼らの挙げた功績、『ガルマ・ザビ』ルウム方面軍大佐の捕縛は北米州にとって最良のカードだった。
これがガルマ・ザビの戦死だと、ギレン氏の事だ。逆にジオン軍全体の士気高揚につながり、仇討ちとしてザビ家の戦意を高めるだけだっただろう。
だが、北米で生きているとなると話は別だ。
今は軍の特別官舎に軟禁中だが、生きている限り、父親デギン・ソド・ザビが彼を公的に見捨てない限り、か、彼は外交カードの一枚として存在し続ける。
しかも公的に見捨てればそれはそれで連邦政府にとって新たな手をうつ好機となる。

『実の息子さえ見捨てる薄情な家系。兵士も確実に見捨てられるだろう』

とでも言えばよい。宣伝戦で勝利する良い題材になる。
もっとも、今日集まったのはその為では無い。もっと身内の事を話す為だ。

「久しぶりですな、中将」

シナプス准将が敬礼する。それに笑いながらタチバナ中将も答える。

「なに、あまり礼式に則りすぎたものも考えものだ。少し気楽にいこう」

そうして全員が司令官室用の来客用ソファーに座る。
一人かけ使用のソファーにはタチバナ中将が。その右側の三人使用のソファーにはシナプス准将が。その向こうにはケンブリッジ夫妻が。

「ではシナプス、貴様の昇進を祝って乾杯と行こうか」

タチバナ中将が私物の鞄から、これまた私物の日本酒を2本出す。
シナプス准将も四つのグラスと共に冷蔵庫から氷をだした。それを見てタチバナ中将が日本酒をグラスに注ぐ。透明な液が重力にひかれる。

「やれやれ。タチバナ、貴様が海軍を選び、42年の第5次台湾海峡事変で功績を立てて出世してからこうして飲む機会はめっきり減ったな。
偶には同期会に参加しろ。仕事を優先するのは良いが、優先しすぎるのはお前の悪い癖だぞ。
同期の連中もいつまでも生きてはいない。ルウムやオデッサ、ヨーロッパで戦死した連中も多いしな」

実はこの二人、シナプスとタチバナは同期生である。
海軍を選んだタチバナと宇宙軍を選んだシナプスだがフィーリングが合うのか昔は良く一緒にいた。所謂、昔でいう所の「俺、貴様」の仲である。

「ああ・・・・・失ってみて初めてその重みを実感したよ。シナプスも知っているだろう。あのカニンガムが死んだのだ。
他にも一杯死んだ。俺が地球で宇宙を見上げているその瞬間に」

日本酒特有の匂いがする。少ししんみりとした雰囲気になったが、それを慌ててタチバナ中将が消し飛ばす。

「いかんな。ああ、ケンブリッジ君。君たちも飲みたまえ。生きている人間にはそれくらいしか出来ないのだから。
今日は大いに騒ごうではないか。嫌とは言わさんぞ?」

そう言って飲ませる。これが日本でもかなり高価な冷酒であるのは先ほど聞いた。
全員が夕食を食べ終えた後とはいえ、これでは物足りないと思ったウィリアムがPXで購入してきた多数のジャンクフードやチーズなどを紙皿に取り分ける。

「おや、気が利きますな。流石は未来の首相ですかな?」

シナプス准将が面白半分にからかい、妻がそれに悪乗りする。
そんな雑談の中。

「なあ・・・・・シナプス・・・・・あの子は役に立ったか?」

日本酒の2本目も空にして、シナプス准将が秘蔵のウィスキーと自分たちが持ってきたベルギービールを飲みながらタチバナ中将が問う。

(ああ、そうか。これが聞きたくて態々4人で飲み会をするなんて言い出したのか)

ウィリアムはビールに口をつけながら思った。
彼、ニシナ・タチバナもまた父親なのだ。自分もあの戦場で一番に思った事は長女のマナと長男のジンにもう会えなくなるという恐怖だった。
そう考えると辛かっただろうな。タチバナ中将は軍人家系の出身だ。だからこそ愚痴を、恐怖を言う相手がいなかったのだろう。
答えたのはリムだった。

「ご子息のカムナ・タチバナ大尉は良いパイロットであり、良い指揮官です。それは艦長の私が保証します」

その言葉を聞きたかっただろう。傍目にも安堵の溜め息をしたのが分かった。少し酒臭いがそれは全員だろうから構わない。

「そうか。あいつはまだ指揮官としての義務と兵士としての義務を理解してない。だから困っていたのだが。
少しはこれで成長してくれるとありがたいものだ。私もいつまでも現役で、いや、生きてはいられない。それを子供に知れと言うのは酷なのは分かるが知ってほしいものだよ」

正直言ってカムナらが後方の教官職勤務になった事はホッとしている。あの子らは前線に出る必要が無くなったのだ。
それはタチバナ中将らしくない言葉だった。

「親は死ぬのだ。その時までに子供に何を教えられるのかな? 私は何としてもあの子にタチバナの家訓と軍人の本質を教えたい。
あの子がいつか結婚し、子供を持ち、父親になった時。決して恥じる事の無い立派な軍人になっていて欲しい。
もしもカムナが軍人以外の別の道を選んだのならそれを応援しよう。それも分かっている。だが、軍人としての道を選ぶのならば私の言う事を忘れないで欲しいものだ」




次の日。宇宙世紀0080.04.09.
私、ウィリアム・ケンブリッジは高速機『スカイ・ワン』の機上の人になった。
思えば、(何故か知らないが)、この機体を預けられたのが全ての元凶の気がする。現地の時間帯は既に午後になるかならないかの時間だ。
ご飯のサンドウィッチを食べ、コーヒーを飲む。実に健康的だ。あの思い出したくもないルナツーの独房生活から一変してこの生活。
次は冗談抜きに最前線に送られそうだよ。でなければアル・カポネの様に刑務所に行くのか? 政府との裏取引以来、自分は碌な想像が出来ない。

「閣下はこれから北米州大統領のブライアン氏にお会いします。その際の服装はいつものアルマーニのスーツで結構ですが連邦政府役人を示すカフリンクスだけは付けてください」

ミス.レイチェル少佐が私に頼む。
今回は新型ガンダムである『アレックス』とプロトタイプガンダム双方の性能を間近で見た自分の意見が知りたいと言う名目だ。
しかし私はその名目を信用しない。そんな事は寸断され気味とはいえ一枚の情報メモリーディスクを郵送すれば事足りる。
それをしないと言う事はもっと面倒な事なのだろう。家族を、ジンとマナの二人を妻に預けて良かったと思えるほどには。

「お子さんの事をお考えですか?」

支給された緑茶に手を付けつつ、ミス.レイチェルが尋ねてきた。どうやら本当に良く顔に出る性格らしい。直さないとまたぞろ厄介ごとを押し付けられそうだ。
今回も顔に出たのだろうか? それとも別の要因があったのか? 知りたい様な知りたくないような。

「・・・・・・そうだね。二人とも大きくなった。特にお兄ちゃんである事を自覚したのかジンはとても賢く成長したよ。
嬉しいような、寂しいような複雑な気分だ。あんなに一緒だったのに・・・・・気が付けばもうこんなに違う。男親とはこんな心境なのかな?」

答えなど求めない独白。今年で40代後半になる彼と29歳の才女では人生経験が全く異なるのだ。応対するのが無理だろう。
そう思っていると機長からアナウンスが入る。まもなく当機は着陸します。シートベルトを着用してください、と。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか。
宇宙世紀以前から続くこの政治の魔都ワシントンで俺は一体何をさせられるのかな・・・・ハッキリ言ってどうせ碌なモノじゃないし、言うまでもなく無理難題なんだろうけど」

幸い、このボヤキは誰にも聞かれる事は無く『スカイ・ワン』はワシントン国際空港の特別機専用ポートに着陸した。
飛行時間は凡そ4時間半であった。流石、宇宙空間での使用に耐えるだけの事はあるなと私は場違いにも感心した。

「こちらです」

ミス.レイチェルが私を案内する。
私の荷物も彼女の荷物もアタッシュケースとボストンバッグ一つずつだけなので(他は政府の官給品が宿舎に置いてある)非常に身軽だ。
タクシーは日本産の電動自動車。この点(自動車産業)で、祖国アメリカは完全に後れを取った。もう挽回は不可能だろう。彼ら極東州とは50年程差があると言われているし。
つまりだ、20世紀末の大燃費、大型車路線は失敗したのだ。
今、アメリカが何とか世界一位の地位にあるのは空を支配して、宇宙にも支配権を伸ばしたからに過ぎない。いや、宇宙開発が一番の影響を持っていたが。
地上の鉄道網、船舶、車は極東州の三カ国が首位を奪っている。あの三カ国経済特区とでも呼ぶ地域は尋常では無い程の経済力を持って祖国アメリカに追い付いた。
追い付いてないのは軍事力だけであるとも言われている。逆に言えば軍事力を北米州や地球連邦軍に依存したからこそ現在の地位を得たのだった。

「政務次官は目的地到着までこちらの書類に目を通してください」

そう思っていると現在の新聞や報道から大まかな情勢を分析した紙が手渡される。それ程厚くもないが簡単に読み終える程薄くもない。
まあまあといった程度の紙である。良く見たらタクシーの運転手の隣にダグザ少佐が乗り込んでいた。
黒いスーツの上下に白いシャツ、紺のネクタイに無線機付きのサングラスだった為気が付かなかった。

「あれ、ダグザ大尉、いや少佐?」

彼が振り返る。

「はは、時間のお蔭で昇進できました。
それにしてもお久しぶりですな、政務次官。キャルフォルニア基地での休暇はどうでしたか?」

久しぶりに会った彼は少し角が取れていた。とても親しみやすくなっていたのでちょっと話し込んでしまう。
ふと後ろを見ると二台の軍用ジープが付かず離れずの距離を保ちながら私たちを追ってくる。きっと護衛だろう。
そう聞くとその通りです、とダグザ少佐から返事が来た。また談笑する。

「・・・・・お読みになりましたか、政務次官」

おほん。ミス.レイチェルがわざと咳をして注意を逸らす。私は慌てて書類を読み込む。
だが、読んでいて嫌になってきた。それは我が連邦政府が如何に無計画な戦争計画を立ててこの戦いに臨んだかを物語っているのだから。
これは情報部が編集したとはいえ、民間向けの情報から導き出された書類の筈。それがこうも酷いとは思いもしなかった。
ならば現実はもっと酷いのだろう。私が相手にするのはそう言った最悪の状況のようだ。そう気を引き締めて白い館を中心とした特別な地区へ私は向かった。

(私達、地球連邦は勝てる筈の戦争を内部抗争や派閥争いで失いつつあるのか。死んでいった将兵、市民全員への冒涜だ)

そして日付が変わり0080年4月10日。
私はしっかりと自前のアルマーニスーツを着て白い館に午前9時30分ちょうどに大統領執務室の控室に到着した。
警備の兵士がボディーチェックをする。私はずっと前から支給されていた連邦軍の軍用拳銃を警備に渡して部屋に行く。
控室に入って20分ほど。私の前に驚くべき人物が座った。

「ブレックス准将!?」

「久しぶりだね、ウィリアム君」

人の良さそうな准将はにっこりと笑いながら私の空になったコップにコーヒーを注ぐ。
ホットコーヒーの熱い湯気が部屋と心に沁みる。
と、控室と廊下を結ぶ分厚いドアが開いた。

「なんだ・・・・・ウィリアムもブレックスももう来ていたのか」

そこから入ってきたのはジャミトフ先輩だった。二人の有力な准将の唐突な登場に思わず立ち上がり頭を下げる。

「ウィリアム君、頭を上げてくれ」

「ウィリアム、何をしているのだ? お前が頭を下げる必要がどこにある?」

そう言われて漸く頭を上げた。そして次の瞬間、二人が頭を下げた。

「!?」

驚いて声も出ない。
ぐらりと視線が揺らぎ、後ろ向きに倒れて控室のソファーに倒れ込む。

「あ、あの、一体どうしたのですか? 何故お二人が頭を下げるのですか?」

時間にして僅か5秒ほど。三人しか室内に居なかったのでこの光景を他に見た者は誰もいない。しかし、それでも驚愕だった。
この二人に謝られる様なことなどあっただろうか? いったい俺は何をしたのだろうか?
そう思っているとブレックス准将が徐に切り出した。君を政府の馬鹿共から助けるのが遅れた、申し訳なかった。すまない、と。
それで理解した。あの事か。ルナツーでの尋問と暴力といじめからの解放に骨を折ってくれたのは目の前の二人だったのか。不覚だ。気が付かなかった。

「こ、困ります。あれは連邦政府の決定でありまして・・・・そ、それを軍人である貴方方が覆しては文民統制の原則に触れますから。
むしろ私の方が助けて頂いたことに礼を述べるべきなのです。
本当にありがとうございました。そしてお手数をおかけして申し訳ありませんでした。」

しどろもどろに弁護する自分の姿を見て何とか笑みを浮かべるブレックス准将。ジャミトフ先輩は逆に眼光鋭くした。

(あれ? また何か地雷を踏んだかな?)

ジャミトフはこの期に及んでなお文民統制の原則を守ろうとするウィリアム・ケンブリッジに潔さと同時に危うさを感じる。

(ウィリアム・・・・・仮に彼の正義が両立出来ない場合、彼は何を選ぶのだろうか?)

自分が懇意にしている他の議員は大なり小なり自分の野心を優先させてきた。その結果がスペースノイドの言う地球連邦政府と連邦議員との癒着問題なのだが。それは一先ず置いておこう。
しかし、このウィリアムは別だ。彼は官僚としての出世さえ望んでいなかった。望んだのはたった一人の女。妻であるリム・ケンブリッジを手に入れる事だけ。

(ある意味で映画の様な、騎士道を具現化した、生まれて来る時代と場所を間違えた男がこのウィリアム・ケンブリッジなのだろう
我ながら厄介でかわいい後輩を持ったものだ。見捨てる気にならないのはそれ故か、この愚直さの為なのかな?)

ジャミトフ・ハイマン准将はそう思った。だからまだ彼を彼らの計画に加える訳にはいかない。自主的に彼が加わる日を待つ。

(ウィリアムが計画に加わるのはあくまで彼個人の判断。それを尊重しなければな。
何、北米州の州総代表でもあるブライアン大統領は彼を買っている上、州軍や連邦政府内部、連邦軍内部にも彼の心情的なシンパは多い。
このままならウィリアムが望むと望まずと関係なく、彼は我々と共同歩調を取るだろう。同じ理想を掲げる者として。同志として。
家族を守る、その為に現地球連邦政権と裏取引をしたのだ。既に禁断の果実を食べた人間に抑制は最早不可能だからな)

ジャミトフはひとまず、所用があると言って軍帽を被り直して部屋をでる。その際に銀のアタッシュケースも持ち出す。
軍内部の機密情報が入っているのだ。私はこの後に知らされるが、ジャミトフ先輩が持ち出したのはRX-78NT-1の戦闘データ。
後に、ジオンのエース部隊、ランバ・ラル隊を敗滅させ黒い三連星を戦死に追いやり、ヨーロッパ方面軍に蛇蝎の如く嫌われていた闇夜のフェンリル隊を壊滅寸前に追い込むホワイトベース隊のサイド7と地球周回軌道上での戦闘データだった。
どういった経緯か分からないが北米州はその極秘データを手に入れたのだ。独自のルートを使って。連邦が完全に内部分裂をしている証左である。
これを元に、北米州の無傷の工業地帯を利用して陸戦型ガンダムの量産体制を確立するのがジャミトフ先輩の今の仕事。
もっとも、その機体の大半は北米州軍に編入されるので、実際のヨーロッパ反攻作戦(私は既に取引された生け贄なのでかなり詳細を知らされていた。きっとまた犠牲のヒツジにする気だな、くそったれ!)には通常のジム部隊やジムの改良型が動員される。

「ところでウィリアム君」

ブレックス准将が話しかけてきた。
彼の服装はもう春になると言うのにコートを着ている。髭も豊かだ。自分が完全に髭をそり、髪も短髪にしているのとは大違いだな。自分の格好はローマ人の顔をイメージしてもらうと分かりやすい。
そう思っている。そう言えば黒人とアジア系のハーフの影響なのか、自分はどちらかと言うと彼らとは違いアジア系の肌に黒人の体格をしている。
オリンピックにでも出られそうだとは学生時代によく言われたものだ。実際陸上マラソンではかなりの好成績を出していた。まあ、一番好きなのは読書なんだけどね。

「何でしょうか?」

と聞き直しつつも、コーヒーをポットから出してブレックス准将の前に置く。
自分は砂糖とミルクをたっぷり入れる超甘党なのだが、あの体験入隊以来止めている。次にやったら確実に飲んだもの全て吐いて死ぬだろうからだ。
それは嫌だ。かっこ悪すぎる。いくら臆病者で軟弱者で、家族を安全な場所に送る為に蠢動した卑怯者でも最低限の矜持はある。と、思いたい。

「いや、君はかつてジオン・ズム・ダイクンが唱えたニュータイプについてどう思っているのかと思ってな。
現在の戦争はアースノイド対スペースノイドではなく、ジオン公国対地球連邦だ。しかもこれに第三国として非連邦加盟国が加わる。
そう考えればこの戦争は単なる利権争いだ。独立と言う利権とコロニー全体の支配権と言う利権を争う二つの陣営。
その中には、特にザビ家のギレン・ザビはニュータイプ理論について単なる方便としか考えて無い様だ。だが、それは違うと私は思う」

ああもう。またその話か。
これは教条主義的で厄介なんだよな。と言うかスペースノイドの開明派のブレックス准将でさえニュータイプ主義の虜になっていたとは。
予想外だ。普通、ニュータイプ主義はもっと若い、あのシロッコ中佐の様な人物が唱えるものだろうに。それともこれも何かの試験だろうか? あ、逆にブレックス准将程の人物だからこそ虜になったのか?

「ニュータイプ、ですか?」

頷くブレックス。どうやらあの時の事を言い直さなければならないらしい。
だから私は呼び出しが来るまで持論を展開した。ニュータイプが仮に発生したとしてもそれは少数にとどまり、弾圧や差別の対象になる。
ニュータイプ国家の建国はジオン公国以上に認められないだろう。
今のパレスチナやクルド人問題、バスク地方に中華地方の少数民族弾圧問題などの根深さを連邦政府が忘れる筈がない。
仮に少数民族であるニュータイプの国家建設を認めたら他の地域の少数民族(スペインのバスク人などもそうだが)の独立問題に発展する。
それはジオンと言うある種の隔離された5億人という大人口を誇るコロニー国家の独立問題以上にデリケートな問題だ。
この問題を蒸し返す気概のある連邦政府が登場するとは思えない、そう言って私は話を締めくくる。

「以上の点から、私は、ニュータイプとは概念的な問題として捉えても、決して表に、政治問題として出して良いとは思えません。
ニュータイプに囚われてしまえば大局を誤るでしょう。それは政治家として避けなければならないと・・・・」

と、ドアがノックされた。まるで聞かれていたように一人の女性が入ってくる。
彼女は自分の名前をアリス・ミラーと名乗った。
彼女は連邦軍の大尉である。表向きは。だが、私は知っている。この女性が別のアルバイト、いや本業を持つ事を。

「どうぞ、ブライアン大統領閣下がお待ちです」

そう言って私は大統領執務室に案内された。




ジオン公国はガルマ・ザビ捕縛の報告に揺れた。
宇宙世紀0080.04の最大のニュースであり、もっとも秘蔵されたニュースである。
この情報規制の為、アングラ放送のメンバーの何人かが永遠にこの世からサヨナラした程、ザビ家は徹底した情報管制を行った。
因みに最初の報告は最も単純で疑いないものだった。

『ガルマ・ザビ大佐、第9次地球周回軌道会戦にて戦死』

である。
この報告を聞いた時、父親デギンは、使者の眼前で公王としての立場を忘れただ茫然と杖を落とし、椅子に倒れ込んだ。
それはたまたまその場に居合わせたギレンの目にも見えた。
ギレンはいつかこうなるのではないかと思っていたのである程度の対応が出来たのだが、父親は根拠の無い楽観論に支配されていたのか、ガルマの死を受け入れられなかった。

「・・・・・・ガルマ・・・・・・そんな」

彼は、デギン公王はそうとだけ呟いた。
それから1週間後。ウィリアム・ケンブリッジから詳細を知ったブライアン大統領は極秘にサイド6リーアのアリス・ミラー大尉に連絡する。
ジオン公国のザビ家と接触する様に命令した。
その日から更に10日後。

因みにランバ・ラル隊がザンジバル級とMS-08TXイフリートとグフB型4機、ザクⅡJ型4機を用意して地球に降り立った日がその5日前。

ドズル・ザビの半ば私情の命令で行われたホワイトベース討伐作戦が失敗した日から更に15日後。
ウォルター・カーティス大佐(ルウム方面軍司令官、ガルマ・ザビの後任)、シーマ・ガラハウ中佐を経由してかの報告がサイド3のギレンの下にもたらされた。

『ガルマ・ザビ生存』

その報告に感極まったのがドズルであった。ドズルがガルマを溺愛しているのはザビ家の中では常識以前の事。
そうであるからこそ、ギレンもまたこの報告をザビ家内部では一番先にドズルへとした。余談だが、ドズルは全軍の総司令官としてサイド3で指揮を取っている。
ちなみに司令官の内訳はこの通りになる。

ソロモン要塞司令官、ユーリ・ハスラー少将。
ア・バオア・クー司令官、トワニング准将。
グラナダ基地司令官並び月面総督、マハラジャ・カーン中将。
ルウム方面軍司令官、ウォルター・カーティス大佐。
ジオン本国守備軍司令官、ノルド・ランゲル少将。

第一艦隊(本国軍) ドズル・ザビ中将直卒。
第二艦隊(ア・バオア・クー方面軍) ノルド・ランゲル少将。
第三艦隊(本国軍) コンスコン少将。
第四艦隊(ルウム方面軍) ウォルター・カーティス大佐。
第五艦隊(ソロモン方面軍) ユーリ・ハスラー少将。
第六艦隊(月面方面艦隊) ヘルベルト・フォン・カスペン大佐
ジオン親衛隊艦隊(本国軍・戦略予備) エギーユ・デラーズ少将
ジオン軍総参謀長 ラコック少将(ドズルの強い要請により二階級特進)




「兄貴!! ガルマが生きているとは本当か!?」

この報告を聞いたドズルは執務を放り投げてここまで来た。
全く、本来の義務と業務はどうしたのだと言いたいが取り敢えず黙っていよう。厄介な事になるだろうからな。

「ああ。私の持つ連邦との極秘ルートから直接送られてきた。見ろ、これがその写真だ。
セシリアに調べさせたが偽造写真の可能性は無い。本物だ」

そう言って数枚の写真をドズルに見せる。
それを見て人目をはばからず泣き出すドズル。泣き崩れる弟に、別の弟が声をかける。
サスロだ。こちらもガルマ生存は喜んでいる。だが、サスロも政治家だ。それ故に現状を理解して単純に喜んではいない。
ガルマが居るのは北米のキャルフォルニア基地だ。
ジャブローに移送しないのは予想通り北米州(アメリカ合衆国)と南米(地球連邦政府現政権)の内部対立が激化している証拠だろう。
だからウィリアム・ケンブリッジが手に入れた最高級の外交カードを独自に切って来たのだ。ジャブローに内緒で。

(いや、あえてジャブローには知らせてあるかもしれない。尤も宇宙艦隊再建の為に余力が無く、本来の政治基盤である統一ヨーロッパ州の過半を失った現政権が北米州の切り捨てに走る事もない。
と言う事は・・・・・やはりガルマ生存は事実。そしてそのガルマがある限りこちらに譲歩を強いるつもりか)

サスロが何事かを言ってドズルを慰める。
ドズルも忸怩たる思いがあったのだろう。シャア・アズナブルを大尉に降格させて地球に左遷するだけでは感情を抑えるのに無理があった。
そうであるが故にジオン軍の特別な部隊や独立部隊であるランバ・ラル隊やフェンリル隊をぶつけたのだ。

「ところでドズルよ」

ギレンが弟に問う。ギレンにも言いたい事があるのだ。それはドズルが独断で行った木馬追撃命令。
これはギレンも預かり知らぬ事だ。まあ、独裁者の激務を考えればそう言う事もあるだろうが。それでもこの報告は看過できない。

「なんだ兄貴?」

口元が引きつっている。言いたい事が一体何かの想像はついたらしい。
サスロも同感なのか、ギレンが何か言う前に後を引き継いだ。
この点は国内統治で阿吽の呼吸をする兄弟だけの事はある。

「この報告の詳細・・・・言い訳を聞きたい。
ダイクン派のランバ・ラルを木馬にぶつけて連邦軍に粛清させたのはお前らしくない手腕だったがまあ良い。上出来だ。これで厄介なダイクン派を一人消した。
その際にイフリート1機、グフB型3機、ザクⅡJ型3機を失ったのも仕方がない。ザンジバル級だけでもマ・クベ中将が回収したのは僥倖だろう。
特にこの連邦の白い悪魔。パイロットの成長が異常だと言うのも肯ける。だが・・・・・この後の報告は何だ?
ドム3機に黒い三連星が戦死、フェンリル隊のグフ・カスタム4機に、ドム・トローペン2機、ドワッジ1機、ザクⅡS型2機を大破或いは中破させられる。
ふむ、フェンリルは良くも死者が出なかったモノだ。指揮官が優秀だったのと、両軍ともに撤退戦の最中だったからなのか?
更に地球侵攻軍のドップが30機ほど、ドダイが15機ほど、マゼラ・アタックが34台、ザクⅠが6機、ザクⅡC型が7機、グフA型5機、ザクⅡJ型12機!?
ドズル!! 何だこの損害は!! これが立った一隻の艦が我が軍に与えた損害なのか!?」

ジオン国内の生産を管轄し、地球との補給線を維持しなければならないサスロやギレンにとってもこれは異常な損害だ。
この戦闘結果で連邦軍はガンダムとホワイトベースを最精鋭部隊と位置付けている。ジオン軍前線部隊も同数での戦闘は避けている。
更に『連邦の白い悪魔』とまで呼ばれるガンダム。

「流石の俺でも始末に負えんぞ! 前線からの補給要請で我が国の兵站は壊滅寸前だ!!」

そう言ってサスロは吐き捨てる。

「サ、サスロ兄貴。そ、それは、その、ええと、木馬の搭載MS全てがビーム兵器装備で、その、件のガンダム二機の装甲も対ジャイアント・バズ装甲と言うべき異常さが」

なるほど、ドズルの言いたい事は分かる。
確かにビーム兵器を全機が装備していた上に防御力で圧倒されていたら強敵だ。だが、それでもこの戦果は異常だろう。軍事に疎い自分でさえそう思うのだ。
実は奇跡的に人的損失無かったフェンリル隊だが、彼らは弾薬切れで後退した時に急追したガンダムアレックスに撃破された。
だからフェンリル隊の犠牲はカウントしなくても良いかも知れないが、それでもここまで戦い抜いてこれたのは正直に見て悪夢だ。
全体を見て、細部にこだわる事の無いギレン・ザビでさえこの報告書に目を留めたのだから、この戦果の巨大さが生々しく印象に残った証拠だ。『木馬、恐るべし』。

「あ、兄貴、それで、その、ガルマはどうする?」

何とか話題を逸らすべく動いたドズルにギレンは言った。

「しばらくはそのままだ。我が軍に北米へ侵攻する能力も意思もない。
北米には政治的圧力をかけるに止める。よって現有戦力で統一ヨーロッパ州とアラビア州、北アフリカ州を脱落させる地球侵攻作戦を継続する。
それに連邦軍がもう一度宇宙に上がってくるのは間違いない。ドズル、ルウム戦役の勝利をもう一度、だ。
その為の準備を始める。それが、宇宙での再決戦を勝利で終わらせてはじめてガルマを奪還する事が出来る。
今は下手に北米と言う厄介な巣を突くよりもウィリアムに、ケンブリッジ政務次官らに預けた方が安全だろう」

北米州侵攻は不可能。確かにその通りだ。ドズルからしてもその判断は分かる。
公人としても軍人としても。私人としては納得できないがそれでもザビ家の一員。無理な事は無理と判断する事は出来る。
だからしぶしぶながらも頷いた。
それにこの写真を見る限り幽閉先は一流ホテルの一室。しかもサイド6リーアにて接触したのはアメリカのCIA局員の高官。
と言う事は、今の時点でガルマは安全なのだろう。

(ギレン兄貴は政治面で人を欺くことはあっても根拠の無い事を言う人間では無い。
それは兄弟だし、長い付き合いだから分かる。それに兄貴は薄情ではあるし冷徹でもあるが必要以上に冷酷じゃない)

だから兄貴が大丈夫だと判断したなら大丈夫だ。信用できる。信頼できる。
自分を納得させたドズルだが、そこへサスロ兄が冷や水を浴びせる。

「それとな、ドズル。軍事の責任者としてお前が親父にガルマの生存報告と軍事的にも政治的にも奪還は不可能だと伝えるんだぞ。良いな」

次の瞬間、ムンクの叫びが総帥執務室に響いた。




地球連邦政府は対応に追われていた。まずガルマ・ザビ引き渡しを北米州が道中の安全を理由に拒否した。これなど挑発以外の何物でもない。
実際、キャルフォルニア基地航空隊はジャブローからの特別機にスクランブル発進させる暴挙に出ていた。勿論、ただの事故として処理されたが。
その上ヨーロッパ反攻作戦『D-day』こと『アウステルリッツ作戦』への正規空母派遣も拒絶している。海軍戦力は非加盟国軍に向けるべきであると言って。
これは重大な反逆行為だ。そう言ってジャブローの連邦政府はブライアン大統領らを詰問したが、尽くのらりくらりと回避されてしまう。

『我々、北米州最高裁判所は同じ地球連邦市民としてケンブリッジ政務次官の人権侵害問題を訴追する。
これに、連邦憲法に反した人権侵害行為を行う現政権を信用できない』

そういう事だ。連邦政府にとっては大変な事態である。北米州全体が現政権へのデモ活動、抗議活動を行っている。
その結果、連邦政府は兵士不足に陥った。特に連邦軍として海軍、空軍の主力を維持していた筈のアメリカ合衆国と日本の脱落は致命的である。
アジア州もオセアニア州もこの極東と北米の造反劇に呼応して艦隊の派遣を渋っている。
それでもキングダム首相は強引に連邦政府非常事態宣言による非常事態勧告0001を発令して第15海上艦隊と第16海上艦隊を抽出。
護衛部隊と合流して第1連合艦隊を編成し、ヨーロッパ半島における大陸反攻作戦『アウステルリッツ』を発動せんとしていた。
その状況下。エルラン中将がレビル将軍の執務室を訪れる。




「レビル将軍、やはり連邦政府は頼りになりません。ここは貴方が連邦の頂点に立つべきではないのですかな?」

案に引退しろとこの男は言うのだろうか?

現在、連邦軍総司令官を務めるレビルは作戦部長のエルラン中将を見る。
彼らはジャブローの総司令官専用執務室にいる。この執務室の特徴として大型TVが壁にあり、この画面に連邦、ジオン両軍の戦力が映し出されている。
いわば、小型の作戦指揮所になっているのだ。しかも机もタッチパネル式の大型テーブルでモニターとしても情報端末としても使用できる。
そこで先程のエルラン中将の発言に戻る。
連邦政府はウィリアム・ケンブリッジと言う一人の政務次官の扱いに失敗した為、北米州を中心とした太平洋経済圏の各州と関係を悪化してしまった。
何とか自分ら軍部が関係改善を取りなしているが、それでも関係悪化は免れなかった。
ジオン公国との戦争中にもかかわらず、地球侵攻まで受けている癖に北米州キャルフォルニア基地と南米連邦軍本部ジャブローは半ば冷戦状態である。

「そうかね? キングダム首相はこの悪化した状況で良く連邦を纏めている様だが?」

そう言いつつ、用意したビール(アイルランド産の黒ビール)をエルランに渡す。
肩をすくめるエルラン。そもそもこの言葉をレビル本人が信じてない。
レビルにとっても、エルラン中将の特殊部隊とデギン公王の好意によって連邦軍へ帰ってきたのは良かったが連邦政府の混乱ぶりは相当なものだった。
まず、子飼いだったジョン・コーウェンはV作戦から外されつつある。サイド3で一緒に仕事をしたゴドウィン准将も、再建される第4艦隊司令官としてジャブローの統合幕僚本部から近々飛ばされるだろう。

(ゴップ大将の差し金か。戦争継続派を一掃して早期講和を行い、地球経済再生を目指す。確かにゴップ大将の立場を考えれば理解はできるが。
だが、それもルウムで敗れた私の立場では納得が出来ない。
私とて好きで戦争を続けている訳では無いが、ルウムで散った10万の将兵の為にもこの戦争を勝利で終わらせなければならないのだ)

エルランはまだ何事かを言いたいようだがそれを無視する。
エルラン中将は作戦本部の本部長。自分は地球連邦軍の総司令官である。どちらが偉いかは明白だ。
仕方ない、そういう感じでエルランは話題を変える。その前に今では占領下にあるドイツ産ビールを新たに開けて飲む。

「分かりました、なんとか戦力をベルファスト基地やブリュッセル基地、アムステルダム基地へ派遣しましょう。それで将軍、海上戦力は如何しますか?
まずアジア艦隊、オセアニア艦隊、南米艦隊、中米艦隊、アフリカ連合艦隊にヨーロッパの残存艦隊を含めて五個艦隊が使えます。
しかし、共産軍の南下の可能性やミノフスキー粒子散布下での戦闘力の低下を考えると我が軍の北米州と極東州の艦隊は動かせませんが?」

そう、目下最大の問題はそれだ。
海軍力の低下。本来であれば海軍はジオンを圧倒しているのだが水陸両用MS技術を持たない連邦はルウム戦役と同じ状況下に置かれている。
ルウム戦役でMSに有効打を与えられなかった様に、水陸両用MSにも有効な部隊が今現在連邦軍には存在しない。
高速潜水艦より早く、小型潜水艦よりも小さく、魚雷並みの機動性能と戦艦並みの火力を持つ水陸両用MS。更にそれを受け取ったシリア軍とイラン軍、中華軍と北朝鮮軍はそれぞれの近海の制海権を奪取した。
此方の方が余程脅威である、そう言うのが連邦の北米州の持論であり、その強大な経済圏で連邦を支える唯一の州の公式見解に歯向かう事が出来る者も少ない。
それに一方的な言い方ではあるが確かに一理ある。

(正規空母は使えない。仕方ないな、ジャブローの航空部隊で代用するしかないか)

宇宙での利権は中央政権、つまり地球連邦政府が握っているのだが地球上の各地の利権は各州政府が個別に握っていた。
この事がジオン軍による地球侵攻作戦とそれに続いた欧州、地中海沿岸の失陥が大問題となって連邦政府やキングダム内閣府を揺さぶっている。

「海軍と海上艦隊の方は仕方ない。それに・・・・・本命はこれだよ」

そう言ってタッチパネルを動かす。手慣れたものだ。
旧世紀には考えられなかったものだが宇宙世紀ではこれが常識なのだ。ただし、ミノフスキー粒子が散布されてないという前提条件がこの戦争で付け加えられたが。
画面に新たに映し出されるのは再建途上の宇宙艦隊である。
ゴップ大将が後ろ盾になり、ゴドウィン准将とティアンム中将がその実行面の中心人物として動いているビンソン建艦計画。
これこそレビルの切り札。
連邦領内で最大限の鉱物資源を貯蓄しているジャブロー地域に、連邦直轄領や特別選抜州、中央アフリカ州、南アフリカ州からの強引な資源徴収で艦隊約300隻の建造とジム・コマンドやジムを中心としたMS隊の配備は何とかなる。

「エルラン君、君にも働いてもらうぞ。このまま戦い続ければジオンに押し負けすると言う印象を連邦市民に与える。
そうなる前に、連邦は健在だと言う事を示さなければならない。その為のこれらだ」




宇宙世紀0080.04.23、現地時刻午後6時20分。極東州の首都キョート郊外の軍事施設に二隻の艦が着陸した。
ペガサス級の最新鋭艦「トロイホース」である。艦載機は全てRX-78(G)と呼ばれる陸戦型ガンダム。
他にも同型艦である「グレイファントム」も到着。双方とも10機以上の新型MSを搭載している。明らかに極東州の裏工作の結果だ。
北米州は極東州の友諠に答える為、最新型MS陸戦型ガンダム第一陣を派兵した。それも大気圏外からの降下と言うデモンストレーション付きである。

「あれが・・・・・ガンダム」

オオバ首相はそれをキョートの首相官邸から見ていた。
降下した二隻の新造ペガサス級は見事な編隊飛行をして御所の上空を優雅に横断してコーベの地球連邦空軍基地に入港した。
それを知った時、あの密談が動き出した事を彼女は悟る。北米州は本気で戦後の覇権確立を望んでいるのだ。冗談ではなかったのだな。
もっともあれだけの裏工作をして冗談であればそちらの方が余程困るのだが。

「これで我が軍の主力艦隊と主力MS部隊を日本列島、台湾、朝鮮半島、インドシナ半島に配備するという大統領閣下の密約を信じて頂けますか?」

この場にはもう一人女性がいる。紺のスーツを着た女性だ。名前はアリス・ミラー。連邦軍諜報部大尉。
しかし、それは表向きの姿に過ぎない。

「分かっておりますわ、ホワイトマン部長代行殿、いえ、アリス・ミラー大尉」

そう、彼女は謎とされているホワイトマン部長。その一部。
そもそもホワイトマンとはアメリカ合衆国のCIA局員のトップ10を指す暗号名。これはジオンも連邦情報局も察知してない極秘情報。
そして彼女は若干30歳でその実行メンバーに抜擢された。いや、正式には孤児として施設に引き取られた時から徹底的に教育を受けた諜報戦のエキスパート。
そして現ブライアン大統領の義理の娘。外交と諜報の専門家である。
来客用のソファーに座って足を組んでいるミラー大尉。黒いストッキング越しにも徹底した訓練を受けて来た事を分かる足だ。
用意された抹茶を飲む。その姿が微妙に様になって無いので笑いが込み上げてきそう。

「結構ですね、ミラー大尉。これだけの戦力に、ハワイ基地から派遣されるMS120機。しかも新型機と言って良い陸戦型ジムとやらで編成された部隊、ですか。
これこそ我が州全体が求めていたモノです。それで・・・・・例の約束ですね?」

黙ってうなずくミラー大尉。彼女の耳には自動翻訳機があるが、きっと録音機器の間違いだろう。
少なくともワザと日本語が分からない振りをしているのは間違いない。
先程彼女を秘書に案内させたときの事、ありがとうと言わせたら彼女は僅かだが頷いたのだ。確かに確認した。小さくだが確実に頷いたその姿を。
もっともそれ自体が偽装かも知れないけど、そこまで疑えば流石に疑う事が前提の政治も動かなくなり、何も出来なくなる。

「はい。大統領は求めています。例の契約を遂行する事を」




レビル将軍の派閥のトップは彼自身だ。
その下、レビル派として、No2に宇宙艦隊司令長官に昇進したティアンム中将が、技術面ではV作戦の指揮を取っているコーウェン少将、実戦面ではワッケイン少将とゴドウィン准将がいる。政治面ではブレックス准将だ。
これを支援しているのが軍制服組頂点にいる統合幕僚本部本部長のゴップ大将と彼を補佐する作戦本部長のエルラン中将である。
しかし後者二人はレビル将軍への協力者であって信望者では無い。
それにV作戦でジオンMSの脅威を肌身で感じるコーウェン少将は、戦争継続派と影で言われているレビル派閥から徐々に距離を取りつつあり、ブレックス准将はレビル将軍と対立しているコリニー大将の腹心扱いのジャミトフ・ハイマン准将と連携してウィリアム・ケンブリッジ政務次官を救助したと言う事からレビル将軍本人に若干警戒されている。ジャミトフ・ハイマンやジーン・コリニーのスパイではないのか、と。
その件のゴップ大将は考えていた。これ以上の戦争継続をどう考えるか、と言う事を。

(レビル君は勝つまでこの戦争を止めないだろう。自身の汚辱を雪ぎ、かつての秩序を取り戻すか、それも一つの方法ではあるが・・・・それしか見ないと言うのはいかんな)

彼は旧世紀、20世紀の名作SF映画を映画館で見ながら考える。
周りには誰もいない。みな思い思いの場所に座っている上、自由席の映画館で自分から何事かを真剣に考えている軍の制服組トップの横には座らないだろう。

(戦争は相手がある。ジオンとて最初から連邦を滅亡させる気で始めた訳では無い。事実、南極での条約締結や早期終戦を望んだのは向こう側だった。
それを破ったのが現在の政府であり、その連邦政府を煽ったのはレビル君だ。彼は一体デギン公王とどんな密約をしたのやら。
まさか本当に連邦政府へ戦争継続を頼まれたわけではあるまい。恐らくデギン公王からレビル君に終戦工作の要請があったのだ。それをレビル君は破った。
ふむ、と言う事はジオン内部でも何か動きはありそうだ。今は小休止状態だがジオンか我が軍かどちらかの準備が整った時が動く時だな)

ジオン軍も連邦軍も今は戦力の移動と集中、更には全軍の再編が最重要課題。

(我が連邦側の狙いはオデッサ地域の奪還と地中海経済圏の再建。ジオンは持久戦による連邦経済の崩壊とそれに伴う講和成立かな。
歴史と言う観客から見て、永遠に厄介者だな、あのキングダム首相は。彼の政治基盤回復の為に一体全体何十万人の家族を悲しませるのやら)

ヨーロッパ奪還作戦「アウステルリッツ」の総兵力は140万を予定している。これはジオン軍の約2.5倍。
しかもこちらが戦力を集中して、つまり城壁を打ち破る破城槌として、或いは鉄板に穴をあけるドリルの如く戦力を集中する。一方でジオンは薄く広く戦力を配備するしかない。

(前線のユーリ・ケラーネ少将やノイエン・ビッター少将らは有能だが数の暴力には勝てまい。古来より数の暴力に敗れた名将は多いのだから)

大陸反攻作戦の概略。現在、反レビル将軍として貧乏くじを引かされたイーサン・ライヤー大佐らが確保しているフランス沿岸のカレーからブリュッセル近郊、アムステルダム基地のラインに兵力を展開させて一気にオデッサを目指す。
作戦期間一月と半月。それ以上は連邦の戦時経済が持たない。そして、レビル将軍自身は更に野心的な事を考えている様だ。

(まったく、本気なのかねぇ。この『チェンバロ作戦』に『星一号作戦』とは。
ソロモン要塞攻略作戦とその後のジオン本国強襲作戦。
確かに発動時期が宇宙世紀0080.9月中旬以降なら可能だろう。ルウム戦役で壊滅した宇宙艦隊も6個艦隊は再建されている。
だが・・・・オデッサ地域が奪還できない場合も強行するというのはやりすぎではないのか? そして首相もそれを認めている。オデッサで勝っても負けても良い様に)

映画では少数の戦闘機が要塞に侵入、その要塞の核融合炉に向かって攻撃を開始した。ふとゴップは寒気がした。

(レビル君はまさかこの映画の様な展開を本気で信じているのか?)

少数による多数の撃破が有名なのはそれが神業であり殆ど、いや、確実にあり得ないからこそ称賛されるのだ。それに地球での地盤を固めないで宇宙での反攻作戦を立案するなどエルラン君もエルラン君だ。

(首相は追い詰められた。もともと名誉職として餞別的な意味合いがあったのだ。それがこの大戦争を継続する事になった。
国家非常事態宣言の発令で誰かに投げる事も出来なくなった。今思えばあれが彼の最大の失策だな)

国家非常事態宣言により副首都ダカールから以前の首都、旧国連本部ビルのあるニューヤークに疎開した地球連邦議会の権限は制約されている。連邦議会が権限を制約された為、連邦政府首相の力は確かに強い。
しかし、それ以上に戦時内閣としての脆弱さを晒してしまっている。これが各州の反発や侮りに繋がり、要らぬ野心を持たせている。
特に北米州だ。北米州の覇権主義者であるブライアン大統領らはキングダム内閣弱体化を絶好の機会として連邦中央政権の権限縮小に、いや、アメリカ合衆国の復権に向けて動き出している。

(まあ、ジオンは国力に乏しい。
レビル君が主導する『チェンバロ作戦』の成功でソロモン要塞が落ちれば和平交渉にのるだろう。それに北米州が再び連邦を指導するのも悪くない
我々はいつまでも軟弱な政府による政権運営や、この戦後の統治を迎える訳にはいかないのだからな)

ふと映画の方に視線を見るとエンドロールが流れる。
いかんな、好きな映画だったのだが見落としてしまった。そう思ったが、もう休憩時間は終わる。
ゴップ大将は塩味のスナック菓子とドリンクをゴミ箱に捨てると、手を洗い、軍から支給された帽子を被って鞄を持って宿舎に帰る。

(まあ、馬鹿と鋏は使いようだな。それにだ、何事も上手くいかないものさ、エルラン君、レビル君)




ジオン公国首都、ズム・シティ。
ザビ家の私邸に久しぶりにザビ家全員が集まった。食事が出されるが全員が無言。
それが終わり、侍女たちが食事を片付ける。そして全員が退出する。この際、ミネバとゼナも退出した。
残ったのはドズル、サスロ、ギレン、デギンの四人。
サスロ以外は全員が軍服であり、サスロ自身は愛用のゼニア製品のスーツ姿である。

「さて、解散する前に一言ある。聞け、連邦軍が動いた」

長男のギレンが喋る。
デギンは黙ったままだ。自分が犯した失敗、レビル釈放とそのレビルの裏切りの為なのか公的な行事以外では兎角、無気力が目立つ。

「兄貴、それは本当か?」

「というと?」

ドズルとサスロが紅茶に手を付けながら長兄に聞く。デギンは考え事をしているのか公王席に座ったままだ。時たま傍らの手紙を開く。
ガルマ・ザビがヴィデオ・レターと共に地球から送ってくる手紙だ。ガルマをもう一度抱きしめる。その覚悟の表れとして絶えず持ち歩いている手紙だ。

「連邦内部のスパイが手に入れた情報だ。狙いはオデッサ、そして、ソロモン要塞」

オデッサは予想がつく。現政権の政治基盤奪還と言う意味と資源地域確保と言う二重の意味があるのだから奪還作戦を立案するのは理に適している。
しかしながら宇宙のソロモン要塞攻略作戦とはどういう事だ?
連邦軍の戦力は地球と宇宙の二正面作戦を行える、そこまで回復していると考えて良いのだろうか?

「レビルの狙いはルウムでの恥辱を雪ぐこと事。その為の二正面作戦と言うのがスパイの報告だ。信じて良かろう」

と言う事は、連邦軍は本気で宇宙反攻作戦を開始するのだ。
サスロは直ぐに携帯端末を取り出し、何事かを(恐らくスケジュール)調整する。地球への大規模な増援にはサハリン家の当主とその部下らを送る事が内定しているがは止めたほうが良さそうだ。特に今回のMS隊は全てが地球戦闘使用なのだから。

「ドズル、地球はマ・クベ中将に任せるとして・・・・・・問題はソロモンだ」

今現在のジオンの主力部隊はジオン本国にいる。ソロモン要塞はどちらかと言えば手薄だ。直ぐにでも増援を出さなければならない。
ソロモンが落ちれば占領下のサイド1、サイド4が奪還される(連邦軍から見れば解放する)だろう。だが地球とルウム方面軍、月面方面軍の戦力を削る訳にはいかない。こちらに攻めてくる可能性も0でない以上、備えは必要だ。占領したサイド2とサイド5、資源供給地帯である月面都市群の守備もしなければならない。
つまりジオンとしては戦前に想定した最悪場面、多正面作戦になったのだ。

「うう。言い難いが本国の艦隊とア・バオア・クーの艦隊を総動員するしかないか。だがそれで足りるだろうか?」

ドズルが呻いた時、ギレンは笑った。

「安心しろドズル。勝つための策はある」

というギレン。目の前の紅茶を飲み干す。カップと受け皿がぶつかる陶器特有の音がした。
その言葉にサスロがハッと気が付く。
ドズルはまだ分からない。せっかくの防御側の利点、要塞と言う地の利を捨てると言う兄の考えが。

「ギレン兄貴、何をする気だ?」

ギレンは鷹揚に頷いた。そして不敵に笑う。
彼の頭の中のスケジュール通りなら、また、レビル脱走時の様な事を、父が妙な真似をしないならこの作戦は上手くいく筈だ。
そもそもソロモン要塞は軍事要塞であり、あくまで軍事的な要所にしか過ぎない。不要であれば、或いは重荷であるならば容赦なく切り捨てるだけだ。

「ドズル、ソロモンを放棄する」




宇宙世紀0080.6月、地球上の小競り合いという戦争の梅雨は開け、戦争は漸く本格的な夏を迎えつつあった。
マッドアングラー隊を結成したシャア・アズナブル中佐はジブラルタル要塞を拠点に、地中海から大西洋に出て通商破壊作戦を仕掛ける。
従来の潜水艦による通商破壊作戦とは異なり、対潜攻撃機や対潜ヘリを落とせるズゴック、ズゴックE、ハイ・ゴッグを配備したマッドアングラー隊は大きな戦果を挙げていた。

(さて、これで駒はそろった。ダグラス・ローデン、アンリ・シュレッサー、マハラジャ・カーンの影響で復権できた。
それにジオン本国内部にも反ザビ家の勢力があると分かった以上、利用させてもらおう。ダイクン派の件は・・・・全てが終わってから考えれば良いな)

赤い彗星のどす黒い復讐は続く。

一方、木星船団が木星へと出港する前に木星帰りの男、パプテマス・シロッコ中佐は一人の准将と面会。
その准将の名前はブレックス・フォーラ。月市民出身の男であり、ある目的の為に彼と面会する。




宇宙世紀0080.07.25

地球連邦ヨーロッパ方面軍はライヤー大佐指揮下のコジマ大隊を尖兵としたMS隊に進撃を命令。
パリ方面、ベルリン方面へ軍を前進させる。
地球連邦軍は様々な問題を抱えながらも大規模反攻作戦、『アウステルリッツ』作戦が開始した。



[33650] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7bb96dbc
Date: 2012/08/09 20:31
ある男のガンダム戦記12

<眠れる獅子の咆哮>




宇宙世紀0080.06.22.束の間の戦争の休息が終わりを告げようとしていた頃の話である。
地球連邦軍によるヨーロッパ反攻作戦『アウステリルリッツ』が発動されたのが宇宙世紀0080.07.25であるが、その約一月前にジオン軍は連邦軍の先手を取り地球に第四次降下作戦を決行していた。
目的はこの連邦軍の大反攻作戦の頓挫。オデッサ工業地域の防衛。
その地球降下艦隊旗艦ケルゲレン。
サハリン家の当主にして技術少将でもあるギニアス・サハリン少将は幕僚の一人、ノリス・パッカード並び副官扱いの軍属にして妹のアイナ・サハリンと地球周回軌道にて合流する。

「二人共、無事で何よりだった」

地球の重力に引き寄せられたケルゲレンは第一警戒体制のままオデッサ基地の防空圏内部に侵入する。
自分たちの降下部隊は既にポーランドのワルシャワ市、チェコのプラハ、オーストリアのウィーン、フランスのパリに展開している。
こちらから伺いを立てる前に詳細な部隊配置命令を送れるマ・クベ中将。どうやら連邦軍の反攻作戦に対して詳細を手に入れているらしい。

(キシリア機関のトップと言う肩書は伊達ではないか)

と、どうやら艦が突入軌道から目的地のオデッサ総司令部に到着した。
そのまま紺色の軍服を着たノリス大佐、赤色の総帥秘書官の制服を着たアイナと共にタラップを降りてマ・クベの下へ向かう。その前に五月蝿い奴に出会ったが。

「ようギニアス! 久しぶりだな!!」

それは灰色を基調とした少将服を、独自の着こなしで着こなしているユーリ・ケラーネ少将だった。ジオン欧州防衛軍(第1軍)15万の指揮権を持つ。因みにジオン地上機動軍、通称、第2軍(ドム、ドム・トローペン、ドワッジのみで構成された打撃部隊)。
指揮官がノイエン・ビッター少将15万。
拠点守備軍として、ドイツのエルベ川防衛を主軸とするダグラス・ローデン准将の拠点防衛軍が存在する(兵力は10万)。
また、オデッサ近郊守備軍のマ・クベ中将直轄の5万、ジブラルタル要塞守備軍守備隊長のデザート・ロンメル大佐(総兵力5万)に、地中海方面軍にマッド・アングラー隊のシャア・アズナブル(度重なる功績で大佐に昇進)がいる。
これにウィーンとサンクトペテルブルグにそれぞれ75000名の守備隊が存在していた。
方や先の会戦で大勝利した為か、中近東には全軍合せて3万しかおらず、その大半もスエズ防衛(ガルシア・ロメロ少将が指揮を取る)に回っている。
これに補給部隊や特殊部隊、予備の予備などを合わせて70万近くがジオン地球攻撃軍の総兵力となる。
もっとも、連邦軍は120万の主力に10万の海上兵力、10万の海兵隊(渋る北米州からレビル将軍が無理矢理ぶんどった)備えているので戦力比率は2対1と連邦軍が凌駕しているので楽観は禁物である。まあ戦争に楽観を持ち込める奴は余程の大物である。

「ノリス、貴様もケラーネの指揮下に入るのか?」

ケルゲレンを降り、将官専用の特別列車に座っているギニアスは、副官にして執事と言って良いノリス・パッカード大佐に聞く。
彼の指揮下の部隊MS-08TXからX除いた、つまりギニアス・サハリンが完成させたMS-08Tイフリート部隊36機、ドワッジ72機がある。突破戦力しては申し分ない。

「は。自分はケラーネ閣下では無く戦略機動が可能なビッター少将の部隊に回されます。
ギニアス様の配下を離れる事になりますが軍令とあれば・・・・・申し訳ありません」

そうか。
ギニアスは関心を妹に向ける。
この妹は宇宙での連邦軍との遭遇戦以来何かを考える事が多くなった。まるで自分を捨てる直前の母様の様に。嫌な傾向だと思う。母様、また私を裏切るのか?

「アイナ・・・・アイナ・・・・・アイナ!!」

その言葉に漸く外を見ていた妹は反応する。一体何事ですか?
そう言う顔をするが逆に問いたい。お前こそどうしたのか、と。

「どうしたのだ、お前は例の補給部隊との交戦以来ずっと何かを考えている。まるで心ここにあらず、だ。それではサハリン家としての淑女として失格であるぞ?」

そう言う兄ギニアス。独自のスカーフをした軍服と装飾の入った少将専用の指揮杖。この姿が彼の権限の強さと脆さの両面を表している。
そもそも第四次降下作戦にギニアス・サハリンが抜擢されたのは彼がデギン公王派であったと言う点とジャブロー攻略用MAの開発拠点を求めたという二つの点がある。
ギレン・ザビとサスロ・ザビは私情で軍を動かすほど甘くは無い。無いのだが、ガルマを捕えられたデギン公王は今や往年の名政治家としての辣腕は完全にない。
彼は早期停戦を息子らに求めると共に、自分の出来る事を勝手に行っている。
その一つが没落したサハリン家の当主ギニアス・サハリンが自ら持ち込んだジャブロー強襲用MAアプサラスの開発だった。
ジャブローさえ落ちれば戦争は終わる、そんな幻想に騙されたデギン・ソド・ザビはギニアスの提案に乗る。彼がペズン計画を完遂させた事も好材料だった。
ペズン計画が終了した事で、ペズンで開発が終了したガルバルディαとアクトザク、ペズン・ドワッジがア・バオア・クーとグラナダ基地で生産を開始。これと並行してゲルググ量産型やその改良型の生産も軌道に乗った。
ギレンから見ればこれ以上デギン公王派閥のギニアスに功績を立てさせる訳には行かない、と判断した、と巷では言われている。真実は誰にもわからない。
ただデギン公王はギニアス・サハリンという戦場を知らないサハリン家当主に賭けた。南極条約締結時の様に、デギン・ソド・ザビはまたもや分の悪い賭けに賭ける。
父親のギャンブル運の無さを、或いはギレン・ザビは呆れたのかも知れない。
兎にも角にも、ギニアスは地球への大規模増援部隊の司令官として第四次降下作戦を指導、その後、地球侵攻軍のマ・クベ中将の指揮下に入る。
この時、ギニアスは一つの条件をつけた。
それは南欧のある地域、P-99とジオン軍が呼ぶ市街地兼鉱山基地、HLV打ち上げ基地に『アプサラス計画』を推進する為の拠点を設ける事。
意外な事にマ・クベ中将はそれを許可した。彼としてもデギン公王の悪印象を受ける気は無かったのだろう。
それにギレン・ザビとマ・クベは南極条約締結時どころか、ギレンの地球視察時代からの繋がりがあったのだから余計に波紋を立てたくないのか?

「とにかく、次の作戦会議にアイナも出席するのだ。サハリン家が再興されつつあると言う事を周りに知らしめる為にもな」

アイナはただ黙って頷いた。
全く、一体何を考えているのやら。




ジオン軍の地球攻撃軍は各地の戦線から将官らを集めた。宇宙世紀0080.07.07である。
ジブラルタル宇宙港守備のロンメル大佐、大西洋で通商破壊戦闘を継続中のシャア大佐を除いたものがオデッサ基地に集まる。
ノイエン・ビッター少将、ユーリ・ケラーネ少将、ガルシア・ロメオ少将、ギニアス・サハリン少将、ダグラス・ローデン准将、更にはノリス・パッカード大佐などである。これに副官らがつく。総勢30余名の大会議だ。

「作戦は知っているかな?」

前置きも無くマ・クベ中将は言った。無論、知っている。極秘文章として各司令官らに手渡されその将官らの中でも極めて有能かつ少数の幕僚の中で論議されていた。
地球侵攻作戦発動からこの方、絶えず論議されていたのだから全員が知っている。

「連邦軍の主力攻撃部隊はかならずヨーロッパ半島を西から東に横断してくる。そうしなければ政治的にキングダム首相は失脚するからな」

そう言ってマ・クベ中将の副官のウラガン大尉がコンソールを動かす。ヨーロッパ半島の地図だ。机型のモニターに映し出された。
これを見ると連邦軍の予想進路はベルリンを経由してポーランドのワルシャワとオーストリアのウィーンを突破、そのまま東欧諸国を抜ける。
推定10万から20万の戦力でモスクワや北欧方面を牽制しておく。
また、西欧やイベリア半島、南欧開放は20万程度軍を二つほど向ける。
そのまま主力部隊100万はオデッサ地域に殴り込みをかけると言うのが連邦軍の作戦であろう。

「なるほど。マ・クベ中将の考え、敵の案は分かった。俺もこれが正しいと思う。ついでに言えばパリやイベリア半島への攻撃は陽動だな」

ケラーネが知ったように言う。
忌々しいがやつはジオンでも陸戦の専門家の一人だ。一人になったと言うべきだが、仕方ない。傾聴に値する意見と言えるだろう。全く持って認めたくないがな。
ギニアスは将官専用席に座っている。全員の前には500mlのミネラル・ウォーターのボトルがグラスと一緒に置いてある。それを一口飲む。
書記官や秘書官が慌ただしく動いて軍の移動を見せている、赤のマークがジオン軍、青のマークが連邦軍。

「こちらからブリュッセルを攻撃すると言う案は?」

ダグラス・ローデン准将が聞いた。彼はルウム戦役で決定的な働きを受けながら地球に流されてきたダイクン派。ここで挽回したいのか? そう思っているとどうやら早とちりらしかった。

「いや、ローデン准将の意見も一理あるが、既に連邦軍のヨーロッパ半島の戦力を考えると得策では無い。
敵の戦力はイギリスとアイルランドに集結した上で、オランダやベルギーを守っている。こちらが防御側の利点を失えば一気に押し切られるだろう」

答えたのはビッター少将だった。
彼の指揮した第2軍は中近東で大戦果を挙げているので発言の重みがある。確かに攻撃側は三倍の戦力がいるとよく言われている。俗にいう攻者三倍の原則。こうなるとジオン軍が執る作戦内容も絞られてくる。

「ではやはり連邦軍をヨーロッパのどこかで迎撃をするしかないな。オデッサまで引くのは時間的にも物理的にも無理だ。」

ダグラス・ローデン准将の呟き。
ジオン軍は確かに精強だが、あの木馬が後方を荒らして荒らして荒らしまくったお蔭でMS隊や支援車両に不足が出ている。ガウを使った戦略機動にも限界はあるのだ。
と言う事は、ジオン側は出来る限りオデッサの前で連邦軍を誘い込み、後手の一撃で粉砕しなければならないのだろう。言うのは簡単。問題はそれが現実に実行出来るかどうか。

「その通り。我が軍は敵を迎え撃つ。これが基本方針だ。理由はビッター少将の語った通りである」

頷く将官ら。

「なるほどな。それで決戦の場所はどうするんだい? マ・クベ中将殿?」

ケラーネとビッター、ローデンに私ことサハリンの視線がマ・クベ中将へ向く。胸元のスカーフを少し直すと彼は地図を変えた。
地図はドナウ川を示す。

「決戦はドナウ川だ。ドナウ川を天然の防壁にして連邦軍の戦闘車両部隊やMS隊を対岸から攻撃する。
また、ドナウ川を渡って上陸してきたMSはグフを中心とした陸戦用MSで撃破していく。そして・・・・ビッター少将の第2軍はドナウ川河口付近に渡河専用の橋を作りそこを基点に機動防御を仕掛ける。
背水の陣を張るダブデ陸戦艇部隊と戦闘車両部隊が時間を稼いでいる最中に、我が軍のドム部隊が連邦軍を側面から突く。何か質問はあるか?」

さっそくその作戦案への煮詰め作業が始まった。




宇宙世紀0080.07.08、地球周回軌道上。
ジオン公国の第五次資源回収作戦が開始されていた。既に四度、膨大な物資がジオン公国内部に送られていく。その量は戦前の予想以上でジオンにとっては嬉しい悲鳴を上げていた。
もっとも生産力は戦前の予想通り、犠牲は戦前よりも上なので結果的にサスロ・ザビらジオンの後方部門は悲鳴を上げているのだが。

「右から左に流している」

この地球連邦非加盟国である中華、北インド、イランの非加盟国(枢軸国)に、オデッサ占領地域から打ち上げられる多数の物資はジオンの経済を支える生命線である。
これを維持する為、ジオン軍は月に一度、ジオン親衛隊の艦隊や正規艦隊を派遣して護送作戦を遂行していた。その規模はルウムにこそ及ばないモノの一週間戦争におよぶ規模である。
無論、連邦軍も黙ってはいない。嫌がらせ以外の何物でもないが、サラミス2隻を基幹とした偵察艦隊を出して少しでも妨害し、攻撃しようしている。
もっとも、それは無駄な犠牲を出しているとして、ルナツーの連邦軍からは『死の哨戒命令』として忌み嫌われていた。




その死の哨戒命令の象徴がこの戦闘であろう。4隻だけでジオン艦隊へ通商破壊を仕掛けるのだ。しかもMSは無い。敵にはあるにも関わらず。

「これで3隻目!!」

アナベル・ガトー少佐のリック・ドムがビームバズーカでサラミスの艦橋を撃ちぬく。
以前に使った傘による奇襲作戦でなく、今回は正面からの突撃。
ガトー少佐の卓越した機動とミノフスキー粒子の加護の下、弾幕を回避して一気に上甲板、前部砲塔、ミサイル発射管、艦橋、エンジンとビームを叩きこむ。

『悪夢だ! ソロモンの悪夢が出たぞ!!』

カラーリングを見て護衛役のボール隊が恐慌状態になる。それを絶好好機として90mmマシンガンで各個撃破する。
一機をロックオンし、そのまま撃ち抜く。爆発。装甲の弱いボール。故に、爆散してくるデブリを回避する為にボール隊は密集隊形を解除、そのまま距離を取ろうとして、更に一機がガトーの放ったマシンガンの餌食になる。
機関砲を乱射して逃げ出そうとするボールを、ガトー少佐はしっかりと見据えた。
リック・ドムを若干動かして敵の射線軸から回避する。そのまましっかりと狙いをつける。
マシンガンを6発、二連射叩き込む三度爆散。これで残りは二機。と思ったら、僚機のカリウス軍曹が上空とでも言うべき場所から一気に急降下して射撃、ボールを全滅させた。
これで残りはサラミスが一隻だけ。ガトー艦隊旗艦ペール・ギュントのグラードル少佐に連絡、するまでも無かった。艦隊の一斉射撃で残ったサラミスは逃げ出した。

「まあ仕方あるまいな。これだけの戦力差。戦えると思う方がどうかしている」

リック・ドムを帰還コースに乗せる。
周囲では幾つもの回収部隊がHLVやシャトルの回収作業に追われていた。と、その時、まさに着艦せんとした時に、ミノフスキー粒子と太陽を背にした連邦軍の別同部隊のサラミスが二隻、ガトーから見て左舷方突入をかけてくる。
最大船速。ただ弾幕を張って駆け抜けるだけのつもりだろう。だが効果的だ。放射能被爆しただけで物資は使えなくなるのだから。

「護衛部隊は!?」

ガトーが叫んだが、遅い。どの護衛も後方と思っていた左舷からの全速による突撃など考えてもいなかった。
明らかに間に合わない。
と、思ったらサラミス二隻の右舷に無数のメガ粒子砲のビームが突き刺さる。大爆発が二度起きた。

「何? 友軍がいたのか?」

ホッとするガトーに薄くなったミノフスキー粒子の影響を受けつつも、無線から連絡が入る。周波数を合わせる。

『こちら親衛隊第三戦隊のシーマ艦隊。第二戦隊ガトー艦隊、貴艦隊は無事なりや?』

シーマ艦隊とはあだ名であり、正式名はジオン親衛隊艦隊第三戦隊という。最近の再編成で結成された部隊で、第二戦隊のガトーとは同期になる。
シーマ艦隊は、ザンジバル改級機動巡洋艦『リリー・マルレーン』とそれを護衛するムサイ砲撃戦強化型が14隻。止めにいまはゲルググ量産型が主力のジオン親衛隊の中で唯一の改修型ゲルグルMを充足した部隊である。
ルウム戦役では最初に連邦軍に突入した、切り込み隊として『宇宙の海兵』として宣伝されていた部隊が前身である。
ちなみにギレン・ザビがもっとも頼りにしているという噂が流れているジオンの親衛隊でもある。

「ふ、シーマ大佐の部隊か。相変らず手際が良い。
グラードル、発光信号用意。色は緑と青。我が艦隊の全艦が撃て。感謝すると、な」




アナベル・ガトー少佐の命令で多数の発光信号弾が宇宙に生まれる。どうやらあの男は義にうるさいだけあって真面目な様だ。

(結構だねぇ。まあ暑苦しいんだけど)

あたしはそう思って特注のシートに腰かける。ノーマルスーツのヘルメットを取った。気が付けば艦橋の乗組員全員がノーマルスーツのヘルメットを外している。
戦闘はもうないだろう。そう思う。

「シーマ様。ガトーの旦那から返信あり。
救援を感謝する、貴艦隊に栄光あれ、です。相変らずの御仁ですな」

デトローフ・コッセル大尉が楽しそうに言う。
ガルマ・ザビの件で同時期に親衛隊に移ってきたガトーとコッセルは性格の違いからか最初は何かとぶつかり懸念していたが、どうやら今ではそれなりに良い関係を構築している様だ。まあ良い事だ。逆よりは良い。

「ふん、まああの男は戦場なら信頼できるさ。ちょっと戦争馬鹿なのが玉に傷だけどね。それより周囲の警戒、索敵怠るんじゃないよ! 
こんなくだらない戦闘で死んだって補償金が精々2割増し程度にしか出ないんだ。全く持って馬鹿馬鹿しいたらあらしない」

ふと、ここでシーマは思い出す。シーマ・ガラハウ、彼女の運命を明確に変えたサイド6での潜入工作を。
彼女は上司のアサクラ大佐の命令で中立サイドのリーアに単身での潜入を命じられた。正直に言うが恐らく自分は殺される、いろいろルウム以来使い捨て寸前だったが今度こそ使い捨てにされると思った。しかも仲間とは離れ離れ。
だが、蓋を開けてみたら全く別だった。居たのは自分と同い年くらいの一人の女性。向こうはアリス・ミラーと名乗る。連邦の高官だと。
そして厳重に封をした封筒とメモリーディスクを渡すと去って行った。

『必ずザビ家の方、そうですね・・・・できればギレン・ザビ氏に直接お渡しください。それが身の為になります。
この青いメモリーディスクを見せれば必ずお会いできるでしょう。どうぞよろしく、シーマ・ガラハウ中佐』

と。全く、狐に化かされるとはあの時の様なことを指すのだろう。しかも偽名を名乗ったのに本名を当ててきた。あれには参った。次元が違う。
そして上司のアサクラ大佐は信用できなかったので、休暇を利用してサイド3のズム・シティに行き、セシリア・アイリーンを通してエギーユ・デラーズにアポイントを取る。
ここで初めて自分が連邦軍諜報部高官と思われる人物に、サイド6で接触した事を伝えた。デラーズの禿げは何事かを考えていたが決断は早かった。直ぐに総帥府に連絡を取る。
この青いディスクの件を知ったギレンは即座に執務室に二人で来るように命令した。

「何の用だ? 申してみよ」

偉そうにふんぞり返るのが独裁者の特権なのかとも思ったが取り敢えずは黙る。それにここで好印象を残せれば海兵隊全員の地位向上につながるのは間違いない。
そう考えれば今日の我慢など我慢にならない。

「は、ギレン閣下に重大な報告を持って参りました。
これを持参したのはこちらのシーマ・ガラハウ中佐からです。ガラハウ中佐、閣下に遠慮せずにその時の状況を述べよ」

デラーズの禿げ頭がとんでもない無茶ぶりをしてくるが仕方ない。自分が得た情報をギレンに渡す。
デラーズは腰かけるギレンからコーヒーを直接入れてもらった。それを嬉しそうに飲む姿はまるで餌をもらった警察犬のドーベルマンを思わせる。
実際にこの想像は合致しているだろう。
彼とギレンは江戸時代と呼ばれた頃の日本のサムライに近いのだから。義だのなんだの過去の遺物を現代の戦争に持ち込むのはデラーズ少将の悪い癖である。

「シーマ・ガラハウ中佐であります。この度は無理をお聞き下さりありがとうございます」

ギレン総帥は内密に会いたいと言う自分の意をくんで、ザビ家私邸にあたしを招き入れる。
これには前線で体を張ってきた自分も流石に度肝を抜かれた。
無論、何重ものボディチェックはあったが、それでも破格の待遇だ。独裁者が私邸に招き入れるなど普通はあり得ない。余程の重臣か親族ではない限り。
それもだ、マハルという貧困コロニー出身にも関わらず、である。
現在は戦時特需の影響で皮肉な事にジオン国内の経済格差は改善されている。
正確には開戦劈頭に占領したサイド1、サイド2、サイド4、サイド5からコロニーを移動したり、戦時を理由に搾取する事で改善させたと言える。

「デラーズ閣下からご報告があったと思いますが、こちらをご覧ください」

サイド6侵入の経緯とその後のアリス・ミラーと名乗った連邦の諜報部員との接触を簡潔に報告した。ギレン・ザビはその性格から脚色した報告よりも端的な報告を好む。
これ位は事前に知っておかないといけない。何故なら自分は独裁者の前に立つのだ。情報が死命を制するのは戦場と同じである。
それにしてもエギーユ・デラーズという男の影響力の高さが伺える。今は夜の12時35分。しかも執務室には総帥首席秘書官のセシリア・アイリーンがバスローブ姿でいる。
軍服姿のエギーユ・デラーズ少将と同じ軍服姿のあたしことシーマ・ガラハウ。
それに対してつい今しがたまでシャワーか風呂にでも入っていたと思わしきセシリア・アイリーン。その豊かな髪と胸から湯気が立ち上っている。

(あの噂。ギレン・ザビに私生児がいるっている噂とギレン総帥の愛人がセシリア秘書官というのは本当か・・・・・これはもう引き返せないな。しくじった!)

ここまであからさまに私生活を知った以上、もう進むしかない。下手に引けばそれだけで殺される可能性がある。いや、殺されるだろう。
そう思うが顔にも声にも出さない。この点流石は百戦錬磨のシーマ・ガラハウである。
報告しながら彼女はさりげなくザビ家賛美を忘れない。無論、露骨すぎれば警戒されるのだからあくまでソフトに行う。

「私は詳細を知りません。しかしながら連邦のCIA高官のIDカードを持った女が持ち込んだメモリーディスクです。必ずや閣下のお役にたつと思います」

シーマは賭けに出た。ここで何も聞かずに黙るのだ。敢えて黙るのだ。そうする事で独裁者に主導権を渡す。
渡した結果が吉凶いずれか分からないが、ここでシーマは神に祈る。戦場でも祈らなかった神様に。どうか私に加護がありますように、と。
そう、ここでギレン・ザビやエギーユ・デラーズの機嫌を損ねれば確実に地球戦線送りなのだ。それだけは避けたい。せめて死ぬなら故郷の宇宙で死にたい。

「シーマ中佐、だったな。君はこれに何が書いてあるか、この封筒に何が入っていたか知っているのか?」

ここで答える。あの封筒はテロが使う炭疽菌爆弾の可能性もあった。だから一度封筒を開けた。そして見た。
宇宙世紀0080.04の中旬の日付で、太平洋と言われている海を背景にしたホテルの一室に女と一緒に写っていたザビ家の御曹司の姿を。

(来たな。ここが分岐点!)

誤魔化しは効果が無い。ここはハッキリと見たと伝えるべきだ。そうしなければ要らぬ警戒心を持たれる。

「見ました。ガルマ様がイセリナ・エッシェンバッハ様とご一緒にプールサイドでお遊びになっているお姿です」

努めて冷静に。激情を抑えて。
捕虜になっておきながらのこの待遇の差に怒りを覚えながらそれでもそれを抑えてあたしはギレン・ザビと対談する。ザビ家のお坊ちゃんが! という怒りを抑えて。

「そうか・・・・相手も知っているのなら話は早い。この事は誰にも喋るな。よもや・・・・・既に誰かに喋ったのか?」

この問いは予想が付いた。だから直ぐに答える。
どうでも良いがいつの間にかデラーズ少将は寝室の一人使用のソファに腰かけている。
が、良く見ると指揮杖を持っており、あたしがギレン・ザビに何かしたら後頭部にそれを投げつけられる体制でいる。
ギレン総帥はベッドにおり、セシリア首席秘書官はいつの間にか部屋から出て行ったのか、部屋にはいない。で、あたしは直立不動で立っている。のどが渇いてきた。

「いえ、誰にも」

その時、セシリア・アイリーンがコーヒーポッドと茶菓子を持って来た。どうやら寝室の隣はプライベートキッチンの様だ。これも重要な秘密になるのだろうな。

「そうか」

短いやり取りが怖い。饒舌な人間なら良く会うし、それ故にその人が何を考えているか分かりやすいがこうも短いと何を考えているのかが分からず恐ろしい。
そうだ、あたしは怖い。
目の前の敵よりも後ろにいる味方に殺される方が余程恐ろしいのだ。何故なら味方を敵にする時点で何処にも逃げ道が無くなるのだから。

「デラーズ、ドズルを呼べ。それとな、彼女を親衛隊に移籍させる。意味は分かるか、シーマ・ガラハウ中佐?
この意味が分かるなら貴公を親衛隊に移籍させる上、本国のズム・シティ防衛を主任務とするが、どうだ?」

テストか。
それだけを思わされる。恐らく、いや、確実にあたしを試している。
そしてギレン・ザビ総帥は国内に不安を抱えているのだ。これは良い話だ。この試験に合格すれば最低でも切り捨てる側に回れるだろう。アサクラからも逃れられる。

「ガルマ様生存の口止め料、ですね」

鷹揚に頷く独裁者。そして顎で指示する。続けろ、と。

「ガルマ様が北米で生きておられると分かれば必ず軍内部で奪還作戦が立案されます。己の功名の為でしょうが。
また、この情報が下手にデギン公王陛下に伝われば独断で連邦政府との和平交渉を開始されかねないと思われます。
事実、デギン公王陛下のお受けになられた衝撃は自分が知るほどに大きかったと聞いておりますので、この可能性は極めて高いと思います。
ならば、デギン公王陛下を抑えつつ、国内の動揺を起こさない。もっと露骨に言いますと国内の情報管制を行うと言う事です。
ガルマ様は国内でも人気があります。
例の連邦軍武装解除作戦の英雄でもあります。その、今は公式に戦闘中行方不明(MIA)のガルマ様が北米州議員のエッシェンバッハ氏の令嬢と敵地で戦争中にバカンスなどジオン公国国内の良識派やギレン閣下らにとっては看過し得ない事態。
それを知ったのが自分。その口止め料が自分の親衛隊の移籍であり、前線から遠ざける事による情報漏洩の防止。つまりは監視であると考えます」

寝間着姿のギレンが右手を挙げた。そしてあたしは間抜けにも今ようやく気が付いた。スタンガンを構えたデラーズの姿を。
どうやらこの試験に不合格していたら死んでいたらしい。いや、スタンガンでは死なないだろうがその後は最前線送りだったのだろう。
そのデラーズがスタンガンをしまいつつ言った。

「合格だ。大佐。ガラハウ中佐は今から大佐だ。私の指揮下に入る。何か要望は?」

天啓が来た。この言葉を聞いたあたしは最後の賭けに出た。

「部下たちも親衛隊への移籍を許可して頂きたい。彼らも使えます。必ずや閣下のお役にたって見せます」




その後、親衛隊は精鋭部隊である事と国内向け宣伝の為に2週間に一度は出撃(ただし自軍制圧圏内なので実質は演習)を義務付けられた。
ガトー艦隊の様に毎週の様にソロモン方面から出撃しては戦果を挙げてくる部隊も居ればドロス、ドロワとその護衛部隊の様にゲルググへの換装作業と熟練化に追われて動かない部隊もいる。
ちなみに餞別だったのか、艦隊は13隻まで増強され、しかもムサイ級は新型艦で構成。とどめにMSもゲルググの改修型へ全機が変更。
あたしの指揮官機のみだが、ビームマシンガンと言う新兵装も配備された。正に至れり尽くせり。しかも月に一度は好きなコロニーで5日間の休暇が取れる。

『ギレン閣下は貴公を気に入ったようだ。大佐、貴公が忠義を尽くす限りジオン公国と総帥府は貴公の忠誠に答えよう』

そう言ったデラーズの言葉通り。左手うちわが止まらない。旗艦にアムール虎の毛皮を敷いてしまったほど金ももらった。
ちなみ元上司のアサクラは同格になった時に嫌味を言ってやろうと思ったら本国に移送したサイド2のコロニー「アイランド・ブレイド」の改装工事に携わっているらしく、会えなかった。何の工事なのかは知らない方が良いだろう。
現実に意識を戻す。

「さてと、残敵の掃討は終えたね? ルナツーから正規艦隊が来る前に仕事を終えな」

ルナツーの艦隊は第9次地球周回軌道会戦以来動いてない。
だが、それが今日もそうだとは限らない。指揮官は常に笑顔で最悪を想定するのだ。それが指揮官と言うモノだ。楽観は最悪の敵だ。

「なんだ、俺は出なくてよいのか?」

と、艦橋に真紅のノーマルスーツを着て、右手にヘルメットを持った金髪の少佐が現れた。

「は、真紅の稲妻の手を煩わせることはないってさ。ソロモンの悪夢は義にあついからね。あたしらとは大違いだよ」

その言葉に艦橋全体から笑みがこぼれる。
ちげぇね。ちがいねぇ。

「ふーん。まあ良いか。で、大佐、俺のスコア更新のパーティはいつやってくれるの?」

この性格は嫌いじゃない。寧ろ好ましい。
ジオン十字勲章ものの英雄がお目付け役で配属されると聞いた時はどうなるかと思ったがどうして良い奴だ。好きになりそうだ。女としてもね。

「あんたの撃墜スコア更新に構ってたら休暇が全部潰れちまうさ。それで、例の新型、高機動型ゲルググは使いやすいのかい?」

高機動型ゲルググ。ゲルググの宇宙戦専用仕様の機体。
ジオン軍の高機動型ザクⅡをエリオット・レム中佐らの開発チームが主体になってゲルググを改装した機体である。
現在はシン・マツナガ少佐の『白狼連隊』のみ配備されている。総数42機。ドズル・ザビの肝いり部隊だ。
その部隊から人と一緒に借りてきたのが彼、ジョニー・ライデン少佐。

「そうかねぇ。ま、俺も楽が出来ればそれで良いんだが。全員でサイド3に帰ろうぜ。長居は無用だわな」

その通り。長居は無用。いつ何時敵の正規艦隊が襲ってくるのか分からない今現在の宇宙情勢で地球軌道に留まるのは危険。せっかく命がけで手に入れた特権だ。大事にしなくては。

「艦隊反転。サイド3に帰還する!」




宇宙世紀0080.06中旬。ニューヤークにて。
ニューヤークは消費の大都市であるが、その一方で南側には大軍事工廠が存在する。ビスト財団やヤシマ重工業、ルオ商会、アナハイム・エレクトロニクス(AE)社などがその名前を連ねる一角があるのだ。
その一角で、ペガサス級第7番艦が完成する。
名前を『アルビオン』という。艦長にはリム・ケンブリッジ大佐が就任する。
これと前後してペガサス乗員の7割(MS隊並び関係者は全員)が移籍する事となった。訓練期間が1か月程。
それから一か月が経過した宇宙世紀0080.07.18.
地球連邦軍の北米州は流石に血を流す必要を感じていた。この大規模反攻作戦で血を流さない限り地球連邦での覇権確立は存在しない。

『ジャミトフ君に伝えたまえ。我が北米州の精鋭部隊を独立遊撃部隊として旧大陸の傲慢な者どもの救援に差し向けよ、とね』

とは、大統領であるエドワード・ブライアンとヨーゼフ・エッシェンバッハの会話の一幕である。
先の異動に伴って、ペガサス艦長職はヘンケン・ベッケナー少佐が任を引き継ぐ。
また、ジム・コマンド陸戦使用を配備したユーグ・クーロ中尉をペガサス隊隊長としたジャック・ザ・ハロウィン隊が艦載機部隊になる。
更に、である。キルスティン・ロンバート中佐がペガサス級のサラブレッド艦長として就任、MS隊もルウム戦役を戦い抜いたヤザン・ゲーブルとライラ・ミラ・ライラ中尉の部隊を中核にした精鋭部隊が加わった。
加えてアルビオンへの補充要員として不死身の第四小隊との異名を持つ部隊が配属された。また極秘に、極東州に亡命した(亡命理由は良く分かって無い。なんでもニュータイプを敵視し、その軍事利用に声高に反対して身の件を感じたというが何故そこまでニュータイプを敵視したのかは支離滅裂である。ダーウィンの進化論の様なことを言っている)クルスト博士の手がけたブルー・ディスティニー(BD1号機)と呼ばれる機体が護衛と共にペガサスへ配備される。
これらの部隊の最大の特徴はその将兵、将校、司令官の8割が極東州、アジア州、オセアニア州、北米州で構成された点にある。
事実上のブライアン大統領ら太平洋経済圏の私兵集団であり、指揮系統も独立していた。

『アルビオン』、『ペガサス』、『ホワイトベース』、『サラブレッド』の四隻。司令官はエイパー・シナプス准将。
搭載MS隊、BD小隊(モルモット小隊)、ホワイトベース隊、ホワイト・ディンゴ隊、デルタ小隊、タチバナ小隊、ジャック・ザ・ハロウィン隊、不死身の第四小隊(俗称)、ヤザン隊、ライラ隊である。
これらの機体は新型機のガンダムタイプかジム・スナイパーⅡかのいずれかに固められている文字通りの最精鋭軍団であり膠着した戦線を打ち破る突破兵力である。
ただ、この部隊は部隊間の訓練がまだ行われておらず、ベルファストで改修工事中のホワイトベース以外は大西洋横断中に出来うる限りの訓練が予定されていた。




「自己紹介も終わった事だし、乾杯と行くか!」

モンシア少尉が音頭を取って乾杯の合図を出す。ここはニューヤークの酒場。それもケンブリッジ家が代々使っていたパブだ。
そこで第13独立戦隊(戦隊と言う規模では明らかにないのだが、誰も指摘しない)の親睦会ならび結成式が行われた。
不死身の第四小隊のモンシア少尉と、軍楽隊出身故か、お祭り大好きのホワイト・ファング隊のマイク少尉の合同企画でやる。
飲み会の会場はウィリアム・ケンブリッジの親友だと言い張ったベイト少尉の言葉に押され、マスターが6時間貸切にしてくれている。
総数100名以上の大宴会だ。既に飲み始めてから30分以上。初期に用意された料理も摘みも全部ない。各テーブルに配置されているビールサーバですら空にしている位だ。
特に元ペガサス、現アルビオンのオペレーターらの飲みっぷりが異常だ。物凄い勢いでワインを空にしていく。
一方で佐官以上の面子は静かにウィスキーやバーボン、カクテルをチーズ片手に傾けている。

「さてそれではみなさん! ここで我らホワイト・ディンゴと青き伝説の合同芸をやらせてもらいます!!
全員拝聴!!! 敬礼!!!」

ファング3のマイクが楽しそうに言う。続けてライラが野次を飛ばす。

「おい貴様! 上官侮辱罪だぞ」

どっと起きる笑い。
マイクがバンド楽器を構えると、この日の為に訓練して来たのかマイク、レオン、レイヤー、ユウ、フィリップ、サマナの6人がバンドを演奏する。
楽しい一夜が過ぎていく時、幹事役にして盛り上げ役のモンシアとマイクは大ゲストを紹介する、と言って一旦、全ての電気を消した。
そして。

「では我らの英雄。この世で一番恰好が悪くて素敵なオジサマ。そしてそのオジサマの心を・・・・なんと生まれた時からずっと奪い続けた我らが副司令官。
ウィリアム・ケンブリッジ氏とリム・ケンブリッジ大佐です!! 皆さん盛大な拍手を!!! 音が小さい。声を上げろ!!!」

エレンとノエルとアニタとミユが大声でハモる。4つのマイクが彼女らの歌うような声を会場全体に流した。
と、扉が開き、あらかじめ用意していたスポットライトとクラッカーが一斉に浴びせられた。

「まずはケンブリッジ夫妻の大人の誓いのキス!! お二人とも熱烈なキスをみんなの前でどうぞ!!」

酒が入っているせいか、マオ・リャン少佐も悪乗りしている。
その言葉に一斉に反応する面々。公衆の前での羞恥プレイに流石に頬を赤くするがそれを見てまたもや大合唱。

『『『『『キス!! キス!! キス!! キス!!』』』』』

これは辛い。だが、楽しい。
兵士たちの皆が思う。今を生きよう。今を楽しもう。戦争中の兵士に明日があるかどうかなど誰も保障できない。保証しない。ならば今この瞬間が全てだ。
そうだからこそ、今は楽しめば良いのだ。難しい問題は明日考えれば良い。素面の時にでも政治家共がいる安全な場所で語れ。

「おお!!!!!!!」

リムとウィリアムは思いっきり熱い抱擁と口づけを交わす。




宇宙世紀0080.06上旬、ウィリアム・ケンブリッジは大統領執務室に入室した。大統領に呼ばれた自分はマーセナス議員と共に執務室の来客用ソファに腰かける。

(一体何の用なのだ? ついに前線勤務なのか? 或いはジオン本国にでも密使として送られるのだろうか?)

そう思うが顔には出さないようにした。ここでまたぞろ厄介ごとを押し付けられたら目も当てられない。久々に思う。

(ええい畜生!! またか!? またなのか!!! また厄介ごとを押し付けられて要らない評価を植え付けられるのか!? 畜生め!!)

きっとそうなのだろう。伊達に連邦の高級官僚試験を突破してない。伊達に開戦前からこき使われてない。特に嫌な予感ほど当たる。
だいたいマーセナスが横にいる時点で不味い。
彼は北米州でも有力な地球至上主義、国粋主義者である。故にブライアン大統領の片腕とも言われている。
しかもだ、何故ジャブローにいる筈のジーン・コリニー提督もいた。ジャミトフ・ハイマン准将がいないのが不思議だ。あと有名どころでいるのはジョン・バウアーか。

「やあケンブリッジ政務次官。いや、ウィリアム君。よく来てくれた」

人の良さそうな顔に騙されるな。青いスーツに白いシャツでクールビズという庶民的な良さに騙されるな。こう見えてジャブローからの援軍要請を尽く遮断して拒否してきた猛者だ。

「固くなるな。君と私の仲ではないか。リラックスしたまえ」

ジャブローにとってみればザビ家並みに、或いはそれ以上に脅威と見られている人物が目の前の北米州、州代表エドワード・ブライアン大統領なのだ。
部屋には白いスーツに黒いネクタイのジョン・バウアー、紺のスーツに黒ストラップネクタイのローナン・マーセナス(二人とも連邦議員の議員バッチを右の胸につけているが、更にアメリカの国旗、星条旗をモチーフにしたバッチもその下側につけている)がいる。そしてコリニー大将は軍服だ。秘書官らはコーラとピザを置いて下がっていく。

(いくらなんでもこのチョイスはないだろ・・・・常識考えろ)

そう思う。色々な場所に行ったせいなのか、舌が肥えたせいかこの如何にもジャンクフードですという摘みと飲み物は無い。
特に極東州の水やお茶を飲んだ事があるとそう思う。
まあ、ブライアン大統領が昔から好きだったから仕方ないか。コーラはともかくピザの方は本場イタリア職人の作ったマルゲリータピッツァであるし、良しとしよう。嫌々ながらも。

「さあみんな、食べようか」

そう言って30分ほど他愛のない雑談を行う。空気清浄器の音が若干耳に障るな。五月蝿い。
と、更に30分。一時間ほど過ぎて無理矢理ピッツァを食べきると本題に入ってきた。

「ウィリアム君、君はこの戦争をどう終えるべきだと思うかね?」

聞いてきたのは大統領本人だ。想定通り。驚く事じゃない。
大統領が野心家で連邦政府と敵対している事は有名だ。しかも大統領の任期はあと3年、宇宙世紀0084の1月まであるのだからこの戦争中は大統領閣下でいるのだ。
が、それまでには戦争は終わっている。

(いや、違う。終わらせなければならないのだ。地球圏全体の安定の為にはそれが絶対条件)

そう思って残っていたピザを飲み込み口の周りをナプキンでふき取る。
背筋を伸ばして、ネクタイを直して大統領の目を見て聞く。

「大統領、一つ確認したい事があります」

ん?

「それは北米州の、アメリカ合衆国の大統領としての発言ですか? それとも地球連邦政府の一員としての発言ですか?」

内心で思った。
言った。言ってしまった。言っちまった。ああ、くそったれ、これで退路は無い。どこにもない。どこに目をやろうと銃口しかない。
少しでも妙な真似をすれば即座に射殺される様な最悪の発言だ。だが、それが分からないと、大統領の本心を知らないと妻も子供も親も守れない。
相手が何を求めているのか、相手が何を求めてないのか、それを知る事が一番大事なのだ。政治と言うドロドロした暗闘の中では。

「ははは、過激だな」

最初はかわす。しかし、この言葉に秘書たちや補佐官たち全員が退出した。そして大統領とコリニー大将が盗聴盗撮防止用の小型モニター機器を作動させて机の上に置く。
大統領は新たにコーラを飲む。そして自分で今度はココアを用意する。アイスココアだ。
ミルクと砂糖は少なめ。バーボンデンのココア。伝統と格式あるココアだ。こういう所に出てくる無意識が、北米州の劣等感が隠し切れないと私は思うのだ。

「もちろん、北米州の考えが連邦の考えとなる事態だね。それでと、とりあえずは目の前のジオン公国との戦争だ。
どうなるべきかな? 逆に聞こうかな。サイド3のジオン公国はこの世から滅するべきと思うかね、ウィリアム・ケンブリッジ内務省政務次官殿?」

わざと自分の役職をフルネームで聞いた事はそういう事だろう。逃げるなと。逃がさないと、ここまで来た以上はしっかりと答えてもうと。
ええい、畜生め。きっと蜘蛛の巣に絡みとられた無視はこんな気分なんだな。逃げ道は無く、もがけばもがくほど落ちていく。ああ、なんでこんな事になった?
誰でも良いから俺の平穏を返してくれ!! 神様!!! く。仕方ない。言うか。

「ジオンは残すべきです。大統領閣下。我々はジオン軍の戦力を削ったうえで温情の名の下に講和すべきです」

簡潔にまずは答えから答える。

「ほう?」

続ける。残っていたコーラでのどを潤す。もうコーラの炭酸水と溶けて水となった氷とが混ざって不味いが贅沢は言ってられない。

「ジオン公国をテストケースにするのです。地球連邦政府の宇宙開発の新たなるテストケースに。
ジオン公国を独立に追い込んだのは単に連邦政府の失政の続きの結果でしかありません。
ジオン・ズム・ダイクンらの活動はその一要因でしかないと考えます」

続けたまえとコリニー大将が言う。

(どうやら彼も試験官の一員なのだな。畜生が! やはりこういう試験でこういう展開か。今度は一体全体何をやらされる?
ジオンとの単独交渉か? ジャブロー攻略作戦の立案か?
或いは北米州を中心とした太平洋経済圏のクーデターか? どうせ碌なモノじゃないだろう。人の好意を台無しにするのだけは得意な連中!! 
こんなことしか考えられない輩は、政治屋どもとバカ軍人は、一度死んでこの世から強制退場した方が全人類の未来の為なんじゃないのか!?)

と、内心で罵倒しつつも取りアズ説明を続ける。いつの間にか握りこぶしになっているが気にしない。

「ジオン公国は既に国家としての体裁を整えています。スペースコロニー群の中で唯一重工業化を達成しております。その証拠が宇宙艦隊と宇宙軍を整備する能力です。
農業生産を行える基盤、5億5千万人と言う地球の一地域、いえ、このアメリカ合衆国に8割に匹敵する総人口に公王制と議会制による立憲君主制。
もちろん現実は独裁制ですが、ジオン公国独自の近代憲法もありその憲法は連邦憲法を模倣しただけあって人権問題にも合格点を与えられます。
ああ、言い方は悪いかと思いますが、宇宙の番犬としてはこれ程頼りになるコロニー国家は存在しません。
彼らに軍備の負担を任せる事で宇宙海賊への対応も出来ます。
そして、その国の存続を認める事は我が地球連邦の、引いてはアメリカ合衆国の寛容さを地球圏全土に知らしめるでしょう。
敵さえも許す。昨日の敵は今日の友。この諺通りに動く事でジオン公国と言う地球から最も遠いサイドに戦略拠点を持つ事も可能です。
また、唯一の工業化コロニーですから宇宙再開発にも適しているでしょう。
サイド7の再開発も彼らと共同する事で経済協調を深めます。実際はかつての米日安全保障条約下の米日関係が理想ですね。
そしてジオン公国が存続する事はもう一つの利点が、主に軍部にあります」

そこで一旦区切る。そして壁に掲げられた情報端末を起動させ、メモリーディスクを挿入する。画面が映し出される。
ジオン公国宇宙軍の想定と連邦宇宙艦隊再建案の二つだ。ジャミトフ先輩とブレックス准将が共同でくれた情報である。大事に使おう。

「地球連邦軍の軍縮です。正確に言えば軍の精鋭化です。
この戦争で地球連邦軍は肥大化しすぎました。正直に言いまして今の連邦はサッカーボールに空気を入れ続けているようなものです。
近い将来か遠い将来か分かりませんが必ず破裂します。今のままではそれは避けようのない現実です。
そして次の時代に来るのは軍縮失敗による各州の軍閥政治でしょう。各州はあの手この手で地球連邦の各地の駐留軍を味方につけようとするでしょうね。
またこの失態、軍縮失敗と軍部の権限拡張による連邦政府の統治機構低下という事態は非加盟国から見れば最大級の好機。
この事態を利用するとして蠢動するのは目に見えています。そうならない為にジオン軍を利用します。
ジオンの脅威をある程度残す事で急激な軍備縮小による戦後恐慌をある程度避けます。軍備縮小に伴うであろう治安の悪化にも対応します。
それにジオン公国を存続させる事は、ジオン軍の残党化やゲリラ化を防ぐ意味で大きな要素となると考えます」

要約したまえ、政務次官。
コリニー大将がそう言う。だから私は要約する事にした。

「ジオン存続の最大の理由は、連邦軍軍備の精鋭化と政治と経済の安定、宇宙の再開発による戦後経済需要のカンフル剤。この三点です。あとスペースノイドのガス抜きですか」

言っていて嫌になる。これでは政治家だ。一官僚の意見では無い。いくらこの質問に答える様にと事前に言われていてもこれでは政治家でしかないではないか。
それに、だ。北米州の利益と連邦の利益を一緒くたにされてしまっては困る。連邦と北米は別々の存在だ。
なのに。それにだ、コリニー大将らの自分に対する扱いも妙だ。まるで身内に対する扱いだ。これは困った事になってきた。
俺はただ平和に暮らしたい。確かに家族の為には何でもする覚悟があるが自分から火中の栗を取りに行きたいとも思わないぞ!!

「良く分かった。ところで、だ。特別補佐官には新しい仕事がある。これを見てくれ」

そう言って十枚ほどの書類が挟まった黒色のファイルを渡された。
大統領執務室の大統領執務用机の一番下の引き出し、そこからブライアン大統領が指紋照合で開けた。余程大切な書類らしい。

「これは?」

訝しげに見る。書類はそれ自体に鍵がかかっていて、古典的な南京錠で大統領自身が開ける。
鍵は大統領が個人的に持っていた。それを大統領自ら開けてくれる。ガチャリという音と共に鍵が開いた。

「見ればわかるさ」

今や同僚のマーセナス議員がそう言う。中には一冊の冊子が入っている。
黒光りに金箔でマークされた冊子を開いた。
立案者の名簿にはジャミトフ・ハイマン准将、ジーン・コリニー大将、ジョン・バウアー連邦議員、ローナン・マーセナス連邦議員、ヨーゼフ・エッシェンバッハ連邦議員という北米州出身の5名。
これに加えて、タチバナ中将とオオバ、リン、リーという極東州の最有力者の名前。
中には連邦軍への指揮権と軍権を保持する部隊もあり、止めに治安維持を名目に連邦軍から精鋭を引き抜き、対ジオン軍を名目に宇宙艦隊一個が配備されるという。MSも新型機が優先される。

(何なんだ、この冗談は?)

正式名称は『地球環境改善・戦後復興庁設立計画』。







通称・・・・・・『ティターンズ』計画




北米州の戦後を見据えた計画をこの時、私は知った。こうして逃げ場が無くなった事を私は知ったのだ。




そして私は宇宙世紀0080.06.10に追い打ちを受ける。
妻のリム・ケンブリッジがヨーロッパ半島反攻作戦である『アウステルリッツ』に参加する事が決まった。
しかも連邦軍本部と北米州と極東州の駆け引きの結果の政治的な生け贄という意味合いが強い連邦軍第13独立戦隊として。
確かに強力なMS部隊だ。それは認める。全て陸戦型ガンダムかBDかジム・スナイパーⅡか、ガンダム、ガンダム・ピクシー、ガンダムアレックスと新型機ばかりだ。パイロットもルウム戦役以来のベテラン兵ばかり。
これほどの密度で構成されたペガサス級四隻の艦隊は存在しない。ジオンのキマイラ隊とやらでも互角以上に戦えるだろう。
だが、感情は別だ。思わずリムに詰め寄った。

「本気なのか!?」

リムは軍用バッグに私物の整理をしながら聞き流す。聞き流す事しか出来なかった。
彼女は軍人。レビル将軍が北米州に不信感を持っていたが、それでも戦争に勝つためにと、使えそうな反レビル派を漁っている。その目に留まったのが第13独立戦隊。
レビル将軍は今や政治的に大勝利を求められるという政治的な窮地にあり、その中で中立派や戦力とみなせる部隊の移動、掌握に躍起になっているのは私はジャミトフ先輩とバウアー議員からの報告で知った。

(だが何故だ!? 何故リムの部隊なんだ!!)

考えてみれば当然でもある。兵器とはそもそも同一運用した方が効率的であるし、強襲揚陸艦部隊が今回の様な大作戦に投入されない方が可笑しい。不自然だ。
だからレビル将軍が第13独立戦隊に目を付けるのも当然と言えば当然の結果。いち大佐とその家族の事までいちいち計算していたら戦争は出来ない。
よって、レビル将軍もきっとリムの部隊と知って徴収したのではないだろう。しかし、だが、やはりそれとこれとは別だ。

「答えてくれ!」

私の夫は無茶を言った。
リム・ケンブリッジは知っていた。この一月の休暇の方が可笑しかった。例外的だったのだ。本当はペガサス級の艦長はその重要さから戦場に居なければならない。

(大佐と言う階級。ペガサス級の艦長、ルウム戦役の生存者、ガルマ・ザビを鹵獲した英雄の妻。誰が見ても後方にいて良い人物にはなれない。それが私なんだ。
夫は感情的になって分かって無い。私が後方にいればせっかくワシントンという安全な場所にいる夫の立場を危うくする。それが分かるから・・・・だから私はいくのに)

夫か私かどちらからが行かなければならない。そして行くならば軍人であるリム・ケンブリッジ大佐でなければならない。これが事実。これが現実。

「答える必要があるの?」

我ながら冷たい声だ。夫が錯乱しているのは分かっている。だが。それでも理解してほしい。
私だって死ぬのは・・・・・ウィリアムや子供たち三人と別れるのは嫌だ。
それでも。かつて夫が、ウィリアムがルウムでその義務を果たしたように自分も義務を果たすべきなのだ。それが連邦軍軍人の務め。その為に税金で養われたのだから。

「・・・し・・・しかし」

漸く冷静になって来たのか自分たち二人が置かれた立場が分かってきた様だ。そう、私は軍人。連邦の軍人で上官の命令は絶対。
第一、軍人が上官の命令に口答えしてしまえば、命令拒否を続ければ軍隊は機能しない。瓦解する。それが軍隊なのだ。
これくらいは体験入隊しか経験ない夫も、ウィリアムも分かっている。もっとも何でもかんでも理詰めで納得出来たらこの世から戦争は無くなるだろう。
なおも詰め寄る夫にいい加減にウザくなった、五月蝿くなったリムは夫を平手で叩いた。
唖然として見る夫に怒りが込み上げてくる。

「誰が好き好んで最前線に行くのよ!? 行きたくないわよ!! 私だって子供たちと一緒に居たい!!
それくらい分かってよ!! どうして分かってくれないの!!! 私の気持ちを一番理解してくれるのはウィリアムでしょ!?
私だって死ぬのはいやよ。あの子たちに会えなくなるのは一番嫌。でも仕方ないのよ。貴方は文官で民間人。私は武官で軍人。
義務が違うの。やるべきことが、与えられた任務が全く違う。だから・・・・・だからせめて・・・・・せめて笑顔で送り出して!!!」

そう言って、そう言われて泣きそうになった。いや、泣いた。




妻との喧嘩から一夜明けて。
レビル将軍の要請により、ペガサス級3隻を新たにベルファスト基地に派遣する事で合意した北米州とジャブローの連邦軍本部に連邦政府。
が、この合意は一人の政務次官に個人的な恨みを突き付け、憎悪の炎を燃やす。

(約束したはずだ、ルナツーで加えられた暴行や人権侵害問題を蒸し返さない代わりに妻には手を出さないと約束した。それを信じたのに)

そう思ってジャミトフ先輩の宿舎代わりに使っているホテルを訪ねた。
怒り心頭であり、もうかれこれ10分ほど黙っている。先に沈黙を破ったのは先輩だった。
今日は私用だ。関係ないか。お互いに。
今関係あるのはあのクソじじいのキングダムと戦争大好きのレビルがリムの前線勤務に関係しているのかどうか。

「どうした? 何か聞きたい事があるのではないのか?」

ジャミトフ・ハイマン准将はこの都度、少将へ昇進する。
北米にて300機を超す陸戦型ガンダムと100機のジム・スナイパーⅡの量産の功績で7月4日のアメリカ独立記念日に合わせて少将になる。
ちなみにこの前段階機体であるジム・スナイパーカスタムはジャブロー工廠で生産、第4艦隊と第5艦隊に配備されていた。
一方で彼のライバルでもあるブレックス准将も第3艦隊、第6艦隊再建の功績で少将に昇進。ゴドウィン准将と共に9月前に第3から第6までの艦隊と共に宇宙に上がる事が内定している。
これに加えて第7艦隊と第8艦隊、第9艦隊の合計7個艦隊が打ち上げられる。
MS隊はジム改とジム・コマンド、ジム、ジム・スナイパーにジムライトアーマーやジム・キャノンなど多彩なラインナップである。
これはコロンブス改級簡易空母が大量生産された事が大きい。戦闘艦も一個艦隊あたり60隻まで増設された。
ビンソン建艦計画はレビル将軍の強い(もしかしたら強すぎた)リーダーシップで当初の予定を大きく覆した。確かに艦艇の質は落ちた。
通常サラミス型が大半を占め改良型やサラミス改は少数しかない。しかし、MS隊はより強固になり戦闘用艦艇の総数も増えた。

「これならば『チェンバロ作戦』も『星一号作戦』も成功するだろう。そして・・・・ジオンを」

そうレビル将軍は呟いた。
無論、そこまで預かり知らない。彼が知ったのは妻が出兵する理由はレビル将軍が北米州にも派兵命令を下したと言う至極まっとうで偏った意見だった。

「先輩、この第13独立戦隊の出撃・・・・・・何故です?」

前置きも無く、宛がわれたホテルの一室でジャミトフ先輩を詰問する自分。ルームサービスのワインがあるが手を出さない。出せるか。それどころじゃない。
先輩はバーバリーの紺の仕立服。自分はいつものアルマーニのスーツ。両者ともネクタイはしてない。夏を迎えつつある北米東海岸は熱いからか。

「何故と言われても・・・・・命令としか答えようがないのだがな?」

煙に巻こうとするジャミトフ先輩だが今回ばかりはそうはいかない。
ケンブリッジ人権侵害問題とでも言うべき裏の事情を知りつつも、関係なくこの命令を出したクソッタレが連邦軍上層部に居る筈だ。もうルウム撤退戦の様な泣き寝入りはご免なんだよ。
だから聞き出してやる。

(これでリムが殺されたら俺は直接リムを殺すジオン以上に裏取引をご破算にした連邦上層部を恨む!!!
絶対に恨んでやる。憎んで憎んで憎み切ってやる!!!)

視線が交差する。
鋭い視線がジャミトフ・ハイマン准将を射抜く。これは誤魔化しきれないと彼、ジャミトフは悟る。

「ウィリアム・・・・・誰にも言うなよ?
命令を下したのは・・・・・・レビル将軍とキングダム首相だ。彼らがペガサス級の投入を要求した。例の裏取引は無かった事にされた。
そうだ。お前の想像通り、彼らは戦力集中を優先した。だがな、今回の戦力集中、それ自体は正しい。いいから黙って聞け。お前が怒っているのは分かっている」

いいだろう、先輩。なんて言う気だ?

「良いか、お前の妻が戦場に出る。それに怒りを感じるのは分かるが実際はより多くの、そう、140万の人間が前線に行く。
その事を考えろ。お前だって妻が軍人なのは最初から知っていたし覚悟している筈だ。こういう事態が来ることを。まさかずっと一緒にいられると思っていたのか?
もしもそう思っていたのなら甘すぎる。軍隊は、政府はそんなに甘くないのはお前自身が体験した筈だ。
諦めろとは言わない、いや言えない。だが、受け入れろ。お前は彼女の、奥方の覚悟まで汚すつもりなのだぞ?
彼女を、軍人として歩んできたリム・ケンブリッジ大佐の事を考えろ。妻や母、パートナーとしてのリム・ケンブリッジではなく、軍人としての彼女を。
ああ、関係ないがこの間、極東に配備された二隻も20日までにベルファストに到着する。第12独立戦隊としてな。これで良いか?」

そしてジャミトフは見た。ウィリアムが笑ったのだ。
それも今まで見た事もない、どこか抜けた事のあるウィリアム・ケンブリッジとは大きく違う嘲笑の笑い。いや、怒りの笑い。

「なるほどなるほど。そうですか。あのレビル将軍ですか。
サイド3で一緒ん仕事した時は良い将軍だと思った俺はなんて人を見る目が無いんだな。これじゃあ利用され続けて当然だ。
そんなに・・・・・そんなに戦争がしたいのか!? あのくそじじい共は!!」

思わず机を叩いた。ワイングラスが床に落ちる。

「良いだろう、戦争だ。これは、この戦争は、お前らが望んだ戦争だ!
お前らと俺と。どちらがしぶといか、どちらが正しいかを賭けた戦争をやってやる。俺は勝ってやる。勝って全て奪ってやる。勝って全て守ってやる。
今度は勝つぞ、クソじじいどもめ!!! いつまでもお前らの思い通りに行くと思うな!!!」




同時刻、ブレックス准将は宇宙港の会議室でシロッコ中佐と会った。
会って何を話したかはこの場では語らないでおこう。
ただ、ニュータイプ論やスペースノイドの自治権獲得について議論したのは間違いない。これは後に大きなうねりとなって連邦を襲うのかも知れない。




ヤケ酒をするウィリアム・ケンブリッジに付き合ったジャミトフ・ハイマンは次の日、後輩の為に将官の権限でケンブリッジ大佐の有給を無理やり申請させ、受領させた。
こうしてリム・ケンブリッジ大佐は夫と子供と両親と最後の休暇を楽しむ。それが件のパーティであり、その後の家族サービスだった。あっという間の3日間。
そして彼女は軍服を着てニューヤークの宇宙港に来る。
自らが拝領した新造ペガサス級の7番艦アルビオン艦長として。250名の乗員を預かる大佐として。その姿は清々しく、そしてどこか悲しげだった。

「ねぇお兄ちゃん、お母さんさ、ちゃんと帰ってくる?」

妹のマナが兄のジンに聞く。
泣いている。何処か悲壮な覚悟をしている面々が多い事が子供心に分かったのだ。恐ろしいのだろう。昨日まで妙に優しかった両親がそれに拍車をかける。
そしてこの雰囲気。恐ろしくて怖くて、だからここで聞くのだ。

『お母さんは帰って来るよね?』

と。

「ばか、帰って来るに決まってるだろ!」

お兄ちゃんが殴った。再び泣きそうになるマナ。だが、マナは涙をこらえた。
お父さんが昨日の夜、変な顔で泣きそうな顔で笑いながら言っていたのだ、こういう時は笑って送り出すのだ、と。

「本当だよね? 嘘じゃないよね?」

それでも彼女は、マナは信じられない面がある。幼いながらも分かっていた。
母親は決して安全な場所に行くのではない。凄く、子供心に分かるほど危険な場所に行くのだ。
それが怖い。きっとお兄ちゃんも怖い。でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだから必死にそれを抑えてくれている。

「嘘じゃないさ」

お父さんがあたしの頭の上に手を置いた。それが心地よい。
だが、ウィリアムも手の震えを必死に抑えていた。
それがきっと自分に出来る、いやしなければならない義務だ。それが父親の義務だ。負けられない。恐怖に勝たなければならない、片親として。母親の代わりとして。

「お母さん!」

「母さん!!」

マナとジンがリムに抱きつく。ギリギリまで二人を抱きかかえるリム。まるでもう二度と会えない様な風景だと思った。
はっとなって顔を振る。

(バカな! リムは帰ってくる!!
リムだけじゃない、カムナ隊もホワイト・ファングもお嬢さん方も、デルタチームも、シナプス司令官らもみんな帰る。絶対だ。絶対にだ!!)

そうしている内にシナプス准将が歩いてきた。
敬礼する。まさに軍人としての鑑と言うべき敬礼に思わず胸に手を当てて頭を下げて返礼する。苦笑いするシナプス准将。軍帽を脱いだ。

「では次官閣下、奥様をお預かりします。必ず、私の命に代えてもお返しします」

その言葉が何よりもうれしい。そして私はもう一度頭を下げた。そしてゆっくりと言った。

「シナプス司令官、妻を、皆を、お願いします」

と、その時。軍帽を被り直したシナプス司令官が小型の無線機を取り出す。

『第13独立戦隊総員、注目!!』

アルビオンからペガサス、サラブレッドの三隻の全艦内に放送がかかった。

『手空き乗員整列!! 我らが守るべき連邦市民に対して捧げぇぇぇ礼!!!』

一斉にささげられる連邦軍方式の敬礼。これに歓声でこたえる見送りの人々。
これが幻影であっても良い。この景色こそ地球連邦が、地球連邦と地球連邦軍があるべき姿だと私は思った。

それから30分後、花束と共に、舞い散る花びらのなか三隻のペガサス級は出港していく。




宇宙世紀0080.07.22になった
ベルファスト基地はいよいよ最終段階を迎えつつある『アウステルリッツ』の準備に追われていた。
1000機を超すミデア輸送機と連邦非加盟国との軍備拡張戦争(第二次冷戦とも言う)の結果とミノフスキー学のキメラである超大型輸送機「ガルダ」、「スードリ」、「アウドムラ」の三機がピストン輸送でブリュッセル近郊の臨時拠点に兵力を展開していた。
700機を超すMS隊と2000両を超える戦車や戦闘車両の群、1400機と言う、宇宙世紀では空前絶後の大部隊が一斉にドーバー海峡を渡っている。
一方で、ジオン軍も負けては無い。第四次降下作戦で270機の陸戦型ザクⅡ(J型)とグフB型、グフA型がそれぞれ60機、イフリートが36機、ドムが72機、ドワッジが72機、ドム・トローペンが72機という大軍の補給を受けている。戦力比率は約3対1で連邦軍が優勢であるが防御側が有利な事を考えると予断は許さない。

「ブライト・ノア大尉であります」

ベルファスト基地に到着して早々、エイパー・シナプスは艦長会議を開くことにした。
切り札と見て良いホワイトベース。確かに戦果は異常だが、あくまで単艦でしか行動した事が無い。団体行動、と言って良いかは分からないが、それは経験不足の筈だ。
と言う事は、現時点で不安を解消するには艦長間の信頼関係を作るしかない。
用意された部屋には軍服姿の男女が幾人かいる。
ヘンケン・ベッケナー少佐(ペガサス艦長)、キルスティン・ロンバート中佐(サラブレッド艦長)、ブライト・ノア大尉(ホワイトベース艦長)、リム・ケンブリッジ大佐(アルビオン艦長)、マオ・リャン少佐(MS隊司令官)、そして第13独立戦隊唯一の将官にして総指揮官エイパー・シナプス准将。
最後に入ってきた一番年若く、階級も低い、しかも一年前は少尉でしかなかった若き連邦の英雄は完全に固まっていた。
この第13独立戦隊の面々は軍事通なら誰もが知っているメンバーなので緊張するのも分かる。

(そう言えば、彼の要望であったアムロ・レイ少尉とセイラ・マス少尉の精密検査は長引いているな。作戦開始までには間に合うだろうが。何かあるのか?
確か、ニュータイプと言っていたか? ケンブリッジ次官が言っていた、ジオンで研究が始まったと言うあれの事か?)

その後の挨拶も終わり、それぞれの役目を確認する。と言ってもこの大作戦ではやる事は決まっている。前線からの支援要請に毎回対応してジオン軍を駆逐するだけだ。
我々はかつての第14独立艦隊の様に戦場の火消し役として、遊撃任務にあたるのだ。この点はガルダ級から降下する陸戦型ガンダムで編成された空挺部隊と同じか。

「では作戦会議を始める」

特に問題も無く作戦会議は順調に終わった。
最後、室内に残ったブライト君が後片付けを手伝ってくれた。既に一級線の艦長なのだがまだ新米士官という気概が抜けないのだろう。それに最年少だ。

(手伝わなければならないという気持ちも分かるな。彼らホワイトベースは現地兵が大半だと聞いた。生き抜いて欲しいものだ。
無論、私の指揮下にいる間は無駄死にだけはさせない。いざとなれば私が個人的に泥を被れば良い。
汚名を被ってでも投降して部下たちの安全は保障させるだけだ。ペガサス級との交換なら無碍には扱わないだろう)

出されていたイギリスの紅茶をケンブリッジ大佐と共に飲んでいると彼が声をかけてきた。

「シナプス司令官にケンブリッジ大佐」

何かね? 目線で問う。そしたら敬礼してから話題にはいた。

「サイド7と地球周回軌道では援護並び救援要請に答えて頂きましてありがとうございます。
もしあの場にいたのが自分達だけではとてもここまで来る事は出来なかったと思います。本当にありがとうございました」

ああ、その事か。気にするな。友軍を助けるのは当然の事だ。
そう言って座ったまま応対する。相手は立っているがここで立てばこの若い大尉の事だ。また緊張するだろう。




宇宙世紀0080.08.01

ドドドドド。100mmマシンガンの徹甲弾が目前にいた一機のザクⅡJ型の正面装甲を貫く。
仰け反りかえるザク。
その後ろから120mmマシンガン、通称、ザクマシンガンの発砲光が見えた。バーニアーを噴かせて横に跳ぶ。
牽制にマシンガンを残り一マガジン分叩き込んだ。銃声が互いにやむ。夜の帷が下りた今、ビームサーベルはギリギリまで使えない。
下手に使って光で敵を誘う訳にはいかない。

『隊長、右200mにザクの足音!! 来るぞ!!!』

気が付くとザクがマシンガンを構えていた。

『隊長!?』

ガガガガガ。何かが割れて飛び跳ねる音。
それが彼の聞いた最後の音だった。




とある市街地では住民が必死に空爆に耐えている。
ジオン軍が当初の予定通り撤退したにもかかわらず、それを知らない連邦軍の航空隊は大型爆撃機の大部隊による絨毯爆撃を行ったのだ。
地下鉄やデパートなどの地下、防空壕に隠れてやり過ごした住人たちに聞きなれない足音らしき音が聞こえた。
連邦軍の先発隊、陸戦用ジム部隊6機二個小隊が市内に侵入したのだ。
これを見たジオン軍は超長距離から一方的な砲撃を開始。
開始したのはYMT-05 試作モビルタンクの一号機ヒルドルブとその簡易量産型MS-16M ザメル隊である。
余談だが地球連邦との開戦前夜、地上戦を最初から考慮していたジオン軍は非加盟国(北インド、中華、イラン)と共同で地上戦用MSの開発に着手した。
特にMSに懐疑的な非加盟国はダブデ級陸戦艇やギャロップ級陸戦艇の量産、一方的に敵軍を撃破できる戦車の様なMSを採用したかった。
その結果が試作モビルタンクのヒルドルブであり、その量産型MSであるザメルであった。その大口径戦車砲は地上戦力の質で劣勢な非加盟国を底上げするだけでなくジオンには無かった地上戦のノウハウを提供する事になる。
そしてそれは本来であればMS適正無しとして撥ねられたであろう人々に希望を与えた。開戦前の義勇軍降下作戦以来前線で活き活きと戦い続けているソンネン少佐などその典型例である。

「初弾命中。は、連邦のMSが。思いっきり上半身が吹き飛びやがった」

デメジエール・ソンネン少佐は指揮下の12台の部隊に命令する。ビッグ・トレーの正面装甲を貫通する大口径砲弾だ。MSの装甲など拳銃弾に対する紙か段ボール程度の扱いだろう。と、連邦側に動きがあった。

「散開する気か? させねぇよ。各機、焼夷弾発射。続いて徹甲弾! 個別射撃だ。各個に撃て!」

一機のジムが足を止めて今度は下半身が分解された。そのまま上半身が地面に落ちる。また別のジムはジャンプで回避したにだが、降りた場所がたまたま着弾後のクレーターだった為、そこに足を囚われる。そのまま第四撃がそのジムを木端微塵に砕く。運が無い奴だ、ソンネン少佐はそう思った。

「よし、最後に榴弾を撃って撤退する。全機照準。よーい。3,2,1、0.撃て!」




「た、助けて・・・・・誰か! 水が!! 死にたくない!! ここから出して!!!」

被弾した僚機のグフが河に落ちた。河川と言ってもコロニーの川のように浅くない。
水深がMSの全高よりもあるのだ。
このままでは彼女は死ぬ。なりゆきで何度も肌を重ねた位に仲が深いのだが助けに行かない。自分は助けない。助けに行けない。目の前の敵に後ろを見せたら自分が死ぬ。

「くそぉぉぉぉ」

掛け声を、雄たけびを上げてグフのヒートソードを振り上げるが、目の前のオレンジ色のジムはそれを左手のシールドで受け止めた。
シールドとヒートサーベルの接触音と衝撃が響いた。
次の瞬間、目の前に光が来た。彼は光の渦に一閃され、意識を刈り取られた。
真横からコクピットを陸戦型ジムが横一文字に両断した瞬間である。
続いて残った最後のグフを狙い、上空に12機のフライマンタが現れる。一斉射撃の対地ロケット弾。盾を構えて退避するグフ。
いつのまにか僚機の女性パイロットで士官学校をルウム戦役後に卒業した彼女の声は聞こえなくなった。そう言えばノーマルスーツを着用してなかったな。溺死か。それは嫌だなぁ。
その一瞬、先ほどのジムがシールドの尖端でグフのコクピットを押し潰し、この小隊の意識を全て刈り取った。




二機のドップがミデア輸送機の上空を取る。急上昇と急降下だ。戦闘機誕生以来の戦闘方法は宇宙育ちのジオン軍人でも使えた。
急降下でミデアのコクピットを20mmバルカンで撃ち抜く。もう一機は旋回して後ろから左翼エンジンに集中射撃をかける。
護衛のセイバーフィッシュに一機のドップが撃墜された。機首バルカン砲がドップの翼に命中してドップを空中分解させる。
また別のドップは低空に逃げ込んだが別のセイバーフィッシュの攻撃でコクピットを赤く染め上げ、墜落。森林が炎上。
と、ミデアからホバートラックが脱出した。次の瞬間、航空機用ガソリンに引火したのかミデアが爆散した。




別の戦線では61式戦車がマゼラ・アタックを駆逐している。戦車戦では連邦軍が圧倒している。このままいけば勝てる。そう誰もが思った。
が、ホバートラックのソナーマンは捉えた。6機のホバーの音を。

「ドムだ!!」

叫んだ時と120mmマシンガンの着弾は同時。一気に3両の戦車が廃車に追い込まれる。一斉に後退する戦車に追い付くドム。
戦車は当然ながら上空からの攻撃に弱い。と言う事はMSの持つ火器の攻撃にも弱いと言う事だ。

「援軍を。航空隊に支援要請を!!」

『敵の航空隊が来る前にかたをつける。60秒後に離脱する。マゼラ隊にもそう言え』

『了解しました、フレデリック・ブラウン少尉』

無線が交差する。ここぞとばかりにマゼラ・アタックも175mm砲を放つ。ドムも61式戦車隊を蹂躙する。
あるドムはヒートサーベルを上から突き立てる。あるドムは蹴りつける。あるドムはマシンガンで破壊する。
中には果敢にも反撃する戦車がいるが61式戦車の戦車砲に耐えきるドム。
流石は重MSだ。伊達に戦線の強行突破をコンセプトに開発されてない。
この地区のジオン部隊は当初の予定通り撤退していく。だが連邦も逃がさないと言わんばかりに即座に航空隊による爆撃を仕掛ける。爆弾が周囲の地形を変えていく。




「コジマ中佐。戦況はどうかね?」

ビッグ・トレー03のCICでイーサン・ライヤー大佐は参謀長役のコジマ中佐に聞いた。彼らの目的、フランス・イタリア解放方面軍(南欧方面軍)と言う名前からもフランス、イタリアの回復。
だが当初の予想とは異なりジオン軍抵抗は明らかに不自然である。CICではオペレーターや参謀たちがせわしげに働いている。

「はい、敵の抵抗は微弱です。ほぼ無人の荒野を行くがごとくです。
危険なのは地雷やブービートラップ、敵のゲリラ的な補給路遮断作戦くらいですか」

妙だな。右手を顎に当ててライヤーは呟いた。戦闘前の予想、つまり事前の情報。
ジオン軍の地球攻撃軍は面子を重視して、一度占領した地域全てを守るべくヨーロッパ全域に万遍なく戦力を分散しているというのがエルラン中将の話だった。
諜報部も管轄する作戦本部の報告だ。エルラン中将自身もベルファストまで前進して督戦している。しかし偵察機や先行した部隊の報告は違う。

『我、パリに敵影を見えず』

その後その機体のパイロット(リド・ウォルフ少尉と言った)から直接呼び出して聞いたうえ、数度の偵察隊を放ったが報告は同じ。
更に南の都市であるヴィシーにもジオン軍は少数しかおらず、そのジオン駐留部隊も制空権が確保してあるうちにガウ攻撃空母で脱出する気配を見せていた。

(これらを総合して考えれば敵はヒマラヤ山脈以南に陣取っているのか? だが、そうなると・・・・)

ライヤーとて無能では無い。派閥争いに敗れ、レビルが台頭したから未だ大佐だがその地上戦の指揮能力は高い。
現在イベリア半島開放を進めているイベリア解放軍のスタンリー・ホーキンス大佐も同様だ。彼は無派閥だったのでその影響を受けたのだが。

「ホーキンス大佐に連絡を取れ。司令部にも打電しろ、パリは空爆するな、と」




大規模反攻作戦である『アウステルリッツ』が発動して既に10日。第13独立戦隊も訓練を終えて作戦参加の為にベルファストから最前線に到達、途端に大規模なドップに通信では60機)の迎撃を受けた。
それをワシントンで知るウィリアム・ケンブリッジ。

(リム・・・・・頼むから生きて帰ってきてくれ)

ジャミトフ先輩は自分に対して精一杯の誠意を見せた。新造艦に新型機、独自行動の自由にルウムを生き残ったパイロットたち。
更には3隻のペガサス級強襲揚陸艦。40機近いMSは全て新型のジム・スナイパーⅡか陸戦型ガンダムに、エースのヤザン大尉らにはガンダム・ピクシーやブルー1号機にガンダム三号機。これでリムが死ぬはずがない。そう思っていた。思いたかった。

「次官、無理をなさらずに」

ダグザ少佐が慰めてくれる。彼も確か部下たち全員を戦地に送っているのだ。
自分を守る為に卑怯者の汚名を被ってまで護衛に残ってくれた。
感謝しなければ。
そうしている内にワシントンの国際空港に一機の特別機が降り立つ。そのまま車で待っていると待ち人が降りてきた。

『ようこそ、ワシントンDCへ』

私が待った待ち人はガルマ・ザビ。だが、次の瞬間、奴の喜色にあふれた顔を見てかっとなった。頭に血が上る。
あろうことかあのジオンのザビ家の御曹司は女性同伴だった。
しかもその女をエスコートする程の余裕を見せつける。

(あれがガルマ・ザビ!? 何だあの姿は!!
許せない。何人も、何十人も、何百人も、何千人も、下手したら何万人も、何十万人にもザビ家の為に死んでいるのに!! お前だってザビ家の一員だろう!!)

少なくてもかつて自分を護送してくれたランバ・ラル氏や第9次地球周回軌道会戦で壊滅したジオン側の将兵らはガルマ・ザビの為に死んだ。
その当事者であり守られた当人は呑気に連邦の有力者のお嬢さんとデート気分で敵地のリゾートホテルに滞在。しかも特別機と護衛付きの生活。
これに対して自分はルナツーで連邦上層部の失態隠しのための謂れなき尋問と人権侵害を受けた。
そして命からがら地球へ、故郷の北米に帰ってきてみれば帰って来たで、妻だけを再び戦地に送り出した。子供たちの泣き声をバックに。

(自分の妻は、リムは最前線で今まさに戦っているのに!!
その戦争を、この戦いを引き起こした当事者の一族は責任を感じず呑気に捕虜生活?
しかもあれはイセリナ・エッシェンバッハか? 何故そんな有力者と肌を重ねている!?
お前には自分の為に、いや、自分のせいで死んでいった将兵への懺悔の気持ちは無いのか!?)

連邦側から一斉に悪意が向けられた。一般兵も儀仗兵も仕事だからやっていると言う感じが強い。寧ろ馬鹿面を浮かべてないで俺たち連邦の中堅文官たちの怒りの視線を感じろ。

(ガルマ・ザビ、貴様は一体全体何様なのだ!?)

そしてあろうことか騎士の様にイセリナお嬢さんをエスコートした。皆の見ている目の前で。この点はジオン公国時代の感覚が抜け切れてないのだろう。
だがそんな事を冷静に見ていられるほど最近の自分の精神は安定してない。

(貴様!!)

この時、私は怒りと同時にリムが戦場で死ぬという鮮烈なイメージに囚われた。ずたずたになって判別さえつかないリムの死体。泣き崩れる子供たち。
棺おけに入った無言の帰宅。唖然とする義理の両親たち。全滅した戦友たち。可愛がってくれたシナプス司令官の死。賑やかだった艦橋の女性陣。
そして私の元に帰ってきたのは辛うじて判別がついた血塗られたリムの冷たい手。
それが現実になるかと思うと怖気がする。
気が付いたら体が動いていた。気が付いていたら体がガルマ・ザビの方を向いている。

「次官!?」

ダグザ少佐が慌てて引き留めようとしたが遅かった。私は州政府が用意したリンカーンから降りる。それを見やる連邦の官僚や軍人たち。驚きと戸惑いの嵐。
だが、私は未だに敵地でラブロマンスをしてくれたジオンのプリンスにその視線を集中していた。
タラップから降りてきて、あまつさえ私たちに手を振ったスーツ姿のガルマ・ザビに近づき、その襟首を掴みあげる。
この時の私は確かにおかしかった。妻だけ戦地に送り出していたので、きっと精神科に行った方が良い精神状態だったのだろう。それでも私は動いた。
激情で動いた。政治家も官僚も感情で動いてはいけないが、この時は違った。私はこの戦争が始まってはじめて『ウィリアム・ケンブリッジ』個人として行動したのだ。




「ガルマ・ザビ!! 貴様!! 一体全体何様のつもりだ!!! お前のその態度は一体なんだ!!! この卑怯者の恥知らずが!!!」



[33650] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:15b68140
Date: 2012/08/14 13:28
ある男のガンダム戦記13

<暗い情熱の篝火>




宇宙要塞ソロモン。ジオン公国の宇宙における純軍事的な要所であり、地球連邦軍の宇宙反攻作戦『星一号作戦』の一環である『チェンバロ作戦』の攻略目標である。
その為の事前の準備(数個の独立艦隊による強行偵察)をレビル将軍は命令した。
が、4隻ずつ、合計12隻のサラミス改級で編成された第2独立戦隊、第3独立戦隊、第4独立戦隊は、数機のMSとは違う航宙機の大型版の様な、ジオン軍がMAと呼んでいる部隊の猛攻撃を受けて壊滅した。これは当初の予想ではありえない事態だ。一個艦隊相手にでも時間を稼げると思われていた3つの独立戦隊が瞬時に壊滅。
その部隊をジオン軍は第300独立部隊、通称「ニュータイプ部隊」と呼んでいた。

「シャリア大尉、クスコ中尉、マリオン中尉、レイラ中尉、セラ少尉、アイン少尉のMAエルメスか。これは凄い一方的な戦況だな」

ゲルググ高機動型という単純な兵器としてはガルバルディαに劣るものの、兵器としての質で勝るその機体を配備している白狼連隊を指揮して、彼ら彼女らニュータイプ部隊を護衛するシン・マツナガ少佐はコクピットの中でバイザーを開けて汗を拭きつつ一人呟く。
彼の言う戦局とは、連邦軍のサラミス級巡洋艦のMS運用可能母艦タイプ12隻と48機のジム改と両軍から呼ばれている連邦軍のMS隊を四方八方から撃破していく姿であり、その一方的な戦闘の流れだ。

「ただし戦闘長期化による原因不明の頭痛あり。
また各MSNシリーズ搭載のサイコミュ兵器によるオールレンジ攻撃時は意識を対象に集中する必要がある為、護衛機の存在が必要不可欠
これでは半ばモルモット扱いだな。しかしドズル閣下も彼ら彼女らを戦線に投入するだろう。このソロモンを放棄するなら尚更」

6機のMAエルメス。その搭載兵器『ビット』の動きは連邦軍を完全に翻弄していた。
戦闘開始寸前に艦隊司令部からニュータイプ部隊のみの迎撃を命じられた時は正気かと思ったが、これ程の実力ならば納得ができる。
そしてザビ家に近い、正確にはドズルの信頼が最も厚いのが自分だと言われている。実際、彼から国家の大戦略を聞かされることもある。愚痴と言う形で。
ギレンやサスロは互いに言い合えるから無いが、軍事の専門家としてザビ家で役割上孤立しがちなドズルはこういう事がある。信頼する部下にポロっと裏事情や秘密情報を教えてしまう。ルウム戦役直後のシャア・アズナブルとの面談もそうだった。

(ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプを部隊名に使ったニュータイプ部隊の名は伊達では無いのだな。
しかしこれ程の部隊が急造されるとはジオン本国で何があった? ドズル閣下はこういった胡散臭いモノを好まない筈だ。
事実、私にこう愚痴をこぼした。トップであるギレン総帥はニュータイプ部隊にある程度の足止めを期待している様だが、これで物量に勝る連邦に勝てるのか、と。
確かにその通りだ。私もこの戦果を自身の目で確認するまで6機のMAエルメスよりも36機のゲルググ量産型の方を配備するべきと具申していたのだから)

が、問題は解決した。ニュータイプ部隊は理論の段階だが使える事が判明した。連邦軍もこの時期に新型ジムと新型艦で編成された3つの独立戦隊(艦隊)を壊滅させられるとは思ってなかった筈だ。
その証拠に悲鳴のような救援要請がつい今しがたまで発信されていた。もっともミノフスキー粒子の海に溺れてどこにも届かなかったが。
逆に考えればそれだけの高濃度のミノフスキー粒子散布下での戦闘にて無線誘導兵器が復活したと言える。

「こちらシン・マツナガ少佐。全機の無事を確認。帰還する」

撤退の赤い信号弾が宇宙に輝いた。




ジオン公国のニュータイプ研究の切っ掛けはジオン・ズム・ダイクンの思想を探す学術家グループに端を発する。
ニュータイプとは何か、これを単なる机上の学問から実用的な学問へと推進したのはフラナガン博士を中心としたグループであり、サイコミュと呼ばれる無線誘導機器(後にオールレンジ兵器と呼ばれる)の開発が主目的である。
意外な事にこれ(ニュータイプ論)に最初に興味を示したのはギレン・ザビ総帥であった。実際、この事を知ったサスロ・ザビは兄が過労の余りに新興宗教団体に嵌ったのではないかと不安の余り、ギレン・ザビへ直訴した位だ。
そう思われる程、ムンゾ自治共和国からジオン公国まで政権の中枢にいるあの冷徹な合理主義者、それがどちらかと言えば精神論的なモノに興味を示した衝撃は大きかった。

「ニュータイプ研究を開始せよ。予算はある程度は付けよう。フラナガン博士、場所と資材と予算に人材は確保するからこのサイコミュを実用化して見せろ」

そう言って開発計画にGOを出した。ではこの理由はなんであったのだろうか? それはキシリア・ザビの存在である。
彼女が残した(正確には残してしまったというべきだろう)キシリア日誌と呼ばれる極秘文章、ザビ家の長女によるクーデター計画の見取り図とでも言うべき案に、ギレンは警戒した。
そしてその一部に書いてあったサイコミュに興味を抱く。

「ニュータイプ、か」

総帥服を着たギレンはキシリア日誌を読み切ると自室でそう独語したという。
奇しくもこのニュータイプ論とサイコミュは、ジオンの国運を賭けたミノフスキー博士によるミノフシキー学、ミノフスキー粒子によるMSの登場と重なった。
これは歴史の必然だったのだろう。そう考えたい。
ギレンはキシリア・ザビの考えたニュータイプ進化論と言うべき考えには一切の興味を抱かない。当然だ。それは彼の様な人物にとっては弱者が縋る妄想である。こういう点ではウィリアム・ケンブリッジと同じ感性の持ち主だった。
彼が興味を抱いた対象はミノフスキー粒子散布下での無線誘導可能な兵器であるサイコミュの開発。一方的に誘導兵器を復活させられる可能性である。
その点を考慮してサイコミュニケーター、これの開発に着手した。こちらの方が余程重要な問題である、そう言い切った。

(ニュータイプそのものはダイクン学派の連中にやらせればよい。それよりも無線誘導兵器の復活こそ急務!)

時に宇宙世紀0076の夏であった。それから3年あまり。ジオンは数百の実験と戦争時の実戦データを反映させてMSNと呼ばれるシリーズの開発に成功。
ミノフスキー粒子散布下での誘導兵器復活につなげる兆しだけを見せた。
もっとも、そのサイコミュを使えるのはあくまで一部の人間であり、一般人が使えないと言う弱点が存在するので全軍への配備は行われてない。
そう考えればこの兵器はあくまで理論上の存在であろう。兵器とは誰でも扱えて一定の成果を上げられる事が前提条件なのだから。
加えて。ジオン公国の総帥たるギレン・ザビは、サイコミュを扱えるその人物をあくまで突然変異であるとしか見てない。この点もウィリアム・ケンブリッジのニュータイプ少数派論に良く似ている。本質的にあの二人は似た者同士なのだ。
無論、それを表に出す事は無い、それが為政者だ。無いのだが、ギレンらジオン公国の上層部は本心から彼ら彼女らをニュータイプであるとも思ってない。考えてもいない。

『ニュータイプとサイコミュを扱える人間はあくまで別物である。便宜上そう呼ぶだけである』

これは愛人のセシリア・アイリーンも弟のサスロ・ザビやドズル・ザビも知っていた。ちなみにザビ家で知らないのはデギン公王とガルマである。
戦争序盤で司令官職を求めて、本国の参謀本部比べて情報が乏しくなる前線部隊に、自ら向かったガルマ・ザビはともかく。
デギン公王がこのニュータイプ部隊の事を知らないのは余計な事をして南極での交渉をぶち壊してくれた前科から、つまり、ギレンやサスロの警戒感から来ているのである意味自業自得だ。
そして、宇宙世紀0080.08.03。

『撤収作業終了しました』

確認する。敵味方の負傷兵や漂流者の改修も終わったようだ。宇宙空間や海上で漂流者は敵味方の区別なく回収するのが習わし。
もちろん南極条約で義務化されているがそれ以前に船に乗る物全員の義務だ。そして言いたくないが既にノーマルスーツの平均空気残量時間も5分前に切れている。

「よし、ジムの新型も回収した事だし撤退する。全ザンジバル級、回頭」

ザンジバル改級4隻で編成された白狼連隊は一度ソロモン要塞に帰還する。
この戦いで、ソロモン宙域でその一端を白狼と呼ばれるジオン十字勲章所持のエースパイロットにして名指揮官は確認した。サイコミュを搭載したMAもの実力を。




宇宙世紀0080.08.19日。ワシントンDCの一角で。ウィリアム・ケンブリッジは囚人服を着て面会室に居た。手錠はされてないし一時的な処置である。が、この切っ掛けと言うか原因は言うまでもなくガルマ・ザビに殴り掛かった事にある。
寧ろ。よく謹慎拘禁処分で済んでいると言える。これがジオン公国なら銃殺刑もあり得ただろう。実際ザビ家に反抗して生き残ったのが奇跡的だと言うのがジオン公国だ。それくらいの事をやったのだ。
それは分かっていた。だが、それでも許せなかった。

(関係ない筈がない。お前が昔何をやったか、その所為で一体どれだけの人間が迷惑をこうむり結果としてどれだけの人間が死んだのか思い出せ!!
あの武装解除事件で連邦側にも犠牲者は出た。その後のジオンと連邦の交渉を暗礁にのし上げさせた。結果、両国は戦争に突入したのだ!!)

そう怒りの炎を、ある意味では八つ当たり以外の何物でもない感情を燃やしたウィリアム・ケンブリッジ政務次官である。
開戦に至るまでの持論はまあ極論ではあったが。他にも軍拡のもたらした経済的な側面など理由は多々ある。
決してガルマ・ザビ『だけ』の責任では無い。が、ガルマ・ザビにも責任の一端があるのは自明の理でもある。
そんな彼の面会相手は休暇を取ってわざわざ会いに来たジャミトフ・ハイマン少将。

「久しぶりかな、ウィリアム。差し入れは無いが子供たちは全員無事だ。お父さんとお母さんは仕事で外国へ行っていると私が直接言ってきた。
君らの両親たちにも詳細を説明して納得してもらった。その点は安心してほしい」

ジャミトフ先輩は後輩であるウィリアム・ケンブリッジの体調と心情を心配して会いに来たのだ。全く頭が下がるとはこの事である。
当然ながら彼は将官であり、北米州方面軍副司令官並び軍事参事官(連邦軍統合幕僚本部の主要メンバーの事。全員で35名しかいない。他にはブレックス・フォーラ少将やジョン・コーウェン少将などがいる。トップはゴップ大将)として重圧を加えられている彼にとっても貴重な休暇なのに。
そして思い出される。殴るかかった、彼の胸元を掴みあげたあの日を。

『ふざけるなよ、お前は自分が誰だか理解しているのか!?』

『お前が殺した人間の前でその腑抜けた姿を見せられるのか!? お前のバカンスの為にジオンの兵士達は死んだのか!?
俺の妻は・・・・・リムはお前の個人的な名誉欲や虚栄心の為に死にかけているのか!? ふざけるんじゃない!!』

そう言ってガルマ・ザビを罵倒した。周りの景色など忘れて。自分の立場をしっかりと投げ捨てて。あったのは感情のみ。激情のみ。
内容は後で述べるが、それはそれは正に心の底からの罵倒であった。彼が誰であったのか、自分が誰を相手にしているかなど簡単に忘れ去った。
その事からもう10日程、ワシントン特別空港の現地時刻で8月5日の14時前後だった事を考えると謹慎の日程もあと僅か。
漸く出れる、という安堵感よりも第13独立戦隊の面々がどうなったのか知りたかった。当たり前の事だが独房ではそんな情報が入る筈も無い。それが辛い。

「さて、少しは反省したのか?」

ジャミトフ先輩が鋭く聞く。というより出来の悪い後輩である自分を叱りつけている。怒って当然だ。先輩とは大学時代から長い付き合いになるから。
確かにあの行動は大人気なかった。地球連邦の高級官僚である自分が怒りに任せてやって良い事では無かった。
しかし、それでもガルマ・ザビに言いたかった。

『ガルマ・ザビよ、お前の立場を知れ、お前の為に死んだ人間がいる事を思い出せ、お前の今の立場を考えろ』

と。
まるで自分の為に死んで当然と言う態度が、こちらとの裏取引を破って以来、私が一方的に嫌っているレビル将軍の『ジオンに兵なし』という演説と被ったのだ。
彼もルウム戦役の敗北の責任を取る事無く戦場に舞い戻った。
本来であれば戦死か軍法会議か、強制退役による予備役編入の可能性が高かったのに、である。それだけの大敗北をしておきながら何食わない顔で地球連邦軍総司令官というのは良く考えると納得がいかないだろう。

「・・・・・・はい」

だがジャミトフ先輩には口答えできない。彼は自分がずっと世話になってきた身内だから。その分甘い対応になる。お互いに。
そう言う。それしか言えない。この間、面会に来たダグザ少佐は言ってくれた。

「先日の政務次官の取った態度は官僚としては最悪でしょう。しかし、連邦市民としては当然の感情と思います。
これは個人的な事ですが私も閣下の刑が軽くなるように擁護しました。
ジャミトフ・ハイマン少将、ジョン・バウアー議員、ヨーゼフ・エッシェンバッハ議員も次官を守ってくれています。暫くの辛抱です。
それに連邦軍上層部のゴップ大将がこの件で動いてくれているとの噂もありますから。決して自棄を起こさないで下さい。必ず釈放されます」

この言葉を聞いた時は本当に頭が下がる思いだった。
あの日の自分は自分の事しか考えてなかった。リムと子供たちのことしか考えなかった。それが情けない。それが悔しい。泣きたいほどに情けない。
私の為に力を尽くしてくれる人々がこれ程いた。それに気が付けなかった。リムと子供らの事しか頭になかったのが悔やまれる。後悔する。

(私の為に戦地で妻を守ってくれる人々も何百人といる。何でもっと視野を広げなかったんだ?
それを分って無いのではガルマ・ザビと同じではないか? いや、何も変わらないだろう。ガルマ・ザビの独善さと俺の身勝手さは同じ重さだ。同じモノだ)

あの時、ワシントン特別国際空港。
私はきっとガルマ・ザビに、己であるウィリアム・ケンブリッジの姿を見たのだ。己の事しか顧みない、最悪な人物である己自身を。
だからあれ程の怒りがわいた。だからガルマ・ザビと言う自分から見て20歳は年下の若者に理不尽な怒りをぶつけたのだと思う。

(私の鑑みがあの時のガルマ・ザビ。そうだ、それを自覚しなければ)

いや、ガルマ・ザビの事などもうどうでも良い。ようは自分がガルマ・ザビの様にならない様に自覚しなければならないと言う事。
次に自分を忘れた、或いは身勝手な行為をすれば恐らく神は私を裁く。それを忘れてはならない。

(そうだな。あのガルマ・ザビと俺は何が違う? 一緒だ。同じだ。全く変わらない。俺は俺の事しか考えてない卑怯者だ。
第9次地球周回軌道会戦で戦死した将兵の事を数値としか見ないガルマ。リム以外の事を単なる文字でしか見れなかった俺。
何も変わらない。何も違わない。全て同じである。まったく度し難い。本当に・・・・心から度し難いのがこの俺か・・・・・自嘲したくなるな)

そう思った。臆病者だとは知っていたが、それ以上に卑怯者だった。自分の事ばかり考えている小学生にも劣るクソ餓鬼だ。そう感じる。そう思える。そう考える。
良く考えて見れば、自分にもガルマ・ザビを批判する気持ちなど持ってはいけないのだ。

(ガルマ・ザビが特権を利用して前線に来たのと俺が特権を利用してリムを戦場から引き離す行為は同じものだ。どちらも特権に胡坐をかいた行為でしかない)

そうだ、自分はあの日連邦政府と裏取引をしたのだ。それを思い出させる。
地球連邦政府との裏取引。あの時、俺は妻リム・ケンブリッジの安全を地球連邦政府キングダム内閣府から『買った』。
文字通り、我が身を犠牲にしてリム・ケンブリッジの安全を『購入』したのだ。それが正しい道を信じて。それこそ誰にも強制されてない自分の選択で。
そして冷酷にもキングダム首相は裏取引を放棄して私たちはうち捨てられた。
過去に交わした約定などまるで無かったかのように、いや事実としてその様な事態は無かった事になった。その結果がリムの前線勤務だ。
確かに裏切られた。だが、その前に自分はシナプス司令官らを裏切っていた。そんな自分にガルマ・ザビのバカンスを非難する資格があったのか?

(独善もここに極まる。おこがましい。なんて卑怯なんだ。なんて屑だ。クソッタレなんだ。俺は卑怯者だったのに今の今まで気が付かないとは。
ガルマ・ザビはさしずめジオンの俺か?
ああそうだな、ジオンのウィリアム・ケンブリッジがあのガルマ・ザビなんだ。それを自覚しないと俺はまた同じ失敗をする)

そう思っているとジャミトフ先輩が声をかける。
彼にも迷惑をかけた。かけ過ぎたと言って良いだろう。彼には世話になりぱなしだ。

「・・・・・そうか、まあこの間も言ったがお前の気持ちは分からなくはない。
ウィリアム、お前の感情は正しいだろうな。戦場に、それも最前線に大切な人間を送れと言われて嬉しがる者はおらん。
私も実戦経験はあるが、それとて海上艦隊の巡洋艦の乗組員だ。それでも怖かったが・・・・ああ、言い忘れていた。私の妻はその時の戦闘で逝ったよ。
情けない事に私はそれを知ったのは艦が港に戻ってからの事だった。そして妻は一番死にたくなかったと言っていた重油まみれの海で重油に囲まれて死んだ。
妻はな、南国のパラオ共和国、北米州の出身でもかなり東方の出身だったのだ。周囲がエメラルド・ブルーやコバルト・ブルーの旧太平洋諸国の出身。
それが故郷とは考えもつかない程汚された海で死んだ。
とてつもなく悔しかった。悲しかった。だから私は地球至上主義者と言われてもこの地球を再生したいと思うようになった。亡き妻の供養の為に」

こんな場で申し訳ないが私は驚いた。

(初耳だ。ジャミトフ先輩があれだけ地球環境に固執した理由は其処にあったのか)

彼もまた家族の為に己の生き方を決めた人間だった。
だが、こちらの方が共感を持てる。
明らかに私事で戦争を継続したとしか思えない南極条約時のレビル将軍の態度よりも余程真っ当な理由に私は感じるのだ。きっとそれは正しいのだろう。いや、正しいと信じたい。

「さて、減給1年に2週間の独房生活、謹慎処分がお前に与えられた罰だったが、情勢が変わりつつある」

ジャミトフ先輩からなんとも嫌な不吉な言葉を聞いた。情勢が変わりつつある? いったいどういう事だ? 
まさかオデッサ攻略の『アウステルリッツ』作戦が不味いのか? あれだけの大戦力を投入して劣勢に陥っていると言うのかあのバカ軍人は!?

(縋る様な視線を向ける自分はきっと滑稽なんだろう。
だが、今だけはそれでも先輩に縋る。今は誰かに縋るしかない、そしてそれは、縋るのは今この時だけだ。ここから出たら・・・・・必ず)

ここからでたら、特別刑務所から解放されて自由になったらあの計画に、「ティターンズ」計画に乗ろう。積極的に協力させてもらう。或いは利用させてもらうと言って良いかも知れない。
地球環境改善も結構、戦後復興に名を借りた戦後の地球連邦統治権の奪取にも協力しよう。
だから今は縋らせてくれ。そう思っていると別の男入ってくる。看守だ。しかし、拳銃を構えた、いやスタンガンを構えた看守と言うのも珍しいな。

「そうか。まあこの間に比べて元気そうでなにより、という言い方は不味いかも知れないが・・・・・それでも元気そうで良かった。
さて本題に入る。まずはお前に面会があるのだ。ウィリアム、お前に会いたいと言っている人物がいる。
不本意な人物だろうとは思うがこれも仕事の一環として会ってやってくれ。というか、会え。これはブライアン北米州大統領閣下からの命令になる。
私が休暇を利用して此処に来たのはその人物の監視の役目もあるのだ・・・・・衛兵、彼を入れろ」

扉が開いた。それに私は驚く。そこには安物の紺のスーツを着た20歳前後の若者が青いネクタイをして立っていた。
そして深々と頭を下げる。本当に深々と、礼儀良く、かつてのお坊ちゃん的な傲慢さは欠片も見せなかった。その点は評価しよう。もっともほんの少しだけだが。

「ガルマ・ザビです。お会いするのはこれで二度目になりますが、ウィリアム・ケンブリッジ政務次官殿とお話をしたく思いました。
その為にジャミトフ・ハイマン少将に無理を言ってここに来させてもらいました。よろしくお願いします」




アウステルリッツ作戦で発生したドイツ北部の戦線は完全に混沌と化していた。ボンを奪還、ベルリンを解放するべく地球連邦軍はついにエルベ川河川沿いの沿岸都市ハンブルグを射程に捕える。
が、ここで撤退し続けたジオン軍もまた決死の反撃に転じる。主力部隊はドムとドム・トローペン、ドワッジを基幹戦力とした第2軍。
ノイエン・ビッター少将指揮下の第2軍はこの為に編成された部隊であり、この打撃部隊による戦略機動による側面反攻作戦を決行してきた。
またジオン軍は海上艦隊を持たないが(黒海沿岸地域で奪った艦艇は戦闘に活用できるほど熟練した乗組員がいない)、シャア・アズナブル大佐指揮下のマット・アングラー隊の通商破壊作戦にて、大西洋で損害を受け、ドーバー海峡に一定の戦力を拘束された連邦海軍はこの時点で無視して良い。
0080.07.31の時点では連邦軍は予備兵力である海兵隊と陸軍5万名によるエルベ川を迂回した強襲上陸作戦が出来なかった。
そして、ハンブルグにはユーリ・ケラーネ少将のジオン軍第1軍と地球攻撃軍のダグラス・ローデン准将の拠点防衛軍(通称は第3軍)が展開。
エルベ川の河川輸送能力や補給線分断の危険性を考えるとこれを無視するわけにはいかない地球連邦軍。故に連邦軍はここハンブルグ前面にてジオン軍を撃破する作戦を取る。
狙いは単純で、『大軍に確たる用兵は必要なし』の言葉を実践。
大規模な空爆と砲撃の後、ハンブルグ郊外に布陣しているジオン軍20万を粉砕する。この為、北部方面軍と中央方面軍の二つ、総数65万を動員した。
更に720機のMSで健在な643機の内、360機を一挙に、第一波としてこの戦線に投入。航空機も1000機を凌駕し、戦車隊も600両になる。
後に『ハンブルグ会戦』、或いは『エルベ川攻防戦』と言われる戦いが始まる。
部隊の集結、南欧解放軍やイベリア半島解放軍からの部隊間の戦略移動などによる時間の浪費からか、会戦が正式に始まったとされるのは宇宙世紀0080.08.14の午前1時30分。
無論、エイパー・シナプス准将指揮下の第13独立戦隊もこの大規模戦闘に投入されるのは当然の事であった。必然と言い換えても良い。
彼ら第13独立戦隊は連邦の最精鋭部隊であり、戦場の便利屋であり、火消し屋なのだから。今動かなくてどうするのかという事だ。
この4隻のペガサス級は他にも前線基地としての機能も持つ。
よって投入されて当然であり、戦隊を構成する全乗組員もそれを受け入れていた。もっとも半分以上は嫌々であるが。当たり前だ。誰だって死にたくない。




時と場所はまたもやワシントンの特別刑務所にある面会室に移る。宇宙世紀0080.08.16の午後10時。本来なら消燈の時刻だ。
それが護衛の衛兵と看守が見守り、弁護士が一人いる中で、軟禁された地球連邦の高級官僚と捕虜になった敵国の王子と言う訳のわからない対談がまた始まる。傍らには眠たそうなジャミトフ先輩がいる。
きっと徹夜続きなのだ。申し訳ない事である。

「政務次官。あの時・・・・何故・・・・私を叱ったのですか?」

ガルマ・ザビは心底不思議そうに聞く。当たり前か。敵である自分を叱っても不利な点はあるが利点などない。まして公衆の目前。
皆が見ていた。言い訳など出来ない。その結果がこの囚人服であり、子供らとのしばしの別れであり、25%カット、ボーナス支給せずと言う減給処分である。身から出た錆だ。が、それは良い。認めよう。
認めないと先に進めないのだ。だが、だからこそ、それがどうしたのかと聞きたい。そんな疑問を聞くためにここに来たのか? お前は他にもやる事があるだろうと視線で訴える。

「私は・・・・・叱られた事など無かった」

言い訳か? 恨み言か? 地球に降りてまともに喋ったと思えばこれだ。全く大した教育をしていたのだな、デギン・ソド・ザビ公王陛下は。
長男ギレン氏と次男サスロ氏、三男ドズル氏はあれ程有能なのに最後の四男はこの様かい。
全くもって良い気なもの。他人事ながら、この四男に対してザビ家は絶対に教育を間違えたと私は思った。それは間違いないね。
そう思っていた。イライラする。まるで鏡だ。考えた通りに来る。
自分を映す鏡。

(ガルマ・ザビと言う男の向こう側にウィリアム・ケンブリッジ内務省政務次官にして地球連邦の若き英雄という特権に胡坐をかいていた男(自分)を見ている気分だ。
不愉快極まる。だがこの鏡を割る事も出来ない。
それに割った所で必ず鏡は私を映すだろうから意味が無い。どんなに砕かれた鑑であろうとも必ず景色を写し出すのだから。畜生が!)

毒舌が出てしまう。

「それで? 私に謝罪しろと? 或いはもう一度罵倒してほしいとでも言うのですか?
ガルマ・ザビ大佐、貴方に謝罪するならあの場でしましたよ。いえ、行動にさえ起こさなかった。それともこれはブライアン大統領やキングダム首相からの命令ですか?
ジャミトフ先輩、もしそうなら命令してください。そうして下さるなら彼の靴でも舐めましょう。それがキングダム内閣と言う現在の連邦の体制でしょ?」

我ながら毒舌だ。
だが、あの裏切りに尋問と人権侵害を受けてもまだ笑っていられるほど大人では無い。このままだと子供らも生贄にされる。そう思える。

「それは・・・・・そうでは無いんだ。違う。ケンブリッジ先生、私はそんなつもりで会いに来た訳では無いのです。
ただ知りたい、いや、これも傲慢だな。私は教えて欲しいのだ。私はジョン・バウアー議員と共に連邦市民の主催するパーティに出席して辛い目にあった。
何人かのご婦人は露骨に私を避けたし、目が笑ってない事くらいは分かった。あれは憎悪や軽蔑の目だ」

それで? そんな当たり前の事を今ここで白状するのか? 
何なら教会を紹介しましょうか? それともムスリムの友人の方が良かったか? 或いは仏教の僧侶や神社?

「知りたいのだ・・・・・何故あれ程まで連邦市民から私は憎悪を向けられているのか、その理由を。そしてこの戦争の意義を」

私は心底思った。ガルマ・ザビのこの発言に。心の底から呆れ返る発言とはこの様な発言を指すのだろうか? そうだな、そうに違いない。
こいつは歴史を知らない頭でっかちのシロッコ中佐並みに御目出度い頭の構造の持ち主らしい。憎悪される? しかも今先生ときたか? 何を言っている?
当然だろう。ガルマ・ザビよ、お前の一族は地球連邦と言う国家の敵対国の王族であり支配者なのだぞ? それさえ自覚してなかったのか?

(嘗て私たちをサイド3政庁に護送してくれたランバ・ラル氏はこんな奴の為に死んだのか? これでは無駄死にではないか?
第9次地球周回軌道会戦で死んだジオンと連邦の全将兵は一体何のために死んだ?
こいつの敵地でのバカンスの為に死んでやったのか? 私の様に家族を故郷に残して!? 悲しむ人間を増やして?)

怒りが込み上げてきた。いや、呆れもある。だから言ってやった。

「ガルマ・ザビ大佐、貴方は馬鹿だ。ハッキリ言って最悪の馬鹿だ。その理由は語るに及ばずだ。自分で察してもらいたいな。
私は貴方に申し上げる事は何もない。貴方は貴方で、自分でその答えを探せ。そうしない限り貴方はずっと兄たちに追い付けないだろうよ。
そしてギレン氏は決して貴方を認めない。ああそうだ、他人事ですがね、これだけは保証しますよ。
その甘さを除かない限り、長兄のギレン・ザビ総帥はガルマ・ザビ大佐、貴方をザビ家の家族の一員とし認めても、対等な人間としては絶対に認めない。
それがギレン・ザビと言う男の鋭さでありますよ。貴方が憎悪をどうこうと言っている間は何も変わりはしない。甘い坊や扱いされるだけだ。」




この言葉が歴史を動かす。




宇宙世紀0080.08.20、ドイツ領ハンブルグ近郊。
戦闘開始からこの方まで激戦がいまだに続く。数機のドムがジャイアント・バズを放ち、ジムキャノンやジムの上半身を吹き飛ばした。当たり前だがパイロットは即死。
また、別の戦線ではザクと陸戦型ガンダムが対峙していた。ザクがマシンガンのドラムマガジンを交換する為に一度動きを止める。

「そういう時は身を隠すんだ!!」

サウス・バニング大尉の陸戦型ガンダムがこの隙を捉えて100mmマシンガンを撃ち込む。仰け反るザクに更に二条の閃光が貫く。後方に爆発音。
爆風、爆音と共に、MS搭載のソナーがドムの退避する音を捕えた。どうやら身を隠す必要があったのは自分の様だ。助かったか。

「こちらデルタⅡ、ラリー機、援護した。0401、無事か?」

「デルタⅢのアニッシュです、バニング大尉を援護!」

デルタ小隊に所属するジム・スナイパーⅡのラリー機とアニッシュ機から通信が入る。ミノフスキー粒子が濃くなりだしているがこの距離ならまだ通信可能圏内だ。
見るとデルタⅢのハイパー・バズーカから噴煙が出ている。銃を上にあげて感謝の意を表す。パイロットにはパイロットの流儀があるからそれで通じるだろう。
ふと、戦場に意識を戻す。一機のジムがグフのヒートサーベルにコクピットを貫かれて沈んだ。
パイロットはまたもや即死だろう。更にフィンガーバルカンで数台の61式戦車を破壊した。そのグフに部下たちが襲い掛かる。

「てめぇ!! この宇宙人野郎!!!」

「は!! いい気になるな!!!」

「もらいましたよ!!!」

そのグフにモンシア、ベイト、アデルが三方向から陸戦型ガンダム三機が一斉にビームサーベルを構えて突っ込む。突きだ。ビームの三段突き。
件のグフは咄嗟にシールドでベイトの右手を叩き、ビームサーベルの軌道をずらしたが、他の二本は避けきれなかった。コクピットに対して正面と左からビームが貫く。
爆発がした。その爆発に乗じて距離をとったアデルの陸戦型ガンダムに別のグフがフィンガーバルカンを撃ちながら接近し・・・・・直後、真横から放たれたビームに頭部を貫かれて爆散する。

「こちらファングⅠ、一機撃破。続いて二機目にうつる。ファング3、援護を」

「了解!」

「こちらファング2、現在BD01を援護中。BD02、BD03の援護を求める」

中腰からレイヤー大尉の無線が聞こえる。
流石は自分たちと互角に戦える英雄部隊の一つ。
因みにジム・スナイパーⅡが使っているのは陸戦型ガンダム用のビームライフルだ。こちらの方がスナイパー型ライフルよりも使いやすい。
戦場ではパイロットの感覚や武器の取り回しが大きく戦闘を左右する。そう考えればこの選択は間違ってない。特にMSの登場以降はそうだ。
更にファング2がザクを1機落とす。ビームがコクピットを焼き切り、ザクが前方に向かって倒れる。その下にいた敵兵の死体を押し潰して。
と、一機のザクが右側からザク・バズーカを構え放つ。ザク・バズーカが放たれた。爆炎で一瞬だが機体を見失う。
それをヤザン大尉のガンダム・ピクシーが陸戦型ガンダムに使われているシールドで受け止める。
その爆炎と煙の向こう側からBD1号機の放つ100mmマシンガンがザクを仕留める。

「ラムサス、ダンケル。聞こえているな? このまま戦線を押し上げるぞ!!」

「フィリップ、サマナ、無事だな? 敵の増援が市街地から向かってきている。迎撃するぞ。敵はグフが1機、ザクが3機だ。カムナ大尉、大尉の01小隊と共に援護してくれ」

「了解した。シャーリー、パミル、残弾確認。敵を迎え撃つ!」

陸戦型ガンダム5機とBD1号機が南の市街地から出て来た敵軍を迎撃に向かう。良く分からないエグザムとかいうシステムはシナプス司令官の権限で物理的に遮断されている。司令官曰く、『兵士は実験動物では無い』との事だ。
因みにこの戦闘には直接関係ないが、ジオンのニュータイプ研究が急速に進化しているのはニュータイプ研究の第一人者であった人物のクルスト博士の亡命事件も影響している。
博士の亡命でジオンに危機感を抱かせたと言うのが正直な話である。
連邦軍にとっては迷惑極まりない。そもそも暴走する兵器など兵器に値しないのだから。
それを乗せたBDはシナプス司令官やリム艦長、マオMS隊隊長から危険視されていた。ユウ・カジマ中尉を殺す、『味方殺し』だと思われて。
(実際に4名のテストパイロットが重傷を負っている。不完全な起動と博士は言っていた。詳細は良く分からない)

地上で若干の優勢を確保している頃、一方で第13独立戦隊の旗艦アルビオンらはドップ36機の攻撃を受けていた。

「輪形陣。迎撃せよ」

シナプス准将の的確な判断で何とか戦線を維持する第13独立戦隊。オペレーターらもこの状況にパンク寸前である。
現在の連邦軍は凡そ200kmに渡って一斉に渡河作戦を実行。
一方で事前に1000機爆撃を20回は繰り返し、ガンタンクを師団規模で、さらにビッグ・トレー4台の対地艦砲射撃を決行した。
海上艦隊からも若干宛にならないが、それでも数百発単位の地形誘導型艦対地ミサイルによる精密爆撃を敢行していた。
これだけ叩けばジオン軍が如何に地下陣地を築いていても突破できると思ったのだが、実際は違った。戦場で予想と現実が実際に違う事は良くあるが。
ジオンは想定以上に、まるで連邦軍がハンブルグ経由でベルリンを目指す事を知っていた様に、大規模な防御陣地を構築。
戦闘は当初の予想とは異なり完全に膠着化する。もっとも消耗戦はジオンにとって不利なのでこの事自体は問題では無いのだが、それでジオンが黙る筈も無い。
そしてリューベックとハノーバーを出発したジオン軍第2軍が戦場に到着。辛うじて連邦軍が優勢であった均衡が一気に崩れだす。
そのリューベックから来た主力攻撃部隊の4つの矢の内、一つを抑えるべく第13独立戦隊が投入されたのだ。言うまでも無く、100機以上が入り乱れて戦う大激戦区である。
その大攻勢を防ぎきっているのは最新型MSの性能、チーム戦術、そして何よりも。

「これで9つ!」

アムロ・レイ少尉の声が聞こえる。ドムの改良型3個小隊を瞬時と言っても良い時間で壊滅させた。彼こそこの攻撃を防ぎきっている立役者。

「連邦の白い悪魔だ!」

この言葉にすべてが集約されるだろう。
ホワイトベース隊が担当したドワッジ12機は3分も経たずにホワイトベースのガンダムアレックスを中心とした防衛線に捉まり、撃破される。
そして、この損害の甚大さと衝撃はジオンに撤退を決意させる。

「ん? こちら006。敵の撤退を視認、ブライト聞こえて? アムロ、カイ、ハヤト、スレッガー少尉、確認できて?」

セイラ・マス少尉の乗るガンダムからの言葉に『追撃は待て』と言うブライト大尉の声が聞こえる。どうやらアルビオンのシナプス司令官も一度ジオン軍と距離を離すようだ。
ふと時計を見る。セイラは思った。戦闘を初めて既に1時間以上。近代戦では異常なまでの戦闘時間だと言われている。
他の部隊も奇跡的に損害率が低い。いや、殆どの小隊が被弾こそしているが犠牲者はいないようだ。これを奇跡と言うのか?

(私たち・・・・・ジオンから見れば本当に化け物でしょうね。これだけ攻撃に出て生き残ったのだから。それも勝って。
アムロに付けられたあだ名。連邦軍の白い悪魔・・・・・・言い得て名だわ)

その感想の通り、攻勢に投入した36機のドワッジの内、実に三分の一がわずか3分弱で壊滅させれた事を知ったケラーネ少将は一度トイレに駆け込むと、指揮杖思いっきり個室の壁に叩きつけたという。
もっとも、第13独立戦隊以外のこの方面に投入された連邦軍MS隊120機中、犠牲は90機を越しており、そう言う意味ではジオン軍の戦術目標の達成は成功したと言える。
が、ジオンも50機以上の機体を失った。その殆どが第13独立戦隊の戦果であった。

「006、セイラ・マス少尉。ガンダム二号機は一度ホワイトベースに帰還します」

「了解、ガンダムが抜けた穴のラインは私達ライラ隊が埋める。一度帰還せよ」

こうして部隊は入れ替える。もっとも第13独立戦隊のペガサス級格納庫もまた戦闘の真っ最中だ。艦載機が帰還した母艦の整備員は仕事が山積み。
武器弾薬の補充、装甲の交換、ジェネレーターの冷却作業などやる事は山ほどある。
戦闘はまだまだ続いていて終わる気配を見せない。




宇宙世紀0080.08.21、ワシントンでまたもガルマ・ザビが会いに来た。良く会いに来るな。あれだけ言われたら普通の人なら嫌って会いになど来ないと思うが。
余程暇なのか?そう思っていたが。

「あれから考えた」

どうやら俺はカウンセラーか精神科に転職したらしい。なんで20歳の若者の疑問にこんな牢屋で聞いて答えなければいけない。
それよりもリムは無事なのか? オデッサ攻略部隊は大激戦を繰り広げていると聞く。その最前線で第13独立戦隊は盾代わりに使われたとも。
仕方ないとはいえ、やはり戦死は絶対に認められない。そもそも一度除隊させたのに。くそ、こんな事なら無理にでももう一度除隊させておければ良かった。
とりあえず、悩める若者の相手をしよう。したくは無いのだがな。

「何をですか? 私も暇じゃないのですがね、ガルマ・ザビ大佐殿」

そう言い放つくらいは今の私は許されるだろう。こんな対応しても決して悪くない。と、思いたい。
だいたいこいつの相手は別の政治家や官僚の仕事だろう? どうして牢屋にいる自分が相手をしなければならないのだ!?

「私はザビ家の男だ。それは変わらない、変えられない。だが、それだけで終わってはいけないと思う。」

そう言うガルマ・ザビの目はいつの間にやら前のお坊ちゃんの目でなくなっていた。この目は見た事がある。決意を秘めた青年の目だ。

(例えが悪いが昔リムにプロポーズした時の俺がこんな目をしていたとリムが言っていたな。まさか、藪蛇になったか?)

それでも思う。一体何を言うのだ?
牢屋にいる高級官僚などと言う矛盾した存在に独白して何が楽しいのだろう? そもそも何ができるのやら? 私が聞きたいくらいだ。

「で、何ですか?」

ここまでザビ家の末子を粗雑に扱う者はおるまい。少なくともジオン公国には。
それがどうやら彼を変える切っ掛けを生んだ。

(これが吉凶いずれとなるのか。そんな事を今直ぐに分かれ、理解しろ、可能だと言うのはシロッコ中佐の唱える万能人間型ニュータイプだけだろうな。
そんな人間などいない。いたら哂ってやろう。お前は神か狂人かどちらかだ、とね)

と、埒もない事を考えているとガルマ・ザビはとんでもない事を言ってきた。
いや、これは恐らくジャミトフ先輩やブライアン大統領らが裏で仕組んだのだな。
例のティターンズ計画の為のか? まあ良い事だよ。この戦争の戦後を見据えているのは良い事だ。俺の為にも、リムの為にも。

「私は兄たちをサイド6かフォン・ブラウンにまで誘い出す。誘い出すと言う言い方は変かもしれないが・・・・・そこでケンブリッジ次官、貴方が彼らと終戦交渉をしてくれ」




「敵機MS接近、数70機前後! 機種はイフリートタイプが36機、残りはドム・トローペンです!! あと少数ながら陸戦型ゲルググを確認!!」

ミユの声に艦橋全体が震えた。
自分達第13独立戦隊は敵の主力部隊の前に居るのはまず間違いない。恐らく連邦軍上層部のレビル将軍の意向だ。数日前のあの圧倒的な戦果が誤解を生じさせている。

「対空レーダーに反応あり、ペガサスの方向からドップ80機、ドダイ80機が接近!! 地上ではマゼラ・アタック隊の移動も確認」

更にミユ・タキザワ少尉が報告する。陸空同時攻撃か。これはこの間と同じ、いや、情報にあった第7師団、第12独立戦隊、第8師団、第10独立戦隊を壊滅させた部隊だな。
迎撃に転じる連邦軍のMSは増援部隊として送られた通常使用でマシンガン装備のジムが100機ほど。が、ジオンの方が早い。
早速、見た事の無い騎士の様な機体に一機のジムが落とされた。
ビームランサーとでも言うべき装備にジムは胸を貫通されている。これは不味いな。そう思ったが誰もそんな余裕はない。

「各機、順次発進体制!」

マオ少佐が叫ぶがその都度、ドップが放つ小型ミサイルが何処かに命中する。護衛のシバーフィッシュは12機。コアー・ブースターⅡは4機。既に数の暴力の前に飲み込まれた。

「ミサイルで応戦!」

リム・ケンブリッジ大佐は命令しながらも思った。これで火消しは二度目。いい加減にして欲しい。だがジオン軍も必死だ。
ここで連邦軍を包囲撃滅しないとベルリンまで遮る者も遮る物も何もなくなる上、組織的な抵抗も不可能になるだろう。
組織的な抵抗が出来ない軍隊などゲリラ化するか降伏するか、必死に撤退するしか道は無い。それはどれも苦難の道だ。
そしてゲリラ化する為の前提条件がこの統一ヨーロッパ州では欠けている。民の支持が無いからだ。そもそも民による支持が在って初めてゲリラ戦術は効果を出す。
ところが、ここ欧州に住む人々は地球連邦による統治を望んでいるのであって、いくら善政をマ・クベ中将らが施行しようとも侵略者であるジオン公国の統治を心から受け入れる事は無い。
だからジオン軍は必死だ。現に南から北上してきたジオンの部隊は既に連邦軍南方方面軍を撃破していると言う噂がまことしやかに流れている。

「個別に対応するな。各艦のデータリンクとメガ粒子砲の一点集中射撃を行え!!
レーザー通信を・・・・・ケンブリッジ艦長、ホワイトベースに命令しろ!! 前に出すぎだ!! 所定の位置に戻れと!!!」

シナプス司令官の怒鳴り声が艦橋に響く。方や地上はもっと混沌としている。
既に30機以上のジムを破壊されたが、こちらも第13独立戦隊のMS隊を投入。更にガルダ、スードリ、アウドムラの空挺陸戦型ガンダム隊が後方に降下。突破を図るジオンを逆包囲戦とする。
が、ジオンも伏兵の伏兵としてザクⅡJ型18機を戦線に投入。止めにドダイ爆撃機が一斉に空対地ミサイルと爆弾を投下する。爆炎と爆風が地上を覆った。
これで戦線は完全に乱れた。エレンもノエルもアニタもフラウ・ボウも他の誰もどこに味方がいてどこから敵が来るのかが分からない。そんな状況に置かれてしまう。

「索敵は!? く、被弾か!? 被害状況を知らせなさい!! あとレーザー通信だけは保持せよ!!」

ケンブリッジ大佐が必死でアルビオンを維持するが、恐らくこの戦いこそハンブルグ会戦の、いや、アウステルリッツ作戦の山場だろう。
出なければ困る。これほどのMS隊が双方ぶつかり合うなど本来はあり得ないのだから。

「犠牲は!?」

ケンブリッジ大佐の声になんとかエレンが反応。ミノフスキー粒子の下で何とか両軍の状況を確認する。そして一瞬だが絶句した。
既にヤザン隊とライラ隊がそれぞれの第一小隊を除き壊滅。しかしながらWBやWD、BDなどのそれ以外は何とか健在、と。

「ガンダムです! アレックスの活躍でなんとかアルビオン隊は生きてます!!」

その通り。
アレックスは既に5機のドム・トローペンを撃破し、2機のイフリートを撤退に追い込んだ。この前もそうだったが一番最年少でありながら最大級の撃墜王であるアムロ・レイ少尉。その戦果は異常と言っても良いだろう。

(これがニュータイプなの?)

そうとも思うが、これが1年前にはただ引きこもり少年だと言うのだから人生分からない。しかし人殺しで褒められる人生と言うのが良いのか悪いのかは分からない。

(もっとも私の旦那みたいに何がその人にとって本当に幸運なのかはわからないけど)

と、今度は下方に回り込んだザクのザクマシンガンの連射を浴びる。アルビオンにのみ装備されていたレーザー機関砲が何門か潰された。衛生兵が戦死者と負傷者を回収しに艦艇下部へ向かう。
そのザクを『青い死神』と異名を取るようになったユウ・カジマ中尉のBD1号機がビームサーベルで一閃する。袈裟懸けに切り落とされる機体。




宇宙世紀0080.08.22.地球連邦首都のあるジャブローの首相執務室では地球連邦安全保障会議の面々(首相、副首相、内務大臣、国防大臣、国務大臣、財務大臣、文化教育大臣、厚生労働大臣、法務人権大臣、宇宙開発大臣、外惑星開発大臣、経済産業大臣)がそれぞれの秘書官と首席補佐官らを連れて協議していた。
その場にはジーン・コリニー提督とブレックス・フォーラ少将もいた。他にも宇宙開発担当官や佐官、尉官がいる。秘書官の代わりに書記官も多数いた。

「それではこれにて最後の議題です。首相、地上戦の為ジオン軍が打ち上げ阻止に出られないというこの好機を利用した我が軍の宇宙艦隊の打ち上げにサインを」

軍主流派であるレビル派閥の一員としてブレックスは制服組のNo3のコリニーを差し置いて連邦政府そのものに脅しをかける。
が、連邦政府もこの脅しと言う名前の提案に乗る。彼らにはもうすでに道は一つしか無くこれに乗るしか他に道は無いのだから。彼らにとって連邦軍の約束する勝利は政権運営の最後の拠り所。
ここで軍主流派のレビル将軍派を敵に回すのは厄介を越して不可能。既に一蓮托生なのが現実である。もうレビル将軍らからは逃れられない。

「勝てるのか?」

問うことは出来る。そして問いに対する答えも決まっている。勝てるのか? 勝つのです! 勝たねばならないのです!! と。それが軍人の答え。

(もういったい何百回繰り返した押し問答だろう。いい加減に疲れてきた。そろそろ理性を復活させる時期に来たのだろうか?
だが、ここで引けば私は、アヴァロン・キングダムはジオン公国と言う弱小のコロニー国家に良い様にやられた無能者として歴史に名を刻むだろう。それだけは避けたい)

そう思ってしまう。一体どこで道を間違えた? ケンブリッジの提案を黙殺した時からなのか? それとも他の時か? もしくはレビルの演説を受け入れた時から?
だが、もう行くしかない。敗者にはなりたくないのだ。それだけは嫌だ。

「打ち上げ準備は整ったのだな?」

別の閣僚が、国防大臣が確認する。何を今さら。
連邦軍レビル派閥である軍主流派の独走は昨日、今日に始まった事では無い。
あの南極条約締結時からあった。それの再確認にしかならない。ジオン軍と同様連邦軍も既に文民統制が崩壊していた。
形式上は総帥に従うジオン公国軍に対して、既に形式を半ば無視して地球連邦政府に自らの計画を承認させる地球連邦軍。

(この戦争はレビル将軍の言うには民主主義対専制政治と言う戦いだったが、今の状況を見て本当にそう言えるのか?
ましてそのレビル将軍が軍のみならず政治の世界にまで影響を及ぼしている現状。これで本当にジオンに勝てるのか、それよりも勝利して良いのか? 
むしろ負けて肥大化した軍部の発言権を取り除くべきではないのか? それが首相としての役目ではないか?)

だが既にサインはした。もう彼らとは一蓮托生なのだ。何度も言うが。
だから拒否はしない。それに勝てば未来がある。輝かしい未来がある筈だ。無傷のサイド1からサイド6、月面自治都市群からの大規模な収入があれば北米州らにも対抗できる。

「では、打ち上げは3日後。第3艦隊から第10艦隊の7個艦隊全ての打ち上げを2週間かけて行います。
この際、ルナツーの第1艦隊と第2艦隊は地球周回軌道に進出、ルウム戦役前半の様なジオン宇宙艦隊の襲撃に対応するべく行動します」

こうしてブレックス・フォーラが持ち出した大規模宇宙艦隊打ち上げ計画『ガガーリン』は『アウステルリッツ作戦』を壮大な囮に開始される。




宇宙世紀0080.08.27。地球連邦軍は遂にハンブルグを解放する。
ジオン軍の総反撃にあい、その戦力の大半(6割強)を失いつつも、別働隊としてデンマークに地球連邦軍の海兵隊が一挙に上陸。一路リューベクを陥落させる。
この会戦、ハンブルグ会戦やエルベ川を巡る一連の戦いで、連邦軍は投入したMS隊893機の内、650機以上をパイロットごと永久に失った。
が、ハンブルグは陥落。これが転換点となりジオン軍は南下を開始した。連邦軍南方方面軍の正面突破という荒業で。
そして敵方であるジオン軍もドム隊を中心に200機以上を失った為、ドイツやポーランドを中心とした中部ヨーロッパ、北部ヨーロッパ、ヨーロッパ・ロシアを放棄。
アイヒマン大佐指揮の60機を超すガウ攻撃空母部隊が将兵とMSを積んで一路、オデッサ基地を目指す。
これを立案していたユライア・ヒープ大佐は『オクトパス』作戦と呼んだ。
列車とガウ攻撃空母を利用した大規模な撤退作戦を開始。もっとも中欧から後退する20万のジオン兵への連邦軍による攻撃、空爆は熾烈を極めたが。
しかしながら北欧からのオデッサ急行や脱出便と呼ばれた大規模空輸作戦、これに対応する余力は連邦軍にはなかった。




「敵MS隊、ザクⅡC型12機、全て沈黙。各機は警戒態勢に移ります」

マオが艦長であるリム・ケンブリッジに報告する。そのマオ少佐の言葉に私は安堵する。方やシナプス司令官は思った。

(あの大攻勢を耐えきれるか、生き残れるかと不安だったが。どうやら何とかなりそうだ。この戦いも終わりが見えてきたな)

通信によるとジオン軍は撤退に撤退を重ねている。明らかにどこからか情報が漏洩していたとしか思えない程に強固な防御陣地を築いていたエルベ川防衛線をも遂に放棄している。
もっとも我が軍も南欧解放軍やイベリア半島解放軍から戦力を10万ほど引き抜いたことを踏まえると、決して連邦軍の一方的な勝利では無かった。むしろ敗北していた可能性が高かったと言える。
途中までの混戦と劣勢。それを覆したのがペガサス級4隻の指揮管制能力。これ
が勝敗を動かした。この点はルウム戦役で活躍したジオンのドロス級移動要塞の活躍に似ている。ミノフスキー粒子下の管制能力の有無と言う点で。

「後退する部隊か。これで7つ。その全てを一方的に多数で囲み撃破する。指揮官としては正しいが人としては・・・・やりきれません」

マオが言う。ユーグ中尉が今しがたマシンガンで撃破したザクの残骸が森林地帯に散らばっていた。あのジオンの大攻勢からもうすぐ1週間になる。

(ふむ、補給の為にも一旦帰る必要があるな。各艦の被害状況も弾薬の消費状況も危険なゾーンにあるのだからな。
何より疲労の蓄積が半端では無い。このままでは優勢な敵に当たればそのまま壊滅するだろう。)

地球連邦軍上層部の精神論者に勘違いされては困るが、かのホワイトベースも補給があってはじめてジオンの勢力圏を横断したのだ。
まして今回の戦闘では既にBD小隊からサマナ、フィリップの二名が、ヤザン隊はヤザン大尉の直卒である第1小隊を除いて、ライラ隊はライラ・ミラ・ライラを含めて全員が戦死。
特にライラ中尉の機体を一瞬で両断した敵の新型MSを逃したのは痛かった。更にスレッガー小隊もスレッガー・ロウ小隊長が両足骨折の重症、今のスレッガー小隊はキム・ログ曹長しか戦えない。他の二名は死んだ。
アルビオン艦載機もサウス・バニング大尉が負傷した。これ以上の戦闘継続は部隊の全滅を招く恐れがある。それにこの艦隊には独自行動の自由がある。

「司令官」

私、リム・ケンブリッジは何事かを考えている司令官であるシナプス准将に意見具申した。
艦隊を反転、一度補給の為にブリュッセル基地に戻るべきです、と。

「そうだな。更に抱え込んだ捕虜の問題もある。一度戻るよう司令部に具申する。なお現地の判断で一時戦線から80km程後退する。
各艦、反転。進路をオランダ領のアムステルダム基地に取れ」




宇宙世紀0080.08.29。この日の日没時、ベルファスト基地は混乱に包まれていた。
統一ヨーロッパ州であるイギリス領のセント・ジョージア海峡をジオン潜水艦艦隊が突破、アイリッシュ海側から敵の水陸両用MS隊が猛攻撃を仕掛けてきた。
その猛攻にさらされるベルファスト基地。今も一両のホバートラックが破壊され宙を舞う。
それを見て赤い彗星の異名を取る男は思った。

「ふーむ、ガンダムがいないのは仕方ないか。他愛ないな。
各機、艦艇を重点的に叩け。特に輸送船は見逃すな。大陸に向かう物資を沈めるのだ」

赤いズゴックはビームスプレーガンを放ったジムをしゃがみ突きでコクピットを貫通させて黙らせる。更にそのまま左手のメガ粒子砲で別のジムの頭を撃ち抜く。
倒れるジム。倒れた拍子に持っていたハイパー・バズーカの弾薬が誘爆して破片を周囲にばら撒き、対MS用ミサイルを構えていた勇敢な連邦兵を切断する。
その後、シャアの搭乗する赤い指揮官専用ズゴック、ズゴックS型のモノアイがズームで高台にあるビルを捉えた。

「さて、あれが連邦軍のアウステルリッツ作戦の総司令部か。マ・クベ中将の不可解な攻撃禁止命令が無ければこのまま督戦に来ている作戦本部長のエルラン中将とやらも殺害したのだがな。
まあ良い。エルラン・・・・・奴がジオンと連邦を繋ぐ裏の外交官と言うアンリ・シュレッサーの言葉を確認できただけで良しとしよう。それにマ・クベにも色々と恩を売って置いてもよかろう」

そう思いつつ、湾岸部に停泊中の駆逐艦に頭部ミサイルを8発同時に撃ち込む。喫水線よりも上甲板に命中した為か沈みはしなかったが前部の120mm砲塔が誘爆した。
吹き飛んだ砲塔はそのまま上空に打ち上げられ、そして地面に叩きつけられる。ガンと鈍い音がした。
これであの駆逐艦は戦えない。見ると一つ目の巨人コードネームを持った部隊も周囲の艦艇を蹂躙している。
この作戦に投入された水陸両用MSは全てズゴックEとハイ・ゴックに指揮官専用ズゴックだ。総数51機。この強力な部隊が完全な奇襲攻撃になった。
いや、奇襲にしてくれたのか? そう思えるほど警戒は手薄だったし奇襲後の対応も明らかに不可解だ。命令系統が浮き足立っていた。夜と言う事もあるだろうが。

「ふ、マ・クベも存外にやる。獅子身中の虫か。さて私とどちらが性質が悪いかな?」

赤い彗星にしてこの奇襲作戦の指揮官、シャア・アズナブルは戦果を確認すると全部隊に撤退を命じる。
この時ジオン軍は51機中、僅か4機の損失で数万トンの物資を海水に沈めた。
色々と疑惑があるのだが、とにかく連邦軍はベルファストと言う統一ヨーロッパ州最大の拠点で無様にジオン軍相手に敗退してしまった。




地球連邦軍の地球並び宇宙での同時反攻作戦を知ったザビ家は地球での持久戦策の成功と、再度のルウム戦役の大勝利を再現する為にソロモン要塞の放棄を決定した。

「艦隊陣形を乱すな。一分一秒の遅れが生死を分ける。全艦、撤退陣形05を維持せよ」

無論、ただで放棄する事は危険極まりない。連邦軍がこの要塞を橋頭保にしてジオン本国を目指すのは既に常識のレベルになっている。
つまり無血開城は宇宙にいる連邦軍を調子に乗せる上、何もせずに戦略拠点を奪われると言う事でジオン軍の士気にも影響する。
と言う事で、ソロモン要塞には地球には行かなかった(行かせられなかった)ダイクン派とキシリア派が集められた。その数は2万名。
ジオン宇宙軍が現在30万名程度まで減少した事を考えるとそれなりの大部隊である。

「艦隊の撤収作業と守備隊の退避、要塞放棄を連動。連邦軍役に付け入れる隙を作るな!」

ユーリ・ハスラー少将は必死に艦隊を纏める。何度も大戦略に基づいた撤退戦の準備を行う。艦隊にも出来る限りの新鋭機を配備する様、上層部に働きかける。
そのお蔭でハスラー指揮下の駐留艦隊は何とかリック・ドムⅡかザクⅡF2型で構成された。が、ソロモン要塞の内実は酷い。
配備された機体のほとんどが旧式のザクⅠかザクⅡC型、良くてザクⅡF型であり、要塞守備隊にはリック・ドムさえほとんど配備されなかった。
もっとも、これに反発したのがドズル・ザビである。

『この様な事は将兵の士気をいたずらに悪化させる上、他の部隊の国家に対する信頼さえ損なわれる。
ギレン兄貴、サスロ兄貴、今からでも遅くない。放棄するソロモン仕方無いが、それはそれとしてともかく、ソロモンの駐留艦隊と将兵はを見捨てないというポーズを取ってくれ』

それは正しい。そう言った理由でユーリ・ハスラーとドズル・ザビは遅滞戦術の研究と訓練を行っている。
今もハスラー少将の艦隊が最大射程圏内で砲撃戦をしつつ、ソロモンから部隊が撤退する演習をしているのだ。
実際、現時点でパプア、パゾグ級のソロモンへの補給船団はジオン本国からの大規模補給を装って各サイドから徴収した物資やソロモンで生産された(極めて少数であるが)MSに人員(ザビ家が有用と判断したという但し書きが付くが)をサイド3に送っている。
地球連邦軍もこの動きをある程度掴んでいるのだが、そもそも制服組、つまりゴップ大将とコリニー大将は中立派だったワイアット中将を抱き込んで、レビル将軍によるソロモン奪還作戦を政治的に利用しようとしていた。
つまりレビル派閥と反レビル連合との内部抗争でこの話を握りつぶしている。そして舞台はジャブローに飛んだ。




「かけたまえ、政務次官」

ウィリアム・ケンブリッジは釈放されると直ぐにジャブローの奥地に呼ばれる。そして来てみてば、ゴップ大将が席を進めてくれる。
コリニー大将を中心に左隣にはグリーン・ワイアット中将が、右隣には外務大臣と国務大臣、国防大臣が座っている。
私の右後ろにはローナン・マーセナス議員が座っている。文官は全員がスーツ。
しかも図ったかのように自分を除いた文官は全員が紺のバーバリーに白いシャツに黒いストライプ入りのネクタイ。

(遂にティターンズ計画の始動か? それとも別の何か? どちらにしろこれは何かあるな。上等だ。家族の為にも負けるか!)

そう思いつつ、椅子に腰かけてキリマンジャロコーヒーを飲む。やはり地球産は美味だ。
今度このコーヒー豆を友人になったばかりの3つのアフリカ州議員らから送ってもらおう。無論、経済格差解消の為のフェア・トレード方式で。
お互いがドーナツとコーヒーを食する。それを片付けてハンドタオルで手を拭く。それを見たのかいよいよ本題に入る。

「さて、コーヒーも飲んだ事だし本題に入ろうか。
ウィリアム君。君は現在のレビル将軍と彼ら幕僚たちの作戦や方針をどう思うかね?」

コリニー大将はいきなり核心をついてきた。なるほどね、まずは牽制なのか。望むところだ。まずは美辞麗句を並べてやれ。

『地球連邦を憂える真の将軍』

『自由と民主主義の担い手』

『地球反攻作戦の指導者にして連邦軍きってのジオン通』

『我らの英雄、ジオンに兵なしの演説を行った稀代の名演説家』

などなど言いたほうだい。もっとも半分も信じてないが。
いや語弊があるな。全て白々しい嘘だ。本心は南極で終わる筈だった戦争を継続させた戦犯だと思っている。
事実、南極条約をご破算にして何十万人も死なせている。これが戦犯でなくて何が、誰が戦犯だ?
あの時、地球圏全土に反戦平和の演説を行う事も出来た筈だ、そうすればこの流れを考えると逆に平和が来た可能性は極めて高い。

「そうか、君は中々面白いな。ブレックスやジャミトフ君が気に入るだけの事はあるね。ああ、ジャミトフ君の北米州軍の強化は大したものだよ。
・・・・・それで、だ。まず先に謝ろう。
君の奥方に関してはすまない事をしたと思っている。最低限の護衛しかつけられず戦場に送り出した。ウィリアム君、誠に申し訳ない」

そう言って頭を下げるコリニー大将。

(騙されるか。そうやって人の心を掴むのはお前らの得意分野だろうが。それに何度騙されて利用された事か。だが、今は利用されてやる。
あのレビルの戦争大好き野郎とキングダムのクソじじいを引き摺り下ろすにはこいつらの権力が必要なのだ。権威がいる。
あの二人を凌駕する権威と権力が。
その為には多少の嘘も、大いなる犠牲も払ってやろう)

それが俺の覚悟だ。俺の本当の意志だ。見ていろよ、この戦争を終結させて俺は英雄になる。そしてその地位を使ってリムを除隊させる。絶対に除隊させるんだ。

「いえ、お気になさらず。妻も高級軍人です。覚悟はあると言っていました。私も大人気なかったと思います。
こちらこそお手を煩わせて申し訳ありませんでした。謝罪させて頂きます」

その言葉に数名がひそひそとざわめいた。どうやら俺が激発すると思っていたらしい。あのガルマ・ザビ暴行の件か。尾を引くな。当然だろうが。
それから何度もどうでも良い事を話していた。そして彼が言ってきた。彼、コリニー大将が一つの提案をしてきた。

「話していて君は実に面白いと思った。そして実に頼りがいがあるね。正直に言おう。
君の戦後を考えていたウィリアムプラン、我々はWと呼んでいるが、とでも言うべき戦後統治案をブライアン大統領とマーセナス議員を経由して聞かせてもらった。実によくできていた。
だからだ、私が思うに君が関与している例の計画を成就させる事と君の本当の望みは一致しないかね? 
私は一致すると思う。戦争の終結こそ奥方の安全を確保する最良の道ではないかな?」

全員の前にあるコーヒー。その湯気が出ているコーヒーをコリニー大将は飲み、咽を潤した。

「既に我が地球連邦は戦後を考える時期が来たと私たちは思っているのだ。
どうかな、政務次官。君を再び対ジオンの特別政務官に任命したいと思うのだ。
無論。首相は反対するだろうが・・・・・安心したまえ。君さえ承認すれば直ぐに閣議で賛成多数の結果可決されるだろう。
残念ながら・・・・・内閣なのだが言い方は悪いが首相を救う事を諦めた者が絶対多数派になってしまっている。
どうする、もう一度聞いておこう。私たちの提案に乗るかね? それとも律儀に地球連邦の官僚として地球連邦首相キングダム氏の言う事を今まで通り聞くかね?」

予想できたとはいえ、コリニー大将の言葉はまさに渡りに船だ。ここで功績を作って、戦争を終結させてリムを取り戻せれば必然的に北米州の発言権も高まる。
俺が高める。俺が事ある毎に太平洋経済圏の諸州を代表しているとして行動して、そのままジオン公国と和平を結ぶ。それこそこの戦争で失点を稼いでいる愚か者どもに鉄槌を下す切っ掛けに、契機になる。

(そうだ、まずは北米州のティターンズ計画を推進して権力を得る。絶対に子供らとリムを守れる権力を得る。そしてレビルとキングダムを追い払う。
レビルもキングダムも戦争犯罪人にして処断してやる! 最初は北米州の強化は北米州大統領補佐官である俺の立場の強化だ。
ジオンとの和平の立役者になれば今度こそリムを安全な場所に連れ戻せる。戦後になれば軍縮を名目に除隊させられる!!! リムを子供たちに帰してやれるんだ!!)

もちろん、顔には出さない。ゆっくりと考える。考える振りをする。
そうする事で連邦に忠誠心を持つと錯覚させてやる。或いは証拠固めに走る。
そして5分ほどの沈黙の後、目を開けた。



「・・・・・・・分かりました。対ジオン特別政務官の役目、お受けします」

内心でこう思いつつも。

(見ているが良いヨハン・イブラヒム・レビル、そしてアヴァロン・キングダム。俺はお前たちにやられた事をやり返してやる。
戦争を平和的に終わらせると言う事で貴様らが失敗をしていた事を証明してやる。見ているが良い!!)




マッド・アングラー隊はベルファスト基地を奇襲後、その経路を北に取る。北海を北上。ブリテン島最北部にて全艦が反転、一路南下した。攻撃目標はアムステルダム補給基地。
その攻撃日は宇宙世紀0080.08.31日。
奇しくも第13独立戦隊が前線から一時退避した日時とほぼ合致した。地球連邦軍のアムステルダム補給基地を襲撃すべくシャア・アズナブルは行動を開始する。

「ほう、偵察機が帰還したのか?」

この時点でイベリア半島内陸部並び沿岸部、フランスからドイツ中部、イギリス、アイルランド、デンマークらに北海、ドーバー海峡の制海権、制空権は連邦軍の手にある。
その中でジオン軍のユーリ・ケラーネ少将とダグラス・ローデン准将は威力偵察に託けて大規模な偵察隊を派遣した。その中の一つが闇夜のフェンリル隊であった。
その機体、ニッキ中尉のザクⅡS型が連邦軍の哨戒網突破し、木馬四隻を中心とした艦艇が補給の為にアムステルダムに寄港した事を知らせた。
映像を確認する。木馬らは簡易ドッグに入港していた。

「なるほど、木馬は動けないのだな?」

ブーン副司令官に問うシャア大佐。彼の問いにブーンも簡潔に答える。
はい、と。マイクを持つ。水中でも通話が可能な特別音響マイクだ。

「では出撃だ。艦長、全艦への放送準備。
・・・・・諸君、司令官のシャア・アズナブル大佐だ・・・・・地球での戦局を考えるにこれが我が海中艦隊マッド・アングラー隊最後の攻撃になるだろう。
諸君らの働きに期待するや切である。出撃は1時間後の午前4時丁度。目標は周囲の艦船、補給物資、そして・・・・木馬である」

こうしてジオンの海中艦隊が攻勢に出る。




一方。件の木馬ら、第13独立戦隊は後方の安全地帯に到着したと言う事で大きく安堵していた。緊張の糸が途切れていたと言っても良かった。
それは百戦錬磨のシナプス司令官ら全員がそうであった。
事実、連邦軍はその総力を挙げた攻勢に転じた(実際はジオン軍がドナウ川を放棄し、オデッサ地域まで全軍を撤退させる事を決定しただけ)事で、優勢なのは連邦軍。
その為か連邦軍のどの部隊もジオン軍がまさかアムステルダム基地に攻撃してくるとは考えもしなかった。その付けを払わされる。

「?」

警戒中の歩兵が異常に気が付いた時は時すでに遅かった。
対要塞用魚雷と言うジオン独自の魚雷が湾口に突き刺さったのと、その爆発の衝撃でその哨戒任務に就いていた警備兵4名がバラバラになったのは同時だった。
一斉にそそり立つ水柱。その高さと位置からタンカーや超大型輸送船が標的にされた事が分かる。

「ジ、ジオン!」

そう叫んだ女性兵士の乗るホバートラックをハイ・ゴックがメガ粒子砲で破壊、一気にブーストを使って防衛線を突破。
それを契機に次々と上陸してくるズゴック、ハイ・ゴック、ズゴックEの混成部隊。数が多い事、明け方であった事を踏まえ、連邦軍は碌な迎撃が出来ない。
それでもホワイトベース隊で一番に反応したのはアムロ・レイ少尉だった。ガンダムアレックスがビームライフルを装備して即座に迎撃に出る。ただし問題はあった。
母艦であるホワイトベースらが全艦補給の為、核融合炉を停止していたのだ。結果としてカタパルトデッキをビームサーベルで破壊して出撃となる。盾もない。
次にヤザン隊最後の生き残りのダンケルとラムサスがヤザンと共に陸戦型ガンダムで出撃する。ヤザンもガンダム・ピクシーで迎撃に出た。

「け、ジオンどもが!! 夜中に討ち入りとはチュウシングラのつもりかい?」

特注の90mmマシンガンで突進してきたハイ・ゴックを穴だらけにした。そのままこのハイ・ゴックを盾に別のハイ・ゴックに向かってマシンガンを連射する。
その攻撃を回避するジオンのMS。別の一機が水中から上半身だけを出して援護のメガ粒子砲を放つ。慌てて回避するヤザン。シールドの表面は溶解する。
ズチャと溶けた高温のレア・メタルが地面に落ちて火災を発生させる。
その隙をついて、ヤザンのガンダム・ピクシーの横を赤いズゴックが駆け抜ける。狙いは別のズゴックとやり合ってるラムサスの陸戦型ガンダムだ。そう直感した。

「ラムサス!!」

ガンダム・ピクシーの右足を軸に、機体を急反転させて90mmマシンガンを放つ。
ラムサスのガンダムも100mmマシンガンを一斉射撃する。と当時に胸部と頭部バルカン砲も放つ。やったかと思った。
だが、このセンスが悪い赤いズゴックは一枚も二枚も上手だった。
奴の狙いはラムサスでは無く、ラムサス機に注意がいった為に対応が遅くなったダンケル機である。
ズゴックはそのままのスピードを維持して右手でダンケルの乗る陸戦型ガンダムのコクピットを貫く。その後バックステップで距離を取った。と、その直後に陸戦型ガンダムが爆散。ダンケル少尉は確実に死んだ。

「ダンケル! この赤ズゴックめ!! くたばれぇぇ!!」

ラムサスが怒りでビームサーベルを引き抜くがそれは愚策だ。
ヤザン大尉は止めようとして、遅かった。ビーム(恐らく両手に内蔵されていたメガ粒子砲の光)がラムサス機の胸部を貫いた。
弾薬に引火して上半身が木端微塵に吹き飛び、部下を両名とも失う。
これで失った部下は全員だ。あのカモノハシ以来ずっと仲間や部下を失ってきたと柄にもなく感傷に一瞬だが浸る。もっとも体は勝手に動き、紅いズゴックからのビーム攻撃を回避したが。
一瞬で連邦のエースパイロットの乗った陸戦型ガンダムを二機も仕留めた。こいつは間違いない。あの赤い彗星だ。

「本当に・・・・・あのシャア・アズナブルなのか?」

思わず声に出す、すると別方向から90mmガトリングガンの発砲光が見えた。
距離を詰めてくる一機の白と黒に灰色にカラーリングされたガンダム。そう連邦の白い悪魔であるアムロ・レイの愛機、ガンダムアレックスだ。
その噂通り、進路上にいたハイ・ゴックを二機、ビームライフルの連射で即座に撃墜した。爆散する機体の横で背を向けていたズゴックを後ろから貫く。この間、僅か2分程。信じられない機動だ。

「ヤザン大尉ですね、アムロ、アムロ・レイ少尉です。この赤い機体、シャアは僕がやります。大尉は港を!」

そう言われて気が付く。展開している連邦軍のMS隊の半分がやられている。

(どうやら俺とした事が赤い彗星の実力にビビったらしい。情けない!)

ラムサスとダンケルの仇を討ちたいが今は全体の事を考えるべきだろう。
しかも悲鳴のような救援要請が自分たちの母艦のペガサスやアルビオンから聞こえてくるとあっては勝手な行動は慎むべきだ。

(それに悪いが坊やより俺の方が指揮官に向いている。ラムサス、ダンケル、二人ともすまん)

心の中で戦死した部下に謝罪すると激戦区となりつつある第二エリアに向かった。




「更に出来るようになった、ガンダム!!」

そう言ってビームを放つが避けられる。高速のビームを紙一重で避けるその技量の高さに怖気がする。まさかあのガンダムがここまで強くなるとは思いもしなかった。
その傲慢さのツケを払わされている。あの時、第9次地球周回軌道会戦で仕留めていれば、或いはサイド7で完全に仕留めていれば良かった。
そう思えるほどの、思わせるほどの強さだ。

「ええい、腕のガトリングか!? 何!? 装甲がやられた!!」

目の前のアレックス(この時点で既にコードネームは判明していた)こと、白い悪魔はビームライフルを撃つと見せかけて右手のガトリングガンを放ってきた。
咄嗟の事で左に垂直ジャンプして避けようとしたが、全弾発射と思える乱射ぶりに思わずメガ粒子砲を内蔵した両腕でコクピット周りをガードする。
その際に90mmマシンガンの弾丸でどうやらメガ粒子砲を奪われたらしい。これでは勝てない。

「ん!? バランサーが狂ったのか!?」

しかもしっかりと歩く事さえ出来なかった。どうやらバランサーも狂った様だ。潮時。そんな言葉が頭をよぎる。
もともとマ・クベ中将の中部ヨーロッパ、北欧、ヨーロッパ・ロシアからの撤退命令に端を発した陽動攻撃だったのだ。
ここで死んではザビ家を利するだけ。それは避けるべきだ。と言う事は、引くべきだ。それに成果は上がっている。批判もされまい。一瞬で判断する。指揮官の判断としても間違っては無い。

「マッド・アングラー隊の攻撃隊全機へ撤退する、ブーン、赤色の信号弾を!」

既に夜が明け始めている。急いで撤退しないと航空隊の餌食になる。それを分っているマッド・アングラー隊は急速に戦線を縮小。海に逃げ込む。
この戦いは攻撃に参加したMS隊51機中、27機しか帰還しなかったシャア・アズナブル大佐の敗北であると思われる。
もっとも、ジオン軍の攻撃で大量の物資を焼かれ、更にアルビオン、サラブレッドを小破、ペガサスを大破させられた事で連邦軍の進撃速度は大幅に低下した。
また、ベルファスト基地攻撃により連邦軍の海上艦隊である第一連合艦隊に甚大な損害を与えた以上、マッド・アングラー隊の作戦目的は達成していたと言えるだろう。

(長居は無用だ、ましてザビ家に復讐するまでは死ねないからな。とりあえずララァのもとにもどるか)

シャアの目論見通り、水中用装備の無い連邦軍は海中に退避したジオンを追撃する事は出来なかった。

「しかし、この機体ではガンダムには勝てない。どうすれば良い? どうしたら奴に勝てる?」




宇宙世紀0080.08某日。地球連邦議会。
ニューヤーク市に凡そ50年ぶりに再び移設された連邦議員の有力者らが、ジャミトフ・ハイマンの叔父であるハイマン議員の提案により秘密議会が行われていた。
出席者は各州代表の地球連邦議員の中でも最有力候補100名程。
俗に太平洋議員連盟とも揶揄される議員らである。そしてこの会議である密約が決定した。宇宙世紀0080.08月上旬の事である。




『ジオンとの単独講和と連邦中央政府が独占していた利権をちらつかせて他州を引き込む』

『それは連邦政府に対する裏切りでは?』

『事ここに至ってはやむを得ない。裏切りも視野に入れて行動すべきである。いや、そもそも連邦政府の現政権自体が連邦市民を裏切っていると言える。
第一、戦場となって無い州である諸州の民は戦争の早期終結を望んでいるのだ。これは各国王室や各国政府も同意見である』

『そうだな、今の連邦政府はおかしい。我々がキングダム内閣府を抑える事で連邦政府をあるべき姿に戻すのだ。
その為にはアラビア、アジア、オセアニア、極東、北米の協力が必要だ。
それに・・・・・戦後復興の為の資金援助をちらつかせれば北部アフリカや内戦状態に陥った中部アフリカ、中央アジア州も賛成するだろう』

『我ら太平洋諸州にとって目障りだった統一ヨーロッパ州。その発言権など今や無いに等しい。それに非加盟国との交渉も上手くいっている。政治の裏側は整いつつある』

『では、やはりキングダム首相にはそろそろ退場してもらおうか。次の首相には北米州のエッシェンバッハ氏かマーセナス氏で良いか?』

『異議は無い』

『こちらもその二人のいずれかなら認める。それにだ、やはり例のケンブリッジ政務次官を参加させる事が条件だな』

『あの人物は得難い。戦後復興や対ジオン政策に必要不可欠だからな。彼を手に入れる事が我が州の条件だな』

『連邦議会の有力者らは我々が抑えよう。マーセナス議員らは反抗的な州政府の代表や議員を抑えるのだ』

『ジオンとの交渉は?』

『これもケンブリッジだな。奴に任せれば上手く行く。実際に上手くいかなくてもギレン・ザビを交渉の場に引きずり出せるだろう。それだけで大した成果と言える。それが必要だ』

『その通りだな。それに連邦議会議長の親書や各王室を代表した皇室の直筆の親書も手に入れました。これでジオン公国と交渉可能になったと言えます。
問題はこの情勢下で誰がジオンの勢力圏内に行くかであるが・・・・・候補はいるのですかね?』

『その点は提案者のブライアン大統領に任せましょう、いえ、それも名目ですね。そうですわね、みなさん』

『そうだな。やはり地球連邦で唯一にして最大の宇宙通であるウィリアム・ケンブリッジ氏に任せよう』




地球連邦議会での主導権を握る事で、連邦政府そのもの主導権を握ろうとした北米州は自領土であるニューヤーク市に連邦議会を移設させた。その効果が戦争半年を経過した今漸く出てきている。
連邦軍はともかく、首相をはじめとした内閣は連邦議会と対等に存在である。主権国家としての司法、行政、立法の三権分立の大原則があるのだ。
戦時とはいえ、或いは戦時だからこそ無視はできない。まあ守られてないと言えばそれまでだが。
その一例、連邦憲法を無視したのがケンブリッジ人権侵害事件であり、ワシントンとジャブロー間の冷戦であった。
口さがない者は第三次冷戦とも呼ぶ。因みに第二次冷戦は非加盟国と地球連邦の、宇宙世紀元年から50年代のジオン台頭以前の冷戦、第一次は宇宙世紀以前の米ソ対立。

(決まったな。やはりあのウィリアム・ケンブリッジがキーマンとなったか)

ここで黙っていたジョン・バウアー議員が話だす。

「私に策があります、議員の諸兄ら。まずはブライアン大統領の提案する戦後復興庁の設立に協力をお願いします。全てはそれから。
そして・・・・・ケンブリッジ特別政務官の対ジオン政策参加を認めてやりましょう」

反対意見は無かった。既に根回しは終了していたからである。




宇宙世紀0080.08.01.ジオン公国ズム・シティに地球連邦からの極秘通達が来た。戦争継続を目論むレビル将軍に対抗する為に和平交渉を開始したいという内容である。
その為に然るべき対応を望む。
それがブライアン大統領、つまり太平洋経済圏を構成するアジア州、極東州、北米州、オセアニア州、アラビア州らアメリカ合衆国と関係が深い5つの州政府と州代表の議員100名の意見であり、連邦政府の一部がジオンに接触した理由である。




『ガトー少佐、貴公の艦隊に護衛を頼む』

この時、ソロモン要塞に帰還したジオン軍のジオン親衛隊艦隊の第二戦隊であるアナベル・ガトーは最上の上官であるエギーユ・デラーズ少将からの呼び出しを受けた。
兵員の交代という名目とドロス、ドロワのMS隊であるゲルググ部隊の調整の為にデラーズ指揮下の親衛隊はソロモン要塞を訪れている。
そのレーザー通信越しに通信する二人。他には誰もいない。しかも至近距離の極秘通信回線だ。余程聞かれたくないのだろう。
地球連邦軍の宇宙反攻作戦を察知した、ジオン諜報部のいう所の『チェンバロ作戦』。これを知ったジオン軍は艦隊の大規模な入れ替えを行う。
ソロモン駐留艦隊からムサイの砲撃強化型である新造艦12隻を撤収する代わりに宇宙世紀0070年代のチベ級重巡洋艦と旧式なるムサイ級軽巡洋艦を配備する。
唯一、ソロモン方面軍の司令官であるユーリ・ハスラーにとって増援らしい増援は士気高揚の為に送られた新造戦艦グワンバン級一隻とその艦載機のMAビグロ、ザグレロがそれぞれ12機、36機という一撃離脱部隊の配備のみだ。
アナベル・ガトーはこの命令を不服と思いつつも、受け取る。

『貴公の艦隊は5日までに本国に帰還。これは連邦に対する擬態でもある。
そこで一週間の休暇の後、15日から特別任務に向かってもらう。この際、ドズル中将指揮下の第一艦隊も同行する。
疑問についてはあろうが、貴公の実力と実直さを信じて任せるのだ。命令を持った伝令のシャトルが10分前後で貴公の艦に到着する予定だ。詳細はそこに入っている』





宇宙世紀0080.08.25日。ヨーロッパでの大戦闘も大きな契機を迎えていた頃、連邦軍本部ジャブローでは一隻のシャトルが用意されて出発する。
目的地は月面都市であるグラナダ市。ここはジオンの勢力圏内である為、それを知っている連邦軍はこのシャトルを非武装中立組織の青十字を装う。
それ、青十字とは国際医療組織の事であり、赤十字の後身にあたる。
赤十字は地球連邦設立時にオイル・マネーを持っていたアラビア州の遺憾の意を考慮して変更された為に伝統と歴史と共に消滅している。赤十字のシンボルが十字軍を思い出させるからだ。
しかもウィリアムの乗ったシャトルは直通せずにサイド6リーアを経由した航路を取る。
見送りに来たパラヤ議員に愛想笑いを浮かべて彼、ウィリアム・ケンブリッジは機上の人になった。自らの願いの為に。大切なモノを取り戻す為に。

「ウィリアム、息子と娘の事は私たちが責任を持って守る。
だからお前はお前の仕事をしろ。頼んだぞ、自慢の息子よ」

父が、

「ウィル、どうか、どうか体に気を付けて。本当にどうしてお前がジオンの支配圏の月になんて行かなきゃいけないの? 戦争に行かなきゃいけないの?
お前は軍人じゃないのに。本当は臆病で優しい子供なのに・・・・・お願いだから生きて帰ってきて。お母さんの為にもお願いするわ。
ああ、どうしよう。こんな事ならお前を官僚にさせるのではなかった。大学など行かせず実家を継がせれば良かった」

母が。

「ウィリアム君、娘の未来を頼む」

義理の父が、

「ジンとマナの為にも帰って来なさい。良い事、貴方とリムには言いたい事が山の様にあるのだから。絶対に帰って来なさい」

義理の母が言う。

そう言われてから、彼は5日の時間かけて宇宙世紀0080.09月の裏側にある月面都市グラナダに到着した。
前日に100隻を超えるジオン軍の大演習があったと言う事でグラナダ市は戒厳令が敷かれている。無断夜間外出は原則禁止されたグラナダ市。
その最高級ホテルの一室。タクシーと特別通行許可書を使ってジオン軍が敷いた検問を何個も突破して、宇宙港併設のビジネスホテルからこの月面最高級にしてジオン公国の月総督府がある『月世界ホテル』についた。

「こちらが鍵になります」

そう言われてフロントの黒スーツを着たフロントマネージャーから鍵を預かる。

「荷物、持ちますね」

唯一、連邦政府から付けられた秘書役の青年が後に続く。頼むと言って彼にバッグを渡す。と言ってもスーツケースをフロントに預けてあるので荷物は情報端末とA4ノートにボールペン、電子メモリーディスクと連邦議員らの署名付き親書くらい。まあ、それが重要なのだが。
出発前にジャブローで購入したアルマーニ製のビジネスバックに全部整理して入る。妙な誤解を避ける為に護身用の拳銃は地球に置いてきた。この状況では必要ないからだ。

「それでは行くか」

颯爽と進んでいく。傍目からは迷いも何もない正に英雄と言える姿だった。
その後ろ姿に、連邦政府の無理解さと傲慢さに絶望を感じていたこの若者は、目の前の対ジオン特別政務官ウィリアム・ケンブリッジに希望を見た。

(これだ! これこそコスモ貴族主義の体現だ!! ジオンと言う敵に四方を囲まれても一切動じない心の強さ。鍛え抜かれた体。
何よりも自ら危険な任務に志願するその強き意思に加えて、100億の人民の重圧に耐える姿勢!! まさに貴族の鑑!!!)

この青年の名前をマィツナー・ブッホ。新興企業であるブッホ・コンシェルの若き創設者の一族である。
一方でウィリアム・ケンブリッジはただ前線にいる妻のリム・ケンブリッジの事だけを、彼女を戦場と言う地獄から解放する事だけを考えていた。それがこの青年に誤解されている元とは知らず。

(さてと、リム・・・・・行くよ。今から行ってくる。あのサイド3で行った様に、全力で行く。
私はお前のパートナーとしてお前を助ける。だからそれまで無事に生きていてくれ)

と、右手でカードキーを通して電子ロックを外し、両手で扉を開く。中には女性が一人いた。彼女はこちらです、とだけ言う。
ジオン側の女性にお辞儀をすると、彼女が案内する。ロイヤル・スイートルームのリビングに案内される。
入る直前、先ずはジオン軍の少佐の階級を付けた人間が何度も厳重にボディチェックをする。
彼が全てボディチェックを終えると、私はビジネスバッグを金属探知機並び生物探知機(宇宙世紀なって開発された生物兵器対策用の検索システム)に通す。問題は無かった。
そして扉を開ける。まずは用意された椅子とテーブルの横にある鞄入れに鞄を入れる。
さらにバックから地球産のリンゴの果汁ジュースを出す様にブッホ君に頼む。2Lの高級リンゴジュースの瓶を二本出すと彼は退出した。
そのまま自分は座って無言で待つ。スーツのスタイルはいつも通りのアルマーニのスーツに茶色のマドラス靴、イタリア製のネクタイに仕立て屋で仕立てられた薄い水色のワイシャツ。後は連邦高級官僚にのみ支給されているカフスにネクタイピン、そして連邦高官を示す特殊なバッチ。

「あの時を思い出すな」

目の前にはイタリアのボローニャワインがある。クーラーボックスに自分の持ってきた地球土産であるリンゴジュースを入れる。待つ事約15分。
一人の男が書類を持って入ってきた。扉を閉める。
その時の彼らの会話にて知ったのだが、扉を開け閉めしていた少佐はアナベル・ガトー。あのソロモンの悪夢だった。




「待たせたかな?」

その言葉に返答する。立って一礼して。

「いえ、それ程でも。それと地球産の中でも高級リンゴから作った搾り立てのリンゴジュースです。これは美味ですよ」

両方が腰を掛ける。そうだ、ついに始まる。
反撃の狼煙を、反逆の篝火を焚く日が来たのだ。いよいよだ。いよいよなのだ。

「そうか。ありがとう。この会談中に頂くとしようか。
・・・・・・・・・・でははじめようか、ウィリアム」

先ずは乾杯。双方ともグラスに注いだワインを飲む。摘みは無い。そんなものは要らない。不要だ。今からは言葉が摘みだ。

「ええ、はじめましょう。交渉可能な日程は僅か3日間。お互いに時間は少ないですから」

地球では大規模な戦闘をしながら、宇宙の高級ホテルにて片方では秘密裏に高官同士が話し合う。
第三者や前線の将兵が見れば唾棄すべき光景かも知れない。だが、兵士には兵士の、政治家には政治家の義務がある。それは仕方ない面がある。
自分も義務を果たす。そうして初めて家族を守れると言うならば、そうしよう。それが一家を支える男としての義務ならば、そうしよう。

「そうだな」

相手が頷いて私は連邦議員連名の親書に議長からの親書、各王室を代表した極東州の皇室の親書手渡す。一方で、情報端末を起動させる。A4ノートとペンも出す。

「これが親書です。さてと、まずは何から話しますか?
ジオン軍の解体という要求から話し合いますか?
それともサイド3自治権剥奪と保障占領、艦隊の駐留と言う案件にしますか? 若しくは戦時賠償金の徴収から話しましょうか?」




その提案は過激だ。向こうも笑って、しかし鋭い眼光で反論する。




「ならばこちらはコロニーでも落とそうか? ウィリアム。
君らが望むならばジャブローはこの世から消え、その上で地球には新たな湖が出来る。大ジャブロー湖とでも言うべき湖がね」




更に一口飲む。
宇宙では取れないであろう最高級の赤ワインだ。だが酔わない。




「そうですね、とりあえず双方が最初に合意できるのはレビル将軍の銃殺刑で良いと言う事かと思います。
レビル将軍は南極条約を砕いた戦犯であり、連邦とジオン双方にとって和平の障害である・・・・・・・・そうは思いませんか?・・・・・・・・・・ギレン・ザビ総帥?」




この言葉に相手は、ジオン公国総帥ギレン・ザビは笑って答えた。




「実に的確な意見だ、ウィリアム・ケンブリッジ対ジオン特別政務官」




と。



[33650] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7b44a57a
Date: 2012/08/18 10:41
ある男のガンダム戦記14

<終戦へと続く航路>




ジオン軍掃討作戦。そう命名されたアウステルリッツ作戦の第5段階が発令された。
宇宙世紀0080.08.25.この日前後に起きた約一週間の大規模な地上戦、ハンブルグ会戦の結果、ジオン公国軍地球攻撃軍はその能動的な反撃能力を喪失。
攻め手である地球連邦軍も大損害を受けたが、ベルファスト基地に残してきた部隊3万名、急遽編施した本来は中部アフリカ内乱鎮圧用の部隊5万名、ジャブロー守備隊5万名(これはジャブロー守備隊の三分の一に達する)を派遣して再攻勢にでる。
が、ジオンのマ・クベ中将は用心深い知将型の将軍。前線部隊が大激戦を繰り広げている間に本来のオデッサ地域に大規模な防衛線を構築。
地球連邦軍は欧州各地域を解放していくものの各地の戦災復興に足を取られ、それと同時にオデッサ工業・鉱山・宇宙港地帯を守るジオン軍の鉄壁の防衛線の前に再び膠着状態を作った。
その一角で、ジオン軍の特殊部隊や地中海へ出ていたマッド・アングラー隊の一部が行動を開始。連邦軍の進軍ルートに壁となって存在する事で彼らを塞ぐ。
そんな中、一機のジムが東欧諸国へのメインルート上を歩きながら周囲を警戒する。
目の前には自分の所属していた筈の中隊のジム8機がビームサーベルやヒートサーベルで両断されている状況だ。

「た、隊・・・え、どこです?」

ミノフスキー粒子の下では無線はほとんど使えないのは分かっているがそれでも聞かずにはいられない。

(味方はどうしたのか? 生き残っていないのか?
昨日まで一緒に笑っていたじゃないか。こんな結末は認めたくない。きっと生きている。俺だけが生き残っている訳じゃない!!)

だが、現実は無常だった。言い換えるなら冷たいと言って良い。この通常型のジムに乗っていたパイロットの願いを無視した。
ジムのレーダーが左側面に動く物体を捉え、慌てて左側面にマシンガンを放つ。だが、何発も弾丸が着弾した場所には誰も、何も、いない。存在しなかった。

『惜しかったな!』

敵のパイロットの、それも30代くらいの壮年くらいの年のパイロットの声が聞こえた。
そして次に感じたのはビームの高熱と閃光。このジムはヨーロッパの市街地へ向かう一本のルートにその命と共に消えた。




ジオン軍第1軍と拠点防衛軍であるジオン第3軍はオクトパス作戦の締め括地としてオデッサ特別エリアとでも言うべき絶対防衛戦の内側に入る。
15万名、10万名と言う大軍だったが、オデッサ地域に戻れたのは第1軍7万名程。第3軍は6万名ほど、
損害は甚大であった。既に第1軍と第3軍は軍隊としての機能を失っている。一般的に全滅と言われる戦力の3割減少どころか半分に達する戦力を奪われているのだから。

「ローデン准将か、無事何よりだな」

ダブデ級の指揮官シートの前に立って、軍服を独自に着こなすケラーネ少将。彼の労いの言葉も虚しいモノだ。
ダグラス・ローデン准将の指揮する外人部隊は各サイドの独立義勇兵らが中心だ。
が、この独立義勇兵。義勇兵部隊と言えばとても耳触りが良いが実態はジオン軍が連邦軍に勝利した時に急遽編制された生け贄だ。
実際は旧連邦将兵ら(各サイドが送り出した生け贄)も多数存在しており、いつ裏切るか分からない危険な集団でもある。
また、それらを危険視しているのは最悪な事に各サイド、つまり彼らにとっての祖国でもある。仮に前線でジオンを裏切ろうものなら各サイドが危険にさらされる。
そう言った事から独立義勇兵部隊4万名は最後の一兵まで戦う事で有名だった。敵である連邦軍は裏切り者、味方のジオン軍からは危険分子扱いされて。

「こちらもマ・クベ中将の用意した絶対防衛戦にて再配置です。お蔭で何とか連邦軍の空爆を避けられる。
やはり航空戦力では地球連邦軍に一日の長がありますな。高高度絨毯爆撃などされては低空迎撃用のドップでは迎撃できない。
それで、ビッター少将の部隊とサハリン少将はどうなりましたか?」

まさか、捕捉されたか? そう思いつつも聞く。ここで情報の出し渋りをする訳には行かない。両者とも。

「ビッター少将の奴は戦傷の為、今はオデッサに戻った。ついでにマ・クベ中将が奴の戦力を戦略予備兵力として欲しいんだとさ。
言い難いがその判断は正しい。今は火消し役部隊が必要だ。地球連邦軍が投入した4隻の木馬たちと白い悪魔の様な組み合わせの部隊が必要だっていうのは分かる」

そうか。確かに遭遇戦が多い現状では接近戦用MSに特化したジオン軍の方に天秤は傾いている。
事実、グフタイプやドムタイプならまだ連邦軍を圧倒しているのだ。しかしながら、そんな部隊がいただろうか?
この撤退中に多くの部下を失った。祖国のコロニーに帰れない同胞が帰りたい、帰りたいと言いながら死んで行くのを見てきた。
それだけ戦場は過酷になりつつあり、連邦軍のMSは通常型ジムタイプと言えども決して侮れる存在では無い。
連邦軍のジムは、性能差だけ見ればザクⅡJ型や少数配備されているザクⅡF2型と互角に戦える性能を持っているのだ。
その改良型である陸戦用ジム、陸戦型ジム、更には白い奴の量産型である陸戦型ガンダムなどは極めて厄介である。

「そんな顔をしなくても問題な。ビッターの奴は残ったドワッジを41機とドム30機にイフリート22機を全部くれた。
これだけあればまだ時間を稼げる。それに、だ」

それに?

「それに、いざとなったら俺に秘策があるさ」

そう言ってユーリ・ケラーネ少将は笑った。その笑いはどこか乾いたものだったのが印象的だった。
そして私もコンティ君に頼んで部隊の再編を行う。確かに危険な部隊だが全員が祖国に帰りたいと言う思いを持っている。
その思いだけは叶えてやりたいと思えるのだ。だから私は私が出来る限りの事をしようと思っている。
ただ、ここでケラーネ少将が顔を歪めた。

「ギニアスの奴は何を考えているのかが分からん。まだ勢力圏内とはいえ既に補給路が分断されつつあるギリシアの地域で何か作っている。
そればかりだ。兵の事など考えてない。こちらからの撤退命令も黙殺している。本来ならば俺が乗り込んで引きずり出したいが、こっちも忙しいので無理だ」




突然だがここでジオン公国の軍備について言及しよう。ジオンの軍備整備の歴史=MS開発史はMS-05ザクⅠの成功を持ってその第一歩を踏み出す。
ザクⅠからザクⅡA型を経由して、スミス海の大勝利(連邦側では虐殺)にはザクⅡB型5機が実戦投入された。この機体をベースに開発されたのがC型であり、Cを元にF型、F2型に移行する。
ここで横道にそれるが、本来のジオン公国の開戦時期は宇宙世紀0079.01.03であった。そして軍備拡張を強力に進めるザビ家では主力MSをザクⅡF2型で統一させる。
が、ここでジオン軍宇宙軍に取っては福音となる事態が起きた。
ギレン・ザビが倒れるという事態が起きたのだ。宇宙世紀0079.01下旬、この時点でジオン軍はザクⅡC型の生産ラインを変更。
この決断は正しかった。統合整備計画などの影響もあり、ルウム戦役時点では350機を越したザクⅡZ型の生産・実戦配備に漕ぎ着ける。
ただし、この時期の生産されたザクⅡZ型(ザクⅡ改)は全てが第一線のジオン親衛隊艦隊のドロスとドロワに配備されたので他の部隊には一機も配備されなかった。
またルウム戦役に間に合った機体としてリック・ドムがある。これは欠陥機として配備が見送られたツィマッド社のヅダのデータを元に開発される。
統合整備計画と言う国策によって開戦時である宇宙世紀0079.08の配備数は100機前後と少なかった。(ザクシリーズは総計で600機に達した。尤もすべてが第一線で使えるF型やF2型の機体では無かったが)
が、それでも突破兵力としての機体として重宝され、その後のリック・ドムⅡに全生産設備は移行されるも、ソロモン要塞を中心に細々と生産を続けられる。
なお、開発された試作機であるヅダ5機は実験部隊の護衛に配備される事でルウム戦役に投入されている。




イーサン・ライヤーは少将に昇進した。その昇進理由は単純かつ皮肉である。引き抜かれ減少した南欧解放軍。既にアルプスは超えられないと思われていたが、それを覆して僅か5万名弱の戦力でイタリア半島に到達。ここでの解放作戦を順調に進めた。

「コジマ君、君の懸念していたジオンの新型MAとやらは存在しないね」

彼はビッグ・トレー03「ハンニバル」のCIC上で参謀長に正式に昇進し配属させたコジマ大佐に問う。
彼、コジマ大佐も半信半疑であったがジオン軍が対ジャブロー攻撃用の大型MA『アプサラス』計画というのを情報部が確認して報告していた。
ただその実態は荒唐無稽と言っても良い。
制宙権を態々確保しているジオンが南極条約を放棄して軌道爆撃を行って降下作戦を行うならともかく、わずか数機の護衛もいないMAで防空網が強固なジャブローを強襲するなど夢想家の夢ではないのか? 戦争は少数の新型兵器で覆るほど甘くは無い。

「アプサラス計画。これです。この情報部が把握している物でしたら、寧ろ前線基地の方が危険かと思われます。
航空機の搭載する大型メガ粒子砲を回避する手段を持つ前線基地は殆ど無く、十分な航空支援を受けられるとは言い難い。そう考えれば前線拠点は格好の標的でしょう。
それを考えればジオンの新型MAが南欧諸国のどこかにあるという情報を軽視している訳には行きません」

そう。ジオンの技術力は侮れない。ジオンがMSとミノフスキー粒子を利用したとはいえ、そこまで至る過程は僅か20年ほどだった。
20年。たった20年でジオン公国は地球連邦と言う大国に互角以上で戦う術を身に着けたのだ。非加盟国が宇宙世紀元年以来、心から望みながら達成できなかった事を達成しているのだ。
実際、この南欧方面軍には殆ど出てこなかったが中欧に向かったレビル将軍の本隊は新型機ドムの改良型やイフリートと呼ばれる機体を中心としたジオン軍の大反攻を受けて全軍の7割に匹敵する兵力を失った。
損害比だけを見れば勝ったのはジオン軍なのだ。7割も損害を出した為、地球連邦軍アウステルリッツ作戦参加部隊は事実上瓦解しているのだ。
それでも最終的に、戦略目標の一つであるハンブルグを奪還したのは単にジオン公国に比較して、信じられない程の攻撃部隊と増援部隊を連邦軍が動員したから。
もっとも、それこそが戦争の本質だと言われてはそれまでなのだが、仮に同数なら負けていたのは間違いなく地球連邦軍であったろう。

「とにかく、南欧解放が失敗に終わってレビルに笑われるのは何としても避けたい。分かるね?」

南欧解放方面軍は3日後、ジオン兵が一人もいないローマを奪還。多数の偵察機を放った連邦軍は、ジオン軍が正式にアフリカ大陸へ脱出していったのを確認した。




地球連邦軍本部ジャブロー。その大将専用の職務室にゴーグルをかけたスキンヘッドの男が入室してきた。
その男を見た瞬間、紺のスーツを着ていた秘書官は一礼して部屋を去る。
残る人物は一人。かなり大きな連邦軍軍旗を横に掲げ、自分の机にて情報端末で文章を作っている将官のみ。
部屋にいるのは二人である。一人の名前はジーン・コリニー大将。
彼はこの日、宇宙世紀0080.09.08日、ベルファスト強襲の責任を取る形で降格(責任を取って自決したと公式に発表)されたエルラン中将に変わり作戦本部本部長に就任した。
その第一の人事が副官の交代である。
エルラン中将時代の副官であり、ジオン公国が放ったスパイであるジュダッグ中佐を更迭して目の前の男を自らの副官に添えた。

「閣下、バスク・オム大佐ただいま着任しました」

そう言って敬礼する。彼の名前はバスク・オム。
ルウム戦役で味方の誤射から直射日光の直撃を受けた為視力が著しく低下。その為にその味方を殺したと陰で噂される軍きっての切れ者である。
何より、この情勢下で退役できるにもかかわらず退役しなかった事実がこの男の特徴であろう。彼は自分の作戦指揮に絶大なる自信があるのだ。

「かけたまえ大佐。少し長くなる」

そう言ってリモコンを使てって遠隔操作でドアの鍵を閉める。これを受けてバスクも自分が持ってきた情報端末を起動させつつ、来客用ソファに腰かける。鞄をソファの隣に置いて。

「それで、話とは例の対ジオン特別政務官ですかな?」

何も言わずともバスクは切り出した。バスク・オムと言う男の特徴の一つに極めて政治的な軍人と言う評価がある。
何よりも軍内部、政府内部、地球連邦主要州政府内部、連邦議会と幅広い人事に情報通である事が、敗軍の将校と言う事実を押し潰して彼を35名しかいない軍事参事官という地位につけているのだ。
ジャミトフ・ハイマンが比較対象として近いだろう。そう言う意味ではジャミトフの代わりになりうる人物である。
更にコリニー提督に都合の良い事に地球至上主義者であった。オセアニア州出身であるが、考えは北米州寄りでもある。これもまた都合が良かった。

「そうだ。あの男の事だ。今何をしているのか知っているか?」

試す。ここでYESと言えるならジャミトフ・ハイマンの代わりになる。
最近は戦後復興庁であり、特務機関であるティターンズ設立の為に動いていて自分の手から若干離れだしたジャミトフ・ハイマン少将。奴代わりが必要だ。

「たしか、宇宙に行っていると聞きましたな」

傲岸不遜。だがそれが良い。こういう人物を求めていた。
まあ、基本は従順であるという大前提が必要であろうが、出世欲が強いこの人物、バスク・オム大佐は飴を用意する間は叛逆しないだろう。
それに政府上層部の一部と連邦議会議員、軍上層部の一部しか知らない情報を一介の大佐が知っていると言う事は合格に値する。

「そうだ、詳しくは教えられんがそのウィリアム・ケンブリッジを将来的には排除する」

バスク大佐はゴーグルを直す。机に置かれた軍帽を一旦なぞる。
その間にペットボトルに入れてある日本の緑茶をバスク・オムに渡す。それを感謝の言葉と共に啜る。そして言う。

「ほう、それは過激ですな。あの男は閣下らの派閥では使える人材では無かったのですか?」

その言葉には嘲りがあった。バスク・オムは実はウィリアム・ケンブリッジと一方的であるが面識があった。
あのルナツーでの尋問の時、モニター越しに彼の醜態を知っていた。彼が半泣き状態で必死に自分の無罪を主張する光景を。

(呆れ果てた奴だな。あれでも俺より役職が上だと言うのが信じられん)

自分は失った視力回復の為の手術とそれに伴う激痛に無言で耐え切ったのにあの醜態ぶり。それが印象に残っていた。
だから個人的に彼が失脚するのは嬉しい事だ。他とてそれが連邦全体の損失だと考える人間がいても・・・・彼にはやはり関係ない

「ああ、使える。だが、あまりにも切れすぎる鋏になった。鋏はある程度切れにくい方が安全だ。だが、奴はあのスペースノイドのザビ家さえも切り裂いた。
このままでは私の派閥も切り裂いて最終的には奴の為の派閥が出来るろう。それは避けたい。連邦の為にもな。
ウィリアム・ケンブリッジは危険な存在だ。
戦時下の今は良い。奴の考えに、戦争の早期終結に賛同する者がいてもそれは連邦全体の利益になる。だが戦後はどうだろうか?
奴は女の為に戦争を終わらせる。ならば逆も考えられる。女の為に戦争を引き起こす可能性がある。それにだ」

一旦途切れる。忌々しそうな声。これからがコリニー大将の本音だなとバスクは思った。

「それに?」

促す。

「それにやつは有色人種だ。それがまるで地球連邦の代表の様に振る舞う。連邦成立からこの方、地球連邦に有色人種出身の代表はおらん」

その言葉を聞いた同じ白人のバスク・オムは笑って続けた。

「なるほど、そしてこれからも、ですな」

そうだ。そう言って無言でお茶を飲むコリニー大将。




ジャミトフ・ハイマンはブライアン大統領に呼ばれた。
北米州州都にあるワシントンのホワイトハウスに入館する。ジャブローと決定的な対立を迎えた為、ジオン以上にジャブローへ警戒する北米州ら太平洋経済圏の諸国。
その為かジャブロー帰りの面々はしっかりと身体検査を受ける。
軍帽を右手に携える。鞄を秘書官に預けて大統領の執務室室内に入る。勿論、銃など持ち込めないのでSPやSSに渡している。

「お呼びとお聞きしました。オーガスタ研究所とオークランド研究所の件ですか?」

挨拶もそこそこに本題に切り込むジャミトフ。そうだろう、恐らく彼の予想は当たる。そして当たった。

「そうだ。ハイマン君、我らの旗頭となるべき黒いガンダムの開発は進んでいるのかね?」

RX-78-2ガンダムを元にした黒いガンダム(T=ティターンズ使用)と濃紺色で統一されたRGM-79Qジム・クゥエルの開発が終了した。
これには4隻のペガサス級が持ち込んだ豊富な実戦データとそれを実用化できる安定した北米州や極東州と言う技術先進国を地球連邦が持っていた事が挙げられる。
本来であれば、RGM-79Nジム・カスタムが先に開発される筈だったが量産性を考慮した事、戦後復興庁である「ティターンズ」の旗頭のMS隊を今の時点で結成する事で戦後を見据えるという面から開発が優先された。
特にジム・スナイパーⅡの戦闘データとガンダムアレックスの実戦データを大量にアメリカ合衆国CIAのアリス・ミラー大尉がレビル将軍との裏取引で持ち出した結果である。
ちなみ、この北米州とジャブローの裏取引の結果、第13独立戦隊はアウステルリッツ作戦に投入される事となった。
あと、アリス・ミラーの所属は地球連邦のCIAではない。彼女は北米州独自の組織であるアメリカ合衆国CIA所属。この時点でMI6やアメリカ合衆国CIAの方が地球連邦情報局よりも精度が高い。
そして冒頭の質問、ゲルググを凌駕する新型機の開発に力を入れていた地球連邦は遂に量産性、整備性、操縦性、武装、機動性、装甲と全てが揃った新型機を配備する事になる。
それがこの機体だ。ジム・クゥエルと呼ばれるジムの発展系。ジム改をも凌駕する機体と言う事、後5年は新規開発しなくても良いと言う事から北米州だけではなく、地球連邦軍全体にとって期待の星である。

「はい、RGM-79Nジム・カスタムならびRGM-79Qジム・クゥエルは生産軌道にのります。とくにジム・クゥエルの方を重点的に量産しますので、ティターンズ所属予定の第13艦隊には正式配備されるでしょう。
また、現在の第13独立戦隊の実戦データもジョン・コーウェン将軍の手によって十分なものが手に入っております。
これだけあれば戦後発足する我らティターンズの発言権は多くできるでしょう。そして、ティターンズは明確に連邦政府直轄組織に組み込む」

ティターンズ構想の大元は単純だ。ティターンズはあくまで重武装の警察部隊として存在する。ただし、その指揮権は首相にあり、内閣が管理する。
これは肥大化した地球連邦軍部に対するカウンタークーデター部隊を用意すると言う事だ。それだけレビル将軍の派閥が巨大になりすぎている。

「そうか、それは結構な事だ。それとなケンブリッジ君の事だ」

大統領は渡されたメモリーディスクで情報を集めながらジャミトフに話しかける。
ジャミトフが姿勢を正すのを見て、彼、エドワード・ブライアン大統領は深刻そうに言った。

「ウィリアム・ケンブリッジ。彼は優秀だし人間的にも好感度が高い人間だ。それは分かる。だが、それと政治の世界で生きていけるかどうかは別ものだよ。
今は多くの人間が彼に利用価値を見出している。認めたくないだろうが、君だって心のどこかでは彼を便利な駒だと思っている筈だ。
ああ、何言わない方が良い。言えば苦しくなる。それを認める事になるからね。たとえ否定してもそれはそれで肯定している事に他ならない。
と言う事はだ、君がどう思うかは別として、彼を切り捨てる日が来るかもしれないと言う事は覚悟しておくことだ。
私も切り捨てられたよ。多くの人々にね。そして切り捨ててきた。それが罪なのかもしれないが、な」

言い返せない。

「それにだ、ジョン・バウアーもヨーゼフ・エッシェンバッハも政治家だ。腹芸はお手の者だ・・・・・・君や君の叔父上の様にね」

ジャミトフは退出した。そして思った。自分も単に利用価値があるからこそウィリアム・ケンブリッジを重宝していたのではないか、と。
そしてあの異常なまでに早い根回しは、かつての様に彼を切り捨てる事が出来る便利な駒であるという事が理由では無かったのか、と。




オデッサまで撤退したジオン軍はアイヒマン大佐、ブーン少佐を主体とするオクトパス作戦を実行していた。
マ・クベ中将はオデッサ作戦の戦闘開始前の密約に則って、中央アジアやアフリカ、アラビア、インド洋に指揮下の部隊を逃がす。
彼らジオン軍は、地球連邦軍の追撃をかわす為に非加盟国に軍隊ごと亡命させる。
こうしてマ・クベはジオン国内で反ザビ家になりそうな不平分子をジオンの戦力として非加盟国に、つまり地球に残す事を決定した。
その一方でオデッサ地域に最終防衛ラインを結ぶ。
近代以降の戦いでは異例も異例の10日間に渡ったハンブルグ会戦の結果、ジオン軍は旧ユーゴスラビアと呼ばれる地域やオデッサ近郊、イスタンブール、黒海・カスピ海沿岸部に撤退し、陣地構築を開始した。
その防衛線の規模は、ハンブルグ会戦に勝利したとはいえ、その過程で大打撃を受けた地球連邦軍が正面からの攻撃を諦める程の規模である。

「マ・クベ中将は自分だけ脱出する気かと思ったが・・・・どうやらそうでは無いな」

そう言うのはジオン軍の新型機ギャンKに搭乗するノリス・パッカード大佐だ。彼の部隊は切り込み隊として連邦軍の後方に出現。何度も連邦軍の後方を遮断している。
この際、本来ではギャンと呼ばれる機体の改良型(流石にジオン軍もこれ以上の新規MS生産は諦めていた)のビームランサー(厄介払いで地球に送られた)をいつでも使える状態で待機する。
そして目の前を陸戦用ジムと呼ばれるグリーン系統の塗装がされた機体を見つける。

「ニムバス大尉! エリザ中尉、行くぞ!!」

僚機のイフリート改とイフリート・ナハトが密林を飛び出す。
瞬時の3つの青系統の塗装をされた機体が密林を駆け抜けて、両手に持ったヒートサーベルが3機のジムを両断した。
また別の戦線ではジオンのザク部隊が遅滞戦術を取っている。ザクマシンガンをばら撒いて距離を取る部隊。さらに埋伏して超長距離から620mmカノン砲の一斉射撃でバラバラに吹き飛ばすザメル隊。
前線部隊は双方ともまだ戦闘が終結したとは思ってない。この瞬間も別の場所では陸戦用ジムのハイパー・バズーカがザクⅡJ型を吹き飛ばしている。
一方で連邦軍上層部は北欧、南欧、西欧、中欧、欧州ロシアの解放が終了した為、それを理由にアウステルリッツ作戦の終了を決定しようとしていた。




地球連邦軍本部のMS開発局、V作戦担当部門では一人の大将が少将に会う為、現場へ尋ねてきた。敬礼する将兵や技官たち。
そのまま会議室に招き入れる。

「コーウェン君、君に聞きたい事があるのだがね」

件の大将閣下であるゴップは聞きたい事があった。それはジオンのMS開発についてである。

(そもそもジオン公国はコロニー国家であって国力に乏しい。
それなのにザクシリーズ、グフシリーズ、その派生形であるイフリート、ドムシリーズ、ゲルググシリーズ、水陸両用MSシリーズと多彩なラインナップがある。
これは明らかにジオン国内の国力を圧迫している筈だ。専門家に聞いて戦後の為にもMSに詳しくなっておかなければ、ね)

事実、ジオン公国は四回の地球降下作戦で限界を迎えた。
それは後方にいるゴップ大将だからこそ実感できる。ジオンの迎撃網は完全に遮断されている。

(まあ限界を迎えたのは連邦も同じか。ジオンの地球侵攻作戦による地中海経済圏と大西洋経済圏の崩壊はやはり痛かったな。それを抑えるのも限界に来た。
戦後を考えるならば一刻も早い戦争の終結が必要なっている。そうしなければサイド3のジオン公国に多額の賠償金を押し付ける事になる。
つまりナチス・ドイツの再来を招く。
ましてジオン公国はコロニー落としを脅しに仕掛けていた。もしもコロニーが落ちれば地球経済も人類も衰退するしかない)

そう思っていると既に勤務時間を過ぎていた。この為か南米の地ビールをコーウェン技術少将が出してきた。
冷えたグラスに注がれる金色液体に白い泡。口に含む。美味いな。

「それでゴップ大将閣下、何を?」

そう聞くコーウェンに自身の疑問を投げかけた。

「何故ジオン軍はあれ程多くのMSを作ったのか、何故我が軍のジムシリーズの様に共通規格を導入しないのか、その理由は一体なんだろうなぁ」

と。
そもそもジムシリーズは開発が遅れたガンダムより先にスミス海の虐殺で得た戦闘データを元に開発された機体だ。
これもケンブリッジが関与していたのだが、彼が提案した経済面から見たMS脅威論から連邦もその持てる国力の一部をMS開発につぎ込んでいた。
その集大成がガンダムタイプなら、廉価版がジムだ。これも情報通なら知っているがジオンに敗れたスミス海での戦闘が全ての契機なっている。
無論、流れとしてはガンタンク、ガンキャノン、ガンダム、ジムであり、実際にサイド7で先行量産型が先に開発されたのもガンダム一号機である。

「いやね、気にはなっていたのだ。ジオンは国力に乏しい。ジオン公国と地球連邦の国力比はかのギレン・ザビ氏の言うには30対1と劣勢の筈。
にもかかわらずあれだけ多彩な機体を生産、ああ量産じゃなくて生産しているが、その行為は国力を圧迫しているだろう。
そう考えたら不思議になってね。休憩がてら君の意見を聞きに来たという事だ」

そう言ってソファに腰かける。
コーウェンもなるほど、と思って自分の考えを述べる事にした。まず、壁のモニターに掲げられている情報端末とメモリーディスクを使って説明する。

「長くなりますがご了承を。まずは我が軍が敗れたルウム戦役です。この戦いまでのジオン軍の基本方針はザクシリーズを揃える事にあったと思えます。
この点で、戦況を決定したゲルググはあくまで少数量産の決戦兵器でありまして、あくまで量産型、主力機である汎用兵器はザクシリーズの改良型。これで我が連邦軍を撃破するのが目的でした。
しかし、その戦力構成、恐らくザビ家やジオン上層部の戦訓に衝撃を与えたものがあります。我が軍の言うルウム撤退戦です」

ルウム撤退戦。当時のペガサスとサラミスK型3隻で編成された第14独立艦隊(戦隊と言う名はレビル帰還後につけられていく)が、避難船団を襲っていたジオン軍と艦載機のザクⅡF型を一方的に撃破した戦いである。
この戦いで先行量産型であったジム・コマンドの性能が確認され、さらに4機のザクⅡを鹵獲した事で10年近く先行するジオンに追い抜く(追い付くでは無い事に注意)契機となった。
ちなみにこの戦いもウィリアム・ケンブリッジが関わっている事になる。
彼はケンブリッジMS経済脅威論という戦前に言った経済面からのMS脅威論の指摘も合わせて、連邦の影のMS開発の功労者と言える。まあ評価している人物はほとんどいないが。

「このルウム撤退戦でザクではジムに勝てないという考えをジオンの上層部に植え付けたのでしょう。それにジオンは元々地球侵攻を考えていた様です。
ところでゴップ大将、ザクやジムと言う系列のMSとはなんでしょうか?」

それはこの話の本質を突く質問。意外だが中々気骨がある将官だ。伊達に軍事参事官の役職を兼務してはいない。

「そうだね、古代で言う重装歩兵、現代で言う通常の歩兵かな?」

重装歩兵。鎧を着て槍を構えて、盾を持った兵士。勿論剣も装備している。MSとは歩兵であると同時にそう言う側面があるのだ。
そう考えるとドムタイプを量産したジオンの思惑も見えてくる。
彼らは地球連邦非加盟国から地球上での戦闘のノウハウを得ていた。それが曲がり曲がってジオンのMS開発に影響したのだ。

「ええ、恐らくそうでしょう。グフタイプは見ての通り剣士です。或いは騎馬を降りて戦う騎士。歩兵を一対一で切り殺すと考えればグフの開発コンセプトは見えます。
逆にドムは騎馬隊です。MSは言うまでもなく重量があり、宇宙と違い地球の重力下では確実にその機動性を削がれる。
地球視察を行ったギレン・ザビや非加盟国と交流しているジオンの技術陣がこれに気が付いていた。それがドムシリーズ誕生の秘密であると考えます。
つまり、グフは戦線の正面突破、ドムは側面からの襲撃という発想から生まれました。まずこれがジオンの地上戦闘用MSの多さの理由であると私は考えます」

そして一口。ビールの苦みが口の中を濯ぐ。

「そして本題ですが、ゲルググやそれを上回る機体の開発に、ジオン軍やジオン上層部が資源と資金を投入する理由は恐怖です。
我々がルウム戦役で受けたビーム兵器搭載の機体による奇襲にあたるのが、彼らにとってのゲルググショックである、ジムショック、例のルウム撤退戦です」

コーウェン少将は続けた。国力に乏しいジオンは物量戦になれば確実に敗北すると知っている。ならば量より質で対抗するのは当然である。
が、その質でも圧倒されたらどうなるか?
二倍近いザクが半分のジムに敗れた。簡単に言えばそうなる。これがルウム撤退戦の結末だ。これを看過する事はジオン軍には出来なかった。
よってジオン軍はある意味でとても理性的な判断を下した。敗因を分析してそれに対処する。だが、目的は良かったが手段が不味かった。
連邦軍のジムを圧倒する機体を求める。そこまでは良い。ところが現場の混乱からか最新型機の開発でその状況の打開に動いてしまった。それが現在のジオン軍である。

「なるほどね。ゲルググを量産するのではなくより強力な機体でジムを圧倒する事を視野に入れた、か。その結果がMS乱立状態であり、戦略面での兵站線の崩壊か」

ジオンの後方部門は既に限界を迎えている。これはサイド3に侵入しているスパイたちの報告を複合的に分析して分かった事だ。
確かにジムやジム改に新型機を持ってして対抗する、という考えは正しかった。が、それは国力を持つ国家がやれる事。
地球最大の工業力を持つジャブロー地域と北米州、極東州らがある地球連邦ならともかく、一コロニー国家でしかないジオン公国には無理な話だったのだ。
この点はアメリカ合衆国とソビエト連邦に単独で対抗したナチス・ドイツに近い。もっともヒトラーと違ってギレンはこの戦争の早期終結の為に譲歩する構えなのだが。

「そうか、コーウェン君ありがとう。V作戦、これからも継続してくれたまえ」




時は遡り、ジオン本国の総帥府にて。
これはガルマ・ザビ生存の報告を聞いたギレン・ザビとデギン・ソド・ザビ公王の会話である。

「作戦なぞ良い!」

デギンは居並ぶ臣下達(セシリア・アイリーンら総帥付きの秘書官)の前であろうことかこの国最高指導者を叱りつけた。その声に三男のドズル・ザビが驚き縮み上がる。
その言葉に反応する長男のギレン・ザビ。右手に持っていた書類を震わせる。
いくらなんでも総帥府に駆け込んできて、とある重要な作戦の認可を願ったらいきなり書類ごと右手を公王杖で叩かれた。
幾ら冷静冷徹といえども限度がある。まして、この父親が何を怒っていのかが全く分からないとあれば尚更だ。

「父上、一体何事ですか? 私が何をしましたか? いったい公王陛下ともあろう方がそこまで冷静では無いのは何故ですかな?」

一緒に付いてきたドズルは心当たりがあるので必死に弁解しようとしたが先に動いたのはデギンだった。

「ガルマの件だ! お前は弟を見殺しにする気なのだな!? そうだろう!?」

思わず天を見上げた。最近は無気力と判断力の低下が著しいと思っていたがまさかこれ程とは思わなかった。
ギレンにとってここでガルマの件を蒸し返されるなど百害あって一利なし。興味津々に見学してくれる部下らの事を考えるとここで無碍に扱うのは不味い。
かといって馬鹿正直にザビ家内部の不和を周りに見せるのもジオン内部の分裂につながってしまう。八方塞がりだった。
ここでドズルが大声で周りに言う。

「お前ら全員部屋を出ろ!! これは兄貴たちの問題だ!!!」

こういう時権威と実力を持った軍人の発言は馬鹿に出来ない。その言葉に一斉に敬礼や一礼をして部屋を退室していくジオン公国の高官ら。
無言で感謝の念をドズルに送る。やがて部屋には軍服のドズル・ザビ、公王服で近くの椅子に腰かけたデギン公王、窓際に立っている総帥杖を持ったギレン・ザビの三人に絞られた。
漸く落ち着いたのか肩で息をするデギン。それを冷徹に見下ろすギレン。先程とは違い、威厳など無くおろおろと長兄と父親の間に視線を往ったり来たりさせる三男のドズル。

「父上、よもや捕虜交換なり軍事侵攻なりでガルマ奪還を行えと言うのではありますまいな?」

ギレンが聞くが、答えはYES。ギレンは一旦呼吸を整えると言い切った。少し、いやかなり呆れ返っている。

「父上、今は戦時下ですぞ? それをご理解いただきたい。連邦軍の将兵20万名の捕虜は人質としても価値があります。
ガルマは確かに我がザビ家の一員ですが、そうであるからこそ安易な捕虜交換の提案や類似する行為は危険です。
そもそも捕虜になっているジオン公国国民がどれほどいるかご存知ですか? 15万名です。それを差し置いて我がザビ家が国民を裏切るような行為は危険です。
それにですな、仮にドズルや私が連邦の捕虜になったとして同じことをガルマに命じましたか? 
恐らく、いえ、確実に父上はジオン公国の公王陛下としての公人としての責務を優先したに違いありません。
またガルマが個人的な武勇を競って連邦軍に捕縛されたのは父上の教育方針に問題があったのではないのですか?」

痛烈な父親批判。それはギレンの言葉が本質を突いていた事を指していた。

「父上、キシリアが死んでからずっとガルマを甘やかして育てましたな? ガルマが死にかけた事で甘やかしたツケが今まさに来たのです。それを知って頂きたい。
ガルマ一人の為に20万名もの人質である連邦軍捕虜を解放するなど政治的にも出来ず、軍事的に愚策であります。
また、ガルマ・ザビを助け、15万名のジオン公国国民を助けないと言う選択は我がザビ家に対する不信感を国民に植え付けますのでこれも愚策です。
さらにせっかくの交渉相手である北米州に攻撃するのは自殺行為。連邦内部の分裂誘っている現状で敵を一致団結させるおつもりか?」

そして痛烈な皮肉を放つ。それは言葉の刃となってデギンの心を貫く。

「あの9月2日のルナツーの様に。南極での交渉を台無しにした様に」




ジオン公国は連邦の白い悪魔に対抗するMSの開発に追われた。その回答としてジオニック社とツィマッド社は全く別の回答を軍に提出する。
ジオニック社はゲルググシリーズ。ビームライフルを装備し、量産性を高め、新型はビームマシンガンという新兵器を持たせる。
総合性能では劣るものの、それを補うために数を揃えるというのがコンセプトである。コンセプト自体は正しく、地球連邦軍の